神を喰らう転生者 (とんこつラーメン)
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プロフィール

ここまで来て、やっとキャラ紹介。

でも、ここがいいタイミングなのもまた事実なんですよね…。






                闇里マユ(あんりまゆ)

 

 

身長:182cm

体重:乙女の秘密

血液型:B

年齢:転生時は15。原作開始時は18。

 

ヘアスタイル:31

ヘアカラー:黒

フェイス:8

共通アクセサリ:メガネ5

アイカラー:ブラック

ボイス:9(CV:佐藤聡美)

 

聖書の神ヤハウェと初代魔王ルシファーによって転生した少女。

嘗てはどこにでもいる普通のゲーム好きの青年だったが、ふとしたことから事故に遭い死去。

本人が気付く間もなく上記の二人によって転生し、彼が生前好きだったゲーム『GOD EATER RESURRECTION』で使用していたアバターの姿になって、彼から彼女になった。

転生してから徐々に前世の記憶は薄れていき、同時に精神が肉体に引かれていっているのか、今では完全に心の方も男性から女性のようになっている。

神機使いとしての実力はゲームをそのまま反映していて、更には彼女の持つ天性の潜在能力も相まって、間違いなく最強クラス。

更に、後からヤハウェから神器『赤龍帝の籠手』を授けられ、そのチートに磨きがかかった。

神器の中に意図的に集められた歴代の意思である英霊達との相性も非常によく、それらの力を駆使して数多くの困難を乗り越えていった。

 

同時に、異性よりも同性にモテる女性で、これまでリアスや朱乃を初めとした数多くの女性を惚れさせている。

その中には現魔王や人妻や幼女、果ては籠手に宿る英霊もいて、自分が確実に百合ハーレムを築いている事に全く自覚が無い。

かと言って異性にモテないわけでもなく、裕斗やライザーと言った面々にも本気で惚れられていて、結局のところは性別に関係なく誰にでも好かれる。

 

完全に死に設定になりつつあるが、前世が男だったと言う事もあり、未だに制服以外にスカートを履く事には抵抗がある。

私服の殆どは男性物の服装が多いが、よくリアス達から着せ替え人形のようにスカートを着せられることがある。

 

転生してからこっち、自らを鍛える事に妥協はせず、今でこそ多少は抑えられたが、一人暮らしをしていた頃は毎日のようにトレーニングをしてドライグを別の意味で呆れさせていた。

そのせいか、いつの間にか完全にトレーニング大好き人間になっていた。

 

彼女が考えた設定をそのまま反映したのか、彼女の左腕はリンドウのようにまるまるアラガミ化している。

その事に関して悲観をしてはいなくて、寧ろ受け入れている節が見られる。

体の一部がアラガミ化した影響か、アラガミが発しているオラクル波を肌で感じる能力を有している。

また、彼女が宿主となったお蔭とヤハウェの魔改造によって、ドライグも原作には無い数多くのサポートスキルを身に着けた。

 

最初は神機使いとしての義務感で戦っていたが、今では自分の意思で大切な人達を護りたいと言う確固たる意思を持って戦っている。

その心は様々な人々に大きな影響を与え、今では完全に彼女が全ての中心となっている。

 

ルシファーとヤハウェを義理の両親として、無限の龍神であるオーフィス、夢幻の龍神であるグレートレッド、使い魔であり天魔の業龍の異名を持つティアマットを義理の妹にしている。

オーフィス達は明らかにマユよりも年上なのだが、それでも彼女は三人の事を大事な妹として接している。

 

徐々に記憶の方も『闇里マユ』に侵食されていって、彼女の頭の中には本来なら無い筈の『GOD EATER』の記憶が確かに存在している。

 

戦闘スタイルは我流で、あらゆる神機パーツを駆使して戦う事が出来る。

剣だけでなく、槍や槌、大鎌も自在に操り、これまで様々なアラガミを駆逐してきた。

 

相手が天使や悪魔や堕天使などであっても物怖じせずに接し、決して色眼鏡で見るようなことはしない。

これは彼女の生来の性格が大きく影響している。

種族に関係なく、その全てを『ヒト』として見ているため、嘗ての三大勢力が持っていた差別意識は全くない。

この心掛けが他者から彼女に対する好感度を限りなくMAXまで上げている理由の一端だったりする。

 

余談だが、マユのスリーサイズはリアス達に負けず劣らずのナイスバディで、その背の高さと相まって、まるでモデル顔負けの曲線美を持っている。

詳しいサイズは本人が頑なに隠しがっている為、詳しい数字は不明。

リアスを初めとしたオカルト研究部や一緒に暮らしている面々は知っている。

 

 

 

 

 

 

    




取り敢えずはこんなところでしょうか。

もしかしたら加筆するかもしれませんが。


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プロローグ 目覚め

衝動には勝てなかったよ…。

基本的に優先するのは他の三つなので、更新速度はかなりスローになると思います。


 目が覚める。

『私』は肌触りがいいベットから、自分の身を起こす。

 

……『私』?

 

なんで一人称が『私』になっているんだ?

男である筈の自分が自然と己の事を『私』と言うのは、少々おかしい。

 

別に、自分の事を『私』と言う男性がいないわけではないが、少なくとも自分は自身の事を『私』なんて言ったことは無い。

なのに……

 

(なんで…違和感が無いんだ?)

 

ふと、自分の身体を見てみる。

すると、男の身体には無い筈の物が見えた。

 

「胸……」

 

そう、胸だ。

私の胸がまるで女性のように膨らんでいる。

と言うか……

 

(女になってる?)

 

よく見たら、確かにこの体は嘗ての自分の物ではない。

どう見ても、年頃の女性のモノだ。

 

しかも……

 

「…!左腕が……」

 

自分の左腕全体が、完全に異形の形になっているのだ。

腕の形は保っているが、これは明らかに人間の物じゃない。

鋭い爪に、筋肉が剥き出しになっている。

しかも、肩の辺りからは何やら棘のような物が何本か屹立している。

 

「これではまるで……」

 

ゴッドイーターに登場する、雨宮リンドウみたいじゃないか。

 

その時ふと、昔の事を思い出した。

 

私は嘗て、ゴッドイーターシリーズにはまっていた。

凄い時は四六時中やっていた事さえある。

 

そんなある日、とある妄想をしたことがある。

 

リンドウを救出する際に彼の神機を握った時、もしも、主人公の左腕がアラガミ化から元に戻らなかったら?……と言うものだ。

 

ま、しがない男のくだらない妄想に過ぎないのだが。

 

その上……

 

「腕輪…」

 

私の右腕には、神機使い特有の赤い腕輪があった。

この体は…神機使いになったのか?

 

けど、今はそれよりも気になっていることが幾つもある。

 

まず…

 

「なんで…裸なんだ…?」

 

なんでか、全裸でベットに寝ている私。

不思議と羞恥心は無い。

そして……

 

「ここ…どこ?」

 

どう見ても、見た事のない部屋だ。

見た目は至って普通の部屋だが、それが逆に不気味だ。

 

「机にベット…クローゼットに大きめの鏡…そして…」

 

机の上には、愛用のパソコンとスマホがあった。

この二つがあるのは非常にありがたい。

やはり、文明の利器は必要だろう。

 

窓の外を見る限りは、ここは日本で、そして、今いる場所は二階のようだ。

 

ある程度の確認が終わった後、私は自分の全身像を見るために、鏡の前に立った。

 

鏡には、女性にしては少々背が高い女の子がいた。

 

首の辺りまで伸びて、外側にふわっと広がっているウェーブのついた黒い髪。

鋭い目と固く結ばれた口元。

ふむ…美人だな。…って。

 

「これ……私のアバターじゃないか…」

 

この姿は、私がゴッドイーターリザレクションで使用していたアバターだった。

リアルで見ると、かなりの美人なんだな。

 

しかし……思った以上に精神的動揺が少ないな…。

 

その時、なにやら視界が霞んで見えた。

あれ?私ってば目が悪かったかな?

少しだけ周囲を見渡すと、机の上に眼鏡が置いてあった。

試しに掛けてみると、私にピッタリで、視界は良好になった。

 

…実に今更だが、普通ならこういう場合、滅茶苦茶混乱したりするものじゃないか…?

どういう訳か、私は至って冷静だ。

これはどういうことだ?

 

そんな時、私のスマホに着信が来た。

 

「…誰だ?」

 

もしかして、知り合いの誰かか?

そう思って、私は着信に出ることにした。

 

「……もしもし?」

『もしも~し?聞こえますか~?』

 

なにやら、陽気な男の声が聞こえる。

こんな声の男は知り合いにはいない。

 

「誰?」

『僕?僕はね~……【足長おじさん】とでも名乗ろうか』

「足長おじさん……」

 

ふざけてるのか?

 

『まず、自分の姿は見たかい?』

「ああ…。なんか女になってた」

『その姿ね、君が持ってたゲームのアバターを使わせてもらったよ』

 

やっぱりか。

 

『単刀直入に言うと、君は転生したんだよ』

「転生って……」

 

そんな事、本当にあるのか?

いや…こうしてTSしてる時点で本当なのは確定か?

 

「私…あなたに会った記憶が無い」

『あれ?もしかして、転生の時は神様がどこからともなく現れて、いくつか特典を与えた後に穴から落として転生~……なんてことがあると本気で思ってる?。あれは完全なフィクション。実際はこんなもんだよ』

 

こんなもんか。

 

『君は、前世の事は覚えているかな?』

「確か……」

 

以前の私は、何処にでもいる普通のフリーターだった。

そして、バイトの帰りに工事現場を付近を歩いていたら、突然上から鉄骨が落ちてきて……

 

「あ……私、死んだのか?」

『その通り!その後、この僕が君を転生させたんだよ!って……なんか君、冷静過ぎない?』

「それは私も思ってた。…なんで?」

『多分…精神が肉体に引っ張られてるんじゃないかな?』

 

そう言えば、このアバターの声って、かなり口数が少ないやつを選んだっけ。

しかも、あれ系の主人公って基本的に無口だしね。

そうか、納得納得。

 

「色々と聞きたいことがある」

『なんだい?応えられる範囲でなら、なんでも答えるよ』

「まず……なんで裸?」

『は…裸!?なんで!?』

「それを聞いてる。目が覚めたら裸だった」

『マジで…?僕はそんな事をした覚えはないよ?』

「でも…」

『うん。それは多分、僕の完全なミスだ。本当にゴメン』

 

口調からして、本当に悪いと思っているようだ。

反省の心は大事。

 

「別にいい。気にしてない」

『いや…。元男とはいえ、今は女の子なんだからさ、少しは気にしようよ…』

 

そうは言われても、この格好が本気で恥ずかしいとは思わない。

 

「この腕は?」

『君の記憶を覗かせて貰ってね。ちょっとキャラにアクセントを付けようと思って』

 

それだけの理由で、こんなことにしたんかい。

別に怒ってないけど。

 

「…この家は?」

『僕から君へのプレゼントさ。家賃とか光熱費とかは大丈夫だから気にしないで』

 

変なところでアフターケアがいいな。

 

「ここはどこ?」

『そこはね、日本の駒王町って場所だよ』

「駒王……」

 

なんだろう…。

どこかで聞いたことがあるような気が…。

なんだったっけ?

ま、いいや。

 

「ゴッドイーターのアバターを使用したという事は、私は神機使いに?」

『まぁね。確かに君の身体には例の【オラクル細胞】が入ってるよ』

「そうか……」

 

この腕輪を見た時から、なんとなくそんな気はしてたけど。

 

「…神機は?」

『それは今から用意するよ。その間にこの家を見て回ったら?』

「…服は、この中に?」

『ゲーム内で使用していた服装が全部入ってるよ』

「そうか…」

 

まずは服を着ないと。

私はクローゼットを開いて、中を見る。

中には、ゲーム内で見た事のある服が沢山あった。

 

その前に、下着を着ないとな。

 

私は下の棚の部分から下着を取り出して着た。

なんでか、自然とブラを付けられたけど。

これも転生の影響か?

 

下着を着た後、ティンバータンクを着た後にリーパースーツを着た。

下にはスイーパーオールを着用。

鏡で見てみると、中々に様になっている。

因みに、肩の突起物は引っ込むように念じたら、何故か引っ込んでくれた。

実にご都合主義だ。

その後、左腕には腕全体を覆うサイズの手袋を付けた。

流石に、この腕を丸出しには出来ないから。

勿論、ポケットにスマホを入れることも忘れない。

 

「行くか」

 

服を着た私は、そのまま部屋を後にした。

 

廊下は板張りになっていて、何処にでもありそうな感じのものだ。

隣にも部屋が一つあって、覗いてみると、何もなくガランとしていた。

 

二階はそれだけで、私は一階へと向かう。

 

一階はそれなりに広く、リビング、キッチン、バスルームなどを見て回った。

キッチンやバスルームは最新式になっていて、ハイテクな感じがした。

こんな所だけ贅沢になってるな。

 

リビングにも色々と揃っていて、大型の液晶テレビに綺麗なソファー。

何故か大人数座れそうなほどの広さを持つテーブル。

…私一人には勿体ないな。

 

その後もある程度見て回った後、最初の部屋に戻った。

 

戻ると、部屋の真ん中に真っ黒なアタッシュケースが置いてあった。

かなり大きく、今の私の全長と同じぐらいの大きさがあるんじゃなかろうか。

 

その時、再び私のスマホに着信があった。

 

出てみると、先程の『足長おじさん』だった。

 

「…もしもし」

『もしもし~?お家はどうだった?気に入ってくれたかな?』

「正直言って、私には勿体ない。一人で住むには家が広すぎる」

『そんなことないよ~。これから、同居人が増えるかもしれないでしょ?』

「それはないだろう…」

 

私みたいな奴と一緒に住みたがるなんて酔狂な人間、いるとは到底思えない。

どんなもの好きだ。

 

「このケースは?」

『開けてみて』

 

言われるがまま、ケースの傍に座ってから開けてみる。

すると、中には……

 

「神機……」

 

ゲーム内で私が愛用していたカリギュラ装備が入っていた。

組み合わせは、ディテクター(ロングブレード)、カストルポルクス(ショットガン)、インキタトゥス(バックラー)。

 

『手に取ってみて』

 

持ち手を持ってから持ちあげてみる。

なんだか、思った以上にしっくりとくる。

 

『どう?』

「問題無い」

 

全然重く感じない。

まるで、鉄パイプを持っているような感覚だ。

 

『ちょっと、頭の中で他の近接武器の事を想像してみて』

「わかった」

 

そうだな……部屋の中だし、ショートブレード辺りが丁度いいだろう。

他の近接武器だと、大きすぎて壁を傷つける可能性があるからな。

 

前世での記憶を手繰り寄せながら、頭の中で想像してみる。

すると、ディテクターが光り出し、それが無くなった時には近接武器がクラウディア(ショートブレード)に変わっていた。

 

「おお~…」

『頭の中で想像するだけで、近接武器や銃身をいつでも換装出来るようにしておいたよ』

「ご都合主義…」

『別にいいじゃん。所詮、物語(二次元)なんてさ、ご都合主義の塊みたいなものでしょ?』

「身も蓋もない…」

『それぐらいで丁度いいの』

 

辛辣だな、足長おじさん。

なにか、嫌な思い出でもあるのか?

 

でも…なんでこの人の言葉に疑問を感じないんだろう?

どう考えたって普通じゃないのに。

 

そんな事を考えた直後だった。

頭に軽い頭痛を感じたかと思った瞬間、彼に対する疑惑は消えていた。

 

『どうかした?』

「いや…」

『そ。ま、余計な事を考えたって意味無いし(・・・・・・・・・・・・・・・)、気楽にいこうよ』

「ああ…」

 

なんでだろう…?

不思議と、この人の事を(・・・・・・)全面的に信頼している自分がいる(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

『そうそう。今の君はかなりのチートボディになってるから』

「…具体的には?」

『君の頭と体に、今までのゲーム内のアバターの経験がそのまま反映されてる』

「わぉ…」

 

分かってるのか?

私、リザレクションは全部のミッションをクリアーした上に、ランク14の武器は殆ど持ってたぞ?

今でもプレイすれば、一人でスサノオ二体ぐらいなら倒せる自信はある。

 

「それ…相当じゃ?」

『君の努力の結晶だからね』

 

ゲーマーの廃人プレイをそんな風に言うな。

 

『ねぇ……試しにアラガミと戦ってみる?』

「…どういう事?」

『こういう事!』

 

電話の向こうで足長おじさんが叫ぶと、部屋の中央にまるで漫画やアニメに出てくるような魔法陣的なものが現れた。

 

「…なにこれ」

『そこに入れば、一瞬で戦場にワープ出来るよ!』

「嬉しそうに言うな」

 

何気にテンション上がってんじゃねぇよ。

 

「って言うか…そもそも、アラガミなんて本当にいるのか?」

『いるみたいだよ。僕にもよくわからないんだけど、どうやらゴッドイーターの世界から散発的にやって来てるみたい。少なくとも、君が今いる世界があっちみたいに荒廃したりはしないから、それだけは安心して』

「出来るか」

 

アラガミがいるってだけでも充分すぎる程危険でしょ。

はぁ……仕方がない。

 

「選択肢は無い…か」

『分かってくれた?』

「お前が私を戦わせようとしているという事はな。…何が狙いだ?」

『別にぃ~?僕は君に第二の人生を謳歌してほしいだけさ』

「戦いの人生を謳歌しろと?」

 

どんだけ殺伐とした人生だよ。

 

『でも、刺激があっていいでしょ?』

「それは……」

『前みたいに、バイトだけの人生をまた送りたいの?』

「流石にそれは…」

『でしょ?今の君はチートなんだから、戦いに関しては心配ないよ。だから、遠慮なくアラガミとの戦いをエンジョイしていいんだよ』

「してたまるか」

 

アラガミとの戦いは、完全な生存競争だぞ。

楽しむ余裕なんてあるわけないだろ。

 

「けど、アラガミの事は放置できない」

『なら……』

「乗ってやる。お前の話に」

『よっしゃー!』

「喜ぶな」

 

子供か。

 

『因みに、行く場所は場所だけでなくて、時代も超える場合があるから、そのつもりでね』

 

過去にも行くかもしれないって事か。

 

「ちゃんとここに戻れるのか?」

『その辺りは大丈夫。対象のアラガミが倒されたら、この僕がちゃんとこの家に戻してあげるよ』

 

戻すって…。

 

「アンタ…本気で何者?」

『言ったでしょ?足長おじさんだって。単なる君の後方支援者さ』

「そう……」

 

この手の相手は、何を言ってもはぐらかされるだけだ。

だったら、追及するだけ無駄か。

 

『回復アイテムの類は、全部ポケットに入ってるから、一応確認しておいて』

 

言われた通りにポケットに手を突っ込んでみると、中から小さな薬のような物が幾つも出てきた。

きっと、回復錠だろう。

 

「結構忠実」

『勿論!頑張ったからね!』

 

もっと別の事を頑張れよ。

 

『神機はちゃんと持った?ティッシュにハンカチは?トイレにはちゃんと行った?変な物を拾い食いとかしちゃ駄目だよ?』

「しゃらっぷ」

 

思わず『お前は私の親か』とツッコみそうになったところを我慢して、私は通話を切った。

 

「……行くか」

 

なんか、転生してから矢継ぎ早に色んな事や話があったけど、取り敢えずの目標は出来た。

ここがどんな世界だろうとも、私が神機使いなら、やるべきことは一つだ。

 

「アラガミを駆逐する…。それが、私の存在意義」

 

ショートからロングに刀身を変えて、神機を肩に担ぐ。

そして、ゆっくりと魔法陣に入っていく。

 

「最初は……何が相手なんだろうな…」

 

不安も高揚感も全く無い。

考えるのは、どうやって『敵』を殺すか…それだけ。

 

魔法陣の中心に行くと、自分の身体が光の粒子へと変わっていく。

前世では考えられないような非常識な光景なのに、不思議と恐怖は無い。

 

身体が消えゆく中、私は静かに目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ゴッドイーターとハイスクールD×Dとのクロスって、思ったよりも無いんですね。

と言う事で、やってみました。

一応、数話分は話を考えてます。

主人公の名前は出ませんでしたが、別に考えてないわけじゃないです。
ちゃんと考えてますよ?
いつ名乗るかは未定ですが…。

次回は早速戦闘シーン?

さてはて、初戦の相手はどのアラガミなのか?
そして、向かった場所で誰と会うのか?

では、次回。



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序章 ~チュートリアル~
第1話 赤い龍と魔王


いつの間にか、お気に入り登録が21、UAが490になってました。

正直言って、我が目を疑いました。

こ…これは、期待をされているのか…?

ゔ…胃が……。


 遠い昔、天使と悪魔、堕天使の三大勢力は、果ての無い戦いを続けていた。

悠久の昔から続いている戦いの発端はなんだったのか。

それを記憶している存在は、最早いない。

唯一つ確かなのは、このままの状況が継続したならば、犠牲者は増える一方で、確実に三者とも絶滅を免れないと言う事実だけだった。

 

そんな中、三大勢力の戦争にある転機が訪れた。

戦場に突然、赤い龍と白い龍が乱入し、互いに戦いを始めてしまったのだ。

その強大さから、二天龍と呼ばれた二匹の龍……ドライグとアルビオン。

二匹の戦いの余波は、それぞれの勢力に甚大な被害を与えた。

 

流石にこの状況を静観出来るほど、三大勢力も愚かではなかった。

彼らはすぐさま、即席の停戦協定を結んで、二天龍を食い止めるために行動を開始した。

 

だが、そんな彼らの決意は、本来なら居ない筈の第4の勢力の出現によって覆される。

 

突如として戦場に出現した謎の存在。

三大勢力の戦士達だけのみならず、二天龍にも無差別に襲い掛かる異形の怪物。

これによって、彼らの戦場は未だ嘗て無いほどに混乱していくのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「くそっ!本当に何なんだよ!?」

 

攻撃を仕掛けながら、堕天使の総督であるアザゼルは悪態をつく。

 

彼の放つ光の槍は、眼前にいる異形……ザイゴートに命中するが、全く効いていなかった。

それもその筈。

細胞結合が非常に強固なアラガミに、通常の攻撃が効くはずがない。

それは、例え人外の攻撃であっても例外では無かった。

 

反撃と言わんばかりに、アザゼルに向かって空気の弾を放つザイゴート。

それを避けて、少し距離をとるアザゼル。

 

「そっちはどうだ?サーゼクス」

「駄目だ…!最初はなんとか倒せたが、二回目以降は何故か僕の『滅びの魔力』も通用しなくなってしまった…」

 

全てを文字通り消滅させる『滅びの魔力』。

だが、アラガミ達はそれすらも学習し、それに対する耐性を付けてしまった。

もう…彼の力は通用しない。

 

「ミカエル…そちらは?」

「こちらも被害が甚大です…!しかも……」

 

黄金の翼を背に持つ大天使『ミカエル』。

彼の背後には、二天龍の一角である赤龍帝『ドライグ』がいた。

 

ドライグは、その龍爪の一振りで天使達を一掃し、そのテイルアタックで大地を吹き飛ばした。

 

「畜生…!『前門の虎、後門の狼』とはよく言ったもんだぜ…!」

「全くだね…!」

 

苦い顔で冷や汗を掻くサーゼクス。

その顔には焦燥が浮かんでおり、内心で焦っているのを感じさせた。

 

複数存在ししているザイゴート達は、彼らを包囲して、攻撃態勢に入ろうとする。

 

その時だった。

 

「着地成功」

 

全身黒ずくめの、歪な形の剣を持った少女が、あろうことかドライグの頭の上に降り立ったのだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 魔法陣に入った直後、私はいつの間にか何故か空の上にいた。

現在絶賛落下中。

 

風でちょー髪が逆立ってます。

 

そんな中、相変わらず冷静な頭で、色んな事が気になっていた。

 

まず一つ。

 

「空……紫だ」

 

どう考えても普通じゃない。

一体ここはどこやねん。

 

そして…

 

「いつの間にか靴…履いてる」

 

下らないとか言わない。

私的には気になってるんだから。

 

魔法陣に入ったのは室内。

勿論、靴なんて履いてない。

なのに、気が付けば私の足には靴が装着されていた。

ヒールが高い黒い靴。

なんとも女性的だ。

 

細かい所にも気を使う。

何気に私の中で足長おじさんに対する好感度が上がった。

 

最後に、私にとって一番重要な事。それは…

 

「全然…怖くない……」

 

そう。

実は私、超がつくほどの高所恐怖症なのだ。

脚立に乗っただけでも足が震えるほどで、こんな状況は、いつもの私なら顔から涙と鼻水、涎を全部出して喚き散らす筈なのだ。

なのに、今の私は全然恐怖心を感じない。

不思議なぐらいに無表情だ。

 

呑気にそんな事を考えていると、段々と地表が見えてきた。

 

見えたのは、宙に浮いている人型の何か。

背中に色んな羽が生えている事から、どうやら人間では無い様だ。

って……それに対して何か言うことは無いのか?私……

 

その近くには白と赤の大きな龍?…みたいな奴がいた。

あれ…龍だよね?

なんか大暴れしてるけど。

 

そして、その周囲には見た事のあるような姿が見えた。

あれは……

 

「ザイゴート…」

 

神機使いにはお馴染みの、序盤の雑魚キャラだ。

けど、腐ってもアラガミ。

通常戦力では到底太刀打ち出来ない。

見た感じ、あの人達は苦戦しているみたいだ。

このままじゃヤバいかもしれない。

 

内心ちょっとだけ焦っていると、いきなり突風が吹いた。

 

「あ」

 

その影響で、私の身体は大きく落下位置を変えて、赤い龍の方へと向かって行った。

このままではぶつかってしまう。

 

「着地……出来るかな?」

 

って言うか、やらなきゃヤバいでしょ。

 

ドンドンと龍が迫って来る。

私はなんとか空中で体勢を整えて、着地の準備をする。

チャンスは一瞬だ…!

 

龍の頭部に最大まで近づいた瞬間、私は両足を上手く曲げて、落下の衝撃を最小限に止めることに成功した。

 

着地したのは、赤い龍の頭だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 着地に成功した私は、まず状況を確認した。

眼前にはザイゴートが10体。

蝙蝠のような羽を持つ人達と、黒い羽根を持つ人達、白い羽を持つ人達(一人だけ金色の羽を持つ人がいるけど)が大勢。

そんでもって、私の足元には赤い龍がいて、その隣には白い龍がいる。

 

「…………ナニコレ?」

 

思わず呟いてしまった私は悪くないはずだ。

 

「それはこちらのセリフだ!!」

 

お?なんか下から声がするぞ?

 

「もしかして…」

 

今喋ったのって、この赤い龍か?

 

「貴様が何者かは知らんが……我々の邪魔をすると言うのであれば、容赦はせんぞ!!」

 

そう言うと、赤い龍はその大きな手をこちらに向けてきた。

このまま私を潰す気か?

 

「潰れてしまえ!人間!!」

 

キャータスケテー。

なんて言う訳ないだろ。

って言うか、喋るんだね。

 

「に…逃げるんだ!!!」

 

蝙蝠の羽を生やした赤い髪のお兄さんが叫ぶが、気にせず私は目の前の龍の手に向き合う。

私は自分の『左腕』を振り上げて、その大きな手を受け止めた。

その際、『ズーン!』と言う擬音が聞こえたような気がしたけど。

 

「ば…バカな!?俺の手を受け止めだと!?」

「そ…そんな事が……」

 

あ、なんか皆がちょー驚いてる。

そっか、今の私ってば神機使いになってるから、これぐらいはもう楽勝なんだ。

ある意味、私も立派な人外なんだなぁ~…。

 

「はぁ……。これ…邪魔」

 

龍の手を受け止めている左腕を一旦引いて、その後に全力でグーパンチを叩きつける。

するとどうでしょう。

 

「ぐあっ!?」

 

龍の手は勢いよく飛んでいき、私の視界から消えたではありませんか。

これでスッキリ。

 

「俺の手を一撃で払いのけるとは……」

「この人間は…何者だ…?」

 

なんか二匹の龍が大人しくなったぞ?

さっきの大暴れはどうした?

ま、私的には都合がいいけど。

 

「おい…赤い龍」

「ドライグだ」

「…え?」

「俺はドライグ。こいつらは赤龍帝と呼んでいる」

「ふ~ん…」

 

ドライグ…ね。

どっかで聞いたことがあるような…。

別にいいか。

 

「今からあの宙に浮いている丸い奴を仕留めるから、ちょっとだけジッとしてて」

「なんだと?貴様…あれがなんなのか知っているのか?」

「一応」

 

説明したいのは山々だけど、今は急いでこいつらをなんとかしたい。

私は神機を肩に担ぐと、ドライグの鼻先まで歩いて行った。

すると、ザイゴートに囲まれている人達が叫びだした。

 

「おい!お前が何者かは知らねぇが、今はそこでじっとしてろ!」

「それより、早く彼女をあそこから降ろさなければ!」

「だが…このままでは身動きが出来ない…!」

 

あ、やっぱりピンチなのね。

けど、アラガミ相手に神機使いでもないのによく持った方だよ。

いや、マジで。

 

「大丈夫」

「「「え?」」」

 

初めての戦闘で、まさかの空中戦だけど、なんとかなるでしょ。

実際、やるしかないんだし。

 

私の出現に、ザイゴート達は一斉に私の方を向いた。

どうやら、何にもしていないにも関わらず、私にヘイト値が集中しているようだ。

これは都合がいい。

 

「…よし」

 

大きく足を曲げて、跳躍の体勢をとる。

今更ながら、ちょっとだけ助走をした方が良かったかも、なんて思ったりもしたが、なんかカッコ悪いため、そのまま飛ぶことにした。

 

「はぁっ!!」

「「「と…飛んだ!?」」」

 

全力で大きくジャンプ。

目指すは一番近くにいるザイゴート。

 

オラクル細胞によって大幅に強化された私の脚力は、想像以上のジャンプ力を見せてくれた。

 

かなりの距離があった筈だが、なんとかギリギリでザイゴートに届いた。

そのままザイゴートにしがみつき、神機を全力で突き刺す!

 

「消えろ」

 

血飛沫と共にザイゴートは獣のような断末魔を上げ、息絶えた。

 

「た…倒した!?」

「んなバカな!?俺等がどんだけ攻撃しても碌にダメージを与えられなかったんだぞ!」

「それを…たったの一撃で…!」

 

なんか言ってるけど、今は無視無視。

 

「まずは一体」

 

次のターゲットを視界に入れて、ザイゴートの死骸を足場にして再び飛ぶ。

その直後にザイゴートが空気弾を撃ってきたが、ジャンプ直後だった為、丁度いいタイミングで回避出来た。

 

「くらえ」

 

次は着地もせずに、そのまま両手持ちで斬撃を浴びせる。

再び血飛沫が私の身体にかかる。

 

「二体目」

 

死骸が消え去る前に、また足場代わりにして、次の目標へと飛ぶ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

               サーゼクスSide

 

 

 

 突如、空から降ってきた謎の少女。

気配から人間であることは分かるが、それにしては異常な力だった。

ドライグの掌底を片手で受け止めるだけではなく、その手を拳の一撃で払いのけた。

しかも、信じられないような跳躍力で飛んで、我々が倒せなかった謎の怪物を、その手に握った歪な形の青い剣の一撃で仕留めてみせた。

彼女の全長と同じぐらいの大きさの剣を、まるで手足のように扱うその姿は、最早私の知っている人間から完全にかけ離れていた。

 

少しでも足を滑らせれば、地面に叩きつけられて確実に死ぬ。

なのに、彼女は全く怯むことなく敵へと向かって行く。

 

その姿が、僕には何故か美しく見えてしまった。

 

「なんなんだよ……あの嬢ちゃんはよ…」

「まさか…天から遣わされた戦士とでも言うのでしょうか……」

 

アザゼルとミカエルも驚きを隠せないでいるようだ。

僕と同様に、その目は大きく見開かれていて、気が付けば戦場にいる全員が彼女の勇姿に魅了されていた。

そう…あの二天龍すらも。

 

「あの小娘は……」

「何者だ……」

 

先程から、二天龍はピクリとも動かない。

本来ならば、またとないチャンスの筈なのに、何故か彼女の方を見続けていた。

 

その時だった。

 

「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

いきなり、悲鳴が聞こえた。

それは、同じ悪魔の友人であるセラフォルーのものだった。

彼女は、先程から少女が倒している化け物の一体に襲われてた。

なんとか反撃をしてはいるが、全くと言っていいほど通用していない。

 

その時だった。

少女がセラフォルーを襲っている奴へと向かって行き、見事に仕留めてみせたのだ。

 

一瞬だけセラフォルーの方を見たが、すぐさま次の獲物に飛んでいった。

 

僕は急いで彼女の元へと駆けつける。

 

「大丈夫だったかい?」

「う…うん…」

「…?どうした?」

「あの子…私の横を飛んでいく時に一言言ったの…」

「え?」

「『よかった』って…」

 

セラフォルーは茫然としていて、何故か目の焦点が合っていない。

まさか…?

 

そんな事を考えている間にも、彼女は次々と仕留めていく。

 

そして、遂に最後の一体になった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 危なかった~。

なんか魔法少女のコスプレをしている女の子がザイゴートに襲われそうになってて、咄嗟に進路を変えて駆けつけたけど、間に合ってよかった。

 

正直なところ、実は不安だった空中戦だが、思ったよりも順調で、とうとうラスト一体になった。

 

ま、小型のアラガミならこんなもんだろう。

 

最後のザイゴートに組み付き、神機で叩き斬る。

急所に当たったのか、大量の血を噴き出して尽きた。

 

その時、私は重要な事を思い出した。

 

(戻る時の事をすっかり忘れてた…)

 

ザイゴートの死骸はすぐさま落下を開始する。

ドライグまではかなりの距離がある。

どうする?ダメ元で飛んでみるか?

てか、それしかないじゃん。

 

「よし」

 

沈みゆく体に気合いを入れて、思いっきりジャンプする。

けど……

 

「あ…」

 

案の定、届きませんでした。

 

う~ん…上手い事着地出来れば何とかなるか?

 

頭を切り替えて、すぐに次の事を考える。

すると…

 

「え?」

 

誰かに空中で抱きかかえられた。

なんでかお姫様抱っこだったけど。

 

見てみると、さっきの赤い髪のイケメンのお兄さんだった。

 

「ありがとう」

「それはこちらのセリフだよ」

 

お兄さんは爽やかな笑顔で微笑みかけた。

これは…そこらの女の子ならイチコロだな。

ってゆーか、私の身体、血塗れなんですけど…いいの?

 

「君のお陰で我々は助かった。もし君が来てくれなかったら、僕達は全滅していたかもしれない」

「そう」

 

あ、なんか気にしてないっぽい。

本人が気にしてないなら、それでいいけど。

帰ったらシャワー浴びないとな。

 

「ところで、君は一体…」

「私は…」

 

名前を言おうとしたが、咄嗟に思いとどまる。

安易に名前を言っていいのか?

そもそも、なんて名乗ればいい?

前世の名前か?

いやいや…流石にそれは無いだろう。

ちゃんと転生したのだから、生まれ変わったと言う意味も込めて、別の名前を名乗るのが筋ってヤツだ。

けど、なんて名前にしよう?

やっぱり、アバターの名前をそのまま名乗るか?

 

ある意味、戦いの時以上に頭を巡らせていると、いきなり私の身体が光り出した。

何なのかと思っていると、私の足元に来た時と同じ魔法陣が形成されていた。

 

「こ…これはっ!?」

「もう時間か…」

「時間!?もしかして、行ってしまうのかい!?」

「ああ」

 

こればっかりは仕方がない。

どうやら、ミッションは無事にクリアーしたみたいだし。

 

「せめて…せめて名前を教えてくれ!」

 

そんな事言ってもな…。

もうすぐ消えちゃうし…。

 

心の中で慌てた私は、咄嗟にこう名乗った。

 

「私は…神を喰らう者(ゴッドイーター)

「ゴッド…イーター…」

 

つい名乗ってしまったが、これって個人名じゃなくて職業名じゃね?

ま、いいか。

どうせ、もう会うことなんてないんだろうし。

 

「…さよなら」

 

最後に一言だけ挨拶をしてから、私の身体はその場から消えて、元の場所へと戻っていった。

 

あ、そう言えば、あのお兄さんの名前を聞いてない。

一期一会なら、せめて聞いておけばよかったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




思考錯誤しながらの執筆でしたが、これで本当に良かったのかな…?

なんか、不安で一杯です…。

まだまだ原作前の話は続きます。

では、次回。




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第2話 赤い少女

昨日、ミスをしてしまい、かなり落ち込んでいたのですが、この作品の感想や、お気に入り数やUAが倍以上になっていた事がかなりの励ましになりました。

本当に、ありがとうございました!


 アラガミとの戦いから自宅に帰還すると、靴はいつの間にか脱げていた。

相変わらず細かい所がご都合主義だな。

体についた血糊はそのままだけど。

 

窓の外は真っ暗になっていて、結構長い間戦っていたことが分かった。

 

「まずはシャワーで身体を流さないと…」

 

そう思って部屋を出ようとすると、ポケットの中のスマホが震えた。

条件反射的に取り出して通話に出る。

 

「はい?」

『あ、僕僕』

「僕僕詐欺か?」

『違うよ!君の大好きな足長おじさんだよ!』

「別に好きじゃない」

 

顔も見た事も無いのに、好きも何も無いでしょうよ。

 

「で…何?早くシャワーを浴びたいんだけど」

『そう言えば、今の君は色々と汚れていたね。いいよ、女の子をそのままにしておける程、僕も鬼畜じゃないさ。まずは体を洗ってスッキリしてきなよ』

「言われなくてもそうする」

 

私は一旦通話を切って、シャワーを浴びに行った。

勿論、着替えをちゃんと持って。

神器はアタッシュケースに収納して。

その際、着ていた服は洗濯機に放り込んだ。

 

シャワーを浴びて、身も心もスッキリした後、持ってきていた服に着替えてから部屋へと戻った。

もう暗くなっているので、部屋の電気をつける。

これだけで、かなり安心する。

因みに、着ているのはランブルサマカジとハルシオン高体操着(下)だ。

 

部屋に戻るとすぐに、またスマホが鳴った。

 

「もしもし?」

『やっほ~!スッキリしたかい?』

「お陰様で」

『それはよかった』

 

お前は親か!とツッコみたくなったのは、気のせいだろうか。

 

『実はね、君が戦いに行っている間に色んな物を用意しておいたんだよ』

「色んな物?」

『うん。机の上に大きめの封筒があるでしょ?』

「ああ…これか」

 

確かに、机の上には市販で売っているようなA5サイズの封筒があった。

 

『中を見てみて』

 

封筒を開けて中身を見てみると、中には色んな書類と通帳、印鑑があった。

 

『まずは君の戸籍が必要だと思ってね』

 

書類は、私の戸籍に関する物と、どこかの高校に入学する為に必要な書類だった。

 

『君にはいずれ、この町にある高校に通って貰おうと思ってるんだよ』

「でも…腕が…」

 

この腕で普通の高校は難しいでしょ…。

 

『その辺は大丈夫。ちゃんと手袋を用意するから』

「それなら…いいのか?」

 

ま、今回もそれで誤魔化せたし…別にいいか。

 

『それと、生活にはやっぱり、先立つものが必要でしょ?』

「ごもっとも」

 

それで、この通帳か。

一体いくら入っているのか、ドキドキワクワクしながら通帳を開ける。

すると、そこには我が目を疑うような額が刻まれていた。

 

「な…なんだと…!」

 

通帳には【5000000】と書かれていた。

 

「ご…五百万って…」

『君は命懸けで人類の脅威と戦ったんだよ?これぐらいの報酬ぐらいはあってもいいでしょ?』

「しかし…この額は…」

 

ぶっちゃけ、前世の私の年収を軽く上回ってるんですけど…。

 

『これから、毎月これぐらいの額を入金するから』

「嘘だろ…?」

 

これなら、ちょーよゆーで暮らせるんですけど…。

しかも、敷金礼金や光熱費は無いんでしょ?

 

「どんだけ…」

『ま、確かにやり過ぎかもしれないけど、これは僕が好きでやってる事だから、気にする必要は無いよ』

「……わかった」

 

これはこれで納得しないと、話が終わらないな…。

 

『最後に、君にとっておきのご褒美があるんだ!』

「今度はなんだ…」

 

もう、何が来ても驚かないぞ…。

 

『まず、左腕を前に突き出して』

「は?」

『いいから』

 

なんなんだ…。

 

疑問に感じながら、私は渋々と左腕を前に出した。

こうしてみると、この腕ってつくづくグロテスクだよなぁ…。

左腕限定で完全にアラガミ化してるんだから、仕方が無いんだけどさ。

 

『次に、君が最も強いと思うものを頭の中で想像してみて』

「わ…わかったよ…」

 

さっきから私に何をさせようとしてるんだ…?

 

強いもの…か。

私の中で強いものと言えば…。

 

(リンドウさんか…ソーマかな…)

 

ふと、頭の中に戦闘中のリンドウさんとソーマの事を想像する。

すると……

 

「なっ…!?」

 

急に左腕が光り出し、それが収束すると、異形の腕に刺々しい龍の鱗を彷彿とさせる深紅の籠手が装着されていた。

手の甲の部分には、緑色の宝玉が装着されている。

 

「なに…これ」

『それは『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』と言う名の『神器(セイクリッド・ギア)』だよ』

「セイグリッド・ギア…?」

『う~ん…詳しく話すと長くなっちゃうけど、簡単に言えば、神様が人間達に与えた秘密兵器ってところかな?』

「秘密兵器…」

 

訳が分からないけど、役に立つものである事は確か…かな?

 

『その籠手の能力はね、【10秒ごとに様々な能力を倍化する】と言うものだよ』

「倍化…」

 

それって、かなり凄くない?

しかもこれって、ちょっとした防具にもなりそうだし。

 

『おい。俺はいつまで黙っていればいいんだ?』

『おっと、ごめんね。ついつい忘れていたよ』

 

籠手から声が聞こえる。

しかも、この声って…

 

「あの時の赤い龍?」

『ドライグだ。一発で覚えろ』

 

ああ、そうだった。

ちょっと忘れてたよ。

 

『それが、さっき言った君への【ご褒美】だよ』

『俺を勝手に褒美にするな』

『え~?別にいいじゃん。君だってまんざらじゃないんでしょ?』

『それは…』

『心配しなくても、彼女は間違いなく歴代で最強の赤龍帝になるよ』

『それに関しては心配はしていない。こいつの戦いを近くで見ていたからな』

 

そう言えばそうだったね。

あの時は夢中だったから、すっかり頭の隅から消えてたけど。

 

「ところで…どうしてこんな姿に?」

『詳しい経緯は省くが、俺は三大勢力の連中に封印されて、こんな姿になってしまっている』

「ふ~ん…」

 

あんな大きな龍を封印するなんて、あのお兄さんたちも中々やるもんだね。

少しだけ見直したよ。

 

『これからは、彼が僕の代わりにサポートをしてくれるよ。主にアラガミの出現を感知したりとかね』

「お前は?」

『僕は、必要な時にこちらから連絡するようにするよ。基本的には、ドライグと一緒に頑張ってほしい。ドライグもそれでいいかい?』

『いいだろう。俺としても、こいつの行く末には興味がある』

『そう言って貰えて良かったよ』

 

これからはドライグがナビゲーター代わりか。

それはそれでいいかもな。

 

『それと、君の神機を赤龍帝の籠手に収納出来るようにしたよ』

「おお…」

 

それはありがたい。

神機をいつでも取り出せるのは、とてもいい。

 

『試しに、神機を籠手に当ててみて』

「了解」

 

アタッシュケースから神機を取り出して、籠手に持ち手の部分を当てる。

すると、神機が眩しく発光して、籠手に吸い込まれるように消えていった。

 

『お前が言えば、いつでも出してやる。それと、装備の変更もな』

「…出してみてもいい?」

『ああ』

 

籠手の宝玉が光ると、神機が収納した時と同じような感じで出現した。

だが、少しだけ違っていた。

 

「色が違う…」

 

本来なら青い筈のカリギュラ装備が、真っ赤に染まっていたのだ。

これではまるで、ルフス・カリギュラ装備のようだ。

 

『恐らく、俺の影響を受けたせいだろう。別に色が変わっても、性能に変化は無い筈だ』

「そう…」

 

ま、この色も嫌いじゃないからいいけど。

 

一応の確認が出来たから、私は再び神機を収納した。

 

「この籠手を収納する時も?」

『同じ感覚で構わない』

 

少し精神を集中すると、籠手が光って消えた。

 

「おお~…」

『これで大丈夫だね』

「ああ」

『僕はそろそろ失礼するよ。今夜はゆっくりと休んでね』

 

通話が切れた。

 

「…寝るか」

 

多分、明日以降もアラガミとの戦いが待ってるだろうしな。

 

私は、ベットに入って大人しく寝ることにした。

 

相当に疲れていたのか、転生初日の夜は、ぐっすりと眠ることが出来た。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 冥界のグレモリー領内にある森の中。

 

そこで、一人の幼い少女が散歩をしていた。

少女の名はリアス・グレモリー。

魔王であるサーゼクス・ルシファーの実の妹で、冥界における名家であるグレモリー家の娘でもある。

 

「空気が美味しい…」

 

現在、彼女の両親は用事でおらず、兄のサーゼクスは他の魔王と会議の真っ最中である。

幼い彼女にとって、大人達の話は退屈極まりない。

故に、こっそりと屋敷を抜け出して、こうして森の中を散策しているのだ。

 

「はぁ…お父様もお母様もお兄様も…少しは構ってくれてもいいじゃない…」

 

名家であるが故に、家族は毎日のように忙しい。

特に、魔王と言う立場にいるサーゼクスは非常に多忙だ。

 

「私も…大人になったら、あんな風に忙しくなるのかしら…」

 

周囲の大人の姿を見て、急に自分の将来が心配になるリアス。

自分が普通の身分でないのは幼心に理解はしているため、その落ち込みようはさらに深くなる。

 

その時だった。

付近の草むらが少しだけ揺れた。

 

「あら…?何かいるのかしら?」

 

子供故の好奇心で、草むらを覗くリアス。

だが、それが彼女の命を危機に晒すことになろうとは、その時の彼女には想像もしなかった。

 

リアスの身体が謎の影に覆われる。

反射的に上を見上げると、そこには…大きな牙を持つ異形の獣がいた。

その体には腕部に該当する部位が無く、鬼の顔のような巨大な尾を持つアラガミ…オウガテイル。

そのオウガテイルが草むらから飛び出し、リアスに襲い掛かった!

 

「ひっ…!?」

 

余りの恐怖に、悲鳴すら上げられず、その場に座り込んでしまう。

完全に腰が抜けてしまい、身動きが出来ないリアス。

絶体絶命のピンチだった。

 

「だ…誰か…助けて…!お兄様……!」

 

目尻に大粒の涙を浮かべ、兄の名を呼ぶ。

だが、彼は現れない。

そんな彼女を無視して、ゆっくりと近寄るオウガテイル。

その口が大きく開かれ、リアスの眼前に近づいた……その瞬間…

 

「ドライグ!!」

【Boost!】

 

その左手に赤い籠手を装着した少女が、オウガテイルを全力で殴り飛ばした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 あ…危なかった…。

転移してからすぐに女の子の悲鳴が聞こえたような気がしたから、慌てて行ってみると、まさかオウガテイルがいるなんて。

オラクル細胞によって強化された聴力に感謝だな。

 

オウガテイル……神機使いにとっては正真正銘の雑魚中の雑魚だが、あんな小さな女の子にとっては恐怖の対象以外の何物でもないだろう。

本当に間に合ってよかった。

 

私は急いで女の子の傍まで行き跪くと、よっぽど怖かったのか、体全体を大きく振るわせて、悲鳴すら上げらない程に脅えている。

 

「怪我はない?」

「う…うん…」

 

出来るだけ優しく言ったつもりだったんだけど、意味なかったみたいだ。

仕方ない…。

 

「大丈夫……私がついてるから…」

「…!」

 

私はゆっくりと彼女を抱きしめた。

そして、その赤い髪を静かに撫でる。

 

「う…うわぁぁぁぁぁぁぁん!!怖かったよぉぉぉぉぉぉ!!」

「そうだね。よく頑張ったね」

「ひくっ……お姉ちゃぁぁぁぁん…」

「うん。ここにいるよ」

 

これでいいのかな…?

小さな子供をあやした事なんて無いから、よくわかんないや。

 

すると、殴り飛ばしたオウガテイルがのそのそと立ち上がった。

いくら赤龍帝の籠手とは言え、神機での攻撃でない以上、効果は薄かったか…。

 

「しっかりと捕まって」

「う…うん」

 

女の子は私の服にしがみつく。

因みに、今回の私の服はFSATグリーンの上下セットだ。

動きやすさ重視にしてみました。

これなら、左腕も全体的に覆えるしね。

 

私は神機を前方に構え、女の子は左腕で支える。

 

『相棒!増援が来たぞ!』

「マジ…?」

 

周囲を見渡すと、草むらからオウガテイルが次々と出現する。

その数、大体6体程。

これぐらいなら楽勝だけど、女の子を庇いながらだしなぁ…。

ま、なんとかするしかないか。

 

「ドライグ、ショートに変更」

【Short!】

 

ドライグの音声と共に神機の刀身が光り、刃がショートブレードであるクラウディアに変更された。

これなら片手でもいける。

 

「目…瞑ってて」

「うん…」

 

女の子は私の腕の中でギュっと目を瞑る。

その仕草が可愛くて、ちょっとだけ和んだが、すぐに思考を切り替えた。

 

私は一気に飛び出し、眼前にいるオウガテイルを切り裂く。

勿論、その際には返り血が女の子にかからないように考慮して。

 

オウガテイル自体の耐久力は低く、すぐに倒せるが、やはり誰かを庇いながらの戦闘と言うのはやりにくい。

タツミさん達、防衛班の人達はいつもこんな感じで戦っているのか…!

本当に…凄い人達だよ…!

 

「次…!」

 

オウガテイルがこっちに向かって突撃したり、その尾から棘状の弾を飛ばしてきたりするが、余裕で躱す。

だが、こちらが全力で動けば女の子にも大きく負担がかかることになる。

だから、必然的にこっちの動きは制限されてしまう。

けど……

 

「やるしかない…」

 

覚悟を決めてから、突撃してきたオウガテイルをカウンターの要領で切り裂く。

 

片手では銃形態は使えない為、ヒットアンドアウェイの要領で立ち回っていった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 会議が終わったサーゼクスは、妹のリアスを迎えに行ったが、与えられた部屋に彼女はいなかった。

 

「リアス…?」

 

開いている窓を見て、嫌な予感がした彼は、急いで会議場の付近を捜索する。

すると、近くの森の中から、戦闘音のようなモノが聞こえてきた。

 

「これは…まさか…!」

 

自分の嫌な予感が的中したことを感じたサーゼクスは、すぐに森の中へと入っていった。

 

そこでは、妹のリアスが見覚えのある少女に抱きかかえられていた。

 

少女は、右手には嘗て見た武器(刀身と色は違っている)を持ち、左腕には深紅に輝く籠手を装着して、見た事も無い異形の獣と戦っていた。

 

「彼女は…!」

 

サーゼクスは忘れてはいなかった。

あれからかなりの歳月が経過したが、少女の鮮烈な存在感と力は忘れようがなかった。

 

予想外の光景に呆けていたサーゼクスを他所に、少女の無双は続いていく。

 

リアスを庇いながら戦っていると言うのに、彼女の動きには全く迷いが無い。

不利とも言える状況の中でも、彼女の強さは劣ることは無かった。

 

そして、彼女の戦いは終わりを迎えた。

 

「これで…ラスト」

 

最後の一体を切り裂くと、少し離れた場所に移動して、ゆっくりとリアスを降ろした。

 

「もう…いいよ」

「うん…」

 

命を救われたせいか、リアスは彼女に懐いているように見えた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 ちょっとだけ苦労したけど、なんとか殲滅出来た。

 

オウガテイルの死骸から離れて一息ついていると、見たことがあるような人物がやって来た。

 

「リアス!」

「お兄様!」

 

あれって…あの時のイケメンさんだよね?

お兄様って……あの子はあの人の妹って事?

 

女の子はイケメンさんに走って行って、抱き着いた。

 

「よかった…無事で…」

「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 

うんうん。

やっぱり兄弟は仲良しが一番だ。

ここに私がいるのは無粋だな。

 

神機使いはクールに去るぜ。

 

「待ってくれ!」

「え?」

 

お兄さんがいきなり私を引き留める。

なんじゃらほい?

 

「君は…あの時のゴッドイーター…なのかい?」

「それは…」

 

これはイエスと言うべきか?

 

「……そうだ」

「やはりか…」

 

あ、お兄さんがこっちに近づいてくる。

 

「妹を救ってくれてありがとう。君にはまた助けられてしまったね」

「別にいい。私は私の役目を果たしたに過ぎないから」

「君の役目…?」

「そう。だから、気にしなくていい」

「それでも…君に僕達が助けられたのは事実だ」

 

しつこい人だな…。

本人が気にするなって言ってるのに。

 

「けど、君は本当に何者なんだ?君は人間のようだが、君が最初に冥界に現れてから既に数百年が経過している。それなのに、君の姿は全く変わらない。それに…」

 

え?冥界?

あ、そう言えば空が紫だ。

そうか…ここって冥界なんだ…。

冥界ってあの世じゃなかったっけ?

 

それに、あれから数百年が過ぎてたんだ。

あれって、かなりの過去だったんだな。

なんでかすんなりと納得してるけど。

 

「その籠手は…赤龍帝の籠手だろう?」

「まぁ…」

「君が…現代の赤龍帝になった…という事かい?」

『その通りだ』

 

うわっ!

いきなり割り込んでこないでよ。

 

「この声は…!」

『久し振りだな、赤髪の魔王よ』

「そうだね…」

『お前の言う通り、この娘こそが今の赤龍帝だ。そして、歴代最強の…な』

「確かに…彼女の能力に赤龍帝の力が加われば、鬼に金棒だ」

『なんであの時会った我等がこんな事になっているかは言えんが、この娘に敵対する意思が無いのは俺が保証しよう』

「赤龍帝の言葉ではイマイチ説得力に欠けるけど…彼女が邪悪な存在では無いのは、その戦いを直に見た僕達が一番よくわかってるよ」

『それならばいい』

 

いいのか。

 

「…あれからずっと…また君に会いたいと思っていたよ」

「そうか…」

 

なんか…凄く澄んだ瞳で私の事を見てくるんですけど?

しかも、いきなり私の手を握ってきたんですけど?

籠手越しだけど。

 

「君に…どうしても言いたいことがあってね…」

「何…?」

 

うぉう…。

なんか、超真剣な表情なんですけど?

 

「僕の…眷属になって欲しい」

「………はい?」

 

眷属?

なにそれ?

 

「君の為に、わざわざ『女王』の枠を開けているんだ」

「そう言えば、グレイフィアは『僧侶』だったわね」

 

グレイフィアって誰?

それに、女王と僧侶って?

チェスの駒の事を言ってるの?

 

状況が分からず、そんな事を考えていると、その時はやって来た。

 

「この光と魔法陣は…!」

「お姉ちゃんが…消えていく…」

「…また…行ってしまうのかい?」

「そのようだな」

『我等には為さねばならない事があり、戻るべき場所がある。いつまでもここにはいられん』

「そうか……」

 

ちょっと…そんなに落胆しなくてもいいんじゃない?

なんか罪悪感が半端ないんですけど。

 

「出来れば…君の本当の名前を聞きたかったけど、時間が無いか…」

「ああ…」

「また…会えるかな?」

「貴方が望めば……きっと会える」

 

何を言ってんだ私は!

全く根拠も無い癖に!

 

「そうか……。ならば、君にまた会えるように強く願い、望むよ。この想いを止めることは…出来そうにないからね」

「私も願う!お姉ちゃんにまた会いたいから!」

「そうか…」

 

うぅ…。

嬉しい事を言ってくれるじゃない。

前世ではそんな事は全然言って貰えなかったからね。

純粋に嬉しいよ。

 

「最後にもう一度言わせてくれ。リアスを助けてくれて、本当にありがとう!」

「お姉ちゃん!ありがとう!」

「どういたしまして」

 

嬉しそうに微笑む兄妹を見ながら、私は家へと転移していった。

 

今度はどんなアラガミと戦うのかな?

って…もう完全に思考パターンが神機使いになってるな…。

 

あんまり疲れてはいないけど、今日もゆっくりと休もう。

次はどんな事があるか分からないからね。

休める時にちゃんと休んでおかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の話で分かるかもしれませんが、この作品は所謂逆ハーレムものです。

前回から今回に掛けて、まずはサーゼクスに対するフラグが立ちました。

さて、次は誰にフラグを建てるでしょうか?

では、次回。



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第3話 巫女少女

最近、喉の調子が悪いです。

もしかしたら、風邪を引きかけているのかもしれません。

季節の変わり目故に、体調を崩しやすくなっているのかもしれません。

皆さんも気を付けてくださいね。


『…と言う訳だから、偏食因子の投与については何も心配はないよ』

「分かった…!」

 

私は、一階に設置されているトレーニングルーム(私が勝手に言っているだけで、実際にはルームと言う程の広さは無い)で筋トレ(指立て伏せ)をしていた。

 

傍には、スマホをスピーカーモードにしてから、足長おじさんと会話していた。

 

『他にも何か聞きたいことがあったら、いつでも連絡してきていいからね』

「了…解…した…!」

 

通話が切れて、私はトレーニングに集中する。

 

「8071…8072…8073…」

 

目標は一万回。

神機使いとなった以上、これぐらいは出来なくては。

 

今の格好は、白のタンクトップにパンツのみ。

汗を掻くことを前提とした格好の為、多少は露出が多くても気にしない。

って言うか、私一人しかいない家で遠慮なんてする必要は無いだろう。

 

『おい…相棒?』

「な…に…?」

『色々と言いたいことがあるんだが…』

「言い…たい…こと…?」

 

この状況で言いますか。

 

『別に訓練をするなとは言わん。寧ろ、そう言った姿勢は非常に好感が持てる』

「そ…う…」

 

なら、一体何なのさ?

 

『だがな、その恰好はどうかと思うぞ?』

「どう…して…?」

『お前は年頃の女だろう。せめてもうちょっと露出を控えめにしてだな…』

「汗で…べたついて…集中…出来…ない…!」

 

どっちみち汗を掻くんなら、薄着でしたうえで洗濯物は少ない方がいいだろう。

これも一種の生活の知恵なのだよ、ドライグ君。

 

『それに、腕立て伏せならともかく、指立て伏せってどうなんだ?いくらなんでもちょっとハードなんじゃないか?』

「普通の…腕立て…伏せ…では…意味が…無い…!」

『いや!充分すぎるほどに意味あるだろ!』

 

何言ってるのさ。

こちとら、普通じゃない連中と戦うんだぞ?

だったら、こっちも普通じゃない筋トレをしなきゃ駄目でしょ。

丁度、今日はアラガミが出現しないって足長おじさんも言ってたし。

今日は一日、筋トレに費やすぞ!

 

あ、後でランニングついでに夕飯の買い物に行かなくちゃ。

ホント、一人暮らしは大変だ。

もう慣れたけど。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 日本にある、とある町にある、とある神社。

夕闇に包まれつつある神社にて、一組の親子が危機に陥っていた。

 

着物を着た母親が、自分の娘を庇うように抱きかかえている。

二人の周囲には、黒いスーツを着た男達の死体が散乱していた。

死体の背中には黒い翼が生えており、彼等が人外…堕天使であることが分かる。

 

実は、この堕天使達は親子の命を狙ってここにやって来たのだ。

何故、彼女達が襲われるのか。

実は彼女はとある堕天使と恋に落ち、その堕天使との子供を産んだのだ。

堕天使達は、その無駄に高いプライド故にそれがどうしても許せず、こうして堕天使と人間のハーフである娘の抹殺に来たのだ。

事実、先程まで親子は絶体絶命の危機に陥っていたが、それはとあるイレギュラーの出現にて覆される。

 

地面から突然、石畳を貫いて出現したミノムシのような謎の怪物…コクーンメイデン。

 

コクーンメイデンは5体の群れで出現し、現れたと同時に堕天使達に攻撃を仕掛けた。

 

謎の存在に完全に虚を突かれた堕天使達の一人は、次の瞬間にはコクーンメイデンの身体から生えた無数の針にて串刺しにされ、一瞬で殺されてしまった。

 

それによって我に返った堕天使達は、一斉にコクーンメイデン達に攻撃を仕掛けるが、堕天使の総督であるアザゼルでさえまともにダメージを与えられなかったのだ。

実力的に相当に劣る彼らの攻撃が通用するわけがない。

 

彼等の放つ光の槍は、コクーンメイデンに傷一つつけられず、逆にコクーンメイデンの頭部から放たれる追尾型のレーザーの反撃を受け返り討ちに遭ってしまう。

 

コクーンメイデンがその場から動けないことを見破った堕天使達は、空中に退避するが、追尾するレーザーからは逃げる事は出来ず、結局はレーザーに貫かれて、全滅してしまう。

 

堕天使達を皆殺しにしたコクーンメイデン達は、次は親子に標的を変える。

 

二人の命の危機は、全く去ってはいなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「な…何なの…一体…!」

 

いきなりの出来事に、理解が追い付かない着物の女性…姫島朱璃。

あっという間に堕天使達を葬ったコクーンメイデンの群れを見て、一瞬で次は自分達であると悟る。

彼女は、腕の中にいる最愛の娘…朱乃を先程以上に抱きしめる。

 

「お母さん…!」

「大丈夫よ…朱乃は私が守るから…!」

 

脅えながらも、その目には母親としての確たる覚悟があった。

己の命を犠牲にしてでも、娘を護ると言う覚悟が。

 

コクーンメイデンの一体の頭部が展開し、レーザーの発射体勢に入る。

 

「せめて…この子だけは…!」

 

本能的にギュッと目を瞑り、死の恐怖に耐えようとする。

 

だが、その覚悟は予想外の形で無駄になった。

 

いきなり、上空から一筋のレーザーが降って来て、今まさに攻撃をしようとしたコクーンメイデンを貫き、破壊したのだ。

 

「これ…は…?」

 

未だに自分の命がある事を信じられない朱璃は、呆けたように目を見開く。

すると、彼女の目の前に、赤い腕輪を右手に填めて、その左手には深紅の籠手を装着した赤い大きな武器を携えた少女が降り立った。

 

「なんとか…」

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 数日振りにアラガミが出現したと言うので、いつものようにドライグと出撃すると、私達はある場所に放り出された。

 

「はぁ…。ドライグ」

『なんだ?』

「問題。この状況で一言」

『もう絶対に、お前とは一緒に空を飛ばない』

「一本」

 

そう、最初にドライグと出会った時のように、また私は上空のド真ん中に降ろされたのだ。

因みに、今回の格好はジェネラルアーミーの上下セット。

スカートだけど、下にもちゃんとズボンを穿いてるから大丈夫…だよね?

 

「まさか…人生で二度もパラシュート無しのスカイダイビングを経験するとはな…」

『俺は別に空自体は普通だが、何の抵抗もなく落下すると言うのも、存外悪くはないな』

「ドラゴンのセリフじゃない…」

 

自由落下を楽しむドラゴンなんて初めて聞いたわ。

ホント…ドライグと一緒にいると、色んな意味で私の中のドラゴンに対する印象が変わっていくよ。

 

『しかし相棒よ。そんな事を言う割には、お前の方も意外と平気そうに見えるが?』

「うん。なんか知らないけど、大丈夫」

 

いやね?

別にこの変化が嫌な訳じゃないよ?

寧ろ、長年の悩みだった高所恐怖症が克服出来たことが普通に嬉しいぐらいだし。

けど…

 

「これは…克服と言うんだろうか…?」

 

なんか違うような気がする…。

別に気にしないけど。

 

そんな事を考えながら、呑気にスカイダイビング(笑)を楽しんでいると、下の状況が段々と見えてきた。

 

「あ…。なんかいる」

『あれは…堕天使だな。何をやっている?』

 

なんか…空に飛んで逃げ回っているように見えるけど。

一体、何から逃げてるんだ?

 

「あれは…」

『レーザー…か?』

 

追尾型のレーザー…。

と、言う事は……

 

『相棒!あの地面から突き出ているのは…』

「コクーンメイデン…」

 

その場から全く動けない代わりに、高い射撃能力と近接戦闘用の針をその体の中に無数に持っている小型アラガミ。

私的には雑魚に違いないのだが、それはあくまでも私達神機使いの話。

アラガミに対する対抗手段を持たない連中にとっては、あんな奴でも大きな脅威になる。

 

『…やるか?』

「そうしたいのは山々だけど…」

 

ここからでは、一番射程が長いスナイパーでも届かない。

もう少し近づく…もとい、落下しなくては攻撃出来ない。

 

「だが、準備はしておくに越したことは無いだろう」

『ならば…?』

「ドライグ、銃身をスナイパーに変更」

【Sniper!】

 

いつものように、ドライグの音声と共に、神機の銃身がショットガンのカストルポルクスから、スナイパーのオヴェリスクに換装された。

同時に、神機を銃形態に変形、いつでも撃てるように構えた。

 

『相棒。最後の堕天使が倒されたぞ』

「そう…」

 

間に合わなかったか…。

けど、不思議と悲壮感は無い。

寧ろ、仕方が無いとさえ思っている自分がいる。

なんか…精神状態が外道になってませんか?

 

『ふん…。堕天使風情がアラガミに敵うわけが無かろうて』

「ドライグ」

『事実だろう?』

 

そうだけど…死者に対してそれは無いと思うよ?

 

心の中で呟くと、スナイパーの射程距離に入った。

 

『どうやら、次はあの親子に狙いを定めたようだぞ。恐らく、あの堕天使達はアイツ等を始末するために来たんだろう』

 

はぁ…そんな事を聞いちゃうと、死んだ堕天使達に哀悼の意を示せなくなっちゃうじゃん。

 

『コクーンメイデンの一体が攻撃態勢に入ったぞ』

「分かってる…!」

 

くそ…!急加速で急降下しているせいか、狙いが定めにくい…!

こうなったら…!

 

「これで…!」

 

私は腕力で無理矢理銃身を動かし、狙いを合わせた。

 

「よし…!」

 

標準は合わせた…!

これなら…

 

「……いけっ!」

 

命中すると確信した瞬間、一気に引き金を引く。

銃口から一筋のレーザーが放たれる。

それは真っ直ぐに伸びていき、攻撃直前のコクーンメイデンを貫いた。

 

「よし…!」

 

ぶっちゃけ、この風の中で当たるかどうかは微妙だったけど、当たってよかった。

後は…

 

「ドライグ」

『任せろ』

 

ドライグは私の意を呼んでくれたのか、私の足元に赤い魔法陣を展開した。

私はその魔法陣を蹴って、落下位置を少しだけ前に変えた。

 

目標は、コクーンメイデンの群れの中央だ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 少々無理矢理な感じで進路変更したおかげで、狙い通りの場所へと降りることが出来た。

あの親子は無事だった。

せめて、この人達だけでも救いたい。

 

残りのコクーンメイデンは4体。

これぐらいなら、どうにでもなる。

 

「あ…貴女は一体…?」

 

あ、滅茶苦茶驚いてる。

無理もないか。

いきなり空から人間(笑)が落ちてきたんだから。

誰だって同じようなリアクションをするわな。

 

本当は今すぐにでも逃げて欲しいけど、なんか腰が抜けちゃってる上に、下手に動かれるとこいつらのヘイト値を集める可能性が高い。

今は私がいるお陰で、コクーンメイデンのターゲットは私に集中しているが、いつ変わるか分かったもんじゃない。

だから、速やかにこいつらを始末しよう。

 

「そこから出来るだけ動かないで。そして、可能ならば目と耳を塞いでいた方がいい」

「え…え…?」

「早く」

「わ…分かったわ…」

 

私の忠告を聞き入れてくれた母親らしき人は、娘さんを抱えながら自分の目と耳を手で塞ぐ。

娘さんの方は……

 

「怖くない…怖くない…!」

 

既にどっちも塞いでいるか。

ま、子供なら当然かもな。

 

出来れば、攻撃の音とかは聞かせたくないからね。

かなりグロテスクだし。

 

「ドライグ。一気に片付ける。ヴァリアントサイズに」

【SCYTHE!】

 

さっきと同じように、ドライグの音声と同時に近接武器がロングブレードのディテクターからヴァリアントサイズのプラキディアに変更された。

そして、神機を銃形態から近接形態へと変形させる。

 

長いポール型の持ち手を思いっきり握りしめる。

 

「咬刃展開」

 

ヴァリアントサイズの根元から、黒い刃が付いた部分が伸びる。

腰を低くして、全力で腰を捻る。

 

「切り裂く…!」

 

私はその場で素早く一回転し、周囲にいるコクーンメイデンを全て真一文字に切り裂いた!

 

元の位置に戻ってきた瞬間、一斉にコクーンメイデン達の胴体が真っ二つになって、血飛沫が上がる。

 

刃を元に戻し、神機を肩に担ぐ。

 

「状況終了…」

 

なんか…こいつ等を片付けるよりも、空中にいた時間の方が長かったような気がするよ…。

 

やっぱり、ヴァリアントサイズにしたのが正解だったな。

 

「もう…大丈夫」

「ほ…ホント?」

「ああ」

 

私は親子に話しかけて、もう大丈夫な事を知らせる。

アフターケアはちゃんとしないとね。

 

「す…凄い…。全部倒されてる…」

「お母さん……、あのお姉ちゃんは…誰…?」

「あの人は…」

 

なんか、考えるような仕草をする女性。

どうしたのかな?

やっぱり、怪しく見えちゃったかな?

 

「このお姉ちゃんが、怖いものをやっつけてくれたのよ」

「え…?」

 

女性が目の前のコクーンメイデンの死骸を指差す。

って、そんな事をして大丈夫……

 

「あ…本当だ…」

 

慌てて後ろを振り向くと、コクーンメイデンの死骸は霧散していく途中で、あんまりグロさは無かった。

 

よかった…あの女の子のトラウマとかになったらどうしようかと思ったよ。

 

「お姉ちゃん…ありがとう…」

 

女の子は、控えめにお礼を言ってきた。

まだ、さっきの恐怖から完全に抜け出せていないんだろう。

ま、ゆっくりでいいさ。

慌てる必要はどこにも無い。

 

色んな意味で安心していると、女の子の方からキュウ…と言う音が聞こえた。

 

「あ……」

 

顔が真っ赤になってる。

きっと、恐怖から解放されて一気にお腹が減ってしまったんだろう。

こういう時は…えっと……確かポケットの中に何か入ってた気が…

 

「…あった」

 

見つかった、見つかった。

非常食のレーション(メイプルシロップ味)。

これをあの子にあげよう。

 

「これを…」

「…くれるの?」

「うん」

 

私は座り込んで、女の子の視線に合わせた状態でレーションをあげた。

 

「いいの?」

「家に帰れば、いくつでもある」

 

主に、段ボールの中とかにね。

まだまだ、色んな味がありますぜ?

 

「ありがと…お姉ちゃん…」

 

女の子は袋を開けて、レーションを口に入れた。

 

「美味しい…」

「よかった」

 

プリン味は不味いけど、このメイプルシロップ味は結構美味いんだよね。

私も大好きだ。

 

「おーい!朱璃ー!朱乃ー!」

「あなた!」

「お父さん!」

 

後ろの空からお髭のおじさまが飛んできた。

黒い羽って事は、あの人も堕天使か。

そう言えば、さっき『あなた』とか『お父さん』とかって言ってなかった?

 

女の人と女の子が堕天使のおじさまに向かって走って行く。

 

「大丈夫か!?馬鹿な連中がここを襲撃したうえに、例の攻撃の効かない化け物共が出現した聞いて急いで駆けつけたんだが…!」

「大丈夫よ、あなた。堕天使達は怪物に倒されたし、その怪物達は彼女が退治してくれたわ」

「彼女…?」

 

おじさまが怪訝な顔で私の身体を全体的に見る。

すると、その目が驚いたように見開いた。

 

「お…お前は…いや、貴女様は…!」

 

あ…貴女様?

 

「その赤い腕輪…赤龍帝の証である深紅の籠手。そして、身の丈程にもなる巨大な武器…。間違いない…異形の怪物共を狩る、伝説の戦士!ゴッドイーター!!」

「えっ!?この子があなたがいつも言っていた、神出鬼没の謎の女戦士!?」

「お姉ちゃん…すごい…」

 

女性は驚きを隠せない様子だし、女の子に至っては私の事を、まるでヒーローでも見るかのように目をキラキラさせている。

 

やめて!そんな視線で見ないで!

凄く恥かしいから!

 

そんな私の願いが通じたのか、足元にいつもの魔法陣が現れて、帰宅の時間がやって来た。

 

「行かれるのですね…」

「ああ」

「心から感謝致します。妻と娘を救ってくれて、本当にありがとう」

「うん」

 

真っ直ぐに感謝されるのは、なんか慣れないな…。

 

「ま…待って!」

 

ん?どうしたのかな?

 

「私は姫島朱璃!この子は朱乃!貴女の名前を教えて!」

「私は……」

 

今度こそ名前が言えると思い、口を開こうとすると、実に絶妙なタイミングで私の身体は転移した。

 

ああ…また言えなかった。

一応、戸籍上はアバターの名前を登録してるから、それを言おうと思ってたのに…。

 

ま、人助けが出来ただけでも良しとしますか。

 

後悔だけは…したくは無いからね…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




と、言う訳で、今回は朱乃との初めての出会いの話でした。
出番は少なかったですが…。

リアス、朱乃と来たら、次に主人公が助けるのは…?

では、次回。



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第4話 剣を宿す少年

今回のテーマは『飯テロとおねショタ』です。

では、どうぞ。


 誰しも一度は、衝動に駆られる事がある筈だ。

衝動買い、衝動的に誰かを殴る、衝動的に体を動かす、そして…衝動的に何かを食べる。

今の私がまさにそれだった。

 

外でのランニングを終えた私は、急にラーメンが食べたくなり、近くにあった中華料理店に足を運んだ。

 

商店街の端の方にあり、店の佇まいはなんともシックな感じ。

昭和臭漂う店内だったが、こんな店こそが意外な穴場だったりするのだ。

 

中に入った私は、空いていたカウンター席に座る。

ドライグには、何か言いたいことがあれば念話的なもので頭に直接言うように言っている為、こんな場所でも遠慮無くドライグとは会話が出来る。

 

壁に掛けられているメニューを見て、まずは妥当な線で行くことにした。

 

「ラーメン。麺は…バリ堅で…」

「へい。ラーメン一丁」

 

ラーメンが来る前に、まずは近くにあったコップにお冷を入れる。

 

午後三時に迫った店内には、ポツリポツリとしか客がいない。

もう少し早ければランチに間に合ったかもしれないが、この時間にはこの時間なりの良い所もある。

 

「ラーメン、お待たせしました」

 

オッ、やっぱり早い。

 

出来立てのラーメンが私の前に置かれる。

半熟卵に海苔、キクラゲ、チャーシュー2枚と具が充実している。

転生してからこっち、アラガミとの戦闘やトレーニング、勉強などであまり外食などする暇が無かったが、世界が変わってもラーメンだけは変わらないなぁ…。

 

ここの店は薬味が揃っているのがまたいい。

カラシ高菜に紅ショウガ、そしてスリゴマ。

 

まずはスリゴマで頂こう。

私はスリゴマが入った容器を手に取り、ラーメンに振りかける。

 

紅ショウガは欠かせないけど、味が変わる位入れるのは戴けない。

 

カラシ高菜はひとまず置いといて、取り敢えず……

 

「いただきます」

 

割りばしを口で割って、まずは一口。

 

うん、実に美味。

 

この麺の歯ごたえに豚骨なのに全然しつこくない独特のスープ。

だが、ここは麺食に専念しよう。

 

(あ…相棒…)

(何?)

(今、俺の中で相棒のイメージが凄まじいスピードで変化しているぞ…)

(そう?)

(まさか、相棒が食レポの真似事をするとは思わなかった…)

(別に真似しているつもりは無いけど)

 

美味しいものを美味しいと言って何が悪い?

 

しかし…食う程に葱の香りと紅ショウガのアクセント、キクラゲの食感のお陰で全く飽きが来ない。

 

独特と言えば、このチャーシューもそうだ。

 

既存の店での歯ごたえを期待していると、いい意味で裏切られる。

 

ああ…

 

「蕩ける…」

(心の底から幸せそうだな…相棒)

 

いかなる技術か、口の中に入れた瞬間に淡雪のように消えていくチャーシュー。

舌に残るのは肉の旨味のみ。

 

こうして、あらかた麺を片付けたならば、すかさず…

 

「替え玉」

「替え玉一丁ォ」

 

替え玉とは、博多ラーメンによくある麺のみのおかわりシステム。

新鮮な気分で大盛り感覚が楽しめる。

 

ココでカラシ高菜を投入。

味が更に引き締まる。

 

麺とスープの絶妙なハーモニーを再び堪能し、私の空腹は完全に満たされた。

 

「お勘定」

「550円です」

 

むぅ…安いな。

 

店を出て、体を伸ばしてから空を見上げる。

 

「トンコツ…かぁ…」

 

ふと、新しいドリンクのフレーバーを思いついた、そんな一日だった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 とある国のとある雪山。

明らかに薄着の、疲労困憊と言った感じの少年が必死に雪道を走っていた。

 

少年は、つい先程までとある違法研究所にいた。

彼とその仲間達は、とある実験のモルモットとして研究所にいたのだが、研究が行き詰ったが故に彼等は毒ガスにて殺処分されそうになった。

 

しかし、仲間達の必死の助けによって、なんとか彼だけが逃げ出すことに成功したのだ。

 

怒りと憎しみ、悲しみと罪悪感が入り混じりながらも、少年は仲間達の想いを無駄にしない為に必死に駆ける。

 

だが、碌な防寒着も着ないで雪山を走ったりしたら、必然的に体力を大きく消耗する。

 

結果として、彼は途中で力尽き、雪に埋もれながら倒れてしまう。

 

そして、そんな彼に近づく一つの影。

 

例の如くアラガミだが、少しだけ見た目が違った。

 

やって来たのはオウガテイル。

だが、その体色は青く変色しており、まるで雪山に適応しているかのようだった。

それもその筈。

これは堕天したオウガテイルで、雪山のような寒冷地に適応した種なのだ。

氷属性の攻撃を得意とし、通常のオウガテイルよりは能力も少しだけ強化されている。

 

オウガテイル堕天が少年を見つけ、その口を大きく開けた…その時だった。

 

「死ね」

 

深紅に染まった三又の槍がオウガテイルを貫いた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 あ…危なかった…。

ギリギリのところで駆けつけることが出来た。

あと少し遅かったら、この男の子はオウガテイルに丸飲みにされていたよ。

 

今回の服装はF防寒(ネイビー)の上下セット。

足長おじさんが急に防寒着を着ろと言って来たので、急いでこれに着替えた。

変だなぁ…と思っていたが、こういう事だったのか。

だったら先に言ってくれればいいのに。

 

神機はなんとなくチャージスピアのプリンケプス。

理由は使ってみたかったから。

 

「ドライグ」

『この子供ならまだ生きている。だが、生命力が急激に低下していっている。このままでは時間の問題だろう』

「そう」

 

こんな雪山でこんな薄着でいたら、そりゃ当然だな。

けど、なんでこんな場所でこんな格好を?

絶対に事情があるんだろうけど、まずはこの子を助けないと。

 

私はゆっくりと子供の身体を抱えて、その場からゆっくりと移動をする。

神機は赤龍帝の籠手の中に収納した。

 

「どこか…横穴があれば…」

 

まずは暖を取らないと。

このままじゃこの子が凍死してしまう。

 

『相棒…その子供を助ける気か?』

「そうだが?」

『何故助ける?お前にそんな義理は無い筈だ』

 

何故助ける…か。

そんなの、理由は一つでしょ。

 

「目の前で消えようとしている命を見捨てる事なんて出来ない」

 

これは人道的な問題だ。

効率とか、義理とか関係無い。

 

『そうか…』

 

ドライグ?

どうしたんだ?

 

『…ここから5メートル程行った先に丁度いい大きさの横穴がある』

「え?」

『急げ。時間が無いぞ』

「…わかった。…ありがとう」

『礼などいらん。いいから急げ』

「ああ…」

 

なんか…ドライグがデレた?

 

「しかし…どうやって分かった?」

『龍とは森羅万象の頂点に君臨する生物だぞ?これぐらいは造作もない』

「流石はドライグ」

 

古来より、龍とは神と同一概念とされてきた。

しかも、高位なる龍は強大な魔力を宿すと言われている。

まさに高位なる龍であるドライグには、これぐらいは朝飯前なんだろう。

 

『…見えたぞ』

「あそこか…」

 

ちょっと雪で見えにくくなってるけど、確かに横穴がある。

大きさも悪くないし、これならなんとかなりそうだ。

 

私は急いで雪を掻き分けて、穴に入る。

 

奥行きはそこそこ。

広さもいい感じ。

私は男の子をゆっくりと地面に寝かせた。

 

「ドライグ。火の玉的なものは作れる?」

『可能だ』

「じゃ、お願い」

『分かった』

 

赤龍帝の籠手を穴の中央付近に掲げる。

すると、籠手の宝玉から火の玉が出現し、宙に浮いた状態でその場に留まる。

 

「この火の玉に結界は張れる?」

『当然だ』

 

火の玉が赤く薄い球状の結界に包まれる。

 

『これで、風や外気で火が消えることななくなった』

「ありがとう」

 

取り敢えずの暖は確保した。

次に私は自分の防寒着を脱いで、男の子に掛けた。

因みに、防寒着の下にはF制式制服(グリーン)だ。

 

さて、後は周囲の安全の確保だけだな。

 

『相棒?どこに行くつもりだ?』

「周囲の安全を確保する。まだアラガミがいるかもしれない」

 

少し心配だが、アラガミを排除しないと本当に安全とは言えない。

 

私は周囲を探索するために、一旦穴から出ることにした。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 僅かな寒さと、暖かい光に照らされて、僕は目を覚ました。

 

「ここは…?」

 

確か僕は、あそこから命からがら逃げ伸びて…そして…

 

「…うまく思い出せない…」

 

もしかして、あの後に気絶でもしてしまったのだろうか?

それなら…ここは一体…?

 

今僕がいるのは、少し小さめの洞窟のような場所。

大人が2~3人ようやく入れるぐらいの大きさだ。

 

そして、洞窟の中央には赤く丸いものに覆われた火の玉が浮いていた。

 

「これは…魔法?」

 

ふと触ろうとしたが、火傷するかもしれないと思い、やめることにした。

 

その時、自分の身体を包んでいる物に気が付いた。

僕の身体は、厚手の防寒着のような物に包まれていた。

これと、この火の玉のお陰で、僕は凍死せずに済んだのか…。

 

「でも…一体誰がこんな事を…」

 

誰かは知らないが、ちゃんとお礼を言わないと。

 

そう思っていると、洞窟の入り口に誰かがやって来た。

 

「…起きた?」

 

それは、黒い髪と赤い腕輪、深紅の籠手が特徴的な絶世の美女だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 結局、オウガテイル堕天は周囲に3体程徘徊していた。

勿論、そいつらは根こそぎ狩りつくしたが。

 

その後も周囲を見回った結果、もう大丈夫とドライグと判断し、私はあの穴に戻ることにした。

 

穴に戻ると、既に男の子が起きていた。

ブロンドの髪が眩しい美少年で、将来は女泣かせになるであろう事は容易に想像が出来た。

 

「あ…貴女は…」

「私は…」

 

慎重に事情を説明しようとすると、ドライグが割り込んできた。

 

『感謝しろよ小僧。今代の赤龍帝が直々に貴様を救出したのだからな』

「ド…ドライグ…」

 

ほらぁ~。

いきなり話すから、あの子ってば驚いちゃってるじゃん~。

 

「あ…貴女が噂に聞く、伝説の二天龍の一角を宿すと言う人間…」

『ほう?知っているか』

 

あ…あれ?

何で知ってるの?

 

「まさか…こんなに綺麗な人だったなんて…」

「……っ!?」

 

き…綺麗って…。

なんか恥ずかしいな…。

 

顔を赤くしながら、私は穴の中に入る。

 

「大丈夫?怪我は無い?」

「は…はい。大丈夫です…」

 

穴の中はお世辞にも広いとは言えない為、必然的に私達は引っ付く形になる。

気のせいか、男の子の顔が赤い。

 

「あの…ありがとうございます。僕を助けてくれて…」

「困っている人を助けるのは当然の事」

「優しいんですね…」

 

なんだろう…男の子が震えてる?

もしかして、寒いのかな?

一応、雪で入り口は防いできたし、火の玉もあるから大丈夫だと思ったけど、もしかしたら低体温症になっているのかもしれない。

 

このままではいけないと判断した私は、男の子を優しく抱きしめた。

 

「え…ええっ!?」

「体が冷えている時は、人肌で温めた方が効率がいい」

「は…はいぃ…」

 

やっぱり冷えてる。

もう暫くはこのままでいよう。

 

その後、私は男の子から色んな話を聞いた。

彼はとある研究所にいたらしく、そこで色んな実験の被験体になっていたらしい。

それだけで内心、怒りでおかしくなりそうだったのに、更に研究者達は更なる仕打ちを彼等にしたらしい。

研究が行き詰まり、彼等全員を殺そうとしたとの事。

 

「許せない…!」

 

人の命をなんだと思ってるんだ…!

どんなに小さな命でも、無駄に死んでいい命は無いんだぞ!

 

無意識のうちに拳を握り締めていて、掌から血が流れていた。

出来れば実験の内容を聞きたかったが、この雰囲気でそれを聞くほど、私は腐れ外道じゃない。

 

その後、彼は仲間達によって命懸けで助けられたが、その途中で力尽き、今に至るらしい。

 

話しながら、彼はずっと泣いていた。

そんな彼を、私は抱きしめ続けた。

こんな行為でも、少しでも彼の悲しみを癒せるならと思って。

 

気が付いた時には、彼は泣き疲れて眠ってしまっていた。

私はそんな彼を抱きしめたまま、ポケットの中から縮小式の寝袋を出して、彼と一緒に入った。

その際、彼の服を脱がし、同時に自分の服も脱いだ。

左腕の手袋は外さなかったけど。

 

『お…おい?なんで服を脱ぐ?』

「こうした方が彼をより温められる」

『いや…それは解る!解るが……』

「なに?」

『お前に羞恥心は無いのか!?少しは恥ずかしそうにしろ!!』

「状況を考えて」

 

人の命が掛かってるんだよ?

贅沢は言ってられないでしょ。

 

彼を胸に抱きしめながら、私も静かに眠りについた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 翌朝、互いに裸になっていたので、起きた瞬間に彼の顔が瞬間沸騰したが、なんだかそれすらも可愛く見えてしまった。

う~ん…本格的に精神が女寄りになってきているのか?

別に気にしないけど。

 

雪はまだあるが外は快晴で、今のうちにこの山を下りることにした。

彼に防寒着を着せたまま移動し、私の事を逆に心配されてしまった。

けど、神機使いは基本的にオラクル細胞で周囲の環境に適応出来てしまう為、ぶっちゃけ平気だったりするのだ。

 

途中で空腹になってしまい、二人で非常食(レーション)を食べた。

思ったよりも好評で、美味しそうに食べてくれた。

 

途中ではアラガミは一切現れず、安全に下山出来た。

道すがら、彼と色んな話をした。

私の好きなモノや、普段は何をしているのかとか。

話に夢中になって、私の名前を聞こうとはしなかったが、ある意味諦めた。

 

そして、山を無事に降りた私達の前に、中規模ぐらいの町が現れた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「着いた…」

「奇跡みたいだ…」

 

ようやくちゃんとした場所に辿り着いた。

けど、重要なのはここからだ。

まずはこの子を預かってくれる人、もしくは施設を探さないと。

 

そう思って、私は周囲を見てみる。

すると、なんか見た事のあるような人がいた。

しかも、向こうもこっちに気が付いて、なんか慌てるように走って来た。

 

「き…君がどうしてここに!?」

「それはこっちのセリフ」

 

出会ったのは、いつぞやの赤い髪のイケメンのお兄さんだった。

確か…名前は……

 

「サーゼクス…だったか」

「僕の名前を憶えてくれていたのかい!?嬉しいなぁ…」

 

なんか子供のようにはしゃぐお兄さん…サーゼクスさん。

高級そうな赤い防寒着を着て、その額には僅かにだが汗が見えた。

 

「もう~!急に走らないでよ!お兄様!」

 

後ろから走ってきたのは、前に助けた赤い髪の女の子。

サーゼクスさんと同じように赤いジャンバーを着て、赤い耳当てを付けていた。

 

「あっ!あの時のお姉ちゃん!」

 

私に気が付いた女の子は、嬉しそうに近づいてきた。

 

「どうしてここに?」

「僕は仕事だよ」

『仕事だと?どうして貴様のような立場の者が出張のようなことをしている?』

「単純に人材不足なだけだよ。先の大戦で多くの人材が失われた。だから、僕が他の仕事を兼任しなくてはいけないんだよ」

「そうか…」

 

確か、この人は魔王だってドライグが言ってたな。

今時の魔王は外交官のようなこともしなくてはいけないのか。

なんか、世知辛いな。

 

「そのついでに、リアスに外の世界を見せようと思ってね。こうして連れてきたんだ」

「そうなの!」

 

妹さんの見聞を広ませようと考えるなんて、いい兄をしてるなぁ…。

そっか…この子の名前はリアスって言うのか…。

覚えておこう。

 

「それで、君の方はどうしてこんな場所に?」

「私は…」

 

私は、今までの出来事を出来るだけ事細かく話した。

ついでに、私の手を握っている彼の事も。

 

「そうか…そんな事が…」

 

サーゼクスさんは、まるで自分の事のように悲しそうな顔をした。

 

「にしても、君は本当に色んな場所に現れて、色んな者を助けるんだね。最初は僕達を、次はリアスを、そして今はその男の子を」

「困っている者を助けるのは当然の事」

「そうか……君はそう言う人だったね…」

 

ん?次はなんか嬉しそうだぞ?

喜怒哀楽が激しい人だな。

あ、魔王か。

 

「そうだ。丁度いい」

「ん?どうしたんだい?」

「貴方に…頼みたいことがある。この状況では、多分貴方にしか頼めない事だ」

「君の頼みとあらば、なんだって聞くよ!」

 

うん…分かったから、顔を近づけないで。

なんか、気恥ずかしいから。

それに、男の子が凄い形相でこっちを見てるから!

 

「この子を…預かってほしい」

「えっ!?」

 

ま、当然の反応だよな。

うん、わかってた。

 

「この子に…人並みの生活をさせてあげて欲しい」

 

彼は今まで充分なほどに頑張った。

だから、そろそろ幸せになってもいい筈だ。

 

「君と言う人は…本当に…」

 

ちょっと…なに嬉しそうにしてるのさ?

私ってそんな反応されるような事を言った?

 

「わかったよ。彼の事は、グレモリー家で預かろう」

「お願い」

 

私は彼の手を離して、サーゼクスさんの所に移動させる。

 

「お…お姉さん!僕は…」

「君の気持ちは解る」

 

サーゼクスさんが男の子の頭に手を添えて、諭すように話す。

 

「彼女には大事な使命がある。それを僕達の我儘で邪魔してはいけない」

「うぅ…僕は……」

 

あ…泣き出してしまった。

 

「君も男の子なら…分かるね?」

「は…い……」

 

泣きながらも、服の裾を握りながら必死に耐えている。

男の意地ってヤツかな?

 

「お姉さん!」

「は…はい?」

「僕…強くなります!強くなって、いつの日か必ずお姉さんに会いに行きます!!」

「…分かった。待ってる」

 

ふふ…なんか、彼の将来が楽しみだ。

そんな事を考えていると、毎度のように足元に魔法陣が出現する。

 

「ふむ…時間のようだね」

「ああ」

「これは…?」

「この魔法陣は、彼女が戻る際に現れるものだ。それが出現したという事は…」

「お別れ…なんですね?」

「ああ…」

 

なんか、今回に限り空気を読んだって感じ?

いつもこんな感じだったらいいのに。

 

「また会える日を楽しみにしているよ」

「こちらもだ」

「お姉ちゃん!また会おうね!」

「うん。リアスも元気で」

 

男の子が、名残惜しそうにこちらを見つめる。

その目には、涙が浮かんでいる。

 

「君が望めば、きっとまた会える」

「はい……」

 

またこれを言っちゃったよ…。

なんの根拠も無いのに。

 

「また…いつの日か」

「はい…。必ず…」

 

その言葉を最後に、私の身体はその場から消えた。

 

今思えば、今回って今までで一番長くいたんじゃ?

今後もこんな事があるんだろうか?

だとしたら、ちゃんと準備はしておかなくちゃな。

 

さて…次はどんな出会いがあるのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんか、7000字オーバーしちゃいましたね。

もうちょっと短めに抑えるつもりでしたが、理想と現実は違いますね。

さてはて、次にオリ主と出会う原作キャラは誰でしょうか?

では、次回。


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第5話 ねこねここねこ

な…なんか……気が付いたら評価10を貰ってたんですけど……。

最初見た時、思わず『ふぇっ!?』って言っちゃいました。

本気で驚きましたよ…。


 最近…どうもおかしい。

何故か、昔の事を段々と忘れていって、それとは逆に覚えのない記憶が頭に流れてくるのだ。

 

その記憶とは…『神機使い』としての記憶だ。

 

極東支部に配属されて、神機使いになって、第一部隊の皆と過ごす日々の記憶…。

そんな経験なんてあるわけが無いのに、鮮明に覚えている。

 

流石におかしいと感じた私は、足長おじさんに相談してみることにした。

すると……

 

『ああ。それは、君が『君』になりつつあるって事だよ』

「………は?」

『ちょっとわかりにくかったかな…?簡単に言うと、君の中に流れてきている記憶は、『その体』の記憶だよ』

「体の…?」

『そう。君は転生して、生まれ変わったんだよ?前世の記憶なんて邪魔なだけでしょ?だから、君の前世の記憶が徐々に消えていって、その代わりにその『アバター』の記憶が上書きされていってるのさ』

 

つまりはこう言う事か?

生まれ変わって別の人間になった私は、少しづつ昔の事を忘れながら、本当の意味でこの『キャラクター』になろうとしていると。

 

「……なんとなく、理屈は解った」

『今はそれでいいよ。君が本当の意味で『神機使い』になるには避けられない事だ』

「しかし…意外だった」

『記憶が消えていくことがかい?』

「ああ…」

 

もうちょっと怖がったり、動揺したりするかと思ったら、自分でも不可思議なぐらいに前世の記憶が消えていくことを受け入れている。

確かに、こうして転生した以上は昔の記憶なんて不要なのかもしれない。

事実、前世の記憶で忘れたくない事なんて数えるぐらいしか無い。

寧ろ、忘れたいと思っている事の方が多い。

それなら、私にとっては都合がいいのか…?

 

『相棒…』

「ん?どうした?」

『お前も…苦労してるんだな』

「そう?」

『ああ…。こうしてお前と一体化したことで、ふとした時にお前の記憶が流れ込んでくるときがある』

 

そんな事が…。

 

『お前は…戦いながら、出会いと別れを繰り返してきたんだな…』

「まぁね……」

 

神機使いの戦いは常に命懸けだ。

戦場での死者なんて珍しくも無い。

記憶の中には、エリック以外にも目の前で死んだ人機使いが沢山いた。

その一瞬一瞬をとても鮮明に『記憶』している。

 

『最初は唯の好奇心からだったが、俺も覚悟を決めた。こうなったら、お前の命が尽きる瞬間まで共に戦ってやろう』

「…ありがとう。ドライグ」

 

頼もしい限りだ。

私は…幸せ者だな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 冥界にあるとある森の中。

黒い着物を着た黒い髪の少女と、白い着物を着た白い髪の少女が互いに手を繋いだ状態で息を切らせながら走っていた。

二人は…姉妹だった。

姉の名は黒歌、妹の名は白音。

 

この二人はある場所から逃げてきたのだ。

元々、この姉妹は人間ではない。

猫又と言われる猫の妖怪で、元から潜在能力は高い。

特に能力が高い黒歌の仙術の力に目を付けた貴族悪魔が、白音を人質のようにして無理矢理自分の眷属にしたのだ。

だが、悪魔は白音にも高い能力がある事を知り、彼女すらも自分の眷属にしようと企んだのだ。

しかし、自分が眷属になれば妹には手を出さないと言う約束を破られた黒歌は、白音を守る為に主である悪魔を殺害。

その後、悪魔の元を二人で逃亡したのだが、その途中で追手の悪魔達が追いかけてきた。

 

二人は追いつかれて、今にも捕まりそうになった時、いきなり茂みの中から見た事も無い怪物が現れて、追手の悪魔達をあっという間に食い殺してしまったのだ。

まるで大猿のような風貌の怪物…コンゴウ。

余りの恐怖に、二人は再び逃げるが、一度獲物を見つけたアラガミが逃亡を許すわけがない。

特に、聴力に優れたコンゴウからは、そう簡単に逃げられない。

 

逃亡の途中に白音が石に躓き、こけてしまう。

すぐに戻って白音を抱える黒歌だったが、その間にコンゴウに追いつかれてしまう。

咄嗟に白音を抱きしめて、庇うようにする黒歌。

 

精神、肉体共に限界だった二人は、あろうことかコンゴウの目の前で猫の姿になってしまう。

 

もう駄目か…!そう思った、その時だった。

 

「何を…やっている…!」

 

深紅の鎚を構えた少女が、目の前でコンゴウに立ち向かっていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 おいおいおい……一体何をやってるかな?

 

転移した直後に、何処からか猫の鳴き声が聞こえてきたような気がしたから、急いで鳴き声がした方へと走って行くと、二匹の猫をコンゴウが捕食しようとしているではないか!

 

私としては絶対に許容出来ない事に、すぐに攻撃態勢に入った。

相手がコンゴウという事もあり、神機は破砕属性に特化したブーストハンマーのリゲルに交換した。

 

今回の格好はアルーアホルターとコーラルスラックス。

ちょっぴりラフな格好で攻めてみました。

 

すぐに猫達を庇うようにして前に出て、ハンマーを構える。

 

「まずは……」

 

ブースト起動。

ハンマーの後部が展開し、ブースターが一気に火を噴く。

 

「ぶっ飛べ」

 

その顔面にハンマーを叩きつけた。

ブースターを加えた一撃は、コンゴウを一気に吹っ飛ばし、同時にコンゴウの顔を部位破壊した。

 

「よし」

 

猫達からコンゴウを離せたことでちょっとだけ安心した。

起き上がろうとするコンゴウを追いかけて、その眼前に立った。

 

「よりにもよって…猫を襲おうとするとは……」

 

転生してから、私は初めてブチ切れていた。

 

「絶対に許さん」

 

コンゴウの破壊可能な部位は、顔と尻尾と胴体だったな。

残りは尻尾と胴体か。

 

「我は動物愛護団体の使者であり、全ての愛玩動物を愛し、愛でる者なり」

『あ…相棒?』

「可愛い動物に敵対する事とは、この私と敵対する事と同義と心得よ」

『お~い?聞こえてるか~?』

「故に……」

 

再びハンマーを構える。

 

「あの小猫達を傷つけることは、この私が絶対に許さない」

『…ダメだこりゃ』

 

こっちの動きに反応して、コンゴウも攻撃態勢に入る。

 

「…こい」

 

私の呟きと同時に、コンゴウがその体についているパイプ状の器官から空気の弾丸を発射した。

背後には猫達がいる為、ここで回避するという選択は無いため、当然のように装甲を展開して防御する。

 

「くっ……!」

 

こっちの装甲はバックラーのインキタトゥス。

全ての衝撃やダメージは吸収出来ないが、元々装甲の性能がいいため、殆ど攻撃の余波は無いに等しい。

 

空気弾の着弾と共に、コンゴウが体を高速回転させて、体当たりを仕掛けてきた。

勿論、これもガード。

 

「所詮はアラガミ…か」

『だな。あっちから近づいてくるとは、都合がいい』

「ああ…!」

 

装甲を展開したまま、コンゴウを押し返す。

そして、少し距離が離れたところで攻撃に移る。

 

「いくぞ…!」

 

私はジャンプして、その胴体にハンマーを振り下ろす!

森の中ではコンゴウ自慢の機動力も制限される為、攻撃は非常に当てやすい。

 

甲高い鳴き声と共に、コンゴウの身体にハンマーがめり込む。

それを見て、私は追撃を掛けることにした。

 

「ブースト…オン!」

 

再びハンマーが火を噴く。

コンゴウのパイプに罅が入っていき、そして……

 

「……割れた」

 

金属が砕けるような音と同時に、コンゴウの胴体が部位破壊された。

 

そのまま、ハンマーを支点にしてコンゴウの背後に回り込む。

そして、その尻尾を『左手』で掴む。

 

「逃がさない」

 

右腕のみでハンマーを振りかぶり、その尻尾に叩き落す。

 

苦しそうな鳴き声と共に、尻尾も破壊される。

 

「さぁ…止めだ」

 

コンゴウは怒りで活性化したが、振り向いた先には私が既にブースターを発動させた状態で待ち構えている。

 

コンゴウは怒り狂ったかのように横回転しながら突撃してくるが、そこにハンマーの攻撃をぶち当てる。

そのままの勢いでコンゴウは吹っ飛ぶが、それをブーストドライブを利用して追跡、蹲ってその場に倒れるコンゴウに、ブーストラッシュを叩き込む!

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

一発ごとに血飛沫が飛び散る。

全身がズタボロになり、瀕死になったところでフィニッシュブローのブーストインパクトを炸裂させる!!

 

「潰す…!!」

 

渾身の一撃がコンゴウの顔に叩きつけられて、グシャリッ!と言う生々しい音が聞こえ、コンゴウの息の根は完全に止まった。

 

「ふぅ……終わった」

『中型のアラガミが現れるとはな。これからは中型の連中の相手が多くなりそうだな』

「うん」

 

コンゴウは本来、群れで行動するアラガミだ。

一体でいることは本当に珍しい。

もしも群れで来ていたら、あの小猫達を護れなかったかもしれない。

 

不幸中の幸いに感謝しながら、私は猫達の元に戻っていった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 猫達の所に戻ると、二匹の猫は気絶しているようだった。

お腹が少しだけ上下していることから、息はまだあるようだ。

だが、凄く衰弱している。

 

私はそっと二匹の猫を抱き上げる。

 

「ドライグ」

『なんだ?』

「この子達…連れて帰る」

『そうか…』

 

…ん?

あれ?

 

「反対しないのか?」

『なんとなく予想はしていたからな。それに、俺がいくら反対しても無駄なんだろう?』

「その通り」

 

どうやら、思った以上に私とドライグは意思の疎通が出来ているようだ。

まさか、こっちの意図をすぐに汲んでくれるとは思わなかった。

 

「まずは家に連れて帰らないと…」

『それがいいだろうな。…ん?』

「あ……」

 

実にナイスなタイミングで魔法陣が展開した。

今回は、私の腕の中にいる猫達も一緒に粒子化している。

どうやら、足長おじさんも私の意図を理解してくれたようだ。

 

「まずは…綺麗なタオルを用意して、それから……」

 

私は、家に帰ってから何をすべきか考えながら、帰路についた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「……あれ?」

 

着いた場所は、家の近くの公園だった。

 

『あいつめ…。珍しくミスったな?』

「はぁ……」

 

なにやってんだか…。

 

溜息と共に、私は神機を赤龍帝の籠手に収納。

同時に籠手自体も収納した。

 

「行きますか」

 

思ったよりも疲労感は無いため、足取り自体は軽かった。

 

時間帯は夕方。

本来なら部活帰りの学生などがいる筈だが、何故か人通りはまばらだった。

 

家の近くに差し掛かり、自宅が見えてきた。

その時だった。

 

玄関の前に、一人の少女がいるのが見えた。

 

黒いフリルのついた服…ゴスロリ服を着ている黒い髪の少女で、胸の部分は何故か最低限しか隠していなかった。(何故か胸の部分にバッテンのように黒いテープ的な物が張られている)

 

『ア…アイツは!?』

「知ってるのか?」

『あ…ああ…』

 

ドライグの知り合いの女の子……誰なんだ?

この狼狽えようも普通じゃないし。

 

「見つけた」

「え?」

 

女の子がこっちを向いて、私の事を指差す。

 

「ゴッドイーター。最強の戦士。そして、最強の赤龍帝」

「いや……。君は誰?」

 

当然の疑問を言うと、女の子は無表情のままで答えてくれた。

 

「我、オーフィス。無限の龍」

「オーフィス?」

 

無限の龍って…もしかして、『ウロボロス・オフィス』の事?

あれ?ウロボロス?

私にとってのウロボロス…もとい、ウロヴォロスは山のようにデカいあいつだけど…。

 

(似ても似つかないよなぁ…)

 

少なくとも、あいつはこんなにも可愛くない。

寧ろキモイ。

 

「ゴッドイーター、我と一緒に来る。そして、グレードレッド倒す」

「…………は?」

 

いきなり訳の解らない事を言われ、思わず間抜けな声を出してしまった。

 

一体何者なんだ……この子は?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いつも通りに書いたつもりが、なんでかいつもよりも文字数が少ないと言う不思議。

ま、実際にはこれぐらいが安定してていいんですけどね。

今までとは違い、小猫と黒歌のフラグ…もとい、本人達をそのままお持ち帰り。

オリ主は彼女達の正体をまだ知りませんけど。

そして、オーフィスの登場。

私の中ではオリ主の初期の同居人は既に決まっていて、彼女達もそのメンバーです。

オーフィスが来たという事は、その次は……?

では、次回。


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第6話 猫姉妹と龍の幼女

楽しんでやっている事とはいえ、やっぱり複数の作品を同時に更新するのは大変ですね。

けど、ネタは不思議とあるんですよね。

少なくとも、この作品も結構先まで漠然とストーリーは決まっています。




 突然、私の前に現れて、意味不明な事を言いだした自称『無限の龍』の女の子、オーフィスちゃん。

出来ればじっくりと話を聞きたいところだが、今は急を要する為、まずは家に上がってもらうことにした。

 

「靴は脱いで」

「わかった」

 

結構素直な子だ。

見た目だけは、何処にでもいる普通の女の子だけど…。

 

(このナリで、『実は龍です』とかって言われてもなぁ…)

 

ぶっちゃけ、信憑性ゼロでしょ。

 

そんな呑気な事を考えながら、私はリビングに入る。

私に続くようにしてオーフィスちゃんも入ってきた。

 

「君の話を聞きたいのは山々だけど、今は他にやらなくてはいけない事がある。その後でもいい?」

「ん。分かった。我、待つ」

「よろしい」

 

猫達を左手だけで持って、空いた右手でオーフィスちゃんを撫でる。

気持ちよさそうに目を細めている。

 

(可愛いな…)

 

やっぱり、龍には見えないよ。

 

「さて…まずは…」

 

私は、ソファーの上に置いてある比較的綺麗なクッションを床に置く。

その上にそっと猫達を横たえる。

 

「まずは体を綺麗にしよう」

 

この子達はかなり体が汚れている。

こんな状態じゃ、回復する体力も回復しない。

 

「オーフィス」

「ん?」

「この子達、見てて」

「ん」

 

オーフィスちゃんはトテトテとやって来て、猫達の傍に座り込んだ後、猫達を見だした。

それを見てから、私はまず箪笥から清潔なタオルを2枚用意して、それを持ってキッチンへと向かう。

タオルをお湯に濡らして、破れない程度に絞る。(もし全力で絞ったら、余裕で破れてしまうから)

 

『…………』

「…どうした?」

『いや…どうにも信じられなくてな…』

「何が?」

『最強の龍の一角と目されるオーフィスが、他人の言う事を素直に聞いている事が…な』

「そうなのか?」

『龍と言う生き物は、元来自尊心が非常に強い。自分こそが至高にて最強と思いこみ、無謀な挑戦をする龍も少なくない』

「そうなのか…」

 

ま、それが龍と言う生き物なのかもな。

よく知らないけど。

 

ホカホカのタオルを持って猫達の元に戻ると、そこではオーフィスちゃんが黒猫のほっぺをプニプニと触っていた。

 

なんか…ちょっと癒される光景だな…。

 

「見ててくれてありがとう」

「ん」

 

猫達の傍に座り、タオルで優しく体を拭いていく。

すると、猫達は体を捩るように動く。

 

『…相棒、気が付いているか?』

「…何が?」

『この猫達は、普通の猫じゃないぞ』

「え…?」

 

普通じゃないって…どういう事よ?

 

『こいつらは、猫又と呼ばれる妖怪の類だ』

「猫又…。確か、長い年月を生きた猫が霊力を蓄えた結果、猫と言う存在から逸脱した存在…じゃなかったか?」

『よく知っているな。流石は俺の相棒だ』

 

普通に本で読んだだけなんだけどね。

 

「我も分かってた」

「そうなのか?」

「ん。けど、凄く弱っている。感じる魔力も少ない」

 

それは…ヤバいのか?

 

ある程度、体が綺麗になった後、もう一枚のタオルを猫達の身体に掛けて、体を冷やさないようにする。

 

「次は…」

 

いつ起きてもいいように、食事の用意でもするかな?

でも、猫又って何を用意すればいいのかな?

やっぱりミルク?

 

自分の中にある猫に対する知識を元に、ミルクを用意することにした。

けど、冷たいままじゃだめだ。

ある程度の量のミルクを鍋に入れて、コンロに掛けて温める。

その間にミルクを入れる皿を用意しようとするが、その時……

 

「あ」

 

オーフィスちゃんの声と共に、猫達の身体が突然光り出した。

 

「あれは…」

 

光が消えると、そこには黒い着物を着た黒髪の女の子と、白い着物を着た白髪の女の子が寝ていた。

猫又らしく、頭には猫耳があって、腰の辺りからは尻尾が生えている。

う~ん…萌えですな。

 

『あれが、あの二匹の真の姿のようだな』

「そうか…」

 

なんか、レンが神機に姿を変えた瞬間の記憶があるせいか、思った以上に驚いていない自分がいる。

う~ん…慣れって怖い。

 

私はコンロの火を消して、二人の元に向かった。

二人はまだ気が付いていないようで、時折魘されるような声を上げている。

 

すると……

 

「う…ん……」

 

黒い髪の女の子がうっすらを目を開けて、ゆっくりと起き上がった。

 

「こ…こは……?」

 

その時、ふと私と目が合った。

 

「…!お…お前は誰にゃ!?」

 

ま、当然のように警戒はするわな。

気持ちは解る。

 

「って言うか、ここは一体どこにゃ!?あの猿の化け物はどこに行ったにゃ!?」

「お…落ち着いて…」

「こんな状況で落ち着けるわけないにゃ!」

 

ごもっとも。

 

どうしようか考えていると、いきなり赤龍帝の籠手が勝手に左腕に展開した。

 

『貴様!命の恩人に対して、その態度はなんだ!!』

「ふ…ふぇっ!?」

「ド…ドライグ…」

 

なんか…怒ってる?

 

「そ…その赤いのは一体何にゃ…?」

『俺の事は今はどうでもいい!』

 

いいんだ。

 

『俺が気に食わないのは、いくら自身の置かれている状況が分からないとは言え、いきなり敵意を向けた事に腹を立てている!』

「そ…それは…」

『貴様等の命を狙おうとする者が、こうしてお前達を介抱したりするか?』

「え……?」

 

女の子は、目の前に置かれたタオルを見た。

 

「もしかして…これは貴女が…?」

「まぁ…一応…」

 

あ、なんか急に落ち込んじゃった。

 

「…ごめんなさい。知らなかったとはいえ、あんな事を…私は…」

「別に気にしてない」

「でも…!」

「君達が無事なら、それだけで充分」

「……!」

 

あ…あれ?

なんで泣きそうになるの?

なんか泣かせるようなこと言った?

 

「君は…優しすぎるにゃ……」

 

そう?

ドライグにもよく言われるけど、全然自覚とかありません。

 

「んん……」

「あ…」

 

白い女の子の方も目を覚ました。

なんか…シオちゃんを思い出すな…。

 

「姉様…?」

「白音…大丈夫かにゃ?」

「はい……。ここは…?」

「ここは、私の家だ」

「え…?」

 

驚いたように私を見る白い女の子。

 

「この人は……」

「私も詳しくは知らないけど、この人が助けてくれたみたい」

「そうなんですか…」

 

ゆっくりと体を起こす白い女の子。って、なんか長いな…。

 

「介抱してくれて、ありがとうございます」

「うん。大きな怪我も無さそうで安心した」

 

見た感じ、体が煤汚れていたって感じだったし。

 

あ、そうだ。

すっかり忘れてた。

 

「ちょっと待ってて」

 

私は立ち上がり、キッチンへと再び向かい、少しミルクを注ぎ足してから温め直した。

 

その間、何故かオーフィスちゃんはじっと二人の事を見ていた。

 

「な…なんか、この子から見つめられてるにゃ…」

「なんでか緊張しますね…」

 

何をやってるのやら。

 

私は食器棚から三人分のカップを用意して、中にホットミルクを注ぎ入れた。

見た感じ、あの二人は暫くまともな食事をしてないようだし、空腹の状態で冷たいものをお腹に入れるのは体に悪い。

 

三人分のホットミルクをトレーに乗せてから、三人の元に戻った。

 

「これ…飲んで」

「あ…ありがとう…」

「ありがとうございます…」

 

照れくさそうにしながらも、二人は受け取ってくれた。

 

「はい、オーフィスにも」

「ん」

 

オーフィスちゃんも快く受け取ってくれた。

 

私はその場に座り、なんでかオーフィスちゃんが私の膝の上に乗ってきた。

 

「ここがいい」

「そうか…」

 

まぁ…別に重たくないからいいけどね。

 

「…暖かいにゃ…」

「とっても…美味しいです…」

「よかった」

 

不思議だよね~。

牛乳って温めただけで、なんでかより美味しく感じるんだから。

 

「…落ち着いた?」

「うん…」

「なんとか…」

 

まだ少し緊張しているようだが、警戒心は解けたらしい。

それだけでも大きな前進だ。

 

『ならば、そろそろ事情を話して貰ってもいいのではないか?』

「そうだな」

 

どうしてあんな場所で倒れていたのか。

あの場所の空の色を見る限りは、多分あそこは冥界だ。

どう考えたって、何か深い事情があるに違いない。

 

辛そうに顔を伏せた後、二人の身体が震え出した。

 

「…言いたくないのなら、無理して言わなくてもいい」

「ううん…。ちゃんと話すにゃ…。ここまでして貰って、何も話さないのは筋違いだと思うから…」

 

思ったよりも義理堅いな。

ちょっと共感できるかも。

 

「その前に、こっちからも訪ねたいことがあるにゃ」

「何?」

「君の左腕についている、その赤い籠手は何にゃ?」

「これは…」

『赤龍帝の籠手…と言えば分かるか?』

「「ブ…赤龍帝の籠手!?」」

 

突然どうした?

いきなり大声を出して。

 

「二天龍が封じられた伝説の神器…!なら、君が噂の『赤龍女帝』なのかにゃ!?」

「せ…赤龍女帝?」

 

なによ?その中二病全開の恥ずかしい名前は?

 

「ゴッドイーターは三大勢力からそう言われている」

「…マジで?」

「マジで」

 

うそ~ん…。

一体いつの間にそんな事に…?

 

『大方、あの魔王が言いふらしたんだろうな』

 

サーゼクスゥ…!

なんちゅー事を…!

 

「歴代最強の実力を持ち、深紅の武具を持って異形の怪物を狩ると言う…伝説の存在…」

「伝説って」

 

勝手に伝説にしないでよ。

 

「なら、君があの猿の化け物を倒してくれたのかにゃ?」

「ああ」

「凄い…!悪魔達が束になっても敵わなかったのに…」

「伝説は本当だったって事だにゃ」

 

どこまで私の評価は上がってるねん。

ただ、やるべき事をしてるだけなのに。

 

『話が完全に逸れたな…』

「あ、御免だにゃ」

 

でも、重い話をする前には丁度いいと思うけど。

 

「まずは自己紹介をするにゃ。私は黒歌。そしてこの子が…」

「妹の白音です」

「私達は猫又って言う妖怪なんだにゃ」

「知ってる」

「え?なんで?」

「ドライグが言ってた」

「ああ…」

 

残念。ネタバレは既にしていたのだよ。

って言うか、案の定この二人は姉妹だったのね。

 

「我、オーフィス」

「オ…オーフィス!?無限の龍!?」

「なんでこんな所に…?」

「それは後で聞く。まずは君達」

「そ…そうだったにゃ」

 

ゴホンとワザとらしく咳払いをした後、黒歌は静かに語り出した。

 

元々、この姉妹は人里離れた場所にひっそりと暮らしていた。

そんなある日、どこからか黒歌の噂を聞き付けた貴族悪魔がやって来て、白音を人質にして無理矢理黒歌を自分の眷属にしたそうだ。

その際に、白音には一切手を出さないと言う約束をしたのだが、白音にも仙術と呼ばれる力の才能があると分かると、約束を破って彼女すらも眷属にしようと企んだ。

その事に怒り狂った黒歌は、その悪魔を殺害し、その場から逃亡。

その際に他の悪魔達が二人を追いかけてきたが、その途中でコンゴウと遭遇。

悪魔達はコンゴウに皆殺しにされ、二人も命からがら逃げだすが、途中で力尽き倒れてしまう。

そこに私が駆けつけた……と言う訳らしい。

 

話を聞き終えた後、私は無意識のうちに全力で拳を握りしめていた。

 

心の中では、彼女達の尊厳を無視し、己が意のままにしようとした悪魔に対して、自分でも信じられないぐらいの怒りを感じていた。

 

「理由はどうあれ、私は主である悪魔を殺した。きっと、はぐれ悪魔認定されてるにゃ」

「姉様…」

 

そんな事、認められるか!

完全に正当防衛だろ!

寧ろ、その悪魔こそが断罪されるべきだ!

もう死んでるけど。

 

「…なら、ここにいればいい」

「「えっ!?」」

 

足長おじさん曰く、この家は特殊な結界で守られているらしく、人外や特殊な能力を持った人間達には家の中の気配を一切感じさせないらしい。

もし近くまで来たとしても、そのまま素通りしてしまうらしい。

なんともご都合主義溢れる結界だ。

 

その事をちゃんと説明すると、二人の涙腺はとうとう崩壊してしまった。

 

「だけど…ここにいたら迷惑を掛けてしまうにゃ…」

「この家には、さっき言った結界がある。それに、私は別に気にしない」

『その程度で迷惑と感じるなら、赤龍帝などやってはおられんさ』

 

なんでも、赤龍帝の籠手を宿す私からは龍のオーラ的な物が垂れ流しになっているらしく、向こうの方からトラブルがやってくるらしい。

もしかして、初期の状態からアラガミのヘイト値が私に対してのみ全開なのは、そのせい?

 

「いずれ、安全に外出できる方法を考える。それに…」

「それに…?」

「そろそろ、一人暮らしも飽きてきたところだ」

 

やっぱり、孤独には耐えられませんよ。

人間(笑)だもの。

 

「…姉様…。私はここにいたいです…」

「白音…」

「この人なら、信用出来る気がするんです。それに、もう姉様の辛そうな顔を見たくないんです…」

「白音~!」

 

黒歌が白音に抱き着く。

…家族って…いいなぁ…。

 

「お姉ちゃんも、白音の辛そうな顔を見たくはないにゃ!離れたく無いにゃ!」

「私もです…」

 

もしも、素の性格を出せたら私もつられて泣いてただろうな…。

昔から涙もろかったから。

 

「でも…本当に良いのかにゃ?」

「部屋の空きならあるし、この家は一人で住むには広すぎる。だから、大丈夫」

「あ…ありがとうにゃ~!」

 

今度は私に抱き着いてきた。

その際、黒歌の豊満な胸が私に押し付けられたが、同性だからか、何にも感じない。

本格的に精神も女になってるな…。

 

「あ、そう言えば、どうして私達の姿を見ても驚いたりしなかったのかにゃ?大抵の人間は絶対に驚くにゃ」

「人外は見慣れているし、それに…」

 

私は籠手を収納した後に腕まくりをして、左腕を覆っている手袋を外した。

これから共同生活をすると決めた以上、こちらも『これ』を見せなきゃフェアじゃない。

 

「そ…それって!?」

「この通り。私も普通の人間じゃない」

 

二人が息を飲むように驚く。

無理もない。

この左腕はどう見たって普通じゃない。

明らかに人外の物だ。

 

「その腕は…どうしたんですか……」

「これは…」

 

本当は足長おじさんにこんな腕にされたんだけど、ここは敢えて、こんな姿になった『根本的な理由』を言う事にした。

 

「以前…仲間を救う際に…ね」

「そんな…」

 

ま、そんな顔にもなるよね。

それが普通の反応だよ。

 

『嘗て、相棒は己の仲間を救う為に苦渋の選択を強いられた。目の前の仲間の命か、他の仲間の命か。その両方を救おうとした結果が、この左腕だ。寧ろ、この程度で済んでいるのは奇跡に近い』

「もしも手遅れだったら、死よりも辛い事になっていただろう…」

 

アラガミ化した神機使いは、自分の神機でしか殺せない。

一度この連鎖が始まってしまえば、そこには無限の悲劇しかない。

 

「後悔は…無いのかにゃ?同じ女として、見ているのは辛いにゃ…」

「優しいね…」

 

私はそっと黒歌の頭を撫でる。

 

「後悔は無い。私の腕を犠牲にして仲間の命を救えたのだから、後悔する理由が無い」

「そんなの…悲しすぎるにゃ…」

 

黒歌は、さっきとは違う風に私を抱きしめた。

まるで、私を慰めるように。

 

「決めたにゃ。このまま君を放置しておけないにゃ。放っておけば、もっと傷ついてしまうにゃ」

『それには俺も同感だ。相棒、お前はもっと自分を大事にすべきだ。自己犠牲の全てを否定はしないが、度が過ぎれば、見ている方が辛い』

「…………」

 

グゥの音も出ません…。

この体になってから、どうにも自分を意図的に追い込む癖がある。

ちょっとは自重した方がいいのかな?

 

「私も、姉様に同感です。命の恩人が傷ついていくのは見たくありません」

「白音…」

 

いい姉妹だな…。

 

「わかった。これからは余り無茶はしないようにしよう」

「『余り』じゃなくて、『絶対』です」

「白音の言う通りにゃ」

「ふふ…そうだな」

 

こんな事を言いつつも、きっとやってしまうんだろうなぁ~…。

我ながら、難儀な性格だよ…。

 

「我…苦しい…」

「ああ!御免にゃ!」

 

そう言えば、オーフィスが膝の上に乗ってたね。

黒歌が私に抱き着けば、必然的に私と黒歌の胸に挟まれちゃうか。

 

「そ…そう言えば、まだ君の名前を聞いてなかったにゃ」

「そうですね」

 

そうだった。

こんな場合は、私の方から自己紹介をするべきなのに、迂闊だった。

 

『ようやく自己紹介出来るな』

「長かった…」

 

いっつも、私が名前を言おうとすると転移が始まっちゃうんだもん。

絶対に足長おじさんは分かっててやってたでしょ。

 

 

 

 

「私はマユ。……闇里(アンリ)マユ。しがない神機使いだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やっとオリ主の名前が出せましたぁ~!

ここまで主人公の名前が出せなかったのは初めてです。
タイミングが重要でしたから。
結構考えました。

実は現在、考えてることがあります。
オリ主に合わせてヴァーリもTSさせるかどうかです。
ぶっちゃけ、どっちでもストーリーを繋げる事は出来るんですけど、女の子にした方が面白そうなのもまた事実。

現在、絶賛思案中です。

では、次回。


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第7話 美味しい御飯

今日のお昼、お弁当を食べていたら…急に何の前触れもなく箸が折れてしまいました。

これは…何か不吉な事が起こる前触れか…?

そう思って少し怖がっていたら……なんと!

12月1日から、GERとGR2RBで最新無料アップデートですと!?

いつの間にか恐怖は去り、テンションがMAXになってました。

今から楽しみです。




 お互いの自己紹介が終わり、これからどうしようかと考えていたら……

 

キュ~…

 

突然、目の前にいる黒歌と白音のお腹から空腹を訴える音が聞こえた。

 

「「あ……」」

 

女の子としては恥ずかしいのか、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

ふと、時計を見てみると、既に時間は18時30分を回っていた。

窓の外は夕闇が見えていた。

 

(家に帰ってきたのは確か5時30分ぐらいだったな…。あれからもう1時間も経ったのか…)

 

色んな事がありすぎて、全然分からなかった…。

道理でお腹が空くはずだよ。

 

「少し早いが、食事の準備をしようか」

「ゴッドイーター」

「ん?」

「我の話…」

「あ…」

 

そうだった。

この子も確か私に用があるんだった。

 

「でも、今はまだいい」

「…?」

「我もお腹空いた」

「ふふ…そうか」

 

いかに天下に名立たる龍とは言え、空腹には勝てない…か。

 

夕飯は何にしようか考えながら立ち上がると、黒歌達も慌てて立ち上がった。

 

「わ…私も手伝うにゃ!」

「私も!」

「その気持ちはありがたいが、二人共まだ完全に回復した訳じゃない。ここは私に任せて、二人はテーブルに座って待っててくれ」

「う…分かったにゃ」

「お世話になります…」

 

渋々と言った感じで、二人はリビングにあるテーブルに向かった。

 

「オーフィスも待ってていいよ」

「手伝う」

「…え?」

「我は手伝う」

 

わぁお…。

これは意外な展開…。

 

「い…いいのか?」

「ん。我がしたいだけ」

「そうか…」

 

嬉しいは嬉しいけど…大丈夫かな?

 

『い…いいのか?』

「本人の気持ちを無下には出来ない」

 

なんとなくだけど、これはとてもいいこと(・・・・)だと思うから。

 

「それじゃあ…お願い」

「ん」

 

私とオーフィスちゃんは一緒にキッチンに入っていった。

 

「さて…」

『何を作る気だ?』

「そうだな…」

 

黒歌達は長い間、まともな食事をしていないように見受けられる。

多分、彼女達を玩具にしていた貴族悪魔のせいだろうが、今はその怒りを抑える。

 

空腹のお腹にこってりしたものは、却って消化に悪い。

だから、ここは消化にいい暖かい料理を作るとしよう。

だから……

 

「お粥にしよう」

 

これなら、今の黒歌達でもスムーズに食べられるだろう。

 

と言う事で、早速調理開始。

 

敢えて省略するが、調理自体は思ったよりも順調に進んでいった。

 

「オーフィス、塩を取って」

「わかった」

 

トテトテと調味料が入っている箱があるところに向かい、塩の入ったタッパーを持ってきた。

 

「ん」

「…よく分かったね?」

「書いてあった」

「それもそっか」

 

流石に書いてあるなら分かるか。

ちょっと子供扱いしていたかも。

 

その後もオーフィスのお陰で、思ったよりも早く調理は進んでいった。

 

「味噌」

「ん」

「味見をするか……ん」

「どう?」

「うん、美味しい」

「我も」

「いいよ」

「あむ…」

「どう?」

「美味しい…」

「よかった」

 

こんな感じ。

誰かと一緒に料理を作るなんて初めてだから、なんかちょっと楽しい。

 

「なんか…違和感が無いですね」

「全くだにゃ…。髪の色とかも一緒だし、まるで親子みたいだにゃ」

 

お…親子とな!?

私はまだそんな歳じゃないよ!?

 

「…聞こえてるからな?」

「にゃんと!?」

 

でも…私の歳か…。

たしか、ゴッドイーターの主人公って、コウタと同い年か少し上だって言ってたな…。

だったら…。

 

「一応言っておくが、私はまだ15歳だ」

「「ええっ!?」」

 

おい、そのリアクションはなんだ。

 

二人の反応を怪訝に思いながら、私はおかゆの入っている器の蓋を閉めた。

 

「だって、15の女の子にしちゃ、背が高すぎるにゃ!」

「どう見たって、身長170以上はありますよ…」

 

そう言えば、自分の身長体重なんて調べた事なかったな。

なんでか、この家には体重計だけじゃなくて身長測定なんかに使う道具もあるからな。

今度試しに測ってみるか。

絶対に足長おじさんが置いたものだろうけど。

 

そんな事を考えているうちに、全員分のお粥が出来上がった。

私は火を止めてから、トレーにまずは二人分のお粥を乗せた。

 

「これは熱いから、私が運ぶ」

「ん、わかった」

 

私はお粥をテーブルまで運んでいって、黒歌と白音の前に置いた。

 

「なんか…凄く美味しそうな匂いが漂ってくるにゃ…」

「口の中が涎で一杯です…」

 

キッチンに戻り、私達の分のお粥をトレーに乗せて、リビングに向かう。

 

「これでよし…と」

 

私達の分のお粥もテーブルに並べてから、私とオーフィスは席に着いた。

その際、オーフィスがいつの間にか持っていた梅干しの入っているタッパーと人数分の箸を一緒に置いた。

 

「それじゃ…」

 

私は目の前で手を合わせる。

それに続くようにして、黒歌と白音も手を合わせた。

 

「…?それ、何?」

「これは、ご飯を食べる前にする挨拶みたいなものにゃ」

「自分の血となり肉となる食材に感謝を込める意味があるんだ」

「わかった」

 

説明を聞いて納得したのか、私達の真似をするようにオーフィスも手を合わせた。

 

「「「いただきます」」」

「い…ただきます?」

 

まだ熱いが、握れない程ではない蓋を開けて、おかゆを御開帳する。

中からは、とてもいい匂いが鼻孔を刺激する。

 

それに続くように、皆も蓋を開ける。

 

「「うわぁ…」」

 

今回は、お粥はお粥でも、卵粥にしてみました。

そして、隠し味としてちょっぴり味噌を加えてみた。

 

「さ…早速いただくにゃ…」

「どうぞ」

 

黒歌がぱくりと一口粥を口にする。

 

「お…美味しいにゃ!このお粥、滅茶苦茶美味しいにゃ!」

「それに…とても暖かいです…。まるで、体の芯から暖まるように…」

 

好評なようでよかった。

二人の満足そうな様子を見て、私もお粥を食べることにした。

うん、美味しい。

 

「オーフィス、どうだ?」

「ん、おいしい」

 

彼女は、ほっぺたにご飯粒を付けたまま答えた。

その顔は相変わらず無表情だが、心なしか嬉しそうにも見える。

 

「ご飯粒」

「ん」

 

仕方がないので、ご飯粒を取ってあげる。

 

「「………」」

 

な…なによ?

じっとこっちを見て…。

 

「「お願いだから、違和感仕事をしてください」」

「まだ言うか」

 

そんなに老けてるかなぁ…。

流石にショックだぞ?

 

私が何気に傷ついていると、ポケットの中のスマホに着信が来た。

 

「あ…」

 

私に掛けてくる奴なんて、現状一人しかいない。

 

食事の手を止めて迷わず着信に出ると、聞きなれた声が聞こえてきた。

 

『やっほ~!君の足長おじさんだよ~!』

「…切るゾ?」

『ご…ごめんって!ちょっとした冗談じゃん!』

 

アンタの冗談はなんかムカつくんだよ。

 

「…で?何?」

『その前に、スマホをスピーカーにしてくれる?』

「…?わかった」

 

なんなんだ?

 

私はスマホを操作して、スピーカーモードにした後、テーブルの中央に置いた。

 

「ん?どうしたのかにゃ?」

「私にもわからない」

 

こっちの方が知りたいぐらいだしね。

 

『あーあー…テステス。聞こえてる~?』

「ああ、大丈夫だ」

『よかった。え~…ごほん。黒歌ちゃんに白音ちゃん…だったかな?』

「ふ…ふぇっ!?」

「な…なんで私達の名前を?いや、それ以前に誰ですか?」

『僕は足長おじさん!そこにいるマユちゃんの後方支援者さ!』

「こ…後方支援者?」

『そう!彼女を色んな場所に送っているのも、僕なんだよ!』

「じゃあ…マユさんが神出鬼没と言われているのは…」

『僕の仕業ってわけ!ま、僕自身も場所を特定して送っている訳じゃないけどね』

「そうなのか?」

 

てっきり、予めアラガミの出現場所が分かってて、その上で転移していると思ってたけど…。

 

『僕は、あいつ等(アラガミ)の存在をマーカーにして送っているだけだからね。場所に関しては完全にランダムだよ』

 

そう言う絡繰りだったのか。

道理で色んな場所に飛ばされるはずだ。

 

「…ちょっと待て。出現場所が時々空だったりするのも、ランダムだからなのか?」

『…………テヘペロ♡』

「もしも会うことがあったら、絶対殴る」

『ふ…ふ~んだ!電話越しにじゃ殴れないもんね~!』

 

明らかに怖がってるだろ。

声が震えてるぞ。

 

「そろそろ、何の目的で掛けてきたのか言ったらどうだ?」

『あ…そうだった』

 

忘れるなよ。

 

『実は、密かに君達の事を見てたんだけど、なんとかして安全に外出出来るようにしてあげたいんだって?』

「ああ。その方法を考えてる」

『それなら、僕にお任せあれ!』

 

大声で足長おじさんが叫ぶと、テーブルの横に魔法陣が展開された。

って…何気にとんでもない事言わなかったか?

ストーキングでもしてるのか?

 

「ま…魔法陣!?」

 

魔法陣の中央に、マイナスイオンとかを発生しそうな、通販とかで売ってそうな銀色の首飾りが2個現れた。

 

「これは…?」

『認識阻害首飾り~!』

 

…なんじゃそりゃ。

 

『簡単に言うと、この家に掛けられている結界を個人に発生させるマジックアイテムさ!』

 

途端にファンタジーに足を突っ込んだな。

 

『これさえつければ、君達の存在を人間に見えるようにカモフラージュ出来るよ!』

「「ええ~…」」

 

あ、明らかに疑ってる。

ジト目をしながら箸を動かしてるし。

 

『あ~?疑ってるな~?』

「そりゃ、疑うにゃ」

「どこから見ているかもわからない謎の人物の言う事を、そう簡単に鵜呑みには出来ません」

 

そりゃそうだ。

けど……

 

「大丈夫」

「「え?」」

「この人の事は信用出来る(・・・・・)。だから…大丈夫(・・・)

 

そう、大丈夫(・・・)なのだ。

自分でも分からないが、この人なら心配無い(・・・・・・・・・)と思うのだ(・・・・・)

 

「…マユがそう言うなら、私も信用するにゃ(・・・・・・)

「私もです。マユさんが信じているなら、私も信じることにします(・・・・・・・・・・・)

『ふふ…ありがとう(どうやら、思った以上に進んでいるようだね(・・・・・・・・・))』

 

二人は席から立って、首飾りを手に取って、首に付けた。

 

「…これでいいのかにゃ?」

「なんか…全然変わらないような気がしますけど…」

『自分達じゃ実感しにくいものさ。でも、ちゃんと発動してるよ』

 

そうなのか…。

そう言った知識が無いから、よく分からん。

 

『でも、気を付けてね?それの効果があるのは最大でも魔王クラスまでだから。それ以上の存在…例えば、目の前にいるオーフィスちゃんとかには通用しないから』

「そうなのか?」

「ん。我には二人は猫又に見える」

 

さっき以上に口の周りにご飯粒をくっつけながら、オーフィスちゃんが答えてくれた。

 

「いやいやいや…」

「充分すぎますよ…」

 

私もそう思う。

魔王以上の存在なんて、滅多にいないでしょ。

 

『そうそう。ドライグにも言う事があるんだった』

『ん?なんだ?』

『実は、これからしばらくの間、君達との接触を断とうと思うんだ』

『いきなりだな…』

『こっちにも色々と事情があってね。それで、僕の持つ転移能力や結界展開能力なんかを君に移行したいと思うんだ。その能力で、これからも彼女をサポートして欲しいんだ』

『言われるまでも無い。既に覚悟は決めている』

『その言葉を聞けて安心したよ』

 

どうやら、ドライグの能力が拡張されたようだな。

主にサポート方面に。

 

『それじゃ、僕はそろそろお暇するよ。食事の邪魔をしちゃ悪いからね』

「心配しなくても、食べながら話してる」

『ちぇっ…。いいないいな~!マユちゃん特製のお粥、美味しそうだな~!』

「実際、凄く美味しいにゃ」

「今まで食べたお粥の中じゃ、一番美味しいです」

『ふ~んだ!いいも~んだ!僕の目の前には出来立てほかほかの佐世保バーガーがあるもんね~!』

 

拗ねたように通話が切れた。

 

「…なんだったのかにゃ?」

「意味不明な人でしたね。この首飾りは有難いですけど」

 

いつもの事とはいえ、あのテンションにはついて行けないな…。

 

「ドライグは、あの人がどんな人物なのか知っているのか?」

『いや…。俺も詳しくは知らないんだ。分かっているのは、あいつが神に匹敵する超絶的な能力を持っている事と、自ら動くようなことは決してしないという事だけだな。正体については全然分からん』

「そうか…」

 

私を転生させたぐらいだし、普通じゃないのは確実だろうな。

いつか、直に会う機会があるのだろうか?

 

そんな事を思いながら、私は食事を続けた。

 

途中、ご飯粒を付けたオーフィスちゃんの世話をして、その度に猫姉妹にからかわれた。

けど、不思議と不快じゃなかった。

久方振りに誰かと一緒に食事をしたからだろうか?

転生してから、一番楽しい食事だった。

 

食事が終わった後、今度こそ手伝うと言い出した黒歌と一緒に食器を洗い、皆で食後のお茶を堪能していた。

 

「このお茶も美味しいにゃ~」

「落ち着きます…」

 

二人共、ほっこりとした表情をしている。

そんな顔をされると、こっちも嬉しくなる。

 

「あ…そうだ。何か話があるんじゃなかったか?」

「ん。そうだった」

 

言い出した本人が忘れてたんかい。

 

「我、静寂が欲しい」

「「「静寂?」」」

 

随分と漠然としたものが欲しいんだな。

 

「でも、グレートレッドいるせいで帰れない」

「自分の住み家にか?」

「違う。次元の狭間」

「「「は?」」」

 

次元の狭間?

何処だそりゃ?

 

「だから、ゴッドイーターと一緒にグレートレッド倒す。そして、静寂手に入れる」

「ま…待ってくれ。話について行けない…」

 

頭がこんがらがってきたぞ…。

 

「ドライグ。グレートレッドとは何者だ?」

『簡単に説明すれば、最強の力を持つ龍の中の龍。真の赤龍神帝と呼ばれる、夢幻を司る龍だ。無限を司るオーフィスとは対になる存在ともいえるな』

 

オーフィスちゃんの対になる龍…か。

そんなに乱暴な龍なのかな?

 

『だが…アイツはそんなに粗暴な龍だったか?少なくとも、龍の中では珍しく思慮深い性格だった筈だが…』

「そうなのか?」

『そうだった筈だ。最強の実力を持っていると自覚しているが故に、自ら戦いを挑むことは殆ど無い。受けた勝負は絶対に買うがな』

 

いくら大人しくても、そういう所は龍なのね。

 

「けど、事実。グレートレッド、我を次元の狭間から追い出した」

「う~ん…」

 

思慮深いのなら、意外と話し合いで何とかなるんじゃ?

大体、私なんかが最強の龍に勝てるわけないじゃん。

最初に会った時のドライグも相当な大きさだったよ?

龍の中の龍って事は、確実にあの時のドライグ以上に大きいんでしょ?

私が戦える最大の大きさは、ウロヴォロスが限界だよ。

それ以上は専門外。

 

「オーフィス。まずは話し合って…「早く行く」……え?」

 

オーフィスが急かすように言うと、私の身体が急に光り出した。

この感じは…まさか…!

 

次の瞬間、私はオーフィスちゃんと一緒にどこかに転移した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はなんだか日常回みたいになってしまいました。

次回は、グレートレッドが登場?

性格とか一人称とかよくわかんないから、完全にオリジナルになりますが。

では、次回。


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第8話 真なる赤龍神帝

執筆中、家の目の前を石焼き芋屋が通り過ぎて行きました。

滅茶苦茶いい匂いが私の食欲を刺激しまくりましたが、なんとか耐えてパソコンに向かっています。

私ってば偉い!

思いっきり褒めてあげたい!


 食後のお茶を飲んでいると、突然オーフィスちゃんに転移させられた私。

やって来た場所は……

 

「……え?」

 

辺り一面、真っ黒な場所でした。

岩肌が剥き出しになっている地面だけがあり、他には何もない。

まさしく『無』と表現するのがふさわしい場所かもしれない……って!

 

「…なんで?」

 

テーブルごと来てるんですけど…。

私ってば椅子に座ったままだし…。

隣のオーフィスちゃんも相変わらずの表情でお茶を飲んでる。

 

…あれ?テーブルごと来たって事は……

 

「こ…ここは何処だにゃ!?」

「何にもありませんね…」

 

やっぱり……。

この二人も巻き込まれてたか…。

 

「オ…オーフィス。ここは…?」

「次元の狭間」

「ここが…?」

 

もうちょっと…こう…斑模様的な場所を想像してたけど、思った以上に殺風景だな…。

 

「…なんで二人も連れてきた?」

「…加減を間違えた」

 

あ、なんかちょっとだけ申し訳なさそうにしてる。

一応の反省はしてるのね…。

 

どうしようか考えてると、オーフィスちゃんが椅子から降りて、虚空を見つめている。

 

「……どうした?」

「グレートレッド、近くにいる」

「…分かるのか?」

「ん。気配する」

 

マジで?

 

「…ドライグ…分かるか?」

『い…いや…。グレートレッド程の龍神ならば、封印されていても一発で分かりそうなものだが…』

 

一応、黒歌達にも目配せをする。

 

「何にも感じ無いにゃ…」

「この近くに誰かがいるとは思えませんね…」

 

だよねぇ~?

私にも何にも感じないもん。

 

そんな感じでのんびり構えていたら、その瞬間はやって来た。

 

「「「「『!!!!!』」」」」

 

突然、私達全員の背後に強大な気配が出現したのだ。

今まで感じた事が無いほどに強大な力の奔流。

 

私達は急いで後ろを振り向くと、そこにいたのは……

 

「なっ……!?」

「う…嘘だにゃ……」

「あ…ああ…」

『来たか…!』

「…………」

 

とてつもなく巨大な体躯を誇る、深紅の龍だった。

指一本の大きさでようやく私の背と同じぐらいだった。

 

「なんだ…貴様等は…」

 

しゃ…喋った…。

思ったよりも穏やかな声だけど…。

 

「グレートレッド、久し振り」

「オーフィスか…」

 

やっぱり、この龍がグレートレッドか…。

どうしてオーフィスちゃんは、私がこの龍を倒せると思ったのかね…。

どう考えたって無理ですから!

一瞬で殺されるわ!!

 

「何をしに戻ってきた?」

「グレートレッド、倒す」

「まだ、そんな事を言ってるのか…」

 

もしかして、前から同じことを言ってたの?

 

「その為に、ゴッドイーター連れてきた」

「何…?」

 

うわっ!こっち見た!

 

「赤い腕輪にドライグの気配…。お前が神を喰らう赤龍帝か…」

 

そんな風に言われると、なんが凄く感じるな…。

実際は、そんなに大層な存在じゃないけど。

 

「ドライグ、いるのだろう?」

『あ…ああ』

 

左手に赤龍帝の籠手が出現した。

グレートレッドに応えようとしたのかな?

 

「お前とも久し振りだな…」

『ああ。最後に会ったのはいつだったか、もう忘れてしまった』

「私もだ…」

 

な…なにかしら。

まるで久し振りに同級生に会うような雰囲気は…。

 

「にしても…変わったな。様々な意味で」

『そうだな…。このような姿になってから、色んな人間と出会ってきた。嫌でも心境の変化ぐらいは出るさ』

「だが、一番の原因は今の宿主だろう?」

『ふっ…。お前の目は誤魔化せないか…』

 

ん?心なしか嬉しそうに聞こえたけど…。

 

「神を喰らう者よ」

「なんだ」

 

い…いきなりのご指名ですか!?

 

「オーフィスが世話になったようだな」

「それ程でもない」

 

私も楽しんでた節があったしね。

全然気にしてないよ。

 

でも…この雰囲気なら、話すことは出来そうだな。

どうやら、思慮深いって言うのは本当みたいだし。

 

「グレートレッド、貴方に聞きたいことがある」

「なんだ、言ってみろ」

「オーフィスが貴方にここを追い出されたと聞いた。それはどうしてなんだ?」

「追い出された…?そんな事を言っていたのか…」

 

え?違うの?

 

「私は別に、こいつを追い出したつもりは無いんだがな…」

「どういう事だ?」

 

私は思わずオーフィスちゃんの方を見る。

全然言葉が分かってないような表情をしてたけど。

 

「グレートレッド、ここから出て、外を見ろと言った」

 

……もしかして、これはオーフィスちゃんがキチンと言葉の意味を理解してない?

 

「少しでもオーフィスと過ごしたなら分かると思うが、こいつはかなりの世間知らずだ」

「まぁ……」

「確かに…」

 

そこの猫姉妹、変に納得しない。

ちょっとだけ同感だけど…。

 

「私は、時折様々な姿に己を変えて、外の世界を観て回っている。それによって、様々な知識を得ているのだ」

「知識欲が豊富なのだな…」

 

なんか…私の中の龍のイメージがまたまた変わっていく…。

もう、姿形が違うだけで、精神的には人間と同じか、それ以上に優れてるじゃん。

そりゃ、神と同一って言われるのも無理ないわ。

寧ろ、尊敬の念すら抱くわ。

 

「だが、どういう訳か、オーフィスはこの次元の狭間から一歩も外に出ようとしない。静寂を求めると言うが、私にはどう考えてもそれがコイツの為になるとは思わない」

 

まるで親の考えだな。

対の龍とは言っていたけど、完全にグレートレッドの方が保護者のポジションじゃん。

 

「だから、何度も外の世界で見聞を広めるように言ってきたのだが…」

「我、ここがいい」

「…という訳だ」

「成る程…」

 

こりゃ、筋金入りだ。

もう完全に引きこもりの子供の心配をする親の心境になってるし。

 

「だから、不本意ではあったが、半ば強制的に外に出すことにしたのだ」

「その結果がこれか…」

『お前も苦労してるんだな…』

「にゃんだろう…。不思議と同情してしまう自分がいるにゃ…」

「龍の世界も大変なんですね…」

 

猫又に同情される龍神って…。

 

「オーフィスよ。そんなにも外の世界は嫌か?」

「我、ここで静寂を手にする。…けど」

「けど…どうした?」

「ゴッドイーター一緒にいると、ここがポカポカする」

 

オーフィスちゃんは胸の辺りを両手で抑える。

胸が熱くなるって言いたいのかな?

 

「頭撫でられると、気持ちがいい。ゴッドイーターの近く、不思議と落ち着く」

「ほぅ……」

 

おうっ!?

なんかでっかい目でこっちを見てるんですけど!?

 

「あんなにも静寂に拘っていたオーフィスが、ここまで誰かに懐くとはな…。どうやら、お前と出会ったのは、こいつにとっていい効果を生み出したようだな」

『当たり前だ。こいつは歴代の中でも最強にして最優の赤龍帝だぞ。龍神の心を溶かすぐらいは訳もなく出来る』

「言い過ぎだ…」

 

どうしてそんなに私に対する評価が高いかなぁ~?

困っている女の子に手を差し出すのが、そんなに凄い事?

そりゃ…懐かれたのは予想外だったけど。

 

「オーフィスよ。次元の狭間とその女の隣、どっちが居心地がいいと感じる?」

「ゴッドイーターの隣。ここには静寂があるけど、ポカポカは無い。我、ポカポカ欲しい」

「…と言うことらしい」

 

この流れは…もしかして?

 

「決めた。我、ゴッドイーターと一緒にいる。次元の狭間、出て行く」

「おお!そうか!」

 

今までで一番嬉しそうな声を上げたな。

まるで、子供の独り立ちを喜ぶ親のようだぞ。

 

「だが、そなたばかりに負担を掛けるわけにはいかんな。それに、私もお前と言う存在に興味が出てきた」

 

なんだろう…。

エライ事が起きる予感がする…。

 

「少し待っていてくれ」

「は…はぁ…」

 

何をする気?

そんな風に思っていると、急にグレートレッドの身体が光り出し、同時に縮みだした。

縮むのと一緒に体の形も変化していっている。

具体的に言うと、人型になっていっている。

縮んだ体は、そのまま私の目の前に降りてくる。

 

現れたのは、赤いゴスロリを着た、真っ赤な髪の幼女だった。

 

「これで良し!」

「おお~…。グレートレッド、我と同じようになった」

「私もお前について行くぞ!オーフィスの世話は私に任せろ!付き合いは長いからな!」

「そ…そうか…」

 

あんなに大きな龍が、あっという間に小さな女の子になっちゃった…。

あんまり、現実感が無いや…。はは…。

 

『相棒。早く慣れないと、これからが大変だぞ』

「そう…だな」

 

分かってはいるけど…慣れるかなぁ?

 

「なんか、同居人がまた増えたにゃ」

「でも、賑やかそうで私はいいと思います」

 

それは否定できないんだよなぁ…。

私自身も賑やかなのは嫌いじゃないし…。

 

「そう言えば、どうやって戻れば…」

「来た時と同じ、我が戻す」

 

言うが早いが、オーフィスちゃんは自分の座っていた椅子に座り直した。

 

「早く座る」

「あ…ああ。分かった」

 

私も慌てて、元いた椅子に座った。

すると、グレートレッドが私の膝に乗ってきた。

 

「座る椅子が無いからな。私はここに座らせてくれ」

「ああ」

 

なんか…妙に色んな小さい子供に懐かれまくってない?

前に会ったリアスちゃんもそうだし、神社で会った朱乃って子も満更でもないような顔してたような気がするし、雪山で会った男の子もそうだった。

 

…私って、案外保母さんの才能があったりするのかな?

 

因みに、黒歌と白音は椅子から立っていない為、そのままの体勢でいる。

 

「それじゃ、行く」

 

オーフィスちゃんの呟きと共に、私達は家へと転移したのだった。

 

向こう…何時になってるかなぁ…。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 テーブルごと家に戻ると、既に時計は20時を回っていた。

すっかり外は暗くなっている。

 

「おお~…。ここがお前の家か…」

 

グレートレッドが物珍しそうに室内を見渡している。

さっきまでのギャップが激しいんですけど。

完全に子供じゃん。

 

「あの…オーフィスとグレートレッドに言っておくことが…」

「ん?何?」

「なんだ?」

「出来れば、名前で呼んで欲しい。私にはちゃんと闇里マユと言う名前がある」

 

これからもずっと『ゴッドイーター』とか『神を喰らう者』とか呼ばれたくないし。

特に外とかでは。

 

「わかった。マユのことはマユと呼ぶ」

「私も了解だ。これからよろしく頼むぞ!マユよ!」

「うん。よろしく」

 

おっと、この二人によろしくするなら、ちゃんと黒歌達にも言っておかないと。

 

「黒歌に白音も、これからよろしく」

「よろしくだにゃ!」

「よろしくお願いします」

 

なんか…今日一日で一気に賑やかになったな…。

人生、いつどこで何があるか分かったのもじゃないな…。

 

「それでは、お風呂にでも入るか」

『時間が時間だしな』

 

ちゃんと出かける前に湯船に水は入れてあるし、時間になったら自動的に沸かすようにセットしてきてるんだよ~ん。

その辺は抜かりは無いのだよ、マユお姉さんは。

今ぐらいなら、丁度沸いた頃だと思うし。

 

「あ…でも、私達は着替えが無いにゃ…」

「私のを貸す。少し大きいかもしれないが…」

「その辺は別に気にしないにゃ」

「私もです。貸して貰えるだけでも嬉しいですから(・・・・・・・)

 

嬉しい?

有難いじゃなくて?

 

「我もそれでいい」

「私もだ。確か、幼女が大き目の服を着るのは、世間的にも受けがいいのだろう?」

 

どこでそんな知識を手に入れるんだ…。

そんなんで嬉しがるのは、ロリコンと言う名の一部の変態だけだ。

外で知識を得てきていると言っていたけど、かなり偏ってない?

 

「それじゃ、入る順番はどうするにゃ?」

「まずはマユさんが入るべきだと思います。ここの家主だし、私達を救ったり、夕飯を作ってくれたりと、疲れている筈ですから」

「それが良いにゃ。私も賛成だにゃ」

 

なんていい子達なんだ…。

お姉さん、感動です。

歳、あんまり違わないけどね。

 

「それじゃあ、オーフィスとグレートレッドも一緒に入ろう」

「我達も?」

「いいのか?」

「ああ。二人共、体が小さいから邪魔にはならないし、一緒に入ればそれだけ時間が短縮できる」

「そうか、それならば仕方あるまい」

「我も分かった」

 

と言う事で、イッツお風呂タイ~ム!

着替えを持って、レッツらゴ~!

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 脱衣所で服を脱いでから、洗濯機の中へとポイ。

その際に、グレートレッドが私の左腕に驚いたが、ちゃんと説明すると納得してくれた。

そして、風呂場の扉を開く。

 

「「おお~」」

 

この家の風呂は、大人が2~3人ぐらい同時に入れるぐらいの余裕はある大きさになっている。

ぶっちゃけ、一人では大きすぎました。

きっと、足長おじさんはこうなることが分かってて、予め大きな家具や風呂場なんかを用意したんだろうなぁ…。

どこまで先を読んでるんだ、あの人は…。

 

「中々に豪勢ではないか」

「まぁね」

 

少なくとも、転生前に入っていた風呂よりかは何倍も豪華だ。

 

「まずは体を洗おう。湯船に入るのはそれからだ」

「知っているぞ。確か、風呂に入る前にマナーだったな」

「その通り」

 

意外と分かってるな。

伊達に頻繁に外には出てないってか?

 

何故か三人分ある風呂用の椅子に座り、二人もそこに座らせた。

 

「頭は…」

「私は洗えるぞ!本当だぞ!」

 

誰も疑ってないから。

 

身体が子供になってから、精神も幼くなってない?

さっきまでの威厳に満ち溢れた君はどこに行ったよ?

 

「我は…」

 

あ、なんか困ってるっぽい。

 

何かないかと風呂場を見てみると、私の視界にあるものが写った。

 

「あ……」

 

そこにあったのは、黒と赤のシャンプーハットだった。

どう考えても、足長おじさんが用意した物でしょ…。

 

「オーフィスは私が洗ってあげる」

「ん。わかった」

 

私はオーフィスの頭に黒いシャンプーハットを被せた。

 

「ん?」

「これを付けていると、シャンプーが目に入らない」

「おお~…」

 

感心したように、自分の頭に被さっているシャンプーハットを触る。

やっぱり、珍しいのかな?

 

「グレートレッドも」

「おお!かたじけないな!」

 

グレートレッドも笑顔で受け取ってくれた。

 

私は洗面器にお湯を入れて、オーフィスに確認を取った後に頭からお湯を掛けた。

それに続くようにして、もう一つの洗面器を使って自分の頭にお湯を掛けるグレードレッド。

 

次に、近くにあるシャンプーをプッシュして手に出して、手で捏ねてから泡立たせる。

 

「それじゃ、いくよ?」

「ん」

 

私はゆっくりとオーフィスの頭を洗い出した。

 

「ん…」

 

ん?くすぐったいのかな?

 

「どうした?」

「わかんない…。けど、変な気持ちになる…」

 

へ…変な気持ち?

 

「ここ、またポカポカする…」

 

もしかして、気持ちがいいって事かな?

 

ちょっと気になったので、隣のグレートレッドを見てみると…

 

「~♪」

 

気持ちよさそうに頭を洗っていた。

どうやら、本当に一人で洗えるようで安心した。

 

「じゃ、流すよ」

「ん」

 

ゆっくりとお湯をかけて、頭の泡を洗い流す。

 

二回ほどお湯をかけて、完全に頭の泡を洗い流した後、次は体を洗うことにした。

これも、グレートレッドは自分で洗って、オーフィスは私が洗ってあげた。

その間も、オーフィスは気持ちよさそうに目を細めていた。

 

二人の身体と頭を洗った後、二人には湯船に入って貰い、最後に私が自分の頭と体を洗った。

実は、この左腕って意外と洗うのが大変で、洗う際にはたわしでこすらないとちゃんと汚れが落ちなかったりする。

 

その後、私も二人の隙間を縫うように湯船に入った。

 

「「「ふぅ~…」」」

 

一日の疲れが取れていくようだよ…。

やっぱり…お風呂って好きだ…。

 

「ふむ…マユよ。一つ訪ねたいことがある」

「ん?なに?」

「その赤い腕輪は外さなくてもよいのか?錆びてしまうのではないか?」

「大丈夫。これは防水加工が施されてるし、それに…」

 

自分の目の前に右腕を出す。

 

「この腕輪は私の身体と一体化している。もしもこの腕輪が外れてしまったら、私は死んでしまう」

「なんと…!」

「……!」

 

二人共、大きく目を見開いた。

ま、普通は信じられないよね。

こんな腕輪が私の命を握ってるなんて。

 

「我、マユ死ぬの嫌」

「私も嫌だぞ!絶対に死ぬな!」

「ああ…」

 

無茶言うなぁ…。

けど、滅茶苦茶嬉しいな…。

 

嬉しさに包まれながら、私はオーフィス達と一緒に体の芯から温まった。

誰かと一緒のお風呂をたっぷりと堪能した後、私達はお風呂から上がった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私達がお風呂から上がった後、それに続くようにして黒歌達が風呂に入った。

 

風呂から上がった後、四人に着せた寝間着は、私が最初に持っていた服とは違い、転生してから買ってきた服を貸した。

 

オーフィスとグレートレッドは体が小さかった為、Tシャツ一枚で何とかなった。

黒歌はTシャツとジャージ、白音も同じような格好だったが、流石にダボダボだった。

流石に、下着だけはなんともならなかった。

黒歌以外は。

 

今日は色々とあって疲れたため、早めに寝ようと床に就こうとしたら、なんでか四人共が部屋について来た。

 

「我、マユと一緒に寝る」

「私も一緒にいいか?」

「じ…実は私も一緒に寝たいにゃ…。人肌が恋しくなってしまって…」

「わ…私も…です。一人で寝ようとすると、悪魔の所にいた時の事を思い出しそうで…」

 

そんな顔で言われたら、断れないじゃない…。

 

「いいよ。一緒に寝よう」

 

体の大きい私に合わせたのか、ベットの大きさもかなりのものになっている。

少なくとも、私が両手足を広げても余裕がある。

最初に言うのを忘れてたけど。

 

そんな訳で、皆で一緒のベットに寝ることにした。

 

私が中心で、オーフィスとグレートレッドが私に左右から抱きつようにして寝て、そこから更に黒歌と白音が私に抱き着くような格好で寝付いた。

 

生まれて初めて誰かと一緒に寝たせいか、その晩はいつも以上にぐっすりと寝れた。

 

こうして、私と彼女達との共同生活が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく、オリ主の同居人全員集合!

龍な幼女×2と猫耳少女×2。

これから更に、誰が加わるんでしょうね?

ま、聡明な読者の方々なら、大方の予想が出来ているかもしれませんが。

では、次回。


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第9話 楽しい共同生活

今回は日常回と言う名の繋ぎ回です。

原作に入るのはもうちょっと先になると思います。




 黒歌や白音、そしてオーフィスちゃんとグレートレッドと一緒に共同生活を始めてから、早数日が経過した。

 

あれから、家事は基本的に私と黒歌でやる事になった。

それを白音やオーフィスちゃん達が手伝うような形が早くも形成されつつある。

 

皆とてもいい子で、私としても非常に楽しい日常を満喫させて貰っている。

 

そんな私が今何をしてるのかと言うと……

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「ふっ!」

 

とある港町の倉庫街にて、アラガミと交戦中です。

周囲には全く人間の気配が無い。

恐らく、この倉庫街は既に廃棄されているんだろう。

ま、お陰でこっちも遠慮なく戦えるんだけど。

一応、ドライグに人避けの結界は張って貰ってるけどね。

 

時代は現代。

ドライグ曰く、今までの戦闘はいずれも過去の世界での出来事で、これからは現代での戦いが主になっていくだろうとの事。

その理由はよく分かっていないけど。

 

今回の格好は、偶には真面目な服装をという事で、フェンリル制式制服(グリーン)の上下だ。

キチンとした戦闘服であるせいか、かなり動きやすい。

 

因みに、今回交戦しているのはグボロ・グボロ。

大きな顎を持つアラガミで、額の部分に砲身のような部位があり、遠近両方において戦える、中々のオールラウンダーだ。

 

だが……

 

「あと少しだ…」

 

もう瀕死でフラフラになってます。

牙、胴体、背びれと、部位破壊出来る部分は全部壊してある。

その上、さっきから動きが鈍くなってきているため、容赦なくベルソル(バスターブレード)を叩き込んでいる。

 

『いい加減にくたばればいいものを…』

「油断は禁物」

 

少し息を整えていると、グボロ・グボロが左右に飛び跳ねるようにジグザグに突撃してきた。

冷静に動きを見て、私はグボロ・グボロの動きとは真逆の動きをして回避した。

その結果、私は上手く奴の背後に回ることが出来た。

 

こうなれば、もうあと少しだ。

 

私はポケットからスタングレネードを取り出して、こっちに振り向こうとしているグボロ・グボロに向かって大きく投げつけた。

 

「暗め…」

 

次の瞬間、仄暗い倉庫内が一瞬だけ眩しい閃光に包まれる。

その閃光に網膜をやられたグボロ・グボロは完全に怯み、明らかな隙が生まれた。

 

私は両手で神機を構え、大きく振りかぶる。

それと同時に、グリップについているボタンを押す。

すると、神機の刀身から紫がかったオーラが現れ、刀身を覆った。

 

「貫く…!」

 

そして、私は念には念を入れることにした。

 

「ドライグ。倍化」

【Boost!】

「もっと」

【Boost!】

「もう一回」

【Boost!】

 

三回の倍化。

威力が8倍にまで上がったチャージクラッシュのオーラは、天井に届くほどにまで大きくなった。

 

こっちの準備が完了したと同時に、グボロ・グボロが正気に戻り、私を見据える。

だが、時すでに遅し。

もう既にお前の命運は尽きているのだ。

 

睨み付けるようにこっちを見たグボロ・グボロは、私に向かって突進してきた。

だが、私は回避行動に移ることなく、そのまま奴を迎え撃った。

グボロ・グボロの突撃に合わせて、全力で神機を振り下ろす!!

 

「でぇいっ!!!」

 

すると、特大の一撃はグボロ・グボロの体を一瞬で真っ二つにしただけでなく、その衝撃波で倉庫そのものを吹き飛ばし、更にコンクリートの床には大きなクレーターが出来上がった。

 

周囲には土煙が立ち込め、何にも見えなくなってしまった。

 

「やり過ぎた…」

『はははっ!凄いぞ相棒!たった三回の倍化でこれほどの威力か!流石は俺が見込んだだけの事はある!』

 

ドライグ、はしゃぎすぎ。

 

急に風が吹き、煙が晴れると、そこには真っ二つどころか、8倍チャージクラッシュの威力で粉々になったグボロ・グボロの死骸があった。

その周囲には夥しい程の血が飛び散っている。

どう考えても生きていない。

だって、亡骸の中央に青く光るコアがあるもの。

 

倉庫は完全に潰れていて、見る影もない。

夜空には星々が輝いている。

 

「捕食…出来るかな?」

『試しにしてみればどうだ?』

「うん」

 

地面に転がっているコア目掛けて、私は神機を捕食形態にする。

チャージのプレデタースタイルはカーネイジ。

本来ならば、捕食した瞬間にアラガミ濃縮弾を自動で発射するのだが、戦闘中でなければ問題無い。

 

漆黒の大顎を落ちているコア目掛けて放つ。

問題無く捕食に成功して、神機のコアが一瞬だけ光った。

 

「…大丈夫だった」

『よし。これで戦闘終了だな』

「ああ」

 

思ったよりも苦戦はしなかった。

どうやら、『私自身』も段々とアラガミとの戦闘に慣れつつあるようだ。

 

「後始末…どうしよう」

『問題無いだろう。多分、違う事故などに置き換わるさ』

「だといいけど」

 

想像以上に倍化の効果はデカい。

これからは、力の加減をちゃんと考えないとな。

 

『では、転移するぞ』

「うん」

 

最近は、もっぱらドライグの力で戦闘領域内に転移している。

倍化以外にも出来る事が増えて嬉しいのか、ドライグ自身も全く嫌がっている様子はない。

 

こうして、今回の戦闘を終えた私は、皆が待っている家に帰るのだった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 玄関前に転移すると、一応の為に周囲の様子を見る。

夜になっている為、人影は無かった。

 

「よし」

 

確認が終わると、私は玄関のドアを開ける。

すると、奥の方からトテトテと三人ほどの足音が聞こえた。

 

「おかえりなさい、マユさん。ご苦労様です」

「マユ、お帰り」

「お疲れ様だ!マユ!」

 

私の事を出迎えてくれたのは、白音とオーフィスちゃんとグレートレッドだった。

黒歌は恐らく、キッチンにて夕飯を作っているんだろう。

 

「ああ…ただいま」

 

やっぱり…お帰りって言って貰えるって…いいなぁ…。

なんか、『帰ってきた』って感じがするよ。

 

そうそう、実は彼女達には既に私の事やアラガミの事については話してある。

流石に、私が転生者であるとは言えなかった為、私はゴッドイーターの世界から足長おじさんの手によって異世界転移させられたという事にしておいた。

あながち、間違いでもないし。

 

当初、私しかアラガミと戦えないという事に皆、難色を示していたが、ちゃんと理由を説明したら、一応の納得をしてくれた。

幾ら猫又と龍神とは言え、万が一の事があっては困る。

だから、彼女達には悪いがここで待って貰うことにした。

 

でも、待ってるだけでは嫌なのか、黒歌や白音は密かに体術や仙術の訓練をしているようだ。

ま、その向上心は偉いと思うけどね。

 

「黒歌姉様はキッチンで夕飯の準備をしてます。先にお風呂に入って来てはいかがですか?」

「今日は私とオーフィスが風呂掃除をしたんだぞ!」

「我、頑張った」

「うん。偉い偉い」

 

小さいながらに、一生懸命に手伝ってくれる。

その姿勢が嬉しくて、つい反射的に二人の頭を撫でる。

 

「えへへ……」

「はぅぅ…」

 

気持ちよさそうに目を細めるオーフィスちゃんとグレートレッド。

あぁ…癒されるなぁ…。

 

「…………」

 

あ、なんか白音が羨ましそうに二人を見てる。

もしかして、この子も撫でて欲しいのかな?

可愛い奴め。

それなら、そのリクエストに応えようではないか。

 

「白音も、今日一日ご苦労様」

「あ…ありがとうございます……」

 

顔を真っ赤にして下を向いてしまった。

その仕草が可愛くて、自然と微笑んでしまう。

 

そんな三人を眺めながら、靴を脱いで家の中に入る。

 

「それで、どうしますか?」

「そうだな…」

 

確かに今日は疲れたし、って言うか、アラガミと戦闘して疲れない日とか無いしね。

 

「遠慮なく、入らせて貰うよ」

「わかりました。既に準備は済ませてあります」

「ありがとう」

 

ホント、準備がいいよなぁ…。

きっと、将来はいい奥さんいなるんだろうなぁ…。

 

そんな事を考えながら、私は白音達と一緒にリビングへと入っていく。

 

「黒歌、ただいま」

「あ!マユ!お帰りだにゃ!」

 

こっちを見て嬉しそうに微笑む黒歌。

黒いワンピースに白いエプロンを付けている。

 

そうそう、実はこの間、皆の分の普段着や下着なんかを買いに行った。

流石にこのまま私の服を貸し続けるわけにはいかないので、大量に購入した。

かなりの出費になったが、元々一人では使い切れないほどあるのだから、一切問題無かった。

黒歌と白音は非常に申し訳なさそうにしていたけど。

 

「もう少しで夕飯が出来上がるにゃ」

「なら、その前にお風呂に入ってくる」

「わかったにゃ。ついでだから、白音達も一緒に入ってくるといいにゃ」

「え?いいんですか?」

「節約の為だにゃ」

 

すっかり主婦目線になっちゃって。

けど、そんな君も素敵です。

 

「わかりました。それじゃあ、お言葉に甘えることにします」

「我も分かった」

「私もだ」

「私は、夕飯の後に入るにゃ」

「いつも済まないな」

「気にして無いにゃ。こうして普通の生活をさせてくれて、こっちの方こそマユにお礼を言いたいにゃ」

 

そんなに気にしなくてもいいのに。

けど、その気持ちは純粋に嬉しいです。

 

「それじゃ、行こうか」

「はい」

「ん」

「おう!」

 

私達をそれぞれに部屋に戻り、着替えを取ってくる。

因みに、白音と黒歌、オーフィスちゃんとグレートレッドでそれぞれ同じ部屋で暮らしている。

 

着替えを用意した私達は、揃って風呂場に向かう。

 

四人で入るのは狭いと思われるかもしれないが、白音は普通よりも体が小さいし、オーフィスちゃんとグレートレッドは言わずもがなだ。

 

服を脱いでから、風呂場のドアを開けると、まずは風呂場の椅子に座ってゆっくりと自分の身体に湯を流す。

 

「ふぅ……」

 

あぁ……これだけで結構スッキリするよ…。

 

「まずは…」

「「「わかってる(ます)」」」

 

うむ、よろしい。

 

私はいつものようにオーフィスちゃんを、白音はグレートレッドの頭をそれぞれに洗ってあげる。

最初は子供扱いされるのを、あんまりよく思っていなかったが、今ではすっかり頭を洗ってもらうのを許している。

もう完全に普通の女の子と化している。

 

幼女二人の頭と体を洗った後、私達の頭と体を洗う。

その時、ふと白音の視線が私の胸に集中しているのを感じた。

 

「ん?どうした?」

「…羨ましいです」

「え?」

 

もしかして…胸の事を気にしてる?

でも、確か白音って私の2つ下だったよね?

だったら、今ぐらいのサイズが普通だと思うけど。

 

でも…私ってばそんなに大きいかな?

アリサやサクヤさんやカノンちゃんに、身近なところだと黒歌の方が大きくない?

 

白音の羨望の眼差しを浴びながら、頭と体を洗った私達は、待望の湯船に入る。

 

「はぁ~…」

 

癒されるぅ~…♡

一日の疲れが消えていくようだよ…。

 

「今日はどこに行ったんですか?」

「今回は港にある倉庫街だった」

「ま、マユならどんな奴が来ても楽勝だろうがな!」

「我も同感」

 

過大評価しすぎだって。

私だって負ける時は負けるよ。

 

「…今日はちょっとやり過ぎた」

「と言うと?」

「止めの一撃を刺す際、三回ほど倍化したら、倉庫ごと吹き飛ばしてしまった」

 

あれ…本気でどうしよう…?

怒られたりしないかな…。

 

「凄いですね…。流石はマユさんです」

「ははは!伝説は伊達ではないと言う事か!」

「マユなら当たり前」

 

当たり前と来ましたか…。

悪い気はしないけど。

 

ゆっくりとお風呂を堪能し、疲れを癒した後、私達はお風呂から上がった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

寝間着に着替えてリビングに行くと、黒歌が夕飯の準備を丁度済ませるところだった。

 

「あ、ナイスタイミングにゃ」

「そのようだな」

 

今日の夕飯は焼き魚に肉野菜炒め。

四人分な為、肉野菜炒めは大皿に大量に盛られている。

 

皆で椅子に座り、手を合わせる。

 

「「「「いただきます」」」」

 

皆揃って箸を取って、夕食に手を付ける。

 

ホカホカのご飯の入った器を手に取って、おかずである肉野菜炒めを食べる。

うん、実に美味。

黒歌は料理が上手だなぁ。

 

次に、焼き魚に醤油をかけて、少しだけ解してからパクリ。

いい焼き加減だ。

 

「黒歌は…いい奥さんになれるな」

「い…いきなり何にゃ!?」

「素直な感想を言っただけ」

「そんなセリフを素で言えるマユの方が、ある意味凄いにゃ…」

「同感です」

 

うんうんと頷きながら、白音も同意する。

別に凄くはないでしょ。

思った事を言っただけだし。

その証拠に、オーフィスちゃんとグレートレッドは?マークを浮かべてるし。

 

そんな感じで食事の時間は楽しく過ぎていく。

 

 

 

こんな風な穏やかな毎日を過ごしていく内に、とうとうあの日がやって来た。

 

 

そう……私の高校入学の日だ。

 

 

受験の方はなんでか免除になっていた。

と言うのも、どう言う訳か私は推薦入学と言う事になっていたのだ。

これも、足長おじさんの仕業なんだろうか…?

いつの間にか必要な書類や様々な教科の教科書、制服なども送られてきたし。

 

出来れば黒歌も行かせてあげたいが、本人が家で家事をすることを強く希望したため、私の方が大人しく諦めることにした。

でも、白音はなんとかしてあげたいな…。

 

さてはて、転生してから初めての高校生活で、一体どんな出会いが待っているのやら…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、成長した他のキャラが登場します。
と言っても、話の都合上、二人ぐらいですけどね。

まだまだ原作突入はありません。

もう少しだけ待っててください。

では、次回。



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高校入学 ~再会と新生活~
第10話 友達100人出来るかな?


今回から高校入学です。

そして、原作メインヒロインが再登場する回でもあります。

果たして、マユはどんな高校生活を送るのでしょうか?




 その日、魔王であるサーゼクス・ルシファーは冥界にあるグレモリー邸の自分の書斎にて仕事をしていた。

ノートパソコンと睨めっこしながら確認しているのは、自分が理事長を務めている駒王学園の新入生のデータだった。

 

人間界と冥界の発展は表裏一体で、人間界の文明レベルが上がれば、それに比例して冥界の文明レベルも向上していた。

今では、冥界にある各都市は人間界の都会と何ら遜色ない程に華やかになっている。

故に、魔王である彼がこうして文明の利器を使用しているのも、別段変なことでは無いのだ。

 

「ふぅ……」

 

椅子の背もたれに体を預けながら体を伸ばす。

それと同時に眼鏡を外して眉間を揉み解す。

 

「最近になって女子高から共学に変えたせいか、男子の数が段々と増えてきたな…」

 

今年は、彼の妹であるリアスも入学する予定になっている。

だからこそ、いつも以上に入念な確認作業をしているのだ。

 

「さて…気合いを入れて続けるか」

 

再び眼鏡を掛けて作業に戻るサーゼクス。

すると、書斎の扉が開かれて、メイド服を着た一人の女性が入って来た。

 

彼女の名は『グレイフィア・ルキフグス』。

サーゼクスの妻であり、同時に『僧侶(ビショップ)』の駒を持つ眷属でもある。

更には、グレモリー家のメイド長も兼任している。

 

「失礼します」

「グレイフィアか。どうしたんだい?」

「そろそろ休憩をする頃と思いまして、お茶とお茶菓子をお持ちしました」

「ははは……。君にはなんでも御見通しか」

 

つい先程、小休止をしたばっかりの彼は、思わず頭を掻きながら苦笑いをする。

 

そんなサーゼクスを他所に、グレイフィアはティーセットを乗せたトレーを持って静かに

机に近づく。

 

「どれほど終わったのですか?」

「まだまだだよ。もしかしたら、今夜は徹夜かもなぁ~」

「全く貴方は…。少しはご自分を労わったらいかがですか?」

「そうもいかないさ。この程度で音を上げていたら、『彼女』に笑われてしまう」

「それは……例の『ゴッドイーター』と名乗る少女…ですか?」

「ああ。僕達が手も足も出ない怪物達を、たった一人で相手してるんだ。その勇気と実力は本当に凄いと思うよ」

「だから、彼女の武勇伝を書籍化などしたのですか?」

 

実は、サーゼクスは密かにマユとの出会いや今までの戦いなどを書き記した本を出版していた。

実際、サーゼクスとマユとは数える程しか会っていない筈だが、それでも書籍にしてしまえるのは、単純に彼が大幅にマユの事を誇張しているに過ぎない。

それ程までに、サーゼクスにとってマユとの出会いは衝撃的だったのだ。

 

「まぁね。僕だけが知っているのは駄目だと思ったんだ。彼女の存在は、皆が知ってしかるべきだと思ったからね」

 

本人が聞いたら、恥ずかしさの余り自分の部屋に引き籠ってしまうかもしれない。

 

半ば呆れながら、グレイフィアは慣れた手つきで紅茶を淹れる。

それを受け取りながらパソコンを操作する。

画面は次の生徒の顔写真と簡単なデータを表示する。

そのデータを見た途端、サーゼクスがいきなり咳き込んでしまった。

 

「ゴ…ゴホッ!?ゴホッ…」

「サ…サーゼクス!?どうしたのですか!?」

「こ…これ…」

 

彼が指差したのはパソコンのディスプレイ。

そこに映っているのは、一人の女子生徒の事だった。

 

黒くて僅かにウェーブのかかったセミロングの髪に、細くて切れ目の瞳、それを覆いつくす楕円形の眼鏡。

高校一年生とは思えないほどに大人びた顔立ち。

…そう。そこに映っていたのは、マユの表向きのデータだった。

 

「…この生徒がどうかしたのですか?」

「彼女なんだ…」

「は?」

 

ポケットからハンカチを出して、口元を拭いながら答えるサーゼクス。

その顔は未だに驚きに満ちていた。

 

「この子が…ゴッドイーターなんだよ」

「ええっ!?」

 

まさか、先程彼が語っていた少女が生徒として入学するとは想像もしなかったグレイフィアは、柄にもなく大声を上げてしまう。

 

「まさか…三度彼女の顔を見る事が出来るとはね…。しかも、リアスの同級生として…」

「これは…偶然でしょうか?」

「僕もそう思いたいけど……どうにも違うような気がする」

「…と言うと?」

「あくまで僕の勘なんだけどね。この時期に彼女が入学することは、もしかしたら誰かに仕組まれている事なのかもしれない…」

「一体誰がそんな事を…」

「さぁね。けど、彼女自身もリアスと同級生になるとは思ってもいない事は確かだろうね。なんせ、あの子は時空を超えて現れる。最初あった時はまだ幼かったリアスが、もう高校生になっているなんて思ってもみないだろう」

 

リアスもマユにはずっと会いたがっていた。

その張本人が、まさか同じ高校に入学するとは想像もしないだろう。

だから……

 

「リアスには黙っておこう」

「何でですか?」

「ちょっとしたサプライズってヤツさ。この方が面白そうだろ?」

「はぁ……」

 

自分の夫の困った性格に溜息を吐きながら、グレイフィアはディスプレイに映ったマユを見る。

 

(彼女が…サーゼクスの『女王(クィーン)』候補…)

 

妻として、少々複雑な気持ちになりながら、子供のように嬉しがるサーゼクスを見ていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 遂に来た…!私立駒王学園!

ここで、私の第二の高校生活が始まる!

 

と言う事で、現在私は駒王学園の校門前に来ています。

勿論、真新しい制服を着て。

校門には『入学式』と書かれた看板が立てかけられている。

 

周囲には親子連れの新入生達が沢山いて、なんともソワソワした雰囲気を漂わせている。

 

いいねぇ~…この感じ!

これこそ入学式って感じだよ!

 

そして、私の隣には黒歌達が一緒にいる。

 

「うわぁ…。なんだか賑やかだにゃ…」

「私も…早くマユさんと一緒の高校に通いたいです」

「「おお~」」

 

黒歌は雰囲気に圧倒されて、白音は羨ましそうに新入生達を見ている。

そして、オーフィスちゃんとグレートレッドは珍しそうに周囲をキョロキョロとしている。

勿論、猫姉妹はちゃんと例のアクセサリーを装着済みだ。

これで、二人の正体がばれることは無い。

 

けど……

 

「うわぁ……。あの子、すっごいキレイ…」

「背高っ!?足もすらっとしてて…まるでどっかのモデルみたい…」

「あの容姿で本当に新入生なの…?パッと見はまるで大学生みたいに見えるわ…」

「うん…。なんか、自分達がすっごく子供に思えてきちゃう…」

 

なんか、滅茶苦茶注目されてます。

変なひそひそ話と共に。

 

「案の定、マユさんは注目されてますね」

「当然にゃ。マユはどう見ても高校一年生には見えないにゃ」

 

それって褒めてるんだよね?

そうだよね?

 

因みに、入学前に自分のきちんとした身長と体重を調べてみた。

身長は……なんと、驚愕の174センチ。

15歳の女の子としては破格の身長である。

これもオラクル細胞の影響か!?

って…んな訳ないじゃん。

もしそうだったら、アリサやサクヤさんを初めとした神機使いの女の子は皆身長が高い事になってしまう。

少なくとも、アリサは年相応の身長だったし。

私だけが特別高いんだよ、きっと。

 

「それじゃ、そろそろ入学式に行くよ」

「わかったにゃ。私達は後ろから見てるにゃ」

「了解した」

 

さて、それじゃあ行きますか!

 

私は、桜吹雪が舞う中、入学式が行われるホールに向かって行った。

 

だが、その時の私は気が付いていなかった。

少し離れた場所から私の事を見ている二人の少女がいた事を…。

 

「あの後姿は…まさか……」

「でも…そんな事は…」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 指定された席に座り、私はじっと入学式が進行していくのを見ている。

ぶっちゃけ、暇です。

 

やば……ちょっと欠伸が出そうになったよ。

邪魔しちゃいけないからって、ドライグはさっきからずっと黙りっぱなしだし、校長の話は無駄に長いし。

これで眠くなるなって方が無理でしょ。

あ…ちょっとだけボーっとしてきた。

 

『新入生…訓示』

 

なんか言ってる…。

けど、私にはよく分かりません。

 

『新入生代表。リ…ス・グ……リーさん』

「はい」

 

あれ?今なんて言った?

よく聞き取れなかったんだけど。

ま…いっか。

新入生の代表が誰であろうと、私には関係無いし。

 

なんか、赤い髪の女の子が壇上に立ってから話してる。

どっかで見たことがあるような気がするけど、私の知り合いにはあんな子はいない。

少なくとも、同年代には。

私が知る赤い髪の女の子と言えば、一緒に住んでいるグレートレッドか、前に会ったリアスちゃんだけだ。

けど、二人共体的に私よりも幼いから、完全に違う。

これは、私の気のせいだろう。

うん、きっとそうだ。

 

そんな事を考えてるうちに、新入生代表のお話は終わったようで、赤い髪の女の子が壇上を降りていった。

 

その後も殆ど呆けていて、結局のところ、入学式の間の記憶は殆ど無い。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 割り当てられた教室に向かい、黒板に書かれた席に座る。

なんか…実に懐かしい感覚だ。

嘗ては一度経験している筈なのに、妙に新鮮な感じがする。

やっぱり、自分の性別や容姿が違うせいかな?

 

「ねぇ…あの子」

「うん。さっき校門で見た大人っぽい子だよね…?」

「やっぱキレイ…。なんか雰囲気も私達とは違うし、凄く『大人』って感じがする…」

「顔立ちだけじゃなくて、手や足も凄くシュッっとしてるし…。けど、なんであんなごつい腕輪なんかしてるのかしら?しかも、左手には手袋まで…」

 

またなんか話してるよ…。

しかも、腕輪や手袋までに注目されてしまった。

一応、言い訳は考えてるけど…。

 

「きっと、あれが彼女なりのオシャレなのよ。見目麗しい体に、敢えてあんなアクセサリーを付けることで、相乗効果を生み出してるに違いないわ」

「成る程!亜香里ってば頭いい!」

 

…なんか、勝手に解釈してくれたんですけど。

ま、こっちとしては助かるんだけど…。

 

その後、担任の先生が入ってきて、それぞれに自己紹介。

当然の事だが、誰も知っている人物はいない。

一からの友達作り…か。

これって、かなり大変なんだよなぁ~。

 

因みに、なんでか私の自己紹介の番になった途端、男女両方から黄色い声が響いた。

男子達の『おお~!』って言うのはまぁいいよ。

けど、女子達の『キャ~!お姉さまぁ~!』ってのは何さ?

一応、君達とは同年代なんですけど?表向きは。

 

それから、先生によるこれからの説明を聞いてから、その日は終了となった。

やっぱり、入学式の日はこんなもんか。

余程のエリート校でもない限りは、初日から授業なんてないよな。

 

私が帰りの支度をしていると、何やら教室が騒がしくなってきた。

騒ぎの中心となっている方を見ると、そこには先程入学式で新入生代表として壇上に立っていた赤い髪の女の子と、黒髪ポニーテールの女の子が立っていた。

二人とも、凄いスタイルだな…。

とても高校一年生とは思えない。

ま、私も人の事は言えないけど。

 

二人の女子は私の方へと真っ直ぐにやって来て、席の前に立った。

 

「やっぱり…貴女は……」

「また…会えた…」

 

え?え?どういうこと?

なんで二人共涙ぐんでるの?

 

私が訳が分からずに、内心混乱していると、突然赤髪の女の子が私の手を取って立ち上がらせた。

 

「お願い。ちょっと一緒に来て」

「…え?」

 

女の子は私の返事を待たずに、そのまま私の手を引いたまま教室を後にした。

もう一人の女の子と一緒に。

 

あ、教室にカバン忘れた。

後で取りにいかないと。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 連れてこられたのは屋上。

なんか長引きそうな予感がしたので、黒歌達にはメールで先に帰っているように伝えた。

 

屋上の扉を開いて、しばらく歩いた後、彼女達はようやく私の手を離してくれた。

 

「……君達はなんだ?」

 

ある意味、当然の質問を投げかける。

すると……

 

「………~!」

 

なんか、今にも泣きそうな表情になって、そして……

 

「ずっと…貴女に会いたかった!」

 

いきなり私に抱き着いてきた。

 

「リ…リアス!貴女だけずるいですわよ!私だってずっと我慢してたのに!」

 

へ…?今…なんて言った?

リアス?わたしの胸に抱き着いているこの子が?

 

「リアス…なのか?」

「はい!あの日、貴女にこの命を救って貰ったリアス・グレモリーです!お姉ちゃん!」

 

なんと…!

まさか、あのリアスちゃんがもう高校生にまでなっているとは…!

って、そう言えば、私が今まで行っていたのは過去の時代だったっけ。

なら、あれからもうそれだけの年月が流れたって事か?

 

「じゃあ…君は…」

「あの時、母と一緒に救って貰った姫島朱乃です。あの時は本当にありがとうございました」

 

やっぱり朱乃ちゃんだったか…。

なんか、朱璃さんに雰囲気が似てるって思ったんだよなぁ~。

 

「ご両親は元気か?」

「はい。毎日、飽きもせずにイチャイチャしてますわ」

 

それはなにより。

両親の仲がいいのはいい事だ。

 

「にしても驚いたわよ!まさか、お姉ちゃんが私と一緒の高校に、しかも新入生として来るなんて!」

「私も驚きましたわ。こんな形で再会出来るなんて、思ってもみませんでしたから」

「こっちもだ…」

 

こんな事もあるんだなぁ~…。

なんか、仕組まれてる感がしなくも無いけど、この再会は素直に嬉しい。

 

「これからは毎日、お姉ちゃんと会えるのね…」

「そうね…。こんなに嬉しいことは無いわ。家に帰ったら、早速お父様とお母さまにも伝えないと」

 

二人共顔を真っ赤にしちゃって。

そんなにも嬉しかったのかな?

私なんかで喜んでくれるのなら、それはそれで光栄なことだけど。

 

あ、そうだ。

ちゃんと二人にもあの事を伝えないと。

 

「あの……出来れば、『お姉ちゃん』と言うのはやめてほしい」

「え…?なんで?」

 

そんな顔をしないでぇぇ~!?

罪悪感で胃に穴が開きそうだから!

 

「私達は同級生だ。だから、これからはちゃんと名前で呼び合おう」

「そうですわね…」

「けど、お姉ちゃんの名前…まだ聞いてないわ」

 

そう来ると思ってたよ。

 

「私の名は闇里マユ。苗字でも名前でも、好きな方で呼んでくれて構わない」

「「勿論名前で!!」」

「あ…ああ」

 

一瞬…マジでビビった…。

二人共、凄い勢いで顔を近づけてくるんだもん。

 

「それじゃあ、改めて…」

 

リアスが私から離れて、朱乃と一緒にこっちに向き合う。

 

「「これからよろしくお願いします!マユお姉ちゃん!」」

「あ…ああ。これからよろしく」

 

だから、その『お姉ちゃん』をやめろっつーの。

いくら名前を教えても、それじゃ意味ねーじゃん。

 

まぁ……誰も知り合いがいないよりかはマシ…か。

 

 

こうして、意外な人物達との再会と共に、私の二回目となる高校生活は幕を開けたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




リアス(15歳)と朱乃(15歳)ようやく登場!

けど、原作開始まではもうちょっと(?)かかるかも。

ちゃんと祐斗も出して、再会させないといけないし…。

まだまだ、やる事は山積みです。

では、次回。



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第11話 魔王との再会

以前、この作品は逆ハーレムと言いましたが、これから先の構想を考えていくうちにそれどころじゃ済まなくなりそうになりました。
という事で、ここで訂正しておきます。
基本的に、男女入り混じるハーレムでいこうと思うます。
けど、私の中での一応のメインヒロインは確定しつつあります。
敢えて誰かとは言いませんけど。




 学校の屋上にて、リアスと朱乃とのまさかの再会をした私。

話によると、二人は中学時代に知り合い、その際に私に救われたと言う共通点を知って親友同士になったらしい。

意外ではあったが、私が切欠で二人が仲良くなってくれたのならば、それは純粋に嬉しい。

 

二人との再会を終えた後、教室にカバンを取りに行ってから下駄箱に向かった。

そう言えば、二人は私とは別のクラスらしい。

それだけがちょっと残念だ。

ま、知り合いが同級生にいるだけでも充分に有難いけどね。

 

下駄箱の近くにあった掲示板には、部活勧誘のポスターが貼ってあった。

 

「部活…か」

 

そう言えば、前世ではどんな部活に入っていたっけ?

前世の事を忘れていく、いかない以前の問題として、高校時代の事なんて全く覚えていないよ。

それ以前に、部活になんて入っていたか?

なんか、帰宅部だったような気がする。

 

「ま、いいか」

 

私にはアラガミを倒すと言う使命がある。

部活なんてしてる暇ないっつーの。

 

掲示板のポスターを背後にして、私は帰路についた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 自宅への道を歩きながら、ちょっとだけ考えていた。

 

(これからは…この道を三年間通うのか…)

 

そう思うと、この道もなんだか違って見える気がする。

 

考え事をしながら歩いていたせいか、曲がり角からくる人影に気が付けなかった。

 

「「あ」」

 

ボケーっとしていたせいで、一瞬だけ反応が遅れてしまい、曲がり角からやって来た人とぶつかってしまった。

 

ただ歩いていただけなのが幸いして互いに倒れずに済んだが、ぶつかってしまったのは事実。

ちゃんと謝罪しないと。

 

「す…すみません」

「いえ…こちらこそ」

 

自然とぶつかった人を見る。

すると、そこにいたのは…

 

「「あ…」」

 

真っ赤なスーツを着たサーゼクスさんだった。

隣には、メイド服を着た女性が寄り添っていた。

 

「なんでここに…」

「あはは…。実は、今から君の家に向かおうと思っていたところなんだよ」

「……は?」

 

私の家に?

なんで?

って言うか……

 

「どうして場所を知って…」

「それは簡単さ。僕は、駒王学園の理事長をしているからね」

「えっ!?」

 

り…理事長!?

んなアホな!?

 

私は慌ててカバンの中から、学園のパンフレットを取り出した。

そこに書いてあったのは……

 

【学園理事長 サーゼクス・ルシファー】

 

顔写真付きで載ってたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?

なんで気が付かない私!?

 

(相棒が単純に呆けていただけだろう)

 

五月蠅いですよ…!

 

「もしかして、リアスから聞いてなかったのかい?」

「全然…」

 

そんな事、全く言ってくれなかったじゃん!

でも、確かに理事長なら生徒の家の場所ぐらいは知ってて当然か…。

 

「そっか~。リーアも意外とそそっかしいなぁ~」

 

リーア?

もしかして、リアスの事を言ってる?

 

「あの…」

「ん?なんだい?」

「隣の女性は…」

「ああ。そう言えば紹介してなかったね」

 

人通りが少ない方とは言え、こんな場所でメイドさんを連れていれば嫌でも目立つ。

自覚はあるのかしら?

 

「グレイフィア」

「はい」

 

メイドさんが前に出て、綺麗にお辞儀をした。

 

「初めまして、ゴッドイーター…いえ、闇里マユ様。私はグレモリー家でメイド長を務めております『グレイフィア・ルキフグス』と申します」

「彼女は、僕の眷属で『僧侶(ビショップ)』を務めると同時に、妻でもあるんだ」

「妻って…」

 

メイドさんが奥さんって…。

どこからツッコめばいいの?

 

「そう言えば、どうして私の家に?」

「単純に興味があったからかな?」

 

興味って…。

流石は魔王。

気紛れな事この上ない。

グレイフィアさんも大変だろうに。

 

「と言う訳で、早速行こうか!」

「あ…ちょっと…」

 

サーゼクスさんはさっさと行ってしまった。

残された私とグレイフィアさんはポカーンとしてしまった。

 

「……すみません」

「いや……」

 

なんて反応すればいいのか分からん…。

流石に、人妻の気持ちは解らんしな…。

 

あ、そう言えば、あの人って魔王だったっけ。

それなら、黒歌の事も相談出来るかな?

なんか、魔王って言う割にはいい人そうだったし。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 先に言ってしまったサーゼクスさんに追いついた私達は、そのまま自宅まで向かった。

 

「全く…少しは魔王…と言うか、大人としての自覚を持ってください」

「いいじゃないか。この方が悪魔らしいだろう?」

「あなたって人は……」

 

グレイフィアさんが盛大な溜息を吐いた。

なんか…すげー同情できる。

 

そんな事をしているうちに、いつの間にか家までついた。

 

「…!これは…」

 

ん?どうした?

 

「見た目は普通の家だが…」

「結界が張られていますね…」

 

あ、そう言えばそうだった。

確か、認識阻害の結界が張られてたんだった。

 

「二人共、実は…」

 

一応、結界の事を話しておく。

聞いた途端、二人の顔が驚愕に変わったけど。

 

「認識阻害…道理で」

「今まで気が付かなかった筈です。この結界、かなり高度な技術と見ました」

 

そうなのか?

私にはよくわかんないけど。

 

「この結界は最初から?それとも誰かが張ったものなのかい?」

「それは……」

 

う~ん…。

足長おじさんの事は言うべきか?

ちょっと悩むな…。

 

「…まずは家に入ろう。こんな所で立ち話もあれだし」

「それもそうだね」

「承知しました」

 

よかった…。

少しだけだけど話を逸らせることが出来た。

 

私は玄関を開けて中に入る。

すると、いつものように白音とオーフィスちゃん、グレートレッドが出迎えてくれた。

 

「お帰りなさい、マユさん。……後ろのお二人はどなたですか?」

「あ…この人達は…」

 

サーゼクスさん達の事はなんて説明しよう?

 

「む?この者は確か…」

「お帰り、マユ」

 

グレートレッドは何かを感じたようだが、オーフィスちゃんは平常運転だった。

流石は無限の龍神…。

色んな意味で大物だ。

 

「黒歌は?」

「姉様なら、キッチンで夕飯の下ごしらえをしています」

「ん。わかった」

 

私は二人分のスリッパを出した後、入るように促した。

 

「「お邪魔します」」

 

お、意外とマナーを解ってる。

 

スリッパを履いた後、私はカバンを部屋に置くために一旦戻り、その間に二人をリビングに案内するように白音に言う。

白音は即座に頷いてくれて、二人をリビングに案内してくれた。

 

その後、白音にはオーフィスちゃんやグレートレッドと一緒に別の部屋に行ってもらった。

 

カバンを置いた後、私もリビングに向かう。

二人は、私達が普段は団欒に浸かっているテーブルに座っていて、キョロキョロと家の中を見ていた。

そんなに珍しいかな?

 

「待たせた」

「大丈夫だよ」

「お気になさらずに」

 

礼節は弁えてますってか。

ま、魔王だしね。

 

私は二人とは向かい合わせになるように座った。

すると、丁度いいタイミングで黒歌が三人分のお茶を持ってきてくれた。

 

「お帰りなさいだにゃ、マユ。お客さんが来たって聞いたから、お茶を持ってきたにゃ」

「ありがとう」

 

黒歌は本当に気が利くなぁ~。

 

因みに、黒歌も白音もちゃんと認識阻害ネックレスは装着している。

念の為に、普段から付けるようにしているらしい。

そのお陰で、この二人にも気が付かれていない。

 

「…で、何を話していたっけ?」

「えっと…」

 

確か、結界の事だったような…。

 

でも、本当に話していいものか?

 

私が本気で悩んでいると、突然私の携帯に着信が来た。

このタイミングで来ますか…!

 

「ちょっといいか?」

「どうぞ」

 

私は少しだけ離れて、通話に出た。

 

『やあやあ!何やら困っているみたいだね?』

「主にアンタの事でね」

『分かってるって。だからこうして掛けてきたんじゃん』

 

コイツめ…!

 

『いつものように、スピーカーモードにしてくれるかな?』

「ああ」

 

コイツ自ら話す気か?

ま、そっちの方が手間が省けるからいいけど。

 

私は携帯を持ったままテーブルに戻り、中央に携帯を置く。

すると、明るい声が響いてきた。

 

『やーやーどーも!初めまして、魔王君!』

「なっ…!?」

「これは…?」

『僕は足長おじさん。マユちゃんの後方支援者さ!』

「後方支援者…?」

『そう!この子を色んな場所に飛ばしたり、この家に結界を張ったのも、この僕さ!』

「なんだって!?」

 

そりゃ、そんな反応するわな。

 

『と言っても、君達と彼女があったのは僕の意思じゃないけどね。あれは本当に偶然さ』

「…………」

 

険しい顔で携帯を見つめるサーゼクスさん。

頼むから、壊さないでくれよ?

 

『信じられないかい?』

「俄かには…ね。君は一体何者なんだ?」

『言ったでしょ?後方支援者だって。それ以上でも、それ以下でもないよ』

 

お前はどこの赤い彗星さんだ。

 

『ま、別に僕の事を疑うのは構わないよ。けど、僕の事を信じてくれているマユちゃんの事は信じて欲しいかな?』

「彼女の事を…?」

『そう。マユちゃんは何処までも純粋に皆を守りたいと思っている。僕は単純にその手助けをしているだけに過ぎないんだ』

 

その割には、かなりの事をしてくれたけどね。

 

『君は、彼女の気持ちすらも信じられないかい?』

「そんなことは…」

『それなら、この話はもう終わりだ。僕としては、マユちゃんの事さえ信じてくれれば、それでいいんだから』

 

なんだろう…。

不思議と足長おじさんの言葉が心に染み込んでくる…。

 

「はぁ…。わかったよ。そこまで言われては、僕としてもこれ以上は追及するわけにはいかない」

『結構。物分かりがいい子は好きだよ』

「素直に喜んでいいのかな…」

 

なんか疲れてるっぽい?

まぁ…コイツと話してれば疲れるか。

 

サーゼクスさんはのどを潤すようにお茶を飲む。

 

『そう言えば、あの事は相談しなくてもいいのかい?』

「うん…。タイミングを計ってた」

 

こういうのって、なんか緊張するんだもんなぁ~。

 

「こっちに来て」

「…?わかったにゃ」

 

私は黒歌を呼んで、隣に座らせた。

 

「ネックレスを取ってくれ」

「え?でも…」

「大丈夫」

 

彼女を安心させるように、黒歌の手を握る。

すると、決意したかのように黒歌はネックレスをゆっくりと外した。

その瞬間、二人の顔色が変わった。

 

「き…君は!?」

「SSS級はぐれ悪魔の黒歌…!なんで今まで…」

『それは、僕があげた認識阻害ネックレスのお陰さ』

「また貴方か…」

 

呆れたように携帯を見るサーゼクスさん。

 

「で?これは一体どう言う事なんだい?きちんと説明してくれるんだろう?」

「ああ…」

 

私と黒歌は、静かに彼女達の事を話した。

黒歌は自分達が今までどんな目に遭ってきたかを。

そして私は、彼女達姉妹を助けた時の経緯を。

出来る限り事細かに。

 

話し終えると、サーゼクスさんは頭を抱え、グレイフィアさんは悲しそうな顔になった。

 

「そうだったのか…」

 

物凄く罪悪感に満ちた顔をしている。

魔王として、この話は非常に頭が痛いのかもしれない。

 

すると、彼は思いっきり黒歌に向かって頭を下げた。

 

「済まなかった!今回の事態は完全に魔王である僕の監督不行き届けだ。そんな非道をしている連中がいるとは聞いていたが、ここまで話が歪んでいるとは思わなかった」

「そうですね…。これからは、もっと徹底しなくてはいけませんね」

 

やっぱり…悪魔達の上に立つ存在としては、責任を感じてしまうんだろうな…。

 

「そ…そんな!頭を上げてくださいにゃ!確かに苦しい思いはしたけど、私も白音も今の生活にとても満足してるにゃ。だから、大丈夫だにゃ」

「しかし…」

「それに、どこかで何かが違っていたら、きっとマユには会えなかったにゃ。だから、もう気にしてないにゃ」

「はぁ…。情けない魔王だな…僕は。被害者の子にここまで言わせるなんて…」

「気にしても仕方がありません。問題は、これからどうするかですから」

「確かにその通りだな」

 

グレイフィアさんの励ましに、生気を取り戻したサーゼクスさんは黒歌に真っ直ぐに向き合う。

 

「君のはぐれ悪魔認定の件は魔王の名に懸けて僕がなんとかしよう」

「微力ながら、私も尽力いたします」

「二人共…」

 

良かった…。

ちゃんと分かってくれた…。

 

「あ…ありがとうございます!」

 

黒歌は目尻に涙を溜めながらお礼を言った。

うんうん。

本当に良かった。

 

『ふふ…。君が良識ある魔王で良かったよ。この件は僕もなんとかしたいと思っていたからね』

「本当なら、君の身体にある悪魔の駒(イービル・ピース)も取り出せたらいいのだけれど…」

「現在の技術では、まだ取り出せませんからね…」

 

そうなのか…。

ま、ここでネガティブになっても仕方ないし、前向きに行こう!前向きに!

 

「黒歌さんのはぐれ悪魔認定が解除されたら、僕の方からも全ての悪魔に通達するようにしよう。それなら大丈夫な筈だ」

「これからは、彼女と一緒に普通の生活を歩んでいってください」

「はい…はい…」

 

とうとう泣き出してしまった黒歌。

けど、この涙はいい涙だ。

 

「黒歌…」

「マユ…私……」

 

私はそっと彼女を抱き寄せた。

黒歌は私の胸に顔を埋めて、ずっと泣き続けた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 それから暫くして、黒歌はなんとか泣き止んだ。

顔は真っ赤になってたけど。

 

足長おじさんは、あの後空気を読んだのか、すぐさま通話を切っていた。

私としても有り難かったけど。

 

「それじゃ、そろそろ僕達は行くよ。長居しても悪いしね」

「そうか…」

 

魔王も忙しいんだろうな。

その上、学校の理事長までしてるんだから。

…いつか、過労で倒れたりしないだろうな?

魔王が過労で倒れましたとかって、色んな意味で洒落になってないからね?

 

「そうだ。その前に互いの番号を交換してくれないかな?」

 

そう言うと、彼は懐から携帯を取り出した。

案の定、真っ赤なデザインだった。

 

って言うか、携帯持ってたんだ。

 

私達は互いに番号とメルアドを交換した。

ついでにグレイフィアさんとも。

 

「さっきの事で何か変化があれば、すぐにでも連絡するよ」

「わかったよ」

 

私達は玄関まで二人を見送った。

 

「そうだ。実は今度、この駒王町一帯の管理をリアスに任せようと考えてるんだ。出来れば、手助けしてあげてくれないかな?君が手伝ってくれると聞いたら、あの子も喜ぶだろうしね」

「そうだな…。わかった。私で良ければ」

 

黒歌の事をなんとかしてくれんだもの。

それぐらいはお礼をしないとね。

それに、私もリアスの事は手伝ってあげたいし。

 

「黒歌さん」

「は…はい?」

「これからは、全力で幸せになりなさい。貴女には、その権利がある」

「はい…!わかったにゃ…!」

 

グレイフィアさんが黒歌の肩に手を乗せて、優しく微笑む。

これが人妻の包容力ってヤツか…!

 

その時、白音達が見計らったかのようにやって来た。

 

「あ…お帰りになられるんですか?」

「お邪魔してしまったね」

「いえ。別に気にしてませんから」

 

白音は相変わらずの無表情だったが、なんだか照れているようにも見えた。

 

「この子が?」

「はい。妹の白音だにゃ」

「そうか…」

 

ん?白音をジッと見て、どうかしたのかな?

 

「もし彼女が駒王学園に行きたいと思うなら、僕の方で書類なんかを用意出来るけど…」

「い…いいんですか!?」

 

おう…珍しく大声を上げたね、白音。

 

「勿論さ。マユ君には大きな借りが沢山あるからね。その家族である君達を少しでも支えられるなら幸いさ」

「とは言っても、ちゃんと受験はして貰いますけどね」

「ま、そこら辺は…ね?流石に裏口入学させるわけにはいかないしね」

 

そりゃそうだ。

そんなことしたって、嬉しくもなんともないしね。

 

「でも、過去問とかは送れるかも」

「それで勉強すればいいにゃ」

「私も教えよう」

「マユさんが?」

「うん」

 

転生者ですからね。

記憶は消えても、知識はなんでか残ったままだし。

勉強を教えるぐらいは楽勝楽勝。

 

「だったら頑張ります!」

「その意気だ」

 

私は白音を頭を撫でる。

なんか…この光景も当たり前になってきたな…。

 

「そう言えば、そこの二人の女の子は誰なんだい?」

「我、オーフィス」

「オ…オーフィス!?無限の龍神のオーフィスかい!?」

「ならば、その赤い髪の女の子は…」

「我はグレートレッドだ!」

「真なる赤龍真帝…!夢幻の龍神…!」

 

まぁ…そんな反応になりますわな。

最強クラスの実力を持つ龍神が、揃いも揃って幼女になってるんだから。

 

「はは…。赤龍帝は龍のオーラで色んな者を引き寄せると聞くけど、まさか伝説の龍神すらも手懐けるとはね…。(彼女を僕の女王にするのは、諦めた方がいいのかもしれない…)」

 

あれ?

なんかサーゼクスさんが何かを諦めたかのような表情になったけど、どうしたんだ?

 

「そ…それじゃあ、僕達は行くよ」

「今日はいきなりの訪問、失礼しました」

「いや…。さっき白音も言ったが、別に気にしてない。よかったら、いつでも来て構わない」

「マユ君……君はどこまでいい子なんだい…」

 

そこまで感動するようなことか?

至って普通の事を言ったつもりだぞ?

 

「では、またいつか」

「お邪魔しました」

 

二人はこちらを見ながら、魔法陣で転移していった。

 

その後、黒歌のはぐれ悪魔認定が解除されると知った白音は物凄く喜び、グレートレッドとオーフィスちゃんも自分の事のように喜んでくれた。(オーフィスちゃんは相変わらず無表情だったけど)

 

その日の夜はテンションが上がった黒歌の気合いの入った料理の数々が出され、珍しく御馳走だった。

 

これで、黒歌と白音に本当の笑顔が戻った。

私は、自分の高校入学よりも、その事の方が嬉しかった。

 

ドライグも、空気を読んでずっとだんまりを決め込んでくれて、ありがとう。

 

(ふん…。俺とて場の空気ぐらいは読める)

 

柄にもなく、これからの生活が楽しみになってきた私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 




もうちょっと短く纏めるつもりが、気が付けば約7000字に…。

まだまだオリジナル回は続きそうです。

出したいキャラ…って言うか、マユと会わせたいきゃがいますから。

では、次回。


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第12話 入学祝

ゴッドイーターと言えばコラボ衣装だよね。

そんな話。


 サーゼクスさん夫妻が突然、自宅訪問をして来た日の夜。

夕飯を食べ終わり、みんなお風呂も入り終わった後、ゆっくりとお茶を飲みながらまったりとしていた。

 

「なんか…今日は色んな事があったにゃ…」

「そうですね」

 

確かになぁ~。

 

高校に入学した日にリアスと朱乃に再会した挙句、その帰りにサーゼクスさんにも会ったし。

しかも、彼のお陰で黒歌の事がなんとかなりそうだし。

それを知った時の白音も非常に嬉しそうにしていた。

 

今日の事を思い返していた時、またまた私の携帯が鳴った。

こんな時は大抵が『アイツ』だ。

 

「…もしもし?」

『いやぁ~。何度も何度もゴメンね?』

「そう思うなら、掛けてくるなよ…」

 

有言実行ぐらいはしようよ…。

 

また何か言う気だろうと思って、私は毎度のように携帯をスピーカーモードにして、テーブルの中央に置いた。

 

「…で?何?」

『うん。さっき思い出したんだけどさ、君に言わなくちゃいけない事があったなぁ~って』

「言わなきゃいけない事?」

「それは何にゃ?」

 

確かに。

一体何を言い忘れたと言うんだ?

 

『マユちゃん』

「なんだ?」

『高校入学…おめでとう!』

「………へ?」

 

お…おめでとう?

 

『いや~。一応さ、僕が君を入学させた以上、最低限の礼儀としてこれぐらいは言わなきゃな~って思ってね』

「そう言えばそうだにゃ!」

「私達もすっかり忘れてました…」

「ん?めでたい事なのか?」

「我、分からない」

 

ま、龍神っ子二人は分からないかもな~。

確かに、一般的にはめでたい事だよね。

私に当てはまるかは微妙だけど。

 

「マユ!」

「ん?」

 

どったの?

 

「おめでとうにゃ!」

「おめでとうございます」

「おめでとうだ!」

「おめでとう?」

 

皆が一斉に私を祝福してくれた。

なんだろう……こうして言ってくれるだけでも…なんか…嬉しい。

オーフィスちゃんは疑問形だったけど。

 

「ありがとう…」

 

うぅ……我慢してなきゃ、速攻で泣いてたな…。

今だけ、このアバターで良かったって思うよ。

 

『それでね、君に僕から入学祝を送ろうと思うんだ』

「ほぅ?」

 

入学祝とな?

 

『まずはこのまま、君の部屋に移動してくれるかな?』

「…?わかった」

 

と言う事で、皆で私の自室に行くことにした。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 んな訳で、やって来ました私の部屋。

別にそこまで遠い訳じゃないけどね。

 

「来たけど…?」

「ここで何をする気にゃ?」

『まずは、以前神機を入れていたケースを出してくれるかな?』

「わかった」

 

実は、あのケースは初日以降、ずっと部屋の一角を占領していた。

そこまで邪魔にはならなかったけど。

 

「出したぞ」

『次は、神機を出して、ケースの中に入れて』

「…ドライグ」

『承知した』

 

赤龍帝の籠手を出して、いつものように神機を出した。

その後、神機をケースの中に入れた。

 

『ちゃんと閉めた?』

「ああ」

『んじゃ、その状態で10秒ぐらい待ってて』

「10秒…?」

 

なんで10秒?

 

そして、10秒後……。

 

『開けて』

「うん」

 

言われた通り、私はケースを開ける。

すると……

 

「こ…これは…!」

 

中に入っていたのは、別のパーツに換装した神機だった。

いつものカリギュラ装備では無くて、青緑色の機械的なデザインの神機パーツだった。

これは、アニメ版のゴッドイーターで主人公である空木レンカが使用していたヤツじゃないか…!

 

「リベリオンにストライバー…それにディソレイト…」

「なんか、パーツが変わったにゃ!」

「これも貴方がしたんですか?」

『まぁね』

 

本当に色々やるなぁ~。

それでも、この人を信じちゃってるから、私ってば怖いわぁ~。

なんでだろ?

 

『今まで、君は中型のアラガミと何回か戦ってきたね?』

「ああ」

『小型アラガミとは違い、中型以降のアラガミは『属性』が非常に重要になってくる』

「…?どう言う事なんだ?」

『簡単な事さ、グレートレッドちゃん。火属性のアラガミには氷属性の近接武器やバレットが効果的で、その逆も然りってわけ』

「ああ…成程」

 

その通り。

ぶっちゃけ、弱点属性を突くと突かないとではダメージは雲泥の差だ。

 

『けど、時には異なる属性のアラガミが同時に出現したりもする』

「だな」

「マユ、我にも教えて」

「いいよ」

 

私は皆の方を向いて説明した。

 

「例えば、火属性と氷属性のアラガミが同時に出現したとする。白音ならどうする?」

「え…?火は氷が弱点で、氷は火が弱点で……あれ?」

「そう。片方の弱点を突こうとすれば、必然的にもう片方の属性に高い抵抗力を持つ属性を持つことになる。例え片方を素早く倒せたとしても、もう片方で苦戦をしてしまっては意味が無い」

『中には二つ以上の属性を持っている近接武器もあるけど、いつも都合よくそんな武器が手元にあるとは限らない』

「そんな時、役に立つのが無属性の武器だ」

「無属性?」

 

最初の頃は、この意味は全く理解出来なかったけどね。

どうして属性が無い武器があるんだろうって、当時は疑問に感じたもんだよ。

 

「属性が無ければ、相手の弱点を突く事は出来ないが、その代わりにダメージを極端に減らされる事も無い」

『つまり、どの相手でもほぼ均等にダメージを与えられるわけだな』

『その通り!ドライグは理解が早いね』

『ふん!』

 

あ、照れてる?

 

『丁度、今君が装備しているパーツが無属性だからね。これからは基本的にこれを使えばいいよ』

「今までマユが使ってきたのは何属性なんだにゃ?」

「あれは氷属性だ。今までの敵は運よく氷属性が弱点だったから良かったが、これからもそうとは限らない」

『だから、こう言った準備は必須なんだよ』

 

これは純粋に嬉しいぞ。

正直、この問題には必ずぶつかると思っていたから。

それを解消してくれるのは非常に有難い。

 

『これからは、今までと同じような方法で『君が嘗て持っていたパーツ』を全て装備出来るようになるよ』

「了解した」

 

つまり、前世のゲーム内で所持していた全パーツが使用可能になったという訳か。

かなりやり込んだからな。

殆どがランク14のパーツばかりだ。

これからは少し楽になりそうだな。

油断は禁物だけど。

 

『で、そのついでと言っちゃなんだけど、君の衣装の方も少し増やしておいたよ』

「そこまで…」

 

至れり尽くせりだな。

 

『追加の衣装はクローゼットに入ってるよ』

「早速開けてみるにゃ!」

「私も見てみたいです」

「う…うん」

 

二人の勢いに押されて、私は神機を籠手の中に仕舞った後、クローゼットを開けた。

 

「あ…」

 

中には、見たことがあるような衣装が何着か増えていた。

 

「シングルクロスにミューティニア…」

 

サクヤさんとアリサの衣装か。

ここまではいいとして、他は……

 

「……あ」

 

こ…これは…!

 

「これは…どこかの制服みたいですね?」

「でも、見た事ないデザインにゃ」

 

常盤台中学の制服……!

御坂美琴の着ていたヤツじゃねーか!

確かにコラボはしてたけど!

 

『因みに、今回僕が用意した衣装を着れば、その服に対応した特殊能力が使えるようになるよ』

 

マジかよ…!

そこまでしなくてもいいのに…!

 

「因みに、この制服はどんな効果があるんですか?」

『電撃を操れるようになる』

 

やっぱりね!

そうだと思ったわ!

 

『ちゃんと、ポケットにはコインも入ってるから』

「そこまでしなくてもいい」

 

私は別に生身で超電磁砲(レールガン)とか使わないから!

 

「これはなんだかファンタジーな衣装だにゃ」

「スカート、短い」

 

次はグレイセスのシェリアの衣装か…。

 

『それを着ると、短剣を投げるのが上手くなったり、色んな回復魔法を使えるようになるよ』

「おお!それは便利だな!」

 

そこだけを聞けばね。

 

『後、焼き鳥が大好きになる』

「それ…意味あるんですか?」

『別に?』

 

無いならつけるなよ!

大体、そんなことしなくても普通に焼き鳥は好きだし!

 

「マユ」

「ん?どうした?」

「これ、クローゼットに入ってた」

 

そう言ってオーフィスちゃんが差し出したのは、ピンク色の手のひらサイズの綺麗に装飾された宝石だった。

 

「ま…まさか……これは…!」

『ああ、それね。普通に衣装を送るのも芸が無いと思ってね、ちゃんと変身出来るようにしてみました』

「しなくていい」

 

そこまで忠実にしなくていいから!

なんでよりにもよって『ソウルジェム』なんだよ!

事情を知ってる者からすれば、気味悪い事この上ないわ!

 

「一応聞いておくが…この衣装の効果は…」

『銃身から矢の形をしたピンク色のオラクル弾を撃てるようになる』

「い…意外と普通だな…」

 

良かった…。

攻撃方法を再現しただけか…。

 

『後、本気モードになれば真っ白なひらひらのドレスになって、一種の無敵モードに…』

「言わなくていい…!」

 

流石の私も、そこまでやろうとは思わんわ!

そんな簡単に世界中の絶望を消せれば苦労しないっつーの!

 

「なんか、オレンジ色の法被もあるんですけど…」

『それはね、太鼓が異常に上手くなる』

「「意味あるの!?」」

 

姉妹の同時ツッコミ。

そういや、あれともコラボしてましたね。

 

「マユよ、なにやら派手な衣装もあるぞ?」

「派手な衣装?」

 

なんか嫌な予感がするけど…一応見てみよう。

 

私はクローゼットに掛かっている服を少しだけどかしてから、それを見てみた。

グレートレッドが言っていた服…それは……

 

「は…はは……」

 

もう笑うしかないや…。

まさか、これまで入ってるなんて…。

 

「これって…まるでアイドルのライブ衣装みたいだにゃ」

「ですね。初めて見ました」

 

スターリーフェアリーにドリーミングスターズ、おまけにマイファーストスターまであるし…!

これは、一番最新のアップデートの衣装じゃないか…!

 

「これはなんとなく予想がつくにゃ」

「私もです」

「そうなのか?」

「はい。寧ろ、分かりやす過ぎです」

 

でしょうね…。

私にも分かっちゃったよ…。

 

『君達鋭いねぇ~。この三着はね、着れば歌と踊りが非常に上手になると言う代物で…』

『もう完全に戦いとは関係なくなってきてるな…』

 

だよねだよね!

いいぞドライグ!

もっと言ってやって!

 

『しかし、時には潤いが必要なのもまた事実。偶にはいいんじゃないか?』

 

速攻で裏切られたぁっ!?

いつの間に俗世に染まってしまったのですか!?

赤龍帝さんよ!?

 

「私もドライグに賛成にゃ。偶にはマユも女の子らしい服を着た方がいいにゃ」

「そうですね。せっかく美人なのに、ボーイッシュな服ばかりじゃ勿体ないです」

『別に似合わないわけじゃないけどね。でも、制服以外にもスカートとかを着る努力をした方がいいとは思うよ?』

 

ゔ……正論。

確かに私は今までずっと、前世の癖でズボン系ばかりを着てきた。

今の私は女なのだから、そう言った服を着る努力も必要なのかもしれない。

なんでか制服のスカートは普通に着れたけど。

でも……

 

「なんか…恥ずかしい。それに、私のような大きい女がスカートなんかを着ても、似合うかどうか…」

「背の高さとか関係無いです。私は絶対に似合うと思います」

「私もそう思うにゃ。背が高いって事は、裏を返せばスレンダーって事にゃ。着ればきっと、男共は見逃さないにゃ」

「我も見てみたいぞ!マユのスカート姿!」

「我も見たい」

 

全員で攻めますか…。

そこまで言われたら、嫌とは言えないじゃん…。

 

「…分かったよ。この衣装群は有難く貰う事にする」

『そうこなくっちゃ!』

 

随分と嬉しそうだな…。

 

「にしても、もう連絡を取らないとか言っておきながら、今日で二回も電話してきてるぞ」

『もう連絡しないとは言ってないよ。暫く接触を断つと言ったの』

「同じ意味にゃ」

『揚げ足を取らないでよ…。とにかく、本当の本当に今日から暫くは連絡を絶つよ。何か用事があったとしても、かなり先になると思う』

「そうか……」

 

騒がしくはあったけど、いないとなると、それはそれで寂しいような…。

 

『あれ?もしかして別れを惜しんでくれてる?いや~なんか嬉しいねぇ~』

 

前言撤回。

いなくなって清々するわ。

 

『それじゃあねぇ~。皆おやすみ~』

 

あ、切れた。

 

「最後までテンションが変わらなかったにゃ」

「気持ちがぶれないって、ある意味凄いです」

 

白音、尊敬なんてしなくていいから。

 

「はぁ……。ゆっくりし直そうか」

「「「「賛成」」」」

 

私達はリビングに戻って、もう一回お茶を飲みながらゆっくりして、その後に就寝した。

 

まぁ…偶にはコラボ衣装を着て出撃してもいいかもな…。

 

魔法少女は御免だけど。

 

 

 

 

 




てなわけで、色々と出してみました。

コラボ衣装なだけあって、特徴大爆発ですね。

衣装につき特殊能力が使えるのは、後で考えつきました。

使うかどうかは不明ですが…。

でも、まどマギのマドカの衣装はいつか着せたいですね。

それだけでいいネタになりそうですし。

では、次回。


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第13話 魔法少女あんり☆マギカ

もうすぐ年末…。

クリスマスにお正月と、色々とありますね。

ま、どうせ私は一人で過ごすでしょうけど。

年末年始には特別篇とかしてみようかな…?



 高校入学から、早二週間が経過した。

 

現代日本の若者らしく、新入生達はあっという間に学校に馴染んでいった。

それは、私やリアス、朱乃も例外では無かった。

 

そんな今日も私は学校へと登校する。

 

「…………」

 

私は携帯を出して時間を確認する。

携帯には、入学祝として足長おじさんに貰ったソウルジェム(笑)をストラップとして付けていた。

 

(相棒。どうしてそれを付けているんだ?確か、嫌がっていなかったか?)

 

うん…確かに嫌だったよ?

だって、どうして好き好んで魔法少女のコスプレなんてしなくちゃいけないのさ。

けど……

 

(家に置いていたら、オーフィス辺りが触るかもしれないから)

 

あの子なら似合うかもしれないけど。

だが、被害は少ない方がいいのもまた事実。

黒歌や白音がいるから大丈夫だとは思うけど、万が一に備えて…ね?

 

(…相棒も大変だな…)

 

とうとう同情されましたよ…。

この優しさが身に沁みます…。

 

「お姉ちゃん!」

 

あ、この声は……

 

「「おはようございます!」」

「ああ、おはよう」

 

リアスと朱乃が眩しい笑顔と共にやってきた。

朝から元気だなぁ~。

 

「あら?そのストラップ…」

 

気付かれた。

 

「珍しいわね。お姉ちゃんがそんな宝石のストラップを付けているなんて」

「でも、なんだか可愛らしいですわ」

「そうね。お姉ちゃんだからこそ似合うんだわ」

 

どこまで私を持ち上げる気?

 

そんな感じで話しながら歩いていると、あっという間に校門につく。

 

登校時間と言う事もあり、校門は生徒達で賑わっている。

その中には、当然のように新一年生もいるわけで……

 

「あ!見てみて!あの三人!」

 

こんな感じに、何故か注目の的になっていたりする。

どうしてこうなった?

 

「やっぱり素敵よねぇ~…」

「ホント、同じ高一とは思えないわ…」

「三人共、凄くスタイル良いし…」

 

この通り、女子達からは羨望の眼差しで見られ…

 

「今日も三人一緒か…」

「なんか、あの子達がいる空間だけ、空気が違うよな…」

「あの子達の彼氏になれたら、それだけで勝ち組だよなぁ~」

「やめとけって。お前じゃ見向きもされねぇよ」

 

男子達からは何やら、アイドルを見るような視線で見られる。

 

リアス達ならともかく、私はそんなにいいもんじゃないですよ?

戦う事しか能のない、筋肉女ですから。

実際、腕も足も筋肉質だし、お腹に至っては腹筋が割れてるしね。

もう、何処のアスリートだよって感じ。

 

「ふふ…。相変わらず、お姉ちゃんは人気者ね?」

「いや…君達の方こそ」

「あらあら。ご謙遜を」

 

謙遜じゃないって。

 

ま、朝は大体こんな感じだ。

こうして、また私の学校での一日が始まる。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 午前中の授業が終わり、お昼休みと言う名の昼食タイム。

私は食堂にて黒歌が作ってくれたお弁当を広げていた。

 

(今日も実に美味しそうだ)

 

毎日毎日、朝早くからお弁当を作ってくれる黒歌には感謝しかない。

なので、休日の日は黒歌の手伝いをして、私と黒歌の二人で家事をしている。

 

「お待たせ、お姉ちゃん」

「お待たせしました」

 

そして、リアス達がやってきた。

二人の昼食は食堂のメニューのようで、リアスはきつねうどん、朱乃は日替わり定食だった。

 

だが、今日はどうやら二人だけでは無い様だ。

 

「お姉ちゃん、今日は彼女もいいかしら?」

「ああ、いいよ」

「ですって」

「ありがとうございます」

 

少し前に出て、私に丁寧にお礼を言う女の子は、リアスの親友の『支取蒼那』こと『ソーナ・シトリー』だ。

なんでも、彼女もリアスと同じように悪魔らしく、しかも魔王の妹でもあるらしい。

色々と共通点がある二人は、昔から仲が良かったとの事。

前々から悪魔を始めとした人外の存在を知っていた私にそっと教えてくれた。

勿論、学校の誰にも言ってはいない。

ソーナ自身も、私の事はリアスから聞かされているらしい。

因みに、ソーナの昼食はスパゲッティ・ミートソースだ。

 

三人は早い者勝ちと言わんばかりに素早く席に座った。

結果、私の左に朱乃、右にソーナ、その隣にリアスが座った。

 

「うぅ~…!今度こそは…!」

「うふふ…。恨みっこは無し…よ?」

「そう言う事です」

「分かってるわよ…」

 

なんかふくれっ面になってるし。

そんな所が女の子らしくて可愛いんだけどね。

 

「そう言えば、お姉ちゃんのお弁当っていつも美味しそうね。誰が作ってるの?」

「家族が…ね」

「そう…なんかいいわね…」

 

ん?お弁当が羨ましいのかな?

 

「三人は料理は出来るのか?」

「勿論出来ますわ。大和撫子として当然の嗜みですから」

「私も一応…。簡単な料理しか出来ませんが…」

「わ…私も出来るわよ!?」

 

そうか…三人共出来るのか。

今時の女子高生は意外と女子力が高いんだな。

この三人を基準にしていいのかは謎だけど。

 

「そう言うお姉ちゃんは?」

「私も出来るよ。一時期は一人で暮らしていたから、自然と出来るようになっていった」

「自然と?」

「ああ。こういったスキルは、必要になれば嫌でも出来るようになる」

 

少なくとも、私はそうだったしね。

いつの間にか料理が出来るようになっていったんだよなぁ~。

それからは、料理レシピを掲載しているサイトとかで色々と調べたっけ。

 

「そう…。私もちょっと頑張ってみようかしら…」

「料理が上手になれば、私も…」

 

ん?なんかリアスとソーナがブツブツと言ってるけど、どうしたのかな?

 

「あらあら、ライバルを焚きつけてしまったかしら?」

 

ライバルとは何ぞや?

 

その後も四人で色々と話しながら、昼食は進んでいった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 学校が終わり、真っ直ぐに家に帰った後、夕飯の準備をする黒歌の手伝いをして、その後に夕飯を食べ終えてからゆっくりとしていると、ドライグがいきなりアラガミの反応を感知した。

 

私は急いで準備を済ませて、出現場所へと転移した。

出撃する際に、白音がお風呂の準備をして待っていると言ってくれた。

とっとと済ませないとな。

 

『…ついたぞ』

「よし」

 

見た感じ、転移した場所は少し離れた場所にある公園だった。

公園の中央に大きな噴水があるのが特徴だ。

 

「……あっちか」

 

ここまで来ると、私にもアラガミのオラクル反応が感知できる。

この腕の恩恵かな?

 

「行くぞ、ドライグ」

『応!』

 

いつものように赤龍帝の籠手を出して、その後に神機を出す。

組み合わせは、リベリオンにストライバー、ディソレイトのアニメ主人公セットだ。

しかし、今日だけはいつもと違った。

 

「な…ななっ!?」

 

いきなり、私の身体がピンク色の光に包まれたのだ!

その瞬間、一瞬だけ私の身体が裸になった。

 

自分の身に何が起こったのか分からない私は、完全に混乱していた。

 

そんな事をしているうちに、光は収束していった。

すると、私の格好が変化していた。

 

「こ…これは…!?」

 

なんと、私はまどマギのまどか(魔法少女)の姿になっていた。

ピンク色のフリフリの衣装に、髪はいつの間にかツインテール(ショート)になっていて、そこには赤いリボンが付いていた。

 

「なんで…?」

『ふむ…そう言う事か』

「え?」

 

なによ?原因が分かったって言うの?

 

『相棒。携帯にあの宝石をつけっぱなしにしていただろう?』

「あ…ああ」

『どうやらアレな、身に着けているだけで、赤龍帝の籠手が発動すると同時に自動的に変身するような機能が付加されていたようだ』

「なん…だと…?」

 

なんちゅー事を…!

あのヤロ~…!

 

「あ」

『どうした?』

「赤龍帝の籠手もピンクになってる」

『なにぃっ!?』

 

流石にこれは予想外だったのか、ドライグも驚いている。

 

『お…俺がピンク色に…』

「神機もピンク色に変化してる」

 

さっきまではカッコいい緑色だったのに、あっという間に魔法少女のマジカル武器になってしまった。

こうなっては、神機も形無しだ。

ま、神機にもピンク色のパーツはあるけどね。

 

「落ち込んでいないで。結界」

『わ…分かった…』

 

あぁ…想像以上にへこんでるよ。

私はアンタ以上に羞恥プレイしてるんだから、これぐらいは我慢してよ。

幸いなのは、結界のお陰で人目につかない事か。

 

『張ったぞ』

「よし、急ごう」

 

馬鹿やってて時間を食ってしまった。

 

私は急いでアラガミの反応がある方へと向かった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 アラガミがいると思われる公園の中央付近に行くと、何かが暴れるような音が聞こえた。

もしかしたら、アラガミが公園を破壊しているのかもしれない。

ヤバいと思った私は、ちょっとだけ焦った。

 

「…見えた」

 

大きな翼が生えたような人型の影が見えた。

どうやら、今回出現したのはシユウのようだ。

 

ユーラシア大陸で発生した鳥人型のアラガミで、巨大な翼手で様々な格闘攻撃を仕掛けてくる。

それだけに留まらず、低空を滑空したり、気功のようなもので遠距離攻撃を仕掛けてきたりもする。

神機使いなりたての頃は、中々に苦戦したものだ。

 

だが、少しだけ様子が変だった。

何故なら……

 

「いい加減に倒れるにょ!」

 

なんでか既に瀕死っぽかったから。

頭、翼手、下半身と部位破壊可能な場所は全て壊されていた。

 

同じ場所には、滅茶苦茶大きな人影が見える。

月明かりに照らされたその人物は……

 

「およ?そこにいるのは誰にょ?」

 

筋骨隆々の物凄い体格の、魔法少女のコスプレをした『男』だった。

もう一度言う…『男』だ。

 

服がはち切れんばかりにピッチピチになっている。

今にも破れそうだ。

 

もしかして…この人がシユウをここまで追い詰めたのか?

 

「そんな馬鹿な…」

 

幾ら筋肉が凄くても、生身でアラガミを圧倒する?

んなアホな。

でも、流石に倒すまでには至っていないようで、シユウは彼に果敢に立ち向かっていく。

そんなシユウに、カウンターの要領で拳を繰り出す男。

どうして拳の一撃でアラガミを吹っ飛ばせるの?

大体、シユウと同じぐらいの体格って、それだけで反則じゃん。

 

「あ!その恰好は…」

 

見られた。

どうする…?

なんて言い訳しよう…。

 

「ミルたんと同じ、魔法少女にょ!?」

 

お…同じ?

アンタは明らかに男だろ!?

って言うか、そのなりで魔法少女?

筋肉野郎の間違いだろ?

その辺に関しては、私も人の事は言えないけど。

 

「いや…私は…」

「丁度良かったにょ!ミルたんと一緒に、この怪人さんをやっつけて欲しいにょ!」

 

人の話聞けよ。

まぁ…こっちもそのつもりで来たから、別にいいけど…。

って言うか、『ミルたん』?

この人の名前か?

 

「わかったよ」

「ホントかにょ!?有難いにょ~」

 

その『にょ~』ってのやめてよ。

マジで引くわ。

 

私が生理的嫌悪感を感じていると、シユウがフラフラと立ち上がった。

 

ミルたんの前に出て、シユウに向かって神機を構える。

 

「止めは私に任せて」

「お願いするにょ。なんでか、怪我はさせられても、やっつける事は出来ないんだにょ」

 

いやいや…生身で部位破壊出来ただけでも充分凄いからね?

 

半ば呆れていると、シユウは私にターゲットを変えたようで、こちらに向かって走ってきて、その両拳で私を挟み込んでこようとしてきた。

だが、もう完璧に行動パターンは頭に入っている。

すぐにバックステップで回避して、一瞬の隙を狙って近づいて二回斬りつけて、元の位置に戻る。

 

私が移動を終えた瞬間、シユウは巨大火球を撃ってきた。

 

「危ないにょ!」

 

ここはガードした方が賢明か。

そう思った私は、即座に装甲を展開する。

多少の衝撃があったが、防ぐ事には成功した。

が、間髪入れずに飛行突進を仕掛けてきた。

 

「くっ…」

 

そのまま装甲を展開したまま耐えて、シユウの着地と共に装甲を解除、クイック捕食で噛みついた。

プレデタースタイルは『ゼクスホルン』。

捕食終了と共に自動的に後退する、安全重視のスタイルだ。

 

身体が光り、体内の細胞が活性化するのが分かる。

同時にアラガミバレットも手に入れる。

が、渡す相手がいないので、ここは撃つしかない。

手に入れたのは『爆炎球』だった。

 

シユウはもう限界近くなのか、体中から血飛沫を上げながら震えていた。

 

その大きすぎる隙を見逃さず、銃形態に変形。

そのまま、シユウから貰ったバレットをぶち込んだ。

 

「返す」

 

発射された爆炎球は、シユウの胴体部に直撃して吹っ飛んだ。

近接形態に変形しながら追撃し、そのまま四連撃、更にゼロスタンスでスタミナを回復する。

 

「発射」

 

最後にインパルスエッジをお見舞いしてやった。

その一撃は、シユウの胴体をブチ向き、大きな穴を開けた。

それが止めとなったのか、盛大に血の噴水を挙げて力尽きた。

 

「ここまでか…」

 

う~ん…派手に大穴開けちゃったけど、コアは大丈夫かな?

 

「す…凄かったにょ~!」

 

ドスンドスンと言う地響きと共にミルたんが走ってきた。

走るだけでこれかい…。

純粋に怖いわ。

と言うか、この光景に何か言うことは無いんかい。

めっちゃ血だらけだぞ。

 

「流石は魔法少女にょ!見事だったにょ!」

「いや…私は…」

 

なんとかして説明しようとするが、余程興奮しているのか、全然こっちの話を聞いてくれない…。

こうなったら……!

 

「ミルたん」

「何かにょ?」

「私が魔法少女なのは、内緒にしてほしい」

「それは分かってるにょ!魔法少女は正体を明かしてはいけないにょもね!」

 

あ、その辺は分かってるのね。

 

「それじゃあ、この辺で」

「さよならにょ~!」

 

一刻も早くその場を立ち去りたかった私は、全速力でその場を離れた。

 

『くく…魔法少女…か』

「私が魔法少女なら、ドライグは魔法の国のマスコットだな」

『マ…マスコット!?』

 

私からのささやかなお返しだ。

 

その後、速攻で結界を解除した後で赤龍帝の籠手も引っ込めた。

すると、同時に変身も解けた。

 

「…よかった」

 

本当にそう思うよ。

心の底から…本当に。

 

急いで家に帰って、すぐにお風呂に直行した。

一緒に入ったオーフィスちゃんとグレートレッドが心の中で悶絶している私を見て不思議そうな顔をしていた。

 

勿論、その日のうちにソウルジェムは押入れの奥深くに封印した。

 

転生してから初めて黒歴史が出来てしまった、忘れられない日になってしまった。

流石にこの事は黒歌達には言えない…。

永遠に私の中に仕舞っておこう…。

 

余談だが、実はミルたんは私達の家の近くにあるアパートに住んでいて、ご近所だった事が判明した。

ちゃんとあの日の事は内緒にしてくれているようだ。

それだけが幸いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やってしまった…。

けど、後悔は無い。

いつかはするつもりでしたしね。

そして、怪物ミルたん登場。

ある意味、作中最強の存在なんじゃないでしょうか?

これから先、魔法少女の格好になるかは未定です。

気が向けばするかもしれませんね。

では、次回。


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第14話 部活と歴代の意思

今回は日常回。

そして、他作品とのクロス回でもあります。

今回、赤龍帝の籠手にオリジナルの設定を盛り込みました。

多分、賛否両論あると思いますので、不快に感じられたのなら、予め謝っておきます。

すみません。


 今日も今日とて学生生活。

ってな訳で、今は丁度お昼休みです。

 

私は毎度のようにリアス、朱乃と一緒に食堂に向かう。

もうこの光景も当たり前になってきたなぁ~…。

 

「そう言えば、お姉ちゃんは部活はどうするの?」

「部活?」

「ええ」

 

部活か…。

確かに、高校生活の一番の醍醐味と言えば部活だよな。

けど……

 

「私は…ちょっと難しいかな…」

「え?なんでですの?」

「色々と忙しいから…」

「「あ……」」

 

一応、二人は私の事情をそれなりに察している。

私が定期的にアラガミ退治をしている事を。

故に、そこまで深くは追及してはこない。

 

「けど……はぁ…」

「…?どうしたの?」

「色んな人達が、私を勧誘してくるんだ…」

「「え?」」

 

ホント…マジで勘弁してほしいよ…。

昨日は女子バレー部、一昨日は女子サッカー部。

そして今日は……

 

「今回は、女子バスケットボール部に一日体験入部する予定だ…」

「そ…そう言えば、放課後にお姉ちゃんが色んな部活に顔を出しているって噂で聞いたけど…」

「そんな事情があったのね…」

 

一日限りだから今はいいけど、流石にどこかに入部する気はない。

いつアラガミが出てくるか分からないし、それ以上に家族の団欒を大事にしたい。

誘ってくれる皆には悪いけどね。

 

「あ…あの!お姉ちゃん!」

「ん?」

 

リアスが真剣な顔で顔を近づけてきた。

 

「あ…あのね?実は私、ある部活を立ち上げようと思ってるんだけど…」

「ほぅ…?」

 

新しい部活を立ち上げようと考えるとは…。

中々に思い切った事をするんだな。

魔王の妹は伊達じゃないってか?

 

「どんな部活なんだ?」

「え…とね…『オカルト研究部』って言うんだけど…」

「オ…オカルト…」

 

悪魔がオカルトって…。

これはツッコミ待ちか?

 

「で…出来れば…出来ればでいいんだけど……お姉ちゃんに入って欲しいの!」

「……え?」

 

なんですと?

 

「お姉ちゃんが忙しいのは知ってるわ。だから、名前を貸してくれるだけでいいの。幽霊部員でもいいから!」

 

お…おう…。

なんか必至だな…。

 

「な…なんで私なんだ?」

「新しい部活を立ち上げるには、最低でも3人の部員が必要なの。だから…」

「3人?」

「私に朱乃。そして、お姉ちゃん」

 

あ、朱乃も一緒なのね。

 

「ソーナは誘わないのか?」

「あの子は生徒会に入るつもりらしいの」

 

なんと…生徒会とな…!

なんちゅー真面目な子だ…。

私なら絶対に入りたくない…。

って言うか、関わり合いにもなりたくない。

 

「なんて言うか……凄いな」

「昔から真面目な子だったから」

 

昔からあんな性格だったのか…。

 

「………何気にソーナもお姉ちゃんを生徒会に誘おうとしてたし、先手を打っておかないと…」

 

ん?今なんて言った?

よく聞こえなかったけど…。

 

「私も出来ればお姉ちゃんに入って欲しいですわ」

「朱乃……」

 

う~ん…。

可能な限りはこの二人の頼み事は断りたくないんだよなぁ~。

 

「本当に名前だけでいいのか?」

「勿論よ!お姉ちゃんがいてくれるだけでいいの!」

 

その発言は大きな誤解を招くからやめようね?

実際、周囲の女の子たちが顔を真っ赤にしているから。

 

「まぁ…いいか」

「ホント!?」

「でも、今週一週間は待ってほしい」

「え?なんで?」

「まだ、体験入部の予定があるんだ。せめて、今週分の予定を消化してからにしたい」

「成る程…。いいわ。それぐらいなら喜んで待つわ」

「そうですわね。今までの時間に比べたら、一週間なんてあっという間ですわ」

 

はは…そこまで言ってもらえると、なんか悪い気はしないな…。

 

「そう言えば、さっきの話で思ったことがあるんですけど…」

「ん?なんだ?」

「お姉ちゃんはスポーツが得意なんですか?」

 

別に得意ってわけじゃないんだよなぁ…。

多分、この体格を見て誘ってるんだよね。

 

「まぁ……可もなく不可もなく…って感じかな?」

「でも、運動神経はいいわよね?」

「体育の合同授業の時なんかは、凄く活躍してるものね」

 

ま、これでも神機使いだからね。

身体はそれなりに鍛えてるし、オラクル細胞の恩恵もあるからね。

 

「男子達は馬鹿みたいに興奮してるけど」

「お姉ちゃんを見て鼻の下を伸ばすなんて、許せませんわ…!」

 

おおーい!?

何気に殺気が出てますからねぇ~!?

 

って言うか、私みたいな筋肉女を見てどうして興奮するかね?

私的にはリアスや朱乃の方に注目すると思うけど。

 

「しなやかな肉体に、芸術的に鍛えられた筋肉…」

「背の高さと相まって、見る者全てを魅了しますわ…」

 

そうかねぇ~?

一度服脱いだら、筋肉ムッキムキだよ?

オーフィスちゃんなんて、一緒にお風呂に入った時に『マユ、お腹カチカチ』って言ってたぐらいだし。

ちょっぴりへこんだけど。

 

「お姉ちゃんって、家でトレーニングとかしてるの?」

「ああ。身体は鍛えて損は無いからな」

 

いざって時に後悔したくはないしね。

もう……あんなことは御免だ。

リンドウさんやシオがいなくなった時、本気で己の力不足を闇里マユ(わたし)は感じたからな…。

 

「素晴らしい考えですわ」

「そうよね…。努力するに越したことは無いわよね…」

 

なんかシリアスな雰囲気になりながらも、色々と話しながら食堂へと向かった。

その際、妙に真剣なリアスの顔が記憶に残った。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

  

 夕食後にお風呂に入って、今は皆でリビングにてテレビを見ながらゆったりと寛いでいる。

私はソファーに座っていて、膝の上にオーフィスちゃんが座っている。

その両隣にはグレートレッドと白音が座ってる。

テーブルでは黒歌がお茶を飲みながらニコニコしている。

 

『う~む…』

「どうした?ドライグ」

 

さっきからドライグがずっと唸っている。

こんな事は珍しい。

因みに、赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)を出していない時は、ドライグが喋る時に左手の甲が緑色に光る。

 

『ああ…。相棒の実力ならば、とっくの昔に禁手(バランス・ブレイク)していてもおかしくは無いんだが…』

「禁手?」

 

聞いたことが無い言葉だな。

 

「聞いたことがあるにゃ。確か、神器(セイクリッド・ギア)が次の段階に至った状態の事を指すらしいにゃ」

 

黒歌が簡単に説明してくれた。

 

次の段階か…。

つまり、リミッター解除、もしくはパワーアップ的なヤツかな?

 

『どういう訳か、そんな気配が欠片も無い。決して条件を満たしていない訳ではないと思うのだが…』

 

条件ってなんだ?

満たした記憶は全然無いんですけど。

 

『ふはははははは!困っておるようだな!ドライグよ!』

『こ…この声は!?まさか!?』

 

な…なんだ!?

いきなり女の子の声が響いたぞ!?

 

「な…何にゃ!?」

「女の子の声…?」

「ここから聞こえた」

「マユの手からだな」

 

マジで?

 

「ドライグ…この声は…」

『おお!そう言えば、自己紹介がまだだったな!』

 

元気だな…。

 

『我こそは!ローマ帝国第5代皇帝!ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス!歴代の赤龍帝の一人である!!』

「「「…………」」」

 

…今…なんつった?

 

『つまり…相棒の先輩だな』

 

先輩…?

 

「「「ええええええええ!?」」」

 

なんじゃそりゃ!?

ちょっと急展開過ぎるでしょ!?

 

「ネロ・クラウディウスと言えば、歴史の本や教科書にも出てくる人物ですよ…」

「歴史上で名を遺した人物の殆どが神器持ちだってのは聞いたことはあるけど、まさか『暴君ネロ』が赤龍帝だったなんて驚きにゃ…」

「私もだ…」

 

いや…本気で驚いたよ…。

でも、ネロ・クラウディウスって女の子だったっけ?

 

『まさか、もう歴代の意思が表面に出てくるとはな…』

『余だけではない。他の連中もとっくに目覚めておる』

『なんだと!?』

 

他にもいるんだ…。

って、そりゃそっか。

 

『ドライグよ。そなた、奏者が禁手に未だ至れていない事を疑問に思っていたな?』

『ああ…』

『その理由は至ってシンプルだ』

 

シンプル?

って言うか、奏者ってなんだ?

 

『それは…奏者の能力が高すぎるせいだ』

「「「はぁ?」」」

 

高すぎるから至れない?

どーゆーこっちゃ?

 

『…詳しく説明してくれ』

『いいぞ。その耳をかっぽじってよく聞くがよい』

 

偉そうだな…。

流石は皇帝様だ。

 

『実はな、通常の禁手では奏者の能力を却って制限してしまう可能性があるのだ。それ故に、我等が今の奏者に相応しい禁手の姿を思案中なのだ』

『う…うむ。確かにそうかもな…』

 

ドライグもなんか納得してる。

話について行けないんですけど…。

 

「通常の禁手とはどんなヤツなんだ?」

 

ナイス質問だ!グレートレッド!

私も気になる!

 

『通常通りに禁手に至った場合、全身を深紅の鎧に包まれる形になる。だが、それでは相棒の高い身体能力を縛ってしまうことになりかねない』

 

全身装甲…。

想像するだけで動き難そうだ…。

 

『アラガミとの戦いは一瞬の隙が命取りだ。防御力を優先するあまり、折角の機動力を犠牲にしてしまっては本末転倒だ』

「確かにそうにゃ…」

『大体、アラガミの前では全身を覆う鎧など、あって無いようなものだ』

 

ごもっとも。

アラガミはなんでも『食べる』からね。

 

『それは我々とて重々承知している。故に、可能な限り我等の力を最大限に有効活用出来る形にしたいのだ』

 

我々の力…?

なにそれ?

 

「なんだそれは?」

『他の神器とは違い、二天龍と称される龍が封印された神器には歴代の所有者達の魂が眠っておるのだ』

 

歴代の魂とな?

 

『歴代の赤龍帝、白龍皇が死した時、その魂はそのまま神器へと封印される。そして、次の装着者を待つことになるのだ』

 

へぇ~。

そんな秘密が…。

 

『そして、歴代の者達は現代の装着者…つまり、奏者に自分の力を貸すことが出来る』

 

おぉ~…。

なんか凄そうだ。

 

「待ってください」

『ん?どうしたのだ?猫の娘よ』

「もしもマユさんが死亡した場合も、同じように神器に魂が封印されるんですか?」

『まぁ…そうなるな。かなり先にはなるとは思うがな』

「そうですか…」

 

……なんとなく解ってたけどね。

けど……

 

「大丈夫」

「え?」

 

悲しそうに俯く白音の頭を撫でる。

精神的年長者としては、ちゃんと慰めてあげなくちゃね。

 

「皆を置いて勝手に逝ったりはしないよ」

「…本当ですか?」

「うん。本当」

 

空いたもう片方の手でオーフィスちゃんを撫でる。

気持ちよさそうに目を細める姿が可愛かった。

 

「マユには敵わないにゃ…」

「ふふ……」

 

本当は黒歌も撫でて欲しかったのかな?

 

『素晴らしい!!!』

「「「「「!!?」」」」」

 

なによ急に!?

 

『家族に捧げる無償の愛!何があっても決して怯まぬその勇気!正しく我等の後を継ぐに相応しい!!』

「あ…ありがとう?」

 

なんか褒められた?

 

『ドライグよ!確かにそなたが言った通り、奏者こそが歴代で最強の赤龍帝かもしれんな!』

『ふっ…何を今更』

 

あ、ドライグもなんか嬉しそうにしてる。

 

『俄然やる気が出て来たゾ!』

 

おお…なんか気合入ってるな。

 

『待っておれ奏者よ!必ずやそなたの期待に応えてみせようぞ!』

「ああ。お願いするよ」

『むぁぁぁっかせておくがよい!!!』

 

自信たっぷりだ。

皇帝なんてものは、これぐらいでないとやってはいけないのかもしれない。

 

「…ところで、さっきから言っている『奏者』とはなんだ?」

『そなたの事だが?』

 

…うん。それは知ってる。

 

「なんで私が奏者なんだと聞いてる」

『奏者は奏者であろう?』

 

何を当然の事を聞いてる、みたいに言われてもな…。

こっちがリアクションに困るよ。

 

『もしかしたら、他の連中もそれぞれの呼び方で相棒を呼ぶかもしれないな』

「え?マジ?」

『…個性的な連中が多いからな…』

 

一体どんな人達なんだよ!?

逆に気になるわ!

 

『いずれ夢で逢うやもしれんな。だが、今は暫しの別れだ!また話そうぞ!奏者よ!』

 

元気な言葉と共に彼女…ネロの声は聞こえなくなった。

 

「…ドライグ。歴代の赤龍帝ってどれぐらいいるんだ?」

『大体…8人ぐらいだな』

「8人…」

 

思ったよりも少ないな。

もうちょっといるかと思った。

 

『少々騒がしくはあるが、ネロは比較的まともな方だ』

「あれでまともな方なんですか…」

 

白音がちょっと引いてる。

気持ちは解るけどね。

 

『一番厄介なのは、原初の赤龍帝だな…』

「原初…つまり、一番最初ってことにゃ?」

『そうだ。相棒を除けば、ある意味最強ではあった。いや…最強と言うよりは最凶と言った方が正しいか?』

 

さ…最凶?

 

『アイツは慢心の塊だったからなぁ…。その上に赤龍帝の籠手まで持って、その慢心に更に拍車が掛かっていたし…』

 

一体どんなヤツなんだよ…。

最初からどんな人間に当たったのさ…。

 

『幾ら次元と時を超えて受け継がれるとはいえ、『あれ』は本気でなかったな…』

「ドライグさんも苦労してるんですね」

「ドライグ、偉い」

『うぅ…そんな事を言ってくれるのはお前達だけだ…』

 

泣いてるのか?

どんだけストレス溜まってるねん。

 

「なら、マユはどうなんだにゃ?」

『相棒はかなりマシな方だ。少々口数が少ないが、真面目で実力があり、しかも努力家だ。正直言って、俺はこれ以上は何も望まない…』

 

真面目で努力家で強けりゃオールオッケーって…。

今までどんだけシビアな目に遭ってきたんだよ…。

 

『相棒。ネロが言ったことは期待してもいいと思うぞ。俺としても大いに賛成だしな』

「うん。私も、ドライグ達の事は信じてるから」

 

今まで一緒に頑張ってきた大切な『相棒』だしね。

 

「けど、実際にどんな姿になるんだろうにゃ~?」

『ネロは皇帝である前に一人の芸術家でもあったからな。もしかしたら、凄いのを考えるかもしれん』

「…それはフラグ…」

 

不安になるようなフラグを立てるのはやめてよぉ~…。

 

その後も、ドライグを交えて皆と色んな事を話した。

 

その日の夜は歴代の夢は見なかったが、これから不意に現れるかもしれないと思うと、少しだけドキドキした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てなわけで、Fate/EXTRAから赤セイバーことネロ参戦です。

と言っても、姿は滅多に表しませんけどね。

今回の事で大体の事は察したとは思いますが、歴代の赤龍帝はFateシリーズのサーヴァントから出したいと考えてます。

けど、個人的に好きなのはEXTRAだし、他に知ってるのはstay nightとZeroだけなので、主にそこら辺から出すかもしれません。

次回はかなり時間が飛びます。

では、次回。


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第15話 進級

ここから一気に飛びます。

と言っても、まだ原作に入るわけでは無いんですけどね。

ここからも、原作前に様々なキャラと絡ませていきたいと考えてます。




 時は…待たない。

そんな風な言葉をオープニングから言ってのける某ジュブナイル系RPGのように、時間と言うのはあっという間に過ぎていく。

 

気が付けば、もう一年が経ち、私は二年生になりました。

 

あれからも色々とあった。

学校では色んな行事があり、その度にリアス、朱乃と一緒にいたせいか、三人揃って変な異名で呼ばれるようになったし。

 

プライベートでは何回もアラガミと戦った。

しかし、どういう訳か、まだ大型のアラガミは出現しない。

この一年は主に中型のアラガミとしか戦ってない。

しかも、未だに属性変化した堕天種とは遭遇していないと言う有様だ。

本気で訳が分からん…。

 

ま、どういう原理でアラガミがこの世界にやって来ているのか、その理由も分かっていない以上、ここで考えても仕方が無いんだけど。

 

あ、ちゃんと約束通りに私はリアスが作った『オカルト研究部』に入部したよ。

彼女自身も暇な時に顔を出してくれればいいと言ってくれたし、こっちとしては色んな意味で有難い申し出だった。

これからはもう、部活の勧誘を受けなくて済むから…。

本気で大変なのよ…あれ。

 

白音はサーゼクスさんから届いた入試用の問題集をするようになった。

勉強は主に私と黒歌で教えていた。

白音は思った以上に呑み込みが早く、こっちとしても教え甲斐があった。

これならきっと大丈夫だろう。

 

そして、去年の冬にサーゼクスさんから連絡が届いて、黒歌のはぐれ悪魔認定が完全に解除されたとの事だ。

その日は皆で盛大にお祝いしたっけ。

黒歌も嬉しそうに泣いていたし、白音も自分の事のように嬉しがっていた。

どう言う訳か、ネロもいきなり介入してきて大騒ぎしてたけど。

 

なんでも、他にも黒歌のように謂れの無い理由ではぐれ悪魔になった人々が多いらしく、現在はそんな人達を洗い出しつつ保護するようにしているらしい。

 

なんか、私の中で猛スピードで魔王のイメージが変わっていった。

 

それからは今まで以上に安心して生活できるようになり、黒歌の笑顔も増えて行った。

 

年末年始は、皆で大掃除をしたり初詣にも行ったりした。

その際、リアス達と黒歌達は初めて出会った。

リアス達も黒歌達の事は予めサーゼクスさんから聞かされていたらしく、そこまで警戒はしなかった。

その代わり、なんか強敵と書いて友と呼ぶ空気が流れていたけど。

あと、白音が二人の胸を見て恨めしそうにしていたのが印象的だった。

流石にオーフィスちゃんとグレートレッドの事を見た時は驚きを隠せないでいたけど。

 

ま、手抜きのように見えるかもしれないが、そんな感じで転生してから初めての一年は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 そんな訳で、今は新しい二年の教室にいます。

クラス替えによって、私とリアス、朱乃は同じクラスになった。

なんとなく、サーゼクスさんの見えない手が働いてるような気がしなくもない。

 

「今年からは同じクラスね。お姉ちゃん」

「ふふ……この一年は楽しい事になりそうですわ」

「ふっ…そうだな」

 

私としても嬉しくはある。

やっぱり、顔見知りがいるだけで新学期のスタートは違うからね。

しかし……

 

(まだ私の事を『お姉ちゃん』って呼ぶのか…)

 

今までなんとなくスルーしてきたけど、そろそろ普通に呼んで欲しい。

二人につられて、他の同級生たちも私の事をお姉ちゃんって呼び出す始末だし。

後輩達が見たら絶対に驚くよ。

もしくはドン引き。

 

「そうそう。今日の放課後って何か用事はあるかしら?」

「いや、特には。…何かあるのか?」

「ええ。実はお姉ちゃんに会わせたい子がいて」

「会わせたい子?」

 

私に会わせたい…ねぇ?

誰なんだろ?

 

「向こうの方は、ずっとお姉ちゃんに会いたがってましたものね?」

「きっと喜んでくれるわ」

 

う~む……全然分からん。

マジで誰だ?

 

「それじゃ、放課後に部室の方に来てくれる?」

「わかったよ」

 

私が返事をしたところで先生が教室に入ってきて、その場は解散になった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 放課後。

私はリアスに言われた通りに、オカルト研究部の部室がある旧校舎に向かっていた。

ちょっとだけ新校舎と距離がある為、嫌でも廊下を歩かなくてはいけない訳で……

そうなれば、必然的に色んな生徒たちの目に留まる。

 

「ねぇ、あれ見て!」

「マユお姉さまよ!…今日も凛々しくて美しくて…素敵だわ」

 

こんな風に私に変な羨望を向ける生徒達が色んな話をするのだ。

オラクル細胞で聴力も強化されているせいか、その殆どが丸聞こえである。

 

「うぉ!?あれが噂の『駒王三大お姉さま』の筆頭の闇里マユ先輩かよ…」

「背ぇ高けぇ…。しかも超美人じゃん…」

 

うぅ…身長の事は言わないでくれ…。

どうやら、神機使いであっても成長期なのは変わらないようで、この一年で私の身長は4センチも伸びて、177センチになっている。

このままいくと、驚異の180台に行くかもしれない…。

仕方がないとはいえ、年頃の女の子としてそれでいいのか…私…。

 

「なんと!あそこに見えるのは噂に名高い闇里マユ先輩ではないか!?」

「マジか!?どこどこ!?」

「あそこだ!そこの渡り廊下を歩いてる…」

「あ…あれか!?噂以上の美人…!」

「ああ!頑張って駒王学園に入った甲斐があったな!元浜!」

「全くだ!松田!」

 

なんか…丸坊主の男子と眼鏡を掛けた男子がこっちを見て騒いでる。

丸坊主の子の手には高そうなカメラが握られていた。

 

妙にいやらしい視線を感じたため、私は早足でその場を後にした。

ま、単純に周囲の視線に耐えられなかったと言うものあったけどね。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 なんだかんだあって、ようやく部室前についた。

一応、礼儀としてノックをする。

 

「私だ」

「お姉ちゃん?入っていいわよ」

 

入室の許可をもらって、私は木製の古めかしい扉を開く。

中はオカルト研究部らしく、幾何学的な魔法陣やら蝋燭やらがあって、いかにもな雰囲気を醸し出していた。

 

高級そうなソファーが四つ置いてあり、その中央には同じように高級そうなテーブルが置いてある。

北側のソファーにはリアスが優雅に座っていて、紅茶を飲んでいた。

その傍では副部長である朱乃が紅茶を淹れていた。

 

そして、左側のソファーには、金髪の美少年が座って同じように紅茶を飲んでいる。

美少年が私の事に気が付いた瞬間、その目を見開いて私の傍までやってきた。

 

「本当だ……。部長の言った通り…あの頃のままだ…」

「え?…ええ?」

 

あの頃?

 

「もう…祐斗。気持ちは解るけど、少しは落ち着きなさい」

「あ……すみません。部長」

 

バツが悪そうにソファーに座り直す少年。

え…?マジで誰よ?

 

「お姉ちゃんも座って」

「あ…ああ」

 

リアスに促されるように、彼女の向かいのソファーに座る。

それと同時に朱乃が紅茶の入ったティーカップを傍においてくれた。

 

「どうぞ、お姉ちゃん」

「ありがとう」

 

まずは一口。

うん、相変わらず朱乃の紅茶は美味い。

毎日でも飲みたいぐらいだ。

前にそんな事言ったら、顔を真っ赤にして目をキラキラさせてたけど。

 

「じゃあ、そろそろ自己紹介して貰いましょうか?」

「そうですわね」

 

自己紹介?

あ…彼のか。

 

美少年が紅茶を飲む手を止めて、こっちを向く。

 

「本当にお久し振りです。あの時はお世話になりました」

「あ…ああ…どうも…」

 

思わずつられてお辞儀しちゃったよ。

 

「と言っても、普通は分かりませんよね?」

「普通はそうよね」

 

どうやらリアスは知ってるみたいだけど…。

 

「覚えてませんか?以前、雪山で助けていただいた……」

「雪山……」

 

雪山って言うと…確か……アラガミに襲われそうになっていた小さな男の子を助けて、それから彼をサーゼクスさんに預けて………って!まさかっ!?

 

「君は…あの時の…?」

「はい!覚えていてくださって嬉しいです!」

 

そっか……あの時の子か…。

大きくなったんだな…。

 

「今は『木場祐斗』と名乗っています。今年からこの駒王学園に入学しました」

「そうか……それは良かった」

「これからよろしくお願いします。マユ先輩」

「ああ…よろしく。…って、私の名前…」

「貴女の名前は部長…リアス先輩に教えて貰いました」

 

思わずリアスの方を向くと、可愛らしくウィンクをした。

ま…別にいいんだけどね。

 

因みに、部長とはリアスの事。

彼女がここの部長をしているのだ。

 

「今は、部長の眷属悪魔をしてます。駒は騎士(ナイト)です」

 

……ん?

今なんつった?

眷属悪魔?ナイト?

 

「えっと……リアス?」

「あ…あれ?もしかしてお姉ちゃん……眷属悪魔の事を知らない?」

「うん……」

 

そう言えば、黒歌がそれっぽい事を言ってた気がするけど、深く追求するのも躊躇われた為、全然聞いてない。

 

「一応聞くけど……三大勢力の歴史は知ってる?」

「それなりには……」

 

そこら辺の事は、ドライグや黒歌達に教えて貰ったからね。

 

「三大勢力の戦争によって悪魔勢力は大きく疲弊して、数を減らしてしまったの。元々出生率があまり高くない悪魔達は、ある物を開発してその事態を防ごうと考えた。それが……」

悪魔の駒(イーヴィル・ピース)…か?」

「知ってたのね…」

「名前だけはな」

 

詳しい事は全然知らないけどね。

 

「その悪魔の駒を使って、自分達が素質があると判断した者達を転生悪魔にする制度を設けたの。…中には邪な考えで無理矢理眷属にしようとする輩もいるみたいだけどね…」

 

黒歌の事はリアスも同じ女性として憤りを感じたと言っていたっけ。

共感してくれるだけでも、私は嬉しいよ。

 

「でも、少なくとも私はそんな事はする気はないわ。眷属にするかは相手とちゃんと話し合って、キチンと考える時間もあげるようにしているし。説明もしてるわ」

 

そこら辺はしっかりしてそうだもんね、リアスって。

 

「悪魔になれば、身体能力などが大きく上昇するから、それが目的で悪魔になる者もいるみたいね?」

「僕が正にそうですよ」

 

え?そうなの?

 

「部長達、グレモリー家の方々に恩があるのもそうですが、それ以上に、これぐらいでもしないと貴女の隣には立てませんから」

「随分と積極的ですわね?祐斗君は」

「勿論です。こればかりは譲れませんから」

 

そう言ってくれるのは嬉しいけど、私にそこまでの価値はありませんぜ?

所詮私はアラガミを殺す事しか能が無い、しがない神機使いでしかないからね。

 

「他には誰がいるんだ?」

「ここにはいないけど、僧侶(ビショップ)の子が一人。そして…」

「私が女王(クィーン)ですわ」

 

……はい?

 

私がちょっとだけ呆けていると、朱乃の背中から蝙蝠の羽っぽいものが生えた。

 

「なんで…?」

「大事な親友の助けになりたかったから……そして、もう一つの理由は祐斗君と同じですわ」

 

それって…私の隣に立つって言う…?

 

「勿論、両親とは何回も話し合いました。父も堕天使という事もあり、それなりに思う所はあったようですが、最終的には許して貰いました」

「でも…そうなったら朱乃のお母さんは…」

 

彼女は普通の人間だった筈だ。

このままではいずれ辛い別れが待っているんじゃ…。

 

「そこら辺はなんとかすると言っていましたわ。お母さんの事になると父は何をするか分かりませんけど」

 

いいのかそれで…。

ま、このままで済ませる気は無いのは分かったけど…。

 

「出来ればお姉ちゃんも眷属になって欲しいけど、私じゃどんなに頑張っても無理ね…。余りにも実力が違いすぎるわ」

「お姉ちゃんを眷属に出来る悪魔は存在しているのでしょうか?もしかしたら、初代魔王のルシファー様ですら難しいかもしれませんわ」

「先輩ならあり得ますね…」

 

えぇ~?

そこまで過大評価する~?

 

「そう言えば、お姉ちゃんは三大勢力の戦争の最終局面の二天龍との戦いに介入したことがあるってお兄様に聞いたんだけど……本当?」

「二天龍…………ああ」

 

あの時ね。

私が転生してから最初に戦った、あの時の事か。

懐かしいなぁ~。

 

「え…マジ?」

「ああ。あの時は私も大変だったな。初めての空中戦だったし」

「その割には普通に戦っていたって聞いたけど…」

 

んな事無いって。

マジで必死だったよ?

 

「本当に…どんな場所にも現れるんですね…」

「それが使命だからな」

 

アラガミが現れる所、神機使い有り…だよ。

 

「……ちょっと話題を変えましょうか」

 

少しシリアスな空気になりかけたところを、リアスが変えてくれた。

 

「確か、お姉ちゃんと一緒に暮らしている白音って子も来年にはここを受験するのよね?」

「ああ。今は頑張って勉強しているよ」

「ふふ……来年が楽しみですわ」

「私もだよ」

 

白音には色んな事を知って、学んでほしいからね。

これを機に、友達が増えてくれると嬉しい。

 

「そうそう。裕斗もこれからはオカルト研究部に入るから。よろしくお願いね?」

「と言っても、剣道部と兼任するような形になりますけど。出来るだけこちらを優先するようにはします」

「そうか…。これからよろしく」

「はい。よろしくお願いします」

 

こうして、(私的には)一年振りの再会を果たした少年…裕斗を迎え、私の新しい一年が始まったのであった。

 

これから、また賑やかになりそうだなぁ…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、祐斗再登場です。

出来ればもうちょっと短めにして、後半にアラガミとの戦いを書きたかったのですが、思った以上に長くなってしまいました…。

アラガミとの戦いは次回にしたいと思います。

では、次回。


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第16話 良妻賢母な妖狐と狐っ子

なんか消化不良だったので、連続でいきたいと思います。

今回はアラガミとの戦いと同時に、とある原作キャラとの出会いと、ネロとは別の歴代の赤龍帝を登場させます。

まぁ…サブタイでなんとなく分かるとは思いますけど。



「……てな事があった」

 

その日の夕食時、私は皆に今日あった出来事を話していた。

 

「前に助けた男の子が新入生として…ねぇ…」

「マユさんは本当に色んな人を助けてるんですね」

「困っている誰かを助けるのは当然の事だからな」

 

例え相手が誰であろうとも、助けるのは当たり前だ。

戦う事しか出来ない私が誰かを助けられるのは、こっちとしても嬉しいけどね。

ま、自己満足と言われればそれまでなんだけど。

 

って、グレートレッド…

 

「ちょっとじっとしてて」

「ん?」

 

私は彼女の口についているソースをティッシュで拭いてあげた。

 

「……これでよしっと」

「すまんな、マユ」

「家族だから、これぐらいは当たり前」

「家族…か。ふふ……なんだかいいな…」

 

嬉しそうに微笑みながら食事を再会するグレートレッド。

なんか…こう、心の底から湧き出てくるものがあるな…。

 

「…本当にマユは私達と同い年か疑いたくなるにゃ。あ、オーフィス。ご飯粒が付いてるにゃ」

「ん」

 

それってどういう意味かな?

…もう慣れたけど。

 

「機会があれば紹介してほしいにゃ」

「そうですね。私にとっては先輩になるかもしれない人ですから」

「そうだな…」

 

裕斗は物腰もいいし、基本的に優しそうだったから、すぐにでも仲良くなりそうだ。

いつか家に呼んでもいいかもな。

 

そんな風に話していると、いつの間にか食事は終わっていた。

 

全部の食器を下げた後、私は黒歌と一緒に洗い物をしていた。

白音はオーフィスちゃんとグレートレッドと一緒にお風呂に行った。

 

もう少しで全部洗い終わる……そんな時だった。

 

『む…?』

「どうした?ドライグ」

『少々反応が捉えにくいが、アラガミの気配がするぞ』

「なに?」

 

アラガミ?

全く…空気読めよな。

もうすぐ、一日の内で一番の楽しみなお風呂タイムだってのに…。

 

「後は私がやっておくにゃ。遠慮なく行ってくるにゃ」

「すまない…」

「家族なんだから、遠慮は無しにゃ」

「黒歌…」

 

そんな事を言われたら……本気で感動してまうやろ~!

 

「白音達にはちゃんと言っておくにゃ」

「わかった…」

 

本当に…良く出来た子だよ…。

私には勿体ないぐらいだ。

だからだろう……殆ど無意識のうちに、体が動いていた。

 

「黒歌…」

「どうしたにゃ?」

「……ありがとう」

「にゃ……にゃにゃ!?」

 

私は、黒歌の事を抱きしめていた。

 

「黒歌や皆がいてくれるから……この家で待っていてくれるから、私は頑張れる。いつも…本当に感謝してる」

「…マユは私達の事を救ってくれた。だから、マユが帰ってくる場所を護るぐらいの事はお安い御用よ」

「黒歌……」

「マユ……」

 

私達は互いに見つめあう。

 

『……イチャイチャするのは、アラガミを退治してからにしたらどうだ?』

「「……!?」」

 

一気に互いの顔が真っ赤になって、素早く離れた。

 

「わ…わかっている!」

「そ…そうにゃ!早くやっつけてくるにゃ!」

 

何だか悶々とした気持ちのまま、私は急いで準備をして転移した。

うぅ…どうしてしまったんだ?私は……

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 転移が完了すると、そこは並木道だった。

周囲には桜の木が並んでいて、花吹雪が舞っている。

こんな時じゃなければ、静かに眺めていたいけどね。

 

「ここは一体…?」

 

少なくとも日本なのは確実っぽいけど、何処なのかが分からない。

 

「アラガミの気配はする?」

『いや…先程と同じように、僅かにしか感じん…。もしかしたら、まだ出現していないのかもしれん』

「そうか…」

 

そこまで慌てなくてもよかったかな?

ちょっとだけ焦っていたので、今回は殆ど勘に従って服を選んだ。

今回の服はミューティニア……つまりはアリサの衣装である。

お腹が丸見えな恰好な為、私の割れた腹筋が見えまくっている。

今回、なんでかこの格好の方がいいと感じたため、その感覚を信じてこの服で来た。

因みに、帽子は被っていない。

 

「ちょっと…歩いてみようか」

『そうだな』

 

私はその場を離れて、少し歩いてみた。

 

「綺麗だな…」

『風流…と言うのだったか?この国では』

 

ほぅ…そんな言葉も知っていたのか。

 

ドライグの意外な語録に感心していると、赤龍帝の籠手が強制的に出現し、そこから聞いたことのない声が聞こえた。

 

『みこーん!ここは…まさか?』

 

みこーん?

なんだ…一体?

聞いた感じじゃ、年頃の女の子みたいだったけど…。

 

『玉藻……お前も来たか』

『当然です!私だってご主人様とお話したかったんですから!』

 

玉藻…?

それに、ご主人様…?

 

『ああ!私としたことが、自己紹介を忘れるとは!?』

 

テンション高いなぁ~…。

 

『初めまして。私は歴代の赤龍帝の一人の『玉藻の前』と申します』

「玉藻の前……」

 

それって…かなり悪名高い妖怪…って言うか、確か九尾の狐の別名だったんじゃ…。

 

『史実はどうだったかは知らんが、実際のこいつは神の化身だぞ』

「……は?」

 

神の化身とな?

 

『人間に興味を持った太陽神『天照』が自ら自身の記憶を消去して、人間に転生した姿なんだ』

「なんと…!」

 

歴代の赤龍帝には、そんな大物もいるのか…!

 

『俺も実際に知った時は驚いた。よもや、神と共に戦うことになるとは夢にも思わなかったからな』

 

そりゃそうだ。

 

「けど、確か史実ではかなりの悪行を重ねたと聞いたことが…」

『それは……』

 

あ、もしかしなくても地雷踏んだ?

 

「…すまない。無神経だった」

『い…いえ!お謝りなさらないでください!ご主人様は何も悪くはございません!』

 

なんだよこれ……めっちゃいい子じゃん…。

誰だよ、悪名高い大妖怪とか言った奴。

私がぶっ飛ばすぞ。

 

『一応言っておくが、玉藻は俺の力を悪行には一切使わなかったぞ』

「そうか…」

 

それはなんとなくわかる。

こうして赤龍帝になったせいか、どことなくそこは理解出来るのだ。

 

「ところで、さっきはここが何処か分かったような事を言っていたけど…」

『そうでした!』

 

しっかりしてそうで、意外とうっかりさんなのね。

 

『おそらくここは、京都だと思われます』

「京都…?」

『はい。この場所からは京都特有の霊脈を感じますから』

「霊脈…」

 

流石は玉藻の前ってところか。

 

「物知りだな」

『いや~ん!ご主人様に褒められたぁ~!もっと褒めてくださいまし!さぁさぁ!お願いプリ~ズ!』

 

……どうしろと?

 

リアクションに困っていると、足元に薄汚れたチラシを見つけた。

試しに拾い上げてみると、そこには確かに『京都』と言う単語が書かれてあった。

 

どうやら、彼女の予想は大当たりのようだな。

 

チラシをくしゃくしゃにして、近くにあったゴミ箱にシュートしたところで、玉藻が何かを感じたようだ。

 

『むむ?この感じは…!』

「どうした?」

『アラガミとは違う気配……これは、妖気ですね』

「妖気…?」

 

私は何にも感じないけど。

って、そりゃそっか。

私に分かる事なんて、アラガミが放つオラクル反応だけだもんな。

 

『俺も確かに感じた…』

『あっちです!ご主人様!行ってみましょう!』

「そうだな」

 

てなわけで、行ってみることにした。

念の為に走って。

 

『そうだ、ご主人様。念の為に私の力の一部をお貸ししますね?』

「力の一部…?」

『はい!禁手に至らなくとも、歴代の力の一部ぐらいなら使用は可能なのですよ?』

「そうなのか?」

『言うのを忘れていたな。すまん』

 

いやいやいや…そう言うのはちゃんと言おうよ…。

 

『そんな訳で…いきますよ!ドライグさん!』

『承知した!』

 

次の瞬間、籠手からいつもとは違う音声が聞こえてきた。

 

【Caster!】

 

すると、私の視界に入っている髪がピンク色に染まっているのが見えた。

それと同時に、頭と腰の辺りに違和感を感じた。

 

ちょっとだけ立ち止まって触って確認してみると、そこにあったのは……

 

「……耳と尻尾?」

 

そう。

イヌ科の耳と尻尾と思わしきものが生えていたのだ。

恐らく、これは狐の耳と尻尾だろう。

 

「これは……」

『それが私の力を使う際の姿です。他の方々の際も同じように多少の変化はしますよ?』

「マジか…」

 

狐耳に尻尾って……かなりあざといな。

私は別に萌えキャラじゃないぞ?

 

『とってもお似合いですよ!ご主人様!今すぐにでも押し倒したいほどに…ぐへへ…』

 

今、不審な言葉が聞こえた気が…。

 

「ま、いいか」

 

今は兎に角急ごう。ってな訳で、私は移動を再開した。

 

走っている際に尻尾が妙に邪魔だったけど。

 

「そう言えば、どうして私の事をご主人様って言うんだ?」

『確かに貴女様は私から見れば後輩に当たります。けど、その性格にその心。更には魂がイケメン過ぎます!私的にはどストライクなんです!ですので、このような形ではありますが、貴女様の事をご主人様としてお慕いしたいと思ったと…こういう訳です』

「そ…そうか。頑張れ」

 

説明して貰ってもよく分からん。

大体、『魂がイケメン』って何よ?

 

『むむ?ご主人様、こちらに向かって誰かが走って来ますよ?』

「なんだって?」

 

目を凝らして見てみると、そこにいたのは今の私と同じように狐の耳と尻尾を生やした巫女装束の女の子で、見た感じではオーフィスちゃんやグレートレッドと肉体年齢は同じぐらいだ。

 

聞き耳を立ててみると、彼女の必死な声が聞こえてきた。

 

「な…なんなのじゃ!お前達は!?」

 

どうやら、何かに追われているようだ。

アラガミの気配がしないとなると、別の存在か…?

 

『この妖気は…妖怪の類ですね』

「妖怪…」

『はい。しかも、追われている幼女は私の同族のようです』

 

玉藻の仲間…か。

けど、それ以前に……

 

「子供を傷つける者は…私が許さん…!」

 

どんな理由があるにしろ、子供の笑顔を奪うなど言語道断!

私的には即死刑だ。

 

段々と近づいていくにつれて、彼女を追いかけている妖怪の姿が見えた。

 

妖怪は三人組(数え方は人で合ってるのかな?)で、全員が共通して頭に角が生えている。

一人は赤い肌の大男で、もう一人は青い肌の中肉中背、最後の奴は緑の肌のデブだった。

 

「待ちやがれよぉ~。九重ちゃぁ~ん…」

「別に取って食おうってんじゃねぇよ。お前を人質にして、八坂の奴を呼びだすだけだからよ」

「は…母上を!?なんでじゃ!?」

「決まってんじゃねぇか。外の世界に進出して、悪魔や天使、堕天使の連中に俺達妖怪の凄さってヤツを知らしめてやんのよ」

「本来なら他所者であるあいつらが、ここでデカい顔をしてんのが我慢ならねぇのよ」

「何を言うておる!そんな事になれば、三大勢力と妖怪との全面戦争になってしまうぞ!」

「だぁ~かぁ~らぁ~…それが目的だっつーの!ぎゃはは…」

 

…聞いてるだけで反吐が出る。

少なくとも、魔王であるサーゼクスさんは一生懸命に他の種族との共存を考えてるってのに……こいつらと来たら…!

 

「子供を人質にするなどと…!」

『暫く見ないうちに京妖怪も質が落ちたな。俺が知っている連中は、妖怪としての誇りに満ちていたと言うのに…』

『全くです…!あんな奴らがいるから、善良な妖怪が被害に遭うんですよ!』

 

二人共、あの連中に憤慨してるようだな。

私も気持ちは同じだ。

 

「ならば…!」

『やる事は一つだ!アラガミと戦う前のウォーミングアップには丁度いい』

『ご主人様!やっちゃってください!』

「当然!!」

 

私は一気にスピードアップして、彼女の元に急いだ。

その最中、頭の中に今の状態の戦い方に関する情報が流れてきた。

 

(そうか…これなら…!)

 

向こうも走ってくる私に気が付いたようで、立ち止まってこっちを指差した。

 

「な…なんだぁっ!?」

「誰かが走って来る!?」

「このガキの仲間か!?」

 

女の子の方も、私を見て目を見開いていた。

 

「な…なんじゃ!?」

 

私は女の子の所まで行くと、そのまま彼女を庇うように前に出た。

 

「テメェ…何モンだ?」

「おい…コイツの頭…」

「ほほぅ…?」

 

なにやら、私の頭の耳と尻尾に注目しだした。

 

「そうか…お前もそこのガキと同じ妖狐か。だったら丁度いいや。テメェも一緒に人質に…」

「させると思うか?」

「何?」

 

私は籠手から一枚の札を召喚した。

 

「炎天よ…走れ!!」

 

この状態で出来る攻撃手段…それは、呪術だ。

炎の力を帯びた札が直撃した赤い大男は、地面をのたうち回った。

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?も…燃えるぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

ふん!子供を人質にしようとする輩には、当然の報いだ。

 

「て…てめぇっ!!」

「女だからって下出に出てれば調子に乗りやがって!!」

 

どこがだよ。

完全に脅しまくってたじゃん。

 

「捕まって!」

「は…はいなのじゃ!」

 

私は女の子を抱えて、青い男の拳を回避。

少しだけ離れた場所に着地すると、再び札を召喚した。

 

「氷天よ……砕け!!」

 

幾ら身体能力に優れた妖怪とは言え、素人同然の動きでは回避できるはずもなく、札は吸い込まれるように直撃した。

 

「が…あぁぁぁっ…!身体が…凍って…!」

 

青い男はあっという間に氷像になった。

この時期はまだ寒いだろうに(笑)

 

「そ…そんな…!あっという間に二人も…!」

 

流石にこの短時間でここまで圧倒されるとは思っていなかったのか、緑のデブは後ずさりをしていた。

 

だが……

 

「逃がすと思うか?」

 

コイツは生理的に受け付けない。

故に、考えうる最大の攻撃をお見舞いしてやろう。

 

「ここでじっとしてて」

「わ…わかったのじゃ…」

 

女の子は困惑した状態でゆっくりとその場に降りた。

 

そして、私はデブに向かって全力疾走した。

 

「ひっ…!く…来るなぁ!?」

 

そんな言葉を聞くはずもなく、私はそのまま突撃した。

その勢いのまま、まずはその股間に蹴りを一撃。

 

「弁明!」

「ぐぴぃっ!?」

 

左足を軸にして、お次はその場で回転蹴り。

 

「無用!!」

「ぶじゃすっ!?」

 

そのままバク転で一回間合いを取る。

全力で助走して、前方に向かって思いっきりジャンプ!!

 

「浮・気・撲・滅!!!」

 

その蹴りは悶絶しているデブの股間にクリティカルヒット!!

その勢いのまま、後ろに降り立つ。

 

「名付けて……一夫多妻去勢拳!!!」

「ハスイニウデャイdshnuisdanhf!!?」

 

デブの断末魔と共に、なんでかボカーン!と言う爆発が起こった。

 

…なんで私…『浮気撲滅』とかって言ったんだろう?

 

緑のデブは、黒焦げになった状態で泡を吹いて倒れた。

 

『さっすがご主人様!お見事です!!』

『痛い……あれは痛いぞ…相棒…』

 

なんでドライグが苦しそうなのさ?

 

なんでか暴漢達と同様に苦しんでいるドライグに疑問を感じながら、私は女の子の元に戻った。

 

「大丈夫だった?」

「う…うむ…」

 

気丈に振る舞って入るけど、今にも泣きそうだ。

無理もない。

あんな連中に追いかけられれば、この歳の子は誰だってこうなる。

 

「もう怖い奴はいない。大丈夫…大丈夫だから…」

「う……うう…うう…うわぁああぁぁぁぁん!!!」

 

女の子は私の身体に抱き着いて、思いっきり泣いた。

うんうん、今はそれでいいよ。

泣きたい時は思いっきり泣けばいい。

 

暫くして、女の子はようやく泣き止んだ。

 

「ひっく……みっともない所を見せてしもうたの…」

「気にしてない」

 

それよりも、気になってたんだけど…。

 

「どうしてこんな時間にこんな場所に?」

「うぅ……今夜は満月が綺麗だから、こっそりと寝所から抜け出して外で眺めていたんじゃ…。そしたら、さっきの奴等がやってきて…」

「君を捕まえようとした…と」

「うむ…その通りじゃ…」

 

子供の夜の一人歩きは感心しないが、この子も反省しているようだし、ここはお説教はしないでおこうか。

そう言うのは、この子のお母さんに任せるよ。

 

「これからはもう、夜中に一人で出歩いてはいけないよ?」

「わかったのじゃ…」

 

私は彼女を宥めるために、頭を優しく撫でた。

 

「ところで…おぬしは誰なんじゃ?その耳と尻尾を見る限りでは、同族のように見受けられるが…」

「それは……」

 

私が説明しようとすると、突然…

 

『…!相棒!アラガミの反応がいきなり大きくなったぞ!!もうすぐここに来る!!』

「なにっ!?」

 

こんな時に…!

 

「どこから来る?」

『俺達が来た方向からだ。間違いない』

「そうか…」

 

私は彼女を放してから、少しだけ離れた。

 

「君はそこら辺の草むらに隠れてて」

「え?え?」

「もうすぐ…こいつ等よりももっと怖いのがやって来る…!」

「なんじゃとっ!?」

 

女の子は恐怖と驚きが混じった顔になる。

 

「もうすぐやって来る。いいから早く!」

「わ…分かったのじゃ!そなたも気を付けるのじゃぞ!」

 

彼女の激励を受けて、私はやって来るアラガミに対して身構えた。

同時に、神機も取り出した。

 

「…!これは…」

 

出て来たのは、アヴェンジャーにレイジングロア、ブリムストーンのアリサセットだった。

もしかして、アリサの格好になったから、装備も強制変更になったのかな?

 

あ、そう言えば、この馬鹿たちはどうしよう?

 

「……ま、いいか」

 

何かあったとしても、それは全部こいつらの自己責任だ。

女の子を誘拐しようとしたこいつらが悪い。

 

『ご主人様……来ます!!』

 

玉藻の言葉で一気に戦闘モードに入る。

 

やって来たのは……

 

「アイツは…!」

 

アラガミには珍しい人型のフォルム。

両肩には鎧を付けて、その右腕からは大きな砲身を覗かせている。

 

「ヤクシャ…か」

 

単体ならば、それほど脅威じゃない。

けど、本来ならあいつは集団行動を好む習性があった筈。

 

「ドライグ。他にアラガミの反応は?」

『見受けられない。今この場にいるアラガミは、あのヤクシャだけだ』

「了解した…」

 

ターゲットはヤクシャ一体。

これなら何とかなる。

毎度のように、ヘイト値はMAXで、私の方しか向いてないしね。

 

「距離を取られたら厄介だ。こっちから行く!」

 

ヤクシャの先制攻撃を防ぐために、自分から仕掛けた。

 

まずは真正面から向かって行く。

すると、ヤクシャは片膝をついて、砲身をこちらに向けてから狙いを定めた。

 

「そうくると思った…!」

 

狙われた直後、私は瞬時に左側に回り込む。

コイツは狙いを定めている間は、身動きが出来ないからな。

 

「うぅ……まだ熱い…」

 

あ、炎天を受けた赤い男がフラフラになりながら起き上がった。

他の連中はまだ気絶してるけど。

 

「な…なんだあいつはぁ!?」

 

運の悪い事に、赤い男が起き上がった直後にヤクシャのマスドライバーが発射された。

 

巨大なオラクルの塊が真っ直ぐに飛んでくる。

炎天のダメージが残っているせいか、碌に身動きが出来ない赤い男は当然…

 

「ぶぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

見事に直撃して吹っ飛んだ。

 

多分…死んだな。

 

その隙に私は左肩の鎧を攻撃する。

勿論、一撃では壊れないが、ロングブレード特有の四連撃をお見舞いしたお陰で、部位破壊に成功した。

 

「よし」

 

ヤクシャは痛そうに雄叫びを挙げて、こちらを向く。

すると、奴は砲身下に向けて、エネルギーを溜め込んだ。

 

「鬼爆陣か…」

 

次の攻撃が分かれば、避けるのなんて容易い。

 

バックステップで後ろに下がり、銃形態に変形。

そのまま今度はこちらが狙いを定める。

 

「遠距離攻撃は…そっちだけの専売特許じゃない」

 

頭を狙って、炎属性のバレットを何発も連続で叩き込む!

途中で避けようとしたが、それはこちらが標準補正をすればいいだけの話。

結果、ヤクシャの頭部の部位破壊に成功した。

 

「割れた…」

 

私はお約束のように横に回り込み、近接形態に戻して三回斬りつけた後にプレデタースタイルの昇爆を使った。

真上に飛び上がりつつ捕食して、バースト。

更に二回斬りつけて空中捕食のガイストを発動。

捕食後に空中を後退し、丁度いい感じに間合いが出来た。

 

ヤクシャはふらつきながらこちらを向き、上空にレーザーを撃ってこちらの頭上に降り注がせる斬鬼柱を撃った。

 

だが、さっきも言ったように、次の攻撃が分かれば避ける事は容易い。

それが単体の敵なら尚更だ。

 

いつものようにバックステップして、また銃形態に変形。

今度はヤクシャから貰ったアラガミバレットをセットしてから発射した。

撃ったのは鬼斬柱。

追尾性能を持っているから避けても無駄だし、着弾時にエネルギーの柱による追加ダメージまである。

 

その一撃はかなりのダメージになったらしく、体中から血飛沫が上がって怯む『ファンブル』が起こった。

 

「あと少しだ…」

 

一気に決めるために懐に入り、近接形態にしてから四連撃を叩き込む。

その後にゼロスタンスでリセットし、そのままインパルスエッジを何発も撃ち込んだ。

 

バースト化と近接攻撃によってオラクルポイントには余裕があり、無くなるまで撃ち続けた。

 

もう限界の筈なのに、まだ攻撃をしようとしてきたので、思いっきり踏み込んで、大きく斬り抜けた。

 

その一撃が止めとなり、ようやくヤクシャは活動を停止して、その場に倒れた。

 

「…悪くない」

 

倒れ込んだヤクシャを捕食して、そのコアを摘出する。

摘出が完了すると、ヤクシャの死骸は霧散した。

 

「…もういいよ」

 

私が女の子がいる草むらに話しかけると、女の子は走って私に抱き着いた。

 

「よかったのじゃ……無事でよかったのじゃ…」

「…………」

 

なんか、心配されていたらしい。

ふむ……

 

「私なら大丈夫」

「うん……」

 

泣いている女の子を宥めるために、私は彼女の頭を撫でる。

髪…サラサラで気持ちいいな…。

 

「そなたは何者なのじゃ?鬼達を相手にしても一歩も怯みもせず、それどころか倒してしまう始末。しかも、見た事のない化け物をやっつけてしまった」

 

まぁ…当然の質問だよなぁ…。

 

「私は……」

 

もう説明するのに躊躇いはない為、この子に教えてあげようと思ったら、ヤクシャが来た方とは反対側から誰かの気配が来た。

 

「九重!どこにいる!?」

 

やって来たのは、この子と同じように巫女衣装を着た大人の女性だった。

頭に狐耳があるのを見ると、どうやらこの子のお母さんのようだ。

 

「…!母上!」

 

女の子…九重ちゃんは嬉しそうにお母さんにところに走って行って抱き着いた。

うんうん。

やっぱり親子はこうでなくちゃね。

 

「こ…九重!?今まで何処に…」

「すみません…母上…。私の我儘でご心配をおかけして…」

「もうよい…。お前が無事なら…それでよい」

「母上…」

 

ひとしきり安心すると、二人はこっちを見た。

 

「母上!あの者が助けてくれたのじゃ!」

「そうか…」

 

お、なんかこっち来た。

 

「なにやら、私の娘が世話になったようで、感謝に堪えない」

「いや…私は別に…」

 

そこまで丁寧に言われると、こっちの方が畏まってしまう…。

 

「む…?」

 

あ、私の籠手を見てる。

それと一緒に頭の耳と尻尾も。

 

「ふむ…。その籠手…そなたが噂の赤龍女帝か?」

「せ…赤龍女帝!?様々な場所、様々な時代に現れて、異形の怪物を退治していると言う…伝説の戦士…。それがこの者…いや、このお方なのですか!?」

「その籠手は間違いなく赤龍帝の籠手。間違いないでしょう」

「なんと…!確かに先程も異形の化け物を退治して見せたし…」

 

なんか一気に九重ちゃんの目が羨望の眼差しに変わったんですけど…。

 

(さ…流石はご主人様…!出会って間もない幼女の心さえも掴んでしまうとは…!)

 

何処に感心してるねん、玉藻ちゃんや。

 

「私は八坂。この京都にて妖怪達の長を務めている」

「私は九重じゃ!」

 

女性の身で妖怪達の纏め役って…。

凄いな…。

気苦労も多いだろうに…。

 

「私は…闇里マユ。見ての通りの女です」

「そうか。まさか噂の赤龍女帝が我等の同族とは思わなんだ」

「いや…この耳とかは…」

 

なんか、言い訳しないと近い将来後悔するような気がする!

 

必死に言い訳を考えていると、いきなり魔法陣が現れた。

 

「え?」

「ほぅ?」

「これは…」

 

ド…ドライグ?

 

『いや…これは俺じゃないぞ』

「じゃあ…」

 

もしかして…?

 

『早く帰りましょう!ご主人様!(このままここにいたら、確実にこの親子にフラグを立ててしまいます!唯でさえ半ばハーレム状態なのに、これ以上増えて溜まるもんですか!)』

 

た…玉藻なのか?

この魔法陣を展開したのは…。

 

「もう行ってしまうのか?」

「はい」

「そうか…。また京都に来る機会があれば、私の所に来るがいい。喜んで力になろう」

「ありがとうございます」

「なに…娘を救って貰った礼だよ。これでも安いぐらいだ」

 

おお…なんかめっちゃいい人だ。

 

「そこで気絶している連中については私がなんとかする。そこは安心してくれ」

「わかりました」

 

ったく…こんな小さな子供を人質にしようなんて、根性腐りすぎでしょ。

 

「また…会えますか?」

 

この展開は…もう何回目だ?

 

「きっと会える。何故なら、道は何処までも続いているから」

「道は…続いている…」

「君の歩く道と、私の歩く道が交わる日がまたきっとやって来る。それまで…お別れだ」

「はい……」

 

九重ちゃん…そんな泣きそうな顔をしないでおくれ…。

こっちも別れを惜しんでしまうよ…。

 

「では…また」

「ああ。また会おう、赤龍女帝…闇里マユよ」

「マユ殿!お元気で!」

「九重も…元気で」

 

そうして、私は自宅へと転移していった。

 

(くっ…!結局、別れ際の挨拶でフラグを回収してしまいましたか…。けど、玉藻は諦めませんからね!ご主人様の正妻の座は必ずや私が!!)

 

転移しながら、なんか玉藻の邪な気配を感じたけど…気のせいか?

 

家に戻ると、狐っ子モードになっている私を見て、黒歌と白音が何故か鼻血を流し、オーフィスちゃんとグレートレッドはもふもふの尻尾で遊んでいた。

 

なんか妙にウケがいいので、その日の夜は玉藻に頼んでそのままの状態でいた。

 

今回も、無事に助けられて良かったよ…。

 

意外な収穫もあったしね…。

 

他の歴代の力を用いれば、アラガミ以外の戦闘も楽になるな…。

 

ま、ちゃんと力を引き出せるかは私に掛かってるんだけど。

 

これからも精進あるのみだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




夢中になって書いていたら、いつの間にか一万字オーバーに…。

今後はちゃんと文字数を抑えないと…。

さて、次回は誰と会うのかな?

では、次回。



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第17話 堕天のおっさんと教会の少女達

今回も原作キャラと絡ませていきます。

後、本来ならあり得ない筈のキャラ達を何故歴代の赤龍帝にしたのかは、原作開始直前にとある形で説明したいと思います。

もしかしたら、壮大なネタバレになるかもしれませんが。


 それは、とある休日の御昼前の事だった。

 

その日の私は、オーフィスちゃんとグレートレッドと一緒にスーパーに買い物に出かけていた。

右手にはオーフィスちゃん、左手にはグレートレッドと手を繋いで、はぐれないようにしてスーパーへの道を歩いていた。

 

「そう言えば、今日のマユはスカートなのだな」

「う…うん」

「マユ、似合ってる」

 

今回の私は、黒歌と白音によって半ば強制的にスカートを穿かされていた。

と言っても、別にミニスカを穿いているわけではない。

それ以前に、プライベートで着る勇気はない。

 

赤いタートルネックのセーターに、純白のロングスカートが今の格好だ。

ぶっちゃけ、これでもかなり妥協した。

 

(くそ……やっぱりスカートって慣れないな…)

 

制服だとそこまで抵抗無いのに、どうして私服だとこうも恥ずかしいのだろうか…。

凄くひらひらして歩き難いし…。

 

しかも……

 

「なぁ…そこを歩いてる子供連れの子ってめっちゃ美人じゃね?」

「ああ……どっかのモデルか何かかな…?」

「でも、見た事はないよな…。読者モデルとかか?」

 

…私には家以外の安息の地は無いのか…?

一度道を歩けば、いっつもこうだ…。

 

「あれって…マユお姉さま!?」

「一緒にいるのは、妹さんかしら?」

「きっとそうよ。凄く仲が良さそうだもの」

 

校外で同じ学校の生徒を見かけると、なんか気まずいよね…。

この気持ちだけは転生しても変わらないな…。

 

「マユは人気者だな!」

「マユ、モテモテ」

「やめてくれ…」

 

普段は無表情を貫いている私にも、羞恥心はあるんだぞ!?

 

恥かしくて顔を伏せながら歩いていると、なんか前方から誰かの気配を感じた。

 

「ん?」

 

反射的に前を向くと、そこにいたのは……

 

「お…お前は…」

 

ボタンをいくつか外した白いワイシャツにジーパン、首にはシルバーのネックレスと、ワイルドな雰囲気を醸し出すお髭の叔父様が私の方をじっと見ていた。

彼の手にはビニール袋が握られており、中には缶ビールが幾つかと、おつまみと思わしき物が入っている。

 

「「あ…アザゼル」」

 

え?知り合い?

 

「その顔…忘れもしねぇ…」

 

な…なんなの?

 

「お前さん…もしかして、例のゴッドイーターか?」

「!!!」

 

どうして私の職業名を…?

 

「あれ…もしかして覚えてねぇか?」

「……?」

 

私とこの人ってどこかで会ってる…?

えっと……どこだ?

 

「…………あ!」

 

思い出した!

 

「あの時…サーゼクスさんの隣にいた…」

「そうそう!あの時にお前さんに救われた堕天使だよ!」

 

え~…こんな往来で堂々とそんな事を言っちゃっていいの?

 

「あ、俺の発言なら気にしなくてもいいぞ。この喧噪じゃ、何も細工をしなくても誰も聞いてねぇよ」

「そ…そうか…」

 

世知辛い世の中だな…。

 

「風の噂で聞いちゃいたけどよ…まさか本当にこの町に住んでたとはな!」

「ああ……まぁ……」

 

正直なところ、私とこの人って初対面同然なんだよね…。

どう反応すればいいのか分からないよ…。

 

「一応自己紹介しとくか。俺はアザゼル。これでも一応、堕天使の組織『神の子を見張る者(グレゴリ)』の総督をしてる」

「えっと……闇里マユです」

「闇里マユ…な。よし、覚えた」

 

早いな。

 

「アザゼル、久し振り」

「懐かしいなぁ~」

「ん?俺は幼女に知り合いはいねぇぞ?」

 

あ、この姿だから分からないのか。

普段は二人共魔力を抑えてるって言うし。

 

「我、オーフィス」

「なっ!?」

「私はグレートレッドだ!」

「はぁっ!?」

 

アザゼルさんが一気に後ずさりしてしまった。

その顔は驚愕に染まっていて、汗だくになっている。

 

「な…なななななななんでお前らがここに!?」

「「マユの事が好きだから」」

 

実にシンプルな答えだこと。

私は嬉しいけど。

 

「マジかよ…。こっちが知らない間に伝説の龍神を二匹も味方に付けちまったのかよ…。ここにいる三人だけで三大勢力とも互角に渡り合えるんじゃねぇか?」

「それは言い過ぎですよ」

 

そこまでの力は私には無いですって。

この二人にはあるかもしれないけど。

 

「しかもよ…確かお嬢ちゃんは、赤龍帝でもあるんだろ?」

「はい。ドライグは大切なパートナーですし、歴代の皆とも仲良くしてます」

(うう……俺は…俺は非常に嬉しいぞ!相棒!お前が赤龍帝で本当に良かった!!)

(奏者よ!余も嬉しいぞ!奏者の為なら…余は…余は…)

(むっほぉぉぉぉぉぉっ!!ご主人様最高~~~~~!!!)

 

…うん。五月蠅いです。

ちょっと静かにして。

割とマジで。

 

「その上、歴代の意思がもう出てんのかよ…。成長率もチートなのかよ…」

 

そこまで言いますか。

 

「はぁ……うちにいるあの『バカ』も少しはお嬢ちゃんを見習ってほしいぜ…」

 

なんか…子供の教育に苦労してるお父さんって感じがする。

 

「…あの…堕天使の偉い人である貴方がどうしてこんな場所に?」

「ああ……この間ようやく溜まってた仕事が終わったんだよ。で、せめてもの自分への褒美として、こうして調達しに来たって訳だ」

「な…成程…」

 

それでビールとつまみって…。

まぁ…気持ちは超理解出来るんだけどね?

 

「真昼間から飲むビールは最高だからな。それが仕事終わりなら更に最高」

 

もう堕天使じゃなくて唯の飲んだくれのおっさんになってるよ…。

これでいいのか…堕天使…。

 

「そうだ。こうして会ったのも何かの縁だ。ちょっと番号交換してくれねぇか?」

「それはいいですけど…」

「んじゃ、頼むわ」

 

私達は互いに携帯を出して、番号とメルアドを交換した。

 

「あんがとよ。何か頼みたい事とかがあったら連絡するわ」

「は…はぁ…」

「そんじゃな!早く帰ってお楽しみタイムと洒落込みたいしな!今日だけはシェムハザに小言を言われずに存分に酒を飲めるぜ~!」

 

嬉しそうにスキップしながら、アザゼルさんは去って行った。

苦労してるんだなぁ~…。

 

「なんか…なし崩し的に交換してしまった…」

「いいのではないか?それぐらいなら」

「気にしたら負け」

 

おう…オーフィスちゃんに慰められた…。

この子も成長してるのかな?

 

その後、スーパーにて買い物を済ませた後、家に帰ってこの事を報告すると…

 

「今度は堕天使の総督!?マユは顔が広すぎにゃ!」

「魔王に妖怪の総大将と来てますからね。次は熾天使辺りが来るんじゃないんですか?」

「白音。それはフラグにゃ」

 

そんな事を言われてしまった。

 

確かに白音の発言はフラグかもしれない。

今頃、天界では天使の中のトップの人がくしゃみでもしてるんじゃないか?

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 はい、またまたアラガミの気配を感じたので、毎度のように転移してきました。

今回の服装は、劇中にて御坂美琴が着ていた常盤台中学の制服だ。

私は嫌だったけど、ドライグがこの服を着た際に使えるようになると言う電撃の威力を確かめておきたいと言い出したので、仕方なく着る事にした。

 

高二なのに、中学生の制服を着るって……恥ずかしい事この上ないよ!!

 

転移した直後、癖のように周囲を見渡す。

 

石造りの建物が多く、どう見ても海外だ。

時間帯はまた夜。

北欧あたりかな?

 

取り敢えず歩いてみると、いつものように赤龍帝の籠手が勝手に出現した。

 

『おや…ここはもしかして…』

 

んん?

今回はまた、別の声が聞こえるぞ?

聞いた感じは女性、しかも大人の女性だ。

 

『次はお前か。ドレイク』

『はっはっはっ!アタシもこの嬢ちゃんが気になってね!なんとかしてネロと玉藻の奴を出し抜いてきたって訳さ!』

『相変わらず自由だな…』

 

ドレイク…?

結構ありふれた名前っぽいけど…。

 

『アタシの名は『フランシス・ドレイク』。名目上はアンタの先輩って事になんのかね?』

 

フランシス・ドレイク…!

人類史上、初めて生きたまま世界一周を成し遂げた伝説の海賊じゃないか!

歴史上では男だった筈だけど、実際は女だったのか…。

 

『で?ドレイクよ。ここが何処か分かるのか?』

『応ともさ。ここは多分バチカン辺りじゃないかい?』

「バチカン…」

 

それなら石造りの建物が多いのも納得だ。

バチカンの事はよくは知らないけど。

 

『いつでも大丈夫なように、今回はアタシの力を貸してやるよ』

『それが良いな。前回のように、またアラガミ以外の奴と戦闘するかもしれん』

「そうだな」

 

念には念をってね。

 

【Rider!】

 

音声と共に、私の身体が変化する。

髪は濃い目のピンクに染まり、頭頂部からはピコンとくせっ毛がたれている。

身体の変化はそれだけだが、私の両手にはクラシカルな銃が握られていた。

 

「おお~…」

 

前回に比べれば、かなり控えめな変化だ。

これからはこの人の力を併用しようかな…。

 

「ありがとう。ドレイク姐さん」

『姐さん?』

「あ……なんかそんな感じがしたから、つい反射的に…」

『あははははは!姐さんか!いいね、それ!なんか昔を思い出すよ!』

 

うぉう…なんか知らんが、喜ばれた?

 

『ん?なんか向こうから戦闘の気配がするねぇ…』

 

姐さんの言う通り、遠くの方から戦闘音のような金属音が聞こえてくる。

 

「行ってみよう」

『そうだな』

『善は急げ…ってヤツだね』

 

私は音が聞こえた方へと向かって行った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ついた先にいたのは、真っ黒なボンテージファッション?に身を包んだ二人の女の子と馬鹿みたいに笑っている若い男だった。

女の子は、片方が緑のメッシュが入った青髪のショートヘアで、もう片方は茶髪でツインテールだった。

 

「くっ…!貴様!」

「悪魔の癖に!」

「うっせぇんだよ!ここでテメェらなんかにやられるかよ!」

 

男の背中からは蝙蝠のような翼が生えていて、どうやら悪魔のようだった。

 

「はぐれ悪魔のアスター!大人しく神の裁きを受けろ!」

「黙れっつってんだろぅがよ!!ようやくあのウザいクソ悪魔から解放されたんだ!こっからは俺様の天下なんだよ!!」

 

…どうやら、あいつは黒歌のように事情があって主の元を去った訳では無くて、自分の欲望の満たす為に主を殺したようだな…。

 

「あのアマ……アホみたいに俺の世話を焼きやがって……それが滅茶苦茶癇に障んだよ!!」

「だから…殺したのか!?」

「そうだよ!死ぬ直前のあいつの驚いた顔ったらなかったぜ!マジで爆笑!」

「あなたは…!例え相手が悪魔でも、自分の主を…無抵抗の者を殺すことに躊躇いは無かったの!?」

「ある訳ねぇだろ!勝手に助けて、勝手に死んだ!それだけじゃねぇか!教会の犬のテメェらにどうこう言われる筋合いはねぇんだよ!!」

 

どうやら、話は平行線のようだな…。

 

「そろそろお話はおしまいだ…。ここらでテメェらもぶっ殺してやるぜ!!」

「来るか…!」

「返り討ちにしてあげるわ!!」

 

気丈に振る舞ってはいるが、二人共体の至る所に怪我をしている上に、相当に疲弊しているように見えた。

二人が持っている剣にも罅が入っていて、もう一撃でも喰らえば壊れるであろうことは明白だった。

 

『…ほっとけないかい?』

「ああ…」

 

どんな理由があろうとも、助けられる命は助けたい。

それが私達…ゴッドイーターだから。

 

『ま、偶にはいいか…』

 

ん?なんだ?

 

『ドレイクは良くも悪くも欲望に忠実だからな。相棒の考えは理解しにくいんだろう』

 

まぁ…海賊だしね。

 

私は二丁の銃を握りしめる。

すると、私の両手に電撃が迸った。

 

「これは…!」

『ふふ…お嬢ちゃんの想いに応えたのかもしんないね』

 

そうか…それなら都合がいい。

このまま、この電撃を銃に宿らせる。

 

「これが本当の超電磁砲…ってね」

 

私はそのまま大きく跳躍して、両者の間に割り込んだ。

 

「「「なっ!?」」」

 

いきなりの乱入者に、全員が驚く。

 

「なんだテメェ!お前もこのガキ共の仲間か!?」

「そこの貴女!そいつは危険よ!!」

「早くそこをどくんだ!!」

「大丈夫」

 

ゆっくりと手を上げて、銃を男の方に向ける。

 

「ああ?そんなガラクタで俺様を殺ろうってか?ぎゃはは!いいぜ!やってみろよ!」

「…後悔するなよ」

「なに?」

 

銃口に凄まじいまでの電光が収束する。

 

「……消えろ」

 

電光が最大になった時、躊躇いなく引き金を引いた。

その瞬間、小さな銃口からは想像も出来ない程の超極太の電撃を帯びた銃弾が光速で発射された。

 

「なっ…!?」

 

幾ら悪魔になっていても光の速さを捉えられる筈もなく、あっけなく私が放った電光に飲み込まれていった。

 

それは向こうにあった建物まで伸びて、そのままぶつかった。

 

「な…なんなんだ!?今の一撃は!」

「本当に人間が放てる一撃なの!?」

 

だよね~。

うん、私にも分かる。

だって、自分でもびっくりしてるもん。

 

周囲を土煙が包み込み、それが晴れると、建物にめり込んだ男が全身の肌が焼け爛れた状態で気絶していた。

 

「い…一撃だと…?」

「私達があんなに苦戦したのに…」

 

女の子たちは驚きながら私に近づいてきた。

 

「……助けてくれたのには感謝する。が……」

「貴女は何者なの…?」

「私は……」

 

殆ど諦めながら自己紹介をしようとすると、お約束が発動した。

 

『相棒!アラガミが来るぞ!』

 

はい来ター。

 

私が自己紹介しようとすると、いっつもこれだ。

もういいよ…。

 

「こ…声が!?」

「なんかここら辺から聞こえたような気が…」

 

彼女達が私の籠手を見ていると、それは現れた。

 

深紅の体躯に、目を隠している黄色い顔面装甲。

そして、その背中には大きなキャノン砲を背負う四足獣型のアラガミ……

 

「ラーヴァナ…!」

 

前回に引き続き、また群れで行動して砲撃戦が得意なアラガミか…。

 

ラーヴァナは大きな建物の屋根の上で私達を見降ろしている。

 

「…ドライグ」

『周囲にはアイツだけだ』

 

やっぱりか…!

どうしていっつも単発なんだ…!

こっちは楽だからいいけど。

 

「君達…逃げて」

「え?」

「いいから逃げろ!殺されたいのか!?」

「な…何を言っている!?」

「逃げるなら貴女も!」

「私は…アイツを倒す」

「「……!?」」

 

これは私の使命。

だから、何があっても逃げるわけにはいかない。

 

私は銃を籠手に収納してから、入れ替えるようにして神機を出す。

 

今回の組み合わせは、ケーニヒスベルクにシュトルムカノネ、ケーニヒスシルト。

リザレクションでも最強クラスのパーツである『天なる父祖』の神機パーツだ。

 

「その武器は…!」

「なんなの…?」

「そんな事は今はどうでもいい!早く行け!」

 

私が彼女達を説得している間に、ラーヴァナは傍に降りてきて、こっちを見る。

 

「「ゔ…!」」

 

正面からラーヴァナを見て、二人は後ずさりした。

その直後、ラーヴァナは背後で気絶しているはぐれ悪魔の男の元に向かった。

 

「あいつ……まさか…!」

 

まだ気絶しているのか、男はビクともしない。

すると、ラーヴァナはその口を大きく開けて、頭から男を捕食した。

 

「た…食べてる…!」

「うぅ……」

 

生々しい音が響き、同時に血飛沫が上がる。

それに耐えられなかったのか、二人は胃の中のものを地面にぶちまけてしまった。

 

出来れば介抱してあげたいけど、そんな暇はない。

 

「はぁっ!」

 

捕食の隙を狙って先制攻撃をする為にダッシュで近づく。

 

「はっ!やっ!たぁっ!」

 

三回斬りつけたところでラーヴァナがこちらを向く。

その際、残骸と化した男の死体が目に映る。

 

最早人の形を留めておらず、そこには血に塗れた肉片だけがあった。

 

反射的にバックステップで間合いを取り、構える。

勿論、後ろの二人の事も忘れない。

 

「はぁ…はぁ…」

「信じられない…。まさか食べるなんて…」

 

どうやら、全部吐き終えたようだ。

 

「動けるなら、とっとと行け!」

「…出来るの?」

「無理なら言ってない」

「道理だ。…頼む。…死ぬなよ」

「そのつもりだ」

 

帰りを待っている人達がいるんだ。

こんな所で死ねるか!

 

二人が走って去って行ったのを確認したら、ドライグが瞬時に結界を張る。

これで一安心だ。

 

「…行くぞ!」

 

ラーヴァナが頭部の上にある太陽核から三つの渦巻く炎を発射した。

これは前方にのみ来るため、右に回避。

そのまま銃形態に変形し、バレットを氷属性の物に変える。

 

「当てる…!」

 

これは追尾弾な為、多少避けられても大丈夫。

実際、ラーヴァナはそこから動いて避けようとするが、完全には避け切れずに前足に直撃した。

 

後ろに転がって距離を取って、バレットを連続で叩き込む!

全弾撃ち込んだ所で、ラーヴァナが怯んだ。

 

「よし」

 

近接形態に変形し、また接近する。

そして、四連撃の後にゼロスタンス、そこからのインパルスエッジのお馴染みのコンボを叩き込む。

 

それによって前足の部位破壊に成功した。

 

『お嬢ちゃん。奴さんが怒りで活性化したみたいだよ』

 

姐さんのナビで状況を把握する。

 

ラーヴァナが大きくジャンプしてこちらを踏みつぶそうとしてきた。

勿論、それを許すわけもなく、バックステップで回避。

着地と同時に衝撃波が広がるが、それは装甲を展開してダメージを軽減した。

 

また三つの炎を飛ばしてくるが、もうそれには当たらない。

さっきと同じように避けて、そのまま近づくが、こちらが攻撃する瞬間に合わせて、ラーヴァナは咆哮と共に自身の周囲から炎を巻き上げた。

 

「くっ…!?」

 

まさかの攻撃に対処が遅れてしまい、吹っ飛ばされてしまう。

 

『相棒!』

『嬢ちゃん!』

 

ドライグと姐さんの声が聞こえるが、それを耳にしながら受け身を取る。

 

「…油断した」

 

ポケットから回復錠を出してから飲み込む。

 

「…よし」

 

仕切り直しだ。

 

OPは少ない為、まだ銃は使えない。

だから、まだ近接形態で挑む。

 

ラーヴァナが放つ炎を回避しながら近づき、その頭に斬りつける。

四回斬りつけた後、横に回り込み胴体を斬りつける。

多少効きにくいが、ヒットアンドアウェイを繰り返しながら攻撃を胴体に集中させる。

隙を見て、オラクルリザーブをすることも忘れない。

 

それを五回程繰り返した後、胴体の部位破壊に成功した。

 

「あと一か所…!」

 

もう少しで倒せる!

そう思った時、ラーヴァナの動きが止まり、その背のキャノン砲が展開した。

 

「…くる!」

 

圧倒的な炎のエネルギーが収束していく。

隙だらけではあるが、この状態の時のラーヴァナは殆どの攻撃を受け付けない。

 

勿論、素直に喰らうつもりはない為、射線軸から退避する。

そこで私は銃形態にして、ありったけのOアンプルを使ってOPを回復させる。

 

全部のOアンプルを使い終わった後、ラーヴァナが明後日の方向に向かって最大砲撃を発射した。

それはそのまま建物に当たって、粉々に崩れ去る。

無人だったようで、中には誰も居なかった。

 

ちょっとだけ安心したところで、私はラーヴァナの正面に躍り出た。

 

「貯めに貯めた一撃……」

 

至近距離で銃を構える。

この位置なら外しようがない。

 

「受けてみろ」

 

渾身の氷属性のロケット弾がラーヴァナの頭部にぶち当たる。

最大級の一撃を受けたラーヴァナは盛大に吹っ飛び、背中から地面に落ちる。

 

フラフラと立ち上がるが、態勢を整えようとした瞬間…

 

「そこっ!」

 

再びぶちかます。

 

避ける間も無くラーヴァナはまた吹っ飛ぶ。

私はそれを追撃し、ラーヴァナに近づく。

その顔面に銃口を近づけ…

 

「これも持っていけ」

 

もう一撃。

 

頭が部位破壊されながら、三度吹っ飛ぶ。

オラクルの量から、撃てるのは後一撃が限界。

 

本当ならラーヴァナ戦でスタングレネードは禁止行為。

だけど、ここまで来たらもう関係無い。

 

籠手からスタングレネードを出して、地面に叩きつけようとする。

すると、ラーヴァナが血飛沫と共にファンブルした。

 

「望外のチャンス…!」

 

大きな隙が出来た瞬間、狙いを定める。

スコープを覗き、引き金に指を添える。

 

「…終わり」

 

動きが鈍いラーヴァナでは避けようがなく、頭部にクリティカルヒット。

部位破壊で防御力が低くなった頭部に当たったお陰で、そのダメージは今までで一番の物になった筈。

 

ラーヴァナは吹き飛んだ後に建物にぶつかった。

瓦礫に埋もれながら震えながら立ち上がるが、その直後に倒れて力尽きた。

 

「ふぅ……終わった」

 

殆ど作業と化した捕食をして、コアを摘出する。

 

『相棒。今回は少しだけヒヤッとしたぞ』

「ゴメン。ちょっと油断した」

『なに、別にいいさ。今まで無傷で済んだのが寧ろ凄いんだよ』

 

確かにな。

これが神機使いの戦いだよ。

 

「あ、今回捕食形態使ってない」

『別にいいんじゃないか?終わり良ければ総て良し…だ』

 

お、意外と寛大。

 

ラーヴァナの死骸が雲散霧消したのを見届けた後、その場から離れる。

結界が解除された直後、私が最初に来た方向から誰かが走ってきた。

 

「あれは……」

 

来たのは、さっきの二人組だった。

 

「ゼノヴィア!あの子、無事みたいよ!」

「ああ!そのようだな!結界が消えたからもしかしたらと思ったら、案の定だったな!」

 

戻らなかったのか…。

あのまま帰ればよかったのに。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…。大きな怪我が無いようでよかった…」

「本気で心配したぞ…。あんな得体の知れん怪物相手に戦うなんて言い出した時はな」

「大丈夫と言った」

「それでも、だ」

 

むぅ…そんなもんか?

 

「…君は一体何者なんだ?先程の様子から、悪魔の仲間とは思えないし…」

「けど、教会の関係者にこれ程の戦士がいるとは聞いたことが無い」

 

そりゃそうだ。

私は教会の関係者じゃないし。

 

「そう言えば、最初見た時から気になってはいたが、まさかこの籠手は…」

「龍の鱗のように輝く深紅の籠手…。まさか、これが伝説の赤龍帝の籠手!?」

「恐らく…な」

「じゃ…じゃあ!もしかして、この子が噂に聞く赤龍女帝!?」

「そうとしか考えられない」

 

これを見られたら、そりゃすぐに分かっちゃうか。

 

「伝説の戦士に会えて光栄の至りだ」

「わ…私も!貴女の事はずっと伝承や歴史の本なんかで見て、ずっと憧れてました!」

「あ…ああ…」

 

なんて純粋な眼差し…。

私には眩しすぎる…!

 

「私は紫藤イリナっていいます!」

「私はゼノヴィア。出来れば貴女の名前を聞かせて欲しい」

 

このパターンは……

 

「「「あ」」」

 

ほらね。

案の定、魔法陣が展開した。

 

『ちょっ…!割り込んでくるんじゃないよ!玉藻!』

『そうはいきません!ここで来なければご主人様がまたフラグを建ててしまいます!』

『お前は何を言っている!?』

『お二人共分かっている筈です!ご主人様は近年稀に見る一級フラグ建築士だという事を!!』

 

何をしてるんだ…こいつらは…。

 

「これは…」

「歴代の意思だ」

「その割には賑やかみたいだけど…」

「いつもの事」

 

もう慣れたよ。

って言うか、慣れざる負えない。

 

「……私の名は闇里マユ。伝説なんて言っているが、君達と同じ普通の女だよ」

「…君を『普通』と言うには、かなりの躊躇いがあるな…」

 

そう言わないでよ。

こっちとしては、オラクル細胞を注入している以外は普通なつもりなんだから。

 

「……そろそろ時間か」

「貴女様に敢えて本当に良かったです!ありがとうございました!」

「貴女は間違いなく命の恩人だ。この恩は一生忘れない」

「ふっ……そうか」

 

ここまで感謝されるのも珍しいな。

 

二人の顔を見ながら、私は家へと転移した。

 

帰宅直後、体についた火傷の跡を見て、黒歌と白音が泣きそうになりながら傷の手当をしてくれた。

心配…掛けちゃったかな?

 

これからは気を引き締めていこう。

 

もう…家族に心配は掛けたくないから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またまた長くなってしまった…。

本当はこんなつもりは無いのに…。

これで原作前にやりたいことは一応終了です。

でも、また何か思いつくかもしれませんけど。

次は『夢』の話の予定です。

では、次回。


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第18話 初めまして先輩方

これは、夢の中のお話。

そして、歴代の意思が集合するお話。




 その日もアラガミと戦い、私は疲れを癒す為にゆっくりとお風呂に入り、その後にすぐに床に就いた。

 

ふかふかのベットに微笑みながら、すぐに睡魔が襲ってきて、数秒後には完全に夢の中に行っていた。

 

だが、その日の夢はいつもとは違っていた。

なぜなら……

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「………?」

 

どう言う訳か、気が付いた時には見知らぬ場所に立っていた。

服装は寝間着……タックトップとジャージ(腕袋装着済み)で、そこだけは変わっていなかった。

 

上下左右見渡す限り真っ暗で、どうしてか浮遊感は無い。

どうやら私は地面に立っているようだ。

 

「……夢か?」

 

それだけは分かる。

だって、さっき寝たという事は覚えているから。

 

「これは……覚醒夢か?」

 

確か…夢の中でも夢だと自覚している事…だったな?

なんでも、普通の人でも極まれにこう言う事はあるらしい。

私は初めての出来事だけど。

 

どうすればいいのか戸惑っていると、遠くから誰かがこっちに向かって走って来るのが見えた。

しかも一人じゃない。

見た感じだと、三人ぐらい走って来る。

 

「奏者~!」

「ご主人様~!」

「子リス~!」

 

な…なんだ!?

女の子が三人!?

 

混乱して立ち止まっていると、そのまま女の子達は私に近づいてきて、三人揃って抱き着いてきた。

 

「うわっ!?」

 

流石に三人同時に抱き着かれれば、そのまま立っていることは敵わず、勢いに負けて尻餅をついてしまった。

 

「奏者~♡この日をずっと待っておったぞ!」

 

赤いワンピースを着た金髪の美少女が嬉しそうに私に頬を摺り寄せる。

奏者……そして、この声は……

 

「もしかして…ネロか?」

「その通りだ!そなたの嫁のネロだ!」

「よ…嫁!?何言ってんですか、この皇帝様は!?ご主人様の正妻は私って決まってるんです~!」

 

ピンク色の横縞のパーカーに赤い胸当て、黒のホットパンツに同じ色のニーソックス。

特徴的な狐の耳と尻尾、どこかで見たことがあるような濃い目のピンクの髪。

彼女がネロなら、この子は……

 

「……玉藻?」

「はい♡ご主人様の唯一無二の正妻、玉藻でございます!」

 

う~ん……あざとさが全体から出てるな…。

凄く可愛い女の子ではあるけど…。

 

「…で、君は…」

「えっ!?この私の事が分からないって言うの!?」

「いや…普通に分からないでしょ…」

「そなたと奏者は初対面だぞ?」

「そ…そう言えばそうだったわね…」

 

そう言いながら少し恥ずかしそうにする女の子。

 

玉藻と同じようなピンクの髪に、龍を彷彿とさせる角と尾がある。

上は白の袖無しの物を着ていて、腹部には黒いコルセットを、袖は腕に直接装着するタイプの物を付けている。

スカートはボーダー柄のミニスカート。

 

うむ…まごう事なき美少女だな。

 

「ご…ごほん。それじゃあ、一応自己紹介してあげるわ。感謝なさい」

 

上から目線だ…。

この子も生前は偉い立場の人間だったのかな?

 

って言うか、自己紹介するなら離れてください。

 

「私は『エリザベート・バートリー』。ここにいる時点で分かっているとは思うけど、私も一応、嘗ての赤龍帝の一人よ」

 

エリザベートって……まさか…!

 

「血の伯爵夫人…!」

「やっぱ…そっち方面で有名なのね…私って…」

 

この女の子が…己の美しさを保つために異常なまでの大虐殺をしたと言うのか?

後に吸血鬼カーミラのモデルにもなったと言われているが…。

 

「……?どうかしたの?」

 

全然そんな風には見えない…。

龍の角と尾を除けば、普通に可愛い女の子だ。

 

『……ふぅ。すまんな、いきなりこんなんで…』

 

私の顔の隣に赤く光る球体が出現した。

この声は……

 

「ドライグ?」

『そうだ。俺も本来の姿で出られれば良かったのだが、今はこの方がいいような気がしてな…』

 

本当に苦労してるのね…。

 

『エリザベートは色んな意味で苦労した赤龍帝だった…』

「なによ!別にいいじゃない!与えられた力を好きに使ったって!」

『使い方にもよるだろう…』

 

…詳しくは聞かない方がいいかな。

 

「呵々!もう龍娘にも懐かれたか!流石は儂等の後輩と言った所か!」

「彼女も気苦労が絶えないだろうな…」

「はははっ!いいじゃないか!若い頃は多少の苦労は買ってでもするもんさ!」

「……………」

 

いきなり声が聞こえた。

反射的に顔を向けると、そこには四者四様の顔が揃っていた。

 

一人は中華服を着た赤い髪の男の人。

どう見たって中国人だ。

 

二人目は褐色肌で白髪の男性。

黒のTシャツに黒のジーパン、黒縁眼鏡に左腕にはブレスレット。

なんか…普通の現代人と言った感じだ。

 

三人目は胸元が開けたワイシャツを着て、下には黒いパンツスーツ。

ピンク色の長い髪を靡かせた美女で、その手には酒瓶が握られていた。

声からして、あの人がドレイク姐さんだろう。

 

四人目は中華風の鎧を身に纏った物静かな大男。

雰囲気だけでも、彼がかなりの実力を持つ武人だという事が分かる。

 

「はぁ……。本当に済まないな。だが、それだけ彼女達が君の事を好いているという事は理解していてほしい」

「は…はぁ……」

 

いつの間にか、何も無い空間にちゃぶ台が存在しており、そこに中華服の男性と姐さんが一緒に座って仲良く酒を飲んでいた。

 

褐色肌の人は呆れたように肩を竦ませて二人と一緒に座っていて、鎧の人は少し離れた場所にジッと棒立ちになっていた。

 

「え…っと……貴方方は……」

「そういや、あんた等と嬢ちゃんは初めて会ったんじゃないかい?自己紹介ぐらいしてやんな」

「それもそうだな。こっちだけが知っていると言うものアレだしな」

「呵々!こう言う初々しいのも悪くは無いのぅ!」

「…………」

 

賑やかな人達だな。

個性豊かと言うか、何と言うか…。

 

「まずは儂からかな?儂は『李書文』。おぬしの先々代の赤龍帝になる。これから長い付き合いになるが、一つよろしくの」

 

李書文…!

嘗ては魔拳士とまで言われた、中国最強の八極拳使い!

『二の打ち要らず』とまで言われた一撃必殺の拳を持っていたと言うけど…。

こんな大物が私の先輩なのかよ…!

 

「私は……言うまでもないかな?」

「声で分かりますよ。ドレイクの姐さん…ですよね?」

「その通り。こうして会うのはそいつらも含めて初めてだね。よろしく頼むよ」

「はい。これからよろしく」

 

見た目はセクシーだけど、気さくでいい人だ。

この人はこれからも頼りになりそうだよ。

 

「で、この無口な大男は、三国志にも登場した猛将。『呂布』その人だよ」

「りょ…呂布…!?」

 

おいおい…!

呂布って言えば、世界的に有名な武将じゃないか!

裏切りを繰り返した反覆の将としても有名だけど、それ以上に彼の残した武功、武勲は他の追随を許さなかったと聞く。

三国志における最強の武将の一角とされていた伝説の男…!

こんな人まで赤龍帝だったのかよ…!

普通にこの人こそが歴代最強だったんじゃないの?

私ってばこの人以上って思われてんの?

 

「そんで、この肌黒野郎は…」

「そこは私が話そう」

「お?そうかい?」

 

褐色肌の人が座り直してこっちを向いた。

 

「私は『エミヤ』。歴史に名を刻んだ英雄である彼等とは違い、私自身はある一点を除けば、何処にでもいる普通の男に過ぎないよ」

 

ある一点って何よ?

 

「呵呵呵呵呵呵!あれだけの事をしておいて、己の事を『普通』と抜かすか!」

「アンタだけは一番それは言っちゃいけないだろうに」

 

ど…どいうこと?

 

『確かにエミヤは赤龍帝としては凡才だったかもしれん。だが、奴はそれを補って余りあるほどに努力をし、あらゆる芸を極限まで極めた男なんだ』

「しかも、ああなる前は色々と性格的にヤバい人でもあったらしいですよ?」

「ある意味、性格だけなら奏者と似ているな」

 

私と似てる?

 

「ああ……迷うことなく自分の事を犠牲にしようとするところとか…ね」

「……あれは若気の至りだ。俺自身もあれは無いと思っている」

 

あ、一人称が『俺』になった。

もしかして…本音だったりする?

 

『因みに、エミヤは相棒の前の代の赤龍帝だぞ』

「つまり、嬢ちゃんの直接の先輩ってことだね」

「似た者同士…と言う事かな?呵々!」

 

楽しそうだね、貴方達は。

しかも、姐さんと先生(李書文の事。なんとなくこう呼ばないといけない気がしたから)は酔ってない?

 

「ふっ…。他の連中ならいざ知らず、彼女に似ていると言われるのは悪い気分じゃないな」

 

あれ?意外と初期好感度が高い?

 

「そうだ。出来れば私の事はエミヤでは無くて『アーチャー』と呼んで欲しい」

「アーチャー?」

「そうだ。そっちの方が私としてもしっくりと来るんでね」

 

ふむ…そう言うもんか?

 

「わかったよ、アーチャー。これからよろしく」

「ああ。こちらこそよろしく頼む。マスター」

 

マ…マスター?

 

「先生もよろしくお願いします」

「応!よろしくな!…ところで『先生』とは儂の事か?」

「はい…。駄目ですか?」

「呵々!悪くない!おぬしのような優秀な生徒を持つのも悪くは無いのう!」

 

おう……なんか弟子認定された?

ある意味、これ以上に優秀な師匠もいないでしょ。

 

「エリザも…よろしく」

「よ…よろしく…」

 

照れた顔も可愛いな。

本当にこの子が血の伯爵夫人なの?

 

「…………」

 

呂布さんが私に近づいて、手を出した。

え?握手って事?

 

「よ…よろしく…」

「…………」

 

おお……彼の手を握ったら、なんか頷いてくれた。

 

「どうやら、かの大武将にも認められたようだな」

「我等が後輩は想像以上に大物なようだな!」

「流石はご主人様です!」

 

どうやら……アーチャー以外は想像以上に大物だらけのようだな、赤龍帝と言うのは。

こんな人達が私の先輩とか、私これから大丈夫かな…?

 

「そう言えば、『あの人』は来てるんですか?」

「アイツの事だ。来ないに決まっている。って言うか、来るな」

「あの男がこんな場所にわざわざ顔を見せに来るとは思えないね」

「ふん!あんな金ぴかなど奏者には不要だ!奏者には余だけがいればいいのだ~♡」

「ちょっ!どさくさに紛れて何言ってんですか!?」

「そうよ!抜け駆けは許さないわよ!」

 

元気だなぁ……皆。

……『あの人』って誰だろう?

 

「ほぅ?何やら騒がしいと思って来てみれば、歴代の赤龍帝が全員集合とはな」

「「「「「あ」」」」」

 

突然、背後に誰かが現れた。

 

金髪が逆立っていて、見た目はイケメン。

けど、その恰好が凄かった。

ヒョウ柄のスーツを着て、明らかにギロッポンでシースー頬張ってそうな人だ。

 

「……まさか本当に来るとはな……英雄王」

 

え…英雄王?

 

「くく…。我も現代の赤龍帝を一目見てやろうと思ってな」

 

……もしかして、この人も歴代の赤龍帝の一人?

 

『ひ…久し振りだな。ギルガメッシュ』

「ああ。お前とももう長いな」

『そ…そうだな』

 

ドライグの様子がおかしい。

なんか怖がってる?

 

「ほぅ~?貴様が今の赤龍帝か?」

「は…はい」

 

彼が正面に回って私の顔を覗き込んだ。

 

「ふむ……」

 

じっ~…と見つめられ続けて、その直後……

 

「………っ!?」

 

いきなり顎クイされました。

 

「雑種にしては中々の顔つきだな。悪くない」

「な…何をしておる!金ぴか!」

「そうですよ王様!いきなり現れてのその発言は反則ですよ!」

「そうよプロデューサー!子リスは私の物よ!」

「五月蠅いぞ雑種共。この世の全ては我の所有物。故にこの雑種も俺のモノだ」

 

なんと言うジャイアニズム!?

ここまでストレートに言いますか!?

 

「ド…ドライグ?この人は……」

『この男こそが、原初…つまり、一番最初の赤龍帝のギルガメッシュだ』

「ギ…ギルガメッシュっ!?」

 

古代メソポタニア、ウルクの王…!

伝説の英雄王か…!

確か、この世の全ての財を所持していたとか…。

この人がそうなのか…?

 

「お前…名前は?」

「あ…闇里マユです」

「ほほぅ?ゾロアスター教の悪神の名を冠するか…。それでいて、全ての命の守護者であろうとする…。存在そのものが矛盾しているな」

「……その自覚はありますよ」

 

第一、神機使いの存在そのものが矛盾の塊みたいなもんだしね。

その中でも私は最たるものでしょ。

 

「だが、だからこそいい。矛盾を抱えながらも、お前の魂は決して穢れていない。貴様のような存在は非常に希少だ。『あいつ』以来だな」

 

あいつ…?

 

「気が向けば、我の力を貸してやる。我が宝物庫の鍵を預けるかどうかは、これから見極めさせて貰おう」

 

え…え?

認められた…って事?

 

「…そう言えば、どうして色んな時代…ドライグが神器になる以前の人物さえも赤龍帝になってるの?」

「それは分からん。だが、予想は出来る」

「予想?」

 

なんだろう?

 

「赤龍帝の籠手が様々な時代、様々な国に渡った理由。それは恐らく『奴』の仕業だ」

「奴…?」

「貴様が普段『足長おじさん』と呼んでいる者のことだ」

「足長おじさんが…!?」

 

どういう事だ…?

 

「なんであの人が…?」

「さぁ?あんな人の思惑なんてわかりませんよ。って言うか、分かりたくもありません。そもそも、人間ですらない私を赤龍帝にした時点で何か良からぬことを企んでいる事は明白ですよ」

「この中で時系列的に赤龍帝になっていても違和感が無いのは私と李書文、そしてフランシス・ドレイクぐらいだろう」

「そうだな。余が生きた時代はドライグが神器になる前だ」

「我に至っては神話の時代だ。本来なら赤龍帝になんぞなりようがない」

「けど、実際にはなっている」

「そうだ。これはどう考えても何者かの意思がある」

「それが…足長おじさんだと?」

「それ以外あるまい?」

 

どうやら、ギルガメッシュの中では足長おじさんこそが全ての元凶みたいなことになってるけど…。

 

「気に食わんか?」

「そうじゃないが…」

「納得がいかない…か?」

「うん…。今まで私はあの人に色々と助けられた。だから、疑うようなことはしたくない…」

「そうか…。(あいつめ…ここまでこいつを懐柔しているか。これもあいつの計画の内か?)」

 

ギルガメッシュが険しい顔をしてる。

怒らせちゃったかな?

 

「まぁよい。我が言ったのはあくまで予想。我とて確信があって言った訳ではない」

「そうか…」

 

そうだよね。

碌に証拠も無いのに疑っちゃいけないよね?

 

「ここでは奴の干渉も無い。何か気になることがあればここに来ればよかろう」

「それはいいが……どうやって来れば?」

「こちらからお呼びします、ご主人様!」

『いや…一言俺に言ってくれればいつでも連れてくるぞ?』

 

お、マジか。

 

「わかった。必要があればそうさせてもらう」

「是非ともそうするがよい!余も奏者に会いたいからな!」

「うん」

 

気のせいか…ネロの頭と腰に犬のパーツが見える気がする。

尻尾を超振ってる。

 

『相棒。そろそろ戻った方がいい。現実世界ではもう朝になろうとしてるぞ』

「そうか。起きないとな」

「それがいい。私達のせいで遅刻させたくはないしな」

「でも、どうやって戻れば…?」

 

大体、ここに来たのだって普通に寝ただけだし。

 

「来た時と同様に目を瞑ればいいよ。嬢ちゃん」

「わかった」

 

私は姐さんの言う通りに目を瞑った。

すると、途端に意識が浮上していく感覚になった。

 

あ…なんか眩しい光が見えるような……?

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「……あ?」

 

気が付くと、私はベットの上にいた。

カーテンの隙間からは朝日の光が差し込んでいる。

試しに目覚ましを見てみると…

 

「……7時30分」

 

いつもの起床時間だ。

 

「ふぅ……」

 

夢の内容ははっきりと覚えている。

かなり詳細に。

 

「個性的な人達だったな…」

 

子犬みたいなネロに、頼れるお兄さんみたいなエミヤ、私を猛烈に好いてくれる玉藻に、なんか親しみが持てるドレイクの姐さん。

意外と純情なエリザベートに先生な李書文。

無口で大柄な呂布。

そして……滅茶苦茶偉そうなギルガメッシュ。

まぁ…実際に偉いんだろうけど。

 

「これからは、あの人達の協力を得られるのか…」

 

赤龍帝である以上、私が戦うのはアラガミだけじゃないだろう。

基本的に私はアラガミ以外には神機を使う気はない。

だから、そう言った時には先輩方の力を使わせてもらうことになるだろう。

 

ちょっとだけ、これからの事を考えていると……

 

「マユ?まだ寝てるのかにゃ?」

 

黒歌が私を起こしに来た。

そろそろ起きなきゃな。

 

「起きてるよ」

「丁度良かったにゃ。もうすぐ朝ご飯が出来るから、準備が出来たら降りてくるにゃ」

「わかったよ。ありがとう」

 

返事をすると、黒歌は一階に降りていったようだ。

 

「さて……行きますか」

 

皆を待たせちゃ悪いしね。

 

こうして、また私の一日が始まる。

 

今日は何が待ってるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




という訳で、全員集合です。

後、ちょっとだけ核心に迫ってみました。

明確なネタバレはしませんけどね。

次回はちょっと特殊な形でいこうと思います。

では、次回。


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閑話 足長おじさん

今回、もしかしたらFate好きの人達に不快な思いをさせるかもしれません。
予めご了承ください。

この話では独自解釈と暴言もしくは暴論が出るかもしれません。

別に必読ではないので、読みたくないと判断したのなら、別に見て頂けなくても結構です。




 そこには何も無かった。

上下左右、天も地も真っ白で、正真正銘の虚無だった。

 

そんな、本来なら何にも存在しない筈の場所の一角に、明らかな違和感が存在した。

 

畳が十畳程敷き詰められていて、その上の中央には丸いちゃぶ台が置かれていた。

ちゃぶ台の周りには座布団が二枚置いてあって、他には箪笥、電気ケトル、大型液晶テレビにブルーレイレコーダー、本棚に様々なゲーム機とソフト、携帯電話があって、なんとも生活感に溢れていた。

そこに、一人の少女が座っていた。

 

彼女は黒い座椅子に座っていて、その前には小さな机、その上には一台のパソコンが設置してあった。

 

「ふふふ……あれからもう二年か…。本当に時が過ぎるのは早いよねぇ~」

 

金色のセミロングの髪を靡かせ、純白のワンピースを着ている。

誰もが認める美少女だが、胡坐をかいている為、色々と残念な事になっていた。

 

「マユちゃんは楽しい学生生活を満喫してるみたいだし、日常生活にも問題は無いみたい。

うん。良きかな良きかな」

 

少女は嬉しそうにパソコンを操作しながら頷く。

 

手を伸ばして、ちゃぶ台の上に置いてある器を傍に持ってきて、中に入っている煎餅を一枚頬張る。

バリバリと音を立てながら食べて、その後に傍に置いてあるお茶を飲む。

 

「ぷは~♡この組み合わせは最強だね~!」

 

見た目に反して、やっている事は完全にヒキニートである。

 

そんな彼女の傍に、いきなり人影が出現する。

上下に黒いジャケットを着て、首元にはシルバーのネックレス。

浅黒い肌と白髪をしており、胸元を開けているせいか、男性特有の魅力を演出している。

 

「全く……いい加減にしないと、本気で太るぞ?ヤっちゃん」

「ぶ~ぶ~!女の子にそんな事を言っちゃいけないんだぞ~!ルー君?」

 

ヤっちゃんと呼ばれた少女は頬を膨らませて怒っている風を演出しているが、明らかに本気ではない。

そして、ルー君と呼ばれた男は、本気で呆れながら座布団の上に座る。

 

ルー君は何もない空間から焼酎の入った一升瓶を召喚し、同時にコップも出した。

 

「あ~!お昼からお酒なんていけないんだ~!」

「俺は魔王だからいいんだよ」

「なにそれズルい!だったら僕もぐうたらする~!何故なら、僕は神様だから!」

「神ならもうちょっと神らしくしろよ…」

 

ジト目でヤっちゃんを見ながら焼酎をコップに入れ、一口飲む。

 

「…で?『向こう』の様子はどうなんだ?」

「今のところは問題無いよ。マユちゃんは皆と楽しく暮らしてるし、アラガミも順調に倒している」

「そうか。ま、何も無いに越したことは無いわな」

 

嬉しそうに微笑みながら、もう一回飲む。

 

「……なぁ…ヤっちゃん。前々から聞きたいことがあったんだが…」

「ん?なになに~?」

「まず……なんで『英霊』を赤龍帝に選んだ?」

「あ~……それね」

 

ヤっちゃんは虚空を眺めながらお茶を飲む。

 

「ルー君なら解ってるとは思うけど、『あの世界』にいる以上、戦うのは決してアラガミだけじゃない」

「まぁな。馬鹿な考えを持つ悪魔や堕天使、神々とも戦うことになるだろうな。それがどうかしたのか?」

「どうやらマユちゃんは僕が想像している以上に堅物みたいでね。…あの子は、アラガミ以外の敵には決して神機を使おうとはしない」

「何?」

 

そこでルー君の顔が険しくなる。

 

「あの子はかなり生真面目だからねぇ…。そこら辺の所はきっちりとしたいんだろうね」

「馬鹿な事を…。あれを使えばどんな敵だろうと楽勝だろうに」

 

ルー君は呆れと怒りを含ませた表情になる。

 

「だから、神機以外の強力な戦闘手段が必要だった」

「それが英霊の力だと?」

「その通り!」

 

ヤっちゃんはルー君と同様に虚空からカップ麺を出した。

既にお湯が注がれており、後は3分待つだけだった。

 

「言いたいことは分かるが、それで連中の歴史を大なり小なり歪ませてしまうとはな…」

「そこは仕方がないんじゃないかな?必要悪ってヤツだよ、きっと」

「どうして、そこまであっさりと言い切れる?」

「神だから!」

「…それさえ言えば全て丸く収まるとか思ってないだろうな?」

「…………テヘペロ♡」

「はぁ……」

 

頭を抱えながら溜息を吐き、ストレスを解消する為に酒を煽るルー君。

その背中には哀愁が漂っていた。

 

「で?英霊の選考基準はなんなんだ?」

「基本的には僕の独断と偏見なんだけど……」

「他にもあるのか?」

「将来的な有用性……かな?」

「将来……?」

 

ヤっちゃんとは違い、ルー君には未来が見えていない為、話の筋が見えない。

 

「まず、ネロちゃんは単純にトータルバランスが優れているから。これはデカいよ」

「理解は出来る。が、他にも優秀な剣士はいくらでもいると思うが?円卓の騎士とかが最たる例だろう」

「それも分かるけど、彼等は有名すぎる上に切り札がバレバレだ。その気になれば聖剣対策なんていくらでも出来るしね」

「う…うむ…」

「それに、生真面目すぎてマユちゃんには合わないでしょ?多少はフランクなぐらいが丁度いいって」

「そんなもんか…?」

 

腕組をしながら首を捻るルー君。

 

「ならば、玉藻の前はなんで選んだ?あいつは人間ですらないぞ?」

「ああ。そこにはちゃんとした理由があるんだよ」

「ほぅ?どんな?」

 

少しだけ真剣な顔になると、ヤっちゃんは座り直して正座になった。

 

「知ってるとは思うけど、悪魔、天使、堕天使の連中の殆どは西洋魔術を駆使する。僕達だって例外じゃないしね」

「だな」

「けど、彼女が使用するのは魔術では無くて『呪術』。読んで字の如く『呪い』の『術』だ」

「呪い…か」

「そこにある物を組み替えるの術が『魔術』で、自身の身体を素材にして組み替える術が『呪術』。似てるようで、この二つは根本的に違うんだよ。だからこそ、この力が重要になってくる」

「具体的には?」

「アホな上級悪魔や上級堕天使なんかは、呆れるほどに自尊心の塊だ。連中は相手が呪術を使うなんて思いもしないだろうね。だから、玉藻ちゃんの力はそんな連中に対する強力なカウンターパンチになるんだよ」

「そこまで考えているとはな…」

 

普段はおちゃらけているヤっちゃんの真面目な一面を見て、珍しく感心してしまった。

 

「では、李書文とフランシス・ドレイクはなんでだ?」

「アサシン先生は単純に強いから。同じ枠で佐々木小次郎も考えたんだけど、一応あの人って架空の人物じゃない?流石に架空の存在は無いかなって」

「なら、ドレイクは?」

「外見が好きだから」

「それだけ!?」

「それだけ~」

 

少しでも感心した自分がバカバカしくなったルー君だった。

 

「な…ならばエリザベート・バートリーは!?あいつは完全に悪人だろう!」

「え?だって可愛いじゃん」

「また見た目か!?」

「いやいやいや。流石にそれだけじゃないよ」

「ならなんだ?」

 

途端にヤっちゃんの顔がにやけた。

 

「あ、出来た」

「カップ麺はいいから、早く説明してくれ!」

「わかったよ~。ちょっとだけ待ってよ」

 

ずるずると麺を啜るヤっちゃん。

その顔はとても幸せそうだった。

 

「一杯150円のカップ麺で幸せを噛み締める神って…」

「真昼間から飲酒する魔王に言われたくはありませんよ~だ」

 

可愛らしく舌を出しながら顔を赤らめるヤっちゃん。

完全に『リア充爆発しろ』状態である。

 

「あの子の力…正確には宝具が必ず必要になる局面が出てくるんだよ。その時の為さ」

「よくは分からんが……ちゃんとした理由はあるんだな?」

「勿論!」

「そうか…。同じ槍使いなら、どうしてクー・フーリンとかディルムッド・オディナとかヴラドⅢ世とかを選ばなかったのか疑問だったが…」

「いや、いくら強くてもさ、最終的に自害しちゃ意味無いじゃん。アイツ等基本的に運無いし」

「それが本音か!?運が無いのは李書文も同じだろ!?」

「あの人はいいの!」

「なんつー我儘な神だ…」

 

空になったコップに焼酎を注ぎ直すルー君。

それを、そのまま一気に飲み干す。

 

「ならば、ヴラドⅢ世は…」

「髭はいりません」

「偏見!?」

 

まさかの髭発言にツッコミせずにはいられなかったルー君だった。

 

「一応聞いておくが…呂布は?ヘラクレスやランスロットじゃ駄目なのか?」

「五月蠅いマッチョと静かなマッチョなら、静かな方を選ぶでしょ?後、根暗な騎士はお帰り下さい」

「お前今、確実に円卓の騎士のファンを全員敵に回したぞ!?」

「そんなの気にしてちゃ、神なんて出来ないって」

「どこまでフリーダムなんだ…」

 

ツッコみ疲れたのか、ルー君は虚空からつまみである枝豆を出してつまみ出した。

 

「もう言うもの疲れたが…エミヤとギルガメッシュは……」

「転生者のお約束特典と言えば、やっぱり『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』と『無限の剣製(アンミリテッド・ブレード・ワークス)』でしょ?」

「そんな事だと思ったわ!」

 

はぁ…はぁ…と肩で息をするルー君。

その額には少しだけ汗が見えた。

 

「根本的な事を聞くが…どうしてあの転生者を赤龍帝にした?」

「転生者はチートやってなんぼでしょ?」

「神機使いである時点で充分過ぎるぐらいにチートだと思うがな…」

「念には念を入れて…だよ。さっきも言ったけど、敵はアラガミだけとは限らないんだからさ」

「それはそうだが……」

 

理解はしても納得はしていない、そんな感じだった。

 

「にしても…どうしていきなりアラガミなんて連中が出現したんだろうな…」

「そこはまだ調査中。詳しい事は分からない。分かってるのは、あいつ等が別世界…つまり、アラガミ達が本来いる世界から来ているって事ぐらいかな?」

「だからこそ、俺達は向こうの世界を歪めない為に転生者を使ったんだったな」

「うん。下手にあの世界から誰かを連れてくれば、それだけで大きな歪みになるからね。それだけは絶対に避けないと」

「そうだな」

 

二人は互いに納得するように頷いた。

 

「ま、悪い事ばかりじゃなかったけどね」

「と言うと?」

「どさくさに紛れて、こうして隠居出来たじゃない」

「そうだな」

 

二人は寄り添うように座り直した。

 

「まさか、あの子達も夢にも思わないだろうね。本来なら敵対関係にある筈の『神』と『魔王』が実は相思相愛だったなんて」

「あの頃は表向きは敵視しなければいけなかったからな。あれは辛かった…」

「僕もだよ。けど、もうそんなことは無い」

「ああ……」

 

ヤっちゃんはルー君の肩に頭を乗せる。

 

「にしても困るよね~。僕達が密かに和平を進めてきたって言うのに、コカビエルを始めとした一部の馬鹿な堕天使達や戦争肯定派の悪魔達のせいで、しなくてもいい戦争になるんだから」

「そのせいで二天龍に襲われ、その上アラガミの乱入まで許してしまった」

「その辺りはマユちゃんがなんとかしてくれたけどね?」

「そこら辺は感謝だな。だからこそ、その働きに俺達は全力で応えなくてはいけない」

「分かってるって」

 

可愛らしくウィンクするヤっちゃん。

思わずドキッとしてしまうルー君だった。

 

「そう言えば、どうして自分の事を『足長おじさん』なんて名乗ったんだ?お前は女だろう」

「その方がなんとなく謎っぽく見えるかなって。それに……」

「それに?」

「こうして協力関係にある以上、お互いに下手な疑いは無い方がいいじゃない?」

「バインドスペル…か?」

「さぁね?」

 

ヤっちゃんはルー君から離れて、再びパソコンの前に座った。

 

「次は何をするんだ?」

「取り敢えずは、白音ちゃんの入学手続きかな?」

「あの猫姉妹の妹の方か」

「いくらあそこが平行世界とは言え、可能な限りは『基本世界(原作)』に近づけなくちゃね?」

「もうかなり違っているがな」

「別にいいじゃない。それが平行世界(二次創作)の良い所なんだから」

「メタ発言はよせ」

「それが出来るのも、神の特権だよ」

 

ヤっちゃんの笑顔を見て、徐にルー君は立ち上がった。

 

「あんまり無理はするなよ?いくら神とは言え、疲れが溜まらない訳じゃないんだからな?」

「わかってま~す」

 

ヤっちゃんは陽気に答える。

そんな彼女にルー君は近づき、その額にキスをした。

 

「……っ!」

「んじゃ、俺はひと眠りするわ」

「う…うん…」

 

ルー君は畳から降りて歩いて行くと、次の瞬間に姿を消した。

 

「さて…と。私もお仕事しないと…」

 

ヤっちゃんはパソコンに向き合って、また作業を開始した。

 

こうして、誰も知らない場所で人知れず世界は回っていく。

 

それがどこに向かうかは、誰にも分からない。

 

勿論、この二人にも……。

 

 

 

 

 

 




ある意味、ネタバレ祭りでしたね。

一応、補完の意味も兼ねていたんですが…。

これで良かったのかは全く分かりません。

私の拙い頭で考えた事ですので、絶対にどこかに矛盾や穴があるに違いないでしょう。

その場合は、オブラートに包んで教えて欲しいです。

次からはようやく原作開始の予定です。

では、次回。


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全ての始まり ~神機使いとシスター~
第19話 最上級生になりました


ここから遂に原作突入です。

今思えば長かったですね…。

そう言えば、皆さんは年末はどうお過ごしですか?

私はいつものように、のんべんだらりと過ごしています。

あ、大掃除しなきゃ…。



 私が転生をしてから、もう二年近くが経過する。

もう殆ど前世の『記憶』は無い。

 

二年目の年末も相変わらずの感じで過ごした。

 

そうそう。

新年に入ってから、受験に備えて足長おじさんから黒歌達の戸籍が届いた。

正直、今更かよ!?と思ったが、あの人のやる事にいちいちツッコんでいたらキリがないので、言うのはやめておいた。

 

黒歌と白音の苗字は何故か『塔城』だった。

足長おじさん曰く、『今、自分が呼んでいるラノベに出てくるキャラの苗字から取った』との事。

かなり適当な決め方に呆れてしまったが、本人達がこれでいいと言ったので、私は自分の言葉を飲み込んだ。

 

猫又姉妹の方はそれでよかったが、問題は龍神っ子達の方だった。

 

なんと!戸籍上においてオーフィスちゃんとグレートレッドが私の妹になっていたのだ!

因みに名前は『闇里オーフィス』と『闇里レド』。

オーフィスちゃんの方は語呂的にも違和感は無かったが、グレートレッドの方は流石に違和感があったのか、名前を略していた。

 

これを見た二人が、こんな会話をしていた。

 

「ほほぅ?我等がマユの妹になっておるぞ!」

「妹?我はマユの妹?」

「ここには、そう書いてあるな」

「マユが我の姉…」

「ならば、これからはマユの事を『お姉ちゃん』と呼ばなければな!」

「わかった。我、マユの事をお姉ちゃんと呼ぶ」

「と、いう訳で…」

「「よろしく頼む。マユお姉ちゃん!」」

 

こんな感じで、図らずも私にいきなり二人も妹が出来てしまった。

まぁ…私自身は別に嫌じゃないし、こんなに可愛い妹達なら大歓迎だ。

 

そんな事がありつつも、私達は相変わらずの日常を送っていった。

 

そして、白音が遂に初受験を迎えた。

 

とても緊張していたが、私達で励ますと、途端にリラックスしたようで、笑顔で受験会場に向かって行った。

 

その結果だが……勿論合格だ。

 

白音はとても喜んでいたし、勉強を教えた身としても鼻高々だった。

 

4月に入り、無事に入学式も終え(その際、黒歌が白音を見て号泣していた)、名実共に白音は私の後輩になった。

 

それから少しだけ月日が過ぎ……

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

「「いってきます」」

「いってらっしゃいにゃ」

「「いってらっしゃい」」

 

こうして、一緒に登校するようになった。

 

黒歌には二人分のお弁当を作って貰う事に対し、かなりの罪悪感があったが、本人は寧ろ嬉しそうにしていた。

 

どうしてか本人に聞くと、こうして日常を過ごせるだけでも充分過ぎるくらいに幸せなので、これぐらいは決して苦にはならない、らしい。

 

それを聞いた時、思わず込み上げてくるものがあった。

このキャラでは無かったら、絶対に泣いてたな。

 

二人並んで登校していると、校門付近でリアス、朱乃と合流する。

 

「おはよう。二人共」

「おはようございます」

「おはよう」

「おはようございます。グレモリー先輩。姫島先輩」

 

私達は並んで一挙に校舎へと向かう。

 

「おぉ~…朝っぱらから豪華な組み合わせだな…」

「駒王三大お姉さまに、話題の一年生の白音ちゃんだぜ…」

「お姉さま方……今日も素敵だわ…」

「今日も一日、いいことがありそう!」

 

この会話から分かるかもしれないが、入学して数週間で白音は一年生の中でも有名人となった。

この容姿に物静かな性格が加わって、魅力的に映ったのだろう。

私から見ても白音は可愛いと思う。

本人に言うと絶対に照れるけど。

 

因みに、三年になっても私達三人は一緒のクラスになれた。

これ絶対にサーゼクスさんが一枚噛んでるよ…。

 

「確か今日は体育があったわね」

「うふふ…。今回もまたお姉ちゃんの無双が見れるのかしら?」

「言わないでくれ…」

 

体育の授業がある日はいつも大変だ。

オラクル細胞の恩恵で、私の身体能力は凄まじい事になっている。

故に、本気で取り組むと、とんでもない事になるのだ。

まさか、手加減するのに全力を注ぐ事になろうとは、夢にも思わなかった。

もう三年目だから、流石に慣れたけどね。

 

「噂では聞きましたけど、やっぱりマユさんは学校でも活躍してるんですね」

「勿論よ。これからは貴女もお姉ちゃんの勇姿を見られるわよ」

「とても楽しみです」

 

リアスや…余計な事を言わないでくれ…。

お陰で、白音がキラキラした期待の目でこっちを見ちゃってるから…。

 

微妙に一抹の不安を感じながら、校舎に入っていった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 1、2、3時間目が終了し、次は4時間目の体育だ。

今回の体育は他のクラスと合同で行う為、他のクラスの子達と一緒に女子更衣室に向かう。

その中には、私がよく知っているソーナもいた。

 

皆一緒に女子更衣室に入り、荷物をロッカーに入れる。

私の両隣にはリアスと朱乃が位置していて、リアスの隣にソーナが来ていた。

 

「くっ…!」

「悪いけど、早い者勝ちよ」

「次こそは…!」

 

何をやってんねん。

 

二人の会話を気にしていたらキリがない為、私は黙って着替えをすることにした。

 

いつものように制服を脱ぎ、下着姿になる。

普通なら絶対に恥かしがるだろうが、ここは女子更衣室で、私の精神は完全に女子になっている。

もうこの程度では狼狽えない。

 

「………ん?」

 

なんだ…?

急に静かになったけど…。

 

「お姉ちゃん……また、大きくなった?」

「な…何が?」

「色々と…よ」

 

そう、三年になってから、また私の身体はまた成長していたのだ。

バストとヒップは大きくなり、反対にウエストはほんの僅かだが細くなった。

そして、遂に身長が180cm台に突入してしまった。

身体測定でこの結果を知った時、本気で落ち込んだ。

だって、身長180cmの女子高生って…どう考えたって普通じゃないでしょ!

どうしてこうなった!?

 

「背も高くて、スタイルも抜群で……」

「やっぱりお姉ちゃんは凄いですわ…」

「…………」

 

こらこら、君らの方がバストは大きいでしょうが。

そしてソーナちゃんや。

私の事をジッと見つめるのはやめてくれないかい?

 

なんか妙な空気が更衣室内に流れそうになっていると、何処からか変な視線を感じた。

 

体操服を出しながら、私は静かに耳を澄ました。

すると……

 

(おいおい…!マジでスゲェな!)

(ああ!リアス先輩も朱乃先輩もスゲェけど、マユ先輩も負けてねぇよな!)

(ところで松田よ。お前のスカウターはどれぐらいの数値を示している?)

(現在のマユ先輩の戦闘力(バスト)は約89cmと推定)

(は…89!?遂に先輩もリアス先輩達クラスに近づきつつあるのか…!)

 

……そろそろ言うべきかな…。

 

私が意を決して言おうとすると…・・・

 

「あ~!アンタ達、なに覗いてるのよ!!」

「げ!ヤバい!?」

「に…逃げるぞ!!」

 

あ…逃げていった。

あの二人を追いかけるようにして、一部の女子達が彼等を追いかけていった。

 

「全く……この学園で覗きなんて、良い度胸してるわね」

「同感ですわ。お姉ちゃんの着替えを覗くなんて……次はどんな目に遭わせようかしら?」

「すみません…。生徒会が不甲斐無いばかりに…」

「気にしなくてもいい。ソーナはよくやってる」

「マユさん……」

 

本当に彼女は頑張ってると思うよ。

正々堂々と生徒会長に立候補して、見事に当選したんだから。

今でも、生徒達や学園の為に頑張っているし。

いや…マジで偉い。

 

「はぁ……。嫌な事は早く忘れて、着替えましょ」

「そうだな」

 

もうすぐ授業が始まるので、私達は急いで着替えてグラウンドに向かった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 放課後。

私と白音は一緒に旧校舎にあるオカルト研究部の部室に向かっていた。

 

そうすると、いつものように皆の目線が刺さる。

 

「あ!闇里先輩だ!」

「え?どこどこ?」

「あそこだよ」

「お、マジだ」

 

はぁ……私なんか見て何が楽しいのかしら?

 

「そう言えば知ってるか?」

「何をっすか?先輩」

「実はな、駒王三大お姉さまが去年あったミスコンのトップを独占したって」

「トップを独占!?どういう事っすか?」

「あそこを歩いているマユ先輩が一位になって、リアス先輩が二位、朱乃先輩が三位だったんだよ」

「成る程…。なんか凄いっすね」

「ああ。なんでも、マユ先輩とリアス先輩は僅差だったらしいぜ」

「でも一位なんですよね?やっぱ凄いっすよ!」

「事実、人気あるしなぁ…。しかも、本人は超美人だし」

「クールなお姉さまって感じですよね」

「だからだろうな。あの人って女子にもスゲー人気なんだよ。確実にここの生徒の何割かは百合に目覚めてるぜ」

「ああ~…なんか分かるかも」

 

……そう言えばそんな事もあったな。

 

あれは忘れもしない一年前…。

学園祭があった際にミス駒王コンテストと言うものが開かれて、いつの間にか私とリアス、朱乃がエントリーしていたのだ。

しかも、いつの間にかサーゼクスさんとグレイフィアさんが現れて、私達三人をコーディネートしたのだ。

そのせいか、実際のミスコンは殆ど出来レースに近かった。

だって、票数が私達三人に集中してたんだもん。

あれには本気でビビった。

結局は私が優勝しちゃったんだけど。

 

「あの時は凄かったですね。今でも鮮明に覚えてます」

「そうか……」

 

私は忘れて欲しかった。

 

「マユさん……とても綺麗でした」

「……照れるな」

 

褒められ慣れてないんだから、そう言うのはやめて欲しい。

悪意が無いのは分かってるけどね。

 

「なんか騒がしくなってきた。早く行こう」

「わかりました」

 

ちょっとだけ早足になって、旧校舎に急いだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 オカルト研究部の部室に入ると、そこには既にリアス、朱乃、祐斗の三人が揃っていた。

 

「いらっしゃい、二人共。座って頂戴」

「わかった」

「失礼します」

 

私達はリアスの正面側のソファーに座った。

 

「どうぞ」

「いつもありがとう」

「どうも…」

 

毎度のように朱乃の紅茶を口にする。

うん、いつ飲んでも美味しいな。

この味だけは変わらない。

 

「…美味しいです」

「ふふ…ありがとうございます」

 

どうやら、白音も気に入ったようだ。

 

「さて、塔城さん。貴女もここに入ってくれると言う話だったけど…」

「はい。マユさんが所属している以上、私が入らないわけにはいきませんから」

「あらあら…」

「本当に先輩は人気者ですね」

 

人気者…ね。

ただ、周囲の人達を大事にしているだけなんだけどなぁ~…。

 

因みに、白音も黒歌もリアス達が悪魔なのは知っている。

本人達も人外であるせいか、全然驚いていなかったけど。

 

「入部届けはちゃんと書いて、昼休みに生徒会室に渡しに行きました」

「そう。しっかりしてるのね」

「マユさんの隣にいる以上、当然の事です」

 

うん、別に胸を張るようなことじゃないからね?

 

「あら?お姉ちゃんの隣は渡さないわよ?」

「私もいる事を忘れないでくださいね?」

「勿論、僕もですよ」

「ゔ……流石はマユさんです。ライバルが想像以上に多い…!」

 

ライバルとはなんぞや?

 

「ご…ごほん!…では、改めて歓迎するわ。塔城白音さん」

「はい。これからよろしくお願いします」

 

こうして、白音もオカルト研究部の一員になった。

 

その後は、少しだけ話しをしてから解散した。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私は現在、買い物袋片手に一人で帰路についていた。

と言うのも、白音と一緒に校門を出た辺りで黒歌からメールが届いたのだ。

その内容は、少し足りない材料があるので、帰りに買ってきて欲しいと言うものだった。

 

黒歌の頼みを断るわけにはいかないので、私は迷わず了解の返事をした。

その際、白音も一緒に行くと言い出したのだが、たいした量ではないので大丈夫と言って、先に家に帰した。

 

夕闇が目立ち始めた頃、私は嘗て衝撃的な出会いをした公園の近くに来た。

 

「ここは……」

『どうかしたのか?相棒』

「いや……この公園に来ると、いつも思い出すんだ…」

『何をだ?』

「……ミルたん」

『……!アイツか…』

 

あの時の事は一生忘れない。

だって、生身でアラガミと互角に戦うなんて誰が想像する?

この事をサカキ博士が知ったら、驚きの余り倒れてしまうかもしれない。

 

『未だに俺はアイツの事を人間と認めていないぞ…』

「あんなんでも一応人間だよ…………多分」

 

自信を持って言えない自分が情けない…。

 

「…ここ通るか」

『なんでだ?』

「何気にここって近道だし」

 

嫌な思い出があるからと言って、いつかは克服しなくてはいけないのだ。

避けるのはよくない。

 

私は公園に入っていく。

そして、例の噴水の場所まで行った時だった。

 

「……!?これは…」

 

いきなり、周囲の風景が暗くなったのだ。

 

『こいつは結界だな。偉く低レベルだが』

 

ドライグの辛辣な評価が飛び出る。

 

一応、周囲を警戒していると、上から気配がしたので見上げてみる。

すると、そこにいたのは……

 

「そこの人間……いきなりで悪いけど、死んでくれるかしら?」

 

ボンテージっぽい格好をした堕天使の女の子がいた。

 

この時の出会いが全ての始まりであったことを、この時の私は全く知らなかった。

 

そう……ここから全てが始まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この年末に原作突入って…。

ある意味、キリがいいのかな?

ここから一気に物語は加速していく?

では、次回。


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第20話 波瀾万丈な毎日の始まり

前回、謎の堕天使(正体は分かっているけど)に遭遇したマユ。

果たして、どうなるのでしょうか?

またまた、一級フラグ建築士の力を発揮するのか?

それとも……?





 公園に入った途端に、いきなり現れた謎の堕天使の少女。

あんな格好をして、恥ずかしくないのかしら?

 

(この感じは…恐らく下級堕天使だな)

 

下級?

堕天使にも上級とかあるのか?

 

(一応な。以前会ったアザゼルなんかは最上級堕天使だぞ?)

 

あ、なんとなくそれは分かる。

あの人から感じたプレッシャーって凄かったし。

 

「ふふ…どうしたのかしら?怖くてビビった?」

 

なんか言ってるし。

いや…こんな事を言ったら怒るだろうけど、全然怖くない。

これなら、オウガテイルの方がよっぽどマシだ。

 

「……お前は誰だ?」

「ふっ…。低俗な人間風情に私の名を教えるなんて、堕天使としてのプライドが許さないけど、冥途の土産に教えてあげるわ」

 

お~お~。

なんか上から目線で言ってるよ。

 

「私の名はレイナーレ!至高の堕天使となる存在よ!」

 

うわぁ…。

自分から『至高の堕天使』とか言っちゃってるよ…。

いたたたた~…。

 

(自分で言ってて恥ずかしくないのか?)

 

私もそう思うよ。

もしかして、自分に酔ってるのかな?

 

「どうやら、貴女には神器が宿っているみたいね。私の計画を成就させるためにも、可能な限り不確定要素は排除したいの。だから……」

 

堕天使レイナーレは、その手に光る槍のような物を創り出した。

 

「死んでくれる?」

 

う~む……どうする?

右手にはカバン、左手には買い物袋がある。

見事に両手が塞がっちゃってるね。

 

(ふははははははは!何やら面白そうな事になっておるな!雑種!)

 

あ、この声はギルガメッシュ?

 

(ん?何しに来た?)

(なに、困っている後輩にアドバイスを…な)

 

アドバイス?

 

(雑種。心配は無用だ。そのまま立っておればよい)

 

……どゆこと?

 

(ククク……。見ていれば分かる)

 

なんなのよ…もう。

 

「さようなら!名も知らぬ人間!」

 

レイナーレが光の槍を私に投げつける。

段々と槍が迫って来る。

だが、槍が私に当たる瞬間……

 

「「え?」」

 

槍が消滅した。

 

「な…!?どういう事!?」

 

それは私のセリフですよ!?

 

(簡単だ。以前、ネロの奴が雑種の力が強すぎると言った事を覚えているか?)

(う…うむ。確かに言っていたな。それがどうかしたのか?)

(数多くの戦いを経て、雑種の実力は飛躍的に上昇している。それに伴い、赤龍帝の籠手も成長しているのだ。我等と邂逅したのがいい例だ)

 

そうか…私ってば成長してるんだ…。

 

(赤龍帝の籠手が強大になるにつれて、龍のオーラも増大している。今の雑種では、通常時でも全盛期のドライグの5割程のオーラが出ているのだぞ?)

(なんだと!?嘗ての俺の5割だと!?)

 

それって相当に凄くないですか?

 

(その気になれば、9割程までいけるぞ?)

 

マジか…。

まさかそこまで成長しているとは…。

 

(だが、なんで他の奴等には影響が無い?俺の5割なら相当な量のオーラが出ている筈だが?)

(それは、こやつの心の影響だ)

 

私の心?

 

(貴様は常に守護者であろうと心掛けている。それが龍のオーラに作用して、雑種が守りたいと思う連中には龍のオーラの影響が出ないようになっているのだ)

 

なんちゅーご都合主義…。

 

(簡単に言うと、常時サ○フラッシュやサイ○ブラスターが発動しているようなものだ)

 

メタ発言乙。

 

(なら、なんであの堕天使には影響が無い?)

(それも簡単だ。あやつが余りにも弱すぎるが故に、雑種の強大さを知覚できんのだ。人間の存在を正しく理解せずに挑んでくる害虫共と同じようなモノだ)

 

えぇ~?

そこまで言う?

 

(害虫を害虫と言って何が悪い?あのような輩、雑種にすらならんわ!)

 

レイナーレは雑種以下なのね…。

 

(A・U・Oの有難い説明である!感謝するがよい!)

 

へいへい。

感謝してますよッと。

 

「ど…どうして私の槍が効かないのよ!?」

「それは……」

 

なんて説明しようか少しだけ考えていると、彼女の背後に怪しい影が見えた。

 

「あれは…!」

 

あのシルエットは……まさか…!

 

「危ない!!」

「は?」

 

私は咄嗟に両手に持った荷物を近くのベンチに投げて、彼女に向かって大きくジャンプ。

その際、空中で神機を出した。

装備は、ハルバードにヴァスグレンツト、剛デコイシールドだ。

 

「なっ!?」

 

反射的にレイナーレを空中で抱き寄せて、その背後にいた存在にハルバードを突き刺した!

 

目の前で血飛沫が上がる。

目を凝らすと、そこにいたのは黄色く染まったザイゴート堕天(雷)だった。

ザイゴート堕天はその口を大きく開けており、もしも少しでも遅かったら、彼女が捕食されていたことは想像に難くない。

 

急所に直撃したようで、一撃でザイゴートは死亡して、その死骸は地面に落ちた瞬間に霧散した。

 

レイナーレを抱きしめたまま、地上に着地した。

 

「ふぅ……危機一髪だったな…」

 

周囲を見渡すと、他にはアラガミの気配はない。

 

(ドライグ?)

(大丈夫だ。不可解ではあるが、いたのはあのザイゴートのみのようだ)

(そう……)

 

どうしてザイゴートが単体で…?

 

「ちょ……ちょっと」

「ん?」

 

あ、そう言えば、レイナーレを抱きしめたままだった。

 

「な…なんで…」

「んん?」

「なんで!私を助けたのよ!?貴女を殺そうとしたのよ!?」

「ああ…その事か」

 

なんで…ねぇ。

自分の言葉じゃないけど、やっぱこれしかないでしょ。

 

「誰かを助けるのに、理由がいるかい?」

「……っ!?」

 

極論言っちゃうと、やっぱりこれに帰結しちゃうよね。

実にシンプルだと思うけど。

 

ところで……どうしてレイナーレは顔を真っ赤にしてるの?

 

「それとも、私の助けでは不満かな?」

「だ…誰もそんな事は言ってないでしょ!」

 

ん?なんか可愛いぞ?

これが噂に聞くツンデレってヤツか?

 

(ククク……フハハハハハハハハハ!まさか、敵対者にすらフラグを建てるとはな!見事なまでの一級フラグ建築士っぷりだな!)

 

おい、誰がいつフラグを建てたって?

 

ギルガメッシュに心外な事を言われていると、後ろに赤い魔法陣が出現した。

そこから出て来たのは、腕組をしたリアスだった。

 

「私が管轄している土地で何をしているのかし……ら…?」

 

あ、こっちを見てフリーズした。

 

「な…ななななななな!?何をしてるのよ!?お姉ちゃん!堕天使の女の子を抱きしめたりして!!」

「いや…これは…」

「そ…そうよ!なんで私がこんな奴に…」

(ハハハハハハハハハ!!修羅場だな!雑種よ!)

 

顔を真っ赤にしながら否定の言葉を言いつつ、レイナーレは私から離れて立ち上がった。

それと、英雄王は少し黙って。

 

「か…勘違いしないでよ!別に有難いとか思ってないんだからね!」

 

ま、さっきまで私の事を殺そうとしてたしね。

 

「で…でも、助けられたのは事実だし?一応お礼は言っとくわ……その……ありがと…」

 

結構律儀だな。

 

「今度こそはその命を頂くんだから!覚えてなさいよ!」

 

悪役のお決まりのセリフを言って、照れながらレイナーレは飛んでいった。

勿論、結界は解除して。

 

残されたのは、状況が分からないリアスと、神機を握ったまま茫然としている私だけだった。

 

「あの~……一応、明日にでも事情を聞かせてくれるかしら?」

「…分かった。私も状況の整理がしたいと思っていた」

「今日はもう遅いから、私も行くわね?また明日、お姉ちゃん」

「ああ。また明日」

 

リアスはそのまま公園を出て行った。

 

「はぁ……」

 

これも赤龍帝の運命なのか…?

 

『災難だったな』

「全くだ…」

 

神機を収納した後にベンチに置いた荷物を持って、トボトボと公園を出て帰路についた。

空は、もうすっかり暗くなっていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 家につくと、黒歌達が玄関に集結して、心配そうに寄ってきた。

流石に何も言わないのは論外なので、家に上がりながら事情を説明した。

 

「そんな事が……」

「でも、怪我が無くて良かったです」

「しかし、いくら下級とは言え、堕天使の攻撃を無条件に無効化してしまうとは。流石は我等のお姉ちゃんだな!」

「マユお姉ちゃん、凄い」

 

龍神に褒められる…か。

悪い気はしないな。

 

既に夕食の準備は出来ているらしく、私は急いで着替えて、皆と一緒に夕食を食べた。

 

食後、私も一緒に洗い物をしようとしたら、今日は疲れているだろうと言われて、一番風呂を頂くことになった。

勿論、オーフィスとグレートレッド…じゃなかった、レドも一緒に入浴した。

 

全員が風呂に入り終わり、毎度のようにリビングでお茶を飲みながら一息つきながら話していると、いきなりアーチャーが話に加わってきた。

 

『今日は大変だったな。マスター』

「まぁね…」

『ところで、どうしてあの堕天使を助けたんだ?』

「…あの時言った通りだ」

『誰かを助けるのに理由はいらない…か?』

「ああ」

 

それ以外に思いつかないし。

 

「いい言葉ですね」

「マユらしいにゃ」

 

あはは……私らしい…か。

 

『勘違いしないで欲しいのだが、私は別に君の善性を否定しているわけではない。君の心掛けは私から見ても素晴らしいと思う。普通はそこに力量が伴っていないのがお約束だが、君の場合は実力もちゃんとあるからな』

 

おぉ~…。

珍しく褒められてる…。

 

「アーチャーさんはマユさんの事を高く評価してるんですね」

『彼女はそれだけの価値がある』

「ふふ……当然にゃ」

 

歴代の中で、私の評価ってそんなに高いの?

自分じゃイマイチよく分からないけど…。

 

『だが、一つだけ言わせて欲しい』

「なんだ?」

『マスター………フラグの乱立はほどほどにしておけよ?』

「は…はぁ?」

 

フラグの乱立?

 

「もしかして……また建てたんですか?」

『見事なまでにな。殺気丸出しの彼女が、一気に年頃のツンデレの少女になってしまった』

「マユは相変わらずにゃ…」

 

ちょっと?なんで黒歌は呆れたような顔をしているの?

白音はジト目でこっちを見てるし。

 

「白音。フラグとはなんだ?」

「簡単に言うと、また別の女の子がマユさんに惚れてしまったんです」

「「おお~」」

 

龍神っ子が揃って驚いてる。

今までフラグとかとは無縁だったしね。

 

「お姉ちゃんは本当にモテモテだなぁ~」

「マユお姉ちゃん、天然ジゴロ?」

「なっ…!どこでそんな言葉を…?」

「お昼のドラマで言ってた」

 

この子達は…私達が学校に行ってる間に昼ドラを見てるのか…。

もうちょっと、見た目相応の番組を見て欲しい。

レドはともかく、オーフィスには悪い影響を与えそうで怖い。

 

「これからは、もうちょっと別の番組を見て欲しい」

「なんで?」

「そ…それは…」

 

なんて言えばいいんだ…!

 

『オーフィス。面白い番組は他にも沢山ある。偶にはそちらを見ても悪くはあるまい?』

「ん。そうする」

 

ナイスだアーチャー!

オーフィスが素直で助かったよ。

 

「話は逸れてしまったけど、これからは外出の際も一応用心はしておいて欲しい」

「わかったにゃ。けど、下級堕天使程度なら、私でも楽勝にゃ」

「オーフィスちゃん達は……心配するだけ野暮ですね」

「我等は龍神だからな!下級堕天使風情から姿を隠す程度なら楽勝だ!」

「ん。大丈夫」

 

まぁ…この二人ならマジで心配ないしな。

だって、見た目は幼女でも中身はチートだし。

 

「今は念には念を…程度でいいと思う。私の方でもなんとかしようとは思ってるし。多分、リアス達も色々と探りを入れるだろうし」

「自分の管轄している土地に身元不明な堕天使が侵入してきたんだから、放置はしない筈にゃ」

「もしも何かあれば、自分達の沽券に関わりますからね」

 

そう考えると、悪魔も大変なんだなぁ…。

何か手伝えることがあれば、私手伝うようにしよう。

 

その後、少しだけ話してから、その日は寝ることにした。

 

そう言えば、明日はリアス達にも説明しなくちゃなぁ…。

 

今日の事を変に勘違いしてなきゃいいけど…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回はちょっと短いですが、キリがいいのでここで終わります。

今年のこの作品の更新はこれで終わりです。

次は来年になりますね。

余裕があれば、番外編とかもやってもいいかもなぁ~…。

では、次回…って言うか、来年。

皆さん、良いお年を。


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第21話 前途多難な日々

まだまだお正月気分が抜けないですね。

学生はまだ冬休みか…。

あの頃に戻りたいです…。


 それは、次の日の朝の事だった。

 

私はいつものように起床し、皆と一緒に朝食を食べていた。

私が焼き魚を箸で解して、口に入れた時だった。

 

『奏者よ!遂に出来たぞ!』

 

いきなり、食卓にネロの声が響いた。

 

「何が出来たんだにゃ?」

『決まっておる!奏者に相応しい禁手の姿だ!』

 

あぁ~…そう言えば、そんな事を言ってたっけ。

 

『ずっと前に言ったであろう?奏者が強すぎるが故に、我等が奏者に相応しい禁手の姿を思案していると。それがようやく纏まったのだ!』

「確か、二年前くらいに言ってましたね」

『我等が考えている間も、奏者はどんどん強くなってくものでな、思った以上に時間が掛かってしまった。だが、もう大丈夫だ!』

 

そっか……遂に切り札解放か。

ちょっと楽しみかも。

 

「で、どんなヤツなんだ?」

『うむ。下手に姿を固定すると、却って力が制限されかねないからな。結局、使う力に応じて我等が生前に着ていた衣装に赤龍帝の鎧を加えた感じの物を使い分ける事にしたのだ』

「ちょっと想像しにくいにゃ」

『こればっかりは、見てからのお楽しみとしか言えんな。楽しみに待っているがよい!決して期待は裏切らぬぞ!』

 

どうやら、ネロは自分の禁手の姿に自信満々みたいだな。

 

「機会があれば、遠慮なく使わせてもらう」

『うむ!その時を待っておるぞ!』

 

言う事だけを言って、ネロは引っ込んだ。

朝から賑やかだったな…。

 

その後、ちょっと遅れそうになった為、急いで朝食を済ませて家を出た。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 学校に行き、教室に着くや否や、速攻で朱乃が私の事にやってきた。

 

「お姉ちゃん!リアスから聞きましたわ!昨日、公園で見知らぬ(堕天使の)女の子と抱き合っていたと!どういう事ですの!?」

 

その瞬間、教室全体の空気が凍った。

 

「リアス……」

「ごめんなさい…。一応、朱乃にも知らせなきゃと思って…」

 

それは分かるけど…こうなる事が予測出来なかったのかな…。

 

「そ…そんな…!」

「まさか……学園外でもフラグを建てるとは…!」

「流石はミス駒王!私達に出来ない事を平気でやってのける!」

「そこに痺れる!憧れるぅぅぅぅっ!!」

 

教室内もなんか騒がしくなってきたし…。

 

「あ…朱乃。その事はちゃんと放課後に部室で説明するから…。ここは引いてくれないか…?」

「本当ですわね!?」

「ああ。本当だ」

「……分かりましたわ。お姉ちゃんを信じます」

 

よ…良かった…。

一瞬、本気でビビったからな…。

冗談抜きで焦ったよ…。

 

しかし、この事はあっという間に学園中に知れ渡り、私は名実共に『一級フラグ建築士』の称号を得たのであった。

 

これ以降、今まで以上に学園中の有名人になってしまった…。

 

私が一体何をした…?

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 放課後、オカルト研究部の部室。

私は約束通りに、リアス達に昨日の事情を説明した。

 

買い物帰りに公園を通ろうとした時に、彼女の襲撃を受けた事。

けど、彼女の攻撃は私には通用せずに、掻き消えた事。

その直後、ザイゴートが出現し、咄嗟にレイナーレを庇ってアラガミを倒した事。

その際に、意図せずして彼女を抱きしめるような形になってしまった事。

全てを話した。

 

「ほっ……。そうだったんですのね…。ちょっと安心しましたわ」

「私も。…と言いたいけど、あの子、満更でもない表情してたわよ?」

「「「え?」」」

 

おい、やっと全てが丸く収まろうとしてるのに、余計な事を言わない。

 

「ど…どういう事ですか?先輩」

「私は去り際しか見てないけど、あの堕天使の子、顔を真っ赤にして去って行ったわ」

「顔が……」

「真っ赤に……」

「それって……」

 

ん?なんで私に注目する?

 

「「「はぁ……」」」

 

おい!?なんでそこで溜息を吐く!?

 

「お姉ちゃん。いくら自分よりも弱いとはいえ、自分を襲ってきた者にまでフラグを建てるのはいかがなものと思いますわよ?」

「先輩らしいと言えば、それまでなんですけどね」

「アーチャーさんからも聞きましたけど、明らかに建ってますね…」

「これで無自覚なんだから、質が悪いわよねぇ~…」

 

ちょっと!?どうして哀れみの目で見るの!?

 

「けど、まさかこの町に堕天使が入り込んでいるとはね…」

「気が付きませんでしたわ…」

「今のところ、目立った被害は出ていないようですけど…」

「油断は禁物ね」

 

あ、話題が変わった。

やっと解放されたか…。

 

「お姉ちゃん。あの子は何か言ってなかった?」

「そう言えば……」

 

あの時、確かあの子は……

 

「『計画を成就させる為に、不確定要素は排除したい』と言っていたな…」

「計画?」

「何かを企んでいる…と言う事でしょうか?」

「言葉だけを聞けば、そんな感じね…」

 

あの子は何をしようとしてるんだろうか…。

碌でもない事じゃないといいけど…。

 

「出来れば、なんとかして見つけ出して、その上で阻止したいけど…」

「下手に堕天使に手を出してしまえば、悪魔と堕天使との間に大きな溝が出来かねませんわ」

「それが一番の問題ですね…」

 

う~む…。

なんか話について行けないでいるが、色々と大変なんだな~。

 

半ば他人事のように話を聞きながら、朱乃が入れてくれた紅茶を飲んでいると、私の携帯に着信が来た。

 

「すまない」

「気にしてないわ」

 

私は部室から出て、廊下に出てから電話に出た。

 

「もしもし?」

『あ~…俺だ。アザゼルだ』

「アザゼルさん?」

 

珍しいな。

あれ以来、時々愚痴を吐くために私に電話をしてくるしかしなかったのに。

こんな昼間に掛けてくるなんて。

 

「どうしたんですか?」

『いやな。昨日、お前さんがうちの下っ端に襲撃されていたって聞いてな』

 

情報が早いな。

ま、堕天使の総督ともなれば、こんなもんなのかもしれない。

 

『お嬢ちゃんの事だから、怪我とかは無いと思うがな』

「御見通しで」

『俺等と同格か、それ以上の実力を持つ奴が、今更下級堕天使の攻撃でどうこうなるとは思えねぇからな』

 

私を高く買ってるなぁ~。

 

『一応、俺の方でもちょっと調べたんだがな、あれはあいつを始めとした一部の連中の独断らしい』

「独断…」

 

組織に属する者が、そんな事をしていいのか?

下手すれば、離反者と言われても仕方ないぞ?

 

『でな、お前さんにちょっと頼みがあるんだわ』

「頼み?」

 

なんとなく想像出来るけど。

 

『分かっているとは思うが、お前さんが今住んでいるのは悪魔が管理している地だ。俺としても、可能な限りは悪魔に借りは作りたくねぇ。だから…』

 

その次の言葉は、もう分かっている。

 

『嬢ちゃんの手で、なんとか解決してくれねぇか?』

 

そう言うと思ったよ。

 

『この件は俺等とは完全に無関係だが、かといって、悪魔共にそんな理屈が通用するかは分からねぇ。今回の件を穏便に済ませるには、どの勢力にも属していなくて、尚且つ、かなりの実力がある嬢ちゃんにしか頼めねぇ』

 

話だけを聞いてると、堕天使の総督って胃に穴が開きそうな立場だな…。

組織のトップって皆こんななのかな…?

 

『勿論、唯とは言わねぇ。解決してくれたら、ちゃんと礼をするつもりだ』

「礼?」

『ああ。俺の研究成果をお前さんにくれてやるよ。お前さんなら、きっと有効に活用してくれるだろうぜ』

 

研究成果…ねぇ。

ちょっと見てみたいかも。

 

「あの…この件は…」

『ああ。確か、サーゼクスの妹と同じクラスだったな?確か、バラキエルの娘も眷属で、同じクラスだったよな?』

 

バラキエル?

もしかして、朱乃のお父さんの名前か?

姿は知ってるけど、名前は初めて聞いたな。

 

『まぁ…最終的にお前さんが解決してくれれば、多少は話しても大丈夫だろう。遅かれ早かれ判明するだろうしな』

「どっちみちバレるのなら、早めに話した方がいい…と?」

『そう言うこった。んじゃ、頼んだぜ』

「あ……」

 

まだ、するとは言ってないのに…。

まぁ…言われなくてもやるけどさ。

 

携帯をポケットに入れてから、部室に戻った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 部室に戻った私は、先程の電話の事をリアス達に話した。

解決の際の礼の事は敢えて言わなかったが。

 

「ア…アザゼル!?それって、堕天使達の総督のアザゼルの事!?」

「どのアザゼルさんの事を言っているかは知らないが、その通りだ」

「どうしてアザゼルがお姉ちゃんの電話に…」

「その前に、どこでお知り合いに?」

 

あれは確か……

 

「初めて会ったのは、今から一年ぐらい前だ。私自身はうろ覚えだったが、向こうの方が覚えていてな。その時に番号交換したんだ」

「そうか……先輩はあの戦争にも介入してるから…」

「向こうとしては印象深かったんでしょうね…」

 

私は殆ど覚えてなかったけどね。

 

「にしても、まさかこの町にアザゼルがいたなんて…」

「知らなかったのか?」

「ええ。お兄様にも聞かされてないわ」

 

サーゼクスさんの目をも誤魔化していたのか…。

唯のアダルトなおじさまじゃなかったのね。

 

「白音は知っていたの?」

「はい。マユさんに教えて貰ってましたから」

「知らなかったのは私達だけって事ね…」

 

あ、落ち込んじゃった。

 

「お姉ちゃん!何かされてない!?主にセクハラ的な事を!」

「い…いや…。時々電話で話す程度だが…」

「それって殆どイメクラじゃない!」

 

そこまで言いますか。

って言うか、よくイメクラとか知ってたな。

 

「それにしても、まさか独断で動いているなんてね…」

「水面下では、未だに三大勢力同士で衝突はしていますからね。先輩に頼むのも当然かもしれません」

「だが、最終的に私が解決すればいいだけで、その過程については何も言われなかった。だから、リアス達が情報収集したりすることは何も問題無いと思う」

「そうね…。なら、今回はお姉ちゃんを手伝う形で解決することにしましょう。私としては堕天使に借りを作っておくのも悪くはないと思うけど、後々の事を考えると、ちょっと躊躇してしまうわね」

 

リアスも長い目線で物事を考えてるんだな…。

やっぱりサーゼクスさんの妹だよ。

 

「私もやれる範囲で協力します」

「白音……」

「私や姉様は動物達と話せますから、情報収集ぐらいは出来ます」

 

マジか……。

動物と話せるって、ちょっと羨ましいな。

私も話してみたいよ。

主にカピバラとか。

 

「それは嬉しいが、無理だけはするなよ?」

「分かってます。って言うか、そのセリフはそのままマユさんに返します」

「うぐ……」

 

それを言われると、ぐうの音も出ない…。

 

その日は、他にも情報交換してから解散した。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 リアス達と校門まで行き、そこで裕斗と別れようとしたら、道の向こうから誰かが走ってきた。

 

「ん?あれは……」

 

見た事が無い制服の女子生徒がこっちにやって来ている。

その手には何かを持っているようだ。

 

「あの制服は、隣町の高校ね」

「誰かしら…?」

 

女の子は私の所まで来ると、顔を赤らめた状態で私を見つめた。

 

「あ!貴女はあの時の!」

「げ!あの時の悪魔!」

 

この顔、羽とかは無いけど、間違いなくレイナーレだ。

なんで制服なんか着てるんだ?

 

「って!アンタには用は無いのよ!」

「じゃあ、なんだっていうのかしら?」

「そ…それは……」

 

急にモジモジし始めたレイナーレ。

 

「きょ…今日はアンタに用があって来たのよ」

「私に?」

 

何の用だろう?

 

「その前に!どうやってお姉ちゃんがここの生徒だって知ったのよ!」

「登校時間を見計らって、そっと付けたのよ!そうでもしないと見つけられそうにないし!」

 

逆切れだよ…。

 

「とうとうストーカーまで現れるなんて…」

「先輩、これからは登下校も僕が守ります!」

 

ストーカーって…。

そこまで言わなくてもよくない?

 

「こ…これ!」

 

意を決したのか、レイナーレはその手に持っていた小さな袋を私に渡してきた。

 

「これは?」

「わ…私は…借りは作らない主義なのよ!こんなのでお礼になるとは思ってないけど…でも!何もしないのはもっと嫌だったから!だから…それあげるわ!」

 

それだけ言うと、レイナーレは元来た道を走って行こうとした。

 

「って!余りにもいきなりすぎて、普通に話しちゃったわ!」

「そうでしたわ!捕まえないと!」

「あの子は……!?」

「あそこです」

 

既にレイナーレは結構な距離まで行っていた。

 

「下級でも堕天使ですわね…」

「これじゃあ、いくら僕でも追いつくのは難しいですね…」

「完全にミスったわ…」

「仕方ないですよ。まさか、人間に化けて向こうから来るなんて、誰も思いませんから」

「その通りだ。次に会った時に事情を聞くなりすればいい」

「そこで『捕まえる』って言わない辺りが、なんともお姉ちゃんらしいわね」

「そうか?」

 

普通だと思うけど。

対話で解決できるなら、それに越したことは無いと思うけど。

 

「それで、彼女が渡してきた物ってなんなの?」

「これだが…」

 

私は、彼女から渡された袋を見せた。

 

「綺麗にラッピングされた袋ですわね」

「リボンもついてます」

「中身はなんなんでしょうね?」

「開けてみよう」

「ちょっ!罠かもしれないわよ!?」

 

リアスが注意を促すが、その時には既に袋は開けてしまっていた。

 

「……何にもないぞ?」

「あれ?私の取り越し苦労?」

「みたいですね」

「中に入っているのは……」

「クッキー?」

 

そう、袋の中身は上手に作られたクッキーだった。

 

「ふむ……」

 

試しにパクリ。

 

「あ……美味しい」

 

実に見事なクッキーだ。

これなら普通にお店に置いててもおかしくないレベルだ。

 

「わ…私も一口いいかしら?」

「出来れば私も…」

「なら、私もいいですか?」

 

リアス、朱乃、白音にそれぞれクッキーを一枚ずつ渡す。

まだまだ入ってるから大丈夫だ。

 

「う……確かに美味しいわ…!」

「別に変な魔術が仕掛けてあるわけでもない…。とても美味しいクッキーですわ…」

「……姉様に教えて貰おうかな…」

 

どうやら、大丈夫だと分かって貰えたようだ。

白音は何か言ってたけど。

 

「先輩はお菓子が好き…か。勉強してみるか…」

 

裕斗は何かを決意した目をしてる。

何をする気かは知らないが、新しい事をするのはいいことだ。

 

結局、その日は何も進展が無いまま、家に帰ることにした。

リアス達はレイナーレを逃がした事とは別の事で悔しそうにしていたけど。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 白音と帰り道を歩いていると、ふと、何かが頭上を通り過ぎようとした。

私は反射的にそれをキャッチした。

 

「どうしたんですか?」

「これが飛んできた」

 

私の手の中にあったのは、綺麗なヴェールだった。

 

「どこから来たんでしょうか?」

 

ヴェールの事を訝しんでいると、私達の前を歩いていた女の子がいきなりこけた。

 

「もしかして……」

「あの子の…か?」

 

私達は早足で彼女の元に急いだ。

 

よく見ると、その女の子はシスターの格好をしていた。

 

「はぅぅぅぅぅ……。なんでこうもこけてしまうんでしょうか…?」

 

どうやらドジっ子のようだ。

ドジっ子シスター…か。

世の大きなお友達が好きそうな女の子だな。

 

「大丈夫か?」

 

私が彼女に手を差し伸べると、その手を取ってこちらを見ながら立ち上がった。

 

「すみません…。ご迷惑をお掛けしてしまって…」

「いや……これぐらいは…」

 

私が起き上がらせたのは、美しいブロンドの髪が眩しい美少女だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんだか、レイナーレがキャラ崩壊しつつありますね…。

けど、お陰でレイナーレに愛着が尽きつつあります。

もう殆ど、彼女の今後は決定したも同然ですね。

そして、ようやく金髪シスター登場です。

勿論、フラグは立ちます。

では、次回。


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第22話 シスター少女との出会い

余裕がある時は、可能な限り頑張りたい。

そんな感じでやっていきます。

正直言って、ちょっと眠いですけど。



 私が起き上がらせたのは、見目麗しい金髪美少女だった。

非常に無垢な目をしていて、まるで疑う事を知らないような子だ。

 

「大丈夫でしたか?」

 

白音も心配だったのか、後ろからやってきた。

 

「そうだ、これを」

 

私は、女の子の頭にヴェールを乗せる。

 

「あ……すみません」

 

さっきから謝ってばかりだな…。

 

「あれ?それって…」

「ん?」

 

白音が何かに気が付く。

彼女の目線を追っていくと、そこには旅行鞄があった。

 

そう言えば、この町で彼女のような外国人は珍しいな。

この鞄を見る限りは、どうやらこの子は旅行者のようだ。

冷静に考えると、この町でシスターなんて見た事なかったし。

なんせ、悪魔が管理している土地だしな。

ある意味、当然か。

 

「ここには旅行か何かか?」

「いえ……実はですね、今日からこの町にある教会に赴任することになってるんです。それで、その教会に向かっていたんですけど……」

 

もしかして……迷ったのか?

 

って言うか……

 

「この町に教会なんてあったか?」

「私もよく分かりませんね。この町にはもう一年以上住んでますけど…」

 

だよなぁ~。

私達が知らないだけかな?

 

「情けない事に迷ってしまったようで…。誰かに聞きたくても、私は日本語があまり上手に話せなくて……」

 

ん?今なんつった?

日本語が得意じゃない?

けど……

 

(私も白音も普通に話してるけど……)

 

これはどーゆー事?

 

(フハハハハハハハハハ!!!またまた有難いA・U・Oの説明タイムだ!)

 

またかい。

 

(貴様等がこの小娘と普通に話せているのは、我等の影響だ)

 

影響とな?

 

(最早言うまでもないが、我等は古今東西に名立たる英霊だ。それが赤龍帝の籠手に宿っている以上、貴様も多くかれ少なかれその影響を受けている)

 

つまり……?

 

(今の貴様にとって、英語で会話するなど朝飯前と言っているのだ)

 

けど、白音も普通に話してるけど?

 

(それは、お前の近くにいる事で一時的に影響を受けているに過ぎない。5メートル程離れれば元に戻る)

 

マジかよ…。

もう本気でとんでもない事になってるな…。

私は自動翻訳機か。

 

(いいではないか。戦いだけが全てではないぞ?)

 

正論だけに言い返せない……。

 

「一応、地図は持ってるんですけど……上手く読めなくて…」

 

困り顔で肩にかけているポシェットから折りたたまれた地図を取り出した。

 

「貸してみてくれ」

「はい」

 

彼女から借りた地図を広げて見てみると、そこには駒王町の拡大された地図が書かれてあった。

 

「ふむ……」

「この〇が書かれてある場所が教会ですかね?」

「はい。そこに行きたいんですけど…」

「ここは……町外れの方角だな」

 

これは私達にも分からない筈だ。

私も白音も、この方角には今まで行ったことが無い。

思ったよりも駒王町って広いんだなぁ~。

 

「マユさん…」

「分かっている」

 

ここで会ったのも何かの縁。

旅は道連れ世は情け…だ。

 

「困っている者を放ってはおけない。私達で良かったら連れて行ってやろう」

「え…ええ?よろしいのですか?」

「構わない。途中までなら道も知っているし、このままでは日が暮れてしまう」

「その通りです。困った時はお互い様です」

「ああぁ……ありがとうございます!これも主のお導きですね……」

 

首から下げているロザリオを握りしめながらお礼を言う女の子。

気持ちは解るが、大げさだなぁ…。

 

そんな訳で、私と白音でシスターの女の子を教会までエスコートすることになった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 地図を片手に、教会までの道を行く私達。

私が地図を持ち、右側に白音、左側にシスター少女がいる。

 

「わかりますか…?」

「大丈夫だ、問題無い」

「マユさん、それはフラグです」

 

分かってるよ。

場を和ませるための冗談だって。

 

途中で、児童公園の横を通り過ぎる。

その時、子供の泣き声が聞こえてきた。

 

「うあぁぁぁぁぁん!」

 

どうやら、こけてしまい膝を擦りむいたようだ。

母親が駆け寄って、子供をあやしている。

 

私的には何気ない光景だったのだが、彼女にとってはそうではなかったらしい。

 

「ちょっとすいません」

「「あ……」」

 

シスターっ子が子供に駆け寄って、近くに座り込む。

 

「男の子なら、簡単に泣いてはいけませんよ」

 

そう言いながら、優しく子供の頭を撫でる。

言葉は通じていないだろうが、その気持ちは伝わったようで、子供はいつの間にか泣き止んでいた。

 

それを見た彼女は、自分の手を子供の怪我に向けてそっと添えた。

すると、彼女の手から淡い緑の光が発せられ、子供の怪我に照射される。

その瞬間、子供の怪我が見る見るうちに治癒していき、数秒後には完全に完治していた。

 

「マユさん……あれって…」

「ああ。間違いないだろうな…」

 

気のせいか、左手が疼く。

 

(ほう…?あれは……)

(あれは……)

(はははっ!随分とレアなヤツを持ってるじゃないか!)

(傷を癒す神器と言えば、アレしかあるまい)

 

ん?皆は知ってるのか?

 

(ああ。あれは【聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)】と呼ばれる神器だ)

(効果は見ての通り、対象の怪我を治癒するのさ)

(使い手次第だが、大体の怪我は治してしまうぞ)

 

治癒能力か…。

シンプルだが、それ故に凄い能力だな。

 

「はい。もう大丈夫です」

 

少女は子供の頭を一撫でした後、こちらに戻ってきた。

 

「すみません。お待たせしてしまって」

「気にするな」

「そうです。人助けをしたんですから、謝る必要は無いです」

 

彼女がこっちに合流した途端、子供が立ち上がってこっちを見ていた。

 

「ありがとう!お姉ちゃん!」

 

子供が元気よくお礼を言う。

だが、この子には分からないだろう。

 

「ありがとう…だ、そうだ」

 

私が翻訳すると、嬉しそうに微笑んだ。

 

「ところで、その能力は…」

「はい。この治癒の力は物心ついた時から使えるようになったんです。神様から頂いた素敵な力です」

 

嬉しそうに説明するが、一瞬だけ表情が暗くなったのを私は見逃さなかった。

もしかしたら、能力の事で過去に何かあったのかもしれない。

けど、私達にそれを悟らせないように、必死に笑顔を作っている。

きっと、私達の事を気遣っているんだろう。

 

「君は……優しいな」

「は…はぅっ!?」

 

ふと、無意識のうちに彼女の頭を撫でていた。

髪がサラサラだ。

実にいい触り心地だ。

 

「……この人ばかりズルいです」

 

あ、白音が拗ねてしまった。

 

「白音も優しいよ」

「あぅ……」

 

もう片方の手で白音の頭も撫でる。

うむ、白音もサラサラだ。

 

「それじゃあ、行こうか」

「「は…はい…」」

 

二人とも、顔が真っ赤になってるけど、大丈夫か?

 

(フハハハハハハハハハ!!!雑種のフラグ建築技術は留まるところを知らんな!)

 

うっさいわ。

いい加減、その称号で言うのやめてよね。

 

私達は再び、教会に向けて歩き出した。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 公園からしばらく歩くと、眼前に古ぼけた教会が見えてきた。

地図が正しければ、間違い無くあの教会がそうなのだが、あまり人が住んでいるようには見えない。

 

そもそも、悪魔の管理している地に教会があれば、リアスの方でも何か言っている筈だ。

という事は、リアスも知らないか、もしくは、ここは既に教会として機能していないかのどっちかだ。

リアスはしっかりしているから、前者は考えにくい。

ならば、残る答えは後者しかない。

 

「あ!あそこです!間違いないです!」

「そ…そうか」

 

マジでここだったよ…。

三匹の子豚ではないが、ちょっとした嵐でも吹けばあっという間に倒壊しそうだ。

 

「あの!本当にありがとうございました!」

「さっきも言ったが、困った時はお互い様だ」

「無事につけて良かったです」

 

役目が終わり、踵を返そうとすると、彼女が引き留めてきた。

 

「待ってくれませんか!せめてお二人にお礼を……」

「謝礼目的にしたわけではないから、別にいいよ」

「それに、早く帰らないと姉様達を心配させてしまいますから」

「そうですか…。ご家族を御心配させるわけにはいきませんよね…」

 

分かってくれたか。

この手のタイプは、変なところで強情だったりするからな。

ちょっと安心した。

 

「だが、互いに名も知らぬと言うのは、流石に気が引けるな」

「それもそうですね」

「え……?」

 

私達は最後に振り返って、自己紹介をすることにした。

 

「私は闇里マユ。好きに呼んでくれていい」

「塔城白音です。苗字は呼ばれ慣れてないので、白音でお願いします」

「わ…私はアーシア・アルジェントと言います!」

「アーシアか。いい名前だな」

 

改めて踵を返して歩き出した。

 

「あ…あの!今日は本当にありがとうございました!いつかお礼をさせてください!」

「ああ。その時を楽しみに待っているよ」

「それじゃ、失礼します。また会いましょう、アーシアさん」

「はい!マユさんも白音さんもお元気で!」

 

こうして、シスター少女こと、アーシアとの初めての出会いは幕を閉じた。

 

しかし、この時の私達は、彼女が今回の一件に深く関わっている事に全く気が付いていなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 家に帰る頃には、夕闇が深くなってきていて、予想よりも遅くなったことが分かった。

 

「ただいま」

「ただいまです」

「お帰りにゃ。二人とも、今日はちょっと遅かったけど、どうしたんだにゃ?」

「ああ。実は……」

 

私は、帰りの途中で会ったアーシアを教会まで案内して遅くなったことを伝えた。

 

「そうだったのかにゃ。それは大変だったにゃ」

「しかし、この町に教会があるなんて初めて知った」

「私もです」

「噂で聞いた事ぐらいはあるけど、私も実際に見たことは無いにゃ」

 

だよな。

もし知っていたら、話の話題に上がりそうなもんだし。

 

「早く二人共着替えてくるにゃ」

「うん」

「わかりました」

 

私達は自分達の部屋で着替えてから、リビングに向かった。

 

既に黒歌が夕食の準備をしていて、私と白音は慌てて手伝った。

 

そして、夕食の時間。

 

「そう言えば、教会の事で思い出したことがあったにゃ」

「なんですか?」

「今日、買い物に行った時、近所の猫達が『町外れの古ぼけた教会に人が出入りしている』って噂してたにゃ」

「人が出入り?」

「うん。なんでも、その教会は長い間放置されていて、それまでは野良猫や野良犬達が雨風を凌ぐために使っていたらしいけど、今じゃ人が出入りするようになって使えなくなったって愚痴ってたにゃ」

 

猫でも愚痴ることがあるんだな…。

 

「我も感じた」

「私も感じたぞ!」

「二人も…?」

「「うん」」

 

龍神だから、そう言うのは敏感なのかもな。

 

「町の端の方から、微弱だけど魔力感じた」

「魔力の質的に、あれは恐らく堕天使だな」

「なら、教会に出入りしているのは堕天使って事ですかね?」

「かもしれないな」

 

これは……段々と話が繋がってきたな。

って…あれ?

 

「じゃあ、なんでアーシアはあそこに行ったんだ?」

「言われてみれば変ですね…。情報だけで言うなら、アーシアさんは堕天使の仲間と言う事になりますが…」

「彼女は人間のようだった。少なくとも、彼女からはレイナーレから感じたような魔力は感じなかった」

「ですね。神器を所持している事を除けば、普通の人間だと思います」

「性格的に悪事をしそうじゃないし…」

 

これは一体どういうことだ?

 

「なんか……却って謎が増えてしまいましたね」

「ああ。もうちょっと情報が必要だな」

「まるで推理小説みたいな展開になってきたにゃ」

「「コ○ン?」」

「「「それはアニメ」」」

 

ふむ……明日にも早速リアスに報告するべきだな。

情報が不足しすぎて、行動に移せない。

 

「皆も、出来る範囲でいいから、情報を集めてくれるか?」

「任せるにゃ!」

「わかりました」

「我、頑張る」

「うむ!お姉ちゃんの為だからな!」

 

頼もしい限りだ。

私はどうも、こういった情報収集は苦手だからな。

やっぱり、体を動かしている方が性に合う。

 

黒歌の食事を味わいながら、その日は食事を終えた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日の放課後。

早速、私と白音は部室にて昨日の事をリアスに報告した。

 

「町はずれの古い教会にシスターが赴任した?」

「ああ。年の頃は私達と同じぐらいだ。何か聞いてないか?」

「いえ……そんな報告は受けてないわ」

「私も知りませんわね…。そんな事があれば、真っ先にリアスの元に情報が来るはずですもの」

「そうか……」

 

リアスも知らないとなると、増々怪しいぞ…。

 

「あと、姉様が教会に人が出入りしていると言う情報を聞いたと言っていました」

「それに、オーフィス達も教会がある方角から堕天使達の魔力を感じたと言っていた」

「人が出入りしていて……」

「堕天使の魔力を感じた……」

「部長。これは……」

「ええ。間違いなく、堕天使達がその教会を根城にしているんでしょうね」

 

やはり、そこに辿り着くか。

 

「だが、そうなると先程言ったシスターの存在が気にかかるんだ」

「どういう事?」

「さっきも言った通り、彼女は神器を持つ以外は普通の人間だった。性格も悪事を出来るような感じじゃなかったし…」

「お姉ちゃんが言うなら間違いないんでしょうけど…」

「戦闘が出来ない神器持ちのシスターと、目的が不明の堕天使……」

「なんか、三歩進んで二歩下がるって感じですね…」

 

裕斗が言った事は実に的を得ていた。

 

皆が悩んでいると、朱乃の携帯に着信が来た。

 

「すみません」

 

一言謝ると、朱乃は一旦部室を出た。

 

「とにかく、私達は使い魔を町に放って、少しでも情報収集するわ」

「私達も可能な範囲で調べてみる」

「無茶しないでくださいね」

「それはお互い様だ」

 

こうして、一応の今後の対策が決定したところで、朱乃が戻ってきた。

 

「あら?話し合いは終わりましたの?」

「一応ね。そっちはなんだったの?」

「ええ……実は……」

 

ん?なんか真剣な顔をしているな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大公から、はぐれ悪魔討伐の依頼が来ました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アーシア本格的に登場。

そして、安定のフラグ建築。

もう秒殺でしたね。

次は原作での初戦闘シーンですが、勿論原作通りにはいきません。

私の事だから、次回は戦闘シーンだけで終わりそうだなぁ~。

では、次回。


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第23話 黒雷の帝王

今回、本気で最後まで悩みましたが、結局は戦闘シーンを無しにしました。

その代わり、アラガミの強大さをリアス達が改めて感じる回にしようと思いました。

なんとなく、こっちの方かいいと思いましたので。



「はぐれ悪魔…か」

 

私はその単語を聞いた途端、なんとも言えない気持ちになった。

はぐれ悪魔と言っても千差万別いるからだ。

 

黒歌のようにやむ負えない事情がある者もいれば、一年前に遭遇した己の欲求に負けた存在もいる。

今回のはどっちなのだろうか?

サーゼクスさん達が頑張っていると聞いているから、前者は無いと思うけど。

 

「朱乃……今回の奴はどんなヤツなんだ?」

「なんでも、殺人欲求に負けた挙句、異形の姿になってしまったらしいですわ」

「つまり……」

「残念ですが…もう……」

「そうか……」

 

人の心を失ってしまっている以上、話し合いの余地はない…か。

白音も少し俯いている。

 

「私だって無益な殺生はしたくはないわ。けど……」

「分かっている。私だってそこまで無知じゃないさ」

 

誰にだって事情はある。

私にも、リアス達にも。

 

「ま、安心してて頂戴。偶にはお姉ちゃんにいいところを見せないとね?」

「その通りですわ。本音は手伝ってほしいですけど…」

「これはこの土地の管理を任された私の役目。お姉ちゃんに余計な負担を与えるわけにはいかないわ」

 

別に気にはしてないんだけどなぁ~。

 

「大丈夫です先輩。明日にでも吉報をお届けしますよ」

「……分かった」

 

私は手に持ったティーカップに入っている紅茶を一気に飲み干して、傍に置いてあるカバンに手を伸ばす。

カバンを握った……その時だった。

 

「!!!?」

 

強烈なまでのオラクル波を感じると同時に、私の左腕が強烈に疼いた。

 

「こ……これは…!?」

『相棒……お前も感じたか?』

「ああ…!」

 

なんだ……この感じは…!?

この……遠くから感じる凄まじいまでの殺気は…!

それに…この左腕の疼きは…。

 

(これは…赤龍帝の籠手じゃない。私の『アラガミ化した左腕』が反応してるんだ!)

 

こんな事は初めてだ…!

 

「朱乃……」

「はい?」

「さっき言ったはぐれ悪魔は……どこに出現したんだ…?」

「えっと……確か、町外れの廃屋らしいですわ」

「町外れ……」

 

確かに、町外れなら遠くに感じるのも頷ける。

 

「…お姉ちゃん?どうしたの?」

「大丈夫ですか?」

「あ…ああ…」

 

なんだ……凄く嫌な予感がする…!

何故か、このままリアス達を行かせてはいけない気がする!

 

「リアス…」

「な…なに?」

「……今回のはぐれ悪魔退治、私も連れて行ってくれないか?」

「ええっ!?」

 

そりゃ驚くよな。

けど、今回ばかりは譲れない。

 

「い…いきなりどうしたの?」

「ちょっとな……」

 

まだ確信は無い。

この状態で無駄に恐怖心を煽る必要は無い。

 

「もしかして……何かを感じたの?」

「……!」

 

バレた!?

 

「はぁ……分かりやす過ぎよ。お姉ちゃんのそんなにも真剣な顔を見れば、嫌でも何かあったんじゃないかって思うわよ」

「先輩はポーカーフェイスであるが故に、反応が分かりやすいんですよ」

「ふふ……私にも分かりましたわ」

「勿論、私もです」

 

全員に御見通しってわけかい。

 

「いいわ。本当なら駄目だけど、お姉ちゃんは強いし、そんな顔をしたお姉ちゃんに嫌とは言えないもの」

「…すまん」

 

うぅ……分かっていても罪悪感が……。

 

「私も行きます」

「は?」

 

し…白音?

 

「私だって姉様と訓練はしてきています。仙術だって少しは使えるようになってます。足手纏いにはなりません」

「白音……」

 

そんな顔をされたら……ダメとは言えないじゃんか…。

 

「リアス」

「分かってるわ」

 

リアスが白音に向き合った。

 

「…いいのね?」

「はい。私だってマユさんの役に立ちたいんです」

「……分かったわ」

 

私自身は別に気にはしてないんだが、本人は何か思う所があったのだろう。

これからは、もうちょっと敏感にならないとな…。

 

「じゃあ、一旦解散して、準備をしてから深夜にここの校門に集合。いいわね?」

「わかりましたわ」

「はい」

「了解」

「分かりました」

 

こうして、私はリアス達のはぐれ悪魔退治に同行することになった。

 

私の嫌な予感が当たらなければいいんだけど……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 いったん家に帰った私達は、黒歌達に事情を話した。

私はともかく、白音が行くことには当初反対していたが、彼女の真剣な顔を見て、ある条件を飲むことで同行を許可してくれた。

それは、『私の言う事を絶対に聞く事』だ。

私としてもそれは言おうと思っていたので丁度良かった。

 

夕食とお風呂を終えた後、私と白音は待ち合わせ場所に急いだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 家を出る前からオラクルの波動はすっと感じていたが、こうして夜の外に出るとより一層感じる。

さっきからずっと左腕の疼きは止まるどころか、増していっている。

 

待ち合わせ場所である駒王学園の校門で待っていると、リアス達がやってきた。

なんでか制服だった。

 

「もしかして、先に来ていたの?」

「こっちが無理を言って同行させて貰っているんだ。これぐらいは当然だ。な?」

「はい。その通りです」

「二人共真面目ね…」

 

それはそうと……

 

「何故に制服?」

「誰かに会った時に言い訳しやすいと思って…」

「そうか?」

 

却って怪しまれそうだけど…。

 

「先輩は……」

「随分とワイルドですわね」

 

今回、私は動きやすさ重視でティンバータンクとF偵察下衣グリーンを着ている。

白音は私服を着ている。

 

「それじゃあ、早速行きましょうか?」

「そうだな」

 

オカルト研究部一行は、はぐれ悪魔がいると言う町外れの廃屋へを向かうことにした。

と言っても、近くまでは転移魔法で行くけど。

リアス達と私達は別々に転移した。

別に目的地は一緒だから問題は無い。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 転移した直後に、私は今まで以上のオラクルを感じた。

移動場所は目的地である廃屋の近くの道路。

私達が転移し終えた直後にリアス達もやってきた。

 

「くっ…!」

 

左腕の疼きがとんでもない事になってる…!

もう『疼く』を通り越して『痛い』になってるよ!

 

思わず左腕を抑える。

 

「お…お姉ちゃん?大丈夫?」

「ああ……。問題無い」

 

なんとかして平気を装う。

その直後、赤龍帝の籠手が私の意思とは関係無く現れた。

 

『あ…相棒!なんだこのオラクルは!?』

「ど…どうしたんですの?」

『こんなにも凄まじいオラクルは感じた事も無い!今までの連中とは次元が違うぞ!』

 

やっぱり…感じているか…。

 

「リアス、皆。よく聞いて欲しい」

「な…なに?」

「今から行く場所には、最大限の警戒をして行ってほしい」

「警戒…ですか?」

 

白音以外の皆が怪訝な顔になる。

 

「気持ちは解るけど、ちょっと大げさじゃない?」

「そうかもしれない。けど、用心するに越したことは無いんだ」

「それは……そうですけど…」

 

まぁ…いきなりこんな事を言っても信じられないよな。

 

「とにかく、早く行こう」

「わ…分かったわ」

 

もう廃屋は目と鼻の先だ。

私達は歩いて廃屋に向かう。

あと5メートルという所まで行くと、急に私達全員を圧倒的なまでの殺気が襲う。

 

「「「「「!!!!!」」」」」

 

流石にリアス達も感じたのか、急に足を止める。

 

「な…なに…?これは……」

「て…手が震えて…」

「あ…汗が止まらない…!」

「こ…怖いです…」

 

白音に至っては泣きそうになっている。

私は咄嗟に彼女の手を握る。

 

「大丈夫。私がいるから」

「は…はい……」

 

なんとか平常心を装おうとしているが、無理をしているのは一発で分かった。

 

にしても……

 

(私は…知っている。この殺気を闇里マユ(わたし)知っている(・・・・・)!)

 

けど…本当にそうなのか?

実際にこの目で見るまでは……やっぱり……

 

私達は廃屋の入り口に立ち、そっと中の様子を伺う。

すると、中からは何かを食べるような音が聞こえた。

 

「こ…この音は…?」

「はぐれ悪魔…バイザーが何かを食べている…?」

 

私は気配を消しながら静かに入る。

その際、念の為に神機も出した。

組み合わせは野狐斬りとフォル・モーントと剛雷タワーだ。

 

「せ…先ぱ…!」

 

裕斗が声を挙げそうになったので、口に人差し指を当てて制した。

 

中に入ると、左腕の疼きは最高潮に達した。

私の足元に血だまりがあるのが分かった。

それを見た私は、咄嗟に白音の元まで急いで彼女を抱きしめて目を防いだ。

 

「白音!見ては駄目だ!」

 

廃屋の隙間から月明かりが入り、中の様子が明らかになる。

 

中にいたのは……

 

「あ…あいつは……!?」

 

漆黒の体躯に白い体毛、そして、金色のマント。

人の顔を模した顔面が不気味に存在している。

 

あれは……間違いない…!

 

「ディアウス・ピター…!」

 

闇里マユ(わたし)にとって因縁浅からぬ相手だった。

 

ピターの口の周りは血で汚れていて、何かを捕食していたのが分かる。

奴の足元には、妙に伸びた誰かの手が見えた。

だが、その先は存在していない。

 

「ま…まさか…!」

 

あいつ……はぐれ悪魔を喰ったのか!?

 

「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」

 

リアスと朱乃と白音の悲鳴に反応して、ピターがこちらを向いた。

 

「ちっ!祐斗!皆を頼む!」

「せ…先輩!?」

 

私は瞬時に前に出た。

 

「ドライグ!!」

『お…おう!』

【Boost!Boost!Boost!Boost!……】

 

隙が許す限り倍化をしておく。

他の奴ならいざ知らず、このディアウス・ピターはどれだけ対策しておいてもしすぎると言うことは無い。

同時に結界も張る。

 

正直言って、倒そうと思えば倒せる。

けど、誰かを守りながらとなれば話は別になってくる。

 

(皆を守りながらどこまでやれる…!?)

 

毎度の如く、ピターは私の方だけをジッと見ている。

神機を全力で握りしめ、いつでも斬りかかれるようにする。

 

すると、ピターはマントを立てて咆哮と共に周囲に雷撃を放った!

 

「くそっ!」

 

私は装甲を展開して皆の前に行く。

タワーシールドだから、私自身には一切ダメージは無い。

それは後ろにいる皆も同様で、少しだけ後ろを見ると、怪我は無いようだった。

 

すぐに前に向き直すと、そこにはピターの姿は無く、その代わりに先程の雷撃で消し炭と化したはぐれ悪魔の死骸があった。

 

「ど…どこに行った!?」

 

急いで周囲を見渡すと、朱乃が私の肩を叩く。

 

「お…お姉ちゃん!あそこに!!」

 

彼女が指差したのは、遠くに見えるビルで、そこの屋上にピターがジッと佇んでこちらを見ていた。

 

「い…いつの間に…!?」

 

私とピターの視線が交わる。

すると、大きな雲が月明かりを防ぎ、一時的にピターのいる場所が暗くなる。

雲が通り過ぎ、再び月が顔を出した時には、既にピターはいなくなっていた。

 

「な…なんだったんだ…?」

 

なんで何もせずに姿を消した?

いや、そもそもどうやってあそこまで移動して、消えたんだ?

 

「分からないことだらけだ……」

 

余りにも状況が不透明過ぎる。

私の頭の中も混乱している。

 

前からピターは不可解な行動をすることが多いが、今回は一番訳が分からん。

 

『あ…あれがディアウス・ピター…か…!なんと言う殺気だ…!見ただけでも分かる…!単純な戦闘能力だけなら、奴は本気の二天龍(俺達)に匹敵している!』

「ああ…!」

 

アイツの出鱈目な強さは私自身がよく分かっている…!

一体何回、ヤツに苦しめられたか…!

 

「「お姉ちゃん!!」」

「マユさん!」

 

後ろを振り向くと、リアスと朱乃、白音が駆け寄ってきて私に抱き着いた。

三人の目には涙が浮かんでいる。

 

「三人共……」

 

よっぽど怖かったんだろう。

無理も無い。

並の神機使いだって、戦場であいつと遭遇すれば真っ先に逃げる事を考える。

それをしないのは、あいつの討伐実績がある者だけだ。

 

「もうあいつはいない。大丈夫…大丈夫だから…」

 

安心させるために、私は三人を抱きしめる。

完全に手が回らないから、中途半端になってるけど。

 

「せ…先輩……」

 

裕斗はなんとか頑張っているが、その足は震えている。

気丈に振る舞っているだけでも、私的には充分に凄い。

流石は男の子だ。

 

「皆、今夜はもう帰ろう」

「け…けど…」

「……はぐれ悪魔は…もう死んでいる。文字通り消し炭になって…な」

 

一陣の風が吹く。

すると、廃屋の中にあるはぐれ悪魔の消し炭が砕け散り、風に乗って空に消えた。

 

「もうちょっと……もうちょっとだけ…このままでいさせて……」

「私も…お願いしますわ……」

「わ…私も……」

「……うん」

 

そのまま、私達は静かに抱き合っていた。

裕斗は地面に座り込んで、なんとかして精神を整えようとしていた。

 

その後、暫くしてから私達は解散した。

 

終始リアス達は落ち着かない様子で、白音もずっと私に抱き着いていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 家に帰ると、黒歌が起きて待っていてくれた。

玄関に入るや否や、すぐに私達の事を抱きしめた。

 

「無事で……無事でよかった……」

「姉様……」

 

ようやく安心したのか、白音は静かに泣き出した。

 

少しして落ち着いた白音は、気分転換の為にもう一回お風呂に入った。

ついでだから、私も一緒に入った。

今回の事は私にも堪えたから。

ちょっと高揚しかけた気分を落ち着かせたかった。

 

風呂から上がり、自分の部屋にて寝ようとしたら、私の部屋に白音がやってきた。

 

「あの…すみません。今夜だけでいいので、一緒に寝てもいいですか?」

「白音……」

「駄目…ですか?」

 

表面上は落ち着いたように見えるが、内心はまだ恐怖心があるんだろう。

気持ちは解るし、白音のそんな姿は見ていたくない。

だから、私の答えは決まっていた。

 

「いいよ。おいで」

「あ…ありがとうございます」

 

照れながら私のベットに沿って入る白音。

私も一緒に入ると、白音が私に抱き着いてきた。

 

「凄く……凄く…怖かったです……」

「そうか……」

「でも、それと同じくらいに…悔しかった…」

 

悔しかった…か。

 

「私は……マユさんの…お役に立ちたいんです…」

「白音……」

「マユさんは私と姉様を救ってくれた人だから……何より……」

「…………」

「マユさんの事が……好きなんです……」

 

白音……。

 

「だから……貴女の…隣に……立てるように………」

 

最後まで言葉を紡ぐ前に、白音は眠ってしまった。

 

(今のは…告白?)

 

って、そんな訳ないじゃん。

女同士だし。

なによりも、家族だしね。

 

(きっと、家族として好きって事なんだろうな)

 

うん。そう言う事なら、私も一言言おう。

 

「私も好きだよ……白音……」

 

その晩、私は白音を抱きしめながら眠りについた。

 

ピターのせいで悪夢でも見るかと思ったが、そんな事は無くて、いつも通り熟睡出来た。

これは、白音が一緒に寝たお陰かな?

 

リアス達は大丈夫だろうか?

ちゃんと寝れているといいけど…。

 

もしかしたら、明日は今回の事を話さなくてはいけないかもな…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかのディアウス・ピター登場。

最初はピターではなくてヴァジュラを出して戦闘させようと思ったのですが、そうするとかなりの文字数になりそうと感じたので、今日急に思いついたこのネタにしました。

因みに、どっちが出てもバイザーさんはパクパクされる予定でした。

つまり、あの人(?)は最初から出番は無かったんですね。

お次はどうなる事やら。

では、次回。



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第24話 私について

なんか、最近になって急に冷え込みましたね。

身体が弱い私には大変な時期です。

風邪を引かないように気を付けないと…。



 ディアウス・ピターとまさかの遭遇をした次の日。

トラウマになっていないか心配していた白音は、どうやら大丈夫だったようだ。

朝食の時になんでか聞いてみたら、私と一緒に寝ることが出来たから、だそうだ。

私と一緒に寝ることに心労を回復させる効果でもあるんだろうか?

 

その際、黒歌は羨ましそうにこっちを見ていたし、オーフィスとレドは『私も一緒に寝る』と言い出した。

仕方がないので、今度一緒に寝てあげることにした。

 

そして、いつものように白音と一緒に登校していると、校門付近でリアス、朱乃、祐斗と会った。

 

表向きはいつものようにしていたが、無理をしているのはすぐに分かった。

放課後に昨日の事を説明するにしても、それまでは私も普段と同じように接するとしよう。

 

そして、全ての授業が終わり、あっという間に放課後になった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 放課後。

毎度のように私達はオカルト研究部の部室で過ごしている。

 

「その……大丈夫か?」

「ええ……なんとかね」

「昨晩は上手く寝付けませんでしたわ…」

「僕は、寝る前に少しだけ筋トレをして、そのお陰で何とか寝れました」

 

…どうやら、大なり小なり昨日の事は皆の心に余りよくない影響を与えてしまったようだ。

 

「……すまない。私がもっと気を付けていれば…」

「お姉ちゃんは何も悪くないわ!」

「その通りですわ!あれは私達が未熟だっただけで、お姉ちゃんが責任を感じる必要は決してありませんわ!」

「その通りです。先輩はあの時、真っ先に前に出て僕達を守ってくれたじゃありませんか。それだけで充分ですよ」

「私も裕斗先輩と同意見です。寧ろ、こっちがお礼を言わなきゃいけませんよ」

「皆……」

 

あぁ……私は……

 

「ありがとう……」

 

本当に……いい友達を持ったな…。

 

「あれ?そう言えば白音は大丈夫なの?」

「私は昨晩、マユさんに添い寝して貰いましたから」

「「「ええっ!?」」」

 

あ、それを言っちゃう?

 

「お…お姉ちゃん!今度泊まりに行ってもいいかしら!?そして、私とも一緒に…」

「私もして貰いたいですわ!いえ!お姉ちゃんが私の家に泊まりに来て…」

「くっ…!男として生まれたが故の弊害か…!これで『僕も』なんて言ったら変態じゃないか…!けど、先輩にだったら僕は別に…」

 

…お~い……戻ってこ~い。

 

「なんか、別の意味で大丈夫じゃなくなってしまいましたね」

「確信犯か……」

 

中々に腹黒いな…。

 

(クハハハハハハハハッ!この小娘は中々に見所があるではないか!愉悦の何たるかを自然と理解していると見える!)

 

また唐突に出てこないでよ、ギルガメッシュ。

 

「お…おい?」

「「「はっ!?」」」

 

あ、戻ってきた。

 

「ゴ…ゴホン!お姉ちゃん?」

「なんだ?」

 

咄嗟に誤魔化したな。

 

「昨日の事、説明してくれないかしら?」

「それはいいが……」

「何か問題でも?」

「多分、こういうのはサーゼクスさんを初めとした偉い方々がいる時に話すのがいいと思うんだ」

 

その方が二度手間にならずに済むしね。

 

「それもそうね……」

「だが、簡単な事なら説明出来る」

「いいの?」

「ああ。全てを話そうとすると、単純に話が長くなってしまう」

「…具体的には?」

「今日中には終わらないかもしれない」

「「「…………」」」

 

それだけ、アラガミは奥深いのだよ。

 

「私達も簡単な事しか教えて貰ってませんから」

「あら?そうなの」

「はい」

 

あの時も今回と同じ理由で詳しくは話さなかった。

 

「皆も既に知っているとは思うが、私は定期的に色んな場所に行って討伐行為をしている。その討伐対象こそが……アラガミと呼ばれる存在だ」

「「「アラガミ?」」」

「アラガミとは、地球上に何処からともなくいきなり出現した考え、捕食を行う謎の単細胞生物『オラクル細胞』の集まりで、それ自体で数十万、数百万の生物の集まりなんだ」

「あれが……細胞の集まりですって…?」

「ああ。昨日遭遇したのもそうだし、君達が幼い頃に遭遇した連中もアラガミだ」

「「「ええっ!?」」」

 

この反応はある意味予想通りだ。

 

「昨日の奴と子供の頃に会ったアレが……同じ仲間?」

「信じられませんわ……」

「強さは全然違うがな」

 

ピターと小型のアラガミとじゃ、完全に別格だよ。

 

「アラガミは細胞結合が非常に強固で、通常の兵器では全く歯が立たない」

「私達の魔力は?」

「多分…無理だろう」

「し…しかし、リアスの滅びの魔力なら……」

 

彼女達には悪いが、私は静かに首を横に振った。

 

「以前、サーゼクスさんがアラガミの一体に滅びの魔力を撃ってしまった。最初は良かったが、次の瞬間にはもうアラガミ達は滅びの魔力に対する耐性を持ってしまった。もう…通用しない」

「そんな……」

 

一気にるリアスの顔が青くなる。

なんか……心苦しいな…。

 

「奴等を行動不能にするには、連中の行動を司る司令細胞群『コア』を摘出するのが最善なんだ」

「コア……」

「他の生物で言う所の心臓だな」

「けど、普通の方法なら倒せないんでしょ?お姉ちゃんはどうやってあいつ等と互角に戦っているの?」

「簡単な話だ。目には目を。歯には歯を。…アラガミにはアラガミをぶつければいい」

「ど…どういう事ですの?」

「私は……オラクル細胞を体内に取り込んでいるんだ」

「「「!!!」」」

 

さっきから驚きっぱなしだな。

不謹慎かもしれないが、見ててちょっと面白い。

 

「そ…そんな事をして平気なの!?」

「その為に、この腕輪がある」

 

皆に見せるように右腕を上げる。

 

「そう言えば、いつもつけてるわよね。その腕輪」

「これは、私が今の立場……神機使いになった時に付けたものだ。詳しい事を言えば長くなるから省略するが、これによってオラクル細胞の浸食を防ぐことが出来る」

「よ…良かったです」

「その代わり、未来永劫外すことは出来ないがな」

「は…外せない!?なんで!?」

「この腕輪は私の身体と完全に一体化している。これがもしも外れることがあれば、その時が私の死ぬ時だろう」

「「「…………」」」

 

あ、やべ。

空気を重くしてしまった。

 

「先輩方の気持ちは解ります。私と姉様も、聞いた時は同じでしたから」

「そう……。強いのね」

「信じてますから」

「そう…ですわね。信じなくてはいけませんわね」

「ですね…。僕達が信じないで、誰が信じるんだって感じですよね」

 

信じる…か。

 

「なら、お姉ちゃんが持ってる大きな武器はなんなの?」

「あれが『神機』。対アラガミ用に開発された生物兵器だ」

「せ…生物兵器?」

「神機はアラガミのコアから造られているんだ」

「コ…コアから!?」

「人為的に調整された『コア』を元にして、この腕輪を介して操作するんだ。他にも色々と説明することは多いが、ここでは省略する」

 

本気で長くなるからね。

 

「しかも、神機を操る為には神機の中にあるオラクル細胞をより深く埋め込んで神経接続する必要があって、遺伝的体質が該当神機に適合している事が条件なんだ」

「それってつまり、他の人には使えないって事?」

「その通りだ」

「お姉ちゃんだけのワンオフという訳ですね」

 

そう言われると、なんかカッコいいな。

 

「私のように神機を操る者を総じて『神機使い』、もしくは『ゴッドイーター』と呼ぶ」

「お兄様と初めて会った時に、お姉ちゃんは『ゴッドイーター』と名乗ったと聞いたけど、そういう事だったのね」

 

あの時は色々とテンパってたんだよ~!

咄嗟に思いついたのがアレだったんだよ~!

 

「簡単ではあるが、これで一応終わりだ」

「分かったわ。…お姉ちゃんは私達が思っていた以上に大変なのね…」

「アラガミと戦う事は出来ませんが、出来る範囲で協力は致しますわ」

「僕もです。負担は皆で分け合いましょう」

 

うぅ……なんて感動的な事を言うんだぁ~!

本気で泣いてまうやろ~!

 

『…良い友を持ったな。相棒』

「そうだな……」

 

皆と会えて本当に良かったと思うよ。

いや、マジで。

 

「そう言えば昨日、お姉ちゃん左腕を痛そうにしていたけど、それもアラガミと関係があるの?」

「それは……」

 

なんか、ツッコまれる気はしてたんだ。

けどなぁ……。

 

『いいんじゃないか?』

「ドライグ…」

「私も大丈夫だと思います」

「白音も…」

 

そうだよな。

私も信じなきゃ駄目だよな。

 

「どうしたの?」

「……皆。ちょっと見て欲しいものがある」

 

私は制服の袖を捲り、左腕全体を覆っている腕袋を取り外した。

 

「昨日の痛みは……これが反応していたんだ」

 

全員に見えるようにアラガミ化した左腕を見せる。

 

「…!?そ…それは…!」

「ど…どうしたんですの!?」

「先輩!その腕は…!」

「前に仲間を助けた時に…な。こうなってしまったんだ」

 

ま、後悔は無いけどね。

 

「お姉ちゃん!!」

「は…はい?」

 

なんか、いきなりリアスが立ち上がって来て、私の両肩を掴んだ。

 

「お願いだから、自分の事を大切にして!!」

「え…え?」

「リアスの言う通りですわ!仲間を助けたいと思う心は素晴らしいと思いますが、それでお姉ちゃんが犠牲になっては意味が無いじゃないですか!」

「僕も…先輩の気持ちは痛い程理解出来ます。けど、自分が犠牲になればいいと言う考えは良くないと思います」

 

ちょ…ちょっと?

なんか予想外の反応が返ってきたんですけど?

 

「あの…この腕に関しては……」

「そんなのどうでもいいじゃない!」

「なんと!?」

 

どうでもいいとな!?

 

「どんな腕をしていても、お姉ちゃんはお姉ちゃんよ!」

「リアス……」

「今までずっと隠し通せていた事にも驚きですが、それ以上に話してくれなかった事に悲しさを感じますわ」

「僕達はそんなにも頼りないですか?」

「そんな事は無い!」

 

そうじゃない……そうじゃないんだ!

 

「私は……ただ……」

「リアス先輩達の悲しむ顔を見たくなかった……ですよね?」

「白音…」

「マユさんの事だから分かります。大方、自分一人で抱え込めば万事解決とでも思ったんでしょう?」

「ゔ……」

「分かりやす過ぎです」

 

はぁ……敵わないなぁ…。

 

「……済まない。皆を信じていなかったわけじゃないんだ。皆がこの腕を見たら、きっと心配したり悲しんだりすると思った。リアス達のそんな顔を見たくなかったんだ…」

「お姉ちゃん…」

 

友達の…仲間の悲しむ顔は……もう見たくないから…。

 

『気持ちは解るが、お前達も察してやれ。相棒は今まで、それ程までに友を大切にしたいと思うような事を経験してきたんだと』

「「「あ……」」」

 

ドライグ…お前まで…。

 

『相棒は確かに強い。だが、決して常勝していたわけではない。最終的には勝利しても、その過程で仲間を失った事も一度や二度じゃない』

「先輩も……」

 

裕斗?

どうしたんだ?

 

「…ごめんなさい。お姉ちゃんの気持ちも知らずに…」

「別に気にしてないよ。白音達からも同じ事を言われたし、心配してくれたことが純粋に嬉しい」

「本当に…優しすぎますわ…」

「けど、それが先輩らしいです」

 

私らしいって…。

 

「最後に聞いていいかしら?」

「なんだ?」

「あのアラガミとか連中も、お姉ちゃんも…どこから来たの?」

「私は……」

 

何処から来た…か。

流石に『転生してきました~!』とは言えないしなぁ~。

 

「多分…これもサーゼクスさん達がいる場で言った方がいいと思う」

「そう…。少なくとも、話してはくれるのね?」

「必ず」

「それが聞ければ、それでいいわ」

 

な…なんとか誤魔化せた…!

後でちゃんと考えとかないと…!

 

この事を話すとなると、必然的に足長おじさんの事も話さなくちゃいけなくなるしな…。

流石に即席でそこまでの言い訳は思いつかない。

 

「白音もそれでいいか?」

「はい。さっきも言いましたけど、私はマユさんの事を信じてますから」

 

な…なんていい子や~!

黒歌の妹じゃなかったら、私の妹にしたいぐらいだよ~!

 

「取り敢えず、その腕の事は私達全員で隠せるように努力するわ」

「助かる」

 

そろそろ、一人じゃ限界が来ていたからな。

 

「ところで…その腕って痛覚とかってあるの?」

「一応な。だが、左腕限定でこうなっている為、少々鈍くはなっている」

「洗う時も、たわしで擦ってますしね」

「た…たわし?」

「そうでもしないと汚れが取れないんだ…」

 

ほんと、厄介なのよ。

一度こびりついたら中々取れない。

 

「く…苦労してるのね…」

「もう慣れたよ」

 

長い付き合いだしね。

 

それから、暫くリアス達とこれからの事を話してから、その日は解散した。

 

帰ってから放課後の事を話すと、少し驚いていたが、リアス達が理解を示してくれたことを一緒に嬉しがってくれた。

 

やっぱり…家族っていいなぁ…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 リアス達に左腕の事やアラガミの事を少し話した日から数日後の放課後。

私は白音と一緒に商店街に来ていた。

 

個人的に必要になった参考書を買おうと思い、本屋に行くことにしたのだ。

その際、白音もついてくると言い出した。

なんでも、白音も愛読しているラノベの新刊が出るらしく、買いたいと思っていたらしい。

 

本屋にて目的の物をそれぞれに購入し、ウィンドウショッピングを兼ねて商店街を歩く私達。

その時だった……彼女の事を再び見かけたのは。

 

「あの…マユさん」

「ん?どうした?」

「あの後姿は…もしかして…」

 

白音が指差す方向にいたのは、何やら見覚えのあるシスター姿の金髪少女が周囲をキョロキョロと見ている姿だった。

 

「あれは……アーシアか?」

「ですよね……」

 

どうして一人でこんな所に…?

 

この二回目の出会いが、後に彼女と私の運命を大きく動かすとは、その時は誰も想像すらしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




事情の説明とアーシアの再登場の回でした。

殆ど説明回になってしまいましたね。

出来ればもうちょっとコンパクトに纏めたかったのですが…。

では、次回。


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第25話 動き出す事態

ここから一気に物語は加速する?

因みに、フリードとの出会いは教会突入までお預けです。




 放課後に白音と一緒に商店街で買い物をした帰りに、アーシアらしき人影を見つけた私達。

 

どうするか少しだけ話し合う事にした。

 

「どうしたんでしょうね?」

「何かを探しているように見えるが…」

 

困り顔で周囲を見ているアーシア。

本気でどうした?

 

「話しかけてみましょうか?」

「そうだな」

 

という訳で、レッツご~。

 

「アーシアさん」

「どうしたんだ?」

「え?」

 

話しかけた途端、呆けた顔になるアーシア。

まるで、信じられないモノを見ているような顔だ。

 

「マ…マユさんに白音さん?どうしてここに…」

「「それはこっちのセリフだ(です)」」

 

こんな街中に来そうな感じじゃなかったのだが、何か大事な用でもあるんだろうか?

 

「さっきから挙動不審に見えてたぞ」

「きょ…挙動不審!?」

「あれだけキョロキョロしてれば、嫌でもそう見えますよ」

「あぅ……」

 

やっと自覚したのか、急に顔が赤くなるアーシア。

 

「で?本気でどうした?」

「はい……実は……」

 

話を聞くと、なんてことは無かった。

 

なんでも、彼女はこういった都会に来るのが初めてで、一度でいいから街中を歩いてみたかったとの事。

そして、教会の人(とアーシアは言っているが、多分違う)に特別に許可を貰って、こうしてやって来たが、色んな物がありすぎてどこから行けばいいか困っていたらしい。

 

「なるほどな……」

 

携帯で時間を確認する。

まだまだ時間には余裕がある。

 

「白音」

「言わなくても分かってます」

 

流石は私の家族。

 

「アーシア。私達で良かったら、街を案内させて欲しい」

「え?いいんですか?」

「当然だ。だろ?」

「はい。困った時はお互い様です」

「マユさん…白音さん……」

 

おぅ……瞳がウルウルしてますがな。

そんなに嬉しかったか…。

 

「だ…大丈夫か?」

「は…はい。余りにも嬉しくて…」

 

嬉しいだけで、ここまでのリアクションを取りますか…。

一体どこまで純粋なんだ…。

 

思わず苦笑いをしながら、彼女の頭を撫でてしまった。

 

その時だった。

 

私の脳内に不可思議なビジョンが流れた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 一人の赤ん坊が教会の前に捨てられていた。

 

そこに、シスター服を着た女性がやって来て、赤ん坊を拾い上げて教会に中に入っていった。

 

赤ん坊は大きくなり、可愛らしい金髪の少女に成長した。

 

シスターとしての指導を受けながらも、穏やかに暮らしていく少女。

 

だが、ある時、彼女の運命は一変する。

 

彼女が、傷ついていた一匹の犬を不可思議な力で癒したのだ。

 

その光景を見ていた一人の神父が、彼女をバチカンにある本部に連れていき『聖女』として担ぎ上げだしたのだ。

 

そこで彼女は教会を訪れた様々な人々を癒し続けた。

 

彼女に不満は一切無かった。

 

誰かの助けになるのは純粋に嬉しいし、何よりも、皆が喜んでいる姿が彼女にとって心の癒しになっていたからだ。

 

だが、そうやって担ぎ上げられれば、必然的に周囲の人間は遠巻きになっていく。

 

結果として、彼女には同年代の友と言うべき存在は一人もいなかった。

 

しかも、一部の人々に至っては、彼女の存在を『傷を癒すことのできる【生物】』として見るようになっていったのだ。

 

だが、人を疑う事を知らない彼女は、そう言った人々の悪意に全く気が付かなかった。

 

そして、とうとう彼女に運命の転機が訪れた。

 

ある日、彼女の目の前に現れた傷ついた一人の悪魔の怪我を癒してしまったのだ。

 

しかも、その場面を教会の関係者に見られる始末。

 

結果として、彼女は『聖女』から、悪魔をも癒す『魔女』として教会を追放されてしまった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「はっ…!」

 

一瞬…気が遠くなってた…。

 

「今のは…?」

 

まさか……『感応現象』…か?

 

でも…なんでだ?

これは本来、第二世代型神機使い以上の存在同士でのみ起こる現象の筈だ。

一方的に起こる現象では無い筈だが…。

 

しかも今のは……アーシアの記憶…か?

 

「…?どうしました?」

「い…いや…なんでもない…」

「そうですか…」

 

ここで心配を掛けちゃいけないな。

よし、気分を入れ替えよう。

 

 

「それじゃあ、何処からい……」

 

こうか、と言おうとしたら、アーシアのお腹からグ~と言う音が鳴った。

 

「「「…………」」」

 

まず行く場所がほぼ確定したな……。

 

「白音……最初はあそこに行こうか」

「ですね」

「……?」

 

アーシアは小首を傾げているが、構わず彼女の手を握る。

 

「さ、行こう」

「え…えええっ!?」

「む~……」

 

私が歩き出そうとすると、ふくれっ面の白音が逆の手を握ってきた。

 

「私も……お願いします」

「ふふ……わかったよ」

 

カバンを手首に通してから、白音の手を握った。

 

「ならば、行くか」

 

こうして、私達は最初に行くべきと判断した場所に向かうことにした。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「あ…あの……これはどうしたら…」

「これはだな…」

 

私達が来たのは、某ハンバーガーショップ。

あの『スマイルなD氏』がいる店と言えば分かりやすいだろうか。

 

私達は比較的スタンダードなハンバーガーセットを頼んだ。

だが、どうやらハンバーガーを見るのは初めてのようで、アーシアはどうすればいいか困惑していた。

 

「こうして、包みを開けて……」

「こうやって食べるんです」

 

白音が試しにハンバーガーに齧り付く。

 

「成る程!分かりました!」

 

すぐに理解したアーシアは、すぐさま同じようにハンバーガーを食べる。

 

「どうだ?」

「お…美味しいです~!」

「そうか。よかったな」

「はい!」

 

ハンバーガー一つでここまで嬉しそうに…。

あの感応現象で見たのが真実なら、これもある意味当然の反応なんだろうか…。

 

彼女の嬉しそうな顔を見ながら、私もハンバーガーを食べる。

 

うん、美味い。

 

「あの……こうして連れて来てくれたのは大変感謝してるのですが…夕食前にこうして食べても大丈夫なんですか?」

「ああ…その事か」

 

それなら大丈夫なんだよなぁ~。

 

「私達は人より多く食べるからな、これぐらいなら問題無い」

 

ゴッドイーターは食べる事が仕事…と言うように、神機使いはすべからず大食いが多い。

特にリンドウさんが凄い。

最低でもコウタの三倍以上は食べるしな。

ま、私も人の事は言えないんだけど。

 

それよりも驚いたのは、白音の大食いっぷりだ。

黒歌曰く、これはどうやら昔かららしい。

白音は根っからのフードファイターだったという事か…!

 

私が思案に耽っていると、周囲から変な視線を感じた。

その視線は全て私達に向けられている。

 

シスター姿の金髪美少女が、こんなジャンクフードショップにいれば、そりゃ目立つか。

 

視線を無視しながら、私達はハンバーガーを食べ終えて、店を後にした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 その後も、色んな場所を見て回った。

余り時間を掛け過ぎると遅くなってしまう為、時間と相談しながら見て回った。

 

因みに、アーシアが一番興奮していたのは、意外にもゲームセンターだった。

 

本人に聞いた所、あんなにも煌びやかな場所に行ったのは初めてだったとの事。

 

そして、私達は夕日を背にしながら帰路についていた。

 

「また教会まで送ろうか?」

「だ…大丈夫です!もう道は覚えましたし、これ以上ご迷惑をお掛けするわけには…」

「気にしないでください。こっちは迷惑なんて思ってませんし…それに…」

「私達、友達だろう?」

「………え?」

 

ん?どうした?

別に変な事は言ってないぞ?

 

「お友達に……なってくれるんですか…?」

「いや、もう既に私達は友達のつもりだったのだが…」

「その通りです」

「う……うぅぅ……」

 

えっ!?ええっ!?

いきなりどうしたっ!?

なんか泣き出しちゃったんですけどっ!?

 

「う…嬉しいです…。初めて友達が出来ました…」

「アーシア……」

 

ゔゔ…!

中途半端に事情を知っていると、言葉の意味を深く受け取ってしまう…!

 

「あ!アンタ達!?」

「「「ん?」」」

 

いきなり聞き覚えのある声が聞こえてきた。

見てみると、そこには前と同じように、隣町の学校の制服姿のレイナーレがいた。

 

「帰りが遅いと思って試しに来てみれば……」

 

もしかして、アーシアを探しに来たのか?

ならば…やっぱりあの教会には……

 

「どうしてアーシアがこの子と一緒にいるのよ!?」

 

んん?

なんか話の方向が私の思っているのとは違うぞ?

 

「えと……これは……」

「アーシアが街中で困っていてな。そこに偶然通りがかった私達が街中を案内していたんだ」

「そ…そう…」

 

毒気が抜かれたように呆けるレイナーレ。

すると、こっちに近づいて来てアーシアの手を握って少し離れた場所に連れて行った。

 

「ちょっとこの子、借りるわよ」

「え?」

 

二人は何やらひそひそ話を始めた。

ここからはよく聞こえないけど。

 

(ちょっと!アンタあの子と一緒に何をしたの!?)

(えっと……お食事を御馳走になって、それから色んなお店を見て回って…)

(しょ…食事っ!?しかもウィンドウショッピングまでっ!?)

 

なんか…ああしてると、二人共何処にでもいる普通の女の子だな。

 

(な…なんて羨ましい…!私だって…私だって…!)

(レイナーレ様?)

 

なんか、レイナーレがプルプルしてるんですけど。

 

「ア…アーシア!今日はもう帰るわよ!」

「は…はい」

「それじゃ!そーゆー事で!」

「マユさん!白音さん!今日は本当にありがとうございました!」

 

去り際にアーシアがこっちを向いてお辞儀をする。

そして、彼女はレイナーレに手を引かれながら去って行った。

 

(帰ってから、色々と聞かせて貰うわよ…!)

(ええ~……)

 

意外にも、普通に歩いて行ってしまった。

 

私達も思わず手を振ってしまった。

 

「…って!」

「またやっちゃいましたね…」

 

またまたレイナーレを見送ってしまった…!

本当なら、ここで色々と事情を聞いたりしなければいけないのだが、余りにも普通に登場して、普通に去って行ってしまったから、そんな雰囲気ではなくなっていた。

 

「こうなったら、教会に直接行くしかないか?」

「それが良いかもですね。でも、その前に…」

「分かっている。リアス達に相談だな」

 

出来れば、こういうのは早い方がいい。

『思い立ったが吉日』とも言うしな。

けど、焦って行動した結果、何かあってはいけない。

 

このような場合こそ、逆に慎重になるべきかもしれない。

『急がば回れ』と言う言葉もあるしな。

 

その日は、そのまま大人しく家に帰った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 自宅に帰り、いつものように皆で一緒に夕食を食べながらテレビを見ていると、番組のコマーシャルの間に短いニュースが流れた。

 

『昨日、駒王町にある○○○○さん宅にて、一家全員の惨殺死体が発見されました』

 

駒王町で事件か…。

けど、今初めて聞いたな。

 

「物騒だにゃ…」

「そうですね…」

「「もきゅもきゅ」」

 

黒歌と白音は怪訝な顔でニュースを見ていて、オーフィスとレドはいつもと同じようにご飯を食べている。

 

「けど、そんな話は今まで出ませんでしたよね?」

「普通なら、学校とかで何かを言う筈にゃ」

「多分、警察の正式発表がされるまで、いう訳にはいかなかったんだろう」

 

多分…だけどね。

そう言った事情には疎いから。

 

「あと、この映像を見る限りは、ここは通学路とは真逆だ。私達が今まで知らなかったのも無理は無い」

「スーパーとも逆方向だにゃ。これじゃあ私も知りようがないにゃ」

 

しかし…この平和な街で殺人事件とはな…。

リアスもやりきれないだろうに。

 

『遺体はリビングに逆さまで太い釘で磔にされており、その上で切り刻まれていたとの事です』

 

なんて残酷な事を…!

人間がやる事じゃないぞ!

どう考えたって、犯人はサイコパスだな。

 

『猶、リビングの壁には遺体の血で文字が書かれていたとの事です。しかし、血が流れていてよく読むことが出来ず、解析の結果が待たれます』

「酷い事をするにゃ…!」

「いくらなんでも、限度と言うものがあるでしょうに…!」

「ある意味、アラガミよりも質が悪いな…!」

 

本能に従っている分、アラガミ共の方が対処はしやすい。

強さは遠く及ばないが、こういった連中は下手に知恵が働くから厄介だ。

 

『犯人は不明で、目撃者などもいないとの事です。犯行時刻は深夜と思われ、遺体が発見されたのは犯行時刻から数時間が経った早朝との事です。では、第一発見者の方のインタビューを聞いてみましょう』

 

犯人が分からず、目撃者もいない…か。

 

「皆、大丈夫だとは思うが、一応気を付けてくれ」

「分かってるにゃ」

「勿論です」

「もきゅもきゅ…ごくん。私も分かったぞ!」

「我も分かった」

 

念の為に皆に注意を促しておいた。

皆の実力は知ってはいるが、念には念を…だ。

 

『ククク…。此度の赤龍帝はなんとも心配性だな』

「家族を心配するのは当然の事」

『まぁ…他の輩ならいざ知らず、貴様ならば文句は言うまい。精々、頑張るがよい。雑種』

 

なんか、言うだけ言ってギルガメッシュが引っ込んでいったんですけど。

 

「な…なんだったのかにゃ?」

「さぁ……」

 

私にも分からん。

 

『はぁ……すまないな。アイツがあんな態度なのはいつもの事と思って割り切ってくれ』

「アーチャー…」

 

私も段々と慣れつつあるけどね。

 

『アイツも根は決して悪人ではないんだ。そこだけは分かってくれ』

「分かってるよ。ドライグ」

 

なんだかんだ言って、私にアドバイスをくれたりするしね。

 

『そう言ってくれると、アタシたちも助かるよ』

『奏者はなんと心が広いのだ!余は感動したぞ!』

『ご主人様……あの高飛車野郎にもその優しさ…。ご主人様は女神の生まれ変わりですか!?』

 

それは言い過ぎ。

 

その日は結局、歴代の皆と話しながら夕食を進める事になった。

 

途中、アーチャーから黒歌に対して料理のアドバイスがあったのが面白かった。

 

明日はリアス達に相談して、可能であれば教会に行きたいな。

 

今日、アーシアとレイナーレが一緒にいるのを見て、流石に気になった。

もう様子見は終わりだ。

 

行動に出るべき時が来たんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、遂に教会突入?

果たしてアーシアとレイナーレはどうなるのでしょうか?

そして、マユはどうするのでしょうか?

では、次回。


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第26話 堕天使と神父

今回、ようやく物語が動きます。

そして、ようやくフリードの初登場。

果たして、マユとフリードはどのような邂逅をするのでしょうか?



 アーシアとレイナーレと再会した次の日の放課後。

私と白音は予定通りにリアス達に相談することにした。

 

場所はオカルト研究部の部室。

いつものように皆でソファーに座っている。

 

「……と、言う事なんだ」

「例のシスターが堕天使と……」

「そうなんです」

 

私達は可能な限り事細かに昨日の事を報告した。

 

「そのシスターっ子と遊んだのは、まぁ…百歩譲っていいとして…」

「またあの子を逃がしてしまったんですのね…」

「申し訳ない…」

 

あんな感じで来られたら、誰だって普通に対処しちゃうって。

 

「過ぎた事を言っても仕方がないわ。問題は、その二人が一緒だったって事よ」

「ですね。これで、今までの情報の信憑性が一気に増しましたね」

 

黒歌の情報や、オーフィス達の言っていた事か。

 

「これはあくまで私の私見なのだが……ここら辺で動いた方がいいと思うんだ」

「それは……歴戦の戦士としての勘って事かしら?」

「そう思って貰って構わない」

 

歴戦って言うのはちょっと大げさだけどね。

 

「この場合は、『女の勘』と言った方が正しいかもしれませんわね」

「どちらにしても、先輩の勘なら信じられます」

 

裕斗からの信頼は絶大だなぁ~。

そこまで大層な存在でもないって思うんだけど。

 

「そうね。それに、そろそろ傍観は終わるべきだと私も思ってたしね」

「リアス……」

「行きましょう。その教会に」

 

リアスの言葉に、全員が頷いた。

 

「行くなら早い方がいい。何かがあってからでは遅い」

『その意見には俺も賛成だ』

「ドライグ?」

 

今までだんまりを決め込んでいたのに、急にどうした?

 

「どういう事ですか?」

『例の教会の方角から僅かにアラガミの気配を感じた』

「なんだって?」

 

マジかよ…!

 

『しかも、今回は複数の気配を感じる。内一体は中々に大きい気配だ。恐らく…』

「大型……」

『多分な。あのシスターがいなくても、どっちみちあの教会には行く羽目になったようだな』

 

皮肉なもんだ…!

 

どうしてこうもトラブルが続くんだ?

今朝の星座占いで私が12位だったからか?

それとも、ラッキーアイテムのピ○チュウのぬいぐるみを持っていないせいか?

 

「どうやら、教会に行く理由が増えたようね?」

「ああ」

「勿論、私も行きますからね」

「分かっている」

 

白音としても、前回のリベンジをしたいだろうし、最悪の場合は私がアラガミや堕天使を引き付けて白音や裕斗にアーシアの救出を頼むかもしれない。

スピードに優れた裕斗や、猫又故に身体能力が高い白音ならば適任だろう。

 

「皆……行くぞ!」

「「「「はい!!」」」」

 

こうして、オカルト研究部による、謎の教会侵入作戦が敢行された。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 既に黒歌には今日の事は伝えてある為、皆と一緒に真っ直ぐに教会へと向かった。

当然、移動手段は転移で。

 

「ここですね…」

「想像以上に古いわね…」

「殆ど廃墟に等しいですわね」

「確かに、この立地条件ならバレにくいかもしれませんね」

 

私達は教会の近くの場所に転移した。

遠目でも少しだけ教会が見える。

 

「ここまで近くまで来れば、嫌でも堕天使の気配が分かりますわね」

「人数は……四人?」

「一応、念には念を入れていこう」

 

全員が私の言葉に頷いてくれた。

 

教会の近くは林になっていて、隠れたりトラップを仕掛けたりするには丁度いい環境だった。

 

「私が先頭を行く」

「なら、僕が殿をします」

 

そして、その間にリアス、朱乃、白音が位置する。

当然、常に周囲を見渡して警戒しているが。

 

もうすぐ教会の入り口といったところで、上の方から二つの気配がした。

 

「あれ~?こんな所に悪魔どもがいるんですけど~?」

「大方の予想はしていたがな。まさかこのタイミングで来るとは思わなかったぞ」

 

そこにいたのは、金髪ツインテールのゴスロリを着た堕天使と、黒のボディコンスーツを着た青いロングヘア―の堕天使だった。

性別は両方とも女。

 

「出たわね!堕天使!」

 

キッ!とリアスが二人を睨み付けて、臨戦体制をとる。

 

「ん?そこのお前…」

「な…なんだ?」

 

なんか、青髪の堕天使が私の方を見てるんだけど…。

 

「もしかして、あいつがレイナーレ様が言っていた人間ッスか?」

「間違いない。アーシアの話とも一致する」

 

アーシアの名前が出た…。

これはもう確定事項だな。

 

「ま、確かに強そうではあるが…」

「所詮は人間。堕天使である私達に勝てるわけ無いって!」

 

お二人さんは完全にこっちを見下している。

 

さて…どうするか。

 

相手が油断している隙に気絶でもさせるか?

それとも、ここをリアス達に任せるか…。

 

そんな事を考えていると、堕天使達の後ろに見たことがあるような影が見えた。

って、このパターンって前にも無かったか?

 

なんて、考えてる場合じゃないっつーの!

 

「ドライグ!!」

『おう!』

 

瞬間的に飛び上がり、同時に赤龍帝の籠手と神機を出した。

組み合わせは毎度お馴染みの空木レンカ装備だ。

 

「お姉ちゃん!?」

「部長!堕天使達の後ろに!」

「あれは…まさか!?」

「マユさん!」

 

皆の叫びを背中越しに聞きながら、私は堕天使達の後ろの出現したアラガミを見る。

そこにいたのは、前と同じようにザイゴートで、大顎を開けて堕天使達を捕食しようとしてる。

 

「な…なんすか!?」

「き…貴様!?」

 

必然的に堕天使達も構えるが、私はそれを無視して、二人の背後にいるザイゴート二匹を一閃した。

 

「はぁっ!!」

 

当たり所が良かったのか、二匹とも一撃で倒せた。

 

「う…後ろ…?」

「こいつらは……!」

「噂で聞いた…謎の化け物!?」

 

大顎を開いたまま絶命したザイゴートの死骸を見た二人は、自分達が死の一歩手前にいた事を察したのだろう。

大きく目を見開いたまま顔中に汗を掻いて、ゆっくりと地面に降り立ち、そのままその場に座り込んだ。

どうやら、腰が抜けたようだ。

 

「も…もしかして……助けられた…?」

「なんで…そんな事をするッスか…?」

 

毎度毎度聞くなコノヤロー。

 

「誰かを助けるのに理由はいらない」

「「なっ……!?」」

 

驚いてるところ悪いが、それが私だ。

 

ザイゴートの死骸が霧散していく中、リアス達が着地した私に近づいてきた。

 

「もう…いきなりジャンプするからびっくりしたわよ?」

「すまん…」

「お姉ちゃんらしいといえば、それまでですけどね」

 

それを言われたら、ぐうの音も出ない。

 

「流石は先輩です。瞬時に対応して見せるなんて」

「凄いジャンプでした」

 

そう言えば、かなりのジャンプ力が出てたな。

咄嗟の事だったから、加減が出来なかった…。

 

未だに呆けている堕天使達に、リアスがゆっくりと近づいた。

 

「貴方達は、喧嘩を売る相手を間違えたのよ」

「ど…どういう事だ…?」

「私達ならいざ知らず、貴方達はあろうことか、伝説の赤龍女帝を敵に回したのよ」

「「せ…赤龍女帝!?」」

 

あ、やっぱり堕天使達の間でも、その中二病全開の異名で呼ばれてるのね…。

 

「あ…あの…大戦の最中…アザゼル様を救ったとされる…伝説の戦士…!」

「そ…そんな…!私達は…堕天使全体の大恩人に喧嘩を売ってしまったんスか…?」

 

ええっ!?そんな事になってんの!?

あのおっさん!この子達に何を吹き込んだのさ!?

 

堕天使達が私と、私の左腕についた籠手を交互に見ている。

 

「お前達に聞きたいことがある」

「な…なんでしょうか!?」

「何なりとお聞きください!」

 

おい、急に態度が変わりすぎだろ。

 

「レイナーレとアーシアは何処にいる?」

「レ…レイナーレ様はともかく、なんでアーシアまで…?」

「アーシアさんは、私とマユさんの大事なお友達です」

「「ええっ!?」」

 

さっきから驚きっぱなしだな。

疲れないのか?

 

「や…ヤバいっスよ……カラワーナ…!赤龍女帝の友達に手を出したとばれたら……」

「成り上がるどころの話じゃない!間違いなく処刑だ!!」

 

手を出す…だと?

 

「どういう事だ?」

「じ…実は……」

 

このゴスロリの堕天使……ミッテルトの話によれば、今まで下級堕天使として虐げられてきたレイナーレは、アーシアの神器を取り出して自分の物として、周囲の連中を見返すと同時に、憧れているアザゼルに少しでも近づこうとしている…らしい。

 

初めて会った時、自分の事を『至高の堕天使』と言っていたのは、こういう訳だったのか…。

 

自分が成り上がった暁には、自分の事をそう言う風に呼ばせるつもりだったんだろう。

けど……

 

(それは単純に黒歴史になるだけだぞ…)

 

後で悶絶するのは自分だぞ?

 

『だとしたら非常に不味いぞ!奏者よ!』

「ネロ?どういう意味だ?」

『基本的に神器とは所有者の魂と直結しているのだ!もしも神器を人為的に取り出されたら……』

「アーシアが…死ぬ…?」

『神器を取り出す儀式にはそれなりに準備がいる為、まだ大丈夫かもしれんが、急いだほうがいい事には変わりないぞ!』

 

くそ…!

流石は神様の贈り物って事かよ!

 

「リアス!朱乃!」

「分かってるわ、お姉ちゃん!」

「ここは私達にお任せください」

 

頼もしいよ…全く!

 

「白音!祐斗!」

「「はい!」」

 

二人は力強く頷いてくれた。

 

「カラワーナとミッテルト…だったな?」

「は…はい!」

「赤龍女帝に名前を憶えられた…」

 

そこ感動するところ?

 

「自分達がしたことに後悔はあるか?」

「そ…それは……」

「私は……」

 

二人は顔を伏せて、悲しそうな顔をしている。

どうやら、罪悪感はあるようだな。

 

「…早まった真似だけはするなよ」

「「……!!」」

「後悔の念があるのなら、生きて償う事を考えろ。きっと、アザゼルさんもそう望んでいる」

「アザゼル様が…?」

「私はアザゼルさんに今回の事件を『解決』して欲しいと直接頼まれた。その際、彼は一言もお前達を『始末しろ』とは言っていない。この意味が分かるか?」

「それは……」

「アザゼルさんは、お前達に償いのチャンスを与えようとしているんだ。彼の想いを無駄にしないでくれ」

「ア…アザゼル様……」

「すみません……すみません……」

 

とうとう二人が泣き出してしまった。

これなら大丈夫かもしれない。

 

私は泣いている二人を他所に、祐斗と白音と一緒に教会へと向かった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 林の中を走って行き、私達は教会に辿り着いた。

林の中を走るのに神機は少々邪魔な為、途中で籠手の中に収納した。

 

『相棒…』

「分かっている」

 

ここまで来れば、私にもアラガミの気配が感じられる…!

けど、それと同時に……

 

「誰かがいますね…」

「私にも分かります。この扉の向こうから、濃密な殺気が漂ってきますから」

 

まるで、誰かが来るのを待っているかのようだ。

けど、ここで立ち止まるという選択肢は無い。

 

『奏者よ。分かっておるな?』

「うん」

 

人に神機は使わない。

だから、やるべき事は一つ。

 

「頼む」

【Saber!】

 

籠手から音声が発せられる。

次の瞬間、私の髪が金色に染まり、後頭部に髪が纏められる。

そして、頭頂部からくせっ毛がピコンッと飛び出る。

最後に、私の右手に深紅に染まった炎を模った剣が握られた。

 

「先輩の髪が…!」

「それに、その剣…。それが、ネロさんの力なんですね?」

『その通りだ!これこそが余の至高の作品!隕鉄の鞴…原初の火(アエストゥス・エストゥス)である!』

 

これがネロの剣…!

いい具合だ。

 

私は正面を向いて、手に持った剣でズタボロになった木製の扉を切り裂いた。

 

扉は相当に脆くなっていたようで、簡単に崩れ去った。

 

「きっと来ると思ってたぜぇぇぇぇぇぇぇ~?お嬢ちゃぁぁぁぁぁぁん?」

 

そこにいたのは、白髪に白い服と言った、全身が真っ白な若い神父だった。

年の頃は私達と同い年か少し上ぐらいか?

 

「テメェらの魂胆は分かってるぜ?可愛い可愛いアーシアちゃんを助けに来たんだろ?けぇぇどぉぉぉぉ……」

 

神父は素早い動作で私に向かって銃を向けた。

 

「そうは問屋が卸しませえぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

すぐさま引き金が引かれるが、私には丸見えだった。

 

「ふん」

 

横に一閃すると、銃弾は私に当たることなく真っ二つになった。

 

「なっ!?そんな両手剣で銃弾を斬るとか有り得ないんですけど!?大人しく撃たれろや!!」

「絶対に嫌」

 

私はアイツの懐に飛び込むために全力で走った。

神父は近づけさせないように銃を撃ち続けるが、私は『左手』で飛んでくる銃弾を全部掴んだ。

 

「んなっ!?銃弾を斬った次は掴むのかよ!?テメェ本当に人間か!?」

「一応な!!」

 

あっという間に懐に潜り込むことに成功した私は、原初の火で彼の銃を破壊した。

 

「ちっ!ざっけんな!!」

 

懐から光る剣を取り出して斬りかかって来るが、私は何もしなかった。

何故なら……

 

「させないよ!!」

「て…てめぇぇぇ!!!」

 

裕斗が背後からやって来ていて、すぐに攻撃出来るようにに構えていたからだ。

その手には黒い剣が握られていた。

 

「なっ!?俺様の剣が!?」

光喰剣(ホーリー・イレイザー)。文字通り、光を喰らう剣だよ」

 

わぉ……そんな剣を持ってたんかい。

 

「やるな、祐斗」

「先輩ほどじゃありませんよ」

「戦闘中にイチャついてんじゃねぇぇぇぇぇっ!!!」

「男の嫉妬は見苦しいよ!!」

 

なんか生き生きしてるな…。

 

「ここは僕に任せてください!」

「わかった!頼んだぞ!」

 

私は白音と目配せをする。

 

すると、地下から聞き覚えのある声の悲鳴が聞こえた。

 

「キャァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」

「っ!!この声は!?」

「急ぎましょう!!」

『二人共気を付けろ!恐らく地下にアラガミがいるぞ!!』

 

よりにもよって、地下空間に現れるとか…!

しかも、そこにはアーシアがいるんだぞ!!

 

焦る気持ちを全力で抑えながら、私は白音と一緒に地下へと急いだ。

 

アーシア!今行くぞ!!

 

 

 

 




セイバーモード初登場。

そして、フリードは今のところはいいとこ無し。

けど、こいつも徐々に……?

さぁ、アーシアとレイナーレの最後のフラグを建てる時が来た!!

では、次回。


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第27話 私が君の希望になる

アーシア救出回になりますが、そう簡単には行かせませんよ~。

ドライグが言っていた通り、今回もアラガミが登場する予定ですが、

果たして何が出てくるのやら…?


 アーシアの悲鳴を聞いて、私と白音はダッシュで地下空間へと向かった。

随分と階段が長いが、気にせず走る。

 

「扉があります!」

「蹴破る!!」

 

私達は一緒に足で木製のドアを蹴破った!

 

扉の向こうに広がっていた光景は……

 

「うぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」

「た…助けてくれぇぇぇぇぇェッ!!」

「レ…レイナーレ様ぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

黒いローブを着た連中が大勢いて、オウガテイルに襲われていた。

 

「こいつらは…」

「多分、堕天使を信仰している連中です。アーシアさんの儀式をするために集まったんだと思います」

 

確かに、石畳の床には赤い線で魔法陣のような物が書かれている。

私はそっち方面はからっきしだから、全然分かんないけど。

 

「……!マユさん!あそこに!!」

 

白音が指差した所には、十字架に拘束されたアーシアがいて、その傍には必死にオウガテイルを追い払おうとしているレイナーレがいた。

レイナーレの格好は最初に会った時と同じボンテージだった。

 

「なんなのよ!こいつらは!?」

 

光の槍で応戦しているように見えるが、全然ダメージを負わせられていない。

そりゃそうだ。

そんなもんでアラガミを倒せれば、誰も苦労しない。

 

余程必死なのか、侵入者である私達には全く気が付いていない。

 

「白音、分かっているな?」

「はい、手筈通りに」

 

作戦はシンプルだ。

私がアラガミ達を引き寄せて、その間に白音がアーシアを救出する。

白音の能力なら、アラガミはともかく、下級堕天使に後れを取る事はないだろう。

 

私は原初の火を収納して、神機を再び出す。

組み合わせはロートアイアン(ショートブレード)レイジングロア(アサルト)イオニアンガード(バックラー)だ。

この狭い空間なら、これがいいだろう。

 

「では……行くぞ!!」

 

私は全力で神機を床に叩きつけた!!

 

大きな金属音が周囲に響き渡る。

すると、全てのオウガテイルが一斉にこちらを向く。

 

「数は……」

 

騒ぎのせいで多くいるように見えたが、実際には5匹しかいない。

 

黒ローブの男達は、その殆どが死んでいるか、瀕死の重傷を負っている。

 

「ア…アンタは!?」

「マ…マユさんに白音さん!?」

 

オウガテイルの動きが止まったせいで、二人共こっちに気が付いた。

 

「アーシア!助けに来たぞ!!」

「マユさん……マユさん……」

 

余程怖かったのか、アーシアは外聞も無く泣きじゃくっている。

 

私は神機を銃形態にして、一番近くにいるオウガテイルに照準を合わせる。

 

オウガテイルは息を荒くしてこっちを見ている。

 

そして、オウガテイルに向かってオラクル弾を撃ち放つ!!

 

「行け!!白音!!!」

「はい!!」

 

私の攻撃と同時に白音が全力で走り出す!

 

銃撃はオウガテイルの顔面に直撃し、一発で沈黙する。

それが合図になるようにして、残りのオウガテイルが一斉に向かって来た!

 

「はぁっ!!」

 

進行方向にいるオウガテイルを、猫又特有の高い身体能力で回避していく白音。

その動きは見事の一言だった。

 

いつの間にか、白音の頭には猫耳が、スカートからは二本の尻尾が見えていた。

どうやら、無意識のうちに本気モードになっているようだ。

なら、私もそれに応えなくちゃな!!

 

私は神機を近接形態に変えて、向かってくるオウガテイルを迎撃する。

 

「まずは!」

 

目の前に迫ったオウガテイルに向かって五連撃!

死亡を確認すると同時に、次の獲物を見る。

 

『相棒!!』

「マユさん!!」

 

ドライグとアーシアの叫びが重なる。

 

ふと、私に影が迫っているのを感じた。

見上げてみると、二匹のオウガテイルが大きくジャンプしてこっちに攻撃を仕掛けようとしていた。

涎を垂らしながら大顎を開けるアラガミを見て、私は冷静に次の攻撃を考えた。

 

「そう…来るのなら!!」

 

大きく上半身を捻って、全力で横一閃!!

 

「これでぇぇぇぇぇっ!!!」

 

空中で真一文字に斬られたオウガテイル二匹は、真っ二つになりながら床に叩きつけられた。

 

『奏者よ!ラス1だ!』

「分かっている!!」

 

最後のオウガテイルが破れかぶれと言わんばかりに突撃してくる。

けど、最早そんな攻撃には当たらない。

 

アドバンスドステップで回避し、攻撃終わりの隙を狙ってライジングエッジ!!

 

「邪魔だっ!!」

 

顔を斬りつけられながら吹っ飛ぶオウガテイル。

そのまま壁に激突し、息絶える。

 

最後の奴を倒したことを確認した後、白音の方を見る。

 

どうやら、無事に白音はアーシアの所についたようで、呆けているレイナーレを他所にアーシアを十字架から降ろしていた。

 

ホッと一息ついた私は、三人の元に行く。

 

「怪我は無いか?アーシ「マユさん!!」…!?」

 

私が言い終わる前にアーシアが私に抱き着いてきた。

 

「怖かった……怖かったです……」

「アーシア……」

 

こうして触れているとよく分かる。

彼女の身体は物凄く震えている。

堕天使によって命を奪われそうになり、しかも、そこにアラガミの強襲。

怖くない方がおかしい。

寧ろ、今までよく頑張ったと褒めてあげたい。

 

私は神機を仕舞って、優しく彼女を抱きしめた。

 

「もう大丈夫だ。私がいる」

「はい……はい……」

「これから先、例え何があっても、必ず私が君を助けるよ」

 

まだ泣き止もうとしないアーシア。

恐怖心が取れるには、それなりの時間が掛かるか…。

 

「私が……君の『希望』になる」

 

神機使いは、人類の守護者であり、希望そのものだからね。

 

私は次にレイナーレの方を見る。

 

「な…なんでいるのよ……」

「話は外の二人に聞いた」

「…!カラワーナとミッテルトね…?」

「ああ。だが、私はお前の言葉で聞きたい」

「……っ!?」

 

なんでそんなに驚く?

私は単純に事情が聴きたいってだけじゃん。

 

「わ…私は…私は……」

 

俯いて体を震わせるレイナーレ。

どうやら、今まで溜め込んでいたものが吹き出ようとしているな。

 

「私は!あいつらを…私達を見下してきた連中を見返してやりたかったのよ!!アンタに解る!?下級堕天使ってだけで馬鹿にされて!暴力を振るわれて!迫害までされて!力の無い私達はこうでもしないとやっていけないのよ!!!」

 

レイナーレ……お前は…。

 

「こうでも…こうでもしないと!あの方の…アザゼル様の寵愛なんて永遠に受けられないじゃない!!!」

 

いつの間にか涙まで流していた彼女を見て、流石に説教染みた事は言えなくなった。

 

「お前の気持ちはよく分かる……なんて、安易な慰めは言わない。けど、アザゼルさんは決してお前達の事を見ていない訳じゃない」

「嘘言うんじゃないわよ…」

「嘘じゃない。今回の一件、彼は私に解決を依頼してきたんだ」

「な…なんですって!?」

 

見事なリアクション、あざーす!

 

「あの人はすぐにお前達の動きに気が付き、私に言ってきたんだ。なんとかして欲しい…とな。ここは悪魔であるリアスが管理している土地だ。アザゼルさんは『悪魔に借りを作りたくはない』と言っていたが、きっと本音は、君達の事をなんとかして助けたかったんだと思う。もしも、お前達がこのまま悪魔達に捕縛されれば、間違いなく殺されるだろう。だから、可能な限り犠牲者を出さない為に中立である私を頼って来た…という訳だ」

 

もう犠牲は出ちゃったけどね。

主にこの黒ローブの連中が。

けど、こいつらはある意味因果応報でしょ。

だって、金髪美少女を狙う大勢の黒ローブの男達なんて、私的にも死刑だし。

ま、私の場合は直接殺すんじゃなくて、『男の尊厳』を殺すけどね。

 

「ア…アザゼル様が……私達の事を…?」

「確かにお前がしたことは許されない。だが、だからこそ、生きて罪を償うんだ」

「あ…ああぁ……あぁぁぁ……」

 

とうとうレイナーレはその場に座り込んでしまった。

 

「白音。アーシアを頼む」

「分かりました」

 

アーシアを白音に預けると、私はゆっくりとレイナーレに近づき腰を低くした。

 

「お前もお前で今まで大変だったんだろう。今ぐらいは思いっきり泣け」

「あああぁぁぁぁあああぁぁぁぁあああぁぁぁあああぁぁぁ~~~~!!!!!」

 

近づくや否や、すぐさまレイナーレは私に抱き着いて来て思いっきり泣いた。

 

私は敢えて、そのままにしておいた。

 

「なんでよ……ひくっ……なんで…アンタはそんなに優しくて……強いのよ……」

「マユさんが強いのは当たり前です。だって、この人は現代の赤龍帝にして、伝説の戦士『赤龍女帝』なんですから」

「「えええぇぇぇぇええぇぇぇっ!?」」

 

なんでここで言うかな…。

黙ってれば、唯の優しいお姉さんで通せたのに…。

 

「マ…マユさんがあの教会に伝わる救世主様なんですか!?」

「きゅ…救世主?」

 

一体、教会には何て伝わっているんだ…?

 

「天使様達が危機に陥った時、何処からともなく空から降りてきて、赤い龍を従えて異形の怪物達を倒した…と」

 

あ~…そう言えば、あの時ってサーゼクスさんやアザゼルさんの他にも、なんか天使っぽい人がいたっけ。

もしかして、あの人が色々とある事ない事を布教していったのかな…。

 

『…ある意味、正解だな…』

「今の状況はね」

 

実際、私は赤龍帝になってるし。

 

「堕天使側も似たようなものよ。今や貴女は、全ての堕天使達の恩人的な立場になってるわ」

 

そう言えば、さっきの二人組もそんな事を言ってたな…。

くそ…!私が知らない所で、伝説だけが独り歩きしていく…!

 

「ところでマユさん。その髪は一体…」

「ああ。これは……」

 

私がこの髪について説明しようとした時、白音が割り込んできた。

 

「説明もいいですけど、そろそろ行きませんか?部長達を待たせているかもしれません」

「そうだな」

 

裕斗もあの神父と戦っていたしね。

まだ戦り合っているのなら、助太刀しなくては。

 

「じゃあ、行こう」

 

私は条件反射的にレイナーレを横抱きにしてしまった。

 

「ちょ…ちょっと!?私は一人で歩けるわよ!」

「ついでだ」

「ついででなんでお姫様抱っこなのよ!?」

 

いいじゃん別に。

なんとなくだよ、なんとなく。

 

「お姫様抱っこ…」

「なんであの人が……」

 

こらそこ、恨みがましくこっちを見ない。

 

こうして、無事にアーシアを救出出来た私達。

 

だが、この時の私は完全に失念していた。

 

教会に来る前にドライグが言っていた言葉を……。

 

そう、ここにいるアラガミはアイツ等だけではなかったのだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 上に上がると、疲れた様子の裕斗が出迎えてくれた。

 

「先輩!無事だったんですね!」

 

自分も疲れているだろうに、元気よくこっちに駆け寄ってくれるなんて。

嬉しいじゃないの。

 

こっちに来た裕斗は、アーシアとレイナーレを交互に見た。

 

「…終わったんですね?」

「ああ」

「よかったですよ。本当に…」

「木場先輩。さっきの神父は何処に?」

「自分が不利になると、閃光弾を使って逃げてしまったよ」

「そうか…」

 

ちゃんと引き際を弁えているあたり、性格に反してただ者じゃないようだな。

 

「あのバカ…!雇い主の私より先に逃げるって有り得ないんですけど!」

「雇っていたのか?」

「そうよ。あの男とはギブアンドテイクの関係でしかないわ」

 

結構サッパリとしてるのね…。

 

「あ!お姉ちゃん!」

「御無事でなによりですわ」

 

どうやらリアス達も来たようで、入口の所に立っている。

傍には、さっきの堕天使娘達もいた。

 

「って!なんでお姫様抱っこなんてしてるのよ!?」

 

あ、ヤベ。

 

本能的に危機を感じた私は、咄嗟にレイナーレを降ろした。

その際、ちょっとだけ寂しそうにしていた。

 

「二人の元に行ってやれ」

「う…うん」

 

レイナーレは二人の元に走って行った。

 

それと入れ替わるようにしてリアス達がこっちに来た。

 

「その子が例のシスター?」

「そうだ」

 

リアスがアーシアと向き合う。

 

「初めまして。リアス・グレモリーよ」

「は…初めまして…。アーシア・アルジェントです…」

 

完全に畏まっているな。

ま、初対面なんだから、仕方ないか。

 

「で?あの三人はどうすればいいのかしら?」

「そうだな……」

 

なんとかしてあの三人をアザゼルさんに引き渡さないといけないけど……。

電話でもするか?

 

そんな呑気な事を考えていると、急に覚えのあるプレッシャーが私を襲った。

 

「なっ…!この感覚は…!」

『相棒!来るぞ!』

「お…お姉ちゃん?どうしたのよ?」

「来るって…何がですか?」

『決まっている!アラガミだ!!』

 

ドライグが叫んだ瞬間、教会の天井が崩れ去った。

 

「……っ!皆!教会の外に出ろ!!」

 

次の瞬間、全員が弾かれるようにして外に出た。

 

すると、大きく空いた教会の天井の穴からゆっくりと一体のアラガミが現れた。

 

上半身は人型をしているが、下半身が完全に異形と化している。

 

その頭とスカート上の器官から覗く大きな眼がこちらを見ている。

 

「お…お姉ちゃん……まさか…あれも…?」

「ああ。アラガミだ…」

「そんな…!見た目は殆ど人ですのに…!」

 

全く…!教会にこいつが出てくるなんて…!

 

「皮肉と言うレベルじゃないな…!」

 

そうだろう?

 

「サリエル!」

 

私が名を叫んだ途端、全員がこっちを見た。

 

「サ…サリエル!?それって天使の名前じゃ…」

「その通りだ。アラガミは古今東西の様々な神々や神話に登場する存在の名を冠しているんだ…!」

「そうだったんですね…!」

 

オカルト研究部の皆はすぐにでも動けるようにしている。

一方の堕天使達は……

 

「ちょ…ちょっと!?明らかにヤバい雰囲気バリバリなんスけど!?」

「ど…どう考えても、勝てる雰囲気じゃない…」

「で…でも、下手に逃げて追いかけられたらアウトだし…」

 

頼むから、下手な動きだけはしないでくれよ…堕天使三人娘。

 

「って…あれ?なんかアイツ、口に黒い物を咥えてないっスか?」

「なに?」

 

ミッテルトの言う通り、サリエルの口付近を見てみると、確かに何かを咥えている。

あれはなんだ?

なんだか羽っぽく見えるけど…。

 

唐突に風が吹き、サリエルの口から黒い羽らしき物が落ちた。

そのまま風に乗ってこっちまでやって来た。

 

「こ…この羽は!」

「ま…まさか…!」

「ドーナシーク…なの?」

 

ドーナシーク?

誰それ?

 

「周辺の見張りに行ってから姿が消えたと思ったら…」

「アイツに食べられちゃったんスか…?」

 

おいおい…マジですか?

ここに来るまでに堕天使を捕食って…。

 

「マユさん。それってつまり…」

「アイツには…いや、アラガミと言う存在にはもう、『光の力』は通用しなくなった…と言う事になるな」

 

これであいつは光に対する耐性を完全に身に着けた。

奴等は更に賢くなったという事か…!

 

「にしても…空中浮遊するアラガミなんて……」

「お姉ちゃんには圧倒的に不利ですわ…!」

 

普通はね。

けど、あいつとは何回も戦ってる。

攻略法は完全に頭に叩き込んであるよ。

 

『その時こそ余の出番だ!!』

「ネ…ネロ?」

 

いきなりどうした?

 

『余のスキルを使えば、空中浮遊など朝飯前よ!』

「で…出来るのか!?」

『当然であろう!しかし、それには条件がある!』

「じょ…条件?」

『うむ!その条件とは……』

 

もったいぶるなよ!

サリエルが動き出しちゃうよ!

 

禁手化(バランス・ブレイカー)状態になる事だ!』

「禁手化…!」

 

神器の奥の手……あれを使えというのか…。

 

正直言って、使わなくても倒せるけど。

でも……

 

(ネロの好意を無駄にはしたくないしなぁ…)

 

したらしたで拗ねそうだし。

 

仕方ない!

 

「了解した。頼むぞ」

『余に全て任せるがよい!』

『それが不安なんだがな…』

 

ドライグ、分かってても言うなって。

 

『では…ゆくぞ!!』

 

果たして、どんな姿になるのやら…。

 

変な格好じゃありませんよーに!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まだまだ終わらないアーシア編。

次こそ最後にしたい……と思う。

そして、今回の事で完全にアーシアとレイナーレのフラグを回収しました。

晴れてハーレムの仲間入りです。

では、次回。


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第28話 死の天使

序盤のクライマックスとも言うべき、VSサリエル戦です。

これからも、各章のクライマックスには大型アラガミとの戦闘を組み込もうと考えてます。

良かったら、皆さんも『この話の最後には何が出てくるかな~?』と予想してみてください。






 突然出現したサリエルに対し、ネロの言う禁手化をすることになった私。

 

改めて思ったんだけど…それってオーバーキルじゃない?

 

(今、初めてアラガミに同情したぞ…)

 

せめて、一思いに倒してあげよう。

 

『では、よいか!奏者よ!』

「あ…ああ!」

 

ええい!もうこうなったらなるようになれだ!

 

『奏者よ、精神を集中させて、余とドライグに同調するのだ!』

「わかった」

 

なんて言ってますけど、実際はさっぱり分かりません。

 

けど一応、精神集中だけはしておこう。

その間にサリエルが襲ってこないのを祈るけど。

 

「お姉ちゃん…」

「先輩…」

「「マユさん…」」

 

皆が心配そうに見守る。

そんな顔をされたら、嫌でも頑張りたくなるじゃない!

 

『む?心なしか奏者の闘気が増幅したように感じたが?』

『確かに相棒の闘気が増しているのを感じる。これならば…』

『うむ!行けるぞ!!』

 

その時、私の体内から何かが吹き出るのを感じた。

まるで、純粋な『力』そのものが溢れ出るような…そんな感覚だ。

 

私は、本能に従うように叫んでいた。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

そして、その瞬間は訪れた。

 

【Welsh Dragon Saber Balahce Bleaker!!!】

 

籠手からいつもとは違う音声が聞こえた後、私の身体は深紅の光に包まれた。

その光は徐々に増していき、同時に体に何かが装着されていく感覚があった。

 

いきなりの変化に警戒心を増したのか、サリエルは私にホーミングレーザーを撃ってきた。

 

「マユさん!!」

 

アーシアの叫びが聞こえるが、それを気にする余裕はない。

 

深紅の光にレーザーは阻まれて、私にダメージは無かった。

 

「き…効いてない!?」

 

原理は分からないけどね。

 

そして、変化が完了したのか、光が収束していった。

 

そこから現れたのは……

 

「こ…これは…!?」

 

私の身体は深紅のドレスに包まれていた。

胸の部分は大きく開かれていて、籠手はそのまま装着してある。

腹部や二の腕、首の部分も龍の鱗を模した深紅の装甲に包まれていて、緑色の宝玉が埋め込まれている。

それは脚部も同様で、膝の辺りまで覆われた深紅の装甲があり、両膝の部分に他と同様の緑の宝玉が埋め込まれていた。

しかも、耳にはご丁寧にイヤリングまでついていて、勿論緑の宝玉だった。

髪は赤いリボンで結ばれていて、なんでか可愛らしさを演出していた。

だが、問題はそこじゃない。

そう…一番の問題は……

 

「なんで前が透けているんだ……」

 

スカートの前方部分が何故かシースルーになっていて、丸見えになっているのだ!

しかも、なんか後ろがスースーするし。

 

「お…おおおおおおお姉ちゃん!!!」

 

リアスが滅茶苦茶狼狽えた声を上げている。

ふと、後ろを見てみると……

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

鼻血を出している皆がいた。

流石にアーシアは出していないが、それでも顔を真っ赤にしていた。

 

「お…お姉ちゃん!お…お…お…」

 

お?なによ?

 

「お尻が見えてるのよ!!」

「なにっ!?」

 

咄嗟に腰の部分に手を当ててみる。

すると……

 

「あ……」

 

確かに、尻が出ている……。

全部じゃないけど、これは半ケツ状態になってる…!

 

そうと分かると、急に羞恥心がMAXになった。

 

「ネ…ネロ!これはなんだ!?」

『余が生前着ていた舞踏着と言う名の男装だ』

「「「「「「「「「男装!?」」」」」」」」」

 

これのどこが男装だ!?

これじゃあ唯の痴女じゃないか!?

 

『嫌な予感が当たったか…すまん』

 

いや…今回はドライグに非は無いよ。

 

こうなるなら、やっぱりあのままで戦っておくべきだった…!

後悔先に立たずとはまさにこの事か…!

 

『奏者よ!恥ずかしがっている場合では無いぞ!』

「え?」

 

どうやら、このコントに痺れを切らしたらしく、先程まで様子見を決め込んでいたサリエルが本格的な攻撃態勢に移行していた。

 

「くっ…!」

 

こうなったら、格好に拘っている場合じゃないか!

少なくとも、水着よりはマシだ!

 

私は咄嗟に構えて神機を出す。

組み合わせはオウガテイルと戦った時と変わっていない。

 

『よし!ここで余のスキルを使うぞ!』

「スキル?」

 

そう言えば、さっきもそんな事を言っていたな。

何をする気なんだ?

 

『【皇帝特権】である!!』

 

ネロがいきなり叫んだかと思ったら、背中に違和感を感じた。

ちょっと見てみると、背中から三対の黒い羽が生えていた。

 

「え…えええっ!?」

「お姉ちゃんの背中から…」

「堕天使の翼が生えた!?」

 

なんじゃこりゃ…!?

 

『これが余のスキル『皇帝特権』である!』

「皇帝特権?」

『余が主張すれば、それだけで本来持ちえない能力を短時間のみだが獲得出来るのだ!』

「チ…チート…!」

 

なんだよ!?その化け物染みたチートスキルは!?

幾らなんでも反則だろ!?

 

『今回はそこにいる堕天使の娘達が持つ飛行能力を拝借した!』

「それでお姉ちゃんに翼が生えたのね…」

『何故三対になったかは分からんがな!はっはっはっ!』

 

何処からツッコめばいいのやら…。

 

『相棒!サリエルのレーザーが来るぞ!』

 

そうだった!

いつまでもネロとコントをしてる場合じゃなかった!

 

「皆!出来る限り離れてくれ!こいつは毒の鱗粉を使用する!下手に近づいたら危険だ!」

 

『毒』と聞いた途端、一気に皆が離れた。

うん、素直な事はいいことだ。

 

「ならば…!」

 

私はやって来たレーザーを神機で切り裂いた。

 

「行くとしようか!」

 

漆黒の翼を羽ばたかせて、空中に浮いた。

人生二度目の空中戦があるとは思わなかった…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 こちらが空中に浮いた事を見たサリエルは、私に向かって直線突進をしてきた。

だが、こちらの機動力は大幅に向上している。

そんな直線的な攻撃に当たる道理はない。

 

私もサリエルに突撃し、すれ違いざまに三回斬った。

 

「は…早い!」

 

裕斗から見ても早かったのか、声を上げて驚いている。

自分的には普通にしているつもりなんだが。

 

私達は移動の終わりと同時に振り向き、攻撃態勢に入る。

サリエルはレーザーを撃とうとし、私は神機を銃形態に変形させた。

 

サリエルのホーミングレーザーが複数飛来するが、それを回避しながら銃撃戦を演じる。

 

教会の中で、私達はまるでSF映画さながらの空中戦をしていた。

 

アサルトの銃身は連射機能に優れている為、こういった時にはうってつけだ。

事実、こうして縦横無尽に飛んでいても、かなりのバレットが命中している。

勿論、Oアンプルで回復することも忘れない。

 

互いに攻撃が一旦途切れた瞬間、私は神機を近接形態にしてから切り込みを掛けた。

だが、サリエルはそれを読んでいたのか、すぐさま高速光壁を展開した。

奴があれを展開している間は、私もサリエルも身動きが取れない。

だが、光壁の威力で教会の天井が完全に破壊され、空が丸見えになった。

 

光壁が消えるまでの間、私は息を整えながらスタミナを回復させていた。

 

「な…なによ…あれ……」

「あれが…赤龍女帝の戦い…!」

「凄すぎっス…!見た目は完全に私達と同じ堕天使なのに…次元が違いすぎるっすよ…」

 

なんか…堕天使三人娘が驚いてるんですけど。

私の戦いを始めて見る人って皆こんなんだよなぁ~。

 

光壁が消えると、サリエルは大空へと飛び出した。

 

「ちっ!面倒な事を!」

『任せろ!』

 

阿吽の呼吸と言うべきか、ドライグはすぐさま周囲に認識阻害の結界を張ってくれた。

これで、思う存分に戦える!

 

私もサリエルを追って空に飛びだす。

 

ここからが本番と言わんばかりに、サリエルもホーミングレーザー撃ち、その後に間髪入れずリフレクトレイを発射した。

ホーミングとは違い、何回も軌道を変化させるため、かなり避けづらい。

しかも、今回はホーミングのおまけ付き。

 

だが、今の私は自由に動ける翼がある!

回避は容易に出来る!

 

レーザーが命中する直前に起動を逸らし、同時に来る他のレーザーは剣で斬ったり装甲を展開したりして防ぐ。

 

そのままの勢いで突進、スカート部分を斬りつけた。

すると、その一撃でスカートの部位破壊に成功した。

 

「よし!」

『油断するな!活性化するぞ!』

 

んな事は分かってるつーの。

 

大きく体を広げ、活性化をアピールするサリエル。

 

すると、いきなり5本の光線を光線を拡散して発射するスプレッドレイを発射した。

下手に避ければ却って危険だ。

ここは堅実にガードでやり過ごそう。

 

装甲を展開し、光線を防ぐ。

だが、防御の衝撃が止んだ途端、サリエルが再び突進してきた。

そのままガードで防いだが、その勢いに負けて後退してしまった。

 

「くっ…!」

 

反射的にサリエルを蹴飛ばして間合いを取る。

同時に銃形態にしてからバレットを発射。

空中では受け身が出来ない為、そのまま命中した。

そして、再び空中での射撃戦が始まった。

 

だが、今回は前回とは違った。

サリエルも知恵を絞ったのか、動くと同時に所々に光球を設置している。

 

「あれは…!」

 

時限式の光線発射装置。

しかも、あれの破壊は不可能と来ている。

 

着実にダメージは与えてはいるが、なんだか追い詰められている感が否めない。

 

「ならば!」

 

私はバレットを連射しながら突貫、身動きを封じていく。

そして……

 

「はぁっ!!」

 

サリエルに近づいた途端、近接形態にしてから両足を切り裂いた!

更に、サリエルを追い越した後で振り向き、再び銃形態にして後ろからバレットを連射してやった!

この連続攻撃で両足の部位破壊も成功した。

 

「あと1か所…!」

 

最後は頭部だ。

 

だが、安心したのも束の間、先程まで設置してあった無数の光球から一斉に光線が発射された!

しかも、サリエルまで同時にホーミングレーザーを撃ってくる始末。

 

「くそっ!」

 

流石に、この光線の雨を躱しながらの攻撃は難しい為、私は回避に専念することにした。

刀身で斬ったり、装甲で防いだりしてなんとかダメージは受けなかったが、いつの間にかホーミングレーザーの一本が私の背後に迫っていた。

 

「しまっ…!」

 

言い終わる前にレーザーは私の背中に命中。

細いレーザーとは言え、アラガミの攻撃故にその威力は高い。

たとえ慣れていても、痛いものは痛い。

 

だが、今更叫び声をあげるようなことはしない。

 

「く…くそっ!!」

 

瞬時に籠手から回復剤を取り出して口に入れ、神器を銃形態に移行、そのままの流れでサリエルに狙いを定める。

 

「お返しだ!!」

 

奴の頭部を狙って全てのOPを使い切る勢いで撃ちまくる!

最後の一発を撃ったところで頭部が破壊された。

 

「これで止めだ!」

 

OPが無くなったから、当然近接形態に変形させる。

お約束のように突撃、だが、サリエルはそれを迎撃する為にスカートを広げて毒鱗粉を放った。

 

「今更!そんなものが効くか!!」

 

こんな事もあろうかと、密かに毒無効の強化パーツを装着していたのだ!

故に……

 

「私に毒は効かない!」

 

という訳である。

 

ダメージはあるが、そのまま毒鱗粉の中をくぐり抜けて、サリエルの胴体部に刀身を突き刺す!

 

「終わりだ!!」

 

そこから捕食形態にしてから、一気に牙を突き立てる!

そして、その場で全身を大きく回転させて勢いをつけてから、地面に投げつけた!

 

「落ちろ!!」

 

眼下にある教会の床に叩きつけられたサリエルはファンブルを起こしてふらつく。

そこに急降下して神機をその頭にブッ刺した!

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

それが文字通りの止めとなったようで、サリエルは呻き声を上げながら地に伏した。

 

「倒した…」

 

サリエルの死骸から降りて、いつものようにコアを回収を行う。

 

「これでよしっ…と」

 

コアが無くなったサリエルの死骸は、あっという間に霧散していった。

 

戦闘が終わったと判断した皆は、走って私の所にやって来た。

 

「お姉ちゃん!色々と言いたいことはあるけど、まずは……」

「背中は大丈夫ですの!?思いっきり命中してましたが…」

「心配無い。あれぐらいなら怪我の内に入らないよ」

「で…ですが……」

 

白音が今にも泣きそうな顔でこっちを見る。

そんな彼女を慰めるために、そっと頭の撫でてあげた。

 

「うぅ……このタイミングはずるいです…」

 

そうか?

私にはよくわからん。

 

「私に任せてください!マユさん!」

 

意気揚々と私の後ろに回ると、アーシアが私の背中の怪我を聖女の微笑で癒してくれた。

暖かい光が私をリラックスさせてくれる。

 

「これで大丈夫です」

「ありがとう、アーシア」

「い…いえ…。マユさんがしてくれたことに比べたら…」

 

いやいや、マジで有難いよ?

 

「これが怪我を癒す神器…」

「回復能力の神器とは珍しいですわね…」

「彼女らしい能力と思いますけどね」

 

私も激しく同感。

きっと、アーシアの生来の優しさ故に、この神器が宿ったんだろうね。

ほんと、マジで天使だわ、この子。

 

ホッと安心したら、堕天使の翼が消えた。

 

『どうやら時間切れのようだな。時間内にサリエルを倒せて何よりだ』

 

結構時間はギリギリだったのね。

中々に新鮮な体験だったけど。

 

「さて、これからどうする?」

「まずはアーシアを保護しないとな」

「じゃあ、ウチに来て貰ったらどうですか?」

「いいの?」

「いいですよね?マユさん」

「勿論だ。断る理由が無い」

「だ、そうです」

 

私と白音はアーシアを見ながら話した。

 

「い…いいんですか?」

「勿論と言った。今日は本当に色んな事があった。ゆっくりと休んで、心身共に回復してから今後の事を決めていけばいい」

「あ…ありがとうございます…」

 

あらら…また大粒の涙を流しちゃったよ。

ま、今まで溜め込んできた分、たっぷりと泣けばいいさ。

それが生きてるって証拠なんだからね。

 

「この3人はどうする気?」

「まずはアザゼルさんに連絡しようと思う」

「もう完全にご近所さんね…。相手は堕天使の総督なのに…」

 

そうかもしれないが、私的には女好きで酒好きなおっさんでしかない。

だからこそ親しみが持てるんだけど。

 

「3人は先に帰ってくれて構わない。報告は後日するよ」

「分かったわ。お姉ちゃんなら大丈夫だものね」

 

リアスは転移の為の魔法陣を展開した。

 

「それじゃあ、お言葉に甘えるわね」

「ああ。お疲れ様」

「それはお姉ちゃんの方ですわよ?」

 

呆れられながら3人は転移していった。

 

「さて、それじゃあ早速…」

 

携帯を出してアザゼルさんに掛ける。

その様子を、3人娘ははらはらとした様子で見ていた。

 

ようやく全ての事件が終わりを告げ肩の荷が下りた気分の私だったが、まさかこの時、遠くで密かにこの光景を見ている者がいるとは、思いもしなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「へぇ~……あれが現代の赤龍帝…か」

『話には聞いていたが…凄まじい強さだな』

「ええ。悔しいけど、今の私では彼女の足元にも及ばないわ」

『ならば、どうする?』

「決まってるじゃない。もっともっと戦って、今以上に強くなるのよ」

『そう言うと思っていた』

「それじゃあ、行くわよ」

『わかった』

(初めての禁手化でありながら、あれ程までに自在に戦うなんて……天才なんて言葉すらも生温いわね…)

「見てなさい。必ず貴女を超えてみせるわ。この…白龍皇がね」

『ドライグよ。次に会う時を楽しみにしているぞ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ようやく最初のイベントが終了です。

次は第一章のエピローグ。

アーシアはなんとなく予想出来るかもしれませんが、レイナーレ達はどうなるのでしょうか?

では、次回。


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第29話 それから

今回で本当にアーシア編は終わりです。

アーシアとレイナーレはどうなるのでしょうか?


 無事にアーシアを救出し、レイナーレ達も確保した。

今回は、その後の事を話そう。

 

サリエルを撃破した後に私は携帯でアザゼルさんに連絡した。

すると、なんと本人が直接、教会にやって来たのだ。

あれには驚いた。

てっきり、誰か使いの人を出すものとばかり思っていたから。

 

それはレイナーレ達も同様だったようで、本人達の方が私よりも驚いていた。

 

アザゼルさんは非常に申し訳なさそうにしていて、レイナーレ達の頭を無理矢理下げさせていた。

特に被害者であるアーシアにはアザゼルさん自身も頭を下げていた。

アーシアの方が却って困っていたけど。

 

その時に聞いたのだが、彼女達にはそれなりに罰を与えるとの事。

『罰』と聞いた時にドキッとしたけど、少なくとも処刑の類はしないと言っていた。

 

アザゼルさんが三人を連れて行った後、私と白音、アーシアは家に帰った。

 

自宅に帰った私達は、黒歌達にアーシアを紹介し、彼女の事情を話した。

彼女は緊張していたが、オーフィスちゃんとレドに話しかけられてリラックスしたようで、最後には笑顔を見せていた。

 

その後に一緒に夕食を食べて、お風呂にも入った。

 

その晩、アーシアはオーフィスちゃん達の部屋に泊まった。

 

次の日は休みだったので、ゆっくりと眠った。

 

そして、次の日……

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 もうすぐお昼に差し掛かろうとしている時間帯。

リビングにて私達はアーシアの今後について話し合っていた。

 

と言っても、もう殆ど結論は出ていたけど。

 

「あ…あの…本当に良いんですか?」

「ああ。私達は何も問題無い」

「それに、私達も同じようなものだし、今更って感じだにゃ」

「そうです。だから、遠慮をしなくてもいいんですよ」

「みなさん……」

 

かなり嬉しかったのか、アーシアは目尻に涙を貯めていた。

 

「アーシア、一緒に住む」

「そうだ!私もその方が嬉しいぞ!」

「オーフィスちゃん…レドちゃんも…」

 

幼女には流石のアーシアも勝てないのか、半ば覚悟を決めたような顔をしていた。

 

「…御迷惑でなければ、お世話になってもいいですか…?」

「「「「「勿論!」」」」」

「…皆さん、よろしくお願いします!」

 

そんな訳で、アーシアもこの家の一員になった。

 

その直後だった。

 

ピンポ~ン。

 

と、インターホンが鳴った。

 

「誰にゃ?」

「私が出よう」

 

一応、家主だしね。

 

私が玄関に行き、ドアを開けると、そこに立っていたのは……

 

「よっ」

「…………」

 

私服姿のアザゼルさんとレイナーレだった。

アザゼルさんはその手にアタッシュケースを持っていた。

 

「な…なんでここに?って言うか、どうやって…」

「今回はコイツについてな。そして、この家は地道に調べた」

 

意外と普通だな。

 

「レイナーレについて?」

「ああ。ちょっくら中に入らせて貰っていいか?」

「ど…どうぞ」

 

なんか、流れ的に家にあげる事になってしまった。

 

一体にしに来たんだろう?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 いきなりアザゼルさん達がやって来たことに、オーフィスちゃんやレド以外の全員が驚いていた。

 

「な…なんでコイツがいるにゃ!?」

「それに、レイナーレも…」

「レイナーレ様…」

 

二人をリビングに通して、椅子に座って貰う。

私も二人に対面するように座った。

 

「今回はな、二つの用事で来たんだ」

「二つ?」

「ああ。まず一つ目は、お前さんに今回の事の礼をしようと思ってな」

 

そう言えば、そんな事を言ってましたね。

 

「お前さんに、こいつをくれてやろうと思う」

 

そう言うと、彼は手に持っているアタッシュケースをドンとテーブルの上においてから、それを開けた。

 

中には、様々な形をしたアイテムが入っていた。

 

「こいつは全部、俺が開発した『人工神器』だ」

「「「人工神器?」」」

 

それって…文字通り、人工的に作られた神器ってこと?

 

「でも、私には既に…」

「それは分かってるって。だから、そこにいるお嬢ちゃん達にやろうと思ってな」

「わ…私達に…」

「これを?」

「おう。きっと、こいつが必要な時がやって来るだろうさ」

 

ま、これからも荒事はあるだろうね。

 

「色々とあるが、好きな奴をくれてやるよ。どれがいい?」

「いきなり言われても…」

「どれがいいのやら…」

 

効果を知らない事にはね…。

 

「これ、なんかいいにゃ」

「お?『風神』を選ぶとはなかなかに目が高いな」

「風神…」

 

なんか、強そうだな。

 

「こいつには風の妖精が封印されてるんだ」

「妖精が?」

「昔、悪戯好きの風の妖精がいた。あまり大ごとにはならなかったが、それでも被害は決して無視出来なかった。それで、俺達の手で何とかしようとしたんだが、結局、こっちの説得に全く応じずに、最終的には捕縛する羽目になった」

 

そうか……色々と大変だな。

 

「捕縛した後もなんとかして悪戯をした理由を聞こうとしたが、全くこっちの聞く耳を持たなかった。で……」

「封印した…と」

「そうだ。俺だって苦渋の選択だったがな」

 

ま、可能であれば封印なんてしたくないよな。

 

「こいつを使えば、風を自由に操れるようになる。試しに付けてみな」

「わ…わかったにゃ」

 

風神は、赤龍帝の籠手と同様に腕に固定するタイプで、黒歌は風神を右腕に装着した。

 

「サイズはピッタリのようだな」

 

装着した瞬間、風神の『風』と書かれた宝玉から光と共にフサフサでモフモフな小っちゃい獣が出現した。

 

「お、出て来たな」

「これが?」

「風の妖精?」

 

てっきり、シルフ的な物を想像してたけど、結構可愛いな。

 

『ふぅ…ようやく出られたよ。ん?』

 

お?なんか黒歌の方を見てるぞ?

 

『風神を付けてるって事は、君が僕のご主人?』

「そ…そう言う事になるのかにゃ?」

『やった!可愛い猫耳の女の子とか、僕的に役得じゃん!』

「お前…もしかして今まで黙秘権を使っていたのは…もしかして…」

『髭のおっさんやむさい連中よりは、可愛い女の子の方がいいに決まってるじゃん。どうやら、この家にはカワイ子ちゃんがいっぱいいるみたいだし』

 

あ、こっちの方を見てる。

 

『それに、伝説の二天龍を宿している美人さんまでいるなんて、普通に面白そうじゃん』

 

び…美人…か。

改めて言われると、なんか照れくさいな…。

 

「それじゃあ……」

『うん。僕はこの子を認めるよ。これからよろしくね、ご主人さま』

「よ…よろしくにゃ」

 

そう言うと、風の妖精は神器の中に戻っていった。

 

『基本的には僕はこの中にいるから』

 

あ、そこはドライグと同じなのね。

 

「まぁ…良かったじゃねぇか」

「私もいいですか?」

「おう。好きなのを選んでいいぜ」

 

白音はじ~っとケースの中を見ている。

 

「この指輪は…」

「そいつは『土星の輪』だな。それには大地の精霊『タイタン』の皮膚の欠片が入っていてな、身に付けるだけで力が増す」

 

シンプルだな。

けど、それ故に強力だ。

 

「なら、こいつも一緒にくれてやるか」

 

そう言ってアザゼルさんがケースから出したのは、『鉄』と書かれた鉛色の球だった。

 

「これは?」

「こいつは『鉄丸』。自身の身体を鋼鉄に変えられる」

「おぉ……」

 

けど、見た感じは唯の鉄の玉だよね…。

 

「この指輪はともかく、この球はどうやって使うんですか?」

「体内に取り込む」

「た…体内?」

「端的に言えば、口から飲み込め」

「の…飲む!?」

 

これを飲めと!?

 

「わ…分かりました…!」

「し…白音。別に無理しなくても…」

「大丈夫です。ちょっと固いチョコ○ールと思えば…」

 

それは無理があるだろ…。

 

「い…行きます…」

 

目を思いっきり瞑って、鉄丸を飲み込んだ。

 

すると……

 

「お?白音よ。額に文字が浮かんでいるぞ?」

「鉄…?」

「白音。肌の色が変わってる」

 

オーフィスちゃんの言う通り、白音の肌の色が浅黒くなっている。

 

「早速効果が出たな。試しに体を触ってみな」

 

白音を触ってみると、冷たく感じた。

 

「これは…鉄?」

「この状態で土星の輪で強化された一撃を喰らわせてみろ。かなりの一撃になるぞ」

 

確かに。

鋼鉄の一撃を喰らえば、ただじゃ済まない。

 

「戻るには頭の中で『戻れ』って念じればいい」

 

白音がそっと目を瞑って念じると、次第に肌の色が戻っていった。

 

「これで、それはお嬢ちゃんの物だ」

「ありがとうございます。有難く頂きます」

 

よかった。

これで二人にも強力な自衛力が出来たわけだ。

 

「んじゃ、次はコイツの事だな」

「は…はい」

 

レイナーレが済まなそうに俯いている。

 

「今回、こいつ等にはある程度の処分を与える事にした」

「処分?」

「まず、ミッテルトとカラワーナにはウチの本部にて働いてもらう事にした。なんでか号泣してたけどな」

 

二人共、単純にアザゼルさんの目に留まったことが嬉しいんだろうな。

 

「レイナーレはちっとばっかし別だ。話を聞いた限りじゃ、お前さんにこいつは二回も命を助けられたらしいな」

「まぁ…一応」

「二回にも渡る命の恩人には、並大抵の事じゃ恩返しにはならねぇ。だから、こっちも色々と考えた」

 

な…何を言う気だ?

 

「こいつ…レイナーレをお前さんの従者にしようと思う」

「「「「じゅ…従者!?」」」」

 

それって……付き人的な事?

 

「ほれ、お前からもなんか言え」

「は…はい」

 

さっきからずっと借りてきた猫状態だったけど、もしかして緊張してた?

アザゼルさんが一緒だったからかな?

 

「わ…私としても貴女には恩返しがしたいと思っていたし……アザゼル様の処分は渡りに船だったというか…その…つまり…」

 

段々とレイナーレの顔が真っ赤になっていく。

だ…大丈夫か?

 

「これからよろしくお願いします!ご主人様!」

 

全国の青少年が言われたいセリフを言われてしまったぞ…。

私、今は女なのに…。

 

「てな訳だ。こいつもこれから一緒にここに住まわせてやってくれ」

「……ん?」

 

なんだ?今、聞き逃せない言葉を聞いたような気が……

 

「従者である以上、常に傍に居続けなくちゃいけねぇだろ?だから、同居させて欲しいんだわ」

「「「「えええぇぇ~!?」」」」

 

マジっすかぁ~!?

 

「大丈夫だ。こいつの戸籍はこっちでちゃんと用意した。詫びのついでにそこのシスターのお嬢ちゃんの入学届けもな」

「わ…私も?」

「まぁな。お前さんもこの嬢ちゃんと一緒の学校に通いたいだろ?」

「い…いいんでしょうか?」

「詫びっつたろ?この程度で割に合うかは疑問だがな」

「そんな!充分過ぎます!」

 

彼女的にはそうだろうな。

アーシアってめっちゃ遠慮深いし。

 

「んな訳で、こいつの事をよろしく頼むわ」

 

なんだろう…丁度いい厄介払いをされた気が…。

 

「んじゃ、そーゆー事で」

 

言うだけ言って、アザゼルさんはそそくさと帰っていってしまった。

 

「あ……」

「行っちゃったにゃ…」

 

自由奔放だな……。

流石は堕天使だ。

 

「え…えっと…それじゃあ……」

 

まず、簡単に自己紹介をした後に、昼食にした。

オーフィスやレド…グレードレッドの事を話した時は滅茶苦茶驚いていたけど。

 

因みに、レイナーレは結構料理が上手で、黒歌と一緒に昼食を作っていた。

 

今後は、黒歌と一緒の家事をしていくと言っていた。

 

図らずも、一気に二人も同居人が増えた事になった。

 

部屋…大丈夫かな?

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日の放課後のオカルト研究部部室。

 

「と言う訳で、レイナーレとアーシアが一緒に住むことになった」

「まさか…そんな事になるなんて…」

「アーシアさんはともかく、あの堕天使まで…」

「意外な結果になりましたね」

「けど、一気に賑やかになりましたよ」

 

今日のお弁当も黒歌と一緒に作ってくれたしね。

 

「近いうち、アーシアもここに転入してくる予定だ」

「そうなの。なら、ここにも一度招待するべきね」

「その時はよろしくしてあげてくれ」

「勿論ですわ」

 

皆もアーシアの事を受け入れてくれそうで良かった。

 

家に帰ったら、部屋割りの事を考えないとな…。

 

こうして、私に日々に平穏が戻って来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと体が不調なので、今回はここまで。

次回からはほのぼのとした話が続くかもしれません。

では、次回。



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第30話 目指せ!使い魔マスター!

ここからはある種の幕間です。

数話の後にフェニックスの話に行こうと思います。




 アーシアとレイナーレが私の家に来てから数日が経過した。

この数日の間に入学の準備をしたり、二人の部屋の用意をしたりした。

 

二人の私物などを買いに近くのデパートに行った際、思った以上に色々と買ってしまった。

私自身も前々から欲しいと思っていたものを結構購入してしまった。

後にも先にも、衝動買いなんてあの時が初めてだった。

 

制服や教科書、入学案内書が届き、遂にアーシアが駒王学園に転入した。

彼女の弁当はレイナーレが作っているらしく、私が危惧していたような事には至っていないようだ。

二人の仲は思ったよりも良好のようで、アーシアに至っては笑顔を見せるようになっていった。

レイナーレも割と早く家に馴染んで、今では黒歌と一緒に家事全般をこなしてくれるようになっていった。

黒歌も助かったと言って安堵していた。

 

余談だが、風神ちゃん(風神に封印された妖精の事。アーシアがそう呼びだした為、気が付けば皆でそう呼んでいた。本人も満更じゃない様子)も比較的に大人しくしていて、時折、黒歌の頭の上で寛いでいるのを見かける。

 

そして、アーシアが転入した日の放課後……

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私と白音はアーシアを連れてオカルト研究部の部室に来ていた。

最初は部室内の様相に驚いていたが、私が隣に来たら落ち着いてくれた。

 

「あ…改めまして、アーシア・アルジェントです。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。オカルト研究部は貴女の事を心から歓迎するわ」

 

それから軽く自己紹介をした。

なんでも、アーシアは裕斗と同じクラスに編入されたらしく、彼女自身も安堵していたようだ。

やっぱり、見た機会が少ないとはいえ、顔見知りがいるのは安心するのだろう。

私もリアスや朱乃がいなかったらどうなっていたか…。

ここに来る前に簡単に裕斗が軽く校舎を案内していたとの事。

裕斗の話では、アーシアはクラスの皆にも歓迎されて、思ったよりも早くクラスに馴染めそうと言っていた。

ま、外国からいきなり金髪清楚系美少女がやって来たら、歓迎もされるよな。

特に馬鹿な男連中には。

これからは裕斗にアーシアのボディガードを頼もうかな…?

 

その後、朱乃の紅茶に舌鼓を打ちながら、久し振りに他愛のない話に華を咲かせた。

 

アーシアも皆とすぐに仲良くなれたようで安心した。

 

こうして、アーシアとオカルト研究部との本当の意味でのファーストコンタクトは、良好な形で終えることが出来た。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 アーシアが転入してきてから数日後。

最早、放課後に部室にて寛ぐことが日常の一部になりつつある。

 

「使い魔?」

 

ふと、話の話題が使い魔の事になった。

 

「ええ。私達を始めとした悪魔達は、その殆どが有しているわ」

「そうなのか…」

 

使い魔…ねぇ。

有ったら有ったで便利そうだけど…。

 

「お姉ちゃんほどの戦士なら、間違いなく持ってると思ってたんだけど…」

「どういう事だ?」

「悪魔たち以外にも、名のある戦士や魔導士なども使い魔を有している場合が多いのよ。その殆どが神話や伝説に名を残している人間ばかりよ」

 

意外な真実が発覚。

もしかして、生前はネロやギルガメッシュも使い魔を持っていたのかな?

 

「お姉ちゃんも半ば伝説になりつつあるんだから、使い魔ぐらいは持っててもいいんじゃない?」

「そうだなぁ……」

 

ちょっとだけ想像してみる。

 

戦闘中に私をサポートしてくれたり、それ以外にも、日々の潤いになったり……。

 

「いいかもしれないな…」

「そう言うと思っていたわ!」

 

いきなり叫ぶと、部室の魔法陣が光り出す。

 

「こんな事もあろうかと、既に準備はしていましたの」

 

抜かりはないって訳か。

 

「しかし、この魔法陣は基本的にグレモリー家の関係者以外は転移出来ないんじゃ…」

「ドライグなら、私達の魔力を感知して、それを追うようにして転移することも出来るんじゃないかしら?」

 

え?そんな器用なことが出来るの?

 

『それぐらいなら容易に可能だ』

 

おぉ…ホントに出来るんだ。

 

「ついでだから、白音とアーシアも一緒にいらっしゃい」

「いいんですか?」

「勿論。貴女達も使い魔をゲット出来るかもしれないわよ?」

「それなら……」

「私も行ってみたいです」

「なら、お姉ちゃんが二人を連れて来てくれる?」

「分かった」

 

と言う訳で、私達は一路、使い魔を手に入れに向かうのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 リアス達に少し遅れる形で転移が完了すると、そこは沢山の木々が乱立したうっそうとした森の中だった。

森の中は日の光も入りにくいのか、薄暗くなっている。

 

「ここは…?」

「ここは通称『使い魔の森』と言われている場所なの。私達悪魔の殆どが、ここに住み着いている魔物や精霊などを使い魔にしているのよ」

「その理論で言うと、姉様の風神ちゃんも使い魔になるんでしょうか?」

「そうなのかもしれないな」

 

実際、風神ちゃんは黒歌の事を『ご主人さま』と呼んでいるしな。

 

「あら?あの子は既に使い魔を手に入れているの?」

「はい。小さくて可愛らしい風の精霊なんです」

「あのもふもふ具合は反則だよな…」

「私も風神ちゃんのもふもふには勝てません…」

 

既に闇里家の全員が風神ちゃんの毛並みの虜になっている。

あのレイナーレでさえにうっとりするぐらいに。

 

「もふもふな使い魔…」

「ちょっと羨ましいですわね…」

 

女の子たるもの、やっぱり可愛い動物には勝てない。

 

私達(裕斗以外)が風神ちゃんのもふもふを想像していると、いきなり森の中に声が響いた。

 

「ゲットだぜ!」

「……!?」

「「きゃっ!?」」

 

本能的に一瞬身構える私と、驚いたように私にしがみつくアーシアと白音。

そして、それを羨ましそうに見る他の面々。

 

よく見てみると、私達の近くにある大樹の枝にある男が立っていた。

帽子を深く被り、動きやすさ重視のラフな格好。

そして、その背には少し大きめのリュック。

ここまで聞けば年若い少年を想像するだろうが、実際には違った。

そこにいたのはいい年した中年男性だった。

 

「俺の名前はマザラタウンのザトゥージ!使い魔マスターを目指して修行中の悪魔だゼ!」

 

だゼ!…って…。

 

「ツッコミたい…!ハリセンを持って盛大にツッコみたい…!」

「我慢です…マユさん。私も全力で我慢してます…!」

 

よく見たら、既に白音の手にはハリセンが装備してあった。

 

「ザトゥージさん。約束通り、噂の赤龍女帝を連れて来たわよ」

「おぉ!その背の高い眼鏡美人さんが伝説の赤龍女帝か!噂通りに凄い美人だな!」

 

私の伝説(笑)は何処まで広まっているんだろう…。

今度サーゼクスさんに会ったら詳しく聞こう…。

 

「それと、お姉ちゃんと一緒に住んでいる子達も連れてきたの。こっちの子は猫又で、こっちの金髪の子は神器持ちよ。大丈夫かしら?」

「実力さえ伴っていれば問題無いぜ!」

「…だそうよ」

 

白音は密かに修行を続けていて、今ではかなりの実力になっている。

その上、人口神器も所持している。

実力に関しては一切問題無いだろう。

 

一方のアーシアは、戦闘能力は皆無だが、彼女の癒す能力は相当に高い。

しかも、朱乃が言うには、彼女の潜在的な魔力はかなり高いらしい。

こっちも大丈夫だろう。

 

「今回はその三人の使い魔をゲットするんだな!俺に任せればどんな使い魔でもすぐにゲットだぜ!」

「ああ見えても、彼は使い魔に関しては間違いなくプロフェッショナルよ。初めて使い魔を手に入れる者は基本的には彼のアドバイスを受けながら自分の使い魔を決めていくの」

 

ああ見えてもって……リアスも彼の格好には色々と思う所があるんだな…。

 

しかし、人…もとい、悪魔は見かけによらないな。

あれで使い魔のプロかよ…。

 

「さて、お三方!どんな使い魔がいい?やっぱり強いのか?それとも早いのか?意外なところで特殊な特性持ちとか?」

「いや…いきなり言われてもな…」

「はい。まず基準が分かりません」

「なにかオススメなどは無いんですか?」

 

こっちとしては、そう言った情報があった方が決めやすい。

 

「オススメと言ったらやっぱりあれだろ!伝説の龍王の一角……天魔の業龍の異名を持つティアマット!龍王唯一のメスであり、現存している龍の中でも最強クラスの実力を持つと言われている!一説では、魔王クラスの実力を持つとかなんとか……」

 

ま…魔王クラス…ですか。

確かにそれは強そうだ…。

 

『ふむ…。この森に来てから何やら懐かしい気配を感じていたが、あれはティアマットだったか…』

「ドライグさん。お知り合いですか?」

『別にそこまで親しいわけではない。俺も何回か顔を合わせたことがあるというだけだ』

「ふ~ん…」

 

ま、龍の社会もそこまでシンプルじゃないよな。

 

「伝説の戦士と言われている赤龍女帝なら、伝説の龍王を使い魔にするぐらいが相応しいぜ!」

「おいおい……」

 

そこまで大層な奴を使い魔にしなくても、そこら辺の魔物とかで充分…。

 

『…いいかもしれんな』

「ド…ドライグ!?」

『それに、俺を宿している時点で相棒は龍と言う種族とは相性がいいと言っても過言ではない。試しにチャレンジしてみればいいんじゃないか?』

「そこまで言うか…」

 

なんか、嫌だとは言えない空気になりつつあるし…。

はぁ…仕方ない。

こうなったら、実際に対峙してから、諦めて貰おう。

 

「ティアマットは何処にいる?」

「お!行くのかい!?」

「一応な」

 

こうなったら自棄だよ!こんちくしょう!

 

「流石はお姉ちゃんだわ!私、応援する!」

「頑張ってください!お姉ちゃんならきっと出来ますわ!」

「吉報を期待してます!」

「一応言っておきますけど、気を付けてくださいね?」

「どうか御無事で…マユさん」

 

あ…あれ?もしかして私一人で行くことになってる?

 

「余り集団で行くと却って危険だからな。アンタには悪いが一人で行ってくれ」

 

ま…マジか…!

 

「赤龍女帝なら大丈夫だろ!伝説の戦士が伝説の龍を従える。最高じゃねぇか!」

 

勝手に最高にするな。

こちとら最悪だっつーの。

 

「しかし、場所が……」

『龍の気配を感じていけば大丈夫だ。お前だってそれぐらいは感じ取れるだろう?』

「まぁ…一応」

 

いつの間にか、アラガミ以外の気配も感じ取れるようになっていたんだよなぁ~。

これも私が成長しているってことなのかな?

 

「私達はサドゥージさんと一緒に他の場所を見回ってみるわ」

「そんじゃ、行くぜ!」

 

あ……行ってしまった。

 

『ほれ。呆けてないで行くぞ?』

「あ…ああ…」

 

私…生きて帰れるよな…?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 龍の気配と思われるモノを感じながら、それをあてにしながら一人で歩いていく。

迷ったらどうしようかと思ったが、いざとなったらリアス達の気配を辿って転移すれば問題無いとドライグに言われた。

どうやら、この深い森の中でもちゃんとリアス達の気配は感じ取れるらしい。

 

「なんか…近くなってきた?」

『もうすぐだな』

 

なにやら岩肌が目立ってきた。

もしかして洞窟に住んでるのかな?

 

現実逃避に森の風景を楽しんでいたら、とうとう、その時がやって来た。

 

『ここだな……』

「ああ……」

 

私の目の前には非常に大きな洞窟が見える。

中は真っ暗で何にも見えない。

 

明らかにここからティアマットの気配がする。

 

「は…入るぞ…」

 

私は恐る恐る洞窟に足を踏み入れる。

恐らく向こうは既にこっちの事に感づいているだろう。

 

少し歩くと、奥の方から何か大きな物体が歩いてくる地響きが聞こえた。

 

洞窟の入り口から入って来る光に照らされて、それは現れた。

 

「ほぅ…?この気配は…まさかドライグか?」

 

目の前にいたのは、青銀に輝く美しい龍だった。

駄目だと分かっていても、思わず見惚れてしまう。

 

『その通りだ。久しいな、ティアマットよ』

 

私の意思とは無関係に左腕に赤龍帝の籠手が出現した。

 

「…随分と変わったな」

『そう言うな。俺は俺なりに満足している』

「貴様がそこにいると言う事は…その小娘が件の『神を喰らう者』とやらか?」

『ほぅ~?既に知っていたか』

「ここには様々な連中が年中やって来る。嫌でも噂は聞く」

 

そんなに頻繁に色んな連中がやって来るのか…。

って、なんで私ってばこんなにも冷静なの?

もしかして、一周廻って変になった?

 

「で?こんな場所に何用だ?…と、聞くまでも無いな」

『話が早いな。今回は貴様を相棒の使い魔にしに来た』

「この私を使い魔に…か」

 

ん?ちょっと笑った?

 

「今までは分不相応な連中ばかりだったが、お前は違うようだな」

「え…?」

「ドライグだけでは無い。お前の身体からはあの最強の龍神達の匂いがする」

『鋭いな。今やあの龍神達は相棒の妹になっているぞ』

「妹?あのオーフィスとグレートレッドが妹?」

 

な…なんだよ?

文句があるってか?

 

「くくく……ははははははははははっ!よもや、あの龍神達を妹にするとはな!此度の赤龍帝は今までとは次元が違うらしいな!」

『当たり前だ。こいつは俺と歴代の連中が満場一致で認めた、最強の赤龍帝だからな』

「面白い!こんなにも面白い人間は初めてだ!」

 

おぉ……なんか好印象?

 

「いいだろう。ならば、私に挑戦することを許可しよう」

 

許可されちゃったよ…。

 

『ふむ…。いい機会だ。相棒、ここは試しに限界まで倍化してみないか?』

「限界まで?」

『そうだ。相棒はその戦闘方法故に余り倍化を多用しない。そのせいで倍化の限界が未だに解らないままだ。この機会に限界を測ってみてはどうだ?』

「面白そうだな。ならば、限界まで倍化をしてから挑んでくるがよい!」

 

なんか変な方向に話が向かってるんですけど~?

 

「はぁ……了解した」

 

こうなったら、女の意地…じゃなくて神機使いの意地……と言うよりは赤龍帝の意地を見せてやる!!

やってやるぜ!!

 

「ドライグ!行くぞ!!」

『おう!思いっきりやれ!!』

 

【Boost!Boost!Boost!Boost!……】

 

兎に角、とことんまで倍化し続けた。

 

百回を超えた辺りから数えるのが面倒臭くなったけど。

 

倍化を始めてから暫くが経った。

 

「た…多分…これが今の限界だ…!」

『ま…まさかこれ程とは…!相棒、今の自分がどれだけ強化されているのか分かるか?』

「さぁね……」

 

確かに体の奥底から力が湧き出てくるけど、具体的には分からないよ。

 

『今の相棒なら、その状態でも一日以上は維持出来る。これは今までの赤龍帝の誰もが出来なかった事だ…!』

 

そんなに凄い事になってるのか…。

全然自覚無いや…。

 

「凄い……凄いぞ!神を喰らう者よ!今のお前からは全盛期のドライグと同等…いや、それ以上のオーラを感じる!お前は本当に人間か!?」

「人間だよ…!全部じゃないけどね…」

 

オラクル細胞のせいで、もう体の半分以上が人間じゃなくなってるしね。

別に気にしてないけど。

 

「確か…古い伝説では、龍と言う存在は相手の実力を試す為に最初に必ず弱い息吹(ブレス)を放つと聞く。それに耐えきった者のみを認め、自身に挑戦する事を認めると…」

『相棒。随分と物知りだな。確かにその通りだ』

「ネットで調べた」

『今時のネットは龍の伝承すらも調べられるのか…。万能だな、ネット』

 

文明の利器だよね。

ネット様様だ。

 

「ならば伝承通り、私もブレスを放つとしよう!だが、一番弱いのではなく、最大級のをな!」

 

う…嘘でしょ!?

冗談じゃないって!!

 

「我が一撃を耐え、見事その一撃を喰らわせてみろ!!」

「く…来るなら来い!!」

「では…ゆくぞ!!」

 

ティアマットがその顎を大きく広げ、口内に凄まじいまでのエネルギーが充填される。

 

それと同時に私は籠手を装着した左手を構えて突貫する!

 

突貫の途中で李書文先生の禁手化しとけばよかったかも…なんて思ったが、後の祭りだった。

 

次の瞬間、洞窟はおろか、森全体に凄まじいまでの爆発音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




キリがいいのでまずはここまで。

今回、リアス達がマユを置いて行ってしまいましたが、実は本人達も苦渋の選択だったりします。

本当は一緒について行きたかったけど、一緒に行けばマユの邪魔になると考えたのです。
もし言えば、マユの優しさ故に気を使わせてしまうと思ったんですね。

次回は遂に使い魔ゲット?

では、次回。


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第31話 使い魔ゲットだぜ!

前回の続き。

果たして、マユVSティアマットはどうなったのでしょうか?



 リアス達が森の中を移動しながら色々な使い魔を見ていて、その最中にアーシアが蒼雷龍の幼龍を使い魔にした……その直後だった。

 

森全体に凄まじい衝撃音が響いた。

 

「な…なにっ!?」

「この音は……ティアマットの住み家の方角だ!」

 

いつもは陽気なサドゥージが珍しく真剣な顔になる。

 

「と言う事は……」

「この音は…先輩がティアマットと戦っている戦闘音と言う事か…?」

「まさか…ここまで響くなんて……」

「だ…大丈夫でしょうか?」

「お姉ちゃんならきっと大丈夫ですわ……きっと…」

 

全員がマユの勝利を信じてはいたが、それでも心配な事には違いなかった。

 

「自分で促しておいてなんだが……俺っちもちょっと心配になって来たぜ!少し様子を見に行くぜ!」

「私達も行きましょう!もしかしたら、お姉ちゃんが怪我をしているかもしれないわ!」

「そうですわね」

「はい!急ぎましょう!」

 

一路、オカルト研究部+サドゥージは、マユが戦っているであろうティアマットの住み家に改めて向かうのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「や…やってしまった……」

 

まさか……これ程までにパワーアップしているとは思わなかった…。

 

これは完全に予想外だ…。

何故なら……

 

『は…ははは…!まさか…あのティアマットを一発KOとはな…!』

 

そう、私の目の前には頬に大きな打撲跡を付けたティアマットが気絶している。

 

あの時、私の一撃はティアマットのブレスを完全に破壊し、その上で彼女(?)の顔に最大の一撃をお見舞いしてしまった。

しかも、その一撃は見事にクリーンヒットしてしまったようで、地面には大きなクレーターが出来ているだけでなく、私のパンチの衝撃波によって洞窟自体が完全に崩壊してしまった程だ。

 

戦闘とは全く関係の無い所で制服と体が汚れてしまった…。

 

「…………」

 

正直言って、まだ自分がやった事が信じられない。

これが私の今の最大まで倍化した力なのか…。

 

「これは…危険すぎる…!」

 

唯のパンチでさえこの威力なのだ。

もしもこれを禁手化した状態で使い、尚且つ宝具なんかを使った日には……

 

「本気で世界が終わるかもしれない……」

 

流石に世界の破壊者にはなりたくない。

別に色んな平行世界を旅するつもりなんてないし。

 

『これで、名実共に最強の赤龍帝の称号は相棒の物だな』

 

んなもん別にいらんがな。

 

「ティアマット…どうしよう…?」

『大丈夫だ。流石に死にはしないさ。暫くは夢の中かもしれんがな』

 

うぅ……意図していなかったとはいえ、なんだか悪い事をしてしまった…。

こんな時にアーシアがいれば……。

 

私が困惑していると、今更ながらに籠手から音声が聞こえた。

 

【Reset】

 

どうやら、倍化の効果が切れたようだ。

多分、ドライグがやってくれたんだろう。

 

「あ、そうだ」

 

ちょっといいこと思いついたかも。

 

「ドライグ。確か赤龍帝の籠手には倍化以外にも、蓄えた力の譲渡があったな?」

『ああ。その通りだ。今の相棒なら使える筈だ。それがどうした?』

「ちょっとね。なら、力以外にも倍化は可能なのか?」

『例えば?』

「自然治癒力とか」

『ふむ…出来なくは無いと思うが…』

『ほぅ?俺には雑種が何を企んでいるか分かったぞ?』

『なに?』

 

おいこらギルガメッシュ。

いきなり出てきて企むとか言うな。

人聞きの悪い。

 

『どういう意味だ?ギルガメッシュ』

『ふん。百聞は一見に如かず…だ。雑種、試しにやってみるがよい』

「言われずとも」

 

私は籠手に精神を集中させる。

 

【Boost!Boost!】

 

取り敢えず二回でいいかな?

 

そして、次に私はティアマットの身体に籠手のついている左手で触れる。

 

赤龍帝の贈り物(ブーステッド・ギア・ギフト)

 

淡い緑色の光がティアマットに吸い込まれる。

すると、次の瞬間……

 

「う…うぅん…?」

 

無事、ティアマットが目を覚ました。

 

『なんと…!一体何をしたんだ?』

『簡単だ。まずは己の自然治癒力を倍化し、それをティアマットに譲渡しただけだ』

「なんとなく思いついただけだがな。上手くいって良かった」

『自然治癒力を倍化させるという事自体が前代未聞だというのに、それを他者に譲渡する事によって気絶から回復させるなんてな…』

『発想の転換と言う奴だな。中々に面白い事をするではないか。気に入ったぞ』

 

英雄王のお墨付きとはね。

 

『もしもこれを限界まで倍化した状態で自身に使用した場合、お前は文字通り無敵になるな』

 

確かにそうかもしれない。

だって、怪我する度に速攻で回復していくんだもん。

相手の心が先に折れるわ。

 

でも、とんでもない強敵との戦いとかでは利用出来るかも。

これならアラガミとの戦いにも使えるかもしれない。

なんでもうちょっと早く思いつかなったんだろう?

 

「お前が……助けたのか?」

「流石に悪いと思ったから」

「御人好しな奴め…」

「よく言われる」

 

気にしてないけど。

 

「だが、そのお人好しに敗北したのもまた事実…か」

 

あれ?もしかして落ち込んでる?

ヤバいな…龍王のプライドを爆砕してしまったかもしれない。

 

「神を喰らう者よ」

「な…なんだ?」

 

いきなり話しかけられたから、思わず背筋が伸びちゃったよ。

 

「この戦い、完全に私の敗北だ」

「そ…そうか…」

 

殆ど反則に近いけどね。

 

「お前ならば、私の主人に相応しいだろう」

『という事は……』

「ああ。神を喰らう者よ。私はお前と使い魔としての契りを交わそうではないか」

「おぉ…!」

 

マジですか!?

本気で龍王を使い魔にしちゃったよ!?

 

「手を出すがよい」

「う…うん」

 

緊張しながら、私はティアマットに向かって手を出した。

すると、彼女は目を瞑ってそっと自身の鼻先を私の手に触れさせた。

その瞬間、手と鼻先の接触点に緑色の魔法陣が出現し、消えた。

 

「これで契約完了だ」

「そ…そうか…」

 

結構あっさりとしてるのね。

もうちょっと仰々しい儀式的なものがあると思ってたよ。

 

「さて、それでは行くとするか」

「どこに?」

「おぬし…御主人の住み家だ。私の住み家は…この通りだしな」

 

そうだった…!

ティアマットの住み家は私が粉々にしちゃったんだった!

 

「ごめん…」

 

これは言い訳できないわ…。

ちゃんと責任を取らないと。

 

「気にするな。それだけそなたが強かったというだけ。誇りに思う事は有れ、落ち込む理由はあるまい?」

 

なんていい奴なんだ…ティアマット…。

主人のメンタルケアをしてくれるなんて…。

 

「しかし、このままでは少々移動がしにくいな」

 

この森の中では、この巨体では移動しにくいだろう。

必然的に飛行する羽目になりそうだ。

 

「少しだけ待っていてくれ」

 

んん?このパターンはどこかで……。

 

私が小首を傾げていると、ティアマットの身体が急に光り出した。

 

「こ…これはデジャヴ…か?」

 

これって確か、レドことグレートレッドの時と同じような…。

なら、次に出てくるのは……

 

「………ふぅ」

 

ティアマットの身体はあっという間に縮んで、気が付いた時には小さな幼女の姿になっていた。

真っ白なワンピースを着ていて、鱗と同じ青銀の長い髪が靡いている。

ハッキリ言って、見た目はかなり可愛い。

 

「これでよし!」

『なんでまたその姿なんだ…』

「この方が動きやすいからな!身軽だし!」

 

なんか…一気に幼児退行してるんですけど…。

さっきまでの龍王としての威厳は何処に消えた?

 

もしかして、私と同様に体に精神が引っ張られてるのかな?

 

『む?』

「どうした?ドライグ」

『他の連中がこっちに向かってきているぞ』

「そうか。ならば行こう」

 

私がその場から動こうとすると、ティアマットが私の手を握ってきた。

 

「これではぐれない」

「ふふ…そうだな」

 

なんだろう……もう一人妹が出来た気分だな…。

 

こうして、無事(?)にティアマットを使い魔にした私は、リアス達と合流する為に森の中を歩いて行った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 森の中を二人で歩いていると、リアス達の姿が見えた。

 

「あ!お姉ちゃん!」

「御無事でしたのね!」

「「マユさん!」」

「先輩!」

 

おうおう…私を見つけるなり、いきなり皆で走り出したよ?

これは何のエンディングだ?

 

「って!お姉ちゃん!全身汚れまくりじゃない!?」

「ど…どどどどどうしたんですの!?」

「あ~…私なら大丈夫だ。こんなナリだが、怪我は一切無い」

「ほ…本当ですか?我慢してる訳じゃないですよね?」

「本当だ」

「よ…良かったです…」

 

やっと納得してくれたか。

 

「ところで、先輩が手を繋いでいる、その女の子は誰ですか?」

「あ…この子は……」

「私の名はティアマット!龍王の一角なり!」

 

私が紹介するよりも先に自己紹介してしまった。

 

「ティ…ティアマット!?この女の子が!?」

「間違いないぜぃ。このお嬢ちゃんからは確かにティアマットの魔力を感じる」

「確かに強大な魔力を感じますけど…」

「どうしてそんな姿に?」

「動きやすいからだ!」

「…だそうだ」

 

なんか、私の中で【強い龍=幼女】のロジックが形成されつつあるんだけど…。

 

「けど、こうしてティアマットと一緒にいるという事は…」

「ああ。彼女を使い魔にすることが出来た」

 

幼女が使い魔って、絵的にかなりヤバいけどね。

 

「おめでとう!お姉ちゃん!」

「やはりお姉ちゃんは凄いですわ!」

「流石です、先輩。まさか本当に伝説の龍王の一角を使い魔にするなんて…」

 

そこまで言われると、ちょっと照れるな…。

 

「二人は何か使い魔にしたのか?」

「私はこの子を」

 

アーシアの腕に中には小さく可愛らしい龍が一匹いた。

 

「これは……」

「蒼雷龍の幼龍だな。こんなに小さくても、立派に雷を操れるぞ」

「凄いな…」

「いや、マユさんの方がずっと凄いですからね?」

 

そうでした。

 

思わず蒼雷龍を撫でる。

すると、気持ちよさそうに目を細めた。

 

『やはり相棒は龍に好かれるようだな。この幼龍も心を許している』

 

もうここまで来れば、私も何も言わないよ。

だって、この幼龍は私の手を舐めてるし。

 

「白音は?」

「私はまだです」

 

そうか。

白音ならすぐに出来そうだったんだがな。って……

 

「白音…その後ろにいるのは…」

 

白音の背後には、何やら見覚えのある小さな影が見えた。

 

丸っこくて小さい、そして、ふよふよと宙に浮いているその姿は……

 

「アモル?」

「マユさん。この子の事を知ってるんですか?」

「ああ」

 

なんでこんな所に?

しかも単独で…。

 

「さっきからずっと私についてくるんです。どうやら懐かれたみたいで…」

「そうなのか」

 

よりにもよってアモルが誰かに懐くなんてな…。

サカキ博士が知ったら卒倒するな。

 

「これはアラガミだ」

「えぇ!?アラガミ!?」

 

アラガミと聞いた途端、すぐにアモルから白音は離れた。

 

「大丈夫だ。確かにアラガミだが、こいつは誰かに害を与えたりしない、非常に珍しいアラガミなんだ」

「害が…無い?」

「そうだ。他のアラガミとの戦闘中にいきなり現れて、いきなり去って行く。こいつはそれぐらいしか出来ない。アモルには攻撃手段が無いんだ」

「な…なら大丈夫…なのかな…?」

 

白音は恐る恐るアモルに近づいていく。

すると、アモルの方からも白音に近づいていく。

 

「お姉ちゃん。他にこのアラガミの特徴とかは無いの?」

「そうだな……体内に非常に希少なコアを持っているぐらいか?」

「それだけ?」

「それだけだな。一部の連中は、このアモルを『幸運を呼ぶアラガミ』と呼ぶ者もいるぐらいだ」

「アラガミも千差万別なのね…」

「ある意味、アラガミは無限の可能性を秘めているからな」

 

良くも悪くも…ね。

 

「アラガミ相手には最弱だが、それでもアラガミだ。通常攻撃にはビクともしないだろうな」

「盾代わりになるかもしれないわね」

「ちょっと可哀想ですけど」

 

絵面的にはかなりの外道だな。

 

「この子とも…契約出来るでしょうか?」

「試しにやってみるんだぜぃ!」

 

てなわけで、やってみました。

結果……

 

「出来ちゃいました…」

 

史上初、アラガミを使い魔にした少女の誕生だった。

アモルだけど。

 

「これで、皆使い魔を手に入れたわけね」

「私は苦労したがな…」

「その甲斐はあったんじゃないですか?」

「そうかもな…」

 

キョトンとした顔でこっちを見るティアマット。

もう完全に龍王としての名残がありません…。

 

「じゃ、戻りましょうか?」

「またいつでも来るんだぜぃ!」

 

サドゥージに別れを告げ、私達は使い魔の森を後にした。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 使い魔の森から戻り、部室のシャワーを使わせて貰ってから、私達は帰宅した。

校内には人影も少なく、ティアマットの姿を見られることは無かった。

 

家に帰ってからの黒歌とレイナーレの第一声は……

 

「にゃにゃ!?その恰好はどうしたんだにゃ!?」

「ど…どうしたのよ!?誰かに襲撃でもされたの!?」

 

やっぱり驚くよなぁ~。

 

「大丈夫だ。実は……」

 

私は今日あった出来事を事細かに教えた。

 

「成る程…使い魔を…」

「で?その使い魔は何処にゃ?」

「この子だ」

 

私はティアマットを前に出した。

 

「「……へ?」」

 

うん。そのリアクションは予想出来ました。

 

「この子は……」

 

私が紹介しようとすると、奥からオーフィスちゃんとレドがやって来た。

 

「ん?何やら懐かしい気配を感じたから来てみれば…」

「間違いない。あれ、ティアマット」

「「ええぇぇぇ~~!?」」

 

本日二回目の驚き頂きました。

 

「オーフィスにグレートレッド!久し振りだな!」

「それはこちらのセリフだ!まさか、お前がお姉ちゃんの使い魔なのか?」

「うむ!見事にぶっ飛ばされてしまった!はっはっはっ!」

「お姉ちゃんなら当然」

 

幼女龍同士で意気投合してるし…。

 

「伝説の龍王を使い魔にするって……」

「マユはどこまで規格外なんだにゃ…」

 

そこまで言う?

 

「そう言えば、二人も使い魔を手に入れたのかにゃ?」

「はい。私はこの子です」

 

アーシアが蒼雷龍の幼龍を見せると、風神の中から風神ちゃんが出て来た。

 

『それって蒼雷龍の幼龍だね。大人なら相当に強力な龍だけど、子供なら僕達精霊と殆ど大差ないよ』

「アーシアにはこの子ぐらいが丁度いい」

 

争い事はアーシアには似合わないからね。

 

「白音はどんな子にゃ?」

「この子です」

 

腕に中に抱えていたアモルを見せる白音。

 

「ちっこくて丸いにゃ」

「名前は?」

「アモルのアー君です」

 

いつの間にか名前を付けてた…。

しかもアー君って…。

 

「ある意味、猫又らしいにゃ」

 

丸いからか?

 

使い魔となったため、アモルと幼龍はすぐに呼び出せるため、一旦お帰り頂いた。

しかし、ティアマットだけは一緒にいると言いだした為、結局、一緒に住むことになった。

同じ龍だからか、オーフィスちゃんとレドとあっという間に仲良くなっていた。

幾ら龍とは言え、幼女が三人で戯れているのは見ていても凄く和む。

 

事実、黒歌やレイナーレも笑顔を見せていたし。

 

ティアマットはオーフィスちゃん達と一緒の部屋に住むことになった。

近いうちにまた買い物に行かないとな…。

 

そして、次の日。

足長おじさんからティアマットに関する書類一式が送られてきた。

 

ティアマットは戸籍上、私の三人目の妹して認定されたようだ。

因みに名前は【闇里ティア】だ。

語呂的には違和感が無い。

 

順番は、長女が私、次女がオーフィスちゃん、三女がレド、四女がティアだった。

 

今回は幼女だったから良かったけど、そろそろ部屋がヤバいぞ…。

 

まぁ…これ以上、同居人が増えることは無いだろうから、別にいいんだけど…。

 

こんな事を言ってるとギルガメッシュから『それはフラグだぞ、雑種』と言われてしまった。

 

本当に増えそうだから怖い。

 

大丈夫だよね?……だよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、まずはティアマットことティアが加わりました。

お次はソーナの眷属である匙が登場?

そして、その次はとうとう……

では、次回。



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不死鳥の男 ~因縁の相手~
第32話 生徒会の男の子


サブタイトルの通り、今回は匙の初登場回です。

さてはて、彼はマユにどんな感情を抱いているのでしょうか?




 ティアマットことティアが私の使い魔となり、そして我が家の一員となってから数日が経過した。

 

オーフィスちゃん達のお陰でティアはあっという間に家にも馴染み、すっかり家が賑やかになった。

けど、私としてはこういう賑やかさは大歓迎で、今の家の雰囲気はとても大好きだ。

やっぱり、家族はこうでなくちゃね。

 

因みに、白音とアーシアの使い魔達もすっかり仲良くなったようで、白音がアモルを抱きしめた状態でうたた寝をしていたり、アーシアが蒼雷龍の鱗の手入れをしている様子が度々見られる。

その時に気が付いたのだが、アモルの体って思ったよりも暖かいんだね。

寒い日には丁度いい湯たんぽになりそうだ。

寒がりな白音にはいいかもしれない。

 

他の皆にもすっかり懐いていて、白音が学校に行っている時は、黒歌の後ろをついて回るという。

想像してみると、なんとも微笑ましい光景だ。

まさか、アラガミに癒される時が来るとは思わなかった。

もしかしたら、これがサカキ博士が目指した世界なのかもしれない。

 

そう思うと、なんだか未来に可能性を感じてしまう。

この可能性を潰さない為にも、私が頑張らなくちゃな!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 てな訳で、毎度お馴染みオカルト研究部でございま~す。

 

今日も今日とて、部活と称したくつろぎタイムを楽しんでいる。

 

「お姉ちゃん。あの子…ティアちゃんはどうしてるの?」

「すっかり皆と仲良くなったよ。もう立派な家族の一員だ」

「よかったですわ。やっぱり、同じ龍のオーフィスちゃんやレドちゃんがいるのが大きいのかしら?」

「かもしれないな。あの二人とはすぐに意気投合していたし」

 

同じ種族と言うのは大きいよな。

これはきっと、クラス替えの際に同じクラスの人間がいると安心する心境と同じだろう。

 

「この間は一緒にお風呂に入りました」

「ティアちゃんもオーフィスちゃん達と同じで髪がサラサラなんですよね~」

 

龍の髪は皆キューティクルなんだろうか?

髪の悩みと無縁とは…女として、なんとも羨ましい限りである。

 

「でも、流石に部屋が足りなくなってきたんじゃないんですか?」

「そうだな……ティアは小さいからオーフィス達と同じ部屋に住んでいるから問題無いが、これ以上は無理だろうな。まぁ…もう同居人が増えることは無いと思うが」

 

だって…ねぇ?

今までの事だって充分にご都合主義満載だったのに、これ以上は流石にないでしょ?

 

「そ…そう…もう部屋が無いのね…」

 

ん?どうしてそこでリアスが落ち込む?

 

「どうした?」

「い…いえ、なんでもないわ」

 

そう言われると、却って気になるのが人間と言うもの。

ま、これは人間だけじゃないか。

 

「マユさんは相変わらず鈍感さんですね」

「……?」

 

白音にジト目で言われたが、どういう意味だ?

感覚的には寧ろ、最近は鋭くなってきたと自負してるんだけど。

 

(哀れな……。今初めて、この雑種達に同情したぞ…)

 

ギルガメッシュまで?

マジで何なのさ?

 

紅茶を飲みながら小首を傾げていると、部室のドアがノックされた。

 

「失礼します」

 

この声は……

 

部室にいる全員がドアの方を向く。

すると、ゆっくりと部室のドアが開かれた。

 

「あら」

 

入って来たのは現在、生徒会長をしているソーナだった。

それと一緒に見慣れない男子生徒が一緒にいた。

 

「どうしたの?ソーナ。貴女がここに来るなんて珍しい」

「いえ。実はマユさんに私の眷属を紹介しようと思いまして」

 

眷属を?

でも、ソーナの眷属の子達とは既に顔見知りだけど?

なんでか皆、私と会う度に顔を真っ赤にするけど。

 

ソーナは部室を見渡し、私を見つけると真っ直ぐにこっちにやって来て、私の手を握った。

 

「リアスから話は聞きました!なんでも、あの伝説の龍王を使い魔にしたとか!」

「あ…あぁ…」

「素晴らしいです!流石は伝説の戦士ですね!」

 

柄にもなく興奮してるな。

ちょっと意外な面を見れたかも。

 

「あ…あの…ソーナ様?後ろの彼が棒立ちになってるんですけど…」

「あ……」

 

裕斗の指摘でようやく我に返るソーナ。

どんだけ興奮してたねん。

 

「ゴ…ゴホン!」

 

あ、咳払いで誤魔化した。

 

「マユさん。この方が部長が言っていた悪魔さんなんですか?」

「そうだ。彼女はソーナ・シトリー。学校では支取蒼那と名乗っている」

 

私が軽く説明すると、白音とアーシアが立ち上がった。

 

「初めまして。マユさんと一緒に暮らしている塔城白音と言います」

 

今、【一緒に暮らしている】と言う部分に過剰に反応してなかったか?

 

「お話は聞いてます。猫又だそうですね?」

「はい。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

ふむ…二人の初めての邂逅は中々に良好なようだ。

 

「わ…私はアーシア・アルジェントと申します。よろしくお願いします」

「貴女の事も聞いてますよ。色々と大変だったようですね」

「はい…。けど、マユさんのお陰で今はとっても幸せです」

「そうですか…………羨ましいです…」

 

ん?今、最後になんて言った?

 

「では、こちらも紹介します。匙、自己紹介を」

「はい」

 

後ろにいた彼が前に出た。

 

「えっと……こうして面と向かって会うのは初めてっすね。どうも、新しくシトリー眷属になった『兵士(ポーン)』の匙元士郎です。普段は生徒会で書記をしてます」

「そうか…君が……」

 

なるほどねぇ~。

 

「あの…俺が何か?」

「いや…以前にソーナが嬉しそうに話していたんだ。中々に有能な眷属が入ったと」

「ゆ…有能っすか…」

「ああ。生徒会でも頑張ってると聞いている」

「いや…俺なんかまだまだっすよ」

 

おや?もしかして照れてる?

 

「謙遜するのはいいが、あまり卑下になりすぎないようにな?君はそれだけソーナに期待されているという事なんだから」

「先輩……」

 

まぁ…偶にはね。

先輩らしいこともしないと。

 

「やっぱ先輩は凄いっすね…。赤龍帝で、伝説にもなっていて、学校でも人気者だし…」

 

凄い…ねぇ?

いつも言われるけど、全然自覚無い…。

もうちょっと客観的に自分を見た方がいいのかな?

と言うか……

 

「私の事を知っているのか?」

「いや…この学校で先輩の事を知らない奴はいないでしょう。逆にいたら、そいつは相当なモグリか、やって来たばかりの転校生ぐらいですよ」

 

そ…そんなにも有名なのか…。

私としては普通に暮らしているつもりなんだが…。

 

「マユさんは三大勢力内でも一二を争う程の有名人ですよ?」

「ま…マジか…」

「噂では、マユさんの事を描いた本や映画などがあるとか……」

「ほ…本に映画!?」

 

いつの間にそんな事に!?

私の許可は取ったのか!?

肖像権は私には無いのか!?

 

「リアス…言ってなかったのですか?」

「その…私は既に知ってるものとばかり…」

 

いやいやいや!全然知らないからね!?

たった今、初めて聞いたからね!?

 

「確か、リアスもソーナ様も冥界で発売しているブルーレイは全て購入してますわよね?」

「あ…朱乃だってそうじゃない!」

 

一体どれだけ出てるんだ…。

と言うか、誰が企画したんだ?

 

「監督はサーゼクス様でしたよね?」

 

おいこら魔王~~~~~!!!

仕事せずに何をしとるんじゃ~~~~!!!

 

「じ…実は俺もこの間買いました…」

 

君もか!?匙君!?

 

「俺もずっと先輩に憧れてたんですよ…。ここに入学して、一目見た時から凄いって感じました」

 

いつの間に見られてたんだ?

 

「なんか…他の生徒達とは雰囲気が違うって言うか……顔つきが違うって言うか…。とにかく!いつかこの人みたいに大きな人間になりたいって思いました」

 

それはどういう意味での『大きい』かな?

もしも背の事だったらちょっと怒るよ?

 

「本当にお姉ちゃんはファンが多いわね」

「それだけお姉ちゃんが凄い証拠ですわ」

「やっぱりマユさんは凄いです…」

 

ファン…ねぇ?

別に悪い気はしないけど…。

それとアーシア?

そのキラキラした目はやめてね?

ちょっと気恥ずかしいから。

 

「と…とにかく、これからよろしく。何か困ったことがあったら、なんでも言ってくれ。喜んで協力しよう」

「ありがとうございます。その時は頼りにさせて貰います」

 

私と匙君は握手をした。

うん、彼とは仲良くなれそうだ。

今までは裕斗しか学園内で気軽に話せる異性がいなかったからな。

これは貴重だ。

 

「匙君…か。彼が僕の最大のライバルかな…!」

 

んん?なんか裕斗から変な闘志を感じるんですけど?

何をそんなにやる気になってるの?

と言うか、匙君を睨むのやめなさい。

彼ちょっとビビってるから。

 

その後、少しだけ二人とも話してから、その日は解散になった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日の昼休み。

私はリアスに朱乃、アーシアと白音と一緒に食堂に来ていた。

一緒の席にいるが、今いるのはリアスだけ。

朱乃は自分の注文を取りに行って、白音とアーシアは飲み物を取りに行っている。

 

「はぁ……」

 

さっきからずっとリアスは溜息ばかりをついている。

何があったのかは知らないが、そう言う姿はこっちも見ていて辛い。

 

「何があった?」

「え?…あぁ…ちょっと…ね…」

 

どう見ても『ちょっと』じゃないでしょうよ。

 

「ねぇ…お姉ちゃん…」

「ん?どうした?」

 

妙に真剣な顔でこっちを見るリアス。

 

「お姉ちゃんは……………結婚の事を考えた事はある?」

「結婚?」

 

いきなりどうした?

 

「結婚…か…」

「うん。やっぱり、結婚は愛し合う者同士がするべきよね?」

 

結婚と聞くと、やはり真っ先に想像するのは、リンドウさんとサクヤさんの事だ。

闇里マユ(わたし)もあの結婚式には出席したが、あの時の二人は本当に幸せそうだった。

 

「そうだな…。私もその方がいいと思うよ」

「そ…そうよね!?」

 

お…おぅ?いきなり乗り出して来てどうした?

 

「お姉ちゃんは将来、自分が結婚することを考えた事はある?」

「自分が結婚…か…」

 

もしも私が結婚するとしたら……

 

 

『リーダー。背中は預けたぞ』

 

 

「………!?」

「ど…どうしたの?」

「い…いや…」

 

なんで急にソーマの事を想像したんだ!?

 

「お姉ちゃん…顔が赤いわよ?」

「そ…そうか?」

 

ヤバい……ソーマの事が頭から離れない…!

 

「な…なんで急にそんな話をしたんだ?」

 

今は兎に角話を逸らせよう!

 

「色々とあって……」

 

色々…ね。

もしかして、グレモリー家に関する事なんだろうか?

もしもそうだとしたら、私が深く関わるわけにはいかないな。

ちょっと悔しいけど。

 

「……リアス」

「お姉ちゃん?」

「私に出来る事なんてたかが知れているかもしれないが、話を聞く事ぐらいは出来る。この間、匙君にも言ったが、困ったことがあったのなら、なんでも相談してくれ。私はリアスの悲しそうな顔は見たくない」

「お…お姉ちゃん…」

「リアスにはいつでも笑顔でいて欲しいから…」

 

これは紛れもなく、私の本音だ。

 

「それは……完全に殺し文句よ…」

 

いきなりリアスが自分の胸を両手で押さえだした。

 

「本気に…なっちゃうじゃない……」

 

本気って何?

 

「あらあら?またお姉ちゃんが何かを言ったんですの?」

「きゃぁぁぁぁぁっ!?」

 

ちょっと驚きすぎじゃない?

 

「何かあったんですか?マユさん」

「いや…普通に話していただけだが…」

「本当ですか?」

「何故疑う?」

「マユさんの『普通』は普通じゃありませんから」

 

どーゆー意味?

 

「あわわわわ……部長さんが……」

 

アーシアもどうして慌てる?

 

その後も朱乃達に色々と聞かれながら昼食を食べた。

昼休みの間、ずっとリアスの顔が真っ赤だったけど。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 その日の夜。

私はいつものように寝る前に軽いストレッチ(腕立て100回。腹筋100回。背筋100回。スクワット100回。これをそれぞれ3セット)を終えて、シャワーを浴びた後にベットに横になった。

 

『ご主人様は相変わらずトレーニング中毒ですねぇ~』

「中毒言うな」

 

これぐらいでもしないとアラガミとは互角には戦えないっつーの。

休日にはいつもこれの数十倍はしてるけど。

 

『けど、そんな努力家なご主人様も素敵です♡』

「ありがとう」

 

相変わらず玉藻はあざといな。

それにもすっかり慣れたけど。

 

いい具合に身体も疲労したので、今日もぐっすりと熟睡出来そうだ。

 

『まるで、触れただけで色んな物を爆弾に変えられるサラリーマンな殺人鬼みたいですねぇ』

 

失礼な事を言うな。

誰が殺人鬼やねん。

 

就寝前に玉藻と望まぬコントをしていると、部屋にいきなり見た事のある魔法陣が出現した。

 

『あら?この魔力は…確か…』

 

この深紅の魔法陣は……グレモリー家のヤツか?

この家に掛けられている結界はあくまで認識阻害だけだから、普通に家の中に転移は出来るけど……。

なんでこんな夜中に?

 

いきなりの魔法陣を怪訝に思っていたら、そこから見た事のある人影が現れた。

それは……

 

「お姉ちゃん……」

 

ネグリジェ姿のリアスだった。

セクシーな肢体にスケスケのネグリジェの組み合わせは、同性から見ても非常に煽情的に見える。

 

リアスは私の方にやって来て、そのまま抱き着いてきた。

 

「リ…リアス?」

「お願い……私とセックスをして…」

「『はぁっ!?』」

 

いきなりどうした!?

熱でもあるんじゃないのか!?

 

『な…何を言いやがるですか!?この女悪魔は~!?ご主人様は私の物なんですぅ~!』

 

そこ、ちょっと黙る。

 

だが、リアスは玉藻の言葉を無視して話を続ける。

 

「もう……お姉ちゃんしかいないの…」

「いや…その……」

 

あ~~もう!

どうしろって言うんだよぉ~!?

 

何がどうしてこうなったぁ~!?

誰か私に教えてくれぇ~!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この展開から分かるとは思いますが、次回から本格的にフェニックス編突入です。

果たして、焼き鳥さん(笑)の運命はいかに?

では、次回。


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第33話 フェニックス

とうとう、あの焼き鳥君(笑)が登場です。

さぁさぁ、彼はマユにどんな反応をするのでしょうか?




 いきなり私の部屋に転移してきて、自分とセックスして欲しいと言って来たリアス。

正直言って、私は何がなんだか訳が分からずに混乱している。

 

「い…一体どうしたんだ?」

「お願い。もうお姉ちゃんしか頼れる人がいないの…」

「どういう意味だ?」

「本当なら男の子がいいんでしょうけど、私が知っている親しい男子は裕斗だけ。でも、私も裕斗の気持ちはちゃんと理解しているつもりよ。だから、こんな真似は出来ない」

 

私ならいいのかよ!?

 

「それに……私、お姉ちゃんにならいいと思ってるの」

「な…何が?」

 

こっちの疑問に答える前に、リアスは徐に自分の着ているネグリジェに手を掛けた。

 

「リ…リアス!?」

 

ちょ…ちょっとっ!?

一旦冷静になろうよ!

 

(はははははっ!!!いいではないか雑種!今時、同性同士の体の交わりなど珍しくもあるまい?貴様のテクニックを見させて貰おうではないか!)

(な…何を言ってやがるですか!この人はぁ~!!ご主人様の始めては私だけの物なんですよぉ~!!)

 

そっちはそっちで好き勝手な事を言ってんじゃねぇ~よ!!!

 

その裸体を晒しながら、リアスはじわりじわりとこっちにすり寄って来る。

 

「お姉ちゃん……私を大人にしてください……」

 

おいおいおい~!?

ええ~い!こうなったら!!

 

「リアス!」

 

私は咄嗟に彼女の両肩を掴んで、その進行を止めた。

 

「お…お姉ちゃん?」

「駄目だ…リアス。これは…ダメだ」

「ど…どうして?私の事が嫌いなの?」

「そうじゃない…そうじゃないんだ…」

 

そう…そう言う意味じゃない。

 

「私は…リアスの事を大切な友と思っている。君の為なら、どんな事でもしてあげたい」

「なら…「でも!」……!?」

「例え、どんな理由があっても、こんな形で肌を重ねるべきではない」

「え……?」

 

私は真っ直ぐにリアスの目を見る。

 

「リアスはとても聡明な女の子だ。その君がこんな事をするのにはきっと、とても深い理由があるんだろう。けど、だからと言って、こんな形でこんな事をすれば、後で後悔するのは間違いなくリアス自身だ」

 

後悔……。

その言葉を口にした瞬間、闇里マユ(わたし)の中に二つの後悔がいつもよぎる。

 

一つは……リンドウさんの事。

 

もしもリンドウさんが行方不明になった時、私がもっと強かったら、リンドウさんはMIAにならずに、あんなにも苦しまずに済んだのかもしれない。

 

そして、もう一つはシオの事。

 

もしもあの時、私がもっと強くて、アーク計画を事前に食い止められれば、シオは月に行かずに、皆ともっと遊べたのかもしれない。

特に、第二のノヴァを倒す為に超弩級アラガミを探していた時、シオの記憶を見て、その気持ちはより一層大きくなった。

 

「後悔は……自分を苦しめるだけだ。どんな事をしても…過去は変えられないのだから…」

「お姉ちゃん…」

(お姉ちゃんがとても悲しそうな顔をしている…。もしかして、お姉ちゃんにも深く後悔するようなことが……)

 

リアスに、私と同じ苦しみは味わってほしくない。

あんな思いをするのは…私だけで充分だ。

 

「ごめんなさい…。私…お姉ちゃんにそんな顔をさせるつもりじゃ…」

「いや……気にしないでくれ…」

 

しまった…心配させたかな?

 

「今の私にリアスの期待には応えられない。だから…せめて……」

 

私は、ゆっくりと…優しく彼女の事を抱きしめた。

 

「こうしてあげる事で……満足して貰えないか…?」

「お…お姉ちゃん……!」

 

リアスも、私に体を預けるようにして、自分の顔を私の胸に埋める。

 

「満足よ……大満足よ……」

「そっか……よかった……」

 

これで…大団円…かな?

 

(雑種め…。変なところで妙に紳士っぷりを発揮しおって…)

(ナイスです!ご主人様!私も抱きしめられたいですぅ~♡)

 

いい加減に二人は黙れ。

 

こうして抱きしめると分かる。

リアスの体はとても震えている。

きっと、彼女も本当は怖かったんだろう。

せめて、こうすることでリアスの恐怖心を癒せたらいいと思う。

 

そうして抱きしめて少し経ってから、急に部屋の床に魔法陣が現れた。

 

「この魔法陣は…!」

 

ん?リアスは知ってるのか?

 

小首を傾げていると、魔法陣の中から見覚えのあるメイドさんが出て来た。

 

「やはりここにいましたか……」

 

呆れ顔でこちらを見るメイドさん……グレイフィアさん。

 

「ところで……なんでお二人は抱きしめ合っているのですか?」

「「あ……」」

 

咄嗟に私達は離れた。

急に意識してしまって、顔が赤い。

リアスの方も顔が真っ赤だった。

 

「…で?貴女がここに来たのは貴女の意思で?それとも家の事情?もしくはお兄様かしら?」

「それら全部です」

 

即答ですよ…。

 

「本当にすみません、マユ様。こんな夜中にいきなりやって来て、ご迷惑をお掛けしました」

「い…いや…私の事は気にしないでください…」

「貴女は変わりませんね…」

 

そうか?

一応、背は伸びたよ?

 

「ところで……随分とお綺麗な部屋なんですね」

「黒歌がいつも掃除してくれてますから」

 

ホント、あの子には感謝しかないよ。

 

「そうですか…。彼女も頑張っているのですね…」

 

あの時、黒歌の事を応援した身としては、気にせずにはいられないんだろう。

 

「はぁ……。グレイフィア、私の根城に行きましょう。詳しい話はそこで聞くわ」

「承知しました」

 

リアスはネグリジェを着直して、グレイフィアさんの隣に並ぶ。

 

「お姉ちゃん。今日は本当にごめんなさい。でも、抱きしめてくれて…嬉しかったわ。ありがとう」

「では、失礼いたします。黒歌さんによろしくお伝えください」

「分かりました。リアス、おやすみ」

「ええ。おやすみ…お姉ちゃん」

 

それだけ言って、二人は転移していった。

 

「……なんか…目が冴えてしまった…」

 

眠くなるまで、さっきの事を色々と考えてみるか…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次の日の放課後。

私と白音は部室に行く途中でアーシアと裕斗に合流した。

 

「部長の悩み事…ですか?」

「そうだ。何か心当たりはないか?」

「そうですねぇ…。多分、グレモリー家の事じゃないですか?」

「矢張りそこに帰結するか…」

 

そうなると、私には手の出しようが無いんだよなぁ~。

う~ん…どうする?

 

「朱乃さんなら、何か詳しい事を知っているかもしれませんね?」

「朱乃が?」

「はい。あの二人は付き合いが長いですから」

 

そう言えばそうだったな。

部室についたら、試しに聞いてみるか…。

 

そう思いながら部室の前まで行くと、ドアの向こうから覚えのある気配がした。

裕斗も何やら怪訝な表情をしている。

 

「あれ…?この感じは……」

「どうしたんですか?マユさん」

「いや…なんでもない」

 

心配そうにこっちを見るアーシアを他所に、私達は部室の中に入った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 部室の中には、いつもの位置にリアスと朱乃がいて、その傍に控えるようにしてグレイフィアさんが立っていた。

 

「またお会いしましたね。マユ様」

「は…はい」

 

まさか、昨日の今日でまた会うとは…。

偶然とは恐ろしいものだ。

 

リアスと朱乃はいつものようにしているが、どことなくいつもとは雰囲気が違う。

なんだかピリピリしているような気がする。

 

「昨日のお詫びと言っては何ですが、お受け取り下さい」

「は…はぁ…。分かりました」

 

なんか、グレイフィアさんから菓子折りを受け取ってしまった。

箱の包み紙には『魔王饅頭』と書かれてあった。

冥界にも饅頭ってあるんだな…。

 

私達はいつもの席に座る。

 

「マユさん。昨日、何かあったんですか?」

「まぁ…色々とな」

 

あれを詳しく話すわけにはいかないよなぁ~。

特にリアスの前では。

 

「皆揃ったわね。今日は部活をする前にちょっと話があるの。実は……」

 

もしかして、昨日の事を話してくれるのか?

 

リアスが話始めようとした瞬間、部室の床にいきなり魔法陣が出現した。

 

「フェニックス……」

「え?」

 

フェニックスって…あの不死鳥伝説のフェニックスか?

 

魔法陣から突如、勢いよく炎が吹き出て来たので、私は咄嗟に『左腕』を大きく振って、その炎をかき消した。

 

危ないなぁ~…もう!

 

私は内心愚痴を言っていると、炎が人型のシルエットを形成して、中から腕が現れて炎を振り払った。

 

「ふぅ…人間界は久し振りだな……」

 

そこには真っ赤なスーツを着たイケメンが立っていた。

けど、なんか嫌だなぁ…コイツ。

 

同じ金髪男子なら裕斗やカレルさんがいいな。

なんだかんだ言って、カレルさんって凄い優しいし。

 

「愛しのリアス。会いに来てやったぜ」

 

愛しの?どういうこっちゃ?

 

「……………」

 

うわぁ……滅茶苦茶嫌そうな顔をしてますがな…リアスちゃんは…。

 

まさか…昨日の事はこの男が絡んでいるのか?

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「紅茶です」

「すまんな」

 

男がソファーに座り、朱乃から紅茶を受け取る。

さっきからずっと、馴れ馴れしくリアスに絡んでくるな…。

 

「あの…この人は?」

「この方はライザー・フェニックス様。リアス様と同じ純血の上級悪魔であり、名家フェニックス家の三男でございます」

 

名家のお坊ちゃん…ね。

いかにもな風貌だしな。

うん、説得力全開だわ。

なんせ、全身から『我儘お坊ちゃんオーラ』が滲み出てるもん。

 

「そして、リアス様の婚約者でもございます」

「こ…婚約者?」

 

それってつまり…将来は約束されてるって事?

って言うか…今時、そんなのなんているんだ…。

初めて聞いたわ。

 

ああ…だからさっきからずっとリアスの髪とか体を触りまくってるのね。

私もこんな男は嫌だなぁ…。

なんか、ブレンダンさんの爪の垢を煎じて飲ませてやりたい。

少しは男らしくなるんじゃない?

 

「いい加減にして!私は貴方とは絶対に結婚はしないって何回も言ってるじゃない!!」

 

あ、とうとうリアスがブチ切れた。

 

「私は私が本当に…心から好きだと思った人と結婚する!私にだってそれぐらいの自由がある筈だわ!!」

 

今時、いくら名家とは言え、そこまで束縛はしないよなぁ。

そんなのは精々、黒歌とレイナーレが最近夢中になってみている昼ドラの中ぐらいだ。

 

「はぁ…。あのな、俺だって仮にもフェニックス家の看板を背負った男なんだよ。この名に懸けて、家の名に泥を塗るわけにはいかないんだ。そこら辺はお前にだって分かるだろう?」

「それは……」

 

あ、詰まった。

 

「例えお前がなんと言おうと、俺は君を連れて帰るぞ。例え……」

 

ライザーがその手に炎を宿した。

 

「この場で、全員を焼き尽くしてもな」

 

む…やる気か?

私はいつでも皆を護れるように、玉藻の力を出せる準備をした。

 

しかし、それは杞憂で終わった。

 

「おやめください。ライザー様」

 

グレイフィアさんが咄嗟にライザーの腕を掴んで動きを抑えた。

 

「それと、マユ様も」

 

え?ばれてた?

 

「貴女様がいつでも動けるように構えているのを僅かに感じましたから」

 

す…鋭い…!

流石はサーゼクスさんの奥さん…!

 

「マユさん…いつの間に…」

「全然分かりませんでした…」

 

少ししか動いてないしね。

 

「…そう言えば、なんでこの場に人間がいるんだ?」

「お姉ちゃんとアーシアの事?」

「お姉ちゃん?」

 

ライザーが『お姉ちゃん』に反応して私の方を見た。

 

「べ…別に私が彼女の事をなんて呼ぼうが貴方には関係ないでしょ!」

「ふむ…それもそうか」

 

納得するのかよ…。

ちょっとは疑問に感じて欲しかった…。

 

ライザーの手から炎が消えると、グレイフィアさんがその手を離した。

 

「ん?お前……」

 

な…なんだ?いきなりこっちの方を見だしたぞ?

 

「ほぅ…?中々に美しいな…お前」

 

おいおい!一体どんだけ節操無いんだよ!?

仮にも婚約者の前だぞ!?

 

「お前……名前は?」

「闇里…マユ」

「闇里…か。いい名だな」

「それはどうも」

 

褒められても全然嬉しくない。

 

「マユとやら。俺のハーレムに入らないか?」

「は……」

「「「「「はぁぁぁぁ~~~~~!?」」」」」

 

いきなり何を言ってるかな?

コイツも物好きだな。

 

「ラ…ララララライザー!貴方はいきなり何を言ってるの!?」

「そ…そうですわ!幾らなんでもその発言は!」

「無いと思います!先輩をいきなりナンパするなんて!」

「殴る殺す潰す捻るちぎる燃やす……」

「あわわわわわわ……」

 

全員動揺しすぎ。

少しは落ち着きましょう。

 

(ご主人様が落ち着き過ぎなんです!)

(奏者は誰にも渡さん!余の剣の錆にしてくれる!)

(雑種が…!)

 

お前らも落ち着け。

 

「ライザー様。流石の私も、そのような発言は見逃せません。それ以上彼女に何かをした場合、私も本気を出すしかありません」

 

え?なんでグレイフィアさんが激おこなの?

 

「怖い怖い…。冥界で最強の僧侶(ビショップ)と称される貴女にそう言われたら、俺も引っ込むしかないな」

 

僧侶なのは知ってたけど、まさか最強と呼ばれてたんだ…。

流石は魔王の妻兼メイド。

 

「話が拗れるであろうことは、旦那様もサーゼクス様もフェニックス家の皆様も承知しておりました」

 

最初からこの展開を分かってたんかい!

 

「実はこの話し合いは最後通告のようなものだったのです」

「最後通告…ですって?」

「はい。この話し合いで決着が付かなかった場合を予測し、最後の手段を考えていました」

 

最後の手段とな?

 

「お嬢様。これ以上、己の御意思を貫き通すのであれば『レーティング・ゲーム』で決着をつけてはいかがでしょうか?」

「レーティング・ゲーム……!」

 

リアスがいきなり険しい顔になった。

 

「グレイフィアさん。レーティング・ゲームとはなんですか?」

「簡単に説明しますと、爵位持ちの悪魔同士が眷属同士を戦わせるゲームでございます」

「それは…眷属をチェスの駒に見立てている事に関係が?」

「はい。その通りでございます」

 

ゲーム…ね。

悪魔も色んな事をしてるんだなぁ~。

 

「いいでしょう。喜んで受けて立つわ」

「俺もそれで構わない」

 

ちょ…ちょっと!?

そんな安請け合いをしてもいいのか!?

 

「両者の参戦の意思を確認しました。両家からは私からご報告しておきます」

 

あぁ…グレイフィアさんも承知しちゃったし…。

 

「だが、果たして勝負になるのか?ここにいるメンバーの中では、君の女王ぐらいしか俺の眷属の相手にならなさそうだぞ?」

 

へぇ~…朱乃ってちゃんと評価されてるんだなぁ…。

 

ライザーが指をパチンッ!と鳴らすと、再び部室の床に魔法陣が出現した。

その魔法陣から、複数人の人影が現れた。

 

「合計15人…ですね」

「多いな」

 

もしかして、フルメンバー?

多種多様な子達がいるな。

 

「分かるか?俺は完全にフルメンバー。それに比べてそっちは少数。しかも、実力や実戦経験もこちらの方が上だ。これでは完全にワンサイドゲームになるんじゃないか?」

 

普通に考えれば…ね。

けど、考えようによっては勝ち目は充分にある。

それに、戦いは決して数だけで決するとは限らない。

 

「戦力の大きさが勝敗の決定的な結果に繋がるとは限らない」

「ほぅ?」

「強力な単体戦力がいれば、幾ら有象無象がいても意味が無い」

「言うじゃないか…!ならば……」

 

ライザーが眷属の一人に目配せをする。

 

「それを証明して見せろ!ミラ!」

「はい!」

 

ライザーの命令を受けて、眷属の一人が長い棍を器用に回しながら突貫してきた。

 

「……!」

「大丈夫だ」

「マユさん…?」

 

咄嗟に迎撃しようとした白音を抑えて、私をやって来る女の子を見る。

そして……全力で睨み付けて、最大級の殺気を彼女だけにぶつけた。

 

「ひぃ……!?」

 

殺気をぶつけられた女の子は、急停止してから体を震わせて、その手に握っていた棍を床に落とした。

 

私は立ち上がって、床に落ちた棍を拾い上げてから彼女に渡した。

 

「はい」

 

その際に彼女の頭を撫でて、アフターケアも忘れない。

仕方なかったとはいえ、怖い思いをさせちゃったしね。

 

「は…はぅぅ……」

「その気合は認めるけど、相手の技量もちゃんと読めるようにならないとね?」

「は…はい……」

 

脅えて顔を真っ青にしていた彼女は、次の瞬間には顔を真っ赤にして元の位置に戻っていった。

 

「ふははははははは!流石は俺が認めた女だ!まさか、殺気だけでミラを圧倒し、その上でミラを堕とすとはな!」

 

堕とすってなんだよ…。

 

「うぅ……お姉ちゃんの一級フラグ建築士のスキルがここでも発揮されるなんて…」

「マユ様……別の意味で油断出来ませんね…」

 

別の意味ってなんですか。

 

「そうだリアス。丁度いいから、今回のレーティング・ゲームには彼女も参加して貰えばいいんじゃないか?」

「な…何を言ってるの!?お姉ちゃんは関係ないでしょ!」

「そんな事を言ってていいのか?戦力が不足しているのは事実だろう?」

「ぐぅぅぅ……!」

 

事実を言われて言葉を失うリアス。

 

「私なら構わないぞ。リアス」

「お…お姉ちゃん!?」

「昨日、私はリアスに何も出来なかった。どんな形であれ、私に出来る事があれば喜んで協力したい」

 

私に出来る事なんて微々たるモノだと思うけどね。

 

「本人もこう言っている。これはもう、彼女の参加を認めるしかないのではないか?」

「分かっ……たわ……」

 

渋々と言った感じで返事をするリアス。

 

「ちょっと待ってください」

 

話が終わりそうになった時、白音が手を上げた。

 

「そのゲーム。私も参加します」

「し…白音!?貴女も!?」

 

はい。私の参加が確定しそうになった時から、なんとなくこの展開は予想してました。

 

「マユさんが参加するなら、私も参加しないわけにはいきません」

「け…けど……」

「大丈夫です。私にはとっておきがありますから」

 

人工神器のことね。

確かにあれは強力な切り札になる。

 

「俺は一向に構わんぞ?そう簡単に戦力差がひっくり返るとは思えんしな」

 

何処までも自信過剰なのね。

そんな態度を取ってると、いつか足元を掬われるぞ?

 

「本来ならばルール上は禁止ですが、今回のゲームは正式な試合ではありませんので、問題無いでしょう。サーゼクス様からも、万が一の際の眷属以外の参加を認めています」

 

絶対にこの展開を読んでただろ…。

 

「ならば、マユ様と白音様を特別にリアス様のチームに入れる形でよろしいですか?」

「ええ……」

「俺もいいぞ」

「ならばそのように。ゲームの日取りは今日から10日後とさせて頂きます」

 

10日…ね。

色々と試してみたいこともあるから、丁度いいかもしれない。

 

「ならば俺はこれで帰らせてもらう。10日もあれば対策ぐらいは立てられるだろう。だが、せめてものハンデだ。後で俺の試合の様子を撮影した物を送らせよう」

 

どこまで自分に自信あるねん…。

情報が手に入るのは嬉しいけど。

 

「そして…マユ」

「ん?」

 

会って間もないのに、いきなり名前呼びかい。

馴れ馴れしいにも程があるぞ。

 

「この試合に勝利した暁には、お前を必ず俺の女にしてやる。その時を楽しみに待っていろよ?」

 

勝手に彼氏宣言するなっつーの。

 

「ではな。愛しのリアス。そして…愛しのマユ」

 

最後に言いたい事を言って、ライザーとその眷属は魔法陣で転移していった。

それと一緒に、グレイフィアさんも転移していった。

別れ際に私に向かってお辞儀をしていたけど。

 

「どうやら……負けられない理由が増えたようね…!」

「あんな男性にお姉ちゃんは渡しませんわ…!」

「この一命に掛けても…必ず勝利を…!」

「あの男……絶対にアレを引きちぎって、すり潰してやる…!」

 

なんか皆がやる気満々になってる!?

しかも、白音に至っては目が完全に座ってるよ!?

 

「ところで、純粋な疑問を聞いていいですか?」

「何かしら?白音」

「あのライザーとか言う男の人は、マユさんの事が赤龍女帝だと知らないんですか?」

「そうですわね…。多少は噂ぐらいは聞いてそうですけど…」

「彼は完全に箱入り息子な上、俗世に興味を示そうとしないの。赤龍女帝の事は知っていても、その正体がお姉ちゃんであることは知らないんじゃないかしら?」

「世間知らずが幸いしましたね」

「そうね。皮肉だけど、お姉ちゃんと白音が加わってくれれば、こちらの勝率はぐんと上がるわ」

 

そこら辺は任せて欲しい。

こんな事ぐらいでしか役に立てないからね。

 

「でも、お姉ちゃん達だけに任せっぱなしには出来ないわ!私達も頑張るわよ!」

「「はい!」」

 

気合入ってるなぁ~。

私も負けてられないな。

 

こうして、いきなり悪魔同士ゲームに巻き込まれた…と言うよりは、自ら巻き込まれた私達であった。

 

…黒歌達になんて説明しよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




区切りが悪そうなので、図らずも長くなってしまいました。

焼き鳥君にいきなりナンパされた挙句、レーティング・ゲームに参加する羽目になりました。

少々強引だったかもしれませんが、私にはこれが限界でした。

お次は山での特訓開始?

では、次回。


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第34話 特訓と言う名の合宿(午前編)

この章は基本的に原作沿いに進んでいきます。

という事は、必然的にアラガミとの戦闘も非常に少なくなるわけで……

じゃあ、何処で戦うのかって?

そりゃ勿論、クライマックスですよ。


「……と言うことがあった」

 

夕食時、私は皆に今日の放課後にあった出来事を話した。

すると、黒歌とレイナーレの二人が非常に大きな溜息を吐いた。

 

「「はぁ~~~~~……」」

「ど…どうなさったんですか?お二人共…」

 

余りにも大きな溜息に、アーシアが思わず首を傾げる。

 

「マユはトラブルに巻き込まれすぎにゃ…」

「まぁ…今回のは自分から行ってないだけまだましだけど…」

 

私ってそんなにもトラブルに巻き込まれてるか?

 

「この間も、横断歩道で立ち往生しているお婆さんの荷物を持ってあげて、結局隣町まで行ってたじゃないですか」

「それぐらいなんでもない」

 

困ってる人を放置は出来ない。

私の数少ないポリシーだからな。

 

「でも、そのライザーとか言う奴もいい度胸にゃ」

「よりにもよって、貴女をナンパするなんてね」

 

ナンパ……なんだろうか?

あれはもっと違う何かだと思うんだが…。

 

「黒歌。ナンパって何?」

「見ず知らずの男が初めて出会った女の子を誘う行為にゃ」

「お姉ちゃん、誘われた?」

 

ティアが黒歌に聞いて、それを聞いてオーフィスちゃんがこっちを見た。

 

「確かに誘われはしたが……」

「マユさんはあんなチャラ男なんかに靡くような人じゃありません」

 

なんか、ライザーが去ってからずっと白音はこの調子だ。

怒っていると言うか、やる気になっていると言うか…。

 

「でも、マユと白音ならきっと大丈夫にゃ」

「レーティング・ゲーム…だったっけ?あんた達二人なら、そんじょそこらの悪魔なんかには絶対に負けないでしょ」

「当たり前です」

 

自信たっぷりだな…白音。

ま、私も負けるつもりなんて無いけどね。

 

「お姉ちゃん、醤油を取ってくれないか?」

「わかった」

 

レドに醤油を渡そうとした、その時だった。

 

 

『~♪』

 

 

私にスマホに着信が来た。

このタイミングなら、掛けてくる人物は限られてくるが……

 

「すまない」

 

私はスマホを持ってから少し離れて、着信に出た。

 

「もしもし?」

『あ…お姉ちゃん?』

 

電話の相手はリアスだった。

 

『こんな時間にごめんなさい』

「いや…それは別に構わないが…どうした?」

『実はね、明日からオカルト研究部で合宿をしようと思うの』

「合宿?」

『ええ。レーティング・ゲームにお姉ちゃん達が出てくれると言っても、それにばっかり頼るわけにはいかないって思って。特訓をすることにしたのよ』

「成る程な…」

 

それはいい心掛けだ。

向上心は大切だからな。

 

『既に他の二人には伝えてあるわ。後はお姉ちゃん達だけ』

「そうか」

『で…いいかしら?一応、そっちの都合を優先して貰っても構わないんだけど…』

 

悪魔なのに遠慮深いんだな。

 

「私は構わない。多分、白音もな」

『そう。よかったわ』

「だが……」

『どうしたの?』

「流石に数日に掛けて皆を置いて家を離れるのは……」

『だったら、皆も連れて来ていいわよ?』

「い…いいのか?」

『ええ。行く場所はグレモリー家の別荘なんだけど、結構大きいから、問題無いと思うわよ?』

「そうか…。でも、一応皆にも説明してくれないか?スピーカーモードにするから」

『了解よ』

 

私はリビングに戻り、スマホをスピーカーモードにしてから食卓の上に置いた。

 

「リアス、頼む」

『ええ』

 

そこからリアスは、さっきと同じような説明を皆にしてくれた。

 

『…という訳なの。どうかしら?』

「私は別に構わないにゃ。ちょっとした小旅行と思えば、問題無いにゃ」

「私もいいわ。一応…その…私はアンタの従者なんだから…」

 

黒歌とレイナーレはオッケーと。

アーシアは……

 

「私も一緒に行ってもいいんでしょうか…?」

『勿論よ。例え眷属じゃなくても、貴女は立派なオカルト研究部の部員なんだから』

「部長さん…」

 

はい、アーシアもOK。

 

そして、幼女龍トリオは……

 

「合宿、なに?」

「皆で一緒に別の所でお泊りする事にゃ」

「お泊り……」

「面白そうだ!私も行く!」

「私も行きたい!」

「我も!我も!」

 

…言うまでも無かったね。

 

「…と言う事らしい」

『ふふ……。賑やかになりそうね』

 

確かにな。

結果としてかなりの大所帯になるしね。

 

『じゃあ、明日の朝に迎えに来るわ』

「わかった」

 

通話が切れた。

 

「合宿してまで特訓なんてしたら、マユの強さにますます磨きが掛かっちゃうにゃ」

「ライザーとか言う奴に同情するわね。ご愁傷様」

 

とうとう同情されたぞ、ライザー。

 

「でも、そうなると今夜中に明日の用意をしなきゃいけないわね」

「ご飯を食べて、お風呂に入ったら早速するにゃ」

 

この後の予定が決まったな。

皆で一緒に合宿の準備だ。

 

話が一段落ついて、食事を再開しようとすると、再びスマホに着信が来た。

 

「またか?」

「今度はなんとなく予想がつきます」

「私もにゃ」

 

同じく。

試しに出てみると、案の定だった。

 

『もしも~し!君の足長おじさんだよ~!』

 

久し振りに聞いたけど、本当に元気だな…。

 

「だ…誰よ?」

『おやおや~?そこにいるのは堕天使のレイナーレちゃんにシスターのアーシアちゃんかな?』

「えっ!?なんで私の名前を!?」

「私の事も……」

『ふっふっふっ~。僕はなんでも知ってるんだよ~』

「レイナーレ、アーシア。気にするだけ無駄だ」

 

それが、この人とうまく付き合うコツ。

 

『酷いなぁ~マユちゃんは。そんな所も素敵だけどね』

「言ってろ」

 

コイツにそんな事を言われても嬉しくない。

 

『初めまして、レイナーレちゃん、アーシアちゃん。僕は足長おじさん。マユちゃんの事を密かに支えているお助けマンさ!』

「お助けマンって…」

「はぁ……」

 

呆れてやるな。

流石に哀れだから。

 

「信用は出来るが、まともに受けあわない方がいい。疲れるだけだ」

『そんな風に思ってたの!?』

 

それ以外に何と?

 

「それよりも、なんで連絡してきた?」

『あ、そうだった。マユちゃんとのお話が楽しくてすっかり忘れてた』

「忘れるなよ」

 

呆れる奴だ…。

 

『マユちゃん。そろそろ、部屋が少なくなってきたと感じて来たんじゃない?』

「よく分かるな」

『マユちゃんの事だからね』

「不気味な事を言うな。キモイ」

『それは酷くない?』

 

今更だろ?

 

『で、君達が合宿に行っている間に、僕がこの家を広くしてあげようと思ったんだよ』

「……おい」

 

今、サラッととんでもない事言ったぞ。

 

「そ…そんな事が出来るのかにゃ!?」

『ふふふ……。僕の辞書に不可能の文字は無いのだよ?』

「ナポレオンか」

 

本気で出来そうだから、怖いんだよなぁ~。

 

「皆、今更…だろ?」

「「それもそうですね(だにゃ)」」

「我もそう思う」

「うんうん」

 

ある意味、満場一致だった。

 

「……やり過ぎるなよ?」

『分かってるって。そこら辺は僕だって弁えてるさ』

 

本当だろうか…。

 

『それじゃ、おやすみ~』

 

足長おじさんは通話を切った。

 

「ホントにいつもいきなりですよね…」

「もう慣れたにゃ」

「アンタ達も苦労してるのね…」

 

改めて食事を再開し、その後にお風呂に入ってから、皆で一緒に合宿の準備をした。

幼女組は凄く楽しみなようで、準備をしている時から既にウキウキしていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日、リアス達が私の家に迎えに来てくれて、一緒に転移で合宿所である別荘に行くことになった。

リアス達が最初に行き、その後にリアス達の魔力を追跡する形で私達が転移するようにした。

 

因みに、今日の合宿の事は学校側にも伝えてあるらしい。

 

転移してついた場所は山奥で、目の前には舗装してない長い坂道があった。

 

「別荘はこの上よ」

 

これは行くだけで大変そうだ。

いい運動になるな。

 

私達は皆で上に向かう事にした。

 

結構なスピードで歩いているが、誰も疲れた様子は見せない。

勿論、私も。

 

しかも、オーフィスちゃん達に至っては……

 

「別荘とはどんな場所なんだろうな?」

「我、楽しみ」

「私もだ!なんだかワクワクしてくるな!」

 

心の底から楽しそうに山登りを満喫している。

まるで、遠足に行っている小学生のようだ。

 

「小さな子のあんな姿を見ると、なんだか癒されますわね…」

「そうね。無邪気な笑顔ほど、純粋なものは無いわ」

 

本当は天下無敵の伝説の龍達だけどね。

 

私達も幼女組を習って、楽しんで歩くことにした。

途中、裕斗が山菜を取って来てくれた。

黒歌とレイナーレが夕飯にすると言っていた。

山菜と言ったら、やっぱり天ぷらかな?

 

ちょっとだけ夕飯を楽しみにしながら、別荘を目指した。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 山道を歩いて着いた別荘は、かなり大きい建物だった。

確かにこれは余裕だわ。

 

「「「おぉ~」」」

 

幼女組は目をキラキラさせていて、黒歌とレイナーレは……

 

「これだからブルジョアは……」

「金持ちって…嫌いだわ」

 

こらこら、毒づかない。

 

意外な事に、一番ばてそうなアーシアが平気そうにしていた。

もしかして、意外と鍛えてるのか?

 

「それじゃあ、荷物を置いて、一休みがてら着替えてから訓練に入りましょうか?」

「「はい」」

「わかった」

「了解です」

 

私達は別荘の中に入っていく。

中も結構広くて、これなら訓練をしない時でも寛げそうだ。

 

「私達は食事の準備をするにゃ」

「私だけでいいわよ」

「レイナーレ?」

 

いきなりどうした?

 

「偶にはアンタだって風神(それ)の訓練をしたらいいんじゃない?」

「それはしたいけど……いいのかにゃ?」

「それぐらいは出来るわよ」

 

レイナーレの家事スキルは凄いからね。

黒歌にも負けてない。

 

「それじゃ、お言葉に甘えるにゃ」

「そうしなさい」

 

そんな訳で、レイナーレは食事係になった。

 

私達は二回にある部屋で着替えて、裕斗は一階の浴室にて着替えた。

 

皆の格好はジャージで、アーシアも着替えていた。

 

レイナーレは真っ直ぐにキッチンに向かって、それ以外の皆は外に集結した。

 

「皆、特訓の前にはちゃんと準備運動をしよう」

「そうね」

「特訓で身体を壊したら、元の木阿弥ですものね」

「基本ですよね」

「分かりました」

 

皆は思い思いの場所で屈伸や柔軟をしていた。

 

「お姉ちゃん。私達はどうしたらいい?」

「ああ……そうだなぁ……」

 

オーフィスちゃん達か……。

出来れば危険な場所には行ってほしくは無いし…(大丈夫だと思うけど)

 

「邪魔さえしなければ、遊んでていいよ」

「わかった」

「「うん!」」

 

元気でよろしい。

 

私も準備運動を始めますか。

 

まずは他の皆と同じように屈伸などをしていく。

次に、体操選手のような柔軟をこなしていく。

 

「お…お姉ちゃん。身体が軟らかいのね…」

「まるで体操選手のようですよ、先輩」

 

そう、私は身体が凄く柔らかい。

立った状態でも普通に両手が地面につくし、両足も真横に広げた状態で座れる。

しかも、そこから上半身を地面につけることが出来るし。

 

因みに、黒歌や白音も体が柔らかい。

流石は猫又だ。

 

ある程度、準備運動が終わって体が温まると、本格的に特訓を開始する。

 

まずは基礎的な事から。

 

「マユさん。まずは何をします?」

「最初は筋トレだな。専門的な事はそれからすればいい」

「そうですね」

 

てなわけで、私はいつもと同じメニューをすることにした。

 

『お…おい、相棒?』

「どうした?」

『まさかとは思うが……また、あの滅茶苦茶な筋トレをする気か?』

「いや……私は至って普通の筋トレをしているつもりなんだが…」

『相棒の『普通』は普通じゃないんだ!ほんの少しでいいから、女らしさを身に着けてくれ!』

 

そこまで必死になる事か?

 

気にせずに私は筋トレを開始する。

 

まずは右腕の片腕立て。

 

「そうだ。オーフィス、レド、ティア。こっちに来て私の背中に乗ってくれないか?」

「いいのか?」

「構わない」

「わ~い!」

 

嬉しそうに私の背中に乗る三人。

 

「では…いくぞ」

 

最初はゆっくりと、徐々にペースを上げていく。

 

「ゆ~れ~る~」

「「あはははは!」」

 

うん、やっぱりこれぐらいが丁度いいな。

 

「マ…マユさんが凄い事をしてます…」

「いつもの事にゃ」

「見慣れた光景ですよね」

 

暇な休日はいつも似たようなことをしてるしね。

 

「だ…大丈夫なの?お姉ちゃん」

「問題…無い。寧ろ…丁度いい…」

「こんな事を苦も無く出来るから、お姉ちゃんは強いんですのね…」

「流石です、先輩」

 

こっちを見るのはいいけど、ちゃんと訓練しようね?

 

回数は数えずに、ある程度自分で納得がいったら左に移る。

左腕でもある程度腕立てをすると、背中に乗っている三人の方を向く。

 

「降りていいぞ」

「「「わかった」」」

 

三人は名残惜しそうに降りて、近くの草むらに座った。

 

「皆を見てる」

 

なるほどね。

 

他を見ると、皆も腹筋や背筋などをしていた。

 

「よし、次は…」

 

立ち上がってからタオルで汗を拭きながら周囲を見渡す。

すると、程よく大きな木が見えた。

 

「あれがいい」

 

木に近づいてから、上に登る。

そして、枝に足を掛けてからぶら下がる。

 

「よし…!」

 

腹筋開始だ。

 

「1…2…3…4…5…」

 

このペースなら、あっという間にノルマ達成かな?

 

「スピード早っ!?」

「汗が散ってますわ…」

 

こっち見てないで、ちゃんとしようね?

 

私が目で訴えると、皆も筋トレを再開した。

アーシアも頑張って自分なりに体を動かしている。

その姿勢は本当に立派だ。

体力があるに越したことは無いしね。

 

ノルマを達成すると、私は木から降りた。

 

その後も、スクワットや神機を持った状態での素振り。

更には足に重りを付けた状態での運動。

 

結局、午前中は筋トレだけで終わってしまった。

それは皆も同じのようで、全員が程よく汗を掻いていた。

 

「みんな!昼食が出来たわよ!」

 

お、もうそんな時間か。

 

皆がやって来たレイナーレの所に集合する。

 

「ごめんなさいね。貴女に全て任せてしまったようで」

「気にしないで。こっちは好きでしてるんだから」

 

ツンデレ乙。

 

「食べる前に汗を流してきたら?」

「それもそうね」

 

私達は一緒に浴室とは別にあるシャワー室に向かった。

勿論、オーフィスちゃん達も一緒に。

 

裕斗は私達の後に入る事になった。

 

さてはて、レイナーレはどんなご飯を作ってくれたのかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回から特訓開始ですね。

まずは筋トレの風景から。

次からは原作通りに皆と一緒の訓練になります。

では、次回。


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第35話 特訓と言う名の合宿(午後編)

今回は、今までやらなかった英霊の力の訓練もしようと考えてます。

果たして、何が出てくるかな?



 シャワーを浴びた後にレイナーレの昼食を食べて、少しだけ休憩してから午後の訓練に入った。

え?レイナーレが作った食事?

結構、ボリュームあったよ?

なんか、質より量って感じだった。

それでも、凄く美味しかったけどね。

どうやら、オカルト研究部の皆のレイナーレに対する評価も変わったみたいだし。

 

「では、午後からの訓練を始めるか」

「何をしましょうか?」

「そうだなぁ……」

 

また筋トレと言うのも、効率が悪いしなぁ…。

 

ちょっと試してみたいこともあるけど、私一人でやるのもなんだか……。

 

「ちょっといいですか、先輩」

「ん?どうした裕斗?」

「実は…お願いがあるんです」

「なんだ?」

 

裕斗がお願いなんて珍しい。

一体何だろうか?

 

「僕と手合わせしてくれませんか?」

「私と?」

「はい。是非とも今の自分の実力を試してみたいんです」

 

成る程…。

それも良いかもな。

 

「いいぞ。私で良かったら」

「寧ろ、先輩じゃなければ駄目ですよ」

 

裕斗の中での私の評価高いなぁ~。

 

「なら、午後は一人ずつお姉ちゃんと一緒にするようにしましょうか?」

「いい考えですわ」

「マユさんが訓練をしている間は、筋トレか見学をしていればいいと思います」

 

なんか、あれよあれよと言う内に午後のメニューが決まっていく。

私の意思はそこには無いのか…。

 

「ま、いいか」

 

私としても異議は無いし。

 

「私も少し試してみたいことがあるんだが、それでもいいか?」

「はい。勿論です」

「ありがとう」

 

なら、やりますか!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 と言う訳で、今私は裕斗と対峙してます。

私は赤龍帝の籠手を装備済み。

 

「アーチャー、準備はいいか?」

『ああ。いつでもいいぞ、マスター』

「なら、いくぞ!」

 

私は籠手を前方に構える。

すると、いつものように籠手から音声が聞こえた。

 

【Archer!】

 

すると、私の体に変化が訪れる。

まず、肌の色が褐色になって、髪の色が白髪になった。

 

変化が終了してから、試しに掌を握りしめてみる。

 

「……よし」

 

問題無しっと。

 

「それが……噂に名高い、歴代の赤龍帝の力…ですか」

「正確には、その一角だがな」

 

歴代の力を憑依させると、その能力と使用方法が頭の中に流れ込む。

実に便利と思う。

ご都合主義万歳だな。

 

『マスター。私の力の使い方は分かるか?』

「問題無い」

『なら、試しにやってみてくれ』

 

目を閉じて、脳内にイメージを刷り込む。

そして……

 

「……トレース…オン」

【Trace ON!】

 

籠手から音が聞こえると、私の両手に独特な形の双剣が出現し、握られていた。

 

「何も無い所から剣が!?」

「これが錬鉄の英霊『エミヤ』の能力…『投影魔術』だ」

「投影…?」

「簡単に言うと、頭の中に想像した物を魔力を媒体にして作り出す魔術の事だ」

「それは……僕と同じ……いや、それ以上…!」

 

基本骨子とかから想像しなきゃいけないけどね。

でも、想像力は昔から豊かな方だ。

 

『最初にしては中々の出来だな。やるな、マスター』

 

アーチャーに褒められた。

普段は辛辣な彼が誰かを褒めるのは珍しい。

それ程に凄かったという事か?

 

因みに、私が今握っているのは『干将・莫耶』と呼ばれる剣で、生前に彼が最も使用していた剣だ。

 

「では、やろうか」

「はい!よろしくお願いします!」

 

裕斗も剣を出現させた。

本当なら木刀とかがいいんだろうけど、彼が実体剣での模擬戦を望んだため、私もそれに応える事にした。

 

私と裕斗が同時に走り出し、互いの剣がぶつかり合う。

激しい火花が散って、剣戟が広がっていく。

 

「凄いですね先輩!剣の長さはそちらの方が短いのに、一撃一撃が凄く重い!」

「裕斗もな。中々のスピードだ」

 

確かに裕斗のスピードは素晴らしい。

けど……

 

「スピード重視になっていて、一撃ごとの攻撃力が低下している!」

「くっ…!」

 

身体全体を使って裕斗の体を弾き返す。

それを利用して間合いを取る裕斗。

次の瞬間、彼は自慢の速さを利用して、フェイントを交えて向かってくる。

しかし……

 

「甘い!」

 

背後に回った裕斗の剣を受け止める。

 

「なっ…!」

「フェイントを交えたのはいいが、背後を取るのはいけないな」

「どういう意味ですか?」

「戦いにおいて、背後を取るのはセオリーだ。相手が素人、もしくは普段から剣を使わないような連中なら、その方法も使えるかもしれないが、同じ剣士同士では寧ろ逆効果だ」

「……!」

「一対一の戦いの場合、背後こそが最大の死角。それ故に、そここそが最も警戒が高くなるんだ」

「確かに……」

「安易に背後を狙っていくと……」

 

全力で裕斗の剣を弾き上げる。

すると、裕斗の手から剣が離れて、空中を回転しながら飛んでいき、地面に突き刺さった。

 

「こうなる」

 

最後に、裕斗の眼前に剣を突き付ける。

 

「……降参です。やっぱり先輩は凄いですね」

 

裕斗は両手を上げて降参のポーズを取る。

 

それを見て、私は投影を解除する。

 

「大丈夫か?」

「はい。問題ありません」

 

裕斗の手を引いて立ち上がらせる。

 

「これでも、剣にはそれなりに自信があったんですけどね…。まだまだ頑張らないとですね」

「だが、それはまだ伸びしろがあると言う証でもある」

「そう言われると、やる気が出て来ます」

「そうか」

 

こうして、初めてのアーチャーの能力使用と、裕斗との模擬戦は終わった。

私としてもいい経験になった。

これなら、アーチャーの禁手もなんとかなりそうだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 裕斗との手合わせが終わり、レイナーレからスポドリを貰ってから一旦休憩した。

勿論、アーチャーの力は解除した。

 

「さて…次は…」

「私がいいですか?」

「白音か。いいよ」

 

確か白音は武器を持たずに徒手空拳での戦いを好んでいた筈。

なら……

 

「先生。いいですか?」

『儂か?構わんぞ。呵々!』

 

こと格闘技において、この人以上の先人はいないだろう。

 

「では……」

『うむ。いつでも良いぞ』

 

さっきと同じように精神を集中させる。

 

【Assassin!】

 

私の髪が深紅に染まり、同時にポニーテールになる。

そして、目の部分に赤い化粧が施された。

勿論、完全に無手だ。

 

「それが…伝説の拳法家の力を借りたマユさんの姿なんですね」

「そのようだな」

 

さっきとは別の意味で、全身から力が沸いてくる。

 

「白音の場合、手合わせをするよりは、拳法を教えた方がいいかもしれないな」

「マ…マユさんに教えて貰えるんですか!?」

「あ…ああ。そのつもりだが…」

「~♡」

 

え?そんなにも嬉しがること?

 

『呵々!恋する少女は実に愛いものよ!これが教え甲斐がありそうだ!』

 

お?先生ってばやる気満々ですな。

 

「お姉ちゃんに手取り足取り…」

「羨ましいですわ…」

「白音……中々やるにゃ…」

 

そこ、嫉妬深い視線で見ない。

ちょっとはオーフィスちゃん達を見習いなさい。

 

「お~…」

「相変わらず、お姉ちゃんの変身は凄いな!」

「流石は私達のお姉ちゃんだ!」

 

ああ言ったキラキラした目を取り戻して欲しい。

オカルト研究部の中で、アーシアだけがあの子達と同じ目をしてるよ?

 

「凄いです…マユさん…」

 

ほらね?

 

「それじゃあ、基本的な構えから」

「分かりました」

 

それから、私は先生の知識を使って色々な事を教えた。

白音は本当に知識の吸収が早く、あっという間に基礎はマスターしてしまった。

 

『呵々!白音よ!お前は実に筋がいい!誰かに拳を教えて初めて楽しいと感じたぞ!』

「ありがとうございます」

 

大人しくしてるけど、内心は凄く喜んでるな。

だって、無意識のうちに耳と尻尾が出てきて、凄い勢いで揺れてるし。

 

それから、軽くストレッチをしてから、白音との訓練は終わった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「お次は私にゃ」

「了解だ」

 

オカルト研究部では無いけど、黒歌も大事な家族だ。

出来るだけ、彼女の要望には応えたい。

 

『ご主人様。ここはこの玉藻にお任せを』

「玉藻に?」

『はい。私めも風の術を使います故、他の方々よりはお役に立てるかと』

「そこまで言うなら…」

『はい!』

 

てなわけで……

 

【Caster!】

 

前にも一回なった、玉藻モードになりました。

 

「お…お姉ちゃんが狐耳に尻尾!?」

「も…萌えですわ……」

「先輩……可愛いです…」

 

可愛いって……萌えって…。

私はそんなキャラか?

 

「マユさん…素敵です…」

「あのもふもふの尻尾…触りたいです…」

 

はいはい。後でちゃんと触らせてあげるよ。

 

「黒歌。試しにやってみてくれないか?」

「わかったにゃ」

 

黒歌は風神を構えて、近くにあった大きな岩の前に立った。

 

「それじゃあ……行くにゃ!風神ちゃん!」

『任せて!ご主人さま!』

 

風神の核から風神ちゃんが飛び出して、黒歌と一緒に並ぶ。

 

「まずは……鎌鼬!!」

 

風神から凄まじい風が吹き荒れて、岩をあっという間に切り刻んでいく。

気が付けば、大きかった岩は複数の小さな岩の塊になっていた。

 

「次はこれにゃ!」

 

風神ちゃんが丸くなって黒歌の掌に収まった。

それを両手で押し出すようにして放った。

 

風玉(かざだま)!!」

 

複数の岩の塊は、風の収束された弾が直撃して、文字通り粉々になった。

粉砕された岩が黒歌に降り注ぐ。

 

「最後は……」

 

風神から三つの針のような物が生えた。

それを使って黒歌は降り注ぐ岩の雨の中で、比較的大きめの奴を残らず切り裂いた。

 

「風の爪…にゃ」

 

す…凄い…!

これって、私が何か言う必要あるの?

 

『う~ん…』

 

あれ?玉藻が唸ってる。

一体どうした?

 

『黒歌さん』

「何にゃ?」

『最初からあそこまで風をコントロール出来るのは非常に素晴らしいですが、もうちょっと風の収束率を操れるようになれば猶良いかと』

「どういう事にゃ?」

『単体の敵にはあれでもいいかもしれませんが、複数になると途端に不利になります。そう言う時は多少の威力低下には目を瞑って、広範囲に風を放って攻撃するのもいいと思いますよ?』

「成る程…。敵に応じて、効果範囲を変えるんだにゃ?」

『理解が早くて助かります。当面の目標は風を自在に収束、拡散出来るようになることですね』

「やる事が分かれば話は早いにゃ!玉藻、コーチをお願いするにゃ!」

『わ…私がですか!?仕方ないですねぇ…。これもご主人様の為と思えば…』

 

ぶつくさ言いながらも、玉藻は黒歌に適切なアドバイスをしながら、特訓は進んでいった。

 

『今回はこれぐらいでいいでしょう。ご主人様が力を宿してくれているお陰で、より詳細に分析も出来ましたし』

 

え?そんな効果があったの?

正直、この姿になる意味あったのかなって思い出してたのに。

 

「今回は本当にありがとうにゃ」

『ご主人様の為ですから』

「分かってるにゃ」

 

黒歌の特訓も無事に終わった。

その後、皆に尻尾と耳をもふもふされてしまった。

一番興奮していたのは、なんでか幼女組を抑えてリアスと朱乃だったが。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 因みに、リアスと朱乃の特訓は割愛する。

 

「「なんでっ!?」」

 

だって、私に魔術の事なんて分からないし、歴代の中にも精通してる人がいないんだもん。

唯一、知ってそうなギルガメッシュは面倒くさがって嫌だって言ってたし。

 

「「そんなぁ~!?」」

 

そんな訳で、次に行きま~す。

 

「あれ…?今回って私がヒロインよね…?」

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 必然的に最後はアーシアになるのだが……

 

「何を特訓しよう?」

 

これは流石に思いつかない。

アーシアの能力は『癒し』。

これをどう伸ばせと?

 

『困っているようだな。雑種よ』

「ギルガメッシュ」

 

一体どったの?

さっきは嫌がってたのに。

 

『なに。久方振りの『A・U・Oのアドバイスタイム』をしようと思ってな』

 

いつの間にコーナー化してんだよ…。

 

『アーシアよ』

「は…はい!」

『貴様の持つ癒しの力は、確か相手に触れる、もしくは近づく事によって効果が発動するのだったな?』

「はい…その通りです」

『戦場において、癒しの力のサポート能力は絶大だ。回復役が一人でもいるのといないとでは雲泥の差と言えるだろう。場合によっては、それだけで勝敗を決すると言っても過言ではない』

 

確かにその通りだ。

回復役がいるからこそ、前線の皆は迷わず前に進めるのだから。

 

『よって、お前がすることは主に二つだ』

「二つ?」

『まずは、最低限の自衛能力を身に付けよ』

「自衛…ですか?」

『そうだ。回復役は戦場において真っ先に狙われる。流石の我も貴様に戦う事は要求せんが、足腰を鍛えて敏捷性を鍛えたり、自身の身を護る即席の結界を作れるようになるだけでも、かなり違ってくるだろう』

「おぉ~…」

 

あのギルガメッシュが適切なアドバイスをしている…。

アーシアの事を認めたのかな?

 

『そして、遠距離での回復が出来るようにせよ』

「遠距離……」

『日常ならいざ知らず、いざと言う時に離れているせいで回復が出来ないのは致命的と言える。そうならない為にも、癒しの波動を飛ばせるようにするか、広範囲に展開に出来るようにしろ』

「わ…分かりました!」

『身体能力は雑種が鍛えてくれるだろう。結界については奴等に聞くがよい』

 

奴等…リアスや朱乃のことか。

 

『肝心の遠距離の回復はお前次第だ。神器は持ち主の精神力によって強くもなり弱くもなる。こればかりは誰も直接的な手助けは出来ん。全ては貴様次第だ。精々、精進せよ』

「はい!ありがとうございます!」

『ふん』

 

珍しく照れてる?

 

それから、アーシアはリアス達に教えられながら結界の張り方を学んだり、私や白音と一緒に体を鍛えたりした。

そして、肝心のロングレンジの回復は、まだまだ掛かりそうだった。

今日の記録は1メートルだった。

私的には、これでも充分だと思うけど。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 夕方まで特訓を続けて、空が赤くなってきた。

 

「夕飯、出来たわよ~」

 

レイナーレがフライパンをおたまで叩きながらやって来る。

 

「丁度良かった」

「お腹ペコペコです」

「疲れたわ……」

「早く休みたいですわ…」

「完全に空腹です…」

「はぅ~…」

「すっかりくたくたにゃ…」

 

どうやら、皆もお腹が空いているようだ。

 

「それじゃあ、行こうか」

 

皆は頷いて、別荘の中に入っていった。

今日はゆっくりと休みたいな~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




特訓パート終了。

次は夕飯の後にリアスとの語らい?

では、次回。


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第36話 温泉と情報収集

最近になって、急に忙しくなってしまいました。
一応、今週で収束するらしいのですが、どうなる事やら…。

疲れ果ててしまって、すっかりくたくたです。


 一日目の特訓が終わり、レイナーレが作ってくれた夕食を食べ終えた私達は、皆でお風呂タイムと洒落込んだ。

 

最初に私達女性陣が入り、その後に裕斗が入る手筈になっている。

 

にしても……

 

「温泉かよ……」

 

別荘とは思えないほどに大きな温泉がそこにはあった。

どう考えたって、これは高級旅館とか高級ホテルとかにあるタイプの温泉だ。

流石は魔王の血脈と言ううべきか…。

 

「ひ…広いです…」

「ブルジョア全開にゃ」

「質素って言葉を知らないのかしら?」

 

こらこら、そんな事言わない。

 

一応、全員がバスタオルで身体を隠した状態で浴場に来ている。

勿論、私は普段は左腕を覆い隠している手袋を外している。

 

「にしても…」

「ん?」

 

レイナーレが私の左腕を凝視している。

 

「こうして改めて見ると、すっごい腕よね…。ホントに大丈夫なの?」

「ああ。今の所はこれと言った問題は出ていない」

「そう…。それならいいけど…」

 

もしかして…心配してくれた?

 

「お姉ちゃん!すっごく広いぞ!」

「おぉ~…」

「泳げそうだな~」

 

幼女組は案の定、はしゃいでいる。

 

「三人共、走ったりしたら駄目だぞ?危ないからな」

「「「は~い!」」」

 

うむ、よろしい。

 

「お湯に入る前に、まずは身体を洗ってしまいましょうか?」

「そうだな」

 

マナーだしね。

 

「そ…それでね?お姉ちゃん…」

「ん?どうした?」

 

さっきからずっと顔が赤いけど…マジでどうした?

もしかして、もうリアスは逆上せてしまったのか?

 

「よかったらなんだけど……御背中流せてほしいの!」

「そんなことか。別にいいよ」

「やった!」

 

それぐらいなら全然構わない。

家でも白音とかにして貰っているしな。

 

「ず…ずるいですわ!リアス!私もお姉ちゃんの背中を流したいわ!」

「こういうのは、先に言った者が勝つのよ!」

 

お前達が喧嘩してどうする。

ちょっとは子供達を見習いなさい。

 

「ティアちゃん。痒い所は無いですか?」

「うん。大丈夫」

「オーフィス。ちゃんと目を瞑ってるにゃ」

「分かった」

「ほらレド。頭を流すわよ」

「ん」

 

アーシアがティアを、黒歌がオーフィスちゃんを、レイナーレがレドの頭を洗ってくれている。

そして、白音はその傍で一人で体を洗っている。

 

「あ…貴女達は冷静ね…」

「そう言えばそうですわ…」

「私達は家でマユさんと一緒にお風呂に入れますから」

「「そうだった!!」」

 

そう。

もう家の皆全員と一緒にお風呂に入っている。

当然、アーシアやレイナーレも。

 

「ぐぐぐ…!こうなったらじゃんけんよ!朱乃!」

「望む所ですわ!」

 

遂に勝負に発展したか。

ま、安全な勝負で安心したけど。

 

「「じゃんけん……ぽん!」」

 

リアスと朱乃のじゃんけん勝負の結果は……

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ふふふ……♡」

「まさか…この私が負けるなんて…!」

 

じゃんけん勝負の結果は、朱乃がパーでリアスがグー。

という訳で、見事に朱乃が勝利した。

 

体と頭を洗い終わった私達は、皆揃って湯船に浸かっていた。

 

「ふぅ~…」

 

一日の疲れが癒えていくようだ…。

やっぱり温泉は最高だぜ!

 

「明日こそは私が勝つわ!」

「いつでも受けて立つわよ?」

 

まだやってるのか…。

 

「醜い争いにゃ」

「三人共、あんな大人になってはいけませんよ?」

「「「は~い」」」

 

何気にリアスと朱乃をディスったな…。

恐るべし白音…!

 

「ねぇ…マユ」

「ん?どうした?レイナーレ」

「アンタの訓練風景をちょっと見たけど…私が来る前からずっとあんな事をしてたの?」

「まぁ…大体な」

「はぁ……。いくらなんでも鍛え過ぎよ…。私の力が通じないのも納得だわ…」

 

そうか?

私としてはあれぐらいは当たり前なんだけど…。

 

「マユさん…。なんてしなやかで鍛えられた体なんでしょう…。とっても綺麗です…」

 

アーシアに至っては私の体をさっきからずっと見てるし…。

流石にちょっと気恥ずかしいぞ…。

 

「って…やめましょうか。温泉ぐらいゆっくりと入りましょう…」

「それもそうですわね…」

 

あ、元に戻った。

 

「あ…あの…お姉ちゃん?」

「今度はどうした?」

「ちょっとだけ…その腕を触っていいかしら?」

「わ…私もいいですか?」

「いいぞ」

 

別に減るもんじゃなし。

こんな腕ならいくらでも触っていいよ。

 

「じゃ…じゃあ…行きます」

 

どうしてそんなに緊張する?

 

「うわ……固いわ…」

「けど、決して太すぎない腕…。まるで古代ローマの彫刻のようですわ…」

 

それはちょっと褒め過ぎ。

 

(確かにな!奏者の肉体は、かの太陽神ソルも嫉妬するような美しさだ!)

 

あ、ネロが割り込んできた。

多分、『ローマ』の部分に反応したんだな。

 

「今日のような鍛え方をしていれば、納得ですわ…」

「ええ…。やっぱりお姉ちゃんは凄いわね…」

 

因みに、二人がさっきから触っているのは、アラガミ化していない右腕の方だ。

少しくすぐったい。

 

それからも、皆でゆっくりと温泉を堪能して、今日の疲労を解消していった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私達が湯から上がり、裕斗もお風呂に入った後で、私達はリビングに集合した。

 

「この間ライザーが言っていた通り、私の元に彼の試合の様子が映ったDVDが送られてきたわ」

「意外と律儀なんですね」

「それだけこっちを下に見ているってことさ」

 

ま、油断してくれている分はこっちに有利だからいいけどね。

 

「それじゃ、再生するわよ?」

 

リアスがDVDレコーダーに送られてきたDVDを入れてから、スイッチを押す。

すると、リビングの中央に位置している大型テレビに映像が映し出された。

 

テレビには、フィールドを縦横無尽に駆け抜けるライザーの眷属達が映った。

 

「数で圧倒してるって感じですね」

「質より量…。その考えは分かるけど…」

「ちょっと粗さが目立ちますわね…」

 

確かに。

見た感じは連携が取れているように見えるが、所々に隙が見え隠れしている。

しかも……

 

「あ…」

 

ライザーの女王と思わしき女性が、味方ごと敵を爆撃した。

 

「サクリファイス戦法…!」

 

サクリファイス…生贄。

つまり、味方を敢えて犠牲にしてから敵を討つ戦法か。

 

「私はあんまり好きじゃないわ…!」

 

リアスは嫌いそうだよな。

こう言った戦法は特に。

 

「私もあまり好みでは無いな…」

「マユさん…」

 

味方を犠牲にして敵を討つのは、本来なら最後の手段の筈だ。

いくら死の概念が無いゲームとは言え、それを多用するのは、あんまり褒められたものじゃない。

 

画面に映っているライザーの眷属達の一挙手一投足をじっくりと観察していると、ライザーの戦闘シーンになった。

 

相手の攻撃をワザと受けるライザー。

すると、ライザーの体が一部消滅したかと思った瞬間、あっという間に再生してしまった。

 

「これが…フェニックスの『再生』ですか…」

「確かにこれはチートだにゃ」

「しかも、こいつの性格も相まって、慢心しまくってるわね」

 

さっきから画面の中で大笑いしてるしね。

……ん?

 

「リアス…今のシーンをちょっと巻き戻してくれ」

「え?」

「頼む」

「分かったわ…」

 

リアスがリモコンを使って映像を巻き戻す。

 

「一体どうしたの?」

「ちょっと静かに…」

 

私はライザーの姿の注目する。

 

「コイツ……相手と会話をしているぞ…」

「それがどうかしたんですか?」

「見た感じ、戦闘時のライザーには物理攻撃の類は一切通用しないように見える」

「ええ…そうね」

「なら……なんでライザーは会話が出来るんだ?」

「ど…どういう事?」

 

私は座り直してから、皆に説明することにした。

 

「白音。音とはどうやって伝わる?」

「それは…空気の振動が鼓膜に伝わって…そして…」

「その通りだ。そして、空気も立派な『物質』だ。ライザーに物理が通用しないなら、空気の振動もあいつの体を貫通して、全ての音が聞こえない筈だ。なのに…」

「実際はああしてちゃんと会話をしている…」

 

これはもしかしたら…凄い発見かもしれない…。

 

「どんな状況であっても、アイツにはちゃんと『音』が聞こえている。つまり、フェニックスの再生能力をもってしても、防げない物が存在するという事だ」

「それって…!」

「空気……もしくは音…ね」

 

レイナーレが真剣な顔で呟く。

 

「こんな抜け穴があったなんて……」

「流石はお姉ちゃん…。素晴らしい観察眼ですわ…」

「でも、音や空気の攻撃手段なんて…」

「そこら辺は大丈夫かもしれない」

「しょ…勝算があるんですか?」

「うん」

 

私は左腕に視線を落とす。

 

「エリザ…聞こえるか?」

『いきなりどうしたの?子リス』

「次の戦い……君の力を貸して貰うかもしれない」

『わ…私の力を!?』

「正確には、エリザの宝具を…ね」

『私の宝具って……もしかして…』

「君の予想通りだ。多分、あの宝具が勝利の鍵になる」

『そ…そう……私の宝具が……』

 

ん?んん?

一体どうした?

 

『こ…子リスがそこまで言うなら、私の力を貸してあげるわ!感謝しなさい!』

「うん。ありがとう」

『ちょっ…!そんなストレートにお礼を言われたら……照れるじゃない…』

 

最後の方がよく聞こえなかったけど、なんて言った?

 

「明日から早速訓練しようと思う。よろしくな」

『ま…任せておきなさい!』

 

それだけ言って、エリザは急いで引っ込んでいった。

 

「ふぅ……」

 

これで、かなり勝率が上がったな。

 

「お姉ちゃん……」

「リアス?」

 

どうしてそんなに怒ってる?

 

「いくらなんでも守備範囲広過ぎよ!歴代の赤龍帝にもフラグを建てるなんて!」

「フ…フラグ?」

「これもある種の才能だにゃ」

 

才能って…。

 

「う…んん……」

 

あらら。

オーフィスちゃん達が眠そうにしている。

 

「リアス。子供達がおやすみタイムのようですわ」

「そうみたいね。じゃあ、今日はもう休みましょうか?」

 

リアスの一声で、今日は寝る事にした。

私がオーフィスちゃんを、リアスがレドを、アーシアがティアを抱えて部屋に運んだ。

 

昼間にたっぷりと体を動かしたせいか、その日の夜は熟睡出来た。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 次の日。

私は早速エリザの力を使った訓練をすることにした。

 

昨日と同じように、動きやすい格好になってから、皆で別荘の前に出る。

ちゃんと事前に準備運動は済ませた。

 

「それじゃ、頼んだぞ」

『承知した』

『任せなさい!』

 

タンクトップにジャージと、動きやすさ重視の格好で、左腕には毎度お馴染みの赤龍帝の籠手。

この場の皆には既にバレている為、腕袋は外している。

 

【Lancer!】

 

音声と共に、私の体が変化する。

髪が濃い目のピンク色に染まって、髪型はツーサイドアップに。

そして、頭部からは龍の角が、腰の辺りからは龍の尾が生えた。

尾は先端が二股に割れていて、私の手には身の丈以上に大きな、複雑な形をした槍が握られていた。

 

「…よし」

 

この格好になるのは初めてだから、まだちょっと違和感があるけど、それは私が慣れていけばいいだけだ。

 

「狐っ子の次は龍っ子だなんて…」

「これはこれでマニアックですわ…」

 

マニアックって…。

 

「マユさん。尻尾は動かせるんですか?」

「多分」

 

試しに力を込めてみると、尻尾をフリフリと動かせた。

 

「おぉ~。お姉ちゃん、我等と同じになった」

「お揃いだな!」

「増々、私達のお姉ちゃんっぽくなったな!」

 

言われてみればそうかも。

エリザには実際に龍の血が流れていたらしいし。

 

「さて…始めるか」

 

私は槍を構えて、精神を集中させる。

 

「……はっ!」

 

槍を全力で突き出す!

 

「ふん!」

 

次は槍を薙ぎ払うように動かす。

 

「はぁっ!」

 

そして、ジャンプしてから槍を地面に叩きつける!

すると、槍が叩きつけられた地面にちょっとしたクレーターが出来た。

 

「すぅ~……」

 

息を整えて、体勢を元に戻す。

 

「やはり、剣とは勝手が違うな…」

 

チャージスピアも頻繁に使用するが、神機と本物の槍とでは使い勝手が違ってくる。

これは、要訓練だな。

 

「いや……充分ですよ。先輩…」

『私も同感よ。初めて握った武器であれだけ動ければ上等よ』

「そう言ってくれるのは嬉しいが……」

 

これでは私が満足出来ない。

この槍一本でライザーの眷属を全員倒せるぐらいにはならないとな。

 

『相変わらず向上心が強い奴だ。それでこそ赤龍帝だ』

「そうですね。私も頑張ります」

 

お?白音も気合いが入ってるなぁ~。

 

「私達も負けてられないわ!二人共、頑張るわよ!」

「「はい!」」

 

リアス達もやる気満々だ。

 

「私もちょいと気合い入れるにゃ」

「わ…私も、昨日以上に頑張ります!」

 

黒歌とアーシアも昨日よりも顔に力が籠っている。

 

「お姉ちゃん、頑張る」

「私達はここで応援だ!」

「お~!」

 

そして、妹達の激励のおまけ付き。

姉として、無様な姿は見せられないな。

 

「よし!飛ばしていくぞ!」

『ああ!』

『空回りしないようにね?』

「分かっているさ」

 

二日目の午前中は、全てを槍を使った訓練に費やした。

時折、エリザからアドバイスを受けながら、私の特訓は順調に進んでいった。

これなら、当日までにはなんとかなりそうだ。

 

宝具に関しては、ここでは訓練は出来ないから、ぶっつけ本番になるけど…。

こればっかりはエリザとドライグを信じるしかない。

 

こうして、あっという間に二日目の午前は過ぎていった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回、劇中でマユが言っていたのは、完全に独自設定です。
でも、原作でも試したことは無い為、有効だとは思うんですよね。

対ライザー戦における切り札はエリザ。
これはサーヴァントを赤龍帝にした瞬間から決めてました。
アサシン先生と迷ったんですけどね。
ここで出番を与えないと、エリザが埋もれてしまいそうなので…。

次回も特訓回が続きます。

では、次回。


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第37話 真夜中の女子トーク

今回で特訓は終了です。

本格的にリアスの最終フラグが建ちます。

後は回収するだけですね。


 昼食を食べた後の二日目の午後は文武両道の精神にのっとり、座学となった。

 

私達はリビングに集まり、そこにホワイトボードを用意して勉強会の体勢になった。

 

私もある程度は知ってはいるが、これを機におさらいしてみるのも悪くは無い。

 

ホワイトボードの前には、アーシアとレイナーレ、リアスが立っていた。

 

「それじゃあ問題です。神が率いる最高位の天使は熾天使セラフィムですが、そのメンバーの名前はなんですか?」

 

これは比較的簡単な問題だな。

確か……

 

「私、知ってるぞ!」

「はい。じゃあティアちゃん、答えてください」

「ミカエルにラファエル、ガブリエルにウリエルだ!そして、ミカエルが四人の中でリーダー的存在だと聞いたぞ!」

「「「「「おぉ~」」」」」

 

私が考えている以上の答えを言ってのけた…。

やっぱり、龍って凄いんだなぁ…。

 

「正解です。ティアちゃんは凄いですね」

「えへへ……」

 

アーシアに頭を撫でられて、嬉しそうにティアがはにかんでいる。

年相応の可愛らしい笑顔だ。

 

「次は私から出題しようかしら」

「頼む」

 

レイナーレからの問題か。

多分、堕天使に関する問題だろうな。

 

「それじゃあ、いくわよ。私達堕天使の組織の名前が『神の子を見張るもの(グリゴリ)』なのは知ってるわね?」

「ああ」

「なら、その最高幹部の名前はなにかしら?ちゃんと全員答えるのよ」

 

うむ…。

結構いたような気がするが…。

トップにいるのがアザゼルさんだったよな…。

 

「我、知ってる」

「ならオーフィス。答えてみて」

「うん。総督がアザゼル。副総督がシェムハザ。他はアルマロスにバラキエル、ベネムエ、サハリエル、コカビエル。前、薬屋でシェムハザが胃薬買ってるの見た」

「せ…正解よ。シェムハザ様が普段の激務で胃を弱めたって噂で聞いたけど…本当だったのね…」

 

堕天使の副総督がストレスで胃腸虚弱になるって…。

すっごい親近感が湧くんですけど…。

 

「オーフィスちゃんは物知りですわね」

「我も勉強した」

「偉いですわ」

「う…うん……」

 

今度はオーフィスちゃんが朱乃に頭を撫でられた。

普段は表情が少ない彼女も、珍しく照れている。

 

「最後は私ね。私達悪魔を統べる四大魔王の名前、分かるかしら?」

 

それは簡単だ。

けど、流れ的に私は答えられないだろう。

 

「私!私が答える~!」

 

ほらね?

 

「はいはい。急かさなくても大丈夫よ。レドちゃん、答えてくれる?」

「うん!四大魔王の筆頭がルシファーで、ベルゼブブとアスモデウスにレヴィアタン!どうだ?」

「大正解よ。よく分かったわね」

「私は『きんべん』だからな!」

 

『きんべん』の意味、ちゃんと分かって使ってる?

 

幼女組が意外な活躍をして、最初の授業(?)は終わった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 小休止を挟んで、次はアーシアオンリーの授業になる。

 

「では、僭越ながら私が悪魔払いの基本をお教えします」

 

一人で前に出るのは緊張するのか、ちょっとだけ彼女の顔が赤い。

けど、思ったよりも様になっているので、もしかしたらアーシアは教師に向いているのかもしれない。

 

「私が所属していた頃の教会には、基本的に2種類の悪魔祓いがいました」

「2種類?」

「はい。まずは、表側にいる悪魔払いの方々ですね。テレビや雑誌にも積極的に出演して、神父様が聖書の一節を読み、聖水を使用し、人々の体に入り込んだ悪魔を退散させる……これが一般的に『表側』にいる悪魔払いです」

「テレビなどにも出るという事は、その者達の主な仕事は悪魔祓いと言うよりは、布教と言う方が正しいかもしれないな」

「私もそう思います。彼等の一部は悪魔払いの行為を『演出』している時もありますから」

 

私達が普段からテレビを見ていて思った事は本当だったんだな…。

 

「そこまで行くと、もう悪魔祓いと言うよりは、単なるエンターテイナーにゃ」

「完全に形無しですね」

 

ボコボコだな…悪魔祓い。

 

「それと相反しているのが、所謂『裏』と呼ばれる悪魔払いの人達です」

 

裏…か。

これはもう、説明するまでも無いな。

 

「アーシア。その『裏』の連中とは、以前に教会で会った男のような奴等の事か?」

「はい。彼もその一部です」

 

やっぱりか…。

 

「でも、アイツはもう悪魔祓いですらないわ」

「どういう事?」

「どうやらアイツ、色々とやり過ぎてしまって、教会を追放されたらしいわよ?」

「そう言った方々を『はぐれ悪魔祓い』と言います」

「はぐれ…ね」

 

追放されてしまったら、悪魔祓いも野良犬同然…か。

 

「次に、聖書や聖水の事をお教えします」

 

アーシアが、いつも持っているバッグから分厚い聖書と聖水の入った小瓶を取り出した。

 

「この瓶に入っているのが聖水です。もうお分かりとは思いますが、悪魔の方々が触れれば、火傷をしてしまいます」

 

見た感じは普通の水にしか見えないが、不思議なものだ。

 

「聖水、美味しい?」

「ふふ……舐めてみますか?悪魔でなければ体内に入れても問題無いですから」

 

意外と消費者の事を考えてるんだな…。

 

オーフィスちゃんがアーシアから聖水を受け取って、蓋を開けて小指にチョコンと聖水を付けてから舐める。

 

「ど…どうだ?オーフィス。美味しいのか?不味いのか?」

「…………」

「オーフィス?」

 

レドとティアがオーフィスちゃんに詰め寄る。

当の本人は全く無反応だけど。

 

「味…しない。水と一緒」

 

あぁ~…なんとなくそう思った。

 

「わ…私も舐める!」

「私も!私も!」

 

レドとティアも一緒に聖水を舐める。

 

「おぉ~…確かに味がしない」

「あははははは!これじゃあ、普通の水と一緒だな!」

 

なんでテンションが高いの?ティアちゃんよ。

 

「次は聖書です。幼い頃からずっと読んでました。私の愛読書です」

 

聖書が愛読書って…。

もうちょっと娯楽を覚えましょう。

 

「ここで読んでしまっては、部長さん達にご迷惑をお掛けしてしまうので、読めませんが…」

「そこら辺は勘弁して頂戴…。それって想像以上に痛いのよ…」

「悪魔も難儀な生き物ね」

 

レイナーレ、堕天使が言っても大して説得力無いぞ。

 

その後も、アーシアの授業が続き、午後の時間は過ぎていった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 その日の夜。

ふいに目が覚めた私は、再び眠気が来るまで体を動かすことにした。

 

皆を起こさないようにジャージに着替えた後に部屋を出て、そのまま外に出る。

 

そのまま、私は逆立ちの状態で片腕で腕立てをした。

 

「998…999…1000…。よし、腕立て終わり」

 

私は体勢を元に戻して、持ってきたタオルで汗を拭く。

 

『逆立ちで腕立てって……。相棒はどこまで女離れする気だ…』

「どこまでと言われても…」

 

そう言った質問は返答に困る。

 

『で…でも…そう言った姿勢って…素敵だと思うわよ?』

『あんまり煽てるな。別に鍛える事を悪いとは言わんが、もう少し慎みを持って欲しい。って…これは前にも言った気がするな…』

 

神機使いに慎みを求められてもなぁ~。

記憶の中でサクヤさんも言っていたが、アラガミと戦う身で女らしさって必要か?

 

「ま、いいか」

 

ここで気にしたって仕方がない。

今は目の前の戦いに集中したい。

 

「ふぅ……。ちょっと喉乾いたな…」

 

私は水を飲むために、別荘の中のリビングに行くことにした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 リビングまで行くと、明かりがついているのが見えた。

 

(誰かいるのか?)

 

もしかして、レイナーレ辺りが夜食でも作っているのかもしれない。

 

そう思って入ってみると、そこにいたのは……

 

「リアス?」

「お姉ちゃん?」

 

テーブルに座ったリアスがそこにいた。

テーブルの上には色々な本やノート、地図が置いてあった。

 

「もしかして、またトレーニングしていたの?」

「まぁ…な」

「お姉ちゃんの頑張りには頭が下がるわ…」

 

半ば呆れながら微笑むリアスは、妙に真新しかった。

 

「ねぇ、お姉ちゃん。ここに座って、ちょっとお話しない?」

「そうだな。けど、ちょっと待ってくれ」

 

私はキッチンまで行ってコップを一個取り出して、冷蔵庫から麦茶を出してコップに入れた。

 

「待たせた」

 

リアスの元まで戻って、彼女の対面になるように座った。

 

「ん?リアス…その眼鏡…」

「ああ…これ?」

 

リアスの顔には、珍しく眼鏡が掛けられていた。

よく見ると、私の眼鏡と同じタイプだった。

 

「ちょっとしたリスペクトってやつよ。勉強する時なんかはこうしているの。不思議と集中できるのよね」

 

意外な一面を見たな…。

ちょっとリアスを見る目が変わるかも…。

 

「似合ってるよ。なんだか印象が変わる」

「そう?ふふ…ありがと」

 

なんか、インテリって感じだ。

 

「リアスは…レーティングゲームの勉強か?」

「うん…。でも、こんなのを読んでも気休めにもならないわ…」

 

溜息交じりに持っていたノートを置くリアス。

その顔には落胆が浮かんでいた。

 

「お姉ちゃん達が参戦してくれたお陰で、私にも勝機が見えてきた。しかも、ライザーの意外な弱点にも気が付いて、増々勝利が見えてきた…けど…」

「けど?」

「それは全部、お姉ちゃんがいてくれたから…なのよね…」

 

リアス……。

 

「本当なら、こう言った事は部長であり『王』である私がしなければいけない事…。全く持って情けないわ…」

 

もしかして…出しゃばりすぎたか?

 

「私が未熟者だったから、お姉ちゃん達を巻き込んでしまった…。その上、ライザーがお姉ちゃんに目を付けてしまうなんて…」

「それに関しては気にしてないよ」

「で…でも!」

「でも…じゃないよ。もしライザーが何も言わなくても、私の方から参加したさ」

「なんで…そこまで……」

 

その問いに対する答えは一つしか無い。

 

「…誰かを助けるのに、理由がいるかい?」

「……!」

 

ズバリこれ。

傍から見たら、完全に私の我儘かもしれないけど。

 

「リアスは…自分に自信が持てないんじゃないか?」

「そ…それは……」

「だからそうやって、考えがネガティブになってしまう」

 

どうやら図星だったようで、リアスは俯いてしまった。

 

「…リアスの気持ちは私も分かるよ」

「……気休めはいいわ」

「気休めじゃないさ」

 

記憶の中の出来事ではあるが、私は当時の事を鮮明に覚えている。

 

「私も嘗ては隊長をしていたことがあるんだ」

「お姉ちゃんが…?」

「ああ。いきなりのご指名でさ。あの時は本当に驚いたよ」

 

たかが15歳の小娘になんちゅー事をさせるんだ!ってね。

 

「仲間を率いるって言うのは、タフな仕事だよな…」

「お姉ちゃん…?」

 

リアスが不思議そうにこっちを見るが、敢えて気にせずに話を続ける。

 

「いつの間にか、仲間達全員の命を自分が背負っている気になってしまう」

「うん…そうね…」

「でも、人間や悪魔に限らず、一人で背負えるものなんてのは、たかが知れてるんだ」

「………」

「大概は自分の事で両手が塞がっていてさ、偶に片手が空いている時に、大変そうにしている奴に少しだけ手を貸してやるぐらいの事しか出来ないんだ」

 

私はリアスの顔を正面から見る。

 

「だから……あんまり思いつめないでくれ」

「うん……」

「まだ勝敗は決していない。勝機も見出しつつある。今はそれだけで充分さ……だろ?」

 

私は麦茶を少しだけ飲んだ。

 

「まぁ…その…なんだ。幼い頃に君を助けてからこっち、碌に『お姉ちゃん』らしい事が出来なかったからさ……今更ながら、楽に生きていく為のアドバイスをしてみたくなったんだ…」

 

前にリンドウさんが話してくれた事を言ってみたけど…大丈夫かな?

 

「もしかして…励ましてくれたの?」

「うん…。一応…な」

 

自分の言葉じゃないけど。

 

「ありがとう…。少しだけ気が楽になったわ…」

「そうか…」

 

こんな言葉でも、役に立ったのならよかった。

 

「確かに私はまだまだ未熟者。でもね、そんな私にも夢があるの」

「どんな夢だ?」

「私の事を唯の『リアス』として見てくれる人と一緒になりたい。ささやかかもしれないけど、それが…私の夢…」

 

リアスとして見てくれる人と一緒になりたい…か。

女の子らしい夢だな。

 

「きっと叶うよ。少なくとも、私はリアスの事を『グレモリー家の一員だから』と言う色眼鏡で見たことは無いしね」

 

私にとっては、リアスは大切な友であり、掛け替えの無い仲間だ。

だからこそ、全力で守りたいと思う。

 

「本当に……お姉ちゃんは……」

 

え…ええ?

なんで泣きそうになってるの?

なんか悪い事言った?

 

私があたふたしていると、リアスが急に顔を上げて、私の麦茶を奪い取ってしまって、そのまま一気飲みしてしまった。

 

「あ……」

 

間接キスになっちゃった…。

 

「私…やるわ。全力で頑張って、お姉ちゃんに相応しい女になって見せるわ!」

「お…おう……頑張れ」

「自分の道は自分の手で切り開いて見せる!それぐらい出来なきゃ、お姉ちゃんの隣には立てないもの!」

 

なんか…急に気合いが入ってるんですけど!?

いきなりどうしたのさ?

 

「まずはゆっくりと休まなきゃね!おやすみなさい!お姉ちゃん!」

「う…うん。おやすみ…」

 

鼻息荒く、リアスはリビングを後にした。

 

「…何がどうしてこうなった?」

『雑種よ。鈍感も度が過ぎると、唯の害悪だぞ』

「えぇ~…」

 

なんでそこまで言われなきゃいけないのさ~?

 

私はリアスの急変が分からないまま、部屋に戻って就寝した。

 

 

次の日から、リアスが今まで以上に気合いを入れていて、私と同じ筋トレメニューをしだした。

流石にそう簡単にはいかなかったが、それでもめげずに頑張っていた。

他の皆はポカ~ンとしていたが。

 

そうして、あっという間に猶予期間である10日間は過ぎていった。

合宿終了時、リアスが筋肉痛で泣きそうになっていたが、アーシアに治されていたのが印象的だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 因みに、合宿に行く前に足長おじさんが言っていた、家のリフォームだが…。

 

「「「「なんとっ!?」」」」

 

たった10日間で、私達の家は三階建ての高級住宅になっていた。

横幅は変わっていないが、奥行きが大幅に広がっていて、全体からセレブ臭が漂っていた。

 

「た…試しに入ってみるにゃ!」

 

急いで中に入ると、中も凄かった。

 

「今までとは大違いじゃない…」

「ぱっと見、家具も全部高級品ですよ…」

「凄いですね……」

 

幾らなんでもやり過ぎだ…!

私が言えた立場じゃないが、限度ってものを知らないのか!

 

「あはははは!広~い!」

「ピカピカしてる…」

「このソファーもふわふわだぞ~!」

 

…子供達はご満悦のようだけど。

すっごいはしゃいでる…。

 

「なっ…!これを見るにゃ!」

 

黒歌がリビングにあるテーブルに置いてある紙をこっちに見せた。

どうやら、この家の見取り図のようだ。

 

「この家…地下室があるにゃ!」

「よく見ると…地下二階までありますよ…」

「って事は…五階建てって事?」

「家の中を把握するだけで一苦労しそうだ…」

 

もうすぐレーティングゲームだと言うのに…。

なんでこうなる?

 

「はぁ…。取り敢えず、自分達の部屋を見つけて、荷物を置こう…」

「賛成です…」

「それが妥当ね…」

「この家に慣れるまで、苦労しそうにゃ…」

 

想像の斜め上を行ったリフォームに、胃を痛くしながら部屋に向かった。

 

こんな状況でゲーム本番を迎えて、大丈夫なんだろうか…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




合宿終了!と同時に、家のリフォームも完了しました。

これで、同居人が増えても大丈夫ですね。

とうとうお次はレーティングゲーム本番です。

さてはて、焼き鳥君はマユに一矢報いる事は出来るのでしょうか?

では、次回。


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第38話 レーティングゲーム スタート!

遂にこの時がやって来ました。

果たして、焼き鳥君(笑)の運命は?

そして、ゲームの行方は?



 レーティングゲーム当日の深夜。

私達は旧校舎の部室に全員が集まっていた。

一応、ゲームに参加しないアーシアも一緒にいる。

 

裕斗は拗当てと手甲を装備していて、白音はフィンガーグローブを装着している。

フィンガーグローブはこの日の為に密かに買っていたものらしい。

 

「…白音。その珠はなんだ?」

「ここに来る前、私の元にアザゼルさんから届いたんです」

「アザゼルさんから…?」

 

なんなんだろうか?

白音が持っている珠には『嘴』と書かれている。

 

「使い方は一緒についていた紙に書かれていました。私にとっての『第三の切り札』です」

 

白音がここまで言うのだ。

きっと、凄い人口神器なんだろう。

 

リアスと朱乃は一緒のソファーに座り、紅茶を飲んでいる。

アーシアは別の椅子に座り、ソワソワした様子でキョロキョロしていた。

 

そして、私は……

 

「エリザ、ドライグ。分かっているな?」

『ええ。勿論』

『俺もだ。問題無い』

「うん。頼むぞ」

 

エリザ、ドライグの二人と最後の打ち合わせをしていた。

 

因みに、私は既にエリザモードになっていて、前回同様に龍の角と尻尾が生えていた。

今回は制服姿な為、尻尾は少し下げている。

そうでもしないと、下着が見えてしまう。

私にだって羞恥心ぐらいはあるのだ。

 

『ふむ…雑種よ』

「なんだ?ギルガメッシュ」

『これをこ奴らに渡すがよい』

 

私の隣の空間が歪み、そこから四人分の耳栓が出て来て、私の手に落ちて来た。

なんでか黄金に染まっていたけど。

 

「これは…?」

『我の宝物庫の中にある最高の耳栓だ。その名も…『A・U・Oの黄金の耳栓~私…一人になりたいの…~』だ』

「何…その名前…」

 

無駄に長い…。

 

『これは、あらゆる『音』を遮断する。龍の娘の宝具を使う際に使用すればよかろう』

「……だ、そうだ。皆、受け取ってくれ」

「分かったわ」

 

私の手から耳栓を受け取る皆。

 

手が自由になってから、テーブルに置いてあった私の分の紅茶を飲んだ。

紅茶にはリラックス効果があるらしいが、どうやら本当のようだ。

一気に気が楽になった。

 

私が紅茶を堪能していると、グレイフィアさんが魔法陣で現れた。

 

「試合開始10分前です。皆さん、準備はいいですか?」

 

私達は揃って頷く。

とうとう来たか…!

 

「試合会場にはこの魔法陣から行くことが出来ます。試合会場は異空間で作られており、いくら暴れて貰っても結構です」

 

異空間…ね。

いいじゃない…!

 

「あの…私はどうしたら…?」

「アーシア様は私と一緒にお越しください。観覧室にご案内します」

「分かりました」

 

観覧室とかあるのか…。

 

「それと、マユ様、白音様。こちらをお受け取り下さい」

 

グレイフィアさんが私達二人にチェスの駒を模したペンダントを渡してきた。

 

「これは…?」

「悪魔の駒の代理のような物です。ゲーム中は各人の悪魔の駒の反応で試合の様子を見るのですが、貴方達は眷属悪魔ではありません。故に、急遽、代理の品をご用意したのです」

「態々すみません」

「ありがとうございます」

 

私達はペンダントを首に掛けた。

 

「マユ様には騎士の駒を。白音様には戦車の駒を用意しました」

「騎士…か」

「戦車…」

 

武器的にも、しっくり合うかもしれない。

騎士って言うよりは戦士だけど。

 

「これで、試合中のみですが、お二人はリアスお嬢様の眷属になりました」

「成る程」

 

即席でこんな便利なアイテムを作るとは…。

悪魔も中々に侮れないな。

 

「そう言う事だ。リアス、よろしく頼むな」

「よろしくお願いします。リアス先輩」

「こっちこそ。よろしくね、二人共」

 

これで、全ての準備が完了した訳か。

 

「この試合は両家の皆様も別の場所からの中継で試合の様子をご覧なられます。更に、サーゼクス様もご覧なられています。お忘れなきよう」

 

あの人も来てるのか…。

ちょっと気合い入れなきゃな…。

 

サーゼクスさんの名前が出た途端、リアスの顔が一気に引き締まった。

 

「更に、マユ様のご家族にも中継しております」

「私の家族にも?」

「はい」

 

グレイフィアさんは何処からかスマホを取り出した。

 

「こちらをご覧ください」

 

スマホに映ったのは…。

 

『ハ~イ!こちら、中継先の闇里マユさんのご自宅に来ている、グレモリー家の見習いメイドのトールで~す!』

 

なんか…テンションの高いメイドさんが出て来た。

心なしか、頭に角らしきのもが見えるが…。

 

『マユさんのご家族は、試合開始を今か今かと待っています!』

『マユ!白音!頑張るにゃ~!』

『アンタ達なら楽勝でしょ?変に緊張するんじゃないわよ?』

『『『お姉ちゃん!頑張れ~!』』』

 

皆……。

 

『いや~…家族っていいですね~!しかも、この子達可愛すぎ!もう抱きしめたいです~!』

 

興奮してるな…。

 

『と、いう訳で、中継終わりま~す!』

 

あ、消えた。

 

「いつの間に…」

「無断だったのは申し訳ありません。このお詫びは試合の後で…」

「いや…。別にそこまで…」

 

被害をこうむった訳じゃないし…ねぇ?

 

「では、そろそろお時間です。皆様、魔法陣の方に移動を。猶、一度転移をしてしまったら、試合終了まで戻る事は出来ませんので、あしからず」

 

便利に出来ていること。

やっぱり、勝利の凱旋と洒落込みたいよな。

 

アーシアを除いた私達は魔法陣に移動し、試合会場に転移した。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 転移した先は、さっきと同じ部室の中だった。

試しに窓の外を見てみると、見慣れた校舎があった。

 

「これは一体…?」

 

私と白音が少し混乱していると、グレイフィアさんのアナウンスが流れてきた。

 

『この度の試合会場は、駒王学園の校舎を再現いたしました』

 

成程ね。

道理で風景が変わらない筈だよ。

 

『今回の試合は私が審判を務めさせて貰います』

 

グレイフィアさんが審判か。

あの人なら公平にジャッジしてくれそうだ。

 

校舎が舞台なら、こっちに地の利がある。

これも一種のハンデか?

 

試合前に聞いたのだが、兵士の駒の悪魔には『プロモーション』と呼ばれる能力があるとの事。

これは、実際のチェスと同じで、相手の陣地に兵士が突入すれば、王以外の駒に変異出来る能力らしい。

 

(相手の兵士が全員、女王に変異したら、ちょっとヤバいかもな…)

 

まずは兵士を潰し、その後で各個撃破をするべきか?

 

今の私は一時的に騎士の能力を持っている。

向上した素早さで、一気にやれるか…?

 

「お姉ちゃん、白音ちゃん。通信機ですわ」

「わかった」

「はい」

 

朱乃が渡してきた通信機を耳に装着する私達。

 

『では、これより試合開始します。タイムリミットは人間界の夜明けまでです』

 

今が大体、深夜の12時だから……試合時間は約6時間か。

普通に考えれば長い方だが、この試合は普通じゃない。

今までの常識は捨てた方がいいだろう。

 

試合会場全体に、ゴング代わりのチャイムが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「さて…どうする?」

 

私達全員がリアスの方を見る。

 

「こっちの人数は向こうの半数以下。下手に守りに入ったら、絶対に勝てない」

「ですね」

「なら、最初から攻勢に出るしかないわ」

 

ま、必然的にそうなるな。

 

「まずは、相手側の兵士を倒すべきだろう。全員がプロモーションで女王に変わってしまったら厄介だ」

「それには同感だわ」

 

リアスが裕斗に目配せをして、彼がテーブルに学校全体の見取り図を広げた。

 

「ライザーがいる新校舎に行くには、三つのルートが存在している。校庭を通るルートに空を飛んでいくルート。そして、裏の運動場を通るルート」

「校舎から行ったら、向こうにこっちの行動が筒抜けになりますね」

「空を飛んでいくのも難しいでしょう。先輩達は飛行が出来ませんし」

「そうなると、必然的に残った裏の運動場を通るルートになりますけど……」

「それは向こうも承知の上だろうな」

 

こうしてみると、結構攻め込みにくいな…。

実際に戦いになれば、絶対に勝てる自信はあるんだが…。

 

「多分、この裏の運動場ルートに眷属を配置しているでしょうね」

 

それが妥当だからな。

 

「一応、私なりに作戦を考えてきたの。聞いてくれる?」

 

全員が頷く。

 

「まず、裕斗は森の中にトラップを仕掛けて来て。ちゃんと地図に仕掛けた場所を書いておくのよ」

「はい」

「裕斗のトラップが仕掛け終わり次第、朱乃は森の周辺と空にライザー眷属にのみ反応する霧と幻術を仕掛けて来て頂戴」

「わかりましたわ」

「お姉ちゃんと白音は遊撃よ。トラップの設置が完了するまで、ここで待機していて」

「「了解」」

 

遊撃…か。

よくリンドウさんにも指示されていたな。

私は新型だから遊撃を頼みたいって。

 

「正直、素人の浅知恵だけど、出来る事は全力でやっておきたいの。皆…頼むわよ!」

「「「「了解!」」」」

 

こうして、私達の作戦が開始された。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 スクワットをしながら待っていると、トラップを仕掛け終えた裕斗が戻って来た。

 

「では、行こうか」

「はい」

 

私達はリアスの指示の元、まずは体育館に向かう事になった。

途中までは裕斗と一緒に進んだ。

 

腰を低くしながら進んでいくと、眼前に見慣れた体育館が見えた。

すると、耳に付けた通信機からリアスの声が聞こえた。

 

『一度、体育館に侵入したら戦闘は避けられないわ。二人なら大丈夫だと思うけど、油断だけはしないで頂戴』

「ああ」

「はい」

『敵を全員戦闘不能にしたら、指示通りに動いて。あの場所は重要な場所になるわ』

 

体育館は一緒の閉鎖空間だ。

使い方は多種多様だ。

 

『裕斗も指示通りにお願いね』

「了解です」

 

途中で裕斗とは別離した。

 

「では先輩。僕はこっちですから」

「うん。気を付けて」

「先輩達こそ。ご武運を祈ってます」

 

裕斗の背中を背にして、私達は一路、体育館に進んでいった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 私達は体育館の裏口から侵入し、そのまま演壇上の幕裏まで進んでいった。

 

「マユさん」

「分かっている」

 

コートの中から気配を感じる。

数は四つ。

 

私は右手に槍を出現させた。

 

私達が出現のタイミングを計っていると、いきなり体育館全体に声が響いた。

 

「そこにいるのは分かってるわよ!貴女達二人が侵入するのを、ちゃんと監視していたんだから!」

 

ばれてたか。

やっぱり、私にこういった潜入作戦は向かない。

 

「……行くか」

「ですね。ばれてる以上、ここでジッとしていても仕方ないですし」

 

我々は幕の裏から姿を現して、改めて敵影を確認した。

 

「あ……」

 

あの時の棍を持っていた子もいる。

こっちに気が付いた途端、顔を赤くして目を逸らしたけど。

 

「私が戦車をやります。マユさんは兵士をお願いします」

「任せておけ」

 

私達はコートに降り立って、互いの相手に向かい合う。

 

すると、例の棍を持った子がこっちにやって来た。

 

「あ…あれから修行を重ねました!お手合わせ…お願いします!」

「いいだろう」

 

彼女が棍を構えると同時に、私も槍を構えた。

 

「…行きます!」

 

ミラちゃん…だったか?が、私に全速力で向かって来た。

 

確かに腕は上がっているかもしれないが、それでも……

 

「ふん」

 

まだまだだな。

 

「あ…当たらない!」

 

ミラちゃんは全力で棍を振るうが、余りにも直線的で丁寧過ぎる。

まるで教科書を見ているかのように。

 

全部の攻撃が、まるで手に取るようにわかる。

故に、彼女の攻撃は一発も命中しない。

 

(そろそろ…かな)

 

ミラちゃんの突きに合わせて、私も全力で槍を突き付ける!

 

槍の先端は見事に棍の中心を貫いて、棍を粉々に破壊した。

 

「なっ!?」

 

彼女が驚いている隙に、槍の先端を顔面に向ける。

 

「はい、終わり」

「う…うぅ……」

 

観念したのか、ミラちゃんはその場に座り込んだ。

 

「動きが素直過ぎる。それでは当たる攻撃も当たらない」

「……はい」

「でも……」

 

私は彼女に近づいて、座り込んでから目線を合わせた。

そして、頭を撫でた。

 

「いいセンスだ」

「いい……センス……」

 

立ち上がり、後ろを向く。

 

「次は君達か?」

「「そうで~す!」」

 

後ろには、多分双子であると思われる二人のそっくりな女の子が、その小さな体に不似合いな大きさのチェーンソーを持っていた。

 

「ミラを倒したぐらいで、いい気にならないでよね!」

「私達が解体しちゃうんだから!」

 

解体って…そのチェーンソーで?

マジで?

 

「あ~…その~…。非常に言いにくいんだが…」

 

なんか罪悪感があるなぁ~。

でも、ここはちゃんと指摘しないと!

主に、この子達の将来の為に!

 

「チェーンソーはあくまで土木作業用の道具であって、対人戦には向かないぞ…」

「「え?」」

「そもそも…構造上、それでは人は切断出来ない。対人戦なら、寧ろナイフの方が遥かに切れ味がいい」

「「う…うそ~ん…」」

 

私もこれを知った時は驚いたけどね。

確かに傷をつけたりは出来るかもしれないが、解体は絶対に不可能だ。

木と人体とでは、構造が違うからな。

 

まさかの真実にショックだったのか、二人共その場にへたり込んでしまった。

流石に悪かったかな…?

 

「えっと……ゴメン」

 

二人の傍に行って、さっきと同じように二人の頭を撫でる。

 

「と…とにかく、次からは別の武器を使うようにすればいい。君達なら、一撃必殺の武器よりは、双子ならではの連携を利用出来る軽い武器を使えばいいと思う」

「「う…うん…」」

 

恥かしそうに頷く二人。

うんうん。

分かってくれたようで、お姉ちゃんは嬉しいぞ。

 

「白音は……」

 

向こうの様子を見ようと振り向くと……

 

「奥義!猛虎…硬爬山!!」

 

白音の一撃が戦車の子の腹部に直撃し、こっちまで吹っ飛んできて、そのまま体育館の壁にぶつかった。

 

「す…すげ…」

 

え?なに…?

白音ってこんなに強かったの?

先生…白音を魔改造しすぎじゃない?

 

「こちらは終わりました」

「こっちもだ」

 

白音がこっちを向く。

そこには、床に座り込んでいる三人がいた。

 

「………何があったんですか?」

「一人は正攻法で倒した。後の二人は……本当の事を言ったら、精神的にKOしてしまった…」

「本当に何をしたんですか…」

 

お願い…言わないで…。

 

『二人共、聞こえる?』

 

リアスの声が通信機から聞こえた。

 

「ああ。通信感度は良好だ」

『朱乃の準備が終わったわ。当初の手筈通りにお願いね』

「「了解」」

 

計画通り、私達は体育館の出口に向かった。

 

「え?え?どこに行くのよ?」

 

いやはや全く…。

随分と大胆な作戦を考えるものだ。

なんせ……

 

「行きますわよ!」

 

私達が体育館から出た後、朱乃が最大の雷撃を体育館にぶちかました!

 

凄まじい爆破音と共に、体育館は一撃で破壊された。

 

「本来なら、重要拠点となる筈の場所を……」

「壊しちゃうんですからね」

 

私達の上空では朱乃が微笑みながら浮いていた。

 

「見事な一撃だ」

「まぁ!お褒め頂いて光栄ですわ…!」

 

頬に両手を寄せてから嬉しそうに体をくねくねさせる朱乃。

なんか…怖いぞ?

 

『ライザー様の兵士二名、戦車一名、戦闘不能!』

 

グレイフィアさんのアナウンスが聞こえた。

まずは幸先のいいスタートだな。

 

「朱乃。私達はこのまま裕斗に合流しようと思う」

「分かりましたわ。お気をつけて」

「お互いにな」

 

白音と一緒に裕斗のいる場所に足を向けようとした瞬間……

 

「マユさん!!」

 

別の方から殺気を感じた瞬間、白音が私を押し出して、彼女がいた場所が爆発した。

 

「し…白音ぇぇぇぇっ!!」

 

嘘…だろ…?

 

攻撃の来た方を見ると、そこにはフードを被った魔術師風のローブを纏った女が浮いていた。

アイツは確か……

 

「女王…か…!」

「その通り。ふふふ……油断大敵…よ?」

 

くそっ!

完全に気が緩んでいた!

 

私も朱乃も完全に白音が戦闘不能になったと思っていたが、いつまで経ってもアナウンスが聞こえてこない。

 

「よくも……やりましたね…!」

「この声は…!」

 

煙の中から、確かに聞こえた。

間違いない!

 

「白音!無事だったのか!?」

「はい。ちょっと服は破けちゃいましたけど…」

 

煙が晴れると、そこにいたのは……

 

「ギリギリセーフでしたね…」

 

鉄丸を発動させた白音がいた。

確かに、制服が所々破けている。

けど、ここにいるのは女ばかり。

気にする必要は無い。

 

「し…白音ちゃんの肌が変わっている…?」

「ば…バカな!?直撃だった筈!」

「いくらなんでも、鋼鉄の塊に爆発は効かないですよ」

 

そう。

白音の持つ人口神器の一つ『鉄丸』は、己の体を文字通り鉄に変える能力を持つ。

対物理攻撃において、これ以上の防御力を持つ能力は無いだろう。

 

「お返し……いきますよ!」

 

白音はどこからか、さっきまで持っていた嘴と書かれた珠を取り出した。

 

「やりますよ……『嘴王』!!」

 

珠から、長い鎖のついた鋼鉄製の嘴が出現して、白音の右腕に装着された。

 

「そこっ!!」

 

そして、嘴王を女王の女に投げつける。

すると、嘴王は彼女の足に噛みついた。

 

「し…しまった!?」

「降りてきて…貰います!!」

 

三つめの人口神器『土星の輪』の力を利用したパワーで、全力で彼女を自分の方に引き付ける。

そのままの勢いを利用して……

 

「さよならです!!」

 

見事なカウンターパンチが炸裂。

 

「ぐはっ!?」

 

女王の女は思いっきり仰け反った。

それと同時に胃の中から胃酸を吐き出した。

 

「ゴホッ……ゴホッ……」

 

地面に倒れ込み、咳き込む女王の女。

 

「今のはマユさんを狙った分です。そして、これは……」

 

あ…あぁ……。

白音が拳を握りしめ、腰を低くしている…。

あのポーズは…まさか…!

 

「私の制服を汚した分です!!」

 

綺麗なアッパーカットが直撃。

女王の女は悲鳴を上げながらぶっ飛んでいって、そのまま校舎にめり込んだ。

 

って言うか……

 

((制服が破けた事……結構、気にしてたのね…))

 

今、ちょとだけあの女に同情してしまった…。

 

『ライザー様の女王、戦闘不能!』

 

やっちまったよ…。

まさかの大金星だよ…。

 

「今回の試合のMVPは白音かもな…」

 

ふと、そんな事を考えてしまった。

 

女王を撃破した私達は、改めて裕斗と合流する為に動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まさかの白音の大活躍。

そして、着実にフラグを建築していくマユ。

もう完全に二人の独壇場でしたね。

ライザーの運命も風前の灯?

では、次回。


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第39話 中盤戦

ここから中盤戦突入です。

ここも原作ブレイクするかも…。



 白音のまさかの大活躍で、見事に敵の女王を撃破した私達。

私と白音はこのまま裕斗と合流する為に運動場に向かう事にした。

 

「あれ?」

「どうした?」

「何か落ちてます」

 

白音が地面に落ちている何かを見つけた。

試しに拾ってみると、それは透明の液体が入った小瓶だった。

 

「これは…?」

「それは多分『フェニックスの涙』ですわ」

 

朱乃が地面に降りながら説明してくれた。

 

「フェニックスの涙?」

「はい。フェニックス家が生産している回復アイテムの事ですわ。一口飲めば、体力、魔力共に全回復するとか」

「凄いな…」

 

文字通りの効力を発揮するアイテムという訳か。

でも、なんでそんな便利なものがここに落ちているんだ?

 

「きっと、あの女王が所持していたんでしょう」

「白音があいつをぶっ飛ばした拍子に落ちたんだな」

 

本来なら、ピンチの時の切り札として持っていたんだろうが、使う暇も無く終わってしまったからな。

なんとも哀れなヤツ。

 

「これはマユさんが持っていた方がいいですね」

「ええ。お姉ちゃんは私達のエースですから」

「エ…エースか…」

 

悪くない響きだな…。

 

二人の提案に従って、私はフェニックスの涙をポケットにしまった。

 

「私は一旦後退して回復しますわ。流石に、最大威力の雷撃をまた撃つにはタイムラグがありますから」

「わかった。その間に私達は当初の目的通り、裕斗と合流することにする」

「了解です。二人共、お気をつけて」

「うん」

「分かりました」

 

旧校舎の方に向かう朱乃の姿を背に、私達は一路、裕斗がいる運動場に向かった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 運動場に向かう途中の森の中で、私達は裕斗と兵士と思われる眷属達を発見した。

数は3。

裕斗は完全に包囲されている。

一見すると完全に不利に見えるが、裕斗の顔には恐れは焦りは一切見えない。

寧ろ、余裕さえ伺える。

 

裕斗の姿が一瞬消えたかと思ったら、次の瞬間には三人共が斬られて地に伏していた。

 

『ライザー様の兵士3名。リタイヤ』

 

アナウンスが聞こえた。

いくら兵士とは言え、一瞬で片付けるとはな。

見事に腕を上げたものだ。

 

「裕斗」

「…!先輩」

 

こっちに気が付いた裕斗が、私達と合流した。

 

「御無事でしたか」

「ああ。そっちこそ大丈夫そうでなによりだ」

 

見た感じ、彼にも疲労は感じられない。

これなら何とかなりそうだ。

 

「さっきのアナウンスを聞きました。まさか、こんな序盤で女王を撃破するとは思いませんでしたよ。やっぱり先輩が?」

「いや。敵の女王を倒したのは白音だ」

「えっ!?」

 

うん…まぁ…。

そりゃ驚くよな。

 

「す…凄いね…。あの女王は結構な実力者としても有名なのに…」

「先生のお陰です」

 

全くだ。

先生…貴方のお陰で白音がとんでもない事になってますよ…。

 

「今の所、私達の中で脱落者はいない。これはいい傾向だ」

「でも、ここで油断しちゃいけない…ですよね?」

「ああ。勝って兜の緒を締めよ…だ」

「「はい」」

 

二人共、力強く返事をしてくれた。

 

「先輩。あそこに隠れましょう」

 

裕斗が指差したのは、運動場の隅にある用具入れのロッカーだった。

 

無言で頷き、私達三人は静かにロッカーの影に隠れた。

そして、そっと運動場を覗いて様子を見る。

 

「敵影は3。恐らく、騎士と戦車と僧侶と思われます」

「パワーファイターの戦車とスピードに特化した騎士。そして、サポーターである僧侶の組み合わせか…」

「バランスがいいですね」

「それ程までにここを通したくないんだろう。なんせ、現状ではこの運動場は敵の本陣に向かう唯一無二の侵入ルートなのだから」

 

恐らく、あの三人は今までと違う。

少なくとも、体育館で戦った連中とは一味違うだろう。

 

「このまま正面から向かうのは論外。かと言って、このままジッとしている訳には…」

 

昔の経験を頼りに、なんとか作戦を考えようとしていると、運動場からいきなり大きな声が響いてきた。

 

「私はライザー様に仕えし騎士のカーラマイン!噂に名高いリアス・グレモリーの騎士よ!お前も騎士ならば、私と尋常に勝負しろ!」

 

うわぁ…。

今時、時代錯誤もいい所だよ…。

これがレーティングゲームだからいいものの、もしもこれが日常だったら、完全に中二病患者確定だよ…。

 

叫んだのは、見るからに騎士の風貌をした女。

主人があんな奴なら、眷属も眷属って訳か…。

 

こういうチーム戦で正々堂々とか…。

私から見たら、バカ丸出しだ。

ホラー映画とかだと絶対に真っ先にやられるタイプだな。

 

「あんな風に名乗られてしまったら…こっちとしてもじっとしているわけにはいかないな…」

「「えっ!?」」

 

そ…それ、マジで言ってる?

 

裕斗は私達の動揺を他所に、そそくさと運動場に向かってしまった。

 

「…どうしましょう?」

「…私達も行くしかないだろう」

 

仕方がない。

どのみち、良い作戦は思いつかなかったんだ。

こうなったら…正面突破だ!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 運動場に行くと、裕斗と相手側の騎士…カーラマインが対峙していた。

 

「僕はリアス・グレモリー様の騎士の木場祐斗だ」

 

えっと……どうする?

 

「私達も名乗った方がいいんでしょうか?」

「空気的にもそうした方が良さそうだな…」

 

場の流れにのって、私達も一応名乗ることにした。

 

「えっと…今回限定でリアス・グレモリーの即席の騎士をしている闇里マユだ」

「同じく、即席の戦車をしている塔城白音です」

 

こう言った名乗りとか初めてだから、妙に恥ずかしいな…。

 

「ふふふ…。お前達のような戦士達がいる事を、私はとても嬉しく思うぞ。私はお前達のような馬鹿な連中が何よりも大好きだ」

「「馬鹿言うな」」

 

バカはお前だけだ。

一緒にするなよ。

 

「木場とやら。同じ騎士として…いざ尋常に勝負だ!」

「いいだろう。いくぞ!」

 

二人は互いに剣を出して、火花を散らしながら剣戟を繰り広げ始めた。

 

「で?お前はどうする気だ?」

 

私が後ろに目を向けると、そこには半分だけの仮面をつけた奇抜な格好の女が近づいてきた。

見た感じでは武器は持っていない。

彼女も無手で戦うタイプか?

 

「決まっているだろ?」

 

うっすらと笑ってから、彼女はファイティングポーズをとる。

どうやら、とっくにスイッチは入っているらしい。

 

アイツが騎士でこいつが戦車。

なら、僧侶は…

 

「はぁ……。全く…頭の中まで筋肉で出来ている連中は、見ているだけで不快ですわ」

 

随分な言葉を言いながら登場したのは、綺麗なドレスに身を包んだ金髪縦ロールの女の子だった。

彼女が僧侶か。

 

僧侶の女の子は、私の方をジッと見てから目を伏せた。

 

「実を言うと、私個人としてはこの勝負、とっくに捨ててますの」

「「ええ?」」

 

捨ててるって……。

最初から負けを認めているってことか?

 

「お前は何を言って…」

「イザベラは黙っていて」

 

あ、アイツはイザベラって言うのか。

 

「私、屋敷に帰ってから貴女の事を個人的に調査しましたの」

「私の事を?」

「ええ。そうしたら、驚愕の事実が判明しましたわ」

 

な…なんだ?

変な予感が…。

 

「あのバカ兄にも困ったものです。いくら知らなかったとはいえ、貴女…いえ、貴女様のことをナンパしようなんて。なんて恐れ多い…。そうでしょう?伝説の赤龍女帝様?」

「な…なんだって!?コイツが最強の赤龍帝と言われている…!?」

 

ああ~…。

遂にバレちゃったのね。

別に気にはしないけど。

 

「しかも、貴女のゲームの参加を認めてしまうなんて。あの兄は自分が自ら敗北を引き寄せてしまった事を全然分かっていません」

「随分な言い草だな…。っていうか…兄?」

「はい。ライザー・フェニックスは私の実の兄ですわ」

「「うへぇ~…」」

 

チャラ男な上にロリコンですか。

もう完全に女の敵じゃん。

っていうか、世間一般の敵じゃん。

完全に別の意味で危険人物じゃん。

 

「自己紹介が遅れました。私はレイヴェル・フェニックス。不本意ながら、兄の僧侶を務めております」

「そ…そうか。ご愁傷様」

 

としか言えない。

 

「お願いいたします、マユ様。あのバカでアホでチャラ男で女好きで世間知らずで努力のどの字も知らないような愚かな兄に身の程と言うものを教えてください」

 

レイヴェルちゃんに深々とお辞儀をされてしまった。

しかし、いくら実の兄とは言え、フルボッコだな…。

 

「なんか…一気に興が削がれてしまったな…」

「ですね…。どうします?」

「なら、御一緒にお茶でもいかがですか?美味しいクッキーもご用意してますけど」

「いただきます!!」

 

うぉっ!?

急に白音が元気になった!?

 

レイヴェルちゃんの足元に展開された魔法陣からテーブルと椅子とティーセットが出現し、白音が一瞬でそこに座ってクッキーを貪り始めた。

 

「このクッキー、凄く美味しいです!どんどん入ります!」

「ふふ…喜んで貰えて何よりですわ」

 

なんか…一気に仲良くなってるし。

 

「あ~……私は行ってもいいかな?」

「はい。兄の事をよろしくお願いしますわ」

 

戸惑いながらも、私はライザーの元に向かった。

 

「…私はどうすればいいんだ?」

 

一人だけ残されたイザベルが哀愁を漂わせていた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 マユ達とレイヴェル達のやり取りなんか全く知らず、夢中で剣を交える裕斗とカーラマイン。

傍から見ると、かなり滑稽だったが、二人は何処までも真剣だった。

 

「中々やるね!」

「そっちこそな!」

 

二人は笑顔を浮かべながら戦っているが、実際は裕斗が優勢だった。

 

(くっ…!この男…かなりできる!)

 

顔には出さずに、カーラマインは密かに危機を感じていた。

 

何回かの剣戟の後、二人は互いに間合いを取った。

 

「このままじゃ、ちょっと長引きそうだね。だったら…」

 

構えを一旦解くと、裕斗は自身の剣を消した。

 

「き…貴様!何のつもりだ!?」

「別に。ただ、修行の成果を出すだけさ」

「修行の成果だと…?」

 

実は合宿中、裕斗はアーチャーから教えを受けていた。

その際、こんな会話があった。

 

『木場祐斗。スピード重視の君が、なんで西洋剣を多用する?』

『え?』

『レイピアなどの一部の例外を除いて、一般的に西洋の剣は素早い戦闘とは相性が悪い』

『そ…そうなんですか?』

『ああ。君は様々な魔剣を創造できる能力を持っているんだろう?なら、どうして東洋の剣である『刀』を使わない?』

『……!』

『居合切りなどの技があるように、刀ほど素早い戦闘に適した近接武器は無い。君が弱点を補おうとするのではなくて、長所を伸ばすつもりなら、必ず力になる筈だ』

 

今までは自分が『騎士』であると言う先入観に縛られ、反射的に西洋の剣を使って来た。

アーチャーのアドバイスは彼にとって完全に盲点だったのだ。

 

それから、合宿中はずっと彼は刀と魔剣の組み合わせた剣を作り出す練習と、それを扱い方を学んでいった。

 

そして、遂に彼は自分にとって最速の剣の創造に成功した。

 

「見せてあげるよ。本当の『騎士』の戦いを!」

 

裕斗の手に魔力が収束していく。

そして、それが一本の美しい刀に変貌する。

 

「な…なんだそれは!?貴様の能力は剣を生み出すものじゃ……」

「その通り。僕の神器は『魔剣創造(ソード・バース)』。様々な魔剣を作り出す能力さ。でもね、一言に魔剣と言っても千差万別なんだよ」

「なに…?」

「この日本にも、魔剣と呼ばれる物は存在するってことさ!」

 

裕斗が刀を全力で振る。

すると、それだけで突風が発生し、カーラマインを後退させる。

 

「こ…この風は…!」

「名付けて…『風刃剣』」

 

風刃剣を構え、カーラマインを見据える裕斗。

 

「悪いけど…一気に決めさせて貰うよ!」

 

次の瞬間、カーラマインの視界から裕斗が消え去った。

 

「ど…どこに行った!?」

「ここさ」

 

声が聞こえた瞬間、カーラマインは脇腹を斬られていた。

 

「な……!」

 

彼女の背後にいつの間にか出現し、カーラマインが振り返った途端にまた消えた。

だが、実際には裕斗は消えてはいない。

ただ、彼の動きが早すぎてカーラマインに捕らえられないだけだ。

 

それから、カーラマインは文字通り手も足も出ないまま蹂躙されていった。

 

気が付けば、彼女は満身創痍になっていた。

 

「はぁ…はぁ…」

「そろそろ観念したらどうだい?」

「ま…まだだ…!ライザー様の騎士として…ここで倒れるわけには…!」

「……その忠誠心は見事とだけ言っておくよ。でもね、現実は君が思っている以上に非情なんだ。だから…」

 

裕斗は腰を低くして、風刃剣を腰に構えた。

 

「これで終わらせてあげるよ」

 

それは…一瞬の出来事だった。

 

裕斗の姿が消えたと思ったら、次の瞬間にはカーラマインの後ろに立っていて、彼女の体は何か所も斬られていた。

 

「は…早過ぎる…!」

 

苦痛を感じながらも、満足そうにカーラマインは倒れた。

 

『ライザー様の騎士一名。リタイヤ!』

 

アナウンスと同時に、カーラマインの姿は消え去った。

 

「ぶっつけ本番だったけど…なんとかなった…」

 

相当に疲れたのか、裕斗はその場に座り込んだ。

だが、その顔はとても爽やかだった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「あら、終わりましたわ」

「早かったですね」

 

二人の戦闘を見学していた白音とレイヴェル。

そして、いつの間にか合流した他のライザーの眷属達。

彼女達にも既にレイヴェルから事情は話しており、ここで待機しているのだ。

 

この短時間で白音とレイヴェルはすっかり仲良くなっていて、既に友達と呼んでも差し支えない関係になっていた。

 

「え?どうして一緒にお茶してるの?」

「裕斗先輩も食べます?」

 

戦闘が終わったばかりで状況が良く呑み込めない裕斗は、ゆっくりと二人の元に向かう。

 

「なんでこんな事になってるんだい?」

「実は…」

 

白音が裕斗にさっきの話を説明する。

すると、彼は汗を掻きながら苦笑いを浮かべた。

 

「つまり…先輩にお灸をすえて貰う為に、こうして戦闘放棄をしていると…」

「はい」

「この事を皆にも話したら、同意してくれましたわ。多分、先に脱落した者達も納得してくれるでしょう」

「なんか…急に力が抜けたよ…」

 

傍にあった椅子にドカッと座る裕斗。

彼の顔には、さっき以上に疲れが見えていた。

主に精神面で。

 

「因みに、このことは既に部長と朱乃先輩にも伝えてあります」

「そう…」

 

もうまともに返事をする気力もない様だ。

 

「食べます?」

「……うん」

 

白音から貰ったクッキーを食べる裕斗。

クッキーはとても美味しく、同時にしょっぱく感じた。

 

「先輩はもう…?」

「はい。お兄様の元に向かいましたわ」

「この耳栓…つけておこうか」

「ですね」

 

二人はいそいそと耳栓を付けた。

その様子を、レイヴェルを始めとしたライザー眷属は不思議な目で見ていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 ライザーの気配を感じて、私は新校舎の屋上に向かった。

屋上へと続く扉を開くと、そこではリアスとライザーが対峙していた。

 

「おお!やっと来たか!愛しのマユ!」

「愛しのって言うな」

 

あれ?リアスのツッコミが無い?

 

「ライザー…」

「なんだ?リアス」

 

何を言う気か気になっていると、リアスはいきなりサムズアップをしながら笑顔を見せた。

 

「大丈夫!いつの日かきっといい事があるわ!だから、めげないでね!」

「なんだそれ!?なんで俺の事を哀れみの目で見る!?」

 

この様子…さっきの話を通信機で聞いたな?

多分、話したのは白音だろう。

 

「お待たせしましたわ」

「朱乃か」

 

空から朱乃が翼を広げてやって来た。

どうやら回復し終わったようだ。

 

「くくく…。役者は揃ったようだな。なら……」

 

ライザーが全身から炎を出して、戦闘態勢に入る。

だが、リアスと朱乃がその空気をぶち壊した。

 

「それじゃ、私達は皆と合流するから」

「ここはお願いしますわ」

「任された」

 

最初から、ライザーとは私だけが戦う予定だったしな。

 

「な…なにっ!?逃げるのか!?」

「人聞きの悪い事を言わないで。後ろに向かって前進してるだけよ」

「それを普通は『逃げる』って言うんじゃないのか!?」

 

ライザーの叫びも空しく、二人は飛んでいってしまった。

 

「さて…私とタイマンして貰おうか?」

「ほぅ…?そう言う事か」

 

余程自信があるのか、ニヒルな笑顔を見せるライザー。

 

「いいだろう。どっちみち全員倒す予定だったんだ。それが多少前後するだけに過ぎん」

「言ったな?」

 

後悔するなよ?

 

「ドライグ!エリザ!準備はいいか!」

『応!!』

『大丈夫よ!子リス!』

「こ…この声は!?」

 

なんだか驚いているが、そんなのは無視無視。

 

「対フェニックス用の私達の切り札…見せてやる!!」

 

この戦いで、このゲームを終わらせる!!

いくぞ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




とうとう、味方にも見放される焼き鳥君(笑)。

そして、裕斗が早くもパワーアップ。

次の章の事も合わせて、裕斗も魔改造になるかも…。

さあ、焼き鳥君(笑)の運命はいかに!?

では、次回。



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第40話 決着

疲れたよぉ~!

最近になって急に忙しくなって、更新速度が遅くなってしまいました。

可能な限り頑張る気ではありますが、更新は体力と相談して決めたいと思います。



 マユとライザーが対峙している頃、両陣営の残りのメンバーは白音とレイヴェルがいる場所に集結していた。

 

「そろそろ二人が戦い始める頃ですね…」

「心配はしていませんが、どの程度に絞ってくれるのでしょうか?」

 

何気に兄に対して辛辣なレイヴェルだった。

 

「通信で聞いた時は半信半疑だったけど、本当にライザーを見限ったのね…」

「あんな兄では、見限りたくもなりますわ」

 

周囲のライザー眷属達は賛同していいのかどうかと言った感じの困った表情をしていた。

 

「でも、実際の話。一体どうやって勝つつもりなんですの?あんな兄でも、一応はフェニックス。無限に等しい再生能力は本物ですのよ?」

「分かってるわ」

「先輩なら大丈夫さ。あの人は送られてきた映像を見て、フェニックスの弱点を見つけたからね」

「フェ…フェニックスの弱点!?」

 

まさか、自分すらも知らない弱点を見つけられた事に、レイヴェルはかなり動揺した。

 

「じゃ…弱点とは一体…」

「それは、見ていれば分かりますわ」

 

朱乃が微笑みながら答える。

 

彼女の笑顔に、何やら怖い気配を感じたレイヴェルは、少しだけ後ろに下がってしまった。

 

その時だった。

彼女の手元に一組の耳栓が転移してきた。

それは、リアス達がマユから試合前に渡されていた耳栓と同じ物だった。

 

「これは…」

「お姉ちゃんの耳栓ね」

「きっと、マユさんがレイヴェルさんに送ったんですよ」

「私にこれを…?」

 

頭の上に?を浮かべながら耳栓を手に取るレイヴェル。

 

「そろそろつけた方がいいかもしれませんわね」

「そうね」

 

戦いの空気を感じたリアス達は、耳栓を付け始める。

 

「きっとそれは、マユさんが貴女の事を認めた証だと思います」

「私の事を……」

 

伝説の存在が自分を認めてくれた。

その事実に感動しながら、レイヴェルは静かに耳栓を付けた。

 

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 私がライザーと向かい合っていると、何やら違和感を感じた。

まるで、何かが開いたような感覚だ。

 

(…ギルガメッシュ。一体何をした?)

(なに。あのレイヴェルとか言う小娘に耳栓を送っただけよ)

(レイヴェルちゃんに…?)

 

なんで彼女に…。

 

(他の連中や目の前の男は全員が論外だが、あの娘だけは別だ)

(と言うと?)

(自分では自覚してはいないだろうが、アイツは近年稀に見る『覇』の才能がある)

(覇?)

(烏合の衆を纏め上げ、他の上に立つ才能。お前に解りやすく言えば、王としての才能だ)

(王としての才能…)

 

見た目は至って普通の女の子に見えたけど…。

 

(ククク…。この我も久し振りにあれ程の才能を持つ存在を見たぞ。もしも、あの小娘が自分の才能を自覚し研鑽を重ねていけば、将来的には歴史に名を遺す程の存在になるであろうな)

 

凄い…。

あの慢心王がべた褒めだ。

そんなにもレイヴェルちゃんは凄いのか…。

 

(貴様にも王としての才能があるが、あの娘の才能とはまた別だ)

 

私にも…。

 

(お前は自ら前線に立ち、兵達を鼓舞させるような…戦う王だ。だが、あの娘は知略や謀略を使い、『冷たい戦争』で最大の力を発揮するタイプの王だ)

 

冷たい戦争…ね。

 

(あれほどの才能を、このような場所で潰させるのは非常に惜しい。故に、この我自ら耳栓を送ったのだ)

 

ほんと…優しいのか厳しいのか、よく分からないな。

これが英雄たちの王と呼ばれた男か。

 

「ん?さっきから黙って一体どうした?もしや、今更ながら臆したのか?」

「違う。少し考え事をしていただけ」

 

ちょっとボケーっとしすぎたかな。

 

「ところで、その恰好は一体なんだ?最初に会った時とは随分と様変わりしているが…」

「私の神器の能力だ」

「ほぅ…。やはり神器持ちだったか…。ただ者では無いと睨んではいたが…」

 

私の事を舐め回すように見るんじゃねぇよ!

本気で気持ち悪いわ!

 

「龍と思わしき角と尾…か。その恰好も中々に魅力的だぞ」

「あっそ」

 

こんなにも嬉しくない褒め言葉も珍しいな。

 

「だが、それでも俺には届かない。何故なら、俺は不死身のフェニックスだからだ!」

 

そんなに高々と自慢して言う事?

 

「例えどんな攻撃であろうと俺には無意味!それでも向かってくるのか?」

「最初から引く気はない」

「はははははっ!それでこそ俺が認めた女だ!絶対に俺のハーレムに入れてやるぞ!」

 

はいはい。

勝手にほざいていてください。

 

「そうだ。これもハンデとして教えておいてやろう」

 

ん?何を言う気だ?

碌な事じゃないだろうけど。

 

「俺達フェニックス一族を倒したいのであれば、圧倒的な力で押しつぶすか、俺達の精神を潰すしかない。今のお前にそれが出来るかな?」

「さぁ……?」

 

ここで安易に答えて、自分の手の内を晒すのは素人のする事。

時には心理戦も大事なのだ。

 

「くく……。ここまで言っても、まだ目が死んでいない…か。いいだろう!お前の将来の夫の実力をたっぷりと見せてやろう!」

「勝手に結婚を約束するな!」

 

私にだって選ぶ権利ぐらいあるっつーの!

同じ金髪の男だったら、絶対にカレルさんを選ぶわ!

だって、あっちの方がイケメンだし、性格もいいし!

 

「その気概はよし!では…いくぞ!」

 

ライザーは私に向かって火炎放射を放った!

反射的に槍を構えて突撃し、槍の一振りで炎を払い、一瞬でライザーの懐に飛び込んだ!

 

「は…速い!?」

「そっちが遅いんだよ!」

 

そのまま、槍をライザーの腹部に突き刺す!

だが…全然手応えが無かった。

 

よく見ると、槍はライザーの腹部に突き刺さったまま、その周りには炎が出ていた。

 

「凄まじいな。俺の攻撃を一撃で払い、流れるような動作で懐に飛び込み、一瞬の躊躇も無く槍を放った。もしも俺がフェニックスでなかったら、間違いなくこの一撃でアウトだ。だが…」

 

槍を抜いて離れると、穴が開いたライザーの腹部が見る見るうちに炎と共に再生してしまった。

 

「この通りだ。これで分かっただろう?無意味なんだよ。俺にこんな攻撃は」

 

成る程。

実際にこの目で見ると、確かに厄介な能力だ。

けどね……

 

「余計な心配は無用だ」

「なに?」

「別に……不死身の存在と戦うのは…これが初めてじゃない」

 

そう。

あの『白いアラガミ』に比べたら、全然平気だ。

 

「どうやら、お前は相当な戦闘経験があるようだな」

「お陰様でね」

「だが、世の中にはどんなに頑張っても勝利出来ない存在がいる事も学ぶべきだぞ?」

「そんなのは……とっくに知ってる」

 

闇里マユ(わたし)は嫌と言う程に知っているよ。

そう…沢山ね。

 

「だが、それは決して逃げる理由にはならない。だから!」

 

私は籠手を前に突き出した。

 

「本気でいかせて貰う!」

「ならば見させて貰おうか!お前の本気とやらを!」

 

その言葉を死ぬほど後悔させてやる!

 

「ドライグ!エリザ!」

『待っていたぞ!』

『オッケーよ!』

「これは…さっきの声か。あの籠手から聞こえているのか…」

 

赤龍帝の籠手の宝玉が眩しく光り輝く。

 

『今まで誰かの為に歌った事なんて無いけど…。生まれて初めて、自分以外の誰かの為に歌いましょう!!!』

 

エリザ…!

 

『私の力の全て…受け取って!マスター!!!』

 

宝玉の輝きが最大になると、籠手から音声が聞こえた。

 

【Welsh Dragon Lancer Balahce Bleaker!!!】

 

光が私の体を覆いつくし、光が消え去った後、私の格好は大きく変化していた。

 

黒いコルセットに黒いフリフリのスカート。

その下には同じように赤いフリフリのスカートがあった。

袖の部分は直接腕に付けるようにしてあって、それもまた赤くてフリフリだった。

左腕にはさっきと同様に赤龍帝の籠手が装着してあった。

足の方は、赤い装甲に覆われた棘付きのブーツに変わっていた。

やたらとヒールが高い為、ちょっと立ちにくい。

でも、一番の問題はそこじゃない。

 

「な…なんだ…この格好は…!」

 

この姿で一番露出しているのは、胸の辺りだった。

中央に一本、胸を隠すように二本の帯があったが、お世辞にも全てを隠しきれているとは言い難い。

寧ろ、隠せていない場所の方が多い。

帯は首の辺りから続いていて、首の部分をチョーカーのように覆っている。

 

「さ…流石に恥ずかしい…!」

『え?どこがよ?すっごく可愛いじゃない!』

 

これでは唯の危ないコスプレにしか見えない!

貴族の考えていることはよく分からん…!

 

「う~む…」

「な…なんだ…」

 

ライザーがずっとこっちを見てるんだけど…。

 

「実に俺好みの格好だ。本気で俺と付き合わないか?」

「誰が付き合うか!変態!」

 

くそ…!あんな奴に殆ど露出した胸を見られるとは…!

絶対に倒さなければいけいない理由が増えたな…!

 

「そ…そんな風に言っていられるのも時間の問題だ!」

「その恰好で言われても説得力無いぞ」

「私を見て鼻血を出してる奴に言われたくはない!」

「おっと」

 

今更鼻血を拭っても遅いんだよ!

 

「お前は…色んな意味で私の逆鱗に触れた…!」

「な…なんだと?」

「血の伯爵夫人と呼ばれた槍の英霊…エリザベート・バートリーの力を思い知れ!!!」

 

槍を振り回して地面に刺す。

すると、新校舎を押しつぶすようにして、アンプが付いた巨大な城が出現した。

 

「な…なにぃ~~~!?ウリィィィィィィィィィィッ!?」

 

いきなりの校舎の崩壊に、ライザーは巻き込まれたかに見えたが、咄嗟に羽を広げて宙に浮き、運動場に降り立った。

 

「な…なんなんだ!?その城は!?」

 

そんな言葉は基本的に無視無視。

 

よく見ると、リアス達も驚いた表情でこっちを見ていた。

特に凄かったのがレイヴェルちゃんで、まるで顎が外れんばかりに大きく口を開けていた。

 

「こ…これが歴代の…英霊の宝具!?」

「幾らなんでも凄すぎますわ…!」

 

どうやら、ちゃんと耳栓はしているようだな。

これならこっちも遠慮なく全力を出せる。

 

校舎が崩れたから、改めて槍を地面に突き刺す。

そして、背中から龍の翼を広げて槍の上に立つ。

 

「これが私達の!」

『ラストナンバーよ!』

「盛大に!」

『魅せてあげるわ!!』

 

思いっきり息を吸って、力を込める。

 

「『鮮血魔嬢(バートリー・エルジェーベト)!!!』」

 

一気に口の中に貯めたものを吐き出す。

それは、強大な力が込められた超音波だった。

そして、その超音波は城のアンプからも放出された。

 

超音波はそのまま真っ直ぐにライザーに向かって行った。

 

「ぎゃ…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああぁあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

耳栓をしていないライザーは、耳を抑えて苦しみだした。

 

「す…凄い振動…!」

「く…空気が震えている…!」

「耳栓をしているお陰で聞こえてはいないけど…」

「それでも…凄い力を感じます…!」

 

耳栓はちゃんと機能しているようだ。

他のライザーの眷属は苦しみながらも辛うじて耐えているって感じ。

 

この宝具の超音波は一見すると対城、対軍宝具のように見えるが、実は対人宝具なのだ。

指向性の超音波はターゲットにしか効果は無く、他の相手には凄い音にしか聞こえない。

実際、この力で苦しんでいるのはライザーのみで、他の連中は耳を手で防いでいるだけで済んでいる。

 

ライザーも同じように耳を手で防いでいるが、そんな事で英霊の宝具を防げれば誰も苦労しない。

だが、この程度では終わらせない。

 

戦いの前、ドライグとある打ち合わせをした。

それは……

 

【Boost!】

 

私が宝具を使用中、ドライグの意思で宝具の威力を倍化して欲しいと言うものだ。

これで、私は宝具の使用に集中出来る。

 

威力が倍化したことによって、ライザーはさっき以上に苦しむ。

 

「ああぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁあああぁぁあぁあぁあぁあああぁああっ!!?」

 

地面に転がりながら、全身に汗を掻きながらのた打ち回る。

徐々に血管が浮き出てきて、口からは涎が、目からは涙が出始める。

 

(な…なんなんだぁぁぁぁぁぁっ!?頭が割れるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?)

 

さっきまでの余裕は何処へやら、ライザーは無様な姿を晒している。

 

(そ…そうだ!鼓膜を破ればなんとか…!)

 

とか思ってるんだろうな。

けど、その程度の事を考えてないとでも?

 

ライザーは必死に震える指を動かして耳を突く。

奴の耳から血が流れるが、すぐさま耳から小さな火が出て鼓膜が再生してしまう。

 

(し…しまった!?フェニックスの再生能力で鼓膜を破ってもすぐに治ってしまう!)

 

ほらね?

 

さて、そろそろフィニッシュに…

 

【Boost!】

 

って、あれ!?

ここでまた倍化!?

なんで!?

 

(俺の相棒をナンパするなど絶対に許せるか!これぐらいでもまだ生温いわ!)

 

あ…ドライグもご立腹だったのね。

 

「がぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!?」

 

とうとう白目を剥いて、口から泡まで吐き出した。

我ながら、これはちょっとやり過ぎかも…。

 

ライザーは身体全体を弓なりに逸らして、全身が痙攣している。

そして遂に……

 

「あ…あぁぁ……」

 

力尽きたのか、ガクッとなって地面に横たわった。

それを見て、私は宝具を解除した。

 

「……ふぅ」

 

槍から降りると、城は地響きと共に地面に消えていった。

 

『ライザー・フェニックス様、リタイヤ!勝者!リアス・グレモリー様!』

 

勝った…!

 

「「お…お姉ちゃん!」」

「先輩!」

「マユさん!」

 

皆がこっちに走ってやって来る。

その顔は、皆一様に嬉しそうだった。

 

特にリアスが一番嬉しそうで、私に思いっきり抱き着いてきた。

 

「ありがとう…!本当にありがとう…!」

「うん…」

 

本当に嬉しいのか、リアスの体は歓喜に振るえている。

それを落ち着かせるために、私はリアスの頭を撫でてあげた。

 

すると、レイヴェルちゃんもこっちにやって来た。

 

「お見事でした。まさか超音波を使うなんて、予想も出来ませんでした」

「だろうね」

「流石のフェニックスも音だけは防げない。完全に盲点でしたわ」

 

こっちも映像が送られてこなければ分からなかったけどね。

 

「貴女様の戦いは本当に勉強になります。お会い出来て良かったです」

「私もだよ」

 

きっと、彼女との出会いは私にとってもいい経験になるだろう。

なんでかは知らないけど、そんな気がする。

 

「兄にもいい薬になったでしょう」

 

皆で気絶したライザーの方を見る。

すると、股間の辺りがなにやら湿っているのが見えた。

 

「あ……」

「全く…」

 

レイヴェルちゃんが頭を抱えている。

そりゃそうだ。

実の兄の失禁姿なんて、見ていて恥ずかしい以外の感想は出ない。

 

流石に見るに堪えないのか、ライザーはすぐさま転移されていった。

 

「これで…終わったのね」

「うん…」

 

やっと明日からいつもの日常に戻れる。

さて、まずは帰って黒歌とレイナーレ達に報告……

 

「うっ…!?」

 

急に『左腕』が疼き出した。

まるで、ティアウス・ピターの時のように。

 

「これは……」

「お姉ちゃん…?どうしたの?」

「い…いや…。ちょっとな…」

 

リアスがそっと私から離れながら顔を覗き込んできた。

次の瞬間、強烈なまでのオラクル波を感じた。

 

「皆!この場から離れろ!!!」

 

必死に叫ぶと、全員が弾かれたかのように逃げ出した。

 

「リアス!レイヴェル!危ない!!」

 

咄嗟に一番近くにいた二人を抱きしめて庇う。

すると、私の背中に巨大な火炎球が命中して、吹き飛ばされた。

その勢いで旧校舎にぶつかったが、反射的に自分を盾にした。

 

「ぐぁっ…!」

 

壁をぶち抜いて校舎の中に突っ込んでしまったが、なんとか二人に怪我は無かった。

 

「お…お姉ちゃん!背中が…!」

「あ…あぁぁ…!」

 

もしかして、背中を火傷とかしちゃったかな?

凄い熱いんですけど…!

 

「さっきまで何にも感じなかったのに…!なんでいるんだよ…!」

 

痛む背中を我慢しながら火球が飛んできた方向を見ると、そこには一匹の白い体の炎を纏った龍がいた。

 

「ハンニバル!!!」

 

闇里マユ(わたし)個人にとって、最も因縁深いアラガミが降臨した。

 

戦いは…まだ終わってはいなかった。

いや、ここからが本番なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ライザー退場。

そして、入れ替わるようにハンニバル登場。

ライザーはハンニバルの為の咬ませ犬ならぬ咬ませ鳥(笑)になったのです。

そして、マユはエリザモード(禁手)になれるようになりました。

お分かりかもしれませんが、勿論のようにパンチラはしてます。

ただ、皆はマユの事を気遣って言わないだけです。

実は、めっちゃ凝視してました。

お次はハンニバルとの決戦?

では、次回。


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第41話 不死のアラガミ

なんか、来週は今週以上に忙しそうで、今から憂鬱になっている私です。

しかも、外は凄い雨だし…。

体調に気を付けながら頑張りたいと思います。


 ライザーが撃破された瞬間の観覧席。

サーゼクスとグレイフィア、そして、ライザーの両親であるフェニックス夫妻とアーシアが試合の様子を見ていた。

普段なら夫であるサーゼクスの傍に居る筈のグレイフィアだったが、今回はボディガードのようにアーシアの傍に立っていた。

 

「なんと…!」

 

目の前に映る映像に映るのは、地面に転がって悶絶しながら苦しみ、その後に気絶してしまったライザーの姿だった。

それを見て、フェニックス卿は驚きを隠せないでいた。

 

「アイツが破れるか…」

「意外でしたか?」

 

嬉しそうに話しかけるサーゼクス。

 

「いえ…。アイツの傲岸不遜な態度には私達夫婦もほとほと困っていたのです」

「あの子には丁度いい機会なのかもしれません。これを機に少しは謙虚な態度をしてくれればいいのですが…」

 

どうやら、ライザーの性格は両親から見ても悩みの種だったようだ。

 

「しかし…あの少女は一体何者なのですか?いくら慢心していたとはいえ、ライザーはフェニックスに名を連ねる者。それをああも簡単に…」

「彼女こそ…私だけでなく、三大勢力全体にとって最大の大恩人ともいえる存在ですよ」

「それは…まさか…!」

 

フェニックス卿が驚くのをみて、ニヤリと笑うサーゼクス。

 

「ええ。あの少女が、嘗てあの大戦において我等を救った伝説の赤龍女帝です」

「「……!?」」

 

悪魔達にとって最大の恩人とも言うべき存在が、まさか目の前にいるとは思いもしなかった夫婦は、先程以上に驚いた。

 

「しかし…僕も今回のような力は初めて見る…。あれは一体…」

「アーシア様は何かご存知ですか?」

「は…はい。あれは、歴代の赤龍帝の一人であるエリザベートさんの力だと思います」

「エリザベート?」

「本名は『エリザベート・バートリー』と仰っていました」

「それは…!」

「血の伯爵夫人…!」

「かの吸血鬼『カーミラ』のモデルと言われた人間…!」

 

悪魔達の中でも彼女の存在はそれなりに有名なようで、そこ名前に全員が反応していた。

 

「けど、ならなんであんな姿に?彼女に神器以外の特別な力の類は無かった筈…」

「ドライグさんが仰っていたのですが、なんでもエリザさんにはもともと龍の血が流れていたそうです」

「なら、あの角と尾は…」

「その力が顕現した物という事か…」

「ならば、あの口から出していた超音波はブレスなのか…?」

 

マユがライザーに圧勝して見せた理由を知って、フェニックス夫婦は納得をし、サーゼクスは嬉しそうに、グレイフィアは僅かに頬を赤らめながら見ていた。

そして、アーシアは両手を胸に当てて安心していた。

 

「大きな怪我が無いようでよかったです…」

 

ライザーの様子を見て、グレイフィアが彼を転移させた…次の瞬間だった。

 

運動場の端の方から炎が立ち上がった。

 

「な…なんだ!?」

「あ…あれは…!」

 

運動場の端の方にある林から炎を纏った白い龍が出現した。

 

「馬鹿な!?いつの間にあんな奴が!?」

「グレイフィア!」

「分かりません!つい先程まで何の反応もありませんでした!」

 

全員が訳が分からなかった。

まるで、この場にいきなり発生したかのような現れ方だったからだ。

 

その時、龍がマユ達がいる方に向かって火球を吐き出した。

咄嗟にマユがリアスとレイヴェルを庇ったが、その勢いで校舎に叩きつけられてしまった。

 

「リアス!」

「レイヴェル!」

「マユさん!」

 

サーゼクス、フェニックス卿、アーシアが同時に叫ぶ。

 

「大丈夫です!三人共大きな怪我は無いようです!」

 

グレイフィアの報告を聞いて、胸を撫で下ろす三人。

だが、まだ油断は出来ない。

 

マユが二人を後ろにやって、単身で龍に挑もうとしていた。

 

「まさか…あの龍も彼女の『敵』なのか…!?」

 

サーゼクスの呟きが、静かに観覧席に響いた。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 

 くっそ~!背中が滅茶苦茶痛い!

制服よりも露出が多いのが原因かな…?

いや、アラガミの攻撃の前では服装の防御効果なんて意味無いか…。

 

「二人共、大丈夫か?」

「は…はい…」

「それよりもお姉ちゃん!背中が!」

「私なら問題無い」

 

嘘です。

泣きたいぐらいに痛いです。

でも我慢します。

 

後ろを見ると、ノッシノッシとハンニバルが近づいてくる。

このままじゃヤバいな…!

 

「グレイフィアさん!私以外の全員を転移させてくれ!試合は終了したから問題無い筈だ!」

『承知しました!』

 

よし…これで…!

 

「マユさん!」

「先輩!」

「お姉ちゃん!」

 

朱乃、裕斗、白音が心配そうな顔をしてやって来た。

 

「ここは私に任せてくれ」

「でも…」

「行きましょう、皆さん」

 

渋るリアスだったが、白音の発言で思いとどまった。

 

「アラガミとの戦いでは私達は無力なのは、皆さんが承知している筈です」

「そう…ね…」

「悔しいですけど…」

「僕は……!」

 

魔法陣が出現し、リアス達が転移していった。

そして、私の傍に居たレイヴェルちゃんも…。

 

「貴女は一体……」

「話せる機会が来たら、ちゃんと話すよ」

 

安心させるために優しく頭を撫でる。

既に泣きそうにしていたが、なんとか涙をこらえている。

なんとも気丈な子だ。

 

「……ご武運をお祈りしますわ」

 

その一言と共に、彼女を始めとしたライザー眷属は全員が転移していった。

 

この場に残されたのは、私とハンニバルだけ。

 

私はゆっくりと立ち上がり、ハンニバルの方を向いた。

そして、籠手から神機を取り出した。

組み合わせは、今の状態に合わせて、プリンケプス(チャージスピア)カストルポルクス(ショットガン)インキタトゥス(バックラー)だ。

 

【Reset】

 

あ、どうやらここで倍化が元に戻ったようだ。

まぁ…アラガミに超音波が通用するとは思えないからいいけど。

 

『こいつが噂に聞くアラガミね…。凄いプレッシャーじゃない…!』

『相棒…コイツは…!』

「分かってるよ」

 

ハンニバル……またの名を『不死のアラガミ』

数多いアラガミの中でも、コアの再生能力を持つ唯一の存在。

発生当初は厄介極まりなかったが、今はちゃんと対処方法が確立されていて、なんとかなる。

けど、問題はそこじゃない。

 

『何故アラガミがここにいきなり現れる…!気配もオラクルも感じなかったのに…!』

「もしかしたら…奴はここで『発生』したのかもしれない」

『なっ…!あのハンニバルはこの場所で誕生したと言うのか!?』

「それしか考えられない…」

 

俄かには信じられないけどね…。

 

『今は別にアイツの事なんてどうでもいいじゃない!問題は、倒せるか倒せないかよ!』

 

そうだった。

エリザに正論を言われてしまった。

 

「勿論やれる。苦戦は必至だけど」

 

だって、ハンニバルと言えば、アラガミの中でもトップクラスに位置するし。

一応、単独での討伐経験もあるけど…。

 

「あの時と今回とじゃ状況が違うか」

 

今は赤龍帝の籠手があるし、英霊の力もある。

一人でもなんとかなるかも。

 

ハンニバルが前方5メートルぐらいまで近づいてきた。

 

私も神機を構えて、迎撃体制をとった。

 

少しだけ静寂が場を支配した。

崩れた校舎の一部が崩れ、その欠片が地面に落ちた。

 

それが合図となって、私とハンニバルは同時に動き出した。

 

ハンニバルは炎を右手に放ち、固めてから剣状にした後、こっちに向かって投擲した。

それを回避する為に、私は敢えて懐に突撃することにした。

 

絶頂無情の夜間飛行(エステート・レピュース)!!」

 

持ち手の部分から魔力がジェット噴射のように噴出して、ハンニバルの胴体にぶつかっていった。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

そのままの勢いでハンニバルを校舎の外に追い出した。

 

「はぁっ!」

 

外に出てから、全力の蹴りでハンニバルから離れる。

空中後方宙返りをしながら着地。

 

ちょっと後ろを見ると、炎の剣が突き刺さった場所は焼けただれて、完全に融解していた。

 

「冗談きついよ…」

 

普通の連中なら瞬殺だな…。

神機使いで良かった。

 

ちょっとだけゲンナリしていると、ハンニバルが尻尾で薙ぎ払いをしてきた。

それ程尾は長くないが、それでも広範囲攻撃なのは同じだ。

 

「ちっ!」

 

私は咄嗟にバックフリップで回避し、校舎に足を掛けて、足を曲げてから思いっきりそのまま真っ直ぐに槍を構えて突撃した。

 

その一撃はそのままハンニバルの逆鱗に命中し、反対側に着地した。

そこから振り返り、銃形態に変形させてから逆鱗に目掛けで発射した!

 

ハンニバルは攻撃力、スピード共に優れた強敵だが、その攻撃には大きな隙が生まれやすい。

故に、攻撃さえ回避出来れば反撃の機会はある。

 

奴がこっちを向く前に何回も撃ち続ける。

すると、逆鱗に罅が入り、砕けた。

 

「あ」

 

 

思わずやってしまったが、ハンニバルの逆鱗を早々に壊すのはご法度だった。

何故なら……

 

凄まじい咆哮と共に、ハンニバルの背に魔法陣のような光輪が出現し、その周囲に炎の翼が出現した。

 

「やっちまった…」

 

ハンニバルは部位破壊によって逆にパワーアップする珍しいアラガミなのだ。

しかも、それによって攻撃方法も増える始末。

 

『活性化したぞ!』

「見れば分かる」

 

もうお馴染みだしね。

 

ハンニバルは両手に炎の剣を持って、暴れながら振り回し始めた!

 

「やばっ!」

 

咄嗟に近接形態に戻して、装甲を展開してガード。

だが、その攻撃は凄まじく、装甲に当たっても自分にダメージがあり、体力が削られたのが分かった。

同時に、少しだけ後ろに下がってしまった。

 

「くっ…!」

 

少しだけ腕が痺れた…!

 

装甲を解除し、終わりの隙を狙って攻撃を仕掛ける。

狙いは左手についている籠手だ。

 

「はっ!やっ!たぁっ!」

 

スピアで連続で突きまくる。

体勢を整えたハンニバルが反撃と言わんばかりに籠手のついた方の腕を振るうが、さっきと同じようにバックフリップで回避。

着地したところでチャージグライドの体勢に入る。

神機に黒いオラクルのオーラが現れ、スピアの部分が展開されて槍の部分が大きくなる。

 

そのままの状態で立ち回り、隙を伺う。

 

ハンニバルが火球を吐き、それを回避。

次に大きく体を沈めて、こっちに突撃してきた!

 

「ちっ…!ドライグ!」

 

【Boost!】

 

このままでは回避は難しいと判断した私は、脚力を倍化して、緊急回避を試みた。

さっき以上に素早くなったおかげで、ギリギリのところで回避に成功した。

 

「隙あり!」

 

大きく隙が生まれた瞬間に、一気に突っ込んだ!

見事にチャージグライドは命中し、そのままスピアが展開された状態で連続で仕掛けた。

 

その後も展開したままでヒット&アウェイを繰り返して、籠手だけを集中的に攻撃した。

そのお陰で……

 

「よし!」

 

何回かの攻撃の後、ハンニバルの籠手の破壊に成功。

これでようやく弱体化させることが出来た。

 

が、ここでハンニバルは最大の攻撃を仕掛けてきた。

 

全身に炎を纏い、ゆっくりと空中に浮く。

 

『な…なんだこれは…!』

『周囲の温度が急上昇していくわよ!?』

 

あれこそ…アイツの最大の攻撃…『ファイアストーム』だ!

 

ハンニバルが大きく両腕を広げた瞬間、全周囲に向かって炎が撒き散らされた!

 

「くそっ!」

 

当然、私は装甲を展開してガード。

しかし、その衝撃は凄まじく、装甲越しであるにも拘らず、炎は私の体力をギリギリと削っていった。

同時に、自分のスタミナも大きく減っていったのが分かった。

 

炎が止んだ後に装甲を解除したが、私は想像以上に疲れていたようで、思わずその場で息を整えてしまった。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…!」

 

どうやら、さっきまでのレーティングゲームが思った以上に響いていたようだ。

宝具の使用で想像以上に体力を使ったようだな…。

 

だが、ハンニバルにはそんなこっちの都合は通用しない。

 

大きく隙を見せてしまった私をハンニバルが逃がすわけも無く、テイルアタックで攻撃してきた!

身動きの出来なかった私は直撃を受けて、そのまま派手に吹っ飛んでしまった。

 

「うあぁぁぁっ!!」

『相棒!!』

『マユ!!』

 

私の体は運動場の隅に設置された用具倉庫にぶつかって、そのままめり込んでしまった。

しかも、運の悪い事に、めり込んだ際に変形した金属製の倉庫が私の体を拘束してしまった。

 

「ちょ…!」

 

慌てて抜け出そうとするが、それはまた大きな隙となった。

結果、ハンニバルは追撃として火球を撃ってきた。

当然、回避不可能な私は直撃を受けた。

 

「ぐぁっ!!」

 

倉庫ごと吹き飛んだ私は、皮肉にもあいつの攻撃によって歪んだ倉庫から脱出出来た。

 

咄嗟に受け身を取るが、体中は傷つきまくりの汚れまくりだった。

しかも、なんか口の中に鉄のような味を感じた。

思わず口を拭うと、手には血がついていた。

どうやら、口から出血したようだ。

 

「痛…」

 

口の中を切るのって結構痛いな…。

 

なんとかして立ち上がった私は、籠手の中から回復錠改を取り出して服用した。

 

「ふぅ…」

 

ちょっとは体が軽くなった。

少しはマシになった筈だ。

 

周囲を見ると、どうやら私は運動場の近くにある森に突っ込んだようだ。

 

急いで森から出ると、それを見計らったように火球が飛んできた。

 

「同じ手を何度も喰らうか!!」

 

チャージスピアを振り払うようにして火球を破壊した。

 

「今度はこっちの番だ!」

 

神機を逆手に持って、全力で振り被る。

そして……

 

不可避不可視の兎狩り(ラートハタトラン)!!」

 

ハンニバルに向かって投擲した!

狙うは勿論、残った部位破壊可能な場所である頭部!

 

火球を撃った反動で僅かに隙が出来ていた為、難無く命中。

そのまま突き刺さってしまったが、構わず私も突っ込んだ。

 

そして、ジャンプして神機を掴み、両手で引き抜いた!

 

苦痛しているかのように咆哮するハンニバル。

頭部からは大量に血が噴出していた。

 

「一気に決める!!」

 

もう一回チャージグライドをセットし、タイミングよく頭部がこっちを向いた時に突撃!

さっきのダメージがかなり効いていたようで、命中と同時に頭部が部位破壊された。

 

ここまで来ればあと少しだ。

けど、油断は出来ないけどね。

 

自棄になったように炎の剣を振り回すハンニバル。

だが、さっきのような鋭さは無く、装甲を展開しなくても回避は容易だった。

バックステップ、バックフリップを駆使して回避し続けた結果、全部の回避に成功。

案の定、大きな隙が生まれたハンニバル。

この機会にチャージ捕食のカーネイジを試みた。

 

カーネイジは捕食と同時にアラガミ濃縮弾を自動的に発射する捕食形態で、隙は少々大きいが、成功した時のメリットはデカい。

 

「よし!」

 

捕食成功した私は、銃形態にしてからアラガミ濃縮弾の『パニッシュフレイム』を発射。

炎の柱が飛んでいき、ハンニバルに命中。

同じ火属性なので効果は大したことないが、それでもしないよりはマシだ。

それよりも、捕食によって自身をバーストさせることが出来た方が大きい。

 

体が一気に軽くなるのを感じる。

これなら…!

 

ハンニバルの三度のテイルアタックをジャンプで回避。

そのまま近接形態に戻してから空中からの急降下攻撃!

 

更に、銃形態に変形してから、ショットガンをハンニバルに向ける。

それと同時にハンニバルがこっちを向いた。

ちょうど、おあつらえ向きに銃口の先にハンニバルの頭部が来ていた。

 

「終わりだ」

 

そのままショットガンを連射。

OPが尽きるまで連射し続けた。

そして、最後の一発が直撃した時…ハンニバルは最後の断末魔を上げて、横倒れになった。

同時に、背中の炎の翼が消え去った。

 

「倒した…」

 

あれが消えたという事は、こいつが力尽きた証拠。

ハンニバルはようやく倒れたのだ。

 

いつものように捕食をしてコアを回収して、ハンニバルの死骸が霧散したのを確認してから、ようやく戦闘態勢を解除した。

 

気を抜いた途端、目の前が歪んできて、思わずその場に座り込んでしまった。

 

「つ…疲れた…」

 

久々に本当の強敵だった…。

マジで疲労困憊って感じ…。

 

ふと周囲を見ると、見る影も無くズタボロになっていた。

明らかにレーティングゲームよりも被害が凄いでしょ…。

 

神機を収納して一息ついていると、魔法陣が足元に展開されて、私の体がうっすらと消え始めた。

どうやら、グレイフィアさんが私を転移させてくれるようだ。

正直言って有難い。

もう移動する気力とか全然無いし。

 

戦いが終わった安心感に身を寄せながら、私は大人しく転移していった。

 

あ~…皆にまた色々と聞かれるんだろうなぁ~…。

 

なんて説明しよう…?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ハンニバル撃破!

流石にハンニバル相手に無傷の勝利は難しいようで、ある意味ライザーよりも苦戦してましたね。

まぁ、当たり前だけど。

同じ『不死』でも、ハンニバルの方が明らかに格上ですしね。

では、次回。


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第42話 本当の意味でのゲーム終了

今回はハンニバルとの戦いが終わってからの話です。

今になって気が付く真実に、マユはどんな反応をするでしょうか?



 ハンニバルを撃破した後、私は安全地帯とも言うべき観覧席に転移させられた。

 

転移が完了すると、そこにはリアス達を始めとしたオカルト研究部メンバーとサーゼクスさん、グレイフィアさん、そしてなんでかレイヴェルちゃんの姿が見えた。

 

「お…お姉ちゃ「大丈夫ですか!?」なっ!?」

 

駆け寄って来るリアスを追い抜いてレイヴェルちゃんがやって来た。

 

「ああっ!こんなにもお怪我を…!」

「ちょ…ちょっと貴女!」

 

私の両隣でリアスとレイヴェルちゃんが言い争っている。

余りこう言った事は言いたくないが…五月蠅い。

 

「マユさん。大丈夫ですか?」

「なんとかな」

「今すぐ治療しますね!」

 

白音とアーシアがやって来て、神器の力で治癒してくれた。

おぉ…これは気持ちいい…。

 

「「あ!」」

 

なんでそこで驚く?

 

アーシアの力で背中の火傷などがあっという間に治っていった。

数秒後にはすっかり怪我は無くなっていた。

流石に体の疲労は消えてないけど。

 

気が抜けると、私の格好が元に戻った。

 

「マユ君」

 

私の治療が完了したことを確認したサーゼクスさんが話しかけてきた。

けど……

 

「なんで鼻にティッシュを突っ込んでいるんですか?」

 

因みに、裕斗もなんでか同じように鼻にティッシュを突っ込んでいる。

 

「こ…これは…」

「その…」

「これはお姉ちゃんが原因よ」

「私が?」

 

どゆこと?

 

「お姉ちゃんは気が付いてなかったようだけど…」

「戦っている間、スカートから下着が丸見えでしたわ」

「ついでに言うと、あんな格好をしていたせいか、胸も揺れまくりでしたよ」

「なっ……!」

 

う…嘘でしょ…!?

皆が見ている場所でそんな羞恥プレイをしてしまったのか…!?

 

「それをここで見ていて、男連中が鼻血を出していたのよ」

「全く…」

 

うわ…女性陣の目が非常に冷ややかだ…。

同性から見ても怖え~…!

 

「本当に申し訳ございません。私からもよく言っておきますので…」

「はぁ…」

 

確か…この二人って夫婦だったよな?

もしかして…かかあ天下だったりする?

 

『相棒』

「ん?」

『リベンジが出来たな』

「…そうだね」

 

リベンジ…ね。

ま、確かに借りは返せた…かな?

 

「リベンジ?」

「どういう事ですの?」

『嘗て、相棒はアイツに手痛いダメージを負わされてしまったことがあるのさ』

「君が…!?」

「お恥ずかしい限りです」

 

あの時は必死だったからねぇ…。

 

『あの龍…ハンニバルが初めて出現した際、相棒は仲間達と共に討伐に向かった。特に問題も無く討伐には成功したが、異変はその後に起こった』

「何が起きたんですか?」

「死亡した筈のハンニバルがいきなり起き上がって、攻撃を仕掛けてきたんだ」

「「「ええっ!?」」」

 

そりゃ驚くか。

 

『その際、不意を突かれて棒立ちになってしまった仲間を庇って相棒が盾になって、そのままぶっ飛ばされてしまい、気を失ってしまった』

「マユさんらしいと言えば納得しますけど…」

「あまり危ない真似はしないで欲しいですわ…」

「うん…そうだな」

 

心配だけはかけたくないしね。

 

『あの時の相棒は、日々の激務で疲労が溜まっていた上に、神機も度重なる戦いで碌に整備も出来ずに故障寸前だったからな』

「貴女は……」

 

うぅ…グレイフィアさんや。

そんな目で見ないで…。

 

『今でこそ多少は収まったが、あの頃の相棒は今以上に自分の事を顧みなかった。余りにも無茶をし過ぎた結果、上官から溜まっている休暇の消化を命じられたほどにな』

「無茶にも程があるわよ…」

「呆れますわ…」

 

自覚がある為、何も言い返せない…。

 

「だから『リベンジ』だったのね」

「そう言う事だ」

 

ちょっとだけスッキリはしたかな?

 

「ところでお兄様。予想外の介入者はあったけど、ゲーム自体は私の勝利だったから、結婚の話は…」

「分かっているよ。僕から父上達には話しておこう」

 

良かった…。

これで一応の解決はしたのかな?

 

「僕としても、君の戦いが見れて満足だしね」

「そんな事だと思ったわ」

 

それが目的で私と白音のゲーム参加を許可したのか…。

喰えない人だ。

 

いつまでも座りっぱなしは悪いと思い立ち上がろうとしたが、少しだけふらついてしまい、リアスとレイヴェルちゃんに支えられるようにして立ち上がった。

 

「出来ればさっきの龍の事を君に聞きたいところだけど…」

「今日はおやめになった方がいいでしょう。今はマユ様の体が第一です」

「分かっているよ。僕だって空気ぐらいは読めるさ」

 

私としてもそうして貰いたい。

今は兎に角、休みたい…。

 

「赤龍女帝殿」

「ん?」

 

奥の方から紅いスーツを着た夫婦と思わしき二人組がやって来た。

男性の方はサーゼクスさん達と同じように鼻にティッシュを詰めていたけど。

 

「貴方方は…」

「我々はライザーの両親です」

 

マジですか…。

もしかして、ライザーについて何か言われるのかな?

結構えぐいやり方で倒しちゃったし。

 

「今回は本当に感謝します。これであの愚息も少しは懲りるでしょう」

「え?」

 

なんで感謝されるの?

 

「しかも、レイヴェルの事を命懸けで救ってくださった。なんて礼を言えばいいか…」

「いえ…それほどでは…」

 

咄嗟の事だったし、そこまで深くは考えて無かったなぁ…。

 

「それに関しては僕も感謝しているよ。またリアスの事を助けてくれた。本当にありがとう」

 

改まって言われると…なんか照れる。

 

「ど…どういたしまして…」

 

うぅ…穴があったら入りたい!

 

「もしも冥界に来る機会があったら、是非とも我が屋敷にいらしてください。盛大に歓迎させて貰います。きっとレイヴェルも喜ぶでしょう」

「はい!」

 

息子が目の前で倒されたのに、全然心配されないとか…

普段からライザーがどんだけ我儘な事をしているのか目に浮かぶようだよ。

レイヴェルちゃんに至っては元気に返事してるし…。

 

「お姉ちゃん。今回は本当にありがとう。お姉ちゃんがいなかったら、きっと私はライザーに負けていたわ」

 

弱点さえ分かっていれば、私がいなくても勝てると思うけど…。

 

「今日はこれで解散しよう。念の為、今日は転移で帰った方がいいだろう」

「そうですね…」

 

実の所、家まで歩いて帰るほど体力は残されていない。

言われなくても転移で帰る予定だった。

 

てなわけで、軽く別れを挨拶をした後に、お言葉に甘えてドライグの力で転移して帰宅した。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 家に帰って玄関を開けると、そこには黒歌とレイナーレが待っていた。

 

「マ…マ…」

 

んん?

一体どうした?

 

「マユ~!!」

「うわぁっ!?」

 

いきなり黒歌が抱き着いてきた。

よく見ると、体が震えている。

 

「もしかして…泣いているのか?」

「当たり前にゃ!」

 

怒られた。

 

「よかった…マユが無事で本当に良かった…」

「黒歌…」

 

心配…掛けちゃったか…。

 

「私は…私は別に……うぅ…うぅ…」

 

強気な事を言っているが、次第に声は収束していって……

 

「うぁ~ん!アンタが無事でよかったぁ~!!」

 

やっぱり抱き着いてきた。

素直じゃないなぁ~。

 

「……今回ばかりは勘弁してあげます」

 

なんてことを言いてるけど、白音もさっきまで私に抱き着いていたよね?

 

「エリザ。今回は本当に感謝してる。お陰でライザーに勝てたよ」

『べ…別に?私はアンタの先輩として当たり前に事をしただけだし?』

「素直じゃないですね」

『うっさいわよ!』

 

意外と仲が良さそうで良かった。

 

「子供達は?」

「途中で寝ちゃったにゃ」

「夜も遅かったしね」

 

仕方ないか。

あの子達には明日、事情を話そう。

 

「まずはゆっくりと休むにゃ」

「お風呂は沸かしてるわよ。二人共、入っちゃいなさい」

「うん」

「はい」

 

その後、私達は一緒にお風呂に入って、そのままベットに直行。

 

夢を見る事も無いほどにぐっすりと熟睡出来た。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日。

私がゆっくりと目を開けると、そこには驚きの光景が広がっていた。

 

「すぅ…すぅ…」

 

…なんで…私のベットにリアスが全裸で寝てるんだ?

 

「う…うん…?もう朝…?」

 

目を擦りながら目を覚ますリアス。

 

「あら…おはよう、お姉ちゃん」

「いや…おはようじゃなくて…」

『な…なんでこの女がここにいるんですか!?』

『余に聞かれても知らん!』

 

私にもさっぱり分からない。

一体何がどうなっている?

 

「な…なんでリアスがここにいるんだ?」

「私が今日からここに住むからよ?」

「『『はい?』』」

 

今…なんて言いました?

 

「にしても驚いたわ。いつの間にかこの家が豪華になってるなんて。どうなってるの?」

「驚いたのはこっちの方なんだけどな…」

 

一先ず、リアスには何かを着て貰う事にした。

いくら同性とは言え、裸を見るのは恥ずかしい。

 

クローゼットから適当に私のTシャツを貸して着せた。

 

「いいの?」

「沢山あるから大丈夫」

 

因みに、リアスが着ているTシャツには『駄目な方のバナージ(笑)』と書かれてあった。

黒歌が買ってきたのだが、何処で見つけたんだ?

 

「お姉ちゃんには何回もお世話になったわ。私も必死に恩返しの方法を考えたんだけど、生半可な事では返せないぐらいに恩は大きい。だから、一緒に暮らしてそれを考えようと思ったの」

「なんちゅーこった…」

 

別に恩返しなんてしなくてもいいのに…。

 

「御両親には言ったのか?」

「勿論。二人共お姉ちゃんの正体が赤龍女帝だと知っていたから、二つ返事で許可してくれたわ」

 

そんな簡単に許可すんなよ…。

リアスの御両親は何を考えてるんだ…?

もしかしたら、サーゼクスさんの入れ知恵かもしれないけど。

 

「はぁ……皆になんて説明したら…」

 

朝から頭が痛いよ…。

 

取り敢えずは皆に会せようか…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「と言う訳だから、今日からよろしくね?」

「「「「「「「…………」」」」」」」

 

案の定、皆が茫然としている。

 

「ど…どういう事にゃ?マユ…」

「私に言われても…」

 

事情を聞いても、なんて言ったらいいのか分からない。

 

そんな時だった。

毎度の事のように、私の携帯に着信が来た。

 

「はぁ……」

 

溜息と共に着信に出る。

勿論、スピーカーモードで。

 

『やっほ~!どうやら無事にゲームを乗り越えたようだね!マユちゃん!』

「な…なに?」

『マイネームイズASHINAGAおじさん!マユちゃんのお助けマンさ!』

「は…はぁ?」

 

いきなり訳の分からない事を言われて戸惑うリアス。

そこから、簡単に足長おじさんについて説明を受けた。

 

『と言う訳さ!』

「成る程ね…。お姉ちゃんが昔から神出鬼没なのは貴方の影があったからね」

『その通り!』

「まぁ…お姉ちゃんが信用しているなら、私もするしかないわね」

『助かるよ~!』

 

こんな簡単でいいのか…?

 

「この家をリフォームしたのもコイツの仕業らしい」

「道理で…」

 

よもや、この事態を最初から読んでいたのではあるまいな?

いや…コイツなら充分有り得る…。

 

『部屋なら沢山あるから、この子一人ぐらいなら一緒に住んでも問題無いでしょ』

「確かにそうだが…」

 

この家がまた賑やかになるな…。

 

「何だかよくは分からんが…」

「リアス、一緒に住む?」

「ええ。貴女達もよろしくね?」

「うむ!賑やかのはいい事だ!」

 

あぁ…幼女組は受け入れる気満々だし…。

 

「ここまで来たら、もう諦めるしかないにゃ…」

「私達が言って大人しく引くぐらいなら、最初からここにはいないわよね」

「これからは部長さんも一緒に…」

「はぁ……」

 

覚悟を決めるしかないか…。

どうこう言っても始まらないし。

 

そんな訳で、リアスが一緒に住むことになった。

因みに、家具や荷物は後で運び込むことになっているらしい。

用意周到と言うかなんと言うか…。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 朝からリアスが来たりして色々とあった日の放課後。

登校から私とリアスが一緒にいた事を朱乃が見て驚愕していたが、まずは気にしない事にした。

 

「はぁ…。ある意味、昨日以上に疲れた…」

「お疲れ様です、マユさん」

 

絶対に労ってない…。

 

『くははははは!モテる女は辛いな?雑種』

「五月蠅いよ?」

『ははははは!白音よ。前々から貴様には見込みがあると思っていたが、やはり間違いでは無かったな。この状態でも愉悦の心を忘れんとは』

「愉悦…ですか?」

『うむ。我は個人的に貴様を気に入った。褒美をくれてやろう』

 

何をやる気だ?

そう思っていると、白音の傍の空間が歪んで、そこから小さな何かが落ちて来た。

 

「これは…」

「飴玉?」

 

何故に飴玉?

 

『唯の飴では無いぞ。これは我が宝物庫にあった至高の逸品である。食べてみるがよい』

「はい」

 

貰った飴玉をパクリを口に入れる白音。

すると……

 

「はっ!?」

 

いきなり、料理漫画のような反応をした。

 

「口に入れた途端、まろやかな口当たりに甘い香り…。そして、まるで全ての甘味を混ぜ合わせたかのような味…!素晴らしいです!」

『そうであろう!そうであろう!』

 

楽しそうですね。

この二人は…。

 

「少し遅れたけど…皆、今回は力を貸してくれてありがとう。お陰で助かったわ」

「今更…ですわ」

「そうですよ。僕達は部長の眷属なんですから」

「朱乃…裕斗…」

 

うんうん。

やっぱり仲間はこうでなくてはな。

 

「お姉ちゃんと白音もね。こっちの都合に巻き込んじゃってごめんなさい」

「気にしないでくれ。私達が勝手にしたことだ」

「その通りです。困った時はお互い様です」

 

またいつもの日常が帰って来た。

こんな毎日を守る為にも、これからも頑張らないとな。

 

そんな風に思っていると、何やら魔法陣がいきなり現れた。

 

「こ…これは!?」

「まさか…」

 

この魔法陣は確か…。

 

「…………」

 

やっぱりか…。

 

「ライザー!」

「また貴方ですか…」

 

なんでか再び登場のライザー。

妙に真剣な顔をしているけど。

 

「何しに来たの!?ゲームに勝った以上、貴女と私は…」

「わかっている。今回はリアスに用事があった訳じゃない」

「じゃあ何をしに…」

 

訳が分からず静観していると、ライザーがこっちに来た。

 

「マユ…」

「なんだ?」

「今までの女達は皆、俺に媚び諂うか、俺に屈服されるかのどっちかだった。だが、お前は違った」

 

まぁ…こんなんでも一応、ライザーって御曹司だしね。

寄ってくる女性はそれを分かって寄ってくるんだろうね。

 

「俺をあそこまで完膚なきまでに叩きのめしたのは、お前が初めてだった」

「そうか」

「しかも、父上に聞いたところによっては、レイヴェルの事も救ってくれたそうだな」

「当然の事をしたまでだ」

 

命を守るのは神機使いの使命みたいなものだしね。

 

「お前に倒されて医務室のベットで目覚めた時、俺の頭はお前の事で一杯だった」

「なん…だと?」

 

それって…。

 

私が猛烈に嫌な予感を感じていると、ライザーが私の足元に跪いた。

 

「俺は…マユ、お前に本気で惚れた。だから、俺と結婚を前提に付き合ってくれ!」

「「「「「「はぁっ!?」」」」」」

「な…ななななななな何を言ってるのよ!ライザー!!」

「止めないでくれリアス!俺の気持ちは本気だ!」

 

わ…私は…告白されたのか…?

 

「それが駄目なら、せめて番号を交換してくれ!」

「いきなり妥協したな!?」

 

恋人が駄目ならメル友って…。

 

「頼む!」

「う…うむ…」

 

ここまで懇願されては、こっちとしても断るのは気が引ける…。

 

「ま…まぁ…番号交換ぐらいなら…」

「……!感謝する!」

 

てなわけで、交換しました。

 

「はは…はははははは!これで俺は無敵だ!ではな!」

 

いきなりやって来て、いきなり去って行った…。

 

「な…なんだったの…?」

「さぁ……」

 

しかし、あのライザーが妥協をするとは……少しは改心したのか…?

 

「でも、良かったの?」

「ああでも言わないと、家まで押しかけそうだったからな」

「確かにね…」

 

携帯の番号ぐらいなら問題無いだろう……と思っていた私を、後で思いっきりぶん殴ってやりたい出来事が起こった。

 

なんと、ライザーはほぼ毎日私に通話をしたり、メールを送ってきたりするのだ。

しかも、酷い時は一時間に一回の間隔で。

 

流石にしつこすぎるので、レイヴェルちゃんに電話してなんとかなったが、これからも油断は出来ないな…。

 

あの時、別れ際にレイヴェルちゃんとも番号交換していて本当に良かったよ…。

 

こうして、騒がしくも賑やかな私の日常は、再び戻って来たのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




これでフェニックス編は終了。

ライザーがマユに惚れるのは当初から考えてました。

まぁ…マユからしたら眼中にも無いんですけどね。

ぶっちゃけ、ライザーの一方的な片思いです。

多分、一生。

では、次回。


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聖剣伝説 ~無限の剣製~
第43話 騎士の過去


ここからは裕斗のターン。

シリアスに突入するまでは、色々とネタを盛り込もうと思っています。

恐らく、前半と後半では空気が全く違ってくるんじゃないでしょうか?


 レーティングゲームが終わってから暫く経った。

 

梅雨の季節はすっかり過ぎ、気温は暑くなってきて、夏がすぐ傍まで来ていることを感じさせていた。

 

制服も衣替えがされており、私達は夏服になっている。

 

そして、今日も今日とて私達はいつものように放課後に部室で過ごしていた。

 

「お姉ちゃん。何をしているの?」

「クロスワードパズル。頭の体操には丁度いい」

 

私の最近のマイブーム。

これが結構面白いのだ。

 

家では皆で答えを考えるのが最近の光景になっている。

 

「そう言えば、そろそろ球技大会の時期ね」

「またか…」

「今年はなんに競技が選ばれるんでしょうね?」

「「選ばれる?」」

 

朱乃の言葉に疑問に感じたのか、白音とアーシアが首を傾げた。

 

「ああ…。二人は今年からだから、知らないのも当然だったわね」

 

リアスが手に持った紅茶を置いてから、二人に説明してくれた。

 

「この駒王学園は『生徒の自主性を重んじる自由さ』が校風で、こういったイベントも基本的に学校側は干渉せずに、生徒会に全てを委ねて……」

「生徒会は球技を抽選で決めるのですわ」

「な…なんなんですか?その無闇にランダム性が高い球技大会は…」

 

言うと思った。

私達も一年生の時に全く同じツッコミをしたもんだ。

因みに裕斗も。

 

「で…でも、選ばれるのは普通の球技なんですよね?」

「ん~……」

「去年は確か…野球とバスケと……」

「蹴鞠でしたね」

「「…………」」

 

裕斗の一言で、白音とアーシアが沈黙した。

 

「ウチの生徒会って相当に馬鹿なんじゃないですか?」

「少なくとも、ソーナが生徒会長になるまではバカだったわね」

「「うんうん」」

 

私と朱乃が同時に頷く。

本当にソーナが生徒会長になってくれて良かったよ。

今年はマトモな競技が選ばれそうだ。

 

「ん?これは…」

 

ちょっとこれは解らないな…。

 

「リアス……ちょっといいか?」

「どうしたの?」

「この『シェイクスピアの真夏の夜の夢に登場する妖精『オ○○ン』』とは、『オッサン』でいいのか?」

「なんでそうなるの!?」

「普通に考えても『オッサン』はあり得ませんわ!!」

 

リアスと朱乃のダブルツッコミが来た。

 

「ここの答えは『オベロン』ですよ。先輩」

「成る程…オベロンか」

 

裕斗は物知りだな。

次は……

 

「これは楽勝だな。アーサー王が所持していた有名な聖剣。ズバリ、エクスカリバーだ」

「……!!」

 

調子が出てきたぞ。

え~と…次の問題は……。

 

「ん?祐斗…どうした?」

「い…いえ……」

「なんか…顔色が悪いが…」

「だ…大丈夫です。ちょっと用事を思い出したので、お先に失礼しますね」

 

そう言うと、裕斗はそそくさと部室を後にした。

 

「どうしたんでしょうか?」

「やっちゃったわね…」

「え?」

 

なんか私の方を見てるけど…もしかして私のせい?

 

「これに関してはお姉ちゃんも決して無関係じゃないしね…。話した方がいいわね」

「何の事だ?」

 

急に真剣な顔になったリアスは、ゆっくりと話し出した。

 

嘗て、『聖剣計画』と呼ばれる、人工的に聖剣の使い手を創造する計画があった。

実は裕斗自身もその計画の実験体の一人で、毎日のように非人道的な実験の毎日を過ごしていた。

そんなある日、彼を始めとした実験体の子供達は『不適応』と言う理由だけで全員が毒ガスで処分されそうになり、他の仲間達の命懸けの助けで彼一人だけが命からがら脱出に成功。

瀕死になりながら必死に逃亡をしていたところに……

 

「私と出会った…と言う事か」

「そうなるわ。私もお兄様の調査結果を聞いただけだから、それ以上の事は解らないけど…」

「いや…充分だよ」

 

まさか…『マーナガルム計画』と同じような事をしている腐れ外道な連中が他にもいたとはね。

マジで反吐が出る…!

 

「それで、エクスカリバーに過剰に反応したんですね」

「多分ね…」

 

いくら知らなかったとはいえ、なんて無神経な事を言ってしまったんだ…。

 

「はぁ……」

 

明日にでもちゃんと謝らないとな…。

 

「お姉ちゃんは何も悪くは無いわ」

「その通りです。これに関しては誰も悪くないです」

「リアス…アーシア…」

 

こういった言葉があるだけで、こっちも気が楽になるよ。

 

なんだか空気が悪くなったので、今日はこれで解散した。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 帰り際、私達は掲示板の近くを通りがかった。

 

「あら?もう球技大会の競技の候補が発表されてますわ」

「ソーナは仕事が早いわね」

 

皆でソーナの頑張りに感心しながら掲示板を見る。

 

 

 

            【今年の球技大会の球技の候補】

 

 

 

                  野球

                  サッカー

                 ドッジボール

                 バレーボール

                バスケットボール

                  テニス

                 フットサル

                 ラクロス

                 ホルヌッセン

                アスフィップルーパー

                インディアカ

                ペサパッロ

                セパックアピ

                 etc.…

 

 

 

「「「後半の競技がマイナー過ぎる!!」」」

「やっぱりうちの生徒会って…バカばっか」

「セ…セパックアピ?ホルヌッセン?」

 

ソーナが付いていながら、どうしてこうなる…?

もしや、彼女も先代の生徒会に毒されたんじゃ…。

 

「で…でも、基本的にメジャー競技が2でマイナー競技が1って所じゃないかしら?」

「そ…そうですわね。あのソーナ様が生徒会長をしてるんですものね」

「確かにな。まさか、100%抽選で…なんてことは無いだろう」

 

しかし、この言葉がフラグになっていたとは、誰も予想出来ていなかった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 数日後の昼休み。

食堂に行こうとした私達は、昨日と同じように掲示板の前を通る。

すると、早くも抽選結果が出ていた。

 

 

               【抽選結果】

 

 

 

               セパタクロー

                ペタンク

               チュックボール

 

              以下の三競技とする。

 

                            生徒会

 

 

 

「「「微塵も容赦が無い!?」」」

 

な…なんだこれは!?

一体何でこうなった!?

 

「セパタクローは兎に角として、ペタンクにチュックボール!?何よそれ!?」

「なんで三つともマイナー競技にしたんでしょうね…」

「こんなの誰が知ってるって言うんだ…」

 

セパタクローぐらいなら何とかわかるが…。

他の2競技は聞いたことが無い…。

 

「アーシアさんはペタンクを選ぶといいですわ」

「「「ここに知ってる人がいた!?」」」

 

なんで朱乃が知ってるんだ!?

どこで知ったって言うんだ!?

 

「ペタンクとは、狙った場所に球を落としていく投擲競技ですわ。あまり運動が得意じゃないアーシアさんでも充分に上位を狙えますわ」

「確かに…『ペタンク』って平和な響きはアーシアさんのイメージにピッタリですしね…」

 

それには同感だな。

どんな競技かは知らないけど。

 

って…なんで朱乃はさっきからジ~っと白音の胸を見ている?

 

「『ペタンク』と言う響きなら、白音ちゃんも中々に合致しているような気が…」

「どこ見て話してるんですか」

 

で…出た…朱乃のS属性!

 

「貴女一人で理解してないで、私達にも教えて頂戴」

「流石にセパタクローは知ってるがな」

「でも、他の二つは全然知りません。わかりやすく教えてください」

「『わかりやすく』と言うのなら……」

 

あ、嫌な予感。

 

「と―――――――――っても楽し――――――――――い競技ですわ♡」

「教える気ゼロじゃないのよ~!!」

「おほほほほほ…」

 

完全にからかってるなぁ…。

ブレーキ役の裕斗がいないとどこまでも暴走するな…。

 

因みに、今日は裕斗は一緒じゃない。

この間の事を謝罪しようと思ったのだが、どうにもタイミングが悪いらしく、中々会えないでいる。

同じクラスのアーシアの話だと、授業中や休み時間でもボーっとしていることが多いらしく、放課後もすぐに帰ってしまうとの事。

確かに最近は部活にも顔を出していない。

もしかしたら、私の一言が想像以上に彼の心を傷つけてしまったのだろうか?

だとしたら私は……。

 

「ところで、白音ちゃんはどんな競技がしたいんですの?」

「私はやっぱり、思いっきり体を動かせる競技がいいですね」

「体を動かせる……」

 

あれは…碌な事を考えてない顔だ。

 

「なら、チュックボールがと――――――――――――――――っても楽しいですわよ~?」

((あ!あれは何か騙している時の顔だ!))

「分かりました。やってみます」

(騙されちゃったし…)

 

朱乃との付き合いも長いからな。

これぐらいはすぐに分かる。

 

「それじゃあ、私とお姉ちゃんと朱乃はセパタクローにエントリーして、アーシアはペタンク、白音はチュックボールね」

「裕斗先輩はどうします?」

「後で連絡しておきましょう」

「それしかないな」

 

電話に出てくれれば…だけどな。

 

結局、その日の放課後も裕斗は姿を見せなかった。

 

私達はそれぞれに決めた競技に出場申請しておいた。

セパタクローか…。

ルールとかは知ってるけど、やるのは初めてだな…。

ちゃんと出来るといいけど…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 その日の帰り道。

リアスとアーシア、白音と一緒に歩いていると、私の携帯に着信が来た。

 

この状況で私に掛けてくるのは大体二人。

 

「……もしもし?」

『マユか!?』

「ライザー…」

 

またこいつか…。

レイヴェルちゃんのお陰で頻度は減ったが、それでも毎日のように掛けてくるのは勘弁してほしい。

 

『聞いたぞ。今度、球技大会があるらしいな?』

「どこでそれを…」

『ふははは!愛の力だ!』

「はいはい…」

 

絶対に誰かに調べて貰ったでしょ…。

金持ちとしての力をフルに使いやがって…。

 

『見に行ければそうしたいんだがな…』

 

運動会や学園祭とは違い、球技大会は来客をしてないからな。

ま、そこまで大々的にしなくてもいいとは思うけど。

 

『だから、せめて俺の応援を送ろうと思う!頑張れよマユ!お前ならば必ず優勝出来る筈だ!何故なら、俺の嫁だからな!』

「勝手に嫁認定するな」

 

まだ付き合ってもいないだろうが。

 

『ははは!これが巷で話題の『ツンデレ』と言う奴か!』

「違う」

 

どこまで前向きなんだ…。

こいつってこんなキャラだったっけ?

 

『おっと、もうこんな時間か。ではな!』

 

通話が切れた。

勝手に掛けて来て、勝手に切りやがった。

 

「…………」

 

なんか…途端に球技大会が不安になった。

アイツならこっそりと来そうで怖い。

 

「またライザー?」

「ああ…。私の携帯の着信履歴はアイツで一杯だ…」

「完全にゾッコンになってますね」

「なられる方は大変だがな…」

 

正直言って、溜息しか出ない。

 

「マユさん…」

 

アーシアだけだよ…。

私を真剣に心配してくれるのは…。

 

「今のライザーは別の意味で『不死鳥』になってるわね」

「リアス先輩。座布団一枚です」

 

そこ、笑点をしない。

 

あぁ~…私の学園生活は悩みがいっぱいだ…。

 

家に帰ってから子供達に癒されよう…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「へぇ~。球技大会ねぇ~…」

「でも、全然知らない競技ばかりにゃ」

 

夕食時。

皆と一緒に球技大会の話をしていた。

 

「どうしてマイナーな競技が一つも選ばれないのかしら?」

「抽選と言っていたが……」

「まさか、意図してメジャーな競技を省いたんじゃ…」

「い…いや…ソーナさんに限ってそんな事は……」

「私もそう信じたい」

 

と言うか、信じないとやってられない。

 

「お姉ちゃん。球技大会、何?」

「簡単に言うと、色んな球技で競い合う大会の事だ」

「でも、私達はどれも聞いたことが無いぞ?」

「しかも、可笑しな名前ばかりだな!あはは!」

 

言われてみればそうかも…。

ペタンクやチュックボールとか、全然想像出来ないし。

ネットで調べれば出てくるかな?

 

「一応、練習とかした方がいいんでしょうけど…」

「セパタクロー以外は練習のしようがないな…」

「せめて、当日まで体調を整えておくことにします」

「それが妥当にゃ」

 

今出来るのはそれぐらいか。

 

『チュックボールにペタンク…か。よくもまぁ…あのソーナとやらもあのような競技を選んだものだな』

「ギルガメッシュ。知ってるのか?」

『我を誰と心得ている。天上天下、全ての英雄を束し英雄王だぞ。その程度の知識は知って当然だ』

「なら、教えてくれませんか?」

『だが断る』

「え?」

『ここで教えてしまっては面白くあるまい?当日に説明があるであろう。それまで精々待つが良い』

 

んな事だと思ったよ。

この慢心王がまともにこっちの質問に答えるとは思わない。

 

結局、この日はどんな競技かは分からずに、一日を終えた。

こんなんで大丈夫だろうか…?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「はぁ……」

 

裕斗の自宅。

ベットに座りながら、彼の心は今、罪悪感に満ちていた。

 

「何をやっているんだ…僕は…」

 

マユは決して裕斗を貶めようとは思っていない。

あの発言は完全に偶然の産物だ。

それは裕斗自身もよく分かっている。

それでも、意識せずにはいられなかった。

 

「先輩は何も悪くない…悪くないんだ…」

 

裕斗にとって、マユはまごう事なき命の恩人だ。

あの時彼女が助けてくれなかったら、間違いなく裕斗は命を落としていただろう。

だから、可能な限りは彼女の事を裏切りたくはないし、傷つけたくない。

しかし……

 

「それでも…僕は……」

 

今の彼を突き動かしている理由の一つにして、最大の目的。

それは…『聖剣』という存在に対する復讐である。

例え愛する女性がそれを望んでいなくても、それだけはどうしても譲れなかった。

 

「すみません…先輩…。僕は…最低だ…」

 

今の己は自分の意思で彼女を悲しませようとしている。

その償いはいずれしなくてはいけないだろう。

例えそれでも……

 

「僕は…この復讐をやめるわけにはいかないんです…。あの時、僕を逃がしてくれた皆の命に報いる為にも…!」

 

彼の瞳には、決意と復讐の炎が宿っていた。

 

窓の外から覗く月だけが、静かに彼の事を見守っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回のネタ…分かりますか?

一応、英霊を出しているという事で、同じシリーズでやってみたのですが…。

この章で裕斗はマユと親密になれるのか?

それとも……?

では、次回。



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第44話 球技大会

今回もまたネタ祭りになるかもです。

でも、ギャグ回はここまでで、後はシリアスまっしぐらだと思います。




 遂に来た球技大会当日。

私達は着替える為に更衣室に来ていた。

 

「遂に本番ね」

「腕が鳴りますわ」

「使うのは足だがな」

 

ま、こんな感じでいつものように話しながら着替える私達。

こんな時は変に緊張などせずに、いつものペースでいる事か大事だ。

 

「そう言えば、今日も裕斗を見てないわね」

「アーシアの話では、いつの間にか着替えていて、既に移動しているらしい」

「彼は何の競技に出るんですの?」

「セパタクローの男子の部らしい」

 

結局、会えはしなかったが、球技大会が終われば機会は出来るだろう。

今は兎に角、全力で優勝を目指すだけだ。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 グラウンドに全員集合して、開会式が始まった。

 

『それでは…球技大会、開会の挨拶!生徒会長の支取蒼那さん!』

「はい」

 

グラウンドに設置された壇上に体操服姿のソーナが上がる。

 

『え~…今年も晴天の日に、こうして大会が開かれて、競技についても厳正なるくじ引きによって決定した訳ですが……』

 

ん?どうした?

 

『他の仕事が忙しかったとはいえ、やっぱりこんな決め方は駄目でしたね。ぶっちゃけ、どの競技も私は全然知りません。決まってから初めて調べたぐらいです』

「「「「721(ナニィ)!?」」」」

 

いきなりの問題発言キター――――――――!!

 

『因みに、今回の競技である『セパタクロー』『ペタンク』『チュックボール』。どれもが未体験の人が多いが故に均衡したレベルの試合になると思われます』

 

だろうな。

そうでなくては困る。

 

『猶、ルールが解らない方は本日より中央掲示板に説明文が張られましたので、そちらをご覧いただけばいいとは思いますが……』

 

こ…今度はなんだ?

 

『当日になって初めて説明するのは流石にやり過ぎましたね』

「「「「マジで一体どうした!?」」」」

 

ソーナってこんなキャラだったっけ!?

もしや、日々の過労でおかしくなっちゃったとか!?

 

『っていうか、学園のイベントを全てを生徒側に任せるとか、完全にふざけ過ぎですよね』

「「「「「生徒会長が学園側に喧嘩売った!?」」」」」

 

…こ…これが終わったら、ソーナを労ってあげるべきか…?

暇な時は生徒会の仕事を手伝ってあげるようにしよう…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 開会式も終わり、早くも各試合会場にて第一回戦が始まろうとしている。

私達も自分達の試合があるコートに行き、準備体操をしていた。

 

「遂にこの時が来たわね!今こそオカルト研究部の実力を見せつけてあげましょう!」

「当然ですわ」

「ああ!」

 

気合いを入れるために私達は円陣を組んだ。

 

「私達三人の力を発揮しましょう!」

「いくぞ!オカルト研究部セパタクローチーム…」

「その名も!『オーロラ三人娘』!!」

「それは野球(・・)漫画のグループ名じゃなかったか…?」

 

朱乃も漫画とか読むんだな…。

ちょっと想像出来ない。

 

「じゃあ『アストレイ三人娘』で!!」

「…なんか、最終回近くで無意味に全滅しそうね…」

 

なんかフラグになりそうで嫌だなぁ…。

 

グダグダになりながらも、円陣を解いた。

 

「とにかく、私達が力を合わせれば勝利は固いですわ」

「そうね。昔から『三人の力を合わせる歌』も多いし」

 

三人の力を合わせる…か。

 

「『織田がつき…羽柴がこねし天下餅…すわりしままに食うは徳川』?」

「その歌は駄目なんじゃないかしら?」

 

駄目だったか。

パッと頭に思い浮かんだんだが…。

まぁいい。

 

こうして、私達の初戦が始まったのであった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 一方その頃、白音は…。

 

 

「…………」

 

コートの中でボールを持ったまま体を震わせていた。

 

因みに、今回白音が参加したチュックボールとは……。

 

本来『人間形成』を学ぶべきスポーツが『相手の邪魔』をしたり『妨害』する事ばかりなのは、おかしいのではないか!?

 

この矛盾を解決すべく、とあるスイスの生物学者が科学的に批判を基に『あらゆる妨害を禁じる』超紳士的スポーツとして、この競技を生み出したのが『チュックボール』と言う競技なのである!

 

「だ…だ…だ…」

「塔城さん?」

「騙された!!!!!」

「ネットに向かって投げるんだよ!?」

 

己の不甲斐無さと騙されたことに対する怒りをぶつけるように、コートに思いっきりボールと叩きつける白音だった。

 

チュックボールのルールは簡単で、コートに設置されたネットに向かってボールを投げて、跳ね返ってきた球をノーバウンドで取られなければポイント獲得。

所謂、ハンドボール型競技である。

 

「こうなったら…もう自棄です!!」

「あ…そんなに思いっきり投げたら…」

 

クラスメイトの心配する通り、猫又の筋力でボールを投げたりしたら、当然バウンドしてきたボールの勢いも強くなるわけで、そうなると当然……。

 

「うにゃっ!?」

 

自分に跳ね返ってくるボールもかなりの勢いになるのである。

 

案の定、己の投げたボールが顔面に直撃し、変な声を上げてしまった白音であった。

 

幸いなのは、万が一に備えて予めボールが軟らかいものに変更してあったことか。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 チュックボールが行われていた体育館の近くの運動場では、ペタンクの試合が行われていた。

 

今回アーシアが参加したペタンクとは、南フランスのスポーツで、的球(ピュット)に向かって投げた玉が、どれだけ近いかを競う投擲球技である。

 

「えい!」

 

可愛らしい声と共にアーシアがボールを投げる。

すると、玉は的球の近くに落ちた。

 

「お~!やるじゃん!」

「かなりの高得点ね!」

「やったわね!アルジェントさん!」

「はい!ありがとうございます!」

 

殺伐とした雰囲気とは完全に無縁の空気が流れていて、とても和気藹々としていた。

 

その光景は勿論、体育館からも見えるわけで……

 

「ああぁぁ……!あの空間にこのボールを猛烈にぶち込みたいです……!」

「せ…先生~!塔城さんが~!?」

 

密かに殺意の波動に目覚めながら、ボールを持ったまま白音が行き場のない苛立ちに体を震わせていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 なんか、少しだけ殺気のようなものを感じたけど…気のせいだよね?

 

それよりも試合に集中!

 

「来たわよ!」

「お任せを!」

 

向かい側からこっち側のコートにボールが降ってくる。

それを……

 

「朱乃が受け!」

 

弾かれたボールを追って……

 

「リアスが放てし狙い球!」

 

そして止めに……

 

「飛ぶがままに打つは闇里!」

 

私の渾身のアタックが決まり、相手側のコートに叩きつけられた。

 

「これぞ!『闇里剣富士山返し』!!」

「さっき三人で相談して『天下餅ボール』って決めなかったっけ!?」

 

そうだったっけ?

試合に夢中ですっかり忘れてた。

 

因みにセパタクローとは、東南アジアで盛んな足で行うバレーボールこの事だ。

サッカー+バレーと考えれば分かりやすいと思う。

 

この試合も私達が圧勝。

 

身体能力的に考えて、当然と言えば当然なのだが、やっぱり試合に勝つのは純粋に嬉しい。

 

午前の試合が全部終了した私達は、タオルで汗を拭きながら他の試合を見る為に移動していた。

 

「この調子なら決勝も楽勝ね」

「油断は禁物だ」

 

慢心王の二の前は御免だしね。

 

『慢心せずして何が王か!』

「ちょっとしゃらっぷ」

 

いきなり叫ぶなよ。

誰かに聞かれたらどうするねん。

 

「ふふふ…その通りですよ、リアス」

「この声は…!」

 

声のした方を見ると、ソーナが腕組をしながらこっちを見ていた。

 

「決勝戦で貴女達と戦うのは私達です」

「成る程ね…!ソーナの実力なら納得だわ…!」

 

ソーナの隣には、付き添うように生徒会のメンバーの二人が立っていた。

 

眼鏡を掛けた黒髪ロングストレートの女生徒が、副会長の真羅椿姫ちゃん。

そして、長身の女生徒が確か…由良ちゃん…だったか?

 

椿姫ちゃんが『女王』で、由良ちゃんが『戦車』だった筈。

 

「マユさん。例えこのような形とは言え、貴女と手合わせ出来るは光栄の至りです」

「でも、やるからには勝ちに行きます」

「それでこそ…だ」

 

いいじゃないか…!

中々に燃える決勝戦になりそうだ!

 

「それでは、後で…」

 

三人は静かに去って行った。

 

「強敵出現ですわね…!」

「いいじゃない。そうでなくちゃ優勝のし甲斐が無いわ」

「ふふ…楽しい試合になるといいな」

 

午後の試合を楽しみにしながら、私達は昼食を食べるために食堂に向かった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 昼食を食べながら私達は、それぞれに試合の状況を報告し合った。

 

聞くと、意外な結果が待ち受けていた。

 

まず、白音がまさかの一回戦敗退。

これは物凄く意外だった。

彼女の事だから、軽く優勝ぐらいすると思っていたからだ。

そして、もっと意外だったのがアーシアだった。

 

既にペタンクの試合は全て終了していて、なんと…アーシアが優勝したのだ!

 

この結果は流石に予想出来なかった…。

これが現役シスターの実力か…!

 

 

そして、待ちに待った(?)決勝戦が来た。

 

「セパタクロー女子の部。決勝戦は…オカルト研究部チームVS生徒会チーム!」

 

審判をしている女子がなんでか声高々に私達の事を紹介した。

決勝戦だからか?

 

「双方、挨拶を」

 

私達はネットの所まで行き、互いに握手をして挨拶をする。

 

「「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」」

 

挨拶の後、それぞれに配置につく。

 

「では…試合開始!」

 

こうして最後の決戦が始まったのだが…。

流石は決勝戦。

今までとは比べ物にならない程に生徒会チームは強かった。

何故なら……

 

「椿姫は2秒ずらして右へ打ってください!そこへ由良が左へアタックです!」

「なっ…!」

「しまったっ!?」

 

生徒会チームの強さ!

それは…ソーナと言う司令塔を中心にした頭脳プレーにあった!

 

身体能力に優れた私達と、その差を補うために計算と連携で戦うソーナ達。

試合は完全に拮抗し、一進一退の攻防が続いた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「全然リードが出来ませんわ…」

「これがソーナ達の実力か…」

 

まさか、これ程までとは思わなかった。

試合の内容とは裏腹に、私は心から楽しんでいた。

私って結構、戦闘狂なのかもしれない。

だからこそ、負けたくない。

 

「そっちがそうくるなら、私も本気を出すか…!」

「まだ本気では無かったと!?」

「一応、このような場では力のセーブをしなくちゃいけないからな…。だが、君達相手なら遠慮はいらないだろう」

「マユさんの本気…」

「それを出させただけでも嬉しいですね…!」

「ならば…いくぞ!」

 

私は全身のオラクル細胞に精神を集中させて、一気に加速する。

 

「リアス!朱乃!」

「「はい!」」

 

二人の連携でボールを上げて貰い、私は全力で飛ぶ。

 

「そこだ!!!」

 

サマーソルトキックでコートにぶち込んだ!

 

「は…反応出来なかった…!?」

「は…速い…!」

「凄い威力…!」

 

よし!これならいけるか…?

 

そこからは、さっき以上に特典の取り合いが続いた。

試合を観戦している皆も盛り上がり、かなりの白熱した試合になった。

 

「闇里先輩~!頑張れ~!」

「生徒会も負けんな~!」

「つーか…両チームともスゲーな…」

「これ…本当に高校生同士の試合かよ…」

 

互いに全力を尽くした結果、試合は……

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 球技大会は無事に終了し、今は放課後。

私達は疲れた体を癒す為に部室にてゆっくりとしていた。

 

「まさか、同点優勝になるとはね…」

「それだけ激しい試合だったという事だ」

 

そう、あの決勝戦は最終的に時間切れの同点で幕を閉じた。

特に最後の追い上げが凄まじく、あっという間に同点になって、それを死守するだけで精一杯だった。

 

「で…久し振りね。裕斗」

「はい…。今まで休んでしまい、すいませんでした」

「そこは別に責めないわ。来る来ないは貴方の自由ですもの。でもね…」

 

手元に置かれた紅茶を一口含むリアス。

 

「ちゃんとやるべき事をやるべき時に出来なかったのは、あまり感心しないわね」

「はい…」

 

噂で聞いたのだが、今回の球技大会でも裕斗は終始、気が抜けたような様子で、全然活躍出来ていなかったらしい。

 

「まぁ…今日は私達も疲れたからここまでにするけど、次からは気を付けるのよ?」

「はい…すみませんでした。疲れたので今日はこの辺で失礼します」

 

そう言うと、ドアに向かって歩いて行く裕斗。

私は咄嗟に立ち上がり、彼の方を向いた。

 

「裕斗。この間は本当に済まなかった。私の無神経な一言が君を傷つけてしまった」

「…先輩は何も悪くないですよ。寧ろ悪いのは……」

 

今にも泣きそうな顔を見せた後、裕斗は部室を後にした。

 

「裕斗先輩…」

「顔を見せるようになっただけ、まだマシになった…のかしらね…」

「こればっかりは、私達は安易に踏み込めませんものね…」

「なんだか…悲しいです…」

 

部室内が暗い雰囲気になる中、私は一人で外を見ていた。

 

「雲行きが怪しくなってきたな…」

 

黒い雲が漂って、今にも雨が降りそうだった。

 

『聖剣…か…』

 

ふと聞こえたエミヤの呟きが、部室内に響いた。

 

その一言に、妙な哀愁を感じてしまった私だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




意外に長くなった球技大会。

そして、底力を見せたソーナ達。

前書きにもあった通り、次からはシリアス一直線です。

では、次回。



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第45話 教会からの使者

体調最悪ですが、ここで頑張らないと後悔するような気がするので、なんとか気合い入れて書きます。

あぁ~…マジで辛い。



 球技大会の次の日。

結局、あれから裕斗を発見する事は出来なかった。

こちらが想像していた以上に彼が思い詰めていた為、私達全員が心配していた。

 

幸いなのは、今日も休むことなく学校に来てくれた事だ。

あれで休んでしまったら、こっちの方が落ち込みそうだ。

 

 

時間はあっという間に過ぎて、今は放課後。

 

 

私と白音は一緒に、いつものように部室に向かっていた。

他のメンバーは既に部室に行っている。

 

その途中で校舎の裏側にある裏口付近を通ると、その近くに見た事のあるような人影を見つけた。

 

「あれは……?」

「どうしました?」

 

白音も私に釣られるように、一緒の方を見る。

そこには、白いマントを纏った二人組がいた。

性別は女。

 

『おやおや…随分と懐かしいじゃないか』

 

あ、姐さんも覚えてたんだ。

 

「なんですか?あの人達……」

「行ってみよう」

 

一緒に二人がいる場所に向かってみる。

すると、二人共がこちらに気が付いた。

 

「何をしてるんだ?」

「「え?」」

 

二人して変な声を上げた。

 

「あ…貴女様は!?」

「なんて言う偶然…」

 

それはこっちのセリフ。

 

「久し振りだな……と言いたいが、なんでここに?」

「ここで詳しくは話せないが、今回は任務で日本に来ている」

「同じくよ」

 

任務…ね。

物騒な匂いがプンプンするな。

 

「あの…いい加減に教えてくれませんか?」

「あ…そうだったな」

 

私が二人の事を紹介しようとすると、向こうから進んで自己紹介してきた。

 

「私はゼノヴィア。よろしく」

「紫藤イリナよ。初めまして」

「塔城白音です。マユさんと一緒に暮らしてます」

 

今のところは大丈夫そうだな。

うんうん。やっぱり、仲良きことは美しきかな。

 

「お二人とはどこで知り合ったんですか?」

「一年前にアラガミの討伐をした時に…な」

「あの時は本当に助かりました」

「貴女のお陰でこうしていられる。どれだけ感謝してもしきれない」

 

まだあの時の事を引きずってるのか…。

 

「あの…ここにリアス・グレモリーと言う悪魔が在籍してませんか?」

「リアス…?」

 

なんでリアスの名前が出てくる?

 

「なんで彼女の事を…?」

「詳しくは話せないが、大事な話があるんだ」

「知ってるなら、案内してくれませんか?別に荒事をしに来たわけじゃありませんから」

「あ…ああ…」

 

この二人なら大丈夫…か?

 

「わかった。丁度私達も行くところだったからな。案内しよう」

「ありがとうございます!」

「感謝する」

 

てなわけで、二人を案内する事になりました。

 

また事件じゃあるまいな…?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 旧校舎内に入ると、いきなり私の携帯に着信が来た。

 

「ん?」

 

見てみると、アザゼルさんからだった。

 

「悪いが白音。二人を先に部室に案内してくれないか?」

「わかりました」

 

頷くと、白音は二人を連れて二階に上がっていった。

それを見届けてから、私は電話に出た。

 

「もしもし?」

『あ~…お嬢ちゃんか?』

「お久し振りです。どうしました?」

『あんまり言いにくいんだがな……』

 

ん?このパターンはもしかして…

 

『ウチのバカがまたやらかしちまったようでな』

「やらかしたって…」

 

また事件か…?

 

『…単刀直入に言う。……教会の施設から、聖剣エクスカリバーが盗まれた』

「………はい?」

 

…私の聞き間違いか?

今、エクスカリバーが盗まれたって聞こえたんだけど?

 

『更に言うと、これをやったのがウチの幹部なんだよ』

「幹部って…」

 

こらまたどえらい方が…。

 

『名前はコカビエル。お前さんも名前ぐらいは聞いたことがあるんじゃないか?』

「まぁ…一応…」

 

確か、聖書にも名前が載っている堕天使じゃなかったか?

 

『犯人が犯人な上に、やった事がかなりの大ごとだ。流石の俺も今回ばかりは動かざる負えなくてな』

「でしょうね…」

 

自分の組織の幹部が犯罪をしたんだし、トップの人…じゃない、堕天使としては自ら動かなきゃ不味いでしょ。

 

「けど、何が目的でそんな事を…」

『今の平和な状態が気に入らなくてな。他の二種族に戦争を吹っ掛けようとしてやがるのよ』

「戦争…」

 

最悪な事を考える奴だな…。

 

『その手始めに、サーゼクスの妹をぶっ殺そうと考えてるらしい』

「と言う事は…」

『ああ。既に駒王町に潜伏している』

 

いつの間に……!

 

『しかも、アイツはお前さんの事も狙っているようだぞ』

「私も?」

『良くも悪くも、お嬢ちゃんは色んな意味で有名人だ。そんな奴を殺せば、アイツとしても箔がつくと考えてるんだろうさ』

「迷惑な話だ…」

『全くだぜ』

 

そんな理由で殺されてたまるかって―の。

全力で返り討ちにしてやるよ!

 

『ま、今回はこっちからも戦力を出すことにしてるから、そこら辺は安心してくれ』

「戦力?」

『…ある意味、お前さんとは切っても切れない関係の奴だよ』

 

切っても切れない……誰だ?

マジで分からん。

 

『そんな訳だから、注意は怠るなよ!じゃあな!』

「あ……」

 

切れてしまった。

 

「……行くか」

 

取り敢えず部室に行くことにしよう。

 

もしかしたら、普段はバチカンにいる筈の二人が日本に来たのも、今回の事件が関係しているかもしれないしな。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 私が部室に入ると、なにやら緊迫した空気が流れていた。

 

立ち上がっている裕斗が、憎しみを込めた目でゼノヴィアとイリナの事を睨み付けている。

 

「あ…お姉ちゃん」

「これは一体どうしたんだ?」

「実は……」

 

事の顛末はこうだ。

 

自分達の任務の説明をしている時に、彼女達が自分達が所持している聖剣を見せた時、裕斗がいきなり立ち上がり、まるで一触即発のような空気になった…との事だ。

 

「はぁ……」

 

頭が痛い…。

 

「裕斗。取り敢えず一旦落ち着いてくれ。まずは二人の話を聞こう」

「……先輩がそう仰るなら…」

 

渋々と言った感じで裕斗は座ってくれた。

 

「済まなかった。彼にも事情があるんだ」

「いや…私達も軽率だったよ」

「そうね…」

 

ふぅ…分かってくれたか。

これで決闘騒ぎとかになったらどうしようかと思った。

 

私は空いた席に座って、ようやく落ち着いた。

 

「そういえば、聖剣を持っているとはどういうことだ?確か聖剣はコカビエルに盗まれた筈じゃないのか?」

「な…なんで貴女がその事を!?」

「お姉ちゃ…彼女には独自の情報網があるのよ」

「そ…そうか。成る程な」

「伝説の赤龍女帝ともなると、情報収集すらも凄い方法を取るのね…」

 

実際にはアザゼルさんから直接聞いただけだけどね。

ある意味、カンニング。

 

「聖剣エクスカリバーは嘗ての大戦にて折れてしまい、その欠片で七本の剣が作られたんだ」

 

七本の剣…ね。

そのうちの何本かが盗まれたって訳か。

 

「そしてこれが、そのうちの一本。『破壊の聖剣(エクスカリバー・デストラクション)』だ」

 

ゼノヴィアが布に巻かれた剣を取り出して、私に見せる。

見た感じは、派手な装飾が施された大剣って感じ。

 

「私のはこれよ。『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』」

 

イリナの懐から細い紐のようなものが出てきて、あっという間に一本の細い剣になった。

 

「ほぅ……」

 

どっちとも、全然『聖剣』って感じがしない。

見た目だけは、何処にでもある普通の剣だ。

 

「彼女が来たため、もう一回説明するが、我々の目的は唯一つ。コカビエルから聖剣を奪取するまで、この町に住む悪魔達の介入が無い事。これだけだ」

「それさえ厳守してくれれば、それ以上は何も言わないわ」

「これもさっき言ったけど…それは私達の事を多少なりとも疑っている…ってことかしら?」

「かもしれないな。我々はそこまで警戒していないが」

 

おろ?

てっきり悪魔の事を敵視しまくってると思ってた。

 

「意外ね。てっきり私は…」

「出合頭に斬りかかるとでも思ったか?そんな野蛮な真似はしないさ」

「これも、赤龍女帝様のお陰ね」

「私?」

「ええ。貴女との出会いが我々の凝り固まった価値観を変えてくれた」

「感謝します」

「あ…ああ」

 

特に何にもした記憶が無いのに、なんか感謝された…。

 

『ククク……。そのような贋作にすらなれていない代物が『聖剣』…か。世も末だな』

「ギ…ギルガメッシュ?」

 

いきなり籠手が出現し、ギルが喋り始めた。

 

「この声は……この籠手から?」

「それよりも…どういう事?」

『そのままの意味だ。我の記憶が正しければ、有史以来、聖剣が砕けるなどと言った出来事は一度も観測されていない』

「ならば、今この場にある剣はどう説明する気だ?」

『大方、嘗て聖剣を鍔ぜりあった名も無き剣にほんのわずかに付着していた聖剣のカスから発せられた聖なるオーラとやらを感じて、どこぞの馬鹿が聖剣と勘違いしたのだろうよ』

 

そんなことで勘違いするかな…?

でも、確かに聖剣がそう簡単に砕けるとは思えないし…。

 

『大体、たかが戦争に参加した程度で、かの聖剣エクスカリバーが砕け散ると、本当に思っているのか?』

「それは……」

『その考え自体が、聖剣に対する侮辱と知れ』

 

ごもっとも。

だからこその『聖剣』なんだしね。

 

『エクスカリバーとは、全ての人間の『こうあって欲しい』と言う願いが星の内部で結晶、精製されたことによって顕現したと言われている神造兵装であり、全ての聖剣の頂点に君臨し続ける究極の剣だ。一説では神の力を持ってしても破壊が不可能と言われている代物が、戦争で戦った程度で破壊される訳が無かろう。貴様もそうは思わんか?贋作者(フェイカー)

 

フェイカーって…エミヤの事?

 

「なんでそこでアーチャーの事が出てくる?」

『そうか…貴様等は知らなかったな。こ奴は嘗て、あのアーサー王と恋仲にあったのだ』

 

………ふぇ?

 

「「「「「「「「えぇ~~~~~~~~~!?」」」」」」」」

 

ど…どどどどどどどどどーゆー事!?

 

『一応、言っておくが、アーサー王は史実とは違い、紛れもない女性だ』

「女性!?」

「そう言えば、ネロさんやドレイクさんも史実では男性として伝えられていましたけど、実際には女性でした…」

『それと同じようなものだ』

 

歴史の隠された真実ってヤツか…。

多分役には立たないけど、勉強になるなぁ~。

 

『この男は、彼女の傍で最も聖剣を見てきた人間だ。エクスカリバーの強大さは、我以上に理解している』

『まぁ…な』

 

ん?照れてる?

 

『不本意ではあるが、今回は私も英雄王と同意見だ。あの剣が折れるなんて想像も出来ないし、それ以前に君達の剣からはエクスカリバー特有の圧倒的な聖なるオーラが感じられない』

 

詳しいな。

流石は錬鉄の英雄。

 

『仮に本当に砕けたとしても、かの剣の力がそう簡単に消えるとは思わない。もしもそれが本当にエクスカリバーの片割れならば、その場にある時点で悪魔は完全消滅していてもおかしくない』

 

それ程までに凄いのか…。

 

『木場祐斗。別に復讐そのものを否定する気は無いが、聖剣を恨むのはお門違いだ。君が本当に憎悪し、恨みをぶつけるべき相手は、君を始めとした者達を苦しめた連中じゃないか?』

「僕は……」

 

エミヤの言葉が響いたのか、大人しくなった裕斗。

これで早まった真似をしなくなればいいけど…。

 

「俄かには信じられないが…歴代の赤龍帝の言葉なら、もしかして…」

「ちょ…ゼノヴィア!?」

 

まぁ…戸惑うよな。

無理も無いよ。

 

「ところで、今回は君達二人しか来てないのか?」

「そうだが…それが何か?」

「いや…聖書に名を刻まれているという事は、コカビエルはかなり強大な相手だろう。それなのにたった二人と言うのが気になってな…」

 

幾らなんでも無謀すぎる。

ならば、考えられる可能性は二つ。

 

一つ目は、対コカビエル戦に当たって、彼女達に絶対的な切り札がある。

 

もう一つは、この二人は最初から何も知らされていないスケープゴートで、コカビエルの実力を測ると同時に、教会側が堕天使勢力と戦う大義名分を得る事。

 

私としては前者を信じたいが…状況的に考えても……。

 

(後者だよな…やっぱり)

 

どうやら、今回は今まで以上に警戒する必要があるようだ。

家に帰ったら皆にも伝えよう。

 

「心配してくれるのは有難いが、大丈夫だ。私達だって無知じゃない。ちゃんと切り札ぐらいは用意してきてるさ」

「そうか……」

 

その切り札が通用すればいいけど……。

 

「ところで、そこに座っているのは『元聖女』のアーシア・アルジェントか?」

「…!は…はい…」

 

あ、やっぱりアーシアの事も知ってたか。

すっかり脅えちゃった。

 

「やはりそうか…」

「貴女が噂に聞いた…。どうして日本にいるの?」

「それは……」

 

一言じゃ言えない深~い訳があるからね。

ここはフォローしときますか。

 

「彼女はこの町にある教会に派遣されてきたんだが、その教会が既に朽ち果てていてね。どうやら情報に行き違いがあったらしい」

「なるほど…。自分で言うのもあれだが、そう言った事は結構いい加減だからな」

「気持ちわかるわ。私達もそれで今までどれだけ苦労したか…」

「もう野宿はしたくない…」

 

…この二人も中々の苦労人みたいだな。

将来がちょっと心配だ。

 

「それで、今は私の家で一緒に暮らしている」

「そうか。赤龍女帝の庇護下にあるのならば、何も言うまい」

「そうね。こっちに来る時も『赤龍女帝の家族や仲間には絶対に手出しはするな』って何回も言われたし」

 

そう言ってくれるのは純粋に嬉しいが、教会内では私がどんな風に言われているのか、マジで気になってきた。

軽くはアーシアに聞いたけど、詳細を聞かなきゃ落ち着かない。

 

「だから、そう脅えないでくれ。確かに君は『魔女』と呼ばれたかもしれないが、赤龍女帝の仲間になったのなら、それだけで『魔女』の汚名を払拭するには充分だ」

 

私の影響力ってどんだけ~。

 

「だから、気にしない方がいいわよ。言いたい連中には好きなだけ言わせておけばいいのよ」

「は…はい…」

 

想像以上に物分かりが良い事に、私の方が驚きだよ…。

ちょっと、教会の連中に対する認識が変わるかも…。

 

「だが、それと同じぐらいに驚いたのが…」

「天下の赤龍女帝が悪魔と同じ学校に通っていた事ね」

 

そんなに驚く事か?

 

「我々は今更気にしないが、他の連中が見たら卒倒するだろうな」

「司祭様とか、驚きの余り気絶するかも」

 

それは大げさすぎ。

 

「種族なんて関係ない。ここにいるのは私にとって大事な友であり仲間達だ」

「お姉ちゃん…」

 

命に色なんて無いんだよ?

大事なのは、種族云々じゃなくて、心を通わせることじゃないのかな?

 

「ふふ……実に貴女らしい言葉だ」

 

私らしい…ねぇ。

 

「ふむ…思ったよりも話し込んでしまったな。そろそろ失礼しよう」

 

二人は踵を返すと、真っ直ぐにドアに向かって行った。

 

「ああ…そうだ。貴女に伝えるべき事があるんだった」

「なんだ?」

「上の情報では……白い龍が動き出したようだ」

「『……!?』」

 

白い龍って…まさか…!

 

(アザゼルさんもそれっぽい事を言ってたけど…)

 

とうとう会うのか……私のライバルとも言うべき…白龍皇に!

 

「では、失礼した」

 

最後にお辞儀をしてから、二人は部室を後にした。

 

「なんか…また厄介な事になってきたわね…」

「一難去ってまた一難…ですわね」

 

溜息交じりに皆で話していると、徐に裕斗が立ち上がった。

 

「裕斗?」

「いきなりですみません。今日はここで帰らせて貰います」

『お前…まさか…』

「大丈夫です。流石に早まった真似はしませんよ。少し…一人で考えたいんです」

「そう……」

「では、失礼します」

 

裕斗も静かに去って行った。

色々と聞いた後だからな…正直言って、嫌な予感しかしない。

 

「大丈夫かしら…」

「心配ですね…」

 

やっと裕斗とも、また前のように話せると思ったんだけどな…。

中々に上手くいかないものだ。

 

その日はもう少しだけ話してから解散になった。

 

聖書に刻まれし堕天使…コカビエル。

十中八九、戦う事になるんだろうなぁ…。

 

今までの相手と同じに考えていたら、ヤバいだろうな…。

 

いざとなったら、また誰かの禁手を使うかもしれない…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




もうちょっと辛辣にするつもりが、なんだか穏やかな性格になっている教会コンビ。

嫌いじゃないですけどね。

さぁ…コカビエルはどうやって料理しようかな?

では、次回。


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第46話 交渉は慎重に 

段々と原作が崩壊してきましたね。

お陰で、話を考えるのも一苦労です。



 家に帰り、私は今日あった出来事…教会から来た二人組とコカビエルの事を話した。

 

皆で夕食と食べながら、私は話を進めていく。

 

「あの方が…ねぇ…」

「レイナーレ、知ってるの?」

「名前ぐらいはね。私みたいな下っ端堕天使なんかじゃ、幹部に会う事すらできないわよ」

 

堕天使達も上下関係が大変なんだなぁ…。

 

「でも、噂ぐらいなら聞いたことがあるわ」

「どんな噂にゃ?」

「すっごい戦争好きの戦闘狂だって。あの大戦の時は一番張り切っていたらしいわ」

「そんな危険思想の奴がこの町にいるんですか…」

 

レイナーレの話を聞いて、私は一段階、警戒心を上げた。

 

「しかも、聖剣『擬きだ』…を盗むなんてね…」

 

レイナーレの言葉にギルが割り込んだ。

結構、気にしてるのね。

 

「けど、今日の貴方の話は目から鱗だったわ」

「冷静に考えれば、聖剣が壊れるとか有り得ないですもんね」

 

そう簡単に破壊されちゃ、聖剣の名が廃るでしょ。

 

「でも、ギルの言う事、正しい」

「そうだな。私も聖剣が破壊されたなんて聞いたことが無い」

「偽の聖剣を作った奴は、よっぽど聖剣が好きだったんだろうな」

「聖剣マニア…ね」

 

困った奴がいたもんだ。

 

「そう言えば、今日部室を訪れたお二人は、何処で寝泊まりをしてるんでしょうか?」

「ホテルじゃないか?」

「そこら辺は流石に教会側で手配とかしてるでしょ」

「まさか、以前私達が根城にしていた壊れた教会を使ってる……訳は無いか」

「それは幾らなんでもあり得ないにゃ~」

「そうですよ。あそこはマユさんとアラガミとの戦いで、完全に廃墟になってますから」

 

天井とかぶっ壊れてるからねぇ~。

今頃はきっと、野生動物の巣になっているだろう。

 

「いい加減にあそこもなんとかしないとね。あのままじゃ、何も知らない人か近づいて、怪我とかするかもしれないわ」

「具体的にはどうする気だ?」

「まずは完全に解体するべきでしょうね。その後で、また新しい教会を建設するか、別の施設を建てるかはお兄様に相談しなきゃいけないけど…」

 

土地の管理者も大変だな。

手伝えることがあれば、いつでも手を貸すんだけど…。

 

(こればっかりは…なぁ…)

 

私に出来るのは戦う事だけ。

管理者としてのスキルは全然無い。

 

「分かっているとは思うけど、事件が一段落するまでは、外出の際は必要以上に警戒をしていてほしい」

 

私が真剣な表情で言うと、皆は同時に頷いた。

 

その後は、何気ない会話をしながら食事を続けた。

 

話をしながらも、私は頭の片隅で裕斗の事を考えていた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日の休日。

今日は丁度いいことに土曜日だったので、朝食を食べ終えてから外に出てみる事にした。

白音も一緒についてくると言って来たので、共に街を一通り練り歩いてみた。

白音は妙に嬉しそうだったが。

 

リアスは朝から用事があるとかで、どこかに出かけてしまった。

多分、悪魔としての用事だろう。

念の為、他の皆はお留守番。

 

因みに、今日の私の格好は、白音の強いリクエストによって、なんでか『ナイトメア・ゴシック』の上下セットだ。

確かに半袖だが、私みたいな大女にはゴスロリは似合わないだろう。

ぶっちゃけ、すげー恥ずかしい。

でも、なんでか皆からは絶賛だった。

 

そうやって町の様子を見ながら散策していると、ファミレスの近くであの二人を見つけた。

 

まるでホームレスのように地面に座り込んでいて、道行く人たちが少し離れながら一瞥していく。

 

「はぁ…お腹が空いたな…」

「言わないでよ…余計に空腹になるじゃない…」

 

何をしてるんだ…あの二人は…。

 

「まさか、例の教会が廃墟になっているとはな…」

「あれじゃあ雨風すらもしのげないじゃない…」

 

昨日レイナーレが言っていたことが現実になってた。

自分達が泊まる予定の場所ぐらい調査しようよ…。

 

「……不憫ですね…」

「だな……」

 

知り合いがホームレス擬きになっているのを見て、放置出来るほど私は非情じゃない。

っていうか、下手にあの状態で話しかけられたら、こっちが恥をかく。

だったら、こっちから密かに接触した方がいい。

 

「……何をしている」

「「あ!」」

 

大声を上げないでよ。

 

「色々と言いたい事はあるが…一先ずは…」

「ファミレスに行きましょう」

 

まずは、ゼノヴィアとイリナのお腹の虫をなんとかする事にした。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「う…美味い!これが日本の食事なのか!」

「あ!ウェイトレスさん!これもお願い!」

 

凄い勢いで目の前に置かれた食事が二人の胃の中へと消えていく。

この二人もフードファイターなのか?

 

私と白音は静かにジュースを飲みながら、ゼノヴィア達の食事を見ていた。

 

「感謝するぞ!赤龍女帝殿!やはり貴女は救世主だ!」

「ホントね!またまた借りが出来ちゃったわね!」

「そう思うなら、まずは名前で呼んでくれ」

「そうだな!ありがとう!マユ殿!」

 

『殿』は取らないのね…。

 

暫くして、ようやく満足したのか、二人は箸を置いて自分のお腹をさすった。

 

「食べた食べた…」

「満足だわ…」

 

そんだけ食えばね。

 

食後のコーヒーを飲みながら、二人がこっちを向いた。

 

「で?なんであんな場所にいたんだ?」

「それはこっちのセリフなんだがな…」

 

ま、代々の事情はさっきの会話で分かったけど。

 

「回りくどい言い方は嫌いだから、結論だけを言う。…私にも君達の任務を手伝わせてくれ」

「そんな事だろうと思ってました」

 

あれ?ばれてた?

 

「ふむ……」

 

ゼノヴィアが顎に手を当てて考える仕草をする。

 

「…まさか、そちらからそんな事を言いだすとはな」

「…なんだと?」

 

そちらから…とな?

 

「実は、昨日は言うのを忘れていたんだが、可能であれば赤龍女帝の助力を得てから事に当たれと言われていたんだ」

 

なんと…!

彼女達がたった二人で来たのは、それが最大の理由か…!

仮に戦力が二人しかいなくても、私が協力すればなんとかなるって思ったのか…。

 

どうやら、彼女達にとっての『切り札』とは私の事だったようだ。

 

「今だから言うが、正直言って私達二人だけじゃコカビエルはおろか盗難に遭った三本の剣を一本も取り戻せないと思っている」

「元々のスペックが違い過ぎるもの。幾ら特殊な剣を持っていても、それだけじゃ戦力差が埋まるわけじゃない」

 

昨日の話を聞いて『聖剣』じゃなくて『剣』って呼ぶようにしたのか。

まぁ、そうした方がエミヤやギルの逆鱗に触れないで済むから、こっちとしても助かるけど。

 

「だが、貴女が協力してくれたら話は別だ」

「伝説に謳われる最強の赤龍女帝。これ以上に心強い存在は無いわ」

 

教会の連中は私の事をそこまで過大評価してるのか…。

改めて聞くと凄いな…。

 

「それに、貴女は悪魔じゃない。なら、昨日の協定にも触れないだろう」

 

そこまで考えていたか。

 

「なら、私も手伝います」

「貴女も?」

「はい。私は悪魔じゃなくて妖怪です。問題は無い筈です」

 

そう言うと、白音は一瞬だけ猫耳を出して引っ込めた。

 

「そうか……君は日本の妖怪の『ネコマタ』か」

「いいんじゃないかしら?地の利は向こうにあるんだし」

「そうだな。人員は少しでも多い方がいい」

「任せてください。こう見えても、人口神器を三つも持ってますから」

「それは心強いな…」

「それなら戦力としても数えられるわね」

 

実際、白音はこの短期間でメキメキと実力をつけてきている。

もしも神機使いだったら、かなりの実力者になっているだろう。

 

「ならば、もうちょっとだけ人手を増やしてもいいか?」

「誰ですか?」

「見れば分かるさ」

 

白音の頭を撫でながら、私はスマホで『彼等』に連絡を取った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 電話をしてから十数分。

その人物達はやって来た。

 

「…そう言う事なら…」

 

来たのは裕斗と匙君。

 

裕斗は当事者だから、匙君は別の理由で来てもらった。

二人が来てから、さっきまでの話を伝えたら、少し考えた後に裕斗は頷いてくれた。

 

「複雑な心境でありますが、先輩の御好意を無駄にはしたくはありませんしね」

「そう言ってくれると思った」

 

なんか、善意に付け込んだ気がしないまでも無いが、今はそんな事を言っている場合じゃない。

 

「ところで、君達は『その剣』を持っているという事は、当時の関係者の事も知っているのかい?」

「直接は知らないが、こちらに来る際に教えて貰ったよ」

「そうか……」

 

ま、この二人だってそこまで知らされてないだろうね。

上だって情報漏洩は避けたいだろうし。

 

「当時の『計画』の責任者にして、処分の命令を言い渡した人物…そいつの名前は『バルパー・ガリレイ』。今では堕天使側…正確にはコカビエル側に寝返って異端の烙印を押されている」

「バルパー・ガリレイ…!そいつこそが…僕が真に討つべき相手…!」

 

復讐相手をハッキリと認識した裕斗は、拳を握りしめて歯を食いしばっていた。

 

「実は僕も一人、コカビエルの協力者を知っているよ」

「それは誰だ?」

「フリード・セルゼン」

「それは…!」

「あの時…教会でマユさんに斬りかかってきた神父…」

 

あの全身真っ白男か…。

 

「会ったのは球技大会の後で、どうやらこの町で邪魔な神父を殺していたようです」

「あの男は…!」

 

まだそんな事をしてたのか…!

 

「しかも、奴はその時に奪われた筈の聖剣擬きを所持していた」

「なんだって?」

 

アイツが聖剣を…ね。

似合わねぇ~!

 

「私達も噂ぐらいなら聞いたことがある。剣士としての実力は天才的だったが、性格が余りにも酷過ぎた為、数回の任務の後にすぐさま異端者となったらしい」

「その時の光景が速攻で浮かびます」

 

サイコパスって怖いなぁ~。

 

「でも、いくら擬きとは言え、聖剣って誰にでも使えるものなんですか?」

「いえ、そんな事は無いわ。使用が出来るのは一部の素養を持った人間に限られるわ」

「ならば、フリードは素質を持っていた?」

「いや、そんな話は聞いたことは無いな」

 

そうなると……。

 

「必然的に、誰かが後天的に彼に素質を埋め込んだって事になるな」

「十中八九バルパーだろうな。情報では、聖剣計画の資料を全て持ち去ったと聞いているから、それぐらいは可能だろう」

 

偽物とは言え、ちょっと厄介かもな…。

 

「あの~…さっきからずっと空気な俺なんですけど、なんでここに呼ばれたんですか?話を聞く限りでは、明らかに俺ってば部外者なんじゃ…」

「君を呼んだのにはちゃんとした理由がある」

「なんですか?」

「今回の事件はリアスだけではなくソーナの耳にも入っている筈だ。出来れば直接会って情報交換したいところだが、余程忙しいのか連絡が取りずらい。だから、彼女の眷属である匙君に来て貰って、話を聞いて貰おうと思ったわけだ」

「匙先輩は生徒会の書記ですもんね。適任じゃないんですか?」

 

役職上、こういった事は得意だろうと思って呼んだんだが…。

 

「迷惑だったか?」

「い…いえ!そんな事なら喜んで手伝いますよ!」

「そうか…よかった」

 

なんか顔が赤いけど、そんなに外は暑かったかな?

 

取り敢えず、匙君にも今回の簡単なあらましを教えた。

 

「マジっすか…!そんな大物がこの町に…!」

「ああ。多分、近日中にでもソーナからも聞かされるだろうが、知っておいて損は無いからな」

 

情報の共有は大事だ。

これが出来る事と出来ないとでは大違いだ。

 

「にしても、噂の聖剣がパチもんだったとはねぇ~…。コカビエルの件と同じぐらいに驚いたっスよ」

「それは私達も同じよ」

「だが、だからと言って任務を放棄していい理由にはならない」

「そうね。特殊な力を持っている剣である事には違いないんだし」

「それが悪用される事だけは、絶対に避けなくては…」

 

偽物とは言え、聖剣の名を冠する剣が悪用されたと知ったら、草葉の陰でアーサー王が悲しむよ。

 

「分かりました。俺の方から会長には伝えておきます」

「頼む」

「うっす」

 

力強く頷く匙君。

なんとも頼もしい限りだ。

 

「やっぱり匙君は…」

「ん?どうした?」

「いや…なんでもないよ」

 

なんで裕斗はライバルに向けるような目で匙君を見る?

 

「取り敢えずの話は終わったな。では、解散しようか」

「「「はい」」」

 

私の声に従うようにして、皆が立ち上がる。

因みに、食事代は私が全部支払った。

偶には先輩らしいことをしないとね。

 

教会組の二人は凄くバツが悪そうにしていたけど。

 

ファミレスから出て、それぞれに分かれようとしたが、そこで気になったことがあったので二人を引き留めた。

 

「ちょっと待ってくれ。二人は今夜、どこで寝泊まりをする気だ?」

「「そ…それは…」」

「まさか…」

 

また、あの教会と言う名の廃墟に戻る気じゃあるまいな?

 

「はぁ……仕方がない。二人共、ついて来てくれ」

「「?」」

 

私はゼノヴィアとイリナを連れて、付近にあったカプセルホテルに向かった。

白音達も一緒について来たけど。

 

受付で私は二人が数日間程泊まれるぐらいの料金を支払った。

 

「これでよしっと。これで少なくともホームレスのような真似はしなくて済むだろう」

「あ…貴女は女神か…!?」

「なんて慈悲深いの…!伝説の英雄は伊達じゃないのね…」

 

そこ、お願いだから、私の事を崇めないで。

私は神仏じゃありません。

寧ろ、それらを狩る側の人間ですから。

 

「いいんスか?こんなにも払っちゃって…」

「大丈夫だ。問題無い」

 

実は、リアスが一緒に住むようになってから月500万だった入金が、倍の1000万になったのだ。

これぐらいは余裕余裕。

 

「これで屋根のある場所で寝られる…」

「やっと心から熟睡出来るわね…」

「こいつ等…今までどんな生活をしてたんだよ…」

 

こらこら、呆れた目で見ない。

彼女達にも色々と事情があるんだよ。

 

「では、ここらで」

「何から何まで、本当にありがとう!このご恩は一生忘れない!」

「この事は絶対に後世まで伝えるわ!」

「そこまでしなくていい」

 

気持ちは解るが、大げさすぎるわ!!

 

「やっぱ…先輩ってスゲーわ…」

 

この日から匙君の私を見る目が変わった。

 

なんか、会う度に気持ちのいい挨拶をしてくるのだ。

 

彼の中で私に対する好感度でも上がったかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




マユは皆のお姉ちゃん(確定)

もう完全に世話焼きなお姉ちゃんキャラになりつつありますね。

そして、匙フラグが建った?

では、次回。





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第47話 遭遇、そして接敵

前回、思った以上に沢山の感想を戴いて、自分でもびっくりです。

しかも、その中には原作崩壊を推進するようなお言葉まで。

めっちゃ励まされました。

つーわけで……これからもガンガン崩壊させていくつもりですので、どうぞよろしく!


 教会から来た二人組…ゼノヴィアとイリナと再会して数日後。

私達は放課後を利用してコカビエル一味を見つけるために探索をしている。

 

今回の事はちゃんとリアスにも教えてある。

下手に隠すしても意味が無いと判断したからだ。

 

話した時、盛大な溜息と共に呆れられてしまった。

私なりの考えを一生懸命話したら、こちらの判断に一任すると言ってくれた。

そう言って貰えると、柄にもなく嬉しくなってしまう。

 

捜索メンバーは、私に白音、裕斗とゼノヴィアとイリナの教会コンビ。

そして、なんでか匙君も一緒に手伝ってくれた。

 

どうして手伝ってくれるのか聞いたら、『ここまで来たら一蓮托生だし、放っても置けない』らしい。

彼の優しさに、私は心の中で感動で泣きまくった。

 

けど、ちゃんとソーナに許可は貰っているのかなぁ…?

 

ま、几帳面な彼の事だ。

きっと取っているに違いない。

 

で、今日も今日とて私達は街に繰り出す。

 

匙君の提案で、神父、もしくはシスターのコスプレをして。

 

私のシスター姿を見て匙君と裕斗が顔を真っ赤にしていたが…そんなに似合わなかったかな?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「見当たらないな…」

「ですね…」

 

あれだけ目立ちまくる格好と性格をしてるくせに、見つからない時はとことん見つからない。

 

なんだか、RPGにてレアアイテムを探してフィールドを歩き回り、とことんまでエンカウントしまくっている気分だ。

 

「もう夕方です」

「今日はここら辺で解散しようか」

「夜中に動き回るのは危険ですからね」

 

満場一致で解散する事になった……その瞬間だった。

 

頭上から禍々しい殺気が湧き出てきた。

この殺気は覚えがある。

 

「やめようとした瞬間に当たりを引くとはな…これもある種のあるあるネタ…か」

「ロープレあるあるですね」

「俺も覚えあるけど…現実には起こって欲しくなかったぜ…」

 

急いで服を脱いで制服姿になって、全員が警戒して構えると、それはやって来た。

 

「神父・シスター御一行様方にご加護あれってな!!」

 

上から例の男…フリード・セルゼンが見た事の無い長剣を構えて振ってきた。

その剣はそのまま私に向かって振り下ろされてきたが……

 

「ほい」

 

この程度ならば、神器や英霊の力を使うまでも無い。

私は『左腕』で防いだ。

 

「ちょっ…!冗談だろ!?聖剣すらも素手で防いじまうのかよ!?」

 

…その剣の正体を知っている身としては、なんとも哀れと言うか、滑稽と言うか…。

 

フリードは地面に降り立ち、こっちに向けて剣を構える。

 

「ちっ…!伝説の赤龍女帝様には、聖剣すらも子供の玩具に過ぎねぇのかよ…」

 

なんかブツブツと言ってますよ~。

っていうか、何処で知ったんだ?私の異名(笑)の事を。

 

「「「「「「……………」」」」」」

「ん?いきなりどうしたんですかぁ~?俺様の聖剣に恐れをなしてビビっちまったかぁ~?」

「いや…その……」

「言っておくが、その聖剣は…『やめておけ、木場とやら』…え?」

 

毎度のように、いきなり籠手が出現して、ギルの声が響く。

 

『世の中には、知らない方が幸せな事もある。ここでこ奴に赤っ恥を掻かせることもあるまい……ぷっ…ククク……』

 

真面目な事を言ってるけど、笑い声が漏れてるからね。

 

「そうですね…」

「哀れな……」

「きっといつかいい事があるわよ」

「めげちゃ駄目だぜ」

「自分が急に情けなくなってきたよ…」

 

全員がフリードに向かって同情の視線を向ける。

 

「お…おい!なんで揃いも揃って道端に捨てられた子犬を見るような目で俺を見るんだよ!?」

「さぁな」

 

いずれ分かる事とはいえ、今は言わない方がいいだろう。

その方が後々、面白そうな事になりそうだし。

 

「ば…バカにしやがってぇぇぇぇぇぇェェェ!!!」

 

激昂したフリードは、今度は裕斗に向かって斬りかかった。

だが、すぐさま裕斗は神器を発動させて『風刃剣』で応戦した。

 

「この前とは違う剣……テメェ、魔剣創造(ソード・バース)の使い手だな!?」

「ご名答さ!」

「だがな!俺様が持っているのは天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)だ!そんなナマクラじゃ勝てっこねぇんだよ!」

「本当にナマクラなのはどっちかな!?」

 

裕斗とフリードは消えては出現しを繰り返しながら、剣戟を交えていく。

 

「凄いです…」

「これが彼の実力か…!」

「うわ……めっちゃ強いじゃん…」

「木場って強かったんだな…」

 

もしかして、皆には二人が瞬間移動でもしているように見えているのか?

でも、私にはしっかりと二人の動きが見えている。

 

「じょ…冗談だろ!?なんで俺様のスピードに追従出来んだよっ!?」

「それがこの『風刃剣』の能力だからさ!」

「ふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

御自慢の聖剣が追い詰められるとは想像もしてなかったのか、明らかに焦燥していくフリード。

拮抗した実力同士の戦いでは、当人たちの精神が勝敗を分ける。

 

自分の本当の仇を知って殺る気満々な裕斗と違って、自分の聖剣に絶対の自信を持っていたにも拘らず追い詰められているフリード。

どっちが勝ち、そして負けるのかは明白だった。

 

「なんで…なんで砕けねぇんだよぉぉぉぉ!!聖剣に斬れない物は無い筈だろがよ!!」

「僕の剣は基本骨子から創造しているから、そんな簡単には砕けないよ!特に、そんな偽物の聖剣なんかにはね!」

「はぁっ!?」

 

あ、言っちゃった。

 

「冷静に考えれば分かる事さ!伝説の聖剣がそんな簡単に砕ける訳が無いだろう!」

「ぐっ…!なら…これはなんなんだよぉぉぉぉぉ!?」

「僕に聞かれてもね!でも、これだけは分かる!その剣は偽物にすら至っていない贋作以下の剣だってね!」

「くそがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

激しい金属音が乱舞するなか、遂に裕斗の渾身の一撃が炸裂し、フリードは吹き飛ばされた。

 

「ぐあぁっ!?」

 

地面に叩きつけられて血反吐を吐くフリード。

フラフラしながら起き上がり、袖で口元を拭いている。

 

「くそ…!ここは一旦撤退して……」

「させるかよ!」

 

逃げようとしたフリードの腕を、黒くて細い触手のようなものが伸びてきて動きを封じた。

 

「な…なんじゃこりゃぁぁぁっ!?」

黒い龍脈(アプソーブション・ライン)。この俺の神器だ!」

 

触手が伸びている元を見てみると、匙君の腕に蜥蜴の頭のような物が装着されていて、その口の部分から触手が伸びている。

 

「悪いが、お前には捕虜になってもらう。色々と聞きたいことがあるからな」

「はっ!俺様がそう簡単に口を吐くとでも思ってるのかよ!?」

「思ってないさ。だから、こっちもそれなりの対応をしようと思っている」

「ふぃっ!?」

 

私の殺気に当てられたのか、変な声を上げたフリード。

うん、脅えてくれるのは好都合だけど、実は何にも考えてないんだよね。

咄嗟にブラフを吐いてみたが、意外と上手くいくもんだ。

 

「全く…一体何をやっている。せっかくの聖剣が泣いているぞ」

 

いきなり声が聞こえてきたので、そっちの方を向くと、そこには見慣れた神父服を着た初老の男が立っていた。

 

いつの間に来たんだろうか…。

見た感じは非戦闘員と言った感じ。

多分、それ故に気が付きにくかったのかもしれない。

 

「バルパーの爺さんか…」

 

……!あいつが……例のバルパー・ガリレイか!

 

「貴様が……!」

 

裕斗から一気に殺気が噴出する。

それを見て、ゼノヴィアとイリナが目を見開いた。

 

「ほぅ…?それが魔剣創造か。見た感じではかなりの使い手のようだな。いいデータが取れそうだ」

 

こいつのこの顔……嫌な奴を思い出す…!

 

「で?その無様ななりはどうした?」

「あの剣士君が思った以上にやりやがる上に、この触手が邪魔で動けねぇんだよ!」

「ならば、貴様に付与した『因子』の力を使えばよかろう。その身に流れる因子の力を刀身に集中させろ。そうすれば切れ味が増す筈だ」

「ふ~ん…了解」

 

フリードの剣が少しだけ青く光る。

そして、その剣で自分の動きを束縛している触手を切り裂いた。

 

「お、本当だ」

「では、とっとと退却するぞ」

 

二人が踵を返そうとすると、そこに二つの影が割り込む。

 

「逃がすと思ったか!」

 

それは、剣を構えたゼノヴィアとイリナだった。

ゼノヴィアの剣がフリードの剣と鍔ぜりあう。

 

「大人しくお縄を頂戴しなさい!」

 

随分と古風だな…。

 

「フリード・セルゼンにバルパー・ガリレイ!神の名の元に貴様等を断罪する!」

「ちっ…!この教会の犬どもが…!爺さん!手荒くいくぜ!ちっとばっかし目を瞑ってくれ!」

 

フリードは懐から手榴弾の様な物を取り出して、ピンを抜いた後に地面に叩きつけた。

 

「あれは…!皆!目を瞑れ!!」

 

私の言葉が届いたのか、全員が咄嗟に目を護った。

 

その瞬間、凄まじいまでの閃光がこの場を覆いつくした。

 

「スタングレネード…!」

 

私達ゴッドイーター御用達。

毎回のように使用するから、その発動タイミングは体が覚えている。

流石に使われたことは無かったけど。

 

閃光が消えると、そこには二人の姿は無かった。

 

「逃げた…か」

「くそ!逃がしてたまるか!追うぞ!」

「当然!」

「僕も行こう!」

 

ちょ…!冗談だろ!?

 

「ま…待て!深追いは禁物だ!」

 

って…行ってしまったし…。

 

もうあんなに遠くに…。

 

『ヤバいぞ相棒…。あのフリードとか言う男はなんとかなるかもしれんが、奴らの背後にはコカビエルがいる。このままでは…』

「わかっている…!」

 

私も三人を追うか?

いや、しかし……

 

「あの…マユさん…」

「ん?」

 

私がこれからどうしようか考えていると、白音が私の服を引っ張った。

何かと思って後ろを向くと、そこには……

 

「げっ!?」

「「あ」」

 

頭を抱えているリアスと、眉間に青筋を立てているソーナが立っていた。

 

「最近になって生徒会室に顔を見せなくなったと思ったら…!マユさんと一緒に何をしてるんですか…?」

「いや…これは…その…ですね…?」

 

うわぁ……滅茶苦茶キレていらっしゃる…。

 

「リアス…これは?」

「どうやら彼、ソーナに何にも言ってなかったみたいなの」

 

なんと…!

無断で来ていたのか!?

 

「分かっていますね…?匙…?」

「ひ…ひぃぃぃぃっ!?」

 

あ…哀れな…。

 

取り敢えずは私達で彼の弁護をするべきか…?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 匙君は取り敢えず置いておいて、私達はリアスに状況報告をすることにした。

 

「で?首尾はどうだったの?」

「先程、フリードとバルパーを発見、交戦した」

「戦い自体は裕斗先輩が終始優勢でしたが、途中からバルパーがやって来たんです」

「連中はスタングレネードを使って逃亡。私は止めたのだが、ゼノヴィアとイリナ、裕斗が追って行ってしまった」

「そう……」

 

それだけしか言わなかったが、少々落胆しているように見えた。

 

「あの子は……心配を掛けて…」

「済まない……私が付いていながら…」

「お姉ちゃんは何も悪くは無いわ。今回は冷静さを欠いた裕斗に非があるもの」

「リアス…」

 

そう言ってくれると気が楽になるが、それで気にせずにはいられない。

 

ちょこっと横目で隣を見てみると……

 

「匙……貴方には少々『反省』が必要なようですね?」

「ち…違うんです!これには山よりも高く、海よりも深い訳があってですね…」

 

あ、こっち見た。

 

「いや…私はてっきりソーナにちゃんと言ってから同行しているとばかり……」

「匙!!!」

「す…すんませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

言うが早いが、ソーナは匙君を組み伏せて、彼に『お尻ぺんぺん』をし始めた。

よく見ると、彼女の手は僅かに光っていて、魔力が込められているのが分かる。

 

「よりにもよって!マユさんにも!秘密にするなんて!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?会長ぅぅぅぅぅぅぅ!!!お慈悲をぉぉぉぉぉぉ!!!」

「駄目です!他の事ならいざ知らず、マユさんに隠し事をするなんて許せません!!」

 

え?怒るポイントってそこ?

 

「裕斗にもちゃんとお仕置きをしないとね……ふふふ……」

 

裕斗ォ~!逃げろぉ~!!

別の意味で大ピンチだぁ~!!

 

「二人は置いといて、私達は帰りましょうか?」

「「は…はい」」

 

今日ばかりはリアスに逆らえないような気がしたので、私達は大人しく帰る事にした。

 

匙君……今度、君にはドーナッツ型のクッションをプレゼントしよう…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 家に帰ると、今にも泣きそうな顔でアーシアが出迎えてくれた。

どうやら、想像以上に彼女の事を心配させてしまったようだ。

 

慰めるように頭を撫でると、なんとか落ち着いてくれた。

リアスと白音が凄い形相で睨んでいたけど。

 

そして、夕食時に黒歌達にも報告した。

 

「……と言う訳だ」

「あのバカ…まだ生きてたのね…。とっくにどこかでのたれ死んだかと思ったわ」

 

い…言うなぁ…レイナーレ…。

 

「でも、コカビエルの気配無かった」

「うむ。この距離ならば我等でも感じられる筈。それを感じないのは…」

「自分の周囲に気配を遮断する結界を張っているんだろうな」

 

気配遮断…か。

道理で発見出来ない筈だ。

 

「マユなら大丈夫だと思うけど、油断は禁物にゃ」

「勿論だ」

 

油断は神機使いにとって最もしてはいけない事の一つ。

一瞬でも気を抜けば、一秒後には命は無い。

 

「問題は裕斗達ね。無事だといいけど…」

「ああ……」

 

運よくコカビエルと遭遇していない事を祈るしかないのか…。

 

その後、疲れを癒す為にお風呂に入り、ベットでゆっくりと寝る事にした。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 深夜。

私は今まで感じた事の無いプレッシャーを感じて目を覚ました。

 

「これは…?」

『ふむ…この気配は堕天使か…?』

 

中々の気配だが、大型のアラガミには遠く及ばない。

このレベルだったら、近くにヴァジュラやクアドリガがいただけで気配が相殺されてしまうだろう。

 

「お姉ちゃん!」

「「マユさん!」」

「「マユ!!」」

「ん~…?」

「なんだぁ~…?」

「んにゃ~…?」

 

リアスと白音とアーシア、黒歌とレイナーレが慌てて私の部屋に入ってきた。

そして、幼女組は眠気眼でやって来る。

 

「皆も感じたか?」

 

全員が同時に頷く。

幼女組は立ちながら眠りかけているが。

 

私は部屋のカーテンを開いて、外の様子を見る。

すると、そこには……

 

「ククク……久し振りだな…?赤龍女帝…!」

 

黒いローブに身を包んだ、10枚の漆黒の翼を生やした堕天使が怪しい笑みと共に浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




コカビエル登場。

そして、何気に裕斗が強くなっている件。

今回はあんまりマユの出番がありませんでしたね。

けど、コカビエル戦では無双したいです。

そして、その時には勿論……

では、次回。


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第48話 怒る心に火をつけろ

これまでの話でも言いましたが、マユは料理が得意です。

それは前世と今世で一人暮らしをしていた影響もありますが、純粋に料理が好きだったりもするんですよね。

さて、これまで色んな連中を『料理』してきたマユは、今回はどんな『料理』をするのでしょうか?




 いきなり私の家に現れた、見た事の無い堕天使。

一目見ただけで分かる。

こいつ……めっちゃ偉そう。

 

「コ…コカビエル様…!」

「こいつが…!?」

 

レイナーレが狼狽えたように呟く。

 

この野郎が例のコカビエルか…!

 

「ほぅ?まさか堕天使を侍らせているとはな。天下の赤龍女帝様は一味違うな」

 

明らかに皮肉を込めた一言だ。

なんかムカつく。

 

「その通り。俺がコカビエルだ」

「なんでここが分かったの…?」

「ここには認識阻害の結界が張られている筈…!」

「確かにな。この家には俺ですらも易々と欺けるほどに強力な結界は張られている。だが、結界の効果はあくまでも『認識』を『阻害』するのみ。何らかの方法で認識さえ出来てしまえば、結界の意味は無くなる」

「まさか……」

 

誰かに私がこの家にはいる所を見られていた…?

 

「俺ちゃんの仕業で~す!!」

「フリード…!」

 

声がした方を見ると、家の傍にフリードがいて、こっちに手を振っていた。

 

「こいつが貴様の事を密かに後ろから付けていて、この家を発見したのだ」

「う…後ろから?」

「それって……」

「完全にストーカーにゃ……」

「とうとう、お姉ちゃんにもストーカーがつくようになったのね…」

 

こんなキチガイがストーカーって…。

 

「なんか生理的に嫌」

「ちょっと酷くね!?あと、俺様は別にストーカーじゃねぇしッ!?」

「必死に否定するところが怪しいにゃ」

「顔も赤くなってますし」

「ある意味、堕ちるところまで堕ちたわね…」

「そんな目で見んなよ!!」

 

今度からは後ろにもちゃんと気を付けよう。

 

「まさか、このような場所で貴様とまた会えるとはな。今回ばかりは運命と言うものを信じてしまうな」

「また…?」

「そうか。貴様には俺の存在など眼中にすらなかったという事か」

 

え…?私ってばこいつと前にどこかで会った?

マジで分からん…。

 

「数百年前にあった三大勢力の戦争の最終局面。突如として出現した謎の怪物どもに後れを取り、俺は絶体絶命の危機に陥った」

 

私が転生してから初めて戦闘をした時の事か…。

 

「だが、空からいきなり現れた貴様は、我等が手も足も出なかった連中を…まるで雑魚の様に殲滅していった!!」

 

実際に雑魚だったし。

 

「俺はとてつもない屈辱を味わった!!堕天使である俺が敵わなかった存在に、人間である貴様が勝利した事実に!!その後で知った。お前が歴代で最強の実力を持つ赤龍帝であったことを」

 

厄介な奴に知られたもんだ。

 

「あれ以来、お前は歴史の表舞台に現れなかった。だから、貴様を再び戦場に出す手段を思いついた。それが……」

「聖剣(擬き)を盗んだ理由か…!」

「そうだ!サーゼクスの妹がいるこの町で暴れて、その上で教会に保管されている聖剣を盗み出す。更にそこにいるリアス・グレモリーや教会からの使者である聖剣使いを抹殺すれば、より大きな影響を与えられるだろうな!!」

 

この男は……!

 

「貴様は…戦争を望むのか…!」

「当然だ。どいつもこいつも戦争が終わった途端に腑抜けになってしまった。しかも、悪魔共や天使共とは相互不干渉を貫く始末」

「それの何が悪い?」

「ふざけるな!!いくら干渉しないとは言え、ついこの間まで敵対していた連中が傍に居るのだぞ!!戦わない理由があるか!!」

「だが、今の状態では色々なしがらみがあって戦えない。だから、それを正当化する為に……」

「『戦争』と言う状態が必要な訳だ」

 

この男の頭の中は…数百年前から全く変わっていない!

コイツの中ではまだ戦争は終わっていないんだ!

 

「リアスも…仲間達も!誰も殺させない!傷つけさせない!!」

「御立派な事だな。だが、これを見ても同じことが言えるかな?」

 

コカビエルはさっきから腕に抱えていた月明かりに隠れて見えていなかった『何か』を部屋の中に投げつけた。

その『何か』は月明かりに照らされて、姿が見えるようになる。

 

「イ…イリナ…!」

 

それは、ズタボロに傷ついたイリナだった。

彼女の体には聖剣擬きは無かった。

きっと、倒されたと同時に奪われてしまったのだろう。

 

「愚かにも我等の根城まで乗り込んできたのでな。丁重に歓迎をしてやったのだ。二匹ほど逃がしてしまったがな」

 

裕斗とゼノヴィアは無事のようだな…。

けど、無傷って訳じゃないだろう。

 

「再び三大勢力間で戦争を引き起こしてやる。その戦場にて貴様に思い知らせてやる。例えどれだけ強くても、人間如きが堕天使を超えるなど有り得ないとな!!」

 

自分の種族に誇りを持つのはいいが、ここまで行くと一種の狂戦士だな…。

 

「今、我等の手には4本の聖剣がある。正義感の強いお前の事だ。この状況を静観は出来ないだろう?」

 

挑発してるつもりか…!!

 

「俺達はこれより、貴様達が通っている学び舎にて聖剣を融合させる儀式を行う。そこから俺が望んだ戦争が始まる!それを止めたければ、遠慮せずに来るがいい!俺は貴様を待っているぞ!!!」

「バイビ~!!」

 

コカビエルは翼を羽ばたかせて飛んでいった。

それに合わせてフリードも転移していった。

 

私はコカビエルの掌で踊らされている自分に、心底腹が立って、思わず拳を握りしめていた。

 

「マユ……行くのかにゃ?」

「絶対に罠に決まってるわよ!」

「だが……ここで行かないと言う選択は無い…!」

 

アイツは私を指名している。

もしもここで奴の事を無視したら、今度は別の誰かを襲うだろう。

もしかしたら、黒歌やレイナーレかもしれない。

それだけは絶対に嫌だ!

 

「リアスに白音…それにアーシア。一緒に来てくれないか?」

「わ…私もですか?」

「ああ。裕斗とゼノヴィアが逃げ切ったとはいえ、無傷でいる可能性は低い。誰かが現場で二人の怪我を治す必要がある」

「わかりました……」

「リアスは朱乃に連絡を。あまり巻き込みたくは無いが、戦力は一人でも多い方がいい」

「了解よ」

「黒歌とレイナーレはイリナの事を頼む」

「……うん」

「無茶すんじゃないわよ…」

「当然だ」

 

私だって今までで学んでいるさ。

 

「この三人はこのまま寝かせといてやってくれ」

「そうね。この子達を起こすわけにもいかないし」

 

私は三人をそっと抱き上げて、そのまま自分のベッドに寝かせてあげた。

そして、そっと頭を撫でる。

 

「……行ってくる」

 

リアスと白音とアーシアが同時に頷く。

 

私達は急いで準備をして、駒王学園へと向かった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 駒王学園に行く途中で、リアスの携帯にソーナから連絡が入った。

どうやら彼女達もコカビエルの出現に気が付いたようで、公園に寄るように言われた。

 

公園に立ち寄ると、そこにはソーナを始めとした生徒会メンバーであるシトリー眷属が勢揃いしていた。

その傍には合流した朱乃の姿もあった。

 

「……と言う訳なんだ」

「成る程…。戦争を起こす為に聖剣を……」

 

聡明なソーナはすぐに事情を理解してくれた。

 

「今は学園全体を大きな結界で覆いつくしています。これによって、余程の事が無い限りは外部に影響は出ないです」

「感謝する」

「いえ……」

 

ソーナが赤くなるが、今はツッコんでいる暇はない為、無視。

 

「けど、これはあくまで被害を最小限にするための結界で、もしも彼が本気になれば易々と結界は破壊されるでしょう。もしもそうなった場合、学園はおろか、この駒王町事態が崩壊するかもしれません」

「この町が……!」

 

洒落になってないな…!

本気であいつを止めないと!

 

「私達はそれぞれに配置について、可能な限り被害を最小限に留める為に全力で結界を張り続けます」

「それは有難いが、無茶だけはしないでくれ」

「それはこちらのセリフです」

 

言われてしまった。

 

「朱乃。お兄様には……」

「もう連絡していますわ。一時間後には到着すると」

「一時間か……」

 

サーゼクスさんが来れば一気に勝率は上がるが、戦場においての一時間とは無限にも等しい時間だ。

それまで頑張るか、それとも……

 

「奴の狙いは私だ。それを上手くつけば勝機はあるかもしれない。それに……」

 

私は自分の左腕を見た。

 

「いざと言う時は、また『力』を貸して貰う」

『ふっ…当然だ。相棒』

 

きっと、誰かの禁手を使わないと勝利は難しいかもしれない。

 

『後、アラガミにも注意しておけ』

「うん」

 

前回といい前々回といい、事態が終局に向かおうとした瞬間にアラガミが介入してきた。

今回もまた無いとは限らない。

警戒はしておいて損は無い。

 

私は自分の中の不安を払拭するように皆を顔を見渡した。

 

「皆……いくぞ!!!」

「「「「「「はい!!」」」」」」

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 学園の正門から入った私達が最初に見たのは、校庭の中心にて眩しく輝きながら浮いている四本の聖剣擬きだった。

四本の剣を中心にして校庭全体に魔法陣が描かれていて、その中央にはバルパーが現在進行形で儀式をしていた。

 

「あれは……」

「これより四本の剣を一本に統合するのだよ。赤龍女帝」

 

成る程……これが例の儀式とやらか。

 

「ククク……待っていたぞ!赤龍女帝!その女神の様に美しい顔を屈辱に染められると思うと、今からでも昂ってしまいそうだ!」

「お前は……!」

 

この戦闘狂が…!

腕組みしながら校庭の上空で偉そうにふんぞり返っているコカビエルを見ると、嫌でもイラっとしてしまう。

 

「おいバルパーよ。あとどれぐらいで儀式は完了する?」

「もう少しだ。あと5分もかからんだろうさ」

 

五分って…!

タイムリミット短すぎ!!

 

『…マスター。ここは俺にやらせてはくれないか?』

「アーチャー?」

『例えどのような形でも、『聖剣』と言う存在を汚されて黙っていられるほど、俺は呑気な性格をしているつもりはない…!』

 

そうか…聖剣はエミヤとアーサー王の絆の証…。

幾ら偽物とは言え、聖剣をこんな形で戦争に利用されたとあっては、彼も立たないわけにはいかないか…。

 

「分かった。共に戦おう!エミヤ!」

『ああ!』

 

私は赤龍帝の籠手を出して、眼前に構える。

 

【Archer!】

 

音声と共に、私はアーチャーモードに入った。

 

「体が変化しただと…?面白い!」

 

こちらの変化を見たコカビエルは、その手に大きな光の矢を作り出した。

 

「ならば…まずは小手調べだ!!」

 

奴はそれをこちらに向かって投擲してきた!

 

「それなら!」

 

私は咄嗟に眼前に手を翳して、そこに魔力を込めて投影魔術を使った。

 

その瞬間、槍が激突して煙を上げる。

 

「「お姉ちゃん!!」」

「「マユさん!!」」

 

四人が必死に叫ぶ声が聞こえるが、そっちを向いている余裕はない。

何故なら……

 

熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)…!!」

 

投影魔術でガードしていたから。

 

「あの一瞬で防御結界を出しただと?」

「私を舐めるな」

「ククク……ハハハハハハハハ!!そうでなくてはな!」

 

キモイ声で笑ってんじゃねぇよ。

マジでウザい。

 

にしても……

 

「アイアスの花びらが一枚も砕けていないとはな。存外、大したことが無いな」

「なんだと…?」

「かの光の御子と言われた英雄『クー・フーリン』のゲイボルグは、アイアスの盾を崩壊寸前まで追い込んで見せたぞ?」

 

エミヤの記憶で見せて貰ったが、あれはマジで凄かった。

英雄同士のタイマンって凄い迫力だった。

 

「あの一撃を受けても揺らぎもせんとはな。流石は伝説の戦士と言った所か」

 

バルパーが感心したように会話に入ってくる。

ジジイは引っ込んでろ!

 

「この俺を愚弄するか…!それなら……」

 

コカビエルが指をパチンッと鳴らす。

すると、宵闇に紛れて獣臭い匂いが漂ってきて、同時に地響きのような音も聞こえる。

それは段々と近づいてきて、月明かりによってその姿が明らかになった。

 

「これは……!」

 

凶暴な三つの顔に鋭い爪と牙。

そして、巨大な体躯。

アラガミを見慣れている私からすれば大した大きさには感じないが、それでも大きい方だ。

 

「ケルベロス…!貴方はなんてモノを人間界に持ち込んだの…!」

 

リアスが悔しそうに呟く。

あれがギリシャ神話に出てくる地獄の番犬『ケルベロス』か!

 

「これを倒してみせろ!それぐらい出来なくては、俺と戦う資格すら無いぞ!」

 

……いくらなんでも、私を舐めすぎでしょ。

これぐらい、アラガミ共に比べれば可愛いもんだ。

 

「……なんか少し腹が立った。アーチャー、『アレ』を使って一撃で仕留めるぞ」

『ふっ…。俺も丁度同じ事を言おうと思っていたところだ』

 

息ピッタリだ。

ならば…!

 

「皆、少しだけ離れていてくれ」

「な…何をする気!?」

「お姉ちゃん一人では危険ですわ!」

「皆で力を合わせれば……」

「大丈夫だ」

 

皆を安心させるために、敢えて笑顔で応える。

それを見た皆は、渋々と言った感じで距離を取ってくれた。

 

「…ありがとう」

 

私は脳内でイメージを固める。

 

「……トレース…オン!!」

 

魔力が集積し、私の右手には黒い弓が、左手には一本のねじれた剣があった。

 

その間もケルベロスは着実に近づいてくる。

 

「おいおい、そんな弓と剣で何をする気だ?」

「こうするんだよ!!」

 

私は思いっきりジャンプして、ケルベロスを下に捕らえた。

オラクル細胞の恩恵で、コカビエルのいる場所までジャンプ出来た。

 

「なっ!?」

 

それに驚いているコカビエルだけど、ここは無視。

 

私は空中で弓に剣をつがえる。

それを全力で引き絞る。

弓が私の力に悲鳴を上げているが、気にせずに力と魔力を込める。

そしてそれを……

 

「我が骨子はねじれ狂う……」

 

全力で放つ!!!

 

偽・螺旋剣(カラドボルグ)!!!」

 

カラドボルグは真っ直ぐにケルベロスへと向かって行き、ヤツに直撃した。

ぶち当たった瞬間、凄まじいまでの爆発が起きて煙が巻きおこる。

そして、風が吹いて煙が無くなると、そこには……

 

「ば…バカな…!?」

 

ケルベロスの姿は無く、その代わりに大きなクレーターが出来ていた。

 

「あのケルベロスを一撃で……しかも、跡形も無く消滅させただと…!?」

 

驚いているコカビエルを横目に、私は地面に着地した。

 

「す…凄い…!」

「お姉ちゃんの強さには限界は無いのかしら…!」

 

少しだけスッキリした感じ。

なんかかんだ言って、やっぱりエミヤも立派な英雄だ。

じゃなきゃ、こんな攻撃出来ないよ。

 

「マユさん!後ろです!!」

 

白音が私に向かって叫ぶ。

ふふん。もう一匹が隠れていた事ぐらい御見通しなのだよ。

 

「大丈夫だ。何故なら……」

 

私に向かって来たもう一匹のケルベロスは、Xの形に切り裂かれた。

切り裂かれたケルベロスは塵となって消え去った。

 

「この二人がいるからな」

 

私の後ろにいたのは、いつの間にか来ていた裕斗とゼノヴィアだった。

二人の手にはそれぞれに剣が握られている。

 

「お待たせしました、先輩」

「遅れて済まない。だが、その分はちゃんと働かせて貰おう」

「ああ。頼む」

 

ここで二人の増援。

実に心強い。

 

「お姉ちゃん!もう一匹いますわ!」

 

またか…!

 

面倒くさくなった私は、向かってくるケルベロスに向かって全力全開の殺気を放った。

 

「消えろ……!!!!!」

 

すると、ケルベロスは急に子犬のような声を上げて、泡を吹いて倒れてしまった。

 

「地獄の番犬と言われたケルベロスを殺気だけで圧倒しただと…!?」

 

アラガミと戦っていれば、嫌でもこういった技術は磨かれるつっーの。

ほんと、私ってばとことんまで戦う事に特化してるなぁ…。

 

全部のケルベロスを倒して、次はコカビエルかと上を向くと、いきなりバルパーの声が校庭に響いた。

 

「……完成した」

 

ヤバッ!ケルベロスを倒している間に儀式が終わってしまったか!?

 

魔法陣の上に鎮座している四本の剣が眩しく光り出すと、一つに融合していく。

光が収束した後に残ったのは、一本に融合した剣だけだった。

 

「エクスカリバーが一本に融合し、その影響で下にある術式も無事に完成した。これで後少しでこの町は崩壊するだろう。タイムリミットは約20分と言ったところか。それまでにこの俺を倒さなければ、全てが無に帰すぞ?」

 

こうして、私達とコカビエルとの戦いは一気に佳境に向かって加速するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




取り敢えずのプチ無双。

次は裕斗とゼノヴィアにちょっと頑張って貰って、

マユには今までの鬱憤を晴らすかのような大活躍をして貰いましょう。

そして、まさかの新キャラが……?

では、次回。


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第49話 無限の剣製

ここから一気に盛り上がります。

そして、遂に真の聖剣が…?


 ケルベロスの撃破をしている間に聖剣(偽)の融合が完了してしまった。

しかも、あと20分でコカビエルを倒さなくてはいけないというおまけ付きで。

 

くそ…!冗談じゃない!!

 

「20分……これじゃあお兄様は……」

「どう足掻いても間に合いそうにはありませんわね……」

 

もしかしたら、コカビエルはそれすらも見越していたのかもしれない。

だとしたら、中々の策士だな……って、なんで感心してるんだろう。

 

「フリード!来い!」

「へいへい」

 

コカビエルに呼ばれて、暗闇の中からフリードが出現した。

 

「陣にあるエクスカリバーを使用しろ。一本に統合された聖剣の力を見せてみろ」

「はぁ……りょーかい」

 

ん?なんかやる気が感じられないぞ?

 

ダルそうにしながらも、フリードは魔法陣の中に入り剣を取る。

 

「ま、そんな訳だから、いっちょ俺様と戦って貰うぜ?」

 

フリードは剣を肩に担ぎながらこっちに話しかける。

だが、彼からは全くと言っていい程に闘気も殺気も感じられない。

 

(本気でどうした?いつものアイツらしくないぞ…)

 

なにか心境の変化でもあったのだろうか?

だが、敵対者の心境なんて気にしている場合じゃない。

今は時間が無いのだから。

 

「………裕斗」

「はい」

 

私が目配せをすると、裕斗は迷わず頷き、フリードの前に立った。

 

「君の相手は僕だ」

「そうかい。今にして思えば、お前と俺は色々と因縁があったな」

「そうだね」

「ここらでいい加減、マジで決着をつけるか?」

「奇遇だね。僕も丁度、同じ事を言おうと思っていたところさ」

 

裕斗は少しだけ笑みを浮かべると、いつものように風刃剣を構えた。

 

「待ってくれ」

「ん?」

 

これからと言う時に、ゼノヴィアが裕斗の隣に立った。

 

「私も一緒に戦わせてもらう。元々、あの剣の回収、または破壊が私の任務だからな」

「それは……」

「そちらに事情があるのは百も承知だ。だが、こちらにもこちらの事情がある事を理解して欲しい」

「……分かった」

 

ま、彼女は仕事で来てるんだしね。

共同戦線を依頼した以上、ここで無下には出来ない。

 

「戦う前に少し言いたいことがある」

「なんだよ?」

 

裕斗はバルパーの方を向いて睨み付けた。

 

「バルパー・ガリレイ。僕は嘗て貴様が参加した聖剣計画の唯一の生き残りだ。あの研究所から脱出した後に、僕は彼女に……赤龍女帝に命を救われた」

「あの計画の……。道理で先程から私の事をずっと睨み続けている筈だ」

 

分かってたのか…。

 

「まぁ……確かに紆余曲折があったりはしたが、最終的にはお前達のお陰で計画は無事に完遂することが出来た。鬼畜にも劣る実験体にもようやく価値が生まれたな」

「どういう意味だ…!お前達はあの時、確かに僕達を失敗作として処分しようとしたじゃないか!!」

「確かにその通りだ。だが、世の中にはこんな言葉もある。『失敗は成功の母』とな」

 

その言葉……まさか!?

 

「あれからも我々は研究に研究を重ね、あの『聖剣』を扱うには『因子』の存在が必須なのが判明した。実験体連中の中にも因子を所持している者はいたが…どいつもこいつもが聖剣を扱いきれるほどの力を有していなかった。だが……」

「塵も積もれば山となる……か?」

「そう!その通りだ!流石は赤龍女帝。聡明な頭脳だ!」

 

なんて事を考えつくんだ……コイツは!

 

「彼女が言った通り、因子が小さくとも、それをいくつも集積して一つにすれば、聖剣を扱うには充分なほどの数値に達する事が出来る。我等はそれを繰り返していき、徐々に聖剣を扱える人間を増やしていったのだよ」

『外道が……!』

 

エミヤが周囲を気にせずに毒づくが、私も激しく同感だった為、気にしないであげた。

 

「ま…まさか……聖剣使いが祝福を受ける際に体に入れられるのは……!」

「そう。複数の因子を一つに纏め、結晶体にしたものだ」

 

嬉しそうにしながら、バルパーは懐から怪しく光る球体を取り出した。

恐らく、あれが聖剣の因子とやらを結晶体にしたものだろう。

 

「お陰で私の研究は驚くほどに進んでいった。だが、教会に巣食う分からず屋共は私の事を異端者として排除した。自分達だって五十歩百歩だと言うのにな」

 

言葉から察するに、こいつも教会の『闇』を知っているようだな。

 

「バルパー……お前と言う男は何処まで人間の命を玩具にすれば気が済むんだ…!」

「さぁ?私が満足するまでじゃないのかな?ははははは!!」

 

バルパーは手に持っていた因子の結晶体を地面に投げ落とした。

 

「これも何かの縁だ。それはお前にくれてやろう。因みにその結晶体はお前の同期の連中から抜き取った代物だ。遠慮しなくてもいいぞ?今では材料とちゃんとした機器さえあればいくらでも量産は可能だしな」

 

結晶体はそのまま裕斗の足元まで転がっていった。

まるで、意思を持つかのように。

 

裕斗はその場に膝をつき、その結晶体を丁寧に拾い上げた。

 

彼の瞳から涙が流れ、結晶体に落ちた。

 

すると、その瞬間に結晶体から淡い光が発せられて、それは校庭全体を覆いつくすほどに拡大した。

 

光が広がり、裕斗の傍にいくつもの半透明な人影が見えた。

 

「そうか……あの子達が…」

『そのようだな……』

 

彼等は一様に何かを話そうとしている。

けど、その口から声は発せられない。

 

私は彼等の口の動きの注目して、それで言葉を読み取ろうとした。

 

「ジ・ブ・ン・タ・チ・ノ・コ・ト・ハ……」

 

自分達の事はもういいから、これからは自分の為に生きてくれ。

 

その言葉はちゃんと裕斗にも届いたようで、一気に彼の目から涙が溢れだした。

 

「僕は…僕は…いつも思っていた…。僕以上に夢を持った子がいた。僕以上に生きたいと願った子がいた。それなのに、僕だけがのうのうと生きていてよかったのかと……」

 

裕斗の積年の想いを聞いて、彼等は口元を緩めた。

 

そして、彼等の口が規則正しく動き出した。

 

「あれは……」

「聖歌……」

「歌っているの…?」

 

どうやらアーシアには分かったようで、それを聞いて私達も納得した。

 

彼等の歌に合わせて、裕斗も口を動かしている。

 

「多分…あの聖歌は彼等にとって、過酷な環境でも生きる力を失わない為の唯一の希望だったんだろう……」

『希望……か』

 

すると、彼等から光が発せられて、裕斗を優しく包み込んだ。

 

彼等は言っている。

 

自分達だけでは駄目だった。

 

けど、皆の力を合わせれば、

 

きっと、なんだって出来る。

 

だって、僕達はもう一人じゃない。

 

僕達は……

 

「一つだ……」

 

彼等の魂が一つに重なり大きな光になった後、裕斗の体を覆いつくした。

 

「この感じは……」

『ふっ……木場祐斗。遂に君も至った(・・・)ようだな』

 

そうか……これが……

 

「彼の禁手(バランス・ブレイク)…か」

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 裕斗を禁手に導いた光。

それは未だに存在し続けて、また収束し始めた。

 

「こ…今度はなんだ?」

「皆は…一体何を……」

 

裕斗本人も分からないようで、目を見開いていた。

 

収束した光は人型になって、私の方を向いている。

 

段々と姿が鮮明になっていって…それは……

 

「ま…まさか……!?」

 

……シオの姿になった。

 

まるで、ノヴァを討伐する為に東奔西走していた時に何回も見た『白い少女』の様に…。

 

『りーだー』

「シオ……なのか……?」

『うん!シオだよ~!』

 

シオは私の方にやって来て、ドンッ!と抱き着いてきた。

 

『えへへ……。きちゃった』

「なんで…ここに……?」

 

シオは月にいる筈じゃ……。

 

『あのこたちにきょーりょくしてもらった』

 

シオが後ろを向くので、私も同じ方を向く。

そこには先程の彼等が立っていた。

 

『ここまでつれてきてくれて、ありがとね。ありがと~!』

 

彼等は嬉しそうに頷いた後、今度こそ本当にいなくなった。

 

「先輩……その子は……」

「私が……嘗て、救えなかった子だ……」

「え?」

 

涙が溢れるのを止められない。

 

私は涙を流しながら、シオに抱き着いた。

 

「ゴメン……ゴメンね……。私が弱かったせいで……君を救えなかった……守ってあげられなかった……」

 

シオも私の体に手を伸ばして抱きしめてくれた。

 

「もっと皆と遊びたかったよね……もっとお話したかったよね……」

 

私は……彼女に何もしてあげられなかった。

シオの事を絶対に護ると誓っておきながら、結局は何も出来なかった。

私は……無力だった。

 

『だいじょうぶ』

「シオ……?」

『シオね、リーダーにいろんなことをいっぱいおしえてもらった。ほんとうに…ほんとうに……ありがとね』

 

シオは私から離れて、魔法陣の方に向かった。

 

『シオは…リーダーに……ソーマに……みんなにすくってもらった。だから、おんがえし…するね?』

「シオ……何を……」

 

シオは先程までバルパーがいた魔法陣の中央まで歩いて行って、祈るようなポーズをした。

 

「あの小娘……何をする気だ?」

「いいではないか。余興として見てやろうではないか」

 

ここであいつ等の声を聴くと、全てが台無しに感じる。

 

そっと目を瞑り……シオは静かに歌いだした。

 

嘗てソーマと一緒に聴いたという……あの歌を…。

 

「綺麗な歌声……」

「まるで……神の讃美歌のようですわ……」

「涙が…止まりません……」

「こんなにも美しい歌が……この世にあるんですね……」

 

他の皆も泣いているようで、私もさっき以上に涙が流れていた。

 

歌と共にシオの体が眩しく光り出し、魔法陣の光を相殺していく。

 

「なっ!?」

「ば…バカな!?あの魔法陣が消えていくだと!?」

 

シオが歌い終わると、魔法陣は跡形もなく消えていた。

 

「シオ……お前は……」

『シオ、えらいか?』

「うん……凄く…偉いよ…」

 

シオは嬉しそうにしながらこっちにやって来て、私に微笑みかけてくれた。

 

「また……助けられたね……」

 

私は静かに彼女の頭を撫でた。

 

『奏者よ!エミヤよ!ドライグよ!何をしておる!!』

「ネ…ネロ?」

 

いきなりどうした?

 

『これ程の『愛』を!『優しさ』を!『祈り』を目の当たりにしながら、なんで何もしようとしない!?今こそ、この少女の想いに全力で応えるべきではないか!?』

 

そうだ……その通りだ……!

 

「エミヤ……ドライグ……!」

『皆まで言うな、相棒』

『私の…いや、俺の力の全てを君に託そう!俺が戦いの果てに得た極地。今こそ解き放て!!』

「ああ!!」

 

赤龍帝の籠手が深紅に輝き出す。

 

「この光は……!」

「お姉ちゃんも!?」

 

皆が驚く中、私は籠手を前方に突き出した。

 

【Welsh Dragon Archer Balahce Bleakr!!】

 

私の体が深紅の光に包まれる。

 

その光は一瞬で収束し、消えた後には格好が変わった私がいた。

 

嘗て記憶の中で見たエミヤ……アーチャーと同じ赤い外套を纏い、下には黒いインナーを着ているが、隠れているのは胸の部分のみでおへそは丸見えである。

そして、下半身は真っ黒なミニスカートを着ていて、中には同じく黒いホットパンツを着用。

太腿まで伸びた黒いロングブーツを履いていて、動きやすさ重視と言った感じ。

 

「これが……錬鉄の英雄と呼ばれたアーチャーさんの力を解放した姿……」

 

今までとは違い、実に良識的な格好だ。

これなら羞恥心に捉われる事も無い。

 

「ほぅ…?それが貴様の禁手か。面白い……」

 

魔法陣が消されたと言うのに、未だに余裕ぶっているコカビエル。

けど、今からすることで、そのニヤケ面を消してやるよ。

 

「これだけで終わると思ったら大間違いだ」

「なに?」

「アーチャー。早速であれだが、切り札を使うぞ」

『構わん。俺もアイツの顔は見飽きて来た所だ』

 

はい、本人の了解を得ました。

 

「ならば…遠慮なく行こうか!」

 

私は自分の胸に手を当てて、極限まで精神を集中させた。

 

「『I am the bone of sword.(体は剣で出来ている)』」

 

私とエミヤの声が重なり、『詠唱』が始まる。

 

「『Steel is my body.and fire is my blood.(血潮は鉄で 心は硝子)』」

 

私の周囲に何本かの『剣』が精製されていく。

 

「『I have created over a thousand blades.(幾たびの戦場を超えて不敗)』」

 

剣の数が増えていき、段々と『世界』が書き換えられていく。

 

「『Unknown to Death.(ただの一度も敗走はなく)』」

 

私の脳裏に『ある光景』が思い浮かべられていた。

 

「『Nor known to Life.(ただの一度も理解されない)』」

 

それは、無数の剣が乱立する荒野で一人佇む男の姿。

 

「『Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)』」

 

とても力強く、そして悲しい姿だった。

 

「『Yet.those hands will never hold anything(故に、生涯に意味はなく)』」

 

けど、その姿を私は……とても美しいと感じた。

 

「『So as l pray.unlimited blade works.(その体は、きっと剣で出来ていた)』」

 

詠唱が終わると同時に、文字通り『世界』が『書き換えられた』。

 

あっという間に周囲の風景が校庭から、無数の剣が地面に突き刺さっている荒野へと変貌した。

 

「な…なんだ!?これはっ!?」

「これはまさか……!」

 

バルパーは狼狽えているが、コカビエルはすぐに察したようだ。

 

「貴様……固有結界を発動させたのか!?」

「その通り。ここは嘗て、『世界』と契約し、その魂すらも世界の平和と正義の為に捧げた、一人の男の心象風景だ」

 

固有結界。

 

使用者の心象風景を具現化する魔術の奥義にして、禁忌の大魔術。

これは湯水のごとく魔力を消費する為、通常は五分もてばいい方だ。

だが、今の私はドライグの魔力を利用している為、一時間は余裕で展開可能だ。

 

「こ…これがアーチャーさんの切り札…!」

「世界そのものを変えてしまうなんて…」

「スケールが大きすぎますわ……」

 

エミヤの人生そのものと言っても過言じゃない力だからね。

これぐらいは当然だよ。

 

「裕斗。ここなら思う存分暴れても大丈夫だ。遠慮せず全力で行け!」

「はい!」

 

いい返事だ。

 

「ここにあるのは全てが偽物だ!だが、偽物が本物に敵わないと言う道理は何処にもない!」

 

私は今も猶、空中でふんぞり返っているコカビエルに叫んだ。

 

「時は来た!お前の運命の没する時だ!!」

「面白い!面白いぞ!赤龍女帝!!こうでなくては俺がここまで来た意味が無い!!」

 

コカビエルは楽しそうに地面に降りてきた。

その顔は今まで以上に笑っていて、心から闘争を…戦争を楽しもうとしているのを感じた。

 

私はコカビエルを、裕斗はフリードを見続けている。

 

こうして、戦いは終局に向けて走り出した。

 

そんな中、無数の剣の中で一本だけ、黄金に光り輝く剣があったのを、その時の私は見落としていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




無限の剣製の詠唱の部分が大変だったよぉ~!

あれを易々とやっている皆さんって本当に凄いですね…。

マジで尊敬しちゃいます。

さて、ここで無限の剣製が来たら、次は……?

では、次回。


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第50話 約束された勝利の剣

こちらではお久し振りです。

まさか、記念すべき50話でこのサブタイトルとは……。

なんか、運命の様な物を感じますね…。


 禁手によってアーチャーの力を解放したマユの手によって無限の剣製(アンミリテッド・ブレイドワークス)が展開。

それにより、駒王学園の校庭は無数の剣が屹立する荒野へと変化した。

 

その一角で、裕斗とゼノヴィアがフリードと対峙していた。

 

「僕はもう…絶対に先輩の事を裏切らない。あの人の想いに報いるために、必ず勝つ!」

「……そうかい」

 

完全に過去を振り切った裕斗とは違い、フリードは何時のも感じではなかった。

まるで、ここにいる事すらも気怠いと言わんばかりに。

 

「まぁ……仕事だしな。やれと言われればやりますがな」

 

フリードはその手に持った融合された剣を構えた。

だが、お世辞にも覇気があるとは言えなかった。

 

「僕は今度こそ皆の…先輩だけの剣になる!!だから、今こそ僕の想いに応えてくれ!!魔剣創造(ソード・バース)!!!」

 

裕斗の手から眩い光が発せられ、そこから闇と光を放つ不可思議な剣が出現した。

 

「お前……それは……」

「これが僕の禁手(バランス・ブレイク)…。その名も『双覇の聖魔剣(ソード・オブ・ビトレイヤー)』だ!!」

 

相反する二つの属性を兼ね備えた剣からは、今まで以上のオーラが発せられていた。

 

「ここで禁手かよ…。こりゃ、ますます……」

 

盛大な溜息を吐くフリードを無視して、裕斗は果敢に斬りかかる。

 

「はぁっ!!」

「ちっ!」

 

互いの剣が激しくぶつかり合う。

火花が散ると同時に、フリードの持つの剣から聖なるオーラが消えていく。

 

「……やっぱりか」

 

何かを納得したのか、フリードから増々やる気が失せる。

それを見て、バルパーは激昂した。

 

「何をしているフリード!!その剣ならいかなる相手であろうとも……」

「耄碌ジジイは引っ込んでろ!!!」

 

今までとは違う剣幕でバルパーに叫ぶフリード。

そこからはこれまでの飄々とした感じは無かった。

 

裕斗から一旦離れて間合いを取るフリード。

しかし、次の瞬間、彼は構えを解いてしまった。

 

「どうしたんだい?いきなり構えを解いたりして…」

「単純に飽きちまったんだよ」

「飽きた……だって?」

 

いきなりフリードは剣を地面に投げ捨ててしまった。

 

「ほらよ。欲しけりゃやるよ」

「き…貴様!何をしているのか分かっているのか!?」

「別にいいだろ。こんなパチもん」

「な…なんだとっ!?」

「フリード……君は……」

 

フリードが地面に落ちている剣を見つめる目は、どこまでも冷ややかだった。

 

「なんとなく、そんな気はしてたんだよ。最初にこの剣を握った時からな」

「ならば……何故……」

「一応、ビジネスだからな。やるべき事はこなすっつーの。けど、それもここまでだ」

 

バルパーの方を見るフリードだったが、その顔にはもう上司を見るような表情は無かった。

 

「大体、マジもんの聖剣が壊れるとか、普通は有り得ねぇだろ。それに……」

 

今度は裕斗の方を見るフリード。

 

「因子を埋め込んだ程度で聖剣が扱えれば、誰も苦労しないだろ」

「それはそうだが……」

「なんでこれが世に聖剣として出回っているのかは分かんねぇが、少なくともこれだけは言える。本当のエクスカリバーはどこかにまだ存在している。そうとしか考えられねぇよ」

 

遠くにてコカビエルと対峙しているマユの事を見つめるフリード。

 

「多分、その在り処はあの嬢ちゃんが知ってるんじゃねぇか?」

「先輩がだって…?」

 

急に地面に座り込み、完全に脱力するフリード。

その姿からは、もう完全に戦闘意欲が抜けていた。

 

「ほれ、教会の嬢ちゃん。この剣を取り戻しに来たんだろ?とっとと持っていけ」

「そうだが……この剣はもう、私が知っている剣じゃない。多分、破壊した方がいいだろう」

「けど、どうやって?いくら偽物でも、強度は本物だ」

「大丈夫だ。こんな時こそ、私の切り札の出番だ」

「は?」

 

ゼノヴィアが何もない空間に右腕を掲げる。

すると、そこの空間がいきなり歪み、その中心部分に手を入れると、そこから凄まじい程の聖なる力を宿した一本のクレイモアが現れた。

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我はこれを解放せん!出でよ!デュランダル!!」

「へぇ~……そんなジョーカーがあったのかよ…。増々勝ち目がねぇじゃねぇか」

「ば…バカな!?私の研究では未だにデュランダルを使用できる領域には至っていないぞ!」

「確かに、人工的なデュランダル使いは未だに創れていないだろうな。だが、残念ながら、私は世界的に見ても希少な天然物のデュランダル使いなんだよ」

 

自信に満ちた表情でデュランダルを見せつけるゼノヴィア。

そこから発せられるオーラによって、融合した聖剣擬きは罅割れ始める。

 

「では、遠慮なく壊させて貰おう!」

「や…やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 

全力でデュランダルを振りかぶり、思いっきり振り下ろす。

刀身が聖剣擬きに激突し、粉々に砕け散った。

 

「わ…私の聖剣がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!研究の集大成がぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

場にバルパーの慟哭が響き渡る。

それに構わず、聖剣擬きの残骸の中からコアを取り出すゼノヴィア。

 

「これで、任務完了だ」

「あ……あああ……!」

 

力無く膝をつくバルパー。

そんな彼を裕斗が迫る。

 

「今度は貴様の番だ…!地獄で皆に償え……!」

 

バルパーの運命は風前の灯火だった。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 向こう側での剣戟の音が止んだ。

どうやら、裕斗とゼノヴィアの戦いは決着が付いたようだ。

 

「ほぅ?どうやら向こうは向こうでケリが付いたようだな」

「ならば、こっちもやるか?」

「そうだな。ならば、始めようか」

 

私は近くに刺さっていた手頃な剣を抜いてから構えた。

 

すると、いきなりコカビエルがうっすらと笑いを浮かべた。

 

「……なんだ?」

「いやなに。知らぬが仏とはよくいったものだなと思ってな」

「どういう意味だ?」

 

いきなり諺なんて使いやがって。

違和感凄いんだよ。

 

「その様子から見て、どうやら貴様も何も知らされていなかったようだな?」

「なんですって?」

 

後ろから見ているリアスが怪訝な声を出した。

 

「ならば教えてやろう。お前が介入した先の大戦において、聖書の神と初代魔王は既に『死亡した……なんて言うんじゃないだろうね?』…なんだと?」

「こ…この声は…?」

 

私の籠手から収納している筈のスマホが出てきて、眩しく光りながら宙に浮いた。

 

口調は『あの人』に似ているけど……声が違う。

まるで、年頃の女の子みたいだった。

 

『全く……勝手に僕の事を死亡扱いしないで欲しいよ。聞いててムカついてきちゃったじゃんか』

「そ…その声は……まさか!?」

 

コカビエルが清々しい程に狼狽えてる。

ちょっとだけいい気味って思ってしまった。

 

スマホから発せられる光が段々と増していき、そこから一人の女の子が出現した。

彼女の背には黄金に光り輝く10対の翼が生えていて、全身から神々しさを放っていた。

 

「久し振りだね、コカビエル。こうして会うのは何百年振りかな?」

「ヤ…ヤハウェ!?何故貴様が生きている!!」

 

ヤ…ヤハウェって……まさか、聖書の神か!?

なんでここに!?

 

「嘘…でしょ…!」

「こんなことが……」

「信じられません……」

 

当然の如く、リアス達は驚愕しまくっている。

そして、アーシアは……。

 

「あ…ああ……主よ…。まさかその御身をご拝見出来る日が来るなんて…。もう…何も悔いはありません…」

 

うぉぉぉぉい!?

いきなりのトンデモ発言はやめてぇぇぇっ!?

 

「こうして君に会うのは初めてだね。マユちゃん」

「その呼び方……やはり……貴方なんだな……。『足長おじさん』」

「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」

 

ただ者じゃないとは思っていたけど、まさか聖書の神が正体だったとはね…。

なんとか冷静さを保っているけど、これが戦闘時じゃなかったら、恥も外聞もなく滅茶苦茶驚きまくっていたに違いない。

 

「うん。今まで黙っていてゴメンね」

「いや……きっと、何か深い事情があったんだろう。気にしてないよ」

(本当は面倒くさかっただけなんだけど…。気にしてないなら黙ってようっと)

 

足長おじさん……否、聖書の神ヤハウェは穏やかな微笑みでこちらを見ていた。

 

「ところで…どうして声まで変えて私に接触したんだ?」

「そうする必要があったからさ」

 

ここで深く問い詰めても、きっと答えてくれないんだろう。

なら、今は状況に身を任せよう。

 

「にしても……どうして君はそこまで争い事が好きなのかなぁ……」

「それが俺だからだ!戦場以外に俺の生きる場所は無い!」

「その為に戦争まで起こすか…。本当に腹立たしいよ」

 

その美しい顔を怒りに歪ませて、ヤハウェはコカビエルを睨み付ける。

 

「僕はあくまで、全ての勢力と仲良くしていきたいのに……」

「聖書の神ともあろう者が、まさかそんな腑抜けた事を言いだすとはな…!見下げ果てたぞ!」

「なんとでも言いなよ」

 

こっちの状況に気が付いたのか、裕斗達がやって来た。

 

「先輩!これは一体……」

「あの方は……もしかして……」

「その『もしかして』だよ。信徒ゼノヴィア」

「やはり……」

 

その場に跪き、両手を合わせて涙を流しながら祈り始めるゼノヴィア。

い…いきなりどうした!?

 

「拝謁出来て光栄の至りです……神よ……」

「あの女性が……神…?」

 

裕斗も驚いた表情のまま涙を流した。

 

「本当なら、最後まで傍観者に徹しようと思っていたけど、君の発言だけは聞き逃せない。流石の僕も、自分が死んだことにされるのは我慢ならない」

「ほぅ?ならばどうする?貴様が俺と戦うか?」

「その必要は無い。お前と戦うのは彼女の役目だ」

 

そう言って、私の方を見る。

 

「ここで僕が彼を倒しても意味が無い。これは、『人間』である『闇里マユ』が倒して初めて意味が生まれる」

「わ…私が……?」

 

私がコカビエルを倒す……か。

 

「その為の、『最高の助っ人』も用意したしね」

「助っ人だと?」

「うん。今までずっと『遠い場所』から君の戦いを見守り続けた英雄だよ」

「英雄……」

「そして、それは英霊エミヤ…君にとって最も縁が深い相手でもある」

『俺に……だと?』

「今から…『彼女』をここに呼ぼう。そして、見るがいい。唯一無二、絶対無敵、史上最強、天下無双の……聖剣を」

 

ヤハウェがその右手を天に掲げると、私の眼前に光の柱が出現した。

 

「な…何を…?」

 

柱の中を通って、天上から一つの人影がゆっくりと降りてきた。

 

それは私の目の前にやって来て、地面に降り立った後、柱が消えた。

 

「あ…貴女は……」

 

そこには、青いドレスを着た、金色の髪を靡かせた美しい少女が立っていた。

その体は半透明で、周囲が煌く粒子によって守られていた。

 

「初めまして、神を喰らう者」

「は…はい……」

「そして…久し振りですね。……シロウ」

 

シロウ?

 

『セ…セイバー…なのか…?』

「はい……」

 

少女は静かに涙を流し始めた。

 

それを見て、急に胸が締め付けられるような思いになった。

 

「ヤハウェ……この女の子は……」

「彼女こそ、かのアーサー王こと、アルトリア・ペンドラゴンだよ」

「な……に……?」

 

なんか、今回は驚いてばっかりな気がする…。

だって、他の皆も絶句して声すら上げてないし。

裕斗に至っては思いっきり目を見開いてるしね。

 

「貴女の事はずっと『英霊の座』で見ていました」

「英霊の座?」

「死後、世界に名を遺した英雄たちの魂を補完しておく場……とでも思っていればいいよ。詳しく話すと長くなっちゃうし」

「わ…分かった」

 

それはなんとなくわかる。

 

「その身が傷つき倒れ、体の一部が変容しても猶、貴女は決して諦めず、その信念を揺らがせることは無かった。貴女はずっと……生きる事から逃げなかった」

 

アルトリアは私の手を握って、ジッとこっちの顔を見続ける。

 

「私は貴女の『夢』を知っている。それに向かって我武者羅に進んでいることも。そして、その『夢』が叶う寸前まで来ていることを」

「私の…夢……」

 

それは……。

 

「そんな貴女だからこそ託せる。否、貴女にしか託せない」

 

アルトリアは私から少し離れた。

すると、先程まで彼女がいた場所に黄金の光が収束し、一本の黄金の剣が地面に突き刺さった状態で現れた。

 

「この剣は……」

「そう。これこそが私の宝具にして、真の聖剣…『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』です」

 

す…凄いプレッシャーをひしひしと感じる……。

これがオリジナルのエクスカリバーか…!

 

「お…おおおおお!!!」

「え?」

 

なんか、向こうから興奮を隠せない状態のバルパーが走ってきた。

凄く鼻息が荒い。

 

「エ…エクスカリバー!!私の…私だけのエクスカリバー!!!」

 

バルパーが剣に触れようとした瞬間、剣から物凄いオーラが噴き出して、それに触れたバルパーが断末魔すら上げる暇もなく完全消滅した。

 

「愚かな男……」

『当然の末路だな』

 

辛辣かもしれないが、それは私も同感だ。

 

「こ…これはどういうことだ!?あの剣が本当のエクスカリバーだと!?ならば、あの剣は……」

「偽物に決まってるでしょう。聖書に刻まれた堕天使の癖に、その程度の事も分からないの?」

「くっ……!」

 

お~…悔しそうに顔を歪ませやがって。

ざま~みろ。

 

「これが……本当の聖剣……」

 

裕斗も驚きを隠せないか。

それにゼノヴィアも……

 

「う…美しい……」

 

この始末。

もう完全にキャラ崩壊してます。

 

「貴女にならこの剣を抜ける筈です。貴方もそう思いませんか?シロウ」

『ああ…。英雄王も言っていたが、君には間違いなく『王』としての素質がある。きっと大丈夫だ』

 

二人共……。

 

「聖書の神ヤハウェ。貴女にお願いがあります」

「なにかな?」

「私も…彼女の力になりたい。いいですか?」

「君ならそう言うと思っていたよ。…目を瞑って」

「はい」

 

アルトリアが目を瞑った瞬間、彼女の体が光に包まれ、そのまま赤龍帝の籠手に吸い込まれていった。

 

「お…おぉ~…」

『ぬお!?余と同じ顔の女が入ってきたゾ!?』

『また貴方に会えた……シロウ』

『セイバー……いや、アルトリア。俺も嬉しいよ』

 

うん。籠手の中でイチャイチャするのはやめて。

 

『うぅ~……リア充爆発しろ~!』

 

そして玉藻は五月蠅い。

 

『さぁマユ!いえ…マスター!今こそ聖剣を!』

 

思わず皆の顔を見渡してしまう。

すると、全員が頷いてくれた。

 

いつの間にかシオが近くまで来ていて、私の手を取って聖剣の柄を握らせた。

 

「だいじょうぶ」

「……そうだな」

 

私は先程まで握っていた剣を捨てて、自由になった両手で聖剣を握りしめた。

すると聖剣は、まるでそうなることが当然のように、いとも簡単に引き抜けた。

 

引き抜いた途端、聖剣から金色の光が放たれ、視界を覆いつくす。

 

「ま…まさか……貴様がエクスカリバーに選ばれたというのか!?」

「マユちゃんなら当然だよ。お前のような戦闘狂とは格が違うんだから」

「ヤハウェェェェェェェェェ!!!!」

 

激昂すんじゃないよ。

みっともない。

 

「これが…聖剣エクスカリバー……!」

 

見た目は黄金に輝く、装飾が派手なブロードソード。

けど、刀身からは考えられない程の力を感じている。

その上……

 

「凄く軽い……」

 

まるで竹刀を握っているかのような軽さだ。

これなら自在に操れる。

 

私はエクスカリバーを両手で構えて、コカビエルを見据える。

 

「さぁ……覚悟はいいか」

「おのれ…おのれ……」

 

コカビエルは冷や汗を掻きながら、こっちを睨み付ける。

 

「おのれ!おのれ!おのれ!おのれ!おのれ!おのれぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!赤龍女帝ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」

 

この一撃で全ての決着をつける!!

エクスカリバー!今こそ私に力を貸してくれ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




やばい……自分で引くぐらいブランクがある…。

これからも週一で更新するようにして、頑張らないと…!

しかも、決着が先送りになってしまったし…。

今度こそ…今度こそは!

では、次回。


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第51話 甦る聖剣伝説

今回の話のクライマックスはFateのOPとか聞きながら読むと盛り上がるかも?

ようやく、コカビエル戦が決着です。


 アーサー王ことアルトリアから聖剣を授かって、私はコカビエルと改めて対峙する。

 

私の体から黄金のオーラが噴出し、周囲が黄金色に煌いている。

 

「こ…これは聖なるオーラ!?」

「でも…全く痛みを感じませんわ…」

「はい…。それどころか、安らぎすら感じるなんて……」

 

ふとリアス達の会話が聞こえたが、それはどういう事だ?

聖なるオーラは悪魔達にとって害悪になるんじゃ…。

 

『それは単純です』

 

え?いうこと?

 

『エクスカリバーから出ているのは聖なるオーラではなく、この星の生命力だからです』

「生命力……!?」

 

オーラをコントロールしながら耳を傾ける。

 

『既にご存知かと思いますが、このエクスカリバーは人々の祈りと想い、星の命が具現化したものです。エクスカリバーに選ばれるという事は即ち、この星に認められたに等しいのです』

 

ま…マジですか!?

これって、そんなにも凄い物だったの!?

 

『貴女の強靭な肉体ならば、エクスカリバーの全力にも充分に耐えられる筈です!遠慮はいりません!』

「分かった!!」

 

全く…本当にオラクル細胞様様だな!

いつもは忌まわしいとしか感じないのに、戦いの時にはこれ程までに頼もしいとはね!!

 

「赤龍女帝ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

コカビエルが漆黒の翼を羽ばたかせ空中に浮き、攻撃態勢になる。

 

「聖剣ごと……死ねぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

右手にコカビエルの二倍はある巨大な光の槍を作り出し、私に向かって投擲した。

だが……

 

「ば…バカなッ!?」

 

光の槍は私から、正確にはエクスカリバーから噴出している星のオーラに阻まれて、一瞬で消滅してしまった。

 

『ふっ……。決まりだな』

 

慢心かもしれないが、私にも勝つと言う確信がある。

理由は不明だが、エクスカリバーを手にした瞬間から心の奥底から勇気が無限に湧いてくる!

お陰で、この戦い…全く負ける気がしない!

 

この一撃さえぶつければ戦いは終わる。

そう思ってエクスカリバーを持って正眼の構えになる。

 

「凄い……なんて綺麗な構えなんだ…」

 

おや、どうやら剣道をやっている裕斗のお墨付きを頂いたようだ。

密かに剣道部の練習を見学したり、時には参加したりした甲斐があった。

 

『マスター!感情を込めて力を上げてください!』

「ああ!!」

 

さっき以上に力を込めてエクスカリバーを握りしめる。

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

 

裂帛の気合いを共に声を上げると、聖剣の輝きが更に増した。

 

「ドライグ!!」

『ま…まさか…やるのか!?』

「当たり前だ!やれ!!」

『…分かった!お前の事を信じているぞ!相棒!!』

 

【Boost!】

 

倍化の力をエクスカリバーに込める。

すると、オーラと輝きが二倍に膨れ上がった。

 

「ま…まさか…この状況で倍化をしたの!?」

「な…なんてプレッシャーですの…!」

「空気が…震える…!」

「肌が…ピリピリします……」

 

も…もしかして、皆にも影響が出てる!?

でも…ゴメン!

もうちょっとだけ我慢してくれ!

 

黄金の光越しにコカビエルを睨み付ける。

 

「くっ……!」

 

冷や汗を滲ませながら怯んだコカビエル。

どうやら、精神的にも優位に立ったようだ。

 

けど、そう簡単に物事は終わらない。

 

『あ…相棒!』

「やっぱり来たか…!」

 

もうお約束だよな…!

 

地面の下からいきなり、土煙を上げながら銀色に輝く巨体が出現した。

 

「な…なんだっ!?」

「蠍…?」

 

それは、まるで西洋の鎧を全身に纏った巨大な蠍。

 

「ボルグ……カムラン……!」

 

熟練の神機使いでも苦戦することがある大型アラガミ。

さっきまで気配の欠片も無かったのに、ここにいきなり出現した。

それはつまり……

 

『まさか……!?』

「恐らく…そのまさかだ……!」

 

エミヤの予想通り、こいつは前回倒したハンニバルと同様に、ここで『発生』した個体だろう。

それなら気配の感じようがない。

 

『ど…どうする気だ!?相棒!神機に持ち替えるか!?』

「いや……このままでいい……!」

『な…なんだと!?本気か!?マスター!』

「ああ…!アラガミには体験した事の無い攻撃なら、一回だけ通用する…!それはサーゼクスさんが実証してくれた…!」

 

こうしている間にも、ボルグ・カムランは周囲を見渡していた。

 

「ククク……。この化け物がなんなのかは知らんが、少なくとも、貴様にとっての敵であることは間違いないようだな!」

 

よくお分かりで…。

 

「俺にも風が向いてきたな!ヤハウェ!」

「本当にそうだといいね」

 

ヤハウェ……お前は……。

 

「私はマユちゃんを…ゴッドイーターを信じてる。彼女は…彼女達は、誰かを守る時…無敵の存在になるって」

 

持ち上げすぎだよ…と言いたいが、今はそんな余裕が無い…!

 

「ドライグ!ギアを上げるぞ!」

『ほ…本気か!?これ以上はいくらお前でも…』

「ボルグとコカビエルを同時に倒すには、まだ足りない!だから!」

『くっ…!ならば、一気に行くぞ!』

「おう!」

 

【Boost!Boost!Boost!Boost!】

 

一度に四回倍化した。

これで合計で五回倍化したことになる。

即ち……

 

「32倍……だ…!!」

 

正直、こうして構えているだけでも辛い…!

けど!ここで私が怯むわけにはいかない!皆を守る為に!!

 

一気に増大した力に反応したのか、ボルグが私に気が付いた。

ま、当然か。

 

ボルグがこちらに向かって突撃してくる。

それを見て、今だと思った。

 

「行くぞ…!!」

 

攻撃する。

そう決意した瞬間…私の心は驚くほどに冷静になった。

さっきまでの辛さはどこに行ったのか。

まるで静かな湖面のように心が澄み切っていた。

 

(これなら……行ける…)

 

エクスカリバーを頭上に構える。

すると、黄金のオーラがまるで塔のように直上に上っていった。

そして、一歩だけ足を前に進めると、普通なら地面と足とが擦れる音が鳴る筈が、どう言う訳か水の上に立ったような音が静かに響いた。

 

「この俺の最大の一撃だ!!これで決着をつけてやる!!!」

 

コカビエルはその頭上に今までとは比べ物にならない程の巨大な槍を生成した。

どうやら、あれがアイツの最大の攻撃のようだ。

ならば……!

 

(それを真正面から打ち破る!!)

 

コカビエルが全力で巨大な光の槍の投げつけた。

同時にボルグもこっちに迫ってきている。

普通なら絶体絶命の大ピンチ。

だが、今の私は一人じゃない。

ドライグが…エミヤが…アルトリアが…ヤハウェが…そして、大切な友達や家族がいる!!

 

「今…常勝の王は高らかに…手に執る奇跡の真名を謳う」

 

気が付けば、自然と口が動いていた。

一人の少女から一人の王となった人間の生涯を語っているかのように。

 

「束ねるは星の息吹、輝ける命の奔流……」

 

私は全力で聖剣を振りかぶった!

 

「消え失せろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

聖剣が今までで最大級の光を放つ!!

 

約束された(エクス)……」

 

眼前までボルグと光の槍が迫る。

 

勝利の剣(カリバー)ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

超絶的なまでの黄金の光が生まれ、光の槍とボルグ・カムラン、そして…コカビエルを飲み込んだ!!

 

ボルグは獣のような咆哮を上げて消滅し……

 

「この俺が…この俺が人間如きにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!!!」

 

そんな断末魔を響かせながら、コカビエルはこの世から跡形もなく消え去った。

 

その時、誰かが呟いた。

 

「まるで……この世の全てが黄金に輝いて見える……」

 

エクスカリバーの一撃は周囲の結界を簡単に打ち破り、駒王町の空全体を黄金の光で包み込んだ。

 

それはまるで、神話に出てくるような神秘的な光景だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 コカビエルとボルグ・カムランが完全消滅したと同時に、無限の剣製(アンミリテッド・ブレイド・ワークス)も解除された。

目の前には、見慣れた駒王学園の校舎が見える。

 

「うぁ……?」

 

戦いが終わり、急に力が抜けたのか、私はその場に座り込んでしまった。

 

「「お姉ちゃん!!」」

「先輩!」

「「マユさん!!」」

 

皆が心配そうに駆け寄ってくる。

 

どうやら、無事そうだ。

 

「ご苦労様、マユちゃん」

「あぁ……」

 

慈愛に満ちた顔で私の事を見つめるヤハウェ。

その顔を見ていると、不思議と安心感に包まれる。

 

「君も…よく来てくれたね」

 

そっと視線を向けると、シオが優しく微笑んでいた。

 

「もう…いくね?」

「うん……」

 

シオは私の所にやって来て、握手をした。

 

「ありがとう……シオ。……またね」

「うん…」

 

それだけ言って、シオは光の粒子となって、消えていった。

 

「寂しいかい?」

「いや…いつかまた会えると信じているから。それに……」

 

こっちに走って来る皆の方を向く。

 

「私は……一人じゃないから」

「そう……」

 

満足げな顔をして、ヤハウェは宙に浮いた。

 

「それじゃあ、僕は行くね」

「また…会えるのか?」

「嫌でもね。近いうちに色々と事情の説明とかしなくちゃいけないから」

「そうか……」

「それじゃ、またね」

「あぁ。また」

 

ヤハウェはシオと同様に光の粒子になろうとしている。

が、そこに待ったをかける二人がいた。

 

「「ま…待ってください!」」

 

アーシア…それにゼノヴィア…。

 

「もう行ってしまわれるのですか!?」

「うん。僕はあまり地上に長居は出来ないんだ。僕の力に引かれて、また碌でもない連中がやって来る可能性があるから」

 

神と言うのも考えものだな。

 

「何故…何故に天界から姿を消したのですか!?貴女の存在を知ってしまった私はこれからどうすれば……」

「ゼノヴィア。君は今回の一件で色々と深入りしすぎた。多分、このまま教会に戻ってもいいことは無いだろう」

「そんな……私は……」

「だから、君にはこのまま日本に残って彼女を…マユちゃんの事を支えて欲しいんだ」

「わ…私が赤龍女帝を!?」

「うん。今の彼女には一人でも多くの仲間が…理解者が必要だ。君ならきっとマユちゃんに力になれる。僕はそう信じているよ」

 

ヤハウェ……貴女は……。

 

ゼノヴィアは涙を流しながら、その場に跪いた。

 

「このゼノヴィア。一命を賭して赤龍女帝の支えとなる事を誓います…」

「頼んだよ…」

 

次にヤハウェはアーシアの方を向いた。

 

「今迄色んな連中を見てきたけど、君ほど素晴らしいシスターはいなかった。アーシア・アルジェント、これまでの人生を恥じたり後悔したりする必要は無い。誇りなさい、君は正しい事をした」

「あ…ありがとうございます……」

 

アーシアも跪いて、両手を合わせて祈るように涙を流した。

 

「じゃ、行くね」

「うん」

 

今度こそ、ヤハウェは去って行った。

 

そして、ようやく夜の駒王学園に静寂が戻った。

 

【Reset】

 

音声と共に禁手が解除されて、私の姿が元に戻る。

それを見て、リアス達が傍に寄ってきた。

 

「だ…大丈夫!?怪我は無い!?」

「ああ。問題無い」

 

皆が私の体をまさぐってくる。

ちょっとくすぐったい。

 

「ほ…本当に怪我は見当たりませんわ…」

「よかった…」

 

満足したのか、やっと少しだけ離れてくれた。

すると、今度はゼノヴィアが寄って来て、私に対して跪いた。

 

「神から直々の勅命だ。これからは貴女の傍で貴女の剣となり盾となろう」

「そ…そうか…」

『まるで、昔を思い出す言葉ですね』

『ああ。懐かしいな』

 

え?そうなの?

アルトリアってば昔にこんな言葉を言ったことがあるの?

エミヤも昔を思い出すような事を言って。

 

「でも、いいの?貴女は聖剣(偽)を取り戻す為に来たんでしょう?」

「聖剣自体が偽物だった上に、赤龍女帝が真の聖剣の担い手となった。それをこの目で見てしまった以上、私はもう教会には戻れないだろう」

 

確かに……。

 

「このコアはイリナに持たせて、教会に届ければ大丈夫だろう。少し罪悪感があるがな」

 

そうか…。

今、彼女は私の家で療養しているから、今回の顛末は知らないのか。

 

「彼女には話さないのかい?」

「いずれは話さなければいけないだろうが、今はまだ黙っていた方がいいだろう。心が落ち着くまでな」

「そうだな」

 

今は兎に角、怪我を治すことに専念して欲しい。

健康第一…だ。

 

一件落着。

 

そう思って、ふと夜空を見上げる。

 

すると、次の瞬間……

 

「なっ…!?」

 

いきなり、『気配』が現れた。

 

「はぁ…。まさか、コカビエルが跡形もなく消滅するなんて。流石に予想外だわ」

 

全身を覆う純白の鎧を纏い、その背には月光に輝く光の翼が存在している。

鎧自体は丸みを帯びており、女性的な感じを伺いさせる。

 

それを見た途端、頭の中に『それ』の名前が流れてきた。

 

「白龍皇……その神器…白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)…」

「へぇ~……そこまで知ってるんだ…」

 

白龍皇はその手を腰に当てて、呆れたように頭を振る。

 

「全く…見事に私の仕事を奪ってくれちゃって」

「どう言う意味だ?」

「アザゼルから聞いてないの?派遣するって」

 

そう言えば、電話でそんな事を言っていたな。

って、まさか……

 

「お前が…アザゼルさんが言っていた増援か…?」

「正解。でも、その必要は無かったわね。まさか、コカビエルが盗んだ聖剣が偽物で、しかも貴女が真の聖剣に選ばれるなんて。誰にも予想できないわよ」

 

そう言われると、なんか急に罪悪感が…。

 

「コカビエルが死んだ以上、私の仕事はこの事を報告する事なんだけど…」

 

ん?もしかして…こっちを見てる?

 

「ちょっとぐらい、遊んでもいいわよね?」

 

白龍皇から殺気が放たれる。

コカビエルとは比較にならない程に濃密な殺気。

だけど、これじゃあ私を怯ませるには遠く及ばない。

他の皆は一瞬で身体を強張らせたけど。

 

「なんて、冗談よ」

 

急に殺気が霧散する。

今のが冗談って…。

 

「戦いたいのは紛れもない本音だけど、今の疲弊した貴女と戦っても面白くないもの。それに、私より貴女の方が圧倒的に強いのは明白だわ」

 

み…認められた?

って言うか、褒められた?

 

「特に、さっき放った聖剣の一撃。見事としか言いようがなかったわ。あんなのを喰らったら、私でもタダじゃ済まない」

「お前は…あの空間にいたのか?」

「まぁね。あれも貴女がやった事なんでしょ?どこまで強いのよ」

 

どこまでと言われてもな…。

 

「さて、私はそろそろ行くわ。早く戻らないと、アザゼルに何を言われるか分からないし」

 

溜息を吐きながら白龍皇が空中で踵を返す。

すると、いきなりドライグが話し出した。

 

『俺の事は無視か?白いの』

 

白いの?

 

『いや…今はまだ話しかけるべきではないと思っただけだ』

 

この声は…あの時の白い龍…確か…アルビオンだったか?

 

『久しいな。そいつがお前の宿主か』

『ああ。かなり優秀な奴だ』

『そのようだな』

『だが、あの時の小娘がお前の宿主になるとは思わなかったぞ』

『俺もだ。だが、後悔は無い』

『らしいな。今のお前からは昔感じた戦闘欲が全く感じられない』

 

懐かしの再会だからか、盛り上がってますねぇ~。

 

『その小娘…最初に見た時よりも桁違いに強大になっているな。一体何があった?』

『一概に一言では言えない。だが、これだけは言える。俺の相棒の成長率は俺でも計り知れない。過去にも未来にも、相棒以上の赤龍帝は現れることは無いだろう』

『ふっ……。まさか、お前がそこまで人間を評価するとはな』

 

あの~…いい加減に私を褒めるのをやめてくれませんかね?

かなり恥ずかしいんですけど。

 

「じゃあね。麗しの赤龍女帝さん。今度会う時は是非とも手合わせ願いたいわ」

 

そう言うと、白龍皇は凄いスピードで空の彼方へと消えていった。

 

「嫌な言葉を残していって……」

 

またトラブルの予感がする…。

 

トラブルの事前予約はお断りです…。

 

こうして、コカビエルとの戦いは終わった。

 

先程までいた筈のフリードはいつの間にかいなくなっていて、彼がいた場所には砕けた聖剣擬きだけがあった。

 

そして、私の手には黄金に煌く聖剣が静かに光を放っていた。

 

あぁ~…長い一日だったぁ~…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




長く感じたコカビエル戦もやっと終わりました。

そして、聖剣ゲット!

これでまたマユの強さに磨きがかかる事に…。

お次は後日談です。

では、次回。


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第52話 どこからツッコめばいいんだろう?

久方振りの日常回。

色々とパワーアップはしても、女子高生の日常は変わらない?






 コカビエルと、突然襲撃してきたボルグ・カムランを撃破した後、学園の周囲で結界を張ってくれていたソーナ達が駆けつけた。

 

皆が必死の形相で、こっちの方が少し驚いてしまった程。

 

話を聞くと、いきなり謎の空間に飛ばされた挙句、いきなり大きな光の柱が立ち上ったことに驚きまくったようだ。

 

もしかしたらと思ってはいたが、まさか本当に固有結界に巻き込まれていたなんてな…。

 

私は謝罪をすると同時に、コカビエルとの戦いの間に起きた出来事をリアス達と一緒に説明した。

 

私がエミヤの力を使って固有結界を張った事。

裕斗の神器が禁手に至ったこと。

その後に聖書の神ヤハウェが現れて、その直後に英霊の状態でアルトリアがやって来て、私にエクスカリバーを託した後に、他の英霊達と同様に力を貸してくれるようになったこと。

そして、そのエクスカリバーでコカビエルを倒した事。

 

念の為、シオとボルグの事は伏せておいた。

 

案の定、皆が顎が外れるほどに驚いた。

 

私も疲れていたし、もう夜も遅かったので、詳しい事情は明日話すことになった。

 

そんな訳で、私達はゼノヴィアと一緒に家に帰る事にした。

 

因みに、エクスカリバーは毎度の如く、籠手の中に収納された。

もう、赤龍帝の籠手が4次元ポケット的なアイテムになりつつあるな…。

 

家では黒歌とレイナーレが起きていて、私達の事を出迎えてくれた。

お陰で、ちょっぴり泣きそうになっちゃった。

 

その時、簡単にゼノヴィアの事も説明しておいた。

 

そして、私は戦いの疲れをお風呂で癒した後、ゆっくりと自室にて床に就いた。

 

ゼノヴィアは取り敢えず、開いている部屋で寝て貰った。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「ふわぁ~…」

 

欠伸を噛み殺しながら、私は起床してリビングまで降りてきた。

 

昨日は本当に動きまくったので、かなりお腹が空いている。

 

リビングまで行くと、黒歌が作ったであろう朝食のいい匂いが漂ってきた。

 

「お腹空いた…」

 

食欲が刺激される…。

早く食べよう。

 

そう思ってテーブルまで行くと……

 

「あ、マユ。おはようにゃ」

「よく眠れた?」

「おはよう。お姉ちゃん」

「おはようございます」

「昨日はお疲れさまでした」

「お姉ちゃん。おはよう」

「おはよう!」

「おはよう。まだ眠そうだな」

 

うん。

黒歌やレイナーレ。

他にもリアスや白音、アーシアに幼女達がいるのは当たり前。

 

「あ、おはようございます!マユ殿!」

 

ゼノヴィアは別にいいよ?

これから一緒に住むんだし。

 

「あ……お先に頂いてます」

 

イリナも問題無い。

彼女は昨日までウチで傷を癒していたし。

けどさ……

 

「や!疲れは取れたかい?」

「うん。美味いな」

 

なんでここで普通にヤハウェが一緒に朝食を食べてるんだよ!?

しかも、なんか見た事のないワイルドな色黒な男の人までいるし!

 

「……なんでいる?確か昨日、こっちには余り長い間はいられないって言ってなかったか?」

「うん。確かにそう言ったよ?けど、もう二度と来れないとは一言も言ってないよ?」

「屁理屈だ…」

 

そんなの有りかよ…。

 

「そして、アンタの隣にいる人は…」

「あ、俺と会うのは初めてだったな」

「はぁ……」

 

なんかフランクな人だな…。

 

「俺はルシファー。分かりやすく言っちまえば、初代魔王ってヤツだな」

「なんですと……!?」

 

しょ…初代魔王!?

そんな大物がなんでここに!?

 

「お姉ちゃんが驚くのも無理ないわ。私だって最初に見た時は全く同じ反応だったし」

「そ…そうか……」

 

悪魔であるリアスの方が驚きは大きかったかもな…。

 

「けど、想像したよりもフランクなお方で、私にも気軽に接してくださったわ」

「一応、俺の後輩の妹だしな」

 

魔王って言うよりは、仲がいい近所のお兄さんって感じだな。

なんか、リンドウさんやタツミさんを彷彿とさせる人だ。

 

「昨日の事は僕達からちゃんと説明しておいたよ」

「あ……すまんな」

「気にしないで。これぐらいならお安い御用さ」

 

ほんと…アフターケアは完璧なんだよな…。

 

「黒歌とやら、味噌汁のおかわりいいか?」

「はい。大丈夫ですにゃ」

 

黒歌も馴染んでるなぁ~…。

 

「マユちゃんも早く座りなよ」

「う…うん…」

 

ヤハウェに促されるようにして、私は空いている席に座った。

そこにレイナーレが私の分の食事を注いでくれた。

 

「はい。昨夜はかなり頑張ったんでしょ?沢山食べなさいな」

「ありがとう…」

「べ…別に礼を言われるような事じゃないわよ!アンタの従者として当たり前の事をしてるだけだし……」

 

そっぽ向いて照れてるのか?

 

「ふふ……マユちゃんは女泣かせだねぇ~」

「お姉ちゃん、女を泣かせてる?」

「いや、別に本当に泣かせてる訳じゃないよ?オーフィスちゃん」

「言葉の綾ってヤツだ」

 

失敬な奴だな。

私は誰も泣かせたことはないぞ?……多分。

 

自分達の分の食事も注いでから、黒歌達も座った。

 

「それじゃあ…」

「「「いただきます」」」

 

本当に空腹だった為、まずはパクリ。

 

「美味しい…」

 

五臓六腑に染み渡りますなぁ~…。

 

『うぅ……マスターはなんて美味しそうに食べるんですか…!シロウ!私もお腹が空きました!』

『分かった分かった。今作ってやるから、少し待っていろ』

 

えっ!?籠手の中で食事とか作れるの!?

 

『またこの中も騒がしくなったな…』

 

ドライグもご愁傷様。

 

『私だけじゃ少々厳しいな…。玉藻!君も手伝ってくれ!』

『えぇ~?仕方ないですねぇ~』

 

あら、玉藻も料理が出来るんだ。

流石は自称『良妻賢母』。

 

『はっはっはっ!この感じも久し振りだな!実に懐かしいぞ!』

 

ギルも楽しそうですね。

 

「今の聞いた事のない声が、例のアーサー王かにゃ?」

「うん。物腰も柔らかでいい子だよ」

「みたいね。アンタが受け入れてるんだし」

 

色んな場所で賑やかになってるなぁ…。

 

「ゼノヴィア。イリナに昨日の事は話したのか?」

「はい。さっきコアも渡しました」

「そうか」

 

見た感じ怪我も治ったみたいだし、良かったよ。

 

「話は聞きました。まさか、本当に私達が聖剣と思っていたものが偽物で、貴女が真の聖剣に選ばれたって…」

「聖剣が偽物だったことはともかく、私があの剣に選ばれたのは驚いたよ」

 

自分がそんなに崇高な人間とは思えないからね。

 

「これからどうする気だ?」

「もう少ししてから、向こうに戻ろうと思います」

「寂しくなるな」

「大丈夫です!また絶対に来ます!日本は私の故郷ですから!」

 

故郷…か。

 

「そうだな。その時を楽しみに待っているよ」

「はい!」

 

朝から元気だな。

でも、意気消沈しているよりはマシだ。

 

「ゼノヴィアはこっちに残るんでしょう?」

「ああ。神から賜った使命だからな」

 

そこまで重要に考えなくてもいいんだけど。

 

「ついでだから、ゼノヴィアちゃんも皆と一緒に学園に通うといいよ」

「いいのですか!?」

「勿論。そこら辺は僕達に任せといて」

「今はそれぐらいしかしてやれないしな」

「感謝します…!」

 

朝から神を拝まない。

 

「いや~…やっぱり日本の朝食はご飯に味噌汁。焼き魚に納豆で決まりだよねぇ~」

「これぞ日本の朝って感じだよな」

「分かります。これこそ故郷の味!黒歌さん!ありがとうございます!」

「恥ずかしいからやめるにゃ…」

 

恥かしがる黒歌も珍しいな。

けど、可愛いからいいか。

 

「って、マユちゃんに話さなきゃいけない事があるんだった」

「忘れてたぜ。久し振りに美味い飯食って夢中になっちまってた」

 

神と魔王が日本の朝食に舌鼓を打つって…。

かなり神と魔王が庶民的になったな…。

親近感が湧くぞ。

 

「リアスちゃん。もうそろそろ授業参観があったりするんじゃない?」

「え…ええ。そうですけど…」

「他の子はともかく、マユちゃんには実際に血の繋がった家族は一人もいない…よね?」

「そう…だな…」

 

色んな意味で私は天涯孤独の身だ。

皆がいなかったら、未だに私は一人で暮らしていただろう。

 

「お姉ちゃん?」

「いや…なんでもない」

 

余計な心配は掛けたくない。

ここは静かにしていよう。

 

「マユちゃんの家族は、彼女が幼い頃に亡くなってるんだよ」

「そ…そうなの…」

「マユさん……」

「マユさんも私と同じで……」

 

そっか。

アーシアも天涯孤独だったな。

 

「それに、これからは進路相談の為の三者面談とかもあるだろう。白音ちゃんは黒歌ちゃんがいれば大丈夫だけど、マユちゃんはそうはいかない。だから……」

「俺達がお前の両親になる事にした」

 

………え?

 

「「「「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」」」

 

ど…どどどどどどどどどどゆことですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?

 

「ほれ。もう準備は出来ている」

 

そう言ってルシファーさんが見せたのは、書類に書かれた家系図だった。

そこにはこう書いてあった。

 

 

【父  闇里セツナ】

【母  闇里ミライ】

【長女 闇里マユ 】

【次女 闇里オーフィス】

【三女 闇里レド 】

【四女 闇里ティナ】

 

 

「「「おぉ~」」」

 

幼女組が興味を示しているし…。

 

「これ、なに?」

「これはな、俺達が本当の家族になったって言う証みたいなもんだ」

「ならば、これからは二人が我等の親となるのか?」

「そう言う事。これからは僕がお母さんで…」

「俺がお父さんだ」

「「「おぉ~!」」」

 

あ~あ~…。

子供達(?)が目をキラキラさせちゃって…。

 

「この…セツナとミライっていうのは…」

「俺達の偽名。こっちでは俺はセツナって名乗る事にするわ」

「僕はミライね。外ではそう呼んでね?」

「わ…分かった…」

 

まさか、ここまでするとは……。

完全に予想できなかった…。

 

「よもや、聖書の神が母となり、初代魔王が父となるとはな…。赤龍女帝は伊達ではないと言うことか…」

「もう、並大抵の事じゃ驚かないつもりだけど……」

「これは流石に驚きました…」

 

幾らなんでもやり過ぎだ…。

でも、いつかは解決しなくてはいけなかった事なのも事実。

これはこれで良かったのか…?

 

「俺としても、美人と美幼女達が娘になるのは大歓迎だ」

「僕も~!マユちゃんは色んな意味で僕とルー君の愛の結晶だもんね!」

 

え?まさか…私を転生させたのって、ヤハウェだけじゃなくて、ルシファーさんもなの?

二人の力で私を転生させたのか?

 

「因みに、黒歌ちゃんと白音ちゃんはマユちゃんの親戚って事になってるから」

「そして、アーシアとゼノヴィアとレイナーレはこの家にホームステイをしている事にしてある」

 

ホームステイって……。

そんな言い訳で大丈夫なのか?

 

「私と姉様がマユさんの親戚…」

「言い得て妙だけど、それが妥当なのかもしれないにゃ」

「そうね。ホームステイって言うのはどうかと思うけど…」

 

だよね~。

 

その後も朝食を食べながら今後の事や昨日の事を話し合った。

 

そして、丁度いい時間になったので私達学生組は学校に行く準備を、イリナも帰る準備をした。

 

ヤハウェとルシファーさんは去って行き、用事がある時に定期的にやって来ると言い残していった。

 

流石に今日は行かせるわけにもいかないので、ゼノヴィアは家にいてもらう事に。

オーフィスちゃん達のいい遊び相手になるだろう。

 

イリナを見送った後で、私達はいつものように学園に向かった。

 

ようやく日常が戻って来たことを実感した私だった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 いつものように授業をこなして、今は放課後。

私達はオカルト研究部の部室で昨日の疲れを癒していた。

 

「どうぞ、お姉ちゃん」

「ありがとう、朱乃」

 

ふぅ……こーゆー時は紅茶でも飲んでゆったりまったりするのが一番ですなぁ~。

 

「で、ゼノヴィアさんもここに転入する事になったんですの?」

「みたいだ。ヤハウェがそう言っていた」

「あの方ならば不可能なんて無いでしょうしね。生徒一人を転入させるぐらい朝飯前でしょうね」

 

時折思う。

万能な力と言うのも考えようだなって。

悪用しないだけかなりマシだけど。

 

「イリナさんはコアを持ってバチカンに帰りました」

「妥当な判断だね」

 

ちゃんと飛行機の時間には間に合ったかな?

 

久方振りの平穏を堪能していると、部室のドアが開かれた。

 

「あら?」

「ごきげんよう。リアス、皆さん」

「ソーナ。どうしたの?」

「昨日の報告をしようと思いまして」

 

報告?

 

私が小首を傾げていると、ソーナが私の隣に座った。

その瞬間、リアスと白音、朱乃の目が鋭くなったような気がする。

アーシアは逆に慌てていたけど。

 

「昨日の事件はアザゼル総督を通じて、他の三大勢力のトップにそれぞれ真相が伝えられたそうです」

「アザゼルさんが……」

 

意外と仕事をしてるのな。

唯の飲んだくれのオヤジじゃなかったのね。

 

「あの偽の聖剣の強奪は完全に彼の独断で、他の幹部連中は一切関与していないとの事です。本当なら彼を捕縛してから地獄の最下層であるコキュートスにて永久冷凍の刑に処す予定だったそうですが……」

「先輩がエクスカリバーで完全に消し飛ばしてしまった」

「はい。その件に関しては気にしていないそうです」

 

アザゼルさんが気にしていなくても、あの白龍皇が気にしている可能性があるよな…。

だって、彼女の仕事を奪ってしまったわけだし。

あの時のあの子って、完全に骨折り損のくたびれ儲けだよな。

 

「そして、教会側からは『堕天使側の動きが上手く掴めない為、不本意ではあるが近いうちに連絡を取り合いたい』と申してきたとの事。同時に、件のバルパーを逃した事と聖剣が偽りだったことを謝罪してきたそうです」

 

謝罪…ね。

それが本音かどうかは疑問だけどね。

 

「近日中に三大勢力の代表を集結させて会談を行う予定だそうです。その際、マユさんを初めとした貴女と一緒に暮らしている方々も出席して欲しいそうです」

「当事者である私や白音は分かるが、どうして他の皆も……?」

「そこまでは流石に…。それに関しては会談の時に直接聞いた方が早いでしょう」

「それがいいか…」

 

ここであれこれ考えても意味無いしな。

今は目の前の平和を噛み締めよう。

 

報告が終了した後、少しだけ話してからソーナは生徒会室に戻っていった。

なんかこっちを見て頬を赤らめていたけど、まだ疲れが残っていたのかな?

 

こうして、また一つの戦いが幕を閉じた。

けど、まだアラガミの脅威は去った訳じゃないから、油断は出来ない。

 

でもさ、今ぐらいは皆と一緒に笑い合っても…いいよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




またまた長く感じましたが、これでコカビエル戦及び聖剣の話は終了です。

次からはまた新章突入です。

遂に吸血鬼の男の娘が登場?

では、次回。


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運命の会談 ~全てを話す時~ 
第53話 戻ってきた日常


今回の章、会談にかこつけて色々と情報開示をしようと考えてます。

漸くマユの全てが明らかに?

その際に、今回限定でゴッドイーター側のキャラも出そうと思ってます。

まだ、予定の段階ですけど。



 ゼノヴィアが家の一員になってから暫くが経った。

 

彼女は無事に駒王学園に編入して、アーシアと裕斗と一緒のクラスになったそうだ。

ゼノヴィアとしても、顔見知りがいる方がクラスに馴染みやすいだろうしな。

多分、この配置はヤハウェがしたものだろうな。

 

ああ、ゼノヴィアにはちゃんと私の事は話してある。

左腕の事も含めてね。

流石に驚かれたが、はぐれ悪魔退治をしていたせいか、すぐに受け入れてくれた。

意外と順応力が高い事に驚いたな。

 

まだ、ヤハウェとルシファーさんを『母さん』『父さん』と呼ぶには抵抗がある。

今迄お世話になりまくっている以上、少しでも早く呼べるようにはなりたいけど。

 

幼女組はすっかりゼノヴィアや義理の両親組に懐いていて、時折、一緒に遊ぶと言う微笑ましい光景を見かけることがある。

そう言った場面を見かけると、不思議と笑顔になってしまう。

それはきっと、私の記憶が完全に『闇里マユ』になりつつあり、その記憶の中では家族が幸せそうにしている光景を余り見かけたことが無いからだろう。

 

もう前世での記憶は殆ど無くて、その代わりに『闇里マユ』としての記憶が脳内に描かれている。

それはきっと、私と言う存在が完全に『闇里マユ』になりつつある証拠なんだろう。

 

けど、その事に関しては後悔の念などは全くない。

 

私は死んで、生まれ変わった身。

 

昔の事ならいざ知らず、前世の事に思いを馳せるなんてことはナンセンスだろう。

 

私を態々、転生させてくれたヤハウェやルシファーさんにも失礼だしね。

 

そして、今日も私は自分の日常を過ごしていく。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 ……てなわけで、今日も今日とてアラガミ退治~♪

 

私は今回、どこかの海岸に来ていた。

見た感じは日本の海に面した県の何処かだろう。

風景だけじゃ場所の特定は出来ないけど。

 

時間帯はいつものように夜。

こういうところだけは有難い。

昼間に出現したら絶対に大変な事になるからな。

 

キチンと結界は張ってあり、いつでも戦闘出来るようにしている。

 

久々の野良アラガミ(?)退治なので、ちょっと気合いが入っている。

なんせ、前回のボルグは成り行きとは言えエクスカリバーで瞬殺してしまったし。

 

今回の格好は少し露出度が高い『アルーアホルター』とジーパンに似た『コーラルスラックス』だ。

やっぱりズボンの方が落ち着くな~。

 

いつものように赤龍帝の籠手を出して、そこから神機を取り出して装備し、アラガミが来るまで待機をしている。

組み合わせは『ブレード極(ロングブレード)』と『EXガトリング(アサルト)』に『イオニアンガード(バックラー)』だ。

無属性の組み合わせで、どんな敵にも対応出来るようにした。

 

ただ、今日はちょっといつもとは違っていて……

 

「あれがマユ殿が言っていた生体武器『神機』か……」

 

実は、ゼノヴィアが一緒に来ているのだ。

 

出撃する直前、彼女がいきなり私が神機を使ってアラガミと戦っている姿を見てみたいと言い出したのだ。

本音を言えば反対なのだが、下手に口論などになっても嫌だから、離れた場所で見学するという条件を出して、限定的に許可した。

 

「大丈夫かな…?」

『あれだけ離れていれば問題無いだろう』

『そう言う事だ。今はアラガミの事に集中せよ、雑種』

「うん……」

 

心配しても始まらないか。

 

私は海の方に目を向けて、潮風を感じた。

 

「夜の海と言うのも、なんだか不気味だな……」

 

こういう場所って、よく二時間ドラマとかでクライマックスなどで使用される場所だよね。

そう言う先入観があるせいか、あまりいいイメージはない。

 

『む…?来たようだぞ』

 

ドライグが反応する。

それに合わせて、私は少し海から離れて神機を構えた。

 

暗い海面から、ゆっくりと複数の大きな影が現れる。

 

「あ…あれは……!」

 

夜の海から出てきたのは、完全に予想外のアラガミだった。

 

「黄金のグボロ・グボロ…!」

 

それは、数あるアラガミの中でも最弱と呼ばれる個体、黄金に輝くグボロ・グボロだった。

数は6体。

 

『ほぅ…?アラガミにもあのような連中がいるのだな。悪くない』

「それって、黄金だから?」

『当然だ。黄金はいい……』

 

黄金ならなんでもいいんかい!

 

「あ…あれがアラガミ…!」

「ゼノヴィア!絶対に近づくなよ!」

「承知しました!」

 

いくら弱くてもアラガミ。

危険な事には違いない。

 

コイツは非常に脆くて、逆に結合崩壊させるのに神経を使う。

でも、その代わりにこいつからは希少な素材が沢山ゲットできる。

中には金銀の類もあるので、もしも手に入ったら換金してもいいかもしれない。

 

(そうだ……)

 

いい機会だから、少し試してみたいことがある。

 

神機の近接武器を素早く換装して、全ての武器を使ってみよう。

 

「今回は皆のサポートは要らないかもしれない」

『分かりました。貴女の戦いを見させて貰います、マスター』

「うん」

 

かのアーサー王にそこまで言われたら、頑張らないわけにはいかないな。

 

「ならば……行くぞ!」

 

神機をしっかりと握りしめて、私は眼前にまで迫った金ぴかグボロに向かって斬りかかった!

 

「まずは!」

 

素早く目の前にまで迫り3回攻撃して、まずは砲身を破壊。

案の定、グボロは怒りで活性化するが、その隙に背後に回り尾びれを破壊。

グボロはこっちを振り向いて突撃してくるが、それを難無く回避。

同時に神機を銃形態に変形させて背びれを撃つ。

 

結果、断末魔を上げて金のグボロはあっけなく倒れた。

 

「一体撃破」

 

クイック捕食で素早く素材をゲットして、次に向かう。

 

「次は…」

 

近接武器をナイフ極(ショート)に変更。

そのままの勢いで斬りまくって秒殺。

 

「今度は」

 

ショートの次はクレイモア極(バスター)に変えた。

大振りに刃を振って、止めにチャージクラッシュ。

あっという間に金グボロは沈黙した。

 

「じゃあ…」

 

お次は超パワーハンマー極 (ブーストハンマー)に換装。

圧倒的なまでの質量兵器で、文字通り叩き潰す。

おまけにブーストラッシュをかました。

 

「そして…」

 

5番目はハルバード極 (チャージスピア)

素早い動きで死角に回り続け、ピンポイントで弱点を突く。

止めはジャンプからの急降下攻撃。

 

最後はリーゼハーケン極 (ヴァリアントサイズ)

常に絶妙な距離を保ちつつ、隙あらば斬りまくった。

咬刃を展開させて、一気に息の根を止めた。

 

結果、6体合わせて10分も掛からなかった。

ま、こいつらが相手ならこんなものか。

 

「他には?」

『大丈夫だ。もうオラクルは感じない』

「了解」

 

ドライグが結界を解除する。

未だに残っている金ぴかグボロ達の死骸を捕食して、素材を回収する。

 

「うん。レアものだな」

 

想定以上にいい素材が手に入った。

 

捕食が完了すると、全てのグボロは霧散していった。

 

「マユ殿!」

 

戦闘が終わったと見て、ゼノヴィアが興奮した様子で走ってきた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

「お…落ち着いて」

「はい…!」

 

全速力で走ってこなくてもいいのに…。

 

「す…凄かったです!小剣に大剣、槍に鉄槌、大鎌をあそこまで自在に操れるなんて!流石は伝説の赤龍女帝!貴女の噂は本当だったのですね!」

「う…噂?」

 

変な噂じゃないだろうな…?

 

「はい。無数の武具を己の手足のように駆使して、様々な敵を打倒してきたと」

 

半分正解で半分ハズレだよ~!

 

確かに色んな武器は使うけど、それは基本的にアラガミ相手だけだし…。

 

「あ、そうだ!これをどうぞ!」

「ん?」

 

おや、タオルにスポーツドリンク?

 

「いつの間に…?」

「密かに黒歌が持たせてくれたのです!」

「黒歌が…」

 

実に有り難い。

雑魚とは言え、疲れる事には違いないし。

 

タオルとスポドリを受け取って、遠慮なく使う。

 

「ありがとう。助かったよ」

「礼ならば私ではなく黒歌に。彼女が提案してくれましたから」

「勿論、黒歌にも言うよ。でも、持ってきてくれたのはゼノヴィアだ。だから、私は君にも礼を言いたいんだ」

「マユ殿……貴女と言う人は……」

 

ん?どうしてそこで顔が赤くなる?

心なしか目がウルウルしてるように見えるし。

 

『ククク……。またフラグを建てたな。お前といると本当に暇が無くていい』

『お前は……』

 

フラグ?なにそれ?

 

『実に見事でした!マスター!私の見込みは間違いではなかった!』

「褒め過ぎだ。流石に照れる」

『それ程までに凄かったという事です!貴女は自分を誇るべきだ!』

「そう言われてもな……」

 

自分を誇りに思った事なんて一度も無い。

この力も戦闘技術も、全てはサカキ博士やリンドウさんがいてくれたから身に着いたんだ。

彼等の事を誇りに思う事はあれ、それを自分に当てはめる事は一度も無い。

 

「と…とにかく、少し休んでから帰るとしよう」

「そうですね」

 

私達は少し海から吹く風を味わってから、家に帰った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日の放課後。

私は昨日の残った疲れを癒す為に、柔らかいソファーに身を預けながら、朱乃が淹れてくれた紅茶に舌鼓をうっていた。

 

「どうですか?」

「うん。今日も朱乃の紅茶は美味しいな」

「ふふ……お褒めに預かり光栄ですわ」

 

紅茶だけじゃない。

こうした日常が私の心を癒してくれる。

恥かしい言葉かもしれないが、皆の笑顔が私に活力をくれる。

 

「昨日は本当にお疲れ様。お姉ちゃんが手に入れた貴金属はグレモリー家独自のルートで換金しておいたわ」

「感謝する」

 

レアものが多かったからな。

きっと、かなりの額になったに違いない。

 

「で、貴女も今日からこのオカルト研究部に所属して貰うわよ?ゼノヴィアさん?」

「勿論だ。私は神ヤハウェから彼女を支えるように命じられたのだからな」

「あら?それだけが理由かしら?」

「ど…どう言う意味だ?」

「それは、貴女自身が一番分かっているんじゃないの?」

「うぐ……!」

 

え?な…なに?

 

「またマユさんの固有スキルが発動したんですね」

『一級フラグ建築士【EX】だな』

 

サラッと意味不明な事を言いましたよ、この愉悦コンビが。

 

「はわわ……またマユさんが……」

「アーシアまで?」

 

マジでなんなのよ?

 

部室の雰囲気が明るくなってきたとき、突如として床に描かれた魔法陣が発動。

そこから懐かしい人影が現れた。

 

「ふふ……。相変わらず、君は頑張っているようだね。マユ君」

 

この声は……!

 

リアスと朱乃、裕斗がすぐさま跪いた。

ゼノヴィアは頭に?マークを浮かべていて、私と白音、アーシアはその声の主がすぐに分かった。

だって、過去に一度会ってるし。

 

「お…お兄様……」

「お久し振りです。サーゼクスさん」

 

深紅の髪を靡かせた好青年、現魔王のサーゼクス・ルシファーさん。

その後ろには妻でありメイドでもあるグレイフィアさんが控えている。

 

「こちらこそ。リアスが世話になっているようだね」

「いえ。寧ろ世話になっているのはこちらですよ」

 

主に生活面でね。

 

「ああ……君達も普段通りに寛いでくれ。今日はプライベートで来ているからね」

「は…はい」

 

それを聞いて、3人はソファーに座り直した。

 

「と…ところで今日はどうしてここに…?」

「もうすぐ授業参観があるんだろう?僕としても是非とも妹が勉強に励んでいる姿が見てみたいからね。急遽、休暇を入れて来させて貰ったよ。勿論、当日は父上も来られる予定だ」

「お父様まで…?」

 

おや、今度はリアスのお父さんも来るんだ。

どんな人…じゃなくて、悪魔なんだろう?

 

「父上もマユ君に会いたがっていたよ。一度会ってお礼が言いたいとね」

「私に……?」

「ああ。君には僕もリアスも沢山、助けられているからね」

 

態々こっちに来てまでお礼を言わなくてもいいのに…。

 

段々と事態が大きくなっていくことに困惑していると、また覚えのある気配が現れた。

 

「本当にそれだけかよ?」

「あ……」

「あ…貴方様は……!」

「そ…そんな事が…!」

 

サーゼクスさんもグレイフィアさんも滅茶苦茶驚いてる。

他の面々も凄く驚きまくっている。

それもそうだ。何故なら……

 

「よう。こうして会うのは何百年振り…いや、何千年振りか?」

「ルシファー様……!」

 

私の後ろにいきなり、ルシファーさんが立っていたのだから。

 

「な…なんでここに?いや、それよりも…さっきのはどう言う意味…」

「そのまんまの意味だよ」

 

って、何気に私の頭を撫でないでください。

 

「現魔王のお前が妹の授業参観程度で地上に来る筈が無い。他に理由があると思うのが普通だ」

「…………」

 

図星なのか、サーゼクスさんは黙ってしまった。

 

「大方、この学園で三大勢力の会談を開くつもりで、今回はその下見ってところじゃねぇか?」

「お……仰る通りです……」

 

おお!あたった!って……

 

「この学園で会談を開くんですか?」

「ある意味、ここ以上に相応しい場所なんてないだろう」

「ど…どう言う意味ですか?」

 

白音が徐に質問した。

その額には冷や汗が流れていた。

 

「この学園には魔王の妹が二人にその眷属。猫又にデュランダルが使える聖剣使い。極めつけはお前だ」

「私?」

「今や、伝説の存在となった赤龍女帝。その本人がこの学園に通っているんだ。しかも、ここにはコカビエルに白龍皇が襲来した。この駒王町を中心に、様々な勢力が入り混じり、渦を巻いている。そんで、その渦の中心にいるのが……お前だよ。マユ」

 

言われてみれば確かにそうかもしれない。

これまでの出来事は全て、私が中心になって起きているような気がする。

これも『龍のオーラ』とやらが影響しているんだろうか?

 

「どうなんだ?サーゼクス?」

「はい…。全てその通りです…」

 

うわぁ……完全に委縮してる…。

 

「お前、こいつとその家族を会談に出席させる気なんだろう?」

「は…はい。彼女は今回の当事者ですから…」

「別に俺としては、こいつとその家族が会談に出席する事に異論はない。けどな、これだけは言っとくぞ」

「な…なんでしょうか……」

 

ルシファーさんの目が鋭くなって、サーゼクスさんを射抜く。

 

「血が繋がってはいないとは言え、こいつは俺の大事な娘だ。もしも何かしてみろ……。その時は、俺とヤハウェの全身全霊を持って三大勢力を滅ぼしてやる…!」

 

殺気は出していない。

もしも本気の殺気なんか出したら、ここにいる全員が気絶してしまうから、それを考慮して我慢してるんだろう。

 

「わ…分かっております…。私も…命の恩人に手荒な真似はしたくはありません…」

「ならいいけどよ」

 

ルシファーさんの目が元に戻った。

 

「しかし…本当だったのですね…」

「何がだ?」

「貴方様と聖書の神が御存命で、彼女の両親となったと……」

「まぁな。俺としてもこの子には人並みの幸せってヤツを掴んでほしいしな」

 

ルシファーさん……。

貴方は、とことんまで私の父親になろうとしているんですね…。

 

「…ありがとうございます」

「親父として当然だよ」

 

うぅ……なんだか照れる…。

 

「ところでお前等、今日は何処に泊まるつもりだ?」

「何処か適当にホテルにでも宿泊しようかと……」

「魔王ともあろう者が、ホテルに宿泊って……」

 

盛大な溜息を吐きましたな。

なんか頭も抱えてるし。

 

「んな場所に泊まるぐらいなら、マユの家に泊まっていけ」

「えっ!?よ…よろしいのですか!?」

「しかし、彼女の家には女性ばかりで……」

「それなら気にすんな。今日は俺も泊っていくつもりだしな」

「「「「「「「「「えぇっ!?」」」」」」」」」

 

まさかの宿泊宣言!?

 

「幾ら既婚者とは言え、大事な娘達を男と一つ屋根の下で泊まるのを無条件に許可出来るほど、俺はアホじゃねぇよ」

「ご…ごもっともです……」

 

実に正論。

なんか、凄い父親らしい発言が聞けた気がする…。

 

「それに、久方振りにお前ともゆっくりと酒でも飲みながら話したいと思っていたしな。サーゼクス坊や?」

「それは言わないでください…」

 

…どうやら、サーゼクスさんはルシファーさんに色々と弱みを握られてるっぽいな。

 

この3人が泊まる……か。

どんな化学反応が起こるか、全然予想が出来ないな。

 

黒歌辺りは喜ぶかもな。

グレイフィアさんの事を尊敬してるっぽいし。

 

ま、部屋は沢山あるから、その心配は無用だけどさ。

 

それに、偶にはリアスも兄妹水入らずで話したいこともあるだろうし。

 

今夜は、色々と賑やかになりそうだな。

ちょっと楽しみかも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ルシファーパパ、父親をするの巻。

もう暫く、会談まではほのぼの空気でいくかも。

では、次回。


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第54話 それぞれの夜とプール掃除

ようやく予定が落ち着きそうです。

少しは執筆活動にも集中できるかな…?


 ルシファーさんの驚愕の提案によって、サーゼクスさん達が私の家に泊まる事になった。

 

二人を連れて帰宅した時、黒歌とレイナーレが滅茶苦茶驚いていた。

肝心の二人は普通にしていたけど。

ちゃんとルシファーさんも一緒に帰宅した。

 

ルシファーさんの提案だと言ったら、二人揃って目を丸くしていた。

因みに、幼女ドラゴン達は何にも気にせずに魔王夫婦と仲良くしていたけど。

 

一緒に夕食を食べて、夕飯の出来にグレイフィアさんは黒歌とレイナーレの事を褒めていた。

多分、メイドとして同じ女として色々と思うことがあったんだろう。

 

サーゼクスさん夫婦には空いた部屋を提供しようとしたのだが、ルシファーさんの提案によって、彼とサーゼクスさんが一緒の部屋になって、グレイフィアさんはなんでか私の部屋に泊まる事になった。

 

別に私としては構いはしない。

決して狭い部屋じゃないし、同性だから気にすることはないし。

 

我が家の女性陣は凄い顔をしていたけど。

特にリアスと黒歌は。

 

で、そのまま夜になった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 闇里家の一部屋。

月明かりだけが照らすその部屋に、サーゼクスとルシファーはいた。

二人は丸いテーブルを挟んで座っていて、彼等の前には一杯のブランデーがあった。

 

「こうしてお前と酒を飲むなんて、マジで久し振りだな」

「そうですね…。もう何百年もこうして貴方とは会っていない……」

 

いつもは現魔王として威厳に溢れているサーゼクスも、初代魔王であるルシファーの前では単なる青年になっていた。

 

「んじゃ、乾杯でもすっか」

「なんにですか?」

「そりゃ勿論、俺の美人の妻と可愛い娘達にだよ」

「あはは…。貴方らしいですね」

 

グラスを持つと、徐にそれをコツンと響かせた。

そして、グイッと飲む。

 

「ふぅ……。焼酎も悪くは無いが、ブランデーもいいな…」

「そんなにもお酒を飲んでいるんですか?」

「まぁな」

 

ニヤリと笑ってからもう一口。

 

「……一つ…お聞きしてもよろしいですか?」

「なんだ?」

「何故あなた達は彼女の…マユ君の両親になったんですか?」

「あぁ……それか」

 

ルシファーは空に浮かぶ月を見た。

 

「アラガミを倒すためとはいえ、俺達はあの子を仲間達の元から離してしまった。これを『仕方ない』の一言で片づけるつもりはなかった。だから、せめて俺達はあの子の為にどんな事でもしてやろうと思った……そんだけさ」

「ルシファー様……」

 

遠い目をして話すその姿は、嘗て悪魔達の頂点に君臨した魔王ではなく、娘の事を想うただ一人の父親だった。

サーゼクスも結婚して子供を持つ身。

それ故に、彼の気持ちは痛いほど分かった。

 

「あと、こんな事も考えてないか?『なんで自分達の前から姿を消したのか?』って…」

「……貴方には本当に敵いませんね…」

「当たり前だ。舐めんじゃねぇぞ」

 

カラン…とグラスの中の氷が音を立てる。

 

「そこら辺に関しては会談で話してやる」

「え?お二人も会談に出席なさるんですか?」

「おいおい……娘達が出るってのに、親である俺等が出ない理由は無いだろう」

「そう…ですね…」

 

思わぬゲストの存在に、会談が想像以上に波乱に満ちそうだと思ったサーゼクスだった。

 

「それとな、これだけは言っとくぞ」

「な…なんですか?」

 

ズイっと前に乗り出してきたルシファーに、思わず仰け反るサーゼクス。

 

「マユの事を眷属にしようなんて考えんなよ?もししたら、その時は…」

「そ…それはもう、とっくの前に諦めましたよ。彼女達……無限の龍神や赤龍真帝が『妹』になった時点で…」

「しかも、あのティアマットを使い魔にしちまったしな」

「はい。…彼女は一体どこまで強くなるんでしょうね…」

「どこまでも…だろうよ。なんたって、アイツが戦っているのはアラガミだが、今はそれ以外にも敵は多い。文字通り、無限に強くなっていくんじゃねぇか?」

「冗談には聞こえませんね…」

「冗談じゃねぇしな」

 

それからも、二人は色んな事を話した。

この時だけは、魔王と言うしがらみから解放された様な気がしたサーゼクスだった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 どうも、こんばんは。毎度お馴染み闇里マユです。

突然ですが、いきなり大ピンチです。

 

「いいから、早く見せてください」

「い…いや…その……」

 

なんか知んないけど、私の部屋に招いたグレイフィアさんに言い寄られています。

どうしてこうなった?

 

「リアスから既に聞いているんです。だから、早く見せてください」

「あの……何を…ですか?」

「貴女の…左腕です」

「あ……」

 

そう言う事ね…。

 

「でも…いいんですか?お世辞にも見ていて気持ちのいい物じゃ…」

「別に構いません。私が見たいと思ったんですから」

「はぁ……」

 

多分、このまま問答を繰り返していても意味無いだろうし…。

 

「分かりました…」

 

どうせ、例の会談で見せる羽目にはなりそうなんだし、それが多少前後するだけだ。

 

私は普段から左腕に着けっぱなしにしている腕袋を外して、アラガミに浸食された腕を見せた。

 

「こ…これは……」

 

だから言ったのに……。

普通に考えても、初見でこれを見るのはかなりきつい筈だ。

 

「触ってみても…?」

「どうぞ」

「では……」

 

恐る恐ると言った感じでグレイフィアさんが私の左腕を触る。

なんか…くすぐったい。

 

「固いんですね」

「まぁ…それなりに」

「それに…ゴツゴツしてます」

 

うぅ……筋肉質って言われてる気がする…。

 

「こうなったのは、貴女が仲間を助けようとした結果だと聞いていますが……」

「はい。その通りです」

「後悔は……しなかったのですか?」

「全く。後悔する理由がありません」

 

だって、リンドウさんを助ける為だったし。

 

「しかし…同じ女性として、このような姿を見るのは非常に辛いものがあります…」

「戻しましょうか?」

「い…いえ。そんな意味で言ったのでは……」

 

気を使わせてしまったかな…。

 

「はぁ……リアスや黒歌さんからある程度の話は聞いていましたが、まさかここまでとは…」

「はい?」

 

何がですか?

 

「貴女は…御自分の事を無下にしすぎです。どうしてそこまで無茶が出来るんですか?」

「それは……」

 

自分がそんな人間だから…としか言えないんだよなぁ…。

 

「この左腕だけじゃない…」

 

左腕から手を放した後、今度は右手を手に取った。

 

「一見して綺麗に見える、この右腕も…よく見れば細かい傷が沢山あります。ここだけじゃない。貴女の体全体にそんな傷が無数に存在する…」

 

まぁ…完全に治癒するわけじゃないしね…。

アーシアに頼めばいいんだろうけど、彼女にばかり頼るわけにはいかないし…。

 

「そんな貴女を見ていると…こちらも痛々しい気持ちになります…」

「グレイフィアさん……」

 

これが人妻の包容力ってヤツか……。

不思議と甘えたくなってしまうな…。

実際にはしないけど。

 

(こ…これは…!この状況でとんでもない強敵出現ですか!?現役の人妻とか、それなんてエロゲーですか!?)

(ぐぬぬ…!余は…余は諦めんぞ~!)

(こ…子リスが…私の子リスが……)

(マ…マスター…。いや、私にはシロウが……)

 

うん。色々と五月蠅いですから。

聞こえないようにしてるつもりだろうけど、私には丸聞こえだからね?

 

「貴女が傷つけば、リアスが…黒歌さんが…皆が悲しみます。お願いですから、これからはもう少し、自分の事を大事にしてください」

「そう…ですね。分かりました。私としても、皆の悲しむ顔は見たくない」

「是非ともそうしてください。………私も、そうして欲しいですから…」

 

ん?最後の方…なんて言った?

 

「マユさん。少し…我儘を言ってもよろしいでしょうか?」

「なんですか?私に出来る事ならなんでも」

「……一緒に寝てもよろしいですか?」

「………え?」

 

一緒に……寝る?

 

「駄目…ですか?」

「い…いやいやいや!貴女は人妻でしょう!?」

「同性だからセーフでは?」

「そう言う問題ですか!?」

 

悪魔の女性には恥じらいが無いのか!?

いくら同性でも、こんな美人と一緒にベットに入るとか、こっちの方が緊張するわ!

 

……な~んて訴えは全く通じず、結局はグレイフィアさんと一緒に寝る事になった。

 

最初は案の定、緊張しまくりだったが、最終的にはちゃんと寝れた。

やっぱり人間たるもの、三大欲求には抗えないのだろうか?

 

起床した時、グレイフィアさんが私に抱き着いていたのには本気で驚いたけど。

 

…もしも、この光景を黒歌や白音、リアスとかに見られたりしたら……。

考えたくもないな…。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 次の日にはサーゼクスさん達は家を出てホテルに向かった。

なんでも、数日間もこの家の世話にはなれないらしい。

でも、どこかテンションが上がっているように見えた。

昨日の夜、ルシファーさんと何を話したのかな?

 

今日は丁度土曜日。

週休二日制により、今日は学園は休み。

 

今、私達は……

 

「滑らないように気を付けるのよ~」

「了解だ」

 

絶賛、プール掃除に勤しんでます。

 

実はこれ、生徒会からの依頼だったりする。

どうやら、前に『なんでもする』と言ったのを覚えていたようだ。

でも、その代わりに掃除が終わり次第、一番最初にプールに入っていい事になっている。

 

モップ片手にゴシゴシしてます。

思ったよりもヌルヌルとしてますなぁ~。

 

「あの…先輩……」

「なんだ?祐斗」

「その……非常に姿が見づらいです……」

 

え?なんで?

 

「裕斗ってば…お姉ちゃんに欲情でもしてるの?」

「えっ!?いや…その……」

「服の下から透けている水着と言うのは、それはまた独特の色気がありますものねぇ~」

「裕斗先輩がむっつりスケベだったとは……幻滅です」

「白音ちゃん!?」

 

そう、私達は今、体操服の下に水着を着ると言う格好でいる。

これはリアスの提案で、掃除の後にプールに入れるのならば、下に水着を予め着ておけば着替える手間が省けると言うのだ。

それに従うような形で、私達は水着を着た後に、その上から体操服(上のみ)を着た。

でも、プール掃除なんてしていたら、嫌でも水には濡れる。

だから、必然的に体操服の下に着ている水着が透けてしまうのだ。

え?私がどんな水着を着ているのかだって?

それはまだ秘密だ。

 

けど、一つだけ言っておくなら、白音とアーシアは学園指定のスク水だ。

なんでも、白音は水着にそもそも興味が無かったらしく、アーシアはこっちに来てから水着を買いに行ったことが無いらしい。

う~む…ちゃんと水着も買ってあげるべきだったかな…?

 

「はははははははは!なんだか、思ったよりも楽しいな!」

「ゼノヴィア……楽しそうだな…」

「元から体を動かすのが好きなんじゃないでしょうか?マユさんと一緒のトレーニングも楽しそうにしてますし」

「かもしれないな……」

 

アラガミの討伐に連れて行ってから、ゼノヴィアは積極的に私の日頃から行うトレーニングに付き合うようになっていった。

最初は簡単にばてていたが、最近はなんとかついてこれるぐらいにはなっている。

やっぱり、教会で聖剣使いなんてことをやっていたら、かなり体力はつくのだろうか?

 

さっきからずっと、テンションMAXの状態で端から端まで全力疾走でモップ掛けをしている。

あんなにもスピードを出して、よく滑らないな。

ちゃんと重心を真ん中にしているのかな?

 

(くそ…!先輩の水着姿は見たい!けど、ここでもしもそんな事を言ったら、確実に変態扱いされてしまう…!)

 

裕斗はさっきから何か悩んでいるし。

 

皆、余裕があるせいかはっちゃけてるなぁ~。

出来れば黒歌達も連れて来たかったけど、休みの日とは言え学園に部外者は入れられないだろうし…。

 

「けど、ソーナも粋な事をしてくれるわね」

「ええ。お姉ちゃんの水着姿をいち早く拝めるなんて、本当に嬉しいですわ」

 

私の水着姿なんて見て、何が楽しいんだ?

全体的に筋肉質だし、お腹とか腹筋割れてるんだぞ?

今時いるか?腹筋が割れた女子高生って…。

 

「そう言えば、お兄様がお姉ちゃんの水着姿の写真が欲しいとかって言ってたわ」

「あらあら。仮にも既婚者でしょうに」

「グレイフィアが知ったら、雷が落ちるだけじゃ済まないでしょうね…」

 

…マジ切れしたグレイフィアさんってどんだけ怖いんだよ…。

 

「アーシア。疲れてないか?」

「はい。これぐらいなら大丈夫です」

「そうか。でも、疲れたら遠慮せずに休んでいいからな?」

「分かりました。……やっぱり、マユさんは優しいです…♡」

 

あれ?なんで少し気遣っただけで嬉しそうなの?

 

「そう言うお姉ちゃんも、疲れたら遠慮なく言ってね?」

「分かった」

 

ま、プール掃除ぐらいでは疲れたりはしないだろうけど。

だって、鍛えてますから。

 

(これは立派な事なんだが…なんだが……なんとも言えない感じだ…)

 

ドライグってば、まだ私の女らしさに拘ってるのか?

もういい加減に諦めたら?

 

(いいや!俺は決して諦めんぞ!こうして、相棒と運命を共にすると決めた以上、少しでも相棒には女性らしさを身に付けてもらわなければ!)

 

今更言われてもねぇ~。

 

そんな感じで掃除は順調に進んでいき、そして遂に……

 

「終わったわ~!」

「かなりピカピカになりましたわね」

「最初とは見違えました」

「「つ…疲れた……」」

 

体力全振りしていたゼノヴィアはともかく、なんで裕斗も疲れてるの?

 

「さぁ!今からは待望のプールタイムよ!しっかり楽しみましょう!」

 

濡れた体操服を脱いで、近くのフェンスに干しておく。

今日は凄く天気がいいから、暫くしたらすっかり乾くだろう。

 

さて、今日ばかりはお言葉に甘えて、プールを楽しもうかな?

 

 

 

 

 

 

 




グダグダとやっていたら、いつの間にかこんな時間に…。

今日、初めてフレームアームズ・ガールの轟雷を買ってテンションが上がっていたのがいけないのでしょうか?

今度はとうとう水着回!

マユはどんな水着を着ているのでしょうか?

では、次回。


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第55話 夏だ!プールだ!ポロリもあるよ!

なんか、まだまだ夏には遠いのに、凄い暑さになりつつありますよね。

今のこの気温なら、本格的な夏になったらどうなるのか…。






 プール掃除が終わり、遂に訪れたプールタイム……なのだが…。

 

「やっぱり……恥ずかしいな……」

 

水泳の授業とかならば、なんとか羞恥心も抑えられるんだが…。

 

「プライベートで水着を着るのは…慣れないな…」

 

闇里マユ(わたし)も嘗ては、夏の暑い時に仲間達と一緒に水着になって水浴びとかをしたが、あれはアナグラの屋上だったし、ここまで露出度は高くなかった。

けど、今私が着ている水着は布面積が狭いビキニ。

流石に恥ずかしい…。

 

「なぁ……変じゃないか?」

「「「「「「変じゃないです!!」」」」」」

「そ…そうか…?」

 

私が着ている水着は、赤い布地に白でハイビスカスが描かれている『スマッシュビキニ』だ。

様式美として、左腕にはちゃんと腕袋を付けている。

 

うぅ……本当に変じゃないかな…?

 

他の皆も既に水着姿になっている。

アーシアと白音は前に言ったように学校指定のスク水。

 

リアスは髪の色に合わせたのか、真っ赤なビキニを、朱乃は純白のビキニを付けていた。

ゼノヴィアは青いビキニを付けている。

 

「あ…マユさん。ちょっとだけジッとしてください」

「え?」

「パシャッとな」

 

ちょ…ちょっと?

いきなりデジカメなんかで私を撮ってどうしたんだ?白音。

 

「姉様とレイナーレさんに頼まれたんです。マユさんの水着姿の写真を撮ってきて欲しいって」

「いつの間に……」

「いいんでしょうか…?」

「同性だから問題無いでしょう」

 

そう言う問題か?

 

「し…白音!その写真はわたしにも貰えるのかしら!?」

「その…私にもお願いしますわ!」

「出来れば私も……」

「あ…あの…私も欲しいと言うか……」

「大丈夫です。ちゃんと複数枚コピーをするつもりでしたから」

 

マジかよ……。

 

「ここは僕も欲しいと言うべきか…?でも、流石にそれは男として…」

 

さっきからブツブツと呟いて、裕斗はどうしたんだ?

 

「にしても……」

「な…なんだ?」

「やっぱり…お姉ちゃんって…プロポーション抜群よね…」

 

そうかな?

少なくとも、胸の大きさとかはリアスや朱乃の方が上だろう。

私なんて、筋肉と傷だらけだし。

お世辞にも異性に魅力的に見えるような体つきをしているようには思えない。

 

「私からすれば、リアスや朱乃の方が女性として魅力的に感じるけどな」

「え……?」

「まぁ…お姉ちゃんったら……」

 

ほら、そうして照れている表情とか、凄く可愛いと思うし。

 

「マユさんも部長さん達のような体つきの方が……」

「……部長達ばかり…ずるいです」

 

で、白音とアーシアはどうした?

いきなり自分の胸を両手で押さえて。

 

「だが、それでもマユ殿も充分過ぎる程素敵だと思うがな」

「ゼノヴィアまで……」

 

どうしてこうも私を持ち上げたがるかなぁ~…。

 

「み…皆、今は兎に角プールを堪能しよう。せっかく来たんだから」

「そうね。学校のプールでプライベートの水着が着れるなんて、きっとこれが最後だろうし」

「確かにそうですわね」

 

そっか。

私達ってもう3年生だから、こんな風に学校のプールに入れるのは最後になるんだ。

そう思うと、急に感慨深くなるな。

 

「じゃあ、私達は向こうでゆっくりとしてようかしら」

「私も一緒に行くわ。リアス」

 

リアスと朱乃は傍に用意してあったビーチパラソルやビニールシートを持ってプールサイドの方に向かった。

 

「あ…あの…マユさん。ちょっといいですか…?」

「ん?どうしたんだ?白音」

「実は…その……」

「……?」

 

私は白音からある『お願い』をされて、それに付き合う事にした。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 プールの水面にバシャバシャとした水音が鳴る。

それに合わせて水飛沫がはじけ飛んでいる。

 

「よし…いいぞ。その調子だ」

「は…はい…」

 

私は白音の手を引きながら泳ぎの練習をしている。

 

さっきの『お願い』とは、私に泳ぎ方を教えて欲しいと言うものだった。

 

今まで水場で泳ぐような機会が無かった為、水泳が苦手なんだそうだ。

白音がそうなら、同じ猫又である黒歌も苦手なんだろうか?

だったら、いつか黒歌にも教える機会があればいいな。

 

「はい。到着だ」

「あ…ありがとうございます…」

 

プールの端に着き、私は体勢を崩しかけた白音を抱き留めた。

その際、白音の顔が私の胸に埋まった。

 

「あ……」

「どうした?」

「い…いえ…。(マユさんの胸……柔らかくて…いい匂いがした…♡)」

「ん~?」

 

白音の顔が心なしか赤い気がする。

この暑さにやられたか?

 

「疲れただろう。少し休憩をするといい」

「はい。お言葉に甘える事にします」

 

少しだけ頭を下げて、白音はプールを出てプールサイドに座った。

 

「あの…マユさん!私も教えて貰ってもいいですか!」

「アーシアも?別にいいぞ」

「……♡ありがとうございます!」

 

プールに入ってきたアーシアの手を握って、再び泳ぎの練習をする事にした。

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「だ…大丈夫か?」

「はいぃぃ……」

 

アーシアの練習も終わって、私達はプールから上がって小休止をした。

 

白音は予め持ってきていた本を読んで、のんびりと過ごしていた。

 

因みに裕斗は……

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!こうして体を動かしていれば煩悩になんて惑わされない筈だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

さっきから全力で何回もプールを泳ぎまくっている。

しかも、なんでか自由形で。

時にはクロール、時には平泳ぎ、またある時はバタフライで。

悪魔の能力で身体能力が強化されて、凄いスピードになっているが、なんでひたすらに泳いでいるのかが分からない。

 

「ま、いっか」

 

裕斗だって、疲れれば嫌でも休むだろうし。

 

「少し喉が渇いたな…」

 

確か、荷物はリアス達がいる場所に置いてあった筈。

 

『むほぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!ご主人様の水着姿…萌えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!』

『奏者の水着……本当に麗しいな…♡』

『や…やるじゃない?まぁ…私ほどじゃないけど?』

 

玉藻はマジでうるさい。

ネロはまだマシだけど。

エリザは相変わらず、ツンデレ乙。

 

『うぅぅぅ…こんなにも立派になって…。俺は今、猛烈に感動しているぞぉぉぉぉ!!!』

『ククク…。前々から目を付けてはいたが、そうか…成る程なぁ~……』

 

ドライグ、アンタは私の父親か。

そして、ギルは私の事をどんな目で見てるんだよ…。

 

歴代の皆に呆れながらドリンクを取りに行って、そこで水分補給をしていると、リアスが手招きをしていた。

 

「…なんだ?」

 

ドリンクを置いて近づいてみる。

 

「どうした?」

「ねぇ…お姉ちゃん。もう日焼け止めは塗った?」

「いや…まだだけど…」

「駄目じゃない!女の子の肌はとてもデリケートなのよ!?タダでさえお姉ちゃんはそういった事には無頓着なんだから!もうちょっと、自分がどれだけ美人なのか自覚して!」

「あ…あぁ…」

 

いきなりそんな事を言われてもな…。

 

「ほらほら!そこに横になって!」

「わ…分かった…」

 

リアス達の横に設けられたシートに、私はうつ伏せになった。

なんか…凄く嫌な予感がするけど……。

 

「あら、リアス。面白そうなことをしてるじゃない?」

「朱乃もする?」

「勿論!」

 

…………変な事にならないだろうな…。

 

「まずはこうして…っと」

 

ここからはよく見えないけど、きっと大丈夫だよな…?

 

「はい。それじゃあ、塗るわよ」

「ああ……」

 

日焼け止めを手にしたリアスの手が私に触れる。

 

「ひゃっ!?」

 

い…いきなり太腿か!?

まずは背中とかじゃないのか!?

 

「あら…お姉ちゃんったら可愛い声なんか出しちゃって♡」

「お姉ちゃんのそんな声…なんだか新鮮ですわ♡」

 

恥かしさとくすぐったさに耐えながら、私は二人にされるがまま日焼け止めを塗られていった。

 

「こうして触っていると、改めてお姉ちゃんが女として高スペックなのを実感するわね」

「ええ。肌もスベスベでスタイルも抜群。しかも、程よく筋肉がついて…」

 

それ、ブーメランだって気が付いてる?

二人だって女子としてかなりの高スペックですからね?

 

「む?二人して何をしているんだ?」

 

この声は…ゼノヴィアか?

 

「あら、貴女も一緒にする?」

「いいのか?」

「勿論ですわ」

 

な…なんだって!?

この状況でゼノヴィアも参戦だと!?

 

「私はヤハウェ様からマユ殿を支えることを賜った身。こうして貴女の体をケア出来るのは光栄の極みだ」

「お…お手柔らかに…」

 

あ、もう一組の手が加わった。

 

「あぁっ……♡」

 

ちょっ!?

どこを触ってるんだ!?

 

「ふむ…中々に楽しいな」

「でしょう?」

「ふふふ……」

 

もう完全に私は玩具と化してるな…。

 

「くぅぅ……」

「お姉ちゃん…感じてるの?」

「そ…れは……」

「まぁ……うふふ…♡」

「気持ちよさそうでなによりだ」

 

どうやら、ゼノヴィアは完全に勘違いをしてるっぽい。

どう見たら私が気持ちいいように見えるのか?

 

「よし、足はこれで終わりよ」

 

よ…良かった…。

これでもう…。

 

「次はお尻ね」

「何っ!?」

 

私の叫びを無視して、三人はお尻を触り出した。

 

「ひぅぅ……♡」

「柔らかいわね~」

「触り心地いいですわ…」

「ふむ…これはなかなか……」

「さ…三人共!?」

 

こっちの意思とか完全無視ですか!そうですか!

でも、下手に抵抗とかして怪我をさせるわけにはいかないしなぁ…。

 

「はい。こっちも終わり」

「ふぅ……」

 

終わって欲しい……これで終わって欲しいけど……。

 

(終わらないんだろうなぁ……)

 

この分だときっと……。

 

「なら、背中も塗っちゃうわね?」

 

だと思ったよ!

下半身が終わったら上半身ですよね!?

 

「はい、まずは水着を解いちゃうわね」

「あ…ちょ……」

 

私が何かを言う前に、水着の紐が解かれてしまった。

 

「それじゃぁ……いきま~す♡」

 

あぁぁぁぁ……背中が三人の手で蹂躙されてる……。

でも……

 

(段々と…気持ちよくなってきたかも……♡)

 

ヤバい…なんか私も昂ってきたかも…。

 

「んんん……♡そこはぁぁ……」

「ここがいいの?」

「う…ん……」

「お姉ちゃんもノってきたようね?」

「なんと煽情的な……」

 

三人がかりで来られたら、流石に感じてしまうって言うか……。

 

「必死に声を抑えているお姉ちゃん……本当に可愛い…♡」

「なんだか……ちょっとイジメたくなってしまいますわね♡」

「なん…だと…?」

 

朱乃のそのセリフは……まさか……!

 

「えい♡」

「きゃぁぁぁっ!?」

 

いきなり朱乃がシートと私の体に挟まれている胸に手を伸ばしてきた!

しかも、思いっきり揉んでるし!

 

「あ…朱乃……それは……あん…♡」

「あら?もしかして……」

「朱乃!貴女は何をしてるの!」

「お姉ちゃんの胸に日焼け止めを塗っているのですわ」

「そう言う事を聞いてるんじゃないわ!」

「あら?もしかして嫉妬かしら?」

「貴女ねぇぇぇぇ!!」

「ふ…二人共…喧嘩は……」

 

二人の手が無くなったのはいいが、その代わりに口喧嘩が始まってしまった。

けど、その間もゼノヴィアの手は動き続けている。

 

「むむむ…!こうなったら!」

「あ!」

 

ちょっと油断した隙に、今度はリアスが私の胸に手を伸ばしてきた!

しかも、水着の下から直に!

 

「リ…リアス!流石にそれは……あん…♡」

「リアスったら……私も負けられないわ!」

「朱乃まで!?んふぅ……♡」

 

今度は朱乃が手を伸ばしてきた!

その勢いで、二人に寄りかかるように起き上がってしまった。

その拍子にゼノヴィアの手が反対に離れた。

 

二人は揃って私の胸を揉みしだいている。

もう完全に日焼け止めを塗ると言う目的を無視している。

 

「む?今度は胸を塗るのか?」

「いや…違う……ちょっ!?」

 

こっちの話を全然聞いてないし!

一緒に胸を揉まない!

 

「これはこれで……」

「んん……もうその辺でぇぇ……」

 

三人共私に思いっきりくっついているから、その胸が私に触れている。

その感触と三人の手つきが私から正常な判断力を奪っていく。

 

「あ……先端が勃ってきた?」

「これが私のテクニックの成果よ」

「何言ってるの、私の実力よ」

「ふむふむ……」

 

どっちでないよ!

こんな感じで三人で胸を揉まれたら、誰でも感じるっつーの!

 

あ……なんか涙が出てきた…。

ついでに涎も。

 

「うふふ……お姉ちゃんのよ・だ・れ♡ペロ♡」

「あ……」

 

リアスが私の涎を舐めちゃった…。

 

「なら、私はこっちを…レロ…♡」

「あ…けの……」

 

朱乃は朱乃で私の涙を舐めたし。

どこでそんなプレイを覚えたんだ!?

 

って……

 

「あれ?」

 

プールが……赤い?

 

ふとプールの方に目線を向けると、そこには……

 

「……………」

 

顔を真っ赤に染めた状態で盛大に鼻血を流しまくっている裕斗がいた。

 

「あ」

 

そうだった…!私は今、ビキニを取っている状態だったんだ!

と…いう事は……

 

「あわびゅっ!?」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

み…見られた……裕斗に見られた!?

 

反射的に両手で胸を隠すと同時に、裕斗の精神が限界に到達した。

 

彼は鼻血の噴水を上げて、そのままプールに倒れてプカプカと浮いた。

 

「全く……気持ちは痛い程分かりますけど、ちょっとやり過ぎです」

「白音ぇ~…」

 

白音がバスタオルを持ってきて、私の体を隠してくれた。

……あれ?

 

「白音……その鼻血は?」

「普通に興奮しただけです」

「そのデジカメは?」

「シャッターチャンスは逃さない主義なので」

「白音ぇぇぇぇぇぇッ!?」

 

まさか…撮ったのか!?撮っちゃったのか!?

 

「姉様達へのいいお土産が出来ました」

「しかも渡す気なのか!?」

『はははははは!ここでも愉悦の精神を忘れんとはな!見事だぞ!白音よ!』

「ありがとうございます」

 

ギルも褒めなくてもいい!

 

『きぃぃぃぃぃぃぃ!!私も欲しいですぅぅぅぅぅぅ!!』

『余も!余も絶対に欲しいぞ!!』

『あの~…私も……』

 

絶対にやるか!

誰が好き好んで自分のヌード写真を差し出すんだよ!

 

「はぅぅぅぅぅ……」

「ア…アーシア?」

 

目をグルグルさせて頭から湯気が出てるんですけど?

マジで大丈夫?

 

「あの~…ごめんなさい。ちょっと調子に乗りすぎちゃったわ…」

「私もすみませんでした…。反省しておりますわ…」

「私も済まなかった…。もう少し考えるべきだったな…」

「分かってくれれば、それでいい……」

 

でも……めっちゃ恥ずかしかった……。

 

もうこんな事はコリゴリだよぉぉ……。

 

余談だが、白音によって撮られた写真は無事(?)に届けられた。

そして……

 

「白音!流石は私の妹にゃ!この写真…一生の宝にするにゃ!!」

「これさえあれば……でゅふふ…♡」

 

てな事になった。

一体何に使う気なのやら…。

 

因みに、写真はリアス達にも均等に配布されたらしい。

流石に裕斗と幼女組には渡してないらしいが。

 

その裕斗は出血多量で次の日、学校を休んだ。

レバーを使った料理でも差し入れてあげようかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




調子に乗って、少しエロくしすぎましたかね?

でも、HDDならこれぐらいは許容範囲だと思うんですよね。

お次はヴァーリの再登場と授業参観?

では、次回。


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第56話 赤き龍の帝と白き龍の皇

あ~…なんか、最近どうも疲れが取れにくいです…。

ちゃんと休んでいるつもりなんですけどねぇ~…。






 散々な目に遭ったプール掃除から数日が経ち、授業参観まで後少しまで来たある日。

 

私は毎日の日課である夜中の町内ジョギングをしていた。

体を動かすため、動きやすいハルシオン高体操着の上下を着ている。

 

「ふ…ふ…ふ…ふ…」

 

呼吸を一定に保ちながら走っていると、前方に自動販売機が見えた。

 

『相棒。そろそろ少し休憩したらどうだ?』

「そうだね」

 

ゆっくりとスピードを落としていき、自販機の所で足を止めた。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

呼吸を整えてから、私はポケットから財布を出した。

 

「スポドリ…だよな」

 

てな訳で、水分補給を重視してア○エ○ア○を購入した。

お金を入れてから、ボタンを押す。

ガコンと言う音と共に目的の品が落ちてきた。

 

ドリンクを取ってから、蓋を開けて一口。

 

冷たい感覚が喉を通っていき、体に水分が満ちるのが分かる。

 

「…………」

 

…どうしよう……ツッコむべきかな?

 

「……いつまでそこにいるんだ?」

 

なんかこのままなのも気まずいので、取り敢えず話しかける事にした。

 

「出てこないなら、このまま行くぞ」

 

そう言うと流石に焦ったようで、ゆっくりと電信柱の影から人影が出てきた。

 

「はぁ……どうしてバレたのかしら?」

 

溜息交じりに出てきたのは、夜中なのに眩しい程に輝いている金髪の少女だった。

白いTシャツにダメージジーンズと言ったラフな格好をしている。

 

「いや……そりゃ、バレるでしょ……白龍皇」

 

速攻で正体を言い当てたのに、驚いた様子が無い。

ちょっとショック。

 

「あら?なんで分かったのかしら?前に会った時は顔を見せなかった筈だけど?」

「それ…本気で言ってるのか?」

「え?」

 

もしかして……この子って天然?

 

「まず、声が一緒だった。それに、こんなにも近くにいれば嫌でも同族()の気配を感じるだろう」

「流石に貴女には隠せない…か」

 

ようやく観念したのか、彼女は私の目の前にまで来た。

 

「でも、どうして私の場所が分かったの?一応、気配は完璧に消していた筈だけど?」

「…確かに気配は消えていた。だからこそ分かったんだ」

「……どういう事?」

 

おや、本当に分からない?

仕方が無いなぁ~。

ここは優しいマユお姉さんが丁寧に教えてあげよう。

 

「気配と言うのは、天地万物森羅万象の全てに存在する。特に、この日本ではその傾向が顕著なんだ。日本には八百万の神々の概念があるからな」

「…………」

「この壁、自販機、ペットボトル、草木は勿論のこと、路上に転がる小石に至るまで、全ての存在に神が宿っている。我々が着ている衣服すらも例外じゃない」

 

この体になってから、常に色んな場所から気配を感じるようになった。

夢の中で玉藻に聞いたり、私なりに色々と調べた結果、こういう結論に至った。

 

「分かるか?至る所に気配があるのに、ある一点にだけ気配が全く存在しない(・・・・・・・)場所があったら、嫌でも怪しいと思うだろう」

「成る程ね…。気配を完璧に隠し過ぎたって訳ね」

「正解。私に気付かれないように近づきたいなら……」

 

はい、ここで先生から習った『圏境』を発動。

お粗末な出来だけどね。

 

「なっ!?消えた!?」

 

そっと彼女の後ろに回ってから『圏境』を解除。

 

「こんな風に…周囲の気配と一体化でもするんだな」

「……っ!?」

 

慌ててこっちを向いて、驚いた様子で後ずさる。

その顔には冷や汗も見えた。

 

「い…いつの間に…!」

「私は普通に君の後ろに回っただけだ」

 

圏境を使った状態でね。

 

「ア…アルビオン……。今、彼女の気配を少しでも感じた…?」

『い…いや…全く分からなかった…』

 

おお~…アルビオンにも分からなかったか。

私の圏境も中々の域になったな。

 

『腕を上げたな、マスターよ。儂の全てを授ける日も近いな』

「ありがとう、先生」

 

史上最強の格闘家にそう言われると、年甲斐も無く嬉しくなってしまうよ。

 

「それで?ここまで何をしに来たんだ?」

「いえね。会談前に貴女と素顔の状態で会っておきたいと思ったんだけど…」

「本当か?」

「…………」

「最初に見た時から感じていた。お前は何処までも純粋な戦闘狂だ。戦いだけをどこまでも求めている」

「その通り。私は戦いたいの。戦って戦って戦い抜いて、この世で最強の存在となる。それが私の目的であり、人生そのものよ」

「最強…ね」

 

……なんて言うか…。

 

「くだらない」

「なんですって?」

「くだらないと言ったんだ」

「貴女…!」

 

この程度で怒るか。

なんとも沸点が低い事。

 

「私は生まれてから、そんな事は一度も考えたことはない」

「そんな筈は無いわ。貴女の強さは既にこの世界でも十指に入るほどに至っている。そんな強者が最強を目指さない?ふざけないで」

「ふざけてなどいない」

 

険悪なムードになって、互いに睨み合う。

 

「じゃあ、なんで貴女はそんなにも自分を鍛えているの?それこそ、自分を強くする為でしょう?」

「確かに、強くなるために鍛えてはいる。だが、それはあくまでも目的に至る手段に過ぎない」

「目的?最強以外に目的があると?」

「ある」

 

こればっかりはハッキリと言える。

 

「私の目的…それは、全ての生き物が当然のように持っている尊厳を守る為だ」

「尊厳?」

「皆で一緒に生きる事。それが私の目的だ」

「生きる事…ですって……」

 

『あの世界』で生きた者として、これ以上に強くなる理由は無い。

ある意味、生物の根源的目的とも言えるだろう。

 

「お前…名前は?」

「……ヴァーリよ」

「そうか。ヴァーリ、お前は一度でも心から何かに飢えた事はあるのか?」

「飢えた事…?」

「そうだ。私は常に飢えている。生きると言う行為に飢えている」

「生きる事に飢える……」

 

より正確に言うと、私は怖いのだ。

皆が死ぬことが、私が死んで皆と同じ時間を生きる事が出来なくなってしまうのが。

だから私は、生きる事に必死になる。

石に嚙り付いても、泥水を啜っても、絶対に生き延びる。

その為なら、どこまでも強くなってやる。

 

「別に私はお前の強くなりたいと言う想いを否定する気はない。だがな、それ自身を目的にするな。真の意味で強くなりたいと思うのなら、その先を見ろ」

「強さの先……」

 

う~ん…どうも説教みたいになってしまう。

最上級生であるが故の性か。

 

「そうでなければ、お前は何時か必ずどこかで袋小路に至ってしまう」

「そんな事は…!」

「絶対に無い…と言いきれるのか?」

「くっ…!」

 

今のこいつは、よくある『レベルさえ上げて物理で殴ればオールオッケー』と考える典型的なタイプだ。

李書文先生だって、最強に至るまでは鍛錬や戦いだけじゃなくて、色んな事を勉強したんだぞ?

 

「……不思議ね。悔しいと思っている反面、貴女の言う事が正しいと思っている自分もいる。どうして貴女の言葉はこんなにも心に響くのかしら?」

『それは、相棒が文字通りの弱肉強食の世界を生き抜いてきたからだ』

『弱肉強食だと?』

『ほんの一瞬でも油断すれば、次の瞬間には命を落とす。僅かな隙も許されない。荒ぶる神々と人間との生存競争。相棒はそんな世界を仲間達と共に生き抜いてきたのだ。ハッキリ言って、生存欲と言うものに関して、相棒以上に飢えている人間はいまい』

 

それが、アラガミと人間との闘争の歴史だからね。

 

「己の経験から来ているから、言葉の一つ一つに言い知れない重さがあるのね。納得だわ」

「そうか…」

 

そういや、さっきからドリンクをシカトしてました。

てなわけで、ゴクッと一口。

 

「どうやら、実力以前に精神面で貴女に劣っていたようね。これでもそれなりに強いと自負していたつもりだけど、まだまだ私は『井の中の蛙大海を知らず』だったようね」

「よく、そんな言葉を知っているな…」

 

来た時とは違い、スッキリとした顔つきでヴァーリは踵を返した。

 

「本当は、貴女に宣戦布告でもしておこうかと思ったんだけど、逆に私が色々と教えられる結果になっちゃったわね」

「宣戦布告って……」

 

こんな夜中に物騒な事を考えるなぁ~。

 

「そろそろ行くわ。じゃあ、トレーニング頑張ってね。会談でまた会いましょう」

 

それだけ言うと、彼女は宵闇に紛れるようにして消えていった。

 

「ふぅ……」

 

き…緊張したぁ~!

めっちゃドキドキしたよぉ~!

 

『相棒、見事な言葉だった。改めて、お前が現代の赤龍帝で良かったと思ったぞ』

「ドライグ…」

『私も同感だ。さっきの君の言葉を昔の私にも聞かせてやりたいよ』

「エミヤまで…」

 

思った事を言っただけでここまで褒められるって…。

 

「私も行くか。家までダッシュだな」

 

休憩しすぎたからな。

ここは全速力で行きますか!

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 はい、やって来ました。

(転生してから)人生初めての授業参観。

 

教室にて私とリアスは何とも言えない面持ちでいた。

 

「「はぁ……」」

「あらあら、二人揃ってどうしましたの?」

「言わなくても分かるでしょ…?」

「もしかして、授業参観の事ですの?」

「その『もしかして』…だよ」

 

授業参観ともなれば、間違いなくあの二人が来るだろう。

あのイベント好きのヤハウェが来ない訳が無い。

 

「朱乃はご両親が来るのか?」

「はい。二人共、お姉ちゃんに会いたがっていましたわ」

「そうか…」

 

昔見た感じじゃ、朱乃の両親は比較的常識人のような印象だった。

 

やって来るであろう我が両親も普通の格好で大人しくしていてくれると助かるけど…。

 

(ルシファーさんはともかく、ヤハウェにそれを期待していいものか…)

 

因みに、白音の所には黒歌が、アーシアとゼノヴィアの場所にはレイナーレが行くことになっている。

黒歌は白音の姉として当然かもしれないが、レイナーレは以前に迷惑を掛けた詫びとして来ることにしたらしい。

 

「お姉ちゃん…ここはお互いに何も起こらない事を祈りましょう…」

「だな……」

 

けど、こういった会話こそがフラグだったりするから、世の中って怖いのよね~。

 

………本当にフラグにならないよね?

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 現在、授業中。

 

授業自体は恙無く進んでいる。

 

でも、その事自体が逆に怖い。

 

教室の後ろには参観に来た生徒の親族が来ている。

その中で特に目立つのが、彼等だ。

 

まずはリアスの兄であるサーゼクスさんと、その隣に立っている素敵なお髭を蓄えたおじ様だ。

多分、あれがリアスのお父さんだろう。

美青年と美少女の父親は、ナイスミドルな渋いおじ様だったようだ。

 

次は、朱乃のご両親。

二人共、前に見た時と全く姿が変わっていない。

お父上は堕天使だから納得できるけど、人間である朱璃さんが昔のままの若さを保っているのはどう言う事?

なにか凄いアンチエイジングでもしてるのか?

 

そして、それらに交じって目立っているのが、我が両親であるルシファーさんとヤハウェ。

ルシファーさんはいつもと同じ黒いジャケットを胸元を開けた状態で着ていて、首元にはシルバーのネックレスを付けている。

それが、なんとも言えない男性の色気を醸し出している。

お陰で、他の女子生徒達がルシファーさんの事をチラチラと見ている。

 

ヤハウェはと言うと、純白のワンピースに薄いピンクのカーディガン。

見た目は完全に十代の女の子だ。

こっちは逆に男子生徒がチラチラと見ている。

その度にルシファーさんが睨みを付けているけど。

 

(あの褐色肌のイケメンって誰?めっちゃカッコいいんだけど!?)

(闇里さんのお父さんだって!流石はミス駒王の父親ね!あのお父さんなら彼女のイケメンさも納得だわ!)

 

はいそこ、授業中にひそひそ話をしない。

 

(あれが闇里さんの母親!?本人に負けず劣らずの超絶美少女じゃねぇか!あれで18の子供がいるとか、反則だろ!)

(いや、もっとよく見ろ。傍に小さな女の子が三人いる。あれも多分、あの夫婦の子供だ)

(マジで!?)

 

そう、今回は家の大人が完全にいなくなるため、流石に子供だけには出来ないから、ルシファーさん達がオーフィスちゃん達三人を特別に連れてきたのだ。

三人共、ちゃんと大人しくしている。

その目は好奇心に満ち溢れているけど。

 

(さっき聞いたんだけど、あの子達って闇里さんの妹なんだってさ)

(美少女の妹は揃って美幼女…か。血って怖いな)

 

なんじゃそりゃ。

いいから授業に集中しようよ。

 

ふと、机の中から極少の魔力を感じた。

目線だけで見てみると、小さなメモ紙が机の中に転移してきた。

この魔法陣はリアスか。

一体どうした?

 

試しに開いて見てみると、そこには……

 

【お互いに大変ね。大丈夫?】

 

……うん。

気持ちはすっごい分かります。

 

一応、リアスの方を向いて頷いておく。

 

そ~っと後ろの様子を見てみる。

すると、三組の親達が楽しそうに話していた。

既に見知っているサーゼクスさんはともかく、よくリアスと朱乃のお父さんは緊張してないな。

サーゼクスさんなんて、初めて会った時は滅茶苦茶動揺してたのに。

 

「いやはや…まさか、こんな形で貴方様とまた出会えるとは思えませんでした」

「それはこっちもだよ。で、どうだ?俺の自慢の娘達はよ」

「四人共実に素晴らしい。そして、彼女が噂に名高い赤龍女帝…ですか。サーゼクスに聞いた通り、誠実そうな良い少女のようだ」

「だろ?俺達の愛の結晶だからな」

「もう…ルー君…じゃなかった、セッ君たら…」

 

こんな場所でイチャイチャしないでよ!

こっちの身にもなってくれ!

 

「あらら…。久し振りに会ったと思ったら、随分とラブラブな御両親がいらしたのね」

「しかも、母親があのヤハウェ様とはな…。ならば、彼女が伝説となるのも納得できるが…」

「僕達は本当に何もしてないよ。全てはあの子の功績さ」

 

色々とヤバい会話をしてるけど、他の人達は自分の子供を見るのに夢中で聞いていない。

これが授業参観なのが幸いしたか。

 

「ここが高校か…」

「お姉ちゃん、勉強してる」

「ちょっと探検したいな…」

 

三人としては、未知の場所を見て回りたいと言う気持ちが大きいのは当然かも。

放課後にでも案内してあげようかな?

 

こんな感じで、授業参観は進んでいった。

 

授業参観は午前中だけなので、午後は通常授業になる。

 

午後からは参観に来た親族は帰ってもいいし、そのまま校内を見学してもいい事になっている。

 

私の所は放課後までいる事になっている。

多分、それはサーゼクスさん達も同じだろう。

 

このまま、今日はなにもトラブルが無いといいけど…。

 

なんて言ってたら、絶対に何かが起こるんだよなぁ~。

 

もう、お約束の展開だからね…。

 

(はっはっはっ!お前も気苦労が絶えないな!雑種よ!)

 

うっさい!ギルガメッシュ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作ではヴァーリに圧倒されるシーンでしたが、ここでは逆に圧倒しちゃうことに。

ある意味、この結果は当然かも。

そして、授業参観はとんでもないメンバーが揃う事に。

知っている連中が見たら卒倒しちゃいますね。

では、次回。


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第57話 魔王少女?との邂逅

ようやくセラフォルーが再登場です。

第一話からこっち、満を持しての登場です。

でも、そんなにも出番があるかな…?






 色んな意味で大変だった授業参観が終わり、今は昼休み。

途中で合流した白音やアーシア、裕斗とゼノヴィアと一緒に食堂で食事をし、我々は食堂に隣接している自動販売機コーナーでジュースを飲んでいた。

 

「「はぁ……」」

「せ…先輩?一体どうしたんですか?部長まで一緒に溜息を吐いて…」

「あ……うん。ちょっとね…」

「あんなにも疲れる授業は生まれて初めてよ…」

「同感……」

 

我々の家族自体は何にもしてはいない。

そこはいい。

けど……

 

「特にこれと言った事をしていないのに、あんなにも目立つなんて…」

「完全に予想外だったわ……」

「あらあら…」

 

朱乃はいつものように笑っているが、君だって同じような立場だっただろ?

どうしてそんなにも平気そうなんだ?

 

「どんな感じだったんですか?」

「とにかく、滅茶苦茶目立っていたとしか…」

「それしか感想は無いわね…」

 

だって、ルシファーさんもヤハウェも普通に若いんだもん!

あれで四人の子供を産んでますとか、誰が信じるんだよ!

しかも、その内の一人は現役の女子高生だぞ!

 

「そっちはどうだったんだ?」

「男子達が姉様をいやらしい目で見てましたけど、それ以外には何も」

「それはそれで大変なんじゃないか?」

 

確かに黒歌は同性から見ても美人だ。

年頃の男子達が気になるのも無理は無い。

 

「レイナーレ様もなんだか注目されてました」

「うむ。授業中に後ろをチラチラと見る男子が続出してな、しょっちゅう怒られていた」

「ははは……まぁ、そこは仕方ないんじゃないかな?」

 

レイナーレもモテてるな~。

何気に、普通に女子高生として通っていても違和感ないしな。

 

そんな感じで、いつものように話していると、何やら廊下の向こうが妙に騒がしかった。

 

「…なんだ?」

「ちょっと静かにしてください」

 

白音がそっと騒ぎの方に耳を澄ませて目を閉じた。

きっと、ここから向こうの声を聞こうとしてるんだろう。

なんでも、猫又モードにならなくても、これぐらいの事は余裕で出来るらしい。

 

「これは……?」

「どうしたの?」

「なんか…意味不明な事を言ってます」

「意味不明な事?」

「はい。『魔女っ子』とか『魔法少女』とか……そんな感じの言葉です」

「ま…魔法少女…!?」

 

ま…まさか……ミルたんじゃあるまいな!?

だとしたら非常に不味い!

もしも彼がここに来ていたら……

 

(昔、私がまどマギのコスプレをしたのがばれてしまう!!)

 

ど…どうする!?

 

いや…待てよ?

なんでミルたんだと決めつける?

もしかしたら違うかもしれないじゃないか。

 

そもそも、ミルたんには私の素性は一切話していない。

お互いに本名すらも知らないんだ。

彼に私の居場所が分かる筈が無い!

 

(あいつだと、野生の勘とかで分かりそうだな…)

 

こ…怖い事を言わないでよ!ドライグ!

 

でも…実際にあり得そうで怖い。

って言うか、もしかしたら人間誰しもが秘めている『第七感覚』とかに覚醒してそうだ。

いや、下手したら『第八感覚』まで行っている可能性も…。

 

(クハハハハハハハハハハハ!!!!!お前がそこまで動揺するのは珍しいな!ええ?雑種よ!)

 

面白がるな!

私は必死なんだよ!

もう少しで終わる高校生活の全てが掛かってるんだから!

 

「ど…どうしたの?お姉ちゃん?」

「お顔が真っ青になってます。気分でも悪いんですか?」

「い…いや、大丈夫だ、問題無い」

「フラグですね。マユさん」

 

言わないで…。

自覚があるから…。

 

「と…とにかく、まずは現場に行ってみないか?」

「そうですわね。まずはこの目で確かめないと」

「そう…だな」

 

もしも本当にミルたんだったら、なんとかして私の手で誤魔化さないと!

 

でも……お願いだから、ミルたんじゃありませんよーに!!

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 実際に現場に到着すると、カメラを持った連中が大勢群がっていた。

光が沢山光っているのを見ると、どうやら一心不乱で何かを撮影しているようだ。

 

人の波に憚れてよく見えないが、この中心にいるのが例の『魔法少女』なのだろうか?

 

「本当になんなのかしら…?」

「さっぱり状況が分かりません」

「それは誰もが一緒だ」

 

逆に分かったら凄いわ。

 

私達が困惑していると、我々が来た方から匙君がやって来た。

 

「あれ?先輩達?こんな場所で何を?」

「いや…なにか騒がしかったんでな。少し様子を見に…」

「先輩達もですか…」

「も?君もか?」

「はい。俺達生徒会メンバーはさっきから魔王様やリアス先輩のお父さんや、マユ先輩の家族、朱乃先輩の御両親を案内してたんです。で、その途中でなんだか騒がしい場所があるって言う報告があったんで、俺が先行して来たんです。後で会長も来る予定です」

 

ソーナも来るのか。

彼女ならこの状況もなんとか出来るかもな。

言っておくが、決して匙君の力を軽視している訳じゃないぞ?

この騒動を一人で納めるのは難しいと判断しただけだ。

 

「よし!」

 

と気合を入れた匙君が集団の中に入っていった。

 

「ほらほら!こんな場所で撮影なんかしてないで、とっとと解散しろ!ここはコミケの会場じゃねぇぞ!」

 

コミケとか知ってるんだ…。

匙君もアニメとか好きなんだろうか?

 

カメラを持った連中は匙君に言われるがまま、雲の子を散らすかのようにして大人しく去って行った。

去り際に『うぉ!?ロリっ子美少女!?』とか『あの髪が赤い子…いいなぁ~…』とか『背ェ高っ!?でも、超絶美人!!』とか聞こえた気がした。

 

「はぁ……ったく…よりにもよって、授業参観の日にこんな騒動を起こすなよな……」

 

彼も気苦労が絶えないな…。

その心情には激しく同感だけど。

 

人混みが無くなったお陰で、件の魔法少女とやらの姿が見えた。

 

そこにいたのは、日曜の早朝8時30分に放送されているアニメに登場しそうな格好をしている黒髪でツインテールの女の子だった。

って……あれ?この子…前にどこかで会ったような気が……

 

「あっ!?」

 

ん?いきなり大声なんか出して、リアスはどうしたんだ?

 

「そこのアンタも、こんな日にそんな恰好をして騒動を起こさないでくれよ。でも、ここにいるって事は誰かの親族か?コスプレ自体を否定はしないけど、こういった場所ではちゃんとTPOを守ってくれよ」

「えぇ~?そんな事を言われてもなぁ~…。これが私の正装だし~」

 

正装って……。

 

でも…本当に良かった…。

魔法少女の正体はミルたんじゃなかった…。

マジで安心した…。

 

「あ、マユさんの顔色が戻りました」

 

心配事が一つ減ったからね。

 

だが、私の心は裏腹に匙君は聞き分けの無い女の子に対して悔しそうに歯ぎしりしていた。

 

そんな時だった。

廊下の向こうから皆を連れたソーナがやって来た。

 

「何をしているのですか?どんな問題でも速やかに解決するように心掛けろといつも……」

 

そこでソーナの言葉と体が止まった。

そりゃもう、一時停止のようにピタッと。

 

「あ!ソーナちゃん!」

 

コスプレっ子はソーナを見つけた途端、真っ直ぐに向かって抱き着いた。

知り合いなのかな?

 

「ソーナ……この子は…?」

「この方は…その……」

 

口籠っているソーナに変わり、リアスが答えてくれた。

 

「この方は……レヴィアタン様よ…」

「レヴィアタン……」

 

その名前は確か……現在の悪魔達を仕切っている四大魔王の一角じゃなかったか?

 

「ま…魔王?この子が…?」

「はい…。彼女こそが…私の実の姉です…」

 

なんと…!

彼女がソーナの姉とな!?

見た目的には絶対に逆だろ。

 

「はは……セラフォルーも来てたんだね」

「勿論よ。ソーナちゃんの為だもの♡」

 

うん、見事なまでのぶりっ子ですな。

オーフィスちゃん達が真似しないといいけど。

 

ふと、セラフォルーさんがこっちを向いた。

正確には私の方を向いた。

 

「セ…セラフォルー様。お久し振りd「赤龍女帝様ぁ~♡」…へ?」

 

挨拶しようとしたリアスを完全に無視して、私にいきなり抱き着いてきた。

 

「あ…あの?」

「逢いたかった……ずっと貴女に逢いたかった!」

「え…ええ?」

 

いきなりそんな事を言われてもな…。

 

「君は覚えてないかい?」

「はい?」

「君が初めて歴史の表舞台に出た日……あの時の戦いで助けた少女が彼女だよ」

「あっ!?」

 

思い出した!

私が転生して初めての戦いで、ザイゴートの群れを蹴散らした時に助けたコスプレ少女!

あの時の子か!

 

「思い出してくれました…?」

「は…はい。お元気そうでなによりです…」

「えへへ…♡」

 

あの時の子が実は魔王ですか…。

どんな冗談だよ…。

 

「私は『セラフォルー・レヴィアタン』って言います!」

「えっと…私は闇里マユ…です」

「マユちゃんね!よし!覚えた!」

 

覚えるの早っ!

 

「おいおい……マユのやつ…俺等の目の前で堕としやがったぞ?」

「流石は僕達の可愛い子供!魔王も彼女にかかればイチコロだね!」

 

それ、どう言う意味で言ってるんだ?

 

「貴女の活躍はずっと聞いてきたの!マユちゃんの噂を聞く度に興奮が収まらなくって!」

「そ…そうですか…」

 

ここまでストレートに好意を表されると反応に困るな…。

 

「お姉さま!マユさんが困っています!早く離れてください!」

「あれ~?もしかしてソーナちゃんもマユちゃんの事が好きなのかな~?」

「そ…それは……」

 

なんでそこでどもる?

この状況で黙るって事は肯定しているのと同義だぞ?

 

「マユ……学校でフラグ建て過ぎにゃ…」

「呆れてものも言えないわね…」

 

そう言われても!

私だって建てたくて建ててるんじゃないよ!

っていうか、私がいつ建てた!?

 

「しかし…セラフォルー殿は随分と奇抜な格好をしていますな。魔王としてそれはどうかと……」

「あれ?おじさまはご存じないんですか?この格好こそがこの国での正装なんですよ?」

「おや、そうでしたか。これは私の方が無知だったようだ」

「いや、流石にそれは違いますから」

 

リアスのお父さんの質問に対して出鱈目を息を吐くように答えるセラフォルーさん。

ここで訂正しておかないと、間違った日本像を植え付けてしまう!

 

私の声に反応して、リアスのお父さんがこっちに来た。

それに合わせてセラフォルーさんがやって離れてくれた。

 

「初めまして。赤龍女帝殿…いや、闇里マユ殿。私がサーゼクスとリアスの父です」

「あ……こちらこそ初めまして…」

 

握手を求められたので、反射的に握手をした。

 

こういった紳士と話すのは初めてだから、柄にもなく緊張する…。

 

「貴女には子供達が何回も助けられたと聞いています。今更ながら礼を言わせていただきたい。本当にありがとう」

「そ…そんな…頭を上げてください」

 

貴方の様な方に頭を下げられると、逆にこっちが困るんです!

 

「私は当たり前の事をしただけです。褒められるようなことは何もしていません」

「謙虚ですな…。そんな貴女だからこそ、伝説にもなったのでしょう」

 

……一回、マジでどんな伝説になっているのか知りたい。

黒歴史になってるかもしれないし。

 

「あ~!貴方は…ルシファー様!?なんで!?」

「ちょっとな。だが、今の俺はマユの父親の闇里セツナだ。ここではそう呼べ」

「は~い」

 

向こうも向こうで話しているみたい。

でも、初代魔王と会った割には反応が普通じゃないか?

 

「こうしてみると、魔王も千差万別にゃ」

「不思議と、今の悪魔達に同情しちゃったわ…」

 

分かっていても、そんな事を言うもんじゃないって。

心の中に仕舞っておこうよ。

 

「「「おぉ~…」」」

「あれ?君達…これに興味があるのかな?」

「「「うん!」」」

「じゃあ、特別に持たせてあげる!」

 

あ、とうとう幼女組がセラフォルーさんの格好に興味を示してしまった。

オーフィスちゃんが彼女が持っていたステッキを持っているし。

 

「あの子達もあんな物に興味を持つようになったのか…」

「本当に、歳相応の女の子にしか見えなくなってしまいましたね」

「でも、あの子達はその方がいい気がするわ」

「ですね。あの子達の様な子供達を未来を守る為にも、『僕達が頑張らなくては』と言う気持ちにさせてくれますから」

 

あの子達の笑顔を曇らせるような事はしたくないな…。

いや、オーフィスちゃん達だけじゃない。

皆の笑顔を守る為にも、絶対に負けられない。

 

「……いい家族を持ちましたな」

「はい……」

「私も妻子を持つ身。愛する家族を守りたいと言う気持ちは誰よりも分かります」

 

リアスのお父上が見せる目は、とても慈愛に溢れていた。

この人が悪魔とかって言われても、信じられないな。

 

「どうですか父上。彼女の印象は」

「ああ。こうして実際に話すとよく分かる。誠実な姿勢に信念に満ちた力強い瞳。噂に違わぬ美しさ。伝説に名を遺す勇者として申し分無しだ」

 

とうとう勇者認定ですよ。

どこまで私の称号は大きくなるんでしょうか?

 

「当然です。だって、私のお姉ちゃんなんですから」

「ははは……リアスもすっかり彼女に懐いたな」

 

リ…リアスさん?

いきなり腕に抱き着かれると…その…胸が当たりますよ?

 

「少しよろしいですかな?」

「おや?貴方方も彼女に?」

「はい。我々も彼女に救われた身です」

 

今度は朱乃の御両親か。

本当に仲睦まじいな。

 

「こうして会うのは十数年振りですな。ご壮健そうで何よりです」

「そうですね。そちらはいかがですか?」

「貴女が助けてくれたお陰で、こうして家族水入らずで暮らしていけています。本当に…どれだけ感謝しても感謝し足りないわね」

 

朱乃の様子からなんとなく予想はしていたけど、夫婦仲はいい様だ。

 

「あれから、アザゼルに事情を話して色々と便宜を図ってもらい、その後は堕天使達が襲撃してくることは無くなりました。聞いた話だと、君もアザゼルと知り合っているとか」

「まぁ…一応……」

 

状況に流された結果…だけどね。

 

「何か困ったことがあったらいつでも仰ってください。我々に出来る事などたかが知れているかもしれないが、それでも全力で手伝わせて貰います」

「その気持ちだけで充分です」

 

そういや、いつまで私に対して敬語を使うの?

私ってそんなにも畏まるようなキャラだっけ?

 

それからも、私達は昼休みの間中ずっとご両親組と話していた。

 

ああいった大人と話す機会は滅多にない為、結構新鮮な気持ちだった。

 

オーフィスちゃん達はとうとう魔法少女に興味を持ってしまった。

芋蔓式に私の持っているソウルジェム擬きの事がばれないようにしないと…。

 

セラフォルーさんはソーナと話していて、恥ずかしさの限界に来たのか、ソーナはこの場から走って去って行ってしまった。

 

やがて昼休みも終わりに近づき、私達はそれぞれの教室に戻っていった。

 

家族組は予定が空いている教員にソーナ達が役目を引き継いで、そのまま学校の中を見学していった。

 

こうして、騒がしい一日は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




思ったよりも出番がありましたね。

今回初めてフラグが建ったように見えるセラフォルーですが、実は既に建っていたりします。

では、次回。


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第58話 僧侶の駒の吸血鬼

やっと『彼』のご登場です。

随分と時間が掛かりました…。






 授業参観が終わり、私達は羞恥心に悶えながらも、なんとかして家に帰ったが、本当の試練はそれからだった。

 

何故なら、流れでサーゼクスさん達を私の家に招くことになったのだ。

 

黒歌、レイナーレ、そしてグレイフィアさんが作ってくれた夕食を美味しく食べた後、なんでかリビングにて鑑賞会が始まった。

 

最初は何の鑑賞会かと思ったら、そこに映っていたのは授業参観中の私達の教室だった。

 

一体いつの間に撮影なんていていたのか、私とリアス、朱乃の後姿がバッチリと映っていた。

 

「綺麗に映ってるにゃ」

「そうね。こんな風だったんだ…」

 

黒歌とレイナーレはまだいい。

けど、問題は親バカ連中の方だ。

 

「やっぱり、俺等のマユは頭がいいなぁ!な?ヤーちゃん!」

「そうだね!僕達の自慢の娘だもん!」

 

このバカップルは…!

 

「お姉ちゃん、頭いい?」

「特訓だけじゃなくて、勉強もいつも頑張っているからな!」

「私達にも色々と教えてくれるしな!」

 

学校は難しくても、勉強をしておいて損は無いと思うので、時々私がオーフィスちゃん達に簡単な算数などを教えたりしている。

流石は伝説の龍神。

呑み込みは非常にいい。

 

「ウチのリーアも負けてませんよ!ほら、ここ!」

「完全な羞恥プレイよ…」

 

その気持ちは痛い程分かる。

サーゼクスさんも興奮しすぎ。

グレイフィアさんがめっちゃ呆れてますよ。

 

「健やかに育ってくれていれば、それだけでいい…」

「そうね」

 

朱乃の御両親が一番まともだった。

魔王よりも常識人な堕天使って……。

 

ここ最近は毎日が賑やかな気がする。

 

でも、こんな日々も悪くないと思っている自分がいる。

 

恥かしいのは絶対に嫌だけど。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 また一つ、人生の黒歴史に新たな1ページが刻まれた授業参観の次の日。

 

私はリアス達と一緒に旧校舎の1階にある皆から『開かずの間』と呼ばれている場所の前に来ていた。

 

扉自体は物理的に封印されていて、至る所に刑事ドラマに登場する黄色いテープが張られている。

 

「リアス…ここは?」

「ここには私の眷属の子がいるの」

「眷属が?」

 

初耳だ。

一体どんな子なんだろうか?

 

「駒はなんですか?」

僧侶(ビショップ)ですわ」

 

僧侶か…。

なら、少なくとも前に出て戦うようなタイプじゃないな。

 

「けど、なんでこんな場所にいらっしゃるんですか?」

「ここにいる子の能力は非常に強力で、本人もまだ自分の力で制御しきれていないんだ。本人の希望もあって、半ばここに幽閉するような形になってしまったのさ」

 

御しきれない力…か。

その点で言えば、私も人の事は言えないけど。

 

リアス曰く、今までの戦いを鑑みて、今のリアスなら問題無いと四大魔王や他のお偉方達が判断し、彼(?)の封印を解くことになったらしい。

 

「お姉ちゃん達の存在も大きいけどね」

「私達が?」

 

何かしたっけかな?

 

「伝説の戦士であるお姉ちゃんは勿論のこと、白音も3つの人口神器を自在に使いこなす技量が評価されて、高い回復能力と今時稀に見る清純さを併せ持つアーシア、赤龍女帝の従者となった教会の聖剣使いのゼノヴィアの存在。これだけの人材がいればいざと言う時も大丈夫だと思ったらしいの」

「ず…随分と高評価なんだな…」

「何だか恥ずかしいです…」

「悪魔とは言え、誰かに褒められると言うのも悪くは無いな」

 

そこまで期待されているのならば、なんとかするしかないな。

どんな子かにもよるけど。

 

「でも、こんな場所で悪魔の仕事である『契約』は取れるんですか?」

「その点は大丈夫ですわ。ここにいる子はパソコンを介したネットを通じて数多くの契約を取ってますの。何気に、私達の中では一番の稼ぎ頭だったりするんですのよ」

「マジか……」

 

つまり、典型的なヒッキーなんだな。

恐るべし現代っ子…ってやつか。

 

「それじゃ、このテープを取るの手伝ってくれない?」

「分かった」

 

皆の手でテープを取る。

人数が多いせいか、あっという間に片付いた。

取ったテープはゴミ箱にポ~イ。

 

「じゃあ……開けるわね」

 

リアスがゆっくりと扉に手を掛けて、静かに開ける。

 

ギィィィィ……と言う音と共に扉が開かれ、暗い室内に光が入る。

その瞬間……

 

「イ…イヤァァァァァァァァァァァァァァァァァっ!?」

 

甲高い悲鳴がその場に響き渡った。

 

まさか、いきなり悲鳴が聞こえてくるとは予想していなかった私を始めとしたリアス眷属以外の人間は、思わずビクッと体を強張らせてしまった。

 

「ひ…悲鳴?」

「なんなんでしょうか…?」

「う…五月蠅い…!」

 

ゼノヴィア、気持ちは分かるがイライラするな。

 

だが、リアスは特に気にした様子も無く、朱乃は溜息と共に中に入っていった。

私達もそれに続くようにして入っていった。

 

「久し振り。元気そうで良かったわ」

「な…な…な…なんなんですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「封印を解く許可が出たんですのよ。もうここにいる必要は無く、お外に出られるのよ。さぁ、一緒に行きましょう?」

「イヤイヤイヤイヤイヤですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!お外になんか絶対に出たくないですよぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!誰かに会うなんて嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

人見知りで引きこもりって……。

 

「見事なまでに、典型的な不登校児の主張ですね」

 

言ってやるなって。

 

室内の窓は全て閉め切っていて、その上にカーテンが掛けられている。

その為、部屋の中はうっすらと薄暗い。

よく見ると、室内の装飾は年頃の女の子の様な可愛らしい飾りで一杯で、所々にはぬいぐるみもある。

でも、その中で違和感を放っているのが、部屋の端の方にある西洋風の重厚な棺桶だった。

 

「あの声のトーン……僧侶の方は女の子なんでしょうか?」

「そのようだが……」

 

声だけでは判断は出来ない。

世の中には女性のように声の高い男性も少なからずいる。

 

そっと奥を覗くようにして件の人物を見てみると、そこには……

 

「ひくっ……ひくっ……」

 

綺麗な金色の髪と紅い瞳を併せ持った、駒王学園の女子制服に身を包んだ『男の子』がいた。

 

「……なんで、男なのに女子の制服を着ているんだ?」

「「「「「「えっ!?」」」」」」

 

な…なに?

そんなに驚くような事を言った?

 

「お…お姉ちゃん…この子が男だって分かったの?」

「いや、どう見ても男だろう?」

「驚きですわ……」

 

朱乃も目を見開いて驚いちゃって。

マジで皆どうしたの?

 

「どっからどう見ても女にしか見えないんだが……」

「同感です…」

 

そっか、確かに見た目は女の子みたいにしてるもんね。

 

「参考までに聞いていいですか?どうして先輩は彼が人目で男性だと分かったんですか?」

「簡単だ。まず、全身の骨格が完全に男の物だ。そして、女子高校生にしては胸のふくらみが無さすぎる。故に、彼は男だと言う結論に至った」

「「「おぉ~…」」」

 

リアス眷属は驚きの目でこっちを見て、他は……

 

「マユさん……一回見ただけでそこまで……」

「流石は赤龍女帝。素晴らしい観察眼だ」

 

で、白音は……

 

「胸の大きさ……」

 

なんでか自分の胸と私の胸を何回も見比べている。

私の胸がどうかしたのか?

 

「彼がリアスの僧侶なのか?」

「ええ、そうよ」

「ふむ…」

 

まずは挨拶でもしようか。

 

そう思って彼に近づこうとすると……

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」

 

あらら……脅えられてしまった。

 

ちょっとショックを受けていると、なんだか妙な感覚に襲われた。

 

「ん?」

『ほぅ?これはまた……』

 

ギルが珍しく感心している。

 

すると、急に周囲が静かになった事に気が付いた。

ふと後ろを見てみると……

 

「え?」

 

そこでは、リアスが完全に『停止』していた。

いや、リアスだけじゃなく、皆の動きが完全に止まっていた。

 

「これは……?」

『心配せずともよい。単に時が止まったにすぎん』

「はぁ?」

 

時が…止まった?

なんだよ、その状況は?

 

内心混乱していると、先程の男の子が四つん這いになってどこかに行こうとしていた。

私以外に彼が動けるという事は……

 

「ちょっと待って」

「ひぃぃぃ!?」

 

少し脅えすぎじゃない?

 

「この時間停止現象は…君の仕業なのか?」

「ご…ごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!って…あれ!?なんで貴女は動けるんですかぁぁぁぁぁぁっ!?」

「なんでと言われてもな……」

 

こっちが知りたいわ。

 

(単純に、相棒の力がコイツの力を上回っているだけだろう)

 

え?そうなの?

 

「うお?」

 

何かが動き出すような感覚を感じた。

それと同時に、後ろからも気配が復活した。

 

「お姉ちゃん……もしかして、動けたの?」

「え?あ…ああ……」

 

この様子……止まっている間は認識できていないようだな。

 

『恐らく、この女装男の神器は『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』だ。目と一体化した神器で、視界に入ったあらゆる物質を一定時間停止させる代物だ』

「視界に入った物を停止させる……」

 

話だけ聞けばかなりのチートだな。

そして、相も変わらずギルは物知りだ。

 

「だが、私は普通に動けていたが……」

「だから驚いていたの。お姉ちゃんの強さが原因かしら…?」

『その線が濃厚だ。相棒ならば何が起きても不思議じゃない』

「それはそれでちょっと複雑な気持ち……」

 

単純な強さで神器の力を無効化するって……。

 

「君…名前は?」

「ひぅっ!?」

 

あ、後ずさってしまった。

 

「お姉ちゃん、この子は…」

「大丈夫」

 

これはきっと、他人から聞いちゃ駄目な事だ。

私は彼の口から直接聞きたい。

 

「教えて…くれる?」

 

そっと彼の頭に手を乗せて、可能な限り優しく話しかけた。

すると、彼は少しずつではあるが大人しくなって、落ち着くまで待った。

 

「ギャ…ギャスパー・ヴラディ……です……」

「良く言えました」

 

手を動かして彼の頭を撫でた。

さっきまでの脅えはもう無く、彼の震えはもう止まっていた。

 

「ギャスパー、彼女は怖い人じゃないわ」

「え?」

「この人は貴方が最も憧れている人物よ」

「それは……」

「そう、彼女こそが伝説の赤龍女帝よ」

「えええっ!?」

 

やっぱりここでもその名が出るか……。

何気に万能だな、赤龍女帝。

 

「闇里マユ。ここの三年生だ」

「あ…闇里先輩……ですかぁぁぁ…?」

「名前でいいよ」

「じゃあ……マユ先輩……?」

「うん」

 

なんだ。こうして接すると、結構素直でいい子じゃないか。

でも、こんなにも脅えているという事は……

 

「君は…過去に辛い目に遭ったんだな……」

「僕……は……」

「別に無理して言わなくてもいい。だから、今から少しだけ質問をする。イエスなら首を縦に、ノーなら首を横に振ってくれ」

「はい……」

 

よし。ならば……

 

「まず一つ目。君がそんなにも怖がっているのは、過去に誰かに酷い目に遭わされたから?」

「…………(コクン)」

 

イエス……か。

 

「なら二つ目。君は自分の持つ能力が怖い?」

「…………(コクン)」

 

これもイエス…と。

 

制御出来ない自分の能力で己の意思とは関係無く誰かを傷つけてしまい、それが原因で迫害に近い目に遭ってきた……ってところか。

 

彼を見ていると……不思議とソーマを思い出す。

 

己の強大な力故に、徹底的に他人から離れ、いつも孤独だった彼の事を……。

 

「……私の仲間にも…君のように、力が強すぎるが故にいつも独りぼっちだった奴がいたよ」

「そ…そうなんですか?」

「ああ。いつも自分以外の仲間が全員死んでしまい、彼は周囲の連中から『死神』なんて言われていた。彼自身もそれを否定しようとしないで、いつも自分から他人を引き離していたよ」

「……………」

 

形は違うように見えるが、根本的なところは同じように思える。

常に孤独でいようとするのは、逆に言えば他人の事を自分以上に気遣っている事になる。

彼が本当に怖がっているのは、自分の能力じゃなくて、その能力で誰かを傷つける事に違いない。

ソーマも同じ感じだったし。

 

「その人は……どうしたんですか?」

「最初は思いっきりピリピリした雰囲気だったよ。私なんて出合頭に剣を突き付けられたし」

「け…剣を!?」

 

あの時は本気で驚いたなぁ~。

後になってそれも彼なりの優しさだって気付いたけど。

 

「『お前はどんな覚悟を持って『ここ』に来た?』……そう言われたよ」

「覚悟……」

 

今にして思えば、凄く深い言葉だよな。

あの頃は何をするにしても必死だったから、覚悟も何も無かったけど。

 

「でも、最終的には皆と仲良くなっていったよ。今では色んな人に慕われて、死んでしまったお父さんとお母さんの意思を継ごうと頑張ってる」

 

『背中を預けるぞ』。『力を貸してくれ』。

彼からその言葉を聞いた時、私は涙が出そうになるぐらいに嬉しかった。

ソーマが本当の意味で心を開いてくれたって思ったから。

 

「別にギャスパーにも同じ事を求めようとは思わない。けど、自分の中の力を向き合う努力をすべきじゃないかな?」

「でも……僕がいると、皆が止まってしまうんですよ!?」

「私は止まらない」

「え?」

「私は絶対に止まらない。つまり、君はもう一人じゃないってことだ」

「一人じゃ……ない……?」

 

再びギャスパーは震え出した。

けど、これは恐怖による震えじゃない。

 

「私も…ここにいる皆も、君に酷い事は決してしない。そして、君の事を怖がったりしない。だから…大丈夫」

「僕は……僕は……」

 

私はそっとギャスパーの事を抱きしめた。

 

「君も男の子なら、勇気を持って外に出よう」

「……怖くないですか?」

「怖くなんかないよ。一人じゃないからね。だから……」

 

彼の手を持って立ち上がらせた。

背の関係で見下ろすような形になったけど。

 

「一緒に行こう……ギャスパー」

「はい………」

 

ようやくギャスパーは笑ってくれた。

 

涙を流しながらの笑顔だったが、それはとても眩しく見えた。

 

まるで、本当の女の子のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ギャスパーフラグは建った……かな?

自然とソーマの事を思い出す辺り、ソーマに対してマユフラグが建っているのかもしれませんね。

では、次回。


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第59話 懐かれた・・・

今回も原作沿い。

これからマユとギャスパーはどんな絡みをしていくのでしょうか?





 ギャスパー君……君?君でいいのかな?

ま、こんな格好をしていても一応性別は『男』なのだから、君でいいか。

 

ギャスパー君を脱引きこもり(?)をさせてから、私達は部室にていつものようにお茶をしている……が、そこに明らかな違和感があった。

それは……

 

「あぁ~……ここは落ち着きますぅ~…」

 

ソファーに座っている私の隣に鎮座している中ぐらいの段ボールがあるからだ。

時折ブルブルと震えていることから、中に誰かがいるのが分かる。

 

「はぁ……。たとえ部屋から出ても、そうしていたら何の意味も無いじゃない…」

「ま…まぁ…こうして部室にいるだけでも前進したんじゃないか?」

「それはそうかもしれないけど……」

 

一応のフォローはしておいたけど、部長として、なにより主としては複雑なんだろう。

 

「けど…どこからそんな段ボールを持って来たんだい?ギャスパー君」

「こんな事もあろうかと、荷物入れに使っていた段ボールを密かに保管していたんです~」

 

そう、この中にいるのは件のギャスパー君なのだ。

部屋から出て部室に入った途端、いきなり何処からともなく段ボールを取り出して、私の隣に来て入ってしまった。

それからずっと、動く様子はない。

 

「……ギャスパー。一つだけ聞いていいか?」

「なんですか?」

「君はもしかして……ソリッドでメタルなギアのゲームが好きだったりするか?」

「はい。一応、全シリーズはコンプしてますけど……」

「やはりか……」

 

段ボールに入る姿が妙に様になっていたから、もしかしてとは思ったが……。

 

「けど、まだまだ『蛇』さんには程遠いですね。もうちょっと気配を消さないと」

「頑張りますぅ~」

 

そういや、白音もあのゲームが好きだったっけ。

 

「けど、思ったよりもすんなりと出てきてくれましたわね」

「全てはお姉ちゃんのお陰ね。……お姉ちゃんにここまで懐くのは予想外だったけど…」

「ん?」

 

最後の方…なんて言った?

 

「リアス部長、純粋な疑問なのだが、ここまで強力な神器を宿す彼をよく眷属に出来たな。普通に考えれば少々難しいように思えるのだが…」

 

それは私も同じ事を考えていた。

ゼノヴィアが言わなければ私が質問していただろう。

 

「当然の質問ね。実は、この子には特殊な駒…『変異の駒(ミューテーション・ピース)』と呼ばれる物を使用したの」

「変異の駒…?」

「ええ。通常の駒とは違い、複数の駒が必要な存在でも一個の駒の消費で済んでしまう特殊な駒なの。最初は悪魔の駒を開発する過程で偶然の産物として生み出された物らしいんだけど、詳しく解析をした結果、利用価値があると判断されて、そのまま使われることになったのよ」

「変異の駒は上級悪魔の10人に1人ぐらいに割合で所持しているのですわ」

「結構なレアアイテムなんですね」

 

確かにな。

10分の1とかって結構な確率だぞ。

リアスって何気に凄かったんだな。

 

「けど、最大の問題はギャスパーの才能が大きいのよ」

「才能?」

「ギャスパーは無意識のうちに神器の力を高めていくようで、リアルタイムで日々、力が増大していってるのよ。このままいけば禁手に至るのも時間の問題と言われているの」

「マジか……」

 

私の隣にいる、この段ボール星人がそれ程の実力を秘めていたとは…。

人も悪魔も吸血鬼も、見かけにはよらないんだな。

 

そうそう。

さっきリアスに聞いたのだが、彼…ギャスパーは吸血鬼と人間との間に生まれた、所謂『ハーフヴァンパイア』と呼ばれる存在らしく、更にその中でも日中でも行動が可能な『デイウォーカー』と言う稀有な子らしい。

本人曰く、苦手ではあるが行動に支障は無いとの事。

吸血衝動もそこまで酷くなくて、10日に1回ぐらいの頻度で輸血パックを一つ摂取すれば問題無いようだ。

だが、当の本人は……

 

「生臭いのは駄目なんですぅ~!レバーや血とか絶対に口に入れたくないですぅ~!!」

 

と言っている。

 

これでいいのかと言いたくなるが、鉄分の摂取はほうれん草などでも代用は可能なようで、今のところはこれと言った問題は出ていないようだ。

 

「へたれ吸血鬼。いえ、HE・TA・RE・ヴァンパイアですね」

「うぐっ!?」

 

結構グサッとくる一言を言いますね、白音さん。

 

『ははははははははは!!着実に愉悦の道を究めつつあるな!白音よ!ここまま行けば、免許皆伝の日も近いぞ!!』

「感謝の極みです」

 

そして、無駄にギルが喜ぶ…と。

ほんと、この二人って仲がいいよね。

 

「と…とにかく、今のギャスパーに必要なのは自分自身に対する自信だ。神器の制御が出来るようになれば、少しは自信もつくだろう。私も可能な限りは協力するから、頑張ろう」

「が…頑張りますぅ~…」

 

語尾にまだ力が無いが、この言葉が出るだけでも今は充分だ。

本人にやる気がある証拠だしな。

 

「思った以上にお姉ちゃんに懐いているようだし、ギャスパーの事は任せてもいいかしら?」

「ああ、任された」

 

後輩の指導は経験があるから大丈夫だ。

 

「私と朱乃は今から今度ある会談の会場の打ち合わせに行ってくるから、戻ってくるまでギャスパーに色々と教えてあげて欲しいのだけれど……」

「大丈夫だ、問題無い」

『マスター、それはフラグだ』

「え?」

 

なんでそんな事をエミヤが知ってるの?

 

「それと裕斗。貴方の禁手についてお兄様が聞きたいことがあるらしいから、一緒に来てくれるかしら?」

「分かりました」

 

あれは私から見てもかなり特殊だったしな。

魔王の立場としても聞きたいことは山ほどあるだろう。

 

「他の皆も協力してあげてね」

「はい」

「私で出来る事があるなら…」

「了解だ。任せてくれ」

 

ま、これだけ人数がいれば何とかなるだろう。

 

そんな訳で、私達によるギャスパーの特訓?が始まった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 リアス達が仕事に向かってから、軽く自己紹介をした後に、早速ギャスパーの特訓が始まった。

 

今いるのは、旧校舎の前にある少しだけ開けた場所。

そこで、ギャスパーが悲鳴を上げながら走り回っている。

 

「デイウォーカーと言うならば、日中でも問題無い筈だ!さぁ、走れ走れ!!」

「うわぁ~ん!!刃物を振り回すのはやめてくださぁ~い!!」

 

ギャスパーの後ろからはゼノヴィアがデュランダルを振り回しながら追いかけている。

あんな使い方をしていいんだろうか…。

 

『マスターもエクスカリバーを持って追いかけますか?』

「いや……いい」

 

デュランダルにエクスカリバーも加わっては流石に彼が不憫だ。

今の状態でも充分に不憫だけど。

 

ゼノヴィア曰く、『健全な精神は健全な肉体と健全な魂に宿る』…らしい。

一体どこでそんな言葉を覚えてきたのか…。

 

「ギャー君。ニンニクを食べて健康的な体になりましょう」

「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?ニンニク臭いぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!!」

 

そんでもって、そんなゼノヴィアの横を白音がニンニクを持って追いかけている。

幾らハーフとは言え、吸血鬼にニンニクは駄目でしょ…。

 

『次から次へとこうも連続で…!雑種よ!白音は近年稀に見る愉悦の才能の持ち主かもしれんぞ!!あやつの数年後が実に楽しみだな!!』

「ソーデスカ」

 

白音が段々とギルガメッシュ色に染められていく…。

お願いだから、あんな性格にだけはならないでね?

 

「だ…大丈夫なんでしょうか…?」

「多分…」

 

あの二人も、加減ぐらいは分かっている筈……だよね?

 

自分で言っておきながら、少しだけ不安になりかけた時、首に掛けたタオルで汗を拭きながら匙君が現れた。

 

「お、相変わらず精が出てるっすね」

「匙君か」

「こんにちわ」

 

まずは挨拶。

これは常識だからね。

 

「どもっす。今まで引き籠もっていた眷属が出てきたって聞いたんで、ちょっと見に来ました」

「もう知っているのか」

「情報のソースは会長ですけどね」

 

成る程。

きっと、リアスがソーナに話したんだろう。

 

「で?どの子っすか?」

「あそこで先頭を走っている子だ」

「へぇ~…あれって苛めなんじゃ?…って、金髪美少女!?」

「そう言うと思っていたよ。だが、君の予想は外れだ」

「へ?」

「ギャスパーさんは男の子なんですよ」

「なんですとっ!?」

 

きっと、これが普通の反応なんだろうな…。

一目見ただけで性別を見抜いてしまった私が異常なのかもしれない。

 

「女装癖で引きこもりって……属性を付加すればいいもんじゃないだろうに…」

「言いたいことは分かる」

 

こればっかりは慣れるしかない。

私もまだ慣れてないし。

 

「ところで匙君。その手に握っているシャベルを見る限り、花壇の整備でもしていたのか?」

「あ、やっぱり分かりますか?」

「鼻の所に汚れがついてるからな」

「おっと」

 

慌てて鼻の汚れを袖で拭く匙君は、なんだか微笑ましかった。

 

「先輩のご察しの通りです。1週間ぐらい前から会長から言われてまして。近々会談をしに三大勢力のお偉いさんが来ますから、それに備えて少しでも学園を綺麗にしておくのも生徒会の立派な仕事ですから」

「そうか…本当に偉いな。何か手伝える事があるならいつでもなんでも言ってくれ。喜んで力になる」

「ありがとうございます。でも、そんな事を先輩にさせたら俺が会長に叱られますよ」

「え?なんで?」

 

やっぱ、私が部外者だからかな?

 

「うわぁ~ん!!マユさぁ~ん!!」

 

遂に限界が来たのか、ギャスパー君が泣き喚きながらこっちに走ってきて、そのまま私の胸に飛び込んできた。

 

「「「「あっ!?」」」」

 

なんでそこで匙君を含めた皆がギャスパー君を睨む?

 

「よしよし。よく頑張ったね」

「マユ殿。そいつをこちらに。まだ特訓は終わってはいません」

「マユさんの胸に飛び込むなんて……なんて羨ま…ゴホン。破廉恥な事を…」

 

ゼノヴィア、特訓以前にその殺気を引っ込めような。

白音も、何気に本音が漏れてるぞ。

 

「同じ男でもこの差って…。世の中って不公平だ…」

 

匙君もなんで嘆くの?

 

「ううぅぅ……。マユさぁ~ん……」

 

アーシアも今にも泣きそうにならないで。

こっちが反応に困るから。

 

なんか特訓が有耶無耶になりつつあった時、この場にいきなり意外な訪問者が現れた。

 

「お?随分と賑やかじゃねぇか」

「貴方は……」

 

黒い着物を着たちょいワル親父……アザゼルさんが来たのだ。

なんともフレンドリーな感じで。

 

「お久し振りです。こうして直接会うのは何時振りでしょうか?」

「さぁな。いつも電話で声を聴いてるから、久し振りって感じはしねぇよ」

「そんなもんですか?」

 

ここら辺はよく分からない感覚だ。

私がまだ『人間』だからだろうか?

 

「あ…あの、先輩?お知り合いっスか?」

「ああ、皆はまだ知らなかったか。この人が堕天使の総督のアザゼルさんだ。個人的に色々とお世話になってるんだ」

「「「「ええっ!?」」」」

 

またまた皆が驚く。

今度はギャスパー君も。

白音は違ったけど。

 

すぐに匙君が神器を出して、ゼノヴィアもデュランダルを構えた。

白音は意外と大人しくしていたけど。

 

「やめとけ、やめとけ。お前等じゃ俺には勝てねぇよ」

「「うぐっ……」」

「ま、勝てるとしたら、そこにいるマユのお嬢ちゃんだけだろうな」

「私?」

「ああ。お前さんの秘めている力を全て解放すれば、俺ぐらい楽に倒せるだろう?」

「それは……」

 

否…と言いたいが、やろうと思えば出来そうだから嫌だ。

 

「で?こんな場所まで何をしに?まさか、散歩…なんて訳じゃないでしょう?」

「半分はマジで散歩だよ。そして、もう半分は聖魔剣使いを見に来たんだよ。どこにいるんだ?」

「彼なら今、サーゼクスさんの所に行っています」

「マジかよ」

 

残念そうに肩を竦めるが、心の底からの表情じゃない。

 

「ところで、お前さんに抱き着いている羨ましい奴は『停止世界の邪眼』の使い手だろ?」

「分かるんですか?」

「一応な。それを使いこなせないのはちっとばっかしヤバいな。神器の補助具とかで何とか出来れば、それに越したことはねぇんだけどな。悪魔達はまだそこまで神器の研究が進んでいなかった筈だし…」

 

そこでアザゼルさんは匙君の腕についている神器を見た。

 

「おい。そこの男子生徒。お前が付けているのは『黒い龍脈』だろ?それを使えば少しはマシになると思うぞ」

「俺の神器で?」

「こいつをこのガキに接続してから余分な力を吸収しつつ邪眼を発動すれば、少しは暴走を回避出来る筈だ」

「「おぉ~…」」

 

詳しいなぁ~。

伊達に人工神器なんて物を造ってないんだな。

 

「猫又の嬢ちゃん。俺がやった人工神器の使い勝手はどうだった?」

「凄く良かったです。とても助かりました」

「そうかそうか!」

 

高笑いしながら白音の頭を撫でるその姿は、堕天使じゃなくて、どこにでもいる普通のおじさんだった。

 

「因みに、どれが一番使い勝手が良かった?参考までに聞かせてくれ」

「そうですね…。やっぱり、シンプルに力を向上させてくれる『土星の輪』が一番使えましたね」

「成る程な。確かにあれは能力が単純故に汎用性が高い。しかも、他の人工神器と組み合わせても大きな効果が期待できる」

 

すぐに研究者の顔になったアザゼルさん。

まるでサカキ博士を彷彿とさせる。

 

「あ、そうだ。さっき言った以上に邪眼を抑えるのに手っ取り早いのは、赤龍帝の血を直接口内摂取することだ。別に赤龍帝じゃなくても、血を飲むだけで吸血鬼って種族は力が増すからな」

「そ…それは……」

 

流石に私の血は飲ませられない。

だって、血の中にもオラクル細胞が入っているから。

そんな事をすれば、ギャスパー君にもオラクル細胞が入ってしまう。

それに……

 

「僕は……嫌です……」

 

彼自身が血を飲むことを拒んでいる。

無理矢理には飲ませられない。

 

「そっか。じゃ、ここからは自分達で何とかしてみせな」

 

そう言うと、アザゼルさんは踵を返そうとした…が、途中で止まってこっちを見た。

 

「そういや、お前さんに言わなきゃいけない事があるんだった」

「私に?」

「ウチのバカ娘が世話になったな。根は悪い奴じゃないんだが、どうにも自信過剰な所があるって言うか…」

「気にしてませんよ。私としても、彼女と話せて良かったと思いますし」

「そう言って貰えるだけでも有難いぜ。アイツもお前さんと話せて、自分がまだまだ戦士として未熟者だって自覚したようだしな」

「そうなんですか?」

「帰って来た時、アイツは凄く悔しそうにしてやがった。アイツのあんな顔を見たのは初めてだった。今まではずっと白龍皇としてのプライドが全てを締めていたからな。その宿命のライバルとも言うべき赤龍帝が自分よりも遥かに強大な実力を持っている事実を中々に認められないんだろうさ」

 

強い力を秘めたライバル…か。

そう言われても、余り実感は無い。

私自身、まだ自分が『強い』という自信は無い。

 

「多分、これからもアイツは嬢ちゃんにちょっかいを出してくるかもしれないが、その時はあのアホにお灸を据えてやってくれ」

「お灸って…」

 

この言い方……まるで父親みたいだな。

 

「分かりました。私に出来るのならば」

「頼んだぜ」

 

ニッコリと笑った後、アザゼルさんは手を振りながら去って行った。

 

「行ってしまった…」

「お…驚いた…」

「まさか、堕天使のトップが直接来るとは……」

「き…緊張しました……」

 

彼と初めて会った面々は、凄く体を強張らせていた。

私と白音はそこまで驚きはしなかったけど。

 

「し…しかし、マユ殿は一体どこでアザゼルと知り合ったのですか?」

「初めて会ったのは三大勢力の戦争の時。その後に改めて会ったのは、今から1年ぐらい前にレドとオーフィスと一緒に買い物に出かけた時だな」

「最初の時はともかく、二回目は結構普通に会ってるんスね…。買い物の途中にって…」

「あの時はお互いにプライベートだったしな」

 

めっちゃラフな格好してたもんね。

マジで普通の近所のおじさんだったよ。

 

「話には聞いてたけど、マユ先輩の交友関係ってめっちゃ広いんスね…」

「最近になってちょっと自覚し始めてる」

 

携帯のアドレスも沢山埋まってるしね。

半分以上が年上だけど。

 

「取り敢えず、まずはさっきアザゼルさんが言っていた方法を試してみないか?」

「そうですね。物は試しです」

 

という訳で、ギャスパー君の腕に匙君が黒い触手を巻いて、余分な力を吸いだした。

すると、驚くほどに力のコントロールが上手くいった。

それから試しに色々な特訓をしてみた。

彼に向かって投げたボールの時を止めて空中静止させたりして。

 

時々私以外の時を間違って止めたりもしていたが、それ以外は比較的順調に進んでいた。

 

そして、途中で戻ってきたリアスがサンドイッチを差し入れてくれた。

朱乃と裕斗の姿が見えない所を見ると、まだサーゼクスさんの所にいるんだろう。

 

私達はアザゼルさんがさっきまで来訪していた事を伝えると、流石に驚きを隠せないでいた。

 

その後、匙君は自分の仕事に戻り、その代わりにリアスが特訓に付き合ってくれた。

 

特訓は夜まで続き、ギャスパー君はくたくたに疲れていたが、それでもリアスや私の応援を糧に頑張っていた。

 

因みに、リアスが差し入れてくれたサンドイッチはとても美味しかったです。

 

 

 

 

 

 




毎度の如く、こちらの予想を裏切って長くなってしまう始末…。

いざ書き始めると、自然と文章が浮き出てくるんですよね。

お陰でこっちの予定がいい意味で滅茶苦茶に…。

では、次回。


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第60話 大天使との邂逅

もう60話ですか…。

ついこの間、連載開始したような感覚もあるんですけど、歳を取ったせいですかね…。






 ギャスパー君と初めて出会った次の日。

 

私は朱乃に呼ばれて一人である場所へと向かっていた。

 

暫く歩いていくと、町外れに着く。

そこには長い石段と鳥居があった。

 

この二セットがあるってことは……

 

「神社か」

 

こういう場所を見ると、不思議と私の中にある『闇里マユとしての記憶』が刺激される。

 

『鎮魂の廃寺』で幾度となくアラガミと死闘を演じた。

それに、あそこで初めてシオと出会って、ノヴァに初めて負けて、そして……

 

『相棒?一体どうした?』

「あ……なんでもない」

 

少し呆けていたようだ。

ドライグの声で我に返ることが出来た。

 

改めて目の前にある石段を見る。

 

「……長いな」

『そうだな』

 

青春ドラマとかだと、こういった場所はよく基礎トレの場所として使われているけど…。

 

『マスター。また変な事を考えてはいないだろうな?』

「ゔ……」

 

す…鋭いな…。

流石は『心眼(偽)』を持っているエミヤだ。

 

『一応言っておくが、普通に歩いていけ。間違っても兎跳びで行こうとか考えるなよ。あれは身体に悪いからな』

「わ…わかった…」

 

ちぇ…。

丁度いい機会だから、少しだけやってみたかったんだけどな~。

 

仕方が無いので、私は渋々普通に歩いていくことにした。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 石段を登っていくと、段々と目的地である神社が見えてきた。

 

普通に上ってきたが、石段の段数自体が普通に多かったからか、これだけでも結構なトレーニングにはなった。

これから階段の走り込みもトレーニングに組み込もうかな?

今まで以上に足腰が鍛えられそうだ。

 

因みに、なんで今回は私だけかというと、神社を始めとした神仏が関係する場所は悪魔などは基本的に立ち入り禁止になっている。

掟などの問題もあるらしいが、それ以上に普通に入ることが出来ないらしい。

教会などと合わせて、悪魔御法度な場所という訳だ。

 

ま、理由は他にもあるんだけど。

それは後で分かるだろう。

 

今日は気温が高いせいか、地味に汗を掻き始めた。

着ている制服が肌について、ちょっとだけべたつく。

ポケットに忍ばせていたハンカチで汗を拭いながら足を進めていると、石段の終わり辺りに人影が見えた。

 

「ようこそいらっしゃいました、お姉ちゃん」

 

それは、いつもとは違う、巫女服に身を包んだ朱乃だった。

 

「あらあら……すっかり汗だくですわね」

「この気温だからな」

「このまま放って置いたら風邪を引きますわ。まずは着替えないと…」

「それはそうだが……着替えなんて無いぞ?」

「それなら大丈夫。ほら、行きましょう?」

「あ…ああ……」

 

朱乃に背中を押される形で、私は目的地である神社へと歩いていった。

 

因みに、汗を掻いて風邪を引くのは、汗が蒸発する際に体温を奪い、体が冷えてしまうかららしい。

だから、汗を掻いた時はこまめに汗を拭いて、水分補給を忘れないようにすればいい。

マユお姉ちゃんとの約束だぞ?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「まずは軽く汗を流さないと。シャワーを浴びてくださいな」

「いいのか?」

「勿論」

 

神社はかなりの大きさを誇っていて、居住スペースもかなりの面積がある。

ここに姫島家は住んでいるらしく、私は本殿とは別の場所から中に入った。

住む際に色々とあったらしいが、そこら辺の諸々の事は全部アザゼルさんがなんとかしてくれたとの事。

何気に面倒見がいいよね、あの人って。

 

まずは朱乃の御両親に挨拶でもしたいと思っていたのだが、朱乃と彼女の母である朱璃さんがそれを許さなかった。

中に入った途端に姫島夫妻に出会ったのだが、そこで朱乃が朱璃さんに事情を説明。

すると、速攻で二人は意気投合して、私をシャワー室へと向かわせた。

通り過ぎる際に一応、バラキエルさんに挨拶はしておいたが、なんか苦笑いをされてしまった。

 

「制服は私が洗っておきますわ」

「じゃあ、私は着替えを用意しようかしら?」

「お願い。勿論……」

「分かってるって♡」

 

……嫌な予感しかしないけど……。

 

「はぁ……すいません」

「あはは……」

 

色々とツッコみたいこともあるけど、善意でしてくれている以上は何も言えない。

私は大人しくシャワーを浴びることにした。

 

余談だが、神社のシャワー室は綺麗な木製でした。

タイルのシャワー室とは違って、なんだか新鮮な気分だった。

 

左腕の腕袋はちゃんと取って置いて、上がると同時に再び装着した。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 軽くシャワーを浴びてスッキリして、用意されているバスタオルで身体を拭いた後に胸の辺りから体を覆うと、そこに着替えを持って来た朱璃さんがやって来た。

 

「あ、シャワーありがとうございました」

「別にいいのよ。これ、着替えね」

「何から何まで……本当にすいません」

「気にしないで。…………私も楽しんでやってるし」

「え?」

 

今…なんて言った?

 

「着替えは朱乃が洗ってから、今は乾燥機で乾かしてるわ」

「そうですか…」

 

そうじゃなきゃ帰れないもんな。

 

「んじゃ、ここに置いておくから」

「ありがとうございます」

 

籠に入った着替えを近くの棚に置いてくれる朱璃さん。

彼女が去ってから、何を持ってきてくれたのか確かめてみる。

 

「こ…これは!?」

 

ここは神社だし?こう来るのはある意味当然というか…。

 

あまり待たせるのもアレだと思って、私は生まれて初めて『ソレ』に袖を通した。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「「可愛い!!」」

「うぅぅ………」

 

用意してくれた着替えとは…朱乃とお揃いの『巫女服』だった。

流石にサイズは少し大きくなってはいるが、それでもデザインは全くの同じだった。

着るのに苦労はしたが、玉藻に教えて貰いながらなんとか着ることが出来た。

玉藻に強く促されて、赤いリボンで後ろ髪を結んでいる。

 

「想像した通り!すっごく似合ってるわ!!」

「ええ!やっぱりお姉ちゃんは何を着ても似合いますわ!!」

 

そんなに褒めないでくれ……。

本気で恥ずかしい…。

 

って言うか、バラキエルさんもなんか言ってくださいよ!

 

「これは……なんとも……」

 

おいこら―――――――!!

妻と娘の前でなに女子高生の巫女姿に見惚れとんじゃ~~~~!!

 

「さっそく写真に撮って、後で皆にも見せないと…」

「あ!私にも頂戴ね!」

「はい!」

 

仲良さそうでいいですね。

でも、私をネタにするのはやめて欲しい。

 

「……ハッ!二人共、お客様を待たせているんだ。これぐらいにしておきなさい」

「「は~い」」

 

バラキエルさんが我に返ってくれて、やっと指摘してくれた…。

けど、お客様って?

 

「一応、事情は話しているが、あまり待たせるものじゃない」

「それもそうね。朱乃、マユちゃんを案内してあげて」

「分かりましたわ。お姉ちゃん、こちらです」

「うん…」

 

私は朱乃についていく形で歩いていった。

 

一体誰が待っているんだろう?

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 朱乃に案内されてついた場所は客間と思わしき部屋だった。

ピシッと襖が閉まっていて、心なしか緊張感が漂っているように見える。

 

「お待たせしました。闇里マユさんをお連れしました」

「はい。どうぞ」

 

廊下に座って朱乃が中にいる人物に了承を取る。

私も釣られるように隣に座っている。

 

朱乃が静かに襖を開ける。

そこには……

 

「あぁぁ………」

 

豪華絢爛な純白のローブに身を包んだ、金髪碧眼の美青年がいた。

その頭上には光り輝く輪っか……エンジェルハイロウがあった。

 

「う……う……う………」

 

う?なによ?

さっきから私を見て目を見開いてるけど…。

 

「美しい……」

 

はい?

 

「ミカエル様?」

「はっ…!私としたことが……」

 

ん?ミカエル?

それって……

 

「初めまして……ではありませんね。貴女とは過去に一度会っていますから」

「貴方は……」

 

この顔……え~っと……どこかで……

 

「あっ!?」

 

思い出した!

あの時……私の初陣の時にサーゼクスさんやアザゼルさんと一緒にいた、金色の翼を生やしていた人だ!!

 

「お久し振りです、赤龍女帝…闇里マユさん。私はミカエル。天使達の長を務めております。以後、お見知りおきを」

「えっと……闇里マユ…です」

 

おいおい……こんな大物が私を待ってたんかい!?

そうだと知っていれば、もうちょっとパパッとシャワーを終わらせてたよ!

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 客間に入り、私はテーブル越しにミカエルさんと向かい合っている。

朱乃は私が室内に入った直後に去って行き、ここには私とミカエルさんしかいない。

 

「こうして貴女と話のは初めてですね」

「そ…そうですね」

 

めっちゃ緊張するんですけど!?

同じ三大勢力の長でも、緊張感がサーゼクスさんやアザゼルさんとが段違いだよ!?

 

「しかし……」

「え?」

「本当に美しい……。まるで、ヴィーナスの生まれ変わりのようだ…」

「あはは……」

 

アラガミとしてのヴィーナスを知っている身としては、微妙な評価だった。

 

「あのさ~…僕の大事な娘をナンパしないでくれるかな?」

「「えっ!?」」

 

いきなり私の背後に気配が現れた。

そこには、青いTシャツに白いミニスカートを着たヤハウェがいた。

 

「か…神ヤハウェ……!」

「やっほ~、ミー君」

「ミー君!?」

 

お前はこの人をそんな風に呼んでるのかよ!?

 

「全く……マユちゃんが可愛いのは分かるけど、親が見ている前で堂々とナンパするのはやめて欲しいなぁ~」

「い…いえ、私は決してそのような事は……」

 

急に焦り出すミカエルさん。

いきなり大人しくなってしまった。

 

「な~んて、冗談だよ。流石の僕だって、そこまで心は狭くないよ。それだけマユちゃんが人気者だって証だしね」

「はぁ……」

 

安心したのか、ミカエルさんは息を吐き出した。

 

「一応、僕も同席させて貰うよ?」

「そ…それは勿論!!」

「それじゃあ遠慮なく」

 

そう言うと、ヤハウェは私の隣に座った。

 

「それで、今回はなんでマユちゃんに会おうと思ったの?」

「はい。実は『この剣』を彼女に差し上げようと思いまして…」

 

ミカエルさんが両手を目の前に翳すと、そこに一本の剣が出現した。

エクスカリバーやデュランダルのように、豪華な装飾が施されていて、剣全体から聖なるオーラが溢れ出ているのが分かる。

 

「へぇ~…『アスカロン』かぁ~…」

「アスカロンって……」

『聖ジョージ…いや、ゲオルギウスの剣か。随分と懐かしい代物を持ってくる』

「ギル……知ってるのか?」

『まぁな』

 

いやはや……マジで物知りですこと。

 

「今のは…?」

「歴代の意思の一人、ギルガメッシュです」

「原初にして最古の英雄王……!」

 

ミカエルさんからもギルは驚きに値する存在らしい。

英雄王は伊達じゃない。

 

「君さ、彼女が聖剣エクスカリバーを持っていることを知ってこれを持って来たの?」

「はい。彼女にならば使いこなせると思いまして」

『しかし、これは確か一種のドラゴンスレイヤーの筈だ。大丈夫なのか?』

 

それもそうだ。

私に悪影響とかってないんだろうか?

 

「それならば心配ご無用です。これには特殊な儀礼を施しているので、マユさんでも問題無いかと」

「ふ~ん……。試しに持ってみなよ」

「わかった」

 

手を伸ばしてアスカロンを握ってみる。

手には凄く馴染んでいて、サイズや重さも大丈夫。

寧ろ、しっくりしているような気さえする。

 

「どうですか?」

「問題はないようです」

「よかった…」

 

毎度のように、アスカロンを籠手の中に仕舞った。

 

「その気になれば、エクスカリバーとアスカロンの二刀流とかも出来るかもね?」

「まだ私はその域には到達していないよ」

「そうですか?貴女ならば可能かと思われますが…」

 

そんな評価を貰うのは嬉しいけど、それは買いかぶりすぎだ。

 

「昔…聞いたことがあるんです。人の身で二刀の剣を扱うには…死を超える程の修練が必要となると」

 

何処で聞いたかは忘れたけど。

多分、もう記憶に無い前世なんだろう。

 

「しかし、己の魂と引き換えに得た刃は…いかなるものでさえも切り裂くとも聞きました。その相手が例え……神であったとしても…」

 

目の前にヤハウェがいるのに、この言葉はどうかと思うけどね。

 

「そう…。ま、君がそう思うのなら、別々に使うといいよ。私は何も言わない」

 

私に向かって微笑むその顔は、凄く綺麗で…慈愛に満ちていた。

 

「ところでさ~…今回の会談、ミー君はどう思っているのかな?」

 

それは私も気になるかな?

ちょっと意見は聞いてみたいかも。

 

「私は…此度の会談は三大勢力が手を取り合ういい機会だと考えています」

「と…言うと?」

「三大勢力の前から貴女様と初代魔王が姿を消した後、我々は長い間三すくみの状態が続いています。このままでは三大勢力の全てが疲弊していく一方ですし、いずれ遠からず滅びる事にもなりかねない。流石の我々もそんな事は望んではいませんし、堕天使の長であるアザゼルも前々から三大勢力間の戦争を否定していました。何故お二人がいなくなったのかは分かりませんが、それで疲弊が加速したのもまた事実。ですから、この機会に共に歩めればいいと……そう思ったのです」

 

互いに疲弊したから…か。

協定を結ぶ理由としては、人間と大して違いは無いな。

 

「………今更になって和平とか……ムシが良すぎるんだよ……!僕とルー君がどれだけ頑張っていたかも知らないで……!」

 

一瞬、ヤハウェの顔が凄く憤りに満ちた表情に見えたのは…気のせいだろうか?

 

「私は素晴らしいと思います。どんな理由であっても、争わないに越したことは無いと思うから…」

 

『あの世界』の人類も、アラガミという『共通の敵』が出現してから互いに手を取り合うようになっていった。

切欠はどうであれ、人類同士の争いが無くなるのはいい事だ。

 

「今回、貴女にアスカロンをお渡ししたのは、天界からの赤龍女帝への礼と、もう一つの意味があります」

「もう一つの意味?」

「はい。貴女は嘗て、二天龍の介入の際に私達の事を助けてくれました。貴女がいなければ三大勢力はあの時に絶滅していたかもしれない」

 

実際、神機使いが現れなければ人類も滅びていただろうしね。

その気持ちはよく分かる。

 

「ある意味、マユさんがこの会談の切欠を作ったと言っても過言ではないのです。そして、貴女の元には現在、様々な勢力の使者が揃っている」

 

言われてみれば……。

悪魔からはリアスが、堕天使達からはレイナーレが、教会からはアーシアとゼノヴィア。

妖怪勢力は猫又である黒歌と白音が。黒歌は転生悪魔だけど。

そして、無限と夢幻を司る龍神がいて、使い魔にはティアマット。

今更ながら、凄いメンバーだよ。

おまけに、両親は初代魔王と聖書の神ときた。

 

「貴女は既に我等、三大勢力が本来目指すべき形を体現しているのです。そんな貴女にこそ、聖剣は相応しい。貴女がエクスカリバーに選ばれたのも頷けます」

『ふふ……当然です!!』

 

アルトリアが偉そうにしてる。

そんな言葉を聞くと、年相応の少女に思える。

 

「……今回はそう言う事にしておこうか」

 

息を吐いてから、ヤハウェは徐に立ち上がった。

 

「もう聞いているとは思うけど、僕とルー君…魔王ルシファーも会談には参加する。理由は……分かるよね?」

「はい。御息女であるマユさんが参加するから…ですね?」

「正確には大事な家族が…だけどね」

 

ヤハウェの体が光り出す。

空間転移の前兆だろう。

 

「そうだ。君が最も知りたいと思っている…僕達が何故消えたのか…その理由は会談で教えてあげるよ」

「はい……分かりました」

「じゃ、僕はここで」

 

光と共にヤハウェは去って行った。

 

「ふぅ~……」

 

ミカエルさんが盛大に溜息を吐いた。

どうやら、想像以上に緊張していたようだ。

そりゃそうか。

自分達の創造主にして頂点に君臨していた存在と対面していたんだもんな。

緊張しない方がおかしい。

 

「まさか、ヤハウェ様と話すことになるとは……」

「今まで会話をしたことは無いんですか?」

「滅相も無い!あの方は我等にとって至高の御身。会話など恐れ多くて出来ませんでしたよ!」

「なら、これからは話す機会が増えるかもしれませんね」

「そう……かもしれませんね」

 

時間が経ったせいか、私もミカエルさんに対する緊張感が無くなっていた。

 

「しかし、こうして貴女と出会えたことは私にとってとてもいい刺激になりました。貴方の様な女性が赤龍帝に選ばれて本当に良かったと思います」

「そんな風に言われて、重畳の至りです」

 

私自身は、体内にオラクル細胞が入っている以外は何処にでもいる普通の女子高生のつもりなんだけどね。

私が知らない所で、どんどん私の評価が膨れ上がっていく。

 

「では、私もこの辺で失礼します。会談でまたお会いしましょう」

「はい。ミカエルさん、お気をつけて」

「ありがとうございます」

 

ニッコリと微笑んだ後、ミカエルさんもヤハウェと同じように去って行った。

 

部屋に残ったのは私一人。

 

「はぁ~……」

 

足を崩してから、畳の上に身体を投げ出した。

畳特有の匂いを鼻孔に吸い込んでから、少しだけ目を閉じた。

 

朱乃がやって来るまで、私はそうして心を落ち着かせていた。

 

ちょっとだけ、懐かしい気持ちになったのは、私だけの内緒。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




なんでこんなにも長くなるのぉ~!?(泣)

本当はもうちょっと短くするつもりだったのにぃ~!!




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第61話 真実の一端

な…なんか妙に評価が上がってるんですけど…。

これは夢なのかしらん?






 ミカエルさんとの話が終わった後、私は朱乃と共に神社の縁側に座っていた。

 

「お疲れさまでした。どうぞ、お茶です」

「ありがとう」

 

彼女から熱々のお茶を受け取って、一口飲む。

 

「うん、美味しい」

「うふふ……」

 

こんな風にのんびりと日向ぼっこするのも、偶にはいいな…。

 

「朱乃は、ご家族と仲良くやっているようだな」

「ええ、お陰さまで。あの時、お姉ちゃんが私達親子を救ってくれたから、こうして家族で過ごす事が出来るんです」

「そっか……」

 

そんな事は無い……と言いたいところだけど、時には肯定するべきかもしれない。

あまりにも遠慮深いと、却って嫌味になるからな。

 

「私は堕天使と人間のハーフ…。そんな私でも普通に家族と暮らして、学校にも行けている…。お姉ちゃんがいなかったら、そんな当たり前の事すら出来ずに終わっていましたわ…」

「家族の仲がいい事は素晴らしい事だ」

「私もそう思います」

 

お茶をちびちびと飲みながら、朱乃と何気ない話をする。

そう言えば、こんな風に彼女と二人っきりで話のは初めてかもしれない。

 

「嘗ては一部の堕天使達が私の事を『呪いの子』なんて揶揄していましたけど、今ではこの黒い翼を持つことを誇りに思ってますわ」

 

流し目で少しだけ目線を後ろに向けると、朱乃の背中に堕天使の象徴とも言うべき黒い翼が現れた。

 

「これは…種族なんて関係無く愛し合えるという…何よりの証拠ですから…」

「そうだな……」

 

案外、悪魔とか天使とか堕天使とか人間とか、些細な問題なのかもしれないな。

好き合っていれば、そんなの関係無いって思えるもの。

 

「その……不躾な質問をしてもいいかしら?」

「なんだ?」

「えっと……お姉ちゃんの御両親……正確には生みの親は……どうしてるんですの?」

「私の親……か」

 

それを聞いて真っ先に思いつくのは、前世での親の事だが、昔の事はもう殆ど記憶に無い。

私の魂はもう、この体に完全に定着しつつある。

故に、ここで話すべき事は『俺』の親ではなくて『闇里マユ』の親についてだろう。

ま、正直言って話していいのか分からないぐらいにヘビーな話なんだけど。

頭にある『記憶』を頼りに話してみるか。

 

「私は……ちゃんとした親から生まれてないんだ」

「どう言う事ですの…?」

「私からすれば、朱乃よりも私の方が『呪いの子』と呼ばれるに相応しいと思う」

「そんな事は…!」

「あるんだよ。私は……『忌み子』なんだ」

「忌み子…?」

「そう…。私はね……近親相姦によって生まれたんだ」

「!!!!」

 

いつの世も、最も禁忌であり、忌み嫌われる行為。

それこそが近親相姦。

しかも、闇里マユの場合はそこに愛すらも無かった。

 

「これは後で知った事なんだが……私には父と姉がいた」

「お姉さん…?」

「ああ。母は私が生まれる前に亡くなっていて、それを境にして父の様子が変わっていったらしい」

「と…言うと…?」

「精神不安定になって、暇さえあれば酒に溺れる日々。お世辞にもいい父とは言えなかった」

「…………」

「そんなある日、とうとう父の精神の不安定さはピークになって、人として…いや、親として絶対にしてはいけない事をした」

「まさか……」

「彼は……自分の娘である私の姉とも言うべき少女を強姦したんだ」

「………っ!?」

 

私の言葉に朱乃は絶句した。

無理も無い。

こんな話を聞かされれば、誰だってそうなるだろう。

 

「その結果、彼女は一人の子供を身籠った。それが……」

「お姉ちゃん……なんですの?」

「そうだ。私は歪な形で生を受けたんだ」

 

これ程までに『呪いの子』と言う言葉が相応しい人間もいないだろう。

自分でもこれは無いと思ってるし。

 

「私は実の姉とも言うべき女性から生まれたんだ。しかも、それだけじゃ終わらなかった」

「え……?」

「もう殆ど覚えていないが、少なくとも私が5歳ぐらいまでは意外と普通に暮らしていた。貧乏ではあっても、これと言って不自由な事は感じなかったし。父は相変わらず酒浸りだったが、かといって私に暴力を振るったり…なんてことは無かった。姉…いや、私にとっては母か?ま、どっちでもいいか。とにかく、彼女は私の事をとても大事に育ててくれていた事だけはよく覚えている」

 

今でも時折、頭の中に思い浮かぶことがある。

見た事のない顔……でも、不思議と安心する、その笑顔…。

それが『彼女』だと、私は不思議と理解していた。

 

「だが、そんなある日。私達家族を惨劇が襲った」

「惨劇……!?」

「何の前触れも無く、強盗が私の家に入り込んで、父と彼女を殺害して、私の事を傷つけた。理由は不明だが、私だけは辛うじて生き延びていた。瀕死の重傷は負っていたけどな」

 

完全に雰囲気は暗くなっているが、もうここまで来たら止まらない。

キリのいい所まで話そう。

 

「その後、偶然通りがかった人達によって私は救出された。速攻で病院に運び込まれて一命を取り留めた……らしい」

 

記憶の中にあっても、どうもその時の事は朧気だ。

多分、その時の状況が影響しているんだろう。

 

「その…犯人はどうしたんですの?」

「分からない。噂では、何処かで誰にも知られないまま野垂れ死んだ…と聞いた」

 

これに関しては本気で分からない。

情報が少ない上に、それ以上に大変な事件が沢山あって、事件自体が埋もれてしまうから。

 

「……こんな所だな。その後、私は数年間入院し、必死のリハビリの末になんとか体を回復させる事に成功した。そして……」

「神機使いになったのですか…?」

「ああ。あの時私を救ってくれた人達のように、私も誰かを救いたいと思ったんだ」

 

どこまでやれているかは微妙だけどね。

いつも必死に戦っているだけで、後で知る事の方が多いから。

 

「少なくとも、私達はお姉ちゃんに救われてますわ」

「朱乃……?」

 

朱乃が急に私の方をジッと見る。

その目はなんだか、いつもとは違って潤っているように見える。

 

「ごめんなさい…。そんな事とは知らないで、お姉ちゃんの過去の事を聞いてしまって…」

「気にするな。もう終わった事だ」

 

そう思わないとやってられないって言うのが本音だけどな。

 

「でも、同時に嬉しくも思いますわ。お姉ちゃんの秘密を私に明かしてくれて…」

「朱乃だからな」

「まぁ…お上手」

 

お茶はすっかり冷えてしまっていたが、一気に飲み干した。

 

「「う…うぅぅ……」」

「「ん?」」

 

なんか…すすり泣くような声が聞こえたような……。

 

「「あ」」

 

少し離れた場所で、朱璃さんとバラキエルさんが涙を流しながらこっちを見ていた。

 

「うぅぅぅぅ~…。まさか、マユちゃんにそんな過去があったなんて~……」

「哀しみを背負いながらも、平和の為に戦い続ける…。やはり、君こそが真の勇者だ!!」

 

なんか言ってるけど、まずは涙を鼻水を拭きましょう。

 

「マユちゃん!いつでも遊びに来ていいからね!」

「その通りだ!君は絶対に幸せになるべきだ!」

「はぁ……」

 

二人の中で私の話が大きくなっている気がする。

ここで下手に何か言っても逆効果な気がするし……

 

(ほっとくか)

 

それがいい。

いや、そうしよう。

 

その後も姫島一家に色々と労って貰い、楽しい(?)時間を過ごすことが出来た。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 帰り道。

洗って貰った制服を着て石段をゆっくりと降りていく。

あと、なんでか着ていた巫女服まで貰ってしまい、紙袋に入れて持っている。

 

『……マスター…』

「どうした?エミヤ」

『君に…あんな過去があったとは知らなかったよ…』

「話した事も無かったしな」

 

話す理由も無いし、誰にも聞かれなかったしな。

 

『あの夫婦も言っていたが…君には幸せになる資格がある。いや、幸せになるべきだ』

「それは…『正義の味方』としてのセリフか?」

『……!知っていたのか…』

「この間、アルトリアとギルが面白そうに話してくれた」

『あの二人は……!』

 

特にギルが楽しそうに話していたっけ。

あんなギルを見たのは初めてかもしれない。

 

「言っておくが、私は今でも充分過ぎる程に幸せなつもりだよ」

『マスター……』

「黒歌がいて、白音がいて、アーシアにリアス、レイナーレにゼノヴィア。それにオーフィスやレド、ティアもいる。しかも、私の両親に名乗りを上げてくれたのが、あの聖書の神と初代魔王だ。これだけ色んな人達に巡り合えて、幸せじゃないなんて言ったら罰が当たる」

『君と言う人間は……』

 

あれ?笑ってる?

 

『君に力を貸すと決めた事は…間違いじゃなかった。きっと、他の連中もそう思っているだろう』

「そうか……」

 

夕方になって人気が少なくなったこともあり、私は帰る間ずっとエミヤと話し続けていた。

 

それは、とても有意義な時間だった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 遂にやって来た、会談の日。

私はリアス達と一旦別れて、オカルト研究部とは別に家族で集合した。

 

会場になっている職員会議室へと向かう中、なんとも言えない緊張感が私達を包み込む。

 

各陣営のトップの方々は既に別室にて待機しているらしい。

 

学園全体は強力な結界が張られていて、外部からの侵入者を一切拒み、同時に会談が終了するまで誰も外に出す事も無い。

 

更に、結界の外には三大勢力の精鋭である天使と堕天使と悪魔達が、万が一に備えて警備をしている。

 

「うぅぅ……本当に私達も一緒に行っていいのかにゃ?」

「当然じゃん。君達はマユちゃんの家族であり、僕等にとって大事な子供に等しいんだよ?」

「そーゆーこった。緊張するのは勝手だが、そう気張る必要はねぇよ」

「わ…分かったにゃ…」

 

黒歌を始めとした家族と言う名の同居人達と一緒に廊下を歩く。

私や白音、ゼノヴィアなどはあんまり緊張していないが、黒歌やレイナーレと言ったメンバーは緊張を隠しきれないでいた。

そして、龍神っ子達は…。

 

「夜の学校……我、ワクワクする」

「な…何もでないよな…?」

「だ…だだだだ大丈夫…だと思うぞ…?」

 

えぇ~…?

オーフィスちゃんはともかくとして、どうしてレドとティアはお化けを怖がるの?

二人の方が圧倒的に強いでしょ?

 

「ところでマユさん。その恰好はなんですか?」

「え?変かな?」

「いえ…変と言うか…」

「まるで軍服のようだな」

 

私が今着ているのは、フェンリルの制服とも言うべきF制式上衣(グリーン)とF略式下衣(グリーン)だ。

 

「一応、ちゃんとした場だから、それっぽいのを着て来たつもりなんだが…」

「下がタイトスカートになってるから、かなりセクシーだな」

「ルー君?」

「あはは……悪い悪い。ヤーちゃんが一番だよ」

 

はいそこ、イチャイチャしない。

オーフィスちゃん達の情操教育に悪いでしょ。

 

「あぁ……急にブラックコーヒーが飲みたくなったにゃ」

「奇遇ですね。私もです」

「あら、私もよ」

 

実は私も飲みたい。

緊張感もこの二人にかかったら台無しになるな。

 

職員会議室の前には既にリアス達が集合していた。

 

「あ、お姉ちゃん」

「待たせたか?」

「いいえ。僕達も今来た所です」

 

それなら大丈夫か。

 

「あれ?ギャー君は来てないんですか?」

「ええ。外には出れたけど、流石にまだギャスパーには今回の会場は難易度が高いから」

 

だろうな。

引き籠もりや人見知りじゃなくても、こんな場は積極的に来たいとは思わないだろう。

 

「オーフィスちゃん達は大丈夫かしら?眠たくない?」

「我、大丈夫」

「私もだ!」

「無論、私もな」

 

なんて言ってるけど、さっきから何回も欠伸してたよね。

 

「もうお兄様たちは入室していらっしゃるらしいわ」

「ならば、私達も入ろうか」

 

全員が無言で頷く。

それを見て、私は扉をノックする。

 

『どうぞ』

 

返事を聞いてから、私とリアスとで扉をゆっくりと開ける。

 

室内にはどこから用意したのか、豪華絢爛な円卓が中央付近に鎮座しており、それを囲むようにして各勢力のトップの方々が座っていた。

 

悪魔勢力からはサーゼクスさんとセラフォルーさんがいて、傍に給仕係としているのか、グレイフィアさんが紅茶セットを乗せた台車を脇に寄せている。

 

堕天使側からはアザゼルさんと、以前に会ったヴァーリが窓際にいた。

ヴァーリがずっとルシファーさんの事を睨んでるけど、どうしたんだろうか?

レイナーレの話では、彼の腹心的な人がいるって聞いたけど、今日は来ていないのかな?

流石にドレスコードを分かっているのか、いつものラフな格好では無くて、儀礼用と思われる装飾が施された黒いローブを纏っていた。

 

そして、天使側からは先日会ったミカエルさんと、始めて見た綺麗な女性天使がいた。

 

「よっ!この間振りだな」

「なんですか?その挨拶」

「別にいいじゃねぇか。レイナーレ、ちゃんと『ご奉仕』してっか~?」

「ご…ご奉仕!?」

 

あ、顔が真っ赤になった。

 

「……その様子だと、問題は無いみたいだな」

 

お察しがよろしいことで。

 

「あのお方が噂に名高い赤龍女帝様ですか…?」

「ええ。気高さと力強さ、そして…美しさを備えた女性です」

 

ミカエルさん、褒め過ぎです。

 

「そちらの人は……?」

「ああ…彼女と会うのは初めてでしたね。ガブリエル、自己紹介を」

 

ミカエルさんの隣の女性が立って、挨拶をする。

 

「初めまして。赤龍女帝、闇里マユ様。私はガブリエルと申します」

「あ…どうも。初めまして…闇里マユです」

 

丁寧な物腰に思わず私もお辞儀をしてしまう。

天使の女性って皆こんな感じなのか?

 

「マユちゃ~ん♡」

「あはは……」

 

セラフォルーさんはセラフォルーさんでこっちに向かって無邪気に手を振ってるし…。

今から大事な会談をする雰囲気じゃないよね?

 

「気にすんな。これぐらいの空気の方がお前も気楽だろう?」

「それは…まぁ……」

 

変に緊張するよりかはマシだけどさ…。

 

「え~…ゴホン。そろそろいいかな?」

 

サーゼクスさんが纏めてくれた。

やっと、この何とも言えない空気から脱することが出来る。

 

「そこにいるのが、私の妹とその眷属だ。そして……」

「もうご存知の方々も多いと思いますが、彼女こそが現代の赤龍帝である闇里マユ様と、そのご家族の方々です」

 

グレイフィアさんの言葉に合わせて、私達は挨拶をする。

 

「で、俺等の事は今更、紹介する必要は無いよな?」

「勿論でございます。初代魔王ルシファー様」

「神ヤハウェ。こうして話し合えることを光栄に思います」

「ん~…よきにはからえ?」

 

ちゃんと意味を分かってて言ってる?

 

「彼女達は、先日のコカビエルの一件で活躍しました。特にマユ様は」

「報告は聞いています。マユ様が聖剣エクスカリバーの正式な使い手となり、コカビエルを見事倒したと」

「本当にありがとうございます。それだけお礼を言っても言い尽くせません」

「いえ、私は当然の事をしたまでです」

「その謙虚な心…素晴らしいの一言に尽きます」

 

それが日本人だからな。

いや…私の場合は極東人と言うべきか?

 

「あ~…あの時はマジで済まなかったな。ウチのアホの暴走に付き合わせちまって」

「いえ。確かに大変ではありましたが、それで得たものもあります。だから、気にしないでください」

「相変わらずだな、嬢ちゃんは……」

 

ちょっと呆れられてしまった。

なんで?

 

またまた会話が終わりそうにない空気が流れたので、サーゼクスさんがさっきと同じように中断させた。

 

我々は彼に言われて、予め壁際に設置された椅子に腰かけた。

因みに、ルシファーさんとヤハウェは別に用意された席に着席した。

既に私達の近くにはソーナが腰かけていた。

 

「では、これより三大勢力の会談を始める」

 

こうして、様々な思惑を孕んだ会談が始まった。

 

ここで私は、己の『過去』と対峙する羽目になるとは、この時は私は想像もしていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




てなわけで、会談自体は次回に持ち越し。

これはあくまで予想ですが、もしかしたら会談の話はかなり長引くかもしれません。

では、次回。


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第62話 ゆりかご

まずはヤハウェとルシファーについて。

多分、その後にマユの事を語る事になるでしょう。







 遂に、三大勢力の会談が始まった。

今更ながらに、私って本当にここにいてもいいのかな?

すんごい場違い感があるんですけど。

それは、黒歌や白音達も同じようで、さっきから超目が泳いでいる。

 

「では、話し合う前に、まずはそれぞれに聞きたいことがあるだろう」

「俺達の事……だな」

「はい…」

 

全員の視線がルシファーさんとヤハウェに向き、同時に二人は立ち上がった。

 

「お聞かせ願いたい。どうして貴方方二人は我々の目の前から姿を消したのですが?」

「そうだな。そろそろ話すべきか」

「そうだね」

 

二人は互いに頷き合って、真剣な顔つきになってサーゼクスさん達を見た。

 

「俺達がいなくなった理由……それはな」

「君達に『親離れ』をして欲しかったからさ」

「「「親離れ?」」」

 

サーゼクスさん、ミカエルさん、アザゼルさんが同時に小首を傾げる。

私も同じように頭の中で疑問符を浮かべる。

 

「サーゼクス、お前に一つ訪ねたい」

「なんでしょうか?」

「この会談の一件。もしも今でも俺が冥界にいたら、どうしていた?」

「勿論、真っ先に貴方に相談して、その決定に従って……」

「そこだ」

 

あぁ……なんとなく分かった。

 

「こんな言い方はあまり好きじゃねぇが……お前等、俺等に対して少し依存しすぎなんじゃねぇか?」

「『困った時の神頼み』って言葉があるけど、僕だってそこまで万能じゃないんだよ?」

 

そりゃそうだ。

幾ら神でも、こうして肉体を持っている以上はどこかで必ず限界がやって来る。

その点においては、神も悪魔も天使も堕天使も…そして人間も大差ないと思う。

 

「ミカエル。君だって僕が未だに天界にいたら、絶対に僕の所に来ていたでしょう?」

「それは当然です」

「ほらね。別に相談するのは一向に構わないけど、全ての決定権を僕らに委ねるのは間違ってる」

「俺等だけの意思だけじゃねぇ。こう言うのは、全員でよく話し合って、その上で決めるのが普通だろう」

「けど、君達は僕等と言う『トップ』が白い物を『黒』と言えば、迷う事無く白を黒に染めようとする」

 

言われてみれば、確かにそれは異常だ。

まるで、トップ以外の存在が全て奴隷のような感じになってる。

 

「だから、僕らは君らの前から姿を消したのさ。君達が自分の意思で歩いていけるように。そう信じて…ね」

「ま、これが正しい方法とは思っちゃいないけどな。自分達がやった事が相当に身勝手で荒療治であることは、俺達自身がよく理解してる」

「その事に関しては素直に謝るよ。本当にごめんなさい」

「済まなかったな」

 

なんと……二人はその場で皆に向かって頭を下げたじゃないか。

この二人にとって、自分のプライドなんてあってないようなものなんだろうか?

 

「あ…頭をお上げください!」

「そうです!お二人が謝られる事はありません!」

 

慌ててサーゼクスさんとミカエルさんが立ち上がって、二人を宥める。

それを見て、ルシファーさん達は頭を上げた。

 

「確かに、我々が貴方がたに頼りきりだったのは、紛れもない事実。もしも、あのままだったら、僕達は自分で考える事すら放棄していたかもしれません」

「万物の創造主である神にとって、我等のような被造物は皆、等しく我が子。子が親から巣立っていくのは自然の摂理でしょう。ですが、我等はお二人がいなくならなかったら、そのような考えにすら至らなかったでしょう…」

「『可愛い子には旅をさせよ』って言葉だってあるぐらいだしな」

 

ミカエルさんとサーゼクスさんは悲痛な面持ちで俯き、アザゼルさんはしたり顔で頷いている。

 

「それを分かってくれただけで充分だよ」

「贅沢を言えば、もうちょっと早く和平に漕ぎ着けて欲しかったけどな」

 

だろうな。

彼等からすれば、三大勢力が争っている事は相当に辛い事だろうし。

 

「それは……」

「考えても見てくれ。さっきミカエルが言った通り、このヤハウェは聖書において万物の創造主と言われている。それが本当かは取り敢えず置いといて。『万物』って事は、天使は当然の事、悪魔だって神の被造物って事になる」

「「「!!!」」」

 

その瞬間、サーゼクスさんとグレイフィアさん、レヴィアタンさんが目を見開いて驚いた。

 

「自分の生み出した子供達が殺し合いをしてるんだぜ?それがどれだけ辛い事か、親であるサーゼクスならよく分かるだろう?」

「そう……ですね……」

 

自分で想像してしまったのか、目を瞑って眉間に皺を寄せている。

 

「今まで積み重なってきた互いの遺恨がそう簡単に消えない事は理解している」

「でも、だからこそ、本当なら戦争が終わった直後にこうして会談を開いて和平をするべきだったんじゃないのかな?」

 

まるで、親に諭されている子供のように、二人は各勢力の方々に語り掛けている。

 

「返す言葉もありません…」

「お二人の仰る通りです…」

「だから、俺はあれ程『もうそろそろいがみ合いをやめにしようぜ』って言ったんだ」

「そういうお前だって、部下の躾がなってねぇじゃねぇか」

「うぐっ…!それを言われちまうと、何も言えねぇ……」

 

あぁ……コカビエルの事ね。

 

「それと、今回の会談についてもう一つだけ言いたいことがある」

「まだあるのかよ…」

 

呆れ顔になりながら、アザゼルさんが紅茶を一気飲みする。

 

「なんで、この会談には『人間勢力の代表者』がいない?」

「「「え?」」」

 

人間の代表?

どゆこと?

 

「お前等が会談をしているこの場所は人間達の世界だ。お前等はこの地上に人間の許可なしにやって来た挙句、勝手に会談を開いてやがる。少しはこの事を考えたのか?」

「「「ゔ……」」」

 

実に正論だ。

言われてみれば確かに、今まではスルーしてきたけど、ちゃんと許可は取っているのかな?

 

「し…しかし……急にそんな事を言われても……」

「人間達の中に我々の事を知っている者達は非常に少ないです。いきなり代表者と言われても……」

「いるじゃねぇか、ここに」

「「「「はぁ?」」」」

 

いきなり私の頭をポンポンと叩くルシファーさん。

うん、嫌な予感しかしません。

 

「三大勢力の全てに大きな借りを持ち、しかも、最強の実力を持つ『人間』が」

「ま…まさか……」

「それは……」

「おいおい……マジかよ……」

 

心の中で必死に祈るけど、多分、無駄。

 

「そう、俺達の娘にして、歴代最強の赤龍帝…闇里マユがな」

 

一瞬の静寂の後……

 

「「「「「「「「「「えぇ~~~~~~~~~~~~っ!?」」」」」」」」」」

 

会議室に皆の叫び声が響き渡った。

私も思わず叫んじゃった。

 

「な…なんで彼女が!?」

「そうです!幾らなんでも荷が重すぎるのでは…」

「親バカもここまで来れば、もう勲章ものだな」

 

凄い言われよう。

 

「そこまで言うか。じゃあ教えてやる。実はな、世界各地で被害が出ているはぐれ悪魔な、その殆どをマユがなんとかしてたんだぜ」

 

正確には、アラガミ討伐に行った時に、なんでか毎度のようにはぐれ悪魔と遭遇して、悪い奴は自分の手で倒して、黒歌のようにやむを得ない理由ではぐれになってアラガミに襲われていた場合、私の手で助けた。

どうして、アラガミとはぐれ悪魔ってセットで出現するんだろう?

今にして思えば、黒歌と白音と会った時もコンゴウに襲われていたし。

 

「そ…そうなんですか……?」

「近年になって、急にはぐれ悪魔の被害が少なくなったと思っていたら……」

「お嬢ちゃんの仕業だったのかよ……」

 

そんな顔でこっちも見ないでよ!

私だって好きではぐれ悪魔に会ってる訳じゃないんだよ!?

 

「それにな、今だから言うけど、各国政府の連中はとっくの昔に三大勢力の事を認知しているんだぜ?」

「「「「「えええっ!?」」」」」

 

この会談は驚きまくりだな。

お陰で耳が鍛えられる。

主に騒音に対して。

 

「勿論、お偉方はマユが自分達の国を救ってくれていることも知っている」

「そ…そうなんですか?」

 

私は思わずルシファーさんに問いただした。

 

「おう。今の内閣総理大臣も、本当なら、お前には大々的に感謝状を贈呈したいって言っていたぜ?」

「あふ……」

 

総理大臣に私の事が知られてるとは……。

私的には、これが今回で一番の驚きだよ。

 

「ちゃんと僕達が彼等と話して、許可は取ってきてるから」

「きょ…許可?」

「うん。マユちゃん、君を中心とした人類勢力の組織を立ち上げる許可だよ」

「組織って……」

 

嫌な予感、再び。

さっきから冷や汗が止まりません。

 

「君の夢……それをここで形にするんだよ」

「お姉ちゃんの夢……?」

「ああ。その名も……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人類独立支援組織…『クレイドル』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クレイドル……」

 

第一部隊が中心となって立ち上げられた、独立支援部隊…。

その正式な創設者は…ソーマとアリサ……そして、闇里マユ…。

 

「ゆりかご……か」

 

まさか、ここでその名を聞くとは思わなかった。

 

「一体、いつの間にそんな準備を……」

「それは秘密」

 

だろうね。

 

「このクレイドルはそれぞれの勢力の協和の証として、お前等三大勢力の他に人間をも含めた『四大勢力』で構成された組織にする予定だ」

「よ…四大勢力……ですか?」

「そう。僕等的には、各勢力からそれぞれ数名ずつ派遣して欲しい…かな?」

「ま、それに関しては問題は無いだろうな?」

 

あ、こっち見た。

 

「ルシファー様。それは……」

「もう、マユの周りには頼りになる『仲間』が付いてるからな」

「それって……」

「私達の事…?」

 

リアスが自分の事を指差す。

その顔はポカーンとしている。

 

「少なくとも、悪魔達からはそれで問題無いだろうな?一番重要なのは本人達の意思だけど」

「サーゼクス君の意見は?」

 

皆がサーゼクスさんに注目する。

 

「そう…ですね。この数年でマユ君と絆を育んできたリアス達なら問題無いでしょう。僕としてもクレイドルの様な組織の発足は大歓迎です」

「だとよ。お前等はどうだ?」

「はい!私も参加したいです!朱乃達はどう?」

「言うまでも無いですわ。勿論、私も参加します。お父様たちも喜ぶと思います」

「僕もです。先輩には沢山の恩があります。クレイドルに参加して、それを少しでも返せれば嬉しいです」

 

皆……。

 

「も…勿論、私達も参加するにゃ!」

「私もです!」

「私も……いいんでしょうか?」

「私は言うまでもないな。うん!」

「当たり前だ。お前等はマユの『家族』なんだぞ?それが参加しなくてどうするよ」

 

言うじゃん。

ちょっと見直した。

 

「なら、堕天使からはレイナーレで決定だな」

「わ…私ですか!?」

「たりめーだろ。お前は今、マユの嬢ちゃんの『従者』なんだぞ?」

「そうですが……」

「はい決定!嬢ちゃんもそれでいいな?」

「私は異論はないですが……」

 

なんとなく、そんな気はしていたが……。

なんか、シェムハザさんとか言う人が胃薬を多用する気持ちが分かった気がする…。

トップにしてはアザゼルさんってフランク過ぎない?

 

「天使達はどうする?ミカエル君」

「我々は……」

 

少しだけ考える仕草をした後、ミカエルさんは顔を上げた。

 

「ガブリエル。頼めますか?」

「私で良ければ。マユさんのお手伝いが出来るのは光栄の極みです」

 

ガブリエルさんがこっちに来て、私の傍に立った。

 

「と…言う事ですので、これからよろしくお願いします。マユ様」

「ど…どうも。こちらこそ…よろしく…」

 

なんとも丁寧な物腰。

私も自然と丁寧語になっちゃったよ。

 

「順番が逆になったけど、それぞれに使者を送ったって事は、お前等三大勢力はクレイドルの創立を認めるってことでいいんだな?」

 

各勢力のトップの方々は同時に頷いた。

 

「ならば、少数精鋭とは言え、クレイドルはこれで立派な組織になった。つまり、立場上はマユはお前等と同じになった訳だ」

「頑張ってね。人類代表」

「そう言われても……」

 

私が人類代表って……かなりのプレッシャーなんですけど…。

 

「大丈夫よ。私達が付いてるわ」

「その通りですわ。微力かもしれませんが、一人で出来ない事も皆ならば出来ます」

「僕達は仲間じゃないですか。いつでも頼ってください」

「勿論、私達もにゃ!」

「マユさんは私が支えます」

「わ…私もです!」

「ふっ……今更だな」

「ま…まぁ…アザゼル様の直々のご使命だし?私も出来る事はやってやるわよ…」

 

あぁ……そうだった…。

私はもう……一人じゃなかったんだった…。

 

「皆……私に力を貸してくれるか?」

「「「「「「「「はい!!」」」」」」」」

 

ヤバいな……嬉しくて泣きそうだよ…。

 

「決まったようだね」

「ああ。皆さん、これからご迷惑をお掛けするかもしれませんが、よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしく頼むよ」

「わかないことがあれば、いつでも聞いてください」

「俺の場合は今更だな。嬢ちゃんとは結構付き合いも長いし」

「そうですね」

 

ほんと……ぶれないなぁ~…。

 

「なんだか長くなってしまいましたが、次の議題に移ってもいいでしょうか?」

「そうだな。結構重要な話だから、つい話が長くなっちまった」

 

ようやくルシファーさんとヤハウェは座った。

随分と長い話だったな…。

 

「ねぇ…次の議題に移る前に、ちょっといいかな?」

「なんだい?セラフォルー」

「そもそもの疑問だけど、マユちゃんって何者なの?」

 

あ、とうとうそれを聞きますか…。

 

「そうか。それも話さなきゃいけなかったな。どうする?」

「そうだねぇ~…」

 

流石に、そのまま伝えるわけにはいかないし……。

一応、黒歌と白音、オーフィスちゃんには簡単に伝えてあるけど。

 

「ふわぁ~……」

「我……眠い……」

「うぅ……」

 

あらら……子供達(?)がおねむのようだ。

 

「おや……やはり、あの子達にはこの時間はきつかったかな?」

「子供達はもうとっくに眠っている時間帯ですしね」

「世界に名立たる龍神も、マユの嬢ちゃんにかかっちまえば単なる子供…か。微笑ましくていいじゃねぇか」

 

そうだな。

この子達の為なら、どんな事も頑張ろうって気になるよ。

 

「けど、どうしましょうか?ここで家に帰すわけにもいかないですし…」

「ふむ……グレイフィア、頼めるかな?」

「お任せを」

 

グレイフィアさんはレドの所に行き、優しく抱きあげて、両手で包み込んだ。

その状態で椅子に座って、頭をゆっくりと撫でている。

 

「よしよし…」

「すぴ~……」

 

完全に眠ったようだ。

なんとも穏やかな寝顔だ。

 

「ならば、こちらの金髪の子は私が」

 

次はガブリエルさんがティアの元に行って同じように抱き上げる。

その眩い翼でティアの事を包んだ。

 

「いい子ですね……」

「むにゃむにゃ……」

 

ティアも眠ったようだ。

 

「じゃあ、オーフィスは私が」

 

レイナーレもオーフィスの所に行き、いつものように抱きしめる。

 

「す~…す~…」

「寝ちゃったわ」

 

もうすっかりと慣れたな。

完全に様になってる。

 

「すげー……俺じゃ絶対に無理だわ…」

「こう言う時って、種族に関わらず男は無力だよな……」

「ですね…」

 

母は偉大…ってか?

いや、レイナーレとガブリエルさんは母じゃなかったか。

 

「って、話が逸れちまったな」

「こればっかりは仕方ないよ」

 

子供には誰も勝てない……か。

 

「俺としては、下手に説明するよりは、実際に見た方が早いって思うんだが?」

「そうかもね」

「み…見せる?」

 

何を?

 

「お前の『過去』さ」

「私の過去って……」

 

まさか……『闇里マユ』の戦いの記憶…か?

 

「でも、どうやって?」

「簡単だ。お前の持つ感応能力を俺とヤハウェの力で増幅すれば、この場にいる連中に『見せる』ことも出来るだろう」

「そうか……!」

 

確かに、それなら皆にも感応現象を発現出来るだろう。

 

「か…感応能力?彼女はそのような力も所持しているのですか?」

「一応な」

 

正確には、第2世代以降の神機使いは殆ど持っているけどね。

アリサも感応現象は起こせるし。

 

「マユちゃん。赤龍帝の籠手を出して」

「分かった」

 

私は自分の左手に籠手を出す。

それに、ヤハウェとルシファーさんがその手を添える。

 

「いくぞ」

「うん」

 

二人の力が籠手に流れてくる。

すると、籠手の宝玉が眩く光り輝く。

 

「こ…これは……!?」

「お前等に見せてやるよ。嘗て、仲間達と一緒に幾度となく世界と人類を救い続けた、一人の少女の戦いの軌跡を」

 

光はやがて、部屋全体を包み込み、私を含めた全員の意識を彼方へと飛ばした。

 

そして、私は闇里マユの『過去』と対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回が一番書きたかったシーンだったりします。

ここまで本当に長かった……(疲)


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第63話 生きる事から逃げるな

今回、最初はゴッドイーターのシナリオを描いていこうと思ったのですが、冷静に考えると、そんな事をしたらとんでもない文字数になるので、私が個人的に気に入っているシーンを局所的に再現しようと思います。
と言っても、私のアレンジが入っていて、なんじゃこりゃ状態になっていると思いますが。

もしかしたら、今回の話は人によっては不快な思いをするかもしれません。
ですので、見たくないと思った方は途中からでもブラウザバックしてください。

ぶっちゃけ、これを見なくても物語には特に支障は無いと思いますので。










 私は唯…助けたかった。

 

どんな事になろうとも……『彼』のことを助けたかった。

 

私に大事な事を沢山教えてくれた人だから……。

 

私の命を救ってくれた人だから…。

 

そして……

 

私が初めて好きになった人で、初めての失恋を経験した人でもあったから……。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

ふと、目が覚める。

すると、そこは一面が鋼鉄で出来た空間だった。

 

『ここは……?』

 

リアスが周囲を見渡すと、会議室にいた全員が揃っていた。

マユを除いて……だが。

 

『お…お姉ちゃんは!?』

『ここにはいない』

『どう言う事ですか?』

 

思わずサーゼクスがルシファーに聞き返した。

 

『ここはマユの記憶の中の世界。当事者であるアイツがいるわけないだろう?』

『ならば……彼女は何処に?』

『現実の世界で眠っているさ。ここに来たのは俺達だけだ』

 

全員が見慣れない光景に戸惑っていると、白音と黒歌がある一点をジッと見ているのにリアス達が気が付いた。

 

『あれ……』

『マユ……?』

 

二人の視線の先……そこには、ズタボロになった状態のマユが自らの神機を杖代わりにして体を支えていた。

白いタンクトップに黒いパンツスーツといった格好だが、全身がボロボロになっている。

頭と口と鼻から血を流し、他にも体中から流血している。

少し離れた場所には上着と思わしき布切れが落ちていて、先程までマユが着ていたが、戦いの末に破れてしまい、そのまま放置されたのだろう。

 

「はぁ……はぁ……」

『お姉ちゃん!?』

『マユ!!』

『マユさん!!』

 

リアスを始めとした、マユを慕っている面々が彼女の元に行こうとしたが、ルシファーやヤハウェによって止められた。

 

『やめとけ。ここじゃ俺達は何も出来ない』

『何を言ってるんですか!お姉ちゃんがあんなにも傷ついているのに!!』

『これを見て』

 

ヤハウェが自分の手を近くにある鉄の壁に近づけると、ス~…と透き通った。

 

『……え?』

『これは……』

『言った筈だ。ここはマユの記憶の世界。俺達は物理的な干渉は一切出来ないんだ』

『そんな……』

 

自分達が何も出来ない。

その事実に愕然とする皆だった。

 

『ですが、この状況は……』

 

マユに注目して気が付かなかったが、彼女の眼前には嘗てレーティングゲームの際にマユが戦ったアラガミ……ハンニバルがいた。

だが、その体は漆黒に染まっている。

 

『あの龍は!?』

『マユさんが倒したはずのアラガミ!?』

『でも…色が違いますわ……』

『黒い……龍……』

 

黒いハンニバルは横たわっていて、ピクリとも動かない。

 

『お姉ちゃんが……一人で倒したの……?』

 

マユの体に刻まれた数多くの傷は、このハンニバルと戦った末についた傷だと、必然的に悟った。

 

『あの……マユさんの左腕が……』

『うん…アーシアも気が付いていたのね』

『はい……』

『マユの腕が……普通の腕になってる……』

 

そう、目の前にいるマユの左腕は、アラガミ化しておらず、至って普通の少女の腕だった。

傷だらけである事を除けば…だが。

 

『じゃあ……まさか……!』

『今から……?』

 

猛烈に嫌な予感が頭から消えないリアスだった。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「リーダー!!」

 

人工島エイジス。

そこで行われたマユとハンニバルとの一騎打ちは、辛くもマユが勝利したが、彼女の方も被害は大きかった。

 

そこに、マユの仲間達である第1部隊の面々がやって来た。

 

「倒した……のか?」

 

コウタが驚きと緊張を滲ませながら呟いた。

 

「マユ!!!」

 

ソーマがマユの傷を見て、珍しく血相を変えて走って近づく。

彼に続くようにして他の三人もマユの元に寄っていく。

 

「だ…大丈夫か!?リーダー!!」

「今、傷の手当てをするわ!!」

「私も手伝います!!」

 

自分の持っている医療キットを使い、マユの傷を一つ一つ手当していくサクヤと、それを隣で手伝うアリサ。

だが、現実は彼女達にそんな暇すら与えてはくれなかった。

 

「はっ!?」

 

コウタが何かに気が付く。

 

なんと、戦闘不能になった筈の黒いハンニバルがいきなり動き出し、蒼い炎と共にゆっくりと宙に浮きだしたのだ。

それを静かに睨み付けるマユ。

その目には恨みや憎しみの類の感情は無く、どこまでも真っ直ぐだった。

 

「これは……」

「なんなの……?」

 

他の皆も驚きを隠せない。

だが、それ以上に驚愕すべき事態が、眼前に写った。

 

その大きな両腕を黒いハンニバルが広げると、その体に埋め込まれいたのは……

 

「リン……ドウ……?」

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

『あの人は……!?』

『彼の名は『雨宮リンドウ』。マユちゃんに戦い方のイロハを教え込んだ師匠の様な存在で、そして……』

『マユが目の前で救えなかった人間の一人だ……』

 

マユの師匠。

それを聞いた途端、全員の目が見開かれた。

 

『あの龍の腹の中にいる男が、マユの嬢ちゃんの師匠だと…?』

『彼が……』

 

アザゼルはその飄々とした顔を一気に驚きに染めて、一方のヴァーリは興味深そうにリンドウの事を見ている。

 

『し…しかし、なぜあんな事に…?』

『それは、オラクル細胞が原因だ』

『それって……』

『お姉ちゃんが体に投与したと言う細胞……』

『そして、アラガミを構成している細胞……ですよね?』

『ああ』

 

またまたアザゼルが驚いた。

今度はミカエルも。

 

『ど…どう言う事だ!?あの嬢ちゃんがアイツ等と同じ細胞を体に投与しただ!?』

『説明はして貰えるのですか……?』

『後でちゃんとしてやる。俺等で資料も作ってきてるしな』

『今は兎に角、黙ってマユちゃんの事を見てあげて』

『わかりました……』

 

ヤハウェの言葉に従うように、全員が再び眼前の光景を見る。

 

『しっかし……これはどう言う事だ?』

『ん?どうしたの?』

『いやな、本当ならマユの奴の全ての記憶を追体験するつもりだったんだけどよ、なんでこのシーンなんだ?』

『もしかして……これはマユちゃんが無意識のうちに、このシーンを見せたいと思っているのかも』

『かもしれないな……』

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「くそ……!」

 

覚悟はしていた…だが、実際に目の前にすると、思わず毒づいてしまうソーマ。

 

「リ…リンドウさん!!目を覚まして!!」

 

リンドウが埋め込まれた黒いハンニバルの復活に伴い、マユも痛む体に鞭打ちながら立ち上がった。

 

「ぐ……ぐぅぅ……!」

「リ…リーダー!?無茶すんなって!!」

「そうは……いかない……!」

 

応急処置が出来ていても、傷が完全に癒えたわけではない。

無理をして体を起こしたマユの傷からは、再び血が噴き出した。

 

「お…おい!お前…!」

「ソーマ……皆……少し…下がっていてくれ……!」

 

マユの鬼気迫る顔に気圧されてしまい、ソーマ達は僅かに後ろに下がった。

 

その時だった。

この空間の時が止まったかのように全てが静止して、いつの間にかマユの隣には謎の少年…レンが立っていた。

 

「さぁ…今ですよ」

「え?」

 

レンの手にはリンドウが愛用していた神機が握られていて、マユの事を見上げている。

 

「このチャンスを逃すと、もう二度と倒せないかもしれない」

「なに?」

 

レンの言葉に心臓の鼓動が早くなる。

目は見開かれて、汗が滴り落ちる。

 

「さぁ、今こそこの剣を…リンドウに突き立ててください」

「……………」

 

そっとリンドウの神機を手に取ろうとするマユ。

だが、その直前で躊躇ってしまい、手を離してしまった。

 

「私は……」

 

決意を決めてここに来たはずが、いざ実際に目の前にすると、やはり躊躇してしまう。

この選択に間違いは絶対に許されない。

一つでも誤ってしまえば、その瞬間に全ての可能性は閉ざされる。

 

マユが迷っていると、リンドウが意識を取り戻したのか、苦悶の声を上げた。

 

「ぐ……ぐぅぅぅ……!」

「…………っ!」

「俺の事は……放っておけ……」

「リンドウ……リンドウなのね!?」

 

サクヤが思わずリンドウに近づこうとする。

だが、彼女に見えたマユの背中がそれを制止させた。

 

「リンドウさん……!」

 

コウタも悔しそうに呟く。

誰よりも家族や仲間の事を大事に思っている優しい少年には、自分が何も出来ない事が歯痒いのだろう。

 

「まだ……迷っているんですか?貴女はもう…決意をしてここに来たんじゃないんですか…?」

「それは……」

 

レンに対して何も言い返せない。

全てが図星だったから。

 

「ここから…立ち去れ……早く……!」

「嫌……もう…置いて行かれるのも…置いて行くのも……絶対に嫌よ……リンドウ……」

 

涙を流しながら訴えるサクヤ。

もう、彼女は後悔をしたくはないのだ。

 

「リンドウさん……例え力尽くでも連れて帰ります…!それが…それだけが……私が貴方に償える、たった一つの方法だから…!」

 

それはアリサも同様だった。

操られていたとはいえ、リンドウが行方不明になった事件の直接的な引き金を引いた彼女は、ずっとリンドウの事を後悔し続けていた。

マユとの出会いによって過去を断ち斬れた今でも……。

 

仲間達の言葉がマユの心に少しづつ勇気を与える。

 

「少しでも決断が遅れれば、余計な犠牲が生まれるだけだ!マユさん、貴女はリンドウに仲間殺しをさせたいのですか!?」

「私は……!」

 

目を瞑って己の心に問いかけるマユ。

もう、彼女の心は決まりかけていた。

 

「もう…俺の方は……覚悟は出来ている……」

 

苦しみながらも、リンドウは微笑を浮かべながらも話す。

無理をしているのは誰の目にも明らかだった。

 

「自分のケツぐらいは……自分で拭くさ……」

 

リンドウの口の端から血が流れる。

それに構う事無く、彼はマユ達の事を見続ける。

 

「さぁ!この呪われた血生臭い連鎖から…彼の事を解放してあげてください!!」

 

レンの口調に焦りが含まれていく。

もう余り時間が無いのだろう。

 

すると、黒いハンニバルの体が地面に降り立つ。

 

「ここから……早く逃げろ…っ!!これは……命令だ…!!」

 

リンドウの必死の言葉と共にハンニバルが咆哮を上げる。

完全に臨戦態勢は整っていた。

 

「マユさん!!早く!!この剣でリンドウを刺すんだ!!!」

「私は!!!」

 

カッ!とマユの目が大きく見開かれ、全力でリンドウの神機を『左手』で握った。

 

すると、次の瞬間……

 

「あああああぁぁぁぁあああああぁぁぁぁああああぁぁぁああぁぁぁ!!!!!!!!」

 

マユの左腕全体の内側から異形の硬質の皮膚の様な物体が無数に突き出して、夥しい程の流血と一緒に、普段は口数が少ないマユが大声を上げて叫んでしまう程の超絶的な激痛が左腕全体に走る。

 

「なっ……!?」

「リ…リーダー!?」

「じょ…冗談だろ!?」

「そんなっ!?」

 

激痛は一向に止まらない。

だが、それを全身全霊で我慢して、マユはその異形と化した左腕でリンドウの神機を振るった。

 

「に…げるな……!逃げるな……!」

 

また吐血をして、更に両目からも血涙を流すが、それでもマユの瞳からは全く闘志は消えていない。

寧ろ、今までで最も闘志に溢れていると言ってもいいだろう。

 

「逃げるなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 

マユの絶叫が木霊する。

 

「生きる事から……逃げるな!!!!これは……命令だ!!!!!」

 

ハンニバルに向かって全力で走るマユ。

その速度は人類の走行速度を遥かに凌駕し、一瞬のうちにハンニバルの懐に入り込む。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!!!!」

 

だが、向こうも黙ってやられる訳ではない。

ハンニバルはその籠手のついた右腕を振るってマユを攻撃しようとするが、それをジャンプして回避、そのままリンドウの神機でハンニバルの口を切り裂き、そこに自分の神機を突き立てる。

 

「ぐ…うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

そのまま梃子の原理で二つの神機を使ってハンニバルの口から首にかけて無理矢理開く。

すると、その内部に一つの球体……アラガミのコアが露出した。

 

「こぉぉぉぉぉぉれぇぇぇぇぇぇかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

リンドウの神機を離し、アラガミ化した左腕でコアに向かって直接拳を打ち付けた。

 

すると、全てが光に包まれた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「はっ!?」

 

気が付くと、そこは先程まで会議をしていた会議室だった。

 

「戻った……の?」

「みたい…ですわね……」

 

マユとハンニバルとの壮絶な戦い。

その光景をまざまざと見せつけられたリアス達は、未だに手に汗を握っていた。

 

「そうだ!お姉ちゃんは……」

「す~…す~…」

 

当の本人は、椅子に座ったまま静かに眠っていた。

 

「ね…寝てる?」

「そりゃそうだ。夢は寝てなきゃ見れないだろうが」

「確かにそうだけど……」

 

御尤もな意見に何も言えなくなる全員だった。

 

「あれが……お姉ちゃんがあんな左腕になった原因…なのね……」

「そういうこった」

 

仲間を助ける為とは聞いていたリアス達だったが、まさかあれ程までに凄まじい事だったとは予想もしなかった。

 

魔王として数多くの苦難を乗り越えてきたサーゼクスも、幾多の戦いを経験してきたアザゼルも、様々な人間達を見てきたミカエルも、誰もが言葉を無くしていた。

 

「……御二方は彼女の事について知っているんですよね?」

「そうだ」

「なら、いい加減に教えて貰おうじゃねぇか」

「私も知りたいですね。闇里マユと呼ばれる少女が一体何者なのかを……」

「分かってる。さっき約束したしね」

「勿論、あのアラガミとか言う連中についてもな」

「心配しなくても、ちゃんと説明してやるよ」

 

そして、ルシファーとヤハウェは静かに語りだした。

こことは違う異世界において、荒ぶる神々と人類が残してきた戦いの軌跡を。

闇里マユと言う一人の神機使いの事を……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい、今回のは例の主人公が初めて喋るシーンの奴ですね。

前書きにも書いたんですけど、本当に文字数がえらい事になりそうで、もしも全部書いていっていたら、間違いなく完成前に私の心がボッキリと折れそうだったので、一番重要そうなシーンだけ描きました。

他のシーンは省略した形でなんとかするか、もしくはどこかで小出しにすると思います。

……なんか、あんまりストーリーが進まない……。

一応、かなり先までプロットは完成してるんですけど……。


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第64話 闇里マユ

まだまだ続く会議。

そろそろ本格的に進めたいのですが……。







 マユの過去の記憶の一部を全員で見た後、ルシファーとヤハウェは、三大勢力の代表として来ているサーゼクス達に自分達で予め用意しておいた神機使いとアラガミ、オラクル細胞に関する資料を配った。

その間にリアス達の手によってマユが夢の世界から呼び戻されている。

 

「お姉ちゃん、そろそろ起きて」

「う…うぅん…?私はいつの間に……?」

 

目を擦りながら起きたマユの顔はスッキリとしていて、どうやら短時間とはいえキッチリと熟睡は出来たようだ。

 

「まずはそいつにザッとでいいから目を通してくれ」

 

そう言われて、サーゼクス達は資料を見始めた。

資料はかなりの枚数の紙の束になっていて、結構分厚い。

読むだけでも苦労しそうな数だ。

 

「……これってどういう状況?」

「これはね……」

 

眠っていたマユの為に今までの事を話すリアス。

それを聞いてマユは冷静に頷いた。

 

「そうか……あれを見たのか…」

 

マユにとって、色々な意味で忘れられない記憶。

本人としては非常に複雑な心境だろう。

 

「……このオラクル細胞ってヤツ……コイツを本当に嬢ちゃんは体に投与したのか?」

「ああ」

「『考えて、全てを食らう細胞』……か」

「一つ一つの細胞ごとに生命活動が完結している。一種の単細胞生物ですか…」

「しかし、DNAを所持していないというのはどーゆーこった?」

「この資料を見る限り、細胞壁状に特異な器官を持っているようですね。これであらゆるモノを取り込んで『捕食』する……」

 

想像以上に詳細に書かれている資料に、誰よりもマユが驚いていた。

 

「二人とも……一体どうやって資料を…?」

「俺らは神と魔王だぜ?これぐらい余裕だってーの」

「「「「えぇ~…」」」」

 

それを理由にされても、一番困るのはマユ達である。

 

「で、このオラクル細胞が集まって構成された群体が……」

「彼女が戦っている敵…『アラガミ』なのですね」

「まぁな。そこにも書いてあるように、アラガミ自体が数万から数十万の集まりだ」

 

リアス達は興味深そうに聞いているが、全てを知っているマユからすれば少し退屈な時間だった。

 

「資料自体は遠慮なく持って帰ってくれて構わない」

「今はとにかく、オラクル細胞やアラガミに関しての共通認識さえ持ってくれれば十分だよ」

「それがいいようですね。ここで全てを読破するには情報が多すぎる」

「けどよ、少しは質問をさせてくれてもいいだろ?」

「別にいいぜ。何を聞きたい?」

 

質問タイムを申し出たアザゼルは少しだけ資料をにらめっこした後、マユの方を向いて言葉を紡いだ。

 

「この資料によると、嬢ちゃんが愛用している武器『神機』を使用するために、体内にオラクル細胞を投与したって書いてあるが、効果はそれだけなのか?」

「そうですね……」

 

自分に聞かれたと思ったマユは、少しだけ顎に手を当ててから、顔を上げた。

 

「基本的には自身の身体能力の大幅な向上ですね。それは実際に見たリアス達の方が詳しいと思いますけど」

「そうね…。確かにお姉ちゃんの運動能力は通常の人間を遥かに凌駕してるわ。一回のジャンプで数メートルぐらい飛び上がったりするし」

「目には目を。歯には歯を。通常攻撃が一切通用せず、あらゆる生物を超越しているアラガミに対抗するには、人間側も生物の理を超越するしかない。もう…私たちには手段が残されていなかったんです」

 

マユの表情から、彼女がいた世界の人類がどれだけ追いつめられていたのかが分かった。

 

「じゃあ、君が常日頃から身に着けている、その赤い腕輪は…」

「これは私達が神機使いとなった瞬間から身に着けることを義務付けられた物です。一度装着すると、肉体と融合してもう二度と外すことはできません」

「肉体と融合……」

「はい。この腕輪からはオラクル細胞をコントロールする『P53偏食因子』と呼ばれるものを定期的に投与しているんです。更に、生体武器である神機の制御もしています」

「じゃあよ。もしも半ば無理矢理に近い形で外れたりしたら……」

「それは……」

 

急に言いよどむマユ。

それを見て、自分達が禁句を言ってしまったと思う面々。

 

「マユちゃん……」

「大丈夫。私の口から言います」

 

決意をしたマユは、いつもは自分から外そうとしない左腕に着けている腕袋を取り外した。

 

「簡単に言えば…こうなります」

「それは……!」

「あの時に見た……」

 

禍々しく変容した左腕。

それは、マユの決意の証でもあった。

 

「これが『アラガミ化』と呼ばれる現象です」

「あのリンドウとかいう男がなっていた現象か…」

「そうです。変容する詳しい原理を言えばキリがないので、私からはアラガミ化する原因から言わせてもらいます」

 

手に汗が滲んだのか、マユは自分の右腕を服にこすり付けた。

 

「まず、さっき言った通り、この腕輪が外れた場合。リンドウさんはこれによってアラガミ化してしまいました」

「なるほどな…」

「二つ目は、他人の神機を使用することです」

「というと?」

「神機は基本的にオラクル細胞を人体の奥深くまで埋め込み、神経と直接接続する必要があるんです。この時、本人の遺伝的体質が該当神機に対して適合していることが必須条件となります」

「つまり、神機ってのはオンリーワンの武器ってことか?」

「そうなります。だからこそ、他人の神機を触るのはご法度なんです。拒絶反応で神機に捕食されてしまいますから」

「じゃあ、嬢ちゃんは……」

「はい。私はある事情により、一度行方不明となったリンドウさんの神機を使用して、こうなりました」

「あの光景も、確か貴女はもう一つの神機を握った途端に左腕が変容しましたね」

 

『ははは…』と小さく苦笑いしながら自分の左腕をさするマユ。

自分の左腕に再び腕袋を装着し直した。

 

「後は、神機使いとしての寿命ですね」

「寿命?」

「はい。神機使いは決して永遠の存在じゃありません。年齢の経過や、元々からあまり適性が高くないにも関わらず、無理をして戦い続けた結果、体の方が先に限界を迎えてアラガミ化してしまうケースもあるようです」

「実例を見たことはあるのか?」

「いいえ。私が所属している極東支部では確認されてはいませんね」

 

そう…極東支部では……の話である。

彼女は知っている。

他の支部では、体の限界によってアラガミ化してしまった神機使いがいることを。

 

「けどよ、嬢ちゃんのアラガミ化は左腕だけでストップしてるよな。それはなんでだ?」

「不明です。原因の究明はしているんですが…」

 

これに関しては本当に分かっていない。

彼女の本分はアラガミと戦うことであって、オラクル細胞の謎を解明することではないのだ。

 

「あの後、彼と貴女はどうなったのですか?」

「私はリンドウさんの精神世界に向かい、そこで彼を侵食しようとしている存在を撃破しました。その後、彼は私と同じように右腕全体がアラガミ化したままになってしまいましたが、それ以上に進行することはなくなったそうです。なんでも、オラクル細胞の機能は完全に停止することなく、再びリンドウさんの意思の制御下に置かれたようです。アラガミ化した腕に神機のコアに近しい物質が取り込まれていて、それを媒体にして腕輪を使用せずともオラクル細胞をコントロールしているようです」

「なら、似たような状況である嬢ちゃんも同じと考えるべきか?」

 

科学者としてのアザゼルの琴線に触れたのか、いきなり彼の目が輝き始めた。

 

「ところで、ずっと気になっていたことがあるのですが……」

「なんだ?サーゼクス」

「今までの話を総合すると、やはりマユ君は……」

「……お前が想像している通りだ。マユは俺達が異世界…つまり、アラガミ達が跳梁跋扈している世界からやってきた。いや、俺達が連れてきたというべきか」

「やはり……」

 

正確には『転生してきた』が正解だが、ある意味異世界ではあるので間違ってはいない。

 

「お前たちも知っている通り、アラガミはいきなりこの世界に出現した。その原因は本気で不明だが、アラガミに対抗出来るのは神機使いだけ。それはお前たちが一番よく知っているんじゃないか?」

「そう…ですね」

 

実際にアラガミに遭遇し、その強大さと自身の無力さを肌で感じたサーゼクス達は、ルシファーが言う言葉がよく理解できた。

 

(……今、なんで『自分を転生させたんだ?』とかって考えただろ?)

(うぐ……鋭い…)

 

いきなり念話で話しかけられたマユは、内心戸惑いながらも答えた。

 

(心配しないで。この会談が終わった後にちゃんと説明するから)

(はい。お願いします)

(そろそろ話さなくちゃいけない頃だと思っていたしな)

(ちょうどいい機会だし、きちんと話すよ)

 

周囲に悟られないように無表情を決め込んではいるが、実際には『ようやく話してくれるのか』と安心していた。

 

因みに、この間約1秒ほど。

 

「そうか…。最初は嬢ちゃんが来たからアラガミが来たんだと思っていたが、順番が逆だったってことか」

「ならば、もしもお二人が彼女をこちらの世界に召喚しなければ……」

「マユの世界と同じ末路になっただろうな」

 

滅びに瀕した荒廃した世界。

今までは無自覚だったが、こうして明確に言われた以上、自覚せずにはいられない。

自分たちは滅びの一歩手前にいるのだと。

そして、その滅びを辛うじて崖っぷちで防いでくれているのが、目の前にいる少女なのだと。

 

「けど、そう考えると…嬢ちゃんも大変だな」

「そうですね…。仲間達と別れてまでこちらの世界を救うために来てくれた…。それがどれだけ大変なことか…」

「私達には想像も出来ないね……」

 

急にシュン…となるセラフォルー。

マユに惹かれつつある彼女だからこそ、必要以上に心配してしまうんだろう。

 

「彼女を元の世界に戻すことは可能なのですか?」

「まぁ…一応な。もっとも、本人の意思次第だが」

「マユちゃんがこっちに残るというときは、その意思を最大限に尊重したいしね」

 

なんてことを言ってはいるが、実際はマユに退路なんて存在しない。

転生した以上、この世界で一生を終えるしかないのだ。

 

「彼女が赤龍帝として覚醒したのは、こっちに来てから?」

「正解。まさに鬼に金棒だな」

「しかし、彼女とドライグの組み合わせはいい意味で素晴らしい相乗効果を生み出していると思います」

「全くで。凄まじく強大な組み合わせですが、その力が守護の為に振るわれているのが良かったですね」

「だぁな。うちのじゃじゃ馬娘みたいな戦闘狂じゃなくてよかったぜ」

「誰が戦闘狂よ」

「お前だよバカ」

 

部屋の端の方で腕を組んだ状態で立っていたヴァーリ。

今まではずっと会議に興味なさげだっが彼女だったが、先ほどからその顔は僅かに笑っていた。

マユの強さが話の話題に出たからだろうか。

 

「ま、私としては今はまだ彼女に戻ってほしくはないけど」

「ほぅ?お前にしては珍しいな」

「そうかしら?私は単純に彼女よりも強くなりたいだけ。そしてマユを倒す。けど、今の私じゃ彼女の強さにはまだ遠く及ばない。だから、せめて私が貴女よりも強くなるまでは元の世界に戻るのは許さないわ」

「本当にこいつは……」

 

困ったように頭を抱えるアザゼル。

そこには堕天使総督ではなく、一人の父親がいた。

 

「あ~…マユに関する話はこれぐらいで充分か?」

「ですね。後は戻ってからこの資料をゆっくりと見させてもらいます」

 

それぞれに資料を懐にしまうサーゼクス達。

どこに仕舞ったかはツッコんではいけない。

 

こうして話している間も、オーフィス達はぐっすりと眠っている。

完全に熟睡しているようだ。

 

「す~…す~…」

「あの子達の為にも、早く終わらせましょうか?」

「それがよさそうだな。嬢ちゃんの話でかなり長引いてしまったし」

「じゃあリアス。先日発生したコカビエルの一件についての報告をお願い出来るかな?」

「分かりました」

 

リアスが立ち上がり、コカビエルとの戦いの一部始終を報告した。

 

「…と言うわけです」

「成る程。よく分かったよ。ありがとう」

「いえ」

 

軽く会釈をしたのちにリアスは再び座った。

 

それぞれにあまり驚きは無かった。

というのも、実は事前にある程度の報告は受けていたからだ。

今回の報告は、改めての確認とより詳細な情報を知ることが目的だった。

 

「本当なら、コカビエルの野郎はヴァーリに捕縛させたうえでコキュートス辺りにぶち込もうと思っていたんだがな。その前にマユの嬢ちゃんが倒しちまったからな」

「えっと……すいません?」

「なんでそこで謝るんだよ…」

「いや…なんとなく?」

「律儀な嬢ちゃんだ」

 

肩をすくめて困ったように笑うアザゼル。

マユとは長い付き合いがある彼としては、彼女のこういった真面目なところは高く評価していた。

 

「マユさんが聖剣エクスカリバーに選ばれたのは、間違いなく天啓でしょう。もはや必然とも思います」

「それに関しては僕も同感だ。彼女が今まで残してきた戦歴を考えれば、どこに出しても恥ずかしくない立派な英雄だ。そんな彼女が聖剣に選ばれないなんてことな有り得ない」

「いや…褒めすぎです」

 

ほのかに顔を赤らめるマユ。

普段は無表情のマユの、そんな年頃の少女のような表情を見せるのは珍しかった。

 

「ところでアザゼル。君はどうしてここ数十年で数多くの神器所有者を集めていた?君は日頃から『戦争には興味が無い』と口癖のように言っていたが、そのような様子を知ってしまえば、こちらとしては嫌でも警戒をせざる負えないのだが?」

「そうですね。特に『白龍皇』を引き入れたと聞いたときは、天界の警戒レベルを引き上げてた程です」

「単純に研究のためだよ。他意は無い。疑うようだったら、俺の研究資料を分けてやろうか?」

「それは……」

「大体な。もしも本気で戦争が目的だったら、マユの嬢ちゃんに個人的に協力したり、そこにいる猫の嬢ちゃんに俺の開発した人工神器を渡したりしねぇよ」

「それを言われると……」

「何も言えませんね…」

「自分の信頼度が最低なのは自覚してる。だからこそ、俺は組織ではなくて個人で嬢ちゃんに力を貸してるんだよ」

「それに関してはとても感謝してます」

「おう、思いっきり感謝しとけ!はっはっはっ!」

「そういった発言が君の評価を下げてるんだと、いい加減に自覚した方がいいと思うが?」

「え?マジ?」

 

実力もあり権力もあっても、その性格が全てを台無しにしていた。

もう少し場が違えば、彼の評価も違ったかもしれない。

 

「話によると、ミカエルもあの『アスカロン』を渡したんだろ?それに加え、サーゼクスも自分の妹を初めとした連中を傍に置いている。それってよ、つまりはこの場にいる全員が和平の意思ありってことだよな?」

 

アザゼルの言葉にサーゼクスとミカエルが頷く。

 

そこから話し合いは佳境に入る。

 

今後の戦力や各勢力の対応の仕方。

クレイドルを加えたこれからの勢力図などを話し合っていく。

とんとん拍子に進んでいく会議にマユも人類代表として辛うじてついて言っている感じだった。

時には彼からのアドバイスなども貰いながら、会議は今までとは比べ物にならないスピードで進行していった。

 

「よし。取り敢えずはこんなところでいいだろう」

「ですね。細かいところはまた話し合い機会を設ければいいですから」

「それが妥当だな」

「や…やっと終わった…」

 

他の三人はいざ知らず、あまり会議慣れしていないマユは精神的に疲労していた。

やはり、彼女にはアラガミ相手に神機を振っている方が性に合ってるようだ。

 

「そんじゃ、最後に今後の世界に強い影響を与えそうな連中の意見でも聞こうか。まずはヴァーリ。お前はこれからどうしたい?」

「私は強者と戦えさえすればそれで充分よ。目下の相手はそこにいるマユだけどね」

「だそうだ」

「はぁ……」

 

思わず溜息がこぼれるマユ。

ヴァーリのような存在の相手は肉体よりも精神的な疲れの方が大きいらしい。

 

「次にマユ。お前さんはどうする?」

「私の目的は、ここでも変わりません」

「アラガミの殲滅…か?」

「それもあります。ですが、それは目標に至るまでの手段にすぎません」

「ならば、君の目標とは?」

「それは……全ての人々が安心して眠れる世界を作ることです」

 

オリジナルのクレイドルの設立目的。

それが今マユが言った『全ての人々が安心して眠れる世界を作ること』だった。

 

「その全ての人々には……」

「勿論、人間だけではなく、全ての種族が安心して眠れる世界です。私は…この世界に住む全ての『ヒト』という存在を救いたい」

 

そう言ったマユの目には、一切の曇りが無かった。

 

「人間とか悪魔とか……そういうのを全てひっくるめて『ヒト』…か。いいんじゃねぇか?甘い理想論かもしれねぇが、本当の地獄をその身で味わったお前さんの言葉だと、重みが全然違ってくる。俺は好きだぜ、そういうのはよ」

「そうですね。理想や信念を語れずに流さるがままに生きて、大事なものを失うよりはよっぽどいい」

「僕も同感だ。何より、彼女はそれを有言実行してきた。その体一つで、あらゆる命を救ってきた彼女だからこそ、応援もしたくなる」

 

マユがしてきたことは決して無駄ではなかった。

彼女の戦いは、少なくともこの場にいる者達に大きな影響を与えたのだから。

 

「さてと、そんじゃ後は……」

 

会議を閉めようとした……その時だった。

 

「え?」

『これは……』

 

文字通り……世界の時が停止した。

 

それは、新たな戦いの狼煙でもあった。

 

ここから闇里マユの運命が大きく変化していくことを、彼女はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 




およそ7000字…。

やっぱり連続投稿は疲れますね…。

でも、個人的には大満足!

少々強引だったかもしれませんが、やっと話が動きました…。



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第65話 英雄王

やっと原作沿いに戻ります…。

凄く長く感じました…。

前回までは三人称でしたが、今回からまたマユ視点で始まります。

三人称は大変ですね…。











 いきなり会議室全体に広がった、この独特の感覚……。

これは…まさか……

 

咄嗟に壁に掛けられている時計を見てみると、完全に停止していた。

 

「時間の停止……」

『相棒。これはあの半吸血鬼の小僧が持っている神器の効果だ』

「やっぱりか……」

 

だが、ギャスパー君の神器『停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』は視界に映った存在に対してのみ効果が発揮されるはず。

それなのに、今は少なくとも校舎全体が停止しているような感じだ。

 

「やっぱり来たか…」

「アザゼルさん?」

 

なんか意味深なセリフ。

 

「な…なんなの?」

「不思議な感覚があったと思いましたが……」

 

リアス達も感じたのか。

 

「すぴ~……」

 

で、こんな中でも幼女たちはご就寝というわけですか。

子供ってスゲーわ。

 

「おいマユ……」

「ルシファーさん?」

「……警戒しろ。これから厄介なことになるぞ」

「厄介なこと?」

 

この人がこんな事を言うなんて…。

 

私だけじゃない。

眠っているオーフィスちゃん達以外が全員動揺、または警戒をしている。

 

立ち上がっていつでも動けるように構えていると、突然……

 

「なぁっ!?」

「こ…これはっ!?」

「な…なんなの!?」

 

室内…いや、校舎全体が激しく揺れた。

まるで、何かが落ちてきたかのように。

 

「この感じ……外か!?」

「先輩!?」

 

急いで窓まで行って外を覗く。

裕斗も一緒に隣で覗いている。

 

「あれは……?」

 

外には、真っ黒なローブを纏った人影が複数存在していて、それは空中に出現する魔法陣が現れる度に増加していく。

 

「先輩。あれはきっと『魔術師』です」

「魔術師…ね」

 

どこの連中かは知らないが、ご苦労なことだな。

 

「馬鹿野郎どもが……!」

「全く……」

 

ルシファーさんとヤハウェが小声で毒づいたあと、指をパチンッ!と鳴らした。

すると……

 

「校舎が……」

「結界?」

 

この校舎全体が不可思議なバリアーのようなもので覆われた。

 

「これは…お二人が?」

「当然だ」

「詠唱も呪文も無しで、これほどまでの結界を創造するなんて……」

 

え?ええ?

これって凄いの?

 

『あの二人は、ただ指を鳴らしただけで鉄壁の障壁を生み出したのだ。これほどの結界ならば、例え核兵器が直撃してもビクともすまい。勿論、中にいる者達には何の影響も無しにな』

 

えぇ~……久々のA・U・Oの説明タイムだと思ったら、かなりぶっ飛んだ事を教えられたんですけど……。

 

「凄いです……」

 

アーシアが目を見開いて驚いている。

 

外の魔術師達が校舎に向かって魔力弾のようなものを撃っているが、ビクともしていない。

振動だってこっちに来ない。

 

「しかし、なんで全員が動けるんだ?」

「ったりめーだ。ここには聖書の神がいるんだぞ?ヤハウェがこの場に立っている時点で、ここにいる全員が神の加護を受けているようなもんだ」

 

……聖書の神ってどこまでチートなの…?

 

「ん~…?」

 

あ、幼女組が目を覚ました。

 

「この子達は私たちにお任せを」

「お願いします」

 

あの子達はガブリエルさん達に任せれば大丈夫だろう。

天使と母親の包容力は半端じゃないからな。

あれ?その理論で言うと、レイナーレも母性に溢れてるってこと?

 

「取り敢えず、今は現状把握をした方がいいでしょうね」

 

冷静だな……ミカエルさん。

 

「外で暴れている連中は、所謂『魔法使い』か」

 

いきなりファンタジーな単語が飛び出したんですけど。

 

「なんでその魔法使い達がいきなり強襲してきたんだにゃ?」

「大方、この会議の妨害を図ろうとした……ってところでしょうね…」

 

実に分かりやすい動機だが、それにしてもおかしいな…。

 

「そして、さっき感じた時間停止の感覚は、あのハーフヴァンパイアの小僧の神器だろうな。恐らく、何らかの形で魔力とかを譲渡して、半ば強制的に禁手(バランス・ブレイカー)に至らせたんだろう。本来ならば視界に映ったモノだけを停止されるのに、まさかこれほどの規模と威力があるとはな…。ま、流石に神の加護を突破するほどではないらしいが」

 

これで突破出来たら、逆にヤハウェの立つ瀬がないでしょ。

 

けど、ギャスパー君が奴らに利用されているってことだな…!

あんなか弱い子を……許せない…!

 

「つまり、今ギャスパーはあいつ等に道具にされているってことね…!一体何処でギャスパーの情報を入手したかは知らないけど、私の大事な眷属を大切な会議を邪魔するために利用するなんて……絶対に許せないわ!!」

 

リアスが激高する気持ちも分かる。

実際、私の腹の中も煮えくりたってる。

 

「校舎を守護している筈の部下達と連絡が取れない。お前らはどうだ?」

「こちらもダメですね。一切の交信が取れません。サーゼクスはどうですか?」

「いや……ダメだ。多分、三大勢力の軍勢全てが停止しているんだろう。彼の潜在能力はそれなりに把握しているつもりだったが、まさかこれ程だったとは予想外だった」

 

つまり、今動けるのはここにいる皆だけってことか。

 

『おい…雑種』

「ギル?」

 

いきなりどうした?

 

『我は今……意味不明な怒りに満ちている』

「え?」

 

お…怒っているのか?

 

『あのような視界に入れる事すらも不愉快な雑種共が我等を襲うなど……万死に値する!!』

 

あぁ……マジ切れしてますがな…。

ギルが本気でキレているところなんて初めて見た…。

 

『今、この学園は結界に覆われている。にも拘らず、彼奴らはここに現れた。恐らく、この学園の敷地内に結界の外に繋がっている転移用の魔法陣のようなものがあり、それを操っている者がいるということだ。ヤハウェの加護の影響で停止される心配はないが、連中は明らかに物量で攻めてきている。ならば、ここは我の出番であろう』

「ギルの…?」

 

ギルの能力……それは……

 

『以前にも言われたが……我の力は戦争そのものだ。ある意味、歴代で最も一対多数に特化しているだろうよ』

 

確かに。

その気になればたった一人で国を相手に出来る戦力だしな。

 

『だからこそ言わせてもらおう。雑種……いや、我がマスター…マユよ。今こそ我の力を使え!!』

「分かった」

 

どうなるのか心配だけど……今はギルの事を信じよう!!

 

私は赤龍帝の籠手を出して、力を込めた。

 

「お姉ちゃん…?」

「君は何を……」

 

さて…やるか!

 

【Gilgamesh!】

 

籠手から音声が鳴ると、毎度の如く私の体に変化が訪れた。

 

髪が金髪に染まり、耳には金色の四角い耳飾りが装着された。

そして、体には赤い線が幾つも浮かび上がった。

最後に目が真っ赤になった。

 

「これが噂に聞いた、歴代の能力を発現させたマユさんですか……」

「へぇ~…。近くで見ると、凄まじいわね…」

 

これは凄い…!

他の歴代とは明らかに違う!

体の底から力と自信が沸き出てくる!!

 

『手始めに、まずは外にいるゴミ共を片付けるぞ!』

「おう!」

 

意識を外に向けると、魔術師たちの近くの空間にいきなり波紋が現れ、そこから夥しい数のあらゆる武器が射出された。

 

「あれはっ!?」

「なんだありゃ!?」

 

魔術師たちは当然のように防御結界を張ろうとするが、そのようなお粗末な代物でギルガメッシュの『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』は防げない。

 

紙の盾でビームライフルを防ぐようなものだ。

まさしく無意味。

 

射出された無数の宝具は魔術師たちの結界を意図も簡単に貫通し、奴らを引き裂いた。

 

『ふん…。あのような奴らに我が宝物庫の宝具を使用するなど……』

「それは仕方ない。ギルの宝物庫に入っている武器は全てが原初の宝具なのだから」

 

勿体ないって気持ちは分かるけどね。

 

「す…凄いにゃ……」

「あれが原初の英雄王の力……」

「次元が違うわね……」

 

残念だが、まだこれはギルの能力の一端に過ぎない。

本気はもっと凄い。

 

「単体戦力であるにも拘らず、他を圧倒する程の物量…。貴女はどこまで……」

 

ヴァーリがこっちを見ながら顔を歪ませている。

心なしか、汗も掻いているように見える。

 

『おい、アザゼルよ』

「なんだ?英雄王」

『このタイミングといい、襲撃の手法といい、余りにも手際が良すぎる。貴様の考えを聞かせよ』

「考えたくはねぇが……内通者がいるって考えるのが普通だろうな。なんせ、この場所で会議が行われることを知っているのは、俺やサーゼクスを初めとしたトップの連中やマユの嬢ちゃんの周りにいる奴らだけだ」

『やはり、その考えに至るか…』

 

内通者……か。

 

あんまり思い出したくない事を思い出すな…。

 

「まずはこの状況をなんとかしましょう」

「じゃあ、嬢ちゃんはどうするべきだと思う?ある意味、嬢ちゃんはこの場で最も実戦経験豊富だ。お前さんの意見を聞かせてくれ、リーダー」

 

それを言いますか。

『リーダー』って言われたら、引くわけにはいかないでしょ。

 

「外部には結界を解除しなければ出られない。しかし、結界を解いてしまえば外の町に被害が出る可能性が非常に高い。しかも、誘い出された先になんらかのトラップが仕掛けられている事も考えられる。ならば、まずはこの場にて籠城をして、この襲撃の首謀者にこっちに来てもらう方がいいだろう。そうして時間を稼いでいる間にギャスパー君を救出する……で、いかがでしょうか?」

 

頭の中に思い浮かんだことを言ってみたけど、これでよかったかな…?

 

「ふむ…妥当な判断だね。この短時間でそこまで考えるとは…流石だよ」

「いえ……」

 

殆どズルみたいなものだし。

 

「そうと決まれば、まずは誰がギャー君を助けに行くか…ですね」

「僕達首脳陣はここを迂闊に動けないし、あまり大人数を割くわけにもいかない。行動がしにくくなるしね」

「ならば、私が行きます!」

 

リアス……。

 

「そう言うと思っていたよ。しかし、どうやって救出するつもりだい?」

「『キャスリング』を使用します」

 

キャスリング?

 

『キャスリングとは、チェスにおいて『王』の駒と『戦車』の駒を入れ替えることの出来る特殊ルールの事だ。悪魔の駒にも同じルールが適用されるのだろう』

「彼の言うとおりです。旧校舎の部室には未使用の戦車の駒が保管されています。それを利用すれば……」

「奴らの目を盗んで侵入できる…」

 

まさか、こんな方法で救出に来るなんて、奴らも予想もしないだろうな。

 

「決定だね。だが、流石にリアス一人で行くには少々無謀が過ぎる。せめてもう一人ぐらい連れて行った方がいい」

「しかし、キャスリングで転移出来るのは基本的に一名のみです」

 

ですよね~。

 

「じゃあ、俺の力で複数人転移可能にしてやるよ」

 

ルシファーさんがさっきと同じように指を鳴らすと、床に見た事のない魔法陣が出現した。

 

「これなら、二人と言わず、もう少し多めに転移出来るぞ」

「じゃあ、僕が行きます」

「私も行きますわ」

 

グレモリー眷属総出撃か。

ま、捕らわれているのもギャスパー君もリアスの『僧侶』だしな。

 

なら、こっちはこっちでやりますか。

 

「アザゼルさん。少しだけヴァーリを借りてもいいですか?」

「おう。好きなだけ使え」

 

はい、了解を得ました。

 

「何をする気かしら?」

「私と君とで奴らを迎撃する。私達『二天龍』が出ていけば、こっちに目が行ってリアス達が行動しやすくなるかもしれないし、もしかしたら『首謀者』を誘き出すこともできるかもしれない」

「私達で囮をするってこと?」

「嫌か?」

「いえ、面白いじゃない。貴女と共闘するのも悪くは無いわ」

 

あら、意外と聞き分けがいいこと。

 

『だと言っているが、お前はどう思っている?白いの』

『ふっ…。偶にはいいだろう。愚かな連中に我等『二天龍』の真の力を見せつけるいい機会やもしれぬ』

 

こっちでも意気投合…と。

 

「でも、いいのかしら?私たちがここにいることは向こうも承知していると思うけど」

「それでも、まさかキャスリングで転移してくるとは向こうも考えもしないだろう。二人が行くことは大きな陽動になると思うが?」

「あら、言うじゃない。教会の聖剣使い」

 

意外と考えてるんだな……ゼノヴィア。

 

「いっそのこと、旧校舎ごと人質を吹き飛ばした方が手っ取り早いと思うけど」

「それを私がさせると思うか?」

「………冗談よ(なんて殺気……。この私が完全に圧倒されるなんて……!)」

 

全く……冗談でも言わないでほしい。

 

「言っておくが、それは最悪の場合だ。助けられる可能性があるうちは助けた方がいいに決まってるだろうが」

 

いいこと言うな~…アザゼルさんは。

少しはヴァーリも見習えよ。

 

「はいはい。わかってますよ~」

 

まるで駄々をこねる子供だな…。

 

「じゃあ、行くぞ」

「ええ」

 

ヴァーリの背中から骨格が白く、透き通った翼が現れた。

 

【Vanisnig Dragon Balanse Bleaker!】

 

音声と共に、ヴァーリの体が初めて見た時と同じように丸みを帯びた純白の鎧に覆われた。

 

「それじゃ、お先に失礼」

 

あ……行ってしまった。

窓から飛び出していったけど、壁をぶち破って行かなかっただけマシか。

 

「なら、私も行きます」

「頼んだよ」

「はい。……皆を頼みます」

「任せときな。お前さんの『家族』は俺達が体を張って守ってやるよ」

「お願いします」

 

ヴァーリが出て行った窓に手を掛けて、リアス達を方を見る。

 

「私が行った直後に転移してくれ。気を付けろよ」

「お姉ちゃんもね」

「うん」

 

じゃあ……こっちも行こうかな!

 

「行こう……ギル」

『フッ……』

 

外で魔法使い達を蹂躙しているヴァーリを見ながら、私も外へと飛び出した。

 

さぁて……二天龍の力を奴等に見せつけてやりますかね!!

 

 

 

 

 

 




早くもマユとヴァーリの共闘が実現。

増々ヴァーリの裏切りフラグが無くなったような気が……。

ここからどうしていこう……。

頭がパンクしそうです…。


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第66話 赤と白

今回、ちょっとだけ聖闘士星矢のネタが出るかもしれません。

あくまで『ちょっと』だけ…ですけど。






 マユとヴァーリが外にて魔術師達と戦闘を開始したと同時に、リアスを初めとしたオカ研メンバーがキャスティングにて旧校舎に転移するための準備をする。

 

「ちょっと待ちな」

 

アザゼルがポケットから腕輪のようなアイテムを取り出して、リアスに投げ渡した。

 

「これは…?」

「それもある意味、俺の研究の集大成さ。そいつを付ければ神器の力をある程度は抑制出来る筈だ。無事に救出に成功したら、そいつを付けてやんな」

「…わかったわ」

 

複雑な顔をしてはいたが、文句を言っている状況ではないし、背に腹を変えられないのも事実だった。

 

「ではお兄様……行ってきます」

「ああ。……最後まで油断をしてはいけないよ。ここに戻ってくるまでが救出作戦だ」

「まるで小学校の先生のようなセリフはやめてください」

「それだけ心配しているということさ」

「はぁ……分かってます」

 

溜息交じりにリアス達は魔法陣の上に移動する。

 

「二人とも……行くわよ!」

「「はい!!」」

 

リアスの言葉に頷き、淡い光と共に三人は転移する。

 

「……行ったか」

「だな」

 

心配そうにしてはいるが、それを言葉には出さない。

サーゼクスなりの強がりだった。

 

「アザゼル。少しいいですか?」

「なんだ?ミカエル」

「先程、あの魔術師達が出現した時に、貴方はまるでこの事態を予想していたようなセリフを言っていましたが、それはどういうことですか?」

「あちゃ~……言っちまってたか…」

 

どうやら、無自覚だったようだ。

 

「実と言うとな、さっき言った神器を集めている理由、研究の為だけじゃねぇんだわ。もう一つ理由があったんだ」

「なんだい?それは」

「備えていたんだよ。有事の際に備えてな」

「有事?」

「そうだ。勿論、俺が言った『有事』ってのはお前等の事じゃない」

「と言うことは……」

 

この場に残った全員の目線が窓の外に向けられる。

 

「今、マユさん達が戦っている、あの魔術師達ですか?」

「ご名答。連中は自分達の事をこう名乗っている……『禍の団(カオス・ブリゲード)』…ってな」

「カオス……ブリゲード……」

 

聞き覚えのない名前に、全員が困惑している。

 

「端的に言っちまえば、一種のテロリストだ。三大勢力の危険因子や自らはみ出し者になった者。他には神器持ちの人間もいるらしい」

「なんと……!」

 

まさか、そんな組織が三大勢力に気が付かれないまま結成されていた事実に、ミカエルは驚愕していた。

 

「しかも、その神器使いの何名かは既に禁手状態に至っている者もいるようだ。その神器持ちの中には『神滅具(ロンギヌス)』持ちの存在も確認されている」

「ったく……親の心、子知らず…とはよく言ったもんだぜ…!」

 

ルシファーが眉間に皺を寄せながら隣にいるヤハウェの肩を抱き寄せる。

ヤハウェは悲しそうに俯いている。

 

「けど、その連中の目的は一体なんなんだにゃ?テロリストって言うからには、何らかの思想のようなものがあるはずだにゃ」

「思想なんて御大層なものじゃねぇよ。あいつ等の目的はただ一つ。『破壊』と『混沌』…それだけだ」

「確かにシンプルだが……それだけに質が悪いな。下手な主義主張が無い分、迷いが無いだろう」

「聖剣使いの嬢ちゃんの言う通りだ。あいつ等はテロ行為を起こすのに一切の迷いや躊躇が無い」

 

今までに禍の団の被害を見てきたのか、アザゼルの顔が急に険しくなる。

 

「あの……」

「どうした?シスターの嬢ちゃん」

「少し疑問に感じたんですけど……組織の体裁を築いている以上、それらを率いている方がいらっしゃると思うんですが……それは何方なんですか?」

「ふむ…。アーシアさんの疑問も尤もだ。アザゼル、連中のトップは誰なんだい?」

「それなんだがな……」

 

バツが悪そうに頭を掻くアザゼル。

 

「俺の調査によると、あいつ等には明確なトップは存在しない」

「なんだって?」

 

トップがいない。

組織である以上は必ずいなければいけない存在が空席になっている。

普通ならあり得ないことに、流石のサーゼクスも目を見開いた。

 

「どういうことですか?」

「どうやら、あいつ等は組織内で幾つかの派閥に別れているらしくてな。派閥ごとのリーダーのような者はいるらしいが、組織全体のトップとなると、誰もいない」

「じゃあ、どうやって統制を取っているんだ?」

「各派閥ごとに不干渉を貫いているのさ。つまり、それぞれの派閥は基本的に上下関係は無い。互いに協力も敵対もしない代わりに、命令とかも一切出来ない」

 

それはつまり、小さな組織が幾つも重なり合って、一つの大きな組織になっている…と言うことに等しかった。

 

「けど、最近入手した情報によると、人間の協力者が出現して、そいつが各派閥のパイプ役をしているとか……」

 

アザゼルが顎に手を当てながら呟くと、突然…会議室に、この場にいない者の声が響いた。

 

『その通り。彼のお蔭で我々は強大な力を手にすることが出来た』

「こ…この声は!?」

「う…嘘でしょ……?」

 

サーゼクスとセラフォルーが聞こえてきた声に驚いていると、いきなり会議室の床に見覚えのない魔法陣が出現した。

 

「この魔法陣は!」

「やっぱり……そうなの……?」

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 少しだけ時間は遡る……

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 それは……一方的な蹂躙劇だった。

 

私は翼を広げて空中で魔術師達を倒し続けていたが、後から来たにも拘らず、彼女……マユの方が明らかに多くの魔術師達を倒している。

それと言うのも……

 

「行け!!王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)!!」

『ははははは!!!せめて散り際にて我等を楽しませてみせよ!!蛆虫ども!!!』

 

マユの背後に黄金に輝く波紋が無数に展開して、そこから雨のように数多くの武器が放出される。

しかも、その一つ一つの全てが神滅具級の威力を持っている。

 

まるで当たり前のように攻撃を放ってはいるが、あの武器の全てが国宝級の価値があるはず。

その価値を知っている者が見れば、気絶しかねないわね。

 

「……なんなの?あれは……」

『圧倒的な武力…。存在そのものが戦争とは、よく言ったものだな』

 

そう言えば、出る前にそんな事を言っていたわね。

 

「あれが…歴代の力を身に着けたマユの実力……」

『ギルガメッシュは歴代の赤龍帝の中でも、最も多くの財を有していた。それ故に傍若無人だったが、決して無能な王ではなかった。寧ろ、王としては最優に近いだろう』

 

あれで……?

 

「そこっ!」

 

マユが大きくジャンプして前に手を翳すと、また背後の波紋から武器が発射される。

魔術師達は防御を試みるが、案の定、呆気なく貫通して倒される。

 

「あのジャンプ力も……オラクル細胞とか言う物の恩恵なのかしら……」

『そのようだな』

 

あの子は当たり前のようにしているが、あれ…軽く4~5メートルは飛んでるわよ…。

神器を使わない状態では、私でもあそこまで高くは飛べない。

 

しかも、力の使い方も非常に上手だ。

 

普通なら、あれ程の力を持っていたら絶対に慢心して力に振り回されそうだけど、彼女はそんなことは無い。

 

単体の敵に対しては武器を小降りに出して、集団の敵には一気に放つ。

敵に応じてちゃんと射出する量を使い分けている。

 

『ヴァーリ!来るぞ!!』

「おっと」

 

こっちも忘れちゃいけないわね。

 

「白龍皇!覚悟!!」

 

魔術師の一人がこっちに向かって魔術の弾を放つが、その行動の全てがスローに見える。

結果、簡単に避けて背後に回る。

 

「なにっ!?」

「遅いのよ」

 

その顔面に拳を叩きつける。

魔術師は無様に吹っ飛び、地面に落ちる。

 

「はぁ……こんなんじゃ、肩慣らしにもならないわ」

 

やっぱり……『連中』のスカウト……受けるべきかしら?

でも……

 

「家族を狙う者に容赦はしない!!」

『ふむ……。やはり、決め台詞は『我のこの手が真っ赤に燃える!!』か?それとも『ストライクゥゥゥゥゥ!!!』か?いや…ここは……』

 

……マユが真剣に戦っているのに、ギルガメッシュは何を言っているのかしら?

あと、ストライクって何?

 

「せ…赤龍女帝の実力がこれ程とは!?」

「奴は化け物か!?」

 

…あんなシーンを見せつけられたら、嫌が応でもそういう感想が出ちゃうわよね…。

でも、彼女はそんなの抜きにしても……とてつもなく強い。

実力だけじゃなくて……その心が。

 

「何をやっている!!いかに相手が伝説の二天龍とはいえ、相手はたった二人の小娘だぞ!我らが負けるはずがない!!」

 

小娘……ね。

言ってくれるじゃない!

 

「……ギル」

『どうした?』

「あいつら……後から後から出てくるな」

『そうだな。我らの前では羽虫も同然だというのに』

 

さっきは蛆虫って言ってなかった?

確かに、倒す先から魔法陣でやって来るけど。

 

「羽虫……ね。やっぱりギルもそう思うか」

 

マユ?

 

「一斉攻撃で一気に葬るぞ!!」

 

連中が陣形を組んで、同時に魔法を放とうとしている。

どうやら、個人個人では私達に勝てないと判断したようだ。

無駄な足掻きだけど。

 

「ならば…ギル!『アレ』を使わせてもらうぞ!!」

『今更遠慮などするな!!貴様ならば、我が盟友も認めよう!!』

 

盟友?

 

(こうべ)を垂れよ!!『天の鎖(エルキドゥ)』!!!」

 

さっきと同じようにマユの背後に幾つもの波紋が広がるけど、そこから出てきたのは武器ではなかった。

 

「鎖……?」

 

見た限りでは、何の変哲もない鎖だけど、あれがギルガメッシュの宝具である以上、普通じゃないことは確実だ。

 

「そのような鎖で何が出来る!!撃てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

魔術師達が全員で攻撃してくる。

この程度ならば軽く避けられるけど、ここはマユに任せてみましょうか。

 

「天の鎖よ!!回転しろ!!」

「これは……!」

 

全ての鎖が校舎全体を覆うようにして、高速で回転する!?

 

回転防御(ローリング・ディフェンス)!!」

 

鎖が全ての攻撃を弾き返した!?

そんな事が可能なの!?

 

「ば…馬鹿な…!」

 

そりゃ驚くわよ。

私だって驚いてるし。

 

『ははははははは!!!本来は敵を拘束するための『天の鎖』を防御に使うとはな!これは我も驚いたぞ!!』

「ぶっつけ本番だったけど……案外上手くいくもんだな」

「はぁっ!?」

 

もしかして…今のって、今さっき思いついたの!?

冗談でしょ!?

 

「……なぁ……ギル」

『なんだ?』

「羽虫程度に貴方の宝物庫の財を使うのは、勿体なくないか?」

『それを今言うか…。ま、それもそうだな』

「羽虫には羽虫に相応しい末路があると思う」

『ほぅ?貴様も言うようになったではないか。我の力を使ったせいで精神状態も我に近くなったか?』

「まさか。思ったことを言ったまでだ」

 

マユ……貴女は何を……

 

「え…ええぃ!怯むな!!数はこっちが上なのだ!物量で圧倒せよ!!」

 

懲りないわね…こいつらも。

なんか、萎えてきちゃったわ。

こんなバカな連中と顔を突き合わせるのは……ちょっとね。

 

「天の鎖よ!私の意思に従え!!」

 

また鎖が動く…!

今度は何をする気?

 

「ヴァーリ!!」

「なに?」

捕まるなよ(・・・・・)?」

「へ?」

 

いきなり何を……

 

『ヴァーリ!どうも鎖の動きがおかしい!ここは一旦赤龍帝の場所まで下がった方がいい!』

「そ…そうね」

 

後ろに下がる…なんて、ちょっと悔しいけど、ここは大人しくアルビオンの忠告に従った方がよさそうね…。

 

「く…鎖が!?」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

あれは……!

 

「まるで…鎖が自分の意思を持つかのように動いて、蜘蛛の巣のような姿に変わっていく!!」

 

鎖をこんな風に使うなんて……。

彼女は単純に強いだけじゃない、戦うために必要な頭脳も応用力もずば抜けている!!

マユの全てが戦う為の『力』に直結しているんだ!!

 

恰も、蜘蛛の巣に捕らわれた虫達のように魔術師達が捕らわれていく!

 

「名付けて…『蜘蛛捕網(スパイダー・ネット)』」

『よもや…我が天の鎖にこのような使い方があるとはな…。『相手を捕縛する』という役目はそのままに、鎖を蜘蛛の巣のように組み合わせるとは。貴様は応用力もあるのだな』

「これぐらいは普通だよ。…アラガミを相手にするには、相手に合わせた創意工夫がこっちにも求められるから」

『向こうは無限に変化する神…だからな。お前達『神機使い』にも様々な事が求められるのだな…』

 

そうか……彼女が強いのは、単純に強い相手と戦ってきたからじゃない。

マユの戦いには命のやり取り、そして、種の存続が掛かっている。

つまり、マユと仲間達の戦いには常に『絶対勝利』が求められているんだ。

どんなことがあっても、敗北も逃走も許されない。

彼女達こそが、人類の剣にして最後の盾。

その自覚があるからこそ、マユはどこまでも強くなれる。

 

それに比べて私は……

 

「私の求める『強さ』は……空っぽだ」

 

同じ二天龍なのに……どうしてマユと私はこうも違うの…?

 

私は……あの子と同じ領域には至れないの?

 

「ねぇ……アルビオン」

『なんだ』

「私も歴代の声が聞ければ、マユと同じ場所に立てるのかしら…?」

『さぁな。それは全てお前次第だ』

 

私次第……か。

 

そんな事を言われてしまったら、もう私の答えは決まったも同然じゃない!

 

「マユ!」

「ん?いきなりなんだ?」

「お願いがあるの!私と……」

 

私がマユに話しかけた瞬間、校舎の方…正確には私達が出てきた会議室から強大な魔力が出現した。

 

「これは?」

「この魔力は……」

 

もしかして……もう動き出したの!?

 

「ヴァーリ!!」

「分かってるわよ!」

 

あぁ~…もう!!

折角こっちが決意を固めたってのに!

どうしてこうもタイミングが悪いのよ!!

 

とことん、あいつ等と私との相性は悪いようね!

 

お蔭で、もう一つの決意もついちゃったわよ!

 

私とマユの邪魔をする者は、誰であっても許さないんだから!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ヴァーリの処遇が私の中で固まり始めましたけど、そうなったせいでここからが大変なことに……。

明確な『敵』はもう決めてるんですが……。


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第67話 旧魔王

なんか…この章は今までで一番長いかもしれません…。

でも、頑張るしかないんですよね~。






 会議室に突如として出現した魔法陣と声。

それを見聞いた途端、サーゼクスとセラフォルーの顔が強張る。

 

「以前に見た事がある…。こいつはレヴィアタン……いや、正確に言えば旧魔王レヴィアタンの魔法陣だ」

 

アザゼルが苦々しい顔で呟く。

 

最大級の警戒をしながら、その場にいる全員(オーフィス達を除く)が臨戦態勢になる。

すると、魔法陣から一人の女性が転移してきた。

 

胸元を大きく出したドレスを身に纏い、眼鏡を掛けた褐色の肌の女。

 

「ふふふ……お久し振り。罪深き偽りの魔王…サーゼクス。そして、それ以外の方々には初めまして……かしら?」

「先代レヴィアタンの血縁者……カテレア・レヴィアタン。どうして君が……」

 

質問形式で話してはいるが、彼の中で大方の答えは既に出ていた。

 

睨みつけるようにカテレアを見据え、いつでも動けるように構えるサーゼクス。

だが、そんな彼を無視してカテレアは一切怯むことなく普通に答える。

 

「もう…分かっているんのではなくて?」

「質問を質問で返すのは感心しないな」

「あら、ごめんあそばせ」

 

からかう様な口調で話し、手で口を押えてクスクス…と笑うカテレア。

彼女は完全に自分がこの場で優位に立っていると信じている。

 

「私を初めとした、旧魔王派に属する殆どの悪魔が『禍の団(カオス・ブリゲード)』に参加することに決定しました」

「矢張りか……」

「悪魔達が前々から内部に抱えていた問題が本格的に表面化しちまった訳か」

 

サーゼクスは苦虫を噛んだような表情に、一方のアザゼルはどこか他人事のように微笑を浮かべている。

 

嘗ての大戦において死亡した四大魔王の血筋を受け継ぐ旧魔王派。

当時、最も優れていたサーゼクスを初めとした若手悪魔を支持する新魔王派。

今の冥界はその二つの派閥に分かれていた。

 

自らの血筋を主張し、強さのみで次代の魔王を選出することを反対した旧魔王派であったが、その意見は全く受け入れられなかった。

いい分だけなら尤もなのだが、彼等は戦争が終結したにも拘らず、尚も他の勢力との徹底抗戦を言い続けたのだ。

現在の冥界の平和と将来的に他の勢力や人間達との共存を考えている新魔王派に、そんな考えが通る筈もなく、結果的に旧魔王派は新魔王派によって冥界の隅へと追いやられたのだ。

この出来事が冥界を明確に二分化し、旧魔王派と新魔王派の溝を決定的にしたのだ。

 

「おい…カテレア。そいつは言葉の通りと受け取って構わねぇんだな?」

「ええ、そうですわ…ルシファー様」

 

ヤハウェと寄り添うように立っているルシファーを睨み付けるように見つめるカテレア。

この瞳には、明らかな怒りが満ちていた。

 

「我らの前から姿を消しただけでなく、本来は敵である筈の聖書の神と心を通わせるとは……貴方は悪魔の恥さらしです!!」

「なんとでも言え。俺は自分の選択を後悔したことは無い」

「その貴方の行動と、今回の会談が我々の心を決めたのです。誰もこの世界を変える気が無いのならば、我々がこの世界を変革させると」

 

変革……その言葉を聞いた各陣営のトップは、そこに妙な違和感を感じた。

 

「…明確なトップがいないくせに、結構先まで見据えてるんだな」

「ふふ……以前までの我々ならば、そこまでの大言壮語は出来なかったでしょう。ですが!今の私達にはそれを実現出来るだけの『力』がある!!」

「まさか……例の協力者…か?」

「流石は堕天使の総督。もうそこまで情報を入手していたのですね」

「当たり前だ」

「では話が早い。そう……我々は手に入れたのです!彼の手によって……『荒ぶる神』の力を!!!」

「荒ぶる神…だと?まさか!?」

 

カテレアの発言に、猛烈に嫌な予感がした面々。

 

「本当ならば、そこにいるオーフィスを我らのトップにしようと思っていましたが、その前に彼女は赤龍女帝に接触してしまった」

「我、お姉ちゃんの傍を離れない」

 

レイナーレの服を掴みながら、キッとカテレアを睨むオーフィス。

その眼力は間違いなく、最強と謳われた龍神だった。

 

「そうでしょうとも。さすがの私達も、歴代最強と言われている彼女に、何の準備も無く真っ向から立ち向かうような無謀は侵さない。でも、今はそれでよかったと思います。そのお蔭で、我々はより強大な力を手にしたのですから」

 

どこまでも自信満々なカテレア。

その自信の元がなんなのか、ある程度の予想がつきつつあるトップ達は、冷や汗を流している。

 

「この力を用いて、我等は今の世界を滅ぼし、そして再構築する。その新世界を支配するのが…我等旧魔王派。私達にはその資格がある!!」

「何をどう考えて、そう思ったのか…」

「三大勢力のアウトローが集まって、自分達にとって都合のいい世界を欲した…か。厄介極まりねぇな」

 

カテレアの考えを聞けば聞くほど、禍の団の危険性を感じるサーゼクス達。

だが、そんな彼を余所に、一人セラフォルーだけが悲しそうな目でカテレアを見つめる。

 

「カテレアちゃん……どうして!?どうしてこんな事をするの!?」

「………今更、貴女と話す舌は持ちません。セラフォルー」

 

目だけを動かしてセラフォルーを見たカテレアだったが、すぐに目線を戻してサーゼクスを見る。

 

そろそろ動くべきか…?

サーゼクス達がそう思い出した……その時だった。

 

「「はぁっ!!」」

 

会議室の窓が割れて、そこからマユとヴァーリが飛び込んできた。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 強い魔力を感じたから、急いでヴァーリと一緒に戻って来たけど…これはどういう状況?

あの褐色肌のお姉さんは誰?

 

「赤龍帝に白龍皇…!いかに雑魚とはいえ、小娘二人も足止めできないとは…!」

 

この発言……この人が今回の襲撃の首謀者か?

 

「マユ。こいつはカテレア・レヴィアタン。旧魔王であるレヴィアタンの血を引く者よ」

「旧魔王…?それにレヴィアタンって……」

 

もしかして、セラフォルーさんの知り合いか?

 

「詳しい話はあとで説明する。取り敢えず、この女が今回の襲撃の首謀者だ」

「そうですか…」

 

まさか、本当に釣れるとはな。

見事な一本釣りだ。

しかも、かなりの大物っぽい。

 

「こうして貴女と会える時を待っていましたよ。赤龍女帝」

「なに?」

 

私と会える日を待っていたって…。

こっちはアンタなんて全く知らないんですけど。

 

「『彼』が言っていました。この『力』を使えば、貴女とも互角に戦えると!」

 

彼って誰!?

って言うか……彼女が懐から取り出した物って……。

 

「注射器?」

「なんだありゃ?」

 

あ…あの注射器に描かれている紋章は……!

 

(フェンリルの紋章…!)

 

なんで…なんで彼女があれを!?

 

「おい!カテレアとか言ったな!一体何処でそれを手に入れた!!」

「マユさん…?」

「いきなりどうしたにゃ?」

 

あれがもしも本当にフェンリルの物なら、中に入っているのは…まさか……!

 

「勿論、我等の協力者からです。ふふ…貴女の動揺した顔が見られただけでも、こうして来た甲斐があったというものです」

「協力者……」

 

一体…どこのどいつだ…?

 

「そうですね。冥土の土産に教えてあげましょう。彼も自分の名を言えば、確実に彼女は驚くだろうと言っていましたから。我らの協力者……それは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「大車ダイゴです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え……?」

 

オオ…グルマ……?

 

「なんで……」

 

そんな…訳が……。

 

「なんでアイツが生きている!!!」

 

そんな訳がない!!

あの男は……あの男は確実に死んだはずだ!!

何故なら……

 

(大車を殺害したのは……闇里マユ(わたし)なのだから……)

 

闇里マユが犯した、人生で最初で最後の殺人…。

 

嘗て、シックザール支部長を止めて、シオがノヴァと一緒に月に行った後……闇里マユは偶然にもエイジス島の中を逃亡中の大車を発見した。

 

事の全貌をアリサとサクヤさんに予め聞かされていた私は、その姿を見た途端に怒りに支配された。

周囲に自分以外に誰もいないことを確認した後……私は己の神機を人の血で染めた。

 

無様に命乞いをする彼を完全に無視して、その刃を振り下ろした。

その時の感触だけは……なんでかまだある。

体験してないのに、まるで本当に体験したことがあるように…。

 

「その反応……どうやら、彼が言ったことは本当のようですね」

「それは……」

「まぁ、貴女が過去に何をしようと、今更どうでもいいこと。今重要なのは……」

 

カテレアが握っている注射器の針が彼女の首筋に向かっている。

ま…まさか……!

 

「この『荒ぶる神の細胞』で貴女を屠ること!!」

 

注射器が刺さった……。

中身が体内に入っていく…。

 

「あ……ははは……」

「カテレアちゃん……?」

「あははははははははははははははははははははははははは!!!!!」

 

カテレアの体に血管が浮き出る。

同時に目が血走り、ビキビキと言う音と共に筋肉が軋み始める。

 

「これよ!!これこそが求めた力!!赤龍女帝…貴女と同じ『荒ぶる神』の力!!!」

「やっぱり……その注射器の中に入っていたのは、オラクル細胞か!!」

 

普通ならばオラクル細胞を容器に中に入れるなんてことは絶対に不可能。

だけど、フェンリルの技術力…正確にはサカキ博士の頭脳が、その不可能を可能にした。

あの注射器もその技術の一端だ。

 

「なんだって!?」

「あの女がどうしてアレを!?」

 

そりゃ驚くでしょうよ…!

私が一番驚いてるんだから!

 

「当然です!大車はそこにいる赤龍女帝と同じ組織に嘗ては属していたのですから!!」

「「「「「なぁっ!?」」」」」

 

言われちゃったか……!

 

「その彼がオラクル細胞を所持しているのは当然のこと!!そして、その細胞によって我等は強大な力を得たのです!!」

 

いや……いくらフェンリル関係者だからって、それがオラクル細胞を所持している理由にはならない。

その理論で言えば、神機使いの全てが細胞を持っていることになる。

いや…体内に持ってはいるんだけどね。

 

「つまり……奴らは彼女と同等の力を得たと……!」

「その通り!光栄に思いなさい!その力を貴方達の体で直接試してあげるのですから!」

 

そう上手くいくと本気で思っているのか…?

体内に投与すれば誰でも最強になれれば、私達は苦労はしない!

 

「さぁ!この力の前にひれ伏しな……がぁぁぁっ!?」

「な…なんだ!?」

 

急に苦しみだした…。

やっぱりこうなったか…!

 

「な…なに……?なんなの!?この苦しみは!?痛みは!?」

「カ…テレア…ちゃん……?」

「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

 

苦悶の叫びと共に、壁をぶち破って外に飛び出していった。

そのまま、地面に這いつくばって苦しみだす。

 

「オ…オオグルマァァァァァァァァ!!!騙したなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

あの男を簡単に信用する方が悪い。

アイツは、目的の為なら手段を選ばない、典型的なクソ野郎だから。

 

カテレアの体が次第に変容していき、肌が紫に変わっていく。

 

「た…助けナさイ!!白龍皇!!貴女ハこっちニ来るはずだったノでしょウ!!」

 

え…?ヴァーリ…?

 

「おい…お前……!」

「……………」

 

何か言ってよ……ヴァーリ……。

 

「……悪いけど、絶対に嫌」

「ナッ!?」

「最初はそっちにいくのも悪くないって思っていたけど、気が変わったわ」

「なんデすっテ……!?」

「私ね、ドーピングは嫌いなの」

 

あれ?私もドーピング扱いされてる?

 

「それにね、そんな不細工な姿になってまで強者と戦いとは思わない」

 

言われてやんの。

 

「オマエェェェェェェェェェ!!!グギャァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!」

 

うぐ……アラガミ化する瞬間って初めて見たけど、かなりグロテスクだな…。

リンドウさんもこうだったのか…?

 

「見てはいけません」

「そうね。情操教育に悪すぎるわ」

「あなたも」

 

幼女たちを抱えている女性陣がその目線を逸らさせてくれている。

有難い、私もあんな光景を見せたくないから。

 

漆黒のオラクルがカテレアを包み込み、その姿が急速に変容していく。

体のいたるところが隆起し、原型が徐々に無くなっていく。

そして、オラクルのオーラが無くなって、そこにいたのは……

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

声にならない咆哮を放つ、一体のサリエル堕天だった。

 

「サリエル堕天……!」

『なんと醜悪な…!見るに堪えん!早く仕留めよ!マスター!!』

 

ギルさまご立腹。

一応、サリエルってアラガミの中じゃ結構綺麗な方なんだけど…。

 

「そんな……カテレアちゃんが……」

 

…セラフォルーさんには相当にショックな光景だったようだ。

どうやら知り合いだったみたいだし。

あんな風になってしまったら、心にくるよな…。

 

「おい……嬢ちゃん」

「…なんですか?」

「ああなったらもう……元には戻れないのか?」

「……不可能です。私達の時は、本当に幾つもの偶然と奇跡が重なった結果ですから」

「そうか……」

 

基本的に、アラガミ化になった人物は元には戻れない。

ああなった以上、私に出来ることは『介錯』だけだ。

 

「過程はどうあれ、アラガミが目の前に出た以上、私は討伐をしなければいけません。よろしいですね?」

「そう…だな。もう…それしかないのだろう?」

「はい…。皆さんの前で言うのは心苦しいですが…」

「いや…君の使命を邪魔する気はないよ。理由はどうあれ、彼女は自らの意思で細胞を投与し、その結果としてアラガミ化してしまった。ならばもう…我々に出来ることは無いよ」

 

そう言わせてしまう自分が…情けなく感じる。

 

「大丈夫にゃ」

「黒歌…?」

「私達は何があってもマユを見捨てない。だから、遠慮なく行って来るにゃ」

 

はは……また…私は……

 

「姉さまの言う通りです。これはマユさんにしか出来ない事です。躊躇う理由はありません」

「ああなった以上…カテレアさんをオラクル細胞の呪縛から解放出来るのはマユさんだけです。だから……」

「彼女達は私が全力で守る。心配は無用です」

 

白音……アーシア……ゼノヴィア……。

 

「お願い……マユちゃん。カテレアちゃんを……」

「分かってます」

 

セラフォルーさんの涙……これ以上は!

 

ふと、ルシファーさんとヤハウェを見る。

すると、二人は無言で頷いてくれた。

 

「ありがとう……いってきます」

「おう、行って来い」

「気を付けてね」

 

恥ずかしくて言えないけど……いつかは言いたいな。

お父さん、お母さんって…。

 

「マユ」

「ん?」

 

ヴァーリ?

 

「無いとは思うけど……死ぬんじゃないわよ。貴女を倒すのは…この私なんだから」

「分かってるよ」

 

テンプレ乙。

ツンデレなライバル発言いただきました。

 

「行くぞ!ギル!ドライグ!」

『全力で行け!相棒!!』

『ふん!とっとと蹴散らせ!馬鹿者!!』

「はいはい」

 

リベリオン・ストライバー・ディソレイトの空木レンカセットを装備した神機を籠手から出して、再び外へと飛び出す。

 

なんでこの世界にいるかは知らないし、その目的も知らないけど……

 

「お前の好きにさせてたまるか!!大車ダイゴ!!!」

 

 

 

 

 

 




カテレアさん、まさかのアラガミ化。
そして、ヴァーリの裏切りフラグがポッキリ折れました。

これからどうしよう……。


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第68話 己を見失った者

まだまだ暑い日が続きますね~。

もうすぐ八月も終わりなのに、気温は上昇する一方だし……。






 マユがサリエルと化したカテレアを倒すために再び外へと飛び出していった後、ボロボロとなった会議室には何とも言えない空気が流れていた。

 

沈黙を破り最初に話を切り出したのはアザゼルだった。

 

「で?事情は聞かせて貰えるんだろうな?ヴァーリ」

「ええ。私も黙っていれば逃げられるとは思ってないもの」

 

神器を解除してから、ヴァーリは腕組みをした状態で壁に体を預けた。

 

「実は、密かにあの連中にスカウトを受けていたのよ」

「いつだ?」

「コカビエルの一件が終わった直後。あの帰り際に私に接触してきたのよ」

「だが、その時には結論は出さなかった」

「当然じゃない。禍の団の全貌も分からないのに、簡単に返事は出来ないわ」

「妥当な判断だ」

 

アザゼルの元で育ったせいか、中々に思慮深い性格になったようだ。

 

「私なりに色々と考えたけど、今回の事で決心がついたの。まさか、あんなヤバい物に手を出すようなバカの集団だったとは思わなかったから」

「それに関しては俺も同感だ。これで増々、あいつ等の事を軽視出来なくなった」

 

もしもこの場においてマユやルシファー、ヤハウェによってアラガミとオラクル細胞の危険性を教えられなかったら、彼らもここまで危機感を抱かなかっただろう。

それ程までにオラクル細胞は危険なのだ。

 

「それと、この場でもう一つ言っておくことがあるんだけど」

「なんだい?」

「私のフルネーム」

 

この状況で何を言い出すのかと思うのが大半だったが、アザゼルだけが一人、渋い顔をしていた。

 

「私の本名は『ヴァーリ・ルシファー』…。これを聞いたら大体が分かると思うけど」

 

ヴァーリが静かに自分の名を言った途端……全員が一斉にヤハウェの隣にいるルシファーを見る。

 

「え?いやいやいや!俺の隠し子とかじゃねーよ!?」

「怪しい~…」

「マジで違うって!俺は昔も今もヤーちゃん一筋だって!」

「………………」

「そこで黙るのはマジでやめてください」

 

聖書の神と初代魔王の痴話喧嘩と言う、非常にレアな光景をヴァーリはジト目で見ている。

 

「言っとくけど、私は別に貴方の子じゃないわよ」

「ほ…ほらな!だから言ったじゃねぇか!」

 

身の潔白が証明されても、女性陣の目線は冷たい。

 

「あ~…ヴァーリはな、既に死亡している先代魔王ルシファーと人間との間に誕生した混血児だ。だから、名は同じでも同じ血が流れていることはねぇよ」

「そーゆーこと」

「あの神器だって、体の半分が人間だからこそ手に入れられたようなもんだ。才能も有り実力もあるが……」

 

チラリと外にいるマユの方を見るアザゼル。

 

「……分かってるわよ。常に絶望の中で戦ってきた彼女にはまだまだ敵わない。経験も覚悟も……心も負けてる」

 

自覚をしてしまったせいか、ヴァーリの顔色はお世辞にも優れているとは言い難い。

 

「と…取り敢えず、君は敵に回ることは無いんだね?」

「今は……ね。私の目的は強者と戦い強くなること。それは別にあいつ等の元に行かなくても叶いそうだし」

「少なくとも、お前ら二人を中心に戦いは起こるだろうよ。今までも二天龍を宿した奴らの周囲は争いが絶えなかったからな」

 

龍のオーラを纏うが故か。

最強の力を手にしたが故に争いに巻き込まれる定めにある。

 

「いっそのこと、マユがリーダーを務めるクレイドルに入ろうかしら?」

「もしそうなったら、間違いなく最強の勢力になるな」

「二天龍が揃って同じ場所にいる……敵対する者にとっては地獄絵図にしかなりませんね……」

 

ミカエルが苦笑いをしながら言うが、当のヴァーリはどこ吹く風。

 

話が一区切りついた時に、会議室の扉が開き、無事にギャスパーを救出したリアス達が入ってきた。

 

「お兄様!ギャスパーの救出に成功しました!って……どうしたのよ!?これは!?」

「会議室の壁が崩壊してますわ!」

「破壊音や戦闘音が聞こえてはいたけど……」

「ふぇぇぇぇぇぇっ!?なんか壊れてるぅぅぅぅぅぅっ!?」

 

全員がリアス達の方を見る。

 

「詳しい事情は後で説明する。今は……」

 

サーゼクスが外を見る。

そこでは、マユが神機を持ってサリエルと対峙していた。

 

「ア…アラガミっ!?」

「お姉ちゃんが……」

「あれは……あの時、教会で戦った……」

「あのアラガミを知っているのかい!?」

 

裕斗の一言に反応したサーゼクスがリアス達の方を見る。

 

「は…はい。あれは前に報告した、廃教会でお姉ちゃんが戦ったアラガミと同じタイプです」

「確か……名前はサリエル…でしたわ」

「サリエル…か。悪魔が変異したアラガミの名前が天使の名を冠するとは、皮肉ってレベルじゃねぇな」

 

そう呟きながら外を見つめるアザゼルだった。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 さて……どうするかな。

相手は空中戦が得意なサリエル。

別にこれが初めてって訳じゃないから、対処法はちゃんと知ってはいるけど、

 

『……おいマユ』

「なんだ?」

『よもや、以前のようにその背から翼を生やして空中戦を挑む気ではあるまいな?』

「それもありか」

 

そういや、前はその方法で殺ったか。

毎日の密度が濃いから、すっかり忘れつつあった。

 

『はぁ……あのような汚らわしい翼を使用して戦うなど認めんぞ!我のプライドが許さん!!』

 

ギルの口からプライドと言う言葉が聞ける日が来るとは……。

 

「ならばどうする?私は別に隙を狙いつつジャンプで戦ってもいいけど……」

『それはもっと許さん!!お前が他の連中を宿して戦っている時ならばいざ知らず、我がいる時にそんな無様な戦い方をしたら、もう二度と力を貸さんぞ!!』

 

無様って……神機使いは基本的にサリエル種との戦闘ではそうやって戦ってるんだけど……。

さっさとしないと、もうそろそろサリエル堕天が本格的に動き出しそうだ。

 

『今回は特別に『天駆る王の御座(ヴィマーナ)』を貸してやる』

「ヴィマーナ?」

 

なんじゃそれ?

そう思っていると、王の財宝から黄金に輝く一人用の台座のような物が出てきた。

中央には金色の椅子が設置してある。

 

「こ…これは?」

『簡単に言えば、インド神話に登場する自由に空が飛べる乗り物だ。正確にはその原典だがな。水銀を燃料とする太陽水晶によって稼働し、搭乗者の思考によって操縦する。本来ならばお前が戦いながら操るのだが、今回は特別に我が操縦を担当してやる。感謝せよ』

「うん。ありがとう」

 

傍で地面ギリギリに浮いているヴィマーナに乗る。

すると、急に宙に浮いてサリエル堕天と同じ高度まで上がった。

 

『この英雄王が直々に援護してやるのだ。敗北は許さんぞ』

「言われなくても、負けるつもりはない」

『ならばいい。お前の動きに合わせてやる。好きに動け!!』

「了解!!」

 

ヴィマーナが加速すると同時にサリエルがお得意の曲がるレーザーを複数撃ってきた!

 

「ギル!!」

『分かっている!!』

 

凄いスピードでヴィマーナは飛んでいるが、神機使い特有の怪力によってなんとか踏ん張っている。

そうでなければ、あっという間に振り落されていただろう。

 

レーザーが当たる直前でジャンプして、サリエルの頭上を通り過ぎるようにして体全体を使っての回転切り。

その一撃はサリエルの頭部に直撃し、タイミングよくヴィマーナがやって来て着地した。

 

「ナイス!」

『次が来るぞ!!』

 

斬撃から立ち直ったサリエルが攻撃態勢に入る。

 

動き回りながら光球を設置していき、そこから更に扇状のレーザーを撃ってくる。

 

「上昇!」

『応!』

 

ヴィマーナが急上昇し、それと同時に神機を銃形態に変形。

下にいるサリエルに狙いを定める。

 

「そこだ!」

 

オラクルで精製されたブラストの銃弾がサリエルに向かう。

レーザーを撃った直後で一瞬だけラグがあったサリエルに直撃。

だが、当たった場所は胴体部。

あまりダメージは期待できない。

 

その直後に設置されたレーザーがこっちに来る。

レーザーの数は3つ。

これなら余裕で回避出来る。

 

ギルも同じように思ったのか、ヴィマーナを器用に操り避けてみせた。

 

「よし、このまま!」

『いや待て!』

「!?」

 

サリエルが自分の周囲に光の柱を発生させる。

あれを出している間はあいつには近づけない。

ここで銃撃してもいいが、ここは敢えて待って息を整えよう。

 

「ふぅ……」

 

今のうちにOPを回復しておくか。

一発しか撃ってなくても、ブラスト一発の消費量は大きいからな。

補給の後に近接形態に戻しておく。

 

『確か堕天種のアラガミは通常種よりも様々なステータスが強化されている……だったな?』

「ああ。だから、前と同じように考えていたら駄目だ」

『だが、お前の頭の中にはその違いも叩き込んであるのだろう?』

「頭…と言うよりは、体で覚えた感じかな?」

 

本当に何回も戦ったからね。

 

『その言い方は卑猥だぞ』

「そう?」

 

聞く方の問題じゃない?

 

「……休憩終わり」

『来るか』

 

光の柱が消えた途端、サリエルが直進的に突進してきた。

 

『そのような体当たりが当たるか!』

 

言葉の通り、ヴィマーナは易々と回避。

すれ違いざまに脚部を斬りつけ、銃形態にしてから同じ場所を射撃。

そこから連続で撃ち続け、結果として両足の部位破壊に成功した。

 

「よし」

『だが、活性化するぞ』

「それは承知の上」

 

アラガミと戦う上で仕方ない事だから。

こればっかりは割り切らないと。

 

女性型特有の高い声の咆哮が響き渡り、サリエルが蛇行しながら突進してくる。

 

『フン!動きを変えればいいというものではない!』

 

だが、今回のサリエルは予想外の動きをした。

 

回避しようとした私達の横を、あろうことか大量の毒鱗粉を巻きながら通過したのだ!

 

「『なっ!?』」

 

やばい!

私達の周囲が毒鱗粉に覆われてしまった!

視界が最悪になった!

 

『おのれ……アラガミの分際で!!我等を欺くとは!!』

「毒は効かないけど……」

 

まさか、サリエルがこんな器用な真似をするなんて…!

例のカテレアって悪魔が変異したせいで、妙な知恵を付けたのか?

 

必死に周囲に気を巡らせていると、それはいきなり来た。

 

毒鱗粉を突き抜けながらサリエルが突進してきた!

 

「ヤバイ!」

 

一瞬だけ反応が遅れた!

咄嗟に装甲を展開したけど、足が踏ん張りきれない!

 

「くあっ!」

『マユ!!』

 

お…落ちる!!

別に落下して死ぬことは無いけど、空中では思うように動けない!!

着地するまでなんとかしないと!!

 

案の定、頭上から5本のレーザーが降ってきた!

 

「くっ!」

 

再び装甲を展開してガードしたが、そのお蔭で落下速度が増してしまった!

 

『マスター!!!』

「ギル!?」

 

ヴィマーナが凄まじいスピードでやって来て、私の下に来た。

いきなりの事で受け身が取れずに背中から着地してしまったが、痛みは無い。

 

「さ…サンキュー…」

『この馬鹿者が!!何をしておるか!!』

「……ゴメン」

『謝罪と反省なら後にしろ!今は奴を倒す方が先だ!!』

 

御尤も。

 

『あのアラガミに借りを返すぞ!!』

「うん!」

 

歪曲するレーザーと直角的に方向転換するレーザーの二種類が発射されるが、驚異的な運動性能でその全てを見事に回避。

 

『このまま行くぞ!!』

「分かった!!」

 

今度はこっちがすれ違いざまに斬り払う。

一旦離れてまた近づき、そしてすれ違いながら斬る!

サリエルに攻撃の隙を与えないように連続でそれを繰り返して、着実にダメージを与えていく。

そして、サリエルが蓄積したダメージで揺らいだ瞬間を狙い、奴の頭上でジャンプして神機を捕食形態にしながら落下、そのまま頭部にガブリッ!と齧り付いた!

 

血飛沫が飛び散って服にかかるが気にしない。

サリエルの頭部飾りを引き千切りながら蹴って離れ、そこにナイスタイミングでヴィマーナが来た。

 

「ナイス」

『当然だ』

 

捕食したので体がブースト状態になる。

ゲットしたアラガミバレットはトゥインクルブラスト。

 

少し見てみると、さっきの捕食で頭部の部位破壊にも成功したようだ。

しかも、スカートの部分にも罅が見えた。

 

「ならば、これも持って行け!!」

 

手に入れてすぐだけど、銃形態にして早速バレットを発射。

 

発射したトゥインクルブラストは一定距離を進むと敵の方向に向かって行って、接触と同時に爆発する。

 

生存本能に従ってサリエル堕天は回避に徹するが、弱った状態でホーミングレーザーは避けられないのか、スカート部に直撃。

スカートが部位破壊された。

 

「あと少し!」

『だが油断するなよ』

 

そりゃもう、骨身にしみてますがな。

 

こっちが構えていると、サリエル堕天は両腕を広げて周囲に光の壁を拡大させた。

 

『全方位攻撃か!』

「大丈夫。あれは一定距離まで離れればダメージ判定が無くなる」

『ならば、あまり動く必要はないな』

 

少しだけ離れてジッとしていると、私達の近くまで来たところで光の壁が消えた。

 

「今だ!」

 

またスピードを上げて接近し、奴のサリエル堕天の腹部を斬る。

そこから離れて『天の鎖』を出してサリエル堕天に巻きつける。

同時に銃形態になっている神機を片手で支えた。

 

「ターゲットを中央に固定!」

 

サリエル堕天を支点にしながら鎖を持ってその場を旋回。

その状態で銃撃を繰り返す。

 

「そのまま火力を集中……」

 

身動きが出来ない状態での攻撃だったため、全ての射撃が命中する。

 

「最後は中央突破!!」

 

全てのOPが尽きた直後、神機を近接形態にしてから天の鎖を戻し、大きく飛んでからの全力全開の真っ向唐竹割り!!

 

「■■■■■■■■■■■■!!!!!」

 

最後の断末魔を上げてサリエル堕天が落下し、地響きと共に地面に叩きつけられた。

僅かに顔を手を上げた後……完全に沈黙した。

 

私の落下地点にヴィマーナが来て着地。

ゆっくりと地面に降りて行った。

 

ヴィマーナから降りて地面に降り立ち、動かなくなったサリエル堕天に近づく。

 

「…………」

『どうした雑種?いつものように回収作業はしないのか?』

「なんか……しにくくて……」

『はぁ……。いかなる理由や経緯があろうとも、こやつはもう悪魔では無くアラガミだ。しかも、自らの意思でなったのだ。何を気にする必要がある』

「それを言われるとね……」

 

彼女がテロリストで、こうなったのも自業自得だって分かってはいる。

けど、そう簡単に割り切れれば苦労はしない。

戦う事と捕食による回収作業は違うから。

 

「あ……」

 

私が迷っている間にサリエル堕天の死骸が細胞分裂して、地面に吸い込まれるように消えていく。

 

役目が終わったのか、ヴィマーナも金色の粒子に包まれて消えていった。

 

もしも何かが違っていたら、リンドウさんも同じように……。

そう思うと、なんともやりきれない気持ちになった。

 

これでよかったんだと自分に言い聞かせながら、私は皆が待つ会議室へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




二回目のサリエル戦。

今回は苦戦……したのかな?

いつか、滅茶苦茶苦戦させてみたいですね。


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第69話 二天龍

頭痛い~、喉痛い~、しかも眠い~。

でも頑張る~。







 複雑な気持ちになりながらも、なんとかサリエル堕天を倒し、皆が待っている会議室へと戻っていった。

壁が丸ごと破壊されているから、中の様子が丸見えになっている。

どうやら、リアス達は無事にギャスパー君の救出に成功したようだ。

ギャスパー君も特に外傷が無いようで安心した。

 

「お姉ちゃ「マユ先ぱぁ~~~~い!!」…え?」

 

リアスが何か言う前にギャスパー君がダッシュで来て私に抱き着いた。

きっと、凄く不安だったに違いない。

 

「大丈夫だったか?」

「はい……部長さん達が助けてくれましたから……でも……」

「怖かった…か?」

「はいぃ~……。やっぱり…僕はこんな力なんか……」

 

今回の事で、より一層己の神器に対しての恐怖心が出てしまったみたいだ。

強大な力を制御しきれない気持ちはよく分かる。

けど……

 

「ギャスパー君……よく聞いてくれ」

「はい…?」

「確かに強い力は誰かを傷つける事がある。けど……」

「……?」

「君の努力次第で、その力は誰かを守る最高の『力』になるんだ」

「誰かを……守る……」

「そう。どんなに怖がっていても、君が停止世界の邪眼を持っている事実は変わらない。なら、これから頑張ってそれをコントロール出来るようになればいい。私も可能な限り協力は惜しまないつもりだ」

「先輩ぃ~……」

 

よくよく考えれば、私の中にあるオラクル細胞だって似たようなものだ。

だけど、色んな人々の努力と研究のお蔭で、この忌むべき力は今、人類を守護する最強にして最後の力になっている。

要は、使い方次第なんだ。

 

「ホント……貴女のセリフってどれも説得力に溢れてるわね」

「そうか?」

 

何気なく言ってるだけなんだけどね。

 

「ギャー君。いい加減にマユさんから離れてください」

「うぅ~…私にもギャスパーさんぐらいの積極性があれば……」

 

白音さん、マジでその顔怖いです。

アーシアは変な事で悩まない。

 

「と…取り敢えず、これで全てが終わったのよね?」

「そのようだ」

 

このままでは収集がつきそうにないと判断したのか、リアスが無理矢理締めてくれた。

それと同時にサーゼクスさんが安心したような顔で外を見ている。

周囲にはもうさっきまでいた魔法使い達の姿は全く見当たらない。

 

「どうやら、自分達のボスが倒されたのを見て、連中も根こそぎ撤退したようだな」

「捕虜の一人ぐらいは欲しかったですが……」

「リアス。彼を救出した際にも奴らはいたんだろう?そいつらはどうなった?」

「はい。私達が踏み込んだら、不利と判断したのか、即座に魔法陣を使って消えました。すいません…」

「いや、気にしなくてもいい。あの場合はギャスパー君の救出が最優先だったからね」

 

だが、気になる言葉は幾つか聞けたけどな。

大車の事とか……。

 

(あいつが何故生きていて、禍の団に協力しているのか。それをなんとかして突き止めないとな……)

 

もしかしたら、私と言う存在がいる事によって何かが歪んでしまっているのかもしれない。

だとしたら……

 

(私が…何とかしなければ……!)

 

色んな意味で、あいつの事は放置できないから……。

 

「マユ?また何か難しい事を考えてるにゃ?」

「黒歌……」

 

いつの間にか黒歌が目の前にいた。

なんか覗き込むようにしてこっちを見てるけど……。

 

「眉間に皺が寄ってるにゃ。マユが何か考えてる時はいっつもそうしてるにゃ」

「そ…そうだったのか…」

 

私にそんな癖があったなんて…初めて知った。

 

「何を考えてるかは知らないけど、一人で抱え込むのはやめて欲しいにゃ」

「黒歌の言う通りだ」

「ゼノヴィア……」

 

黒歌の言葉に皆が頷いた。

あのミカエルさんやガブリエルさんまで。

 

「貴女はもう一人ではありません。全ての宿命を一人で抱え込む必要はないんです」

「そうだぜ。どうやらお前さんは自分で全てを解決しようって癖があるみたいだな。そいつはちと傲慢って奴だぜ」

 

傲慢……か。

痛いところを突かれたな…。

 

「周りを見てみな。お前の周りにはこんなにも多くの仲間がいる。これだけの味方がいて、何を悩む必要がある?」

「そう…ですね」

 

はぁ……力は成長しても、心の方は全く成長しないな。

そう言えば、記憶の中でツバキさんも言っていたっけ。

『お前はもう少し、誰かに頼ることを覚えるべきだ』って…。

全くもってその通りじゃないか…。

 

「ゴメン…皆。どうやら私は無意識の内に誰かに頼るという事を忘れてしまっていたみたいだ。これからは悩みとかを相談しても…いいかな?」

「勿論よ!」

「当然ですわ」

「どんなに些細な事でも、先輩のお役に立てるならば光栄です」

「今更ですよ、マユさん」

「微力ながら、私もマユさんを支えたいです」

「私もな。神の使命とは関係無しに、貴女の事をサポートしよう」

「わ…私は…その…アンタの従者なんだから、支えるのは当然って言うか……」

 

どんだけ周りが見えてなかったんだよ、私は…。

こんなにもいい仲間が沢山いるのに、気が付かなかっただなんて…。

 

「黒歌。私に大事な事を気付かせてくれて、本当にありがとう」

「そ…そんな……私はただ……」

「黒歌は私の事を私以上に見てくれていたんだな」

「にゃ…にゃにゃっ!?」

 

ふふ……そんな風に顔を赤くする彼女を見るのも久し振りだな。

 

『無論、俺達も相棒の事を支えるぞ』

「ドライグ……」

『ふん!乗りかかった舟と言うやつだ。こうなったら、お前の事を最後まで見てやろうではないか』

「ギルも……」

 

そうだった。私の中にも支えてくれる人達はいるんだった。

ドライグは龍だけど。

 

「これで一件落着…かな?」

「そうだな。一応、会議自体は襲撃前に終わりかけてたし。細かい詰めは後ですればいいだろう」

「それがいいですね。まずはこの会議で得た情報を持ちかえり話し合わなければ」

 

各陣営に戻っても、まだやる事は一杯あるんだな。

トップは大変だ。

 

「で、クレイドルの方はどうするんだ?」

「それは僕とルー君でなんとかするよ」

「いくら代表になったとは言え、こいつがまだ子供な事には変わりないんだ。取り敢えずは俺達が大まかな事をするつもりだ」

 

ですよね~。

こっちとしてもその方がいいと思う。

私に組織の運営とか難しいでしょ。

 

「拠点はあの家でいいだろ。見た目はちょっとした高級住宅だが、あれの周囲には俺らの結界が張られてるからな。下手な基地とかよりはよっぽど安全だぜ」

 

…今にして思えば、私の家って凄い事になってたんだな…。

 

「あの~…ちょっといいかしら?」

「ヴァーリ?いきなりどうした?」

「終わりかけの雰囲気を出している所を申し訳ないんだけど、少しマユにお願いがあるのよ」

「お願い?」

 

この空気の中で何を言い出す気だ?

 

「私がさっき言おうとしたこと…覚えてる?」

「さっき…?それって、会議室に突っ込む前に言おうとしていたことか?」

「ええ、それよ」

 

あの時は急いでいたから、正直うろ覚えだったけど。

 

「実はね、あの時…こう言うつもりだったの」

 

なんですのん?

 

「私と……戦ってほしい」

「「「「「「えぇ!?」」」」」

 

いきなりの発言に全員が目を見開く。

再び夢の世界に行ってしまった幼女組以外は。

 

「別に貴女に恨みがあるとか、敵対心があるととかじゃないわ。純粋に赤龍帝であるマユと戦いたいの」

「ヴァーリ……お前は……」

 

彼女の前にはさっきまでの迷いは一切無い。

どこまでも真っ直ぐに私の事を見ている。

 

「……分かった」

「お姉ちゃん!?」

「…いいのかい?」

「はい。もしも何か別の思惑があるなら、迷う事無く断っていました。けど、今の彼女からはそれが見えない。ヴァーリは本当に私と戦いたいだけなんです」

 

っていうか、こんな目で見られたら、断りたくても断れないじゃん。

 

「ありがとう。で、もう一つお願いがあるんだけど」

「まだあるのかよ?欲張りな奴だな」

「堕天使の総督であるアンタがそれを言うの?」

「うっ!」

 

会心の一撃!

アザゼルさんは胸を押さえて苦しみだした。

 

「言われてますね、アザゼル」

「うっせ」

 

何気にミカエルさんとアザゼルさんも仲いいね。

なんか悪友って感じ。

 

「…私と戦う際には…貴女も禁手になってほしい」

「禁手に?」

「そうよ。原初にして最古の英雄王であるギルガメッシュの力を開放した禁手……その力と対峙してみたい」

 

なんちゅー怖いもの知らず…!

でも、ギルがそんな事を許可する筈が……

 

『ふはははは!この我の力を見てみたいとな!このような無礼者を見るのは初めてだ!よかろう!マユよ!此度の戦い、我の禁手を使用する事を特別に許可する!!』

 

まさかの許可出ましたよ!?

ホントにいいのかよ!?

 

「自分で言っておいてなんだけど……本当にいいの?」

『構わん!その代わり……我の事を楽しませてみよ。白龍皇』

「こっちも全力で行くわよ。手加減して勝てる程、甘い相手じゃないのは重々承知しているもの」

 

私はどこまで過大評価されているんだろう……。

 

「じゃ、先に行ってるから」

 

あ……外に行ってしまった。

 

「ったく……悪ぃな、嬢ちゃん。バカ娘の我儘に付き合わせちまって」

「大丈夫です。二天龍を宿している以上、こうなる事は避けられないでしょうから」

「悟ってるんだな」

「強がってるだけですよ」

 

そう思わないとやってられないしね。

 

「そんな事だから…頼む、ドライグ」

『なに、構わんさ。俺も心のどこかでこの時が来るのを覚悟していたからな』

 

私と一緒だったか…。

 

「じゃあ、行きますか!」

『『おう!!』』

 

籠手の宝玉が光りだし、音声が響き渡る。

 

【Welsh Dragon Gilgamesh Balance Bleaker!!】

 

禁手のお約束、眩い光が私の体全体を覆い尽くす。

 

一瞬の後に光が収束し、そこには禁手状態になった私がいた。

 

「これが……!」

「英雄王の力の顕現……」

 

私の全身はギルガメッシュが纏っている鎧に酷似した鎧に覆われている。

けど、その色が違った。

鎧は籠手と同じ真紅に染まり、左腕の部分は赤龍帝の籠手のまま。

右手は腕輪を避けるように覆われている。

けど、ギルガメッシュの鎧の名残を彷彿とさせるように黄金の装飾が施されている。

そして、胸や膝や肘の部分にはこれが赤龍帝が宿っている事を示すかのように、籠手と同じ緑色の宝玉が填められていた。

ちゃんと胸の部分は膨れ上がって、私の胸部を圧迫しないようになっている。

 

「今までで一番、禁手っぽいわね…」

「けど、全身からとてつもない力を感じますわ……」

 

少しだけ動きにくくはあるけど、ギルの戦い方を考えれば問題無い。

 

「行ってきます」

「頼むぜ。アイツに『敗北の味』ってヤツを教えてやってくれ。多分それが、あいつの事を成長させるはずだ」

「はい」

 

負けを知らない者は、本当の意味で強くはなれない。

私は過去に何回も敗北を経験しているから、ここまで来れた。

 

カシャンカシャン…と言う音を出しながら外に歩いて行き、いつの間にか禁手状態になって空中に浮いているヴァーリに向き合った。

 

「待たせた」

「別に気にしてないわ」

 

こうしていると、なんだかこっちも体が震えてくる。

私も興奮しているのだろうか。

それとも、私の中にある赤龍帝の力が白龍皇の力に共鳴でもしているのか。

 

「多分、この勝負は長くは続かない」

「決着は……一瞬だ」

 

ヴァーリの全身から闘気が溢れているのがよく分かる。

なんだか白いオーラみたいのが見えてるし。

 

「ギル……『エア』を使うぞ」

『いいだろう。ただし……』

「承知している。真名解放はしない」

 

そんな事をしたら、駒王学園が…下手をすれば駒王町が滅びかねない。

守るべき場所を自分の手で壊すなんて論外だ。

 

前方に宝物庫の波紋が出現し、そこに手を突っ込む。

すると、私の手に何かの感触があった。

そこにある物を握りしめてから、まるで鍵を使用するように回すと、その感触が消えて、そこにまた別の感触が生まれる。

それを握ってから、そのまま引き抜くと、私の手には一本の異形の剣が握られていた。

 

柄には黄金の装飾が施され、刀身部分は赤い光を放つ文様を備えた3つの円筒が連なるような形状。

この3つの円筒はそれぞれに『天』『地』『冥』を表しているらしい。

これこそがギルガメッシュが所有するオリジナルの宝具にして、正真正銘の神造兵器。

 

「それは一体……!?」

「乖離剣エア。古代バビロニア神話の知恵の神の名を冠する剣だ。と言っても、本来は無銘の剣で、ギルが自分で名付けたんだがな」

「剣……剣なの?」

「剣に見えないのは仕方が無い。何故なら、エアはこの世に剣と言う概念が誕生する前に生み出された存在だから、正確には剣と言う代物じゃない。本当は剣と言うよりは杖に近いらしい」

 

より正確には武器ですらないんだけど。

そこは言わなくてもいいだろう。

 

「これを抜くと言うことは、少なくともギルが本気を出した証拠でもある」

「あの英雄王が本気を……ね。光栄の極みだわ」

『ならば、この一撃……見事受けてみせよ!!白龍皇!!』

 

エアをしっかりと握りしめてから構える。

すると、エアの刀身に赤い魔力の奔流が流れ込み、周囲の空間を歪ませる。

 

こっちの戦闘態勢を見て、ヴァーリも自身の体に全ての魔力を充満させる。

拳を構えて、腰を低くする。

 

「でやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

 

体をバネのようにして動かし、凄まじい速度でヴァーリが突撃してくる!!

その拳にはアルビオンのオーラとヴァーリ自身の魔力が混ざり合った力が宿っている!

 

「全てを切り裂け!!エア!!!」

 

こちらもエアをヴァーリに向けて放つ!!

エアの刀身にもドライグのオーラとギルの魔力が混ざり合っている!

それがまるで真紅の竜巻のように放たれ、向かってくるヴァーリに直撃する!!

 

「ぐ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

最初は耐えたかのように見えたが、次の瞬間には拳の部分の装甲に罅が走り、そこから全身に罅が入って、次の瞬間には白龍皇の鎧が粉々に砕け散った。

 

ヴァーリは大きく吹っ飛び、かなり離れた場所に落ちた。

その周囲には白い鎧の欠片が沢山散らばっている。

 

「これが……英雄王の力…ね。まさか…この拳を当てる事さえ出来ないなんて…」

『戯け。これが我の…エアの全力である筈がなかろう』

「なんですって……!?」

『もしもエアの真名を開放して放てば、間違いなく貴様は跡形も無く消滅している。それどころか、この町ごと消え去っているわ。故に、マユは自らの意思で威力を調節した。今のは精々、3割と言ったところか』

「さ…3割でこの威力……!?」

 

エアを放った方には、まるで何かで抉られたかのような跡が出来ている。

真っ赤に赤熱していて、そこからは煙が出ている。

 

『ところで娘。何故に半減の力を使わなかった?』

「こんな力を半減して吸収でもしたら、私の方がオーバーフローを起こしちゃうわよ…。それに……」

『それに?』

「純粋な力と力のぶつかり合いの勝負に、そんな無粋な真似はしたくないじゃない……」

『貴様なりの騎士道…と言うやつか?』

「そんな立派なモノじゃないわ…。単なる自分ルールってやつよ……」

 

その言葉を最後に、ヴァーリは気を失った。

 

『エアを真正面から受けて、その程度で済むとはな。少しは白龍皇の評価を改める必要があるかもしれんな』

「珍しい…」

『お前は我をなんだと思っている』

「慢心大好き英雄王」

『よく分かっているではないか!ははははは!!』

 

慢心している自覚はあるんかい。

 

気絶したヴァーリの所に行こうとすると、足に何かがぶつかった。

 

「ん?」

 

視線を下すと、そこには青い宝玉が転がっていた。

 

「これは……」

『白いのの宝玉だな。あの一撃を受けた際に取れたんだろう』

 

拾い上げてみると、傷一つない綺麗なままだった。

 

『これは神器の力が集中している場所だからな。流石にそう簡単には破壊されんか』

「ふ~ん……」

 

力が集中している……ね。

 

「これを取り込めば、私も白龍皇の力が使えるようになるのかな?」

『ふむ……。通常ならば不可能に近いが、お前はオラクル細胞を宿した存在。あらゆる物を捕食し、学習するその特性を利用すれば…あるいは……』

 

いきなりギルが考え込んでしまった。

 

『物は試しだ。籠手の宝玉の部分にそれを当ててみるがよい』

「了解」

 

コツンと青い宝玉を籠手にある緑の宝玉に当ててみる。

すると、少しの光の後に青い宝玉が吸収された。

 

『こ…これは!?』

「ド…ドライグ?どうした?」

 

何か不具合でもあったのか?

 

『信じられん…!まさか、ここまでスムーズに力が付加されるとは…!』

『感じる……感じるぞ!奏者!間違いなく余に新たな力が加わった!』

『どうやら私もだな。不思議な感覚が体に宿っている』

『みこーん!私にも来ましたよ~!これならばもっとご主人様のお役に立てます!!』

『おや?私にも何かが付加されたようです。これは不思議な感覚ですね』

 

ドライグが驚いている中、ネロとエミヤと玉藻とアルトリアがなにやら言っている。

宝玉を取り入れた事によって、この4人に新しい力が加わったようだ。

 

『おいマユ。痛みなどは無いか?』

「特には」

『矢張りか…。そんな事をすれば普通は全身に壮絶な痛みが走る筈だ。それが無いと言う事は……』

『相棒の体が僅かにアラガミ化していることが原因か?』

『恐らく…な。そうでなければ説明がつくまい』

 

アラガミ化もデメリットばかりじゃないって訳か。

何事にもいい部分はあるってことね。

 

エアを宝物庫に戻してから、ヴァーリの所まで行って横抱き。

そのまま会議室に戻った。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 戻ると、また皆がポカ~ンとしていた。

 

「アザゼルさん。彼女を……」

「お…おう」

 

彼が慌ててヴァーリを受け取る。

 

「本当に…一撃で終わったね…」

「って言うか、あれで3割って……」

 

そう言われてもな。

 

「これで本当に終わり…ですか?」

「みたいですね…」

 

短いようで長い時間だったな…。

これってメタ発言か?

 

力を抜いて、禁手状態を解除する。

 

「ふぅ……」

 

流石に今回は疲れた。

汗で服がべたつくし、少しだけ息が上がってる。

 

「本当にお疲れ様。結局、最後を締めるのはお姉ちゃんね」

「もうこれもお約束になりつつありますわね」

 

そう言われると、次もまた何かありそうで怖い。

これもまた赤龍帝を宿した者の宿命か…。

 

「げっ!?もう終わっちまったのかよ!?」

「ん?」

 

聞き覚えのない声が校庭の方から聞こえた。

当然のように皆の視線がそっちに集中する。

すると、そこには中華風の鎧を纏った男が立っていた。

その手にはどこかで見た事があるような棍が握られている。

 

「お前は誰だ?」

「へぇ~…お前さんが噂の赤龍女帝か。生で見ると、かなりの美女じゃねぇか」

「いいから答えろ」

「おぉ~怖い。ちゃんと言うから、そんなに殺気を出すなよ。流石の俺もマジでビビっちまうぜ」

 

その割には飄々としているけどな。

 

「俺っちは美猴。戦闘勝仏の末裔……って言えば分かるか?」

「戦闘勝仏の末裔……」

「つまりは、かの斉天大聖の子孫…か」

 

斉天大聖って……要は孫悟空?

じゃあ、あの手に持っているのは如意棒?

 

『その猿の末裔が何の用だ?よもや、貴様も例の禍の団とか言う雑種共の一味ではあるまいな?』

「どこから聞こえてくるのかは知らないが、随分と言ってくれるじゃねぇの」

『いいから答えよ。さもなくば、今すぐこの場にて塵にしてやろう』

「分かった!分かったから、そんなに癇癪起こすなよ…」

 

声だけでもギルの怒りは伝わったようで、あの美猴とか言う奴は大人しく話し出した。

 

「今の俺は禍の団のメンバーじゃねぇよ」

「今……?」

「ああ。少し前までは確かに奴らの所にいた。ヴァーリの奴を誘ったのも俺なんだよ」

「テメェだったのか…!」

 

あ、アザゼルさんが切れてる。

この人には、大事な娘を惑わした不良みたいに映ってるんだろうな。

 

「俺も目的自体はヴァーリと同じだった。強い奴と戦えればそれでよかった。けどな、あの大車って野郎が来てから、禍の団は完全に変わっちまった。あんなドラッグよりも遥かにヤバい代物に手を出すようになっちまったら、もう終わりだ。だから、あそこに見切りをつけて出てきたって訳だ。俺と同じ理由であそこを抜けた連中も結構いる」

 

仲間内で揉めだすとか…。

力を引き替えに結束力を失ったか。

 

「そんで、ヴァーリを説得しようと思ってここまで来たんだけどよ…」

 

美猴がアザゼルさんに抱えられたヴァーリを見る。

 

「どうやら、無用の心配だったみたいだな」

「当たり前だ。確かにヴァーリは馬鹿だが、愚かじゃねぇ。自分の信念を曲げてまで強さを求めようとはしねぇよ」

「全くもってその通りだ」

 

はっはっはっ!と高笑いする美猴。

元テロリストとは思えないような豪快さだ。

 

「君はこれからどうする気だい?」

「別にどうもしねぇよ。前のように世界中を旅しながら、強い奴を探すさ。それにヴァーリも誘おうかとも思ったんだがな……」

 

今度はこっちを見た。

少しだけ視線が合ってしまった。

 

「派手にやられたみたいだな。お前さんに」

「まぁ……な」

「その地面を見ても分かる。赤龍女帝……こっちの想像の遥か上を行く強さみたいだな」

『何を今更……』

 

なんて言いながらも、嬉しそうですよ、ギルさん。

 

「少なくとも、もうあいつ等とは関わることは無いだろうよ」

「そうか。それが聞けただけでも有難いよ」

「三大勢力はまだ信用出来ないが、赤龍女帝…気が向いたら手助けぐらいはしてやるよ」

「そうか」

 

あっさりと返事したけど、今…凄いこと言わなかった?

 

「無駄足になったと思ったけど、噂に名高い赤龍女帝の顔を生で拝めただけでも来た甲斐はあったかもな。それじゃ、俺はこれで失礼するぜ」

 

美猴はまるで瞬間移動でもしたかのように、一瞬で消えてしまった。

 

「消えた…?」

「魔法の類じゃない。あれはきっと、凄いスピードで移動したんだ」

 

体術だけであの域に達するか。

孫悟空の子孫というのは伊達じゃないようだな。

 

「さて、では我等もそろそろ帰るとしようか?」

「そうですね」

 

皆が帰り支度を始めようとする。

ふと、私は純粋な疑問を投げかけた。

 

「あの……」

「なんだい?」

「この校舎はどうするんですか?今日は平日で、明日もちゃんと学校はあるんですけど……」

「それなら心配は無用さ。僕らが何とかするから」

「はぁ……」

 

そう言うなら大丈夫……なのか?

 

「ヴァーリの事はこっちに任せてくれ。こいつと話してから、これからの処遇を決めようと思う」

「それがいいだろうね」

 

本音を言うと、ヴァーリとは仲良くなりたい。

二天龍の宿命とか、そんなのとは関係無しに友達になりたい。

 

「ガブリエルはこのまま彼女と一緒にいてください」

「元よりそのつもりです」

 

え……そうなの?

まぁ…部屋はまだあるから大丈夫だけど。

 

「そんな訳で……改めまして、これからよろしくお願いします。マユ様」

「こ…こちらこそ」

 

また同居人が増えたな~。

 

「ま…まさかガブリエルさまが来るとは……」

「あわわ~……」

 

教会関係者であるアーシアとゼノヴィアは完全に緊張してる。

二人からすれば、文字通り天の上の人だからな。

 

それぞれに今後の事を軽く話した後、私達は解散となった。

 

こうして、ここ駒王学園において、3大勢力に加え、私達人類代表であるクレイドルを含めた4大勢力の各代表の元に、和平協定が成立された。

 

後にこの時に成立された協定を『駒王協定』と呼称するようになり、後世に語り継がれていくことになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




久し振りだからって気合を入れた結果がこれだよ…。

めっちゃ長くなった……。


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第70話 世界の仕組み

今回はモロに説明回。

しかも、私の独自解釈ばっかりで、なんじゃこりゃ状態です。

賛否両論あるとは思いますが、アホアホな私の頭に免じてご容赦を。











 三大勢力会談改め、四大勢力会談は色々な予想外のトラブルがありはしたものの、なんとか人的被害を出さずに終える事が出来た。

校舎はとんでもないことになったけど。

あれに関してはサーゼクスさんが何とかするって言っていたな。

どうする気だろうか?

ま、今考えてもしょうがないか。

 

私達は新たな同居人であるガブリエルさんを伴って帰宅。

皆はかなり草臥れたようで、帰ると同時に軽くシャワーを浴びて、即座に自室にて睡眠。

ガブリエルさんは幼女龍三人組をレイナーレと一緒にベットまで運んだ後、空いている部屋に部屋に案内した。

今度の休みの日にでも家具をまた買わないとな。

幸いな事に金銭面に関しては問題が無いのがよかった。

 

皆が寝静まった後、私はヤハウェとルシファーさんを自分の部屋に招いて、会談中に二人が言った『私を転生させた理由』を聞くことにした。

 

「今でいいのか?お前が一番疲れただろうに」

「私なら大丈夫です。確かに疲れたけど、この程度でバテるような軟な鍛え方はしてませんから」

「僕の知らないところでマユちゃんが別の意味で逞しくなっていく…」

 

なんで嘆くんだ?逞しくなるのはいいことだろう?

 

「けど、俺達の都合でお前の睡眠時間が減るのは、仮にも親を名乗る者として看過は出来ないな」

 

ルシファーさんが指を鳴らす。

すると、部屋全体が会談時の校舎のような結界に包まれた。

 

「これは時間を流れを遅くする結界だ。この中でいくら過ごしても、外での時間の経過は一分にも満たない」

「これなら、どれだけ話しても大丈夫だね」

 

……本当にチートだな。

 

「さて、どこから話そうか?」

「最初からです」

「最初……か」

 

ルシファーさんが少しだけ虚空に目線を上げた後、こっちを向いてゆっくりと語りだした。

 

「お前を態々俺達の力で転生させた理由……それはな、アラガミをなんとかしてほしいと考えたからなんだ」

「やっぱり、そうですか……」

 

なんとなく予想はしていた。

そうでもなければ、私の事を神機使いとして転生させたりはしないだろう。

 

「アラガミはいつ頃この世界に出現したんですか?少なくとも、あの大きな戦争の時にはいたように思えますけど……」

 

だって、あの三大勢力戦争の時が私の初陣だったからね。

 

「あの頃…と言うよりは、マユちゃんが初めて闘ったあの時にアラガミが初めて世に現れたんだよ」

「あの時に?」

 

あれがアラガミとの初めての邂逅だったのか?

 

「もしも、あの時にマユちゃんがいなかったら、確実にサーゼクス君達は殺されていたと思う」

「そうなれば、間違いなくこの世界も『あっち』みたいになる」

 

アラガミがいた世界の事か……。

 

「で…でも、どうして私なんですか?神機使いを求めるならば、あの世界から実力のある神機使いをこちらに召喚すればいい話じゃ……」

 

リンドウさんやソーマ、アリサとかがいい例だ。

他にも色々と思いつくけど、取り敢えずはこの三人。

 

「普通はそう思うわな。その質問は想定内だ」

「これには凄く大事な理由があるんだよ」

「大事な理由?」

 

ルシファーさんはともかく、ヤハウェが真剣な顔や口調になるのは珍しい。

それだけ重要だってことか。

 

「まずはこいつを見てくれ」

 

ルシファーさんが部屋にあるテーブルに小さな魔方陣を出現させて、そこから学校の教材として使われるタイプの天秤が出現した。

天秤の皿には小さな重しがそれぞれに10個ずつ乗っている。

 

「これは簡易的に世界の事を表している」

「これが?」

 

どゆこと?

 

「この世には無限にも等しい数の平行世界が存在する」

「パラレルワールド理論ですね」

「流石に知ってたか」

「比較的、有名ですから」

 

オタクの間では特に…ね。

 

「全ての平行世界は、この天秤のようにそれぞれを支えあって、バランスを取り合いながら保っている。けど、もしもここで他の世界から別の世界に『何か』を移動させたりしたら……」

 

ヤハウェがピンセットで片方に乗っている重しをもう片方に移動させた。

すると、当然のように天秤はバランスを崩して傾く。

 

「このように、世界間のバランスが保てなくなっちまう。唯でさえ世界と世界は奇跡的なバランスでなんとか均衡を保っているのに、それを意図的に壊すような事は出来ねぇよ」

 

世界同士の均衡…か。

 

「人間を一人二人移動させるぐらいで…って思ったかもしれないが、それが一番ヤバい」

「え?」

「自ら意思を持つ知的生命体が一体でも他の世界に移動すれば、その時点で何らかの影響を世界に与えてしまう。それはいい事もあるかもしれないけど、それは極めて稀な例だ。殆どの場合は悪影響しか与えない」

 

自分で考えて行動するから、その世界の理に反目することも可能って事か。

二次小説とかによく出てくる踏み台転生者がいい例か。

冷静に考えてみれば、『あの世界』の重要人物であるリンドウさん達がいきなり消えたりしたら大問題だ。

確かに、お互いにいいことは無いな。

 

「それなら、私の事を転生させて、この世界によこすこともヤバいんじゃ…」

「それが、そうでもないんだわ」

「はい?」

 

なんとかついて行ってるけど、段々と頭が混乱してきた。

 

「非常に極稀な事なんだが、デフォルトの状態で『何か』が欠けている状態の世界が存在したりする。本来、その世界にとって『主軸』となる存在が最初からいなかったりする世界がな」

 

主軸…?

それに、欠けている世界って…それは……。

 

「もう分かったと思うけど、今君がいるこの世界こそが、その『欠けている世界』なんだ」

「だからこそ、お前さんを遠慮無く転生させることが出来たって訳だ」

「因みに、本来の赤龍帝はお前とは似ても似つかない程の馬鹿だぜ?」

「なんせ、女の子の胸の事しか考えないエロ野郎だしね」

「あのドライグが泣き喚き、マユとは逆に歴代最弱と言われていたしな」

「れ…歴代最弱?」

 

どんな奴なんだ…。

少なくとも、女の敵であることは分かる気がする。

 

「ドライグも、お前のような美人で強い奴が赤龍帝になって、凄く嬉しいと思うぜ?」

「そ…そうですかね…」

 

ちょっと照れるな…。

 

あれ?そう言えばさっきからドライグ達が静かだけど、もしかして休んでいるのかな?

なんでも、私が寝ている時は籠手に宿っているドライグ達も一時的に休眠状態になって休んでいるらしいし。

 

「でも、この世界が幾ら『欠けている世界』だったとしても、転生者を送ることはいいんですか?私がいた世界の均衡が保てなくなるんじゃ……」

「それも大丈夫だ。死んだ人間ってのはな、謂わば『世界から弾き出された存在』なんだ。命を失って魂の状態になった時点で、世界への干渉は出来なくなる」

「よく幽霊が出てきて『うらめしや~』ってしてるけど、あれはフィクションだから。幾ら力が強くても、『世界』が存在を許さないから、最終的には消滅してサヨウナラ…だよ」

「それが俗に言う『成仏』だ。そいつはもう『世界の一員』じゃないんだからな。死者には死者に相応しい場所がある」

「冥界とかですか?」

「なんでそこで『天国』って出ないんだ?」

「いや…なんとなく」

 

周囲に悪魔が多いせいかな?

真っ先に冥界って言葉が出てしまった。

 

「僕達にもよく分からないんだけど、そこはよく『円環の理』って呼ばれてる」

「えんかん……?」

 

よくわからん。

なんとも中二臭溢れる言葉だこと。

 

「転生者ってのは、その円環の理に魂が行く前に呼び寄せて、新たな肉体を与えられた奴の事を言うんだ」

「じゃあ、私も?」

「そう。僕が君の魂を呼び寄せて、今の肉体を与えたんだ。エッヘン!」

 

感謝はするけど、どうしてそこで胸を張るの?

そこそこ大きい胸が強調されて、白音が見たら怒りそうだ。

 

「まぁ、その為に僕達も色々とやっちゃったけど、それに関しては後悔は無いよ」

「いずれツケを払う事にはなるだろうが、それは俺らが責任を取ればいいだけの話だ」

「…………」

 

責任…か。

 

やっちゃったって、多分…歴代の赤龍帝の事を言ってるんだろうな。

ギルやネロ達もそんな事を言っていたし。

 

あの時は皆はヤハウェを怪しいと言っていたけど、今はそう思わない。

だって、この二人から悪意なんて微塵も感じないから。

 

「お前には本当に様々な物を背負わせちまった。お前の親を名乗っておきながら、なんとも情けない限りだ」

「全くだね……。僕達は聖書の神と原初の魔王。本来なら僕等がしなくちゃいけない事を君に押し付けた。本当にゴメン…」

 

…そんな顔をしないでくれよ…。

そんな風な悲しそうな顔をされたら…私は……。

 

「大丈夫だ」

「「え?」」

「私をこうして転生させたのは、そうする絶対的な理由があったから。少なくとも、道楽で転生させたんじゃないって分かっただけでも嬉しいよ」

「マユちゃん……」

「それに、この世界にアラガミがいる以上、否が応でも神機使いの力が必須となる。他の世界から神機使いを連れてこられないから、私のような『転生者の神機使い』が」

 

多分、これは二人にとっても苦肉の策だったんだと思う。

そうでなければ、あんな顔は出来ない。

 

「だから…気にしてない。私が二人の立場でも同じ事をしたよ」

「はぁ……ったく……」

 

あ、ルシファーさんに頭を撫でられた。

 

「俺等には勿体無い程に出来た娘だよ、お前は」

「僕の目は節穴じゃなかったってことだね~。僕ってエラい!」

「自分で言ってたら世話ないぞ、ヤハウェ」

「マユちゃん、ひど~い!」

「「あははははは……」」

 

久し振りに心から笑った気がするな…。

 

「こっちの勝手でクレイドルなんて組織を作って、お前をトップにしちまったけど、組織の運営は俺等に任せろ」

「君だって、今更後方に下がって指揮官職に就くなんて嫌でしょう?」

「まぁ……」

 

寧ろ、私には向かないでしょう。

人にはそれぞれに『適性』がある。

物語上は『闇里マユ』は将来的にクレイドルをソーマやアリサと一緒に設立したかもしれない。

けど、そんな彼女もずっと後方で指揮をしていたわけじゃない。

すぐに彼女は世界に旅立って、様々な物を発見して人類に貢献した。

ならば、己が作り上げた『闇里マユ』に成った私にも同じ事が出来る筈だ。

 

私に出来るのはいつでも『剣』を握って戦うだけ。

それしか出来ない…不器用な女。

 

「私はこれからも戦い続ける。大切な人達と、この世界を護る為に。私がこの世界で出会った……皆と一緒に」

 

それこそがきっと、私に課せられた本当の使命。

この世に『運命』と言うものがあるのだとしたら、私が前世で死んで転生する事すらも最初から『予定調和』だったんだろう。

これが私と言う『魂』が存在する意味。

私はこの為に誕生した。

今ならば、そう確信できる。

 

「だから…その……これからもよろしく頼むよ……お父さん…お母さん…」

「「……!?」」

 

やっぱり恥ずかしいな……。

初めてこの二人の事を名前以外で呼んだけど、めっちゃ顔が熱い…。

 

「おう!」

「当然!」

 

この日、私達は本当の意味で『家族』になれたような気がした。

 

私の『物語』は、まだ続いていく。

 

 

 

 

 




「そう言えば、私以外にも転生者っているんですか?」
「いや…俺は知らないな。ヤーちゃんは?」
「僕も知らな~い。でも、僕等が知らないってだけで、決していないとは言えないね」
「だな。俺達が知らない所に『欠如』があって、そこに『誰か』がいても不思議じゃない」
「あくまで『可能性』の話だから、軽く流してくれていいよ」
「分かったよ。(なんか…今この瞬間にフラグが立ったような気がするのは私の気のせいかな…?)」


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第71話 皆と一緒に

前回はまさかの出来事によって更新出来ませんでした。

次からは本当に気を付けようと思います。







 色々とイレギュラーな事はあったが、なんとか終わらせる事が出来た三大勢力改め、四大勢力会談。

ルシファーさんとヤハウェの心遣いによってたっぷりと熟睡出来た。

そのお蔭で、今朝はとても心地いい気持ちで起床出来た。

 

「う~ん……」

 

カーテンを開き、朝日を浴びながら体を伸ばす。

 

「さて、行きますか」

 

久々にウキウキした気持ちでリビングに向かう。

さ~て、今日の朝御飯は何かしら~?

 

『今日の相棒は妙に明るいな…』

『けど、暗いよりはマシなんじゃないかい?』

『呵呵呵っ!よきかなよきかな!若者はそうでなくてはな!』

『見た目的には貴方だって十分に若いでしょうに。李書文』

『おっと。お主も言うではないか、騎士王よ』

 

…結構アルトリアもみんなと仲良くしてるみたい。

私的にはそっちの方がよきかなよきかなだ。

 

まだ時間には余裕があるから、パジャマのままでいいか。

本当にお腹が空いてきたし、そろそろ行こうか。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「あっ!おはようだにゃ!マユ!」

「ん。おはよう、黒歌」

 

あんな事があっても、いつもの習慣は抜けないようで、黒歌とレイナーレはキッチンに立っている。

 

「随分とスッキリした顔をしてるわね。よく眠れた?」

「うん。疲れたせいかな。熟睡が出来たよ」

 

戦った疲労で熟睡が出来るって、なんか皮肉だけど。

 

テーブルにはいつもの皆が既に座っている。

どうやら、まだ朝ご飯の準備は出来ていないようだ。

リアスはアーシアと話しているし、ゼノヴィアはテーブルにお皿を並べている。

白音はソファーに座ってティアの髪を櫛で梳いていて、レドとオーフィスちゃんは朝から何故かトランプをしている。しかも、ブラックジャック。

どこで…いや、誰が教えたんだ…?

で、帰ってなかったのか、ルシファーさんは椅子に座って新聞を読み、ヤハウェはキッチンでご飯の支度をしている二人を見てニコニコしている。

そして、昨日新しくこの家の新しい同居人になったガブリエルさんは……

 

「おはようございます。マユ様」

「お…おはようございます」

 

実に優雅なお辞儀を私に見せてくれた。

こっちの方が恐縮してしまうな…。

 

流石に今は翼は仕舞ってあって、見た目は至って普通の金髪のお姉さんだ。

すっごい美人だから、近所からまた注目されちゃうかもな。

 

この家に住んでいる面々って、いずれも美女や美少女や美幼女ばかりだから、色んな意味で有名になっている。

以前にヤハウェが張ってくれた結界って、もう意味無いんじゃ…。

 

「あ…あの、私の事は別に『様』で呼ばなくてもいいですよ?」

「そんな!貴女様は嘗てミカエル様を救ってくださった、我等天使達にとっての大恩人!そのような方を失礼な呼び方を呼ぶわけには…」

「君は相変わらず真面目だねぇ~」

「ヤハウェさま!」

 

アンタがのんびりし過ぎなだけじゃないか?

 

「大体ね、マユちゃんは女子高生なんだよ?君が外でもそんな風に呼んでいたら、間違いなく変に思われるよ。別に呼び捨てしろとは言わないけど、せめて『さん』って呼ぶことは出来ない?」

「そ…それは……」

 

ヤハウェにガブリエルさんが論破された。

 

「はい、じゃあ練習。3、2、1はい!」

「え…えっと……」

 

……私はどうしろと?

 

「マ…マユさん……」

「はい?」

 

顔を真っ赤にしているガブリエルさん、普通に可愛いです。

これが天使の魅力ってヤツか?

 

「朝っぱらから、またお姉ちゃんがフラグを立ててるわ…」

「節操ないですね。流石はマユさんです」

 

あれ?私が悪いの?

 

『あははははは!今朝も愉悦が炸裂しているな!白音よ!』

「ありがとうございます」

 

またこの二人は……!

 

「もう種族とか関係無くなってきてるな」

「悪魔に堕天使に天使。今のところはフルコンプにゃ」

 

別に何も集めてませんよ。

フルコンプってなによ。

 

『いえ、それだけじゃないでしょう』

「玉藻。それはどういう意味?」

『忘れもしません。あれは今から約一年前…アラガミ討伐に出かけた際に……妖怪の女の子にもフラグを立てた事を!!』

「なっ…!」

 

あの時の事をまだ覚えていたのか!?

しかもフラグって!

 

リアス達がなんかいきなりガタッって立ち上がったし。

 

「よ…妖怪にまで…?」

「と言うか、白音や黒歌も猫の妖怪の類じゃなかったか?」

「そう言えばそうだったにゃ」

「最近密かに忘れつつありましたね」

 

いや、忘れるなよ。

 

「はぁ……朝から元気ね、アンタ達」

 

うぅ…レイナーレが我が家で唯一の常識人になりつつある…。

彼女がいなかったら、きっとこの家はカオスになっていただろう。

 

「ほら、もう準備できたから、さっさと食べるわよ!」

「「「「「は~い」」」」」

 

完全にお母さんキャラだ…。

 

皆で椅子に座って手を合わせて……

 

「「「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」」」」

 

今日の朝ごはんは卵焼きに焼き魚にお漬物。

スタンダードだけど、私は変に凝った食事よりは、こんな風なモノの方が好きだ。

 

「今日も美味いな。黒歌の嬢ちゃんの飯は」

「そんなことないにゃ。いつもの通りにゃ」

「このレベルを『いつもの通り』って言える時点で凄いよね…」

「姉さま……女子力高いです」

 

私も別に料理が出来ないわけじゃないけど、この領域には届かないな~。

しかも、レイナーレも同レベルだから凄い。

前にくれたクッキーを食べてから、なんとなく分かってはいたけど。

 

「本当に美味しいですね…。これが日本の『和食』と言う物ですか…」

「ガブリエル様は和食は初めてなのですか?」

「はい。地上に降りた経験も余り無いものですから。こうして食事をする機会も無かったんです」

 

確かにそうかも。

頻繁に地上に降りてご飯を食べている天使ってのも面白いけど。

 

「天界の食事はなんとも味気ないものが多いんです。分かりやすく言ってしまえば『精進料理』を想像して貰えるとよろしいかと」

「しょーじんりょうりって何?」

「精進料理ってのは、主に寺に住む坊主とかが食べる肉とか魚が入ってない、もしくは非常に少ない料理の事だ」

 

なんで魔王であるルシファーさんが、そんな事を知ってるのさ…。

 

「おぉ~」

「肉や魚が入ってない料理を食べるなんて、面白いんだな!」

「連中にとっては食事すらも修行の一環になってるからな」

「お坊さんも大変なのね…」

 

因みに、朱乃は普通の料理を食べてるよ。

どうやら、あそこはそこまで厳しい所じゃないみたい。

 

「全ての命に感謝をこめて頂く行為。これが本当の食事なのですね。食事の前の『いただきます』と言う言葉も実に素晴らしいです」

 

そんな事を言うってことは、ガブリエルさんって日本が初めてなのかな?

だったら、いつか機会を見つけて街とか案内したいな。

 

今朝の食事は、なんだかいつも以上に賑やかに感じた。

こんな日々がいつまでも続けばいいな…。

なんて言ったらフラグな気がするから、口には出さないけど。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 学校に行くと、まぁびっくり。

完全に壊れていた校舎が、一晩で見事に直っているではないですか。

これが現魔王の実力ですか?

 

「いちいち気にしたら負けよ。お姉ちゃん」

「そ…そうだな」

 

非科学的な事は今更…だよな。

直った事はいいことだし、リアスの言う通りに気にしないようにしよう。

 

登校してから驚かされたが、それ以降はいつものように過ごした。

で、あっという間に放課後に。

 

私達はいつものようにオカルト研究部の部室に向かう。

今日は外に出たギャスパー君も一緒だ。

最近は少しづつ授業にも出るようになっているらしい。

 

一番前にいたリアスが部室のドアを開けた。すると……

 

「よっ!」

 

……着崩した背広を着たアザゼルさんがいた。

 

「な…なななななななななんで!?」

「おいおい、少しはマユの嬢ちゃんを見習って落ち着けよ」

「驚きもするわよ!なんで貴方がいるの!?」

 

リアスは面白いように驚いていて、他の面々も驚きを隠せないでいた。

唯一、白音だけは冷静だったけど。

 

「実はな、あれから俺とミカエルとサーゼクスで相談してな、三大勢力の内の誰かが身近な場所でお前等を見ようって話になって、それで俺が選ばれたって訳なんだ」

「なんでアザゼルさんが…」

「三人の中で一番コミュ力が高いからじゃねぇか?」

 

サーゼクスさんはこの学校の理事長だけど、あんまり姿は見せないし、ミカエルさんは色んな意味で目立ちそうだしな。

私も、あの三人の中で誰かを選ぶならアザゼルさんを選ぶ。

一番仲がいいってこともあるけどさ。

 

「そんな訳で、俺は今日からこの学園で教師をして、ついでにこの部の顧問も務める事にした。よろしく頼むぜ」

「は…はぁ……」

 

顧問…ね。

けど、それ以前にシンプルな疑問が…。

 

「あの、少しいいですか?」

「なんだ?マユの嬢ちゃん」

「……アザゼルさんって……ちゃんと教員免許って持ってるんですか?」

「なんだ?疑ってるのか?」

「なんとなく…ですよ」

 

暗示とかして来ているのかと思ったから。

 

「心配すんな。ちゃんとこの通りだ」

 

そう言うと、アザゼルさんは懐から一枚の免許証と思われるものを取り出した。

 

「こう見えても、俺は地上に来てから色々と資格を取ってるんだぜ。勿論、自力でな」

「意外と勤勉ですのね」

「意外ってなんだ、意外って」

「お父様が言ってましたもの。アザゼルは昔から仕事のサボり癖があるって」

「バラキエルの野郎…!」

 

日頃の行いのせいですね。

 

「と…とにかく!お前等も将来の事を真剣に考えるなら、資格は取っておいて損は無いぞ」

 

早速、教師っぽい発言いただきました。

 

少し話した後に皆はソファーに座って朱乃の紅茶を味わう。

うん、今日も美味しい。

 

「そうだ。ヴァーリは大丈夫でしたか?」

「あのバカ娘なら心配無用だ。軟な鍛え方はしちゃいないからな」

「よかった…」

 

女の子の体に大きな怪我をさせたりしたら大変だしね。

 

「つっても、今はまだベットの上で療養中だけどな」

「あれだけの攻撃を真正面から受けて、それだけで済んでいる時点で白龍皇も充分すぎるぐらいに規格外よね…」

「二天龍の名は伊達じゃないって事だ」

 

私の宿命のライバルは凄いって事だな。

 

「アイツに関しては少し考えてる事もあってな。だから、心配すんな」

「分かりました」

 

普段はのらりくらりとしているアザゼルさんも、ヴァーリの事になるとマジになるからね。

この人にとってヴァーリは実の娘に等しい存在なんだろう。

 

「そうそう。俺もクレイドルに参加するつもりだからな」

「それは有難いですけど、いいんですか?そちらの方は…」

「心配すんな。『神の子を見張る者』の方はシャムハザに任せてあるからな」

 

あれ?その人って前にレイナーレやオーフィスちゃんが言っていた人じゃ…。

 

「ん?どうした?」

「いえ、前にもその人の名前を聞いた事があって……」

「そうなのか?」

「はい。レイナーレがシャムハザと言う人が普段の激務のせいで胃痛で苦しんでいたって言ってました」

「え?マジ?」

「オーフィスちゃんも、そのシャムハザという方が薬局で胃薬を購入しているのを見たって言ってましたね」

「………………」

 

あ、目線を逸らして急に黙った。

 

「ま…まぁ……あいつには今度ちゃんとした休暇をやるよ…」

「是非ともそうしてあげてください」

 

じゃないと、少し可哀想だ。

過労で倒れる堕天使って結構洒落になってない。

それはもう堕天使じゃないでしょ。

 

「でも、なんで教師として来ただけじゃなくてクレイドルにも?」

「そいつは単純だ。お前等を鍛えるためだよ」

「鍛える為?」

「そうだ。禍の団っていう明確な敵対勢力が出現した以上、間違いなくこれから戦いは激化していく。その時はお前等にも戦ってもらう事にもなるだろう。その時になって困らないように、俺がコーチ役をすることにしたんだよ」

 

それは重畳。

これまではずっと自主練が主だったからな。

明確な指導役がいるだけでトレーニングの効率も段違いだ。

 

「俺は神器の研究をしてるから、それぞれの神器に合わせたトレーニング方法を熟知している。別に今の状態でも駄目とは言わねぇが、強くなっておいて損は無い筈だ」

 

アザゼルさんの言う通りだ。

強さの上限を決めていたら、後々後悔することになる。

 

「つっても、マユの嬢ちゃんは問題無いだろ。って言うか、現時点で俺等とほぼ互角に等しいんだ。寧ろ、どんなトレーニングしたらそうなるのか、こっちが知りたいぐらいだぜ」

「そう言われても……」

 

普通に筋トレしていただけだよ。

ちょっと量が多いだけで。

 

(あのハードトレーニングを『ちょっと』で済ませるのか…)

 

え?ちょっとじゃないの?

 

「いずれ見る機会はあるだろうから、そん時に取っておくか」

「それがいいわ……」

「ですね……」

 

なんでそこで苦笑いをするの?

 

こうして、私の生活に想像以上の変化が訪れて、また日常は続いていく。

 

この後、皆で話し合った結果、ギャスパー君もウチで一緒に住むことに決めた。

今まではずっと、あの旧校舎の部屋で寝泊まりしていたらしくて、外に出られるようになった以上、いつまでもあそこにいるのは精神衛生上もよくないと判断して、私の家に招待したのだ。

裕斗がなんとも複雑な表情をしていたけど。

 

荷物自体は廊下まで運び出せば、後は転移用の魔法陣で家に送れば問題無いので、そこまではよかった。

予め家に連絡をしておいて、向こうで黒歌やレイナーレ達に任せた。

部屋は適当に空いている部屋を用意すれば大丈夫だろう。

荷物運びでは男性陣に頑張ってもらったっけ。

と言っても、主に裕斗とアザゼルさんにだけど。

ギャスパー君には無理っぽいし。

 

ウチに来ることが決まった時のギャスパー君の笑顔が印象的だった。

 

もうすぐ、私にとって高校生活最後の夏休みが始まる。

いい思い出を残せれば幸いだ。

 

 

 




戦いの後の日常回。

もうお約束ですね。

長かったですが、これでこの章も終了です。


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夏休み ~冥界に行こう~
番外編 もしもマユ以外に転生者がいたら


今回の話は結構前から考えていました。

でも、中々にタイミングが掴めずに、結局はこんな形に……。







 ここ最近ははぐれ悪魔の事件もアラガミの出現も無く、久し振りに平和な日常が続いていた。

 

私達は今日も放課後にオカ研の部室に集まって、いつものようにのんびりと過ごす。

……今更だけど、私達って全くオカルトを研究してないな…。

少しはそれっぽい活動をした方がいいんじゃないんだろうか?

 

「もうすぐ夏休みか……」

 

夏休みは私にとって絶好のトレーニングタイムだ。

今年は去年よりもより多く、そして長く指立て伏せが出来るようになりたい。

 

「お姉ちゃんはもう夏休みの予定は決まっているの?」

「いや、別に。ただ、毎年夏休みはトレーニングに費やしてるな」

「そう言えば、去年は一日の殆どを外でのトレーニングに使ってましたね」

『鍛錬に励むのは本当に素晴らしい事だが、少しは限度と言う物を知った方がいいと思うぞ、マスター…』

「え?」

 

嫌だなぁ~、エミヤってば。

あんなのはまだまだ序の口だよ?

 

「む…昔からずっとあのトレーニング量をこなしてたのね……」

「なんとなく、マユ殿がどうしてあそこまで強いのかが分かったような気がするな……」

 

ゼノヴィアにまで引かれちゃったよ。

 

「私はともかく、リアスの方は何か予定があるのか?」

「夏休みは冥界に帰る予定よ」

「へぇ」

 

実家に帰省するのか。

偶には帰らないと、リアスのご両親も心配するだろうしな。

 

「リアス部長が行くと言う事は、眷属である朱乃さんや裕斗さんも一緒に?」

「そうよ。で、お姉ちゃんにお願いがあるんだけど、いいかしら?」

「なんだ?」

 

リアスからのお願いとは珍しい。

私に出来る範囲で協力はしてあげたい。

 

「実はね、お父様とお母様がお姉ちゃんを家に招待したいって言ってるの。来てくれないかしら?」

「私を……」

 

そう言えば、私はリアスのお父さんには会ったけど、まだお母さんにはまだ会ってないな。

ああして一緒に住んでいる以上、私からもちゃんと挨拶をした方がいいだろう。

 

「そうだな。ヤハウェやルシファーさんに相談してからになるが、私個人としては別に『プルルルル』……ん?」

 

こんな時に電話?

 

「済まない」

 

一言言ってから席を立つ。

 

「もしもし?」

『僕達なら大丈夫だよ~!寧ろ、マユちゃんの両親として一緒について行くつもりだから~』

「……………」

 

まるでこっちの会話を見ていたかのような言葉に、思わず固まってしまう。

電話から聞こえたヤハウェの声は皆にも聞こえていたようで、私と同じように固まっていた。

 

「なんか……大丈夫っぽい」

「そ…それはよかったわ……ははは……」

 

リアス、笑顔が引きつってますよ。

 

「どうせなら、家にいる皆で来たらいいわ。ちょっとした小旅行だと思って」

「い…いいのか?ご迷惑になるんじゃ…」

「それぐらい気にしないわよ。普段からお姉ちゃんには凄くお世話になってるんだから、こんな時ぐらいは恩返しをさせて頂戴」

 

リアスの優しさに、私の心の中にいる全ての私が拍手喝采な上にスタンディングオベーションで号泣した。

 

「きっと、オーフィスちゃん達も喜びますわ」

「姉さまやマユさんと旅行……楽しみです」

 

そっか。白音や黒歌と一緒に同居するようになってから、碌にどこかに連れて行ってあげた事なんて無かったっけ。

これもいい機会と思って、久し振りに純粋に楽しむのも悪くないかもな。

 

「勿論、俺も一緒に行くからな」

 

今まで会話に参加してこなかったアザゼルさんが紅茶を片手に傍に来た。

 

「サーゼクスとはまだまだ色々と話し合わなくちゃいけない事もあるし、俺も偶には慰安旅行みたいなことをしたかったしな」

「慰安って……」

 

この人が言っても説得力無ぇ~。

 

「マユの嬢ちゃんも、この機会にゆっくりと体を休めておけ」

「私もですか?」

「当たり前だ。こいつ等から聞いたぞ。お前……相当にハードなトレーニングを普段からしてるそうじゃねぇか。トレーニングメニューを聞いた時は自分の耳を疑ったぞ」

 

ハード……かなぁ~?

 

「大体、逆立ちの状態で指立て伏せ10万回ってなんだよ?そんなトレーニング、悪魔や堕天使が一緒の事をしたら確実に体を壊すぞ」

「はぁ……」

 

別に大丈夫なんだけど…。

 

「だから、夏休みに冥界に行っている間は、嬢ちゃんはトレーニング禁止な」

「えぇっ!?」

 

そ…そんな!?

それなんて拷問!?

 

『相棒……俺はアザゼルに全面的に賛成だぞ』

「ドライグまで!?」

『偶に……本当に偶にでいいから、相棒は休んだ方がいい。いや、頼むから休んでくれ!』

 

とうとうお願いされてしまった…。

 

「わ…分かったよ。冥界に行っている間は自重するよ」

 

こうでも言わないと話が進みそうにない。

 

「どれぐらい向こうに滞在する予定なんだ?」

「一応、8月20日までいるつもりでいるわ。私自身も向こうで予定があるから」

 

お貴族様は大変だ。

庶民の私には分からない感覚だな。

 

「冥界……か。よもや、ついこの間まで教会にいた私が冥界に行くことになるなんてな。人生、何があるか分からないもんだ」

「そうですね。私も立場的にはゼノヴィアさんと大差ないですから、その気持ちはよく分かります」

 

聖剣使いやシスターとは、下手したら一生縁が無い場所だしね。

 

「出発は夏休みに入ってからすぐに?」

「出来ればね」

「そうか。ならば、それまでに色々と冥界行きに備えて色々と買い揃えた方がいいな」

「私も丁度、家族にお土産を買おうと思っていたから、一緒に行くわ」

「じゃあ、その時にガブリエルさんの部屋の家具とかも買ったらいかがですか?」

「そうだな。じゃあ、今度の休みの日にでも、皆で一緒に買い物に行くか」

「「「「「「「賛成!!」」」」」」」

 

おぅ……元気だな。

 

「ギャスパー君も一緒に来るか?」

「ぼ…僕もですか?」

 

一緒に暮らすようになってから、少しずつではあるが、彼は外に出る努力をしている。

ちょっとステップを飛ばしているかもしれないが、これもいい機会だと思う。

 

「マ…マユさんが行くなら…行こうかな……?」

 

ハイ決定。

 

「ぼ…僕も一緒に行きます!荷物持ちぐらいは出来ます!」

「そ…そうか」

 

いきなり裕斗が積極的になったな…。

でも、荷物持ちは純粋に有難い。

 

そんな訳で、今度の休日は皆で一緒に買い物に行くことに。

時にはこんな女っぽい休日も悪くないな。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 おっす!俺は田中卓郎!

ハイスクールD×Dの世界に転生した転生者だ!

 

食中毒になって死んだ俺は、神様によって転生させられる事になった。

転生する世界が『ハイスクールD×D』だと知らされた時、俺のテンションは一気にMAXになった。

転生特典を利用して、原作主人公である兵頭一誠からリアスを初めとしたヒロインを全員奪ってやるぜ!……と思っていたんだけど、神の口から衝撃的な事を聞かされた。

 

まず、今から俺が転生する世界に、兵頭一誠は存在しない。

改変されたか死亡したかと思ったが、どうやら最初からいないらしい。

つまり、この世界は俺が知っているハイスクールD×Dに限りなく酷似した世界だって事になる。

 

それは最大のチャンス!と思って、俺に赤龍帝の籠手をくれと言ったら、それは無理だと言われた。

なんでも、俺のずっと前に転生した奴がいるらしく、そいつに赤龍帝の籠手が宿っているとの事。

しかも、そいつの籠手は原作には無いような様々な能力が付加されていて、原作以上にチートになっているらしい。

 

それじゃあ『王の財宝』とか『無限の剣製』とか欲しいって言ったら、それもダメって言われた。

どうしてか聞いたら、俺の前の転生者に宿っているからダメだってさ。

 

どういう事だよ!?赤龍帝の籠手に加えて、他の能力まで持ってさ!どんだけチートすれば気が済むんだ!

 

しかも、その転生者野郎は既に殆どのヒロインを攻略して、見事なハーレムを築いていると言われた。

それを聞かされて、俺は本気で絶望した。

もう俺に勝ち目なんて無いじゃん…。

 

もうハイスクールD×Dは嫌だって言ったら、既に俺がHDDの世界に転生する事は確定しているらしく、もう変えられないって言われた。

 

結局、俺は何の楽しみも無いまま転生する羽目になった。

せめてもの情けとして、身体能力と頭脳のチートは貰ったが、それだけ。

俺には特殊な能力なんて何も無い。

こんなんで、あの死亡フラグ満載の世界を生き残れるのか!?

……な~んて思っている時期もありました。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「はぁ~…」

 

溜息交じりに店のカウンターに肘をつく。

 

「こらぁっ!しゃんとしろ!」

「す…すんません!」

 

て…店長怖え~…。

 

俺は今、バイト先の本屋のレジにて、溜息交じりに立っている。

 

俺が転生してもう16年。

あっという間に高校2年生だ。

 

でも、俺は原作キャラと全く関わっていない。

何故なら……

 

(どうして駒王町の隣町に転生するかな~!?)

 

こんなんじゃ、原作に関わりようがないじゃん!

駒王町に行こうと思えば行けるけど、仮に俺が行っても完全に部外者だし、下手に名前なんて呼べば確実に不審者扱いだ。

最悪の場合、俺自身がリアスを初めとした原作キャラに敵視される可能性もある。

流石にそれだけは絶対に嫌だ!

 

それ以前に、何の能力も無い俺が行っても足手纏いは確実だしな。

二回目の人生ぐらい、ちゃんと天寿を全うしてから死にたい。

 

え?ハーレム?そんなもの、とっくに諦めたよ。

第二の人生を過ごしながら考えたけど、俺なんかにハーレムなんて無理だろ。

変に複数の女の子に現を抜かすぐらいなら、本当に好きな子を全力で好きになった方がずっとマシだ。

なんで、こんな当たり前の事に転生前に気が付かなかったかな…。

 

俺が中学生になった時、神から連絡があって、俺の前に来た転生者の特徴を教えられた。

 

性別は女で、凄く背が高いらしい。

黒い髪で眼鏡を付けていて、鋭い目つきが特徴。

で、左腕には謎の腕袋をつけて、右手首には大きく赤い腕輪を装着しているんだと。

 

女でハーレムって……所謂『百合ハーレム』ってやつだな。

どんな風になっているのか興味はあったが、それだけで今更原作介入をする気にはなれなかった。

命は大事に……だ。

 

「あぁ~……なんで俺は折角の休みの日にバイトなんてしてるんだろうか…」

 

あ、本当はこの日に出る筈だった先輩が、急に家の事情でドタキャンして、その代わりに暇な俺が駆り出されたんだ。

まぁ……暇なのは事実だから別にいいんだけど。

家でボケ~っとゲームをしてるよりはマシか。

 

「ん?」

 

店の自動ドアが開いて、お客さんが入ってきた。

しかも団体さんだ。

 

「いらっしゃ~せ~」

 

完全に条件反射になった言葉を言って、入店してきたお客さん達を見る。

 

「!!!」

 

あ…あれって……まさか……!?

 

「へぇ~…思ったよりも品揃えがよさそうね」

「そうですね。これなら色々とありそうです」

 

リ…リアス・グレモリー!?

その隣にいるのは塔城小猫か!?

しかも、よく見たら、他にも姫島朱乃とかアーシアとかゼノヴィアとかもいるじゃねぇか!

 

「料理の本とかも無いかにゃ?」

「あるんじゃない?ほら、あそこに料理本のコーナーがあるわよ」

 

く…黒歌にレイナーレも!?

なんであの二人が揃ってるんだ!?有り得ないだろ!?

 

「お姉ちゃん。我、あっち見たい」

「私は向こうに行きたいぞ!」

「私は二人について行こう」

 

あ…あれってもしかしてオーフィスか!?

その傍にいる二人の美幼女は誰だ!?

 

「これが地上の本屋ですか。様々な本があるのですね」

 

あの金髪美女って……天使のガブリエルか!?

もう訳分からねぇよ!

 

「み…皆元気だな……」

 

あ、あの疲れ果てたイケメンは木場裕斗か?

いつもならイケメンは敵だって思うけど、今は激しく同情するぜ…。

普通に見たらアイツのハーレム状態なんだろうけど、今の木場裕斗からは完全にパシリの臭いがする。

 

「こうして二人でお店に入るなんて、なんか久し振りだね~」

「だぁな。今度から偶にはこうしてデートでもするか?」

「いいね~!僕は賛成~♡」

 

……あのリア充カップルはなんだ?

一緒に入って来たってことは、間違いなく原作の関係者なんだろうけど…。

金髪僕っ娘美少女と褐色肌のワイルドイケメンのカップル。

悔しいけど、めっちゃ絵になるな…。

 

「ほ…本が一杯ある…。なんだか落ち着きますぅ~…」

 

で、あのさっきからビクビクしている奴は、ハーフヴァンパイアにして男の娘でもあるギャスパーか。

本当に男に見えない。

別の意味で男泣かせだな。

 

そして、あの集団の中心にいて一番背が高い美女が……

 

「ふむ……どこかに効率的なトレーニング方法が書かれた本は無いかな?」

 

眼鏡に黒い髪。

左腕には季節に合わない腕袋をしている。

俺の場所からは見えないが、きっと腕輪もしているんだろう。

じゃあ、あれが……

 

(俺の前に転生した転生者……か)

 

あぁ~……あれは勝目無いわ。

だって、あの子…凄い美人だぜ?

それでいて、どことなく格好良くもあるし。

あれは間違いなく、同性に極端にモテるタイプの女子だ。

体育大学とか行けば間違いなく後輩にキャーキャー言われる子だな。

 

「じゃあ、一旦ここで別れましょうか。買いたい物があったら、それぞれに買いましょう」

「賛成ですわ」

「分かりました」

 

あ、右腕が見えそうだ。

 

「私はどこに行くかな……」

 

見えた……けど、あれって……

 

「お姉ちゃん。我達と一緒に行く」

「分かった。一緒に行こうか」

 

ゴッドイーターの腕輪じゃねぇか!

じゃあなにか!?あの子は神機使いなのか!?

もしかしてアラガミもいるわけ!?冗談じゃねぇぞ!?

 

「あ……」

 

行っちまった……。

 

いやいや……確かに『大きくて赤い腕輪』だけど!

まさかそれが神機使いの腕輪だなんて想像もしなかったつーの!

 

「一体この世界はどうなってるんだ…?」

 

幾らなんでも、これはゴチャゴチャとし過ぎだろ…。

もう意味分からん…。

 

いきなりの事に驚きすぎて、原作キャラに会えた喜びとか、完全にどっかに吹っ飛んだ。

 

少しして、さっきの転生者の子が一冊の本を持ってレジに来た。

 

「これください」

「…………」

「あの……」

「あっ!?は…はい。失礼しました」

 

ヤベェヤベェ……こうして近くで見ると想像以上に美人だから、思わず本気で見惚れちまった…。

 

商品を受け取りながら、そっと彼女の顔を見る。

 

(うわぁ……睫毛長ッ!肌も超白いし……髪もサラッサラじゃねぇか…。なんか、この子に惚れる子達の気持ちが分かる気がするな…)

 

レジを操作しながら密かに観察する。

 

(つーか胸もでかいな!?絶対にリアスクラスの大きさだろ…。腰も細いし、全体的にスタイル良過ぎだろ…)

 

こんな美人と付き合えたら、絶対に勝ち組だろうな…。

 

「……どうしました?」

「はえっ!?」

 

ば…バレた!?

怒られるかな……?

 

「私の顔に何かついてます?」

「い…いや、別にそんな事は……」

 

よ…よかった~……バレてなかった~…。

思ったよりも鈍感なのか?

 

「お客さんがあまりにも美人だから、思わず目線が行ってしまって……たはは~…」

 

って!いきなり何を言ってんだ俺は~!?

これじゃあ、思いっきりナンパじゃねぇか!

 

「び…美人ですか……」

 

あ……照れてる。

 

(か…可愛い……)

 

さっきまではイケメン系美人だったのに、照れて女の顔になった途端に可愛くなった…。

なんだよこのギャップ……。

 

このままじゃなんかヤバい!

 

そう思って、俺は急いで本を袋に入れた。

 

「え…えっと……648円になります!」

「はい」

「ちょ…丁度ですね!レシートです!ありがとうございました!」

「は…はい……」

 

なんか、まとも顔を見れない…。

 

彼女は呆けながらレジから離れていった。

 

その後にもリアスを初めとした女性陣がやって来たが、不思議と彼女の時のように緊張はしなかった。

 

全員が買い物を済ませてから、揃って店を後にしたが、どうにも彼女の顔が目に焼き付いて離れなかった。

 

「はぁ~……」

「おい田中」

「はい?って、先輩!?」

 

いきなり俺の後ろに来たのは、バイトの先輩だった。

 

「なんだよ~、あの美女や美少女の集団は~」

「知りませんよ……」

 

俺の方が聞きたいっつーの。

 

「しかも、お前……あの眼鏡かけた背の高い美人と見つめ合ってたろ?」

「んな事してねぇっスよ!」

 

いきなり何を言い出すんだ、この人は…。

 

「ちくしょ~!あの瞬間だけでも俺がレジをすればよかったなぁ~!」

「そっちが俺にレジを押し付けたんじゃねぇっスか……」

「うっせ!」

 

うげっ!?く…首が締まる…!

 

にしても、同じ転生者なんだし、せめて名前ぐらいは知りたかったなぁ~……。

また会う機会は……ないだろうなぁ~。

なんたって、向こうは原作にどっぷりと浸かってるっぽいし。

丁度この時期だと、冥界に旅行に行く頃か?

 

これからも、俺が知らない所で物語が進んでいくんだろうな…。

 

 

 




今回出て来た田中君は、これっきりのスポット参戦キャラです。

田中「えっ!?マジで!?」

マジです。

田中「うそ~ん!」

そんな訳で、彼の出番はこれで終了。

因みに、彼の名前は適当に考えました。


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第72話 冥界再び

めっちゃ久し振りな更新です。

お待たせして申し訳ありません。

これからは機を見てちょくちょくと更新していきたいと思います。






 学校が夏休みに突入し、全ての準備を事前に終えていた私達は、早速リアスの実家がある冥界に行くことに。

 

どんな風にいくのかな~…と思っていたら、意外な場所に連れて行かれた。

 

「ここは……」

「普段から私達もよく利用している駒王駅だにゃ……」

 

構内には様々な土産物屋を初めとしたお店が沢山並んでいて、駅としてだけでなく、ちょとしたショッピングモールとしての機能も持っている駒王駅。

用事がある時はよく学校帰りや休みの日などに来る、勝手知ったる場所だ。

 

「意外な場所過ぎて、なんだか拍子抜けだな…」

「私なんか、また魔法陣などを利用して行くものだと思ってました…」

 

教会組の二人がそんな感想を抱くのも無理は無い。

私だって同じことを想像したし。

 

因みに、私達学生組は夏休みだと言うのに制服姿だ。

リアス曰く、学生である私達には制服こそが正装……なんだそうだ。

確かに、私が持っている制服って言えば、学生服を除けばフェンリル専用の制服しかないし。

 

黒歌やレイナーレを初めとした学生以外の面々は、各々で涼やかな服装をしている。

一番新しい同居人であるガブリエルさんは純白のワンピースに麦わら帽子と言った感じで、見た目からして『THE・清純派』オーラが全身から滲み出ている。

そのせいか、道行く男共がガブリエルさんを横目で見る見る。

 

「冥界に行くのに駅に行く…か。もうあっちも俺が住んでた頃とはすっかり様変わりしてんだな……」

「そりゃ、あれから数百年経過してるしね。冥界だって現世に合わせて近代化ぐらいするでしょ」

「だよなぁ~…」

 

ルシファーさんは感慨深いのだろうか。

なんせ、彼にとっては本当に久し振りの里帰りみたいなものだし。

 

「リアス、なんで駅来る?」

「ふふ…。ついて来れば分かるわよ、オーフィス」

「「「???」」」

 

幼女組は揃って疑問符を浮かべてる。

思わせぶりな言い方が、またなんともよく似合ってる。

 

「それじゃ、行きましょ」

 

リアスを先頭に、私達は揃って駅の中に入る事に。

つーか、もう完全に大所帯になってるよな…。

明らかに目立ってるし。

 

そのままついて行くと、見えたのは構内にあるエレベーター。

確か5人乗りで、仮に乗るとしても、一度じゃ乗り切れない。

 

「それじゃあ、まずは私にお姉ちゃん、アーシアにゼノヴィア、それから……」

「リアス。オーフィスちゃん達は一度に二人以上乗っても大丈夫なんじゃないかしら?」

「それもそうね…。じゃあ、一緒に行きましょうか?」

「「「うん!」」」

 

そんな訳で、最初に乗るのは私とリアスとアーシア、それとゼノヴィアと幼女組の三人になるみたいだ。

 

リアスがボタンを押すと、扉が開き揃って中に入る。

 

「朱乃、裕斗、二人は他の皆をお願いね」

「分かりましたわ」

「了解です」

 

扉が閉まる前に眷属二人に頼みごとをするリアス。

二人じゃないとダメなのか?

 

扉が閉まった後、リアスが徐にスカートのポケットから真っ赤なカードを取り出した。

 

なんだあれ?エレベーターでクレジットカードの類を出すわけないし……。

 

「お~…なんだそれは?」

「これはね、こうするのよ」

 

レドの好奇心に溢れる瞳に応えるように、リアスはエレベーターの中に設置してある電子パネルにカードを翳し、同時に電子音が鳴る。

すると、いきなり……

 

「えっ!?」

「きゃっ!?」

「これは……」

 

本来なら上がる筈のエレベーターが下降し始めたのだ。

 

「ど…どういうことだ?駅は二階建てで、構内の見取り図にも地下の存在は書かれてない筈だが……」

「表向きはね。でも、この駒王駅の構内には秘匿されている階層が存在するのよ」

「そんなものが……」

「驚くのも無理ないわ。だってこれは悪魔専用のルートですもの」

 

その一言で納得してしまう辺り、私も完全に『そっち側』にどっぷりと浸かってるんだろうなぁ~…。

 

「これ以外にも、街中には設計段階から悪魔専用のルートとして確立している場所が結構あるのよ?」

「知らなかった……」

 

私、もう駒王町に住んで3年近く経つんですけど?

そんなの今の今まで全然知らなかったよ…。

 

「凄いな~!まるで秘密基地みたいだ!」

「我、興奮する」

「私もだ!なんだかワクワクするな!」

「喜んで貰えてよかったわ」

 

子供(?)達は楽しそうでいいなぁ~。

きっと、毎日が新しい発見の連続なんだろうな。

ちょっと羨ましい。

 

少ししてエレベーターが停止して扉が開く。

エレベーターから降りると、そこは上の階と変わらない程の近代的な空間になっていて、見た目だけなら人間達が利用する駅と大差無いと言える。

 

「「「おぉ~!」」」

「ほぅ……」

「まぁ……」

「凄いな……」

 

リアスを除く私達は全員が驚きを隠せなかった。

子供達なんて目をキラキラさせちゃってるもん。

 

少し待つと、後続の皆がやって来た。

 

朱乃と裕斗が先導してきたようで、二人が集団の中心にいた。

 

「マジかよ……」

「ほぇ~……悪魔達もやるね~」

 

昔から悪魔たちの事を知っているヤハウェとルシファーさんは子供達と似たり寄ったりの反応をした。

こんな二人も新鮮で珍しい。

 

「駅の地下にこんな空間が……」

「驚きだにゃ……」

「ブルジョアの成せる技ね」

「レイナーレさん、毒づいてはいけませんよ」

 

猫姉妹は目を見開いて驚いて、レイナーレは思いっきり睨んでる。

で、ガブリエルさんはそれをフォローする…と。

天使が堕天使をフォローするって…。

 

「ひ…広いぃぃぃ~……落ち着きません~!」

「広いだけで落ち着かないってどんだけだよ…」

 

ギャスパー君はぶれないなぁ~。

もう完全に保護者ポジですね、アザゼルさん。

けど、それよりも気になる事が……

 

「はぁ……どうしてここにいるんだろ……」

 

なんでさっきまでいなかった筈のヴァーリがここにいるの?

恰好は完全に私服だけど。

 

「ん?こいつか?」

「えぇ…。なんで彼女がここに?」

「いやな、本当は最初から来させるつもりだったんだが、最後まで渋りやがってな。だから、もしも来なかったら今年一年外出禁止だって言ったら、エレベーターの乗る直前に来たんだよ。どうやら、ギリギリまで悩んだらしいな」

「当たり前よ。何が楽しくて私がこいつ等と一緒に……」

「なんて言って、マユの嬢ちゃんの名前を出した時、嬉しそうにしやがったじゃねぇか」

「そ…そんな顔なんかしてないし!」

「してました~!」

「し~て~な~い~!」

 

………なんでだろう。

すっごい和む光景なんですけど。

 

「まさか、白龍皇を見てほんわかする日が来るとは思いませんでしたわ…」

「ほのぼのオーラ全開ですね…」

 

楽しそうで何よりですこと。

 

「い…意外な人物が合流したけど、取り敢えずはこれで全員集合したわね」

 

リアスも聞かされてなかったぽいな。

明らかに動揺してるし。

 

「じゃ、今から3番ホームに向かうわよ」

「「「は~い!」」」

 

うむ、元気でよろしい。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

 またまたリアスの先導の元に進んでいくと、私達の眼前に現れたのは、一両の列車だった。

けど、それはどう見ても普通の車両じゃなかった。

所々に金色の装飾が施されていて、列車自体は真っ赤に染まっている。

トドメに、側面に前に見たグレモリー家の紋章と、もう一つ、見た事があるような無いような紋章が描かれていた。

 

「こいつは……サーゼクスの紋章か…」

 

え?これがサーゼクスさんの紋章?

あの人って個人で紋章とか持ってるの?

魔王マジパネェっす。

 

「これはグレモリー家が所有している特殊車両よ」

「ブルジョア全開ね」

 

レイナーレは本当に金持ちが嫌いなんだな…。

割とウチも金持ちの部類に入るって思うんだけど。

 

「早く入りましょ。もうすぐ出発する筈よ」

 

ありゃりゃ。そいつは急がないと。

 

んじゃ、とっとと入りましょうかね。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 私達が車内に入って席に座ると同時に、汽笛が鳴った。

 

「生の汽笛とか初めて聞いたな…」

「私もです。電車には汽笛がありませんからね」

「現代人ならではの会話だにゃ」

 

それは言わないお約束だって。

 

現在、私達は中央付近から後ろの車両にいる。

眷属を初めとした面々は中央から後ろ車両に行き、グレモリー家の一員であるリアスは一番前の車両に行った。

行く際にリアスが悔しそうにしていたが、これはしきたりだから仕方が無い事なんだとか。

 

私は白音と黒歌、それと龍神な幼女組と一緒に座っている。

他は、アーシアとゼノヴィア、レイナーレがヴァーリと一緒に座って、朱乃とガブリエルさんが一緒の席にいる。

アーシア達は普段から気が合っているせいか、話に花が咲いていて、それを呆れた目でヴァーリが見ている…と言う図が出来上がっていた。

それは朱乃達も同様で、雰囲気が似ている者同士、妙にウマが合っているみたい。

 

裕斗はギャスパー君と一緒にいて、落ち着かなくて怯えている彼を宥めてくれている。

なんつーか…裕斗は変に貧乏くじを引きやすい傾向にないか?

いつかちゃんと労ってあげないと。

 

そして、大人組であるアザゼルさんと我が両親であるルシファーさん&ヤハウェのバカップルは、意外と普通の話をしていた。

政治的な話でもすると思っていたけど、あの三人も公私をちゃんを分けているみたいだ。

 

「さっき朱乃が言ってたけど、冥界には約1時間ぐらいで着くらしいにゃ。なんでも、この列車は次元の壁を越えて正式な方法で冥界に到着するようになってるって」

「正式な方法……」

 

あれ?それじゃあ、ずっと前に私が冥界に来た時って、不法侵入になっちゃう?

 

「どうしました?」

「え?いや…なんでもない」

 

で…でも、あれは時代的にかなり前の事だし問題無い……よね?

 

「我、冥界初めて」

「私も!おぉ~!早い早い!」

「ははははは!」

 

はしゃいでるな~。

無邪気な笑顔は子供の最大の特権だよね。

めっちゃ癒される…。

 

「しかし、その気になれば魔法陣などで転移は出来るんじゃ?何故に態々列車で…」

「別にそれでも問題は無いんですけど、お姉ちゃんを初めとした方々は、最低でも一回は正式なルートで冥界に入り、きちんとした入国手続きをしなくてはいけませんの。所謂、通過儀礼のようなものですわ」

 

いつの間にか朱乃が傍まで来ていて、丁寧に説明してくれた。

 

「なるほどな…。その辺りは地上の各国と大差ないんだな」

「天界や冥界を初めとした場所と地上は表裏一体。地上で考えられた機能などを逆輸入する事も珍しくないのです」

 

今度はガブリエルさんだ。

二人揃って説明役が板についてる。

 

「じゃあ、あのミカエルさんもパソコンを使ったりするんですか?」

「はい。ちゃんとインターネットも使用可能ですよ」

「天界のイメージが崩れるにゃ…」

 

もうちょっと神秘的な場所を想像してたけど、もしかしたら冥界同様に近代的な場所なのかもしれない。

 

ある程度説明を終えると、二人は私達の後ろの席に移動した。

 

さて、こんな時の為に持って来たお菓子でも食べながら、のんびりとしようかな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 途中、レイナルドと名乗るおじいさんの車掌さんがやって来て、機械で私達をスキャンし、入国手続きが完了した。

手続きも近代的で、拍子抜けしてしまった。

 

発進してから約40分。

アナウンスが流れると同時に次元のトンネルを抜けて、窓から豊かな自然の光景が見えた。

空の色が紫である事を除けば、実に自然豊かな場所だ。

 

最近になって温暖化に悩まされる地上とは大違いだな。

 

「ここがグレモリー領になりますわ」

「ふぇ~…広いにゃ~…」

「領土はどれぐらいあるんですか?」

「分かりやすく言うと……日本の本州と同じぐらいかしら?」

「「「ブッ!」」」

 

ほ…本州と同じとなっ!?

幾らなんでも広すぎだろ!?

思わず吹いちゃったよ!

 

「冥界の広さ自体は地球と同じぐらいなんですけど、地上とは違って人口はあまり多くなくて、しかも海がありません。ですから、いくら領土が広くても、その殆どが手付かずの状態で放置されているに等しいんです」

「冥界も冥界で色々と問題を抱えてるんだな……」

「きっと、そこは天界冥界地上問わず、どこでもある事でしょう」

 

ガブリエルさんが言うと説得力絶大です。

 

「ん……」

「マユさん?どうしました?」

「もしかして、眠いのかにゃ?」

「あぁ……」

 

この程よい列車の揺れが急に眠気を誘ってきた…。

 

「到着まであと少しありますから、少し仮眠したらいいですわ」

「そう…させてもらおうかな……」

 

やばい……自覚したら一気にきた…。

 

瞼が徐々に重くなってきて、私は睡魔に逆らわずに、そのまま目を閉じた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 

「マ…さん。…ユさん」

 

ん……?この声は……。

 

「マユさん。起きてください」

「白音……?」

 

なんだろう……上の方から聞こえる…?

 

ゆっくりと目を開けると、顔に柔らかい感触があった。

 

「起きましたか?」

「え……?」

 

目の前には黒歌の膝がある。

と言う事は、この感触は……。

 

「す…すまない…」

「気にしてません。寧ろ、眼福でした」

「え?」

 

どうやら、いつの間にか私は白音に膝枕をしてもらっていたみたい。

悪い事をしちゃったな…。

 

「白音が羨ましいにゃ~…」

「ふふ……自分の席順を恨んでください」

 

何の話をしてるんだ?

 

「それよりも、もう到着したにゃ」

 

到着って……冥界に着いたって事?

 

「部長達はもう下車する準備をしてます。私達も急ぎましょう」

「分かった」

 

私のせいで迷惑は掛けられないからな。

 

「あれ?アザゼルさん達は降りないのですか?」

 

急いで荷物を持って出口に急いでいると、大人組が変わらず座ったままだった。

 

「おう。俺はこれからサーゼクスと会談をしなくちゃいけねぇからな。一時的に別行動になる」

「僕とルー君も一緒に行く予定だよ」

「一応、クレイドルの運営をするって言ったからな。お前の親としてやるべき事はしないとな」

「ほんと、思った以上に様になってやがるよ、お前等は」

「そのセリフ、そのままアザゼルに返すよ」

「うっせ」

 

実際、アザゼルさんみたいなお父さんだと、毎日が賑やかで楽しそうだけど。

 

「ほれ。俺等の事はいいから、とっとと降りろ」

「あ…はい」

 

今はリアス達を待たせてるんだった。

モタモタしてたら運転手の人やレイナルドさんにも迷惑を掛ける。

 

「それじゃ、私達は先に行きますね」

「あぁ。ゆっくり休めよ」

 

少し早歩きで私達は列車を降りた。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「済まない。待たせた」

「別にいいのよ。気にしてないわ」

「そ…そうか?」

 

それならいいんだけど、なんで皆して顔がホコホコしてるの?

 

(ふふふ……♡お姉ちゃんの寝顔を携帯で撮れたんですもの。ちょっとぐらいの事なら余裕で許しちゃうわ♡)

(でも、意外でしたわ。まさか、ヴァーリさんも一緒になってお姉ちゃんの寝顔を撮るなんて)

(べ…別にいいでしょ!?減るもんじゃなし!)

 

ヴァーリ……なんか照れてない?

 

「さて、お姉ちゃんたちも来たことだし、行きましょうか」

 

駅のホームに降り立ち階段を下りていくと、構内に沢山の人だかりがあった。

中には兵隊っぽい人達もいる。

なんだろうと小首を傾げていると、次の瞬間……

 

「「「「「お帰りなさいませ!!!リアスお嬢様!!!!」」」」」

 

いきなり、全員が揃って大声を上げた。

反射的にビクッってなってしまった。

 

 

 

 

 

 




久し振りの更新、いかがでしたでしょうか?

プロット自体は出来上がっていたので、殆ど迷う事無く指は動いたんですけど。

次回更新は未定ですが、可能な限り早くしたいと思います。


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第73話 グレモリー家にご招待

よく古いゲームを『レトゲー』って言いますけど、今の時代、一体何処までが『レトゲー』なんでしょうね?
プレステまで?それともセガサターン?






 駅に着くな否や、いきなりの大声で出迎えられる。

突然の出来事に、リアスと朱乃と裕斗以外の全員の目が文字通り点になった。

 

「な…なんなんですか?」

「ビックリしたにゃ…」

「ふぇぇぇぇぇ~!!!」

 

ギャスパー君に至っては完全に怯えて私の後ろに隠れてしまったし。

あ~あ~、こんなに震えちゃって。

 

兵士のような人々は綺麗に整列していて、その手に握っている楽器で見事な音楽を奏でている。

他には執事やメイドの姿をした人達がニコニコと微笑みながら拍手をしていた。

 

その殆どの目線がリアスに注目していたが、その中の数名が私を見た途端に固まった。

 

「お…おい…あの女性は……」

「間違いないわ……あの方こそ……」

「冥界の英雄にして、伝説の赤龍女帝!」

 

冥界の英雄って……。

 

「マユさんは冥界ではどんな風に言われているんでしょうね?」

「あまり考えたくない…」

 

確実に黒歴史確定だろうから。

そういや、私に関する書籍や映像なんかも勝手に製作したって言ってたっけ。

冥界に来た以上、目にする機会があるんだろうか…。

 

「あ~…ビックリさせちゃったみたいね。ごめんなさい」

「いや……大丈夫だ」

「でもギャスパーは……」

「大丈夫だ」

 

そう言い聞かせないと、ここから先持ちそうにない。

 

リアスの先導に任せようと思っていると、奥の方から見覚えのある人影がやって来た。

 

「お帰りなさいませ、リアスお嬢様。そして、よくぞいらっしゃいました。マユ様」

「ただいま、グレイフィア」

「ご無沙汰してます」

 

どうやらグレイフィアさんは私達を迎えに来てくれたようで、そこから私達を先導して駅を出た。

その時に見たけど、駅の構内も私達が普段使用している駅とそっくりだった。

成る程、表裏一体とはよく言ったもんだ。

 

駅を出ると、そこにはとても大きくて豪華絢爛な馬車が待っていた。

馬車に繋いである馬も筋骨隆々で大きく、明らかに地上の馬とは違っている。

 

「グレモリー領まではこれでいきます。どうぞお乗りください」

 

馬車は二つ用意してあって、片方にリアス達グレモリー眷属と私と白音、黒歌とアーシアとゼノヴィア、そしてグレイフィアさんが乗る事に。

もう片方に残りの全員が搭乗した。

 

「では、出発いたします」

 

え?もしかしてグレイフィアさんが馬車を動かすのか?

今時のメイドはこんな事も出来るんだ…。

もう一台の馬車の方にもメイドさんが乗ってたし…。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 初めての馬車に体を固くしながら乗っていると、ふと窓から外の景色が目に入った。

 

道自体はとても綺麗に舗装されていて、こうして乗っていてもあまり揺れを感じない。

列車の時と同様に、景色は空が紫である事を除けば非常に自然豊かで穏やかに感じる。

これが冥界の景色だと言って誰が信じるだろうか。

 

「ん?あれは……」

 

正面の方から凄く大きな城のような建築物が見えた。

ああいった所は中世のヨーロッパみたいなんだな。

 

「あのお城は……」

「あれがグレモリー家の本邸で、家の一つなの」

「い…家の一つ!?」

「お城が本邸って……」

 

お貴族様は家一つとっても庶民とはスケールが違いますな。

物的な意味でも、思考的な意味でも。

 

そのまま馬車は進んでいき、花々が咲き乱れる城の庭と思わしき場所に停車、そこに降り立った。

後ろからもう一台の馬車もやって来て、同じように停車し、中にいる皆が降りてきた。

 

目の前には大勢のメイドさんと執事が両脇に並び立ち、まるでモーゼの海割りを思わせる光景だった。

その中央には真紅に染まったカーペットが地面に敷いてあり、それが城の方まで延々と続いている。

 

グレイフィアさんが城の城門の前に立つと、鋼鉄製の門が重苦しい音を立てながらゆっくりと開門した。

 

「では、お嬢様に眷属の皆様。そして闇里家の方々。どうぞお進みください」

 

グレイフィアさんの会釈を合図にして、私達は歩き出す。

先頭はリアスで、その後ろに私達がついて行く形に。

 

「緊張すると言うか、恥ずかしいと言うか……」

「こんな形でギャー君の気持ちが理解できる日が来るなんて……」

「これからはもう馬鹿には出来んな……」

 

いやいや、最初からバカにしちゃ駄目でしょ。

 

「そのギャスパー君はどこにいますの?」

「さっきからずっとマユ先輩の後ろにいて、服にしがみ付きながら歩いてます」

 

そうなんです。別に隠れるのはいいけど、あまり服は引っ張らないでほしい。

服って伸びたら簡単には戻らないんだぞ?

 

そうして歩いていると、メイド達の列の影から一つの小さな人影がリアスに向かって飛び出してきた。 

 

「リアスお姉さま!お帰りさない!」

「ただいま、ミリキャス。少し見ない間にまた大きくなったみたいね」

 

お姉さまとな?

この赤い髪の男の子は一体……?

 

「リアス。この男の子は誰なの?」

「この子の名前は『ミリキャス・グレモリー』。お兄様の息子で、私にとっては甥っ子に当たる子よ」

「リアスの甥……」

 

つーか、サーゼクスさんって子持ちだったのか。

思ったよりもお盛んなことで。

でもそれって、グレイフィアさんの息子でもあるんだよね。

 

「あ!?」

 

リアスに抱き着きながら、ミリキャス君の目線がこっちを向いた。

 

「リアスお姉さま……この方はもしかして……」

「そう。あなたも大好きな赤龍女帝の闇里マユさんよ」

「やっぱり!」

 

お?なにやら興奮した様子でこっちに来たぞ。

 

「あ…あの……僕はミリキャス・グレモリーといいます!初めまして!赤龍女帝様!貴女のお噂は沢山聞いていて、それで……えっと……」

 

……私ってそんなにも緊張するようなキャラ?

ちょっとショック…。

 

「初めまして。私は闇里マユだ。出来れば私の事は赤龍女帝じゃなくて名前で呼んで欲しいな?」

「よ…よろしいんですか!?」

「勿論だ」

 

腰を低くして頭を撫でてあげると、目を細くして気持ちよさそうにしていた。

 

「わ…分かりました!マユ様!」

「様は取れないのか……」

 

本当は『様』もなんとかしてほしかったけど。気にしたら負けか。

 

「出来れば、私の妹達とも仲良くしてあげてくれ」

「妹……ですか?」

 

見た目的な年齢じゃオーフィスちゃん達とミリキャス君は同じ位だと思う。

きっといい友達になれるだろう。

 

「この子達だ」

「あ……」

 

私が傍にいるオーフィスちゃん達に目線を向けると、彼の目線も同じ方向を向いた。

三人を見た途端にミリキャス君の顔が赤くなった。

 

「三人とも、自己紹介」

「ん。我、闇里オーフィス」

「私は闇里レドだ!」

「闇里ティア。よろしくな」

「ミ…ミリキャス・グレモリー…です…」

 

あ…あれ?今度は急に縮こまってしまったぞ?

 

「ミリキャス……あなたもしかして……彼女達を見て照れてるの?」

「そ…それは……!」

 

図星だったようだ。

 

「あらあら。これはオーフィスちゃん達のボーイフレンド候補の誕生でしょうか?」

 

ボーイフレンド……か。

確かに、この子達にも異性の友達がいてもいいかも。

そこから学べる事も沢山あるだろうし。

 

「まさか……この子達の誰かが将来の私の義娘に……」

 

そんでもって、グレイフィアさんはさっきから何を呟いているんだろう?

 

因みに、サーゼクスさんの子供であるにも関わらず何故彼が自分の事を『グレモリー』と名乗っているのかと言うと、本来『ルシファー』と言う名前は歴代の魔王にしか名乗る事が許されないから。

謂わば『ルシファー』とは名前と言うよりは称号に近い名称なのだ。

とどのつまり、ミリキャス君はリアスの次の次期魔王候補って訳なのね。

 

「そろそろ屋敷内に入りましょうか」

 

そう言うと、リアスはミリキャス君の手を繋いで歩き出し、私達もそれに続く。

歩いている間、彼はずっとオーフィスちゃん達の事をチラチラと見ていた。

これはもしや……本当に脈アリか?

 

巨大な門をくぐって、更にそこから幾つかの小さな門をくぐっていくと、大きな西洋風の扉があった。

それを開けて中に入ると、そこにはとても大きな玄関ホールが。

真上にはキラキラと眩しいシャンデリア、目の前には二階に続いていると思われる大きな階段もある。

勿論、床にはさっき見たカーペットと同じ種類の物が所狭しと敷かれていて、この間テレビで見た外国の貴族のお屋敷を彷彿とさせる。

よもや、自分がこんな場所に来る日が来るとは……。

 

「お嬢様。皆さまもお疲れでしょうし、ここはまずお部屋にご案内しようと思うのですが」

「それがよさそうね。私やお姉ちゃんはともかく、アーシアや子供達は疲れているだろうし」

 

私はともかくってなによ。

私だって疲れる時ぐらいはあるんだよ?

 

「そうだ。お父様とお母様に帰省の挨拶をしたいと思うんだけど、今はいらっしゃる?」

「旦那様は私用にて現在外出中です。お帰りになられるのは夕刻ぐらいになると聞いています。夕餉の時に会食をしながら皆様と顔合わせをしたいと仰られておりました」

「分かったわ。なら皆には一先ず休んでもらう事にしましょうか。もう荷物の方は部屋に運び込んであるんでしょう?」

「はい。客室の方はすぐに使用出来るようにしてあります」

 

スゲー……これだけ大きい屋敷だと、客室だってかなり多いだろうに。

それを予め使用可能にしてあるって……グレモリー家のメイドが凄いのか、それともメイドの人数が単純に多いのか。多分、両方だろう。

 

まぁ、実際のところ、私も気疲れはしてたんだけどね。

普段から学校で他者からの視線には慣れてるけど、あそこまで集中的に見られたのは初めてだったし。

私でこうだったんだ。他の皆も同じぐらい……いや、それ以上に疲れているだろう。

早く休ませてあげたい。

 

グレイフィアさんの案内で各々に割り当てられた部屋に向かおうとすると、階段の上から煌びやかなドレスを纏ったリアスにそっくりな女の子が降りてきた。

二人の違うところと言えば、目つきの鋭さと髪の色ぐらいか。

降りてきた子は髪が亜麻色に染まっている。

 

「あら……リアス。お帰りさない」

 

もしかして、彼女はリアスのお姉さんかなにかかな?

でも、今までそんな話は一度も聞いた事ないよな?

 

「只今帰りました。お母様」

「「「「「「!!?」」」」」」

 

い…今……なんつった?お母様?そう言ったのか?

 

「お…お姉さんじゃないのか?」

「あらお上手」

 

クスクス……と優雅に微笑む姿は、とても綺麗で可愛らしい。

これで高校3年生の娘がいるって言われてもね…。

 

(いや、私の義両親も他人の事は言えないか)

 

神と魔王だからと言えばそれまでだが、それでもあのバカップルはとても若々しい。

実際、授業参観の時も注目を浴びていたし。

 

「見た目年齢で悪魔は判断してはいけないようだな…」

「混乱してきました~…」

 

でしょうね。

私も混乱してきたよ。

サーゼクスさんも見た目通りの年齢じゃない事は確実だろうし。

 

「貴女が噂に名高い赤龍女帝ね?」

「え?」

 

あやや……急に目の前にまで近づかれてしまった。

心なしかいい香りがするし。

 

「初めまして。私がサーゼクスとリアスの母親の『ヴェネラナ・グレモリー』です。貴女の事は息子や娘、夫からよく聞いています」

「は…初めまして。闇里マユ…です」

 

なんと申しますか……どことなく雰囲気がサクヤさんに似てる気がする。

妖艶と言うか、包容力があるって言うか…。

グレイフィアさんもそうだったけど、人妻って皆こうなのか?

 

「へぇ~…成る程ねぇ~…」

「な…なんですか?」

 

目が細くなってニヤニヤしている。

私ってば何かした?

 

「こうして近くで直に見ると納得だわ」

 

何が?

 

「貴女みたいな女の子の事を『おっぱいのついたイケメン』って言うのね」

「は?」

 

この人はいきなり何を仰ってる?

イケメンって『イケてるメンズ』の略称でしょ?

それって本来は男に対して使う言葉だろう?

確かに私は男勝りであるって自覚してるけど、それでも一応は女の子なんですよ。

 

「奥様。マユ様が困っています」

「あら?グレイフィアもマユちゃんにお熱なの?」

「な…何を仰るんですか!?」

「お母様!お姉ちゃんをあまりからかわないでください!」

「はいはい♡」

 

絶対に分かってないだろ。

この屋敷にいる間はこの人には注意するようにしよう。

 

「これからも私の子供達をよろしくお願いしますね?」

「こ…こちらこそ」

 

ズイズイと来る人だな。

前にサカキ博士と話した時に似てる。

 

「そして」

「ん?」

 

今度はなんだ?

 

「ミリキャスにも春が来たみたいね?」

「はうっ!?」

 

次のターゲットはミリキャス君か。

私からは頑張れとしか言えない。

 

「この子達がマユちゃんの妹さんかしら?」

「あ……そうです」

 

大丈夫だろうか…?

一応は促しておくか。

 

「皆」

「ん。分かってる」

 

ほっ……よかった。

失礼な態度を取ったりしたらどうしようかと思ったよ。

 

さっきと同じように自己紹介する三人。

すると、ヴェネラナさんはさんの頭を優しく撫でた。

 

「これからもウチの孫のミリキャスと仲良くしてあげてね?」

「「「うん!」」」

「フフ……可愛い子達ね♡」

 

にしても、この容姿で孫持ち…か。

世の男共が聞いたら月までぶっ飛ぶな。

 

「初曾孫はいつかしらね~?」

「幾らなんでも話が早すぎです!!!」

 

リアスがここにいる全員の心を代弁してくれた。

彼女が言わなければ、絶対に私がツッコんでいたよ。

 

「この方がヴェネラナ・グレモリー…。私も彼女に関する噂なら何回か聞いた事はありますけど、どうやら噂通りの女性だったみたいですね…」

 

どんな噂なんですか、ガブリエルさん。

 

「こちらこそ。貴女の話は昔から聞いてますわ。ミカエルの右手と言われているガブリエルさん?」

「ホホホホホ……」

「ウフフフフ……」

 

こ…怖い?

二人の間に火花が見える…。

 

「え~…コホン。流石にもうそろそろ……」

「あら、それもそうね。ごめんなさい」

 

やっとこの流れが断ち切られたか…。

このまま夕食の時までここで過ごす羽目になるかと思って冷や冷やした。

 

「では、これよりお部屋にご案内致します」

「私はこれで失礼するわね?夕食の時にまた会いましょう」

 

そう言うと、ヴェネラナさんは来た時と同じように優美に去っていった。

 

何とも言えない空気から解放された私は一気に疲れてしまった。

それは他の皆も同じだったみたいで、一番疲れていたギャスパー君なんか完全に沈黙していた程。

 

こうして、冥界に来てから早速色んな意味で刺激的な歓迎をされた私達だった。

 

今はとにかく横になりたい…。

 

 

 

 

 

 

 




なんか最近、人妻&年上キラーになりつつあるマユ。

華の女子高生として、これってどうなんでしょう?


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第74話 貴族の食事

もうすぐ年末ですね…。

今年も長いような短かったような、そんな一年でした。







 玄関ホールにてリアスのお母さんとまさかの出会いをした私達は、グレイフィアさんを初めとしたグレモリー家のメイドさん達に案内されて、それぞれに用意された部屋へと案内された。

 

「マユ様のお部屋はこちらになります」

「ありがとうございます、グレイフィアさん」

 

グレイフィアさんが部屋のドアを開くと、そこにはとてつもなく豪華な部屋が広がっていた。

なんつーか……キラキラとしたエフェクトが見えそうなレベルの高級さだ。

 

「おぉ~……」

「この部屋にある物はお好きにお使いいただいて構いませんので」

「わ…分かりました……」

 

そ…そう言われてもな……ここまで全てが高級だと、触れる事すら躊躇われる。

 

「お食事の時間になりましたらお呼びに伺いますので」

「は…はい」

「それでは、ごゆっくりお寛ぎ下さい」

 

綺麗なお辞儀と共にグレイフィアさんは去っていった。

 

「…………」

 

改めて部屋を見渡すと、既に私が持って来た荷物が置いてあった。

 

「お早い仕事だこと」

 

取り敢えず、ベットまで行ってゴロンと寝転んだ。

わぉ……凄いスプリング。

 

『ふむ……中々にいい部屋を宛がわれたな、雑種』

「これで『中々』なの…?」

 

やっぱ、生前に王様だった人は我々庶民とは金銭感覚が違いますな~。

 

『だが!我の住んでいた宮殿の方がこの数百倍も豪華だったがな!はっはっはっ!』

「ソーデスカー」

 

これの数百倍って…想像も出来んわ。

 

天井もすっごく綺麗だ。

よく見たら、この部屋にも小さなシャンデリアが設置してあるし。

もしかして、他の部屋もこんな感じなのか?

 

「そういや、オーフィス達は三人で一部屋だって言ってたな」

『そ…それは大丈夫なのか?』

「いたずらとかはしない子達だから大丈夫だと思うけど」

『そうかもしれんが……妙に心配だ……』

『変な所で心配性だね~…ドライグは』

『よりにもよってドレイクに言われるとは……』

 

無駄に過保護になりつつあるよね、最近のドライグって。

 

ベットから起きて少しだけ部屋の中を探検してみようか。

 

『確かに金ぴかの言う通り、中々の部屋ではあるな。しかぁ~し!余の設計した部屋の方がもっと豪華絢爛で美しい事は確実だな!』

「ネロまで言うか……」

『そうね。私のお城程ではないけど、いいんじゃない?』

「エリザまで……」

 

このブルジョア王族&お貴族様トリオは……。

 

「このテレビ……最新式か?」

 

これって最近のコマーシャルに出てきている某有名なメーカーの最新機種の筈。

詳しい事は知らないけど、画素数が凄かったような気が…。

 

「こっちの扉は……」

 

金色のドアノブが設置してある扉を開くと、そこには真鍮製の便器があるトイレが。

 

『ご…ご主人様。この便器……パイプ等の部分が全てプラチナで出来てますよ~…。ブルジョアもここまで行くと、嫌味を通り過ぎて清々しさすら感じますねぇ~』

「プ…プラチナ……」

 

私の人生には無縁の単語と思っている物が目の前にあるのか…。

しかもトイレに。

 

「このトイレットペーパーも肌触りがいい…」

『1ロールで幾らするんでしょうか…?』

「下手に考えない方がいいぞ、玉藻。もしも知ってしまったら、なんか後悔しそうな気がする…」

『それには激しく同感です…ご主人様』

 

もう出よう…。

 

トイレを出て次はどこを見ようか考えていると、急にエミヤが叫びだした。

 

『マ…マスター!今度はあそこにあるシステムキッチンを見よう!!』

「う…うん…?」

 

彼がこんなにもテンション上げてるなんて……珍しい。

 

エミヤのリクエストに応えて、部屋に設置せてある煌びやかなシステムキッチンに向かった。

 

『こ…これは!なんて素晴らしいキッチンなんだ!くぅ~…俺に肉体があれば今すぐにでも料理を振舞うものを…!』

 

そ…そこまで悔しそうにするか…。

 

『キッチンの横にある、この冷蔵庫もいい!これだけの大きさならかなりの数を入れられる!』

「開けてみるか…?」

『勿論だ!』

 

何にも入ってないと思うけど、そこまで言うなら開けますか。

 

『なんと!奥行きがあるだけでなく、食材の種類ごとに入れられる場所があるのか!』

 

まるで新しい玩具を見つけた子供みたいに燥いでるな…。

 

『シロウの主夫スイッチが入ってしまいましたか…』

「主夫スイッチって……」

 

アルトリアの口からそんな言葉が出るとは思わなかった。

 

『それに、この部屋も素晴らしい!!』

『なんだ?よもやフェイカー、人並みに高級な部屋に憧れでも抱いていたのか?』

『そうではない!分からんか!?これだけ広い屋敷だと言うのに、隅々まで手入れが行き渡っている!!今我々がいる部屋とて、普段からあまり使用する機会は無いであろうに、埃一つとして落ちていない!これが本職のメイドの仕事と言うヤツか…!まだまだ俺も精進が足りんな…!しかし!この程度で落ち込んではいられん!』

『……貴様はそう言う男だったな…』

『流石の儂も、これは少し引くぞ……』

『…………………』

『普段から無口で意思表示しようとしない呂布さんすらもドン引きしてますよ…』

 

籠手の中は賑やかだな!おい!

 

今まで喋れなかった分、はっちゃけてるのか?

 

こうして、グレイフィアさんが呼びに来るまでずっと英霊の皆の会話を楽しんでいた。

予想外の暇潰しが出来て楽しくはあったけど。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 夕食の時間になり、私達は揃って屋敷内にあるダイニングルームに集まった。

 

非常に大きな高級感溢れるテーブルにリアスを初めとしたグレモリー眷属と客人として来ている私達、そしてリアスのご両親が席についている。

テーブルの上には至る所に高価な食器の上に豪華な食事が盛られており、どれも見た事ない料理ばかりだ。

 

(この各席に並べられたフォークとナイフは……)

 

これって確か、ちゃんとしたマナーがあった筈だよな…?

でも……さっぱり分からなにゃい…(泣)

 

(はぁ……仕方あるまい。雑種、ここは我の指示に従え)

(ギ…ギル?)

(貴様は我がマスターと認めた女だ。食事の席での無様な真似は許さん)

 

ほ…褒められた……のか?

取り敢えず助かった……。

 

ふと目を逸らして窓の外を見ると、紫色の空が暗く陰っていた。

どうやら、冥界にも昼夜の概念は存在しているようだ。

 

「リアスの眷属の諸君。そして、闇里家の方々…今日はよく来てくれた。遠慮無く楽しんでくれたまえ」

 

グレモリー卿のその一言を合図にして、食事が始まった。

 

(まずは外側のフォークとナイフを使え)

(わ…分かった)

 

外側から……ね。よし……!

 

少しだけ皆を見ると、リアスは勿論の事、朱乃と裕斗も丁寧にフォークとナイフを使って食事をしている。

きっと、リアスの眷属になるにあたって、こういった事も勉強したんだろう。

 

一方、アーシアやゼノヴィアは悪戦苦闘しながらなんとか食べていて、白音は黒歌に教わりながら食べ続けている。

ガブリエルさんとレイナーレは慣れた様子で食べている。

その動作はとても自然で、思わず心から感心してしまう程だった。

ギャスパー君はこのような場にまだ慣れないのか、涙目になりながら体を小さくしながら食べている。けど、ちゃんとマナーは守ってるんだよな…。

アザゼルさんに習っているのか、ヴァーリも慣れた様子で食事をしている。

なんか…こうして見ていると深窓のお嬢様に見える。

で、一番心配なオーフィスちゃん達はと言うと……

 

「えっとですね……まずは……」

「ん。分かった」

「なるほどな~」

「勉強になるな。ありがとう、ミリキャス」

「い…いえ……」

 

ミリキャス君に教わりながら、少しずつ食べ進めていた。

 

因みに、この場にはアザゼルさんとルシファーさん、ヤハウェはいない。

まだサーゼクスさん達との会談が終わっていないんだろう。

 

「リアスの眷属諸君に闇里家の方々。何か必要な物があったりした時は遠慮無くメイドに申し付けてくれ。すぐにでも用意させよう」

「そ…そんな…申し訳ないです」

「気にしないでくれたまえ。特に君は三大勢力共通の大英雄であり、私の大事な息子と娘の命を救って貰った恩義もある。寧ろ、この程度では少々申し訳ないとすら思っているほどだ」

 

大英雄って……そんな大袈裟な。

私は私のやるべき事をしただけなのに…。

 

「ところで……」

「はい?」

「妙にミリキャスとマユ君の妹君達が仲がいいようだが、これは……」

「あ~……」

 

なんて説明したらいいのかな…?

 

「簡単に言うと、その子達が将来のサーゼクスとグレイフィアの義娘候補よ♡」

「なんと……もうミリキャスも色恋を覚える年頃か……」

「また言ってるのね……お母様…」

 

リアス、呆れてやるなって。気持ちは痛い程分かるけど。

 

「ミリキャス」

「は…はい!お爺様!」

「お前もグレモリー家の男子ならば、傍にいる女の子を守れるぐらいにならなくてはいけないぞ?」

「わ…分かりました!」

 

こう言ってはなんだけど……オーフィスちゃん達の方がめっちゃ強いです。

完全に見た目も中身も幼女になってるから分かりずらいけど、本当は三人とも世界に名だたる龍だからね?

その気になれば一騎当千とか余裕でこなせるレベルに強いからね?でも……

 

(誰かを守りたいって思いはヒトを何よりも強くする。もしかしたら、ミリキャス君は将来的に大化けするかもしれないな)

 

こんな事を考えるようになるなんて……私も老けたかな?

 

「初曾孫はいつになるか楽しみだな」

「お父様までそれを言うのね…」

 

似た者同士の夫婦ですね。

 

「しかし……そうなればグレモリー家と闇里家は親戚同士になるのか……」

「いやいやいや!もうそこまで考えてるの!?」

 

今日はリアスがツッコむな。実家だからか?

 

「マユ君。もしもよかったら『おじいさん』と呼んで貰っても…」

「お父様。さっきからミリキャスが顔を真っ赤にして俯いてますけど?」

「おっと。流石に急ぎ過ぎたかな?」

「あら、こういった事は早いうちから考えた方が、いざという時に慌てなくて済みますわよ?」

「それも一理あるな」

「一理も二理も無いわよ……」

 

リ…リアスがツッコみ負けた…!

珍しい光景だけど面白~い。

 

「ミリキャス、大丈夫?」

「だ…だだだだだダイジョブでしゅ!」

 

あ~あ~……分かりやすくパニくって。

なんだか哀れに感じてきた…。

 

「そう言えばマユちゃん。とても丁寧に食事をしているけど、どこかで礼儀作法の類を習ったりしたのかしら?」

「これは……」

「多分、歴代の方々に習ったんだと思います」

「あら?そうなの?」

 

なんて言おうか迷っていたら、まさかの白音からの援護。

 

「はい。歴代の人達には王族や貴族の方もいましたし、習うのは容易だと思います」

「確かに、ギルガメッシュやネロ、エリザベートは間違いなく知ってると思うにゃ」

「偉大な先人のお蔭…と言う訳ね。納得だわ」

 

まぁ……正確に癖はあるけど、偉大である事は否定しないな。

 

(ククク……この女も言うではないか!歴代の中でもっとも偉大な赤龍帝であり英雄王でもあるこの我がいてよかったな!雑種よ!)

 

よっぽど嬉しかったんだな…。

いつも以上にテンションが高いし…。

 

「暫くはこっちに滞在する予定なのでしょう?」

「そのつもりです」

「今回、お姉ちゃんには普段の疲れを癒すために療養して貰おうと思っているです」

「そうか。ならばゆっくりとしていくといい。必要ならばグレモリー家が贔屓にしているエステティシャンを紹介しても……」

「だ…大丈夫です!アザゼルさんからはトレーニング禁止とだけ言われてるだけですから…。そこまでして頂くわけには……」

「先程も言ったが、遠慮しなくてもいい。ここにいる間はこの屋敷を自分の家のように思ってくれて構わない」

 

それは流石に無理がある!

 

「折角なら、私が食事の他にも淑女としての色々なマナーを教えて差し上げましょうか?」

「え?ヴェネラナさんが…ですか?」

「ええ。もしかしたら貴女もこちらに滞在している間に何らかのパーティーに参加するかもしれませんから」

「パ…パーティー?」

 

な…なんで私が?

 

「今や冥界中の有名人である赤龍女帝なら報道関係各社は勿論、他にも色んな所からお呼ばれされる事もあるかもしれないし」

「そ…そうなんですか……」

 

私の名前はどこまで広まっているんだろうか…。

知りたいと思う反面、知ったら終わりと思っている自分もいる…。

 

「療養がてら、少し勉強してもいいんじゃないかしら?決して無駄にはならないと思うわよ?」

「そう…ですね。悪くないかも……」

 

トレーニングが禁止だからと言って何もしないのは私的に嫌だし、偶には普段から縁のない事を勉強するのも悪くないかも。

ヴェネラナさんの言う通り、どこかで役に立つこともあるかもしれない。

 

「あまりやりすぎないでくださいね、お母様。療養の意味が無くなってしまうから」

「その辺りはちゃんとするから心配無用よ」

「その言葉を素直に信用で来たらどれだけいいか……」

 

完全に両親に振り回されてるな……。

その気持ち……本当によく分かるぞ!リアス!!

 

「そうだ。マユ君はフェニックス家とも交友関係があるのかな?」

「フェニックス家……ですか?」

「あぁ。かの家のライザー君がマユ君の事ばかり話していると聞いたものでね」

「あの一件以降、すっかりライザーはお姉ちゃんの虜ですものね…」

 

虜になられる方の身にもなってほしい…。

普段はあまり話に出さないけど、結構な頻度で私に電話してくるんだよ、アイツ。

 

「あのヒトはマユさんのストーカーですよ。個人的に交友があるのは妹のレイヴェルさんだけです」

「そうだったのか……」

 

レイヴェルちゃんとは確かに仲がいいよね。

そういや、いつか家に来てほしいって言っていたっけ。

こうして冥界に来ているなら、機会があれば行ってもいいかも。

 

「レーティングゲームの時に家に来てほしいって誘われてましたね」

「それはいい。向こうも既に君が冥界に来ている事は知っている筈だ。行ってみたらどうかね?その気があるなら、こちらから移動手段は提供しよう」

「その時は是非ともお願いします」

 

実に有難い申し出だ。

誘われてはいるものの、家の場所は全く知らされてないし。

 

話をしながらもちゃんと食事を続けていた私達は、その後も話しながら思ったよりも和やかな夕食を楽しめた。

気が付けば緊張も無くなっていて、リラックスして美味しく料理を食べられたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 




原作よりは和やかな夕食になった模様。

次はどうなるかな?


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第75話 家族会議

辛いものを食べて掻く汗は最高。

それを久し振りに思い知りました。






 冥界にやって来て二日目。

客人としてグレモリー家にやって来た私達は、それぞれに時間を過ごしていた。

 

黒歌やレイナーレは、ここで働いているメイドさん達と話をしながら、プロの方々から様々な技術を吸収しているようだ。

少しだけ見かけたが、今までで一番生き生きとしていた。

本当に家事が大好きなんだな…。

その様子を見てエミヤも混ざりたいと言っていたけど、二人の邪魔をしたくは無いから勿論却下。

 

ゼノヴィアは裕斗と一緒に中庭で木刀を使って打ち合いをしていたな。

折角の休みなんだから、ゆっくりすればいいのに。

え?私が言うな?私の場合はトレーニングが日課になってるからいいの!

 

オーフィスちゃんを筆頭にした闇里家幼女トリオは、昨日と同じようにミリキャス君と一緒にいるみたい。

このままいけばリアスのお父さんが言った通り、三人のうちの誰かがミリキャス君のガールフレンドに…?

それはそれで絵になるからいいとは思うけど……。

 

そうやって皆が充実した二日目を過ごしている中、当の私はと言うと……

 

「ここは……これでいいですか?」

「はい!僅か2時間でここまでご理解なされるなんて……流石は赤龍女帝様です!」

「出来れば名前で……」

 

本棚が沢山並んでいる書庫のような場所で、教育係の悪魔さんに冥界の言語の読み書きを習っていた。

 

いきなりではあるが、私はクレイドルと言う人類代表のような組織のトップになったのだ。

これからはきっと冥界だけでなく、堕天使のヒト達や天界の天使の方々とも交流をする機会が増えるだろう。

そうなった時に恥をかかないために、こうして少しでも勉強をしようと思った。

 

冥界の歴史や悪魔達の上下関係に関する事も教えて貰えることになったが、そっちの方は既にリアスや籠手の中にいる英霊(主にギル)に教えて貰ってある程度は知っていたので、ここでは丁重に遠慮しておいた。

 

こうして真新しい知識を吸収するのも悪くは無い。

闇里マユ(わたし)が新人の頃にコウタやアリサと一緒に受けたサカキ博士の講義を思い出すよ。

あの時はよくコウタが居眠りをしていたっけ。

 

再び集中して目の前の本とノートに視線を落とすと、ガチャリとドアが開く音が聞こえた。

 

「マユさんの勉強は捗っているかしら?」

「奥様!」

 

ヴェネラナさんがやって来たのか…。

何か用があるのかな?

 

「マユ様は本当に凄い方です。この短時間でかなりの事を学習なられました。しかも、冥界の歴史などに関しては既に学んでおられたようで、お教えする事は何一つありません。これならば、滞在中どころか7月中に全ての講義を終える事になると思います」

 

勉強自体は嫌いじゃないしね。

これも一種のトレーニングでしょ。

脳みそコネコネってやつだ。

 

「そう…。リアスからとても勤勉で努力家、それでいて求道家とも聞いていたけど…本当のようね」

「それだけしか取り柄の無い女ですから」

「ご謙遜を。文武両道を形にしたような女の子だと、学校でももっぱらの評判だと聞いてるわよ?」

「え……?」

 

そんな事を言われてたの?シランカッター。

 

「そうそう。実は先程サーゼクスから連絡があって、今から三日後にある若手悪魔の会合にマユさんも参加してほしいそうよ」

「若手悪魔の会合?」

 

なんか仰々しそうなイベントだな。

会合と言うからには、きっと色んな悪魔が集結するんだろう。

そんな場所に私も行っていいのかな?

 

「簡単に言うと、正式なレーティングゲームに参加する前の若手の悪魔達が一堂に会して、挨拶や決意表明をするの。その際にはサーゼクスを初めとした魔王も集まる事になるけど。全員がリアスと同世代なの」

 

ほ…本当に大事なイベントやないか~い!

 

「な…なんで私が……?」

「貴女はクレイドルと言う組織のトップなのでしょう?恐らく、これからの事を考えて貴女とクレイドルの存在を公にして、周囲に認めさせようとしてるんじゃないかしら?」

 

そう言われると納得するしかない…。

クレイドルの名はこれから確実に三大勢力や闇に潜む連中の中で有名になっていく。

いい意味でも悪い意味でも。

後々に伸ばすぐらいなら、機会を見つけて発表した方がいいと考えたんだろう。

あのヒトらしいよ、ホント。

 

「勿論、これは貴女のご両親でもあるルシファー様とヤハウェ様も了承しているわ」

「そうですか」

 

逃げ道は無し…と。

元からそんなつもりはないけど。

 

「それに際して、実は貴女以外に二名程一緒に来てほしいらしいわ」

「二名……」

「えぇ。全員で行くのもいいんだけど…ほら、あのアーシアさん…だったかしら?彼女のような子には少しキツいと思うのよね…」

「あぁ……」

 

アーシアのような絵に描いた清純派女子には悪魔の会合はまだキツいかもしれない。

 

「だから、後で闇里家の皆で話し合うといいわ。昨日夕食の時に使ったダイニングルームを使ってもいいから」

「分かりました」

 

そうだな。これはクレイドルのこれからを占う事でもある。

何事も最初が一番肝心なのだ。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

「……と言う訳で、私の他に二人ぐらい一緒に来てほしい」

「若手悪魔の会合……」

「リアス部長達も大変ですね。夏休みなのに全然休めてません」

「それがお貴族様ってやつよ」

「本当に金持ちには厳しいにゃ……」

 

ヴェネラナさんのご厚意に甘えて、リアスと朱乃と裕斗とギャスパー君を除く全員が、昨日訪れたダイニングルームに集まった。

 

「マユさんは誰がいいんですか?」

「ん~……別に言ってもいいが、これは皆で話し合って決めたいからな……」

「大丈夫だ。初めから簡単に決めるつもりはないんだろう?だったら、言うだけ言ってみてくれないか?少なくとも目安にはなる」

「ゼノヴィアがそこまで言うなら……」

 

贔屓っぽくなるかもしれないから、あまり言いたくは無いんだけど……。

 

「私の中じゃ、少なくとも一人は決まっているんだ」

「それは誰にゃ?」

「……ガブリエルさんだ」

「私ですか?」

 

キョトンとした顔で自分の事を指差すガブリエルさん。

 

「ミカエルさんと同じぐらい有名なガブリエルさんのネームバリューは非常に大きい。こんな言い方は好きじゃないけど、クレイドルにガブリエルさんのような大物が参加していると分からせる事の効果は絶大だと思う。最初に大きなインパクトを与えておくと、後から舐められるような事は少ないと思うから」

 

相手はこっちの事を殆ど知らないに等しいのだ。

それなのに、こちらが勝手に『私達の事を知ってください』と言うのは烏滸がましい。

だから、一番最初に相手にいい意味で印象を残さないといけない。

こう言うのってバイトや会社の面接に似てるかも。

どっちも相手がこっちを知らないのは一緒だしね。

 

「成る程。そう言う理由があるのなら、私は異論はありません」

「いいんですか?」

「勿論。貴女はクレイドルの長。その決定には従いますよ」

 

私としては微妙な気分。

誰かの一存で全てを決めるのはあまり好きじゃない。

甘いと思われるかもしれないが、これが私なのだ。

 

「もう一人はどうするにゃ?」

「そうだな……」

「ねぇ」

「いっその事、くじ引きで決めますか?」

「流石にそれは……」

「ちょっと!聞いてるの!?」

 

なんかヴァーリがうるさい。

今は話し合いの最中なのだから、静かにするべきだと思うよ?

 

「なんで私もここに呼ばれてるのよ?私は別にクレイドルの一員じゃないし、ましてや闇里家に世話になってるわけでもないんですけど?」

「それは……」

 

白音がスマホを出してこっちに向ける。

 

『俺がお前をクレイドルに強制的に参加させたからだよ』

「ア…アザゼル!?どういう事よ!?」

『お前みたいなじゃじゃ馬娘を少しでも大人しくさせるには、こうでもしないと無理だろ?』

「だからって、私の許可ぐらい取りなさいよ!」

『いや、もしも言ったら絶対に嫌だって言うだろ』

「当たり前じゃない!何が悲しくて宿命のライバルと同じ組織に属さないといけないのよ!」

『別にいいじゃねぇか。同じ場所にいるって事は、逆に言えば、いつでもマユの嬢ちゃんと手合わせ出来るって事だぜ?』

「そ…それは……」

 

論破されてやんの。

 

『それに、お前だって本当は満更でもないんだろ?』

「な…何言ってんのよ!バカ!」

 

ヴァーリ……顔が真っ赤になってるぞ。

 

『嫌よ嫌よも好きのうちって言うだろ?』

「言わないわよ!!つーか、会議はどうしたの!」

『現在進行形でやってるよ。な?』

『そうで~す!』

『元気にしてるか~?』

『お…お二人とも、会議に集中して……』

 

ルシファーさんとヤハウェ…。

二人して何してんですか…。

あと、サーゼクスさん…ウチの義親が迷惑かけて済みません…。

 

『俺等の愛しの娘達よ!迷惑かけてないか~?』

「心配は無用ですよ。ね?」

「「「うん!」」」

「寧ろ、ミリキャス君と仲良くなってます」

『な…何っ!?』

『ウチの息子とかい?』

「今日も一緒に遊んだ」

「楽しかったぞ!」

『お…俺は認めねぇぞ~!サーゼクス!俺の目が黒いうちは大事な娘達はどこにも嫁には出さねぇからな!!!』

『えぇ~!?』

 

勝手な事を言ってますがな。

何処の親も似たようなもんだな。

まだオーフィスちゃん達には早いでしょうに。

 

「一応言っておきますけど、ルシファーさんはマユさんの事も言ってるんですよ?」

「私?」

「マユさんって今年で18ですよね?法律上はもう婚約できますよ?」

 

そうかもしれないけど……やっぱ私にも早いでしょ。

 

「白音。それはあの不死鳥野郎の目の前で絶対に言っちゃ駄目にゃよ?」

「そ…そうですね…。気を付けます」

 

不死鳥野郎?ライザーの事か?

もしも知ったら五月蠅そうではあるけど…。

 

『マ…マユ!お前にはまだ交際は早い!まずはお友達からだな……』

『はいはい。るーくんは落ち着こうね~。ともかく、ヴァーリちゃんはクレイドル参加確定って事で。よろしく~!』

 

あ、通話が切れた。

 

「………なんか一気に疲れた。もうクレイドル参加でいいわよ…。下手に文句言っても論破されて封殺されるのが目に見えるわ…」

「流石の白龍皇も口論では勝てませんか」

「………フンッ!」

 

プイッとそっぽを向いちゃったけど、ここからは出ていかないのな。

なんだかんだ言って、ここにいる事を気に入ってるんじゃない?

 

「折角だし、ヴァーリさんを連れて行けばいいんじゃないんですか?」

「アーシアが意外な発言……」

「え?私何かおかしな事を言いましたか!?」

「いや…単純に意見を出したことに驚いてるのよ」

 

アーシアが自分から意見を言うのはいい傾向だと思う。

積極性があるのはいい事だ。

 

「別に行ってもいいわよ。ここまで来たらもう、どーにでもなれ…よ」

「完全に目が死んでるぞ。白龍皇」

「なんとでも言って」

 

乾いた笑いが出てるし。

ヤケクソはよくないぞ、ヴァーリ。

 

「それじゃあ、これで家族会議は終了って事ね」

「天界で名の知れた天使と白龍皇。最初のインパクトとしては充分過ぎるでしょ」

「まさか、赤と白が同じ場所に並び立つ日が来るなんてね…」

『俺も驚いている。だが、同時に悪くないとも思っている』

「アルビオン……」

『時代は移り変わる。いつまでも赤と白の対立に拘る事も無いだろうさ。だろう?赤いの』

『俺は前々からそのつもりだ。俺は相棒と言う存在と運命共同体となった瞬間から、その行く末を最後まで見守ると決めた。俺の中ではもうお前に対して敵対心は持っていない』

『本当に変わったのだな……』

 

二天龍も異議が無いみたい。

今まで敵対していたライバル程、味方になった時に心強い存在は無いってよく言うよな。

これは正しくソレなのかもしれない。

 

「にしても、他の若手悪魔ってどんな連中が来るのかしらね?」

「一人はもう確定してますね」

「誰にゃ?」

「駒王学園の生徒会長のソーナ・シトリーさんです」

「そう言えば、彼女も魔王の妹だったな…」

 

なら、会合の時にソーナとも会うのかな?

リアスが帰って来てるのなら、ソーナも帰省してるはずだし。

 

「会場で会ったら、色んな意味でびっくりするでしょうね」

 

私が来るとは思わないだろうし、一緒にガブリエルさんとヴァーリも来るんだしな。

……会場が騒然とならないといいけど。

 

「話し合いは終わった?」

「リアス」

 

丁度いいタイミングでリアス達グレモリー眷属が部屋に入って来た。

 

「それで、誰がマユさんと一緒に行くことになったんですの?」

「ガブリエルさんとヴァーリさんです」

「ガブリエルさんはなんとなく分かるけど……彼女も?」

「アザゼルがいつの間にか私の事をクレイドルに所属させてたのよ」

「ご…ご愁傷様ですぅ~…」

「怯えながら言われると微妙な気分ね……」

 

こうして、闇里家初めての家族会議は何事も無く(?)終了した。

 

……この流れでヴァーリまでウチに住んだりしないよな?

いや…部屋にまだ空きはあるんだけどね。

今でもかなり多いのに、これ以上同居人が増えるのってどうかと思うのよね…。

 

なんて言ってたらフラグになるかな?

 

 

 

 

 

 




まだまだ会合にはいきませんゼ?

次回も別の話を予定しますから。


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第76話 会合

少しずつではありますが、確実に更新はしていきたいと思っています。

割と先の方まである程度ストーリーは固まってますから。






 初めての闇里家家族会議から3日後。

私とヴァーリとガブリエルさんからなる『クレイドル選抜メンバー』は、リアス達グレモリー眷属と一緒に、冥界に来た時と同じグレモリー家のプライベート列車に乗って移動していた。

リアスは前と一緒で前の車両に乗っていて、朱乃と裕斗とギャスパー君が私達と同じ車両に乗車している。

 

今回の目的は、リアス達が出席する若手悪魔達の会合に私達がクレイドルの代表として一緒に出席する事。

正直言って、会合なんて仰々しいイベントは生まれて初めてなので、今から緊張しまくってます。

けど、それ以上に問題なのは私達の今の恰好な訳で……

 

「リアスも先程言ってましたけど……凄く似合ってますわ…♡」

「違和感が全く無いですね……」

「す…素敵ですぅ~…」

 

なんでか、今の私は黒いレディーススーツを着ている。

これは出発する少し前にヴェネラナさんとグレイフィアさんが『こっちの方がリーダーとしての威厳があっていい』と言って貸してくれた物。

私は学校の制服でいいと言ったのだが、その訴えは速攻で却下されて、次の瞬間には二人がかりでこの恰好に半ば無理矢理に近い形で着替えさせられた。

ご丁寧に、お揃いのハイヒールまで用意してたしね。

別にハイヒール自体は何気に他の衣装で履きなれてるからいいけど。

その時、何気にリアスや朱乃、我が家の女性陣も加わっていたことが少しだけショックだった。

私が着替え終わった後、全員が揃ってサムズアップしてやがったし…!

 

「貴女って本当に高校生?こうしてると、どう見てもキャリアウーマンにしか見えないわよ?」

「それだけマユさんが大人びていると言う事でしょう」

 

なんて言っているヴァーリとガブリエルさんの二人も、私と同じようなスーツを身に付けている。

ヴァーリは白龍皇と言う事もあって、清潔感のある白いスーツ。

ガブリエルさんは薄いピンクのスーツを着用している。

ヴァーリは最初、ハイヒールに苦戦してたっけ。

 

「なんだか、凄腕の女社長と、その秘書二人って感じですぅ~…」

「アンタ……人見知りのヒキコモリの癖に、中々言うじゃない…」

 

最近になってギャスパー君は口数が増えてきた。

思った事が口に出るようで、結構ズバッ!と言ってくるけど。

 

「10代にして大人の魅力に溢れているって、もう一種のスキルよね」

「そう言うヴァーリさんは、なんだか背伸びしている女の子に見えますけどね」

「う…うっさいわよ!ガブリエル!」

 

……この二人って、実は思っている以上に仲がいい?

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 列車に揺られる事、約3時間。

私達は魔王領である『ルシファード』と呼ばれる都市の駅に到着した。

なんでもここは、初代魔王ルシファーがいたと言われている冥界の旧都市であるらしい。

つまり、私から見れば義理の父親の故郷になるわけだ。

 

ま、これ全部が朱乃の受け売りなんですけどね。

 

「次は地下鉄に乗り換えるわよ。皆ついて来て頂戴」

 

リアスが先導する形で駅の中を進んでいく。

すると、構内にいた悪魔達が一斉にリアスの方を見て大きな歓声を上げる。

その途端にギャスパー君が私の後ろに即座に隠れたけど。

 

「現魔王の妹と言う事もあって、リアスは下級や中級の悪魔達からは尊敬をされていますのよ。こう見えても」

「一言余計よ!朱乃!」

「あら?ごめんあそばせ」

 

絶対に態とだな。

手で隠しているけど、朱乃の口が笑ってるもん。

 

「ん?」

 

リアスを見ていた悪魔達がこっちを見て急に静かになった。

な…なんか気まずいぞ……。

 

「ど…どうしたんだ…?彼らは……」

「あぁ~…これは……」

「来ますね」

「え?何が?」

 

なんだか悟ったような表情で、ヴァーリとガブリエルさんは黄金の耳栓を身に付けた。

って!それって前にギルがレーティングゲームの時に出した耳栓じゃん!

なんで二人がそれを持ってるの!?

しかも、しれっとリアス達も耳栓つけてるし!

 

「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!赤龍女帝さまぁぁぁぁぁぁ!!!」」」」」

「うおっ!?」

 

こ…声がソニックブームになって耳に襲い掛かって来た…!

こ…鼓膜が痛い…!

 

「うぉぉぉぉぉぉ!!生で見ると、すっげー美人だ!!」

「なんて凛々しいお方なの……♡」

「俺……もう死んでもいい……」

「私さ……赤龍女帝さまを見れたら、実家に帰って店を継ぐんだ…」

 

男女ごとに色んな反応をするんだな…。

あと、最後の子は死亡フラグ!

こんな事で立てようとしないで!?

 

「お姉ちゃんの人気も不動よね…」

「マユ先輩は冥界の英雄ですからね」

 

したり顔で語らないでください。

叫ばれる方の身にもなってよ!

リアスなら分かるでしょ!?私とは似たり寄ったりなんだから!

 

「フフフ……そうやって私のお姉ちゃんを称えなさい!」

 

分かってなかったー!!

言ってる事が怪しい宗教家みたいになってるよ~!

 

人込みならぬ、悪魔込みで溢れる構内をなんとか移動しながら、私達は無事に(?)地下鉄に乗ることが出来た。

 

あぁ~……会合前に精神的に疲れた~……。

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 地下鉄に乗り換えてから5分ほどして、私達はかなり大きな建物の地下のホームに到着した。

 

(ここが今回の会場になるのか……)

 

一体どんな話があるんだろうか…。

サーゼクスさんは私達が来ることによってクレイドルの存在を公にしようとしているって言ってたけど、私みたいな小娘が出て行って何が出来るんだろうか?

今のところ、私はお飾りのリーダーみたいなもんだし。

実質的な指導者はルシファーさんとヤハウェでしょ?

 

私達はリアスについていく形で、付近にあった高級感のある大きなエレベーターに乗り込んだ。

中は全員が乗り込んでも余裕があるほどの広さがあって、悪魔の技術力を改めて思い知った。

 

「念の為にもう一回言っておくわよ。今日、ここに来ている者達は全員が将来的なライバル達よ。だから、無様な姿だけは絶対に見せられない。例え何が起きても平常心でいる事。そして、何かを言われても決して手を出したりしない事。いいわね?」

 

朱乃と裕斗が力強く頷く。

ギャスパー君も震えながらなんとか頷いた。

 

「そして、これはお姉ちゃん達にも言える事だからね?まぁ…普段から冷静沈着なお姉ちゃんなら問題無いって思うけど」

「そうですね。マユさんなら大丈夫でしょう。マユさんなら」

「ちょっと。なんでこっちを見ながら言うワケ?」

「あらヴァーリさん。自分が口よりも先に手が出るって自覚してるんですか?それは感心しますね」

「アンタねぇ~……!」

 

ガ…ガブリエルさん…。

この広い世の中で、白龍皇をおちょくる天使なんて貴女ぐらいですよ…。

 

少ししてエレベーターが停止して、お約束のチーンと言う音が鳴った。

 

「着いたわよ。皆……気を引き締めてね」

 

なんて言っているが、これはきっと自分自身を奮い立たせるために敢えて言っているんだろう。

その気持ちはなんとなく分かる。

 

エレベータの扉が開き、そこから出て真っ赤なカーペットが敷かれた廊下を少し進むと、なにやら広いホールのような場所に辿り着く。

そこには見事な執事服に身を包んだ人物(多分、使用人)がいて、私達に丁寧な会釈をした。

 

「ようこそいらっしゃいました。リアス・グレモリー様。そして、闇里マユ様。どうぞこちらへお進みください」

 

使用人さんの案内で廊下を進んでいくと、その途中で複数の人影が通路の一角に見えてきた。

普通ならこの距離じゃ分からなないけど、体格からなんとなく性別は分かる。

あれは男だな。周りも男性が多いみたいだ。

 

「サイラオーグ…」

「む…リアスか。こうして会うのは久し振りだな」

 

おや、この人とはお知り合いですか。

リアスがサイラオーグと呼ぶこの男性……服の上から分かる程にかなり鍛えているのが分かる。

黒い短髪に背の高い好青年。

……やっぱ、私の背って女としておかしいよな…。

こうして背の高い男性と向き合うと、それを改めて実感してしまう。

 

チラッとサイラオーグさんの後ろに控えている眷属と思わしき人物達に目を向ける。

そのいずれもが猛者ばかりだと判断出来た。

何故なら、戦士特有の『闘気』のような物をサイラオーグさん達から感じたのだ。

 

私が彼らを見ている間にリアスとサイラオーグさんは会話をしていく。

ふと、二人の目線がこっちに来た。

 

「ホント。貴方はいつになっても変わらないわね。そうだ、お姉ちゃんにも紹介するわね。彼はサイラオーグ・バアル。今回の出席者の一人で、私にとっては母方の従兄弟でもあるの」

「リアスの従兄弟……」

 

そう言われてみると、どことな~くリアスやサーゼクスさんと似ているような……?

リアスとサーゼクスさんを足して2で割って、更に筋骨隆々にした感じ?

 

「リアス。この女性は…まさか……」

「そのまさか…よ」

「なんと……!」

 

ん?いきなり驚いた表情になって背筋を伸ばしたんですけど?

 

「お初にお目にかかります、赤龍女帝殿。俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主でもあります」

「こちらこそ初めまして。人類代表組織『クレイドル』リーダーの闇里マユです」

 

自然な感じで握手をする私達。

なんでかサイラオーグさんは両手で握ってきたけど。

 

(まるで…特撮ヒーローのショーに来た子供みたいな反応をするな~…)

 

さっきまでの男らしい顔はどこへやら。

今の彼は無邪気な子供のような表情に変わっていた。

 

「貴女の数多くの活躍は幼い頃から聞いてきました。こうして直に出会えたことを、俺は何よりも嬉しく思います」

「私の活躍などたかが知れています。私は唯、私のやるべき事を必死にしてきた。それだけです」

「三大勢力の中で最高の英雄と称されているのに、その謙虚な姿勢…。やはり、貴女は素晴らしい人物です。魔王様達が惹かれるのも頷けます」

 

もうこの手のヒトの扱いにも慣れてきている自分がいる…。

慣れって本当に怖いわ~。

 

「ふぅ~ん……こいつが噂に聞くサイラオーグねぇ~…」

「む…?君は……」

 

ヴァーリがさっきからジト目でサイラオーグさんを見ていた。

それこそ、頭の先から爪先まで。

 

「私はヴァーリ・ルシファー。現代の白龍皇よ。よろしく、次期大王候補さん」

「今までずっと殺し合う間柄だった赤龍帝と白龍皇が同じ組織にいるのか……!?」

「そうなの。驚いたでしょう?」

「あぁ……。これならクレイドルとか言う組織に正面切って喧嘩を売る連中はいなくなるだろうな…」

「もしもそんな事をしたら、天下に名立たる赤龍帝と白龍皇を同時に相手する事になるものね。普通の神経なら絶対にしないわ」

「俺も激しく同感だ」

 

そこまで言いますか。

まぁ……私達のネームバリューが非常に強大なのは私も納得するけど。

 

それから、ガブリエルさんもサイラオーグさんに挨拶をしていた。

有名な大天使が来ている事に、またまた驚きまくっていた。

悪魔の立場からすれば当然の反応だろうな。

ガブリエルさんはどこまでも余裕ある表情だったけど。

まさに大人の女性。

 

「ところで、こんな場所で一体何をしていたの?」

「別に。ただ……余りにもくだらなすぎて出て来ただけさ」

「え?」

 

溜息交じりに言ったけど、目の前にある扉の奥で何が起きてるっていうの?

 

「実は、アガレスとアスタロトが先に来ていてるんだが……その後にやって来たゼファードルが着いた矢先に馬鹿をし始めて…な」

「はぁ……全く……」

 

頭を抱え始めるリアス。

彼女からすれば、今日の会合は本当に大事な行事。

それなのに、始まる前から喧嘩をおっ始めた連中に対して辟易しているんだろう。

 

なんて呑気に考えていたら、いきなり地震のように建物全体が大きく振動し、同時に何かが壊れたりするような音が響き渡った。

 

「こんな事になるだろうと思ったから、俺は前々から開始前の会合なんて必要無いと言っていたんだ。まぁ……こうして赤龍女帝殿に出会えたことは純粋に嬉しいがな…」

 

何気に照れてますね。

敢えてツッコみませんけど。

 

「……………」

「お姉ちゃん?どうしたの?」

 

このままにしてはおけないでしょ!

私は音がした方にある大きな扉に向かって一人で歩き出した。

 

「……お人好しね」

「けど、それでこそ…だと思います」

 

お?ヴァーリとガブリエルさんも一緒に来るの?

 

扉を開くと、そこに見えたのは……

 

「うわぁ~…」

「これはまた……」

 

ズタズタのボロボロになって、見る影も無くなった大広間があった。

普段なら豪華絢爛な装いだったであろう机や椅子が、見るも無残な姿になって横たわっている。

そして、その中央付近には睨みあっている悪魔の集団が2つ。

 

片方は眼鏡を掛けた女性の悪魔。

もう片方は上半身が裸に近い恰好の、服を着崩した不良って感じの男の悪魔。

ズボンについている装飾品に、肌に刻んだタトゥー。

更に、逆立てた緑の髪。

……不良の恰好って、人間の悪魔も大差ないのな。

 

二人はお互いに武器を出していて、もう完全に一色触発の状態に陥っていた。

 

「アンタって脳みそまで性欲で満ちてるのね。そんなんだから、いつまで経ってもバカなまんまなのよ。少しは別の事を考えられないの?それとも、そんな事すら出来ない程に脳が劣化しちゃったのかしら?」

 

あ…あの眼鏡の女の子……言うなぁ……。

 

「んだとゴラァッ!!折角、この俺様がそこの個室で一発ヤッてやるって言ってやってんのによ!これだからアガレスの女は無駄にガードが固くて嫌になんだよ!そんなんだから、いつまで経っても男がよりつかねぇんだよ!!このまま死ぬまで処女を貫く気ですかぁ~?だから、この俺様が華々しい貫通式をしてやるっつってんのによ!」

 

……おい……今……あの野郎……なんて言った……?

 

「ここは本来、時間まで我々が待機している場所だったんだがな」

 

いつの間にか後ろに来ていたサイラオーグさんが何か言っているが、怒りが頭を支配して上手く聞き取れない。

 

「更に言ってしまえば、ここは若手の連中が集まって軽く交流をする場でもあったのだが、実際はこの有様だ。唯でさえ普通よりも血の気が多い連中が一堂に会すんだ。これぐらいの事は容易に想像出来そうなもんだがな。まぁ…あいつ等が何をしようが俺にはどうでもいい話だが、このまま放置しておくことも出来ないのもまた事実。ここは俺が……」

 

気がついた時は、私は不良悪魔の方に歩き出していた。

 

「私も行くわ」

「ヴァーリ?」

「私ね……あんな風に女を馬鹿にする奴が一番大嫌いなの」

「そうか……」

 

私と同じ気持ちになってくれた事が嬉しくて、思わず笑ってしまう。

 

「じゃあ……やるぞ」

「えぇ!」

 

私達の歩行速度がアップする。

 

「二人とも……何を!?」

「す…凄まじい殺気…!これが二天龍の怒りか……!」

 

ズンズンと歩いて行くと、睨みあっていた二人の悪魔と、その周囲にいる連中がこっちを見て止まった。

 

「な…なんだこの女ども……!」

 

不良野郎に向かって思いっきり拳を振りかざして……

 

「女の敵は……」

「私達がぶっ飛ばす!!!」

「て…テメェら!この俺様を誰だと思って……」

 

二人の全力でアッパーカット!!!!!

 

「「そんなの知るか!!!!!」」

「ぶべらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

私達の拳をその顎に受けたクソ男は回転しながら天井までぶっ飛んで、そのまま天井にぶっ刺さった。

下半身だけが天井から出ていて、その姿はまさに……

 

「逆犬神家だな」

「プッ……ハハハハハ!マユも言うじゃない!座布団一枚だわ!」

 

ヴァーリも笑点を知ってるのね…。

意外な一面を見た気がする。

 

「あぁ~……やっちゃった……」

 

女性の敵は私の敵。

いくら私でも、堪忍袋の緒が切れる時ぐらいはある!

って……なんでリアスは眉間に皺を寄せているの?

 

 

 

 

 

 




マユとヴァーリの初めての共同作業(アッパー)


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第77話 会合開始

本当に……本当にお待たせしました!!

二年振りぐらいの更新になりますが、この作品自体をお忘れの方も多いと存じます。

取り敢えず、これからはこれを機に、スローペースでもいいから進めていこうとは思います。

これからもどうか、よろしくお願いします。






「随分とド派手にやったわね……お姉ちゃん……」

 

 リアスが呆れ顔で室内に入って来るが、こればかりは仕方がなかったと言わせて貰おう。

 どうも個人的に、あんな発言をする輩が苦手というか嫌いなのだ。

 男女平等主義……ではないが、女性軽視をするアホに遠慮はいらないと思っている。

 

「あらら。見事に頭が天井に突き刺さっていますわ」

「あんな事……現実に起きるんだね」

「まるでギャグ漫画みたいですぅ~……」

 

 朱乃と裕斗は完全に苦笑いで、ギャスパー君はしれっと毒を吐いている。

 もしかして、あの子がグレモリー眷属の中で一番の曲者なんじゃないのか?

 

「流石は赤龍帝と白龍皇、見事な一撃でした」

「サイラオーグも褒めないの! はぁ~……」

 

 にしても、なんか珍しく感情任せで体を動かしてしまったな。

 偶にはこんなのも悪くはないか。

 

(いや~! 見ていてスッキリするようなパンチだったじゃないか! あっはっはっ!)

(白龍の小娘もいい拳を持っておる。此度の二天龍は中々に面白い事になりそうだの!)

 

 ドレイク姐さんと先生に褒められた。

 つーか、姐さんはまた酒飲んでないか?

 

「少しはスッキリしたわね。最近はどうも運動不足だったし」

「その割には全力で殴っているように見えましたけど?」

「………フン」

 

 ガブリエルさんもヴァーリの扱いが上手になってきたな。

 髪色とかから見ても、二人はまるで少し歳の離れた姉妹みたいだ。

 

「おい! グラシャラボラスの眷属! 早く貴様たちの王を天井から出して治療してやれ!」

 

 サイラオーグさんの一喝で私達がぶっ飛ばしたチャラ男の眷属らしき連中が急いでやって来て、奴を必死に天井から出そうと四苦八苦していた。

 なんだか、ギャグ漫画の裏事情を見ているような気分だな。

 

「お怪我などはありませんでしたか?」

「え? あ……はい……」

 

 私はさっきチャラ男に暴言を吐かれていた女性が心配になり、彼女の元まで行って話しかけた。

 けどさ、どうしてコッチの顔を見た途端に頬を朱色に染めるの?

 

「あの……もしや貴女様は、あの伝説に謳われている赤龍女帝様でございますか?」

「三大勢力間ではそう呼ばれているようですね。自分で名乗った事は一度もありませんが……」

「やっぱり! 私、ずっと貴女様のファンなんです! こうしてお会い出来て光栄の極みです!」

「そ…そうですか……」

 

 すっごい目をキラキラさせてこっちを見つめてくる……。

 もう何度言ったかは分からないが、もう一度だけ言わせて貰おう。

 サーゼクスさん。貴方はこの冥界の地にて私の事をどんな風に吹聴したんですか?

 

「またお姉ちゃんが堕としてる……」

「あらあら。しかも今度はあのシークヴァイラ様」

「もうこの光景にも慣れてきたね……」

「リアルハーレムですね……」

 

 そこ。ちゃんと聞こえてるんだからな。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 あの後、すぐに駆けつけてくれたスタッフの方々の魔力によって、すぐに大広間や家具の数々が元通りに完全修復され、改めて若手たちの挨拶が始まった。

 私達はそれぞれに用意されたテーブルに着席し、挨拶の順番を待っている。

 因みに、スタッフが来る直前にソーナ達も到着したのだが、案の定、部屋の惨状を見て驚き、リアスからそうなった事情を聞かされてからは、私の方を見て目を輝かせていた。

 彼女はもう少しノーマルな方だと思っていたんだがな……。

 

「先程はご挨拶が遅れました。私の名は『シークヴァイラ・アガレス』。大公であるアガレス家の次期当主です」

 

 まず最初に挨拶をしたのは、さっき助けた眼鏡の女性。

 大公の血筋だったとは驚きだ。

 

「私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主になります」

「ソーナ・シトリーと申します。シトリー家の次期当主です」

 

 次に挨拶をしたのはリアスとソーナの二人。

 テーブルには当主である者だけが座り、その眷属達は後にて屹立して待機をする。

 どこも同じようになっていて、私達もそれに習って座っていた。

 私だけが着席し、ヴァーリとガブリエルさんが後方にて待機をする。

 ヴァーリは嫌そうな顔をしていたけど、これまたガブリエルさんに何か挑発でもされたのか、渋々といった感じで立つ事を了承してくれた。

 

「俺の名は『サイラオーグ・バアル』。大王であるバアル家の次期当主だ」

 

 大王か……。

 サイラオーグさんは現時点でも十分な程の威厳があると思うが、それでもまだ『次期当主』なのか。

 

「僕は『ディオドラ・アスタロト』。アスタロト家の次期当主です」

 

 あの優男……どうも気になるな。

 アイツからは、嘗ての大車と同じ匂いがする。

 注意を払っておいて損は無いかもしれない。

 後で皆にも言っておこう。

 

「本来なら次はグラシャラボラス家が挨拶をする所だけど、彼は二天龍の逆鱗に触れてぶっ飛ばされてしまったからねぇ~」

 

 さっき私とヴァーリが愛と友情のツープラトンでぶっ飛ばした男は『ゼファードル・グラシャラボラス』といって、少し前に起きたお家騒動にて本来の次期当主となるべき人物が死去してしまった為、仕方なくアイツが繰り上がるような形で次期当主に抜擢された経緯があるらしい。

 これ全部、挨拶をする前にサイラオーグさんが教えてくれたんだけど。

 

「最後は、この冥界の英雄に御挨拶願いましょうか」

 

 それって私だよね。はい、分かってますとも。

 挨拶をするのは別に構わないんだけど、どうして私の時だけ皆して拍手をするの?

 そーゆーのって無駄にプレッシャーが掛かるんですけど!

 

「人類代表組織『クレイドル』リーダーの闇里マユです。この度は私達をご招待いただき、誠にありがとうございます。本日はどうか、よろしくお願いします」

 

 まるでどこかの会社に面接に行ったような気分になりながら、電車の中で必死に考えた挨拶を言った。

 定型文バリバリだが、これでよかった……よな?

 

 パチパチパチパチパチ!

 また急に拍手っ!?

 

「流石は伝説の赤龍女帝。見事なご挨拶でした。このサイラオーグ、感動に打ち震えております」

 

 どこに感動する部分があったんだよ。

 地上では会社員とかが普通にする挨拶だろうが。

 って言うか、冥界でも使われていると思うけど?

 彼はもしや天然キャラなのか?

 

「ん?」

「………………」

 

 何やらイヤらしい視線を感じたので、目だけを動かして探ってみると、それはさっき挨拶をしたディオドラ・アスタロトのものだった。

 まるでこっちを値踏みしているかのような目。

 もっとハッキリとした言い方をすれば、アイツは私の事を『女』として見ている。

 

(注意レベルを上げておくか……)

 

 他の皆とかはともかく、戦闘力が皆無なアーシアとかは危ないからな。

 怖がらせるかもしれないが、言っておいて損は無いだろう。

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

 挨拶の後にやって来たスタッフに案内されてやって来たのは、まるで劇場のような荘厳とした場所。

 目の前には円を描くように席が並べられ、ふと上の方を見ると、そこにもVIP席のように特別な席が設けられていて、そこには既にお偉いさんと思わしき人達が着席している。

 その更に上には魔王だけが座る事を許されていると思われる四つの席があり、そこにはサーゼクスさんとセラフォルーさんの他に、見知らぬ二人の男性がいた。

 あの二人こそが、残りの四代魔王であるベルゼブブとアスモデウスなのだろう。

 

 皆はそれぞれに指定された席に座っていくが、私はどうしたらいいのだろう?

 そう思って周囲を見渡すと、席が二つ程空いているのが見えた。

 一つはさっきのチャラ男だとして、もう一つはもしや……。

 

【赤龍女帝殿】

 

 ………名指しじゃないけど、あれは間違いなく私の席ですね。はい。

 結局、私はリアスとソーナの間に設けられた席に座る事にした。

 今更だが、場違い感が半端じゃないんだが。

 

(あの視線……嫌だな)

 

 二段目の席に並んで座っている老人共の目は、明らかにこっちを見下している目だ。

 人間である私が見下されるのは別に構わない。

 けど、同族であり自分達の実質的な後継者でもある若手の皆を見下すのは胸糞悪い。

 サーゼクスさん達が魔王になる前は、あんな老害共が冥界を好き放題にしていたと思うと反吐が出そうだ。

 それは私の後ろにいるヴァーリとガブリエルさんも同じ様で、ヴァーリは明らかな怒りを見せて眉間に浮き出た血管をピクピクとさせているし、ガブリエルさんも表情だけはニコニコ笑顔を崩してはいないが、その瞳の奥は怒りの炎が燃えている。

 

「よくぞ集まってくれたな。若手悪魔の諸君」

 

 まずは挨拶のつもりなのか、老害共の一人が無駄に威厳タップリに声を出す。

 全員を見渡した直後に、私の事を数秒間だけ凝視しやがった。

 

「今回は望外のゲストも交じっているようだが、これはこれでいい趣向となるであろう。よくぞ参られた、赤龍女帝殿」

「お招きいただき、ありがとうございます」

 

 少しも感謝の気持ちなんて混めずにお礼を言っておいた。

 そっちだって私の事を気持ち悪い目で見てたんだから、お相子だろ。

 

「着いて早々に問題を起こした愚か者もいたようだが、それは二天龍によって制裁を与えられたようだな」

「全く……これではグラシャラボラス家も危ういな」

 

 その意見には同感だけど、危ういとはどういう意味で言ってる?

 文字通りの意味でないと思いたいが……。

 

「それでは、これより会合を始めよう」

 

 老害達の言葉を遮るかのように、サーゼクスさんが半ば強制的に会合を開始させた。

 

 さて……今からどんな話が始まるのだろうか?

 悪魔ではない人間の身である私には、全く想像がつかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まずはリハビリってことで短めに。

次回はいつになるかは不明ですが、可能であれば今月中にもう一回更新したいと目論んでいます。


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第78話 夢は尊く美しい

今回、珍しくマユがプッツンします。

激おこプンプン丸です。

理由は……原作を知っている人ならお分かりかと。






「まずはこうして集まってくれたことに関して感謝の意を述べよう。今回の会合は次代を担う若き悪魔達である貴公等をこの目で見定める為のものと理解してほしい」

 

 真ん中に座っているリーダー角と思わしき初老の男が弥陀に威厳に満ちた声で王そう言った。

 他の者達からすれば、それなりにプレッシャーを与える効果があるかもしれないが、私のように毎度毎度に渡って支部長室に呼び出しをくらってシックザール支部長の本気の威厳タップリのありがた~いお言葉を何度も聞いた経験のある私には殆ど効果は無い。

 私を本気でビビらせたかったら、あの人と同じぐらいの決意と覚悟を持って挑んでほしい。

 

「赤龍女帝殿には少しの間、肩身の狭い思いをさせるやもしれんが、これも若者達の為と思って我慢をして頂きたい」

「私の事ならば気にしないでください」

 

 場違い感が半端ないのは今に始まった事じゃないで、ぶっちゃけそこまで気にしてない。

 何事も慣れってよく言うけど、こんな事にだけは慣れたくなかったな。

 

「さて……ここに集った君達6人……ではなくて5人は家柄や実力、それらを合わせて申し分のない次世代を背負っていく事が出来る悪魔達だ。それ故に、公式デビュー前にお互いに切磋琢磨して互いを高め合い、その実力を更に高め合って欲しい」

 

 サーゼクスさん……地味に一人省いたな。

 とても真面目なスピーチだったけど、それを考えるとなんだかコメディのように見える。

 この場でこんな事を考えてるのは絶対に私だけだろうけど。

 

「そのお言葉から察するに、将来的には我々もあの『禍の団』との戦いに投入されると考えても?」

 

 そうだよな。

 私も似たような事を考えたよ、サイラオーグさん。

 きっと、貴方が発言しなかったら私が挙手をしてたと思う。

 

「それはまだ何とも言えないな。私個人の考えとしては、可能な限り君達、若手悪魔を戦場に送るような真似だけはしたくは無いと思っているよ」

 

 そう……だよな。それが普通の考えだよな。

 あまりこんな事は言いたくないけど、そんなセリフが出るのはこの世界がまだ平和である何よりの証拠だと思う。

 『あの世界』のように本当に世界崩壊の崖っぷちに立たされたら、年齢や性別など関係無く、実力がある者は全員が例外なく武器を持たされて最前線に放り込まれる事になるだろう。

 神機使いなんかがその最たる例だよ。

 中には14歳の女の子が神機使いをやってるのを知っているし。

 

「お言葉を返すようですが、年齢的にはまだ若いとは言え、我等とて既に今の時代の一端を担っています。今に至るまで先人の方々に数多くの御厚意を受けている身として、このまま何も出来ずにいるのは悔しいの一言に尽きます。それに、そこに座っておられる赤龍女帝殿も今の我等よりも若い頃からたった一人で戦場に立っていたと窺っております」

「……サイラオーグ。君のその気持ちは純粋に嬉しいし感謝もする。しかし、勇気と無謀を履き違える事だけはしてはいけない。実力云々以前に、君達には決定的に経験が足りない。本物の戦場はほんの一瞬の隙や油断が文字通りの命取りになる。今の我等は万が一にも君達を失う訳にはいかないんだ。新たな時代を背負っている君達は今の冥界にとって掛け替えのない宝なんだ。それに、彼女と君達を比べる事だけはしてはいけない。彼女と君等とでは戦場に立った経験も実力も背負っているものも違いすぎる」

「背負っている物……?」

「そうだ。近い内、君もマユ君の戦闘を間近で見る機会もあるだろう。その雄姿を見れば必ず理解出来ると思うよ」

「はい……」

 

 あの~……もしかして今、私が引き合いに出されました?

 余りにも長い会話だったから、割と普通に聞き逃してました。

 もうちょっとちゃんと聞いていればよかった……。

 また何か恥ずかしい事を言われてないといいけど。

 

 しっかし、前の会談の時も思ったけど、サーゼクスさんってちゃんと『魔王』してるんだな~。

 公の場じゃない時は家族思いのちょっと面白いお兄さんって感じなんだけど、この人のこんな姿を近くで見せられると、自分が本当に人類の代表なんて凄い立場でいいのだろうかと何度も思う。

 確かに私は第一部隊の隊長で、クレイドルの設立者なんてとんでもない立場になってはいるが、私はどこまでも一人の神機使いに過ぎない。

 タツミさんも前に言っていたが、私は後方で指揮を執っているよりは、最前線になって剣を振っていた方が性に合っている。

 

「随分と長話になってしまったが、次に最後にしよう。君達には今から、それぞれに将来の夢や目標などを語って貰おうか」

 

 なんかクラスの発表会みたいだが、それは私も興味がある。

 普段から仲がいいリアスやソーナの夢がなんなのか知りたいし、ここで知り合ったサイラオーグさん達の夢も聞いてみたい。

 ……まさかとは思うけど、私も言わなきゃ駄目……とかないよね?

 

「まずはサイラオーグからお願いしようか」

「俺の夢……それは、魔王になる事です」

 

 魔王……か。

 それはつまり、サーゼクスさん達の後を継ぎたいって事か?

 最初からドデカい夢が出てきたな。

 

「ほぅ……? 大王家の悪魔から魔王が生まれれば、それは間違いなく前代未聞になるな」

 

 大王家とな? サイラオーグさんって既に凄い所のお坊ちゃまだったのか?

 そっか~……そうだったのか~……。

 

「私、リアス・グレモリーは次期当主として、なによりクレイドルの一員として赤龍女帝様と共にいかなる困難が眼前に立ち塞がろうとも必ずや乗り越え、いつの日かレーティングゲームの各種大会にて優勝する事が今の夢であり目標です」

 

 お次はリアス。

 しれっとクレイドルの事を言ってくれたのは普通に嬉しかった。

 私も、リアスとならどんな困難も乗り越えられると信じているよ。

 

 それからもシークヴァイラさんや怪しいディオドラなんかも自身の夢を語っていった。

 そして、ソーナの番がやって来たのだが、これが問題だった。

 いや、彼女の夢が問題なんじゃなくて、周りの反応が問題だったというか……。

 

「私の夢は、この冥界の地にレーティングゲームの学び舎を建てる事です」

 

 学び舎……ね。

 うん。いいんじゃないか? 生真面目なソーナらしい素晴らしい夢だ。

 

「レーティングゲームの学び舎とな? それならば既に幾つも存在しているではないか」

 

 あ、そうなんだ。専門学校的な場所なのかな?

 私達、神機使いにも似たようなものがあるって聞いた事あるけど。

 

「現在ある学校は上級悪魔と一部の特権階級の悪魔のみが入学する事が許された学校です」

「それがどうかしたのか?」

「私は建てたいと思っているのは、下級悪魔や転生悪魔も関係無く通う事が出来る学び舎です」

 

 立場に関係無く学ぶことが出来る学校……か。

 そこに至るまでの道は厳しく険しいかもしれないが、それでもやる価値はあるだろう。

 私なんかに出来る事があれば、喜んで手伝うし応援しよう。

 現時点で将来を見据えているソーナは本当に立派だ。

 

「下級悪魔も転生悪魔も関係無く……」

「通う事が出来る学び舎……」

「ク……ククク……」

 

 ……なんだ? 上にいる老害共の様子がおかしいぞ……。

 もしや笑っている……のか?

 

「「「ハハハハハハハハハハハハハッ!!!」」」

 

 ………っ!? この人を小馬鹿にしたような醜い笑い声……本気で嫌悪感を抱くぞ……!

 こいつ等は何がそんなにも可笑しいっていうんだ……!

 

「よりにもよって、あのような者達の為の学校を作ろうなどとは!」

「これは実に傑作だ!」

「夢見る乙女とはよく言ったものだ! ハハハハハッ!」

 

 もう止めろ……笑うな……黙れよ……!

 

「いやはや、無知であるとは実に悲しいな! よもや、あのシトリー家の次期当主ともあろう者がそんな夢を語ろうとは! ここがデビュー前の顔合わせの場で本当によかったな! もしも大衆の前でそんな事を言った暁には、シトリー家のいい恥晒しになる所だったぞ!」

 

 恥晒し……何を言っている……? こいつは何を言っているんだ……?

 

「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔や転生悪魔は上級悪魔である主に仕えて、その才能を見出されるのが世の常であり、それはこれからも変わりは無い。貴殿のような立場の悪魔がそのような養育施設を作ってしまったら、間違いなく伝統や埃を重んじる旧家の顔を潰す事に繋がりかねんぞ?」

「その通り。確かに、今の冥界が変革の時代に入っているのは我等も認めよう。だがな、世の中には変えるべきものと変えてはいけないものがあるのだ」

「矮小な下級悪魔や元人間の転生悪魔如きに教育などと、なんと愚かな事か」

 

 これ、もう怒ってもいいよね? つーか、怒るべきシーンだろう。

 さっきからソーナは涙を堪えて俯いているし、後ろに控えている匙くんは今にも怒りで飛びかかりそうな勢いだ。

 だが、ここで君達が一時の感情に従って立場を悪くする必要はどこにもない。

 そう……今こそ、部外者である私の出番だろう。

 都合がいいが、赤龍女帝のネームバリューを存分に使わせて貰う。

 

 

 

 

 

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

 

 

 

「………何がおかしい」

「は?」

 

 決して大きな声では無かったが、私の声は自分でも分かるぐらいに、この場に大きく響き渡った。

 

「何がおかしいと聞いている!!」

「「「!!!」」」

 

 思わず叫んでしまったが、後悔は全く無い。

 寧ろ、この分からず屋のジジイ共にはこれぐらいが丁度いいとさえ思う。

 

「お……お姉ちゃん……?」

「マユ……さん……?」

 

 横に座っている皆も驚いた様子でこっちを見ているようだが、もう止まらない。

 言いたい事を思い切り言わせて貰うぞ!

 

「まず尋ねよう。貴方達は何だ?」

「何だ……とは……」

「我等は上級悪魔……」

「誰が『階級』の話をした!? 違うだろ!! 貴方達は『大人』だろうが!!」

「「「なっ!?」」」

 

 どうして、こんな単純な事が分からないんだ!? 頭おかしいんじゃないのかっ!?

 

「どんなものであろうとも、子供の夢とは全てが等しく慈しまれて祝福されるべきものだ! 本来ならば大人である貴方方は彼女の事を応援し『頑張れ』の一言も言うべきなのに、そこで笑うとは何事か!!!」

「き…貴様……言わせておけば好き放題……!」

「あ?」

「うぐ……」

 

 こっちが一睨みした程度で怯むぐらいなら、最初から割り込んでくるな。

 

「だ…だがしかし……彼女の語った夢は余りにも非常識極まりない事であり……」

「私がいつ! ソーナの夢の内容の事を言った!!」

「で…では……貴殿はどうして怒って……」

「貴様等が『夢を笑った事』に怒っているに決まっているだろう!!」

「ひっ……!」

 

 どうして何にも分かってないんだ……このクソジジイ共が……!

 こうして口に言わないと理解すら出来ないとか、論外過ぎるだろ!

 一番上にいるサーゼクスさん達は私が言いたい事を一瞬で分かってくれてるに違いないのに!

 

「もしも、ソーナがどこかで志半ばで心が折れて夢を諦めたのならば、その時は存分に笑うがいいだろう。だが、彼女の夢が叶うかどうかはまだ未知数だ! どうなるかは誰にも分からない! 違うかっ!?」

「お……仰る通りでございます……」

「伝統。誇り。大いに結構。私もそれらが大事な事は重々に承知している。だが、それらは若者の夢を否定する理由には決してなり得ない!!」

 

 あ~…もう。完全に鼻息荒くなってますな私。

 さながら暴走特急だけど、それだけ私の怒り心頭してるってことだ!

 

「今はそうしている貴方達にだって若い頃は必ずあった筈だ。思い出してほしい。若かりし頃、互いの夢を語り合っていた時の事を……」

「「「………………」」」

 

 急に老人達が静かになる。

 やっと私の想いが伝わったのかな……。

 

「彼女の言う通りだ……」

「あぁ……我等が間違っていた……」

「私達も若い頃、周りの大人に『無謀』と蔑まれるような夢をよく語り合っていた……」

 

 ようやく思い出してくれたんだな。今の自分を形作っているものを。

 本当によかったよ……。

 

「今にして思えば、あの頃の我等は無知で無謀で……」

「でも、だからこそ、未来に大きな希望も抱いていた」

「彼女達と同じ歳の頃に抱いた夢……それが無ければ、私達はここに立ってすらいなかった……。どうして、そんな当たり前の事を忘れてしまっていたのだろうな……」

 

 誰もが皆、最初は子供だった。

 その頃に思い描いた夢こそが、本当の『宝物』なんじゃないかと思うよ。

 

「ソーナ・シトリー殿」

「は…はい!」

「貴殿の語った夢を笑った事を心より謝罪しよう。本当に申し訳なかった」

「い…いえ……私は……」

「我等は立場故に支援する事は叶わないが、個人的なエールぐらいは送る事が出来る」

「頑張りたまえ。貴殿のような者こそが、真の意味でこの冥界の未来を築いていくのかもしれんな……」

「あ…ありがとうございます……」

 

 お偉いさんたちもソーナも揃って涙を流している。

 ソーナは嬉しさからだろうけど、あの人達が泣いている理由は本気で分からん。

 でもまぁ……一軒落着……かな?

 

「赤龍女帝殿も、申し訳ありませんでした」

「しかし、貴殿のお蔭で我等は最も大切な事を思い出す事が出来た」

「嘗て、冥界の危機を救いし伝説の勇者に心からの敬意と感謝を……」

「ちゃんと分かってくれすれば、それ以上に望む事などありません。私の方こそ、生意気な事を申してしまい、すみませんでした」

 

 私達もお互いに謝罪。

 ここで終われば本当に全てが丸く収まったんだろうけど、この時の私は何をトチ狂ったのか、調子に乗ってとんでもない発言をしてしまった。

 

「そうだ、ソーナ。どうせなら君の夢が本当に叶うんだと周りに示してみないか?」

「と、言いますと……?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達『クレイドル』とレーティングゲームをしよう。そこで君の決意と覚悟を私に見せてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後悔先に立たず。

 これを言った人は本気で天才だと思った。

 

 

 

 

 

 




マユ 戦い以外の場でマジ切れ。

調子に乗ってサーゼクスのセリフを取っちゃいましたけど。


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