「家族見棄ててまで勝ちを求める様な連中に、真の勝利はねぇべ。
戦車の乗員は兄弟ぞ、中隊は家族ぞ!たかがゲームの為に家族見棄ててまで勝利に固執する様な連中に勝利はねぇべよ!」
西住みほは今までに見たこと無い程に声を荒げ、隊長と家元に怒鳴り付けていた。その場に居る全員が驚いている。それは隊長も家元も、そして、私こと逸見エリカも同じである。
何時ものポヤポヤとしている彼女からは考えられない感情の発露、何時ものおっとりとした雰囲気からは感じられない怒気、そして、何よりも私しか知らない彼女の本来の口癖は、全員をその場に釘付けにした。
多分、全国放送で流しているであろうこの映像を見ているお茶の間も凍り付いてる筈だ。
「前々から思ってたっけ、言うけどよ。
西住流の考えは戦車道にゃ合わねーべ。そりゃ実際の戦争なら味方が擱座したりしても戦闘続行するべ?じゃねーと自分等だけじゃなくてその後ろに居る部隊、味方、国民諸々が死ぬからな。
でも、この戦車道はちげーべ?嗜みの域ぞ。殺し合いじゃないんぞ。濁流の川に戦車落ちて直ぐに助けなきゃ、乗員死ぬ、TRもあの泥粘の道来るのに時間掛かる。
死にそうな家族前にして何で助けねーのよ!
しかも、家族助けて怒られる!別にあの濁流に飛び込んだ事で怒られるなら俺も納得するわ」
副隊長はそこで息を吸い込む。
「でも、お前等は違った!
何故あの時フラッグ車を見棄ててまで助けに行ったの!お前のせいで十連覇が達成出来なかった!だと!?
ふざけてんのはどっちぞ!殺すぞ!たかが嗜み程度の大会の勝利と家族の命どっちが大切ぞ!!そんな事も判らんのか!
もう、良い。俺は辞める。この学校も、この糞みたいな戦車道も。行くべ。此処に居てはお前の努力が、プライドが、何よりも情熱が穢れる」
副隊長、みほは私の手を握りガレージの入り口に向かって歩き出す。
「ま、待ちなさい!」
家元がそんなみほと私を止めようと前に回る。
みほは肉親に向ける目とは思えないほどに酷く軽蔑した視線を向けていた。みほは着ていたパンツァージャケットを脱ぐと、家元の顔に投げ付ける。家元はそのジャケットを何とか受け止めるが、みほは再び私の手を取って歩き出していた。
「黒森峰の戦車道が悪い訳じゃない。だが、道を作るのは人ぞ?その人を蔑ろにしたらそれはもう戦車道にはならん。
戦車ぞ。戦車道は戦争か?」
みほに連れられるままに私は黒森峰を後にした。
( ´∀`)
「本当に申し訳無い」
此で何度目の謝罪だろうか?
深々と頭を下げる少女に私は溜め息しか出ない。
「本当よ。
何で私まで黒森峰辞めて、こんな辺鄙な高校に来なくちゃいけないのよ。何よ、名物があんこうって……」
あの一件から僅か一ヶ月。私達は黒森峰女学院から県立大洗女子学校に転校していた。
「だって、あのままあの学校に居たらエリカは駄目に成るもの。
私は、君にはあんな人になって欲しくない」
みほはそう言うと学校案内に目を通す。私も釣られて学校案内を見た。丁度、部活動紹介のページであり、戦車道の三文字を探してみるも、無かった。
当然と言えば当然だろう。戦車道は金が掛かる。戦車は走るだけで壊れるし、大砲を撃つならそれなりの設備に場所が必要だ。
維持費は勿論、一試合を行うのに一体幾ら掛かるのか?
故に最近の戦車道は低迷ぎみなのだ。
「……本当にごめん」
みほが私の気持ちに気が付いたのか、手を握ってきた。
「別に良いわよ。
タンカスロンだってあるし、中古の2号戦車位なら私と貴女で買えるでしょ?」
私の言葉にみほはありがとうと告げると、私に寄りかかってきた。ふんわりと彼女からする甘く、それでいて爽やかな香りが私の鼻孔を擽った。思わずその髪に顔を埋めると、無防備に此方を見上げる。
みほは戦車に乗らなければ、本当に隙だらけだ。
その愛らしい唇に自分の唇を思わず重ねてしまう。
「ちょっ!」
みほが慌てて離れ、文句を言おうとするが船内放送がそろそろ大洗の学園艦に着くと告げる。
「ふっ、私から戦車道を取り上げた罰よ」
減速し始めた連絡船。私は下船の為に広げた荷物をまとめ出す。それに釣られてみほも私以上に広げた荷物を大慌てで片付け始めた。
「早くなさい」
「ま、まってよエリカ!」
連絡船を降りて、私達は学園艦に降り立った。此処が大洗。
私達の新しい学校がある、学園艦だ。
「やーやー、君達の転校を歓迎するよ」
其所に現れたのはちんちくりんだ。誰だこいつは?と言う疑問はみほも思ったらしく、振り替えって他の下船する人達を見るが生憎、私達以外に下船する客は居ないのだ。
「貴女達で合っていますよ西住みほさん、逸見エリカさん」
乳のでかい少女が此方に笑い掛けている。みほはほほうとその胸を凝視しているので、後ろからド突いてやった。
何処をみているのだ。
「我々は大洗女子学園の生徒会だ。
此方は生徒会長の角谷杏、副生徒会長の小山柚子、そして、私の名前は「かーしま、長い」
生徒会長らしい角谷杏の一言に片眼鏡の少女はゴホン咳をした。
「転校して早々だが、二人には戦車道をやって欲しい」
「構いませんよ?」
「あんな事があって難しいだろうがって、え?」
かーしまと呼ばれた女子学生は驚いたように此方を見た。
「だから、戦車道やって欲しいんですよね?
別に構いませんよ。逸見さんも戦車道やりたいみたいですし」
そう言ってみほは私の肩に手を置いた。
「それで、要望は?」
「……要望?」
みほは何時ものポヤポヤとしている彼女から戦車道に関わる時の彼女に変わる。
西住みほには三つの顔がある。否、四つの顔だ。一つは何時ものポヤポヤとしている彼女。少し間抜けて居て誰にでも遠慮し、一歩引いた立場の彼女。
二つ目は戦車道に関わる時の、穏やかながら内に秘めた炎が時折顔を見せる真剣な表情。その瞳は真剣であり、情熱的な物だ。
そして、三つの顔。これは戦車に乗った時の彼女だ。多分、彼女と出合ったばかりの人なら誰もが驚くであろう、恐ろしいまでの豹変っぷりは色々と伝説がある。
最後に、私だけにしか見せないみほ。私だけのみほだ。
「……此処で話すのも何だから近くの喫茶店に行こう」
観念した様子の角谷杏はそう告げると、此方だと案内をする。みほは直ぐに何時ものポヤポヤに戻り、楽しそうに私の手を握った。
私と彼女がそう言う関係になったのは中学時代だろう。
私の家は有名な資産家で、親は私を幼少時より様々な習い事に従事させていた。中学に上がるという事で其所に戦車道が入るのは何の不自然も無かった。
西住流の門を叩き、入門したその日の内にこの西住みほと出逢い、何故かは知らないが一方的に気に入られたのだ。
ちなみに彼女の第一声は今でも覚えている。
“三点支持とメット被れ、この腐れマンコ!”
生まれて初めて言われた暴言と当時は理不尽としか思わなかった暴力だ。
戦車に試乗させて貰えるとのことで私が戦車、パンターに登ろうとしたら、襟首を掴まれ、地面に引きずり下ろされた上に頭を思いっきり叩かれたのだ。
三点支持とは文字通り手足の三点を必ず戦車や地面に付けて何時如何なる時でも安定した動作を確保するための基本である。
また、メット、つまりヘルメットは戦車内部でも極力被る事を推奨される所謂タンカーズヘルメット、戦車帽、自衛隊式に言えば装甲帽だろう。
戦車の内部はまるで工場のように様々な出っ張りかあり、すさまじい震動や狭さで頭をぶつけるなんてしょっちゅうある。
そのため、戦車に乗り降りするときも必ずヘルメットを被れとみほ言っているのだ。最も、黒森峰でも戦車帽を被っていたのは彼女と彼女の戦車に乗っていた人員に私だけだったが。
そんな、四つの顔を全て知っているのは多分、私だけだろう。
彼女は私が正式に入門させられると私を指導する姉弟子的な立場に率先して成った。本来なら彼女の姉である西住まほが私の姉弟子になるらしかったのだが、みほが頑なに拒否したそうだ。
みほの教え方は苛烈だった。
まず、家が少し遠いと言うこともあり、道場に泊まり込み。その際、部屋はみほと同じ部屋で、ベッドメイクを徹底的にやらせられたし、朝は健康的に毎朝六時に起きて、体操から始まる。それから朝御飯を食べると簡単な筋トレを行う。
学校に行き終わると戦車に乗り込み戦車道。
そして、常にみほが私に付きまとうのだ。まぁ、最初の頃はこの四重人格とも言える豹変具合に戸惑いを覚えていたが、一ヶ月も経てば慣れるし、半年もすれば第四の顔が私だけに見せるものだと分かり、一年もすれば気が付いたら私はみほの恋人に成っていた。
最も、私と彼女の関係は公にはしていないが周りの皆は大体雰囲気で感付いて居たように思われイベントがある日は空気を読まれて、大抵二人っきりになったりする。
「挙げ句の果ては、廃校直前の学校で全国大会優勝って……」
喫茶店にて、三人の話を聞けばおおよそ無茶苦茶な理由だった。
「良いじゃない、楽しそう」
私の意見にみほはあっけらかんと言ってのけた。
「それに何よりも、家族のために家を守りたいって良い。素晴らしい。私はこの学校の為ならあの糞みたいな戦車道をするバカ共相手に砲火を交えることすら厭わない。
戦車は脆弱だが、それもまた一興。
どうだい、エリカ?軍馬を駆って虎狩りをするのは?
楽しいぞ。愉快だぞ」
そう笑う西住みほは黒森峰に居た西住みほとは全くの別人であった。
「勝てる見込みは?」
「ゼロじゃないかな。
少なくとも予選には楽に入れる。何故なら……」
「今の戦車道は斜陽競技だから、でしょ?」
私の言葉にみほは大きく頷き、目の前に広がる資料を見る。保有戦車で使える物は4号戦車、ルノーB1bis、3号突撃砲、辛うじてポルシェティーガーだろう。
だが、ルノーもポルシェも三突も運用に辺り癖が強すぎる上に、所在不明と来た。
「運用するのは素人、そして、その運用する戦車すら行方不明って、あんた達、舐めてるの?」
目の前に座る三人を思わず睨んでしまう。そんな私をみほは嗜めた。
「この中途半端な時期に戦車道を突然復活させたりして学園の生徒は感付かないので?」
みほの質問に角谷は問題無いよと笑う。隣に座る小山が一枚の書類を見せる。PowerPointの印刷だ。
其処には大きく“西住みほ・逸見エリカ転校記念、戦車道復活!!”と書かれていた。
なんだこれは?と問うと、戦車道復活のお題目だとかーしまがこたえた。このかーしまは上から目線で物を言う節がある。これは不味い。
「成る程、良いと思いますよ」
みほはそう笑うと、少し前のめりになる。
「では、私達が戦車道をこの学校でやるに当たって幾つか我々からの条件を承知して貰いたいんです」
「出来る限りの協力と譲歩はするよ」
その言葉を聞いたみほはにんまり笑う。
「なら、取り敢えず、私とエリカは同じ部屋で同じクラス。基本的な訓練とかは私とエリカで決めさせて欲しい。
それに飲酒と喫煙の見逃しに、授業に関しても出来るだけ戦車道に回して欲しいのだけれども」
「んん?
今、飲酒と喫煙って聞こえたのだが……」
出た、みほの悪い癖。
みほは外見に似合わず、中々の悪童だ。女好きで、いたずら好き。
「ハッハッー!酒と煙草はタンク乗りの軽油だよ」
みほの言葉に3人は私を見る。私は諦めろという顔で肩を竦めてみせると、会長である杏はまぁ良いかと頷いた。
それから、学校の指定した学生寮に近いマンションに向かう。
本来は1人部屋なのだとかで私とみほは隣同士に部屋を指定された。が、多分、殆どどちらかの部屋に入り浸る生活になることは容易に想像が付いたので、取り合えす持ってきた下着をみほの部屋に置いておくことにした。
「私の下着をアンタの部屋に置いておくけど、私の下着でオナったら泣いて隊長に泣き付くから」
前に一度みほの女癖が酷くそれに耐えきれず隊長、西住まほに、愚痴を聞いてもらっていたら感情が抑えきれず泣いてしまったことがある。
その時の隊長はすぐにみほを呼び付けると、泣いている私の前でみほを正座させて滾々と現状に関してと私が隊長に零した愚痴を一言一句違わずにみほに告げた上で、それに関しての事実確認と何故それを行ったのかを尋ね、みほを反省させたのだ。
それ以来、みほは隊長の名前を出すと言うことを聞くようになった。
「そ、そんな事しないよ!
よしんばしたとしても使用済みじゃないエリカのパンツじゃなきゃしないよ!」
よし、まほの部屋に洗濯物を置いておかないようにしよう!
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・
みほと共にここ、大洗女子高に転校して早三日が経った。
私達が元黒森峰でみほが啖呵を切って辞めたことはほぼ学校中に知れ渡っている。
本日の午後には生徒会が全校生徒を体育館に集合させて、戦車道復活を宣言するらしい。
「何処行っても落ち着かないわ」
学校中に私とみほの顔は知れ渡っている。
お陰で何処行っても携帯を向けられ、黄色い悲鳴を上げられる。私もみほもチョットした有名人なのだからしょうが無い。
私は余りに鬱陶しい取り巻きから逃れるためにみほと二手に分かれて午後の会が始まるまで逃げ回ることにしたのだ。
流石のみほも此処まで追われると辟易した様子だった。
私は余り人気のなさそうな特別教室が建ち並ぶ学舎に来ていた。理科室、家庭科室、技術室。そう言った少々特殊な器材や実習を行うために必要な環境が揃えられた教室が並んでいる。
「ん?」
耳を澄ませて周囲の物音に警戒していると、人の話し声が聞こえる。慌てて隠れ音源を突き止めると、どうやら、トイレから聞こえる。
何を言っているのか分からないが、取り敢えず、甲高い笑い声と話は話し合いと言うよりも、1人に対して複数人が何かを言っている様であった。
「アンタ、ニシズミとか言う奴とイツミとか言う奴知ってるわけ?」
「は、はい……お二方は黒森峰の有名な戦車道の選手でして、特に西住さんは西住りy「知らねぇよ!」
ドンと音がし、私とみほの説明をしていたであろう少女の悲鳴も聞こえた。多分、突き飛ばされたのだろう。
多分、イジメの現場に遭遇したのだ。
面倒臭い所に出会してしまった。ここは一つ、見つかる前に撤退させて貰う。
「や、止めて下さい!」
「アンタキモいのよ!
いつも戦車戦車って」
「イマドキ戦車道なんて流行んないわよ!」
「どうせそのニシズミとか言う奴だってアンタみたいにキモ「其処までにしておきなさい」
みほを侮辱されそうになって思わず出てしまった。何やってんのよ私……
「はぁ?アンタ誰よ?」
「あ?何時も戦車戦車言ってるキモイ奴の一人よ。名前は逸見エリカよ!覚えておきなさい!」
私が名乗るといじめっ子共は怯んだように一歩退いた。ふん、雑魚ね。
「アンタも、何こんな屑みたいな奴等にいじめられてるのよ。
戦車好きなら、この程度連中に負けてるんじゃ無いわよ」
いじめられていたと思われる頭モジャモジャ少女を睨む。モジャモジャ少女はすいませんと謝るのでこっち来なさいと呼んでおく。
勿論、文句を言おうとするので、携帯を見せる。
「これにあんた達がいじめていたシーンが入ってるから。
変な事考えたら、あんた達はこの学校にいれなくするわよ?」
良いわね?と念を押すといじめっ子共は頷くしか無かった。
それからモジャモジャ少女を連れてこの場から速やかに撤退。取り敢えず、校舎裏までやって来る。
「怪我はない?」
「え?あ、はい!ありがとうございます」
モジャモジャ少女は頭を下げるので髪に付いていた埃を払ってやってやる。
「アンタ、名前は?」
「あ、秋山優花里です!
逸見エリカさん!」
「優花里ね、分かったわ。クラスは?」
それから色々と情報を聞き出す。クラスは隣、入学した頃からいじめられていた。趣味のせいで友達が居たこと無く、いじめられてるとは分かっていたが、自分にかまってくれる彼女達には嫌とは言えなかった。
等々可哀想を通り越して哀れしか残らない青春を聞き出した。
「アンタ、あんな変な連中と絡むぐらいなら私が友達になってあげるわよ。
毎時間、私のクラスに来なさい。アンタの戦車の話につきあってあげるわよ。そこら辺の奴等よりも話が分かるわ」
わたしが告げると優花里はボロボロと泣きながらありがとうございますと頭を下げた。
「ちょ、ちょっと!止めなさいよ!私が「エリカ!何やってんのよ!」
振り返るとみほと知らない女子が二人立っている。
「何もやってないわよ!?」
泣いている優花里の頭を撫でながら、今あったことを要約するとみほはホウと目を細める。
それから優花里の頭をモジャモジャやりながら私を見た。
「これは素晴らしいモジャモジャ……
エリカさん、貴女は素晴らしい人材を見付けてきましたね!」
みほが目を輝かせて私を見る。みほの趣味は分からない。ボコられグマとか言う包帯を巻いた熊が好きと言ったり、よく分からないのだ。
「取り敢えず、体育館に移動しましょう。
この後、生徒会が何やら重大発表をするそうですよ」
黒髪の美しい少女が穏やかに告げる。何やら花の香りがした。
「そうだった。
えっと、逸見エリカさんに……」
隣に居る茶髪の少女が優花里を見る。優花里に自己紹介しなさいと告げると、秋山優花里と答えた。それに呼応するように黒髪の少女が五十鈴華と名乗り茶髪の少女は武部沙織と名乗った。
話を聞くと、花壇に逃げ込んで花を頭部やら肩やらに差しで潜んでいたところを華が見付けたそうだ。何やってんのよ、本当に……
「ドーランと迷彩服三型が有れば簡単に偽装できるんだよ?」
知らんがな。
「此処が体育館だよ」
沙織が私達の前に出て告げる。何の変哲も無いかまぼこ形の体育館が目の前に現れる。入り口では風紀委員と書かれた腕章をしている。
彼女達が入場する生徒達を誘導しているのだろう。
私達も彼女達の誘導に従って体育館の中に入った。
(゜Д゜)
まぁ、結果から言うと不自然しか残らない勧誘であった。
戦車道を選択すれば遅刻取り消しだの授業免除だのと夢のような話であり、みほもそれに関しては苦笑していた。
そして、ホームルームには新たに選択科目の用紙が配られ、これでもかと戦車道を目立たせて書いてあるのだからあきれて物も言えなかった。
「取り敢えず、軍馬殿の様子を見るべ」
放課後、私はみほと共に生徒会のメンバーと共に戦車の様子を見に来た。赤レンガの倉庫は確かに戦車や大型の車両を入れるための物で、倉庫の前の道はRC道であった。
「動くの?」
「分からん。まず履帯ねーべ?次にさび浮きすぎだべ?
つーか……手入れすらされてねーべよ。やばいんじゃね?」
みほは割と真面目な顔で戦車、4号戦車に駆け寄った。皮手を嵌め、工具箱を開き二ポンドハンマーで転輪や誘導輪、起動輪を叩いて確かめる。
私もウエス片手にエンジンルームに登り、油脂系の確認作業。
「……油は抜いてあるわね」
「ボルトはタップリグリス塗ってあったらしくて強力有れば弛めれるべ。
配線系も確り防水処置してあったから外見ほどひどくねーべよ」
みほは朗らかに笑い表面にさびの浮いた装甲板を撫でた。
「パークに置かれた74とどっこいどっこいだな。
DSは居るべ?」
みほが会長である杏に尋ねるとでぃーえす?と首を傾げられた。DS、ダイレクトサポートの略で日本語に直すと直接支援だ。
自衛隊の編制で直接支援連隊という部隊があり、そこから各師団の単一職種連隊へ直接支援中隊が分けられていく。
普通科なら普通科直接支援中隊が、戦車なら戦車直接支援中隊がある。そして、やることは概ね整備であり、みほはそこから整備隊をDSと呼んでいる。
黒森峰では完全に戦車乗りと整備員は別れていたので、整備は基本的に整備隊任せだった。
「一応、自動車部に戦車の整備は渡りを付けてあるけど、如何せん向こうも戦車の整備は初めてだって言うからね~
もしかしたら2人には整備も手伝って貰うかも」
「それは構わないけどパーツは買えるの?」
戦車のパーツや油脂系、燃料は消耗品故にある程度の安さはあるが、それでもこれを直す為に購入するとなればなかなか金が掛かる。
「大丈夫、そこは何とかする」
杏はにやりと笑うと明日から仮登録が始まるからよろしく、今日は帰って良いよと告げた。
私とみほは手を洗ってから帰路に着くことにした。
帰る途中の校門、見覚えのあるモジャモジャシルエットが校門脇に佇んでいるのが見える。
「優花里さん」
「優花里ね」
「はい!優花里です!」
優花里は私達に気が付くと人懐っこい笑みを浮かべて此方に駆け寄ってくる。みほはそんな優花里をモシャモシャと撫でると満足したように頷いた。
「で、アンタこんな所で何やってるのよ」
「お二人をお待ちしていました!
お二人は戦車道をおやりになるのですよね!」
「勿論!優花里さんもやるんでしょ?」
みほはニコニコ顔で告げる。みほの問いに優花里は勿論です!と頷くも、少しシュンとした表情で言葉を続ける。
「自分のようなただ戦車が好きと言うだけの者が西住さんや逸見さんのような全国大会出場をしたような方と同じ戦車に乗るのは烏滸がましい事ですが……」
「関係ないよ!」
みほは優花里の頭をモジャモジャとやる。
「優花里さんは戦車が好きなんでしょ?
だったら戦車道を歩むには十分だよ!それに、好きこそ物の上手なれって言うし」
「下手の横好きって言葉もあるけどね」
言うとみほに脇腹をド突かれた。
「でもまぁ砲手、操縦手はセンスに依る所も有るけど、装填手と通信手は弾の種類や通信接続さえ覚えればセンス要らないから最悪、其処でも頑張れるわよ」
「大丈夫大丈夫。
戦車乗員は一人でも欠けたら戦車は戦えないから。どの役職に付いても重要な役割だよ」
みほは私のお尻をこれでもかと握り締めながら告げる。
「あ、アンタにセンスが在るかどうかはまだ分からないけど、希望を持って戦えば良いわよ」
「はい!ありがとうございます!」
優花里が本当に良い笑顔で告げた。
「アンタの笑顔、良いわね」
「ふぇ!?」
優花里が驚いた顔で私を見ると同時に脇腹に中々良い感じの衝撃を受けた。
「フグゥ!? 」
「あ、優花里さん、私達の寮はこっちだから。
また明日学校で会おうね!これ、私の携帯番号とメルアドにラインね!」
「あ、はい、ありがとうございます!
また明日!」
私はみほに肩を担がれる感じで何とか優花里に手を振るが、それがやっとで喋ることは叶わなかった。
代わりに脇でニコニコ顔で手を振っているみほを睨むと、向こうもこっちを睨んできた。
「何で優花里に色目使ってるのよ!犯すぞ」
「私が何時、優花里に色目使ったのよ!」
「ほーほーほー、しらを切るおつもりですか、そーですか。そんな悪いエリカにはボコの刑ですね」
「はぁ!?
ちょ!ま、待ちなさいよ!ボコの刑は止めなさいよ!聞いてるの!?」
恐ろしいほどの怪力で私はみほの部屋に引き摺り込まれた。
因みにボコの刑とは、私を裸にひん剥いて、包帯やら絆創膏を使って怪我もしてないのに拘束されるのだ。そして、一晩中、みほの看病を永遠と受けさせられる恥辱刑の一種である。
これは中学二年の夏、私が戦車整備中に足を滑らせて全治二ヶ月の捻挫を負った際にみほが大激怒し、足に包帯を巻いて車椅子に乗った私をボコに見立てて“介護”したのが始まりである。
他にも何か包帯をした生徒や物貰いで眼帯をした生徒を見掛けるとボコ扱いをしようとする。そして、一ヶ月に一回はこのボコをやらねばみほは可笑しくなるのだ。
そして、その犠牲は私になる。特にボコの刑はトップクラスで嫌なのだ、が、みほの中では既に決定事項らしく、意気揚々と私を縛り上げて段ボールから包帯やら絆創膏を取り出していた。
あ、三角巾と止血用ガーゼ……これは長い戦いになるわね、耐えるのよエリカ。
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翌朝、完全に寝坊した私はみほと共に通学路をダッシュしていた。
隣ではヒーヒー言いながらみほが走っているが彼女はこの程度で参るような体力ではない。
黒森峰で毎年行われる20キロランニングでは意気揚々と陸上部選手を追い抜き、一位をとった揚げ句、戦車の履帯にゴムパッド取り付けをしていた。
「あん?何かフラフラしてる奴が居るべ」
先行するみほがスピードを落として明らかに大丈夫じゃ無さそうな女子生徒を発見した。
みほはその女子生徒の肩を支えると、私に反対側を持つように告げる。
「大丈夫ですか?」
「……ああ、大丈夫だ。私に構わず、先に行ってくれ」
女子生徒はそんな事を言うが、みほは放っておけない性分なのだ。
「そんな事できるわけ無いでしょ?
ほら今ならまだぎりぎり間に合うわよ」
二人で女子生徒を引きずるようにして学校まで連れて行く。校門ではおかっぱの風紀委員が早くしなさいと叫んでいた。
「ん?冷泉麻子!また貴女は遅刻して!」
時計を見るがまだ五分前だ。
「おぉ、そど子か。今日は二人の御蔭で間に合ったぞ……」
死にかけている者の台詞とは思えない。
「貴女達も冷泉さんに構わなくて良いわよ」
さぁ、行った行ったとそど子なる風紀委員は私達を通すと閉門五分前と叫ぶ。本当にギリギリだったわね。
冷泉麻子とか言うらしい女子生徒は私達の方に向き直ると頭を下げた。
「二人の御蔭で助かった。
ありがとうございます」
「別に良いですよ。お互い遅刻しなかった訳ですし」
みほは少し照れたように告げるが、冷泉は2人には恩が出来たとか言い出した。意外に義理堅い奴ね。
「二人の名前を教えて欲しい。
私は冷泉麻子だ」
クラスは隣の、優花里と同じクラスだった。お互いに自己紹介をし終えると、何時か恩を返すと告げるので、みほが何かを思い付いたらしく、にっこり笑った。
「なら、戦車道に入部して下さい」
冷泉は暫く考え、それから自分は書道部だと告げた。
「戦車道選ぶと、遅刻見逃し200日だか何だかが付くみたいですよ。
冷泉さんは先程の風紀委員さんの口ぶりからすると、遅刻常習犯みたいですが……」
みほはニヤリと悪い笑みを浮かべ、私に援護しろと言うハンドシグナル。
しょうが無いわね。
「それに、貴女のその状況を見ても授業中も寝てるでしょ?
此処はどうか知らないけど、内申点最悪よ?戦車道選ぶと何か内申書にもプラスしてくれるみたいな事言ってたわよ」
此処まで言うと冷泉はムググと諦めたらしく、入部すると言い出した。みほは小さくガッツポーズを決めると、私にサムズアップした。
「私からは、そうね。
同じクラスに秋山優花里ってのが居るのよ。髪の毛モジャモジャだからすぐに分かるわ。
その子とクラスでの友達になってあげて。同じ戦車道選んでるし、戦車には詳しいみたいだから」
「分かった。
そろそろ教室に向かおう」
冷泉は頷くと先程よりは少し確りした足取りで昇降口に向かっていった。
(゜ω゜)
午前の授業は滞りなく終わった。昼休み、冷泉を連れた優花里が教室を訪ねてきた。お互いに少々ぎこちなさそうで有ったが、私の頼んだ通り、冷泉は確りと優花里の友達になって居るようだ。
「来たわね。
じゃあ、昼ごはん行きましょ」
私達4人に加え武部と五十鈴も加わり6人で食堂に向かった。
食堂に向かう途中、武部と冷泉が幼なじみで在ることが判明した。
「アンタの幼なじみなら遅刻とか何とかしなさいよ」
「それが出来たら苦労しないよ!
エリポンも麻子を起こしに行ったら分かるから!」
エリポン、武部が私に付けたあだ名でみほにはミポリンと付けている。五十鈴には的確なのがなかったらしく華と呼んでいる。
食堂に行くと中々の人混みだったが、武部がなんとか席を確保した。思い思いの食事を頼むのだが、まぁ、みほと五十鈴は大盛りを頼んで食べている。
見てる方が胸焼けを起こすほどだ。
「午後は選択科目でしたが、皆さんはどうなのですか?」
五十鈴がきれいに平らげた丼に箸を置きつつ私達を見た。
「アンタと武部以外は戦車道よ」
「まぁ!戦車道って楽しいのですか?」
難しい質問だな。
「狭く暑く臭い中で怒鳴られつつ怖い思いするのが楽しければ楽しいわよ」
本当の事を言ったらみほに蹴飛ばされた。
「そう言う弊害も有るけど、戦車道にはそれを乗り越える達成感、人車一体になって戦う連携、連帯感が生まれると同時に、基礎体力の向上、人間としての道徳観、義務感、責任感が生まれるんだよ」
「でも、西住さんと逸見さんは黒森峰から飛び出てきたと聞いたが?」
冷泉が痛いところを突いてくる。どう切り返すのかみほを見ると、みほは笑顔だった。
「西住流戦車道は外道によって外道に落ちちゃったの。だから、私はエリカさんを連れて出て来たのよ」
その笑みの裏、瞳には何の感情も籠もっていなかった。
「だから、大洗では外道を歩ませたくないんだよね。
戦車道は戦争じゃない。だから、私は西住流は教えないよ」
ね?と私を見るが、私はなんとも言えない。
西住流に関してはみほは隊長、西住まほと同じ師範代の地位に居た。そして、常々、姉は可哀想だと言っていた。
全員が私を見る。みほを見ると頷くので仕方の無い、みほが常々言っていることを言う。
「撃てば必中、守りは堅く、進む姿は乱れ無し、鉄の掟、鋼の心、なんて格好付けてる突撃馬鹿の集まりだから。
黒森峰は重戦車が無ければプラウダには勝てないわ。彼処の二重包囲は重戦車を使わなきゃ突破すら叶わない。
聖グロリアーナだって、各車の連携を重んじるから単に突破するにしたって直ぐに修復されて、逆に中途半端に取り込んだせいで向こうの浸透強襲を手助けしてしまうこともあるわ」
と、言うかそのせいで何度か痛い目を見ている。
その際もみほは大笑いしながら一人、否、1両でグロリアーナと対峙し奮戦したこともあった。
「勿論、重戦車ありきで押し潰してくるから重戦車無しでの作戦なんか立てないんだけどね」
「と言うか、立てれないよ。
お姉ちゃんは西住流そのものになる教育しか受けてないから」
みほはそう笑うとそろそろ行こうと告げる。
(゜Д゜)
午後の選択科目。戦車道希望者は戦車ガレージとでも言おうか赤レンガ倉庫の前に並んでいた。
人数はそこそこ居るが、まぁ、なんだ。
「サーカス団かな?」
みほは大笑いしながらそんな事を言うと何かのコスプレをした連中を指差す。後は一年生と思われる集団がいた。
また、陰気そうな三人組もいる。
「取り敢えず、適当に並んでおきましょう」
歴史的人物のコスプレをしているコスプレイヤーに近付こうとしていたみほの襟首を掴み、確りと掌握下に置くと有象無象にウロウロしている優花里達に告げる。
暫くすると、小山とかーしまに会長がやって来た。
「よく集まってくれた。
私は生徒会広報の「かーしま、本題入って」
「はい。
早速だが、お前達には今から戦車を捜索して貰う!適当なグループに分かれて地図を貰いに来てくれ」
自ずと集まっていたグループをそのままに各グループの長となりうる者がかーしまの元に。私達はみほが出た。
みほは難しい顔で地図とコンパスを片手に戻ってくる。
「如何したのよ?」
「この地図片手に探してこいって」
みほが見せたのは何かいろいろと書き込みがされた学園艦内部の地図だった。
私もそれを覗き込む。私達は学校周辺とその裏あたりであった。
「じゃあ、早速行きましょう」
みほは私に地図とコンパスを押し付けると全員に告げる。
「逸見さんはやっぱり地図読めるのですか?」
脇に寄ってきた優花里が地図を覗き込む。
「そうね。一応、私も車長やってたしね。
地図の判読、地形の読み込みは車長の必須条件の一つよ」
「成る程、自分は何が向いているのでありましょう?」
「さあ?
最初は皆装填手ね。次に無線、操縦、砲手ときて、車長ね。
たから、一年生じゃ車長は無理だし、二年でも砲手が殆どで、車長になるのは殆ど居ないわ」
だから、私やみほは凄いのよ。とは言わない。自慢は驕りに繋がり、慢心に繋がる。慢心は敗北を呼び、敗北は人を殺す。
みほが私に車長になった際にいった言葉だ。
だから、自慢はしない。自慢は為ずに自分が車長としての経験を語り、心構えをつねに教え、後は経験を積ませるだけだ。
みほは凄いのよ。
「地図の判読、出来る?」
「はい!この程度の地図なら楽勝です!」
言うとコンパスと地図を私から受け取りこっちですと歩き出した。私はその後に続くのだが、何故かみほが私の隣をピッチリと詰めて歩く。
「歩きにくいんだけど?」
「そう?
しかし、何で学園艦の彼方此方に戦車を隠したんだろうね?」
「さぁ?」
暫く歩いて行くと段々と藪が濃い道に入っていく。優花里は悠々と進み、私もみほもそれに続くが、武部、五十鈴、冷泉の三人は離されている。
「優花里!」
「はい!」
私が呼ぶと、優花里は止まって振り返る。
「少しペース落として。
武部達が追い付けてないわ」
私の言葉に優花里はすいませんと慌てて謝った。
「別に良いわよ。
そもそもこの格好で山登りするのが可笑しいのよ」
「皆さん足は大丈夫ですか?」
みほは私から離れずに振り返って尋ねる。
「絆創膏と消毒液なら在りますよ!」
何時でも言って下さいねと優花里が告げながらポケットから救急セット的な物を取り出した。
何でそんな物を持っているんだ……
そこから午後はそれぞれ戦車探しの旅に出るのだった。
(゜Д゜)
「ルノー、ポルティーは見付からずか」
捜索を終わり、私達はチェコのLT38を見付けてきた。
このままでは戦力として数えるに余りに脆弱すぎる。せめて発展改良型のヘッツァーにしなくては、戦力たり得ない。
一回戦、何処に当たるかは不明だが、最終的には強豪と当たるのだ。使える駒は増えていた方が良い。
「会長、LT38をヘッツァーに改造するキットを買って下さい」
みほは私と思った事が同じらしく角谷に告げた。
「この戦車じゃ駄目なのかい?」
「負けても良いなら、この戦車で良いしょう。
勝ちたいなら改造キットを買って下さい」
みほはにっこり笑って告げると次の戦車を見た。
三式とか言うらしい日本軍の戦車だ。
「あー……武器学校にあった奴」
みほもよく知らないらしい。みほは三式に上って砲塔の中に入る。私も中を覗く。戦車とは基本的に右左の違いがあるがおおむねどこに誰が座るかがわかる。なのだが、うーん?
「これ、砲手どこに座んのよ?」
「あそこでしょ?」
砲塔横にあるいすを指差す。単眼の照準装置も置かれており、あそこを覗いて敵と自分の距離を測り狙いを定めるのだ。
「いや、撃発装置ねーべや。
ペダル式でもねーみてーだし」
どー撃つんぞな?とみほが私を見る。私だって知らないわよ。ドイツ軍の戦車ならある程度は調べたし乗っていたからわかるけど、日本軍やほかの戦車は専門外よ。
「操縦マニュアルは?」
「この戦車以外ならあるそうよ。
と、いうかこの戦車自体、資料にも載ってなかったわ。つまり、何時、何処で、誰が買っておいて置いたのかすらわからない不明らしいわ」
さっき小山が大慌てで資料を見返しながら言っていた。
一旦、戦車から出ると優花里が戦車の装甲にヤスリを当てようとしていた。
「何やってるのよ!」
「司馬遼太郎の真似です!」
慌ててヤスリを取り上げる。こんな所をみほに見付かったら何を言われるか。
「三式の見聞は終わったので?
しかし、まさかこの目で三式中戦車チヌを見れるとは思いませんでした」
そこから優花里はペラペラとチヌの解説を始める。
「貴女、この戦車の砲手ってどうやって撃つか知ってる?」
「ええ!もちろんですよ、エリカ殿。
チヌは三式七粍半戦車砲2型と呼ばれる機動九〇式野砲を原型に作った戦車砲ですね。そして、やほうをそのまま乗せたために、撃発の際は無線手か車長、専属の撃発手が撃発担当していたそうですよ」
成る程、そりゃ砲手席に撃発装置が無いわけだ。
「貴女、凄いわね。
みほ、聞いてたでしょ?」
「はい。ありがとう、優花里さん」
みほに礼を言われて優花里は自身の頭をくしゃくしゃにしながら照れますねと本当に嬉しそうに笑う。
優花里の笑みは見ているとこっちまで嬉しくなりそうな錯覚を覚える。そして、そんな錯覚を優花里の髪をわしゃわしゃと揉むことで誤魔化し、チヌの上で待つみほの元に。下では優花里が何をするんですかーと髪の乱れを武部と共に直していた。
「ご褒美よ」
「何ですかそれ!」
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