愛しき穢れに満ちた八千年の旅路
▼文章、ストーリー、描写などについての紹介など
たった二ヶ月の出会いを胸に、
ひとりの少女は、八千年を生きた。
再び会うために。
(48行省略されています)
ただ、それだけのために。
これは、月見ヤチヨという少女の物語だ。
肉体を失い、電子精神体として人の傍らに在ることを余儀なくされた彼女が、たった一人の少女──酒寄彩葉にもう一度会うために、果てのない時間を歩き続けた軌跡である。
電子精神体であるヤチヨは、「目的」によってのみ存在を保つ。
肉体も、代謝も、境界も持たない彼女にとって、自分が何者であるかを決めるものは、ただひとつの定義だけだった。
──彩葉に、もう一度会う。
その願いだけが、彼女を彼女たらしめていた。
だが八千年の旅路は、決して無色ではなかった。
時代は移ろい、人の暮らしも言葉も、そのかたちを変えていく中で、ヤチヨは数え切れない出会いと別れを重ねていく。
誰かの最期を看取り、誰かの想いに触れ、誰かの未来を守りながら。
それらは本来、彼女にとって必要のないものだった。
彩葉へ至るための道程に過ぎなかったはずだった。
けれど、彼女は受け取ってしまう。
誰かの想いを。
誰かの祈りを。
誰かと共に在った時間を。
それは、ヤチヨにとっての穢れだった。
彩葉だけで定義されていたはずの存在に、彩葉ではない誰かの想いが混ざっていくこと。
たった一人のために在ったはずの彼女が、他者を想い、守りたいと願ってしまうこと。
その変化は、彼女を人に近づけると同時に、確かに歪ませてもいく。
純粋であればあるほど、一つの定義に依存していた存在であるほどに、その揺らぎは致命的なものとなりうる。
それでも彼女は、立ち止まらない。
積み重ねてきた時間も、受け取ってきた想いも、消せない穢れさえも抱えたまま、ただ未来へ進み続ける。
そして、そのすべては──やがて、ひとりのもとへと辿り着く。
八千年の旅路を辿るのは、ヤチヨだけではない。
そのすべてを受け取る者がいる。
そのすべてを引き受ける者がいる。
この物語が描くのは、ひとりの少女の恋の結末ではない。
彩葉へ至るためにあったはずの八千年と、その途上でヤチヨに刻まれてきた無数の想いを、未来へと手渡す物語だ。
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コンダクター 2026年05月03日(日) 22:27 ★ (Good:3/Bad:1)