原型が壊す (ファイエル)
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Prologue

どうも、お久しぶりです。ファイエルです。
あらすじでも書いてありますが、本作品はゲーム「PROTOTYPE」の設定を少しばかり引用しております。
主な物は主人公の能力として表現していきますので、なるべく分かりやすいかと思われます。

とりあえず、短めのプロローグの後に一話と投稿させていただきますので、併せて読んでくださると嬉しいです。


暗い、闇のように深い空間に一つの扉がある。

その扉に肉を食いながら近づいていく太った男がいた。

 

その扉はいくつもの錠と並大抵の衝撃では傷一つ付かないであろう閂で閉じられていた。

太った男は肉を放って捨てると、懐から無造作にいくつかの鍵を取り出すと、錠を一つ一つ開けていき、

最後に閂を抜くと、ゆっくりと扉を開けた。

 

扉の中の部屋は比較的明るく、最奥にいる人物もはっきりと見る事ができた。

その男は長く、堅そうな鎖が体中に打ち込まれ、体が自由に動けない様になっており、

極めつけは四肢、そして腹に突き刺さった杭であった。

ここまで惨い状態でありながら、その男は呼吸をしており、生きているようであった。

太った男が部屋に入ってくるのに気付いた鎖の男はゆったりとではあるが、顔を上げた。

 

「おやおや、今日は顔を上げてこちらを見据えるとは。元気が良さそうですね。

 何かいい事でもありましたかな?」

太った男はニタニタといやらしい笑みを浮かべながら鎖の男に近づいて行く。

しかし、その歩みはどこか鎖の男を警戒しており、不用意には近づかない足の動きであった。

「……さっきまでは気分が良かったが、お前が来たお陰で気分が悪くなったよ――オネスト」

皮肉を利かせながら鎖の男は薄らと笑いながら答えた。

「ほっほっほ。相変わらずの減らず口で安心しましたよ。

 それで、如何ですかな。そろそろ私に協力していただけませんかね?」

皮肉を受け流しながら、オネストはここに来た理由――鎖の男に自分への協力を問う。

「はっ、いい加減にお前も諦めたらどうなんだ?

 ここまでしてもお前に対して俺は協力なんぞしない、

 知恵も貸さん。理由も無いしな。大体、ここまで自分にやった男に協力すると思ってるなら、

 相当お目出度い頭してるぞ」

そう言って鎖の男は少し体を揺らし、じゃらじゃらと鎖のぶつかる音がし、

杭が打ち込まれた部分からは血が滲みでる。

だが、男は鎖を打ち込まれた事も、杭を打たれた事も気にしていない様子である。

一つ、オネストへ協力するというのが気にくわなさそうな顔をしている。

実際、男の状態は酷い有様ではあるが、呼吸は落ち着いており、

顔色も大して酷くはなく、平常のようであった。

「むぅ…やはり私の頼みごとは聞いてもらえないようですねぇ」

 

「もう何度この問答を繰り返す。意味もない。いい加減飽きた。

 さっさと殺すなり、解放するなりしろ。お前のその額の“モノ”は飾りじゃないだろう」

そう言われたオネストはくつくつと笑った。

「フフフ…そうはいかないのですよ。駒は多い方が良い、それに貴方は殺すにも逃がすにも惜し過ぎる」

しかし――とオネストは続け、

「貴方は何にも興味も示さないし、どんな物にも屈しない。

 はっきり言って異常ですよ。本当に人間ですか?

 痛み、薬、洗脳行為、金、食い物、女、知識――

 どれを提示、実行しても貴方は首を縦に振らない。一体何が望みなのです――ソープ」

 

「お前と一緒にするな、苦痛には慣れているし、洗脳も薬物にも耐性がある。欲望もそうだ。

 それと、人間じゃないよ…俺は」

 

「貴方は……いえ、これこそ意味のない問いかけですな。ではこうしましょう。

 私に協力していただけるなら、その後は自由にしてもらって構いません。

 私に貴方の望みは予測できない。

 ゆえに、貴方の好きにさせます。私に提示する依頼さえこなして貰えれば

 それで構いません。どうです?」

ソープは少し、考える素振りを見せ、

「…」

無言で鎖を引き千切り、無理やりに杭を抜く。

「ホッ!?」

その行動にオネストは焦り、一歩どころか何十歩も後ろへと退き、構えをとる。

「はぁ…オネスト、お前こんなちっぽけな拘束で俺をここに止められると思ってたのか?」

その問いには答えずオネストは汗を垂らしながらソープの挙動を無言で伺っている。

「いつでもこんな所からは抜け出せた、お前との問答もただの暇潰しにしか過ぎないんだよ。

 ……さてと、その協力依頼――受けようじゃねえか」

 

「な、なんですと?」

ソープの言葉を一瞬理解できなかったオネストは聞き返してしまう。

「だから、お前のその提示した依頼を受けると言ったんだよ、さっき言ったが飽きた。

 お前の勝ちだ、根負けだよ。クハハ…」

薄ら笑いながらソープはオネストへ協力すると言った。

「ほ、ホホホホ! なるほど、ついに決心がつきましたか…いやはや長かったですな。

 ですが、これで帝国はより強固となりますよ」

「…」

 

「ん? どうかしましたか?」

無言のソープにオネストはどうしたと言葉を投げかける。

「いや…流石、と言ったところなのか。お前が警戒を解かないからな。

 もし少しでも警戒を解く素振りでも見せたなら顎を引き裂いてそのまま内臓を引きずり出そうと思ったんだが。うん…協力しようじゃないか」

その言葉にオネストはまた汗を垂らす。元々警戒を解く事を考えていなかったが、

もし警戒を解いた時の事を考えると汗が止まらない。

「まあ、貴方ですからな。例え協力関係になろうが、この場で警戒を解くなどという愚かな真似はしませんよ。伊達に政界を生き抜いてきたわけではありません」

そういったオネストを興味無さ気に見ながら、ソープは調子を確かめるように肩の関節を回す。

元々返答にも期待していなかったのか、そのままオネストは言葉を続け、

「では、さっそく準備いたしましょう。まずは服と…風呂ですかな」

 

「いや、服はいらん」

 

「と、言いますと?」

その瞬間、ソープの体がブレたかと思うと一瞬にしてジーンズに似た素材のズボンに、

少しよれたシャツ、その上にパーカーを着込み、更に上にジャケットを着ていた。

「いやはや、便利なものですな――その帝具は」

落ち着きを取り戻したのか、最初と同じようにニタニタと笑みを浮かべながらソープの早着替えを見ていた。

オネスト自身はソープの帝具についてある程度知っているのか、驚いた様子はなく寧ろ、その有用性に喜びを隠せないようだ。

「じゃあお前が受け継ぐか」

 

「あ、それは遠慮しておきます」

即答するオネストだった。




誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。


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No1

プロローグから続けて、どうぞ


「三獣士が倒された?」

 

「ええ、これは少し予想外と言ったところですかな」

宮殿の中庭でオネストとソープが歩きながら会話をしている。

ソープは変わらずシャツにパーカー、ジャケットと見た目が暑苦しい服装をしている。

対してオネストも骨付き肉を頬張っており、どちらも平常運転と言ったところであった。

「ハッ、その割には顔がニヤけ過ぎだ。それほど重要でもなかったか」

 

「いえいえ、これでも驚いているのですよ? フフ…しかし、これでエスデスへの帝具使いの異動がほぼ確定ですな」

 

「ああ、そんな事も言っていたな…」

 

■■

 

エスデス――実力派の若い将軍だったか…。

オネストが言うには政治、権力への興味関心はなく、

闘い、蹂躙の限りを尽くす最高の手札の一つだとか言っていたが。

 

「さて…私は帝具使い6名の見繕いがまだ甘いので少し詰め直しますが、貴方はどうしますか」

エスデスの新しい部下の異動、そうだな――丁度いいかもな。

「オネスト」

 

「はい?」

 

「帝具使いの異動人数を6名から7名に変更しておけ」

そう言うと少しオネストは渋い顔をした。

まあ、そうだろうな。俺はオネスト直属の部下、 羅刹四鬼も含めても自分が自由に動かせる駒は多い方が良いのだろう。

「安心しろ。最初の依頼通りにお前の命令には即座に対応する。補欠要員でもいい」

 

「何か、エスデス将軍に気になる点でも?」

 

「個人的な事だ、別にお前に不利益になるような事は無いさ」

どちらにしろ、オネストからの命令が無い限りは俺の自由だ。

そういう契約だし、オネストもそこを反故にする事は確実にない。

それこそ自分の命が脅かされない限りは。

「そう言う事でしたら、良いですよ。では、その様に人事異動を行っておきます」

 

「ああ、頼んだ」

 

■■

 

(ここか…)

 

エスデスの新しい部隊の集合場所。

6名の帝具使い、資料じゃ濃い面子だったが。

(確か、ウェイブ、クロメ、ボルス、Dr.スタイリッシュ、セリュー・ユビキタス、ランだったか)

色物ばっかだな、異動前の部隊と言い、経歴と言い。

 

「結構面白そうな面子だから俺は楽しみだが」

とにかくここでメンバーについて考えても仕方ない。

さっさと入るとしよう。

 

ドアノブを回し、扉を押して開けると――

 

「……」

 

「……」

 

謎の覆面と目があった。

(焼却部隊の、ボルス…か?)

初対面のインパクトはかなり抜群だ。

これは印象に残るだろうし、ボルスのその覆面は正解ではあるだろう。

ただ、あまりメンバーを威圧するのもどうなのだろうか。

そして、何故無言なんだ。

 

とりあえず、ボルスの対面の席へと座る。

「……」

 

「……」

ひたすらこちらを見つめ続けている。

何かの威圧か、コミュニケーションの一種なのか…?

「あの…」

 

「うん?」

やっと声を掛けてきたと思えば、

「……」

 

「……」

会話が途切れる。

(もしかすると挨拶無しなのが気になるのか)

確かに入ってきて挨拶も無しというのは失礼だ。

「すまなかった。挨拶が無いのはかなり失礼だったな。俺はソープ、

 元はオネスト大臣の直属の部下で、この度エスデス将軍の部隊へ異動となった。

 よろしく頼むよ」

そう挨拶すると、ボルスも、

「ああ、こちらこそごめんなさい。いきなり見つめて、ちょっと緊張しちゃって。

 人見知りってヤツで…。焼却部隊から来たボルスです。帝具使い同士仲良くしましょう」

緊張が解ければ意外と喋るタイプなのか、スラスラと言葉が出てきている。

「その、フードって何か前の所にいた名残なの?」

早速質問してきたボルスに対して俺は気軽に答えた。

「いや、ただの個人的な服装だよ。顔合わせって事だから少し正装でもしようかと思ったけど、

 固すぎると思って普段通りの服装でな」

 

「そうだよね~、私も少し整った服でも着てこようかと思ったんだけど、奥さんはいつも通りでいいって言うからいつも通り焼却部隊の服で来たんだ。良かった、固い服着てこなくて」

まあ、その覆面はどうかと思うがな。

妻……そういえば資料にも載っていたな。

「そろそろ、他の人も来る頃かな…」

 

「そうだな、集合時間も近いし――」

と、言いかけた瞬間、扉が開く。

扉が開く音に反応して、ボルスと俺がそっちへ顔を向けると、

 

「こんにちは! 帝国海軍から来まし―ーた…」

         ・

         ・

         ・

「し、失礼しました~…」

パタンと、扉が閉じられた。

帝国海軍、ウェイブだな。

しかし、何故いきなり扉を閉めたのか。

 

■■

 

扉を閉じたウェイブはと言うと、

「えっと…集合場所間違えたかな…?」

集合場所が記載された用紙を確認し、

部屋名と照らし合わせるが、

「あ、合ってる…」

 

(マ、マジか…、あれが同僚かよ! 流石帝都、あんな覆面といい、フード被った厚着の目つき悪い男なんぞ海賊だってもっと普通の恰好しているわ!!)

(とりあえず、平静を装って、刺激しないように振る舞おう…)

 

■■

 

「こ、こんにちは…」

そう言って再び入ってきたウェイブ。

スーッと俺達の席から離れたところにちょこんと座ったが、

ボルスは相変わらず人見知りをしているのかひたすらにウェイブを見つめたまま、

ウェイブは下を向いて少し震えている。

声を、かけるべきなのか。

 

そう思って声をかけようとすると、新たにメンバーが入ってきた。

(ありゃ、確かクロメだったか)

これまたクロメも俺とボルスからは離れた席、

ウェイブの対面に座った。

(もしかすると、俺とボルスは同程度の威圧感があるのだろうか)

すこし心配になる。なるべく威圧しないようにしたんだが。

「よぉ」

 

「?」

少し考えに耽っていると、ウェイブがクロメに声をかけていた。

「君も召集された帝具使いなんだろ?」

「俺は、ウェイブって言うんだが――」

 

「このお菓子はあげない」

 

……オネストの言うとおり色物だな、こりゃ。

しょんぼりとしながらウェイブはお邪魔しました、と言って自分の席に戻った。

 

その後、どんどんとメンバーが集合していき、

セリュー、スタイリッシュ、ランの順で部屋に入ってくると――

 

「お前達見ない顔だ! ここで何をしている!!!」

 

最後に仮面を被った長身長髪の女が入ってきた。

(……そういう趣向か、エスデス将軍らしいと言えばらしいのか)

まず最初にその言葉に反応したウェイブが蹴り飛ばされ、

ランはその攻撃に反応して、最小限の動きで避け、

セリューは背後からの攻撃を行うが、背負い投げられ、

最後にクロメの剣で仮面が剥がされた。

 

「エ、エスデス将軍!!」

 

「面白そうな部隊だな」

そう小声で呟いた。

 

■■

 

皇帝陛下へのいきなりの謁見を終え、

部隊名も既にエスデス将軍から言われている。

 

≪イェーガーズ≫

 

それが俺達の部隊名だそうだ。

今は部隊結成の祝いと自己紹介を兼ねて部屋で談笑しており、

ウェイブ、ボルスが調理、ランは給仕をしていてスタイリッシュはランを見つめている。

セリューとエスデスは最初の通り談笑していて、クロメはコロと遊んでる……

いやコロが遊ばれてるのかアレ…。

 

各々やりたいこと、できる事をしており、その中で俺は――

 

「それにしてもいいんすか? ソープさんだけ自分で料理して自分で食うとか」

 

「こっちの都合だ、気にすることないさ」

自分用の料理をしていた。

流石に人の料理は食えない、というか俺が“口に付けた”スプーンやフォークで料理をつつけない。

それにあんまりしっかりした料理を食う習慣がないし丁度良かった。

「変わってますよね、菓子が主食なんて――あ、いや別に悪い意味じゃないんですけど」

 

「別にいいよ、おじさんになると甘い物が欲しくなるのさ」

正確には糖分が必要になる。さて、最後に苺乗っけて完成。

「とっても上手なんだね、ソープさん」

完成したケーキモドキを見てボルスが褒めてくれる。

その言葉は善意そのもので、お世辞でもなく本心からの言葉だと分かる。

「そりゃあ、今まで自分で作ってきたからなぁ。少しは上手くなって貰わないと俺も困っちゃうよ」

苦笑しながら返し、メンバーが座って談笑しているテーブルへと置く。

ふと、フォークを忘れていた事に気づいて調理場に戻ろうとした時、

「美味しそう…」

と、クロメがケーキモドキをつまみ食いしようとしており、

流石に拙いと思い、その手を掴んだ。

「――ッ!?」

 

「やめとけ、食ったら後悔するぞ」

俺の動きに驚いたのか、つまみ食いがバレて驚いたのかは知らないが少し驚いているクロメ。

確かに完全に向こうを向いていたからバレるはずも無ければ、瞬時に手を掴んだことにも驚くか。

「……どうして? 美味しくないの?」

何故かケーキモドキ――もうケーキでいいか、を食わせまいとする俺に疑問を抱いたのかそんな事を言ってくる。

「そういう訳じゃないんだが、まあやめとけ――って言ってもクロメの嬢ちゃんは食い意地張ってそうだしな」

その言葉にむっとしているが、事実なのか反論はしない。

クロメの手を離し、懐から一匹のネズミを取り出す。

「あら、小汚いネズミね。美しくないわ」

そのネズミを見て悪態をつくが、気にすることはない。

元々食用か実験用に使おうとしていた奴だし、ペットじゃない。

「ドブネズミなんだから美しかったら困る」

ウェイブとボルスも調理場から料理を持ってこっちに来たし、

メンバーが全員いるならタイミングも良いか。

「皆よく見とけ。なんで俺が料理を作らず、誰かの料理も食わないで自分で作って食うかの理由を」

そう宣言して全員の視線が集まるのを確認してからネズミにケーキの、特に俺が直に触った部分を食わせた。

「ネズミに食わせて何かあるんですか?」

セリューの言葉を無視しながら、ネズミを部屋の隅の方へ軽く投げると…

 

――ビシャ

 

と、ネズミが破裂した。

その光景を見ていた全員は驚いているようだ。

確かに俺が作ったケーキを食ったネズミがいきなり破裂したら驚くよなぁ。

「どういうことだ?」

 

「どういうこともなにも、あの通りだよ将軍」

「俺の帝具、その帝具ってのが少し厄介でな。握手とか俺と同じ空間に居る程度じゃ問題ないんだが、

 粘膜接触、触ったものを食べるとか、とにかく俺の細胞組織を体内に入れるとああなる」

その言葉にエスデスは興味深そうに笑みを浮かべた。

「ほお、そう言えばソープ。お前は大臣直属の部下で、急遽私の部隊にねじ込まれていたな。

 帝具使いが増えるのは私も歓迎だったので特に気にしなかったが、お前の帝具は一体なんだ?」

 

「名前とかは特にない、ウィルス型の帝具でな。誰にでも適合するが、誰にでも拒絶反応が出る。

 その拒絶反応を乗り越えれば晴れて帝具使いになるんだよ。だからあのネズミも拒絶反応を乗り越えれば

 人語を理解する可愛いネズミの部下になったんだがな。んで、ここからが厄介でな」

一拍置いて――飛びかかってきたデカいネズミを掴む。

「こんな感じに拒絶反応が出て死んだ奴は意思のない、本能のまま肉を貪る化け物になるんだよ」

言ってからメンバーを見渡すと、全員臨戦態勢を取っていた。

だが、少し遅いような気もする。あのネズミの速度からするに俺以外を狙ってれば確実に一人は食い殺されてたかもなぁ…。

「興味深いわ。そのネズミ、アタシに渡してくれない?」

 

「あー、やめとけやめとけ。手に負えないよ。実はコイツ不死身でな」

軽く力を込めて掴んでいる頭を握り潰してみるが、グチャグチャと不快な音を立てながら肉が盛り上がっており、

顔半分ほどは既に再生されている。

「ますます興味深いわ! 一体どういう原理なのかしら。ああッ――解剖して研究したい」

 

「クハハッ、物好きだなドクター。でもまあコイツはやめとけ。まだ人間の方が研究しやすい」

 

「それでどうするのだその危険種モドキになったネズミは。不死で殺すこともできず、かと言って調教できる程の思考も存在しないようだが」

エスデスはどうやらコイツの処分が気になるらしい。

「食う」

 

『えー―ええッ!?』

「食うのか? それを」

「好みじゃないわね」

 

まあ、あんまり気分のいいものじゃないが。やったのは俺だしな。後始末は自分でつけるのが常識だ。

「仕方ないだろ、それ以外はあんまりいい方法じゃない。エスデス将軍の帝具で氷漬けにしてもコイツは死なない。それこそ完全に処分するには

 俺が取り込むのが一番いい」

 

「どう食うんだ、例え一度殺しても再生されてはキリがないだろう」

もっともな意見だ。と言うかエスデスは冷静だな。

もう少し、こうなんつーか女らしい意見も欲しいところだが。

「普通に食う訳じゃない、こうするんだ」

ネズミを両手で掴み、そのまま引き裂くと……、

俺の体から大量の触手のような物が出てくるが、先端は口の様になっておりそのままネズミへと食らいつく。

非常にこの触手達は元気がよろしいな。

 

「うわ!? なんだそりゃ!」

「凄いね…なんだか普通の帝具じゃなさそうだ」

「文献には記載されていない帝具…といったところでしょうか」

 

普通に考えて女子が取るであろう反応を男達が取っている辺り、この部隊の女連中はどっかズレてるんだろうな。

「見ていて気分がいいもんじゃない、見なくていいぞ」

人の体から触手出てきてデカいネズミを食っちまうなんてのは滅多にお目にかかれない光景だ。

サクッと言うより、グチャッとネズミを綺麗に食ったあと、飛び散った血も全て触手が舐め取り消していく。

ある意味暗殺向きな帝具だ、血も死体も残さず食える。

「ああ、それとネズミが飛ばした唾液とか、血も感染するから注意しろよ」

そう皆に警告をして、エスデスへと視線を向ける。

「フッ、なるほど、お前の事についてはある程度分かった。まだ――底が見えない部分もあるが」

 

「そういう将軍について俺達はあまり知らないんだが、何かしたいことでもあるのか?」

底が見えないと言われ、少し驚いた。

意外と人を見る目もあるらしい。てっきり闘って殺して、蹂躙するだけの戦闘民族かと思っていたが。

うん、面白い。やはりここに来て正解だった。

「そうだな、狩りをしたり、拷問したり――そういうのはいつでもしたいな」

……やっぱりただの戦闘民族なのかも知れない。

 

 

「ただ今は――恋をしてみたいと思っている」

 

■■

 

「恋ねぇ…クロメの嬢ちゃんはどう思うよ」

 

「別になんとも」

現在クロメと都民武芸試合の受付をしている。

あの恋をしてみたいとエスデスが言った後に、

賊――≪ナイトレイド≫の一員から回収した帝具の話になり、

適合者を見つける為の大会の様な物を開いていた。

その受付に俺とクロメ、その他イェーガーズのメンバーも大会での役割を与えられていた。

「なんだ、クロメの嬢ちゃんはそっち系の話にはあんまり興味ないのか」

 

「ない…それとずっと思ってたんだけど、その嬢ちゃんって何?」

ジト目でこっちを見ながらそう言ってくる。

あんまりお気に召さないようだ、嬢ちゃん呼びは。

「ノリだノリ。気にすんなよ、嫌なら嫌って言えばいいさ。俺もいじわるで呼んでる訳じゃない」

子ども扱いしてるって事じゃない、実力ならかなりのものだと見ていて分かる。

ただ、なんとなく嬢ちゃんって呼んでるだけだ。

「そう……そういえばソープはずっとフード被ってると思ったけど」

今はいつも被ってるフードを取っている。

まあウェイブに、『ソープさん、フード被ってると目つきが悪いですね』なんて言われて少し考えた結果だが。

「ん…まあ受付だしな。ウェイブにも言われたが、どうやらフード被ってると目つきが悪くなるらしい。第一印象ってのは大切だからな。受付が印象悪いとダメだろ?」

フードにこだわりがあるって事はない、落ち着くから被ってるだけだ。

顔を見にくくするっていう効果もあるが。

「そうなんだ、意外と考えてるんだね」

 

「それ暗に俺が考えなしの阿呆って言ってるぞ」

そんな言葉にクロメはクスリと笑い、俺も苦笑しつつ談笑していた。

「んで、話を戻すが…好きな人とか好みのタイプなんてのはいないのか」

 

「いない…かな。お姉ちゃんは好きだよ。大好き」

ふと、空気が少し冷たくなる。地雷でも踏んでしまったかと思ったが。

クロメの表情は嬉しそうだった。

なんだ、根深そうな事情でもあるのだろうか。

「それは家族愛って奴だろ? 恋愛感情的なさ、例えばランとかウェイブ。大穴狙ってボルスとか見ててなんか良いなぁとか思わないか?」

ドクターはまず無いだろう。お姉ちゃんと言っていたが、

特にそっちの気がある様な素振りも無い。

普通に男が好きな筈だ。多分な。

「ウェイブは磯臭いからあんまり、ランはそういうの興味なさそう。ボルスさんは…どうだろ、優しいと思うよ」

ふーん、と自分から聞いておきながら適当な返しをしていたが、クロメも意外と人を見ているようだ。

ウェイブが磯臭いはともかく、ランがあまり女に対して興味関心を抱いていないのは分かる。

それよりも何か目的の様なものがありそうだった。別に男色ってわけではなさそうだから、

今はそんなことより目的が大切と言った感じか。

「ソープはいいなって思うよ?」

これは意外だ、あまり絡んでもいないし、会話もしていない。

今回がほぼ初めての会話と言っていいだろう。だからこそ適当な話題を振りつつ話をしている。

「ほお、そりゃなんでだ」

 

「だって、私がケーキ食べようとした時止めてくれた」

確かに止めた。流石にあそこで怪物なんぞ生まれたら厄介にしかならない。

もし仮にクロメが適合したとしても色々面倒なことになったと思う。

「そりゃ、止めるだろ。食った相手が死んじまうって分かってるんだから尚更」

 

「あの時点、まあ今でもなんだけど…そこまで仲が良いわけじゃないでしょ? なのにソープは止めてくれた」

……クロメは結構仲間意識、というのを重要視するのかもしれん。

「だから、ソープは好きだよ? もし死にそうになっても、私が殺して(すくって)あげるよ」

惚れ惚れするような笑顔をしてそう言ってくるクロメ。

クロメの帝具は≪八房≫だったな。もし死にかけたら八房の能力で俺の死体を人形にするって事か。

中々のぶっ飛び具合だ、それほど今の帝都が歪んでいるのか。暗殺部隊も良い話は聞いたことが無い。

強化人間、クロメが食ってるあの菓子もドーピングの薬なんだろうな。

それに常に食ってなきゃ苦痛になるほど薬漬け、救いようがない。

まあ、ドクターの帝具があれば救う事はできるが―ー心まではな。

しかし、自分で適当に振った話題だが恋ってのも心を正常に戻すのに良いかもな。

まあとりあえずはクロメに念押ししとくか、俺が――

「死ぬわけないだろ、こんな歳まで生きてるんだよ? クロメの嬢ちゃんや他のメンバーよりも生き抜く知恵ってのがあるさ」

そう言いながら頭を撫でる。

クロメは心地よさそうに撫でられ、目を細めている。

こうしてみれば普通の女の子って感じがするが。

そう言えば、そろそろ受付も終了だな。

「よし、クロメの嬢ちゃん。そろそろ受付も引き上げよう。これ以上待っても来ないだろうし、試合時間も来てる」

 

「そうだね、じゃあ私この受付用紙ランに渡してくる」

そう言いながら走って行こうとするクロメに、

「おい! 撫でた頭しっかり洗っとけよ!」

そう忠告しておいた。

 

■■

 

「で? 受付していた感じで良さそうな奴はいたか」

いきなりそんな事を言ってくるエスデス。

部下を労わる的な事はしないのか。まだ俺が信用されてないからか?

「いい感じの奴ねぇ、まあ多少やるなってのは何人かいたが」

エスデスのこの感じだと、帝具に適合するとは別口の様な聞き方だと思う。

オネストから聞いていた恋をしたい相手の条件だったか。それだな。

「例えば、少年とか将来将軍になれそうな器の持ち主とか…後は良い笑顔しているとか」

 

「いや……そんなの一目で分かるわけないだろ。実際この試合で確かめるのが目的なんだろ?」

 

「まあそうなんだが、お前の観察眼は侮れないからな。しっかり見ているだろう。

 私が最初、イェーガーズのメンバーと会った時だって、

 仮面を付けていたにも関わらず、私だと見抜いていたしな?」

ニヤリと笑いながらそう言われ、やはりこの将軍の目は確かだと判断する。

(どこまでも抜け目ないというか、よく見ているというか)

そこで、ふと――受付に来た一人の少年を思い出した。

(少年で、将軍になれそうかどうかはともかくかなりの実力者だと思われ、まあ笑えばいい笑顔しそうな奴…かな、あの少年)

多分、エスデスの要望に当てはまりそうな子だったと思う。

「そう言えば、一人いたよ。将軍――いや隊長の恋の相手の条件に合致しそうな子」

 

「本当か! 何故お前が私の提示した条件を知っているのかはこの際いい、誰だ?」

確かにお前の提示した条件知っているよとは言ってなかったが…でも大臣直属の部下だしそれくらい知っててもおかしくはないだろう?

「ああ、確か……鍛冶屋のタツミだったな」

 

■■

 

あの後、案の定?というか予測できたというか――、

鍛冶屋のタツミは見事エスデスの条件に合致してしまい、あえなく首輪を付けられ宮殿へと連行された。

試合での動き、中々の物と言っていいだろう。相手の奴も結構実力はあった。

身軽さもそうだが、何より落ち着いて相手を見ていた。

よい師が鍛えてくれたのもあるが、元々の才能もあるのだろう。

で、現状は――、

 

「イェーガーズの補欠となった、タツミだ」

 

いつの間にやらイェーガーズの補欠扱いになっていた。

しかし、なんだか首輪が良く似合う少年だ。

それにしてもメンバーの補欠扱いなのに、鎖で縛られて椅子に固定されていると、ただの犯罪者に見える。

「市民をそのまま連れて来ちゃったんですか?」

 

「暮らしに不自由はさせない、それに部隊の補欠だけじゃないさ」

 

「感じたんだ――タツミは私の恋の相手にもなるとな」

では何故首輪なのだろうと思ったら、

「それでなんで首輪付けたんですか?」

「愛しくなったから、ついカチャリと」

「ペットではなく、正式な恋人にしたいのであれば、違いを出すために外されては?」

 

………

 

「それは確かに…外そう」

カチャカチャと首輪を外し、自由になった少年タツミ。

その後、エスデスが結婚、もしくは恋人がいる者がいないか確認した時にボルスが手を上げ、

その話題で盛り上がっていたところで、タツミが異議を申し立てたが、話が全く通じず撃沈。

だが、その後だ……気になる点があった。

セリューはどうやらタツミと初対面ではないようで、少し親しそうに頭を撫でた時だ。

タツミの態度に違和感があった。まるで、仇敵のような、それを目の前にして我慢しているような。

(少し、いやかなり気になる。タツミ――もしかするとだが…)

かなり面白くなってきた。

そう思い、後でタツミと少し話そうと思っていると、

「失礼します!」

「エスデス様、ご命令にあったギョガン湖周辺の調査が完了いたしました」

 

「このタイミング…ちょうどいいな」

 

――お前達、初の大きな仕事だぞ――

 

 

俺的にはなんと悪いタイミングなのだろうと思わずにはいられなかった。




誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。


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No2

今回は初の戦闘です。
それと、改行位置などを変えて少し見やすくなったかなー…と。


タツミへ質問をしようとしていた矢先、賊狩りの話が舞い込んでしまい、お預けとなってしまったお楽しみ。

正直賊など狩ったところで意味も無い、もちろん帝国からすれば掃除が出来て、治安的にも良いのだろう。

帝都近郊での話だが。イェーガーズの実力も把握したいのだろうエスデスは丁度いいと言ったが、

相手が相手だ。大した実力を持たないゴミを狩ってもメンバーの実力は測れない。

しかし、愚痴ってもしかたない。さっさと殺してタツミへの問答を行いたい。

現在はエスデスがメンバーへの覚悟の確認をしており、ドクターが理解不能な事を言い終わって次は俺の番だった。

 

「ソープ、お前はどうだ? 心配はしていないが、心意気を知っておきたい」

「いや、少しは心配したらどうだ。部下だろう……まあいいや、とりあえず殺す事に文句はない」

 

「なら良い、では――」

「ただ、一つ条件を付けさせてくれ」

 

その言葉にエスデスが不審がる。

 

「条件…とは? 大臣からの命令か?」

 

いや、違う。個人的な事だ。エスデスはやはり俺がオネストの部下だと言うのに疑いを掛けているようだ。

こいつら仲が良さそうに見えて、それぞれの目的の為に偶々協力関係にあるだけそうだし、実際こうなると疑われるのは仕方ないか。

 

「そうじゃない。いい加減俺をオネスト大臣の犬みたいに思うのはやめろ。あのデブは関係ない。

 条件ってのは一人か二人捕縛させて欲しい。少しやってみたい事、と言うかいつもやってる事がある」

 

俺の提示した条件が不思議なのか、首を傾げるエスデス。

 

「なんだ、なにか儀式的なものがあるのか?」

「いや…まあ無理なら良いんだ。隊長はエスデス将軍なんだからな。命令には忠実に従うのみだ」

 

そういうと、まあ構わんかと言うように息を吐き、

 

「いいぞ、好きにやれ。別に投降されたから助けるという訳ではなさそうだしな」

「なら良かった。じゃあそういう事で頼む」

 

そろそろエスデスとも親しくなっておくべきか。オネストは悪巧みが多すぎる。

エスデスがこれだけ警戒してるのが証拠だ。やりにくい。

 

「皆迷いが無くて結構だ、そうでなくてはな…では出撃! いくぞタツミ」

「え…俺も!?」

 

■■

 

「作戦はどうしましょう?」

 

砦の近くに来てランがどういった作戦で崩しにかかるか考える。

エスデスは後方待機、メンバーの実力把握の為に好きにやらせるのだろう。

タツミはエスデスの隣に。

この作戦中は会話は無理そうだ。

 

「もちろん! 正義は堂々と正面から行きます!」

 

いや正義は関係ないように思う。

だがヒーローなどは特に工夫などせず確かに正面からだった気がするし、あながち間違いでもないのか?

 

「ソープさん、貴方はどうしますか。私達は各々の帝具を把握していますが、貴方の帝具はウィルスと言う事しか分かっていないので」

 

そうだな、後方のサポートなのか、前線で敵を吹き飛ばすのかいまいち把握しきれないのだろう。

実際、どちらでも構わない。だが、エスデスの好み的には派手に戦うのがいいのかもしれない。

ここは前線で派手に行かせてもらうとしよう。

 

「どうせ今の状態じゃチームワークも無い、前線で暴れさせてもらうよ」

「大丈夫なんですか? ウィルスを散布するなど、そういった戦い方かと思っていましたが」

「それは無理だな。最初に見せたとおりあのウィルスは敵味方が関係ない。それに敵を強化するだけだよ。別にウィルス型の帝具だからって毒だけ使う訳じゃないさ。心配するな」

 

何気に初めて心配をされたかもしれない。

 

そんな感じで、砦の目の前まで歩いて来たが、

どうやら向こうも気づいたようだ。

山門が開き、中から大人数が飛び出してきた。

やんややんやと罵倒を口にしていく山賊達。

そんな賊達の言葉を無視し、

「まずは私とドクターの帝具で道を開きます。コロ――5番」

ぐおっとコロ、帝具≪ヘカントンケイル≫が巨大化したと思えば、

そのままセリューの腕へ噛み付き、

 

「失った両腕のかわりに、ドクターから授かった新しい力…」

 

巨大なドリルがセリューの腕に装備されていた。

(ほぉ…こりゃすげえな)

両腕が義手なのは知っていたが、こんな玩具も付けられるのか。

「“十王の裁き”」

 

――正義 閻魔槍―ー

 

無暗に突っ込んできた賊達はバラバラに吹っ飛び、その四肢を宙へと浮かばせる。

ヘカトンケイルもその鋭い牙で敵を食いちぎり、結構な数を減らした。

まあ砦の中にはもっといる。捕縛は中に居るやつに絞るか。

 

「山門を閉じろ! 早く!」

 

流石にやばいと思ったのか、敵が扉を閉じたが、

 

「次! 7番!!」

 

今度はまるで戦車にでも付いてるかのような砲塔が腕に装備され、そのまま発射。

派手な音と共に山門は破られた。

いいねぇ…十王って事は10番まで装備があるのか。

とりあえずセリューの武装は分かった。

(扉も開いたし、いくか)

と、駆け始めるが、同時に走り出した奴がいた。

 

「あれ…ソープも行くの?」

 

クロメ、まあ帝具は刀だし前線で戦うのは当たり前か。

 

「ま、前線で暴れるって言ったしな。気を付けろよ?」

「大丈夫だよ、ソープも気を付けて」

 

そのまま砦の中へ駆け込み、二手に分かれる。

(久々に戦うが、鈍ってないといいな)

 

■■

 

「おいおい兄ちゃん、一人で突っ込んでくるなんて無謀じゃねえか? ええ!?」

ソープはクロメと二手に別れた後、賊に囲まれていた。

手に持っているのは斧、ナイフや銃など一般的な武装だが、

相手の人数はかなりの物であった。

だが、対してソープの顔には怯えも無く、寧ろ欠伸すら出そうな面持ちである。

 

「そんなカッカするなよ。大体兄ちゃんって言うがお前らより年上だぞ」

「黙ってろ! 余裕ぶっこいてるのも今の内だぞ!? この人数だ、後で命乞いしてもただじゃおかねえからなぁ!」

 

相手のその言葉に、溜息を吐きながら下を向くソープ。

少しの会話も楽しめない相手につまらなく感じたのか、砦に入る前より覇気が薄れていて、そのまま蹲ってしょぼくれそうな雰囲気だった。

 

「あのさ、確かに人数的にはそっちが勝ってるけど、そんなん見りゃ分かる事だろ? それなのに単身でここに来てる時点で気付けよ、

 お前らの実力じゃ―」

 

そう言って顔を上げた瞬間、

パン、と乾いた音が響いたと同時にソープが仰け反り、そのまま背中を地面へ付けようとする。

音の発生源は賊の手にある銃、その銃で見事に頭を撃ちぬいたようだった。

 

「ハッ! 暢気に会話してるからだよ甘ちゃんが。こんなもん先手必勝だろうが、てめぇにいくら実力があろうと…って、は?」

 

が、そのまま倒れ込まず、足を地面へと縫い付け踏みとどまる。

確実に頭へと当ったのは賊全員が確認していたが、それでもまだ動くという現状に一瞬時間が止まったように賊達の動きが止まる。

 

「その通りだ、会話なんて必要ないな。いかんな、腕どころか思考も鈍ってるようだ。すまん、ここからは言葉はナシで行くよ」

 

踏ん張った態勢のまま、言葉を放ったと思いきや、ソープの姿が消える。

 

「なっ――」

 

どこへと賊が口にする前に、一人が吹っ飛んだ。正確には頭だけ吹き飛んで行った。

その物言わぬ死体と化した前には足を振り上げた彼の姿が。

脚力のみで、頭を上空へと吹き飛ばしたようだった。相手の身体を浮かせず、頭だけを吹き飛ばすその威力は凄まじい。

まず人間の力では不可能だろう。それこそ義足でスタイリッシュが改造でも施していない限り。

例え改造された義足だろうと、この短い移動での助走では精々顎を粉砕する程度だ。そんな人間離れした脚力を持ってして、

それでも動きは止まらずに、まるで口を開く猶予すら与えないかのようにまた姿が掻き消える。

その動きは“縮地”に近い。だがそれは圧倒的な力で行われており、脚力に頼らず、力任せではない縮地とは異なっている。

実際にソープがいた地面を見れば、地面が捲れあがっている。

どれほどの馬力で踏み込んでいるかが分かる。そしてその力を存分に生かし、振り上げれば――簡単に人の頭は吹き飛ぶだろう。

 

そのまま相手に有無を言わせず、次々とその頭部を吹き飛ばしては、消え、現れたかと思えばまた消える。

その繰り返しで賊の人数は半数に減った。

だが、そのままでいる賊ではなく、

 

「お、お前ら! 固まれ! バラバラになるな。相手の姿が見えないんじゃ埒があかねぇ!」

 

そう言って声を張り上げ、それぞれが動き一か所へと固まる。

そうする事で、相手を近づけさせず尚且つ攻撃された際は素早く反応できるという現時点では取るべき一つの手だった。

が、それは悪手だった。ソープが普通の速いだけの者であったなら全く正解であり、生存への道であった。

しかし彼は“帝具使い”。

あり得ないであろう事を起こすのが、帝具使い。

 

シャン――と鈴の音がなるような音がした。

 

「―――」

 

賊達が最後に見たのは、人ひとりあるのではないかと言うほど大きな刃の放つ光だった。

 

■■

 

「やっちまったよ…」

 

俺は心底後悔している。

何せ相手の言葉に応答し、ただひたすらに殺してしまったからだ。

やはり鈍っている。それこそ戦いの途中で気付けた筈だ。

今回での戦いでそう痛感してしまう。まるで素人だ。

各個撃破に移って、力任せな移動法からの蹴りで頭を飛ばすまでは良かった。

だが、賊達も馬鹿ではないと思ったよ。こっちの人間ビックリショーみたいな動きに惑わされず、

一か所に固まるという行動を取った。

ああ、やるなぁなんて思ってたのも束の間、つい…だ。

つい、そのまま帝具を使って何十人もいた賊達の上半身と下半身を別れさせてしまった。

癖って言うのか、そもそもあの動きは相手を固めさせる為の物だった。

訓練された兵士は、戦いのいろはとまでは言わないが、基礎的な行動を取る。

即ち、ああやって各個撃破にこちらが動くと一か所に固まるのだ。

だが、それが俺の策。相手はこちらの動きを捉えられなくても、攻撃した直後は隙が必ず生じてしまう。

だからこそ固まり、反撃の隙を生み出そうとする。

しかしそれは帝具使いの俺には悪手となる。

俺の帝具は全身の変形、変体と言う方が正しいのか?

そうして腕を大きな刃へと変える事が出来る。

それをこの馬鹿げた力で持ってして、薙ぎ、回転しながら突っ込む。

すると、綺麗に相手方の胴体は上と下のパーツへと生まれ変わるのだ。

まあ相手によってはパターンを変えるが、主な攻撃方法はこれだ。

しかし、今回はやり過ぎた。

中途半端に染みついた動きは、鈍った思考と体について行かず、勢い余って全員死亡。

結果、残ったのは大量のタンパク質の塊だ。

 

「駄目だな、タツミとの会話なんぞ気にしてる場合じゃなかった。いかんぞこれは。鈍り過ぎだ」

 

そうしてしょぼくれていると、他のメンバーは片づけ終わったのか、

全員でこちらに向かってきていた。

 

「あれ、どうしたの? なんだか落ち込んでるみたいだけど――って、え?」

 

なにやら全員が青褪めた顔をしている。

しかも何故かクロメは抜刀し、こちらに刃を向けている。

 

「なんだ、どうした皆。そしてクロメの嬢ちゃんはなんで刀を抜いた。もしかしてまだ生き残りがいたか?」

 

それは何とも朗報だ。体の鈍り具合も把握出来て、更には生き残りで“アレ”も出来る。

一石二鳥じゃないか?

 

「どうしたじゃないよ! 頭が!」

「頭ァ? それがどうか――」

 

ボルスに頭と言われて額を触ると、

 

「あーこれか」

 

最初に貰った一発の銃弾の後が残っていたようだ。

まあ中に弾丸が残ってるようだし、傷が塞がらないのも当たり前か。

 

「動かないで、今、私が――」

 

クロメが八房を構えながらが近づいてくる。

死んでないぞ。

 

「ちょい待て、今治す」

 

そう言うと、中に残った弾丸が傷口から出てくる。

そして額の肉が盛り上がり、傷口が塞がる。

 

「こんなもんか」

「どういう……こと?」

 

八房を構えたままのクロメはそう問いかけてくる。

確かにこれは不思議だろう。

 

「帝具だよ。俺の帝具はウィルス型の帝具、細胞を変異させて不死の怪物へと変貌させる」

「じゃ、じゃあソープさんって不死身なんですか?」

「まあな…」

 

ウェイブはまだ半信半疑なのか、少し不安そうだ。

 

「あら残念。アタシの帝具の見せどころと思ったのに」

「いや、頭ぶち込まれてたらドクターでも治せないだろ」

 

確かにとドクターは笑っている。気楽そうだ。やっぱコイツ信用出来ない。

どうにも怪しいというか、一々目の奥の感情が透けて見える。

人体実験、駒、興味深い。様々な感情が目の奥で渦巻いてる。

こりゃ、早々に手を打つべきなのか。

 

「良かった、私ビックリしちゃったよ。頭から血がどんどん出てくるんだもの」

「いやすまんな。心配かけて」

「流石ですソープさん! 正義は頭を撃たれたくらいでは倒れませんよね!」

 

ボルスは相変わらずこちらを心配してくれていたようだ。

覆面を被っていてもその気持ちは伝わる。

セリューはいつも通りどこかズレているが、個性なのかね。

 

「そう言えばソープさん。賊の捕縛はしなかったんですか?」

 

ランは切り替えが早いのか、既に周囲の状況を確認して生き残りが居ない事を知ったようだ。

それ言われるとへこむな。

 

「失敗した。勢い余って皆殺しだよ」

「だから落ち込んでたんだ。意外とメンタル弱いの?」

「それはないなぁ。自分の鈍り具合に落ち込んでた」

 

ぐっと手を握り締め、力を込めて見るが。

もう馴染んだのか、指が掌に食い込む事も無い。

力加減は大切だと分かった。

 

「それにしても、鮮やかな切り口ね。一体どうしたのこれ」

「これだこれ」

 

死体を確認したドクターが興味津々に聞くので、

腕を刃へと変体させ、上へ掲げる。

 

「すげぇ! カッコいいじゃないですか、ソープさん!」

「お、おう…そうか?」

「ますます興味深いわ!」

 

目をキラキラと輝かせながら興奮するウェイブ。こういうの好きなのか。今度他のも見せてやろう。

ドクターは刀身を触りながら、別な意味で興奮している。

 

「それも帝具、ですか。随分応用性が高そうですね」

 

まあな、と返しながら腕を元に戻し、周辺を見やる。

 

「もう生き残りはいないみたいだな。砦の外はどうだったラン」

「抜かりなく、ですね。一人も逃がしていませんよ」

「じゃあ作戦終了、万事滞りなく終わりか」

 

今回の作戦で色々分かった。

今後はこうはならない。一度の失敗は構わないが、二度は無いように努めるのが俺だ。

他の武装も確認しておくべきだろう。確かに俺は不死だが、だからと言って油断は何を招くか分からない。

事実、油断していた俺はオネストに捕まった。慢心、奢り、停滞は良くない。

俺の“目的”の為にも、この部隊は絶好の場だ。

 

今度こそ、俺はやり遂げる。

その為には――、

 

「タツミ、お前が鍵になるんだろうな…」

「何か言った?」

「なんでもないよ。ほれ、さっさと帰って初の作戦成功でも祝おうぜクロメの嬢ちゃん」

 

頭を撫で、誤魔化しながら砦を出る為に歩く。

ああ、そうだ。

 

「『頭、洗っとけよ』…でしょ?」

 

クロメにいつか言った言葉を重ねられ、思わず笑ってしまった。




結構短めの戦闘でしたので、手抜き感がありますね…。
時間を掛けるとまたズルズルと投稿を行わなくなりそうなので、
短めにしようかとプロットを見直しております。

誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。


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No3

三話です


 賊狩りの帰り、タツミに少し声を掛けた。

 なにやら決心した様子だったが、まあそれは気にしなくてもいい。

 今はエスデスも近くに居ない。ボルスになにやら聞いている。

 メモまで取ってるし、多分タツミ関連だろう。

 

「なあ、タツミ」

「うぇ!? あ、ああ…確かソープ――さんだったっけ?」

「そうそう」

 

 何故か驚かれた。どうにもこの顔は印象が良くないみたいだ。

 けど今はもう変えられないしなぁ…。

 

「で、何か用ですか?」

「いや、ちょっとな。それにしてもなんで驚いたんだ?」

「あ、いえ…それは…」

 

 少し談笑して本題を切り出すべきだろうと判断し、とりあえず何故驚いたのか聞いてみると、

 

「ソープさんって、なんつーか俺様! みたいな感じがして…取っつき難そうで…」

「なるほどねぇ、まあこんな顔してるからな。そう思われたって仕方ない」

 

 確かに柄が悪いとはよく言われる。目付きも悪いそうだ。

 

「けど、少し会話して分かりましたよ。親しみやすい人だなって。やっぱり顔じゃないんですかね」

「いやタツミの感覚も結構いい線だと思うよ、おじさんは」

「おじさん? 若そうに見えるんですけど…」

「クハハ、これでもイェーガーズじゃ最年長だぜ、多分」

 

 マジっすか、と半信半疑で驚いてはいるが、事実だ。

 この帝具は老いすらも遠ざける。

 まさに不老不死の体現。誰もが喉から手が出るほどの物だ。

 しかし、この帝具は欠陥品だと俺は思ってる。

 確かに強力な力、何にも脅かされない不死、

 そして常に最善の肉体で居れるこの帝具は素晴らしい。

 だが、心はどうだ。殺し、喰らい、周りは老いて死に、

 老いが無いこの体を気味悪く思い去っていく人。

 そんな状態が常に続けば、常人の心は摩耗し、欠落が生じる。

 老いが無いのもその現象を加速させる要因となる。

 人とは老いて死ぬまでの間に何かを成し遂げようとして懸命に生きる生物だ。

 老いがあるからこそ焦りが生まれ、死があるからこそ恐怖がある。

 その感情が原動力となり、様々な現象、物が生み出される。

 この帝具はそれを全て強制的に捨てることになる。

 老いが迫ることは無い、死がつきつけられることも無い。

 だから焦りも、恐怖も生まれず。停滞だけが存在する。

 止まれば周囲は進んでいき、己は置いて行かれる。

 そんな状態に絶望し、渇いて摩耗していく心。

 それに気づけば、後は――、

 

「――さん、ソープさん?」

「…すまん、少し考え込んでた」

「大丈夫ですか? なんか調子悪そうだけど」

「いやいや、大丈夫だ」

 

 ま、結論は強力な帝具にはそれ相応の対価があるってことだ。

 強ければ強いほど代償は大きくなる。

 だからこの帝具は欠陥品。

 それは適合しなきゃ分からないことだ。

 

「なあ、タツミ。少し聞きたいことがあるんだ」

「なんすか?」

 

 一拍置いて、間を作る。

 

「お前、なんでセリューに頭撫でられたとき我慢した?」

 

「――ッ」

 

 息を呑むのが分かる。

 図星、かな。結構分かりやすい態度だった。

 それこそ他の奴がエスデスへ注意を向けてなきゃ気付いただろう程だ。

 セリューに関しては、あれはズレてるところあるからな。

 気付いてても、別の事だと思い込むだろう。

 

「ど、どういう事…ですかね」

「いやさ、気になったんだよ。頭撫でられてた時の反応が」

「……」

「お前はセリューを見た時、まず目を見開いた。その後頭を撫でられて俯いたな。ここまでは、気になることはない。知り合いにあって驚いて、頭撫でられたから下向いたってだけだ。でも、ここからだ」

 

 再度、間を作る。間と言うのは大切だ。

 会話でこちらの土俵に引きずり込むのに最適な手。

 

「雰囲気が変わった、そしてぎゅっと手を握り締めた。どうにも知り合いと会った時の態度じゃない。まるで……そうだな」

 

 ――仇に会ったみたいな

 

「そ、それは――」

 

 タツミの動揺が激しくなる。

 こんなもんか…。いじめるのが目的じゃない。

 ガッとタツミの肩を掴み、引き寄せる。

 

「落ち着け、俺は別にお前が何者だろうと気にしないさ」

「……え?」

「いいか、よく聞け。お前の現状は酷く不安定な物だ。それこそ一つのミスが確実に軋轢を生む」

「あ、ああ」

「だからこそ、だ。余計な事はするな。お前の身の安全だけ考えとけ」

 

 タツミは鍵だ、なるべく余計な事はさせたくない。

 だからこそ、警告する。

 タツミには俺という存在を植え込ませる。

 いつか、遠くない時にそれが芽を出すように。

 

「なんで、あんたはそんな事を」

「おじさんのお節介だよ。俺の事はどうでもいい。とにかく大人しくしていろ。

 特にエスデス将軍が近くにいる今は、静かにしてるべきだ」

「……分かった。あんたいい奴だな。帝国にいるなんてもったいないぜ?」

「クハハ! そんな簡単に信じるなよタツミ。お前が思ってる通り、帝国は腐ってて、反吐が出そうなくらい邪悪だ。油断や慢心は捨てろ。それが道を繋いでいく」

 

 まるで自分に言い聞かせるように、俺は言った。

 

 

 ■■

 

 

 俺は今、非常に危ない状態にある。

 周りは敵だらけで、更には大物のエスデス将軍までもが近くにいる。

 

「しかも…恋人にするとかなんとか言われてて離れてくれないしな」

 

 昨日、ソープ――イェーガーズのメンバーの一人に忠告された。

 今は静かにしているべき、確かにその通りだ。エスデス将軍を説得して味方にしようと思っていたが、改めて思えば無謀過ぎる。

 そんな事誰だって考え付くけど、今この状況が何よりの証拠なんだろう。

 

 エスデスはこちら側には来ないと。

 だから、俺はエスデスの説得はやめて、大人しくすることにした。

 

 その結果――

 

「お前も大変だよな、何かあれば相談に乗るぜ?」

 

 今はウェイブと行動していて、エスデスは側にいない。

 

(これはチャンスだ…ソープさんが言った通り、大人しくしてて正解だったな)

 

「…ありがとう」

 

 よっし! こっからが勝負だぜ、俺。

 上手い事逃げて、みんなに情報を伝えるんだ!

 

 ・

 ・

 ・

 

「それで私と合流したと言う訳か」

「ああ、上手い事ウェイブからは逃げれたし、追っ手も無かった。

 いや、ほんとソープさんの助言通りだったよ。≪インクルシオ≫を装着した後に即座に透明化、

 んで、脱いどいたコートを川岸に置いて即離脱って感じで」

 

 なんとかあの後フェイクマウンテンから離脱した後に、アカメと合流できて、アジトに戻れた。

 正直こんな上手く行くとは思ってなかったから少し拍子抜けた。

 

「それで? そのソープとか言うやつはアンタから見てどうなのよ」

「それがさマイン、分からないんだよ。なんつーか、底が見えない…帝具の能力もいまいち分からなかったし」

「ダメダメじゃない!」

「うっせー! こっちだって必死だったんだよ!」

 

 だけど、ソープさんはこちらについてくれそうな雰囲気があった。

 もし、また会えば誘いを掛けるのもいいんじゃないかと思うんだが。

 

「実際、ソープって奴は言ってたんだろ? 帝国は腐ってて、反吐が出るって」

「ああ、確かに言ってた。それと、あまり信じるなって」

「信じるな? どういう事だ」

「わかんねぇ、だけどそんな事言う人だぜ?」

 

 明らかに俺に対して助言をくれていた。

 本当になんで帝国の、イェーガーズなんかにいるのかが不思議なくらい親切な人だった。

 

「気になるな、そのソープって奴。私の野生の勘に来るものがある」

 

 姐さんがなんかキメ顔で言ってるけど――、

 

「いや姐さん…今帝具つけてないじゃん」

 

 ■■

 

 タツミの逃亡でイェーガーズはドタバタとしていた。

 

「スタイリッシュの方はどうだ? 姿が見えないようだし、捜しているんだろう?」

「はい、独自に動かれているようですが…連絡はありません」

「何かあれば一報があるだろう…」

 

 イェーガーズのメンバーも何人か捜索に出たりはしたが、行方は分からないようだ。

 気になるのはドクターが単独行動で捜索に向かったまま音沙汰が無い事だ。

 

(最悪、タツミに追いついて捕縛――殺す可能性もあるかもしれん)

「隊長、俺も捜索に出る」

「お前もか? あまりそういうタイプには見えないが」

 

 それ薄情な奴って事か…?

 でも、確かにそんな面倒な事は普段ならしないな。

 よく分かってるね、将軍様は。

 

「タツミの事はちょっと気に入ってたしな、ついでにドクターも探してみる」

「分かった。頼んだぞ、ソープ」

 

 了解と言って、早速イェーガーズ本部の外へ向かおうとすると、

 

「ソープも行くの? 私も手伝おうか?」

 

 クロメが協力を申し出てきた。

 意外だ。タツミとは仲が良さそうには見えないし、仲間意識なんてものは無いだろうに。

 

「心配いらねぇよ、子供一人を探しに行くだけだ」

「…分かった。気を付けてね」

 

 聞き訳が良い、素直に折檻されているウェイブの元へ戻る。

 もう少しゴネたりするかと思ったが。

 そう言えば、なんでクロメは俺に対しては呼び捨てなんだろうか。

 ウェイブ、ラン、セリューとかの年が近い連中は確かに呼び捨てだが、ボルスはさん付けで呼ばれてる。

 低く見られてる事はないと思うんだが、帰ってきたら聞いてみるか。

 

 ……ああ、そうだ。

 

「隊長、いい加減ウェイブへの折檻も止めて捜索にでも出せよ」

「ソープさん! 俺は信じてました! ありがとうございます!!」

「…それもそうか、まだ序の口だが仕方あるまい。これもタツミの為だ」

「え!? これで序の口!?」

 

 元はと言えばタツミを促したのは俺だ。

 そうでなくとも逃げてはいただろうが、ウェイブに借りを返したって事でいいだろ。本人は知るはずもないが。

 とりあえずこれで心置きなくタツミ――いやドクターの後が追える。

 山賊狩りの時に少し見たが、あの私兵の数だ。

 追跡に特化した兵がいても不思議じゃない。

 ドクターには目印みたいなものは付けてる、それに気配も雰囲気も記憶済みだ。

 帝具の能力で追跡は可能。

 そしてスピードは圧倒的にこちらが上となれば、追いつくことは容易い。

 久々に追う側に回るとしますかね。

 

 ■■

 

 帝具の能力での追跡。

 その能力と言うのは、ソナーの様に特殊な探知パルスを周囲に広げ、ソープが対象とした人物にパルスが触れれば、

 対象から自分が発したのと同じパルスが返ってくる。そうして返ってきた方角、返ってくるまでの時間で距離を特定できるのだ。

 有効範囲は広すぎる為、ソープ自身把握出来ていないが――帝都周辺どころか、辺境の土地まで範囲内に入っていると分かっている。

 そして今回の対象スタイリッシュは、

 

「方角はあっちで、返ってきた時間的に十キロも離れてない。意外と近いな」

(これなら全力で走らずとも追いつけそうだ。ただ、日はもう沈んだし悠長にはしてられないか……よし、“アレ”使うか)

 

 何かの準備の為にソープが力を溜めた瞬間、僅かだが全身の筋肉が膨張した。しかし腕はその変化が一際現れていた。

 帝具の能力であろうそれは、刃のように人体からかけ離れた変化は起きていないが、殴られれば一溜りもないだろう。

 

「慣れないねぇ…これは」

(ただ、これって結構便利なんだよな。“筋力増強”)

「じゃあ、よーい―――どん」

 

 気の抜けた掛け声とは裏腹に帝都の石畳が弾け、ソープの姿は一瞬にして消えた。

 山賊の頭部を蹴り飛ばした時とは比べ物にもならないほどの力で、零からの加速。普通の人間であれば加速した瞬間の圧力に耐えられないが、

 元々常人離れした体、更には筋力増強でより強化されている。身軽に動き、地を蹴る度に数十メートルを移動している。

 このスピードならば、早めに付けるだろうと笑い、風すらも置いていきそうな勢いでソープは駆けて行った。

 

 ・

 ・

 ・

 

 走り始めてから数分だろうか、既に周りの景色は緑に覆われた森の中になっている。

 木々を避けながら、走りつつも時には鬱陶しくなったのか正面から突っ込み木をへし折りながら進む。

 

(流石に視界が悪いな。日の無い夜に加えて、月明かりも遮る森じゃ当たり前だが)

 

 走りながら目を閉じて、再び開くと――、一見すれば変化は見られないが、ソープの視界は文字通り色を変えていた。

 “熱源視覚”――熱を色へと置き換え、視界をクリアな物へと変える帝具の能力。

 現在は夜なので視界が余計に悪くなりそうだが、ソープはこの能力を気に入っており、一日中この視界で居た時もあるくらいだ。

 本人曰く、『余計な色が無い分疲れない』だそうだ。

 

(感度良好って言うのか、こういうのは。さて、視界も確保出来たし、もう一段階加速でも――ッ?)

 

 ソープの頭上を風を切りながら進む物体。ソープよりも早く、周りへの風圧が凄まじい。

 

(危険種のエアマンタ? ここら辺が生息地だったか?)

(いやあれは――誰か乗ってる…チッ、この視界だと人とまでは判別できるが顔まではわかんねぇ)

 

 悪態をついてはいるが、気取らせない為に少しスピードを落とし、やり過ごす。

 エアマンタが先に行くのを確認しつつ、徐々にスピードを上げ、一定の距離を保つ。

 

(敵か味方かは知らんが、進行方向は同じ。なら何かしら関係あるんだろう)

 

 そろそろ森も抜けるかと言いつつ、ソープは視線を前へと向けた。

 

 ■■

 

「スサノオ! 南西の森に敵が潜んでる、逃がすな!」

「分かった!」

 

「チィ! バレちゃったら仕方ないわね。ここは一時退却よ!」

 

 ナイトレイドと交戦していたスタイリッシュは、新たに現れた≪スサノオ≫と呼ばれる帝具人間によって追い詰められていた。

 

(こんな事ならセリューか、ソープでも連れて来れば良かったわ!)

 

 敵に背を向け走り出そうとするが、エアマンタの起こす風圧にバランスを崩され、転がってしまう。

 態勢を立て直し、また逃げようとするが…。

 

「……」

 

 既にスサノオは目の前におり、最早撤退は不可能だった。

 

「スタイリッシュ様! 我等がお守りします!」

 

 スタイリッシュの私兵である、≪鼻≫と≪目≫がスサノオを通さんと立ち向かうが、

 偵察に特化したこの二人では勝算は無いと歯噛みするスタイリッシュ。

 ここまで来てしまっては、ぐずぐずしている暇はないと思ったのか、

 

「いいでしょう。腹をくくるわ…」

 

 そう言いながら取り出したのは注射器。中身は得体の知れない液体が入っており、何かのドーピング剤なのが分かる。

 それを腕へと突き刺そうとした瞬間――、

 

「スタイリーッシュ――!?」

『スタイリッシュ様!?』

 

 森から飛び出してきた何かに吹き飛ばされ、不思議な叫びを上げながら持っていた注射器を手放してしまう。

 大した痛みはないが、突然過ぎて思わず手を離してしまい、四つん這いになりながら声を張り上げる。

 

「い、一体なんなのよ!」

 

 邪魔されて頭に来たスタイリッシュが顔を上げ、自分を吹き飛ばした相手を視界に入れ、言葉を失う。

 

 全身が鎧で覆われた謎の人物が立っていたからだ。

 その鎧は鋼鉄に似ており、左右非対称になっていて歪。事実、鎧は捻れたかのように歪んでいて、凹凸がある。

 顔がある頭部は外界を遮断する様に視界を確保する為の穴はなく、腕や胴体とは違って凹凸も歪みも無い滑らかな造形になっている。

 それはスタイリッシュを反射して映しており、まるで大きな瞳にも見える。

 何故か首回りの鎧部分は服の襟が立っているかのような形をしており、服をそのまま鋼鉄で覆ったようだった。

 そしてスタイリッシュは気付く、それが鎧ではなくその鋼鉄自体が生きている者の体だと。

 

(関節部分の空洞が無い、そして呼吸と共に胸も膨らんでる…新種の危険種かしら。こんな状況じゃなければ捕まえて研究したいくらい不思議な生物ね)

 

 いきなり吹っ飛ばされて、少し冷静になったスタイリッシュは、

 ふと、スサノオに視線を向け、動きが止まっているのを確認する。謎の生物を警戒しているようで、仲間ではないのだろう。

 状況は仕切り直しとなったが、肝心の切り札はどこかへ飛ばされてしまっており、不利なのは明白。

 この化け物がどう動くかが鍵、そう考えていたが…何故、あの化け物は最初に自分を吹き飛ばしたのか気になった。

 更にずっとこちらに顔を向けている事…。

 

(――ッ! まずいわ! アイツ最初からアタシを――)

 

 気付いた時には遅かった。初めに目の体が、くの字に曲がる。

 背中からは銀色の腕が突き出ており、掴んだ腸の感触を確かめるように手を開いては閉じる動作を繰り返していた。

 言葉を発する暇もなく目は殺され、鎧の化け物は死体の肩越しからスタイリッシュの姿を確認している。

 死体から腕を引き抜くと――体を低く、腹這いになるかのように屈ませ、その見た目の重みを感じさせない動きで走り出す。

 とてつもなく速い訳ではないが、スタイリッシュの様なインドアなタイプには十分脅威となる速度だ。

 ぶつかれば最初の時のように弾かれるだけでは済まない。そう感じたスタイリッシュは、次に戦えるであろう鼻へ命令しようとする。

 盾になれ、そう発したかったが、吹き飛んだのは自分ではなく兵だった。鎧の化け物はスタイリッシュの方へ顔を向けていたが、思考は冷静で、障害になる者から潰す気だ。

 吹き飛ばされた鼻は、四肢が本来曲がらない方向へ曲がり、自慢のハナは常人のサイズにまで潰れていた。

 タックルの体勢で固まっていたが、鎧の化け物は鼻が死んだだろうと分かり、即座に体を立て直して次の標的――耳へとその顔を向ける。

 

「ひ――ッ」

 

 が、大した戦闘力も無いと悟ったのか、一瞥してスタイリッシュをその頭部に映し、重苦しい足音を立てながら近づいていく。

 

「じょ、冗談じゃないわっ! ただの賊狩りがこんなことになるなんて、全ッ然スタイリッシュじゃない―ッ!」

 

 半狂乱になりながら、恐れを掻き消そうと叫ぶ。

 すると、何故か化け物の動きが止まり、

 

『欲張るからだろ、ドクター』

「え――」

 

 聞いたことのある声、そして呼び方に一瞬戸惑った瞬間、

 地面から突き出てきた黒い槍の様なもので全身を貫かれた。

 化け物は地面へ腕を突っ込んでおり、引く抜くとその手は四本指の大きな鉤爪と化していた。

 呆気なく、叫びも苦痛の声も上げずに殺されたスタイリッシュ。

 鏡面の様な顔には、呆けた顔で死んだDr.スタイリッシュの顔が映った。

 そしてそのまま、死体へ近づこうとすると、

 

「動くな、何者だ…貴様」

 

 ナイトレイドのメンバー達に囲まれ、一歩でも動けば即殺すと言わんばかりの雰囲気を出すリーダーの≪ナジェンダ≫に問われる。

 

『――』

「味方ではないだろう、お前みたいな奴は見たことが無い」

 

 その言葉に、肩を竦めて再び歩こうとする鎧――ソープだったが、

 レーザーの様な銃撃が足元に撃たれ、ピタリと静止する。

 

「動くなって言ったでしょ? 次はその気色悪い頭ブチ抜いてやるわよ」

 

 桃色の髪をした、帝具≪パンプキン≫の使い手≪マイン≫に警告される。

 撃たれた地面をじっと見つめ、顔を上げてマインを見つめてみるソープ。次はない、そう物語る眼をしているが、

 関係ないと、再び一歩踏み出そうとして、

 

『――ッ!』

 

 頭部にパンプキンの銃撃が直撃する。当たった場所からは煙が上がり、至近距離からの一撃は誰もが重いと分かる。だが、

 

「はっ――警告してやったのに動くそっちが悪いんだから、大体―」

『ってーな…』

「嘘!?」

 

 煙が消えれば、当たった場所を撫でて余裕そうな姿が。

 流石にこの距離で当てた一撃、死にはしなくとも重症だろうと思っていたマインは思わず声を上げてしまう。

 

『このピンキー少女、こんな姿だからって普通に痛覚あるんだからな。もっと労われよ』

「いや、そういう問題じゃないだろ!」

 

 いつもの癖ですかさずツッコミを入れてしまうラバック、ハッと口をおさえてまた構えを取るが、

 一瞬空気が緩んだ瞬間だった。ソープはスタイリッシュの死体へと近づき、その腕を――正確には帝具≪パーフェクター≫をもぎ取る。

 

「まずいぞ、帝具が奪われる! 全員――」

『ほらよ』

 

 奪われるかに思われた帝具だが、ソープはあっさりとそれをナジェンダに投げ渡す。

 

「っと!?」

「えぇ!?」

「どういうことだ?」

 

 意味の分からない行動にナイトレイドの面々は頭の上に疑問符を浮かべる。

 

『お前らの手柄だ、それはお前らの戦利品だよ』

「何故だ、アレを倒したのはお前だろう」

『ここまで追い詰めたのはそっちだ、俺はただそれを横から掻っ攫ったに過ぎないよ』

 

 見た目に反してまともな事を言う為、全員が唖然としてしまう。

 しかしナジェンダは冷静で、ソープの動きを見極めようとしていた。

 これはフェイクで、隙を付いてこちらに襲いかかる危険もある。

 ここまで来て、油断をして死を招くのは愚かと言うべきだと、ナジェンダは考えている。

 

(迂闊には動けない…パンプキンの至近距離での攻撃すら大したダメージが入らないあの鎧だ。もし戦闘となれば、確実に一人か二人はやられる)

(そうなる前に――)

 

『先手を打つかナジェンダの嬢ちゃん』

「……そ、その呼び方!?」

『油断したな』

 

 スッとナジェンダに近づいたかと思えば、そのまま横を通り抜け森へと走り込んでいく。

 一瞬やられると思った、メンバー達だが、相手が逃げに徹するならばと後を追おうとするが、

 

「待て、追わなくてもいい」

「え? いいの?」

「ちょっと! 顔見られたのよ!?」

「そうだな、追って始末するべきだと思うけど」

 

「いや、大丈夫だ――私に対してあの呼び方…恐らくは」

 

 疑問は残るが、ボスからの命令ならと全員は足を止める。

 そこへスサノオが近づいてきて、

 

「知り合いか、人とは思えなかったが」

「まあ少し付き合いがあってな。いや結構な方か……というかスサノオ、その発言はツッコミ待ちか?」

 

ジト目で天然な事を言うスサノオを一瞥し、

 

「しかし…生きているとは…」

 

 ナジェンダは渡された帝具を握り締め、ソープが逃げた方を見やる。

 その瞳は懐かしむような感情が篭っていた。

 

「あれ!? あの耳がデカイ奴が消えてるぞ!」

「もしかして、あの一瞬で連れてったのか?」

 

「はぁ…抜かりないな、あの人は」

 

 溜息をついて取り出した煙草に火をつけるナジェンダだった。

 




誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。

追記:ソープの能力で斬ったり突き刺したりしたらウィルス感染するんじゃ…と思いました。


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No4

「はむ――ん…オネスト大臣からの召集命令?」

「はい」

 

 ケーキを食いつつ、伝言を持って来た兵士と会話する。

 タイミングがタイミングなので、もしかしたらドクターを殺したのが露見したかとも思ったが、

 オネストならこんな回りくどい事はしないでさっさと暗殺者でも仕向けるだろうし、別件か?

 

「隊長、エスデス将軍には?」

「既にお伝えして、許可をいただいております」

「そうか…」

 

 フォークで苺をつつきながら、考える。

 既にエスデスは承諾済み、手回しが早いな。よっぽどの事でもあったのか?

 通常なら二、三日経ってからこちらから出向くものだが、兵士が言うには今すぐにでもらしい。

 危険は無いと思いたいが、油断は禁物か…。

 オネストが契約を破るとは思えない。

 いやアイツは生まれてからずっと約束破ってそうだけど、

 俺との契約に関しては今の現状では破ることはないはずだ。

 俺の戦闘能力と使い勝手、更には敵に回った時のリスクの大きさ、

 そういうのをよく考える奴だ。

 頭はキレるし、ああ見えて実は武闘派だからこそ今あの立場に居るんだろう。

 

「了解した、すぐに向かうと大臣に伝えてくれ」

「はっ!」

「伝言ご苦労さん」

 

 敬礼を取った兵士に労いの言葉をかけ、

 兵士が部屋から出て行くのを見届けた後、再びケーキを食いはじめる。

 フォークを苺に突き刺し、そのまま口に入れ咀嚼する。

 口の中に広がる甘味と酸味が合わさった味は慣れ親しんだもので、

 

「うん――いつも通りの味だな」

「ソープ、大臣のところに戻るの?」

「――いたのか」

 

 ケーキと思考に耽っていた所為か、クロメの存在に気付かなかった。

 なんで気配殺して近づいてきたんだ。

 

「元暗殺部隊だよ? 気配くらい消せるよ」

「そりゃ知ってるが、わざわざ気配消す理由が分からん」

「別に、なんとなく。気付くかなぁって」

「おじさんで遊ぶな。びっくりして心臓止まったらどうする」

 

 と、言ってから内心で悪態をつく。

 この手の死んだらどうするや死にかけたの話題は面倒臭い、クロメ限定で。

 

「不死身なんだから、大丈夫でしょ」

「…確かにな」

「それで、大臣の所に行くの?」

 

 珍しく俺の言葉に反応が無かったから少し固まってしまった。

 それよりも俺の召集に興味があるようだ。

 

「まぁ、命令だしな。もしかするとこのままイェーガーズからは抜けて戻らないって事もありえる

 かもしれん」

「そっか…」

「そもそも補欠要員だ。今まで一緒に行動出来てたのも、タイミングが良かっただけかもな」

「……」

「……」

 

 いつぞやのボルスと対面した時を思い起こさせるな、この感じ。

 どうにもクロメの態度がおかしい。

 正直このまま放置でもいいんだが、一応は同じ部隊の仲間だ。

 前から聞こうと思っていた話題を振る。

 

「そう言えば、クロメの嬢ちゃんはなんで俺の事を呼び捨てにするんだ?」

「え?」

「ボルスとかはさん付けで呼ぶのに、俺のことはソープって呼ぶから気になったんだよ。

 ボルス以外のメンバーは皆若いから呼び捨てなのも分かるんだが」

「それは……」

 

 少し考えて、クロメはこう言った。

 

「私と似てるかもと思ったから…かな」

「似て…る?」

「うん」

 

 どこが似てるというのか。人を玩具にして遊ぶことも無い。

 強いてあげるなら菓子好きなところだけだ。

 それにしたって、一日中菓子を頬張ってるわけではない。

 性格も趣味も全て似通ってるところなんてない。

 一体何が似てるんだ…。

 

「私は、大切な人とか仲の良い友達、仲間とはずっと一緒にいたいと思うんだ」

「今の部隊の、イェーガーズの皆も一緒に居ると居心地が良くて、ずっと一緒にと思う事もある」

「……」

「ソープも、そんな私と“同じ気持ちになった事”がありそうだなって、なんとなく感じたんだ。

 だからかな、親しみみたいのを感じて呼び捨てにしてた」

 

 微笑まれながら言われたクロメの言葉に引っ掛かりを感じ、その違和感が頭の中で広がる。

 どうなんだろうか。俺にはそこまで大切だと思った相手は“いないはずだ”。

 そんな奴に対して同じ気持ちを持っているかもしれないなんて、感じるとは思えない。

 それが勘に近いものだとしても、いやだからこそ…そんな直感的な部分に触れるはずがない。

 何か忘れているのだろうかと思ったが、ありえないだろうと思いなおす。

 自分の帝具はそういう記憶に関することには滅法強い。

 

「そうか。けど分からないな、そういう感情は。そんな気持ちになった事はないと思う」

「そうなんだ……でも確かにソープって皆の事を仲間とは思ってるけど、そこ止まりだもんね」

「よく分かってるなクロメの嬢ちゃん。そんな薄情者をどうして自分と似てるなんて思ったのか

 不思議だねぇ」

「感覚的なことだから」

 

 それもそうか、と呟くように言ってから、違和感を掻き消すように思考を切り替える。

 今それは重要ではない、後で考えればいい。

 とりあえずはオネストだ。目の前の事を疎かにして足元を掬われては目も当てられない。

 

「さて、俺は大臣のところに行ってくる。用事はさっさと済ませたいしな」

 

 クロメと会話しつつも食っていたケーキは食べきった。

 すぐに向かうと伝えた手前、遅れると何を言われるか分からん。

 

「わかった――あ、そうだ」

「なんだ?」

 

 近づいてきたクロメが、何をするのかと思えば、

 

「ん」

 

 頭を出してきた。どういう意味だ?

 固まる俺に上目遣いで何かを訴えてくるクロメだが、まるで分からん。

 

「はやく」

「いや…どういう意図か分からないんだが」

「もうっ」

 

 俺の手を掴み、そのまま自分の頭に乗せた。

 そこでやっと気付き、ああなるほどと思った。

 歪んでしまっていても、こういう所は純粋な少女だなと感じる。

 

「撫でてほしいならそう言えばいいだろう」

「そこは男なら気付くべき」

 

 言わなきゃ分からん、そう言いつつ頭を撫でてやる。

 相変わらず心地よさそうな顔をしているが、そんなに撫でられるのが好きなのだろうか。

 他のメンバーから撫でられているのを見たことがないが。

 

「もういいか?」

「もうちょっと…」

「そろそろ行かなきゃいけないんだが」

「むぅ…だって、もしかしたら会えなくなるかもしれないんでしょ?」

 

 そういう事か。しばらく会えない、最悪二度と顔を合わせる事がないかも知れないなら、

 今のうちに撫でてもらおうと。可愛いなコイツ。

 “妹”が居れば、こんな感じなのだろうか――。

 

「分かったよ、じゃあ約束だ。またここに戻ってくるよ」

「本当? 破っちゃやだよ?」

「ああ、おじさん約束だけは破ったことない――時と場合によるが」

「破ったら、八房で刺すからね?」

「お、おう。分かった」

 

 所詮は口約束だが、約束は約束だ。出来る限りは守ってやろう。

 仮に今回の呼び出しが任務だとしても、大臣もずっと俺を抱えるつもりはないだろう。

 任務を完遂したらまたここに戻ってくればいいだけの話だ。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

「うん――またね」

 

 手を上げてそれに答え、部屋を出て行った。

 

 ・

 ・

 ・

 

「お久しぶりですねぇ、ソープ」

「そうでもないだろう」

 

 宮殿内にある一室でオネストと対面したが、相変わらず骨付き肉を頬張っている。

 痩せようという考えは頭の中には無いのだろうか、この豚。

 

「会っていきなり失礼な事考えてません?」

「気のせいだ。それで、何か用か」

「まあいいです……今回は貴方に独自に動いてもらいたいのです」

「了解した。それで、依頼内容は?」

 

 ムフフ――と笑いながらオネストは語り出した。

 依頼内容は最近現れた新型の危険種討伐――が表向きで、

 実際にはその危険種を狩りに来るであろうナイトレイドが標的らしい。

 日中はイェーガーズ及び帝国兵士が対応し、

 夜にも一応イェーガーズがパトロールをするらしいが、

 オネストの事だ、自由に動かせる手札が必要なのだろう。

 

「依頼内容は理解した。もしナイトレイドと遭遇、交戦した場合は捕縛か?」

「ええ、出来れば捕まえてください。最悪殺しても構いませんよ。

 あ、帝具の回収はお願いします」

 

 どうするか、ここらで一つ任務をこなしてオネストの信用度を上げるべきか?

 ただ、そうなるとナイトレイドの人数が減る。

 

(なら――捕まえた後に逃がせばいいか。大臣は捕まえて公開処刑するつもりのようだし、猶予はある)

 

 ドクターとナイトレイドの戦闘時、少し見ていたから顔は覚えた、

 比較的捕え易くて多少痛めつけてもいい奴は――、

 あの金髪の女だな。使用してた帝具は≪ライオネル≫。

 不死身ではないが腕の一本や二本切り落としてもくっつくくらいの再生力はあるはずだ。

 

「何か考え事ですかな?」

「ああ、巡回ルートと捕縛対象が誰であっても対応できるようにな」

「仕事熱心でなによりです、グフ」

 

 気色悪い笑い方をしてるが、何を考えてるか分からん。

 なんだかんだコイツが一番苦手とする相手かもな。

 

「そうだオネスト、この任務が終わればまたイェーガーズに戻っても構わないか?」

「構いませんよ? そのつもりでしたし。それにしても、あの部隊を気に入ったのですか?

 自ら戻ろうとするなど」

「まあな。面白い連中もいるし、何より約束もある」

「約束ですか」

「こっちの話だよ」

 

 そうですかと言って笑みを浮かべるが、今は何考えてるか分かるぞオネスト…。

 しかし、さっきからこちらを見張る視線が鬱陶しい。

 わざと気配を殺さずに威圧してるのが分かる。羅刹四鬼だろう。

 顔合わせはまだだが、オネストの警護、並びに暗殺任務や処刑を請け負う連中だったか。

 

「そうでした、羅刹四鬼と会っていきますか? 今後は一々警戒されずに済みますよ」

 

 少し顔に出たのか、オネストが珍しく気を遣うがどうでもいい。

 所詮は暗殺者、拳術の極地には達しているとしてもこちらは不死身。

 決定打に欠けるだろう拳闘家など警戒する必要もない。

 

「いらん世話だ。では依頼内容通りに今夜から行動させてもらう」

「朗報を期待してますよ」

 

「あ、それともう一つ」

 

 部屋から出ようとして、呼び止められる。

 なんだと返そうとしたが、

 

 ――Dr.スタイリッシュの件、貴方何か知っていませんか?

 

「…いや、独自に調べてはいたが大した事は」

「何か分かりましたか」

「――何者かと戦闘していた形跡はあった。ただ、“生き残りは誰一人”いなかった」

「そうですか――あ、もう構いませんよ」

 

 オネストを一瞥もせず、部屋を出る。

 

(焦ったぞ…なんつータイミングで聞いてきやがる。だが――確定だ、オネストの野郎怪しんでる)

 

 俺がドクターを殺したとまでは知らないだろう。

 知っていたらあの場でブドーなり、エスデス――最悪両方来て俺を取り押さえようとする。

 どのタイミングで疑念を持つようになったか分からないが、この先は慎重に行動するべきか。

 

(もう少し、この帝具の索敵能力が高ければ良かったんだが)

 

 恐らくは監視者が付いているはずだ。それも偵察や監視にだけ特化した奴を。

 お陰で、決定的な場面は見られてないだろうが、

 不審な動きを見られたのかオネストに疑念を持たれた。

 対象を一人に絞って捜すのは得意だが、

 顔も気配も知らず、目印も付けていない相手を捜すのは不可能。

 無差別にパルスを周囲に放っても人が多いところじゃ判別する事ができない。

 例え人気の無い場所で使用して相手を特定できてもこちらは何もできない。

 監視者を殺せば、見られたくない物がありますと言うようなものだ。

 

(今回の依頼は、俺がどう行動するか確認する為か――妙な動きをすれば即捕縛、逆に依頼を見事成し遂げればそれはそれで相手の戦力を削れる)

 

 一石二鳥だな、やはり頭はキレる奴だ。

 とりあえず今回は元々ナイトレイドの捕縛自体は行うつもりだったが、

 肝心の逃がす時が動けない。捕まえた奴自身に逃げてもらう必要がある。

 

(丁度いい、“耳の奴から識った”ドクターの発明品でも使うか)

 

 アレを喰っといて良かった。こういう時は本当に便利だから助かる、俺の帝具は。

 そう思いながらあの時の事を思い返す。

 

 ・

 ・

 ・

 

 ■■

 

 ナイトレイドの奴らは追ってこないようだ。

 走りつつも背後の気配を探るが特に迫ってくる気配はない。

 そろそろナイトレイドのアジトと帝都の中間地点くらいだろうし、ここで一旦止まるか。

 急ブレーキを掛けて襟首を掴んで連れてきた奴を放す。

 

「ぐへっ――あ…こ、殺さないでください!」

『…お前、耳とか言ったか』

「は、はい…」

(ドクターの私兵だ、少しは情報でも持ってそうだな)

 

 よし、と呟き会話を続ける。

 

『ドクターについて、何か知ってる事はあるか』

「あ…それは、その…ほんの少し程度しか」

『正直だな? わざわざ言わなくてもいいだろうに』

「どちらにしろ、何も知っていないのがバレてしまえば結末は変わらないでしょうし…」

 

 合理的だな。もし仲間だったら仲良くなれそうだ――、

 が、そんな事はありえない。これ以上、会話も必要ない。

 もう情報は引き出せた――いや、知っていると言う事を知った。それで十分だ。

 後は、

 

「それで、何から話せば―」

『話す必要はない』

「え…?」

 

 さっさと済ますために首を鷲掴みし、そのまま地面へと叩きつける。

 背骨が折れる音がした――これでもう動けない。そのまま叩きつけた体に馬乗りになり頭を見据える。

 

「あぐぁッ! な……に…を」

『何って、教えてもらうだけだ』

「なら…こんな事する必要は…!」

『さっきも言ったけどお前が話す必要はない――』

 

 ――直接、その脳に聞くからな

 

 言葉の意味が分かったのか、青褪めた顔で待ってと言いかけるが、

 無視してそのまま絶妙な力加減で顔面を殴る、ひたすらに頭蓋が柔らかくなるように、なるべく脳に傷を付けないように。

 人が聞けば気分を悪くするような声、まるで獣の様な声で何か叫けんでいるが、こっちは頭を上手く割るのに忙しいんだ、聞いてられん。

 まあ、叫ぶだけで動くことは出来ないだろう。

 その為にわざわざ背骨折って馬乗りになったんだし。

 

 それにしても面倒だ、と殴りながら思う。

 俺の体から出てくる触手達は、

 何故か記憶を奪う時だけは頭蓋を割ってやらないと出てきてくれない。

 理由は記憶を奪うために工程があるようで、その為に骨が邪魔になるらしい。

 けれども普通に喰う時には骨ごと喰う癖して、変な所で繊細だ。おかげで一々頭蓋を砕くと言う手間が入る。

 おまけに力加減を間違えると脳が損傷して記憶が奪えなくなるという七面倒臭さ。

 誰だこんな帝具作った奴と思う。

 

 …静かになったな、死んだか。

 考えに耽ってると勢い余って脳まで砕きそうだし、一度思考をカットし、頭蓋が砕けた死体の頭部を見る。

 

『いい感じに砕けたな』

 

 そう言ったと同時に、体から触手達が出てきてそのまま脳に近づいていく。

 触手の先端には針のようなものがあり、脳にそれを突き刺した瞬間、視界が明滅し、他人の記憶が自分の頭の中に流れ込んでくる。

 いつもの事だが、慣れない感覚だ。激しい頭痛もするので、好んでやりたくはない。

 とりあえず知れたのは「ドクターが自分の研究所で何をしていたのか」と、

 「開発した発明品の隠し場所」だ。

 ドクターが研究所で何をしていたかはそこまで重要じゃないが、もう一つの発明品の方は今後使える場面があるかもしれない。意外と使える脳みそだった。

 後の記憶はどうでもいい。鼻自身、いや「   」と言う名前をした奴の今までの人生が見れるだけだ。

 興味も無ければ、有用性も無い。もう少し強い奴なら、習得した技術とか経験を知れるんだが、これにそんな知識も経験もないだろう。

 

(一応、全部喰うか。死体を残して発見されるのも厄介だ)

 

 せっせと触手達が死体を綺麗に食べ終わるのを確認して、全身を変異をさせる。

 そうすると体が二回り近く小さくなり、軽い肉体へと変わる。出来上がったのは耳の体。隅から隅まで完璧に再現できている。これも帝具の能力で、“擬態”と呼んでる。

 喰った相手に成り代わる事ができ、細胞単位で本体と遜色ない。潜入とかに使えるから便利だ。

 確か、似たような能力の帝具もあったな。結局どっちも利点と欠点があるが。

 欠点は相手の全身を喰いきらないと変異できない。すなわち相手を殺さないといけないので、手間がかかる。

 その代わり完全コピーなので誰が見ても聞いても違和感を感じることはない。更に記憶も奪えるのでボロも出にくいし口調も完璧。癖すら模倣可能。

 そして身体能力や特殊能力さえ扱う事が可能である。ちなみにエスデスや俺のような一体化の帝具でもない限りは使っていた帝具も使えたりする。

 ただ、二つの帝具を使用している状態なので疲労感が半端ではない。再生力の低下や擬態中は刃や爪などの変異も出来ないなどもある。

 欠点と利点が釣り合ってない気がするが、大体こんなものだ。

 

(使えると思って確認の為に擬態したが、耳が良すぎるのも問題だな)

 

 音を拾いすぎていて判別がつかない。身体能力を扱えると言ってもやはり慣れは必要だな。

 この耳は使えるから練習しとくかと思いながら鎧姿ではなく元の体に戻り、立ち上がる。

 そうして体の調子を確かめる為に、少しストレッチをしながら、ふと呟いてしまう。

 

「まさかコイツ男だったとは」

 

 中性的な顔つきだったので、てっきり女かと思っていたら股間にいつもの感覚があり驚いた。

 なんで女装してたんだろうと思ったが、スタイリッシュの私兵達の恰好もまともなのが居なかったと思い出し、

 

「変態の仲間は変態…か」

 

 遠い目をしながらボソリと言った。

 

 




クロメが結構出てきますが、ヒロインじゃないのでそこだけご注意を。

それにしても見直しているとほぼソープの能力解説ばかりで申し訳ない…。
PROTOTYPEの主人公自体、結構能力が多いので全部解説していくと切りがないですね。
しかも能力の詳しい描写とかは作中ではあんまりされないのでちょこちょこ考えながら描写する必要がありまして…。
そして何より英語が苦手なのに、日本で発売されていないゲームなので全て英語なんですよね。

ゲームはとても面白い作品なので、
この作品を読んでいて気になったらご購入を検討されるのもいいと思います。

それではまた。
次話も読んでくださると嬉しいです。

誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。


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No5

活動報告で本作の設定変更について書きましたので、そちら読んでいただけると幸いです。


 帝国兵が寝静まる真夜中、帝都から少し離れた南部の森林地帯。

 視界不良で、地面も荒れていて足元が覚束ないこの森林地帯。そんな場所で俺、ソープはナイトレイドの金髪の女を探していた。

 なんで森林地帯なのかと言うと、あの帝具≪ライオネル≫を使う女が奇襲に特化していそうだなという推測からだ。

 死角が多いこの森なら、その特技も生かせるのではと中りをつけて現在捜索中。それにライオネルは獣の感覚を扱う事が出来ると文献にも載っていた。

 その能力はこの森で活かせるだろうし、多分いるはず。一応、この森付近でも新型の危険種の目撃情報はあるし。

 最悪あの金髪の女じゃなくても構わない。少し手間は掛かるが、こっちは疲れも死にもしない帝具使い。長期戦に持ち込んで無傷で捕縛も可能だろう。

 ただし、≪アカメ≫と出会った場合は分からない。使用している帝具≪村雨≫の能力は掠り傷でも負わせればその傷から呪毒を与えて相手を死に至らしめる物。

 こっちは不死だが、もし斬られた場合――永遠に生と死の境を往復するという生き地獄を体験させられる可能性がある。

 そんな状態じゃ流石に戦闘は不可能なので、アカメと遭遇した際は捕縛出来そうであれば捕縛、無理そうであれば即撤退と決めておいた。

(アーマー)≫の状態に変異すれば刃が通ることはないと思うが……まあ関節部分は柔らかいのでそれに気づかれると危険かもしれない。

 後、あの姿は一度晒してしまっているので迂闊に見せられない。時期的にまだあれが俺とはバレたくない。

 それにナイトレイド――いや、革命軍にオネストの間諜がいる可能性もある。

≪Dr.スタイリッシュ≫を俺が殺したとオネストに伝われば、間違いなく殺される。それは拙いので、とにかく鎧は封印。

 あ、でも≪ナジェンダ≫は俺だと気付いてるだろうから、あんまり意味ないか。油断させようとしてあのチョイスは間違えたかもしれない。

 

「っと……熱源があるな」

 

 視界を≪熱源視覚≫へと変えていたが、赤と黄色と青が混ざり合ったような物体が見えた。

 危険種なら即殺し、ナイトレイドなら隙を見て捕縛だな。

 熱源の方へ向かって気配を殺して近づいて行くと、

 

「クソッ! コイツら何体いるんだよ!」

「アタシに聞かないでよ!」

 

 ビンゴと心の中で呟く。

 二つの人型が危険種と戦っている。熱源視覚を切れば金髪の女と桃色の髪の少女だ。予想が的中すると嬉しくなるね。

 

「キリがない! レオーネ!」

「了解!」

 

 金髪の女は≪レオーネ≫か…覚えた。少女の方は手配書で顔と名前は知っている。≪マイン≫だったかな。

 戦闘を観察してみるが、コンビネーションはやはり長年ずっとチームを組んでいたからか良い。

 マインは後方からの援護射撃。あれだけ激しく動いているのに的確に危険種の頭を撃ちぬくその射撃の腕前は才能か。

 レオーネは拳一つで危険種を殴殺している。ただ闇雲に殴っているのではなく、人間の姿に近い危険種だからか、人間の弱点をしっかり捉えている。

 しかも射線に入らない様に動き、尚且つ撃ちやすい位置に相手を誘導している。不死身じゃなきゃまず相手をしたくない位に鮮やかな連携。

 

(これは少し気合を入れるべきか)

 

 そう思っていると、マインの帝具≪パンプキン≫から最早弾と言うよりレーザーのような物が発射され、結構な数がいた危険種が一掃される。

 あれも要注意だな、迂闊に追い詰めると逆にこっちが不利になる。格上殺しの帝具ってのは怖いもんだ。“浪漫砲台”じゃなくて“格上上等”のが似合っている。

 

 さて、あちらも敵を全滅させたのでそろそろ仕掛けてもいいか。

 

 ・

 

 ・

 

 ・

 

「相変わらず惚れ惚れする威力だなぁ」

「当たり前よ、相手の数が多くてこっちがジリ貧な状況なんだから」

「まあともかく、これでお仕事完了! 帰って温泉にでも―マインッ!」

「え――うきゃっ!?」

 

 あらら――帝具で防がれちまった。上手く気配消してたし、タイミングも完璧だったと思ったんだが。

 流石殺し屋、不意打ちには慣れてる。反射的に帝具を盾にして身を守った。

 

「何者よアンタ! いきなり襲いかかってくるなんて!」

「全然殺気がしなかったから驚いたよ…帝国の暗殺者か?」

 

 殺す気がないから殺気なんて出すわけない、とは言えない。それにしてもさっきの一撃でマインを気絶させる気だったので、この展開は面倒だ。

 あの連携を見たからこそ先に叩いておきたかったんだが…。

 

 頭に放たれた弾を首を動かして避ける。

 

「考え事なんて随分余裕ね、素人かしら」

「どっちでもいいさ、敵だろ? なら殴っておしまいだ!」

 

 既に二人は臨戦態勢、ここから崩すのは地味に大変だ…溜息をつきたくなる。予想的中で標的を発見出来たのに、結局こうなる。

 賊狩りの時も最後に失敗してるし、上手くいかない星の元にでも生まれているのだろうか。オネストにも捕まるし。

 嫌だ嫌だと思いつつも、レオーネがその瞬発力を持ってして一気に懐に入ってきたので攻撃を捌いていく。

 やはり人の弱点を的確に捉えた攻撃だ。当たれば隙が出来て、後方で帝具を構えているマインに撃ち抜かれるだろう。

 そうすると立て直しに時間が掛かって俺を動けなくする事もできるし、最悪逃げられる。相手もさっきの戦いで消耗しているのは分かっている筈だ。短期決戦で勝負を仕掛けてくるだろう。

 

 まあそれは俺も望むところだ――と、ここだな。

 レオーネの蹴りをしゃがんで避け、がら空きの鳩尾に掌打を叩き込み距離を離す――腹が爆散して死なない様に手加減しながら。

 しかし相手もプロ、味方が吹き飛んでも一瞬で軽傷と判断してパンプキンで銃撃してくる。この暗い森の中での射撃であってもそれは的確。戦い慣れているな。修羅場をいくつ潜ったのか。

 当たるわけにもいかないので、横に回避。上に飛んでたら撃ち抜かれてたな。上に回避させようと、弾の位置は低めで撃たれている。

 マインの顔を見れば引っかからないかと少し悔しそうな顔をしてる。しかし、レオーネに与えたダメージも大したものではないし、ライオネルの治癒力なら即座に回復可能だ。うーん、膠着状態だな…殺さない手加減ってのが足を引っ張ってしまう。

 マインの方には迂闊に手を出せない。追い込んだ結果その状況を爆発力に変えられて上半身が消し飛ぶなんてごめんだ。

 なるべく無傷が良かったが…仕方ない。

 

「その腕貰うぞ」

 

 まだ少し態勢を崩しているレオーネに≪筋力増強≫で脚を強化し急接近後、

 

「なっ――」

 

 (ブレード)で片腕を叩き斬る。

 切り離された腕はそのまま宙へ舞い、重力に従って地に落ちる。

 

「つ――あっ――ぐぅ!」

「レオーネ!?」

 

 流石に筋力増強での移動にはマインも反応できなかったようで、牽制の射撃も無く腕が切断できた。

 レオーネもそうだろう。例え獣の動体視力、反応速度を持ってしても対応出来ない動きだ。

 

「これで形勢はこちらに傾いたな。諦めろ―――終わりだよ」

 

 本当は形勢はこちらに傾くことはないけどな。レオーネの腕を切り落とすということは、大量に血が流れ出るという事。

 こうやって言葉で相手の気力を削ぐ事で手早く終わらせられるようにこの場を運ばないと、出血死する。

 レオーネが死ぬと俺の目的が果たせなくなる可能性が――、

 

「――な、めんなぁ!」

「これくらいで倒れるかよ、諦めるかよ! 私は気に入らない奴を、大臣ぶっ殺すまで死ねない!」

 

 

「……ク…クハ、クハハハハハッ!」

 

 

 腕を切り落とされながらも啖呵をきり、こちらを睨みつけるレオーネ。

 笑いがこみ上げる、笑わずにはいられない。

 

 ――止血しやがった、ライオネルの治癒力で傷口を再生させて止めるという荒業で。

 

 完全に再生とまではいかないが、血は止まってる。俺が言うのもなんだが、帝具ってのは本当に凄いな。甘く見過ぎていた。

 帝具だけじゃなく、レオーネの“嬢ちゃん”の覚悟と意志も。伊達に帝国に喧嘩を吹っ掛けてるわけじゃない、そう認識した。

 こちらを睨みつけるその双眸には、絶対に生き延びるという意志と腐った帝国、いや大臣を倒すという覚悟が宿っている。

 片腕を切り落とされ、不利な状況に陥っても尚折れぬ心。俺の動きが見えていないはずだ、勝てないと本当は分かっているはずだ。それなのに――。

 気に入った――とても気に入った。“もう帝国側から抜けてもいい”と思えるくらいに。

 

 

 

 俺はずっと機を伺っていた。オネストがギリギリまで譲歩してくるだろうタイミングを。機は熟し、結果的に俺は自由に動ける身分を手に入れた。

 オネストの依頼をこなすという条件付きだが、それでも破格のものだ。それほどまでにオネストは俺を重要視していたのだろう。あの狸がこんな好条件を提案するなんてことは普通はありえない。

 そうして自由になった俺は帝国の戦力を削り、回収した帝具を革命軍に流していき帝国が衰退したと確信した時に抜けるつもりだった。

 そうすれば帝国に残るはエスデスとブドー。後は雑兵のみ。例え二人の帝国最強クラス残っていても、一人一人の戦力差で革命軍が勝利する確率は高くなる。今回の目的も、処刑される筈の賊が逃げ出したという事実を帝国に植え付け、帝国の士気を下げる為だ。

 

 だが、必要ないのかもしれない。俺がそんな小細工をしなくとも、ナイトレイドは、革命軍は帝国に打ち勝てる。そう思ってしまう。

 全員がレオーネの嬢ちゃんのようだとは思わないが、少なくともナイトレイドのメンバーは全員そうなのだろう。実際マインはレオーネの啖呵聞いて、不敵に笑っている。

 

(ほんとこんなにワクワクしたのはいつ以来だろう…)

 

 決めた――これを以て俺は帝国を抜ける。大臣には感謝だ、こんな任務を与えてくれたのだから。

 

 

 

「お前は私がここで殺す! 獅子を怒らせたら―」

「降参!」

 

 フードを外して、笑いながらそう宣言する。

 そうすると、

 

 ……

 

「――は?」

「はぁ?」

『ハアァ!?』

 

 一瞬固まって、まるで意味不明とばかりに二人が叫ぶ。

 いや、わかるよ。おじさんわかる。確かに意味不明だよな。

 

「いやいや! 意味わかんないんだけど!」

「さっきアンタ諦めろとか言ってたわよね!?」

「いやぁ…おじさんの茶目っ気だと思って許してくれよ」

「腕切り落として終わりだなんて言うのが茶目っ気なわけないでしょ!」

 

 全くの正論だ。だが、今の俺は楽しくて仕方ないので少しテンションがおかしい。だから多めに見てほしい。

 ああ、そういえば一応スタイリッシュの発明品を持ってきてたな。確か飲めば下半身が消し飛んでも即座に治る薬があったはず。

 どうやら俺の再生力から着想を得たものらしい。≪耳≫の記憶で知った。

 腕は残っているのだし、一、二滴で十分だろう。それで腕くらいくっつく筈。

 

「冗談だ。これを数滴飲んで切り落とされた腕と切断面を合わせろ。それで綺麗に腕もくっつく」

「さっきまで戦ってた奴の言う事を信じられるわけないでしょ!」

「そーだそーだ!」

 

 どうすれば、降参したと信じてもらえるのだろう―――あ。

 そういえばナジェンダは俺の事に気付いてるはず。それをナイトレイドのメンバーにも話しているかもしれない。

 それに賭けるか。

 

「自己紹介を忘れてたな」

『自己紹介?」』

 

「俺の名前はソープ。タツミやナジェンダから聞いてるかもしれないが、イェーガーズの補欠要員兼大臣直属の部下だ」

 

 

 ■■

 

「それで連れて来ちゃったのかよマインちゃんに姐さん!?」

 

 俺を連れてきた経緯を報告する二人にツッコミを入れる≪ラバック≫…だったか?

 スタイリッシュの時も俺の発言にツッコミを入れてたと記憶しているし、そういう立ち位置なのだろうか。

 

「いやぁ、だって一応見た目もよく見たら一致してるし? なんか急に雰囲気も変わったからさ」

「アタシは反対したわよ。でも、ソイツが信用ならないなら動けない様に拘束しても構わないって言うから…」

「よろしくラバック。ソープだ」

 

 とりあえずは挨拶だろうと手を差し出すと、

 

「あ、これはどうも。ラバックです――じゃなくて! いいんですか、ナジェンダさん!」

「……」

 

 律儀に握手してくれた上にノリツッコミまでしてくれる王道さに正直感動すら覚える。

 まあ、ふざけるのはこれくらいだろう。もう大分テンションも落ち着いてきた。今はナジェンダの反応を伺うべきだ。

 

「ソープさん…」

「久しぶりだな、ナジェンダの嬢ちゃん。いや、ちょっと前にも会ったか」

「そ、その呼び方はやめてください。もう私は嬢ちゃんなどと呼ばれる年では……んっん! やはりあの鎧のナニかは貴方でしたか」

 

 昔からの呼び方をすると恥ずかしそうにする。

 その反応は昔と変わらないので少し笑ってしまう。

 年の話になった瞬間咳払いをしてキメ顔でそう言うが、取り繕えてない。

 

「まあな。どうだ≪パーフェクター≫は。上手く使えてるか?」

「ええ、おかげさまで」

 

 しかし、昔とは違うのが分かるな。特に眼帯とか、右腕とか。短くなった髪の毛も。

 今はそれどころではないのだが、旧友に会えるとそういう所も気になってしまう。

 

「それは置いておくとして。貴方には二つ聞きたい事がある――」

 

 その眼は嘘は許さないと言っているかのようだった。あの頃とは違い、しっかりそういう顔も出来るようになったみたいだ。

 感慨深いねぇ。

 

「なんだ」

「――貴方は、敵か味方か」

「味方だ」

 

 即答する。これは確定事項だ。帝国に戻る気などもうない。

 一つだけ“心配な事”はあるが――。

 

「即答ですか…フッ、貴方らしいですね。ソープさん」

「それで信じるのかよナジェンダ。嘘かもしれないだろ?」

「これでも貴方に師事していたんです。多少の事はわかりますよ」

 

 色々気になる事もあるようだが、ナイトレイドの面々は黙って俺達の会話を聞いている。

 特にラバックの顔が凄まじい顔になっているが、下唇を噛んで我慢しているようだ。何が気に食わないのだろうか。

 

「そうかい。良い弟子を持ったね俺は――で、二つ目は?」

「貴方がこちら側に付く理由です。目的と言ってもいい。それを知りたい」

 

 “目的”…ね。

 確かにある。いやそれしかない。だから帝国の戦力を削いだり、革命軍に助力したりするんだ。

 

「言えない理由か、目的なんですか?」

 

 このまま黙っていると、疑われそうだし……いいか、別に言っても。

 

「いや、そういうわけじゃない」

「では――」

 

「分かった分かった。急かすな。俺が帝国を裏切ってこちらに付く理由と目的は一緒だ――」

 

 

 

 

 ――皇帝陛下を救う、それだけだ

 

 

 




まあ少し話が進んだかな…

誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。


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No6

宮殿の一室――菓子を食いながらオネストは部下の報告を聞いていた。

 

「では、ソープは完全に離反したと」

「はい、確かかと」

 

冷静に報告を聞いているが、いつもの不敵な笑いは浮かべておらず、その顔は無表情。

報告している部下もその顔に怯え、額には汗が浮かんでいる。

 

「報告ご苦労様です……それにしてもよく無事でしたねぇ?」

「い、いえ、ソープも私の存在には気付いていたようですが見逃したようで」

「まあそうでしょうね、彼が気付かないわけもないですし……下がっていいですよ」

「はっ」

 

思案顔で髭を撫で、決断したように笑った。

 

「ソープの目的は陛下――なら必ずここに来るでしょうし、その時は……ムフフ」

 

 

■■

 

「皇帝を救うだと…?」

「ああ、なんか問題あるか?」

 

現皇帝――あの子はまだ幼い、革命軍は大臣を殺した後に見せしめに皇帝も殺す可能性がある。

俺はそれを防ぎたい。大臣の傀儡になってはいるが、根は優しい子の筈だ。皇帝の一族にも恩があるし見殺しにはできない。

 

「問題だらけです。今までの悪行は大臣の所為だが、表向きは皇帝の指示で行われているんですよ!」

「だからって殺す事はねえだろ。別にあの子に皇帝を続けさせなくてもいい、生かしてさえもらえればな」

「それは……何故です? 何故そこまで皇帝に拘るんですか」

「恩があるからだよ…」

 

恩と聞いて不思議そうな顔をするナジェンダ。

 

「現皇帝への恩じゃない、先々代への恩だ」

「は? ちょっと待てよ! 先々代って何年前の話だよ、アンタ生まれてないだろ」

「あー…ややこしいから一言で済ますが、俺は年を取らない」

『ハァ!?』

 

その反応なのは分かる。不老なんて滅多にお目にかかれない。俺も自分以外で不老なんて見たことない。

 

「ソープ…貴方は一体何者なんだ?」

「そこから話すか。長話だからよく聞いとけ」

 

ナイトレイドの面々が頷き、こちらを見る。

 

「詳しく何年前とかは俺も覚えてないが――」

 

 

 

 

 

 

親も知らず、路頭に迷っていた少年時代。路地裏なんかでゴミを食っていた時に拾い物をした。

誰が見ても高級だと分かる懐中時計だ。だが子供の俺にとっては腹の足しにもならない物だった。

捨てようかと思ったが、売れば少しは金になると考えて懐にしまい込んだんだが、

質屋も俺みたいな貧相で薄汚いガキを店に入れたがらない、こっちは高級な時計売ってやるって言ってんのに酷い話だよ。

それで途方に暮れて、仕方ないから広場で誰か買わねえかなと適当に声掛けてたら凄く裕福そうな奴が居てな。

アイツなら買うだろと思って声を掛ければ、

 

「あの…すみません、これ…」

「ん? なんだ、少年。すまないが私は探し物があって忙しくて――ってそれは!」

「え?」

 

高級な懐中時計はその裕福そうな奴の落とし物で、しかもそいつが皇帝だった。

どうやらこの懐中時計は母の形見らしくて、随分感謝された。それで落とし物を見つけてくれた礼に俺を宮仕えにしてくれた。

小汚いガキにお礼なんて律儀な皇帝だなとは思ったよ。どうせ金持ちなんて皆人を見下す野郎ばっかと思ってたが、少し価値観変わったな、あの時。

 

「少年、そういえば名前を聞いてなかったな。名はなんと言うのだ?」

「“ソープ”……です、皇帝陛下」

「ソープか! ははっ、可愛らしい名だな」

「そう…ですか」

 

そうして晴れて宮仕えになって、紆余曲折あって帝具使いになって――

 

 

 

 

 

「今に至るということだ。分かったか?」

「いや端折りすぎだろ! わかんねえーよ! 長話だから身構えたこっちの身にもなれよ!」

 

ラバックのツッコミは輝いてるな、羨ましくはないが。

疲れるだろうに何故そのポジションに収まったのか。

 

「貴方が皇帝の一族に恩があるのは分かりました……年を取らないのも過去に手に入れた帝具の影響でしょう」

「流石ナジェンダの嬢ちゃん、しっかり話を理解してくれて助かるよ」

「昔、顔を隠していたのも年を取らないと周囲に知られると色々面倒だからですか?」

「まあな。別に怪しい者じゃない。昔から帝国にいた宮仕えのおっさんだ」

 

ナイトレイドのメンバーを見てみるが、特に問題はなさそうだ。敵意は感じられないし、タツミなんかは俺が仲間になると分かって嬉しそうにしている。

マインの目つきは鋭いが、本気でこっちを怪しんでるという訳でもなさそうだ。後一人知らない女がいるが、多分エアマンタに乗ってた奴だろう。

名前は≪チェルシー≫と聞いている。

 

「とりあえず、貴方を仲間に加えるのは構いません。皇帝をどうするかは革命軍本部で話し合うしかありませんが…」

「ん…ああ、それでいいよ。もし殺すってなったら連れ去るからな」

「はぁ…貴方は本当に…」

「まぁまぁ! いいじゃんボス。イェーガーズの戦力削れて、こっちの戦力が増強できんならさ」

 

それはそうだが、とレオーネとナジェンダが話しているのを尻目に、ラバックとタツミの二人に話しかける。

話はついただろうし、これ以上はナジェンダの近くにいなくても良いだろう。

 

「よぉ、タツミ」

「ソープさん! 仲間になってくれるんですか!」

「今聞いてた通りだよ。これからはナイトレイドの一員としてよろしく頼む。あと別に敬語じゃなくていいんだぞ」

「あ、分かった!」

 

殺し屋なのに、なんと言うか純粋無垢な少年に見える。と言うかナイトレイドに入ったのはつい最近なのだろう。

確かに戦いのセンスには光る物があるが、未だ磨き切れていない。闘技場での試合でしか見ていないから更にそこから成長はしているだろうが。

これからに期待の大器晩成型か。進む道が、先があるというのは羨ましいものだ。

 

「まあ、ナジェンダさんが決めたんなら歓迎するよ。改めて、ラバックだ。よろしく」

「歓迎されるのは嬉しいね。よろしくなラバック」

「ラバでいいよ。皆そう呼ぶから」

 

今度はボケではなくお互いを認めるように握手する。とりあえずタツミとラバックは仲良くできそうだ。最初は打ち解けるところから始めないとなぁ。

一応、メンバーの名前はレオーネに伝えられていたので把握している。そんな簡単に教えていいのかとも思ったが、マインが突っ込んでたので俺はスルーしておいた。

それでも挨拶ぐらいしておくべきだろう。後で全員周って行こう。タツミとかラバックを連れて行けば警戒もされないだろうし。

 

「それじゃあ新メンバーのお祝いでもしようぜぇ!」

「お前が騒いで飲みたいだけだろ」

 

レオーネとナジェンダも話が終わったようで、歓迎会を開いてくれるようだ。

これから騒がしくなるだろう。挨拶はその時でいいか。

 

 

■■

 

 

「ソープさんってボスとはどういう関係なんだ?」

「急になんだ」

「いや、気になって――」

「ああ! 俺も気になるね!?」

 

歓迎会でとりあえず全員に挨拶周りは済んだので、比較的居心地がいいタツミとラバックの近くにいたのだが、

何故かナジェンダとの関係を聞かれた。昔、鍛えてやった以外の接点はないんだが。

 

「別に構わないが。ラバの食いつきはなんなんだ?」

「あー、それはコイツがボスのこと好きみたいで、それで気になるんだろ」

「言うなよ! なんで言っちゃうんだよ!」

「いいじゃねえか、男仲間なんだし」

 

なんであの時悔しそうというか、唇噛んでこっち睨んでたのかと思えばそういう事か。

あれも結構将軍時代は好意を寄せられていたみたいだし、不思議じゃない。

 

「ただの師弟関係だな。ラバが気にするような間柄じゃない。昔、ナジェンダの嬢ちゃんが将軍になる前に少し鍛えてやっただけの話だ」

「ボスを鍛えるとかどんだけ強いんだソープさん…」

「昔のことだからな。今は強くても昔は普通だ。俺でも鍛えられる。それに教えたのは基礎的な体術とか軍での行動、知識だけ」

「じゃあソープはナジェンダさんと付き合ってたとか、そういうのは無いんだな!?」

 

無いよと笑いながら返し、配られた俺専用の食事を食う。料理担当のスサノオには俺の帝具の影響でみんなでつつくタイプの飯は食えないと言うことは説明してある。そしたら律儀に俺の料理を作ってくれた。感謝である。

食事をする必要はないが、娯楽というか、味は感じるし腹が満たされる感覚もあるので偶に食ったりする。一応は元人間だし、精神的にも落ち着くというのも含まれてる。

 

「あ、そう言えばなんで嬢ちゃん呼び?」

 

質問攻め過ぎる。気になるんだろうが、落ち着いて飯食わせてくれタツミ。

 

「ぶっちゃけ嬢ちゃんって年でも――」

 

タツミの姿が消え、代わりに義手が隣に置かれていた。ワイヤーで繋がれていて、その先はナジェンダだった。

よく聞こえるなこの騒ぎの中…。とりあえず飯を食う手は休めずに声を掛ける。

 

「大丈夫かタツミ」

「お、おう…」

「女性に年の話は禁物だぞ――次は目からレーザーを出すかもしれん」

「まじで!?」

「出すわけないだろうが!」

 

ずんずんと近づいてくるナジェンダ。そこまで年の話に敏感なのもどうかと思うが。

別に老けているわけではないし――あれ、いくつなんだ。忘れてしまった。

 

「まったく、人が近くにいないからといって余計な事は言わないでください」

「言ってないよ。おじさんの事信じて」

「はぁ…本当に変わりませんね、貴方は――でも嬉しいですよ、古い知り合いはほとんど死んだか、敵になってしまいましたから。貴方も死んだと聞かされていました」

「オネストは周りにそう吹聴してたみたいだな。実際は地下の牢獄に幽閉されてたんだが」

 

確かに外に出たら知り合いは殆ど革命軍に行ったか、死んでたりしたな。ブドーとかは一応知り合いだが、お互い嫌いあってるのでノーカウント。

というか幽閉されていた期間が長すぎた。我慢したのは俺だが、何年も閉じ込められるとは思わなかった。オネストも結構粘り強い。

 

「ずっと機会を伺っていたんですか?」

 

気付いたらタツミは近くにはおらず、ラバックは何故かタツミに引き摺られて連れて行かれていた。

変な気をきかせる奴らだな。

 

「まあ、そんなとこだ。外に出た後は情報収集して、革命軍に情報を流してみたり、帝具をわざと回収せずにしたりと色々してた」

「なるほど。ここまで革命軍が大きくなったのも貴方のおかげでしたか」

「それは違うな。俺は大したことしてない。情報って言ってもオネストにバレない程度の物だし、帝具も、この前の≪パーフェクター≫くらいで、後は凡庸な帝具ばっかだ。大体、情報も帝具も使う側がダメならなんの役にも立たん」

「フフッ…確かにそうですね」

「なんで笑う」

 

変な奴だな。何かおかしなことでも言ったか?

 

「いえ、貴方は昔から自分の手柄を上げたがらない人でしたから。本当に変わらないなと」

「手柄を上げるも何もただの宮仕えだったからな。宮殿の仕事で忙しいし、手柄上げても出世はしない」

「ただの宮仕えが賊を捕まえたり、私の鍛錬をするはずないでしょう…」

「細かいんだよお前は。もっとサバサバしてただろう前は」

 

そういうと、何故か黙ってしまった。さっきから言葉の選択を誤っているのだろうか。

普段ならもっと上手く言葉選びできるんだが、調子でも悪いのか。いかんな。

 

「そうですね…昔の自分はそうでした。でも、貴方が死んだと聞いて――私は絶望しました。ただの師だと思っていたのに、あんなにもショックを受けるなんて思いませんでしたよ」

「…それで?」

「きっと師弟の関係でしかないと、思い込んでいただけだったんです。ただの師、恩人でしかないと。けれど死んだと聞いてから、ずっと貴方の事を考えるようになっていました。我ながら女々しいですよ。でもそれで気付いたんです……本当は、私は貴方の事が――」

 

何かを伝えようとしているその顔は切なく、思わず抱きしめたくなる程だ。

上目遣いも加わって、普段のナジェンダを見ている奴からすれば相当な効果を発揮するだろう。

だが、

 

「ストップ」

「す――っておい!?」

 

すまん、でも止めといた方がいい。

何故なら、

 

「えーっ、そこで止めんのかよ」

「ボスにもそういうのがあったんだな。驚いたぞ」

「離せタツミ! あの野郎ただの師弟関係だとかウソつきやがって!」

「落ち着けラバ! まだ勝機はあるって!」

 

こんな場所だから、そりゃ誰かが気付けばそうなるだろう。ナジェンダは気付いてなかったみたいだが。

 

「お、お前ら! さっきまでのドンチャン騒ぎはどうした!」

「いやぁー、だってねぇ?」

 

ニヤニヤとしているレオーネは、完全に揶揄う気満々だ。

ナジェンダは珍しく顔が赤くなっており、ああこいつにも羞恥心とかあるんだなと思った。

いつも男勝りで、確かに美人で男にもモテていたが、女性ファンの方が多かったし、男の噂も聞かないので乙女心とか女性らしさを捨てているのかと思っていた。

そして本気で恥ずかしいのか、暴れようとしているので止める。

 

「離せソープ! あいつらに鉄拳を食らわせなければ!」

「落ち着けって。それはまたの機会にしとけ。さっきのも、今の現状が落ち着いたら話せばいいだろう?」

「うっ――確かに、そうだ……そうですね」

 

しゅんと項垂れて同意してくれたので、一先ず落ち着いたはずだ。

そろそろこの騒ぎも終わりにした方がいいだろう、今回の歓迎会で結構メンバーとも打ち解けられたと思うしまずまず。

 

「じゃあ最後は俺からの終わりの言葉でいいか?」

 

その言うと、全員頷いてくれたので――

 

「まあなんだ。元はイェーガーズで敵みたいな気持ちはあるだろうが、目的はほとんど一緒だ。これからは仲間、いくらでも頼ってくれ」

 

その言葉に全員答えてくれた。

これからは面白くなる。上手くいくかどうかはまだわからんが、今は革命軍が勢いを増している。そうして大臣を打ち倒せば、陛下も救える。

とりあえず今は警戒を怠らずにいよう。オネストも俺が離反したことによって警戒度は上がっている。

油断も慢心もせず、確実にやっていこうと決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、今更ですが敬語をやめてもいいですか?」

「ん? いいぞ別に」

「ありがとうご、いやありがとう」

「それにしても何でだ?」

 

「それは…ボスが部下に敬語を使っていては司令塔が誰なのか困惑したりするだろう。

後は――まあ対等になりたいからな」

 

「クハッ――そうかい」

 

 

 

 




投稿遅れてすみません。これからも続けますので、読んでいただけると嬉しいです。

誤字脱字がある、改行の所為で見にくいなどのご意見をいただけると幸いです。


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