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履歴はこちら。
(0) アステロイドから家へと帰って来た俺達。
(0) 昼前なのに、アイギスはまだ寝ているみたいで、起きてこない。
(0) アンネは、フレイ宅へと居候するようで、お役所で引っ越しの手続きへと出かけている。
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(0) そしてフレイはテーブルの前へと座っていて、俺はその隣で文字を教えて貰っている所だった。
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(0) 「なぁ、なぁ『セット売り』と『バラ売り』ってどう書くの?」
(0) 「ええっとねぇ……、こう書くのよ?」
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(0) 長く赤い髪をポニーテールにしているフレイが、ペンを持って羊皮紙に文字を書く。
(0) それを眺めながら、お茶をズズズッと啜る俺。
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(0) 「これが『セット売り』で、これが『バラ売り』よ? ……でもどうしてこんな文字が必要なの? アルバイトに関係あるのかしら……」
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(0) 不思議そうな表情で、俺の顔を見るフレイ。
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(0) 「そうそう、ちょっとバイトでさー。使うんだよ、この文字をなー」
(0) 「ウルトラTSクリエイターだっけ? アイギスに聞いたわよ。どんなバイトなのよ?」
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(0) ……チィ……、あいつ口割りやがったのか……後で胸揉んでこよう。
(0) そう心の中で舌打ちをしながら、俺はそっぽを向く。
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(0) 「……」
(0) 「………」
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(0) ……非常に気まずい。
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(0) だから俺は、口を開かざる負えなかった。
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(0) 渋々とフレイに言ってみる。
(0) 「……どんなって言われても……まぁ、その色々と……」
(0) と、ちょっとだけ言い淀んでしまうが仕方ない。
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(0) だが、フレイは尚も引き下がらない。
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(0) 「その色々って何よ?」
(0) 「……」
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(0) ……どうしよう、おじさんとかお兄さんとかを、TSさせて金を巻き上げてるだとか。
(0) 大っぴらには言えないしなぁ……。
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(0) 無言でそんな事を思いながら、必死に考えた、その結果……。
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(0) 前髪をかき揚げて、フレイへと恰好を付けながら言ってみた。
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(0) 「……フッ……、人の願望を叶えて満足してもらうお仕事さ……、その為には、必要なんだよ、この文字がさ……」
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(0) トントンと、羊皮紙の『セット売り』と『バラ売り』の文字へと指で叩く。
(0) するとフレイは、訝しげな表情で。
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(0) 「……そのバイトに『セット売り』と『バラ売り』の文字が、何故必要なのかしら……、ちょっと良く分からないわねぇ……、また、変な事をしなければいいのだけども」
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(0) フレイは腕を組みながら、俺を心配するような表情で見てくる。
(0) 勿論俺は、それ以上何にも言わずにズゾゾゾゾッと、お茶を飲み干した。
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(0) ……なんとか誤魔化せたようで、一安心する。
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(0) 魔道具を買いたい、それはもう喉から手が出る程に。
(0) だが、先にアンネの借金を返さなくてはならない。
(0) それは人として当たり前の事だろう。
(0) それにこれ以上、奴に借りを作ったままじゃ、安眠出来ない、物理的に……。
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(0) 俺は飲み干したコップを机に置いた後。
(0) 「……フレイ!! お茶お代わり!! いつもの奴!!」
(0) と要求すると。
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(0) 「……もう、しょうがないわねぇ……。淹れてくるから、その代わりにアイギス起こして来て頂戴? もうそろそろお昼でしょう? アンネももうすぐ帰ってくるから、皆でどこかにご飯を食べに行きましょう!!」
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(0) 俺のコップを持ったまま、ゆっくりと立ち上がりキッチンへと歩いていく。
(0) だが、その途中、何かを思い出したかのように、俺へと振り返る。
(0) その表情から察するに、大事な事なのだろうと思う。
(0) ……なんだろか?。
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(0) 「……どしたの?」
(0) 「思い出したわ!! 今日はご飯食べた後に、叔父の家に行くわよ!! アステロイドで、ミソギ捕まっちゃってて、結局行けなかったじゃない?」
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(0) ……そういや、そんな事言ってたな。
(0) 5回目だったか、6回目だったかの下着パクってた時だっけ。
(0) フレイに怒られた後に、叔父がどうたらとか……。
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(0) 俺は頷きながら、それに答える。
(0) 「ああ、ああ、覚えているとも。色々あって、すっかり忘れてたなぁ……」
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(0) ……ホント、色々あり過ぎて、その事がぶっ飛んでたわ。
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(0) 俺の言葉にフレイは『そうよ!』と言いながら。
(0) 「ええ、調度アンネも仲間になったじゃない? まとめて紹介したいから、一緒に行きましょう!」
(0) と、ほがらかな表情を俺に向けて来る。
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(0) 超お世話になっている身としては、是非とも叔父へと自己紹介に行かせてもらおう。
(0) 俺は『了解!!』と敬礼して、アイギスの部屋へと向かった。
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(0) ……アイギスの部屋は、2階の階段を上ったすぐ傍にある。
(0) 階段を上りきった俺は、アイギスのドアの前に立ち、そのまま開け放つと……。
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(0) 「起きろやぁぁぁ!! フレイさん呼んでんぞぉぉぉ!!」
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(0) だが、叫んでみるも返事はない。
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(0) 別に怒っている訳じゃない、こうしないと起きてこないアイギス。
(0) 寝起きが悪いアイギスは、大きな声で起こさないと起きない。
(0) 今日は、これでも起きないみたいだった。
(0) いつもなら『ひゃい!!』とか聞こえるのだけども。
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(0) そのまま気にせずに、ズカズカと中へと入ると……。
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(0) ベッドの上には『グースカピー』と鼻提灯を作りながら、シャツをはだけさせて、腹を出すアイギスが幸せそうに眠っていた。
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(0) ……まだ寝てる、寝る子は育つって言うけども、それ以上育ってどうするよ。
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(0) そんな事を考えながら俺は、アイギスへと近づいて、唐突に鼻と口を塞ぐ。
(0) 揺らしても起きなさそうだったから。
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(0) すると、アイギスは『ムグググ……』と言いながら、冷や汗を流し始める。
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(0) 「……」
(0) 「ムグググ……」
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(0) 起きそうで起きないのがエルフクオリティ。
(0) いや、僕っ娘耳長エルフ特有なのかもしれない。
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(0) 無言で離したり、塞いだりしていると、ちょっと楽しくなって来たのだけど、残念な事にアイギスの瞼が徐々に開き始めていく。
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(0) 「……おはよう。もう昼だぞ? はよ起きろ」
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(0) 声を掛けた後に、アイギスの目が開ききった所で、すぐさま手を引っ込める。
(0) こういうギリギリの、バレるとかバレないとかの緊張感が、やっぱり楽しいと感じちゃう。
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(0) 俺の行為に、気づいた様子はないアイギスは、呼吸を荒くして。
(0) 「っプハァ!! ……ハァ……ハァ……ハァ……。あ、朝ですか?」
(0) 「いや昼だよ」
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(0) そう言うと、アイギスはハッ! としながら跳ね起きて息を整えている。
(0) ヨダレで手がベトベトになった俺は、メイド服のミニスカートで、それを拭う。
(0) うへぇ……。
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(0) 「ふぅ……ふぅ……。お、おはようございます……、なんだか水の中で溺れる夢を見てました……」
(0) 「そっかー」
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(0) ……そりゃ、手で鼻と口を塞いでたからな、そんな夢も見るだろうさ。
(0) 俺はベッドに腰掛けて、溜息を付きながらアイギスへと話しかける。
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(0) 「……それよりも今日、アンネ含めた4人で昼飯食べに行くってさ。だから服着替えて行こうぜ?」
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(0) フレイに言われた事をアイギスへと伝えてみると……。
(0) アイギスは笑顔になって、ベッドから降りてシャツを脱ぎ始めた。
(0) そして、タンスの中をゴソゴソしながら『どれにしましょう?』とか俺に聞いてくる。
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(0) 「……俺と同じメイド服でいいんじゃね? アステロイド行く前に、フレイと一緒に、服とか買い物に行ってたよな? 確か、その時フレイに『これもミソギが着ていた物と同じ物よ!』とか言われて買った奴とかどうよ」
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(0) フレイの物まねをしつつ、さりげなく俺と同じ物をオススメしてみる。
(0) 何となくメイドシンパシーを感じていたい。
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(0) ……外へ出歩くのに、俺一人だけメイド服で浮くのは嫌だしな。
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(0) そんな事を思いながら、アイギスを眺めていると。
(0) ダンスから引っ張り出して来たメイド服を、俺へと見せながら、笑顔のアイギスが元気良く言った。
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(0) 「わかりました!! 着替えたらすぐに行きますね!!」
(0) 「うんうん、そんじゃ、俺はフレイのトコ行ってるからなー」
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(0) 頷きながら満足しつつ、俺はアイギスの部屋を出る。
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(0) ◇
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(0) 俺達は仲良く昼飯を食べた後、フレイの叔父の屋敷の前へと来ている。
(0) 大きな門を抜けた先、その屋敷のドアの前に、セバスチャンっぽい老執事が、俺達を待っていた。
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(0) ゆっくりと、そして完璧なお辞儀をした後に、俺達へと語り掛ける。
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(0) 「いらっしゃいませ、ブラスター家へようこそ。フレイ様。それとお客様達、どうぞお入りください……」
(0) 「ご苦労様、セバスタン。後はアタシが案内するから、叔父さん呼んできて頂戴?」
(0) 「畏まりました」
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(0) ……セバスチャンじゃなくてセバスタンなんだ。
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(0) 俺は『あ、どうも』と執事さんに頭を下げながら、フレイの後について行いていく。
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(0) 中に入ると、目の前に広がるのは、イメージ通りの広い玄関。
(0) 周囲には、高そうな調度品が並んでいる。
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(0) それに『ホエー』と見とれながら、屋敷版お上りさんになっている俺に向かって、セバスタンが微笑みながら、再度お辞儀をする。
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(0) 「……それでは、ご当主をお呼び致しますので、居間でお待ちください」
(0) 「居間はこっちよ? ついてきてね?」
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(0) 俺達3人は、フレイに案内されるまま、居間の中に入って椅子に座って大人しく待つのだけど。
(0) ちょっとだけ緊張している俺は、それを解す為に、隣に座るフレイに聞いてみた。
(0)
(0) 「……フレイの家名って、ブラスターなの? ちょっと恰好良いな……」
(0) 「ええ、そうよ? けど恰好良いかしら……、そんな事考えた事ないのだけど……」
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(0) 首を傾げるフレイに、俺の小声を聞いたアイギスが、こっちに向きながら。
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(0) 「ブラスター家は、ここら辺一帯を取り仕切る領主様ですよ、だからあまり粗相しちゃだめなんですよ?」
(0) ……なるほど、それよりもだ。
(0) 「……お前、俺を何だと思ってんだ……」
(0) 「仲間です!!」
(0) 「あ、うん……ありがとう……仲間ってなんだっけ……」
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(0) なんだか分からないけど、何となくアイギスへとお礼を伝える。
(0) すると隣のアンネが、俺の肩へと手を置きながら言う。
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(0) 「……マナーとかは大丈夫か? 分からないなら私の言う通りにするんだぞ? ……フヒヒ!!」
(0) ……?
(0) あれ? 俺ケンカ売られてる?。
(0) 「……知らないけど、やってやんよぉぉぉ!! 見てろやぁぁぁ!! 粗相なんてしねぇからよぉぉぉ!!」
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(0) 大きなテーブルを両手で叩きながら叫ぶ。
(0) するとフレイがフフッと笑い、俺へとほほ笑えむ。
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(0) 「別に粗相とかマナーとか、マキシマム叔父さんは気にしないわよ?」
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(0) ……!?。
(0) …………今何と?
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(0) 「え? マキシマム叔父さん?」
(0) 「そうよ? それがどうしたの?」
(0) 「なにそれかっけぇ……」
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(0) 不思議そうな顔をするフレイは『何故?』首を傾けているのだけど……。
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(0) ……家名と合わせたら、マキシマム・ブラスター叔父さんだろ? なにそれかっけぇ……。
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(0) その響きに俺の中にある、少しだけ残った厨二的な心がくすぐられてしまう。
(0) 目を輝かせた俺に、上機嫌なフレイはさらに続ける。
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(0) 「ウフフ……、だからあんまり緊張しなくていいわ。叔父さんはユニークな人よ?」
(0) 「あ、うん。マキシマム・ブラスター叔父さんで、緊張とかぶっ飛んだわ……」
(0) 「あらそう? なら良かったわ、それじゃ大人しく待って居ましょう?」
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(0) フレイにそう言われた俺達は、マキシマム・ブラスター叔父さんを待ち続ける……。
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(0) 待つ事数分。
(0) 勢い良く、居間の扉が開かれた。
(0) 俺達は、一斉にそこへと視線を向ける。
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(0) そこに立つ人物は、フレイと同じ髪色をしたオールバック、40代のナイスミドルだった。
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(0) 「やぁ、フレイのご友人達だね? 私はフレイディザスターの叔父の マキシマム・アトミック・ブラスターだ! よろしくお願いするよ!」
(0) …!?
(0) ……!!??
(0) ……マキシマム・アトミック・ブラスター!?。
(0) いや、それよりもフレイディザスターって事は、フレイの本名は……。
(0) フレイディザスター・アトミック・ブラスター!? なにそれかっけぇぇぇ!!。
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(0) とんでもない自己紹介に、もう俺の口と眼は最大まで開かれている。
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(0) それに気にした様子はないマキシマム・アトミック・ブラスター叔父さん。
(0) 開かれた扉の様に、勢い良く歩き、そのままの速度でフレイの対面へと座る。
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(0) 「叔父さん、ごめんなさいね? ちょっとアステロイドで色々あってね……」
(0) 申し訳なさそうに言うフレイに、マキシマム・アトミック・ブラスター叔父さんは。
(0) 「構わんよ! こうしてわざわざ来てくれたのだろう? それで充分だ」
(0) と笑顔で答える。
(0) 俺はしゅんげぇぇぇ!!と上の空。
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(0) アンネとアイギスは、マキシマム・アトミック・ブラスター叔父さんへと、自己紹介を済ませて俺の番が回って来たのだけど。
(0) 放心して、それどころじゃない俺は、マキシマム・アトミック・ブラスター叔父さんを見つめている。
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(0) もう名前が凄い、フレイもマキシマムさんも名前が凄すぎる。
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(0) その、あまりに恰好良すぎる名前に、未だ心ここに有らずの状態。
(0) もう脳内は『しゅんごぉぉぉい』と『かっけぇぇぇ』で埋め尽くされてしまっている。
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(0) 俺は口を押えてプルプルしていると、不意に横腹に違和感を覚えた。
(0) 横を見ると、隣のフレイディザスター・アトミック・ブラスターが、俺の横腹を突き『どうしたの?』と聞いてくる。
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(0) ……。
(0) ………?。
(0) ハッ!? 俺は一体何を……、そうだ、マキシマム・アトミック・ブラスター叔父さんに自己紹介をしなきゃいけないんだった……。
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(0) なんとか正気に戻った俺は立ち上がり、腰を45度に曲げて、お辞儀をしつつ。
(0) 「初めまして! ミソギ・サイキョウと申します! いつもフレイディザ……フレイさんにお世話になっております!!」
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(0) ……マキシマム・アトミック・ブラスター叔父さんへと挨拶をした。
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