pat2 終

戦場のヴァルキュリア 暁の陽光-マクシミリアン・フォン・ハプスブルク伝2



「マ....アン....!マク..リアン!」

誰かが俺を呼ぶ声が聞こえる。

「マクシミリアン!目を....目を開けて!!」

とても大切な人の声だ。
珍しいな、あんなに大きな声を上げるなんて。
悲観の感情が込められたその声に俺は目を開けた。
そういえば、何で俺は意識を失っているんだっけ....

「..なに...コレ?.....何が起きてるの?」

轟々と紅蓮に燃える列車から夥しい程の黒煙が上がっていた。それは特等級列車アイゼンシュランゲ号。ハプスブルク家が貸し切って一族一同が乗り合わせているはずのRl鉄道で、俺と母上は何故か車両の外に投げ出されていた。

「よかった...!マクシミリアン」
「あ、母上。これはいったい?なにが....」
「分からない。でも、いきなり列車が爆発して....私と貴方は窓を突き破って外へ....強く地面に落ちたから貴方は意識を失っていたのよ」

列車事故?
.....思い出した。
都市の郊外を出てリアとフランドルの間に群生するハミルの森を抜けてグリーズ平原に入ろうとしていた時に、前から大きな爆発音が聞こえて次の瞬間振動が来たんだ。それからの記憶が無いってことはその時、外に投げ出されたのか。
横倒しに倒されている重厚なアイゼンシュランゲ号を見るに、俺と母上が助かったのは本当に奇跡的な偶然に過ぎないのだろう。

「でもおかしいよ母上。アイゼンシュランゲ号は帝国最新式の鉄道列車だ。これほどの事故が起きるなんてありえない」

アイゼンシュランゲ号は伊達に最新鋭のRlと呼ばれてはいない。これから帝国中の貴賓や貴族を乗せて大陸を走ろうという列車には何重にも安全装置が施されている。更には各駅で点検を受けるから故障していた場合でも速やかに作業員の手で改善される。
なので事故が起きるなんてありえない。それこそ人為的な思惑が働いていない限り。
そこまで考えを巡らせているとエレオノーレが真剣な様子で俺を呼んだ。

「....マクシミリアン。よく聞いて、これは事故に見せてハプスブルク家あるいは私たちを狙った犯行かもしれない。恐らく...犯人は....ゴホゴホッ!」
「は、母上!?」

思わず俺は絶叫にも近い声で叫んでいた。
エレオノーレが咳き込んだ事で言葉が中断されたが、それで狼狽えたわけではない。
彼女が口元にやった手から血が滴り落ちたからだ。

「母上っどこか怪我を!?.....ッ!」

視線を巡らせて俺は絶句した。
エレオノーレの背中が真っ赤に染まっていた。落ちた時に背中から落ちたのだろう、皮が剥がれ肉が見えている。
こんな重傷を受けていたのに俺の心配をしていたのか!?

「ははうえ.....」
「フフ、心配してるのね貴方は優しい子だから。貴方が私の子どもで良かった.....自慢の子だもの」
「い、いやだよ....」
「いつまでも....私の優しい自慢のマクシミリアンでいてね、それだけが私の望みだから」
「おねがいだから、待ってよお!」

エレオノーレにさし伸ばす手が震える。いや震えているのは身体だ。
もうエレオノーレは俺を見ていない、どこともしれない虚空を穏やかな笑みで見詰めている。血を大量に流したせいで目に生気が宿っていなかった。

「貴方が大人になる姿を....見たかった。きっと格好いい男性になってる....でしょうね。女の子が目を離せない魅力的な人に....見たかったなぁ」
「見れるよ!ずっと一緒にいるから!俺と母上と....あの家でっ....いつまでも一緒だから....ぅぅ」

涙が止まらない。
必死に嗚咽が混じる言葉でエレオノーレに語りかけるが、彼女の命の灯は儚げに揺れ今にも消えそうな程に弱弱しい。早く医者に診せなければならないのに此処はグリーズ平原の真っただ中だ病院の一つあるはずもない。専属医師が列車に乗り合わせていたはずだけどこの事故では生存も絶望的だろう。
.....もはやどうすることもできない。

「ごめんね...もうお母さん貴方を見れない....っぁ!」

エレオノーレも泣いていた。
背中の傷が痛むからではない。もう我が子に二度と会えないと分かったからだ。
周囲に母子の嗚咽が響き渡る。
俺は涙で顔をグシャグシャにしながら叫んだ。待ち受ける未来をはねのけるように心の底から。

「俺は...貴方に何も返せてイナイ!ありがとうって思いを一つも返せていないんだっ!」

俺は何て無力なんだ。何のため必死になってこの世界について知っていったんだ。
この人と一緒に暮らしいくためだろうが!
ありがとうって恩を返すためだったのに。
死にかけているこの人の為にできることが惨めに泣き叫ぶことかよ、情けない....!
悔やんでいる間にも時は無情にも流れ、その時が呆気なくやってきた。

「もう返してもらったよ.....貴方と一緒に過ごせたことが私の幸せだった.....だから笑って?私の愛しいマクシ、ミリ....アン....」

パタリと糸の切れた人形のようにエレオノーレは地面に倒れ伏し、そして、もう二度と動く事はなかった......。


「あ.....ははうえ?......ああアア!ははうえええエエ!!」

広大な荒野に小さな少年の慟哭がいつまでも響き渡るのだった。



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.......意外と本編に関係するかも?





日時:2017年06月15日(木) 09:58

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