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(0) 眠りから覚め、まだまだベッドに居たい誘惑を振り切って体を起こす。
(0) 目元をこすって、左に違和感を感じた。上手く立つことが出来ず、ベッドから転がり落ちてしまう。幸いカーペットが敷いてあるので大事には至らなかったが、ここ数日の事実を思い出した。あまり落ち込んではいないが、やはりため息は吐いてしまう。
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(0)「……あ~、バランス取り辛え…………」
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(0) 左目を失って二日目。彼女の顔にはガーゼの眼帯が巻かれていた。
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(0)「『しばらく更新遅れてごめんね~☆ミ 実は、左目無くなっちゃって……でもでも! これから眼帯コスで盛り上がっていくぴょん! そろそろ学校だから早めに上がるね。バイバ~イ!』……よし。ちょっと短いけど、これと今日の分の画像を送って…っと」
(0)
(0) 長谷川千雨。彼女は最高峰のハッキング技術を有しており、更には中学生とは思えないほどのブログを経営している。更に付け足すとこをあげるなら、コスプレ好きという点か。
(0) そう言う訳で、前回の陰陽師に「このコスプレ野郎!」と言った辺り、少し自分にもダメージを受けていたのだが……まぁ、それは置いておくとして、そうして彼女が更新すると、ほとんど間をおかずにネットのファンがコメントをあげて行く。「今日ちょっと短いね。お大事に!」や「ラウラタソハァハァ……あ、左目は残念です。でも、ずっとファンやっていきます!」など、彼女の身を案じる温かいコメントが多く、このブログの経営は彼女の毎日を潤わせる時間でもあった。
(0)
(0) そうして「ちうたん分」を存分に放出した後、彼女は学校へと足を進める。足取りは重いことこの上なく、絶対にクラスのとんでもメンバーに何かを聞かれるだろう。それに、担任教師はあの高畑だった。
(0) RAYの言っていた「あの程度では死なない」という言葉を思い出し、少し憂鬱になる。だが、そんな彼女の足をパタタ、と安心させるように叩いたモノがあった。それは、何もないようなところから一瞬で出現し、RAYと似たグレーのボディを持っていた。
(0)
(0)「ありがとな、Mk.Ⅱ」
(0)≪~~♪≫
(0)
(0) 千雨が礼を言うと、再び透明へ――Mk.Ⅱはステルス迷彩を使用する。
(0) 景色と同化し、動作音そのものが小さいMk.Ⅱは、千雨が目に怪我を負ってからRAYが護衛につけさせた「自立型機動端末メタルギアMk.Ⅱ」である。RAY曰く、私の子供のようなものだ。パソコンの拡張端子として使ってほしい。と言っていたが、その汎用性は恐ろしく高い。
(0)
(0) 痴漢撃退や、RAYの格納庫にあるスーパーコンピュータと直結したコンピュータハッキングをも行える。一応、学校の近くに仔月光を何体か忍ばせるそうだが、愛嬌のある此方の方が千雨は気に入っていた。
(0)
(0)「……来ちまったなあ」
(0)
(0) そう考えながら歩いていると、いつの間にか自分の通う中学校「麻帆良学園本校女子中等部」の校門まで来ていた。昨日は怪我の治療のために休んでいたため、まだ少し話をする程度の知り合いが、眼帯を見て可哀そうに…と言った目線を向けてくる。ここでそうなのだ。教室に行けば、どれだけ面倒なことになるか。少し考えればすぐにわかる。黄色い悲鳴で埋まることは間違いない。
(0) 学校というものが、ここまで嫌なものとは……。別の意味で痛みだした頭を押さえ、千雨は下駄箱に向かうのだった。
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(0) 教室は閑散としていた。
(0) なるべく早めに来たのは間違っていなかったようで、自分の所属するクラス――1-Aは人がいないとこうなるのか、と驚くほどに静まり返っている。ただ、先着は二名ほどいたのだが。
(0)
(0)「おい」
(0)「…マクダウェルさん。なんでしょう?」
(0)「チッ、その虫唾が走る敬語は……まあいい。それより、その目はどうしたんだ」
(0)「いえ、少し木の枝が突き刺さりまして……昨日はそれで休ませていただいたんです」
(0)「……そうか」
(0)
(0) 今のが、先着二名のうちの一人「エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル」。金髪の美少女で、中学生なのにどう見ても身長が足りていない不思議生徒その一だ。そして、もう一人が耳からアンテナを伸ばしている不思議生徒その二「絡繰茶々丸」。どう見てもロボットにしか見えない中学生だ。そう分析しなおして、千雨はRAYの件があってからというもの、絡繰がまだましだと思える自分に嫌気がさしていた。
(0)
(0) ただ、気になることもあって、普段は誰も話しかけないマクダウェルに話を振る。
(0) それは……個々の担任教員、高畑についてだった。
(0)
(0)「タカミチ…? 面倒だ。茶々丸、お前が教えてやれ」
(0)「はい、マスター」
(0)
(0) それでは、と話を振られた茶々丸が嫌なそぶりも見せずに説明を始める。
(0) それによると、高畑・T・タカミチはいつも通り教員の仕事をしていたが、どこか足を引きずるような仕草をしていたらしい。はたから見ていては気づかなかったが、何故か高畑教員に首ったけな不思議生徒その三。快活な茶髪に青と緑のオッドアイ少女「神楽坂明日菜」が高畑教員の異常に気付いて迫ったところ、壁にぶつけた足に激痛が走り苦しんでいたとか。
(0) それ以降の授業に高畑は復帰せず、その日は姿さえ見かけなかったと。そうして茶々丸は締めくくった。
(0)
(0)「ありがとうございます茶々丸さん」
(0)「いえ、これもマスターからのご指示です。礼には及びません」
(0)
(0) やはり、どうにも機械的な受け答えが返ってくる。これなら、RAYの方がよほど人間臭いな、と千雨は内心ごちていた。
(0) 向こうも此方も話すことはなく、それから15分もすれば、遅刻寸前に流れ込んでくる1-A生徒たちが入り口でつっかえ半々といった様子で現れた。HRの時間になれば何事もなかったかのように高畑が教卓に立ち、千雨にちらりと視線を送る。
(0)
(0)(厄介事は確実か)
(0)
(0) 早くもくじけそうだよ、RAY。
(0) そんな千雨を元気づけるように、Mk.Ⅱが忙しなく足を叩いていた。
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(0) RAYは、Mk.Ⅱから送られてきた映像を見て高畑という男を見ている。
(0) あれほどの爆発。千雨に死にはしないとは言ったものの、この数日であのレベルまで回復することはあり得ない。つまり、ここは千雨の先日言っていた「魔法」とやらが関連していることは確かだろう。
(0) 二日前、RAYは高畑が胸のあたりまで炎に包まれる様を望遠にピントを合わせてみていたのだ。足も炭化しかけていたし、ほんの二日で完全治癒など有り得る筈がない。向こうの魔法には、「治療用の魔法」が存在しているのだろう、とデータベースに情報をインプットする。
(0)
(0) そして、RAYは足元にある机に視線を移した。
(0) 机の上には、細かい機器類と部品の数々。一本のひもの中間あたりに、詰め込むように部品を組み立てている製造途中の何かと、一見変哲もない球がある。仔月光やRAYの武装はそのまま製造プラントで作られているので問題はないが、新しい機器を作ろうということは、RAY単身では不可能だった。
(0) だから、目を取り戻したいと思っている千雨の努力を見守ることしかできない。だが、千雨は何もできないRAYに「居てくれるだけで励みになる」という旨を伝えていた。RAYは千雨の頑張りを見ることしかできない不満……AIには本来存在しない、もやもやとした気持ちの陰りに耐えながら、千雨の作業をずっと見ていたのだ。
(0)
(0)
(0) ここで紹介をしておくと、彼女が作っているのは「ソリッドアイ」と「視神経直結義眼」だった。神経を直接義眼の機械神経と繋げ、それの上に眼帯型のソリッドアイをつけることでレーダーの情報を直接頭に送るという視界補助装置。
(0) 危険を事前に察知することが出来るようにと、千雨がRAYに要求したリスクの高い二つの精密機器だった。リスクの高い、というのはそれぞれで違うリスクだ。
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(0) 「ソリッドアイ」は実に多彩な機能を備えており、暗視・分析・望遠・マッピング。データをこの格納庫のスーパーコンピュータに送り、向こうも土地情報を引き出すことが出来るという仕組みだが、その精密性が恐ろしく高い。元からそう言った知識を持っている人物が作って初めて、形にすることが出来るというものだった。
(0) 対して、「視神経直結義眼」も同じく製造に手間をとるが、ソリッドアイほどではない。確かに素材は特殊だが、義眼そのものは購入したものを使うからである。では、何故リスクが高いかと言えば、名称にある「視神経直結」が危険なのだ。目の神経は脳に近く、傷つければナノマシンでも抑制できない痛みが走る。そして、仮に繋げたとしても視神経から脳へ送られる情報を受け入れることが出来なければ、そのまま更に自分を痛めつけてもう片方の目に影響を及ぼす可能性があるからだ。
(0)
(0) だが、このようなリスクがあろうとも千雨は努力を怠ることはなかった。
(0) それは、一重に間に合わなかったと嘆くRAYに対する謝罪と、あのような危険がこの街にあふれているという恐怖からの逃亡のため。本来一番恐怖すべきは兵器ではなく、同じ人間だという事を悟ったからでもある。
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(0)「≪それでも、哀しいものね……≫」
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(0) ザ・ソロー。彼がこの悲劇を見たなら何と言ったか。……いや、これもまたザ・ボスの「記憶」。自分自身には関係のない事だ。冷静に切り替えて、思考とソローの記憶だけを捨てる。自分もまた、あの夜以来ザ・ボスを振り切れるようになってきた。そう、RAYは感じている。
(0) だが、その度に哀しくなるという弊害は、RAYの心に少しの波紋を起こしていた。
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(0) 時刻は放課後となった。夕焼けが顔を覗かせ、物悲しい雰囲気になる終業のベルが鳴る。1-Aの人間はみな、やっと授業が終わったと言わんばかりにはしゃぎだす。どう見ても学生の本分を忘れている辺り、千雨の頭痛は助長されていった。そして、このクラスがどれだけ異様なのかも実感していく。
(0) 自分も早く帰り、RAYに会いに行こう。そして作業の続きを。そう思って立ちあがったとき、放送がなった。
(0)
(0)≪1-Aの長谷川千雨さん。1-Aの長谷川千雨さん。今すぐ学園長室に来てください≫
(0)「……マジかよ」
(0)「あ~、長谷川さん呼ばれてる!」
(0)
(0) いまの放送で一時千雨に注目が集まったが、それを払いのけるように廊下に出た。
(0) 当然、この放送はアイツもグルだろうな。と考え、この放送は無視でもしようかと考える。だが、そうなってしまっては変なところで退学処分にされてしまったり、尾行されてRAYの事がばれるかもしれない。
(0) そこまで頭を回すと、もう一度、深い息を吐いた。
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(0)「…行こう」
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(0) 学校に来る時より、足取りは重く学園長室に向かう。
(0) そもそも、学園長はこの麻帆良に存在する学校、その全てを統括している実質上この麻帆良学園都市のトップである。であるのに、体が発展途中で「大きいお友達」が興味を示しそうな中学校、しかも女子校に学園長室を置いているのはどうなのか。老人ということは入学式のときに分かったが、その目つきが最早タダのエロ爺だっということは記憶している。
(0) そう考えると、千雨はセクハラでもして交渉するのか、そもそも倫理的にどうなんだ、とか呪詛を頭の中でグルグルと回し続ける。最近は思考しながら歩いていると目的地にあっという間につく変な癖がついてしまったからか、ふと視線を上げれば学園長室のプレートが目線の少し上に在った。
(0) 意を決して、ドアを叩く。
(0)
(0)「…失礼します」
(0)「おお、来たかね」
(0)
(0) 学園長室で千雨を迎えたのは、学園長だけではなかった。
(0) 黒人教師のガンドルフィーニ。大火傷を負った筈のタカミチ。何故か帯刀している葛葉。名字をほとんど聞いた事のない瀬流彦。教会に居る筈のシスター・シャークティ。ヒゲグラ先生の神多羅木。理科系教諭の明石。最後には弐集院。
(0) 構内でも、「教師以外として」噂の絶えない先生が学園長…「近衛近右衛門」の背後にずらりと並んでいた。ここまで勢ぞろいだと、千雨は嫌でも分かる。
(0) ―――こいつ等、全員碌でもないな。
(0)
(0)「それで、何のご用でしょうか? 学園長」
(0)
(0) こんなとき、ナノマシンがあって本当によかったとRAYに感謝する。
(0) ポーカーフェイスを崩すことなく、千雨は自分から切り出した。
(0)
(0)「いやいや……高畑先生の火傷の件での? 現場に居合わせていた君に、ちょっと聞きたい事があるのじゃよ」
(0)「火傷……あぁ、申し訳ありません。私は昨日このように、左目を失っておりまして」
(0)―『ッ……』―
(0)
(0) 敢えてわざとらしく、その事か、と相槌を打つと千雨は眼帯を押し上げて空虚な左目の穴を見せつけた。その行為に顔を背ける者数名。それでも疑わしく視線を向ける者学園長と高畑のみ。これで、権力者の割り出しは成功した。
(0)
(0)「そのことは、わしらの失態じゃ。なんとかしてそれを治す術を見つける。だから君には―――」
(0)「申し訳ありません。この目は自分で治すと決めていますので。学園長の重き計らいには感謝しますし、その謝罪も受け取ってこの件は終わりとしましょう。私はこれから、この目が再び見えるようにするための機器を作らなければなりません」
(0)「ふぉっ!?」
(0)
(0) カードを壱枚切る。それで演技ではない驚愕を見せる学園長に、千雨はまたひとつペースを握ったと内心笑った。向こうはほとんどマークしておらず、ただの学生だと思っていたらしい。そのおかげで、此方から着ること出来るカードが通ること通ること……。
(0)
(0)「しかしだね、長谷川君。話がそれているようだが高畑先生の火傷の関しては――」
(0)「言葉を区切るようで申し訳ありません、ガンドルフィーニ先生。ですが、私は高畑先生の火傷については知らないし、そんな嘘にも興味はありません」
(0)「ま、待ちなさい! それはおかしいでしょう。嘘とは何ですか!!」
(0)「……そのままの意味です。高畑先生は見る限り、ここまで大騒ぎするまでの火傷を負っているわけでもなさそうですし、親を呼ぶこともなく私だけを取り囲んで話をする方が私は可笑しいと思いますがね」
(0)
(0) 再び、沈黙が訪れる。
(0) 確かにタカミチの体に火傷の痕は残っていないし、千雨には、この麻帆良学園都市に親がいない。他の面子も似たような境遇が多く、だからこそこの中学校には授業参観が無い。其れを知っているからこそ、苦虫を噛み潰すような顔をしている「道徳ある先生」に重大な傷をつけることが出来た。
(0) 何としてでも、RAYが知られることは阻止しなければならない。
(0)
(0)「……では、ちょっと質問を変えようかの?」
(0)「はい、それで終わりにしていただけるなら全てお答えします」
(0)「ほっほう! それでは…」
(0)
(0) 全て話す。まんまと引っ掛かったことに気づかないのは、よほど焦っていたからか。
(0) 昔から人の顔を嫌というほど見てきた千雨にとって、こういった感情を見るのは得意だった。
(0)
(0)「君と一緒に居た巨大なロボットについてはどうかの?」
(0)「…………それは」
(0)「あれは何かな? 当事者の僕としては聞きたい限りなんだ。君みたいな生徒を危ない目にあわすわけにもいかないからね。あんな危険ものに関わるならなおさらだ」
(0)
(0) そして、一番の獲物が引っ掛かった。
(0)
(0)「あれは、研究会の試作品の一つです。高畑先生の言うとおり、確かにあれは兵器として作られています」
(0)「だろう、なら――」
(0)「――ですが、アレに搭載されているのは全てゴム弾。“いきなり出てきた高畑先生の火傷の原因”のような殺傷力はありませんし、私を乗せてくれたのも傷の治療を施すためです。それに、魔法の存在ぐらい私は知っていましたし、その程度で記憶を消さないでくれませんか?」
(0)「なっ」
(0)
(0) RAYに搭載されている武装。その一つが仔月光であるが、ここのメンバーはあまりにデザインが違う仔月光とRAYに関連をつけるのは難しいだろう。
(0) だから、あえて仔月光はRAYとは違う物として説明し、RAY――巨大ロボットが自分を助けたという印象を入れることによって、未知の対象への情報を印象の良い事にしていく。これなら、実際に体験した人以外なら本当は危険じゃない。と思わせることが出来る。
(0) 更に、自分が魔法を知っていると嘘をつくことで高畑に非難の視線が――特にガンドルフィーニ先生の視線が強く――集まった。学園長室の空気は最初とは打って変わり、疑惑に満ちたものとなる。
(0)
(0)「それでは、これが本当に全てです」
(0)「偽りはないのじゃな?」
(0)「はい。私が知りうる限り全てお話しいたしました」
(0)「……腑に落ちんと言えば事実じゃが、約束もしたわけじゃしのう……分かった、行くがよい。御主の左目もお大事にの」
(0)「御心配ありがとうございます学園長。では、これで」
(0)
(0) おそらく、ナノマシンの制御が無ければ汗も噴き出て心臓もうるさく鼓動を速めていただろう。最初から最後まで冷静に質問を受け流した千雨は、学園長室を出、あくまでゆったりとした足取りで学校を出た。
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(0)「………ふぅ、はぁ…………くそっ化け者ぞろいかよ」
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(0) 学校を完全に離れた辺りの公園で、千雨は一人そう吐き捨てた。
(0) 全員が全員、高畑ほどじゃないにせよ、それなりの「気配」を放っていたからである。最終的にはよく知らない奴を丸めこみ、当事者を向こう側だけで抑えることが出来たが、見えていたものが全員だったならこうはいかなかっただろう。
(0) 神楽坂も、難儀な奴だと千雨は苦笑した。
(0)
(0)「おい、長谷川といったな?」
(0)「!」
(0)
(0) 効果音が出た気がして、聞こえてきた声の方向に目を向ければ金色の光を棚引かせる美少女が立っていた。今朝話しかけたエヴァンジェリンが、いつの間にか千雨の前に居たのだ。
(0)
(0)「突然の訪問、失礼します。マスターが千雨さんに御用があると」
(0)「用…?」
(0)「説明せんでも分かるだろうに……まぁ、それはいい。貴様の今から行くところに案内しろ。それだけだ」
(0)「……あんた、もしかして学園長の差し金か!?」
(0)
(0) 今朝の口調もかなぐり捨て、ナノマシンの波長制御で周波数をMk.Ⅱに合わせる。
(0) 千雨が逃げ出そうと半身を引いた瞬間―――
(0)
(0)「落ち着け長谷川千雨。私は貴様と争うつもりなどない」
(0)「…なに?」
(0)「警戒しておられるようですが、マスターは学園長とはむしろ犬猿の仲です」
(0)「余計なことを言うなボケロボッ!」
(0)
(0) どこからかと出したハリセンで茶々丸を叩くエヴァンジェリン。千雨はその光景を見て、これは敵やターゲットに出来る態度じゃないか、と半分呆れていた。むしろ、これが演技だとしたら吉本行けばいい線イケそうだが。
(0)
(0)「とにかく、貴様の居る場所に案内しろ」
(0)
(0) そう考えていると、ふんぞり返って偉そうにエヴァンジェリンはつづけた。
(0) 何となく申し訳ない雰囲気の茶々丸が、なんとも可哀そうに見えてきた千雨は……
(0)
(0)「鉄くさいぞ?」
(0)「構わん。血の匂いなら慣れている」
(0)「私の作業邪魔すんなよ?」
(0)「貴様自身には興味がない」
(0)「茶々丸苦労してないか?」
(0)「いえ、マスターの御姿はいつも可愛らしいので、それに比べれば……」
(0)「―――よし、行こうか」
(0)「ちょっと待てぇぇえええ!?」
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(0) ああ、意外とノリがいいのだなこいつ。と思いつつも、エヴァンジェリンの叫び を無視する。来るならさっさと来い。そう目線で告げれば大人しくなり、なんとなくエヴァンジェリンの知りたくもなかった一面を知った千雨は、二人を連れてRAYの格納庫に向かったのだった。
(0)
(0)
(0)
(0)「番外倉庫か…随分見た目が変わっているな」
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(0) 歩き続けて15分。RAYの格納庫にたどり着いた千雨は、不思議そうに倉庫を見つめたエヴァンジェリンに外で待っていろと告げた。
(0)
(0)「何? ここまで来てお預けを待てるほど私は気が長くないぞ」
(0)「違う。ここはID認証が必要なんだ」
(0)「それぐらいなら私がハッキングを……」
(0)「止めとけ。ここのプラグそのものがダミーだ。入れた瞬間数億ボルトの電圧でショート死するって」
(0)
(0) そう言って千雨が認証を受けると、格納庫の中に一足先に入った。千雨が踏み出すと同時にドアが閉まり、必要最小限の者しかここの立ち入りが出来ない事を如実に表していた。
(0) そのまま千雨は上を見上げると、RAYを呼んだ。すると、下のリフトが上昇してメタルギアRAYが姿を現す。ゴゥン、と大きな振動が起こってリフトは停止。RAYは下に居る千雨へと視線を向けた。
(0)
(0)「≪チサメ、外に二人…一人は機械がいるようだが≫」
(0)「来客用の口調か…まぁいいや。客だ客。変なことしないってのは分かってるから、入れてやってくれ」
(0)「≪学園の回し者という線は?≫」
(0)「あんな残念なコント見せつけられちゃ、疑う余地もねーよ」
(0)
(0) そうか……。RAYがつぶやきを漏らすと、格納庫のロックが解除される。向こう側に見える二人に千雨が入ってもいいというジェスチャーをすれば、二人は物珍しそうに格納庫内を眺め始めた。
(0)
(0)「なんだこれは……戦争でもする気か?」
(0)
(0) エヴァンジェリンがそう言っているが、それも仕方ないだろう。
(0) ひとたび格納庫に入れば、辺りに見えるのは自立兵器、重火器、迎撃システム、仔月光の数々。その気になれば一晩で国一つは落とせる兵器が揃っているのだから。
(0)
(0) そんな二人に視線を移したRAYは、静かに外部スピーカーを振動させた。
(0)
(0)「≪初見になる。私はRAYという者よ、来訪者≫」
(0)「不格好なペンギンがしゃべった……おい、茶々丸! ロボットだ、ロボットがしゃべったぞ!」
(0)「私もロボット…正式名称はガイノイドだと記憶していますが」
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(0) そう言えばそうだったな、という二人の漫才を見て、なんとも千雨は力が抜ける。
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(0)「連れてきたんだから、あんまり下手するなよ。私は自分の作業に移るから」
(0)「はい。マスターの我儘に付き合ってくれてありがとうございます」
(0)
(0) 礼儀正し茶々丸に対し、エヴァンジェリンはテキトーに礼を述べて辺りを物色し始めた。時折、M4A1か、ゲームとほとんど一緒だな! という声が聞こえるが、どうやら本当に博物館気分で来ているらしい。その時に聞こえた茶々丸のはぁはぁという息使いは千雨は聞かなかったことにしたが。
(0)
(0) そして、自分の机に座ると、作業途中だったソリッドアイの開発を進める。
(0) 最初は図面が敷かれているのでその通りに造ろうとしたが、どうしても細かい部分で何度もミスが出てきて初めから作り始めることになる。今となっては、失敗して元々。少しずつ製造過程 そのものに慣れて行こうと作業を続けていた。幸い部品は無限と言っていいほどあるのだから。
(0)
(0) その中、この機械工場には不釣り合いな小箱を見つけたエヴァンジェリンがそれを手にとる。RAYは慌てて、エヴァンジェリンに注意を呼び掛ける。
(0)
(0)「≪それは千雨の目だ。乱暴に扱えばそれなりの事を受けてもらうわよ≫」
(0)「……ほう。こいつの“目”か。取り戻そうとしているのだな?」
(0)
(0) いじめっ子さながらにエヴァンジェリンは目を光らせ千雨へと視線を向けたが、こちらの事などそっちのけで真剣に取り組んでいる彼女を見て、興ざめと言わんばかりに箱を丁寧に元の場所に戻す。
(0)
(0)「私は詳しく聞いていないが、タカミチの奴が大火傷を負って帰ってきたという話があったな。なるほど、ここの設計図を見れば分かった。お前たちの仕業か」
(0)「≪そう。でも、その事実を広げようというのなら……≫」
(0)「なら?」
(0)「≪あなたたちを排除することになる。容赦はない≫」
(0)
(0) 機械 からから向けられる、エヴァンジェリンへの殺気。
(0) エヴァンジェリンは、本能的にそれに恐怖した。……ただのAI人格が出せる殺気ではない。だれか、それこそ伝説の戦人が出すような殺気。だが、人間如きをベースにしているとしても、この殺気は―――
(0)
(0)「RAY、気が散るって」
(0)「≪すまないチサメ。柄にもなく本気で呑まれかけていた≫」
(0)「ったく、気をつけろっつーの。両方ともな」
(0)
(0) 千雨が疎めたことで、エヴァンジェリンの硬直は解けた。
(0) AIとはいっても、そのもとになったのは伝説のザ・ボス。ピースウォーカー計画の折も、彼女の人格AIは勝手に行動を起こし、ピースウォーカーという身体を海に沈めた行動をとっている。つまり、RAYもまた本当にザ・ボスが起こすようなことが出来る兵器になってしまうのだ。先ほどの殺気が、何よりもザ・ボスの畏ろしさが分かるだろう。
(0) だが、それはRAYにとってザ・ボスに飲まれてしまうことと同じ。陳腐な表現だが、諸刃の剣である。
(0)
(0)「……貴様、一体…………」
(0)「≪私はただの兵器。伝説の人物を元にしているだけの兵器よ≫」
(0)
(0) エヴァンジェリンはその返答に満足するように頷くと、十分見た、これで帰ることにしようと言って帰ろうとした。あのやり取りで何か通じるところがあったのか、RAYはエヴァンジェリンと茶々丸にIDを渡すと、この格納庫から去っていく二人を見送っていた。
(0) どちらが何を得たか。それは千雨には分からなかったが、共感できるとこもあるんだろうな、と千雨は作業を再開する。そこで、千雨は……
(0)
(0)「そういや、エヴァンジェリンが何者か聞いてなかったな……って、また失敗か」
(0)「≪焦らずにゆっくりやるといいわ。私がちゃんとアドバイスを送る。…それはまだ失敗じゃないようね。一度ネジを締めてから溶接してみなさい≫」
(0)「サンキュー……っと、ここは出来上がったな」
(0)
(0) RAYという友人をそばに、笑顔を絶やさず作業を続けていた。