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(0) 見上げた空で、幾度目かの光が弾ける。高速で移動する四つのIS、その中で一際速く、軽やかに飛び回るのは、クウだ。
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(0)『セイ、セイ、セイ』
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(0) オルコットのビットが放つレーザーを苦も無く躱しながら、ずっと呼び続けている。
(0) クウは束が開発したISであり、待機状態は人間の少女と何ら変わらない姿をとる。その状態でクウは私たちの世話をしてくれていたわけだ。
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(0)「はぁああああっ……きゃあ!」
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(0) 鈴音が両端に刃をつけた武器でもって斬りかかる。
(0) クウには近接武器が搭載されていない。それは束の意図した事であり、けれどクウにとってそれは何らハンデとならない。
(0) 方向転換などとてもじゃないが出来ようも無いスピードで動きながら、クウは待ち構え振り落とされた刃にほんの一瞬で急停止、くるりと一回転し後退したと思えば、両手に二丁の銃を取り出し鈴音を撃ち落とした。
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(0)「鈴!?」
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(0) 墜落した鈴音に焦ったデュノアの横を通り過ぎる。その交わった一瞬のうちに、デュノアの体に紐のようなものが巻きついた。
(0) 目的は彼女たちにない。余計な被害を出さぬためにと、束に言って作ってもらったクウ専用の捕獲用の武器だ。一定時間、ISの動きを封じる事が出来るのだが、その効果は私自身が体験している。
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(0)『あれ、嫌い』
(0)「そうか」
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(0) 雪桜のハイパーセンサーを通して、クウと専用機持ちたちの戦闘を眺めていた。不満げな声に苦笑いで返す。アレに捕まると、本当に動けなくなるのだから勘弁してもらいたい。
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(0)「ふっふっふ~。思った通り、やっぱりくーちゃんの一人勝ちだね!」
(0)「……まあ、クウが相手ではな」
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(0) 束特製の、確かな意思を持ったIS。飛ぶということにおいてクウはきっと、誰よりも優れているだろう。クウはただ、身軽に空を駆けまわれるだけでしかない。けれどそれだけで、ああも強い。
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(0)「オルコットも捕まったか」
(0)「ありゃ、意外と早かったね。束さん想定外だったよ、まあどうでもいいけど」
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(0) デュノアと同様に動きを封じられたオルコット。堕ちる事は無くとも、しばらくは動くことなど出来ない。
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(0)「それじゃあ次は~、っと。あっちから来てくれたね、わーい」
(0)「……」
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(0) サクサクと砂を踏む足音。戦闘の音も消え、波の音だけが響いていた今、その音はとても大きく聞こえた。
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(0)「あの無人機は、お前らの仕業か」
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(0) 大空三春、大空一夏。大空兄弟が揃ってお出ましか。
(0) 現れてすぐ、大空兄がギロリというように睨み付けてくる。いつもよりもその目が鋭い気がするのは、コイツの言葉から勘違いじゃないと思えた。
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(0)「無人機? くーちゃんのこと?」
(0)「……何が目的だ」
(0)「あ、無視した。むっかつくなー」
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(0) ぶうたれた束が後ろから私に抱き着いてくる。いや、抱き着くというよりのしかかられている感じか。
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(0)「重い、離れろ束」
(0)「だってアイツ私の話を無視するんだよ?」
(0)「……それでも、離れろ」
(0)「はーい」
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(0) 目に見えて鋭さを増す大空兄弟の瞳と、何も気にしない束に挟まれて溜息が零れる。話が進まないな、まったく。
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(0)「さて、目的についてだったか」
(0)「……」
(0)「何、といわれてもな」
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(0) そう大そうなものがあるわけでもない。たしかに私と束にとってはとても大きなことだが、世間からすればただの我儘と思えるだろう。
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(0)「分からないことを分かる為だ」
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(0) ただ知りたい、それだけの為に私たちはこんなことをする。
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(0)「自分勝手なっ」
(0)「ああ、そうだ。だが悪いな、私にとってはそれだけ重要なことだ」
(0)「―――ふざけるな!!」
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(0) 吠えたのはやはりというか、大空兄だった。無言を貫く大空弟、大空兄は憎悪に染まった目を向けてくる。
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(0)「またお前たちは、そんな勝手な理由で相手を傷つけるのか!?」
(0)「……また?」
(0)「セシリアたちを傷つけて―――もうこれ以上、お前らの犠牲になんかさせない!!」
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(0) ……傷つけては、いないんだがな。鈴音のあれだって、堕ちはしているがアイツ自身に対してダメージはいっていない筈だ。クウがやったのだから、その筈なんだ。
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(0)「また、ってどういう意味だ」
(0)「さあ」
(0)「っ来い!!」
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(0) 疑問は増えるばかりで減りはしない。
(0) 大空兄が何か叫んで、けれど全ては聞こえなかった。そうして光に包まれたその体は、次の瞬間には透明に近い白を纏っていて、砂を巻き上げこちらに斬りかかって来ていた。
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(0)「絶対に―――許さない!!」
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(0) 束がジッとそのISとよく似たそれを見つめている。振り上げられたそれを見ても、動かない、動かない、動かない、そして。
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(0)『セイを、返して!』
(0)「っああ!?」
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(0) 一瞬前まで大空兄がいた場所を吹き飛ばしたのは、空気を裂いて一直線に飛んできたクウだった。砂浜が大きく抉れ、砂埃が舞い上がる。
(0) 吹き飛ばされる直前に後退したらしい、砂埃の向こうで動く影が見えた。
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(0)『セイ、セイ、セイ! 私は、ここにいます!』
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(0) クウが叫んでいる。何度も叫んで、その声がとても泣きそうだった。
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(0)「くーちゃん」
(0)『セイ、セイ、セイ』
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(0) 砂埃が晴れて、大空兄と大空弟の姿が明らかになる。クウが飛びこんで来た時だろうか、気づけば大空弟が打鉄を装着していた。
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(0)「……そう簡単に殺されない、ってことか」
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(0) 忌々しげに吐き捨てた大空兄。叫び続けているクウの装甲に手を伸ばしながら、束は深々と、溜息を吐いた。
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(0)「君がさぁ、何を私に怒ってるのか知らないけど……私も怒ってるんだよ?」
(0)「なんだと?」
(0)「いい加減に、返してくれないかな」
(0)『セイ、セイ、セイ』
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(0) クウが叫んでいる、ずっとずっと。そして束が、怒っている。
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(0)『クウ……クウ……クウ……』
(0)『セイ、セイ、セイ、セイ、セイ』
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(0) 風の音にも消されてしまいそうな、そんな掠れた声はずっと、大空兄がそれを纏ってから聞こえ続けていた。ずっと、クウに叫んでいる声が聞こえていた。
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(0)「その子は、私のだよ」
(0)「っざけるなぁああああああああああああ!!!」
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(0) くーちゃん、と。空を裂く大空兄の叫びの中で確かに束が、クウを呼ぶ声が聞こえた。
(0) ふわりと光る束の体と、光へと変わるクウの姿。ふわふわと、光が束の体を包んでそして、束とクウは一つになる。
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(0)「それじゃあ、せーくんを迎えに行こうか!」
(0)『はい!』
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(0) クウは無人機であると同時に、有人機でもある。ISでありながら、そのどちらでも彼女の意思を持って変われる。
(0) 砂を踏み込む大空兄に近づいて、空へと投げ飛ばす。それは唐突な出来事で、投げ飛ばされる寸前の大空兄が目を見開いていたのが見えた。
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(0)「……」
(0)「ちーちゃん、行こ?」
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(0) 兄が飛ばされたというのに、大空弟はその場から動かなかった。束はそちらに興味が無いのか、目も向けず私に声をかけてきた。
(0) 分からないことを分かる為に、始めたこと。その中で私がすることは、決まっている。
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(0)「お前は先にあっちへ行け」
(0)「ちーちゃん一緒に行かないの!?」
(0)「……私は、こちらの方が気になる」
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(0) 束が大空兄に目的があるように、私は大空弟に目的がある。
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(0)「うー、えー、でもなぁ……」
(0)「すぐに行く。心配するな」
(0)「……分かったよ」
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(0) むぅ、と。不貞腐れた束を送り出す。どうやら当然のように私も一緒に行くと思っていたらしいが、私はまだそちらに行けない。
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(0)「……お前は行かなくていいのか、大空一夏」
(0)「大丈夫さ。兄さんがあんたらなんかに負ける筈無い」
(0)「そうか。随分と信頼しているようだな」
(0)「当然だろう。家族なんだから」
(0)「……」
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(0) 痛い。自分でも疑問に思えるほどに、痛い痛い痛い。
(0) 打鉄を装着した大空弟の手にはブレードが握られ、それはしっかりと私へと向けられている。それがまた、痛い。
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(0)「訓練機、勝手に使っては怒られるんじゃないのか」
(0)「そんなことであんたを倒せるなら、安いもんさ」
(0)「……どうしてお前は、私を倒したいと思うんだ?」
(0)「前にも言っただろう」
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(0) 身を屈めてブレードを構えた大空弟が、足を踏み込んだ。
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(0)「兄さんを傷つけたあんたを、俺は許さない!」
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(0) 突き出されるブレード、それは私の体を真っ二つにするには十分な大きさで。けれどそれは、ただ空を斬るだけだった。
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(0)『千冬』
(0)「なんだ?」
(0)『避けないと、当たっちゃうよ』
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(0) 自動展開、装着された雪桜。それによって私は意思と無関係に空へと飛びあがらされ、飛びあがった今も私は雪桜に身を任せている。
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(0)『シールドでも痛いものは痛いよ。だから、ちゃんと避けて』
(0)「悪いな。だが私は、アイツの話を聞きたい」
(0)『それでも避けて』
(0)「お前に任せるよ、雪桜」
(0)『……わかった』
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(0) 避けるよりも、何よりも、アイツの話を聞きたい。きっとこれが最後のチャンスだ。だから、私はただ、話を聞きたい。
(0) 雪桜はそんな私の願いをきいてくれる。ただ飛んでいた体は体勢を立て直し、砂浜を飛びあがった大空弟と相対した。
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(0)「お前は、私が大空三春を傷つけたと言ったな」
(0)「ああ、そうだっ」
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(0) 上から振り下ろされたブレードを雪桜が避ける。その流れに逆らわず、身を任せて私は、大空弟に話しかけた。
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(0)「あんたが、兄さんを傷つけた!」
(0)「だが私には、身に覚えが無い」
(0)「っまたそうやって、嘘を吐く!!」
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(0) 嘘では無い、言っても聞こえないのか、突き出されたブレードをまた避ける。避けるたびに大空弟の顔が歪んでいく。
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(0)「俺は、全部知ってる! 兄さんが話してくれた、あんたの、織斑千冬と篠ノ之束の罪も、隠し続けていたことも!!」
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(0) 私と束の、罪? それは何か。何のことだ。
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(0)「分からんな」
(0)「んでまだ、惚けるんだよっ」
(0)「……なあ、大空一夏。お前が言う私と束の罪とはなんだ?」
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(0) 知らない、分からない。敵意と共に向けられる言葉の意味も、睨み付けられる瞳に篭められた憎悪の根源も、私には分からない。
(0) けれどその分からないことの答えが、今までで最も近くにある。だから答えに、手を伸ばせ。
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(0)「大空三春は織斑一夏に何を話した―――なぜ織斑一夏は、大空一夏になった」
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(0) 大空三春を傷つけた? 私と束が隠していたこと? 私たちの罪?
(0) そんなの、知らない。分からないことは増えた、分からないことだけが増えた。増え続けた。
(0) でもその中で私が最も分かりたいと思ったことは、変わっていない。
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(0)「織斑一夏は何故、大空三春を選んだ」
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(0) あの日、誘拐された一夏と共にいたのは大空三春だった。一夏は私の手は取らず、けれど大空三春の手を取った。そうして織斑一夏は消えて、大空一夏になった。
(0) 知りたかった。消えて、生まれた大空一夏の幸せを願うよりもまず、私は知りたかった。織斑千冬と大空三春、二つを天秤にかけた織斑一夏が何を持って大空三春を選んだのか。どうして私では無くアイツを選んだのか。
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(0)「答えろ、大空一夏」
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(0) 私は、知りたい。
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(0)「……白騎士事件」
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(0) 動きを止めた大空一夏の口から呟かれたのは、世界でも有名な事件の名前だった。
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(0)「あんたたちは俺に、何も話してくれなかった。ずっと隠してきた。でも兄さんは教えてくれたよ、全部」
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(0) 淡々と、紡がれる言葉に感情は無いように思える。静かで、けれど穏やかとはかけ離れた、そんな言葉。
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(0)「あの事件で、織斑千冬と篠ノ之束が犯した罪も……俺は、知ってるんだ」
(0)「……その罪というのは、なんだ」
(0)「やっぱり……話してくれないんだ」
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(0) 淡々とした中で、最後に聞こえた言葉だけはひどく悲しげに響いたような気がして、けれどその後に続いた言葉に私はまた、分からなくなる。
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(0)「あんたは―――兄さんの大切な人を、殺した」
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(0) それが罪だという。なあ、それは、いったい、
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(0)「何のことだ」
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(0) 分からない。そんな罪、分かる筈が無い。だって、知らないのだから。
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(0)「……そうやって嘘を吐くから、織斑一夏はいなくなったんじゃないのか」
(0)「は、ぁ……?」
(0)「本当は最初から、愛してなんていなかったんだろ。偽物の愛情に気づかない弟はどうだった? 邪魔だったんだろ? だから、見捨てたんだろ」
(0)「なにを、言ってる?」
(0)「……待ってたんだ。なのに結局、あんたは来てくれなかった」
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(0) なあ、大空一夏。お前は何を言ってる? 何を考えてる? 何を、想ってる?
(0) チラチラと、悲しみだとか、寂しさだとか、そんな感情が垣間見えて。それが余計に、分からなくなる。向けられる敵意と、その奥の虚無と、抑え込まれたような悲哀とが、ぐるぐるとアイツの瞳で渦巻いていて、私は、分からなくなる。
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(0)「俺は、あんたを倒す」
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(0) 兄さんの為に、聞こえた声には敵意と殺意が篭っていて。
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(0)「……嘘って、なんだろうな」
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(0) ぽつりと私の口から溢れた言葉は、けれど大空一夏に届かなかった。
(0) 分からない、分からない、分からない。大空一夏の事はやはり分からないことばかりで、答えは近かったようでやはり遠かった。それでも伸ばした手で、私は私の中に未だ残っていた、確かなものを引っ張り上げた。
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(0)「一夏、お前が何と言おうと……私はお前を、愛してる」
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(0) 偽物の愛情? そんなの一度として抱いていない。私は心底から一夏を、たった一人の私の弟を愛していた。
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(0) そしてそれは今でもたしかに、痛みの中にひっそりと、残っていた。
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(0)「……俺は、嫌いだよ」
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(0) 急加速、接近してくる大空一夏が振り上げたブレード。避けようと、動こうとする雪桜に逆らって、私はそれを見つめていた。
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(0)『千冬!』
(0)「すまんな、雪桜」
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(0) 大空一夏に、お前を倒すと言われた時に、私は考えた。その時が来たら、私はどうするだろうと。
(0) 分からないことだけが増えて、考えても分からないことばかりで溢れる中、分かるのは向けられる敵意と殺意だけ。本当に分かりたいことほど、全く分からなかった。
(0) それでも考えていた。その時、私はいったいどうするだろうと、考えて考えて、結局分からなかった。
(0) いっそ、束に一夏との思い出も全部、消してもらえばよかったのかもしれない。そうすれば何も考えることなく、私はただ束の傍で、アイツと共に穏やかな時を過ごしていただろう。束のことだから、記憶を消した私でも変わらず求めてくれただろうと、何故だか自信が持てた。記憶を消すなど、そんなことはするつもりないが。
(0) 織斑一夏と大空一夏は別人でしかなく、私の知る一夏はもういない。それでも思い出に織斑一夏がいる限り、私はその影を探してしまう。本当に大好きで、愛していたから……分かっていても、探さないでいることが出来なかった。
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(0)「だとしても私は、お前を愛してるよ」
(0)
(0) 随分と小さくなってしまったけれど、それは消えていない。なくならない。なら私は、お前を愛してる。
(0) 大空一夏、織斑一夏。お前を倒すと言われて、痛くて仕方が無かった。最低な私は、お前が私を切り捨て大空三春を選んだことが信じられなくて、その理由を知りたいと思ったけれど。
(0) 私はただ、大空一夏の中に織斑一夏を探していただけなのかも、しれない。
(0)
(0)「っさよなら、織斑千冬」
(0)「……」
(0)
(0) 最後までやはり、姉とは呼んでくれないんだな。振り下ろされたブレードを、ぼんやりと眺めながら私は、
(0)
(0)
(0) ちーちゃん、大好き
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(0)心地よくて、温かなそれに、身を任せた。