亡命した門閥貴族の主人公から描かれる同盟社会の溝の深さと貴族の辛さ
▼文章、ストーリー、描写などについての紹介など
主人公ヴォルター・フォン・ティルピッツは所謂前世の記憶というものがある転生者であった。
栄えある門閥貴族の一門の嫡男へと転生したというまさに生まれながらに栄光を約束された立場である。
ただし、彼にはそう手放しに喜べない理由があった。彼の家は門閥貴族でも同盟に存在する亡命貴族だったのだ。
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この作品の特色として描かれるのはなんと言っても貴族社会の雁字搦めぶりである。
彼らは先祖の築き上げた栄光、そして大帝の作り上げた平民を導く優良種としてふさわしい姿を家臣に常に見せ続ける必要がある。
下手な行動でもすれば、それは自分だけでなく自分に仕える家臣たちが露頭に迷うことも意味するからだ。
もう一つ、この作品の特色を挙げるとするならばそれは民主主義を掲げる同盟社会が決して一枚岩で無い事だろう。
一口に自由惑星同盟と言っても様々な立場の人間がいる、アーレ・ハイネセンと共に同盟を作った始祖に当たる「長征派」、主人公のような帝国よりの亡命者たちなどである。
彼らには多くの拭い難い価値観の断絶が存在する、ゴールデンバウム王朝下で奴隷となっていた者達と貴族として政争に負けただけの者たちが混在しているのでさもありなんである。
そうした立場の違う者達がともすると銀河帝国よりも互いに憎悪し合うその様は、自由惑星同盟には銀河帝国という“敵”が必要だったのを実感させると言う形で、何故同盟内でアレほどに主戦論が強かったかを実感させる。
主人公の才幹は優秀な教育を受けたことでなんとか士官学校に入れたが、凡人と言って良いもので
ラインハルトやヤン・ウェンリーといった不世出の大天才二人には言うにおよばず、彼らの噛ませ役としてやられた幾多の秀才達にも遠く及ばない。
更に亡命貴族である彼の家は当然ながらバリバリの主戦派で帝国領侵攻作戦を両手を挙げて推進するような立場である。
そんな明らかに詰んでいる「これはもう駄目かもわからんね」な主人公がどう生き残っていくのかに注目である。
▼読む際の注意事項など
・独自設定が多い
・パロディネタのようなものが多用されるので銀河英雄伝説という作品の空気にそぐわないのではないかと思う可能性がある
・亡命した門閥貴族という立場なので黄金樹寄りの視点である
▲短縮する
ライアン/2018年06月10日(日) 15:33/★ (参考になった:37/ならなかった:4)