とある科学のレベル4.5 (島根)
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新能力測定基準

白井「お姉さま。能力測定結果の方はいかがでございましたの?」

 

御坂「…」

回想 ―――――――――――――――――――

 

教師「今年度から能力測定基準が変わった。それまではレベル0~5までの6段階であったが新たにレベル4を二つに分けて測定することになった。つまりレベル4.0、レベル4.5といった具合だ。レベル4.0はそれまでのレベル4と至って変わりはないが、問題はレベル4.5の方だ。例えばレベル1はレベル1~1.99までをレベル1としていたのだがレベル4、レベル5はこれとは違ってレベル4はレベル4~4.49。レベル5は4.5以上ということになっていた。

しかし今回からはレベル5もレベル5.00より上の値をレベル5とすることになった。つまり今まで今回でいうレベル4.5でレベル5になっていたような場合では今回からレベル4.5とされ、レベル4クラスに格下げられてしまうのだ。我が校にはレベル5クラスが2人いる。この事を肝に命じて能力測定に臨んでくれ」

 

 

「何よ、統括理事会もややこしいことしてくれるわね。まあ私には関係ないけど」

 

「まあまあお姉さま。あまり油断なされていると本当にレベル4に格下げられてしまいますわよ。」

 

「うるさいわねもう。私に限ってそんなことある訳ないでしょ。レベル5になったのも昨日の今日の話じゃないんだから。」

 

「それはそうかもしれませんが…」 回想終わり

―――――――――――――――――――――――――――――――

「… ㇷㇷㇷ。もうやんなっちゃうわ。レベル4.5よ。

 

「!!」

 

「私の何がいけなかったのかしらね。レベル5になっても努力を怠らず今日までやってきたのに。」

 

「お姉さま…」

 

「まあでも今回こういう結果になってちょうど良かったかもしれないわね。レベル5の地位もいい加減飽き飽きしていたし。何たって周りからの羨望の眼差しが正直うざかったのよね。そもそも、私みたいなアイツにいつでも電撃をぶちまける暴力女なんか、レベル5にいる資格なんてなかったのよ。」

 

「おやめ下さいませ。」

 

「お姉さまは他のレベル5とは違う、レベル1から努力で登り詰められたお方。私はレベル5という肩書があったからお姉様をお慕いしている訳ではありません。それほどのことを成し遂げた努力家、加えて人一倍強い思いやりと正義感。そこに憧れて今までお慕いしてきましたの。今回のことでお姉さまがショックを受けたことは分かります。しかしだからといってご自身の今までの過去を全否定するような物言いはおやめ下さいませ。」

 

「グス。うええーん。黒子悔しいよー。」

 

「よしよし」頭を撫でる。

 

「しばらく黒子の腕の中でお休み下さいませ」

 

「… うん」

 

10分後

「だいぶ落ち着かれましたか?」

 

「うん、ありがとう。しかし情けないわね。後輩の前で大泣きするなんて…」

 

「お気になさらず。おかげでお姉様の泣き顔写真頂きましたの。この写真黒子のお姉様秘蔵コレクションに入れさせて頂きますの。グフフ ヒヒヒヒ」

 

「このド変態が!」電撃

 

「ああ!」

 

「それで、黒子の方は測定結果どうだったのよ」

 

「はあ…お姉様の後で大変申し上げにくいのですが私レベル5になっておりましたの」

 

「すごいじゃない、おめでとう。それで順位の方は何位になったの」

 

「お姉様のいた第3位になりましたの」

 

「そっか… 正直第3位の座を私じゃない他の誰かに明け渡すなんて、正直めちゃくちゃ悔しいけど、黒子に明け渡すのなら私も少しは嬉しいかな。何たってあんたは、私を対等に見てくれた数少ない友人の一人だからね」

 

「お姉様… とうとう黒子の愛を受け止めて下さいますの。この黒子この日をどれだけ待ち詫びたことか。お姉さまー」抱きつこうとする

 

「だから違うってーの」電撃

 

「ああ!」

 

「じゃあ今まではあたしが常盤台の看板背負ってきたけど、今からは黒子が常盤台の看板ってわけね。常盤台の空間移動(テレポーター)。いいじゃない。」

 

「おやめ下さいませ。わたくしにとって常盤台のエースはお姉さまただ1人ですの」

 

「ありがとう。お世辞でもそう言ってくれると嬉しいわ」

 

「いえ、お世辞ではございm」

 

食峰「みさかさーん」

 

「げっ!」

 

「あらあら。人の顔見てげって何よ。失礼だわね」

 

「何よ。また悪いこと考えてるんじゃないでしょうね」睨む

 

「あらやだー。御坂さんこわーい。まあ今日はあなたじゃなくてお隣の白井さんに用があるのよ」

 

「?」

 

「白井さーん。この度はレベル5第3位おめでとう。それでこれは私たっての願いなんだけど私の派閥にあなたも是非入って頂きたいんだけどー。どうかな?」

 

「せっかくですがお断りいたしますの。私もお姉様同様派閥など興味ございませんので」

 

「そっか。今日のところはこわーい御坂さんもいることだし一旦帰るとするけど私はいつまでも諦めないわよー」

 

「…」

 

「全く。私に派閥の誘いをしたかと思えば今度は黒子にまで。全くあきれるわ」

 

「全くですの。ところでお姉様?」

 

「何?」

 

「わたくしレベル5になりましても今まで通りお姉様一筋で参りますわ。派閥などの誘いがあってもすべて断りますのでご安心を」

 

「そう…ならよかったわ。あんたが派閥に入ったらますますこの学校がおかしなものになってしまうからね。ただでさえ今でも厄介だというのに」

 

しかしその後事態は急変。能力測定の結果、御坂がレベル4クラスに格下げされたという話は、瞬く間に常盤台生徒全員に知れ渡ることになり、御坂を見る周囲の目は明らかに変わった。数字というものは本当に恐ろしい。例えば、打率がちょうど4割の打者と打率3.99割(3割9分9厘)の打者がいたとしよう。両者の打率はわずか1000分の1である1厘の差しか空いていないが、それぞれを打率4割台の打者、打率3割台の打者という言い方をすると全くその人物を見る目は変わってくる。この言い方だと打率4割ちょうどの打者は何の問題もないが、打率3割9分9厘の打者は、打率3割ちょうどの打者とも同じ扱いになり大きく損をしてしまう。御坂にもこれと同様のことが起きた。御坂は本来であるならばレベル4.0より1段階上のレベル4.5であったが、噂が噂を重ねる内にいつしか御坂は、レベル4.5としてではなくレベル4クラスとしてレベル4.0の生徒と一緒の目で見られるようになってしまった。レベル4クラスに転落したことによって、それまで御坂様御坂様と崇めていた後輩達、また年上であるにも関わらず御坂に対して敬語を使っていた先輩の態度があからさまに変わった。

 

教室

 

「知ってる? 御坂様、あ、いや今はもう御坂って呼んでいいか(笑) がレベル4に転落したんだってね」

 

「知ってるも何も学校内ではその話でもちっきりよ」

 

「私これまで御坂様って呼んでたけどこれからはもうおい 御坂でいいわね」

 

「ちょっと! 当の本人が近くにいるのにそんなことあまり大きな声で言わない方がいいわよ」

 

「あはは、それもそうね!」

 

御坂「… (人って本当に怖いわね。それにしても常盤台の生徒ってこんなに性格の悪い子達ばかりだったかしら)」

 

しかしこれぐらいはまだ可愛い方であった。その後食峰派閥主導によって、御坂へのあからさまな嫌がらせが始まった。最初は下駄箱の上履き隠しから、机への落書きぐらいの軽いものであったが、次第にクラスメイト全員からの無視や、御坂の教科書や鞄を切り裂く、さらにはトイレでの集団暴行など、日を追うごとに嫌がらせはエスカレートしていった。御坂もいくらレベル4クラスに転落したとはいえ、まだまだ常盤台の中でもその戦闘力の高さには定評があった。しかし相手が何十人、しかも相手はこれまで自分の中では仲良く接してきたつもりの同級生。よって彼女達に能力を使う気は全く起きなかった。白井も最初は愛するお姉様の為に御坂に嫌がらせをする者達にたびたび抵抗してきた。しかしあまりにも敵が多すぎたと同時に相手が悪かった。しまいには白井への嫌がらせの広がりを恐れた御坂が、みずから白井に向けて守らなくてもいいということを告げた。それからというもの白井は御坂の様子を遠くから見る他なかった…

 

 

白井「いい加減お姉様への嫌がらせはおやめ下さいませ」

 

食峰「あらあ、人聞きが悪いわねえ。私達は御坂さんと毎日仲良く遊んでいるつもりなんだけどおー」

 

「あれのどこが遊んでいるんですの。あなた方の目的は一体何なんですの?」

 

「それは、あなたが一番良く分かってるんじゃないー?」

 

白井は薄々とは気付いていた。彼女らの目的は御坂をエサにして白井を派閥に招き入れることであると。しかし自分にもゆずれない信念やジャッジメントとしての誇りやプライドがある。それらの考えは食峰らの居場所である派閥という場所にはどうもそぐわなかった。

 

「(一体私はどうすればよろしいのでしょうか… 派閥に入ればお姉様への嫌がらせはおそらくなくなる。しかし、それは私のこれまで目指してきた生き方とは相反する生き方を強いられることになりますわ。かといって私がこのまま派閥入りを断り続ければ、お姉様はずっと嫌がらせに苦しむことになる)」

 

「決めましたわ、わたくしの行動指針はこの学校に入学してからというもの常にお姉様中心でしたわ。わたくし、あなたの派閥に入らせて頂きますわ。その変わり、今後一切お姉様への嫌がらせはおやめ下さいませ」

 

「やったあ。ようやく白井さんが重い腰を上げてくれて、私嬉しいわあ。了解なんだぞ☆ 御坂さんへの嫌がらせは今日限りをもってやめにするわねえ」

 

白井の食峰派閥への加入が決定した瞬間であった…

 



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白井黒子

しばらくして

 

御坂「あ、白井様」

 

白井「おやめ下さいなお姉様。今は派閥の者も周りにおりませんので前のように接して下さいな」

 

「それもそうね。いつもの癖が出てしまったわ。それにしてもありがとう黒子。お陰で学校に行くのも少しは苦痛ではなくなってきたかな」

 

「お姉様は何も悪くありませんの。お姉様がレベル5から4に変わったことで周囲が驚き戸惑うことは理解できます。しかしだからと言ってこれほどの仕打ちをするとはわたくし到底理解できませんの」

 

「黒子だけでもそう言ってくれて嬉しいわ。ほんと人って恐ろしいと今回のことでよく分かったわ」

 

「白井さまー」

 

「!!」

 

「いけませんわ。このようなレベル4の薄汚い電撃女と関わっていましては。常盤台の空間移動の名が泣きますよ」

 

「そうですわ、さあさあ行きましょうか」

 

「…ではお姉様失礼致しますの」

 

「…」

 

「くっ(いくら常盤台の空間移動と言われても所詮は食峰の言いなり、悔しいですの)」

 

「白井様、おかげんが優れないようですがいかがなさいましたか?」

 

「いえ、何でもありませんの」

 

空間移動能力者は戦闘に適した能力者とも言える。しかし、いくら1対1で食峰に勝てるからといって彼女の能力である精神操作能力は厄介だ。自分が彼女と戦う事で自分だけならともかく御坂、佐天、初春にまで危害が加わる恐れがあった。だから黒子は言いなりになるしかなかった。

黒子は派閥に入ってからも、今まで通り御坂と親交を深めていきたかったのだが、派閥の取り巻きの者がそれを許さなかった。またいくら黒子が御坂の事を対等に見ようとしても、見せかけの長とはいえ周りに派閥の者をまとわりつかせている黒子を見続けた御坂は、だんだん彼女に対して妬みに似た感情を覚えるようになった。そして次第に御坂と黒子の間には溝が生じ…

 

寮にて

「お姉様今日の学校はいかがでしたか?」

 

「うるさいわね。いいわよねアンタは、取り巻きの子達に囲まれていい思いして。一応食峰の次のナンバー2って扱いなんだろうから、取り巻きの子達に身の回りの世話とかもやらせてるんじゃないの?」

 

「…」

 

「いくらレベル5になったからって、食峰派閥の中心になって常盤台を力でねじ失せて、恐怖政治なんて行うんじゃないわよ」

 

「いい加減にして下さいませ」

 

「そもそも誰の為にわたくしが派閥になど入ったと思っておりますの?」

 

「! 誰があんたに派閥に入ってくれって頼んだのよ? それに嫌々入ったとかって言いながら、実際は何だかんだで派閥ライフを楽しんでるんじゃないの?」

 

「ひねくれた見方しかできない今のお姉様には何を言っても無駄なようですので、わたくし当分はお姉様と会話をするのは控えさせて頂きますわ」

 

「ふん! 好きにするといいわ」

 

寮の208号室内でも会話をすることはほとんどなくなっていった。そしてとうとう彼女達の関係を決定づけるような事件があった。

 

帰り道にて 路地裏

 

御坂「あそこで塊になっている集団は何なのかしら… あ!男の人が暴行されてる。ちょっとあんた達」

 

スキルアウト「ああ?」

 

「大勢で一人を暴行するって一体どんな根性してるのかしら?あたしがその腐った根性を叩き直してあげるわ」

 

スキルアウト「言うねー嬢ちゃん。俺たちに手ェ出したこと後悔することになるぜ」

 

「ふん!いくら私がレベル4になったからってあんたらに負けるはずn」

キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 

「何よこれ、もしかしてキャパシティダウン?」

 

「よくご存知で」

 

「何であんたらがこんな高価なもの持ってんのよ。っく!体に力が入らない」

バタ

 

「さあてお嬢ちゃん。今からののしられた分きっちりお返しするよ。」

 

その時黒子は風紀委員の仕事で177支部にいて、偶然御坂がスキルアウトに取り囲まれ窮地に陥っている映像を監視カメラで確認した。

 

白井「なぜお姉様がこの様な状況に?仕方ありませんわ、今から黒子が助けに参りますの」

 

いくら最近全く会話をして関係が冷え込んでいるとはいえ、過去には毎日のようにお姉様とお姉様と言って慕った相手。黒子はとっさに御坂を助けに行こうとした。そういって177支部の出入り口の扉を開けて現場に向かおうとしたが…

 

食峰「あらあら白井さん、そんなこわーい顔してどこ行くのー?」

 

扉の前にいきなり食峰が現れた。

 

「そこをどいて下さいませ。わたくしは今からお姉様を助けに参りますの」

 

「そうねー、別に助けに行くのは構わないけど…その代わり私を倒してからにしてねー」

 

「本気でおっしゃってますの?どうしてあなたはそんなにお姉様のことをお嫌いになりますの?」

 

「そうねえ、じゃあ聞くけどあなたはどうしてそんなに御坂さんのことが好きなのー?」

 

「わたくしはお姉様の能力ではなくその人柄に惹かれましたの」

 

「そっかー。良かったわね。あ!さっきの質問に答えていなかったわね。そうねー… 私個人的には御坂さんのことあんまり嫌いではないんだぞ☆」

 

「では、なぜこれまでお姉様にこのような仕打ちをなさってきましたの?」

 

「教えて挙げてもいいんだけど、教えたところであなたには何もできないから教えなーい」

 

「っく! どこまでもふざけてますの。分かりましたわ、だったらあなたを倒すまで!」

 

「さあて、それがあなたにできるかなー?」

 

そういって食峰は自分のタッチパネルにとある倉庫の映像を流しそれを白井に見せた。

 

「これは? どうしてわたくしの両親が写っておりますの?」

 

そこには見慣れない倉庫内に両手を背中の後ろで縛られ口にはガムテープが張られている両親の姿があった。そしてその周りには暗くてよく見えないが複数の人の姿があった。

 

「ちょっと派閥メンバーを借り出してあなたのご両親の身柄を預からせて頂いたわ」

 

「どこまでも汚い真似を!」

 

「それで、どうするの?あなたは私と戦うのかしら」

 

 

黒子は迷った。自分を生み育ててくれた両親を助けるか、自分が生涯慕い続けていこうと誓った御坂を助けるか。彼女にとってどちらの存在も非常に大きなものでありとても優劣をつけることなどできなかった。しかし、(回想)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

御坂「あんたなんて、結局は食峰の腰巾着じゃない」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

白井「…」

 

「(お姉様は何度も絶望的な状況を乗り越えてこられたお方。学園都市の闇も知っておられる。暗部との戦いでは死の淵に立たされながらも、その強靭な精神力で数々の修羅場をくぐり抜けてこられた。お姉様がスキルアウトに暴行されて良いとはわたくし一つも思っておりません。場所が場所だけに、アンチスキルが駆け付くのにも時間がかかるでしょう。しかしあのお姉様が、一度暴行されただけで二度と立ち直れなくなるようには到底思えません。スキルアウトにも見た感じ殺意はあまり感じられないようですし…)」

 

普段の黒子からこのような考えに至ることは到底ありえなかった。ではなぜか?それは食峰の能力によって精神干渉されたのだ。御坂の電磁バリヤーのように黒子も対食峰対策としてテレポートを応用した方法で食峰の能力を無力化していた。それは肉眼では分からないコンマ数秒間隔でテレポートを行うことによって、空間にゆがみを生じさせ、その歪みによって食峰の能力が自身に及ぶことを防いでいた。しかしここで黒子の感情に御坂に対する負の感情が発生したことを食峰は見逃さなかった。食峰は即座に自身のリモコンに手を伸ばし、黒子は結局食峰の能力干渉を許してしまったのだ。黒子もすぐに食峰の能力に干渉されていることに気が付いた。しかし時既に遅く、頭では分かっていても体が言うことを利かなかった。そうして黒子は涙を流しながら

 

「分かりましたわ、あなたとは戦いませんの。ですから両親をこちらに返して下さいませ」

 

「了解なんだぞ☆ 物分かりがよくて助かったわ」

 

黒子は御坂の元へ助けに行くことを諦めた。これが後に大きな事件へとつながっていく…

 



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レベル0の超電磁砲

1か月後

 

御坂は完全復活を果たした。アンチスキルが駆け付けるまでスキルアウトに集団で暴行され、一時は精神を完全に病んでしまい、能力値をレベル1にまで落としてしまったが、さすがは歴戦の兵とでも言おうか。暴行を受けた1週間後には暴行を行ったスキルアウト集団をかんぷなきまでに叩きのめし、それまで加害者の顔を思い浮かべては眠れない日々を過ごしていたが、実際にその加害者であるスキルアウト達に勝利することによってトラウマを完全に克服した。(もちろん殺してはいない)

そうして1か月後には、能力値を完全に元の数値までに戻し、彼女の精神面での強さを周りに見せつけた。しかし…

 

初春「白井さーん 大丈夫ですか? さっきから全然仕事が進んでいませんよ」

 

白井「ああ、初春。大丈夫ですの。少し考え事をしておりましたの」

 

黒子はあの事件以来、自分の行った行為に対して罪の意識に苛まれ続けた。御坂同様元々正義感が人一倍強いだけに今回のことは黒子をさらに苦しめた。そしてとうとう…

某日208号室の浴槽で白井が脳に鉄矢が突き刺さった状態で死んでいるのが発見された。その傍らには遺書のようなものが残されていた…

 

 

 

 

「お姉様を一人にしてしまった自分が許せませんの。お姉様を見捨ててしまったことが許せませんの。そしてお姉様と袂を分かつことになった、この忌まわしき能力が憎いですの。レベル5になどなっていなければいつまでもお姉様の傍にお仕えすることができましたのに… この能力のせいで私達は不幸になってしまいましたの。そのお詫びとして私のこの能力で自分の命を捧げますの。お姉様、大好きでしたわ」

 

葬儀には多くの者が参列した、もちろん佐天や初春もいた。しかしそこに御坂の姿はなかった。御坂は黒子の死にきちんと向き合うことができなかった。

御坂にとって黒子はレベル5になってから初めてできた親友といっても過言ではない。レベル5になる以前には自分にも対等に話せる多くの友人がいたが、学園都市に7人しかいないレベル5になったことによって、周囲は自分を対等の存在としては見てくれなくなった。しかしそんな中でも黒子は、自分の能力ではなく人柄を第一に見てくれた存在で、御坂も黒子を次第に親友として愛するようになっていた。しかし、御坂の愛した白井黒子はもうこの世にはいない。

そして…

 

「能力が弱まってきてる?」

 

精神的支柱であった黒子を失ったことによって、御坂はその能力値を再び急落させていった。そしてとうとう、

 

「嘘、嘘だよね? っく! ふざけるな! 私がこの能力を発現させて、そしてレベル5になるためにどれほど努力したのか… 何で、何でよ?」

 

 

 

「何で能力が使えないのよ」

 

御坂は完全に無能力者になってしまった。無能力者とは文字通り能力値レベル0の能力を持たない人達のことを指す。無能力者のその多くははじめから能力が発現してこなかった人達ばかりで、レベルアッパーによるものを除いて、一度能力を行使することができた人が能力を使えなくなってしまうことは通常では起こりえなかった。仮にあったとしてもレベル1,2の人達が過度のストレスにさらされ続けることによって、能力値を0にする事例はこれまで何件も報告されているが、レベル4以上の高位能力者で能力を0にした例はこれまで聞いたためしがなかった。ましてや御坂は元レベル5の学園都市最高位能力者の一人。最初から能力を使えない人達よりも当然能力が使えないことに対するショックはあまりにも大きい。

 

「あたしがこの能力を得る為に、与えられた試練や壁乗り越えてレベル5になるまで、どれだけ苦労したと思ってんのよ。来る日も来る日も毎日何時間も能力演習の毎日だったわ。本当は他の同年代の子達のようにみんなで遊びたかったし、友達も作りたかった。でも私は友達よりも自分の能力向上の道を選んだ。 それなのに… どうしてこうなっちゃうのよ! これも全部黒子が悪いのよ。  黒子のバカ…」

 

 

能力値を失ったという情報は瞬く間に、今度は常盤台内だけでなく学園都市中にも広まった。そしてその情報を聞きつけたマスコミが、連日常盤台中や御坂のいる寮へと押し寄せてきた。

 

「御坂さん、今回元レベル5であったあなたが能力値を0にしたのはやはり白井黒子さんの死が原因しているのですか?」

 

「御坂さん、今回無能力者になったことによって、今後どのように暮らしていくのでしょうか?」

 

御坂「…(うるさいわね、もうこれ以上あたしに構わないでよ! もう、学園都市なんて嫌いだわ。こんな所二度と来てやるか!)」

 

御坂は能力値を完全に0とし能力の回復の見込みもないと常盤台理事会に判断され、学校を退学させられてしまった。学園都市に無能力者の居場所はないということはないが、それまでレベル5であった御坂は例外だ。元々高い能力値を有するおかげでその名は知られていたし、今回の一連の出来事で不本意にもその知名度をさらに広めることとなってしまった。

 

街中にて

「ねえ知ってる?あの子今までレベル5の超電磁砲って呼ばれてた子だけど、今はどこにでもいるただの無能力者になったみたいね」

 

「知ってるわ。何でも友人が自殺したみたいでそれが余程精神的に応えたんだろうね」

 

「まあでも、私も無能力者だったから今まで正直あの子のこと好きじゃなかったのよね。正直あの子も自分の能力の高さをいいことに偉そうな顔してきた節もあるじゃん。こういうのは少し不謹慎かもしれないけど、そのバチが今になって当たったんじゃないの?」

 

「っし、声が大きいわよ! 本人に聞かれるわよ」

 

 

 

 

 

 

「もう、ここに私の居場所はないわね」

 

そう悟った御坂は学園都市を去る決意をし、両親が住んでいる学園都市外の実家にへと忽然と姿を消した。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

統括理事会ビル

 

食峰「 これで、本当に良かったの?」

 

アレイスタ―「ああ、多少誤差はあったが計画としては大成功だ」

 

御坂のいない学園都市統括理事会ビルで何やら怪しい会話がなされていた…

 



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レベル4.5計画

今まで第1話『常盤台の空間移動』で約8000文字だったものをより分かりやすく約3000文字×4話に書きかえました。既に前の1話を読んでおられる方は内容自体は変わっておりませんので読み進めなくても物語にはついてこれます。まだ前の1話を読んでおられない方はぜひ読んで頂けるとうれしいです。


食峰「これで本当に良かったの?」

 

食峰が話している相手は

 

 

アレイスター「ああ、御坂美琴は我々統括理事会にとってはどうしても消したい存在だったんだよ。」

 

元世界最高の魔術師にして現学園都市統括理事長アレイスターであった。

 

「どこまでが仕組まれていたことなの?」

 

「全てさ。御坂美琴を抹消する為だけにレベル4.5という値を作り挙げたのさ。御坂美琴を4.5というレベル4クラスに格下げし周囲に戸惑いを与える。そこに君の精神操作能力を組み合わせ反御坂勢力を形成。精神操作能力は正の感情には干渉しにくいが負の感情には干渉しやすいからね」

 

「確かに私の能力は能力対象とする人物が尊敬とか好意を持っている、いわゆる正の感情を持っている人達には干渉しずらいわ。それに仮に干渉できたとしても多くの労力を使うわ。でも戸惑いや憎しみなど負の感情を持っている対象には私の能力が干渉しやすい。それに干渉するにも通常の心理状態より少ない労力で干渉し続けることができるわ」

 

 

「ところで何で彼女をレベル4.5っていう訳のわからない基準を作らずにそのままレベル4に落ちたということにしなかったの?」

 

 

「能力値に変化がないのにいきなりレベル4にしたらその事実を疑う輩も現れると思ってね。彼女はレベル4.5つまり今までの基準であるならばレベル5ではあるが新基準で言えばレベル4クラスにしたというわけさ」

 

 

「私に白井さんを派閥に入れるよう命令したけどあれは意味あるものだったの?」

 

「大いにあるさ。御坂美琴の能力を無力化するためにはまずその精神を削いでいかないといけないからね。彼女にとって白井黒子はいわば精神的支柱、彼女との関わりが少なくなることによって彼女の精神にダメージを与えていく。そして…」

 

「スキルアウトの集団暴行、やはり彼らにキャパシティダウンを与えたのはあなただったのね」

 

「彼女はその性格からしてスキルアウトによる一般人の集団暴行を目撃したら必ず喰い付くと確信していたからね。暴行を行っていたスキルアウトも、暴行を受けていた被害者も全て私が金で買収して超電磁砲を釣るためだけに演出させたのさ」

 

 

「しかしここで計画に誤差が生じた。周囲からの嫌がらせ、白井黒子との疎遠、スキルアウトからの集団暴行、これらによって彼女、超電磁砲の精神は二度と立ち直らないとツリーダイアグラムの予測演算には出ていたのだが、彼女はそれらの困難をもってしても精神を回復させた。つまり我々の予測演算結果を上回る精神力を持った人物であったようだ。しかし、」

 

「白井黒子の自殺」

 

「これは嬉しい誤算だったよ。彼女も予測演算結果では2年以内に50%の確率でレベル5に到達すると出ていたからね。彼女の性格からしていずれは統括理事会の脅威になると思っていた。食峰君には一応白井黒子の足止めも依頼していたがまさか両親を誘拐するとは…君も中々の強者だね」

 

「待って、それじゃあ白井さんがレベル5だったっていうのは偽の情報だったの?」

 

「ああ、あの時点ではまだレベル4クラスだったよ」

 

「…」

 

「白井黒子をレベル5にすることで食峰派閥への誘いを不自然なく行う、さらに御坂美琴との友情関係に少しでも亀裂を与えることを目的として彼女の能力値を改ざんしたわけだ。我々が予想していた結果とは少し違っていたが、まあ結果として御坂美琴をこの学園都市から追い出すことができて良かったよ」

 

何ともひどい話だ。つまり黒子が自殺に追い込まれたのも、御坂が学園都市を去ることになったのも全ては統括理事会によって仕組まれていたことなのだ。しかしそこまでして統括理事会が御坂を疎ましく思っていたのには訳がある。統括理事会は過去に一方通行によるレベル6シフト計画を御坂によって止められた経緯がある。結局のところ最後に直接計画を止めたのは上条当麻であったが、御坂が計画を止めようとしなければ上条もおそらくは命を張ってまで一方通行と戦闘を行うとは考えにくく、結果として御坂によって計画が止められたといっても過言ではない。御坂による研究所の破壊や計画が中止されたことによる統括理事会の受けた損害は測計り知れなく、統括理事会はこの事件をきっかけに彼女を疎ましく思うようになった。しかし彼女はレベル5の中でも一番庶民派と言われていて学園都市での認知度だけでなくその人気も高い。統括理事会も彼女を学園都市全体の広告塔にすることによってより多くの学生を呼びよせることができ、またそれによる統括理事会の受けた恩恵も計り知れなかった。しかし今回統括理事会はレベル6シフト計画に匹敵する新たな計画を実行しようとするにあたり、その内容が人道的に大きな問題を抱えていることから御坂の干渉を受けるではないかという思慮から今回の御坂抹消計画、通称『レベル4.5シフト計画』を実行したのだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――

新能力測定基準開始から1年後 

 

御坂はその精神状態を完全に回復させていた。能力こそ二度と発現させることはできなくなってしまったものの、持ち前の精神力で転校先の学校でも学業やスポーツにおいて優秀な成績を収めていった。しかし表面上は気丈に振る舞っていった彼女も頭の中は常に黒子のことでいっぱいだった。そして月日を重ねていく内にようやく彼女も黒子の死に向き合うことができるようになり、彼女は学園都市にある黒子の墓地に墓参りに行くことを決心した。

 

「黒子… 黒子がいなくなって私には世界の色が暗く見えるようになってしまったわ。それでも私は黒子の分まで生きることを誓ったから決して生きることをあきらめないわ。今まで私の傍でたくさんの優しさと笑顔をくれてありがとう」

 

御坂は風に髪をなびかせながら学園都市を見渡す小高い丘の共同墓地にいた。彼女はこれを以てようやく初めて黒子の死と向き合うことができた。しかし、彼女の目線の先には偶然か必然か統括理事会本部ビルがあった…

 



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復讐に燃える少女

御坂「黒子は死んだ… か」

 

御坂は失意の中にいた。ひさしぶりに学園都市に帰ってきてみれば思い出すのは黒子との思い出ばかり。どうして彼女が死ななくてはならなかったのか?その問いに御坂自身も薄々とは気付いていた。統括理事会による工作であると。そもそもレベル4.5など自分達レベル5からして見れば悪意に満ちた基準以外何者でもなかった。それに常盤台中での出来事も腑に落ちなかった。いくら自分がレベル4クラスに落ちたとしても周囲の明らかな変化に彼女自身も毎日が疑問の日々であった。おそらくは食峰の能力により常盤台生徒は操作されてしまったのだろう。しかし問題はそこではない。食峰の性格がいくら少々曲がっていたとしても、何の理由もなくこれほどのことをするとは到底考えられなかった。そこで彼女が出した結論としては、

 

「統括理事会による超電磁砲の抹消計画」

 

彼女の出した答えは見事的を射ていた。しかしその事実が分かったからといって、彼女の能力は黒子の死亡による精神的ショックにより脳が委縮し二度と発現することができなくなってしまった。よって彼女にできることは何もない、かのように思われた。しかし彼女には最終兵器と呼べる存在があった。

 

“ミサカネットワーク’’

 

ミサカネットワークとは一方通行のレベル6シフト計画の際に作られた御坂美琴のクローン2万体による情報ネットワークである。このネットワークを介して御坂クローンは実験によって死んだ個体からでも生前の記憶を読み取ることができ、その記憶を何百、何千体にも渡って引き継いでいくことにより戦闘能力を向上させ一方通行を僅かながらも苦しめた。また一方通行によるラストオーダー救出後彼が脳に大ダメージを受け瀕死の状態になった時には一方通行の言語、運動機能なども含めた演算補助装置を担った。彼女はそこに目を付けた。そうして彼女は一方通行の元へと向かった。

 

一方通行「何だァ? オリジナルじゃねえかァ。もう学園都市から出て行ったんじゃなかったのか」

 

「うるさいわね。少し用事があって来ただけよ。それにしても久しぶりだわね。あの時以来かしら?」

 

「あァ… 操車場で戦って以来だなァ。あの時はお前危うく死にかけたけどなァ」

 

「何よ。そんなに私のことが嫌いなわけ?なら今からその時つかなかった勝負の決着ここでつけても構わないんだけど?」

 

「やめとけェ。お前が能力を失ったってことは知ってんだよ。まあ、能力があったところで俺様には勝てねェけどな。」

 

「そうね、そうかもしれないわね。実は今日はそのことであなたの所を訪ねたの」

 

「あァ?」

 

「あなたが打ち止めのことを救ってくれたことには感謝しているわ。まだ妹達のこともあるから全然許してはいないんだけどね。そしてあなたが今ミサカネットワークを介して生活を送っていているっていうのも知ってる。そこでなんだけど、あたしにそのミサカネットワークを貸して頂けないかしら?」

 

「はあァ? ミサカネットワークを貸してくれだァ? お前まさか戦争でもおっぱじめる気かよ。」

 

「ええ… そうよ。黒子の敵討ちよ」

 

「ああ、あのツインテかァー。ずっと前にラストオーダーと街歩いてたらいきなり絡んできてはた迷惑な奴だったことだけは覚えてるわァー。しっかし俺から見てもありゃァ気の毒だったな。何たってお前のことを想って命を絶ったんだろ?」

 

「そうよ… 私能力測定の時以降あの子の為に何もして挙げられなかったわ」

 

「それはお気の毒なことでェー」

 

「それで? 結局ネットワークの方は貸してくれないの?」

 

「あれがねェといくら学園都市第一様でも困るんだよなァー」

 

「… 分かったわ。他をあたるわ。忙しい中時間を取ってくれてありがとう」

 

そう言って御坂は帰ろうとしたが

 

「待ちやがれェ。気が変わった、そうだな一日だけなら貸してやってもいいぜェ。」

 

「? どういう風の吹き回しよ。私からあんたにくれてやる物なんてないんだからね!」

 

「ッチ。うるせェなァ。さっきからラストオーダーの視線が痛いんだよ。」

 

そう言われて御坂は周りを見渡してみるとそこには確かに涙目になって一方通行の方を見つめる打ち止めの姿があった。

 

打ち止め「お願いなんだよ。お姉様の願いを叶えて挙げて欲しいんだよってミサカはミサカは今はもういない黒子お姉ちゃんのことを想い浮かべながらあなたに頼んでみたり。本当はお姉様に無茶なんかしてもらいたくないけど、黒子お姉ちゃんの無念さを考えたら致し方ないんだよってミサカはミサカは涙を流しながら訴えてみたり」

 

「分ァたよ。クソ、これだからガキの面倒は見てられねェんだよォ」

 

「ありがとうっ!てミサカはミサカはあなたのやさしさに感謝してみたりー」

 

「っツてもよォ。お前電極がねェとネットワークなんざこれっぽちも役に立たねェぜ」

 

「そこはご心配なく。あなたがこの依頼を断るとは思っていなかったからあらかじめ先生に頼んで作ってもらっていたからちゃんと手元にあるわよ。」

 

「… 何だか調子狂うわァ。」

 

「じゃあ明日の朝から晩までネットワークの方借りるわね」

 

「でも能力使えないと反射が使えないからいざ襲われた時どうしようってミサカはミサカは今更になってあなたのことを心配してみたり」

 

「そうだなァ… オイ、ガキィ。明日は黄泉川ん家でェ二人して留守番だァー」

 

「わーいってミサカはミサカはあなたとの屋内デートに期待に胸を膨らませてみたりー」

 

「…」

 

「じゃあ明日の朝から晩まで悪いけど借りさせてもらうわね。その前にちゃんと能力が使えるか確かめておきたいから今からネットワークの方貸してもっらってもいいかしら?」

 

「ッチ。いいぜェ。その代わりさっさと終わらせろよォ」

 

そう言うと御坂は首に付けたネットワークの電源を付けミサカネットワークにログインした。

----------------------------------------------------------------------------------------------------------misaka10032「おひさしぶりです。お姉様。レベル6シフト計画の時には私の命を救って頂き本当にありがとうございましたと御坂はおねえs」

 

misaka18765「常盤台の超電磁砲来たーwwwと御坂はあまりのことに興奮を隠しきれません」

 

misaka16654「だいぶはしゃぎすぎでは?と御坂は礼儀のなっていない妹に愕然とします」

 

御坂「(相変わらずにぎやかだねー)」

 

 

「ところでお姉様は、どうしてミサカネットワークにアクセスしたのですか?と御坂はお姉様に疑問を投げかけます」

 

「知ってると思うけど、いろいろあってあたし自力ではもう能力を発現させることができなくなっちゃったのよね… そこで能力をもう一度使うためにあなた達の力を借りるって訳」

 

「そうですか… それで一体何のために能力を行使なされるのですか?」

 

「そうね、簡単に言えば統括理事会に一矢報いるってところかしら」

 

「それでしたらまた話は変わってきます。結論からしてネットワークをお貸しすることはできません」

 

「! 何でよ… あなた達私がどれだけあなた達のために尽くしたか分かってんの? もう私に恩返ししたいという気持ちはないわけ?」

 

 「… あの時は本当にお世話になりました。しかし、ミサカ達に命の大切さを教えてくれたのはお姉様だったではありませんか!」

 

「それは…」

 

「返す言葉もないようですね。当たり前です。お姉様が今からなされようとしていることはまさに私達ミサカが実験で何の躊躇もなく一方通行の為に命を散らしていこうとしていたことと何ら変わりないではありませんか」

 

「そんなこと… そんなことアンタ達に言われなくったって分かってるわよ!でも私にとって黒子のいない世界なんて死後の世界みたいなものなのよ。いくら学園都市を出たからって私が黒子のことを忘れたことなんて一日たりともなかったわ。周りには気丈に振る舞って心配かけさせなかったけど、毎日死にたくて死にたくてしょうがなかったわ。ならいっそ黒子の為に統括理事会に一矢報いて華々しく命を散らせてやりたいと思ってるのよ。あなた達の言ってることはよく分かるわ。だけどこれ以上私を止めないで」

 

「話になりませんね。とミサカはお姉様の御高説を冷たくあしらいます」

 

「そう… なら仕方ないわね」

 

そう言うやいなや御坂は足早に一方通行と妹達の元を後にした。何も言わずただじっと見つめる御坂妹達。御坂美琴の瞳には心なしか少しだけ雫が浮かんでいた。

 



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その身を追われし者

御坂や白井不在の常盤台中学は今日も閑散としていた。常盤台の超電磁砲と空間移動を失った痛手は余りにも大きかった。また自分達がいくら食峰の能力下にあったとはいえ御坂や白井を苦しめたことも彼女らの学業不振に大きく関わっていた。御坂、白井不在の中行われた大覇星祭では学校創設史上最悪の7位に終わり入賞圏内からも外れた。転出者も相次ぎかつてのお嬢様学校としての華やかさはどこにもなかった。かろうじて婚后光子らの奮闘により何とか一部の大能力者をとどめられている程度だ。

 

『常盤台は終わった…』 

 

常盤台生徒の誰もが口には出さずとも心の中では皆そう思っていた。常盤台にかつての栄光に輝いていた日々はかえってくるのであろうか?

 

場所は変わって…

---------------------------------------------------------------------------------------

 

 

 

 

 

ゲコ太先生「全く… 君も無茶なことをしてくれたね」

 

冥土帰しが話しかけていた人物は、学園都市内では既にこの世にいない存在であると認識されているあの名門校常盤台の

 

 

 

 

白井「申し訳ありませんの。先生のご厚意には本当に感謝致しておりますわ」

 

白井黒子であった。

 

「それにしても、君がいきなり私の所に大慌てで来た時は一体何事かと思ったよ」

 

「… あの時は急を要しておりましたので」

 

「統括理事会の出方を探る為に、私に君のクローンを作らせそのクローンを使っての偽装自殺、 か…」

 

「新能力測定基準レベル4.5、お姉様のレベル4クラスへの転落、それに入れ替わる形でのわたくしのレベル5昇格。わたくしの周りにはこの一連の出来事に陰謀を感じる人はおそらく誰一人としていませんでした。しかしわたくしは学園都市の闇の部分に少しばかりは関わってまいりましたのでこの出来事に大きな違和感を覚えました。そもそもわたくしの能力がレベル5になったという事自体おかしな話でしたの。わたくし自分の能力には他の誰よりも知りつくしていると自負できますが、自分の能力が向上した感覚は何一つとしてありませんでした。それにわたくし能力測定の前日まで高熱を患っておりまして当日も万全の状態で能力測定に臨むことはできませんでしたの。それに」

 

「食峰君による精神干渉。まさか彼女が統括理事会の命令に従うとはね。脅されたのだろうか?」

 

「あの方は… あの方はいくら脅されていたとしても当分許すことはできませんの」

 

「あの子ならもうそれ相応の罰を受けてるよ。あの子は今でも当然君が死んだと思っているからね。あの後しばらくして精神疾患を患って学園学校を休んでいるそうだよ。その際『精神能力者でも精神を患うんだ』と一部の者に大いに笑われたそうだよ。まあ彼女ならおそらく自分の精神状態くらい自身の能力で簡単にマネジメントできるんだろうけど彼女はそれをしなかった。ということは彼女もそれなりに罪の意識に捕らわれていたのだろうね」

 

「そうでしたの… それは申し訳ないことをしてしまいましたの。事が解決すれば真っ先に頭を下げに参りますの」

 

「その方がいいね」

 

「それで、これまでの経緯をもう一度詳しく説明してくれないかね?」

 

「はい、最初はわたくしかお姉様どちらを標的にしていたかよく把握できておりませんでしたの。おそらく標的はお姉様だと思われましたが、お姉様に攻撃を加えてその様子をわたくしに見せつけることによってわたくしを精神的に追い詰めることも十分考えられましたの。あるいはお姉様に能力値へのコンプレックスを抱かせ、その思いをわたくしのレベル5昇格によってさらにより大きなものとし最終的には能力行使という形でわたくしにその思いをぶつけさせ同士討ちをさせることを狙っていたという風にも考えられました。しかしたとえわたくしが今回の相手が統括理事会だと分かったとしても、真向から戦うにしてもわたくし一人だけではとても戦力不足でしたの。そこで…」

 

「そこで私のところにクローン作成の依頼にやって来たということか」

 

「そうですの」

 

 

「しかし私の死亡(まあ実際にはその死体はわたくしのクローンなのですが) が公に公表されても統括理事会本部への人の出入りは全く減りませんでしたわ。変化があったのはお姉様が学園都市を去ってからでしたの」

 

「それにしても、ジャッジメントとして正義感に溢れた好人物であると評判だった君がまさかこんな汚れたことをするとはね… いやはや驚いたよ」

 

「それは… わたくし自身が言うのもなんですがわたくしも自分の変わりように驚いておりますの。わたくしお姉様にはずっと黙っておりましたがお姉様のクローンが存在することは知っておりました。ですので今回このような考えに及び実行に移したまでですの。正直な話わたくしは別に自分の命欲しさにクローンを身代わりにしたわけでありませんの。ただ私がいない世界ではたして一体誰がお姉様をお守りするのだと考えてみましたらとてつもない不安に襲われてしまう日々でした。よってクローンを身代わりにさせて頂きましたの」

 

「そのクローンも公には公表されていないが、統括理事会は即座に死体がクローンであることを断定したからね。そのお陰で今君はこうして私に匿われている。全く… 世話が焼けるね」

 

「本当に申し訳ありませんの。ほとぼりが冷めるまでしばらくここでタダ働きさせて頂きますの」

 

「そう言えば、君がいない間にたまたま御坂君が来てね、電極の方を作ってくれと言ってきたから作ってあげたよ」

 

「! それは、いつの話ですの?」

 

「ほんの昨日の話だよ」

 

「それで、お姉様はその電極を使って何をされるおつもりかお話ししておりましたの?」

 

「どうやらミサカネットワークの力を借りて能力を復活させ君の為に統括理事会に一矢報いると言っていたよ」

 

「! それはなりませんの。わたくしがお止めしなければ」

 

「そんな事を言っている場合なのかね? 先程も言ったが君は今統括理事会からクローン技術流出に関する重要参考人としてその身を追われているんだよ? 大体私が御坂妹の検死も担当していて統括理事会宛に御坂妹の生体に関する論文も提出したこともあるぐらいだから機材とDNAマップさえ揃えば私でもクローンを作れたわけだ。だが、それに必要な機材を集める為に少々非合法的な手段を取ったわけだよ。だから今の状況は非常にまずい状況なんだよ!私もこの件の関係者だが統括理事会にはいろいろと貸しがあるからまだいいものの、主犯である君は捕まったら極刑以外の道のりは残されていないよ?」

 

「…」

 

「それに御坂君を守るためとはいえクローンを使った結果今こうして御坂君に会いにいけるような状態ではないということも十分理解しているかい?君がやったことは目的はともかくとしてやったこと自体は統括理事会と何ら変わらないのだよ?」

 

「わたくし今更になって自分の行為を悔いておりますわ。人間生きている間、一度や二度『なんであの時あんなことをしてしまったんだろう?』と悩む時もありますが、今まさにわたくしはそのような時期におりますわ」

 

「君の場合は真相が明らかになれば学園都市中を巻き込むことになる大事件をやってしまったわけだけどね」

「… とにかく、わたくし何らかの形でこの一件の落とし前きちんと付けさせて頂くつもりですわ」

 

そう言うと白井は足早に部屋を出ていった。彼女の今後行く先に明るい未来はあるのだろうか…

 




ゲコ太先生のセリフは作者の原作知識の不足の為不自然になっていたかもしれません。

今回黒子が原作ではありえないような行動を取っていました。手を汚していない真っ白な黒子を好きな方は読み進める内に少々不快に思われたかもしれません。そのような方がいましたらここにお詫びします。しかし現実の世界でも愛する人の為に常人には考えれないようなことに手を染めてしまう人々もおられます。よって現実的な話このような行動を黒子が100%取らないということは言い切れないと作者は思います。今回の話はあくまで可能性の一つの話として軽い気持ちで読んで頂けると幸いです。



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上条当麻

――――――――――――――――――――――――――――――

(回想)

コンコン(ノック)

御坂「はーい」

 

 

ガチャ

白井「初めまして、わたくし今日から同じ208号室に住ませて頂きますの。白井黒子と申しますの」

 

「はあ? あんた誰よ? あたしにはもう既に同学年のルームメイトがいるんだけど」

 

「それでしたら、ご安心を。わたくしその方を少々非合法的な手段を取りまして追い出させて頂きましたわ」

 

「何それ、怖! っていうか見ない顔ね。もしかして1年生?」

 

「そうですの。と言ってもこれからは一緒に寝食を共にして参りますので学年が違っても毎日会うことになりますの」

 

「… あたしも一応常盤台の看板娘ってことになってるから熱狂的なファンも少しはいるけど、寮の部屋まで押しかけてくる人はいなかったわ」

 

「お褒めに頂けまして光栄ですの」

 

「いや、褒めてないから」

 

「て言うか何さらっとここに住む前提で話進めてんのよ。 … ? 

  その腕章、もしかして風紀委員でもやってんの?」

 

「あら、外すのを忘れておりましたわ。わたくしこう見えて一応風紀委員177支部に所属しておりますの」

 

「ふーん、風紀委員ね。その風紀委員がいきなり寮に押しかけてくることなんてしていいのかしらねー? 早速その風紀委員にでも通報しようかしら?(笑)」

 

「おやめ下さいませ、わたくしこれでも一応正気を保っておりますわ」

 

「正気ねー。でもあんたがあたしと住みたくても寮監の許可がないと住めないわよ?」

 

「そこは大丈夫ですの。ちゃんと許可は取っておりますの」

 

「ふーん、まあいいや。住むか住まないかはともかく、ここで話してたら周りの迷惑になるからとりあえず中に入って」

 

「はいですの」

 

その後

 

寮監「御坂 入るぞー」

 

ガチャ

 

「ん? その娘は一体どこから入って来たんだ?」

 

「? あんた、寮監の許可は取ってあったんじゃなかったの?」

 

「…」

 

「… 理由はともかくとして、無断で寮外の人間を入室させたとして、寮則第6条に基づいて貴様らに罰則を与える。 そうだな… ちょうど寮内の食堂が汚れてきた頃だ。そこを丸一日かけて丁寧に掃除しろ。分かったな?」

 

「待って下さい、この子が勝手にあたしの部屋に入ってきただけであたしには何の罪は…」

 

「分 か っ た な ?」

 

「はい…」

―――――――――――――――――――――――――――――――――――

「あれから、二人して食堂の掃除をしたんだっけ、懐かしいな…

あたしが初めて黒子に電撃を与えた日もあの日だったわね。『お姉様の愛のムチ受け取れて嬉しいですのー』って言った時は今後どうなることやら心配したけど。真面目な時はほんと真面目な子で風紀委員の仕事している時のあの力強い眼差しはあたしが男だったら絶対好きになっただろうなっていつも思ってた…」

 

 

 

「黒子… どうして死んじゃったの?」

 

そうして御坂はまた涙を流し始めた。実際のところ黒子はまだ生きている。しかし御坂はまだそのことを知らない。彼女が黒子と再び会った時彼女は一体どんな反応をするだろうか? 驚くだろうか、それとも嬉しさのあまり抱きつくであろうか? しかし彼女が死んだはずなのにどうして生きているのかを知ったら… その怖さもあって実際黒子は愛しのお姉様に会いにいけないでいる。彼女達の間に幸せはやってくるのであろうか?

 

失意に明け暮れる御坂。心頼りにしていたミサカネットワークの貸し出しを妹達によって拒否された彼女に残された選択肢はもうほとんど残されていなかった。すなわちこのままおとなしく現在住んでいる学園都市外の町に帰るか、あるいはイギリスかどこか遠い所に留学して魔術を学んで魔術師となって統括理事会に復讐をするか。 しかし自分はもう能力は発現できないとはいえ、科学の教育を受けてしまった身。例え魔術が使えるようになったとしても魔術を使った分だけ体に負担がかかる。目から血を流している自分を想像した御坂はそれだけで体に悪寒が走った。では、どうするか。すると最後の悪あがきと言わんばかりに彼女はとんでもないことを思いついた。

 

「統括理事会ビル前で自殺し、統括理事会の悪事を学園都市中に知らしめてやる」

 

自分も今や無能力者とはいえ、一時は学園都市中の誰もが知っていた存在。その知名度を生かし統括理事会ビル前で自殺することによって、学園都市の住民の目を一気に統括理事会へと向かわせる。そしてあわよくばアンチスキルなどの調査により統括理事会の今回の悪事が明らかとなることを彼女は狙ったのだ。悪あがきであることは分かっている。自分が死んでもすぐに統括理事会は動きアンチスキルや学園都市内のマスコミにも圧力をかけるであろう。もしかしたらそもそも自分の死そのものがなかったことにされるかもしれない。しかし悪あがきだとは分かっていても、彼女には他に取るべき手段はもう見つけられなかった。そうして御坂はひとり統括理事会ビル前に歩みを進めていくのであった。

場面は少しさかのぼって…

 

打ち止め「お姉様、行っちゃったねってミサカはミサカはありのままの事実を述べてみたりー」

 

一方通行「あァ…」

 

「お姉様、止めた方がよかったのかなー。能力が使えなくてもお姉様ならこのまま本当に統括理事会相手に戦って死んでしまうかもしれないってミサカはミサカは今更ながら心配してみたり」

 

「… そこは大丈夫だろう。何てたって超電磁砲にはアイツがついているからなァ」

 

  

「(幻想殺しが!)」

 

学園都市最弱にして最強の無能力者上条当麻は今日も街を疾走していた。友人からの情報により親しくしていた常盤台の超電磁砲こと御坂美琴が学園都市に帰って来たという知らせを聞いて彼は彼女に一目でも会いたいと街中を駆け回っていた。

 

上条「御坂… 白井のこともあって気落ちしているかもしれないが、せっかく学園都市に帰って来てるっていうなら俺が一言でも声かけてアイツを励まさないといけないよな」

 

彼は自身の持つ右腕の能力による稀に見る不幸体質と根っからの世話好きな性格から事あるごとに人助けをしていた。彼によって救われた人達は数知れず、御坂もまた彼に救われたことのある内の一人であった。そして今回もまた御坂は彼によって救われようとしていた。

 

「ん? あそこを歩いているのは… おーい御s」

 

彼は彼女の名前を呼ぼうとしたが即座に呼びかけることを止めた。目の前にはすっかり生気を失った御坂の姿が、そして彼女の片方の手には秘かに握りしめられたナイフがあった。

 

「ああ… アンタ久しぶりね。 元気にしてた?」

 

「… お前 何やってんだよ?」

 

「 ハハ。 見て分かんない? まあ普通の人には分からないでしょうね。今から黒子の元へ行く為に死にに行くのよ」

 

「そんなんで白井が喜ぶとでも思ってるのかよ!」

 

「何よ、またお得意の説教タイムの始まり? 死ぬ前になって説教されるなんてあたしも本当にツいてないわね」

 

「お前が今も辛い境遇にあるのは分かっている。白井の一件だってお前が不憫でかわいそうだとも思った。でもだからってそれがお前が死んでいいことにはつながらねえんだよ!」

 

「… じゃあアンタはあたしに一体どうしろって言うのよ? このままおとなしく自分の住んでいる町に帰れって言いたいわけ? 冗談じゃないわよ。あたしはね、黒子のことが忘れたくても忘れられないのよ。この苦しみ今のあんたには到底分からないでしょうね」

 

「じゃあお前は一体何がしたいんだよ?能力の行使さえできないお前に統括理事会相手に戦って勝てる勝算なんて万に一つもないんだぞ」

 

「そうね… 能力さえ使えたらどうにかなるのにね」

 

「つまり、能力さえ行使できればアンタはあたしの統括理事会への復讐を止めないってわけ?」

 

「お前の辛さや怒り悲しみは少しは理解しているつもりだ。もしもお前が再び能力行使できるのであれば今回ばかりはお前の前に立ちふさがるつもりはない。 って言ってもその時になってみないと実際分からないけどな」

 

「そう… なら、」

 

 

 

 

 

 

「あんたのその右腕をあたしに頂戴」

 

 

上条は言葉を失った。いくら自分の右腕が少々不幸を呼び寄せると言ってもだからといってそれを切り落とすことなんて生まれたから一度も考えたことはなかったし、ましてやそれを他者に譲り渡すなんてことは考えるはずもなかった。

 

 

 

 

「正気かよ? 俺の右腕をどうしろって言うんだよ?」

 

「先生にでも頼んであんたの右腕を切り落としてももらってそれをあたしに移植させてもらうわ。そうしたら、あんたの能力が使えるようになるかもしれないからね」

 

「(狂ってる… いくら白井が死んだとはいえこれは予想以上の状況だな。 今のコイツに俺から何を言っても無意味だ)」

 

そう考えた上条は御坂が持っていたナイフをいきなり取り上げ、その刃先を自分の腹部に向け刺したのだった。

 




上条さんの右腕はご指摘にもあったのですが移植しても幻想殺しは使えないようなので、御坂はその事実を知らなかった、もしくは正気を失っているからその事実を忘れていたという設定でお願いします。


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雨の日の図書館

新年明けましておめでとうございます。
ひさしぶりに投稿させて頂きます。


御坂「ちょっと! あんたいきなり何してんのよ」

 

突然の行動にさすがの御坂も慌てふためく。

上条の腹部からは血が地面に向けて滴り落ちている。上条も一応は演出なのでナイフを深くは刺していないように思えたが…

 

上条「お前がやろうとしていることは、今まさに俺がやっていることと同じようなもんなんだよ。お前が死んだって誰も救われないし何の解決にもならない。むしろ統括理事会の思うツボなんじゃねえのかよ? 他にも道は残されているはずだ! 当分の間付き合ってやるから死ぬことだけはやめてくれ、 な?」

 

「虫のいい話ね… そんなんで私の心がなびくと思っていると思ったr」

 

バタ

 

「ちょっと、アンタ一体どうしたっていうのよ? まさか死んじゃったわけ? ねえ、何とか返事しなさいよ!」

 

そこには地面に倒れ伏したままピクリとも動かない上条の姿があった。全くもって上条の誤算であった。御坂を救いたいという思いの一心でこういった行動に移ったわけであるが、その思いのあまり自分の体の状況を全くもって考えていなかった。上条がナイフで刺した場所は運悪く過去に魔術師などとの戦闘によって負った古傷がある場所であった。その傷がまだ治らぬ内にナイフで刺したことにより、本人が考えていた以上の出血が発生。結果今こうして意識を失ってしまっている。

 

「誰か、誰か手の空いている方はおられませんか? ここに出血多量で倒れている人がいるんです。誰か!助けて下さい お願いです 助けて下さい …」

 

その後

 

先生「全く、君は一体何回この病院に入院する気かね? ここまでくると、うちのナース目当てに来ているようにしか思えないようになってくるのだが… 

 

「はあ… いや好きで入院しているわけじゃあありませんよ! その何と言いますか、これには深い事情が…」

 

「まあなぜこういったケガを負ってきたのかは今回もあまり詮索はしないけど、君の体はもうボロボロだよ。そのことだけは言っておくからね」

 

「はあ…」

 

ガラ

 

「どう調子は? その、何というか… 悪かったわね 私の為にこんな目に遭わせてしまって」

 

「いいんだよ、お前が正気を戻してくれさえすれば俺はそれで満足だ」

 

今回の一件によって御坂は完全に正気を取り戻した。上条が生死の淵をさまよっていた時には、黒子のことが再び頭の中に強く思い出されてきて、それはとても辛い時間であった。これ以上親しい人を失いたくない、そして自分の味わったような悲しみを誰にもあわせたくない。そう思えるようになることができた御坂は、死ぬことを一旦頭の中から取り除いた。

 

「それで、これからのことなんだけど、あんた他にもまだ道は残されいるとか何とかって言ってたけど、具体的な案とかあるわけ?」

 

「その事なんだが、とりあえず俺が退院するまで一旦待ってくれないか?」

 

「そうね、ケガ人に今すぐどうこうしろって言うほどあたしも冷たくはないから…」

 

2週間後

 

上条当麻は驚異的な回復力で無事退院することができた。そして…

 

「とりあえず、ここでゆっくりしよう。俺からの話はそれからだ。」

 

二人が今いる場所は学園都市内にある図書館だ。なぜ二人が図書館にいるのかというと、上条の提案に御坂が半ば強引に付き合わされる形というものだった。そもそも今も昔も勉強熱心である御坂にとって、図書館という場所は身近な存在であり嫌いな場所ではなかった。しかし彼女の思いとしては、今さらそんな所に行って何を話すのだろうという思いが強かった。しかし上条がどうしても図書館に行きたいと言い張り、また御坂自身もコイツと図書館デートも悪くないなと思ったことにより、しぶしぶ図書館に行くことになった。

 

「(図書館自体に行くことは今までに何度もあったけど、この図書館に入るのはこれが初めてだわ)」

 

そんなことを考えながら、彼女は図書館内を無意識に歩き回った。一通り歩き回って少し疲れたのか、彼女は窓際の席に腰かけた。学園都市には少々不釣り合いな木製の机に顔を伏すと、今まであった辛いことや悲しいことが思い起こされてきた。いじめられたこと、能力を失ったこと、そして… 黒子のこと。思い出したくなくても思い出してしまう記憶に彼女は戸惑い苦しむ。『自分はなぜ今こうして生きているのか?』 『学園都市にさえ行かなければ…』 『こんなに辛くなるのならいっそのこと黒子に会わなければよかった』

彼女の脳裏に浮かぶのは大方このようなことだった。そうこうしている内に、外ではいつの間にか雨が降っていた。顔を机に伏す状態で眠ることが苦痛になったのか、御坂は窓際の席に座ったということもあって、窓の手前にある棚のようなわずかなスペースに、椅子に座ったまま首を傾け預ける状態で眠ろうと試みた。

 

「(やっぱりこの態勢は寝づらいわ)」

 

そう思って首を上げようとしたが、ふとどこからか水の流れる音が聞こえてくる。

 

「(どこから聞こえてくるのかしら? もしかしてこの窓棚から聞こえてるの?)」

 

そう思って窓棚に耳を近付けてみると、案の定そこから水の音が聞こえてくる。

 

「(水が流れる音だわ。そういえばさっきから雨が降ってるわね。建物の中にでも雨水が流れてるのかしら? …意外な発見だったわね。まあ大したことではないんだけど)」

 

そう思う彼女であったが、しかし彼女はその窓棚から自分の耳を離そうとはしなかった。その音はとても心地良くそして彼女にとって束の間の安らぎを与えてくれたからだ。

 

「(何なのかしら、この感覚。こんなに心が落ち着いた日はひさしぶりだわ。ずっとこうしていたいわ…)」

 

よっぽど水の流れる音が気に入ったのか彼女はそのまま眠り始めた。

 

 

「おい、御坂」

 

「… ん?」

 

「何だ、こんなとこにいたのか? 探したぞ。」

 

「ああごめん、アンタと二人で来たことすっかり忘れてたわ」

 

「全く… あれ? 御坂お前さっきより何だか元気そうじゃないか。何かいいことでもあったのか」

 

「… アンタの気のせいでしょ。それにしてもあたしったら結構長い間眠ってたのね」

 

「とりあえず、一旦ここを出よう。俺も借りたかった本借り終えててきたことだし」

 

「そうね、行きますか」

 

そう言った御坂の表情は、雲間から見えてきた夏の日差しとともに、少しだけ明るくなっている気がした…

 




次回の投稿は概ね2週間後を予定しております。よろしくお願いします。


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学園都市と治外法権

お待たせしました。約2週間ぶりに投稿させて頂きます。


 図書館を出た二人は別にどこに向かうというわけでもなく、ただ気の赴くままに学園都市の街を歩いていた。

 

 御坂「それで? アンタは一体どんな本を借りたのよ?」

 

 上条「ああ… 別に御坂からしてみたら大した本じゃないが」

 

 そう言って上条は先程図書館で借りた本を御坂に手渡した。

 

「どれどれ、ん? 学園都市と治外法権…」

 

 上条が借りた本の表紙には、そのタイトルとして学園都市と治外法権というものが書かれていた。そもそも治外法権とは、ある国においてその国に在留する外国人を自国の法律で裁けないことを指す。例えば日本では江戸時代末期において、アメリカやイギリスなどと一方的に不平等な条約を結ばされ、この治外法権が適用された。これによって日本国内でアメリカ人が罪を犯しても、日本の法律で裁くことができず、代わりにアメリカの法律によって裁かれ、その結果本来受けるべき刑罰よりも軽いものが科せられたり、最悪無罪になる場合も見られた。

 

「アンタが選ぶ本だから、どうせ大した本じゃないだろうって思ってたけど、案外まともな本も読むのね」

 

「ああ、俺の高校の公民では今まさに学園都市と治外法権についての授業を行っているんだ」

 

「へえ、あたしの学校ではまだそういったことは習っていけどね」

 

「知ってるとは思うが、俺たちの住む学園都市では日本の法律は適用されない」

 

「ええ、知ってるわ」

 

 学園都市ではその設立の際日本国家との間で結ばれた特別な取り決めにより、学園都市内で起きた全ての事件や事故は全て日本の法律ではなく、学園都市のアンチスキルやジャッジメント、最終的には統括理事会の判断によって裁かれることになっている。これは言うなれば、学園都市は日本国の領土内にありながら、日本の法律が適用されない一つの独立国家として認められているも同然である。

 

「学園都市に移り住む際に、私達学生は必ず誓約書にサインを求められるけど、その誓約書の注意事項が何百項目にも及んでるから、正直全部を読んで学園都市に移り住むことを決めている人は少ないわね。注意事項の最後の方に小さく、治外法権のことについての記載がされているのに…」

 

「ああ、そのせいで実際学園都市が治外法権地帯であることを知らずに移り住んでくる学生が大半を占めているわけだ。それに学園都市の情報は一切外部に口外してはならないから、誓約書以外の方法で学園都市で治外法権が行われているということを知るすべはない」

 

「だから安易な気持ちで学園都市にやって来たはいいものの、何か事件に巻き込まれてその時初めて学園都市で治外法権が認められていることを知る場合が多いのね」

 

「さらにこの学園都市にはそもそも学園都市外のように裁判所などといった司法施設が存在しない。よって、学生などが何かしらの事件に巻き込まれたしても、日本国内のように裁判を起こすことは事実上不可能であり、さらに事件の発覚によって学園都市の上層部の地位が危うくなるような場合であるならば、統括理事会の圧力などによってその事件そのものがなかったことになる場合もあるわけだ」

 

「この無法地帯とも言うべき状況の中でも、学園都市がその存立を維持できる所以は…」

 

「統括理事会の圧倒的戦力と財力によるものが大きいな」

 

「実際日本と学園都市との間で取り決めが行われる際に、日本の官僚たちは一体いくらのお金を積まれて懐柔されたのかしらね?」

 

「さあな、おそらく俺達が一生働いても稼ぐことのできない金額だろうよ」

 

「それで、結局アンタは何がしたいわけ?」

 

「その前に、久しぶりに学園都市に来たことなんだし、どこか見晴らしのよい所でも行ってみないか?」

 

 そう言うと上条は街の中心部には背を向けて、学園都市を見渡せるであろう高台に向けて勢いよく走り出した

 

「ちょっと、何勝手にはりきってんのよ! 待ちなさいよ」

 

 口調こそ怒り口調であるが、そう言っている御坂の顔にはまた少しだけ笑顔が見えた。

 

 高台にて

 

「ふうー、やっと着いた。案外登ってきたから少し肌寒いな」

 

「そうね。それにしても何であんたとこんな所にまで来なければいけなかったわけ?」

 

「はあ、悪かったな。こんなぱっとしないただの男で」

 

「別にそこまで言ってるわけじゃないでしょ!」

 

「(それにしても… 何なのかしらこの感覚は。ただ隣にコイツがいるだけなのに)」

 

 人は一人の存在によって足元をすくわれ、また一人の存在によって自分が生きていく希望を見いだせる。自分の行先は自分の意思によるものも大きいが、周りの一人の一人の存在によって左右されているといっても過言ではない。御坂にとって上条はまさに彼女の生きる希望そのものであり、彼女の今後の行先を握っている。そしてこの物語は今後上条の奮闘により大きく動いていくこととなる。

 

「見ろ、もうすぐ日没だ。それにしても今日の夕日はひときわきれいだな」

 

「そう? あたしにはいつもと同じ夕日に見えるけど?」

 

「やっぱり一人で見る夕日と二人で見る夕日は全然違うな!」

 

「⁉ そ、それはどういう意味よ!」

 

「? 特に深い意味合いはないが。それにしても御坂、何でお前顔が真っ赤になってるんだ?」

 

「! これは夕日のせいよ」

 

「そうか、それならいいんだが…」

 

「何よ、本当アンタといると調子が狂うわね」

 

「… それはどういう意味だ?」

 

「何でもないわ、気にしないで」

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「こちらポイントA、幻想殺し超電磁砲と接触の模様。特に目立った動きはなし」

 

 二人の様子を注意深く見る存在。統括理事会である。おそらく上層部の指示によって、統括理事会の下部組織の連中か誰かが駆り出され御坂と上条と動向をうかがっているようである。

 

「どうしますか?超電磁砲が再び学園都市に戻ってきましたが」

 

 アレイスタ―「なに、何も心配することはないだろう。彼女はいまやレベル0の無能力者。今更どう足掻いたって何も変えられることはできまい」

 

 その油断が命取りであるということを、アレイスタ―はまだ知らない。




次回の投稿も概ね2週間を目処に投稿させて頂きたいと思います。よろしくお願いします!


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永田町

お待たせしました、それでは第10話投下させて頂きます!


 御坂「それで、アンタが考えてる統括理事会に対抗するプランとやらを早く教えなさいよ!」

 

 上条「そうだったな、いやあ悪かった」

 

「俺の考えたプランは…」

 

 

 

 

「俺達の手で学園都市の治外法権を撤廃させる」

 

「はあ? 何いってんのアンタ? そんなことできるわけないじゃない。それに仮にもしそれができるとしても、一体どうやってそれを実現するのよ!」

 

「御坂は永田町っていうところを知ってるか?」

 

「… ええ、知ってるわ。日本の国会議事堂がある場所ね。日本の政治的中枢を担っている場所とでも言うべき所かしら」

 

 永田町。日本の国会議事堂がある場所であり、その内部は一般公開はされているものの、謎に包まれた部分も多い。

 

「どうやら、アレイスターは永田町で日本の政府高官と治外法権に関する締結を結んだって、さっきの本には書かれてあったから… 永田町にいけばその締結に関する重要資料が残っているかもしれない」

 

「その資料を基に関係者を洗い出し、事情を聞き、最終的には締結の撤回を求めるってところかしら?」

 

「まあ、そんなところだ」

 

「単純ね、そんな簡単に事が進むとは到底思えないけどね」

 

「そもそも永田町に行ったところで、あたし達のような一学生なんか取り合ってもらえないでしょうが!」

 

「! それは考えていなかった。俺は今までこの右手によって物事を解決してきたから… 話し合いで解決するなんて考えてすらもいなかった」

 

「… まさかここまで無謀な計画だったとはね。このプランでよくあたしに話す気になったわね」

 

「待って、私の能力を使えばそのプランで永田町に乗り込めるわあー」

 

「その声は!」 

 

 上条と御坂の前に姿を現したのは…

 

 

 

 

 

 

 元常盤台中レベル5 食峰操祈であった。

 

 

 

 

 

 食峰「あら、御坂さんおひさしぶりー 元気にしてたー?」

 

「… よくもあたしの前に姿を現せたわね。あんたのせいで、黒子は。黒子は」

 

「何よ、私を消し炭にしたいわけえ? やれるものならやってみなさいよー。まあ今のあなたには1ボルトの電圧だって生めやしないだろうけど」

 

 その言葉は御坂の怒りを湧き起こさせるには十分であった。挑発的な態度を取られた御坂は、勢いよく食峰に殴りかかろうとしたが

 

「落ち着け、御坂」

 

 上条に割って入られてしまった…

 

「何よ、離してちょうだい。どうして止めるのよ、アンタには関係ない話でしょ」

 

「… お前はしばらく学園都市にいなかったから知らないだろうな。食峰は白井の事件以来学校に通っていないんだ」

 

「さっきの言動とは裏腹に心の中ではお前や白井への罪悪感でいっぱいなはずだ。そうだろ、食峰?」

 

「何よ、調子狂っちゃうわね。御坂さんには言わないでって、あれほど言っておいたのに」

 

「いや、最初はそのつもりだったんだが、俺の性格上見てられなかったんだ」

 

「何なの、最初からアンタはこの女とあたしを会わせるつもりでいたの?」

 

「ああ、そうさ。確かに食峰がやったことは許されるべき行動じゃない。でも彼女も統括理事会の命令で仕方なくやってしまったことは、理解してやってくれ。それに、態度にこそお前の前では見せないが、心の奥底では強く反省していると思うから。ここらで和解してもいいんじゃないか?」

 

 

「何よ、黒子のこともう少しで忘れることができそうだったのに、この女の顔見たらまたあの時の記憶が呼び戻ってきたじゃない! 食峰も、アンタもそんなにあたしに不幸になってもらいたいわけ? もう付き合ってらんないわ。こんなところ二度と来てやるもんか!」

 

 その言葉を最後に、御坂は上条の元から逃げるように走り去っていったのだった。

 

「まあ、最初からこうなることは分かってたわあ。これから先どうするの?」

 

「御坂はきっとここに帰ってくる。それまではじっと二人で待つことにすればいいさ」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「(食峰が学校に通っていない? ありえないわ、あの女の性格からして。それに何であの女とアイツが連絡取り合ってたのよ。そのことの方がむしろイライラするわ)」

 

 

「(… 食峰の能力を以ってすれば、永田町の内部への潜入が可能になる。あの女の協力なしには計画は実行不可能。か)」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 しばらくして

 

「お前なら、きっとここに戻ってくるって信じてた。とりあえず、戻ってきてくれてありがとう」

 

「何よ、そんな水臭いセリフはなしにしてちょうだい。それより食峰はどこにいったのよ。まさか今日は来てないって言うんじゃないでしょうね?」

 

「はいはーい。私ならここにいるわあ」

 

「… 別にアンタのことを許したから学園都市に戻ってきたんじゃないからね。あくまで、仕事上の付き合い。プランが成功したらとっととあたしの前から姿を消してちょうだい」

 

「何よ、御坂さんったら冷たいんだからあ。まあ、今はそれでいいわ。この計画に私が参加するメリットは正直0だけど、白井さんに対するせめてもの罪滅ぼしだわあ」

 

「足を引っ張るようだったら、承知しないから!」

 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 計画実行の前日、 御坂が訪れた場所は…

 

 

 常盤台中であった。

 卒業生がひさしぶりに母校を訪ねるような気持ちで訪れたのかは分からないが、彼女は実に1年以上ぶりに母校を訪れたのだった。

 

 婚后「あら? あれはもしや御坂様ではなくって? 湾内さんに泡浮さん! 外をごらんなさい。私の目が確かであるならばあれはもしや御坂様ではありませんか?」

 

 湾内「御坂様… 死ぬまでにもう一度会えるのならばと毎日思っておりましたが、私夢が叶って今非常にうれしい気持ちでいっぱいですわ」

 

 泡浮「私もですわ」

 

「さあさあ、こうしてはいられません。人だかりができる前に早いとこ御坂様にご挨拶に伺いにまいりますわよ」

 

「はい!」

 

「御坂さーん」

 

「ん? あれは…嘘 婚后さん? ひさしぶりー、元気にしてた?」

 

「ええ、お陰様で。それにしても御坂さん、学園都市を去る時などはすっかりやせ細っておりましたのに、今は、元気そうでなによりですわ」

 

「そう? まあこれから一暴れしてくるからかもしれないかもね」

 

「一暴れ? まさか、能力が回復したのですか?」

 

「ううん、相変わらず能力値は0のまま。でも、能力がなくてもやれることはあるってことを、今から証明してきて見せるわ!」

 

「そうですか、それならよいのですが… あまり無理はしないで下さいよ」

 

「うん、ありがとう」

 

「おひさしぶりです。御坂様」

 

「あら、湾内さんに泡浮さん、ひさしぶりね。元気にしてた?」

 

「はい、相変わらず。御坂様もお元気そうで何よりですわ」

 

 御坂様―

 

「あら、もう人だかりが出来つつありますわね。他の方々も御坂様とお話ししたいことですし、私達はこのくらいで失礼致しますわ」

 

「え? うん。正直もうちょっと話したかったんだけど仕方ないわね。じゃあ3人とも元気でね!」

 

「ご機嫌よう」

 

 自分の居場所を再確認した御坂。それと同時に彼女の使命感とでも言うべき気持ちがより強くなった瞬間でもあった。

 

「(黒子の二の舞など二度と起こさせはしない!)」

 




次回も概ね2週間を目処に投稿します。
よろしくお願いします。


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もう後には戻れない

お待たせしました。第11話投稿します。


 御坂「到着したわね」

 

 季節は夏の終わり。だいぶ暑さも和らぎ、何か事を起こすには絶好の日和であった。御坂、上条、食峰の三人が今いる場所は東京永田町。目的は、学園都市に長年存在した悪法治外法権を撤廃するためだ! 彼らは今まさに、日本国の中枢である国会議事堂の前に来ており、その内部へと足を運ぼうとしていた。

 

 警備員「ん? そこの学生さん、見学に来たのかね? あいにく今日は一般には開放されていないんだ、ごめんよ」

 

 当然のことだが、国会議事堂のような重要な施設の出入り口前には必ず警備員がいる。国会議事堂の内部に入る為には、まず警備員をどうにかしなければならない。

 

「見学じゃないわ。私達はここに特別な用事があって来たのよ」

 

「… とりあえず、お名前と職業をどうぞ」

 

「御坂美琴、職業は学生よ」

 

「御坂美琴? ちょっと待ってくれ」

 

 そう言って警備員は何やら来訪予定者が書かれている名簿らしきものを取り出し、そこに記載されている名前に御坂の名前が記載されているかを確認し始めた。

 

「あいにくだが、御坂美琴という名前はこの名簿にも記載されていないようだ。ここの見学は事前申し込み制でね。悪いけど今日のところは出直してくれないか?」

 

「そんなことどうだって良いのよ! あんたもしかしてこのあたしを知らないわけ? 元学園都市第3位の常盤台の超電磁砲よ」

 

「学園都市? 聞いたことはあるが、あまり詳しくは知らないな」

 

 当然のことである。学園都市の上層部の方針として、学園都市内の情報は外部には原則非公開とされているので、例え御坂が学園都市の中で名が知れた存在であったとしても、その名は学園都市外では全くもって知られていない。この警備員にとっては、御坂はそこらへんにいるごく普通の中学生なのだ。

 

 上条「 … こうなることは分かっていただろうよ。お前、学園都市の外の学校で一体どんな学校生活送ってきたんだよ」

 

「うっさいわね。永田町は学園都市とも少しは関わりがあるから、末端の奴でも知ってると思ったのよ!」

 

 こんな茶番を見にきたわけではない。業を煮やした食峰は、自身のバックからリモコンを取り出し、それを警備員に向け能力を発動させた。

 

 食峰「私達を、ここの責任者の所に連れていきなさい」

 

 すると、警備員は三人を国会議事堂の内部へと案内し始めた。

 

「全く… 警備員ぐらい、アンタの力を借りなくても突破できたわよ」

 

「あんなに時間かかってたのに? それともあれかしら? 最終的にはお得意の回し蹴りでも入れるつもりだった? フフフ、御坂さんのやることなんか所詮その程度なのねえ」

 

 挑発する食峰。御坂が能力を失ってもこの二人の関係には大して影響しないようだ。

 

「アンタ、ちょっと一回表出なさいよ」

 

 そしてその挑発に乗る御坂。一触触発の状況。それをなだめるかのように、上条が割って入った。

 

「御坂… お前今はもう無能者なんだから、食峰の能力から身を守る術がないだろうよ。食峰も、御坂も今はレベル5じゃないんだから、いい加減ライバル意識燃やすのもどうかと思うぜ…」

 

 この二人は出会った場所が学園都市でなかったとしても、お互いにいがみ合うだけだったのかもしれない。そう思う上条当麻であった。

 そうこうしている内に、三人の目の前を歩いていた警備員の歩みが止まった。

 

「この部屋の中に、国会議事堂の管理責任者であり、国会議事堂の歴史に通じている者がおります。では私はこれにて」

 

 三人の目の前にある古びた茶色の扉。ドアノブは金色をしており、中に入らなくとも、この部屋がいかに立派であるかということが容易に想像できる。この中にいる人物に会って話せば何か重要な情報が得られる。根拠のない自信が御坂の中にはあった。女の勘、それともただの思い込み? そんなことはどうだっていい、早くこの扉の向こうにいる人物に会いたい。そう思い御坂は

 

 

 ドアを二回ノックした。

 

「はい、どーぞ」

 

 扉の向こうからたいぶ年老いた男性らしき声が聞こえた。そして三人はその部屋の中へと入っていった。

 

「おやおや、誰が来たかと思ったら、学生さんか。よく警備員がここまで案内して来たね。暴力か何かで脅してきたのかな?」

 

 突然の来訪にも全く動じない部屋の主。年を取れば皆こういう感じになるのかと考える御坂であった。

 

「まあ、そんな所ね。そんなことはどうだっていいわ。あなたがここの責任者で間違いないわけ?」

 

「ああ、そうさ。私はここ国会議事堂の管理を任されている者だ。」

 

「とりあえず、一旦席につきたまえ。何だかずっと立たれていると心が落ち着かない」

 

 御坂は席に座りそして考える。この老人から一体どうやって自分達にとって重要な情報を聞き出すのか。食峰の能力を使えばすぐなのだが、御坂の性格上それは最終手段としてできるだけ使いたくない手段だった。そのようなことを考えていると…

 

「ああ、心配しなくてもそこの金髪のスタイルのいいお嬢ちゃんの能力はここでは使えないよ。君達は学園都市からやってきたのだろ?この部屋には特殊な細工がなされていてね。私がこの部屋の中から出ない限り、君達は私に何も手出しすることはできない」

 

 自分達が能力者であることがばれている? 三人は自身の背中に嫌な汗が流れてくることを感じる。さすがは統括理事会。こうなることはもちろん予想していたことだ。しかし学園都市に何ら関わりのないような、一見するとごく普通の一般人に学園都市の名前を出されては、三人が焦るのは無理のないように思えた。

 

 

 

 

「分かったわ。じゃあ、力づくではなくあくまで合法的に話を進めていきましょう」

 

「合法的話合いね… 面白い」

 

 御坂は思考をめぐらせる。この男は自分達の素性を知っている。なら、そのことを逆手に取って話を素早く進めればいい。いちいち学園都市の説明をしなくても済むじゃないか! そういう風に考えなければ…

 

 よく見ると部屋の内部には無数の監視カメラ、そしてさっきから気になっていたのだが、部屋の窓から見える大通りを誰一人として人が歩いていない。そして先程から聞こえるヘリコプターの飛行音、そして辺りを取り囲む全身に防弾チョッキとサングラスをかけた武装集団。

 

「どうやら、私達は罠にはまったようねえー」

 

 正気を保てなかった。




次回も2週間を目処に投稿します。よろしくお願いします。


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計画失敗

お待たせしました。12話投稿します。


特殊な細工により能力の使用ができない部屋に連れ込まれた御坂達。逃げようにも空からはヘリコプター、外からは銃を持った武装集団が国会議事堂の建物の周りを包囲しつつあった。御坂がまだレベル5であったならば、銃火器を電磁バリアーで防ぎながら食峰の能力で彼らと対等に戦闘を繰り広げることができたのだが、御坂は何度も言うがレベル0の無能力者。食峰一人が奮戦しても時間稼ぎが手一杯なところであろう。おまけに自分達がここに誘い込まれた以上、自分達の能力に関する情報は相手側に筒抜けになっていることが予想され、たとえ御坂が現時点で高位能力者であったとしても、相当の苦戦が予想された。

 

「ここは、おとなしくひとまずは降参でもしておこうかしら」

 

状況は一転。御坂達のペースで話し合いが進むかに思えたが、この部屋の主である、いまだ正体不明の老人が優位に話を進め始めた。

 

「それで、アンタは私達にどうしてほしいわけ? そもそもアンタは一体何者なのよ?」

 

そういえば、この年老いた謎の男の素性をまだ聞き出していなかった。3人にとって一番の引っかかりであった問題を御坂は突いた。

 

「君達がここに何をしにやって来たのかは、アレイスターから聞いているよ。だから無駄な説明は省かせてもらうよ」

 

「私はアレイスターと日本の閣僚との間で取り決めが結ばれた際に、その会談に立ち会った唯一の生存者だよ」

 

「唯一の生存者?」

 

唯一の生存者。その言葉に即座に反応する3人。他の関係者達は、まさか口封じとして学園都市の暗部組織にでも暗殺されたのであろうか? そんなことを考えていると…

 

「まあ唯一の生存者といっても、他の方々は皆年老いて死んでいっただけなのだがね」

 

老人があらぬ誤解を自ら解いてくれた。

 

「私はその会合の議事録を記録に残す書記官としてその現場にいたんだ。あれはもう、50年か60年ぐらい前のことだっただろうか」

 

そんな昔から学園都市と日本国家との間で取り決めがなされていたのか。その事実に若干の動揺を見せる3人。5,60年前なら自分達の親もまだ生まれているかいないかの時代である。

 

「それで… そこで行われた出来事を私達に少し教えてくれないかしら?」

 

「別に教えるだけなら構わないが… それを君達が知って、一体何になるというのだね? 今さら歴史を変えていくことは無理な話だよ。もう私とアレイスターをおいて、その取り決めに関わった者は全て亡くなっているからね」

 

全くもってその通りである。既に学園都市と日本国との間で結ばれた取り決めを行った関係者は、この目の前にいる老人とアレイスターをおいて他にはいない。今さら取り決めの内容を聞き出してもそれはただの歴史の把握に過ぎず、関係者に直接会って話をすることすらできない。

 

「それに、例え私達日本政府が学園都市における治外法権撤廃に賛成したとしても、学園都市側の同意が得られなければ、その書面は効力を持たない。まあそれも最初の取り決めで決められたのだがね」

 

「… そんなこと言われたって、あたしたちは納得しないわ。何の為にわざわざ学園都市を抜け出してまでここに来たと思ってんのよ!」

 

御坂達は一歩も引けない状況にあった。学園都市を無断で退出すること自体が学園都市内においては御法度とされている現状で、目の前にいる男との話合いを優位に進めなければ、無罪放免ということで統括理事会に見逃される可能性はなくなる。しかしこの状況で一体どうやって話を進めていけばいい? そもそも最初からこの男に自分達の動向を知られていた時点で、既に決着はついていたのかもしれない。そんなことを悟りながら、ふと視線を老人から逸らすと、机の上に一つのハサミがあった。何を思ったのか、御坂はそのハサミを利き手で掴むと…

 

「うわー!」

 

突然老人に襲いかかった。しかし老人は年不相応な身のこなしで、御坂の動きをかわすと、

 

「やれやれ。結局最後は暴力によって解決しようとしたか。そういうことだ。さあ、中に入ってきたまえ。この子達を学園都市に連れ戻してあげなさい」

 

その言葉を合図に、周辺を包囲していた武装集団が一斉に部屋の中へと入ってきた。失意にくれる3人は一切彼らに抵抗するそぶりを見せずに、ただ目の前の現実に絶望していた。

 

「嘘よ。そんなバカな話あたしは信じないわよ」

 

「そもそも何でアンタはアレイスターの味方をするのよ! あんな人殺しの味方をするなんて… この鬼、悪魔!」

 

「…」

 

「つべこべ言うな! 両手を頭の後ろに組んで床に跪け。抵抗でもしてみろ、即刻射殺だからな」

 

御坂達3人はそうして周辺を包囲していた日本の特殊部隊によって、学園都市へと連行されていった。

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「はあ、御坂さんったら、本当毎回毎回喧嘩っ早いわねえ」

 

「仕方ないでしょ! あの状況だったら誰でもああするしかないわよ」

 

「それはどうだかな。おかげで上条さんも明日から犯罪者ですのことよ」

 

3人で永田町に入ってきたはいいものの、何ともあっけない幕切れであった。そもそも日本の特殊部隊が出動しているということから、アレイスターは先程まで自分達と話していた老人だけでなく、日本国家全体をも味方につけているということが分かった。これはただごとではない。

 

「何で日本政府はアレイスターの味方をするのかしら」

 

学園都市へと連行される途中、御坂はふと思ったことをなにげなくつぶやいた。

 

「さあねえ? そもそもそこから探っていかないと、この問題を解決できそうにはないわねえ」

 

「まあ、解決するっていっても、俺達は明日から収容所暮らしだけどな(笑)」

 

「アンタ、何笑ってんのよ!」

 

「この状況、笑ってないとやっていけるかよ。ああ、俺の輝かしい青春はー。檻の中ー♪」

 

「うるさいぞ、静かにしろ!」

 

御坂達は不法退去罪並びに、国会議事堂における不法侵入および恫喝の罪で収容所に送られることとなった。さらに上条はさておき御坂と食峰は高位能力者であり、であったことから、警備がより厳重な、学園都市でも最高クラスの収容所に送られることとなった。この事件は学園都市でも大きな話題を生む かに思われたが、統括理事会にとって不都合な事実であったから、情報統制がなされ、学園都市の住人に御坂達が収容所送りになったことが知られることはなかった。

しかし、その一連の事件のことを知っていて、なおかつ御坂にとって一番近しい存在である一人の少女がいた。

 

「おねえさま…」

 




次回の投稿も2週間後を予定しております。よろしくお願いします。


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「収容所」

再びこの場所に戻って参りました。自分自身正直すっかり書く気力も余裕もなくなり野放し状態にしていましたが、今日を以て再スタートを切ります。よろしくお願いします。


学園都市における統括理事会の暴虐。それらの根源となっている治外法権を撤廃し、一矢報いようとした御坂。しかし結果は散々なものだった。事前に計画をアレイスターに予測された上で、身柄を拘束。

こうして今は統括理事会直轄の厳重に警備が施された収容所に収監されているわけである。

 

「しっかしそれにしても大きな収容所ね。まるで前世紀の要塞ね」

 

連行されながら入口ゲートに入る御坂達 3 人。御坂が要塞と呼ぶのも無理はない。この収容所は車で入ることができるのは収容所近くを通る一般道路までで、そこから先は人がすれ違うのがやっとの幅の通路しかない。この収容所は周囲を幅 20~30m の堀に囲まれていて、通路というのはその堀の上にまたがる橋のことを言っている。橋を渡ったすぐ先には監視塔と呼ばれている高さ10mほどの塔がそびえ、その脇には 2 階建ての長屋という言い方が一番しっくりくるような横に長い建物が、堀に平行する形で建っている。長屋と言えば聞こえはいいが、その 2 階部分の窓からは何十にもわたって銃座が備えられていて、収容所を出入りする者に対して大きくにらみをきかしている。御坂は第一印象で要塞と言ったが、どちらかというと戦国時代における城の類いに近い印象を受ける者の方が多いだろう。警備の影響により堀にかかる橋こそ小さなものだが、その橋を渡った先には縦横 200m ちょうど真上から見ると正方形の形をした広大な土地が広がっていた。ここの場合はさらに土地の上にあまり木々や建物などといった障害物が極端に少ない為、見た目よりもさらに広いように感じられた。

 

「着いたぞ、今日からここがお前らの寝る場所だ。まあ、せいぜい 3人で仲良く反省会でもやって楽しめや」

 

そうこうしている内に地下にある独房に到着した。どこの収容所でも看守の囚人に対する態度はいいとは言えない。今回御坂達を永田町からこの収容所まで連行してきた今の看守にも同様のことが言える。しかしこの看守には少なからず囚人にたいする優しさがあったのか、それとも他に理由があったのか。次の一言は完全にイレギュラーなものだった。

 

「まあこれは俺の独り言みたいなもんだが、ここに収容された奴で極刑になった奴は一人もいねえから安心しな」

 

そう言うと何事もなかったかのようにそそくさと御坂達の前から去っていった。

 

「今の話聞いたかよ? つまり俺達は殺されはしないってことだよな? はあー よかった。命だけ助かれば俺の経験上どうにでもなる」

 

素直に喜びを表す上条。その一方で二人の表情は懐疑的だ。

「そんなこと言ったって、その話が本当だっていう保障はどこにもないし… まあ嘘だっていう確信も持てないのだけれど」

 

「あの看守もしかしたら相当悪趣味な人かもよー? 収監当日にそう言っておきながら二日目には処刑が決まっているって話だったら? その処刑にあの看守が立会人になってたら?」

 

「それはアンタの考え過ぎよ」

 

実際のところ看守の言った話は本当だった。しかし御坂と食峰は今までの立場上人の言葉をそのまま受け止めることができない。ついつい言葉の裏に隠された思惑だとかその人の真意にばかり考えが及ぶ。二人は良くも悪くも頭が良すぎたのだ。今回ばかりは上条の反応の方が正しかった。

 

「でも結局のところいくら極刑にされないって言ってもここから出られなければ何の意味もないわよね」

 

確かに殺されないというのは絶対条件ではあったが、だからといって一生ここにいてもよいかと問われたら絶対に「はい」とは言えない。食峰の能力こそあれば、看守を操り監視カメラや警備システムへの操作を加え脱獄することなどたやすいこと。だがこの 3 人の中で唯一の能力者である食峰の右腕には、能力を行使できないようにする能力セーバーと呼ばれる腕輪が嵌められていた。

「まあ、はなっから上手くいく計画だとは思っていなかったけど、まさかここまであっけなく終わっちゃうなんて… 本当私達ってバカだったわよね。」

 

そう言って自分を卑下する御坂。その姿には今更ながらかつてのレベル 5 の面影はない。彼女自身能力に頼って生きてきたわけではなかったが、自分を構成するものとして能力が占める割合が彼女の場合は余りにも大き過ぎた。

 

「何言ってんだよ、御坂。お前がそんな調子だったらこの先上手くいくものも上手くいかなくなるだろ?少しは前向きに考えてみろよ」

 

しかしこの男は違った。異能の右手を宿しているとはいえその能力値は 0。確かに上条自身能力に対する憧れだとか自分が無能力者ということに対する劣等感もある。しかし所詮能力はテストと点数と同様で、ただの数字の大小によってその人の優劣を判断する 1 つの材料に過ぎない。そういう風に割り切れるようになってからは、能力開発以外のことに対しても積極的に取り組むようになった。レベル 0、無能力者というレッテル。しかしそれは同時に失うものはないと捉えることもできる。彼の心の中に吹いている風は常に追い風だ。しかしいくら彼が前向きな心の持ち主であるとはいえ、この状況を打開できるのかと問われればそれはまた別の話である。

 

「このままもしかすると、死ぬまで一生この収容所の中に閉じ込められるのかもしれないわね。ㇷㇷ、常盤台の超電磁砲改め、収容所の超電磁砲」

 

「御坂さんっさあー。いい加減さっきから悲劇のヒロインぶるのやめてもらえるかしら? 捕らえられたのは何もあなただけじゃないのよ?本当あなたはいつまで経っても子供よねえ。」

 

「何よ食峰。そんなことあんたに言われなくても分かってるわよ。この状況が嘆かずにいられないでいると思う?」

 

食峰の言い分も分かる。しかしこの場では御坂という火に油を注いでいるということに過ぎない。一方で御坂の方も言い方こそ感情的で投げやりなものだが、確かにこの状況を打開できる方法は皆無に等しかった。

 

「こんな時黒子がいればな… すぐに助けにきてくれるに」

 

「やめろ、その話は。御坂現実を受け止めろよ! 白井はもうこの世にはいないんだ」

 

「そんなこと分かってるわよ。今のはほんの冗談よ」

 

少なくとも上条と食峰の二人にはとても冗談のようには思えなかったが。この際冗談ということにしておこう。これ以上白井の話をするのは、御坂にとってまた二人にとって良くないものであるということは目に見えていた。しかし 3 人はまだ知らない… 白井黒子が生きているということを。



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