西住家・三助仕心得 (ターキーX)
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一つ 身を清める務めに劣情持たぬ事

 初夏の日が昇る。

 早朝の澄んだ光がその邸宅の白砂の庭を照らすと、松の木に留まっていた雀が一声鳴き飛び立った。

 雀は僅かな距離を飛び、今度は庭に停められているⅣ号戦車の砲身に留まった。

 やがて光は屋敷を照らす。木造のその屋敷は一目で見渡せない程広く、また造りは古いながらも幾度もの直しの跡が各所にあり、その屋敷が経てきた時間の長さと、そこに住む者の格式の高さと地位を伺わせる。

 これが日本戦車道を代表する流派、西住流の屋敷であった。

 

 その幾つもの部屋の一つに、一人の女性と少年が正座で向き合っていた。

「伝吉、貴男がこの屋敷に来てから幾つになったかしら」

 和服を着た、黒髪を短く後ろで結えた女性は眼前の少年に尋ねた。

「み、三月と半になります。菊代さま」

 伝吉と呼ばれた少年は緊張しつつ答えた。

 年は15,6といったところだろうか。短く切り揃えた髪と真っ直ぐな瞳は彼の真面目さと実直さを物語っている。

「早いものですね」

 その緊張を解こうとしているのだろうか。その女性、西住家使用人頭の菊代は微笑み言った。

「は、はい」

「ふふ。伝吉、このような時間に貴男を呼んだ理由が心配ですか?」

「……実を言えば、そうです。何か自分はしでかしましたでしょうか?」

「そうではありません……ですが、大事な話です」

 そこまで言うと菊代は背筋を伸ばし、伝吉に言った。

「伝吉、家元様からのご命令です。今宵から家元様の三助を勤めよとの事です」

「……三助?」

 聞きなれぬ言葉に、伝助はきょとんとした顔で菊代を見た。

「家元様が入浴される際、家元様の体を洗い流す務めです」

「はあ……え、は、はい!?」

 さらりと答えた菊代の言葉を、伝吉は最初は何気なく受け止め、次第にその意味が分かるにつれ動揺を見せた。

 伝吉は改めて菊代の顔を見た。その表情には一片のからかいも無く、今言った事が本当に西住流家元である西住しほからの指示である事を伝吉に分からせた。

「じ、自分が奥方様の、その、お、お身体をですか?」

 

 脳裏にしほの姿が浮かび、自分の顔が赤くなってきたのを伝吉は自覚した。

 西住しほ。少し前に先代家元から正式に家元を襲名し、西住流の頂点、すなわち日本戦車道の頂点に立った女性。

 只の使用人に過ぎない伝吉は、無論直接しほと話をした事は碌にない。勤め始めに菊代から紹介されて、

「そう、真面目に勤めなさい」

 と言われただけだ。だが、その姿は伝吉に強烈に焼き付いた。

 二人の娘を持ち、30後半のはずのその顔は未だ薄化粧だけでなお若々しく、戦車道で鍛えたであろう長身の体はスーツの上からでもその引き締まりが伺え、凛とした姿勢は母親以外の女性と知り合わず育った伝吉には鮮烈な印象を残した。

 

 実を言えば、しほを妄想の対象として自慰をしてしまった事もある。

 妄想の中のしほは優しく微笑み、伝吉の胸板に手をあてゆっくりと押し倒すとそのまま圧し掛かり、その豊かな胸を押し当ててきた。

「任せておきなさい」

 そう一言だけ呟き、妄想のしほは伝吉の股間に手を伸ばすと少年らしいブリーフをずりおろし肉棒を露出させ、しなやかな指を絡めてくる。

 そう想像しながら夢中で伝吉は自身の肉棒を擦った。自分でも信じられないくらい大量に射精してしまったのを覚えている。

 そしてそれを思い返してしまい、更に紅潮してしまう。

 

「……伝吉」

 菊代の静かな言葉に、伝吉は改めて我に返った。

「は、はい!」

「勘違いをしてはいけませんよ。貴男の務めは男娼めいた事をする訳ではありません。西住流家元にして日本戦車道の重鎮である奥方様の、日々の激務の疲れを癒すため、自分の体を洗う労力さえ使わずに済むようにするための重大なお役目です。貴男が受けた役目は、引いては日本戦車道の明日に繋がる役目と自覚しなさい」

「ははっ、はい! 誠に申し訳ありません!」

 そう語る菊代の表情は厳しい。伝吉は自分の中の妄想のしほまで見抜かれたような気分になり、土下座めいた低さまで頭を下げた。

 少しの間、菊代は無言であった。怒っているのだろうか。伝吉の頭に上っていた血が今度は急激に引いてゆく。

 やがて、菊代は再び口を開いた。

「……まあ、仕方のない事ではあるでしょう。顔をお上げなさい、伝吉」

 そう言われて顔を上げた伝吉が見た菊代の顔は、いつも通りの優しい表情に戻っていた。

「貴男がそのように反応するのは大凡分かっていました。その為に、平時より1時間ほど早く起きて貰ったのです」

「はあ……」

 伝吉は訝しむような返事を返した。未だに菊代の意図が読めない。

「実際の務めで奥方様に劣情を催すようでは、ひいては使用人管理を務める私の不行届きとなります。なので、その前に私で練習をしてもらいます」

「練習?」

「行きますよ」

 そう言うと菊代はスッと立ち上がり、伝吉を促した。長時間の正座で痺れた足をもつれさせつつ伝吉も立ち上がった。

 

 板張りの廊下を静かに進む。午前4時ともあって、屋敷は二人の歩く音以外が聞こえない。

 家人も今は少ない。二人の娘は両方とも高校生で学園艦で一人暮らしをしており、主人の西住常男は東京の戦車道連盟で昨晩から泊まり込みと伝吉は聞いていた。

 廊下を幾度か曲がり、先行する菊代の足が止まった。

「ここは……」

 伝吉は息を呑んだ。

 西住家の家人用の浴場。無論、伝吉も風呂掃除以外で入った事は無い。

 そうしている間にも菊代は木戸を横に開け、中に入ってゆく。

「どうしました、伝吉? 貴男が入らなければ練習になりませんよ」

「は、はい!」

 慌ててその後を追う伝吉。

 

 浴室内は脱衣所と浴室に分かれ、ガラス戸で仕切られている。家族での入浴も可能に設計された脱衣所は数名が纏めて着替えられるほど広く、ちょっとした銭湯のようでもある。

「これを着けなさい」

 菊代は着替え入れに入っていた物を伝吉に手渡した。短いズボンめいた布と、腹巻。

 そう言って伝吉が服装を受け取ったのを確認すると、菊代は無造作に帯を解きだした。

「き、菊代さま!?」

「風呂で脱ぐのは当たり前です。貴男も早く着替えなさい」

 そう言いつつ手早く菊代は着物を脱いでゆく。伝吉は慌てて菊代に背を向け、使用人用の作務衣を脱ぎ始めた。背後からの衣擦れの音。興奮と緊張で早鐘を打つ心臓の鼓動を懸命に抑えようとする。

「もう一度言いますが、勘違いをしてはいけませんよ。これは練習です。もし実際に奥方様の体を洗う時に粗相があれば、伝吉、貴男が身を置ける場所は無くなりますよ」

 菊代からの声。その言葉が伝吉に別の意味での緊張を与え、心臓と股間に集まりつつあった血を抑えてくれる。

「……はい」

 深呼吸をしてから下着まで全て脱ぎ、渡された股引きと腹巻を身に着ける。

「できました、菊代さ……」

 振り向き、伝吉は絶句した。

 菊代はバスタオル一枚身に着けずに裸体を晒していた。

 身体のラインが出ない着物姿では全く気付かなかったが、その均整の取れた体はしなやかで、かつ豊満であった。

 豊かな乳房の先には薄桃色の乳首が隠れもせず揺れ、また股間には薄い茂みが覗いている。

 普段他の使用人を仕切る大人びた雰囲気の菊代だが、実際その年はまだ20代である。初めて見る若い女性の本物の裸体に伝吉は思わず息を呑み、口内に溢れた唾を飲んだ。

 

「準備は出来たようですね。では入りましょう」

 その伝吉の反応に対し、菊代はまるで気にしないように平然と言って浴場に入った。ガラス戸を開けると湯気が流れ込んでくる。あらかじめ沸かしていたのだろうか。

 おずおずと伝吉は菊代に続いて浴室に入った。

 

 浴室は脱衣所より更に広かった。

 床はタイルの上から怪我防止用のマットが敷かれ、幾つもの蛇口と鏡、座り台が設置されている。その先にあるのは優に10人は同時に入浴できるであろう檜風呂だ。

「貴男が実際に仕えるのはその場所になります。奥方様が入浴される前にそこに備えておきなさい」

 マットの片隅を指し、菊代は裸のまま説明する。その真面目な姿勢に、伝吉は独りで興奮したり動揺したりする自分がまるで馬鹿のように思えて情けなくなった。今も菊代の体を直視しないよう、無意識に目線を逸らしてしまう。

「まずはかけ湯です。湯加減を見て、私に湯をかけなさい」

 そう言って菊代は伝吉に桶を渡し、腰を落とした。胸が揺れ、シミひとつ無い背中が向けられる。

 伝吉は湯船に手を差し入れ湯加減を確かめた。熱過ぎず温過ぎず、程よい熱さだ。桶に湯を汲み、ゆっくりと菊代の背中にかける。

「ンッ……」

 菊代が声を漏らす。喘ぎめいたその息に、落ち着いていた伝吉の心臓が再び大きく鳴った。懸命にそれを抑え、もう一度湯をかける。

「いいですよ、そのような感じです。本来はここで奥方様が入浴される間は再びそちらに控え指示があるまで待ちますが、時間がありませんからこのまま洗いに移りましょう」

「は、はい!」

 菊代は伝吉に振り返り言った。湯をかけられた肌は紅潮し、豊かな乳房を濡らす湯の一滴がその先端から落ちる。伝吉は思わず目を逸らした。

「……伝吉」

 その反応に、菊代は少し厳しい表情で言った。恐縮する伝吉。

「……はい」

「異性の裸と思うから反応してしまうのです。私を姉や母親と思って身を洗ってみなさい。貴男は母に欲情しますか?」

「い、いいえ! そんな事は……」

「実際、私は貴男を家族と思ってこの練習に接しています。だから私も緊張せず接する事が出来ているのです。これが恋人などであれば、私は平常ではいられないでしょう」

「……わ、分かりました」

 その言葉は伝吉に落ち着きと、同時に僅かな失望を与えた。自分は男性として全く意識されていないという事か。伝吉の中の僅かな自尊心が軋む。

 だが、そのお蔭か伝吉の本日何度目かの動悸は収まった。渡されたスポンジに石鹸を染み込ませ、背中から洗ってゆく。

「次は腕……その次は胸を洗いなさい。臍から下は洗う必要はありません。そこだけは奥方様ご本人が洗われます」

 そう菊代が指示を出すまま、伝吉は菊代の張りのある腕を擦り、次いでその乳房にスポンジをあてた。少し顔に血が上るが、それを相手は家族と言い聞かせて抑え込む。

「ンンッ……少し強いですね、もっと柔らかく洗ってください」

 胸の先端を擦られ、菊代は少し反応しつつ指示を出した。それに合わせ力を抜く。

 『男性と思われていない』というのは思った以上に伝吉に落ち着きを与えてくれたようだ。やがて胸も洗い終わり、伝吉は息をついた。

「最後は流しです。それから洗髪に……」

「はい、菊代さま」

 菊代の指示はまだ続く。伝吉はそれに従って次の動きに移った。

 

 

「……お疲れ様でした。今朝は朝の勤めは休んで構いません。夕方に奥方様は帰参されます。すぐに入浴されるかもしれませんので、そうしたら備えておきなさい」

 脱衣所で再び和服に戻った菊代は、湯上りの火照った肌でそう言った。

「は、はい、菊代さま。承知致しました……」

 対して伝吉は少し疲弊した表情で答えた。日常の景色に戻り、浴室内での緊張が一気に戻って来たようだった。

「三度言いますよ、伝吉。貴男の勤めは奥方様に劣情を催す事でも、ましてや奥方様に粗相をする事でもありません。くれぐれも勤めを忘れないよう。でなければ、貴男がこの屋敷で身を置ける場所は無くなると心得なさい」

「はい! 心得ます!」

 心配してくれているのだろう。伝吉はそう思い背筋を伸ばした。

「………」

 その時、突然菊代は伝吉の股間に手を伸ばした。

「き、菊代さま!?」

 止める間もなくその手は伝吉の肉棒に触れ、それを確かめるように指を動かした。急激に股間に血が集まり、勃起しようとする。

「……安心しました。今から固くなろうとするのであれば大丈夫そうですね」

 しかし、その昂まる寸前で菊代は手を離した。

「菊代さま、わ、悪ふざけはお止めください!」

 流石に抗議の声を上げる伝吉。しかし菊代の表情はあくまで真面目だった。

「……心得なさい」

 もう一度そう言うと、菊代は一礼して先に浴場を出た。

 伝吉はその背中を見送り、半端に勃起した己の肉棒を持て余した。

 

 

 それから伝吉は使用人用の自室に戻り、一人寝転がり部屋の天井を見ていた。

 半日もすればしほは帰ってくる。そうすると自分は裸のしほと相対して彼女の身体を流す事になる。

 「家族と思え」と菊代は言った。確かに小学校の頃までは母親と一緒に風呂に入っていたし、間違ってもそれで勃起などはしなかった。それは肉親の情と、実際に勝手知ったる家族だからだろう。では、同様にしほの事を思えるのか。

「家族……家族。あの人が母親……」

 しほの顔を思い浮かべつつ、唱えるように伝吉は呟く。

 その内に次第に眠気が襲い、伝吉は呟いたまま眠りの世界に落ちて行った。

 

 

 何かを擦る音が聞こえる。乾いた擦る音が、次第に僅かな粘液の音と混じり始める。

 伝吉はその音が、自分が何かを自身の肉棒に巻いて擦っている音だと気付いた。意識が戻り、視界が開ける。

 「ハァッ、ハァッ……母さん、母さん……!」

 そう言って伝吉は夢中で擦っていた。その手の中にある、肉棒に巻かれている黒い布。寝室から盗み出した、母親である西住しほのショーツだ。高級なシルクで作られたその下着には既に幾つもの黄ばんだ染みがあり、何度も自慰に使われた事が見て取れる。

 ステッチの部分をちょうど亀頭に当たるようにして、更に手を動かす。

 部屋の中は普通の家庭と変わらない勉強机にシングルベット。そうだ。ここは奉公に出る前に住んでいた自分の部屋だ。

「母さん、イクよ、母さんのおまんこに出すよ!」

 母親としては余りに若々しく豊満なしほの体を思い出しつつ、精管を上ってくる射精の感覚に伝吉は体を震わせる。

「伝吉」

 しかし、その行為は突然背後にかけられた声で中断させられた。

 

「!?」

 冷水を浴びせられたように伝吉は手の動きを止め、背後を振り返った。

 音もなく開けられたドアと、それを背にして室内に立つ黒いスーツの女性。

「か、母さん……」

 伝吉は凍り付いた声で、何とか弁明できる言葉を探した。弁明? 母親の下着で自慰行為をしていた現場を見られたのに? 伝吉の背中に嫌な汗が浮かび、顔が青ざめる。

 しほは無言でそんな伝吉を見下ろすと、静かに言った。

「……こちらを向きなさい」

「ちょ、ちょっと待って、ズボン……!」

「そのまま向きなさい」

 有無を言わせぬ言葉に、伝吉は観念してしほの下着を巻いたままの下半身を丸出しにしたまま椅子を回して正面を向いた。終わりだ。

「………」

 しほは無言で伝吉の股間を見下ろした。

「偶に下着が無くなるとは思っていたけど、こういう事だったのね」

「………うぅ」

 最早言葉も出せずに伝吉は俯いた。未だ充血が収まらず、半勃起したままの肉棒が恨めしい。

 だが、しほはそのままの表情で腰を落とすと伝吉の肉棒に顔を寄せた。

「か、母さん!?」

 驚く伝吉。しほは更に顔を近づけた。吐息がかかり、ピクリと反応してしまう。

「まだまだ子供だと思っていたけど……もう、こんなに大きくなってたのね」

 そう言うとしほは髪をかき上げ、おもむろに肉棒に唇を当てた。

「うあっ!?」

 痺れるような快感に、それだけで伝吉は大きく背を逸らした。更にしほは口を広げ、再び完全に勃起した肉棒を咥えこんでゆく。舌先はつつくように鈴口を舐め、唇は竿の中頃を締め付けるようにすぼめる。

 ジュルジュルと吸い出すような音と共に行なわれる初めてのフェラチオの刺激に、伝吉は身を震わせた。

「ンッ……ンムッ……」

 しほは頭を前後させ、伝吉の射精が近いのを察してか更に舌先の動きを激しくしてゆく。

「だ、駄目っ、出るっ!」

 一度射精寸前で抑えられていた衝動はあっさりと伝吉を絶頂に促し、しほの口腔内に青臭い精液を迸らせた。

「ッ! ンンッ……」

 大量のそれをしほは迷わず嚥下してゆく。伝吉が数回腰を震わせて射精を終えてなお彼女は口を離さず、残った精液を吸い出そうとする。

「ああっ! そ、それ、ヤバっ……!」

 しほは吸い出した精液を飲み干し、ようやく口を離した。精液の残滓が亀頭としほの唇の間に橋をかける。

「……ずっと、こうしたかったの?」

 口の端から白濁液を溢し、潤んだ瞳でしほは伝吉を見上げた。無言でうなずく伝吉。

 射精したばかりにも関わらず、肉棒はまだ固さを保ったままだった。更なる快感に期待してかその先端はビクビクと震えている。

「まだこんなに……満足していないのね」

 そう呟くと、しほはジャケットを脱ぎ捨てスリムパンツのベルトを外した。伝吉が呆然とする内にワイシャツと下着だけの姿になり、傍らのベッドに腰かける。

「ねえ、伝吉……貴方、彼女とかはもういるの?」

 ぶんぶんと首を横に振る。

「そう。それじゃ、女の子とセックスした事は?」

 更に激しく首を横に振る。

「……そう」

 頷くと、しほはベッドに横になり伝吉を見上げた。

「……来なさい。貴男を男にしてあげる」

「かっ……母さん!」

 伝吉は弾かれたように椅子からベッドに飛び乗った。そのまましほに抱き着き、ワイシャツの上からでも十分なボリュームが分かる乳房に手を回し激しく揉みしだく。

「ああっ! そ、そうよ、貴男の好きなようにしなさい。これからは、私が何時でもしてげるから……!」

「母さんっ、母さんっ……!」

 夢中で重みのある胸を揉む伝吉。しほは伝吉の頭を愛おしく撫でると囁く。

「『母さん』ではなく、『しほ』と呼んで……!」

「し、しほっ、しほぉっ!」

 むしり取るようにワイシャツのボタンを千切り、黒のハーフカップのブラを露出させる。谷間に顔を埋め、腰を擦り付ける。

「ああんっ! も、もっと、もっとよ! 貴男のものにして!」

「俺のもの……全部、俺の……!」

 嚙みつくような荒々しいキス。夢中で舌を絡ませ合う。ブラをずり下げると、重みと張りを兼ね備えた巨乳が露になった。更に伝吉の手はしほの下半身に伸び、同色の黒のショーツに割り入る。指先に触れる茂みの感触と熱気と、とろりとした液体の感覚。

「濡れてる……!」

「そうよ……貴方が、私を気持ちよくしてくれているの」

 そう言いつつ、しほの指先は伝吉の股間に伸びていた。巻かれた下着を解き、竿の根元から擦り上げる。

「ああっ! か、母さんっ、それっ!」

「『しほ』と言いなさい」

「しほっ、それ、それっ!」

「まだよ」

 伝吉が我慢しきれないと察したのか、しほは手を止めた。

「今度は……ここに来なさい。貴男が出てきたところに、貴男のおちんちんでただいまをするの」

 そう言ってしほは手を添えたまま、ショーツを器用に片手でずり下げて秘所に肉棒を導いた。

「し、しほ……で、でも、ゴムとか……」

「要らないわ……貴男が出したいだけ、私のここに出していいの」

 なけなしの知識で尋ねる伝吉に、しほは微笑んで陰唇を開いた。耳元で囁く。

「頂戴。伝吉の熱いザーメン、しほのここに注いで……」

「う、うおぉっ!」

 そこまで言われ、伝吉の残っていた理性は吹き飛んだ。獣のような声でしほの秘所に肉棒を突き入れ、腰を動かす。

「ああんっ! す、すごっ! 凄いっ! 息子のチンポ凄いぃっ!」

「うぁっ! あ、熱いよ、熱いよ、しほのおまんこっ!」

「いいのよっ! もっと、もっと激しく動かしてっ! 出しっ、出したい時に射精してっ! いいっ、からっ!」

 しほも伝吉の腰の動きに合わせてくる。急速に高まる絶頂感。

「しほっ、出すっ! 出すよっ!」

 

 

「イッ、イクッ!」

 激しい射精感と共に、伝吉は目を開いた。

 見慣れた使用人用の狭い個室の天井。居るのは自分一人だ。

「………」

 伝吉は自分の姿を見た。寝巻は汗だくで、股間は別の液体でべっとりとしている。

「……何やってるんだよ、俺は……!」

 射精の快感が収まると、伝吉は強烈な自己嫌悪に襲われた。よりによって自分の仕える主人を母親役にして犯す夢を見るとは。頭を抱えながら立ち上がる。とりあえず下着を替えなくては。

 

 ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……ゴーン……

 

 柱時計の鐘が5つ鳴った。という事はもう夕方なのだろうか。伝吉が慌てて着替える間に、どこからか菊代の声が聞こえた。

 

『奥方様、お帰りになられました!』

 

 

【続く】



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二つ 家人の言葉は如何な事であれ、天の声として従うべし

 西住家屋敷玄関口。和服を着た女性が先頭に立ち、その後に他の使用人数名が並ぶ。

 使用人は性別も年齢も様々だ。その最後尾に汗をかきつつ立つのは伝吉である。

 やがて玄関前に重々しい音と共に停車するリムジン。音もなくドアが開き、そこから降車する人物がひとり。長い黒髪をなびかせた、黒いスーツの女性。

 

「お帰りなさいませ、家元様」

『お帰りなさいませ、家元様!』

 リムジンが発車し切るのを待ち、使用人頭の菊代が玄関口で頭を下げる。それに合わせて一斉に頭を下げる使用人たち。

「お、お帰りなさいませ、家元様!」

 一瞬遅れて伝吉も頭を下げた。その脳裏に先ほどまで見ていた夢の中の淫猥なしほの姿が浮かんでしまい、慌ててそれを振り払う。

「……夕方の忙しい時間に集まる必要は無いわ。すぐに各自の勤めに戻りなさい」

「申し訳ありません、家元様。皆さん、元の勤めに戻ってください」

 切れ長の瞳を菊代に向け、端正な顔に一切の感情を浮かべずしほは静かに言った。頭を下げ、一同に指示を出す菊代。それを合図に他の使用人も一礼してから散開してゆく。

 

 この一連の流れは決して菊代が粗相をした訳でも、しほが傲慢な訳でもない。しほが帰宅した際に行われる、プロトコルめいた一種の様式である。

 使用人は自分の務めを一旦置いてでも主人の出迎えを優先することで、家の主人への忠誠を示す。主人はそれを知りつつも指示を出す事で主としての姿を示す。

 それは一見無意味なやり取りに見えるかもしれないが、主従関係を再確認するための重要な意味を持つものなのだと、伝吉も奉公初めの頃に菊代から教わった。

「貴男には無駄に思える事があるかもしれません、しかし、伝統と言うものには全てに意味があります。その意味を知れば、貴男も分かってくるでしょう」

 その事を思い出しつつ、伝吉も他にならって一礼した。

 

 しほは歩みを止めずに屋敷へと向かった。その後に続く菊代。

「留守の間に何かあった?」

「月刊戦車道編集部の方からコラム依頼が」

「明後日までに口述筆記の用意をしておいて」

「アメリカ戦車道連盟の来賓の歓迎パーティーが今月末。招待が来ております」

「出ない訳にはいかないわね。パーティードレスの用意を。飛行機は専用便を用意して」

「はい。ケーブルTVの戦車道チャンネルから取材依頼が」

「取材内容は?」

「大洗女子学園の、みほ様についてです」

「……断っておいて」

 聞き直す事無く二人は石畳を歩きながら言葉を交わす。やがて伝吉の前を通り過ぎる。

 しほは伝吉の方を見る事も無い。菊代は話ながら伝吉に視線を向け、励ますように僅かに笑った。恐縮して会釈する伝吉。

 そのまま二人は屋敷に入った。中から聞こえるしほの声。

「今日は戦車道の実践で汗をかいたわ。先に入浴するから用意しておいて」

「承知しました」

 伝吉は跳ねるように体を起こし、自室に駆け戻った。

 

 

 「(ううっ、何でまだ務めの前なのにこうなるんだよ!?)」

 自室に戻った伝吉は泣きそうな顔で自分の下半身を見た。先程夢精で射精したばかりだと言うのに、既に股間の肉棒は硬度を取り戻し、固く勃起している。

 しほがこれから風呂に入るというだけで、既に伝吉は期待と興奮を感じてしまっていた。菊代と話をしていた、しほの口元を思い出すだけで夢の中での激しいしほのフェラを思い出してしまい、それだけでピクリと肉棒は震える。

 若者としては至って健全なのかもしれないが、今の伝吉には悩みの種でしかない。

「何とかしないと……」

 

 しほが風呂に向かうまでには10分ほど余裕がある。自室で少しくつろぎ、湯の用意ができてから向かうのが帰宅後すぐ入浴する場合のしほの流れだと菊代は説明してくれていた。

 ではそれまでに勃起が治まるのを待ってから行くか? いや、それで一旦落ち着かせても彼女が入って来たらすぐに再発するだろう。

 

「……くそっ」

 伝吉は小さく悪態をつくと下履きを脱ぎ、ブリーフをずらし肉棒を露出させた。解放された肉棒は腹に貼りつくほど反り返っている。しほの裸体を期待しているのだろう。

「うっ、ううっ……!」

 そのまま伝吉は肉棒に手を添え、少し余った皮を引っ張り亀頭を露出させるとそれを扱き始めた。

「駄目だ、奥方様じゃなくて……!」

 真っ先に頭に浮かんできたのは、先ほどの夢で出てきた黒い下着のしほ。それを頭を振って打ち消し、彼女以外の自慰のイメージを探る。次に浮かんできたのは、三助の練習の時の菊代の裸体だった。

「……菊代さま、すみません」

 伝吉はそう呟くと、扱く手を速め始めた。今朝の鮮烈な記憶だ。菊代の形良い乳房も、先端で揺れる薄桃色の乳首も、下半身の茂みも全て思い出せる。

 

 妄想の中の彼女を押し倒し、荒々しく胸を揉む。

『んくっ……』

 髪の解けた菊代が甘い声と共に悶える。

『上手いですよ、伝吉……もっと、もっとして下さい……!』

 勃起してきた菊代の乳首に舌を這わす。既に彼女の秘所は十分に濡れている。顔を離し、彼女の両脚を抱え、一気に挿入する。それらの妄想と共に伝吉の手は動きを更に速める。

『ああっ! で、伝吉っ! 素敵ですっ、伝吉のチンポ、熱いっ!』

 髪を振り乱し乱れる菊代。普段の清楚で優しい姿とは全く異なるイメージ。

「菊代さまっ、菊代さまぁっ!」

 伝吉は思わず声を出して達した。精液が迸り、自室の床を汚す。

「……ふぅ」

 一息つき、伝吉はようやく滾りが治まった肉棒を部屋のティッシュで拭き、その後で床の残渣を拭った。情けなさが伝吉の中で沸きあがる。

 だが、間違っても粗相はできないと伝吉は決めていた。あそこまで菊代が念を押して、自身の身体を張って練習までしてくれたのだ。もしこれで、しほを怒らせたり粗相をしてしまっては、菊代も少なからず責められるだろう。

 残り時間もあまり無い。伝吉は急いで風呂へと向かった。

 

 

 伝吉が風呂に付いた時、既に支度は整っていた。湯は張られ、湯気が脱衣所との間のガラス戸に貼りついている。

 まだしほは来ていない。急いで三助用の股引きと腹巻に着替え、浴室に入る。熱気が伝吉を迎え、剥き出しの肩に幾つもの水滴を作る。

 湯加減を確認した後、伝吉は菊代に教えられたマットの片隅に膝立ちで座った。そこがこの浴室で、しほへの流し以外で伝吉の存在の許された場所だ。

 

「………」

 

 無言で座して待つ。何も他にできる事が無く、眺める物も無い空間では時間の流れは緩やかだ。伝吉の髪が湯気で濡れ、腹巻や股引きは湿気を吸って肌に貼りつき既に半透明となっている。

 

「………」

 

 更に待つ。体感では既に10分以上経ったように感じる。実際はどうなのだろうか。時計は脱衣所にのみあり、浴室内からは時間を確認できない。

 

「………来ないのかな」

 思わず一人で呟く。複雑な気持ちだった。来てほしい気持ちもあるが、同時にこのまましほが来ずに今日の勤めが無くなる事も期待してしまっている。

 一度外の様子を見ようかと伝吉が腰を上げた瞬間、浴場の戸の開く音がした。

「!?」

 慌てて伝吉は姿勢を戻した。湯気で大凡のシルエットしか分からないが、肩まで伸びた黒髪と白いワイシャツ、黒のスリムパンツは間違いなくしほだ。

「スー……ハァー……」

 深呼吸して、動悸を抑えようとする。しかし視線は脱衣所から離れない。

 白いワイシャツが脱げ、その下の肌色が露になる。そこに混じる黒。

「(下着、やっぱり黒なんだ……)」

 そう伝吉が思う間に、その黒のブラも外された。髪の黒色と肌色だけになる戸の向こうのしほ。更にスリムパンツと黒のショーツも脱ぎ、伝吉から見える戸の向こうのしほのシルエットはほぼ肌色だけになった。

「………!」

 動悸が激しさを増し、唾が沸きあがる。だが、伝吉は必死に意識して股間に血液が集中するのだけは抑えていた。先ほどの自慰で一発抜いていなければ、この時点で既に射精していたかもしれない。普段の男性的な服装のしほしか現実では見た事の無い伝吉にとって、しほが服を脱ぐ姿はそれだけで煽情的だった。

 だが、ガラス戸が開いた時、伝吉はまさしく息を呑んだ。

 

 指示を出した当人である以上、伝吉が風呂で待機しているのはしほも当然知っている筈だ。

 しかし彼女は頭にタオルを巻いて黒髪を上げたたけで、普段と変わらない落ち着いた歩調で裸のまま入ってきた。

 まず伝吉の視線が吸い寄せられたのは、その豊満な乳房だった。朝の練習で見た菊代の乳房より二回りも大きいそれは重そうに揺れながらも張りを保ち、乳輪は小さく、先端の朱色の少し大きい乳首はしほの白い肌に刺激的な色合いを添えている。それが歩く度に揺れる様は伝吉の脳裏に焼き付いた。

 それでいて手足や腰はしなやかであり、日頃の戦車道の鍛錬で鍛えられた肉体が若々しい張りと、脂の乗った大人の女性の妖艶さを両立させている。

 そこから再び膨らみを増し、熟れた尻は娘二人を産むに足りるボリュームと張りを伝吉に見せつける。そしてそのむっちりとした太腿の間からは僅かに濃い茂みが覗く。

 少年が相対するには余りに刺激的なその身体と、不釣り合いなまでに冷静さと気丈さを感じさせる、細い眉と切れ長の瞳、そして整った前髪。

「あ……あ……」

 自身の妄想の中のしほの肢体を遥かに超える現実のしほの裸体に、伝吉は言葉を失った。

 

しほはそんな伝吉の反応を―――否、存在自体を無視するように湯船に近づき、腰を落とした。

「……お湯は?」

 数秒の間の後、一言だけしほが言った。

「あ……、は、はい! 申し訳ありません、奥方様!」

 そう言われて初めて伝吉は自分の務めの出番である事を思い出し、慌てて立ち上がり桶を取った。

 しほの傍らまで近づき、湯加減を確認してからお湯を汲み、かけ湯をしほに注ぐ。

「ンンッ……」

 しほの口から僅かに声が出た。普段の使用人への指示では決して聞けないような声。それを聞くだけで伝吉の動悸は早くなる。もう一回かけ湯。

「……もういいわ」

 二度のかけ湯を行うと、しほはそれだけ言って湯船に入った。伝吉は慌てて元の場所に戻り、再び膝立ちの姿勢で待機する。

「……フゥ」

 伝吉はしほに気付かれない程度の小ささで息をついた。大丈夫だ。何とかここまでは勃起を抑えられている。あとは流しと洗髪を終わらせれば完了だ。

「(菊代さま。すみません……ありがとうございます)」

 練習相手になっていただいた上に自慰のために使ってしまった菊代に、申し訳なさと感謝を感じつつ伝吉は内心で詫びと礼を行った。

 

「………」

「………」

 

 静かな時間が流れる。しほは伝吉に何も言わない。無論、伝吉もしほに何も言えない。

湯船でしほが体を動かす際に立つ水音だけが浴室に響く。

 本来ならば気まずい時間であろうそれを伝吉は感謝した。興奮が次第に鎮まり、心が整ってゆく。しほは伝吉の事を石か何かのようにしか意識していない。ならば自分も石のつもりで務めよう。そう伝吉は思えてきた。

 

「………」

 それまでより大きい水音が鳴った。しほが湯船から立ち上がったのだ。白い肌は火照って赤みを増し、肌から弾けた水滴が豊かな胸元から滴り落ちる。

 先程までの心は何処へ行ったか、思わず目線を逸らしてしまった伝吉だったが僅かに身体を起こした。

 しほはそのまま湯船を出ると、幾つかある洗い場のひとつに腰かけた。木製の椅子に乗った尻がぷるりと震える。

 伝吉は素早くしほの許へ近づいた。洗面器に湯を張り、台の上のスポンジを手に取り液体ソープをそれに垂らす。泡立て、伝吉はしほの背を洗い始めた。

「………」

 しほは何も言わない。伝吉の行為を、それが当たり前であるかのように身を任せている。

「あの、奥方様、腕を……」

 おずおずと伝吉はしほに言った。無言のまま腕を上げるしほ。スポンジにソープを付け直し、今度は腕の洗いに移る。きめ細やかな肌を、まるで宝石商が宝石を磨くように丁寧に擦ってゆく。

「ハァー……」

 しほの口から吐息が漏れた。気持ち良いのだろうか。伝吉はそう思いながらしほの腕の洗いも終えた。もう少しだ。

「お、奥方様、前を洗わせていただきます」

「……ええ」

 いつも通りの端的な返事。しほは上げていた腕を下ろした。伝吉は練習の時の菊代の指示を思い出しながらしほの胸にスポンジを当てた。

 まず肩口から鎖骨、次第に下へと擦る箇所を移してゆく。

「……ッ」

 伝吉は懸命に音を立てないよう唾を飲んだ。スポンジが乳房に当たる。

「(これが、奥方様のおっぱい……!)」

 それは伝吉の妄想よりも柔らかく、それでいて弾力があり、豊満だった。スポンジ越しでも伝わるずっしりとした重み。日頃羨望の目で、服の上からしか見られなかったそれを直接見て、触っている。それは伝吉にとって信じられない事だった。

 このおっぱいを思うさま揉み、吸い、顔や肉棒を挟む事が出来ればどれだけ気持ち良いのだろう―――

「(……まずい!)」

 二発も短時間で出したというのに、伝吉の肉棒はその妄想で早くも勃起しかかった。咄嗟に我に返った伝吉は必死に菊代の言葉を思い出し、勃起を抑えようとした。

 

『奥方様に粗相があれば、貴男の屋敷で身を置ける場所は無くなると思いなさい』

 

菊代は三度もそう言って伝吉を諫めた。それを無駄にしてはいけない。

危うい所で勃起し切るのを抑え、伝吉は乳房を洗い終えた。

「お、終わりました、奥方様……」

 そう言って伝吉はスポンジを台に戻そうとした。臍から下はしほ自身が洗う場所だ。あとはそれが終わるまで待ち、流せば良いだけだ。伝吉はそれを考えて息を吐いた。

「待ちなさい、伝吉」

 しかし、その息は途中で呑み込まれた。

「は、はい?」

「私は今日は非常に疲れています。そこから先も貴男が洗いなさい」

「じ、自分がですか!?」

 伝吉は思わずしほに問い返した。

「(って事は、俺が、その、奥方様の、お、おま……)」

 治まりかけた動悸が急激に早まり、股間に血液が集まってゆく。

「………」

 しほはそれ以上何も言わなかった。ただ無言で脚を広げ、伝吉の手が下半身に届きやすいようにする。

 そして伝吉も、もう一度しほに問うような事はしなかった。否、出来なかった。使用人にとって家人の、ましてやその中でも家元の言葉は絶対である。それがどのような内容であれ従うのが使用人の義務であり、最優先される事柄なのだ。

「そ、それでは、洗わせていただきます……」

 震える指でスポンジを持ち直し、ソープを垂らしてしほの身体の前面に手を回す。先程までの箇所から更に下がり、臍周り、両脚に行って指先から太腿までを擦る。

「………」

 そこで伝吉の指が止まった。

「……どうしました?」

 しほの言葉。

「……何でも、御座いません……」

 家人の言葉は絶対である。

 伝吉はゆっくりとスポンジを動かした。臍下から鼠径部、更にその下へと。

 ショリショリとした陰毛の感触が伝吉の指に当たる。やがてたどり着く、肌とは違うスポンジ越しの感触。

「(おまんこ……奥方様の、おまんこ……)」

 伝吉の頭の中にはそれだけが響いていた。菊代の言葉も、それまでの意識もどこかに行ってしまっていた。

「うあっ!?」

 突如、伝吉の股間に刺激が走った。既に伝吉の肉棒は完全に勃起して股引きの上からでもはっきり形が分かってしまう程だったが、しほが背中越しにそれに触れたのだ。

「お、奥方様!?」

「……続けなさい」

 しほはそれだけ言って、伝吉の肉棒を布越しに握った。

「あっ、ああっ!」

 それだけで伝吉の背が震える。

「………」

 更にしほはその手を上下に動かし始めた。風呂の湯気で濡れそぼっていた股引きは抵抗なくその動きを受け入れ、間断なく伝吉に快感を送り続ける。

「だっ、ダメ、です、奥方っ、様ぁっ!」

「……手が止まっていますよ」

 堪らず伝吉は声を上げた。しかし、しほは手を止めずに静かに言うだけだ。

 しほの手は単に上下に扱くだけでなく、微妙な変化も付け始めた。ある時は早く、ある時は遅く、また竿全体を扱くようにしたと思ったら亀頭だけを弄るように指先を動かしてゆく。

「ハッ、ハァッ……おくがた、さまぁ……!」

「………」

 しほは何も言わずに更に動きを激しくしてゆく。湿気とカウパーが合わさり、粘っこい音が肉棒から立つ。

「あっ、あああっ! でっ、出るっ! 出るぅっ!」

「………!」 

 腰を震わせ、伝吉は絶頂に達した。ビクビクと肉棒が震え、股引き越しに精液を滲ませる。

「……ンッ」

 しほは自分の手に付いた伝吉の精液を少し眺め、それを口に含んだ。

「おくがた、さま……!」

 最早伝吉は立つことも出来ず、腰を抜かしたように風呂のマットの上に腰を落とした。 

 しほはそんな伝吉を振り返って見下ろすと、スッと立ち上がった。

「出ます」

 そう言い残し、しほは体を拭きもせず浴室を出た。

 残された伝吉はそれから数分間、衝撃と混乱で起き上がることが出来なかった。

 

 

【続く】



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三つ 主人の意を察し、それに応じて動く事

「伝吉」

 ふらつく足で廊下を歩く伝吉に、背中から声がかけられる。

「……菊代さま」

 伝吉はゆっくりと振り返り、使用人頭の菊代を見た。

「伝吉。三助務めの初日、お疲れ様でした」

「い、いえ、菊代さまこそ、朝からありがとうございました」

 菊代は優し気に微笑みつつ伝吉に言った。疲れた顔でそれに礼をする伝吉。そう言われ、菊代は少し顔を赤らめた。

「ふふ、今になって私も少し恥ずかしくなってきました……大丈夫でしたか?」

「はっ……はい」

 一瞬、伝吉は何かを言おうとしたが途中で止め、普通に答えた。

「そうですか。奥方様も伝吉を褒めていましたよ」

「奥方様が?」

 意外そうに伝吉は顔を上げた。微笑む菊代。

「ええ。まだ恥ずかしがっているようですが筋が良いと言われていました」

「………」

「慣れが必要かと思いますが、頑張ってくださいね」

「……はい」

 少し間を置いて、伝吉は頭を下げた。

 

 

 ―――どういう事なのだろう。

 味も分からない夕食を食べ、夜の使用人の務めを終えた伝吉は自室で横になりつつ考えていた。

 まるで夢の中の延長線のようだった。しほが自らの秘所を伝吉に洗わせ、更に伝吉の肉棒を扱き始めて射精させた。まだ夢を見ていたと考えた方が納得のいく出来事だ。

 だが、あの後隠れて洗濯場に濯いで突っ込んだ精液塗れの股引きと、何より今でも鮮明に思い出せる、しほが自分の肉棒を握った感触が現実だった事を物語っている。

「うーん」

 粗末な布団の中で伝吉は寝返りを打った。

 悪ふざけだったとしたら余りに度の過ぎた行為だ。何より、伝吉はしほが他愛ない会話でも冗談を言うのを見た事がない。

 だとしたら、アレはしほが本気で伝吉を興奮させ、射精させようとしたのだろうか。

「そんな訳……」

 家事雑事はほぼ使用人が行っているためそれらしい姿は見せないが、曲がりなりにもしほは娘二人を持ち夫も健在な、れっきとした人妻だ。それが突然伝吉を誘惑してきたりするのだろうか。

「……駄目だ」

 暫くぐるぐると思考を巡らせ、伝吉は答えを出すのを諦めた。明日も三助の仕事はあるだろう。そこで答えは出る筈だ。

「……ンッ」

 股間の肉棒が疼いた。今日は朝の菊代の裸体からしほを母親にした淫夢、果ては現実のしほからの手淫と余りに刺激の強い事が起きた。それらを思い返せば今までに無い気持ち良い自慰が出来るだろう。

 しかし、伝吉は我慢しようと思った。理由は自分でも分からなかった。

 ひょっとすると、自分は何かを期待しているのだろうか。そう思いながら伝吉は眠りに落ちて行った。

 

 

 伝吉の予想に反して翌日、しほは屋敷に帰ってこなかった。菊代の話では、黒森峰女学園の学園艦に戦車道の視察に行っており、そのまま向こうで泊まるのだそうだ。

 高校戦車道随一の名門、黒森峰。そこの隊長がしほの娘である事は伝吉も知っていたし、以前屋敷に帰って来た時に少し会った事もある。自分とほぼ同年齢とは思えない程落ち着いた雰囲気の、風格すら感じる少女だったのを覚えている。

 普段から厳格なしほでも、娘とは和気藹々と話をしたりするのだろうか。

 伝吉は絵面を想像してみたが、無言で差し向かいになっている姿しか思い浮かばなかった。

 そして、その日も伝吉は自慰をしなかった。

 

 

 しほが戻ってきたのは、その次の日の夕方だった。

 本来は黒森峰からの連絡船で戻ってくる予定だったのが変更になったらしく、ヘリに乗って中庭に緊急着陸めいて帰ってきたのだ。

 ヘリポートとして使える程の広さを持つ中庭だが、ヘリの風によって庭の樹の木の葉は吹き散らされ酷い事になっていた。明日の庭掃除は一仕事だろう。

 菊代はそのヘリに向かう前に伝吉に駆け寄り、耳元で言った。

「すぐに入浴されて埃を落とされる筈です。伝吉、用意を」

 伝吉はすぐそこから離れ、ヘリのローター音を背に浴場へ向かった。

 

 

「……よし」

 湯船に手を差し入れ、湯加減を確認する。給湯器が適温に調整してくれてはいるが、それが常に万全とは限らない。最後の確認は今も昔もアナログ的だ。

 その時、伝吉の背後で戸の開く音が聞こえた。

「(菊代さまの言われた通りだ)」

 伝吉はそう思いつつ浴室のマットの一角に小走りで向かい、膝立ちで備えた、

 ガラス戸越しに見えるシルエットは、前回見たのと同じしほの姿だ。風呂に入るのだから当たり前ではあるのだが、彼女が服を脱いでゆく様に伝吉の動悸は早さを増してしまう。

 やがて服を脱ぎ終え、しほはガラス戸を開けて入って来た。最初の時と同様の、頭の髪をタオルで纏めただけの生まれたままの姿だ。

「……くっ!」

 思わず勃起しそうになる肉棒を、膝に置いた手で腿を思い切りつねり抑える。

 二晩放出しなかっただけで、伝吉の肉棒は刺激に対して敏感になっていた。その対象がしほである事も無関係ではないだろう。

 だが、少なくともしほの意図が分かるまでは不用意な勃起は抑えようと伝吉は思っていた。まだ何かの間違いだったのかもしれないという気持ちがあった。

 しほは前回同様、まるで伝吉が存在しないかのように視線すら彼に向けず入ってくると、湯船の前で屈んだ。今度は失敗せず伝吉は即座に動き、もう一度湯加減を見てから桶に汲み、しほの背中からかけ湯を行った。

 二度かけ湯を行うと、しほは無言で立ち上がって湯船に入った。伝吉も一礼してから無言で定位置に戻る。

 

「………」

「………」

 

 やはり前回同様、しほは何も言わない。実際湯船の中で体をほぐしリラックスしているとは思うのだが、横目で伺うその表情は平時と全く変わらず、伝吉にその内心を伺う事はできなかった。

 前回あった事についても彼女は何も言わない。まるで、本当にあの時の事が興奮した伝吉が見た幻覚だったのではと疑わしくなってくる程だ。

「(いや、そんな筈は無いよな……?)」

 目を閉じ、改めてあの日の事を思い返す。やはり現実だ。では……

「伝吉」

「はっ!? は、はい!」

 突然しほから声をかけられ、伝吉は慌てて顔を上げた。

 自分で思ったいたより、伝吉は考え込んでしまっていたようだった。しほは既に湯船を上がり、洗い場にその身を置いている。

「もっ、申し訳ありません、奥方様!」 

 大急ぎで伝吉は立ち上がり、しほの所へ向かった。湿ったマットは滑りやすく、危うく転倒しそうになる。

 何とか転ばずにしほの近くまで来た伝吉はスポンジを持ち、そこに液体ソープを付けて泡立てた。

「し、失礼致します」

 一言添えてから、伝吉はしほの背を洗い始めた。続けて腕を洗う。ここまでは前回と同じだ。息を呑み、伝吉はしほに言った。

「奥方様、前を……」

「伝吉」

 突然、しほは伝吉に声をかけた。前に回そうとしていた手を止めて膝に置き、返事を返す。

「は、はい!」

「この前は悪かったわね」

 その言葉は伝吉にとっては半ば予測していた言葉であり、半ば予想外の言葉であった。やはりあれは何かの間違いだったのだろうか。

 しかしその後続いた言葉は、伝吉の予想の完全に外だった。

「……途中で手が止まってしまったけど、洗いにくかったようね」

「え? いえ、そんな……?」

 無論、洗うのが途中で止まったのはそんな理由ではない。しほが伝吉に手淫をしてきたからだ。当然ながら仕掛けたしほがそれに気付いていない筈がない。

 そう伝吉が混乱する間にも、しほはおもむろに立ち上がり、振り返って再び座り台に腰を落とした。伝吉の正面に。

「あ……!」

「……前から洗いなさい」

「お、おく……!」

 

 

「奥方様」と言おうとした伝吉の言葉は途中で呑み込まれた。湯上りで紅潮した艶やかな肌も、伝吉の眼前で重そうに揺れる両の乳房も、陰毛に彩られた秘所も、そして言葉を失う伝吉をいつも通りの静かな目で見下ろすしほの瞳も、全てがそこにあった。

 伝吉は唾を飲み、スポンジを持った手の強張りを解き、震える声で答えた。

「わ、分かりました、奥方様……」

 確かに練習でも前回でも乳房は洗ったが、それはあくまで背中から手を回してやった行為で、ここまで直接乳房を間近で見る事は伝吉も初めてだった。

 しほの巨乳にスポンジを添え、柔らかく擦ってゆく。

「ンンッ……」

 艶めかしい声。伝吉の心臓が鳴る。何とか抑えようとしていた勃起は既に止められず、固く膨張したそれは股引きの上からでも見て取れる程怒張している。おそらくはしほにも気付かれているだろう。だが、伝吉にそれを気にする余裕は無かった。

「(あぁ……奥方様のおっぱい、凄い、こんな……)」

 下から掬い上げるようにスポンジを動かす。ずっしりとした重みが伝吉の手にかかり、それから「ゆさっ」と音がしそうな程の重量感で乳房が揺れる。泡塗れのそれの先端で朱色の乳首はふるふると震えている。

「……いつまで胸ばかり洗っているの?」

「えっ!? あ、はいっ!」

 しほの言葉で、伝吉は初めて自分がずっと胸ばかり洗っていた事に気付いた。慌ててそこ以外の肩口や臍周りまでを洗う。しかしその間も、視線を豊かな乳房から離す事が出来ない。

 ようやく上半身を洗い終えた頃、しほが言った。

「……今日も疲れているの、下も頼むわ」

 ここまでの流れから半ば想像はしていたが、それでも伝吉の股間に電流が流れたような刺激が走った。

「は、はい」

 両の脚から太腿を洗い、それから臍の下へ移る。余りに刺激が強すぎるため視線を逸らしていたそれに、伝吉は目を向けた。

「(これが、お、女の人の、奥方様の……!)」

 無論、伝吉も密かに読んだ成人誌程度でしか見た事はない。陰毛に縁どられた赤い陰唇は一見グロテスクですらあった。しかし、同時に非常に淫猥で、鮮烈だった。普段の凛々しい姿のしほにも、こんな女性の部分があるのだと伝吉は今までに無いほど興奮した。

「……ウッ」

 思わず伝吉は前かがみの姿勢から、腹を抑えるようにうずくまった。見ているだけで肉棒が我慢できなくなり、僅かに先走りを出してしまったのだ。

「……どうしたの?」

 しほはその伝吉に対して、いつも通りの冷静な言葉をかける。何が起こっているか、おそらくは全て分かっているのにだ。

 伝吉は迷った。本来の使用人の姿であるならば、ここは「何でもありません」と答えてしほの身体を洗い終えるのが順当であろう。

 

 

だが……しほが本当に自分を興奮させ、それで快感を得ようとしているならば?

 

 

 伝吉の中に大胆な行動を取ろうとする気持ちが沸きあがっていた。もしそれが見当違いでも、それで屋敷を追い出されても良いとまで思えていた。

「……申し訳ありません、奥方様」

 頭を上げ、伝吉は答えた。

「奥方様のお身体が、その、自分には刺激が強すぎ……勃起が、治まらなくなってしまいました」

 数秒の間。しほの表情が僅かに変わった。口元が下がる。苦笑だろうか。

「……冗談を言うものではないわ。貴男から見て、私は母親のような年よ」

「そ、そんな事はありません! その、奥方様は、本当に魅力的な方です!」

 伝吉は強く反論した。それだけは間違いなく本心だった。

「……そう」

 しほは少し目を閉じ、そして開いて一言だけ言った。更に言葉を続ける。

「それで……どうするつもり?」

 当然の問いかけ。伝吉は唾を飲み、少しだけ迷った後に強張った声で言った。

「少しだけお待ちください……処理、致します」

 そう言うと伝吉は立ち上がり、股引きを脱いでしほの眼前に勃起し切った肉棒を晒した。それに手を添え、丁度座っているしほの眼前で扱き始める。

 しほの表情は変わらない。まるで平凡な風景を眺めるように伝吉の血管の浮いた竿を、赤くひくつく亀頭を、それを懸命に扱く手を眺めている。その視線が、伝吉を更に興奮させる。

「ハッ、ハァッ……ハァ……! 奥方様、奥方様ぁ……!」

 次第に呼吸が荒くなり、それに合わせるように手の動きは早まる。その間にも伝吉の視線は目まぐるしく動いていた。しほの顔に、乳房に、太腿に、秘所に。

「(ああ……奥方様の生オカズ、凄い気持ちいい……!)」

 日頃から憧れていた女性の本人の裸を前にして自慰を行う。その異常なシチュエーションが伝吉の理性を麻痺させていた。

「(奥方様の口でしゃぶってほしい……その大きなおっぱいに吸い付きたい……思い切りチンポを擦りつけたい……挟んでほしい、パイズリしてほしい……太腿にも擦りつけたい……あの大きなお尻に思い切り精液かけたい……おまんこに思い切り挿入してみたい……奥方様とセックスしたい……おまんこに、思い切り射精してみたい……!)うぁぁ!」

 獣のような声を上げ、伝吉は更に扱いた。卑猥な音と共に亀頭からは粘液が滲み、更に手の動きをスムーズにしてゆく。

 やがて、絶頂が近づいてきた。

「(まずい、このままだと奥方様の……!)」

 辛うじて最後の判断力が働き、伝吉は咄嗟に腰を引こうとした。しかし、その時しほが伝吉を見上げて言った。

「……構いません。出しなさい、伝吉」

「う、うぉぉっ!」

 その囁きに伝吉は叫ぶように達した。ゼリーめいた白濁液が勢いよく吐き出され、しほの美しい顔を汚す。

「うっ……ううっ……!」

 更に扱く手を止めず、しほの顔に更に精液を浴びせる。それをしほは瞬きもせずに受けていた。

「(……あぁ、奥方様のお顔に、俺の精液が……)」

 顔射されたしほの顔を、伝吉は恍惚としたまま見下ろした。

「あ……あれ……?」

 今までに無いほど射精したにも関わらず、伝吉の肉棒は萎えきっていなかった。

 頭は冷静さを取り戻しつつあったが、股間の熱は治まらないままだ。

「(ま、待ってくれよ、これ以上は……)」

「………治まらないわね」

 精液塗れの顔のまま、しほはそれでも普段と変わらない口調で言った。

「は、はい……」

 申し訳なさそうに伝吉は答える。しほは少し伝吉を見上げ、

「……ンッ」

 ―――おもむろにその肉棒を咥えこんだ。

「お、奥方様っ!?」

「んんっ……ふぅっ……ンムッ……」

「あっ、あっ、ああっ!」

 一気に竿の根元まで呑み込み、口腔内全体で締め付けるように射精したばかりの肉棒を咥えこむ。舌はまるで蛇のように肉棒に絡みつき、亀頭を舐めまわしてくる。

 妄想や夢の中のしほどころではない現実のしほからのフェラチオと、彼女ににしゃぶって貰えていると言う状況に伝吉の肉棒はあっさりと固さと大きさを取り戻した。

「んぱっ……ふぅ……じっとしていなさい……」

 大きさを増した肉棒に少し息苦しくなったのか、しほは一度口を離すと再び舐め始めた。今度はソフトクリームを舐めるかのように根元から亀頭までを舐め上げてくる。

「うぉっ、そ、それっ、すごっ、凄いですっ、おくがたさまっ!」

 伝吉の腰がビクビクと震え、すぐに二発目の射精の感覚が昇って来た。

「あああっ、イクッ! イキますっ! 奥方様ぁっ!」

「……『しほ』と呼びなさい」

「はっ、はいぃっ! しほ様っ! イクッ、イクゥッ!」

 叫びと共に伝吉は再び絶頂に達した。一発目と変わらない程の量が吐き出され、しほの顔に更に精液を浴びせかける。

「あぁ……し、しほ、様……」

 へたへたと腰を落とす伝吉。

「………」

 口の中に飛んできた精液をしほは嚥下し、少し乱れた吐息を整えると伝吉に言った。

「これで、続きができるかしら」

「は、はい……」

 精液塗れの顔でそう言うしほに、伝吉は憔悴した顔で答えた。

 

 

【続く】



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四つ 只務めとして行うなかれ、相手の身となり奉仕すべし

 竹ほうきに散った青葉が絡みつく。まだ水気を残す青葉は、箒に貼りつき掃こうとしてもなかなかに纏まらない。

 昨日、しほがヘリで帰ってきた際に吹き散らされた木の葉は予想以上に中庭を散らかしていた。午前を使って使用人総出で庭掃除を行っているが、その進みは遅々たるものだ。

 そして、そういう日に限って今年一番の暑さだったりするのもよくある話である。

 

 

「ふぅ……」

 伝吉は一息つくと、首に巻いたタオルで額の汗を拭った。

「伝吉、そっちはどうですか?」

 近くで同様に箒で落ち葉を集めている菊代が言った。

「あ、菊代さま。こっちはもう少しです」

 掃く手を止め、伝吉が返事をする。

「ついていませんね、こういう時に夏日なんて……」

 そう言う菊代の顔にも幾つもの汗が浮かんでいる。その汗の一粒が首筋を辿り、少し緩くなっていた着物の胸元に流れ落ちた。

「……そ、そうですね」

 少し赤面して顔を逸らしつつ、伝吉は答えた。

 

 

 あの後―――伝吉が堪えられずにしほの眼前で自慰を行い、更にしほに口淫をして貰った後は、本当にしほの言う「続き」に戻った。まるで伝吉が自慰を始める前から時間が飛んだように何事もなく身体を流し、伝吉の精液で汚れた顔を洗い、髪をすすぎ、しほは片づけを行う伝吉を残して浴室を出ていった。

 あの日分かったのは、理由は分からないがしほが伝吉を興奮させようとしている事、そしてそれがあの浴室の中でのみ行われるという事だけであった。

 実際あの後伝吉がしほとすれ違う事は何度かあったが、頭を下げる自分に彼女は頷く程度に顔を動かす程度で、浴室内で行ったようなスキンシップは全く無かった。

 伝吉は混乱するばかりだった。しほの考えが伝吉には分からない。

 本人に聞いて素直に答えを貰えるだろうか。菊代に相談しようかとも考えたが、しほの行動が菊代にも知られていない事であれば、夫である常夫にも伝わるかもしれない。

 使用人との不貞となれば、それが知られれば伝吉の悩みどころでない問題となるだろう。そう考えると、他人に相談する事も出来ない。

 結局伝吉に残された選択肢は、このまま答えが出るまでこの謎めいた三助の務めを続けるしか無かった。

 ―――次は何をしてくれるのだろう。そんな下卑た期待が内心にある事も、伝吉は否定できなかった。

 

 

「……それにしても、何故奥方様はあんなに急いで帰ってこられたんでしょう?」

 ようやく庭掃除の終わりが見えてきた頃、伝吉は菊代に尋ねた。

「TVの生放送への出演があったので、昨晩中に身支度が必要だったんですよ」

「生放送?」

 菊代は微笑み、袖から懐中時計を取り出して時間を確認した。

「そろそろ、その時間ですね。休憩も兼ねて皆で観ましょうか?」

 

 

『……という訳で、本日は戦車道連盟理事長の児玉七郎さん。また、日本戦車道を代表する流派である西住流家元、西住しほさんに来ていただいております。本日はよろしくお願いします』

『どうも、よろしくお願いします』

『よろしくお願いします』 

 

 使用人たちが食事に使う休憩所の大型テレビの映像。

 司会の紹介に合わせて一礼する紋付を着た恰幅の良い壮年と、普段の黒スーツより若干明るい色合いのスーツを着たしほの姿を、伝吉は冷えた麦茶を飲みつつ眺めていた。

 世界大会の開催、プロリーグ発足など、廃れつつあった戦車道は近年になって国のテコ入れもあり急速にその知名度を上げつつある。しかし、それでもまだ『昔流行っていたスポーツ』程度の認識のままの人は少なくない。西住家に奉公に入る前の伝吉もその一人だ。

 だからこそ、こうやって戦車道の事をメディアで発信するのも必要なのだと菊代は教えてくれた。

 戦車道の話をする時の菊代は何時も嬉しそうだ。かつて彼女も戦車道をやっていて、しほとはその頃からの付き合いだと聞いた事もある。やはり自身が入れ込んでいた競技が広まるのは嬉しいのだろう。

 

『そのー、戦車道ってのは本物の戦車と砲弾を使うんですよね。怪我とかは大丈夫なんスか?』

『ははは。確かに草創期こそそう言った危険はありましたが、昔の話です』

『……戦車全面をコーティングする強化カーボンの開発と、砲弾に搭載されたICチップによる衝撃判定装置により安全性は大幅に上がっています。小中学生から戦車道を始める少女も少なくありません』

『なるほど。では、そのカーボンの開発と安全性についての映像をご覧ください』

 

 コメンテーターのコメディアン―――素人めいた意見を言って、視聴者の質問を代弁する役―――の言葉に理事長が破願すると、横のしほが補足の説明を行った。タイミングを合わせて司会のアナウンサーが映像の紹介に移る。

「ふふっ。奥方様、かなり緊張されてますね」

 突然、映像を見ていた菊代が笑った。

「……そう、なんですか?」

 怪訝な顔で伝吉は尋ねた。自分が見た限りでは、しほは何時もと変わらない平静な態度に見えた。

「ええ、あまりテレビ慣れしていない方ですから……」

 菊代にしか分からない癖などがあるのだろう。彼女は微笑みつつ答えた。

 そうしている間にも録画映像が終わり、再び画像はスタジオに戻った。

 

『西住さん。戦車道には様々な流派があるそうですが、西住流とはどんな流派なんでしょう?』

『西住流は、江戸中期の流鏑馬の流派から戦車道に発展した流派になります。それが1940年代に……』

 

 司会に話を振られ、しほが西住流についての説明を始める。TV側も写りが良いと分かっているのだろう。さっきから理事長よりしほを映す頻度がかなり高い。

「………」

 映像のしほを見つつ、伝吉は昨晩の事を思い出していた。

「(あのお顔が、昨夜は俺の精液塗れだったんだよな……)」

 伝吉の白濁液に塗れた、少し紅潮したしほの顔が浮かぶ。

「……どうしました、伝吉?」

「……いえ、何でもありません、菊代さま」

 思わず前かがみになってしまった伝吉に菊代が声をかける。伝吉は椅子を前後させ、誤魔化しつつ答えた。

 

 

 その日、しほの帰宅は何時もより遅かった。朝から熊本から都内に向かい、TV収録を終えてその日の内に帰ってくる強行軍である。更にその移動中を利用して雑誌のコラム記事の口述筆記なども行っていると伝吉は聞いていた。

「伝吉、今日の奥方様は何時もよりお疲れのようです。丁寧に洗ってあげてください」

 伝吉からはやはり何時ものしほにしか見えなかったが、菊代は神妙に伝吉にそう言った。

「(……やはり、菊代さまは何も知らないんだろうか)」

 浴室の待機位置で座して待ちつつ、伝吉は考える。

 だとしたら自分はしほの家族だけでなく、菊代も裏切っているのだろうか。

 伝吉はそれに不安と、申し訳なさを感じてしまう。だが、同時に今夜は何があるのかと期待してしまう股間の疼きを抑える事も出来ないでいる。

 昨晩、しほは自分の事を「奥方様」でなく「しほ」と呼ぶよう伝吉に言った。それはつまり西住流家元ではなく、しほ個人として伝吉に向き合わせようとしているのだろうか。

 

 

 だとしたら―――自分は、しほの事を愛して良いのだろうか?

 

 

 大それた願望だ。歳も地位も立場も、何もかも別世界の大人の女性にそんな事を思うのは。

 でも、それが許されるなら―――

「伝吉」

「はっ!?」

 いきなりの頭上からの声。慌てて膝立ちの伝吉が顔を上げると正面にしほの秘所の茂みがあった。昨日洗った時よりも間近で、しほの赤い陰唇を見てしまう。

「あ……!」

「……寝てはいなかったようね」

 伝吉があれこれ考えている間に入ってきていたしほは、裸で直立したまま伝吉を見下ろしそう言うと、振り向いて湯船の前に屈んだ。

 言葉を失っていた伝吉だったが、自分の務めを思い出して桶を手に取りかけ湯を行う。

 今までは二度のかけ湯で済ませていたしほだったが、今晩は三度かけ湯を伝吉に行わせた。菊代の言葉通り、何時もより疲れが溜まっているのだろうか。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

「(……長いな)」

 待機場所で膝立ちで備えつつ伝吉は思った。今までより入浴している時間が長い。

 最初は秘め事への期待で昂っていた気持ちも、時間の経過と共に次第に落ち着いてきていた。本当に今日のしほは疲れているのかもしれない。

 自分の勝手な期待と思い込みに、伝吉は少し恥ずかしく思った。

 やがて、しほは湯船から出て洗い場に座った。その背に回り、洗い始める伝吉。

「その……お、奥方様、TV出演、お疲れ様でした」

 三度目という事もあり、気持ち的に多少慣れてきたのだろうか。伝吉はしほの背を擦りつつ、たどたどしくも言葉をかけた。

「ええ。慣れるものではないわね」

 珍しくしほはそれに返事を返した。それだけで伝吉の中に嬉しさがこみ上げてくる。

「奥方様、腕を洗わせていただきます」

 しほが腕を伸ばし、それを洗ってゆく。

「……?」

 その時、スン、としほが鼻をひくつかせた。

「……伝吉、少し匂うわね」

「え?」

「汗臭いわ」

「え? あ! も、申し訳ありません!」

 刺さるようなしほの言葉に、伝吉は洗っていた手を思わず離して半歩引いた。

 言われて気付いたが、伝吉は午前の庭掃除で汗をかいたのを碌に流していない。無論使用人用の風呂もあるが、それはこの務めが終わってから入ろうとしていたのだ。

 しまった、と伝吉は思った。僅かの会話で浮き上がった気分が急速に落ちてゆく。

 しほはそんな伝吉の気持ちの推移を知りつつなのか、切れ長の瞳をこちらに向けて静かに、しかし厳格に言った。

「洗う側が不潔というのでは話になりません。貴方は、汚れた相手から洗って貰おうと思いますか?」

「……いいえ」

 マットの上に正座し、伝吉は頭を下げた。自分が前二回で受けた快楽の事ばかり考え菊代から本来任されていた三助の務めを疎かにしていた事に気付かされ、伝吉は身を縮めてその言葉を受けた。 

「誰でもそうでしょう。貴方がした事はそういう事です」

「はい……申し訳ありません」

「初めてという事で今回は許します。次はありませんよ」

「は、はい! 二度としません!」

 伝吉はマットに手を置き、土下座しつつ言った。

 

「………」

「………」

 

 両者の間に重い沈黙が流れる。

 熱い筈の浴室内で、伝吉の額に冷や汗が浮かぶ。

「(どうすれば……奥方様をお待たせして、汗を流してくる? いや、でもそれを待ってくれるとは思えないし……!?)」

 この状況からどう立て直せば良いか、伝吉は必死に考えた。しかし焦れば焦る程に判断力は鈍り、気持ちだけが急いてゆく。

「……伝吉」

「はっ、はいっ!?」

 しほに呼ばれ、伝吉は上ずった声で顔を上げた。

「脱ぎなさい」

「……は?」

「今着ている、三助の服を脱ぎなさい」

 背中を見せたまま、しほは顔だけ伝吉に向けて言った。

「は……はい、わかりました。奥方様」

 しほの意図は分からなかったが、伝吉はそれに従わざるを得なかった。湯気を吸った股引きと腹巻を取り、全裸になる。前回晒した時には激しく勃起していた肉棒も、叱咤された直後という事もあり小さく縮んでいる。

「……そこに座りなさい」

 今度はしほは自分が座っている横の、もう一つの洗い場を指し示した。おずおずと言うがままにそちらの洗い場の前に座る伝吉。

「(何をされるつもりなんだろう……?)」

 座り台に着き、不安な表情を浮かべて伝吉は暫くそのままの状態でいた。その背後で桶にお湯が汲まれる音。

「ひゃっ!?」

 ゆっくりと背中にお湯をかけられ、伝吉は思わず声を上げた。

「……じっとしていなさい」

 背後からのしほの声。もう一度お湯をかけられる。

「お、奥方様、これは……?」

「今から使用人風呂に行ってもらう訳にもいきません。ここで洗います」

 しほの言葉と共に、伝吉の背中に当てられるスポンジの感触。そのまま柔らかく背中から擦られてゆく。

「申し訳ありません、奥方様……」

 自分の主人に体を洗わせているという事に恐縮し、伝吉は体を縮ませた。それに構わず、しほは伝吉の身体を洗ってゆく。

 それは、しほの普段の厳格さからは想像できないような柔らかく、優しい洗い方だった。首筋や耳の裏まで丁寧に擦り、スポンジが届かないところは指先で擦る。くすぐったく、声が出てしまう伝吉。

「んんっ」

「腕を上げなさい」

 言われるがままに腕を上げる。今度は腕を洗い始めるしほ。

「(……やっぱり、母親なんだな)」

 その手慣れた感じに、伝吉はそう思った。まだ娘が幼い頃などは、しほが直接洗ってあげたんだろうか。そんな事を思いながら、伝吉はしほに体を任せていた。

「ふぁっ!?」

 だが、伝吉のそんな緩やかな気持ちは背中に押し当てられた弾力ある感触と、胸板に回されたスポンジからの刺激であっさりと吹き飛ばされた。

「お、奥方様!?」

「じっとしていなさい」

 耳元で囁かれるしほの艶めかしい声。体を密着し、伝吉の背中に柔らかくも張りのある両の乳房が押し付けられているのが分かる。そこに混じる固い感触はしほの乳首だ。

 更に伝吉の胸を洗う手つきは背中を洗っていた時の動きとは異なる、まるで愛撫のように伝吉の乳首周りを集中的に擦ってくる。

「あぁ……お、奥方様、だ、ダメです……!」

 叱られて萎んでいた肉棒は、与えられた刺激に図々しくも勃起し始めていた。制止しようとするが、しほの手は止まらない。そのまま次第にずり下がってゆく。

「ひあぁっ!」

 スポンジが勃起した肉棒に触れ、伝吉の背筋が思わず跳ね上がる。

 逆に背中に感じていたしほの乳房の感触は次第に上がり、伝吉の後頭部に当てられていた。力が入らなくなり座り台からずり下がった伝吉に対し、しほは膝立ちに姿勢を変えたようだった。後ろから抱きかかえられるような格好だ。

 伝吉は身体が浮くような感覚の中で首を傾け、しほの豊かな乳房を間近で見た。うっすらと静脈の浮かんだきめ細やかな肌。そしてその先端で震える朱色の乳首、それは先程伝吉が見た時より硬さを増し、勃起していた。

「(奥方様も、感じているんだ……)くっ……!?」

「………」

 しほの肉棒を擦る動きが変わった。伝吉の陰毛の周りを撫でるように擦っているが、肝心の固く反り返りビクビクと震える肉棒そのものに触ってこない。伝吉は腰を微妙に動かしてしほの手が肉棒に触れないかと試みるが、その手は動きに合わせて避けてしまう。

「お、奥方様……」

「……どうしたの?」

 泣きそうな顔で伝吉はしほを見上げた。その表情はいつも通りの冷静な顔。しかし僅かに紅潮しているようにも見える。

「そ、その……これじゃ……!」

「言いたいことがあるのなら、はっきり言いなさい」

 そう言う間も、しほの手は伝吉の股間を擦りながらも肉棒には直接触れず、もどかしい快感ばかりを伝吉に与えてくる。

「お……奥方様、お願い、します……その、ちょ、直接、扱いて下さい……これじゃ、おかしく……!」

「……横になりなさい」

 そうしほが言い、床に敷かれたマットの上に伝吉を促した。座り台から半ば落ちるように伝吉の身体は横になった。それに添い寝するようにしほは横になり、上体を起こして伝吉の顔に乳房を近づけ、泡の残る手で直接伝吉の肉棒を柔らかく握った。

「ああっ!」

「こうして欲しかったの?」

 上からのしほの声に、伝吉は上ずりながら答えた。

「はっ、はいっ! 奥方様の手で、直接扱いてほしかったんですっ!」

「……そう」

 短くしほは言うと、肉棒を握った手を上下に動かし始めた。時折緩急をつけ、親指で亀頭の先端を優しく刺激してくる。

 その腕の動きに合わせて、伝吉の眼前で豊満な乳房がゆさゆさと揺れる。それを見ているだけで、伝吉の背中にゾクゾクとした刺激が走る。

「……そんなに、私の胸が好きなの?」

 伝吉の食い入る視線に気づいたしほが問いかけてくる。荒い息の中、強く頷く。

「はっ……はいっ、好きです……うぅっ!」

「私が最初に入浴した時から、何時も胸ばかり見ていたものね」

「す、すみません、奥方様……!」

「……『しほ』と呼ぶのであれば、吸ってもいいわよ。私のおっぱいを……」

 囁き声。断る理由は無かった。

「し、しほ様ぁっ!」

 体を起こし、伝吉はしほの胸にしゃぶりついた。夢中で乳首を口に含み、力の入らない腕を精一杯動かして左右からその手に収まりきらない乳肉を揉みしだく。テクニックなどと呼べるものではない、欲情そのものの動き。

「(あぁ……しほ様のおっぱい、凄い……柔らかくて、重くて、温かい……!)」

「ンッ……んあっ……」

 次第にしほの口からも喘ぎが漏れ始める。それが伝吉にも更なる興奮と自信を与える。

「(しほ様も感じてる……俺がおっぱいを揉んで、感じさせてる!)」

 更に伝吉は左右の乳首を交互に舐めしゃぶり、吸い、顔を押し当てた。柔らかな弾力が伝吉の顔を押し返してくる。その様子をしほは淡々とした表情で、しかし時折喘ぎつつ見下ろす。その間にも伝吉の肉棒を擦る手は止まらず、絶え間なく刺激を送り続ける。

「うっ、うぁっ、ああっ!」

 伝吉の股間の奥から何かがこみ上げてきた。精液が尿道を駆け上ろうとしているのだ。

「イッ、イクッ、しほ様、イキますっ!」

 ―――しかし、その瞬間しほの手の動きは止まった。

「えっ……し、しほ様!?」

「我慢しなさい」

 数秒置き、再び扱くのを開始する。一度下がった快感が、また限界に近づく。

「そ、そんなっ、無理、ですっ!」

 思わず乳房から顔を離し悲鳴を上げる伝吉に、しほは囁くように言った。

「限界まで堪えなさい……もし出来たら、今度は胸でしてあげるわ」

「うっ、ううっ……!」

 既に理性が溶けかけている伝吉は、そう言われて必死に腰に力を入れ、射精を堪えようとした。尻穴を引き締め、歯を食いしばる。

「頑張りなさい」

 その反応を見て、しほは手の動きを再開した。先ほどよりも激しく、汗とお湯とカウパーが混じり水音が起きる程の摩擦だ。

「あー! あっ、あはぁっ! ほ、本当にっ、無理ですっ! しほ様ぁっ!」

「まだよ」

 背筋を逸らせて伝吉は悶えた。それに冷たく言うしほ。手は止まらない。伝吉の視界が白くチカチカとし始めた。強烈な快感に頭が弾けそうな程だ。

「でっ、出ますっ! 出るぅぅっ!」

「……いいわ。出しなさい」

 そうしほが言って一際強く擦ったのをとどめに、伝吉は射精した。まるで噴水のように噴き出た白濁液はしほの手と、伝吉の股間を汚してゆく。余りの気持ちよさと脱力感に伝吉はぐったりと体の力を抜いた。

「ハァ……ハァ……!」

「よく頑張ったわね」

 どこか遠い所から聞こえるようなしほの声。とても返事が出来ない。半ばぼやけた視界の中、伝吉の眼前で揺れていたしほの胸が遠ざかった。

「……約束通りよ」

 声の位置が移動してゆく。やがて、伝吉は自分の股間に吐息がかけられているのに気付いた。

「んんっ!?」

 何か生暖かい、とろりとした液体が亀頭にかけられたのを感じて伝吉の意識ははっきりと戻った。自分の股間に視線を送る。

「んぱっ……んっ……あぁ……」

 そこには、半勃ち状態の肉棒に唾液を擦り付けるしほの姿があった。頭のタオルは既に取れ、長い黒髪を乱しながら伝吉の竿から亀頭までをドロドロにしてゆく。やがて、しほは自身の両胸に手を添えて左右に広げると、伝吉の肉棒を乳肉で挟み込んだ。

「ふわぁっ!? しっ、しほ様ぁっ! す、凄いっ、ですっ!」

「頑張ったんだから、ちゃんと、してあげるわ」

 少ししほの呼吸も乱れてきていた。両側から捏ねるように、肉棒を挟みながらそれぞれの乳房を動かす。伝吉の肉棒はたちまち固さを取り戻したが、それでもしほの豊かな乳の谷間から亀頭が覗く程度だ。

「ちゅっ……んはっ……ンンッ……」

 その亀頭にも容赦なくしほは責め立てる。舌先を伸ばし、鈴口をつつくように刺激し、また時には亀頭全体を舐めまわす。

「あぁ……! し、しほ様の、胸が……!」

 伝吉の脳裏に、昼に皆で観たTVの画像が浮かんだ。皆の前で凛々しい態度で戦車道について語っていた女性が、今こうして使用人の自分のチンポをその豊かな乳房で挟みつつ舐めしゃぶっている。その落差と背徳感が伝吉に堪らない快感を与えていた。

「じゅるっ……本当におっぱいが好きなのね」

「し、しほ様のおっぱい、好き、ですっ! 堪らないっ、ですっ!」

 更にしほは肉棒を挟みなおし、より深い所でパイズリを続けた。両の手で左右から乳房を動かし、時に強く、時に柔らかく肉棒を刺激してくる。次第にこみ上げる射精感。

「まっ、またイキますっ!」

「構いません、このまま出しなさい」

「あっ、ありがとう、ござっ、いますぅっ! イクゥッ!」

 再び伝吉の肉棒から精液が迸った。乳の谷間から除く亀頭から噴き出るように放たれた白濁液がしほの顔と、その豊満な乳房を白く汚してゆく。

「ふぁっ……ハァ、ハァ……!」

「……今日はもう、体を洗って貰え無さそうね」

 しほの責めに精魂尽き果てたようにマットに倒れたままの伝吉を見下ろし、しほは言った。

 射精後の脱力感の中、伝吉は体温が下がるのと共にしほの事が更に分からなくなっていくのを感じていた。

 やはりしほは自分を興奮させ、射精させるためにこの役を与えている―――だが、何のために?

「し……いえ、奥方様……」

 『しほ様』と呼びかけ、伝吉はそれを止めた。呼んではいけない気がした。

「……何故、なんですか? これは、その、俺は……」

「まずは、貴男自身が考えなさい」

 先程までの奉仕の姿からは考えられないほど、しほの声は冷たかった。それ以上、何も言えない拒絶が込められていた。

「……はい」

 ようやく体を起こせるようになり、伝吉は俯いた。しほはその耳元に近づく。

「………」

「………!」

 伝吉の目が見開く。その反応に対し、しほは眉一つ動かさずに浴室を出ていった。

 

 

「正解に達する事が出来たなら、私の膣内に射精していいわ」

 

 

 




拙作をお読みいただき、ありがとうございます。
感想欄で3万字、4話程度と言っていました本作ですが、プロットを組み直したところもう少し長くなり、4万字から5万字、話数的には7~8話となりそうです。
もう暫く、伝吉の右往左往にお付き合い頂ければと思います。よろしくお願いします。


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五つ 己を出すなかれ。過ぎたる礼は非礼に劣ると知れ

 

 朱くひくつく陰唇に伝吉の肉棒が当てられる。

「……そのまま、腰を突き出しなさい」

 しほの声の導くままに、伝吉は腰を突き入れた。

 

 

「ああっ……、しほ、様……熱いです……!」 

 寝床の中、伝吉はしほの膣内の感触を想像しつつ己の肉棒を扱いていた。

 しほの蠱惑的な肉体を、喘ぎ声を知った今ではその妄想はより生々しいものとなり、伝吉の自慰を捗らせる。

「しほ様っ! で、出ますっ、しほぉっ!」

 自らの主人の名前を呼び捨て、伝吉は達した。白濁液が迸り、布団を汚す。

「……はぁ」

 自慰の後の虚脱感を感じつつ、伝吉はため息をついた。搾精された直後のしほの言葉が頭から離れない。

 

 

「正解に達する事が出来たなら、私の膣内に射精していいわ」

 

 

 あの耳元での囁きを思い出すだけで、達したばかりの肉棒がぴくりと反応してしまう。

「……うぅ」

 明日も早い。伝吉は酷く自分を惨めに思いつつ枕元の塵紙で布団と股間を拭うと身体を横たえた。

 答えを自分で出せと言われた伝吉だが、幾ら考えてもその答えは出てこなかった。

 しほとの風呂での一件以外で女性と体を交えた事は当然無いし、それどころかまともな交際すらした事の無い伝吉にとって、女心を分かれと言うのは実際酷な話であった。

「うーん……」

 寝返りを打ちつつ、まどろみの中で考える。

 しほは普段は他の使用人と同様の扱いしか自分にしてこない。しかし、風呂の中では自分から伝吉を誘い、射精を促してくる。それは何故なのか。

「……やっぱり、相談してみるしかないか」

 どういう風に相談したら良いだろう。そう考えるうちに伝吉は眠りに落ちていった。

 

 

 翌朝、しほは伝吉が朝の務めを終える頃には既に屋敷に居なかった。

 西住流は島田流ほど派手に展開はしていないが、一般層向けの道場も持っている。道場と言うと板張りの大部屋を想像しがちだが、戦車を扱う競技である戦車道における道場とはすなわち演習場の事だ。当然都市部にそういった広地を持つのは難しく、郊外に出ねばならない。

 

 普段は師範がその教官を務めるが、定期的にそれを視察し、指導するのも家元の重要な役目なのだそうだ。

 そう説明する菊代の話を聞きつつ、伝吉は朝食のみそ汁を飲み干した。

「あ、あの……菊代さま」

 同じ卓の使用人がこちらに気を向けてない事を確認して、少し気おくれしつつも、顔を上げて伝吉は菊代に小声で言った。

「どうしました、伝吉」

「そ、その、ご相談したい事があるのですが……」

 迷いが顔に出ていたのだろう。菊代は伝吉の言葉に頷くと、すぐに答えを返した。

「食器を洗い終わったら伺います。少し待っていてください」

 伝吉は頷き、自分の食器を流しに置くと休憩所の片隅に座り待つことにした。

 他の使用人たちも朝食を終え、三々五々に散ってゆく。庭の植木を刈る者、買い出しにゆく者、洗濯をする者、戦車の整備をする者、様々だ。

 伝吉の背後で水音がする。菊代が皿洗いをしているのだ。

「あ、あの、菊代さま。手伝わせていただけないでしょうか?」

 その音が気になり、伝吉は思わず菊代の背中に声をかけた。

「大丈夫です。それに伝吉、貴男は皿洗いをした事が無いでしょう?」

「い、いえ、! 家では母の手伝いもしていましたから……」

 言いつつ伝吉は立ち上がり、皿を洗う菊代の横に立つと濯ぎを始めた。

 皿の表裏の洗剤を流し、水切りに並べてゆく。

「ありがとう。伝吉」

 菊代は微笑みつつ伝吉に礼を言った。

「い、いえ、そんな……」

 畏まりつつ伝吉もそれに礼を返す。

 

 水音だけがしばらく流しに響く。右から菊代が渡してくる皿や椀を丁寧に洗い流してゆく。伝吉は家で母の家事の手伝いをしていた頃の事を思い出しつつ、無心に濯ぎを続けた。

 

 やがて、最後の椀を洗い終えると菊代は手を拭い、伝吉に顔を向けた。

「さて、それでは話をしてください。伝吉」

「は、はい、申し訳ありません」

 椅子のひとつを引き、伝吉はそこに座った。菊代はその正面に向き合うように座る。

 

 柔らかい笑みを浮かべる菊代に伝吉は申し訳なく思った。自分は日頃世話になっている使用人頭の女性に、その主人に膣内射精するための答えを求めようとしているのだ。

 

「そ、その……」

 どうやって話を始めたら良いか伝吉は迷った。色々な言い出し方を考えてはきていたのだが、改めて菊代を前にすると言葉が出てこない。

「……三助の務めの事ですか?」

「え!? い、いえ!」

 言いにくそうにしているのを察したのだろう。菊代の方から伝吉に水を向けてきた。

 それに対し思わず伝吉は否定してしまう。まるで自分の内心を見透かされたように感じ、背中に汗が浮かぶのが分かる。

「そうですか……そちらの方は慣れてきましたか?」

「は……はい、菊代さまの練習のお陰です」

「ふふ、そう言ってくれればやった甲斐もあったというものですね」

 そう言うと菊代は笑った。その笑みにつられて伝吉の緊張も解けてゆく。

「さて、そちらの事でないとなると……何の相談ですか、伝吉?」

 こちらの緊張が解けたのが分かり、菊代が改めて聞いてくる。伝吉は少し息を吸い、菊代に目を合わせた。

「そ、その、菊代さま……自分に、好きな人が、出来まして……」

「あら……」

 意外そうに菊代は口に手を当てた。

 ここまでは嘘は言っていない。しほの事は実際に好きだ。

「それで、じ、自分が相談できる女性が、菊代さましか……」

「……なるほど。それで、好きな人とは誰ですか?」

「えっ!? い、いえ、それは……」

「ふふっ、冗談ですよ」

 慌てる伝吉に、菊代は悪戯っぽく笑った。自分より一回り以上年上の菊代だが、そうやって笑う時にはまるで少女のように伝吉には映った。

「で、その好きな子にどうやって声をかけたら……とかでしょうか?」

「いいえ、その手前というか……その人の事を考えていると、どうしても劣情が沸いてきてしまって、これが本当に好きって気持ちなのか……」

「劣情……ですか?」

「そ、その……」

 伝吉は少し言い淀み、再び口を開いた。

「例えば、キスしたい……とか、あの、ええっと……」

 

 

「……『まぐわいたい』とかですか?」

 

 

「き、菊代さま!?」

 菊代の口から出た思わぬ言葉に、伝吉は顔を赤くして声を上げた。

「私も木の股から出てきた訳ではありません。それに、好きな人と体を交えたいというのは単なる劣情とはまた違うものです」

「そ、そうなんでしょうか……?」

 涼しい顔で言う菊代に、伝吉は不安そうに尋ねた。その違いが自分には分からない。

「ええ。劣情とは相手の身体のみを望む気持ちです。伝吉、貴男はその人と交わるだけで、それ以外の事は何もしたくないと思いますか?」

「それは……」

 

 言われて、伝吉は改めて考えた。そんな事はない。確かにしほの身体は魅力的ではあるが、彼女の事をもっと知りたいと思うその気持ちに嘘はない……と思う。

 

「『そんな事はない』という顔をしていますね」

「……はい」

 よくよく菊代の気付きは鋭い。伝吉は素直に頭を下げた。

「それなら伝吉、貴男はその人を愛しているという事です。その気持ちが伴った上で身体を交えたいと言うのであれば、それは劣情ではないと思いますよ」

 そう語る菊代の表情は真剣だった。真っ直ぐに伝吉の顔を見つめ、こちらの迷いを晴らそうとしてくれている。

「ありがとうございます……菊代さま」

「ただし」

 頭を下げる伝吉に、菊代は一言付け加えた。

「それは、ちゃんと言葉に出してあげてください。物語などでは『言葉なしで通じ合える』などと言いますが、実際は例え愛していたとしても、口に出さなければ思いは伝わらないものですから」

「……はい。ありがとうございました」

 伝吉は心に感謝と申し訳なさを抱えたまま、礼を言うと席を立った。

 

 

 しほが演習場から帰ってきたのは、その日の夕方をかなり過ぎた暗い時刻だった。伝吉のような泊りでない使用人は既に帰り、菊代や伝吉を含めた数名で出迎える。

 リムジンを降りたしほは伝吉らを認めると小さく頷き、無言で菊代を見た。主人の意図を察した菊代が彼女の背中に回り、ジャケットを脱がせる。

 「お帰りなさいませ、奥方様。稽古に随分と熱が入られたようですね」

 そう言いながら菊代が手にした黒いジャケットからは、軽く叩いただけで粉塵が舞った。スーツ姿のまま戦車に乗ったのだろうか。

 

「……!」

 

 そんな事を考えながら何気なくしほの方に向き直った伝吉は、しほの白いシャツ越しに透けて見える黒い下着に視線を奪われた。男物のシャツながらその胸の部分は大きく押し上げられ、しほの動きに合わせて重そうに揺れている。

「思っていた以上に戦術面の仕上がりが遅れているわ。明日、もう一度指導に向かいます。明日の予定は全て取り止めます」

「承知しました。先方への連絡を行っておきます」

 そんな伝吉の焦りに、否、存在自体に気付いていないかのようにしほは彼の前を通り過ぎた。それに続く菊代。

「お食事の用意が出来ておりますが……」

「お願いするわ。着替えている内に温めておいて」

「はい」

 言葉を交わすほんの合間、菊代は伝吉に視線を向けた。声に出さず口の形だけ作る。

「(おしょくじの、あとで)」

 それが何を意味するかは言うまでもない。伝吉は二人の背に一礼すると、小走りに自室に戻っていった。

 

 

 使用人用の風呂で烏の行水よろしく素早く湯を被った後、汗を洗い流した伝吉は家人用の風呂に向かい仕込みを行っていた。湯船に手を差し入れ、湯の熱さを確かめて頷く。

「んー、大丈夫……だよな?」

 スンスンと自分の肌に鼻を近づけ、臭いを確かめる。自分の臭いは分かりづらいものだが、それでも前回のような汗臭さは無い筈だった。

「……よし」

 

 伝吉はこの後の事を考えた。しほはおそらく、今までの行為の意味への答えを聞いてくるだろう。そう思うだけで股間の肉棒がぴくりと反応し、血が集まってゆく。

 そしてそれに対し伝吉が返す答えは決まっていた。正答かどうかは正直分からない。しかし菊代への相談を経て、自分の気持ちを顧みる機会を得た伝吉は既に心を定めていた。

 

「奥方様……」

 思わず呟きが漏れる。抑えようと思っても、自身の中から湧き上がる熱を抑えきれない。その興奮の中に性的な欲情が有る事を伝吉は否定しない。しかし、それだけでも無い。

「……しほ」

 

「伝吉」

 

「ふわぁっ!?」

 突然の背後からの冷たい声に、伝吉は奇声をあげて振り返った。

「わぷっ!?」

 顔が何か柔らかいものに当たる。慌てて顔を後ろに下げると、湯気で濡れた臍周りが視界一杯に広がっていた。

「……寝ていた訳ではないようですね」

 頭上からの声。おずおずと伝吉は頭を上げた。タオルを頭に巻き、長い黒髪をまとめたしほが無感情な瞳で見下ろしている。

「す、すみません、奥方様!」

 どうやら思考に没頭して、しほが入って来た事にも気付いていなかったらしい。伝吉が気付いた事を認めると彼女はいつも通りに湯船の前で腰を落とした。何とか動揺を抑えようとしながら伝吉はその白い背中に湯をかける。

「ンッ……」

 僅かな声。二度かけ湯を行うとしほは立ち上がり、湯船に入った。伝吉も恐縮しながら自分の待ち位置である浴場の片隅に移動し、膝立ちで待機する。

 

「………」

「………」

 

 湯船の中でしほは身体を軽く動かしながらくつろいでいる。時折肩に手を置き、具合を確かめているようだ。

 伝吉は戦車道について詳しくは知らないが、この夏の日にエアコンも無い鉄の塊の中で火薬の匂いや騒音と共に数時間過ごすというのが心身ともに相当に負担がかかる行為だという程度は容易に想像できた。おそらく伝吉では半日と持たないだろう。

 そんな演習を一日行い、朝と同様の平静な態度でいられるしほを伝吉は素直に凄いと思う。

「……ふぅ」

 吐息と共にしほは身体を動かし、二の腕を揉み始めた。今までの入浴中のしほは静かに湯船に浸かっている事が多かったが、今日はいつもより身体を動かしている。今日も結構な暑さだっただけに、流石に疲れがあるのかもしれない。

 

「(……今日は、無いかもな)」

 

 伝吉は僅かな落胆と共にそう思い、ふと自分が当たり前のようにしほとの行為を期待していた事に気が付き恥ずかしさを覚えた。脳裏に菊代の笑顔がよぎる。しほの誘いがあったとはいえ、あくまで自分の務めはしほの入浴の補助なのだ。

 

「貴男の役目は、男娼めいた事をする事ではありません」

 

 三助の務めを言い渡された時、菊代はそう言って赤面する自分を窘めた。もし彼女が自分としほとの風呂場での交わりを知ればどう思うか。伝吉は雑念を振り払うように頭を振った。

「伝吉」

 その時、湯船に浸かったままのしほが伝吉に声を向けた。

「は、はい、奥方様!」

「貴男は、力はある方ですか?」

 いつも通りの無表情のまま、しほは伝吉に視線を向けつつ尋ねてきた。戸惑いつつ素直に答える。

「は? ええと……まあ、人並みには、あると思います」

「そうですか」

 まるで明日の天気の事を尋ねたかのように一言だけ淡泊にしほは言葉を返し、少しの沈黙の後に言った。

「どうも思った以上に今日の疲れが残っています。伝吉、洗う前に湯船の中で身体をほぐす手伝いをお願いできますか?」

「はい!?」

 突然の言葉に思わず伝吉の声が上ずる。しほは淡々と言葉を続けた。

「服を脱いで入ってきなさい。私が許可します」

 その瞳には悪戯めいた光は微塵もなく、あくまで淡々と、ただそれが当たり前かのように伝吉に向けられている。

 無論、伝吉にそれを拒否する事はできない。「お願い」とは言っているが、使用人にとって家人の言葉は絶対であり、それを否定する事は許されない。

「分かり……ました」

 そして、伝吉もそれを拒否する気持ちは無かった。

 

 いそいそと肌着と股引きを脱ぎ、湯船に足を向ける。

「(うぅ……)」

 既に股間の肉棒はこの後の事に期待してか、半勃ちでぴくぴくと震えている。流石に手で隠しつつ歩き出した伝吉に、しほは冷たく声を向けた。

「伝吉」

「……はい」

「ちゃんと歩きなさい」

「………」

 家人の言葉は絶対である。

 伝吉はおずおずと股間に添えていた手を横に置いた。当然ながら、半勃ちの肉棒がしほの視線に晒される。

 しほはそれに対し、何の感情も見せなかった。まるで普段の伝吉と接するのと同様の無表情で肉棒に視線を注いでいる。

「(あぁ……)」

 その視線を受け、伝吉の肉棒は更に固さを増してしまう。反り返った固い肉棒は赤い亀頭を半ば露出させ、腹に貼りつかん程だ。

 しかしそれでもしほの表情は変わらない。伝吉は肉棒を勃起させたまま入浴した。

「うわ……」

 思わず声が出てしまう。使用人の風呂とは使っている湯まで違うのだろうか。全身を柔らかく包む湯質と、自分が設えたとはいえ程よい温度に伝吉は息を漏らした。

「そのまま私の後ろに回りなさい」

 しほの言葉のままに、伝吉は湯船で中腰になりつつ彼女に近づいた。

 スン、としほが僅かに鼻を鳴らす。

 

「……入浴はしてきたようですね」

「は、はい!」

 

 やはり入浴しておいてよかった。伝吉は緊張しつつ答えた。裸同士ながら主としての姿勢を崩さないしほの姿に、充血していた肉棒が緊張に合わせて硬度を弱めてしまう。

 しほは伝吉が背後に回った事を察すると、右腕を水平に伸ばした。

「二の腕の、ここの辺りをお願いするわ」

 左手で示す箇所に伝吉は手を添え、強すぎない程度に揉み始めた。

「ふぅ……」

 艶やかな口元から吐息が漏れる。

 彼女の言う通り、確かにしほの腕の筋肉はかなり張っていた。伝吉ははしほの疲労を気遣いながらも、二人の娘を持つとは思えない若々しい肌の張りを指先から感じていた。

「大変なのですね、戦車道って……」

 普段の伝吉であれば、自分からしほに話しかけるなど考えられない事であった。しかしこの一緒に入浴している状況と、今までの数度の淫猥な交わりの経験が伝吉を大胆にさせていた。

「……そうね。装填手の練度が低かったから実施指導を行ったのだけど、高速装填を一試合分行うのは流石に堪えたわ」

 珍しくしほは普通に答えた。少し振り返り、伝吉に流し目を送る。

「今度は肩をお願い」

「は、はい」

 伝吉は胡坐をかくような姿勢になると、しほの背後に回り肩に手を置いた。その時、

「……少し、遠いわね」

 しほはそう言うと湯船の中で体を浮かせ、伝吉の組まれた足の上に腰を落とした。

「お、奥方様!?」

 伝吉は焦った。風呂の中という事もあり重さこそさほど感じないが、丁度しほの尻のところに半勃ち状態に戻っていた肉棒が来てしまっている。おそらくはしほにも気付かれているだろう。

「そのまま、手を」

 しかし密着した状態のまま、まるで気に止めていないかのようにしほは指示を出した。

「は、はい……!」

 震える指で伝吉はしほの肩を揉み始めた。長い黒髪はタオルで纏められ、濡れたうなじが伝吉の目と鼻の先にある。伝吉はくらくらしそうになりつつも肩もみを続けた。

 

「うあっ!?」

 

 突然の股間からの刺激に伝吉は思わず背を反らした。しほが肉棒を尻の谷間に当てたまま腰を動かし始めたのだ。

「おくっ、奥方様っ!?」

「……続けなさい」

 驚いてしほに尋ねようとするが、しほは淡々と言いつつ腰を捏ねるように動かした。肉棒は再び半勃ち状態から完全に隆起し、熱い湯の中でしほの尻肉の動きが与える刺激ひとつひとつに反応する。

 

「ンッ……んふっ……」

 しほの吐息に艶やかさが混じる。むっちりとした豊満さと肌の張りを備えた尻の谷間に伝吉の肉棒はすっかり挟み込まれ、湯の熱さとは別の温度と快感を伝えてくる。

 時折、亀頭が肌とは微妙に異なる感触の箇所に当たる。その度、しほも僅かに身体を震わせているようだ。

「(こ、ここって、奥方様の、お尻の……!)」

 そう想像するだけで、伝吉は危うく達しそうになった。

 しほの動きは更に激しくなる。上下に小刻みに動きつつ、左右に尻を揺らし亀頭をこしこしと刺激してゆく。二人の動きで湯船には波が立ち、ちゃぷちゃぷと水音を立てる。

「あぁ……お、奥方、さま……っ!」

「………」

 既に伝吉は肩を揉む事も出来なくなり、まるでしほを背後から抱きしめるように腕を回していた。しほは何も答えない。まるで伝吉の反応を観察しているかのように機械的に、しかし貪欲な動きで体を押し付け、尻肉に挟み込まれた肉棒を絶頂に導いてゆく。

「あぁ……!」

 思わず伝吉は肩越しに揺れるしほの重そうに揺れる豊かな乳房に手を伸ばした。

「ンンッ……!」

 僅かにしほが反応する。既にその先端の朱色の乳首は固く尖っていた。

 掌に伝わるずっしりとした重みを感じつつ、伝吉はしほの巨乳を揉みしだいた。

「手が、止まって、いますよ……?」

「ああっ……!」

 お返しとばかりに、しほは喘ぎつつ腰の動きに回転を加えてきた。湯の中で、相手の重さを気にせず動けるが故の大胆な動きだ。堪らず伝吉は声をあげた。 

「だ、駄目っ、ですっ! このままじゃ、出ますっ!」

 家人の風呂の中で射精するのだけは避けようと、悲鳴めいた声で伝吉は哀願する。

 しかし、しほは伝吉に顔を向けると耳元で囁いた。

 

「いいわ、このまま射精しなさい」

 とどめとばかりにしほの腰に力が入り、引き締まった尻肉が伝吉の肉棒を擦った。

 

「ふあっ! おっ、おくがたっ、さまぁぁっ!」

「……『しほ』と呼んで射精しなさい」

「しっ、しほっ、しほぉっ!」

 遂に限界に達し、伝吉は背を震わせつつ湯の中で射精した。止まらない射精感と共に、密着したしほの尻と伝吉の腹の間で湯とは別の熱さの液体が噴き出てくる。

「あっ……はぁぁ……しほぉ……」

 ぐったりと声を漏らす伝吉に対し、しほは数度の呼吸でいつも通りの調子に戻ったようだった。

「今度は、『様』を付けずに言えたわね」

「ふぁ……ああっ!」

 まだしほの腰の動きは止まっていなかった。腰を僅かにずらし、射精したばかりの肉棒に今度は秘唇を押し当ててくる。伝吉が喘ぐ間もなく、肉棒は固さを取り戻してゆく。

「……まだ、出来るわね?」

 しほの言葉に、伝吉は言葉を忘れたように激しく頷いた。しほの膣内に挿入し、思い切り射精したい。それだけが頭を支配していた。

「(あぁ……し、しほの、おまんこ……!)」

 だが、そこで彼女は腰の動きを止めた。

「(え?)」

 

「伝吉、この前の答えは出せましたか?」

 

 しほは、驚く程冷静な表情で伝吉を見ていた。

「………!」

 瞬間、熱に浮かされたような伝吉の脳裏に菊代の顔が浮かんだ。興奮を抑え切れないままではあったが、何とか答える。

「……はい」

 これが正解かは分からない。しかし、伝吉の素直な気持ちではあった。

 後ろから抱きしめる姿勢のまま、伝吉は言った。

 

 

「好きです、奥方様」

 

 

「……そう」

 その時、しほは僅かに、しかし確かに微笑んだ。先程射精を促した時のように首を傾け、伝吉の耳元で囁く。

 

 

「失望しました」

 

 

 つい、と伝吉の肩口が指で軽く押された。それだけでバランスが崩れ、しほとの距離が離れる。そのまま湯船から上がる肢体を、伝吉は呆然と見ていた。

「上がります。湯を抜いて、浴槽を洗っておきなさい」

 普段の家元としての厳格な雰囲気が彼女を再び包む。伝吉は動かない。

 

「………」

 

 しほはそれ以上何も言わず、伝吉を振り返る事もなく浴室を出た。

 

「………」

 

 伝吉は無言で浴槽の中で濡れた天井を見上げる。

 先ほど射精した精液が、湯船に白く浮き上がってきていた。



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六つ 以上を努めて守り、西住家と家人に奉仕せよ

 

「失望しました」

 

 

 そう言われてからの事は覚えていない。

 気が付いた時には湯船の掃除を終え、浴槽の縁に残っていた精液の残滓を拭きとり、浴室を出ていた。

「伝吉」

 作業が終わるのを待っていたのだろうか、そこには菊代が立っており、こちらを気遣うような表情で声をかけてきた。

「菊代さま……」

 何とか声を返す。自分の声なのに、まるで遠くから聞こえてくるような感覚。

 

「伝吉、奥方様からの言伝です。『三助の務めを解き、普通の使用人の務めに戻るように』との事です」

 

「……わかりました。菊代さま」

 伝吉は静かに答える。菊代は心配そうに尋ねた。

「その、何を粗相したのかは言われていませんでしたが……何か、あったのですか?」

「いいえ……何も」

 伝吉は小声で答えて首を振る。

「お怒りがあったとしても、暫くすれば収まるかと思います。私からもとりなしておきますから、伝吉は今までの務めを真面目に行うようしてください」

「……ありがとうございます」

 優しい言葉に、伝吉は頭を下げる。

 しかしその顔には、一切の感情が浮かんでいなかった。

 

 

 半月が過ぎた。

 

 

 初夏の陽気は梅雨の蒸し暑さに次第に移り変わり、新緑はその青さを増し、気が付けば庭園には紫陽花が紫の彩を加えるようになっていた。

 伝吉はその半月の間、極めて普通に使用人としての務めを果たしていた。屋敷の掃除、小間使い、草むしり、その他の雑用諸々を堅実に、静かに行ってゆく。

 その後、しほとは屋敷の廊下で何度かすれ違う事もあったが、頭を下げる伝吉に彼女は一瞥すらせず通り過ぎるばかりであった。そしてそれに対し、伝吉は何も感情を見せなかった。

 使用人同士の他愛ない会話に笑う場面もあったが、その笑顔はどこか空虚であった。

 

 

──そしてこの半月、伝吉は一度も自慰を行っていない。

 

 

「はい……はい。ですが奥方様、それは……いえ、承知致しました」

 

 出かけの用事を終え屋敷に戻った伝吉は、玄関口に置かれた電話機を前に菊代が何かを話しているのを見かけた。どうやら相手はしほのようだ。

「……ああ、伝吉。ちょうど良い所に帰ってきてくれました」

 重い表情を浮かべていた菊代は、伝吉が帰ってきていたのに気付くといつもの穏やかな微笑みに戻った顔をこちらに向けた。

「何でしょう、菊代さま?」

 

「連絡がありました……本日、奥方様が試合でお帰りになられた後、すぐに入浴されます。その際の三助を伝吉に頼みたいとの事です」

 

「………」

「伝吉?」

「いえ、大丈夫です。菊代さま。信じられなかったもので……」

 特に表情を変えた風も無い伝吉の態度に、菊代は怪訝な顔で尋ねた。首を振り、おずおずと答える伝吉。

「おそらく、今日の試合がなかなかに激しかったのでしょう……奥方様からの信頼を取り戻す良い機会です」

 菊代は伝吉に顔を近づけ神妙な顔で言った。

「いいですか、伝吉。くれぐれも粗相の無いように。貴男の務めは家元の日々の疲れを癒す助けをするためです」

「……は、はい」

 菊代の視線はまっすぐに伝吉の瞳に向けられている。伝吉はそこで初めて僅かの動揺を見せたようだった。しかし、菊代の視線から目を逸らさずこちらもまっすぐに答える。

「……頑張ります、菊代さま」

 そして、伝吉は一礼すると自室へと戻ってゆく。

 

 ふと僅かに振り向く。

 菊代の気遣う視線が、伝吉の背に向けられていた。

 

 

 夏至が近い事もあり、しほは日が完全に落ちる前に邸宅に戻ってきた。

 

「お帰りなさいませ、家元様」

『お帰りなさいませ、家元様!』

 

 菊代の礼に合わせ、使用人たちが一斉に頭を下げる。

 しほは並ぶ使用人の姿をざっと眺め、菊代に声をかけた。

「忙しい時間に集まる必要はありません。各自の仕事に戻りなさい」

「失礼しました。皆さん、元の務めに戻ってください」

 いつも通りの流れ。しほは靴を脱ぐと玄関に上がる。靴には跳ねた泥や戦車の油などが残っている。戦車を降りて履帯の修理もしたようだ。激しい試合だったのだろう。

「奥方様、お疲れさまでした」

「社会人戦車道もレベルが上がってきたけど、国際試合に通用する程ではないわね。リーグ開設までにはまだまだ課題が多いわ」

 ジャケットを脱ぎ、労う菊代に手渡す。無表情なまま、しほは彼女に尋ねた。

「伝吉の姿がありませんでしたね」

「既に風呂の用意に行かせました。すぐに入浴できるように支度も済んでいます」

「そうですか」

 淡々とした返事。

「最後に三助をさせたのは何時頃だったかしら?」

「大体……半月ほどです」

「……そうだったわね」

 

 僅かな沈黙。

「苦労をかけるわね、菊代」

 珍しく、しほが菊代に労いの言葉をかけた。首を横に振る菊代。

「勿体ないお言葉です……これが、私の務めですから」

 やがて廊下の分岐に着いた。しほは浴場へ向かう側へ歩みを進める。

「先に入浴します」

「承知しました。お食事のご用意は?」

「………」

 しほは答えない。菊代は無言で頭を下げた。

 

 

 浴場の引き戸を開け、しほは脱衣所に入った。

 曇りガラス越しの浴室には明かりが灯っており、僅かな熱が伝わってくる。菊代の言っていた通り、既に湯の用意は出来ているようだ。

「ふぅ……」

 

 疲れを振り払うように軽く肩を回してから、しほはシャツのボタンを外した。黒いブラに包まれた重量感のある乳房が露となり、続けてスリムパンツに手をかけて下ろす。レースに彩られた黒のショーツと共に、試合で蒸れた女性の匂いが更衣室に満ちる。

 そのまましほは背中に手を回し、ホックを外す。押さえつけられていた乳房がゆさりと揺れる。先端の朱色の乳首は汗で濡れ、艶やかに光っている。

 ブラを棚に置き、ショーツを引き下ろす。濃い茂みに彩られた陰唇を隠すものも無くなり、タオルで長い髪を纏めるとしほは浴室の戸を開けた。

 

「………」

 湯気の満ちた浴室。

 その片隅、伝吉はいつもの定められた場所で膝立ちで控えていた。

「………」

 しほは僅かに伝吉を一瞥し、まるで存在しないかのように歩みを進めると湯船の前で腰を落とした。伝吉が動き、手桶に湯を入れるとしほの背中に注ぐ。

「ンッ……」

 僅かに声が漏れる。もう一度かけ湯が行われ、しほは腰を上げた。無言で下がる伝吉。

 そのまましほは入浴し、湯船の中で体を伸ばした。程よい温みのお湯が、戦車道の試合で強張った身体を癒してゆく。

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

 僅かな水音だけが浴室内に響く。伝吉は無言で元の場所で待機している。しほはいつもより長く身体を温めた後、湯船から上がった。

「………」

「………」

 二人は何も言わない。しほが洗い場に歩み寄るのに合わせ、伝吉は中腰のままそちらに先回りして彼女の身体洗いに備える。

「お願いするわ」

 しほはそう言うと、腰を落とした。

 

 

 その瞬間、伝吉はしほの腰かけを掴むと遠くへと滑らせた。

 

 

「っ!?」

 当然ながら腰を落とそうとしていたしほはそのまま尻餅をつき、体のバランスを崩す。

「うあっ!」

 獣めいた叫びと共に伝吉はしほに掴みかかった。咄嗟に背を向けで逃げ出そうとするしほだったが、身を起こす前に伝吉が圧し掛かる方が速かった。肩口を掴まれ、体重をかけられる。

「で、伝吉、何を!?」

 しほは家元としての厳粛さと鋭さを備えた声で伝吉に言う。しかし伝吉は顔を伏せたまま、しほの豊満な尻に自身の股間を擦り付けている。片手をもぞもぞと動かし、股引きを脱ぐと弾けるように固く勃起した肉棒が剥き出しになった。

「やめなさい、伝吉!」

 迷うことなく亀頭が張りのある尻肉に擦り付けられる。しほは更に厳しさを込めて伝吉に言った。

 

「……考えて、いました」

 

 伝吉はそれに恐れる風もなく淡々と、しかし荒い息と共に言った。

 

「あの時……俺は、何て奥方さ……いえ、しほに言えば良かったのか」

 

 伝吉の腰の動きが速くなってゆく。湯に濡れた火照った肌の上を亀頭は滑らかに上下する。その先端からは粘りある先走り汁が漏れ、より動きを円滑にさせてゆく。

「ああっ! しほのお尻、気持ちいい……!」

「くっ……!」

 しほは身をよじり、何とか伝吉の拘束を逃れようとするが抜け出せない。伝吉は更に言葉を続けた。

 

「はぁぁ……お、俺、考えて、考えて……分かったんです。しほは俺の気持ちとか、そんなのはどうでもよくて……」

 

 まるでうわ言のように言う伝吉。しかし腰の動きは止まる事がない。半被りだった亀頭は完全に露出し、びくびくと震え今にも達しそうである。

 

「しほは、ちんぽが欲しいだけなんだって……!」

 

 尻肉に擦りつけていた動きから伝吉は肉棒の位置を変え、尻の谷間に挟み込ませるようにして前後に腰を動かし始めた。

「はぁ……深いよ、しほの、谷間ぁ……!」

「何を言って……すぐに離れなさい!」 

 普段ならば二言は要らないしほの指示、しかし伝吉は身体を離さず腰を振り続ける。

 

「だっ、だからっ! だから……ああっ!」

 

 びくびくと腰が震え、亀頭からゼリー状の白濁液が吐き出される。それはしほの尻の谷間から溢れる程に迸り、火照った肌に白い彩を添える。

 

「ううっ!?」

 熱い奔流を尻に吐き出され、しほはその身体を跳ねさせた。

「はぁ、はぁ……決めてたんです、俺」

 絶頂の余韻を残さず、伝吉は言葉を続ける。達したばかりと言うのに肉棒は萎える事なく反り返り、しほの肌に密着させられている。

 

「次、もし、呼ばれたら……しほを必ず孕ませるって……!」

 

 その時、身をよじるしほと顔を上げた伝吉の視線が合った。

 伝吉は泣きそうな顔をしていた。興奮で紅潮し、口の端から涎を溢し、欲情で血走った眼をしながらも、その顔は泣いていた。

 

「やっ、やめなさっ……!」

「やめないよ、しほ」

「んあぁっ!?」

 

 逃げられないように伝吉はしほの腰を強くつかみ、上に引き上げた。腰だけを突き上げたしほに上から伝吉が圧し掛かる、まるで犬の交尾のような姿勢。

「絶対、今度は、しほを満足させるっ、からっ!」

 茂みの中の陰唇に、後ろから亀頭が擦りつけられる。

「ンッ!」

 しほの口から、今までの悲鳴めいた声とは明らかに違う声が漏れる。

 

「あぁ……これが、しほの、おまんこ……あれからずっと、頭から、離れませんでした……!」

「いっ、いい加減にしなさい、伝吉! 今ならまだ……くあっ!?」

「こっ、ここ、かな……?」

 

 初めての挿入だけに、伝吉には正確な場所が分からないようだった。先走りで濡れる亀頭が何度も陰唇の上を擦り上げる。

「クッ……!」

 しほは指を噛み、声が漏れないように堪える。しかし次第にその秘所は湯気と汗以外のものが滲み始めていた。

「声を出していいよ、しほ……この半月、一度も出してないから、何回でも……うあぁっ!」

「ああっ!」

 その瞬間、ぬるりと伝吉の亀頭がしほの膣内に入り込んだ。今までとは全く異なる、肉棒全体を無数の襞で舐められるような感触に伝吉は快楽の悲鳴を上げる。しほもまた、伝吉の煮えたぎる熱の籠った肉棒の熱さと固さ、そして予想以上の太さに嬌声を漏らした。

 

「ああっ! しほっ、しほぉっ! しほのおまんこ、凄いっ! 凄いよおっ!」

「ンッ! だ、だかっ! らぁっ! くうっ!」

 

 しほの身体の事など考えず、伝吉は荒々しく腰を振り始めた。きめ細かなしほの背に舌を這わせ、首筋に強く唇を押し当てる。

 ぱんぱんと伝吉の肉棒が突き入れられる度に、精液に汚れたしほの尻肉がぷるりと揺れる。抵抗するしほの言葉とは裏腹に、肉棒を受け入れた膣は全体で竿から亀頭に至るまでを刺激し、引き抜かれる時には名残惜しそうに雁口をくねくねと引き留める。

「うっ、うああっ!」

「………っ!!」

 未知の刺激に伝吉はあっさりと絶頂に達し、しほの膣内に射精してしまった。

「こ、これで満足なら……ああんっ!」

 何とか説得の機会を得たと見たしほが再び説得しようとしたが、伝吉は挿入したまま再度腰を動かし始めた。

 

「あっ! ああっ!」

「まだ、まだだよっ! 今度はっ、しほを気持ちよくっ、させるから!」

「んっ! んあぁっ!」

 

 精液と愛液によってより潤滑になったしほの膣内を、固さを維持したままの肉棒が蹂躙してゆく。

「しほだって、感じてるんだよね? ここ、濡れて……!」

「嫌ッ! 嫌ぁっ!」

 子供がいやいやをするように首を振るしほ。その姿に興奮したのか、伝吉は更に激しく動く。肉同士が打ち合う音と共に、淫らな水音が浴室内に響く。

「アッ、アッ、アアッ!」

 しほの声が途切れ気味になり、身体が時折震えを見せるようになってきた。伝吉は身体を起こし、腰を掴む手の力を緩めぬまま腰を前後させる。濡れた陰毛が絡みつくさまと揺れるしほの尻が伝吉の目に映る。伝吉は右手を振り上げ、しほの豊かな尻に振り下ろした。

「ああんっ!」

 激しい音と同時にしほの口から悲鳴が漏れる。しかしそれには明らかに痛み以外の響きが混じっていた。

 

「はっ……ははっ……やっぱり、しほは、こういうのが好きなんだね!」

「ちっ、違うっ、ああっ!」

 

 二発、三発。たちまち赤くなってゆく尻。しかし膣内は更に愛液を溢れさせ、しほの否定が嘘である事を快感で伝吉に伝えてくる。

「いっ、イクよ、しほっ! しほも、一緒に……!」

 一際深く腰を突き入れると同時に、伝吉は平手を強く打ち付けた。

 

「あっ、あああっ!」

「しっ、しほぉっ!」

 

 しほの背が震え、膣が強く肉棒を締め付けた。同時に伝吉も達し、精液が浸透していた膣内に再度の白濁液を撒き散らす。

「ああ……こ、これが、しほの、おまんこ……!」

「あぁ……!」

 ぐったりとしほは体の力を抜き、浴室のマット上に身体を横たえた。ずり抜けた伝吉の肉棒は未だに幾らかの硬さを残し、愛液と精液に塗れた亀頭を照り光らせる。

 

「はぁ、はぁ……も、もっと……」

 

 しほの身体が脱力しているのを確かめ、伝吉は手を離すとしほの頭の方に身体を回り込ませた。彼女の肩に手を置き、うつ伏せから仰向けに身体を回転させる。

 

「あ……ああ……」

 

 頭に巻かれていたタオルは既に解け、艶やかな濡れた黒髪が広がる。

 半ば呆然とした表情のまま、しほは伝吉の身体を見上げていた。その表情だけで伝吉の股間の肉棒はまた充血し、硬さを取り戻してゆく。

「ああ……こ、ここにも……!」

「や、やめさない、伝吉……」

 伝吉は腰を落とし、逆さになったしほの濡れた唇に亀頭を押し当てた。力無い声で抵抗するしほ。しかし伝吉は迷う事無く肉棒をしほの口腔内に突き入れた。

 

「んぼぉっ!?」

「あぁ、あったかいよ、しほのお口!」

「んぐっ、ぐっ、ぐうっ!」

 

 伝吉は息苦しそうなしほの様子を完全に無視しつつ腰を振り始めた。時折歯が当たるが、それすらも今の伝吉には心地よい微痛となり射精を促してゆく。

 

「ああっ! しほっ、しほおっ!」

「んぼっ! うぐぅっ!」

「イッ、イクッ! イクゥッ!」

 

 どくどくと伝吉の精液がしほの喉奥に注ぎ込まれる。苦しそうに痙攣するしほの身体から、伝吉は肉棒を引き抜いた。激しくせき込むしほ。その顔にも精液の残りが塗りつけられる。

「ゲホッ、ゲホッ!」

「よ、良かったよ、しほの口……」

 恍惚とした表情で伝吉は上からしほに言った。精液と涎と涙に濡れたしほの顔にもはや普段の強気な姿は全くなく、助けを斯うように伝吉を見上げる。

 

「も、もう、許して……」

 

「し、しほ……!」

 その言葉だけで、更に伝吉は勃起してしまった。

「う、うん、許す、許すよ……」

 そう言いつつ、伝吉はしほの腹の上で膝立ちになった。反り返った肉棒を押し下げ、仰向けになってなお豊かな谷間を作り上げるしほの乳房の谷間に押し当てる。

 

「許してあげるから、しほ……これ、挟んで、舐めて……」

「は、はい、分かりました……」

 

 従順にしほは答え、濡れ光る肉棒に手を添えると乳肉で挟み込み、両側から刺激を与え始めた。跳ねあがらないように抑え込みつつ、自分から胸を揉みしだくようにしてぐねぐねと豊かな柔肉で締め上げる。

 

「ああっ! お、俺っ! ずっと、しほのおっぱいで、抜いてたんだ……奉公に来た日から、しほと、会ってから……その大きすぎるおっぱいを舐めたい、揉みたい、挟みたいって……!」

「んっ、ちゅばっ、ンンッ……」

 

 汗と精液で滑らかになっていた乳の谷間が与えてくる快感に、伝吉は腰をくねらせつつ悶えた。しほはそれに答える事無く、時折谷間から顔を覗かせる亀頭を舌先でつつく。

 堪らず伝吉はしほの乳房に自身も手を添えた。二人の娘がいるとは思えない肌の張りと豊かさを備えた乳房はずっしりとした重量感を伝吉の掌に伝え、それが更に肉棒にも伝わってくる。

「しほの、おっぱい、凄いよ……凄い……!」

「は、はい……ありがとう、ございます……んんっ!」

 荒い息の中、しほの囁くような声が更に伝吉を興奮させる。伝吉はしほの乳房の先端で硬く勃起している朱色の乳首に指を添え弄った。しほの口から出る嬌声。

 次第に伝吉の背に射精感が上ってきた。

 

「しほっ、出すっ、出すよっ!」

「はい……だ、出して、ください……遠慮なく、いっぱい……!」

「うっ、うあっ、うああっ!」

 

 吼えるような叫びと共に、伝吉は精液をしほの乳肉の谷間に放出した。どくどくと白濁液が溢れ、手を離すと左右の乳房の間に白い淫らな糸が残る。

 

「………」

「……しほ」

 

 しほは言葉も無く、切なそうな瞳で伝吉を見た。

 伝吉は名前だけを呼び、腰を上げるとしほの脚の付け根に身体を置き、彼女の脚を広げた。

 

「しほ……しほぉっ!」

「ああっ、ふ、深いぃっ!」

 

 伝吉はそのまま腰を突き入れた。精液と愛液に塗れた膣内は三度目の挿入を喜々として受け入れ、未だ萎える事の無い肉棒を締め付けてくる。

 伝吉は夢中で腰を動かした。しほの精液に汚れた淫らな顔。ゆさゆさと揺れる乳房、肉付き豊かな腰、引き締まった太腿、そして伝吉の肉棒を締め付ける膣の感触、全てを自分の魂に刻み付けようとするかのように、貪欲にその身体を貪った。

 

「あっ、あっ、ああっ! しほっ、気持ち、気持ちいいっ!」

「で、伝吉っ! い、いい、です。伝吉の、ち、ちんぽも、気持ち、いい……っ!」

 

 恥じらうように言うしほの顔に伝吉は顔を寄せ、汁塗れの顔に唇を押し当て、舌を絡ませた。

 

「んっ、んっぱっ、ぷあぁ……」

「じゅるっ、ンンッ……」

 

 腰を打ち付けるのに合わせ、ぐちょぐちょと水音が鳴る。

「やっぱりっ、だっ! しほはっ、しほは、ちんぽが欲しかっただけ、ンンッ、だった、んだっ!」

 伝吉は更に腰を振りつつ叫ぶ。泣きそうな顔で、彼女が与える快楽を食らいつつ。

「はっ、はいっ! しほはっ、ちんぽが、欲しい、だけっ! んあっ、だけのっ! 雌っ、ですっ!」

 一突きごとに身悶えしつつ、しほが答える。

「イクッ、イクよ、しほの一番奥で、出してっ! 絶対、孕ませるっ、からっ!」

「出してっ、出してくださいっ! しほの、おまっ、おまんこっ、にっ! 最後の、一滴まで、全部ぅっ!」

「しほっ、しほっ、しほぉっ!」

「アアッ! イッ、イクッ、イクゥゥッ!」

「………!」

 しほの脚が伝吉の腰に絡みつき、逃がすまいと強く締め付ける。同時に伝吉は6度目の射精を行い、しほの子宮に精液を注ぎ込んだ。

「あぁ……し、しほ、しほぉ……」

 

 伝吉の身体がぐらりと揺れた。

 

「あ、あれ……?」

 そのまま伝吉は崩れ落ちた。高温の風呂場で過度の運動を行ったため、意識が飛んだのだ。

「ンゥ……」

 ごぽりとしほの膣内から精液が溢れる。しほは僅かに身体を震わせ、身を起こして伝吉を見た。今までの睦言がまるで無かったかのような冷たい目で。

 

「終わりましたでしょうか、奥方様?」

 脱衣場からの菊代の声。それに対し、しほは風呂場の惨状を隠す風も無く答えた。

「ええ、終わったわ。気を失ったから、早く手当を」

「……如何でしたか?」

 菊代からの静かな問いかけ。しほは無表情に答えた。

 

 

 ───『合格』です。



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最終話  西住家・家元仕心得

 

 

「ん……」

 頬に涼し気な風を感じ、伝吉は眼を覚ました。

 

 

 周囲は暗闇だった。

 既に夜遅い時間なのだろう。聞こえてくる音は無く、電灯も点いていない。障子の隙間から差す月明りが僅かな頼りだ。

 次第に目が慣れてくる。まだ明瞭としない意識の中、伝吉は自分が寝間着姿である事にまず気付いた。その上から薄い掛布団が掛けられている。

 視線を周囲に巡らせる。見慣れた家具の配置、おそらくは自分の部屋なのだろう。

 

「……起きましたか、伝吉」

 

 頭上からの声。

 首を上に傾けると、和服に包まれた膝がまず目に入った。風はそこから流れてくる。

 

「菊代、さま?」

 

 身体を回し、うつ伏せの状態で改めて見る。

 和服姿の女性が、座ったまま団扇を片手に伝吉に緩やかな風を送っていた。月明りを背にしたその顔は完全に闇に隠れており、表情は伺い知れない。菊代かと伝吉が思ったのは、その背格好と簡素に結わえた髪型からだ。

「(ああ、そうか)」

 伝吉の記憶が蘇る。風呂場でのしほへの何度もの凌辱。薄れる意識。

 おそらく自分はそこで意識を失い、ここへ運ばれ寝間着を着させられ、寝かされていたのだろう。

 

 

 ──という事は、全て菊代も知っているのだ。自分がしほに何度もの射精をした事を。

 

 

 菊代さまには、悪い事をしてしまったな。

 冷えた頭に最初に浮かんだのは、彼女への謝罪の気持ちだった。

 しほから拒絶され、三助の務めから外された伝吉は混乱の中ながら最初は元の務めに戻ろうと思った。

 しかし、どうしても幾度も身体を重ねたしほの肢体が頭から離れなかった。

 夜には股間が疼き、自慰をしたくなった。しかし「明日はまた呼ばれるかもしれない」と思うと、そこで得られる快感が薄れるのではと我慢せざるを得なかった。

 その間にも何度も考えた。自分の何が悪かったのか、しほは何を望んでいたのか。

 

 その結果──欲情にかられた伝吉が辿り着いた答えは、『しほは自分の気持ちはどうでもよく、自分と同様に快楽を貪りたかっただけなのでは?』という歪んだものだった。

 

 あとの事は、伝吉自身にも夢の中のようであった。

 半月ぶりに呼ばれた伝吉は考えていた通りに行動し、意識が飛ぶまでしほを犯した。

 初めてのしほの膣内の感触は堪らなく気持ちよく、自分を翻弄してきた彼女を組み敷き思うがままにする支配感は伝吉により大胆な行動をとらせた。

 自分のした事が犯罪である事の自覚はあった。

 良くて屋敷を叩き出され──否、普通は警察だろう。

 事情を知れば親も泣くだろうが、それより先に伝吉は菊代に悪いと思った。

 女性に不慣れな伝吉が浴場で粗相をしないよう、自らの裸を晒してまで練習相手に付き合ってくれ、自分が三助を外されてからもしほにとりなしてくれ、最後まで自分の事を気遣ってくれた彼女を自分は裏切ってしまった。

 伝吉は掛布団を除けると身体を起こし、改めて正座して菊代に向き合った。両手を手前に置き、深々と頭を下げる。

「………」

 言葉は出てこなかった。己の主人を凌辱した獣の声など聴きたくもないだろう。そう思った。

 

「顔を上げなさい、伝吉」

 

 菊代の声は静かだった。そこには怒りも、動揺も、悲しみも無かった。正しくは、その声には一切の感情が込められていなかった。

 伝吉は口元を固く結び、顔を上げた。仮面のように闇で覆われた菊代の顔と向かい合う。

「………」

「……家元様からのお言葉をお伝えします」

 数秒の沈黙の後、菊代は言った。

 

「良き務めでした、伝吉。貴男を明日より『家元仕』に任命します……との事です」

 

「……え?」

 伝吉は思わず声を漏らした。その態度を無視するように菊代は言葉を続ける。

「今後、貴男は通常の使用人の務めをする必要はありません、日々定められた食事を摂り、運動を心掛け、何時如何なる時でも家元様のお求めにお応え出来るよう心身ともに備えなさい」

「き、菊代……さま?」

 菊代は一切の感情を込めずに言葉を続ける。まるで平凡な業務連絡を淡々と行うように。それは伝吉の知る、菊代のどんな姿とも一致しなかった。

「今日はもう休みなさい。他の使用人には……」

「ま、待ってください!」

「………」

 伝吉が言葉を遮ると、菊代は意外にも素直に口を閉じた。そういった反応が返ってくる事を予測していたのかもしれない。

「何ですか……それ?」

 

 嫌な感じが背中から這い上がってきていた。

 覚悟して飛び込んだ激流が、まるで澱んだ沼だったような違和感。

 

「……伝吉。何故、西住流が日本戦車道において最強であるか、判りますか?」

 菊代は静かに尋ねた。今までの話と関係ないような質問を急に出され、戸惑いつつも伝吉は首を横に振った。

「いいえ……」

「戦車の指揮や扱いなどは所詮枝葉、小手先の技術に過ぎません。西住流を西住流たらしめているのは、流鏑馬の流派であった頃から続く西住家の女性に受け継がれる強い闘争心に在ります」

「………」

「例え弾尽き剣折れようと、喉笛を噛み千切り敵を殺さんばかりの攻撃性。それにより相手を呑み込む事が西住流の神髄です」

 

 戦車道の素人である伝吉にとって菊代の言葉を実感として受け取る事は難しかった。しかし、彼女の語る言葉の重さだけは伝わってきた。伝吉が生まれる以前から続く、数百年の伝統という名の重みが。

 

「ですが……その攻撃性は、戦車道の試合だけでは発散し切れないものなのです。それを治める役割が『家元仕』」

 菊代の顔は闇に包まれたままだが、伝吉の顔に視線が向けられているのを感じる。

「闘争心治まらぬ家元と身体を重ね、その攻撃性が他に向かぬようにする大切な役目です。伝吉、誇りに思いなさい」

「そんな……!」

 理解を超えた内容に、伝吉はかろうじて言葉を返す。

 同時に一つの疑問が浮かんできた。おそらくは今思った通りなのだろう、確信に近い疑念。

「それじゃ、今までの三助の務めは……」

 

「勿論、家元仕が務まるかどうかの『試し』です」

 

「………!」

 無意識に膝に置かれた拳に力が入る。

「何で……こんな……」

「職業で女性を抱く者では駄目なのです。家元の攻撃性を受け止め、要求を察し、時として主従を逆転させんばかりの肉欲を持つ者でなくては」

 そう言う菊代の声はどこまでも平坦だった。まるで事務員が、理解の悪い来訪者に書類に書かれた内容をそのまま言っているかのような冷たさ。

 もう聞きたくなかった。話したくもなかった。だが、伝吉は更に口を開いた。

「……この事を、他の家人の方は知っているのですか?」

「二人のお嬢様はご存知ありません。ですが、姉のまほ様はいずれ知る事となり、また自身も必要とされるようになるでしょう」

 流石に高校生の少女が知るには相応しくない内容だからだろう。ここまでは伝吉の予想とも合っている。息を呑み、伝吉はもう一つ質問を発した。

「では……旦那様は?」

 そう問われた菊代は、当たり前のように答えた。

 

「無論、ご存知です」

 

「……!」

 伝吉は強く目を閉じた。

「何で、旦那様は、そんな……!」

「それが必要な事だからです。旦那様も日本戦車道において要職にあり、常に家元様と共に居られる訳ではありません。『西住流家元の夫』としての務めを行いつつ、家元の全てを受け止める事は一人の男性には出来ないのです」

「無茶苦茶じゃないですか!」

 思わず伝吉は叫んだ。しかし菊代は全く動じる気配は無い。

「伝吉、以前にも言いましたね? 『伝統というものには必ず意味がある。それを理解すれば貴男も分かってくる』と」

「分かりませんよ、こんなの!」

 伝吉の目から涙が零れた。怒りとも、悲しみとも、惨めさともつかない衝動が伝吉の中から湧き上がってくる。自身にも訳も分からぬまま伝吉は泣いていた。

「だって、旦那様と、奥方様は、二人のお嬢様もいて、それで、ずっと、こんな……!」

 衝動のまま、伝吉の口から脈略のない言葉が漏れる。

「………」

 その時、菊代の顔の闇が僅かに動いた。口の辺りが「にたり」と持ち上がったのが分かった。

 

「……貴男がそれを言いますか?」

 

「ッ!?」

 その言葉に込められた悪意に、伝吉は言葉を失った。

 

「5回……いえ、6回でしたか? 奥方様の中にも外にも散々精液を吐き出した貴男が?」

 

「………」

 伝吉は下を向いた。零れた涙が膝に落ちた。

 

「最初に奥方様の身体を洗われた時は、胸ばかり洗っていたそうですね。奥方様も呆れていましたよ? それで勃起して、少し擦っただけで射精したんでしたね?」

 

 嘲笑、侮蔑、揶揄、それらの感情が混ぜ込まれた、下品な言葉が菊代の口から発せられる。

「やめて……ください」

 小さな声で伝吉は言った。

 

「二度目で、奥方様の前に男根を突き付けて自慰をされたそうですね? ふふ、『洗ったのに精液の匂いが取れない』と言われていました」

 

「やめて……ください……!」

 伝吉も言葉を重ねる。だが、菊代は言い続ける。

 

「その次は……ああ、身体を洗って貰ったんでしたか、赤子みたいに奥方様の胸に吸い付いて……」

「やめろっ!」

 

 次の瞬間、伝吉は菊代を突き飛ばしていた。抵抗するでもなく、菊代は畳に仰向けに倒れた。その上に伝吉は身体を置き、泣きながら彼女を組み敷いた。

「何で……何で、貴女が……!」

 ようやく伝吉は自分が何故涙を流しているのか、その身勝手な理由を理解した。

 

 自分は──悲しいのだ。菊代が「こちら側」だった事が。

 

 自分自身がしほの身体に溺れ、肉欲のままに動いた事は自身の罪として受け入れられた。

 しかし、菊代には──今の伝吉にとっての「向こう側」、日常の存在であって欲しかったのだ。

 それはあくまで伝吉の側からの一方的な願望でしかない。しかしそれでも、菊代は伝吉にとって──三助の務めを受けた日からの異常な日常において──変わらぬ姿でいてくれた、貴重な存在だったのだ。

「何で、こっち側、なんですか……」

 すすり泣くような声と共に、伝吉は闇に包まれたままの菊代の頬に手を添えた。

「今までの事は……最初に練習相手になってくれたのも、相談に乗ってくれたのも、励ましてくれたのも……全部、嘘だったんですか……?」

「言わなければ……分かりませんか?」

 ため息が菊代の口から漏れた。

 

 

「……嘘、ですよ」

 

 

「……?」

 菊代の頬は濡れていた。

「全ては貴男が奥方様に相応しいかを、試した、だけですよ」

 彼女の目元から流れる涙が一粒、伝吉の掌を濡らす。

 

 そうなのだろうか?

 伝吉を「家族のように思っている」と言って身体を洗う練習相手になってくれたこと。

 皿洗いの後で、伝吉の相談に「劣情と愛情は違う」と言ってくれたこと。

 三助の務めを半月ぶりに行う伝吉に、三助の務めに徹するように言ったこと。

 その日のしほからの電話に、重い表情をしていた菊代の表情。

 あるいは、彼女は──

 

「……ンッ!?」

 伝吉は無言で菊代の唇に自身の唇を押し当てた。驚きから僅かに身を固くした菊代だったが、すぐにその緊張を解き、口腔内に割り入ってくる伝吉の舌を受け入れ、滑らかな舌を絡ませる。

「んっ、んぱ……」

「ふぁ……ンッ、ンンッ……!」

 伝吉の舌を吸うようにしつつ、菊代は寝間着の上から伝吉の肉棒に触れた。幾度もの射精をして半日も経っていないというのに、若々しいそれは既に熱と固さを取り戻している。

 股間から立ち上る快感を受けつつ、伝吉は乱れた和服の隙間から菊代の乳房に手を伸ばした。下着は着けていない。しほ程ではないにせよ、十分な張りと存在感を持つ乳肉が荒々しく揉みしだく伝吉の手を押し返してくる。

「はあっ、はあっ……こんなに、熱い……」

「ああっ……で、伝吉……!」

 伝吉は着物の前を緩め、菊代の乳房を外気に晒すとそれに吸い付いた。背を反らしよがる菊代。しかしその手は伝吉の股間から離れず、寝間着の隙間から差し入れられた細い指が直接肉棒を扱き始めた。

「うああっ!」

 菊代からの直接の手淫に伝吉は思わず声を上げた。戸惑う事無く竿から亀頭に至るまで刺激してくるその手つきは、余りにも手慣れていた。

 

 

 ──この(ひと)は、今まで何人の『伝吉』を西住家に捧げてきたのだろう。

 

 ──そして、これから何人の『伝吉』を見送ってゆくのだろう。

 

 

「き、菊代……さま……」

 快感に耐える伝吉の声に、菊代は無言で和服の裾を捲り上げると寝間着からはみ出させた肉棒に手を添え、自身の鼠径部へと導いた。

「ンッ……!」

 菊代の口から甘い声が漏れる。既にそこはしっとりと湿っていた。伝吉は息を呑むと、そのまま腰を突き出した。

「……っ!」

「でん……きち……っ!」

 伝吉は歯を食いしばり、喘ぎが出ないように努めつつ菊代の秘所の奥まで肉棒を突き入れ、そして腰を引き、また突き入れる。菊代は切なそうに伝吉の名を呼んだ。

 菊代の膣内は、しほの全体を扱きあげるような膣内とは異なる動きで肉棒を迎え入れた。まるで全体を包み込むように温かく、柔らかく、それでいて根元では強く締め付けてくる。

 

「こ、これも……嘘、なんで、すか……?」

 夢中で腰を振りつつも、伝吉の涙は止まらなかった。

 泣きながら快楽を貪り、泣きながら菊代の均整の取れた身体を蹂躙していた。

 

「嘘……あんっ! で、すよ……んんっ! 全部、全部……!」

 闇の中でも互いの顔が分かる距離。菊代もまた、泣いていた。

 泣きながら伝吉の衝動のままの荒々しい動きに翻弄され、快感に身を悶えさせていた。

 

「ちくしょう……ちくしょう……!」

「んっんっああっ! ふっ、深いぃっ!」

 何が悔しいのか、伝吉には最早分からなかった。亀頭が菊代の子宮口に触れた。ぞくぞくと腰が震え、射精が近づいている事を伝吉に伝える。

「で、出そうなん、ですね、伝吉……!」

「………!」

 菊代の腰の動きが変わった。伝吉の突き入れを受け入れるばかりだったものから、腰をくねらせ、伝吉が腰を引くのに合わせて逃がすまいと膣内全体を締め付ける。

「構いません、こ、この、まま……ンンッ!」

「んっ、んあっ、ああ……ああっ!」

 伝吉は菊代と唇を合わせ、細い肩を強く抱いた。

 腰がひときわ大きく震え、どくどくと熱い白濁液が菊代の膣内に注ぎ込まれる。菊代は身体を痙攣させ、自身も絶頂に達した事を伝吉に分からせた。

 

「ハァ……ハァッ……」

 射精後の脱力感と共に、伝吉は大きく息をついた。その背を菊代の指が優しく撫でる。

「伝吉……」

「………」

「ンンッ!?」

 伝吉は菊代の顔を見ず、挿入されたまま再度腰を動かし始めた。精液と愛液と先走りで濡れそぼった秘所はぐちゅぐちゅと淫猥な水音を立て、肉棒は容易にその硬さを取り戻す。

「伝吉……伝吉……っ!」

「………!」

 喘ぎ声と水音だけが響く室内で、二人はもう三度、交わった。

 

 

 朝を告げる雀の鳴き声が聞こえる。

 菊代が目覚めたとき、室内に伝吉の姿は無かった。

 来ていた寝間着は丁寧に畳まれ、部屋の片隅に置かれていた。

「……ン」

 手にした寝間着に菊代は顔を寄せ、息を吸った。精液の生臭い匂いが、菊代の鼻孔を刺激した。

 

 

「……そうですか」

 屋敷の書斎において菊代の報告を受けた西住しほは、一言そう答えた。

「残念ね、筋は良かったのだけど」

 その顔には落胆も失望も無い。無表情なままそう呟く。

 菊代は正座したまま彼女に深々と頭を下げた。

「申し訳ありません、奥方様……次の見込みは立っていますので、明日にでも『試し』から行いたいと。今度はより若い者をご用意します」

「……菊代には負担をかけますが、よろしく頼みます。国際大会までに『家元仕』の用意が必要です」

「お任せください」

 菊代ははっきりとしほに言うと腰を上げた。そこに声をかけるしほ。

 

「……彼の母親とは、戦車道の繋がりで懇意です。呼び戻せますよ?」

 

「………」

 菊代は僅かに動きを止め──やがて、いつも通りの穏やかな笑みを浮かべた。

「構いません。戻ってきたとしても……彼は、『彼』ではないでしょうから」

 それだけ言い、菊代は書斎を出た。

 

 廊下から見える空は雲に覆われていた。今日も雨になるだろう。

「……ふぅ」

 菊代はため息をつくと、首筋に貼りついたままの後れ毛を掃った。

 庭の紫陽花は既にその一部が枯れ始め、紫から乾いた茶色にその色身を変えている。

 もう夏が近い。

 

 

【西住家・三助仕心得  終わり】




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました。
5話の内容がどうにも納得できるものにならず、一年近くの休眠を経てしまいましたが何とか完結させることができました。

 感想欄でも触れましたが、結末については幾つかのパターンを考えていたのですが、やはりこの手のは「さらば、少年の日よ」がお約束かと思いビターエンドに落ち着きました。
 作品としてはひとまずここで完結ですが、アナザーエンド的なものをあと1、2本上げるかもしれません。

 ハメでR18を書くのが初めてという事で、本作を書く上で「しっとり感」には気をつけたつもりですが如何でしたでしょうか? ちゃんとエロとして形になっていたなら幸いです。ご意見、ご感想あればお願いします。
 それでは、ガルパンを語る上で外せない一言で本作の締めとさせていただきます。

「ガルパン(の大人の女性)は、いいぞ」

 本当に、本当にありがとうございました。


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