神様なんかいない世界で (元大盗賊)
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プロローグ 織斑一夏の憂鬱

 やることがないというのは、何よりもの苦痛だ。

 人っていうのは、自由な生き物だ。社会の中で形成された規律を乱さない限りで、なんだってできる。特に余暇ということになれば種類は豊富だ。スポーツをしたり美しい自然や風景を見て楽しむこともできる。勉強をして自身の高みを目指したり、またボランティア活動を通して世の中に貢献出来たりもする。人によっては余暇にも様々あるが、とにかく楽しむことはいっぱいあるのだ。

 

 だがもしかしたら、この世界のどこかには何もせずただじっと一日を過ごすことが何よりの幸福と考える人もいるのかもしれない。そんな人がいるのであれば、ぜひとも今の俺と立場を変わっていただきたい。そんな気分だった。

 

 

 

 

 

 ああ、もう一週間が終わるのか。

 

 ふと湯吞みから湯気立つお茶を啜り、テレビ番組を見ながらそんなことを思いふける。テレビでは、長らく続くご長寿番組が次回予告を終え、CMへと移り変わっていった。日曜日の夕方に放送されるこのご長寿番組。日曜日という人々に幸福をもたらす日付が終焉を告げ、皆が忘れかけていた一週間の始まりを思い起こされるこの番組に、昔の俺ならばため息をつき学校に行かなければならないのかと思っていたところだろう。

 しかし、今の俺にとってはもう一週間も経ってしまったのかという爺臭い台詞を吐いてしまうほどに時の流れに対して老化が著しく進行していた。

 

 

 

 これもすべて、あの人の作ったIS(インフィニット・ストラトス)のせいである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女性しか操縦することのできない未知の機械、IS。

 世界中のだれもが知り、そしてその強さとカッコよさに羨望の眼差しで見られるISを男ながら織斑一夏は使うことができてしまった。そう、この暇を持て余している俺のことだ。

 

 これもすべて、あの迷宮のような造りをしていた試験会場が悪い。

 高校入試のために訪れた俺は、試験を受ける教室がどこなのか迷ってしまった。進めど進めど同じ道に同じ風景。遅刻しそうだからと焦って別の場所から会場入りした俺にも原因のひとつだろうが、それは些細なことに過ぎない。迷っていた末にISが鎮座する部屋に入ってしまったのも複雑に造られた試験会場のせいであり、興味本位で触ってみようと思ったのも、ISを俺に引き合わせようと強調させるように作られた部屋の作りになっていたあの試験会場が悪い。

 

 とどのつまり、俺は単なる被害者でしかないってわけだ。

 

 

 

 こうして俺は、政府によって拘束されいろんな研究者にあちこち身体を検査された挙句、進学先をかの有名なIS学園へと変更されて、こうしてどことも知らないホテルに隠居(軟禁)をしていたってわけである。

 本当であれば、今頃はクラスの皆と入試に合格したと互いに喜び合い、卒業式で中学3年間の思い出に浸り、そして卒業記念パーティーを行って楽しい日々を過ごしていたはずだった。

 

 しかし現実は俺の身は政府によって引き取られ、強制的に卒業扱い。働いていたバイト先もほぼバックレに近い退職。2月から3月までやれ実験だやれ検査だとあちこち連れまわされ、やることがなければホテルの部屋から一切出るなと言われて部屋に閉じ込められる生活。

 ホテルでの生活は、生きるのには十分ではあった。何度シャワーを浴びても、風呂に浸かろうともホテルのお金は政府持ち。3食付きで頼めばおかわり自由。肌着や服は常に清潔。軽食が食いたければ、電話をすればごっついSPのおじさんが買ってきてくれる。何と悠々自適な暮らしだろうか。

 

 

 

 だが、そんなの俺は3日ですぐに飽きてしまった。

 

 

 

 確かに、俺の生活は保障されていた。

 衣食住は完璧で、何もしていないにもかかわらず俺を忌み嫌うという訳の分からない団体の攻撃からも身を守ることができる。

 でも、俺の大事な思い出だけは保障してくれなかった。互いに合格したと喜び合うあの高揚感も、卒業式前の教室でする他愛のない会話も、卒業後に遊びに行こうと誘われていた友達との約束も、何もかも全て失われてしまったのだ。片手で数えるほどしかできない大切な体験を、青春を俺は過ごすことができなかった。

 

 結局のところ、俺の存在よりもISを扱うことができるという希有な存在が尊重されているみたいだ。

 

 もう少し中学男子の俺を労わってほしいものである。

 

 

 

 だが悲しいかな、世の中それほど男には甘くはない。男だから我慢しろ、とは昔からよく言われた言葉だ。俺が昔、剣道を習っていた時には師範からよくそんなことをよく言われていたし、俺の幼馴染みにも男児たるもの云々とよく言われたものだ。

 そう、男は強くなり、弱い立場の女を守る。といった風潮が昔にはあったはずだった。俺のわずかな記憶の断片からもそのような思い出がある。だが、今となってみれば男なんてどうでもいい、むしろいなくてもいいとまで言われる始末になっている。

 

 女尊男卑。それが、今の世の中の常である。

 女性を尊重し、男性を排斥するなんていう風潮がまかり通るようになってしまったのはいつからだったろうか。ISの登場以前か、いやそれ以降か。俺の記憶にはその転換期が何だったのかは定かではない。

 たまに書店やテレビなどの各メディアでもこの話題が度々取り上げられている。

 歴史から長く続いていた男尊女卑がなぜ廃れていったのか、いったい誰が女尊男卑を広めていったのか。そんな議論が沸き起こるものの、しかし、どれをとってみても結論は疑問点の多く残る問題だ、と曖昧にされている。いつから始まったのだと言われても、それが常識ならば常識なわけだし今更そんなことを言われても、と言わざるを得ない。何で赤色が赤と認識されるのか、という疑問を言っているのと同義に近いだろう。

 仮に男尊女卑がまかり通る世の中だったとして、それが一瞬にして女尊男卑に変化したのであればそれはもはや奇跡であり、魔法の類のものを用いないと説明がつかない、という論調でさえあったりする。研究者ならば、夢のような話をするのではなくきちんと論理的に説明をしてほしいものである。

 

 

 

 

 

 空になりぬるくなった湯吞みを持ちながら、ニュース番組を眺めているとテレビのキャスターたちがIS学園について取り上げ始めた。

 

 やれ今年の受験者は過去最高を記録しただの、やれIS学園による経済効果の結果だの、やれ今年はあの話題の男性操縦者が入学するだのエトセトラエトセトラ。

 

 難関試験を突破し入学するやべー奴ら。それがIS学園には数多くいると考えると身がすくんでしまう。果たして、俺のような小市民程度の人間がIS学園でやっていけるのか不安で不安でしょうがない。夜も眠れないくらいである。…いやまあ、実際はふかふかのベッドで夜はきちんと眠れているのだが。

 

 

 

 さて、こうして過保護に扱われ過ぎて老化が進行していた俺だったが、数日が過ぎればこの軟禁状態から解放されるらしいとSPのおじさんが俺にこっそりと教えてくれた。人の噂も七十五日というように、マスメディアで取り扱う情報というのはコロコロと変わっている。一昔ならば、俺のことについて散々情報が飛び交っていたのだが、今は閑古鳥が鳴くように、すっかり話に上がってこない。いや、そのほうが俺としては助かるってもんだ。

 話によればSPのおじさんが相変わらずついてくるものの、実家に戻れるならば話は別である。数ヶ月家を離れていたのだから、掃除をしないといけないし、年に数回ある町内会の廃品回収に雑誌類を出さなければならない。とにかくやることはいっぱいってわけだ。

 それに、もう一つ嬉しいことに知人との連絡もできるとのことだ。しばらく音沙汰がなかったためにみんな心配しているだろう。とりあえず、まずは弾に連絡を入れることは決定事項だ。あいつと妹の蘭ちゃんには色々とお世話になっていたし。

 

 きっとあいつならIS学園に行くとなったら飛ぶように喜ぶのだろうな、と旧友を思い浮かべながら俺はぼんやりとテレビ番組のやり取りを見届けていた。

 

 



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第1話 夕暮れに染められて



 少女は無邪気さがふわりと散るような屈託のない笑みを浮かべていた。
 暗い部屋の中でスポットライトの当てられている部分を見つめながら、小柄な少女は歓声を上げ、ウサギのようにぴょんぴょんとその場で飛び跳ねる。その度に肩まで伸びたプラチナブロンドの髪やスカートが揺れ、光に反射している革靴からリズミカルな足音を部屋中に響かせていた。

「ねえ、おじさん!」

「ん、何かね」

 少女は後ろを振り向き、入口の分厚い扉に寄りかかっている男性へと声をかける。

「これが、本当に私のIS(アイエス)なの!?」

「ああ、もちろんだ」

 興奮気味にいつも以上に大声を出す少女を見て、男性は優しく答える。そして、男性はゆっくりと光に照らされているISを観察している少女へと近づく。

「そいつの名前はサンドロック。今の第二世代型ISが普及する前辺りに作られた、少し古いISだ。今ではマイナーな部類に入るのだが、このISは見ての通り全身装甲(フルスキン)タイプのISだよ」

 そのISは全身を覆う装甲を白く、そして胸や腰の部分には黒や黄色の塗装がされており、その姿はまるで鎧を着た人のような格好であった。
 またその顔は人の顔のように作られていた。二対の緑色に光る瞳や、鼻の位置に作られた排気口、そして赤く塗られた口部分。何より、額に付けられたV字アンテナがこのISをより顔へと印象づけていた。

「このサンドロックがきっと、君の力になってくれるはずだ」

 男性はゆっくりとISを観察している少女の近くへとやってくる。

「もちろん、君の夢の手伝いもしてくれるよ」

「そうだね、私は___」





 

 私は目を開け、むくりと綺麗にベッドメイクされたベッドから体を起こして部屋全体を見渡す。本国から送られてきた自分の荷物には茜色の夕陽が差し込み、荷物から反射された光が瞳へと刺しこんだ。

 

 思っていたよりも綺麗な部屋だった。

 耳障りにならないくらいの音を立てる空調からは暖かな風が流れ込み、部屋を暖めていた。新品なというよりも消毒させられたような部屋の匂いには嫌悪は感じられず、むしろ新たな生活をしていく生徒に対して歓迎をしているようにも感じられた。

 最新のIHを組み込んだキッチンに二人での共同生活をするには十分なほどの大容量の冷蔵庫、生徒なら誰しもが喜びそうな大きなクローゼット。他にも机やら大きなテレビやらといろいろ設備はある。きっとそこら辺にあるビジネスホテルや庶民派なホテルよりも設備や部屋のつくりが豪華だろう。

 …まあそんなところには泊まったことがないから憶測でしかないが。

 

「さすが、国が資金を出しているだけあって寮もきちんとしているんだね」

 

 誰に対して発言をしたわけでもなく独り言ちると、私は再びふかふかなベッドへと身を預けた。低反発なマットに羽毛がふんだんに詰め込まれた布団。これほど幸せを感じられるベッドはない。大の字で寝そべり、この素晴らしいベッドを堪能している私の姿を見て、家の者たちは“はしたない”と言うだろうが、そう問いただす者はここにはいない。なぜなら、私はここで自身のみで生活をしていくのだから。

 

「特殊国立高等学校と宣うだけあって寮もきちんと完備しているし、ご飯もおいしいのかなぁ」

 

 仰向けになり、光の灯されていない蛍光灯を眺めながら食堂での食事に期待を膨らませる。

 

 

 

 

 

 ____いいか、クリスタ・ハーゼンバイン。お前はこれからここに通うんだ。お前は…

 

 

 

 

 

 何せ私は

 

 

 

「IS学園に入学したのだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園。日本が運営する国立の高等教育機関であり、そして唯一認可の受けたISについて学ぶことができる教育機関でもある。

 

 インフィニット・ストラトス。世間一般では『IS(アイエス)』と縮められて認知されている。マルチフォームスーツと呼ばれる代物で自分の体に機械を身にまとわせる、前時代的な言い回しだとパワードスーツのような機械である。当初ISが初めて出現したころ、世間ではISはSFの世界から飛び出てきたような夢の機械やロボットとして羨望の眼差しで見られていたが、今ではすっかり『スポーツ競技』として定着していた。

 

 そのISの操縦技術などを学ぶことができるのが、ここIS学園である。

 今や全世界が注目しているISを唯一学ぶことができるだけあって、IS学園というのは言わずもがな、誰もが知る一番人気の学校になっている。

 

 

 

 ならば、世界中の受験者がIS学園に殺到してしまうのではないかと思われがちである。しかし、実際の所IS学園は日本にある一校で十分らしい。なぜ、そうなるのか?その答えはISの性質がカギを握っている。

 

 そもそも、ISたちは操縦者として女性しか選ばない。なぜ女性に限定してあるのかという疑問は今現在でも解明されていない。これで世界人口の半分の約35億人に絞られる。じゃあその女性ならば誰もがISに乗ることができるのか、と言われれば答えはNOだ。ISに乗るためには、女性の100人に1人と言われている割合の人物が持つISによって()()()()証である“IS適性”を持つ女性にしか操縦者として認められないのだ。

 なぜそこまでISが選り好みするのかは、ISたちの性格だからとしか言えないらしく何とも現実は残酷である。

 さらにそのIS適性には段階的な区別が付けられており、選ばれたものの不完全にしか動かすことができないCランクから、どのISからも愛され思うがまま使いこなすことができるSランクまで存在する。IS学園の入学者のほとんどの適性ランクはB以上であり、適性B以上を有する女性はIS適性を有する20%ほどに留まっているため必然的に入学者は絞られてくるみたいだ。

 

 

 

 つまりは、だ。何が言いたいかと言うと、私はこのIS適性という天賦の才を与えられたことに感謝しているということだ。

 

 

 

 

 

 

「さてっと」

 

 十分にベッドの寝心地を堪能した私は体を起こす。

 夕陽によって明るくなっていた部屋は、いつの間にか夕闇によって支配されていた。壁掛け時計はぼんやりと見え、正確な針の位置が私の目では確認できなかった。仕方なく、私は頭部に着けているゴーグル(私の愛機)に触れ、時間を確認する。

 すぐにハイパーセンサーが起動させ、デジタル時計を見る。時刻は18時を優に超え、食堂が利用できる時間帯になっていた。

 

 これからご待望される食事達を想像しつつ、靴を履いていく。

 

 

 

 

 

 ____それに、お前にはやってもらいたいことがある。

 

 

 

 

 

 靴を履き終わると同時に私はやるべき事があったことに気づき、手荷物を置いてあった机へと歩み寄る。

 

「危ない危ない。これをやっておかないとね」

 

 カバンの中にあるIS学園に関するパンフレットの中から私は、IS学園全体を簡易的に描いた地図を取り出した。

 

 

 

 

 

 ____お前には主にIS学園にあるという地下施設への入口を調べてもらう。そして、専用機たちのデータもついでにな。

 

 

 

 

 

 ____全ては、お前の()のためだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスタ・ハーゼンバイン。ねぇ…」

 

 青いつなぎ服に同じ色の帽子を深々と頭に被る若い男は手にあるタブレット端末を読みつつやる気のなさそうに呟いた。

 

「IS適性はA-。ドイツ代表候補生の選考に通るものの、結果としては選ばれず落選。しかし、候補生として選考に通るほどの有り余る才能に目を付けたフォルテシモ社の研究所所長であるクラウス・ハーゼンバインが彼女を起用。データ収集用に改修されたIS『サンドロック』のテストパイロットに任命…」

 

 つなぎの男は部屋の中央にある広いソファーに腰をおろした。

 

「こんなの、姪っ子ちゃんが贔屓されているようにしか見えないんですけど。そこんとこどうなんですか()()()()?」

 

 男の視線の先には、大きなデスクの端に寄りかかるように立っているスーツ姿の壮年の男がいた。

 

「私の部屋に勝手に上がり込んで、私の紅茶を飲みに来たかと思ったら、その事か。君にはあのサンドロックの動きがよく見えなかったのかね?」

 

 クラウスは湯気立つ紅茶を一口飲むと、優しく問いかけた。

 

「いや、よーく見えていましたとも。前に行った評価実験のことでしょ?例のレーゲン型に使う装備をさせた黒うさぎ隊の打鉄を相手に圧倒したっていう。ただ、それが俺にはよく分からんのですけど。だってまだサンドロックを半年も扱っていないんですよ?なのに、実験していくうちにIS操縦の才能を開花させて、今や代表候補並の実力。()()IS操縦者研究を行っていた知識のあるあんたが調整を行ったとはいえ、このISとだけ適性値が最高ランクを叩き出すなんて異様ですよ異様。全く何なんですか、この子は」

 

 若い男は手に持っている端末へと視線を落とす。

 画面には、ISの横に並んで立っている少女の写真が映されていた。肩まで伸びたプラチナブロンドに、笑顔が似合う可愛らしい操縦者を若い男は睨むように見つめる。

 テストパイロットに任命され、一か月足らずで異様な適性を叩きだす所以外を除けば、少し貧相な体つきの何処にでもいる有り触れた人物だった。

 

「彼女は私の自慢の娘みたいなものだよ。それにあのISは彼女のためにあるようなものだ。考えうる中での最高の人選じゃないか」

 

「あー、はいはい。適正なご回答ありがとうございます。全くこれだから子煩悩は…」

 

 散々聞かされた答えに嫌気が刺した若い男はソファーの近くにあるテーブルに端末を放り投げる。その様子を見て壮年男はにっこりと微笑んで紅茶を飲み始めた。

 

「んで、本当に亡国機業に有益な情報を引き出すのか?あんたの娘は。いくらIS適性が最高でも、単なるテストパイロットでしょ?」

 

「大丈夫、きちんと()()は済ませているんだ。君の考える以上に十分な働きをしてくれるよ。吉報を待っているといい」

 

「吉報ねぇ…。一体何を思えば目の中に入れても痛くない姪っこを諜報員に出来るんだか。ホントあんたの考えることは理解出来ないわ」

 

 左目に白い眼帯を付けている男の言葉に壮年の男は答えます。

 

 

 

「これも()のためなんだ。仕方のない事だろう?」

 

 

 




ストックは無いもので、各話更新につきましてはほぼ不定期になります。





8/15 結構加筆・修正を加えました!


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第2話 一喜一憂



「ねぇ、叔父さんも男だからって嫌な事されたりするの?」

 少女はたどたどしく、疑問に思っていたことを目の前の男性に問いかけた。

「…うーんそうだね。正直、私も職場とかでは時々女尊男卑の風潮は身をもって感じているよ。今まで通り普通に接してくれる方もいるけれど、取引先で男だから云々とかって卑下にする人たちは少なからずいるな。知り合いにも、ISの台頭と女性優遇政策とかで職を失った人が何人もいるし、前と比べたら男であるだけで生きづらくなったかな。ホント、不思議な世の中になってしまったと思うよ」

「そっかぁ…。じゃあISが出てきてあんまりよく思っていないのかな?男の人は、女尊男卑だ!差別だってニュースでやっているみたく不満を募らせているのかなって思っているのだけれど」

「いや、だからと言って私はISが嫌いとは思っていないな。むしろMs.タバネには感謝しきれないくらいだ。私の好きなISを研究できるからね。今まで現実にはなかった、誰しもが夢にまで見た素晴らしい発明品をあれこれいじって研究できるからね。もうあれは男のロマンといっても過言ではないな」

「ふふ、叔父さんってISの話になるといつも楽しそうに話すね」

 少女は思わず手で口を押えて笑った。

 男性は、ぬるくなった紅茶を口にした後、話を続けた。

「あぁ、またついつい熱くなってしまったか。まあ、私にだって不満に思ったり理不尽に思ったりすることはある。ISの登場によって、以前と比べると科学技術は確実に進歩したし、世界や人々の常識を覆すことは良いことだ。でも逆にその分、いくつかの障害を生み出してしまった。こればかりは仕方のないことだとは私も思うよ。何か新しく、画期的なものには良い面もあれば悪い面もある。これは既に歴史が証明してくれている。ISは素晴らしいものだけれど、かなりのじゃじゃ馬だ。何せこれほど常識を変えてしまったのだからね」

 男性は少女のだんだんと不安そうな表情していく様子を見た後、少し結露の付いている窓を眺めながら話した。

「だが、別に気に病むことではないよ。この悪い問題を完全に解決していくことは難しいが多少なりとも改善したりしていくことが出来る。今回の場合(IS)もそうだ。君と私たちでこの狂った世の中を正しい方向に持っていく。ただそれだけのことさ」

 外はまだ暗く、雪が降り積もっていた。










 

 

「では、今のところがきりが良いので今日は早めに終わりましょうか」

 

 今は、4時間目。丁度12時前といったところだ。この授業が終わればお昼ご飯が私たちを待っている。今日は和食に挑戦してみようか、と私は思いふけっていた。IS学園では全寮制という事もあり、全校生徒が食事をするためのものすごく大きな食堂が設けられている。

 

 IS学園は世界中から生徒を集めているということもあってか、どのような生徒が来ても食事ができるようにされている。宗教、文化が例え異なったとしてもきちんと対応をしているらしい。何が言いたいかというと…提供される食事の種類が豊富であることだ。和食・洋食・中華はもちろん、イタリア料理やフレンチまである。また、食堂に設置されているデジタルサイネージによれば、毎月期間限定である国の風土料理が出されるらしい。さすが、莫大な資金をかけて作られた教育機関である。教育だけでなく、生徒たちのために食事の面も考えているとは。どうやら、私はとてつもない場所へ来てしまったと改めて実感する。それはもう3年間だけでなく、一生ここで暮らしていたいくらいに。

 

 

 

「では、時間が余っているので、クラス代表を決めましょうか」

 

 私たちのクラスである二組の担任である中井先生は、先程の授業の教科書をまとめながら話した。どうやら、私のランチはもう少し後の事みたい。

 

 

 

 先生の話を要約するとこうだ。

 来月に行われるIS学園最初のイベント、クラス代表戦が行われるため、その出場者を決めなければならないらしい。このクラス代表戦はリーグマッチで学年4クラスの総当たり戦であるようだ。また、このリーグ戦へ出場するのはクラス代表と呼ばれる人のみで行われる。さらにクラス代表はその組の長として、生徒会の会議や委員会活動を行わなければならない。

 

「と簡単に言えばこういう事ですね、では誰がクラス代表になりますか?自推他推で構いませんよ」

 

「代表ってことだし、IS操縦に慣れている人がいいよね」

「クラス代表戦ってことはやっぱり代表候補生が出てきちゃうのかな?」

「他のクラスには代表候補生もいるし、強そうだよね…。うちらのクラスにいないのが残念…」

「えぇ~ちょっと怖いなぁ」

 

 口々に生徒たちがお互いにクラス代表についての話をし始めた。誰しも不安で潰れてしまうそうといった表情である。

 

 しばらく時間が経ったが、やはり簡単には候補者は出なかった。それもそのはず、クラス代表として戦うという事となれば、必然的にIS操縦の上手な人がクラス代表には適任であろう。また、1組と4組には代表候補生がいるという情報もあり、IS学園に入学したての生徒が格上の相手となるとなかなか挑みしづらいところもある。それにこのリーグ戦では、多学年からも見られるらしい。他人から受けるプレッシャーは計り知れないだろう。

 

 他の人の様子を見ていると、突然肩を叩かれた。

 

「ねぇ、クリスタってそういえばテストパイロットだよね?なんとかって会社の」

 

 振り返ると、後ろの席の桜田玲菜が小声で声をかけてきた。

 彼女はこのクラスで最初の顔見知り程度にまで仲が良くなったクラスメイトである。入学式のホームルーム後、動物園のパンダの如く扱われている人気者『織斑一夏』を一目見ようと私を誘ってきたのがきっかけだ。

 

「ええまあ…やっていますよ。ちなみに会社名はフォルテシモ社」

 

「そうそれ!ドイツの企業ってよくわからなくてさ。それでね、テストパイロットだし専用機とかって持っていたりしないかな?」

 

 サイドテールにしている茶髪が少し揺れ、顔を傾けた。

 

「あぁ…まあ。一応…持っていますよ」

 

 小声で言ったつもりではあった。だがこの一言が決定的であった。いや、それだけで十分であった。正直に言うと、私はクラス代表になろうとは思わなかった。なぜなら、今後の活動の事を考えると、あまり目立たない方がよいし面倒な仕事を任されるのではと思っていたためである。

 

 ふと周りに聞こえていた話し声が自然となくなり、突然の静寂が訪れた。その後、机やいすの音が教室内に鳴り響き、皆が私の方に目を向けていた。私の見えない位置にいる人の視線もハイパーセンサを使わなくてもわかるくらい物凄い物だった。

 

「えっ…」

 

 あまりにもすごい視線を浴びて思わず私はたじろいでしまった。

 

 助けを求めて中井先生の方を見ると、彼女はにっこりと私に微笑んでいた。さすがに担任の先生が専用機の有無を知らないはずもなく、皆の反応から見て察したのであろう。きちんとクラスの全生徒の気持ちがわかっていますね…。

 

「なるほど…では他にクラス代表に立候補する人はいますか?」

 

 中井先生が他の生徒に分かり切った質問を投げかけるが返答がなかった。私の発言は、自推の発言として捉えられたようだった。

 

「そうか、ハーゼンバインさんってテストパイロットだったよね!」

「という事は、IS稼働時間もある程度はあるよね!」

「ハーゼンバインさん、もったいぶらなくても良かったのだよ」

 

 他の生徒からは私たちのクラスに救世主がいたという喜びと、もっと自信を持ってという励ましの言葉で教室内が満ち溢れる。玲菜からは、クリスタ、クラス代表就任おめでとう!と早めの祝福の言葉をもらった。私にとっては嬉しいような嬉しくないような複雑な気分だった。

 

「それでは、クラス代表は決まりましたね。クリスタ・ハーゼンバインさんよろしくお願いします」

 

 中井先生が満足そうにそう言い終わる頃にチャイムが鳴りだした。

 

 

 

 

 

 時は過ぎ、本日の授業も終わり自分の荷物を整理していた時だった。

 

「クリスタ!今日は大丈夫だよね!じゃあさ、部活動に興味ない!?」

 

 必死な形相で強引にお誘いを聞いてきたのは玲菜だった。

 

「部活動?確かそれって、学校の課外授業みたいなものでしたか?」

 

「うーん、まあそんな感じかなぁ。同じ興味とか同じことをしたい人同士が集まって色々やる団体みたいなものよ!」

 

「なるほど…。それで玲菜が興味を持っているという団体とは?」

 

「それはね、新聞部!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「先輩、興味を持ってくれた人を連れてきましたよ!」

 

「おぉ、玲菜ちゃんお疲れ様~ その子が昨日言っていた興味を持ってくれそうな子かー」

 

「はい、そうですよ!それに、今日うちのクラス代表になったのです!」

 

「あら、すごい子を連れてきたのね」

 

 私が今いる場所は玲新聞部が使っているという部屋。

 玲菜に半ば強引に連れてこられた。それにしても前から目を付けられていたとは…。私が初日の自己紹介の時に写真撮影を趣味にしていると言っていたからだろうか。だが、その疑問に答えてくれるものはいなかった。

 

「ねぇ、玲菜。まだ入学してから日が浅いのにどうしてこの部活動に入っているの?」

 

「ああ、それはねIS学園への入学が決まったときには、新聞部と連絡を取り合っていたのさー。私ね、こういう感じの部活に憧れていたのだよね!」

 

 玲菜は胸を張って答えた。

 

「でもどうやって連絡を?」

 

「そりゃ、もちろんSNSだよ!よく○witterで見かけて興味を持ったのだよね~。あ、IS学園関係のSNSだから結構人気あるよ!」

 

 時代も時代ですから、よくある話ですね…。

 

「そうそう、自己紹介をしていなかったね。私は2年で新聞部副部長の黛薫子でーす。よろしくね。噂のゴーグルちゃん!」

 

 黛さんは私の頭部に付けているゴーグルを見ながら元気よく私の肩を叩いた。

 

「初めまして、1年2組のクリスタ・ハーゼンバインです」

 

「うんうん、よろしくね。そっかゴーグルちゃんはクリスタって言うのね。ちなみに、何で、この部活に興味を持ったの?」

 

「そうですね…。メディアに関わる部活動と聞いていたので、色々と学園のことをよく知ることが出来そうでしたし、何より私の持っているカメラが使えそうかなと…」

 

「ほうほう、カメラを持っていたとは…。ちなみにどこのカメラ?」

 

「私のカメラは○コンですね」

 

「おお、ホント!?私も○コンだよ!今度見せてよ!」

 

「ええ、構いませんよ」

 

「やったー!いやー玲菜ちゃんも勧誘ありがと!いい子を連れてきたね~ これで撮影できる人が増えたわ。助かった~」

 

「いやーそれほどでもー」

 

 どうやら、新聞部の方には受け入れられたようで安心した。これで、学園関係者とお近づきが出来るかもしれない。そう思っていると、この部屋へ部員と思われる人が入ってきた。

 

「…あれ、人が増えている。ってそれより薫子!めちゃくちゃ美味しい情報をゲットしたよ!」

 

「ん?どうしちゃったのよ。まゆちゃん?」

 

「それがね…。1年1組のクラス代表者を決めるっていう模擬戦を来週月曜に第3アリーナでするみたいなの!対戦カードはイギリス代表候補生のセシリア・オルコットと、噂の男性操縦者、織斑一夏との闘いみたい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 

 辺りには雪も積もり、肌寒い季節になっていました。
日は沈み、街もすっかり暗くなり辺りには街灯に光がともり始めています。

 そんな街のある小さな屋敷の居間には二人の人がいました。少女はプラチナブロンドのように白く長い髪をしており、少し不安な表情を浮かべています。もう一方は短く整えられた髪の男性でした。男性はにこやかな表情を浮かべています。
その二人は暖炉の近くに設置してある机に向かい合って座っていました。机にはいくつかの紙媒体や電子端末が置かれています。

 男性が今日も良い紅茶だとお茶を飲んでいると、少女は手に持った湯気の立っているカップを見ながら話をします。

「私も思うのです。ISに乗らないのに高圧的な態度をとる女性の人たちや男性へのひどすぎる待遇…。これではまるで、ISが登場する前の話にあった“男尊女卑”と同じ…いやそれよりもさらに酷いのではないかって。ISは女性の立場を優遇させるための道具ではないと思います。ISはもっと…もっと人々を良い方向へ導くものだと思うのです。男女の立場がとか、競技スポーツのためだけだとか…そういうものではないのです。だから、私にもできることがあるのであれば、やらせてください」

「なるほどね。君の考えは大体わかったよ。でもね、これからの生活では苦しい思いをさせてしまうかもしれない。私だって君にはあまりこのようなつらい道には正直言って進めたくはない…それでも?」

「それでも…少しでも変わるなら…良いのです。それで私の願いが一歩でも近づくのであれば。 …この可笑しな世界を変えたいのです」


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第3話 世界一幸運な少年

 

 

 

 

 織斑一夏。彼のことを各国のメディアでは「世界一幸運な少年」、または「ファースト」としてよく取り上げられた。なぜ運が良いかというと彼は、たまたま高校入試の会場を間違えそこに偶然あった試験用のISを見つけ触れた、ということらしい。他にも幸運な理由がある。

 

 ISはそもそも女性しか操縦が出来ない仕組みになっている。なぜ男性にはISを取り扱うことが出来ないかは、未だに原因は不明である。遺伝子でISコアが判断している、ISコアの好みではないか等々の憶測が飛んでいるが定かではない。これはISを作り出した天災(篠ノ乃束)に問いただすしか答えは導き出せないだろう。

 

 

 

 どうにかして、男性でもISを扱えるようにならないかは各国が研究・実験を密かに続けているらしいが、未だに成功例は全く報告されていない。そして、そのような状況の中での初の男性操縦者の発見である。織斑一夏の登場により、日本のみならず世界中で彼のようにISを扱える男性はいないのかという可能性を信じ、くまなく調査が行われたが結局見つからずに終わった。

 

 そして、唯一一人だけのIS男性操縦者となった織斑一夏をどう扱うかの話し合いがIS運用協定に基づいて設置された国際機関、国際IS委員会でされたという。もちろん国際IS委員会の中にも女尊男卑の思想を持つ役員は少なからずいるはずであり、世間では「ファースト」の身を案じられた。研究のモルモットにされるのではないか、急に存在が抹消されるのではないか等といった根も葉もない噂話が流れたが、彼の扱いは一旦、どの国にも属さないこのIS学園への入学をさせるという一時的な措置が取られた。

 

 なぜ深く議論がされなかったかというと、答えは明白であった。彼の姉が織斑千冬であるからだ。織斑千冬と言えば、ISの操縦技術などを競い合う大会、第一回モンドグロッソ世界大会で総合優勝を果たした「ブリュンヒルデ」であり、世界最強のIS操縦者。そしてブリュンヒルデは全てのIS操縦者の憧れ、といっても過言ではない。その実の弟である、織斑一夏を粗雑な扱いができるはずもない。

 

 さて、このようなこともあり女尊男卑の世の中でありながら、卑劣な扱いをされなかった織斑一夏のことを「とても運がいい少年」とされたのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 学園と第3アリーナとを繋ぐ道には、一年生を表す青いリボンを身につけている生徒たちがぞろぞろと学園へ戻っていた。そのまま部活へ向かう者もいれば部屋へ戻る者もと様々だ。その生徒たちに紛れて私と玲菜、そして新聞部副部長の黛さんとで新聞部の部室へと足を運んでいた。

 

「ふふふ、結構白熱した試合をしていて記事の書き甲斐があるわ!それにいい写真も撮れたし」

 

「そうでしたよね、織斑くんかっこよかった!クリスタもそう思うでしょ?」

 

「確かにそうだね。あの白いISのフォルムは、他企業の関係者が言う事ではないと思うけれど、スマートなデザインだと思うよ。ファーストは日本人だしあのISは倉持技研かしら?」

 

 試合を観戦していた私たちは各々感想を述べていった。

 

「お、ゴーグルちゃんもそう思う?やっぱり日本人が乗るのだから、ネームバリューのある企業が扱うから倉持技研よねぇ。それに、あの彼が持っていた武器も一本の剣だったし、打鉄を意識したISなのかしらね」

 

 黛さんはカメラで撮っていた写真をカメラの画面を確認しながら話した。

 

「黛さん、危ないので前を見て歩いてください」

 

「大丈夫大丈夫、ここは私の庭みたいなものだから。転んだりしないよ」

 

「ってISの話じゃないのですけど!」

 

「まあまあーわかるよ、玲菜ちゃん。私だって彼がイケメンだとは思うけれど、何と言うか、こうアイドルが学校にいるみたいに感じちゃってね…近づきがたいというか何だか見ているだけで満足しちゃうわ。もう、見ているだけでお腹いっぱい。今日も写真を見ているだけで十分だわ」

 

「もう、先輩もクリスタも織斑くんに関しては淡泊だなぁ」

 

 私は二人のやり取りを見ながら、あの時の試合を思い出していた。今でもはっきりと彼の使っていた武器は覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後となり、快晴の空が頭上に見えている第3アリーナでは一組のクラス代表を決める模擬戦が行われようとしていた。アリーナの客席には、人の数はちらほらといた。制服のリボンを見る限りでは、一年生しかいないだろう。

 

 私は、玲菜と一緒に新聞部としての取材を兼ねて第3アリーナへやってきている。隣に座っている玲菜は、生織斑君はいつ出てくるのかな、とそわそわしていた。

 

 入学してから一週間弱が経過し、食堂でファーストを見たいと良く玲菜と一緒に昼食を食べるのだが、未だにファーストの近くの席に座ったことがない。なので、いつも遠くからファーストを見るだけでいつも留まっている。運悪く遭遇しないこともある。噂の男性操縦者のブームは過ぎ、初日よりかは、廊下に人が溢れかえるほどの人だかりは出来なくなったが、食堂では近くに座りたいという人たちで今でも数多くいる。私たちは、うまく近くに座るというタイミングを逃し続けていた。

 

「あれ?先輩も見に来たのですか?」

 

 模擬戦の開始を待っていると玲菜が後ろを振り返り誰かに声をかけていたので、私も倣って後ろを見ると新聞部副部長の黛薫子さんがいた。確か2年生はこの時間帯だと授業が入っていると言っていたような…。

 

「黛さん、今日はまだ授業が…」

 

「あ~、今日はちょっと模擬戦が気になっていたら体調が悪くなって欠席にしたのよね。げほげほ、おっとマスクしなきゃ」

 

 そう黛さんは言うと、懐からマスクを取り出し、顔に付けた。よく、無事にアリーナまで来られましたね…。

 

「それじゃちょっと横に座るね」

 

 よっこらせと、黛さんは私の隣に座った。少々呆れながらアリーナの前方へ目を移すと、青を基調としたISがアリーナ上に現れていた。

 

「あ!早速ISが出てきたよ!オルコットさんのISだよね。すごいなぁ」

 

「お~ あのISは、イギリス製第3世代ISのティアーズ型だね。現物を見たのは初めてだわ」

 

「先輩物知りですね!」

 

「ふふん!整備科のエースを舐めちゃいかんよ、これくらい知っていて当然!」

 

 玲菜からの尊敬の眼差しを向けられた黛さんは、少し照れていた。

 

 

 ・AME社製第3世代型IS蒼雫(ブルー・ティアーズ)

 

 現在、選定が行われている欧州連合の統合防衛計画(イグニッションプラン)にて他国より優勢のティアーズ型ISの一つ。ティアーズ型はBT兵器と呼ばれる自立機動兵器が最大の特徴である。この蒼雫(ブルー・ティアーズ)の場合だと他には、大型レーザーライフル“スターライトMk-Ⅲ”と近接格闘用のショートブレード“インターセプター”を装備している遠距離攻撃型のISである。

 

 私も他国のISについては、今まで公開されているデータを見ているだけあったので現物を見たのは初めてだった。

 

「第3世代?打鉄とかと何か違いがあるのですか?」

 

「そりゃ、もちろんあるわ。打鉄とかラーファル・リヴァイヴの第2世代型ISは後付武装(イコライザ)によるISの多様化を目標としたものよ。例えば、打鉄だったら近接ブレードとアサルトライフルが標準装備でしょ?それらに加えて元々持っていない何かの武装を付け足したいってなった時に後付武装を使うのよ。んで、第3世代型ISの特徴としては、操縦者のイメージインターフェースというものが使った特殊武装を再現させようとしているのが、この第3世代型ISってなわけ。あの蒼雫(ブルー・ティアーズ)にだってそういう装備があるはずよ」

 

「ほうほう」

 

「そして現在絶賛各国が研究・開発をしているのだけど、最近になって開発が始まったばかりだからどこも試験段階の状態のISらしいのよね。まだまだ問題が山積みみたい」

 

「へぇ~、そんな貴重な第3世代型がIS学園にあって大丈夫なのですか?まだ研究とかしていないといけないのじゃ…」

 

「その研究のために、各企業は稼働データとかが欲しいのだけれども、そこでうってつけなものがこのIS学園なわけよ!何せ、学園で未来のIS乗りを育成しつつ、さらに学園で行われる公式試合とかのイベント行事で稼働データが集まりやすいのよね」

 

「なるほど、そういうことでしたか!ありがとうございます!」

 

「いいのいいの、これくらい」

 

 玲菜は黛さんにお礼を言った。一方黛さんは、少し笑顔で手ぶりをしながら答えた。

 

 あの蒼雫(ブルー・ティアーズ)だと、BT兵器がイメージインターフェースによる兵器である。6基のBT兵器を所有しており、この複数のBT兵器でオールレンジ攻撃を行うことが出来るらしい。

 

 

「ねぇクリスタ、気になったのだけれどクリスタもテストパイロットだからやっぱり第3世代型のISを使っているの?」

 

「あ、それ私も思った。そこの所どうなの!?」

 

「いいえ、私の持っているISは残念ながら第二世代のものですよ」

 

「そっかぁ、残念」

 

「あれま、残念。第3世代型ISだったら弄ってみたかったのに」

 

「それは無理です。上からの指示で私のISは私以外が行うことはできないので」

 

「むぅ、けち!」

 

 黛さんが拗ねてしまったが、無視した。どうしようもなかったからだ。そんな様子を見ていた玲菜は苦笑いしていた。そうこうしているうちに周りが騒がしくなったと思うと、アリーナには白というよりかは灰色に近い色をしており、所々青い配色が施されているISがISのカタパルトデッキから飛び出し、ふらつきながらもどうにかして体勢を安定させようとしていた。

 

 

「おお、あれが織斑君のISね!なかなかかっこいいじゃない!って私は別の場所に行くからゴーグルちゃんはそこから写真をお願いね!」

 

 黛さんは、別のアングルで写真を撮るために他の良い位置へ移動していった。私は自分の持っているカメラをファーストのISに向けてシャッターを切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂で夕食を食べ終えた後、私は自室へと戻った。本来、IS学園の寮は二人部屋が基本であるが、私は人数調整の影響もあり、私一人のみで使う事となっている。そのため、広く部屋を使えているので嬉しい限りだ。部屋の扉を閉めた後、私はだらしないと自覚しながらも、ベッドへダイブした。数回ベッドの上で跳ね、布団に抱きつき今日の疲れを癒す。誰にも見られないという特権から、入学した翌日からこの行為を行っていて夕食を食べた後、いつもこうしている。

 

 今日はIS学園に来て一番の発見をしたではないだろうか。ベッドの上でそう思い、あの模擬戦について考えていることがまとまらない。

 

 結果から言うと、セシリア・オルコットが勝利を収めた。黛さんは、初の男子クラス代表になるか、という記事を用意していたらしいがそうではなくなり残念そうにしていた。試合の内容だが、セシリア・オルコットによる一方的な勝利ということではなかった。そうファーストもきちんと対抗していたのだ。

 

 玲菜の話によれば、ファーストは幼馴染である箒という人物から今日まで剣道場で稽古をつけてもらっていたので、IS操縦はぶっつけ本番であるようだ。言ってみれば、片や代表候補生、片や素人の男性。稼働時間も経験も大きく差が開けている。普通だったら、代表候補生のセシリア・オルコットの圧倒的な勝利を収めるもの。私がファーストと立場が同じであったならば、セシリア・オルコットの奏でる円舞に踊らされていただろう。ISの初めての操縦でやることは、まずは体がISに慣れること。その次に、PICに慣れることが大事になってくる。基本的にISに乗ると、地上ではなく空中にいることが多い。そこで、ISの基本システムのPICを使い、浮遊を行う。だが、ファーストは、その慣れる段階を飛ばし、いきなり模擬戦を行った。

 もちろん、最初はまだ慣れていないのかファーストは攻撃を躱すことが出来ずに被弾をしていた。だが、時間が経つにつれて攻撃を躱していくようになった。仕舞いには、セシリア・オルコットがまだBT兵器とライフルを同時に扱えないことまで見抜いていたようだ。BT兵器を破壊するほど操縦をしながら考える余裕が出来、剣を扱うことが出来ていたというあの成長の早さに驚かされた。

 

 

 

 私はベッドから降り、机に向かうと試合の時に使っていたカメラに手を伸ばした。あの試合で驚くこと事は他にもある。ファーストの驚異的な成長速度に関してだけではなく、操縦していたISに関してもある。

 カメラで撮った写真をまた見たくて、アルバムを開く。セシリア・オルコットと対峙しているところ。腕を身体の前に交差させて、レーザーライフルの一撃を防御しているところ。一次移行(ファーストシフト)した後の姿。数多く撮った写真の中、一番気になっているところの写真を見つけた。

 

 その写真にはファーストが手に持つ近接ブレードの左右に割れた中から青白い光を放つ剣を出現させ、対戦相手に目掛けて飛んでいるという写真だった。模擬戦では、一次移行(ファーストシフト)へ移行した後にこの剣を持ち、攻撃を行おうとした後にシールドエネルギーがなくなり、試合が終了した。ファーストはその間、攻撃を回避していたためシールドエネルギーを削られたりしていない。一振りの剣を武器にして戦い、シールドエネルギーを消費する武器で思い当たるものは一つしかない。

 

「あれは“雪片”。どうしてあの武器をファーストが扱っているの…」

 

 そう、かつてブリュンヒルデが愛用し、第一回モンド・グロッソで優勝に導いたIS“暮桜”の武器。私が何回もモンド・グロッソでの試合を見たからわかる。そして、その単一仕様《ワンオフアビリティ》は……

 

「これ…絶対に零落白夜よね…」

 私はぽつりとうわ言のようにつぶやく。零落白夜は自分自身のシールドエネルギーを消費することで相手のエネルギーを、もちろんシールドエネルギーをも全て消滅させるまさに諸刃の剣。エネルギーを失った相手へ攻撃することにより大きなダメージを与える。それが零落白夜の効果だ。暮桜だけのだと思っていた雪片をあのISが持っていることがさらに私を混乱させた。彼が操縦しているISは“暮桜”ではない。

 

 私の見間違いで何らかの別の武装という可能性も否定はできない。ただ、自分自身のシールドエネルギーをも消費してまで使う武器があることには変わりはない。()()()()()()()()()()()()()()ということで監視するわけにはいかなさそうだ。織斑一夏とそのISに関しては詳しく調べる必要がありそうだ。次の予定までには調べておかないといけない、そう私は肝に銘じた。

 

 

 




皆さま、こんにちは!

元大盗賊です。

いきなりですがこの場を借りてお礼を…
この小説への感想、お気に入り登録、誠にありがとうございます!見てくださっている人がいるだけでなんかこう、モチベーションが違いますね!

次の話も出来るだけ早くに書きたいと思いますので、これからも「宇宙に憧れて」をよろしくお願いします(・∀・)ノ



P.S 投稿間隔を出来るだけ開けないって難しいですね…。始めは読者側だった私は「この小説更新おっそ!」とか思ってましたが、いざ筆者側の立場になって気持ちが理解できました。大変ですね。ストックなんて作れません><


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第4話 なんで俺が?

 

 

「黛さん、私は準備できましたよ」

 

「はいはーい、ちょっと待ってねぇ」

 

 黛さんは、取材に必要な持ち物を確認していた。今回の取材は、私がカメラマンで黛さんはインタビュアーをすることになり玲菜は先回りして、既に現場に向かっている。黛さんの昨日のしょげていた様子から打って変わって元気溌剌となっている。まさに手の平を返したような感じだ。

 

 すっかり織斑一夏の事に関しては、いち早く情報を知ることが得意となっている玲菜によると、どうも昨日の模擬戦の勝者となったセシリア・オルコットがクラス代表を辞退した。それに伴い、候補の残っていた織斑が自動的にクラス代表となったのだ。このことを黛さんに伝えると、すっかり元気になり、当初担当していた別の記事を別の部員へ放り投げ、当初予定していた通り織斑一夏へのインタビュー取材を行う事となった。

 

 

「よし、それじゃあ一夏君の所へ行こうか!」

 黛さんは、まるで新しくできたアトラクション施設へ行くみたいに目を爛々と輝かせて、部室から既に出ていた。遂に話題の人に取材が出来るとなって嬉しいのだろう。

 

「はい、分かりました。こちらも大丈夫です」

 

 そう私は返事を返すと、誰もいない部室の電気を消して扉を閉めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「っというわけで…織斑くん、クラス代表就任おめでとう!!!」」」

 

 辺りには火薬の匂いがかすかに漂い、女子たちの手に持っているクラッカーから飛び出した紙類が宙に舞っている。目の前のテーブルには、ジュースやお菓子類が置いてあり、俺の座っている席以外のテーブルにも同じようにジュース等が置かれていた。今俺がいる所はいつも学生が食事を楽しむ食堂だ。晩御飯の利用時間が過ぎた後、特別に許可が降りているらしく、今一組の皆やあまり見かけない女子達が俺のクラス代表就任をお祝いしてくれていた。そう、俺は今朝のホームルームで……

 

「さて一年一組のクラス代表は、織斑くんに決まりました!あっ、一続きで縁起がいいですね」

 

 とにこやかに山田先生に言われたのだ。その時は突然のことと尚且つ、千冬姉の視線を感じたので、はい頑張りますと口答えをせず返事をした。

 

 だが、千冬姉のいない今となって冷静に考えるとこれはどうもおかしい。俺は、昨日のオルコットとの模擬戦で敗れたのだ。あの模擬戦は、クラス代表を決めるものだった。本来なら、クラス代表を務めるなら実力のあるオルコットのはず。

 

「なんで俺がクラス代表になったんだ?」

 

 そう。なんで俺がクラス代表になったのかが疑問だ。

 クラス代表を決める際、クラスの皆から俺は他推された。すると、クラス代表に男が云々と異議申し立てをしたオルコットは決闘だと言い、今回のクラス代表を決める戦いが始まったのだ。負けたことは勿論、悔しい気持ちでいっぱいだ。だが、負けた以上は仕方がない。オルコットがクラス代表になるのかと思った矢先に…これだ。

 

「それは、わたくしが辞退したからですわ。まあ、勝負はあなたの負けでしたが、しかしそれは考えてみれば当然の事。何せ私が相手だったのですから。でもそれでは、大人げなかったと思いまして、一夏さんにクラス代表を譲ることにいたしましたの」

 

 右隣に座っているオルコットが俺に説明をした。そう言うと周りからは、セシリア解っているねー、だとか、そうだよねー折角男子がいるのだから持ち上げないとねーと彼女の行為を称賛する声が聞こえた。

 

 昨日の模擬戦以来、ちょっと言い方にはとげが少し残っている所もあるが、すっかりオルコットの俺に対する高圧的な言動がなくなり、180°態度が変わっていた。今日なんて、ISを使う演習の際に、俺にISの飛び方をマンツーマンで指導しましょうか、だなんて事を提案するまでに変わっていた。模擬戦前に俺と口喧嘩していた頃と今とでは、まるで別人のように変わった彼女には少し理解しがたい部分がある。

 一体何が彼女を変えたのだろうか…。まあ俺としては、一年間一緒にいるのだからクラス皆とは仲良くやっていきたいし、フレンドリーになってくれて嬉しい限り。なので、詳しく考えても仕方ないと割り切った。

 

 さて、周りではジュースやお菓子を手に楽しく談笑をしている中、俺は左に視線を向けると箒が明らかにご機嫌斜めな表情をしていた。

 

「どうしたんだよ、箒?」

 

「良かったな一夏、人気者になれて」

 

 何やら機嫌が悪いようだが、何故そうなのかはさっぱりわからない…。クラス代表になってしまった以上はきちんと役割を果さなければならない。そう思うか、と問いかけるも箒はふんっと顔を背ける。そしてムスッとした顔をしたままジュースを飲んでいた。こうなったらどうしようもないと俺は説得を諦めた。

 

 折角だからと用意されたジュースを飲もうとした時だった。突然のフラッシュを焚かれて、一瞬目を背けてしまった。フラッシュが発生した方向に目を向けると眼鏡をかけた上級生らしき人と、カメラを持っているあまり見かけない人がいた。

 

「はいはーい新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏くんに特別インタビューをしに来ちゃいましたー!ああ、私は新聞部副部長2年の黛薫子だよ。よろしくねー!はいこれ名刺。ほら、セシリアちゃんも受け取って!」

 

 どうやら、オルコットの方も突然の事で戸惑っていた。髪を後ろにまとめている上級生、黛さんからとりあえず、お互い手渡してきた名刺をもらった。

 

「それで、取材中にカメラとかで写真を撮るのだけど、カメラマンが…」

 

「私は一年のクリスタ・ハーゼンバインと言います。さっきは突然驚かせてごめんね」

 

 カメラを持っていた人、クリスタさんが俺たちに挨拶とお詫びを言ってきた。プラチナブロンドというものだろうか。とにかく、そういう髪の色と目の色をしているし日本の人ではないようだが、丁寧な日本語を使うよな…。オルコットもそうだが、この学園で日本語が達者な海外の人には未だにびっくりしてしまう。これもISが日本産だからなのだろうか?それよりも頭につけているゴーグルが気になる。

 

「はいはい!二人のアシスタントをしています同じく新聞部一年二組の桜田玲菜です!よろしくねー!」

 

 そして、この髪をサイドテールにしている人は、二人のあいさつをしている間に俺の座る席辺りで人払いをしていた人だ。この3人が新聞部の関係者らしい。

 

「さて、挨拶が済んだことだしちょっと失礼っと」

 

 新聞部のクリスタさんを除く二人は俺の座っている席の対面に座り、インタビューが始まった。俺の右隣には先程と同じようにオルコットが座っているが、何故か左にいた箒も頑なに動かないでいた。どうしたものか…

 

「じゃあ早速インタビューを始めるよ!」

 

 俺の心配事も気にせずインタビューが始まってしまった。これで良いのか、先輩。

 

「昨日の模擬戦は注目の専用機持ち同士の試合ということもあり、関心の集まる試合でした!一年の主席のセシリアちゃんに食らいつく、初の男性操縦者織斑君!全体を通して見ている私たちがわくわくする試合内容でしたよ!ということで、そんな模擬戦に勝利を飾ったセシリアちゃん!織斑くんとの試合はどうでしたか!?」

 

「そうですわね、私と一夏さんとでは実力には大きな差があったのは明確。ですが、彼が一次移行(ファーストシフト)をせずに私の攻撃を耐えたことには驚きましたわ」

 

「ほうほう。だから、戦闘の途中でフォルムが変わったのですね。それにしても、最適化(パーソナライズ)をしている間だったのによく動けられましたねー」

 

「まあ、あれは時間がなくて仕方なくそのまま出たのですけどね。とにかく必死になって戦っていただけですよ」

 

 正直、あの時の無茶ぶりには従うしかなかったよなとあの時の事を思い出した俺はしみじみとする。

 

「それに一次移行(ファーストシフト)をした後は、私をあれほどまで追い込んだのですわ。彼には、伸びしろはまだあるので是非ともクラス代表戦では活躍していただきたいですわね。ですが、模擬戦で私が全て武装を使い切ったと思い込んでいたことはよろしくなくってよ」

 

「ははは…」

 

 どうやら、オルコットにはあの時の俺の考えが図星であったようだ。まさかミサイルを装備しているとは思ってもみなかった。

 

「なるほど…。そんなセシリアちゃんから期待を寄せられているクラス代表の織斑君!初のISでの戦いだと伺っていますがどうして学年主席に食らいつけるほどISが操縦できたのかな?」

 

「あー、ISが操縦とかよくわからなかったけれど、その代わりに剣道場で箒に稽古をつけてもらったからかな?多少は昔の勘を取り戻すことが出来たし。な、箒」

 

「ああ。こいつがあのまま模擬戦をするならあまりにも不甲斐ない結果に終わると思ったからな。私が多少はマシに戦えるようにした」

 

「おいおい、そこまで言わなくてもいいだろう…」

 

「ほうほう、剣道場で練習をしていたと…。デビュー戦で学年主席と対等に戦えるとなると、今後の活躍が楽しみですねー。それはそうと、模擬戦の最後の場面なのですが織斑くんの敗因は何だったのかな?攻撃を受けていなかったのにシールドエネルギーが0になったみたいだけれど」

 

「あぁ…あれですか?あれは俺がただISの性能を理解していなかっただけですよ」

 

「なるほど…と言いますと?」

 

「俺のISに自分のシールドエネルギーを消費して発動する武器を持っていましてね…。それを発動していたみたいで…」

 

「あちゃー、それは盛大にやらかしてしまいましたねぇ」

 

「あはは…今度使うときはきちんと性能を理解して使うつもりですので」

 

「ふむふむ、同じ失敗をしないように頑張ってもらいたいですね。それではついに最後の質問になりました…。ズバリ織斑君、クラス代表になってのコメント、抱負をどうぞ!」

 

 うわ。質問の受け答えだけならいいのだけれど、こういうの俺苦手なのだよな…

 

「えと…まあ頑張ります」

 

「えぇー。もっとこう良いコメントを頂戴よー。” 俺に触れると火傷するぜぇ” とかさ!」

 

「自分、不器用なので」

 

「うわ、前時代的」

 

 そんなことを言われても困るな…。苦手なのだから仕方がない。というか、俺に触れると…ってやつも結構前時代的だと心の中でツッコんだ。

 

「まあそこの所は私たちが何とか見繕うから安心して!」

 

「はぁ…」

 

「じゃあ二人とも、インタビューお疲れ様!ありがとね~」

 

 怒涛の質問攻めだった。と言えば良いだろうか。黛先輩からの質問に受け答えしている時間が何だか長く感じてしまった。やっとインタビューも終わった、俺が一息入れようとしたときだった。

 

「あの、私からも一つ質問良いですか?」

 

 声が聞こえてきた方を見ると、インタビュー中に写真をいくつか撮っていた人からだった。確かハーゼンなんたらさんだっけ。

 

「あら、ゴーグルちゃん何かあるのかい?」

 

「はい、私が少々気になっていることがありまして。織斑さんについてなのですが。大丈夫ですか?」

 

 どうやら俺に対してだった。まあ、特に断る理由もないし対応することにした。

 

「いいですよ。どうしました?」

 

「あなたのISはもしかして暮桜の後継機か何かなのですか?武器も一振りの剣というところが同じでしたので少々気になっていたのです。」

 

「暮桜…?それ織斑先生のISか。どうなのだろうな。ああ、ちなみに俺のISの名前は白式だ。まあ、白式の武器は雪片弐型をしかないし、武器の性能も同じだからもしかしたら織斑先生のISと何か共通するISなのかもな」

 

「なるほど、私が勘違いしていたようですね。ありがとうございます」

 

 カメラを持っていた…名刺をもらっていないから忘れたけど…ゴーグルさんは疑問が解けたのか、満足そうな表情をしていた。誤解が解け、何よりだ。

 

「さて、インタビューも終わったことだし、取材用に二人だけの撮りたいのだけれど、二人とも写真いいかな?」

 

「散々写真なんて取られているので大丈夫ですよ」

 

「え!?ふ、二人だけで、ですの?」

 

「そうだよ~ 握手とかしていると良いかもね。じゃあ立って立って」

 

 そう黛さんから言われて、俺とオルコット互いに握手をするような形で立たされて写真を撮られることとなった。

 

「それでは、撮りますね」

 

 そうゴーグルさんが声をかけて、カメラのシャッターを押すと、写真が撮られたときには近くにいた女子たちが俺たちの周りにいた。ちゃっかり箒はいつの間にか俺の隣にいた。

 

「ちょっと皆さん!?何故入り込んでいますの!?」

 

「まあまあ…」

「セシリアだけ抜け駆けは許さないよ!」

 

 どうも、他の女子たちも記念写真に写りたかったようだった。

 

「…まあ仕方ないわ。これにて新聞部の取材は終了です!皆、パーティにお邪魔してごめんねー」

 

 黛さんはそう言うと、ゴーグルさんと駄々をこねているもう一人の部員を引っ張って食堂から出て行った。

 

 こうして、嵐のように暴れまわり颯爽と去っていった新聞部の介入もありながらパーティは終わり、箒のご機嫌は部屋に戻ってからやっと軟化したのは、それはまた別の話。

 

 

 







こんにちは! 元大盗賊です!




今回は、主人公目線以外で挑戦をしてみました!たまに、こういう進め方で行かせていただきます。

原作キャラの言葉使いとか難しいのなんの(;´・ω・)


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第5話 変化

 

 

 

 食堂での取材を終えた私たちは、取材のデータを部室のパソコンに移してから今回は解散することとなった。

 

 

「いやー、なかなか書きがいのある記事が書けそうだわー。やっぱりこうなると信じてよかったよ、うんうん。織斑君のコメントなんて書いてしまおうかしら…」

 

「うふふ…織斑君に話しかけちゃった…ふふふ…」

 

 

 帰り道では、どうやら二人は歩きながら先程の余韻に浸っているようだった。邪魔してはいけないと思い、私はそそくさと先に写真のデータを移して自分の部屋へ戻ることにした。

 

 

 寮の入り口に行くと、寮母と二組の担任の先生の中井先生が話をしていた。わざわざ先生がここに来るのは珍しいなと思いながら、私は二人に挨拶をして自分の部屋に戻ろうとしたら、寮母に呼び止められた。

 

 

「あら、おかえりなさいハーゼンバインさん。丁度良かったわ。今担任の先生があなたに用があったのよ」

 

「夜にごめんね。ハーゼンバインさん。ちょっとお話があるのだけれどいいかな?」

 

「はい、特に急ぎの事はないでの大丈夫ですよ」

 

「ありがとう。じゃあちょっとついてきて」

 

 

 私は、夜になって伝えなければいけないことは何だろうと疑問に思いながら、中井先生の後をついていった。歩いていくと、行き先はどうやら生徒指導室だった。

 

 

「生徒指導室…?」

 

「ああ、そんなに心配しなくても大丈夫よ。丁度開いているところがここなだけだったから」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

 既に生徒指導室には明かりがついており、中井先生の後を追い、中へ入ると二人の人物がいた。

 

「ふん、お前もよくここまで頑張ったものだな」

 

「まあ、それなりに努力したので…」

 

 一人は、一年の生徒のようだった。髪がツインテールになっており、制服には改造が施されて両肩が露出していた。見かけない生徒だった。

 

 

 そしてもう一人は、本学の教師にして第一回モンド・グロッソ世界大会で総合優勝を果たした人物だった。

 

「…ぶ、ブリュンヒルデ」

 

「ふん、まだにそう言うやつがいるとはな。ここでは、織斑先生と呼べ」

 

 オーラというものだろうか。ブリュンヒルデから放たれる気とあの眼光にはいまだに慣れない。

 

「はい、すみません。これから気をつけます」

 

「何か別の事を考えていたか?まあいい。それとお前も気を付けるんだぞ凰」

 

「うぐっ、ごめんなさい」

 

 どうやら、ぶ…織斑先生とこの生徒は顔見知りらしく、それほど互いに壁を感じない程度に会話をしていた。

 

「あの、織斑先生。そろそろ本題の話に移りませんか?」

 

 中井先生がここで、話が逸れないように忠告をした。

 

「ん、ああそうだな。それでだ、ハーゼンバイン。紹介する。こいつは明日二組へ編入する凰鈴音だ」

 

「中国代表候補生の凰鈴音よ。よろしくね」

 

「初めまして。二組のクリスタ・ハーゼンバインです。こちらこそよろしくお願いします」

 

「さて、お前を呼んだのは他でもない。お前の部屋が一人部屋ということは確認済みだ。そこで、凰をお前の部屋に入れることを互いの紹介を兼ねて説明をしようと思ってな。わざわざ呼び出した」

 

「なるほど、そうでしたか。初めて生徒指導室へ通されてびっくりしていたので、訳が分かり安心しました」

 

「ふむ、急な呼び出しをした事は申し訳ないと思ってる。ああ、それとついでに他に用があってな。凰から要望があるのだが」

 

「クラス代表戦っていうリーグ戦があるのでしょ?代表候補生がやって来たってことで私があなたの代わりにクラス代表をやるから譲ってもらえないかなーってね。私がクラス代表になったら、大船に乗ったつもりでいて大丈夫よ。優勝に導いてあげるわ」

 

 どうやら、私に話したいことは他にもあったようだ。確かに、テストパイロットと代表候補生では実力も乗るISの性能も段違いだろう。方や企業に認められた人と、方や国に認められた人だ。だが、私は織斑のISとの戦闘データを採取して、あの武器の詳細を調べなければならない。この事は単なる調査を行うだけだし、派手にやらなければ良いわけだ。これを調べられれば大きな利益になるだろう。あの人も喜んでくれるはずだ。だから私は…簡単に首を縦に振るわけにはいかない。

 

「なるほど。私は二組のクラスメイトからの推薦を受けてクラス代表になったのです。おいそれとクラス代表の座を手放すことは、彼女たちの期待を裏切ります。簡単には同意はできませんね」

 

「ふーん。中井先生からは専用機を持っているだけの理由で、いやいややらせれたって聞いていたけれど、そんなことはなかったか。なーんだ交渉決裂ねぇ」

 

「ふむ。まあお前が簡単にクラス代表の座を譲るような奴だとは思ってはいなかったさ。さて、ここからが本題だが、凰も二組の一員になるわけだ、凰のクラス代表になりたいという意見も尊重しなければならないだろう。そこでだ。ここは一つ、模擬戦でこのクラス代表がどちらになるかを決めてはどうだ?」

 

「模擬戦…?昨日、一組で行われたようにですか?」

 

「ああ、そうだ。その方がお互いに納得のいく決め方になるのではないか?まだクラス代表戦までは3週間弱ある。クラス代表者の名前の変更は、後一週間後までなら可能だ。何、遠慮することはない。もし行うのであれば、すぐにアリーナは確保しよう。模擬戦で互いを切磋琢磨しあう事は悪くない」

 

「…分かりました。そうですね、その方がどちらがクラス代表に相応しいか決められると思います」

 

「そうこなくっちゃ。模擬戦楽しみにしているわよ」

 

「よし、ならば四日後第四アリーナで模擬戦を行うことにする」

 

「あれ…もう私が説明することがありませんね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、こうして一組の模擬戦に引き続き、二組でもクラス代表の座を賭けた模擬戦が執り行われることとなった。

 

 あれから次の日になり、二組の朝のホームルームでは転校生の凰鈴音が紹介され、それと同時に、この模擬戦の話について説明がされた。二組の皆は急な話であったので、聞かされた時は戸惑っていたはいたものの、誰も反対することなく満場一致で模擬戦を行うことに賛成だった。

 

「また、専用機での模擬戦が見られるのかぁ…楽しみ!」

 

「うんうん、クリスタの専用機、まだ見ていないから楽しみだなぁ」

 

「二人とも!お互い仲良くやっていこうね!クラス代表戦の本来の目的はデザート無料券の入手なんだから!」

 

「そうそう、模擬戦で満足しないで、クラス代表戦でのデザート無料券確保を目指して頑張ってね!」

 

 そう、このクラス代表戦で優勝をすれば、優勝をしたクラス全員へ食堂で使えるデザート無料券がもれなく送られる。今食堂ではデザート関連のキャンペーンで和菓子フェアが行われている。日本の茶菓子と呼ばれる甘い菓子を始めとして、焼き菓子、豆や米を使用した菓子などが期間限定で販売されている。それが無料で食べられるとあって私もこの報酬は嬉しい。とまあ、二組の皆は模擬戦に関してはそれほど考えておらず、クラス代表戦の優勝景品の方が気になっている様子だった。何だかんだ、うちのクラスって単純ね...私も含めて。

 

 

 とにかく、私は模擬戦に向けて自分のISの調整を行わないと…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、これで授業は終わりです。皆さん、きちんと予習復習をしてくださいね!」

 

 6限目の授業が終わり、この後はホームルームを終え、放課後となる。ただ、最近の俺にとってこの放課後はまだ、俺が休める時ではなくなっている。放課後になると…

 

「「一夏(さん)!」」

 

「訓練の時間だ、行くぞ」

「さあ、一緒に参りましょう」

 

「あ、ああ。でも先に荷物をだな…」

 

「ああ、分かっている。部屋に戻ってから訓練をするぞ」

 

「じゃあなんで二人とも俺の腕をつかむんだ…?俺は逃げたりしないぞ?」

 

 俺は箒とオルコットに両腕を完全にホールドされて今日もアリーナへ連行…いや一緒に向かい、IS操縦の練習をされに行く。

 

 クラス代表戦まで、あと3週間を切ったところ。オルコットとの模擬戦以降、箒との訓練の場は剣道場からアリーナへ変わった。俺の専用機が届いたこともあり、より実践的に訓練を行ったほうが良いという考えからこうなった。箒はというと、毎回のように訓練機の使用許可を得て一緒に訓練を行っていた。そして、最近になり、オルコットも俺たちの訓練へ参加するようになった。これが俺への負担をより拍車にかけた。2対1で二人からボコボコにされる日々がここ毎日辺りが暗くなるまで続く。これがクラス代表戦まで続くとなると、俺の体が保つかどうかが心配になってくる。たまに、オルコットからは、IS操縦の基本的な技というものを教わるのだが、これが良く分からない。横文字と論理的な言葉を羅列させられて、その時はうんうん、と分かったよう気ではいるが毎回次の日にはそのことをよく覚えていない。

 

「今日こそは、三次元躍動旋回(クロス・グリッド・ターン)を覚えていただきますわよ!」

「一夏!今日もその怠けた体を鍛えてやる!」

 

 なんて今日も色々と言われながら訓練するのだろうと思っていた。だが、俺たちが向かっている所は、いつものアリーナの更衣室へ向かう道とは違っていた。俺を連行する二人は見知らぬ扉へ向かい、そのまま俺と一緒に中へ入っていった。

 

「ここは一体…」

 

 中へ入ってみると、部屋全体が薄暗く、橙色の灯りが灯されていた。大きな3Dモニターが部屋の周りに浮かび上がっており、各モニターにはそれぞれ二つ椅子が用意されていた。真正面の3Dモニターには山田先生と見知らぬ教師がその椅子へ座り、何やらコンソールを叩いていた。その後ろには、千冬姉が仁王立ちで画面を見つめていた。すると、千冬姉が振り返り俺たちの方へ向いた。

 

「オルコット、篠ノ之。二人ともご苦労」

 

「ええ、これちふ…織斑先生の指示だったのですか?」

 

 まあ俺としては、あの過酷な地獄を見ずに済むから良い。

 

「ああ、そうだ。ここから見る模擬戦は良いものだぞ」

 

「模擬戦…?今日って確か鈴と今の二組のクラス代表とのクラス代表を決める模擬戦ってやつか?」

 

 そう、先週の頭に二組にやって来た転校生がやってきたという話が話題に上がったのだが、その転校生が鈴だったのだ。鈴は、箒が引っ越していったのと入れ違いで小学校5年の時にやってきて知り合った。箒がファースト幼馴染なら、鈴はセカンド幼馴染と言ったところだ。その後、中学2年の時に急に中国へ戻ってしまい、音信不通の状態になってしまった。そんな鈴は、転校生が噂された日の朝のホームルーム前に一組に現れ、二組が優勝するとすごく似合っていないかっこつけていた宣戦布告をしに来て、俺と久しぶりに再会を果たした。その後、鈴とは食堂で色々とお互いの近況報告をし合っていた。確かその時だっただろうか。

 

「そういや今度、今のクラス代表の子と模擬戦をして、クラス代表がどっちになるかって勝負をするのよね。素直にここは、代表候補生の私に任せればいいのにー」

 

 そんな事を言っていたが、まさか今日の事だったとは。

 

「そうですわ、一夏さん。これから見る模擬戦に出るISのどちらかは必ずクラス代表戦で戦いますわ。相手のISを知るいい機会でしてよ」

 

「そうだぞ、一夏。相手のISの対策を練ることは決して悪くない。試合を観戦して、しっかりISの特徴をとらえるぞ」

 

「だから、わざわざここまで連れてこられたのか…」

 

「ああ、二組のISの動きを見るのもそうだが、私から一度、お前たちに言っておきたいことがあってだな。わざわざ来てもらった」

 

 どうやらこのことは箒もオルコットもこのことは知らなかった様だった。

 

「一度言っておきたい?それって一体…」

 

「二人のIS、アリーナ内へ入ります!」

 

 いつになく口調が真面目な山田先生の声が聞こえると、モニターにはこれから対戦する鈴のISと現クラス代表の人のISが写し出されていた。

 

 

 鈴のISは全体が紅のような褪せた赤い色をしており、時折黒い色が塗られていた。両肩には、何やらとげの付いた球体が浮遊しており、あれで殴られたら痛そうだ。

 

 

 それに対して、現クラス代表のISはというと。

 

「あれ?顔が見えない」

 

 そう、顔がISによって覆われていたのだ。それだけではなく、全身がISに覆われており、皮膚が露出している部分が見当たらなかった。配色は全体的に白く、所々黒や黄色に配色されている。顔にはきちんと目や口らしき部分があり、額にはv字のアンテナらしきものが装飾されていた。また肩の部品が、そり上がっているのと背中に剣を背負っているのがとても印象的なISだった。

 

 

「なんであのISは全身にISが覆われいるんだ?」

 

 ISの専用機持ちには日本の首相のような国家の代表が各国に一人だけ存在する。言わば国の顔とも言える存在だ。なので、ISを装着するなら、普通は自分の顔など隠す必要なんてないはず。教科書に書いてあったからそうだ。

 

「それは、あのISが全身装甲(フルスキン)と呼ばれるタイプのISだからですわ。その名の通り、全身が装甲で覆われていて、人の体が見えないように設計されたタイプのISですの」

 

「へぇ。そんなISの種類があるんだ。でも何でわざわざ装甲で全身を覆う必要があるんだ?ISって絶対防御があるんだし、そうそう怪我はしないと思うが…」

 

「そうですわね、ISに乗っていたら絶対防御が発動して、操縦者は身の危険から守られますわ。ただ、それ以外にも理由がありまして…」

 

「やっぱりそうか、んでその理由って?」

 

「それは、他人から自分自身の姿を知られたくないからな」

 

「え?自分を?どういうことですか、織斑先生!ISっていうのはスポーツ競技なんだし、わざわざ顔を隠さなくてもいいんじゃ…」

 

「ああ、スポーツ競技としてなら必要ないな。そんなもの」

 

「スポーツ競技じゃないならって...じゃあ...」

 

「あのISは元々軍によって開発されたISでな。それに、今日この模擬戦でわざわざお前たち三人をここへ連れてきたのはあのISについて伝えるべきことがあるからだ」

 

「あのISを私たちに…ですの?」

 

「織斑先生、それはどういう…」

 

 俺たちが困惑していることなんてお構いなしに、模擬戦が始まるアナウンスが流れた。

 

 

「クリスタ・ハーゼンバイン。彼女と特にあのIS『サンドロック』には注意しろ。あのISは元々アラスカ条約違反で開発中止になって凍結措置のとられたISだ」

 










皆さん、こんにちは! 元大盗賊です。


本来なら、この話も4話に入れておきたかったのですが長すぎて、分割しました。元々構想していたものでしたので、今回はいつもよりかは投稿が早いはず…!

それにしても、話を重ねるごとに文字数が増えていく…。


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第6話 クラス代表争奪戦

遂に6000文字突破。


クリスマスは色々手探りで小説を書いていました!










 

 

 夕食を済ませて、自分の部屋に着くと私は、部屋の鍵を使わずにそのまま部屋のドアノブに手をかけた。

 

「ただいま」

 

「あ、おかえりー、クリスタ。先にシャワー使ったから後は自由に使っていいよー」

 

 部屋には、つい先日IS学園へ転入し、私のルームメイトとなった中国の代表候補生、凰鈴音がいた。

 時刻を見るとほぼ太陽が沈んでいる時間帯になっていた。窓にはブラインドが下がっており部屋の灯りを外へ漏らさないようにしている。鈴はというと、シャワーを浴びた後なのかラフな格好をしている。ベッドの上でとうつ伏せになり、足を上下にパタパタさせながら何かの雑誌を読んでいた。

 

「それでは、ありがたくシャワーを使わせていただきますね」

 

 私は、荷物を自分の椅子の上に置くと、シャワーを浴びるための準備をする。

 

「鈴。聞きたいことがあるのですが」

 

「んー、どうしたの?」

 

 鈴は雑誌を見ながら、気の抜けた返事をしてきた。

 

「ずっとモヤモヤとしていたのですが、何故あなたが、私の代わりにクラス代表になると言い出したのかが良く分からないのです。転入してきて早々、クラスの代表なるなんて普通は考えないと思うのです。今回は、この模擬戦には織斑先生が一枚噛んでいるようですが…。一体何を企んでいるのですか?」

 

「ふーん、そのことね。ってそんなに深刻そうな顔しないでよ!…そんなに悩んでいるなら、今でも遅くないからクラス代表、私がなろっか?そしたらその心配事はなくなるからさ~」

 

 鈴は、雑誌を読む状態から体を起こし、私に八重歯を見せながらニヤニヤしながら話した。

 

「模擬戦の結果が出るまでクラス代表の座は譲りませんよ。今更になって、私の考えは変えません。第一、私の質問に答えになっていません」

 

「まあ、そうだよねー」

 

 ちょっとだけ期待していたのか、残念そうな表情をしていた。

 

「クリスタもテストパイロットだからわかるとは思うけれども、私以外にもさ、代表候補生は他にもいるのよね。今は私に専用機を預けるくらいの評価を上の人からもらってはいるけれども、いつ別の代表候補生に私の使っている専用機を託されるかはわからないのよね。ISには限りがあるし」

 

 現存するISの数は、467機存在する。といっても専用機や研究用のISはその中の145機だけだ。その145機が世界各国ごとに分配される。さらに、大半のISは研究に回されるため、専用機として使われるものは更に限られてくる。代表候補生だからといって全員に専用機が配られることはまずないだろう。なので、専用機を持てる代表候補生というのは、それなりの信頼と実績があるという証拠になる。

 

「だから、IS学園でそれなりの実績を作り、本国の人たちからそのまま高い評価をもらい続けたい、というところですかね」

 

「まあ、そういう所かな。でも私は単純に、目立ちたいとか、代表候補になってちやほやされたいとかそういう生半可な気持ちで代表候補生を目指したつもりはないし、このまま他の人に今の座を譲るつもりは全然ないけどね~」

 

 鈴は、右腕に付けている黒いブレスレット、甲龍に触れながらそう話した。

 

「なるほど、そのあなた自身が持っている代表候補生の誇りがあったからこそ、織斑先生を通してこの模擬戦を提案できたのですね」

 

「…そこまで回りくどく言わなくても…でも言いたいことはそういうことよ」

 

「確かに、あなたのその強い意志はわかりました。ですが」

 

「ん?」

 

「私は、一企業のテストパイロットです。企業の看板を背負ってIS学園(ここ)に来ています。クラス代表の座を譲るなんて、情けない行為は企業の侮辱に値します。クラス代表はクラスの長です。ならば、クラスで一番強い人がなるのが合理的でしょう?」

 

「へぇ、言ってくれるじゃない。そこまで言うのなら、ますます模擬戦楽しみだわ」

 

「ええ、相手がテストパイロットだからって舐めては困りますよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がアリーナへ入ると同時に、鈴もアリーナへ入ってきた。

 

「第三世代型IS、甲龍…」

 

 鈴の操縦するISは燃費と安定性を重視に設計されたISだ。できるだけ長期戦は避けていきたいところ。鈴はというと私の頭から足先まで、舐めまわすようにまじまじと見ていた。

 

「へぇ、あんたのIS変わっているね、今時全身装甲(フルスキン)だなんて」

 

「まあ、ちょいとお古のISだから、珍しいかも」

 

 私は、準備運動をするように、腕を伸ばしながら答えた。お古、という言葉を聞いた時に、鈴の口元は緩んだ。

 

「ふーん、ってことは第二世代か。最新鋭の第三世代の私に勝てるかな?」

 

「オールドタイプだからって思っていたら痛い目に合うよ?」

 

 私は、サブマシンガンを右手にコールしながら返答をした。

 

「じゃあ遠慮なく全力で行かせてもらうわ」

 

 それに答えるように、鈴は主力武器である、双天牙月を右手にコールした。

 

『それでは両者、試合を開始してください』

 

 教師による、淡々としたナレーションが入り、模擬戦の始まりが告げられた。

 

 

 

 

 鈴は、双天牙月を構えると、私へ突撃してきた。

 私は格闘戦を仕掛けさせないようにマシンガンで弾幕をはる。

 

 マシンガンから放たれる銃弾を左右に動き、躱しながらもなお、鈴は私の方へ近づいてきた。

 

 これ以上は無理だと判断。マシンガンを収納し、両手にヒートショーテルをコール。双天牙月を振り下ろし、放たれる斬撃を両方のヒートショーテルで受けとめる。

 

 さすが、第三世代と言ったところかやはり双天牙月の威力はサンドロックにとって耐えがたい一撃だった。

 

「随分と奥手ね、もっと積極的にならないの?」

 

「くっっ!」

 

 少し余裕の表情を見せる鈴に対し、こちらは相手の攻撃を対処することで頭が一杯だ。

 

 両手に更に力を込め、鍔迫り合いを振り切り、互いに後ろへ距離をとる。

 

 

 距離をとったところで、すぐさま手に持っていたヒートショーテルを鈴へ思いっきり投げつける。

 

「!?」

 

 まさか武器を投げつけてくるとは思わなかった鈴は、ヒートショーテルを避けようと投げつけた射軸の直線状から横にずれた。

 だが、勢いよく回転する刃は直線に進まず、鈴のいる方向へ曲がり進む。

 

 鈴はそのまま、双天牙月を前に構え防御の姿勢に。刃は目の前の物体を削るかのごとくその場で回転し続けた。

 

「っ何よこれ!?」

 

 勢いの衰えない刃に困惑する鈴を見逃さない。

 私は肩部ミサイルをコールし、発射した。その場で身動きの取れない鈴へと放たれたミサイルは、刃もろとも巻き込み、大きく音を立て、爆発した。

 

 爆発による煙が鈴の周辺に立ち込める中、マシンガンをコールした時だった。

 ハイパーセンサから警告の文字が表示される。衝撃砲だった。

 

 目に見えない砲弾を右横にスライドして回避運動をする。同時にマシンガンで迎撃をするが、続けざまに放たれる砲弾が右肩と脚に当たったのだろう。私はよろめき、そのまま地面に叩きつけられた。

 

 

 

「中々、面白いこと…するじゃない。でもね…!」

 

 ロックオンされているという警告が響き渡る。

 すぐさま体制を整え、発射したであろう衝撃砲を左へ地面を滑るように躱した。

 

「こっちは、第三世代なもんでね!」

 

 地面からは、土埃が立ち上る。時折、頭の横から、風を切る音が響いていた。

 地面から離れ、上空に飛び立ち、背中にオミットされていたヒートショーテルを投げつける。

 

「もうそれは知っている!」

 

 だが、衝撃砲をぶつけられたヒートショーテルは、勢いを失い地面へ落ちていった。

 

 

「ちっ!!」

 

 マシンガンをコール。鈴へ迎撃を行っていく。

 

「何度も同じ手を!」

 

 鈴は連結していた双天牙月を分け両手に持つと、マシンガンを躱しながら近づいてくる。

 

 後ろへ移動しながら、マシンガンで何発か命中させているものの、僅かなダメージだ。

 

 意を決してマシンガンをしまい、再びまだあるヒートショーテルをコール。

 こちらも格闘戦をするべく鈴へブーストをふかし、近づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アラスカ条約?」

 

「ああ、そうだ。IS運用協定。通称、アラスカ条約とも言われている。これを掻い摘んで言うと、ISの運用方法と当時IS技術を独占的に保有していた日本へ技術情報の開示を求めた協定だ。まあ、本来の目的は後者だろうな」

 

「それで、織斑先生。そのアラスカ条約とあのISとの関係性が見えてこないのですが、一体どういう関係なのですか?」

 

「それは私から説明をしましょう」

 

 箒が質問をすると、山田先生の隣に座っていた、見かけない先生が椅子を回転させ、こちらへ体の向きを変えた。

 

「皆さん、初めましてかな?二組の担任をしています、中井佳那と言います」

 

 茶髪で髪を後ろに結い上げているこの先生は中井先生というらしい。

 基本、授業は担当のクラスの担任、副担任だけで行うので、他のクラスの先生は廊下で見かける程度にしか知らない。

 

「IS運用協定が定められた当時まだ、ISが登場したばかりでISについてまだ開発途上にあったものでした。ですので、たびたびISの運用方法には随時更新がされています。さて、あのIS、「サンドロック」ですが簡潔に言うと、サンドロックは昔、といっても4、5年ほど前のことですが、IS操縦者に対し危害が及ぶシステムの研究・開発で使われていた実験用のISでした。その情報を手に入れた国際IS委員会は、研究・開発を行っているとされていた研究所へ調査を行い、事実が確認されたため、そのシステムに関わる研究・開発・使用を今後一切禁止するという項目がIS運用協定に新たに盛り込まれたのです」

 

「それで、そのシステムというものは…?」

 

「これは、2年生後期の時に習うことだとは思いますが、先に教えますと研究者たちはサンドロックを使ってVTシステムを開発していました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 幾度となくぶつかり合う刃。お互いに相手のシールドエネルギーを削ろうと鋭い斬撃を相手に放つ。

 

 一方が切りかかれば、もう一方はその斬撃を手に持つ刃で阻止する。時には足技も用いながら、相手のシールドエネルギーを減らしていった。

 

 クリスタのISは甲龍と同じ近接格闘型だろう。ただ、あまり格闘を仕掛けてこないことから見ると、苦手な事は確か。私の格闘で押し切れば勝負が見えてくるはず。

 

 鍔迫り合いに勝ち、ひるんだクリスタへ回し蹴りを放ってお互いに距離を置く。

 

 すると、またしても相手は手に持っていた曲剣を投げ飛ばしてきた。

 

「そんなの何回やっても!」

 

 龍砲で撃ち落とそうと、衝撃砲を放った時だった。

 

 

 衝撃砲を曲剣に当てると爆発を引き起こした。視界は煙が立ち込める。

 

 一旦、その場から離脱しようとした時、左側から警告音が鳴り響く。

 

「左からっ!?」

 

 左へ振り返ると、周囲の空気を切り刻むかのごとく熱を帯びた曲剣が迫ってきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「VTシステム…Valkyrie Trace System、その名の通りモンドグロッソの部門優勝者(ヴァルキリー)の戦闘データからヴァルキリーのIS操縦を忠実に再現するシステムだったようです。ただこのシステムには、ISの特徴である自己進化を否定しているおり、また操縦者への負担が強く、最悪生命が危ぶまれる大変危険なものでした」

 

 簡単に言えば、今の二組クラス代表が使っているISは昔に危険な研究で使われていたもの、ということだろうか。でも、既に調査というやつが終わっているのであれば、警戒する必要はないはず…。

 

「あの先生、でしたらなぜ俺たちを呼ぶまでに警戒をしているのですか?もう調査とやらが終わったのですから、そこまで神経質になるようなことでは…」

 

「それにはきちんとした理由があります。さて、これから話すことは機密事項ですので、くれぐれも口外しないように…。確かに、ISの調査とそのシステム研究、開発をしていた、メッゾフォルテ研究所への調査は終わり、その研究チームの解散とプロジェクトは凍結が行われ、サンドロックは研究所へ返還されました。このメッゾフォルテ研究所についてですが、以前にも不可解な事故が起きており、国際IS委員会としても見逃すわけにもいかなく、メッゾフォルテ研究所が行うISに関する研究について、監視・データの回収を行うよう、決められました」

 

「サンドロックは現在、ドイツの第3世代主力機とする「レーゲン型」の武器に関わる実験機という報告を受けています。今のところは、サンドロックに搭載されているものやソフトウェアには何も異常はありませんが、まだ何が起こるかはわかりませんので皆さんには警戒をしてほしいのです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 金属同士がぶつかり合う音がアリーナ内に響き渡る。

 

 マシンガンで撃ち落としたヒートショーテルを囮にすることに成功し、すぐさまもう一振りのヒートショーテルをコール。

 甲龍の斜め後ろまで移動し、横なぎに薙ぎ払う。だが、ISに当たったという手ごたえを感じることはなかった。何かの衝撃を全身で受け、後方へ飛ばされていた。

 

 

 ここにきて、シールドエネルギーの残高が少なくなってきている警告が目の前に表示される。

 正面を見据えると背中を向けている甲龍の龍砲がこちらへ向いているのが見えた。

 

 

 

 ”龍砲の射角には制限がなく、死角のないのが特徴である。”

 

 

 

 焦りすぎたか、覚えていることを生かし切れていない。

 

 

「自分で撃ち落とすか…。でも、龍砲には死角がなくってね!」

 

 

 足元の方、地面から金属音がぶつかり合う音が耳に伝わってきた。

 

 甲龍はこちらへ振り向き、あたりに残っていた煙を両手に持っていた双天牙月で振り払った。

 

 再び間合いを作ろうと、マシンガンをコール。

 

「また、あんたのペースには乗らないよ!」

 

 双天牙月を構えるとこちらへ距離を縮めてくる。

 

 こちらは負けじと、マシンガンから銃弾を放ち応戦した。向こうにはシールドエネルギーに余裕があるのだろうか。回避運動はするもののマシンガンによるダメージを気にせずそのまま距離が近づいてくる。

 

「これで!!」

 

「一か八か…!」

 肩部ミサイルをコールし、近づいてくる甲龍へゼロ距離発射した。前方から爆音と爆風が私の体を襲い、後ろへ飛ばされる。

 

 すぐさま体勢を立て直す。

 マシンガンを投げ、ヒートショーテルをコールした。

 このまま強襲すれば…。そう確信し、甲龍へブーストをふかして近づいた。

 

 

 

 だが、相手も同じ事を思っていた。目の前に警告の文字が表示され、耳には警告音が響き渡る。

 

 気が付くと正面から衝撃砲が迫ってきていた。左に装備している盾でなんとか飛ばされないように防ぐ。

 

 こちらへ来ているのはそれだけではなかった。視界に入ってきたのは双天牙月を構えた鈴だった。

 

 双天牙月から放たれる斬撃をヒートショーテルで防ぐが、スピードを重ねた攻撃には耐えられなかった。

 

 体勢が崩れ、そのすきを狙って飛び膝蹴りを食らう。

 

 そのまま、土で覆われた固いアリーナの地面に全身でぶつかった。

 

 辺りには土埃が舞い、乾燥した土の臭いが私の肺に入ってきた。

 全身でまともにぶつかったため体がすぐには言う事がきかない。

 

 

 

 

 呼吸がいつもより速いペースで行われている。

 

 

 心臓の鼓動がいつもよりはっきりと聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 目の前には、開けたアリーナから映る空を見ることが出来ていた。太陽に照らされ、影で多くの部分が黒く映る雲が右から左へゆっくり流れており、空の半分は少しだけ黄色く染まりかけていた。

 

「…綺麗ね」

 

「っな、何、急に言い出すのよ、びっくりするじゃない!」

 

 人に似た形をした黒い物体が視界に現れ、どもった声で話をした。

 

 

 

「ふふ、そのままの感想を言っただけですよ。今日はありがとう、鈴」

 

「ふん、オールドタイプだからってちょっとだけ油断はしたけど、中々テクニカルなことをするじゃない。でも、基本もきちんとやったほうがいいわよ」

 

「そうね、練習しないと…だめだね。格闘をしっかりしないと」

 

「後は私に任せなさい。きちんとこなして見せるわ」

 

 第3世代との戦闘データは得られた。後は私自身の鍛錬を積み重ねることが必要になりそうだ。もっと強くならないと。

 

 

 

 ISからロックオンの警告表示が現れていた。

 

 

 

 

 




見ていただきありがとうございます! 元大盗賊です。




初の戦闘描写ということで、うんうんと唸りながら書いてみました。



いやー大変ですね、読者として作品を読んでいる際は何とも思わず読んでいましたがいざ書いてみるとなるとうまく言葉をどう選ぶか迷ってしまいますね(;´・ω・)


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第7話 約束

 

 今の時間帯は丁度お昼時。もうそろそろ、授業で消費した栄養素が不足しているという信号が胃袋から発せられることだろう。

 

 私は、授業終わりに誰よりも早く、食堂へ足を進めていた。ただ食堂へ移動しているのは私だけではない。鈴と玲菜と一緒にいた。

 

「うーん、ISでの空中で移動するときのイメージが良く分からないなぁ。進む方向に角錐を展開させるイメージをするって教科書でも書いてあったし、中井先生も言っていたけど…。普通に鳥が飛ぶみたいすれば良いって思っていたのだけどなぁ。ねえ二人ともそこらへんどうなの?」

 

「そうねぇ。私は、もう慣れちゃったから、そんな事考えずに飛んでいるなー。しいて言うなら、自分の体のように普通に動かしているのよね。一々、考えていたら他の事に集中できないし。全員が出来るようにするための理論的な説明だから、ちょっと回りくどい説明だもんね」

 

「そうですね。私も今だとそのような事は考えずにやっていますね。私の場合は、行きたい地点に瞬間移動するような感じでやっています。教科書に書かれていることは正しいですけれど、イメージの仕方には個人差はあるでしょう。角錐をイメージしなくても出来る人はいるでしょうし」

 

 鈴と私は歩きながらそれぞれが考えていることを話した。

 

「へぇー、やっぱり専用機持ちになるとレベルが違うなぁ。実際だと同時に色々と考えないといけないでしょ?想像つかないや」

 

「そうよ、移動だけ考えていたら何もできずに終わっちゃうわ。格闘武器ならまだしも、特に射撃武器を使うなら、今の風向き、射程距離、反動制御、弾道予測は必要でしょ。後は一零停止に、特殊無反動旋回(アブソリュート・ターン)…」

 

「あーもーやめてー!!今は休憩時間なのだから!」

 

 鈴が射撃武器講座を始めようとしたところで、玲菜はもう勘弁してほしいと思っていそうな顔で鈴の話を止めにかかった。そういえば、この2人はいつ仲良くなったのか…。

 

「まあ、5月の下旬くらいから、一組と合同でISを使った授業があるみたいだしその時に慣れればいいじゃないかな。やっぱり座学で学ぶより、体で感じないと」

 

「そうですね、実際に乗ってみないと分からないこともありますし。ISを身にまとうとまるで、体が一回り大きくなったみたいに別の感覚になりますからね。その方が早めにイメージを固められると思いますよ」

 

 

 

 さて、色々と話をしているうちに、食堂へとたどり着いた。

 

「じゃあ、二人ともまたあとでねー」

 

「うん、またねー」

 

 そしていつものように、食堂前で鈴と別れ、私たち二人で先に食堂へ入る。食堂のおばさんから食事をもらい、植木鉢に囲まれたテーブル席へ座る。

 

「ふっふっふ、玲菜は今日もお仕事しちゃいますよー」

 

 そう言いながら、玲菜は食事を始める前にどこからともなく取り出したカメラをテーブルに置く。彼女は最近、ネットショッピングで自前のカメラを買ったらしく、新聞部ではよく黛さんや私から写真の撮り方を教えてもらいながら練習をしていた。

 そして、最近の彼女の被写体は織斑一夏となっている。いつの間にか、彼女と鈴で何やら取引が行われたらしく私たち2人の席は、鈴と織斑一夏が一緒に座って食事をしてする様子を見ることが出来る見晴らしの良い場所に座るようになっていた。そして、彼らが食事をしている様子を彼女が食堂に備え付けられている植木鉢の柵のすき間から身を隠して写真を撮るのが最近のルーティーンになっていた。粗方、織斑一夏に好意を抱いている鈴につけこみ、一緒に食事をしてもらう代わりに…などと頼み込んだのだろう。最近ながら、彼女の用意周到な手際には驚かされる。

 

 私はこんなことをさせるために写真の撮り方を教えたわけではないのだが…まあ彼女が意欲的に写真を撮っているわけで、別に止めようとは思わない。写真は撮る数を増やしていくことで上達するとも言われているわけであるし、きっとその方が彼女にとっていい練習になるのであろうと信じている。ただ、どこぞの黛薫子(副部長)のように物凄いマスコミ精神を志したりしないかが心配になってくる。

 卵サンドイッチセットを食べ終わり、鈴と織斑一夏へカメラを向けて写真を撮っている玲菜を、塩ラーメン&半チャーハンセットを食べながらそう思っていた。

 

 動物系の出汁でとったスープの香り。そして絶妙な味付けをされた豚肉と、ぱさぱさとしている卵、そしてパラパラと水分が十分に失われ、チャーハンの味がきちんと染み込んでいるお米。どれもごく一般の学生が利用するような食堂では味わえないものだろう。それほどレベルが高かった。

 

 この美味しさ、そして感動を誰かに伝えたい。そんな欲求が私の中からふと湧き出てくる。この思いを誰かに伝え、共感してほしい。そんな欲求だった。だが、玲奈はボソボソと独り言を呟きながら鈴たちへカメラを構えているため、話し相手にならず、この思いは誰にも届かなかった。

 悶々としていた私は、仕方なく楽しそうに会話をしている彼らの席へ耳を傾けた。

 

「ああ、そうだ。ねぇ一夏。良かったら私が練習見てあげよっか?ISの操縦の」

 

「おおホントか?そりゃ助かる」

 

「そのくらい気にしなくていいよ。二組の模擬戦が終わったことだし。前よりは余裕で来たからさ」

 

 鈴は声を弾ませ、頼られたことに嬉しそうに得意げに答えた。織斑一夏からすれば代表候補の彼女に教えてもらうのだ、素人の彼にとってみればまたとないチャンスだろう。

 そんな二人のやりとりを、レンゲで残り少ないチャーハンをかき集めて聞いていた時だった。突如、机を叩いたような大きな音が食堂内に響き渡った。何事か、と思いその音源を見てみると見た事のある二人組が何やら不満げな口調で鈴たちへ苦言を呈していた。イギリスの代表候補生、セシリア・オルコットと重要人物保護プログラム対象者、篠ノ之箒である。

 鈴と織斑一夏が食堂で共に食事をするようになってから度々、突っかかっては鈴に追い返されるというのを何回か続けている。そんな彼女らの原動力というのは玲奈曰く、織斑一夏を取られた事による嫉妬だそうだ。

 

「さすがにもう限界だ。我慢ならん」

 

「いくら幼馴染だと言う一夏さんと()()()()にお話されるのは別にかまいませんが、IS操縦を教えるのは別の話ですわ」

 

 どうやら、今度の彼女たちの怒っている理由は鈴がIS操縦を教えることだったようだ。おそらく彼女たちも私たちのように近くで様子を伺っていたのだろう。拳を強く握り、目じりを吊り上げて、口をひん曲げている所から察するに相当ご立腹のようだ。

 

「ああ、一夏に教えるのは我々の役目だ!」

 

「そうですわ!あなたは二組でしょう?敵の施しは受けませんわ!」

 

 一か月もしないうちにやってくるクラス代表戦。

 その対戦相手からIS操縦を教わることがこの二人が気にくわないようだ。クラスの代表であるクラス長が、他クラスの人頼りになっていては彼ら一組の面子が潰れてしまうのは避けられないだろう。毛を逆立て、シャーシャーと威嚇する猫のように彼女らは鈴へと食ってかかる。そのあまりの態度に座って見ていた織斑一夏は苦笑いをしてやり過ごす他はなかった。

 所が、肝の据わっている凰鈴音はこれほどの脅しには動じなかった。

 

「何?私は一夏と話をしていたのよ。関係ない人たちは引っ込んでいてよ」

 

 二人の話を軽くあしらい、今日の放課後は空いているかとすかさず織斑一夏へと聞く鈴。そのあからさまな態度には彼女たちが、いや彼らの成り行きを見守っていた食堂内の私たちでさえ、時が止められたかのような感覚に襲われる。

 そして、すぐに彼女らの怒声が食堂内に響き渡った。

 

 

 

「あれま、まーた始まっちゃった」

 

 思わず、カメラを構えていた玲菜がぼやく。彼女の見つめる先には、ファースト幼馴染だからと、織斑一夏の優先権を主張する篠ノ之箒と、他クラスから教わる必要性がない事と律儀に主張するセシリア・オルコットの姿があった。

 

「日に日に争いがひどくなって見えるのは私だけでしょうか?」

 

 ラーメンのスープを飲んで呟く。うんとても美味しい。

 

「まー、それは言えているかも。でも鈴ちゃんのあの態度にめげないあの二人の想いは確かだね!鈴ちゃんに対して焼きもちを焼いているのも理解できるわ。そりゃそうだよね、最近ずっと二人っきりで食事をしているもん。あーあ私も織斑くんと一緒に会話をして食事したい…」

 

 彼女が羨ましそうに争っている姿を見ていると、鈴は耳栓をしているのではないかと思うくらいに抗議の声を無視し、織斑一夏に約束だよ、と伝えて戦略的撤退を図る。

 

「焼きもちですか…」

 

「そうよー。なんたって今一番織斑くんにアタックしている筆頭の二人なんだから!篠ノ之さんは幼馴染でしょ。んで、せっしーは織斑くんと一線を交えた仲。本人たちは気づいていないようだけれど周りから見ていると織斑くんの事が好きってバレバレなのよねぇ」

 

 玲奈は写真を撮る体勢から普通に椅子に座る体勢に戻り、私に説明をしてくれた。今日の鈴ちゃんのスルースキルすごかったという感想も加えて。

 

 そもそも鈴と織斑一夏を一緒にさせてこの争いを作り出し、他人事のように見ている当の本人の肝も据わっているとは口には出さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 食堂を後にし、私たちはそのまま二組の教室まで戻る。中へ入ると、既に鈴は教室へ戻ってきていた。

 

「いやー、鈴ちゃんお疲れ!今日もご協力感謝感謝」

 

「それは何よりで。まあ、このくらいどうってことないわ」

 

 お互いに本日行われたミッションを終え、感想を言い合う二人。その後、玲菜が鈴へ何やら耳打ちをしているが、何を言っているかは問い質さないでおく。

 

「そうだ!鈴。さっき食堂で話していたことだけどさ」

 

「ん?一夏の練習を教えてあげるって話?」

 

「そうそう、それ!んでね、ぜひとも鈴に提案したい素晴らしい案があるのです」

 

 ふふん、と自慢げな表情をしている玲菜。どうやらよほどの自信があるようだ。

 

「ふーん。その案ってのは?」

 

「それはね…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 放課後。

 新聞部での打ち合わせを終え、私は荷物を置きに自室へと戻っていた。部屋の電気をつけ、机に荷物を置こうとした時なぜか私以外の私物が全てなくなっていた事に気がついた。鈴の使っていた机は整理整頓され、また同様にベッドも綺麗にされていた。そう、鈴の持ち物がすべてなくなっていた。

 

 どうしたものなのか…。玲菜の作戦にはない行動に疑問に思いながらも、ひとまず自分の持ち物を机に置く。窓のブラインドを下ろし、いつものようにベッドに飛び込み、重力に身を任せ、ばふばふとベッドの上を飛び跳ねる。

 

 夜逃げという考えはないだろう。そんな理由は彼女にはない。ならば、部屋の変更?だが、そんな話は担任からも寮長のブリュンヒルデにも聞かされていない。全くといっていいほど検討がつかなかった。

 

 とりあえず、食堂で夕食を食べよう。後で鈴から話があるだろうし。

 

 そう思い、落ち着いたところでベッドから離れて扉へと向かう。

 ドアノブに手をかけようとした時、先に扉が開かれた。予想だにしていない出来事でびくっと驚き後ろに下がる。廊下へと押し出されていく扉の先にはボストンバッグを持つ鈴の姿がいた。

 

「鈴…?」

 

 ボストンバッグを手に持ったまま鈴は顔をうつむき、前髪に隠れて表情が見えなかった。

 すると突然、鈴はボストンバッグを足元に落とし、私の方へ歩み寄ってくる。

 

「…鈴、一体…」

 

 一体どうしたの?そう言おうとした時だった。

 鈴は、歩みを進めるとそのまま私に抱きついてきた。

 

「…」

 

 彼女は何も言わず、私の背中に回した腕の力をさらに強めていく。

 

 

 

「とりあえず、部屋に入りましょう?」

 

 私は彼女の頭に手を置く。

 微かに震えた嗚咽の声が漏れ出ていた。

 

「……うん」

 

 私の提案に、いつもの鈴とは思えないほど弱々しい返事が返ってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 昼休み、玲菜が鈴へ提案した秘策を説明していた。要約すると、鈴が織斑の練習後のフォローをするというものだ。

 

 織斑のIS練習は、毎日行われておりその練習には篠ノ之、そして最近になってオルコットが参加をしている。これは、私の観察もとい監視によるものだ。そこへ、鈴がやってきても食堂での一件を考えると彼女が彼へIS操縦を教える、という彼女が望むような展開にはならないだろう。

 

『そこで、ぜひとも鈴には織斑くんが練習後にいる男子更衣室へ行ってもらうっていう私の名案なのです!あ、タオルとスポドリを持っていくとさらに好感度がアップかな?』

 

『なるほど、そうすることであの二人には邪魔されないっていう算段ね』

 

『そういう事!クリスタが言うには、二人はさっさと着替えるために戻っちゃうみたいだからその時に織斑くんが一人っきりになるのよねー。だからその時が二人っきりになれるチャンスなわけ!そこで、ISのことを教えるもよし、幼馴染話に花を咲かせるもよし、告白しちゃうのもよし、だね!』

 

『ちょ、なんでいきなり告白しないといけないのよ!』

 

『えー違うのー?てっきり織斑くんにIS操縦を教えるって言っていたから、二人きりになって大好きな織斑くんへ告っちゃうのかなと』

 

『す、するわけないでしょ!まあ、いいわ。その提案に乗るわ』

 

『うんうん、ぜひとも頑張って!あ、男子更衣室までの先生方に見つからない、最短で行く道のりはクリスタが知っているから聞いちゃってね!』

 

 こうして鈴は放課後、織斑一夏の練習後を見計らい男子更衣室へ行ったそうだ。

 

 

 

 

 

 

「そしたら、彼が篠ノ之さんと同じ部屋で生活しているという発言を聞き、慌てて荷物をまとめて彼のいる部屋まで行ったと」

 

 私は鈴の座るベッドの隣に座り、今までに起こった事の経緯の整理をしていた。

 

「そう。あの幼馴染と部屋を変えてもらおうと思ってね」

 

 先程より、落ち着きを取り戻した鈴は私への説明を続ける。

 彼曰く、同居している篠ノ之さんは幼馴染だから男女同室でも安心しているらしく、それならば同じ幼馴染の私が彼の部屋に入ることが出来るのでは、と考え颯爽と荷物をまとめて彼の部屋へ突撃訪問したそうだ。

 先日のクラス代表決定戦と時もそうだが、彼女の行動力には目を見張るものがある。思い立ったが吉日ともいうべきだろうか。自身の意思を貫き通すために、唯我独尊とでも言わんばかりの自身に噓偽りを行わない姿勢には尊敬に値する。そんな彼女だからこそ、わずか一年で中国のIS専用機持ちに慣れたのではないだろうかと思ってしまう。

 こうして、善は急げとばかりに彼のいる部屋へ行った鈴は、ふと昔に約束したという言葉を彼に思い出させたという。

 

「ほんと意味わかんない!なんなのよ、あのバカ一夏!何が『鈴の料理スキルが上達したら毎日俺に飯を奢ってくれる』よ!ありえない!」

 

 鈴は胡坐をかき、枕を抱き寄せながら愚痴った。

 ”私の料理スキルが上達したら一夏に毎日酢豚を作る”それが、彼女と一夏との間に結ばれた約束だった。当時まだ日本にいたころ、彼女の料理の腕前はお世辞にも上手だとは言えなかったらしい。事あるごとに彼女の作る酢豚を食べてもらっては織斑一夏から味付けをあーだこーだ言われてもらったりしたそうだ。

 そして、彼女が日本から離れることになった時に互いにそう約束していたそうだ。

 

「日本の言葉で「毎日俺に味噌汁を作ってくれ」というプロポーズに倣ってあなたが彼に作ってあげたい、酢豚に置き換えてプロポーズをしたと。あなたらしくなく、粋なことを言いますね」

 

「何よ、あんたも私のことを馬鹿にする気?」

 

 鈴は頬を膨らませ、こちらをギロリと睨む。

 

「とんでもない、そうじゃないですよ。とってもロマンチストだなって思っただけです。そんな約束ができて羨ましいなって」

 

 鈴みたいな素敵な約束をしてみたい、と少しだけ拗ねてしまう私がいた。

 私にだって誰かとの約束くらいしたことがあるものの、彼女ほど胸がときめくようなものではない。

 

「そう…ならいいけど」

 

 観念したのか、鈴はぷいと私から目をそらす。顔をしかめ、眉をひそめる彼女の暗い表情は今の彼女には似合わない。なぜかそう思った。だから、私は靴を脱ぎ捨て彼女の後ろへ回り込んだ。

 

「…なによ?」

 

「えいっ」

 

 そして、そのまま彼女に抱き着いた。

 

「ちょっと何するのよ!離れなさい!」

 

「えーいいじゃないですかーさっき抱き心地が良かったんですよ」

 

 暴れる彼女をなだめながら全身で彼女の体を味わう。私よりも少しだけ体格の小さい彼女の体は私の両腕にすっぽりと収まり、柔らかな肌や髪や服からこぼれ落ちる匂いを堪能する。

 

「鈴が暗くなっているのは似合わないですよ。あなたは元気な方が似合っています」

 

「…。私だっていっつも元気はつらつな完璧超人じゃないわよっと」

 

 ふと少しだけ思考を停止させた鈴は、不満気に話すと私の腕からするりと抜け出す。

 

「というか、あんたらしくなくじゃない。どうしたのよ、急に抱き着くなんて」

 

 鈴はベッドに座っている私を向き、仁王立ちするように立つ。

 確かに鈴の言う通り、いつもはこんなスキンシップは取らない。だが、あの時。鈴が私に抱き着いた時に一瞬だけどこか懐かしい感覚を覚えたのだ。それの正体はいまだに思い出せないでいる。

 

「んー。…なんとなく?」

 

 私の返答に鈴は眉をへの字にする。

 

「はい?何それ」

 

「私自身もよく分からないんですけど…。あれです。鈴が元気になればいいなぁって。そっちの鈴が可愛いし」

 

「何言ってんのよ、バカじゃないの。あんなんで元気になるわけないじゃない。むしろ暑苦しくて嫌だったわ」

 

 どうも彼女は気に入ってくれなかったようだ。少しきつく抱きしめすぎただろうか…。

 

 「…まあでも、ありがとね」

 

 

「…何か言いました?」

 

「…!何でもないわよ!あーあバカ一夏のことがなんかどうでもよくなったし、食堂に行きましょ。あんたもまだでしょ?」

 

 時刻を見てみれば、既に19時を回ろうとしておりラストオーダーまでのタイムリミットは始まっていた。

 

「そうね、行きましょう」

 

 いつもの鈴に戻ってくれて一安心した私は脱いだ靴を履き、準備をする。先に扉へと歩いていった、鈴は何かを思い出したかのように私に提案を持ち掛けてきた。

 

「あのさ、クリスタ」

 

「んー?何ですか?」

 

「クリスタってさ、確かISの整備出来るんだよね」

 

「ええ、出来ますけど。それがどうかしましたか?」

 

鈴は手をモジモジと遊びつつ、視線を右往左往させる。

 

「今度のクラス代表戦でバカ一夏をとことんぶちのめしたいからさ、ISの調整に付き合ってくれない?…その私そういうの上手じゃないから」

 

 扉に寄りかかり、上目遣いでこちらを見ていた。

 結局のところ、彼女の行動の先に行きつくのは彼の存在だった。言わずもがな、協力しないわけにはいかない。それに女の子の約束を都合よく解釈をする輩にはお灸をすえなければならないのだ。

 

「ええ、もちろん協力しますよ。約束です」

 

「うん、約束ね!」

 

 鈴は笑顔で私に応えてくれた。

 やはり、彼女には笑顔が似合っている。

 

 

 




いつもアクセスありがとうございます!  元大盗賊です。




今回の話は、元々温めていたものでしたので早めに書き上げることが出来ました!





それではみなさん良いお年を(`・ω・´)ゞ


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第8話 動き出した針

 

 

 広く作られた静かな応接室には、二人の人がいた。

 

「うん、いつもは紅茶を作らせているけれど、コーヒーを淹れるのも上手だね。もしかして才能があったりするのかな?」

 

 きっちりとした紺のスーツを着た男性は応接室に設置されているソファーに座り、飲んだコーヒーの感想を言った。

 

「気に入ってもらえて何よりです」

 

 その男性の座るソファーの近くに、一人の若い茶髪の男性が立っていた。

 

 若い男性は黒い執事服を着ていた。今はジャケットを身に着けておらず、Yシャツの上から灰色のベストを羽織っている。中肉中背で良く言えば、なりたての執事。悪く言えば、不釣り合いな格好をしている男性であった。

 

 コーヒーを飲んでいた男性は、コーヒーを飲みながら部屋の周囲を見渡す。部屋には窓はなく、天井に付いているライトが白く塗られた壁の部屋を明るく照らしていた。ソファーが二つ、お互いを向き合うように置かれ、その間にはコーヒーの入った入れ物が置かれているテーブルがあった。また、部屋にはコーヒーカップや皿の入っている食器棚が、部屋の角には観葉植物がある。

 

「この部屋には、私以外にも誰かを入れたりしているのかな?」

 

 男性は湯気の立つコーヒーを飲みながら質問をする。

 

「そうですね、所長以外にも()()()()がちょくちょく来られます。正確には勝手に入ってくる、と言ったほうが近い意味になるでしょうか。その時に飲み物をお出ししています。皆さん、いつも不思議な顔をしながら美味しそうに飲んでいただいているので淹れる私としては嬉しい限りです」

 

 執事の男性はにっこりとした表情をして答えた。

 

 所長と呼ばれた男性は、そうかと一言言う。そして、コーヒーカップをソーサーの上に置き、右腕にある腕時計の時間を確認する。

 

「もう行かれますか?」

 

「ああ、そろそろ行く時間になるね。残念ながらこのままゆっくり、くつろぐわけにはいかないな」

 

 その後所長は、近くに置いてあった鞄からタブレットを取り出して何か操作をする。

 

 

「そういえば彼女、どうやらクラス代表にはなり損なったそうですね。折角の機会を」

 

 しばらく間を置き、執事の男性が少し嫌味を込めて、思い出したかのように話を始めた。

 

「ああ、別に心配することはないさ。彼女は十分に仕事をこなしている。クラス代表はあくまでもおまけだ。焦るほどの事でもないよ。彼女には予定通りのことをしてもらえればいい」

 

 所長は引き続き、タブレットを操作しながら話した。

 

「それとも、特別急がなければいけない理由でもあるのかね?」

 

 そして、タブレットから目を離し、執事の男性へ視線を移動させる。

 

「いいえ、そういうことは一切ありません。ただ、目の前にあるチャンスを彼女の力不足が原因で見過ごしてしまったのです。このことに私は…」

 

「さっき言ったじゃないか、心配することはないって。それに、彼女がクラス代表になろうとそうでなかろうと、私が、IS学園へ行ってあそこのIS達を見られることには変わりない。今年の一年の生徒のIS操縦を見るのは楽しみだ。なんせ、いつもより専用機持ちが多いからね」

 

 所長は頬が緩んだ表情をして話す。

 

「…」

 

「…どうしたかね?」

 

「いえ、所長は彼女に少々甘い対応をしているのではないかと思いまして」

 

「…そうか、それは気のせいではないかな?本人の能力は申し分ない程だよ。それにISも。まだ軌道に乗っていないだけだ。あそこで色々学んで強くなればいい。そもそも、本来の目的とは異なっている。あの子には戦闘をさせるような指示を出したわけではないからね。もしかしたら重要な情報が得られるかもしれない、という可能性があっただけだ」

 

 所長は執事の男性へ、優しく説明するように話をする。これには、執事の男性も先程の威勢はどこへやら、すっかり黙り込んでしまった。

 

「ちなみに、こんなことわざがあるのは知っているかな?二兎を追う者は一兎をも得ず」

 

「…」

 

「自分の欲しい物両方を得ようと欲張ったら、結局どちらも得られなかったということわざだ。つまりは、欲張ってはいけないということだね。…時には、例え大事なものであっても取捨選択をするということは重要な選択だ」

 

 所長は、コーヒーの入ったカップを見ながら説明をした。

 

「そうでしたか。所長がそう思うのであれば、私はただあなたに従うだけです」

 

 執事の男性は、しっかりと所長を見ながら答えた。

 

 

 

「ふう、美味しかったよ。また作ってくれ」

 

 飲んでいたコーヒーカップとソーサーを名残惜しそうに執事の男性へ差し出す。それを見た執事の男性は所長からそれらを受け取った。

 

 所長は、ソファーの近くに置いてあった鞄を取り、上着を羽織って応接室にある扉へと向かう。扉を開けようとしたとき、所長は足を止め振り返り、片づけをしている執事の男性の方を向いた。

 

「そうそう、いつも通りお願いね。私が()()()を見てみたが、あれから順調に進んでいるようだ。もう私が一々確認しなくても大丈夫かな?もう少しで最終段階だ、引き続きお前が最後までやってくれ」

 

 先程話をしていた時よりも少し真面目な口調で所長は話す。

 

「はい、あれからは何も起きていませんのでご安心ください。後はお任せを」

 

 執事の男性は、手を胸に当て礼をする。

 

「そうか、頼んだよ。フロスト」

 

「了解致しました。マスター」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クラス代表戦当日。IS学園の第二アリーナでは、学年別クラス対抗リーグ戦が行われていた。会場には、IS学園の生徒のみならずIS関連企業の人や、国のお偉いさんなどのVIPもアリーナで観戦をするそうだ。おそらく、彼らの大半の目的は織斑一夏だろう。彼が世界初の男性操縦者として紹介されIS学園への入学以降、彼に関する一切新しい情報が外へ伝えられなかった。そして、今回の対抗リーグ戦で初めてISを動かす様子が見られるのだ。これを逃すわけにはいかないだろう。

 

 そして私はというとただ試合を観戦する…というわけにはいかず玲菜と一緒に新聞部としての活動をしていた。

 

 私たちしかいない一年生の初の大仕事として、IS学園の生徒へのインタビューや観客席の風景。そして出場する一年のクラス代表へのインタビューをすることを課せられた。薫さん以下上級生の方々は、クラス代表戦の試合映像の収録をするためにと、管制室で作業をしているらしい。

 

 

 

「あー!もう試合始まっているじゃん!クリスタ、早く座ってみよう!」

 

「そうですね。急ぎましょう」

 

 私たちがアリーナに入ると、既に一組と二組の試合が始まっていた。私たちは試合の始まる前に観客席の風景写真と、三組と四組のクラス代表へのインタビューを終えていた。残るは、開幕戦後に鈴と織斑への取材のみだった。この試合が終わった後に二人へ取材をすれば、その後はゆっくり、他の試合を観戦するだけだ。私は玲菜の後を追い、座れる席を探していると、ぽっかりと二席だけ空いているところがあった。

 

「お、あったあった!クリスタ、こっちよ!」

 

「あら、丁度良く席が空いているものですね。助かります」

 

「まあ、私が指定しておいたからねぇ」

 

 玲菜は当たり前のことのように私へ説明してくれた。アリーナは全席自由席のはずなのに…。とりあえず、座れることには越したことはない。先程の発言には、言及しないでおこうと思いながら一緒に座る。

 

 アリーナでは、鈴が衝撃砲を使い、織斑を翻弄していた。

 

「おお、鈴ちゃん頑張っているね!織斑くんにも頑張ってほしいけれど、二組が優勝してもらわないと困るのよね…」

 

「ええ、そうね」

 

 玲菜の発言に私も同意する。

 

「だってねぇ…?」

 

「学食デザート半年フリーパスには代えられませんからね」

 

 そう、優勝賞品がかかっているのだ。背に腹は代えられない。優勝賞品を使い、どんなデザートを堪能しようかと考えながら、二人の試合を見ていた。

 

 

 その後、試合を見ていると甲龍の龍砲に見慣れたのか、織斑は見事に衝撃砲を躱していた。また、青龍刀から繰り出される斬撃もひらりとバックステップで躱したり、雪片Ⅱ型できちんといなしていたりした。最初に見ていた頃より、鈴との戦闘に慣れた雰囲気だった。またしても、戦うたびに成長している、そんな印象を受ける。その時だった。

 

 織斑が鈴の視線から外れ、後ろの間合いを取ったのだ。急速に鈴へと近づき、右手に持つ雪片Ⅱ型で下段から切りかかる。

 

 そのはずだった。だが、鈴への攻撃は届かなかった。なぜなら…。

 

 

 

「何、地震!?」

「攻撃がそれたの…」

 

 周りからはがやがやと生徒たちの会話が聞こえる。

 

 突如、アリーナのグラウンドに何かがぶつかり、大きな衝撃と熱風、そして轟音がアリーナ全体を震わせたのだ。

 

 

 今目の前では、グラウンドのちょうど真ん中あたりからとてつもなく大きな黒煙がもくもくと上がり、爆発により出来上がった大きな炎が唸りを上げている。

 

 

 あの衝撃の正体何なのだろうか。

 甲龍にはあれほどの威力を持った兵器は存在しない。それに、白式に至っては雪片Ⅱ型の一本のみだ。あのような機能を持つものではない。じゃあ一体…。

 

 

『アリーナ内に異常が発生。観客席にいる皆さまは直ちに避難を開始してください。アリーナ内に異常が発生。観客席にいる皆さまは直ちに避難を開始してください』

 

 唐突にアリーナにあるスピーカーから抑揚のない、機械じみた声でアナウンスが何度も繰り返された。そして一瞬だけ、観客席にから聞こえた声がなくなる。グラウンドから上がる火の手の音と、アナウンスだけが耳に入ってきた。

 

 そして

 

 

 その静寂を切り裂くかのように、それは悲鳴へと変わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 丁度衝撃が起きた頃。その衝撃は、第二アリーナの管制室からでも確認が出来た。

 

「システム破損!何かがアリーナの遮断シールドを貫通してきたみたいです!」

 

 目の前のディスプレイに表示されている警告文を、山田先生が読み上げる。

 

「試合中止!織斑、凰!直ちに避難しろ!」

 

 その言葉を聞いた織斑先生は、ISのプライベートチャンネルを通して二人へ話す。

 

 管制室の正面モニターでは、システムが発動し、アリーナの観客席に備え付けられている遮断シールドの上から防護壁が天井から降りている様子が映し出されている。

 

「何とか、システムが作動しました!これで…」

 

 山田先生が何か言いかけたその突如、通信が入り女性の声が聞こえてきた。

 

「織斑先生、大変です!」

 

 焦っているのか、女性の声が震えていた。

 

「どうした、中井先生。こちらは今…」

 

「クラス代表の人たちが練習をしていた第三アリーナが、正体不明のISによる襲撃を受けています!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは突然だった。

 

 何かの衝撃が起きたかと思えば、天井にある遮断シールドはぽっかりと大きな穴が開いていた。管制室では、映像でその様子がすぐ確認できる。アリーナ内のグラウンドからは、大きな黒煙が上がり、一部炎が上がっている。その煙が上がっているクレーターの中心には黒いもの、人型がいた。異様に肥大しごつごつとしている腕と脚。その、大きな腕と脚は全身が装甲で覆われた人の手足にくっついていた。

 

「IS…?」

 

 赤いリボンを制服に付けている、眼鏡をかけた生徒は、思いもよらぬものに驚く。アリーナの全体を映すモニターには、アリーナ内で最終チェックをしていたクラス代表の人たちと突如現れた謎のISとが戦闘を繰り広げていた。

 

「へぇ~、ISか~」

 

 その隣にいた、黄色いネクタイをしている生徒がつぶやく。

 

「アリーナの天井はISの出入り口じゃないのに…とんだうっかりさんね」

 

 胸のあたりで腕を組み、行われている戦闘をモニター越しに見ていた。

 

「そんな非常識な人には、お仕置きが必要ね」

 

 右手に持っていた扇子を広げると、扇の中心には『成敗』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、同時にIS二機による攻撃…。そちらの状況は?」

 

 織斑先生は、顔をしかめ第三アリーナの状況を聞こうとする。

 

「こちらはクラス代表の人たちがいるので彼女らに対応を任せています。しばらくしたら、教師による部隊も到着します。相手は一機であるので、数からしてこちらが有利です。直ちに敵の武装を解除できるでしょう」

 

「そうか、わかった。そちらは任せたぞ」

 

「はい、では」

 

 織斑先生が通信を切る。そして、視線を山田先生へ向けた。

 

「もしもし織斑君?もしもし、織斑君聞こえますか?凰さんも、聞いています!?」

 

 焦った声で通信をしているようであった。

 

「本人らがやると言っているのだ。やらせてみるものいいだろう。」

 

 織斑先生が、そう唐突に提案をしだした。

 

「お、織斑先生…!何を呑気な事を…!」

 

「先生!ただここで見ているわけにはいきませんわ!私にISの使用許可を!すぐに出撃できます!」

 

 セシリアが、織斑先生に一夏と鈴の戦闘に参戦するよう訴えた。

 

「そうしたいところだが、これを見ろ」

 

 織斑先生が正面に映し出されているモニターに目線を向けるように言った。モニターを見てみるとその画面には、『第二アリーナ ステータスチェック』という題名が付けられていた。その下には色々な文字の表示がされ、遮断シールドLV4と『ALL GATE: LOCKED』という文字が映し出されている。

 

「遮断シールドが全てレベル4に設定…」

 

「しかも扉が全てロック…まさかあのISの仕業?」

 

 セシリアは驚きを隠せない、という表情をしていた。

 

「そのようだ。これだとあいつらが避難することも私たちが救援に行くこともすぐには出来ない」

 

「でしたら、外部から救助の要請を!」

 

「要請はもうしている。すぐに動いてもらいたいものだが、先程聞いていた通りリーグ戦の最終調整用に開放をしていた第三アリーナでもこちらと同時に襲撃に遭っている。人員を分担して、救助をするようにはしているが遮断され手間暇がかかる分こちらの救助には時間がかかるだろう。遮断シールドのロックを解除すれば、教師による部隊をすぐに突入させる。どちらにせよ、今の状況ではあいつらに救援できることはできない」

 

「そんな…」

 

 織斑先生からの説明を受け、セシリアはがっくりとうなだれてしまった。

 

 

 私には、セシリアのように専用機を持っていない。だから、一夏と一緒に戦う事すらままならない。何もできないでただ見ているだけなんて嫌だ。そんな気持ちが私の心を苦しめる。

 

 

 では、私には何が出来るのだろうか。先生方やセシリアのように画面越しに一夏たちを見ているだけでいいのだろうか。

 

 

 

 私はあいつの幼馴染だ。何かあいつのためにしてやりたい。私だからこそ…。

 

 

 

 

 

 気が付くと、私の体が先に動いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドアを何度も、何度もドンドンと強くたたく音。泣き叫ぶ声。人口密度が高くなり、むしむしとした空気。そして、薄暗く光る橙色の灯りがさらに、避難する私たちを焦らせる。

 

 アナウンスを聞き、私たちは誘導灯に従いアリーナから出ようとした。だが、避難口には既に、多くの生徒が足止めを食らっていたのだ。時折起こる振動によって、ますます生徒たちの不安を駆り立てる。

 

 アリーナの観客席には遮断シールドとさらに防護壁が備え付けられているはずだ。それに、アリーナの壁は並大抵の武装では壊しきれない設計になっている。その壁が何個も中心にあるグラウンドとの間にあるのだ、グラウンドで見た爆発物の正体はわからないが出口付近にいれば少しは安全だろう。

 

 

 袖を引っ張られる間隔を覚え、振り返ると玲菜が不安な顔をしてこちらを見ていた。

 

「どうしました?」

 

「あのね、一組の子からさ、安否が確認できない人がいるって言われたの…」

 

 玲菜の近くには、一組の人と思われる人たちがいた。

 

「セシリアさんと篠ノ之さんがアリーナの観客席にいなくてさ…」

「私たちみたくどこかに避難していればいいのだけれど、全く情報がわからなくて…。でも、二人が先生に連れられてどっかに行くのは見たの、私!」

「それでね、あなたにせっしーたちと連絡が取れないかなって…」

 

 どうやら、行方が分からない人の捜索を手伝ってほしいという事だ。

 

「分かりました。ちょっと待ってください」

 

 そう私が言うと、頭に付けていたゴーグルに触れ、プライベートチャンネルを使えるようにする。先生がいるという事は、おそらく…。

 

 

 そして、私は先生がいると思われる管制室との通信を試みた。

 

『この信号コードはサンドロック…二組のハーゼンバインさん?』

 

「そうです。二組のクリスタ・ハーゼンバインです。っと悠長に自己紹介をしている場合じゃありません。今、私は第二アリーナの出口付近にいるのですが…」

 

『ハーゼンバインか、今は出口にいるのだな?」

 

 すると、唐突に話し相手がブリュンヒルデに変わる。

 

「お、織斑先生?…ええ、そうです。避難誘導に従い出口へやってきたのはいいのですが、全くドアが反応しなくて足止めを…」

 

『そうか、おそらく出口が封鎖されているようだが、それはアリーナのシステムの故障によるものだ。すぐには出られないだろう。システムクラックを行い、こちらで脱出が出来るようにする。もうしばらくの辛抱だ。待っていてほしい』

 

「なるほど。大体起こっている状況はわかりました。それで、私がそちらへ通信をした理由なのですが、どうやら一組で行方が分からない人がいるらしくて…」

 

『篠ノ之とオルコットのことか?』

 

「はい、そうです。その二人は今どこに?先生に連れられてどこかへ行ったという目撃証言があったのですが」

 

『そうか…。二人は今、私たちと一緒に管制室に…』

 

 ブリュンヒルデが何か言いかけた時、突然声が聞こえなくなった。

 

「織斑先生?…どうしました?」

 

 しばらくすると、再びプライベートチャンネルから反応があった。

 

『ああ、オルコットは今ここにいる。だが、篠ノ之はどこかへ行ってしまった…。全くさっきまでここにいたのに、どこに行った!?』

 

 少し、怒った口調で説明をする。

 

『今、オルコットには篠ノ之を探させた。お前は出口付近で足止めを食らっていてどうしようもないだろう。そこでお願いなのだが、お前も篠ノ之を探すのを手伝ってくれないか?』

 

 

 






どうも、新キャラを出して浮かれていたら文字数が7000を突破した元大盗賊です。



文字数って皆さんは読むとき気にする方でしょうかね?多いとか少ないとか。




そして最後に、お気に入り登録をしてくれた方ありがとうございます!感謝です(`・ω・´)ゞ


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第9話 変わりゆく時間

 

 

 橙色に灯された薄暗い廊下を私はISの部分展開し、篠ノ之の捜索をしていた。

 

 

 

 

『扉がロックされているから、そう遠くまでは行っていないはずだ。万が一戦闘中のアリーナの近くまで行かれては困る。全くあいつは何を考えているのだ…。とにかく頼んだぞ』

 

 ブリュンヒルデに頼まれた私は特に断る理由もなくあっさりと了承した。そして、玲奈と一緒にいた一組の人たちへ事情を説明した後、人混みの中をくぐり抜け再びアリーナへと戻っていった。

 

 封鎖されている区間はある程度把握している。元々、アリーナの構造を知っていたという事もあるが、アリーナの管理システムへアクセスしても確認できていた。解放されている区間から見ると、彼女がする行動として選択肢は絞られてくる。先生方のいる安全な管制室からわざわざ飛び出したのだ。あのまま、一般の生徒と一緒に出口へ避難することはないだろう。

 

 それに彼女は織斑一夏へ執着しているという傾向があるようだ。同じルームメイトでもあり、幼馴染でもあるということは知っている。そんな彼女がアリーナで起きている騒動に巻き込まれている彼がことを心配しないわけがない。そうであるならば、残された選択肢としてアリーナで行われている騒動を直に見に行ったとしか考えられない。

 

 

 

 

 

「ISによる襲撃か…」

 

 私はブリュンヒルデから聞かされた話を思い出し、言葉をこぼした。

 

 篠ノ之を捜索するにあたり、現在アリーナ内で起きている状況を説明された。

 何でも、アリーナ内に進入した正体不明のISが今回の騒動の発端であると。さらに、それはアリーナの遮断シールドを破損させる程の威力を持つ武器を持っているとの事だ。今は織斑と鈴の二人が迎撃にあたっている、とも言われた。

 

 クラス代表戦にISを使って襲撃するという話は全く聞いていない。つまり、亡国企業ではないどこか別の人たちによって起こされたものだろう。でも一体何が目的なのだろうか…。

 ISの奪取?だが、装着しているISを奪うことは非常に困難だ。もし奪うならば、IS学園の整備室などに置かれている練習用のISを狙ったほうが容易である。人の目につくイベント中に行うなど無謀に近い。

 そうなると、私と考えが同じように、織斑のISとの戦闘データの収集?しかし、わざわざ単騎でIS学園へ乗り込むまでのリスクを伴ってまでするだろうか?帰還して戦闘データを回収する事は困難、さらにIS操縦者とISが捕まってしまえば戦力を失うという問題があり、最悪自分たちの組織がばれてしまう。これといっていいほど敵ISの目的の見当がつかなかった。

 

 

 私は目的地であるISの二つある発射口の一つ、Aピットへと到着した。予想としていた通り、Aピットへの道のりは封鎖されておらず、そのまま入ることが出来た。そして、不用心にもAピットの入り口、つまりアリーナへのカタパルトは封鎖されていなかった。Aピットの地面には土埃が積もっており、元々置かれていた備品があちこちに飛散している。しかし、ここには篠ノ之はいなかった。

 

 そしてここからアリーナ全体を見渡すことが出来た。

 

 アリーナの中は酷い有様であった。グラウンドの所々から黒煙が出ており、時折炎が見える。ぽっかりと空いたアリーナの天井に配備されていたシールドバリアからはグラウンドに立ち込めている煙が外へ流れていく。その真下には大きなクレーターが出来ており、中心には今回の騒動の原因であろう黒いISがいた。そして、そのISはそこから少し離れた上空にいる鈴と織斑をじっと見つめていた。

 

『全力でって…』

 

『零落白夜…雪片Ⅱ型の全力攻撃だ。こいつの攻撃力はきっと高すぎるのだ。でも、相手が無人機なら全力で攻撃が出来る』

 

 ふと、部分展開していたハイパーセンサより二人の会話が聞こえてきた。

 

 無人機?一体何をバカげたことを言っているのだ。そう、あまりにも飛躍していた解釈をしている彼に私には少し困惑した。

 

 ISは女性が乗ってこそ動くもの。第一あの黒いISも全身装甲ではあるが、人の形をしている。夢物語であるような素晴らしいものは今までに発表もおろか開発・研究もされていない。それもそのはず、ISコアはブラックボックス化されておりその仕組みが分からないまま運用されている。何故ISは女性にしか反応しないのか、という疑問もこのブラックボックス化されていることが原因である。なので、人以外ましてや機械にISを動かすなどもってのほかだ。

 

 こうして彼への考えに疑問を持つ間に2人は鈴が龍砲を最大威力で攻撃、織斑が零落白夜での攻撃をしようと作戦を立てていく。それにしても、あの黒いISは二人が作戦会議中にも関わらず、全く攻撃をしようというそぶりが見えなかった。何故だろうと思っていた矢先だった。

 

 

「一夏ぁ!」

 

 ふと大きな声で織斑を呼ぶ声が聞こえてきた。そしてハイパーセンサが捉えたのは私のいるAピットとは反対側のBピットの端から叫ぶ篠ノ之であった。

 

「男なら、男なら!その程度の敵に勝てなくて何とする!」

 

 

 

 彼女はきっと織斑へ激励をするために管制室から勇気を振り絞って飛び出したのだろう。だが、今の状況を全く分かっていない。正体不明のISと交戦している、つまりここではスポーツ競技をしているのではない。ここでは、IS同士で()()をしているのだから。そこへ何も身を守るもの持っていない人がやってきたらどうなるだろうか。

 

 

 黒いISはその声に反応し、体を篠ノ之のいるピットへ向ける。あれの注目を集めてしまった。

 

 私は彼女を助けるべくピットから走り出し、すぐさまアリーナ内へ飛び込む。体全身に冷たい風浴びながら、重力に身を任せて降りている空中でサンドロックを完全に展開させる。

 

 黒いISは両腕を篠ノ之箒へ向ける。ハイパーセンサからはその両腕から熱源を感知した。

 

「まずい…!箒、逃げろ!」

 

 織斑は大声で叫ぶが、篠ノ之は恐怖で怯み身動きが取れていなかった。私はマシンガンをコールし、黒いISへ全速力で近づきながら撃つ。

 

 少し射程距離外ではあるがマシンガンの弾がヤツへ命中しているものの、私へ興味を引くことはなかった。

 

「くっ、それならば…!」

 

 マシンガンをしまい、ヒートショーテルをコールした時だった。突如ヤツの目の前に白い物体が現れた。白式だった。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近づいた白式はその勢いを殺さずに雪片Ⅱ型で上段から斬り付ける。

 

 その攻撃に対抗しようと、ヤツは熱源の発射をやめ、右腕を白式へ振りかざす。だが、その攻撃は白式には当たらず空を切る。そして雪片Ⅱ型の刃はその右腕を斬り裂いた。

 

 ヤツの斬られた右腕からは何か赤い液体が噴き出す。だがそんな事なんて気にしないのか、すぐさま体をひねり左腕で白式を思いっ切り殴りつけた。

 

 

 

 ヤツの斬り裂かれた右腕からはISの装備を伝わり、赤い液体がまだぽたぽたと地球の重力に逆らえずに地面へと吸い込まれていく。そして切り離された右腕からもまだ残っていたのであろう赤い液体が地面を赤い水たまりへと変えていっていた。

 

 

 

 何て痛々しいのだろう。脳裏に何かがちらつく。私の視界が揺らぎ、その赤くドロッとした液体へ目を奪われた。見るからに、ISの絶対防御を貫通した攻撃をヤツは受けている。零落白夜が発動しても操縦者の身は守られるはずだ。だがそんな事なんてどうでもいい。ヤツはそんな事なんて気にせずにすぐに左腕を使って対処をしていた。

 

 痛くないのだろうか。

 

 辛くないのだろうか。

 

 恐怖を感じないのだろうか。

 

 右手首から先がなくなっているのに。それに動揺せずにいられるなんて。

 

 慣れているのだろうか。それ相応の覚悟を決めて戦っているのだろうか。

 

 それとも…?

 

 

 

 

 何だろう。いつのまにか忘れ去られてしまった、自分にとって大切な気持ちが私の中からこみあげ、全身を駆け巡り、私の体を優しく包み込む。何なのだろう。悲しい気持ち?楽しい気持ち?思わず、手に握る物に力が入る。

 

 

 私にとってぽわぽわと懐かしく心地良い気持ちに浸っていた時だった。

 

「譁�ュ、怜喧縺代ヱ繧ソ繝シ繝ウ?」

 

 何かの声が聞こえてくる。誰だろう、なんて言っているかが良く分からないや。視線を下に向けるとそいつはいた。そうか、あれが敵か。

 

「Fiend…」

 

 敵…敵。私の敵。その敵は右手首から先がなく、赤い液体をばらまきながら白いISへとゆっくりと近づいていた。

 

 

 そっか…アレは私がやってもいいものなのだね。なら私も…斬っちゃおうか。

 

 

 

 

 

 両手に持ったヒートショーテルを私は投擲する。それは、私の思い描くように飛んでいき敵の左腕、手の甲と腕の関節辺りに深く貫く。

 

 

 やっぱりそうだ。アレはシールドバリアが発動していない。

 

 

 すぐさまマシンガンを呼び出し、ヒートショーテルへ撃つ。

 

 

 マシンガンから放たれた弾丸は、ヤツの周辺に着弾して、遂にヒートショーテルへと届くと爆発を起こした。

 

 

 その衝撃に耐えられなかったのか敵は、よろめきその場で立ち止まる。そして敵は私の方へと振り向く。

 

 

 そして初めてロックオンの警告がされた。

 

 

 やっとだ。やっと私の事を見てくれた。私の事に気づいてくれた。これほど嬉しいことはない。

 

 

 やっと私の事をあなたの敵だと思ってくれた。そうじゃないとお互いに楽しくないからね。これから私と一緒に遊ぶのだから。

 

 

 私は再びヒートショーテルを持つと全身のブーストを切り、自由落下をして上空から地面へと近づく。

 

 

 敵は両肩部から拡散ビーム砲を私にめがけて放つ。その攻撃を私は左手の盾で防ぐ。

 

 

 地面へと降りると私はヒートショーテルの刃の部分に熱を放たせる。

 

 

 私も斬りたい。斬りたい。斬りたい。斬りたい。アレのように斬り裂きたい。もっとあの赤い液体を見ていたい。全身に浴びたい。

 

 

 

 

 

 ヒートショーテルを構えると、敵に向かってホバー移動で白いISがしたように近づく。

 

 

 斬り裂かれた相手の表情を見たい。声を聴きたい。どんな顔をするのかな?どんな歌を聞かせてくれるのかな?でも…

 

 

 

 

 

 目の前から拡散ビームが撃たれる中、通常の二回分のエネルギーで直線加速をしたスピードに乗せ、敵の脚部を斬り裂いた。

 

 全身装甲(フルスキン)だし、さっきも何も動じなかったし楽しめられないなぁ。残念。

 

 

 

 

 

 何か大きな金属音が聞こえる。振り返ると、バランスを崩した敵はその場で倒れていた。斬り裂かれた左足からは赤い液体が染み出ており、自分の体にも赤い液体が付着していた。思わず笑みがこぼれる。

 

 ふとロックオンがまだ続いていることに気づく。

 

 まだ、生きているなんてタフだね。

 

 私は敵へと飛び、仰向けになっている敵に馬乗りする。まだ熱のこもっているヒートショーテルで相手の両肩部の拡散ビーム砲の発射口へ刃の先をねじ込む。ぐりぐりと差し込んでいるとバチバチと発射口から煙が上がった。

 

 ふと、両手が動き出しそうであったのですぐさま拡散ビーム砲に刺していたヒートショーテルから手を放し、同じものをコール。

 

 刃から熱を発生させ、敵の両腕を同時に斬りつける。さらに敵が起き上がろうとするので、ブーストを全力でふかし、刃で斬りつけながら抑え込む。

 

 熱のこもった刃に耐えられなかったのか敵の両腕は切断され、そしてまたしても赤い液体が飛び出てきた。白かった私の腕や胴体に新たな赤い模様を作り出す。

 

 無駄な抵抗をしなければ切断しなかったのに。

 

 活動時間の限界なのだろうか、敵の抵抗がだんだんと弱まってくる。すると、顔のあたりにあるランダムに配置されている赤い光がなくなり、輝きを失っていった。

 

 敵の動きが止まり、ヒートショーテルから手を放す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 敵を斬った腕の切り口を見てみると、中には人のようなものはなく、何かの配線や金属の部品が目に飛び込んできた。そして、赤い液体に染まった手をよくよく見ると、機械で使われるような油のような液体であった。

 

 

 どうやら、このISには人が操縦しない、無人機であるようだ。

 

 敵の殲滅が終わり、どっと体から力が抜け、疲れが押し寄せてくる。さらに、何だがとても吐き気を催すような不愉快な気分が私を襲ってきた。

 

「クリスタ…大丈夫?」

 

 ふと後ろから声をかけられる。

 

 後ろを振り向くと、鈴、そしていつの間にかアリーナへ入ってきていたセシリア・オルコットがISに身を包みこちらを見ていた。そして、私はこう答える。

 

 

「皆さん大丈夫ですか?助けに来ましたよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は気が付くと、右半分の視界には白い天井が見え、左半分の視界には鈴の顔が見えた。鈴は俺に気が付いたのか、すぐさま視界からいなくなる。体を起こし、左側を見ると鈴が椅子に座っていた。

 

「何しているの、お前?」

 

 寝ていた俺の顔に何かついていたのだろうか?

 

「おお、起きたの!?」

 

 とても動揺しながら答える。全く俺の目を見ていなかった。

「何そんなに焦っているのだ?」

 

「焦ってなんかいないわよ。勝手な事を言わないでよ、馬鹿!」

 

 そっか、と一言ぼやく。まあ、特には気にしないが。でも、ちょっとだけ俺の顔に手を当てて何かないかを探した。結局何もなかったが。

 

「あのISはどうなった?」

 

 ふと、俺はそういえば変な無人機のISと戦っていたのだと思い出し、何が起こっていたのかを鈴に聞く。

 

「あの後ね、動かなくなったわ。心配しなくてもいいわよ」

 

「そうか…」

 

 どうやらあの後はどうにかなったらしい。とにかく安心した。

 

 ふとベッドから見える外を眺めると空は茜色に染まっていた。そして俺はあることを思い出した。

 

「なあ、小学校の時、酢豚の話をしたのもこんな夕方だったよな」

 

 そう、小学校の時のことを思い出した。

 

「えっ?」

 

 当の言いだしっぺの本人は驚きを隠せなかった様だ。

 

 そして、酢豚のことの本当の意味を問い質してみたがはぐらかされてしまった。まあ、本人がそれで良いなら気にしないでおこう。そして、同じ酢豚で思い出したのが鈴の親父さんのことだ。親父さんの作ってくれた酢豚はもう格別で、自分が作ってもあの味はまねできないくらいだ。またあの味を食べてみたいな、と鈴へ話を振ると、鈴は先程とは打って変わって表情が暗くなり下をうつむく。

 

「私の両親離婚しちゃったから。もうその願いは叶わないよ」

 

「…」

 

「…これから言うのは単なる独り言ね」

 

 そう鈴は空元気に笑って話し始める。

 

「国に戻った後ね、うちの母親と二人で暮らしていたのだけれど、母親はまだその時まだ職に就くほどの元気がなくてさ…。だからね、私がこのどうしようもないこの空気を打開したかったのよね。また、元気な母親が見たくてさ…」

 

 鈴は俺に目を向けず、窓の外の流れゆく雲の流れをじっと見ていた。

 

「でね、そんなときにISの代表候補生の募集を見かけたのよね!代表候補生になれば、母親が頑張っている私を見て元気になってくれるのかなって。それに、その時貯金を切り崩す生活していてさ、代表候補生はIS操縦の他にもモデルとかタレントとして働いたりして結構稼ぐっていうのも聞いていたからなおさらやってみる価値はあると思ったの。家を助けるためにも」

 

「その考えが思い立ったのが中学3年の時だったかな。その時は千冬さんがIS乗っているとか、ニュースでISを見かけるとか、それくらいの知識しかなかったわ。でも、そりゃ猛勉強したわよ。私の願いを叶えるためにね」

 

「だから…」

「それで、無事に試験は合格。IS適正も「A」。んで、晴れて一年目で専用機をもらえるほどの優等生になったのでしたっ」

 

 鈴はそう言い切ると、座っていた椅子から立ち上がる。俺に表情が見えないように。

 

「ふぅ、すっきりした。やっぱ、どこかで吐き出すものは吐き出しておかないとだめよね!」

 

 そして、鈴は何時ものような元気な顔をしてこちらを向く。

 

 そうだよな、自分の中で悩んでいることをたまにはどこかで発散させないとな。

 

「なあ鈴」

 

「何よ」

 

「今度どっかに遊びに行かないか?」

 

 例えば友達と遊んだりしてさ。

 

「え…それって、でー」

 

 

 

「一夏さーん、具合はいかがですか~?私が看護に…あ、あら」

 

 鈴が何かを言いかけた時、セシリアが俺たちのいる部屋へ入ってきた。そして、入ってきたと同時に身体を止め、口を閉じる。

 

「どうしてあなたが…。一夏さんが起きるまでは抜け駆けは無しだと!」

 

 つかつかと音を立てずにセシリアが鈴の所へ近づいていく。

 

「そういうお前も、一旦自分の部屋に戻ると言いながら、こそこそと抜け駆けしようとしたな…!」

 

 続いて現れたのは、箒だった。いつものようなむすっとした表情でセシリアに続き箒も部屋へと入ってくると三つどもえで喧嘩が始まってしまった。何でそんなに喧嘩をしているのだろうか。お見舞いなら同時に来ればいいのに。なんだか、幼馴染が、とか二組だから、とか良く分からない因縁をつけて三人はいがみ合っていた。どうしたものか…と思ったその時だった。

 

「あ…」

 

「どうした、一夏」

 

「ああ、いやあの変なISと戦っていた時さ、途中でハーゼンバインさんが出てきたじゃん。もしかして、ハーゼンバインさんと一緒にあのISと戦っていたのかなって」

 

 そうだった。あいつに殴られて意識が飛ぶさなか、あのサンドロックとかいうISに乗った彼女が現れていたのだ。

 

「ああ、そのことか。確かにそうだな。あいつがやったよ、全部な」

 

「一人で!?あのIS相手に?」

 

 まさか、と俺は思わず声を上げてしまう。

 

「そうですわ。彼女が一人で…」

 

「そうね。あいつがやったのよ。私が加勢しようにも全く反応してくれないし、そういう雰囲気じゃあなかったわ…。逆に邪魔になると思ってね。私と戦ったときよりも何だか凶悪じみた動きだったからちょっと不気味だったわ。相手が無人機って最初から知っていたのかしら。」

 

「…もしかして、あのISに何か…」

 

 何だかあまり乗り気ではないという表情をする三人に俺は引っかかった。

 

 

 

 

 

 

 鈴とハーゼンバインさんとの模擬戦を見終わり、管制室から出ていこうとしてときだ。

 

「実はお前たちを呼び出したのは、中井先生から頼まれていな。代表候補生と初のIS男性操縦者、そして篠ノ之箒に提言しておきたいと。中井先生はきつく言っているが、クリスタ・ハーゼンバインの使うISにはきちんと調査を終えているからお前たちが心配する必要はない。何せ、最後に起きた事故はVTシステムの時だけで5年も前の事だ。まあ、彼女は国際IS委員会から派遣された人でな、警戒しているのは仕方ない」

 

 千冬姉はそう、俺たちに説明をしてくれたのだ。彼女とそのISは安全だと。ただの見かけ上の行動だと。

 

 

 

「彼女の事は心配いりませんわ」

 

「クリスタは、ISを外した後はいつも通りだったし、先生方に事情聴取をされたけれど私たちも受けたわ。それに既に解放されていたから大丈夫よ」

 

「そっか…。ならよかった」

 

 俺はほっと安堵に着く。

 

「なぜお前はそこまで、あいつのことを気にするのだ?」

 

 ふと箒が、少し不機嫌な顔をして俺に聞いてくる。気にしない訳ないだろう。当たり前じゃないか

 

「だってよ。折角楽しい学園生活を送っているのだぜ。それなのに、危険だのなんだのっていう理由で特別視されて逆の意味で人目置かれるのだぞ。安全だって言われているのに理不尽すぎないか?そんな理由で彼女が迫害されてみろ。俺は絶対に許さない。だからできるなら助けてやりたい。あの子は大丈夫ですって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは暗い部屋だった。

 平らな壁はなく、部屋のあちこちには機械類が置かれていた。そんな開放的な部屋の中心には、黒く、大きなISが置かれそこには強く光が灯されていた。

 

「やはり無人機ですね。登録されていないコアでした」

 

「…そうか」

 

 3台のコンピュータの画面を注視する山田真耶の問いに織斑千冬は一言だけで答える。

 

「お前の方でもダメか」

 

 ふと千冬はそう言うと後ろを振り返る。

 

 その後ろには黄色いネクタイをし、右手に扇子を持つIS学園の生徒がいた。

 

「全然だめですね。私の所で調べてみても全くあのISは一致しませんでした。それに使われていた装甲も特注です。見たこともない素材でした。世界に一つだけのものですね。いや、正確には()()かしら?」

 

 右手に持つ扇子を広げるとそこには『お手上げ』と書かれていた

 

「ふん、そうか」

 

 千冬は報告を聞き終わると、再び、強い光に照らされているコアが登録のされていない不思議なIS()()を見つめていた。

 

 

 

 



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第10話 つかの間の

 

『Kümmere dich nicht um ungelegte Eier.』

 

 これは私の住むドイツの諺の一つだ。直訳すると「まだ生まれていない卵を気にかけるな」日本の諺の、「捕らぬ狸の皮算用」とほぼ同じ意味になる。

 まだ実現していないことを期待しても仕方がない、というやつだ。

 今まさに、私はこの考えであったと痛感している。

 

 

 

 

「学食デザート半年フリーパスの配布中止か…」

 

 私はそうぼやきながら、和菓子フェアの商品の一つである「三種のお団子セット」をぱくつく。

 

 時刻は12時過ぎ。食堂にて昼食を終え、私は一緒に頼んでいたデザートを食べていた。私の座る席の隣には、玲菜も一緒にいた。彼女はテーブルにのべっと頭を乗せてうつ伏せになり、頼んだカフェオレのコップに付いてきたストローで中身をただひたすらにくるくるとかき混ぜていた。

 

「クラス代表戦の取材はお蔵入り…。やっぱりそうなるよねぇ」

 

 当日、初陣だと意気込んでいた彼女はそうぼやく。

 

「仕方ないじゃない。変なISが襲ってきて試合どころじゃなくなったんだし」

 

 私たちの正面にいる鈴がそう言うとラーメンの器を両手に持ち、豪快にスープを飲む。ちなみに魚粉入り醤油ラーメンだ。

 

「しっかしびっくりだよね。IS学園に実験中のISが来るなんて。全くどこの研究所よ。代表戦が中止になるのはいいけど、デザート無料券の恨みは消えないんだから!」

 

 むすっと頬を膨らませて怒りながら言うと、ずずっとストローでカフェオレを飲む。

 

 クラス代表戦で起きた謎の襲撃事件。この影響により、クラス代表戦は鈴と織斑との試合、第一回戦の時点で中止に追い込まれた。もちろん、優勝など決められないため優勝賞品も見送られる。さらに、その被害を受けた第二、第三アリーナは修復作業のために一週間の使用禁止がされた。

 全校生徒へ人が乗っていない謎の無人のISたちが突如襲撃してきた、と説明できるはずもなく実験中のISが暴走したことによって起きた事件であると説明がなされた。単なる嘘であるが何も知らない彼女たちは事故であると分かり、混乱は避けられた。

 

 私は、文句を垂れる玲菜をなだめている鈴の様子を団子パクパクしながら眺める。

 黒ごまのお団子が美味しい。

 

「そういえば、織斑さんの容体はどうなりましたか」

 

 黒ごま団子を食べながら、織斑一夏と親しい鈴に気になっていた事を聞く。彼はあの時、襲ってきた無人ISの攻撃を受けて意識を失っていた。

 

「あー、一夏の事?一夏なら軽い打撲だったみたいで大丈夫そうよ。でも、織斑先生から今日までは保健室で定期的に診てもらうように指示があったみたい。さっきも昼飯を食べた終わった途端に保健室に連れていかれたわ。ちょっと過保護すぎる気があるけど…」

 

鈴はどこか思う所があるのか、ふてくされている玲奈の背中をさすって答えた。

 

 

 

 あのISを倒した後、織斑一夏を除くあの場にいた人たちは先生方から事情聴取がなされた。と言っても、私たちはこの事件の容疑者でもなんでもないため事の経緯の説明と口外をしないようにという口頭注意を受けているだけだった。ついでに無人機と実際に戦闘をした3人のISのデータを拝借された。

 

 ちなみにだが、生身でアリーナのハッチへ飛び出すという自殺行為をした篠ノ之箒は今後このような危険な行為は行わないように、という厳重注意を受けただけの軽い処分であったようだ。なんだか、身内には甘いような気がする。重要保護プログラムの人間だからという理由なのだろうか?

 

「そういえばクリスタ!明日の日曜日の午前にISの使用許可書が下りたんだけど練習に付き合ってくれないかな?ほら、今度学年別トーナメントが控えているし!」

 

 鈴に励まされいつの間にか元気になった玲菜は私の手を握ると期待に満ちた眼差しをこちらへ向ける。

 

 学年別トーナメント。IS学園のイベントで、クラス代表や専用機、一般生徒関係なしに、各学年でそれぞれ優勝を目指すものだ。まだ、トーナメントは先であり今から練習をするとは感心できる。しかしだ。私は彼女のお願いに付き合うことは叶わないだろう。

 

「あぁ…。誘ってくれるのは嬉しいけど、午前ならちょっと用事があるんだ。午後なら大丈夫だけれど」

 

 そっと握られた手を放し、そう彼女へ伝える。

 

「えー、そうなのだ…残念」

 

「ごめんなさいね、家の人と会わなければいけないので」

 

「家の人?そっか、家族の人が日本に来ているのね!なら仕方ないね」

 

「家族…。まあ、ちょっと違いますが大体合っていますね」

 

「え?じゃあ、どういう意味よ」

 

 ラーメンのスープを飲んでいた鈴も気になりだしたのか、私へ問いただす。

 

「家の人と言いますか、使用人と言いますか…とにかく会わなければいけない人がいますので」

 

「使用人…」

 

「使用人って…俗にいうメイドさんとかってやつ?」

 

「ええ、そうですね。そうなります」

 

「…」

「…」

 

 ふと、玲菜はストローとコップを、鈴はラーメンの器を手にしたまま動きが止まる。

 なんだろう。私たちのテーブルの席だけが、少しだけ以前にも遭ったような感覚に襲われた。

 

 

 

「へぇ意外。あんたの所ってすごいのね。金持ちの家はてっきりセシリアみたいなのばっかりだと思っていたわ」

 

「いえ、私の所はそうでもないですよ」

 

「いや、十分クリスタの家すごいから。だってさ、お父さんがクリスタの所属している会社のお偉いさんなんでしょ。びっくりだよ!」

 

 あまり公に話すことでもないと思っていたため、謙遜されてしまっては困ると私の家については誰にも話さない様にはしていた。今回は、私のミスで話してしまったが。だが、二人ともすんなりと受け入れてくれた。

 私の父は、フォルテシモ社の副社長を務める人だ。彼の父、私の祖父にあたる人物は全く別の仕事をしていたようで自分自身の力で副社長の座まで登りつめるくらいすごい人だ。

 

「それで、使用人さんの話なのだけど…」

 

 私の家の事よりも使用人の事が気になって仕方がなかったのか、うずうずしていた玲菜が私へ詳しく聞き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日曜日の朝。寒さは和らぎ、暖かい風が吹くようになった春の下旬。

 

 私はいつも身に付けている見慣れたIS学園の制服ではなく、クローゼットから引っ張り出してきた服に着替えていた。そして手に紙袋を持ち、IS学園と本土を唯一結ぶモノレールに乗り揺られながら待ち合わせている場所へと向かっていた。

 

 向かう場所は「とよさきカフェ」。カフェとしてはもちろんのこと、元パティシエの店主が作るケーキが好評を博している人気店だ。手ごろな値段で美味しい飲み物とケーキ食べられるという事で話題になっている、らしい。

 

 モノレールの路線の隙間から見える変わりゆく海の景色を見ながら、昨日のことを少しだけ思い出す。

 

 

 

 

「私が中等教育を受ける学校の位置関係上、親元を離れて私の叔父の家に住まわせてもらっていました。その時にお世話なったのが使用人の助手さんです」

 

「助手さん…」

 

「助手さんは、元はIS研究者の叔父の助手をしていました。何でも研究者である叔父に憧れていたとか何とか。助手さんが叔父の住む家に住み込みで働くようになってからは家の使用人として働く所しか見ていませんが…。せいぜい、助手としての仕事は叔父に出張だと言われて海外に飛ばされるくらいですね」

 

「話を聞く限りだとその人、あんたの叔父に騙されて雇われた人にしか見えないような…」

 

「それで、その助手さんって人は男の人?女の人?」

 

 玲菜が前かがみの姿勢で聞いてくる。今までよりも食いつき方が違う。

 

「助手さんは男性ですよ」

 

「へぇ。じゃあ執事さんって所かしら。んでさ、その人ってどんな感じの人なの?クリスタより年上?年下?それとこれは重要な事なのだけれどその執事さんってイケメン?」

 

「…私よりは歳は上のはずですよ。容姿は…そうですね、適当に石を投げればぶつけるくらいの普通の人ですよ」

 

 

 

 

 

 

 モノレールから降りて数分後、目的地であるカフェへと到着した。現在の時刻は10時を過ぎたところ。開店してすぐだが、客がちらほらと見えた。カフェの外にはテラスが設置され、外でも食事を楽しむことが出来るようになっている。私は目的の人がいるテラスへ足を進める。

 その人物はテラスの奥の席に座っていた。灰色のスーツに身を包み、ボサボサで少しクセのある短い茶髪、久々に見る何を考えているのか分からなく生気があまり感じられない目をしていた。テーブルの上には身に着けていたと思われるハットと紅茶の入ったカップ、そして5品のケーキが置かれていた。

 

「こんにちは、助手さん。もしかして、ケーキが目的でこの店を選んだのですか?」

 

 対面側の椅子に腰掛け、黙々と右手に皿ごと持ちケーキをかき込んでいる()()に話しかける。

 

「ええ、ここのお店には行っておいた方が良いという情報を見つけましてね。ぜひともクリスタさんにも食べていただきたく。このお店のモンブランは美味しいですよ」

 

 生クリームとフルーツで彩られたケーキを食べていた助手さんは、いつものようににっこりと微笑んで答えた。

 

 

 

「なるほどISは……特に問題もなく稼働していると」

 

 3つ目のケーキ、ショコラケーキをパクパクと美味しそうに食べる助手さんが私へ質問をしていく。

 

「そうなの……メインのサブマシンガンの威力を目につぶれば……他は何ともないけどね」

 

 注文した、特製モンブランを食べながら答えた。

 

「データを見る限りでは……ヒートショーテルも問題なく稼働していますね。これで、十分なデータが揃えられたはずです」

 

 ショコラケーキを食べ終えた助手さんは、鞄から取り出したタブレットに何かを入力していていく。

 

 私の扱うIS、サンドロックのIS自体は第二世代初期に作られたものだが、武器の一つであるヒートショーテルは第三世代ISのデータ収集のために作られた武器だ。これだけは、少しだけ新しい技術が使われており、第二世代と第三世代の間に位置する。ヒートショーテルは、投擲の際に操縦者の狙った所に思うがままに飛んでいくことができる。言わば、自由自在に誘導させることができるのだ。この技術を応用してレーゲン型の武装に反映しているとのこと。

 と、このように便利なものだが、サンドロックでの主なダメージ源はこの新しい技術が盛り込まれているヒートショーテルによる攻撃のみだ。データ収集以外の改造は何一つ施されていないので、よく使うサブマシンガンは5、6年前の品であり学園にいる専用機ISの第三世代には効果が今ひとつ。肩部のミサイルは、威力はあるものの誘導性能は低く相手が近くにいないと使いづらい。

 

「そこのところどうにか出来ない?」

 

「うーん、一応は検討してみます。予算が余っていれば出来るとは思いますが」

 

 助手さんは5つ目のケーキ、赤や黒の様々なベリーがふんだんに散りばめられたケーキを頬張る。

 

 そして助手さんがあれこれケーキの感想を言っているのを見ていた時、ふと私は助手さんへ渡すものがあったと思い出す。

 

「そうだ、ケーキに注目していてすっかり忘れていた」

 

 私は、椅子の近くに置いていた紙袋を膝の上に置く。

 

「ん?何ですかそれは?」

 

 先程のケーキをペロリと平らげた助手さんが私の持つ紙袋に興味を示す。

 

「実は、助手さんがまた出張で日本に飛ばされたと聞きまして。そんな可哀想な助手さんにもせっかくですから日本の文化に触れてもらおうと……はい、これお土産」

 

 私は、助手さんのために持って来たお土産を渡した。助手さんには何かを渡すとは事前に話してはいた。まさか、お土産だとは思っていなかったのか驚きながら、助手さんは私からお土産を受け取る。

 

 久々に見る豆鉄砲を食らったような顔に、私はついつい笑ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「それでは、私はこの辺りで。午後には用事があるから学園に戻るね。助手さんと久々に会えて嬉しかったです」

 

 そう言うとクリスタが立ち上がり笑顔で軽く手を振る。それに答えるように男性は手を振り返した。男性は学園へと向かう彼女の後ろ姿をしばらく見た後、残っていた最後のケーキ、特製モンブランを食べ終えると2人分の会計を済ませ、駐車場に停めている黒いセダンタイプの車へと乗り込んだ。

 

 運転席に座ると、少しだけため息をつく。しばらく美味であったケーキの余韻に浸る。調べ上げていた通り、このお店のケーキはどれも味が良く、何度食べても飽きない甘さに男性は驚かされた。

 

 しばらくして、予定通りに連絡が来る。

 

「…はい」

 

『はーい久々ねぇ、日本での旅行は楽しんでいたかしら?』

 

「そうですね。行きたい場所がありすぎて困ってしまうくらいには」

 

『そお、よかったわ。…彼女からプレゼントはいただいたかしら?』

 

「ええ、もらいましたよ。日本らしくて素敵なものでした」

 

 助手さんと呼ばれていた男性は、袋から中身を取り出す。袋から出てきたものは一膳の箸ともう一つ、小さな黒いICチップだった。

 

『学園での襲撃事件…。一体誰の仕業なのかしらね…。それじゃあ、いつものように私の所へ送ってねぇ。報告内容、楽しみにしているわ』

 

「わかりました。お任せ下さい」

 

 執事の男性はそう答えると、ICチップと一緒に取り出した箸をまじまじと見つめる。

 それは、こげ茶色の木製の箸であった。漆が塗られ、木目の美しさを引き立ていた。

 

『ああ、それと。その作業が終わったら、あなたにはまた出張に行ってもらうわ』

 

「出張、ですか」

 

『お願いねぇ。そうそう、今度はオータムとあなたの所の人達と一緒にフランスに行ってきてもらうわ』

 

 男性は箸だけを袋に戻し、袋ごと助手席へと放り投げる。

 

「了解いたしました。スコール様」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 IS学園の薄暗い会議室には学園関係者が集められていた。彼女らは椅子に座り手元に配られている資料に目を通していた。

 

 すると、スピーカーから初老の男性の声が部屋の中に響き渡り、先程まで聞こえていた私語が聞こえなくなる。

 

「休日であるにも関わらず、皆さんにお集まりしていただいて感謝しております。いかんせん、IS委員会へ急いで報告書の提出をしていましたからね。じっくり皆さんと情報共有が出来ていないもので…」

 

 マイクを手に持つ男性、轡木十蔵がゆっくりとした口調で話す。

 

「ここで話されることは機密事項ですのでそこの所をご理解くださいね。それでは、まずは第二アリーナで起きた事の経緯を織斑先生に説明をお願いします」

 

 がたっと椅子と地面とが擦れ合う音がして、千冬がマイクを手に持つ。

 

「それでは、第二アリーナでの経緯を説明します。正面のスクリーンをご覧下さい」

 

 薄暗くなっている部屋が、スクリーンによって少しだけ明るくなる。スクリーンには、クラス代表戦にて無人機がアリーナへ侵入する際の映像が映し出されていた。

 

「クラス代表戦の第1試合、一年一組と二組による開幕戦が行われて約10分後の午前10時10分頃。無人機による攻撃を受けました。幸いにも一般生徒、来賓の方々には大きな怪我の報告はなく、怪我をしたのは一部の生徒が転んだなどの軽傷をした生徒7名のみでした」

 

 その後、映像が無人機との戦闘の映像に切り替わる。

 

「また、この無人機にはその場でいた一組クラス代表の織斑一夏、二組クラス代表の凰鈴音、そして生徒の捜索していた同じく二組のクリスタ・ハーゼンバインが対応に当たりました。アリーナはハッキングにより、遮断シールドが最大のレベル4にまで引き上げられ外部から応援を呼ぶことが困難な状況にありましたが、彼らの協力により無人機の無力化に成功いたしました。この際、織斑一夏が軽い打撲と脳震盪になりましたが現在は治っています。第二アリーナについての報告は以上です」

 

 スクリーンに映し出された映像が終わり、再び部屋が暗くなる。説明が終わり、千冬が再び席に着く。

 

「では、次に同じく被害に遭った第三アリーナでの経緯を中井先生、お願いします」

 

 学園長にそう言われると、佳那が椅子から立ち上がり、マイクを手にする。

 

 それと同時にスクリーンには、無人機と複数のISたちが戦闘をしている場面が映し出されていた。

 

「はい。第三アリーナでも、第二アリーナとほぼ同時刻に無人機による攻撃を受けました。第三アリーナには二年と三年のクラス代表者が、待機中であったため全員で迎撃に当たりました。またこちらの場合、ハッキングされることはなく遮断シールドのレベルが引き上げられることはなかったためすぐに教師による鎮圧部隊を投入。すぐに無力化されました。また、アリーナ内には、一般生徒はおらず怪我人はいませんでした」

 

 厳しい表情で説明をしていた佳那は、手元にあった資料とは別のものに持ち替える。

 

「この第二第三アリーナでの襲撃事件から考えられることは、この事件の犯人は、第三アリーナの方の襲撃は囮で、第二アリーナで試合をしていた織斑一夏と凰鈴音どちらかもしくは両方を襲うことが目的であったと推測されます」

 

 そう言い切ると部屋の中で、少しだけガヤガヤと話し声が響きわたる。

 

「それでは、この襲撃の際に使われたISについて山田先生、お願いします」

 

「はい、それでは手元の資料とスクリーンをご覧下さい」

 

 佳那からバトンタッチされた真耶は、いつになく真剣な口調で話しマイクを握る。

 

「こちらは、解析したISのデータになります。スペックとしては、現在の第三世代とほぼ同じ性能です。ただ、アリーナの遮断シールドを打ち砕く程の高い攻撃力を持ち合わせることから、第三世代よりも高い性能を持つと考えられます。さらに、このISには操縦者はおらず、二機とも無人機であることが判明しています。またISコアは未知数であり、誰もそのブラックボックス化されたISコアを調べ上げた事はありません。ですがこれを解析し、ISの遠隔操作と独立稼働を実現しなおかつ未登録のコアを作り上げたとなると現存するどこの企業や研究機関よりも高い技術力を有していると考えられます」

 

 またしても、ここで先生方が少しだけ騒ぎ出す。こうなるのも仕方ないだろう。そう自分に言い聞かせ、真耶は手に持つ資料を読み上げる。

 

「なお、この報告は既に国際IS委員会にはしており、回答も返ってきています。『無人機が既に現実のものとなっていることは大きな発見である。だが、この技術が悪用されていることには遺憾の意を示す他はない。このことについては厳密に委員会で議論を重ね、こちらで無人機の措置について決着が着くまではIS学園にて厳密に保管をしてもらいたい。』と述べられています。現在、このISらは学園地下の研究施設にて厳重に保管をしております。無人機についての報告は以上になります」

 

 真剣な面持ちでマイクを机に置き真耶は席に着く。そしてホッとした表情になり肩を撫で下ろした。

 

 真耶が座ったつかの間、千冬はマイクを手に持ち、電源を入れる。

 

「ここで、私から少し提案があります」

 

「ほう…分かりました。言ってください」

 

「ありがとうございます。今回起きた事件のように、IS学園がどこかから狙われていることは真剣に対策を考えていかなければなりません。特に今年の一年生には、初の男性操縦者である織斑一夏が標的になった事も今回の騒動で考えられます。このような騒動が起きたのは過去例を見ないところからも明らかでしょう。次回に行われるイベントの学年別トーナメントはマンツーマン形式です。ですが今回の騒動のように事件が起きた際、もちろんISを動かすのは個人ではありますが、他の誰かと協力をして迎撃にあたる場面が確実にあると思われます。そもそもISによる集団行動、もといチームワークは大切な事であり後々学んでいく事でもあるため、早期から一年生にも体験、学習をさせるという意味で私はこの学年別トーナメントをツーマンセルでの対戦へ変更することを提案します」

 

 

 

 

 




どうも、元大盗賊です!


しばらくは、3話を貯めて一気に投稿するというスタイルでやっていこうと思います。

次回もお楽しみに!


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第11話 転校生

 

 

 入学式から早二ヶ月も経ち、今は6月のはじめ。段々と、日が落ちる速度も遅くなり夏の兆しが見えてきたころ。

 IS学園に、またしても新たな転校生がやってきた。先月には鈴も転校してきており、このままだと毎月誰かが転校してくるのではないかというペースで新たな生徒がやってきていた。おまけに今回は二人もやって来た。どちらも、一組へ転入された。

 

 一人目は、シャルル・デュノア。

 フランスの代表候補生であり、あの第二世代ISの量産型の傑作機『ラファール・リヴァイヴ』を製造して、世界シェア第三位を誇る超有名企業『デュノア社』の御曹司だそうだ。御曹司、そう男性。男だ。女ではない。遂に世界で二人目の男性操縦者が見つかったのだ。

 

 サラサラの金髪にアメジスト色の瞳、中性的に整った顔つき。織斑一夏とは違う要素を併せ持つ男子には、二ヶ月も経ち男一人だけが学園内にいるということに慣れてしまった女子生徒達にとって少しばかり刺激が強いものであった。転校してきたときに一組から響き渡った黄色い声や廊下での騒ぎは今でも覚えている。玲奈曰く、「ほって置けないくらいの可愛い系男子」だそうだ。

 

 

 だが、この()()()()には少々疑問がある。全世界に男性操縦者の一斉調査は既に行われておりそれに彼は引っかからなかったことだ。公式で織斑一夏以外の適合者はいなかったという発表がされた。まさか、IS量産型を造る世界的に有名なメーカーの社長の息子がこの調査を受けないはずがない。またデュノア社から正式に男性操縦者が見つかったという報告もされておらず、シャルル・デュノアという男性代表候補生はどのデータベースに()()()()()。このことはデュノア社へ潜入している工作員からもたらされたリーク情報であり、ほぼ正しいことには間違いない。セカンドには今後も注意を払って観察をしなければならないだろう。ただ、この危険分子ばかりに目を向けるわけにはいかない。他に、私に課せられたやることがある。

 

 

 そして、もう一人目の転校生は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、指定された部屋番号の『1127』へとやって来た。廊下には人の気配はなく、私一人だけがいた。扉の前に立つと制服を少しだけ整え、震える手を出来るだけ落ち着かせようとする。首のうなじ辺りで嫌な汗がじんわりと衣服に染み渡る感覚がした。

 

 準備をし終わった私は、『1127』と書かれた扉にノックをする。だが返事がなかったためそのままドアノブをひねる。ドアの金具からまだ古臭くない高い音を響かせながらゆっくりと部屋へと歩みを進める。

 

「失礼します」

 

 私はそう言い切ってからパタンとドアを閉める。

 

 部屋は見慣れた寮の部屋であった。窓から太陽の光が部屋の中を照らしている。人工的な光は目の前に見える机の上を照らしていた。机の上には、自動拳銃が分解されており私の目に鈍い黒い光が差し込む。拳銃の部品の一つを手に持ちきれいに掃除をしている、私を呼びつけた人物がこちらを向く。

 赤い瞳に長い銀髪、左目には黒い眼帯が付けられていた。制服の下半身は改造されておりスカートではなく軍服を思わせるズボンを履き、裾は軍靴を連想させる丈の長い靴の中に入れていた。

 

「お久しぶりですね、少佐」

 

 久々に見る人物に、私は硬直していた顔の筋肉が緩む。

 

「ああ、やっと来たか。ハーゼンバイン。待っていたぞ」

 

 彼女はいつものように無愛想な表情と冷たい口調で私に話しかける。

 

 

 

 彼女の名前はラウラ・ボーデヴィッヒ。ドイツの代表候補生であり、なおかつドイツ軍に所属する軍人。若干15歳でありながらドイツ軍のIS配備特殊部隊「シュヴァルツェ・ハーゼ」、通称黒うさぎ隊の隊長だ。また、私たちフォルテシモ社が開発を進めるレーゲン型ISの試作機『黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)』の操縦者も務める人物だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日から一組と二組の合同で実習を開始する。次回以降もこの第二グラウンドで実習を行う。授業開始時間に遅れないよう、時間に余裕を持って行動をするように」

 

 目の前に見える、いつもの黒いスーツではなく白いジャージに着替えているブリュンヒルデに、私たち一組と二組は大きな声で返事をする。

 

 6月に入り、ついに実際にISを使った実習が開始されISスーツに着替えた私たちは、広く殺風景な第二グラウンドの真ん中に整列させられていた。

 

「まずは戦闘を実演してもらおう。丁度良い役者がいるのだしな。凰!オルコット!」

 

「はい!」

「はい!」

 

「専用機持ちなら、早く始められるだろう。前に出ろ」

 

「めんどいなあ。何で私が…」

 

 私の近くにいた鈴が、そうぼやくと肩を落としながらだるそうに前に出てくる。それと同様に遠くにいたセシリアも何かぽつりと言い、貧乏くじを引かされたと言わんばかりの表情でため息をついて、前に出てきた。

 

「お前等、少しはやる気を出せ。()()()に良い所を見せられるぞ?」

 

 ブリュンヒルデがそんなやる気を出してない二人に小声で、織斑一夏(アイツ)を強調させて言葉をかける。この人、自分の弟を餌に使ったよ…。この誰にでも分かるような見え見えの、彼女がぶら下げられた一夏()に狙った鈴とオルコット(獲物)は見事に釣られた。

 

「やはりここはイギリス代表候補生である私の出番ですわね!」

「まぁ、実力を見せつけるいい機会よね!専用機持ちの!」

 

 二人は先程とは打って変わって見せ物としてではなく、織斑への好感度を上げるためだとにこやかな表情に変わり意気込む。

 

「二人とも、何でこうもちょろいのかしらね…。今後が心配…」

 

 一部始終を全て聞いていた玲菜が余りにも単純すぎる二人に頭を抱える。だが既に当の本人も恋する鈴を利用して織斑のブロマイドを販売しているが。

 

「これが一番いいやる気の上げ方ですからね。しょうがないです」

 

 見事に釣られた二人の様子をにんまりと微笑むブリュンヒルデに、私は小さな声でぼやいた。

 

「それでお相手は誰ですの? 鈴さんとの勝負でも構いませんが」

「それはこっちのセリフよ。返り討ちにしてやるわ!」

 

 既に頭の中では織斑のことしか考えられていない能天気で残念な獲物たちは互いにいがみ合う。

 

「あわてるな馬鹿共。二人の対戦相手は…」

 

 腕を組み、呆れていたブリュンヒルデはそんな二人に対戦相手を告げようとした時だった。ふと、空から何か甲高い音と叫び声が聞こえてきた。

 周りにいた生徒たちもその音に気づき、空を見上げる。上空には太陽に照らされて白く光るものが速度を上げて第二グラウンドへ接近していた。そう落下していた。

 ハイパーセンサで確認してみると、緑色のラファール・リヴァイヴに乗った一組の副担任である山田真耶先生であった。

 …この人先生ですよね?

 

「あぁぁ、どいて、どいてくださぁぁぁいぃぃ!!」

 

 制御不能になったのか、山田先生が悲鳴を上げながらグラウンドへとさらに速度を高めて接近しており、生徒達は危機を察知して急いでその場から離れる。一応念のためと、私はサンドロックを展開して後ろにいる二組の人たちの盾になった。

 

 グラウンドに不時着した山田先生によって衝突地点からは土埃が立ち込める。土埃が晴れて衝撃が収まり山田先生がいると思われる場所へ目を向けると、彼女は避難せずにその場でISを展開していた織斑と一緒になってクレーターの中に仲良く二人で入っていた。

 

 そして彼はあろうことか山田先生の柔らかい胸部装甲を鷲掴みしていた。いや、揉んでいたのだろう。いいや揉みたかったのだろう。あれを目の前にされたら私も同じことをするだろう。そして、先生に問うのだ。先生、どうしたら私も先生みたいに大きくなりますかって。

 

 鈴のいう”らっきーすけべ”というものを発動させていた織斑は、意識を取り戻すと山田先生から離れる。被害を受けた当の本人はというと、でもこのままいけば織斑先生が義姉さんってことでそれはそれで魅力的な…と噂に聞く趣味の妄想を授業中に膨らませていた。

 

 彼の行った行為は客観的に見ると許可もなく女性の体への触れたという今の世の中では紛れもない重罪であった。俗に言う”セクハラ”というやつだ。女尊男卑によって構成されている世界で女性に対するセクハラは世界が変わる前よりも厳格な罰則になっている。もし、ここで誰かがすみません、セクハラを目撃しました、とでも警察へ通報すればすぐさま織斑一夏は現行犯で逮捕されるだろう。IS学園追放は免れられない。

 だが、そんなことをする人物は一人もいなかった。しかし通報の代わりに、別の報いを受けていた。

 

 織斑が山田先生から離れたその時、近くを蒼い閃光が通り過ぎていった。熱源に驚く彼が発生源に視線を向けると、そこには蒼雫を装備しているセシリアがいた。

 

「おほほほ、残念です。()()()()()()()()()()

 

 いつも織斑へ見せるようなにこやかな笑顔で彼女は、いつもよりトーンの低い声で物騒な事を発言する。やっと自分がしでかした過ちに気づいたのか、彼は顔を青ざめる。だが、報いはそれだけでは収まらなかった。

 

 鈴も彼のした行為を許すはずもなく、双天牙月を両方呼び出し連結。彼にめがけて、最近覚えたという投擲をする。横回転をしている双天牙月の射線上には織斑(すけべ)もいるが、私たち二組や一組の生徒たちがいる。彼女らの痴呆喧嘩で死人を出されると迷惑極まりないため、すぐさま射線上に行きヒートショーテルで叩き落そうとする。

 

 すると、2回の発砲音がグラウンドに響き渡り、双天牙月が織斑の手前で地面に刺さる。音の出たところに目線を向けると先程までずっと妄想をしていると思われていた山田先生が、地面に伏せライフルを構えていた。

 

「織斑くん、怪我はありませんか?」

 

「あ…はい。ありがとう…ございます」

 

 にこやかな表情で怪我の心配する山田先生に、織斑は安心と恐怖が入り乱れる表情で答えた。そうして何とかその場が収まった所で、ブリュンヒルデが本筋へと話を戻すべくセシリアと鈴に言う。

 

「さて小娘共、さっさと始めるぞ」

 

「あの、もしかして山田先生と二対一で?」

 

「いや流石にそれは…」

 

「安心しろ、今のお前たちならすぐ負ける」

 

 ブリュンヒルデが彼女たちに挑発をするかのようにニヤリとした表情になる。その言葉と表情に不満を思ったのか、彼女たちはむすっとしかめっ面になる。

 

「ねぇねぇ、山田先生ってそんなに強いのかな?相手は現役の代表候補生だよ?」

 

 後ろにいた玲菜がサンドロックを解除していた私に話しかける。

 

「うーん、どうでしょうかね。少なくとも入試で教員を倒したというセシリアさんはそれなりの実力を持ってはいると思いますが、1対1と2対1では勝手が違いますからね」

 

「ふーん。織斑先生がああ言うから、山田先生も意外に強いのかな?」

 

 未だ見えない実力の山田先生に私たちは疑問をぬぐい切れなかった。何せ、ドジっ娘かつ天然キャラとして定着しつつあるという山田先生によるISは全く想像もつかないからだ。

 

 

 

 戦闘の実演は空中で行われる事となった。実演が行われていると突如、ブリュンヒルデの指示でデュノアによるラファール・リヴァイヴの解説が付く。デュノア社の御曹司による分かりやすい解説が終わったと同時に戦闘の実演は終了した。結果は、山田先生の快勝。お互いに連携の頭文字もわからないような自己中心的な動きを終始していた二人が叶うはずもなく、とどめにグレネード弾で一気に決めるという綺麗な終わりであった。

 

「まさか、この私が…」

「あんたねぇ! 何面白いように回避先読まれているのよ!」

「鈴さんこそ! 無駄にバカスカと撃つからいけないのですわ!」

 

 そのままの衝撃でグラウンドに落っこちてきた二人は、お互いの行動に対して指摘をし合っているように見えたが、残念ながらズボンのような上着にしか見えなかった。つまりはどっちもどっち、50歩100歩というやつだ。

 

 

 

「これで諸君にも教員の実力は理解できただろう。以後は敬意をもって接するように」

 

 戦闘を見ていた人たち、特に一組はポカンと口を開け山田先生の技量に驚かされていた。これで、山田先生が『まーやん』や『やまぴー』という変なあだ名で呼ぶ生徒は少しばかり少なくなるだろう。

 

「次に、グループになって実習をやってもらう。リーダーは専用機持ちがやること。では、別れろ」

 

 そして実習が始まりもちろん、サンドロックを持っている私も例外ではなく専用機持ちという事でリーダーになってしまった。

 

「ハーゼンバインさん、よろしくね!」

「あ、ゴーグルさんの所かぁ、新聞部だよね!確か!」

「さっき見たISかっこよかったなぁ。もう一回見せて!」

 

 私の所へ来た人は一組と二組の人が半々という感じであった。今回行う内容はISの着脱と起動、そして歩行だ。どれも基本中の基本になる。多くは、IS操縦が初めてで最初はおっかなびっくりでいた人も終わるときには既にそのような感情は無くなっていた。

 玲菜は事前に私や鈴との個別で訓練を受けていたため、着脱や歩行は簡単に行うことが出来ていた。

 

「へぇー、桜田さんISの扱いに慣れているねー。もしかして練習でもしていたの?」

 

「ふふん、クリスタに教えてもらっていたからねぇ!これくらい平気よ!」

 

 先程歩行体験を終えた一組の子にドヤ顔で威張る玲菜。

 

「まあ、最初は歩こうとしたらすぐ転んでいたけどね。皆も最初はゆっくりでいいから慣れていってね」

 

「ちょっ、私の威厳がなくなるじゃない!」

 

 ちょっとだけ笑い声が聞こえ、彼女は少し涙目になりながら私の肩を揺さぶった。

 ふとその時、やけに物静かな空間があると感じ、目線を動かすとそれは新しい転校生のラウラ・ボーデヴィッヒ少佐のグループであった。少佐は、じっと担当を受け持った一組や二組の人たちをみつめるだけで特に何をするでもなくじっと佇んでいた。そんな少佐の行動に、実習をする子たちは他のグループのやっている行動を見よう見まねでISを起動させていた。その様子をずっと見ているわけにもいかず、すぐに目をそらす。

 

「どうしたのクリスタ?」

 

「いえ、何でもないですよ」

 

 何か心配するように問いかける彼女に私は素っ気ない態度で返事をした。

 

 

 

 こうして順調に実習は進み午前の授業は終わりを告げた。実習で使ったISは午後に整備の授業で使うということで、専用機持ちたちは格納庫へ使ったISを運ぶこととなった。流石に生身でISを運ぶわけにもいかず、部分展開して楽にISを運ぼうとした時だった。突然、プライベートチャンネルが開かれる。相手は少佐からだった。

 

『格納庫へISを戻したら私の部屋へ来い。場所は1127だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この部屋にはお一人で?」

 

「ああ。生徒数の関係上、だそうだ」

 

 私は少佐が作業している机のもう一対の椅子に招かれ、そのまま座る。

 

「少佐はなぜこの早い段階でこちらへ?」

 

 少佐は私の方へは向かず、拳銃の整備をし続ける。

 

「IS学園には既にティアーズ型のISを持った生徒が来ているのはお前も知っているだろう。まあ扱う本人には十分に扱うほどの技量がないのだがな」

 

「一組のセシリア・オルコットですね。イギリス代表候補生の」

 

「そんな名前だったな。とにかく、お前も知ってはいるだろうがイグニッションプランでティアーズ型は優勢だ。しかも、代表候補生を学園に送り出し悠悠自適にデータを収集している。そんなティアーズ型に対抗するべく、レーゲン型を扱う私もデータ収集のためにここへ来た、という訳だ。ちなみにトライアル段階に入ったばかりだ」

 

 掃除した部品を机に置き、別の部品を取り出す。

 

「お前たちの企業もそれだけ必死なのだろうな。まだ残っている作業があるにもかかわらず焦って私と黒い雨(シュヴァルツェア・レーゲン)を学園へ送るくらいだ。私の所へ来た担当者の話を聞いていたがやつの顔には焦りしか見えなかったよ。だが、ドイツ軍としてはそれだけISがより発展するだけだからうれしいことこの上ない」

 

 少佐は途中でどこかせせら笑うように、思い出し笑いをする。

 

「では、少佐が来られたのはデータ回収のためと?」

 

「ああ、それに加えて新たなシステムの導入をテストしたいとのことだそうだ。実際にはまだ私のISはトライアル段階の真っ最中だ。同時に新システムのチェックもすると、レーゲンの第三世代兵器はほぼ完成しているようなものだから今更ながらテストをするまでもない。恐らく、ティアーズ型に追いついているとアピールしたいのだろうな」

 

 掃除が終わったのか、掃除用具をしまい拳銃を組み立てていく。

 

「それで、少佐が私を呼んだ理由はどのようなことで?もしかして、来た理由を話すだけ…」

 

「ああ、これから世話になる企業の人間のお前に挨拶もかねておしゃべりをするためでもあるが他にもある」

 

 私が言い切る前に言葉をかぶせる。そして、整備のし終わった自動拳銃を手に持ち私に初めて目線が合う。

 

「おまえは、この学園の生徒たちをどう思う?」

 

「どう思う…ですか?」

 

「そのままの意味だ。お前はどう思う?」

 

 冷たい視線が私の全身を襲い、思わず握っていた手に力が入る。

 

「そうですね、彼女らはきちんとISを学ぼうとしていると思いますよ。ISに触れたことのない人が多いですが意欲的に学ぼうとしている人もいます。そもそも、IS学園という最難関へ受験をしてきたのです。素人であろうがそうでなかろうが、それなりの覚悟をして勉強していると思います」

 

「…。そうか、おまえは好意的にとらえているのか」

 

「はい、わたしはそのように…」

 

「だが、私はそうは思わんな。この学園にいる生徒からは、ISとは何かを本当にわかっていないやつばかりだ」

 

「ISとは何か?」

 

「ああそうだ!どうせやつらは、ISはスポーツ競技だとかファッションか何かのように感じているとしか思えない。ISは兵器だ!戦いの道具だということにやつらはそれを理解していない。企業の人なら分かるだろう?ISを発展させていけばどうなるか、ここを出て行った後には何が待っているか!これに対して真剣に取り組もうとする人間は皆無だろう!ああ、今でも思い出しただけで虫唾が走る」

 

 少佐は、感情が抑えきれなくなったのか拳を強く握ると机にたたきつける。

 

「こんな危機感のない生徒を教えるために、教官は必要ない。教官がこのような場所にいてはならないのだ…」

 

 冷たい瞳からは憎悪が溢れ、私ではなくどこか遠くを見つめていた。

 

「…お前は誰にでも優しいからこのような事は思わないだろうが、頭の片隅にでも私の考えを留めておいてくれ」

 

「…はい、了解致しました」

 

 そう言うと、私は席を立ち入口へと戻る。

 

「少佐。私もフォルテシモ社の人間です。本社から少佐のサポートを任されています。ISに関して、そうでなくてもそれ以外でも何かあればお申し付けください」

 

「ああ、分かった」

 

「それではこれで」

 

 そして私は少佐のいる部屋を後にした。

 

 

 



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第12話 信じるもの

 

 人間誰しも完璧でないと俺は思う。

 弟の俺が言うのもあれだが容姿端麗、女性なら誰しもが憧れ、IS乗り世界最強の称号を持つ千冬姉は完璧な超人というイメージがあるとは思うがそうではない。千冬姉にだって出来ないことはある。そう、人には得意不得意が必ず存在すると思うのだ。俺の場合は、勉強はあまりできないけれど家事洗濯とかは結構得意なほうだ。

 

 とにかく、だ。

 

「正直に言わせてもらうが…お前らの言っていることが全然わからん!」

 

 俺はこのことを目の前にいる人たちに物凄く言いたかった。

 

「何故わからん!」

 

 黒を基調として所々赤で縁取りされたISスーツを着る、オノマトペなサムライガールがプンプン怒る。

 

「ちゃんと聞きなさいよ!ちゃんと!」

 

 ピンクを基調として所々黒で縁取りされたISスーツを着る、直感第一中華娘ががみがみ怒鳴る。

 

「もう一度説明して差し上げますわ!いいですか?右半身を斜め前方に5度…」

 

 青と白を基調としているISスーツを着る、論理思考の英国淑女がまた同じことを話し始める。

 

 確かに俺のIS操縦技術は未熟だ。セシリアや鈴の方が俺より断然ISに関して熟知している。箒の場合は二人と比べるとISの技術に関しては分が悪い。ただ俺よりかは剣の扱いには慣れており、正直勉強になっている。

 彼女たちの指導は俺が頼み込んだ訳ではなく彼女たち自身が進んで俺のためにIS練習を手伝っている。その事にはとても感謝している。人の善意を踏みにじるような非道な事はしない。だが...何分教え方が下手なのだ。

 箒はビュー!とか、ばばば!などと擬音語と体の動作を使い説明をする。いやこれは説明というより、子供のヒーローごっこで使う言葉に近いだろう。鈴は理由を聞いても、そんなのは直感よと俺をばっさり切り捨てるので話にならない。セシリアもセシリアで、先程の二人よりかはましな説明をしてくれるのだが…何分きっちりしすぎるのだ。俺はロボットじゃないんだから23度傾けるとか、そんなの出来るわけなかろう。

 この3人のどうしようもない指導者たちの訓練を今日もどう乗り切ろうかと考えていた時だった。

 

「一夏、僕と付き合ってくれる?噂の白式と戦…」

 

「ああ、分かった良いぜ!という事だから、また後でな!」

 

 そこへ颯爽と現れたのは、オレンジ色のISに身を包むシャルルだった。すぐさま、返事をしてこの場から退却する。ありがとうシャルル、俺は良い親友を持ったよ。

 こうして、俺は3人娘からの指導を無理矢理中止に追いやった。悪く思わないでくれ。

 

 そして、初めてシャルルと模擬戦を行うことになった。同じ男同士、どれほどの実力があるのかと内心楽しみにしながら意気込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 …結果から言うと俺の完敗だった。全く手も足も出なかった。雪片Ⅱ型は軽くいなされ、シャルルからの射撃をもろに受けた俺はみるみるシールドエネルギーが削られていってしまった。

 

 

 

「つまりね、一夏が勝てないのは射撃武器の特性を把握してないからだよ」

 

「一応理解はしているつもりだったのだけれどな…」

 

「白式って後付武装(イコライザ)がないんだよね?」

 

「ああ、確か容量が空いていないらしい。だから、いつも雪片Ⅱ型で戦っていたのだ」

 

拡張領域(バススロット)が空いていないのは多分、単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)の方に容量を食われているのだよ」

 

「ワンオフ?」

 

 アリーナの使われていないピットでシャルルによるIS講座を聞いていた俺は、すかさず質問をする。

 

「ISが操縦者との相性が最高に達した時に発動する能力の事だよ。一夏の白式だと、零落白夜がそれにあたるね」

 

「へぇ、零落白夜のことか。無意識で使っていたから分からなかったわ。少し賢くなったよ。それにしても、お前の説明はわかりやすいなー!」

 

「いやいや、それほどの事じゃないよ」

 

 シャルルを褒めると、謙遜してしまった。少なくとも、先程の三人娘よりか数十倍は勉強になっているはずなので俺としては助かる。訓練をする時にはシャルルと一緒に練習をしよう。そう、強く思った。

 

 シャルル先生による講座が終わると、今度は実習の時間に移った。俺が勘違いしていたのであろう射撃武器を知るためだ。ピットから地面に下りると、シャルルが何かを操作してダーツのボードのような点数が書かれたものがはるか遠くに表示させた。

 

「じゃあちょっと練習をしてみようか」

 

 そう言うと、シャルルは先程模擬戦で使っていた銃火器を俺に渡す。

 

「あれ?確か他の奴の装備は使えないはずじゃなかったか?」

 

 ふと、どこかで聞き覚えがあるようなことを言ってみる。

 

「普通は使えないね。でも、所有者が使用許諾(アンロック)をすれば持ち主のIS以外でも登録している人全員が装備を使えるようになるんだよ」

 

「へぇ…」

 

 俺は、感心しながらシャルルから銃火器を受け取る。ISとほぼ同じ長さの武器にちょっと驚きながらも、自分が思う射撃の体勢に入る。

 

「構えは…こう…かな?」

 

 それっぽい恰好をしてスコープを覗く。

 

「ええと、脇は閉めて。左腕はこっち。わかる?」

 

「こう、か?」

 

「そうそう、そんな感じ。じゃあ撃ってみようか、ターゲットが次々と出てくるからそれを狙ってね」

 

「おう。どんとこい!」

 

 こうして、シャルルに補助をされながら次々出てくるターゲットに弾を打ち込んでいく。10回ほど撃ち抜き終わると、何やらスコアらしきものが遠くで表示されていた。残念ながら、真ん中には狙えなかったが真ん中から一番近い所には狙いを定めて撃つことが出来た。

 

「おお…」

 

「どうだった?」

 

「何ていうか、速いっていう感想だな」

 

 初めて撃つ銃に、ちょっと感動を覚えていた時だった。周りにいた、他の生徒たちが何やら騒ぎ始める。何事かと、皆が注目するピットへ目を向けるとそこには一つの黒いISが佇んでいた。周りではドイツの…だとか、第三世代…だとかざわざわと話し声が聞こえてくる。その時だった。

 

 「織斑一夏…」

 

 シャルルに銃火器を返していた時に突如、オープンチャンネルでその黒いISが俺に話しかけてきた。よく見るとそいつは転校生として、俺のクラスに来たラウラ・ボーデヴィッヒだった。

 

 「…何だよ?」

 

 「貴様も専用機持ちだそうだな? ならば話が早い。私と戦え」

 

 「嫌だね。お前と戦う理由がねぇよ」

 

 ラウラは、急に俺と戦えと言い始めてきた。だが、シャルルの時のように軽く模擬戦をという感じではない。彼女が放つ言葉がとても冷たく感じる。

 

 「貴様になくても、私にはある」

 

 「今じゃなくてもいいだろう、焦るなよ。もうすぐクラストーナメントマッチがある」

 

 どうもあいつは、俺と今すぐ戦いたいようだ。だが、何故俺に突っかかっていくのだろう…。彼女はドイツから来た軍人だ。ならあの時の…?

 

「その時で…」

 

 頭によぎる不安を感じながら、しつこいラウラを振り払おうとした時だった。

 

 「ならば…」

 

 そう言うと、突如右肩にある大砲をこちらに向けると、その砲身が光り始める。

 

「!?」

 

 気づくとシャルルが俺の前に出てきていた。

 大きな音がアリーナ内を響かせる。その時俺はラウラが俺にめがけて攻撃をしてきたのだと理解できた。

 

「いきなり攻撃を仕掛けてくるなんて、ドイツの人はずいぶん沸点が低いんだね」

 

「フランスの第二世代型ごときで、私の前に立ちふさがるとは…。笑わせてくれる」

 

「まだ開発したての、ドイツの第三世代型(問題児)よりはましだと思うけどね!」

 

 シャルルが両手に銃を持ち、ラウラへと向ける。

 

「そこの生徒!何をやっている!」

 

 危うく一触即発となろうとした時、騒動を聞きつけたのか教員がアリーナのスピーカーで注意を呼び掛けてきた。

 

「ふん!今日の所は引いてやろう…」

 

 ラウラはISを解除し、俺たちの方へ睨みつけるとピットの奥へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ、邪魔が入った。あのタイミングで水を差すか…。後日に武装をチェックする。それでいいな?」

 

 灰色を基調としたISスーツを着るラウラは、少し怒りをにじませた声で言うとピットの出口へ歩いていく。

 

「分かりました。それで大丈夫です、少佐」

 

 黒と白を基調としたISスーツを着て、ゴーグルを付けているクリスタはその後ろを付いて歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、クリスタ。最近、ドイツの転校生と一緒にいるって本当?」

 

 ふと白飯を食べる鈴が私に話を振ってきた。その話を聞いた玲菜と箒が私の方へ目線を動かす。

 

 夕食時で少々混んでいる食堂で私と鈴、玲菜、そして箒が相席して食事をとっている。件の襲撃事件の一行後、一組の人たち特に織斑の近くにいる人たちとは知り合い程度には関係が進むようになっていた。主に食堂で。鈴や玲菜が他の人を連れて、もしくは一組の人たちと一緒に何てこともあった。

 

「ええ。本当です」

 

「そっか…。何であんなやつと一緒にいるの?クリスタも物好きね」

 

 私の向かい側に座る鈴が食べることも忘れ、むすっとした顔で私を見る。

 

「あー、そういえば今日の放課後にそのドイツの転校生といざこざがあったのだよねぇ。何でも先生が仲裁に入るくらい緊迫していたとか」

 

「そうよ!あいついきなり一夏に砲弾ぶっ放してくるのだからどうかしているわ!」

 

 玲奈が放課後に起きた事を言うと、鈴はその事を思い出したのか、プンプン怒ると香ばしく嗅覚をくすぐる青椒肉絲をガツガツ食べる。

 

「私は少佐のISのサポートをしろと本社から言われていましてね。それで呼ばれた時に少佐の所へ行っているのです」

 

「ISのサポート?」

 

「はい、あの黒雨(シュヴァルツェア・レーゲン)はフォルテシモ社が中心となって開発を進めている第三世代ISです。学園で行う試験がありまして、その作業を行ったりISの使い心地を聞いたりしているのです」

 

「ふーん。そういやあんた、企業の人だったね。大変だねぇ、軍人と一緒だなんて」

 

「それほど気にしていませんよ。もう慣れましたし。それに私たちにとってみれば大事な顧客です。好き嫌いだの言っていられません」

 

 鈴を何とか落ち着かせると日替わり定食Bセットのお菜、ほうれん草の胡麻和えを食べる。

 

「なあ、クリスタ…。ボーデヴィッヒとは昔からの馴染みなのか?」

 

「昔とは言いませんが、私がテストパイロットとしての見習いだった頃から知っていますが、どうしてそれを?」

 

 焼き魚の身を綺麗にほぐしていた箒が箸を止め、私の顔色をうかがうようにして聞く。

 

「い、いやちょっと気になる事があってだな。ボーデヴィッヒは転校して早々、一夏に暴力をふるった挙句許さないだのと言っていた。そして今回の奇襲だ。一夏本人に聞いてもこのようになった心当たりがないと言う。もしかしたら、お前ならやつが一夏を執拗に狙う理由を知っているのではないかと思って…」

 

 何か二人の関係に何かないかとほうれん草をもぐもぐして考えてみる。

 

「そうですね、私には少佐がどのような考えでこのような行動をしているか分かりません。ですが、強いて言うなら少佐はとてもブリュンヒルデを、織斑千冬を唯一無二の存在であると思っています。俗に言う、崇拝というものに近いでしょうか」

 

「崇拝だと?」

 

「ええ。一振りの刀を使い、他のIS乗りを圧倒し世界大会で総合優勝をする実力、カリスマ性。少佐に限らず、IS乗りならば誰しもが憧れ、その強さに魅了させられると思いますよ。ブリュンヒルデのように強さになりたい、って。有名なスポーツ選手に憧れるのと似ているかもしれませんね。箒さんならば、その凄さは身に染みるほどわかっているのではないでしょうか?」

 

「…そうか。ありがとう」

 

 箒はあまり納得のしない表情をして、食事を再開する。

 

「ふーん、崇めるねぇ。それにしてもやりすぎなんだよなぁ、あのドイツは」

 

「確かにそうだよねぇ。相当な事がないと、見知らぬ人には攻撃しないよね!」

 

 結局、少佐の行動原理は分からずじまいで話はここで終わった。

 

 そして、学年別トーナメントまで二週間を切った頃。

 

 

 

 鈴とセシリアが傷を負った。

 それに加えて彼女らが乗るISのダメージレベルがCを超えるという事態が起きた。原因は、少佐との模擬戦をしたことによる怪我だ。ISの絶対防御があるため命に別状はなかったが、ISのダメージレベルがCを超えてしまうとISが稼働するときに悪影響を及ぼす可能性があるとされているため、二人は学年別トーナメントへの参加を許されることはなかった。

 

 

 

 この事は、直接少佐から聞いた事だった。

 

 

 

 

 

「少佐!さすがにこれはやりすぎです!」

 

「やりすぎだと?」

 

 少佐は、脚を組んで椅子に座りこちらを向く。

 

「そうです!模擬戦をしてダメージレベルがCを超えるようなことはまず大抵起きかねません。もし、このような報告をされれば少佐は…」

 

「その心配はない。私とあいつらはきちんとお互いの了承を得て模擬戦を行ったのだ。以前のように一方的に攻撃をしたわけではない。まあ、相手が弱すぎて一方的な試合にはなったか」

 

 少佐は途中で思い出し笑いをするように冷ややかな笑いをする。1127の部屋の窓から見える夕陽の光が逆光となり、彼女の影をより濃くする。

 

「それにしても、お前のデータのおかげでワイヤーブレードは面白い働きをしてくれるよ。以前は6つを動かすのには苦労をしたが練れというものは恐ろしいものだな…。今では、私の手足のように動いてくれる」

 

「ワイヤーブレード…。まさかあれを体に!?」

 

「ああ。報告にはあったが首に巻き付けたら相当のダメージを与えるようだな。まああいつらはほぼ衰弱をしていたから仕方はないか、躱さなかったのだから。それに、彼女たちも上に報告なんてしないさ。なんせ、自分が色目を使う人が侮辱されるのに腹が立って戦いに挑んだらあっさり負けました、なんて言えないだろうな」

 

「…」

 

「そうだ、すっかりお前を呼んだ理由をすっかり忘れていたよ」

 

 少佐は机の上に置いてあった一枚の紙を私に差し出す。その紙には、『学年別トーナメント申し込み要項』と大きく文字が書かれていた。

 

「申し込み用紙?」

 

「ああ、そうだ。どうやらこのトーナメントはより実践的な模擬戦闘をするために二人組でのペア戦に変わったようだ。そこでだ、是非とも私とお前で出場をしたいと思っていてな。私のISを一番理解できているのはハーゼンバイン、お前だけだ。それに、他の生徒などと組もうとは思わん。あんなISを理解していない連中などと一緒にバディは組みたくない」

 

 少佐の鈴たちに対する行動にはとても賛同することはできない。だが、今はこの話には乗っておくべきだろう。

 

「分かりました。丁度私もペアがいなかったので、一緒にやりましょう」

 

「ああ、よろしく頼む」

 

 少佐が手を差し伸べる。私はそれに応じるように左手を出して握手をする。

 

「はい、頑張りましょう」

 

 私はにこやかな表情を浮かべ、答えた。

 

 

 

 

 

 これで、私の仕事がやりやすくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 春が過ぎ去り、木々には青々とした葉が姿を現すようになった6月の最終週。

 今日、月曜日は学年別トーナメントが行われようとしていた。IS学園での2回目となる行事には前回の行事よりも多くの政府関係者やIS関連企業の人が訪れていた。襲撃事件の件がありSPを増やし、警備員の巡回強化、IS学園周囲の見回りの強化などがされての開催である。

 この、学年別トーナメントではIS学園全員参加であるため、部外者からはどのような生徒がいるかがはっきりとわかる。特に1年は時期的には早いものの、先天的才能を見られ、2年は約一年間訓練したての成長能力を評価され、そして3年には早い段階からスカウトの候補リストに載せられるようだ。

 

 初日の最初は一年生のトーナメントから始まる。トーナメント表は当日発表となるため、一年生の多くは更衣室でISスーツに着替えトーナメント表が出るモニターに注目を寄せていた。もちろん、私もその一人でいつものISスーツに着替えて発表を待っていた。

 

「お、いたいた!」

 

 聞き覚えのある声が聞こえ、後ろを振り向くとISスーツに着替えている玲菜と箒がいた。

 

「二人はペアを?」

 

「うん!クリスタはもう組んじゃったし、だったらってなってねー」

 

「ああ、知っている同士の方が連携をとりやすいからな」

 

 どうやらこの二人でペアを組んでいたようだ。

 

「初回からクリスタ達には当たりたくないなぁ…。ボコボコにされちゃう…」

 

「ははは、その時はお手柔らかにね」

 

「クリスタ、それ日本語の使い方違うから!こっちが使う方だよ!」

 

 玲菜が涙目になりながらそう訴えてきた。どうやら使い方が違うようだった。言葉の誤りを正しておこうと思っていた時だった。

 

『どうも!この度司会進行を担当します。黛薫子でーす!トーナメントでの対戦相手発表の際には随時放送でお呼びしますのでよろしくお願いしまーす!』

 

 モニターには、ニュース番組さながらのセットに黛さんがニュースキャスター風に座っていた。

 

『それでは皆様お待たせしました!トーナメント表の発表を開始したいと思います!まずは、一年生のトーナメント表です!それではちゅーもく!!』

 

 画面が切り替わり、Aブロックと書かれたトーナメント表が表示される。

 

 その一回戦第一試合にはこう書かれていた。

 

『ラウラ・ボーデヴィッヒ&クリスタ・ハーゼンバイン ペア VS 織斑一夏&シャルル・デュノア ペア』

 

 

 

 



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第13話 力

 

 

「それじゃあ、説明していくね」

 

「おう、よろしく頼む!」

 

 更衣室にてシャルルと俺はISでの訓練をする前に学年別トーナメントに向け、シャルル先生による専用機対策講座を受けていた。

 

「まず、ボーデヴィッヒさんのISだね。彼女のISは、黒雨(シュバルツェア・レーゲン)。ドイツの第三世代IS。特に注意したいのが…」

 

「AICってやつだよな、確か」

 

「うん。第三世代兵器のAIC、正式名称はアクティブ・イナーシャル・キャンセラー。対象を任意に停止させるとてつもない能力だよ」

 

「ああ、いくら何でも反則すぎる武器だよなぁ。何でも停止させるなんて」

 

「そうだね。でも、これは一対一だと強力な力を発揮するけれど今回のトーナメントはツーマンセル。ペアでの試合だときちんと対策は出来るからうまくはいかないと思うよ。一夏はどう対策すればいいかわかる?」

 

「うーん、ペアでの対戦……。もしかして、停止させられていない人に助けてもらうとかか?」

 

「そう!AICは誰それ問わず対象にはできるけれど、対象物は一つだけ。もし使われた時には、援護に回ることを徹底したいね。相手は対象に集中していないといけないから、チャンスになる」

 

「にしても今回のトーナメントは個人から変更されて助かったわ。そうじゃないとあいつが優勝しちまう。特に俺なんか雪片Ⅱ型のみだと勝ち目がないわ」

 

「ほんと、変更になって助かったね。もちろん、黒雨には他にも注意知るべきところはあるよ。レールカノンやプラズマ手刀、ワイヤーブレード。軍属のIS操縦者だから射撃や格闘の能力は高いからAICばかりに注目して油断しちゃだめだよ。この中だと、ワイヤーブレードには要注意。攻撃用途も豊富だし射程も広いから気を付けてね」

 

「ああ、わかっている」

 

 ふと前に起きた模擬戦、そしてセシリアと鈴の事を思い出し、思わず拳を強く握りしめる。

 

「次に、二組のハーゼンバインさんだね。彼女のISは…」

 

「サンドロックだよな」

 

「あれ?一夏、知っていたの?」

 

「まあな。前に模擬戦を見たことがあってさ」

 

「へぇ…。ああ、話を進めていくね。彼女が使うのは第二世代の更に初期に開発されたIS。今じゃあ博物館に収容される骨董品のレベルに近いけれど、第三世代ISの武器の実験機として改修されているよ。サンドロックの武装としては、サブマシンガンに肩部ミサイル、バルカン。そして何より注意しておきたいのが、ヒートショーテル」

 

「あれだろ?投げ飛ばすと、追いかけてくるやつ」

 

 鈴との試合をすぐに思い出す。赤くなった刀身が音を鳴り響かせて鈴へ向かっていた映像が容易に思い出せた。

 

「うん。このヒートショーテルは投擲武器としても使えるのだけれど、こっちが本来の使い方といっても過言ではないね。これこそが第三世代ISのデータ収集のために作られた武器だよ。対象とした敵に対して、高速回転して追尾してくる。単純に追ってくるだけじゃなくて、操縦者の意志によって動くのがまた肝だね」

 

「まじかよ…。自分が考えるように動かせられるなんて、なんかセシリアのBT兵器みたいだな」

 

「そうだね、そんな感じ。このヒートショーテルの投擲にさえ気を付ければ後は大丈夫かな。肩部ミサイルの威力はBT兵器のミサイル並ではあるけれど、BT程誘導性能は無いし下手なことしなければ当たらないよ。これもそうだけど、ヒートショーテル以外の武装は改修されていないから古いまま。訓練機に備え付けられているものと同等くらいかもね。後は乗り手の腕次第だね」

 

「あの人の試合を見たことがあるのだが、ハーゼンバインは鈴と、代表候補生とほぼ同等の実力はあると思う。武器の性能はそれほどでもないようだが、気を付けるよ」

 

 こうして、俺らは強敵になるであろうISの特徴を理解したうえで主に連携についての訓練をして来る日に備えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一戦目で当たるとはな。待つ手間が省けたというものだ」

 

 左前前方にいる少佐は黒雨を身にまとい、前方にいる織斑へ挑発をする。

 

 

 試合が始まるまで2分を切ったところか。初戦で少佐と私のペアの対戦相手は、奇しくも少佐が憎む相手がいる織斑、シャルルペアであった。お互いにピットから飛び降り、あらかじめ決められている所定の位置に私たちは今いる。

 

「それは何よりだ…。ふ、俺も同じ気持ちだぜ」

 

 アリーナ内では見渡す限り白がトレードマークのIS学園の制服で覆いつくされ、ガヤガヤと少しだけ話し声が聞こえる中、オープンチャンネルで話しかけた少佐へ織斑がいつもの見せる柔和でなく、少佐を睨み付けるように攻撃的な目をして答える。

 

 試合開始時間まで5秒を切り、スタジアムに投影されたタイマーが鈍い音を立ててカウントダウンし始め、アリーナ内の緊張感を高める。

 

 

「「叩きのめす!」」

 

 少佐と織斑がそう叫び、試合が開始された。

 

 

 

 開幕直後、織斑は雪片Ⅱ型を手に持つとまるで自分の気持ちを少佐へとぶつけるかのように、猛スピードで突撃してきた。だが、その単調な攻撃を許すはずもなく少佐は右手を織斑のいる方向にかざして、AICを発動させる。

 

 慣性を停止させるエネルギー波を放ったそれは、急速にお互いの距離を縮めようとした織斑の動きを止める。

 私は肩部ミサイルをコールした。

 

「開幕直後の先制攻撃。随分と分かりやすいな」

 

「そりゃどうも。以心伝心で何よりだ…」

 

 チャンネルを介さず、二人は互いに睨み合う。

 

 私は少佐の右側へ旋回し、織斑へと照準を付ける。

 

「ならば、次にすることも…!」

 

 少佐は右肩のレールカノンを展開させて狙いを定める。

 それを見た私はすかさず、肩部ミサイルを発射させた。

 

 

「!」

 

「させない!」

 

 だが織斑の後方から来ていたリヴァイヴが私たちの攻撃を許さなかった。

 左手にもつアサルトライフルが作り出す弾幕にミサイルが爆散する。そして、右手に持つアサルトカノンを無防備な少佐に向け、鉛玉を送り込む。

 

「くっ!」

 

 少佐はリヴァイヴからの攻撃を二発ほど食らった後、AICを解除。すぐさま、射線から退くように左右へ動き私とは反対側の方向へ後退する。

 

 それを逃がすはずもなく、リヴァイヴは左手に持つアサルトライフルも使い、少佐へ弾幕を張り、白式から遠ざけた。

 

 

 

 私の事をのけ者にするか、良いだろう。

 

 

 

 距離を詰めて手にヒートショーテルをコール。それを少佐の相手をしているリヴァイヴへと投擲した。

 

 私の攻撃に気づいたのか、両手から銃弾を飛ばすのをやめ、上空へ急速上昇した後に射線上から横へずれる。

 

 投擲物はターゲットを追い切れず、そのまま何もない空間へ飛んでいく。だが、私がいる。

 リヴァイヴへなおも近づき、再びヒートショーテルをコール。今度はやつへ斬りかかった。

 

 リヴァイヴは右手のアサルトカノンから近接ブレードを噂に聞く高速切替(ラピッド・スイッチ)で私の斬撃へ対応した。

 

 両手に持つヒートショーテルをリヴァイヴは近接ブレード一本だけで対応できなくなり、左手のアサルトライフルを撃つ。

 

 被弾は避けたいため、左手にある付属の盾で防御し、頭部バルカンで牽制しながら後退し距離を空ける。

 

 ふと通信が入る。

 

「そいつは任せる。予定通り私がやつを」

 

「了解です」

 

 ふとハイパーセンサで後方の地上を確認すると、プラズマ手刀を発生させた少佐が白式へと斬りつけていた。

 

 

 

 

 

 私たちの立てた作戦はこうだ。

 少佐が白式を、私がリヴァイヴを相手に一対一の勝負に仕掛ける。そして、私がリヴァイヴの相手をしている間に少佐が白式を倒し、ニ対一の状況を作り出す。私はリヴァイヴが少佐の邪魔をしないようにすることが今回の役割だ。

 

「タイマンを張るつもりだろうけど!」

 

 リヴァイヴはいつの間にか、両手にショットガンを持ち替え私へ散弾を放つ。

 

 私の手前で拡散する鉛玉がシールドエネルギーを削りに行く。

 距離を離すため、コールしたマシンガンで応戦しながら距離を置く。

 

 だが、リヴァイヴとの距離は遠のくことはなかった。

 右手に近接ブレードを呼び出したリヴァイヴが散弾を放ちながら近づいてきた。

 

「相手が僕で悪かったね!」

 

 左手にだけヒートショーテルをコール。相手の斬撃を受け止めた。

 

「さあ、どうでしょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女がそう僕に言い、互いに持つ銃器を相手のISへと向ける。

 

 いつものように左手のショットガン(レイン・オブ・サタディ)でダメージを与えようとした時だった。

 

 彼女がバルカンと右手に持つマシンガンでレイン・オブ・サタディへと攻撃してきた。

 

 威力の低いマシンガンの攻撃を覚悟して散弾を放とうとしたが、すぐに左手に持つ物を放し後退する。ISの防御性は進化しても武器の耐久性は変わらない。

 

 レイン・オブ・サタディが爆発を起こし、僕のいたところが砂煙に覆われる。

 すぐにアサルトライフル(ヴェント)アサルトカノン(ガルム)をコール。

 

 すると、ハイパーセンサに熱源反応。目の前から空気を切り裂くように音を立てて、ヒートショーテルが向かってきていた。

 

 これをヴェントとガルムで対応。僕の所へ向かってきていた刃はその場で爆発を起こした。そして、一夏へ援護に回るためISの反応があった所へ多めに弾を送りこみ、彼の所へ向う。

 

 一夏が丁度、ボーデヴィッヒとの格闘戦が劣勢であったので、すぐさまガルムで阻止する。

 

 ペア戦であることを忘れていたのか、被弾したことに驚いた表情をする彼女は後退した。

 

「助太刀するよ。一夏」

 

「助かる。ハーゼンバインは?」

 

「彼女は一旦無視しよう。思っていたより簡単に排除できなかった」

 

 右手に持つヴェントを放り投げ、マシンガンをコールする。

 

 データ上では、さほど強くはない印象であったので僕の『砂漠の逃げ水(ミラージュ・デ・デザート)』で楽に対処し、ニ対一の状況を作り出せると思っていたが、どうやら大きな勘違いをしていたようだった。とにかく、一夏がやられないように援護を…。

 

「わかった。なら俺はこれで…!」

 

 一夏は、そう言うと零落白夜を発動させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 近づけない。

 散弾を回避してリヴァイヴへ睨み付ける。

 

 近づこうものならショットガンによる弾幕で切りかかることすらままならない。かといってヒートショーテルを投擲すると、相手へ到達する前に撃ち落とされてしまう。

 

 マシンガンの弾をリヴァイヴへ送りつけるが、多少の被弾は覚悟で少佐へ攻撃を加えていった。

 

 先程格闘戦を仕掛けていたように近づかなくなったことも私がますます攻撃しにくい状況を作り出す。

 

 何とかこちらへ注意を向けようとマシンガンで応戦していると、ふとリヴァイヴが私に背中を見せた。

 

 すぐさまリヴァイヴへ近づきヒートショーテルをコールする。

 

 急に爆発音が近くから聞こえてきた。ハイパーセンサから黒雨のレールカノンが使用不可という情報が飛び込んでくる。そんなことはどうでもいい。

 

 リヴァイヴの驚く顔が視界情報として私に伝わってくる。

 

 

 

 当然だよね。

 

 

 

 左手の武器をコールするが遅い。

 ヒートショーテルで交互に、斬りつけ絶対防御を無理矢理発動させる。

 ひるんだところで、左脚でリヴァイヴを蹴り上げる。

 

 

 

 だって、こんな魅力的な私がいるというのに。

 

 

 

 持っていたヒートショーテルを投擲。リヴァイヴは左手にあるシールドで防御するが熱を伴った刃はそのまま回転し続ける。

 

 

 

 私の事を見てくれないのだから。

 

 

 

 コールしたマシンガンでリヴァイヴに向けて発砲。

 撃ちだされた弾丸はリヴァイヴの装甲に突き刺さり、それは回転する刃にも当り爆発を起こした。

 

 リヴァイヴは悲鳴を上げ、爆風によって後方に飛ばされる。

 だが体勢は崩さなかった。すぐに私の方を向いていた。

 

 

 

 私の気持ちを分からせてあげる。

 

 

 

 再びヒートショーテルをコール。すぐさまリヴァイヴへ放り投げた。

 直線的にまっすぐ進むそれはリヴァイヴへ近づくが、射線上からすぐ左へ急速旋回して回避した。

 

 

 

 これでいい。

 マシンガンをコール。私の方へ向かってくるリヴァイヴに発砲した。

 

 リヴァイヴは臆することなく左手の盾を前にいつもより早く突貫してきた。

 

 後方へ下がりながらマシンガンを撃つが、逆に距離が縮まるばかりだ。やはり()()()操ることには負担がかかる。頭が痛い。身体の感覚が段々と遠のく。

 

「まだ使いたくなかったけれど!」

 

 ふとリヴァイヴの左手にある盾から煙が上がり盾の部分がパージされた。そこには、杭のようなものが見えていた。

 

 盾を構え、マシンガンで攻撃する私へそのまま密着するようにリヴァイヴは体を寄せてきた。

 

「しばらく眠っていてね!」

 

 突き出してきた左手を盾で押し返そうとするが、それはすき間を通り抜け私の体へと近づける。

 

 

 それは唐突だった。

 腹部にとてつもない衝撃が伝わってきた。経験したことのない力に身体がその痛みによって支配される感覚が私を襲う。

 

 気が付くと地面に叩きつけられていた私は上空を見上げるとデュノアが左手に持つ盾殺し(シールド・ピアース)を掲げ私へ突撃する。

 

「これで!」

 

 何かが聞こえると、今度は胸のあたりにまたしても耐え難い衝撃が私の体に走る。後ろから何かが砕ける音がすると、目の前が暗くなり何も聞こえなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 粗方予想はついていた。

 ハーゼンバインへリヴァイヴが私を邪魔しないようには頼んだが、力には差があった。片やフランス代表候補生、片や候補生になりきれなかったテストパイロット。IS(もの)の差もあるが技量にも違いがあった。

 

 合間に邪魔をしてくることには正直腹立たしいものもあった。だが、今更ながら味方のミスをどうこう言っても仕方がない。

 

 

 

 リヴァイヴから受けた銃弾はレールカノンに直撃。

 すぐさま使用不可の文字が私に伝わってきた。それだけではなく、マシンガンによる弾幕にシールドエネルギーも減少し、目の前にいるこいつからは離れざるを得なかった。

 

 私がひるんだところを狙ってやつは、私に斬りかかる。集中力が途切れ、AICを使うこともままならなく疲弊していた私に零落白夜が襲い掛かろうとした時だった。

 

「ぐぁっ!?」

 

 やつが急に視界から外れる。見ると、高速回転するヒートショーテルがやつの左側から切り刻んでいた。

 

 流れ弾だろうか。だがちょうどいい援護だ。

 

 

「残念だったな」

 

 ワイヤーブレードを射出。ショーテルごとやつを叩きつける。

 ひるんだところで急速接近。プラズマ手刀を展開させ、やつの腹へ向けて刺突した。

 

 情けない声を上げて、あいつは地面に叩きつけられた。

 残りエネルギーのも残りわずか。勝利を確信した私は、すぐさま地面にいるやつに向かって最後の一撃を放とうと突撃した。

 

 だが、それはできなかった。

 

 橙色の物体が私にぶつかってきた。

 いきなりの事に驚くがすぐさま地面に手をつき体勢を立て直す。もう少しで倒せたところを、あの第二世代型(アンティーク)め。

 

「まだ終わっていないよ!」

 

 すると、第二世代型はマシンガンをこちらに向けて発砲しながら高速で近づいてきた。

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)だと!?」

 

 瞬時加速(イグニッション・ブースト)。使ったことがないというデータを見ていた私に虚を衝かされた。

 

「今初めて使ったからね!」

 

「まさか、この戦いで覚えたとでもいうのか!」

 

 狼狽する私に弾丸が降り注ぎ、シールドエネルギーが削られていく。これ以上ダメージを蓄積させるわけにはいかない。

 

「しかし、私のAIC(停止結界)の前では無力も当然!」

 

 右手を掲げ、AICを作り出そうとした時だった。脇腹にいくつもの衝撃が走る。目の前には、第二世代型はおりこれ以上銃器を扱うISはハーゼンバイン(バディ)しかいないはず。

 

 ハイパーセンサで確認し、視線を巡らせる。すると、あろうことかあいつがアサルトライフルを持って発砲していたのだ。

 

「この、死にぞこないがぁぁぁ!」

 

 

 

 怒りに身を任せ、ワイヤーブレードを射出。あいつへ一撃を放つ。よろめいたやつに追撃をしようとしたが、それをする必要はなかった。

 

「これ以上は!」

 

 ハーゼンバインがあいつへバルカンを撃ちながら近づきヒートショーテルを交差させあいつの胴体に挟み斬りを放っていた。

 

 

 冷静になり、前方の第二世代型に視線を戻すと、私の所へ再び急速接近してきた。

 

「よそ見はいけないよ。この距離なら外さない!」

 

 第二世代型の左に装備されてあったはずの盾の部分には、盾はなくその代わりに第二世代型最強と呼ばれる武器があった。

 

「シールド・ピアースだと!?」

 

 私の頭に驚愕の色が浮かぶとは裏腹にこいつは顔に笑みを浮かべていた。そう、まるで勝利を確信しているような。

 

 

 

「がぁ!!」

 

 衝撃によって押し出された杭が黒雨の装甲に刺さり、絶対防御を発動させる。そして、その衝撃は私の体にも伝わってきた。口から変に空気が押し出されてきた。

 身体の内部だけではその衝撃は収まらず、そのまま後方にあった壁に飛ばされた。

 

 新たに伝わる別の痛みに苦悶していると第二世代型は再び私の所へと向かってきた。

 次々と打ち出される杭に私の体は悲鳴を上げる。

 

 どんどんと減っていくシールドエネルギーと警告音を聞きながら私の意識は遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は、負けられない!負けるわけにはいかない!こんな…こんなところで…

 

『願うか…汝…より強い力を欲するか…』

 

 ふと私に問いかけてくるものがいた。それが何なのかは全く分からなかった。だが、私にはやることがある。やつを…織斑一夏を完膚なきまでに叩きのめすこと。私の憧れで目標である教官を汚すもの。

 強く、凛々しく、堂々としている私の教官を優しく微笑み、どこか気恥ずかしそうな表情に変えるあいつを…認められない。認めるわけにはいかない!

 

 だが、今の私にはそのような力はなかった。あの男を動かなくなるまで徹底的に痛めつけ、壊さないといけない。そのために私には…必要だった。

 

 

 

 

 

「寄こせ力を…ゆるいなき最強を…!この私に!」

 

 力が、何でもいい。あいつを倒せられるなら何でもいい。その力をくれるのであれば何でも受け入れる。だから、答えた。私の奥底でうごめく何かに。

 

 そして、何かは私に答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そうか。君は面白い人間だね。僕は面白いのは大好きだよ。良いよ、手伝ってあげようじゃないか』

 

 ()()()()()()()は軽快に言う。

 

『さあ、僕を楽しませて。なんせ、久しぶりだからさ。楽しくないのは、嫌いだよ』

 

 

 

 

 






原作をとりあえず第二巻まで読んでみました。




それでわかったことは、一夏が思っていた以上に爺臭いという…(´・ω・`)


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第14話 因果は巡る

 

「お疲れ様です、所長」

 

「ああ、お前もご苦労だった。しかし、あまり試合観戦が出来なかったのは残念だな」

 

 黒塗りの車には2人の人がいた。一人は運転席に座る眼鏡をかけた若い男性で、所長へ労いの言葉をかける。そして、後部座席に座っている所長と呼ばれた男性はそうぼやくと窓の外に映る流れ行く街並みを眺めていた。

 

「そうでしたか。()()()()()()()()()()()()()

 

「ああ、まさか初戦で当たってしまうとは…私も運がない」

 

「そもそも所長があのような事を提案しなければ、試合が中止にならずにゆっくり見られたのではないですか?」

 

 所長はその言葉を聞き軽い笑いをする。

 

「はっはっは。お前は面白い事を言うな。…まあ確かにそれはある。普通は代表候補生同士を別の山に分けるものかと思っていたが、違ったのでな」

 

「そういえばフロストから報告が入ってきていましたよ、実験は成功と。これで全行程は終了ですよね?」

 

「ああ、そのはずだ。また要求をして来なければな」

 

「そうだといいのですが…」

 

 どこか不満そうな表情を浮かべる運転手はそう呟く。

 

 しばらく軽快なエンジン音とタイヤがコンクリートの上で奏でるリズム、そして通り過ぎる車の音だけが聞こえる。

 

 

「所でだが、軍からの連絡は来ているか?」

 

 ふと所長が思い出したかのように話しかける。

 

「いえ、未だ来ておりません。研究所にも、会社にも。根回しは徹底して行いましたので。来るとしても国際IS委員会でしょう」

 

「そうか。ならば良い」

 

「それにしても良かったのですか?軍を利用するなんて。あそこは…」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

 所長は窓の外、はるか遠くにちらっと見えるIS学園の人工島を見ながら目を細めて言う。

 

「あいつからVTについてまた手伝ってくれと話を持ちかけてきたのだ。普段から世話になっている人に協力しないのは少しばかりよろしくないだろう」

 

「まあ、そうですね」

 

「それに、VTシステムを搭載していたISのパイロットはブリュンヒルデに憧れているというじゃないか。それならば仕方ない。彼ら軍は夢幻のVTシステムを崇められ、そのパイロットは憧れのブリュンヒルデになれるのだ。お互いに利害関係が一致しているからには、これ以上の協力はないだろう?最終的に待ち受けるものがどのようなものかを彼らは知らないと思うがね」

 

 所長は微笑みながらそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それは甲高い悲鳴だった。

 

 ラウラのISは青白く輝きを放ち、眩しくて直視できないぐらいだった。

 さらに電撃のようなものが発せられ、それに伴いISの中心から起きた強烈な衝撃波がパイルバンカーでとどめを刺していたシャルルを吹き飛ばす。

 

 ライフルを破壊され、ハーゼンバインの高温なヒートショーテルで腕ごと挟まれていた俺は発光しているラウラの身を引き裂くような叫びをただ聞いていることしかできなかった。

 ハーゼンバインも攻撃の手を止め、悲鳴を上げるラウラの方を見ていた。

 

 すると、突然ラウラのISがぐにゃりと柔らかくなり形を変え出した。俺を散々痛めつけたあの硬い装甲が粘土のようになり、ラウラの体を取り込みながらうごめいていた。

 

「何だよ…あれは…」

 

 思わず俺はそうつぶやいた。いや、このアリーナでこの光景を見ている人なら誰しもが思う感想だろう。アリーナ内に響き渡っていた叫び声がふと聞こえなくなり、バチバチと青白く光る電撃の音だけが聞こえてきた。

 

『非常事態発令。トーナメントの全試合は中止。状況をレベルDと認定。鎮圧のため、教師部隊を送り込む。来賓、生徒はすぐに避難を行う事。繰り返す…』

 

 ふとどこかで聞き覚えのあるアナウンスがアリーナにこだまする。すぐに、防護壁がアリーナの観戦席に下ろされて、非常事態に備えられた。

 

 

 ラウラを飲み込んだ謎の黒い物体はもぞもぞと歪んだ楕円形の形になりその場でうごめく。

 すると、突如として全身を変化させていった。腕、脚、胴体。それは、まるで人の形を作り出すかのように成形されていく。

 

 そしてそれは全身が黒いISになった。両肩には第二世代型の打鉄のように非固定浮遊部位(アンロックユニット)が現れる。操縦者はその黒い物体に覆われ、さながら全身装甲(フルスキン)のように見えた。さらに、そのISらしきものの右手には一振りの刀らしき武器を持っていた。そう、それはまるで…。

 

「雪片だと…」

 

 雪片。千冬姉のISが持つ武器とほぼ同じだった。こっそり隠れて千冬姉の出る試合を何度も繰り返して見ているからわかる。

 

 体に巻き付くヒートショーテルをどかすと、雪片Ⅱ型を強く握りしめ構えながら黒い物体へと近づいた。

 

「…俺がやる」

 

 黒い物体は俺の存在に気が付いたのか、居合の構えをしてこちらへ体を向けた。そう、まるで俺が千冬姉に習った剣技のような…

 

 そいつは、俺の懐へ飛び込む。

 一閃。素早く振られた刀に構えていた俺の雪片Ⅱ型が弾かれた。そしてそいつは上段から俺を斬りかかろうとした。

 

 

 いや、ようなじゃない。そうなのだ、これは!

 

 

 見慣れた剣技に対応しようととっさに左手を構えて防御する。絶対防御が発動した白式にはもうシールドエネルギーは残されておらず、ISが緊急解除された俺はその衝撃で後ろへ吹っ飛ばされた。

 

 背中から思いっきりぶつかり、痛みが走る。左腕からも何かが流れてくるのを感じた。だが、そんなことはどうでもいい。

 

「てめぇ、千冬姉の真似しやがって!」

 

 俺が黒い物体に近づこうとした時だった。何かに抱かれた俺は、地から足が離れる。

 

「一夏!危ないから!」

 

 シャルルに抱きかかえられた俺はそのまま後ろに下げられる。すると、横から猛スピードで通り過ぎるものがいた。サンドロック、ハーゼンバインだ。左肩を前に出し、黒い物体へタックルする。

 

 黒い物体はその攻撃を右手にもつ雪片で受け止めると、そのまま横へはじく。空中へ浮かび体勢を整えると、マシンガンをコールして黒い物体へ攻撃を仕掛けた。

 

「デュノア、織斑を!私はこいつを!」

 

 ハーゼンバインに注意をひかれた黒い物体は右手に雪片を構えると、彼女の方へ攻撃を仕掛けに行った。

 

 

 シャルルに抱かれあいつから離れされていくことに無性に腹が立ち、叫んだ。

 

「離してくれシャルル!あいつふざけやがって!ブッ飛ばしてやる!」

 

「一夏、落ち着いてよ!危ないから!」

 

「離せよシャルル!離してくれ!」

 

「もう、しっかりしてよ!一夏らしくないよ、生身でISに立ち向かったらどうなるか分かって言っているの?」

 

 いつもは大人しいシャルルに叱咤された俺は心の中での怒りが急に冷めていく。

 

「分かっている…分かっているけどよ…。だってあいつは千冬姉の真似をしているのだ!あの技は千冬姉だけのものなのに…それをあいつは!」

 

 投擲されたヒートショーテルを臆することもなく、右手の雪片と左足で弾き飛ばしたあいつを睨みつける。

 ふと、後方から何か大きな音が聞こえてきた。緑色のリヴァイヴだった。おそらく事態を収拾しようとして駆け付けたのだろう。リヴァイヴたちはアサルトライフルをコールすると、一斉射撃をする。それに反応した黒い物体は、体を左右に振り一発も当らないで回避をして攻撃目標を定めていた。

 

 

 

 

 俺が千冬姉から真剣の技を教えてもらったときのことは今でも覚えている。

 持ち上げることすらままならないほど重い鋼鉄の塊を初めて手にした俺に千冬姉は俺に伝えてくれた。

 

『いいか一夏。刀は振るうものだ。振られるようでは剣術とは言わない。重いだろう。それが人の命を絶つものの重さだ。この重さを振るうことの意味、考えるのだ。そして、それこそが強さだ』

 

 この時、初めて刀を振るうことの意味、剣術を習う意味、そして力とは何なのかを考えさせてくれた。この時から少しでも千冬姉の力になりたくて…そうずっとあの日から俺はそのために強さを追い求めていた。

 

 

 シャルルに抱えられたままの俺だったが身体が揺れる感覚を味わった。気が付くと一機のリヴァイヴが黒い物体によって地面にたたきつけられていた。

 

 格闘武器を失ったそのリヴァイヴは迫りくる黒い物体にアサルトライフルで攻撃するも銃弾は、空を切る。援護に回った他のリヴァイヴが立ちはだかっても右手に持つ雪片を力の限り左薙ぎに薙ぎ払う。他のISからの援護射撃も意図も容易くかわしたそいつは、地面に打ちつけられたリヴァイヴの胴体に垂直になるように雪片を持ち重力に身を任せて突き刺した。

 

「それに俺は、あのわけわからん力に飲まれて、振り回されているラウラが気に入らねぇ。力っていうのはそういうものじゃないのだよ。あんなのは…ただの暴力だよ」

 

 黒い物体は動かなくなったISを左手に持ち、リヴァイヴの射撃の弾除けに使う。まるで、挑発をするかのように。

 

「それにな、シャルル。他の人たちに任せて安全な場所でなんて眺めるなんてごめんだ。これは俺がやらなきゃいけないからじゃないのだよ。俺がやりたいからやるのだ!ここで引いちまったらもうそれは織斑一夏じゃあなくなってしまう」

 

 後ろにいるシャルルがため息をつくと、俺を地面に下ろした。

 

「…全く、一夏の思い…分かったよ。だから僕も手伝わせて。白式のエネルギーがないのでしょ?」

 

「ああ、無くなっちまっている」

 

「それならリヴァイヴのエネルギーを分けてあげるね」

 

 そのことは俺にとって嬉しい言葉だった。

 

「ホントか!?頼む!」

 

「うん、けれど約束してね。絶対に負けないって」

 

「もちろんだ」

 

 シャルルに向かって俺は強く誓った。

 

「コア・バイパスを開放。エネルギーの流出を許可」

 

 シャルルが腰のあたりからコードのようなものを持ってくると、白式の待機状態(ガントレット)に挿し込んだ。すると、まるで俺の体にエネルギーが入り込んでくるかのような感覚を感じた。

 

 

 

 

「あなた方もやるのですね?」

 

 ふと、声がかかり見上げると上空からサンドロックが俺たちの所へ降りてきていた。

 

「鎮圧部隊の方々に下がっていろと言われてここに来たのですが、あなた方もやるなら私も手伝わせて下さい。あのままでは持たないと思われます」

 

「ああ、頼む」

 

「よしこれで完了。リヴァイヴのエネルギーを白式に全部渡したよ。もし、どこかの誰かから受けた蓄積ダメージがなかったらまだリヴァイヴも動かせられたのだけどね」

 

「…。それは嫌味ですか?」

 

 ハーゼンバインがシャルルに向かってそう言うと、シャルルは冗談だよこういう仕様だからさと軽口を叩く。

 

「ありがとよシャルル。白式を一極限定モードで再起動する」

 

 俺が白式に指示を出すと、ガントレットは白く光りだした。ISの展開が終わると、俺の右手には白式が部分展開され、雪片Ⅱ型を握っていた。

 

「やっぱり武器と右腕だけで限界だね」

 

「でも、十分さ」

 

「ええ。零落白夜でさえ発動できれば十分です。私があなたの所へ惹きつけます」

 

「わかった、頼む」

 

 俺の返事を聞き届けたハーゼンバインは、両手にヒートショーテルをコールすると黒い物体へと近づいて行った。

 

 

 

 黒い物体に対してリヴァイヴたちは、あれから着実にダメージを与えているようであったが、そいつはまだ健在していた。

 

 黒い物体がリヴァイヴたちの射撃を回避していたところに、ハーゼンバインは飛び込む。

 

「あなた!下がっていなさいと先程…」

 

「すみません、見ていられなく…って!」

 

 黒い物体の背後に回りX字に斬りかかる。だが、その攻撃は黒い物体がまるで後ろに目があるかのようにひらりと体を反転させ、躱す。

 その攻撃を見ていたリヴァイヴたちは、アサルトライフルを再び構えるが突然動きが止まり射撃をすることはなかった。

 

 ターゲットがハーゼンバインになった黒い物体は、彼女に向って突撃し左薙ぎに斬る。左手の盾で防御し、彼女はマシンガンを撃ちながら後ろ向きに俺のいる所へ向かってくる。

 

 もうそろそろ頃合いだろう。

 

「零落白夜、発動!」

 

 俺の考えが分かっているかのように素早く零落白夜が発動され雪片Ⅱ型が展開される。

 

 

 今はそれ程出力を上げなくていい。必要なのは…速さと鋭さ、素早く振れる刃だ。

 

 

 俺が思い描いたことが雪片に伝わったのだろうか。展開された零落白夜がいつもより細く鋭くなっていく。

 

 俺の準備が整ったことが分かったのか、ハーゼンバインは攻撃をやめ叫んだ。

 

「後は任せたよ!」

 

「ああサンキュ。行くぜ!偽物野郎!」

 

 俺の横を通り過ぎるサンドロックを横目に黒い物体向かって力の限り叫ぶ。

 

 俺の存在を確認したのか、そいつは一度足を止め俺の方向に体を向け、刀を構えた。そして、俺もあいつがやったように居合の構え、一閃二断の構えをした。

 

 

 またお前か。

 

 

 そんな風に黒い物体が俺に言っているような感じがした。だが、先程のように感情に飲まれて冷静さを失った自分ではない。

 千冬姉と箒から習い、学んだこの技を思い出す。全ての行動に反応できるように意識をあいつだけに向けた。

 

 やつが動く。先程のように速い袈裟切りだ。だが、もう既にそれは見ている。

 居合斬りを放ったそれはあいつの、雪片もどきの攻撃をはじいた。そしてすぐさま頭上に構えて唐竹割りを放った。

 

 その一撃が決定的であった。黒い物体の胸から股下にかけて一筋の切れ込みが出来る。やつの動きが止まり、最初の時のように青白い電撃がヤツの体から迸る。

 

 そして、その切れ込みの中からラウラが出てきた。いつもしている眼帯は外れ、赤と金色の瞳が俺をじっと見つめる。エネルギーを失い、液体のように形を失っていく黒い物体からラウラを抱きとめた。ひどく弱っているのか彼女は何も抵抗することなく、俺の体に身を任せる。じっと俺を見つめると彼女は安心したかのようにゆっくりと瞳を閉じた。

 思っていたよりも軽く、今の彼女は一人のか弱い少女のようであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ、疲れた…」

 

 生徒指導室から出てきた俺は思わずそうぼやいた。時刻は18時半前。もう少ししたら食堂のラストオーダーになってしまう時間帯だった。

 

 俺が()()()()I()S()()()()()()()を倒した後、俺らあの場にいた三人は鎮圧部隊の方々にご同行を願われた。悪いことをしていないのに。そして、ISの戦闘データ提出だの、保健室で手当だの、人生で二回目となる事情聴取を受けるだのと休む暇もなく拘束された。アリーナで起きた事件によりまたしても全試合は中止。もちろん、上級生の試合もだ。先月のクラス代表戦しかり、今回の学年別トーナメントしかりイベントで必ずアクシデントが起きている。二分の二、成功率100%だ。どちらも、外部からの影響によりイベントが最後まで遂行されないのを考えるに、IS学園の運営体制、もしくは警備の甘さも原因なのではないかと取り調べを受けているときに思ってしまった。

 

「お疲れ様です。やっと解放されますね」

 

 ふと顔を上げると一人の生徒が廊下にいた。

 肩のあたりまで伸ばされたプラチナブロンド、そして頭に付けているゴーグルで有名な人物、クリスタ・ハーゼンバインだ。

 

「ああ、そうだな。にしても疲れたわぁ…。昼からずっと命令されっぱなしだったからさぁ」

 

 全ての工程が終わって安心しきったのか、思わずあくびがでる。

 

「仕方ないですね、今回の事件に関わっていますから。それに、あのISもどきを倒したわけですし」

 

「まあ、そうなんだよなぁ」

 

 あの時のことを思い出しながらハーゼンバインが寄りかかる壁の横に俺も並ぶ。

 

「にしてもよ…」

 

 ふと今まで疑問に思った事を聞いてみる。

 

「どうしました?」

 

「何で同級生なのに敬語で話すのだ?」

 

 そう、このきょとんとした表情で俺を見つめる人はいつも敬語だ。同じルームメイトの鈴にも敬語で話しているという。敬語はそもそも目上の人とか、自分より立場が上な人に向かって言う言葉だ。例えば、千冬姉とかの先生にとか。

 

「うーん。日本語を習ったときに敬語というものは大事だと習いましてね、だからそのまま…」

 

「まあ確かに敬語は大事だ。日本だったら、目上の人に敬語を使わないと怒り出すやつが大半だろう。いや、怒らない奴なんていないだろう。だがな、上も下もない同じクラスメイトに敬語を使うのはいかがなものかと思うぞ、俺は」

 

 寄りかかっていた壁から体を離して、彼女へきちんとした敬語についてをジェスチャーを交えながら力説する。

 

「それはどうして?」

 

「うーん…なんというか、俺とお前の間に一線が引かれている感じがするだろ」

 

「線?」

 

「ああ、一線というか壁だよ壁。こう互いの間が離れるのだよ、互いの距離が。何か敬語で話されるとお互いはまだ親しい間柄じゃないって言っているようなものだよ。それに自分から予防線を張って自分の領域に他人を近づけさせないようにしていると思うのだ。これは良くない、うん」

 

 腕を組み、うんうんと頷いて力説をする。我ながら完璧な説得だ。

 

「…?私とあなたとではまだ知り合いにもなっていないと思いますが?」

 

「んぐっ…」

 

 図星だ。全くもって正論だ。何せこのゴーグルさんとは食堂で時々見かける程度だ。最近だと、一緒になってこの事情聴取に呼ばれ合う仲だろうか。

 

「ならばこれも何かの縁だ。お互いに専用機持ちってことで仲良くしようぜ?」

 

 ニコッと笑顔で彼女に言った。人の第一印象は顔からとも言われている。笑顔は大事だと俺は自負している。

 

 ゴーグルさんは、寄りかかっていた壁から体を離して俺の正面に体を向く。そしてふと何かを考えるそぶりを見せてじっと黙る。

 

「これが噂に聞く天然ジゴロか…」

 

 彼女はふと何かを小さな声で呟く。何を言ったかさっぱりだ。

 

「何か言ったか?」

 

「いえ、気にせず。では、改めて()()()()()織斑さん」

 

「…おう、俺の事は一夏で構わないぜ」

 

 何を言ったか聞こうとしたがスルーされたものの、何はともあれ個人的に少し謎めいていた同じ専用機持ちと仲良くなることが出来た。

 

「ならば私はクリスタと呼んでください」

 

 俺が出した手を彼女は握り、それに答える。

 

「同じ専用機持ち同士仲良くしていこうぜ。そうだ、今度一緒にISの訓練をしないか?シャルルの教え方が滅茶苦茶うまくてさ、絶対参考になると思うよ」

 

「なるほど、時間の都合が合ったときにでもお願いしたいで…お願いしたいね」

 

「ああ、そのほうがいいぜ。やっぱ練習は皆で一緒にやるほうが一番だからな」

 

 彼女に笑いかけながらそう俺は答えた。

 

「では親しくなったという事で私から一つあなたへ忠告を」

 

「ん?何だ?」

 

 藪から棒にどうしたのだろう。それにほんのり彼女の頬が赤いような…。熱でもあるのか?

 

「あなたは少し、自分の行動に対して今一度考えたほうがよろしいかと。女性は敏感なのですよ?」

 

 彼女は空いている手で握手をしている俺の手にそっとのせる。

 

「え…ああ、すまん!」

 

「いいえ。私は気にしていないので」

 

 あれからずっと握っていた手をぱっと放す。少し恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。それにしてもどうして女の人の手ってこんなに白くてすべすべなのだ?いつまでも触っていられるぞ。

 

 

 

「あれー?二人して何をしているのかなー?」

 

 

 

 ふと聞き覚えのある声が聞こえる。さっと、後ろを振り向くとそこにはどこか疲れが体からにじみ出ているように見えるシャルルがいた。多分そうだ。

 

「おお取り調べが終わったか。いやなに、新たな友情を育んでいたんだ。それにシャルルの取り調べが終わるまで待っていたのだよ。一緒に食堂に行こうと思っていな」

 

 今の時刻は18時半を過ぎたところ。ラストオーダーまでのタイムリミットは着実に迫ってきていた。

 

「なんだそういう事か。てっきり、僕が現れて驚いていたから一夏がハーゼンバインさんを口説いていたのかと思ったよ」

 

「何でそうなるのだよ!そんなことできないし、しないわ!」

 

「さあ、どうだかねぇ」

 

 どこか嫌味ったらしくジト目でシャルルは俺に問い詰める。なぜこうも怒られるのだろうか。

 

「デュノアさんが終わったという事は、次は私の番ですね」

 

 クリスタは俺たちの横を通り過ぎ、生徒指導室へ向かう。

 

「それでは私はこの辺で」

 

「ん、クリスタが最後の番か。どうだ、それが終わったらせっかくの機会だし、一緒に食堂にでも行かないか?それまで待って…」

 

「いえ、それは遠慮しておきます」

 

 俺が言い切る前に、彼女は首を横に振り断る。

 

「何せ、私を待っていると19時を過ぎると思うので。私を待っていると食堂で頼みたい物も頼めませんよ」

 

 彼女はにっこりと微笑んで答えた。

 

「そうか、ならお言葉に甘えて先に行かせてもらうわ」

 

「はい、そのほうがよろしいでしょう。ではお二人とも今日はお疲れ様でした。また再戦できる日を願っています」

 

 そう言うとクリスタは俺たちに手を振って生徒指導室へと再び歩みを進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして次の日からしばらく、彼女は学園で姿を見せなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 機械が至る所に散りばめられ、何かのケーブルで覆われているとても奇妙な部屋に一人の女性がいた。

 青いワンピースに白いエプロン。さながら、『不思議の国のアリス』に登場する主人公の格好に非常に酷似していた。ただ一つだけ違うのは…頭に付けているカチューシャだ。白いうさぎを模したそれは赤紫色の髪には目立つものであった。

 

 そんな奇抜な格好をしている女性は、銀色の椅子に座ってグッと手足を伸ばしていた。

 

「んー、暇、とにかく暇!退屈だー!」

 

 そうぼやき、ぐてっと伸ばしていた手足をだらんとしてだらしない体勢になる。

 

 すると、彼女のいる所の近くから携帯電話の着信音が流れる。

 その音を聞いた女性は、気だるそうな表情が一瞬にして輝くように明るくなった。

 

「この音はまさかぁ!」

 

 女性は自分の声でトウッと言い、携帯電話があるだろう数多く物のある場所にジャンプする。だが、その場所にはいろんな部品やら道具やらがごちゃごちゃに寄せ集められており、一目ではどこに携帯電話があるかわからない。だが、その女性は一瞬にして場所のありかにたどり着く。

 

「はーい、もすもす?皆のアイドル!篠ノ之束ちゃんだよぉ〜」

 

『…どうやら人違いのようだ。すぐに…』

 

「わー待って待って!皆のじゃなくてちーちゃん()()のアイドルだからそんな怒らないで!」

 

『…その名で呼ぶな。それに私はお前のファンになったつもりはない。ふざけるなら本気で切るぞ?』

 

「マジの本気で切らないでぇ!もう、冗談が通じないんだから、ちーちゃんは…」

 

 しょぼんと彼女の頭にのせているうさ耳は感情があるかのように垂れる。

 

『はぁ…。とにかく今日はお前に聞きたいことがある』

 

「ふむ、ちーちゃんにでも分からないことがあるのかね?よろしい!この天才束さんに任せなさい!」

 

 束と名乗った女性は、文字通り胸を張って自信満々に話す。

 

『そうか…なら今回の件に関わっているのか、お前は?』

 

「ん?今回の件?はて何の事かなぁ?」

 

『…とぼけるな、VTシステムの事だ』

 

「ん…ああ!あれかー!むむむ…ちーちゃんさぁ、私があんな不細工で気持ち悪いものをこの完璧にして十全な私が作るとでも思っているのかなー?かなかな?」

 

『…そうか』

 

「そ・れ・に、ついちょっと前にあれを研究していた施設はもうこの世に残っていないよー。私の手にかかればおちゃのこさいさい!!全く、前にも忠告はしたはずなんだけどなー。あのビールと芋が取り柄の国には。()()変なシステムを研究したら消されると分かっているはずなのに性懲りもなくやるなんて、天才束様にかかればこそこそ隠れていても一目瞭然なのだ!」

 

 束は高らかに笑う。

 

「あーそうそう、もちろん死亡者は全然の全くいないよん。こんなの甘々のちょろすけよ!」

 

『そうか、なら邪魔をしたな』

 

「そんなぁ、邪魔だなんてとんでもない!ちーちゃんのためなら例え火の中土の中海の中!いつでもウェルカムだよ!もちろん…」

 

『…では、またな』

 

 ちーちゃんと呼ばれた人物は束が言っている途中でぶつ切りする。

 

 携帯電話を少しだけじっと見ると、そのままぽいっとどこかへそれを放り投げた。がしゃんと金属同士がぶつかり、何かが崩れる音がした。

 

「うんうん、久々に声を聞けて束さんは嬉しい限りだよぉ」

 

 彼女はどこか嬉しそうに腕を組んで喜ぶ。うさ耳もうんうんと頷く。

 

「あー、そうだ。ちーちゃんからパワーを貰ったってことで久々にもう一度探し物をしてみようっかなー」

 

 トントンと机の上を指で何回か叩くと彼女の目の前に大きな投影型デュアルディスプレイと半透明なキーボードパネルが現れた。そして、彼女はまるでピアノを伴奏するかのようにキーボードを叩き、資料を探す。

 

「それにしてもどこに消えちゃったのかな?いつもならすぐに出てくるにさ!」

 

 自分の口でプンプンと怒ったときに使う擬音語を言いどこか悔しそうな顔をする。

 

「そういえば、忘れたころにピンとくるかもしれないって誰かが言っていたね。ん!それが今なのかも!ふっふ…よーしやってやるぞー」

 

 そして、彼女は目的であった資料を画面に並べていく。

 

 何人もの男性の顔に×印を書き込んでいるデータ、集合写真のようなもの、ISの設計図のようなものを羅列していく。

 

「あなたもそう思わなーい?」

 

 突然くるっと椅子の向きを後ろに変え、目を細めて見つめる。彼女の後ろには二つのISが鎮座していた。一つは赤いIS。そして、もう一つはトリコロールカラーのISだ。

 

 

 

 彼女が”ウイングゼロ”呼ぶISはただじっと彼女の事を見つめるだけだった。

 

 





どうも、元大盗賊です。





束さんが自由すぎる…。




あれよあれよと遂に、一万字超え…やりたいことがいっぱいあったから仕方ないね。






50話くらいになったら2万字になっているかも?


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第15話 進む者たち

他は他 うちはうち と思っていてもなんだかんだUAを気にしてしまうこの頃。










 

 そこはとても狭い部屋だった。

 部屋は簡易的なベッドとトイレが置かれているだけのとてもシンプルな作りになっている。それら以外には何も置かれておらず壁には窓すら設置されていない。部屋の明かりも全くなく、しいていえば目の前に見える鉄格子の先の廊下から漏れてくる、足元を照らす暗い橙色の照明の光が差し込んでくるだけであった。

 

 俗に言う『独房室』へ入っている私は、特にすることもなくベッドの上で申し訳程度の厚さがある毛布にくるまり、ただじっと正面にある誰もいない独房を見つめていた。

 

 

 

 

「これは国際IS委員会により決定された取り決めだ。お前には申し訳ないがここでしばらく待機してもらう」

 

 いつものどこか気難しそうな表情をしているブリュンヒルデに連れられ、IS学園の地下にあるここへ私は入れられた。ある意味待機という名の隔離だろうか。

 学年別トーナメントで起きたラウラ・ボーデヴィッヒ少佐のIS暴走騒動。これにより少佐のIS「黒雨(シュヴァルツェア・レーゲン)」を所有するドイツ軍、そしてVTシステムを作り出した生みの親のメッゾフォルテ研究所にIS運用協定違反の容疑がかけられた。

 

 また、以前メッゾフォルテ研究所でVTシステム研究・開発のために使われたISを使い、少佐のISの評価担当をしていた私にも関係者なのではないかと判断された。そのため『サンドロック』は没収され私の身柄が拘束されたわけである。私が外部とコンタクトを取ることを恐れての事だろう。

 

 

 

 ここへ連れてこられてから6日程立ったのだろうか。12回目の食事を自動的に渡されたから違いない。太陽の光の届かぬこの場所では今が朝なのか、昼なのか、夜なのか今何時なのかが分からない。この頭に浮かぶ疑問を教えてくれるものなどここにはない。頭をこつんと()()()()()()()()()()壁につけて寄りかかる。

 

 私に指示された『VTシステム発動の誘導・観察』は既に目標を果たしている。何でも私が戦闘データを回収する必要がないという事で、随分と手間がかからないものであった。自動的に送られるように設定されていたのだろうか。とにかく役割はすでに果たしているので、後はドイツ軍属の研究所に罪を着せたことが発覚して事件が解決させるのを待つだけだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 足音一つでさえ聞こえない虚無の空間。

 この空間に存在しているのはこの私だけ。

 誰とも会話をせず、一日中独房で過ごすことにはそれ程苦痛というものは感じてはいない。

 

 独房での暮らしには、精神的苦痛を伴うため精神崩壊を起こすと聞いたことがある。ただ、こうして用意された質素な食事をもらい、動物的本能に従って眠りにつき、起床し、ぼうっとしていることには何ら違和感を思うことはまだない。寂しさも悲しさもない。むしろ、人間的な生活をしていないということに何も思わない自分に対して恐怖さえ抱いている。もしかしたら、これが本当の自分なのだろうか。どこか懐かしさを感じているこの私に。せまく暗い孤独な所でただ理性に縛られずに、行きのうのうと何も考えずに過ごしていることが。誰もこの疑問には答えてくれない。

 

 少しだけ眠気が襲ってきたので毛布にくるまり目を閉じる。

 足音一つでさえ聞こえない虚無の空間。

 この空間に存在しているのはこの私だけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お疲れ様です。ささ、お茶でもどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 千冬は轡木十蔵から湯呑を受け取る。

 

 授業も終わった放課後。

 先のVTシステム暴走騒動にて、主立って調査を行っていた千冬が用務員室へ集められた。障子に畳、掛け軸があるという用務員の趣味が垣間見える和室で、千冬は十蔵に倣い座布団に座っていた。

 

「さて、ここへお呼びしたのは他でもありません。丁度お昼頃に委員会の方から調査報告書が届きましてね。それが…こちらになります」

 

 十蔵は、近くに置いてある鞄から紙の資料を取り出し、手渡した。

 

「それでは、拝見させていただきます」

 

 千冬がそう言うと、素早くパラパラと報告書に目を通していく。

 

「では、私から簡潔にお話ししますね。ああ、そのままそれを見ながらで構いませんので」

 

 ゆっくりとした口調で話すと、十蔵はずずずっとお茶を飲む。

 

「さて、単刀直入に言いますとドイツ軍がVTシステムの使用を認めました。何でも、ISに使用する新たな補助システムの開発を行いたかったためにVTシステムを参考にした、とおっしゃったとか。まあ、いずれにせよ真相は闇の中…ですけれどね」

 

「…つまりVTシステムについて確かな証拠が見つからなかったということでしょうか?」

 

 千冬が手元の資料から視線を十蔵に移し、質問をぶつける。

 

「そうですね。先日ニュースにもなっていましたが、ドイツ軍施設が何者かに襲撃を受けたという不可解な事件。それなのですが実はそれが、どうやら件のVTシステムを取り扱っていたそうで…。勿論、塵一つ残らないくらいきれいさっぱりなくなったそうなので、物的証拠は見つからなかったそうです。それにですね、肝心のVTシステムを取り扱っていた研究員たちから誰も証言が得られなかったそうなのです」

 

「誰からも?」

 

 千冬は思わず聞き返した。

 

「はい。IS運用協定で固く禁じられているVTシステム。システムは既に破棄され、国際IS委員会が厳密にその情報を保管・管理をしています。そのシステムを一体どこから入手したのかが今回委員会が知りたがっていたそうなのですが…分からなかったそうなのです。いや、誰も知らないそうなのです」

 

「誰も知らない?そのような事がなぜ?」

 

「そうですね…。これに限らず今回の事件は、実は不可解な点が多くあるそうです。監視カメラやレーダー探知機が数多くあるはずのドイツ軍施設に犯人は誰にも知られずに襲撃しました。どうやって探知されずに襲えたのか、一体誰が実行したのか。そして…これが一番の謎だそうですが、その施設にいた研究員全員の記憶がないそうなのです。VTシステムに関わってからのが」

 

「記憶が飛んでいる…ですか!?」

 

 千冬は思わず目を見開く。

 

「この襲撃事件では研究員には死者は出ませんでしたが、彼らは意識不明の重体を負い病院へ搬送されました。そして、意識が回復した彼らは口々にVTなんて知らない、研究はしていないと言うそうです。専門の医師に診てもらったところ全員が記憶障害を負っていたそうです。何せ、その犠牲者の中には研究所長もおり、その人でさえ分からないとなっているのでこれ以上のVTシステムの出所を見つける捜査は無理だと断念したそうです」

 

 余りにも摩訶不思議な事を言われた千冬は思わず口から言葉が出てこなかった。

 

「後ろ髪を引かれる所はありますが、後の処罰については委員会の方に任せて我々は校外実習の事に注視していきましょう。それに、疑いの目で見られていた生徒さんも解放してあげないといけませんね。無実であることが分かりましたし」

 

 十蔵は少しぬるくなったお茶をまたずずずっと飲み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「関係者以外立ち入り禁止」と書かれた扉の前に黒いスーツを着た女性が一人立っていた。懐から取り出した専用のカードを読み込ませる。すると、高い音を立ててドアが自動的に開かれた。中へ右足を踏み入れると、暗闇に包まれていた通路の足元に灯りが灯される。その奥へと千冬は進んでいった。

 

 コツ…コツ…とヒールの音が静寂な廊下に響き渡る度に、進む先の通路が明るくなっていった。

 

 独房室と書いてある、目の前に現れた扉へ近づくとその横、丁度胸のあたりに設置されている機械に専用のカードを読み込ませる。

 赤色に光っていたランプが緑に変わると目の前の無機質な金属は、シュっと空気が押し出されたような音をして横にスライドされる。

 

 中は、足元に薄暗い灯りが灯されるだけであった。目を慣らしていなければ、今いる空間ではどこに何があるか分からないだろう。目的の人物に会うために、彼女は専用のカードを上着の内ポケットに入れると中へ入って行った。

 

 鉄格子が見えてきた所で千冬は、足を止める。何も音が聞こえなくなった所で、彼女は眼を閉じて軽く深呼吸をする。少し冷たい空気が体の中へ入り込んで、彼女の心を落ち着かせる。そして、眼を開けると意を決したように声を発する。

 

「クリスタ・ハーゼンバイン!返事をしろ!」

 

 透き通った彼女の声が、無音の空間に響き渡る。そして、彼女は一つの鉄格子の前に立った。眼を凝らして独房の中を見てみるとベッドの上に茶色い毛布にくるまりもぞもぞと動く何かがあった。

 

「…あれ?せんせい、おはようございます。次はどこに連れて行くのですか?」

 

「はぁ…今度はどこに連れて行けばいいのだ、馬鹿者。それに今は18時を過ぎたところだ。先程、待機命令の解除がされた。出てこい」

 

 どこか弱弱しく小さな声で発した、ぼさぼさ髪の少女に千冬はため息をつきながら何かの操作をして鉄格子の鍵を施錠する。そして、金属特有の音を発しながら扉を開けた。

 

 その少女は毛布を綺麗に畳むとベッドから降りる。IS学園の制服に素足と投獄当時から変わらない様子の彼女は、ペタペタと足音を立てて独房から出てきた。

 

「あれから何日が経ちました?」

 

「あれから一週間だ。ふらつかないか?」

 

「十分な睡眠をとっていたので健康そのものです」

 

「そんなやつれている顔で言われても説得力がないぞ。こっちだ、ついてこい」

 

 千冬はどこからともなくスリッパを取り出して、彼女に渡すと踵を返し、今いる所よりも明るい通路へと歩いて行った。それに少女もトボトボとついていく。

 

 

 

 

 クリスタが独房室から出た所で、千冬へ話しかける。

 

「そういえば、中井先生はどうしたのですか?てっきり織斑先生ではなくて中井先生が来るものだとばっかり」

 

「ああ、彼女は校外実習の現地視察に行っていて明日には学園へ戻ってくる」

 

「校外学習…そういえばそういうものがありましたね」

 

「それはそうと、お前は形式上ドイツへ緊急帰国をしたという事にしておいた。帰国中は公欠扱いにしておいたぞ。何、出席日数の心配はしなくていい。それに後4日もしたら海で3日間()()()()羽を伸ばすことが出来るから、安心しろ。その時に休めるだろう」

 

「それは……とても良いですね。先生のお気遣いに感謝します」

 

 千冬はにっこりと微笑むと、クリスタもそれにつられて苦笑をする。

 

「何だ、不満か?」

 

「いえ、ドイツで先生から教えていただいたことを活かして普段の生活に戻るように努力します」

 

「…私はそのような事をお前に教えた覚えはないぞ?」

 

「そうでしたか?てっきり教えてもらっていただいていたものだと思っていましたが」

 

「ふん、まあ良いだろう」

 

 廊下では二人の話し声が響き、反響していく。

 

「私が解放されるという事は、私の企業の仕業ではない…という事でしょうか?」

 

「ああ、そういう事だ。今回の件は、ドイツ軍が一枚噛んでいたそうだ」

 

「そうでしたか…」

 

 段々と廊下の灯りが明るくなるにつれて、クリスタは手で目を覆い隠し、細めながら千冬の後を付いていく。

 

 歩いていくと、ふと目の前にコンクリートで出来た段差が飛び込んでくる。見上げると地下と学園とを結ぶ扉があることが分かる。

 

「さて、今更だがこれをお前に返しておく」

 

 そう言うと、千冬は懐からゴーグルを取り出した。

 

「すまなかった。教師として委員会を止められなくて…」

 

 千冬は、先程とは打って変わりどこか悔しそうな表情をしてクリスタにゴーグルを手渡した。彼女は、ゴーグルを受け取ると懐かしむようにゴーグルを撫でる。

 

「いえ、気にしないでください」

 

 そして、慣れた手つきでゴーグルを頭に付けた。

 

「この子を受け取ったときから、その覚悟はできていますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ということで、ISコアは無事であったから黒雨(シュヴァルツェア・レーゲン)は予備パーツで組み直しておいた。一部武装は後に本国から送られてくるだろう。後でそのあたりの整備をしないといけないな…」

 

「なるほど…。ISの事は分かりましたが、少佐の体は大丈夫なのですか?」

 

「んん?ああ、ちょっとした筋肉疲労と打撲だけで済んでいる。あれから一週間が経っているのだぞ。もう治っているから、私の事は心配をしなくても大丈夫だ」

 

「そうですか…。それならば、安心しました」

 

 私がいる場所は1127の部屋である。

 今は私が解放されてから一日後の放課後となり、朝教室に行くと一週間ぶりに日本へ戻ってきた、という事と急にいなくなったということで私は二組の人たちにはもみくちゃにされた。それだけ私のことを心配してくれていたのだろう。自分としては内心嬉しい気持ちがあった。玲菜なんか、涙を流して心配をしてくれた。

 さてそのことは良いのだが、一組と二組の教室の一部が崩壊していた事には疑問に思わざるを得なかった。だが皆はまあ、あれはね…と話題に触れようとしなかったが…。

 

 

「なあシャルロット…このPICってあれだろ?ISを動かしたときに使うやつだろ…だよな?」

 

「そうだよ。ちなみに正式名称は『パッシブ・イナーシャル・キャンセラー』。このPICは物体の惰性をなくしたかのような現象を起こす装置で、ISだったら推進剤として主に使っているよ。他には、姿勢制御とか動きの停止にも使われているよ」

 

「おお、そうだった!全くメモしてなかったぜ」

 

「全く…一夏ってば。分からないからって手の動きを止めちゃ逆効果だよ。とにかく先生の言うことはメモしておかないと。特にIS操縦に関して基本的な事はよくテストに出るのだからさ。それに、…あ、後でなら僕が教えるからさ」

 

「ああ、シャルロットの言う通りだぞ嫁よ。IS操縦者たるもの基本を疎かにしてはいけない」

 

 

 そして、1127にはもう二人同室者がいる。少佐の一夏()とシャルロット・デュノアが一夏の勉強のサポートをしていた。

 なぜ少佐の部屋がこれほど賑やかになっているかというと、話を戻せば色々とある。

 

 

 情報というものは目まぐるしく新しくなる。私が一週間ぶりにIS学園へ戻ってきたときは、まさに驚きの連続であった。

 

 今一夏へIS理論についての先生役に徹し、黒いジャージを着ている人物。彼女はシャルロット・デュノアだ。そう、女。女の子だ。女性だ。決して男ではない。

 私の知っているデュノアという名前の人物はシャルル・デュノア。フランスの貴公子という異名がある。だが、いざ一週間ぶりに会ってみると彼は、彼女になっていた。ジャージの上からでもわかる、ありがたい膨らみが揺れるのを見るたびにシャルルはシャルロットであるという事実が私の心に突き刺さる。ついでに別の何かも一緒にだ。

 転入当時は男装をしており、分けあって今は本来の姿に戻ったとかなんとか。どうせ男性操縦者に近づくために国家ぐるみで男装をして入学でもしていたのだろう。前々から、デュノアという存在には疑問を持っていたが偽装してIS学園へ入学したとなると一見、大スキャンダルであるように見えるが今のところ国際IS委員会が動くといったことは耳に入ってこない。何か裏で取引でもしたのだろうか。とにかく、私の業務には支障をきたさないため放っておいても大丈夫だろう。そして、女子となったデュノアの部屋割りが変わり、空きがあった少佐の所へやってきたというわけだ。

 

 そして、個人的にとても驚いたのは……少佐だ。

 

 彼女はドイツの冷氷ともいわれ、その冷静かつ冷酷な性格から軍部では有名であった。

 

「全く…ISの基本を知らないとは、同じIS操縦者の私の嫁としてのじ、自覚が足りていないぞ!」

 

「だぁー!だから、なんで俺が嫁になるのだよ!普通逆だろ!?」

 

 彼女はもじもじして少し頬を染めながら一夏に言う。

 そう、彼女は変わってしまったのだ。威勢を放つ虎がとても可愛らしい猫に変わってしまうくらいにだ。以前のようなプレッシャーはなく、どこか表情も豊かになったという印象を受ける。

 私としては、この変化はそれはそれで良い変化なのではないかと思っている。少佐は周りの人間にその冷酷さを振る舞い孤独を貫いてきた。だが、そのようにしてしまったのは元からではない。戦うために生まれ、戦いの事だけを教えられ、そして使えないと見放され......。まるで、消耗品のようにかつては扱われてきた身だがそんな彼女にも人の持つ感情があったのだ。きっと黒兎隊のメンバーにこの事を言ったらびっくりするだろう。

 そして、あれだけ忠誠を誓っているブリュンヒルデの汚点として粛清しようとしていた相手(一夏)を嫁と称するところから分かるように惚れてしまったのだ。あの、ラウラ・ボーデヴィッヒがだ。ついでに言うと、少佐は一夏のファーストキスを奪ったらしい。さすがは少佐である。

 

 

「そうだ、ラウラの心配をするよりお前はどうなのだ?クリスタ」

 

 一夏がふと、思い出したかのように私に聞く。

 

「え?私?」

 

「そうだよ。一週間も閉じ込められていたのだろ?体調とかは…」

 

「そこのことは私も大丈夫。食べたら元通りになったから」

 

「そっかぁ。それにしても心配したのだぜ?あれから二組にクリスタがいないって分かって思わず千冬姉に直談判しちまったよ。まあ、お前が元気ならそれでいいのだけれどさ」

 

 一夏は、目を細めてにっこりと笑う。

 

「それにしても、3日後には海かー。楽しみだなぁ」

 

 ふと彼はそのような事を言うと、デュノアそして少佐とともに会話に花を咲かせる。そう、三日後には臨海学校がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 街中にそびえ立つガラス張りの高級マンションがあった。

 太陽はすでにいなくなっており、地上からライトアップされたそれは幻想的な風景を作り出していた。

 

 そのマンションの最上階。その階のある一室は一言で言い合わらすならば豪華絢爛だろう。大理石で出来た部屋を覆う壁に大きなソファー、華やかな色彩を放つ造形品に触ったら壊れてしまいそうな壺など惜しみなく部屋に飾られていた。また、壁の一部がガラスで作られているので、人工的な光で灯された街を一望できるようになっていた。

 

 そんなきらびやかな部屋に一人の女性がソファーに腰かけていた。白いバスローブを身にまとっており、少しはだけた所からその豊満な乳房が見えていた。また少し濡れている長い金髪は、艶かしく見えその背中を飾っている。

 その女性は腕を組みどこか楽しげな表情をして誰かと会話をしていた。

 

「あなたからの報告はすでに目に通しているわ。やっと満足させられたのね、ゼロを」

 

『はい、今のところは何も要求をしてこないのであれも満足していただけたのではないでしょうか』

 

 彼女の頭部の右後ろ辺りから聞こえてくる男性の声は、まるでその場にいるかのようにはっきりとした声であった。

 

「これで、クラウスの仕事もやっとひと段落するのね。何時から私たちから離れたのかしら。ほんとあなた達には待ちくたびれたわ」

 

『はい、ひとまずはですが』

 

 脚を組み、その紅い瞳はちょっとした夜景が見られる外の風景に視線を移す。

 

「あなた達には、どれだけの投資と期待がされているかは知っているわよね。それに見合った働きをしてもらわないと困っちゃうわ」

 

『そのことは十分に承知しております』

 

「分かっているならばよろしい。それじゃあ、先に言っておこうかしら。『ようこそモノクローム・アバターへ』あなたの帰りを歓迎するわ。フロスト」

 

 

 

 



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第16話 揺れ動く砂浜

平均文字数を稼いでいくスタイル


アニメ一期9話のシャルルの「いい↑の↓かなぁ↑」が可愛いかった(小並感)







 

 

 私はまだ海を知らない。

 

 

 

 

 

 ドイツは二つの海__”北海”と”バルト海”に面しており、どちらにもビーチやリゾートは存在する。だが、私は海に近いところに住んでいなかったためそこを通り過ぎることはあっても浜辺に行って遊んだりすることは不思議としようとは思わなかった。特に関心がなかったためか家族水入らずで海に行く…なんてことはまずしなかった。もちろん、その関心がない中にも私はいる。水と戯れるといったら友達とプールに行ったぐらいだろうか。とにかくその程度であった。

 

 

 

 

 今回行われる3日間の臨海学校の主題としては、ISの非限定空間における稼働試験であるそうだ。ISの試験といえば精々IS学園にあるようなアリーナの施設、もとい人工物の中での試験がほとんどである。そこで、そのような人工物ではない場所での試験を行うということが今回の大きな目的である。そして、私たちは花月荘という旅館を貸し切りにし旅館の土地である開けた浜辺で新武装の試験を行い実験・評価をしていく。

 

 …のだが、これはほとんど専用機持ちにしか該当しないためその他生徒たちは訓練機に使われる武装の稼働練習を行っていく。と言いつつも、専用機を持たないその他生徒にとってみればそんな事はどうでもよいらしく、彼女たちの本来の目的と化しているものは…初日に行える海水浴だ。

 

 

 

「ねぇねぇ見て!海だー!!」

「おー海だ海だ!!」

 

 

 

 今の状況を日本の有名な文学作品の文を用いて表現するならまさにこうだろう。

『長いトンネルを抜けると海であった』と。

 

 

 

 かなり長い間走っていた、暗く不気味に橙色に光り轟々しくタイヤの回転音が響くトンネル内を抜けた先には太平洋が広がっていた。バスの中では二組の面々がガラス越しに見える太陽の光に反射し、穏やかに波打つ海面に声を上げていた。中には、海をバックに記念撮影または自撮りをする人もいた。

 IS学園は人工島である故に太平洋に囲まれており、今となっては海というものには見慣れてしまっている。もちろん、初めてIS学園へ来た時にはしょっぱい香りのする海風やうねる波を見たときには、思わず海を数分程ただじっと見てしまうほどの感動を覚えた。

 さて、海を見て興奮している二組メンバーだがバスに乗る前の早朝には、IS学園と本土を結ぶモノレールに乗る時にもバッチリ海を見ていたはずである。何とも不思議なものだと思った。

 

 しかしそれはそれ。これはこれ。せっかくの外泊なのだからこういうものは雰囲気を楽しむものだよ、と玲菜に言われ私は納得した。よくよく考えてみればいつも見慣れているよくしけり底の見えないほど青々とした海と、光陽に照らされた淡い水色とも言える薄い色のした穏やかな海。どちらも海という一つの括りにまとめられるが、人が海で泳いだりして海を楽しむとなれば同一視をすることは出来ないだろう。二組の皆が海を見て興奮している中、私も彼女たちのように写真を撮っていった。

 

 

 

 移動日初日の今日は夕食時まで自由行動となっている。部屋に荷物を置いて散歩をするもよし、昼寝をするもよし。だが、ほとんどはそのような事をするは思ってはいないだろう。近くの海水浴場までも所有する旅館だ。海に行く他はなかろう。これから海に行けるという事で、海の感想から海水浴の話へと移りわいわいと会話が弾んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリスター遅かったじゃない。どうしたのさー。もうみんな泳いだりしているよー」

 

 太陽の光よって熱された砂浜へ到着すると、白と水色の水着姿に変わっている玲菜がこちらへ手を振る。

 

「ちょっと旅館から海水浴場までの道を間違えてしまったみたいで…」

 

「ありゃ。クリスタが迷子になるなんて珍しいね。ま、無事に着いたってことで私たちも行きますか!」

 

 玲菜はニコッと自前のカメラを片手に笑う。

 

「ええ、仕事を始めましょう」

 

 私は着ている濃いネイビー系のラッシュガードの上から『撮影中』というタグをぶら下げ、玲菜とともに海を満喫している生徒たちの所へ歩いて行った。

 

 

 

 新聞部の活動の一環として卒業アルバムのために使う写真の撮影がある。勿論、今回の臨海学校でもそうだ。特にノルマは与えられていないが、各4クラス隔たりなく写真を撮るように黛さんから指示された。そのため玲菜と一緒に行動を共にするわけにもいかないので、彼女には知り合いがいるためメンバーを把握している三、四組の方々を主に担当することにした。2日目はISの試験稼働を行うので、写真撮影など言語道断。今回の場合は初日にあらかたの写真を撮ることにした。

 

『あれだよねー二人だと結構ハードじゃない?だから私も一緒に行…』

 

『いえ、二人で大丈夫ですよ。黛さんは自分の仕事に専念してください』

 

『そうですよ先輩!私たちだってそれなりに力は付けているので、私たちの事は任せてください!』

 

『そ、そっか…じゃあ頑張ってね……』

 

 黛さんにも助力してもらうという手立てもあったが、わざわざ先輩に来てもらうのも良くないと思ったので、丁重にお断りを申し出した。

 

 

 

 

 さて、海ではそれぞれが思い描く海の楽しみ方をしていた。自前で持ってきたのであろうビーチパラソルとシートを用意し日光浴を楽しむ者、海に飛び込み泳ぐ者、可愛らしい動物を模した浮き輪に身を任せている者、ビーチバレーの準備をしている者、砂浜を引きずられている者。それぞれであった。撮影中というタグを首からぶら下げているという事もあり、カメラに気づいた生徒たちが私の方へ顔を向けてくれる。そうして、彼女たちの様子を撮影していった。

 

「ってちょっと!クリスタ!見ていないで助けてよ!」

 

 私の横を通り過ぎ去ろうとしていた引きずられし者()が叫ぶ。

 

「あら、クリスタさん御機嫌よう。鈴さんはご覧の通り怪我をされていらっしゃいますわ。ですので、すぐさま旅館に連れて行かないといけませんので立ち話はこの辺りで」

 

「は、はあ」

 

「さあ鷹月さん、参りましょう」

 

「だから私は一夏に…!一夏!!助けてぇ!!」

 

 早口で私に状況を伝えてもらうと、彼女はそそくさと旅館のある方向へと引きずって行った。終始鈴は、足をじたばたさせて抵抗をしていたようであったががっちりと両脇を抑えられているため身動きがとれず無駄であった。あれだけ元気であるならば大丈夫であろうと自己解決をして、私はそんな彼女たちの様子を一枚の写真に収めた。

 

 

 

 撮った写真の枚数が優に60枚を超えたぐらいになった時だった。一年生の中で唯一の男、織斑一夏の近くに奇妙な白い物体がいることに気がついてしまった。形からして人型である。そして、その白い物体の近くにはシャルロット・デュノアもいた。周りではそんな奇妙な光景に遠巻きにその様子を見ていた。

 

 面白い光景であったので私は興味本位で近づき、カメラを手に取る。カメラ特有のシャッター音に気づいたのか、白い物体を除く二人は私の方を向いた。

 

「なんだ、クリスタか。もしかして新聞部だからか?」

 

 紺色の水着を履いている一夏は腰に手を当て、どこか安心した表情をする。

 

「まあ、そんなところだね。ところでその白い物体は…?」

 

「む?その声はハーゼンバインか。お前も近くにいたのだな」

 

「その声はもしかしてラウラか!?って何でそんな格好をしているんだ?」

 

 どうやら、この白い物体は少佐本人であるようだ。確かに近くで見ると、見慣れた銀髪が左右で一対のアップテールされているところを見るからにそうであると確信する。

 

「ほら、せっかく水着に着替えたのだから、一夏に見てもらわないと」

 

 黄色を基調として所々黒い線が入っている水着を着ているシャルロットが少佐(白いお化け)を揺すり説得にかかる。

 

「んぐ。待て!私にも心の準備というものがあって…」

 

「ふーん、なら僕だけ先に一夏と海で遊んじゃうけど。いいのかなー?」

 

 頑なに水着を見せようとしない少佐に観念したのか、シャルロットは少佐から離れると慣れた動きでしゅるりと一夏の腕に自分の腕を絡ませ、海へ誘うふりをする。ちゃっかり一夏へのボディタッチをするシャルロットにパシャリと一枚。

 

「そ、それはダメだ!ええい!…笑いたければ笑うがいい…!」

 

『先に』という単語に反応した少佐は少しだけ戸惑う動きを見せる。だが、意を決したのか体に巻かれていたタオルを一気に脱ぎ捨てた。投げ飛ばされたタオルが、潮風にあおられ、風にのり遠くまで飛んでいく。

 

「おかしなところなんてないよね、一夏」

 

 少佐は黒い水着を着ていた。

 少佐の透き通るような白い素肌とのコントラストに思わず見とれる。トップス、パンツの部分には淡い紺色のフリルがあしらわれていた。またパンツの腰のあたりには左右に大きなリボンが飾られていた。

 

 

 

 少佐の水着姿を見た刹那、SDカードを新聞部の備品から上着のポケットにしまってあった私物の物へと切り替える。

 

「ああ、可愛いと思うぞ」

 

 

 

 カメラの撮影モードを連写へと切り替える。

 

 

 可愛い……愛おしい、愛らしい、趣き深い様。kawaii。

 

 日本語特有の表現方法であり、初めてこの言葉を知ったときは面白い言い方だなと思った。他に日本語以外で言い表すことは難しく、正に言い当て妙であると感じた。そして、少佐の今の姿は『可愛い』そのものであった。

 

 

「そそそうか…私が可愛いのか。そのような事を言われたのは初めてだ」

 

 少佐は一夏に言われて嬉しかったのか顔を赤らめ、両手の指を弄んでもじもじと落ち着きのなさそうにする。だがそれがいい。

 

 

 こんな少佐を見たことはなかった。あれからの一件以降、少佐の態度は主に同室のシャルロットの影響もあってか少しだけより社交的に変化していた。特に服装に至ってはいつも軍から支給された物品のみで生活をしていたらしい。日常着る服はいつも軍服で、寝る時には一糸まとわずに床に就く。本来の少佐であればここでは学校指定のスクール水着というものを着てくるであろう。そんな服には無頓着であった少佐がこのような可愛らしい水着を着ているのだ。きっと彼女も一夏のためにオシャレに目覚めたのだろうか。以前の様子を知っている私はそんな彼女にとてもほっこりしてしまった。これがギャップ萌えというものだろうか。そのようなことを思いはせながら、私は少佐の姿を色んな角度から何度も何度もカメラのシャッターを押していく。

 

 

「くっ、ハーゼンバイン!お前に見せているわけではないのだぞ!」

 

「分かっております少佐。これもIS学園での思い出の一ページです。このような可愛らしい姿の少佐を撮らない訳にはいきません」

 

「なっ…お前までも…」

 

 両腕で体を隠し、顔を赤らめつつ怒った表情をする少佐もまた格別であった。

 

 

「…何だかハーゼンバインさん嬉しそうだね」

 

「確かにそうでもあるが、ちょっと違うと思うぞシャルロット。ああいうのは鼻の下を伸ばしているって言うんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いやー撮影お疲れさん!って玲菜ちゃんはどうしたのかな?』

 

「彼女なら三、四組の部屋へお邪魔して写真を撮りに行ってしまったので今はいません。報告だけですので私だけも良いかと判断しました」

 

『なるほどねぇ。そうそう写真のデータはこっちでも確認したよ!いやー皆可愛く撮れていていいじゃない!』

 

「ありがとうございます」

 

 時刻は8時を過ぎたところ。

 あっという間に時間は経ち一日目の日程が終了しようとしていた。風呂の入り口近くにある休憩スペースで食事のために着替えた浴衣姿のまま、黛さんとの定時連絡を行っていた。刺身は美味かった。特に本わさびとの相性は抜群であった。

 

『そうそう、クリスタさぁ。初めての海はどうだった?』

 

「そうですね…。案外良いものでしたね、海で泳ぐというものは。今度は地元にあるビーチにでも行こうかなと思います」

 

『それは良かった!何事も経験することは良いことよ!それに楽しんでいたなら、先輩としては嬉しい限りだよー。あそこ結構いい場所だからね。あー懐かしいなぁ一年前には私も行っていたのかー』

 

 これを皮切りにして、黛さんの思い出話が始まる。話を聞く限りでは、長年この花月荘で臨海学校を行っているらしく毎年やることは変わりないそうだ。

 

『それじゃあ、後は朝食と夕食時ぐらいしか写真は撮れないかなー。それじゃ、後の写真も頼んだわよー』

 

「はい、お任せください」

 

 向こうからの通信が切れるのを待ってから、携帯電話を浴衣の袖口に入れる。部屋へ戻ろうとした時だった。目の前からタオルと着替えを持った一夏がやって来ていた。

 

「お、クリスタじゃん。何やっていたの?」

 

「今さっきまで新聞部に今日の報告をしていたところです。少し静かな場所でしたほうが良いと思ってここに。そういえば、もう男子が大浴場を使える時間でしたね」

 

 今の時刻は8時半。ここから一時間ほどだけ一夏だけが大浴場を使えるようになっている。

 

「なるほどね。自由時間になっても仕事があるだなんてご苦労なこったなー。お前も」

 

「これは自分の趣味でもあるので、そうとも限りませんよ?」

 

 肩にかけていたカメラを手に持ち、一夏へ向ける。

 

「ま、好きならそれでいいさ」

 

 彼は荷物を持っていないほうの手でピースサインを作り、にっこりと笑顔になる。いつ見ても良い笑顔だなっと思いながら私はシャッターを切る。

 

「あなたは二回目のお風呂へ?」

 

 カメラのレンズから目を離したため、彼の姿が実像によって小さく見えていたが元の大きさに戻る。

 

「そんなところ。織斑先生とセシリアにマッサージをしていたのだけどさ、汗をかいちゃってな。俺の部屋に箒とお前以外の専用機持ちの皆を呼んだのだけれど、同室の織斑先生に部屋が汗臭くなるから丁度いいし風呂にでも入って来いって言われてなー」

 

「なるほどそれで。…あなたってマッサージも出来るのですね」

 

「まあなー。こう見えて結構自信があるのだぜ」

 

 彼は力こぶを作るような動作をしてドヤ顔で言う。

 

「へぇ…。許可が下りればあなたの部屋にお邪魔したいですね。っとここで立ち話をしていると利用時間が減っていきますよ?」

 

「おっといっけね。それじゃあ風呂に入るわ」

 

 それじゃ、と言うと彼は風呂場の入口へと足を運ぶ。そんな彼を見つめているとふと彼は私の方へ振り返った。

 

「そうそう、クリスタが髪をポニテにしているなんて珍しいな。可愛いと思うぞ」

 

「…それはどうも」

 

 彼は満足したかのようにそう告げると暖簾をくぐって行った。

 

 

 織斑(あいつ)の突拍子もない言動には注意しろ。

 

 

 

 よく鈴からはそう言い聞かされてきた。中学ではかなりの犠牲者(惚れた人)がいたのだとか。それにひどいことに、当の本人は全くその事に気が付かないとのこと。かなりの悪質である。

 

 顔が熱くなっているのを感じ、思わず髪の毛先をいじくる。異性との関わりがあまりないということもあるが、何度遭遇しても未だに彼の突拍子もない言動には慣れないものである。だが心のどこかで褒められて嬉しい気持ちがそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員いるな?では事前に知らせてある通り、これよりISの装備試験を行う。各班に割り当てられた試験を夜までに終えるように!全員、迅速な行動を行え!」

 

「「「はーい!」」」

 

 ISスーツに着替えている一から四組までの生徒たちに向かってブリュンヒルデは拡声器なしで指示を飛ばした。

 

 

 臨海学校二日目。

 昨日の砂浜から少し離れた位置にある、四方を切り立った崖に囲まれているビーチにいる。一学年と各教師が収まるほどの大きさとなるとかなり広い土地であることが分かる。正にIS学園のアリーナに匹敵するほどの大きさだろうか。生徒たちはビーチの中央へ集められ、その周囲を囲むように訓練機が等間隔にずらっと並べられていた。

 

 ブリュンヒルデから指示が飛ばされ、生徒たちは目的の訓練機までテキパキと移動していた。そして、専用機持ちももちろん試験はあるのだが専用機には軍や企業からの試験品が各自に搬入されているので私たちは彼女たちとは別行動をすることになっている。

 

 私はまず、少佐のもとに駆け寄り試験の補助をしに行った。

 黒雨(シュヴァルツェア・レーゲン)への試験品は砲弾パッケージ『パンツァー・カノニーア』。先月のVTシステムの事件により黒雨は現在予備パーツによって復活を果たしたものの大口径レールカノンがまだ発注している最中であり、少佐のもとには届いていない。このこともあり、かねてから試験をしてもらいたいという武装がフォルテシモ社で提案されていた。それがこの砲弾パッケージだ。

 これは、通常装備のレールカノンとほぼ武装は同じであるがプラスαで追加装備がある。まず、通常一門のレールカノンを二つに増設。左右の肩に置かれる。さらに、防御力アップを図るため正面と左右に4枚の物理シールドが備え付けられている。

 

「どうですか少佐?この砲弾パッケージは」

 

「うむ、この物理シールドは嬉しいな。AICを使うとどうも隙が出来るために、攻撃を受けるのだがこれがあれば少しは軽減できるだろう」

 

 黒雨に砲弾パッケージを装着した少佐は満足そうにスペックデータを眺めていた。と、その時だった。

 

「ちぃぃーーーーーちゃぁぁーーーーーんんん!!!」

 

 ふと先程の指示を出していった時のような大きな声がビーチに轟く。余りにも突然の事であったため周りでも手の動きが止まっていた。音の源を探してみるとそれは、土煙を上げて崖を猛スピードで下っていた。

 

 そして、その物体は斜面が20度はある崖の途中で跳躍し、ブリュンヒルデの所へと落ちていく。普通に考えてみれば未知の物体が自分の所へ落ちてきていると考えると危険極まりないのだが、彼女はそれを臆することもなく右手でガッチリと掴んだ。

 

「…」

 

 余りにも非現実的な事が起こったため、言葉にならなかった。そして、織斑先生が右手でつかんでいたものはあろうことか人であった。えぇ…嘘でしょ…。

 

「やあやあ会いたかったよ、ちーちゃん!さあはぐはぐしよう!愛を確かめ…」

 

「うるさいぞ束」

 

 ブリュンヒルデが右手にさらに力を込める。何か固いものにひびが入ったような音がした。

 

「相変わらず容赦のないアイアンクローだねぇ」

 

 束と呼ばれたうさ耳を付けた人のようなものはどこか嬉しそうな声でそう言うと、ブリュンヒルデのアイアンクローから何事もなかったかのように抜け出した。そして、何故かブリュンヒルデの近くにいた篠ノ之箒の所へ駆け寄っていく。

 

「じゃじゃーん!やあ!」

 

 おどけたように大げさに手を広げ、箒に挨拶のようなものをする。

 

「どうも…」

 

「久しぶりだねーこうして会うのも何年ぶりかなー?それにしても、大きくなったね!箒ちゃん!特におっぱいが!」

 

 すると、箒は思いっきり握りしめた拳をセクハラ発言をしたうさ耳人間の頭へ打ち付ける。

 

「殴りますよ?」

 

「殴ってから言ったー!箒ちゃん酷ーい!ねぇ、いっくんひどいよねぇ?」

 

「は、はあ…」

 

 およよと泣く素振りを見せるうさ耳人間は次に一夏へと絡んでいく。

 

「おい束、自己紹介くらいしろ」

 

 呆れて頭を抱えていたブリュンヒルデはうさ耳人間へと告げる。こんな表情をしている彼女を見るのは初めてであった。

 

「えーめんどくさいなぁ。私が天才の束さんだよー!はろー、おわりー!」

 

 うさ耳人間こと束と自称した人はその場でくるりと周る。

 

「もしかして…」

「束って…」

「あのIS開発者の篠ノ之束…?」

 

 遠巻きに見ていた生徒たちが口々にそうこぼしていく。

 

「ハーゼンバイン、あの人物は…」

 

「ええ…篠ノ之束ですね」

 

 

 篠ノ之束。若くしてIS基礎理論を考案、構築、実証したただ唯一ISコアを作り出せる人物。現在は国際指名手配がされている人物。自他共に認める天才科学者であり、()()である。そして……私の憧れの人物。

 

 そもそも、このビーチにこの方がいること自体可笑しな話である。なぜそのような人物がいるのか、不思議で仕方がなかった。

 

 

 ブリュンヒルデ以外の教師までもがただ茫然と篠ノ之束を見つめているなか、彼女はふと右手を上空に指さす。

 

「ふっふっふっ。さあ大空をご覧あれ!」

 

 この声に反応したのか突如、空から彼女の近くに銀色に煌めき輝く、ひし形の物体が落ちてきた。余りにも強い衝撃であったために地面は揺れる。

 

「これぞ箒ちゃんの専用機こと紅椿!全スペックが全てのISを上回る束さんのお手製だよー」

 

 彼女はそう言うと、何かを押したのかひし形の物体は忽然と姿を消し、代わりに太陽の光に照らされ光り輝く、紅い色をしたISがその場に鎮座していた。

 

「さあ箒ちゃん!今からフィッティングとパーソナライズを始めようか」

 

「お、お願いします」

 

 箒は特に驚く様子もなく、その紅いISへと近づいて行き装着する。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行して入れてあるから。後は最新のデータに更新するだけだね」

 

 箒がISに装着したのを確認した篠ノ之束は、IS作業画面である空中投影ディスプレイを同時に6枚呼び出すと、同時に呼び出したキーボードをにこやかな表情で操作していく。

 

 

 専用機…?彼女は確かにそう言った。この人は、また新たなIS(戦闘兵器)を作り出したのか。

 現在ではISコアの生産はされておらず、現存する数をやりくりして研究・開発・運用を行っている。そして、専用機はIS操縦者にとってみれば憧れの存在。IS操縦者が己の技術と実力を他人に認められた証。さらに専用機を持つという事はそのISコアを所持する企業、または国の代表である証だ。専用機を持つことによって企業・国を誇りに思いISの発展に貢献していくという表れでもある。

 一夏を除くが少佐も、鈴も、シャルロットも、セシリアも、そして私も。いや、それだけではない。世界中にいる専用機持ちは他にいる候補者を押しのけ、跳ね除け、自身の功績を認められて初めて専用機を手にすることが出来た。あのように、親が我が子への誕生日プレゼントとするかのように簡単に譲渡できるような代物ではない。

 

 私の疑問はそれだけでは収まらない。あのISのコアは世界中に存在するISコアの一つなのだろうか?それとも、新たに作り出した…?新たに作り出されたのならば大問題だ。世界中が我先にとあのISの保持を要求するだろう。しかし、そう簡単にはいかないか。なんせ、篠ノ之箒はあの篠ノ之束の妹である。どこの国に属するかなど、彼女からしてみれば見にくい争いにしか見えない。そもそも、そのような愚行を許すはずがない。

 そして、あれはどちらが望んだものなのだろうか?受注者(篠ノ之箒)か?発注者(篠ノ之束)か?もし、受注者が望んだなかったにしろ、そうでないにしろ………彼女は専用機を持つという事の意味を理解しているのだろうか?

 

 

「よし、後は自動処理が終わればパーソナライズは終わりだね!それじゃあ、いっくんの白式を見せてよ!私はただいま興味津々であるのだ!」

 

「はぁ、分かりました」

 

 紅いISの設定が終わったのか、今度は白式の方を何やら弄っていく。そんな中、一人の生徒が篠ノ之束へ近づいて行っていた。セシリアだ。

 

「あ、あの!篠ノ之束博士のご高名はかねがね伺っております!もしよろしければ私のISを見ていただけないでしょうか?」

 

 国際手配されているもののISを作り出した開発者である。彼女も篠ノ之束のファンの一人なのだろう。どこか嬉しそうな表情をしていた。だが、彼女の思惑は簡単に打ち破られることになった。

 

「はぁ?誰だよ君は。金髪なんて私の知り合いにはいないのだけど」

 

 視線を空中投影ディスプレイからセシリアへ移したもののとても興味がない様子であった。そして、声のトーンも低くセシリアへさらにまくし立てる。

 

「そもそも今は箒ちゃんとちーちゃんといっくんとの数年ぶりの再会なのだけれど。そういうシーンだけど。どういう了見で君はしゃしゃり出てくるのかな?私でも全く分からないや、理解不能。というか誰よ?」

 

 次々と容赦のない言葉をセシリアに浴びせる。憧れの人を前にして、彼女は段々と表情が暗くなる。

 

 

 我慢などできなかった。

 

 

「おい、ハーゼンバイン!」

 

 

 何故、新たに戦うためのISを開発するのだろうか?それが、あの人の考えていた事なのだろうか?

 

 

「え、あの…」

 

「ちっ、うるさいなぁ。どっかに行…」

 

「お初にお目にかかります。篠ノ之束博士。私はドイツ、フォルテシモ社所属のテストパイロット、クリスタ・ハーゼンバインです」

 

 篠ノ之束の視線上に立つために私はセシリアの前に立った。

 

「クリスタさん!今博士へ話しかけたら…」

 

「また来たよ。全く企業の人間って本当話を聞かないやつらばっかりだよね。自分が嫌われているって分からないのかな?だから私は君なんか知らないし…」

 

 逃げちゃだめだ。

 

「このISコアはあなたが作り出したのですか?それとも、今現存するISコアから抜き取ったのですか?」

 

「はぁ?それを聞いて何になるっていうのさ。というかしゃしゃり出てこないって言っているよね。私の邪魔しないでもらえる?」

 

 それは、ひどく冷たいものだった。同じ人であるはずなのに、言葉一つ一つが体を貫いていく。体中から汗が噴き出してくる。

 

「なぜ最新鋭機を篠ノ之箒へ渡すのですか?新たな火種を生む戦闘兵器を」

 

「あーもう、しつこいのだけど!そんなに私を邪魔したいの?」

 

 明らかにイラついている篠ノ之束は白式のデータを操るキーボードから手を放し、彼女の周囲からIS整備用と思われるISのアームパーツが光とともに現れた。

 

「束さん!落ち着いて...」

 

「あなたは!!」

 

 涙が出そうだった。でも私は力いっぱい叫んだ。任務だとか、企業の人だとか、そのようなことはどうだって良かった。ただ私が、クリスタ・ハーゼンバインが知りたいことだった。胸の奥にずっとしまいこんでいた物を吐き出したかったことだった。

 

「あなたの夢は、こんな…こんなISという戦闘兵器を作りたかったのですか?」

 

「はぁ?何言っているの君?」

 

「ISは…そんなちっぽけなものなのですか?ISは……宇宙へ行くためのものなのではないのですか!それがあなたの望んだものではないのですか!?」

 

 

 

 

 

 天災の動きが一瞬だけ止まり、何かを言おうとした口はきゅっと結ばれる。そして、ただ私を汚物でも見るかのような目で私を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 







あまり、暴言を言わせたくはなかった元大盗賊です。


束ファンの皆さんには、申し訳ないのですが白くはない束さんの登場です。



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第17話 交錯する想い

 夏が始まったばかりの砂浜には暖かな潮風が体に吹き付け、海の匂いが鼻をくすぐる。このISの作業が終わったらどんな昼飯を食べられるのか、なんて思っていたやつもいるのではないだろうか。だが、ここにいる皆はこの匂いも風も今自分がこれからどうしようかさえ忘れてしまっているだろう。そんな緊迫した空気が、辺りに立ち込めていた。

 

 

 

「ISは…そんなちっぽけなものなのですか?ISは……宇宙へ行くためではないのですか!それがあなたの望んだものではないのですか!?」

 

 彼女、クリスタは両手の拳を強く握り束さんに睨みつけていた。

 

 こんな彼女を、感情的になり噛み付いている所を見るのは初めてであった。普段は冷静沈着…というイメージを持っていた俺からしたら意外であった。そして何より、あの束さんに向かって発言しているという事がこのどうしようもない雰囲気にさせていた。

 

 最初はセシリアに対しての暴言について何かを提言するのかと思っていた。確かに束さんは俺と箒、そして千冬姉くらいの身内にしか興味はなくそれ以外の人の区別がつかないそうだ。千冬姉曰く、これでも少しはましになっていると言う。どうしようもないと思いつつも、セシリアには申し訳ないことをしてしまったと何だかただ見ていることしかできなかった俺が罪の意識を感じていた。

 

 それにクリスタは、ISは宇宙に行くための…とか言っていたな。確かにISは本来の目的が宇宙に行くための…だったか?

 そんなことを思っていた時だ。

 

「おい。私の教え子に手を出すことはさすがに看過しきれない、落ち着け。」

 

 千冬姉が束さんの肩に手を置き、彼女を宥める。すると、束さんの周りにあった腕みたいなものは光とともに突如として消え失せる。そしてくるっとその場を回り千冬姉と顔を合わせるような位置に動いた。

 

「もう!ちーちゃん、眉間にしわを寄せすぎー。綺麗な顔が台無しだよ!」

 

「くっ、誰のせいでこうなっている。おい、オルコットにハーゼンバイン。こいつの事が気になるのもわかるが今は作業をする時間だ。雑談をするために今の時間を設けたわけではない。さっさと持ち場に戻れ。そら一年!手が止まっているぞ。こいつは無視してさっさとテストを終わらせろ。」

 

 顔に触ろうとする束さんを躱しながら千冬姉はきびきびと指示を出す。

 落ち込むセシリアとそれを慰めるクリスタは大人しくそれに従い元の場所へと歩いていき、緊迫した空気はまるで糸が切れたかのように元通りになって、周りでは作業を進めていった。

 

「もうちーちゃん!こいつはひどいよ!私の事はらぶりぃ束さんって呼んでもいいのよ?」

 

「うるさい黙れ」

 

 こうしてまた二人の漫才が繰り広げられるさっきまでと変わらない空気に戻っていった。

 

 

「あの…私のはまだ終わらないのですか?」

 

 ふと隣で紅椿とやらに乗る箒が咳払いをしていちゃいちゃしている束さんに聞く。再びアイアンクローを食らっていた束さんはまたしても千冬姉の魔の手から抜け出し近づいていた。

 

「んー!もう終わってみたいだね!それじゃあ試運転も兼て飛んでみてよ。箒ちゃんの思うように動くはずだよ!」

 

「分かりました」

 

 箒は目を閉じ、意識を集中させる。いよいよ飛ぶのか、と期待の眼差しで見ていると彼女は既に上空へ飛翔していた。

 なぜそれが分かったかというと俺が見ていたところには既に箒はいなくなっており、飛翔する際に発生した衝撃波により舞い上がった砂だけがその場に漂っていたのだ。ハイパーセンサで箒をとらえると既に上空200mの地点にいた。速い……すぐにそのことが分かった。

 

「どうどう?箒ちゃんが思うように動くでしょ?」

 

「ええ…まあ」

 

 紅椿は、空を自由自在に滑空していた。あまりにも速いスピードなので、ハイパーセンサなしでははっきりととらえることは難しいだろう。

 二人の会話は、まるで近くで会話をしているかのように行われていた。オープンチャンネルだからだろうか。箒の返答も俺にもはっきりと聞こえてきた。

 

「じゃあ刀を使ってみてよ!右のが雨月で左のが空裂だよー。武器特性のデータを送るよー」

 

 指示されたと通りに箒は手元に刀のような武装を二つ展開する。その姿は、不思議と様になっていた。剣道を嗜んでいるからだろうか。

 

「雨月…いくぞ!」

 

 右手に持つ武器を箒はその場で左薙ぎに一閃。

 すると、刀を振り切った周囲からいくつもの赤い光が灯り、それは光の弾丸となって、振り切った所から周囲に拡散していく。発射された所に漂っていた雲を蜂の巣にした。

 

「いいねいいね。次はこれを撃ち落としてみてね♪ほーいっと!」

 

 満足そうに束さんはうなずくと、次に彼女の頭上付近に何やら金属でできた箱のようなものを呼び出した。先程の腕の事もいい、彼女がどういう原理でISなしで呼び出しているか気になったものの深く考えないことにした。

 呼び出されたその箱は次の瞬間、ミサイルが箒に向かって放たれた。しかも誘導付きだ。

 箒は一旦さらに上空へ飛び上がり、距離を取る。付いてくるミサイルを見事に躱しながら彼女は振り向きざまに左手の刀を右薙ぎに一閃。

 すると、またしても刀を振るった辺りから赤い光が灯る。今度それは帯状に繋がり撃ちだされた。そして、箒を向かってきていたミサイルを次々と破壊していく。

 

「すげぇ…」

 

 あの機動性に二刀流。さらに射撃武器も兼ね備えていた箒のISに思わず俺は、言葉をもらす。

 急きょ始まった紅椿による演武(IS実演)に周りで作業していた生徒たちが皆、爆炎が収まる所からちらりと見える、その堂々たる姿に魅了され、言葉を失っていた。

 

「うんうん、いいねぇいいねぇ」

 

 そんな中ただ一人、束さんは満足そうな表情で何度も頷き妹のISデビューを見守っていた。

 

 

 

 

「大変です!織斑先生!」

 

 すると、何やら慌てている山田先生が千冬姉に近づいていく。

 

「これを…」

 

 手に持っていたタブレット端末を千冬姉に渡す。それを見た千冬姉の表情は決して良いものとは言えなかった。

 

「匿名任務レベルA…現時刻よりはじめられたし…」

 

「そ、それが、そのハワイ沖で実験中であった…」

 

「し、機密事項漏らすな。生徒が聞いているぞ」

 

「あわわ、すみません」

 

 千冬姉の表情は真剣そのものであり、互いに何かを話し合う。それが終わるとすぐに山田先生は他の組の先生の所へ走って行った。

 

「全員、注目!」

 

 朝のように千冬姉は大きな声で言うと、全員が千冬姉の方を振り向く。

 

「これよりIS学園教員は特殊任務行動に移行する。テスト稼働は中止だ。各班、ISを片付けて旅館へ戻れ。連絡があるまでは各自室内待機すること。以上だ!」

 

 それを聞いた生徒たちはざわざわと騒がしくなりながらも、テキパキとISを片付ける作業をしていった。

 

「専用機を持ちは集合しろ!織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰……それと篠ノ之も来い」

 

 俺を含めて呼ばれた人たちは返事をする。あれ、一人いないような…。

 

「それとハーゼンバイン!お前は一般生徒と同様に待機だ、いいな?」

 

「…はい!」

 

 彼女の様子はまるで呼ばれないことが当たり前かのように淡々とした態度であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「では現状を説明する」

 

 旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷『風花の間』には、クリスタを除く専用機持ちと一部の教師陣が集まっていた。

 

 室内は空中投影型のディスプレイが中央に大きく一枚、正面に見えるステージの前に大きく一枚映し出されていた。そしてデスクトップ型の通信用ディスプレイが壁際にいくつも置かれていた。そのため、閉め切っている室内は昼過ぎであるにも関わらず暗くなっていた。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代のIS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』通称、福音が制御下を離れて暴走。監視区域より離脱したという連絡を受けた」

 

 ISの暴走だと?

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の区域を通過することが分かった。時間にして50分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」

 

「はいぃ!?」

 

 何でIS学園の生徒である俺たちがやらないといけないのだ?

 そんな無茶苦茶な…。

 

「一々驚かないの」

 

 隣にいた鈴が小声で俺に注意する。他の皆を見てみるとこの現状を理解している、といった顔だった。なぜそこまで急に対応が出来るのだ?不思議で仕方がなかった。

 

「それでは作戦会議を始める。意見のあるものは挙手をするように」

 

「は、はい」

 

「どうした?織斑」

 

 千冬姉が質疑応答の時間を設けてくれたので、俺はすかさず手を挙げる。

 

「何で、クリスタがこの場にいないん…のですか?あいつも専用機持ちですよね?」

 

 こういうのって人が多いほうがいいだろ…。ならなぜ…。

 

「ああ、そのことだがこれは上層部からの指示である。異論は認められない」

 

 なぜそのような事をするのだ?俺にとっては意味の分からないことだった。

 

「何でだよ!何があるか分からないけど、こういうのは人数が多いほうが良いじゃないのか?6人でやるより、7人でやったほうが…」

 

「確かに専用機持ちが多ければ多いほどいいだろう。だが、あいつのISには問題があることは知っているな?」

 

「問題って…たしかあいつの『サンドロック』ってやつが以前は違法な実験に使われていたとか…だよな」

 

「そうだ。現在、サンドロックは国際IS委員会によるデータの提供・監視があることが条件で今使うことが出来る。前科があるから、それを防止するためだそうだ。詳しくは聞かされていないが、恐らく活躍されたくないのだろうな、サンドロックに」

 

「それってどういう…」

 

「話は少し変わるが、サンドロックを所有する研究所の親会社『フォルテシモ社』は今なお時代に逆行するかのように主に男の手による経営で成り立っている、ヨーロッパではそれなりに有名な企業だ。ボーデヴィッヒのISにも少し関わっているほどにな。今の世の中だと少し特殊な企業だ。そのような企業が所有しておりなおかつ、前科持ちという罪があるISに手助けをしてもらいたくないのだろうな。上の人間は」

 

 なんだよそれ…。そんなの単なるエゴじゃないか…。

 

「あれだろ、一時間もしないうちにその福音ってやつがやってくるのだろ!今更、昔やらかしたとか、あのISが嫌いだからとかっていう理由で参加させないっておかしく思わないのかよ!?今そのような悠長なこと言っている場合じゃ…」

 

「織斑!」

 

 千冬姉が険しい表情になり、俺を見てくる。

 

「これは学園上層部から来た命令だ。元を辿れば、委員会から来ているものだろう。私もお前の意見には同感だ。男による企業によって作られたからなどと甘ったれた理由で戦力外にすることはどうかと思う。だがな、これは上からの命令だ。私たち現場にいる人物で勝手に判断してはいけない。既に通達がされているものだ。先程も言ったように異論は認められない」

 

「はい…分かりました」

 

 それは千冬姉も思っていたんだ。けれど、そんなことが許されるなんて…。俺には納得がいかなかった。それ以上に、そのことになすすべがないことにも腹が立っていた。

 

「他にあるか?」

 

「はい、目標ISの詳細なスペックデータを要求します」

 

 セシリアが少ししてから手を挙げる。

 

「うむ。だが決して口外をするな。情報が漏えいした場合、諸君には査問委員会による裁判と二年間の監視が付けられる」

 

「了解しました」

 

 セシリアの返事が合図であったかのように、数々のデータが目の前にある広間中央にあるディスプレイに映し出された。

 切り替えていこう。

 そう思い映されているデータを見るのだが、素人の俺にはさっぱりわからなかった。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型…私のISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」

 

「攻撃と起動に特化した機体ね。厄介だわ」

 

「この特殊武装が曲者って感じはするね。連続しての防御は難しい気がするよ」

 

 表示されたデータを他のみんなが真剣な表情で討論していく。この話についていけないことに俺は情けなく思うばかりであった。

 

「しかもこのデータでは、格闘性能は未知数だ。偵察は行えないのでしょうか?」

 

「それは無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。アプローチは一回が限界だろう」

 

「一回きりのチャンス。という事はやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」

 

 

 理解できている人同士で話し合いが進む中、ふと山田先生がいつもの分かりやすい解説が挟む。なるほど、素早く動く敵を一回きりのチャンスでものにしないといけないのか…。

 

 ふと視線を感じ、周りを見ると全員が俺を見ていた。

 

「…え?」

 

「あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

「それしかありませんわね。ただ問題は…」

 

「どうやって一夏を運ぶか。エネルギーは全部攻撃に使わないといけないと難しいだろうから、移動をどうするか」

 

「しかも目標に追いつける速度を出せるISでなければいけないな。超高感度ハイパーセンサも必要だろう」

 

「ちょっと待ってくれ!俺が行くのか?」

 

 あまり状況が飲み込めていなかった俺は話を一旦中断させる。

 

「「「「当然!」」」」

 

 四人の声がはもる。いや、合わせなくていいから。

 

「四人まとめて言うな!」

 

「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないならば、無理強いはしない」

 

 実戦。その言葉を聞き、押さえ込まれていた記憶が一気に放出される。謎の無人ISにラウラの暴走事件。これまで俺は学園で色んな経験を積んで、そしてトラブルに難なく対処してきたじゃないか。学園関係者やクラスの子たち。皆を守る力がある。だからこそ俺はここへ呼ばれたのではないか。不本意なところもあるが、俺にしか出来ない役目ならばそれを果たしたい。皆を守れるのであれば、それに、ここで引き下がったら男じゃない。

 

「やります。俺がやってみせます」

 

「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。現在この専用機持ちの中で最高速度を…」

 

 その時だった。

 

「待った待ーった。その作戦は待ったなのだよー!」

 

 千冬姉の話に紛れ込んできたのはどこか聞き覚えのある声だった。天井を見上げるとそこには普段木の板が敷かれている場所にそれはなく、代わりにひょっこり頭を逆さまにしている束さんがいた。

 

「また出たよ」

 

 それにどこから来たんだ?と疑問に感じたが俺は2秒後に考えることをやめた。

 

「とうぅ★」

 

 擬音語を自分の口から言うと束さんは天井からくるりと一回転して落ちていく。だがそれはコケることなく猫のように見事に着地した。

 

「ちーちゃんちーちゃん!もっといい作戦が私の頭の中にナウ・プリンティング!」

 

 すたすたと音もたてずに束さんは、いつものように千冬姉に近づく。そんな様子に千冬姉は頭を抱えていた。

 

「出ていけ…」

 

「聞いて聞いて!ここは断然!紅椿の出番なんだよ!」

 

「何?」

 

 紅椿…箒のISか。

 

「紅椿のスペックデータを見てよ!パッケージなんてなくても超高速移動が出来ちゃうんだよ!」

 

 束さんが説明している最中に、福音のスペックデータなどが映し出されていたディスプレイには、紅椿と思われるものに勝手に変換されていく。作業をしていた先生方が度肝を抜いていた。本当に申し訳ないです、うちの束さんが…。

 

「紅椿の展開装甲をいじればホホイのホイで他のISとは比にならないほどのスピードが出ちゃうんだよ!」

 

 展開装甲…聞きなれない単語に俺はさらに混乱してしまった。なんだよそれ…授業でそんなのあったっけ…。

 

「あら~皆ぼうっとしちゃってどうしたのかなー?仕方ない、私が直々に説明をしましょーそうしましょー!展開装甲はねぇ、この天才束さんが作り出した第四世代の特徴なんだよー」

 

「第四世代…」

 

「各国でやっと第三世代の試験機を作り始めたばかりですのに…」

 

「なのにもう…」

 

 俺だけではなく、周りの皆も一緒に困惑していたようだった。ってことはみんなも聞き覚えのない単語なのか?

 

「おやおや?いっくん、顔にまだ説明が物足りないって書いているよー。はーいここでいっくんのためにISの復習でーす!まず、ISの第一世代というのは『ISの完成』を目標とした機体だね。その次の第二世代が『後付武装(イコライザ)による多様化』。そして、第三世代が『操縦者のイメージ・インターフェースを利用した特殊武装の実装』だね。それでぇ……第四世代というのが『パッケージ換装を必要としない万能機』という、絶賛机上の空論のものだよー。はい、いっくん理解できたかなぁー?」

 

「あの…えっと…」

 

 つまりすごいものであるという事は俺には理解できた。

 

「まだ難しかったかな?具体的に言っちゃうと白式の雪片Ⅱ型に使われているものなんだよねー」

 

「「「ええ?」」」

 

 まさかの一言に、俺以外の皆も驚く。

 

「ふっふっふ。試しにぶち込んじゃうくらい、束さんはそこんじょそこらの天災じゃないのだよ!これくらいは三時の………」

 

 腰に手を当て、ニコニコ笑顔になっていた束さんの表情が急に失われる。よく見ると、頭に付けていたウサ耳がやたらとせわしなく動いていた。

 

「束さん…?」

 

「ん?何でもないよーいっくん!ノープロブレム!」

 

 俺が心配していることが伝わったのか、再び嬉しそうな表情をしてこちらに向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ザーザーと雑音だけが耳に入って来ていた。

 耳障りな音だけしか聞こえなかったため私はすぐさま耳からイヤホンを外す。

 

 

 ISの試験テストを中止にするほどの事態。一体どのような事があったのかと事前に用意していた盗聴器から聞こえてくる言葉は想像を超えるものばかりだった。

 福音暴走、紅椿、そして第四世代IS。

 

 

 

 私はあれから部屋に戻ると割り当てられていた部屋から出て、巡回の先生に既に他の人に使われているため、旅館のお手洗いを使わせてほしいと懇願した。私の願いはあっさりと了承され、誰にも見られることもなく物静かなトイレの個室に入ることが出来た。

 篠ノ之束の口から飛び出す爆弾発言の数々。第四世代ISは机上の空論のものであるとは言ったもののISの理論を構築した本人(篠ノ之束)にとってみれば空想上の話ではなく、可能な事だ。世間では一所懸命に第三世代ISの開発に勤しんでいるのにも関わらず、開発者本人は、妹のプレゼントのために第四世代ISをぱっぱと作り上げてしまう技術力。私たち企業が汗水たらしきた努力がとても小さく見えてしまいそうであった。

 話は途中で切られてしまったものの白式の零落白夜は第四世代ISの特徴である『展開装甲』の一種。単なる単一能力(ワンオフ・アビリティ)であるという報告をしていたが変更しなければならない。それにもう一つ、紅椿の性能がとても気になる。蒼雫のようにブースターパックパッケージを必要とせずとも瞬時にそれと同等の性能を確保できるという『展開装甲』。射撃武器も持ち合わせる近接万能型かと思えばそれだけではなかった。既に、福音暴走については報告をしている。後は、この音声データを解析して、一つにまとめる作業を一連の騒動が収まってから行おうと予定を立てた。

 

 これ以上盗聴は厳しいと判断したため、私は制服のポケットに道具一式をしまい、お手洗いから外に出る。周りを見渡すと、誰も居なくしんと静まり返っていた。これ以上の長居は無用であるため、私はそそくさと自分の部屋へと戻っていった。それにしても、なぜ突然盗聴器に不具合が生じたのだろうか。歩きながらその疑問だけがずっと私の頭の中をぐるぐると駆けずり回る。

 

 以前にもメンテナンスは行っており、ちょっとやそっとの妨害行為には耐えうることが出来る仕様にしていた。きちんと事前に調査も行っていたはずだがそれでもダメだった。では何が原因だろう。廊下には履物によって生み出された音だけが響いていく。

 とにかく、部屋に戻ったほうが安全だろう。途中で事情の知らない教員に会って引き止められることは勘弁しておきたい。頭の中を切り替えたときだった。突如、左側にあった誰もいないはずのふすまが開き、何かに私の左手が掴まれる。

 

 警戒などしていなかった私はされるがままに引っ張られた。体のバランスが崩れた所を何かに押されてうつ伏せに倒れる。地面は畳であったため、少し痛みは和らぐがそれでも、顎に激痛が走った。

 痛みに悶絶していると何かが私の背中に乗っかり、足が縛られる。それはとても冷たく、硬かった。

 左腕は背中に回され、右腕も何かに掴まれて抑え込まれる。マウントポジションを取られ私は全く身動きが取れなくなかった。それと同時に首筋に何かを刺された感覚が私の体を襲う。だが、不思議と首に痛みというものはなかった。

 

 

 

 

「誰かと思えばさっきのゴーグルを付けていた外人かー」

 

 聞き覚えのある声だった。つい数時間前に聞こえたものだった。そして、今聞きたくない声であった。

 

 不覚だった。今ここには”天災”がいるのだ。

 

「いっくんたちと一緒に行動できないからって許可なく聞き耳を立てちゃいけないなぁ。束さんの授業料は高くつくよ?」

 

 篠ノ之束は私の左腕を更に締め上げる。どうやって私の場所が分かったのだ…?

 

「どうにかして作戦に邪魔をしようとしても無駄だよ。これは箒ちゃんのための晴れ舞台だからねぇ。他人の邪魔なんてさせないよ?」

 

 そうか。

 

 この人の前では常識という言葉なんか通用しない。

 

「晴れ舞台とは……まるであなたが仕組んだかのように言いますね」

 

 体を動かして抵抗をしてみせるものの、全くびくともしなかった。手足も固定されたまま動かすことが出来なかった。動かすとさらに痛みが走る。

 

「そりゃ…ねぇ?全部この束さんが用意したもんだし?」

 

 数時間前のような毛嫌いするような口調ではなく、どこか楽しそうな口調であり、ひどくあっさりと答えが返ってきた。

 

「なっ!?」

 

 予想外な返答に私は言葉を失う。なぜこうも簡単に白状するのだろうか?

 

 ふと私を押さえつけていた圧迫感がなくなる。やっと解放されたのか、という謎の安心感に包まれたがすぐに症状は現れた。

 

 それはとても不思議な感覚であった。

 私の足はまるで鉛のように重く動かすことができなかった。いや、感覚がなく何かの異物が私という体にくっ付いていたのだ。腕も同様だ。ただ唯一動かせられるのは、眼球と口だけだった。

 

 篠ノ之束は、私の体を仰向けにする。

 乱暴に私の体を反転させられ、彼女の表情をやっと見ることができるようになった。

 

「まあ、君に知られたところでどうという事ないけどね」

 

 それは、私のことを人として見ているとは言いがたいものではなかった。あまりにも冷たい視線に身震いする。

 

「さて…このあたりかな?えぃ!」

 

 仰向けにした次に起こした行動は、私のボディチェックをすることだった。ガサゴソと上着の内ポケットから肌着に至るまで私の体をまさぐり、隅々まで目的の物を探る。彼女が求めていたものは、私が使っていた盗聴器の類であった。

 

「君かー悪い電波を出しているのは!物的証拠は残してもらっては困るなぁ」

 

 イヤホンに録音機。先程まで私が使っていたものだ。それらを親が子供へ叱りつけるようにわざとっぽく言うと、私の横の位置に放り投げた。

 

 音を立てて畳の上に落ちた盗聴器類は少しだけ跳ねてその場を動かなくなる。そこへ…何やら銀色の光る小さいものがどこからともなくうじゅうじゃと群がって行った。

 

「…!」

 

 それはまるでリスのようなものであった。小さな体に丸まったしっぽ。金属でできたリスのようなものたちは、盗聴器の近くに群がると……それらを食べ始めた。

 

「え…?」

 

 それらは、金属やプラスチックで出来ているにも関わらずカリカリと小さな音を立てて食べて、もとい解体をし始めた。

 

「さて、後は仕上げだなぁ」

 

 私は、リスの行為をただ見ていることしか出来なかった。

 

「世の中、知っていてもいいことと知らなくてもいいことはいっぱいあるからねぇ。君は知りすぎたんだよ」

 

 視線を篠ノ之束に戻すと、彼女は何か金属でできた棒状の物を取り出した。そして、じじじ…と音を立てて弄っていき、リスもどきの食事音と一緒に奇妙な二重奏(デュエット)を奏でる。

 

「ちーちゃんの教え子だしちーちゃんが悲しむ所を見たくないから、これくらいでいいかな?」

 

 何やら機械の設定をしている間に、盗聴器たちは無残にもねじ一本も残らずに解体され、リスのような物体の集団は音もなく消え去っていた。

 

「私をどうするつもり?」

 

「んー?怖いの怖いのかい?ふふふ…」

 

 彼女は棒状の物に視線を合わせながら不敵に笑う。

 

「よし完成!はいはい、ご注ー目」

 

 私の目の前に持ってきた物体…棒状のようなものの先端は赤く、幻想的に光っていた。思わずその光に見惚れる。

 

「君がちーちゃんの教え子でよかったね★今回は初回限定!特別に1日分の記憶を飛ばしてあげましょーう!」

 

「記憶を!?そんな馬鹿げた事が…」

 

「甘い甘い。私は天才束さんだよ?不可能なんてないのさ」

 

 それは、唐突に甲高い機械音が鳴り響き、赤い光が増長されていく。

 

 

 

 

 

 何を言って…

 

 

 それは光を放つと、私の目に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ宇宙に行けると信じている人がいることにはね、束さんも驚いたよ」

 

 篠ノ之束は地面に転がり意識を失い、制服のボタンが外れ、肌が露出している少女を見つめていた。

 

 

 

「夢なんてものはね、あれこれ妄想しているときが一番幸せなんだよ?」

 

 彼女の言葉に反応する者はだれ一人いなかった。

 

 

 

 

 

 



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第18話 誰が為の福音

どうやら、ISの最新刊が出るそうですね!
楽しみ!







「おや?今日も来られたのですね」

 

 

 

 そこは、とても輝かしい場所だった。

 

 辺りを見回すと私は教室にいた。

 

 正面には教壇と机が置かれており、黒い神父服を着ている妙齢の男性が片手に本を持ち教壇の上で佇んでいた。顔にはしわが深く彫られ、髪の毛や眉毛には白髪が所々見える。彼のいる位置はよく先生が授業をしている位置だ。周りは綺麗に縦横が並べられている机と椅子がある、見慣れた光景だった。

 左にあるガラス窓一面は神々しく夕日に染まっていた。私の左半身も夕日に染まる程の、あまりに強い光は部屋全体が黄昏色に照らされ、外の様子を見ることさえ困難なほどだ。

 右を見ると扉の開かれた先にいつもの廊下が見えた。廊下も黄昏に染まっておりこの時、ここには私以外はいないのだと不思議と分かった。

 

「熱心ですね。神は常に我らの近くにおられます」

 

 私はIS学園の教室の中心に立っていた。心には悩みも迷いも何もなく、ただただ暖かな気持ちで満たされていた。

 正面にいる男性に視線を向けると、男性はにっこりと微笑みかけていた。

 

「初めに言があった。言は神と共にあった。言は神であった。この言は初めに神と共にあった。すべてのものは、これによってできた。できたもののうち、一つとしてこれによらないものはなかった。この言に命があった。そしてこの命は人の光であった。光は闇の中に輝いている。そして、闇はこれに勝たなかった…」

 

 子供へ聞かしつけるように、優しくそしてゆっくりと男性は読んでいく。それはとても大きな声で。

 手に持つ本を朗読し終えた男性は本を閉じ、私へ視線を向ける。

 

「あなたのこれまでいただいた恵みの為に、神に感謝をいたしましょう。大丈夫です。神は常に我らと共にいます。さあ、祈りをささげましょう。あなたの心に安らぎを見出すでしょう」

 

 男性は手に持っていた本を机に置くと胸のあたりで両手を組み、祈りをささげた。

 

 私もそれに倣って、目を閉じた。

 

 

 

「あなたも神を信じ、その与えられた恵みに感謝をしていれば、神はあなたに寵愛を与えてくれるでしょう。大丈夫です。神は信じる方の幸せを願っているのですよ。だから、願うのです。×××××」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を開けると私は教室にいた。

 

 先程と変わらない光景であった。夕日に照らされ、部屋全体が明るくなっており、それが作り出す影もなお、黒く全てを飲み込むような闇であった。ただ唯一違う所と言えば、目の前にいる人物であった。

 

 黒い修道服を着て、頭に頭巾をかぶっている恰幅の良いシスターがそこにはいた。顔にしわがあることから、歳はとっているとわかった。手には何も持っておらず両手を机の上に置いていた。

 

「結局はね、自分の実力が一番信じられるのさ」

 

 女性は言った。

 

「何かにすがって助けを求めるようじゃ、人間やめちまった方がいいよ。そんなことしている暇があったら、自分で力を付ければいいじゃない」

 

 まるで演説をするかのような手振りと力強い声だった。私はただ教室の中央に立ち女性を見つめていた。

 

「自分で考えて理解し、そして論理に基づいて行動できるのが人間に与えられた特権さ。それをみすみす捨てるなんて、馬鹿がやることだよ」

 

 空調の音も、足音も、外から聞こえてくるはずの音も、何も聞こえてこなかった。私の耳に入ってくるのは、目の前にいる女性の声だけだった。

 

「神頼みなんてしていないで、己の精神と肉体を鍛えられたらいいじゃないか。運も実力のうち。それは結局、自分の力だったっていう事さ」

 

 女性は教壇から降りると、私のいる所へ真っ直ぐに近づいてきた。目の前に並んでいたはずの机や椅子たちは女性が私の所へ不自由なく歩くことが出来るように、音もたてずに自ら左右に動いて道を作る。

 

「誰かに頼み込んで変わることなんて、そんな事できるわけないのさ。自分を変えられるのは自分だけ。己の意志を持って、高い志を持つことによって初めて人は変わっていくことが出来るのさ」

 

 気がつくと女性は私の目の前まで来ていた。

 女性の目は青く、その瞳には私の顔がはっきりと写し出されていた。

 

「だからね」

 

 女性は右腕をおおきく振りかぶる。

 

「お前もだよ、×××××!」

 

 表情も変えず、口調も変えず、女性はその大きくなった握り拳を私の顔面に殴りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がつくと私は教室にいた。

 

 

 

 誰もいない教室。綺麗に整頓された机と椅子。左側から差し込む夕日に懐かしさを感じる。ただ唯一違う所と言えば、目の前にいる人だけだ。

 

 黒い神父服を着ているのは、人とは呼べないものであった。

 服の袖から見える肌は黒色がかって見える深緑であった。さらに所々、ごつごつとしたコブがある。その頬骨が出っ張っている顔も黒色がかった深緑色をしており耳は先の尖り、おでこには左右に一対の角が生えていた。口からは牙も生え、さながら”人”と呼ぶには似つかわしくないものだった。

 そして、その”人ではないもの”は輝きのない黄色い目で私の事をじっと見つめていた。それは、どこか悲しそうな、いや私の事を可哀想とでも思っているような感情が感じられた。

 

 しばらくの間、無言の時間が続いた後。

 

 それはふと左手を私に向けて指差した。何事か、と思いその怪物を見ているとどうやら私の後ろに指を指していることが分かった。

 感情的に、いや何も考えずに本能的に私は後ろを振り返った。

 

 

 

 

 そこには夕日に照らされ、鎖に繋がれている人がいた。

 

 その人物は両手足を天井と床に繋がれ宙吊りになっていた。ただ、足元の鎖はたるんでいるため、私と同じ身長の高さぐらいの高さで前のめりになっていた。

 

 囚人服のような服。

 頭からかぶるようにすっぽりと体全体を覆うように作られた貧相な布の服を着ており、黒髪は自身の背の丈ほどに長く、だらんとうつむき前髪によって隠れているため顔を確認することが出来なかった。

 

 その傍らには一人の女性が吊るされている人を見ていた。

 頭にはバニーガールよろしく、ウサ耳を付けており髪は肩先まで伸ばされ紫がかった赤い色をしていた。そして、フリルの付いた鮮やかな水色のワンピースを着ていた。

 

 私が振り向いたことが分かったのか、その女性は私の方へ振り替える。前髪によって表情は確認できなかったものの、その口はピエロのように顔いっぱいまで広げて狡猾な笑いをしていた。

 

 私は視線を吊るされた人へ移した。

 

「あなたは誰?」

 

 私は吊るされた人へ問いかけた。

 なぜこのようなこと言ったか私にはわからなかった。ただ、聞かなければいけない。そう思ったのだろう。

 

 吊るされた人は、私の声に反応をした。

 じゃらじゃらと鎖同士がぶつかる音が聞こえ、髪が揺れる。そして、口を開いた。

 

 

 

 

 

「私は……お前だ」

 

 それは地の底から響くような、低い声であった。

 

 吊るされた人は顔を上げ、私を見上げる。その時初めてその人の顔が分かった。

 

 その顔は、わたしにほぼそっくりであった。口、鼻の形、肌の色。あまりにも似ていたため私は底知れぬ恐怖を感じる。ただ、一つだけ違う所がその人物にはあった。

 

 

 

 目だ。

 

 右目は、瞳の全てを黒く染め白目の部分は全くなかった。

 左目は、それはそれは綺麗な金色であった。瞳の全体が夕日に負けないほどの明るい金色をしていたのだ。

 私の目にはその人物の目だけが写っていた。

 

「あなたこそ、誰なの?」

 

 その人物は笑い、笑い、笑い続けた。

 

 笑うたびに鳴り響く鎖の音が耳に入ってきた。

 

「私は……」

 

 私はその答えにたどり着くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自然物に囲まれた中に、一台の大型トラックが止められていました。トラックの近くにはタイヤ跡によって作られた道があり、その人工的に作られた道から外れた草むらの上に止めてあります。トラックよりも大きな木々が周りには生い茂り、地面にはくるぶし程まで生えている雑草が風に吹かれて、音を立てます。どこか遠くから車が走り去る音や、岩肌に何度もぶつかる波の音が聞こえてきました。

 コンテナの表面部分には文字や絵は書かれておらず、シンプルな銀色をしています。そして、その中には三人の若い男がいました。

 

 

 

 閉め切られたトラックのコンテナ内には照明が灯されていませんでした。コンテナの壁に映し出されている一つの空中投影ディスプレイとその真下の長いテーブルにあるコンピュータから発せられる光のみがコンテナ内にはありました。数々の機械が置かれる中、テーブルの脇には簡易的な空中投影ディスプレイ発生装置が置かれており、備え付けられているファンが忙しそうに音を立てています。

 

「索敵結果、送られてきました」

 

 テーブルにある一つのコンピュータの正面に一人の男性が座っていました。褐色の肌とソフトモヒカンにしている黒髪が特徴的でした。

 

「画面切り替わります」

 

 モヒカン男がそう言うと、壁に映し出されていた何かのISスペックデータの画面が海と陸地が描かれている地図に切り替わりました。

 

「現在発見できているISは全部で8機。いずれも第二世代ISラファール・リヴァイヴです。それらは、弧を描くように空域で待機をしているとのことです」

 

 ディスプレイに映されている地図には、ISがいると思われる位置に、四角いマークが打たれていました。

 

 モヒカン男の後ろには、二人の男性がいました。

 

「なるほど、銀の福音の移動予測と照らし合わせてみてください」

 

 茶髪を七三分けにしている眼鏡をかけた男性がモヒカン男に指示を出します。

 

「了解です…」

 

 モヒカン男は目の前に置かれているキーボードに何かを打ち込みます。数秒後、ディスプレイには、『Silver』と書かれた丸いマークが後ろに線を伴いながら地図上を横断する様子が追加されました。

 

「陸地じゃなくて海で決着をつけようって所かな。まあ、後だいたい35分後には福音ちゃんが来るわけだし、空域と海域の閉鎖をして作戦区域の確保はするわなー」

 

 後ろに立っていたもう一人の男性が腕を組み、呟きます。

 逆立てた金髪に髪をまとめる深い緑色のヘアバンド、そして左眼にしている白色の眼帯が特徴的でした。

 

「んで、学園側の動きって情報きているか?」

 

「はい、先程緊急暗号通信が送られてきています。『雪片が討ちに行く』と」

 

「例の零落白夜で一網打尽ってか。ま、IS学園の近くを通過するわけだし学園が動くことも()()()()だな。ホント、うちの姉様には頭が上がらないぜ。どっからこんなことを聞き出してくるのか…」

 

 金髪の男は、どこか呆れた表情をしてぼやく。

 

「となると、こちらは一旦待機をしていた方がよさそうですね。三つ巴になられたら困ります。自ら手の内を明かす必要もないですし」

 

 眼鏡の男は金髪の男を無視して話を進めます。金髪の男は特段無視された事を気にしているという表情は見られません。

 

「んなこと言ってもよ、相手は軍人だぜ?勉強したてのひよっこが軍人様に勝てるわけないだろう?うちの()()()も現場に行かせた方がいいんじゃね?」

 

「もちろん、戦闘区域内で待機させるつもりだ。他に情報は?」

 

「いえ、これだけです」

 

「マジかよ、もうちょい情報が欲しかったなー。さすがに白式オンリーで挑むわけじゃあるまいし、音速下で日本横断の旅をしようとしている福音ちゃんに近づこうとしたらその分エネルギー使っちゃうじゃん?運び役とか、護衛役とかみたいに別のISもいると思うけどな、俺は」

 

「確かにそうですね。白式以外にもISは付くでしょう。それに学園側も二の次の作戦だって用意しているはずです。日本を横断させる前に、食い止めてくるでしょう。ですが、白式たち先遣隊がダメになった時に、すぐ次の作戦へと移るとは思いません。白式の作戦失敗後に向かわせるのが得策ですかね」

 

「オッケー、グラッシーズ。それで行くか。うちらの目的はあくまで強奪とかいう超絶ハードな任務じゃないしな。稼働時間も限られているしこれで行くしかないか。…でもよぉ、俺たちがあーだこーだ考えても結局判断をゼロに委ねるんだろ?」

 

 金髪の男は腕を首の後ろに組み、つまらなそうな顔をして壁に寄りかかります。

 

「まあ、そうなるな。ゼロにこれらの情報を伝えておいてくれ」

 

「了解しました」

 

 眼鏡の男は、モヒカン男に指示を出します。彼はヘッドホンを付け、誰かと通信をします。

 

「ゼロはこうでもしないと勝手に動くからな。こちらからある程度指示を出しておかねばなるまい」

 

「まあ、そうだよな…。従順なのはいいけど、解決手段を顧みずに好き勝手に選ぶのをどうにかしてほしいのだけれどな…」

 

「そう言うな。それがあれの良いところでもあるし悪いところでもある。これからの成長のしがいがあっていいじゃないか」

 

 金髪の男は横に立っている眼鏡の男の言った言葉に驚き目を白黒にさせます。

 

「うげ、お前クラウスと同じこと言っているのかよ。気持ち悪っ!」

 

「なんだ?どこかおかしいか?」

 

「あーそっか、お前あいつとよく一緒に動くし感染するのも仕方ないか。うんうん。俺は全くあいつに共感できないけどな。それよりも聞いてくれよ!この前オータム様に会ったときの話なんだけど…」

 

「ああ、振られたんだろう?そろそろ諦めたらどうだ?あの方には既に…」

 

「うるせぇ!俺はまだ諦めてないやい!まだ俺にだって可能性はあるんじゃい!」

 

 金髪の男は右目をごしごしとこすり、泣いたフリをしていた。

 

「ゼロへ伝えました。これから演算を始めるそうです」

 

「ああ、そうか。すぐに終わるだろう。それまで俺たちはここで待機だ」

 

 いつの間にか元に戻っていた金髪男はそれを聞き、にやりと笑います。

 

「おし、じゃあ後は任せておくか!戦果を楽しみにしているぜ、勝利の女神さんよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だこのスピード…。すげぇよ紅椿…」

 

 俺は今、超音速を体全体で感じていた。あまりにも紅椿のスピードが速いために思わず、箒の背中に背負われている俺の体が持っていかれそうなほどにだ。

 

 

 

 作戦会議中に現れた闖入者こと束さん。そこでは、急遽束さんによる紅椿についてのプレゼンが始まったのである。

『展開装甲』とかいう第四世代ISの特徴を持っている箒の紅椿はその特徴により準備までに時間がかからないという理由もあってか千冬姉は、福音の輸送役兼目標の撃破役として箒を指名した。

 

 出撃の際に俺は千冬姉から、箒のサポートをするように頼まれた。専用機を持ったからか、彼女は少々浮かれているような印象を俺に与えていた。よくあいつといるからすぐにわかった。あんなにも楽しそうに話す箒を見るのは久々かもしれない。

 

「暫時衛星リンク確立…情報照合完了。目標の現在位置を確認。…一夏、一気に行くぞ!」

 

「お、おう!」

 

 背中を見せている箒は、そう告げると紅椿の脚部と背部装甲がぱかっと開き中から赤く光る結晶のような物体を見せると発進した時以上の速さで加速し始めた。

 それからすぐして、俺たちの目標がハイパーセンサで確認できるほどまでに近づいた。

 

「見えたぞ一夏!」

 

「あれが銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)か…」

 

 俺はハイパーセンサを使い、福音を捕捉しながら作戦中に配られた福音のスペックデータを眺める。

 福音は銀の福音(その名前)にふさわしく全身が銀色にコーティングされていた。そしてこいつのもう一つの特徴が頭部から生えている一対の巨大な翼だ。大型スラスターと広域射撃武器を融合させている開発中のシステムで、これがこいつの売りであるそうだ。音速を叩き出すスラスター、そして36門から放たれる爆発性のあるエネルギー弾は普通のエネルギー弾とは勝手が違うから注意をしろとラウラからは念を押された。

 

「加速するぞ!目標に接近するのは十数秒後だ」

 

 ハイパーセンサ無しでも目視できるようになってきた。

 俺は箒の背中で半立ちの体勢になり、零落白夜を起動させる。

 

 優雅に海上を飛ぶ福音の真後ろにつけ、急速接近する。

 

 いける!

 

 後は目と鼻の先という距離まで縮こまる。

 やつの背中を袈裟切りしようとした時だった。

 

 福音は飛行中ながらも、体を反転させ後退しながら急速上昇をした。躱された。

 

 やつにはバレていたか。だが、もう一撃。

 

「箒!このまま押し切る!」

 

 そのままの勢いで俺たちは福音の後を追う。いとも簡単に互いの距離は縮まり、もう一度袈裟斬りを放つ。

 

 だが、やつは体をくるりと一回転させ、避けた。

 

「躱した!?」

 

 意図も容易く躱したやつは再び俺たちに背中を見せると、先程とは比べ物にならないほどの速さで俺たちから距離を置こうと逃げ出した。

 

 再び追跡をするも、あまりにも基本的な機動性が違い過ぎて紅椿でさえも追いかけるのでやっとであった。

 

 しばらく追いかけていると、やつは体を反転させこちらへ体を向ける。

 すると、羽をいっぱいに広げこちらへ砲口を覗かせる。次の瞬間、そこからいくつものエネルギー弾が発射された。

 

 俺と箒はその光弾たちから避けるために、二手に分かれる。

 追尾性を有するそれは逃げても逃げても俺の事を追ってくる。すると、その光弾は追尾の途中で大きな音を立てて爆ぜた。

 爆風で思わず体がひるみ、その隙をついて他の光弾も次々と俺に襲い掛かってきた。

 

 シールドエネルギーが削られてしまったが、ここで怯むわけにはいかない。一撃で仕留めるという戦術が失敗してしまった以上は、箒と二人で何としてもこいつを止めないといけない。

 雪片Ⅱ型を再び構える。

 

「箒!左右から同時に攻めるぞ!左は頼んだ!」

 

「了解した!」

 

 俺はやつに近づきながら箒に指示する。

 箒も刀を構えて、やつへ近づいて行った。

 

 福音は勢いを衰えさせないようにしながら、体をこちらへ向け光弾を発射させる。

 

 先程のように、紅椿による接近ではないため俺はやつが放つ光弾を切り捨てながら追いかけることだけで精一杯であった。

 

 間合いが取れない。思わず雪片Ⅱ型を握る力を強くなる。

 

「一夏!私が動きを止める!」

 

「わかった!」

 

 箒はそう言うと、刀を構えて全身の展開装甲が開き福音へ近づく。

 箒の斬撃を福音は意図も容易く当たるギリギリの所で体をひねって対処をする。

 だが、彼女の武器はそれだけではない。

 

 距離を離した福音に対し、彼女は何もない空間に刀を斬る。

 すると、振るった周囲から紅いエネルギーが生み出され、福音めがけて飛んでいく。

 彼女が舞うたびに帯状の紅い光弾が、拡散された紅い光弾が横に、縦に、あるいは斜めになって福音へと襲い掛かる。

 

 箒の対処をするために俺に対しての攻撃の手が少し緩まっていった。

 

 相手は1人なのだ。

 

 数ではこちらが有利。前の学年別トーナメントの時だってそうだ。ラウラの個人の力は強くても、俺とシャルが作戦を練り、力を合わせることによって勝利することが出来たのだ。今回だって…!

 

 迫りくる光弾の雨が弱くなったところを感じた俺は、福音へとさらに近づいて行った。

 

 

 

 

 

 福音がひるんだところを私は見逃さなかった。

 

 空裂(からわれ)雨月(あまづき)から放たれた紅い光弾を受け、体勢が崩れた福音へ一気に加速。

 両刀で叩きつけた。

 

 やつは腕を犠牲にすることで衝撃を和らげようとする。だが、私の狙いはこれだ。

 

「一夏!今だ!」

 

「おう!」

 

 一夏が零落白夜を展開させ、こちらへ近づいてくる。

 

 零落白夜さえ、こいつへ叩きこむことが出来れば私たちの勝利の道は目に見えてくる。これで、私も見守っているだけの存在ではなくなるのだ。これほどうれしく思うことはない。

 

 だが、この勝利の方程式はすぐに音もたてずに崩れ去ってしまう。

 

 なぜならあいつは、一夏は福音を押さえつけている私の横を通り過ぎていったのだ。

 

「一夏!?」

 

 私は一夏の方を向き、一喝する。

 

 なぜ福音へ攻撃しない!?絶好のチャンスだというのに!?

 

 

 

 気の緩んだ所を、福音は見逃さなかった。

 威力を弱めた弾丸を私に撃ち放ち、ひるんだところをサマーソルトで追撃してきた。

 互いの距離が開いたことにより、今度は通常の爆発弾を私へ撃ち始めた。

 

 攻撃を受けるわけにもいかないため、回避運動をとる。

 私の頭の中では次の手立てよりも一夏の行動への怒りでいっぱいであった。すぐさま一夏へ通信を入れる。

 

「何をしている!せっかくのチャンスに…」

 

「船がいるんだ!海上は先生たちが封鎖したはずなのに」

 

「船!?」

 

 ハイパーセンサで確認をすると、一夏の背後の海上には国籍不明の一隻の小型船舶が漂っていた。拡大されて表示される画面には何名かの船員がこちらの戦闘を見ているのが見える。

 

「密漁船みたいだ!」

 

「密漁船!?この非常事態に…」

 

 ふとハイパーセンサから警告音が鳴る。

 

 福音の攻撃を後方へ移動することで躱した。

 船がいるからと言って、私たちの作戦を疎かにする理由にはならない。既に先生方が空域及び海域の封鎖をしているはずだ。それを無視して入り込むというのは__警告を無視するただの命知らずだ。

 そんなやつらのために、福音の暴走阻止をやめるという事は先生やみんなの期待を裏切ることになる。

 

「無法者などかばうな…!」

 

「見殺しにはできない!」

 

 馬鹿者(一夏)はまだ負けじと福音の攻撃から船を守るように動き、船の警護に当たっている。

 私は空裂と雨月を振るい、エネルギー弾を撃ちながら、一夏へ叱りつける。

 

「一夏!今は作戦中だぞ!こいつを止めるのではなく、どこぞの船を守りにここへ来たのか、お前は!」

 

 一夏のシールドエネルギーは船を守るためにみるみるうちに減っていき、それは遂に風前の灯火と化した。

 

 これ以上は危ないと思い私は一夏の前に行き、福音の攻撃から彼をかばった。

 

「犯罪者などをかばって…そんなやつらは放って…!」

 

 なぜそこまでして守ろうとするのだ。こいつは…!

 

「箒!」

 

 一夏が私へ大声で叫ぶ。

 すると…

 

 

 

 

 

 すると、私は気がつくと不思議な空間に身を置いていた。まるで、そこは宇宙のように果てしなく、そして暗い場所であった。

 私の周りを緑や青といった光が行きかい、0と1がうごめき合い群れをなして形を変えていっていた。

 

 先程まで私は太平洋上で、福音と争っていた。そして……

 

「箒、そんな…そんな寂しいことは言うな…」

 

 ふと聞き覚えのある声が私の耳へ入ってくる。優しく、そして温かい声…一夏の声だ。

 正面を見据えると、一夏がそこにはいた。

 

「力を手にしたら、弱いやつのことが見えなくなるなんて…どうしたんだ よ、箒。らしくない。全然らしくないぜ」

 

 力…弱いものを…

 

 一夏から言われた言葉からまるで走馬灯のように私の記憶がよみがえってくる。

 

 

 

 

 私はただ見ているだけであった。一夏と鈴が謎のISに襲われた時も、ラウラが暴走した時も、一夏の力にはなれなかった。ただ…安全な場所で勝利を願うだけであった。

 

 だから私は…姉さんへ電話したんだ。『私のため専用機を作ってください』と。一夏のそばにいるために。

 だが、思い返してみれば私はただ手に入れた力を我儘に振っているではないか。そう、まるでラウラがVTシステムという力に溺れるように。そして、中学での剣道の全国大会決勝の時のように。弱いものを痛めつけていた時のように。

 

 一夏のためにと願っていたはずだったのに気が付いてみれば、ISという姉さんが作り出した『力』に私は自惚れ、ただその強靭な強さを振るっていただけであった。いや、私はこの力を振るっているのではなく、()()()()()()のかもしれない。結局、私は変わっていなかったのだ。力を制御できずに自分や周りを見失ってしまったあの時から。

 

 

 一夏ではなく、一夏の力になろうとしていた私が”馬鹿者”だったのだ。()()()()()()ではなかった。()()()()の力になっていたのだ…。

 

 

 情けない。本当に情けない。結局私はあれから一歩も成長していないのだ。

 気が付くと、私の頬を冷たい何かが伝わっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「間に合ってくれぇ!」

 

 一夏の声に私は我に返る。ハイパーセンサからの警告文に驚愕するがそれは既に遅かった。

 

 ぼうっとしていた私へ福音は全ての砲口からエネルギー弾を撃ち放っていた。

 それを一夏は、かばったのだ。

 

「一夏!!」

 

 爆風に巻き込まれる彼を私は受け止める。私にできるせめての…償いであった。

 

 

 

 

 

 爆発の衝撃で私たちは制御不能に陥り、そのまま海中へ叩きつけられた。白式のシールドエネルギーが尽きたのか、ISが強制解除させられる。私はとにかく、一夏を守るために海上へ浮上した。一夏の呼吸を確保するために浮かび上がると、ハイパーセンサからロックオンされているという警告表示がされる。

 

 私の所へ近づいてくるISをただ、見つめることしかできなかった。夢であってほしい。そう思い目を閉じた。

 

 

 

 

 

 一向に私への攻撃がされなかった。警告音もなく耳に残っていた爆発音も聞こえなかった。ただ、耳には海から()()()()()()()()()が聞こえてきた。

 

 目を開けると、福音は何かと衝突し、私から遠ざかっていった。

 

 

 それは赤黒いISだった。

 

 背中には全身ほどの大きさのある、まるで竜の鱗のように厚い装甲が重なっている二対の赤い翼のようなものがあった。

 

 左腕にはだらんと、それはまるで竜の尾であるかのようにいくつも重ねられた黒い鱗のようなものが垂れ下がる。

 

 右腕にはこれまた胴体ほどはある緑色に光る剣を持っていた。

 

 

 

 その全身装甲(フルスキン)の赤黒いISは胸に怪しく光る緑色の結晶が埋め込まれ、頭部にはV字アンテナが装飾されていた。

 

 見たこともないISであった。だが、私には不思議とそのISが綺麗であると思ってしまった。

 

 

 

 

 



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第19話 想われる者想う者

評価・お気に入り登録をしてくださった皆さん本当にありがとうございます!

モチベアップ٩( ᐛ )و







 

 

 目を覚ますと私は布団の中に入っていた。

 

 旅館で使われるようなふかふかの白い布団が私の体を暖かく包み込む。いつもは見られない木製の天井に私はふと、臨海学校へ来ているのだと思い出した。たしか旅館の名前は花月荘。ここへはISの非限定空間における稼働試験のためにやってきており、旅館へ到着後から夕食までは自由時間であったので私は新聞部の仕事をしていた。

 

 そして…そして…私は一体何をしていたのだろうか?私は布団へ潜った覚えは全くない。……そもそも、私が布団へ入るまでに()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 全身に痛みはあるものの、頭にはどこかへぶつけたような感じはしない。では、何が原因なのだろうか。

 

 体中からひしめく痛みに耐えながら、布団を退けて体を起こす。

 空は既に夕日に染まっており窓から差し込む光が、まだ慣れていなかった私の目を突き刺した。

 

 とにかく、今現在置かれている状況を整理しなければならない。

 そう決め込み動こうとした時だった。ふと木の擦れ合う音が鳴った襖に視線を移す。そこには白衣を着たIS学園の養護教諭が驚いた表情で私を見つめていた。

 

 

 

 

「つまり、私は一時的な記憶障害になっているという事ですか?」

 

「そういうことになるね。…まだ信じられないとは思うけれど」

 

 

 私の横で正座をしている養護教諭は、手元の書類に何かを書き込みながらそう答えた。

 

 彼女の話によれば、私は使われていない部屋の中で気絶をしていたらしい。巡回中の先生が私の事を見つけてくれたようだ。

 そして、今日は臨海学校二日目の7月6日。日が落ちていることからも分かるように既に時刻は夕方になっている。そして現在は緊急事態が発生しているようで、一般の生徒は自室で待機。私以外の専用機持ちと教師陣はその緊急事態にあたっている。

 

 記憶についてはごく最近の所の記憶が抜け落ちているようであった。

 私の名前や出身の国、持っているISの名前というごく簡単なものから始まり、彼女の質問に私は答えていった。

 それによれば私の記憶は一日目の夕食後付近を境に記憶がなくなっていた。無理に思い出そうとすると、頭に何かが響くため彼女に止められた。

 

「うーん、体には打撲以外それといった形跡はないけれどねぇ。頭に何かをぶつけたっていう跡もないし…。不思議なもんだねぇ。何か持病があったりしない?」

 

「いえ、記憶を失うようなものは何も」

 

「そっかぁ…。じゃあ何で記憶がなくなるんだろうねぇ。全く分からん」

 

 養護教諭は書いていた書類を睨みつけながら、ペンを噛む。

 

「とにかくハーゼンバインさんには申し訳ないのだけれど、明日はここを離れて近くの病院で精密検査を受けてもらうわ。それまでここで待機していてちょうだい」

 

 彼女はそう言うと、立ち上がり部屋から出て行った。

 

 

 部屋全体が太陽によって支配されている所に私は一人ぽつんと取り残される。

 窓の先から薄っすら見える海は、夕日に染まりとても穏やかに波打っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「完全に停止していますね…」

 

 真耶は、ディスプレイに映し出されている福音の様子を見ながら言葉をこぼす。

 

 臨時指令室となっている風花の間には教師たちが同じく、その画面を呆然と見ていた。部屋には薄く明かりが灯され障子からは夕日が漏れて部屋の中を橙色に染め上げる。

 

「それにしても一体何だったのでしょうかね、先程まで起きていたことは」

 

「私に聞かれても分からん。技術担当が異常はないと言った以上は、私たちが気にしたところでどうしようもない。だが今やるべきことはそんな心配事をすることではないことは確かだ」

 

 千冬は画面に映る、まるで胎児のように体を丸めている福音をじっと睨みつけていた。

 

 

 

 

『一夏…!一夏…!しっかりしろ一夏!』

 

 突如、指令室に響き渡った声に一同はただ茫然とするだけであった。

 

 一夏と箒の作戦の成功を待っていると、指令室のレーダーに異常が発生した。それまでは正常に銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)の位置を特定できていたのだが、その姿は忽然と消え去ってしまったのだ。それだけではなく、一夏たちや空域を制圧している教師陣といった作戦区域全部をカバーできる範囲にあった全てのISの位置が分からなくなるという事態に陥った。それだけではない。定点カメラも正常に動かなくなった。

 今までになかったことに困惑するも、再び銀の福音の位置を探索や復旧作業に取り掛かる。しばらくして、箒からの通信が入ってきた。

 悲しみと自虐の混じり合った声で、作戦の結果を報告した。作戦は失敗した、一夏が負傷をした、と。

 

 一夏の怪我はひどいものであった。

 ISの操縦者保護機能により最低限の加護はあるものの、その機能を貫通した熱波が彼の体に大きな傷を負わせていた。ISスーツを着用していない腕や首筋などの怪我は特にひどく皮膚は赤くただれ、痛々しいその姿は駆け付けた専用機持ちや先生方を驚愕させた。手当てを受けた一夏は医務室へ運ばれた。幸いにも命に別状はなくISの機能により彼は今なお夢の中をさまよい続けている。

 

 一夏、箒の回収後再び福音の探索および機器の故障の原因究明にあたっていたところ、突如復帰。何事もなかったかのようにレーダーの機能は元に戻り、福音は当初の作戦予定地点より少しだけ遠い所にいた。

 

「本部はまだ、私たちに作戦の継続を?」

 

「解除命令が出ていない以上、継続だ」

 

 真耶は顔を伺うように問いかけ、千冬はディスプレイに映る福音を凛とした表情で見ながら答えた。

 

 最初の作戦が失敗してからというもの、教師たちは動く気配がない福音を追撃せずただ監視をしているだけであった。元はと言えば、与えられた任務は福音の暴走を止めること。唯一の要であった一夏と箒は福音の撃墜することもかなわず、返り討ちに遭ってしまった。だが今のところ彼らの活躍により福音は沖合から30km離れた海上にて、その巨大な翼で体全体を包み込みまるで休んでいるかのように動きが見られない。現状の報告を上層部に行ったものの、作戦は継続であった。

 下手にこちらから動いて、福音を作戦区域外に移動されては困る。だが、私たちに与えられたことは『確保または撃墜』である。こうして、福音の様子をうかがう事が本来の目的ではない。ただ、一撃必殺であった零落白夜を持つ白式はダメージレベルがDを超え、操縦者である一夏も意識不明の重体でしばらくは作戦に参加ができない。こうなれば、残る専用機持ちたちに任せるほかはないのだが勝てるものかと言えば太鼓判を押すまでは言えないのだ。

 片や第三世代試験機と第二世代改良機。片や軍用IS。その差は歴然だ。展開装甲という未知の兵器を持つ二機でさえも抑えきれなかった相手なのだ。真耶にとってみれば、これ以上待機をさせている彼女たちに悲しい目に合っては欲しくない。

 

 ただ、作戦が継続しているのであれば何か手を打たなければならない。どのようにすればこちらの被害を最小限に留め、なおかつあの福音を撃墜することが出来るかとても見当がつかない。この無言の空気に耐えきれなくなった真耶は千冬に今後の指示を仰いだ。

 

「ですが、これからどのような手を?」

 

 彼女はこの状況をどう見ているのだろうか?今ある現状の戦力でどう、この危機を潜り抜けるのだろうか?真耶は千冬へ視線を移す。

 

 その時だった。トントンと障子をノックする音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「誰だ」

 

 風花の間の外に作られた縁側にいるシャルロットが障子をノックすると中から千冬の声が聞こえてきた。

 

「デュノアです」

 

「待機と言ったはずだ!入室は許可できない」

 

 授業の時によく聞く…いやその時よりも威圧的な印象を受ける声で叫ぶ。思わずシャルロットはその声にたじろぐ。近くにいたセシリアと鈴はお互いに顔を合わせ、ため息をついた。

 

 一夏と箒の作戦が失敗してから3時間以上は経過をしていた。出撃命令を待っていた彼女たちは千冬から”現状待機”というその場しのぎの指示を受け、不満を募らせていた。あれからというもの交戦したことによってどのような現場の変化があったか、福音の位置はどこかなど全く知らされていないのだ。どのくらいのダメージを与えたのか?損傷具合は?いまだに音速下で飛行を続けているのか?作戦区域からいなくなったのか?疑問が頭の中に浮かぶばかりである。

 ただ、分かっていることは一夏と箒の二人による作戦は失敗に終わり、一夏は意識不明の重体に陥り、箒は作戦失敗からふさぎ込んで彼がいる臨時医務室から姿を現さないという事だけであった。

 

 そして何より…二人に対する千冬の対応に疑問を感じていたのだ。

 

「ここは教官の言う通りにするべきだ」

 

 夕日に照らされた縁側にある柱に背中を預けているラウラが意気消沈している三人へ言う。

 

「でも、織斑先生だって一夏の事が心配なはずだよ。お姉さんなのだよ?」

 

 シャルロットはあまりにも冷たすぎる発言に苦言を呈する。

 作戦失敗の連絡を受けて駆け付けた千冬は一夏への傷の手当の指示を出しただけで心配をしているという様子が伺えなかったのだ。指揮官としての責務を果たしていることには変わりない。だが、その怪我人は自身の弟なのである。シャルロットは兄弟姉妹とはいかがなものかを知らないものの、彼女にとっての兄弟姉妹は母親のような『家族』というものには変わりないと考えている。自身の肉親が傷つき、ましてや意識を失っているのだ。それをただ事務的にテキパキと指示を出して淡々としている千冬に彼女は疑問をぬぐい切れなかったのだ。

 

 

 だがラウラは…

 

「だからどうしろと?」

 

 その彼女の発言を一蹴した。

 

「一夏さんだけではありませんわ。箒さんにも声を掛けないのはいくら作戦失敗とはいえ、冷たすぎるのではなくて?」

 

 セシリアが作戦失敗後に箒へ千冬が一言も言わずに待機命令を出したときの事を思い出し不満を告げる。

 

「今は福音の捕捉に集中する。教官はやるべきことをやっているに過ぎない」

 

 だが、ラウラは冷静に現状を分析していたことを、指揮官として当たり前にやっているという事実を淡々と現状を受け入れていない彼女らへ説明した。

 

「教官だって苦しいはずだ。苦しいからこそ作戦室に籠っている。心配するだけで、一夏を見舞うだけで福音を撃破できるとでも?」

 

 ラウラから告げられる事実にただ押し黙るだけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 風花の間へ入ることが許されなかった一行は特別に用意された宿泊部屋へと戻っていた。

 部屋の隅には本来の宿泊部屋に置いてあった彼女らの私物が綺麗に置かれていた。部屋の窓からは夕日が差し込み、明かりの灯っていない部屋を照らす。あれからというもの、どうしようもない気持ちをぶつけるあてもなく彼女たちは敷かれていた畳の上に座りただただ黙り込んでいた。その中で一人だけラウラは広縁に置かれている椅子に座り、ISのセンサー類だけを部分展開していた。そこには何かの投影ディスプレイが表示され、彼女はそれを見ながら腕を組み何か考え事をしていた。

 

 

「もしさ」

 

 鈴はいつになく落ち着いた口調で話し始めた。

 

「もし…福音が作戦区域外に行っちゃっていたらさ。作戦は継続させないよね」

 

「ええ、確かにそうですわね。仮に遠くへ福音が移動してしまっていながらも私たちへの指示が続いているならば、到達予定地へなりに私たちを移動させるはず…」

 

「ならさ、先生方が私たち専用機持ちを今なお待機させながら、あそこに入り浸っているっていう事はまだ作戦区域内に福音がいるという事だよね」

 

「確かに…その可能性はあるね」

 

 鈴の言葉から発せられた『もしも』の空想話にセシリアとシャルロットは反応した。今の彼女たちには現状の完全なる把握は出来ていない。ただ、彼女たちはこれまでに培っている知識と経験論のみで話を進めていった。

 彼女たちはいずれ国の顔ともいうべき”国家代表”を目指す者たち。当然、ISによる緊急事態に対しての知識は覚えさせられ、それは現役の軍人が知るようなものでさえ勉強させられていた。作戦や戦術の立案・実行に至るまでの過程についてはよく理解している。そのような事を含め、彼女たちは予測でしかないものの今現場がどうなっているかを議論し始めた。ただ、この様な話をしても命令の下っていない彼女たちには無駄な事。待機と先生からの指示がなされているならば大人しく部屋に待機していなければならない。動きようもないのだ、命令違反をしない限りには。しかし、彼女たちは話を進めていった。まるで今この部屋に漂う空気を変えようとしてもがいているかのように。

 

「先生方も焦っていた風には見えなかったから作戦区域内の海上のどこかに福音がいそうだよね。でも…今動けない僕たちにはどうしようもないか」

 

 顔に諦めの浮かべさせながらシャルロットはそう呟いた。再び突き付けられた現実に他の二人は再び黙り込む。だが少しして、鈴は口を開けた。その話しぶりはいつもの鈴そのものであった。

 

「じゃあさ、私たちだけで福音を倒そうよ」

 

「え?」

 

「ちょっと鈴さん!?あなたは一体何を?」

 

「何って福音を倒すって言ったでしょ?」

 

 さも当たり前の事言っているかのように鈴は困惑する二人へ淡々と話す。

 

「二人はさ、悔しいと思わないの?素人二人に福音を撃破するっていう大役を押し付けてさ」

 

「…そのことは鈴さんに同感ですわ。実戦経験のあまりない一夏さんと箒さんに任せっぱなしであったのは少々癪に障ります。ですが、あの時は音速下で移動している目標のこと考えれば致し方のないことであって…」

 

「僕もそうだね…。出来れば僕も行きたかったけれど作戦の趣旨上、一撃離脱のものだったし…。でも手助けできたならしたかったな」

 

「まあそうよね。結局は篠ノ之博士の説明に折れた織斑先生の判断だからしょうがない。私も『展開装甲』だかっていう未知の技術を使うなら未経験の箒でもやれるかもって思っていたよ。でも、結局は箒がやらかした事によって作戦が失敗した」

 

「それで、お前は私たちに対して何が言いたいのだ?」

 

 一人、広縁の椅子に座っていたラウラが会話へ参加する。

 

「結局?そりゃ、先生方が私たち専用機持ちの事を信用していないってことよ」

 

「信用していないだと?」

 

「そう。さっきも話していたけど、もし既に福音を取り逃がしてしまっていたなら、織斑先生は待機を命じていた私たちを呼び戻して作戦失敗の旨を言ったり何なりするはずよね。あの音速で飛び去った福音を今いる戦力じゃあ後から追いつけないしさ。でも違う。織斑先生は私たちに待機と言っただけでずっとあそこに籠りっぱなしのまま。ならさ、こうも思えない?何らかの理由で音速移動しなくなった目標(福音)がどこにいるか分かっている。だけど、渋って私たちを出撃させようとしない。これって私たちの専用機じゃ福音には歯が当たないから待機させているって私は思うけれどなぁ」

 

「単に戦術がまだ作り切れていないという可能性も無きにしも非ずですが、その可能性も大いにありえますわ」

 

 セシリアは顎に手を当て考え込むように呟く。

 

「それってつまりはさ、どんなに考え込んでも今動ける私たち専用機持ちを使って福音を倒せないってことを意味するじゃない?」

 

 鈴の導き出した()()に他の三人は反論をすることもなく鈴の言葉に耳を傾けていた。

 彼女の考え抜いた()()に全く信ぴょう性があるかと言えばそうではない。先生方から実際に言われたことでもなく、現場を見てもない。あくまでも想像しうる中での彼女の意見であった。

 だが、つい数時間ほど前まで交戦時の対処法や超高感度ハイパーセンサの使い方、高速戦闘での心構えなどを手取り足取り教えていた織斑一夏が福音によって意識を失い、今なお布団の上で眠り続けている。この事を現実として受け止めきれていない彼女たちからすれば福音を倒すという行為が、彼女たちにとっての気持ちを落ち着かせる緩和剤であったのかもしれない。

 

「それにさ、私は今もっっのすごく福音を一発ぶん殴らないと気が気でないのよね。私のプライドがそう言っている」

 

「あら奇遇ですわね。負けたまま終わっては気分がとても悪いですの。私も一夏さんが受けた分を銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)へお返ししたい気分でしたわ」

 

「二人とも…笑顔が怖いよ…」

 

 不気味な笑みを浮かべる二人にシャルロットがたじろいだ。

 

 

「それで倒しに行くのはいいが、索敵をしていない相手をどうやって捕捉しようと考えているのだ、鈴音」

 

「そりゃぁ…誰かが索敵をしに行くしかないけれども…」

 

『福音を倒す』という目的だけが先走っていたため鈴は思わぬ発言にラウラから目線を合わせずに頬をかく。

 

「ふん…。福音を倒すだけを考えていたというわけか」

 

「し、仕方ないじゃない、そんなものなんて持っていないのだしさ!」

 

 恥ずかしくなり少しだけ顔を赤くした鈴がラウラへ精一杯の反論をした。

 

「ならばしょうがない…。お前の作戦に私も参加させてもらおう。先程私の部隊へ福音の位置情報を調べてもらうように手配をした。5分後には今現在の福音の場所は分かるだろう。定期的に私へ報告するようにも言ってある。それに、いくつか戦術を私なりに用意してみている。皆の意見を交えながら決めていきたいがどうだろうか?」

 

「あれ?あんまり興味なさそうに見えたけど違ったのね」

 

「ふん、そんなわけがないだろう。私とて一夏の仇は討ちたいと思っていたところだ。それに、教官へ私たち専用機持ちの力を示すいい機会だろう?」

 

 ラウラはにやりと笑い、そう言った。

 

 鈴はセシリアとシャルロットの方へ視線を動かす。

 彼女たちは首を縦に振る。思っていることはみんな同じであった。

 

「そうそう、ラウラ。皆で意見を交えるならもう一人忘れていない?」

 

「…!そうだな。すっかり四人で行う所だった」

 

「これで決まりね。んじゃ、私は一夏の所にいるだろう箒でも連れ出しに行こうかな」

 

「じゃあ僕たちはパッケージのインストールを済ませないとね」

 

「ええ。折角の試験パッケージを使わない訳には!」

 

 鈴はそう言うと、体育座りから立ち上がった。

 セシリアとシャルロットはISを部分展開させ、何かの操作をしていった。

 

 

 彼女たちには既に、迷いなどという感情はなくその顔には確かな決意がそこにはあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人の男性が机に向かっていました。部屋は広く作られており男性のいる机の目の前には応接間よろしく、長机とそれを挟むかのように大きめなソファーが二つ置かれています。俗に言う社長室のような所に男性はいました。

 黒色のスーツに身を包み明るい青色系のネクタイをしています。男性の机の上には一台のパソコンが置かれています。それに向かって男性はしゃべりかけています。

 

「いかがでしたか?()()()()()()()チームのご感想は?」

 

『そうねぇ…少なくとも不満はないわ。むしろ好きよ、私は』

 

 パソコンの画面には一人の女性が写っていました。長い金髪に紫色のドレスを着ています。

 

『エピオンのハイパーセンサを利用した索敵に、IS学園を封じつつ銀の福音との戦闘データを得るという電撃作戦の立案。更にその後の学園側の専用機持ちたちの戦闘の様子をも回収するという用意周到な事には、さすがと言った所かしら』

 

「それは何よりです。上層部の面々からもお墨付きをいただいたので自分自身の事ではないのですが、何だか鼻が高くなってしまいます」

 

 目を細め、にこりと笑い嬉しそうに声を弾ませます。

 

『情報・戦闘・整備・戦略。それぞれの専門性を高めた集まりっていううたい文句の事だけはあるわ。先に私たちの所に来ていたフロストも…中々の整備の腕前ね』

 

 女性は片手に電子端末を持ちながら答えます。

 

「おお、それは良かった。彼は近くにいると何かと便利ですからね。これからあなた方へ転属する彼らも使いがいのあるいい人たちですよ。あなたの所だとオータムが嬉しそうにしているのではないですかね。自分の顎を使えますから」

 

『それはどうかしら。彼女、これ以上子守をするのはこりごりって嘆いていたわ。扱うなら今いる問題児で充分だって』

 

「おっと、そういえば一人あなたの所へ癖の強い人が一人来ていましたね。まあ、その監視は彼らに任せれば良いでしょう。相手に手をかけさせるようには教え込んでいないので」

 

『そう…じゃあ好き勝手に指示を出しても構わないと言っておくわ』

 

「ええ、ぜひともよろしくお願いします」

 

『それにしても驚いたわ。まさか第二世代初期に開発された()()()のエピオンが銀の福音と渡り合いなおかつ勝ち越すなんて…』

 

「あれは私たちの全てが詰まっていますからね、驚いてもらったのであれば活躍のし甲斐があるってものですよ。まあ、相手が第二次移行(セカンドシフト)をするのは予想外でしたがね。とにかく、私が派遣するチームだけでなくエピオンもきっとあなた方の役に立ちますよ。そういえば、これからはどのように動くのですか?」

 

『そうねぇ…色々と計画は練っているわ。銀の福音も気になるけれど。やっぱり白式よね。まさかあれも第二次移行をするとは思わなかったわ』

 

「ははは、私も同じです。早く新しい白式のデータが送られてくるのが待ち遠しいですよ」

 

『...時間ね。あなたからの協力には感謝するわ』

 

「ええ、これからもどうぞご贔屓に」

 

 そう言うとクラウスは相手の女性との通信を切った。

 

 

 

 全身の力を抜くように深呼吸をすると、椅子の背もたれに寄りかかる。

 日差しを遮るブラインドから漏れる光が部屋へと降り注ぐ。部屋の明かりは灯されておらず彼の表情は作り出された陰によって見ることができなかった。

 

 視線を机の右下に設置されている引き出しへと移す。手を伸ばし、二段目の引き出しを開けるとその中には一つの真新しい写真立てが入っていた。

 写真は何かの集合写真のようでほぼ全員が白衣を着ており、皆肩に手を回している人もいればピシッと背筋を伸ばしている人などポーズは統一感のないものであった。だが、共通している所と言えば写真に写る人物は全員が笑顔になっていると言うことだろう。白い歯を見せ、顔が綻んでいるその姿はまるで童心に返っているかのように無邪気な笑顔を見せていた。

 

「これでいいのですよね、先生」

 

 男は呟く。

 

「皆の思いを…願いをありったけ詰め込みました。だから…」

 

 彼、クラウス・ハーゼンバインは写真を見つめながら言葉をもらした。優しく語りかけるように。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第19.5話 心の拠り所

ちょっとした閑話回。






 夜空を埋め尽くすほどの天の川が現れるようになった夏の季節。

 春の始まりを告げた太陽の日差しはその本性を現し、肌を焦がす程の強く攻撃的な日光が地上へ降り注ぐ。

 

 臨海学校の後には長い長い夏休みが生徒たちを待っていた。もちろんIS学園の施設は年中無休、いつものように利用可能になっている。学園で長期休暇を利用して自身の実力アップをする事も出来るが、大抵の生徒は実家への帰省なり、いつもは行けないような遠くへ出かけるなりしているであろう。『学生の本分は何とやら』とも言われている事もあり各々の学生が思い描く休みを満喫していた。

 

 とまあ、先程の話は”一般生徒”には当てはまることだ。だが、ここはIS学園である。軍人、企業の人間、国家代表候補と大きな肩書きを持つ生徒はざらにいる。彼女らは社会人も兼ているため、そう簡単には休む事は出来ない。やれ訓練だ、やれ最新の技術を取り入れた装備だからテストをしろ、と上から仕事が次から次へと降ってくる。私の周りにいる半社会人の方々も忙しそうに帰国の準備だのと動いていた。

 なお、私と同室の(代表候補)は帰国をすると待ち受けるだろう訓練の日々を過ごしたくないため、学園でのんびりするそうだ。勝手に帰国を拒むことができるのかとツッコミたくはなったものの、聞かないでおいた。そもそも彼女がここへやって来たのも彼女担当の政府高官に何らかの圧力をかけて無理矢理転入させたというらしい。恐ろしい話だ。だが、専用機を託す程にはどの実力を認められているため多少の自由は認められているのであろう。あくまで私の予想でしかないが。

 

 

 専用機といえば、今年の夏はIS界では大きな出来事で騒然となった。何を隠そう、篠ノ之箒の専用機についての正式発表だ。先月の臨海学校に何の前触れもなくやって来た篠ノ之束博士は自身の妹である箒へ『紅椿』を()()()()()した。もちろん、正式な手続きなくして登場した新たなISの事を隠さないわけにはいかなくなった学園はメディアを通じて記者会見を開いた。

 

 ISはアラスカ条約または国際IS委員会により、各国が保持するISの数が決められている。もちろんそれは、製造が停止され数に限りのあるISコアを効率良く運用させる為である。唯一の教育機関であるIS学園も同様だ。訓練機、教員用機の数は決められている。だが、天災がその前提を崩していく。IS学園側は、学外研修中に篠ノ之博士が登場し生徒の篠ノ之箒へISを渡したと説明。さすがに今世界で各国が研究し奮闘している第三世代ISを凌駕する性能の第四世代ISである事は混乱を避けるために隠して報告を行なった。だが、想定していた事以上に世間はこの話題を持ちきりになってしまった。

 

 理由はISコアの製造番号だ。“468番目”とされるISコアを使用していると報告をしたのだ。これは国際IS委員会により正式に登録をしていないISコア、という意味である。

 

 これまで、数年間行方をくらませていた篠ノ之束が姿を現したと思ったら彼女は新たなISコアを製造し、妹へそれを渡した。つまりは、まだISコアは製造できる余力があるということを証明してしまったのだ。これを受け、国際IS委員会は一時的な措置として篠ノ之箒の持つIS『紅椿』は扱いが決まるまでは他国の干渉を受けないIS学園の所有物とした。さらに、各国と連携を図り篠ノ之束の捜索を強化。本人への事実確認と()()()I()S()()()()()()()()を話し合っていきたいとコメントをした。

 

 各方面のメディアは、この新たなISの登場についてそれぞれの持論を展開していった。テレビではISに詳しいという評論家を招き、これは今後ISコア製造への意欲を知らしめる布石であるだとか、彼女の行為は自身の一般人である妹を守るための抑止力のためだとか、周りの人たちの気にも留めない気まぐれな性格の彼女らしい行動であるなど、専門家は根も葉もない根拠を用いた説明でホットな話題を解説し茶の間を沸かせた。

 

 この事により、国際IS委員会はまだ方向性を定めていない初の男性IS操縦者織斑一夏の処遇に加え、IS学園生徒の篠ノ之箒のIS『紅椿』をどこの国の所属にするかという議論をしなければならなくなった。ただでさえ扱いの難しい織斑一夏の処遇が決まっていないにも関わらず、ますますゴールポストが遠のくような出来事が起きたために、国際IS委員会の関係者は頭を抱えているようだと一部メディアが報道されたという。

 

 

 さて話を戻そう。かくいう私も一般企業の会社員である。せっかくの長い休日には、玲奈を連れてIS学園近郊にある美味しいという評判の店舗を巡りたいなどと思っていたが、会社からの指示に背くほど身の程知らずではないためしばらくそれはお預けのようだ。仕事があるためドイツへ帰国するという話をすると玲奈にお土産待っているよ、と目をキラキラと輝かせて言われた。ついでに黛さんからも無言で肩を叩かれた。言われなくとも、世話になっている新聞部の方々には用意をするつもりなのだが…。

 

 さて今回の仕事の大まかな内容は、サンドロックの詳細データの提出と細かなアップデート。そして……試作品の評価を兼ねたシュヴァルツェ・ハーゼとの模擬戦だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いつも見かける観戦席はそこにはなく、だだっ広い土のグラウンドと無機質な白い壁で覆われたIS試験場に私はいた。人工的に作られた光が建物内を明るく照らされたそこでサンドロックを身にまとい、敵の攻撃からステップを踏み躱した。

 

 私が先程までいた所を何度も聞き慣れた特有のうねりを上げながら緑色のビームが通り過ぎていった。

 黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク)の右手に持つ試験型ビームライフルが私へ照準をつけ、連射する。

 模擬戦開始からだいぶ経ち、互いにシールドエネルギーが半分以下になっている頃だろう。一気に押し込んで早めに方をつけたいところだ。

 回避をしつつも左腕に装備されている物理シールドで黒い枝の攻撃を受け止めながら、右手に持つビームサブマシンガンで『点』ではなく『面』で圧倒する。

 

 ばら撒かれたビームマシンガンの光弾は黒い枝の前まで迫るものの、それらは装甲を貫く事はなかった。黒い枝は左手を前に掲げAICを発動させていた。

 私が撃ち込んだ幾百の光弾がまるで時を止められたかのようにその場で留まり、エネルギーを失い消え去っていった。

 

 AICは必要以上の集中力が求められ、ちょっとでも気を許すとAICの発動が解除されてしまう。これだけはどうも技術的な限界がある。そうAICを担当している開発者が言っていた。第二次移行による性能アップの要因の一つとして期待を寄せているという事もあるが、場合によってはこのAICは相手からしたらいいカモになってしまう。

 

 ビームサブマシンガンで相手を"固めて”動けなくさせる。マシンガンの銃身から煙が上がり、それは限界である事を私へ告げた。すぐさま左へ旋回。肩部ミサイルをコールし撃つ。そしてすぐさま、背中のヒートショーテルを交互に投げ込んだ。

 

 

 

 

 

 幾つかまだ消え去っていない光弾を尻目に黒い枝はAICを解除する。止めきれなかった光弾は再び残っていた慣性に身を委ねて、黒い枝の装甲に突き刺さる。

 

 迫り来るミサイルを右手のビームライフルと左腕部機関砲で撃ち落とす。そして、そのまま左手を前にかかげ、爆発によって出来た土煙の中から遅れてやって来た熱を帯び赤く光る”一本”のヒートショーテルに対してAICを発動させた。

 

 二本ではなく一本であることに気がついた黒い枝は頭上を見上げると重力に身を任せて回転しながら落ちてくる刃をただ見ていることしか出来なかった。

 

 集中力が途切れ、同時にヒートショーテルが黒い枝に襲いかかる。

 頭上のやつをとっさに左腕で防ぎ、右手に持つビームライフルを投げ捨てプラズマカッターをコールし、正面のヒートショーテルをいなす。

 プラズマカッターでヒートショーテルを押しのけ地面に叩きつけ、左腕で無理やりそれを遠くへ飛ばした。

 

 目標を見失いからんと音を立てて刃が落ちる。

 シールドエネルギーが減少しているという警告音に焦りを感じつつも、目標が捕捉しようとしたときには既にサンドロックは右側から瞬時加速をして近づいてきていた。

 

 くの字ように二段階に分けて瞬時加速を発動させたサンドロックは新たにコールしたヒートショーテルを手に黒い枝の胴体と腕を挟め込むように刃を当てつつ、勢いそのままに壁へとぶつかった。

 交差させて挟み斬りを受けた黒いのはどうにかして攻撃から脱しようとするも、壁ごともろともその熱を帯びた刃が、音を立て装甲を貫かんとする。ISの絶対防御を発動させて大幅にシールドエネルギーを消費させた。

 

 黒い枝のシールドエネルギーは底をつき試験場内には試合終了のブザーが鳴り響く。

 

 辺りには巻き上げられた土煙が舞い、壁は少し衝撃で凹んでいた。

 

 遠くからは頑丈な扉が金属音を立てながら開き、中では職員が慌ただしく何かの準備をしていた。サンドロックは、試合終了のブザーを聞くなりヒートショーテルの熱を切り、格納する。

 

「いやー残念、このまま完封できると思っていたが」

 

 黒い枝の操縦者、クラリッサ・ハルフォーフは全身の装甲から煙を上げながらどこか残念そうにしつつも嬉しそうな表情でサンドロックを見つめる。

 

「さすがに、何回も同じ機体とやりあって負け続けるのは、私の意に反しますので。それに…」

 

 全身装甲により、表情は見えないが肩で息を切らすようにクリスタ・ハーゼンバインは答える。

 

「私は極度なまでに負けず嫌いなのですよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではハーゼンバインさん、これからデータ収集と評価の結果が出るまでは休憩していて下さい。それまでサンドロックはお預かりします」

 

 

 企業のメガネをかけた研究員にサンドロックの待機状態であるゴーグルを渡し、私は更衣室へと向かった。

 

 

 欧州連合で一昨年から始まり絶賛アピールタイム中の統合防衛計画、通称イグニッション・プランでは現在イギリスのティアーズ型が他国のISよりも優勢である。早期に第三世代ISコンセプトを固めていることもあるが、何よりその使用する兵器の評価が高い。イギリスの有名企業ADM社を中心とした合同研究によりティアーズ型はBT兵器を使用したISだ。

 

 実弾ではなく、新たなジャンル「レーザー」を使用した攻撃方法に欧州連合は興味を示した。詳しい仕組みは伏せられているが、何らかの方法で光エネルギーを収束させて銃の弾丸のようなものを作り出し、攻撃する。代表的な武器であるBTエネルギーライフル『スターライトmk-Ⅲ』は銃にある反動もなく、素早く攻撃が可能であり弾倉を変える必要がない。

 また、第三世代ISの大きな特徴である『イメージインターフェースを使用した特殊兵器』についてはビットがそれにあたる。『Bluetears Innovation Trial』通称ビット兵器という今までにない画期的な武器は他国のISよりも圧倒させる要因であるだろう。この兵器には、隠されて能力として偏光制御射撃(フレキシブル)…途中でレーザーを曲げて射撃を行うというインチキにも程がある攻撃方法がある。だが、IS学園ではセシリア・オルコットがその攻撃方法を使用していない事から、かなり高度な技術を要する攻撃のようだ。ビット兵器を使用する際に動きが止まる彼女の様子から考えるに当分お目にかかることは先であるだろう。

 

 さて、そんなこんなで統合防衛計画はイギリスが優勢であるがそんな独走状態を、ただ指をくわえて見ているわけにもいかない。そこで試作されたのがビーム兵器だ。イギリスの『レーザー』に着目して各国がしのぎを削って研究・開発を行っていたようだが私の叔父の所属するメッゾフォルテ研究所が実現させたのがこのビーム兵器だ。レーザーから類似する荷電粒子砲を利用し、これを模して小型化、携帯可能にしたという。だがまだ問題も残されている。私の使用していたビームサブマシンガンは、一定数以上撃ち続けると砲身が熱を帯び、オーバーヒートしてしまう。既存のマシンガンの二分の一程までだろうか。それに黒い枝の試作ビームライフルは燃費が悪い。まだまだ改良の余地が必要であった。

 

 

 

 

 蒸し暑かったサンドロック内では必然的に汗をかいてしまう。これだけは全身装甲の弊害であるため致し方ない。更衣室で着替えセットを持つとシャワー室へと足を運んだ。隣接するシャワー室へ入るとそこには先客が既にいた。

 

「ぷっはぁぁ!」

 

 その左目に黒い眼帯を付ける人物は体に白いバスタオルを巻き付け、左手を腰に当てながら右手に持つガラスでできた瓶の中身を豪快に飲み干していた。よく見てみるとその瓶には可愛らしくデフォルメされた乳牛のイラストが描かれていた。

 

「お疲れ様です。大尉」

 

 戸惑いつつも私はすかさず大尉へ挨拶をする。

 

 そんな奇妙な行動をしていたクラリッサ・ハルフォーフ大尉は私に気づくとこちらへ振り返る。

 

「おお、クリスタもここへ来たか。あなたも牛乳はどうです?やっぱりシャワーを浴びた後は牛乳に限りますな!」

 

 彼女は口の周りに白いひげを蓄え、にこやかに笑った。

 

 

 

クラリッサ・ハルフォーフ大尉。ドイツ軍特殊部隊シュヴァルツェ・ハーゼの副隊長である。少佐がIS学園へ向かわれて以降、実質的な部隊の取りまとめを彼女はしている。大尉とは我が社との大切なクライアントの関係でもあるが、私が以前参加していたドイツ軍代表候補生選抜合宿で会った間柄でもある。

 

「わが社の試作ビームライフルはどうでした?使ってみて」

 

「そうだな、いつもならある射撃による反動がないのは嬉しい限りだ。その分の補正を行わなくてよいからな。それに威力もあるし、大変気に入った。だが…燃費が悪いのが気がかりだった。もう少し改良がされればぜひ我が部隊のISにも搭載したいものだ」

 

 シャワーを浴び終わり、脱衣所に出ると大尉はいつもの黒い軍服に着替えて私を待っていた。どうしたのですかと聞くとまあたまにはお話でもしましょうよと紙の蓋が付いた牛乳瓶を渡しながら答えた。

 

 腰に当てる手の角度や飲み方について熱い指導を受けながら牛乳を飲み干すと大尉は私の近くの椅子に座り、着替えている私の様子をじっと見つめていた。

 

「それにしても、あなたの叔父さんはすごい方だ。AICやワイヤーブレードだけなく、新たにビーム兵器まで開発を手掛けるとは…。次から次へとまだ見ぬ面白い武器には驚かされるばかりだよ」

 

「確かにすごいですよね、クラウスは。どうしてそこまで思いつくのか不思議なくらいです」

 

 肌着に着替え、髪を乾かそうと洗面所へと向かう。そんな私を見かけるなり、大尉は私の前に立ちふさがった。

 

「待ってくれ。私が髪を乾かそう」

 

「いや、自分一人で…」

 

「その…なんというか…あなたの髪を乾かしたいのだ!」

 

 目をキラキラと輝かせて訴えかける大尉に負けた私は大人しく洗面所の前にある椅子に座る。

 

「ではせっかくなのでお願いします」

 

「…おお!感謝する!」

 

 ガッツポーズを決めた大尉は鼻息を荒くしながらタオルを手に取る。

 まるで童心に帰っているかのようにはしゃぐ様子から察するに最初からこれが目的ではなかったのかと思ってしまった。

 

 

 ニコニコの笑顔で大尉は慣れた手つきでタオルで私の髪を拭いていく。改めて鏡に映った自分自身の姿を見る。プラチナブロンドに近い金髪は、入学当初よりも伸びており、肩先に届いていなかった毛先は既に肩を覆うほどに伸びていた。

 

「こうしているのも久々ですね。私が黒うさぎ隊にお世話になっていた以来ですかね」

 

「ああ、そういうことになる。それにしてもクリスタの髪は相変わらず心地よいものだなぁ…」

 

 大尉は髪の毛の余計な水分をなくすように、そして丁寧に拭きながら幸せそうな表情を浮かべて優越に浸る。

 

「髪なら自分のもので満足してくださいよ」

 

「いや、違うぞクリスタ!自分の髪とこの艶やかでお前の所の執事や社員が釘付けになるほどの魅力的な長髪は別だ!いや、もはや同類ではない」

 

「え?そんなに皆見ていたのですか?」

 

「むむ?知らなかったのか?結構有名ではあったのだがな…」

 

 私が思わぬ情報に驚きつつも大尉はペタペタと私の髪にトリートメントを塗っていく。少々触りすぎな気もするが無視した。

 

「クリスタのプラチナブロンドと隊長のシルバーブロンドの二大ブロンドはもはや知らない人がいないほどなのに…。ああ、隊長の髪に触れていた日々が懐かしい…」

 

「…少佐の髪にも触れなかったからその分の鬱憤がたまっていたのですね」

 

「…まあそういうことだ」

 

 どうやら図星であったようであっさりと大尉はバツが悪そうに言った。

 

「安心してください。少佐の髪はきちんと同室の子によって守られていますので心配する必要はないですよ」

 

「…そうか。それは良かった。まさかあの隊長が他人に髪を乾かされるとはな」

 

「少佐もあれから随分と雰囲気が変わりましたからね」

 

「ああ、これも恋の力だな」

 

「恋って…なんで大尉がそのことを?」

 

 思わぬ発言に私は鏡越しに大尉を見つめる。

 

「ん?ああ、クリスタは知らないか。実はだなVT事件以降に隊長から織斑教官の弟が気になるという話を皮切りにちょくちょく恋の悩み相談を受けてな。他の皆より日本の事を知っている私が少佐に日本的なアドバイスをしていたのだ」

 

「…だから少佐はあんな事を。その織斑先生の弟が少佐の奇行に頭を悩ませている原因がなんとなくわかりました…」

 

「何!それはどういうことだ!」

 

 思わずトリートメントを塗る手を止め、大尉はプンプン怒る。しばらく何がいけないかを髪に触ることも忘れて私に話に聞き入った。

 

 

 それからはというもの、最近の少佐についてや学園のことなど、まるで一人暮らしを心配する我が子を思う母であるかのようにしつこく大尉は聞いてきた。いや妹を思う姉のほうがしっくりくるだろうか。どちらにせよ、大尉は少佐がドイツ軍で孤立気味になっていた頃よりも成長していることに喜んでいた。かつては所属する黒うさぎ隊の隊員からも敬遠され、ドイツの冷水という異名で恐れられていた少佐はIS学園に入り、多少形は違えど学園の生徒達との交流によって親しみやすくなり、孤立することはなくなった。未だに隊員全員との仲直りは済んではいないもののその固まった氷は次第に溶けていくだろう。

 

「そういえば、臨海学校の時は大丈夫なのか?お前が記憶障害になったと聞いたが…」

 

 少佐の話を聞き終わり満足した大尉はドライヤーのスイッチを入れて髪を乾かしていく。

 

「ああ…あれは結局大丈夫でしたよ。原因は不明ですがあれからは何ともないですし」

 

 心配そうにする大尉にやんわりと答えた。

 

 臨海学校3日目に私はIS学園直属の病院へ搬送され、精密検査を受けた。だが、どこにも異常はなく。あれ以降記憶がなくなるということもなかったため経過観察の後に学園へと戻された。私が病院送りにされていたころ、一夏たち専用機持ちたちは暴走したという軍用ISを稼働停止させる事に成功させたという。それに彼らはただISの暴走を止めただけではない。彼、織斑一夏がISを第二次移行(セカンド・シフト)させて作戦を成功させたのだ。最初の出撃でIS共に負傷したはずであったのだが、ISの第二次移行により復活。新たな力を手にした一夏が無断で出撃していた専用機組と合流。見事勝利を収めた訳である。今振り返ると未だに謎の事件であったが今では遠い過去の記憶のように感じる。

 

「そうでしたか…。それならば安心しました」

 

 大尉はドライヤーを切ると櫛で髪を梳かしていく。

 

「臨海学校でもそうだが、最近IS関連の事件があるから気を付けたいな」

 

「そういえばフランスのデュノア社が襲われたのですよね」

 

「そうだ、今年度になってからというもののイギリスのティアーズ型強奪に加え、デュノア社への襲撃、ISの暴走事故と他にもちょくちょくあるが例年に比べて格段に増えている。我がドイツもISの事件には注意しないといけないな。特に、今はフォルテシモ社の新たな武装試験も行っているのだ。いつ狙われてもおかしくはない」

 

「ええ、そうですね。IS学園でも頻繁に事件が起きているので他人事ではありません」

 

「…よし、これで完成だ!」

 

 私の髪はすっかり乾ききり、大尉は満足そうに腰に手を当てた。

 

「ありがとうございます。大尉」

 

「いや、気にする必要はない。既に対価はいただいている」

 

 さいですか。

 

「それにしても大尉」

 

「ん?どうした?」

 

「時計を見てください。多分、研究員を30分以上待たせていると思います」

 

「………あ」

 



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第20話 備えあれば

「さて、久々だな諸君。充実した夏休みを送れたか?」

 

 いつもの白いジャージを着た織斑先生は腕を後ろに組み、私たちに向かって意味深長にこう言い始めた。

 

 

 雲ははるか上空に浮かび、不思議な模様を描きながら地上に吹く風なんて気にしないでその場に漂っていた。夏から変わらない強い日差しが着ているISスーツに直接当たり、密着している肌をさらに蒸らす。

 

 

 未だに夏の抜けきれない9月の頭。第四アリーナにて、一組と二組による合同実戦練習が行われていた。

 

 いきなり本題に入らない、といういつもとは違うパターンでの導入に生徒達は少々困惑する。その問いに皆はそれなりにと曖昧な答えで答える者や、実家に帰りました!と元気よく具体的に答える者と様々であった。

 

「そうか…」

 

 ある程度聞き終わった織斑先生は目を閉じる。

 

「十分に休養をしたのならばこれからの厳しい訓練に精一杯励むことが出来るな、諸君?」

 

 顔を上げ、冷笑し鋭い眼光で見つめる織斑先生に生徒達は我に返る。

 

 ああ、やっぱりそうなるか。

 この人はやはりブリュンヒルデだった。

 鬼だ。

 悪魔だ。

 騙されるところだった。

 女王様に蔑まされた。

 

 それぞれの顔に思った言葉が浮かび、そして消えていった。

 

「貴様たちが何を思おうが勝手だが、これからは本格的にIS戦闘を行ってもらうつもりだ。勿論、訓練機の数には限りがある。授業時間内でISに触れられる時間は限られてくるだろう。だが、その少ない実戦訓練の中で我々が貴様らを評価しなければならない。無論、そのまま成績に反映する」

 

 ふん、と鼻を鳴らし、腕を組みながら大きな通る声で説明をしていく。

 

「しかし、何も授業内でしかISに触れられるとは限らない。訓練機をレンタルすれば授業外で練習が出来る。ちょっとは口添えをしてあるから多少はお前たちの力になるだろう。この意味がわかるか?せいぜい、私たちを満足させるほどの腕前にまで磨いてくることに期待している」

 

 そう言い切ると、織斑先生はジャージの袖をめくりちらりと腕時計を確認する。

 

「さて、前置きが長くなったな。改めて授業を開始する。久々の実戦訓練という事もあるから、ここは一つ専用機持ちに一戦交えてもらおうか。織斑!凰!」

 

 名前が呼ばれるや否や、二人は声を上げて返事をする。

 

「ISの準備をしろ、クラス代表同士での前哨戦だ」

 

 

 

 

 

 2人の前哨戦を観戦するため、二人以外の私たちはシールドが張られているアリーナの観客席へと移動した。

 

 アリーナの中心では、甲龍を身につけた鈴と以前よりも比べて装備がゴツくなっている白式を身につけた一夏が対峙する。

 

『それでは試合を開始して下さい』

 

 無機質な声のアナウンスが鳴り響き、前哨戦が始まった。双方ともに格闘武器をコールすると敵へ向かって一目散に突撃し、激突した。

 

 

 

 

「あれ?何か織斑君のIS、前見た時よりも変わったね。なんというか、ゴテゴテしているような…。新しい装備にでも変えたのかな?」

 

 隣で見ていた玲奈がふと、そんな事をぼやく。

 一夏が操る白式は確かに以前と比べると大きく違いがあった。全身を染める白はより煌々と輝きを増し、白銀に近い色へと変貌していた。また、肩部の高出力ウイング・スラスターは大型化しておりこれによって白式が大きくなっているように印象付ける。

 

「ああ、それは…」

「それは一夏のISが第二次移行(セカンドシフト)をしたからだ」

 

 ふと声のした後ろを向く。そこには通路の手すりに体を預け、じっと試合を観戦している篠ノ之箒がいた。

 

「隣はいいか?」

 

「うん、大丈夫だよー!」

 

 一言申し入れした箒は玲菜の隣の席へと座る。

 丁度アリーナ内では射撃戦が繰り広げられており鈴が肩部にある龍砲で、一夏は新たに左腕に追加された多用途武装『雪羅(せつら)』の一つ、遠距離攻撃モードの荷電粒子砲『月穿(つきうがち)』で互いに相手のシールドエネルギーを削ろうと攻撃をしていた。

 

「第二次移行?何それ?」

 

 玲奈は頭をひねり、むむむっと箒から出てきた言葉を脳内から手繰り寄せようとするが一向に出てこなかった。

 

「そうか、玲菜は知らなかったか。実はだな、7月の臨海学校であった騒動の時に白式が第二次移行したのだ」

 

「へぇ、いつの間にそんなことが…。ってその前にさ“せかんどしふと”って何?」

 

 腕を組み、どこか嬉しそうに説明をする箒先生に玲奈生徒はビシッと手を上げる。

 

「まずそこからか。ごほん。まず第二次移行というのはだな、ISと操縦者の相性が最高潮に達した際に起きる現象だ。単に見た目が変わるだけでなく、新たに単一仕様能力(ワンオフアビリティ)が出現する可能性もあるんだ」

 

「そっかー。臨海学校の時にそんなことがあったんだね。だから、今織斑君が見慣れない射撃武器を使ってるんだ」

 

 玲菜は行われている試合を見ながらふむふむと感心する。

 

 アリーナでは、鈴が両手に持った双天牙月で唐竹割りしてきたところを一夏は右手の雪片Ⅱ型で応戦した。このまま力任せに押し切ろうとする鈴であったが一夏は空いている左手の射撃武器でカウンター攻撃をしていた。

 

「いえ、あの射撃武器はそうではありません。彼のISが特殊な現象を起こしただけですよ。彼が今使っている左手は射撃武器の他にも近接格闘として手刀状態にしたブレードモードやクローモード。さらにはシールドにも変化できるらしいです」

 

「へぇ…ってなんでクリスタがそんなことを知っているのさ!」

 

 同じく臨海学校では待機組の一人であったはずの私がなぜ詳しいのかと彼女は食ってかかった。

 

「実は夏休みの間に彼と会う機会がありまして、その時に。ついでに模擬戦もしたので性能とかを知っているのです」

 

「ふーん、なるほどねぇ…。いいなぁ織斑君と一緒に訓練できて!全くこれだから専用機持ちは!」

 

 夏休み中になかなか一夏と会えなかったという彼女はなかなか訓練機での訓練ができなかった事を含めてお怒りにようだ。

 

「まあ、落ち着け玲奈。訓練機がなかなか借りられないという気持ちは分かる。こればかりはどうしようもない」

 

「確かにそうだけどさぁ…」

 

 肘を膝につけて顎を手に乗せながら、観念したように大きなため息をつく。

 

「あれ?それにしても今まで見てきた模擬戦より織斑君、結構優勢じゃない?」

 

 カウンター攻撃を成功させ、鈴を雪羅で追い詰める一夏を見て、玲菜はそう言った。

 

「確かに新たな武装が追加されてISの能力は向上し、 今や死角となる射程はなくなりました。ですが…今の彼は少々飛ばし過ぎかと」

 

「ああ、あいつは何も考えずに飛ばしている…。全く、何も考えないでバカすか撃ち過ぎだ」

 

 前にも言ったはずなのにとムスッとした表情で箒は試合の様子を見ながら腕を組む。

 

「それってどういう事?」

 

「彼のISのシールドエネルギーの消費量がとてもではないですが非効率極まりありません。普通のISだと防御に使う分のシールドエネルギーを攻撃には転用しません。しかし、爆発的な威力を発揮するためにそれを犠牲にするのですがただでさえ消費の激しい零落白夜に加え、新たに追加された雪羅の武装の全てにもシールドエネルギーを消費する仕様になっています」

 

「え?じゃあ…」

 

「あれだけ雪羅を使ったのなら既にシールドエネルギーはもう満足には残っていないだろう。燃費が悪いのだからシールドエネルギー残量をこまめに確認するようにとあれほど言っていたが…」

 

 

 接近戦へと移った両者は互いの武器をぶつけ合い、鍔迫り合いになる。すると、一夏の雪片Ⅱ型から展開されていた零落白夜の輝きが突如として失われる。通常の物理刀へと変形したことに驚いた一夏の隙を付き、鈴は蹴りをお見舞し彼を突き飛ばす。

 

 たじろぐ彼へ鈴は双天牙月を投擲する。

 高速回転してやってくるそれを雪片Ⅱ型で弾き飛ばした彼の目の前には両肩の龍砲を発射準備の段階にしていた鈴が待ち構えていた。

 

 目に見えない衝撃砲を受け、彼は土煙を上げて地面へとぶつかる。その直後、アリーナには試合終了のブザーが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほど、黛さんは生徒会長とお知り合いだったのですね」

 

「まあねー。たっちゃんとは一年の時のクラスと一緒だったし、よく生徒会には取材に行っていたから!」

 

「さすが先輩!顔が広いだけはありますね!」

 

「ま、この私にかかってみれば生徒会にアポを取るなんておちゃのこさいさいよ!」

 

 

 

 

 いつもの新聞部三人組が向かっている場所は生徒会室。何をするかというと、今月に行われる学校祭についての取材だ。なにせ、今回の学校祭はいつになく特別なイベントが行われるからだ。

 

 

 

 

 遡ること四日前。

 SHR(ショートホームルーム)と一限目の半分ほどの時間を使って全校集会が行われた。普段はあまり利用しない暗幕で覆われた薄暗い体育館へ私たちが集められた理由は9月中旬に行われる学校祭についての説明だそうだ。

 

 整列させられしばらく隣の子と立ち話をしていると、壇上脇で眼鏡をかけた生徒がマイクを手に持ち、始まりのあいさつを行う。

 

『それでは、生徒会長から説明をさせていただきます』

 

 司会の告げたその声を境に、ガヤガヤとしていた私語がだんだんとなくなる。

 そして、唯一天井の明かりによって照らされた壇上へ上がっていく一人の生徒がいた。

 

 黄色いネクタイをしているところからその生徒は二年生であるとすぐにわかった。髪はショートカットで癖っ毛のある淡い水色をしている。制服の上から薄い黄緑色のベストを身に着け、右手に青い扇子を持ちながら優雅に中央に位置するマイクへと歩いて行った。

 

『さてさて、今年度は色々と立て込んできちんとした挨拶がまだだったね。私の名前は更識楯無。君たちの長よ。以後よろしく♪』

 

 可愛らしく言い切った後に生徒会長は生徒に向かってウインクをする。

 

 

 通常、生徒会長と言えば全生徒の中から立候補者を選挙で決めるのが一般的だ。だが、ここIS学園ではそのような決まりごとはない。生徒会長になる資格を有する者は全生徒であることには変わりはない。ただし一つだけ条件が付け加えられている。

『生徒会長、即ちすべての生徒の長たる存在は”最強であれ”』

 つまりはこの学園で誰よりも強い人物が生徒会長を務めるのだ。確認できていないものの二年生から生徒会長を務める所から、その実力は計り知れない。

 さらに彼女、更識楯無は自由国籍を持ち、日本人であるにも関わらずロシアの国家代表であり異色の代表者だと有名だ。

 

 

 

『では今度の学園祭だけど、今回に限り特別ルールを導入するわ。それは…』

 

 生徒会長は、手に持つ扇子を上に掲げると手首だけを使い右へ傾ける。

 すると、後ろに校章だけが映っていた空中投影ディスプレイの画面が切り替わり、織斑一夏の写真が映された。

 背景からして食堂で撮られたものだろう。余計な部分はトリミングされ、おそらく正面にいるだろう専用機持ちの誰かに向け笑顔になっている一夏を見て思わず既視感を覚えた。そうこれは以前に玲奈が撮影して"市場”に出回っている写真だった。だが、この盗撮写真を見て思わず首をかしげる。なぜ市場に出回っているこの写真が使われているかという事は問題ではない。どうして学校祭での説明に彼の写真が必要かである。だが、その疑問はすぐに解消された。

 

『名付けて、”各部対抗織斑一夏争奪戦”!』

 

 ぱん、と小意気の良い音を立てて扇子が開かれ、一夏の写真の前方にでかでかと「各部対抗一夏争奪戦」という派手なフォントの文字が表示された。

 

 それを見た生徒たちはその視覚情報を脳へ送り、脳がその内容を理解するまでに5秒ほど要した。

 そして、体育館内には割れんばかりの大きな歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すみませーん。新聞部でーす!取材をしに来ましたー!」

 

 生徒会室へと到着し、黛さんが部屋のドアをノックする。すぐさま、はいという返事が返ってきてドアが開け放たれた。

 

「こんにちは。ようこそいらっしゃいました。どうぞ、中へ」

 

 出迎えたのは、青いリボンを付けた生徒…三年生だった。ヘアバンドに三つ編み、眼鏡をかけたその姿を見て、全校集会の時に司会を務めていた人物であるとすぐに分かった。

 その三年生に倣い、私たちは生徒会室へと入っていった。

 

 部屋の中は思っていたよりも広く、そして綺麗であった。

 部屋の中央には長テーブルを二つ合わせて置いてあり、近くにあるホワイトボードには学校祭についての書き込みがびっしりと埋められていた。壁際にある棚には分厚いファイルやら書類やらが隙間なく入れられていた。その隣には小さな冷蔵庫や食器棚があって中にはティーカップが陳列する。

 

 そして、生徒会室には三年生の人以外にももう一人がいた。

 

「あ、さくらんにハゼたんだ~やっほ~」

 

 眠たそうな顔に、袖だけがかなり余りダボダボとしている制服を着る人物はのほほんとした雰囲気を醸しながら生徒会室に入って来た私たちへ手を振る。

 前者は玲菜の事だろうが、後者は私の事を言っているのだろうか?

 

「あー!のほほんちゃんだー!えー生徒会の役員だったのだ、私知らなかったよー」

 

「えへへ、まあねぇ~」

 

 のほほんさんはダボダボの袖を頭に当て、照れながら微笑む。

 

「あら、二人ともあの生徒会の子と知り合いだったのね」

 

「ええ。主には玲菜との繋がりではあるのですが。それにお互いに一組二組なので授業を受ける時によく」

 

 ぼそっとぼやいた先輩に私は補足説明をした。

 確か最初に会ったのは、あの無人機の事件で箒を探すのを頼まれた時だっただろうか。あれからは教室が近く授業でよく合同授業を行うという事もあり、一組の子たちとは何人かは知り合っている。

 

 

「本音、これからここで取材をするから、机の上の物を片付けて」

 

 眼鏡をかけた三年生がのほほんさんへそう指示を出す。

 

「わかったよー、お姉ちゃん~」

 

 指示を受けたのほほんさんはゆっくりとした動作で机の上に広がっている何かの書類を束ねたり、まとめたりしていく。

 

「え?お姉ちゃん?」

 

 思わぬワードに玲菜は首をかしげる。

 

「挨拶がまだでしたね。私は三年整備科の布仏虚(のほとけうつほ)と言います。生徒会では会計を担当させていただいています。あちらは私の妹の布仏本音(のほとけほんね)です」

 

 眼鏡をかけた三年生…布仏虚さんはぺこりと綺麗なお辞儀をする。その後ろでのほほんさんは笑顔で袖を私たちに向かって大きく振る。同じ姉妹なのにこれほど違うのかと、私は少しだけ衝撃を受けた。

 

 さて、相手からの挨拶を返さない訳にもいかないため、私たちも彼女らへ改めて自己紹介をすることにした。

 

「黛さんに、桜田さん。そしてハーゼンバインさんね。今日はよろしくお願いします。会長は今、別の用事で席を外しています。もう少ししたらここへ戻ってくるのでそれまではゆっくりしていて下さい」

 

「なるほど、わかりました。それじゃあ二人とも今のうちに準備をしちゃってね」

 

 虚さんに促されて長テーブルの席に座った私たちは取材の準備をしていく。

 黛さんはインタビュアーを、私は書記を、そして玲奈はインタビュー中の写真を撮る役を務める。

 私は肩掛けカバンから録音機と筆記用具、メモ帳を取り出しいつでも始められる用意をした。今お茶をお出ししますね、と言い虚さんは食器棚のある方へ向かっていった。

 

 虚さんがお茶の準備をしている間に妹ののほほんさんは、先程までしていた机の上の物を取っ払う作業を終え、冷蔵庫から何か包装された箱を手にゆっくりした足取りでこちらへ向かってきた。

 

「ちょお美味しいケーキがあったけどそれはおりむーと一緒に食べたから、今回はちょお美味しいこちらを用意しました~」

 

 箱から取り出されたのは、食べやすい大きさに切られたバウムクーヘンだった。

 そのお菓子はまるで木の年輪のように茶色と黒そして白の層が何層も重ねられ、外側はチョコレートとホワイトチョコレートでコーティングされていた。

 

「わー美味しそうだね」

 

「そりゃーもうーちょおちょお美味しいよー」

 

 目の前に出てきたお菓子に玲菜は目を輝かせてまじまじとそのお菓子を見る。そんな様子を見てのほほんさんは自慢げに言い、六人分の皿とカップ、フォークを並べていく。

 

 丁度、皿類を並べ終わった頃に虚さんがこちらへやって来て五人分のカップへ紅茶を注いでいく。香りからして良いところの茶葉を使っているのだとわかった。

 

「わぁ、ちょっとしたお茶会ね」

 

 思わず黛さんはそう呟く。

 生徒会室はバウムクーヘンの甘い香りと紅茶の香りが混じり合い、より部屋を華やかに染め上げた。

 

 

「もうそろそろかしら」

 

 のほほんさんがバウムクーヘンを取り分けていると、虚さんは腕時計を見ながらそう言った。まさかとは思いつつ、生徒会室の扉へと視線を移すと丁度良く、扉が音を立てて開かれた。

 

「みんなお待たせ!じゃあ、今日はよろしくね♪」

 

 学園最強の名を持つ生徒会長、更識楯無はにんまりと微笑み、右手に持つ扇子を広げる。そこには『定刻通り』と書かれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「つまりは……原因は織斑君自身にあったっていう…?」

 

「ええそうね。つまりはそういうことよ」

 

 更識さんはさも当たり前のことを言うように淡々としていた。

 一夏争奪戦が起きた原因を聞いていくうちに、更識さんの話をメモしながら私は彼がとてもではないけれど可哀想に思えてきた。

 

 

 さてIS学園の学園祭は毎年、各クラスだけでなく各部活動も催し物を出す。そして、各部活動の催し物については人気投票を行い、上位組には部費に特別助成金が上乗せされるという仕組みをしていた。ちなみに、私たち新聞部はたい焼きという日本のお菓子を作るらしい。

 特別助成金がもらえるという事で毎年、各部がしのぎを削って頑張るらしいのだが今回その部活動の人たちから()()()()がかなりの数が寄せられていたようだ。その苦情の内容というのは織斑一夏が部活動に参加していないという事だ。

 

 新学期と比べては大きな行動を起こす程の熱は収まったものの未だに彼への人気は健在だ。部活動といえば数少ない青春の一ページで、彼と一緒にその時間を共にしたいと思う者は少なくない。というわけで彼へ各部活動が何度も彼へ部活勧誘を行ってきたそうだが、効果はいま一つ。現在彼はどこの部活動にも所属していない、日本でいう帰宅部というものに属している。

 IS学園には必ず部活動に参加しなければならないという決まりごとはなく、生徒はどこかへ所属するかは自由だ。現に私の知っている専用機持ちは箒を除けばみんなどこにも所属をしていない。だが、そんな事は許されることはないそうで毎日のように生徒会へは苦情が寄せられていたそうだ。その問題を解決するべく生徒会が、全校集会で発表したような一夏争奪戦を開催するのだ。

 

 傍から見れば織斑一夏という人物は誰からも愛される人物なのだ、と思われてしまうだろう。だが、裏を返せば彼は他人の願望を押し付けられているのである。ここは一つ彼の自由を尊重してあげればよいものの、誰もが憧れる彼を自分の手中に収めたいと思って各部活動はまるで織斑一夏という人形を取り合うかのように争っている。それには彼の考えなどは全く考慮されていない。女尊男卑の影響と言えばよいのだろうか。男の意見などを考えずに彼女たちが自己中心的な考えで好き勝手に思い描いた理想を掲げているだけだ。温厚な性格を持つ彼はきっと、そのような事には怒りを露わにせずにいいよいいよと淡々に受け入れるであろう。結局のところ、彼には自由などなく未だに都合の良い客寄せパンダのままなのだ。

 

「なるほど…これが先日に発表した”一夏争奪戦”の真相ということね~」

 

「ええ。彼には申し訳ないけれども学園祭のイベントの一つとしてこの問題解決のために利用させてもらったわ」

 

 紅茶を飲みながら更識さんは黛さんの質問へと答えた。

 それからというもの今回の学園祭準備に伴っての裏話などをちょこちょこと聞き出していった。黛さんからの質問に時には虚さんからの説明も挟みつつ、更識さんが一度もうろたえることなく答えていった。

 

 

「あ、そうだ薫子。ちょっと宣伝しちゃっていい?」

 

「ん?いいよいいよ!ささ、白状しちゃって!」

 

「それなら遠慮なく。今回は異例のイベントを行うというわけで私たち生徒会も催し物を出そうと思っているの」

 

「ほうほう生徒会自ら…。これはまた随分と珍しいことをするわね。んで、どんな事をするの?出店?」

 

「いいえ、出店ではないわ。せっかく外からもお客様が来るわけだし、観客参加型の大きなイベントをやろうと思ってね」

 

「ほうほう…。ちなみにどのようなものをするかは…?」

 

「詳しくは伏せるけれども第四アリーナ全部を使ってそれをやろうと企画している所。後の事は、当日までのお楽しみよ♪」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「虚。今日の予定はもう終わった?」

 

「はい、本日の予定はこれ以上ありません。ですが、5日ほど溜まっているあの(書類の)山の処理をするという予定がございます」

 

「うげ…。それは予定と言えないと思うな…」

 

 取材が終わって新聞部の面々が帰り楯無はいつもの席で紅茶を飲みながらのんびりしていた。だが、ファイルのが並べられている棚に隣接する棚の中に貯められている書類を虚に指さされて窓に視線を移す。

 

「今日は新聞部との予定に合わせるためにいつもより早めに織斑一夏との特訓を切り上げたのです。たまにはこちらに手を付けることをおすすめいたします」

 

「…まあ少しは進めようかな」

 

 視線を合わせずに話をする彼女に内心ため息をつきながら虚は新聞部へ出した皿類を片付けていく。

 

「そうそう、本音ちゃん。彼女の部屋には何か変化はあったかしら?」

 

 ふと楯無は余ったバウムクーヘンをもそもそと目を細めて美味しそうに食べている本音へと話しかける。

 

「いいえ、特に変わったことは起きていませんよおじょーさま。ハゼたんはいつものように企業への定期報告や家族へメールを送っているだけでしたー。それと、撮った写真の綺麗に加工をしているとかですねー」

 

「そっかぁ。それは残念」

 

 いつもののんびりとした口調を聞き、楯無は気の抜けた返事をする。

 

「お嬢様。やはり彼女は…クリスタ・ハーゼンバインは黒と見ているのですか?」

 

「そうねぇ…やっぱり黒に近いかなー。彼女のISはわざわざ国際IS委員会に懇願してまで利用可能にさせたっていうサンドロック(骨董品)に疑問が残るのよ。ちゃっちゃと初期化してレーゲン型の試作機として再構成させればこんな手間のかかることはしなくて済むのに。それにVT事件といい、最近各国で起きているIS襲撃事件で目撃されている”幻のIS”といいどうもきな臭くてさ、あのメッゾフォルテ研究所って所が。いや、あそこの所長のクラウスだかっていう人がかな?ま、薄々何かを感じ取っているからこそ私の所に委員会の人が来たしね。しばらくは監視の目を怠らないようにしておかないと」

 

 片づけを終え、椅子に座った虚に視線を移す。

 

「どちらにせよ、学園祭が始まればすぐにわかることね。餌は十分に撒いたわ。後は()()が現れるのを待つだけよ」

 

 

 

 



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第21話 綴られた脚本のままに

ゴールデンウイーク終わりましたねヾ(・_・)


 

 いよいよやってきた学園祭当日。

 夜中まで降っていた雨は朝方には止み、天気は見事に晴れ。絶好の学園祭日和といったところだろうか。蒸発した雨が空気をもやもやとする蒸し暑い朝を迎えながら二組では開催時間に向けて催し物の準備に追われていた。

 

 二組の教室内はまるで異国の店のようにその様子は変化を遂げていた。

 部屋全体は主に赤と黒の配色に染められ、廊下から見てもとても目立っていた。今回のために用意したというこげ茶色の木の椅子と四角いテーブルは綺麗に並べられる。壁には中国の伝説上の生き物の龍の絵が飾られ、所々に意味は分からないものの中国語で書かれた文字が額縁に入れられていた。

 そう、誰が見ても分かるように二組では中華喫茶をやるという事で満場一致だった。喫茶店といえば大抵のクラスは単にお茶を飲むところで終わっているが私たちの場合、お茶はあくまでもオプション。看板商品は中華デザートだ。実家で中華料理屋をやっていたという鈴の意見を参考にしつつ、ごま団子、杏仁豆腐、マンゴープリンなどの代表的なお菓子がメニューに並ぶ。教室内に区切られた厨房から甘い香りが漂う中で私は最終の打ち合わせに参加していた。

 

「…本当にこの格好をしないといけないのですか?」

 

 

 

 

 チャイナドレスを着ながら、だ。

 

 

 

 

「何謙遜しちゃっているのさクリスタ!似合っているよ~」

 

「ちょっと露出が多いような…」

 

 これを用意した張本人(玲菜)へと目で訴える。

 

「それがまたいいのだよー!もぅかわいいなぁ~」

 

 だがそれは逆効果だったようで、制服姿の玲菜は口元をにやけさせながらこちらへ向けてカメラのシャッターを切った。

 

 中華喫茶をやるからには、という玲菜のアイデアのために用意された白色のチャイナドレスは私にとってみれば恥ずかしいものだった。

 ノースリーブタイプのチャイナドレスで大胆にも背中部分に上は肩甲骨周り、下は腰までの範囲に大きな穴が開いており、背中は後ろから見えるようになっている。スカートのサイドスリットはこれもまた腰の部分の所まで入れられており、太ももは完全に露出するような設計になっている。ヒールとシニョンと呼ばれる髪型をするのは許せるが、服装は予想よりも大きく外れており何とも複雑な心境である。

 

「まあまあ、クリスタってあんまりこういう大胆な格好ってしないしたまにはいいんじゃない?」

 

 不満げな表情をしていると、いの一番にチャイナドレスを着たいと言っていたティナ・ハミルトンが私の肩に手を置いた。

 

 

 

 チャイナドレスを着る人は主に外国人勢とどうしてもチャイナドレス着てみたいという自推した日本人で構成されている。なぜ、外国人勢が強制させられるかと理由を問い質したが、これも戦略のうちよ!そのほうが萌えるじゃない!と軽く一蹴させられた。

 ちなみに玲菜は隣の一組で一夏とのツーショット写真を撮る担当をする。これは正式に新聞部へ寄せられた依頼らしい。写真を撮るなど、もはや新聞部ではなく写真部であるが当の部員たちはあまりそのような事は気にしてはいなかった。当然、私にも新聞部での仕事が回ってくるのだろうと思っていたが、そのような事はなかった。いつもなら何かはやってもらっていたために違和感を覚えたものの特には気に留めなかった。

 

「それじゃあ確認するけれども、振り分けた時間ごとに学園内でのビラ配りと接客をやっていきましょ。各自自分の担当する時間は間違えないようにしてね」

 

 赤いチャイナドレスを着た鈴が皆へ最終確認をする。着慣れているのか、気にしていないのか定かではないが、彼女はいつもの調子で話を進めていく。

 

「最初にビラ配りをするのは、あやとクリスタね。最初が肝心だからお願いね」

 

「うん、鈴ちゃん任せて!」

「ええ。任された以上はきちんとやり遂げますよ」

 

 ティナの言う通り、たまにはこういう格好をするのもいいか、と私は割り切った。

 

「それじゃあ皆!気を引き締めていこう!」

 

「「「おー!」」」

 

 クラス長の号令の下、準備をしていたクラス全員で声を上げる。

 

 

 

 

 午前9時30分。

 IS学園祭が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ…織斑くんって料理得意なんだー」

 

「さようでございます。大抵の料理ならば作ることが出来ます」

 

「ねぇねぇ、織斑先生って家でもあんな感じなの?」

 

「それはノーコメントとさせていただきます」

 

「えー!けち~」

 

「お客様、ただいまを持ちまして『湖畔に響くナイチンゲールのさえずりセット』は終了となります」

 

「あらもうそんなに時間がたったんだ。おしゃべりできて楽しかったよ、織斑くん!」

 

「御指名いただきありがとうございました。お嬢様」

 

 

 

 

 俺たち一組のご奉仕喫茶は朝から大盛況で、学園祭開催から大忙しだ。特に俺の場合は、接客に加えて『織斑君との写真撮影』という特別オプションで写真を取られないといけない。休む暇もないくらいに俺のご指名が店内に響き渡る。

 中学の時にアルバイトをしていただけあって、多少は接客にも慣れていたことはここにきて幸いにも役立っていると思う。メニューに書かれている小難しい商品名や決められたセリフを言うことも難なくこなすことができた。

 ただ一つだけこのご奉仕喫茶について不満に思うことがある。

 

 

「はい、織斑君!あーん」

「あーん」

「きゃー!いいなあリツ!どう?やってみた感想は?」

「なんだろう、こうゾクゾクしちゃうね。何か目覚めちゃいそう」

「それじゃあ、今度は私の番ね!はい、あーん♪」

「あーん」

 

 

 

 お菓子でお腹が満たされてしまうことだ。

 

 このご奉仕喫茶のメニューには、俺という共有財産をみんなで分かち合うために通常より高めに設定されている価格で『執事にご褒美セット』というものがある。内容は執事である俺にお客さんがお菓子を食べさせるというものだ。最初の利用者の鈴を皮切りにその様子を見ていたお客さんが次から次へとこの『執事にご褒美セット』を注文していっていた。

 普通だと店員が接客中に食べ物を食べるなど、失礼極まりないことだが意外や意外好評であった。確かに接客中は立ち仕事で休む暇なんてない。それに加えてお腹も空いてくる。端から見るとお菓子を食べられるなんて楽な仕事だと思ってしまうだろう。

 

 だが、考えてみてほしい。2種類しかないお菓子を休む暇もなく延々と食べさせられるのだ。口の中もお腹もポッ〇ーのチョコの味と〇リッツのサラダ味で満たされていた。既に数十本は食べているだろうか。お菓子でお腹いっぱいになるという感覚に慣れていない俺にとっては不思議な感じだ。しばらくは、のほほんたちとのお菓子を食べる会には参加を遠慮させてもらおう。そう、心の中で思った。

 

 

 

「織斑くん!次は8番席にお願い!」

 

「了解」

 

 先程の執事にご褒美セットを終え、俺は次に待つお客さんの所へと向かう。

 

 

 

「ね、先輩。この方が手っ取り早いって言ったでしょ?」

 

「ええそうね。それにしても貴方はもう少し口の利き方を直してもらえないかしら?」

 

 そこにはきっちりとしたスーツ姿の男女がいた。

 

 

 

「それでは、『湖畔に響くナイチンゲールのさえずりセット』を始めさせていただきます」

 

 俺は一礼して、注文された紅茶をお客さんの前に置く。そして彼らの向かいにある椅子に座った。

 

「私、こういう者でございます。」

「俺のもどうぞ」

 

 俺が座ると彼らは俺に対して名刺を渡してきた。

 

「えっとIS装備開発企業『みつるぎ』渉外担当の巻紙礼子さんに泡河俊さん?」

 

 渡された名刺を見るなり、俺はそこに書かれていた名前を復唱した。

 泡河さんは癖毛のある黒髪に眼鏡をかけたのが特徴だ。きっちりというよりかはラフな感じの印象を受ける。そして、彼の上司にあたるであろう巻紙さんは赤みがかった茶髪にロングヘアーと美人の部類に入る綺麗な人だ。

 

「はい、ぜひ織斑さんの白式に我が社の装備をお使いいただけないかと思いまして」

 

 名前を確認されるや否や、巻紙さんは笑顔で唐突に話を進め始めた。

 

「あー、えっとこういうのはちょっと…」

 

 俺はその言葉を聞いた瞬間、色々と察してしまった。

 俺が白式を専用機として持つようになってからはその希少性と話題性に便乗して世界中の企業から毎日と言っていいほど装備提供をしたいという声が後を絶たないらしい。実際に俺に言われたことはたまにあるくらいで、大抵は白式を製造した倉持技研やIS学園によく問い合わせがくる、と倉持技研の人や千冬姉が言葉をこぼしていた。

 今やIS産業は自動車やテレビのような一つのジャンルとして確立し、各企業の開発・研究は盛んに行われている。IS装備も同様だ。ISコアを所持できなかった企業はISではなく装備に着目してどうにかIS産業に乗り込もうとしている。現に、IS学園にあるラファール・リヴァイブの製造元はデュノア社だが、その装備のアサルトライフルはアメリカにあるクラウス社という企業の製品だ。

 さて話を戻すと、俺の白式はその特性上拡張領域(パススロット)は全て雪片Ⅱ型(大飯食らい)によって埋められている。そもそも、白式自身が雪片Ⅱ型以外の装備を受け付けようとしないのだ。色々な理由もあり、これ以上の追加装備は出来ないにもかかわらず企業からのお誘い話は途切れることを知らない。確か、クリスタからも遠慮がちに追加装備の話をされたっけか。

 まあとにかくだ。またこの手の話か、と内心がっくりと肩を落とす。千冬姉からはそのような部類の話には無視をしろと言われているものの、今はそのような事ができる状況ではない。

 

「まあそう言わずに。お話だけでも」

 

 巻紙さんは両手で俺の手を握る。俺を逃がしてくれなかった。

 そうしている間に男性が鞄からパンフレットをいくつか取り出して机に並べ始めた。

 

「こちらの追加装甲や補助スラスターとかどうですか?さらにこの、脚部ブレードとかどうです?俺IS乗れないからあんまり言えないですけど、脚部ブレードって結構かっこいいと思うのですけどね!」

 

 男性が熱くパンフレットに書かれている内容を言っていく。

 

「あの、本当にいいんで…」

 

「えー!?これ、かっこいいって思わないのですか!?」

 

「いや、そうは思いませんけれど…」

 

 ちらりとパンフレットの中身を見るとどれも男ならば心をくすぐられるようなものばかりが並べられていた。

 

「でしょう!それにしても織斑さんの乗る白式は剣一振りだけですけれど、正直物足りないと思いませんか?」

 

 男性の放った言葉に思わず俺はカチンときた。

 

「確かに俺のISの装備は貧弱って周りからは思われますけれど、俺はそうは思いません。正直言って俺はまだIS操縦者としては未熟です。だからむやみやたらに武器を増やしてしまうと俺にはとてもではないですが扱いきれませんし、そんなこと白式は許してくれません。ISの特性を生かす事もIS操縦者とって重要だと俺は思っています。それに、俺は一つの事を極めるのが得意なので」

 

 今は楯無さんに特訓を付けてもらっているが俺の技術はまだまだだ。雪羅も十分に扱えていない。だからこそ、今の俺は雪片Ⅱ型と雪羅だけで十分なのだ。扱う者が少なければ覚えることも少ないから。

 ふと俺が追加武装を断ったことに対して腕に付けている白式が喜んでいるように感じた。

 

 俺の話を聞いていた二人がポカンとしているとふと視界にメイド服を着た誰かがやって来た。

 

「あのお客様、申し訳ございません。既定の時間が過ぎてしまいまして…」

 

「あれ?まだ1、2分ほど時間があるはずだけれどなー?」

 

 男性が腕時計を見ながらメイド服を着ている鷹月さんへと視線を送る。

 

「誠に残念ながらとっくに時間は過ぎてしまいました」

 

 鷹月さんは二人に対して綺麗な礼をする。

 

「すみません、失礼します」

 

 俺もそれに倣い礼をすると、その場から立ち去った。

 

 

 

「先輩…手を握りすぎたからじゃ?」

 

「……」

 

「い、いえ何でもないです…」

 

 

 

 

 

 

 

「はあ、鷹月さんありがとう助かったよ。白式に装備をっていう人がやたらと多くて…」

 

 俺は救いの手を差し伸べてくれた鷹月さんへお礼を言った。

 

「いいのいいの、織斑君も大変ね。うーん…午前の限定品も売り切ったし次休憩に入っていいわよ。校内を色々と見て回ってきたら?」

 

 ここで言う限定品とは俺がお客さんに対して何かをする関連の商品だ。4種類ほどあったはずだがもう売り切ってしまったようだ。

 

「え?いいの?まだ予定の休憩時間前だけれども…」

 

「そうね、まあちょっとくらいなら平気かな?織斑くんにはみんなよりも仕事を多く頼んじゃったし」

 

 さすがクラス一のしっかり者。忙しいのにもかかわらず俺のことまで考えてくれるなんて…。嬉しい限りだ。

 

「そっか、じゃあお言葉に甘えようかな…」

 

 確か旧友の弾がもうそろそろで学園に来る頃だよなぁ、と時間を見て俺は思い出す。ちょっと予定より早いけれども電話でもしようかと思っていた矢先だった。

 

「では一夏さん、わたくしと参りましょう?」

「ああ、セシリアずるいよー僕も!」

「待て、そういう事なら私も!」

「よし!行くぞ、一夏!」

 

 俺が休憩に入るという言葉を聞いてか、可愛らしいメイド服を着ているセシリア、シャル、箒、ラウラが名乗りを上げてきた。仕事より俺に構うとは完全な職務放棄である。

 

「こらこら、皆で行かれたらお店が困るでしょ?じゃんけんで順番を決めたら?」

 

 とここでお店の事を考えて鷹月さんがじゃんけんの提案をする。確かにこれは名案だ。

 

 

 

 ん…?

 でもみんなと一緒に見て回っていたら休憩時間が終わるよな…。ごめん…弾。

 互いをにらみ合いながら恐ろしく真剣な表情でじゃんけんをしている彼女達の様子を見ながら、俺はIS学園に向かっているだろう友へ謝罪の言葉を投げかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 お昼を過ぎ、今は午後1時になったところ。

 二組の中華喫茶はまあまあの客入りであった。廊下には未だに織斑一夏をめがけてやってきた数多くの生徒の長蛇の列が見える。だが、二組の教室内から溢れ出る甘い香りに誘われて列から何人もの生徒を引き抜くことに成功していた。これも玲菜の計算のうちだという。中々の策士である。午前のビラ配りを終え、今は教室内で接客を行っていた。そろそろ私の休憩時間がやってこようとしていた時、見かけたことのある人物が入店してきた。

 

「ねぇ、ハーゼンバインさんっている?」

 

 前に見かけた時と同じ制服姿の生徒会長がそこにはいた。

 

「お疲れ様です。私に何か用でしょうか?」

 

 私は仕事を他の人に任せ、生徒会長へと近づいた。

 

「うふふ、随分と可愛い恰好ね。後で薫子に写真を頼んじゃおうかしら」

 

「…黛さんになら既に何枚も撮られているのできっといい写真があると思いますよ」

 

「あらそうなの。じゃあ後で言っておこ♪」

 

 会長は右手に持つ扇子を口に当てて笑みを浮かべる。

 

「それで、私への用とは?」

 

「ああ、そうそう。それでね、あなたには生徒会出し物の観客参加型演劇に協力してもらう旨を言いに来たの」

 

「あの演劇に、ですか?」

 

 以前に取材したときに意味深に言っていた生徒会主催の演劇のことだ。だが、当たり前のように協力させようとしている所には引っかかる所があった。

 

「ですが、私が…」

 

「”私が参加してもメリットがない”と言いたいのかな?ふふ、お姉さん、あなたの言いたいことはすぐにわかるわ」

 

 どうやら心の中を読まれたようだ。

 

「もちろん、協力をしてくれるならば報酬を用意するわよ」

 

 そう言うと会長はポケットの中に手を突っ込み、ある一枚の紙を取り出す。いや、それはただの紙ではなかった。

 

「じゃーん!もし協力してくれたならこれをプレゼント!」

 

 会長が左手に持っていたのはバーガーショップ『ハッピーアメリカン』の特別優待券だ。だが、ただの優待券ではない。一日20食限定の”伝説のバーガーキング”が購入できる特別優待券だ。

 

 伝説のバーガーキング…本店限定のその商品はあまりの人気に開店前に行われる注文予定者が引く抽選くじで『当たり』を引かなければ食べられることが出来ないという代物だ。国産黒毛和牛の肉を使用したミートパティとコロッケ、目玉焼き、レタスをこれでもかと挟んだ8段にも及ぶそのバーガーは名前の通り”伝説”並に注文することが出来ないのだ。だが、どこかで手に入れることができるという特別優待券を使えば話は別になる。開店前に店員へそれを渡せば無条件で伝説のバーガーキングを注文できるのだ。

 インターネット上では高値で取引されるほどのこの券をなぜ会長が持っているのかという疑問が頭に浮かぶ。

 

「知っているのよ、あなたが夏休み中にこれを何度も食べようとしていたことは」

 

 なぜ私が夏休みに伝説のバーガーキングを食べようとしていたのを知っているのだろうか…?だがそんなことより、もしここで協力をすれば念願の伝説のバーガーキングを確実に食べることが出来る。

 

「どうする~?」

 

 左手に持つ優待券をひらひらと左右に動かして会長は私を見つめる。私は会長の持つ優待券に視線が釘付けになる。協力しますという言葉を発しようとした時に私はその言葉を飲み込んだ。

 そもそも、生徒会主催のこの観客参加型演劇というものの詳細は未だに知られていない。分かっていることとすれば、一ヶ月前から第四アリーナを貸し切りにするほどの大きな舞台が用意され、題材が『シンデレラ』という事しかわかっていない。詳細を知りたければ会場30分前までに入場しなければわからないという何とも胡散臭い謳い文句だ。中身の良く分からないものにあっさりと協力するのはいかがなものかと思念する。

 

「うーん、意地っ張りねぇ。しょうがないわ。今ならもう一枚優待券を付けちゃうよ?」

 

 会長は手品のように指を動かして一枚の優待券を二枚の優待券へと変化させた。

 

「ぜひ協力させてください」

 

 息をつく間もなく即答する。

 

「よろしい♪素直な子は、私好きよ」

 

 会長は意地悪っぽく笑いかけてきた。

 

 

 

 



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第22話 解けられた魔法

 なあ、弾。シンデレラってどんな話か覚えているか?

 

 

 普通シンデレラって言われたら貧しい小間使いだったシンデレラが一国の王子と結婚する話だろ。でも本当は違うんだぜ。ほら、童話ってさ原作の話は色々と大人の都合で世間には出せない内容だからそれを変えて世間に出回るって話聞いたことあるだろ。

 

 シンデレラもそうなんだよ。本当のシンデレラっていうのはな。

 

 

 一国の王子が灰被り姫(シンデレラ)っていう地上最強の兵士たちに追われるっていう話なんだぜ。どうも、王子が身につけている王冠には王子の国に関わる重要な情報が入っているらしくてさ、それを狙ってシンデレラが王冠を狙うっていうんだ。そのシンデレラっていうのはな、青龍刀を振り回したり、クナイを投げ飛ばしたり、ガラスの靴で蹴とばしたり、スナイパーライフルで狙撃してきたりするんだ。

 すげぇだろ?前者なんかどっかにいる山賊がやりそうなことだろ?でも、そうやって武器を振り回してくるのがシンデレラなんだ。こうして王冠を狙う。ホント、恐ろしい話だ。

 

 しかもな、王冠は絶対に頭から放しちゃいけない。そりゃ、一国の王子だし国の事が大事なんだ。王冠に隠されている大事な情報を野蛮な奴ら(シンデレラ)になんか渡しちゃいけない。だから、その王子は王冠を外してしまうと自責の念で体に電撃が走るんだ。

 

 もう何が何だか滅茶苦茶だろ?俺も良く分からない。でもこれが本当のシンデレラなんだ。んでな、俺が今演劇でその王子役をしているんだぜ。すげぇだろ?

 

 だからよ、お前の学校祭の出し物の内容がおかしくって笑ってすまなかった。きちんと学園祭を案内できなくてごめん。

 

 

 だから、さ。こんな俺を助けてくれ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…」

 

 重たい瞼を開けると視界に白銀のドレスを着ているシャルが俺を心配そうに見ていた。

 

「大丈夫?一夏?」

 

 その時、俺はなんで意識を失っていたかを思い出した。そう、俺はシャルをかばってセシリアと鈴の猛攻を防いでいたら崖から落ちて…。

 そして、俺はすぐさま何をしなければいけないのかを思い出した。そう、走り出さないといけないのだ。

 

「じゃあな、シャル!」

 

「ええー待ってよー!」

 

 後ろでシャルが俺に向かって叫ぶがそんなのお構いなしに俺は脱兎の如くその場から逃げ出した。

 

 

 

 

 事の発端はご奉仕喫茶で働いていた時に楯無さんがやってきたことから始まる。

 生徒会主催の演劇に協力しなさいと言われた俺は接客中にも関わらず、半強制的に演劇を手伝わされることとなった。連行された俺は装飾の派手な青いジャケットに白いパンツ、そして金色に輝く王冠を身に着けさせられた。そして俺がシンデレラの王子役であること以外は一切教えられぬまま、演劇の会場である第四アリーナに作られた巨大な舞台に一人取り残された。

 楯無さん曰く、台本のないアドリブの劇だから安心して、とのことらしいが蓋を開ければそれは演劇ではなく俺一人のサバイバルゲームだった。執拗に俺の装飾品である王冠を狙い青龍刀を振り回す鈴、そしてどこからか狙撃をしてくるセシリア。そんな彼女らから武器を持たない俺はとにかく逃げまくった。

 途中でシャルに会い、彼女の持つ盾で一時は助かったものの彼女も俺の王冠を狙うシンデレラの一人だった。そもそも頭から王冠を外すと体に電撃が走るというまるで呪われたアイテムである王冠をシャルに渡すわけにはいかない。一瞬だけ味方がいたのだと喜んだもののそれは間違いだった。崖まで追いやられた俺たちは、鈴の投げた青龍刀によってシャルの盾は壊された衝撃で、崖から落っこちてしまい俺は意識を失っていたのだ。

 

 

 

 

「はぁ…さすがにここまでくれば…」

 

 俺は近くに見つけた塔に登っていた。

 さすが一ヶ月間第四アリーナが使用禁止にされていただけはある。立派な舞台が出来ているものだな、とつかの間の休息に俺は感銘を受けた。

 普段は土のグラウンドしかなかったこのアリーナには、まるで一つの国が出来ていた。広い庭付きの城エリアと、その後ろに広がるゴツゴツとした大きな岩がある砂漠地帯。どれも実際にあってもおかしくないものばかりだ。それに、舞台に出来ているのはどれも石でできた建物ばかり。特に、俺が先程までいた城なんて今だからこそ思えるがかなり立派なものだ。

 

 俺は塔の周囲を巻くように作られた螺旋階段を登りながらこれからの逃走について思案していた。楯無さんのナレーションによって始まってしまった、俺だけのサバイバルゲーム。武器もなく、あるとすればそこらへんに転がっている石くらいしかない。だが、そんなものでは刃物や銃を使ってくるあいつら(シンデレラ)になんか叶うはずがない。そうなってくれば答えは一つ。身を隠すのみだ。見ているはずの観客なんてどうでもいい。今は俺の身の安全確保が最優先だ。塔の頂上にいればいつかは見つかるものの、それまでに時間は確保が出来る。その間に次の身を隠す場所を探せばいい。

 これからどうしようかと思いながら塔の頂上へとたどり着くと、突如その場がライトアップされて塔の上に何がいるかがはっきりと見えるようになった。

 

「待っていたぞ!」

 

「王冠は私がいただく!」

 

「げっ!」

 

 そこには二人のシンデレラが俺の事を待っていた。

 一人は日本刀を手に持つ箒。そしてもう一人はタクティカル・ナイフを両手に携えるラウラだ。よりによって、俺の知っている中での武闘派が集まってしまった。

 相手の手には凶器があり、今俺の手には絶望が握られている。こんなものじゃ勝てる気がしない…。

 

「一夏、覚悟!」

 

 シンデレラではなく、もはや武士と化している箒が俺へ近づいていた時だった。

 

「待て、箒!」

 

 突如、何かに気づき歩みを止めたラウラが箒へ叫ぶ。ラウラの叫びに反応した箒は上空に視線を動かして俺へ近づくのを止めてしまった。

 

 上なのか?

 二人に倣い、頭上を見上げるとそこには何かがこちらへ降ってきていた。いや、落ちてきていた。

 

「何だ!?」

 

 それはくるくると空中で回転すると、すとっと俺の目の前に着地をする。それは人だった。

 その姿はまるで忍者のような恰好であった。藍色の布の生地の服を身にまとい、太ももには短剣の鞘が巻き付けられ、首周りには同じ色のマフラーが巻き付けられていた。ついでに頭にはゴーグルが巻かれていた。

 

「けがはない?一夏?」

 

 ポニーテールにされたプラチナブロンドが揺れ、聞き覚えのある声が俺の名前を言った。

 

「く、クリスタ!?」

 

 その人物は二組のクリスタだった。いつも見ない格好をしていたため気がつかなかった。というか何でそんな恰好なんだ?

 

「貴様、どういうつもりだ!」

 

 箒は突然現れたクリスタに憤慨する。傍から見れば完全に悪役である。

 

「武器を持たない王子様にニ対一で襲おうなんてちょっとやりすぎじゃないと思ってね。これで対等でしょ?」

 

 彼女は太ももから短剣を二本抜いて構える。よくよく見てみると、それは練習用のゴムでできたナイフだった。

 

「邪魔をするなら、先にお前から倒す!」

 

 箒は刀を構えると、クリスタへと近づく。

 

「そこを、どけぇ!」

 

 箒は居合いに見立てた刀を中腰に引いて構え、クリスタへ素早い右切り上げを放つ。その構えは俺が知っている『一閃二断の構え』だった。

 姿勢を崩さずにいたクリスタはその斬撃を後ろへ下がることによって躱す。

 

 だが箒の攻撃は止まらない。振り切った刀をそのまま上段に構えて振り下ろす。そのあまりに早い動作に、クリスタは両手に持つゴムナイフを交差させることにより刀の攻撃を阻んだ。

 

 クリスタはそのまま箒を押し返し、よろめいたところを回し蹴りで反撃をした。的確に刀の持つ右手を狙ったそれは箒が左腕でかばった。すると両者は互いの距離を離す。

 

 初見で箒の攻撃を防いだクリスタに見とれていると突然クリスタがこちらへ向いて叫ぶ。

 

「何ぼーっとしているのですか!逃げてください!」

 

 そこで俺ははっと我に返る。そうだ、元々はクリスタが現れたのも俺をかばうため。刃物を持っている二人から一刻も早く逃げ出さないといけない。

 

「嫁ならば、さっさとそれを渡せ!」

 

 クリスタが箒の相手をしているということでラウラがナイフを両手に、俺へと走り寄って来ていた。

 ここまできた螺旋階段を降りて逃げようと思ったその時、上空にいくつものピアノ線に滑車のようなものが張り巡らされていることに俺は気が付いた。

 

「あばよ、ラウラ!」

 

 それを見た瞬間俺は塔から飛び降り、滑車に捕まるとそのまま近くにある城の方向へと勢いよく降りて行った。

 

「何、卑怯だぞ!」

 

 後ろからラウラの抗議の声が聞こえてくるがそんなことは、今はいい。今は俺の身の安全が第一だ。

 

 

 

 滑車でそのまま乗った俺は城の屋根の部分に降りた。

 とりあえず箒とラウラは大丈夫だとして、後は撒いているはずのセシリアと鈴、そしてシャルをどうにかしないといけないな。

 

『さあ今からフリーエントリー組の参加です!皆さん!王子様の王冠目指して頑張って下さーい!』

 

 ふと安心したのもつかの間、楯無さんがそのようにナレーションを入れる。

 

「はあ?」

 

 フリーエントリーだって?

 するとどこからか大きな地響きが聞こえ、気が付くと俺のいる屋根の周囲には多くの女子生徒がいた。

 

「織斑君!大人しくしなさい!」

「私と幸せになりましょー王子様!」

「王冠をちょうだい!」

 

 俺に迫りくる女子たち。中には一組の人もちらほらと見かけた。って悠長に観察をしている暇なんてない。俺はすぐさま屋根から飛び降りて身を隠せる場所を探し始めた。

 

 どこか…どこかに…。

 走れども見晴らしのいい城の庭には隠れられる場所なんてなかった。どうにか見つけないと。後ろからは大きな地響きが聞こえてくる。

 目を皿のようにして周囲を見ていると突如、足が何かに掴まれた。

 

「おわぁっ!」

 

 そしてそのまま視界が地面へと近づいていき、地面に吸い込まれる。何者かによって引っ張られた俺が目にしたのは木や鉄で作られた演劇舞台の骨組みだった。

 

「さあ、こちらへ。」

 

 演劇舞台の下側に連れてこられた俺は、とりあえず足を掴んだその人物の言葉に従い舞台セットの下を潜り抜けていく。しばらくついて歩いていくと、見覚えのあるロッカールームにたどり着いた。

 

「ここなら見つかりませんよ?」

 

「はあ…はあ…」

 

 先程までの疲れがどっと押し寄せ、息を整える。そして俺の足を掴んだ張本人に目線を動かした。

 

「どうも…あれ?どうして巻紙さんが?」

 

 そう、そこには喫茶店で会話をしたばかりの巻紙さんがいた。見たことのある笑みを浮かべながら、彼女は話し始めた。

 

 

「はい、この機会に()()をいただきたいと思いまして…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は走っていた。

 力強く踏み切るときになる音と自分自身の荒い息づかいが光に灯された無機質な白色の廊下にこだまする。目指すべき場所は、『IS学園地下特別区画 保管庫』だ。

 

 

 

 遡ること一時間ほど前。

 IS学園への入場者のチケットの確認をし終え、生徒会主催の演劇のために、校内には生徒の姿をあまり見ない学園内を巡回していた時の事だった。

 

「布仏さん!!」

 

 私の名前を呼ぶ声の方を振り向くと風紀委員の腕章を付けた生徒がいた。

 

「その、先生が倒れていて…!」

 

 

 

 

 

 風紀委員の後をついていくと現場には意識を失い、倒れている先生がいた。意識のない先生の脈を測ると、生きていることがすぐにわかった。

 

「意識を失っているだけね」

 

「…そうでしたか」

 

 風紀委員の子はほっと胸をなでおろす。

 

「布仏さんすみません…私動揺しちゃって…どうすればいいかわからなくって…」

 

「まず落ち着きなさい。他の風紀委員を呼んで、先生を医務室に運びなさい。私はこのことを先生方に報告するわ」

 

「わ、わかりました」

 

 携帯電話を使い、誰かに呼びかける姿を見て、私は走り出す。そして、すぐさま治安維持担当の先生方へ連絡を取った。

 

「布仏虚です。大至急、地下にある無人機の部屋を調べてください!」

 

 

 

 

 お嬢様は、今回の学園祭で必ず騒動が起きるだろうと予測を立てていた。何せ襲う理由は山ほどあるのだ。特に白式は第二次移行(セカンドシフト)を済ませた、より謎を深めた存在。それを狙ってくる輩は必ずいるとお嬢様は考えた。それに今年は特に異例である。クラス代表戦での無人機二機による襲撃、VTシステムの暴走。そして臨海学校での福音暴走事件はどれも初のIS男性操縦者の織斑一夏の周りで起こっている。今回行われる学園祭も例外ではないだろうと目論んだ。そこで、お嬢様は少しでも自衛が出来るようにと、まだ実力が乏しい織斑一夏の特訓をし始めた。全ては、学園祭で襲ってくるであろう敵に対抗するために。

 

 だが、IS学園には狙われるような格好の餌はまだある。お嬢様は万全なセキュリティの下ではその可能性は低いと織斑一夏よりも優先度を下げるとおっしゃっていたが、今回ばかりはそういかないようだ。

 

 

 

 IS学園地下特別区画。

 ISを取り扱う唯一の教育機関として知られるIS学園は()()()の時のための備えとして地下に巨大な施設がいくつか用意されている。例えば生徒や教員をかくまうシェルターやオペレーションルームなど、地上の施設が壊されても何一つ支障がきたさないような施設がある。他にもISを研究・調査できるような施設や、整備できる場所など、地下50mに及ぶ広い空間をふんだんに活用している。ただ、地下の存在について部外者はおろか一般の生徒には知られていない秘密の場所だ。そう()()の生徒ならば、だ。

 そしてその地下には、あの無人で動いていたISが今なお保管されている。国際IS委員会の指示で保管されているもののいつ狙われてもおかしくない状況であった。

 そして意識を失っていた先生の首には地下への入り口にもなるIDカードがぶら下がっていなかったことを確認した時に、私の頭にとてつもなく嫌な予感がよぎった。お嬢様は今、第四アリーナで織斑一夏の護衛についている。こうなれば、私が食い止めるしかないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地下の扉を開けた私は独房室を潜り抜け、各種設備に繋がるエレベーターのある通路へと走って行った。

 

 通常ならば監視カメラによって()()を発見した際にはすぐさま管制室へ通報されるはず。だが、先程先生へ報告した際の対応から考えるに正常にそれらは作動をしていない。ますます不安にあおられるも、まずは無人機の安否をこの目で確かめなければならない。

 通路を右に曲がり、はるか遠くにエレベーターの扉が見えてきた。口の中が乾きながらもつばを飲み込み、さらに走るスピードを上げる。

 その時だった。

 

 エレベーターが動いている…?

 

 扉の上についているランプが下から上へと動いていたのだ。

 

 誰かが乗っている…!

 

 エレベーターの遠くで私は歩みを止めた。

 学園祭では通常ならば一般の人は入場出来ないようになっている。だが、例外として生徒に配られる「招待券」と協賛企業への「招待状」があれば話は別である。その限られた人たちが学園へ来ているもののとてもではないがその人数は多く、入場口では招待券等の確認をしていただけで精一杯でだった。来場者全員に金属探知器を通過させてはいたが詰めが甘かったと私は今更ながら後悔した。

 

 ISが二機並べるほど広い廊下に私の上がる息の声がこだまする。段々と今いる階へ近づいてくるエレベーターに私はただ、遠くでその様子を見ているだけだった。

 

 

 

 

 ちん、というエレベーター特有の効果音が廊下に響き渡り、エレベーターが私のいる階に止まる。

 胸の鼓動がはっきりと自分の耳に聞こえ、思わず太ももにしまっている護身用のナイフに手を当てる。

 

 

 

 エレベーターの扉が開かれる。その中にいたのは……。

 

 

 

 

 一人の男だった。

 

 黒い髪に黒いスーツ。眼鏡をかけ、日本人よりかは外国人の血が流れていそうなその顔つきに私は見覚えがあった。

 相手は目の前に私がいることに驚いたようで、思わず歩みを止める。

 

「おお、こんな所にIS学園の生徒さんが!いやー助かり…」

 

「ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ、『みつるぎ』渉外担当の泡河俊さん」

 

 エレベーターから出て陽気にふるまうその姿はある意味私からすれば異様だった。私によって言葉を遮られ、じっと押し黙ると彼はお辞儀をした。

 

「それは申し訳ない。俺、実は好奇心旺盛な方でして…。地下への入り口を見た瞬間に思わずその衝動が抑えきれなくなったのですよ」

 

 顔を上げ笑顔で彼はそう答えた。

 

「私をバカにしているのですか?扉には立ち入り禁止と書かれていたはずですが、大の大人が常識をわきまえない行動をするなんて」

 

「とんでもない、あなたをバカに何てしていませんよ。俺は差別をしない主義なので」

 

 身振り手振りを使い彼は大げさに表現した。

 

「よく、企業の人間になれましたね。聞いてあきれますよ」

 

「全くの正論に完敗です。認めましょう。それはそうと、出口まで案内してもらえません?あまりに広い空間に迷ってしまって」

 

「そこで止まりなさい!」

 

 オーバーリアクションをしながら私へ近づこうとする彼を私は太ももに手を当てながら止めた。

 

「どうしたのですか?」

 

「これからあなたの身柄を確保して事情聴取されてもらいます。あなたはどうやってここに入ったというのですか?そもそもあなたがここにいることはおかしなことです。この空間は普通ならば…部外者は入ることが出来ません。それに教員と一部の生徒以外が侵入すると通報されて、直ちに通路にはシャッターが…。」

 

「どうやって?そりゃあ、これを使ったからだよ」

 

 すると、彼は懐からIDカードを取り出す。

 

「それは……!」

 

 そのカードには女性の写真と『榊原菜月』という名前が書かれていた。それを見た瞬間、私は彼を睨んだ。

 

「やはりあなたが…!ここがどこだかわかっているのですか!?」

 

「ああ、もちろん知っているよ。世界の頂点に君臨し、常識を覆した”IS”を未来ある若者へ教育する場のIS学園ってね」

 

「ならなぜ…」

 

「そもそもさ、人の常識って儚いものだよね。君もそう思わない?」

 

「はあ?」

 

 あまりも唐突すぎる会話をし始めた彼に私は思わず聞き返した。

 

「いや、まあね。つまりはISってすごいなあという話さ。初めてISがMs.束によって学会で発表された時に聴衆者たちはみんな腹を抱えて笑ったそうだ。『そんなことありえない』『子供が絵に描いたような作り話をしても話にならない』ってね。そりゃそうだよね、実際にその場にはISを用意しないで理論だけをペラペラ言っただけだもん。今じゃあ”常識”だけれどもシールドエネルギーやPICという概念はその当時の人たちにはなかったのだ。当然だよね。僕もきっと説明をされても分からなかったと思う」

 

 唐突に語り始めた彼に私は困惑した。一体何が目的なのだろうか?時間稼ぎ?それとも増援を呼ぶために?だが、既に地下への入り口は封鎖されているはずであり、新たに人がやってくる可能性は低い。もはや袋の鼠だ。

 さらに、今の彼は両手に何も持たなっていない身一つの状態である。とてもではないが、無人機を奪っているようには見えなかった。それもそのはず、彼は無人機の情報のパターン31に飛びついてやってきた輩。無人機がどこにあるか初見ではわからないのだ。となると失敗したという可能性も考えられる。なら彼の目的は一体何なのだろうか?

 

「だが人類は知ってしまったのだよ、ISというご馳走の味に。それを初めて味わう人類にとってそれはそれは、美味しかったのだろうね。もう骨までしゃぶり尽くすくらい夢中にさせる味を人類は忘れることが出来なかった。君も美味しかった料理の味は覚えているだろう?もし忘れていても大丈夫だ、君の体がきちんと覚えている。そして、欲深い人類は一度美味しいと感じたものをもう一回、もう一回と何度も食べ続けるだろう、例え()()()()()を払ってでも」

 

 トチ狂ったという言葉がまさにこれのことなのだろうか。

 

 彼は私に向けてまるで、子供が自信満々に自らが持つとびきりの知識を親兄弟にでも披露しているかのように楽しげに話しかけてきた。その行為に私は悪寒のような寒気が体に走る。

 

「そして世界は変わったんだ、それまでの常識を捨て去ってまで。ISに乗れるというだけで男と女の立場は逆転。"レディファースト"だかって言葉があったらしいけれど今じゃあ全く聞かなくなったね。そりゃまあ、女が先を行くのは当たり前になったんだし当然だよ。世の中はISを扱いたいがために女を持ち上げた結果が今の世の中さ。でも何だか、ISを使いたいがために上の人たちが女を利用しているようにも僕は思うけれどね。だとしても、君みたいなIS学園に入学出来た生徒は幸運だね、今の社会だとどこへ行っても歓迎してくれるよ」

 

「……」

 

 彼は息つぐ間も無く、喋り続ける。

 

「そして絶対にありえないと豪語していた研究者たちは手のひらを変えたようにMs.束にごまをすり、戦車や戦闘機は鉄くずと化し、当時世界のパワーバランスの要であった()は過去の遺物になり、I()S()がその担い手となった。アラスカ条約で軍事転用を禁止にしているはずなのにどうしてISを持つ国には軍隊にISがあるのだろうね。ホント、人間って欲望に忠実でいつ見ても飽きないし面白いよ」

 

 あまりにも気味の悪い長々と話していた話が続く中、私の耳に付けている通信機から反応があった。

 

『布仏さん!大変です!無人機のある部屋への何者かによって侵入されたという痕跡が確認されました!恐らくその侵入者によってだと思います。現在、無人機のある部屋までのルートを辿って先生方が捜査しています!あなたも侵入者を注意して下さい!』

 

 私は山田先生の言葉に耳を疑った。既に侵入されていた、つまりはコアは盗まれていたのだ。ならば共犯者がいるのだろうか?そのために私を足止めに?私の中には新たに浮かぶ疑問が現れ、心の中を乱していく。

 

「常識も所詮は集団生活の中でしか生きていけない人間に必要な、統一意識を持たせるために作り上げられた脆くて儚い先入観。今まで誰もが否定するような”非常識”だとしても、誰かがその"非常識"と思っている事がいかに素晴らしいかが他人に共感されてそれが波のように同じコミュニティ内で広まっていけば、やがて誰しもが当たり前と感じる”常識”になる。って僕は思うんだ」

 

 彼は、激しい運動した後のように何度も何度も大きな呼吸をした。よくここまで話し続けたものだ。

 

「こんな長々とした話を…」

 

「そうだ!せっかくだから、IS学園の生徒である君の意見でも聞いてみようか。君にとって常識ってなんだと思う?」

 

 彼は笑顔で私に問いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…無言みたいだね。せっかく他人の意見を聞けるいい機会だと思ったけれども、時間になってしまったよ残念」

 

 隙を見せないようにと無言を貫き通していると、彼は残念そうに肩をすくめた。

 

 

 

 ふと、後方からISの移動している音が聞こえてきた。振り返ると、緑色のラファール・リヴァイヴを身にまとった教師の人たちがいた。

 

「布仏さん、後ろに下がって!後は私たちが!」

 

 武器を手に展開させながら一人の教師が言い、教師の後ろに私は移動して距離を置く。

 

「いやー、さすがIS学園。ラファール・リヴァイヴをこうも生で見られるとは思いませんでしたよ。豪華なお出迎えですね」

 

「あら、それは光栄ね。不法侵入者さん。武勇伝にでもしてちょうだい」

 

 状況を把握出来ていないのか、それとも元から可笑しいのか定かでないが、彼はおどけながらも降参のポーズよろしく両手を高く上げる。

 

「それにしても、IS学園の人って過激ですね。俺を地上に戻すのではなくて、その場で殺すなんて」

 

 彼は自分に向けられているラファール・リヴァイヴの手に持つ銃を見ておどける。

 

「あら、そんな非人道的なことしないわ。このトリモチはあなたに怪我をさせるようなものじゃないから安心して。それに、あなたの言う通りこんな狭い所で立ち話をするよりは広い地上に戻った方が良いじゃないかしら」

 

「おおそれはよかった」

 

 両手を上げる彼はなぜか安心しきった表情をした。

 

「はっ、随分と頭のねじがイカレてる野郎じゃんか。ここはIS学園だ!お前みたいなヘラヘラ笑っている何も出来ない男がノコノコやって来るような場所じゃないんでね!相手にするのが間違ったな!」

 

 もう一人の教師がそう言うと、トリモチ弾を彼へめがけて発射した。対人用に作られ強い粘着質を持ったトリモチが彼の体の自由を失わせ、そのまま整形し地上へと運ばれ、一件落着となるはずだった。

 

 

 

 

 

 …そう、はずだった。

 

 

 

 

 

 彼の体にはトリモチは全く着いていなかった。それもそのはずだ。何せ()()()()()()のだから。

 

「感心しませんね、そのような態度は」

 

 私たちはあまりにも非現実的な光景に言葉を失った。

 

「教師であろうお方が来賓にそのような応対をするのは良くありませんよ。まあ、あなた方が教えてくれた地上へのルートは確保したので帰らせていただきます。()には待たせている人がいるもので」

 

 私たちの耳には何も情報が入ってこなかった。ただ、視覚情報だけが私たちの脳に行き届いていた。

 

 

 彼の右腕には赤黒い装甲が取り付き、右手には緑色に光る大きな剣が握られていた。剣の持ち手に付いているコードはそのまま彼の背中にある大きくも美しい竜の鱗のようなものががいくつも重なったかのような羽根に続いていた。

 

 

 

 

 

 彼は、まるで……

 

 

 

 I()S()を部分展開しているように見えた。

 

 

 

 






小説を描くにあたってまず最初にこの場面が思いつきました。


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第23話 来襲

 薄暗いオレンジ色の光が部屋全体を照らす管制室には2人の教師がいた。

 

 

「ロッカールームに未確認のIS反応です!」

 

 

 椅子に座り、目の前にあるコンソールを叩きながらいつになく真面目な口調で真耶は言う。

 目の前にある空中投影モニターには、いつもアリーナを利用する生徒が立ち寄るロッカールームが写っていたが今は見るも無残な光景であった。淡い光に照らされている室内の地面や壁には強い衝撃を受けた痕跡があちこちに残されコンクリートの破片が散らばっている。ロッカーには弾痕や何かによって切り裂かれた痕があり原型を留めている物を探す方が難しいほどで、もはや使い物にならなくなっていた。そんな被害が尋常ではないロッカールームには二機のISがいた。

 

『はぁぁ!!』

 

 一つは白式。

 操縦者は右手に持つ雪片弍型から零落白夜を発動させている織斑一夏。そして、もう一つ。

 

『やるじゃねーか、ガキ!』

 

『うるせぇ!』

 

 白式の斬撃を防いでいる、まるでクモみたいなISだ。

 脚が8本あるISの操縦者はスーツを着ている女性だ。その姿からIS学園関係者ではない部外者であることが分かる。

 全身装甲(フルスキン)によって女性の表情は見えないものの、その様子は余裕綽々といったところで一夏を弄んでいるようにも見えた。

 

 

 

「やはり学園祭を狙ってきたか。だが単騎か…。敵の増援が来る可能性があるな」

 

 真耶の後ろで腕を組み、じっとモニターを見ている千冬はクモのようなISを見てそう呟いた。

 

「地下に入り込んだという不届き者の方はどうなっている?」

 

「まだ新しい情報は何も。依然としてシステムはハックされており、地下の各機能、及び地上施設の一部の制御コントロールは失われたままです。どうにか復帰させた防犯カメラから若い男性が地下へ向かったとのことで送り込んだ対人用装備の二機のラファール・リヴァイヴからの通信は何も。一人先に向かったという布仏さんからの連絡も入ってきません」

 

「妙だな…。男一人に手間取っているのか?それともかなり奥まで潜り込まれたか…?とにかく、地下への入り口で警備している教師には厳戒態勢の維持をさせろ。まだそいつ一人だけが入り込んでいるとは限らないからな。加えて一般生徒と来場者への避難命令を」

 

「了解しました」

 

 真耶はコンソールを叩き、第四アリーナ、さらには学園全体への避難勧告をした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私がこの日本のニンジャみたいな格好をしてまで演劇に乱入した事には理由があった。凶暴化するだろうシンデレラから一夏の身の安全を守る為だ。

 会長は演劇に出て一夏の王冠をゲット出来れば一夏と同室になる権利を得られる、と一年の専用機組みに話を持ちかけたという。まるで、私にプレミアチケットを見せびらかした時のように。それを聞いた彼女らは血相を変えて参加すると言ったらしい。予想通りの様子から何を仕出かすか分からないための保険として私が抜擢されたのだ。一夏の用心棒として。

 

 だがそもそもの話、彼女らにあんな凶器を持たせなければ会長が一夏の心配をする必要がないのである。武器配布について意見を述べたもののそれはいいのと却下された。どこが大丈夫なのかは私には分からなかった。

 

 こうして伝説のバーガーキング入手のための条件として示された、何かがあったら一夏を守るという約束の下、このニンジャの格好をさせられたのである。私の役割を説明されていた時になぜ私を選んだのかと言ったら会長はこう答えた。

 

『だって、あなたに織斑くんと同室になる権利を得られるって話をしても彼に惚れていないあなたなら食いつかないでしょう?』

 

 つまり会長は元々、演劇を行う第四アリーナへ一年の専用機組みを集めたかったのだ。

 私の問いに扇子に口を当てて微笑む会長の姿は、私にどこか喉に小骨が刺さったような違和感を与えた。まるで、何かを企んでいるかのように…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 遠くから王子様を探すプリンセス(一般生徒)たちの声があちこちから聞こえてくる第四アリーナ内で、私は人工的に作られた広大な乾燥地帯を抜け、目的地の城の建つエリアへと歩いていた。

 

 私は先程まで少佐と箒の相手をしていたが、フリーエントリーの生徒たちが王子様(王冠)めがけてやって来たために起きた、大地を揺るがす程の振動に動揺する二人を尻目にそそくさとその場を後にした。そもそも一夏はこの場にはいない訳であるしあのまま戦うのも一興であるが、そうしてもいられない。他にもシンデレラはいる訳なのでそちらの様子も見に行かなければならないのだ。それに、先程まで使っていた通信機で会長に連絡を取ろうとしても全く応答がない。そういうこともあり、現在の状況がわからない今は自力で彼を探す羽目になっているのだ。

 

 私の横を時折、王子様を探すプリンセスたちが通り過ぎていく。

 誰しもが、友人たちと楽しそうに会話をしながら…とはいかず景品である一夏との同室になる権利を目当てに、目をギラつかせながら探索を行なっていた。その様子を目撃するたびにいつもの光景だと思いつつも何だか彼が可哀想に思えて仕方がない私がそこにはいた。

 城エリアへと到着し、しばらく歩いていると舞踏会ゾーンにて私はお目当ての3人組を見つけた。

 

 

 

「たっくー、一夏はどこに行ったのよ…。逃げ足速いんだから」

 

「そもそもシャルロットさん、あなたが一夏をかばったりするからこうも必死になって探す羽目になったのですよ?」

 

「そんなこと言ったって…」

 

 

 

 互いに愚痴をこぼしながらも一夏を探す鈴、セシリアそしてシャルロット。どうやら、彼は再び武装している彼女らに襲われてはいないようで私はホッとした。一夏が周囲にいないことを確認し、ここから立ち去ろうとした時だった。

 

「あれ?やっぱりクリスタじゃない。何やっているのさー!というか、その格好何よ?」

 

 私の着ている服装が派手ということもあり、遠くにいた鈴にすぐバレてしまった。立ち去ろうとする私を大声で呼び止め、鈴がこちらへと駆け寄ってくる。そして私の方へと走る鈴を追いかけようとセシリアとシャルロットもこちらへと近づいてきた。逃げる訳にもいかないので、私も彼女たちに歩み寄る。

 

「クリスタさんもフリーエントリー組なのですか?」

 

「まあ…そういう所かなあ」

 

「ふーん。あんたが参加するとはねぇ…。にしても、派手な恰好しているじゃない」

 

 セシリアは私がフリーエントリー組だと言ってくれた事を信じてもらえたが鈴はそうはいかないようだ。彼女は私の服装をまじまじとジト目で見る。

 

「そういえば、さっき向こうの大きな塔が立ち並んでいる所にスポットライトが当たっていたけれど何があったか知らない?」

 

 城エリアにしかいなかったためかシャルロットは私に塔であったことを聞き出す。

 

「ああ、塔で少佐と箒が一夏を襲っていたんだよ。でも、今じゃあ逃げられたみたいだけどね」

 

 私は余計な情報を省いて端的にシャルロットへ何をあったか説明した。さすがに私が介入したなどと言ってしまえばどうなるか想像することが容易であるからだ。

 

「なるほど…。二人はそっちのエリアにいたのか」

 

 シャルロットが顎に手を当て考え事をしていた時だった。

 

 

 

 

 

「全く、襲うなどと誤解を招く発言は控えていただきたいものだな」

 

 聞き覚えのある声が背後から聞こえ、振り返るとそこには二人のシンデレラがいた。

 

 

 

「さあもう逃げられないぞ、クリスタ」

 

「さっきは逃げられたが、どうして私たちを妨害したのか訳を聞こうじゃないか」

 

 少佐は腰に手を当て、むすっとした表情でこちらを見ており、箒は手に刀を持ち剣先をこちらへ向けている。理由を聞こうとしているのに、刀をこちらへ向けている所から邪魔をされたことに相当腹が立っているご様子だ。

 

「クリスタさん、この二人に何をしたのですか!?」

 

 剣幕な雰囲気を露わにしている二人を見て、セシリアは私に詰め寄る。鈴もシャルロットもこちらをじっと見つめいた。

 このまま隠し続けることは得策でないと判断し私は素直に理由を話した。

 

「二人には黙っていて申し訳ありませんでした。実は生徒会長さんに頼まれて、一夏の護衛をしていまして。彼の生命が危ぶまれそうになった時にっと」

 

「「「一夏の護衛?」」」

 

 その場にいた全員が口を揃えて言う。

 

「はい。方や武装をしているシンデレラ、方や身一つで逃げようとする王子様。その差は明確です。王冠欲しさに何をするか分からないシンデレラによってもし王子様に怪我でもされてしまっては困るという会長の意向により、私が一夏の危機に遭ったらその場でいき過ぎた行動を抑制することが目的だったのです」

 

 

 

「ふむ…。あの女狐め、余計な真似を…。まあ、まだ私の技術に追いついてない嫁のことを考えれば少しばかりやり過ぎていたか。これからはもっと嫁に教え込まないとな…」

 

「なるほど…。お前の活動目的の理由には少々癪に触るが、確かに私もラウラも行き過ぎていた所があったな…。反省しよう。だがお前が王冠を横取りするためではなく、あの生徒会長の指示でやっていたという事が聞けて安心した」

 

 

 二人ともどうにか私の言い分を飲み込んでくれたようで、少佐は顎に手を当てボソボソと何かをつぶやく。箒は刀を鞘に戻すといつもの腕を組むポーズをしてうんうんと首を縦に振った。彼女の安心する部分がずれていると心の中でツッコミたくなったがどうにか理解をしてくれたようだ。

 

「なるほど、塔の方で起きていた事はクリスタがやっていたのね。にしても、よりによってよくあの二人の相手をしようと思ったわね、あんた…」

 

 私の話を聞いて鈴は呆れ顔でそう言った。

 

「ん?なんだ、鈴知らないのか?クリスタはドイツ軍でも右に出る者がいない程の格闘センスを持つダガー使いだ。悔しいが私でも敵わない相手だ」

 

「嘘っ!?あんたそんなこと出来たの!?」

 

「鈴に言うほどのことじゃないかなってね…」

 

 鈴たち三人は少佐の言葉を聞き、目を丸くさせる。自慢する程の事でもないので、同室の鈴にもこの事は知らないはずである。それに朝練でよく格闘の自主練を起きてから行なっていたが、布団の中で気持ちよさそうに眠りにつく鈴には知る由もないだろう。

 

「所でだクリスタ。私は王冠を、もとい嫁を探している。お前は我々の行動を監視して、もしも大惨事になりそうになったら救出に向かうようにしていたのだろう?」

 

「ええ、そうです。それがどうかしたのですか?」

 

「なるほど。つまり、お前は()()()()()()()を把握して行動しなければ助けに迎えない。ならば、今嫁がどこにいるかは知っているだろう?」

 

 少佐はにんまりとしたり顔で言った。

 この瞬間、私は少佐のこの顔を今すぐにカメラで保存し、ドイツ軍の黒うさぎ隊全員に一斉送信したいという衝動に駆られた。それほどいい表情をしていたのだ。いつもなら、口元が緩んでいることに気づかない程に喜ばしい気分になるが、すぐに私は現実に引き戻されてしまった。

 ふと周りからなんとも言い難いオーラというものだろうか、とにかく威圧のようなものを感じた。

 

 

 

「クリスタ、それは本当なのか?」

「クリスタ…そういう大事な事は早く言ってよねぇ…」

「一夏さんはどこにいらっしゃるのですか!?」

「クリスタ、早く一夏の場所を教えなさいよ!」

 

 目の色を変えてシンデレラたちが私に迫ってくる。正直、彼女たちの迫力に少しだけ恐怖を感じた。

 

 確かに少佐の言う通り、私は通信機を通して会長から一夏の位置情報や指示を受けて行動をしていた。だが、今は肝心の会長が応答しないのだ。つまりはアリーナの放送室に彼女がいないことを意味する。

 一体どこへ行ったのだろう。おそらく()()()()()()、一夏がいなくなったために救出に向かったのだろう。とにかく、まずやるべき事は目の前にいるシンデレラを落ち着かせる事だ。

 

「ちょっとみんな落ち着いてよ!確かに一夏の場所の位置を確認しながら行動していたけれども…。今は出来ないの」

 

「それはどういうことだ!」

 

 箒が言い始めた事を皮切りに次々と抗議の声が殺到する。私は普通の人間だ。残念ながら同時に何人もの声を聞き取れる程の器用さは兼ね備えていない。私の耳にはシンデレラたちが私は怒っています!という感情しか伝わらない。とりあえず、順を追って説明するべきだろうか。即座に話の順序を組み立てた私は抗議者へ説明をする。

 

「だから、落ち着いてって!最初から説明を…」

 

 

 

 

 

 

 その時だった。以前から聞き慣れた警報サイレンが聞こえてきたのが。

 

 アリーナ内には警報が鳴り響く。それは無人機が攻めてきた時や少佐のISが暴走した時の警報と同じだった。

 

「何!?」

 

 皆はすぐに周囲を警戒する。

 そしてすぐにアナウンスが流れた。

 

「ロッカールームに未確認のIS出現、白式と交戦中。専用機持ちはただちにISを展開。状況に備えてください」

 

 山田先生によるアナウンスが聞こえ、その場にいた専用機持ち全員がすぐに状況を把握した。

 

「「「了解!」」」

 

 セシリア、鈴、箒、シャルロット、少佐、そして私は体に光を灯しながらISを緊急展開させる。

 

 

 

 

 

 ロッカールームに未確認のIS…。

 つまりは組織が白式奪取に行動を移した、という証拠だ。だが、会長がアリーナにいないとなると既にもう…。

 いや、今は私としてのやるべき事を全うするだけだ。目の前のことに集中しなければならない。

 私は気持ちを切り替え、皆よりも少しだけ遅れてISを展開させた。

 

 

 

 

 

 ISを展開させるとオープンチャンネルから織斑先生の指示が聞こえてきた。

 

『敵の増援に備えて、オルコットと凰は哨戒につけ』

 

「「はい!」」

 

 二人はその場から飛び上がり、少しだけあるアリーナ天井の隙間へと飛んでいく。

 

『さて、お前たち四人にはこれから織斑の援護及び未確認のISの撃破、確保をしてもらう。まず、お前たちに織斑のいるロッカールームの位置情報を送る。確認してくれ』

 

 すぐさま、ISへ新たな情報が着信される。

 それを選ぶと、立体的な地図に赤く色塗られている部分が表示された。赤く示されたロッカールームは今いる第四アリーナの丁度真下辺りにあった。

 

『現在、何者かによってアリーナにはレベル4まで警戒レベルが引き上げられており、こちらからの制御は出来ないようになっている。そのため、まずはお前たちにはロッカールームにいる未確認のISの退路を塞いで欲しい』

 

「つまり敵が通るだろう逃げ道に我々が先回りするということでしょうか?」

 

『ああ、そういう事になる』

 

 少佐の質問に織斑先生は肯定する。逃げ道をなくすということは最も効果的な作戦だろう。何せ、相手は地下にいるのだ。地上にさえ出てこないようにすれば良いだけだ。

 

『篠ノ之、ボーデヴィッヒはアリーナ内で待機。敵がロッカールームからアリーナを通って逃走するのを防げ』

 

「はっ!」

「了解です」

 

『ハーゼンバイン、デュノアはロッカールームに向かい可能であれば、織斑の援護をしろ。おそらく直接入ること出来ないだろうが、侵入出来そうな部分にはチェックをしておいた。送った情報を確認してくれ』

 

「わかりました」

「よし、行こう!」

 

 私とシャルロットは手に武器をコールすると、地図情報に則り敵がいるというロッカールームへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「わあ…ここも以上は先へ進めないね」

 

 目の前にそびえ立つ隔離シャッターを見て、シャルロットはぼやいた。

 

 地下は非常灯で周りが見えるか見えないかのギリギリの明るさで照らされていた。地図に従い、アリーナのピットからISを装備したまま廊下を通っていた。だが、途中でシャッターが私たちを阻んだ。

 

「別の箇所もシャッターが下りていたし、どこもこんな感じだろうね」

 

「だね。どうする、クリスタ?一応、最後の一つのルートも残っているけれども…」

 

「いや、ここを通ろう。もう一つのやつはここからだと遠いし、何より時間がかかる」

 

 目的地のロッカールームへは4通りの行き方があったもののそのうち二つは頑強なシャッターが下ろされていた。システムハックによってシャッターで塞がれているのであれば、どこも同じ状況だろう。まさにロッカールームには誰も邪魔者を寄せ付けないようにしている。だが一夏の援護に回るならば、無理にでも入る必要がある。

 

「え?でもどうやって…」

 

 シャルロットの答えを聞く前に私は整備用のIS設定オプションを開く。

 

「何をしているの?」

 

「うんとね、ヒートショーテルの威力を弄っているんだ。ここを突破するためにね」

 

 キーボードのようなコンソールを叩き、ヒートショーテルの威力を弄って、それを最大まで引き上げた。

 

「それじゃあ、シャルロットはちょっと後ろに下がってね」

 

「あ…う、うん」

 

 シャルロットは言われるがまま後ろへと下がる。離れた位置に彼女が移動した事を確認した私は背中にあるショーテルを掴み、そして投げた。

 いつもより回転数が少なく、そしていつも以上に光り輝いているヒートショーテルはシャッターへ近づくとまるでそこには何もなかったかのようにそのままシャッターに食い込み、奥へと消えていった。

 

「嘘…」

 

「よし、これで通れるね」

 

 私はヒートショーテルが通過した部分のシャッターへと近づく。ヒートショーテルが通過した部分は、熱によって赤く光り、所々アイスのように溶けていた。その部分を蹴り倒すと、切り取られたシャッターが奥に倒れ、甲高い金属音が聞こえてきた。丁度IS一機が通れそうな幅の道がそこには出来ていた。

 後ろを見ると唖然としているシャルロットはその場で動かなくなった。

 

「シャルロット、先に進むよ」

 

「…ああ。行こう」

 

 我に返ったシャルロットを連れて私たちはロッカールームへと進んでいった。

 投げ飛ばし、道中の壁に刺さっていたショーテルを回収し、ロッカールームへと向かっている時だった。何かが炸裂したような爆発音が聞こえてきた。それと同時に地面も揺れ、その爆発の規模の大きさが伺える。

 

「爆発!?」

 

「もしかしたら、敵がロッカールームの天井を破壊したのかも、急ごう!」

 

 先ほどよりも早足気味になるシャルロットに追いつこうと私も歩くスピードを早めた。

 

 

 

 

 

 目的のロッカールームに到着すると、それはもはや更衣室とは呼べない空間であった。地面にはガレキがあちこちに散らばり、ロッカーは規定の位置にないものがほとんどで横に倒れたりしている。それらはどれも使い物にならないほどのダメージ受けており、戦闘の激しさを物語っていた。そして、何より部屋に入った時に私たちは違和感を覚えた。

 

「熱っ、何で湿度が高いんだ!?」

 

 シャルロットが思わずたじろぎ、ハイパーセンサーを確認する。

 

 そう、部屋の湿度が異常なほど高かったのだ。あまりの蒸し暑さに体が不快に思うほどである。だが、そのことを気にしている暇はない。気にせずにロッカールームへ入り、奥へ進むとそこには片膝をつく一機のISがいた。

 

 水色を基調とした色に塗られたISだった。

 上半身は腕部装甲のみ。下半身は蝶の羽を模したような装飾が施された脚部ブースターのみというよく言えば機動性重視のIS、悪く言えば貧相なISだった。両手には螺旋が描かれているランスで体を支えるように持っていた。見覚えのある水色の髪に私はすぐにそのISの操縦者が誰かが分かった。

 

「会長さん!大丈夫ですか?」

 

 私の声を聞き、会長は振り返って私たちの方を見る。その表情は何か奇妙なものを見た時のような表情をしていた。

 

「あれ?二人ともどうしてここに…?」

 

「クリスタが無理矢理シャッターを壊してここまできたんです。一夏は!?」

 

「一夏君は敵を追ってアリーナに行ったわ。私はちょっと無理してしばらく動けそうにないの。あなたたちは先にアリーナへ」

 

「「はい!」」

 

 ロッカールームの天井には案の定、ぽっかりとISが通れるほどの穴が開いておりそこからアリーナの天井が見えていた。先を急ぐシャルロットの後を追い、暗く暑苦しいロッカールームから出る。少しだけ風が通り過ぎる心地良いアリーナに出ると既に敵は包囲されていた。

 

「貴様、逃がさん」

「これまでだな、無法者め」

 

 目の前の城エリアの広場には少佐が敵ISをAICで停止させ、箒が空裂(からわれ)で敵の首筋を狙っていた。AICによって身動きの取れない敵は歯を食いしばりうめき声を上げる。

 

「見たこともないISだ…」

 

 シャルロットは敵のISを見て思わず言葉を漏らす。

 そのISは何とも独特なデザインをされているISだった。紅と茶色、そして黄色の塗装がなされ、蜘蛛をモチーフにしたようなISは8本の脚と背後にある大きな腹部分が大きな特徴と言えるだろう。

 

「さあ洗いざらい話してもらおうか、蜘蛛女」

 

 身動きの取れない敵に対して少佐は詰め寄る。

 

「お前のISは第二世代型のアメリカ製か…。どこで手に入れた?」

 

「はっ、そんなこと言うわけ…」

 

 蜘蛛女が口答えしようとしたとき、突如赤い粒子が彼女を襲う。

 

「がっ!」

 

「今、この状況が分かって言っているのか、お前は?」

 

 箒は手に持つ空裂によって生み出された赤い粒子を蜘蛛女へ放ちながら言う。だが、蜘蛛女の態度は一向に変わらなかった。

 

「ああ、分かっているさ。お前らこそ、周りをよく見たほうがいいぜ?」

 

 追い詰められた状況で随分と落ち着いている様子に私が疑問を感じた。

 今この状況は相手にとっては四面楚歌だ。他に味方でも来ない限り助かる余地はない。

 

 そんな時だった。後方で何かがぶつかる音が聞こえてきた。

 ハイパーセンサーで確認すると、舞台セットの城の塔の中腹から大きな煙が上がっていた。その煙の中には残り僅かなシールドエネルギーの白式を身にまとう一夏が苦悶の表情を浮かべていた。

 

「「「一夏!」」」

 

 私以外の専用機持ちが思わず叫ぶ。

 すると、センサーから警告文が突如現れる。

 

『大型熱源感知』

 

 場所は上空からで上を見上げるとアリーナの天井の隙間から一機のISが射撃をしながらこちらへ近づいてきていた。

 

 まるで蝶のような美しい羽を広げる紫色のISはライフルと周囲に取り巻く自立機動兵器でこちらへ無差別に射撃を行ってきた。AICを使っている少佐以外はその場を離れ、回避行動を取る。身動きの取れない少佐を援護するべく私はビームマシンガンをコールすると、少佐をかばうように前に出て蝶のISへ射撃して牽制する。

 

 狙いを定めた射撃だったが、そのISは踊るようにこちらの攻撃を躱して全くダメージを与えられなかった。

 

「少佐、無事ですか?」

 

「ああ、大丈夫だ。これくらいで集中力を切らすやわではないからな」

 

 先程のダメージを受け、苦痛の表情を浮かべつつも少佐は頑なに右手を放さなかった。

 ふと蝶のISへ攻撃しているのが私だけだと気づき、ハイパーセンサーで周りを見て私は驚愕した。

 

 箒もシャルロットも、二機の自立機動兵器の相手をするだけで手一杯だったのだ。それらはうまく巧みに動いて彼女らの死角から的確に射撃を行い、彼女らの自由を奪う。反撃を行ってもそれらはそれぞれ回避行動をとり、再び死角へと回り込む。

 

 そう、あの蝶のISは私たち四人の相手を同時にしていたのだ。

 

 あまりにも差のある相手の強さに驚きつつも左後ろにいた自立機動兵器の攻撃を右に動くことで回避した時だった。

 

「クリスタ、ラウラ!上だ!」

 

 突如ハイパーセンサー越しに一夏の声が聞こえてきた。

 余りにも唐突すぎる言葉に動きを止め、上空を見上げる。

 見上げると、そこには複数の黒い物体がこちらへと近づいていることに私は気づいた。最初は何の物体なのか分からなかったもののすぐにそれは何なのか理解できた。白い金属板に何本もの金属棒が張り巡らされ、大型のライトが取り付けられているその黒い物体は先程まで()()()()()()()であるものだった。

 重さに耐えきれずに自由落下をするそれらは、AICに集中力を割いている少佐の地点へと的確に落としていた。

 

「少佐ぁ!!!」

 

 私はなりふり構わず、地面にいる少佐へと近づくと力一杯のタックルをして突き飛ばす。

 集中力を割いており、いきなりの事に反応できていなかった少佐は困惑した表情をしてアリーナの壁部分へと転がっていく。

 

 

 

 認識できていなかった少佐を助けることが出来た。

 そのことに満足した私は安心感に包まれた。だが、物音に気付いて上を見ると大きな音を立てて、くるくると回転しながら落ちてきている金属部品が私の目に飛び込んできた。

 

 

 

 

 

 

 










評価やお気に入り登録者が増減して嬉しくなったり落ち込んだりもしたけど、私は元気です。



これからもこんな感じで投稿頻度が空いてしまうのでご了承ください_| ̄|○


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第24話 残された爪痕

 あのISは今思えばどこか、セシリアの蒼雫(ブルーティアーズ)を彷彿とさせるものだった。

 

 自身の身長ほどの長さがあるレーザーライフルにビット兵器。背中には蝶のような羽が施されている点と、フルフェイスマスクで表情が分からない点は違えど大体の装備は同じであった。だが、その操縦技術はセシリアをはるかに超えるものだった。

 同時に動かすビット兵器には、躱すことで俺は手一杯だった。セシリアの攻撃には慣れているつもりでいたが、死角からの射撃を躱した場所へ再び射撃するという時間差攻撃は俺の予想をはるかに超えており、段々とシールドエネルギーが削られていった。また、止まないレーザーの雨の中をやつはそれと同時に接近戦を仕掛けてきた。ビット兵器を動かしながらも同時に自身も攻撃に加わる事に俺は驚かされんだ。ビット兵器で牽制をしながらライフルやランスでの追撃に俺は全く歯が立たなかった。

 そして対処しきれない攻撃に俺は、遂にはにシールドエネルギーは風前の灯火にまで追いやられたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う…くっ…」

 

 視界がぐらついて、焦点が定まらない。

 ここはどこだ?

 

 手にまとわりつく感覚からすぐに白式を展開していることに気づいた。まだピントが合っていない視界には見慣れたアリーナの全体が見えていた。どうやら、アリーナの高い位置に俺はいるらしい。

 手を動かすと、硬い感触が感じ取られ何かが下へ落ちていく音が聞こえてきた。首を左右に動かしてみると、俺は石でできた建物にぶつかっていたようだ。そしてすぐに俺が今どのような状況になっていたかを理解した。

 

 羽野郎にライフルで突き飛ばされた俺は、その衝撃を受け取り切れないままアリーナに作られた舞台セットに衝突したのだ。

 

「あいつはどこに…」

 

 意識がはっきりしないまま俺はすぐに羽野郎をハイパーセンサで探す。すると、あっさりとそいつの居場所は分かった。

 羽野郎はアリーナの中に侵入して箒にシャル、ラウラ、そしてクリスタを同時に相手取っていた。

 

「あの野郎…」

 

 ビット攻撃に箒たちも回避をするだけで一苦労しており、羽野郎への攻撃がままならない状況だった。立ち止まりAICを発動させているラウラをかばっているクリスタは彼女の前に出てビット攻撃に耐えながらも羽野郎に攻撃を仕掛けるがあたる気配がなかった。どうやら羽野郎はビット兵器で箒たちに攻撃することでラウラから遠ざけるように邪魔をしてAICを解除しようとしていた。仲間のISを助けるつもりらしい。

 

 あと一回ぐらいなら零落白夜は使えるか…。

 

 なんとか視界が定まり、シールドエネルギーの残量を確認しながら塔に埋まっていた体を起こす。雪片Ⅱ型を強く握りしめ羽野郎に向かおうとした時だった。

 

「アリーナ天井にIS反応?」

 

『未確認のISを検知』という警告文が目の前に表示され視線を上に移す。

 アリーナの隙間からは風に乗ってゆっくりと流れゆく雲が見えているだけでISらしきものは何も見えていなかった。

 羽野郎はアリーナ内にいるわけであるので、天井になどいない。では何の反応なのだろうか?

 

 

 

 

 

 俺の疑問に思っていたその答えはすぐにわかった。

 確かにそいつは天井にいたんだ。なぜならそいつは、落下している()()()()()()()()()の上に乗っているのだから。

 一瞬の出来事だった。上から金属が軋む音が聞こえ、その部分を注視すると天井の一部に何か線が書き込まれたような黒い線が現れた。だがそれは切り取られた痕だった。金属部品同士が擦れ合う嫌な音を響かせてアリーナの天井が落ちてくる。そして、その天井だったものは羽野郎の相手をしていたクリスタたちの頭上に落ちてきていた。

 

「クリスタ、ラウラ!上だ!」

 

 俺は思わず彼女らに叫ぶ。

 

 天井部分に乗っていたそいつは天井だったものをさらに三つに斬り裂き、それらを強く蹴りつけて落ちるスピードをさらに加速させる。

 俺の声に気づいたクリスタは一瞬だけ動きを止めて、頭上を見上げて事の重大さに気づくとすぐさま地上にいるラウラへ駆け寄る。すると、彼女はラウラに対して思いっきりタックルをかました。クリスタによって吹っ飛ばされたラウラは地面を数回跳ねてアリーナの壁際まで飛ばされる。これで、ラウラは天井のガレキから逃れることは出来た。だが、助かったのは彼女だけだった。

 ラウラを突き飛ばしたクリスタがその場から離れようとした時には、既に頭上に落ちてきている天井のガレキの下敷きになった。

 

 

 

 

 

 

 

 天井部分が落ちた辺りには落下してきた破片によって粉塵が舞い、一瞬だけ周りが見えなくなる。近づこうにも行くことができなかった。それらが晴れてなくなったときに初めて天井を落としてきたやつの姿を見ることが出来た。

 

 そいつはまるでクリスタのIS「サンドロック」のような顔つきだった。人の顔を表現したような目に口、そして額にあるv字アンテナ。ただ、違うとしたらそのISの大きさと色だ。一回りは大きい真紅に包まれたそのボディや背中のゴツゴツしい羽、胸の位置で光る緑色の装飾は誰しもが目に止まるほど派手で、そして不思議と綺麗に見えた。右腕には大きく緑色に光るサーベルを持ち、左腕には地面につくほど長い黒い鞭が取り付けられており全く見たこともない特徴のISだった。

 

 蜘蛛のISに蝶のIS。そして、赤いIS。

 奴らは互いに距離を置きつつも何かを話し合うように顔を合わせる。

 

 その余裕を見せている様子に俺は無性に腹が立ち、居ても立っても居られない気持ちに苛まれた。俺の白式を奪おうとしたどころか、皆を傷つけやがって…。

 

 

 

「てめぇ、よくもぉぉ!!」

 

 

 

 その場で立ち上がり、背中にある塔を蹴りつけ、残されたエネルギーを一気に解放して奴らへと瞬時加速(イグニッション・ブースト)をかける。右手に握る雪片II型をさらに強く握りしめる。

 

 だが、俺の行く手をビット兵器が阻んだ。

 道を塞ぐように放たれたレーザーを俺は雪片II型で斬り裂いてその攻撃を弾く。

 

 後ろから来るレーザーをもろともせず俺は真っ直ぐスピードに乗り、赤いISへと斬りかかった。

 

「はぁぁぁ!」

 

 両手で握りしめた雪片II型が赤いISの背中を斬り裂く…はずだった。

 手には確実に斬ったという確かな手ごたえはなく、雪片II型は空を切る。奴はそこにはいなかった。奴は右足を軸に体をひねり回避していたのだ。

 

 奴が躱した右側に目線だけを送る。奴はただそのエメラルドに光る目で俺の事をじっと見つめていた。

 次の瞬間、背中に強烈な衝撃が走る。

 

「がぁ…!」

 

 奴による左足の蹴りを受けた俺は抵抗できずにそのまま地面に擦り付けられながら転がる。砂埃が周りに舞い、視界を狭くする。

 

「迎撃態勢が整いすぎている。帰投するぞ」

 

 どこか懐かしく思えるような、ただどこか引っかかるような聞き慣れない声をハイパーセンサが音をキャッチする。

 全身に広がる痛みに耐えながら体を起こすと、あの羽野郎はさらに上空に浮かび上がり、地上にいた俺たちへ無差別に攻撃を仕掛けていた。ライフルとビットによる弾幕で地上にいる俺たちは攻撃を防ぐことで手一杯であった。地上は攻撃によって土埃が舞い、辺りの視界を支配する。

 しばらくして、敵の攻撃が止み先程まで聞こえていたレーザー発射音も聞こえず静寂に包まれた。砂煙が晴れたアリーナには既に奴らの姿はどこにもなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その部屋は広く暗かった。

 部屋全体を照らす光は天井に申し訳程度に取り付けられており、主に一つのディスプレイから漏れ出る淡い光が部屋の輪郭を映し出す。部屋の丁度半分くらいの位置に人間ドックのような、だが人が乗るには二回り程大きい機械が複数置かれ、その近くにも複数のディスプレイが連ねる。その何とも不思議な空間には二人の教師がおり、二人ともディスプレイに注視していた。ディスプレイの右半分には先程まで行われていた戦闘の映像、左半分にはISのスペックデータが映し出されていた。

 

「このISはアメリカ強奪されたアラクネ、そしてもう一機はイギリスで強奪されたBT二号機サイレント・ゼフィルスのようです」

 

 真耶は椅子に腰かけ、コンソールを操作して映像を切り替えながら話す。彼女の後ろでいつものように腕を組んでいる千冬は映り変わるディスプレイの映像を見ながら口を開く。

 

「例の亡国機業という輩か」

 

「はい、そのようです。次のターゲットが私たち学園であったというわけですね」

 

「それにしても、情けない話だな。世界中から出資と最新技術をもらい成り立っているはずの教育機関があろうことか、どこの馬の骨とも分からない連中にこうもあっさりと学園へ招き入れてしまうとは」

 

 千冬は映像に映るISを見ながら頭を抱えて一つため息をつく。

 

「相手からしたらIS学園は宝の山ですからね。まだ分からないところがたくさんある白式もそうですし、()()()()無人機コアもそうですし…」

 

「ああ、更識には織斑の特訓と警護をしてもらったが…まさか地下にまで侵入するとは思わなかった」

 

「今後はセキュリティ面を強化していかないといけませんね。システムを掌握されては、こちらは手出し出来ないので…」

 

「いや、それ以外にもやらないといけないことはある」

 

「え?」

 

 千冬の発言を聞いた真耶は思わず振り返る。

 

「それは一体…」

 

「そもそも、IS学園に地下施設があるという事実を知っている人物はIS学園関係者以外知らないはずだ。国や大企業にさえその事を知らせていない。精々知っている事としたら我々が無人機のコアをどこかに保管していたということぐらいだ」

 

「…つまり織斑先生は私たちの中に内通者がいるということですか?」

 

「ああ、その可能性は否定出来ない。だが、あの侵入者がシステムを奪った時に発見したという可能性もある。どちらにせよ、疑いの目を向けていく必要がある」

 

 少しだけ沈黙が訪れた後、再び真耶はコンソールの操作を続ける。

 

「それにしても、この赤いISは一体何者なのでしょうか?データベースに検索をかけても出てこない事から、ISに正式に登録されていない物だということは事実ですが。これでは報告書に何と書けば…」

 

 ディスプレイには少々荒い映像だが、天井と一緒に落ちている赤いISの映像が映っていた。

 

「ISコアを作り出せるのは、あの()()だけだ。新たに製造されたISではない。ただ言えることは、あのISの操縦者が()だということだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 太陽が地平の彼方に消え去り、月が星の光とともに現れた夜。

 地上は人工の光で埋め尽くし、まだ賑わいのある街々の様子がうかがえる。そんな明るい街に高層マンションが立ち並ぶ一画があった。20階以上はあるそのマンション群の一つ、とりわけ他のマンションよりも高いマンションの最上階の部屋で黒いタンクトップに黒い短パンを着た女性は怒りを露わにしていた。

 

 

 

 

「てめえ、一体どういうことだよ!」

 

 オータムは不機嫌だった。

 その原因は今彼女が壁に向かって突き飛ばした少女にその理由があった。全身を黒い服装で身を包み上半身を黒いマントで覆う黒髪の少女、Mはその暴力に対抗せずにそのまま綺麗な夜景が一望できるガラスでできた壁に打ち付けられた。

 

 オータムは怒り狂っていた。

 その原因としてIS学園での出来事にあった。

 IS学園に一企業の渉外担当として潜入したオータムに与えられた任務は白式の強奪だった。

 

 当初、あの初代ブリュンヒルデの愛用機暮桜とほぼ同じ武装をしているという事で白式は話題になった。それにその操縦者がブリュンヒルデの弟で初の男性操縦者ときたものだ。注目をせざるを得ない。だが、話題になったのは最初だけだった。ISの武装の中では最高峰の威力を持つ零落白夜の能力を白式も所持していると判明したが、組織ではあまり第三世代としての評価はいま一つだった。

 

 零落白夜、もとい雪片はあのブリュンヒルデが扱うからこそ最強であったわけで、彼女と肩を並べるほどの技術を持つIS操縦者はまずいない。それもそのはず、燃費という言葉を知らないのではないか、とISを詳しく知らない一般人でも疑うくらいシールドエネルギーの使用効率が悪いのだ。

 シールドエネルギー、つまりはISの中で勝敗を左右する重要なエネルギーを犠牲にしなければ発動できない零落白夜は他の兵器と比べたら単なる劣悪品でしかなかった。とてもではないが、雪片を使うくらいならパイルバンカーのような他の威力の高い武装を使ったほうがマシなのである。

 

 もちろん、零落白夜は他の武装と比べ物にならないほどの威力を持つがそれはあくまでダメージを与えられた時だけ。相手は案山子ではないので回避や攻撃をしてくる。もちろん零落白夜の発動中だとみるみるうちにシールドエネルギーはなくなる。自身のエネルギー減少以上に相手のシールドエネルギーを削らなければならない雪片は実用的ではなかった。そんな諸刃の剣を適切に扱えるブリュンヒルデがいたからこそ、この玄人甚だしい武装が注目を集めたのである。

 

 男性操縦者には興味を示していたものの、このように白式は組織としては関心が向いていなかった。だがある転機が訪れたのである。それは白式の『二次移行(セカンド・シフト)』だ。未だその現象は前例が少なく、まだ謎な部分は多い。最近では銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が。そして初の男性操縦者のISである白式も二次移行を行った。二次移行が行われればただ見た目が変化する以外にも、これまで培われてきた蓄積データを元に新たな武装や性能を進化させることが確認されている。なおさら襲う理由があるのは明白だった。

 銀の福音についてはMによる潜入作戦によって強奪を試みるも失敗に終わり、次のターゲットとして白式を次の目標にしたのである。

 

()()が使えねぇって、お前分かっていただろ!」

 

 オータムによって突き飛ばされたMは彼女の問いには答えずにただ不気味にほほ笑む。いつもの態度を取るMにオータムはさらに目を吊り上げる。オータムはMが組織に参加した当初から嫌いだった。特にあの態度。あの他人を見下すような目にはいつも腹を立てていた。

 だからこそ、いつもと同じような目で自分を見るMにオータムの怒りのボルテージはさらに高まる。

 

 白式強奪の任務ではある試作品の投入がされた。

剥離剤(リムーバー)』、対象としたISのコアを強制的に取り出すというとんでも機械だ。まだ試作品で実験の行われていないこの機械を、あのMが本作戦で使用させようと提案を持ちかけたことには少々癪が触るのだが、その剥離剤の性能はダンチだった。

今までのIS強奪の際は誰にも装備されていない状態のISであることが条件であった。そのため、これまで準備の為に多くの時間と労力が必要であった。だが、この剥離剤は誰かがISを装備していても使える代物なのだ。これまではISそのものを盗み出す必要があったがこれはISコア自体を盗み出す。例え装備をしていてもコアがなくなってしまえばISは消滅する。まるで夢のような機械だった。

 使()()()()()

 

「なんとか言え、このガキが!よくもあんな剥離剤(ガラクタ)を使わせやがって!何で取り出したコアがあいつの命令にすぐ従うんだよ!」

 

 彼女は白式に対して剥離剤を使用し、見事ISコアを取り除いた。だが、それは持ち主(織斑一夏)の呼び出しよってすぐに彼の手に戻り、緊急展開されてしまったのだ。

 彼女にとってみれば今回の作戦は必ず成功すると約束されたようなものだった。何せ任務の対象はあの初の男性操縦者ときたものだ。相手は素人当然の高校生、今まで行ってきた任務に比べればその差は歴然だった。

 だが、結果としては闖入者の邪魔もあり、強奪は失敗してしまった。その事実がより彼女を感情的にさせる。

 

 

 

「それはオータムの不手際だろう?」

 

「ああ?」

 

 やっと口を開いたMに、思わずオータムは聞き返す。

 

「確かに剥離剤は強制的に装備されたISを取り出すことが出来る。だが、あくまで操縦者から奪っただけ。所詮、待機状態のISをオータムが持っているのと同じ。遠くにあっても持ち主の声にISが反応することは知っているだろう?あの男を気絶でもさせておけばよかったものを。少しは頭を…」

 

「てめえ!」

 

 我慢ならなくなったオータムは太ももにある短剣を手に取り、Mに向ける。

 

「おやめ下さい、オータム様」

 

 オータムがこの気に入らない女の顔をぐちゃぐちゃに切り刻もうとした時、聞き覚えのある男の声が聞こえてきた。後ろを振り返り、声の主を見る。

 白いワイシャツ、黒いジャケットとスラックスに身を包む男は、いつものように備え付けのカウンターテーブルでティーカップを拭いていた。

 

「お前はすっこんでろ!」

 

 オータムは癖毛の茶髪に虚ろな瞳の男に向かって叫ぶ。だが、男はこの場を収めようと言葉を慎重に選んで話す。

 

「オータム様が感情的になるのも分かりますが、彼女を傷つけた所で結果は何も変わりません。それにこのような行為は…」

 

「そのくらいわかっているんだよ、しゃしゃり出るんじゃねぇ!それよりも、お前も元々開発側の人間だったんならアレのきちんと説明を言え!」

 

 オータムは右手に持つ刃物を男へ向け、彼へ怒りの矛先を変える。

 彼は数か月前に彼女たちの部隊の補充要員として加えられた一人だ。Mのように自分を見下すような態度をするわけでもなく、自分たちを上司として敬い、今まで自分たちがしていた雑用や任務を淡々とこなしていく、まるで機械のような部下だ。特にあまり感情を表に出さない彼をオータムは苦手としていた。根を上げずにやるべき仕事をこなしていき、多少面白がって痛めつけようとも表情を変えず、対した反応もしない彼をどちらかというと不気味な奴だと認識していた。

 

「お前みたいな命令通りに動く人形なんかに…」

 

「やめなさいオータム、うるさいわよ」

 

 彼を罵倒しようとした時、一人の女性が部屋へと入ってきた。

 

「スコール…」

 

「落ち着きなさい、綺麗な顔が台無しよ」

 

 白いバスローブを着ているスコールと呼ばれた女性は今にも暴れようとしていたオータムを落ち着かせる。スコールの姿を見た途端、オータムは先程とは打って変わり頬を赤らめさせながら太ももに短剣をしまい込んだ。

 

「フロスト、いつものお願いね」

 

「はっ、スコール様」

 

 フロストと呼ばれた男に何かを頼み込み、スコールは目の前にあったソファーに座る。少しして、ソファー前にあるテーブルには遠くが透き通って見えるほどの透明感のある白ワインの注がれたワイングラスが置かれた。スコールはそのグラスを手に持ち、一口味わうと立ち去ろうとするフロストを艶気のある声で呼び止める。

 

「フロスト、あなたの取ってきたコアはどうしたのかしら?」

 

「はい、現在二つの無人機コアは組織の施設へ渡しており解析中です。結果が分かり次第、スコール様へデータをお渡しいたします」

 

「そう、わかったわ。それにしてもあなたのエピオンとゼロに学園の地下施設を任せてよかったわ。さすが皆から『勝利の女神』と呼ばれるだけの事はあるわね」

 

「そう言っていただけて光栄です」

 

 スコールの言葉にフロストは綺麗なお辞儀を返す。その様子を見ていたスコールはその背後で部屋の扉へと歩いていくMの姿を見つけた。

 

「M、サイレント・ゼフィルスをフロストに渡しといてちょうだい。あれはまだ調整が必要よ」

 

「…わかった」

 

 Mはスコールを見向きもせずに短い返事をすると、そのまま部屋を後にした。

 

「ちっ、あのガキ。ふざけやがって…」

 

「オータム。本人のいない所でそのような発言は止しなさい。あなたの悪い癖よ」

 

「んぐ……。ごめん、スコール…」

 

 Mが部屋を出ていった扉に向かって愚痴を言ったオータムをスコールは咎める。彼女にピシャリと言われたオータムは顔を背けて長い赤毛が混じった金髪をいじる。そんなしょんぼりとした表情をするオータムを微笑ましく見ていたスコールは再びカウンターテーブルに戻り食器を拭く作業を行っていたフロストに視線を移す。

 

「フロスト、Mの事は頼むわね。あの子織斑一夏と接触したのでしょ?何か嫌な予感がするわ。勝手な行動をされては困るからお願いね」

 

「はい、お任せくださいスコール様」

 

 彼は虚ろな目でスコールを見ながら答えた。

 

 

 

 

 

 

 



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第25話 告白

 9月の下旬。

 後期が始まり早一ヶ月弱が経つこの時期。来週にテストが控えているという事もない日曜日の寮は、授業のある日と比べたらいたって静かであった。生徒はわざわざ朝早くに起きる必要もないため、自室でぐっすり寝ていたり、学園と内地とを繋ぐモノレールに乗って買い物をしに行ったりしているのだろう。特に午前中は静かであった。

 このように休日には平日と比べて生徒の賑わいが少ないIS学園であるが、寮の食堂は何時ものように営業をしていた。よく、寮や下宿では休日には昼の食事は出さないという事があるらしい。弾の友人の話なので嘘なんてことはないだろう。しかし、ここは残念ながらIS学園。色々と特殊なためなのか年中無休、通常営業をしていた。食券を受け取る食堂のおばちゃんたちが嫌な顔をせずに働いている様子を見ていると、これが当たり前の事だと信じていた俺にとって弾の発言には驚かされるものだった。

 

 

 

 だからなのかもしれない。いつも食べている食事が美味しく感じるのは。

 

「うん…アジのフライってこんなに美味いものなんだな…」

 

「…?どうしたのだ、嫁よ。そんなに感動して」

 

「少佐、彼はこの食堂で一位二位を争うほどの美味しい揚げ物にやっと気づいたのです。そのことに感動していただけなので気にしないで下さい」

 

「そ、そうか。私も…その揚げ物が気になるな…」

 

 

 

 

 カリッと揚げられたアジのフライの衣は綺麗なきつね色に染め上げられ、備え付けのソースが香りを引き立てる。一緒についてきた千切りキャベツのみずみずしさがまだ残っており一口、それら口に入れればシャキシャキとした感触が揚げ物の残る口の中を癒す。未だに温かさを保つ白いご飯や、味噌と出汁の香りが湯気とともに鼻腔をくすぐる味噌汁。

 どれもが、俺の体を、空腹であると何度も警告を流し続けていた胃袋を満たし疲れを忘れさせてくれた。

 

「やっぱ動いた後の飯はうまいなぁ…。ほれラウラ、アジのフライ食っていいぞ」

 

「そうか…いただくとしよう」

 

 箸で切り分けたアジのフライをラウラは可愛らしくパクリと俺の差し出した箸ごとかぶりつく。

 

「どうよ?」

 

「うむ…クリスタが推すだけはあるな、美味い」

 

「だろう?クリスタはどうだ?美味いぞ」

 

「いえ、私にはこの和風キノコパスタとハムカツサンドがあるので大丈夫です」

 

 正面の席には何故か頬を赤らめながら、もぐもぐと口を動かすラウラと怪我人にもかかわらず、何時ものように平然とした顔でぱくぱくと口の中へ食べ物を放り込んでいくクリスタが座っていた。

 

 なぜこのメンツで食堂にいるのかというと話は遡ること4時間前になる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「対人訓練?」

 

「ああ、そうだ」

 

 今日の日替わり訓練の担当者がラウラであり、ISスーツに着替えて彼女に連れていかれた場所はいつものアリーナ…ではなく武道場だった。

 

「先日の学園祭で分かっているように嫁を狙う輩はいることは確かだ。今後、そのような輩が白式を狙うかもしれんし、もしかしたら嫁の命を狙うような者もいるかもしれない。とにかく、そんな奴らから身を守る術を教えようと思う」

 

「なるほどなぁ…。確かに今後そんなことは起きる可能性はあるから気をつけないといけないのか。道理でアリーナでやらないわけだ。んで、なんでクリスタまでいるんだ?怪我しているだろ…」

 

「ああ、私は二人の見学をしに来たのでお構いなく。私もいずれあなたにいろいろ教える予定だから今は、あなたの実力チェックをねー」

 

 そう、武道場には俺とラウラの他に入り口近くの椅子に座り、右手を振るクリスタがいた。床には先程まで使われていた松葉杖が置かれ、左腕と左足には包帯をぐるぐる巻かれている。学園祭での騒動の一件で彼女は天井の下敷きになり、幸いにもISを装備していたため重症には至らなかったが左腕と左足の骨、そして肋骨数本にひびが入っているそうだ。

 

「私からは体術と銃の対処、そしてクリスタからは刃物の対処について教え込む。何、呑み込みの早いお前ならすぐに出来るさ」

 

「お…お手柔らかに…お願いしますね…」

 

 その時のラウラの顔はまるでドイツ軍の軍人のように凛々しく、そして少しだけ本気の目をしていた。

 

 

 こうして俺は昼になるまで、こっぴどく絞られたわけなのであった。

 いつぞやの楯無さんの時のように、俺はとにかく投げ飛ばされ、吹っ飛ばされ続けた。

 

 

 

 

 

「ラウラとの訓練があれだと、クリスタとの訓練はどうなることやら…」

 

 将来起こりうるだろう見るも無残な自分の姿にため息をつき、俺は味噌汁の入ったお椀を持ってのどに流し込む。

 うむ、ワカメと豆腐の味噌汁は鉄板だよな。

 

「私の場合は相手が武器を持っていた場合の時だし、少佐の時に覚えた対処法を使えばいいよ。それに加えて部分展開の展開速度を速める訓練をさせるつもり。といってもこの体じゃ、出来ないのだけれどね」

 

 なるほど…。応用というわけか。

 だが、今日したことをとても生かすことが出来るビジョンが全く見えなかった。

 正面・側面・背面からの対処に相手の転ばせ方、体格の大きい人への対応、複数の場合等々。どれも一般男子高校生が教わるようなラインナップではない。確かに対人訓練をすれば、多少の自衛を行えるだろうが、さすがに気絶のさせ方や腕の締め上げ方までやり過ぎだと感じてしまった。

 

「と言われてもなぁ…」

 

「む?私が教えていたことは基本中の基本のことだ。あれが対処できないと軍人に負けるぞ」

 

「おいおい、一体俺を何にさせるつもりだよ…」

 

「それはもちろん、立派なIS操縦者にさせるためだ。何を言っている」

 

 フォークの先にマカロニサラダのマカロニを集めながらラウラは、さも太陽が東から昇ってくるぐらい当たり前のことだと言わんばかりの顔をして俺に言う。

 

「軍人にも負けない立派なIS操縦者って第一、軍人とIS操縦者はあんま関係ないだろ…」

 

「といってもIS操縦者は大抵軍属だから関係なくはいないよ」

 

 げんなりとしていると、8切れも皿に置かれているサンドイッチの一つをモグモグと食べているクリスタが割り込んできた。

 正直頼み過ぎだと思う。

 

「IS操縦者が行きつきたい先は当然……モンドグロッソの総合優勝者(ブリュンヒルデ)。モンドグロッソに出場するためには専用機を持つことがまず必要になってくる。そのためには……普通は国家代表か企業の所属にならないといけない。」

 

 まるでリスのように猛スピードでサンドイッチを食べながらもクリスタは話を続ける。

 話すか食べるかのどっちかに集中しようぜ?

 

「だけど、企業の場合は……テストパイロットとして登用されるから基本的に企業の試作品を試してデータを……集めるのが目的であって最新鋭のISが使えるとは限らない。そうなってくると結局は国家代表、もしくは代表候補生になるのが手っ取り早い。ISの保持は国が……ひいては軍隊がISを多く所持しているし、軍隊だから最新の技術が盛られしっかり整備されたISを使うことが出来る。つまりはISを持っている人たちは大抵、軍属なの。少佐はもちろん、セシリアも鈴も軍に所属しているね。まあ、一夏や織斑先生の場合は例外で企業が、一夏の場合だと倉持技研がスポンサーになっているから軍属っていう訳ではないね」

 

 千冬姉ってスポンサーがついていたのか…。よくスポーツ選手とかにスポンサーがついていると聞いたことはあるが、さも千冬姉がISを持っていることは当たり前のことだと思っていた。

 

「そっか…。言われてみれば」

 

「それに大抵、反IS主義を掲げて襲い掛かり、ISを奪うような輩の中には軍人かぶれの人たちがいるという話はよく聞く。ISが登場してからというものの、それまでいた軍人を上層部が首を切っていったそうだ。他の所に再就職すればよかったものを、首を切られた奴らの中にはISを憎み、反ISの勢力へ加担する者がいるという。現にこれまで起きているISに関わるテロや事件には元軍人がいた。そのような野蛮なやつらがいつ嫁を襲うとも限らない。今回は女だったから良かったものを、いつ戦闘に慣れた屈強な元軍人に襲われてもおかしくはないのだぞ」

 

「…ISを快く思わない人も居るんだよな」

 

「ああ。いずれにせよ嫁が誰かに襲われても自力で対処できるようになって損はないのだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「茶菓子の差し入れありがとうございます、中井先生」

 

「いえとんでもないです。わざわざ時間の都合をつけてくださりありがとうございます」

 

 畳や掛け軸などのある和室風の用務室には二人の人物がいた。

 襖から漏れ出る光は黄昏に染まり、日が傾いていることがすぐにわかった。

 

「所で、私だけで良いのですか?当初は織斑先生もお呼びしたいとおっしゃっていましたが…」

 

 IS学園の用務員であり、真の学園理事長である轡木十蔵は差し入れの煎餅をほおばりながら言う。

 

「はい、織斑先生と一緒に話をしたかったのですが、彼女はどうしても外せない用事があるらしくて日程が合いませんでした。せめて、轡木さんだけでも話を通しておきたくて…」

 

 中井佳那は敷かれた座布団の上で正座をし、表情を崩さずに正面にいる轡木へと話す。

 

「どうしても外せない用事…そういえば弟さんの誕生日でしたかね、今日は。山田先生がそんなことをぽろっと言っていましたなぁ。なるほどなるほど。弟思いの織斑先生らしいですね。外出届も出しておられましたし、今頃は実家の方にでも行っている頃でしょうねぇ」

 

「はい、ですので彼女には私から話そうと思っています。最も轡木さんの判断によっては2人だけの秘密にしておく必要もありますが…」

 

「ふむ、それほど公にしたくはない…ということですかな?」

 

「そういうことです。これは私たち()()I()S()()()()の問題でもありますので」

 

 彼女はお願いします、と短く一言言うと轡木は近くにあった部屋の柱を触る。

 すると先程まで夕陽で明るかった部屋が何かに覆われ、部屋の中が暗くなり、掛け軸のあった所には大きなモニターが天井から降りてきた。

 

「それで、話というのは委員会へ提出した報告書にあった、データベースにも載っていないというあの赤いISの事だね?」

 

「はい、あれは私たち調査チームが追い求めていたもの。そして、世の中にあってはならないISです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの赤いISの名前は『エピオン』。ドイツ人の技術者によって作られた第2世代の初期頃に開発されたISです」

 

 目の前のモニターにはISの設計図と思われる図が表示され、佳那は話を続ける。

 

「ふむ…。話を聞く限りでは、至って普通のISのように見えますがねえ…」

 

「はい、見た目が全身装甲(フルスキン)という点を除けば単なる昔に作られたISです。このISはドイツ軍のある研究施設で使われていたもので、その施設では今から5年前に起きた謎の爆発事件が起きました。山奥の施設ということもあり、奇跡的に死者はいなかったものの多数の重傷者が出てしまう事態になりました。その後の調べでその施設では、ある実験がなされているという報告が上がってきました」

 

「その施設が噂の…」

 

『爆発事件』という言葉に反応した十蔵は視線をモニターから佳那の方へ動かす。

 

「はい、その施設では()()()ISを扱えるようにするための実験が行われ、何でも数々の()()()を用いて実験をしていました。ISが登場してからというもの、何故ISは女しか使えないのか、どうにかして男でも使えるように出来ないかと盛んに議論や研究が行われていました。現在では生みの親である篠ノ之束しか、この問題は分からないという結論に至り、『ISと操縦者の性別の関係性』という研究はほとんど行われていないです。この研究所もそんな()()()()()研究をしていた所です。もちろん、我々国際IS委員会はこの出来事に対して厳しい処罰を与え、研究を中止に追いやりました」

 

「なるほど、そのようなことが…」

 

 彼は噂程度にはこの話を聞いたことがあった。何せ、委員会が違法とされる研究・開発を行なっていたとして摘発する中で比較的初期の、そしてきちんとIS運用協定が法整備される前に起きた出来事なのだ。詳しくは覚えてはいなかったものの男性でもISを使えるようにさせ、非人道的な事を行なっていたとだけ覚えていた。そして、この事件をきっかけに倫理に反する研究の罰則強化が図られるようになった前例でもある。

 

「それにしてもその事件とこのエピオンとかいうISとどう関係してくるのかね?」

 

 再びモニターに映し出されるISをじっと見ながら十蔵は言う。すると、佳那は空中に浮かび上がっているコンソールを操作し新たな画面を開いた。

 

「この事件を起こした施設には確認出来た限り三機のISが使われていました。エピオン、ウイングゼロ、そしてサンドロックという名前の三機です。違法な研究をしていたとして、我々委員会はこれらのISを回収、調査をしようとしていました。ですが事件後、残されていたISはサンドロック一機しかありませんでした。一度は研究所が保持していると疑い、一斉調査を行ったのですが全く痕跡はありませんでした」

 

「…何とも不思議な出来事ですなぁ。ISがなくなるとは」

 

 十蔵は画面に並べられた見知らぬISのスペックデータを見ながら答える。

 

「はい、私もそう思います。実はこのISの消失以外にもこの事件には不可解な出来事があるのです。研究所を襲撃した犯人の身元不明に始まり、防犯カメラやレーダーに残されていない記録、そして研究所にいた関係者の一時的な記憶喪失。これらの奇々怪界な事から我々調査チームは、犯人を篠ノ之束と推測しました」

 

「なるほど、あの天災とも呼ばれたことのある篠ノ之博士ならこの不可解な出来事の再現も出来なくもないから、という所ですかね。何せ、地球上の誰よりも二、三歩先を行く人ですから…。おそらくISの概念を揺るがす研究、ということに嫌悪を覚えた彼女が研究所に目をつけられて襲撃。そして見つからなかったISは彼女が回収した、とでも考えたところでしょうね」

 

「おっしゃる通りです。この事を受けて我々はISのデータベースからエピオン、及びウイングゼロのデータを非公開データとし、これら二機のISコアはあくまでアメリカで使われる研究用ISであると偽造しました。ISを作られた篠ノ之束博士の怒りを買い、大切なISコア2つが無くなったという事実を公表したくなかったのです」

 

「だがその失われたはずのISの内一機を亡国機業が持っており、さらにそれを()()ではなく()()が操縦していたと…」

 

 十蔵の言った紛れも無い事実に佳那は苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 

「…。どうしてテロリストの手にエピオンが渡ったのかは不明ですが、居場所が分かったのでその問題はとりあえず置いておきましょう。それよりも問題なのはテロリストが()()()()()()()()()を進め、それを成功させている事が大問題なのです。『男でもISを使えるかもしれない』この事が公になれば世間を騒がせかねませんし、反IS団体や男尊女卑主義を掲げる人達の活動を鼓舞してしまいます。なので、我々委員会としてはこの情報を外部には漏らさないで調査を進めていきたいと思っています。これについてはIS学園も同様です。委員会の不始末は自分たちで解決させます。ですので、エピオンやこの男性操縦者の話に目をつぶっていただきたいと…」

 

「なるほど、あなた方の状況は理解できました。ただ、この赤いISの情報は私たちIS学園にも提供していただきたいですな」

 

「…理由をお聞かせ願いたいです」

 

「今回、亡国機業は我々が保持していた無人機のコアと白式を狙っていました。白式の方は未遂に終わったものの、まだ亡国機業の脅威が去ったとは私はそうは思いません。今後、必ず彼らはもう一度白式を奪いに来るでしょう。そうなってくると我々もそれを手厚く歓迎するためのそれ相応の準備をしないといけません。もちろん委員会の言い分はよく理解出来ます。ですが、学園が標的にされた以上生徒たちの身を守るためにもこのデータベースから消え去った赤いISの情報は我々には必要です。未知なる敵と戦うこと程恐ろしいものはありませんからね。生徒たちのためにも協力してくださいますかな、()()()()?」

 

 十蔵は目線を合わせようとせずにいる佳那を見てにっこりと微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し肌寒い夜。

 雲ひとつない空には月が浮かび、星々をかき消すほどの強い光を放っていた。

 月光の下、俺は自宅からそう遠くない所にある自動販売機の場所に向かって歩いていた。IS学園ではなく、何故俺の家の近くにいるのかというと、家では俺の特別な日______俺の誕生日を皆が祝ってくれているからだ。

 

 

 話を遡れば一週間程前、学園祭が終わった直後の頃になる。

 食堂で何時もの専用機持ちたちと夕食を食べていた時に誕生日の話題が上がった。その話題が俺に振られ、そういえば今月が俺の誕生日だなあと言ったらそれを聞いたダブル幼馴染以外がものすごい剣幕で俺に迫ってきた。

 彼女たち曰く、何故そのような大事な日をもっと早く言わないんだということらしい。正直俺にとってはあまり重要視していないことであったためその言い振りには驚かされた。何はともあれ急遽、今日の9月27日に俺の家で誕生日会をする事になったという訳だ。

 

 誕生日会には箒にセシリア、鈴、シャル、ラウラが参加。そして何故か山田先生に千冬姉までもが俺の家にやって来たのだ。箒たちが言うには、サプライズゲストという事らしい。山田先生による説得のおかげもあり千冬姉が来てくれたようだ。

 当の本人はあまり嬉しそうな表情ではなかったが、今日のためにわざわざ仕事を早めに切り上げ、箒たちのために食事の材料やバースディケーキを奮発し、俺へのプレゼントを一週間前から考えて用意していたということを山田先生がポロっと言ってしまった所を見るに満更でもなさそうだった。

 自分の教え子の前では素直に喜べないのも仕方ないのかなと思いつつも、そんな千冬姉を見られて俺は何だか嬉しかった。何せ誕生日の日に千冬姉と一緒にいるのは久しぶりだからだ。誕生日会を企画した箒たちや説得してくれた山田先生には感謝しきれない。

 

 

 

 

「お、あったあった」

 

 気がつくと既に目的地である公園近くに到着していた。この公園の中には、嬉しいことに公衆トイレの近くに自販機が置かれているのだ。

 

「やっぱりまだあったか。懐かしいなあ」

 

 ここは俺が小学生くらいの頃にお世話になった公園だ。よく遊んだ後にここの自販機でジュースを買ったけ…。

 昔懐かしい思い出に浸りつつも、本来の目的であるジュースの購入を忘れてはいけない。主役である俺に買い出しに行かせるわけには行かないとシャルから言われたものの今日は何もしていないので、こうして自ら買い出しに志願したのだ。

 

 前よりもまあ新しく小綺麗になった自販機で、皆が頼んでいたジュースを思い出しながらボタンを押していく。

 ビール缶を開ける千冬姉以外の人数分のジュースを買い終え、それらを両腕に抱えながら俺は見覚えのある遊具や木の配置、そして古ぼけた街灯を横目に自宅へと歩いていく。

 

 その時だった。

 正面の公園の出入り口に一人の人影があった。街灯の当たらないそこは暗く、誰なのか判別がつかなかったもののまるで俺の行く道を塞ぐようにその人物は立っていた。

 時刻は午後9時を過ぎており、俺みたいな物好きな奴以外はまずこの公園には来ないだろう。何とも不思議な人だな、と思いつつそのまま俺はその出入り口を目指す。俺が一歩足を踏み出したそうとすると、その人影もこちらへ向かって歩き始めた。近くの街灯にその人影が近づくにつれて段々とその容姿がはっきりとしたものになってきた。

 それは少女だった。背は低く、鈴くらいはあるだろう。髪は長く肩の辺りまで伸びていた。そして、彼女の容姿は俺にとって見覚えのある顔であった。いや、知らないはずのない顔であった。

 

「…千冬姉?」

 

 その少女は、まるで千冬姉を幼くしたような顔つきをしていた。目つきや鼻の形、髪型に至るまでどれも千冬姉が中学生くらいの時と同じ風貌であった。ただ違うといえばその服装だ。全身黒ずくめで、 更に黒いコートを羽織っていた。

 

 千冬姉っぽい少女は俺に気づいたのか前方5mくらいの所で歩くのをやめる。そして、口を開いた。

 

「いや、()()()()()()()()()

 

「何…?」

 

 彼女の言葉をすぐさま理解することは出来なかった。あいつが俺?一体何を言っているのだ?

 

「この間は世話になったな、白式のパイロット」

 

「その声…。お前…もしかしてあの蝶のISの…」

 

 妄言を言っていた彼女だがこの言葉にはすぐにわかった。どこかで聞いたことがあったと思えば学園祭の時に襲撃してきたやつだった。

 

「そうだ…私の名前は織斑マドカ」

 

 

 

 

 織斑……?

 

 俺と同じ名字…?

 

 

「私が私たるために、お前の命をもらう」

 

 気づいた時には、そいつは右手に黒く光る銃が握られて______

 

 甲高い発砲音が俺の耳に聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 銃口が俺に向けられた瞬間に抱えていたジュースの缶を離して、右腕を部分展開し、体の前に掲げてそいつの攻撃を防ごうとした。

 

 

 しかし衝撃に耐えようと目を瞑るも一向に銃弾による衝撃は右腕にやって来なかった。瞑っていた目を開けて、俺は正面にいる少女を見やる。

 

 すると…

 

 

 少女の右手には既に銃が握られておらず左手で右腕を庇うように握っていた。地面には彼女が持っていた銃が転がっており、どうやら彼女はこちらへ撃っていなかった。じゃあ誰なのか?

 憎悪のこもった目で彼女は右側の林の方を見ていた。それにつられて俺もその方向を見ると、草を擦れ合う音を立てながら新たな人影こちらへ歩いてきていた。

 

「無駄な接触はしないようにと言われていたはずですが、あなたは何をやっていらっしゃるのですか?お立場を考えて下さい」

 

 それは男性であった。黒いスーツを着ている男性は左手には拳銃を持ち、公園の舗装された道に出るとそれを少女に近づく。

 

「誰かと思えば、私の後をついて来たのか!邪魔をするな!この木偶の坊!」

 

 彼女の罵倒も気にせずに彼は地面に落ちた銃を拾い、懐にしまう。

 

「第一、こんな街中で銃声を出したら誰かに気づかれて…」

 

「一夏、伏せろ!」

 

 聞き覚えのある声に俺は言われるがまま地面に伏せると頭上を何かが通り過ぎる音が聞こえてきた。

 

「こんな風になるのですよ」

 

 

 俺の前には、後ろ姿のラウラがナイフを持ちながら立っていた。再び正面を見ると、少女を庇うように男性が前に立ち、右手にはラウラが投げたナイフが突き刺さり刃を伝って血が流れ落ちていた。

 

「ラウラ!」

 

「貴様、私の嫁に手を出すとはいい度胸だ」

 

 ラウラは再び、左腕でナイフを投擲する。

 だが男性は右手に刺さっていたナイフを抜き、それを投げ返してナイフ同士を当てる事で攻撃を防いだ。

 

「何!?」

 

「さすが良いナイフを使っていますね、ドイツ軍の黒うさぎさん。いや、遺伝子強化体(アドヴァンスド)さん?投げやすいですよ」

 

 右手から出血をしているにも関わらず、変わらぬ表情でラウラに挑発する男性にラウラは不機嫌になる。

 

「ちっ、馬鹿にして…!」

 

 ラウラは太ももから別のナイフを握り、男性へと近づこうとする。

 しかし、それは上空からの攻撃によって阻まれた。

 

「面倒だ」

 

 上空には、あの時の蝶野郎__サイレント・ゼフィルスを展開していた少女はビットをこちらに向けて攻撃をしていた。その攻撃は味方であろう男をも巻き込むほどだ。俺は左腕も部分展開して防御特化の霞衣(かすみごろも)を使う。ラウラはラウラでAICを発動させ、何とか乗り切ろうとする。

 

 正面にいた男は攻撃を避けようと後ろに飛び退くと

 

 

 

 

 I()S()を展開した。

 そのISは赤く、全身装甲(フルスキン)のIS大きな翼を持つISだった。

 

 そして、あの時天井を斬り裂いたあのISだ。

 

 

 

 

 攻撃が止んだ頃には上空にサイレント・ゼフィルスはもういなく、そしてあの赤いISもいなくなっていた。

 

 

「逃げたか…」

 

「大丈夫か、ラウラ」

 

「ああ…私は、大丈夫だ。…お前は?」

 

「いや俺は何とも…。それよりもさっきのって…」

 

「ああ、私も見たぞ。あれはIS…だよな」

 

「多分…。そうだと思う」

 

 俺たちは互いに先程起きた事をたどたどしく確認し合う。

 それはあまりにも衝撃的で、そして非現実的であったからだ。何せ、()()()()()()I()S()()()()()()()のだ。

 

 

 

 



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第26話 残暑の日には

7月は忙しかったです(小並感)。


非力な私を許してくれ……。







 

「暑い…」

 

 部屋の中に籠るからっとした暑さに思わず俺は、言葉を漏らす。汗ばむ白い制服の襟元を掴み、体へ新鮮な風を扇ぎ入れながら、風の入ってこない開けられた窓を見た。秋の季節なのにこれほどにまで暑い原因はただ一つ。

 

『残暑』

 夏の暑さが秋まで続いてしまうというあの現象だ。朝に食堂で見たテレビの天気予報のお姉さんが、今日は残暑で暑くなるだとかそんなことを言っていた。

 最近だと地球温暖化が原因で涼しいはずの秋の季節でも、夏のように気温が高くなっているだとか言われているらしい。秋は涼しく快適に過ごしたいと思っている人は俺以外にもいるはず。全くどうにかしてもらいたいものだ…。

 俺が精々涼めるといったら氷入りの麦茶ぐらいだけ。今だけはこれで暑さを乗り切るつもりだ。

 

 暑さに気を取られ、残暑に不満を抱いていた俺はふと我に返り、やるべき仕事に取り掛かる。右手にペンを握り、目の前の『部活特別申請届け』と書かれた紙の書類をいそいそと決められたやり方で事務処理をしていった。

 最後の剣道部の書類を書き終えた所で、俺はペンを机に置き、()()()()()のいる方向へ目線を動かした。

 

「楯無さん、この書類を終えました」

 

「あら、ご苦労様。それじゃあ休憩しよっか。こっちへいらっしゃい、お姉さんの膝の上が空いているわよ」

 

 先程まで澄まし顔で扇風機を独占し、カップタイプのバニラアイスを食べていた楯無さんは、涼しげな表情で自分自身の膝をポンポンと軽く叩く。

 

「何で膝の上なのですか…。普通に座りますよ」

 

 楯無さんから送られる何時もの掛け合いを軽く流し、俺は扇風機の当たれる場所へと移動した。

 

 

 

「楯無さん…。もしかして今日の仕事は終わったのですか?」

 

「そうよ〜。自分の分はもう終わらせたわ。後は一夏君の仕事ぶりを見ているだけ♪」

 

「やっぱ経験の差ですかね…。こうも早さに差が出るのは…」

 

 右手に木製のアイススプーンを持ち、こちらへウインクする楯無さんに、俺はただただ苦笑いをするだけで精一杯だった。

 

 

 ここは休日の生徒会室。なぜ俺がここにいるのかというと、俺が副会長という”お偉い”肩書きを頂いたからだ。

 

 話は学園祭にまで遡る。

 部対抗の一夏争奪戦という俺にとってメリットが一つもない争い事は、いつの間にか生徒会が俺を引き取るという形で終息した。何でも、平等に俺を各部活動に参加させるために行った措置らしい。かくして俺は、生徒会所属の派遣社員となり、色んな部に行かされることになった。最近だと、テニス部に派遣されていたときに、俺のマッサージを誰が受けるかで小競り合いが起こってしまった。このように、たまに争い事が起きるものの、色んな部を体験できる俺としては満更でもないのが感想である。

 

 さて、俺の派遣業務は他にもあり、今行なっていた生徒会の書類整理などの生徒会の仕事も行わなければいけないのだ。意外と生徒会の仕事は多く、部活の書類や生徒の使用する設備の許可、学年ごとに使える整備室の割り当てを決めるなど様々だ。

 

「そういえば虚さんはどこにいるのですか?今日は見かけませんでしたが…」

 

 楯無さんから受け取った棒状のアイスを食べているときに、ふと浮かんだ疑問を聞いた。いつもなら、虚さんは日曜日の午前中には生徒会室に顔を出し、翌日の準備をしているはずだった。

 

「ああ、虚ならどうしてもやらないといけない用事があるみたいだから、昨日の内に今日の分を終わらして、今は出かけているわ」

 

「なるほど…虚さんも忙しいのですね」

 

 小声で何か、男ができたとか何とかと楯無さんが言ったが何と言っているかよくわからなかった。

 

「ああ、そうだ。お姉さんも一夏君に聞いてみたいことがあるんだよね〜」

 

「えー何ですか?あんまり難しい事を聞かれても答えられませんよ」

 

「そんなに難しくないわ、単純よ。本当に()()()()()()()()がISを使えると思う?」

 

「…!それは難しい質問ですね」

 

 俺は彼女の問いに言葉を詰まらせた。

 

 

 

 

 俺の誕生日の夜にあった出来事はすぐには千冬姉に報告せずに次の日に学園で伝えた。

 

 サイレント・ゼフィルスを操る少女に、ISを使う黒いスーツを着た謎の男。

 この二人のことについて伝えたとき、特に男の事を言ったときに千冬姉は眉をしかめた。千冬姉からはしばらくの間は無闇に外出をせず、もし出かけるならば誰か専用機持ちを連れていけ、と厳重注意を受けた。

 個人的にはサイレント・ゼフィルスを使う織斑と名乗った少女が気になっていたがお前と私以外に家族はいない、と千冬姉に釘を刺された。

 

 

 

「皆信じてくれない事は百も承知です。ですが俺の見間違いではなければ、あの人は男性だと思います。実は女性であったということがない限りは…」

 

 俺はあの時の様子を思い浮かべながら答えた。

 背は俺と同じくらいで、髪は短髪で茶髪。顔立ちは外国人のようであった。声もそんなに高くはないし、女性である可能性は低い。

 

「そう…。私は最初、一夏君の話だけでは信じられなかったわ。一夏君以外の男がISを使うなんて。でもね、学園を襲ってきた亡国機業の奴らの中に、特殊なシステムを使って男性でも扱えるようにしているISがあったという話を聞く限り、そうとも言えなくなってきたの」

 

()()()()()()!?」

 

「そう。それもアラスカ条約で禁止されたシステムで、一切の情報は国際IS委員会が握っているというくらい秘匿なものらしいわ」

 

「そんなものが…。まさか、それってもしかして…」

 

「一夏君の想像している通りよ。そのシステムは、あるISに試験的に導入されていたの。全身装甲(フルスキン)の赤いISで、右手には大きな緑色の剣を、左手には黒い鞭を装備しているIS。名前は『エピオン』。ギリシャ語で次世代のって意味だったかしら。とんだ皮肉ね」

 

 赤い全身装甲に大きな剣。

 まさに、一連の騒動で遭遇していたISそのものだった。そして、何故男でも扱えるのかという疑問を紐解くには容易であった。

 

「エピオン…。それがあれの…。でも何でそのISを知っているのですか?」

 

 そう、なぜ楯無さんがこの事を知っているのかが疑問に浮かんだ。あのISについての情報は一切不明であると、学園祭の事情聴取の際に千冬姉に言われた。おそらく、亡国機業が作り出した新たなISだと…。

 

「事態を重く見た委員会側がIS学園に情報提供をしたらしいの。このエピオンっていうISについてね。でもそれはあくまでスペックデータだけ。例のシステムについては男でも扱えるということ以外は教えてくれなかったらしいわ」

 

「なるほど…。でも何でエピオンの情報を国際IS委員会が持っていたのでしょうか?ましてや亡国機業が持っているISを…」

 

「このエピオンの情報はね、ずっとひた隠しにされていたのよ」

 

「ひた隠し?」

 

「そう。何らかの事情があったみたいで意図的にこのエピオンの情報を非公開にしたらしいの。おそらく、亡国機業の事だから盗み出したISには違いないはず。更識の私でさえこの事を知らなかったから、関係者以外によっぽど知られたくないものらしいね。今はこちらから探りを入れて、情報を収集している所よ。分かり次第みんなに伝えるわ」

 

「それにしてもさすがですね、隠された情報を引き出そうとするなんて…」

 

「そりゃ、私たち()()の手にかかればこんなの簡単よ。ほら、休憩時間は終わり!早く仕事を終わらせなさい!」

 

 アイスを食べ終わったところを確認したのか、俺は背中を押されて再び仕事場へと戻された。

 

 

 

 

 

「暑い…」

 

 額できた汗を制服の袖で拭う。

 開け放たれた窓からは相変わらず風は吹いてこなく、ジリジリとした暑さだけが部屋へと入り込んできた。残す資料の分を考えたら後一時間以上はかかるだろう。

 団扇で熱風を起こして暑さを和らげながら、チラリと楯無さんの方を向く。

 

 扇風機に囲まれ、汗一つかいていない楯無さんは俺の視線に気づいたのか、俺が仕上げた資料のチェックを止めて、にっこりと微笑む。

 

「どうしたの?一夏君?」

 

「あの…楯無さん…」

 

 俺はごくりと唾を飲み込み、心の内に秘めていた事を口に出す。

 

 

 

 

「扇風機をこちらに向けてくれませんか?」

 

「それはダメよ。()()()仕事を終えた人へのご褒美なんだから♪」

 

 作業をしている俺にだけ上手く風が向かないように配置された、扇風機に文句を言うもののあっさりとその案は投げ捨てられた。

 

「さいですか…」

 

「ほら、後少しなのだから頑張りなさい。お姉さんが見守っているから♪」

 

 頬杖をついている楯無さんに見られつつ、俺は再びペンを手に取った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 日曜日の昼下がり。

 臨海公園には人の姿がちらほらと見えた。ジョギングをしている人や公園の噴水で遊ぶ家族連れなど、各々が記録的な残暑である休日を満喫していた。

 そんな中、私は木陰のベンチに座り、最近学園で話題になっているというクレープにかぶりついていた。

 

 市内の公園にランダムで出現するというクレープ屋「クレープハウス ルワンダ」にはとある噂話があるという。それは、『ルワンダでミックスベリーを食べると幸せになれる』というものだ。

 

 いささかクレープ屋の思惑なのではないか、という疑念も拭いきれないが、こういった噂話には気になるたちでもあり、暑い日であるにも関わらずわざわざ、噂のクレープ屋を探し出したのだ。

 しかし、結果としてはミックスベリーなるメニューは販売していなかった。切り盛りしていた店主には、よく客から要望されるけど作っていないんだよね、と苦笑いされてしまった。ミックスじゃないけれどもベリーならあるよ、と言われ、とりあえず私は全種類のクレープを購入し、それらを味わっていた。

 

 

 

『ふむ…面白い話ですね。ミックスベリーという商品がないはずなのに、噂では実際にあると…』

 

「そうなのよ。あの後、裏メニューなのでは、と勘くぐってお店を見張ってみたはいいけれども、やって来たお客さんはミックスベリーなんて頼んでいないし…。不思議な話だったよ。まあ噂話は別として……特にこの丁度いい焼き加減の生地が素晴らしいです」

 

 私はうまく首に携帯電話を引っ掛けながら、右手に持つストロベリー味のクレープを食べ切る。

 

『所詮は噂話だったという事ですね。御愁傷様です。それはそうとクリスタ様は、どの味がお気に入りでしたか?』

 

「うーん…私は抹茶というものが好きかな。何だか独特といいますか、お茶を食べるという感覚が何とも斬新でしたね」

 

『なるほど、抹茶ですか。クリスタ様は、良い所に目をつけられましたね。最近こちらでも抹茶を取り扱う店舗がやっと出始めましてね、クラウドファンディングした甲斐がありましたよ!』

 

 電話の相手である助手さんは、いつになく高揚した声で熱く抹茶を語り出した。

 彼曰く、抹茶との出会いはニューヨークだそうで、そこで飲んだ抹茶シェイクの味が忘れられなかったとか。独特の風味と渋み、そしてどこかほんのりとした甘さには衝撃を覚えたそうだ。それからというもの、わざわざ日本の抹茶を取り寄せて自作で抹茶シェイクを楽しんでいたとか。

 

『…ごほん。さて、本題に入りましょうか。どうなりましたか?送った武器の調子は』

 

 抹茶への想いを綴った抹茶トークが終わった途端に、いつもの口調へと戻った助手さんは、本来の目的である定期報告をするために話を戻した。

 

「今では試作武器に異常は見らないです。既にサンドロックへ量子変換は済ませちゃいました」

 

『なるほど。一応、検査のためにこちらへリコールされる事は決まりましたので、事前に伝えてある担当者に渡してください。いつまた、量子変換と展開が出来ないという事態が起きてしまっては、大変ですから』

 

 

 

 事の発端は一昨日。

 IS学園に届いた我が社の試作武器である”ビームサブマシンガン”のデータ収集を行おうと、サンドロックへ後付武装(イコライザ)として量子変換しようとした際、エラーが発生したのだ。そもそも、ISに量子変換できる装備には、予めISの拡張領域(パススロット)へ登録できるようにプログラムがなされている。これは、全てのISには共通のもので、IS装備のプログラムにおいては基本中の基本。英語の挨拶が「Hello」であると同じくらいに間違えようがないのだが、なぜかサンドロックはこれを受け付けなかった。

 

『そちらで何か分かったことはありますか?』

 

「それがですね…面白いことに同じような症状が起きた試作装備があったそうです」

 

 そう、私たち以外にも同じような症状の試作装備があったのだ。それはIS学園で行われる予定であったテスト装備だ。

 

 IS学園はISを扱う教育機関という事もあり、上級生の授業の一環として企業が作った試作装備のテストを行っている。もちろん、ここで扱う試作装備は安全性が保証された装備で、事故の危険性のないものが事前に選ばれ、学園に持ち込まれている。ここでのテストの目的は、データ収集、企業の認知度向上、そして生徒へより多彩な装備に触れてもらうことみたいだ。

 そして、このテストのために選ばれた試作装備たちは年に数回、貨物コンテナに詰め込まれ、学園に搬入されるという作業があるらしい。

 らしいというのは、詳しい情報が分からないのだ。何せ、ISの試作装備を搬入する作業であり、それらの強奪や情報流出は以ての外。とても大事な作業なのであり、IS学園側がきっちりと情報を管理していた。

 私が知っていることがあるとすれば、専用機持ちがこの作業の護送任務に付くことがある、ということくらいだ。

 

 

 さて、その輸送される貨物の中には私がデータ収集を行う予定であった、ビームサブマシンガンが他の試作装備に紛れて積まれていたのだが…。

 

「私のサブマシンガンの他にも、テストを行う予定であった試作装備の中に数点、量子変換が行えない、もしくは不安定なものがあったそうです。どうも、試作装備の輸送の際に、ドンパチと派手に戦闘をやらかしたようで、もしかしたらその影響があるかも、と」

 

『その戦闘について詳しく調べられないのですか?』

 

「先生へ問い詰めたのですが、関係者ではないから伝えることはできないと言われました。けれども、その戦闘の影響で破壊されたコンテナもあった程、酷かったそうよ」

 

『…なるほど、分かりました。こちらでも引き続き調査を行いますので、クリスタ様はどうか心配なさらずに、ご自身の身体の治療に努めてください』

 

「うん、わかったよ。助手さん」

 

 それでは、と言うと首に挟めていた電話に手を伸ばし、通話を終了させる。

 

 電話をポケットにしまうと私は思わず深いため息をつく。果たしてそれは電話で助手さんと話をしていたからなのか、それともクレープをすべて食べきったからなのかは私には分からなかった。

 

 ナノマシン治療中の左腕を庇いながら、ベンチから立ち上がった。

 肌を撫でるような優しい風が吹き、ほてった体を冷やす。

 ふと海を見やると太陽がもう海面へと近づいており、空を赤く染めていた。公園には先程よりも人の数は少なく、噂のクレープ屋は早くも閉店準備に取り掛かっていた。ベンチ近くの地面からは虫の鳴き声が休む暇もなく聞こえ、音を支配する。

 

 

 

 秋は着実に近づいてきていた。

 

 



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第27話 過去の呪縛

新刊読みました!


簡単な感想としては、急ぎすぎる








 

 

 私の同居人(ルームメイト)は単純だ。

 

 別にこれは、同居人が素直で馬鹿だという意味ではない。彼女の態度を見れば、喜怒哀楽がはっきりと分かり、その時の気持ちが容易に理解出来るからだ。

 嬉しい事があったら表情はいつもより晴れやかで、指摘をしなければ独り言をずっと言ってしまうほど喜び、腹立たしい事があれば、気分が晴れるまで枕を抱き寄せプンプン怒る、といった具合だ。ころころと変わる同居人の感情の起伏には、驚かされることもしばしばあるが私はそんな同居人が好きだ。もちろん、この単純な性格には良い面も悪い面も持ち合わせているがそれは仕方のないこと。人間、誰しも完璧な人はいない。表裏はっきりしているところこそが同居人の良いところなのではないかと私は思っている。

 

 さて、そんな同居人なのだが、最近はやたらと喜怒哀楽の「怒」の感情が激しい。常に何かに怒っており、最近だと彼女担当の政府高官相手に電話でIS装備の催促を怒鳴りながらするほどだ。

 同居人をそうさせてしまった原因は___とはいえ、ほぼ彼女の感情の起伏の原因といっても過言ではないのだが___同居人の片思いをしている相手、織斑一夏だ。

 唐変木、鈍感、朴念仁、シスコン、裏ボス。そんな二つ名が裏で呼ばれている人物だ。思い返してみれば、数日前に告知されたとあるイベントを境に、同居人の様子が変わっていった。

 

『全学年合同タッグマッチ』

 つい最近に起きた学園祭での襲撃事件のように、ISを狙った事件が世界規模で度々起きているらしい。このような事態を受け急遽、専用機持ちの練度向上及び、技術向上を目的としたイベント、という事で開催するそうだ。

 さて前回のタッグマッチでは、男同士という()()()()()()()()()一夏はシャルロットと組んで参加をしていた。だが現在、男は一夏しかいない。「同性だから」という言い訳を使えない彼を狙い、同居人はタッグマッチを組もうと迫った。だが、彼はあろうことかこう言ったという。

 

「俺、もう組む相手を決めているんだ、悪い!」

 

 他に組む相手がいる。

 その事実に同居人は落胆した。

 何故私を選ばないのか?何故私以外の人と組むのか?

 そして同居人は憤りを覚えたという。

 

 

 …そもそも何故一夏が同居人を真っ先に選ぶのかという確証なしに、そう思い込んだのは謎であるが、今はそんなことはどうでもいい。問題は一夏が組もうとしているパートナーのことだ。

 

 同居人が一夏に断られた数日後。学年内にとある奇妙な話が流れ始めた。

 

『織斑君が四組の女子生徒の尻を毎日追いかけまわしている』

 

 あの絶食系で、女子に何て興味を持たないはずの唐変木が四組の子に迫っているという話に私は耳を疑った。

 どういう風の吹き回しなのだろうか。そんなことを思っていたが、それは日が経つにつれて現実味を帯びてくる話へと変化してきた。唐変木にタッグマッチのパートナーになって欲しいと迫られている人物は、日本代表候補生の更識簪。今回のイベントの参加資格を持つ者だ。とどのつまり、一夏は見知っている専用機持ちを放っておいて、見知らぬ女子をタッグマッチのパートナーとして勧誘していたのだ。

 

 普通であれば、互いに知っている者同士でタッグを組むのが普通。彼であれば、パートナーの選択肢は選り取り見取りのはずである。雪片Ⅱ型と相性の良い赤椿をはじめとして、遠距離射撃でサポートが可能な蒼雫にラファール・リヴァイブ、中距離を得意とする甲龍に黒雨。どれも連携の取れるISばかりだ。しかし、わざわざ今まで交友関係のない人物をパートナーに選ぶなど、よほどの物好きではない限り選ばないだろう。どのような経緯があって四組の更識簪へ接触したのか、私はものすごく気になってしまった。

 

 だから、私は………直接彼へ聞くことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけで、更識簪を選んだ理由を教えてもらえません?」

 

 私は目の前にいる一夏へそう告げた。

 私の瞳に映る彼はひどく動揺していた。息づかいは荒く、私の耳にまではっきりと聞こえてくるほどだ。視線も私の瞳を見ずによそを向いていた。それほど知られたくないのだろうか。

 

「…分かった。クリスタにはこの事を話すよ。とりあえず、俺の首元に当てているナイフを退けてもらえないか?」

 

 仰向けに倒れ込んでいる彼は、私の右手に持っている訓練用のゴムナイフを見ながら答えた。

 

 

 

 

 格闘訓練が終わり、互いに制服へ着替えた後、私たちは一夏の部屋へと向かっていた。

 

「というか今更だけど、クリスタは本当に怪我治ったのか?結構遠慮しながら相手していたんだが…」

 

「うーん、どうでしょう。医者からなんとも言われていませんが、ナノマシン治療でヒビの入っていた手足の治癒は多分済んだと思います。今のところ痛みはないですし」

 

「…本当に大丈夫なのかそれ?」

 

 彼は先程よりも声をトーンを落とし、こちらをジト目で見る。

 現に、先程の訓練中痛みは起きなかった訳でそこまで心配する必要はないはず。動ければいいのだ。動ければ。

 

「心配性ですね、一夏は。それよりもさっきの話だけれど、何故部屋まで行かないといけないの?」

 

「…まあ、あれだ。色々と事情があるんだよ。それに落ち着いて話をするなら、俺の部屋が一番だし」

 

「色々か…」

 

 一夏は思い出したかのように私から視線をずらし、歩く方向に向いて話しながら、歩き出した。

 

 

 幸いにも専用機持ちに遭遇することなく、一夏の部屋へとたどり着き、早速彼の部屋へと入ることにした。見慣れた一年部屋の入り口を通り、奥へ進む。時刻は既に夕方となっており、部屋にはカーテンが閉められていた。

 

「あら、おかえり一夏君。今日は早めに…って」

 

「何で生徒会長がここにいるのですか?」

 

 目の前のベッドには、見慣れた人物がうつ伏せになり、雑誌を読んでくつろいでいた。いつもの制服にライトグリーンのベストを着ている楯無会長は体を起こし、何故人を連れ込んでいるのか、とでも言いたげな表情を浮かべこちらを見ていた。

 

「何でって言われても、ここが私たちの部屋だし…ね〜一夏君?」

 

「あー…クリスタ。楯無さんはよく俺の部屋に遊びに来るというか、気づいたらいるんだ。気にしないでいいよ」

 

「いやん、一夏君に無視された〜」

 

 体をくねらせている楯無会長を一旦無視し、私は一夏に従われるまま備え付けの椅子に座った。

 

 

 

 

「つまりゴーグルちゃんは、一夏君がいつもはしないような行動、簪ちゃんをタッグマッチのパートナーにしようとしている事に疑問を抱いたから、その理由が知りたいと?」

 

「そういう事になりますね」

 

 一夏に淹れてもらったお茶を飲みながら、私は楯無会長へとここへ来た訳を話す。どうやら、彼の行動には彼女が何やら関わっているらしく、話に食いついてきた。

 

「ねえ一夏君。この子にわざわざ事情を話さなくても良かったんじゃない?」

 

「うーん…。実はその、最近簪さんには無視されてばっかりで手詰まりだったし、同じ専用機持ちのクリスタに聞いたら何か手がかりが掴めるかもしれないと思ったんです。というか、クリスタ以外の皆が最近俺に冷たくて、意見を聞ける状況じゃなかったんですよね…。やっぱり大会前でみんなピリピリしちゃっているから、しょうがないのですけれども」

 

「…なるほど。まあ一夏君が簪ちゃんと組めるようになるなら願ったり叶ったりだから、この際は気にしちゃダメか」

 

 一夏の説得に折れたのか、ベッドに腰かけている楯無会長は少し考えるそぶりを見せつつも、その表情は先程よりも緩まったものになった。

 よっ、と言いベッドから立ち上がった楯無会長は閉じた扇子を私に向ける。

 

「それじゃあここまで首を突っ込んだからには、あなたにも一夏君に協力してもらうというのが条件だけれど、それでもいい?」

 

「…わかりました、協力しましょう」

 

 この人の関わっているということは、こうなってしまうことも織り込み済みだ。真相が分かるのであればどうってことはない。

 

「うん、よろしい♪あなたの仕事ぶりならもう知っているから安心だわ」

 

『感謝』と書かれた扇子を広げて、私に見せた楯無会長はそのまま言葉を続ける。

 

「私が一夏君に頼んだことは、私の妹の更識簪の専用機製作を手伝ってほしいっていうことよ」

 

 

 

 

 楯無会長の話はつまり、こういうことだ。

 楯無会長の妹である更識簪は日本の代表候補生。それなりに実力もあった彼女には専用機が与えられた。そのISの名は打鉄弐式。第二世代打鉄を進化させた、他国よりも開発が遅れていた日本発最初の第三世代ISだ。この打鉄弐式は未完成品であったものの、開発元の倉持技研と協力し、作り上げていく予定であった。()()()()()()()()()。そんな最中にIS界に衝撃を与えた事件が起きた。

 

 そう、()()()()()の存在が確認されたのである。何故男でもISを使うことができたのか、世間だけでなく業界からも注目が彼に集まった。そして真っ先に行われようとしたことが、データ収集だ。

 いくら研究を重ねても実現することができなかったIS操縦の謎。何故女性でないといけないのか、何故男性ではダメなのか。それを紐解く鍵になりうる織斑一夏という存在は、研究者、開発者にとってみれば非常に貴重で、大事なものだった。彼、織斑一夏が日本人ということもあり、日本企業の倉持技研はそのデータ収集に名乗りを上げ、彼に与える予定のIS、白式の開発を最優先事項として作業を進めたのだ。()()()()()()()()()()()()()()

 

 こうして、白式のために人員は割かれ、打鉄弐式を共に作り上げていこうという話は綺麗に水に流されてしまった。そして更識簪に残されたのは未完成のISと僅かながらの少ないデータのみ。企業に見捨てられた彼女は一人ただ黙々と打鉄弐式の完成を目指しているという。白式と見捨てた企業を恨みながら。

 しかし、ISは自由研究のロボット製作のようにそう易々と製作が行えるものでもなく、未だに完成の目処は立ってないという。

 

 

 

「簪ちゃんはさ、四組のクラス代表なのだけれども専用機が未完成だから、これまでの行事には一切参加していなかったのよね。夏の臨海学校の時も欠席していたし…」

 

 楯無会長はいつもとは違って覇気のない声で話し、お茶をすする。

 

「今回のタッグマッチにはもちろん、簪ちゃんにも参加するように言われていたのだけれども、今のままじゃ恐らく参加する気は無いわ…。だから、先生方も行事に一切参加しようとしない簪ちゃんに目をつけていて、今後何らかの措置を取るつもりなの」

 

「…だから、一夏に頼んでタッグマッチに参加させるように仕向けて、何としてでもISを完成させるようにしたかったと」

 

「そういう事よ」

 

「なら何故、貴女から妹さんに話をしないのですか?IS製作を手伝うとか」

 

「それは………」

 

 すかさず楯無会長へ疑問をぶつけると、彼女は言葉を詰まらせた。

 

「あー、実はなクリスタ。楯無さんと簪さんの姉妹仲が悪くてさ、そういうのは出来ないというか、上手く伝えられないんだ」

 

「なるほど、そういうことでしたか。深く聞き過ぎてしまい申し訳ありません」

 

「いや、気にしないで。何も知らないから当然よ」

 

 一夏のフォローで、触れてはいけない話題を聞いてしまったと気づいた私は楯無会長へ謝る。当の本人は半笑いで受け答えをしているものの妙にしおらしく、彼女はよっぽど妹との関係を気にしているようであった。

 

「それに簪さんは一人でISを作ろうとしているからさらに厄介なんだ。他人に手伝ってもらう事を頑なに拒んじゃう。楯無さんが一人でISを作ったと思い込んでいるみたいで、それに対抗して…」

 

「一人でISを!?というか、楯無会長ってIS製作をしたことがあるのですか!?」

 

 一夏の発言に私は思わず、声のトーンを上げる。

 何せISは精密機械の塊。生半可な知識や技術でISを作ろうなどしたら永遠に完成などしないのだ。IS学園でさえも実際にIS開発に触れるのは三学年になってからで、楯無会長が専用機をもらった時期を考えると少なくとも一年生の時にISを作った事になる。

 

「え?ああ、私がロシアの国家代表になった時に今のISを渡されたんだけど、それが未完成品だったからそれを組み上げただけよ。といっても薫子や虚たちの意見をもらいながらだけどね。それに七割方は完成していたのもあるわ」

 

「なるほど…あらかた出来ていたISをブラッシュアップした感じですね」

 

「そうね、そんな感じかな。それに作ったISはきちんと企業の人にも見てもらったし…。それと比べたら簪ちゃんの方がよっぽど凄いわ。四割も満たさない程の完成度のISを作り上げようとしているもの。PICやスラスターの制御から追加武装…。正にISを一から作り上げているのに等しいわ。本来ならその道のプロがやる作業を全部一人でやっているのよ。私を追い越そうとして…」

 

「追い越そうと……?」

 

 楯無会長はほとんど中身が残っていない湯呑みを両手で持ち、弄ぶ。

 

「そう、あの子はいつも私を追い越そうとしているの。小さい頃から私の後についてきて、私がやった事を真似て絶対に越えようとするのよ。料理とか編み物、それに華道…とにかく何でもね。昔っから変わっていないのよ、あの子。おっちょこちょいな所も変わらないけどね。私から勝負を仕掛けているつもりはないのに、あの子が勝手に対抗心燃やしてさ。お姉ちゃんを超えるって意地張って…。でも気づいたらあの子が私と距離を置くようになっちゃって…。いつからだろうね、あの子と面を向かって話をしたのは…。私は私、簪ちゃんは簪ちゃん。私と背比べをしなくてもいいのに…」

 

 彼女は顔を俯き、ただじっと手に持つ湯呑みを見ていた。

 彼女の言葉一つ一つには、昔の懐かしさや妹への思い、そして哀愁で満ちていた。

 

 

 

「兄弟ってそういうものだと思いますよ」

 

 突然の声に楯無会長ははっと驚き、どういうことと一夏へ聞いた。

 

「俺も末っ子だからわかるのですけど、やっぱり上の兄弟と比べたくなるものですよ。特に何かが秀でているなら。楯無さんは勉強も出来るし、ISに関しては国家代表でトップクラス。生徒会の仕事もテキパキこなしていて、正に完璧な人って感じで。俺も上兄弟が千冬姉だから結構苦労したんですよ」

 

「織斑先生で?」

 

「ええ。千冬姉も楯無さんみたいに文武両道で、小さい頃から千冬姉は俺の憧れであり目標みたいなものなんです。最初は千冬姉みたいになりたいって思って千冬姉がやっていた剣道場に行ったぐらいですし。でも、頑張れども千冬姉には勝てる部分は全くなくて、結構劣等感は感じていました。まあ、最初の頃の話ですが」

 

「今はどうなの?」

 

「うーん。千冬姉にもできない部分があるって気づいた時には、じゃあそこを強みにしようと思って考え方を変えましたね。年の差が大きいっていうのもあるんですけど、俺は結構千冬姉に守られてばっかりだったんです。何つうか親代わりというか保護者の立場で。だから、俺はいつもそれが嫌でいつか俺が千冬姉を守ってみせるって張り切っていたんですけど、今は千冬姉にはできないところから千冬姉を守って見せるって思っています。いつかは俺が千冬姉を守るって決めているんですけどね」

 

「そっかぁ。一夏君ってホント織斑先生が好きよね」

 

「そうですか?家族だし、普通だと思いますけどね」

 

 一夏とのやり取りで楯無会長は口に手を当てて、クスクスと笑う。表情も少しずつ笑顔も戻り、いつもの会長になりつつあった。

 

「湯呑み、片付けますよ」

 

「ああ、ありがと」

 

 飲み終わった湯呑みを一夏へ渡し、ベッドに戻った楯無会長は私の方を振り向く。

 

「ねえ、ゴーグルちゃんって確かお兄さんがいるよね。どう?やっぱり昔からお兄さんと競ったりした?」

 

 この人なら私のプライベートの事も調べ上げているだろうと思っていた私は、特に驚きという感情は生まれなかった。

 

「昔ですか?そうですね…」

 

 ふと私は兄について思い返してみる。

 私には6歳年上の兄がいる。今は企業に勤めている真面目なサラリーマンだが、昔はヤンチャな悪ガキだったと聞いたことがある。聞いたというのは私が物心つく頃には、兄は学校の寮住みで普段は家に帰ってきていなかったからだ。会えたとしても、私にちょっかいを出すくらいだ。正直に言ってしまえば、私が兄について思う事はあんまりない。

 

 物心つくと言っても私には中等教育を受けていた以前の記憶が曖昧で、寮に入る前の兄の記憶は思い出せないのだ。それこそ、幼い頃の私はどんな子だったかなんて知る由も無い。だが不思議と昔の事は思い出せなくても何とも思っていないし、知ろうとも思わない。

 

 

「…そうですね。私の兄は能天気なやつなんで私は何とも思っていませんでしたね」

 

「ふーん、そっかぁ。まあ人それぞれだし必ずしも同じじゃないよねぇ」

 

 私の取り繕った言葉を信じたようで、楯無会長はぐっと背伸びをするとそのままベッドに背中から倒れこんだ。

 

「………楯無さん何やっているんですか?」

 

「何ってそりゃ、一夏君の匂いがするからそれを堪能しているの」

 

「…そりゃここは俺の部屋ですからそうですよ。というか、変なことしないでください!」

 

「いいじゃーん、減るものじゃないんだしー」

 

 湯呑みを洗い終えた一夏は、ベッドでゴロゴロとごねる楯無会長のあられもない姿にため息をつき、まあいいかと最終的に諦めた。

 

 

「…二人ともありがとね」

 

 ふと、体を起こした楯無会長は神妙な面持ちになり、感謝を言葉にした。

 

「何ですか、急に?」

 

「私、ちょっと気を張り詰めすぎたみたい。気持ちが楽になったわ」

 

「…まあ、誰しもそうなっちゃう時はありますよ。とりあえず、俺が何とかして簪さんにタッグマッチのパートナーとして認めてもらわないと…」

 

「…そうね。所で簪ちゃんの様子はどうなの?」

 

「いやぁ、叩かれました」

 

 一夏は頭に手を当てて、半笑いする。

 そりゃ、知り合いではない男に言い寄られたら手を出してしまうのも分からなくもない。

 

「え!?あの子そういう非生産的な行動にはエネルギーを使いたがらないはずなんだけど…」

 

「それだけしつこかったということなのでしょう。これまで迫ってみて何か賞賛はつかめそうなの?」

 

「いや、これっぽっちといって。何かいいアイデアないかな、クリスタ?」

 

「話を聞く限りでは、IS製作は1人で行いたいという強い意志がある以上、製作を手伝うという選択肢はまずないかな。でもこのままでは、タッグマッチまでに間に合わないのは目に見えている。やれることは、簪さんにあなたがタッグマッチのパートナーとして認めてもらい、IS製作を急かしていく以外に方法はないでしょう」

 

 現状、やれる手立てはこれしかないのだ。

 いや正確に言えば一つだけ強硬手段は残っている。それは、彼女にこれまでの真実、今置かれている状況を伝え、タッグマッチ参加のためにIS製作を手伝うというものだ。だがただでさえ姉妹関係、そしてIS開発に関して彼女は精神的ダメージを受けているはず。これ以上彼女を追い込んでも依頼主の楯無会長はそんなことを望まないだろうし、その事実をそのまま彼女が受け止めるとは分からない。

 

「やっぱ、そうなっちゃうかぁ…。どうすりゃいいんだよ…」

 

 望んでいた答えを導き出せなかったからか、一夏は髪の毛を右手でがしがしと乱暴にかき乱す。

 

「でも、一夏ならきっと彼女にタッグマッチのパートナーとして認めてもらえるよ」

 

「どこにからそんな自信が湧いてくるんだよ…」

 

「うーん…女の勘かな」

 

 私はわざとらしく、人差し指を立ててウインクをした。

 

 

 

 

 

 

 



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第28話 常備不懈

 天気は快晴だった。

 先程まで雨が降っていたと感じさせないくらいに青空が広がり、足早に白く細い雲が流れていく。

 午前中に降った雨で、地面の至る所に大きな水たまりが張ってある第三アリーナで、一機の赤いISが空を自由自在に飛び回っていた。

 そのISは瞬時加速や旋回を行い、アリーナ内を縦横無尽に飛ぶ。ただ、IS操縦者の目には必ずアリーナの至る所に設置されている”ターゲット”が写っていた。

 次々とランダムに現れ、システムにより自動生成されるターゲットをそのISは、時には両手に持つ大きな青龍刀で横に斬り裂き、またある時は両肩に浮かんでいる非固定浮遊部位(アンロックユニット)からエネルギー弾を発し、撃ち抜いていく。

 

 赤いISは地面に降り立つと、次なるターゲットを求め探し出す。すると、頭上に現れた複数のターゲットを見てIS操縦者は思わず笑みをこぼす。

 ISの右肩に浮かぶ非固定浮遊部位から光が漏れ出し、飛び上がると同時にエネルギー弾を発射した。拡散するエネルギー弾により、狙い定めたターゲットが、まるでガラスが割れたかのように散る中をそのISは突っ切って、上空へ浮上した。

 雨上がりの湿った空気が鼻を突き、強い日差しが体に煌々と照らした。太陽の光に思わず操縦者は目を細めると、すぐにハイパーセンサーが自動で視野に入る光の調整が行われた。

 アリーナの天井付近まで飛び上がったISは、地上に見えるターゲットを見つけると、PICを切り自由落下で地面へと落ちていった。そして、両手に持つ青龍刀を連結させ、両腕を大きく振りかぶった。

 

「これで、終わり!」

 

 八重歯を見せて、ニヤリと笑った操縦者は青龍刀をターゲット目掛けて大胆に投げつけた。投げた青龍刀が人型のターゲットの首辺りで真っ二つに切り取ると、その勢いのまま、硬い地面に突き刺さる。

 人型のターゲットはその場で、ガラスの壊れたようなエフェクトを発生させ、光とともに消えていった。アリーナ観客席中央にある液晶には、先程の訓練の得点と、総合評価を表した『A』という表記が示された。

 

 

「どう?甲龍の調子は?」

 

 地面に突き刺さった青龍刀を抜いていた操縦者の耳に若い女性の声が聞こえてきた。甲龍の操縦者は青龍刀をしまうと、Bピットの方を向き、腰に手を当て、ふんと鼻を鳴らした。

 

「悪くはないね。でも、もう少しブースター性能を高めてもいいんじゃないかなぁ」

 

「データを見る限りは結構無理をしていたように見えるけど本当に大丈夫?」

 

 最初に聞こえてきた声が心配そうに言う。

 

「私はまだ大丈夫よ。もっと旋回性能を高めないと、特に()()になって勝てないわ」

 

 甲龍の操縦者、凰鈴音は特に『一夏』の部分を強調させて言った。

 

 

 

 

「稼働データは見る?」

 

「いや、いいわ。さっきの飛行で大体分かったし」

 

 私がピットに戻ってきた鈴にタオルと飲料を渡すと、彼女はそれを受け取り、私の問いをきっぱりと断った。

 タッグマッチを控えている我々専用機持ちは準備に追われていた。今は、私のタッグマッチのパートナーである鈴のISの調整を行っていた。本来であれば、このような推進力を増やしたり、感度を調整したりすることはそのISを持つ国の技術者が行う作業である。

 だが今回のイベントの趣旨上、この作業を進めていくのは、生徒同士という決まりが設けられていた。このような調整は実を言うとさほど難しいことでもなく、IS学園での授業を受けていれば、さっさとパーソナライズすることが出来る。

 まあ、このような知識は二年生にならないと分からないものだが。企業の技術屋に教えてもらったことがここにきて役に立っており、自分自身のISの調整に加えて鈴の甲龍も弄っていたというわけだ。

 

 大会間際ということもあり、今いる整備室にはいつも以上に賑わいを見せていた。上級生らしき二人組が彼女らのISの前であーだこーだと、何かの議論を繰り広げ、少し遠くにいるセシリアが、上級生の代表候補生と蒼雫の調整を行っていた。

 

「にしても、びっくりよねー」

 

「びっくりって何が?」

 

 要望通り、甲龍の旋回性を高める調整をしていた私に、近くの機械に腰掛けている鈴が話しかける。話の主語を語ろうとしない彼女に私は聞き返した。

 

「ん?何ってそりゃ、イギリスのIS開発の早さにさー」

 

 彼女はセシリアたちのいる方向に顎をしゃくりながら、気だるそうに言った。

 

「だってもう三つ目の試作機を作っているのよ?なかなかの進み具合よねぇ」

 

「…確かにそうね」

 

 汗を拭く彼女を横目に私は、甲龍の調整をしながら生返事がちに受け答えた。

 

 

 鈴が気になっていたISは、セシリアのパートナーである二学年のイギリス代表候補生、サラ・ウェルキンが現在所持しているものだ。それは、AME社製ティアーズ型三号機の『ダイブ・トゥ・ブルー』。

 これまで射撃型のみしか発表されていなかったティアーズ型だが、このISは格闘性能を有するBT兵器を搭載する、新たなコンセプトのISのようだ。

 体を覆うほどの大きな物理シールドに、一振りの剣。まるで中世の騎士を思わせるようなISである。最近に学園へ送られてきたばかりの出来立てのISであり、今回のイベントの終了後にはすぐさまイギリスへ戻ってしまうらしい。

 

「あんたのところも大変よね。なんだっけ、イグニッション・プラン?それに準備をしていてさ」

 

「イタリアもテンペスタ型をようやく開発し終えるらしいし、そろそろ選考が始まりそうだからね。フランスが入るかはわからないけど」

 

 ふーん、と私に問いかけた彼女はなんとも言いがたい、曖昧な返答をして飲料水を飲む。興味を失ったのか、はたまた私の言葉を理解したのか定かではないが、いつもの彼女なので気にしないでおいた。

 鈴から渡された分厚い整備書を読みながら作業を進めていると、一人の声が整備室内に聞こえてきた。

 

「おーい!」

 

 それは若い男の声だった。IS学園にいる若い男は一人しかいない。その声に反応して、近くにいた鈴が体をビクつかせ、声のした方向へと見た。遠くに見えるセシリアも鈴と同じ様な反応をしながら、その方向を向いていた。私も彼女らにつられて、整備室の入り口を見る。

 

「お、いたいた」

 

 見慣れた制服姿の一夏は、何かに気がつくとこちらへと歩いてきた。その様子を見ていた鈴は、しばらく一夏を見ていたが、ふと我に帰り一夏からそっぽを向いた。

 

「へー、アリーナに行ってきたのか鈴?」

 

「そうよ、悪い?用がないならさっさとどっか行きなさい」

 

「何で怒っているんだよ…。別にいいだろ、俺がどこに居ようと」

 

 鈴がISスーツを着ていたから、アリーナに行ったと思ったのだろう。普段通りに鈴に話しかけた一夏は、自分を見向きとしようとしない鈴からの罵倒を軽く受け流す。

 更識簪へのアプローチ以降、彼は一部専用機持ちたちの塩対応を受けていた。ある時は顔を見ないで挨拶をし、またある時は名前でなく、苗字呼びをする。本人はトーナメント前だから皆ナーバスになっている、と思っているようだが、どこからそのように感じるのかを、何度も問いただしたい気分である。

 しかし、彼は筋金入りの唐変木。幼馴染からの言葉もあり、その治らない性格は私がどうこう出来る問題ではないだろう。

 

 一夏は、プンスカと頬を膨らませてそっぽを向く鈴を無視し、私の方を向いた。

 

「なあ、クリスタ。明日の放課後って時間あるか?」

 

「明日?明日なら、部活動の後なら大丈夫だよ」

 

「そっか、じゃあ大丈夫かな。前のISを見てもらうやつだけど…」

 

「うん、いいよ。そういう約束だからね」

 

「よし、助かるぜ!んじゃ、明日よろしくな!」

 

 彼は帰り際にこちらへ手を振り、その場を後にした。爽やかな笑顔も忘れない。

 

「…何?あんた、あいつのISも弄るの?」

 

 一夏が整備室からいなくなり、少しして鈴が話しかけてきた。

 一夏と遭遇して、すっかりご機嫌斜めになってしまった鈴がジト目で私を見る。

 

「うん、ちょっと手伝って欲しいって頼まれてね」

 

 事情を知らない彼女にとってみれば、虫の居所が悪いものだろう。詳しく話したら、話がややこしくなりそうなので多少説明は省く。単純に、頼まれごとをしただけと言えば分かってくれるだろう。

 

「というか、いつからあいつと仲良くなったの?約束なんてしちゃってさ」

 

「仲良くも何も、元からこんな感じだったと思うけれどね。互いに助け合っているだけのことだよ」

 

 

 同じ専用機持ちのよしみでIS整備を約束した、と説明をしたら彼女は渋々理解をしてくれたようだ。

 最も彼女が気にしている事、男女関係に発展している…といったような心配は更々ない。そもそも、私の約束で見るISは、彼のISではない。彼の()()()()()のISだ。

 

 

 

 

「織斑君、こっちに特大レンチと高周波カッター持ってきて!」

 

「ああ、はい!」

 

「データスキャナーと電波装置を〜」

 

「はい、こちらをどうぞ!」

 

 日曜日の整備室の一区画。

 天井から光が灯された台座には、脚を折りたたむように置かれたISの周りに人が集まっていた。

 巨大な非固定浮遊部位が左右にあるのが特徴のこのISは打鉄弐式。一夏のタッグマッチのパートナーでもある更識簪の専用機だ。

 

 

 打鉄弐式。

 その名の通り、打鉄を制作した倉持技研が手がけていた打鉄の後継機にあたる第三世代ISだ。前作の打鉄は防御重視のコンセプトであったが、この打鉄弐式は、機動を重視した設計となっている。

 最大の特徴だったとも言える、日本のサムライのような特徴的な肩部シールドは撤廃され、その代わりに非固定浮遊部位の大型ウイングスラスターが二基搭載されている。全体ともに、鎧で覆われたシルエットから一変、上半身がとてもスマートな風貌へと変化していた。

 また、第三世代へなるとともに、武装面も強化が施されている。以前はアサルトライフル一丁と刀が一振り、というなんとも第二世代らしい後付武装を想定した内容だったが、荷電粒子砲が二基、そして薙刀。さらに目玉といえるマルチロックオンシステムによる誘導ミサイル。どれも次世代を見据えた武装となっていた。

 もちろん、扱いやすいOSと定評のある打鉄に引けも劣らず、この打鉄弐式にも同様のOSが使用され、打鉄のパッケージも使うことが出来る優れものとなっている。

 

 …とまあ、話を聞けば第三世代ISとして充分通用するISなのである。話を聞く限りでは。じゃあ、実際どうなっているか、と現物を見てみれば目も当てられない状況である。

 先程のように、ISのコンセプトは出来ているのだが、いかんせんそれは机上の卓論にしかすぎていなかった。

 噂通り、途中で開発が止められているので装甲、武装ともに見た目だけは用意されていた。

 しかし肝心なシステム面は、仮組みされているだけで中身はすっからかんであり、とても動かせられるような状態ではなかった。PICなどのISが動く基礎の部分はほぼ搭載者である楯無簪が作り上げたようなものだった。

 

 

「よし、これで…。そっちはどうかな?」

 

「……まだかかる。ちょっと待って」

 

 私の言葉に反応した簪さんは、私に返事をするものの作業する手を休める間も無く、画面を見続ける。彼女の第一印象は大人しく、暗いという感じだった。

 

 癖毛のあるセミロングに、簡易ディスプレイの眼鏡。そして、弐式のものだというまるで、動物のタレ耳のようなヘッドギアを頭の左右に付けている。少なくとも、学園で名の知られている『更識』の関係者と気づかなければ、単なる専用機を持つ日本の代表候補生だ。

 

 あの日、私が一夏と楯無会長から事情を聞いた数日後に、一夏は更識簪とタッグマッチのパートナーになった。

 彼らの間にどういう経緯があり、了承を得たかは分からない。ただ、彼があれだけ自信がないと言っておきながら、知り合いにもなっていない彼女を()()()()()その様はまさに天賦の才能といっても過言ではないかと密かに思っている。

 そして、現在のパートナーのISの状況を知った一夏の提案により、この弐式の整備の話が持ち上がった。タッグマッチまで後数日。1週間もないくらいだ。この短い時間の中で、どうにか動かせられるようにするべく、整備が出来る人たちが集められた。

 一夏へ貸しを作れる!といち早く飛びついた黛さんは知り合いの整備科の人たち2学年を召集。IS整備をしない、というか出来ない一夏を利用しつつ、問題があったというISのPICのシステム周りを重点的にチェックしていた。

 簪さんは彼女なりにシステムを構築し、飛行テストを行ったらしいのだが、上手く行かなかったようだ。そもそも、動く事が出来なければ試合どころの話ではない。数多くの問題を抱える打鉄弐式だが、まず問題なく動く事が出来る事を目標としてここ連日、我々は整備に取り掛かった。

 上級生に肝心なPICを任せる一方、私を含めた1学年チームは全く手を付けていなかった武装の構築をしていた。

 

「どうかな?一夏からもらったデータを参考にして荷電粒子砲(春雷)をいじって見たんだけど…」

 

 私が担当していたのは荷電粒子砲の春雷。いわゆるメインに扱うであろう武装だ。

 今第三世代ISの中で流行りの、と言っても過言ではない非実弾系のカートリッジ交換をしない武装で、倉持技研は荷電粒子砲のデータを簪さんへ渡していなかったものの、同じ倉持製の白式からデータを代用する事で実装が可能になった。

 

「……ジェネレーターの出力、エネルギー供給量共に安定領域に達している。試し撃ちをしないといけないけど、このデータを見る限りでは……多分大丈夫」

 

 私が先程仕上げた春雷のデータを簪さんは、まじまじと目を丸くして見ていた。

 受け取る前までは期待していなかったのか、それとも彼女の担当している事で頭がいっぱいだったのか定かではないが、これまで見ていた中で無表情な簪さんが一番表情を崩した所だった。

 

「そっか、久々の武器作りで腕が鈍ってそうで心配していたけど良かった!」

 

「……貴女は何者なの?一年生で荷電粒子砲を……たった2日で」

 

「私の叔父さんが武器製作専門の技術屋でね、良く教えてもらったんだ。それに参考にしたデータもあるんだし、ざっとこんなもんよ」

 

 簪さんはある意味疑惑の目で私を見る。

 そりゃそうだ。余程の天才でない限り、下積みもなしにISの武装を作ることは容易ではない。しかも一年だ。普通に1人でせっせと武装を作り上げるのは私でも異常ともいえる。そもそも、こうして彼女の春雷を作り上げられたのは、私の叔父たちに教えられたことを学べたからでもあるし、私の()()繋がりでもある。疑い深いのか、私の説明でも納得のいかない表情をしている彼女にどう説明しようか考えていた時だった。

 

「かんちゃーん!ハゼたーん!見て見て~」

 

 そんな時だった。

 とってもゆっくりボイスで私たちを呼ぶ声が聞こえてきた。このような呼び方をするのは一人しかいない。もう一人の協力者である、のほほんさんを見ると、彼女の足元にはとても大きな薙刀が横たわっていた。オブジェクト化された『夢現』だ。

 

「私も頑張って薙刀作ってみたよーどうかなー?よいっしょ…」

 

「……本音、危ないから持たないで」

 

 余った袖に隠されているだろう小さな手で、頑張って持ち上げようとする彼女を簪さんは止めに入る。

 

 のほほんさんが担当していたのは、近接攻撃用の薙刀である『夢現』。薙刀、いわゆる日本伝統の武器で槍みたいなものだ。リーチが長く、初心者でも扱いやすい武器らしい。次世代の量産型に向けての布石なのだろうか。

 それはともかく、この夢現は単なる槍ではなく、刀身部分を振動させることができる代物だ。先程、先輩方が使っていた高周波カッターと原理は同じで、なんともえげつない装備である。

 

「……うん。ちゃんと夢現も出来ているみたい。ありがとう、本音」

 

「えへへっ、かんちゃんに褒められた~」

 

 のほほんさんとは幼馴染同士だという簪さんは、少しだけ表情を崩して答える。礼を言われたのほほんさんはというと、いつも通りの笑顔で照れながら頭を掻く。

 夢現は白式の荷電粒子砲のように既存のデータはないようで、その代わりに一夏が用意したというデータを元に作られた。…彼に武装のデータを集めるほどの収集力があったとは知らず、私は正直驚きもしていた。

 

「かんちゃん、そろそろお部屋がしまっちゃうけど終わりそー?」

 

「……ちょっと難しいかもね。終わりそうにないかな」

 

 簪さんはこちらに表情を見せないように、体の向きを変えて、整備されている打鉄弐式を見た。

 彼女が担当しているのは、誘導八連装ミサイル『山嵐』。打鉄弐式の中では肝とも言える武装だ。山嵐には、『マルチロックオンシステム』という新しいシステムが搭載される予定であった。

 これは、発射されるミサイル一つ一つに独自の稼働をさせるもので、通常のロックオンシステムよりも遥かな高命中、高火力を実現させるためのものだった。

 

 だが、これも机上の卓論。そんなものの基礎なんてないに等しいものだった。これまた一夏が集めたというミサイルシステムのデータを元に、簪さんは実現に向けて製作していたようだが、間に合いそうにないようだ。

 

「今はどこまで出来るようになっています?」

 

「……マルチロックオンシステムが上手く行かないから、普通のロックオンシステムに置き換えて……今は誤魔化すつもり」

 

「やはり簡単にはいかないか…」

 

「で、でも……手動でならマルチロックオンシステムは出来たから……大会後には完成させられるはず」

 

「おぉ〜さすがかんちゃん!」

 

 簪さんの成果にのほほんさんが喜んでいると、黛さんから片付けの指示が飛んできた。

 

 

 

 

「どうだい、ISの調子は?」

 

「だ、大丈夫…です」

 

 時刻は9時を回り、もう少しで整備室が閉められてしまうだろう。

 私たちは、二年生達が作り上げたシステムの動作チェックの為にISを装備している簪さんの周りに集まっていた。黛さんの問いに対して、簪さんは、たどたどしく答える。

 

「武器の方はどうなんだ?」

 

「ミサイルの方は完成までとはいかなかったけど、タッグマッチに十分出られるようには調整したよ」

 

「いいねいいね!私たちの仕事も無事に間に合って良かったよ!」

 

 一夏の問いに私が答えると、2学年の先輩達は互いに顔を見合わせて喜んだ。彼女たちには誰一人として疲れたような表情を浮かべる者はいなかった。皆が皆、やり遂げたという達成感に満ち溢れた顔をしていた。自分たちが試合に出場するわけでもないのに。

 後輩のISのために彼女たちは時間を割いてまで打鉄弐式を整備し続けたのだ。きっと私のようにIS弄りが本当に好きな、そんな人たちなのだろう、そう私は読み取れた。

 

 

 整備室の貸し出し時間まであと少しとなり、皆で手分けして片づけを始めようとした時だった。

 

「あ、ありがとうございました。私一人じゃできなくて……本当にありがとうございました!」

 

 簪さんは片づけをする皆に向かっていつも以上に、整備室にいる人全員に聞こえるぐらいの大きな声で礼を言った。

 どこか涙ぐんだようにも聞こえるその声に

 

「気にしないでよ、私たちは同じ学園の仲間じゃない」

「そうそう、困っていたら助ける。先輩として当たり前のことをしただけだよ」

「いい?私達が整備したISで絶対に勝ち進みなさいよね!」

 

 黛さんを始め先輩達は彼女を逆に励ましていた。

 

 

 

 

 きっと彼女はこのような結末を予想だにしなかっただろう。

 姉というコンプレックスを抱え、彼女は一人ぼっちで必死に努力してきたに違いない、目標である姉を超えるために。例え他の事を犠牲にしてまで。きっと(一夏)がいなかったらタッグマッチへ出られず、ISは未完成のまま。そして、教員たちの目の敵にされ何かしらの処分を受けていたはず。彼が彼女の心を開いたおかげで整備科の人たちの協力を得られ、IS開発が進展。タッグマッチにも出場でき、ひとまずの体裁を保つだろう。

 人は助け合って生きていく生き物。どこかでそのような言葉を聞いたことがある。独りよがりで物事を進めていくのはよっぽどの天才出ない限り、事をなせない。目標であった姉でさえ、ほぼ完成されたISで、さらに友人の助言をもらいながらISを作り上げたのだ。それは、ジグソーパズルを複数人で組み立てるのと目隠しをして一人で組み立てていくのとでは訳が違う。それほど彼女たちには差があった。

 

 

 だからこそ私は、確信したのだ。

 

 行き詰まり、一人で閉じこもっていた彼女(更識簪)の、

 ドイツの冷氷と呼ばれた少佐(ラウラ・ボーデヴィッヒ)の、運命を変え、導いてこられたのは、織斑一夏の才能があってこそだと。

 

 姉譲りのISを使いこなす少年。唐変木で朴念仁な少年。誰にでも手を差し伸べるほどの優しさを持ち、実践のみに対してだけ物覚えに秀でている少年。

 

 彼を、一夏をもっと知りたいと興味を抱いてしまっていることに。

 

 でも、そんな風に思ってしまうことが悪くないと思っている私に。

 




気付いたら2か月……。


間延びしてしまい、本当に申し訳ないです!!!m(__)m


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第29話 空にはいつも

 

 

 目の前に広がるのは、白い天井だった。

 電気の灯っていない蛍光灯が等間隔に並べられていた。

 学生寮の自室で目が覚めた私は、ベッドから体を起こし、寝ぼけ眼で時刻を確認する。うっすらと青白い部屋の奥にある壁掛け時計を見ると、短針が4時を回り、もうすぐで5時になりかかろうとしていた。

 いつもの時間帯だと心の中で思った私は、暖かな布団から肌寒い部屋へと降り立った。体をさすりながら窓へ近づき、カーテンを開けると薄っすらとした淡い光が顔に照らされた。

 街灯の光はまだありIS学園の敷地を照らしていた。遠くに見える海と本土との区別は付くものの、まだ辺りは暗く日の出にはなっていなかった。

 ちらりともう一つの使われているベッドを見る。厚みのある暖かそうな布団には、同居している鈴が小さな寝息をたてて眠っていた。いつものツインテールは解かれ、サイドに髪をまとめている彼女を横目に、私は彼女を起こさないように静かにジャージに着替えて部屋を後にした。

 

 

 寮から外に出ると、少し霧が立ち込めておりぼんやりと街灯の光が道に沿ってポツポツと地面を照らしていた。軽く体を伸ばすなどのストレッチをして、私は朝のジョギングをするべく霧の中へと走っていく。別にこれは、今日行われるタッグマッチに緊張して早めに目が覚めたという訳ではない。いつもの習慣だ。

 

 生まれながらなのか定かではないが、私はいつも夜明けと共に目を覚ましていた。いや、朝5時前後に起きると言った方が正しいだろうか。何せ、こうした冬や春の季節には、朝日が昇る前に起きてしまうからだ。例え、いつもより遅くても、どんなに疲れようと疲れていまいとほぼ毎日、必ずと言っていいほど朝早く目覚めてしまう。この習慣はIS学園に来ても変わらず、朝の時間を持て余してしまう事を防ぐためにこうして運動を行うことにしている。

 誰もいない早朝程、心が休まる時間はないだろう。普段の任務や周りへの警戒心を感じつつ日々生活をしていることもあり、常に精神的に来るものがある。誰にもばれないで、なおかつ隠密に情報収集をするのは楽ではない。これも今後のために、と思ってはいるもののやはり苦痛なものは苦痛だ。こうして何にも考える必要のない時間を作り、心と体をリフレッシュするというのは大事なのかもしれない。

 

 自分自身の呼吸で走るペースを維持してきた、ただぼんやりと何も考えていなかったころ。ふと私はある大事なことを思い出した。

 これはそう、心の奥深くに沈み込み、忘れ去られていたことが、ふと息を吹き返したかのように浮かび上がってきた。そんな感覚だった。

 思い出した事とは、最近一夏への訓練をしていなかったことだ。あのタッグマッチが発表されて以降、少佐を含めた専用機持ち組が一夏への態度を改めたことや、彼自身が更識簪との接触を図るようになってから彼への指導は出来なくなっていたのだ。最近感じていた妙にもどかしかった感覚はこれだった。ナイフを握っていないからだ。

 一夏はきちんと私の教えた動きをするだろうか。唐突にそんな心配事が私の脳内を駆け巡る。

 

 彼は座学や練習といった事では伸びず、本番で伸びるという何とも不思議なタイプだ。だから私は基本的な部分、持ち方やナイフで狙う所を教えて以降、常に実戦ばかりを繰り返した。流石に本物の刃物を使うのは言語道断であるから、ゴムナイフを使ってだ。彼にしてみれば、よく日本刀やらサバイバルナイフやらで襲われるために刃物には慣れているだろう。だが、練習で怪我をさせる訳にはいかないから仕方ない事だ。

 そして、憶測通り彼は運動神経が良いこともあって、当初は手も足も出ない状態から今ではたった数回の練習で私へ反撃できるようにまで成長していた。きっと今の彼ならISなしでも、チンピラ相手には負けることはないだろう。

 それにしても、誰かにナイフを用いた格闘戦術を教えたりするのは久々な気がしてきた。昔はよく

 

 

「君はもう大丈夫だ。安全だよ」

 

 男の声。迫ってくる大きな手の平。

 

 それは一気に噴き出した。見たこともない光景が音が私の脳裏に浮かぶ。一回ではない。何度でも頭の中に響いた。このイメージは一体何だ?

 足を止めた。

 知らないビジョン。聞き覚えのない声。ただただ気味が悪かった。何も口にしていないのに吐き気がする。

 頭は内側から硬い物でガンガンと殴られたように痛み、体全身には悪寒が走る。息を吸う度に胸が締め付けられるように苦しい。口の中に冷たい空気が流れ込む。

 手にはべたりとした汗が浮き上がる。私の目の前には固いコンクリートがあった。

 心ではなく、頭にくる苦しさ。

 辛かった。声をあげてでもこの苦しみを紛らわしたかった。でも喉から出てくるのは掠れた空気だけ。

 

 その光景はただただ、私の見たくない嫌いな光景だった。やめて欲しかった。知らないものを何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も見せつけ、それを記憶の糧にでもするかのように。

 

 こんな記憶なんて、私は欲しくない。

 こんなものなんて…いらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は海岸線沿いに一定間隔に置かれたベンチに座っていた。

 それにしても私はこんなところで何で休憩をしているのだろうか?先ほどまで走っていたはずなのに。

 

 …ああそうだ。さっき靴紐が解けて転びそうになったんだった。それでベンチに座っているのだ。結んだ靴紐を確認して、私は再び走り出した。

 それにしても、誰かにナイフを用いた格闘戦術を教えたりするのは久々な気がしてきた。

 昔はよくドイツ軍の教官から教わったりしていた。軍が関わってくるのは何でも、国のお偉いさんたちのご意向でISを扱う以外にも、武術や銃の扱いを覚えさせるという決まりがあったそうな。当時代表候補生選抜組だった私が日夜訓練させられたっけ。

 タッグマッチが終わったら、一夏に訓練のタイムテーブルを聞かないと。彼は一体どんな表情を見せてくれるのだろうか。きっと今の彼なら、訓練なんて銀河の果てくらいに遠い話に聞こえるだろう。そんな一夏の驚く表情を想像しながら走り続ける。

 気づくと周りの霧は晴れて明るく、海からは白く眩しい朝日が昇り始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうも、皆さーん!紹介に預かりました、更識楯無です!今日は専用機持ちたちのタッグマッチトーナメントが行われます!」

 

 壇上に立つ楯無会長は、眼下に見える大勢の生徒たちへ向けてラフな挨拶を述べた。

 

 コンサートでも行えそうな、高い天井と中心を囲むようにある客席を備えた多目的ホールの中心に私たち生徒は集められていた。

 先程までガヤガヤと私語が聞こえていたものの、彼女の登場により、辺りは水を打ったようにしんと静まり返っていた。さすがのカリスマ性、といったところか。少々アクの強い人物であるが彼女の人気と実力が確かなものだと再認識してしまう。その中で私はじっと、楯無会長の言葉に耳を傾ける。

 今日行う1日限りのタッグマッチトーナメントは結構ハードだ。

 

 まず、この開会式終了後10時から午前中いっぱい各予選が行われ、休憩を挟んだ後にそれぞれ準決勝、決勝が行われる。今回の出場は6組。当日に組み合わせが決まるため、シード権を得られるかはわからないものの、最大で3組のペアと試合を行うことになる。

 またこのトーナメント戦では2勝先勝方式がとられ、3戦を行う間に先に2勝した方が次の試合に臨めるというルールになっている。元々出場組が少ないこともあってか、見ている生徒へより専用機持ちの力を存分に見てほしいという考えからこのようになったそうだ。

 つまりは、最大で9試合を1日で終えようとすることになる。きっとタッグマッチが終わる頃には私たちはヘトヘトになってベッドに飛び込んでいるだろう。

 

「それでは、実りのある時間になるよう、期待を込めて開会のあいさつとさせていただきます」

 

 いつになく、タッグマッチについて真面目な話をしていた会長は一瞬、マイクから離れ、目を閉じて一呼吸を置く。そして、再び目を開けた会長は、いつもの何かを企んでいるようなしたり顔に戻っていた。

 

「とまぁ、堅苦しいのはこの辺にして、お待ちかねの対戦表を発表しまーす!」

 

 注目!と会長の右手に持っている扇子で真後ろのスクリーンを指した。先程からずっとくるくると回っていた校章がどこかへ消え、そこには今日の対戦トーナメントが現れた。

 

 

 

 

 

 人っ子ひとりいない廊下を私は歩いていた。

 残念ながら、シード権を得られなかった私と鈴の組はオープン戦に出場する。今向かっているアリーナは第三アリーナで、もう一つの初戦は第四アリーナで行われる。そちらは、一夏と更識簪ペア、そして箒と楯無会長のペアが争うという。何とも仕組まれたというか、因縁の対決というか…。とにかく色々と考えてしまうような組み合わせだ。

 以前の学年トーナメントもそうだし、一夏って本当に持っている男だなあと感心してしまう。悪い意味で。

 さて、こうして他人の心配をしている私だが、まず今自分の身におかれた状況について心配しなければならない。何せ、オープン戦の相手は上級生なのだから。

 

 アリーナの更衣室前に着くと、何やら話し声が中から聞こえてきた。

 既に来ているか、と思いつつ私は更衣室の自動ドアに手を触れる。プシュっと気の抜けた空気音が聞こえ、ドアが開く。目の前には、4、5人が横に寝転がれる程の広い空間と見慣れたロッカーがずらりと立ち並んでいた。更衣室内に入ると先程聞こえていた会話がより一層はっきりと聞こえてくる。どうやら私が入室した事に気づいていないようだ。

 その声に導かれるようにロッカーとロッカーの間の道を進むと、声の主たちがいた。

 

「あん?誰だ…ってお前もしかして…」

 

 見かけるなり私に睨みをきかせようと、前屈みになり威圧しようとしたのは背の高く、金髪をポニーテールのように後頭部に束ねている生徒だ。

 既にISスーツには着替えており、スーツの上からでも分かるような、セシリアや箒に勝つとも劣らずの抜群のプロポーションだ。…私の理想的な体型でもある。

 

「こんにちは、ケイシー先輩。サファイア先輩。私は今日この後戦う相手のハーゼンバインです」

 

「あー…確かそんな名前だったな…」

 

 私が挨拶をすると右手を顎に当て、目を細めながら私の全身をくまなく、まじまじと見る彼女、ダリル・ケイシーさんは何とも微妙な反応をする。

 

「先輩、さすがに対戦相手を確認してないのは失礼っスよ」

 

「いやー、どうせ戦うんなら相手が誰であろうと変わらないじゃん?それに勝つのはオレらだし?」

 

 制服をロッカーにしまい込みながら、ジト目で見るフォルテ・サファイアさんにケイシーさんは腕組みをしながら自信ありげに勝利宣言をする。

 

「初対面の相手にそこまで言っちゃう先輩の神経は未だに分からないっスよぉ…。あっ、いっつも先輩ってこんな感じだから気にしないでもらいたいっス」

 

 ケイシーさんの発言にフォローをしたサファイアさんも既にISスーツに着替えていた。

 長い黒髪を三つ編みにし、肩にかけている彼女は隣にいるケイシーさんと比べたら小柄で、彼女が猫背になっていることがより、そのシルエットを小さくしていた。私や鈴と同じくらいの体格だろうか。

 

「あれ?」

 

「ん?どうしたんだよ、フォルテ」

 

「いやーこの子、どっかで見覚えがあるんスよねぇ」

 

「何だお前もか。そりゃぁ、対戦表で名前見たんだろ?」

 

「そりゃそうっスけど…」

 

 何か引っかかるのか、今度はサファイアさんがむむむっと唸りながら私の方へ近づきじっと見つめる。

 …そんなに私の格好が珍しいのだろうか?

 

「君ってもしかして、新聞部に所属していたりするんスか?」

 

「ええ、まあ…そうですが」

 

 私が新聞部だということを伝えると、彼女は何かを思い出したのか目を見開く。

 

「ああ!思い出しちゃったっス!」

 

「ほう。んで、何を思い出しちゃったんだ?」

 

 後ろで興味なさそうにロッカーに寄りかかっていたケイシーさんが尋ねると、サファイアさんは彼女のいる方へ振り向いて興奮気味に話し始める。

 

「先輩!よく私が噂のデザート屋とか評判の良い食事処に行きたいって言っていたじゃないっスか!」

 

「…ああ、お前が本に書いているからってオレをよく連れ回すけど、それがどうしたんだ?」

 

「そう!まさにその本!『インフィニット・ストライプス』の食事レビューコラム担当が何とこの子なんスよ!」

 

 そっか、と他人事のように言うケイシーさんにサファイアさんは、彼女に噛み付くような勢いでインフィニット・ストライプスの話をし始めた。

 

 

 サファイアさんの愛読しているであろうインフィニット・ストライプスとはIS関連の情報を取り扱っている雑誌だ。その中で、IS学園の新聞部とのコラボとして一つのコラムを頂いている。

 そもそも、何故雑誌とコラボができたかというと、新聞部の黛さんの姉から依頼があったのだ。黛さんの姉はIS関連の雑誌『インフィニット・ストライプス』の副編集長を務めるほどすごい人で、新たな企画としてこの話が上がったようだ。

 IS学園は世間ではいわゆる高嶺の花のようなもので、誰もが知る有名な教育機関だ。その倍率は万を優に超える中で選ばれた少女たちは、ただの高等部の学生でも箔がつき、それを言い表すかのようにIS学園の生徒が登場する号だと出ない時と比べて売り上げが伸びたらしい。

 現に、よく先生からの指導で街中を歩く際にはキャッチなどの声かけには注意するように言われるほど学生への声かけが後を絶たないという。どこで顔が知られているのか定かではないが、よくナンパされた、という話はたびたび耳にする。一種のアイドルのような熱狂的なファンがいるらしく、あくまで噂なので本当かどうかは知る由もないのだが。

 なので、このようなことはまずする人はいないだろうが、IS学園の制服で街を闊歩するという行為は極めて危険とされている。だから、このことをいち早く少佐へ教えていただいたシャルロットにはとても感謝しきれない。

 さてこうして大人の事情によって頂いたコラムで、我々新聞部が総力を挙げて数々の話を書いてきた。IS学園の現状について話や学生目線でのお店、ファッションの話。数々のコーナーが単発で終わっていく中、なぜか生き残ってしまったのが食事レビューのコーナーだった。

 

 

「いいっスか?まずこの子が書くお店のレビューが正確な所がすごいんス!良くも悪くもお店の雰囲気から料理に至るまで事細かに書いてあってとっても分かりやすいのがまずポイント!」

 

「うわぁ、変なスイッチ入っちまった…」

 

 ケイシーさんが若干引き気味に後ろへ下がる。

 先程までやる気のなさそうにしていたサファイアさんを見れば誰でもこうなるだろう。

 

「さらに、というかここが一番コラムの読み所なんスけど、何と!この子がお店の全メニューを食べてレビューする所が何とも豪快なんスよ!」

 

「…それほんとかよ?」

 

「いや、まじっス!毎回きちんと全メニューが書かれたレシートが写真に載せられているのがこのコラムの定番なんス!」

 

「にしても、そんなにこいつが大飯食らいってイメージ湧かねぇなぁ。体ちっこいし、太ってないし。ホントに食っているのか?」

 

「きちんと食べていますよ」

 

「ふーん…。だったらもうちょい体つきとか成長してもいい気がするんだけどなぁ…。その栄養どこ行っているんだ?」

 

 私だってどうして成長したいのか知りたいくらいなのだが…。

 

「それで!この子のことをプロフィール名から『ゴーグルちゃん』とか『無限の胃袋(インフィニット・ストマック)』っていう愛称がつくくらいにインフィニットストライプスファンの間で言われているんスよ!」

 

 うわぁ…センスの欠片もない名前。まだ黛さん命名の方がマシである。

 

「いやーこうしてタッグマッチで対戦するっていうのもなんだか運命感じちゃうっス!というか色々とハーゼンバインちゃんに聞きたいことがあるんスけど…」

 

 ケイシーさんから離れ、息を荒くしているサファイアさんは私の方へとじりじりと詰め寄る。その時だった。

 

『それでは入場を開始します。一般生徒は指示に従い…』

 

 入場の指示のアナウンスが天井にあるスピーカーから流れ出した。入場の開始。つまりは、試合開始の1時間前という意味を示す。

 

「んじゃ、オレらも行くか」

 

「ちょっ…先輩!?私はまだ…」

 

 同じく放送に気がついたケイシーさんは、サファイアさんの手首を掴み半ば無理やり更衣室の出口へと引っ張っていった。

 

「んじゃ対戦楽しみにしているぜ、ゴーグルちゃん?」

 

 サファイアさんの抗議を無視しつつ、ケイシーさんはこちらへ手をひらひらと振り、二人はその場を後にした。

 プシュという気の抜けた空気音をして閉じる扉に私はふと我に返る。

 嵐の後の静けさとも呼ぶべきか、いやいつもの雰囲気に戻った更衣室で私はいそいそと身支度を整えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んじゃ、予定通り玲菜ちゃんは第四アリーナの取材をお願いね!私は第三アリーナで織斑くんたちの一言をもらってくるから!」

 

「了解です!黛先輩!この私にお任せあれ!」

 

 私は自分の一眼レフを手に持って自信たっぷりに答えた。

 

 いつもの、というか学園側から依頼されて、新聞部は急遽執り行われる専用機のみのタッグマッチの模様を取材している。いつもだったら、一年生組の私とクリスタが各出場生徒の一言コメントをもらってくるけれども、クリスタはタッグマッチの出場生徒。残念だけど一緒に回ることが出来なかった。なので代わりに黛先輩が一言コメントをもらう訳に回ってくれていた。

 私自身、こういった取材は好きだと思っている。学年が上がるとアリーナにある機材をいじくるらしいけれども、あんまりそっちはやりたくないかなって思う。だって、まじかで専用機持ちと会話をするなんて体験まず一般生徒の私が出来ないんだもん!試合前の緊迫した中で答えてくれるみんなを見て、私も皆みたいにいつかISを持ったりするのが夢だし、そのためにIS操縦頑張ろうって思えるからね!それじゃあ、まずは上級生から取材をしちゃおうっと!

 

 久々の取材に、軽やかな足取りになる私は、まず上級生たちがいるピットに向かった。

 

 

 

「うーん…一言か。こういうのは昔から苦手でなぁ…」

 

「先輩、そんなおっさん臭いこと言ってないでしっかりするっス」

 

「苦手なのはしょうがないだろ!うーん…ならこれだな。オレのヘル・ハウンドとフォルテのコンビに勝てる奴はいないんだ、覚悟しておけよ?」

 

「おおー、何とも強気な発言頂きましたぁ!」

 

「ま、一言言うくらいこれくらい大口叩いておかないとな」

 

 スタイルの良いケイシー先輩はめんどくさがりながらも白い歯を見せる百点満点の笑顔で一言コメントをしてくれた。

 

「バッチグーです!それじゃあ次にサファイア先輩どうぞ!」

 

 ケイシー先輩に向けていた録音機をパートナーであるサファイア先輩に向ける。

 

「えー、おほん。先輩が言っていることは間違いないっスよ。私のコールド・ブラッドの手にかかれば手も足も出せなくなるから、覚悟しておくといいっス!」

 

 三つ編みのサファイア先輩は事前に準備をしていたのか、すらすらとコメントを言ってくれた。

 

「はい、おっけーです!先輩方インタビューに答えてくれてありがとうございましたー!」

 

 二人にお礼を言うと、ピット内に聞きなれた予鈴が鳴り響いた。

 

「おっと試合30分前か。オレたちの対戦相手に取材するなら急いだほうがいいんじゃないか?」

 

「あ、ほんとだ!そうですね。私はこれで失礼します!」

 

 私は一礼すると、その場を後にした。

 次は鈴ちゃんとクリスタへのインタビューだ。

 

 それにしてもかっこよかったなぁ…。

 ふと、鈴ちゃんたちのいるピットへの移動中にふとケイシー先輩の事を思い返した。

 三学年唯一の専用機持ちである彼女の人気が高いのは重々承知している。あのさばさばとした性格に、スタイル抜群の体つき。誰しもが夢見るであろう、姉御肌そのものだった。おまけにIS操縦がうまいときたもんだ、一目置かれないはずがない。それに、その人気を表すかのように彼女には、サファイア先輩という恋人がいる。別に女の子同士がくっつくということは今のご時世、当たり前のことになっているし、あのケイシー先輩のことだから、さぞ他の生徒からも告白されていたのだろう。

 そんな学園内での恋愛事情で顔が熱くなってしまった私はぶんぶんと顔を振り、次の取材へと切り替える。

 ちらりと今歩いている廊下を見て、誰もいないことを確認する。だって一人で顔を真っ赤にしているところを見られるなんて恥ずかしいもん!ここに誰も居なくてよかったと思わず安堵した。

 

 

 

 

 鈴ちゃんたちのいるピットに着くと、ISスーツを着ている二人はすぐに見つかった。何かの備品が入っているであろう、銀色の箱の上に二人は座り込み、気難しそうな表情で手元にある画面をじっくり見ていた。きっとこの後の試合の作戦を立てていたのだろう。鈴ちゃんたちに近づくと、私が声をかける前にクリスタが私のことに気づいたみたい。

 

「鈴、新聞部の取材が来ているよ」

 

「やっほー二人とも!試合前のインタビューに来たよ!」

 

 私はひらひらと手を振り、一枚写真を撮る。

 

「なんだ、玲菜じゃない。いっつも大変ね」

 

「まあまあ、こうやってみんなのとこに取材に行くのが好きなわけだし?楽しいから別にいいの!」

 

 もうすぐ試合が始まっちゃうからと私は早速録音機をポーチから取り出した。

 

「またコメント?前回のコメント流用できないの?どうせお蔵入りになっていたでしょ」

 

「何言っているのさ!こういうのは新鮮さが大事なの!ささ、コメント頂戴!」

 

 情報は魚のように新鮮さが大事だと黛先輩は言っていた。さすがにこれだけは譲るわけにはいかない!

 

「うーん、そうねぇ…。最近練習試合ばっかりだったし、ここらで私の本気をみんなに見せつけないとね!」

 

「おお、いいコメントありがとー!我らがクラス代表!先輩方を倒しちゃってください!」

 

「当たり前じゃない。相手が誰であれ、私の華麗なる技術を見せつけるだけよ!」

 

 ふん、と鈴ちゃんは胸を張って高らかに宣言する。ここで一枚写真をパシャリ。いいどや顔である。

 

「さてと次は…」

 

 クリスタの番だね、と言おうとした時だった。突然、大きな機械音が右側から聞こえてきたのだ。その機械というのは、遠くに見えるISの出入り口であるピットの扉で、それは大きな音を立てて上に上昇していた。外からの風がピット内に吹かれ、地面にあった砂が巻き上がり、私の制服にぶつかる。

 

「あれ?もう試合なの!?」

 

 私はひどく後悔した。

 10分前には取材を終えようとしていたが20分前にはピット内には入ってはいけなかったようだ。私の見積もりの甘さが露呈してしまった。だが、クリスタは私の発言をフォローしてくれた。

 

「いえ、普通は教員からの指示があった後に扉は開くはず。指示なしで勝手に開くのはこれまでないよ」

 

 ピット内に大きな音が響き渡る中、クリスタは巻き上がる砂を腕で防ぎながら大きめの声で叫んだ。

 つまりは誤作動なのだろうか?どちらにせよ、試合はもう少しで始まってしまうのだから、急いでクリスタのコメントをもらわないと。

 

 がこん、と音を立てて扉の開ききりアリーナが一望できるようになった。アリーナから見える空はあいにくの曇り空。濃い鼠色の雲たちが空を覆いつくしていた。秋の肌寒さに身震いするも、録音機の録音ボタンを押す。とにかく今は取材を終えることを優先させないと。

 焦る気持ちを抑え、クリスタの向くと彼女はこちらではなく、開かれた扉の方をじっと見ていた。

 

「どうしたの?」

 

「何…あれ」

 

 クリスタは独り言をつぶやく。鈴も同様に扉の方を見つめ、そして身構えていた。

 その時、ふと再び風が巻き起こるのを感じた。ただ、それは先程とは違う、メリハリのある風。まるで、自然ではなく人工的に作られたような。そんな感じだった。

 私も二人と同様に扉の方を見てみる。

 

 すると、そこには人型の機械が上空から舞い降りてきていた。

 両手を横に広げ、足を綺麗に揃えている機械はまるで天使のように優雅に羽を広げながらピットの地面に着地した。その機械は赤く、体のあちこちにはいくつもの大小様々な丸が造形されており、右手には鋭利な刃物があった。

 

「これって先輩方のIS…?」

 

「いいや、こんなISじゃないね。先輩たちのは」

 

 私のつぶやきにクリスタは自身のIS、サンドロックを展開しながら応えた。ちらりと鈴も見ると同様に甲龍を展開していた。

 

「じゃあ…」

 

 誰のISなのだろうか。そう言い切る前に、赤いISのようなものはこちらへ歩み寄りながら左手をこちらに突き出した。

 羊のような角状の突起物のある顔は描かれた線に沿って黄色く光るだけで何も答えなかった。その代わりに。

 

 その代わりにそれは、左手から音を発していた。4つある細い爪を目一杯に広げ、その手の平にある小さな4つの丸から緑色の光を発することで答えていた。でもそれが、私にはコミュニケーションを取るためのものだとは全く思わなかった。そしてそれはすぐに、聞き慣れない音を発しながらこちらに撃ってきた。

 

 



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第30話 正しい選択

あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。


 何度も揺れる地面に、けたたましく鳴り響く警報音。アリーナで生徒の誘導をしていた中井佳那は他の教員にその役を任せ、すぐさま管制室へと向かっていた。

 彼女の走っている廊下には誰一人としておらず、ただ頭上の教室名が書かれている名札があったはずの場所には、『非常警戒警報』という赤い文字で埋められていた。

 

 IS学園でイベントがあると必ず何か事件が起きていたために、セキュリティ部門を担当する彼女はレーダーや警報、そして警備の部分を強化して今回のタッグマッチに臨んでいた。しかし、それは非情にも敵の襲撃を許すという結果となってしまった。結局何も変わらなかったのだ。

 その事に、彼女は非常に腹立たしく思うも、それと同時に自分たちの無力さを嘆じた。

 

 ドアをこじ開けるように、管制室へ入った佳那の目に飛び込んできたのは、見知らぬ全身装甲(フルスキン)のISたちが映し出されたモニターだった。

 既に戦闘が始まっているようで、映像にはタッグマッチに出場予定だった専用機持ちが未知のISと攻防を繰り広げていた。

 

「こいつらは…」

 

「おそらくあれは以前にも来た無人機の発展機だろう」

 

 管制室にいた千冬が佳那の方へ振り向かずに答える。

 

「何故そんな事が…」

 

「やり方が全く同じだからだ」

 

「やり方?」

 

 言葉の意味にイマイチピンとこない佳那は背中を向けている千冬を見ていると、千冬は先程からコンソールを叩いている山田真耶に近づく。

 

「山田先生、ロックされた扉の状況は?」

 

「現在、教員並びに整備課の生徒と共にクラッキング中です!ですが、アリーナ内で待機していた出場生徒たちへ参戦できるかどうかは…」

 

「まさかレベル4までシステムロックが引き上げられているの!?じゃあ以前の…」

 

 そう、それは以前のクラス代表戦での出来事。

 一年生の初戦に乱入してきた無人機の時と同じであった。

 

「ああ。それに敵の照合データが該当しない事を考えると、おそらくあれらも無人機だろう」

 

「またしてもやられたという事ですか…」

 

「残念ながら、そういう事になる」

 

「…!哨戒にあたっていた教員からは!?」

 

 焦ったかのように佳那は千冬に近づきながら聞く。

 

「何度も応答しているが、反応が返ってこない。おそらくどこかで…」

 

「そんな…」

 

 こちらへ振り向きながら言い放った千冬に、彼女は歩みを止める。

 ただ、強く拳を握り俯いたまま、彼女は千冬へ一言も発しなかった。

 そんな彼女を見ていた千冬は、モニターに再び顔を向ける。

 

「お前は一体何を企んでいるんだ…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「鈴!」

 

「分かっているって!」

 

 玲菜を庇いながら私は、鈴に叫んだ。

 鈴は両手に双天牙月を展開しながら、奴___ゴーレムと名付けられたISに全速力で近づく。

 彼女は大きく振りかぶると、反応が遅れたゴーレムの前で飛躍する。ゴーレムの頭上を飛び越えながら体を縦に回転させ、手に持つ刃が奴の頭部を狙った。

 だが、ゴーレムは頭を横にずらすことで直撃を避ける。金属同士がぶつかり合う、聞くに耐えない音がピット内に響いた。

 鈴は滑りながら地面に着地し、右手を地面につける事で先程の勢いを相殺する。

 

 攻撃を受けたゴーレムは、ターゲットを鈴に移したようで体の向きを変えて飛翔し始めた。

 予定通りだ。

 

「クリスタ!お願い!」

 

 どうにか気を引く事が出来た鈴は、予定通り狭いピットからゴーレムを追い出すために外へ、アリーナ内へと飛び出す。それに釣られるようにゴーレムは大きな羽を広げて追いかけ始めた。

 私はそのやりとりを見届けることなく、すぐに立ち尽くしている玲菜を抱き抱えて出入り口に急いだ。

 

 

 ピット内は先程までの騒音がまるで嘘であったかのように静かになっていた。あたりに散らばる物品さえなえればいつものピットそのものだ。

 すぐにでも鈴の所に加勢したいという気持ちが強いが、今はやるべきことがある。玲菜を下ろすと、私はすぐにサンドロックを解除した。さっきの衝撃___左腕の盾で攻撃防いだためーとてもヒリヒリと腕が痛む。かなりの出力だろう。

 痛みに耐えながら私は右手でその場に座り込んでいる彼女の肩を掴んだ。

 

「玲菜、怪我はない!?」

 

 玲菜からすぐに返事は返ってこなかった。

 その目は虚ろになり、今までのように活気のあった彼女とはまるで別人になっていた。

 

「玲菜!」

 

 肩を激しく揺らすと、彼女は少しだけ首を動かし目線を合わせる。

 

「あ…クリスタ…」

 

「しっかりしてよ!怪我はない!?歩ける?」

 

「ねえ、クリスタ」

 

「何?」

 

「私…死ぬ所だったの…?」

 

 彼女は弱々しく真っ白になった唇を動かす。

 

 彼女の声を聞き、私はふと不思議な感覚を覚えた。それは何とも一言で表すことが難しいものだった。今の環境が懐かしくも感じるようで、既視感のあるようで、どこか昔の夢でこの光景を見た事があるようで。でも私にとっては、初めて見る光景で。

 

「クリスタ…?」

 

 彼女の声に私は我にかえる。今はこんなことを考えている場合ではない。頭を横に振り、再び彼女の瞳を見据える。

 

「そう、結構危なかったよ。私がいなきゃどうなっていたことか」

 

 いつもはしない、少しおどけた口調で優しく語りかける。

 そういえば今起きている現状が分からないよね、と伝えると彼女は一言も発さずに頭を縦に振る。よく聞いてね、と前置きをして通信から聞かされたことを彼女に伝えた。

 

 

 サンドロックに管制室からの通信があったのはピットの扉が開ききったあたりからだ。オープンチャンネルにブリュンヒルデの声が聞こえてきた。

 

『全専用機へ通達する。現在、IS学園のシステムがハッキングに遭い、こちらからの操作なしで勝手に各施設が動いている。さらに未確認のISらしき物体が複数IS学園に接近している事も確認された。現時点をもって未確認ISをゴーレムと断定。各専用機持ちはゴーレムの対処にあたれ!』

 

 

 

 

 

「だから、玲菜はこのままピットからアリーナの入り口まで戻ってね、わかった?」

 

「うん、わかった」

 

 後は一人で大丈夫、と自分に言い聞かせるように玲菜は何度も言った。

 自力で立ち上がっているところから怪我はないだろう。

 

「じゃあ私は行くね」

 

 彼女の姿を見届けた私は、再びサンドロックを展開する。

 

「クリスタ!」

 

 アリーナ内へと行こうとした時、後ろから声をかけられた。先程よりは元の玲菜に戻っていた。

 

「どうしたの?」

 

「クリスタ…その…無茶はしないでね」

 

「大丈夫。あんなのちゃっちゃと片付けるさ」

 

 彼女に背中を向け、歩きながら右手で軽く手を振りそれに応える。

 すぐに鈴の所に行かないと…。

 

 

 

 

 

 ピットの出入り口の端に立つと、アリーナが一望できた。鈴の居場所を探すとそれはすぐに見つかった。

 

「鈴!」

 

 彼女はアリーナの壁に打ち付けられていた。起き上がる素ぶりを見せない彼女に、ゴーレムは上空から急速に近づく。

 

 させない!

 

 PICを作動させ、すぐさま鈴の所へと飛び出した。

 右手にビームサブマシンガンをコールし、背中を向けているゴーレムに撃つ。

 こちらの攻撃に気づいたのか奴は、急降下をやめて身を守るように体を羽で覆った。

 鈴の所へと回り込むように撃ち続け、ゴーレムをこちらに近づけないようにする。

 

「鈴!大丈夫!?」

 

 アリーナの地面に降り立った私は、後ろにいる鈴に叫ぶ。

 

「…何とか…ね」

 

 壁面の崩れる音が聞こえ、真後ろにいる鈴はふらつくように立ち上がった。

 

「クリスタ、あいつ…」

 

 鈴が苦しみながら何かを言おうとした時、ゴーレムは動き始める。奴は弾幕から逃れようと、体を左右に動かして回避行動を取り始めた。体を覆うようにしていた羽を広げ、刃物を展開する右腕を前に掲げる。そして、左手の平から緑色のエネルギー弾を撃ちながら、こちらへと突進してきた。

 

 その動きを見切った私たちは、左右の上空に避けることでその攻撃をかわす。

 私たちが先程までいた場所には、奴の刃物が振り下ろされ、硬い土の地面に突き刺さる。その衝撃で、奴の周りには土埃が立ち込め、その赤い天使の姿を隠した。

 

 その様子を見ているとハイパーセンサーからある警告文が表示された。

 

『警告 シールドバリア展開に損害が発生。絶対防御が正常に稼働しない可能性があります。』

 

 それは全く見た事がない警告文であった。まず試合中に見ないものだ。目の前に表れる警告文の上に、鈴からのプライベートチャンネルが開かれる。

 

「クリスタ、あいつ…絶対防御を貫通させる攻撃をしてくるから!」

 

「貫通?」

 

「そう、なんでか知らないけど体に…」

 

 その時、ロックオンされているという警告音が鳴り始める。

 土煙から奴が現れてきた。凄まじい速さで。

 

「!!」

 

 とっさにヒートショーテルをコールするも、ゴーレムの瞬時加速(イグニッションブースト)と力に打ち負かされた。

 奴の斬撃を防いだことで、よろめくとすぐに腹部に衝撃が走る。奴の左手による殴打を受けた私はそのまま目の前に見えるゴーレムを見ながら、地面へと背中からぶつかった。

 

 攻撃を受ける。そして、どこかにぶつかる。いつもの事だった。ISを使っていたらよくあることだ。いつものようにそのまま立ち上がって体勢を整えなければならなかった。だが、私はその簡単なことが出来なかった。

 

 言葉にならないような声が口から出てきた。

 腹部と背中には痛みが走り、まるで肺が握りつぶされているかのように息が出来なかった。初めてだった。ISに乗ってこんなにも苦しい思いをしたのは。

 

 敵からダメージを受けることはよくあった。そりゃ、互いに武器を持って戦うのであるから無傷で済むってことはなく、よほどの上級者ではない限りダメージは避けられない。だが、操縦者には直接痛みが伴うことはなかった。これは、ISによる絶対防御の機能が発動しているからだ。

 口を必死に動かし、酸素を体に取り込もうとする。

 その絶対防御がうまく動かないと直接ダメージが操縦者に伝わってくる。今のように。

 やっとの思いで上空を見上げると、鈴が龍砲をゴーレムに対して撃っていた。連続して衝撃砲を放っているものの、奴はまた羽を体の前面に覆う事で攻撃を防ぐ。見ている限りでは、あまりダメージを受けている印象ではなかった。

 

「どう?立てそう?」

 

「何とか…ね」

 

 先程の鈴の気持ちを思いながら、私は何とか立ち上がる。耳にはいつもよりも鼓動の早い心臓の音が聞こえていた。

 これ以上戦闘を長続きさせるわけにはいかなかった。これまでのような戦い方をしていては体がもたない、そう感じた。

 ならば、どうすればいいか?

 考えなくとも、その答えが私の頭の中にパッと浮かぶ。

 

「鈴、そのままそいつを引きつけて!」

 

 相手の確認もせずに私は上空へと飛躍する。そして、鈴の正面___ゴーレムの背後に着くとすぐさま肩部ミサイルをコール。がら空きの背後へと発射した。発射したミサイルに気づいたゴーレムは、そのままさらに高く飛ぶ事で攻撃をかわす。

 だが、これで奴は前面を覆う羽は無くなっていた。鈴も奴と一緒にさらに高く飛ぶ。

 

「正面ががら空きよ!」

 

 両手に持っている双天牙月を連結したで鈴は、ゴーレムに振りかざした。彼女の放った素早い斬撃に、奴は左腕を突き出すことで、その攻撃を防ぐ。

 その装甲は硬く、攻撃を受けた部分が凹むだけで済んでしまった。

 ゴーレムは鈴ごと左腕で素早く振りほどき、そして肩部にあるくぼみからレーザーを放った。それに反応した鈴は、体をくねらせるようにかわし、奴との間合いを取る。

 

「なるほどね!クリスタのやりたいことはわかったわ!」

 

 鈴は私の言葉を理解したらしく、体勢を整え再び双天牙月を構える。

 

 奴は複数を同時に相手することが出来ないのだ。

 初めて目の前に現れたときもそうだ。最初は玲菜に狙いを定めていたのだが、鈴が攻撃をした事で、そのターゲットが玲菜から鈴へ移った。一つにしか攻撃対象を定められない。この習性を利用すれば、倒せる。

 

 

 

 

 なあ、本当にそう思うか?

 

 

 

 

 ふとそんな疑問が私の頭の中に浮かぶ。確かにこれで奴にダメージを与えることができるだろう。

 

「今度は私が惹きつけるわ!」

 

 鈴が肩部に浮遊している龍砲でゴーレムを攻撃する。

 

 しかし、奴の装甲は硬い。単純に装甲へダメージを与えても意味がないのだ。どこか…どこかに弱点が…。

 

 先程の攻撃でターゲットはすっかり鈴に移り、ゴーレムは私に背を向けていた。

 両手にヒートショーテルをコールする。

 考えろ。考えるんだ。

 

 肩と左腕から放たれるビーム兵器を鈴は躱しながらも、衝撃砲でゴーレムへ攻撃を繰り返しながら、双天牙月を持ち、奴に近づく。

 そんな彼女を見ていた私は、すぐにゴーレムに目を移し、熱を帯びてきたヒートショーテルを投げつけた。

 高速に回転しながら、それらは弧を描くように、互いにぶつからないように奴の足元へと飛んでいく。私の右手にはビームサブマシンガンが握られていた。

 

 鈴の斬撃にヤツは右腕につけられている刃で受け止めていた。今なら動けないはず。

 

 回転するヒートショーテルの速度を上げ、更に奴へと近づけた。それらは、奴の膝裏の薄い装甲をえぐるように突き刺さった。

 すぐさまビームサブマシンガンでそれらを撃ち落とす。熱を帯びたショーテルたちは爆発を起こし、奴の体勢は崩れた。

 地面へと落ちるゴーレムを鈴は見逃さなかった。背中から落ちるゴーレムに近づき、双天牙月を振りかぶる。奴は左腕で体をガードしようと前に掲げるが、鈴はそれを左足で蹴り、斬るすき間を作る。

 その勢いで体を回転させた鈴は、刃を展開しようと前に掲げたゴーレムの右肘から先を斬り落とした。

 

 アリーナの地面に切り離された右腕とともにゴーレムは落ちていった。地面には大きなクレーターが作り上げられ、それによって辺りに粉塵が舞い上がる。

 

「よし!」

 

 鈴はガッツポーズを作り、喜ぶ。装甲の薄い関節部分を狙うのは正解だった。これを繰り返していけば、奴の動きを封じ、活動停止に追い込める。

 そう彼女は思っているだろう。

 

 

 

 

 いいや、あれだけじゃ倒せない。

 

 

 

 

 だが、私にはなぜか不思議と何かが足りない。そういう感覚に襲われた。

 砂埃が晴れ、ゴーレムの姿が再び現れた。

 動き出そうとするその姿を見て、私は引き金を引いた。

 

 奴は何事もなかったかのように、その場にふらつくように立ち上がると頭部を狙った射撃を躱した。身体を前に倒し、走るように逃げる。

 

「まだ動くの!?すばしっこい!」

 

 鈴は悪態をつくように言い吐くと、近接攻撃のない奴に近づく。

 その時、奴は鈴の存在に気付いたのか、くるりと体の向きを変え、肘から先のない右腕を前に突き出した。それと同時に左腕と肩からレーザーをこちらへと放ってきた。引き金から手を放し、左腕の盾を突き出しながらその攻撃を躱す。

 いつも私の体を守ってくれるはずの絶対防御は故障しており、その熱さは直に体に伝わってきた。攻撃を掠った左足には、まるで熱された鉄板を押し付けられているかのように尋常ではない熱さが伝わり、思わず体のバランスが崩れ、あの攻撃が直撃する。

 警告音が聞こえ、とてつもない熱が体全身に広がった。

 制御を失い、地面に落下する。

 熱さで顔をゆがめつつも、ゴーレムを見ると、私は言葉を失った。

 

 先程鈴が斬り落としたはずの右腕が奴の残る腕に、鉄が磁石に引き寄せられるように飛んできていたのだ。

 

「え?」

 

 はたしてどちらが発した声なのかわからなかった。見事に再生した右腕で、奴は鈴を横に突き飛ばした。鈴は、地面を何度も転がりやがてアリーナの壁に亀裂を作って止まった。

 

「…どうすればいいのよ」

 

 武器の利かない硬い装甲。瞬時加速を使用し、さらに切断された部分は再生する。

 一方こちらは絶対防御が正常に発動しない今、シールドエネルギーが余っているにもかかわらず操縦者は限界だ。

 固い地面で、声にならない声が嗚咽した。口の中には分泌物と血の混じった味がし、これが涙なのか鼻血なのかもう分からなかった。

 今までに感じたことのない足の痛みに私は立てなかった。足を何度も何度もさすっても皮膚をはがしたような痛みは消えなかった。

 

 分からない。どうすれば、この状況を打破できるのか。

 何かずしんずしんと大きな振動がした。

 

 分からない。どうすれば、あいつを倒せるのか。

 その振動はさらに大きくなる。

 

 分からない。どうすれば、私はあいつに勝てるの?

 目の前がゆっくりと暗くなるのを感じた。

 

 

 

 

 その時だった。何個ものイメージが飛び込んできた。いっぱいだ。それもいっぱい。

 ビデオだ。どれもこれもあいつをころすビデオだ。ただ、やりかたがちがって、かていがちがって…。だがどれも、()()()()()()()()()

 

 

 そっか、こうすればいいんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なん…なのよ…。反則でしょ」

 

 二回も壁にぶつかった私は、ふらつきながら体を起こした。頭はガンガンするし、さっきの投げた飛ばされた衝撃で右腕が痛い。正直めまいがひどく視界は定まっていないに等しい。

 それにあんなの見たことも聞いたこともないよ。機械が自己修復するなんて。

 ハイパーセンサー頼みであいつを探すと、それはすぐに見つかった。

 

「クリスタ!」

 

 あいつはゆっくりとクリスタに近づいていた。あの子はというと地面にうずくまっている。全く動く気配はなかった。

 

「もう!」

 

 痛みに耐えつつ、両手に双天牙月を構えると奴に近づく。

 走りながら龍砲を撃つが、奴は後ろ向きなのにも関わらず上手に羽で私の攻撃を防いだ。

 

「器用な事するじゃない!」

 

 衝撃砲の発射をやめ、双天牙月で斬りかかる。袈裟斬りを奴の腕の付け根目掛けて放つと、奴は振り向いて右腕でそれを受け止めた。相変わらずその力は強く、すぐに押し返される。

 後ろに吹っ飛ばされた私は、転ばないように前かがみの姿勢をとり、手を地面につけることで対処した。

 

 目の前にいるゴーレムを見据えると、その後ろでクリスタがふらつきながらも立ち上がっていた。

 

「クリスタ!よかった…私があいつの気を引くから」

 

 その隙に、と言おうとした時、発砲音が聞こえてきた。

 

「何!?」

 

 思わずその音に驚くも、その音がどこから鳴っているかはすぐにわかった。それは目の前からだった。クリスタが両手にマシンガンを持ってゴーレムに撃っていたのだ。

 

「ちょっと、私の話聞いているの!?」

 

 なおもマシンガンを撃ち続ける彼女にゴーレムは微動だにせず、その場で振り返ってあのレーザーを撃ち反撃する。クリスタは体勢を低くし、ゴーレムの周りを回るようにして回避した。そして丁度、先程とは反対側の所まで回ると再び手にサブマシンガンを持って撃ち続ける。つまり私があいつを襲えって意味なのかしら。

 双天牙月を強く握りしめ、あいつの背後に回ろうとした時、通信が入った。

 

「邪魔………するな」

 

「…え?」

 

 それはクリスタからだった。ただ、その通信に驚きを感じた。あまりも彼女が別人みたいだからだ。感情のこもらない声に聞いたことのない命令口調。それだけではない、私がまだ()()()()()()()()邪魔をするなと言ったのだ。

 

 マシンガンを撃ち続ける彼女に、あいつはまたしてもレーザーを撃って反撃した。だが、それもまたクリスタは躱した。後ろに猛スピードで下がって。

 

「後ろ向きに瞬時加速(イグニッションブースト)!?」

 

 大抵瞬時加速は前方にしか使わないものだ。練習をすれば前後左右どちらにも使うことは可能であるが、前方以外に使うと体への負担がひどいはずなのだが…。

 そんな彼女の行動に誘われるように、ゴーレムは私を無視してクリスタの方へと飛んでいった。

 

 壁際にまで下がったクリスタはマシンガンを構える。そして、引き金を引いた。だが、その標的はゴーレムではなかった。

 クリスタは、地面に向けてマシンガンを放つ。アリーナの地面に銃弾が埋め込まれ、辺りに散った砂が散乱する。少しして、あの子の姿は砂によって隠されてしまった。

 視界を遮られたゴーレムは砂埃の舞うその場に止まり、左腕を掲げてクリスタのいたはず場所に向ける。そして、両肩と左手からレーザーを放った。拡散するレーザーが砂埃を切り払い、複数本のレーザーの道筋を作る。それらは、どれもアリーナの壁と地面に当たり、再び砂埃をまき散らした。道筋が消えたその時、ゴーレムが放った方向からは反対側から何かが飛んできた。それが一体何なのか私のハイパーセンサーがすぐに教えてくれた。クリスタのヒートショーテルだった。うねりを上げて回転するそれらは、ゴーレムに向かっていく。あいつは少し下がり、それらに向けてレーザーを放つ。だが、ショーテルたちはそれらの攻撃を見計らったように綺麗にレーザーを躱した。対処しきれないと判断したのか、あいつは右手にある刃でショーテルたちを叩き落としていった。

 二回、カランコロンとショーテルたちが地面に落ちる音が聞こえた。その頃には辺りに漂っていた砂埃は消え、ハイパーセンサーなしでも視界がはっきりするようになった。

 そこで、私はクリスタがあいつの背後に張り付いていることに気が付いた。

 

「クリスタ!?」

 

 クリスタはあいつの背中に器用に捕まっていた。両手をあいつの首に絡みつき、両足は丁度腰のあたりに足を絡ませていた。ゴーレムはクリスタを振り落とそうと何度も振り払おうとするが、彼女は全く離れなかった。

 

 一体あの子は何を考えているのだろうか。

 私は真っ先に思った。ISがましてや戦う相手にしがみつくなど前代未聞だ。聞いたことがない。何をしたいのか想像もつかなかった。

 彼女の行為にただ呆然としていると、ある変化が起こった。

 

『警告 莫大な熱源を確認。注意してください。』

 

 ふとハイパーセンサーからそんな警告文が流れてきた。

 それと同時に、クリスタが光り始めた。いや、クリスタのISが光り始めたのだ。まるで、熱を持っているかのように赤く光り、その輝きは段々と増していった。そう、それはまるで…。

 

「ちょっと嘘でしょ!?」

 

 ゴーレムが振りほどくのをやめ、飛び上がったときクリスタのISは爆発した。

 

 

 目を開くことが出来ないほどの光とうるさいほどに聞こえる爆音、そして熱が私を襲い、爆風に飛ばされないようその場に伏せる。私はただ、目と耳をふさぐことしかできなかった。

 

 

 

 

 風が収まり、顔を上げると一面が火の海だった。

 ゴーレムの一部だったものが辺りに散らばり、バチバチと音を立てて激しく燃える。

 

「嘘…でしょ」

 

 呆然とした。足の力がなくなり、その場に座り込む。

 確かに、私は見たんだ。クリスタがゴーレムに引っ付いてそして…。

 

「嘘…嘘よ」

 

 視界がぼやける。涙が止まらない。

 クリスタが自爆したんだ。なんでそこまでしないといけなかったのか。なんで命と引き換えにしてまでやらないといけなかったのか。今の自分には、全く理解できなかった。

 受け止めたくない。クリスタがいなくなったなんて。

 

 

 ガシャン。

 火の海に囲まれた、このアリーナで何かの音が聞こえた。

 

「何!?」

 

 ふと、クリスタかもしれない。そんな希望が私の中に生まれる。涙をぬぐい、ハイパーセンサーで音の場所を探すとすぐにそれは見つかった。

 

 ゴーレムだ。だが、まるで比べ物にならないほど完全に別なものと化していた。背中にある羽や手足もほとんどなく、装甲は剥がれてISの骨組みしか残っていなかった。

 

「まだ動けるっていうの?」

 

 あいつの右腕が動いていたのだ。空を掴むように手を伸ばしていた。

 龍砲を構え、ゴーレムにターゲットを合わせる。ロックオンをしたその先に、見覚えのある残骸が私の目に飛び込んできた。ISだ。

 左肩先から何もなく、辛うじて右腕と頭部は残っていた。最も特徴的だったV字アンテナは折れている。下半身は上半身から切り離され、遠くに落ちていた。だが、私はふとこの残骸たちを見て疑問に思った。

 確かに、このISだったものにはクリスタが乗っていた。あれほどの爆発を受けていたのだから、無傷で済む話ではなくむしろ死んでいてもおかしくない。しかし、この残骸たちには肉片どころか、血一滴でさえ落ちていなかったのだ。

 

 ただ呆然とその様子を見ていると何かがあいつの胸貫き、ゴーレムの活動を停止させた。空からの攻撃だった。

 

「大丈夫か、鈴!」

 

「箒!」

 

 それは箒だった。上空にいた彼女は私の所へと降りてくる。箒の紅椿の両腕には先程放ったと思われる見知らぬ弓が見えた。

 

「無事で良かった!今一夏と手分けしてみんなの援護に回っていたのだ」

 

 それにしても、と箒が言葉を続ける。

 

「何だと言うのだこの状況は?鈴、一体何をしたのだ」

 

「これはその…」

 

 あまりにも不可思議な状況に混乱する。今何が起きているのか私が知りたいくらいだ。

 

「それよりもクリスタはどうした?一緒じゃないのか?」

 

「クリスタが……自爆したの。」

 

「はい?」

 

 箒が眉を寄せる。

 

「…だから、クリスタがあいつに取り付いて自爆したの!」

 

 箒は辺りを見渡す。周りには、今なお火をあげて燃えるゴーレムの部品があった。

 

「何を言っているんだ。ISに自爆機能など聞いたことがないぞ!それに、自爆したと言うならばあいつは…」

 

「うん、最初は私もそう思ったわ。けど、あいつはISに乗ってなかったの」

 

「え?お前はさっきから何を…」

 

「私だってわけがわからないよ!いなくなったと思ったら、ISに乗っていないし…」

 

 ISの残骸ならあれよ、と箒に指差した。箒は動かなくなったゴーレムの横を通り過ぎて、サンドロックだったものに近づく。私も彼女の後を追った。

 

「もぬけの殻だと…」

 

 箒はサンドロックの左腕の部品を持ち上げる。本来なら、そこには人だった肉片やら血やらがこびりついているはずだが、それの中身は空っぽだった。

 

「じゃああいつはどこにいるっていうのだ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっつ…」

 

 右手を手のひらに当てる。さっきまで風邪をひいていたかのように暑かった体温は下がり、手の甲についた汗がほんのりと冷たかった。

 

 空にあった厚い雲は既になく、西側の空が赤く染め上がり夕刻を告げていた。

 正直右腕以外を動かしたくなかった。クレーターの傾斜にいるだけで、私の体は悲鳴を上げていた。

 アリーナにできたクレーターに無理矢理入り込んだために、体には予想以上の負担がかかっていた。それに見てはいないが、恐らく全身火傷を負っているだろう。皮膚が吹く風によってひりひりとして、痛い。傍らに置いてあるサンドロックの盾がほんのり冷たく、気持ち良かった。ふと、動く右手をお腹に当てる。もう大丈夫だろうか?

 先程までしていたむかむかとした感覚はない。そりゃ、最後の方なんて液体だけだったし()()()()()()()()()()。目の前で鈴が死んでいく光景を何度も見せられたが、気持ちも整理できたし今なら誰に会っても大丈夫だ。

 何故あんなものが私の頭のイメージに入り込んできたのが不思議であった。全部、方法は違えどあのゴーレムに勝つまでの過程であり、そのほとんどが私や鈴が、いやその両方が死ぬという結果を含むものだ。それらは鮮明な記憶のように思い起こされた。別にこれらは私が想像したくて思い起こされたものではない。勝手に流れ込んできたんだ。一体どこから現れたものなのか?サンドロックか?ハイパーセンサーが?それとも…?

 いや、考えるのをやめよう。眠たくなるし、これ以上考えられない。ここにいればいずれ鈴たちが私を見つけてくれる。これも()()()()()()()だ。

 

 ああ…戻ったら何を食べようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うーん、やっぱだめだったかぁ…」

 

 薄暗い部屋で女の声が響く。悲しげな感じに女は呟くが、その表情は笑顔そのものであった。

 明かりという光は女の目の前にあるディスプレイの光しかなく、機械じみたうさ耳を付ける女の顔が青白く見えていた。

 

「もうちょいいっくんたちと互角に渡り合えると思っていたけど、やっぱ無人機はダメだねぇ。しかし、性能テストが本命じゃないからいいのさ!」

 

 せわしなくコンソールを動かしている女の目には、ディスプレイに映るISのデータの画面があった。3Dモデル化されたそれは一定間隔でぐるりと回る。まるで女性をイメージしたようなスリムな胴体にそれより一回りほど大きな翼。肩や左腕には何かの発射口が見える。

 

「ま、ゴーレムⅢは第三世代には勝っていたし、これ以上の性能アップはさせなくていいかなー」

 

 例外はいたけどね、とそのうさ耳女はボソッと呟く。

 

「にしても…」

 

 うさ耳女は人差し指でコンソールの何かを押し、表示している画面を変える。そこには、『紅椿』と表された題名のデータだった。

 

「箒ちゃんもあの時のように強くなったねぇ。ゴーレムⅢを送っただけはあるよ~」

 

 うさ耳女は嬉しそうに笑う。

 

「経験値蓄積による新たな武装の構築に、箒ちゃんのパーソナルデータの収集!まさに完璧って感じだね!さすが、私!」

 

 うさ耳女が自画自賛し、うんうんとうなずいていると、突如天井に備え付けられている電気に光が灯り、部屋が明るくなる。

 辺りにはスクラップ場のように無造作に置かれた、機械に埋め尽くされているその部屋の中心にいた女性は驚き、部屋のスイッチがある場所に視線を移す。

 

「束さま、部屋は明るくしないとお体に良くないですよ」

 

 扉の近くには一人の少女が立っていた。白のセーラー服に紫色のスカート。更に、スカートと同じ色のスカーフが少女の容姿をより美しく見せていた。手入れのされた艶のある長い銀髪に両目を閉じている少女は、無表情で束と呼んだうさ耳女の方に顔を向ける。

 

「大丈夫だよ、くーちゃん。なんせ、私は束さんなんだから!」

 

「…」

 

 くーちゃんと呼んだ少女の方を向いて胸を張り、えっへんと束は自信ありげに言う。

 

「…それで何か用かな?」

 

「食事の支度が終わりました。」

 

「おお、そうか!じゃあすぐにでも行かないとね!」

 

 でもちょっと待ってね、と束はコンソールを叩き、何かの操作をし始める。

 

「ですが…」

 

「ん?」

 

「また失敗してしまいました。ですので…」

 

 ふと束はコンソールを叩く手を止め、匂いを嗅ぐ。すると、少女が開いた扉から微かに焦げた炭の匂いが漂っていた。

 

「なーに、くーちゃんの料理はいっっつも美味しいから大丈夫だよ!」

 

「…」

 

 束の言葉に少女はただ無言になる。表情を崩し何かを言いたそうに口を開こうとするも、すぐに口を閉じた。そして、再び無表情になった少女は口を開く。

 

「所で何をされているのですか?」

 

「あー。箒ちゃんのデータをまとめているの」

 

 あとね、と付け加える。

 

「次の()()()()()()()だよ!」

 

「…なるほど。今度も束さまお一人で、ですか?」

 

「もう、堅いよくーちゃん!私の事はママって呼んでいいのに!照れ屋さんだなぁ」

 

「…」

 

 少女の反応を待つ前に束は言葉を続ける

 

「今度のおでかけはくーちゃん一人で行ってほしいなぁ」

 

「わかりました。どのようなおでかけでしょうか?」

 

「簡単だよ、ある荷物を持ってIS学園に行ってもらいたいんだよね」

 

「荷物を、ですか」

 

「そう!IS学園の地下特別区画にね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい、いるんだろ?」

 

 扉を開けるや否や、その人物はぶっきらぼうに言う。眼鏡をかけたその人物の目には、いくつかのISが置かれている広い空間があった。

 倉庫ともいうべきその場所を眼鏡の人が歩き始める。全体は暗く、窓は全くなかった。明かりは鎮座しているISにだけ灯され、歩くとなると足元がかすかに見える程度だ。

 眼鏡の人が辺りを見回すように誰かを探していると、ふと頭に風を受ける感覚があった。あまりにも不自然な風に違和感を覚えた眼鏡の人は後ろへ飛びのき、頭上を見る。

 すると、そこには4つの羽を回転させている機械が音もなく飛んでいた。

 

「よ、驚いたか?」

 

 光の当てられた、ISの近くにある機材の影から出てきた人物が嬉しそうに大声で言う。ジーパンに半袖ポロシャツという、ラフな格好をしている男を見て、身構えていたメガネの人は立ち方を元に戻し、眼鏡をかけ直す。

 

「…危ないじゃないか」

 

「まあまあ、俺に抜群の操縦技術があって助かったじゃない」

 

 男は 手に持っている操縦器を操作して、自身の足もとに先程飛んでいた機械を降ろした。

 

「…そんなおもちゃで遊んでいるなんて暇な奴だな」

 

「おいおい、おもちゃとはなんだよ!知らないだろうけど、これでも俺にとっては真面目な仕事なのだが」

 

「僕には全く真面目に見えないのだが」

 

 両手を広げてアピールする男に、眼鏡の人はため息をつく。

 

「後で操縦系を改良してもらうんだからよぉ…そんときなったらお前にも見せるわ!」

 

「そうか、楽しみにしている」

 

「うわ、全然楽しみじゃなさそう」

 

 眼鏡の人の感情の籠らない無気力な返事に男はしょんぼりとしつつも、足元にあった機械を手に取って何かをいじくり始めた。

 

「…それでだ」

 

「スコール様からの伝言か?」

 

「いや、上層部からの依頼だよ」

 

 ほう、と男は感慨深げに呟く。機械を抱えて男は眼鏡の人に近づく。

 

「それで、依頼っつうのは?」

 

「ある人物の保護だ。それもとびきりの」

 

「へえ、拉致なんて久々じゃん。んで、誰なんだよ」

 

 逆立てた金髪に眼帯を左目に付けている男はにへらっと嬉しそうに言う。

 

「束博士お気に入りの娘だ」

 

 



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第31話 非日常な日常

 放課後の食堂というのは私にとって初めてのことだった。

 いつもならこの場には、ご飯を求めてやってくる生徒で賑わい、溢れかえっている。しかし、至る所から聞こえてくるおしゃべりや、食器とカトラリーがぶつかり合う音は全くと言っていいほど聴こえてこなかった。

 その代わりに、至る所の壁に埋め込まれているデジタルサイネージからは、食堂のメニューの紹介と共に効果音が流れ、食堂の中央にある大きな水槽では音を立てながら絶え間なく、酸素を供給していた。

 いつもと変わらない場所なのに、まるで別の場所にいるように感じてしまっていた。

 きっと私に心の余裕があったら、もっとこの不思議な気分を味わえていたんだと思う。今は無理なのだが。

 

「で?どうなの、そこんとこ?」

 

 負の感情が滲み出ている声に思わず、身をすくませる。別に私が何か怒られるようなことをしていないはずなのに、変に罪悪感が体にのしかかっていた。

 制服をぎゅっと握っていた手のひらには変な汗がかき、生地に染み込んでいた。

 顔をあげて、縮こまりながら目の前を見る。

 

 露出度が高くなるように改造された制服を着る、ガラの悪い娘がジロリと私を睨んでいた。食堂の窓から差す夕日がより、彼女の表情を際立たせる。二組のクラス長であり、中国の代表候補生の凰鈴音が左肘をテーブルにつき、前のめりになりながら、私の返答を待っていた。ちらりと彼女の近くに座っている人たちを見る。

 ドイツ代表候補生にイギリス代表候補生、そして篠ノ之博士の妹。誰もが腕を組み、そして腰に手を当てて私を睨んでいた。この光景はさながら、悪の組織の幹部たちに尋問されているといったところだった。

 どうしてこんな事になってしまったのだろうか…。心の中で私は天を仰ぎ、今日の私の行動を後悔した。

 

 

 

 

 今日の私は、何かと気分が良かった。

 撮り溜めていたアニメが個人的に熱い展開になっていたからかもしれないし、お姉ちゃんの怪我が少し良くなり、リハビリも兼ねて生徒会の仕事をするようになったからかもしれない。自分自身を押さえつけるような溜飲は下がり、久々に清々しい気分が私の身体を満たしていた。

 そんな気分上々な私は気分に身を任せ、食堂へと軽い足取りで向かった。

 ここでいつもなら、放課後は整備室へ向かい弐式の製作を行っていた。だが、それは今できない。何せ、弐式の蓄積ダメージレベルがCになり、製作どころではないから。

 

 遡ること数日前。と言っても私にとって、その出来事は随分と昔に起きたことのように感じてしまう。

 謎のISに襲われたこと。そのISが現れて身動きがとれなかった私を一夏が助けたこと。そして、お姉ちゃんにかばわれたこと。

 結局謎のISは皆の頑張りもあり、5機全てを活動停止へと追い込むことに成功した。特に、一夏と篠ノ之さんが頑張ってくれた。二人は私たちと対峙していた謎のISを撃破した後、すぐに他の専用機持ちたちの所へ救援に向かった。私も一夏と同じように助けに行きたかったものの、既に弐式のエネルギーは残っておらず、二人を追うことは出来なかった。篠ノ之さんのIS、紅椿のワンオフアビリティで二人のシールドエネルギーが回復していたらしい。

 

 後から聞いた話だと、どの専用機持ちたちも蓄積ダメージレベルがCを超える酷い状況で、中にはIS自体を意図的に自爆させたために原型を留めていない状態になったものもあったという。なんでも、先生の話によれば、あの時襲ってきたISは腕部から絶対防御に異常をきたすようなものを散布していたらしく、いつも以上ISにダメージを負ってしまっていたようだ。言わば常時零落白夜を受けていたに等しい。あの時、弐式からの何度も表示されていた警告文はこれが原因だった。正直、この話を聞いた時、私は自分の耳を疑った。そもそも、ISのシステムに対して何らかの影響を及ぼす武装は聞いたことがないからだ。あったとしても、以前に学園で起きた事件の原因であるVTシステム、もしくはISの暴走といったISの内部によるものしかない。どちらにせよ、IS学園を襲ってきた連中の技術力は計り知れないことは確かである。

 こうして謎のISによる襲撃により、深い傷を負った私の弐式は現在倉持技研で修復作業を行っている。あそこの人たちは嫌いだけれども、今回ばかりはそうともいっていられない。けれども、弐式を技研の人に渡しに行った時はなんとも苦痛な時間だった。

 

 こうして、ある意味暇を持て余していた私は食堂にある食券販売機に着き、メニューを品定めする。ちょっと小腹が空いているからデザートを頼むことは決めていた。しかし、私の人差し指は素直に三色団子セットを押さなかった。今月のフェアは中華フェアだ。以前、学園祭で二組が行っていた中華喫茶の思い出が蘇ってくる。あの時食べた杏仁豆腐やマンゴープリンはたいそう美味であった。正直、普通の店にあってもおかしくはない出来だった。ふとそんなことを思い出し、食堂の味はどうなのだろうか、と心の中で葛藤が生まれていた。団子セットか杏仁豆腐か。どちらにしようかと悩んでいたその時だった。

 

「あれ?簪さんじゃん!」

 

 私を呼ぶ声が聞こえ、振り向くとデュノアさんがにっこりと微笑んで手を振っていた。彼女、シャルロット・デュノアさんとは、謎のIS襲撃に関する事情聴取を受けた仲だ。互いに専用機持ちということや、企業の人ということもあり、同じ境遇だからか何かと話の馬が合っていた。

 話を聞くと、どうやら彼女は他の専用機持ちの子たちと食堂に来ており、一緒にどうかと誘われた。

 その言葉を聞いたとき、私はその誘いに抵抗感を覚えた。自分自身、どちらかというとあまり群れるタイプではない。「群」よりも「個」を大事にしてきた。まあ、実際のところ身内以外にはあまりコミュニケーションを取りたくないのが本音である。だから、()()()()彼女の誘いは断っていたはずだった、()()()()。しかし、今の自分はそう思わなかった。今日くらい、誰かと話をするのも悪くない。そんな気分になっていた。それに、私は未だに同学年の専用機持ちたちと面識がないに等しい。同じ専用機持ちとして、交友を深めるいい機会だろうと思っていた私がそこにはいた。

 二つ返事で彼女の誘いに答えると、デュノアさんは嬉しそうに手を合わせて微笑んでいた。

 結局、三色団子セットを頼んだ私は、デュノアさんの後ろをついて、皆のいる所へと行く。といっても利用者の少ない食堂では、彼女たちのいる場所はすぐに見つかった。専用機持ちたちの所へと案内し終えるや否や、デュノアさんは飲み物を取ってくる、と言い残して食堂の券売機へと戻って行った。

 

 だが、私としては彼女に状況を説明してほしかった。なにせ…

 

「シャルロットのやつ、こうも早く()()()()()()とはな…。さすがと、いったところか」

 

 専用機持ちたち皆の様子がおかしいのだ。明らかに、私を温かく迎え入れる、といった和やかな雰囲気ではない。

 椅子に座る彼女(専用機持ち)たちは虎視眈々と、獲物を狙うかのような鋭い目つきで私を見る。そして、何か品定めをするかのように彼女たちはじろりと私の姿を吟味する。何か冷たい感覚が私の背中によぎる。これはそう、私の()()の感覚が、何かとてつもない危険をひしひしと感じ取っていた。

 

「まあ、そこに立っているのも何だ。ここに座ろうじゃないか」

 

 篠ノ之箒がにっこりと笑顔で私に空いている椅子を指す。いわゆるお誕生日席だ。普通に見ていれば、彼女の表情や動作は何気ないもので、普通に椅子を勧めているように見える。だが、今はこれがただの悪魔の囁きにしか聞こえなかった。

 

「……は、はい!」

 

 しかし、私はその言葉に従うしかなかった。

 お団子をテーブルに置き、お誕生日席へと座る。顔をうつむきながら、ちらりと周りの様子を確認するが、彼女たちはテーブルの上に置かれた飲み物に一切手を付けることなく、まだ私の方を睨んだままだ。

 …とりあえず、今は状況確認をするために様子を見るべきだろう。このようになった経緯は全くといっていいほど思いつかない。下手にこちらから動いて彼女たちの逆鱗に触れる必要はないんだ。という思考を3秒ぐらいで済ませた私は黙って頼んだ団子を見つめていた。夕日と食堂のライトに照らされた三色団子は、キラリとその光沢が輝く。きっと市販で売られているタイプのお団子だろうが、食べたら美味しそうだ。

 誰も発することない、静かな時間が過ぎていた。相手もこちらの様子をうかがっているのか、ただ私を見つめているだけだった。あれ、そういえばこの時間帯に食堂に来るのは初めてだったような…。

 

「単刀直入に言おう」

 

 ふとそんなことを思いふけっていた私の耳に彼女たちの真相が飛び込んできた。

 

「その…だな…!い、一夏とはどういう関係なのか、教えてもらおうじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まあまあ落ち着いて。ほら、簪さん怯えちゃっているでしょ?」

 

 ふと聞き覚えのある声が聞こえる。後ろを振り向くと、この修羅場へと私を連れてきた張本人である、両手に飲み物を持っているデュノアさんがいた。

 

「やめろ、シャルロット。本当ならば、拷問か自白剤の投与を行いたいのを、私はぎりぎり耐えているのだぞ!」

 

 眼帯をつけているドイツ軍の人が、物騒なことを言いながら拳を力強く握る。いくらここが治外法権だからといって、違法なことはしないでほしい…。

 

「もうラウラ、そういうことは言わないの。あ、簪さん。これ、オレンジジュース。喉渇いたでしょ?」

 

 少し結露のついたオレンジジュースを私の目の前に置く。コップにはストローがさしてあり、きちんと私の方向に合わせていた。

 

「あ、ありがとう…」

 

「いいのいいの。それで…」

 

 彼女は片手に持っていた自身の飲み物をテーブルに置いて、私の近くに空いていたスペースに座る。

 

「実際どうなのかな?」

 

 にこっと笑顔で私を見つめる。表情は確かに笑顔だ。だが、彼女もそうだ。目に感情がこもっていないのだ。それに、彼女からは他の専用機持ちたちよりも、どす黒いオーラを感じる。目的はここにいる専用機持ちたちと同じようだった。

 

「どうって言われても…」

 

 

 どうなの、と言われても私としては、どうして?という状況である。

 

 そもそもタッグマッチは彼から頼み込まれて組んだまで。組む前は互いに誰なのか知らない、もはや赤の他人であったのだ。…今は違うけれども。それをどういう関係と言われても、ただのタッグマッチを組んだ関係、となるだけで……。すると、いきなりテーブルを両手で叩き、大きな音を立てて篠ノ之箒が頬を赤らめながら立ち上がった。

 

「ええい、じれったい!つまりはな!一夏とだなぁ!つ、付き合っているのかと聞いている!」

 

 

 え?

 

 一瞬、彼女の言葉を理解しきれなかった。

 

 私と一夏が…付き合っている?

 

 ふと私の頭の中にイメージが浮かび上がる。私の作ったお菓子を美味しそうに食べる一夏。肩を寄せ、一緒にアニメを見る一夏。そして、夜に二人っきりだけで一夏と出かけて……。

 

 

 

 ボコボコボコ…。

 

「はうっ!?」

 

 ふと私は、近くに置かれている水槽の音に我に返る。今私は何を考えていたの!?全身がサウナに入っているかのように熱くなる。特に顔が熱かった。

 

「あ、あの…一夏とはそういうのじゃ…」

 

 そうだ。べべ、別に一夏と私は付き合っていない。…告白しようとしたけれども、彼にこの想いを伝えることには、ままならなかった。

 とにかく弁明をするべく、私は小さな声で早口気味に言う。だが、それは逆効果だった。私に迫るプレッシャーがさらに強みを増したのだ。

 

「一夏ぁ!?」

 

「よ、呼び捨てですの!?」

 

 さらにテーブルを叩いて激高する専用機持ちたち。私への睨みはまだ続いていた。

 

「それは、その……。希望がないわけじゃない…けれども、とにかく……そういうのじゃないから…」

 

 

 

「そうそう、もし付き合っていたなら一大スクープで号外を出しちゃっているわ」

 

 聞き覚えのない声が後ろから聞こえてきた。目の前にいる彼女たちも私と同じようにびくっと体をびくつかせて、私の後ろを見る。それにつられて私も後ろを見ると二人の生徒が私たちを見ていた。

 

「ま、彼には付き合うという言葉の意味すら理解しているか甚だ疑問ですがね」

 

 一人は、サイドテールで髪を横に縛っている生徒。そしてもう一人は、両手足や頭に包帯を巻いている、肩先まで伸びているプラチナブロンドの生徒、ハーゼンバインさんだ。

 サイドテールの子の手には、中華フェア対象の品がたっぷりと盛られたお盆があった。

 

「玲菜はいいとして、何で怪我人のあんた(クリスタ)がここにいるのよ!つい最近までベッドに寝転んでいたじゃない!」

 

「どうって言われても、ちょっとは動けるようになったからここに来ているの。企業からもらった試作品の医療用ナノマシンが効きすぎちゃったみたいでさぁ。ほら、日本の諺であるじゃない。『働かざるもの食うべからず』ってね」

 

 中華フェアのこれ、楽しみだったんだよね、と楽しそうに話すハーゼンバインさんに専用機持ちたちは、しばらく唖然としていた。

 

 今、彼女は平然とみんなの前で話をしているが、数日前までは先の襲撃によって病院で治療を受けていた怪我人だ。

 ISにオート操縦させ、自爆させるという何とも奇想天外な行動を取った彼女の代償は小さくなかったのだ。現に、彼女のトレードマークとも言える額に付けていたゴーグルはない。それに生身で爆風を受けたことと、ゴーレムによる絶対防御無効化によって彼女の体は打撲と火傷に見舞われていた。全治3週間のはずだから、たった三日では治らない怪我だったのに…。

 

「とりあえず、皆は更識さんに謝りなさいよ!もう、揃いにそろって織斑くんの事になったら後先考えずに動くんだから…」

 

 サイドテールの子がそう言い残し、二人は空いている席へと歩いていった。

 突然の闖入者たちに、専用機持ちたちの戦意が削がれたのか微妙な空気が辺りに漂う。それと同時に、私に対しての敵意も全く感じられなくなっていた。

 

「か、更識さん。私たちはどうやら思い過ごしをしていたようだ…。すまなかった、この通りだ。」

 

 篠ノ之さんの言葉に続いて、専用機持ちたちが次々と私に対して頭を下げていく。

 要するに、皆は私が一夏と付き合っていると勘違いしていたのだ。そう思うと、何だか自分の中から不思議と笑いが込み上げてきた。なんだ、皆と私は()()()()()じゃないか。これほどにまで彼のために動くぐらい、彼女たちも彼を大事に思っていると。そして、それほど彼が好きなのだと。

 

 

 

「だ、大丈夫だから、とりあえず頭を上げて!」

 

 しばらくそのまま動かないでいた彼女たちは、やっと顔を上げてくれた。…なんだか頭を下げられていると、逆に申し訳ない気持ちになってしまうから。

 

「更識さんには申し訳ないことをしてしまいましたわ。この無礼をどう償えば…」

 

 オルコットさんがしゅんとなり、心苦しそうに言う。他の皆も先ほどの威勢とは打って変わって、すっかりと黙り込んでいた。

 

「じゃあ…」

 

 最初は彼女たちをとても怖いと感じていた。何せ、私に対してのプレッシャーが尋常じゃなかった。それはもう、今まで受けてきた訓練並みに。でも…今は違った。

 

「私のことは簪、って呼んで」

 

 私の言葉で、張り詰めたようなその場の空気が、糸がほぐれるようにゆるんだのを感じた。皆の表情もそうだった。

 

「なら、私らも呼び捨てでいいから」

 

「う、うん」

 

 鈴音さんが少しだけ戻った笑顔で答えた。

 

 きっと皆は不器用なんだ。彼への想いが真っ直ぐすぎて大きすぎるから。

 

「せっかくの同学年だ、今度放課後に実践訓練でもどうだ」

 

「うん、うん。ありがとう」

 

 

 

 

 

 今日の私は何かと気分が良い。

 きっとこれは、撮り溜めていたアニメのことでもお姉ちゃんの怪我が少し良くなったことでもない。

 きっとこれは、新たな仲間ができたからだ。

 

 食堂へ来てよかった、と楽しくおしゃべりをしながら思った。

 

 既に日は落ちており、外には夜空が浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は思わず、ごくりとつばを飲み込んだ。

 目の前には見慣れた扉があり、その奥に行けば職員室だ。だが、俺はその一歩を踏み出す勇気が出なかった。

 

『織斑、放課後に職員室に来い』

 

 ホームルームが終わるや否や、千冬姉に呼び止められた。正直、俺が呼ばれる理由など、いくらでも上げられる。主に箒やラウラによって壊されている寮のドアや部屋の修理費の話、この前行なった小テストの点数が低いという話。他にも可能性がある。それだけ俺に思い当たる節があるのだ。

 一体何を言われてしまうのか、とそわそわしていると肩を叩かれる感触があった。

 

「ひっ!?」

 

「どうしたのですか?織斑くん。職員室の前でぼうっとして」

 

「あ、山田先生…」

 

 後ろを振り向くと、そこには、左腕に書類を抱えている山田先生がいた。山田先生は首を傾げ、俺の顔を見ると何か合点がついたように、にこやかな表情に変わった。

 

「ああ、()()話ですね。織斑先生ならいると思いますよ」

 

 どうやら、俺が呼び出された理由を分かっているらしい。はぐらかさないで教えてください。

 山田先生は俺の前に出ると、扉に手をかざす。すると、それは自動的に左へずれた。扉が開かれるや否や、職員室の中からコーヒーの香りが俺の鼻腔を突いた。

 

「さあ、どうぞ」

 

 山田先生は笑顔で俺を職員室に迎え入れてくれた。先生の眩しい笑顔に負けた俺は渋々職員室に入った。

 

「…失礼します」

 

 職員室では、何人もの先生方が各々の作業を行なっていた。俺が職員室に入ってきた事で、何人かこちらに視線を向ける先生がいたが、すぐに何かの仕事に取り掛かる。

 こうして見てみると、本当に男って俺しかいないんだな、と改めて感じてしまう。

 

「織斑先生なら、あちらにいますよ。織斑先生~、織斑くんが来ましたよ~」

 

 突然、大きな声で千冬姉を呼ぶ山田先生に俺は少し、恥ずかしいと感じながらも先生の後をついていく。

 

「やっと来たか馬鹿者。遅いぞ」

 

 紙の資料がいくつも重なる、相変わらずの整理整頓されていない机に千冬姉はいた。パソコンに向かって何かデスクワークをしていた千冬姉は、椅子をくるりと回転させ、こちらを向く。山田先生は、私はこれでと言い残しどこかへと行ってしまった。

 

「立っているのも何だ、これに座れ」

 

「…分かりました」

 

 どこからともなく取り出した出席簿で出席簿アタックを食らった俺は近くに置いてあった、どこにでもありそうな丸椅子に腰掛ける。

 

「さて、お前を呼び出したのは他でもない」

 

 千冬姉の言葉に思わず、つばを飲み込む。

 ここまで来てしまったんだ。もう後戻りはできない。なんでも罰を受ける覚悟はある!

 

「お前のIS、『白式』についてだ」

 

「白式?」

 

 どうやら、俺が怒られるという話ではないようだ。

 

「ああ。倉持技研から連絡があってな。先日の無人機による襲撃で、傷ついた白式のメンテナンスをする目処が決まった。来週の日曜日にお前は白式を持って倉持技研の第二研究所に行ってもらう」

 

 俺は思わず、腕に付けている白式を触った。今のこいつは、自己修復機能によって機能の制限がかかっている状態になっている。

 

「あの…俺研究所の場所がどこか…」

 

「ん?お前は自力であそこに行くつもりか?それならそれで構わないのだが…」

 

 何でそんなに憐れむような顔をするんですか!?

 

「え…別にそういうわけでは…」

 

「ふっ、ちょっとした冗談だ。そう心配するな」

 

 千冬姉は、鼻で笑うと机