IS<インフィニット・ストラトス> for Answer (Akimiya)
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一部
00-00 プロローグ


改稿版。


『カラードのリンクス。マクシミリアン・テルミドールだ』

 

 照明のついていない部屋の中、唯一の光源は目の前で依頼内容を流しているディスプレイだ。

 俺は椅子に座って依頼内容を見ていた。

 

『君がこれを見ているということは、私は既にこの世にはいない。恐らくはアルテリア施設"クラニアム"に斃れていることだろう』

 

 俺はORCA旅団に参加していた。どんな経緯だっただろうか、今でも鮮明に思い出せる。確か……アルテリア施設「ウルナ」の破壊だったか。

 これが原因で俺は企業連と縁を切り、ORCAになったわけだが、普段、淡々とミッションを告げるはずのテルミドールの様子がおかしい事に疑問を持っていた。

 そしてこの言葉である。

 

『メルツェルもビッグボックスを制することはできまい。つまりORCAは、君を除き全滅したことになる』

 

『そこで頼みがある。私に替わって、クラニアムを制圧してほしい』

 

『クラニアムの停止は即ち、クレイドル最後のエネルギー供給源の消失を意味する。エネルギーを失ったクレイドルは等しく降下し、貴族たちは再び大地へ足を降ろすことになるだろう』

 

『その後、衛星軌道掃射砲はクレイドルに供給されるはずの膨大なエネルギーをもって、アサルト・セルを清算し、人類に宇宙という新たな途を指し示す』

 

『最後の希望。君に全てを託そう』

 

『最後に、君と、人類と、共に戦った我らが同胞のために、この言葉を贈る』

 

 

 

 

『人類に、黄金の時代を』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「テルミドールが死んだ……?」

 ブリーフィングが終わった後、言葉の意味をかみ締めるように呟く。テルミドールが死んだ? 信じられない。

 

「確かに、信じられんな」

 

 俺の言葉に返事をしたのはセレンだ。セレンも「ありえない」という表情をしている。

 

「しかし、嘘を言う奴でもあるまい。文面どおりに解釈すると、どうも、お前以外のORCAは全滅したようだな」

「まさかこんな事になってるなんて……」

「過ぎた事を言っても仕方あるまい。決めたのだろう、お前は。新しい世界を創ると」

「はい」

 

 ORCAに参加し、すでに数機のカラード所属のネクストを葬った。もう首輪付きには戻れない。

 

「もう戻れないところまで来ている。ここで怖気づくようじゃ、散っていった仲間たちに顔向けができない。それに、俺は一人になってもやってみせる。ORCAの目的は俺の目的だ。俺がやらないで誰がやるんです?」

 

 その言葉を聞いてセレンは「フッ」と表情を和らげた。

 

「いい顔になったじゃないか。当然か、私が見込んだのだからな。

 行って来い。最後まで、私が見守ってやる」

「ありがとう。セレンさん」

 

 俺はそう言って椅子から立ち上がる。

 そうして格納庫に向かって歩を進めた。

 

 

     *

 

 

<ASSEMBLE>

 

HEAD:HD-LAHIRE

CORE:CR-LAHIRE

ARMS:AM-LAHIRE

LEGS:LG-LAHIRE

 

 

 アセンから分かるように、俺の機体はオーメル社のネクスト「TYPE-LAHIRE」ベースのカスタム機だ。

 背中にはレーダー、コジマミサイル、手にはレイレナードのマシンガン、GAのスラッグバズーカという構成になっている。

 その機体は淡い紫に染められ、落ち着きのある色合いになっている。

 

「さて、最後の作業だ」

 

 俺は機体の左肩の方に移動し、エンブレムを張り替える。

 今まで使っていたものからORCA旅団のものに。

 

『改めて依頼を説明する。今回の依頼はアルテリア・クラニアムの占拠。防衛にあたっている敵ネクスト「マイブリス」と「レイテルパラッシュ」を撃破せよ』

 

 スピーカよりセレンの声が聞こえてくる。

 

「うへぇ、よりにもよってウィン・Dかよ」

『そう言うな。お前なら負ける事はないだろうさ』

「だといいんですけどね」

『レイテルパラッシュは軽量二脚、マイブリスは重量二脚だ。マイブリスそうでもないかもしれんが、脅威はレイテルパラッシュの背面武装、インテリオル製のハイレーザーだ。

 気をつけろよ。あれを喰らえばその機体ではひとたまりもないだろうからな』

「わかりました。喰らわないよう努力します」

 

 エンブレムの貼り付けが終わったので機体に乗り込む。

 続いてエンジン始動。システム、オールグリーン。

 

「じゃあ行ってきます、セレンさん。

 ネクスト『ヴァイオレット』、出る!!」

 

 

 

 

 

         *

 

 

 

 

 

『この…大馬鹿者がっ!!』

 通信機越しにセレンの声が聞こえてくる。そうとう怒っているな。

 

「すいませんね……セレンさん。まさか伏兵がいたとは……」

 

 俺はそっと視線をずらす、そこには自機に良く似た機体が足を折り、沈黙していた。

 ネクストAC「ステイシス」。乗っているのはカラードランク1、テルミドール、いやオッツダルヴァと呼ぶべきか。

 

 

 

 

 

 俺は先程までマイブリス、レイテルパラッシュと激戦を繰り広げていた。

 戦力はほぼ互角、だが長時間の戦いで、天秤は少しずつ傾いていった。

 最初にマイブリスが沈んだ。至近距離から放たれたヴァイオレットのスラッグバズーカがマイブリスのコアを貫いたのだ。

 その後レーヴェシュタインはレイテルパラッシュとの一騎打ちを繰り広げた。

 事前の情報どおり、レイテルパラッシュは遠距離からハイレーザーを打ち込んできた。立ち回りについても、巧みに飛び回るり、距離を詰めさせようとしなかった。

 しかし、それも時間の問題。徐々に距離を詰められ、ヴァイオレットの銃がレイテルパラッシュのメインブースターを打ち抜いた。

 機動力が低下してしまったレイテルパラッシュには、もう紫色の悪魔(ヴァイオレット)から逃げる力を持ち合わせていない。

 

「終わりだ。ウィン・D」

 

 向けられる銃口、その引き金が引かれる寸前、俺のレーダーに多数の反応をキャッチした。

 

「ミサイルっ……伏兵かっ!?」

 

 すぐさまに肩部に付いていたフレアを発射し、ミサイルから逃れる。

 打ち込まれたのはPMミサイル。敵機を確認するべく、ミサイルが飛んできた方に目を向ける。

 その機体をみて俺は驚愕した。

 

「……ステイシス……」

『テルミドール……裏切ったか…… 元より貴様らが始めたことだろうが!!』

 

 セレンの怒号が無線を通して浴びせられる。

 

『テルミドールは既に死んだ。ここにいるのはランク1、オッツダルヴァだ』

 

 ステイシスはOB(オーバードブースト)でこちらに近づいてくる。こちらに応戦以外の手はない。

 だが馬鹿な俺はある事を失念していた。敵は一人ではないことに。

 

『どこを見ている。これは戦争だぞ?』

「――ぐっ」

 

 背後からハイレーザーが打ち込まれる。とっさの回避で直撃は避けたが、それでもダメージは大きい。

 幸いなことに今のレイテルパラッシュのメインブースターは使い物にならない。これは避けられない。使いたくなかったんだが、使うしかないだろう。

 

「コジマの輝きを知れ!!」

 

 背面武装を展開、それと同時にコジマミサイルを発射した。

 爆音と共に緑の閃光が辺りを覆う。

 レイテルパラッシュはコジマに巻き込まれ、沈黙した。

 俺はそれを確認し、コジマに巻き込まれないよう全速力で離脱し、ステイシスに向かう。

 十全な状態のステイシス。対しては弾薬の残りも多くなく、損傷を負っているレーヴェシュタイン。正直に言って状況は芳しくない。

 同じライールベースの機体を使う者だ。機体の長所も弱点も当然のことながら理解している。

 故に、勝敗に関ってくるのは互いの実力のみ。

 

「ORCAの名に懸けて、お前を倒す!!」

 

 言葉と共にOB。軽量機故の驚異的なスピードでステイシスに向かう。

 

『フッ、増長だな。貴様ごときがORCAを気取るなど』

「口だけは達者だな!!」

 

 すれ違いざまに互いの銃口が光る。

 俺はその後すぐに反転し、コジマミサイルを放つ。

 ステイシスは自慢の機動力を生かし、QB(クイックブースト)を多用しミサイルから逃れる。

 余計な動きで発生したほとんどないような隙を狙い、スラッグガンを撃ち込む。

 弾は機体に命中し、装甲に穴を開ける。しかし、決定打にはならない。

 負けじと向こうもライフルを撃ち込んでくる。俺はQBを用いて攻撃を巧みに避け、マシンガンで応戦する。

 

『やるじゃないか』

「当然だ!!」

 

 銃撃戦が続く。互いの武装が互いの装甲を吹き飛ばし、内部を傷つけていく。

 俺の機体はそもそも十全な状態ではない。実力が拮抗しているのであらば当然ならばこちらが不利になる。しかし、実際の状況は違った。

 

『馬鹿な。このステイシスが押されているだと!?』

 

 互いの装備していた武装の差だった。向こうはアサルトライフルにレーザーライフル。こちらはマシンガンにスラッグバズーカ。狭い戦場ではこちらの方に分があった。

 スラッグバズーカは近づきさえすればなかなかの火力を持つ優秀な武装となる。

 この武装がステイシスを苦しめているのだった。

 だが、元々残弾に不安がある以上、持久戦に持ち込むわけにもいかない。

(仕方がないか……)

 

「テルミドール!!」

 

 名を叫び、OBで空中を駆ける。

 これは賭けだ。これを失敗してしまえば自分は否応無しに窮地に立たされる。だが、このままこの状況が続けば、いずれ弾切れという形で終わりが訪れる。

 十分な推進力が発生したところでOBを止め、QBを織り交ぜながら通常推力で近づいていく。

 そして―――、

 

「消え……ろっ……!!」

 

 ほぼ密着といっても過言ではないほどの距離で俺はAA(アサルトアーマー)を使用した。

 光に飲み込まれるステイシス。

 

『最期に敗れる、そんな運命か…』

 

 こんな言葉が聞こえてきたが幻聴ではないだろう。

 

 

 

      *

 

 

 

 そんな状況があって、今がある。

 視線を配れば三機のネクストが沈黙している。

 俺は、勝ったのだ。

 機体共々、かなり消耗しているが。

 

「まぁ、いいじゃないですか、結局は勝ったんですから。

 ここは素直に褒めてくださいよ」

 

『……まったく、お前という奴は……』

 

 セレンの声が和らぐ。普段は見せないセレンの一面を見て、不覚にも少し驚いてしまった。

 

「ま、帰るまでが遠足っていうし、帰ってからゆっくりと褒めてもらいますよ」

『言うようになったじゃないか……』

「ご指導の賜物です」

『フッ、本当にお前は面白い奴だ。さっさと帰って来い』

「そうします」

 

 そう言って飛び上がろうとしたその時、

 突然、空間にぽっかりと()が開いた。

 

「――なっ!?」

『なんだこれは!? なにか判らんが早く脱出しろ!!』

「ちぃっ!! 出力がたりねぇ!!」

 

 穴はブラックホールのように貪欲に機体を吸い込んでいく。ブーストの出力が足らないせいでどんどんと吸い込まれていく。

 

『OBは? OBで脱出しろ』

「無理だ!! さっきまAA使ったばっかりなんだ!! OBどころかPA(プライマルアーマー)すら展開できねぇ!!」

 

 どんどんと吸い込まれていく機体。高機動型でも拮抗できないほどの吸引力が継続して襲ってくる。

 メインブースタをフル活用してどうにか持っている状態だ。そして、残念な事にライールの燃費は良いものとはいえない。

 限界が……来る。

 

「セレンさん。掃射砲を……頼みます……」

『なに馬鹿なことを言っている!! 耐えるんだ!!』

 

 ああ、また機嫌が悪くなってしまったな。俺の所為か……。

 

「ENが……きれる……」

『くそっ……くそおおおっ!!』

 

 セレンの叫び声が響く。

 

 

 そして、ブースターが切れる。

 

 

 

 

 

 

 機体はそのまま闇に飲み込まれていった。




評価が上がると執筆速度が上がるこのごろ



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2013/05/12 誤字修正


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00-01 飲み込まれて、それから……

「フーフフンフーン」

 

 薄暗い空間の中で彼女は鼻歌を歌いながらキーボードを叩いていた。

 その顔は「面白い物を見つけた」と言わんばかりの満面の笑みだ。

 

「まさか、こんな掘り出し物を見つけるとはね。束さんは幸運だなー」

 

 彼女の名は篠ノ之束。ワンピースにウサミミといった変な格好であるが、彼女は世界が一目置いている科学者である。

 それにしても美人だな。眩しいや。

 

「いやー、ホントに最初はどうしようかと思ったんだよ~? あんなのが降って来るなんて」

 

 束はこちらに目を配ることなく口を開く。

 

「こっちもあんな所に飛ばされるとは思いませんでしたよ」

「あんな質量体を飛ばすぐらいなんだ。そりゃもうすごかったんだろうね」

 

 俺は束の見ているディスプレイに目を向ける。

 そこには図面、俺の機体(ヴァイオレット)が映し出されていた。

 

 

 

        *

 

 

 

 

 目が覚めたとき、まず目に入ったのは薄暗い天井だった。

 視線を動かす、そこにはさまざまなガラクタと思えるものが乱立していた。

 

「……どこだ……ここ……」

 

 今まで俺はどこにいた? 俺はネクストに乗っていたはずだ。それなのに、なぜこんなところに俺は大の字で寝ている。疑問が疑問を呼び、それらは混ざり合い、頭の中をグルグルと駆け回っている。

 

「何が起こったんだ……?」

「それは私が教えてあげるよ」

 

 

 何気なく呟いた一言だが、まさか言葉を返されるとは思っていなかった。

 声のした方向に頭を向けてみる。

 奇妙な女性だった。出るところは出、引っ込むところは引っ込んでいる、扇情的なプロポーションをしているが、格好がおかしかった。胸の所がぽっかりと開いている空色のワンピース、オプションで純白のエプロン。極めつけは頭に引っ付いているウサミミ。一見すると「不思議の国のアリス」のような格好だが、残念な事にこちらは見惚れるような余裕はなかった。

 女性はニコニコと笑顔を振りまきながら言葉をつむぐ。

 

「君はね。突然降ってきたんだよ。あんなデカブツに乗って、この束さんの秘密のラボに」

「降ってきた?」

「そう!! 降ってきたんだよ!!」

 

「正解!!」とでも言うようにビシッとこちらを指差す女性。楽しそうだなぁ、そう感じてしまった。

 

「も~驚いちゃったよ。突然すごい音がするんだよ!! センサーにもカメラにも何も反応が無かったのに!!  この天才束さんお手製の万能センサーをかいくぐって!!」

「…………」

「それに君のロボット、少し調べさせてもらったけど、あんな技術見たことないよ!! もう未知の塊だよ!! エンジンの機構もISとも違うし。ねぇあれは何なの? ねぇねぇねぇ!!」

「ま、まぁ落ち着いてください!! お姉さん」

 

 (なだ)めないと殺される!! 主に無限の好奇心に!!

 

「束さんとお呼び!!」

「は、はぁ。じゃあ、束さん、とりあえず落ち着いてください。説明しますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほうほう、じゃあ君はその穴のようなものに飲み込まれて気づいたらここにいたと」

「そういうことです」

 

 自分の身の安全を考えた俺は、事の一部始終を話す事にした。

 

「ふーん。多分その穴ってワームホールだろうねぇ」

「ワームホール?」

「そう、ワームホール。もっとも、今までは理論上のものだと思ってたんだけどね」

「それじゃあ、ここは……」

「うん、お察しの通り、異世界だよ。いや~災難だったね」

 

 異世界、つまりここは俺がいた世界ではない。アルテリア施設も、クレイドルもネクストもいない世界ということか……

 

「君のロボット、ネクストだっけ。君の世界のそれはこっちではISってところかな?」

「人が落ち込んでいるにも関わらず、容赦なく話を進めますね、あなたは」

「そりゃすすめるよ!! 時は金也だよ!! それに落ち込んでいても仕方ないでしょ?」

「それはそうですが……」

「じゃあ、落ち込まない!! 人間、前を見続けるのが重要なんだよ!!」

 

 ずいずいっと顔を近づけてくる女性。反射的に顔を遠ざけてしまう。

 この人は俺と違って前しか見てなさそうだな。

 

「なんで笑ってるのさ?」

「あ、笑ってましたか。いや、そんな考え方もあるな、と思いまして。

 そうですね。いつまでもくよくよしていても意味は無い。あなたの言うとおりですよ」

 

 そうだ、こんなところで油を売る訳にもいかない。戻らなくては、元の世界に。

 

「よく言った!!」

 

 女性は立ち上がり、俺に向けて手を差し出してきた。

 

「じゃあ仕事の話をしようか。改めて、私は篠ノ之束、科学者よ。君の名前は?」

「……ユウ、ORCA旅団所属のリンクスだ」

 

 そう言って束と握手を交わした。

 

 

 

        *

 

 

 

 篠ノ之束が提示してきた仕事とは二つ。一つは篠ノ之束個人が所有する戦力(リンクス)として働く事。もう一つは時が来れば教えるとのことだ。

 不透明(特に二つ目が)とも言える依頼内容だが、その報酬が魅力的過ぎた。その報酬は三つ。

 一つ目はネクストACの修理と武装の提供。この世界にネクストは存在しない。故に弾薬も機体の替えも無い。提供が無ければ戦闘なんてそもそも論外だ。

 二つ目は専用ISの提供。この世界で既に認知されている兵器を使ったほうがまだ動きやすいだろうという理由で提供される。検査の結果分かった事だが俺のIS適性はA。最高値ではないが、問題があるわけではない。本来ならば女しか扱えないものにどうして適性があるのか、これは推測であるが恐らくはAMSのお陰だろう。機体の方は強化人間の特性も生かした設計をしてくれるらしいから安心だ。

 そして極めつけは三つ目、元の世界の帰還法の発見、確立。これが一番重要な訳だが、自分でも不可能じゃないのかと思っていたところ、「この束さんに任せなさい」と胸を張って言っていたので任せることにした。

 契約期間は三つ目の報酬である帰還方法が発見、確立される、もしくは俺自身が帰還を諦めるときまで。

 俺は二つ返事で了解し、契約を交わした。

 

 

 契約が完了したあと、とりあえず博士にはヴァイオレットの修理をやって貰っている。弾薬の補給も兼ねて。

 博士曰く、今の状態では装甲は修復できても内部までは無理らしい。コジマを用いる機構の解析に少し時間がかかるのが理由だ。もっとも、クラニアムで負った損傷は装甲だけだが。

 次に弾薬についてだが、同じ理由でコジマミサイルの補給はまだ無理らしいので普通の大型ミサイルを積む事にした。マシンガンとスラッグバズーカは完璧に複製可能らしい。まぁ通常兵器だしね、ISを自力で作り上げる事のできる人間になら造作もなかろう。

 

「ねぇ」

「なんですか、博士?」

 

 不意に束が話しかけてきた。

 

「君の専用ISについてだけど、何か要望みたいのはある?」

「要望ですか……」

「そうそう、要望。どんなのがいい? 束さん何でも作っちゃうよー?」

「うーん」

 

 頭を抱える俺。ネクストに乗っていた時は状況によって使い分けていたのだけれど、ISにそれは通用するのか?

 

「とりあえず今のところ強襲がメインでしょうし、そんな感じでお願いします」

「了解しちゃったよ。束さんに任せなさい」

「お願いします」

「フフフ……腕が鳴るねぇ……、っとできた」

 

 ラボに一際大きなキーを打つ音が鳴り響く。どうやらできたようだ。

 

「さぁ直ったよ、君の機体が」

「……おお」

 

 そこにあったのはまるで新品同様の愛機だった。流線型の独特なボディが俺の目に映る。

 

「どうかな?」

「完璧です。ありがとうございます、博士」

「お礼はいいよ。そういう契約だもん。ところで……」

「何でしょう?」

 

 束の顔つきが変わる。これは何かあるな、そう直感した俺は表情を正した。

 

「早速君に動いてもらいたいんだけど」




改行したのに反映されない……
そのうち直します。



次は戦闘になる予定です。
乞うご期待!!


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2013/02/25 :ご指摘にあわせ内容を一部修正


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00-02 初陣、そして蹂躙

 某年2月、ドイツはとある理由から手に入れたあるモノの研究を行おうとしていた。

 水底で発掘された()()()()()()。ISのものではない未知の技術を用いたそれは、世界が欲するものと言っても過言ではなかった。

 ドイツはこの未知の技術の解析のために内密に特別なチームを結成した。そのメンバーは錚々たる面子で、国内外を問わずさまざまな分野で認知されている凄腕の研究者、技術者達だった。

 ドイツは解析の成功を確信した。メンバーの面々が人格的に破綻している可能性があるのが玉に瑕だったが、能力だけは折り紙つきの天才ばかりだったのだから。

 

 

 しかしチームが着手しようとした前日、最強の称号が脆くも崩れ去るある事件が起こった。

 

 

     *

 

 

「くそっ……なんでこんな時にっ!?」

 

 クラリッサ・ハルフォーフは焦っていた。

 未知の機械腕が収容されている基地、そこが襲撃されたためだ。

 ただの襲撃ならそれでいい。襲撃者の中にISに乗っているものがいないということは既に判っている。通常兵器でISに勝てるなど露ほども思っていないからだ。

 ただ、今回は別に問題があった。

 明日はその基地で重要な研究が開始される事をクラリッサは知っていた。そのために国内最高峰の研究者が集められている事も。

 クラリッサを筆頭とする「シュバルツェア・ハーゼ」が召集されたのもそれが理由だ。

 今回の命令は二つ「召集された研究者、技術者の保護」と「機密の奪還」。

 クラリッサも史上最強の兵器(IS)に乗る者として、彼らの重要性は理解していた。

 

『大丈夫ですよお姉さま、きっと間に合います』

『護衛でISが二機も配備されているんですから、間に合わないはずがありません』

 

 不安になる彼女にオペレーターをしている部下と、隣で併走している部下が声をかけてきた。

 

『時間といっても五分もあれば我々の基地から十分行ける距離ですし、心配する必要はありませんよ』

「そうであればいいのだがな……」

『私たちが到着すればこちらのISは4機になるんです。負けるはずがありません。それに、到着する頃にはもう終わってるかもしれませんね』

『もう戦争が起こせる戦力ですね。問題ないでしょう』

「隊長が来られないのが不安要素だが、まぁよかろう。

 オペレーター、基地が見えてきた。誘導を頼む。いくぞ」

 

 時刻はもうすぐ深夜0時、ISのブースターの光だけだった光源に基地から発せられる光が加わる。

 

「……なんだと?」

『お姉さま……これは?』

『ひどい……』

 

 三者三様な言葉を漏らす。

 視線の先には地獄が広がっていた。

 

 捲れあがったアスファルト。

 天井が吹き飛んだ建物。火の海に包まれた内部。

 戦車や戦闘ヘリ、戦闘機等の兵器の残骸。

 そして……見るも無残な姿で転がっている、護衛であったはずのIS操縦者。

 

 クラリッサ達は顔を顰めながら基地に降り立った。

 

「なんということだ……」

 

 搾り出すように声を出すクラリッサ。足元には物言わぬ肉の塊。

護衛機でったモノの装甲の大半は消し飛び、搭乗者は元の形を保っていない。

 ちらりと視線を横の建物に動かす。確かこの建物の地下で解析が行われるはずだ。しかし、IS級の主砲を打ち込んでも耐える事ができるように設計されていたはずの鋼鉄の扉には大きな穴が開いていた。

 このようなことができるのはISだけだ。報告ではISは無いとのことだったが、間違っていたのだろう。

(新型か? 全く、厄介な)

 途方も無い火力で吹き飛ばされたのかとも思える壊れ方をしている壁はただ何も喋らず、強大な敵がいたことを語っていた。

 ……いや、過去形じゃない。

 

『地下より巨大な熱源反応。来ます』

「わかっている!!」

 

 ISのハイパーセンサーが地下から上がってくる熱反応を感知する。

 通常のISとは比べ物にならないほど大きな熱源。クラリッサは瞬時に考え、部下に距離をとる事を命じる。

 部下は何も言わずクラリッサの隣に降り立った。

 そうしている間にも徐々に熱源が上がってくる。

 護衛のISをいともたやすく、絶対防御などお構い無しに葬る悪魔が……現れる。

(さて、どんな機体だ。見せてみろ、私に!!)

 護衛機から情報を抜き取るのは不可能だろう。しかし、私ならば。黒ウサギ部隊ならば持ち帰る事が可能だ。

 

「オペレーター、ちゃんと記録しろよ」

『はい、お姉さま』

 

 武器を構え、何時でも発砲できる状態にする。

 そしてクラリッサは現れる機体を確認する。

 

「…………え?」

 

 現れたのはISとは似ても似つかぬモノだった。

 スタイリシュな流線型ボディ。淡紫でカラーリングされた装甲。赤く輝くカメラアイ。

 辛うじて人の形は保っているが、大きさはISと比べ物にならない。

 そしてその手に持っているものは……

(あれは……研究対象の)

 

 怪物は研究対象の機械腕が握られていた。くすんだ黒色の腕。劣化してはいるものの、分かる、分かってしまう。あれ(機械腕)それ(怪物)と同じものだと。

 そしてその赤目が私を捉える。

 

「――ヒッ」

 

 この悲鳴は部下のものだ。圧倒的な存在に睨まれ、その顔は蒼白に染まっている。

 無論、それはクラリッサにも言えることだ。彼女ほどの実力であっても、耐えるので精一杯なのだ。

 そして同時に彼女は理解した、理解してしまった。あれには敵わないと。まともに戦ったならば、蹂躙され、護衛機のような末路を辿ってしまうだろうと。

 しかし、彼女は軍人である以上、命令に従わなければならない。

 恐怖と命令に板ばさみにされながらも、軍人であるが故に……

 

「侵入者、貴様を拘束する!!」

 

 奴が手に持っているのは軍の最高機密。なんとしても奪還しなければ。

 クラリッサは飛び上がり銃撃を開始する。部下も意図を理解したのかクラリッサと反対方向に移動しながら同じく銃を撃つ。

 

 怪物の周りを一定の距離を開けて旋回し、銃弾を撒き散らす。

 その銃弾はどれも怪物に向かって進んでいく。損傷は必至だと思われた。だが――

 

「嘘でしょっ!?」

「化け物がっ……」

 

 怪物の装甲には傷一つ付いていなかった。銃弾はすべて怪物の周りの緑の粒子に阻まれ、勢いをなくし、地に落ちる。

 直後、クラリッサの背に強烈な悪寒が走った。

 

「まずいっ、退避しろ!!」

 

 本能とも言える危機察知で部下に退避を命じる。

 だが同時に怪物も動いた。

 怪物は驚異的な速度で銃を構え、放つ。 

 轟音と共に打ち出される複数の銃弾。狙われたのは部下だった。

 必死に避けようと機体を操る部下だが、相手のほうが一枚上手だった。銃弾は命中し、部下はISを解除させられ、吹き飛ばされる。

 クラリッサは吹き飛ばされ、意識の無い部下を回収する。しかし、それは致命的な隙となった。

 (しまったっ!?)

 怪物は既に銃口をこちらに向けていた。

 なんという圧倒的な力だ。恐らく奴が使ったのはマシンガンだろう。ただISの主砲並の威力の弾を放つのは圧巻ともいえる。

 悪魔の武器は火の光を浴び、クラリッサの命を奪うかのごとく、怪しく輝いている。

 詰みだ。クラリッサはそう思った。

 たった一手でISを無力化する力。

 コレを実際食らうとなると……

(まるで悪夢だ)

 たかがマシンガンでこの威力だ。じゃあそれ以上の武装だったら。

 更にこの程度の被害、確実に手加減されている。

 誇り高き軍人として、これ以上の侮辱はない、しかしその反面、部下を失わなかった事に安堵していた。

 だが安堵もつかの間、まだ怪物はこの場に居る。

 戦闘不能の部下も連れてのこの状況。まさに絶体絶命。

 状況がどうなろうともう勝ち目はない。クラリッサは歯を食いしばりながら、手にしていた銃を()()()()()()()()

 明確な降参の意。クラリッサは自身、いやシュバルツェア・ハーゼの敗北を認めた。

 これは一種の賭けだ。自身と、部下が生き残るための。

 

 怪物はこちらに銃を向けまま、動かない。

 クラリッサも同様に動かない。

 

 そうして暫しその状況が続き、驚いた事に、怪物は銃を下ろした。

 怪物はそのまま飛翔し、高度を上げたと思うと、緑の光と轟音を撒き散らしながら彼方へと消えていった。

 その後、誰も居なくなった廃墟でクラリッサは崩れ落ちた。

 

 

 余談だが、研究者を含む非戦闘員は全員無事だった。あれほどの被害を出しておきながら戦闘員と非戦闘員を区別し、()()()()()戦闘員のみを攻撃していた事に軍部は驚いた。

 

 

 また、これは情報部の報告だが、衛星を使っても怪物は捕らえられなかったそうだ。

 

 加えて、同様の襲撃事件がヨーローッパ各国で数回発生したらしい。犯人は不明、ただ各国は亡国企業の仕業ではないかという憶測をしている。

 

 

 

 

      *

 

 

 

 

「さーぁ、できたよユウ君、君の専用機が!!」

 

 ファンファーレと共に大きく胸を張る束博士。俺はげんなりした様子で博士を眺めていた。

 場所は束博士の秘密のラボ。

 俺は既に仕事を終え、機体の整備と弾薬の補充をするために帰ってきていた。

 

「君の要望通りの機能を加えたつもりだよ。場合によってはネクストよりも使い勝手がいいかもね」

「世界が違う時点でISの方がいろいろと勝手がいいのは分かってますよ。ネクストは目立ちすぎる」

「あの大きさだから仕方がないよ。基本的に君がネクストに乗る事は自分の意思以外では私の依頼でしかないんだしね」

「まあ、そうなんですがね。

 しかし――」

「ん?」

「これで俺も表舞台に出る、という訳ですか」

 

 俺は視線を側にあったテレビへと向ける。

 そこには「男性初のIS操縦者」と大きく映し出されていた。名は織斑一夏。博士が興味を持つ数少ない人物。

 

「それで各国は第二を求めて血眼になっていると。そこに紛れ込むわけですね、博士?」

「そう。国のデータベースの細工は私がやっておくから、君は検査会場に紛れ込んで検査をうけるだけ。簡単でしょ?」

「まぁ、問題はありませんが……」

 

 俺は天井を見上げ、深いため息を一つついた後、

 

「仕方がない。楽しい楽しい学生生活とやらを送ってみますか」

 

 そう博士に返事をするのだった。




次回から本編開始か?
その場合、一度原作を読み直す事になると思うので更新が遅くなるかもしれません。その場合はすいません。



5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。


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01-01 楽しい楽しい学園生活

改稿版です。


 時は四月。心地よい春の風が俺の頬をなでる。

 なんとも言えない良い気持ちだ。時刻は午前九時前。朝、布団からここまで眠気を引きずってきた人達にとっては悪魔の囁きといっても過言ではないだろう。時折頭を振り、舟をこいでいる姿が見られる。

 

「……ふぁ」

 

 自分自身も不覚ながら欠伸をしてしまう。

 最近あまり睡眠を取っていない所為か、気を抜くと俺まで誘惑に負けてしまいそうになる。

 この状況をどうにかできる存在……つまり、先生。早く来てくれ。 

 

「全員揃ってますねー。SHR(ショートホームルーム)はじめますよー」

 

 俺の願いが叶ったのか。念じた瞬間、ドアが開き緑髪の女性がが入ってきた。

 恐らくは教師なのだろうが、身長が低く生徒のそれと変わらず、如何せん先生には見えない。

 印象としては「大人ぶっている少女」である。

 名前は山田真耶。黒板(のようなものに)文字が浮き上がり、自分からも名乗っているのでそうなのだろう。

 これも表示された情報だが、どうもこの先生は担任ではなく、副担任のようだ。

 因みに副担任の主な役職は担任の補助である。担任は誰なんだろう……

 

「それでは皆さん、一年間よろしくおねがいします」

 

 山田先生は一通りの自己紹介を終え、この一言で締めくくる。

だがしかし、

 

「…………」

 

 残念な事に教室の中は形容しがたい緊張感に包まれ、先生が望んだような反応は返ってこず、何とも言い難い静寂が支配する事になった。

 いやー、先生、頑張って。

 

「じゃ、じゃあ出席番号順で自己紹介をお願いします。」

 

 どうにか場を取り繕って話を進めようとする山田先生。しかし、言葉とは対照的に動きはとても手馴れたものですぐに生徒の机に名前入りの角柱(ホログラム)が出現する。

 さすがに生徒たちも無言を貫くことはなく、自己紹介を始めた。

 あ……い……う……え……、と順当に自己紹介が進んでいく。

 そして「お」に差し掛かったところで俺の視線はある()に釘付けになった。

 その男、もとい少年は一人キョロキョロと不可思議な行動をしている。時折視線を横に向け、少し経って戻し、固まる。きっと体中に力が入っているのだろう。

 視線を下げ、どんよりと形容しがたいオーラが発せられている。

 

「織斑くん、織斑一夏くんっ」

「は、はいっ!?」

 

 どうも意識は別の方向にいっていたらしく、先生に大声で呼ばれ、少年は返事をするももの声が裏返ってしまっていた。同時に、辺りから笑い声が聞こえてくる。

 声を聞いてさらに少年の表情が硬くなった。どうも少年、織斑は緊張しているようだ。

 世界で唯一ISを操縦できる男と世界に報道されたため、その存在は世界中の人間に認知されているといっても過言ではない。更にその整った容姿は女子の心を鷲掴みにし、同姓だけではなく異性にも注目されてしまう。

 尤も、ここの女子の視線は所謂「値踏み」の意が篭ってはいるが。

 

「あの、大声出しちゃってごめんなさいね? けどね織斑くん。自己紹介、『あ』から始まって今『お』で、織斑君の番なの。だから答えてくれないかな? 怒ってるかもしれないけど、お願いね」

 

 少年の沈黙を「怒っている」と捉えたのか、山田先生は何度も何度も頭を下げていた。

 

「すいません。ぼーっとしてました。ちゃんと自己紹介しますから、先生落ち着いてください」

「本当ですか? 約束ですよ」

 

 少年が言葉をかけると山田先生は顔を上げ、熱心に少年に詰め寄る。その姿はさらに周りからの注目を集める結果になっているのだが、それを先生は分かっていないらしい。

 暫時少年は緊張と恥ずかしさに悶えていたが、意を決したのだろうか、少年はしっかりと足を踏ん張り、うしろ――こちらに振り向いた。

 やっとか、俺は心の中で呟いた。

 少年は視線という刃で体中串刺しにされながらも、

 

「えー、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

 大衆(?)を前にしっかりと発言し、礼儀正しく礼をした。実に簡潔で一般的だ。ただ、この場では少し不足だと思うが。

(やっぱり)

 案の定女子から「もっと喋れ」的な空気が発せられる。

 だらだらと冷や汗を流しながらも、少年は思い切ってこう口にした。

 

「以上です」

 

 音と共にずっこける女子を数人確認した。かくいう俺も少し拍子抜けで驚いているが。

 

「あのー、織斑くん……?」

 

 少年の背後から声をかける山田先生。涙声な気がするが気にしない。

 疑問符を浮かべる少年だが、教室から入ってきたスーツの女性に出席簿で殴られた。

 

「あだっ――!?」

 

 盛大に顔を顰め、恐る恐る振り向く少年。そしてその姿を捉えた。

 

「け、獣殿!?」

 

 ズパァン!! 出席簿アタック二撃目。あまりにも強烈な攻撃のために、周囲の女子が若干引いている。

 

「私は修羅道などではないぞ、馬鹿者」

 

 トーンの低い声で言う女性。態度はそっけないが、俺はその奥にある愛情のようなものを感じた気がした。

 

「あ、織斑先生。会議は終わられたのですか?」

「ああ、山田君。面倒な仕事を押し付けてすまなかったな」

 

 声質反転。トーンの低い声から優しい声へと変化した。

 

「いえっ。これも副担任の職務の一環ですから」

 

 山田先生ははにかみながら若干熱っぽい声と視線で返答している。涙声どこいった?

 女性はフッと少々表情を崩した後、すぐに精悍な顔つきに戻し、こちらを向き言い放った。

 

「諸君、私が織斑千冬(おりむらちふゆ)だ。お前たちひよっこを一年で使い物になる操縦者に育てるのが私の仕事だ。私の発言は心の奥底まで刻み込め。出来ない者には何度でも指導してやる。強くなりたければ、私の言う事に従え。いいな」

 

「キャ――――! 千冬様、本物の千冬様よ!」

「わたしずーっと先生に憧れてきたんです!!」

「私は九州から来ました!! こっち向いてください!!」

「握手をっ!! 握手お願いします!!」

「お姉様! 抱いてください!!」

 

「……最後の発言は看過することは出来んが、まぁいい。それにしても元気なものだ。感心させられる。意図して集められていのではないだろうな?」

 

 周囲の女子から発せられる黄色い声援に織斑先生は心底鬱陶しそうに振舞う。

 まぁ、もっとも、

 

「きゃあああああっ! お姉様もっと私を虐めてください!!」

「もっと!! もっと!!」

「お姉様!! 私SもMもばっちりイケます!」

 

 一部の女子(変態)達には逆効果のようだが…… 

 まぁ、あれだ。元気なのはいい事だ。うん。

 

 今現在、女子はブリュンヒルデ(最強)との出会いに感激し、少年(織斑一夏)は驚いているが、俺はその二つにも当てはまらなかった。

 織斑……織斑ねぇ。なるほど、そういうことか。

 高圧的ともとれる発言だが、実績を残しているのだから、誰も言う事はない。

これが資料にも書いてあったブリュンヒルデ……これが最強の戦士(IS操縦者)か。

 こちらに同調してくれたらいいのだが、難しそうだ。

 

「で、お前は何醜態を晒している?」

「ち、千冬姉、俺は――」

 

 同時に教室内に響き渡る音。本日三撃目の出席簿アタック。オールドキング辺りが「六千万」とか言いそうだ。

 

「織斑先生と呼べ、馬鹿者」

「うっ……お、織斑先生」

 

 この発言から二人が姉弟の関係であるということを理解した。

 そして、周囲にも姉弟という事実が知りわたることとなる。

 

「織斑君って千冬様の弟なの?」

「道理で同じ苗字なのね?」

「羨ましいなー。ねーねー私と代わってよ」

 

 混沌を極める教室。織斑先生は軽く咳払いをした後、

 

「もうすぐSHRが終わる。全員は自己紹介は無理のようだな、では代表して……高城、お前がやれ」

「はい」

 

 なんと俺を指定してきた。拒否する理由も無いので返事をして席から立ち上がる。

 

高城(たかしろ)(ゆう)です。趣味は読書と映画鑑賞。ISに関しては素人ですが、精一杯頑張ろうと思います。皆さん、よろしくお願いします」

 

 発言の後、織斑と同じく礼儀正しく礼をする、ついでに笑顔も忘れない。まぁ当たり障りはない内容だろう。だいたいテンプレ通り。

 因みに兎さん(束博士)細工(ハッキング)の結果、俺は「高城優」として日本に所属していることになった。博士曰く、「そっちの方が後々動きやすくなるから」だそうだ。

 

「……イケメン……」

「織斑君とは違うタイプのイケメン……」

「やばい、ストライク……」

 

 女子から嬉しい言葉が返ってくる。伏せていたからあまり顔が見えてなかったのか。叫ぶ事がないのはこちらとしても都合がいい。

 前の方に座っていた織斑もまるで救世主を見るかのような目で俺を見ている。

 いい機会だから、後で織斑とでも話をしてみるか。

 

 そんな事を考えているとチャイムが鳴った。

 

「さぁ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、くれぐも貴重な時間を無駄にするな。いいな」

 

 織斑先生のこの言葉で授業、SHRは締めくくられる。

 俺は席に座り制服のネクタイを緩めながら、「さて、何を報告しようか」と心の中で口にするのだった。

 

 

 

*

 

 

 SHRが終わり、俺を待っていたのは休み時間ではなく、授業だった。

 講座名はIS基礎理論。内容は字の通りだった。

 前のほうでは織斑がどんよりとした状態で授業を受けていたが、俺は何も頭に入っていないだろう。まったく、これじゃあ先が思いやられる。

 俺は何の問題もなく授業を終えた。

 

 そして今は休み時間。

 俺は周囲の視線にさらされながら俺は教室のある場所に向かった。

 

「改めて、高城だ。よろしくな織斑君」

 

 場所は無論もう一人の男の所だ。

 

「織斑一夏だ。一夏って呼んでくれ」

「じゃあ俺も優でいい。一緒に頑張ろうぜ」

「おう!」

 

 一夏は元気良く返事をする。その顔は輝いていたと言ってもいいだろう。よっぽど不安だったんだろうな。

 

「いやー、優がいてくれて助かったよ。俺一人じゃこの状況どうにもできそうにないからな」

「俺も同じ境遇の奴がいて良かったと思ってるよ。けどさ一夏、こんなもんでビビッてたらこの先どうすんだよ? この状況が三年間続くんだぞ?」

「うっ……まぁそうだけどさ、ってなんで優は平気なのさ」

「平気……っていうか、割り切ってるだけさ」

「その精神がうらやましいよ。ほんと」

 

 一夏は苦笑いを浮べる。あまり裏表がない奴だという事がこの行動から読み取れる。

 暫し一夏と談笑と続けていたが、向こうから一人の少女が歩いてきた。

 (あれは資料にあった……)

 束博士からもらった資料。その中の「最重要」と赤字で記されている人物の一人のこの少女が載っていた。

 それに、勇気を出して(?)やって来たんだ。俺は邪魔だな。

 

「まぁ、まずは慣れろ。話はそれからだ……っと客だぞ一夏」

「え?」

「……ちょっといいか」

 

 背後から呼びかけられ、一夏は後ろを向く。

 

「……箒?」

「…………」

 

 箒、篠ノ之箒。ISの開発者であり天才技術者である篠ノ之束の妹。黒髪ポニーテールで、すらりと整ったプロポーションをしている。

 一夏はちらりと俺に目を配る。

 

「いってこい、一夏」

 

 笑顔で一夏にGOサイン。一夏は頷きながら返答した。

 

「わかった。じゃあ箒、廊下でいいか?」

「早くしろ」

「お、おう。優、あとでな」

 

 篠ノ之箒、結構グイグイいくな。一歩リードか?

 

 箒と一夏は教室から出て行った。その際に他の女子たちが進んで道を開け、ひそひそと何かを呟いていた。

 一夏は出て行き、教室内に残るは俺一人。猛禽類を思わせる視線が俺に突き刺さる。

 今まで分散されていた視線が一つに集まったのだ。更に他のクラス、学年の女子も集まっているだけに量だけは凄まじい。

 

「あの……高城くん?」

 

 篠ノ之妹の行動に触発され、ある女子が勇気を振り絞り俺に話しかけてくる。

 一夏と比べて、社交的でありたい。ここはもう一人の男子として職務を全うするとしよう。

 

「なんだい?」

 

 

 

 これは余談だが、休み時間が終わり、一夏()先生()から本日四度目になる出席簿アタックを受けていた。 ……八千万!!

 

 

 

*

 

 

 

「――であるからして、ISの基本的な運用は現時点では企業に所属する場合でもその所在地が登録してある国家の認証が必要であり、規約を逸脱したIS運用をした場合は、刑法により厳しく罰せられ――」

 慣れた動作ですらすらと教科書を読み進め、授業を進めていくのは山田先生。ISの基本的なことは事前に全て頭の中に入れているから別に聞かなくても何ら問題ないが、蓄えた知識から考えるに、山田先生の教え方はかなり上手い部類に入ると思う。最初はただの教科書リーダーかと思っていたが、所々に補足を入れたり、重要なところは解るように丁寧に説明している。

 優秀だ、これだけの説明を聞いて理解できない奴なんかいないに違いない。

 俺はチラリと前のほうを見る。そこには教科書を無意味に捲りながら頭を抱える男子がいた。

 訂正だ。ISについて少々の予備知識を備えていれば、理解できるに違いない。

 

「織斑くん、何かわからないことはありませんか?」

 

 途中頭を悩ます一夏が気にしてか、山田先生が話しかける。一夏も自分に話が振られるとは思ってなかったようだ。「あ、えっと……」などともごもごと口を動かしている。

 

「わからないことはすぐに処理しないと後々大変な事になるんですよ? 今なら授業中なので休み時間にさしかかるようなことはありませんよ?」

 

 教え子の状態を把握するのも教師の勤めである。山田先生の行動はとても模範的なものだと思う。

 一夏は「じゃ、じゃあ」と呟き、

 

「全く分かりません。先生」

 

 元気よく発現した。いや、元気よく発言するのはいいことなのだが、如何せん内容が内容だった。これのフォローは難しいと思う。俺が先生だったら、もうお手上げだろう。

 

「え、全く……ですか?」

 

 山田先生の顔が引きつる。表情から「困っている」ということが用意に読み取る事ができる。

その後先生が「今の段階でわからない人~」などと生徒たちに聞くが、誰も手を上げない。

 

「……織斑、事前に配布された参考書は読んだか?」

 

 教室の隅に立ち、様子を伺っていた織斑先生が見るに見かねて一夏に話しかけた。

 

「資源ごみの日に間違えて出しちゃいました」

 

 因みにこの直後、先生の十八番(おはこ)である出席簿制裁を食らう一夏であった……一億!!

 

「あんな目立つもの、間違えて捨てるやつがあるか馬鹿者。あとで再発行してやるからすぐに覚えろ。期限は一週間だ。いいな」

「あの量を一週間は……」

「そうか……無理と言うか……じゃあ高城に聞いてみよう。おい高城、お前はどれだけかかった?」

 

 SHRと同じく、俺へと会話を振ってくる織斑先生。先ほど一夏も正直に答えたので俺も正直に答えることにする。

 

「そもそも参考書が届いたのが入学前日なんで、一晩ですかね?」

 

 これは真実だが、束博士に作ってもらった住所に参考書が届いたのはつい先日だ。

「前日にこんな参考書(爆弾)を送ってくるのか、IS学園は!?」と呆れていた記憶がある。まぁ既に束博士のレクチャーでISについての知識は十二分に入っていたから問題なかったが(ちゃんと参考書には目を通した)。

 ふと、先生の表情を見ると、頬が少しばかり引きつっているのが確認できた。

 この表情を見て、自分がどんな常識はずれな発言をしてしまったのかを理解した。そして、先ほどの俺の発言が一夏の首を絞める結果になってしまったということも。

 

「だそうだ。これで言い訳はできんぞ。織斑」

「で、でも――」

「ほう、一週間では長すぎると。いいだろう。それでは高城と同じ一晩にしよう」

「……一週間でお願いします」

 

 がっくりと肩を落とす一夏であった。

 




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2013/04/08 内容を一部修正(diesネタ追加)


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01-02 英国淑女。戦闘旗

改稿版。


授業終了後、まず俺が行ったことは、

 

「大丈夫だよ一夏。今日から頑張ればどうにかなるさ」

 

 そう、もう一人の男子の励ましである。

 普段の様子ならば、勇気を出して少数ながら女子が声をかけてくると俺は考えているのだが、今の一夏の様子を見て、遠巻きで観察することしかしていない。

 入学後、一夏はだいたいどんよりとしていたが、これは記録更新のようだ。

 

「優ぅ~。頼む!! 俺に勉強を教えてくれ!!」

「おいおい、自分で頑張ろうって気は無いのかよ1?」

 

 俺に両手を合わせて拝み、お願いしてくる一夏。あまりの必死さに引いてしまった。

 

「俺には無理だ。頼むよ!! この通り!!」

「あのときも言ったと思うけど、俺は昨日一昨日に届いて、ほぼ徹夜して読んできたんだが…」

 

 ちなみに今まで眠気を引っ張っていた原因がそれだ。量が量だけにかなりの時間がかかってしまった。

 読んでみた結果、すべて事前に学んでいることが分かったのだが。

 そして、このまま一夏に教えるといっても、あれだけの量だ。一つ一つ教えていたらキリが無い。

 自分自身の負担を減らす意味で、ある提案をしてみる事にした。

 

「じゃあ、こうしよう。お前が参考書で勉強し、その中で理解できない、し辛い内容については俺に聞け。俺も分かる範囲でそれを教える」

「それって……」

 

 何かを悟ったようで一夏は呟く。俺は頷きながら、

 

「俺は先生じゃないからな、一から教えられる能力は無い。だが、部分部分なら可能だ。所々の穴を埋める作業なら手伝おう。どうだ?」

「わかった。それでいい。俺も千冬姉に知られる訳にはいかないからな。よろしく頼むよ」

「頼まれた。報酬として、全部終わったらデザートでも奢ってもらうぞ」

「ああ、それぐらいなら問題ない」

 

 両者合意で契約が成立した。

 これから数日間は一夏にとって厳しい期間になるだろうが、乗り越えられるかは一夏次第だ。

 

「お二方、今よろしくて?」

「へ?」

「ん?」

 

 話は纏まり、俺は適当な話題に話を切り替えようとしたところ、言葉をかけられた。

 相手は煌びやかでロールがかった金髪と青い瞳をもつ女性だった。その振る舞いは典型的なお嬢様の如く。

 そして女性は自身の青い瞳を吊り上らせ、俺たちを眺めていた。

 その目を見て思った。「こいつは俺たちを見下している」と。

 

「訊いてます? お返事は?」

 

 なんと言う上から発言。普通の奴なら嫌悪感を抱くことだろう。

 

「あ、ああ。何の用だ?」

 

 一夏が返答する。性格に表裏がないのならば、この発言をどう返すかによって大体の性格が分かるものだが……

 

「そんなぞんざいなお返事があると思って? (わたくし)に話しかけられるのも光栄なことなのですのよ? そこを自覚なさっての行為なのですか?」

 

 思っていたことはおそらくその通り。典型的な女尊男卑の考えをもった、お嬢様のようだ。面倒臭いタイプだ。

 

「…………悪いな。俺、君が誰だか知らないんだ」

「私を知らない? イギリスの代表候補にして入試主席のこのセシリア・オルコットを?」

 

一夏の答えは、どうもこの少女、セシリア・オルコットにとっては気に入らないものだったらしい。目を細めて、俺たちを見下した口調で言う。

 

「ひとつ質問いいか?」

「ふん。下々の疑問に答えてさしあげるのも上に立つ者の義務。よろしくてよ」

「代表候補生って、何?」

 

 聞き耳を立てていた女子が盛大にずっこけた。俺は盛大に本日何度目かのため息をつく。

 

「あ、貴方っ、本気でおっしゃってますの!?」

「おう。知らん」

「…………」

 

 セシリアは黙った。あまりにもイレギャラーな事態に理解が追いついていないようだ。

 俺は一夏を発言させないよう一旦手で制し、口を開く。

 

「失礼、オルコット嬢。一夏……今までISと縁がなかったと言っても、これは常識だぞ? 一応教えておいてやるが代表候補生は文字通りの意味。国を代表する可能性がある者だ。そうだな……簡単に言うと彼女はエリートということだ」

「そう! エリートなのですわ!!」

 

 セシリア再起動。胸を張り、指をさす。その指が一夏に近いこと近いこと。

 

「本来なら私のような高貴な人間とクラスを同じくして言葉を交わすなどまさに奇跡!! 貴方はその奇跡を目の当たりにした、幸運なのですのよ? 理解してもらえるかしら?」

「そうか、それはラッキーだ」

「……貴方、私を侮辱していますの?」

 

 一夏、しれっと爆弾を投下しやがった。

 

「貴方ISについては何も知らないと聞いてはいましたが、よくここに入学できましたわね? 史上初の男性IS操縦者というものだから、少しぐらい知性やそれに類ずるものを感じさせてくれるのかと思っていましたのに、とんだ期待はずれでしたわ」

「俺に何かを期待されても困るんだが」

「しかし、私は寛大で優秀ですから、あなたたちのような人間にも優しく接してさしあげますわよ」

 

 複数形とは俺も数に入ってるのだろう。嬉しい事だ。

 

「何か分からない事があれば、そうですわね。頭を下げて且つ泣きながら頼むのでしたらお教えしないこともないですわよ。上に立つ者は下々に慈悲の心で知識を授ける。私、入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートですし、栄光あるイギリスの淑女なのですから」

 

『エリート』とやたら連呼してくるセシリア。人を見下す態度にはもう飽きた。聞いていられないから自分の席に帰ることにしよう。

 一夏と比べて俺はロックオンされていないようなので、何食わぬ顔で一夏の席を後にする。特に咎められることもなかったので自分の席に座る。

 向こうでは一夏が「俺も試験官を斃した」などと発言していた。その発言を愕然としているセシリアが追求し、一夏はよくわからない答えを返している。正直いって収拾不能。

 そんなところで結局話を収拾したのはチャイムの音だった。セシリアは真っ赤になりながら、

 

「後でまた行きますわよ!! 貴方もっ!! 決してお逃げにならないように!!」

 

 と一夏と俺に向かって発言してきた。俺もかよ!?

 

 

      *

 

 

「では、この時間は実践で使用するISの各種装備の特性、使用用途について説明する」

 

 次の授業は織斑先生が教鞭を持つ授業だった。

 今回の授業はとても重要らしく、山田先生でさえもノートをとっている。

 しかし、織斑先生は開いた教科書を閉じて口を開いた。

 

「ああ、その前にクラスの代表者を決めないといけないな」

 

 どこからか「代表者ってなんですか?」と聞こえてきた。織斑先生は「ふむ」と頷き、

 

「代表者とは読んで字の通り、そのままの意味だ。再来週に一年間で対抗戦が行われる。クラス代表ははその対抗戦に出場してもらう。また、代表者は生徒会の開く会議や委員会への出席しなければならない……要は学級委員長だな。クラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点ではたいした差はないが、一応の指針にはなる」

 

 辺りがざわめき始める。対抗戦か、素人が出てくるとは考え難い。この場合『クラス代表=クラス最強』と考えるべきだろう。

 会議とか人の上に立つのが好きな人がやるべきだとは思うが。

 

「私は織斑君を推薦します!」

「私もその意見に賛成です!」

 

 基本的には、な。だがこのクラスには希少な存在が居る、故にこういう事態が起こる。物事に例外はつきものである。もっとも、

 

「高城君が適任だと思います!」

「高城君に一票です!」

 

 それは俺にも当てはまることだが。

 

「では候補者は織斑一夏、高城優……他にはいないか? 自薦他薦は問わないぞ」

「お、俺!?」

 

 一夏が大声と共に立ち上がる。同時に視線が集まるが、どうも女子たちは俺たちに面倒なことは押し付けたいようだ。

 

「邪魔だ織斑、席について大人しくしろ。さて、他にはいないのか? やりたい奴がいるなら今ここで名乗り出ろ。いないならこの二人で決選投票だぞ」

「ちょっ、ちょっと待った! 俺はそんなのやらな――」

「自薦他薦は問わないと言った。他薦された者には拒否権はない。選ばれた事を光栄にでも思わんのか? 本来他薦はそういうものだぞ?」

「け、けど――」

「そうだぞ一夏、諦めろ」

「ゆ、優まで……いや、でも――」

「待ってください! 納得がいきませんわ!!」

 

 一夏の言葉をさえぎったのはセシリアだった。セシリアは机を叩き、立ち上がることで周りの注目を集めている。

 

「男を代表に選ぶ? そのようなもの認めるわけにはいきません。私は代表候補生にして入試主席のエリートなのですわよ? 実力からいけば私が学級を背負うのは決定事項で必然。それを、物珍しさだけで極東の猿を私が立つべき場所に据えるなど、納得がいくわけがないでしょう? 私はこの辺境の島国にはISの技術の修練に来ているのです。そのような私に一年間、このような動物園で恥辱を味わえと!?」

 

 ほう、日本人を猿扱いか……。

 

「よろしいですか!? クラス代表は最強ががやるべき、そしてそのト最強は私ですわ!」

 

 セシリアは怒涛の如く勢いでまくしたてる。完全に間違っているといえる内容ではないが、セシリア・オルコットよ。やり過ぎだ。

 

「大体、文化的にも後進的な国での生活そのものが、私にとっては耐えがたい苦痛で――」

 

 ここで、セシリアの発言が途切れることとなる。なぜならば、

 

「イギリスが他国に誇れるようなことがそんなにあるのか? あの不味い料理でも誇るのかよ?」

 

 一夏がこう、言葉を発したからだ。

 よくやった、一夏と、といえる時ならば言ってやりたい。もう彼女の言論はただの暴言にすぎないのだ、この様な場では相応しくない発言。ただの耳障りな騒音だ。

 

「なっ……!? そこの猿!! 私の祖国を侮辱しますの!?」

 

 セシリアは怒る。毛を逆立てて顔を真っ赤にして叫ぶ。その様子がその怒りの大きさを表していると考えれば彼女の怒りは相当なものだろう。

 ここまで感情的になった者を相手することは一夏も慣れてはないのだろう。意図的に怒らせているのならばかなりの策士だが、そうでもないのだろう。引くに引けないので流れに任せているといった雰囲気が強いように感じられる。

 

 ふむ、まあいい。俺にも発言させろ。今のコイツは気に入らん。

 

 俺は席を立ち上がり、セシリアに向かって言葉を投げかけた。

 

「そこまでだ。セシリア・オルコット」

 

 

      *

 

 

 やってしまった……。発言と同時に後悔した。

 俺の発言の所為でセシリアなんちゃらの発言が更に激化する。

 いや、けどさ。我慢できなかったんだ。自分の国を侮辱されて黙っていられるか? 

 俺は我慢できなかったね。だからつい口を滑らせて仕舞ったんだ、「イギリスが他国に誇れるようなことがそんなにあるのか? あの不味い料理でも誇るのかよ?」と。

 後悔しても仕方が無い。なるようになれと、その場の流れに身を任せようと思ってその時、ある声が響いたんだ。そう、確か……

 

 

 

 

「そこまでだ。セシリア・オルコット」

 

 聞こえてきたのは優の声だった。

 その声色はどこまでも冷たく、およそ感情といえるものが篭っていない。

 同時に彼から放たれるは威圧感。形容しがたい圧力が辺りを支配する。

 

「なっ……」

 

 その威圧感に気圧されるセシリア。優はその様子を一瞥し、

 

「お前の発言は知性の欠片もない、ただの暴言だ。聞くに堪えん」

 

 静かに、丁寧に、それでもって威圧感はそのままに言葉を紡ぐ。

 表情は無く、怒っているのか笑っているのかという情報が一切読み取れない。

 

「あ、あなたも、そこの男と同じように私を、わが祖国を侮辱しますの!?」

「俺はそんな発言をした覚えはないのだが……まあいい、好きに解釈しろ」

「許すわけにはいきませんわ!! 決闘、決闘ですわ!! 二人とも!! わたくしと戦いなさい!!」

 

 机を叩きセシリアは宣言した。声を荒げながら、大声で。

 

「おう。いいぜ。四の五の言うより分かりやすい」

「織斑に同じく」

「言っておきますけど、故意に負けたりしてみなさい。奴隷になって私に奉公していただきますわよ?」

「侮るなよ。真剣勝負で手を抜くほど腐っちゃいない」

「奴隷か……面白い事を言ってくれる」

「そう? 丁度いい機会ですわ。イギリスの代表候補生である私の実力を示すまたとないチャンスですわね!!」

 

 流れとはいえ勝負をすることになってしまった。優もこんな流れになるのが分かってたのか? 明らかに意図して発言してた気がする。

 そんな優が千冬姉に向かって口を開く。

 

「織斑先生。丁度いい機会じゃないですか? この勝敗で代表を決めたら如何です?」

「ふむ。そうだな」

 

 思案するように呟く千冬姉。

 暫くして、顔を上げ口を開いた。

 

「それでは、勝負は一週間後の月曜。放課後、第三アリーナで行う。織斑とオルコット、それに高城はそれぞれ用意しておくように。それでは授業を始める」

 

 手を叩き話を締める。優は何事も無いかのように席に着き、教科書を開いたが、俺は何ともいえない感情を抱きながら席に着き、教科書とにらめっこを始めることにした。

 授業の間、セシリアがずっと俺と優を睨んでいたのだろう。鋭い視線が俺の背中に刺さっていた。




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01-03 蒼い雫

勢いあまって消してしまったので再投稿。
修正入る前のにもどってしまった……orz


 蒼い雫(ブルー・ティアーズ)。オルコットの乗るISはそういう名前らしい。射撃による攻撃を主眼においた機体であり、主武装は特殊レーザーライフル「スターライトmkⅢ」、近接用ショートブレード「インターセプター」、そしてその名前の由来にもなっている武装「ブルー・ティアーズ」。

 ブルーティアーズはビット型の兵器であり、蒼い雫には合計6基搭載されており、内4基はビーム、2基ミサイルを発射する。ビット型の特性を生かして、相手の死角からのオールレンジ攻撃が可能であるという厄介な兵器だ。

 恐らく彼女と戦うにはこのブルーティアーズ対策――死角からの攻撃にどう対応するかによって、勝敗は決まるだろう。

 ではどうしよう。射撃で打ち落とす? 多角攻撃に対応できない可能性がある。では斬撃で? 可能かもしれないがエネルギーの無駄だ。あちこちと動き回らなくてはならないだろう。

ビットを打ち落とすために飛び回っていたところでライフルで撃ち落とされるのがオチだ。

 

「さて、どうするか……」

 

 俺は端末を操作する。カタカタとキーボードを打つ音が部屋に響き渡る。

 彼女の実力はどうなのか。この世界に来て日が浅い俺は代表候補生がどれぐらいのものなのか知らない。どのようなものかは理解できるが、その実力が分からない。

 どれぐらい強い? って聞いたとして、相手が教えてくれたとしても、こっちの世界のもので例えてくれないとどうっもピンとこない。

 まぁいいか。考えていても仕方が無い。実際に戦ってみれば程度が知れるというものだ。

 確かオルコットは自分のことを「主席入学」だと言っていた。ならば新入生の中で最も優秀なのは彼女ということだ。ならばそれから推測し、判断すればいい。

(考えても仕方が無いか……)

 今日はもう寝るとしよう。戦いは明日だ。

 最後に端末のウサギのアイコンをダブルクリックする。

 そして表示された情報を暫し眺め、プログラムを終了し、端末の電源を落とした。

 

 そのとき端末にはこう表示されていた。

Grimm assaulted **base and succeeded in secret capture.(グリム、**基地を強襲、機密の奪取に成功)

 と。

 

 

           *

 

 

 

 曜日は月曜、あれから一週間がたった。つまり、今日が対決の日。

 天気は晴天。気候条件は申し分ない。絶好の決闘日和だ。

 俺は一人通路を歩く。

 発せられるのは俺から出る靴の音、規則的な音のみが俺の耳に入ってくる。

 向かうは第三アリーナ。決闘の場所はそこだ。

 暫し歩いていると屋外に出た。同時に風の音、鳥の声、草花が揺れる音、さまざまな外界からの刺激が俺へと浴びせられる。

 今まで感じた事のない、心地よい、いい気分だ。コジマで荒廃した大地でしか生活したことない俺にとって、この世界は全て未知であり、新鮮なのだ。

 緑がある。清浄な空気、土壌がある。そこには食物連鎖が存在し、生物はその生命を謳歌する。

 もし、こちら側がこのようであるのならば、戦争は無かったのかもしれない。そもそも世界の荒廃は国家解体戦争、リンクス戦争と人々は、企業は争いすぎた、そのツケが回ってきたにすぎないのだけれど。

 企業に雇われ、絶え間ない経済戦争に勤しんできた者たち、そしてその被害者、特に国家解体戦争以後に生まれてきた者たちはこの光景を目にすることは難しいのではないだろうか。

ならば俺は幸運だろう。本来ならありえないのだから。

 

 クラニアムでの戦いで俺はカラードの上位二人、オッツダルヴァとウィン・Dを下した。アナトリアの傭兵、ラインアークの守護者はどうか分からないが、あの時点で現役のリンクスの中では俺が最強ということになるのだろう。

 戦闘狂的発言になるが、あの世界ではこれ以上の進歩は難しい。アンサラーやスピリットオブマザーウィルといったアームズフォートが量産されて一対多の状況になれば話は別かもしれないが――まぁその場合進歩以前に撃墜されてしまうのがオチだろうが――それは夢想というものだ。

 あの世界での技術の進歩は自身の兵器の強化につながる。それでは鼬ごっこ、終わりは来ない。

 きっと時間がたてばネクストを越える兵器が生まれることだろう。(レイヴン)山猫(リンクス)に食われたように、今度は山猫が捕食される。あのままあの世界で過していればきっと戦争という名の食物連鎖の中で淘汰されるだけだろう。

 だとすれば、この状況は僥倖というべきだ。ここでなら、あちらでは学びきれなかった事を取り入れることが出来る。こちら独特の兵器運用法、立ち回りなど俺の知らない事がゴロゴロあるはずだ。現時点での最終目標が「元の世界に帰還する」というものだが、べつに最短経路とはいっていない。こちらでは天才と謳われる束博士であっても短時間では不可能だろう。

 ならその間はこの世界を満喫させていただく事にしよう。

 今は、これから行われる決闘(お遊び)を楽しみにして……

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これはどういうことなのか説明してもらおうか。なぁ一夏クン?」

「いや……これは……その……」

「ん? よく聞こえないナァ。もう一回言ってみようか?」

「だから……その……」

 

 場所は第三アリーナ、Aピット。

 俺は腕を組み仁王立ちになり、正座の一夏を見下ろしていた。一夏は逃げたそうに気をううかがっているようだったが俺の後ろには修羅(織斑千冬)が控えているためそれはなしえていない。

 一夏とセシリアの試合は既に終了している。今はセシリアのISのエネルギー補給と彼女自身の休憩ための時間、所謂(いわゆる)モラトリアムってやつだ。

 俺は米神を盛大に引きつらせていた。俺は怒っているのだ。あまりにもふがいない同胞を。

 結論から言おう。一夏は負けた。

 因みに俺は負けた事に怒っているわけではない。負け方に怒っているのだ。

 IS学園での戦いは殺し合いではなく、エネルギーの削り合いだ。

 このことから言うと一夏はセシリアよりも先にエネルギーが尽きたということなのだが、それは相手によって引き起こされたわけではないのだ。

 自爆、といっても差し支えはないだろう。

 一夏の専用機「白式」という名前だが、あまりにも特殊な機体だった。武装は近接ブレード『雪片弐型(ゆきひらにがた)』のみという族に言うブレオン機。ブレオン機は機動特化であるのが一般的だが白式はどうもそうではないようだった。

 しかし、ブレオンという特性上、運用方法は、機動特化の機体の運用法と酷似してしまう。

 では機動特化の機体はどのように運用する? 基本的には圧倒的な機動力で敵を翻弄して一気にこちらの射程まで近づき斬るという感じで運用するだろう。

 俺もネクストに関しては高機動の機体を好んで扱っていたが、同じ系統の機体を使うよしみで一夏には機体の特性と運用のコツを教えたのだ。

1.高機動機は燃費が悪いのでエネルギー残量には常に気を配ること。

2.相手の射線に入らないよう、死角をとるように移動すること。

3.移動の際は緩急をつけて相手に軌道の推測をさせないこと。

 どれも基本的な事ばかり、別に高機動機だけに当てはまる訳でもないのだが、そもそもの基本すらままならない一夏にとっては有益なものだったと俺は考えている。

 真改がいればもっとマトモなレクチャーを頼めたのにと思ったがいない人間の事を言っても仕方がない。

 まぁ、その後織斑先生の個人レクチャーを受け、意気揚々と出て行ったわけだが、さて、ここいらで自爆について説明をしておこうか。

 セシリアとの戦いの中、白式はファーストシフトを迎えたことにより(聞こえは良いかも知れないが初期設定が完了しただけ)単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)が発現した。 後に織斑先生に確認したところ、このような事態は過去例がないらしい。

 今回白式に発現した単一仕様能力――『零落白夜(れいらくびゃくや)』は俗に言う『エネルギー無効化』、つまり能力を使用して攻撃が命中した場合、相手のエネルギーシールドなどお構い無しに機体本体に損傷を負わせることが出来るという凶悪極まりない能力だった。

 一撃必殺と言っても過言のない能力だったが、一夏はこの能力を使用して敗れたのだ。

 理由は一夏がその特性を理解できていなかったのに他ならない。零落白夜はその能力故の欠点があったのだ、それは『自身のシールドエネルギーを消費して稼動する』というものであり、つまり自身を食らって力に変えるものだったの――諸刃の剣と言っても差し支えないものだったのだ。

 俺が教えたとおり、こまめにエネルギー残量を確認してさえいれば気づく事のできたものの、一夏は手に入れた力に酔って、それを疎かにした。

 一夏は自身の能力の所為でエネルギーが尽きてしまったのだ。

 あまりにも幼稚なミスで敗北を招いて仕舞ったため、俺は織斑先生と共に修羅になって一夏を見下ろしていたのだ。

 

 

「よくもまあ、持ち上げてくれたのもだ。それでこの結果か、大馬鹿者」

「人がせっかく忠告をしてやったと言うのに、見事に忘れて負けてくれたなこの野郎」

「人の忠告を無視し、武器の特性を考えずに使うからああなるのだ。身をもってわかっただろう。明日からは訓練を励め。暇があればISを起動しろ。いいな」

「……はい」

 

 この通り修羅二人に散々言われ、頷くしか方法が残されていない一夏。修羅の一人は俺だけども、これはやりすぎたかな?

 

「さて高城、次はお前だが、勝算はあるのか?」

 

 話はついたと、俺に話を振ってきた。

 

「勝算と? 初心者の俺に無茶を言いますね、先生は」

「フン、完全な初心者とは言えまい。理論だけで言うならばお前はもう一人前だと思うが」

「理論だけなら誰だって一人前になれますよ。それも短時間で」

「そうかもしれんな。さて、時間だ。準備はいいか」

「はい」

 

 俺はピット・ゲートに向かう。その足取りは軽く、無意識的に戦いを望んでいるかのようだ。

 おそらく向こうではあの少女が頭の中で圧倒的な力の差を見せつけ俺を叩きのめしている光景が浮かべながら俺を今か今かと待ちっていることだろう。

 だが彼女は知らない、俺が何者であるのかを。彼女は知らない、本物の戦場で身につけた技術を。

 生まれながらの強者だったのだろう。敗北を知ることはなく、常に火の光の当たる場で過していたにちがいない。

 知らない事ばかりだ。経験という点から見るのであれば彼女は赤子同然。

 ならば、見せてやろう、教えてやろう。

 赤子と大人の差を。小鳥と山猫の差を。

 

「では、これより試合を開始する。高城、そこにあるISを装着しろ」

 

 織斑先生の視線の先には第二世代IS『打鉄』が安置されてあった。どう見ても学園においてある訓練機だが、整備はきちんとしているらしく、埃などはかぶっていない。

 ただ、彼女と戦うだけならばこれでも構わないだろう。しかし、これから俺がやろうとしていることには不足。

 

「それには及びません。自前のがありますので」

「ほう?」

 

 興味深そうに目を細める先生。

 この世界で専用機を持つということ、それはすなわち、企業もしくは国家に属すという事だ。つまり俺はどこかに既に所属していると判断されたわけだ。それは気になるだろう。

 

「では試合を始めるとしましょう」

 

 しかし、今は黙っておこう。まだ存在を知られるわけにはいかない。

 こういうときは興味を他に持っていくのが一番。

 俺は自身のISを展開する。

 

「これは……」

「ほう、これがお前の専用機か」

 

 因みに言動は織斑弟、姉の順だ。

 先生は珍しいものを眺めるかのように、一夏は自機との差に驚愕しながら呟く。

 

「ええ、そうです。銘は亜式。打鉄のカスタム機です」

 

 照明を反射し、照り輝く灰色の装甲。しかし、その形状は通常の打鉄と全く異なるものだった。

 第一に、通常のISであるならばあるはずの肩部装甲の左側が欠けている。破損ではない。もともとこの機体には存在しないものなのだ。

 次に脚部装甲。通常のISと比べて明らかにそれは薄いものだった。まるでそれは地上戦を意識していないかのよう。ただ、対照的にまるで鋭利な刃物のような威圧感を感じさせる。

 また、特徴的なのが腕部だった。右腕に関しては従来のようなISと同じような装甲なのだが、左腕はそれに比べて明らかに装甲が薄かった。脚部程ではないが、最低限の防御性しか確保していないのは確かだ。

 アンバランス、そう形容してもいい機体だ。

 そして、それを最も特徴づけるのが背面部のスラスターだ。

 巨大、そう形容するに尽きる。通常のISでは高速戦闘にしか使用しないような規模のものをそれは装備していた。

 

「一夏」

 

 俺はISのモニターを介して一夏を見ながら語りかける。

 

「これからお前に見せるものが、当面のお前の目指す事になるだろう」

 

 織斑先生に、そしてクラスの皆に言ったことは最早嘘だとばれてしまうが、仕方がない。

 これから起こるであろうあれのために、早くから育てるのも悪くはない。

 

「しっかりと刻み込め。系統こそ違うが、きっとお前の為になるはずだから」

 

 少し、大仰な喋りになってしまったか。俺もテルミドールに似てきたかもしれないな……

 

「さて、織斑先生?」

「ああ。山田先生、ハッチを開放してください」

「はい。わかりました」

 

 重厚な金属同士がこすれる音と共にハッチが開かれる。すぐにアリーナ内の歓声やざわめきが俺の耳に入った。

 自分の戦いが大多数の目にさらされる経験があまりないために少し緊張してしまう。

 

「じゃあ、行きますか」

 

 

 

          *

 

 

「フフ、逃げずにちゃんときたんですのね」

 

 アリーナに出てすぐ、セシリアの声が聞こえてきた。

 彼女は空中に浮かんでいた。ただ、弱者を見下ろす強者の如く、俺に視線を向けている。

 

「逃げる必要はないからな」

「フン、その余裕が何時まで続くか……楽しみですわ!!」

 

 彼女の手に粒子が集まり、巨大な銃器が形を成す。

 検索……照合完了。六十七口径特殊レーザーライフル、名称『スターライトmkⅢ』

 

「さぁ、踊りなさい!! わたくし、セシリア・オルコットと蒼い雫(ブルー・ティアーズ)の奏でる円舞曲(ワルツ)で!!」

「残念ながらその誘いは断らせてもらおう」

 

 言葉と同時に武装を展開。右手には反りの浅い刀状近接ブレード『哀歌』、左手には先端に銃剣が接続されたマシンガン『コブラ』が形成される。

 

「そうだな……けど、どうしてもと言うのなら――」

 

 3…2…1…

 

「――止めはしない。一人で勝手に踊ってろ!!」

 

 0!!

 試合開始の鐘が鳴る。

 同時に俺はスラスターを解放した。

 

「――え?」

 

 セシリアが気づいた時、俺は既に彼女の懐に入っていた。

 日の光を受けた哀歌が怪しげな光を放つ。

 まずは……一撃。

 

「きゃあああああああっ!!」

 

 俺の斬撃はセシリアの腹部――装甲で保護されていない箇所――に直撃した。

 絶対防御が発動し、シールドエネルギーが大きく削られる。

 俺は残身を保ったまま、反動で動きが鈍っているセシリアの背後に移動する。

 さあ、ここからが亜式の本領発揮だ。

 背後に移動した後、スラスターを操作、慣性を中和して瞬時に方向転換、そのまま勢いに身を任せ、セシリアの背中を斬りつける。

 先ほどと同じく装甲の無い場所を攻撃した為にまたしても絶対防御が発動する。

 

「くっ――よくもっ」

「遅い!!」

 

 セシリアは反転しようとするが、それよりも早く背後に回り、攻撃する。

 ワンサイドゲーム、形容するならばそうだ。

 セシリアがどんなに頑張ろうが、機動特化に懐に入られた以上振り切ることは至難の業だ。

 さらにセシリアは常に背後からの攻撃にさらされている。また、劣っているのは機動力だけではない。機動特化は加速力だけではなく、旋回性能も通常のそれとは比べ物にならない。

世の中には平然とカウンターを使ってくる怪物も存在するが、間違ってもセシリアじゃない。

 正直セシリアは俺の敵ではない。

 事前情報のみから判断していた時は、ビットでの攻撃と並行して、退避先にレーザでも撃ってくるのかと考えていたが、一夏との戦闘を見た時、「それはない」と判断してしまった。

 セシリアは機体の唯一のアイデンティティとも言えるビット兵器を使いこなせていない。

 自機の操作と自立兵器の並行操作、それがままなっていない状態では話にならない。

 ()()()()が出来ない。

 つまり、自機の操作に意識を割いていてはビット操作ができないということだ。

 そう、俺が取ったセシリアへの対策。それは、彼女が対応しきれない攻撃をすることでビット制御をさせないというものだったのだ。

 

「そら、どうした? これで終わりか?」

「い、インターセプターッ!!」

 

 セシリアはライフルを持っていないほうの手にショートブレード『インターセプター』を展開する。だが――

 

「ハッ」

 

 次の瞬間には俺はセシリアのブレードを哀歌で払いのける。

 ブレードと連動して腕ごと払いのけられたセシリアの胴体はがら空きだ。

 俺はコブラの銃剣を蒼い雫の装甲に突き刺した。

 鈍い音と共に装甲に銃剣が沈んでいく。

 

「さぁ、幕引きだ」

 

 引き金を引く。

 轟音と共にセシリアにコブラの銃弾が叩き込まれる。

 銃弾はコブラ猛毒の如く蒼い雫の装甲を侵食し、消し飛ばしていく。

 

 そして試合終了の鐘が鳴った。




5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。

今後の展開上仕方の無い事なのです。セシリアの犠牲は無駄にはならない!!←生きてますけどね


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01-04 亜式VS白式

亜式? フラジール並の紙装甲ですね、問題ありません。


「な……なんなんだ。あれは……」

 

 (織斑一夏)は感情を言葉に表す事ができなかった。

 俺は先ほどまで優とセシリアの戦いをモニター越しに見ていた。けど、その内容は見るに耐えないと感じるものだった。もうあれは決闘と呼べるものではない。

 

「圧倒的だな」

 

 千冬姉が感嘆しながら呟く。

 優のあの戦い方を認めるような発言。納得がいかなかった。

 

「どうして!? どうして優はやめなかったんだ!? あんなもの、もう戦いじゃないじゃないか!!」

「どうして? 馬鹿かお前は?」

 

 千冬姉は手元のコンソールをいじり、近くのモニターを有効化する。

 そしてそれに映し出されたもの。それは優とセシリアの試合だった。

 その映像には各人のシールドエネルギー残量を始め、様々なデータが追加、反映されており、試合を客観に判断するには有効的な素材だと思えた。

 

「織斑、オルコットのエネルギーを見ろ」

「それがどうし――」

 

 ――それがどうしたってんだ? 

 そう言おうとした。けど、言葉が出なかった。

 俺はある事に気づいた。

 画面には優がセシリアの死角に移動して何度も攻撃する姿が写っている。

 だが、どうしたことだろうか。

 セシリアのシールドエネルギーが減っていないのだ。

 絶対防御が発動しているのにも関わらずあの減少量はおかしい。

 

「やっと気づいたか?」

 

 千冬姉は「呆れた」とため息をつき、コンソールをいじる。

 すると優とセシリアの戦闘の映像が中断され、新たなウィンドウが開かれた。

 

打鉄亜式(うちがねあしき)、それがあのISの名称だ」

 

 新たに表示されたデータ。それは優の機体のものだった。

 

「これから見るに亜式は中近距離に対応した強襲機のようだ。

 なるほど、機体を軽くする事で燃費向上を図ったのか……確かに効果は出ているが、脆すぎるな……」

「どういう意味だ、千冬姉?」

「この機体は防御を全く考慮していない」

 

 表示されるのは亜式の装甲データ。

 

「装甲は源流(オリジナル)の約五割……いや、四割と言ったところか。

 白式の零落白夜一撃で消し飛ぶのは確実、第三世代以降の主砲数発で墜ちるレベルだ」

「そんなに……」

「だが、機動性は異常と言っても差し支えない。オマケにあの馬鹿でかいスラスターだ。狂気の沙汰としか思えん。

 そしてお前は気づかなかったと思うが、高城は瞬間加速(イグニッションブースト)を多用していた」

「瞬間加速って、あれのことか?」

 

 瞬間加速は千冬姉が俺に教えてくれたIS操縦技術、読んで字の如く加速の為の技術だ。

 しかし、優はあれを使っていたのか? モニターでずっと見ていたがまったく判らなかった。

 

「そうだ。まったく、あそこまで使いこなしているとは私も思っていなかった。経験としてはお前と大差ないはずなんだがな、しかし私は何もアドバイスをしていない。

 見て盗む、とはよく言ったものだ」

「じゃあ優は俺の戦いの中であれを覚えたって言うのか?」

「そうとしか言えんさ。あそこまでのことをやってのけるのだからな。全く大した者だよ、あいつは」

 

 千冬姉の言葉は即ち世界最強の言葉である。

 その言葉は世界で活躍する全てのIS乗りの中でも桁違いに重い。

 第二回モンドグロッソでは優勝を逃しているものの、実際に戦って敗北したわけではない。実力で千冬姉が負けることは無い。それはISに乗る者の共通認識であるし、第二回で優勝したIS操縦士ですらインタビューで「彼女には勝てる気がしない」と言っていたほどだ。

 その世界最強が認めたのだ。

 俺の額に冷や汗が伝う。

 

「だが、やり様は幾らでもある。

 まず奴の武装だが、軽量化している所為で威力はさほど高くない。マシンガンについては注意しろとしか言いようが無いが、ブレードについては寧ろチャンスだと思え」

「チャンス?」

「言っただろう? 奴の装甲は脆すぎると。そして近接武装も脅威ではない。

 だがな、向こうにすればお前は脅威にしかならんのさ」

「そうか、零落白夜」

零落白夜の能力はエネルギー無効化。装甲が薄く、エネルギーシールドだけが防御の頼りの亜式にとっては、確かに脅威だろう。

 そして亜式は中近距離型の武装構成。攻撃の機会は少なくはない。

 

「そうだ。だが、高城もそれは理解しているはず。警戒を怠ることはないだろう。だが、それをどうにかしなければどの道お前に勝ち目はない。

 チャンスを見逃すな。機会はそう多くはないぞ」

「ああ、わかってる。セシリアの時のようにはいかないさ」

「フッ、期待しているぞ弟よ。勝てとまでは言わん。だが、無様に負けてくれるなよ」

「おう。じゃ、行ってくる」

 

 そして俺は白式を展開し、アリーナで待つ『亜』に戦いを挑むべく、地を蹴った。

 

            *

 

 恐い……まず頭を過ぎったのはこの感情だった。

 圧倒的な機動力を持つIS、そしてその手綱を握り、完璧に操る教え子。

 今年の主席入学をまるで赤子の手を捻るかのように叩き潰した卓越した技術。

 その実力を推測するに恐らく現IS学園生徒会長と同等、もしくはそれ以上。

 ISを扱うようになってまだ一ヶ月も満たないであろうはずなのに関わらず、その動きはどこか完成されていた。

 まさかオルコットとの戦いが全力とは言わないだろう。

 先ほどの戦いを眺めて、不審な点は幾つかあった。

 まず武装。

 高城のIS『打鉄亜式』の主武装は近接ブレードとマシンガンの二つ。近接ブレードの方は銘を『哀歌』といい、片手で扱えるよう、通常打鉄に装備される近接ブレードと比べて少々小型化されている。だが、小型化されていると言っても、両手剣が片手半剣になった程度の差異であり、絶対防御が発動したとしたとしても、損傷の度合いに対して差は出ないはずなのだ。

 しかし今回の場合、オルコットが負った損傷は本来と比べてはるかに小さかった。尤も、周囲の観客共は絶対防御が発動したことすら認知できていないだろうから、その違和感にすら気づいていないのだろうが。

 認知できていなかった。いや、認知させなかったと言うべきか。

 奴はあたかも装甲に攻撃か当たっているかのように見せていた。そしてそれに見合った量のダメージを与える。

 勿論オルコットが意図してやっているわけではない。やっているのは高城だ。

 これは両者の実力の差があればこそできる技であり、高城とオルコットの間にはとんでもなく大きい差があったという事だ。

 マシンガンについてはただの銃剣付きであるという事しか分からない。

 スペックシートが手元にあれば話は別だが、ISはその全てが機密情報でありその機密を公開するかしないかは企業、国の自由であるために一教師が我侭言う訳にはいかない。

 一夏には奴の武装は脅威ではないと嘯いてしまったが、真実を伝えないと言うのも姉の優しさというものだ。

 それと、気になる事がもう一つ。オルコットとの戦いで見せた相手の死角に回る移動の際に使用した移動法……あれはまるで……

(いや……まさか……な……)

 考えるのはやめておこう。その疑問も時が解決してくれるはずだ。

 今はこれからあの怪物に挑む一夏()の心配をするとしよう。

 

 

*

 

 

 高城優VS織斑一夏の戦いはセシリア・オルコットVS高城優の直後に行われた。

 本来ならば機体修復の為に少々モラトリアムを間に挟み、完了後試合を行うのだが、今回はその時間が殆どとられなかった。

 理由は簡単。高城の機体『打鉄亜式』の装甲の損傷が皆無だったためである。

 また、同様の理由によりシールドエネルギーの消耗も少ない。

 このような状況から試合時間の繰上げが行われたのである。

 

 そして鐘が鳴り、白と亜の試合が始まった。

 一夏は開始と同時に瞬間加速(イグニッションブースト)を使用し、高城へ特攻とも取れる攻撃を仕掛けた。その完成度は高く、セシリア戦で用いたものよりも形になっていた。

 同時に零落白夜を発動。その姿はまるで流星のようで見物客を魅了した事だろう。だが、奇をてらうことなく真正面で放たれた攻撃は言うまでも無く高城に通用しなかった。

 高城は哀歌を一夏の雪片弐型の柄部分に押し当て、瞬間加速を使用。押し当てた部分を基点として一夏の死角に移動した。

 そしてすれ違いざまに一撃、背後に移動した後転回して一撃、計二発の斬撃を一夏に放つ。

 

「ガアッ!!」

 

 その鋭い斬撃に体勢の崩された一夏が対応できるわけがなく、直撃。絶対防御が発動し、多量のシールドエネルギーが削られる。

 

「おまっ、おかしいだろ!? なんでこんなに減るんだよ!?」

「喋ってると舌噛むぞ」

「おおおおっ!!」

 

 開いてしまった距離を詰めようとする一夏だが、優はマシンガンを連射してきた。

 牽制の意図があったのだろう。狙って撃つのではなくただ弾をばら撒く。

 雑だと思う人もいるかもしれないが反面、効果だけはあった。

 ばら撒くということは狙いをつけずに撃つということだ。これは当然のことだが、人の気配等から弾道を読み取ることができなくなる。

 優ならば損傷を最小限に抑えてさっさと距離を詰めてしまうという方法を選ぶのこともできるだろう。いや、優だけではない。方法は違うにしろ、慣れている者はさも当然の如く対処をすることだろう。だが一夏はISだけではなく戦闘全般に関しても初心者だ。

 この状況を打破するに有効な方法、それは基本的に戦場で十分な量の経験を積み重ねるか、戦闘に関して十分な量の知識を蓄えての上でないと思いつくことは難しい。例外は勿論あるが

今の一夏には不可能な事だろう。

 故に一夏の選択は一つに限られる。

 一夏は零落白夜を切り、物理ブレードに戻した後、その(ブレード)の腹を盾にするかのように構え、銃弾を回避しながら距離を開けた。

 

 この状況では武装が近接ブレードだけ(ブレオン機)の一夏に攻撃を行う機会は無い。

 優は哀歌を拡張領域(パススロット)に戻し、別の武装を呼び出した。

 それは――

(こいつはヤバい……!!)

 マシンガン(コブラ)だった。

セシリア戦ではこいつの銃撃が決め手だったな、と一夏は奥歯をかみ締める。

 近中距離での制圧力は素人でも恐怖を覚えるぐらいだ。

 見た感じ優には他の装備がないように思える。新たに展開した様子も無い。つまり、現在の優の武装はあれだけということ、裏を返せばこれ以上は必要ないということだ。

 優は新たに展開したコブラ(マシンガン)を水平に構える。

 警告音と共にハイパーセンサーに表示される新たな情報が短い一文で表示される――『ロックされています』――と。

 

「簡単に墜ちてくれるなよ」

 

 まるであざ笑うかのような表情を浮かべる優。その表情は深く、恐怖こそ覚えはしないが、なにか演技のような錯覚を覚えさせられる。

 因みコブラは優の元居た世界のマシンガン『03-MOTORCOBRA』を参考にして作られたものであり、知る者はこの場では存在しないが、知っているのならば誰もが「すばらしい兵器だ」と口を揃えて言う事間違い無しのレイレナードの傑作である。

 無論、ネクストに乗っていた優にとっては使い慣れた武装であり、小型化されているといっても使い勝手は原版(オリジナル)と大差ない。

 簡単に言うならば優にとってISは小型のネクストと変わりないのである。

 故にこの笑み。

 やっと戦える。蹂躙ではなく、同じ力を持つ者と。

 それは純粋な歓喜。嗜虐的な欠片など断じて混ざっていない。

 

 天才的な技能の主から放たれる銃弾。二匹のコブラが白式の装甲に食らいついた。

 

「ぐ……ああああっ!!」

 

 装甲は消し飛び、シールドエネルギーは減少する。装甲状況を確認……中破。エネルギー残量を確認……残り290。

 一撃、あと一撃分だけもてばいい。あの銃撃の嵐に耐え、奴の懐に入れさえすれば、もしかしたら――

 しかし優は弾を無駄にばら撒いている訳ではない。二挺に切り替えた後、集弾率は格段に上がっている。

 今は方向を(無理矢理)変えながら高速で移動し、どうにか蜂の巣になるのだけは回避している状況だ。このままではじり貧、長引かせれば不利になるだけだ。

 シールドエネルギーの残量が2500を下回る。

 やるしかない。ここは損傷を覚悟して一撃に賭けるしかない。

 

「負け……るかあっ!!」

 

 戦いの前、優は何を俺に言った。こんな状況を打開できるような事をいったのではないか。

そう、確か『動きは緩急をつけて軌道を予想させないこと』。

 一夏はただ我武者羅に動き回った。時には瞬間加速を利用して、時には重力に身を任せ巧みに銃撃から逃れ出る。

 しかしそれはただの時間稼ぎであり、ついにエネルギー残量が2000をきった。

 だが、一夏の努力は無駄ではなかった。逃げ回る中で差し込んだ一筋の光。

(ここだ)

 移動する中で唯一反応が遅かった箇所があった。本当に感覚の話でしかないが一夏は確かに感じ取っていた。

他に術がないのならこの可能性を信じるのも悪くは無い。

 成功した場合、待っているのは勝利。失敗すれば完全なる敗北。

 成功する確率は限りなく0に近い。相手はセシリアをまるで赤子のようにあしらった優だ。確立はさらに低くなる。

 だが――

(ここでやらなきゃどこでやるってんだ)

 千冬姉が認めた強者と戦える機会がこれから先あるかどうかはわからない。

 故に俺はこの少ない機会に技術を吸収しなければそこらの有象無象と変わらない。

 千冬姉の名に恥じない弟になるんじゃなかったのか。なら俺は、今この機会を大切にして貪欲にいくべきだろう。

 ならば。

 一夏は本日何度目になるか分からない瞬間加速を使用した。

 だが、それには明確な意思が篭っていて、先ほどとの差に疑問を覚えるものもいたことだろう。

 分からない人たちは、ただ目の前に起こった事象だけを認識する。

 

「ねえ、なんで織斑君地面に向かってるの?」

「さあ? なんでだろうね?」

「あーっ、あぶないあぶない!!」

 

 このように。

 この会話から多少は想像できるだろうが、一夏は墜ちていた。ただ、垂直に。重力に身を任せ、更には瞬間加速をも利用して。発生する加速力は重力と推進力の和であり、時間も速度上昇に力を貸している。

 毒蛇の牙が何度も襲うがどれ一つ一夏を捉えることはできない。

 一夏の目論見は当たったのだ。

 一般的な銃器は使用の際、必ずと言っていいほどリコイルが発生する。リコイルとは銃の射撃時の反動で銃が跳ね上がったり、状況によっては後退して体に食い込む現象の事だ。

 リコイル現象で銃口は上へと向く。つまり元の向きに戻そうと思ったら少なからずタイムラグが発生する。通常ならば別段気にする必要も無い些事だが、一撃一撃が重要になってくる状況では話しが変わってくる。

 優は完全に銃撃姿勢に移行している。哀歌は展開していないため、一夏の斬撃を防ぎきるのは不可能。

 

「オオオオッ!!」

 

 激突間際で方向転換。一夏は雄叫びを上げ地面すれすれを滑空する。

 優は懸命に銃撃するも一夏には届かない。

 瞬間加速だけじゃ足らない。もっと速く、もっと疾く。

 一夏は貪欲に速度を求める。

 白式は主の意思に応え、自らの体を食いちぎりながらもそれを提供する。

 シールドエネルギーはみるみる減少し、ついには1000を下回った。

 だがそれでも彼らは加速を止めない。

 

「くっ」

 

 優が焦りの表情を浮かべる。続いて銃撃の雨が途絶えた。

 弾切れ。一夏の脳裏を掠める可能性。

 一夏はこれを機に一気に急上昇。刀剣の有効距離に入る。

 そして――

 

「届けぇ!!」

 

 零落白夜を発動。雪片弐型の刀身が実体からエネルギーに変化する。

 そして一夏は雪片を上段に構え、亜式にむかって振り下ろした。




<今作でのシールドエネルギーの定義について>
ACネクスト(大きさは14mと仮定)のAPを約40000と考えまして、ISの大きさを2mと仮定します。純粋に大きさの比で計算してISのシールドエネルギーの初期値:約5000~6000ということで。




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01-05 激戦を終えて

改稿版。


「では、一年一組の代表は織斑一夏くんに決まりました。一繋がりってことで縁起もよさそうですね」

 

 セシリアと優と代表候補決定戦をした翌日、理解を超える出来事が発生した。

 山田先生は嬉々として声を上げ、女子生徒は大いに盛り上がり、千冬姉は後ろでやれやれと頭を抱えている、がどこか嬉しそうだ。

 この中では俺だけが周りと対照的に暗い顔をしていた。

 因みに俺はセシリア、優両名と戦い、負けた。

 本来なら優かセシリアが代表になるはずである。

 故に質問してみる事にする。

 

「先生、俺は昨日試合に負けたのですが、どうしてクラス代表になっているんですか?」

「それは――」

「それはわたくしたちが辞退したからですわ!!」

 

 山田先生に代わり、セシリアが発言した。また例の如く腰に手を当てポーズ(?)を決めているが、それに関しては放っておこう。

 そして何故に上機嫌?

 

「勝負は私の勝ちという結果で終わりましたが、それは当然のこと。イギリスの代表候補生であるこの私が相手だったのですから、今考えてみれば仕方が無いことですわ。

 それで、私も大人気なく怒ってしまったことを反省しまして、『一夏さん』にクラス代表を譲ることにしたのですわ。IS操縦技術の向上には実践が一番。それにクラス代表になれば戦いを欠かさず行うことができますから」

「じ、じゃあ優は? あいつは俺たち両方に勝っただろ!?」

「優さんはわたくしと同じ理由で代表を辞退あされましたわ」

「おい、どういうことだ、優!?」

 

 後ろを向くがそこに優の姿は無かった。

 

「高城は所用で今日は欠席だ。それに、奴に文句を言うのはお門違いというもの。

 あきらめろ、決定事項だ」

「そんな……」

 

 俺はがっくりとうな垂れる。

 決定事項。つまり今更何をやっても無駄ということだ。

 優の意見もきっちり反映されているようでは、もう為す術はない。

 

「一夏さん、つづけてもよろしいですか?」

「あ、ああ」

 

 セシリアはまだ喋り足りないようだ。いや俺が邪魔をした形になるのか。

 

「そ、それでですわね」

 

 咳払いをして、あごに手を当てるポーズに変えるセシリア。そのポーズにどのような意味があるのか俺にはわからない。

 

「私のようにISの知識を持ち、実践も経験しているようなな人間がIS操縦のノウハウについてお教えさえすれば、それはそれは驚くような成長を遂げることができるでしょう」

「ちょっと待て」

 

 机が叩かれ、教室に叩音が響く。視線を向けると箒の机が音源のようだ。

 箒は注目が集まったのを感じるとゆっくり席から立ち上がった。

 

「あいにくだが一夏にこれ以上教師役は必要ない。私が直接頼まれたのでな」

「あら、Cランクの貴女が恐れ多くもAランクのわたくしに何か御用でしょうか?」

 

 セシリア、箒間に何ともいえない剣呑な雰囲気が立ち込める。視線と視線が重なり火花を散らしているようにも感じられる二人。だが少々セシリアの方が優勢のようだ。

 

「ランクなど関係ない。頼まれたのは私だ」

 

 ランクは大まかにS,A,B,C,D,E,FとありSに近いほどISを操縦する上での適性があるとされる。因みに俺はBランク、千冬姉はSランクだ。

 

「箒ってCランクだったのか?」

「五月蝿い!! だからランクなど関係ないと――」

「座れ。馬鹿共」

 

 閃光の如く勢いでセシリア、箒の順で出席簿アタックを決める千冬姉。そしてその後凄味の聞いた低い声で二人に告げるが、その威圧感はもう素人のものではなかった。流石世界最強、貫禄が違う。

 

「ランクなどただの指針にすぎん。私に言わせればそんなものゴミと同義だ。

 たかがひよっこ風情が、殻も破れていない段階で優劣を付けようとするな」

「――っ」

 

 さすがのセシリアもこれは黙るしかないようだ。何か言いたいのだろうが世界最強の圧力がそれを許さない。

 

「代表候補生も一から勉強してもらうと前に言っただろう。十代というのは特別な期間ではあるが、だからといって和を乱すわけにはいかん。それに今は私の授業だ。自重しろ」

「……わかりましたわ」

「では確認する。クラス代表は織斑一夏、異論は無いな」

 

 俺を除くクラス全員が賛成する。まぁクラス代表という役職が俺にとって何か良い影響を与えてくれると信じるとしよう。

 

 

*

 

 

時は遡り前日。

 セシリアは自室のベッドの上に呆然と座っていた。

 圧倒的、今日彼女はその言葉の意味を身をもって知った。

 自分の常識が一切通用しない相手。

 もっとも、彼女の実力が成熟していないのは確かな事だ。それは彼女自身も認めている。

 彼女のIS『蒼い雫(ブルー・ティアーズ)』はビット兵器『ブルーティアーズ』と自機の操作ができなければその性能を充分に発揮できない。それを出来ない今の彼女では精々50%引き出せていればいいほうであるのだ。それほどこの機体には並行操作の技術が必要になる。

 それが出来ないのは自分が未熟であるという事であるし、ならばこの学園でそれを可能にすればいいだけのことだ。

 だが、セシリアは考えた。「それでも彼に勝てるのか?」と。

 何度考えても「自分が勝利する」という答えが出てこない。それどころかどれも「瞬殺」という答えが返ってくる。どれだけ自身が強くなっても彼に届くことはないのか。

 織斑一夏はまだまだ発展途上、そんなイメージがあった。しかしその心には自分が見惚れるほどの意思を持っていた。自分の父親とはまるで逆。

 もっと知りたい、もっと知りたい。彼にはそのような考えが湧き上がってくる。

 彼にとっては抱く感情は『憧れ』。

 対して高城優に抱いたのは全く逆の『恐怖』だった。

 次元が違う。勝てる気がしない。あの時抱いた感情はブリュンヒルデと対面した時と全く同じ感情だった。だが織斑千冬(ブリュンヒルデ)の時は畏怖の念こそ抱いたが純粋な恐怖は抱かなかった。

 彼を形容するに相応しい言葉が見つからない。

 しかし、恐怖の対象になるものの、どうしてなのか『知りたい』と思ってしまう。

 憧れと恐怖は全く逆の感情。だが、行き着く渇望は全くの同じもの。

 ああ、どうしてか。どうして彼らが気になるのか。分からない。答えは出ない。だが知りたい。

 そう、意識しただけでこの胸のいっぱいにするこの感情の正体を。

 

 

*

 

 

 一年一組の代表決定騒動が終わったその晩、織斑千冬は一人酒盛りに興じていた。

 場所はIS学園内の自室。広義で言えば今も仕事中であり、酒を飲むなぞご法度であるのだが、IS学園は少々特殊な教育機関のためある程度教師は自由にできるのだ。

 特に今は授業中などではない。消灯時間は当に過ぎている。

 つまり今は数少ない教員にとっての自由時間。

 千冬は本日何本目なるか分からない缶の蓋を開けた。そしてすぐにそれを飲み干し、「ふう」と深く息をついた。

 

「少し、疲れたかな」

 

 まず脳裏に浮かぶのは自分の弟の事だ。

 親に捨てられ、姉の手一つで育て上げた自慢の弟。優しく、甲斐性があり、私の事を慕ってくれる。

 少し優柔不断なところもあるが、それを踏まえて私は「良い」と思っている。

 大事な弟。だが私はその大事な弟を一度危険な体験をさせてしまった。

 そう、確か第二回モンドグロッソの時か。不覚ながらも我が弟を犯罪者の手に渡し、耐え難い恐怖の念を抱かせてしまった。

 あの時はドイツの助力があった為短時間で救出できたが、『もし情報がなかったらと』考えると今でも背筋に悪寒が走る。

 あの時私は誓ったのだ――『一夏はISと関わらせない』と。

 そしてそれに反しないよう、私は様々な手段を講じて弟からISに関するものを排除していった。そう、それは自分であっても例外ではなかった。

 だがどうしたことか、結果は全くの逆だった。

 あろうことか弟はその渦中に身を投じてしまった。

 ああ、どうして。一夏が初めてISを動かしたと聞いたとき、何よりもまずこの言葉が口から出てしまった。

 本来ならば喜ぶところだろう。だが、素直に喜べない。また、私は弟を不幸にしてしまうのか。

 モンドグロッソの際、私は試合を放棄して一夏のところへ駆けつけ、誘拐犯を始末した。だがそのとき弟は私に向けたのは恐怖だった。奴はもう覚えてはいまいが、私は覚えている。今でもあの光景を思い出すと何かこう……胸に鋭利なものが刺さるような感覚に襲われる。

 後悔しても仕方が無い。分かっている。分かっているつもりだ。だが気づけばいつも『あの時こうすれば――』『こうしてさえいなければ――』などと考えてしまっている。

 一夏の入学が決定した際、『関わらせない』から『関わっても対処できるぐらいの実力を「つけさせる』という風に方針を変えたつもりだったのだが、後悔だけは捨てられなかった。そう、あいつが来るまでは。

 一夏というイレギュラーが現れて各国は躍起になって二人目を発掘しようとした。

 そして見つかった二人目、それは奇しくも私たちと同じく日本人だった。

 高城優。

 経歴も学歴も普通。年齢が現役で入学する者と比べて1,2歳ほど上である点を除いたら何も不思議なところは無い。

 どうも発見された二人目が既に高校に入学していると知った国は『転入』ではなく『再入学』という形をとったそうだ。

 ISについては素人であるという点であるからというのが理由らしい。

 だが高城は勉学においてかなり優秀であったらしく、特例によって『ISに関する授業以外は本来の学年である二年生と共に授業を行う』という追加措置がとられた。

 奴と最初に話したのは入学式の日、決闘騒動の後だ。

 私は高城を部屋に呼び出し、個別に話をした。他愛の無い戯言だったはずだ。だが去り際、奴は私にこう言った『昨日を見るよりも明日を見たほうがいいのでは?』と。

 私は呆然とした。他愛の無い会話だったはずなのに私は奴に心の奥を見透かされていたらしい。そして、その言葉には私の苦悩を全て払いのけるような強い力があった。

 恐らく、奴は上辺だけでこの事を言っているのではない。自らも経験し、考え抜いた結果の浮かび上がった答えなのだろう。

 たかがまだ成人していないような生徒に指摘される。

 かつて最強とも呼ばれたこの私が今では一生徒に諭される、私は何をやっていたんだ?

 暫くは自問自答の時間が続いた。そしてついに答えが出た。

 

『別に後悔をしても構わない。だが、その後悔を胸に次が起こらない様に明日を生きていけ』

 

 曲解かもしれない。間違っているかもしれない。だが、私は答えを得た。

 すがすがしい気分だった。だから私は迷いを捨てた。

 ――今度こそ、我が弟の目指すものとなる為に。

 

 

 

「すこし飲みすぎたかな」

 

 気分が良い。頬が熱い。少し酔いが回ってきたようだ。

 時計はそろそろ午前一時を指そうとしている。ここは素直に睡魔に身を任すべきか。

 幸いな事に今日は当直業務はない(ないからこそ酒盛りをやっていたようだが)。

 ここは明日に備えて布団に入るとしよう。

 

 千冬は布団に入ろうと体を動かす。だが、それは慌しい足音と、

 

「織斑先生っ!!」

 

 という声で中断せざるを得なくなった。

 

「どうした山田君!?」

 

 入ってきたのは山田麻耶だった。その息は荒れており、肩を上下させながら呼吸をしている。

 千冬は瞬時に理解した。これは尋常な事ではないと。

 

「それが……それが……」

 

 すぐ言葉に出来ないほど慌てていたのだろう。口をパクパクさせて苦しそうに息をする。

 ああ、酔いなど吹き飛んでしまった。もう完璧に素面だ。

 

「落ち着いて話すんだ、山田君」

「は、はい……」

 

 深呼吸をして山田麻耶は気分を落ち着かせる。そして、喋れるようになった後、口を開く。

 

「ちゅ、中東の国家が協力して建設した基地があるのはご存知ですか?」

「ああ、確かアメリカやロシアなどの強力な国家に対応すべく中東各国が協力して建設した基地群でトライアングルとか言われているやつだな? それがどうしたんだ?」

「え、ええ。その基地が……基地が……」

「ああ、基地がどうしたんだ?」

「き、基地群三つ全てが同時期に未確認の兵器によって壊滅させられました」




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01-06 Next……

すごい難産でした。
場面がころころ変わる結果に。


 私の夜勤は、一杯のコーヒーから始まる。

 兵士用宿舎から将校用の既に粉末に加工されている豆を少量拝借し、時計が深夜0時をまわるぐらいに仲間内で飲み合う。これが最近の日課である。

 

「あー、上の奴等贅沢ばかりしやがって」

 

 自分の階級は伍長。本来ならばこのコーヒーは少尉以上から支給されるもので、自分たち下の者たちがせっせと野外で働いている時に将校は空調管理が整った部屋で悠々とこんな上等なものを飲んでいるとなると、どうも納得できない。

 

「まあそう言ってやるなよサイード。俺たちもいつかはそうなるさ」

 

 ズズズ……と隣でコーヒーを啜りながら飲んでいるのは同僚のカーレッド。最近結婚したとかで幸せ絶頂の26歳だ。

 

「まったく、そう楽観視できるもんかね」

「できるさ、俺たちはコーヒを飲みながらのんびりと侵入者を監視する。あとは時間が俺たちを昇格させてくれる、とな」

 

「簡単だろ?」と笑みを浮かべる同僚。焚き火の燃料()を長い棒で弄りながら呟く。

 私とカーレッドが中東協力建設基地群『トライアングル』の唯一の臨海基地『α』に配属されたのは今から4年前。一昔前と比べて現在情勢は安定している。そしてここは中東国家が大国の侵攻に対応すべく造られた最新鋭の基地。配属されてから戦闘や斥候侵入などに出くわしたことは無い。

 加えて、トライアングルには一基地につき三機のISが駐留している。トライアングル(中東協力建設基地)は基地間の相互協力性を強めた基地であり、どれか一つが交戦状態になると他の二基から増援が行く仕組みだ。一戦場に三機以上のISが現れる。これは脅威以外になんという。

 しかし重要性は高いので配属される兵士たちの待遇は良い。つまり一軍人が手っ取り早く昇格するにはここは最適な場所だ。

 通常兵器でこの基地を陥落できる可能性は皆無。ISにはISが対抗する。私たち一般兵士はただ突っ立っているだけで充分なのだ。

 

「この基地が直接ドンパチする事はないさ。それにどこの国も企業もIS九機相手に戦いを挑もうとは思わんさ」

「けど駐留してるのってフランスのやつじゃなかったっけか?」

「アホ言え。天使様はどうすんだ?」

 

 天使様とは基地群に各一機以上配備されている天使の名を冠した軍用ISのことだ。

 トライアングルには『α』『β』『γ』と三基地が対応しているが、それを守るISの隊長機とでも言うべきか。

 私、サイードが配属されているαには『アズラーイール』が配備されている。

 アズラーイールは第二世代型、中距離武装を多く積んでいる支援型のISである。

 支援型といってもその性能は天使の中でも高く、特に目を引くのが発現している単一仕様能力(ワンオフ・アビリティ)だという噂だ。その所為なのかもしれないが訓練でも実践でも敗北の二文字を聞いたことは無い。

 天使機以外はフランスのデュノア社のラファールリヴァイブの軍用機仕様だが、量産機といってもISだ。性能の差など搭乗者の技能でいくらでもひっくり返るし量産機故の部品の互換性がある。もし戦闘不能に陥ったとしてもそれぞれ無事なパーツを持ち寄って再び出撃する事も可能である。

 

「天使に量産機三機。それに戦闘状態になったら他からも天使が飛んでくるんだ。俺が指揮官なら間違いなく手を出さんだろうな」

「ハハハ、違いねぇ」

 

 その言葉と共に私とカーレッドは温くなったコーヒーを一気に胃袋に入れる。

 さぁ仕事だ。

 大きい獲物は天使様らに任せるとして、我々は雑兵の相手をしよう。

 サイードはマグカップを仕舞い、銃を脇に抱え、ゆっくりと立ち上がる。そしてその後大きく伸びを一回。

 同じく立ち上がったカーレッドと共に見張りを開始しようと行動を開始しようとした。

 

 だが、ここで彼らの意識は途絶える。

 最後に彼らが見たのは空を翔る白い閃光(white glint)だった。

 

 

*

 

 

 中東協力基地群『γ』は砂漠のオアシスに位置しており、砂漠の緑化を基地全体で行っている珍しい基地だ。

 だが、それは表向きの話であり、実際は基地付近に埋蔵されている石油資源を独占するための採掘施設が秘密裏に建設されている。基地群はその資源で得る事ができる金銭を元手にして軍用ISの開発に勤しんでいた。

 第二世代、後に天使と呼ばれる軍用ISの開発には成功した。その数は合計で三機、今はαを守護するアズラーイール。βのジブリール。そしてγのミカール。

 これら三機は第二世代とは思えないほどの性能を発揮した。天使機の特徴は第二形態移行(セカンドシフト)に至っていなくとも単一仕様能力が使用できるという点にある。

 中東協力の賜物、その名も『神の恩恵』。

 この神の恩恵というシステムが組み込まれた事により天使機は単一仕様能力が初期設定の時点から使用することが可能となった。

 だが、どうしたものだろうか。神の恩恵を組み込んだ機体には共通してある欠点が発見された。

 たかが人間如きが神の使いである天使の能力を御しきれる訳がなかったといえばいいのだろうか。

 御しきれない能力は身を滅ぼすだけ。

 天使は選ばれし者にのみ力を与える。つまり機体が搭乗者を選んだのだ。その基準は高く、開発部でもその傾向を発見する事ができなかった。

 結果的に搭乗者は見つかったが、開発部は頭を悩ませた。

 そこで提唱されたのが通称『鎖計画』。

 神の恩恵を組み込んだISを自由に使う事ができるように改変する新たなプログラム、天使を空より墜とす鎖の開発だった。

 だが、開発は困難を極めた。

 神の恩恵は偶然が生み出した産物であり、奇跡の機構だった。奇跡を御する機構の開発などそう易々と出来るものではない。

 そこで目をつけたのが謎の巨大部品。未知の機構をもつそれは開発者たちの心を鷲づかみにした。

 そして彼らは、鎖を完成させるには未知の解析が一番の近道だと考えた。

 しかし、そこに立ちふさがる巨大な壁。ドイツやフランスをはじめとするヨーロッパ各地、そしてアジアにも出現する未確認(unknown)

 未確認は単機ながらも圧倒的な戦闘能力を所持し、襲撃された国はどこも例外なく苦汁を味わった事だろう。

 狙ったものはわからない。だが、恐らくは巨大部品だろう。そう仮説を立てた。

 もし仮説が正しいならば、きっと未確認はやってくる。

 圧倒的な戦力に我々は蹂躙される……!?

 

 そこで考えた。考えて考えて考え抜いた。

 そんな中、一人が口を開いた。

 

「天使に相手をさせればいいではないか」

 

 中東協力基地群が誇る最強のIS。さらに各基地に配備されている量産型。これらの戦力を結集し、未確認が耐えられない程の飽和攻撃を行う。

 倒せなくてもいい、無力化できればそれに越したことは無いが、最悪時間を稼げるだけでも問題は無いのだ。解析が終わり、データを転送できさえすれば我々の勝利なのだと。

 故に準備を行った。唯一拮抗できる可能性をもつ天使たちを中心に緻密な作戦を立てていった。

この作戦は基地群の司令部の者しか知らない事だ。故に機密レベルは最高に設定され、外部に漏れることは無い。

 そして、彼らは挑む。

 これから起こる戦いは基地群の威信を賭けた戦いでもあったのだ。

聖戦。彼らはこれから起こるであろう戦いをそう呼称するのだった。

 

 

 

               *

 

 

 洒落にならない。

 私、エミリア・クロンヴァールが抱いたのは恐怖の感情だった。

 私は天使の一角『ミカール』を駆るIS操縦者だ。

 私の辞書に敗北の二文字は無い。

 機体の性能も要因の一つなのだろうが、私が受け持った任務は今まで失敗で終わったことは無い。

 私とミカールが恐れるものなど、こんなにも苦戦する事など、一度も無かった。

 

 奴がγに進行してきたのは現地時間で午後8時頃、私が夕食を食べ終わった時だった。

 無謀。基地に居る者は皆そう思ったことだろう。

 中東協力基地群、この言葉は近辺では最強とも名高い軍事機関である。

 その軍事力は小国のそれを軽く上回る。基地群が所有するISは合計で12機。国ごとで分けて考えると決して多いものではないのだが、基地群単体で見るならば、大国にすら対抗できる力を持っている。

 意気揚々と「食後の運動を兼ねて」などと言って出て行ったのだが。ああ、もう考えたくない。

 淡紫の装甲の怪物。その姿はまさに流星。圧倒的な機動力、圧倒的な火力で基地を破壊していった。

 此方の攻撃が届くことは無い。戦車や戦闘機などの銃撃、砲撃はおろか量産ISの武装すら奴に届くことは無かった。

 対して、向こうの攻撃は全て必殺の威力を持っていた。

 マシンガンと思われる銃撃はISの装甲を易々と削り、通常兵器に大穴を開け、建造物を蝕んでいく。

 スラッグガンと思われるものは一度引き金を引くたびに辺りを根こそぎ削り取っていく。

 極めつけは背部武装から発射された巨大ミサイルだ。

 そのミサイルはあろう事か基地のある一帯を吹き飛ばしてしまった。

圧倒的、その一言に尽きた。

 建築物は崩れ、コンクリートは砕け、アスファルトは塵となる。

 基地は破壊しつくされ、残るものは何も無い。

 一面はただただ火の海。その光景はさながら地獄。

 陥落することが無いと言われた中東最強の基地群の一角は数十秒の攻撃で落とされたのだ。

 数十秒、この言葉が意味するものは大きい。

 ただただ異常、そう形容するほかないだろう。

 ISを超える兵器。天才科学者篠ノ之束が開発した最高の兵器。圧倒的性能を見せつけ、通常兵器のお株を奪った最強の兵器。それをいともたやすく無力化する。もう怪物だ、悪魔だ。ISと同列視なぞできるわけがない。

 

 気づいた時には既に体が動いていた。

 基地はすでに豆粒のように見える。

ああ、私は逃げたのか。それほどまでも恐ろしかったのか。

 敵前逃亡。私は傭兵だが契約中は軍人として処理される。死罪またはそれと同等の処罰が下るはずだ。

 だが、あの怪物から大切な物資(IS)を守ることを出来たということにすればどうだろうか。

 さらに怪物の情報が持ち帰る事ができる。武装データもある程度は掲示する事ができる。寧ろ報酬さえ得る事ができるのではないか。だとすれば……

 

「フ……フフフ……」

 

 ああ、考えただけでも笑いが出る。報酬は幾らだ? 十万? 百万? それとも億か? ああ、金、大金が手に入る。笑いが止まらない。最高だ。

 

『取ラヌ狸ノ皮算用トハコノコトカ』

「――!?」

 

 後ろを取られた!? ありえない!? 誰だ!?

 まさか……あの怪物の一味か!?

 振り向くとそこに居たのはあの怪物ではなかった。

 淡紫の装甲、赤く輝くカメラアイ。そこまではあの怪物とは変わらない。だが、目の前に居たのはI()S()だった。

 

「……」

『オヤ? ドウシタンダ?』

 

 無機質なマシンボイスを放ちながら首をかしげる未知のIS。そう、ISだ。怪物ではない。恐れる要素など何の無いではないか。

 だがどうしたこたか。体が動かない。あのISはあれ(怪物)と同じものだとでも言うのか?

 

「お……お前は誰だ……?」

『ソレヲ答エテ何ニナル?』

 

 向こうが此方の質問に何らかの反応を示す。それは交渉する余地があるということ。つまり交渉しだいでは見方にもなりえるという事だ。

 

「お前は……見方か……?」

『Noト言ッタラ?』

「……幾らだ?」

『……フ。買収カ?』

「……そうだ。幾ら出せば見方になる?」

 

 軍人ならば所属と名前を言うはず。つまりこのISは軍関係ではないということ。

 そして、敵ならばあの瞬間に私は殺されている。つまり、奴の言葉は「見方ではないが敵でもない」という意と捉えてもいいだろう。なら依頼をせずに何とする?

 見栄もプライドもない。ここは戦力が必要だ。そして、死にたくない。

 

「お前も私と同じ……傭兵なのだろう?」

『ソウダ』

 

 肯定の意。これならば――!!

 

「――なら!!」

『悪イガ、モウ依頼主(クライアント)はイルンデナ。情報ヲアタエルト、ココニ居ルノモ任務ノ一環ダ』

 

 トン。と小さな音が響く。

 

「……え?」

 

 ゆっくりと目線を下げ、音の源を確かめる。そこには自らの胸に生えている刀剣の姿が確認できた。その刀剣は青く光り輝き、まるで一つの太陽のような錯覚を覚えさせる。

 

『……ソノ機体、貰イ受ケル』

 

 敵はそのまま刀剣を薙ぎ、私の体を両断した。

 

 

 

              *

 

 

 世界は基地群の壊滅を大々的に報道した。

 中東最強の砦の陥落。前々から中東の資源を狙い、基地群に阻止されていた国、企業は驚きを隠せなかった。

 11機のISの撃破。天使の名を冠する中東協力の守護者がいともたやすく撃墜されたというのだから。

 特にγは酷かったらしい。γは基地群最大の開発基地として話題になっていたが、研究データは全て奪取、削除され、研究者は誰一人として生きてはいない。

 天使は三機の内二機が原型を留めない規模で破壊され、一機は行方不明。破壊された二機の(コア)は奇跡的に回収できたとのことだが、中身は全てフォーマットされ、いかなる復旧も不可能。

 やったのはどこの組織なのか。さまざまな憶測が飛び交ったが結局答えは出なかった。

 未知の敵性勢力による電撃作戦。各国はその勢力の特定し、コンタクトを取ろうと躍起になっているようだ。




評価が高かったら執筆速度が上昇する今日のこのごろ。


因みに未知のISが傭兵さんに話しかけたのはちゃんと意味があるのです。
それも含めてそのうち書くことでしょう。


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2013/03/27 感想のご指摘により一部内容を修正
2013/04/03 一部表現及び誤字を修正


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01-07 閑話、学園にて

日常シーンは苦手です。
















その兵器は日常を……コジマする


「まったく、俺が居ないうちに世界は大変な事になっているな」

 

 SHR前、まるで何事もなかったかのように優は言った。

 

「いやいや。お前今までどうしてたんだよ? 所用というのは分かってるがよく学校が認めたな!?」

 

 結果から言おう、優は2日学校を欠席した。本来なら俺と優は学園に軟禁さえれてもおかしくはない身分であり、二日連続の欠席を誰が許すだろうか。

 特に、時を同じくして発生した基地群壊滅事件。ただでさえ世界は混乱しているというのに、なんでコイツはこんなに無関心なんだ?

 

「まぁ特別な理由があったのさ。基本的にどうでもいい事を学園が認める訳ないだろ?」

「それはそうだが……」

 

 まぁ口で優を負かす事なんて出来るわけない。それはわかってる。ISでも勝てないのは悔しいところだが。

 

「優さんっ!! ご無事でっ!?」

 

 優の入室に気づいたのか、セシリアが走りよってきた。

 

「ああ、オルコットか。幸いな事に俺の身には何も起こってはないから、心配する必要は無いよ」

「そうですか。それならよかったですわ」

 

 セシリアは笑顔で優と会話を交わしている。やっぱセシリアも心配してたんだな。

 

「ところで――」

 

 優は俺に向き直る。

 

「代表決定おめでとう。いや、悔しいな。一歩上いかれちまったよ」

「……本音は?」

「面倒な役を引き受けてくれて……って何言わすんだよ」

「……ハァ」

 

 俺は頭を抱える。だめだ。こいつには敵わない。

 

「まぁ、がんばれ。

 さて、俺は席に行く。じゃ、また後で」

「おう」

「また後ほど」

 

 優が席に着いたのと同時にチャイムがなり、千冬姉が入ってくる。

 千冬姉も優が出席しているのを見て、少し安心しているようだった。

 

 

         *

 

 

「では、これよりISの実習授業に入る。今回行うのは飛行の基本についてだ」

 

 織斑先生の声の元、授業の開始が告げられる。今日の授業はISの飛行についてだ。

 時期は四月末、暦の上ではもうすぐ五月にさしかかろうかとしている今日のこのごろ、俺は欠伸を必死に我慢しながら織斑先生の言葉に耳を傾けていた。

 

「さて、では分かりやすいように少し実践してもらおうか。織斑、オルコット、そして高城。やってみろ」

「わかりましたわ」

「は、はい」

「了解しました」

 

 返事はオルコット、一夏、俺の順だ。

 織斑先生から指示を受け、俺たちは瞬時に行動を開始する。

 まずは、ISで飛行する前段階、ISの展開だ。

 俺は首にかけてあるペンダントに意識を集中する。俺にとって、このペンダントがISの待機状態だ。

(亜式)

 変化はすぐに現れた。

 俺の周りに粒子が集まったかと思うと、一瞬で装甲を形成する。

 装甲は薄く、脆い。まるで陽炎のようなイメージ、されど砥ぎに砥いだ名刀のような威圧感を放つISが展開された。これが俺のIS『打鉄亜式』。

 ふと視線を隣へ動かす。

 そこには蒼いIS『ブルー・ティアーズ』を纏ったオルコットがいた。

 さて、残るは一夏か。

 で、その肝心の一夏はというと――

 

「早くしろ。熟練者は展開程度に一秒もかからないぞ」

 

 ISをまだ展開できていなかった。

 イメージが固まっていない時にはよく起こることらしいのだが、今の一夏には仕方が無いことか。

 暫しの時間を経て一夏はISを起動する。白き騎士、白式だ。

 

「――――」

 

 思い出してしまう。ラインアーク防衛の際、共に戦った伝説の姿が。

 こいつが彼に届くことはあるのだろうか。

 できれば、そうなって欲しいものだ。いやそうなってもらわなければ困る。

 彼の存在はこれからの計画に必要なのだから。

 

「準備できたな。では――飛べ!!」

 

 織斑先生から指示が入る。

 俺とオルコットはすぐさま行動を開始した。一拍して一夏も動き出す。

 俺は一旦地面に降り立ち、膝を曲げる。その後すぐさま地面を蹴り、空中に飛んだ。

 亜式の異常ともいえる推進能力をもって一気に飛翔する。手加減は忘れない。ここで見せ付けるのはまだ早い。

 途中オルコットを追い抜き一足先に指定高度に到達する。その後、スラスターの出力を落とし、空中に静止した。

 数秒後、オルコットが到着、俺と同じように空中に静止する。途中、一夏に何アドバイスをしていたようだが、まぁそこは置いておこう。

 さて、残りは一夏だ。

 一夏は姉の叱責をうけながらも懸命に此方へと向かってこようとする。動きはとてもぎこちないが、仕方ないといえば仕方ないだろう。

 

「オルコット」

 

 オルコットに無線を飛ばす。

 

「何でしょうか? 優さん」

「操縦に関してだが、お前は一夏をどう見る」

「そうですわね……今はまだ何とも言えませんわ」

 

 オルコットは一夏に視線を向けて呟く。

 一夏はまるで赤子のようにフラフラと辺りをさまよっている。

 

「しかし、何か光るものを持っていると私は確信していますわ」

「光るもの……なるほど、お前もそう思うのか」

「と言いますともしかして優さんも?」

「ああ、今はまだ石ころかもしれないが、磨きようによっては……化けるかもな」

「そこまで……」

 

 思い当たる節があるのだろう。オルコットは少し悩みながら呟く。

 対オルコット戦にて、まだ卵から孵ったばかりの雛鳥があろうことか代表候補生を撃墜寸前まで苦しめたのだ。まだオルコットが未熟であるという点を鑑みたとしてもそれは異常な出来事である。

 ISについて技術どころか知識すらない素人がたった一戦であそこまで伸びたのだ。あれに可能性を感じずしてどうする?

 そう、『戦闘』という点においては一夏は天才なのだ。

 他の追随を許さぬ圧倒的センス。その手の機関にしてみれば、咽から手が出るほどの逸材であることだろう。

 

「そして、奴に戦闘を叩き込むのはあの世界最強だ。間違っても潰れるものか」

「そうですわね」

「まぁ俺たちは、精々高い壁になることにしよう。このまま追い抜かれるのも癪だしな。

 さて、来たぞ」

 

 時間はかかりながらも一夏は到着した。姉に怒鳴られ、幼馴染に怒鳴られ、精神的にはちょっと拙そうだが、まぁ問題あるまい。

 一夏が休憩しようした矢先、次の指示が飛ぶ。

 

「よし、全員指定高度に到着したな。では織斑、高城、それとオルコット。急降下と急停止をやってみろ、目標は地表十センチ」

 

 ハァ……、と肩を落とす一夏俺は無線で一言『がんばれ』と贈った後、オルコットに視線を向ける。オルコットはそれに頷き、

 

「わかりましたわ。では、一夏さん、優さん。お先に」

 

 すぐさまスラスターを制御、地上に向けて降下した。綺麗なフォームで操縦するオルコットの姿を見て一夏は「綺麗だなぁ」と呟いた。確かに綺麗だ。無駄な空気抵抗をかけないように考慮された体制は降下中に崩れることは無い。

高速を保ちながら地面との距離を詰めていくオルコット。そして地面すれすれで反転、危なげなく停止した。距離は地面から十センチ弱、成功だ。

 さて、次は俺か。

 

「一夏、お先」

 

 俺はオルコットと違い、スラスターの出力を切ることで降下を開始した。

 オルコットは制御して等速で降下していたのに対し、俺のは等加速。つまり垂直降下。速度は時間と共に増していく。

 制御などしていない。風と空気摩擦などの影響を受け、刻々と状態は変化していく。

 シールドエネルギーの形は流石に降下に適した形にはしているが、初心者には負担は大きかろう。

 下では俺の一夏への一言を聞き取れていない女子たちが少し慌てているが、織斑先生はまるで品定めをするかのような視線を向けている。

 俺は地面近くでスラスターを操作。強烈なGが体に襲い掛かるが、それを我慢しスラスターの出力を上げる。

 狙うのは静止、急上昇ではない。故に状況を性格に把握し、細やかな調整を加えていく。

 そして結果、目標を上回る形、地面からの距離が十センチ以下で静止した。

 周りからは感嘆の意が篭った声が発せられる。

 

「二人とも、とりあえずは問題なしだ。さて、あとは――」

 

 直後、轟音。砂煙が舞い上がり、小石は弾丸となって人を襲う。

「やれやれ」と織斑先生が頭を抱え、俺は天を仰ぐ。砂煙が晴れるとそこには、大きなクレーターを作った一夏がISを纏ったまま横たわっていた。

 

「グラウンドに穴を開けるな馬鹿者が。墜ちろなどとは一言も言っていないぞ」

「す、すいません」

 

 体勢を立て直し、復帰する一夏。体に傷一つ付かず、何も体に影響が無いのだから、ISというものは生命維持の観点から見ると異常なものだと言わざるを得ない。

 

「自爆特攻の練習か? それとも地面を愛しているのか?」

「どっちも違うって!!」

 

 辺りから笑いが湧き上がる。一夏は恥ずかしそうに、悔しそうに頬を赤らめた。

 

 

                 *

 

 

「では織斑、武装を展開しろ。その位はできるようになったのだろう?」

 

 俺が着陸に失敗した後、箒とセシリア小競り合いを始めた。雰囲気が混沌になろうかというその時、千冬姉が割って入り、事態を収拾した。

 そして罰だといわんばかりに与えられた課題が「武装の展開」だった。

 

「はい」

 

 これを拒否する理由はない。俺は礼儀正しく返事をし、周りに誰も居ない事を確認して武装を展開しようとする。

――大事なのはイメージ……そう刃。鋭く、磨かれた名刀。斬る、それだけを追求された形を――

(――来い、雪片!!)

 光が発せられる。粒子が集まり、形を成す。

 白式専用近接ブレード『雪片弐型』。俺が持つ唯一で最強の武器。

(よし、成功だ)

 かかった時間は0.7秒、1秒の壁を超えたのだ。これは初心者の俺にしてみればかなりといっていい程の進歩であり、満足のいくものだった。

 

「遅いぞ、織斑。0.5秒以下で展開できなければ使い物にはならんぞ」

 

 だが千冬姉から発せられたのは褒め言葉ではなかった。厳しい事を言ってくれる。まだまだ上を目指せるから精進しろという意味で言っているのは理解できるのだが、俺の一週間を否定されているようでとても悲しかった。

 

「では次だ。オルコット、武装を展開しろ」

「わかりましたわ」

 

 セシリアは左手を肩の高さまで掲げると、思い切り突き出した。次に起こったのは一瞬の発光。そしてその光が収まる頃には彼女の手には巨大な銃器が握られていた。

 データ照合……完了。武装名『スターライトmk.Ⅲ』

 クラス代表決定戦で俺を苦しめたレーザーを弾とする狙撃銃だ。青系統の色が中心にカラーリングされており、既に弾薬は込められている。セシリアが視線を銃に送ると白式が『セーフティーが解除されました』と情報を伝えてくる。

 そしてここまでに経過した時間は……1秒をきっている!?

 セシリアは俺とほとんど同じ時間で展開し弾薬を装填し、射撃可能の体勢までもっていったのだ。

 これが代表候補生か。先の戦いでは特に感じる余裕は無かったが、こうして見ているとその

凄さというものがひしひしと伝わってくる。

 

「十分だ、オルコット。流石は代表候補生、と言ったところか」

「この程度、(わたくし)にかかれば造作も無いことですわ」

 

 自慢げに胸を張るセシリア。嬉しいのだろう、だが千冬姉の言葉でその表情が固まる。

 

「だが、そのポーズはやめろ。横に向けて銃身の展開させてお前は一体誰を狙い撃つつもりなんだ?」

「お、お言葉ですがこれは私のイメージを纏めるために必要不可欠な行為でありまして――」

「直せ。命令だ」

 

 有無を言わさない発言。普通ならここで引き下がるだろう。だが如何せん、セシリアは強情だった。

 

「で、ですが――」

「私なら、お前がその無駄な行動をしている間に3回は殺している」

 

 雰囲気が変わった。千冬姉から放たれているのは紛れも無い、殺気だ。

 セシリアの顔はみるみるうちに青く染まっていく。

 千冬姉はそれを見ると満足そうに口角を吊り上げ、殺気を収めた。

 

「お前のそれは玄人にとっては隙であり格好の的だ。死にたくなければ直せ」

「……わ……わかりましたわ」

 

 恐ろしい。殺気に当てられていたのはセシリアだけだったはずだ。なのに俺や他の生徒はその余波だけでセシリアと同じ感情を抱いてしまった。

 

「さて、本来ならばオルコットには近接武装を展開してもらうのだが、その様子だと難しそうだな」

 

 この話は終わったとばかり話題を変える千冬姉。その視線が辺りを観察するように横に動く。

 先のことがあったからだろうか、視線にさらされる女子たちは皆怯えているようだ。

 そしてその視線の移動が止まる。その先に居る者は……

 

「高城、お前は近接、遠距離両方の展開だ。やってみろ」

「はい」

 

 優、だった。

 優は千冬姉の鋭い視線を一身に浴びているがその表情が変わることは無い。体が硬直するとか口調がたどたどしくなることもない。強がっている様子さえもその態度からは読み取る事ができない。

 腕を組んでいた優はそれを解き、力を抜いたように下げる。

 瞬間に発光。その一瞬が収まる頃には両手には武装が展開されていた。

 データ照合……完了。

 右腕武装:近接戦闘用ブレード。武装名『哀歌』

 左腕武装:近中距離戦闘用マシンガン。武装名『毒蛇(コブラ)

 展開にかかった時間はセシリアよりも早い。いや、単純な速度から言えば大差ないだろうが、無駄な動きをしていない優の方が戦闘行動に移るまでの時間が短いだろうことが推測できた。

 無駄の無い展開と自己主張を含む展開。二人の展開を表現するならばこうだろう。

 

「問題無しだな。オルコット、覚えておけ。これが本来行うべき展開だ」

 

 千冬姉が満足そうに頷いてセシリアに言葉を投げる。セシリアも理解したようだ。顔は少し強張ったままだが、このまま相対すると先制されてしまうことを感じ取ったのだろう。頷きながら返答した。

 それにしても、優の規格外さにはいつも驚かされるばかりである。

 

 これはよりいっそう努力しなければ彼には追いつけないだろうと考えを改める一夏であった。




評価が上がると執筆速度があがります。




5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。


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01-08 鈴の音響く

三人称練習も兼ねています

(遅くなりましたが)メリークリスマス!! 


時刻はそろそろ午後8時にさしかかろうという頃、IS学園の正面ゲート前に人の姿があった。

 それは小柄な少女であった。少女は自分の体には不釣合いな大きさのボストンバックを肩にかけ、奥にそびえる校舎を見上げた。

 

「へぇ、ここがそうなんだ……」

 

 四月の夜風に揺れる髪は綺麗な黒であった。少女はその髪を左右に分け、それをれを高い位置で結ぶ――所謂ツインテールという髪型をしていた。その髪留めは綺麗な金色で月光を浴びて幻想的に輝き、金と黒のコントラストがとても風景に映えた。

 少女は一切れの紙を自身の服のポケットから取り出す。それはくしゃくしゃでお世辞にも綺麗な状態とはいいがたいものであった。

 

「えーっと、受付は……本校舎一階総合受付……って、分かるかぁ!!」

 

 少女は大声で叫ぶ。その叫び声は夜風に運ばれて海へと消えていったが、IS学園は一般的な教育機関と比べ破格ともいえる大きさであり、構造を知らぬ者には無理も無い反応である。

 

「ああ、くそっ。自分で探せばいいんでしょ、探せば!!」

 

 そういって彼女は紙を再びポケットの中に仕舞う。その際にまた良からぬ音が鳴った気がするが、少女は気にも留めなかった。

 文句を言いながらも足は動いていた。考えるよりもまず行動、これが彼女の強みであり弱みでもある。

(出迎えがないとは聞いていたけども、まさかここまでとは)

 少女は年齢ではまだ15歳であり、このような一般的に言うか弱い乙女が異国の地で一人彷徨うことは普段なら考えもつかないことだ。

 しかしながら少女の手にかかればただの悪漢やただの人攫い程度露を払うかの如く処理できるのだが。

 それに、彼女にとって日本は第二の故郷といってもいい存在であり、思い出と因縁が詰まった場所でもあるのだ。

 第二の故郷から分かるとは思うが、彼女は日本人ではない。鋭角的でどこか妖艶さを感じさせる瞳は中国人のそれであった。

 

 その後少女は数刻学園の敷地内を歩き回るが、前述の通り彼女は論より行動のタイプであり、そして同時に……

 

「あーもう!! 面倒臭い!!」

 

 ……我慢強くなかった。

 頭を両手でわしゃわしゃと掻きながら大声で叫ぶ。その音量は思わず一理先の兎印の盗聴器が拾ってしまう位大きなものだった。

 ちなみにどこかの研究所でウサミミをつけた美女が「うにゃっ!?」と叫んだのは秘密である。

 ――誰か案内できる生徒とか先生とか居ないの?

 少女は心の中で呟くが如何せん周りに聞こえることはないし、誰かが出てくる事もない。

 冒頭でも述べたが時計の太針は既に8を指しており生徒達は例外を除き既に部屋の中である。

 一瞬『空を飛んで探す』という選択肢が脳裏に浮かんだが大判辞書三冊分にも及ぶ学内重要規約書の存在を思い出しすぐに却下する。

 それに彼女はまだIS学園の生徒ではないためISを起動させるといろいろと面倒が起こる。外交問題に発展することもあるから注意が必要だ。

 政府高官も涙目で懇願していたことでもあったし、それに問題を起こすと少女が嫌いな「歳をとっているだけのさして特筆する能力もなく偉そうにしている人」と否応無しに顔を会わすことになるだろう事を考えて現時点での展開は自重することにした。

 それにそんな今の状況を差し置いても『今は良い』と考える事ができるから一考に値する。

 篠ノ之束がISを発表し、白騎士事件が世界を騒がせた後の世は少女にとって好感を覚えるものだった。

 男の腕力など一考の価値無し。女だけが扱えるISこそが絶対。女が黒と言えば白は黒く染まるし、その逆だって可能であるのだ。

(まぁアイツに関しては別だけどね)

 少女の頭の中はこれから再開するであろう少年の事で占められていた。

 何時も自分と共にあって何時も自分を守ってくれた、それはまるで白馬に乗った王子様の様で……

 

「だから……でだな……そうではな……と……ことだ」

「……から、そのイメージがどうにも理解できないんだよ」

 

 どこからか聞こえ、徐々に鮮明になってくる声。この声には聞き覚えがある!?

記憶に間違いがなければ――

 気がつけば自分は行動していた。会いたい遇いたい逢いたいと言葉だけが心の中にリフレインする。

 顔を見たい、話をしたい。

 頭の中はその願望で埋め尽くされていた。

 声の場所、アリーナ・ゲートまではそうかからなかった。時間に表しておよそ十数秒。これぞ愛の成す力なのか、と少女は思った。実際はただ近かっただけなのだが少女の純粋さに免じてあまり追求しないでおこう。

 ゲートから出てくる二つの人影、その一つは少女が良く知るものだった。

 心臓の鼓動が早くなる。手を胸にあてるとその鼓動を感じる事ができるほど強く打っている。

 頬が紅潮する。鏡で確かめなくても分かる。

 

「いち――」

「一夏、どうして分からんのだ!? 先ほどから全然進展がないではないか!?」

「……進展するわけないだろ? 擬音ばっかで理解できると思うか、普通? 『くいって感じ』とか言われてそれがどんな意味なのか分かるのか?」

「……くいって感じだ」

「いやだから全然わからないんだって――ってどこ行ってるんだよ、待てよ箒!?」

 

「……」

 

 言葉が続かなかった。

 声の数からして一人ではないと予想してはいたがこれはどういうことだ?

 アレは誰だどうして彼と一緒に歩いているどうして名前で呼び合っているどうしてあんなに親しそうなのだどうしてどうして……

 疑問だけが頭の中でぐるぐると回る。

 先ほどまで高鳴っていた鼓動はすでに通常時に戻っていた。上がっていた体温も下がり、外気がまるで自分に付きまとう不快なものように感じられる。いや、馬鹿なことを考えていた自分を窘めてくれるのならば評価を改めなくては。

 奥で渦巻く感情は「怒り」。そしてそれに付随するいくつかの冷たいナニカ。

 ああ、馬鹿らしい。なぜ今まで私はあんなに興奮していたのだ。

 少女は彼らに背中を向け静かに歩き出した。

 他の誰か、案内できる人を探さないと。

(ん?)

 その他の生徒らしき人物はすぐに見つかった。その人物はIS学園の制服を纏っており、一人で建物に向けて歩いている。

 

「ちょっとそこのあなた!!」

 

 先ほどの機嫌を隠すことなく感情丸出しの言葉を投げかける。

一瞬「拙い」と思ったがもう口にだしてしまったこと、いまさら後悔しても仕方がない。

 その人物は声を聞いたためか、足を止めた。そして振り返る。

 

「……」

 

 髪は所々茶が混じった黒。綺麗な黒色に輝く眼が少女を捕らえる。

男だった。

 自分が好意を抱いている少年に良く似ている、一瞬そんなイメージがよぎったが、それはすぐにくしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ投げ入れた。

違う、根本的に何かが違う。雰囲気は似ている、ただそれだけだ。

 

「何か用かい?」

 

 男は先の自分の発言に機嫌を悪くする様子も無く返事をする。

 だが少女の不安は消えない。普段から直感に頼って行動するからだろうか、少女は男の瞳の仲に形容し難い恐怖を覚えた。

 この恐怖は一度感じた事がある。そう、何時か訪れた基地で見た、ISによって地位を奪われた男性兵達の――本当の戦場を潜り抜けてきた――目に晒された時に。

 

「あ、あのっ。そ、総合受付ってどこか分かりますか?」

 

 つい敬語で話してしまう。声色から判断して自分がとてつもなく焦り、緊張しているのが分かる。

 杞憂だというのに、ありはしないとわかってはいるのに、最悪な事態を想定してしまう。

 

「ああ、それならすぐそこだよ。ほら、あそこの入り口を抜けた先が総合受付だ」

「あ、ありがとうどざいます」

「いえ、どういたしまして」

 

 離れなければ、この考えだけが少女の頭を支配する。つい先ほどまで抱いていた感情など吹き飛んだ。

 ただ、歩を進める。その後姿を原因となった男は薄い笑顔を浮かべながらじっと眺めていた。

 

 

                   *

 

「というわけで、織斑君のクラス代表就任を祝いましてー、乾杯」

「「「乾杯」」」

 

 グラスとグラスが叩かれる心地良い軽快な音が響き渡る。

周りはわいわいと楽しそうに騒いでいるが対して一夏はとても疲れた様子で苦笑いを浮かべていた。

 今は夕食後の自由時間。普段であれば部屋でごろごろと時間を潰しているような時間帯だ。そして本来ならばこんな展開では一緒に楽しむべきであるが如何せんそんな気にはなれなかった。

 一夏は視線を近くの壁へと向ける。そこにはでかでかと『織斑一夏クラス代表就任祝賀パーティー』と書かれた紙が貼られていた。

――俺はなりたくてなった訳じゃねぇっ!!

 叫んだところで状況が変わるわけではない。仕方がない事なのは分かっている。けど……納得したくない。

 因みにこのパーティーへの出席率はほぼ100%。一組のメンバーは思い思いの飲み物(アルコールではない、決して)をもって談笑に勤しんでいた。

 

「いやーこれで代表戦が盛り上がること間違い無しだね」

「羨ましいわ。イケメン二人と同じクラスだなんて」

「……同感」

「ふふふ、ほらほら。その件の二人の写真だけど、いる? 今ならお安くしとくよ」

「「買った」」

 

 ……おいこら、人を使って商売するとは何事だ。肖像権の侵害だぞ? それに写真を買った二人は二組じゃなかったけか? なんでここに居るのさ?

 そう疑問に思っている一夏であったが、実を言うとこのパーティーの参加者は一クラスの定員を大きく上回っており、つまりそれは一組以外も参加しているという事を意味していることなのだが残念ながら彼は認識していなかった。

 

「人気者だな。よかったじゃないか一夏」

「箒……本当にそうだと思うか?」

「フン」

 

 隣に立っている箒は機嫌悪そうにお茶を胃に流しこむ。なんでこんなに機嫌が悪いのか、理由が知りたいとこだ。

 

「そういえば、優は?」

「アイツは神出鬼没だからな。どこにいるかなど想像つかん」

 

 高城優のスキルに『神出鬼没』が追加されました。

 

「そうか……」

 

 一夏は視線を彷徨わせる。慣れたとはいえ、彼も健全な男子であり、どうにも対応に困る場合がある。

 ここで彼がいたのならば解決策や対策などを教授してくれるはずなのだが、如何せん彼はここには居ない。

 

「はいはーい新聞部でーす。沈んでいるところちょっとすいませんねー。織斑一夏君に突撃インタビューにやって参りました!!」

 

 おおっ、と周りがどよめく。どよめいたところで所詮学園の一部活なのだが、と心の中で呟く一夏である。

 

「新聞部副部長を務めてます黛薫子と言います、以後お見知りおきを」

「あ、どうも」

 

現れた女性は名詞を渡しながら自己紹介してくる。なんとも画数の多い漢字なのだろう。本人は辛かろうに。

 

「さて、じゃあ早速インタビューに移らせてもらいます。織斑君、クラス代表に就任した感想を率直にどうぞ」

 

 どこからかボイスレコーダーを取り出し、ずいずいっと一夏に近づける。

 

「えーっと、が、がんばります」

「もうちょっとかっこいいコメント無い訳? 『私は全てを愛している』とか!!」

「すいません。自分、不器用なんで」

「前時代的な発言ね……まぁいいわ。適当に捏造しておくから」

 

 セリフを思いつかなかったのは自身の落ち度といえることだが、変な事を広められるのは勘弁してほしいところだ。声をかける前に先輩はそそくさとセシリアの控える席まで移動してしまうし、ここは願うしかなさそうだ。

 

「さて、ではオルコットさん。コメントをどうぞ」

「本来ならば、このようなことは遠慮させてもらうのですが、まあいいでしょう」

 

 口では嫌そうな事を言っているが行動まったく逆のようだ。髪は普段より煌びやかに輝いており、顔はうっすらとメイクされている。

 

「それでは、最初にどうして私が代表を辞退したのかという理由から説明させていただきますわね」

「カットで、写真だけ頂戴」

「ちょっ、最後まで――」

「適当に捏造しとくから大丈夫。高城君か織斑君に惚れたってことにしておくから」

「なっ――」

 

 セシリアの顔が一瞬で沸騰する。赤面した顔はまるで熟れた林檎の様で少し可愛かった。

 

「何を馬鹿なことを言ってるんですか? そんなことありえませんよ」

「えー? そうかなー?」

「そうですわ!! 何を根拠で馬鹿なことといっているのかしら!?」

 

 おい、こらセシリア。何故俺の言葉に反論する。

 

「オルコットさんそこ並んで、写真取るよ」

 

 何故か怒り出したセシリアを宥め、写真を撮影しようとする薫子。一夏は転換のいい機会だとある疑問をぶつける事にした。

 

「そういえば、優……高城には会ったんですか?」

「探してるんだけどねー、まるで消えたかのように見つけることが出来ないや。まぁコメントはもらってるし、写真はまた別の機会にって約束取り付けてるから問題ないのさ」

「はあ、じゃあ高城はどんなコメントを?」

「ん? えーっとね……『今はまだ石ころかもしれないが、磨き整えられ見事な宝石となった姿を見てみたい』って言ってたね。よかったねー織斑君、認められてるじゃん」

 

 優も俺と同じISに関しては初心者だった気がするのだがと一人頭を傾げる一夏であるが、彼の実力の一端をあの戦いで目の当たりにした人々にとっては現実味を帯びるものとなっている。

 

「高城君は個別で特集組むからいいとして、織斑君オルコットさん、ツーショット頂戴。握手とかしてくれるといいかも」

「あ、あの着替え――」

「ダメ。時間かかるから」

 

 セシリアの提案(懇願)は一蹴された。普段なら機嫌を悪くするセシリアだが今回はそこまででもないらしい。

 薫子に手を引かれて、強引に撮影に適した体勢にもってこさせられているが一夏との距離が近づくに比例して赤面の度合いが酷くなる。

 そして同時に一夏の手も引かれ、セシリアと重なる。

 

「――あ」

 

 どちらの口から漏れた言葉だろうか。もしかしたら外野から漏れたものかもしれない。

 一瞬この空間は静寂に支配された。

 

「さて、じゃあ撮るよ」

 

 二人と周りの意識を呼び戻したのは唯一の例外である薫子であった。空気に飲まれず自分の意思で行動できるのは勝算に値するものであろう。薫子は暖かな笑みを顔に浮かべながらカメラの操作をする。

 

「25×42÷210は?」

「へっ? えーっと……2?」

「残念でした、正解は5です」

 

 甲高い電子音と共に焚かれるフラッシュ。切られるシャッター。

 

「なっ、あなた達!?」

 

 セシリアの声が響く、いやそれは尤もな疑問だ。一組の生徒達の行動力の高さを舐めていた。

 一組生徒一同が撮影の一瞬の間を有効に活用し写真の枠内に入っていたのだ。

 

「セシリアだけにいい思いはさせない」

 

 女子達の意見はこの一言に集約されているような気がする。しかしながら、いい思いとはどういうことか、一夏はこのことを疑問に思うばかりである。

 

 

           *

 

 

「さて、ついに我々が表へ出る時がきたんだよ!!」

 

 ピシャーッと背景が稲妻の如く光音を発す中、篠ノ之束は宣言した。

 その手は大きく振り上げられておりまるで選挙活動で演説する時に政治家が取るような行動であった。

 

「我々って……実際に出るのは俺達でしょうが」

「サジ、黙りなさい」

 

 その演説を聴いていたのは二人、一人は面倒臭そうに頬杖をつき、半眼で束を見上げて、もう一人は目を瞑りながら相方を窘めている。

 

「ユリィちゃんは何時もの事だから何も言わないけどさ、サジ君はなんでそんなにノリ悪いのさ?」

「いやなんかテンションが異様に高いなーって」

「ひどいよ! 束さん悲しいよ」

 

 およよよ、と袖で顔を隠しながら崩れ落ちる束。

 

「ああ、とりあえず話進めませんか?」

「ホントに君酷いね?」

「まぁ今は重要な会議なんで」

「仕方ないか、じゃあブリーフィングを始めるよ」

 

 起き上がり服装を直す束。その後「えいっ」と懐から取り出した機器を操作すると束の後ろのモニターに光が走った。

 

『やっとか』

 

 作戦情報とは別でウィンドウが開かれる、そこには"sound only”と添えられたデフォルメした兎の画像が表示された。そして聞こえてくる声。

 

「おっ、来たね」

「来たんじゃなくて待ってた気がするんですが」

「サジ、うるさい」

 

 漏らした感想は三者三様。だがどれも不思議なことに登場を忌諱する感情は含まれていない。

 

『はぁ、まあいい。

 博士、ブリーフィングを始めてください』

「はいはーい」

 

 再び束は機器を操作する。すると画面上に幾つものウィンドウが展開された。その一つ一つはこれからの作戦に必要な情報を表しており決して余分なものは存在しない。

 

「今回は、『IS学園』を襲撃してもらうよ」

 




ここで登場、旧三話の面々。
『私は全てを愛している!!』by獣殿(dies_irae)


評価が高くなると執筆速度が高くなる今日のこのごろ。
感想もいただければ幸いです。
誤字指摘は泣いて(?)喜びます。

5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。

2012/12/28 感想でご指摘があった箇所を修正


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01-09 忘れ去られた者

最後は少々ネタを含む。
更新遅れて申し訳ありません。


 転校生、教室に顔を出してた一夏はそんな単語を耳にした。

 桜は散り、青葉が生茂るこのごろ、一般的常識に照らし合わせれば時期的には少し外れていると言える。

 暦の上ではまだ四月ではあるが入学ではなく転入だ。この現象を一夏は不思議に思った。

 

「転校生? こんな時期にか?」

「みたいだね。なんでも代表候補生だとか」

 

 一夏の声に反応した女子が返答する。

 代表候補生、特にいぶかしむ必要は無い。IS学園の転入条件は厳しい、一般人では不可能といえる壁だ。それに国家、大企業レベルの権力も大きな要因となってくる、つまり転入できる存在は各国家の代表候補生又はどこかの大企業の専属IS搭乗者と容易に想像できてしまうのだ。

 

「あら、私を危ぶんでの転入かしら?」

 

 一組所属の代表候補生のセシリアさんがそんなことを仰る。片手を腰に当て胸を張る――何時もながらのポージングだ。

 

「どうせこのクラスではないのだろう? 騒ぐほどではない」

 

 いつの間にか一夏の横に来ていた箒がいつもどおりの仏頂面で呟く。表情こそないがやはり女の子、話題には敏感に反応する。

 

「どんな人なのかな?」

「代表候補生って言うんだから強いんじゃないのか?」

 

 気にならないといったら嘘になる。実力は補償できるだろうが、如何せん性格に不安を覚える。国の頂点近くに立ち続けるのだ、プライドの高さは計り知れない。

 

「なんで私を見ますの?」

「いや、気のせいだ」

 

 代表候補生といっても一夏はセシリアしか知らない。つまり一夏にとって評価の基準になるのは彼女なのだ。少しげんなりするのも納得がいくだろう。

 

「気になるのか?」

「ん? ああ、ちょっとな」

「……チッ」

 

 なんで舌打ちをするのか理解が追いつかない一夏である。そして同時に感情の起伏が激しい箒を少し心配に思った。

 

「今のお前に新しい女子を気にする余裕はあるのか? 来月には代表戦もあるのだろう?」

「そうですわ! さぁ一夏さん。私と一緒に対抗戦の作戦を練りましょう!!」

 

 セシリアは「なにせ(わたくし)数少ない専用機持ちなのですから」と意気揚々に発言する。確かに専用機持ちは一般生徒と比べて機体を配備する負担が無い。本来ならば申請から許可まで約一日の工程を飛ばせられるのだからこれはもってこいだ。

 因みに対抗戦はリーグマッチ制。実施理由はクラス単位での交流及びクラスの団結。一応入学時点での実力指標として利用する意味もあるようであるが、基本的に代表戦に出るのは代表候補生のようなエリートばかりであり、本来ならば一夏が代表に選ばれるのは前代未聞なのだ。

 そして生徒にやる気を出させるために一つ賞品が用意されている。それは学食のデザートの無料券であり期限は半年。それゆえに女子の関心は高い。ちなみに無料券が賞品だと知った優は本当に悔しそうにしていた。

 

「やれるだけやってみるかな」

「やれるだけでは困ります!! 一夏さんには是非勝っていただきませんと」

「男たるもの、頂点を目指さずどうする!!」

「織斑君絶対優勝してね!!」

 

 セシリア、箒、そしてクラスメイトが矢継ぎ早に告げてくる。「任せろ」と元気良く言いたい一夏であったが、ISに初めて触れたのもここ最近で、基本運動ですら苦戦している現状では如何せんそのような余裕は無い。

 

「大丈夫よ織斑君、今クラスで専用機持ってるのって一組と四組だけだから」

 

 内訳は一組が3。四組が1。どうみても一組に集まりすぎである。だがしかし、優が専用機の事を申告していなかった事、一夏に専用機が与えられることが確定していなかったことを踏まえるとなんら不思議に思うことは無い。

 知っているとは思うが専用機持ちはすなわち国家代表並みの実力を持っているという事であり、つまり四組以外は初心者ないしは、代表候補だが専用機は持たない生徒がクラス代表だということだ。

 

「なんだ、余裕じゃん」

 

 余裕じゃないって、と心の中で呟く一夏であったがその欝的思考は中断させられてしまった。

そう――、

 

「その情報古いよ」

 

 ――この一言によって。

 

 

          *

 

 

「その情報古いよ」

 

 この一言は脅威など存在しないと談じていた一組の面々にはまさに晴天の霹靂であった。

 皆は声の聞こえてくる方向――教室の入り口に視線を向けた。そこにいたのはツインテールの髪の一人の少女。

 

「二組も専用機持ちが代表になったの。優勝するのは私よ」

 

 そんな少女は手を組んで入り口周辺の壁にもたれ掛っていた。

 凛とした声、どうしたことか一夏は聞き覚えがある懐かしい声だという印象を持った。

 一夏は記憶の糸を手繰り寄せていき、そして答えを得た。

 

「お前……(リン)か?」

「そうよ一夏。中国所属の代表候補生、(ファン)鈴音(リンイン)。今日は宣戦布告に来たわ」

 

鈴は不敵な笑みを浮かべ、辺りを見渡した。

 

「みんな大したことなさそうね。これなら二組が優勝をもらったかしら?」

 

明らかに他人を軽視し、見下す言葉。彼女は自信満々だったのだろう。負けるはずは無いと。小鳥は知らないのだ。頂上に控え、他の想像のはるか上を行く戦女神。そして鴉を蹂躙し全てを搾取した山猫をも食らった存在がいることを。

 そして彼らは近づいてくる。刻々と時計の針は進んでいく。

 

「ああ、どうやら俺まで雑魚扱いされているようだな」

「まったく、変わらん奴だなこいつも」

 

 もう遅い。頂は現れた。彼らは山猫の事知らぬが、その存在の大きさは感じ取っている。山猫は本性を表している訳でもない、戦女神同じく呆れているだけだ。だがしかし、戦女神と共に立つ姿にはどこも不足を感じない。

 少女は青い顔で後ろを向く。そこに聳え立つ双璧は――。

 

「あ……あぁ……」

 

 ――ただ静かに、少女を見下ろしていた。

 

「お、優じゃないか。どうしたんだ、千冬ね……織斑先生と一緒なんて」

「まぁいろいろ話があったんだよ」

 

 場の空気を読まないというか何と言うか、一夏と優は何時もと変わらない調子で言葉を交わす。

 

「はぁ……高城、早く席に着け。そろそろ始業だ。

 ……で小娘、お前は何時まで此処に居るつもりなんだ?」

「あ……千冬……さん……?」

「織斑先生と呼べ、さっさと自分のクラスへ帰れ、邪魔だ」

「す、すいません……」

 

 脱兎の如く勢いで走り去っていく少女。厳しい審査、鍛錬を乗り越えた代表候補生であったはずだがその威厳などどこにも見えなかった。

 鈴は直感的な性格だ。漠然とではあるが理解したのかもしれない。方や数百のミサイルと対し、破壊した白騎士。世界の中枢が雇った駒を次々に撃破し、遂には宙の貴族を地に墜とした反動勢力の英雄。二人をただの戦人ということはできない。それほどまでの濃密な時を過し、その身に刻みつけてきたのだ。

 本人達は隠してはいるようであるが、その片鱗を感じたのであろう。故に発生した恐怖という感情。

他の生徒はなんで鈴が顔を青くし、走り去っていったのか理解できていないようであった。

 

 

               *

 

 優は脱兎の如く駆け抜けていく少女の姿を何とも言えない表情で眺めていた。

 恐れていた事は既に分かっていた。勘が良いことも分かっていた。恐らくは自分に何かを見出したのだろう。だがしかし――。

(俺、そこまで恐がられるような事したか?)

 まったくもってその通り、優は鈴と呼ばれた少女に対して何もしてはいない。先日夜中に出会った時も道を教えただけである。恐がられる要素など皆無なのである。

(うーむ、謎だ)

 優自身も気づいてはいない事であるが以前の日常の習慣により特に夜間などはまるで常人らしからぬ気配を出す事がある。しかしながら今回鈴はその特性故にその気配に気づいただけであり、普通ならその片鱗さえも感じない程度のものだ。

(このままだときっと彼女の自分に対しての感情や行動は先のようになるんだろうな)

 人知れず評価を改めさせ、自分に対する態度を変えさせてやるとい意気ごむ優であった。

 

 

「……で」

 

 午前中の授業が終了し、優は一夏のところへ来ていた。

 午前中はそれはそれは笑いがこぼれるような時間であった。篠ノ之妹は考えに耽るあまり授業を疎かにし、山田教諭に数回注意され、織斑教諭に数度制裁を食らった。オルコットは授業中の回答に訳のわからない返答をし、篠ノ之妹同様に制裁を受ける羽目になった。その滑稽さときたら入学して久しく感じることはなかった程でかなりの衝撃であった。

 

「お前の所為だ!!」

「貴方の所為ですわよ!!」

 

 そしてその二人であるが何を思ったのか自分達の醜態を一夏の所為にしていた。

 

「お前ら自分の行動には責任を持てよ。滑稽だ」

 

 見ていて面白いとは思っていたが、その責任を他人に擦り付けるのはお門違いというものだ。

 

「なんだと!?」

「ゆ、優さん!? 滑稽とは心外ですわ、訂正を要求します!!」

「あーはいはい。言い訳は食堂で聞くよ。一夏もそれでいいだろう?」

「ああ、それでいい」

 

 一夏の顔には大きく「助かった」と出ていたが優は気にしないことにした。

 優、一夏、篠ノ之、オルコットと食堂へ移動しようとしたが、そのときにぞろぞろと他の生徒が付いて来たとか来なかったとか。

 

 

                *

 

 

場所は変わって学園の食堂、俺達は券売機の前に立ち、メニューを選んでいた。

 俺と優は日替わりランチ。箒はきつねうどん。セシリアは洋食ランチだ。

 これは私見だが、俺はセシリアが洋食ランチ以外を食べている姿を見たことがない。他のものに手を伸ばしてみたらいいのに。

 券売機から出てきた食券を調理の人に渡し、料理を受け取る。

 そしてどこか空いている席を見つけようと視線を動かした時、正面から大きな声が聞こえてきた。

 

「待ってたわよ一夏!!」

 

 ああ、もうわかってる。この声、この口調、そして箒とセシリアの敵意の篭った視線、優の呆れた様子を見れば考えるまでもない。

 鳳鈴音。始業前に教室で宣戦布告を行ったあの少女だ。

 

「とりあえずどいてくれ、他の人の食券を出す邪魔になるし、通行の邪魔にもなってるぞ」

「うるさいわね。そんなこと言われなくても分かってるわよ」

 

 そういう鈴のお盆にはラーメンが乗っていて白い湯気を上げている。

 

「ならお前も一緒に食おうぜ。じゃないと伸びちまうぞ」

「わかってるわよ。ていうかアンタを待ってたんでしょーが!! そのぐらい理解しなさいよ!!」

 

 誰が理解できるか、俺は超能力者じゃないっての。

 ちなみに「待ってたわよ一夏」の時点で自分を待っていたと理解できない朴念仁である。

 

 その後俺達は鈴と一緒に適当なボックス席へ移った。

 

「で、久しぶりだな鈴。元気してたか?」

「言われるまでもないわよ。あ、アンタこそ、元気にしてたの?」

「おう、怪我病気なにひとつないぞ」

「たまにはしなさいよ」

「なんだよそりゃ」

 

 なぜ俺の周りの女子はこんなに攻撃的なのか、まったく理解できない。男は常識人が多いのに。

 

「まぁそれはそれとして、お前何時日本に帰ってきたんだ? 一言ぐらい言ってくれればよかったのに」

「一夏、情報統制って言葉知らないの? 今や世界の重要人物なのに、個人情報なんてホイホイと晒してある訳ないじゃない。アンタに関する情報全部ブロックされてんのよ、そんな状態でどうやって連絡取れっつーのよ。それにISを動かしたなんて。ニュース見ててびっくりしたじゃないの!?」

「なんで俺動かせるだろうな。けどさ、動かせるのは俺だけじゃないぞ、優もだ」

「だれよ、優って。女だったら動かす事に不思議はないでしょ?」

「会話に割り込んで申し訳ないが、俺は男だぞ」

「え――ッ!?」

 

 鈴は少し離れたところに居る優に視線を合わせるや否や息を呑んだ。

 優は呆れながら、

 

「どうしてここまで俺を恐がるのか理解しがたいが……まあいいだろう。俺が優だ。よろしく」

「――アンタっ、本当に朝のと同一人物なの!?」

「あのことを言ってるのであればYesだが、どうかしたのか?」

「いや……なんでもないわ。鳳鈴音よ、よろしく」

「ああ、よろしく」

 

 鈴の怯えた様子も最初だけで、優が一言発するとそれも消え、普通に会話するようになったようだし、良しとしよう。

 

「んんっ……一夏。そろそろその少女について説明してほしいのだが」

「そうですわ!! 早急に説明を要求します!!」

 

 おーおー、二人とも目が本気でいらっしゃる。

 二人はどうも俺と鈴の関係が気になるようだ。ちなみに周りの女子達も揃って頷いている。

 

「なにって、鈴は俺の幼馴染だぞ」

「「「「幼馴染?」」」」

「ああ」

 女子達の声が重なる。皆驚いてはいるが、鈴に視線を向けると何故か表情を暗くしている。

 

「幼馴染……」

 

 箒が言葉をかみ締めるように呟く。おそらく幼い頃の記憶でも探っているのだろう。

 

「あー、えっとだな。箒が転校していったのが小四の終わりだったろ? その次の年、つまり小五の時に鈴が転校してきたんだ。そうか……丁度入れ違いになってたんだな。

 鈴、彼女が箒。前に話した事があると思うけど、小学校からの幼馴染で、昔俺が通っていた道場の娘だ」

「へぇーこの娘が……」

 

 じろじろとまるで値踏みするかのように箒の体を見る。なぜか胸ばかり見ているが気にしない。

 箒はその視線に気づいたのか何故か勝ち誇ったような表情をする。対して鈴「ぐぬぬ」。

「篠ノ之箒だ。よろしく」

「よ、よろしく」

 

 二人の間に一瞬火花が散ったような気がしたがその勢力は箒が優勢。何故かは敢えて言わない。

 さて、では昼食を食べて――

 

「んんっ。私の存在を忘れては困りますわ。鳳鈴音」

「「「あ、いたんだ」」」

「ひどいですわ!?」




忘れ去られたのはセシリアでしたー。
高評価をいただければ幸いです。
また、誤字指摘を含む感想も受け付けております。
一言いただければ、と思います。

5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。


タイトル表記をAB-CDのように変更しましたがABの方は原作だと何巻に対応しているのかを示しています、今のところ


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01-10 忘れ去られた者②/interlude

とりあえず書けたので投下。


「「「あ、いたんだ」」」

「酷いですわっ!?」

 

 食堂に木霊するオルコットの声、その声は悲しく、幾分かの驚愕を孕んでいた。

 それはそうだろう、篠ノ之と同じく言葉を発していたのにも関わらず認知されていなかったのだから。

 

「誰よアンタ?」

 

 鈴音はオルコットにぞんざいに言葉を投げかける。お世辞にも友好的だとは言えない。

 

「……っ。いいですか、鳳鈴音。私はセシリア・オルコット。誇りあるイギリスの代表候補ですわ。私をご存知でなくて?」

「興味ないし」

 

 オルコットは米神に青筋を浮かべながら自己紹介をするが、鈴音は露ほどの興味も持たない。

 鈴音は直感的な要素を優先する傾向がある。発言に関してもその傾向があるのならば、発言一つ一つが意識しなくても他人に不快感を与える可能性が発生する。彼女は通常よりもそれが顕著に表れていることから、その可能性は高い。

 

 優は鈴音を観察しながらある程度の対応の方法を考えていた。

 類推から導き出された解の通りならば彼女と良好な関係を築く事は容易である。

 だがしかし、勘が良いという事には注意が必要だ。

 公衆の面前で自身の隠しておくべき情報について問い詰められると収拾できない恐れがある。

 とはいっても優が易々とボロを出す訳がない。仮にも傭兵、不用意な発言により自身及びクライアントを危険に晒す訳にはいかないのだから。

 クラスでは優は口数が少ない人物だとは認識されていない。今回は言うなれば潜入任務。無口であると此方の情報が向こうに伝わる事は少ないが、その代償として得る情報も少なくなってしまうのだ。首輪付きとして活動している時はただ戦うだけで、オペレーター(セレン・ヘイズ)以外とは殆ど会話も無かったし、情報は基本的にクライアントに与えられるだけであった。

(あの時は考える必要なんか無かったのにな)

 ただ守る、ただ壊す、ただ戦いさえすればよかったのだ。自分が意見することは無く、ただ向こうの筋書き通りにやるだけ。

 今思えばORCA旅団に参加した時だけ、アルテリア施設の破壊を決行するか否か、そのときだけは考えていた気がする。

 もし、旅団に参加せず、首輪付きのまま戦い続けていたならば――

 

「わ、私は貴方なんかに決して負けませんわよ!!」

「あっそ、私が勝つと思うけど、まあ頑張ってね」

 

 ――このような微笑ましい光景を目にすることなど起こり得なかっただろう。

 一般的な解釈の度合いから言うと微笑ましいとは言い難いが、日々傭兵(リンクス)として戦い続けていた、非日常に慣れ親しんだ彼にとってそう形容するには充分であった。

 ちなみに優がこうして考えている間、オルコットの顔は怒りで真っ赤に染まっていたのは秘密だ。

 

 

                   *

 

 

「一夏、あなたクラス代表になったんだって?」

「ああ、なんか成り行きでな」

「へぇー」

 

 鈴音が一夏にこのような言葉をかける。一夏は何かこっちに視線を一瞬向けて答えたがその視線は「お前が原因だ」と暗に語っていた。

 仕方が無い事だ。本来、自推他推は問わない代表に一夏は選ばれてしまった。そして、代表決定戦の後、オルコットと優は一夏を推薦したような形をとった。上に立つものは下からの信頼がないとやってはいけない、つまりあの戦いで二人の信頼を勝ち取った形になった一夏こそが相応(ふさわ)しかったのだ。一組に彼以上に適任な者は現状おるまい。

 ORCAに関していうのならば、上といえば最初の五人――特にマクシミリアン・テルミドールを想像する事だろう。彼は一種のカリスマのようなものを備えていた。謳われない(unsang)、とはよく言ったもので、企業連との戦いでは最後まで生き残るし、旅団内からの信頼も厚かったことから、個人的には十分に謳っていたと思っている。

 閑話休題。

一夏の返答に関してまるで興味が無いかのように答え、豪快に昼食のラーメンの汁を啜っていく鈴音。

 興味が無いように振舞ってはいるものの、一夏にそれを聞いた時点で興味が無いわけがない。

 器を両手で持ち、豪快に麺類の汁をに啜っているのはそれを隠すためにでも行っているのだろうか?

 

「あ、あのさ……ISの操縦、私が見てあげてもいいけど」

 

 ほらきた。

 鈴音は一夏から顔を隠し、目だけでその顔を眺めて言っているが、こちらには寧ろ丸見えであり、その頬が薄ら赤く染まっているのを確認した。

 しかし、これはあまりよろしくない。問題点は三つ。

 一つ、一夏と鈴音は対抗戦では互いに戦いあう存在であり、こちらの戦法を知られてしまうと厄介である。

 二つ、質に関しては置いておいて教育係は既に間に合っている状態である。

 そして三つ、この事態を一組の女子達は黙ってみているだろうか。

 答えは否である。

 

「一夏を鍛えるのは私の役目だ。私が、直接、頼まれたのだからな」

「貴女は二組、(わたくし)どもとは敵同士でしょう。敵の施しなど受けませんわ」

 

 オルコットよ、施しとは何か違うと思う。

 

「私は一夏に聞いてるのよ、外野はすっこんでて」

「お、お前の方こそ外野だろう?」

「そうですわ、これは一組の問題、ならば私たちがお教えするというのが自明の理、貴女こそ、一組でも無いくせに、後から何を図々しく――」

「後からじゃないんだよね。私の方が付き合い長いし、アンタよりもよっぽど」

 

 これは不毛な争いであると評価せざるを得ない。このままだと話は平行線、何の進展も無く終わる事だろう。

 優は表情に出さず嘆息する。

 現在、鈴音の付き合い云々と述べたことに箒が反応し話は混沌への道を辿っている。

 付き合いの長さから、一緒に食事をした、しないの話に変わっていく。

 早々に立ち去るべきだろう、このままでは自分にまで火の粉(といっても大したものではない)が降りかかってしまう。

 しかし、同時に一夏がどうなるのかというのも見てみたい。彼にとっては日常茶飯事なのかもしれないが、こちらとしてそういう経験は未知に近いものであり、なにより興味がある。

 だが静観するならばこれ以上ややこしくなるのは面倒だ。

 

(ファン)、教えるのは構わないが対抗戦が終わってからにしてもらえないか? そうすればこの二人も納得するだろうから」

 

 故にここに妥協案を提案する。

 

「高城!?」「優さん!?」

 

 まさか一組の仲間が裏切る(彼女達にとっては、の話だが)とは思っていなかったのだろう。 ご両人、顔が驚愕に染まっている。

 

「今は時期的に他のクラスを入れる訳にはいかないが、それが終わったら別に構わないだろう?

 これは一夏が技術を身につけるためのものだろう、ならば人手は必要だ。あまり多すぎては逆に邪魔になるが、現状では二人。一人二人増えたところで何も問題ないと思うが」

「それはそうだが(ですが)……」

 

 篠ノ之、オルコットの二人は言い澱む。反論する術は二人とも生憎持ち合わせてはいない。

 ここで頑なに凰の参加を拒否すると他に疑問を持たれかねない。大前提として「一夏を鍛える」というものを挙げている以上、暴挙にはでられないのだ。

 だが、ここは同じ組の誼みとして助け舟を出すのは忘れない。

 

「まぁ尤も、それで十分だと言わせられる要素があれば話は変わってくるがな」

「「!?」」

 

 そう、指南役は足りていると言わせる根拠さえ提示できさえすればこの問題は万事解決する。

 結果さえ出してしまえば文句の一つや二つは簡単に封殺できるだろうし、多少の我儘も通る。

 恋する乙女は盲目とはよく言ったものだ。

 恋愛に関しての彼女らの思考の早さには目を見張るものがる。

 

「ま、頑張る事だ」

 

 この言葉を最後に優は此処から去る。

 この後、女子二人のやる気は上限100%を超え、結果一夏は苦しい思いをしたとかしないとか。

 

 

                  *

 

 そこはただ荒涼とした世界であった。

 木々の一つも見受けられず、命の営みは見受けられない。

 所々に倒壊した、あるいはしかかっているビル群があり、元は高層であったのではないかと想定される。状態からは判断しにくいが恐らくは商業用に設計されたものだ。この地域は経済活動が活発であった様子が想像できる。

 

 何故、何故こうなってしまったのかと口にする人も少なくは無い。自然が牙をむいたのだと声を荒げる人がいるだろう、争いの極み、最終局面と言う人もいるだろう。

 残念ながらこの二つの意見は双方正解である。国家解体戦争及びリンクス戦争、この出来事を知るものならば理解するのは容易かもしれない。

 国家解体戦争とは、統治力を失い、テロや暴動等を頻発させていた国家に辟易した六つの軍事企業が既存の全国家に対し起こした戦争である。

 この戦争の注目するところは企業側が投入したネクストACという存在である。

 当時世界で使用されていた最高と評される兵器は『アーマードコア』であった。アーマードコア(ノーマルAC)は圧倒的火力、制圧力を実現、保持する人型汎用兵器であり、当然この戦争であっても主戦力として期待されていた。

 だがそれは幻想に終わる。アーマードコア・ネクスト(ネクストAC)と呼ばれる企業側の新兵器によってアーマードコア(ノーマルAC)は一方的に蹂躙された。

 ネクストACは『next』と銘するようにノーマルACの次世代機に位置する兵器である。その特徴は言わずと知れたコジマ技術、及びAMS(アレゴリーマニピュレイトシステム)であり、ノーマルACとは比べ物にならない戦闘能力を発揮、結果戦争を僅か一ヶ月で集結させた。

 ここで問題となるのがコジマである。コジマ粒子はネクストACには必要不可欠な存在であり、国家解体戦争を終結させた一つの要因と断言しても過言ではない。

 だが、コジマ粒子は軍事兵器(ネクストAC)に多大に恩恵を与えるが、対して環境に悪影響を及ぼすものであった。

 話を戻そう。国家解体戦争によって世界の実権は企業が握った。これによって世界の荒廃が始まったともいえる。だが、それはあくまでも始まりであり、直接的な要因は他にある。

 その要因は”リンクス戦争”と呼ばれる争いである。

 リンクス戦争を語る上であの人は欠かせない存在だろう。低いAMS適性であったために最初は政治的価値しかない小さな存在だと思われていたが、結果的に戦争自体を集結させるに至った(イレギュラー)

 アナトリアの傭兵。元は歴戦のレイヴン()であり、同時に最後のレイヴンである、()を。

 後にリンクス戦争と呼ばれるようになる戦いでアナトリアの傭兵は17機ものネクストACと対峙し、打ち破っている。無論一対一などという状況だけではない。一対多数の状況でも彼は勝利し、帰還している。

 極めつけは、レイレナード社を崩壊させた事だろう。国家解体戦争に参加し、世界の利権を握った大企業の一角を彼は単機で壊滅させてしまったのだ。

 これにより企業間のパワーバランスは崩壊、世界は混沌たる経済戦争の波に飲み込まれていった。

 リンクス戦争は『リンクス』という言葉から想像できるようにネクストACを用いた戦争である。

 先ほど述べたようにコジマ粒子は環境を多大な悪影響を及ぼす物質である。

 それがこの戦争にて大量に地上に散布されてしまったのだ。

 コジマ粒子を軍事産業に応用し、世界にばら撒いたのはその世界の人間である。

 だが、争いしか世界に辟易した世界が送り込んだ悪魔であると言えるかもしれない。

 

 この(ISが世界を左右させる)世界では、コジマ粒子に関する知識、危険度どころか存在すら認知されてはいない。

 作戦行動においてネクストACを使用するということは地上に汚染物質をばら撒くに等しい行為なのである。

 現状では放出されたコジマ粒子は自然の浄化力によって事なきを得ているが、このバランスが何時崩れ、汚染が始まるか誰であっても分からない。

 あくまでも現状だ。こちらが現在同時運用する戦力(ネクスト)は三機。現在の環境でと考えると問題は無い、と判断できる。

 だが――、もし我々が恐れている()()事態が発生するとなると話は変わってくる。恐らくこの世界はあちらとと同じく急速に滅びの一途を辿るだろう。

 現在、此方が確実に対抗できる戦力は先に述べたとおりである。これでは負けは必至、まずは戦力の増強である。

 だが、これに関しては当てはある。故に今急いで行う必要は無い。

 コジマ粒子の影響を無効化若しくは軽減する装置の開発こそが急務であろう。

 物事は常に最悪の事態を想定して動かなければならない。もし戦場にて継続的に此方の戦力の殆どを投入する場合、汚染のリスクは当然高まってしまう、少なくとも自らの手でこの世界の首を絞めるのだけは回避したい。故に、これを最優先の事項と設定させて頂く。

 

 サジタリウス及びグリムは現在の職務をこなしつつ、別命あるまで待機。

 時期等は分かり次第伝達されるように手配しておく。

 では、話はここまでだ。最後はこの言葉にて締めくくらせて頂く。

 

 

 人類に黄金の時代を……




最後の方、ちょっと今までと感じを変えてみました。
タグでアンチ・ヘイト付けているんですけど、アンチな内容って別にこれと言ってないような気がしています。このタグどうしよう……


高評価をいただければ幸いです。
また、誤字指摘を含む感想も受け付けております。
一言いただければ、と思います。

5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。

            穴三 ドヒャァ


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01-11 訓練

戦闘が書きたいばかりに話にねじ込み、内容が変わったりかわらなかったり。
もしかして:難産
そしてちょっと短め。


01-11 

 

 朝、誰もが良い日だと言いそうなほどの晴天。雲ひとつ無く、青々しい景色が広がる空。

 時計の太針は8をまわり、学園という特性故、少し慌しくなっている。

 そんな中そこにいる人たちの態度は様々だ。

 ある人は長い髪を括りながら廊下を走る。ある人は友と談笑をしながらゆっくりと歩を進める。

 リノリウムの床が発する靴の音はどことなく心地の良い音色に聞こえ、壁が反響させる生徒達の元気の良い声はまだ眠気眼の人々の目を覚まさせる。

 ここで注意しておきたい事ある。このような場を見たならば、元気の良いと機嫌の良いを同じような意味として捉える人が時々現れるが、それは大きな間違いである。

 人が感じるのは雰囲気だ。

 周りのテンションの高さ、声量、気配、判断すべきところは多々挙げられるがそれは全て感じ、捉えて判断するのは人である。とするならばこれらを全体的に雰囲気と纏める事ができるかもしれない。

 周りの雰囲気に流されて勝手なイメージを抱いてはいけない。もしかしたら機嫌云々を表に出さず、仮面を被っている人が居るかもしれないのだから。

 だが、精神的に成熟していない、若しくは内に秘める事が苦手な人は、秘めることなく表現する事だろう。それは決して悪い事ではないし、視点を変えてみれば『良い』とも言えるかもしれない。

 しかし、その良し悪しは状況によって変化していく。そう、常に。

 

 

 

 

「んあーっ、もーっ。なんであんなに鈍いのさっ!!」

「知るか」

 

奇声を上げるのはツインテールの少女、その黒髪は太陽光を反射し、黒曜の如く光り輝いている。

 その小柄体躯はさながら猫を彷彿とさせ、その瞳は愛玩だと暗に述べているのか人を惹きつける様な魅力を放っている。

 だがしかし、行動が残念である。髪を振り乱し狂乱する様はまるで駄々をこねる子供。彼女の年齢を考えると少々予想できない行動だ。

 優は呆れ顔でその光景を眺めている。それはもうすごい顔で、どこぞの逆流王子も真っ青である。

 今はそろそろ朝のSHRが始まろうかとする時間帯。一組では遅刻は即ち女帝による出席簿制裁を意味している。優にとってその制裁を掻い潜ることは出来るものの、できることなら出来事自体を回避したい。

 

「でさ、私は言ったのよ。『約束は覚えてるか』って」

「ああ、で?」

「それをアイツは何て言ったと思う? 『奢ってくれるってやつか』よ!? 信じられる!? アイツ私が言った事の欠片も理解してなかったのよ、信じられないでしょ!?」

「……そーだな、アイツはあんな奴だからな……うん、仕方が無いと思うよ?」

 

 最近思うが、相当一般的な行動をとるようになってきたと思う。首輪付きの時はそもそもあまり喋らなかったし、あちら(束ラボ)では最近テルミドールの口調を意識しているだけに最近どれが素であったかが曖昧だ。だが、仕方ない事であるしあまり気にすることは程ではない。彼の口調はこれから必要になってくることだろうし、自分は自分、それは不変であるのだから。

 それにしても一夏の朴念仁には頭を悩ませられる。どうしてああも鈍いのか、これでは一種の才能だと言わざるを得ないではないか。幼い頃からそのような経験は無いという事は知ってはいるが(ソース元は篠ノ之束である)それにしても鈍すぎである。

 彼のあの特性に関しては優も半ば諦めかけている。いくら技術的な支援を得た山猫でもできるのは戦力的な介入だけであり、こういった精神的な問題に関しては門外漢であるのだから。そこまで完璧超人ではない。

 

 優はチラリと左手に巻いている腕時計を見る。時計の針は刻一刻と始業時刻に近づいている。

 廊下に出ていた生徒はあらかた教室の中に入っていった。ざっと見渡して今廊下に居るのは自分達を含め数名。頃合だ。

 

「凰、話に関しては一夏にも聞いてみよう。だからとりあえず教室行け。遅刻は勘弁だ」

「あー、そういえばもうそんな時間か。わかったわ、じゃあまた後でね」

「ああ」

 

 そういえば、対抗戦の組み合わせの発表って今日だったなと、小さな声で呟きながら教室へと入る優であった。

ちなみに数時間後、彼は一夏の対戦相手が凰であることを知ったようだ。

 

 

 

 

                  *

 

 

 

 日は変わり五月。鈴音がIS学園に編入して数週間が経過した。

 怒りは短い狂気である。この言葉より判断するならば人の心情的な問題は時間が解決してくれると言えるかもしれない。

 だが時間によって解決されるのであればその逆――間違った考えが憎悪を呼んだり、悩みすぎて逆に答えが導き出せなくなったりすることもあるだろう。

 結論から言えば人の心はそう簡単なものではないということなのだが。

 

 数週間の時を経た訳だが、凰鈴音の機嫌が治ることは無かった。

 彼女の性格ならば想像に想像を重ね(悪い方向に)機嫌を悪くしそうなのだがそれはなかった。一部の話によると彼女の考えを矯正する話し相手が居たらしいのだが詳細は不明である。

 しかしながら、それは後ろに般若を従えている、いない程度の差異であり、特定の人物にとっては十分脅威である。

 

「さて、来週から対抗戦期間にはいる。日本内外からのIS関係者、国家重鎮の方も見学に来られる。自分の行動に責任を持て、お前達の行動一つ一つが世界を左右する要因に成りかねん。

 また、対抗戦用の調整がはいるので、一部施設は今日をもって使用できなくなる。各人気をつけるように」

 

 織斑千冬のこの言葉にて午後のSHRが締めくくられた。今日はもう授業は無く、放課後の自由時間を残すまでになっている。

 一夏はアリーナにて対抗戦に向けて猛特訓を行っていた。荒削りながらもその戦闘スキルを磨き、素人とは呼べないレベルにまで達していた。

 

「オオオオオッ!!」

 

 横薙ぎに振るった雪片が前方から放たれる光線を消滅させる。

 その後直ぐにその残心を利用して体勢を変え、続けて放たれる四方からの光線を回避する。

 

「くっ、往きなさい、ブルーティアーズ!!」

 

 セシリアは回避された事に驚きながらも直に追撃に出る。直後に狙撃銃(スターライトMk.Ⅲ)を連続で発砲。ただ愚直に放たれたわけではない、一発を除いて全てが白式の回避位置を予測して放たれた。偏差攻撃、(あらかじ)め敵の回避するであろう位置に攻撃を加える事で相手に損害を与える高等技法。敵はそれによって『逃げても撃たれる』という幻覚を植えつけられ、回避挙動を制限する心理的打撃をも与えることのできる代物だ。

 放たれた光線は全部で5。まるで白式という白鳥を捕らえる檻の如く放たれた攻撃の内いくつかは白式の零落白夜によって消滅させられたが一撃は肩の装甲を抉り取った。

 一夏は悔しさに少し表情を歪めたがそれも束の間、零落白夜の使用を止め雪片を実体剣に戻し、セシリアに向かってきた。

 近接特化機に距離は不要、その特性をやっと掴めてきたのか回避一つ一つも距離を詰めるようにしている。

 嬉しい、こうまでも貪欲に自分達に近づこうとする精神が。そして同時に嫉ましい、彼をこのように思い至らしめた人が。自分でないだろう。では誰だろうか、幼馴染、姉、世間? そんなこと分かる訳が無い。個人的には姉というものが一番有力であると思ってはいるが、それはあくまでも起爆剤。では燃料は? 彼をここまで燃え上がらせる燃料となっている人は誰か。

(そんなもの、考える必要も無いですわね)

 もう一人のISを動かせる男、バランスなど明後日へ捨てたかのようなピーキーな機体を乗りこなす謎の少年。

 彼の事を考えてみると一夏の操作は彼のそれを意識したものだといえないこともない。

 尤も、彼の動きを模倣していると仮に言うのであればあまりにも未熟だと言わざるを得ないし、それ以上に姉の影響が大きいと思うが。彼は一種の天才だ。個人的には絶対裏があると思っているが(普通の素人にああも簡単にあしらわれるわけが無い)巧妙に隠蔽しているのか強固に統制してあるか、はたまた単純に思い過ごしなのかは分からないが、全く情報を手に入れることが出来なかった。

(ここは、本人に直接訊くしかなさそうですわね)

 これが最善。悪手ではないだろう。分からない以上、聞くしかない。

 

 セシリアは足元に控える二機のミサイルビットに命令を下す。

 手元のライフルは不用意に連射できない。排熱を十分に行わないのは悪手、主武装の使用不能は形勢逆転の要因になりかねない。

 本来スターライトmk.Ⅲは狙撃銃であり連射には向かない。更に実弾ではなくレーザーを放つ特性上熱の蓄積は避けられない。

 故にセシリアは今まで温存していたミサイルビットを使用する。

 ミサイルはセシリアの武装の中で数少ない運動エネルギーにて敵を攻撃する武装だ。

 

「放ちなさい!!」

 

 ビットから一斉にミサイルが発射される。

 一夏はその操縦の未熟さ故に移動に多様さは無い。あくまでも直線的な動きが主体の且つ真正面から向かってくる彼に攻撃を当てるのは容易なことだ。

 故に命中は必至。距離を詰めようと躍起になっていたためか確認が遅れ全弾命中した。

 先に述べたように彼の動きは()()()()()()の模倣だ。彼らの動きは高い技術があってはじめて形を成すものであり、それがただの素人に再現できるはずが無い。寧ろ逆、彼らの動きは実践ならば一歩間違えると死に直結する程。平たく言えば、彼の今の行動は自殺行為に等しい。それが仮にも代表候補であるセシリアにとってただの的。この機を逃すわけが無い。

 そしてミサイルというのがいけなかった。

 ミサイルの爆風は衝撃を放つ。普段そのような兵器を身に受ける事のない一夏に耐性など着いている筈も無く――

 

「ぐあああっ」

 

 散らすことなく全てその身に受けるのだ。

 硬直。ISの性能をもってしても吸収できなかった衝撃は機体の動きを止めるには十分なものであった。

 そしてこの瞬間にできた隙は勝敗を決め付けるには十分なものだった。

 セシリアは冷却が終わったスターライトを構え、標準を白式に合わせる。

 

終曲(フィナーレ)ですわ」

 

 放たれる蒼光。試合終了の鐘が鳴る。

「またかーっ」と悔しがる一夏を見て、セシリアはまるで幼子を見守る親のように優しい表情を浮かべていた。

 

 

       *

 

 

「まったく、お前は無策に飛び込みすぎる」

 

セシリアとの模擬戦を終えた一夏に待っていたのは幼馴染の説教であった。

 

「お前は千冬さんや高城とは違うのだぞ? 無謀すぎる。あれは自分から弾に突っ込んでいるようなものだ。

 お前に今必要なのは戦況を見極める目だ。精進しろ一夏。いまのそれは自殺行為だ」

「ってもなぁ、どうにもわからないんだよなぁ」

 

 分からなくて当然。箒のいう目とは長年の経験から身につく一種の心眼のようなものであり、そもそも経験が不足している一夏には現段階では習得できない。

 しかし一夏のあの動きを形にするならばどうしても必要となってしまう技術だ。

 

「それは知らん。自分で気付くべきだ」

「ですよね……」

 

 一夏も分かってはいるのだ。だが如何せん完成に近づくことは無い(尤も元々無茶な話なのだから仕方が無いのだが)。

 

「まぁいい。一夏、千冬さんが言ったとおり、来週からいよいよ対抗戦だ。アリーナの調整の事も考えて実質特訓も今日で最後だ。次は本番。日本男児として無様に負けることは許さんぞ」

「ああ、あれだけ必死にやったんだ。こんどこそ白星をもぎ取ってやるさ」

「無論だ、お前ならきっとやれる。なぁセシリア?」

「当たり前ですわ! この私が訓練をつけているのですわよ? 当然のことでしょう!?」

「対中距離射撃型の対策は問題ないだろう。あとはお前次第だ」

「ああ、任せとけ」

 

 一夏はそういって待合室を出、更衣室へ向かう。

 ドアセンサーに手をかざし、更衣室にはいるとふと黒い影が目に入った。

 

「一夏!!」

 

 闖入者は一夏が良く知る人物であり、それを確認した一夏は今日何度目かの溜息をついた。




セッシーとモッピーの仲は良好のようです。
さて、次回はついに戦闘。そして彼らが動き出します(つまり物語が動き出します)。
無理やり戦闘をねじ込む訳ではないのできっと……書ける……はず……です。


高評価をいただければ幸いです。
また、誤字指摘を含む感想も受け付けております。
一言いただければ、と思います。

5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。


挿絵機能が追加されるようですね。だんだんと機能が拡張されていく。運営さんの手腕に感謝。
そういえばこのサイトってTwitterとかの情報を開示してもいいものなのだろうか、もし開示してもいいなら更新報告とかそっちでもやりたいですね.というか連携機能つけてくださいお願いします

2013/05/12 誤字修正及び表現を一部修正


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01-12 騎士は龍と邂逅す

さて、お待たせいたしました。戦闘回です。
途中英文が混ざりますが、間違ってても気にしない方向で。


 時計の針はそろそろ午前10時を回ろうとする頃、第2アリーナは猛烈な熱気に包まれていた。その熱気は若干の狂気めいたものを孕んでおり、各地から言葉が飛び交っている。

 それもそのはず、今日は待ちに待った組の代表達によって行われる戦い、対抗戦が行われるためだ。各人の視線はアリーナ内の試合場に向けられているが、篭められている感情は様々だ。それは期待だけとは言いがたい。そこにはまるで値踏みをするような不躾なものも存在していた――恐らくはどこかの企業や国の機関のものなのだろう。機体を把握し、パイロットを見極め本社本国へ送信するための端末、戦闘ログを残すためのカメラ、各種感知機器。隠す気はさらさら無いのか一部ではまるで要塞のように機器を展開しているところもある。

 まるでモルモット、クラス代表はモルモットにでもなったのかと思ってしまう状況。しかしながら、周りの生徒――特に上級生達は疑問に思っている様子はない。

 これが日常なのだろうか、だとするならばここはどんな魔境なのだろうか。()自身これがこの状況が日常に変わってしまうと思うとぞっとしてしまう。

 

「まったく、冗談きついな。こりゃ相当だぞ」

 

 まぁ、だからこそ自分の行動も怪しまれる事がないのだろう。木を隠すなら森の中、とはよくいったものだ。

 確かに、要塞のように機材を展開している所まであるのだ。人々が注目するなら彼らだろう。つまりそれは自分が行動し易いということだ。これ以上望むことは現状では不可能だろう。

 

 周りから歓声が沸きあがる。空中の電光掲示板に生徒の情報が記載されたのだ。そしてそれに続くかのようにアナウンスが流れてくる。

 始まるのだ。雛鳥による戦いが。尤も、自分からしてみればとんだ遊戯に過ぎぬが、まぁ模擬戦だと思って暫し観戦するとしよう。

 そして――時が来たらならば――

 ()は言葉を発すことなくただ静かに、口を噤んでアリーナに目を向けるのであった。

 

 

         *

 

[Starting Combat_System || change to Combat_mode from Nomal_mode ]

[Starting SubSystem_A and Subsytem_B ……Completed] 

[Activating FCS(射撃管制システム)……Skip]

[Activating RCS(姿勢制御システム)……Completed]

[Completed starting Combat_System]

[MODE:Combat, Infinite_Stratos:Byakushiki activated]

 

 生身の時よりも明瞭な視界。湧き上がる万能感。四肢がまるで生身のように可動する。

 この感覚だ。そう、この感覚だ。一夏は高揚感に身を躍らせていた。

 決して力に酔ったわけではない。決して慢心ではない。なぜならば目の前に待ち受けるは巨大な壁であり、技術的には自分が大きく劣っているからだ。

 力の差は歴然。このままでは結果は明らかだ。しかし、思ってしまうのだ。こいつ(白式)と一緒なら何でもできると。

 根拠など無い。それを為すだけの力も今の自分にはないだろう。しかし、それでも、そうだとしても――

 

「俺は、やるんだ」

 

 根拠など必要か? そこまで世界は絶対か? そうではないだろう。たとえ1%でも0.1%だとしても、0ではない。どこまで値が小さかろうとも0でなければ、やる価値はあるのだ。

 

「一夏、今謝るなら痛めつける程度を変えてあげるわよ」

 

 まるで自分が絶対強者かのように告げる鈴音。展開しているISの装甲と相まって、威圧感をかもし出している。なんとも優しい心遣いだ。だが、その気遣いは俺には――

 

「そんな器量持ち合わせてないくせに、よく言う。本気で来い、鈴。」

 

 ――不要だ。

 双方同時に武装を展開する。

一夏が展開するは近接ブレード『雪片弐型』、対して鈴音が展開するのは一振りの偃月刀――異形ではあるが恐らくそうだ。

 鈴音はまるでバトンを扱うかのようで重心近くを掴みくるくると回す。

 

「一応言っておくけど絶対防御は万能じゃないのよ。貫通さえしてしまえば本体にも損傷を与えられるわ。だから……覚悟しなさい、一夏」

 

 偃月刀を回すのを止め、構える。

 その目はまるで炎の如く燃え盛っていた。更に若干の殺気も含んでいる。

 鈴音の動きに呼応するかのように一夏も雪片を正眼に構える。

 一夏の武装は近接特化、対して鈴音は中近距離。相性は決して悪くない

臨戦態勢、開始のブザーが鳴った瞬間に両者は激突するだろう。

 両者の間には形容詞しがたい火花のようなものが散らされ、

 

 開始のブザーが鳴った。

 

最初に動いたのは鈴音だ。

 鈴音は偃月刀を大きく振りかぶり、白式に叩きつけてきた。一夏はそれを雪片を偃月刀の刃の腹に当て、軌道を逸らす事で回避、お返しとばかりにそのまま返し刃で甲龍を切りつける。

 鈴音は重心を支点とし偃月刀を回転、柄部分についているもう一つの刃で雪片を受け止めた。

 単純なマシンパワーでは甲龍の方が上。一夏は鍔迫り合いになることを避け、大きく回避した。

 

「へぇ、初撃を凌ぐなんて大したものじゃない」

 

 甲龍の肩部装甲が展開する。データにあった、あれが恐らく中距離武装。

 それに実体は無く、防御は困難。不可視不定形の弾丸。

 一夏は射線を避けるように横に回避した。直後に放たれた透明が一夏の髪を揺らす。

 

「へぇ、龍砲(りゅうほう)も避けるなんて、砲身も砲弾も見えないの……にっ」

 

 連続して偃月刀に夜攻撃を連続して加える。技量のあるものならば力任せな攻撃など全て往なしてしまいそうなものだが、如何せん一夏にそこまでの技量が備わっているわけではない。

 鈴音の武器は雪片よりも巨大だ。正面から受け止めるにはそれなりの覚悟がいるし動きも制限される。

 

「捕まえた」

「ぐっ」

 

 もし鍔迫り合いになった場合、武装が刀剣一つの一夏と、複数ある鈴音の場合どちらが有利だろうか。そして甲龍の衝撃砲は腕部の状態に依存しない。即ち、

 甲龍の両肩から衝撃砲が発射される。それは鍔迫り合いで体勢が崩れている一夏に確かに突き刺さった。

 衝撃砲では射撃型の主砲のようなダメージは与えられない。しかしながら、それは重要な事ではない。この兵器の特筆すべきなのは衝撃だ。

 衝撃を与えると短時間であるが敵の体勢を崩し、戦況を有利に持っていく事ができる。特に、近距離で放った場合は手持ちの武器の攻撃を防がれる事なく与えられる利点がある。

 

 衝撃砲の二連射撃を受けた一夏は衝撃で体を硬直させた。機体も衝撃に耐えることができなかったのか稼動部に不具合が発生し、メッセージとなって一夏に伝えられる。

 鈴音はその隙を逃さず一夏に偃月刀の一撃を放った。

 元々パワータイプの機体に巨大な偃月刀だ。幾ら重心付近を掴んでいようとも伝わる力は凄まじい。白式はその装甲を大きく散らせ、後方へと仰け反った。

 

「まだだ、鈴!!」

 

 しかし一夏は諦めない。まだ負けていない、まだ逆転の余地はあると考えながら甲龍から離れ、早急に体勢を立て直す。

 しかし離れすぎてはいけない、武器構成的に離れるのは悪手。特訓の成果か、一夏も理解しているようで体勢を立て直して直にスラスターの方向、出力を上げ、甲龍に向かった。

 甲龍がパワータイプなら白式はスピードタイプだ。パワーでは勝てるはずが無い。ならば勝っている点で対処すればいい。そして一夏にはまだ彼女には見せていない奥の手がある。

 ――瞬間加速と零落白夜の併用。

 現在一夏が持ちえる最大の切り札。

圧倒的加速下から放たれるエネルギー無効化攻撃。ただででも零落白夜は相手のシールドエネルギーを貫通するというある意味鬼畜ともいえる能力を持つ。それに加え瞬間加速で得られる速度だ。防御特化ならいざ知らず、通常の競技用ISでこれに耐えられる機体はそうそうない。

 鬼札とも言える代物を一夏は使う事ができるのだ。そして極めつけは、向こう(鈴音)がその鬼札を存在知らないということ。

 白式は完成したのはここ最近であり、武装データ、スペックデータもまだあまり広まっていない。それに一夏は公式の場で戦った事が全くなかったために鈴音は彼の戦法、機体の情報を入手する事ができなかった。

 しかし仮にも代表候補、直に対応する事だろう。故に通じるのは初見のみ。二度目など甘ったるいことは言えない。

 一夏に選択肢など無い、いや必要ない。近接武装に関しては如何に少ない機会を生かすという要素がそのまま勝利に繋がるのだから。それに零落白夜の糧は自機のエネルギー、外せばどの道敗北は確定だ。

 真っ向からは分が悪い、離れても砲撃が待っている。ではどうするか。簡単な話だ。

 自機の特性を生かして一撃で叩き潰せばいい。

 

 一夏は空を駆けた。白い閃光となって宙を駆けた。スラスターの出力は一瞬で最大まで挙げられ、体に強烈なGが襲い掛かる。

 だがそんな些細な事は無視する。ISの保護機能が働いている故、大事はない。

 雪片の刀身が実体から蒼い光を放つ煌びやかなエネルギー体に切り替わる。

 単一仕様能力『零落白夜』。白に蒼が混ざる様子を見て観客は流星のようだと認識する事だろう。

 

「なっ!!」

 

 鈴音の焦ったような声が聞こえる。当然だろう。一夏のような初心者がこんな高等技術を使うなど欠片も思っていないはずなのだから。

 

「おおおおっ!!」

 

 賭けは勝利。鈴音の一瞬の隙を突いて一夏は懐に入った。偃月刀は巨大なため細かな取り回しは出来ない、衝撃砲も今の状態では放つことは出来ない。つまり今の鈴音にこの攻撃を防御する術はない。

 一夏は甲龍の胴体を切り裂こうと雪片を振り下ろす。

 しかしその耳で捕らえたのは攻撃が届き装甲を破損する甲龍の音ではなくシールドが割られ、辺りに衝撃が広まる音であった。

 

                 *

 

「さて、じゃあやりますかね」




最初に出てきた男は誰なのか、気になるところですね。



誤字指摘とかすごい待ってます。
感想とかあったら嬉しいです。
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01-13 示現

さてさて、お久しぶりです皆様。
リアルの事情で執筆速度がやばい事になってました。
とりあえず書けたので投稿します。
誤字脱字、文章構成の確認がまだできていません。
後日完全版,というかちゃんとしたものを上げなおします。
なので少々お待ちを


 乱入してきた謎の機体が一夏と鈴音の前に降り立ったことでアリーナは混乱に陥った。

 観客はその恐怖のままに足を動かす。他人のことなど考えない。ある者は押され、転倒し、波に飲まれる。

 当然の事だが、基本的に人間というものは予想外の出来事には対応できない。事柄は動揺を誘う。自らの身に危険が迫るといった事態は人々の正気を奪うには十分すぎた。

 故に生徒たちは形振り構わず我先にと出口に向かう。対して研究者たちは急いで機器を片付け、若しくは守るように声を荒げている。

 決して広くは無い入り口に何十何百もの人間が集まる。入り口の広さから判断するとこれだけの人数を直に排出させるのは無理な話だ。それに、本当に自分の身を守りたいならばその行動は悪手である。

 もし乱入者の目的が個人的ターゲットを持たない、つまり無差別なものであるならば密集するほうが危険である。逆に散開すること、これこそ的が分散されるため本来とるべき行動だ。

 それに、たどり着いたところで扉は開かないのだ。

 近代化しすぎた弊害か、人力では開けることは難しい。

 しかしながら、乱入者の関心は先ほどまで戦闘を行っていた二機に向いている。

観客席と戦場の間には強力なシールドが展開されている。これはISの武装を防ぐためのものであり、そのように調整してあることから特殊な武装でもない限りこの防壁を超えることは不可能。

そのことを考えるのは現在の状況では難しいか。事前に知らされているか相当訓練を積んでいない限りは動揺して当然だろう。

 しかしながら、このような不測の事態に動くのが運営――この場合では学園――ではないだろうか。

 ISは世界最強の軍事兵器という位置付けだ。そして全世界に存在するのが500機に満たないという希少性。ならば「奪う」という選択肢に至る可能性は多分にあるではないか。

 そしてIS学園はその形態上多数のISを保有している。そして軍や研究施設と違い少なからず一般に開放されており(無論何らかの対策をしているだろうが)警備も前述の軍事、研究施設程ではないだろう。

 ならば狙うのは自明の理というもの。

 各国が常時睨みあっている故に公には手を出せぬ状況ではあるが、誰が指を咥えたまま引き下がるだろうか。

牽制であって直接的なものではない故に、行動を起こす者は存在するのだから。

 

 

 

管制室も外と同じように混乱していた。

 

「だめです。遮断シールド解除できません」

「チッ、忌々しい」

 

 特性上施設の状況が手に取るようにわかる。故に現在の状況を正確に把握していた。

 ――遮断シールド。

 元々はアリーナで行われるISからの流れ弾を始めとする攻撃、ISそのものの観客席への衝突を防ぐための機能である。

 シールドの出力はレベル設定されており現在設定はレベル4、最大出力レベルが5であることを考えるとリミッター付きのISでは少々分が悪い。

 力技では突破できない。ならば直接的手法ではなく電子的手法をとろうとした。だが、それに立ちはだかるのは敵からのクラッキング。

完璧な手法,学園側がどう対処しようとそれを上回る勢いでシステムが侵食される。

 鼬ごっこどころではない。世界最高峰の技術を誇る学園でさえも侵食を妨害することしかできない。

 

「やはりイレギュラーの存在か」

 

 今までこのようなことは無かった。それはこの学園に教員として属する者に共通する意見だろう。男性IS操縦者、どうやら是が非でも手に入れたい存在らしい。

実の弟が世界から狙われている。織斑千冬の気苦労は計り知れない。

 織斑千冬は考える。現状で侵入者に対抗できる戦力を計算し、追加投入できる戦力を見積もる。不確定要素は排除。確定情報のみで戦況を把握する。侵入機体は全身装甲、所属勢力は不明。攻撃方法はエネルギー兵器の射撃のみ。

 エネルギー兵器は減衰が激しいといわれているため低出力だとあまり長距離での運用には適さない。しかし映像を見る限り口径は大きい、つまりはある程度の遠距離からでも攻撃できるということだ。対して一夏、鈴音は近接戦闘に重点を置いた機体である。中遠距離戦闘では分が悪い。アリーナ内部はそこまで広くはないが、それでも遠距離武装運用も視野に入れて設計されているため、注意が必要だ。

 実力的な面から見ても鈴音はともかく一夏には少々荷が重い。

 

「まったく、ままならぬものだな」

 

 もし手元に暮桜があるならば即刻斬り捨てるものの、手元のコーヒーを飲みながら千冬は思う。

 

「山田先生、状況は?」

「はい、織斑君と凰さんはアリーナ内で所属不明IS(アンノウン)と戦闘中、織斑君凰さん共にエネルギー多くありません。しかしながら敵ISの攻撃が原因ではありませんので」

「そうか……ならいい。本人達もやりたいと言っているようだし、やらせてみてもよいだろう」

 

 端末越しに一夏が「やらせてくれ」と叫んでいるのが聞こえてくる。やられる気はないらしいから少々やらせてみてもいいだろう。

 現状為す術がないため、選択肢は存在しない故の選択。千冬は冷静を装いながら弟の無事な帰還を願うのだ。

 

 

       *

 

 

「いくぞぉぉぉっ!!」

 

余裕はない。早々に決着をつけなければ……!!

 一夏は残り少ないエネルギーを使用し、零落白夜を使用した。

 一夏の剣術のもとは篠ノ之流剣術というものだが、一夏のそれは後の事など考えていない。一の太刀疑わず、二の太刀要らず、その姿はまるで示現のようで。

 あとのことなど考えない。この一撃に全てを賭ける!!

 スラスターの光は尾を引き機体は流星となる。

 一撃。一夏と侵入者は交錯する。

 袈裟状に振り下ろされた刀身を侵入者はその巨大な手の一方で受け流す。そして直にもう片方を一夏に向ける。

 一夏は零落白夜を強制終了。刀を返し逆袈裟に振り上げ、向けられた()を切り払う。

しかしながら回避のための斬撃では侵入者の手を切り落とす事は叶わない。だが目的は達成した。侵入者は体制を崩し掌の砲門が一夏から外れる。

 しかし相手は直に、まるで人でないかのように体勢を立て直す。一夏の顔が一瞬驚愕に染まる。

 だが一夏の次の行動は早かった。一夏は直にスラスターを噴射、侵入者の懐へ入る。(侵入者)の機体は異様なまでにバランスが悪い。特筆するは巨大な腕部、高出力なレーザーの発射を可能とした特殊機構。細かい取り回しには不適だろう。

 そしてそれ以外に目立った武装は存在しない。故に安全地帯とみなす事ができる領域は必然的に敵の懐となる。ならば自身が為すことは一つだけ。

(至近距離からの攻撃で相手を封殺する)

 予想が正しければその解はきっと最適解になる。そして一夏には必殺の剣がある。

 どんな逆境でも覆す事のできる切り札、零落白夜。これを使わない手はない。

 一夏は即座に零落白夜を再展開。横一文字に斬りつけるべく、剣を払う。

 侵入者はその攻撃に即座に反応、その巨大な腕を強引に胴体の前に割り込ませた。

 腕部装甲で斬撃から身を守るつもりなのだろうが、零落白夜の前ではその意味を成さない。

 

「ハアアアッ!!」

 

 掛け声と共に即座に斬り払う。巨大な腕は少々の抵抗を与えたが、装甲空しく宙に舞った。

 だがその一瞬の内に侵入者は行動、後退し斬撃から身を守った。

 腕部は断ち斬られ、その断面は赤熱し火花が散る。少なくともこの戦いでは使い物にはならいほどの痛手を与えた。

 けれどもまだ油断は出来ない。腕は二本、もう一つの主砲は健在だ。

 一夏は残心を保ったままスラスターを噴射、そのままの体勢で距離を詰めようとする。

 それに対し、侵入者は残った(主砲)を一夏の目の前の地面に向けて放射。このまま進めば射線に入ってしまうと直感した一夏は追撃を断念し、残心を解き回避した。

 その隙に侵入者は距離を開け、戦況は振り出しに戻る。白式に目立った損傷がないのは幸いな事だが反面エネルギー残量は深刻であった。とはいえまだまだ十分に戦える程度の余力は残しているが零落白夜(切り札)を使うには少々心もとない。

 対して侵入者は腕を一本失っているものの凶悪な射撃武器は健在、エネルギー残量も不明。なにか細工しているのかどうかは判らないがスキャンしてみても情報が確認できないのが不気味であるが、先ほどまで戦闘を行っていた自分と比べて残量が多いのは確かだろう。

 

「鈴、状況は?」

『流れ弾は全部防いだわ、回りへの被害はないわよ』

「わかった、この調子で頼む」

『やばくなったら直に参戦するわよ、分かってるわね?』

「分かってる。やってやるさ」

 

 一夏は襲撃の直後鈴音と連絡を取っていた「自分が攻撃、鈴音が被害を抑える」といった内容で。

 このとき少々渋った鈴音であったが、説得の結果条件付で了承したのだ。

 もともと個人で戦い続けたもの同士では連携など取れたものではない、故の判断だ。

 状況は優勢だ。しかし向こうの主砲一つで戦況が変わる恐れがある。

 もともと白式は敵の攻撃を受ける事はあまり想定されていない。防御より機動を重視した結果量産機と比較して装甲が薄くなってしまっているのだ。

 まだ気は抜けない。油断は禁物。

 一夏は雪片を正眼に構え、攻撃に対応できる体勢を整える。

(おかしい、なんだこの違和感は)

 不自然な体勢移動、不可思議な回避行動。まるで単純なアルゴリズムに当てはめたような応用性のない動きは違和感を抱かせる。

 そして先ほど腕を両断したとき、奴はなにも反応を示さなかった。これが感情のあるものならば、動揺なり激怒なり何かしらの反応を示すはずだ。

 しかしこいつはどうだ。反応を示すどころか淡々と攻撃を対処しようとした。

 

「こいつ、もしかして無人機か?」

『なんですって!? けどISって人が乗ってないと動かせないのよ!?』

「いや、可能性は十分ある。鈴、お前は自分の腕を斬りおとされて何も反応しないのか?」

『そんな訳ないじゃない!!』

「それが理由だ。普通人は自らの一部が欠損してなにも反応を示さないような体じゃない。動物は、特に哺乳類なんて皆そうだ。危険信号を無視するなんて遮断でもしない限り不可能、なら!!」

 

 人の命を奪う事がないという事実だけで十分。これでこの力(零落白夜)を十分に行使できる。

 

「あとはどうやって攻撃を届かせるかだ」

 

 限界出力で零落白夜を使用すれば確実に刈り取れるだろう。だがしかし、距離が開いてしまってる現状再び近づくのは今の一夏の技量では難しい。あと一手、何かが必要だった。

 鈴音と共にやれば可能だろう。だがそれでは観客への被害を抑えられない。

 無理をして突撃するか。先ほどの交錯よりも距離が開いてしまっている現状、再接近するうちにエネルギーが尽きてしまうのがオチだ。しかしながら相手が無人機であるのならば持久戦は避けるべきである。

 だが――選択の余地などなかった。

 侵入者は直に砲門をこちらへと向け、放つ。一夏は射線から外れるように機体を移動、回避する。

 そう、選択肢は決まっているのだ。このままだといずれは機体が駄目になる。こっちは生身な以上疲労は無視できない。

 

「くそっ」

 

 最適解はない。実行可能な解は一つ考えられる中で一つだけ。

 一か八か……

 一夏はすぐさま距離を詰めようと移動を開始する。だがしかし相手の攻撃は苛烈を極める。優先度が変わったのだろうか、驚異的な速さで照準があわされる。

 相手の武装がエネルギー兵器である関係から、零落白夜を使用すれば攻撃を無視して敵の懐へもぐりこむ事ができるだろう。だが、長時間展開して果たして間に合うか。もし接近中にエネルギーが底をつくと最悪な結末が待っている。そんな賭けはできない。

 やはり、あと一手。

 

『一夏、危ない!!』

「なっ!?」

 

 迂闊だった。長考の所為で相手への注意が疎かになっていた。一瞬の隙を狙ったのかは分からないが一夏にとってその隙は致命的だった。一夏が気づいた時には放たれた光線がすぐ目の前に迫っていたのだ。

 いかに機動力を重視している白式だとしてもこの一撃から逃れる事は不可能。

 詰み、だった。

 

(そんな……)

 

 流れるは走馬灯、幼い頃から今までの記憶のダイジェストが一夏の中を駆け巡る。

 

(こんなところで)

 

 まだだ、まだ強くなっていない。俺は、千冬姉を守れるぐらい強くなるんじゃなかったのか。

 超えるんじゃなかったのか、世界最強の姉を。

 認めさせるんじゃなかったのか、織斑千冬の弟としてじゃなく、一人のIS操縦者としての自分を!!

 諦める……ものかっ!! 

 

 諦めない、この心は大切だ。諦めず、客観的に状況を整理し、論理的に思考すればいずれ解は見つけられる。

 一夏は忘れているが、ここで一つ情報を提供しよう。動いているのは()()()()()()()()

 放たれた光線は紙一重で逸れ、一夏の米神を掠っただけだった。

 慌てて視線を向けてみるとそこには腕から煙をあげ片膝をついている侵入者がいた。

 

「何者も(わたくし)の矢からは逃げることは出来ませんわ」

 

 そして上方には蒼い舞踏服を身に纏った一人の少女。金に輝く髪を靡かせ、宙に浮いていた。

その姿は堂々と、まるで貴族のような印象を与える。一夏はその名を知っている。

 

「遅かったじゃないか、セシリア」

 

 一夏は軽く笑みを浮かべ、大上段に雪片を構え零落白夜を起動。スラスターを全開にし、ただ一刀のもとに斬り伏せた。

 

 




一夏は超強化されました。
箒さんは叫んだりしません。他の人が止めるでしょう、普通。
作者は戦国大戦にはまりました。
ACVD楽しいです。
しかしながらやる時間がありません。
GE2なんかvita初期設定しただけで放置状態です。そろそろやりたい。


誤字指摘とかすごい待ってます。
感想とかあったら嬉しいです。
高評価いただけると幸いです。


<お願い>
5以下の評価をつける方は可能ならば「どこが悪かったのか」「どういう所を直したら良いのか」というのを感想の方に記述してくださいますようお願い申し上げます。


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01-14 エピローグ (1)

すいません。お待たせしました。凄い難産でした。


「遅かったじゃないか、セシリア」

 

 一夏の危機的状況を救ったのはセシリアだった。一夏はこの支援を受けて直に体勢を立て直し敵ISを切り伏せた。これによって敵は沈黙。事態は収束したと思われた。

 これはその後の裏方の話である。

 

 

 織斑千冬は同僚の山田真耶を始めとする複数人で先の侵入者の解析を行っていた。

 研究畑の人間は解析を結果から発覚する新事実に狂乱しているが、彼女は憂鬱であった。

 原因は研究員が狂乱している理由とほぼ同じである。

 

「今回侵入してきた機体数は三。一機にはまんまと逃げられ、一機は織斑がコアごと両断、そしてこの機体は更識が鹵獲した。そしてその全てが無人で未登録のコア。これが偶然だと思うか?」

「織斑先生はこの事件は篠ノ之博士が関係していると思っているのですか?」

「その可能性は高いだろう。現状ISコアを量産できるのは奴だけだ。まったく、余計な事を・・・・・・」

 

 千冬は頭を抱える。彼女は今までの傾向、そして今回の事案を照らし合わせてあの天災が関わっていると確信していた。

 

「けど、どうして博士はこんなことを?」

「奴の行動原理は謎だ。どうせ面白そうとかそんな理由だろう。しかし・・・・・・解せんな」

「なにがですか?」

「ああ、奴は話したがりやでな。何か新しいものを発明したり改良したら何かしらのコンタクトをとってくるはずなんだ。しかし、この技術・・・・・・この技術は私も欠片も知らない」

 

 敵ISのレーザー武装。これは長年ISに関わる彼女でも見たことのない代物であった。

 あのような収束率。IS学園という性質上、各地のデータを収拾することができるがこの武装はどの技術体系にも当てはまらなかった。

 

 「この技術。もしどこかの軍需産業に流出してみろ。大騒ぎになるぞ」

 

 確信する。これは一種の革新であり、軍事の歴史を変える可能性すらもっていることを。

 

「じ、じゃあこれをどうしかしないと」

「そうだな。恐らく学園内では戒厳令が敷かれるだろう。この情報少し精査する必要がある」

 

 軍事バランスが崩れる事態は避けなければならない。これはISという()()を教導するものとして最重要な事柄である。

「とにかくこれは重要事項だ。山田先生、くれぐれも内密に」

「はい、先生」

 

 この技術は、まだ流出させてはならない。まだ解析が数パーセントしか行われていないとしても、その脅威の片鱗を見せている、これはまだ世に出てはいけない。

 

 

 そのときだ。後ろの扉が開き、人が入ってくる気配がした。

 その扉は本来限られた学園関係者しか入ることが出来ないものだ。千冬は同僚が来たのかと思い後ろを向いた。

 

「貴様は――!?」

「どうも、世界最強(ブリュンヒルデ),預けていたものを取りに来たっす」

 

 そこにいたのは一人の青年。恐らく20前半。癖のある黒髪でセルフレームの眼鏡をかけている、()だった。

 千冬はこのような男は知らない。教員でもなく、生徒でもない。であれば誰なのか。

 高速で思考が巡り,結論を出す――敵だと。

 

 千冬は直に近くの警報装置に手を伸ばし,押す。本来ならばけたたましい警報が鳴るはずなのであるが何故か作動しない。

 

「何故だ・・・・・・」

「ああ、この部屋周辺の制御は我々が握ってるっすよ。無駄っす」

 

 男から無慈悲な言葉が放たれる。セキュリティが握られた。この学園のセキュリティは世界最高といっても過言ではない。それが誰も知ることなくクラッキングされる。この世界においてそれが可能なのは千冬が知るうえでただ一人。

 

「これも奴の差し金ということか」

「奴が誰を指しているのか判らんっすけど,上からはその機体を奪取するか情報が出ないぐらい破壊しろって言われてるんすよ」

「だから差し出せと?」

 

 千冬は殺気の篭った目で男を睨む。だが男はその殺気を飄々と受け流し言う。

 

「無駄な犠牲を生むことがないことは確信してるっす。俺自身はそんなことしたくないっす。でも――」

 

 男は一度言葉を切る。そして放たれるは濃密な殺気。千冬のと比べても遜色ない程のソレが男から放たれる。

 

「そちらが望むのであれば,仕方ないことだと思わないっすか?」

 

 

 

 最初に動いたのは真耶だった。真耶は与えられた自身のISを展開する。濃緑の翼を持つその機体はラファール・リヴァイヴと呼ばれる第二世代。

 ISに対抗できるのは同じISのみ。男は直に制圧されると思っていた。

しかし男は動かない。まるで動く必要が無いとでも言うかのように不敵な笑みを浮かべている。

 何故だ。何故そこまで余裕なのだ。

 千冬は疑問に思う。だが彼女は同時に理解していた。そもそもこの学園はISの為の学園だ。防御の要は勿論ISであり、そこに潜入するぐらいだ。何らかの対策をしているとみてもいい。

 男は静かに口を開く。まるで当たりとでも言わんかのように言葉を紡ぐ。

 

 ――クロエ。

 

 変化は劇的だった。制圧しようとする真耶のISはその形を崩し、消滅する。真耶は理外の出来事に動揺する。故に男の動きには対応できなかった。

 男は真耶に近づき、その肩に手を当てる。そしてもう片手を顎下に添え、全てを連動させて真耶を掌握する。そのあと男は懐から拳銃を出し、制圧した真耶の米神に当てた。

 

「さぁ、どうするんすか?」

「――っ」

 

 ISに対する圧倒的優位性。この男はISを無効化する手段をもっているのだ。現在の防衛の主流派IS、それはここも例外ではない。つまりはこの学園の防御機構はすべてこの男には通用しない。

 

 

 

 

 

 

 

「もって行け・・・・・・ただし、約束しろ。山田君の安全は保障すると」

「織斑先生っ!?」

 

 千冬は折れた。このままでは本当に同僚が殺されてしまうかもしれない。このままでは生徒達に被害が及ぶかもしれない。

 被害を考慮しないとしても今の自分では止められないかもしれない。

 世界最強はこの時点で得体の知れない男の脅迫に屈したのだ。

 

「良い判断っす」 

 

 男は満足そうに言う。

 

「では少し眠ってもらうっす。二時間ほどで帰ってこれると思うんで後の処理は任せるっすよ」

 

 

 

 

 

 結果から言うと千冬が目覚めた時には機体は無く、ただ静かな研究室が広がっているだけだった。

 

 

*****************************************************************

 

『博士、あれの回収は終わったようだ。貴方が懸念していた織斑教諭への被害も皆無。クロエ嬢の助力あってか、作戦は無事完了と言えよう』

「あったりまえだよ。私のくーちゃんが付いて行ってるんだよ。万が一にも失敗なんてないに決まってるじゃん」

『それもそうか。まぁ奴にはよろしく言っておこう』

 

 ここは束ラボの一室。篠ノ之束は滅多に開かない通信回路を開いてとある人物と話をしていた。

 彼女の肌は少し上気している。紙も少し濡れているところを見るに、シャワーでも浴びていたのだろう。

 

『あまりそのような姿、異性に見せるものではないぞ』

「別に見られたって気にしないよ。君は猿に姿を見られて何か思うの?」

『猿、か。博士の人嫌いも筋金入りだな』

「まぁ冗談だけど。見せてもいい人にしかこんな姿見せないって」

『冗談半分に聞いておこう、話は以上だ。何かあったらユリアーナ経由で伝えよう。ではな』

 

 通話が切れる。なんともあっけない終わりではあったが、束は気にしない。

 彼らは自分の野望のために働いているのを知っている。彼女にとって彼らは意見の代弁者であり、手であり、足であり、剣であり、盾なのだ。

 彼女は過度な逸脱がない限り特に口出ししないと決めていた。

 それが彼らの力を十二分に引き出すための秘訣であり、同時に強みでもあった。

 

「あと、一人。あと一人揃えば全てが始まる」

 

 そう始まるのだ。全てを元に戻すための戦いが。自分の求めたものを実現するための戦いが。

 彼女は求め続けるのだ。

 

 無限の成層圏を。




次回から原作でいう二巻の内容に入っていきます。もしかしたら短編がひとつ入るかもしれません。
今回は難産に難産を掛け合わせたようなすごい難産でした(どういうこっちゃ)。多分内容的にかなり急展開かもしれません。謝罪いたします。
次回からは大丈夫だとおもいます。執筆時間がどうなるかは微妙なところですが。
ではまた。

-オマケ-
誰か「エロイ格好して出てくるな。焦ったじゃねーか」


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