攫われた大切な人を助け出すために主人公が奮闘する、というのは王道なのですが、それが物語として魅力的になるためには、その人物がどんな人間なのか。主人公とはどんな関係なのか。どういう感情を抱いているのか。そういった情報が読者に提供されていないと、「なんだかよくわからない人のために、主人公が頑張っている」という状態になってしまいます。
　この状態は、ようやくフィルについて少し描写される第四話になるまで、継続されてしまっています。

　登場人物の正体が曖昧というのはフィルに限らず、序盤の主人公もかなり描写不足であるような気がします。
　イメージしにくいクロエの年齢（「少女」という幅が広すぎる漠然とした表現しか描写がなく、五話でようやく「１６歳」という情報が得られる）
　どういう身分の人間なのか（二話で「同級生」という単語から、ようやく学生なのだとわかる程度）
　どういう背景を持っているのか（三話でフィルと義理の家族という情報が得られるが、多くは謎のまま）
　五話を読むかぎり、主人公の過去がストーリーの鍵となっていることはうかがえるものの、序盤における主人公の人物像のヒントが少なすぎて、不明瞭なフィルの人物像と相まって、物語への没入感を妨げています。
（ちなみに五話を読むまで、私は主人公に１３～１４歳くらいのイメージを持ってしまっていました）

　たとえば物語の導入を誘拐の少し前にして、フィルの人となりをきちんと描写し、主人公との会話ややり取りから二人の関係性や仲の良さ、お互いの人物像を読者に理解させておくなどすれば、もう少し話に入り込みやすいのではないかなと思いました。
　あるいは二話冒頭のアニーとのやり取りを利用して、もう少し主人公の情報を読者に周知させることはできそうな気がします。

　あとはストーリーを読み進めていくうえで、引っ掛かりを覚える点も多々あります。
　攫われた子を助けるのを手伝ってくれ、と言われてやたらすんなり協力することになるシー。
　護衛組織まである大富豪の息子・養女ふたりが、護衛なしで旅行をしていたこと（夜行列車を使うほどの旅行なのに、「護衛は要らない」と言われて素直に遠出させるものか？　と首を捻ってしまいました。その後の「最近は物騒な事件も起きているからな。通り魔だとか、不審者だとか、誘拐とか――」で、さらにこの点に対する違和感が増大）。
　やりたい展開に対して、辻褄合わせや整合性を取ることの丁寧さが、ちょっと欠けている印象がありした。

　読みはじめれば、五話の記憶喪失のくだりから主人公の過去とあわせて「これからどうなるのだろう？」と引き込まれる感覚を抱けたので、序盤のとっかかりにくさが惜しく思います。

　そんな途中までの感想となって申し訳ありません。時間を見つけて、また続きを読みますね。
　これからも執筆がんばってくださいませ。


・脱字等の指摘

第二話：最後の会話文の閉じ括弧が抜けています

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