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(0) 長い舌戦を通して、バハルス帝国皇帝ジルクニフとコスモス真王国首脳陣のファーストコンタクトは終了した。
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(0) 結論だけ言えば、真王国は『試練の果実』――食べるだけで強くなれる木の実一つを、帝国のエルフの奴隷一人と交換することになった。
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(0) 引き分けと言うのが正しいだろう。双方が抱いていた想定と比較すれば、真王国側の惨敗と言っていいのかもしれないが。
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(0) フールーダはもう帝国に戻って来ないだろう。かつての職場に顔を出すという意味で訪れることはあるかもしれないが、彼はもう帝国の宮廷筆頭魔術師ではなくなった。人類の敵だ。
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(0) 大樹海から帝都への帰路、信頼できる者しかいない馬車の中でジルクニフは口を開いた。現在地はすでに帝国内。真王国は勿論、法国などの第三国の干渉がないと判断したタイミングであった。
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(0)「あの国で最も驚異的な存在は真王だろう。六大神が滅ぼしたなどという話、どこまで鵜呑みにすべきかは不明だが、それを否定できない怪物だ」
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(0) 真王コスモス。大樹海の知的生物を統一しつつある大神。あの人型の何かが話に聞く巨竜なのはか今となっては疑問が残るが、フールーダより強いアンデッドを従わせ、全人類を滅ぼすと宣うのだ。これが脅威ではないはずがない。
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(0)「だが、人類が最優先で対処すべきなのはエルフ王レクス・セントラルで間違いない。奴さえどうにかすれば、あの竜は魔王どころか帝国の――いや、人類の味方となるだろう」
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(0) コスモスの脅威を実感した上で、ジルクニフはそう断言した。
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(0)「法国からの情報では、真王国の実態は分からなかった。エルフがドラゴンを支配して法国に復讐しようとしているのか、ドラゴンがエルフを率いて人類に戦争を仕掛けようとしているのかさえ不明だった。だが、実際に接して理解した。――あの魔王は強いが、強いだけだ。あれはエルフ王の傀儡だ」
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(0) 圧倒的な怪物ではある。だが、理性があり知性がある。リバスというアンデッドが人間の社会を理解している様子だったのは、主君であるコスモスがああいう存在だったのもあるのだろう。
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(0)「間違いなくあの国の実権はエルフ王が握っている。あの竜は大雑把な指示を出して、後のことはエルフ王に任せているのだろう。いや、その『指示』さえエルフ王に誘導されたものである可能性が高い。人類殲滅は勿論、六大神への復讐さえエルフ王に焚きつけられたものかもしれない」
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(0) あのエルフがいつからコスモスと主従関係にあるのかは分からない。そもそも、彼らが以前はどこにいたのかも不明だ。だが、おそらくあのエルフがコスモスを大樹海へと導いた。復讐を為すという名目で、人類と敵対する複合種族国家を作り出すために。
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(0)「爺が弟子入りしたアンデッドはおそらくエルフ王と何らかの利害が一致していると見える。危惧していたような生者を憎む典型的なアンデッドとは違うようだが、それゆえに付け入る隙が必ずあるはずだ。いや、あのアンデッドをどうにか引き込めばエルフ王を殺すことは容易いかもしれないな」
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(0) 基本的に、大樹海のような弱肉強食の理が支配する環境では強者こそが絶対の王者だ。亜人種はほとんどがそういう社会を構成しているし、人間種ではあるがエルフも似たようなもののはずだ。おそらくあのエルフ王もそれなり以上には強いはずだ。正確な強さは分からないし、どのような能力を持っているかも不明であるため、やはり攻略の最短ルートはあのアンデッドになるだろう。あるいは、他のエルフたちを介して策を練るべきか。
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(0)「コスモスという脅威に対面しながら生き延びた。我々は幸運だ。同時に、この幸運をこれで終わらせるつもりはない。これは天啓だ。それこそ神から与えられた試練だ。乗り越えた時、帝国は永遠の繁栄を約束されるだろう」
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(0) 六大神は何故コスモスを完全に滅ぼさなかったのか。ジルクニフはこの状況こそ神の狙いではないのかと勘ぐってしまう。
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(0)「以上が私の見解だが異論はあるか? ……ないようだな。では逆に、おまえたちから私に伝えておきたいことはないか?」
(0)「あー、だったら陛下。一ついいか?」
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(0) 四騎士バジウッドが口を開いた。表情には強い緊張感が漂っている。
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(0)「エルフの中にひとり、やべえのがいた」
(0)「ほう?」
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(0) あの魔王を見た後ではエルフの中に強者がいても不思議ではないが、
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(0)「俺たち四騎士レベルに強い亜人や魔獣は何体かいた。だけど、その中で別格と言えるような存在がいた。それがそのエルフだ。若い女のエルフだった。装備からして、騎士か戦士の類だと思う。まあ、すぐに白い虎やあの魔王と逢ったから印象は薄れちまって今まで忘れてたが」
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(0) 白い虎と聞いて、ジルクニフはすぐに王都にいたあの巨大な虎だと理解する。確かに、あれは戦闘に関する直感には疎いジルクニフですら肌で理解できるほどの力を持っていた。あの虎の主人は誰なのかも今後知っておく必要があるだろう。
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(0)「そのエルフに勝てるか?」
(0)「帝国の全戦力があったら、どうにかなるかもしれねえ」
(0)「……そういう次元か」
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(0) それはつまり、フールーダと同格と見るべきか。
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(0) エルフ王を除けば戦闘能力が高いエルフはその一人だけと考えて良いのだろうか。否、手駒を全て見せる必要など相手にはない。流石にフールーダ級の実力者が何人もいるとは思いたくないが、それは都合のいい願望だろう。最低でもあと一人はいると考えて策略を練った方が良い。
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(0)「問題はそのエルフがどういう立場にあるかだな。大樹海のエルフなのか、レクス・セントラルと同じく外部からやってきたのか。セントラルとはどういう関係なのか」
(0)「正直な所、あの王都で見た亜人や魔獣に攻め込まれただけで帝国は良くて半壊、悪くて全滅だ。あれらと戦闘することを思えば、王国との戦争なんざ子どもの遊びだな」
(0)「それはそうだ」
(0)「法国が負けるのは――周辺国家が全部滅んで、俺たちの番になるのは案外早いのかもしれないぜ? ひょっとしたら俺たちの代でそうなっちまうかもしれねえ」
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(0) 真王国は法国との戦争を十二年後と宣言した。それはエルフや竜はともかく人間にとっては長い時間のように思えるが、あの軍隊を相手にするにはあまりに短い時間だ。十二年の間にあれらに勝てるようになるのは不可能だとジルクニフは理解していた。
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(0) だからこそ、真王国側があえて十二年という時間を設定した理由があるはずだ。そこにこそ、勝利の条件が隠れているような気がする。
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(0)「そうならないために、こうして話し合っているのだろう? 先程も言ったが、我々が対処すべきなのは神に匹敵する魔王でも、大樹海の軍勢でもない。エルフ王だ。我々が奴を倒せる戦力を持つ必要はない。魔王に倒してもらえばいいのだから。他に何か気づいたことがある者は?」
(0)「陛下。これは気づいたことというか疑問なのですが、何故、彼奴らは『試練の果実』の存在を我々に教えて、あまつさえ差し出してきたのでしょう? エルフの奴隷は高価ではありますが、その果実の情報や実物と釣り合いが取れるかと言われたら正直……。何より、人類を滅ぼすと宣言しながら我々の強化につながるものを渡してくるというのは……」
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(0) その疑問はジルクニフも想定していたものだ。同時に、それらしい答えを見つけていた。
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(0)「おそらくだが、奴らの言った果実の情報には嘘がある。あの食べるだけで強くなれるという果実の特徴は『どんな職業をどれほど得られるかはわからない』と『二つ目を食べても意味がない』。だが、実証が容易な後者はともかく、前者はある程度コントロールできるんじゃないか?」
(0)「成程。我々を強くしても、それ以上に自分たちが強くなるから問題はないということですか」
(0)「あるいは同じように見えても効果が大きくなる果実の見分け方があるのかもしれない。それこそ、我々には教えてくれないだろうがな」
(0)「流石は陛下」
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(0) 臣下からの賞賛を受けて、ジルクニフは続ける。
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(0)「そして、この果実を輸出するという行為の真意は『私たちが得る』ではなく、『私たち以外が得ることを制限できる』ところにある。真王国がこの果実をどこでどの程度生産できるかは不明だが、無尽蔵に作れるとは思えない。そんなことができるのなら大樹海中のエルフや亜人に食べさせたら軍隊が出来上がるからな。本来であれば我々に流す分も自国民に食べさせたいはずだ」
(0)「まあ、こんな便利な果物がいくらでも作りやすいってことはないでしょう。十年に一度しか採取できないと言われても納得できますぜ。食べるだけで、何のリスクもなく強くなれる。難度換算で最高で四十五って話でしたが、最低でも難度十五が保証されているんだから欲しがる奴は種族問わず星の数だ」
(0)「もしや――陛下は王国に果実が渡る可能性を危惧されているのですか?」
(0)「ああ。ガゼフあたりが最大値を引いたらどうなる? 近隣国家最強の戦士である奴に勝てるものがいなくなるぞ? それこそ真王国――いや、法国にはいるかもしれないか?」
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(0) 意味深な言い方に、秘書官は察した。
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(0)「陛下。もしや法国がすでに『試練の果実』の存在を知っていた、もしくはすでに入手していたとお考えなのですか?」
(0)「その通りだ。神殿勢力を通じて法国に追及する必要があるな。できるのなら、第三国の者もいる状況が望ましい。果実のことだけではなく、エルフ王や真王について。今回私たちが知ったことは、奴らも知らなかったのか、奴らがあらかじめ知っていたのか……。ことと場合によっては、人類が一丸となることは不可能かもしれないな。現時点でこれだけの疑惑があるのだ、『聖戦』において法国がまとめ役となることは難しいだろう」
(0)「陛下ならば、その地位に相応しいと思われます」
(0)「そう言われては仕方がないな。――私こそが人類の指導者となるべきだ」
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(0) それはある意味では正しい意見だった。未来の彼がこの時の発言をどう捉えるかは語るべきではないが、少なくともこの時の鮮血帝は本気でそう考えていた。
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(0)「――などと考えているでしょうね、あの人間は」
(0)「レクス。おまえさ、何を『全ては私の想定通り』みたいな顔してんだよ。完全に予想外だらけだったじゃねえか。事前の打ち合わせと全然違うじゃん。僕がアドリブ苦手って知ってるよな?」
(0)「仕方がありませぬ。ええ、何事も予定通りにはいかないものです」
(0)「開き直りやがった、この燃えカスエルフ」
(0)「お黙りください、伊達発火死体野郎!」
(0)「ブチ切れてんじゃねえか! やっぱおまえも『僕』だな」
(0)「というか、個人的には別に『最後にしてくれ』じゃなくて『滅ぼさないでくれ』でも良かったんだけどな。アンティリーネとの約束があるから、もう法国以外に攻め入るつもりはないし。極端な話、『スレイン法国』って国がなくなれば僕は人類に興味がなくなるのに」
(0)「まあ、そこらへんは難しいところだろうぜ、本体。いやさ真王陛下。我らが大神よ。強大な力を持つ怪獣が自分たちの神と因縁のある魔王だったってんだから、人類からすれば存在するだけで脅威だろうよ。大樹海から出られないわけだが、本体以外も脅威であることは『試練の果実』で分かっただろうしな。あの皇帝は恐怖よりも欲が出たみたいだが。ギラギラしてやがるぜ、全く」
(0)「その欲望、利用させてもらいましょう。人類は滅ぼすべきです。我が本体のために。我が本体の理想のために。――あのハーフエルフの心を完全に壊すために」
(0)「きひひ。おまえさんのそういうところ、割と好きだぜ、燃えカスエルフ。流石は世界喰いの眷属だ。世界を終わらせることを目的とせずとも、どうしようもないほど終わってやがるのはそういう『設定』のおかげか?」
(0)「そういう貴方はアンデッドの癖に生物大好きすぎませんか? 正直真っ当に教育係ができるとは思っていませんでした」
(0)「そのへんは本体の影響がデカいんだろうがな。俺……というか、紫幽王はアンデッドの中でも特殊な部類だからな。伊達に召喚者の死体から生まれるなんて特異なモンスターじゃねえんだよ」
(0)「種族としての設定と特性ねえ。そういう意味だと、僕は人間味ってやつはどの程度残っているんだが。アンティリーネのおかげでギリギリ留まっているような気もするけど、人格変わってきているのを実感するのもアンティリーネのせいなんだよな」
(0)「人類を人質に幼な妻を得た気分はどうなんだ、クソ本体」
(0)「最高だが?」
(0)「責任を果たした後に死ね」
(0)「……まあ、この話は置いておいて、これからのことを決めようか」
(0)「え、あ、はい。大樹海の完全統一は目の前です。せっかく帝国と関りを持ったのですから、少し『外』に意識を向けようと思います」
(0)「外? あー、丘陵地帯にも亜人が結構いるって話だし、そっちに侵攻していく感じか?」
(0)「ああ、そちらは後でいいでしょう。それよりも先に情報を集めておきたいのですよ。六大神に関しては勿論ですが――アインズ・ウール・ゴウンについて」