【習作】千佳ちゃん並のトリオンモンスターが普通に戦ってみる話 作:枝豆豆腐
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暫く米屋と戦った後、俺はブースから出て緑川のところへ向かった。
戦績は10-0で俺の勝利。3戦目に一発貰ったがギリギリで米屋が先に倒れた試合を除いて完勝である。
しかし米屋の奴も腕を上げてたな。予想外にいい練習になった。
フロアを見渡してみると、先ほどの空閑君と緑川の対戦時とは全く正反対の、ヒソヒソとこちらを伺うような静まり返った空気になっていた。
訓練生が多いみたいだし、シューターとしての俺の事を知らない人間ばかりなのだろう。まあ、彼らが何も知らないまま俺と戦うことになるよりはマシだと気持ちを切り替えることにした。
あちらを見ると既に米屋は緑川と何か話をしている様子だ。米屋が近付いている俺に気付いた。
「おっ、お疲れさんです刈谷さん。」
「おうお疲れ。相手してくれてありがとな、助かった。」
「いやいや、俺も楽しめましたから。」
そう言ってくれる奴は本当ありがたい。まあ普通に考えて、攻撃通らないわクソみたいな火力で押し切られるわなソロ戦やりたい奴なんてあんまりいない。
いくら俺でも、対戦始まってお互い相手を確認した瞬間に嫌な顔されたり、暫く戦ってると周りのブースに誰もいなくなったりするのは堪えるのだ。
「刈谷先輩あんな強かったんだ!?ねえねえ!次は俺とやろうよ!」
……どうやらここにも変わり者がいたらしい。アレを見て俺とやりたがるメンタルを褒めるべきか心配するべきか。
「あっ、けど俺この後混成部隊の方で防衛任務だった。また今度戦いましょ!」
「ああ、いつでも言ってくれ。少なくともランク戦が始まるまではここに通うつもりだからな。」
そんな風に緑川と話していると、米屋が話しかけてきた。
「俺もそろそろ防衛任務出るんですけど、刈谷さんはこれからどうするんですか?」
「まだもう少しここに残ってソロ戦していくよ。お前が予想以上に強かったんで、テンション上がってきたしな。」
あらあらそりゃ御愁傷様……と米屋が周囲に視線を向ける。
釣られて周りを見れば、米屋と俺の対戦を見ていたのだろう隊員達の多くが目を逸らす。
しかし、逆に好奇心に煌めいた目をしてこちらを伺っている隊員もそれなりにいるようだ。
米屋といい緑川といい、最近のボーダーはどうも好戦的になり過ぎている気がする……と思ったが、個人No.1の餅好きの人や騙されやす過ぎるアホの子の顔を思い出して考え直す。
うん、ボーダーが好戦的過ぎるのは元からだわ。
「相手には困らなさそうだし、ブースに入るとするよ。それじゃあ防衛任務頑張ってこい。」
「どーも。んじゃ行ってきますね。」
「俺も今日はもう帰るね。今度は対戦よろしく!」
「ああ、お疲れさん。」
2人と別れた後、ブースに向かいながら、こちらを伺っていた隊員達に聞こえるように告げる。
「俺は206に入るから、やりたい人はお好きにどうぞ。自分から挑むつもりはないから他の奴らは心配せずに続けてくれ。」
そう言って俺は中に入っていった。
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「なんかカメレオン使ってるのに見えるみたいなんですけど!?」
「東さんに聞いたが副作用らしいぞ。影浦さんみたいに不意打ちや狙撃も通じないって。」
「刈谷がシューターに復帰して百人抜きしてるってよ」
「それマジか?行ってみようぜ!」
「マスタークラスも一蹴かよ……。」
「クソ火力過ぎワロタ。あんな弾幕張られたら普通近寄れないわ。」
「射程ギリギリから旋空孤月でワンチャンあるんじゃね?」
「おお!遂に一本取られたぞ。相手は……A級の双葉か」
「韋駄天は初見殺しだよなあ。刈谷の野郎最近訓練もサボってやがったし、さては韋駄天知らなかったな。あの副作用なら事前に知ってれば対応できるだろ。」
「あっ、ちょっとムキになってる。」
「その辺は昔から成長してねえなあいつ。」
「おーい刈谷、なんか面白そうなことしてるじゃねえか。俺も混ぜろ。」
「げえっ 太刀川さん!?」
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疲れた。
調子乗った台詞と共にブースに入った俺だったが、その後新人から顔見知りからバトルジャンキーまで休みなく挑戦を受け続けて力尽きた。
色々な相手とやれたんで良い調整にはなったが、予想を超えるボーダーの戦闘民族化に困惑するばかりである。
昔は自分から俺に挑んでくる人とか極少数だったもんだが。
やはり昔の俺のハブられっぷりは自分の態度が原因の大半だったのだろうと黒歴史を振り返る。
俺より強い奴はいねえとか、群れるなんて雑魚のすることだとか……うっ…頭が……。
まあ……それはともかく、ようやく気分は千本ノックなソロ戦を終了させて帰路についているところである。
久しぶりにあんな長時間戦ったんで本当に疲れた。早く帰って寝るとしよう。
「おーい刈谷、ぼんち揚げ食う?」
そんな事を考えながら歩いていると、本部から出てすぐのところで声をかけられる。
台詞だけで誰かわかるな、この人。しかし外でこの人がこういう風に声をかけてくる時はロクなことがない。
嫌な顔を隠しもせずに振り返る。
「いりません。それで何の用ですか?迅さん?」
「いやいや、たいした話じゃないんだけど、今後の予定について少しな。」
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「それで、話ってなんですか?迅さん。」
本部からの帰り道にある公園のベンチに座りながら話を促す。
「第二次大規模侵攻についてだ。お前も話は聞いてるだろ?」
ええ、まあ……と答えた俺の隣に腰掛けながら迅さんは話を始めた。
「大規模侵攻の時、このままだと死人が出る可能性が高い。」
それを聞いた時に俺が感じたのは小さな驚きと僅かな納得の感情だった。第一次大規模侵攻での被害を考えれば、いくら俺たちボーダーが頑張っても被害が出る可能性は高いと、何処かで考えていた。
「けどな刈谷、まだお前次第で被害をゼロに出来る可能性がある。敵の戦力の中でも強力な相手をお前が倒せれば、被害が出なくて済むかもしれない。」
「だから……大規模侵攻の時には全力で、本気で戦って欲しいんだ。力だけの問題じゃなくて、戦闘スタイルも気構えも、お前の全力が出せる形で戦って欲しい。頼む。」
そう言って頭を下げる迅さんに言葉を詰まらせた俺を見て
どう思ったのか、彼はそのまま俺に別れを告げて去って行った。
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話を終え、迅さんと別れた俺はそのまま帰宅し、自室のベッドで横になった。
つい最近のイレギュラーゲートの大量発生や、その他多くの要素から、近々ネイバーの大規模侵攻が行われることが予測されている。
迅さんの予知も加わっているとなると、間違いないだろう。
しかし、俺が人型を倒さないと死人が出る可能性が高いとか言われてもなあ……。
いやまあ迅さんも人型とは言ってなかったけど、俺が倒せるかどうかわからないレベルで、他の隊員に任せてたら死人が出るって絶対トリオン兵じゃないもんな。
というか高確率でブラックトリガーだ。勘弁してくれ。
どっちみちこき使われるだろうとは思ってたけど、あれを聞いちゃうと最悪独断専行してでも人型を倒しに行かないといけなくなった。今から憂鬱だ。迅さんも無茶言ってくれる。
それに全力でやってくれとは……。
シューターに復帰したとはいえ、以前の記憶からついつい自重してた自覚はある。それに技術も何も無いゴリ押しなんて、いくらやったって成長に繋がらないのは昔散々味わったことだ。
だから今日のソロ戦では、実はあれでかなり意識して力押しを自重し、技術的な部分で戦うように心がけていたのだ。戦闘スタイルもかなりサポート役を意識しての立ち回りをしていた。周りからみれば力押しで叩き潰しているようにしか見えなかっただろうが。
ぶっちゃけ言って俺は技術も何も無いゴリ押し戦法が一番強い。変に頭を使わずに副作用を振り回して経験と勘に任せて相手を作戦ごと力でねじ伏せる。これが間違いなく俺の最強だ。迅さんは次の大規模侵攻ではこれで戦えと言ってきているという訳だ。
俺がその昔の自分の戦い方が死ぬほど嫌いだと知っていて。
戦い方に気をつけながら自分をセーブして戦っても、下手なA級部隊一つ分以上の戦力になれる自信はある。
仮に迅さんに何も言われなければ俺は大規模侵攻でそういった周りの目に気を使った戦い方をしただろう。
しかしそれで犠牲者の有無が変わると言われれば、自分の好き嫌いで全力を出さないなんて言ってはいられない。ましてや恩のある迅さんの頼みだ。
本気で嫌だが、本気で暴れるとしよう。
ただ圧倒的なだけの力を振るうことに何の疑問も葛藤もなかったあの頃の様に。
経験も知識も何もかも足りないクソガキの頃に、1人でチームランク戦に乗り込んでA級まで行ったトリオンモンスターは伊達じゃないと、再び証明してみせよう。
誰も犠牲者なんて出させない。それにあの人に、迅さんにこれ以上余計な物を背負わせたりしない。
そう心に誓った。
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レイガストのスラスターはトリオン量に比例してスピードを上げられるのかどうか
比例してるならレイガストの盾モードで可能な限り大きく広げて大出力スラスターで轢き逃げができるんだが