世界はきっと優しくて (たたた)
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番外編
閑話「好きになった人」1-1


今回は美佐枝さん視点の番外編

出会い編



 彼と出会ったのは──今から二年前、光坂高校の入学式の日だった。なぜかほかの新入生よりも遅い時間になってから坂道を下りてきて、たしかその時は『ヘンな子』がいる、そんな認識だったっけ。……今思えば、こんな私を好きになるような本当に変な人、それにそんな彼を私も好きになって、本当にお互いどこか変なのかもしれない。

 

 ──そう、これは昔の話。私がまだ立ち止まっていた頃、そんな私の背中を彼が押してくれる話。そして、私が彼に心を許すまでの──ありきたりで、それでも私の大切な思い出。

 

 

 

 

 

 4月10日、その日は光坂高校の入学式だった。けど、しがない寮母の私は春休みから入っていた子がうまく馴染めているか上級生に聞いたりしていた。県内外から通うのが大変な子や、部活動の朝練に参加するために寮に入っている子が毎年一定数居るため、こういったことをして新入生へのストレスが少なくなるように考えるのも結構大事だったりする。……まぁ、生徒会長をしてた時よりは問題は少ない……かな?

 入学式や卒業式の時には毎回参加しないか?って幸村先生に誘われるけど、あいつとの思い出が染み付いている学校に入るのは……少し躊躇われて毎回、断ってしまう。……いつか、あいつの事を忘れることが出来るんだろうか。今でもあいつの事を思い出すと、胸が苦しくなるのに……。

 

 ふと、外を見ると入学式が終わったのだろう、胸元に『祝・御入学』と書かれた花飾りをした男の子が歩いていた。……おかしい、今はもう午後3時で新入生は午前中に自己紹介などを終わらせてもう帰っているはずなのに。

 

 気が付くと外に出て、彼に話しかけていた。この頃はまだ親心みたいなものだったと思う。

 

「ねぇ、ちょっといい?」

 

「……なに?」

 

 そう声をかけると気だるそうにこちらへ振り向き、胡散臭いものを見るような視線を向けてくる。……今と態度が違いすぎるけど、彼によると中学時代に色々あったらしくて、その頃はこういう態度が普通だったらしい。今でもこの話をすると顔を真っ赤にして慌て出すからから、彼に対しての数少ないアドバンテージとしてずっと覚えていると思う。

 その後は、彼の視線に少し怯んでしまい、その日はそれ以上の会話はなかった。……あの頃の彼は少し怖かったかもしれない。

 

 

 

 次の日、彼がちゃんと登校してくるのか気になった私は朝から玄関の掃除をしていた。生徒の団体がいなくなり、遅刻ギリギリの子が走って坂道を上って、それから更に15分ほどして掃除も終わってしまい中に入って少し休もうかというタイミングで、いかにも面倒です、と言った足取りで歩いてくる彼の姿が見えた。……流石に大人として彼を見過ごすことは出来なかった。

 

「ねぇ、キミ!」

「あっ、昨日の……。おはようございます?」

「おはようございます、じゃないでしょう?今何時だと思ってるの?」

 

 そう言われ、自分の腕時計をみて「あぁ、もうこんな時間か」と呟く声が聞こえる。

 

「いやぁアッキーがパン何個詰めるのか気になっちゃって……」

 

 そんな風に、何を言ってるか分からない言い訳をする彼。……反省の色が見られないのはこの頃から変わらない。それに、昨日の帰りが遅かったこともある。私のせいで彼がさらに遅刻になるけど、もう遅刻しているから今更変わらないと棚上げして、昨日のことも聞くことにした。

 

「今朝のことはもういいわ。……昨日、なんで帰りがあんなに遅かったの?」

「あぁ、あれは自己紹介の時間が退屈過ぎて寝ちゃった?みたいな?」

「寝ちゃったってアンタね……。友達とか作る気ないの?」

「友達って頑張って作るものでもなくないですか?……それに、友達ヅラする奴嫌いですし」

 

 そう言った彼の顔に影が差す。……未だに彼に何があったのかは分からない。智代ちゃんに聞けば分かるだろうけど、喋ってくれるまで待った方が良いわよね?

 

「そっか。で、起きて気づいたら誰も居なかったってこと?」

「そういう事です。まぁ担任も起こそうとしてくれたみたいなんですけど、一回寝るとなかなか起きないもんで」

 

 そう言いながら笑う彼と会話をして昨日感じた怖いって気持ちは露ほども無くなって、代わりに放っておけないって感じるようになっていた。

 

「あっ、そうだ学校行かないと。俺、三浦紘太って言います。以後お見知り置きを。なーんて」

「引き止めて悪かったわね。私は相楽美佐枝、ここの寮母をしてるの。学校で困った事があったらアドバイスくらいは出来るから、いつでも来なさい」

「へぇ、寮母なんだ……。勝手なイメージで悪いけど寮母さんってもっと年上の人がやってると思ってた」

 

 そう私の顔を真っ直ぐ見ながら、更に爆弾を落としていく。

 

「──こんなに美人だと色んな人から告白されるでしょ?」

 

 

 

 

 この後私がどういう返答をしたのか覚えていない。彼に聞いても「教えてあげない」か「あの時の美佐枝さんメッチャ可愛いかった」のどちらかの返答しかしてくれないので、この時の事を思い出すのは諦めている。

 ただ、この後気が付いたら自分の部屋で正座してお茶を飲んでいたから、バカみたいに動揺していたのは確かだと思う。




どうでしょうか。美佐枝さんの口調大丈夫かな?不安だな……

美佐枝さんにアタックしない主人公を見るとアタックさせたくなるからいけない。まだ親しくないから敬語ですけどすっごい違和感だね!

光見守る坂道で二巻のジャケ写の美佐枝さんめっちゃ色気出てて良い。おすすめ。

本編と分けるために後々番外は番外に纏めます


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本編
第一話


お久しぶりです。久しぶりすぎて色々おかしい所があるかもしれませんが、どうぞよしなに


 朝、いつもと変わらないそんな朝。中学の頃は、これからもこれまでと同じように無為に時間が流れていくんだとこれからに希望を抱くこともなかった。何かを成すことが出来るような気概もない、部活をやっている連中みたいなやる気もなかったから取り敢えずそれなりの高校に入った方が良いだろうという事で光坂高校へ進学した。光坂高校は文武両道を目指しているらしく、スポーツ推薦でかなりの生徒を入れているようだ。高校に入ってからつるむようになった二人はスポ薦でここに入ったようで、定期テストの前には赤点をとらない様にと勉強を教えることもある。

 朝ごはんを作ろうと思ったが、冷蔵庫の中身が無かったため登校中に買うことにした。夕飯の食材も無いがまぁ何とかなるだろう……主に美佐枝さんに頼み込む形で。

「いってきます」

そう言葉にするが、俺に返事をしてくれる人は居ない。俺はいわゆる孤児であり、高校入学を機に施設から独り立ちした。俺の両親は俺が幼かった頃に交通事故に遭ったらしい。

 

 

「ちぃーっす、クロワッサン買いに来やした~」

「おう、お前ぇか。クロワッサンだけじゃ足りないだろ?おら、早苗のパンも買っていけ」

そう言い、早苗さんのパンをトレーに入れようとするアッキー。今回のは外見からしてやばそうなオーラが漂っている。

「いやだよ、今日はクロワッサンしか食べないって決めてっから。愛する妻のパンなんだからアッキーが食べれば良いだろ」

「これを食べろだとぉ?早苗が命の俺でもこんなゲテモノ食える訳ねぇだろ。だから、ホラ、買ってけそれにどうせ売れ残るんだしな……」

「ちょっ、アッキー……」

アッキーの後ろには涙を浮かべた早苗さんが居た。あぁ、またあの恒例行事が見られるのか……今回は何個口に入るんだろうか。

「私のパンは…私のパンは…古河パンのお荷物だったんですねーっ!」

「俺はッ!大好きだーッ!!」

 

「おぉ~、今日は3個かぁ、あの口どんだけ入るんだ?あっ、おはようございます、渚さん」

「おはようございます、三浦さん。えーっと、クロワッサンが二つとメロンパンが一つで360円です……ちょうどお預かりしますね」

「渚さん、学校はどう?大丈夫そう?」

「仲の良かったお友達もみんな、卒業しちゃいましたから」

そう言い、少しさみしそうな表情をする渚さん。

「途中まで一緒に行きますか?」

なんとかしてあげたいとは思うけど、クラスが違うし俺は学校じゃ不良扱いされてるからどんな不利益を与えてしまうか分からないため、なかなか踏み出せずにいる。だから途中まで、なんて中途半端な誘いになってしまう。

「お気遣いありがとうございます。お誘いは嬉しいんですけど洗い物が残ってしまっていて、一緒には行けないです。ごめんなさい」

 

 

 

そう渚さんに振られてしまったため、一人でパンを食べながら登校する。そんな俺を見て周りの奴らが『うわっパン食いながら登校とかどんだけ必死なんだよ』とか言ってくる気がするが疲れてるせいで聞こえる幻聴に違いない。きっとそうだ、そうとなれば今日のバイトは休んだほうが良いな。何で朝から陰口言われなきゃならないんだ?まぁ、起きれなかったら朝飯抜きになってたからちゃんと起きれて良かったんだけど。つーか普通に登校しただけで陰口叩くとか俺のことどう見てんだよ…取り敢えずあそこの眼鏡は後で覚えてたらシメることにしよう。それにしてもあいつらまだ来ねぇだろうしなぁ……今日は学校に着いたらすぐ寝よう、それがいい。

 

「三浦くん、おはようございます。今日はちゃんと朝から来てて偉いです」

教室に入るとクラス委員である藤林椋に話しかけられた。つーか朝から学校来るのって普通だよな?

「偉いかぁ?」

「偉いです。岡崎くんと春原くんはまだ来てませんし」

「朋也はまだ良いけど春原を引き合いに出すのはやめてくれ……なんか悲しくなるから」

「はい、ごめんなさい」

そう言い、俯いてしまう藤林。なんか罪悪感あるなこの雰囲気。全ては春原って奴のせいなん

だ。だからクラスの皆俺を白い眼で見るのは止めてくれ。

「謝んなくていいって、俺のこと心配してくれてんだろ?それなのに謝れると居心地悪いしさ、それにこれから俺たちは藤林に迷惑掛けることも多いだろうしまぁ、先に謝っとくな」

「気にしないでください。私なら大丈夫ですから」

「そうか?まぁ、これから卒業までよろしくな藤林」

藤林が自分の席へと戻ったと思ったら一限が始まっていた。つーか一限から数学とか俺を寝かせに来てるよな?つーことで寝ることにする。言い訳っぽく聞こえたかもしれないがそれは気のせいだ、多分。

 

 目が覚めると、目の前には朋也と春原が居た……寝惚けてるのかな、死んだはずの春原が見える…春原、成仏してくれ…

「なんで寝起きの人にこんな事言われなきゃなんないの僕、ねぇ岡崎も何か言ってやれよ」

「おぉっ?なんだ?今、春原の声が……成仏してくれ南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

「そうなるって分かってましたよ」

そう言いながら泣いている春原、分かってんなら振らなきゃ良いのに変なところで律儀な奴だな。

「よ、朋也と春原おはよ」

「今日は朝から来てたんだって?僕には無理だね」

「そこで胸を張って宣言するあたりやっぱお前ってスゲェわ」

「えっ、そう?やっと僕の凄さに気付いたの?」

「あぁ、お前の凄さをもっと見たいからそこら辺でスカートめくりして来い」

「うん!僕の凄さ見せ付けてやるぜ!見てろよ紘太!」

そう言い残し、アイツは帰らぬ人となった……

「お前、相変わらず春原に容赦ねーのな」

「ん?まぁアイツ面白いからな。暇だし春原の部屋行くか?」

「そうだな多分アイツは先帰っただろうしな」

そう言い、朋也と一緒に春原が住んでいる学生寮へと向かった。

 

 

学生寮に着いた俺たちを待っていたのは、ラグビー部にボール代わりにされている春原だった。

「岡崎!紘汰!助けてくれ!」

「メンドイからパスな。助け求めるなら朋也にしとけ」

「岡崎ィ!」

「アホが感染るから、ヤだ」

「あんたらメチャクチャ薄情ッスね」

そんなやり取りをしていると奥から美佐枝さんがお玉をぶん回しながら飛び出してくる。

「全くあいつらは……」

「お疲れ様、美佐枝さん」

「できれば止めて欲しいんだけどね?紘汰?」

「いや〜俺には無理かな。それよりさ、ちょっといいかな?」

「ん?何よ?」

そう訝しげに俺へと身を寄せる美佐枝さん。こういう所が思春期の男子を勘違いさせるってことには気づいてないんだよな……。

「いや〜実はさ、今日の夕飯の材料切らしちゃっててさ出来れば…その、ですね?」

「はぁ、分かった作ってあげるわよ。冷蔵庫の中身ぐらいちゃんと把握しなさいよね、全く……」

「ごめんごめん、でも自分で作るより美佐枝さんの作ってくれる料理のほうが美味いしさ」

「はいはい、ありがとね。じゃあご飯出来たら呼びに行くからちゃんと来るのよ?」

そう言い残し、美佐枝さんは厨房へと向かった。

 

 

「紘汰、相変わらずだね〜そんなに好きなの?」

「あぁ?…なんでか知んねぇけど惹かれるんだよな」

「僕も惹かれるよ!特にあのおっぱいっ!」

「おい、春原それ以上は…」

岡崎が必死に春原のおっぱい談義を止めようとしているがもう遅い。美佐枝さんのことになるとどうしてか歯止めが利かなくなってしまう。つーかコイツどんだけおっぱいのこと好きなんだ。

 

「そういや春原、さっきラグビー部にやられて悔しく思ったんじゃないか?」

「えっ、あぁ、まぁそうだね。…くそっラグビー部め…」

「おいおい、そんな小さい声じゃあいつらに聞こえないだろ?そういうのは腹から声出さ

ないとダメなんだよ、こんな風にな」

「クソっ!ラグビー部めぇぇぇぇ!!」

 

「今俺達の悪口言ったやつ誰だぁぁッ!」

 

「ひぃっ!僕を殺す気か!?」

「いや〜春原なら生き返るだろ?ゾンビみたいにさ」

「人をゾンビみたいとか言わないでもらえません?!……岡崎は僕の味方だよな!」

「あぁ、派手に散るのも良いと思うぜ!」

「なんでそんなにいい笑顔なんですかね……まぁ、確かに卒業前にそういうことするのも良いかもね。岡崎、紘汰、僕の背中は任せるぜ!」

「ラッキー、ザックリ行くな!」

「じゃあ俺は春原の目にレモン汁入れるな!」

「来るなよ行けよ!あと紘汰は何でそんな絶妙に嫌なことやってくるんだよ!お前ら僕の味方じゃないのかよ!」

「だって俺たち、なぁ?」

そう言い、朋也と呼吸を合わせる。

「「ラグビー部の味方だぜ?」」

「何でだよ!」

「そんときだけな?」

「あぁ、俺らは勝つ方に付くからな」

俺と朋也はいい笑顔で春原に微笑みかける。若干呆れたような表情をしているがいつものことだ。

「はぁ、アンタらの相手真面目にやってた僕がバカみたいじゃんか……」

 

 

「紘汰、ご飯できたからそろそろいらっしゃい」

 

そう美佐枝さんが呼びに来てくれたため、春原の部屋から抜けて食堂へと向かう。こんな風に美佐枝さんに夕飯を作ってもらうようになったのはいつからだろうか。最近は自炊もちゃんと出来るようにと頑張ってはいたが、結果が伴わなければ意味はないしな。

 

 

「今日はごめんね、食材切らしちゃって……」

「いいのよ、それに最近ちゃんと自炊出来ているみたいだしたまになら大丈夫だから。それより早く食べちゃいましょう?」

そう言い、微笑んでくれる美佐枝さん。

 

「そうだね、それじゃいただきます!」

 

 

そう言うなりご飯にがっつく絋汰。こいつにこんな風にご飯を作るようになってからどれくらい経っただろうか。最近はちゃんとご飯を作ってたみたいだけど、たまにこうして甘えられるのも悪くないと感じちゃうのは何でだろう。きっとこいつにあてられてるんだと思うけど、こいつならいいかなって思うことも時々……はぁ、何考えてるんだろ私。もう、あきらめたはずなのにね……

 

「ふぅ、ごちそうさま。今日もおいしかったぁ」

「お粗末様、お茶も飲んでいく?」

「もちろん!美佐枝さんからの誘いは断れないしね」

「ばか言わないの、それにこんなおばさん相手にしなくたって学校に可愛い子とかいっぱいいるでしょうに……」

そう困ったように俺を見て溜め息をつく美佐枝さん。

「そう?美佐枝さんは自分を過小評価し過ぎだと思うんだけど。それに美佐枝さんほど素敵な

女性に会ったことないよ?」

「っ……紘汰の中で私の評価が高いのは分かったから。私の話より、学校はどうなの?」

「なんか話逸らそうとしてない?……まぁ、フツーだよフツー可もなく不可もなく山も谷もない感じ?」

そうして美佐枝さんとの雑談に花を咲かせた。話を逸らしたときに美佐枝さんの頬が淡い桜色になっていたのは気のせいだとは思えない。それにしても美佐枝さんの照れた表情は見惚れて時間を忘れるほどだった。

 

 

「今日の夕飯の分は明日の放課後玄関前の掃除で良い?」

「ん~そうね……明日はお風呂場の掃除してくれない?あそこ結構広いから一人だとどうしても出来ないところとかあるから。そうすると今日の分だけじゃダメね、お昼と晩御飯どっちがいい?」

「昼休み抜けてくるからお昼ご飯でお願いします!」

「ん、じゃあお昼作っとくわね。何かリクエストがあったら出来る範囲で作るけど、何かたべたいのとかある?」

「特に無いかなぁ……美佐枝さんの料理なら何でも食べるし。正直美佐枝さんと一緒に昼飯食べられるのが一番嬉しいし」

「そんな恥ずかしいこと真顔で言わないの。私なんかを勘違いさせても何にもならないわよ?」

「美佐枝さんにしかこんなこと言わないのになぁ……。まぁいいや、皿洗ってくるから先戻っててよ」

「ん、じゃあお願いね」

 そう言い、美佐枝さんは食堂から出ていく。結構本気だったんだけどなぁ…まぁあと一年あるし。そう言ってもう二年経ってんだけどな。はぁ……

 

 

「結構本気、ねぇ」

 

食堂から帰ってくる時に聞こえた絋汰の呟きが頭で響いてしまう。絋汰の好意には気付かない振りをして逃げ続けてるこんな女に本気により、他の女の子に本気になれば、そうなれば私の胸の痛みも、こんな罪悪感も感じなくなるだろうか。そう思うけど、しばらくはこんな関係を続けたいと思うのはきっと私の我が儘だから。だから、こんな女に本気になるな。きっと絋汰にはもっと素敵な出会いがあるはずだから。だから私も本気にしちゃ駄目だ。絋汰が高校を卒業したらきっと私の前から居なくなるから。私は昔好きだった人になるんだから。でも、少し期待しちゃうのは何でなんだろう、きっと絋汰にあてられたせいね。こんな風に思うなんて少し前なら考えられないもの。

 

「結構本気、か……」

 

信じてみたい、そう思うけれど信じて、期待して、裏切られる悲しさはもう味わいたくない。こんなズルい女でもそれでも好きだって言ってくれるなら……なんて思うのは卑怯かしらね?

 

 

 

 

 




週一更新できたらいいなぁ…

個人的に渚ちゃんをさん付けで呼ぶのって違和感あるからそこら辺は後で変えるかもしれない


美佐枝さんに膝枕してもらいたい人生だった……


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第二話

大 遅 刻


 皿洗いを終え、美佐枝さんの部屋へと向かう。最近はあまり行っていなかったせいか少しだけ緊張していて、少し前なら何も考えずに行けたのになぁと思ってしまう。そう思いながらいつも座っているベッドの前の席へと着く。

 

 

 お疲れ様、そう言いお茶を淹れてくれる美佐枝さん。美佐枝さんが急須から茶碗にお茶を注ぐ時、少し色っぽく見えたのは美佐枝さんに恋しているせいだろうか。そう考えていると、美佐枝さんと目が合ってしまい少し気恥ずかしく感じる。前までは目が合っても特別恥ずかしく感じるようなことは無かった筈なのに、最近の美佐枝さんからは前まで感じなかった色気のようなものが出ている気がする。今日の夕方のときも、前までなら近づいてくることはあっても身を寄せるなんてことはそう無かったことだ。そのせいだろうか、昔のように美佐枝さんにぐいぐいアプローチが出来なくなり、ずっと見てると頬が熱くなることが多くなった気がする。

 

「……た、紘汰、ちょっと大丈夫?」

少しボーっとし過ぎたようで、美佐枝さんに心配をかけてしまったようだ。

「大丈夫、少しボーっとしてただけだから」

「ボーっとって、しかもほっぺも赤くなってるし熱でもあるんじゃないの?……ちょっと大人しくしてなさいね」

 

そう言いながら紘汰に近づいていく美佐枝。そうして彼の前に座ると、おもむろに彼の前髪を上げおでこをあわせ熱を測った。もちろん、突然そんなことをされれば彼の体温は否応無く上がっていく。少し体勢を変えれば彼女とキスできてしまう、そんな距離。彼女の顔をこんな至近距離で見た経験はもちろんあるわけが無く、上のほうを見れば、長く綺麗な睫が目に入り、下の方を見ると瑞々しい唇が目に飛び込んできてしまう。そのため更に体温は上がり続けてしまう。

 

「すっごく熱いじゃないの、少し休んでから帰ったほうが良いわよ?」

そう心配してくれるのは嬉しいんだけど、これが美佐枝さんのことを考えていたせいだなんて言えないし、少しあいまいな返事になってしまう。

「ほら、少し横になったほうが良いわよ?私のベッド使って良いから。・・・病人は遠慮しないで早く治すことだけ考えれば良いの、分かった?」

 

そう言われてしまい、言われるがまま美佐枝さんのベッドに横になる。美佐枝さんのベッドに入ると石鹸のいい匂いに包まれて、なんだか美佐枝さんに包まれているような錯覚に陥ってしまい、だんだん瞼が重くなっていく。瞼が落ちる前に美佐枝さんの飼っている(本人は否定しているが)猫と目が合ったような気がした。そういやこいつの名前決めてないとか言ってたなぁ、そうぼんやり考えていたらいつの間にか意識が飛んでいた。

 

「ふふっ、気持ちよさそうに寝ちゃって……。このまま朝まで寝てるんじゃないかしらね?」

「にゃーん」

「お前もそう思う?起きなかったらどこで寝ようかしらね?」

そう言いながら、紘汰の寝ているベッドを見る。紘汰が寝ているけど彼が細身なせいかもう一人寝れるだけのスペースはありそうに見える。朝起きたときの紘汰のあわてた表情が見たい気持ちはあるけど、それ以上に彼の隣で寝ることに恥じらいを感じてしまうから実際には出来ないなぁなんて紘汰のほっぺを突っつきながら考える。

「ねぇ、どうして私なんかを好きになったの?」

つい呟いてしまう。寝ているこいつの顔は本当に安心しきったような表情で、いつもみたいな周りを警戒しているような眉間のシワもない。こうして寝顔を見ると本当にあどけない子供のようで、庇護欲みたいなのが沸きあがってくるような不思議な感じになる。

「結婚してくれぇ…」

急にそう呟くように言ったと思ったらまた規則正しい寝息が聞こえてくる。

「どんな夢見てんのよ、まったく……」

 

 

──夢を、見た。

どんな夢だったか、記憶はおぼろげだけど夢に出てきた少女を見た瞬間結婚してくれって叫んだ気がするから、多分美佐枝さんだったんだと思う。いや、そうに違いない。光坂高校のOBだってことは知ってたけど制服姿の美佐枝さんは中々の美人さんだった。出るとこは出てるし引っ込むところは引っ込んでて、同学年だったら毎日告白に行くレベルでやばかった。そんな美佐枝さんが三年の頃の恋の夢だったと思う。

 

 

あれから一時間ほど経って、もうそろそろ寝る場所をどうするか考えなきゃいけないかなんて思ってい

たらベッドから布団が擦れる音がして、紘汰が起きてくれたのが分かった。

起きてすぐに紘汰に話があると切り出される。寝ていたときのようなあどけない表情とは打って変わって真剣な顔で言われ、紘汰が思い詰めている様子なのに気付く。こんな表情をしている紘汰を見るのは一度告白された時以来だなぁ、なんて場違いな考えが頭をよぎる。こんな風に少し現実逃避してしまうのも彼が「昔好きだった人の話聞かせてくれないか?」なんて言ってきたせいだ。

「そんなに聞きたいの?私の昔話なんて」

そう言いながらも彼が聞きたがるのはわかっていた。それでも確認してしまったのはきっと怖かったから。アイツみたいに私の前から居なくなってしまうかもしれない、そう思ったから。

「聞かせてほしい。それと安心して、俺はどこへも行かないから」

 

だからだろうか、彼にそう言われてどこか安心してしまったのは。あるいは信じたかったのかもしれない、それぐらい今の彼は自分にとって大きな存在になりつつあるんだろう。

 

「昔の話、か……。あんまり面白くないわよ?それなのに馬鹿みたいに長いわよ?」

 

そう言い、彼に話し出す彼女。その語り口は自分の過去を整理するような、あるいは区切りをつけるようなそんな話し方だった。

 

「……っていうことがあったってだけの長くてつまらない話よ。……紘汰、どうして不機嫌な顔してるの?」

「だって美佐枝さんの制服姿見たことねぇしさ……」

「はぁ、何かと思ったら……。確か押入れの中に入ってたはずだから今度着てあげるわよ」

「マジ!美佐枝さん最高!」

「ほんと男子って単純っていうか、馬鹿っていうか……」

 

 

「でもさ、美佐枝さんにとって志麻くんがとっても大切な人で、今でも思い続けてるっていうのも分かったし本当に好きだったんだなって思うとなんか……。うまく言葉に出来ないけど、志麻くんが羨ましくなるかな。……はぁ、覚悟決めなきゃかなぁ」

「んー、そんなに羨ましいかねぇ。私みたいな叱ってばっかの女のどこが良いんだか……」

「叱ってくれる人って中々居ないよ?それに美佐枝さんのお陰で高校辞めないで続けてるし」

「そうかねぇ、ってその話初耳なんだけど?」

「美佐枝さんと出会った頃は朋也たちとも知り合ってないし、なんのために学校に行ってるか分かんなかったんだよね。まぁ、俺のせいっていうのもあるけどさ。だからあの時美佐枝さんのお叱りを受けなかったら今の俺はないって感じだから、叱ってくれるのは結構嬉しいもんだと俺は思うよ。それに叱るだけじゃなくて心配してくれるし、それに石鹸のいい匂いがするしさ……あっ、今のセクハラになっちゃうかな」

 

「叱ってくれて、心配してくれて、それにいい匂い……」

「美佐枝さん?」

「ごめんなさい、前にも似たようなことアイツに言われてね。少し思い出してたの」

そう言いながら紘汰の隣に腰掛け、少し頬を染めながらあの日以来聞けなかった事を口にする。

 

「紘汰はなんで私なんかを好きになったの?」

そう唐突に聞かれ、少し驚いてしまう。こんな風に美佐枝さんに聞かれるのは一年の時に玉砕して以来のことだ。けどあの時はどうにか自分のことを諦めさせて他の女の子に目を向けさせようとする質問の仕方だったが、今の言い方は本当に知りたがっているような聞き方で、でも上目遣いにその上頬まで染めるなんて衝動的に抱き締めたくなっちゃうから本当に止めて欲しいんだけどなぁ……。

 

 

それから一時間ほどだろうか、美佐枝さんに如何に美佐枝さんが魅力的かを丁寧に説明していたんだが、美佐枝さんが「もう十分分かったから!」と顔を真っ赤にして止めて来たため、不完全燃焼ではあるけどおしまいになった。けど、一番大切なことを言っていないことに気付いたため、言わないとかなんていう風に考える。

 

「だから俺は美佐枝さんのこと好きになったんだ。できれば、その、付き合ってほしいな~なんて思うわけなんだけど……」

 

そう呟くように、けれどしっかりと彼女への思いを口に出した紘汰。そんな彼の告白を聞いて、彼女は呆れたような、それでいて嬉しそうな表情で自分の隣で全てを出してくれた彼に同じように言うのだろう。呟くように、けれど隣に居る彼にはしっかりと聞こえるように。

 

 

私もあなたのことが──

 

 

 

 




地の文強化できてたらいいなぁ…(遠い目)

美佐枝さんの膝枕に思いを馳せていたら告白してた件について

ほんとは創立者祭ぐらいに告白する予定だったんだけどなぁ…ほんとだよ?
全てはプロットを作らない作者のせいです。

原作やってて杏ルートで毎回やりたくなくなる。あれは何なの…


美佐枝さんに膝枕と耳かきして貰えないか頼んでもぅ…ってため息混じりに膝ポンポンして貰いたい人生だった。

それではまた次回。


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第三話

 ──私もあなたのことが好きです。

 

 そう言い、少し恥じらいながら唇を重ねてくる美佐枝さん。告白が実ったことへの安堵と、美佐枝さんにキスをされた驚きで感情がない交ぜになり、何故だか涙が零れてしまう。

 

ふと、唇が離れる。それと同時に彼女の温もりも離れていってしまうようで、それがたまらなく嫌で彼女に口付けをしてしまう。その時に少し驚いた顔をしてから微笑み、俺を受け入れてくれる美佐枝さん。そんな彼女がたまらなく愛おしく感じられて、先程よりも長い間キスをし、もっと美佐枝さんを感じたくなり同時に強く抱き締めてしまう。

 

「っはぁ……もう、がっつき過ぎよ?」

 

「ごめん……でも美佐枝さんがキスしてくるのがいけないと思うよ?すっげぇ嬉しかったけど」

 

「何ばか言ってんだか……」

 

 そう呆れたようにため息をつく美佐枝さんだったが、どこか安心したような表情で少し気になってしまい、それが表情に出ていたのだろう、美佐枝さんがくすりと笑った。

 

「昔、同じようにキスした子が居なくなっちゃったことがあって……だからちょっと怖かっただけよ。それにあなたとのキスもちょっとしょっぱかったし、また居なくなるんじゃないかって……。ばかみたいよね。でも、紘汰にキスをされて抱き締められて……私も嬉しかったから」

 

 だから柄にもなく安心して……。まぁ、こんなこと面と向かってなんて言えないけどね。だからだろうか、彼に身体を預けて抱き締められるとどこか安心してしまって彼をもっと感じたくなり、彼に身体を密着させてしまう。……こんなこともう誰ともやらないと思っていたのに、そう思うけど身を寄せるほど彼の鼓動が大きくなっていって、それと同時に私の中での彼への愛おしさも大きくなる、そんな不思議な感じがする。……膝枕ぐらいなら大丈夫よね?

 

「美佐枝さん?そんなにくっつかれるとですね……」

 

「私に抱きつかれちゃ迷惑だった?」

 

「そういうことじゃなくてさ……俺も男の子なわけでさ」

 

「いいわよ、紘汰なら」

 

 そうあっけらかんと言われてしまっては何も言えなくなってしまう。そんな風に硬直していたせいかいつの間にか美佐枝さんを膝枕している態となっていた。

 

「あの〜美佐枝さん、膝枕はどっちかって言うとされたい方なんですけど」

 

「後でしてあげるから。……寝ちゃったらごめんね?」

 

「冗談だよね?……美佐枝さん?」

 

 そう声をかけるが返ってくるのは規則的な息遣いだけだった。……気がつけばもう時計の針は夜中を指していて、窓の外からは小さく雨音が聞こえている。思えば今日一日で美佐枝さんとの関係が大きく変わったのは昨日までじゃ考えられないことだし、未だに実感がわかないのも事実だ。……とりあえず明日の朝に痺れるであろう足のことはなるべく考えないように自分も目を閉じた。

 

 朝、目が覚めるとそこにはエプロン姿の美佐枝さんがいた。あぁ、これは夢だなと覚醒しきっていない脳みそで考える。どうせ夢ならキスぐらいはしても……なんて考えるくらいには思考がぶっ飛んでいた。だからだろう、徐ろに立ち上がると何故か痺れている足を無視して美佐枝さんにキスをしたのは。夢なのにこんな感触までリアルなのかと自分の夢に対して尊敬までしかかっていた時に美佐枝さんにさらにキスをされて思考が止まってしまい、それと同時に脳が覚醒したのは副次効果的なことだと思う。それにしてもなんで甘い匂いがするんですかね……。

 

「起きてすぐキスしてくれるなんて中々情熱的じゃない?」

 

 そうどこか嬉しそうに吐息のかかる距離で問いかけられてしまう。

 

「寝ぼけてたみたいでさ、おはよう美佐枝さん」

 

「ん、おはよう。起きたと思ったらこれでびっくりしちゃったわよ?」

 

「それについては弁解のしようがないね。夢だと思ったからとりあえず、みたいな?」

 

「とりあえずで起き抜けにあんなことしないでほしいんだけど?」

 

「まぁまぁ、美佐枝さんも拒まなかったことだし良いじゃん。俺も朝から幸せな気分だし?」

 

「じゃあそういうことにしといてあげるわ、朝ご飯出来たから顔洗ったら来なさいね」

 

 そう言い残し美佐枝さんは食堂に向かっていった。誰かと朝飯を食べるなんて施設を出てからあまり経験していないし、その上相手が美佐枝さんだっていうのは誇張なしに今日は良い日だと思う。

 

 ……ということを食事中に美佐枝さんに言ってみたらなぜか頭を撫でられて抱きしめられた。そういえば昨日からよく抱きしめられてるあぁと若干酸欠になりながら考える。美佐枝さんの母性の塊に顔を埋められて幸せなんだけど、若干苦しくなるのはしょうがないんだろうか。なんだか昨日から頭がまわらないし、時々意識が遠くに行くような感じでまだ昨日のことが消化しきれていないんだと思う。二年間も片思いをしていた相手と一晩で恋人になったから仕方ないといえば仕方ないだろう。それにしても美佐枝さんの淹れてくれるお茶は美味い気がする。

 

 そんな風にゆったりと過ごしていたが、時間の流れというのはどんな時でも平等に過ぎていってしまうもので気がつけば遅刻ギリギリの時間となっていた。行きたくないというかこの時間をもう少し味わいたかったから色々ゴネてみたけど元生徒会長様には敵わず、仕方なく学校に向かうことになった。そのまま向かうのもなんとなくシャクに思えたので、未だに寝ている春原の顔にアイツのパンツをのせておいた。きっと目覚めが良くなって俺に感謝したくなって感動のあまり涙を流すことだろう。

 

 

 高校に遅刻しなかったのは良いけど、あの二人は今日も遅刻なようで、授業をサボっても誘う相手もいないし昼寝に勤しむことにする。変な体勢で寝たせいで寝不足なんだよな、だからしょうがない。

 

 目が覚めたら昼休みとなっていた。今日も俺の体内時計は絶好調のようで何よりだ。ざっと教室を見回したところ、男子の数人のグループ、女子グループで分かれていたため、若干起きるのが遅かったようだ。この状態で購買に行ってもろくなパンが残っていないと思い、ふて寝を決めようとした時に朋也が登校してきた。

 

「よう、おはよ」

 

「おう、お疲れ。デコ赤くなってんぞ?」

 

 そう言いながら自分の席に腰掛ける朋也。さてもうひと寝入り、そんな折藤林が朋也に近づいてくるのが見えて面白そうなことが起きる気がしたため、もう少し起きている決意をした。

 

 最初は朋也の遅刻に対するお小言のようなものだったが、今は朋也を占っているらしい。なんでも明日起きることらしい。その占いによると朋也は明日遅刻するそうだ。……なんて不憫なんだ。

 

「朋也、強く生きろよ」

 

「その哀れなものを見る目をやめろ!で、なんで遅刻なんだよ?」

 

「学校に来る途中で、優しい女性と、ロマンチックな出会いをして、時の経つのを忘れて、それで遅刻してしまいます」

 

「イヤに具体性抜群だなぁ……」

 

「乙女のインスピレーションです!」

 

 そう言いながら朋也に身を乗り出す藤林。こんなにあざとい生き物がこの地球上に存在したのかと驚愕していると廊下の方から怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。それと同時に辞書のような飛来物が朋也の頭上を高速で過ぎ去っていった。毎度の事ながらあんなの当たりどころが悪けりゃ一大事になると思うんだよなぁ。そんなものを投げ込んできた藤林杏は今は朋也に突っかかっている。妹に対して過保護というか何というか……。

 

 杏が勘違いだと認めて藤林と昼飯を食べに教室を去ったため、ここに平和が訪れたわけだ。そんな貴重な時間を無駄にしないために俺は再び夢の世界へと旅立った。

 

 

 目が覚めると後ろの席から寝息が聞こえてきた。どうやら春原が登校してきたらしい。まぁ、昼休みぎりぎりとかそんな感じだと思う。それにしてもコイツは本当に呑気というか先のことを考えないというか、とにかく悩みがなさそうで羨ましい限りだ。……今日は珍しく七限が終わる前に目が覚めてしまったらしく、学校が終わるまで長い時間がかかったような気がする。

 

 その時間で美佐枝さんとのこれからとか色々小難しく考えていたせいで、放課後美佐枝さんに会うのが気恥ずかしくなってしまった。

 

 とりあえず周りにバレたらまずいってことは頭に入れておかないとどこかで墓穴を掘る気がするし、美佐枝さんにも迷惑を掛けることになるからこれは徹底しておこう。……それにしても学生寮に行きたくないって思う日が来るとはなぁ。

 

 

 俺の顔赤くないよな?とか春原と朋也に聞きながら寮への道を歩いていく。聞く度に、またかコイツっていう顔をされたせいで段々落ち着くことができたから、やっぱり持つべきものは友達って感じだ。

 

 そんな風に思ってたのに春原の部屋から半強制的に閉め出された。何でも昨日の夜帰ってこなかったのは怪しいから外で凍え死ねらしい。春だから凍え死ねないと春原に指摘したら入れてくれると思ったけど、風呂掃除の約束があったのを思い出したため、大浴場へと向かわざるを得なかった。

 

 

 この廊下の先に美佐枝さんが居ると思うと嬉しいやら、恥ずかしいやらであまり気が進まないのは何でだろうか。……俺の髪型変じゃないよな?急に心配になってきた。




大 遅 刻
一月も開いて申し訳ないです。

多分後で加筆とかすると思われます。
誤字、脱字その他文脈のねじれとかある気がしますが、某春原くん曰く登板間隔が開くとどんなに良いピッチャーでも打たれるんで、まぁそう言うことにしといてください。
最初の数行を書いては消し気づいたらこんな時期になってた。(言い訳)


年内にもう一回か二回は更新したいけどどうだろうなぁ…

今回の美佐枝さん→キスした後の潤んだ瞳!桜色に染まる頬!もう最高可愛い


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第四話

もう何も言うまい


春原に締め出しをくらってから、大浴場へ向かうわけだがいつもは短く感じる廊下が長く感じてしまう。朝のあの一件は学校にいる寝ていない時間で馬鹿みたいに何度も思い出してしまったせいで、余計に美佐枝さんに会うと意識してしまいそうで廊下を歩く速度も落ちてしまう。とは言っても目的地にはいずれ着いてしまうのだが……

 

「遅いわよ、紘太?」

「ごめん、ちょっと野暮用でさ」

「そ、とりあえず水抜きはやっておいたから浴槽の方お願いね」

いつもと変わらないような口調だったが、少し美佐枝さんの頬が紅く染まっていたのは、きっとそういうことだと思う。……つーか美佐枝さん何でブラウスで風呂掃除なんてしてるんですかね?

 

「あの〜美佐枝さん?」

「んー?あぁ、洗剤ならそこに置いてあるわよ」

「そうじゃなくってですね」

「何よ?人のことジロジロ見て……」

「いや〜俺としてはその役得っていうか眼福なんですけどね?」

「は?……!」

 

俺が言いたいことに気付いたのか顔を赤くし、その場にうずくまってしまう美佐枝さん。かわいい。

 

「気づいたんならもっと早く言いなさいよ!」

そう言いながらポカポカと胸を殴ってくる美佐枝さん、かわいい。けど若干痛い。

「悪かったって」

「絶対思ってないわよね?他に何か言うことは?」

「今日の美佐枝さんのブラはピンクってことでめっちゃかわいいと感じました!あと、フリフリ付いてるのめっちゃ良い!」

「紘〜太〜?」

 

あっ、これ死んだかもしれない、いや、死んだ。

「はぁ、私の不注意ってことでもあるしこれ以上は勘弁してあげる。それに紘太はその……私の彼氏だしね」

そう言いはにかんだ美佐枝さんは脳内に永久保存されることだろう。そう、女神は存在したのである。

 

「何で私に祈ってるのよ?」

「いや、女神様は本当に居たんだなって思って」

「…女神って誰がよ?」

「美佐枝さん」

言ったあとにとんでもない事を口走ってしまったことに気付いたが、時既に遅しだった。具体的には美佐枝さんの顔が真っ赤なりんごみたいになってた。キスしてみたら耳まで真っ赤になった。かわいい。

「美佐枝さん……」

 

「んっ……紘太ぁ……あっ……」

名残りを惜しむようにお互いゆっくりと唇を離す。俺と美佐枝さんの間に少しの間銀色の橋が出来たが、今はもう2人の繋がりは無くなってしまった。……きっとこのまま獣欲に溺れても美佐枝さんは受け止めてくれるだろう。そんな都合のいい考えが頭をよぎる。

 

「紘太ぁ……」

 

目をトロンとさせながらうわ言のように俺の名前を呼んでくる美佐枝さんと目を合わせる。

「紘太ぁ……キス、して?」

 

 

その後はお互いの理性が戻るまで、あるいは欲望を満たすまで大浴場から出ることは出来なかった。

 




なんだこれ
まぁぼちぼち書いていきたい
そして今話は数日して冷静になったら消しそう


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第五話

前回の暴走からさらに暴走した。
キャラ崩壊注意かもしれない。


あれから大浴場の掃除を終えると外はもう暗く、廊下の窓から月が綺麗に見えるようになっていた。一体どれだけ掃除に手間取ってたんだ(白目)

あと、後ろに怖いお姉さんが立ってる気がするけどきっと気のせい、そうに違いない。

 

「それで?何か弁解はあるの?」

「美佐枝さんが可愛すぎるのがいけない」

 

まぁ、いつも通り呆れられるかスルーされるだろうと思って言ったんだ。そしたら、美佐枝さんの頬が紅くなって、脱衣所の方に駆け込んで行った。……なんだあの可愛い生き物あんなのが地球上に存在していていいのか!?ふぅ、ちょっとは落ち着けたか?

 

「あんた、また馬鹿なこと考えてるでしょ?」

 

脱衣所から戻ってくるなり言われたことがこれってどうなんだと思わないでもないが、まだ美佐枝さんのほっぺたが薄ら色づいているのを見るに彼女もまたいつもの調子を取り戻そうとしているようだ。

 

「馬鹿なことって失礼だな。俺はいかに美佐枝さんが素晴らしいかを……」

「紘太、ストップ。それ以上は聞かせないで」

「へ?」

「だから、それ以上は恥ずかしいし、その、紘太のこと欲しくなっちゃうから……紘太が私のこと考えて我慢してくれたの無駄にしたくないし……」

 

「美佐枝さぁん!」

「ちょっ、急に抱きつかないの!」

「今のは美佐枝さんが悪い!」

そう、美佐枝さんが悪い。なんだこの可愛い人は。え?俺の彼女?マジかよ最高だな!

 

「美佐枝さん!」

「あぁもう、私が悪かったから離して?」

「えー、あと5分くらいはこのままが良かったのに……」

「もうすぐご飯の時間だしこれでおしまい、分かった?」

「まったく、美佐枝さんはわがままだなぁ」

「何で私が駄々こねてたみたいになってんのよ、もう」

 

そう困ったように微笑む美佐枝さんを見て、やっぱりこの人が好きなんだと思うと同時に、横で俺の顔を見て微笑んでいる彼女がたまらなく愛おしい存在だと感じた。

 

それから美佐枝さんと晩飯を食べたが、さっきのやり取りのせいか視線を合わせるだけでなんとも言えない恥ずかしさで、美佐枝さんと知り合って間もない頃もこんな感じだったよなぁとか思ったりもした。

 

「ね、紘太何考えてるの?」

「んー、美佐枝さんのこと?」

「何で疑問形なのよ……」

 

少し溜め息を吐き、席を立ち俺の隣へ座ってくる。そして俺の頭を抱くようにして……って顔が埋もれちゃう!

 

「じゃあ、私が今考えてること、わかる?」

「……誘ってる?」

「違うわよ、ばか。あなたのこと考えてたの」

 

そう言い、頭を撫でてくれる美佐枝さん。少し髪で遊んでる気がするけど気持ちいいからそのまま続けてください。

 

「俺のこと?……なんで俺に惚れたんだろって?」

「んー、そうね、そんな感じ?」

「美佐枝さんも疑問形じゃないか」

「あなたの癖が移ったかしらね?」

「なんだよ、それ」

 

美佐枝さんの答えが可笑しくて、二人で顔を見合わせて笑いあった。

 

 

 

 

 

 

「あれ?どうしたの紘太、今日は愛しの美佐枝さんのおっぱいと一緒じゃないのかよ?」

「お前おっぱいホント好きな。で、どうしたんだよ紘太?」

 

いつもと変わらない二人を見ると、みさえさんとは違った意味で安心できる気がする。あと春原は後できっちりオハナシシナイトナ……

 

「ヒィッ!ここここ紘太、あの〜さっきのは言い間違いというか僕の本音と言うかでですね……」

「明日学校で『春原陽平は年上のお姉さまが大好物』っていう貼り紙を自分でするならチャラにしてやるよ」

「なんでそんな悪魔みたいな事すぐ思い付くんですかね……しかも僕がなんでそんなことしなくちゃいけないんだ!」

 

どうやらコイツは反省していないようだ。しょうがない、ここは一つラグビー部の方々に登場していただくか。

 

「朋也、やるぞ?」

「OK!」

 

「何であんたらそんな息ピッタリなんすかね……」

 

朋也と息を揃え、壁を殴る!

「「クソッ!ラグビー部めぇぇぇぇ!!!」」

 

「ヒィィィィィィっ!アンタら後で覚えとけ「春原ッ!」ヒィッ!」

 

春原はこうして帰らぬ人となってしまった。あぁ、無情なり。

 

 

「で、春原は置いておくとして何かあったのか?」

「へ?」

「いや、最近だとこっちに顔見せねぇで帰ったりしてたろ?だから何かあったのかと」

「別に無いけど強いて言うならあれだ、お前ら遅刻し過ぎな。幸村の爺さんが俺にそう伝えろって言ってたから、そろそろマジメにならないとヤバイかもな。新任の生活指導部居ただろ、アイツが結構うるさいらしい」

 

「あぁ、アイツか……。そういやアイツのことで変な噂があるんだよ」

「変な噂?」

「何かな、アイツが美佐枝さんのこと狙ってるとかいう噂。お前寝てたから聞いてないだろうけどな。ここ最近、春原のことでとか言って寮に頻繁に来てるらしい」

「へぇ……」

「だから気を付けた方が……ってお前スゲェ怖い顔なんだけど」

「まぁ、気をつけるよ。俺と美佐枝さんの間を裂こうとする輩は誰であろうと叩き斬るッ!」

「お前、時代劇の見すぎな」

 

今までアイツのことを気にしてなかったが、まさかこんな所で障害になりかねないとは……。それにしても朋也や春原に説教して自己満足してるような奴が美佐枝さんのことを好いているとかマジで鳥肌ものだし、さっさと諦めるように関係を明らかにしたい所でだけどなぁ。二人の関係を公にできればもっと楽なのだろうけど、今の立場だと一生徒と寮母が付き合っていることになって美佐枝さんに悪影響が出かねないんだよな。二人の関係を公にできないのは美佐枝さんと付き合ってて唯一と言っていいほど辛いところかもしれない。公に出来ないせいで、こういう輩を諦めさせるのも苦労しそうだしな。

 

 

「で、紘太は遅刻すんなって言いに来たのか?」

「いやいや、久しぶりにここでグータラするのも良いかと思ってさ。そしたら予想外のダメージを負った感じだな」

「そうか、まぁ狭い部屋だが好きにしてくれよ」

「おう、サンキュな」

 

「ここ僕の部屋なんですけどね……」

 

なんと気がつくと春原が入口に立っていた。……すげぇボロボロになってた。まぁ、春原なら顔面が物理的に凹む事態になっても一晩で治るだろうし心配はいらないだろう。

 

「つーことで、お茶。」

「は?何を言ってやがりますかね。つーか僕に茶碗を向けても茶は出てきませんけど!むしろ、僕をこんな目に合わせたことへの謝罪はないんですかね!」

 

「あれはお前が悪いだろう春原。むしろ紘太を怒らせてそれで済んでよかったじゃねぇか。お前、最悪美佐枝さんの前に連行されてもおかしくなかったぞ」

「ぐっ……。分かりましたお茶持ってくれば良いんだな?ったく」

 

「あっ、春原俺にもよろしくなー」

「岡崎はただ嫌がらせしただけだろ!」

「あっ、バレた?」

「なんで僕の友達はこんなのばっかりなんだ……」

 

春原が若干泣きながらお茶を汲んできてくれたが、やっぱり美佐枝さんの淹れてくれたお茶が最高だなって思った。

 

「やっぱ美佐枝さんのお茶が最高だわ」

「わざわざ持ってきてあげたのに、アンタほんとに自分勝手ッスね……」

 

 

 

 

その後は適当に駄弁っていたが、さすがに眠くやってきた為帰ろうと思い、朋也に声を掛けたがまだ残ると言われたため一足先に帰ることにした。

 

今日一日有ったことを考えながら歩いていたが、目の前に愛しの彼女を見つけて思考は一時停止した。……この時間って美佐枝さん寝てるんじゃなかったか?

 

「美佐枝さん、さっきぶり。どしたの?こんな時間に起きてるなんて珍しいんじゃない?」

「ん、ちょっとね……。そんなことどうだって良いでしょ?」

 

実はね……と少し恥ずかしそうにはにかむ彼女。そんな彼女に見とれていたせいで、続いた言葉に反応するのが少し遅れたのは、まぁよくある事だ。

 

「──実は、紘太に会いたくなっちゃって」

 

 

 

「……えっ?」

「だから……ね?」

 

 

その後、右腕に絡みつくように体を密着させた美佐枝さんの柔らかいモノが当たっていることに意識が持っていかれ、腕を引っ張られるがまま美佐枝さんの部屋に入っていた。

 

「ねぇ、紘太……。んっ……」

 

部屋のドアが閉まるのと美佐枝さんがキスしてくるのはほぼ同時だったと思う。

 

 

 

「……美佐枝さん?」

 

見れば、美佐枝さんの顔は紅く、きっと今になって自分がしたことが恥ずかしくなったのだと分かった。……やっぱ俺の彼女可愛すぎるんだけど。あれで年上って本当にズルイというか庇護欲を唆られるというか、なんと言うかもう最高だなって思います。

 

「ごめんなさい、紘太。あの、今日のこと考えてたら眠れなくなって、それで話だけでも出来ないかなって……。でも、紘太のこと見ちゃったら身体が勝手に動いちゃったの」

 

申し訳なさそうに謝る美佐枝さんだったが、正直俺としては嬉しい気持ちしかないから、そんなに謝らなくても良いんだけどな。ついでに言うとさっきから美佐枝さんがいやに魅力的で俺も身体が動きそうだしなぁ……。つーかこんな可愛い人を他の知らない男に取られるのも嫌だしなぁ、あの新任教師が狙ってるとかいう噂もあるし、何よりこの先美佐枝さん以上に好きになれる人は居ないだろうしな。

 

 

「美佐枝さん、結婚しよう」

「なっ、何言ってるの!紘太はまだ学生でしょう?それに、紘太にはもっと好い人が……」

「居ないよ、きっと美佐枝さん以上に隣にいて欲しいって思える人はね」

 

「……私、重いわよ?」

「うん?じゃあもっと筋肉つけようかな」

「それに、あなたより年上なのよ?……きっと若い娘と付き合った方が幸せになれるんじゃ……」

 

「美佐枝さんは俺じゃ、嫌かな?」

 

「何よ、その聞き方……狡いわよ。」

 

「……あなたが私を好きだって言ってくれた時、たまらなく嬉しかった。今日は私のこと大事にしてくれてるって分かったし、欲望に流された私を抑えてくれたのも貴方だった。だから、だからね、本当は良いよって、幸せにしてくださいって言いたい、でも、貴方は学生で、私は貴方の通う学校の学生寮の寮母だから……。だから、もし、高校を卒業してもまだ私のことを好きでいてくれたなら、その時はもう一度プロポーズしてください。今はまだ返事が出来ないけれど、その時は私もちゃんと答えるから。だから、そうね、都合が良いかもしれないけど、その時まで楽しい時も、悲しい時、辛い時も一緒に過ごしてくれますか?」

 

そう目に涙を溜めながら語りかけてくる彼女のことを美しく感じたが、愛しい彼女に無理なことを言って困らせてしまったことに内心自分が許せなかった。

 

「美佐枝さん……」

 

「今はこれが精一杯だから、こんな中途半端な答えでごめんなさい」

 

涙を必死に留めながら微笑みかける彼女の表情が痛々しくて、そんな彼女の表情を見たくなくて彼女を抱きしめてしまう。

 

「紘太……」

「美佐枝さんごめん、あんなにちゃんと考えるって言っといて現実には美佐枝さんに惚れてる男がいるって噂に振り回されるただのガキだった。挙句に美佐枝さんにあんな表情をさせて……」

 

「いいのよ、それに嬉しかったし……そのせいでちょっと泣きそうになっちゃったけど。……それで、私の質問の答えは?」

 

「……ええっと、よろしくお願いします」

「ん、よろしい!」

 

その後は美佐枝さんと寄り添って座りお互い今日の掃除の時どう感じたかだとか、新任教師の噂を話し充分注意してくれって事は伝えたりした。

少し大袈裟過ぎない?と言ってたけど、気を付けるようにはしてくれる事になったから大丈夫だと思う。

 

 

「ねぇ美佐枝さん」

「んー?なぁに?」

 

少し眠たいのか、いつもより甘えたような声が耳元から返ってくる。

 

「眠たくない?」

「んー、そうねぇ。一緒に寝ましょっか」

「マジ!」

「うーそ。そっちのソファ使っていいから」

「ん、りょーかい」

 

「今日は聞き分け良いのね?」

「今日一緒に寝ると襲っちゃいそうだし、そんなの美佐枝さんのためにも良くないだろ?」

 

「じゃあ、もし私が『襲ってもいい』って言えば一緒に寝てくれるの?」

「んー、俺の勝手な押し付けだけど美佐枝さんにはそんな事言って欲しくないっていうかむしろ言わせたいと言うか……」

 

そう言ってる内に美佐枝さんの顔がみるみる紅くなっていく。あっ、これ墓穴掘ったかもしれない。一緒に寝るのはマジでヤバいんだけどなぁ……無意識で襲わないように徹夜を覚悟しないとかなぁ。

 

「紘太、キスして?……それで我慢するから」

「我慢て……美佐枝さんキャラおかしくなってない?」

「可笑しくしたのは貴方だし、それに将来は私のことお嫁さんにするんでしょ?なら、何も問題ないでしょう?」

「いや、その理屈はおかしい」

 

 

その後、美佐枝さんが満足するまでキスをしたため唇がカサカサになった状態で寝ることになった。……リップしてるのは狡いと思いました。

 

 

 

 

 




なんだこれ(2回目)

美佐枝さんが可愛すぎるのがいけない(言い訳)
なんかもう許嫁みたいな事になってるじゃんかさ…

それもこれも美佐枝さんが可愛すぎるのがいけない

いつか美佐枝さんに高校時代の制服着てもらう話を書きたいなぁ


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第六話

 

 

 ──美佐枝さんの部屋で迎える二度目、もっと言うと二連続目の朝。俺は未だソファの上から起き上がれていない。それは何故か、そう!美佐枝さんが俺の頭を撫でているためである!幸せそうに微笑みを浮かべる彼女の姿を朝から見られて幸せだし遅刻しても、まぁいいか。

 

「……紘太、起きてるでしょ?」

 

 どうやらバレていたらしい。……でも、もうちょいこのまま過ごしてたいしなぁ。

 

「早く起きないと、ご飯食べる時間無くなるわよ?……せっかく彼氏のために作ったのに」

 

「はい、起きました!おはよう、美佐枝さん今日も素敵だね!」

「もう、調子いいんだから。ほら行きましょ?」

 

 先に部屋を出ていく美佐枝さん。いや〜さっきの残念そうな顔はズルイね、あんな顔されたら拒否する選択肢無くなっちゃうね。それにしても今日はいい天気だし久しぶりに屋上で寝れるかなぁなんて思う。

 

 

 

 

 美佐枝さんと一緒にご飯を食べる。そんな些細な事も何だか新鮮に感じてしまうのだから人間というのは適当に出来てるよな。

 

「ふぅ、ご馳走様!」

「お粗末様。片付けちゃうからちょっとだけ待っててくれる?」

「珍しいね待ってろなんて。まぁ美佐枝さんの部屋で待ってるね」

 

 今まで呼び止められることはあったけど待ってるように言われることは無かったからか、これから何があるのか軽く期待してしまう。まぁ、美佐枝さんお手製弁当を渡されるんだろうけど……。とりあえずお茶でも飲みながら猫と戯れますかね。

 

 

 

 

 じゃあ、待ってるね〜なんて言いながら私の部屋に向かう背中を見送る。一昨日、彼の告白を受けて彼氏彼女の関係になったことがもう随分と前の事のように思えてしまう。……まぁ、彼からのアプローチはもっと前からあったし、私の踏ん切りがつかなかったせいで彼には苦しい思いをさせてしまったと思う。なんて、彼に言っても笑って否定するんでしょうけど。

 

 お皿も洗い終わって、お弁当を片手に食堂を出る。これからしようとしている事を考えるととても恥ずかしいけれど……彼になら、って考えてしまうのは惚れた弱みってことかしらね?

 

 

 

 かつきくん(仮称)と戯れていた皿洗いが終わったのであろう美佐枝さんが戻ってきた。それにしても少し覚悟を決めたかのような表情が少し気になるところではあるけど、そんな表情もいいよねとか真っ先に考えてしまうのがもう色々とダメだと思うんだよなぁ。

 

「紘太、これお弁当ね」

「いつもありがとう、美佐枝さん」

 

 いつも通り美佐枝さんから弁当を受け取る。それだけの事なのになぜか美佐枝さんの頬が色づいて見えた。さっきの表情といい、何かあったのだろうか?

 

 

「紘太忘れ物よ?……んっ」

「んっ……美佐枝さん?」

「ふふっ、行ってらっしゃい」

「……行ってきます」

 

 忘れ物と言われ受け取ったのが行ってらっしゃいのキスとかもうね、最高かと。……最近美佐枝さんに対して最高としか感想が浮かばない気がするのはきっと語彙力がサボっているせいだろう。

 

 

 

 学校への長い長い坂道は桜の季節だけあって無駄に桜が咲き誇っていた。……葉桜になると途端にケムシが湧いて維持するのが大変だって幸村の爺さんが言ってたような気がする。そのせいか分からないけど桜を伐採する計画があるらしい。こんな立派な桜並木が無くなるのは少し寂しく感じるが、これも時代の流れってやつなのかと少し醒めた思考になる。……こんな日は昼休みまで寝るに限るな。

 

 

 

 昼休み、外からバイクのエンジン音が何故か響いてくる。……おかしいね、この学校バイク通学禁止だよね?

 

「流石に起きたか、紘太」

「おはよー朋也、んで外のアレは何やってるん?出し物?」

「さぁな、ただ『坂上智代出てこい』って繰り返してるな」

「ふぅん、坂上智代ねぇ……」

「何だ知り合いか?」

 

 少し不思議そうに俺の顔を見てくる朋也。まぁ智代が有名だったのは中学の頃だし覚えてなくても無理はないか。

 

「朋也、見に行こうぜ」

「ああ。お前がこんなに積極的なのは美佐枝さん関係のことだけだと思ってたよ」

 

 そう言いながら、俺の後ろを駆け足でついてくる朋也。悪いと思うが今は懐かしい彼女に会えることが嬉しくて朋也に配慮する余裕が無い。

 

 

 

 グラウンドに着いた時、既にモブヤンキーと智代は一触即発な雰囲気だった。下手したらこのまま喧嘩をしてしまうと思い加勢に出ようとしたのだが、見物人の女子に「下手に加勢したら智代さんの邪魔になりますよ?」と説得されている間に不良をのしてしまっていた。

 その後の昼休みは智代の喧嘩の火消しやら先生方への説明やらに追われて使い潰してしまったため、後で智代にアイスでも奢ってもらうことにしよう、そうしよう。……こんな風に過ごすのも彼女が引っ越して以来で何だか懐かしい感じがする。

 

 

 5限の終わり、春原が急に「あの女はおかしい!」と急に叫んだせいで俺の安息の昼寝時間は終わりを告げた。

 

「うるさいバカ原ちょっと黙れ」

「相変わらず僕の扱い酷いッスねアンタ!……ってそうじゃなくて、昼のアレ僕はやらせだと思うんだよね〜」

「はぁ?何がやらせだよ、俺も紘太も不自然なとこは感じなかったぞ?」

「いいや、あんな女子一人で不良を倒すなんて無理なんだよ!」

「まぁ、確かに春原一人じゃ無理だろうな。でもアイツは……」

「だから、坂上智代を倒しに行くぞ〜!」

 

 はぁ、相変わらず人の話を聞かないなコイツな。まぁ楽しくなりそうだしついていくか。

 

 ついてこなきゃ良かった。何で下級生に手当り次第に『坂上智代はどこだ』って聞いてんだよ。お陰で下級生が怯えてるじゃんかよ……。朋也と二人で居心地の悪い思いをする。騒ぎが大きくなったせいか智代が自分の教室から出てきた。メッチャ嫌そうな顔してんな、まぁあの頃もこんな奴が結構居たし不良のせいで機嫌悪いところにこんな能天気が来れば嫌にもなるわな。

 

 あっ、俺に気付いたか。目でこいつをどうにかしてくれって訴えられたけど俺にはどうしようもない。頭が残念な奴なんだと返事をする。すると、疲れたように溜め息を吐き春原に向かっていく。

 

「お前がここで騒いでいるせいで生徒達が迷惑している、今なら何もしないで返してやるから大人しく自分の教室へ帰ってくれないか?」

「へっ!嫌だね!自分のしたヤラセがバレそうだからってそうは行かないぜ!」

「ヤラセ……?紘太、コイツは何を言っているんだ?」

「そこで俺に振るのか……。昼のあれお前が全部仕組んだって思ってんの、コイツ。あと、後始末はやっといたからあれな、いつものアイスな」

「ありがとう、いつも済まないな。私も迷惑は掛けたくないのだが……」

「いいよ、慣れてるし。それに久々に智代の喧嘩見れて満足してるしな。……そろそろ6限始まるし教室に戻った方がいいんじゃないか?」

「……ん、そうだな。そうだ、放課後空いているか?……その、お礼もしたいし」

「放課後な。じゃあ正門前でいいか?」

「あぁ、それじゃあまた」

 

 そう言い、智代と別れる。久々に会ったけど昔より一段と美人になってたなぁ。

 

「あの〜紘太さん?」

「あれ、春原まだ居たのか?ほら、智代とも会えて目標達成したんだから帰ろうぜ?」

 

「イヤイヤイヤイヤ何、何も無かったかのように振る舞ってんの!?坂上智代とはどういう関係なんだよ!」

「紘太、俺もコイツと同じ意見ってのは悔しいんだが、どういう関係なんだ?」

「……幼馴染みだよ、ただの」

 

 

 

 その後、何故か智代との関係をしつこく聞いてくる二人を何とか躱し、放課後智代と合流して中学の頃よく行っていたアイスクリーム屋へやってきた。

 

「紘太、今日はすまなかった」

「もういいって、それよりいつコッチに戻ってきたんだ?」

「あぁ、鷹文の身体もだいぶ良くなったからこの町に戻ってきたんだ。……学校への坂道に桜並木があるだろ?あの景色が好きだって鷹文が言ってたし、こっちの方が自然が多くて環境が良いからな」

 

 昔を思い出したのだろう、少し寂しそうに笑う智代はいつもより儚げに見える。

「そっか。……智代はさ、まだ俺のこと好きなのか?」

「ん?ふふっ、こんな時にそれを聞くなんてまだまだ紘太は女心が分かってないんだな。……そうだな、あの頃は隣に紘太が居ることが当たり前で、離れてから紘太が大切な存在だって気付いて。でも、異性としての好きでは無いんだと思う。うん、家族として、そうだなお兄ちゃんとしてなら、好きだ」

 

 その答えを聞いて少し安心した俺は多分酷いやつなんだろう。それでも、智代に叶わない恋心を抱かせ続けるよりは遥かにマシだろう?智代が言うにはお兄ちゃんらしいしな。

 

「──智代、俺さ彼女が出来たんだ。優しくて叱ってくれて、心配してくれて、こんな俺を好きだって言ってくれたんだ」

「そうか、幸せなんだな。顔が緩みまくりだぞ?」

「へ?」

「なんだその顔は。間抜けにも程があるぞ」

 

 そう言いながら、俺の顔を指差し笑ってくる智代。こんなやり取りも懐かしく、嬉しく感じて俺も笑ってしまう。

 

 

 




行ってらっしゃいのちゅーは最高に最高で最高だと私はそう思います!


今回の展開についての言い訳

智代が幼馴染み枠になってるけど浮気とかしないから、許して!けど正直こうでもしないと主人公が色んなイベントに絡みにくいの!

いつ風子ルートに入れるか、それがワカラナイ


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第七話

智代の口調はこれで合ってるのだろうか……

話が全く進まなくてやきもきするでしょう。作者もです。


 

「それで、付き合ってる人はいつ紹介してくれるんだ?」

 

 そろそろ帰ろうかというタイミングで智代からいつ紹介するのかと聞かれる。曰く、自分の義兄(仮)が付き合っている相手に興味があるとのこと。

 

「……誰にも言うんじゃないぞ?」

「?やけに慎重なんだな。てっきりすぐ紹介してくれるものと思っていたんだが……」

「こっちにも事情ってのがあるの。それで、返事は?」

「ああ、分かった。……けど、そんなに慎重にならないといけない相手なのか?」

「まぁ、会った方が早いわな。ほら、行くぞ」

 

 

 

 智代を引き連れ、一路学生寮へ向かう。

 

「紘太、こっちは学校に戻る道だぞ?……忘れ物でもしたのか?」

「黙って歩く、いいな?」

 

「すまない、私が会わせてくれって言ったのにな」

「そんな落ち込まなくてもだな……」

 

 ここら辺は昔から変わっていないようで少し安心する。だが、この後美佐枝さんと智代を会わせるのは良いんだが……なるようにしかならないか。美佐枝さんには迷惑かけてばっかで申し訳ねぇよなぁ。

 

 

 智代が引っ越してからあったこととかを話してる内に、学生寮が見えてきた。……なんでこんな時に限って外で掃き掃除してるんですか、美佐枝さん。

 

「?紘太、ここは学生寮だぞ?……ここに住んでいるのか?」

「……あぁ、そうだね」

「む、何か隠してるだろう。昔とは違って誤魔化されたりはしないぞ!」

 

 いやぁ〜なにを胸張っておっしゃるのかこの娘は。……あっ、美佐枝さんが気づいた。やっべぇよ、どうすっぺぇよ、何も言い訳考え付かん……。

 

「あら、紘太今日は遅かったじゃない?……おかえりなさい」

 

 何でおかえりなさいの部分だけちょっと頬染めてらっしゃるの!かわいい!……いや、違う違う智代がいるしこんなとこで朝のお返しは出来ない。それに大事な話もあるし。

 

「美佐枝さん、その、話がありまして」

「ん、じゃあ私の部屋で待ってて。……そっちの可愛らしい娘も一緒にね」

 

 

 

 美佐枝さんの部屋に着くなり智代からあの人とはどんな関係だの、私が可愛いとは本当か、とか何故この部屋の鍵を持っているのかだとかまぁ、根掘り葉掘り聞いてきたのでかつき君(仮称)と戯れることで無視をした……したいなぁ。

 

「あぁもう、美佐枝さんが来たら全部話すから、それまで待つ、OK?」

「む、ちゃんと説明してくれるのならそれでいい。……私が可愛いと思うか?」

「あぁ、かわいいよ、かわいいかわいい。世界で二番目に可愛いってことでいいか?」

「何だか適当じゃないか?その答えは」

「んだよ、俺の本心だぞ?」

「むぅ……それじゃあ一番かわいいのは誰なのだ?」

「あぁ?そりゃお前もちろん……」

 

 智代と冷静になって考えると恥ずかしくなるような話をしている所に、掃除を終わらせた美佐枝さんが……。

 

「美佐枝さんに決まってんだろ!」

 

 

 

「改めて初めまして。紘太とお付き合いしてます、相楽美佐枝です。さっきはごめんなさいね、結構アホなことするから……」

「グフっ」

「大丈夫だ。私も慣れてるから。自己紹介だったな。坂上智代、歳は紘太の一つ下で幼馴染み?で合ってると思う。……それにしても紘太の彼女さんがまさか私の目標の人だとは思っていなかったな」

 

 女二人、楽しそうに話している。俺?俺はもう恥ずかしさがいっぱいで起き上がることも出来ない。あぁ、もうお婿に行けない……。

 

 

「それで、二人はその、付き合っているのか?」

「そうねぇ、そういう事にしてあげましょうかね?ね、紘太?」

 

 少し意地悪な顔で俺に聞いてくる美佐枝さんに少し気持ちが昂ったのは内緒にしよう。

 

「え?違ったの?俺はてっきり付き合ってるもんだと思ったんだけど……。そっかぁ俺の勘違いかぁ」

「あーもう、いじけないの!意地悪して悪かったから、機嫌直して?」

 

「……いつもこんな感じなのか?」

「んー、そうね。いつもこんな感じよね?」

「……そうか、それは兄が迷惑をかけて……」

「あぁ、勘違いしないで?私も何だかんだで楽しんでるから。それに面倒に感じてたらコイツと付き合ったりしないもの」

 

「……美佐枝さぁん!」

「もう、抱きつかないの」

 

 少し困ったように俺を受け止めてくれる美佐枝さんはやはり、最高や。そんなやり取りを見て智代がなぜか“ なるほど”とか呟いてるけど何か納得したのだろうか。

 

「ふふっ、それじゃあそろそろお暇しようか」

「あら、良かったら一緒にご飯食べましょうよ。昔の紘太のこと、知りたいし」

「それもいいかもしれないな。うん、ちょっと待っててくれ家に電話してくるから」

 

 そう言い、家に電話を掛けに玄関へと智代が消えたと同時に、まぁ当然のように美佐枝さんから質問が飛んでくる。

 

「それで、誰にも私たちの関係は言わないって話じゃなかったかしら?幸い、坂上さんもちゃんと気を配れる娘みたいだから大丈夫でしょうけど……」

 

「ごめん、美佐枝さん。昔からあいつの頼みは断りづらくて。それに、あいつは俺の家族みたいなものだしさ……。あと出来れば智代のこと、名前で読んでやってよ」

「反省してるんだかしてないんだか……。それじゃ、智代ちゃんでいいかしらね、何だか恥ずかしいけど」

 

 

 それから、美佐枝さんからの呼び方が『智代ちゃん』に変わったことで智代が若干照れる事件が発生したが、まぁあとはいつもより少し賑やかな食卓になったことが智代がいていつもと変わったことだった。

 あと、智代は光坂高校の生徒会長になって桜並木を守りたいらしい。……だから美佐枝さんが目標だって言ってたんだなって思った。

 

 

「……私たち家族を繋いでくれた桜並木を守るためにも、私は生徒会長にならなければいけないんだ」

「そう、まぁ私が出来ることなんてたかが知れてるけど、何か困った事があったらアドバイスぐらいは出来るでしょうから遠慮なく家に来てね?」

「ありがとう。美佐枝さんにそう言って貰えるだけで有難い。……そうだ紘太、昔のことだが小学生ぐらいの時に、誰かの父親代わりになるとか言ってなかったか?」

「は?そんな事言ってたのか?」

「あぁ、私の記憶が確かなら言っていたはずだ」

 

 そう言い考え始める智代。智代がそう言うなら多分言っていたのだろう。けど、小学生の頃にそんな関係になった相手もいない訳だし、小学生の時の記憶なんてあまり覚えてもいない。……と、記憶を引っ張りだそうと頑張っている所で智代が思い出した!と俺の顔を見た。

 

「私が小二の時に同じ年の女の子のお父さんになる!って言ってたはずだ」

「はぁ?小二?お前、よくそんなの覚えてんな……」

「あぁ、確かそれを聞いて何故か悔しく感じたんだ。だから覚えていたんだな」

「小三の頃の事なんて覚えてないぞ、俺。せいぜいコロコロ読んでた記憶しかないぞ?」

「確かに言ってたんだ!どうして信じてくれない?」

 

「はいはい、二人とも落ち着いて。ほら、智代ちゃんお茶淹れてあげるから」

 

「む、すまない。少し熱くなっていたようだ」

「俺も意固地になってたな。でも、智代がそう言うなら言ったんだよなぁ」

 

 誰かの父親になるなんてこと、今ですらよく分からないのに当時の俺は何を考えていたのだろうか。まぁ深く考えていないことは確かだな。

 

 

 

「それじゃあ、そろそろお暇しよう。美佐枝さん、今日は色々な話を聞けて良かった。……迷惑じゃなければ、また来ても良いだろうか?」

「さっきも言った通り、いつでもいらっしゃい。お茶ぐらいしか出せないけど智代ちゃんならいつ来てもらっても大丈夫だから」

「ありがとう。今度は茶菓子でも持ってこよう」

「あら、そんなの要らなわよ?その代わり、紘太の話、もっと聞かせてちょうだい?」

「そんなことで良ければいくらでも」

 

 智代がアドバイスを貰うたび、俺の恥ずかしい過去が暴露されることがここに決定してしまった。なぜだ……なんで俺だけ損をしているんだ……。

 

 

 

 

「紘太はどうするの?泊まっていく?」

 

 なんで泊まる選択肢が一番最初なんですか美佐枝さん……。

 

「いや、今日は帰ろうかなって」

「そう……」

 

 あぁ!もうなんでしょんぽりなさっているんですか!帰りたくなくなるじゃないか!

 

「明日早めに来るからさ、それに流石にこれ以上留守にするのもさ」

「そうよね、うん、じゃあ明日早く来て?……待ってるから。おやすみなさい、紘太」

「おやすみ、美佐枝さん」

 

 

 

 

 

 美佐枝さんと別れてから、今日智代が言っていた相手について考えていた。もし本当にその子の親代わりになると言ったとして、何故今離れ離れになっているのかとか、ただひたすら答えの出ない問題を解いている気になってくる。……こんな日は熱い湯船に浸かって寝ることにしよう。

 

 

 




PS3が壊れてCLANNADが出来なくなった作者です。
箱○版買おうかなぁ

そんなこんなでアレですね、前作(未完)を知ってる方からしたら既視感の塊のような後半部分ですね。あからさますぎますね。


実は今回美佐枝さんが智代ちゃんに嫉妬!とか書く気があったけど智代ちゃんがもう美佐枝さん尊敬してるし無理だなってことでカットしました。


次回は平仮名三つの子です。


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第八話

ひらがなみっつで「ことみ」呼ぶ時は「ことみちゃん」


 今日も朝から美佐枝さんの部屋へ行き、お弁当を受け取り少し話をしてから学校へ行く。夜中雨が降ったようで、道路は少し湿っていた。

 

 坂道の途中、智代が桜を見上げ立ち止まっていた。……周りで女子たちがキャーキャー言ってるのはまぁ、中学の頃から変わらないっていうかなんて言うか。

 

「智代、おはよ」

 

 そう声をかけると、ようやく俺を認識したようで少し驚いたように俺を見つめてくる。

 

「おはよう。いつから居たんだ?……気づかなかったぞ」

「いやいやお前が桜に集中してたせいだからな。そろそろ行かないと遅刻になるぞ?」

「もうそんな時間なのか……」

 

 時間も忘れるくらい見てたのか……。もし、智代が生徒会長になれなければこの桜並木を守ろうとする人も居なそうだしな。それに改めて見るとこの坂道は桜で彩られて結構立派だ。アホほど長くなければだけど。

 

 

 

 今日の一限は……数学だった。あの教師嫌いだからなぁ、どっかで昼寝でもするか。んー、屋上で寝たいけど濡れてるだろうし前回特別棟で寝てた時は生活指導に見つかってアホほど怒られたしなぁ。授業中は資料室に行っても詰まらないし。あとは……そうだな、図書室があるか!つか三年経つのに図書室で寝たことが一度も無いとかある意味すげぇな。

 

 という訳?で図書室で寝ることにしたんだが、図書室には先客が居た。……クッション持ち込みとは中々の上級者と見た。先達には敬意を払わなければならない、そう施設に居た頃教えられてた気がする。

 

「えぇっと、すみません少しお時間よろしいですか?」

「……」

「あのぉ〜」

「……」

 

 本に集中しているのか、声を掛けるだけではダメみたいだ。まぁ急がなくてもいいし、軽く寝とくかなっと……おっ、この本結構いい高さじゃん、寝よ寝よ。

 

 

 

 

 目が覚めると目の前に女の子の顔が──って、めっちゃ見つめられてるんだけど。照れるわ。

 

「おはよう、よく眠れた?」

「あぁ、お蔭さまで」

「……食べる?」

 

 そう弁当箱を目の前に出してくる少女。彩りも考えられてて、見た目も良いし結構うまそうだ。

 

「特にこの辺が自信作。……お箸一膳しかないの」

「いいよ、手で取るから。それじゃ、いただきます」

 

 少ししょんぼりしてしまったのを見ていられなくて指で摘んで卵焼きを頂く。……うん、ほどよい甘さでいい感じだ。

 卵焼きを食べた俺の顔を少し不安そうな顔で見てくる少女。

 

「おいしい?」

「あぁ、うまい。料理うまいんだな」

「……うん。たくさんたくさん練習したの」

「そっか。頑張ったんだな」

 

 そう言いながら少女の頭を撫でていた。……無意識だったからセーフだよな?セクハラとかにならないよな?いや無意識だからむしろヤベーのか?

 自分がなぜ知り合って間もない少女の頭を撫でているのか分からず混乱していると、少女の瞳から涙が零れてきた。ヤバイヤバイヤバイこんな状況を誰かに見られたら不審者として通報されかねない。

 

「あぁ!悪い!俺が完全に悪かったから泣かないでくれ。な?」

「……大丈夫なの。ちょっと目にゴミが入っただけなの……」

 

 あれから少しして少女の涙は止まったけど、何とも言えない空気が図書室に満ちている気がする。

 

「急に撫でて悪かったな。嫌だっただろ?」

「ううん、違うの。……嬉しくて泣いちゃったの。ごめんなさい」

「いやいや謝るのは俺の方だし……」

 

 なぜか謝りあっている俺たち。……つーか嬉しかったって撫でられる経験少ないのか?

 

「あぁそうだ、まだ自己紹介してなかったな。俺はD組の三浦紘太、以後よろしくな」

「……うん。一ノ瀬ことみ。ひらがなみっつでことみ。呼ぶときはことみちゃん」

「よろしくな、『ことみちゃん』」

「うん、よろしくお願いします。紘太くん」

 

 

 

 

 

「一ノ瀬ことみさん、ですか。多分A組の一ノ瀬さんのことだと思います。頭が良くって全国模試で毎回10位以内に入ってるらしいです。それで授業も免除になってるとか、なってないとか」

「へぇ、そうなんだ。それであの時間から図書室にいたのか、なるほどな」

「三浦くん、一ノ瀬さんと喋ったんですか?」

「んー?なんか弁当くれたからな。それにそんなに構えないでもいいと思うぞ?案外藤林と合うかもしれないし」

「そうでしょうか……?」

 

 藤林に試しにことみちゃんのことを聞いてみたら結構な有名人らしく、すぐに答えが返ってきた。……それにしても全国トップ10とかほんとに頭いいんだな。

 

 

 

 昼休み、春原が智代にリベンジするとか騒ぎ出したから暇だし春原が人間を辞めるのを見るために付いていくことにした。

 

「智代にリゾンベに行くぞ紘太!」

「それ言うならリベンジな。つーかいつの間に喧嘩売ったんだよ」

「今日の朝にちょっとね」

「ボッコボコにされてダストシュートに吸い込まれてたな」

「岡崎さんそれを言うのは無しッスよね?」

 

 ダストシュートに吸い込まれる春原……最っ高に面白そうだな!それにダストシュートの次は何が来るか楽しみだ。

 

「よし、春原早く行こう!」

「アンタ今スッゴい失礼なこと考えてません?……悪いけど、僕はもうやられることはないよ」

 

 今すっごい盛大なフラグが立った気がする。まぁいつものことだよな。うん。

 

 

 朋也と俺が見守る中、春原が宙を舞っていた。……相変わらずあの蹴りは謎だよなぁ。いやぁ春原の顔にモザイクが必要な域に達し始めている。

 

「紘太!」

 

 っと、気を抜いていたら智代から春原がパスされて来る。……うわっ気持ち悪ッ!

 

「智代、俺に回すな!」

 

 智代に蹴り返す。あっ、今結構いい音したな。って今蹴り返さなきゃ終わってたな、すまねぇな春原。

 

「ぐはぁっ!」

「ああっ、すまねぇ春原、わざとだ」

「……死ぬわ」

 

 

 その後、朋也が智代に演劇部に入らないかって勧誘をしていたけど、振られていた。

 

「朋也、演劇部って?部活始めたのか?」

「あぁ、そういや紘太にはまだ話してなかったっけな。ちょっと成行きで手伝うことになってな、それで部員集めてるんだ」

「そうなのか。で、集まりそうなのか?」

「いやー中々な。そうだ、紘太も暇そうな奴知り合いに居たら誘ってみてくれよ」

「暇そうな奴、ねぇ。そんな都合いい奴中々居ないだろうけど見かけたらな」

「あぁ、頼む」

 

 人のためにこんなに頑張る朋也を見ることは中々無いから、協力してやりたいと思う。それに、これから詰まらなかった学校も少しは楽しくなりそうな気がする。

 

 

 五限の体育が終わり、六限に出るのが怠くなってしまったため、幸村の爺さんのとこに行くことにする。……これが結構賭けの要素が強く、爺さんに会えなければ高確率で生徒指導に捕まり、爺さんの授業が運悪く入っていると途中で抜けなければならない。

 

「おっす、爺さん遊びに来たぞー」

「おお、なんじゃサボりか?」

「いやいや最近爺さんに顔見せてなかったし、寂しいだろうなって?」

「余計なお世話じゃ。……緑茶でいいかの?」

 

 どうやら今日は賭けに勝てたようだ。

 

「ふむ、ところでどうかの、そろそろ努力は実を結んだかの?」

「へ?実を結ぶって何が?」

「寮母さんが好きなんじゃろ?」

「ぶっ!」

「なんじゃ、汚いの。ほれ、布巾」

「いやいや、なんで知ってんだよ爺さん!えっ、俺ってそんなに分かりやすいの?」

「分かりやすいの。まぁ安心せい、ワシ以外には気づいておらんよ」

 

 

 ほっほっほと愉快そうに笑う爺様と赤面した男子高校生という謎な組み合わせで少しの間過ごした。それから爺さんと他愛もない会話をしたり、校舎を少し散歩してから家に帰ることになった。

 それにしても、オレってそんなに分かりやすいのか。ちょっと気を付けた方が良いかもしれない。

 

 




ことみちゃん登場回。今はまだ無意識の行動でしかことみちゃんに応えられません。

鋭い爺さま役、幸村先生



ちょっと待って!美佐枝さん出てないやん!美佐枝さんとのイチャイチャが書きたいからこのSS書いてるのに美佐枝さんないやん!

次は番外編書きます()


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第九話

おとといは兎を見たの。昨日は鹿、今日はあなた。


 

 ──少女の泣き声が聞こえる。目の前には煌々と燃え上がる炎が見える。その炎はまるで意志を持っているようで、部屋の一角、誰かが使っていたのであろう机をその身で包み込み燃やし尽くす。

 呆然とその光景を見ていると脇から知らない男性が現れ、自身の纏っていたコートで炎を消していく。……俺が思っているよりも火の勢いは弱かったようで、数分もすると炎は消えていた。その後、男性は少女に何かを語りかけていたが、少女はただ泣くだけで男性の話をとてもじゃないが聞いていられるような状況ではなかった。

 

 そして、俺に向き直り男性は──

 

 

 

 ──目が覚める。何か大切なことを夢で見たような、そしてそれはとてと大切なことのようで、必死に思い出そうとする。

 

「はぁ……なんだかなぁ」

 

 結局、夢で見た内容については思い出すことも出来ず、残ったのは嫌に寝汗をかいたせいでベッタリと肌にくっつく寝間着だけだった。

 

 

 シャワーを浴び、制服に袖を通す。朝飯を食べようとしたが相変わらず冷蔵庫の中は寂しいものだった。よし、今日は古河パンだな!

 

 

 

 パンを買いに行くとアッキーと早苗さんは相変わらずどこぞへと消えていたので渚さんが店番をしていた。

 

「あっ、おはようございます。三浦さん。」

「おはよーございます。アッキーはまたアレですか?」

「はい。えへへ、困っちゃいますよね」

 

 今日はカレーパンにカツサンド、メロンパンといったラインナップにしてみた。会計が終わると思い出したかのように渚さんが問いかけてきた。

 

「あっ、そうだ三浦さんって何か部活に入ってたりしますか?」

「えっ部活ですか?やってないっすけど」

「じゃあその、ご迷惑でなければその、演劇部に入って頂けないでしょうか……?」

「演劇部、ですか?」

「はいっ、私昔から演劇が好きでですね、それでその演劇部として活動したいんですけど、部員が足りなくてそれでですね……その、入って頂けると」

 

 演劇部か、そういや朋也が智代に勧誘してたっけな。……あいついつの間に渚さんと知り合ったんだ?それにしても渚さんが演劇かぁ、人前に立つのどっちかっていうと苦手じゃなかったか?この人。

 

「ありがたいんですけど……。ごめんなさい、ちょっと焦っちゃってたみたいです。今の話は聞かなかったことに……」

 

 少し考え込みすぎていたようだ。渚さんが今にも泣きそうな顔をしていらっしゃる。それにこんな所をアッキーにでも見られた日には何をされるか分かったものじゃない。……取り敢えず入るかどうかはぼかして部員集めに協力する感じでいいか。

 

「あぁいやいや、迷惑とかじゃないっすから、そんな思い詰めた表情しないでください。……とりあえず入ってくれそうな奴片っ端から勧誘してみますから」

「本当ですか?……ありがとうございます!」

 

 めっちゃいい笑顔頂きましたー!……言えねぇ俺の交友関係が渚さんに毛が生えた程度とか口が裂けても言えねぇよ……。

 

 

 

 さて、学校での交友関係を振り返ると俺は特定の奴としか話さないしつるまないことが判明した。しかも両手で足りそうな人数なのがホントに悲しい。……幸村の爺さんは生徒じゃないけど顧問枠として必要になるだろうから放課後にでも顔を出しとけばいいだろう。

 問題は部員の方だ。俺の狭い狭い交友関係は朋也と重なる部分が多々あるため、確実に藤林姉妹にはもう勧誘をしているだろう。と、なるとだ。あとは……。

 

 

 

 図書室に入ると、窓から入る朝日に照らされるように本を読んでいる少女が居た。相変わらず凄い集中力で本を読み進めている。

 

「ことみちゃん」

 

 そう呼びかけると、すぐに本から目を離しこちらを見て俺がいることを確認すると微笑みながら「おはよう、紘太くん」と答えてくれる。

 

「紘太くん、 ご本、読む?」

 

 そう言い、座っているクッションに半分ほどのスペースをつくり、クッションをぽんぽんと叩くことみ。……まぁ、特にやることもないからと軽々しく誘いに乗ったのが悪かったのだろう、何が書いてあるかさっぱり分からなかった。せいぜい分かるのは物理学の本だろうという事だけで、詳しい内容だとかどんな研究成果なのかとかは全くこれっぽっちも分からなかった。

 

「ことみ、俺でも分かりそうな本ってあるか?」

「えっと、サスペンス、サイエンスフィクション、ファンタジー、なんでもあるの」

「ことみのオススメって何かあるか?」

「じゃあ……これ」

 

 そう言ってことみが取り出した本は結構な年季が入っていそうなハードカバーの本だった。

 

「私の、一番のお気に入りなの。……紘太くんも、きっと気に入ってくれるの」

「そりゃ楽しみだ」

 

 

 ──おとといは兎を見たの。昨日は鹿、今日はあなた。

 

 

 どこかで、聞いた気がした。はっきりとは思い出せないけれど、きっとこんな風に誰かに読んでもらっていたと思う。あまりに記憶が曖昧で、何とも言えない不確かな感覚だけが残ってしまう。

 

「どう、だった?」

 

 恐る恐るといった感じで俺に感想を尋ねることみ。どこか怯えを含んだような視線で、少し気になるが思ったまま口にする。

 

「あぁ、結構よかったのよ。それになんだか懐かしい気分になったな。……よく分かんないけど」

「……そっか。気に入って貰えた?」

「もちろん。また読んでもらえるならお願いしたい、かな?」

 

 そして、気付けばまたことみの頭を撫でていた。……無意識って怖いね、うん。

 

「あっ……」

 

 なんで手を離したらそんなに悲しそうな顔をするんですかね、ことみさん?あぁ、もう!

 

 

 ──このあと滅茶苦茶ナデナデした。

 

 

「はぁはぁ……これで、満足したか?」

「……うん。幸せなの」

「そりゃ、良かったよ……」

 

 正直、こんなに撫で続けるとは思っていなかった。腕の疲れがほんとにヤバい。

 ここに来た本来の目的を忘れるところだった。

 

「ことみ、部活、やってみないか?」

 

 

 

 

 昼休み、ことみを引き連れ演劇部の部室(仮)になっている教室へと行った。

 そして今現在、部室内では渚さんとことみによる不思議空間か作られていた。今は多分、好きな動物を言ってるんだと思う、思いたい。

 

 朋也が堪らず止めたのはそれからすぐの事だった。

 

「朋也くん、いぢめっ子?」

「だぁぁっ!違うって言ってるだろ!」

「あぁ、ほらほらことみ、朋也はいじめないからな?根は優しいから安心していいぞ」

「分かったの」

「何でお前の言うことは素直に聞くんだ……」

 

 朋也から疲れてそうな雰囲気を感じる。……でも俺だってなんでこんなに言うことを聞いてくれるのか謎なんだからそんな目で見ないで欲しい。

 

「で、ことみはどうだ?演劇部入るか?」

「渚ちゃんは優しいの。それにだんご大家族はかわいいの。……でも、紘太くんは入るの?」

「んー、考え中?」

「……渚ちゃん、ごめんなさい。私ももう少し考えてみたいの」

「いえっ、気にしないでください。私が頼んでることですし、また気が向いたら是非いらして下さい!」

 

 そう渚さんに見送られる俺たち。若干俺のせい感があるけど、まぁ気にしたら負けだろう、そうだろう。

 

「ことみ、何で入らなかったんだ?」

「……入った方が良かった?」

「いや、お前の自由だから良いんだけどさ、楽しそうだったじゃんか」

「……ひみつ」

 

 あらやだこの子そっぽ向いちゃって可愛らしい。……じゃなくて。

 

「渚さんと合わなかったのか?」

「ううん」

「大学入試」

「ちがうの」

 

「……俺が入らないから」

「うん」

 

 ナンテコッタイ。すまない渚さん、貴重な新入部員が逃げたのは俺のせいらしい。心の中で渚さんに向かって土下座をかました。……あっ、すっげぇオロオロしてる。

 

 

 

 その後、なんとも言えず黙って歩いていたけど、その空気に耐えられなくなった俺が幸村の爺さんに会いに行くのを理由にして別れた。チキンだって?そうだよ、チキンだよ。

 

 

 

 

「ほう、部活の顧問とな?」

「そうそう、とは言えまだ部員が集まってないから活動のしようもないんだけどな。取り敢えず話すだけ話しとこうかなってさ」

「そうか、他の先生でもいいだろうに」

「いや、確か爺さん以外は顧問やってただろこの学校。前に小耳に挟んだぞ?」

「フム、まぁ他に新しく部活が始まりそうもないしの。集まり次第顧問になるのも吝かではないかの」

「いやーやっぱ、話がわかるな爺さん!」

 

 幸村の爺さんへの根回しもつつがなく終わり、今日学校でやることは全部やりきったので、放課後まで寝ることにした。

 

 

 

 

 放課後、玄関口でちょうどことみと鉢合わせた。

 

「あっ、紘太くん……。一緒にかえろ?」

 

 懐くのが早すぎると思うんだけど、そこは大丈夫ですかね。そして一緒に帰り、学生寮の前で別れようとしたんだが、『一緒に行く』の一点張りで譲りそうも無かったから、ことみを美佐枝さんに預けることにした。

 

「という訳で、美佐枝さんことみのことよろしく」

「何が、『という訳で』なのか教えて欲しいんだけどね?はぁ、ことみちゃん?まぁ寛いでもらっていいから」

「初めまして。一ノ瀬ことみです」

「ことみちゃん?俺に言っても意味無いからね?」

「……相楽美佐枝、ここの寮母やってるの。よろしくね、ことみちゃん」

「良い人?」

「あぁ、滅茶苦茶優しい人だから甘えても良いぞ」

 

 そう言った時のことみの顔が輝いて見えたのは、俺も経験が有るから黙っとこう。

 

 

 この後帰るときに、美佐枝さんに「紘太もこれから大変だと思うけど、まぁ支えてあげるわよ」という何やら意味深なことを言われ、寝る時もモヤモヤして寝付くのに時間がかかる掛かったのは言わずとも良いことだろう。

 




ことみちゃん、美佐枝さんに心を許す回。

あっさり過ぎると思うんで次回やる気があればここの間の話をしたい所さん。


創立者祭何するかな……


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第十話

気付けば二桁話数行ってましたね

そして今回展開が超スピード!?なんでぶっちゃけ無理矢理感があります


 朝日に照らされる場所で今日も少女は本を読む。また、あの少年が来てくれるように祈りながら、そして少年が自分の事を思いだしてくれるように、あわよくば昔のような関係に戻れるようにと願うのだった。

 

 昨日、少年に連れられて訪れた光坂高校学生寮。そこで少女はある女性と出会った。

 相楽美佐枝、そう名乗った女性は少年によほど信頼されているのだろう、少女を預けて友人の元へと向かってしまう。

 

 

 

「ごめんね、あいつももうちょっと気遣いって言うのが出来ればねぇ」

「ううん、大丈夫なの」

 

 思い出すのは、子供の頃、彼と出会ったばかりの時。紘太は好奇心が強く、ことみの父と母に色々なことを質問していたこと。両親が研究していた別の世界の事についても様々なことを聞いていた。

 そして、彼のことを思い出すと必ず最後にはあの約束のことを──

 

 

「それじゃあ、ことみちゃん、取り敢えず紘太とどういった関係なの?」

「おとう……うんうんお友達なの。……大事な、大事な」

「そっか。私は、そうねぇ。紘太の彼女、かしらね?」

 

 ことみが友達だと言う前に言った言葉が気になった美佐枝だったが、藪から蛇を出す必要はないと思い、飲み込んだ。

 だが、美佐枝が紘太の彼女だと告げたことで、それは意味を成さなくなった。

 

「彼女、さん?……それじゃあ紘太くんと、結婚するの?」

「えっ、ええ、そうね。いつかはそうなるかしらね」

「それじゃあ二人は夫婦になるの。そうしたら……」

「……そうしたら?」

「美佐枝さんは私の、お母さんなの」

 

「え?」

 

 

 

 その後、ことみから語られた幼少期の出来事は幼い少女が経験するには辛いことばかりで、泣きながらも話してくれる少女を気付けば美佐枝は抱き締めていた。

 そして、何故自分のことを母親と呼んだのか、会って数日のはずの紘太にあれだけ懐いたのかその理由も分かった。

 

 

 

 そして泣き疲れたのか、先程から腕の中から穏やかな息遣いが聞こえるようになっていた。

 

 

「あいつがこんなこと言うとはね……。まぁ、あいつらしいっちゃらしいのかしら?……智代ちゃんが言ってたことは正しかったってことね」

 

「はぁ、今日はソファで寝ようかしらね」

 

 少女をベッドに横たえ、自身も寝ようと言う時、廊下から足音が聞こえた。

 ……どうやら彼が帰るようだ。

 

 

 彼への見送りと励ましを一方的に終えた彼女はこれからのことを考え、厄介なことになったとため息を吐きながら眠るのだった。

 彼が早く気付くようになにか手伝いをしよう、そう薄ぼんやりとした頭で考えながら──。

 

 

 

 

 

 

「おはようございます……」

「紘太、ひどい顔よ?……昨日何かあったの?」

 

 朝の日課である学生寮に訪れた。……昨日帰り際であんなこと言われて気になって夜も眠れなかった。具体的には午前4時ぐらいまで。

 

「そ、ならしょうがないわね」

「何か素っ気なくない?いつもだったら遅刻だって怒られるとこなんだけど」

「いいのよ、ことみちゃんのことなら。ゆっくり考えてあげなさいね?」

「ことみのこと、気に入ったみたいだね?」

「そうね、まぁこれから長い付き合いになるだろうしね」

 

「お弁当は今日作れなかったから、学校で何か食べてちょうだい?」

「えっ、弁当無しなの?今日?……いや全然問題ないんだけどね?そっかぁ」

「……ごめんなさいね、今日起きるの遅くなっちゃって」

「大丈夫だよ、それに最近甘え過ぎてたところもあるしさ。……じゃあ、行ってきます」

「……んっ、行ってらっしゃい」

 

 美佐枝さんとキスをしてから学校へ向かう。昼の弁当が無いのはちょっとショックだったけど、キスでプラマイプラスって感じだから気にしない。

 けどなぁ購買混むんだよなぁ……。

 

 

 3限は振替授業とかいう鬼畜の所業で数学になったらしく、俺は一路図書室へと向かった。

 図書室に入ると、いつもと同じ場所でことみが本を読んでいた。

 

「ことみ、おはよ」

 

 今日はちゃん付けじゃなかったけどちゃんと反応して、本から顔を上げた。

 

「おはよう、紘太くん。……一緒にご本、読む?」

 

 それからは昨日と大体同じ流れだった。今日は短編推理小説を読んで、最後にことみのお気に入りを読んで終わり……のつもりだった。

 

 

 

「紘太くん、お弁当、食べる?」

 

 そう聞かれては食いつかずには居られない。それに、ことみが持っている弁当箱になぜか見覚えがあったのも気になるし。

 そんな言い訳じみた事を考えながら、ことみと一緒に昼飯を食べる。

 

「いただきましょう」

「……いただきます」

 

 

 滅茶苦茶うまかった。そして弁当のおかずが俺の好物ばかりでとても嬉しかった。

 

「ことみ、すげぇうまかったよ」

 

 そう言い、ことみの頭を撫でる。……ことみのことを褒める時は毎回撫でている気がする。まぁ、本人も嫌がってないし大丈夫だろう。

 

「美佐枝さんに聞いたの。紘太くんの好きなもの、それから嫌いなものも」

「美佐枝さんに……。だから弁当箱に見覚えがあったりしたのか」

 

 そう一人納得していると、突然ことみが頭を下げてくる。

 

「ごめんなさい、美佐枝さんのお弁当、私のせいで食べれなかったの」

「気にすんなって。俺はことみの弁当も好きだぞ?……一番は美佐枝さんだけどな?」

「うんっ!」

 

 ……めっちゃいい子がここに居る。なんだこの可愛い子。笑顔が素敵すぎるしめっちゃかわいいし、こんな風に男に笑いかけたらそいつ、勘違いしちゃうぜ?

 

「ことみちゃん」

「?……紘太くん」

「ことみちゃん」

「紘太くん!」

………

……

 

 

 

 遊びすぎた。しかもことみさっきから滅茶苦茶いい笑顔なんだけど。そのせいで名前の呼び合いの止め時も分からなかったし。

 何だか懐かしく感じたせいもあるんだろう、昔同じように女の子とこんな風に遊んだような気がする。……でも幼少期の俺と遊んでた女の子は智代ぐらいのもんだと思ってたんだけどな。

 

「なぁことみ、俺たちどこかで会ってるか?」

 

 そう聞いた時のことみの表情は嬉しそうで、けれどもどこか悲しそうな表情だった。

 

「うん、私と紘太くんはちっちゃい頃に遊んだことあるの」

 

 ことみのその言い方は、過去に何かがあったと思わせるような言い方で。けれどもその出来事が思い出せない俺は、多分ここから先に踏み込んじゃいけないんだと、そう思ってしまった。

 

「そか、じゃあ幼馴染みってことか?」

「……ううん」

 

 どうやら外れたらしい。……何かヒントがあれば、そこから答えに辿り着けるはずだ、さっきまで明るく笑っていたことみが緊張している理由もきっと分かるはず。

 

 きっかけは、いつも唐突に訪れる、それを望もうと望むまいと。

 

 

 

 あれから、ことみとのことは一旦棚上げし、ことみを家まで送ることにした、その途中。見通しの良い十字路で車同士がぶつかる事故が起こっていた。幸い、死傷者は居なかったらしい。

 ──肉体的には。

 

「嫌ぁぁぁぁぁっ!嫌っ!」

「いい子にするからっ!お父さんとお母さん返して!……わたし、いい子にするから……」

「ことみ落ち着け!大丈夫、大丈夫だから……」

「ごめんなさい……」

 

「大丈夫だから、俺が居るから……」

『大丈夫、俺がことみちゃんを守るから!』

 

「一緒に居てやるから……落ち着いてくれ、ことみ」

『俺がことみちゃんの───になるから!だから、安心して』

 

「……紘太くん?」

「ん、落ち着いたか?ことみ」

「うん、ありがとうなの」

「あぁ、……ってこんなこと昔も言ってた気がするんだけど何だったかなぁ」

「……紘太くんは紘太くんなの。いつも私を助けてくれて、抱き締めてくれて。とってもとっても優しいの」

 

 そう言い、腕の中で安らかな寝息を立てる女の子。そしてそんな子を抱きしめている俺。

 

 

 あっ、お巡りさん?奇遇ですね、あはははー。え?話を聞きたい?いやいや、話すことなんて無いっすよー。

 

 




ジークカイザーラインハルト!(挨拶)

最後が気に入ってないけど気に入ろう


三者視点で書くのはむっずいのでこれから先やらないです。多分。


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