テイルズオブヴェスペリア ~転生者は錬装士(マルチウェポン)~ ( 奏)
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転生

「うん? あれ、ここ何処だ?」

 

上下左右を見渡すがどこを向いてもただ真っ白な空間が広がっている。だが自分がなぜこんな場所にいるのかと思い出そうとするが記憶にもやがかかっているような感じがして思い出せない。

 

そしてしばらくその場で思考を巡らせていると………

 

 

「あ、どうやら気がついたみたいですね♪」

 

「へ?」

 

 

突然後ろから声がしたので振り返ってみるとそこにはなんか角みたいなのがはえた中学生位の少年が立っていた。

 

その姿を見た俺は一瞬にしてその人物が思い浮かんだ。.hack G.U.の欅(けやき)様だな。なんで月の樹のギルドマスターがこんなとこにるんだ?ていうかそもそもなぜゲームのキャラが?

 

「いや~この前そのゲームしてたら、このキャラいいなと思ったから自分の人格ごと変えちゃいました♪」

 

「人格ごとって……んなアホな。 てか、どちら様?あとできたらここがどこか教えてくれるとありがたいんだけど?」

 

「そういえば自己紹介がまだでしたね♪僕は…~」

 

 

本当に声までで欅様とおんなじだな。

 

 

「神様です♪」

 

「はい?」

 

中学生くらいの少年が笑顔で答える。

え?なに、あの文字とか書いたりするやつ?

 

 

「それは紙ですね♪」

 

 

じゃあ頭皮にくっついてる毛のことか?

 

 

「それは髪ですね♪」

 

 

じゃ、じゃあ…

 

 

「現実逃避はほどほどにしといてくださいね♪」

 

 

スイマセン…てか、さっきから心読まれてるだと!?

 

 

「神様ですから♪」

 

「…はぁ、それで神様がなんのようですか?」

 

 

まぁ、コイツが神様であることを否定できる要素も無し。そしたら現状をある程度受け止めなければ話も進まないか…

 

 

「はい♪単刀直入に言いますとあなたは死にました♪」

 

 

え~… あ、思い出した。たしか友人庇って車にはねられたんだっけ。

 

 

「はい、ですがそのとき死ぬのはその友人のはずだったんですが…」

 

 

かわりに俺が死んだと…ずいぶんあっけなく死んだもんだな。

 

 

「正解です♪しかしそうなるとあなたの器は常人よりかなり大きいので

世界の器の絶対のバランスが崩れてしまうんですよ♪」

 

 

えーっと、つまり今回は俺が死んだが俺の命の器は本来死ぬはずの俺の友人の器より大きいからその世界

の絶対量をオーバーしてしまいヤバイと…

 

 

「はい♪正直最初はかなり危険でしたね。危うく全ての世界に悪影響が出るところでしたし♪」

 

 

「じゃあ俺はこのまま死ぬのか?」

 

「いえ、このままあなたに死後の世界に行かれるとまた問題になるので…」

 

 

 

 

「あなたにはとある世界に転生してもらうことになりました♪」

 

 

………転生って、まあ死ぬよりかはいいか。

 

 

「ちなみに転生先の世界はテルカ・リュミレースです♪」

 

 

テルカリュミレース?たしかどっかで聞いたことが………

 

 

「ま、ぶっちゃけるとテイルズオブヴェスペリアの世界ですね♪」

 

 

あ~一応あれは全クリしたっけな……

 

 

「って!ヴェスペリア!?いやいやそこで生きて行けと!?」

 

「はい♪」

 

 

神である少年はニコニコしながら肯定をしてきた。

 

無理ゲじゃね?魔物とか大量にいる世界で生きろとか…転生直後に魔物に食われてゲームオーバーでしょ…

 

 

「特典がありますから大丈夫ですよ♪」

 

「特典?」

 

 

なんか武器とかくれるのか?いやいや武器とかもらっても

魔物には勝てないだろうし………いや、いけるか?

 

 

「はい、転生する特典として.hack G.U.のアーツ、術、アイテム、スキルの全てが使えます♪」

 

ずいぶんと多いな。でもまぁ、それだけあればなんとか生きていけるか…。というかなぜテイルズなのに.hack G.U.?

 

 

「僕の趣味です♪」

 

 

さいですか…。orz ま、一応.hackもvol.1~3までやったから解るが元の舞台がネトゲだし多少はアドバンテージが稼げるだろう。

 

 

「それじゃそろそろ飛ばしますので、第二の人生楽しんできてくださいね~♪」

 

 

神である少年がそういうと視界が暗くなって意識が闇に落ちる……

 

 

 

     =s=

 

 

 

「最天神様!!こちらの書類の確認をしていただきたいのですが……」

 

 

青年を送り出して、神と呼ばれる少年を残した空間。その白い何もない空間に扉が現れ、その中から先ほどの青年とは違う一人の青年が出てくる。

そして最天神と呼ばれた少年に一枚の紙を手わたす。

 

 

「ふむふむ…おや?」

 

 

最天神が何かに気がつきまたニコニコしはじめる。そして最天神と呼ばれた青年は……

 

 

 

 

「面白そうだしそのまんまにしといて♪」

 

 

 

なんともざっくりであった。

 

 




ども、奏です久しぶりにPCを整理してたらこの小説が出てきたので投稿しました。
もし反応よければまた続きを書いていきたいと考えているので何卒よろしくお願いいたします。


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キャラクター紹介

主人公の設定です。


 

 

 

転生前

 

名前  柊 裡御|(ひいらぎ りお)

 

 

 

性別  男

 

 

 

年齢  18歳

 

 

 

身長  173cm

 

 

 

体重  63kg

 

 

 

性格  通常時は明るくやさしいがよくノリに乗ったりする。他人の気持ちに敏感で|(他人から他人に対してのみそれ以外は普通)基本冷静であるが本気でキレるとキレた相手に対して完膚なきまでに叩き潰す。

 

趣味  漫画、ゲーム、運動全般、料理、剣道、合気道など

 

 

 

好き  友達、甘いもの、漫画、ゲーム、運動など

 

 

 

嫌い  勉強、人の気持ちをわかろうとしない奴、仲間を見捨てる奴、外道、その他もろもろ

 

 

 

容姿  目は黒で髪も黒髪のセミロングで全体的に少しだけクセっ毛になっている。

 

 

 

備考  両親は裡御が生まれてからすぐに病気で他界。祖父に引き取られるが先月に祖父もかなりの遺産を残して他界。大の勉強が嫌いであったが祖父の今勉強すれば大学の試験勉強しなくていいということでがんばった結果推薦が決まっていた。原作知識はかなり前なので時々ど忘れすることがある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生後

 

 

 

名前 リオ・ヒイラギ 愛称 リオ

    

 

 

性別  男

 

 

 

年齢  5歳

 

 

 

体重  21kg

 

 

 

性格  通常時は明るくやさしいがよくノリに乗ったりする。そのためユーリと気がよく会うので

    一緒におちょくったりする。他人の気持ちに敏感で|(あくまで他人に対してのみ、それ以外

    は割と普通)基本冷静であるが本気でキレるとキレた相手に対しては容赦はしない。

 

趣味  運動、料理、剣技、鍛錬など

 

 

 

好き  仲間、甘いもの、運動など

 

 

 

嫌い  人の気持ちをわかろうとしない奴、仲間を見捨てる奴、外道、その他もろもろ

 

 

 

容姿  目、髪共に黒で髪はセミロングで全体的に少しだけクセっ毛になっている。

 

 

 

 

 

 

 

備考  変化なし

 

 

 

 

能力  錬装士(マルチウェポン)

 

     全ての武器が使用可能。本来は3つしか使えないが神様の特典により

     最終的には全ての武器が使用できる。なおリオの武器と防具はリオ以外は使用不可能で、

     取り出すときは念じれば出てくる。他の人が触れると消える。

 

    

    

     憑神(アバター)

     

     神様のミス?によりモルガナ八相全ての碑文が使える。

     なお部分的にも使用可能。

   

    

 

     モルガナ八相

 

     

      第一相『死の恐怖』スケィス、

 

 

      第ニ相『惑乱の蜃気楼』イニス、

 

 

      第三相『増殖』メイガス、

 

 

      第四相『運命の預言者』フィドヘル、

 

 

      第五相『策謀家』ゴレ、

 

 

      第六相『誘惑の恋人』マハ、

 

 

      第七相『復讐する者』タルヴォス、

 

 

      第八相『再誕』コルベニク、

 

 

 

    データドレイン

    

      憑神時に使用可能。麻痺、毒などの異常状態を回復させる。

      データドレインを当てた相手の心にアクセスできる。    

      その他にハッキングや機械に当てると破壊することもできる。

      エアルに干渉可能。

    

 

    限界開放

      

      身体能力および精神力の限界が取り払われており鍛えたら

      鍛えた分だけ強くなる。

     

     

 

  アーツ

 

    双剣

 

 

     疾風双刃     逆袈裟からの3連撃で斬り付ける

 

     一双燕返し    剣で浮かしからの叩き落とす

 

     破裏剣舞     刃に円形の気を纏わせ切り裂く

 

     削三連      堅牢な鎧をも貫く一撃を叩きつける

 

 

     旋風滅双刃    カマイタチを纏う6連撃で切り裂く

 

     無双隼落とし   浮かした敵を空中で高速で切り刻む

 

  

     天下無双飯綱舞い 空中で敵を連続で切り刻み十字切りで叩き落す

 

 

 

    大剣

 

     虎乱襲   力任せのVの字斬り

 

     壱刹・双月 勢いよく剣を振り上げる

 

     初伝・鎧断 敵の守りを貫いて突き刺す

 

     骨破砕   剣を風車のように振り回す

 

     伏虎跳撃  剣を重みに任せて振り回して斬り付ける

 

     甲冑割   敵の守りを貫いて切り上げる

 

     

     重装甲破  空中から剣を連続で叩きつける

 

 

    大鎌

 

     環伐 自分を中心に円陣を描くように切り裂く

 

     天葬蓮華 円陣を敷いて敵を切り上げる

 

     環伐弐閃 自分を中心に円陣を何度も描き斬り刻む

 

     蒼天大車輪 円陣で浮かせそのまま敵を何度も斬り裂く

    

     環伐乱絶閃 地面に鎌を突き刺して自分を中心に地面から何枚もの強靭な刃を

           出現させて切り裂く

 

 

 

 

    ──次回いよいよ転生…

 



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第一相

 

「ん?……ここは…、」

 

目をあけるとそこには見知らぬ天井がある。どこのネタだと聞かれたら困るが…

 

「目が覚めたようだね。」

 

声がしたほうを向くと丁度ドアを開けながら入ってくる男性がいた。だが、よく見ると男性の後頭部から二本の青っぽい髪がたれている。

 

クリティア族か…

 

テイルズオブヴェスペリアで出てきた種族の一つであり確かこの世界テルカリュミレースの根幹にかかわる種族だったような気がするがまぁいまのところはいいか。

 

「大丈夫かい?気分とかは悪くないかい?」

 

「あ……はい、平気です。」

 

そう答えると、そうかとクリティア族の男性は安心したように言う。

 

「それにしても驚いたよ、まさか君みたいな子供があんなところで倒れているなんて…」

 

子供?いやいや一応これでも俺18だぜ?いくらなんでも子供って言うには───

 

と、自分が座っているベットの近くの鏡が目にはいった。そして自分の体を見てみると………うん、子供だね。

なるほど確かにそのまま転生させてくれるとは言ってなかったっけ。

 

「ど、どうしたんだい?鏡を見たとたん固まって?」

 

男性が心配したように話しかけてくる。

 

いや…落ち着け、もうここは俺にとって現実だ。なら受け入れていくしかないよな。

 

 

「い、いえ、なんでもないです。それより俺はどうしてここに?」

 

 

そう質問すると男性は軽く驚いたように答えた。

 

 

「おぼえていないのかい?きみは高原の真ん中で倒れていたんだ。それでその近くを偶然通りかかった私がきみを見つけてここまで連れてきたんだ。」

 

「そ、そうだんたんですか…」

 

 

オイィィィィィィ!?神様なんてとこに転生させてんだ!もしこの人が近くを通らなかったら危うく俺、気がついたら魔物の餌になってました♪みたいな感じになるとこだったじゃねえか!

 

そんなことを考えていると、男性が話しかけてくる。

 

 

「それで、きみ、両親とかは一緒じゃなかったのかい?」

 

 

両親…、この場合俺の前いた世界の両親はとっくに他界しているし、転生者である俺におそらくこの世界の両親はいないだろう。仕方ないのでその高原で倒れる前の記憶がないと男性に伝えた。

 

すると男性は少し考え込むようにしたあと…

  

 

「なら、うちに住む気はないかい?」

 

 

と、言ってきた。

 

 

「いいんですか?どこの誰かもわからない俺なんか置いても…」

 

「ならこれから知っていけばいいだけだ。それに君には行くあてがないだろう?だったら私の家にいなさい。」

 

 

クリティア族の男性はそういって笑いかけてくる。

 

俺はなぜかその言葉がとても嬉しく感じた。だから俺はその言葉を声にしていた。

 

 

「わかりました、しばらく世話になります。」

 

そういうとクリティア族の男性はまた微笑む。

 

 

「そういえば自己紹介がまだだったね。私の名前はヘルメスだ。」

 

「あ、俺の名前はリオです。リオって呼んでください。」

 

「わかったよ、リオ。それと君はまだ子供なんだ敬語なんて使う必要はないよ」

 

「わかり…わかった」

 

ん?ヘルメス?そういえばどっかで聞いたような──なぜだろうよく思い出せない。まるで記憶に靄がかかっているような感じになる。

 

そう考えているとヘルメスの後ろのドアが開き、クリティア族の特徴である青い触角をつけた今の俺と同い年位の女の子が部屋に入ってきた。

 

 

「ただいま!」

 

「やあ、おかえり。」

 

「?父さん、その子誰?」

 

 

少女は俺に気づくと父さんと呼ばれたヘルメスに話しかける。

 

 

「この子はリオ、わけはあとで話すけどとりあえずうちで一緒に暮らすことになったからね。リオ、こっちはジュディス、私の娘だよ」

 

 

ジュディスっていきなり原作キャラとエンカウントしちゃったよ…しかもなぜか小さい。

 

 

「それで、父さんなんでこういう話になったか教えて」

 

 

ヘルメスは、さっきまで俺と話していた内容をそのまま伝えた。

 

 

「そっか……、わかった。」

 

 

そういうとジュディスはこちらを振り返る。

 

 

「私はジュディスよ。これからよろしくね。」

 

「俺は、リオ。こちらこそよろしく。」

 

 

お互いに笑顔で挨拶する。

 

 

「そ、それじゃあ、私晩ご飯作っちゃうね。」

 

 

そういってすぐに部屋を出て行くジュディス。

 

 

「じゃあ今日からこの部屋はリオのだから自由に使っていいよ。」

 

「わかった」

 

 

そういって部屋を出て行こうとしたときヘルメスは何かを思い出したようにふりかえる。

 

 

「あ、そういいえばリオが倒れていた所の近くに手紙がおちていたんだけど…リオのかい?」

 

 

そう言ってヘルメスは自分のポケットから一枚の手紙を取り出して俺へと渡してきた。受け取って裏を見てみるとリオへという文字がある。

 

 

「た、多分俺のです。」

 

「そうか、それじゃあ晩ご飯ができたらジュディスが呼ぶと思うから

それまでは自由にしていていいからね」

 

 

そういって今度こそヘルメスは部屋を出て行った。そして俺はその手紙を開けて読んでみる。

 

 

 

 

”リオさんへ♪

 

どうも神様です♪この手紙を読んでいるということは、どうやらテルカ・リュミレースについたようですね。それで恐らくですが現在リオさんの体は小さくなてしまっていると思いますがこれはこちらでいくつかの不具合のせいで、本当は原作開始の一年前に送るつもりだったんですが、間違えて10年以上前に送ってしまったのでそれにあわせて体が小さくなったということです♪

 

 

なるほど、だから俺だけじゃなくジュディスも幼かったのか─

 

 

それと他にもいろいろ手違いがありまして、実は全ての碑文が使えるようになっているのと、人間としての上限が取り払われてしまっていますので♪

 

 

………は?

 

 

まぁ、要するに今のリオさんは 憑神(アバター)化できるし、鍛えれば 始祖の隷長(エンテレケイア)にだって素手のタイマンで余裕に勝てるようになるってことです♪

 

 

もうそれチートしすぎだろ。人間にボコボコにされるとか 始祖の隷長(エンテレケイア)涙目だろ。

 

 

以上がこちらの手違いですので♪第二の人生たのしんでくださいね♪        神様より

 

                                      

 

読み終わった手紙を俺はたたんで一言

 

 

「修行でもすっかな。」

 

始祖の隷長(エンテレケイア)ボコボコ上等だ!

 

そう言って俺ことリオの新しい人生が始まった。

 



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第二相

ヘルメスの家に住むことになって数ヶ月がたった。それこそ始めの頃は、もともとクリティア族しかいないここテムザ山のためかなり珍しがられていたが最近は普通に近所の同年代くらいの子達と話したりもする。

 

ジュディスは現在、学校らしき所に行っている。どうやらクリティア族の独自の文化などにについて学んでいるらしいが部外者の俺は関係ないのでジュディスが学校に行っているほとんどの時間を修行に費やしていた。

 

ヘルメスはというと起きてからというものほとんどの時間を書斎(しょさい)らしき部屋でなにやら実験を繰り返しているようで、時々爆発音とともに煙が出ていることなど頻繁にあった。

 

で、俺はというと今、テムザの街から橋を渡った先のバルビュサの峰と呼ばれる所に来ている。

 

そんなとこで何をしてるかだって?そんなの修行に決まっているだろ。始祖の隷長(エンテレケイア)を圧倒できるくらい強くなるためもあるが、

そもそも自分には何ができるのかというのがまず知りたかったのが理由だ。

 

「それにしても改めて思ったがやっぱり俺の能力、使い方間違えると危なすぎるよな。」

 

 

それを改めて実感したのは、修行というか独自鍛錬を始めてすぐであった。まず神様からもらった能力の武器だがこれは念じると光の粒子が集まり武器が出現した。その後に防具も同じ方法でやってみたのだが変化がなかったので試しに岩に肘(ヒジ)をぶつけたら岩が割れた。どうやら防具に限っては性能だけ変わるが見た目はそのままのようだ。

 

そういえばゲームでも防具を変えても見た目は変わらなかったっけ。

 

ちなみにもちろんLvによっても性能が違うようでLvMAXの武器使ったら軽く振ったら岩が豆腐か何かかと間違いそうなくらい切れ味抜群であった。

 

魔物に使ったらどうなるのやら……

 

 

「それに加えての憑神(アバター)化だもんな……」

 

 

そう!神様のミス?でなんと使えるんですよ全ての碑文が…。

ま、今はまだスケイスしか試してないけどな…

 

コルベニクなんてAIDAついてきたら怖すぎだし。

 

部分展開もできるようでスケイスは剣のような六枚の羽があらわれなんと飛べた。

これでバウルいなくても長距離移動が可能になったな。

 

もちろんだがデータドレインも撃ってみたのだがこれはどうやらいろいろな性能があるらしく一応わかったのが当てた物体の情報を知る事ができる位だ。だからこれはひとまず保留という事にしている。

 

そして今は日課の筋トレをしている。神様の手紙には鍛えれば鍛えるほど強くなると書いてあったのでここでは基本、素振りと筋トレをただひたすら繰り返す。ただ筋肉を無駄につけてムキムキにはなりたくないので生前に読んだ本をもとに無駄な筋肉のつかない筋トレをしている。

 

そのおかげか子供の体ということもあって初めは武器に振り回されていたが、筋トレをしていくうちに片手でも剣を振れる位にはなった。

 

「よしっと、今日のノルマ終わり!」

 

 

そして太陽を見るとちょうど真上に来るところだった。

 

 

「そろそろジュディスも帰ってくるだろうし家にもどるか。」

 

ジュディスが通う学校は午前中だけのようで昼には家へと帰ってくる。今日は俺が食事当番であるため急いで戻らないとジュディスに不満を言われそうだ。

 

そうして今日の日課を終えた俺は街のある方の山へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

      =S=

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま。」

 

「お帰り、リオ。今日もバルビュサへ行っていたのかい?」

 

 

家に帰るとちょうどヘルメスが書斎から出てきたところだった。

 

 

「まあね、んじゃジュディスが帰ってくる前に昼飯作るよ。」

 

「ああ頼むよ。私も手伝えればいいのだけど……。」

 

 

今の話でわかるようにヘルメスは基本的に料理をしない。いや、できないと言うべきだろう。理由は

ヘルメスにやらせるとなぜか全て真っ黒コゲになるからである。初めはしっかりできているのだが何故か最後は真っ黒こげなのである。

 

目玉焼きですら真っ黒だしな…。

 

 

「ま、そこは適材適所ってことで。」

 

「そうだね、それじゃあ私は食器とかを出しておくよ。」

 

「ありがとう」

 

それじゃあさっそく作りますかな。今日のメニューは何にしようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

       =S=

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうしてしばらくの間穏やかな日を過ごしていたある日の夜、俺は木が擦れるような物音に起こされた。恐らく玄関の入り口が開かれた音だと思うのだが…そう思い窓から外の様子を伺うと暗闇の中ジュディスが外へと走る姿が見えた。しかも方角はバルビュサの峰の方である。

 

「(こんな夜中にどうしたんだ?)」

 

いくらここがテムザの街だからといってこんな夜中に女の子が一人で出歩くのはまずいだろ。

 

俺はすぐに着替えてジュディスが走って行った後を追いバルビュサの峰へとかかる橋へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくジュディスを追って行くとジュディスが山頂近くにあった洞窟へ入っていく姿が見え俺もジュディスに気づかれないように続く。

けれど入り口付近でジュディスは奥を覗くようにしていてそこからあまり動かないでいた。奥に何かいるのかと気になったがとりあえずジュディスが先だ。

 

 

「ジュディス」

 

「ひっ!!……え?リ、リオ何でここにいるの?」

 

 

俺が声をかけると肩が目に見えて震えた後、ゆっくりとこっちに振り返る。そして話しかけたのが俺だと気づくとほっとしたような表情をしながら話しかてくる。

 

 

「それはこっちの台詞だ。こんな真夜中に外に行くジュディスが心配になって追ってきたんだよ。で、なんでこんな夜中に出かけたんだ?」

 

「なにか生き物みたいなのが空を飛んでいくのが見えたから気になって見に来たのよ。」

 

だからってこんな夜中に大事な娘がいなくなってってるのに気がついたらヘルメスが心配するだろ。

 

「ならヘルメスに────」

 

 

と、言いかけたとき……

 

 

 

───ヒュゥゥゥゥ

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

ジュディスはまたもや縮こまり俺も周りを警戒する。

 

ここテムザの街は周囲を砂漠と荒野に囲まれている。この街を築いたクリティア族の先祖は魔物が来ない場所を重点的に探してそれらを橋でつないだらしい。だからここにも魔物がいるはずないのだが、あきらかに今の笛のような鳴き声は人が出せるものではない。そしてどうやらこの音の元凶は洞窟の奥から聞こえてくるようだ。

 

 

「この先に何かいるな。」

 

「そうね………でも暗くてよく見えないわ。」

 

 

洞窟の奥はかなり真っ暗で一番奥が少しだけ明るい事からどうやら奥は天井に穴が開いているようだ。

 

 

「どうする?この音の正体を確かめるか?」

 

「ええ、でなきゃここまで来た意味が無いもん」

 

「りょーかい、安心しろいざとなったらジュディスのことは俺が守ってやるからな」

 

「なによ、私と同じ子供の癖に」

 

 

そう言いながらジュディスはこちらに顔を向けようとはしなかったがその長い耳が赤くなっているのは誰も気がつかなかった。と言うか自分でも言ってて恥ずかしいと言った後に気がついた。

 

 

それはさておき、大剣をすぐ出せるようにしておくか……

 

そして俺たちは警戒しながら奥に進んでいくとまた笛のような鳴き声が聞こえるが、さっきよりもかなり弱々しい。

 

そして洞窟の中間あたりまで来ると俺たちが来た道のほうから声が聞こえてくる。

 

 

「─── リオー … ジュディスー。」

 

 

あちゃーヘルメス起きたか。………あ!

 

 

 

「やべ、そういえばヘルメスに来るとき何にも言ってなかった。」

 

「どうしよ、私も勝手に黙って来ちゃった。」

 

 

俺は頭をかきながら、ジュディスは慌てている。起きたら家族二人が家にいなかったらそりゃ親として心配するよな。

 

 

「ま、ここは諦めて素直に怒られるしかないな。」

 

「こんなことなら素直に寝ておけばよかったわ。」

 

「もうここまで来たらどうしようもないしヘルメスにあの生き物について聞いてみるか。」

 

 

そしてまた二人で入り口付近に戻る。坂の下を見ると一つの小さな光がこちらに近づいて来る。

 

 

「リオ!ジュディス!」

 

 

ヘルメスは俺らに気づくとほっとした表情になったがすぐに眉間にしわを寄せた表情に変わる。

 

 

こりゃかなり怒られそうだ。

 



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第三相

 

 

ちょうど私は就寝しようかと思った矢先に玄関を叩く音が聞こえてきた。

 

 

「ヘルメス。起きているかね、ヘルメス」

 

 

突然の訪問者は大声でもなければ、扉を強く叩いているわけでもないが、真夜中ということもありそれなりに響く。

 

 

そして玄関まで歩いていきドアを開けると近所の家に住むのクリティア族の男性がいた。

 

 

「ムルセさん、こんな夜中にどうしたんですか?リオとジュディスが起きてしまう。」

 

「実はおそらくその二人のことなんだが、妻が言うにはこんな時間だというのに二人がパルビュサの方に出かけるのを見たらしい。」

 

「……なんですって!?」

 

 

確かによく見ると二人のはいている靴が今は見当たらない。私はすぐに身を翻すと書斎へ行き、棚からあるものを探す。そしてその中からひとつの'機械'を見つけるとそれをつかんで玄関へと引き返す。手にしているのは魔導器(ブラスティア)、それも灯りをもたらす光照魔導器(ルクスブラスティア)だった。

 

ムルセさんはまだ玄関にいた。

 

 

「すみません、探してきます。」

 

「ああ、気をつけるんだぞ。」

 

そんな気遣いに感謝しつつ光照魔導器で暗闇を照らしながらバルビュサへの橋を渡っていく。

 

 

 

 

 

          =s=

 

 

 

 

 

 

 

「リオー!…はぁ…ジュディスー!」

 

 

現在、私はバルビュサの峰を走り続けている。しかし今は普段から畑仕事よりも研究を優先しがちだった自分を叱ってやりたい気分だ。

 

そうして息も絶え絶えになりながらもようやくのおもいで山頂付近に近づくと坂の上の洞窟の前でこちらを向いている二人の子供が見えすぐに先ほどまで探していた二人であるとわかった。

 

 

「リオ!ジュディス!」

 

そう言って私は残りの体力を振り絞り坂を登っていく。

 

 

 

 

 

 

 

         =S=

 

 

 

 

 

 

 

まず結論から言うと、それはもうこれでもないかと言うくらい叱られた。子供がこんな夜中に起きてるんじゃないとかどうして私に一言でもいわなかったのかとかどれだけ心配したと思っているんだとか言われた。

ジュディスに関してはもう涙目である。

 

まぁたしかに今回は、明らかに俺たちが悪いのはわかりきっているから次からは気をつけよう。なによりヘルメスに叱られてる間は、地面に正座なのでもううけたくないからな。

 

 

「それで、私に黙ってこんな所で何をしていたんだい?」

 

「じつは……」

 

そして俺たちはここまで来た経緯と洞窟の奥ににいるらしき生物について話した。

 

 

「ふむ確かに笛のような音が洞窟の奥から聞こえるようだね。しかしこんな鳴き声の魔物は聞いたことがない。」

 

「ヘルメスも知らないのか…。」

 

「でも、弱ってるみたいなの。父さんあの子助けてあげられない?」

 

 

出ましたジュディスの上目使い+涙目これやられて平気な奴いないだろ。この前、近所の男の子に使ったら男の子、顔真っ赤になってたしな。

 

 

「でも、まずはその生き物が危険かどうかを調べてみないとどうしようもないからもう少し近づいて見よう。」

 

「わかったわ!」

 

 

ヘルメスはどうやら研究心がそそられたみたいで、ジュディスにいたってはあの声の主を助けられることに喜んでいるようだ。

 

 

「それじゃあ、行こうか。」

 

「了解。」 「うん。」

 

 

そのままヘルメスが先に光照魔導器で照らしながら奥に進む。そしてその後ろから俺とジュディスがついていく。洞窟の奥に進むと、予想通り天井がなく少し開けた場所に出た。真上には星空が見える。そして出たところの出入り口の近くにその生物が横たわっていた。それに気がついたヘルメスがすぐに持っていた光照魔導器(ルクスブラスティア)でその生物を照らした。

 

その生物は大人二人分位の長い体を地面に横たえ、苦しそうに喘(あえ)いでいる。頭部には湾曲した二本の角が生え、頭から背中にかけて長い毛に覆われてさらに二つの大きなヒレらしきものが二対あり全体としては地上よりも海底に適していそうな姿に見えた。ぶっちゃけクジラに毛がはえた感じだな。

 

 

てかこれ間違いなくバウルだよな。

そうジュディスが原作開始に乗っていた始祖の隷長(エンテレケイア)の幼体である。

 

 

「……これ魔物なの?」

 

 

いつの間にかジュディスが俺の服の袖を握りながら寄り添うようにしてヘルメスに聞いている。

 

 

「………」

 

 

ヘルメスは何かを考えるように無言だった。

 

ま、始祖の隷長(エンテレケイア)だしわかるはずないよな。

 

俺は一人そう思った後にあることに気がついて、ジュディスを軽く引き剥がしてからさらにバウルに近づく。

 

 

「リオ!?」

 

「リオ!?それ以上は危険だから近づいては駄目だ!!」

 

 

二人は俺のいきなりの行動に驚いているようだ。

 

 

「別に平気だよ?なによりこいつかなり傷ついて弱ってるし…」

 

 

バウルの体にはよく見ると大小の傷が体のいたるところにあり、かなり衰弱しているのだ。それに気がついたのか二人も警戒しながらゆっくりと俺のいるところまで近づいてくる。

 

 

「この子、死んじゃいそう」

 

「多分、このままだとそう長くはもたないだろうね。」

 

「………ちょっと待ってて。」

 

 

ん~スペル使ってもいいんだけどそうするとヘルメスになんか言われそうだし………よしならあれを使おう。

 

そして二人から見えないようにして何もない空間から治癒の水を取り出す。ちなみにふと思ったのだがこういう

消耗品は数に限りはないのだろうか?そう思いながらも今は治癒の水をバウルの傷口にかけてやる。

 

 

「リオ、それはなんだい?」

 

「これは俺が作った傷薬だよ。」

 

「すごいな。もう傷口がふさがり始めている。」

 

「ま、あくまで応急処置程度だけどね。」

 

と、適当にごまかしておく。

 

 

「よかったねバウル。」

 

「…え」

 

「バウル?」

 

 

ジュディスが突然出した名前に二人して驚く。

 

俺は違う意味で驚いたんだけどな。

 

 

「そう!バウル!この子の名前。いつまでも名前がないと不便でしょ?」

 

「…バウルか、自由や解放、自律という意味だね。」

 

 

へーそんなバウルの名前にそんな意味があったのか。

 

 

「いい名前だな。」

 

「でしょ!」

 

 

そうしてジュディスはバウルを正面から見るようにして話かけた。

 

 

「私、ジュディス。よろしくね、バウル。」

 

 

ジュディスがそう言うと返事をするかのようにバウルが笛のような声で短く鳴いた。

 

 

「それでバウルはなにを食べるのかな。」

 

 

ジュディスが振り返り俺とヘルメスに向かって聞いてきた。

というより俺も知らん。始祖の隷長の飯なんてわからんしエアル調整するくらいしか……

 

もしかして飯もエアルなのか?

 

 

「それはわからないな。一応明日にでも少し食料を………」

 

「ヘルメス、ちょっとその魔導器かしてくれない?」

 

 

持ってこようと言おうとしたが俺の言葉に遮られた。

 

 

「?…別にかまわないけど。何をするんだい?」

 

「ちょっと気になったことがあってね。」

 

「リオ、どうするの?」

 

 

ジュディスが首をかしげている中で俺はヘルメスから受け取った光照魔導器(ルクスブラスティア)を受け取りそのままバウルの口元に置く。

 

 

「ねえ、リオそれ食べ物じゃないよ?」

 

「………」

 

「ま、ちょっと待ってろって。」

 

 

ジュディスを宥(なだ)めつつバウルの方を向く。ヘルメスは考えるように無言だ。

 

するとバウルは光照魔導器をじっと見た後、俺の方を見てくる言葉にするなら”いいのか?”という感じだ。だから俺はその表情に対して軽くうなずく。

 

すると今まで声を出すときしか開けなかった口を大きく開ける。それと同時に光照魔導器がライトの部分だけでなく全体が輝きだし、それらは風に吹かれたかの如く淡い光の粒が表面を離れてバウルの口の中へと吸い込まれていく。それと同時に光照魔導器の光もだんだんと消えていく。

 

 

「これは驚いた。この魔物「バウル」…バウルはエアルを直接摂取しているのか。」

 

 

ジュディスに名前について咎(とが)められつつ、ヘルメスは関心したように話す。その目はまさに研究者特有の歓喜の表情が見て取れた。

 

 

「えある?」

 

 

ジュディスは首をかしげながらヘルメスに聞き返す。

 

 

「魔導器(ブラスティア)を動かしてる力のことだよ。それに私やジュディスそれにリオ、この世のありとあらゆる物を形作り生かしている力の根源だよ。」

 

 

そしてヘルメスが説明を終えるとそれと同じく光照魔導器の光も失われ洞窟内が暗くなる。

 

 

「へぇ~、でもリオはなんでこれがバウルのご飯だってわかったの?」

 

 

原作の知識ですとは言えないし。

 

 

「バウルがこれじっと見てたからなもしかしたらって思ったんだよ。」

 

「そうだったんだ。なら父さんもっとそのエアルを持ってきてあげようよ!」

 

 

俺の話を聞いて納得したのか今度はヘルメスに向きなおす。

 

 

「とにかくこの続きは明日にしよう。」

 

「了解。」「うん。」

 

「またね明日ね。バウル。」

 

 

バウルはまた短く鳴いて返事をする。そして俺らはテムザの街に戻って行った。

 

その際帰り道は光照魔導器がなく真っ暗な中を帰るのに苦労したのは余談だ。

 

 



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第四相

 

 

バウルと出会って一ヶ月がたった。今では傷も完全に癒え今ではもう元気に空中を泳ぐかのように飛べるようになって

 

いる。

それと同じくして突然ジュディスとバウルも変化が現れた。

 

 

 

現在、俺とバウルは日向ぼっこをしながら一緒にまどろんでいた。

 

 

「それにしても、お前が倒れていた場所がまさかここだったなんてな。」

 

 ───?───

 

「いや、なんでもない。ただの独り言。」

 

 

バウルが不思議そうな顔をしてきたのでそう返した。今俺とバウルがいるのはバルビュサ山の頂上付近の洞窟で、はじ

 

めは暗くてよくわからなかったが、ここは原作でバウルが成体になった場所なのである。

 

そんな事を考えているとバウルが洞窟の出入り口の方に顔を向ける。そしてそれを合図に誰かが近づいてくる。どうや

 

ら相手は音を出さないようにしているようだが俺やバウルは気配を読み取れるために誰かが近づいてきてもすぐわかる

 

ようになっていた。だんだん人間やめてきたな俺。まぁそれよりもここに忍び寄って来るような事をする人物などここ

 

には一人しかいない訳で…………。

 

 

「ジュディス、いつまでそこで隠れてるんだ?バウルもさっきから気づいてるぞ。」

 

 

そういうと入り口付近から顔を出して、俺とバウルの所に近づいてきた。

 

 

「もう、驚かそうと思ったのに。」

 

 

そういいながら顔を膨らませながら岩の陰から出てきたのはやはりジュディスだった。

 

 

「それで、リオとバウルはここで何してるの?」

 

「一緒に日向ぼっこしてたんだよ。」

 

「そうなのバウル?」

 

 

バウルは喉を鳴らして答える。ニュアンス的には肯定しているように聞こえる。

 

 

「そっか、日向ぼっこしながらリオに頭撫でてもらってたんだ。よかったねバウル。」

 

 

今の会話でわかるようにジュディスはある日を境に突然バウルと話が出来るようになった。俺みたいに感覚で話すので

 

はなくどうやらテレパシーのようなものでジュディスのナギーグがそれを受信しているのではないかとヘルメスが言っ

 

ていた。ちなみにナギーグとは2本の長く延びた髪の部分の事で、実際はあれは髪ではないらしい。ただ俺が感覚で話

 

しができている事にも驚いていたが。それこそはじめは、一言二言位でしか話せなかったが今ではほとんど意思疎通が

 

できるまでになっている。

 

さらに最近変わったことといえばテムザ山のふもとに砦が築かれヘルメスは山を降りる回数が増えてきた。話を聞くと

 

、どうやらあと少しでヘルメスが今まで研究してきた事が実を結びそうだかららしい。

 

 

 

そしてこの時の俺はこの世界にのことを忘れていた。ここはテルカリュミレースの世界で、この世界の物語が紡がれし

 

原点の存在を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

         =s=

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから1ヶ月後ヘルメスは研究を完成させた。研究内容は話してはくれなかったが、それでも俺とジュディスは喜ん

 

だ。それから数ヶ月の間は特に何もなく俺はいつもどおり修行をしながらジュディスとバウルとで遊びそしてのんびり

 

と毎日をすごしていた。

 

 

そしてある日の夜、物音に起こされてリビングに出ると玄関の明かりがついていた。ジュディスがまたどこかに出かけ

 

たのかと思い部屋に行くと、寝息をたてながらすやすやと寝ているジュディスの姿があった。

 

 

「(ジュディスが出て行ったんじゃなかったのか。)」

 

「んぅ、…リオぉ~…バウルぅ~……。」

 

「(夢の中でまで一緒にいるんかい。)」

 

 

軽くジュディスの寝言にあきれつつ思わず自然とジュディスの頭を撫でてしまう。

 

 

「……えへへ~……」

 

ジュディスは頬を緩ませながらまた寝息をたてはじめた。

 

さてと、となると家を出たのはヘルメスか……

 

 

ジュディスの部屋を出た後にヘルメスの書斎と寝室にも行ってみたが、やはりヘルメスの姿はなかった。こんな時間に

 

どこに行ったのか心配ではあるが、ヘルメスの事だ。俺たちと違って朝になれば帰ってくるだろうと思いその日は自分

 

の部屋へと戻った。

 

 

 

 

 

    =s=

 

 

 

 

 

 

「ん………ふぁ~……朝か……。」

 

 

結局、ヘルメスはまだ帰ってきていないようだった。俺は起きようとした時……

 

 

────ギィィ、バタン。

 

 

玄関からドアを開けて閉める音が聞こえてきた。

 

ヘルメス帰ってきたのか?

 

俺はベットから起き上がり早足で玄関へとむかう。

 

そして予想通り俺はヘルメスが帰ってきたのを確認して声をかけようとしたが、声が詰まった。

 

───おかえり。

 

そういうつもりだった俺の声を詰まらせた原因はヘルメスの表情だった。

 

精魂尽き果て、気力の最後の一滴までも吸い尽くされたかのようにげっそりとしているが両目は大きく開かれほとんど

 

焦点があっていない。まるで驚愕と悲しみと後悔がごちゃ混ぜになったかのような表情なのだ。

 

長い間一緒に暮らしてみてわかったが、ヘルメスは基本的には冷静だ。ジュディスや俺に関しては多少熱くなりやすい

 

がその他では、割と物静かな対応をしている。そのヘルメスがまるで凍りついたかのような表情をするなどよほどのこ

 

とがないとまずありえない。

 

昨日までは、いつも通りのヘルメスだった。ということは恐らく昨日の夜で何かあったのだろう。

 

まずは、本人と話してみないとどうしようもないよな。

 

「ヘルメス、そんな顔してどうしたんだ?」

 

「…………私は、とりかえしのつかない大罪を犯してしまった。」

 

ヘルメスはまるでうわごとを呟くような声で話した。

 

大罪ってどういうことだ?

 

それについて聞こうとしたがヘルメスは寝室の方へと入ってしまった。

 

こんなことなら昨日の夜にヘルメスを探していればよかったな………。

 

結局、その日は何もわからないまま終わってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその日を境にヘルメスは変わった。

もともと神経質であったが、近頃は度がすぎるほどになり、ささいなことで怒り、苛立ちが目に見えるようになった。

さらに最近は砦に篭り、滅多に行かなかくなっていた学術都市アスピオにまで行き、何日も家を開けるようになった。

たとえ帰ってきたとしてもすぐに倒れるようにベットに横たわるか書斎に篭ってしまうことが多かった。

俺はそんなヘルメスを見ているのが辛くなり、ある日、気分を変えるためにバウルのもとへとむかった。

 

「──!?───!!」

 

そしてバウルがいつもいる洞窟に入ると中で喧嘩するような声が聞こえてきた。

 

 

「なんで父さんがあんな風になったか知っているんでしょう!?」

 

──……──

 

「どうして?」

 

はたから見れば一人で魔物に喋りかけている少女だが恐らくテレパシーもといナギーグで会話しているのだろう。

 

 

「なにそれ、ずるいよ、わけわからない。」

 

「もういい!バウルなんてしらない!!」

 

 

そういってジュディスは洞窟を出て山を降りていった。

 

俺はというと洞窟の入り口のすぐ脇で聞いていたため気がつかなかったようだ。ジュディスが出て行った後、俺はジュ

 

ディスを追わず洞窟に入ってバウルのところに向かった。

 

「よ、派手に喧嘩したみたいだな。」

 

バウルは少し驚いたような顔をした後、急にしゅんとした表情になる。

 

あらためて見るとほんと人間じみてるよな。

 

 

「それで、ヘルメスが変わった理由をお前は知ってるのか?」

 

 

バウルにそれを問うと顔を縦に振り肯定の意思を表す。

 

 

「でも、それを誰かに話すことはできない。……………それは誰かの命令か?」

 

 

 ───── 肯定 ──────

 

 

 

「そいつと俺が話すことはできないか?」

 

 

 ───── 否定 ──────

 

 

「そうか…………。」

 

 

おそらくバウルに命令を出したのはバウルより高位の始祖の隷長(エンテレケイア)だろうな。バウルはいくら幼体と言

 

っても始祖の隷長だ。始祖の隷長はこの世界の生き物にとって上位種にあたる。そんなバウルに命令できるということ

 

は同じ始祖の隷長以外にありえないだろう。

 

 

となると…………。

 

 

「なぁ、バウル……。」

 

 

俺はバウルを正面から目を合わせる。

 

 

「もし、俺がいないときはお前がジュディスを守ってくれないか?」

 

 

恐らくジュディスにとってバウルはこれからの原作のように最高の相棒になってくれるだろう。

 

 

 ───?───

 

 

なぜ?そういった顔をするバウル。

 

 

「ヘルメスがあんな状態の今、なにかあった時ジュディスを守れるのはさ俺とバウルしかいないだろ。だから俺がもし

 

いない時、ジュディスを守ってほしいんだジュディスに害を与えるやつ全てから。………頼めるか?」

 

そういうとバウルは強く肯定するように鳴いた。

 

 

「サンキュ、んじゃ俺もそろそろ戻るよ。」

 

「またな、バウル。」

 

 

俺はそういってバウルの頭を撫でた後、洞窟を出て家から来た道を戻っていった。



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第五相

 

「~♪~~~♪~~♪……ん?」

 

 

俺はいつものように修行を終え鼻歌を歌いながら家へと帰ると家の前に鎧を纏(まと)った兵士の集団がいた。さらに俺が気になったのは彼らは普通の人間なのだ。

 

 

「あの~、何かここの家に御用ですか?」

 

 

「いえ、実は砦に……って人間の子供?」

 

 

女性は振り返り俺の姿を確認すると疑問を持った顔になる。

 

いや子供なんてどこにでもいるだろ。そう思っていると今度はその女性から話しかけてきた。

 

 

「ねえ君、ここはクリティア族の街テムザなのにどうしてこんなところにいるの?」

 

 

あ、なるほど。確かにさっきの俺と同じ考えか。確かに逆にクリティア族の街に普通の人の子がいたら不思議に思うよな。最近はほとんど気にしなくなっていたから忘れていた。

 

 

「いえ、それは……」 「おーい、キャナリ。」

 

「……」

 

 

俺が声を出すと同時に他の兵士の方から出てきた人に遮られる。それにしてもキャナリってどっかで聞いた気がしたんだけどな。なんだか最近は物忘れが激しいような気がする。

 

 

「どうやら砦はこの山の麓(ふもと)らしいぞ。まったく苦労して登って来たってのに……ん?」

 

 

その男が俺に気がつく。

 

 

「なんだこの餓鬼?」

 

「だめよダミュロンそんな言いかたしたら。うちの部下がごめんなさいね。」

 

「いえ別に気にしてないので。」

 

「おーおー、大人ぶっちゃって。」

 

 

俺の言葉に茶々を入れてくるダミュロン。

いまちょっとだけあの男の首に最高レベルの大鎌を突きつけてやろうと思った俺は悪くないと思う。てか今の俺ならお前のこと瞬殺できるぞ多分…

 

 

「まったく、やめなさいダミュロン。子供相手に恥ずかしくないの?」

 

「へいへい」

 

「それでさっきの話だけどなんでクリティア族の街に人の子がいるの?」

 

「それは、ここの家に居候させてもらってるからです。」

 

 

そういって俺はヘルメス達の家を指す。そういうとキャナリは少し考えるようなそぶりを見せる。

 

 

「そうだったの。ちなみに……」「隊長。」

 

「どうしたの?」

 

 

そして何か言おうとして先ほどの兵士の集団から走ってきた兵士に遮られる。

 

 

「今から山を降りると恐らく日がくれてしまうそうです。」

 

「……そう、ならしかたないわ。出発は明日の朝にするとみんなに伝えて。」

 

「わかりました。」

 

 

そういってまた兵士たちの集団の方へと走っていった。

 

 

「じゃあ、俺もそろそろ行きます。どうやら家に用があったわけではないようですし。」

 

「あ……。ええ、ごめんなさいね。呼び止めちゃって。」

 

「いえ、それじゃあ。」

 

まあ実際に声をかけたのは俺なんだけどな。

 

そして俺はそのまま玄関へと向かってドアを開けようとして手をドアノブに伸ばした瞬間、

 

 

 ───ガチャ…ドン!!

 

 

「ッあぶな!?」

 

 

突然ドアが開き俺に向かってせまって来たのを咄嗟に横に飛んでかわす。そのときに俺のよけた傍を走り抜けて行くジュディスがいたがもう橋の方へと走って行ってしまっている。

 

 

「(…泣いていた?)」

 

 

俺の横を通り過ぎる時ジュディスの目に涙が溜まっているのが見えた。それより何があったんだ?

 

そのまま中に入るとあの日以来あまり健康的ではない顔をしたヘルメスが俺を見る。

 

 

「…やあ、おかえりリオ。」

 

「ただいま、それで何があったんだ?」

 

「それは───」

 

 

どうやら今日にはまた砦に行かないといけないと話したところ、突然泣き出して飛び出して行ってしまったらしい。

 

ほんとにヘルメスはどうしたのだろういままでなら()()の時は絶対に家にいたのにきっとジュディスが泣いていたのもそのせいだろう。

 

 

 

「ヘルメス、なんでジュディスが出て行ったのか本当にわからないのか?」

 

「………」

 

ヘルメスは沈黙している。

 

 

 

 

 

 

 

「今日はジュディスの誕生日だよ。」

 

「…!?」

 

 

ヘルメスの目が大きく開かれる。まったく、でもヘルメスはやはり変わっていなかった。ここで本質までも変わってしまっていたら恐らく俺はヘルメスを殴ってでも元に戻そうとしていただろう。けれどヘルメスの本質である家族を何よりも大切にしている事は今の表情を見れば明らかだ。

そう考えているとヘルメスが口を開く。

 

「……私は、親として失格だな。最近は意味のないことで怒り、話も聞こうとせずさらには自分の娘の一番の大切な日まで忘れてしまっていた。」

 

「でも、ヘルメスはジュディスにとって唯一の父親だろ?ならもう次に何をすればいいかわかるはずだ。」

 

そう言って俺はヘルメスの目を真正面から見る。

 

「ま、ジュディスの居場所は大体わかるからつれて帰ってくるよ。」

 

そしてそのまま家を出ようとして一つ思い出す。

 

「あ、そうだ」

 

そういいながらヘルメスの方へと振り向く。

 

「俺もヘルメスの事を本当の父親みたいだと思ってるからね。頼むぜ父さん」

 

「………ハハ、どうやら私にしては出来た息子がいたもんだ。ありがとう、リオ」

 

「あいよ」

 

 

そういって俺は家の外へとでてそのままジュディスのいるであろう場所へと向かう。その際にヘルメスの顔を見たが憑き物が落ちたような清々しい顔が見えていた。

 

 

「それじゃ、俺もジュディスを迎えに行きますかなっと。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   =s=

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、それでほとんど根拠もなく来たけど、たぶんここしか心当たりないよな。」

 

 

そう言って今俺がいるのはバルビュサの峰の洞窟、つまりバウルのところなんだが奥に行くと隅の方にうずくまるようにしているジュディスがいた。

 

 

「ジュディス。」

 

 

俺が名前を呼ぶとビクッと反応した後、顔をあげた。目元は今まで泣いていたせいか赤く腫れている。

 

 

「リオ………。」

 

「そろそろ晩飯の時間だし帰ろうぜ。ヘルメスも心配してたぞ?」

 

 

しかしジュディスは地面に座ったままでいる。

 

 

「ううん、心配してるわけない。」

 

「なんでそう思うんだ?」

 

 

そう俺が聞くとジュディスは勢いよく立ち上がり先ほどの声とは違う洞窟に響く位の声で言う。

 

 

「だってお父さん前とは全然変わっちゃたんだよ!」

 

「前はすごくやさしかったし研究だって楽しそうにしてた。でも今のお父さんは怒りっぽくなって大好きだった研究もすごく辛そうにしてる。それに前は私の誕生日の日には絶対家で一緒にいてくれたのに…それも、グス…わす、れで…。」

 

 

そういいながらジュディスは泣き出してしまう。それはまるで今まで溜め込んできたものを吐き出すような心の叫びだった。

 

 

「まったく…。」

 

「リ、リオ///!?」

 

 

それは自分でもも驚くように自然と体が動いていた。俺はそのままジュディスを自分の腕の中に引き寄せた状態で話す。

 

 

「俺はヘルメスは前と全然変わってないと思う。」

 

「え……?」

 

「理由は分からにけど多分さ、ヘルメスは不安で色々な物が見えなくなっていただけだと思う。自分のこと、俺やバウルのこと、そしてジュディスのこと……。だからさ、まずゆっくり話してみようぜ?ヘルメスが見えるように真正面から堂々と。そんで仲直りして帰ろう。」

 

そういうと途中から下を向いていたジュディスがゆっくりと顔を上げる。

 

 

「……わかった。でも……」

 

「ん?」

 

「家族三人みんなでだからね?」

 

 

そういって顔を上げながらジュディスが言う。

 

 

「アハハ……そうだな!」

 

一瞬俺はキョトンとした顔をしていたに違いない。そしてそのまま俺は思わず笑ってしまう。なぜだろうこんな簡単な言葉なのにヘルメスの時といいしばらくの間胸に宿った熱さは消えずにいた。

そしていつまでもジュディスを抱きしめていたことに気づきお互いに赤面したり、軽くそこにいないかのような扱いを受けていたバウルにジト目をされつつすでに暗くなってきている空の下を二人で歩きながら帰路についていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして家に帰るとヘルメスが出迎えてくれた。そしてジュディスはそのままヘルメスの胸に飛び込む。

 

「ジュ、ジュディス!?」

 

「お父さん、ごめんなさぃ…えぐ…」 

 

そのままジュディスはヘルメスの腕の中で泣き出す。それをヘルメスはやさしくけれど力強く抱きしめる。

 

「私の方こそジュディスの誕生日忘れていてすまなかった。」

 

そしてしばらくの間ジュディスとヘルメスはお互いに謝り続けていた。

そうしているとヘルメスが口を開く。

 

 

「そうだジュディス手を出してごらん。」

 

「?」

 

そういって手の平の上に置かれたのはひとつの魔導器(ブラスティア)だった。

 

「これは、計時魔導器(タイムブラスティア)という物で時間を正確に測れるんだ。私からの誕生日プレゼントだよ。」

 

そうヘルメスが言うとジュディスは嬉しそうにその魔導器を手につけた。

 

「お父さん、ありがとう!」

 

その笑顔は今まで見てきたどの笑顔よりも可愛く見えた。

 

「んじゃ、今日はみんなで晩御飯作るか!」

 

「うん!あ、でもお父さんはお皿とか出してね。」

 

「わかっているさ、私は全力でリオとジュディスのサポートに回るよ」

 

そうしてその日を境に徐々にだが確かにヘルメスはいつも通りの温厚な性格へと戻っていった。

 

 

ちなみに夕食の後にジュディスに誕生日プレゼントとして自分で作った首飾りをプレゼントするとそのまま抱きついてきたりされたのは余談である。

 



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第六相

過去編ラストです


「邪魔だ!」

 

 

俺は手に持つ双銃を構え魔物に打ち込む。そして横から来る魔物には双銃に付いた刃で切り伏せる。

 

そうして急ぐように地面を駆けながら目的の場所へ着いた俺を待ち構えていたのは、魔物の群れによって荒れ果て崩壊してゆく街の光景だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

        =S=

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日、ジュディスの誕生日から数日たったころヘルメスはまた研究を再開し始めた。しかし今では以前のような性格はなりを潜め、俺が初めてこの家を訪れたばかりの時の様な表情が戻りそれと同じくして顔色も日に日によくなっていった。そのためもう心配はないと思った俺とジュディスは今日の早朝にヘルメスを送り出した。

 

そしてジュディスはいつものように学校へ行き、俺は日課を済ませバウルのいるバルビュサ山へと訪れていた。

 

 

───!?───

 

 

「バウル?どうしたんだ?」

 

バウルのいる洞窟で軽くくつろいでいると突如バウルが脅えるような表情になり、思わず声をかけるとこちらをまっすぐ見つめてくる。まるで俺に何かを伝えようとしているようだが俺はジュディスのように会話まではできないので何を伝えようとしているのかはわからなかった。

 

 

──……ッ!!──

 

 

「お、おいバウル!?」

 

 

バウルが何を伝えようとしているのかを探ろうとしているとバウルが突然何かを感じ取ったかと思うと勢いよく洞窟を飛び出して行ってしまった。先ほどのバウルの表情からしてただ事ではないだろう。俺の中で不安が募っていく。

 

俺はその不安に突き動かされバウルの後を追って急いで洞窟を出ると目の前に”ソレ”がいた。本来ならばテムザの山頂までは上ってこないはずの生き物、魔物だ。なぜ魔物がいるのか、  

 

  なによりもなぜ”ここ”まで来れているんだ?

 

それは同時に俺の中で最悪の答えを導き出す。………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”この場所はたとえ魔物でもテムザの街を通らなければ来られない”

 

 

 

 

 

 

 

 

その事を理解した瞬間、俺は手に双銃を取り出してそこにいた全ての魔物に弾丸を撃ち込んでいた。魔物はそのまま全て倒れるが、今の俺はそんな事など気にもせずそのまま全速力でテムザの街へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

    =S=

 

 

 

 

 

 

 

 

それは突然だった。リオと分かれた後ジュディスは集会所に向かったが、その後にたまたま必要な教材を忘れていた為に家へと取りに帰ってきていた。

 

 

「?」

 

 

本棚から教材を取り出そうとするとなにか聞こえたような気がした。そして突如自分を襲う奇妙な感覚、肌が強張りぴりぴりと痛みさえも伴いそうな嫌な感じがする。

 

そしてその気配は家の外から来ているように感じた。そしてなるべく音を立てないように忍び足で窓に近づいて外の様子を伺うと自分の目を疑った。というより最初は見たものが理解できなかった。

 

まるで牛のような大きさで黒い鱗のようなもので覆われた体をした生き物が通りにいた。それも一匹だけではない。

 

 

「(あれって魔物!?)」

 

 

それは自分にとって衝撃の出来事だった。そもそもジュディスの知る限りこれまでにテムザの街に魔物が入り込んだことは一度も無かった。しかし現に今は実際に街中へと侵入しているのだ。

 

 

そしてこれからどうするべきかを必死に考えていると魔物のうちの何匹かが唸りながら自分がいる家へと近づいてくる。そして突如家の扉を破壊して中に入ってきたのだ。

私は自分の体が総毛立つのがわかった。すぐさま私は父の書斎に逃げ込むと扉を閉め外の様子を伺う。どうやら魔物の目当ては家の食品のようですぐに厨房へと入っていく。

 

 

そして私はその隙に書斎を出て家を飛び出す。恐らくあそこにいたらあの魔物が書斎に来るかもしれないと思ったからだ。私はそのままみんながいる集会場へと走った。

 

けれど途中にはやはり魔物が何匹もいるから気配を頼りに回り道をしながらやっとの思いで集会所に着くと、中にいる大人たちにこの事を伝えようと急いで向かうと何故か集会所の扉が無かった。さっきまでは確かにここには扉が存在して自分でも家へと戻るときに見たはずだった。私はそのまま扉を失った入り口を通り恐る恐る中へと入ると……そこは大量の血溜まりが広がっていた。

 

 

「……おえぇぇ」

 

 

その光景に私は思わず吐いてしまった。さっきまで話していた人達はみんな血を流して動かなくなってしまっている。仲のよかった友達、優しかった先生、そのみんなが帰らぬ人となってしまったのだ。そして気がついたもう一人の家族のことを……

 

 

「リオ……」

 

 

 

そうだ、リオはどこにいるのだろうか……。一瞬もうすでに魔物に食べられてしまっているのではないかと思うが、その考えを否定する。いや否定しなければ心が持ちそうに無いのだ。とにかく今すぐリオに会いたい。

 

 

私はその思いに囚われ集会所を飛び出した。けれどその私を嘲笑うかのごとく外に出るとそこには数十匹の魔物が待ち構えていた。私はもうだめかと諦めそうになり足を止めてしまう。

そのまま魔物達はじりじりと距離をつめてまさに飛びかかろうとした瞬間、突如目の前の視界が何かによって遮られた。そして何かがその魔物に火の玉を吐くとそれが当たった魔物は燃えたまま崖から落ちていった。そして残った他の魔物達を威嚇する。

 

 

「バウル……?」

 

 

バウルがそこにいた。ジュディスと魔物達の間に立ちはだかるように地上すれすれを浮かんでいた。そしてバウルは吼える。腹の底から全身で、その一声は末席とはいえこの世界の頂点に君臨する始祖の隷長の存在を彷彿させる咆哮だった。

 

その声を聞いた魔物達は竦み上がるが、それでも彼らは逃げようとはしない。いや瞳には恐怖と狂気がしっかりと映って見えているがそれ以上にまるで他の恐怖によって支配されているように見える。

 

そして一匹の魔物が動き出すと、それに続くように一斉に全ての魔物が襲い掛かってきた。けれどバウルがそれらを遮る様にして撃墜していく、そのせいだろうか私はいつの間にかバウルから目が離せなくなっていて後ろから来る気配に気がつかなかった。

 

 

───!!?───

 

 

バウルから’後ろ!!’という言葉につられ後ろを向くともうすぐそばまでギラついた牙が迫っていた。バウルはこちらに気がついて向かおうとするがその魔物までの距離が離れすぎていた。そして私は思わず目を瞑ってしまう。

 

けれど次の瞬間に聞こえてきたのは、魔物が私をかみ殺す音ではなく……

 

 

 

 

 

 

「やらせるかよ」

 

 

 

 

 

 

 

私が会いたかった人物の声だった。

 

 

 

 

 

 

     =S=

 

 

 

 

 

俺はそのままジュディスを襲おうとしていた魔物に向けて至近距離から引き金を引く。すると魔物は勢いよく吹き飛びながら頭を弾丸が貫き絶命する。

 

 

「ジュディスだいじょ……うわ!」

 

 

俺が振り返りジュディスの安否を確かめようと声をかけようとしたらジュディスが勢いよく飛び込んできた。

 

 

「リオ!リオ!」

 

 

まるでやっとの思いではぐれていた母親を見つけた子供のように目に涙をためながら俺の名前を何度も呼びつつける。俺はそのまま両手でジュディスを優しく抱きしめていた。そしてバウルも回りにいた全ての魔物を倒すと俺とジュディスの方へと近づいてくる。

 

 

「バウル、ありがとな約束どおりジュディスを守ってくれて」

 

そういいながら片手でバウルの頭を撫でる。バウルは当然だともいいたげな表情で軽く鳴く。

 

「それで、これからどうするの?もう街は魔物だらけだし…他のみんなもたぶん…もう…」

 

いつの間にか泣き止んでいたジュディスが不安そうに聞いてくる。

 

 

「ひとまずここを離れてどこかに避難を……!!」

 

「う…そ…」

 

──!!──

 

そういいかけたとき俺達は思わず固まってしまった。空の蒼い部分は黒く塗りつぶされ、地面は見えなくなるほどの魔物の大群が此方に向かって押し寄せてきていたのだ。

 

 

「リオ!早く逃げなきゃ」

 

「……」

 

「リオ?」

 

 

恐らく今からバウルに乗って逃げても空を飛ぶ魔物達に追いつかれてしまうだろう。そして何よりジュディスを乗っけている時点でバウルは本気の速度はだせない。なら俺達に残されている手段は一つだけだろう。いや、正確には俺だけか……

 

 

「ジュディス…お前はバウルに乗って先に行ってろ。」

 

「え?……!!、そんなのだめよ!今、リオをおいてったらきっとあの魔物達に殺されちゃう!!」

 

「でも、二人では恐らく逃げ切れないぞ?」

 

「なら、私も残る!リオを置いてなんてそれに一人はもうやだよ!」

 

はぁ、これはある程度予想できたけど……

 

「ごめんな、ジュディスでもここだけは譲れないわ。 ムミンリィ」

 

「あっ………」

 

そういって俺はジュディスに眠りの呪文を使い眠らせる。そして気を失ったジュディスをバウルの背中に預けた。

 

「わりぃ、バウルまたジュディスのこと頼むわ。約束頼むぜ?」

 

バウルの表情はまるでこれでいいのか?と聞いてくるように見えた。

 

「ま、これが最善だしな。それじゃあ早く魔物の群れが来る前に行け!」

 

そういうとバウルは俺の目をじっと見た後、気絶したジュディスを背中に預け勢いよく飛んでいくその姿は一瞬で小さくなる。すると先行してきた空にいる魔物達が離れていこうとするバウルを視界に捉え動き出そうとする。

 

俺はそのまま武器を変え銃剣を取り出す。

 

 

「轟雷爆閃弾」

 

 

そして追いかけようとする魔物に向かってアーツを打ち放つ。光を帯びた弾丸はそのままその魔物を飲み込んで敵を一瞬にして蒸発させた。

それが合図となったのかほとんどの魔物が俺を標的としたようだ。そしてバウルが飛んでいった方角を見るともう既に姿は見えなかった。

 

 

「これで一応、安心かな。っとそういえばジュディスに言うの忘れてた」

 

 

俺の口の端が自然とつりあがるのがわかる。そして俺は自分の中にある力を呼び起こす。

 

 

── 来い ──

 

 

 

死の恐怖と呼ばれた憑神

 

 

 

── 俺は ──

 

 

 

そして最初にモルガナから作られし第一相の碑文

 

 

 

── 此処にいる!!──

 

 

 

その名は──

 

 

 

「スケェェェェィス!!!」

 

 

俺の言葉に反応して姿が変っていく。全体的に白い体をした人型になり背中からは六枚に分かれた翼とも剣ともいえるような浮かんでいる。両手首には白い眼球らしきものが取り付けられていてそれはまるで天使とも悪魔とも取れるような容姿をしていた。

 

 

「俺はそう簡単に死なねーよ」

 

 

そう言って俺は魔物の群れへ向かっていった。

 

 

 

 

これが世界各地で魔物が大群になり暴れだし後に人魔対戦と呼ばれる事になる。

 




次回から原作スタート

11月8日修正 非難→避難


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第七相

今俺の目の前にはごつごつとした鉄格子がある。

 

空気はジメジメしており、居心地が悪い。囚人はいつもこんな空気を吸っているのか。

 

ごろんと牢の中のベットに横になるとどこからか声が聞こえてくる。

 

 

「……で、その例の盗賊が難攻不落の貴族の館から、お宝を盗んだわけよ」

 

「知ってるよ。盗賊も捕まった、盗品も戻ってきた。だろ?」

 

 

向かい側の看守と囚人だろう。随分と呑気な話をしてるよな。

 

ふぁぁ…と小さく欠伸をする。俺はなぜここにいるのかが自分でもまったく理解できない。

 

 

「いやぁ、そこは貴族の面子が邪魔してってやつでな?盗賊は捕まっちゃいねーし、いま館にあんのは贋作よ」

 

「馬鹿な・・・」

 

「ここだけの話な。漆黒の翼が目の色変えて、その盗賊のアジトを探してんのよ」

 

「何?例の盗賊ギルドが?……!!ごほんっ、いい加減大人しくしていろ。もうすぐ食事の時間だ」

 

 

話に食い入るように夢中になっていた看守だが、これ以上はとか何か思ったところがあったのか。わざとらしい咳払いをした後、話していたおっさんの囚人を叱るように突き放した。そして、看守は俺の檻の前を過ぎて外へ出て行った。

そして数秒の沈黙がこの空間に流れ……

 

 

「……そろそろ、じっとしてるのも疲れるころでしょーよ、お隣さん。目ぇ覚めてるんじゃないの?」

 

 

不意におっさん囚人は誰かに声をかけた。一瞬自分かとも思ったが声が聞こえた奥の方のさらに手前側から男の声が聞こえてきた。

 

 

「そういう嘘、自分で考えてんのか?おっさん暇だな」

 

 

そういえば、さっき隣に運ばれてきてたな…。そんな事を思いながら再び彼らの話に耳を傾ける。

 

 

「おっさんはひどいな。おっさん、傷つくよ」

 

「おっさんって自分で言ってんじゃん。」

 

 

俺は思わずツっこんでしまった。

 

 

「…ん?」

 

「おやぁ?そっちの人も起きてたみたいじゃない」

 

 

俺の声に気がついた青年とおっさんが反応する。

 

 

「誰かいんのか。さっきから気配はしてたけど…」

 

「起きてたら話しかけてくれてもよかったのに、おっさん寂しくて死んじゃうかもよ?」

 

「いや、あんたはウサギかっつーの」

 

 

まぁ、別に話すのが嫌なわけではなかったのだが。何しろ、閉じ込められている牢が離れていたから話しにくかっただけ。

 

 

「それよりも、ここを出る方法を教えてくれ。」

 

「ん?何したか知らないけど、十日も大人しくしてたら、出してもらえるでしょ?」

 

「そんなに待ってたら下町が湖になっちまうよ」

 

「俺は法すら犯してもいないのに何故に何日もここにいないといけないんだ。」

 

 

はぁ、俺は思わずため息を着くと隣の青年が疑問を投げかける。

 

 

「ん?法を犯したわけでもないのになんであんたは牢屋に入れられてるんだ?」

 

「いや、たまたまザーフィアスの中歩いてて道端に袋をくわえた犬がいてさ、思わず撫でてたら何故か騎士が来て捕まえられた。」

 

すると隣の青年が一瞬沈黙して恐る恐る聞いてくる。

 

「ちなみにもしかしてその犬、キセルとか一緒にくわえてなかったか?」

 

「あー、確かにくわえてたな」

 

「わりぃ、その犬、俺ん所のやつだ」

 

 

おまえのせいか!!そう考えているとおっさんが話しかけてくる。

 

 

「ねぇねぇお二人さん、盛り上がるのはいいけどおっさんを仲間はずれにするのは酷くない?」

 

「じゃあここを出る方法を教えてくれ」

 

「…悪いね。その情報は持ってないわ」

 

「使えないな」

 

「ひどっ!!」

 

おっさんに対して俺が毒を吐くと面白いように反応が返ってくる。

 

「だろうな…モルディオとかいうやつのことも、どうっすかな…」

 

「モルディオ?ってアスピオの?学術都市の天才魔導士とおたく、なんか関係あったの?」

 

 

ユーリはその場で跳ね起きる。

 

 

「知ってんのか?おっさん」

 

 

ユーリが聞くとそのおっさんはへへんとまたおどけた口調に戻る。

 

 

「お?知りたい?知りたいんだったらそれ相応の報酬をもらわないと――――」

 

「学術都市アスピオの天才魔導士なんだろ?ごちそうさま。」

 

「い、いや、違う、違うって。美食ギルドの長老の名前だ。いや待て、それは、その、あれか……」

 

「おっさん見苦しいぞ」

 

 

しどろもどろにもなりながら全力で否定し始めるおっさん。しかし、それと同時に独房の廊下の先から足音が近づいてくる。その近づいてくる音に誰もが耳を澄ます。

 

 

その足音は俺とユーリの牢屋の前を過ぎ…あのおっさんの前で止まった。

 

 

そこには帝国騎士団長、アレクセイの姿があった。そして、アレクセイはおっさんの牢を開け言った。

 

 

「出ろ」

 

「いいところだったんですがねえ…」

 

「早くしろ」

 

 

ガチャンと牢屋が閉まる音が聞こえ、再び彼らの前を通り過ぎるアレクセイ。しかし、俺らには見向きもせずに過ぎ去って行く。その後ろにはさっきのおっさんがついていく。

 

一つに束ねられた髪、東風の衣服に身を包んでいる。顎に生やした無精ひげが見た目の胡散臭さを余計に強調していた。うん、すげー胡散臭い

 

 

「おっと…」

 

 

と不意におっさんはユーリが閉じ込められている牢の前でつまづいた。それに気づいたユーリは前の腰をかがめたおっさんに目を向ける。

 

 

「…騎士団長直々なんておっさん何者だよ」

 

 

ユーリのその問いに彼は答えなかった。代わりに、鉄格子のなかに何かが滑り込んできたのを掴み取る。

 

ここの牢屋の鍵だろう。それを渡すと見据えながらユーリに言う。

 

 

「女神像の下」

 

「何をしている」

 

「はいはい。ただいま行きますって」

 

 

アレクセイの声に導かれこの独房を後にした二人。しばらくすると彼らの気配は消えてしまった。

 

 

「そりゃ、抜け出す方法を知りたいとは言ったけどなあ…」

 

 

そう言うも、その鍵で独房から抜け出すユーリ。そして、独房を後にしようとするも、手前にある牢に向かう。

 

 

「オマエはどうする?」

 

「お前のその鍵で俺のも開かない?」

 

「んなわけないだろ…」

 

 

と言いつつユーリが鍵穴に差し込んで力を加えると……

 

──ガチャン

 

鍵はそのまま回り鉄格子が開く。

 

 

「開いたな」

 

「………ここの相変わらずのザル警備といい、本当に大丈夫か?」

 

俺とユーリはそのまま牢を出る。

 

 

「それでこれからどうするんだ?」

 

 

俺が尋ねるとユーリは口角を上げながら…

 

 

「一応、女神像の下ってのも試す価値はありそうだろ?」

 

「そうだな、発信源がさっきのおっさんでなければもっといいけどな。」

 

 

ユーリにそういうと苦笑いをする。

 

 

「そんじゃ、さっさとここを出ますか」

 

 

そういって俺が歩き出すと後ろから呼び止められる。

 

 

「ちょっと待てよ。まずは自己紹介だろ?俺はユーリ・ローウェル。お前は?」

 

「お、そういえばまだ言ってなかったな」

 

 

俺は振り向きながら言う。

 

 

「俺はリオ・ヒイラギだ。リオでいいぞ。」

 

「りょーかい、脱獄の間までだがよろしく」

 

 

そして、独房に入る前に取られた武器を取り戻して、俺らは牢屋を後にした。

 

 

 

 

 

「そういえば、リオには無罪だったんだよな?」

 

「ああ、そのはずだが……突然どうしたユーリ?」

 

突然ユーリが先ほどの話を聞きなおす。

 

 

「今、ここにいる時点で脱獄罪がついたな」

 

 

ユーリが笑いながら言ってくる。

 

 

「もともとこうなったのはお前が原因だからな!?」

 

 

おもわず声を大きくして叫ぶ。そのせいで何人かの騎士に見つかり、そいつらを全員気絶させて俺らは先へと向かった。

 




ここまでご覧になっていただきありがとうございます。
次回からは多分一週間投稿になると思いますが、どうぞよろしくお願いいたします。


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第八相

「そういえばリオは戦えるよな?」

 

俺達は騎士達に見つからないように気配を殺しながら先へと進んで行くとユーリが話しかけてくる。

 

「まっさか~俺なんて戦力にはならな……」

 

「その割にはさっき向かってきた騎士を一瞬でのしてたよな」

 

「なら聞くなよ」

 

そんなやり取りを交わしながら俺らは出口へと足を進める。

が、不意にした男の声に気付き、俺達は壁の影に身を寄せた。そして、その声がした方向に目をやる。幸い、俺達には気づいていないようだが。

 

 

「もうお戻りください!」

 

「今は戻れません!!」

 

「例の件につきましては、我々が責任をもって小隊長に伝えておきますので…」

 

 

二人の騎士たちが取り囲むそこには随分と綺麗な身なりをした少女がいた。結ばれた淡い桃色の髪を揺らしながら彼女は騎士たちに反抗する。

 

 

「そう言ってあなた方は、結局は何もしてくれなかったではありませんか!」

 

 

そう言うと少女は近づこうとした騎士に向かって剣を向ける。

 

 

「それ以上近づかないでください」

 

「おやめになられたほうが……お怪我をなさいますよ」

 

「剣の扱いは心得ています」

 

 

騎士たちが軽く脅すような物言いにも少女はひるむ気配がなかった。しかしそれが合図かのように騎士は剣を鞘から抜く。

 

 

「致し方ありませんね、手荒な真似はしたくありませんでしたが……」

 

「おい、いたぞ!!こっちだ!」

 

 

その声を聞いた騎士たちが集まってくる

 

 

「お願いします!どうしてもフレンに伝えなければならない事が!」

 

その事を聞いたユーリは突然、壁の影から飛び出す。ちょ、ユーリ!?

 

「はぁ!」

 

 

「ぐはぁ!」

 

「ごふっ」

 

「フレン!?…私を助けに……え?」

 

 

少女に一番近かった、二人の騎士が何らかの衝撃で吹き飛ぶ。その一つに見覚えがあったのか、一声叫び背後を振り返る。

だが、そこにいたのは彼女が脳裏で思い浮かべていた人物とは違った人物だった。戸惑いを隠せないように大きく見開いた澄んだ黄緑色の眼に映るは黒く長い髪、鋭く光に照らされた黒い瞳。

そして、その隣には黒髪の青年と同じ位の背格好をした同じく黒目黒髪の青年の姿。唯一見た目で違うのは髪の長さと容姿位だろうか。

 

 

「だ、誰ですか…?」

 

 

そう言うと彼女は動きを止め、残りの騎士たちは唖然としながらも、今度は彼らに向けてユーリが剣を持ち身構える。

 

 

「ユーリ、飛び出すなら先に言っといてくれよ」

 

「とか言いつつ、リオだってちゃっかり一人倒してんじゃねーか」

 

「いやぁ、だってこの騎士俺の事捕まえた人の声だったからつい」

 

「なら、仕返し出来てよかったな」

 

「なぜだろうユーリといると間違いなく俺、一級犯罪者になれる気がしてきたぞ?」

 

 

そんなくだらない話をしていると残っていた騎士たちが声を上げる。

 

 

「貴様達!何者だ!!」

 

「ったく、こっそりのはずがいきなり厄介事かよ」

 

「自分から突っ込んだんだけどな、主にユーリが、」

 

「気をつけろ片方の奴は魔導器を持ってるぞ」

 

「3対2だ、数でかかれば問題ない!」

 

 

騎士たちは束になり俺達に襲い掛かる。俺は先ほど取り出した拳闘武器をつける。まぁ一応Lv20あたりの武器だし死にはしないだろう。ユーリは早くも騎士の一人へと接近して剣を振るうとそのまま騎士は成すすべもなく首もとを峰打ちされ倒れる。

 

俺も同じくして騎士がユーリの方に意識が向いている間に接近してアーツを叩き込む。

 

 

「獅子連撃!」

 

 

騎士はそのまま吹っ飛ばされ、壁に激突して動かなくなる。そして最後の騎士のほうを見るとユーリの蒼波を食らって倒されるところだった。

 

 

「ふぅ、お疲れ」

 

「おう、お疲れさん。てかリオの武器って拳闘だったんだな」

 

「いやいや、それはどうかなっと………ユーリ、一歩手前にジャンプ」

 

 

俺がそう言うとユーリは疑問そうにしながらも指示通り手前にジャンプする。

 

 

──パリンッ

 

するとさっきまでユーリのいた場所に花瓶が振り下ろされていた。

 

 

「うおっ!なにすんだ!?」

 

 

後ろからした音にユーリが驚き振り返ると先ほどの少女だった。

 

 

「だってあなた達、お城の人じゃないですよね?」

 

 

いやいや、だからっていきなり花瓶で人の頭殴るのは駄目だろ。

 

「そう見えないってんなら、そりゃ光栄だな」

 

ユーリがそういうとどこからか大声が聞こえてくる。

 

 

「ユーリ・ロ~ウェル!何処だ~!」

 

「不届きな脱走者め!逃げ出したのは、わかっているのであ~る」

 

 

そうの声を聞いたユーリはめんどくさそうにしている。

 

 

「っち、またあいつらか、これで完全に脱獄罪追加だな。」

 

「ユーリ・ローウェル?もしかしてフレンのお友達の?」

 

「ああ、そうだけど?」

 

「それよりユーリ、早く行かないと、また面倒になるぞ?」

 

「あのユーリさん、フレンについてお話が……」

 

「時間がない、とりあえずはフレンのところに案内すればいいか?」

 

「あ、はい!」

 

「いくぞ!」

 

 

そうして、俺達は騎士たちの目のつかないように城の中を通って行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

貴族らしき少女を連れ、一つの部屋についた。

その扉を開けると中には誰もいなく、それどころか部屋の隅々まで片付いている。

 

 

「やけに片付いてるな…こりゃフレンの奴、どっかに遠出かもな」

 

 

俺はそのまま壁に寄りかかりながら、少女とユーリのやり取りを眺めている。

 

 

「そんな…間に合わなかった」

 

「んで、いったいどんな悪さやらかしたんだ?」

 

「どうして?私、何も悪い事なんてしていません。」

 

「なのに騎士に追い回されるのか?常識じゃ計れねえな、城ん中は」

 

 

ユーリがそう言うと少女は少し黙った後、決心したかのように顔を上げる。

 

 

「あの!ユーリさん!」

 

「な、なんだよ急に」

 

「あの詳しい事は言えませんけど、このままだとフレンの身が危ないんです!それをフレンに伝えたくて…」

 

「行たきゃ、行けばいいんじゃないのか?」

 

「それは…」

 

 

そう言うと少女はまたしょぼんとなる。けれどまた何か考え付いたのかまた元に戻る。さっきから見てて面白いな。

そしてユーリはそのままベットに腰掛けながら言う。

 

 

「それに俺は出来るだけ早く下町に戻りたいんだよ」

 

「だったら私も連れて行ってください。せめてお城の外まででもいいので……お願いします、助けてください」

 

「訳アリなのはわかったからせめて名前位聞かせてくんない?」

 

そして少女が話そうとした時だった。

突然、閉められていた扉が激しい音を立てながら開いた。しかもそれは本来の開き方ではなく倒れこむように蹴破られたのだ。少女が驚く中、二人は全然物怖じをしていなかった。俺は動じずにその場から動かない。ユーリも窓を見たまま視線を向けようとしない。

そして、その扉の向こう側には双剣を持った一人の男が立っている。

 

 

「ノックくらいしろよな」

 

「どっちがフレン・シ-フォだ?まあいい両方ともオレの刃の餌になれ…」

 

「ほら、フレンお前、呼ばれてるぞ!」

 

今まで黙っていた俺はユーリに呼びかける。

 

「ちょ!?リオおまえ!」

 

「お前がフレン・シーフォか。オレはザギ…お前を殺す男の名前だ、覚えておけ。死ね、フレン・シーフォ!!

 

ふう、いやーかなりあいつめんどくさそうだしユーリに押し付けられてよかったよかった。

てゆーか刃の餌になれとか、実際にいうやつ見ると三下臭しかしねえ。てかまじ腹痛ぇwww

 

そして笑いながら再びユーリ達の方を見ると目の前に刃が迫っていた。

 

 

「あぶな!?」

 

「どうやら先に貴様が死にたいらしいな」

 

俺はすぐさま拳闘武器を出して防御する。というか何故俺から狙うんだ!!

 

 

「リオ、お前さっきの思いっきり口に出して言ってたぞ」

 

「なるほど」

 

まさか自分で墓穴を掘る結果になるとは。

 

そして叫ぶように剣を俺へと向けてくるザギ。

 

行きつく間もなく、ザギはものすごい勢いで床を蹴り俺に剣の矛先を向けてくる。俺は片脚を後ろにずらす事で剣をすれすれの所でかわす。そして空いている横っ腹に拳を叩き込むが、ザギは残っていたもう一つの剣で受け止める。けれど衝撃までは受け止めきれず後ろに吹っ飛び猫のように着地した。

 

そんな攻防が続くいて、一定の距離を置いたとき、ザキは言った。

 

 

 

「良い感じだ…」

 

「いや、俺よりもあそこに座ってる人の方がもっといい感じになれるよ?」

 

そう言ってユーリを指すがそれでもザギは此方を見たままだった。

 

 

「いいな、その余裕も。…ははは!さあ、上がってキタ!!上がってキタ!!良い感じじゃないか!」

 

「……」

 

もういいです。憑神出すぞこら。

 

 

「まったくフレンもとんでもねぇのに狙われてんな」

 

 

そんなのんきな会話をしていらっしゃるユーリさん、まず俺を助けてくださいよ。そうしていると隻眼の暗殺者のような格好をしたやつがザギが蹴破った扉から入ってきた。

 

 

「ザギ、引き上げだ。こっちのミスで騎士団に気づかれた」

 

「うははははっ……!俺はまだ上り詰めちゃいない」

 

「騎士団が来る前に引くぞ。今日で楽しみを終わりにしたいのか?」

 

 

そう言った次の瞬間、隻眼の暗殺者はザギに切り刻まれた。そして此方を軽く見た後、隻眼の暗殺者を引きずりながら部屋を出て行った。

 

 

「ここもゆっくりできねぇのな」

 

「あの、ユーリさん」

 

「わかったよ、ひとまず城の外までは俺らと一緒だ」

 

「はい、あの、私エステリーゼって言います。よろしくお願いします。ユーリさん、リオさん」

 

 

そういって自己紹介をするエステリーゼ……ん?

 

 

「あれ?俺、自己紹介したか?」

 

「いえ、先ほどからユーリさんがそう呼んでいたので…」

 

「なるほど、じゃあ改めてリオ・ヒイラギだ。別にさんはつけなくていいから気軽にリオでいいぞ?」

 

「はい!よろしくです。リオ」

 

「それじゃあさっさと行くぞ」

 

そう言って俺達はフレンの部屋を出て女神像へと向かった。

 




そういえば一週間投稿と言いつつ、詳しい日程を言ってませんでした。
次からの投稿は毎週日曜の深夜0時にしようと思っています。


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第九相

先週投稿したつもりがどうやら出来てなかったみたいでした。
申し訳ありません。


 

「ふーん、これかぁ」

 

「この像になにかあるんです?」

 

あの後、エステリーゼの部屋へ行き服を着替えたりなどしながら女神像のもとへとたどり着いたわけだが……

 

「どうやら、秘密があるらしいぞ?」

 

「でも特別かわったものでは……」

 

「ま、王道としては動かしたら下に抜け道があるとかだよな」

 

そう俺がそう言うとエステリーゼは、まさか……と信じた様子はない。仕方ないので俺が女神像を右にずらす。すると下へと続く抜け穴がそこに現れる。

 

 

「……え?本当に……?」

 

「うわ、本当にありやがった……」

 

「それじゃ、抜け道もあった事だし行こうぜ」

 

 

先に俺が梯子から降りていこうとすると突然エステリーゼから静止の言葉がかかる。何事かと思って振り返る。するとユーリがエステリーゼにに腕ををつかまれている。

 

 

「どうした?やっぱり行くのはやめるか?」

 

「いえ、手、怪我しています。ちょっと見せてください。」

 

 

ユーリはエステリーゼがやっぱり城の外に行くのを躊躇っているのかと思ったのかそんなことを聞くが、どうやら引き止めた理由はユーリの怪我についてらしい。

 

エステリーゼにユーリが手を見せる。どうやらいつの間にか擦りむいていたのか少し血が出ていた。するとエステリーゼが呪文を唱え、周りに光が集まっていきその光が集まりユーリの手を照らす。すると先ほどまであった擦り傷がさっぱり消えてなくなっていた。

 

「ん?」

 

すると突然ユーリがエステリーゼの手をつかんだ。

 

「きゃあっ!」

 

エステリーゼが驚いて悲鳴を上げるとユーリはすぐさま手を離す。

 

「あ、悪い………。きれいな魔導器だと思ってつい手が……」

 

「ユーリ、襲うなら俺のいない所でしてくれよ」

 

「襲わねーよ!」

 

「あうあう///」

 

エステリーゼは顔から湯気が出るのではないかというぐらい赤くなっていた。

 

 

「それより……手、ありがとな」

 

「い、いえこれくらい…///」

 

「よし、じゃあさっさと行こうぜ」

 

そう言って俺達一行は地下道へと降りていく。

 

 

地下道に降りた俺達はそのままそこにいた魔物を倒しながら出口に向かって進んでいった。

 

 

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

 

 

~ユーリとリオ~

 

 

「そういえばリオとユーリさんはなんで一緒にお城にいたんですか?」

 

「牢屋であって一緒に脱獄したんだよ、な!」

 

「俺が牢屋に入れられたのもユーリのせいなんだけどな」

 

「へぇー、それじゃあ二人は同じ釜の飯を食った仲って事ですね!!」

 

「「いや、それはなんか違う」」

 

 

 

 

    =S=

 

 

 

俺達は地下道を抜けて地上に出る。

 

「うお!まぶし」

 

ユーリは目を細めながら言う。外はもう夜が明け太陽の光が真上からさんさんと降り注いでいた。

 

「いやーやっぱり外の空気が一番だな。もう二度とあの牢屋の空気は吸いたくないな。」

 

そう言いながら俺は両手を上げながら体を伸ばす。

 

「それにしても貴族街に繋がってんのか」

 

「窓から見てるのとは全然違って見えます。」

 

そりゃ大げさだろと苦笑いしながらユーリが言う。

 

「ま、とりあえず脱出成功って事で」

 

そう言ってこちらに手を上げてくるユーリに俺は迷わずそこにハイタッチする。そしてエステリーゼも俺達を見ていて理解したのか手の平をユーリの手に当てる。

 

「そんでエステリーゼはこれからどうすんだ?」

 

「フレンを追ってハルルに向かいます」

 

「お、なら俺もハルル行こうかな」

 

「その話だとリオは結界の外に出た事があるのか?」

 

「ああ、一応、俺はいろんな所を旅してるからな」

 

「へえー、ぜひそのお話聞きたいです」

 

 

そう言って子供のような目で見てくるエステリーゼ。

 

「機会があったらな。そんじゃ下町まで一緒に行こうぜ」

 

「ああ、でも下町が湖になってなきゃいいがな」

 

俺達は下町にへと足を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

下町に着くと白髪白髭を生やした男性がこちらに近づいてきた。ここには俺の知り合いはいないので俺は先に出口の方へ向かう。

 

「よお、ハンクス爺さん」

 

「ユーリ、まーた騎士団と揉めたそうじゃな」

 

「ま、そんなとこだ。それで噴水の方はどうだ?」

 

ユーリの質問をきいたハンクス爺さんの顔に影が差す。自分が修理を頼んで来た人が原因だったせいだろう。

 

 

「コアが無いせいでどうにも動かん。このままでは飲み水が無くなって後は腹壊すの承知で川の水をのむしかないかの……」

 

「騎士団はなにもしてくれねえし、やっぱりコア泥棒本人から取り返すしかないか」

 

「まさか結界の外に出るつもりか?」

 

ハンクス爺さんは驚いたような表情で聞いてくる。

 

「心配してんのか?」

 

「はん。誰が心配なんぞするか。むしろ丁度いい機会じゃ。しばらく帰ってこんでいい。」

 

そう言うとハンクス爺さんは笑いながら言う。けれど先ほどの影は何処にも感じられない笑顔だった。

 

「そんじゃ、じいs「ユーリ・ローウェ~~ル!!共犯者ともども神妙にお縄につけ~!!」ま、こういう事情があるからしばらく留守にするわ」

 

ユーリの声が下町の入り口付近からしたルブランの声によって遮られ、その様子に苦笑いしながら言う。

 

 

「やれやれ騒がしいやつじゃな。のたれ死ぬんじゃないぞ」

 

「そう言う爺さんもな」

 

 

ルブランはそのまま俺達に向かって走ってくるがハンクス爺さんが手を上げると下町の住人が一気に押し寄せルブランをもみくちゃにする。

 

「お?ユーリも行くのか?」

 

出口付近で待っていた俺がユーリに話しかける。

 

 

「ああ、コア泥棒を捕まえにな」

 

「じゃあこれからよろしくお願いしますね」

 

「てか前」

 

 

そう言って前を向くと多くの下町の住人が走ってきていた。そして俺達もルブランと同じくもみくちゃにされる。

その時に地図やら何やらをユーリが受け渡されながらやっとの思いで人の板垣を抜ける。

 

そしてどうやらルブランもあれを抜けてくるが突如脇から出てきた犬によって転ばされ気絶してしまった。

というかあの犬は俺が捕まる前に撫でてた犬、ラピードだった。

 

 

「ラピード、狙ってたろ。」

 

「犬?」

 

「よう、昨日ぶりだな」

 

そういって俺はラピードの頭を撫でる。それを見ているユーリはどこか俺が不思議そうに見えるような顔をしていた

 

「めずらしいな……っとじゃまずは北のデイドン砦か」

 

「最短コースならそうだな」

 

「どこまで一緒かわかんねえけど…ま、よろしくな、リオ、エステル」

 

「ああ、よろしく。てかいいなその呼び方、俺もこれからエステルって呼ぶわ」

 

「エス…テル………はい!こちらこそ、よろしくお願いします。ユーリ!、リオ!」

 

そうして俺達三人は下町の方を見る。

 

「しばらく留守にするぜ」

 

「いってきます」

 

ユーリとエステルそして俺はそれぞれの思いをもって帝都ザーフィアスを飛び出した。

 

 

 

    =S=

 

 

 

 

~はじめまして、ラピード~

 

 

エステル「ユーリ、こちらの犬は……」

 

ユーリ「ああ、俺の相棒ラピードだ」

 

ラピード「ワン!」

 

リオ「お手」

 

ラピード「ワン!」

 

リオ「おかわり」

 

ラピード「ワン!」

 

リオ「よし、昨日の事は水に流そう」

 

ユーリ「なにしてんだ?リオ?」

 

リオ「俺のいうこと聞いたら巻き込んだ事を水に流すってことにした」

 

エステル「ええ!わ、わたしもしたいです!ラピード、お手」

 

ラピード「……」

 

エステル「私の言う事は聞いてくれません……」

 

 

 

     =S=

 

 

 

 



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第十相

 

 

 

帝都から飛び出した俺達は現在、ハルルの町の途中にある北のデイドン砦にたどり着いていた。

そこには多くの騎士達が俺達の目に入る。

 

「私たちを追ってきた騎士でしょうか?」

 

「どうかな。ま、あんま目立たないようにな」

 

「そうだな、…………ま、無理だろうけど」

 

そもそも、この二人を見てると目立たないイメージがわかないんだよなぁ。

 

「はい。私もフレンに早く追いつきたいですから」

 

「んじゃ、さっさと砦を抜けますか」

 

そう言って歩き出そうとするユーリの肩を掴んで止めた。

 

「ん?なんだ?リオ」

 

「あちらをご覧ください」

 

つかまれたことに気がついたユーリがこちらを振り向くが、俺はそのまま右方を指差す。

 

俺の指の先、そこにはエステルが出店の本に釘付けになって読んでいる姿があった。

 

「本当にわかってんのか?」

 

「恐らくはな…」

 

 

カンッカンッ!!

 

突如、鐘の音が激しく鳴り響くと砦の中が慌しくなる。そして砦の向こう側からは砂を巻き上げながら此方へと向かってくる魔物の群れがいた。

 

砦の外にいた人達は、急いで砦の中に入っていくそして騎士が急いで門を閉じようとしている。

 

「早く入りなさい!!門が閉まるわ!!」

 

砦の上にいる女性の声が響く。

 

「矢だ、矢を持ってこい!」

 

「早く門を閉めろ!!」

 

「くそっ!やつが来る季節じゃないだろ!」

 

「主の体当たりを耐えればやつら魔物は去る!訓練を思い出せ!」

 

 

騎士の指示で、騎士達は魔物の群れに矢を放つ。イノシシのような魔物の群れはそれでも勢いを殺さず砦へと一直線に向かってくる。

そして人が一通り砦に入る。だが、騎士は気がつかない。一人の少女と一人のケガをしている男性がまだ砦の外にいることを。

 

 

「……よし、退避は完了した!扉を閉めろぉ!」

 

「閉門を待ちなさい!まだ残された人が……」

 

 

女性は騎士の指示を止めようとするがどうやら魔物の足音によって掻き消され声が届いていない。エステルは魔物達を見て驚きの表情を浮かべる。

 

 

「あれ、全部、魔物ですか……」

 

「帝都に出て早々にとんでもないもんにあったな」

 

 

「って!?おい、ユーリ!」

 

 

そう言ってユーリとラピードは門に向かって走り出しっていた。目立たないようにするんじゃなかったんかい!

 

 

「グルルルルッ!」

 

「な、なんだ、おまえ!うわっ、うわっ!やめろ!」

 

 

ラピードが門を閉じようとしている騎士を威嚇する。騎士が手を離したことで門の閉門は止まった。

俺もユーリとエステルの所に向かおうとする。

 

 

「エステル、おまえはここで待って……っておい!エステル!」

 

 

エステルはユーリの言うことを聞こうともせず真っ先に倒れている男性へと走っていく。

 

 

「ユーリは女の子を!」

 

「……はいはい」

 

 

ユーリは呆れた顔で頷いて女の子のもとへと走る俺はユーリの後を追っていく。エステルは足にケガをした男性駆け寄る。

 

 

「た、助けて……立てなくて……ひっ……!魔物が、魔物が……!」

 

「大丈夫ですよ」

 

 

エステルは得意の治癒術で男性の足を治療する。ユーリの時の様に男性の足へと光が集まり照らすと男性は驚きながら何事もなかったかのように立ち上がる。

 

 

「……あ、た、立てる」

 

「早く避難してください」

 

 

そう促されて男性は走って門に向かう。それに続いてエステルも門へ走った。

後ろからユーリが女の子を抱えて門に入ると同時に俺もその後から門の中へと入り込む。

 

 

「お人形!ママのお人形!」

 

 

少女が人形がないことに気づいて泣き出すとエステルは外を探しに行こうとするが俺が止める。流石に見当たらないものを探すほどの時間はない。

 

 

「は、放してください!」

 

「ほい、これだろ?」

 

「え?」

 

 

俺はそう言って人形を懐から取り出した。

 

そのままエステルが唖然としている間に門が閉じた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとお礼を申していいか…」

 

「怪我まで治してもらい、本当にありがとうございます」

 

俺達はあの助けた女の子の母親と怪我を治してもらった男性に礼を言われていた。

 

 

「い、いえ私達は…」

 

「お兄ちゃん達!ありがとう!」

 

 

女の子がお礼を言い終えると母親と男性は各自がいるべき場所へと帰って行く。

 

 

「……みんな無事で本当によかった…」

 

 

エステルはそう言うと、突然、ぺたリと座り込んだ。

 

 

「あ、あれ…?」

 

「安心した途端にそれかよ」

 

「あはは、お疲れさん」

 

 

ユーリと俺は笑いながら一緒に座った。

 

 

「結界の外にはあんなに凶暴な魔物がいるんですね…」

 

「あんな群れで来られると、結界が欲しくなるよな」

 

「だが、結界魔導器も貴重品だからな~」

 

「そうですよね…魔導器を生み出した古代ゲライオス文明の技術がよみがえればいいのに……というか、リオはいつの間にあのお人形見つけてたんですか。私、探しに行こうとしてたんですよ?」

 

「いや、ユーリの後ろで俺って今、必要性なくね?とか思ってたら偶然見つけてな」

 

「お前、後ろついてくる時そんなこと考えてたのかよ」

 

 

ユーリ達とそんな話をしていると騎士がやってきた。

 

 

「そこの3人、少し話を聞かせてもらいたい」

 

 

だが、騎士が話し掛けるとほぼ同時に、遠くから別の声が聞こえた。

 

 

「だから、なぜに通さんのだ!魔物など俺様がこの拳でノックアウトしてやるものを!」

 

「簡単に倒せる魔物じゃない!何度言えばわかるんだ!」

 

 

そちらに目を向けると緑のフードを目深に被った男が騎士ともめている。

フードの男のそばには、大剣を背負った大柄な男と三日月型の武器を持った少女が立っている。

 

 

「貴様は我々の実力を侮るというのだな?」

 

 

フードの男が言うと、大柄な男は大剣を抜き上へと掲げる。

 

 

「や、やめろ!」

 

 

騎士の警告を聞かずに男は大剣を振り下ろす。すると周りに風が巻き起こった。

 

 

「邪魔するな!先の仕事で騎士に出し抜かれたうっぷんをここで晴らす!」

 

「おい!」

 

「これだからギルドの連中は!」

 

 

俺達に話し掛けていた騎士も身構えていた。

 

 

「あの様子では、門を抜けるのは無理だな」

 

「そんな…フレンが向かった花の街ハルルはこの先なのに」

 

「騎士に捕まるのも面倒だ。別の道を探そう」

 

「んじゃ、ちょっとした抜け道を使おうぜ」

 

「リオは砦の先に行く方法知ってるのか?」

 

 

ユーリが俺の話に耳を傾けようとすると先ほどの砦で叫んでいた女性が俺達に話し掛けてきた。

 

 

「ねぇ、あなた、私の下で働かない?報酬は弾むわよ」

 

 

そう言って金が入った袋を掲げる女性に先ほどまで話していたユーリは無言で目を反らす。

 

 

「社長(ボス)に対して失礼だぞ、返事はどうした」

 

「名乗りもせずに金で吊るのは失礼って言わないんだな。いやぁ、勉強になったわ」

 

「おまえ!」

 

 

女性と一緒にいた男性は、ユーリの態度に怒り、ユーリに詰め寄ろうとするが、女性が止める。

 

「予想通り面白い子ね。私はギルド『祝福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』のカウフマンよ。商売から流通までを仕切らせてもらってるわ」

 

「ふうん、ギルドね…」

 

 

ユーリがカウフマンのギルドという言葉に少し反応する。

すると、地響きが起こる。

 

 

「私、今、困ってるのよ。この地響きの元凶のせいで」

 

「あんま想像したくねえこど、これって魔物の仕業なのか?」

 

「ええ、平原の主のね」

 

「平原の主?」

 

「今さっきの魔物達の親玉だよ」

 

 

エステルがカウフマンに尋ねると、代わり俺が答えるとカウフマンが俺の声に反応する。

 

 

「って、あら?よく見たらリオ君じゃないこんなところで会うなんて奇遇ね」

 

「リオ、知り合いですか?」

 

「昔、護衛の仕事でな」

 

「んー、てことは彼がそっち側にいる限りは交渉しても勝ち目はなさそうね…」

 

 

カウフマンは俺達に聞こえないように何かを呟く。がユーリが痺れを切らしたのかカウフマンに言う。

 

 

「わりいけど、俺達にも急ぎの用があるんで、そろそろ行かせてもらうぜ」

 

「…ええ、そうね、呼び止めてごめんなさいね」

 

 

エステルはカウフマンにお辞儀をした後ユーリと砦の出口へ向かう。そして俺も向かおうとすると後ろから声がかかる。

 

 

「ねえ、貴方なら平原の主を倒せるんじゃないかしら?”黄昏の錬装士”君」

 

「おいおい、一応その正体知ってるのドンとあんただけなんだからあんま言いふらすなよ?」

 

「そうね前の護衛の時もそう言う条件だったわね」

 

 

カウフマンは俺を見据えながら言う。

 

 

「ま、今回は旅の仲間が最優先だから商売の話はまた今度な」

 

 

俺はそう言って背中越しに手を振りながらユーリたちのいる砦の出口へと向かった。

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

~ギルドについて~

 

 

ユーリ「さっきのお姉さんギルドの人間だって言ってたな」

 

エステル「『祝福の市場(ギルド・ド・マルシェ)』のカウフマンさん、ですね」

 

リオ「ギルドにでも興味持ったかユーリ?」

 

ユーリ「いや、確かに興味がないわけではないんだが具体的にはギルドって何をするんだ?」

 

リオ「いろいろだな。商売だったり、魔物と戦うことだったり、ま、実際見てみればわかるだろ」

 

エステル「この先もギルドの方々に会う機会があるかもしれませんしね」

 

ユーリ「そうだな、けどあのお姉さん見たいに、押しの強いのは、ちと勘弁だけどな」

 

 

 

   =S=

 

 

 

 



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第十一相

更新遅れまして申し訳ありません。


 

 

俺達はデイドン砦を出た後、脇道へと入り進んでいくと森の入り口へと差し掛かりそのまま森へと入る。

 

 

「よし、到着っと。ここを抜ければ平原のむこうにつけるぞ」

 

俺がそう言うとエステルの顔が強張っている。

 

「……この場所にある森って…、まさか、クオイの森……?」

 

「エステルはこの森知ってるのか?」

 

 

ユーリは俺だけでなくエステルまでもがこの場所を知っていた事自体が珍しく感じているようだ。

 

 

「クオイに踏み入る者、その身に呪い、ふりきる、と本で読んだことが……」

 

「なるほどね、それでさっきのお姉さんはここを通らないわけか…」

 

「いやいや、そんな理由であのオバ……もといお姉さんが通らないわけないだろ。一応ギルドのボスだぞ。ま、実際は道が狭くて荷馬車が通らないのと視界が悪いから魔物に襲われたら一溜りもないのが理由だな」

 

 

そう言いながら俺とユーリはそう言いながら奥に進もうとしたが、足音が二つ分しかしない事に気がつきお互い振り返ると。何かと葛藤するような表情をしながらその場から動いていないエステルがいた。

 

「行かないのか?ま、オレらはいいけど、フレンはどうすんだ?」

 

「ユーリ、俺に確認というものはとらないのか?」

 

「なんだ?リオは急ぎの用事でもあるのか?」

 

「いや、まったく」

 

「ならいいだろ」

 

そう言ってユーリはニヤッという擬音が似合いそうな笑顔で俺に言ってくる。

 

コイツ明らかにわかって言ってやがるな……

 

「……わかりました。行きましょう!」

 

そんな会話をしている内に決心したのかエステルは俺らと一緒に奥へと進んでいく。まだ顔は若干強張ってはいたが……

 

 

  

  =S=

 

 

 

 

「蒼破刃!」

 

しばらくすると何匹かの魔物が草むらからとびだしてきたのをユーリが牽制する。

 

 

「ユーリ!エステル!そっちはまかせた!」

 

「りょーかい!」「はい!」

 

 

そう言って俺は目の前にいる狼のような魔物と対峙する。

 

 

「さてと、今回はこいつで行きますか!」

 

 

そう言って俺は背中に手を回して何かを掴んで引き抜く動作をする。するといつの間にかそこにはチェーンソーのような大剣が握られながら凶悪な機械音を鳴らしていた。

 

 

「虎乱襲!」

 

 

俺は、アーツを発動しながら魔物の背後へと回りこんでVの字に切り裂く。それだけで狼のような魔物は両断され絶命する。

 

俺はそのまま大剣を降ろすと隠れていたのか俺の背後の草むらがガサガサと音を立てながら先ほどと同じ種類の魔物が俺めがけて飛んできた。

 

ま、避ける必要はないけどな……

 

 

「ガウッ!」

 

そのまま飛んできた魔物は俺には届かず横から来たラピードの小太刀によって切り裂かれながら吹き飛ぶ。だがどうやら切込みが浅かったのか魔物は吹き飛ばされながらも何とか立ち上がる。

 

「よっと」

 

そんな声が聞こえたかと思うと次の瞬間、魔物は俺の手から離れた大剣によって串刺しにされ大剣はそのまま光の粒となって消え、そこには魔物の亡骸だけが横たわっていた。

 

 

「さんきゅ、ラピード」

 

「ガウ」

 

 

俺はそのままラピードを撫でつつユーリたちの方を見ると丁度最後の魔物にエステルの術が決まっているところだった。

 

 

そんなこんなで、俺達はそのまま何度か森の魔物と遭遇しながら奥へと進んでいく。

 

 

 

 

 

 

「な、何の音……です?」

 

しばらく歩いているとエステルが何かを感じたのか足を止める。

 

 

「足元がひんやりします…まさか!これが呪い!?」

 

「どんな呪いだよ」

 

 

ユーリは呆れた声でエステルに言う。

 

 

「木の下に埋められた死体から、呪いの声がじわじわと這い上がり、わたしたちを道連れに……だからカウフマンさんも…」

 

「それさっき俺が通らない理由話したよな?」

 

「……あれは?」

 

 

どうやらエステルが目の前に何かある事に気がついたようでそちらに意識を向ける。

 

つまり俺の話はスルーですね。わかります。憑神出すぞゴラァ。

 

 

「これ、魔導器か。なんでこんな場所に……」

 

 

地面にのの字を書いてる俺を軽く無視してユーリとラピードがそれに近づいていた。

 

 

「少し休憩するか」

 

「だ、大丈夫です」

 

 

ユーリは丁度いいかと思ったのか休憩をしようと持ちかけるがエステルはそれを断って歩きだした。そして、魔導器の前でなにかに気がついたのか足を止める。

 

そう思ってエステルの方に振り向く時には既に手遅れで、

 

「……あれ、これは?」

 

 

と言ってエステルは魔導器に近づいくと次の瞬間

 

 

「「うお!」」

 

「キャァ!」

 

 

眩い光に襲われ思わず目をつぶるそして目を開けたときにはエステルが倒れていた。

 

俺とユーリは急いでエステルに駆け寄った。

 

「おい、エステル!」

 

「気絶してるだけだな」

 

 

 

 

  =S=

 

 

 

 

エステルはラピードに枕がわりになってもらって、眠っている。

 

 

「ほら、ユーリこれでも食っとけ」

 

俺はしばらく用事のため離れた後、その間に拾ったニアの実をユーリに投げ渡す。

 

 

「お、さんきゅ」

 

 

そいってユーリが何の疑いもなくニアの実を口へと運び次の瞬間には顔を歪める。

 

 

「うっ…苦っ!?……おい、リオ」

 

「いやーいいリアクションありがとう」

 

「ん……あれ?」

 

その時、エステルが目を覚ました。

 

「大丈夫か?」

 

「うっ……少し頭が……でも、平気です。私、一体……」

 

「突然倒れたんだよ。何か身に覚えないか?」

 

 

ユーリは見た目は普通にしていたがよほど心配していたのか何度も容態を聞いていた。

 

 

「もしかしたら、エアルに酔ったのかもしれません」

 

「エアルってあのエアルか?」

 

「はい、そのエアルです」

 

「濃度が濃いエアルは人体に悪影響を与えるからな。エステル、大丈夫か?」

 

 

俺が隣からそう補足して言う。

 

 

「はい、大丈夫です」

 

「ふうん、だとすると呪いの噂ってのはそのせいなのかもな」

 

ユーリが納得していると、エステルが立ち上がった。

 

 

「倒れたばかりなんだ、もう少し休んどけって」

 

「そうはいきません。早くフレンに追いつかないと」

 

「でもまた倒れて、今度は一晩中起きなかったら逆に遅れるからな。俺はリオに賛成だ」

 

「でも……そうですよね。ごめんなさい……」

 

エステルは不満を抱えつつも渋々休憩を取ることにした。

 

 

   =S=

 

 

 

 

 

一休みした後、俺達は再び森を進んで行く。そしてもうすぐ出口というところで、

 

「グルルルルル……」

 

ラピードが草むらに向かって威嚇していたそれと同時に草むらがガサガサと音がする。

 

「ん?」

 

ユーリと俺、エステルは草むらの方を向いた。

 

 

「エッグベアめ、か、覚悟!」

 

 

という声と共にいきなり、草むらから小柄な少年が飛び出して来たと思うと自分よりも大きい剣を振り回す。いやむしろ剣に振り回されていた。

 

 

「うわっ、とっとっ!」

 

 

回り続ける少年を傍らに俺はユーリに話しかける。

 

 

「ユーリ、止めてやれば?」

 

 

ユーリはそのまま近づいていきタイミングを見て、ニバンボシで、少年の武器に攻撃をしてそのまま大剣を真ん中あたりからたたき折る。

 

 

「うああああっ!あうっ!う、いたたた……」

 

「うわ、容赦ねえな」

 

 

回っていた少年は突然受けた衝撃によって派手に転び、転んだ少年にラピードが近づくと目を回していた少年がラピードに気がつく。

 

 

「ひいいっ!ボ、ボクなんか食べても、おいしくないし、お腹壊すんだから」

 

「ガウッ!」

 

「ほ、ほほほんとに、たたたすけて。ぎゃあああ???!!」

 

「ほらユーリがあんなことするからこの少年、頭おかしくなったじゃん」

 

「俺のせいかよ!というか忙しいガキだな」

 

 

呆れているユーリと面白がる俺。そうしていると最初は驚いて動かなかったエステルは少年に近づいて行く。

 

「だいじょうぶですよ」

 

「あ、あれ?魔物が女の人に」

 

「ったく。なにやってんだか」

 

「あははは、この子おもしれぇ」

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

 

「ボクはカロル・カペル!魔物を狩って世界を渡り歩く、ギルド『魔狩りの剣』の一員さ!」

 

先ほどの少年、カロルは自己紹介した。

 

 

「オレは、ユーリ。それにエステルとリオ、そしてラピードだ」

 

 

カロルが自己紹介をしてきたのでユーリがみんなを代表して自己紹介したあと出口の方を向く。

 

 

「んじゃ、そういうことで」

 

「じゃあ、カロルとやら死なないようにな」

 

そう言って俺とユーリは森の出口へと歩き出す。

 

 

「あ、え?ちょっとユーリ、リオ!」

 

 

どうやらエステルは俺らのさっぱりとした態度に驚いているようだ。

 

 

「えと、ごめんなさい」

 

「へ?……って、わ?待って待って待って!」

 

 

カロルは歩きだした俺達の前に急いで回り込む。

 

 

「3人は森に入りたくてここに来たんでしょ?なら、ボクが……」

 

「いえ、わたしたち、森を抜けてここまで来たんです。今から花の街ハルルに行きます」

 

「へ?うそ!?呪いの森を?あ、なら、エッグベア見なかった?」

 

「ユーリは見たか?」

 

「いや、見てないと思うぞ」

 

「そっか……なら、ボクも戻ろうかな……あんまり待たせると、絶対に怒るし……うん、よし!3人だけじゃ心配だから、『魔狩りの剣』のエースであるボクが街まで一緒に行ってあげるよ!」

 

「カロル、あれでエースを名乗れるのならギルドならギルド名は『魔狩りの剣』から『魔物の餌』に改名することをお勧めするぞ」

 

「嫌だよ!?そんなギルド名!それにさっきのはちょっと油断しただけだよ!」

 

 

俺が笑顔でそういうとカロル面白いくらい反応をする。そして今度は自分の鞄を見せる。

 

 

「なんたってボクは、魔導器だって持ってるんだよ」

 

「いや、残念ながら俺以外はみんな持ってるから大した自慢にならないからな?」

 

「え?え?なんで魔導器持ってるの!な、ならこれでどうだ!」

 

 

そう言ってカロルは少し厚い本を鞄から取り出す。どうやら中には魔物の情報などが書いてあるようだ。

 

 

「魔物の情報か。だが、途中から白紙だぞ?」

 

「こ、これからどんどん増えていく予定なの!」

 

「あ、ここ間違ってるぞ」

 

 

そう言いながらユーリと俺は本に魔物の情報を修正&書き込みをしていく。

 

 

「ちょっと!ねぇ、勝手に書き込まないでよ!」

 

「エースの腕前も、剣が折れちゃ披露できねえな」

 

「いやいや、案外軽くなって振りやすくなってるかもよ?」

 

「いやだなあ。こんなのただのハンデだよ。あれ?なんかいい感じ?やっぱり僕の計算どうりだね!」

 

 

カロルは折れた武器を振りながら何か言っているが俺達は無視してはカロルを置いて森の出口に歩き出す。

 

 

「ちょ、あ、方向わかってんの??ハルルは森出て北の方だよ。もぉ、置いてかないでよ!」

 

 

どうやらカロルもしばらくして俺達がいないことに気がついたらしく一緒についてきた。

 

 

 

 

  =S=

 

~犬にだってプライドはある~

 

 

カロル「ラピードって何者?犬なのに武器使うし。牙とか爪があるのに……」

 

ラピード「ウー、ワン!」

 

ユーリ「爪とか牙使うのは犬の戦い方だしな」

 

エステル「え?だってラピードは犬、ですよね?」

 

ラピード「ワンワン!」

 

ユーリ「ラピードはラピードって生き物だよ」

 

カロル「なにそれ?」

 

ラピード「ガウッガウッ、ワォーン!」

 

リオ「つまり、ラピードは自分のことはラピードって生き物だから犬や人間の常識に囚われないってところか」

 

ラピード「ワン!ガウッガウッ」

 

ユーリ「ご名答、だからもちろん武器も使うし道具も使う」

 

エステル「よくわかりませんけど……気位のようなものを感じます」

 

ラピード「ワオーン!」

 

ユーリ「だろ、敬えよ?」

 

リオ「ラピード、お手」

 

ラピード「ワン!」

 

カロル「…ね、ユーリ。もしかして、ラピードの言葉、訳してる?」

 

ユーリ「気のせいだろ」

 

エステル「うう、あいかわらずリオだけラピードに触れてずるいです」

 

カロル「あれって敬ってるのかな………」

 

   =S=

 

 

 

 

ユーリ達が先ほどまでいた魔導器の場所では…

 

先ほどまでは止まっていた魔導器が突如光りだす。その魔導器の前には銀色の輝く長い髪をなびかせ赤い服をまとった男が立っている。

 

「なぜ、貴様がここにいる?あの者たちと共に森を抜けたのではなかったのか?」

 

そう言う男はまるで初めからわかっていたかのように振り向きながら後ろに立っていた青年に話しかける。

 

「知ってて聞くなよ。それに半端に壊れていたせいか近づくまで気がつかったけど、これは間違いなく’あの’魔導器だ。だから俺が完全に壊す。」

 

「フン……好きにするがいい」

 

 

そう言うと男は魔導器の前から退く。

 

青年はそのまま右手を前へと突き出す動作をするとそこから光を放ち突き出した右腕はいつの間にか幾何学的な砲身へと変化する。

 

「ハァッ!」

 

その掛け声と共に砲身から弾丸らしきものが打ち出され、魔導器に当たるとそこから右手へと幾何学紋様のようないくつもの帯が右手に流れ込んでいき、しばらくすると収まった。

 

魔導器の方へ目を向けるとそこには今まであった魔核が消えて機能を完全に停止させている。

 

「貴様はなぜここまでする?」

 

事が終わったのを見はからって男は青年に話しかける。

 

「ま、これは、あの人からの頼みだからな。そして俺のためでもある」

 

「……そうか」

 

そう言うと男は納得したかのように言うとそのまま踵を返して森を出て行く。そして青年はその場から動かず、しばらくすると光の粒へと変化して消えた。

 



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第十二相

 

ユーリ、エステル、リオ、ラピードはクオイの森で出会った少年、カロルと共に花の街ハルルに到着した。

 

 

「ここがハルルなんですよね?」

 

「うん、そうだよ」

 

「この街には結界がないのか?」

 

「そういえばユーリとエステルはこの街は初めてだったよな。この街の結界魔導器は樹についてんだよ」

 

 

「魔導器の中には植物と融合して、有機的特性を身につけることで進化をするものがある、です。その代表が、花の街ハルルの結界魔導器だと本で読みました」

 

エステルが説明すると、ユーリは街の様子を見渡す。けれど街の住民の中にはケガをした人が多く空には結界の象徴である光の輪が見えない。

 

 

「役に立ってねえみたいだけど」

 

「毎年、満開の季節が近付くと一時的に結界が弱くなるんだよ。ちょうど今の季節なんだけど、そこを魔物に襲われて……」

 

「結界魔導器がやられた…ってところか?」

 

そうユーリが聞くとカロルは俯きながら頷く。

 

「うん、魔物はやっつけたけど、樹が徐々に枯れはじめてるんだ」

 

 

そう言うと丁度カロルの前を通りすぎた女の子がいた。

 

 

「あっ!」

 

「どうしました、カロル?」

 

「ごめん!用事があったんだ!じゃあね!」

 

 

そう言ってカロルは何かを思い出したかのように走っていった。

 

 

「どうしたんだろうな?」

 

「さあな。勝手に忙しいやつだな。それよりエステルはフレンを探すんだよな……」

 

 

エステルはユーリが言い終わる前に走り出し、その先にはケガをした人達が横たわっていた。

 

 

「まったく、大人しくすることができないのかアイツは」

 

「ま、エステルの性格からして放ってはおけないんだろうな」

 

 

そう言ってユーリと俺ははエステルのところまで歩み寄っっていく。

 

 

「わたしに、皆さんの手当てをさせてください」

 

「なんと、治癒術をお使いになられるのですか!?」

 

 

俺達が近づくころにはエステルの言葉に長老らしき老人が驚きの声を上げていた。

 

 

「ええ、それはぜひとも!……あ、いや、ですが、私らお金の方は……」

 

「そんなのいりません」

 

 

そう言うとエステルは噴水の近くにいた人みんなのケガを治癒術で手当てしていく。

 

 

「ありがとうございます!本当にありがとうございます!」

 

「いえ、そんな、ぜんぜん……」

 

「いやはや、これほどの治癒術があったなんて……」

 

「なんとお礼を言えばいいか」

 

 

エステルがみんなに感謝されてるのを横目に、俺はハルルの樹がある広場へと先に向かう。

 

 

「リオ、どこ行くんだよ?」

 

「ハルルの樹を少し見てこようと思ってな。なにが原因もわかるかもしれないだろ?」

 

「そうか。オレらも少ししたら行く」

 

「わかった」

 

俺はそのままはユーリ達と別れた。

 

 

 

 

 

  =S=

 

 

 

 

 

俺はハルルの樹を見上げる。以前、来たときは花が咲き乱れ幻想的な空間を作り出していたこの場所も今では樹が枝の先から徐々に枯れようとしていた。

 

足元を見るとやはりというか土が変色をしている。

 

 

「やっぱりか、だいぶ魔物の血を吸ってるな~」

 

 

俺は土を見て一人呟く。こうして見るとやはり魔物の血を吸っていしまったせいか土が赤黒い。

 

 

「リオ。樹の方はどうだ?」

 

「見た感じだと結構枯れ始めてるな」

 

 

そこにユーリとエステル、ラピードがやってきた。

 

 

「んで、二人ともこの後はどうする?」

 

一応、どうするかはこの二人の性格上分かっているが確認をする。

 

 

「わたしは、フレンが来るまでケガ人の治癒を続けます」

 

「……なぁ、どうせ治すなら結界の方にしないか?」

 

「え?」

 

 

突然のユーリの言葉にエステルは首を傾げる。

 

 

「魔物が来れば、またケガ人が出るんだ。今度はさっきのガキたちが大ケガするかもしれねぇ」

 

「それはそうですけど…どうやって結界を治すつもりなんです?」

 

「こんだけでかい樹なんだ。魔物に襲われた程度で枯れたりしないだろ」

 

「何か他に理由があるってことですか?」

 

「あー多分その原因はこれじゃね?」

 

 

そう言って俺は地面を指差しながら言う。

 

 

「土を見てみろ。足下の土だけ変色しているだろ?たぶん魔物の血を土が吸ったから、それが樹を枯らしているんだと思うぞ」

 

「確かに色が違うな」

 

 

ユーリがそう言いながら地面を確認しているとそこに先ほどの長とカロルがやってきた。

 

 

「なんとそれは真ですか!?」

 

 

どうやら先ほどの会話を聞かれていたようで、長は驚いたように問い返すと返事は長の後ろにいたカロルから聞こえてきた。

 

 

「リオ、よくわかったね」

 

「ということは、カロルも知っていたんだな?」

 

「ま、まぁね。……ボクにかかれば、こんくらいどうってことないよ」

 

「その毒をなんとか出来る都合のいいもんはないのか?」

 

ユーリがカロルに尋ねるとカロルは顔を俯かせて言う。

 

「あるよ、あるけど……誰も信じてくれないよ……」

 

「なんだよ、言ってみなって」

 

 

そう言ったユーリはそのまましゃがみ込んでカロルの目線にあわせて話す。

 

 

「パナシーアボトルがあれば、治せると思うんだ」

 

「パナシーアボトルなら。よろず屋にあるぞ」

 

「さっそく行きましょう、ユーリ、リオ!」

 

 

 

   =S=

 

 

 

俺達はそのままよろず屋を訪れた。

 

 

「はいよ、いらっしゃい。今日は何がいり用で?」

 

「パナシーアボトルはあるか?」

 

ユーリが店主にそう聞くと店主は困った顔になる。

 

「あいにくと今切らしてるんだ」

 

「そんな……」

 

「素材さえあれば、合成できるだがね」

 

「何が必要なんだ?」

 

「たしか『エッグベアの爪』と『ニアの実』『ルルリエの花びら』の3つだった気がするぞ」

 

 

ユーリの質問に俺が答えると店主は驚いたような顔をしながら話を進める。

 

 

「へえ、そっちの兄ちゃんは物知りだな。けど、パナシーアボトルを一体、何に使うんだ?先日も同じことを聞いてきたガキがいたんだが」

 

「ハルルの樹を治すんです」

 

「え?パナシーアボトルを樹に使うなんて、聞いたことないけどなあ」

 

「なるほど…カロルがクオイの森でエッグベアを探していたのはそういうことか……」

 

「あの、ニアの実とはどんなものなんです?」

 

「森で俺がユーリに渡したあの苦い果実だな」

 

「げ、あれかよ」

 

 

ユーリは先ほど俺が食べさせた事を思い出したのか。苦そうな表情になる。

 

よほど苦かったのか……

 

 

「では、ルルリエの花びらは?」

 

「それはこの街の真ん中にハルルの樹があるだろ?あれの花びらさ。普通なら魔導樹脂をつかうんだけど、このあたりにはないからね。ルルリエの花びらは長が持ってると思うから聞いてみな」

 

「わかった。素材が集まったら、また来る」

 

 

ユーリがそう言ってよろず屋を後にする。そして、隠れていたカロルに話し掛けた。

 

「カロル、クオイの森に行くぞ」

 

「え?」

 

「森で言ってたろ?エッグベアかくご~って」

 

「俺達も手伝ってやるってこと」

 

カロルは少し驚きの表情を浮かべて俺らの顔を見る。

 

 

「パナシーアボトルで治るって信じてくれるの……?」

 

「俺はギルド『魔物の餌』のエースに名誉挽回のチャンスをあげようと思ってな」

 

「『魔物の餌』じゃなくて『魔狩りの剣』!!……でも、も、もう、しょうがないな。ボクも忙しいんだけどね?」

 

 

カロルはいつもの調子に戻ったかと思うと見事に顔がにやけていた。

 

 

「決まりですね!わたしたちで結界を直しましょう」

 

「エステルも来るのか?」

 

「治すなら樹を治せって言ったのはユーリです」

 

そういわれたユーリは思わずぐうの音も出なくなる。

 

 

「こりゃ、一本とられたな。ユーリ」

 

「ったく、ならフレンが戻る前に樹治して、びびらせてやろうぜ」

 

 

俺達は再びカロルを加わえて、再びクオイの森に向へと向かう。

 

 

 

  =S=

 

 

 

 

 

「ねぇ、そういえば疑問に思ってたんだけど、二人……ラピードもなんだけど、なんでリオ以外はみんな魔導器持ってるの?」

 

 

カロルがクオイの森に入った直後に思い出したかのように尋ねた。

 

 

「普通、武醒魔導器なんて貴重品持ってないはずなんだけどな」

 

「カロルも持ってんじゃん」

 

「ボクはギルドに所属してるし、手に入れる機会はあるんだよ。魔導器発掘が専門のギルド、『遺構の門(ルーインズゲート)』のおかげで出物も増えたしね」

 

「ほぉ、遺跡から魔導器を発掘するギルドもあるのか」

 

「うん、そうでもしなきゃ帝国が牛耳る魔導器を個人で入手するなんて無理だよ」

 

「古代文明の遺産、魔導器は、有用性と共に危険性を持つため、帝国が使用を管理している、です」

 

エステルが説明する。

 

「いやいや、あれって管理というより独占だろ」

 

「確かにな」

 

「そ、それは……」

 

「で、実際のとこどうなの?なんで、持ってんの?」

 

「オレ、昔騎士団にいたから、やめた餞別にもらったの。ラピードのは、前のご主人様の形見だ」

 

「餞別って、それ盗品なんじゃ。……えと、エステルは?」

 

カロルは次にエステルに尋ねた。

 

「あ、わたしは……」

 

「貴族のお嬢様なんだから魔導器くらい持ってるって」

 

「あ、やっぱり貴族なんだ。ユーリやリオと違って、エステルには品があるもんね」

 

「心外な」

 

「うるせぇ」

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

 

そして何体かの魔物を倒しつつ俺達は前にエステルが倒れた魔導器のある場所に着いた。そしてユーリはその場に落ちていたニアの実を拾った。

 

 

「あとは、エッグベアの爪、だね」

 

「森の中を歩いて、エッグベアを探すんです?」

 

「それは、多分見つからないと思うぞ?」

 

「なら、どうすんだ?」

 

俺が説明する前にカロルが答える。

 

「ニアの実一つ頂戴。エッグベアを誘い出すのに使うから。エッグベアはね、かなり変わった嗅覚の持ち主なんだ」

 

 

ユーリはそれを聞くと、カロルにニアの実を渡し俺はすぐさま自分の鼻をつまむ。ユーリは俺の行動を見て疑問そうにしていた。そしてカロルがニアの実をいじりだししばらくすると突如ものすごい異臭が漂った。

 

 

「くさっ!!おまえ、くさっ!!」

 

「ちょ、ボクが臭いみたいに!」

 

「いやーやっぱり強烈だなこれは」

 

カロルが近づこうとするが、俺達は異臭で引く。そして嗅覚が優れているのがあだとなったのかラピードが倒れる。

 

「あ、ラピード、しっかりして」

 

「みんな警戒してね。いつエッグベアが来てもいいように。それに、エッグベアは凶暴なことでも有名だから」

 

「その凶暴なやつの相手は、カロル先生がやってくれるわけ?」

 

「やだな、当然でしょ。でも、ユーリとリオも手伝ってよね」

 

「がんばれ、カロル。俺はお前の勇士を忘れないから!」

 

「ちょ、ちょっと!リオは、ほんとに手伝ってくれるよね!?」

 

「わたしもお手伝いします。ほら、ラピードも」

 

 

エステルが介抱していると、ラピードはやっと立ち上がったがやはりというべきか表情は険しい。

 

 

「んじゃ、これで森の中を歩いてみるか」

 

 

俺の言葉でユーリ達はカロルを先頭に歩きだした。

 

 

 

 

 

  =S=

 

 

 

 

 

『ガアァァ!!』

 

 

しばらく臭いカロルを先頭に森を歩いていると何かの叫び声が聞こえた。それを聞いたカロルは脱兎のごとくユーリの後ろに隠れる。

 

 

「き、気をつけて、ほ、本当に凶暴だから……!」

 

「そう言ってる張本人が真っ先に隠れるのな」

 

「エ、エースの見せ場は最後なの!」

 

「いや、普通最初からでしょ……」

 

 

あきれるユーリと俺をおいて、そう言ってると茂みから出てきたのはタンポポの形をした植物型の魔物だった。

 

「……これは、違いますよね」

 

その魔物が去ると、次に現れたのは、巨大な腕と二メートルを越えないかと思われる体格を持つ熊の魔物だった。

 

 

「うわああっ!」

 

「こ、これがエッグベア……?」

 

 

エステルが言うと、カロルは頷く。

 

 

「なるほど、カロルの鼻曲がり大作戦は成功ってわけだな」

 

「へ、変な名前つけないでよ!」

 

 

俺が作戦名を命名するとカロルからの反発の声が上がる

 

 

「そういうセリフは、しゃきっと立って言うもんだ」

 

ユーリはそう言って、ニバンボシを抜く。エステルとカロルそしてラピードも武器を構えた。ちなみに俺はというと…

 

 

「がんば!」

 

「ええ!リオも手伝ってよ!」

 

 

いつのまにか樹の枝に座りながら高見の見物を決め込む。いやだって多分一撃で片付いちゃうし。

 

 

「来るぞ!」

 

カロルはまだ何か言いたそうだったが相手は魔物、会話を呑気に待つわけでもなくエッグベアは巨大な腕を振り回しながらカロル達へと接近する。

 

けれどそれを理解していた三人+一匹は散開して避ける。

 

 

「蒼破刃!」

 

 

ユーリの放った衝撃波は一直線にエッグベアへと向かい衝突するがあまり効いていないように見える。

 

 

「臥龍アッパー!」

 

 

カロルはハンマーでを下から振り上げエッグベアの顔へと攻撃をするが、巨大な腕によって阻まれる。そのままエッグベアは腕を振り払おうとして、横に巨大な腕がカロルに直撃しそうになるが、なんとかガードが間に合ったようだ。

 

 

「うわっ!」

 

 

けれど力までは相殺できずカロルはそのまま吹き飛ばされる。

 

 

「大丈夫ですか!聖なる活力ここに、ファーストエイド!」

 

 

吹き飛ばされたカロルにエステルが駆け寄り、治癒術の光がカロルに注がれる。

 

 

「煌めいて 、魂揺の力」

 

 

エステルはそのまま詠唱をはじめて、その間にラピードはエッグベアの後ろに回り小太刀を突き立て、そのまま切り裂く。

 

「フォトン!」

 

「ガウッ!」

 

 

エステルの術が発動してエッグベアの頭の辺りで光の爆発が起こる。さらにそこに追撃でラピードが剣でエッグベアの背中を斬ったことでエッグベアは動きが止まる。

 

 

「カロル!今だ!」

 

「うん!」

 

 

カロルに合図を送り、ユーリはその隙を逃さず勢いよく接近してエッグベアの懐に入り込む。

 

 

「鬼神千裂ノック」

 

 

エッグベアは接近してきたユーリをそのまま掴もうと手を伸ばすが、カロルが打ち込んだ石が見事に顔へと直撃した。するとエッグベアはそのまま軽く後ろに仰け反る。

 

 

「双牙掌!」

 

 

そしてがら空きになった瞬間にユーリのニバンボシがエッグベアの体を斬り裂き、そこに向かって右手の拳を叩き込んだ。

 

 

『グオォォ……』

 

 

エッグベアはそのままヨロヨロと後ろへあとずさると、そのまま力尽き倒れた。

 

 

「ふぅ、お疲れさん」

 

 

ユーリが肩の力を抜きみんなに労いの言葉をかける。

 

 

「お、もう終わったみたいだな」

 

「リオ、今まで何処にいたんです?」

 

「いや、ちょいと用をたしに……それよりカロル的には名誉挽回できてよかったんじゃないか?」

 

「ま、まあね、僕にかかればエッグベアなんて楽勝だよ」

 

 

その言葉に俺とユーリは呆れ顔になりつつ、エステルさえも苦笑いしていた。

 

 

「それじゃあカロル先生、その勢いで爪も取ってくれ。オレ、わかんないし」

 

「え!?だ、誰でもできるよ。すぐはがれるから」

 

 

カロルが言うと、ユーリ達はエッグベアに近付く。

 

 

「わたしにも手伝わせてくだ……うっ」

 

 

エステルがさらに近づいて行くが、エッグベアから発せられる臭いに思わず鼻をつまむ。

 

 

「エステルは周囲の警戒よろしくー」

 

「は、はい」

 

 

俺がそう言うと、エステルはうなずいた後に、こちらとは反対の方を向いて周囲の警戒に回ってくれた。

 

 

「も、もう、動かないよね?」

 

 

そういいながらカロルが恐る恐るエッグベアへと近づいていくわけで、俺が思うに、もうこれはお約束としかいえない状況ではないか。思わず顔に笑みが浮かぶ。

 

そしてユーリの方を見るとこちらも悪戯を前にした子供のようないやらしい笑みを浮かべ俺の方を見ている。俺もこんな顔をしているんだろうな。と思いながら口だけを動かしタイミングをとって………

 

 

「「うわああああっ!!」」

 

「ぎゃあああ????っ!!」

 

 

俺とユーリの後ろからの不意打ちに、カロルはもうガクガク震えながら叫ぶという最高のリアクションが返ってきた。

 

 

「驚いたフリが上手いなあ、カロル先生は」

 

「あ、うっ……はっはは……そ、そう?あ、ははは……」

 

「あははははははっ、は…腹が…い、痛い……くははっ」

 

 

ユーリは嫌な笑みをしつつカロルを弄り、俺はその場で腹を抱えながら笑っていた。

 

その後カロルが未だに震えている間にユーリはエッグベアに近づくとそのまま爪を剥ぎ取った。

 

 

「さて、戻ろうぜ………てか、リオはいつまで腹、抱えてんだよ」

 

 

このあと俺達は森を出口まで歩いていきそのままハルルの街へと戻ったのだが、その際、森から出るまでの間、俺は終始笑っていたせいか、後に呪いの森から笑い声が聞こえる。という噂が立ったのだがその噂を作った本人はこの事を知らないままだった。

 

そしてユーリたちが倒したエッグベア。その周りには何体もの魔物の死骸が転がっていてその殆どが額を打ち抜かれ一瞬で絶命していたのだが、それを知るのはこの状況を作り出した本人だけである。

 

 

~クオイの森出口付近~

 

しばらくして俺達が森の出口にさしかかると……

 

 

『ユーリ・ローウェル!共犯者の男!森に入ったのはわかっている!素直にお縄につけぃ!』

 

 

奥からシュヴァーン隊のルブランの声が聞こえた。

 

 

「この声、冗談だろ。ルブランのやつ、結界の外まで追ってきやがったのか」

 

「共犯者って俺のことだよな?」

 

 

そう言って俺は自分を指差しながらユーリに確認する。

 

 

「そうなんじゃねぇのか?リオの名前、あいつらに教えてないしな」

 

「え、なに?誰かに追われてんの?」

 

カロルが追われていることについて聞いてくる。

 

 

「ん、まあ、騎士団にちょっと」

 

「またまた、元騎士が騎士団になんて……」

 

「信じたくないが、ユーリの言ってることは全部事実なんだよな~」

 

「え、え、ええ~っ!!」

 

 

俺がユーリの言っている事が事実だと伝えカロルが俺達の顔を交互に見ながら驚いていると……

 

 

『す、素直に出でくるのであ~る」

 

『い、今ならボコるのは勘弁してあげるのだ~』

 

 

更にアデコールとボッコスの声も聞こえるがその声はかなり震えていていつも通りとはいいがたかった。

 

 

『噂ごときに怯えるとは、それでもシュヴァーン隊の騎士か!』

 

「……ねぇ、二人とも何したの?器物破損?詐欺?密輸?ドロボウ?人殺し?火付け?」

 

「俺は無罪だ!」

 

 

俺は思わず叫ぶ。というか俺、毎回言ってるはずなんだけどな。

 

「何言ってんだよリオ、脱獄罪があるだろ?」

 

「ユーリこれで何度目になるかわからないが一応言っておく、お・ま・え・が元凶だからな?」

 

「ま、恨むなら間違えた騎士を恨んでくれ。とにかく今は逃げるのが先決だ」

 

 

ユーリは俺の言葉を軽く流しつつ、林の草を使って道を塞いでいく。

 

 

「これでよし」

 

「だ、だめですよ!無関係な人にも迷惑になります!」

 

「ここは呪いの森って言われているんだから、大丈夫じゃね?」

 

 

そう言ってユーリと俺、ラピードは森の出口へと向かい始め、エステルも後に続いた。

 

 

「わ~、待ってよ?!」

 

 

いつの間にか置いてかれていたカロルも走って俺達を追いかけて森を抜けていった。

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

 

その後ハルルの街に着いた頃には既に日は暮れて夜となっていた。ユーリ達は長からルルリエの花びらをもらい、そのままよろず屋を訪れる。

 

 

「おっ、戻ってきたか。材料は揃ってるか?」

 

「ちゃんとあるよ」

 

 

そう言ってカロルは、素材を店主へと渡し、店主は材料を確認し始める。

 

 

「よし、作業に取り掛かる」

 

 

しばらくして店主はパナシーアボトルを持って出てきた。

 

 

「パナシーアボトルの出来上がりだ」

 

「これで毒を浄化できるはず!早速行こうよ!」

 

 

バナシーアボトルを落とさないように気をつけつつ俺達4人はハルルの樹に向かう。

 

ハルルの樹の根元にはどうやら樹を治すと言う噂を聞きつけた街の人たちが集まってきて今か今かとまちかまえていた。

 

「おおっ、毒を浄化する薬ができましたか!」

 

「カロル、任せた。面倒なのは苦手でね」

 

「え?いいの?じゃあボクがやるね!」

 

 

ユーリからその役を貰ったカロルはパナシーアボトルを受け取り、樹に向かった。

 

 

「カロル、誰かにハルルの花を見せたかったんですよね?」

 

「恐らくはな」

 

「ま、手遅れでなきゃいいな」

 

カロルはパナシーアボトルを変色した土と樹の間にかける。すると樹が淡く光を放ち始める。

 

 

「お願いします。結界よ、ハルルの樹よ、よみがえってくだされ」

 

長は必死に願うが、樹の光はだんだん弱くなりやがて光は消えてしまう。そこには今だ枯れ続けるハルルの樹しか残ってはいなかった。

 

 

「そ、そんな……」

 

「うそ、量が足りなかったの?それともこの方法じゃ……」

 

 

カロルは樹がよみがえらなかったことに困惑しているようだ。

 

 

「もう一度、パナシーアボトルを!」

 

「それは無理です。ルルリエの花びらはもう残っていません」

 

「そんな、そんなのって……」

 

 

諦めきれないエステルは樹の前に立ち、両手を合わせる。さながら何かに祈るように──

 

 

「お願い…」

 

 

すると、エステルから光が零れ、それはやがて雫となり空へと昇り始める。それはまるでホタルが樹の周りで踊っているような幻想的な輝きを醸し出して、そこにいた人々全員がエステルから目が離せなくなっていた。ユーリと俺も例外なく……

 

 

「エステル……」

 

「……」

 

 

やがて光の雫が樹を囲みエステルが囁く。

 

 

「咲いて……」

 

 

小さく呟かれた一言、けれどそれはそこにいた全ての人に耳に届き、空に舞っていた光の雫はそれを合図とするかのように樹の根元へと集まり、そこから樹の中を駆け上がっていく。そして樹の頂上の結界魔導器の所へ集まるとより一層輝きながら弾けた。

 

それはまるで雪のような光が降る中でハルルの樹が変化していく。枯れていた所からは新たな新芽が生え、しな垂れていた花達はまるで一つ一つが主張するかのように咲き誇りながら花びらを舞い躍らせ、そして空には結界の象徴となるリングが街を覆っていた。

 

 

 

「す、すごい……」

 

「こ、こんなことが……」

 

「今のは治癒術なのか……」

 

「これは夢だろ……」

 

「あり得ない……でも……」

 

 

カロルの声を始めとして街の人々が次々と驚嘆の声を上げていく中、エステルは崩れるようにその場で膝を下ろす。

 

 

「はあ……はあ……」

 

 

エステルを見ると呼吸が乱れ満身創痍といった感じである。

 

 

「ありがとうございます。これで、まだこの街も、やっていけます……」

 

 

長は今だ驚いてはいたがそれでも嬉しさに満ち溢れた表情でエステルにお礼を言っていた。

 

 

「わ、わたし、今何を……?」

 

「……すげえな、エステル。立てるか?」

 

エステルは今の状況をうまく飲み込めないではいるが、ユーリが尋ねると、エステルはそのまま立ち上がる。

 

 

「ユーリ」

 

 

カロルを見ると手を上げながらこちらを向いている。それの意味を理解したユーリも手を軽く上げるとカロルの手とユーリの手が重なりほど良いハイタッチの音がする。

 

 

「リオも」

 

「おう!」

 

 

そして俺にもカロルが同じようにハイタッチを要求する。

 

 

「フレンのやつ、戻ってきたら、花が咲いてて、ビックリだろうな。……ざまあみろ」

 

「ユーリとフレンって不思議な関係ですよね。友達じゃないんです?」

 

「ただの昔馴染みってだけだよ」

 

「どっちかつーと、ライバルと言った方がしっくりくるんじゃないか?」

 

「そりゃ、言えてるな」

 

「………」

 

 

 

ラピードがユーリたちに近づき、ある方向を向いた。そこには城で会った赤目の男たちとザギが見える。

 

 

「あの人たち、お城で会った……」

 

「ここで会うのはまずいな。この街から早く離れよう」

 

「え?なになに?どうしたの急に!」

 

 

ユーリ達は街から出るために出口に向かって走り出す。

 

 

「面倒な連中が出てきたな」

 

「ここで待っていれば、フレンも戻ってくるのに」

 

「そのフレンって誰?」

 

「「エステルが片想いしてる帝国の騎士様だ(ろ?)」」

 

ユーリと俺は同時に言った。なんだろ最近はほとんどユーリと同じ思考になってきている気がするな。

 

 

「ええっ!!」

 

「ち、違います!!」

 

 

カロルは俺達の話を鵜呑みにしたような表情をしながら、エステルは顔を赤くしながら否定してくる。

 

「あれ?違うのか?ああ、もうデキてるってことか」

 

「もう、そんなんじゃありません。というかリオも笑わないでください!」

 

「くははっ……いや~お前らといると飽きないな。ほんとに、」

 

「ま、なんにせよ、早く街から離れた方がいいな。リオ、前に結界の外旅してたって言っていたよな。ならアスピオってのがどこにあるのか知ってるか?」

 

「ああ、知ってるぞ。ここから東の方角にある街だぞ」

 

「東って言ったら、フレンが行ったところですね」

 

「そういえばそうだな。とりあえず、今は急いでここを出た方がいいな」

 

 

ユーリの言葉に俺とエステルも共に頷く。

 

 

「待ってくだされ」

 

 

しかしそれを遮るように長が俺達のもとに駆けて来た。

 

 

「花のお礼がしたいので、我が家へおいでください」

 

「悪いな町長さん。今は一刻も早くこの街から出ないといけなくなっちまったから…」

 

 

俺がそう言うが長はどうやらまだ納得できないような表情をしている。

 

 

「ですが、何かお礼をしなくては私の気持ちが収まりがつきません」

 

「なら、こうしようぜ。今度遊びにきたら、特等席で花見させてくれ」

 

「あ、それいいですね!とても楽しみです!」

 

 

そう言う長の言葉に返事をしたのはユーリでありエステルはユーリの提案が非常によかったらしい。

 

 

「……わかりました。その時は腕によりをかけて、おもてなしさせていただきます」

 

「サンキュ、んじゃあまたな」

 

 

そう言ったことでようやく納得してくれた長にユーリに続いてそれぞれが礼を述べた後、街の外へと歩き出す。

 

 

「そういや、カロルはどうすんだ?」

 

「港の街に出て、トルビキア大陸に渡りたいんだけど……」

 

「それじゃ、ここでお別れかな?」

 

「え!?」

 

 

ふとユーリが街の出口にて気がついたことで目的地の方角が違うカロルとここでお別れのような雰囲気が流れる。

 

 

「カロル、ありがとな。楽しかったぜ」

 

「お気をつけて」

 

「お前の事は忘れないからなww」

 

 

みんなの言葉にカロルはなぜかあわあわという表情になる。ちなみに俺は忘れない出来事という事で、森での出来事を思い出してしまい、また笑いそうになるのを堪えていた。

 

 

「あ、いや、もうちょっと一緒について行こうかなあ」

 

「なんで?」

 

「やっぱ、心細いでしょ?ボクがいないとさ」

 

「ま、カロル先生、意外と頼りになるもんな」

 

「お笑い担当としてだけどな」

 

「では、みんなで行きましょう」

 

 

そんな話をしつつ再びカロルも加わってアスピオに向かうことになった。

 

 

「とにかく、あのザギとかいうやつが来る前に行くぞ。正直あいつと戦うと面倒だから勘弁して欲しい」

 

「そういえば、リオはなんか城であいつに気に入られた見たいだしな。」

 

「あんなやつに気に入られても俺はこれっぽっちも嬉しくねえ!」

 

 

そんな話をしながら俺達は結界を出て、東にある学術都市アスピオへと向かった。

 

 



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第十三相

 

「ほい、到着っと」

 

俺達はハルルの街を出た後に東に真っ直ぐ進み、学術都市アスピオに到着した。

 

 

「ここが学術都市アスピオだ」

 

「薄暗くてジメジメして……おまけに肌寒いところだね」

 

「街が洞窟の中にあるせいですね」

 

「太陽見れねぇと心までねじくれんのかね、魔核盗むとか」

 

 

各々が感想を言いつつ、入り口に近づくと入り口の両脇に立っていた騎士に止められる。

 

 

「通行許可証の提示をお願いします」

 

「許可証……ですか……?」

 

 

エステルが首を傾げる。

 

 

「ここは帝国直属の施設だ。一般人を簡単に入れるわけにはいかない」

 

「そんなの持ってるの?」

 

「持ってねえよ、リオは前に入った事あるんだろ?」

 

「一応、通行許可証ならあるぞ…………ほい」

 

 

俺は持っていた通行許可書を見せるが、騎士たちはそれを見て訝しそうな顔をする。

 

 

「確かに通行許可書だが………だいぶ古いな、いったい、いつのだ?」

 

「多分十年近く前だな……」

 

「悪いがそんな古いやつは流石に有効期限切れだ」

 

 

そういうと騎士はそのまま古い通行許可書を俺に返す。するとユーリが前に出てきた。

 

 

「そんなら、中に知り合いがいんだけど、呼んできてくれない?」

 

「その知り合いの名は?」

 

「モルディオ」

 

 

ユーリの言葉を聞いた途端に騎士達は驚いた表情を見せる。

 

 

「モ、モルディオだと!?」

 

 

騎士達は一度お互いを見合う。

 

 

「や、やはり駄目だ。書簡にてやり取りをし、正式に許可証を交付してもらえ」

 

「ちぇ、融通きかないんだから」

 

 

カロルの言葉に騎士は怒ったのか武器を構える。するとカロルはすぐさま丁度近くにいた俺の後ろに隠れた。

 

おい、魔狩りの剣のエースさんよ、たかが人にビビッてどうする。

 

 

「あの、フレンという名の騎士が訪ねて来ませんでしたか?」

 

「施設に関する一切は機密事項です。些細なことでも教えられません」

 

「フレンが来た目的も?」

 

「もちろんです」

 

エステルの質問に対して騎士は当たり前だといわんばかりの表情をしている。だけどな……

 

 

「おーい、騎士さんよ、それフレンって騎士が来たって自供してるぞ~」

 

「!?」

 

 

俺の言葉でようやく気がついたようだが、既に時遅く、エステルが騎士に詰め寄る。

 

 

「……ということは、フレンはここに来たんですね!」

 

「し、知らん!フレンなんて騎士は……」

 

「じゃあせめて伝言だけでもお願いできませんか?」

 

「やめとけ、こいつらに何言っても時間の無駄だって」

 

 

そう言ったユーリの言葉でエステルは渋々といった様子で入り口から離れた。

 

 

「冷静に行こうぜ」

 

「でも、中にはフレンが……」

 

「諦めちゃっていいの?」

 

 

そのカロルの言葉がエステルに火をつけたのか、かなりの気合が入っている。

 

 

「絶対に諦めません!今度こそフレンに会うんです」

 

 

「オレはモルディオのやつから魔導器取り返して、ついでにぶん殴ってやる」

 

「たとえば犯人がエステルみたいな女の子だったとしても?」

 

 

俺がそう言うとユーリは、軽く言葉を詰まらせる。

 

 

「ま、ユーリは女の子には甘いって事がわかったし。他の入り口探すか!」

 

「おい!ちょっと待て!!」

 

 

ユーリの珍しく焦った声を軽く無視しつつ俺達はそのまま他の道を探し始めた。

 

 

 

そしてすぐ左に行くと、どうやら非常口として作られたのか。木製の扉のようなものがある。

 

ユーリは扉に手をかけたが、鍵が必要なのか開かない。

 

「都合よく開いちゃいないか」

 

「壁を越えて、中から開けるしかないですね」

 

「早くも最終手段かよ…」

 

そう言ってユーリとエステルが話している間に俺が扉の方を向くとカロルが扉の前でなにやらしている。

 

 

「フレンが来るのを待ちましょう」

 

「フレンは出てきたとしても、モルディオは出てこないだろ」

 

 

話している二人を放置して俺も扉に近づいてカロルの手先を見るとなにやら鍵穴を弄っているようだ。そして俺はそのまま思ったことを口に出す。

 

 

「へぇ、器用だな。ちなみにこれで空き巣に入ったの何件目?」

 

「ちょ!?やめてよ、ボクが常習犯みたいな言いかた!!……よし、開いた」

 

 

カロルの声が聞こえたのか今ままでエステルとユーリがこちらを振り向く。

 

 

「え?だ、だめです!そんなドロボウみたいなこと!」

 

「……おまえのいるギルドって魔物狩るのが仕事だよな?盗賊ギルドも兼ねてんのか?」

 

「え、あ、うん……。まあ、ボクぐらいだよ。こんなことまでやれるのは」

 

「んじゃ、行きますかね」

 

そう言って男集は中に入ろうとするがエステルがやはり反対のようだ。

 

「ほんとに、だめですって!フレンを待ちましょう」

 

「フレンが出てくる偶然に期待できるほどオレ、我慢強くないんだよ」

 

「右に同じく。なんならエステルはここで見張りしとく?」

 

「………わ、わかりました!わたしも行きます!」

 

 

エステルは渋々了承といった感じで、結局俺達は全員で中に入った。

扉の先はどうやら図書館に繋がっていた様で本という本がいたる所に置かれ、それを読むほとんどの人がローブを着ていた。

 

「なんかモルディオみたいなのかいっぱいだな」

 

 

そうユーリが感想を漏らしているとエステルは近くにいた男性に話かけた。

 

 

「あの、少しお時間よろしいですか?」

 

「ん、なんだよ?」

 

「フレン・シーフォという名の騎士が訪ねてきませんでしたか?」

 

「フレン?ああ、あれか、遺跡荒らしを捕まえるとか言ってた……」

 

「今、どこに!?」

 

「さあ、研究に忙しくてそれどころじゃないからね」

 

「そ、そうですか。……ごめんなさい」

 

「じゃあ、失礼するよ」

 

 

そう言って男は立ち去ろうとするがユーリが呼び止める。

 

 

「ちょ、待った。モルディオって天才魔導士知ってるか?」

 

「な!?、あの変人に客!?」

 

 

その言葉を聞いた男性は驚くと同時にもう関りたくないと言わんばかりに顔を歪める。

 

 

「へぇ、さすが有名人……ちなみにどこに住んでんの?」

 

「奥の小屋に一人で住んでる……」

 

「サンキュ」

 

 

ユーリがそう言うと男性はそそくさとどこかに行ってしまった。俺達はそのまま男性からの情報を基に図書館を後にした。

 

 

 

  =S=

 

~元騎士団~

 

 

カロル「態度、素行、どれをとっても、ユーリって騎士っぽくないよね」

 

ユーリ「何だよ、急に」

 

カロル「だって、ドロボウ見たいに裏口から街に入っちゃうしさ」

 

リオ「鍵を開けた張本人に言われると結構グサリとくるな」

 

エステル「私、フレンを追ってきただけなのに、いつの間にかドロボウになってたんですね!?」

 

ユーリ「まだ、何もとってねえっての」

 

リオ「不法侵入だけどな」

 

 

  =S=

 

 

 

 

「『絶対、入るな。モルディオ』。間違いないな」

 

小屋の前に着くとユーリはドアを開けようとしたが鍵がかかっていているのか開かない。そして次に扉を叩く。

 

「普通はノックが先ですよ……」

 

「いないみたいだね。どうする?」

 

「悪党の巣へ乗り込むのに遠慮なんていらないって」

 

「よし、それならカロル出番だ!」

 

「うん、OK」

 

ユーリからのお許しが出たのでカロルにGOサインを送る。

 

「え……?出番って……」

 

 

エステルはなんのことか分からず首を傾げるが、またもやカロルは鍵をいじり始める

 

 

「それもだめですって!」

 

 

慌てて何をしようとしていたのに気がついてエステルが止めるが、すでに鍵は開けられていた。

 

 

「ま、ちょろいもんだね」

 

「なあ、一応GOサイン出した俺が言うのもなんだけどカロル、お前ほんとに何件目?」

 

「だから!ボクは空き巣なんかはしたこと無いってば!!」

 

「それより、早く中に入ろうぜ」

 

 

そう言ってユーリは躊躇無く中へと入っていく。

 

 

「待って!ボクも行くよ~」

 

「あ、待ってください!もう、どうしてこう……」

 

 

それに続いて俺、カロル、エステルの順に中へと入る。

 

 

小屋の中に入るとこれまた図書館に負けず劣らず、見渡す限りに本が沢山積まれていた。

 

「すっごっ……。こんなんじゃ誰も住めないよ~」

 

「その気になりゃあ、存外どんなとこだって食ったり寝たり出来るもんだ」

 

「ユーリ、先に言うことがありますよ!」

 

「コンニチワ。オジャマシテマスよ。それとゴメンナサイ。カギはカロルがカッテニアケマシタ」

 

 

その言い草が不満だったのかエステルはユーリを見ながら呆れたような声を出す。

 

 

「もう、ユーリは……。ごめんくださ~い。どなたかいらっしゃいませんか?」

 

「居ないなら好都合。証拠を探すとするか」

 

 

そう言ってエステルは玄関で立ったまま入ろうとせず、ユーリとカロルそして俺は一緒に中を見回していた。

 

だが、ラピードが本の山に近づくとラピードが突然反応し、威嚇する。そこからムクッとローブを纏った人が突如現れた。

 

 

「ぎゃああああ~~~っ!あう、あう、あうあうあう」

 

 

カロルは驚いてユーリの後ろに隠れる。

 

 

「……うるさい……」

 

 

そうローブ姿の人物が呟いたかと思うと、次の瞬間には魔術の詠唱を始める。

 

ユーリはというとカロルを置いてその場を離れていた。そしてカロルの後ろに居た俺はというと……

 

───ガシッ!!

 

 

「え?あれ、ちょっとリオ!?」

 

「ドロボウは……」

 

 

後ろからカロルを抱えて。

 

 

「うわわわっ、待ってぇっ!」

 

 

そのまま──

 

 

「ぶっ飛べ!」

 

 

前に突き出す!

 

 

「カロルガード!」

 

 

ローブ姿の人物は躊躇わずファイアボールをカロル目がけて放った。

 

 

「ぎゃああああぁぁぁぁぁっっ!!」

 

 

説明しよう!!カロルガードとは相手の攻撃の際にただ単純にカロルを盾にするという(以下略)──

 

 

ファイヤーボールは当たると爆発が起こり、それが晴れるとローブ姿の人物はフードが外れて、少女の顔が見えた。

 

 

「げほげほ。ひどい……特にリオが……」

 

「いや、思わず手が勝手にな……反省も後悔もしていないけど」

 

「極悪人だよ!!」

 

 

カロルは咳き込みながら、俺は涼しい顔をしながらお互い呟く。

 

 

「お、女の子!?」

 

 

そんな話をしている間にエステルはフードを被った人の正体が少女だった事に驚きを表す。

 

 

「こんだけやれりゃあ、帝都で会ったときも逃げる必要なかったのにな……」

 

 

そういったユーリはいつの間にか少女の背後に回り、刀を突きつけていた。

 

 

「はあ?逃げるって何よ。何で、あたしが逃げなきゃならないのよ」

 

「そりゃ、帝都の下町で水道魔導器の魔核を盗んだからだ」

 

「いきなり、何?あたしがドロボウってこと?あんた常識って言葉知ってる?」

 

「まあ、人並みには」

 

「勝手に家に上がり込んで、人をドロボウ呼ばわりした挙句、剣突きつけるのが人並みの常識!?」

 

 

リタはユーリの言葉に思わずツッこむ。

 

 

「まぁ、それが普通の反応だよな~」

 

「リオはどっちの味方なの……?」

 

 

いやだってカロル、向こうの言ってる事、かなり正論だぞ?

 

そんな話している二人の間に今まで玄関に居たエステルが割り込んで、リタに会釈する。

 

 

「な、なによ、あんた?」

 

「わたし、エステリーゼと言います。突然、お邪魔してごめんなさい!……ほら、みんなも」

 

「ご、ごめんなさい」

 

「カロルが勝手に鍵、開けましたごめんなさい」

 

「リ、リオ!?」

 

「へぇ、そのがきんちょがねえ。もう一発当てとこうか?」

 

「あわわわ!?いや、これは、その……いやあああああ!!」

 

カロルはすぐに謝ったのだが俺の投下した燃料で再び少女がファイヤーボールを構える。

 

 

 

 

「それで、あんたら何?」

 

カロルが丸焦げになって地面を転がってる間に少女が根本的な疑問について問う。

 

 

「えと、ですね……」

 

「ま、簡単に言うとこのいろいろ黒いお兄さんが帝都から魔核ドロボウ追って、ここまで来たってわけ」

 

俺がユーリを指しながらエステルの代わりに説明する。

 

「いろいろ黒いって……」

 

ユーリが何かいいたそうだが、そのままま話を進める。

 

「それで?」

 

「魔核ドロボウの特徴が……」

 

 

そう言ったユーリは少女の事を指をさし。

 

 

「マント!、小柄!、名前はモルディオ!!……だったんだよ」

 

「確かにあたしはモルディオよ。リタ・モルディオ」

 

「背格好も情報と一致してるね」

 

 

カロルいつの間にか生き返ってたのか。

 

「リオのせいでほんと酷い目にあったよ」

 

 

 

「で?実際のところどうなんだ?」

 

「だから、そんなの知ら……あ、その手があるか……ついて来て」

 

 

リタはそう言いかけると何か閃いたのか突然ついて来いという。

 

 

「はあ?おまえ、意味わかんねえって、まだ話が……」

 

「いいからきて。シャイコス遺跡に盗賊団が現れたって話、せっかく思い出したんだから」

 

「盗賊団?それ本当かよ?」

 

 

ユーリはリタの言葉が信用できないのか訝しそうな表情を浮かべている。

 

 

「協力要請に来た騎士から聞いた話よ。間違いないでしょ」

 

リタそう言い捨てて、そのまま小屋の奥に入ってった。

すると俺達はリタに聞こえないような声で話し合う。

 

 

「騎士ってフレンのことでしょうか?」

 

「だろうな。あいつフラれたんだ」

 

「そういえば、外の人も遺跡荒らしがどうとか言ってたよね?」

 

「ということは、その盗賊団が下町の魔核を盗んだ犯人ってところだよな?」

 

「さあなあ……」

 

 

俺達が小声で話していると、リタがローブを脱ぎ捨てた姿でやってきた。

 

 

「相談終わった?じゃあ行こう」

 

「とか言って、出し抜いて逃げるなよ」

 

「来るのがいやなら、ここに警備呼ぶ?困るのはあたしじゃないし」

 

「ユーリ、ここは行ってみましょう。フレンもいるみたいですし」

 

「捕まる、逃げる、ついてくる、ど~すんのかさっさと決めなさい」

 

「わかった。行ってやるよ」

 

「シャイコス遺跡は街を出てさらに東よ」

 

こうしてユーリ達は、リタも加わり、盗賊団がいるというシャイコス遺跡に向かうことになった。

 

 

 

 =S=

 

 

~リタって……~

 

カロル「なんかリタってちょっと怖いよね」

 

エステル「そうでしょうか?」

 

ユーリ「まあ、あんなもんじゃねえの?なんか機嫌悪いみたいだし」

 

リオ「そりゃ、さっきのユーリがかました常識のせいだろ」

 

ユーリ「魔核ドロボウに礼を尽くす気はねえからな」

 

カロル「違ってたらどうするの?」

 

ユーリ「そんときは、謝るよ」

 

リタ「その言葉、忘れないでよ」

 

カロル「あ、聞いてたんだ」

 

リタ「聞こえただけよ。あたしが怖いとか」

 

ユーリ「気をつけろよ、カロル。ありゃ、根に持つタイプだ」

 

リオ「気をつけるも何も、既に手遅れでは?」

 

カロル「や、やだなあ、二人とも脅かさないでよ」

 

 

 

 =S=

 

 

 




毎度更新遅れて申し訳ありません


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第十四相

 

 

~シャイコス遺跡~

 

 

「ここがシャイコス遺跡よ」

 

「騎士団の方々、いませんね」

 

 

周りを見渡す。見た目は石でできた宮殿のような造りだが、いたる所が欠けていたりツタが巻きついていたりしてもはや廃墟といえそうな場所だ。けれどそこに一つだけ最近に出来たと思われるものがシャイコス遺跡の入り口の付近にある。

 

 

「この足跡、まだ新しいな。数もかなりあるし」

 

俺がそう言うとユーリ達も近づいてきて地面を覗き込む。

 

「騎士団が、盗賊団か、その両方かってとこだろ」

 

「きっと、フレンの足跡もこの中にあるんでしょうね」

 

「かもな~」

 

「ほら、こっち。早く来て」

 

 

カロル、エステル、ユーリが足跡を見て話しているのを横に、前を見るといつの間にか遺跡の奥へと進もうとしているリタがせかすように告げる。

 

 

「モルディオさんは暗がりに連れ込んで、オレらを始末する気だな」

 

「……始末、ね。その方があたし好みだったかも」

 

 

そういうと悪役顔と言うべきかニヤリと口の端を吊り上げる。

 

 

「不気味な笑みで同調しないでよ」

 

「な、仲良くしましょうよ」

 

「へぇ、始末か。………あ、そういえば、リタ」

 

 

俺はそう言いながらリタに近づいていく。

 

 

「な、何よ?」

 

 

リタは俺から不穏な空気を感じたのか一歩後ずさるが、俺はそのままリタの耳元でとある呪文を唱える。

 

 

「リタの家の二階、机の上から二番の引き出し」

 

「は?……………んな!?/////」

 

「「「?」」」

 

俺の言葉を聞いたリタは一瞬何のことかわからなかったようだが、すぐに意味を理解したのか驚きと羞恥で顔が真っ赤になる。ユーリ達は何をしているのかさっぱりのようで見ているだけだ。

 

 

「いやあ、随分と変った趣味をお持ちで……最近の女の子はみんな持って?……のわ!?」

 

 

俺がそんなこと考えてると横をファイヤーボールが通過する。

 

というか狙いが真っ先に頭って殺す気満々ですね~

 

 

「わ、忘れなさい///!というか今あんたの記憶ごと始末する!!」

 

 

その後しばらくの間、リタのMPが切れるまで遺跡の中を鬼ごっこし続ける羽目になったのだが、その上で学んだ事は………

 

 

「女の子の家の引き出しは勝手に開けるべきじゃないな」

 

「リオ、お前あの家で何してたんだ?」

 

 

一応、証拠探しと言う名目の物色だぞ?

 

 

 

 

そんなこんなでリタと俺の鬼ごっこのおかげと言うべきか、遺跡全体を見たが、ここらへんには騎士団や盗賊団一切見かけなかった。

 

 

「大体のところは見終わったんじゃないか?」

 

「っく、あんたは、なんで、そんなピンピンしてるのよ!!」

 

 

息も絶え絶えなリタを横に、ほとんど遺跡を見終わった(走った)俺達は一体の女神像の前に立っていた。

 

 

「騎士団も盗賊団もいねえな」

 

「もっと奥の方でしょうか?」

 

「奥って言ってもな。ほとんど見たけど誰もいなかったぞ?」

 

「誰かいるように見えないよね」

 

「まさか、地下の情報が外にもれてるんじゃないでしょうね」

 

 

いつの間にか息を整え、何か考えるようにしていたリタが呟く。

 

 

「地下?」

 

「ここっ最近になって地下の入り口が発見されたのよ。まだ一部の魔導士にしか、知らされてないはずなのに……」

 

「それをオレらに教えていいのかよ?」

 

「しょうがないでしょ。身の潔白を証明するためだから」

 

「身の潔白ねえ……」

 

リタは、遺跡にあった石像の横に移動して地面を見ていた。そこにカロルも近づいて横から覗き込む。

 

「地面にこすれた跡があるね」

 

「発掘の終わった地上の遺跡くらい盗賊団にあげてめよかったけど来て正解ね」

 

「なら、早く追いかけないと。これを動かせばいいんでしょ?」

 

カロルはそう言って石像を両手で押すが、びくともしない。

 

「はぁ、はぁ」

 

「カロル、少し退いて」

 

「え?う、うん……」

 

「リオ何をするんです?」

 

 

カロルを後ろに下げさせて俺が一人で女神像に近づく。

 

「いや、手っ取り早く……こうしようと思って、な!!」

 

 

ズドン!!

 

 

「す、すごいね」

 

「何者よアンタ」

 

思い思いの感想を述べつつ唖然としている本人以外。ちなみにさっきの音は俺が女神像を蹴り飛ばした音だ。

 

そして先ほどまで女神像があった場所の下にに地下に繋がる階段が現れていた。

 

「じゃ、サクサク行こうぜ」

 

そう言って俺達は

 

 

 

 

 

 

階段を降りたそこには、まるで一つの街をそのまま地下に埋めたような構造だった。

 

 

「遺跡なんて入るの初めてです……」

 

「そこ、足元滑るから気をつけて……」

 

先へ進もうとするエステルに、リタは注意する。ユーリはその様子を見ている。

 

「なに見てんのよ」

 

「モルディオさんは意外とお優しいなあと思ってね」

 

「はぁ……やっぱり面倒を引きつれてきた気がする。別に一人でも問題なかったのよね……」

 

「リタはいつも、一人でこの遺跡の調査に来るんです?」

 

「そうよ。」

 

 

そう言いながらリタはエステルを追い抜くと少し先で立ち止まり振り向く。

 

 

「罠とか魔物とか、危険なんじゃありません?」

 

「何かを得るためにリスクがあるなんて当たり前よ……その結果、何かを傷つけても、あたしはそれを受け入れる」

 

「傷つくのがリタ自身、でもですか?」

 

「そうよ」

 

 

リタはまるでそれが当たり前のようだと言わんばかりにあっけらかんとしていた。それでもエステルはその気持ちを理解すためにリタに言葉を投げかける。

 

「悩む事はないんです?躊躇うとか……」

 

 

その言葉を聞いたリタは半ば呟くように答える。

 

 

「何も傷つけずに望みを叶えようなんて悩み、心が贅沢だから出来るのよ」

 

 

それはまるで自分に言い聞かせるように言った言葉にも聞こえた。

 

 

「心が贅沢……」

 

「それに、魔導器はあたしを裏切らないから……面倒がなくて楽なの」

 

 

そう言ってリタは吐き捨てるように言うと遺跡の奥に進んで行ってしまった。

 

 

「なんか、リタって凄いです。あんなにきっぱりと言い切れて…」

 

「何が大切なのか、それがはっきりしてんだな」

 

「ま、俺はエステルは心が贅沢な方がいいと思うけどな」

 

「え?」

 

 

俺が後ろからそう言うと何故?と言った表情になるエステル。

 

 

「確かに、あの考えが悪いとは言わない。時には切り捨てるって選択が必要な場合もあるしな。………だけど」

 

 

俺は前を歩いているリタの背中を見ながら言う。

 

「その考えは時に、本当なら得られた結果までも無くしてしまう」

 

「本当なら得られた結果………」

 

「ま、適当に旅して回ってりゃあ、そのうち、リオの言ってる事も判るだろ」

 

っとエステルの横でずっと俺達の会話を聞いていたユーリがそう言って締めくくる。

 

 

  

 

   =S=

 

 

 

その後、俺達は達は遺跡の最深部まで進んだ。途中、ユーリはリタからソーサラーリングというアイテムをもらったり、侵入者用の罠のモンスターや魔物を倒して行った。

 

最深部につくと、まず目に入るのは鎮座している巨大な石像。その石像は何故か損傷部分がやけに少なく今にも動き出しそうな雰囲気さえ出している。

 

それを見たリタは真っ先に石像に近づく。

 

「あ、おい!」

 

「うわ、なにこれ?!これも魔導器?」

 

「こんな人形じゃなくて、オレは水道魔導器がほしいな」

 

「ちょっと、不用意に触んないで!」

 

リタはユーリに注意すると石像を調べ始める。

 

だが俺はすぐさまその気配に気がつく。ここにいたか……

 

 

「この子を調べれば、念願の自立術式を……あれ?うそ!この子も、魔核がないなんて!」

 

 

すると、ラピードが人の気配に気付く。

そこを見ると、そこにはローブを纏った人物が階上にいた。

 

 

「リタ、おまえのお友達がいるぜ」

 

 

リタはユーリに言われると、ローブの人物に言った。

 

 

「ちょっと!あんた、誰よ?」

 

「わ、私はアスピオの魔導器研究員だ!おまえたちこそ何者だ!ここは立ち入り禁止だぞ!」

 

「はあ?あんた救いようのない馬鹿ね。あたしはあんたを知らないけど、あんたが本当にアスピオの人間なら、ここにいるあたしをを知らないはずがないでしょ」

 

「………無茶苦茶なこと言うなあ」

 

「カロル、そこは突っ込んだらだめだ」

 

 

そう言うとローブの人物はひるんだと思えばそのまま人型魔導器に近づいた。

そしてユーリ達は武器を構えた。

 

 

「くっ!邪魔の多い仕事だ。騎士といい、こいつらといい!」

 

 

そう言ったかと思えばローブの人物はどこからか取り出した魔核を振り上げそのまま人型魔導器にはめ込んだ。

すると人型魔導器、ゴライアースはピピピピと起動音あげ青い光を放ちながら動きだした。

 

 

「うっわーっ、動いた!」

 

 

ゴライアースは近くにいたリタを右腕で凪ぎ払おうとするが……

 

 

 

ズドン!!

 

 

 

リタが壁に叩きつけられるかと思いきや、女神像を動かしたときのような音と共に壁に叩きつけられたのはゴライアースの方だった。

 

 

「アンタ……」

 

「さてと、俺がここはどうにかするからユーリ達はさっきの奴、捕まえといてくれ」

 

「そんな!?一人では危険です!!」

 

「そうだよ!いくらリオでも一人じゃ……」

 

「任せて大丈夫なんだな?」

 

「「ユーリ!?」」

 

 

ユーリの言葉にエステルとカロルの声が重なる。そして今まで怯んでいたゴライアースがだんだんと再び動き始める。

 

 

「もち!」

 

「わかった。なら、俺らはさっきの奴を追うぞ!!」

 

 

そう言ってユーリが走っていくとカロルとエステルも心配そうな顔を俺に向けた後ユーリの後追っていく。

 

 

「まだ、さっき助けられた仮があるんだから、勝手に死ぬんじゃないわよ」

 

 

リタは此方を振り返らずそう言ってユーリ達を追っていった。

 

 

「俺はまだ死なねーよ。なにより、こいつの”中にいる奴”は俺だけの問題だからな」

 

 

 

 

 

 

  =S=

 

 

 

 

 

 

 

ユーリ達は先ほど逃げたローブの男を追っていた。

 

 

「あっ、いたよ!」

 

 

カロルが言った方向を見ると、ローブの男が魔物に襲われていた。

 

 

「蒼波!」

 

「ガウッ!」

 

 

ユーリとラピードが魔物達を蹴散らすと、そのまま全員でローブの人物を囲む

 

 

「さーて、魔核盗んで歩くなんてどうしてやろうかしら……」

 

「ひぃい!やめてくれ!や、やめて、もう、やめて!俺は頼まれただけだ……。魔導器の魔核を持ってくれば、それなりの報酬をやるって」

 

「おまえ、帝都でも魔核盗んだよな?」

 

「帝都?お、俺じゃねぇ!」

 

「おまえじゃねぇってことは、他に帝都に行った仲間がいるんだな?」

 

「あ、ああ!デ、デデッキって野郎だ!」

 

「そいつはどこ行った?」

 

「今頃、依頼人に金をもらいに行ってるはずだ」

 

「依頼人だと……どこのどいつだ?」

 

ユーリはローブの男を睨みながら尋ねた。

 

「ト、トリム港にいるってだけで、詳しいことはしらねぇよ。顔の右に傷のある、隻眼でバカに体格のいい大男だ」

 

「そいつが魔核を集めているということかよ……」

 

「ソーサラーリングもどこかで盗んだのね」

 

「ぬ、盗んでいねえ!仕事の役に立つって依頼人に渡されたんだ!!」

 

「うそね。コソ泥の親玉なんかに手に入れられるものじゃないわ」

 

「ほ、本当だ!信じてくれよ!」

 

「なんか話が大掛かりだし、すごい黒幕でもいるんじゃない?」

 

「カロル先生、冴えてるな。ただのコソ泥集団でもなさそうだ」

 

「騎士も魔物もやり過ごして奥まで行ったのに!ついてねぇ、ついてねぇよっ!」

 

「騎士?やはりフレンが来てたんですね」

 

「ああ、そんな名前のやつだ!くそー!あの若造め!」

 

「……うっさい!」

 

地団駄を踏んでいる男にしびれを切らし、リタはサッシュを男に叩きつけた。

すると男はまるで糸の切れた人形のように気絶して倒れた。

 

 

「ちょ、リタ、気絶しちゃったよ……どうすんの?」

 

「後で街の警備に頼んで拾わせるわよ」

 

「それより、早くリオのところに戻りましょう!!」

 

「そうだな」

 

 

ユーリ達は男を置いて、遺跡の奥へと再び戻る。

 

 

 

 

  =S=

 

 

 

ズウン!!

 

遺跡内にゴレイアースが倒れる音が響く。だが俺は警戒を緩めない。

 

 

「さて、そろそろ出てくるか?」

 

 

その言葉を切欠に突如、倒れていたゴレイアースから真っ黒な泡のようなものが立ち込め、その泡がやがて一つに固まっていく。

 

 

そしてそこから出てきた”それ”はまるでクリオネのような半透明の胴体に頭から四本、下に一本の触手らしきモノを生やしたAIDA<Anna>だった。

 

 

「やっとお出ましか……俺の───、返してもらうぞ?」

 

 

── 来い ──

 

── 俺は ──

 

── 此処にいる!!──

 

 

 

「スケェェェェィス!!!」

 

 

そう叫ぶと俺はは白い体をした人型の憑神となる。

 

 

そうなるとAIDAが小さな光の玉をばら撒く。

 

 

「はあ!!」

 

 

俺はそれを両手の中で出現された大鎌でなぎ払う。だがAIDAはすぐさま次の行動に移る。

 

AIDAが周りの大気を吸収し始める。

 

 

「やば!?」

 

 

それに気がついた俺はすぐさまAIDAのいる斜線上から外れるすると先ほどまで俺がいた場所を一本レーザーが通り過ぎる。

 

俺は背中に生えた六枚の羽のような剣を広げ、光の雨を打ち出すそれはAIDAへと真っ直ぐ飛んで行き突き刺さると同時にAIDAの動きが止まる。

 

 

「こいつでとどめ、だ!!」

 

 

動きが止まったAIDAに接近して大鎌で相手を切り裂く。するとAIDAを覆っていたプロテクトのようなものが砕け散る。

 

すぐさま右手を前へと突き出すと、右腕が幾何学的な砲身へと変化する。そして砲身から弾丸が打ち出され、AIDAに当たると同時に右手へと幾何学紋様のようないくつもの帯が右手に流れ込んでいき、しばらくすると収まった。

 

やがて憑神の姿だった俺は元にに戻り、地面に着地する。

 

 

そこには俺と倒れたままのゴレイアースだけしかいない。

 

 

「っぐ!?あのAIDA、だいぶ食ってやがったな」

 

 

俺は突如襲った激痛に対して頭を押さえる。

 

 

「今回はイニスだったか……これで1と2と3が、揃ったからあと、5つとか、しんどい……というかもう無理」

 

 

そう呟いた俺の意識はそこで途切れてしまった。

 

 

 

 

 

 

────ねぇ、…のネ……レ……合う…な?────

 

────よ…、似…って…よ ………ス ───

  

  

 

 

  =S=

 

 

 

 

 

 

「わたしはハルルに戻ります。フレンを追わないと」

 

「……じゃ、オレも一旦、ハルルの街へ戻るかな。」

 

 

近くで聞こえる声に気づき目を開けると、そこはシャイコス遺跡のような石で出来た建造物ではなく見えるのが本の山と言う事から、どうやらここはリタの家のようだ。

 

 

「あ、リオ!気がついたんですね!!」

 

 

俺が目を開けたことに気がついたエステルが近寄ってくる。

 

 

「あ~わりい、心配かけたみたいだな」

 

「ホントびっくりしたよ、戻ってみたらリオが倒れてるんだもん!」

 

 

そこでドアが開く音がしてドアの方を向くとリタが入ってきた。

 

 

「あ、目覚ましたんだ。それにしても任せろって言っておきながら何やられてんのよ」

 

「いや、一応あれ自体は倒したんだし………それより、ドロボウの方はどうなった?俺が頑張ったのに捕まえられてなかったら泣くぞ?」

 

「それなら、むしろ犯人が今ごろ牢屋の中でひ~ひ~泣いてるんじゃない?」

 

 

リタがそう言うとユーリは立ち上がりリタの正面を向く。

 

 

「疑って悪かった」

 

「軽い謝罪ね。ま、いいけどね、こっちも収穫あったから」

 

 

そういってリタはエステルの顔を見ながら言う。

 

 

「んじゃ、そろそろ行く?なんか俺のせいで待たせてたみたいだし」

 

「そうだな、リオも起きたことだし。……世話かけたな」

 

ユーリがリタの方を向きながら言う。

 

 

「なに?もう行くの?」

 

「長居してもなんだし、急ぎの用もあんだよ」

 

「リタ、会えてよかったです。急ぎますのでこれで失礼しますね。」

 

「……わかったわ」

 

 

リタは何か言いたそうな顔をしながら頷いた。そして俺たちはリタの家を後にする。

 

 

 

  =S=

 

 

~はかない子って誰のこと?~

 

 

エステル「はかない子って誰のことです」

 

カロル「え!?」

 

エステル「カロルがノール港に行きたいのは、その子に会うためなんですよね?」

 

カロル「な、なんで知ってるの!?」

 

エステル「やっぱり!」

 

カロル「あ、違う、違うよ!大体、ノール港じゃ……」

 

エステル「ノール港じゃないんです?」

 

カロル「知らない……ボクは何も知らない」

 

リオ「カロル、エステルの顔見てみな。お前に逃げ場は無いぞw」

 

ユーリ「諦めないって書いてあるな」

 

カロル「そんなんじゃないんだってばー!!」

 

エステル「あ、待ってください。カロル~」

 

 

 

   =S=

 

 

 

 

 

俺達は広場から出口に向かおうとしているとリタも後ろについて来る。

 

 

「見送りならここでいいぜ」

 

「そうじゃないわ。あたし達も行く」

 

「え、な、なに言ってんの?」

 

「まさか勝手に帰るなってこういうことか?」

 

「うん」

 

「うんって、そんな簡単に!」

 

「いいのかよ?お前ここの魔導士なんだろ?」

 

「あたしはハルルの結界魔導器を見ておきたいのよ。壊れたままじゃまずいでしょ」

 

「明らかに、今、思いついたような気がするのは俺だけ?」

 

「はいそこ!黙ってる!」

 

 

強制的に黙らされる俺。すると代わりに後ろにいたカロルがあっけらかんとした声でリタに言う。

 

 

「それなら、ボクたちで直したよ」

 

「はぁ?直したってあんたらが?素人がどうやって?」

 

「よみがえらせたんだよ。バ~ンってエステ……」

 

「素人も、侮れないもんだぜ」

 

 

カロルの言葉を遮るようにユーリが言うが、やはり不自然に感じたのかリタが怪訝そうな顔になった。

 

 

「ふ~ん、ますます心配。本当に直ってるか、確かめにいかないとね」

 

「じゃ、勝手にしてくれ」

 

 

ユーリが呆れて答えると、エステルが突然近づいたことでリタが若干たじろぐ。

 

 

「な、なに!?」

 

「わたし、同年代の友達、はじめてなんです!」

 

「あ、あんた、友達って……」

 

「よろしくお願いします」

 

「え、ええ……」

 

 

こうして、リタが新しくメンバーに加わり、俺たちはアスピオを離れ再びハルルの街へと戻るのだった。

 



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第十五相

 

 

   =S=

 

~武器について~

 

エステル「カロルの武器、かなり大きいですけど使い辛くないんです?」

 

カロル「ちょっと重いけど、自分をおっきく見せる為にはこれくらい必要なんだ」

 

リオ「ああ、つまりあれか。小さい魔物が体を大きく膨らませて威嚇するやつ?」

 

カロル「そう、それと一緒……ってあれ?…ボク魔物と一緒?」

 

ユーリ「だからって、見た目変えたから中身が変るってわけじゃないしな」

 

カロル「でも、リオって毎回、戦闘ごとに武器変えてるよね?」

 

リオ「あーあれは………」

 

エステル「そういえば、以前はカロルよりも大きい剣を振り回していましたけど、どこから出したんです?今も手に何も持ってないようですけど……」

 

ユーリ「確か、城にいたときはエモノじゃなくて拳だったよな?」

 

リタ「そういえば忘れてた。どういう仕組みよアレ!!アタシだってあんな術式、見たことが無いわよ!!ちょっと見せなさい!」

 

カロル「リタ、目が怖いよ」

 

リオ「一応、順番に説明すると、武器を変えるのはなんとなくで、どうやって出したかというと………こう!」

 

カロル「うわ!ほ、ほんとにいきなり出てきた」

 

エステル「すごいです!!まるで魔術みたい!!」

 

リタ「うそ、術式が一切見えないなんて……どういうこと?」

 

リオ「というか俺、魔導器すら持ってないしな」

 

カロル「それで、魔物と戦えるってリオって何者?」

 

リタ「あーもう!!どういう仕組みなのかさっぱりわかんない!!」

 

リオ「リタ、落ち着け、どうどう」

 

リタ「アンタが原因でしょうが!!」

 

ユーリ「なんだか一気に騒がしくなったな」

 

 

 

   =S=

 

 

アスピオを出て再びハルルの街に戻ると相変わらずハルルの樹は花一つ一つに至るまでが咲き誇っている。

 

 

「げっ、なにこれ、もう満開の季節だっけ?」

 

「へへ~ん、だから言ったじゃん。ボクらで蘇らせたって」

 

 

リタの表情に驚きが見えたカロルはどうだと言わんばかりな態度をとる。しかしそれがいけなかったのか、リタは自然な足取りでカロルの正面に行くとそのまま……

 

 

───ドガ!!

 

 

カロルの頭にリタの手刀が炸裂しカロルはそのまま痛みに打ちひしがれるように蹲(うずくま)った。というか今の音は絶対手刀で出せる音じゃないよな?

 

そしてリタはそのまま何も言わずに走って行ってしまう。恐らくハルルの樹の根元へと向ったのだろう。

 

 

「おお、皆さんお戻りですか。騎士様のおしゃったとおりだ」

 

 

そしてリタを追おうとした俺たちに声をかけたのは長だった。

 

そう言った長はゆっくりとこちらに歩いて来るので何か用があるのかと思い、自分達も長に近づく。

 

 

「あの……フレンは?」

 

「残念でしたな、入れ違いでして……」

 

「え~また~?」

 

「ですが、結界が直っている事には、大変驚かれていましたよ」

 

「あの……どこに向ったか、わかりませんか?」

 

「いえ…私には、なにも……ただ、もしもの時はと手紙をお預かりしています」

 

 

そう言って長は持っていた手紙をユーリに手渡すと一礼して家の中へと戻っていった。

ユーリはすぐさま手紙を開けて中を見ると、そこには三枚の紙が入っていた。

 

エステルは正面からそして俺とカロルは両脇からユーリの持つ紙を横から覗き込むと一番上にあったのははユーリの似顔絵が載った手配書だった。

 

 

「え?こ、これ手配書!?ってな、なんで?」

 

「ちょっと悪さが過ぎたかな」

 

「い、いったいどんな悪行重ねてきたんだよ!!」

 

「こ、これって……わたしのせい……」

 

「ま、ユーリは以前からも悪さしてたからしょうがないんじゃね?」

 

「ああ、ちなみに二枚目はリオの手配書だぞ?」

 

 

なん、だと………俺は無罪なのに何故……

 

 

「それにしても、こりゃないだろ。たった5000ガルドって」

 

「俺としては、なんでユーリと同じ金額が俺の手配書にも書かれているのか不思議だな~」

 

「それで、手紙にはなんて書いてあったんです?」

 

 

そう聞くとユーリがエステルに手紙を渡して読み上げる。

 

 

「『僕はノール港に行く。早く追いついて来い』」

 

「『早く追いついて来い』ね。ったく、余裕だな」

 

「それから暗殺者には気をつけるように、と言うのと他の人にはあまり迷惑をかけるな、と書かれています」

 

「なんだ、やっぱり狙われてんの知ってんだ。というかオレ、他人に迷惑なんてかけてねえだろ」

 

「「いや、それはない(よ)」」

 

「あ、あはは………」

 

俺とカロルの声が重なり、エステルまでも苦笑いしてる。

 

 

「んで、身の危険って奴には気づいてるみたいだけどこの先、どうする?」

 

「そうですね……」

 

「オレはノール港に行くから伝言あるなら伝えてもいい」

 

「それは……でも……」

 

「ま、どうするか考えときな。リタが面倒起こしてないかちょいと見てくる。」

 

 

そう言ってユーリはハルルの樹の根元の方へと歩いて行ってしまった。

 

 

「わたしはどうするべきなんでしょう……」

 

「んじゃ、ちょっとした助言をしてやろうか?」

 

「え……?」

 

 

どうやら独り言のつもりで言ったつもりの言葉に返答が来たので驚いたように顔を上げて此方を見るエステル。

 

 

「まず、エステルには少なくとも二つの道がある。一つは城と言う鳥かごの中で安全に不自由なく何も外の世界を知らずに生きていく道。」

 

そこでいったん区切るとエステルは若干そわそわした表情になり、二つ目の道の方が気になるといった感じだ。

 

「では、もう一つと言うのは……?」

 

「ユーリや俺と一緒に旅をすると言う道。常に危険が纏わりついて下手したら命の保障も無い。もしかしたらエステルにとって残酷な未来が待ってるかもしれない。だけど変りに城では決して得られない、本当の自由とこの世界の真実が手に入る。……さてこれを聞いたエステルはどうする?」

 

 

「………わたしは…」

 

 

俺の言葉に対してエステルが迷いながらも何かを言おうとしたとき、最近よく聞き覚えのある大声が聞こえてきた。

 

 

「エステリーゼ様~~!!!」

 

 

そういって街の入り口から走ってきたのはいつもの騎士三人集、ルブラン、アデコール、ボッコスだった。

 

 

「ようやく見つけましたぞ。エステリーゼ様」

 

「ご無事で何よりなのであ~る」

 

「むむむ!貴様はユーリ・ローウェルの共犯者の男!」

 

「タイミング悪っ。というか一々その呼び方言いにくいだろ。俺はリオ・ヒイラギって名前だからよろしく」

 

 

俺は思わずため息交じりで答えてしまった。

 

 

「フン、悪党の名前なんか覚えてやらんのだ!!」

 

「貴様を捕まえた後は罪人ユーリ・ローウェルも一緒に捕らえてやるのであ~る」

 

 

そう言ってる内に、いつの間にかユーリとリタは戻ってきていたようで悠々と後ろから来て俺の横に並んだ。

 

 

「!!!ここであったが百年目、ユーリ・ローウェル!そこになお~れぇ~!」

 

「今回はバカにしつこいな」

 

「ユーリ、お前が遅いから変なのに捕まったじゃん」

 

「わりぃわりぃ、リタにちょっと話があってな」

 

「昔からのよしみとはいえ、今日こそは容赦せんぞ!」

 

 

軽く無視しても今だルブランの声が響く中、今まで黙っていたエステルが口を開く。

 

 

「二人は悪くありません。私が連れ出すように頼んだのです!」

 

「ええい、おのれ、貴様ら!エステリーゼ様を脅迫しているのだな!!」

 

「違います!こらはわたしの意志です!必ず戻りますから、あと少し自由にさせてください」

 

「それはなりませんぞ!我々とお戻りください!」

 

「戻れません!わかってください!!」

 

 

エステルはどうやらこれからの事をしっかり選択したようでその目には決意の感情が見て取れた。

 

だが、どうやらルブランも引く気は無いようだ。

 

 

「ここは致し方ない。どうせ罪人も捕らえるのだから……」

 

 

そう言うとデコ&ボココンビが前に出てきて武器を構えた。

 

というか判っているのだろうか?一応、エステルとルブランがいない状態でも4対2だぞ?

 

と言うわけで………

 

 

 

フルボッコしました。デコが途中オーバーリミッツとか言い出してたけど逆にユーリがそれ使って技連発するわリタが魔術で焼くわカロルに至っては転がってきたボコを打ち返してたしね。

 

俺は何してたかって?武器を出したよ大剣・大百足って言う、まぁ刃がチェーンソーみたいになってる剣出したら寄ってこなかった。もちろんこれは魔物にしか使わないから脅しで出してみたんだけど反応がよかったから俺としては大満足である。

 

 

「ええ~い!!情けない!!」

 

 

ルブランがそう言って自分も突撃しようとするがリタの魔術に焼かれる。

 

 

「戻らないって言ってんだから、さっさと消えなさいよ!」

 

「ユーリ、リオ、あの人たち!!」

 

 

エステルがそう言って指差す方をみると城にいた隻眼の暗殺者の姿が見えた。そして俺たちの姿を確認すると此方に向ってくる。

 

「やっぱりオレらも狙われてるんだな」

 

「今度は何よ!」

 

「ど、どういうこと?」

 

「んじゃ、さっさとノール港に逃げますか。あ、ユーリ。方角はここから西だからな」

 

「わかった」

 

 

俺がそう言うとユーリに続いてカロルとラピードがついていく。

 

 

「何してんだ二人とも。さっさと行かないと置いてくぞ~」

 

「わかってるわよ。ほらさっさと行く」

 

 

そう言ってリタがエステルの方を向くがエステルは今になって迷っているようだ。

 

 

「でも、私……」

 

「あ~っ!!決めなさい。旅を続けるのか、帰るのか」

 

「……今は、旅を続けます」

 

「賢明な判断ね」

 

 

そう言って話がまとまったのか二人とも此方に走ってくる。

 

 

「騎士団の心得ひと~つ!!『その剣で市民を守る』そうだったよなあ?」

 

 

ユーリの言葉を聞いた騎士'sはハッと何かに気がついたかと思うとルブランが声を上げる。

 

「その通りっ!!いくぞ騎士の意地をみせよっ!!」

 

 

そう言って隻眼の暗殺者達と対峙する。その間に俺たちは街を出て西にあるノール港へと向った。

 

 

 

 

    =S=

 

 

~エフミドの丘~

 

 

 

あの後ハルルを出た俺たちはそのまま西に向かって進んでいく。そしてノール港へ向う途中、エフミドの丘に来ていた。

 

 

「おかしいな……結界がなくなってる」

 

「ここに結界があったのか?」

 

 

ユーリがそう聞くとカロルは首を縦に振る。

 

 

「うん、来るときはあったよ」

 

「人の住んでないとこに結界とは贅沢な話だな」

 

「アンタの思い違いでしょ。結界の設置場所は、アタシも把握してるけど、知らないわよ」

 

 

そう言うとカロルは若干ふてくされた様に言う。

 

 

「リタが知らないだけだよ。最近設置されたってナンが言ってたし」

 

「ナンって誰です……?」

 

「え……?え、えっと…ほ、ほら、ギルドの仲間だよ。ボ、ボクその辺で、情報集めてくる!」

 

 

明らかな挙動不審になりながらカロルは走って行った姿を見ながら……

 

 

「「逃げたな」」

 

 

俺とユーリの言葉が重なった。

 

そしてそのままエフミドの丘をしばらく登ると道を阻むように横倒れとなった何かの残骸とそこ周りを囲むように騎士と関係者らしき人が立っていた。

 

リタはすぐさまそれが魔導器と気づいたようで近づこうとして関係者らしき青年に止められる。

 

 

「こらこら、部外者は立ち入り禁止だよ!」

 

「帝国魔導器研究所のリタ・モルディオよ。通してもらうから」

 

 

そしてリタの言葉を聞いた青年の顔が驚きに変る。

 

 

「アスピオの魔導士の方でしたか!し、失礼しました!」

 

「俺はその助手です」

 

そう言って俺も関係者らしき人の横を通り過ぎてリタの横から魔導器を見る。

 

 

「アンタいつの間に……と言うかいつからアンタがアタシの助手になったのよ?」

 

「ま、俺も魔導器にはちょっと興味があるからな」

 

「ふうん、ま、いいわ」

 

 

そう言うとリタは魔導器を見ながら何かブツブツといいながら思考の海に浸かってしまったようだ。

 

そして目の前の魔導器に目を向ける。ほとんどが倒れた衝撃で粉々に砕けていて魔核(コア)もバラバラとなっているため見るも無残な姿になっている。

 

 

どうやらこれは完全に壊せていたようだな。

 

 

そう考えてると横にいたリタが手を動かしながらなにやらガサゴソ弄っている。するとそれを見た関係者と騎士は急いでリタの動きを止める。

 

 

「な、何やってるんですか!?」

 

「ちょっと放しなさいよ、何すんの!?この魔導器の術式は、絶対おかしいのよ!」

 

「おかしくなんてありません。貴方の言ってる事の方がおかしいんじゃ……」

 

「アタシを誰だと思ってるのよ!」

 

「存じています。噂の天才魔導士でしょ?でも貴方にだって知らない術式の一つくらいありますよ!」

 

「こんな使いかたして魔導器がかわいそうじゃない!!」

 

 

そう言いながらリタが諦めようとせずさらに魔導器を触ろうとして騎士たちを引っぺがそうとする。すると痺れを切らした関係者の仲間がさらに警備の騎士を呼んで余計にややこしくなる。

 

 

「火事だぁっ!山火事だっ!」

 

 

すると魔導器とは反対の方にいたカロルが叫んだ事で一時的にそこがシンと静まり返る。

 

 

「山火事?音も匂いもしないが?」

 

「こらっ!嘘つき小僧!」

 

「やばっ……もうばれたの?」

 

 

そういってカロルは一目散に逃げ出した。それを追うように騎士が何人か走って行く。すると一人の騎士がユーリたちの前で止まると同時に、ユーリが俺の方に向って頷く。

 

リタ助けろってことだよな?

 

 

俺はすぐさまリタを掴んでいる騎士の後ろから首に手刀を叩き込むと騎士はそのまま倒れこむ。

 

 

「んじゃ、逃げるぞ」

 

 

そう言ってリタを立たせてから道からそれた草むらへと駆け込んだ。

 

 

 

 

 

 

「ふ~、振り切ったか」

 

「はあ……はあ……リタって、もっと考えて行動する人だと思っていました」

 

「はあ……あの結界魔導器、完璧におかしかったから、つい……」

 

 

ユーリ、エステル、リタは肩で息をしながら草むらの奥にいた。

 

 

「おかしいって、また厄介ごとか?」

 

「厄介ごとですめばいいけど……どの道あんたらには関係ないことよ。というかそういえばあの変な奴とガキンチョは?」

 

 

「変な奴とか俺の扱い酷くないか?」

 

「リオがボクに対しての扱いの方が酷いよ」

 

 

そういって俺とカロルがユーリたちの前に出る。

 

 

「二人とも無事でよかったです」

 

「というかアンタはさっきまであたしと一緒にここに逃げ込んだわよね?」

 

「その後すぐにカロル探しに行ったからな」

 

「アンタの体力どんだけあんのよ」

 

「それより、全員揃った事だし。さっさとノール港までいくぞ」

 

 

ユーリの言葉にみんなが頷く。

 

 

「それで、えと、どちらに行けばいいんでしょう?」

 

「ま、この獣道を行けば出れるだろ」

 

「なら、魔物に注意が必要ですね」

 

「なーに、魔物の一匹や二匹、カロル先生に任せとけば万事解決だろ?」

 

「そ、そりゃあね……でも結界があれば、魔物の心配も無かったのに」

 

「まったくよ。どっかのバカが魔導器を壊すから、ほんとにいい迷惑!」

 

「………」

 

「?……どうした、リオ?」

 

 

俺はいつの間にかボーっとしていたようだ。

 

 

「いや、なんでもない」

 

 

そう言って俺たちは獣道を進んでいく。

 



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第十六相

大変遅くなりました。


 

あれからカロルがビリバリハの花で痺れたりする中、俺たちは魔物を倒しながら獣道を進んでいた。しばらく行くと開けた場所に出る。

 

 

──ガアァルルルル!

 

 

その音は、ラピード発するものとはまた違う声色の威嚇するような声が聞こえ全員が足を止める。

 

「ん?……何?」

 

「カロル、上」

 

「うわあああっ!!」

 

 

そう言って俺が指差すと、カロルはそのまま視線を指の先に向け驚く。高く聳え立つ崖の上、そこには狼のような魔物。数匹のガットゥーゾ・ピコとその中の一匹をさらに大きくしたボスのような存在ガットゥーゾがいた。

 

 

「あ、あれ、ハルルの街を襲った魔物だよ!」

 

「へぇ、こいつがね。生き残りってわけか」

 

「ほっといたらまたハルルの街を荒らしに行くわね、たぶん」

 

「でも、今なら結界があります」

 

「結界の外でも近所にこんなのいたら、安心して眠れねえからな」

 

「んじゃ、俺たちがその憂いを絶ってあげますか」

 

 

──ガアァァァァァ!!!

 

 

俺達の姿を確認したガットゥーゾは一際大きく吼えるとそのまま崖をものともせず滑り落ちてきた。そして同じようにガットゥーゾ・ピコも後ろに続く。

 

 

「んじゃ、小さい奴らは俺が何とかするからユーリ達はデカイ奴を頼む」

 

「了解だ!」

 

「うん!」

 

「気をつけてくださいね」

 

「そんな事言っといて前みたいにやられんじゃないわよ」

 

 

そう言いつつユーリ達はガットゥーゾに狙いを定める。そして俺は目の前にいる三匹のガットゥーゾ・ピコの方を向く。

 

 

「よし、行きますかね!」

 

 

それを合図に三匹のガットゥーゾ・ピコが一斉に飛び掛るが俺はそのまま後ろに飛び去る。

 

「よっと」

 

 

飛びのいた後、俺はそのまま両手を左右から腰に回して二振りの剣を引き抜く。引き抜いたそのフォルムはまるで炎をイメージしたように湾曲していて、ある意味爪のようにも見える。

 

そして何よりもその剣を見て思うのがその禍々しさだろう。黒くまるで錆びついているようにも見える刃は刃こぼれ一つ見当たらない。

 

俺はそのまま引き抜いた”虚空ノ双牙”を逆手に持ち替える。すると今まで三つの刃が重なり一つに見えていた剣が花開き、まるで三対の爪となる。

 

そしてガットゥーゾ・ピコ達は最初に飛び掛った後は俺を観察していたようだったが、この剣が開いた時に後ずさっていた。

 

 

「今回のはちょっと凶悪だぜ?」

 

 

恐らく俺の口の端が吊りあがっていたのだろう。ガットゥーゾ・ピコ達は真正面から飛び込むのは危険と感じたのか、今度は三匹で囲むようにしてから一斉に飛び掛ってきたが……

 

 

 

──ズシャッ

 

 

 

まるで何かが切り裂くような音と共に次の瞬間には俺のいた場所にはバラバラとなったガットゥーゾ・ピコの死体だけしか残っていなかった。

 

 

俺は少し離れた所で剣を振り血のりを飛ばしてから”虚空ノ双牙”を消す。そしてユーリ達の方を向くとまだガットゥーゾとの戦いを繰り広げていた。

 

見る限りではユーリ達が数の差で押しているといった感じであるが、決定打が欠けていた。どうやらあのガットゥーゾはリタやエステルが放つ魔術やユーリの大技に対しては決して当たらないようにしているようだ。

 

 

「蒼破!」

 

「煌めく猛追!ファイヤーボール!!」

 

ユーリの放つ蒼破刃とリタのファイヤーボールを難なくかわしたガットゥーゾはそのまま尻尾で近くに居たユーリがなぎ払われる。

 

 

「「「ユーリ(ガウ)!!」」」

 

「大丈夫だ!」

 

 

だが、ユーリはとっさに後ろに飛びながら剣でガードしたためダメージは最小に抑えられたようだ。

 

「ガウ!」

 

「だーもう!!何で当たらないのよ!」

 

「とても素早い魔物ですね」

 

「騎士団から逃げ切れたのも頷けるな」

 

「でもどうするの?これじゃあ埒が明かないよ」

 

 

ユーリ達が距離をとりながらガットゥーゾを見るがやはり倒すまでのダメージは与えられていない。ガットゥーゾもユーリ達の動きを警戒してか観察するような動きをしている。

 

「んじゃ、ちょっとした作戦があるぞ」

 

「「リオ!!」」

 

 

ユーリ達の動きが止まったところで後ろから声をかけるとカロルとエステルが驚くように此方を振り向く。

 

エステルはともかくカロル……戦闘中に魔物から目を離すのは自殺行為だろ。

 

それを知っていてかユーリとリタは此方に振り返ろうとはしない。

 

 

「んで、リオ……作戦ってのは?」

 

「まぁ、ひとまずリタとエステルは大技の術をいつでも打てるようにしといて」

 

「あの魔物、相当素早いから多分かわされるわよ?」

 

「ま、とりあえず頼む……っ!」

 

 

作戦内容を説明しようとすると痺れを切らしたのかガットゥーゾが突進してきた。俺たちはそのまま散開して女性陣が詠唱を始める。

 

 

「さーて、こっからが男性陣の見せ所だぞ」

 

「ほ、ほんとに倒せるの…?」

 

「それで実際どうするんだ?」

 

俺は右手で指をさしながら言う。

 

 

「あれ、なーんだ?」

 

「……なるほど、そういうことか」

 

「え?何、どういうこと?」

 

 

俺が指差す方向には綺麗なオレンジ色の花が咲いていた。ユーリはそれを見た瞬間に理解したように頷く。カロルはイマイチわからないようだ。

 

 

「そんじゃ追い込みますか!!」

 

「期待してるぜ?ユーリ。あと…カロルは合図したらあの花に衝撃を与えてくれ」

 

「え?……う、うん!」

 

 

そう言ってカロルのが頷くと同時に俺とユーリが前に出る。するとガットゥーゾは俺たちをターゲットとしたのか此方を睨み付けている。

 

「環伐!!」

 

ガットゥーゾに向かって走りながら腰に手を回し、大鎌を引き抜くと同時にアーツを発動して自分を中心に円陣を描くように切り裂くが、ガットゥーゾは後ろに飛びのくとそのまま尻尾で俺をなぎ払おうとする。

 

 

「させるかよ、蒼破刃!!」

 

 

だがユーリの放つ蒼破刃によって阻まれそのままガットゥーゾはさらに後ろに飛びのく。

その先にはあの花が咲いていた……ガットゥーゾは飛び退いてしまったのだ。ビリバリハの花の前に。

 

 

「「カロル!!」」

 

「鬼神千裂ノック!!」

 

 

カロルが打ち出した石がビリバリハの花に直撃する。するとそのまま半径一メートル位に黄色い粉が舞い、ガットゥーゾのの体を包んだ。そしてガットゥーゾの様子を見ると小刻みに痙攣していて麻痺に陥っている事がよくわかる。

 

 

「リタ、エステル頼んだ!」

 

「行きます!聖なる槍よ、敵を貫け」

 

「まったく、待ちくたびれたわよ!無慈悲なる業火は汝らの心をも燃やし尽くす!」

 

 

「ホーリィランス!!」 「クリムゾンフレア!!」

 

 

二人の詠唱が終わり、先に光の剣が降り注ぐ。本来ならば避けられただろうが麻痺の状態であったガットゥーゾはそのまま光の剣を受け、そして次に来た地獄の業火の如く炎の鉄槌が瀕死であったガットゥーゾに落とされ、煙が晴れたときには骨一つ残さず燃やし尽くされていた。

 

「ふぅ、お疲れさん」

 

「な、なーんだ、最後はあっけなかったね」

 

「でも、この先もまだ何匹も出てくるかも……」

 

「だ、大丈夫だって」

 

「ま、そうならないことみんなで祈ろうぜ」

 

「いや、ユーリは祈ったらむしろ余計に面倒ごとに巻き込まれるだろ」

 

 

「どうだろうな」とユーリは笑いながら俺たちはそのまま道を進んでいく。

 

 

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

「うわぁ………」

 

「これ……って……」

 

 

女性陣二人の声には見るからに感動の気持ちが含まれていた。そして男性陣も声には出していないが同じ心境だったと思う。

 

あれから少し歩いて道を抜けた先には開けている崖の上に繋がっていた。

 

そこには見渡す限り視界いっぱいの大海原が広がり水平線の先まで海が広がっている。そのせいでまるで空と海が繋がっているかのような錯覚が起こりそうになる。

 

 

「二人とも、海ですよ、海」

 

「わかってるって」

 

「あー風がすげー気持ちいい」

 

 

そう答えるがどうやらエステルの興奮はその程度では収まらないらしい。

 

 

「本で読んだことありますけど、わたし、本物をこんな間近で見るのは初めてなんです!」

 

「なら旅が続けばもっと面白いものが見られるよ。ジャングルとか滝の街とか……」

 

 

カロルの放った何気ない言葉を聞いたエステルはその言葉を自分の中で噛みしめるように呟く。

 

 

「旅が続けば……もっといろんなことを知ることができる…」

 

「そうだな…オレの世界も狭かったんだな」

 

 

思わず呟いたユーリのうしろではリタが珍しいものを見るかのような表情になっている。

 

 

「あんたにしては珍しく素直な感想ね」

 

「リタも、海初めてなんでしょ?」

 

「まぁ、そうだけど」

 

「そっかぁ…研究ばかりのさびしい人生を送ってきたんだね」

 

「アンタに同情されると死にたくなるんだけど」

 

 

そんな話を繰り広げてる間でもエステルはずっと海を見続けている。

 

 

「この海を通じて世界中が繋がっている……」

 

「へぇ、エステルは意外とユーリと違ってロマンチストだねぇ」

 

「いえ!あの、わたしはそうだったらいいなぁと思いまして……」

 

「また大げさな、たかだか水溜りの一つで」

 

「リタも結構感動していたくせに」

 

 

──ドカッ

 

カロルも鳴かねば討たれまいのに…

 

 

「これがあいつの見ている世界か」

 

「ユーリ?」

 

「もっと前に、フレンはこの景色を見たんだろうな」

 

「だろうな、騎士は任務とかで各地を旅してるだろうし」

 

 

そう言ってユーリの隣に立つがユーリの視線の先は目の前にある大海原をどこまでも見続けていた。

 

 

「追いついて来いなんて、簡単に言ってくれるぜ」

 

「ここを抜ければ、ノール港はもうすぐだよ。追いつけるって」

 

「…そう言う意味じゃねえよ」

 

 

カロルがそう言うが、ユーリはまるで少しふてくされた様な声色で小さく呟く。

 

 

「さぁて、ルブランが出てこないうちに行くぞ」

 

 

そう言ってユーリはそのまま海沿いの道を歩いて行きリタとカロルもそれについて行く。けれどエステルは今だこの景色を脳に焼き付けるかのごとく見続けていた。

 

 

「エステル、そろそろ行くぞ」

 

「…はい」

 

 

そう返事をするがエステルはやはり海から目を離そうとしない。恐らくこれを見られるのが最後だとか思っているんだろうが……

 

 

「もう一度この景色を見たいなら選択すればいい。そうすれば海を見ることも、旅をすることだっていくらでもできる」

 

「……」

 

 

俺がそう言うとエステルはゆっくりと海から目を離しこちらを見る。

 

 

「今だってエステルは俺たちと旅をすることを選んだ結果だろ?」

 

「……そうですね」

 

「それにもう一ついい事もあったな」

 

「え?」

 

 

そう言って振り返った俺に続いてエステルも振り返る。

 

 

「リオー!エステルー!早くー」

 

「二人ともーさっさとしないと置いてくわよー!!」

 

「ワオーン」

 

 

その先には俺たちの仲間が居た。

 

 

「…ほらな?」

 

「………はい!」

 

 

そう返事をしたエステルの表情は希望に満ちた笑顔に変り、仲間の下へと走って行くのをゆっくりと後ろからついて行く。

 

俺はあの笑顔を前に見たことがあるような気がする。そしてその子の笑顔を守りたいと思った。俺は守れたのだろうかその子を……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




テイルズオブヴェスペリア ~転生者は錬装士~を読んでいただき真にありがとうございます。

えー、皆さまこの度は更新が遅くなり大変申し訳ありません。
何とか忙しい時期を無事終えましたので、投稿を再開できるようになりました。
なので、以前というほどの頻度では投稿できませんが2,3週間に最低1回は投稿できるようにしていければと考えております。もちろん早めに書き終えれば早めに投稿しますので、どうか読者の皆様には暖かく見守っていただけると幸いです。


                                      奏


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第十七相

 

あれからエフミドの丘を越えて抜けた俺達は港の街カプワ・ノールへと向かうが街に近づくにつれ、曇天のそれへと変ってくる。そして最終的に街に着くころには雨が降り出すほどになっていた。

 

 

「なんか急に天気が変わったな」

 

「んじゃ、濡れ鼠になる前にさっさと宿に入ろうぜ」

 

 

俺がユーリにそう提案するがユーリはエステルの表情が気になるようだ。

 

 

「エステル、どうした?」

 

「あ、その、港町と言うのはもっと活気のある場所だと思っていました……」

 

「確かに、想像していたのと全然違うな……」

 

 

そう言ってユーリはもう一度、街の中を見回すが見た限りでは出店なども無く、殆ど無人に近い状態だった。

 

 

「でも、アンタの探してる魔核ドロボウがいそうな感じよ」

 

「ま、ユーリの探してるデデッキってやつが向かったのはトリム港のほうだけどな」

 

「どっちも似たようなもんじゃない」

 

「そんなことないよ。ノール港が厄介なだけだよ」

 

「どういうことです?」

 

「ノール港はさぁ、帝国の圧力が……」

 

 

カロルがそう言いかけたるとその言葉を遮るように今まで無人だった街の中から声が聞こえてきた。

 

 

「金の用意が出来ない時は、お前らのガキがどうなるかよくわかってるよな?」

 

 

俺達は声が聞こえてきた方を見ると4人の人影が見える。そして二人の男女が地面に手をつき、もう片方のガラの悪い二人組みが楽しむような笑みを浮かべながらその姿を見下ろしていた。

 

 

「お役人様!!どうか、それだけは!息子だけは……返してください!」

 

 

そう言いながら地面に手をついて頭を下げる男性。

 

 

「ここ数ヶ月もの間、天候が悪くて船が出せません。税金を払える状況ではない事はお役人様もご存知でしょう?」

 

「ならば、早くリブガロって魔物を捕まえて来い」

 

「そうそう、あいつのツノを売れば一生分の税金を納められるぜ。前もそう言ったろう?ま、納められればの話だけどな」

 

 

そう言い放ったガラの悪い二人組みは笑いながらその場を去っていく。そしてその場に残された恐らく夫婦であろう二人は見るからに悲しみに打ちひしがれていた。

 

 

「なによ、あの野蛮人」

 

「カロル、今のがノール港の厄介の種か?」

 

「うん、このカプワ・ノールは帝国の威光がものすごく強いんだ。特に最近来た執政官は帝国でも結構な地位らしくてやりたい放題だって聞いたよ」

 

「なる、つまるところ今の活気の無さもその執政官のせいってことか」

 

「そんな……」

 

 

俺たちが執政官について話し合っていると、男性が立ち上がり街の外へと歩きだそうとしてその男性の妻らしき人物に止められていた。

 

 

「もうやめて、ディグル!その怪我では……今度こそあなたが死んじゃう!!」

 

「だからって、俺が行かないとうちの子はどうなるんだ、ケラス!」

 

 

やがて女性を振り払った男性、ディグルは走り出そうとそのままユーリの前を通り過ぎて行こうとした瞬間、ユーリの足が前に出た。

 

ディグルはそのままユーリの足に引っかかり盛大に転ぶと、同時に転ばしたユーリの事を睨みつける。

 

 

「痛ッ……あんた、何すんだ!」

 

「あぁ、悪ぃ、ひっかかっちまった」

 

 

そう言うユーリの顔は悪びれた様子が一切見られない。その様子を見ていたエステルが倒れたディグルへと駆け出す。

 

 

「もう!ユーリ!……ごめんなさい。今、治しますから」

 

 

駆け寄ったエステルはすぐに治癒術を使い始めた。よく見るとディグルの体にはいくつもの包帯が巻かれており見ているだけでも重症なのが判る。そしてエステルはそれを含めて治癒術をかけたのかその癒しの光が収まる頃にはディグルの体の傷のほとんどが無くなっていた。

 

しかし妻の方は夫の傷が治ったのにも関らず不安そうな表情を崩さない。

 

 

「あ、あの……私たち、払える治療費が……」

 

「その前に言う事あんだろ」

 

「え……?」

 

「まった金と一緒に常識まで搾り取られてんのか?」

 

 

そういったユーリの言葉にはっとなった女性はすぐに頭を下げた。

 

 

「……ご、ごめんなさい。ありがとうございます」

 

 

その言葉を聞いたユーリはそのまま何も言わずに裏路地の方へと歩いて行くがどうやら俺以外は離れていくユーリに気がついてない。

 

 

「それじゃ、いつまでもここにいたら風引きそうだし宿に……あれ?ユーリは?」

 

「あー、俺がユーリ連れてくるから先に宿に行ってろ」

 

「うん、わかった」

 

 

そう言ってユーリの向かった裏路地に入ろうとするとハルルにいた隻眼の暗殺者の格好をしたやつが吹き飛ばされてきた。だが、隻眼の暗殺者は吹き飛ばされながらも地面に両手の剣を突き立て逆立ちのような格好で停止する。

 

 

「まぁ、お疲れさん」

 

 

見てしまったものはしかたないので、俺はすぐにまた裏路地に入っていこうとする暗殺者の背後に回りこむと首を絞めて意識を落とす。そしてその暗殺者をそこらへんのゴミ箱に投げ込んでおいて改めて裏路地を覗くと………

 

 

 

ユーリがめっさ金髪のイケメン剣士に剣で殴られていた。

 

 

「これを見て素直に喜ぶ気が失せた!」

 

 

話の途中だったのかイケメン剣士はそう言うと裏路地の壁に貼り付けられた紙を剣で指す。こちらからは見えないが手配書のようだが……手配書。

 

 

「あ、10000ガルドに上がった。やりぃ……お、ついでにリオの手配書も上がってやがるな」

 

「騎士団を辞めたのは犯罪者になるためではないだろう」

 

「ま、いろいろ事情があったんだよ」

 

「事情があろうと罪は罪だ」

 

「ったく、相変わらず頭の固いやつだな……あっ」

 

 

「リオ、ユーリは見つかりました…か……」

 

どうやら帰りが遅くて心配して探しに来たのか、エステルは裏路地の入り口あたりに居た俺の隣に立つとそのまま何気なく裏路地を覗き込み、すぐに驚いた顔のまま固まった。

 

 

「ちょうどいいところに」

 

「……フレン!!」

 

 

ユーリがそう言うとエステルはフレンと呼んだイケメン騎士に駆け寄りもはや癖のように怪我が無いかを確認する。

 

 

「よかった、フレン。無事だったんですね?怪我とかしていませんか?」

 

「……し、してませんから、その、エステリーゼ様……」

 

「あ、ごめんなさい。私、嬉しくてつい…」

 

 

そう言ったエステルに対してフレンは考えるそぶりをした後エステルの手を取る。

 

 

「エステリーゼ様、こちらに」

 

「え?あ、ちょっと……フレン…お話が……!?」

 

 

そのままエステルはフレンに連れて行かれていってしまった。

 

 

「さてとカロルとリタを先に拾うか………というか、リオ。お前さっきから地面に手ついて何してんだ?」

 

「何故、俺は罪を犯してないのに手配書の金額が上がっていくんだ……」

 

 

そして俺は地面に手をつきながら心から呟いた。

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

あれから先に宿に行っていたリタカロルと合流してフレンとエステルの居る部屋へと向かう。中に入るとフレンとエステルが向かい合って座っている。

 

 

「用事は済んだのか?」

 

 

ユーリがそう言うとこちら側を向いて座っていたエステルが肯定の意味で微笑む。

 

 

「ここまでの事情は聞いた。賞金首になった理由もね」

 

 

フレンは椅子から立ち上がりながらこちらを向く。

 

 

「まずは礼を言っておく。彼女を守ってくれてありがとう」

 

「あ、わたしからもありがとうございました」

 

 

フレンの言葉でエステルも慌てながら頭を下げる。

 

 

「なに、魔核ドロボウ探すついでだよ」

 

「問題はそっちの方だよ」

 

「ん?どういうことだ?」

 

「どんな事情があれ、公務の妨害、脱獄、不法侵入を帝国の法は認めていない」

 

「ご、ごめんなさい。全部話してしまいました」

 

 

エステルは申し訳なさそうにそう言う。

 

 

「しかたねえなあ、やったことは本当だし」

 

「では、それ相応の処罰を受けてもらうが、いいね?」

 

「ちょっとまった」

 

 

ユーリとフレンによってどんどん話が進められて行く中で俺は迷わず聞きたい事を聞く。

 

 

「俺の処罰はどうなるんだ?」

 

「リオ、といったね。君の話もエステリーゼ様から聞かせてもらったよ。まずは帝国の非礼をを詫びよう。すまなかった」

 

 

そう言うとフレンはいきなり頭を下げた。

 

 

「君の場合は明らかに此方側に非があった。だから、恐らくいくつか事情聴取の上、無罪釈放という形になるだろう」

 

「了解」

 

 

俺は短くそう言うと。フレンは軽く頷いた後、再びユーリの方へと目を向ける。だが、フレンが言葉を発する前に二人の人物が俺たちのいる部屋の中へ入ってきた。

 

一人は騎士の格好をした女性で茶色い栗毛を片方だけ三つ編みにしている。そして残りのもう一人は眼鏡をかけた子供のような緑っぽい髪のおかっぱの男の子だった。

 

 

「フレン様、情報が……!なぜリタがいるんですか!!」

 

 

おかっぱ頭の男の子は入ってくるなりフレンに何か伝えようとするが、すぐに目に入った人物によって、途中で話していた内容が変る。

 

 

「あなた、帝国の協力要請を断ったそうじゃないですか?帝国の直属の魔導士が義務づけられている仕事を放棄していいんですか?」

 

「なぁリタ、この子供、知ってるのか?」

 

「………誰だっけ?」

 

 

リタは本気で忘れているようだ。さらにその態度のせいかおかっぱ頭の子もめんどくさくなる。

 

 

「……ふん、いいですけどね。僕もあなたになんて全然まったく興味ありませんし」

 

 

うん、あれですね。対抗心を燃やしていたけどまったく相手にされてなくてショックだから自分もあなたなんて気にしていませんよアピール。

 

 

「紹介する。私の部下のソディアだ」

 

 

フレンにそう言われた三つ編みの女性、ソディアは俺たちに対して一礼する。だが顔を上げるとなぜか俺とユーリの顔をじっと見ていた。

 

 

「こっちはアスピオの研究所で同行を頼んだウィチル」

 

 

紹介されたおかっぱ頭こと、ウィチルは眼鏡をクイッと上げながらどうだと言わんばかりの表情だった。

 

 

「そして彼は、私の……」

 

「こいつら……!やはり賞金首のっ!!」

 

 

どうやら先ほどまで俺とユーリを見ていたのはこれを思い出すためだったらしい。ソディアはそのままフレンの言葉を遮り、剣を抜くとそのまま俺たちに突きつける。

 

 

「ソディア!待て……!彼は私の友人だ」

 

「なっ!?賞金首ですよ!?」

 

 

慌てて止めに入るフレンにの言葉にソディアは信じられないと言った表情になる。

 

 

「事情は今、確認した。確かに軽い罪は犯したが手配書を出されたのは濡れ衣だ」

 

「なら、もう一人の方は……」

 

 

そう言ってソディアの剣先がユーリから俺へと移る。

 

 

「俺はそもそも罪すら犯してはいないぞ?」

 

「犯罪者の言葉など……!!」

 

「本当だ、ソディア。彼の罪は我々騎士の怠慢が招いた結果だ」

 

「……し、失礼しました。ウィチル、報告を」

 

その言葉を聞いたソディアは先ほどまでの犯罪者への態度とは違い、すぐに剣を納めると頭を下げつつフレンへの報告をし始める。

 

 

「この連続した雨や暴風の原因は、やはり魔導器のせいだと思います。季節柄、荒れやすい時期ですが船を出すたびに悪化するのは説明がつきません」

 

「ラゴウ執政官の屋敷内に、それらしき魔導器が運び込まれたとの証言もあります」

 

「天候を制御できるような魔導器の話なんて聞いた事ないわよ。そんなもの発掘もされていないし……いえ、下町の水道魔導器に遺跡の盗掘……まさか……」

 

 

二人の報告を聞くと今まで黙っていたリタはいつもみたいに何かを考え込むように呟き始める。それにしても発掘もされていない魔導器ね……こりゃ当たりかな。

 

 

「執政官様が魔導器使って、天候を自由にしてるってわけか」

 

「ええ、あくまで可能性ですが……その悪天候を理由に港を封鎖し出港する船があれば、法令違反で攻撃を受けたとか」

 

「となるとトリム港には渡れないって事になるけど…ユーリ、どうするよ?」

 

「どうすっかなぁ」

 

 

そう俺とユーリで話しているとフレンがさらに情報を追加する。

 

 

「執政官の悪い噂はそれだけではない。リブガロという魔物を野に放って税金を払えない住人達と戦わせて遊んでいるんだ。リブガロを捕まえてくれば、税金を免除すると言ってね」

 

「そんな……ひどい」

 

「入り口で会った夫婦の怪我ってそう言うからくりなんだ。やりたい放題ね」

 

「そういえば子供が……」

 

「子供がどうかしたのかい?」

 

 

カロルの一言にフレンが反応するがその前にユーリが遮る。

 

 

「なんでもねぇよ、いろいろありすぎて疲れたし、オレらこのまま宿屋で休ませてもらうわ」

 

 

そう言うとユーリはそのまま部屋を出て行こうとするので、俺、リタ、カロルもそれに続いて部屋を出た後、そのまま宿で休む事となった。

 



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第十八相

あれから宿で一泊した俺達は宿を出る。しかし空は相変わらず厚い雲に覆われ雨が降り続けていた。

 

 

「ねぇ、これからどうする?」

 

 

カロルがそう言うが現在港が封鎖されているためトリム港へ行く事は一応は不可能である。

 

 

「わたし、ラゴウ執政官に会いに行ってきます」

 

「え?ボクらなんか行っても門前払いだよ。いくらエステルが貴族の人でも無駄だって」

 

「とは言っても、港が閉鎖されてちゃトリム港に渡れねぇしな。デデッキってコソ泥も隻眼の大男も海の向こう側にいやがんだ」

 

「うだうだ考えてないで、行けばいいじゃない」

 

「俺もそれでいいと思うぞ?それによく言うだろ当たったらボコボコにしろってさ」

 

「リオ、それって本当は当たって砕けろだと思うんだけど」

 

「いいじゃねえかオレららしくて」

 

 

カロルにそう言われユーリ的には気に入ってもらえたようだ。

 

 

「では、ラゴウ執政官の屋敷に向かいましょう」

 

 

 

   =S=

 

 

 

俺達はそのまま街の北にあるラゴウ執政官の館に向かったが、門前にいた先ほどの街にいたようなガラの悪い二人組みによって止められる。

 

 

「なんだ、貴様ら」

 

「ラゴウ執政官に会わせて頂きたいんですが」

 

 

エステルが執政官に会わせて欲しいと男達に交渉していると、カロルが近くに居た俺とユーリに小声で話しかけてくる。

 

 

「リオ、ユーリ、この人たち傭兵だよ。どこのギルドだろう………」

 

「道理でガラが悪いわけだ」

 

「ついでに性格も悪そうだけどな」

 

 

傭兵、有名所だと紅の絆傭兵団(ブラッドアライアンス)か……

 

そんな話をしていると傭兵達が俺達全員に向けて声を放つ。

 

 

「ふん、帰れ、帰れ!執政官殿はお忙しいんだよ」

 

「街の連中痛めつけるのにか?」

 

 

そう放ったユーリの言葉に傭兵一人が睨んでくる。

 

 

「おい、貴様口には気をつけろよ」

 

「だから相手にされないって言ったじゃないか」

 

「ま、ここは一応退散して他の方法でも考えようぜ。ユーリ」

 

「ここはリオに賛成だな」

 

 

そう言ってユーリは踵を返し歩き出しそれに続いて他のメンツも街の方へと歩き出す。そして少し離れた所で再び一箇所に集まりこれからの事について話し合う。

 

 

「それで他の方法ってどうするんです?」

 

「正面からの正攻法は騎士に任せるしかねぇな」

 

「それがうまくいかないからあのフレンってのが困ってんじゃないの?」

 

「まあな。となると、献上品でも持って参上するしかないな」

 

献上品か…確かあの執政官がやってるっていう…

 

 

「ああ、あのリブガロとか言うやつか」

 

「そういえば、役人の一人が言ってました。そのツノで一生分の税金が納められるって」

 

エステルも先ほどあった出来事を覚えていたようだ。

 

 

「じゃあ、リブガロってのを捕まえて顔拝ませてもらうってわけ?」

 

「ご名答」

 

「だったら、今がチャンスだよ!雨降ってるし」

 

 

カロルの言葉に対してみんなの視線がカロルに向かう。

 

 

「雨がどうかしたんです?」

 

「リブガロは雨が降ると出て来るんだよ。そう言う意味で天気が変った時にしか活動しない魔物ってのも時たまいるんだよね」

 

「よく知ってるな、カロル先生。それで?」

 

「それでって……?」

 

ユーリに聞き返されてきょとんとした顔をするカロル

 

 

「ユーリはあれだろ。それで何処にいるのかって聞きたいんだよカロル。まぁ今の反応からある程度は予想できるけどな……」

 

「さ、さぁ……?」

 

 

予想を裏切らないと言うべきかそのカロルの答えに俺のかわりにリタがため息を吐く。

 

 

「やっぱりね……」

 

「じゃあ街の人に話を聞きましょうか」

 

「聞きましょうって、いいのかよ、エステル?」

 

「はい?」

 

「?、どういうことだ?」

 

 

エステルに続いて俺もいまいちユーリの言葉の意図が読み取れない。

 

 

「この街のルール作ってんのは帝国の執政官様だ。そいつに逆らおうってんだからな。下手すりゃ、こっちが犯罪者にされんだぞ」

 

「ああ、そういうことか」

 

 

俺は納得したがエステルは少し考えた後、ユーリを真っ直ぐ見る。

 

 

「………わたしも行きます」

 

「いいんだな」

 

「はい」

 

 

その声は決して大きいものではなかったがエステルの決意が伝わったのか、やけに力強く感じた。そしてユーリは他の全員にも確認をしていく。

 

 

「リタもいいんだよな?」

 

「天候を操れる魔導器っていうの凄い気になるしね」

 

 

そう言うリタの声はどちらかと言うと嬉しそうだった。

 

 

「カロルは?」

 

「ボクはギルドの人間だからね」

 

 

カロルがそう言って最後に俺へと順番が回ってくる。

 

 

「んで、最後はリオだがどうする?リオは犯罪者になるのを嫌ってるみたいだったが今ならまだ引き返せるぞ?」

 

 

そうユーリが今更ながらにそんな事を言ってくる。確かに正直、犯罪者になるのは面倒だ。けどな……

 

 

「いまさら犯罪者になる原因を作ったやつが何言ってんだか。」

 

「んじゃ、リオもいいんだな?」

 

「仕方ないしな。毒を食らわば皿までだ」

 

 

なによりこいつらと一緒にいると楽しそうなんだよな。そう思いながら俺は自然と共に行く事を選択していた。

 

 

「決まりですね!」

 

「じゃあ、まずはリブガロを探すとしますか」

 

 

そう言って俺たちは街へと戻り住民たちに話を聞くとリブガロは街を出て西の森の中によく出るようだ。

 

そしてそのまま街を出ようとすると、街の入り口から来たフレンとすれ違う。

 

 

「相変わらず、じっとしているのは苦手みたいだな」

 

「人をガキみたいに言うなよ」

 

 

そう言って横を通り過ぎようとするユーリにフレンは再び話しかけるが先ほどとは声色が違っていた。

 

 

「ユーリ、無茶はもう……」

 

「俺は生まれてこの方無茶なんてしていないぜ。今も魔核ドロボウを追ってるだけだ」

 

「ユーリ……」

 

「お前こそ無理はほどほどにな」

 

 

そう言ってユーリは今度こそ本当に横を通り過ぎて先に街の入り口へと向かっていたリタとカロルのもとへと歩いて行く。

 

そして俺もそれについて行こうとして振り返ると今度はエステルとフレンが話していたが、少し離れていたせいか内容はうまく聞き取れない。

 

 

「ねぇ!リオ、エステル、もう行こう!ユーリに置いて行かれるよ」

 

 

カロルにそう呼ばれてそちらを振り向くとユーリはどんどん先に街の入り口へと歩いて行く姿が見え、俺とエステルは慌ててユーリの後を追った。

 

 

 

 

   =S=

 

 

~強制調査権限って?~

 

 

エステル「ねえ、リタ。フレンの言っていた魔導器研究所の強制調査権限ってなんです?」

 

リタ「ああ、あれね。要するに、帝国が認めた魔導器調査であれば、どこでも入っていけますというものよ」

 

ユーリ「なんだ、そんなすげえ権限あったのかよ」

 

カロル「ボクらが苦労する必要って、無いんじゃないの?」

 

リオ「それ、多分権力持ってる相手には使っても意味ないんじゃね?権力振りかざしてとか」

 

リタ「ご名答。例外とか言って、よく弾かれるのよね」

 

ユーリ「帝国のやりそうなことだな」

 

 

   =S=

 

 

街を出た俺たちはノール港の住民から聞いたリブガロが現れるという高台の上の西の森に向かう。今は丁度、雨が降っておりカロルの話の通りならばリブガロがいつ出ても不思議ではない天候だった。

 

そしてしばらく森の中を歩き続けると森の開けた場所に一匹の魔物がいた。

 

見た目は馬のようにも見えるが、まず目を引かれるのはそのツノである。黄金に輝いたツノは巨額を生むと言う話を頷かせざるおえない輝きを放っており、さらにその黄金のツノを彩るかのような同じく金色に輝く毛並みは雨に濡れているというのにも拘らず、その輝きを失わずにいた。

 

 

「これがリブガロだよ!!」

 

 

カロルの言葉でリブガロに見とれていた俺たちは一瞬にして戦闘の隊形をとる。

 

リブガロも俺たちに気づいたようだ。だが逃げるかと思いきやすぐにその黄金のツノを武器に突進してくる。

 

 

「全員、間違えて殺すなよ?」

 

「「「「了解(ガウ)!」」」」

 

 

ユーリの言葉に全員が頷き、俺がすぐさまリブガロの前に出る。

 

 

「んじゃ、不殺ということで今回はこれで行くか!!」

 

 

そう言って俺は拳闘武器を取り出す。そして突進してくるリブガロのツノを避けながらアーツを発動する。

 

 

「吹っ飛べ!!金剛発破掌!!」

 

 

避けると同時に隙だらけのリブガロの頭に気功を叩き込む。するとリブガロはそのまま吹き飛ばされて地面を転がりながら数メートル先で停止した。しかし倒れたリブガロは生きてはいるようだが起き上がらない。

 

 

「す、すごいです……」

 

「なんつー馬鹿力…」

 

「ボ、ボク、リオが仲間でよかったよ……」

 

「あれ?俺、手加減したんだけど?」

 

「以外にあっけなかったな」

 

 

以外にも弱かったリブガロに驚きつつユーリに肩を叩かれながら全員でリブガロに近寄ると何故弱かったのか理由がわかった。

 

リブガロの体を見てみると至るところに傷があり中には直りきっていないものまである。傷の数から見て既に相当のダメージが入っていたのだ。

 

 

「すごい傷だらけ……少しかわいそうですね」

 

 

エステルはその傷を見て思わず呟く。

 

 

「死に物狂いの街の連中に何度も襲われたんだろうな」

 

「街の人が悪いわけじゃ………」

 

「わかってるって」

 

 

ユーリはそう言いながらリブガロに近づくと俺が叩きつけた辺りを軽く剣の柄で殴るとリブガロのツノがあっけなく折れた。

 

 

「ユーリ?」

 

 

そのままリブガロ自体を連れて帰るのかと思いきや角だけ折るユーリにエステルは疑問そうな声を上げる。

 

 

「高価なのはツノだろ?金の亡者どもにゃこれで十分だ」

 

「ユーリってばやーさしー」

 

「アンタが魔物に情けなんてかなり意外なんだけど」

 

「そんな事言ってる場合じゃ……ほら、起きるよ!」

 

 

カロルの言葉でリブガロを見ると今まさに起き上がろうとしているが俺の頭へのダメージが効き過ぎたのかヨロヨロとしている。

 

 

「仕方ないか……」

 

 

そう言って俺は何も無い所から癒しの水の入ったビンを取り出しリブガロの傷と思われる部分にかける。すると見る見る傷が言えていきリブガロはゆっくりと立ち上がる。

 

 

「リオ!?何で傷治してるの!?また襲われるよ!!」

 

 

カロルがそう言い俺以外のみんなも緊張した空気が流れる。だがその空気は一瞬で消える事となった。

 

リブガロは俺の前まで来ると頭を下げたのだ。俺は一度その立髪を撫でてから一言、行けと言うとリブガロはそのまま走り去っていった。

 

 

「へぇー魔物って意外と温厚なのも居るみたいだな」

 

「リオってもしかして魔物が人間に化けてんじゃないの?」

 

「ありえるわね。さっきの馬鹿力といい魔物なら頷けるわ」

 

人間に化けてるって…

 

「どうしてみんなそんな風に言うんですか!きっとわたし達の意図を理解してくれたんですよ」

 

「はいはい、ツノが手に入った事だしさっさと帰ろうぜ。それと一応否定しとくが俺は魔物では断じてない!」

 

 

そうして俺たちはリブガロのツノをもって執政官に会うべくノール港へと戻った。

 

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

 

ノール港に戻った俺たちの目に入ってきたのはまたあの夫妻だった。

 

 

「待って!せっかく、怪我を治してもらったのに!」

 

 

そういって引き止める妻の制止も聞かずディグルはコンパクトソードを携えながら街の外へ行こうとする。するとユーリは俺たちの前に出てディグルの道を遮る。

 

 

「そんな物騒なもん持って、どこ行こうってんだ?」

 

「あなた方には関係ない。好奇心で首を突っ込まれても迷惑だ」

 

 

ユーリは無言のまま持っていたリブガロのツノをディグルの前へと投げ落とす。

 

 

「こ、これは……っ!?」

 

「あんたの活躍奪って悪かったな。それは、お詫びだ」

 

「「あ、ありがとうございます」」

 

 

後から来た妻も一緒に地面に手をつきながら礼を言う夫妻をよそに、ユーリは宿のある道へと歩いて行ってしまい俺たちも後を追う。

 

 

「ちょ、ちょっと!あげちゃってもいいの?」

 

「あれでガキが助かるなら安いもんだろ」

 

「最初からこうするつもりだったんですね」

 

「ま、ユーリが執政官邸の前であんな確認するくらいだしな」

 

「思いつき思いつき」

 

 

そう言いながら手をぷらぷらと振りながら言うユーリ。

 

 

「その思いつきで、献上品がなくなっちゃったわよ。どうすんの?」

 

「ま、執政官邸には、別の方法で乗り込めばいいだろ」

 

「ならフレンがどうなったか確認に戻りませんか?」

 

「そうだな。んじゃ宿に戻るか」

 

俺たちはそのまま宿にいるフレンのもとへと向かった。

 

 



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第十九相





俺たちはユーリの独断により献上品をあの夫妻に渡した後、宿にいるフレンの元へと訪れた。

 

だが、部屋にいたフレン、リフィル、ウィチルの顔を見れば状況が芳しくない事がひと目でわかる。

 

 

「相変わらず辛気臭い顔してるな」

 

 

入室早々、ユーリの言葉で俺たちが部屋に入ってきたのに気がついたのか、三人がこちらを振り向く。

 

それと同時に最初に口を開いたのはフレンだった。

 

 

「色々と考えることが多いんだ。君と違って」

 

「ふーん……それで執政官のところに行かなかったのか?」

 

「行った。魔導器研究所から調査執行書を取り寄せてね」

 

「それで中に入って調べたんだな」

 

 

その事についてユーリが尋ねるとフレン達の表情が曇る。

 

 

「いや……執政官にはあっさりと拒否されたよ」

 

「え…!?なんで?」

 

 

自嘲気味にも聞き取れるトーンでそのことを告げるフレン。その事についてカロルも驚きの声を上げる。

 

 

「カロル、街を出るときにリタが言ってた事を思い出してみろ」

 

「え……?あ、そういえば例外とかでよく弾かれるとか言ってたね……」

 

「魔導器が本当にあると思うなら正面から乗り込んでみたまえと安い挑発まで言われましたよ」

 

 

納得しているカロルにウィチルが嫌味を込めた感想を付け足すと、隣にいたソディアの表情もまた悔しさに変わる。

 

 

「私たちにその権限が無いから、馬鹿にしているんだ!」

 

「でも、そりゃそいつの言う通りなんじゃねえの?」

 

「なんだと!?」

 

 

ユーリの言ったことを挑発と感じ取ったのかソディアの表情は先ほどとは違う怒りの表情へと変わる。おそらくユーリが犯罪者である事も関係しているだろうが……

 

 

「ユーリ、どっちの味方なのさ?」

 

「敵味方の問題じゃねぇだろ。自信があんなら乗り込めよ」

 

 

そう言うユーリに対してフレンは首を横に振って否定の意思を表す。

 

 

「いや、これは罠だ………ラゴウは騎士団の失態を演出して評議会の権力強化を狙っている。今、下手に踏み込んでも証拠は隠蔽され、しらを切られるだろう」

 

「ラゴウ執政官も評議会の人間なんです?」

 

「ええ……なのにラゴウはその立場をいいように使って……」

 

「とにかく、ただの執政官様って訳じゃなさそうだな。で、次のて考えてあんのか?」

 

「………」

 

 

そう聞いたユーリの言葉に答えられないフレン。これは、もはや手詰まりであることを表している。

 

 

「なんだよ、打つ手なしか?」

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

 

ふと思いついたことがあったので手を上げるとその場の全員の目が俺へと向かう。

 

 

「ん?なんだリオ。いい手でも思いついたか?」

 

「いや、一応聞いておきたいことがあったんだが……例えば、屋敷の中で騒ぎが起きた場合どうなるんだ?敵対してると言ってもやっぱり守るのは騎士団のつとめだろ?」

 

「そうなった場合なら、騎士団の有事特権が優先され強行突入することができるんですよ」

 

 

「騎士団は有事に際してのみ、有事特権により、あらゆる状況への介入を許される、ですね」

 

 

有事特権?と聞こうとしていたらエステルの説明が先に入った。

 

 

「なるほど、屋敷に泥棒でも入って、ボヤ騒ぎでも起こればいいんだな」

 

「ユーリ、しつこいようだっけど……」

 

「無茶するな、だろ?」

 

 

そう言ってユーリは部屋を出て行き、俺たちもユーリへと続く。

 

だがあの中の何人が気づいただろうかユーリの顔がまるで悪戯っ子の悪巧み顔になっていたことを……

 

 

 

   

 

   =S=

 

 

 

 

 

Q.さて宿を出た俺たちは今どこにいる?

 

 

 

 

 

A.ラゴウ執政官の館の前。

 

 

 

「まぁ、結局、最後はやっぱりそうなるよな」

 

 

そう言って俺は独り言を呟きながら、俺たちは外壁の影から門番たちの様子を伺う。

 

 

「何か言ったかリオ?」

 

「いんや、何でも」

 

そう言ってラゴウの館を覗いてみる。門の前には相変わらずのようにガラの悪い男の二人が立っており来るものを阻んでいた。

 

 

「何度見ても、おっきな館だね。評議会のお役人ってそんなに偉いの?」

 

「評議会は工程を政治面で補佐する機関であり、貴族の有力者により構成されている、です」

 

カロルの疑問にすかさず説明をしてくれるエステル。

 

「言わば、皇帝の代理人ってわけね」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

いつものようにエステルの解説が入りみんなが感心するが。今のところ打開策が何もないのは変わらない。

 

 

「んで、大体予想はつくがやっぱり正面突破?」

 

「リオも相変わらず物騒なこと考えるね」

 

 

相変わらずとは失礼な俺はこのグループではかなり良心的だぞ?

 

 

「でも、リオの言うとおりそれしかねぇよな」

 

「なら裏口はどうです?」

 

 

 

 

「残念、外壁に囲まれてて、あそこを通らにゃ入れんのよね」

 

 

 

突然、俺達の後ろからかけられた声に驚き、全員が後ろを向く。だが、その声は俺とユーリにとっては聞き覚えのある声だった。

 

全員が振り返り見た先にはおっさんと言う言葉が当てはまりそうな中年男性が立っており、思わずエステルが思わず声を上げそうになるのを人差し指で制す。

 

 

「こんな所で叫んだら見つかっちゃうよ、お嬢さん」

 

「えっと、失礼ですが、どちら様です?」

 

「な~に、そっちのかっこいい兄ちゃん達とちょっとした仲なのよ。な?」

 

 

そう言っておっさんは俺とユーリの前まで来ると同意を求めるような声で話しかけてくる。

 

 

「いや、違うからほっとけ」

 

「というかそこら辺でくたばれ」

 

 

ユーリ俺の順でおっさんに言い放つ。

 

 

「おいおい、ひどいじゃないのお二人さん。お城の牢屋で仲良くしたじゃない。ユーリ・ローウェル君にリオ・ヒイラギ君よぉ。」

 

 

そう言われてユーリは自分の名前が出てきたことに反応して今まで背けていた顔をおっさんの方に向ける。ちなみに俺はそのままだ。

 

 

「ん?名乗った覚えはねぇぞ?」

 

「手配書、見たんじゃねぇの?俺とユーリの名前も書かれてるだろうし」

 

「ご名答」

 

 

そう言っておっさんは懐から俺とユーリの手配書を取り出し目の前でヒラヒラとちらつかせる。

 

 

「ユーリとリオは有名人だからね。で、おじさんの名前は?」

 

 

カロルにいきなり名前を聞かれたおっさんは少し考える素振りを見せ……

 

 

「ん?そうだな……とりあえずレイブンで」

 

「とりあえずって……どんだけふざけたやつなのよ」

 

今までおっさんことレイブンをうさんくさそうな目で見ていたリタは警戒心をあらわにする。

 

 

「んじゃ、レイブンさん、達者で暮らせよ」

 

 

そう言ってユーリが話を区切ろうとするが、レイブンはまだ要件があるようだ。

 

「そう釣れないこと言わないの。屋敷に入りたいんでしょ?ま、おっさんに任せときなって」

 

 

そう言うと同時に俺たちが止める間もなくレイブンは門番のもとへと走ってい行ってしまう。

 

 

「止めないとまずいんじゃないの?」

 

「あんなんでも城抜け出す時は、本当に助けてくれたんだよな」

 

「そうだったんです?だったら、信用できるかも…」

 

 

そう言って再び視線を向けると、レイブンは何やら門番の二人と話しているのだが何故かこちらを指差しながら話をしていたかと思えば、突然、門番の二人組が俺たちの方へと走り出した。

 

「な、なんかこっち来るよ!?」

 

驚いた俺たちを余所に門の前に残っていたレイブンに目を移すとこちらを見ながら左手で拳を作り親指を天に向けていた。そんな風にサインをしてラゴウの館へと悠々と入っていった。

 

これを見た俺たちは一瞬にして理解した。ハメられたと………

 

 

「そ、そんなあ……」

 

その後の反応は様々だった。エステルはショックの声を上げ、ユーリはため息を吐き、カロルはアタフタとしていて、俺はユーリと似たような反応をしていた。

 

そして最後にリタだが今まで体を震わせていたが、それは恐怖などによるものではなくレイブンへの怒りだったようで……

 

 

「あいつ……バカにして!あたしは誰かに利用されるのが大っ嫌いなのよ!」

 

 

そう言うと今まで隠れていた場所から飛び出して、走ってくる門番の前に立つ。それと同時に魔法陣がリタの足元で輝いたかと思うと、容赦なくファイヤーボールを門番二人に叩きつけた。

 

直撃を受けた門番二人はプスプスと体から煙を上げてのびていた。とりあえず、手を合わせておく俺。南無……

 

 

「あ~あ~、やっちゃったよ。どうすんの?」

 

「ま、遅かれ早かれユーリといたらこうなる運命だからしょうがない」

 

「なんというか、リオが言うと説得力あるよね」

 

「そんなこと言ってないで、見張りもいなくなったしさっさと行くぞ!」

 

 

ユーリがそう言って門番のいなくなったラゴウの館へと走るのに続いて俺たちもラゴウ敷地へと侵入する。

 

 

「ユーリ、流石に正面はまずい」

 

「そうだな、なら裏から回って通用口でも探すか」

 

 

俺たちはそのまま正面を避けて裏から入ろうと館の周りを通ろうとすると、通用口らしき場所の前でレイブンが立っていた。

 

 

「よう、また会ったね。無事でなによりだ、んじゃ」

 

 

まるで悪びれる様子もない声でそう言ったレイブンはそのまま脇目もふらずエレベーターらしき通用口で上へと登り始める。

 

 

「待て、こら!」

 

 

リタは今すぐにでも先ほどの仕返しというか復讐をしたいせいか、すぐさまとなりの通用口から追いかけようとする。そして俺たちも置いてかれまいと急いで通用口へと入るが……

 

 

「あれ?下?」

 

 

動き出したエレベーターは俺たちの意思とは反対に下へと降りていく。しかも途中からは操作できないのかエレベーターは止まらない。そして結局俺たちは一番下まで降りることとなった。

 

 

 

 

   =S=

 

 

~レイブンについて~

 

 

リタ「ちょっとあんた、あのレイヴンってのをアタシの前に連れてきなさいよ」

 

ユーリ「はあ?なんでオレにいうんだよ」

 

リタ「だってアンタ知り合いなんでしょ!」

 

ユーリ「だから、別に知り合いじゃねえって。しかもそれを言うならリオだってそうじゃねぇか」

 

リオ「は?なんで俺があんな加齢臭出してそうなおっさんと知り合いじゃないといけないんだよ」

 

カロル「あれ?なんかリオ怒ってる?」

 

リオ「いや、なんかあのおっさん見てるとイライラするんだよな」

 

カロル「それってつまりただの八つ当たり……」

 

リタ「そんなのはどうでもいいのよ。というか、まず会った場所が牢屋ってのが胡散臭すぎるのよ」

 

ユーリ「……その点は否定できないな」

 

エステル「変わった方だとは思いますが、わたしには悪い人には見えませんでしたよ?」

 

カロル「いや、けど、いい人でもないと思うよ……」

 

リオ「事実、俺たちがここに居る原因だしな」

 

 

 

 

   =S=

 

 

 

あれからエレベーターは一番下で止まる。そして俺たちが通用口から出るとそこは薄暗い部屋のような空間だった。だがそれ以上に一瞬にして全員が感じたのは強烈な臭いだ。

 

 

「うっ!?」

 

 

その臭いにエステルは思わず口を抑えてしまう。この気配は………

 

 

「なんか臭いね」

 

「血と、あとはなんだ?何かの腐った臭いだな」

 

 

カロルとユーリはそういう中で、俺は双剣を取り出す。それと同じくしてラピードも気配を感じとったのか威嚇を始める。

 

俺たちの見つめる先、そこには魔物がいた。しかも一匹だけではなくかなりの数がここに居るようだ。

 

 

「魔物を飼う趣味でもあんのかね?」

 

「そうかもね。リブガロもいたし」

 

「なんか、問いただした時に高貴な人間しか理解できない遊びだとか抜かしそうだよな」

 

 

そう言って全員が警戒をしている中、魔物たちのの声とは違う、まるですすり泣くような声が聞こえてきた。

 

 

「パ……パ、マ……助けて……!」

 

 

『!?』

 

 

その声は扉の向こう側から聞こえて来るようだが全員の耳にハッキリと聞こえたようだ。助けて……と

 

 

「行くぞ!!」

 

 

そう言って俺たちは声の聞こえてくる方の扉へと駆け出し廊下を走り抜けて声のする目的の部屋の前へとたどり着く。すぐさま中に入ると中は大量の骨が散乱していている。

 

そしてその散乱した骨を避けるようにして部屋の隅で震える男の子。エステルはそれを見た瞬間に男の子のもとへと駆け出していた。俺達もその後を追って少年へと近づく。

 

 

「大丈夫だよ。何があったか話せる?」

 

 

エステルが優しく話しかけると男の子は顔を上げて俺たちの姿を確認すると震えが収まった。そして落ち着いた頃にポツリと話し始めた。

 

この男の子、ポリーいわく…両親が税金を払えなくて、怖い人にここへ連れてこられたらしい。その話を聞いた俺たちは街であった夫婦と役人らしき人物との会話を思い出し、顔を見合わせる。

 

ユーリ達が男の子と話している間、俺は周りに目を向ける。いたるところにある骨、その中には人とも思わしき物まで混じっている。それと同時に俺は役人の会話の内容を思い出す。

 

ポリーがここにいたと言う事は、たとえ税金を払ったとしても親の下へと返す気など無かったということだ。恐らく税金を払うのが遅れたお前らのせいで息子は死んだんだとかぬかすのだろう。

 

 

「へぇ、アンタもそんな顔するんだ?」

 

「!っ……どんな顔してた?」

 

 

突然横からかけられた声に驚いて、そちらを向くとリタがこちらを向きながら面白いものを見たと言った表情だったため思わず聞き返してしまった。

 

 

「そりゃあもう、ちびっ子なら泣き出すレベルね」

 

「そこまでかよ……まあ、胸くそ悪い話だと思ってな」

 

 

 

言い訳混じりに応えた俺にリタはふーん言いながら目線を逸らすと、そのまま何も言わなくなりしばらくの間無言が続くこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

あれから話し合った結果、ポリーをここに放置するのは危険だと言う事になり、俺たちはポリーを両親の下まで連れて行くということになった。

 

そしてしばらくポリーがいるため魔物を避けながら同じような部屋を何度も通り抜けていくと今までの部屋にはなかった鉄格子が見え全員が足を止める。

 

どうやらここが最後の部屋のようで他の出口というのは俺たちが入ってきた扉か鉄格子位のものだろう。

 

そして俺達の居る鉄格子を挟んだ反対側の先に見える階段。そこからから聞こえてくる靴底の足音に気がついた俺たちは自然とそちらに目を向ける。

 

 

「はて、これはどうしたことか、美味しい餌が増えてますね」

 

 

目を向けた先にいたのは、黒を基準とした布地に金色の刺繍を身に纏った初老の人物。その威厳ぶった態度を見るからにその糞ジジイがラゴウ執政官なのだろう。

 

そう考えているとユーリが鉄格子を挟んだ反対側から一歩前に出る。

 

 

「あんたがラゴウさん?随分と胸糞悪い趣味をお持ちじゃねぇか」

 

「趣味?ああ、地下室のことですか」

 

 

そう言ったユーリに対してラゴウは一瞬とぼけたような表情を取りながらすぐに納得する。

 

 

「これは私のような高雅な者にしか理解できない楽しみなのですよ」

 

「ねぇねぇ、リオの予想通りだったね」

 

「ああ、正直自分で言っといてなんだが、そんなアホな事言う奴が実際にいた事が驚きだよ」

 

 

ラゴウの言ったことに対してカロルが小声で話しかけてきたが、まさかホントにそんな事を抜かすとは……

 

 

「さて、リブガロを連れ帰ってくるとしますかねぇ。これだけ獲物が増えたなら、面白い見世物になります。ま、それまで生きていればですが」

 

「リブガロなら探しても無駄だぜ。オレらがやっちまったからな」

 

 

ユーリの言葉で、今までこちらを見下すような卑下た笑みをしていたラゴウの表情が変わる。

 

 

「……なんですって?」

 

「聞こえなかったか?オレらが倒したって言ったんだよ」

 

「くっ……なんということを……」

 

 

 

リブガロが倒されていたことを知ったラゴウは悔しがる表情をするもすぐに戻る。

 

 

「まあ、いいでしょう金さえ積めばまたすぐにでも手に入ります」

 

「ラゴウ!それでもあなたは帝国に仕える人間ですか!」

 

 

そう言ってユーリを押しのけて前に出るエステル。どうやらラゴウの横暴に我慢の限界が来たようだ。と言うか俺もそろそろずっと後ろで待機しているのも飽きてきた。

 

 

「むむっ………あなたは……まさか!?」

 

「はいはい、もう面倒だからお縄を頂戴しよう…か!!っと」

 

 

 

バキャンッ!!

 

 

 

最早、話も聞いてたらいつまでも終わらなさそううなので、とりあえず俺は目の前にある鉄格子を蹴り飛ばす。すると鉄格子は嫌な音を立ててそのまま吹き飛んだ。

 

 

「開通~」

 

「アンタ…力任せにも程があるでしょ」

 

 

そんな風にリタに言われるが俺は聞き流しながらラゴウと向き合う。ラゴウはを見ると風圧で倒れただけでどうやらケガらしきものは無い。ちょっと残念だ。

 

 

「き、貴様!な、何をするのですか!!誰か!この者たちを引っ捕えなさい!!」

 

 

そう言いながらラゴウは立ち上がり脇目もふらず一目散に先ほど来た道を戻り、二階へと走っていった。

 

 

「さーて、リオが執政官怒らせちまったからな。早いところ用事済ませねえと敵がぞろぞろ出てくんぞ?」

 

「どうせ、ユーリもそろそろ鉄格子ブチ破るつもりだったんだろ?」

 

「まあな……っと、リタちょっと待った!」

 

 

俺とユーリが話しているといつの間にか魔法陣を展開し魔術を発動しようとしているリタに気がついたユーリがストップをかける。

 

 

「……何よ、騎士団が踏み込むための有事って奴が必要じゃないの?」

 

「まずは証拠の確認だ」

 

「天候を操る魔導器か……んじゃ、ラゴウの後を追うか」

 

 

俺たちは逃げたラゴウを追って屋敷の中を走り出した。




この度は投稿遅くなり申し訳ありませんでした。


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第二十相

遂にあのキャラが登場!


 

 

さて、あれから逃げ出したラゴウを追いかけていた俺たちは現在、一つの部屋に入ったところで足を止めている。本来ならさっさとラゴウを追うべきなのだろうが、今俺たちが足を止めている原因は天井から吊る下げられた”それ”のせいである。

 

 

「いーい眺めなのじゃー……」

 

「誰……?」

 

 

思わず全員の心を代表してカロルが言う。

それもそうだろう…天井から吊り下げられているのは人。さらに細かく言うのであれば、そんな声を出しているのが幼い容姿をした少女だったのだから。

 

 

「そこで何してんだ?」

 

 

そこでユーリが前に出てそのミノムシ状態で吊る下げられた少女へと近づいていく。

 

 

「見ての通り、高みの見物なのじゃ」

 

「ふーん、オレはてっきり捕まってるのかと思ったよ」

 

「あの……捕まってるんだと思うんですけど」

 

「エステル、多分その認識で間違ってないぞ?……むしろこれを捕まって無いと言ったらある意味そういう趣味の人だと考えたほうがいい」

 

「ええっと、趣味ですか?」

 

 

そんな会話を少女の目の前で繰り広げる俺たち。けれども少女はユーリの顔を見ると驚いたように表情をかえた。

 

 

「お……?お前、知ってるのじゃ。えーと、名前は……ジャック」

 

「ユーリの知り合いか?にしても名前が一文字もあってないが……」

 

「誰なんです?」

 

 

少女の反応からしてユーリとの面識があると感じた俺たちの視線はユーリへと向く。するとユーリはため息を吐く。

 

 

「オレはユーリだ。お前、名前は?」

 

「パティなのじゃ」

 

「パティか。さっき屋敷の前で会ったよな」

 

「おお!そうなのじゃ。うちの手のぬくもりを忘れられなくて、追いかけてきたんじゃな?」

 

「と、言われてるが?」

 

 

俺が茶化すと、ユーリはまたもため息を吐きながらも、パティが縛られているロープを切る。

 

 

地面に降りたパティを改めて見ると随分と身長が低い。下手したらカロルと同じか少し小さいというだけでもパティの幼さがわかる。

 

 

「ねぇ、パティはこんな所で何してたの?」

 

「宝探しじゃ」

 

「宝?こんなところに?」

 

「あの道楽腹黒ジジイのことだし?そういうのがめてても不思議じゃないけど……」

 

 

リタの容赦が無いがあまりにも適切な言葉に全員が苦笑いしつつ、俺はふと思ったことがあったのでそのまま口にする。

 

 

「宝探しってことは、パティは冒険家か何かか?」

 

「そうなのじゃ」

 

 

どうやら俺の予想は当たっていたようでパティも自分の職種を当てられたことに少し驚いているようだった。

 

 

「と、ともかく、女の子一人でこんなところウロウロするのは危ないです」

 

「そうだね。ボク達と一緒に行こう」

 

 

カロルがそう言うが、パティは目的があるようで難色の表情だ。

 

 

「うちはまだ宝も何も見つけていないのじゃ」

 

「人のこと言えた義理じゃねぇが…おまえ、やってること冒険家ていうより泥棒だぞ」

 

「ホントにユーリは人に言えた義理じゃないよね……」

 

 

そうつぶやくカロルはどこか遠い目をしている……

 

 

「冒険家というのは、常に探究心を持ち、未知に分け入る精神を持つ者ことなのじゃ。だから、泥棒に見えても、これは泥棒では無いのじゃ」

 

「さらっと、とんでもないこと言ってるように聞こえるの俺だけか?」

 

 

思わずパティから出たトンデモ発言に俺は他の奴らに問いかける。どうやら反応を見る限り俺が間違った反応をしているわけではないようだ。

 

 

「ふーん、……なんでもいいが、まだ宝探しするってんなら止めねぇよ。」

 

 

ユーリの言葉に考え込む素振りをするパティ。だけど答えが返ってくるのにはそれほど時間はかからなかった。

 

 

「………多分もうこの屋敷にお宝は無いのじゃ」

 

 

まあ、要するに……

 

 

「一緒に来るってさ」

 

 

と言う事なのだろう。

 

 

「それじゃさっさと行きますか」

 

 

俺の言葉に一同全員が頷くと。俺たちは次の部屋へと駆け出した。

 

 

 

 

=S=

 

 

 

 

「この屋敷広すぎないか!?」

 

「ゲボアッ」

 

 

俺は軽く愚痴を言いながら向かってきたラゴウの手下らしき男を蹴り飛ばして気絶させる。先程からもう何度目かわからなくなりそうな位の手下を倒しているのだが一向に目的の魔導器があるであろう部屋が見つからない。

 

 

「まったくだな。こんなに部屋があるってんなら下町に少し位分けやがれってんだ。それよりパティはこんな奴らがいる屋敷をよく一人でウロウロしてたな」

 

「危険を冒してでも、手に入れる価値のあるお宝なのじゃ」

 

「それってどんなお宝?」

 

 

「アイフリードの隠したお宝なのじゃ」

 

「ア、アイフリードッ……!?」

 

 

そういったパティの言葉に最初に反応したのはカロルだった。

 

 

「アイフリードって、あの大海賊のですか?」

 

「有名人なのか?」

 

「えーっと確か前にどっかで聞いたような記憶が……なんだっけな?」

 

 

ユーリはたまたま横にいた俺に聞いてくるが、俺もイマイチ覚えていない。

 

 

「え、知らないの?海を荒らしまわった大悪党だよ」

 

「アイフリード……海精(セイレーン)の牙という名の海賊ギルドを率いた頭領。移民船を襲い、数百名という民間人を殺害した海賊として騎士団に追われていたが現在は消息不明で、既に死んでいると言われている、です」

 

「ブラックホープ号事件って呼ばれてて、それはもうひどかったらしいよ」

 

「……ま、そういわれとるの」

 

 

エステルとカロルの説明を聞いてパティは肯定するが、その声は釈然としない気持ちが篭っているように聞こえた。

 

「でも、アンタそんなもん手に入れて、どうすんのよ?」

 

「決まっているのじゃ。大海賊の宝を手に入れて冒険家として名を上げるのじゃ」

 

「危ない目にあってもか?」

 

 

ユーリは試すような言い方をするがパティの目を見れば一目瞭然だろう。

 

 

「それが冒険家という生き方なのじゃ」

 

「はっ……面白いじゃねぇか」

 

 

ユーリは楽しそうに笑う。果たしてその理由はパティ覚悟かそれとも冒険家としての生き方か……ま、ユーリに聞いたら両方だとか言いそうだな。それにしても覚悟ね……

 

 

「面白いか……どうじゃ、うちと一緒にやらんか?」

 

「性には合いそうだけど、遠慮しとくわ。そんな暇じゃないんでな」

 

「ユーリは冷たいのう。サメの肌より冷たいのじゃ」

 

「サ、サメの肌?」

 

 

思わず突然飛び出たワードに首をかしげる俺たちをよそに、パティは話し続ける。

 

 

「でもそこが素敵なのじゃ」

 

「素敵か?」

 

 

リタも思わず聞き返してしまう。

 

 

「もしかしてパティって、ユーリのこと……」

 

「ひとめぼれなのじゃ」

 

 

腰に手を当て堂々と言い張るパティ。

 

 

「やめといたほうがいいと思うけど」

 

「ユーリはロリコンだったか……」

 

「おい、ちょっと待て、」

 

「ひとめぼれ……」

 

 

最終的にいろいろカオスな状態と化していた。

 

 

 

 

 

 

=S=

 

 

 

 

「この魔導器が例のブツ?」

 

 

あれからまたいくつかの部屋を詮索していくと、今までの部屋とは異なる大広間へと出た。そしてその部屋の中央には歪な形をした装置がそびえている。

 

恐らくカロルの言う通り、これがラゴウが作り上げたアノ魔導器だろう。

 

俺たちはそのあまりの大きさに見とれてしまうが、直後、先程まで隣にいたリタが魔導器の魔核(コア)がはめ込まれている場所へと走り出す。

 

俺たちはリタの行動を静観しつつ見守る。そしてリタが魔核の前に到達するとすぐさま術式を起動させた。すると空間にキーボードのようなものが現れリタは流れるように指を動かしていく。

 

「ストリムにレイトス、ラクラーにフレック……複数の魔導器をツギハギにして組み合わせてる。この術式なら大気に干渉して天候を操れるけど、こんな無茶な使い方して!!アタシより技術があるくせに魔導器に愛情の欠片もない!!」

 

「これで証拠は確認できましたね。リタ調べるのは後に……」

 

「もうちょっと、もうちょっとだけ調べさせて……」

 

 

リタはそう言いながらも指を動かし続けている。

 

 

「後でフレンにその魔導器まわしてもらえばいいいだろ?さっさと有事を始めようぜ」

 

ユーリの言葉で皆やるべきことを思い出したのか各々が動き出す。さて俺もそろそろやるべきことをするかね。

 

 

「あーっ!!もう!!」

 

 

先程までずっと解析をしていたリタだったが突然叫んだかと思えばファイヤーボールを連発していく。その勢いはもはやこの屋敷を倒壊させかねないほどだ。

 

 

「おーい、リタやりすぎじゃね下手したらこの屋敷が潰れるぞ?」

 

 

思わずリタの隣にまで来ていた俺は横からそう言うが、本人はまったく話を聞く気はないらしい。というか完全にストレス発散目的で連発している。

 

 

「こんくらいしてやんないと、騎士団が来にくいでしょっ!」

 

 

いや絶対そんな騎士団の為的な気持ちないよな?そんなこと考えていると入口の方から声が聞こえてきた。

 

 

「人の屋敷でなんたる暴挙です!」

 

 

そちらを向くとラゴウがいかにも柄の悪そうな連中を引き連れて扉の前に立っていた。

 

 

「お前たち、報酬に見合った働きをしてもらいますよ。あの者たちを捕らえなさい。ただし、くれぐれもあの女を殺してはなりません!」

 

 

そういってラゴウはエステルを指差す。つまり他は殺しても構わないって言ってるようなものだな。ま、どうせあの人数ならユーリだけでも倒せそうだな。なら……

 

 

「リタ、もっとやっちまえ」

 

「もちろん、はじめからそのつもりよ!!それ、もういっちょ!」

 

 

どうやら俺が煽る必要もなく元からそのつもりだったらしい。リタはそのまま相変わらずファイヤーボールを撒き散らしながらユーリたちの方へと駆けていく。

 

 

「さて、援護しますかね」

 

 

俺はいつものように腰へと手を回し、銃剣を取り出す。

 

 

「雷光閃弾!」

 

 

狙うは相手の武器。俺の打ち出した弾丸はエステルの近くにいたやつに当たり何事かと驚いている間にまの前で振りかぶられたエステルのワンドによって沈められた。

 

 

「リオ!ありがとうございます!」

 

 

エステルからの感謝を受け取り、そのままユーリの方もと思ったらラピードと一緒に既に倒していた。と言うかなにげにパティとカロルも協力して敵を倒し終えていた。しかもポリーを守りつつだ。

 

粗方倒し終えるとユーリはラゴウ達が入ってきた扉とは逆の扉へと走り出す。それと同時にカロル、エステル、ポリーそしてパティとラピードといった順でユーリと同じ出口を走り出す。そろそろ撤退か。

 

 

「もう十分だ。退くぞ!!」

 

「何言ってんのよ、まだ暴れたりないわよ!」

 

 

そういうリタはまだ打つつもりなのか術式を組み上げていく。

 

 

「早く逃げねぇとフレンとご対面だ。そういう間抜けは勘弁だぜ」

 

「まさか、こんな早く来れるわけ……」

 

 

リタはユーリの言葉にありえないでしょ、といった表情をするが、その後の言葉は続かなかった。

 

既に放ったファイヤボールは入口のやや上に当たったが、その下にはフレンが率いる騎士団の姿がが見えたからだ。

 

 

「執政官、何事かは存じませんが、自体の対処に協力します」

 

 

フレンは事務的な口調で淡々とそう言う。一方でユーリはほら見ろとリタに言っている。

 

まずいな、ちょっとダラダラしすぎたか。俺はすぐさま行動しようとしたとき……

 

 

 

 

 

ガシャーン!!!

 

 

 

 

突如、窓が割れる音と共にその何かが大広間へと侵入して来た。馬よりも大きな、全身を長い毛で覆われた魚ともなんともつかない生き物の上に、全身を白い甲冑で包んだ人間が乗っている。

 

生き物は羽もないのに海を泳ぐように中に浮かんでいた。

 

 



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第二十一相

またもや期間が空いてしまい申し訳ないです…


 

突如として”ソレ”が窓を突き破ってきた事で思わずその場にいあわせた者たちの足が止まる。

 

 

「うわぁ…!!あ、あれって竜使い!?」

 

 

思わず驚いたカロルが叫んだと同時にフレン達も動き出す。どうやら俺達よりも竜使いを捕らえる方がいいと判断したのだろう。

 

 

ウィチルがすぐさま魔術を唱えファイヤーボールを連続して打ち出すが、竜使いは空中でひらりと躱しそのまま魔導器の魔核がある場所へと飛んでいく。

 

 

 

  =S=

 

 

 

 

目の前からこちらへと飛んでくる竜使い。恐らく竜使いの目的は俺の横にある魔核だろう。エフミドの丘で魔導器を破壊したのは竜使いだったと言うカロルの話から、この竜使いは魔導器を破壊して回っているらしい。しかもそれは過程はどうあれ俺の目的とほぼ同じようだ。

 

でも解せないな。あの竜は間違いなく始祖の隸長(エンテレケィア)だ。でなければ結界の中に入ってこれるはずがない。だが始祖の隸長が人間と馴れ合う事を”アイツ”が容認なんてどういう心境の変化だろうか?

 

 

 

そしてなによりもこの震えはなんだ……?

 

 

 

 

先ほどの竜使いを見てから俺の意思とは関係なく突如として震えだした体。決して地面が揺れているわけでも、ましてや恐怖によるものではない。そして何よりもあの竜と竜使いに懐かしさを感じる。

 

 

「……っ!?」

 

 

頭の中で一つのピースがはまりそうになったとき俺の頭に痛みがよぎる。

 

 

──!

 

何かがフラッシュバックすると同時にそこから発する激痛に思わずしゃがみこむ。

 

俺が痛みでしゃがんだ事で魔導器と竜使いの間を遮るものが無くなった。それを好機と竜使いは思ったのか、魔導器へと加速するとそのまま魔核の横をすれ違うようにして片手に構えていた槍を薙いだ。

 

 

パキンッ!!

 

 

竜使いの槍の穂先は魔核を深々と抉り、砕ける音と共に輝く結晶の粒を撒き散らす。

 

 

「ちょっと!!何してくれてんのよ!魔導器(ブラスティア)を壊すなんて!」

 

 

魔導器を壊した事により、リタがキレたのだろう。リタはすぐさま術式を組み上げると先ほどのウィチル以上に火球を連続して放つ。

 

けれども竜使いは数は増えれどもウィチルの時のように空中を滑るように躱していく。

 

 

そして魔導器に最後の止めを刺すためか竜が溜をつくる。そこから予測できるのは恐らく何らかの息吹<ブレス>だろう。そして俺が今いるのは魔導器の前だ。けれど先程からの痛みのせいか足に力が入らない。

 

 

「ヤ…バッ……!!」

 

「リオ!!」

 

 

ユーリが俺の名を呼ぶがもはやよけられないと思った俺はすぐさま腰に手を伸ばし大剣を引き抜き盾のようにして衝撃に備えた。だが、衝撃が来ると思っていた俺とは裏腹に竜による息吹は俺の横を通り過ぎた。

 

 

俺は熱線が通り過ぎた場所を見ると火柱が上がり結果として騎士団と俺たちを分け隔てるように炎が広がっていく。そして竜使いの方を向くと彼らは自分で突き破ってきた窓から悠々外へ飛んでいく所だった。

 

 

「外した…?」

 

 

いや、はじめから狙っていなかったのもしれないが俺ごと巻き込んでも魔導器は破壊できたはずだ。ならなぜ……

 

 

「船の用意をするのです!」

 

 

考えにのめり込みそうになるがラゴウの声によって自分たちの目的を思い出す。ラゴウはどうやら船で逃げ出すようだ。

 

 

「ちっ、逃がすかっ!!」

 

 

ユーリもそれに気がついたのか外へと逃げたラゴウを追いかけ仲間もそれに続く。

 

 

「くそ、足が……あれ動く?」

 

 

先程までは震えていた足が今では普通に動く。何故?と思うが今はそれよりもユーリ達を追わねばと思い出口へと走った。

 

 

 

 

 

 =S=

 

 

 

 

 

 

俺が外に出ると出たところにユーリたちもいた。

 

「リオ、怪我はありませんでしたか?」

 

「ったく!遅いわよ!!何してんのよ!アイツに逃げられちゃうじゃない!」

 

「スマン……ん?パティとあのポリーって子はどうした?」

 

 

よく見ると俺が外に出た時には既にチビッ子二人の姿が見えない。

 

 

「アイツ等は家に帰らせた。ここからは俺達の事だからな」

 

「そういうことか……了解」

 

「ほら、のんびりしてるとラゴウが船で逃げちゃうよ!」

 

 

そういって俺たちは船着場へと走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

=S=

 

 

 

 

 

船着場へと着くと一隻の船が帆を広げ今にも出航しようとしているところだった。

 

 

「こりゃ、飛び乗るしかないな」

 

「アタシはこんな所で何してんのよ……」

 

「その話は後でな…リタは一人で飛び乗れるな?」

 

「ええ、いけるけど……」

 

「了解」

 

 

後ろでカロルがなんか叫んでるが無視しつつリタの近くを走ってた俺はエステルのところまで走るとそのまま脇に抱える。

 

 

「え、り、リオ!?何を……」

 

「舌噛まないように口塞いどけ、よっ」

 

 

そう言って俺はエステルを抱えたまま船へと飛び移る。

 

 

「よっと。大丈夫かエステル?」

 

「は、はい。少しびっくりしましたけど、ありがとうございます」

 

 

そう言ってぺこりとお辞儀をするエステル。こりゃもしかしたら俺が抱える必要なかったかな?と思っていると真横でリタが声を上げる。

 

 

「これ、魔導器の魔核じゃない!」

 

 

リタの方を向くとしゃがみこんでいたリタの前には木箱にに詰められた大量の魔核がある。

 

「なんでこんなにたくさん魔核だけ?」

 

「知らないわよ。研究所にだって、こんなに数揃わないってのに!」

 

「まさかこれって魔核泥棒に関係が?」

 

「かもな……ここに下町の魔核、混ざってねえか?」

 

「残念だけど、それほど大型の魔核はないわ」

 

そういって全員の意識が魔核に注がれる中、周りに意識を向けていた俺には周りに俺ら以外の反応が感じられた。

 

 

「……!みんな、気をつけろよ。囲まれてるぜ」

 

 

そういうのと同時に船の影からぞろぞろと武器を持った人が出てくる。

 

 

「こいつら、やっぱり5大ギルドの一つ”紅の絆傭兵団<ブラッドアライアンス>だよ」

 

「ひぃ、ふぅ、みっと全部で6人か。ならノルマ一人な」

 

 

俺がそう言うと目の前にいた男がサバイバルナイフのようなもので切りかかってきた事により戦闘がはじまる。

 

俺はすぐさま腰に手を回して今回は刀剣を取り出すとそのまま振りかぶってきた刃に当てて受け止める。そしてそのまま鍔迫り合いのようになるが一瞬力を弱めると相手の体制が崩れそこを刀身でナイフを切り上げ相手のナイフを弾き飛ばした。

 

 

「流影閃!」

 

 

ナイフを下から弾かれたことで両手を上にあげた状態になっている男にスキルを発動。スキルで強化された高速の突きを放ち、がら空きの胴体に叩き込むとそのまま海へと吹き飛んだ。

 

あっけなかったと感じ他の様子を見ようと振り返ると、仲間以外が船の上から消えていた。

 

 

敵全員が海に吹き飛ばされたのか。

 

 

「さて、それじゃあ船内に入りますかね。カロル、ドア頼める?」

 

「うん」

 

 

そう言ってカロルは船内の入口に近づいてピッキングをし始める。が……

 

 

 

 

「どきやがれぇっ!」

 

 

 

 

「うわ!!」

 

ピッキングしようとして扉に近づいた時、突如内側から扉が勢いよく開いたことでカロルが吹き飛ばされる。そして中から出てきたのは赤い服を着た隻眼の大男だった。

 

 

「はんっ、ラゴウの腰抜けはこんなガキから逃げてんのか」

 

 

カロルたちを見て鼻で笑う隻眼の大男。だがそこに俺とユーリが後ろから刀剣とニバンボシを突きつける。

 

 

「隻眼の大男……あんたか。人使って魔核盗ませてるのは」

 

「ま、とりあえず大人しくしてくれよ?」

 

「そうかもしれねえなぁ?…だが、大人しくしてやる義理はねえなぁ!!」

 

 

隻眼の大男はそう言って大剣を取り出して俺とユーリをなぎ払うように振るがすぐさま二人共ステップで大男から距離を離す。

 

 

「いい動きだ。その肝っ玉もいい。ワシの腕も疼くねぇ……てめぇら二人うちのギルドにも欲しいところだ」

 

「そりゃ光栄だね」

 

「遠慮します」

 

「だが、野心のある目はいけねぇ。ギルドの調和を乱しやがる。惜しいな…」

 

「バルボス、さっさとこいつらを始末しなさい!」

 

 

違う方から聞こえてきた声の方を向くといつの間にかラゴウが救難ボートの近くにいた。

 

 

「金の分は働いた。それに、すぐ騎士がくる。追いつかれては面倒だ。小僧ども!次に会えば容赦はせん!!」

 

 

そう言い放つとバルボスと呼ばれた大男も救難ボートへと乗り込む。

 

 

「待ちなさい!まだ中に……ちっ…!ザギ、後は任せますよ!」

 

 

しかし何故かラゴウは一瞬救難ボートに乗り込むのを躊躇うが最後には結局乗り込みよからぬ事を言い残して海へとボートごと落ちていった。

 

 

ラゴウ達が逃げ去ってから、柱の影に目を向けるとそこから一人の男が出てくる。

 

 

「誰を、殺らせてくれるんだ……?」

 

 

その男の姿を見た俺、ユーリ、エステルは驚く赤い髪にアサシンのような服装、そして腰に付けてある二本の双剣。

 

 

「あなたはお城で…!」

 

「どうも縁があるみたいだな」

 

「そんな縁はあって欲しくねぇ」

 

 

ドォン!

 

 

どこからか爆発音が聞こえて来た。恐らく音からして船底から聞こえて来たようだが今はそれよりこの頭おかしいやつをどうにかするか。

 

 

「刃がうずくぅ……殺らせろ…殺らせろぉっ!」

 

 

ザギはユーリに飛びかかるが、それをユーリは足を一歩下げ半身になりながら躱すがザギはそのまま構わず双剣を振り下ろす。

コイツ城でやりあった時も思ったが完全に獣みたいな動きだな…

 

 

「ったく、ユーリさっさとコイツ倒すぞ」

 

「あいよ、お手柔らかに頼むぜ」

 

 

俺はそう言って両手を腰に回して二つの刃を引き抜いた。

 

 



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