ずっと秘めてたネタを投げようかなって

D.C.ⅢM.K.Sの初音島編とかD.C.4編とかいろいろ考えて練るだけ練った状態です。
これはずっと明かさなかった秋鳴のその後の設定です。
え、性格が悪い…………? なんのことだろう……









「俺とサラの記憶は、巻き戻された世界ではまた一からやり直すことになる」

「俺は、また君と出会う。また君と出会って恋をして、君のそばにいる。そばにいたい」

「はい……私も、先輩と一緒にいたいです」

「だから、約束だ。これは、俺たちの約束の証だ」



 もしも、この世界に本当に神様がいるとしたら。

 ――――そいつは本当に、最悪な性格をしているよ。



「……秋鳴。また無理をしておるではないか」

 傷だらけの騎士の手当をしながら、小柄な少女シェリルが呟く。手当をされている少年は光を失った瞳でぼんやりと虚空を見つめているだけ。
 心ここにあらずとはよく言うが――本当に、心を失ってしまったような。

「治療は終わったのか?」
「魔法が効くまでもう少しはかかる。だからしばらくは静養して――」
「そうか。動けるなら構わない」
「っ……この馬鹿たれっ!」

 シェリルの忠告を無視して少年。出雲秋鳴は立ち上がり、上着を羽織って包帯だらけの上半身を隠す。
 まるで何かに取り憑かれているかのように、ふらふらとおぼつかない足取りで医務室を後にしようとする。けれど秋鳴の予想以上に力が入らず、扉に手を掛けた時点で足がもつれてしまう。

「ああもうほら、無理をするでない!」
「っ……やかま、しい。俺に構うな……!」
「医者に頼るくらい怪我をしてきた馬鹿が何を言うか!」

 シェリルは強引に秋鳴の肩を背負い、ベッドまで運ぶ。小さなシェリルの力にも敵わないほど弱り切っている秋鳴は、抵抗することも出来ずにベッドに寝かされた。

「こんな、ことをしている場合では……」

 嫌悪感に表情を歪める秋鳴だが、身体に力が入らないのは自覚しているのだろう。悪態を吐いても動こうとしないあたり、休息の必要性は理解しているようだ。

「……のう、秋鳴。お前はどうしてそこまで自分を追い込むのじゃ。カテゴリー5の魔法使い、女王が認めた高位騎士故に誇りと責任を背負っているのはわかってはいるが、これではあまりにも……」
「死に急いでる、とでも言いたいのか?」
「……そうじゃ。今のお前は、端から見ても死にたがっている」
「……ッハ。違うよシェリル。俺は『まだ』死ぬつもりはない」

 シェリルの不安を秋鳴は一蹴する。けれど、どこか不敵なその笑みはよりシェリルに大きな不安を抱かせてしまう。

「最近のお前はどこかおかしい。あの、クリサリス家を訪れてから。……一体、どうしたのじゃ」
「っ……」

 その名前が秋鳴の琴線に触れることをシェリルはわかっていた。でも、踏み込まなければならない。彼の主治医として。かつて彼に救われ、いつか彼を救うことを決めていた彼女にとって。

 クリサリス家。

 かつての名門。術式魔法の開発によって台頭していた貴族の一つ。
 しかし今は没落し、郊外にあった屋敷も売り払われてしまった――と噂されている。

 一月前、秋鳴は何かを思い出したかのように地上に、クリサリス家に向かった。
 しかし帰ってきた彼は明らかに憔悴していて、一週間もの間部屋に閉じこもってしまった。
 出てきたかと思えば、修羅に取り憑かれたかのような表情となっていた。がむしゃらに任務を受け、こなし、自らが傷つくのも厭わず戦い続ける――まるで、戦鬼のように。

 事実、彼の活躍によってロンドンを襲っていた脅威の大半は取り除かれた。
 カテゴリー5の魔法使いの活躍によって、ロンドンは救われたのだ。地上世界も魔法世界も救った彼は、ロンドンにとってまさしく英雄となっていた。

 だがしかし、当の本人はそんなことは望んでいないとばかりに報酬も賛美の声も全てを拒絶した。
 誰にも心を閉ざし、淡々と任務をこなすだけの機械となった。

「……以前、お前には話したことがあったか。日本へ渡った孤高のカトレアのことを」
「おお、それならよく覚えているぞ。『永遠に訪れない五月祭』という禁呪の話よな?」
「……ああ」

 暇を潰す目的なのか、珍しく彼が口を開いた。少し前に彼から聞かされたおとぎ話のような過去話だ。
 何度もループしていたロンドン。霧に包まれた世界で過ごした時間。
 途絶える命を繋ぐために、一人の命のために無限を繰り返すこととなった世界の物語。

「その世界で俺は、恋をした。クリサリス家の少女――サラと」
「……ほう」

 まさか浮いた話が一切ない秋鳴の恋愛話が聞けるとなってはシェリルも真面目に聞かざるを得ない。
 ぽつりぽつりと呟く秋鳴の言葉の端々から、サラを想う感情が感じ取れる。
 それほどまでに、強く大きい愛情。

 ――けれど、今の秋鳴に恋人はいない。ましてや妻となる女性もいない。

「俺は、『永遠に訪れない五月祭』を終わらせる時に、サラと約束したんだ」

"俺は、また君と出会う。また君と出会って恋をして、君のそばにいる。そばにいたい"
"はい……私も、先輩と一緒にいたいです"

 結ばれた二人が、記憶を失っても世界を隔てても再開して結ばれる。
 それはとても感動的なモノで、奇跡と呼ぶにふさわしいシナリオだ。

「……けれど俺は、約束を果たせなかった。俺は、遅かったんだ。俺は……間に合わなかった」
「どういうことだ? それを聞く限り、お前は――」
「俺が記憶を取り戻したのは、一ヶ月と少し前。禁呪を解決してから、三年が過ぎたころだった」
「それは……」
「俺は慌ててクリサリス家のことを調べ、家に向かった。サラが覚えていなくても、俺の力でできる限りクリサリス家を経済的に援助しようと思ってな。でも」
「クリサリス家は、その時にはもう……」
「……ああ。当主の独断専行によって地上に魔法が流出しかけ、その責任を果たすためにクリサリス家は潰れてしまった」
「じゃ、じゃが娘は――」

 秋鳴が何を言おうとしていたのかシェリルは察しがついていた。そんなシェリルを気遣ってか、秋鳴はふるふると力なく首を横に振った。

「残されたクリサリス家の者は、イギリスを出ていた。最後に日本に向かったことまではわかったが……サラは、地盤固めのために、向こうの貴族と結婚したそうだ」
「それは……!」
「当然、取り戻そうとした。資金面での援助でもイギリスでの地盤固めも、俺なら出来る。……でも、そうじゃないんだ。俺がしたかったことは、クリサリス家を救うことではなく、もう一度、サラと出会いたかったんだ」
「秋鳴……」
「俺が、俺が思い出すのが遅かったばかりに。何もかも俺が遅かったばかりに、サラに必要のない責任を背負わせ、遠い異国で暮らすことを強いてしまったんだ。そんな俺が、のうのうと日本にいってサラへ会う事なんて出来るわけがない……!」

 秋鳴の後悔はどうすることも出来ない。それはシェリルだけではなく秋鳴自身もわかっていることだ。
 だからこそ歯がゆいのだ。これほどまでに無力さを痛感させられることはない。
 守りたかった。愛したい女性はもう遠い異国の地で、愛の絡まぬ婚約をし、家のために己を犠牲にした。

 もちろんそれは全て秋鳴の推測でしかない。
 けれど秋鳴は、誰よりもサラ・クリサリスという少女を理解しているつもりだ。
 彼女が遠い異国の地で何を思い、考え、結婚に至ったか。
 家を、家族を大事に想う彼女が動くのに時間は掛からなかっただろう。
 だからこそ僅か三年という時間で、クリサリス家は日本という地で有力貴族と縁を繋ぐことが出来た。

「サラがそれでも幸せに暮らしてくれるなら、それでいい。彼女の笑顔が守られるなら、俺の想いは満たされる」

「……これは、きっと罰なんだよ。『永遠に訪れない五月祭』なんて禁呪に手を出した俺が、今更人並みの幸せを送れるわけがない」
「秋鳴、それは違――――」
「いいんだよ。これが罰じゃないとしても。――俺は、俺自身が許せない。約束をしたのに、俺はそれを果たせなかった。サラを守りたかったのに、守れなかった。俺は、……俺に出来ることをして、一生を掛けてこの罪を背負い、償うべきだ」
「それは違うだろう!?」

 何処までも自分を追い詰める秋成に、シェリルは思わずつかみかかってしまった。すぐに冷静さを取り戻すと、秋鳴は疲れた表情で優しく微笑んだ。

「俺は、死の呪いを克服するためにあえて一度死を選んだ。身体の中の半分を捨てて、魔法で強引に命を繋いでいる。俺の命は放っておいても三百年は続くだろう。だから俺は、その時間の全てを騎士として生きる」

「悲しむ者。助けを求める者へ駆けつける。弱きを助け、圧制者を挫く。この命尽きるまで、誰かのために命を捧げる。俺は、そうでもしないと正気でいられない」

 秋鳴の独白をシェリルを聞くことしか出来ない。彼を救いたいのに。彼を支えたいのに。
 彼はもう、救われることも支えられることも放棄してしまっている。

「いつかの地。いつかの未来。俺は俺の全てを賭して――誰かを助けて、死にたい。それが、大切な女の子を守れなかった俺に出来る、贖罪だ」

 秋鳴が身体を起こし、ベッドから降りる。相も変わらずふらふらで、今にも倒れてしまいそうな秋鳴。
 だがシェリルは今度は手を伸ばせなかった。どうすればいいか、わからなくなってしまった。

 失意と後悔。それでも彼を突き動かすのは――守ると誓った少女への想い。
 それをどうして止められようか。騎士としての彼の生き様を、騎士としての彼に憧れるシェリルでは止められるはずがない。

「……なあ、秋鳴。それじゃあお前は、どうやったら幸せになれるんだ。そのサラって子が全てを思い出していて、それでも家のために婚約を決意したのなら……その子は絶対に、お前の幸福を祈ってるよ。だって、お前が好きになった子なんだから」

 シェリルの言葉は、秋鳴に届くことはなかった。



 ――――それからおよそ百五十年の時を経て、出雲秋鳴は遠い日本の地に降りる。
 それは、ロンドンを離れたかつての同士からの依頼。

 カテゴリー5、孤高のカトレア リッカ・グリーンウッドからの頼み事。
 自分の子孫を見守り、助けて欲しいとの依頼を前に、秋鳴は密やかにある期待を抱いていた。

 桜が満ちているこの島が――――自分の死に場所になってくれると。


日時:2020年09月22日(火) 16:21

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