ナムストーン (kirimonji)
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不思議な石

ナムストーン(南無石)

 

 不思議な石でその人の心、生命状態を映す石。

各人固有の石と独立して存在する石とがある。

 

その人の心がとても幸せを感じている時はピンク色に

明るく輝くが、落ち込んでいる時は灰色に暗く沈んでいる。

 

ナムストーンと祈りを込めて唱えることによって

石は明るさを取り戻し、勇気と希望と知恵がわいてきて、

色々な難問をきる抜けていける。

 

その石はさらに人類の危機を予告するセンサーでもあった。

そしてあなたもその石を持っているかもしれない。

 

さあ一日も早く開化して地球の危機を救う戦いに

全力で参加しよう!

 

     20XX年8月京都    小山内 治  

                OSAMU OSANAI

                KYOTO JAPAN

 

僕の名前は小山内治オサナイオサム。京都府亀岡市にある私立大学の2年生である。

京都市右京区のマンションに、両親と妹との4人で暮らしている。通学はJRだ。

 

最近とても変な出来事に出くわして、というより、変な石に取り付かれて、

誰にも相談できずに一人悶々としている。

 

その石は一ヶ月ほど前に僕のズボンの右ポケットに入っていた。

入れた覚えがないのに勝手に入っていたというのが正確だろう。

 

形は栗形の半透明で色が変化する。光によって変化するのではなくて

自ら発色するのだ。熱はなくそれこそ石のようにつめたい。

 

かなりの硬度で落っことしても傷ひとつつかない。磁気を帯びているわけでもないのに、

いつのまにか消えたりしていてまた元通り右のポケットに収まっている。

 

もちろん手に触れたりできるのだが、それはどうも本人だけらしくて、

あるときロッカールームでこっそりと石を手にしていたら、

 

誰かが急に声をかけてきて、のぞこうとした瞬間にするりと手の間から落ちて

すっと消えた。見せたくても見せられないのだ。

 

あるのに見えたり消えたりする。消えてるときはその体積も存在も確認できない。

自分の部屋でそっとポケットから出して机の上におこうとしたら、

すっと消えてまたポケットへ戻っている。

 

もう一度そっと出して今度は僕の帽子の上に具合よく置いてみたら、

うまくちょこんと収まった。居心地がいいところに存在するみたいだ。

 

寝ているときはたぶん消えているんだろう。確認の仕様がないのだ。

何度も手にしてまじまじと見つめる。ほんとに不思議な石だ。

 

3ヶ月ほどたってあることに気がついた。色や明るさ輝き具合は、

僕の気持ちのありように微妙に反応しているようだ。

 

気分がいいときはピンク色に明るく輝く。気分がよくないときは

暗い灰色で輝きもない。ピンクから黄色からブルー緑紫色まで

何十色と変化する。

 

ということはどす黒く沈んでいたらそれは地獄の生命状態だ。

幸い黄色オレンジ黄緑水色とをいったりきたりして、

適当に明るく輝いていた。

 

2年生になって単位の登録に忙しくなってきた。

今日は午前中にアルバイトの面接。午後から学校に出て

前期の登録を済まさなければならない。

 

家を出て大映通りのコンビににむかった。先日アルバイト募集の張り紙を見て

履歴書を持っていくと、今日の10時に来てくれとのことだったからだ。

 

これで5軒目だ。この正月明けから4軒。面接ですべて落とされている。

本屋が2軒とビデオショップが2軒だ。理由ははっきりしている。

アトピーのせいだ。

 

アトピー性皮膚炎のために顔面が赤くただれていて眉毛がまったくないからだ。

そのために接客のアルバイトはむつかしい。と思いつつやはり、

コンビにもだめだった。



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いい響き

アトピーのことを思うとほんとうに気がめいる。JRで亀岡へ。

電車の中で誰にもわからないようにして石を見つめた。輝きがない。

 

青緑色だ。石を手のひらに載せたままボーっと外を眺める。

「そうだきょうTAの発表がある」

そう思った瞬間手のひらの石はは急に明るくなった。

 

TAというのはテクニカルアシスタントの略で資格が要る。

去年1年間講習と検定にチャレンジしてその合格発表が

今日の午後にあるのだ。

 

早く単位登録を済ませて発表を見に行こう。自信は十分にある。

これに受かりさえすればTAのバイトが学内でできるのだ。

 

そう思うと勇気と希望がわいてきた。手のひらの石が明るく輝く。

そうか悲しい気持ちが楽しい気持ちに切り替わったとたんに

石の色が変化した。逆に石の色を塩化できれば、

 

どんな苦しい心の状態でも明るく楽しくコントロール

できるのではないだろうか。ではどうやって?

それは今まったく分からない。不思議な石だ。

 

自分だけの秘密の石だ。手のひらの石をぎゅっと握り締めて

大学へ向かった。はたしてTAには合格していた。

ところが人生何が起こるかわからない。

 

「小山内君あなた左目が少し変よ、見えにくくないですか」

そういわれて医務室にいった。すると担当医師は、

 

「小山内君、これは明らかに白内障だ。紹介状を書くから

大学病院でよく検査してもらいなさい。他が悪くなければ

手術は1日で済む」

 

紹介状を持って大学病院を訪ねた。検査に時間がかかっている。

どうも白内障だけではなさそうだ。

 

「アトピー性白内障と網膜剥離が起きています。早めに手術をしないと

失明の恐れがあります。ご家族と至急相談してください」

 

大学病院のトイレに駆け込んだ。ポケットから石を出す。

かなりのショックだ。石もグレイに沈んでいる。

 

両親はここのところ会社も不景気で倒産寸前だとか言っている。

早くバイトを探せと父親はうるさい。こんな時に費用も相当かかりそうだ。

 

帰ったらまず母親に話さなければならない。かなりの勇気がいる。

落胆する母の姿が悲しく目に浮かぶ。思わず石をきつく握り締めた。

 

「俺に勇気をくれよナムストーン?」

心で無意識に叫んでいた。ナムストーン、いい響きだ。

 

「ナムストーン!俺に勇気をくれ!」

そっと石を見つめると少し輝きだしたみたいだ。

さらに心に強く祈るとぐっと輝きが増した。

 

「よしがんばるぞ。今日からこの秘密の石をナムストーンと名付けよう!」

 

オサムは勇気を持って母親に目のことを話した。

 

「わかったわ。大丈夫よ。あなたがしっかりしてればそれでいいのよ。

お金のことは心配しないで。今の調子でパパにも話するのよ」

 

その晩親父はじっくりと話を聞いてくれた。

 

「金のことは心配するな。それよりおまえ自身大丈夫か?」

「ああ、だいじょうぶや」

「そうか、それでいい!」

 

親子で笑った。こんなことは今まで一度もなかったことだ。

 

そして手術は成功した。若手の眼科の権威が出張直前で執刀に間に合ったのだ。

入院もゴールデンウィークをはさんでほとんど欠席にならずにすんだ。

手術と入院費用は保険と助成金とで70万円全額免除になった。

 

『うーん、アンビリーバブル!信じられない!』



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秘密の石

ほんとかどうか偶然なのかはわからないが、落ち込みそうになると

ごく自然にナムストーンと唱えるようになってきた。

 

手のひらにぎゅっと握り締めて勇気をくれよとひたすら祈る。

すると不思議にファイトが沸きあがってくるのだ。

 

このようなことは太古の昔から地球上のいたるところで

数多くの人々が現在に至るまで経験していることなので

何も不思議なことではない。

 

おまじないや呪文から高等宗教にいたるまで

人は必ず祈る対象を持っている。

 

自分自身に大声を上げて気合を入れる人もいる。

自ら確信を得るには何かが必ず必要なのだ。

 

それさえ得れれば自信は深まりエネルギーが増大して

逆境を跳ね返すことができる。

 

オサムオサナイにとってはまさにナムストーンが

奇跡の秘密の石となったようだ。

 

ほんとかどうか偶然なのかはわからないが、落ち込みそうになると

ごく自然にナムストーンと唱えるようになってきた。

 

手のひらにぎゅっと握り締めて勇気をくれよとひたすら祈る。

すると不思議にファイトが沸きあがってくるのだ。

 

このようなことは太古の昔から地球上のいたるところで

数多くの人々が現在に至るまで経験していることなので

何も不思議なことではない。

 

おまじないや呪文から高等宗教にいたるまで

日田は必ず祈る対象を持っている。

 

自分自身に大声を上げて気合を入れる人もいる。

自ら確信を得るには何かが必ず必要なのだ。

 

それさえ得れれば自信は深まりエネルギーが増大して

逆境を跳ね返すことができる。

 

オサムオサナイにとってはまさにナムストーンが

奇跡の秘密の石となったようだ。

 

「ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン・・・」

白馬がリズミカルに天空を駆けるように。

宇宙生命との一体感を全身で感じ取りながら。

 

心の奥底から充実感とエネルギーが体全体にみなぎってきた。

これはすごい。ナムストーンは只者ではないぞ。

 

これを全うすれば自らの宿命も地球全体の宿命をも

転換できるのではないだろうかと思えてきた。

 

6月に入りオサナイはTAのアルバイトを始めた。

学園内のパソコンルームでアシスタントをするのだ。

週に3日はこれで帰りが遅くなる。

 

パスワードはもらっているので公認で自分のホームページを開いてみた。

ひょっとしたらナムストーンを知っている人が世界にはいるかもしれない。

 

ミラクルストーンでは奇跡の石になるし、シークレットストーンでは

文字通り秘密の石だし、アンビリーバブルストーン!ドンチューノウ?

 

とタイトルを出してこの1ヶ月間の出来事をまとめてみた。

すると、なんと世界でオサム以外に4人いたのだ。

 

ドイツチューリンゲンの森の近くの町フルダの医学生、キーツ カーン26才。

エジプトカイロ大学の天文学専攻のナセル ベックハム21才。

 

トルコイスタンブール大学で歴史を学ぶ24才のケムン アタチュルク。

ネパールカトマンズのレイ シッキム18才女性。ネパール大学で宗教学を専攻。

以上の4人からアクセスがあった。

 

4人ともオサムオサナイの石と同形で色も変化する。

消えたり出現したりはまったく同様である。

 

ただレイシッキム以外はその色彩の変化が自分の心の

状態と同時に変化することには気づいていなかった。

 

オサムのホームページを見て試してみて

ナムストーンに間違いないと確認したのだ。

 

それ以降は誰からもアクセスがなかった。オサムを入れて

世界ですでに5人、この石に気づいている人間はいたのだ。

 

オサムオサナイは心を躍らせて一人ひとりにメールを送った。

「どういういきさつで石を知ったか詳しく教えてください」

 



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キーツカーン

○キーツ カーン

 

フルダ大学の医学生キーツ カーンは親の代から医者であった。

3人兄弟の末っ子がキーツである。

 

2人の兄も医者で2人とも独立してベルリンとハンブルグにいる。

実家はグリム童話で有名なゲッチンゲンだ。

 

両親はこのゲッチンゲンの町医者として今も開業している。

小児科内科が専門である。

 

ここで生まれたキーツは幼い頃から近くの森をさ迷い歩くのが好きだった。

二人の兄とは年が離れていたので厳格な父のもと医学書を学びながらも、

 

毎日何時間か森の中で心を癒していた。家の近くの森といっても

それはチューリンゲンの森へと続く里山の奥。

 

その入り口付近のうっそうとした原生林の森、

白雪姫や7人の小人が出てきそうな奥深い森である。

 

もう何年も隅々まで歩き回りお気に入りの林の祠ほこらや

小さな泉、湧き水の出るせせらぎの沢、すわり心地のいい切り株。

 

昼寝用の大木の平らになった大きな枝木。小鳥の声、風のそよぎ、

木漏れ日、などなど森のすべてがキーツの心を癒してくれた。

 

医大に入学が決まった初夏のころにキーツは久しぶりに森をくまなく歩いた。

入試から開放されて初夏の萌木の息吹を命の奥まで吸い込んだ。

 

歩き疲れてキーツは大枝木のベッドで心地よくまどろんだ。

夢を見ている自分を見ている自分が空から見つめている。

 

空の自分の瞳が急降下してまどろんでいる自分の眉間に迫った。

思わず反射的に目を開ける。眼前に自分の大きな瞳が急接近してくる。

 

ぶつかると思ったその瞬間、瞳の奥の奥に何かぴかっと光るものを見た。

そして目が覚めた。体中すごい汗だ。

 

木陰から一本の日の光がちょうどキーツの顔面を捉えていた。

まぶしいな、この光のせいか?と思いつつ右ポケットに手を入れた。

 

するとそこに小石が入っているではないか。栗形の、色が

かなり変化する不思議な石だ。珍しいすごく美しい石だ!

 

キーツはしばらく見とれていた。石は薄ピンク色に輝いて収まった。

キーツは大急ぎで家に帰り勉強机の秘密の小箱に鍵をかけて入れた。

 

その小箱はキーツの子供のころからの宝物がいくつか入っていた。

その片隅にピンクの石は納まった。勉強に疲れたとき時々その箱を

 

あけてみた。間違いなくあるピンクの石、

キーツはとても心が安らいだ。

 

その後勉強も忙しくなり精神科を専門として臨床、

国家試験、論文、学会とめまぐるしく多忙となり

気がついてみれば大学院も卒業間近26才になっていた。

 

そうしたある日、

『アンビリーバブルストーン!ドンチュウノウ?』

のタイトルを見つけた。アクセスしてみると日本発だ。

 

特徴ある石の形が目に飛び込んできた。

「この石は何年か前に拾ったあの石だ」

急いで秘密の小箱を探した。小箱は

 

すっかりほこりにまみれて引き出しの奥にあった。

開けてびっくり石は見当たらない。

そのスペースだけがあいている。

 

「確かピンク色のとても美しい小石だったが、

どこに消えたんだろう?」

 

引き出しをひっくり返してみてもやはりない。

気のせいだったのかな?もう5年も前のことだ。

 

少し悔やまれながら小箱を引き出しに戻し、

他のノート類もきれいに整理して引き出しを閉めた。

 

大きく深呼吸をしてもう一度引き出しを大急ぎであけて

奥の小箱を取り出しぱっと開けてみた。

「あっ!」

 

あるではないか。薄いピンク色のあの石だ。

「君はナムストーンなのかい?」

 

やさしく声をかけると石は輝きを増した。

間違いないナムストーンだ。



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ナセルベックハム

○ナセル ベックハム

 

カイロ大学で天文学を学んでいるナセル ベックハムは

その日もバザールへ向かっていた。

 

父が実業家で絨毯や麻、香水などを扱っている。

実家は工場、とはいっても家内制手工業。

 

地元のエジプト人を多数使って日よけレンガ家屋の中だ。

貿易も手がけている。バザールに大型直営店舗がある。

 

ナセルは10人兄弟の末っ子で母は3人いる。

ナイル川の西岸道路を砂漠が始まるあたり、

 

3大ピラミッドと砂に埋もれたスフィンクスを北に見て、

商店街が連なる。その大型土産品店の二階が

ナセルの母の実家兼店舗である。

 

各工場からの半完成品が次々と運び込まれ、

また次々と運び出されていく。

 

ナセルは車で絨毯と香水をグランバザールへ届けるのだ。

ナイル川を渡ってカイロの中心地付近はものすごい人ごみ。

 

車、荷車、馬車、らくだ。ごった煮の埃だらけに鈴なりのバス。

ナセルは渋滞の中をグランバザールの入り口付近にやっと着いた。

 

大通りに車を止めて香水だけを運ぶ。カイロには香水屋がずいぶん

と多く、自分だけのオリジナル香水をブレンドすることができる。

 

客は金持ちの中年男たちだ。白い風通しのよい木綿更紗に一重の

ターバン。五角形の組みひもで頭を押さえている。素足にサンダル。

 

このスタイルは太い腹を隠せてしかも涼しく上品に見えるから不思議だ。

彼らの一番のこだわりは香水なのだ。ナセルの父親はこれで大もうけをして

 

3人の妻と10人の子供たち、いくつかの会社を家族で切り回している。

末っ子のナセルは定めし配送係というところか。

 

バザールの中は路地がすこぶる狭く入り組んでいて一大迷路に

なっている。旅行者は必ず道に迷って途方にくれる。

 

ところが不思議なことにこのバザールには仙人がいて

よそ者を見張っているらしい。白ひげにターバン、長い杖。

 

アラビアンナイトに出てきそうな仙人が何人かいるようだ。

観光客が道に迷うとどこからともなくすっと現れて、

 

あっちだと指を指す。振り返るともういない。

また道に迷うと、すっと後ろに立っていてこっちだと指を指す。

そのうちやっと表通りに出れるというわけだ。

 

その日ナセルは香水を届けて戻り道で仙人の一人に出会った。

仙人は白ひげの奥の細い目でにっと笑い右手で路地裏を指差した。

 

東洋人の3人が道に迷っている。仙人とナセルは一緒に

3人の前に現れた。一人は女性だ。

 

「オーマイフレンド!」

東洋人の一人が笑みながらあっちかと指差して声をかけてきた。

もう何回か出くわしているみたいだ。ナセルが仲に入った。

仙人は一言もしゃべらないのだ。

 

「何か買い物でも?」

「いえ、私たち3人は日本で教師をしています。

ぜひカイロの小学校を見学したいのですが」



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ナセルベックハム2

「なるほど分かりました。私についてきてください、ここは危険です」

ナセルは仙人に目で挨拶して狭い路地を大通りへと抜けた。

 

道路ひとつ隔ててスラム街である。3人の東洋人に、

「チーノ、チーノ」と子供たちがたかってきて、

その数がどんどん増えてきた。

 

「危険だ、走らずにゆっくりとあそこの車まで。

着いたら大急ぎで飛び乗ってください」

 

「チーノ、チーノ」は大合唱になりトマトが投げつけられた。

もう少しだ。それっと車に飛び乗る。トマトが窓に当たる。

 

ぶーぶーと大きくふかして急発進。みんなを振り切った。

かなり大人も混じっていたようだ。

 

ナセルは彼らを友人のいる小学校に案内してその帰りである。絨毯を別の

店に届けて橋を渡り、ふと右のポケットに手を入れると石が入っている。

 

いつのまに?車の窓を開けて道路わきにぽいと投げ捨てた。ちらと目をやる。

とてもきれいなピンク色の石が輝きながら砂埃の中に消えた。

 

急ブレーキ、幸い後ろには車がいない。ナイルの橋を渡れば車の数はぐんと

減るのだ。ナセルはバックしながら車を道路わきへ寄せた。手探りで探す。

 

太陽がぎらぎらと照りつける。口の中が砂でじゃりじゃりとしてきた。

「あった!」

半透明の白っぽい石だ。とても美しく形も面白い。まるっこいピラミッドの

ようでもあり神聖な感じだ。シルクのハンカチに丁寧に包んで持ち帰った。

 

ナセルは大学で天文学を専攻している。

まだ学び始めたばかりだが、宇宙の法則が

自分の体内にも流れていると直感している。

 

そうしたある日、東洋日本のフェイスブックに

「アンビリーバブルストーン!ドンチュウウノウ?」

と出ていた。画像はあの石とそっくりだ。

 

石が人の心に感応すると書いてある。ほんとかな?

何日か前に拾いなおしたあの石をそっと机の上に出してみた。

 

シルクのハンカチをあける。うん、同じ形だ。薄い黄緑色。

「拾ったときはピンクだったなたしか?これは難しいぞ」

 

その時階下から母の叫び声が聞こえた。

「ナセル早く来て大変!」

 

絨毯の山が崩れて子供が下敷きになっている。

幸いなことに子供はわずかの隙間で大丈夫なのだが、

絨毯の山がまだ崩れそうだ。

 

昼休みで男ではいない。女が数人母親らしき人が泣き叫んでいる。

ナセルは上の絨毯を抱えてみたがびくともしない。

 

近くにあった天秤棒をかまして子供は無事助け出された。

『よかった!』母親たちが拍手を送る。

子供の親は泣きながらお礼を言った。

 

よかった、いいことをした。すぐさま上に駆け上がって石を見た。

ピンク色に輝いている。間違いないナムストーンだ。

ナセルはオサムオサナイにメールを送った。

 

 



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ケムンアタテュリュク

ケムン アタテュリュク。

ケムンはトルコ建国の父ケマル アタテュリュクの遠い親戚に当たる。

 

ケマルのおかげでトルコは列強に占領されることなく旧イスラム体制

を倒して独立を勝ち取った。文化政策ではアルファベットを取り入れ

一大民主国家として再生することができた。

 

ケムンの父は元軍人で今だいろんな分野の人脈に通じている。

ケムンはその5人兄弟の末っ子であった。学問が好きで将来は

大学で歴史の教授になるのが夢だ。

 

実家は首都アンカラの近郊だが歴史そのものの町イスタンブール大学で

歴史を学ぶことを決めていた。イスタンブール。東西要衝の地。

 

遠くはビザンティン、東ローマ帝国の時代からアレキサンダー、ペルシャ、

イスラムオスマントルコ。アジアとヨーロッパとの接点。

 

ロシア南下政策とのしのぎあい。キリスト教徒とイスラム教徒の戦いの跡。

東西冷戦のハザマ。この町ほど歴史に大変動の連続があった町はない。

 

あまりの歴史の重さに書物に疲れたときにケムンは、

ブルーモスク近くの壊れかけた砲台跡にたたずむ。

 

ここからはガラタ橋がよく見える。ボスボラス海峡を

挟んで橋の向こうがウシュクダラ、アジアだ。

 

シシカバブといわしのから揚げをほおばりながら

じっと海を見つめる。またコーランが鳴り響き始めた。

 

そうしたある日、いつものようにケムンは砲台跡にたたずんで

じっと海を眺めていた。曇り空で今にも雨が降りそうだ。

 

黒雲に稲妻が走った。まちがいなく雨が降ると分かっている

のに不思議と走って教室に戻る気持ちにはならなかった。

蒸し暑い初夏のせいでもあったのか。

 

 

全市街に鳴り響いていたコーランの声が鳴り止んで雷鳴が轟いた。

アジアの地から稲妻が西に走る。降ってきた、ぽたぽたぽた、大粒の雨が。

 

そして一気に降り注いできた。雨粒が体に痛い。カッターシャツがびっしょり

と濡れて体にへばりつく。頭髪も大雨に打たれて目口鼻まで雨水が降り入る。

 

滝のように流れる雨、全身びしょぬれだ。体がズーンと重たくなって金縛りに

あったみたいだ。手足を動かすのが禁を破るほど罪深く思えた。

 

しばし頭こうべをたれて大粒の豪雨の中にたたずむ。

吸い込む息さえ雨水の如しだ。身も心もすっかりと洗い流されて心の底から

何か熱き思いがじわっと湧き上がって来た。

 

さあわが人生頑張るぞと不思議なエネルギーが体の隅々までみなぎってきた。

手足を思い切り伸ばし大きく深く息を吸い込んでゆっくりときびすを返した。

 

ケムンは寮に戻るとシャワーを浴びて全部着替えた。さっぱりとした

気持ちで机に座る。ふと右のポケットに手を入れると何かがある。

 

着替えたばかりで何もないはずなのに?

「石だ?へんな形の奇妙な石だ。薄紫色に光っている」

 

ケムンはあまりの美しさにしばし見とれてしまった。

「これは宝石だ。大切にしまっておこう」

 

時々机をあけてみるといつも石の色が違うのに気がついた。

それから数日後。

「アンビリーバブルストーン、ドンチュウノウ?」

 

日本発のツイッターだ。もしやと思ってアクセスすると、

間違いない。ナムストーンと言うそうだ。

 

早速ケムンはオサムオサナイにメールを送った。



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レイシッキム

レイ シッキム

 

レイはネパール王家の親族だ。生活はなに不自由なく王宮の一室で

インターネットばかりやっている。

 

他の兄弟や従兄弟たちは主に米国やヨーロッパに留学していたが、

レイはカトマンズに残った。母がお前だけは傍にいてほしいと言うし、

 

祖母も誰かがいないと寂しそうだ。いつもレイにまとわりついてくる。

別に急ぐ必要もないし、そのうち誰かが帰ってきたら、

 

ゆっくりと世界一周でもしようと思っている。今年18歳になったばかりで、

ひとまずネパール大学の文学部宗教哲学科に籍を置いた。

 

その日も祖母がかまいにやってきた。散歩と称して孫娘と街中に

買い物に行く時間なのだ。王宮から中央寺院、バザールを回って、

 

頼んでおいたシルバーのブレスレットとシルクのテーブルクロスを

取りに行くのだ。レイは格式ある専門店よりは中央寺院の路上の一角、

 

手作りのアクセサリーを売っている若者たちの広場が大好きだ。

数百軒の路上店舗がびっしりと並んで小物アクセサリーを売っている。

実に多種多様でとても面白い。

 

夜明け前から一つ一つ丁寧に並べていく。

祈りをこめて並べているのだろうか。

ひとつひとつが彼らのオリジナル作品である。

 

並べ終わったあとは作りかけのブレスやネックレスに

磨きをかけている。ほとんどがシルバーだ。

 

ネパールにもカースト制度が根強く残っていて、

専門店は大昔からの伝統を正確に継承し、

 

格調高い緻密な工芸品群作っている。

しかし若者には興味の湧かない代物ばかりだ。

 

祖母はここでしか注文をしない。デザインは

孫娘の好みに合わせようとするから、

中央寺院の路上で売ってる好みのデザインになる。

 

路上の若者たちはカーストの職制の中ではあっても、

常に斬新なデザインを次々と発表している。レイは、

 

「ニューヨークあたりで売れば売れるだろうな」

と思いつつ、祖母の目を盗んで路上のアクセサリーを

少しずつ買い集めているのだ。

 

祖母は近寄ってよく見ようともしない。

カーストは交わるべきでないと、

いつも横を向いて辛抱強く孫娘と付き合っている。

 

レイはその日もしゃがみこんで一番奥の一角、指輪とブレスレットが

とても美しい無口な若者の指輪に見入っていた。その時である。

 

「あらっ?」

スカートの右側のポケットに石が入っている。

 

取り出して手のひらのうえで開けてみる。

なんとも奇妙な水色の半透明な小石だ。

 

「これ、あなたの?」

と若者の目の前にしゃがみこんで指輪に鑢やすり

をかけている無口な若者に見せた。

 

若者はレイをじっと見つめて静かに首を横に振った。

そのまままた作業を続けている。

 

『見えないのかなこの石。じゃあもらっとく』

レイはそのまま石をしまい立ち上がった。

待ちくたびれた祖母が近づいてきて足早に王宮へと帰る。

 

部屋に戻るとレイは石をつまみ出してよく眺めた。

うすい萌黄色だ。とてもうれしいと思った瞬間、

薄いピンク色に変わった。

 

形も奇妙などんぐり形だ。見とれていたらトントンと

ノックの音がしてドキッとすると石の色は一瞬青に変わった。

 

『あらほんとに不思議な石だこと』

と思いつつ大急ぎで石をポケットに戻すと大きな声で、

「はいっ!」と返事をした。

 

 

夕食の時間だ。兄と姉は今留学で海外にいる。

父は議会に出ているので、半身不随の祖父と

 

元気な祖母。病気がちであまり外には

出たがらない母との4人での食事である。

 

レイは石のことが気になってボーっとしながら食べている。

右ポケットには確かに石が存在している。

早く部屋に戻りたいと思ったそのときに祖母が、

 

「今日買った腕輪はどうしたの?」

専門店であつらえてもらった高級品のことだ。

 

「とても素敵なのでお部屋に飾ってあるわ」

レイがそういうと祖母は

「あ、そう」

といって兄さんたちの便りの話になった。

 

今がチャンス。

「ごちそうさま。歩き疲れたから部屋で休むわ」

と言って部屋に駆け上がった。

 

なんて不思議な石だろう私の気持ちのとおりに反応する。

レイはそっと石をシルクのハンカチの上において語りかけた。

 

「石さん石さん、どこから来たの?」

石は薄い黄緑色のままだ。

 

「ねえ教えて、あなたのことが知りたいの」

石の色が水色に変化し始めた。

そのままレイは眠り込んでしまった。

 

石は青から緑、黄色と変化して乳白色で落ち着いた、

かと思うと急にピンクになった。レイは夢を見ているのだ。

 

にこっと微笑みながらお母さんが元気だったころの

ハイキングの夢を見ていたのだ。夕立が来て皆大慌て

 

石の色もめまぐるしく変わってまた乳白色に戻って落ち着いた。

「まあ、きれいな色になってる」

 

目が覚めてそう思った瞬間、石はピンク色に輝いた。

「わかったわ。私の心が幸せを感じたらピンクに輝くのね」

 

その日から自分の心の色が大体分かるようになった。

時々手にしてみると寸分違わずその色になっている。

 

そうしたある日、

「アンビリーバブルストーン、ドンチュウウノウ?」

 

ツイッターに日本の学生からだ。じっくりと読んでみて驚いた。

ナムストーン?私の石と同じだ。心のバロメーターというのも確認済みだ。

 

彼はナムストーンと呼びかけることによって石の色がコントロール

できると言っている。さっそく試してみた。

 

「ナムストーン、ナムストーン。私に勇気と元気をください。

ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン」

 

石がピンクに輝きだした。体中にエネルギーが満ちてくる。

本物だぞナムストーン。レイはオサムオサナイにメールを送った。



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王宮事件

オサム オサナイの返事

 

「 早速のご連絡ありがとうございます。今ナムストーンの存在を知るものは

5人。ドイツのキーツ カーンさん、カイロのナセル ベックハムさん、

 

イスタンブールのケムン アタチュルクさん、ネパールのレイ シッキムさん、

そして日本のオサム オサナイの5名です。

 

皆私も含めてこの数ヶ月以内に石に気づきました。心の状態に微妙に反応する

ということと、時々消えてしまうということとはすでに体験済みだと思います。

 

問題はこの先です。ナムストーンと唱えかけることによって石の色を変化

させることができる、このことは画期的な発見です。

 

どういう生命状態のときでも瞬時に勇気を勝ち得ることができる。

この数ヶ月このことにチャレンジしてみてください。

 

来年の8月ごろをめどに一度皆さんとお会いしたいと思っています。

不可解な面や不安は一杯あります。たとえば、何時この現象が消滅するか

 

ということや、他にもこの石が現れてくるのだろうかと言うようなことです。

今我々が確認できる諸現象はほんのまだ一部分かもしれませんので、

 

いろいろと解析や実験をしてみてください。石はどうも本人以外には見え

ないみたいなので、お会いしたときにもまた数々の実験をしてみましょう。

それでは友人のアドレスを紹介いたします。」

 

次の日レイからメールが入っていた。レイは宗教比較論が専門だ。それによると。

ナムストーンとは非常に意味のある言葉の内容と響きだそうだ。

 

ナムとは梵語で音訳すると南無、意訳すると帰命。命を帰する。

それに命を賭けて従うとでもいう意味だ。とすると、

 

ナムストーンとはその石に命をかける。その石は心と直接に

感応しているからつまり、素直な心に命をかける。すなわち、

 

素直な生命の法則に心を合致させようと努力する命の状態を

ナムストーンと発声するのだ。だから命の石が反応するのだそうだ。

 

失明しかかったとき思わず口をついて出た言葉がナムストーンだった。

あれは偶然ではなかったのかもしれない。ナムストーンと念じただけで

 

効果がある。声に出して一心に祈ればさらに絶大なる効果が全身にみなぎる。

ひょっとしたらこれは全人類を救う大革命になるのではないだろうか。

オサムオサナイは空を見上げてそう思うと思わず大きく身震いがした。

 

夏休みが終わって新学期が始まった。そして大事件が起きた。

カトマンズの王宮で皇太子が銃を乱射。王である父親と

母とを射殺してしまったのだ。

 

狂った王子は猟銃を持ったまま王宮の食事の間に立てこもった。

居間には両親の射殺死体が転がっている。その時人質になったのが

皇太子のおじ夫婦と幼い従姉妹3人とそこにレイも居合わせた。

 

王宮は非常事態となった。軍隊が入りもう一人の王族が指揮を執って

食堂を取り囲んだ。このことはテレビでも報道されて、

キーツもナセルもケムンもすぐさまオサムに連絡を入れた。

 

オサムももちろん知っていた。レイらしき人影が人質の中に

いるのも確認していた。電話もネットもつながらない。

指揮官が叫んでいる。

 

「お前の結婚は認めるから銃を置いて出て来い!」

何度もそう叫んでいる。

 

どうも結婚問題で両親ともめていたらしい。

次期王となるべきこの皇太子は数年前に日本に来たことがある。

恰幅のいい柔和でハンサムな青年だった。

 

親の決めた王族との結婚式が迫っていて、すでに子供までいる

平民との婚姻は認められなかったのだ。王族ゆえの

世代の葛藤が悲劇を生んだ。

 

現代でも不条理はどこにでも転がっている。

ついこの間、アラブの皇女が斬首された。ヨーロッパ留学中に

他宗教の青年と恋に落ちたからだ。そしてこの事件。

 

実はこのときレイは3人の従姉妹を両手でしっかりと包みおじ夫婦

の脇にいた。年老いたおじは顔面蒼白で口元がぴくぴくと震え続けている。

 

おばは目を閉じて天を仰いだままピクリとも動かない。

皆立ったまま流しを背にして大型冷蔵庫の隅に

6人身を寄せて息を止めている。

 

皇太子は入り口をテーブルでふさいで小さな窓枠越しに、

時々人質に目をやりながら外のスピーカーに耳を傾けている。

殺気立って落ち着かない。こう着状態が続く。

 

皇太子は銃口をこちらに向けたりあちらに向けたり。

手元はかなり震えている。レイはしっかりと石を握り締め

ナムストーンと心で強く念じ続けた。

その瞳はじっと皇太子の顔面を捉えて放さない。

 

オサムオサナイは、

「みんなで必死に祈ろう。レイを助けるんだ!」

とみんなにメールを送った。

 

王宮ではこう着状態が続く。狂った皇太子は絶対にレイと

視線をあわせようとしない。充分にその鋭いまなざしを

感じているはずなのに。

 

銃口を向けられた時の恐怖は経験したものでしか分からない。

レイはナムストーンをしっかりと握り締めて必死で念じながら

皇太子の瞳をうかがう。

 

視線が合ったときが最後の一瞬だと本能が感じ取っている。

そしてついに視線が合った。

 

4mほどの先で銃口を向けられ視線が合ってしまった。

実に悲しい瞳だ。あまりの悲しみのゆえにその瞳の奥は

黒さを通り越してぶきみに鈍く輝いていた。

 

『ナムストーン!』

心で叫んだその瞬間、皇太子は猟銃を床に落として

短銃をすばやく自分のこめかみにやるや、

引き金を引いていた。

 

猟銃を落とすのを確認して外間近に迫っていた突撃兵が

窓を蹴破って突入してきた。その瞬間、

「バーン!」

 

皇太子は即死。ふさがれた入り口が押し開けられて

たくさんの兵隊が入ってきた。指揮官のおじの顔も見える。

やっと解放されて従姉妹たちも家族と別室へ抱えられていった。

 

おじが大丈夫かとレイに声をかける。

レイはしっかりした口調で答えた。

「私は大丈夫です!」

 

悲しいほどに黒く澄んだ瞳の奥にピカッと光ったかに見えた、

あの光は何だったんだろう?部屋に戻るトレイはみんなにメールを送った。

その光のこともナムストーンと念じたことも。

 

特に最後のナムストーンにはものすごい気がこもっていたことを。

皆は感動した。ナムストーンの念力が通じたのかもしれない。

この事件でみんなはさらに確信を深めた。



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自爆テロ

それから2ヵ月後のカイロ。グランバザール入り口付近の大通りに

いつものようにナセルは車を止めようとした。

 

前方にバスが故障で止まっている。乗客はほぼ満員。

運転手と誰かが言い争いになった。するとその時、

甲高い声を上げて背中に何かをしょった男の子が走りこんできた。

 

「どっかーん!」大音響が起こる。

舞い上がる白煙と風圧。瓦礫と人の体がフロントガラスにぶつかる。

ナセルはまさにドアを開けようとした瞬間だった。

 

座席に伏して石を握り締めナムストーンと叫び続ける。

幸いなことにフロントガラスは割れていない。

砂埃の中に逃げ惑う人々。阿鼻叫喚とはこのことだ。

 

慎重にドアを開けてナセルは外に出た。

黒煙を上げて燃えるバス。逃げようとする人と

助けようとする人とがぶつかり合う。

 

消火器の泡があちこちから上がりやっと炎は消えた。

くすぶる白煙とすごい悪臭。砂埃の中に叫びうめき

うごめくけが人たち。

 

地獄だ!テロだ、無差別自爆テロだ!

しかも子供が爆弾を背負って突入してきた。

これほどの悲劇はない!

 

誤まれる思想や宗教は人類を破滅させる。

何とかならないものか?

 

ナムストーンと念じながらナセルは煙に

くすぶるバスの車内に入った。

かなりの人数が折り重なって倒れている。

 

何人か外の男たちを呼び込んだ。

手前から一人ずつ担ぎ出す。虫の息だ。

遠くでサイレンの音が聞こえる。

 

入り口付近のドアと窓とは大きく破損している。

数人の死体を避けて次々と負傷者を担ぎ出した。

車内は煙にむせて息ができない。

 

ようやく救急車と消防車が到着した。

マスコミも押しかけてきた。

ナセルは車に戻り運転席で大きく深呼吸をした。

 

警察が犯人の目撃者はいないかとあちこち声をかけている。

警察がナセルの車の扉を開けた。同時にフラッシュがたかれた。

 

「犯人を目撃されませんでしたか?」

「ああ、目撃した。子供が叫びながら背中に何かしょって突っ込んできた」

「詳しくお話を聞かせてください。お疲れでしょうが協力お願いします」

 

ナセルは起き上がって車から出た。

たくさんのフラッシュがたかれる。

群衆がナセル、ナセルと叫んでいる。

 

ナセルが負傷者を助け出したとか、

炎の中をバスに乗り込んで担ぎ出したとか言っている。

こうしてカイロのテロ事件は大きく世界に報道された。

 

オサムオサナイは今回今までにない胸騒ぎを感じた。

石の色もグレイのままだ。ナムストーンと祈っても一向に明るくならない。

 

夜である。机に座りなおして石を置き一心に祈る。

テレビはつけたまま、いつもは消しているのに。

 

その画面に臨時ニュースのテロップが流れた。

エジプトカイロで自爆テロ5名死亡負傷者多数、詳細不明と出た。

 

12時のニュースでは映像が流れた。

「子供が叫びながら何かを背負って突っ込んできた」

あれっ?証言しているのはあのナセルベックハムではないか?

 

群衆はナセルナセルと叫んでいる。このことか?

皆からメールが入ってきた。間違いないナセルだ。

 

ナセルから後日みんなへの報告。

「間一髪で助かりました。ナムストーンと唱えながら慎重に行動したところ。

当局の取調べもマスコミもいつの間にか英雄扱いになってました。

みんな応援ありがとう。ナムストーンには人智を超えた不思議な力があります」

 

それから数ヵ月メンバーは勉学にいそしみ正月も過ぎて、

この夏にでもみんなで一度会いませんかと言う話になってきた。

学年末の夏休み8月ごろがいいのでは。

 

そうした1年中で一番寒い底冷えのする夜に

オサムはまたあの胸騒ぎを感じた。

ナムストーンと祈るが石は一向に明るくならない。

 

ふと眠り込んでしまってザーッと言うテレビの音に目が覚めた。

時計を見ると午前5時を回ったところだ。

 

テレビを消してしばらくすると突然下から突き上げる

ドドーンと言う衝撃、テレビもスタンドもすべてが

体ごと飛び上がった。

 

とまもなく大きな横揺れ、台所でガシャーンという音。父が、

「じっとしとれ。四つんばいになってじっとしとれ!」

と叫んでいる。

 

妹とは母キャーキャー叫んでいるだけだ。

オサムはパソコンを両手で抱きかかえて揺れが収まるのを待った。

『ナムストーン!これ以上激しくならないでくれ!たのむ!』

 

横揺れが収まって母が玄関のドアを開けた。ここは7階相当ゆれた。

「大丈夫かー?またくるぞー!」

誰かが叫んでいる。

 

すぐに余震の横揺れがきた。やっと収まって他の部屋を見てまわる。

居間のテレビは台から落ちて台所の食器棚は斜めになって食器は粉々。

妹の部屋は本棚が倒れて本が散乱している。

 

とにかく皆無事だ。母は友人の部屋を数軒訪ねて帰ってきた。

8階建てのマンションは中層より7,8階が激しく揺れてけが人も出た。

 

隣の棟では上水槽が壊れて水浸しになり

こちらの棟ではエレベーターとの間に1mもの隙間が開いた。



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大地震1

オサムは親父とたんすや棚を起こしながらテレビのスイッチを入れた。

神戸、淡路島あたりが震源でマグニチュード8を超える大地震が起きたのだ。

 

空と海からの最新映像が入った。伊丹、尼崎、宝塚、西宮、芦屋。

神戸市全域と淡路島が壊滅状態だ。

 

空からの映像で阪神高速の高架が大きく北側に倒れているのが見える。

海からの映像で神戸市内に数本の煙が大きく空に立ち上っている。

 

道路はパニック状態で主要幹線は完全にストップ。電車はもちろん

動いていないので人々は線路沿いを列を成して歩いている。

 

大阪方面へ避難して行く人々と神戸方面へ安否を確認しにいく人々とで

各線路上は大混乱している。各地からの救援の消防隊も立ち往生だ。

 

少し落ち着いて朝食のパンをかじりながらオサムは家族と

テレビにずっとかじりついていた。

 

神戸の友人に電話をしたがまったく通じない。

午前9時に大学の先輩から電話が入った。

 

「芦屋の研究所までできるだけたくさんの水を運びますので

手伝ってください。ワゴン車で途中拾っていきますのでよろしく!」

 

ワゴン車はすぐに来た。

「大学から朝一番下宿生に連絡があってクラスや部活単位で

神戸の支援に行くことになったんだ。皆今神戸に向かっている」

荷台にはキャスター付き大型容器が6個積んである。中身は水だとても重たい。

 

情報が交錯している。神戸は壊滅状態で火災があちこち起きているのに

水が出ない。自衛隊も動かない。政府も非常事態を宣言できない。

 

何が起きているのか事の重大さに政府首脳は気づこうともしない。

各国からの災害時緊急支援も受け入れ態勢が整わずに延びに延びた。

 

その間数千人もの人が焼け死んだ。空からの消火も山火事用の

消化剤が使用できずに神戸の空を旋回するばかり。

 

自衛隊は緊急出動をかけて待機していたが知事の要請が遅れて

足踏みしていた。その間瓦礫の撤去救出作業が遅れて数千人が圧死した。

 

オサムたちはワゴン車の前面に救援車両とおお書きして国道へ出た。

名神、中国道、2号線、43号線は渋滞と交通規制で通れない。

 

43号線の阪神高速道路は横倒しの映像をさっき見た。

ものすごく多くの人々が今下敷きになっているのだ。

火災があちこち発生して火の勢いは増している。

 

「芦屋の理化学研究所へ向かう。電気ガス水道特に水は緊急を

ようする。我々の任務はこの数日間水だけを責任持って

運ぶことだ。食料、衣料品、薬などは別の車が運んでいる」

 

池田から176号線の宝塚方面へ入る。

手前からずっと渋滞だ。

即席のおにぎりやが3個500円で売っている。

 

このあたりはあまり地震の影響を受けていないようだ。

宝塚市内を抜けて甲かぶと山を上り北西に迂回して

南下すると西宮市の夙川に出る。

 

途中間違えて阪神競馬場のほうに出てしまった。

新興住宅地の崖が崩れて十数軒が土砂に埋まっている。

ショベルカーがでて多くの人たちが動いている。

 

救急車が何台か来ていて赤いライトがまわっている。

皆黙々と作業をしている。今現在何十人かがこの下に

生き埋めになっているのだ。

 

道路沿いの一列だけが被害を受けているところがあった。

断層が一直線でずれたのだろうか?かなり傾いた家々が

そのライン上にずっと果てしなく続いている。

 

『この分だと神戸市内は相当すごいぞ』そうおもいつつ

道の間違いに気づいて北上する。やっと夙川が見えてきた。

 

病院ががけ下に見えた。人であふれている。

この先は間違いなく大変なことになっているはずだ。

 

夙川まで下りてくると家屋は壊滅状態だ。

前方に崩れた家。道路に弾き飛ばされてひしゃげた家。

 

屋根瓦だけで完全にぺしゃんこになった旧家。

車販売店のショールームはまったくつぶれて三階部分の

大きな社名入り看板がでーんとそのまま一階部分に居座っている。

 

高い建物がまったく見えない。道路の両側は

見渡す限りの瓦礫の山だ。

 

まだたくさんの人々がこの下にうずまっているはずだと思うと

身を切られる思いがする。

 

歩道には人があふれて焚き火で暖を取りながら

瓦礫の山ではところどころ作業の人々がいる。

 

商店街に入ったがここも壊滅状態。家財道具と人があふれて

車と接触しそうだ。やっと芦屋の山手に着いた。

 

研究所付近は高級住宅街のせいかそれとも衝撃は少なかったのか

ほとんど被災していないかに見えた。高層建築群はそれなりに残っていたのだ。

 

駅前の大きなビルが道路に倒れ市庁舎の四階部分が完全にへしゃげてしまう

ほどのすごい揺れだったのだが、場所によってその被災の様子はまったく違う。

 

古い二階建ての多い住宅密集地は完全に全壊である。火災もこの地に多く発生している。

一戸建ての多い芦屋駅前付近は家屋によってまちまち。頑丈なところ以外は

 

ほとんど傾いたりつぶれたりしている。新築でも安普請はあからさまに倒壊している。

かえって古い建物のほうが残っていたりするが瓦屋根でぺしゃんこに

つぶれた旧家も多く見られた。

 

つぶれた家々の下には多くの人々が生き埋めになっているのかと思うと

自分の非力さが情けない。救出作業はあちこちでやってはいるが点と点だ。

 

大都市が壊滅したのだ人力なんてほんとしれてる。クレーンとか大型機械がいるのに、

目の前まで炎が迫ってきているのに、水が出ない!最悪だ。

泣く泣く見殺しの悲劇が火災現場では起きていたはずだ。

 

 



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大地震2

どこに誰が住んでいるかを一番よく知っていたのは

近所の面倒見のいいおばさんたちだった。

 

いかに近所づきあいが大事かを思い知らされる。

人付き合いのない独居老人には誰も気づかなかった。

 

暗闇の中で生きたまま焼かれ、瓦礫の下で傷つき

力尽きて死んでいった数千人の人々。

 

政府首脳の危機出動の遅れでかなりの人々を

救い損じたのは事実だ。

 

首都圏と地方とのこの反応の違いは腹立たしい。

なぜすぐに国家非常事態宣言が出されなかったのか?

 

芦屋の研究所員の話では、

 

「ものすごいゆれで水槽が壊滅、パソコン類もデータ棚も

すべて倒壊してやっと収まったかなと思ったら、

余震で実験器具も壊滅した」

 

と興奮冷めやらない。

建物の倒壊は免れたが裏の道路はずたずたに裂け目が見えている。

ここから神戸市内までがほぼ全滅状態なのだ。

 

電気ガス水道でんわがまったく通じない。

ポータブルラジオで情報を得る。

 

当初はとにかく自力で何とかするしかないのだ。

幸いけが人はいなかった。

 

重たい水のごみタンク6っ個を慎重にみんなで下ろす。

布団や毛布、おむすびや弁当類が山積みみされている。

 

研究所員9名は皆元気だった。この中で一人でも

生き埋めになっていたらと思うとぞっとする。

 

下の市街地では徹夜で皆肉親を探しているのだ、必死で。

ここまでで9時間もかかっている。

 

帰りもこれでは真夜中だ。43号線に出てみた。

阪神高速道路が北側にどーんと全部倒れている。

 

とても巨大だ。ビルの7階分くらいの城壁が

ずーっと続いているのだ。

夕闇の中で不気味に行く手をさえぎっている。

 

『もどれ!』

と叫んでいるような圧迫感を感じて、

オサムオサナイは元来た道で帰ることにした。

 

日が暮れると光がまったくなくて真っ暗だ。

夙川から宝塚へ抜けた。夜はだいぶすいてはいたが

それでも京都に着いたのは真夜中だった。

 

みんなからメールが届いている。

「大丈夫ですか?祈っています!」

 

世界中にこの大地震は伝えられ緊急援助隊や

ボランティアが国内外から続々と神戸を目指している。

まるで傷口をふさぐ白血球のように。

 

民間の対応は早かったが政府や自治体の対応は遅れに遅れた。

待機していた自衛隊さえすぐには出動できなかったのだ。

 

「オサムは無事ですが神戸の友人を救うべく毎日これから

神戸に向かいます。今朝から現地に入って今帰ってきました。

 

現地では数千人の人が生き埋めになっていて、火災も発生

していますが水が出ません。私の友人たちは無事でしたが

火災現場は地獄のようです。

 

これからは何が起こるかわからないので油断なく

ナムストーンを叫んでいこうと思っています」

 

年初からあわただしい幕開けだ。

それでも2月3月とかなり落ち着いてきた。

その春先の3月に今度はトルコで大地震が起きた。

日本政府は直ちにプレハブの仮設住宅を送った。

 

ケムンのイスタンブールは大丈夫だったが、

首都のアンカラやその近くの実家のほうは幸い

死者は出なかったが建物が半壊し数人が怪我をした。

 

両親とは前の日に不思議と地震に気をつけるようにと

電話したばかりだった。胸騒ぎがしたのだ。

 

ナムストーンに危険が迫ると胸騒ぎがするのかもしれない、

オサムオサナイはこのときそう思った。

 

 



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大洪水1

そしてさらに数ヶ月が過ぎた。

中部ヨーロッパ、ザールからシュバルツバルトにかけて

大雨が降り続いた。

 

酸性雨のために美しかったもみの木の森シュバルツバルト

の頂上付近はすっかり禿山になっている。

 

大雨は少しずつ東に移動しながら中部ヨーロッパに

長期間居座った。雪解け水とも重なって、

 

ラインの増水は日ごとに危険水域に近づいた。

雨は一向に止もうとはしない。ついにスイス国境付近

の雪解け水が一挙にボーデン湖をあふれさせた。

 

温泉で有名なバーデンバーデンが増水と大きながけ崩れで

町の大半が埋もれてしまった。

 

増水は各地で危険水域を突破しドイツ政府は国家非常事態宣言を発令、

軍隊が出動し始めた。このころ

 

キーツカーンは学会の研究論文発表のため5月のはじめから

デュッセルドルフに住みケルンの大学とを毎日往復していた。

 

長雨が続く異常な増水でデュッセルドルフの大きくラインが膨らんだ

広い河岸が、いつもは市民のいこいの広場なのだが、

 

もうすっかり水没していて樹木だけが濁流の中に林立している。

今までに見たことのない光景だ。

 

キーツカーンは静寂の中に忍び寄る大恐怖を感じた。

「おお!ナムストーン!」

 

ケルンの大聖堂の裏手にすぐライン川が流れている。

そこも危険水域を越えて橋げたに隙間がわずかで激流が渦巻いている。

 

アウトバーンはまだ走れるから住民はこぞって移動を始めた。

全ヨーロッパに非常事態が宣言されそうだ。

 

フランス国軍が独仏国境を越えてドイツ国軍に合流した。

大量の土嚢を運び独軍に手渡し、道路を避難民のために誘導し、

 

橋を補強しがけ崩れを阻止し灯火や照明を配備して、

延々と続く車の列をフランス国内の安全地域へと誘導する。

いまやEU,NATOの旗の下に全ヨーロッパはひとつなのだ。

 

キーツカーンは学会の中止を確認すると車で直ちにゲッチンゲン

へ向かった。実家のほうはまだ安全みたいだ。

 

アウトバーンは渋滞が始まっている。キーツは一般道を

ライン川沿いにフランクフルトへ南下した。

 

危険区域なのでかえって車は少ない。軍隊があちこちで

土嚢を積んでいて軍の車と頻繁にすれ違う。

 

カーラジオがラインの支流が決壊してハイデルベルグの町が

水浸しになっていると叫んでいる。バーデンバーデンの

行方不明者は15人とも言っている。

 

避難勧告が避難命令に変わった。マインツ、コブレンツに

避難命令が出た。つづいてマンハイム、ボン。まもなく

ケルン、デュッセルドルフそしてオランダ全域。

 

キーツカーンはローレライにさしかかった。

ライン川をはさんで切り立った崖が迫っている。

 

川幅200メートルはない。がけ下に道路が走っていて

ほとんど橋がない。民家が時折数軒立ってる程度だ。

 

昔の戦争映画で両岸を戦車が走り唯一の橋を取り合う

場面そのままだ。絶壁のがけ上には古城が見える。

 

ローレライ付近は急流地形の危険地帯だ。唯一の橋の

橋げたははもう見えず濁流が橋の上を流れ始めていた。

 

土嚢を越えてかなり急なカーブの河岸道路を濁流が舞う。

これはほんとに危険だ。軍隊の車も見かけなくなった。



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大洪水2

「ナムストーン、ナムストーンナムストーン!」

思わずナムストーンが口をついて出た。

 

脂汗がにじみ出る。慎重にハンドルを握って加速する。

あと十数キロでマインツだ。高い絶壁が両岸に続き

川幅は狭くなる。激流が空を飛ぶ。

 

土嚢も飛び越えて雨と水しぶきとでワイパーは全開。

土嚢がガードレールの目印だ。完全に水の中を走っている。

 

一瞬のきりそこないでたぶん即死だろう。緊張で

冷や汗がからだ全体を覆う。ナムストーンを叫ぶ。

 

流木が増えてきた。たまにある橋に木が絡まって河岸の

道路に流れが分流する。洪水の道路を慎重に土嚢を目印に

走り抜ける。ナムストーン!頑張れもう少しだ。

 

峠を切り抜けやっと視界が開けてきた。マインツだ。

川幅が広がり流れも緩やかになってきた。

 

『助かった!』

キーツは大きく息を吸った。

 

東へ向かえばマインツ市外からフランクフルトだ。

ここからラインの本流と分かれてマイン川沿いに走る。

 

ラインの本流が逆流いている。

水没していた道路がはっきりと姿を現してきた。

 

車も人影もまったく見当たらない。

ほどなくフランクフルト市街に入る。

 

激しい雨の中、町の中央を抜ける。

よく泊まったユースホステルが川沿いに見える。

 

あの懐かしい川床も完全に水没していた。

すごい川の水のボリュームに圧倒される。

早くゲッチンゲンに向かおう。

 

フランクフルトからアウトバーンに入る。

かなりの車が北に向かっている。

それでも移動のピークは過ぎたようだ。

 

このままいけば夕方には我が家へたどり着け殴打。

それにしても何度も通ったライン沿いのあの道も

今日は恐ろしかった。

 

何十年かに一度こういうことがあるそうだ。よくもまあ

軍隊も撤収したそのあとを無謀にも走り抜けるとは。

キーツはあらためてナムストーンに身震いがした。

 

 

キーツは夕方にはゲッチンゲンの家にたどり着いた。

両親はさほど心配していなかったようだ。

 

「どうだったラインは?」

と父が聞いた。

 

「ああ、少し荒れ狂っていたよ。何か気に入らないことが

あるみたいだ。特にシュバルツバルトのほうにはね」

と言っておいた。

 

早速みんなからのメールが届いていた。

案ずるなかれキーツカーンは健在なりだ。

 

オサムオサナイにはもう分かっていた。

ヨーロッパの異常気象でキーツカーンが

何かに巻き込まれるかもしれないと予測していた。

 

程なく全ヨーロッパに非常事態宣言が出た。

「キーツカーンがこの大洪水に巻き込まれそう

になっている。皆で祈りましょう!」

 

案の定キーツはナムストーンと叫びながら

危険が一杯のライン川をさかのぼっていたのだ。

 

テレパシーは感応し共鳴する。

強力なエネルギーを鼓動の中に感じて

キーツはこの難局を切り抜けることができた。

 

月日を経るごとにメンバーはナムストーンの力を、

とてつもない力を感じるようにになってきていた。



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京都に集合1

7月は卒業のシーズンだ。キーツカーンは親元の

ゲッチンゲン大学の医学部精神科の助手になった。

 

キャンパスにあるグリム兄弟の象の前で両親とともに

撮った写真を4人のメンバーにパソコンで送ってくれた。

 

ケムンアタチュルクは大学院博士課程に進んだ。

ナセルベックハムは4年生になったが、この1年で

 

卒業して実業家になるそうだ。最後の夏休みに

日本に行くことをとても楽しみにしている。

 

ネパールのレイシッキムは、とんだ1年ではあったが

とにかく少し落ち着いて宗教学に没頭しようと思っている。

 

みんなが日本に来ることを心待ちにしていたのにはわけがある。

ナムストーンの秘密の力を少しでも明らかにしたいからだ。

できればみんなで力を合わせて。

 

期間は10日ほどしかないから各自自分の出来事や体験、

専門分野からの仮説などをまとめて、何を実験するか

いろいろと想像をめぐらした。

 

これは楽しくなりそうだ。

オサムオサナイはみんなの滞在要望期間の調整や

宿泊の準備をしなければならなかった。

 

滞在期間は8月の10日から20日までの10泊11日。

滞在場所は京都中央ホテルの最上階の二部屋。

 

その1部屋はレイシッキム専用の部屋。

男どもは雑魚寝で10日間一緒と決まった。

 

みんなが今一番知りたいことは5人で力を合わせれば

どのくらいの現象を引き起こせるかということだ。

 

レイは宗教的要素からこのような事例がないものか調べ

ることにした。ケムンはもっと多くの人々がこの石の

存在に気づいてもいいのではないかと思っている。

 

過去の歴史の中でこのような石の物語を古書の中から

いくつか探し出してみることにした。

 

ナセルは石そのものに興味がある。できれば石を砕いて

物理学的化学的詳しく調べてみたい。

 

宇宙の鉱物の中でもまれにみる石だ。輝石の部類に入る

と思われるがとても硬い。惑星からの隕石や

 

この地上に存在する鉱物とこの石との詳細な構成元素比

などを徹底して調べてみたい。

 

キーツカーンが最も興味を持ったのは生命とナムストーン

との感応の妙である。どのような生物学的生化学的システム

によってナムストーンは心に共鳴し、心は石の色彩に感応するのか。

 

音声との波動伝播の実相などなど。

夏休みの前半は皆自らのテーマの研究に専念した。

 

オサムオサナイは右京図書館の古書コーナーで

『大文字の送り火の謎』

と言う古書を手にした。

 

ちょうどみんなが来る時、8月16日にこの送り火がある。

その由来を調べておこうと思ったからだ。

 

この資料によると「平安時代の末期から中世の初め

にかけて天変地異があいついで起こり京都や鎌倉でも

おびただしい死者が出た。

 

その諸精霊を弔い天に送り返すための火祭りとして

京都禅宗の五山が中心となってはじめられた」

という説が定着してはいるが、実ははるかそれ以前から

 

京都盆地では東西北の三方向の五箇所から

八月中旬に火をたく風習があったそうだ。

 

まだ平城京のころの記録に次のように記されている。

 

『奈良平城の都の北方十里に大盆地あり。琵琶の水をしたため

底に水がめを擁して東西に伏流あり。北方より二水流れ来たりて

 

中央にて交わり下大坂へと流れ至りて大海へと注ぐ。北に三山

東西に各峰ありて七月の七日を過ぎて九日目、五山に火を放ち

天空より舟を呼ぶ云々』

 

原文は漢文だが意訳してある。平安遷都前に帰化人が調査した

ものと思われる。と著者の古書学者の注意書きがしてあった。

 



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京都に集合2

中国古来の風水による地形分析だとは思うが、

五山に火を放ち天空より舟を呼ぶ、は気になる。

 

この五山は禅宗の京都五山ではないのだから

京都盆地を囲む大文字焼きの五つの薪基地が

 

太古の昔からすでに存在していた証でもある。

何のために?天空から舟を呼ぶために?

 

一般には雨乞いの為に龍神を呼ぶと言うのが通説だが

ひょっとしたらほかの何かを呼ぼうとしたのかもしれない。

 

現在の大文字焼きは右大文字と左大文字、妙と法の文字、

舟形と鳥居の形で四つの文字(漢字)と二つの図形が

 

8月16日の夜空に浮かび上がるが、地上からはまず全部見

れることはできない。最大の右大文字でさえ下から見上げるのは

 

寝そべったような大の字だ。天空から見てこそ、大、大、

妙、法、舟形、鳥居は意味を成す。

妙法蓮華経の五字を当てたのは相当後の話である。

 

 

竹取物語は西山の竹林に昔から語り継がれた民話だし、

日本海方面の羽衣伝説や古事記や日本書紀の神話には

どうしても宇宙が関与していると思えて仕様がない。

 

今でも大原の里の奥地にはUFOが来るるという。

その昔京都盆地全体がUFOの目印として交流していた

としても少しもおかしくはないのだ。

 

水がめと言うのは京都盆地の地下水脈のことで琵琶湖の水量

に匹敵するほどの膨大な大伏水脈が現として今も存在している。

 

水と盆地と五山の火。宇宙との交流はこうして年に1回行われ

ていたのではあるまいか。旧暦の七月七日を過ぎて九日目と

いうのは現代ではちょうど八月十六日のことだ。

 

これはぜひ実験してみようとオサムオサナイは思った。宇宙

と交流したいとナムストーンに同時に各五地点で祈ってみよう。

 

何もなければそれはその時だ。五人のいい思い出にはなるだろう。

しかしオサムオサナイには必ず何かが起こるような気がしていた。

 

それは何故だか分からないが必ず何かが起こる。五人の胸中にも

現実にも何かが起こる。そこで我々五人の使命も明らかになるのだ

という一点の疑いもない大確信だけはあった。

 

八月十日正午に全員が関空ロビーに集合した。

皆会うや否や石を確認した。

 

みんなにははっきりとほかの石も見えたのだ。

手放してもほかの人の手の中で光っている。

 

ナセルが放り投げようとしたらぱっと消えて

またもとのナセルのポケットに戻っていた。

 

石は一番居心地のいいところに存在するようだ。

場所がなければ姿を消すだけだ。

入浴中は大体姿を消している。

 

関空のロビーで五人はじめてそろった時、

一瞬みんなが宙に浮いたような気がした。

 

「ベリーウェルカム!ようこそ日本へ。わがナムストーン

の皆様。私がオサムオサナイです。今日は歴史的な出会い

の日です。自己紹介をどうぞ」

 

年長者のキーツカーンは医者としての貫禄と冷静さが

しっかりと身についていた。身長180cm、

頬髯を生やしてめがねをかけている。

 

「この間の水害の時にはほんとに心配をかけました」

と明るく礼を述べた。

 

実業家タイプのナセルはとても軽妙だ。

「オー、プレジデントジュニア、ナセル!」

と握手を求めると大笑いだった。

「しかしテロは恐ろしい」

と彼は顔をしかめた。

 



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京都に集合3

もし我々が力を合わせて戦う相手があるとすれば、

それは邪悪そのものかもしれない。

 

オサムオサナイはそう思っていた。

人間の内なる邪悪と宇宙にも蔓延する邪悪。

 

日ごろは内に隠れていて縁に触れて顕在化する邪悪。

人間はなかなかこれをコントロールできない。

 

敵となるものは考えればたくさんあるようだ。

人間生命の奥に潜む権力欲支配欲その裏返しとしての

ジェラシーなどなど。

 

調和ではなく分離、建設ではなく破壊、共存ではなく独占。

自由ではなく束縛、話し合いではなく暴力。わがまま、

跳ね上がり、自己ちゅー等々敵は無数に存在している。

 

テロリストとの戦いになるかもしれない。この美しい地球から

邪悪をいっそうできれば、それは不可能かもしれないが、

この宇宙何が起こるかわからない。

 

石を手にしてからオサムオサナイはそう思うようになっていた。

 

ケムンは見るからに学者だ。黒縁のめがねをかけて口ひげ

を生やし威厳がある。

 

レイはチャーミングな小柄な少女だ。大きな黒い瞳に理知的なまなざし。

ネパールではまだ去年の乱射事件の余波がくすぶっていて、

 

指揮官だった一番上のおじが今王位を継承している。

ゲリラのテロも続いており政情はかなり不安定だ。

 

自己紹介が一通り終了すると、五人はそろって右手に石を握り

円陣を作った。呼吸を合わせて「ナムストーン!」と叫んだ。

 

するとその瞬間五人は空中に10cmほど浮き上がったのだ。

「エー?」皆驚いてたがいに顔を見合わせた。

 

話すことは一杯ある。とにかく京都に向かうことにした。

5人は大型ワゴンに乗り込んだ。レイの荷物が相当ある。

 

祖母がお供を付けようかと言ったのをもう大人だから

と相当絞り込んだのだが。

 

京都中央ホテルは河原町御池の角にあって15階建て

の高層ホテルだ。河原町をはさんで市庁舎がある。

 

このホテルは10年前にたった。それまでは観光都市

の規制で7階までしか建てられなかったのが、

 

どういうわけかこの年から規制が緩和されて15階

建てになった。まわりに高い建物がないから

 

最上階からは京都の町が一望できる。市のほぼ中央に

位置し賀茂川や繁華街にも近く、東西北と歩いて

1時間以内でで山すそに当たる。

 

男性4人は最上階の大部屋に入った。レイは向かいの

ツインルームに一人ではいって後で大部屋に来る。

 

ポーターは数人でレイの荷物をを運んでいる。大部屋

はツインが二つ合わさった部屋で各自ベッド脇に個人

用の机がある。豪華な男子寮4人部屋といったところだ。

 

中央の居間には10人ほど座れるソファーとテーブル、大型

スクリーンとビデオデッキ、電子ボードもセットされている。

完璧だ。皆とても喜んでくれた。程なくレイがジーパン姿で現れた。

 

「オービューティフル!マイフェアレディ。

さ、早く輪の中に入って」

ナセルが言った。

 

「今四人で空港でやったように右手に石を握り締めて

ナムストーンをやったんだけどぜんぜん浮かないんだ。

早くこの間に入って」

 

「OK!」

「せーの、もう一度。ナムストーン!」

 

みんなで唱和した。すっと30cmほど浮かび上がって

すとんと着地した。

 

「やはり5人じゃないとだめだな」

ケムンが言った。

「大声出してナムストーンと叫び続けてみようよ」

 

キーツがすかさず、

「そうだね、叫び続けてみよう」

 

みんなは大きくうなづいた。

せーのでみんなは大きく深呼吸して、

「ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン・・・・」

 

10数秒がやっとだ。しかしその間は確かに宙に浮いて

いるような気がした。

 

どっと疲れて皆床にしゃがみこんでしまった。

ナセルは寝そべっている。オサムオサナイが言った、

 

「今日はもう休みましょう。長旅の疲れもあるでしょうから

シャワーを浴びてゆっくり休んでください。明朝9時から

明日一日かけて研究発表会をやりましょう」

 

みんなで叫んだ。

「OK!グッドナイト、ナムストーン!」

 

その瞬間、しゃがんだままみんなのからだが一瞬宙に浮いた。

寝そべったまま着地したナセルは頬杖であごを打った。

みんなの笑い声が大きくはじけた。



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研究発表1

スケジュールは次のようになっていた。

 

8月10日 正午関空着→京都へ  ゆっくり休んでもらう

 

8月11日 午前9時→10時   ウォーミングアップ

      10時→12時    研究発表 ナセル ケムン

      午後1時→3時    研究発表 レイ オサム

      3時半→4時半    研究発表 キーツ

      午後6時まで意見交換会

      徒歩で祇園まで

      夕食はしゃぶしゃぶ

      午後9時解散

 

8月12日 実験1

  13日 実験2

  14日 実験3

 

8月15日 実験のまとめ

 

8月16日 大文字の送り火

 

8月17日 今後のスケジュール

8月18日 琵琶湖めぐり

8月19日 京都市内観光 打ち上げ

8月20日 正午関空より帰国

 

自宅に帰っていたオサムオサナイは翌朝ナムストーンを5分ほど

唱えて朝食を済まし京都中央ホテルの最上階へと向かった。

とてもすばらしい見晴らしだ。昨晩の夜景も美しかった。

 

豪華な最上階の絨毯を踏みしめ大部屋の扉を開けると

皆はもうそろっていて談笑していた。

 

居間の大テーブルに各自石とノートパソコンを置いて、

スクリーンの反対側中央にオサムその右手にキーツとレイ、

左手にナセルとケムンが座った。

 

皆はまだナムストーンを唱えていなかったので5人そろって

5分間自分の石にナムストーンを唱えることにした。

 

小声ながらも美しく唱和して座ったまま5人の身体は

10cmほど宙に浮いていたようだ。

 

各石は美しくピンク色に光り輝き厳粛にして荘厳なひと時だった。

オサムオサナイが右手を高く上げて合図しゆっくりと皆着席した。

 

     

「それでは研究発表を始めます。まず一番目に

ナムストーンの物理的天文学的考察と言うことで

ナセルベックハム博士、お願いします」

 

ナセルはまじめな顔をして語り始めた。

 

「ほんとに最初のストーンとの出会いからしてポーンと

車から放り投げたくらいですからそれはそれはまことに手荒な

扱いをして申し訳がないと深く今では反省をしています。

 

最初は何も分からないものですからかなづちでたたいてみたり

バーナーで焼いてみたり冷凍庫で凍らしてみたりしましたが

傷ひとつ尽きませんし硬度はかなり硬く熱にはめっぽう強い

 

物質だと思われます。放射性元素は皆無ですしX線はすべて

素通りしてしまいます。スペクトル分析ではその光の色が吸収

されるだけでまったく屈折が起こりません。自ら発光しています

 

が熱はまったく発生していませんのでいわゆる冷光と思われます。

発光源が何なのかどこに存在するのかさっぱり分かりません。

時々姿を消すのは瞬間昇華と考えられます。瞬時に空気中に

 

昇華して再び好ましい条件下の下に定位置に気体から液体を経ず

して瞬時に固体として顕現するようです。でなければ異次元との

交流としか考えられません。とにかくこの石は意思を持っています。

 

地球外の惑星においても物質の構成元素はほぼ同一のものですから

ナムストーンはいまだ未確認の輝石鉱物だと思われます・・・・・」

 

オサムオサナイはナセルの説明を聞きながら考えた。あるようで

ないようでそれでも間違いなく存在している。形は不明だが盛り

上がったい消滅したりする。感情とか心とか命とか自然治癒力とか

 

不可思議だが現に存在している。頭の中にもう一人の自分がいて

いつもしゃべっている。すぐ元気付けたり本音をわめいたりしている。

 

俺っていったい何なんだとあるとき気づいた。眠っている時の俺はどこ

にいるんだ?俺は何時からオサムオサナイなんだ?まったく不思議で

仕様がない。それともうひとつ。自分は間違いなくいつか死ぬということ。

 

この現実は厳しい。いつか肉体は滅ぶともこの一念や思いはどこへ?

眠った無自覚の状態が永遠に続くのか、それはどういうことだ?

よく考えてみればつい最近俺は生まれた。その前の記憶はないが、

 

本能的にずっと生命に刻み込まれた太鼓からの情報がある。それは

良心とか惜別とか激怒とか強烈なシチュエーションの時に感じる。

地球を50億年とすると人類の歴史何万年というのはそのほんの

 

顕微鏡的ミリ単位だ。数十年先には間違いなくこの自分は地球上には

いない。宇宙に溶け込むのか?ナムストーンが時折姿を消すように。

宇宙には意思があるように思えて仕様がない。自然治癒力や生命の誕生

 

は宇宙の意思の表れだ。傲慢な人類が邪悪の害毒をこの地球に垂れ流し

続けるならば必ずしっぺ返しが来る。などといろいろ思いをめぐらして

いるうちにナセルの講義は終わった。

 

 

次にケムンアタチュルクが各国の国立博物館にメール

を入れて光る石の存在情報を徹底して調べた報告をした。

 

そのほとんどは放射性元素を含む鉱脈とか、太陽の入射角度によって

暗がりでも輝く輝石だとか、蛍石のような類のものだったが、

その中にいくつかそうでない特殊な光る石があることが分かった。

 

その一つは中国雲南省昆明にある民族博物館に、1945年8月、

アミ族の農民が石林の鍾乳洞の奥で卵大の大きさの不思議な光る石

を見つけて、あまりの不気味な輝きに目を背けて引き返そうとしたが、

 

どうも気になって熱くもないので手ぬぐいに包んで持ち帰り床下に

隠していた。三日間不気味に青黒く半透明に輝いていたが、四日目

の朝普通の黒ずんだただの石になっていたがやはりなんとなく不気味で

 

詳しく事情を説明して博物館に引き取ってもらった。博物館では

その石を分析しようとしたがとても硬く、時折不気味に輝いたりするので

その記録をとり続けて今も昆明の博物館に安置してあるとのことだった。

 

二つ目はペルーの博物館。1901年にチチカカ湖付近でやはり農民が

見つけた。記録では1945年8月に10日間ほど大きく光り続けたとある。

 

三つ目はメキシコの国立博物館。光る石と命名されているだけで卵大の

何の変哲もないただの黒い石だそうだ。ずさんな管理のため何の記録もない。

 

四つ目は大英博物館。イギリス植民地時代に東アフリカのマラウイ湖付近で

探検隊が発見して1940年に本国へ持ち帰っている。その時も不気味に輝いて

放射性物質ではなさそうだと持ち帰った時にはただの黒い石になっていたそうだ。

 

以上の四つの石が不思議と同じ時期に光を放っていたようである。詳しく

記録を照合すれば何らかの新事実が明らかになるはずだ。これらの光る石と

我々のナムストーンとは関連性はあるのか?とてもよく似ている。

 

世界にはまだ発見されていない光る石やナムストーンがきっとあるはずだ。

何のために光るのか?さらにこの現象はいったい何時まで続くのか?

謎はますます深まるばかりだった。



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研究発表2

キーツが今回帰国したらすぐにロンドンに行って

その石を確認してくるといった。今確認できているのは

 

五つのナムストーンと四つの光る石。五人は昼食を食べながら

頭の中は謎だらけでめまぐるしく思いをめぐらせていた。

 

昼食を終えてレイの研究発表に入った。レイは古代の宗教、

アニミズムやシャーマニズムの発生の初期からすでに黒石

玉石水晶などの石は世界の各地で占いや予言や魔よけや

 

呪術のために用いられてきた。自身守護のためには勾玉や

宝石輝石を数珠状につなぐネックレス。十字架もどきの

魔よけペンダント。こぶしに魔力をこめるためのブレスレット。

 

金銀の貴金属とともに古来から現代に至るまで数多くの

パワーストーン信仰があるものと思われる。効力の差こそあれ

自己暗示が加味されて間違いなくいくらかの力は与えられるようだ。

 

レイはその中でも水晶の大玉占術に注目した。よく磨かれた

水晶の玉は顔を近づけると第一表面と中央層、反対側の裏面と

三つの写面層が現れる。第一表面は丸く大きくまのびして鼻と顔の

 

中央部分だけが大きく映る。裏面は逆に顔もろとも小さく回りの

景色まで写してしまう。この両面とに乱反射も加わって間接照明

の光の具合でスペクトルが現れる。

 

屈折率が微妙に違うのですべてがミックスされて謎の顔が中央に浮かぶ。

それは自分の顔ではあるのだが自分の心のままにうれしい時はうれしそうに

悲しい時は悲しいように映りまたそう見える。

 

ここにひとつの活性要素、つまり自分がこうあってほしいと言う思いを

強く加えると、そのようにすべてが見えてしまうのだ。

 

白雪姫の悪い女王のように鏡よ鏡と呼べば鏡は女王の好む答えしか応えない。

まさに水晶の玉は占う術者の意向のままに反応するのだ。

 

大確信に基づいた音声は人を金縛りにする。確信の波動が言霊ことだまとして

民衆に伝わり民衆は勇気を得て集団(催眠)行動にでる。

 

戦にしろ巨大獣との死闘にしろ天災にしろ、人々は太古の昔から

大災難に遭遇すると知恵を絞り一致団結して勝利してきた。

その要がシャーマンだったのだ。

 

水晶の玉の実態は術者の確信の増幅器だったようだ。

ナムストーンとはまったく性質内容が違う。

結論としてナムストーンは宗教ではないというものだった。

 

ここで休憩。五人はさらに寡黙になる。

オサムオサナイが言った。

「石の色が濃い緑色になっている。皆もそうだと思うので

五分間みんなでナムストーンを唱えよう」

 

「OK!」

全員が賛同して座りなおした。

 

パソコンの脇に各自ナムストーンを置いて小声で唱和する。

すぐ美しい合唱となってみるみるみんなの石はピンク色に輝いた。

数センチ浮かんでいたような気もする。

 

さあ今度はオサムオサナイの番だ。

まずはじめにこの16日の夜の大文字の送り火の由来を説明した。

 

さらに古書によるそれ以前からの、

『五山に火を放ち天空より舟を呼ぶ』の一説を紹介した。

皆身を乗り出して聞き入った。

 

「8月16日の夜に天空より舟を呼ぼうというわけかい?」

キーツが聞く。ナセルがすぐさま、

「どうやって舟を呼ぶんだい?」

 

「それを明日からの実験で決めるんだ」

みんなはなるほどと言ってうなづいた。

 

細かい実験のスケジュールはみんなの要望を振り分けて

この三日間すでに決まっていた。

 

「16日は今世紀最大の実験と言ってもいいほどの実験を

やりましょう。幸い前日はまとめで一日あいています。

 

三日間である程度の精密な実験結果を出して15日には

壮大なリハーサルをやってみようと思います」

 

そう述べて締めくくりにオサムオサナイは

ナムストーンの予知力に触れた。

 

「午前中のケムンの光る石に関しては何らかの人類的な

危機に際して警告を発するような気がしてなりません。

詳しい発光の記録を照合してみなければ分かりませんが

 

ナムストーンとも何かの関連はあるものと思われます。

とするならば訓練すれば皆何らかの予知が可能になる

ような気がします。

 

現に私は仲間が危機の時にはどうも胸騒ぎがするようです。

では以上で私の研究発表を終わります」

 

休憩に入った。トイレに行ったりコーヒーを沸かしたり。

レイがオサムに聞いてきた。

 

「予知のときってどんな風になるの?」

「時間がなくて説明できなかったけど、まず胸騒ぎがして石を

見ると濃いグレイに沈んでいていくら祈っても明るくならないんだ」

 

「いくら祈っても明るくならないの?」

「レイの王宮での事件の時にはまだそういうことはなかったんだけど」

 

みんなが戻ってきて最後のキーツカーンの研究発表が始まった。

テーマは『共鳴』だ。

 

ナムストーンは心のセンサーとして所持者の心の状態を

色彩と明度輝きによって表現する。真空中でもそうなのかと

疑問は湧くが間に遮蔽物を置いても何の影響もなく変化する。

 

それも心と同時である。逆にナムストーンと念じることによって

その明度色彩輝きをより明るく鮮やかな方向へと変化させることが

できそうなのだ。心をコントロールすることが可能になるかもしれない。

 

この効果は個人だけのものではなさそうだ。ナムストーンどうし

が影響を与える。まさに共鳴だ。かなり遠方でもそれは可能のようだ。

 

現実にレイは猟銃を向けられていた時耐えがたい強烈なエネルギー

を感じている。ナセルもバス爆破事件の時にみんなの祈りの力を

感じているし、キーツ自身もラインの濁流を駆け抜ける時に

 

みんなの顔が浮かぶほど強烈な念力を感じている。時空を越えて

ナムストーンの波動は伝播する。瞬時にどこにでも、それこそ

五人が念力を合致させれば何が起こるか分からない・・・?

 

キーツはテレパシーやテレポートなどの超自然現象を列挙した。

そして最後に一人ひとりの顔をじっと見つめながらキーツは言った。

 

「今我々はこの超自然現象を体験できる当事者としてここにいる」

 

さて五人の研究発表はひとまず終わった。まとめてみると、

ナムストーンは人の心を映す不思議な石だということ。石どうしで

感応共鳴し増幅されて大きな何かを現出しそうだということ。

 

よく似た光る石の存在。光る時期が一致しているようだということ。

警告や予知の可能性を秘めているということ。ナムストーンは

宗教ではないということなどがはっきりしてきた。

 

意見交換が始まって、まずオサムオサナイの予知の様子を詳しく

再現してみることになった。

 

まずはじめに胸騒ぎがする。石を見ると濃い灰色で透明度も悪く

輝きもない。祈ってもなかなか明るくならないので不安がつのる。

 

それから数時間後に何かが起こる。ナムストーンを持ってる

ものの身に何かが起こる。ナセルが自爆テロに出くわした時、

テレビにテロップが流れて続いてナセルの顔がテレビに映った。

 

みんなからのメールが入りみんなで祈り始めると石は明るく

輝き始めた。次は阪神大震災のときだ。寝る前に強い胸騒ぎ

を感じて石を見ると真っ黒く震えている。

 

いくら祈っても明るくはならなかった。疲れてそのまま

眠ってしまった。その明け方オサムオサナイは大地震に遭遇した。

 

三回目はキーツの大洪水の時である。このときはもしかしたら

キーツが巻き込まれるかもしれないという予感がしてて、胸騒ぎ

を期待していた節がある。案の定胸騒ぎが来て石を見ると真っ黒だ。

 

やはり祈っても明るくならない。この時はすぐに皆にメールを送った。

「祈ってください!キーツが危ない!」

 

キーツからは何の連絡もなかったがオサムにはもう分かっていた。皆の

祈りで石が輝きだした頃キーツは濁流の中を必死で走りぬけていたのだ。

 

ケムンの時はケムン自身が胸騒ぎを感じてトルコ地震の前日に家族へ

電話を入れている。このときはオサムオサナイは何も感じ取ってはいない。

 

今はまだ予知には個人差があるのかもしれない、がその能力は各自必ず

顕在化して来るものと思われる。いずれにしても祈っても明るくならない

という時には慎重に神経を研ぎ澄ます必要があるようだ。

 

さてもうひとつの大きなポイントは光る石の存在だ。今なら昆明の博物館

にアクセスできる。光る石の詳細なデータ類を送ってもらおうと打信したが

データ類は公安当局のチェックが入るので一切国外へは送れませんとのこと。

 

折り返し館長の段思平さんから電話が入った。

 

「まことに申し訳ありませんがデータは公安の許可がなければ送れません。

できればぜひ一度雲南省へお越し下さい。四川省青海省を含めてこの地域

には興味深い謎がたくさんあります。恐竜の化石はいたるところにありますし、

 

おびただしい洞窟群や前人未到の奥深い山々には不可解な現象や古代の遺跡、

謎の類人猿の棲息跡など、つい最近では数万年前のものと思われる不可思議な

宇宙土器がこの町のすぐ近くで発見されました。また四川省では昨年古代人の

 

冷凍ミイラが見つかっています。まさにこの地域は古代ミステリーの宝庫です。

来ていただければかなりの資料をお見せできますのでぜひ昆明へお越し下さい」

 

博物館館長の段さんはかなりの情熱家のようだ。それに極秘の何かがあるような

気もする。オサムオサナイは、

「必ず年内にお伺いします」

と言って電話を切った。

 

メキシコ、ペルー、英国は今夜未明にアクセスすることにして

本日のプログラムは終了した。

 

夕食は午後八時に祇園平八亭の2階に予約を入れてある。みんなは5分間

ナムストーンを唱和したあと京都中央ホテルから河原町をくだり四条から

鴨川を渡って八坂へ向かった。蒸し暑い中浴衣姿の少女たちを皆珍しそうに

 

見とれていた。『この大空に舟が来るのか?』オサムは一人曇天の空を

見上げながら四条大橋の上をみんなとそぞろ歩いていった。

 



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実験

二日目の朝も九時きっかりに全員集合した。

真夜中にペルーのリマにアクセスしてもらったが

やはりデータは送れませんとのことだった。

 

光る石は1945年の8月に10日ほど光った

という記録があるらしい。昆明の光る石は同じ

1945年の8月に発見されている。

 

メキシコの光る石は同時期に発見された他の遺跡と同じところ

に展示されているからやはりこれも1945年の夏である。

光る石と命名されているからには発見された時には光っていたに違いない。

 

大英博物館はノーコメント。調べたければこちらに来て詳しく

調べてくださいとのこと。大学か政府関係の紹介状もいる。

何かありそうな気もする。行くべきところは大英博物館と昆明だ。

 

1945年といえばまさかあの原爆と関係があるのか?もしそうだ

とすればなぜ光る石は光ったのだろうか?人類滅亡の危機を警告した

のだろうか。まさか、しかしありえないことはではない。

 

この秋、昆明と英国のデータを解析すればそれが証拠になる。

ナムストーンが個人の生命の危険を警告するセンサーであるとすれば、

 

光る石は人類のあるいは地球生命体の滅亡の危険を予知するセンサー

なのかもしれないということか?

 

我々の使命は思いのほかとても重大なのではないだろうか。

五人は顔を見合わせて大きくうなずいた。

 

初日のテーマは五人そろうと何ができるかを探る実験である。

まずはじめにテーブルの上に◎△☆□などのマークを描いたカードを

裏返しておいてナムストーンと唱えて一枚ずつ言い当てていくゲームは

 

何回やってもちぐはぐでうまくいかなかった。次にコーラのビンを

テーブルの上においてナムストーンとみんなで唱えてふたを開けようと

試みたがみんなの身体が若干浮いたくらいでやはりうまくいかない。

 

皿にアルコールを入れて火をつけようとしたが駄目。壊れた時計を

動かそうとしたみたがこれも失敗。死んだ金魚を生き返らせることも

やはりできなかった。徐々にはっきりしてきたことはただひとつ。

 

五人で手を合わせてナムストーンと唱え続けると、その間床から

数センチ皆浮いているように見えるということだけだった。

 

どうもほんとに浮いているみたいだということで、

午後からはこの浮上実験に集中してみることにした。

 

まず手の組み方から考えてみる。右手は石を握っているから

そのままだが、左手で左隣の人の右手首をしっかりと握ることにした。

 

何回か試みると間違いなく数センチはその間(ナムストーンを唱えている間)

浮上していることがはっきりと確認できた。これはやはりすごいことだ。

 

さらに数回浮上唱和を繰り返す。リラックスしたほうがより長くより高く

浮上できるようだ。とはいってもせいぜい5cmが精一杯。

 

相当な集中力を要するのでかなり疲れる。夕方にはみんな完全にダウンして

今日は早めに就寝することになった。これは訓練すればほんとに大変なことに

なるかもしれない。疲れてはいたがみんな希望に目は輝いてきた。

 

次の日午前中ナムストーンを唱えながらの移動を試みた。全員で右方向にと

祈った。するとわずかばかり動いて着地したのだ。これは画期的なことだ。

訓練すれば空中遊泳ができるかもしれない。

 

まさかとは思いつつ、午後からは外に出てみることにした。リラックス

リラックス!力を抜いて瞑想に入るように軽く念じることがコツのようだ。

 

昼食は加茂川の傍で牛丼を食べた。

皆こういうものがとても珍しいらしく興味津々だが、

今はナムストーン浮遊実験のほうがそれに勝っていた。

 

五人は牛丼を食べ終わると。ゆっくりと三条通から

大橋の西詰めにでてそこから加茂川に下りた。

 

川土手は広いスペースになっていて子供たちが遊んでいる。

川面への傾斜は石組みだ。アベックが等間隔に仲良く座って

いて京都加茂川の名物にもなっている。

 

京都中央ホテルは御池通りにある。そこから三条四条五条くらいまでが

料亭の川床があるところで8月16日の夜にはこの川床のお客も

川土手のカップルも皆幻想的な大文字の送り火に天を仰ぐのだ。

 

上流へ向かう。丸太町通りをくぐり今出川を抜けると高野川との

合流地点が目の前だ。この近辺には雑草が生い茂っていて

人影はまったくない。ここなら十分やれそうだ。

 

五人は適当な草むらを見つけて円陣を作った。『リラックス』みんな目

で確認しながら手首を組みナムストーンを唱えるとすっとみんなの身体が浮いた。

 

スカイダイビングの五人組バージョンを地上から逆に上空へ向かっている格好だ。

1,2メートル上昇してすぐに着地した。皆の顔に緊張が走る。

「今度は北に1メートル移動して着地してみよう」

 

オサムがそういうとみんなはうなづいた。

「OK!」

みんなの意思が合致すれば難なく数メートルは移動できそうだ。

 

何度か繰り返す。

(ケムン)「橋にいた人に見られているような気がしたけど?」

(キーツ)「いや、見えていないと思うよ」

(ナセル)「はっきりしていることは、我々は空を飛んでいるということだ」

 

(レイ)「そうよ。楽しそうだから思いっきり遊泳してみましょうよ」

(オサム)「みんなの心が一致しないと危険だからあらかじめ予定を立てよう」

みんな大きくうなづいた。

 

(オサム)「真上10メートルくらいまで浮上して1回転しゆっくりと着地してみよう」

みんなでオッケーと答えて再び手を組み浮上、ゆっくりと一回転して静かに降下した。

 

(オサム)「これが基本だと思うからもっとリラックスしてもう一度。

10秒間空中で停止してから大きく一回転してゆっくりと着地。OK?」

 

再び浮上する。周りの景色を眺めながらさらにもう一度。

だいぶみんな離れてきた。だって楽しいんだもん。今は何故浮上するのか

などは考えないことにして浮遊に集中した。

 



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京都飛行

(オサム)「だいぶなれてきました。みんなの意思が一致していれば

さほど危険ではなさそうだし。大丈夫ですね皆さん?」

 

(皆)「大丈夫!」

(オサム)「それではいよいよ長距離の遊泳に挑戦してみましょう。

まず加茂川沿いを南下して京都タワーを一回り西の嵐山方面へ。

北山山麓を宝ヶ池へと戻りながら元の地点に着地」

 

大きな地図を広げながらオサムが指差していく。

(皆)「OK!」

 

皆でまた腕を組みなおした。

オサムの左がキーツ右がレイ。レイの隣がケムンさらにナセルだ。

 

一気に10メートル浮上した。円陣を作ったまま水平になっている。

みんなの意思が一致して円陣は水平のままゆっくりと加茂川を南下する。

 

四条五条七条京都タワーをかすめて嵐山方面へ。徐々にスピード

がついてくる。渡月橋を確認するとUターンして北山に向かい

あっという間にもとの草むらに着地した。

 

(ナセル)「いやー緊張した」

(ケムン)「すばらしい。これはすばらしいよ!」

 

(キーツ)「ちょっとせわしなかったようだね」

(レイ)「そうよそうよ、もっとゆっくり周りの景色を眺めながら

飛んでみない?」

 

(オサム)「わかった。じゃあ夕食を早めに済ませてもう一度ゆっくり

飛んでみましょう。夕食は焼肉です。OK?」

 

オサムの意見に皆急速に空腹を覚え「賛成!」と叫んで外にでた。

高瀬川沿いに木屋町から先斗町の細い路地をくだり四条大橋をわたって

南座の裏手にある大きな焼肉店に向かった。

 

焼肉を食べ終えると外はもう真っ暗。

町明かりの中に加茂川土手を歩く。

 

(オサム)「コースはさっきと同じ。今度は

     ゆっくりと飛んでいましょう。OK?」

(皆)「OK!」

 

まずは10数メートルゆっくりと浮上する。

夜景がとても美しい。

 

川面部分が黒く南に流れている。

ゆっくりとその上を南下する。

 

東の祇園界隈、川を挟んで木屋町から河原町界隈が一番明るい。

少し高めに浮上すると京都タワーがよく見える。

 

西のほうに東寺の五重塔のシルエットを望みながら、

タワーをゆっくりとかすめて、

軍艦のような京都駅の南の上空を飛び抜ける。

 

誰も気がついていないみたいだ。

西にひとっ飛び。嵐山に突き当たる。

 

渡月橋あたりに人が出ている。

少し低空をゆっくりと、これはレイの念力か?

 

人は間近に近づいても気がつかないみたいだ。

おそらく彼らには風のようで見えていないのだ。

 

旋回して北山へ向かう。風が舞い上がり木の葉が揺れた。

今夜は新月で北山の空はとても澄んでいて星が美しい。

 

宝ヶ池のFM放送局、

「今夜は天の川がよく見えて、こんな日が七夕だったら

彦星と織姫は安心して会えるのに」

 

とDJが言っている。

「あっながれぼしが。北山では珍しくありませんが

かなり低い空にたった今はっきりと見えました。

ごらんになったかたはFMスタジオBステーションまで!」

 

みんなは最後のフライトに入る。川端通りを高野川沿いに

今出川まで下りて来てやおらゆっくりと着地した。

 

滞空時間は約20分、大成功だ。

明日は朝から徹底した飛行訓練をしよう。

どうやって送り火の夜に実験をするかも考えなければならない。

 

あさってにはそのリハーサル、そして16日の夜8時には

五山に火がともる。果たして天空から舟を呼ぶことができるだろか?

 

みんなと円陣を組んで夜空を見上げながらオサムはそう思った。

 

 



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古知平

翌日は朝から大原の奥の古知平こちだいら

というところに向かった。

 

周りを山に囲まれた中にかなり広い平原がある。

人もいない不思議な場所で京都中央ホテルから車で約1時間。

天気予報では16日まで晴天が続くことになっている。

 

車を県道沿いに止めて木立を抜けるとだだっ広い原っぱ。

四方はかなり高い山に囲まれている。

 

5人は手を組み空に向かって浮上した。

周りの山の標高は700mはあるからそれを越すには

まだ相当の訓練が必要なようだ。

 

みんなの気持ちが一致していないとどこかにひずみが生まれて

どっと疲れる。滞空時間も30分が限度だ。

 

雲のごとく浮かび風のごとくそよぎ鳥のごとく旋回する。

大文字の夜に五山から飛び立ち京都の上空で舟を向かえるためには

まだまだ高度な技術と精神の集中が必要だ。

 

昼食後に再びみんなで腕を組む。

ナムストーンを唱えて舞い上がる。

 

地上100mほどでゆっくりと旋回。

考え事をしていたオサムの手が緩み

ナセルが落下した。

 

満腹で油断をしていたのだ。

みるみる落ちていく。みんなで叫んだ、

「ナムストーン!」

 

するとどうだろう。

ナセルの体が空中に停止したかと思うと、

我々のいる上空へと

徐々に舞い戻ってきたのだ。

 

『なるほどそうか』

オサムはわざと手を離して落ちてみた。

「ナムストーン!」

 

一声で身体は空中に停止し、

「それ、ナムストーン!」

と、仲間の下へ舞い戻れた。

 

少しずつ全員で手を離してみた。

何のことはない5人とも宙に浮いている。

ところが動こうとしても動けない。

 

自分だけこちらに行こうと思っても

犬の縄のように引き戻される。

 

みんなの意向に沿っていれば何の抵抗もなく

スムーズでまったく力も要しない。

それこそ自由自在だ。

 

5人は少し離れてはいても

まるで一個の生命体のように移動する。

 

拡散すれば求心力が増してまた集合する。

広がったり集合したり、舞い上がったり下降したり。

 

これで滞空時間と高度は飛躍的に増大した。

鳥や魚が集団で動く時の影によく似ている。

 

オサムオサナイはどうやって天空から舟を呼ぶか

思いあぐねていた。みんなにもよく考えといてくれ

とは言ってあるがとうとう妙案は浮かばず練習最終日を迎えた。

 

昨日と同じ古知平、午前10時はれ。オサムがプランを述べる。

 

「今日はいよいよ練習最終日です。個体が5ヶ所に散らばって

同時にその場から舞い上がり天空で集合するという訓練を

午前中徹底して行いたいと思います」

「なんとなく分かってきたぞ」

キーツが叫ぶ。ケルンもナセルも

大きくうなづいている。

 

レイもうれしそうにうなづく。

なんだか昨日よりも身体が軽くなったみたいだ。

 

みんなは古知平平原一杯に広がった。

天空斜め60度、右手にナムストーンを握り締めて

腕をまっすぐに伸ばす。

 

オサムの合図でいっせいに各自

ナムストーンを唱えて上昇する。

 

スススーッと平原の中央100mくらい

のところで円陣が組めた。

 

角度は60度だ。空中で停止している時は

この角度が一番安定している。身体も楽だ。

 

移動飛行する時は今までのように水平になる。

昨日と同じコース、鞍馬、貴船から宝ヶ池を

まわって八瀬、大原へと戻る。

 

着地はどうしても5人同時でないとむつかしい。

今度はもっと広がって時間を決めて斜め45度くらい

地上数百メートルで浮上集合を試みたいとみんなが思った。

 

昼食を食べながら地図を広げる。

古知平から国道477号線の山道を西へ抜けると

百井ももいという村へでる。

 

平家の落人村の歴史があって農家が数十軒、

水田と畑がわずかな盆地に広がっていて

機織はたおりの音も聞こえる。車で古知平から20分くらいだ。

 



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天狗岳1

さらに30分くらいで鞍馬10分くらいで貴船だ。

ここで東に戻る。大原まで20分さらに15分で古知平だ。

急げば1時間半で1周できる。

 

「よしこれでいこう。夕暮れまでにはまだ十分時間がある」

 

ちょうど中央に天狗岳という標高600mの山がある。

この山の上空100mのところが目標にもってこいだ。

浮上時間は午後4時と決めた。さあ出発だ。

 

まず百井ももいにむかう。

分かれ道からオフロードのアップダウンがつづく。

かなりの悪路だ。

 

約20分で村の盆地の中央バス停についた。

キーツを降ろす。村人何人かがバス停前の雑貨店で

長髭のキーツをじろじろと見ている。

 

盆地の底なのでここは見晴らしが悪い。

キーツを再び拾い乗っけて

ももいわかれという峠に出た。

 

すばらしい眺めだ。天狗岳が正面に見える。

 

「ここにしよう。午後4時になったら天狗岳の

上空を目指してナムストーンを唱え続ける。

オーケー?」

 

オサムが車から一緒に降りてキーツに確認する。

キーツは手をかざして天狗岳を眺めながら

大きく深呼吸をした。

 

「OKオサム。いいながめだ。居眠りしないようにして

4時きっかりにナムストーンをはじめるよ。失敗したら

すぐ迎えに来てくれよ」

「OK,じゃあ4時に天空で会おう!」

 

悪路が続く。30分くらいでオサムは鞍馬の山門前に着いた。

何とか天狗岳が見える。ナセルを降ろしてそこから山奥へ10分。

貴船でケムンを降ろす。

 

とって返して大原まで20分、レイを

三千院の山門前に降ろす。ちょうど

寂光院の方向に天狗岳が見える。

 

あと20分で4時だ。オサムは大急ぎで

古知平平原に戻った。ちょうど五地点の

立体頂上付近が天狗岳の上空に当たる。

そこはパワーが集中するポジションのはずだ。

 

午後4時きっかりほぼ45度の角度で

右手にナムストーンを握りしめて高く掲げ叫ぶ、

 

「ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン!」

 

天狗岳の上空が一瞬ぴかっと光ったかに見えた。

体が浮上する。遠方からみんなの姿が見えてきた。

5人は集合するとしばらくホーバリングをして

古知平にもどった。

 

(オサム)「明日は携帯を用意して送り火の

     現場からテストしてみよう」

 

(キーツ)「当日は夜だから何が起こるかわからない」

(ナセル)「天気予報では夕立があるとか言っている」

(ケムン)「早めに現場を確かめて何回かテストしてみたほうがいいな」

 

(オサム)「点火されてから火が消えるまでは30分しかない。

     その間に舟を呼ぶんだ。祈りをこめてナムストーンを

     唱えれば宇宙と接触できるはずだ」

 

オサムがレイを見ると心細そうな顔をしている。

 

「レイ、心配しないでいいよ。今日と同じように

一番僕に近いところに降ろすから。15分くらいで

またみんなに会えるはずだ上空で。OK?」

 

レイはにこっとしてうなづいた。

 

(オサム)「夕食は貴船のひろや亭で流しそうめんと

てんぷら!今日はこれで終わり」

 

日が暮れて貴船で夕食後みんなは川床の脇で

流れに足を浸しながらくつろいだ。

星がきれいで水音と冷風が心地よい。

 

キーツが星空を見上げながら言った。

 

(キーツ)「夜のテストもやったほうがいいと思うが・・・」

(ナセル、ケムン)「そのほうがいいな」

レイもうなづいている。

 

(ナセル)「夜は道もすいているから車で40分もあれば

一周できるだろう。この貴船にレイを置いて、

我々4人が散らばれば安全だろう」

 

(レイ)「私は大丈夫よ」

(オサム)「よし、大急ぎで夜の実験をやってみよう」

オサムは立ち上がって叫んだ。

 

皆も「よし!」と言って立ち上がる。

 

(オサム)「貴船にレイを残し、鞍馬山門前にナセル、

大原三千院にケムン、キーツを古知平に置いて、

大急ぎで百井に入る。午後8時きっかりにナムストーン

 

スタート。10分試みて駄目だったら逆周りで皆を拾って

大急ぎで貴船に戻る。レイはひろや亭の向かいの高台が

一番いい。8時、ナムストーンをスタートして10分

 

たっても駄目だったらひろや亭に戻って待っててください。

以上、みんなOK?」

 



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天狗岳2

みんなで「オーケー」と答えて直ちにスタート。

まず鞍馬山門前にナセルを下ろす。昼間と同じ場所だ。

 

(ナセル)「心配ないよ、気楽にいこう!」

とさけんでナセルはVサインを出す。

 

大原三千院まで県道40号線を急ぐ。車はほとんど来ない。

15分で大原に着いた。周りは真っ暗。

オサムはケムンに懐中電灯を渡す。

 

「ま、とにかく気を付けて」

「・・・」

 

不安げなケムンに手を振って、

キーツとオサムは古知平にむかう。

10分もかからない。

 

キーツにも懐中電灯を渡してオサムは百井へ。

激しい山道を走り抜ける。車は1台も通らない。

村を抜けて峠に出る。

 

この山道はたっぷり20分かかった。

峠で車を降りて天狗岳を真南に望む。

空は曇っていてむしむしする。

 

かえるの声がすさまじい。

耳を澄ますといろいろな声が聞こえてくる。

夜の山の中は不気味だ。

 

さあ、ちょうど8時になった。

オサムは天空に右手をかざした。

 

「ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン・・・」

いくら叫んでも何の変化も起きない。

この10分はとても長く感じた。

 

『なにかあったんだ?』

オサムは胸騒ぎを感じた。

 

石をライトにかざしてみると黒ずんで見える。

輝いていれば暗がりでも鮮やかに見えるのに。

 

『急がなければ』

オサムは大至急峠を下り古知平に向かった。

 

大蛙が何匹も飛び掛ってくる。何か行く手を

さえぎってでもいるかのようだ。

 

やっと古知平に着いた。

『キーツはどこだ?キーツ?』

平原の中央に人が倒れているのがすぐに分かった。

 

キーツが頭から血を流して倒れている。

キーツはすぐに気がついた。

 

後頭部をいきなり殴られたものの

幸いに傷は浅い。どうもツキノワグマらしい。

二人は車に欠け乗り大原へと急いだ。

 

昼間は土産品店や観光客で人通りも多いが、

三千院の山門はこの門前町を上り詰めた

 

頂上付近にあって、山門前には土産屋が

一軒あるだけで意外と閑散としている。

 

周りは浅い崖になっていてもみじの大木の間を

竹の柵がしてあるだけだ。

 

夜は真っ暗で何も見えない、ちょっと危険だ。

懐中電灯がなければまったく一歩も進めない

ほど真っ暗なのだ。

 

やはりケムンはいない。車のライトを

つけっぱなしにして回りを探すと思ったとおり

ケムンは崖下に落ちてうめいていた。

 

竹の柵がそこだけ切れていてこちら側から照らすと

暗闇に道があるように見える。これは危険だ。

 

ケムンは何の疑いもなくその道に足を踏み込み

あるはずの道がなくて落下したのだ。

 

右手にはしっかりとライトを握ってはいたが

灯は消えていた。幸いかすり傷だけで元気だ。

3人は車に駆け乗り鞍馬へ急行した。

 

まだ灯のついている山門前にいるはずの

ナセルがいなかった。またもや見当たらない。

 

下りて周囲を探し始めたら向こうからそれ

らしい人影が歩いてきた。ナセルだ。

 

ナセルは不審者だと思われ警察に通報されて

二人の警察官に身柄を拘束されれていたのだ。

 

パスポートを見せ、今実験中だといっても

ますます不審がるばかり。

 

京都中央ホテルに確認し今やっと解放された

ところだった。さてさてこれは失敗だ。

 

レイは何かおきたと感じて高台から引き上げ

”ひらや亭”のロビーでみんなを待っていた。

 

ほどなく車の音がしてみんなが帰ってきた。

キーツがかすり傷くらいで皆元気だ。

夜は何が起こるかわからない。

 

(オサム)「いよいよ明日の夜は本番。

8時からの40分間が勝負です。何が起こるか

わからないので朝一番ナムストーンをしっかりと

 

唱えて万事臨機応変、慎重に行動しましょう。

大文字の夜天空より舟を呼ぶ、を信じて」

 

みんなは顔を見合わせ大きくうなづいた。

 



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送り火1

8月16日いよいよ運命の日の朝が来た。

今晩宇宙と接触できるかもしれない。

 

なんとしても成功したい。5人は徹底して

1時間祈りに祈った。

 

さあ出発だ。東山の右大文字から松ヶ崎の妙法

西加茂の舟形金閣寺北山の左大文字、そして

愛宕山鳥居本。

 

東から北山すそを西山にかけて移動する。

空中ポイントは京都中央ホテルの真上700m、

角度は45度。レッツゴー!

 

まず右大文字。ワゴンを銀閣寺の参道裏に止めて

山道を15分ほど登ると大の字の整然とした

点火台の広場に出る。

 

薪を用意していっせいに火をつけるのだ。

昔は銀閣寺門前町の若衆が大勢集合して火を

点したそうだが、今ではほとんどがボランティアだ。

 

点火は町の人がやる。石油をしみこませた75基の

薪の先端にいっせいに火をつけるのだ。

 

30分間火が消えないように火を点し続ける

大変な作業だ。標高が一番高いのはこの東山の

右大文字でやく400m。

 

あとは200mそこそこで地上からはほとんど見えない。

5箇所を一度に見ることは不可能だ。

そう、空中からでない限り。

 

夜8時になると町の灯が一斉に消える。

京都の町が真っ暗になるのだ。

 

その中を5山の文字が徐々に燃え上がってきて、

30分ほど燃え輝いて後は少しずつ炎は

乏しくなり光は徐々に消滅していく。

 

幻想的な約1時間なのである。これを空から見れ

たらどんなにかすばらしいことだろうか?

 

まもなく見える。が、何が起こるかわからない。

宇宙との接触があるかもしれないのだ。

 

5箇所の現場を訪ねてみた。右大文字如意ヶ嶽、

標高400m。銀閣寺東方の山腹で薪台は75基。

 

一年間かけて町内で集積された薪を

井の字型に積み上げて火を放つ。

 

他の4箇所より少し遅く点火され

一番最後まで燃え続ける。

 

火の勢いをを衰えさせないように

薪を追加し続けるのが大仕事だ。

 

この右大文字は北西に向かって大の字になって

いるので四条辺りから見るとKの字に見える。

一番有名なのがこの右大文字である。

 

続いて北方松ヶ崎、宝ヶ池の両脇、東山が

法の字。西山が妙の字。両方で90基の薪台が

あり標高は100mくらいでかなり見えにくい。

 

続いて上賀茂の西、西加茂船山の裾野標高200m

あたりが舟形。ヨットのような形をした舟の形で

 

50基の薪台がある。ここの薪は巻き上げて

包みのようにして上層に火を放つ。

 

その次が金閣寺の北の岩山で標高100mの岩盤に

40基のの杭が打たれ薪を組み合わせて火を放つ。

 

左大文字と言われるが右の大文字に比べれば

スケールは遥に小さく標高も低いので麓で

しか見えない。消えてしまうのも一番早い。

 



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送り火2

そして一番西の端が愛宕山登山口の鳥居の形である。

標高300mで林の中なので長い青竹の先端に

たいまつを掲げる。

 

その数80基。わりとよく見える鳥居の形である。

この送り火は何時のころから始まったかは不明であり

その目的も謎のままである。

 

平安京以前にそれらしき火祭りの記録もある。

平安時代には仏教の広がりと共に送り火は定着したようだ。

 

文献によれば時期は旧暦の7月15日ごろが多く

近年はとにかく8月16日のお盆の送り火として

戦前から行われてきたが、

 

江戸時代には5月とかにも送り火を焚いた記録がある。

不作で五山がそろわない時も、隣村から

薪や人手を借りてきて火をともし続けてきた。

 

当時送り火は町衆の最重要祭事であたようだ。

松ヶ崎の妙法のもとでは戦前までは松ヶ崎踊り

と言う盆踊りが踊り続けられていたそうだ。

 

妙と法とに分かれたのは平安時代らしい。

それ以前はおそらく太陽のような形だったようだ。

 

今でもそうだが薪の火の残り火でかまどに火をつければ

一年間無病息災だとか、灰を振りまけば難を逃れるとか、

老人たちは昔から言い伝えている。

 

とにかく宇宙から見れば最もよく見えるのが中国の

万里の長城やペルー南部のナスカの地上絵、

エジプトのピラミッドなどなのだろうが、

夜となるとなんと言っても京都五山の送り火だろう。

 

さて天狗岳で成功した時と同じ方位で、

レイを左大文字、鳥居がオサム、右大文字がキーツ、

松ヶ崎がケムン、船山がナセルと決めた。

 

銀閣寺に戻り昼食に”おめん”という山菜うどん

を食べて午後各地点に配置に着いた。

 

いよいよ当日実験開始。午後2時ジャスト。

レイを金閣寺岩山に下ろしてオサムは

愛宕山登山口に車を止めた。

 

2時きっかり東の空に手をかざしてナムストーン

を唱える。すすすーと体が浮いて天空数百メートル。

 

みんなの姿も近づいてきた。京都ホテル上空700mだ。

斜め45度に停止してホーバリングをする。

 

真下に高野川と鴨川が合流してYの字になって南へ流れる。

三日前の夜と同じコースで京都タワー、東寺の五重塔、

嵐山へと飛行する。そのまま北上して愛宕山登山口にて着地だ。

 

各地点はもう薪の準備であわただしい。夜でも分かりやすい地点

を再確認して慎重に行動する。一段落して早めに腹ごしらえをし

装備を再点検してたっぷり1時間みんなでナムストーンを唱えた。

 

午後7時、いよいよ大文字送り火空中大実験がスタートだ!

まずキーツを銀閣寺で降ろす。

もう多くの人たちが町衆とは別に

続々と山道を登っていく。



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天空の瞳1

キーツは「グッドラック!」

とって人ごみに消えた。

次は松ヶ崎だ。

 

かなりきついヘアピンカーブの手前で

ワゴンを止めてケムンを降ろす。

妙の字はここから歩いてすぐだ。

 

そのまま西に北上して西加茂の舟山の

ふもとでナセルを降ろした。

 

人々が続々と手にライトを持って

集まってきている。蒸し暑い夜だ。

 

オサムはレイを金閣寺の北の岩山に降ろして、

「足場には気をつけるんだよ!」

と叫んだその時、ピカッと稲妻が走った。

 

すぐに雷の音。夕立だ。雨具は用意してある。

少々の雨でも送り火は決行されるはずだ。

 

オサムが愛宕山登山口に車を止めたときには

雨脚はかなり激しくなっていた。車の中で

ナムストーンを唱え続ける。

 

今午後7時半だ。あと30分で雨は止むだろうか?

かなり激しい。みんなは大丈夫か?

 

キーツは右大文字の中腹で雨ををしのいでいた。

薪にはブルーシートがかけられ町衆とボランティア

がずぶぬれになりながら追加の薪のほうも保護している。

 

 

「止む止む、すぐやむ!」

人々は口々に叫んでいる。

 

ケムンもナセルもキーツ同様に土砂降りの中を

じっと止むのを待ち続けている。

 

岩山のレイは大丈夫か?

あそこだけは足場が悪い。

 

レイはふもとのコンビニにいた。

岩山は標高が1番低くて町の中にある。

 

ここからすぐに現場にいけるから

大丈夫だとのことだった。

 

よし!あと20分。

雨脚は少し弱まってきた。あと10分。

 

午後8時寸前、雨は小降りになってほとんど止んだ。

オサムは車のドアを開けて登山口を登る。

 

暗がりに多くの人影がうごめいている。

人の傘が邪魔だ。こちらはレインコートだ。

 

このまま空を飛ばなければならない。

足場を固めて東方の上空を見る。

天空は真っ暗だ。雨は完全に止んだ。

 

8時きっかり街の火がいっせいに消えた。

一瞬にして京の街は真っ暗闇である。

 

右大文字付近に幻想的な灯がともり始めた。

いよいよだ。松ヶ崎、舟山、金閣寺岩山、

鳥居本と灯がともる。

 

オサムは右手を大きく天空にかざし

ナムストーンを唱え始めた。

 

ツツツーッと体が空中に浮き上がる。

斜め45度、さらに上昇する。

 

見えてきた、左手にレイ、そのむこうに

ナセル、ケムン。一番遠くにキーツが

真正面に見えてきた。成功だ!

 

京都中央ホテルの上空700mあたり

右手を突きつけてしばしホーバリングをする。

 

天空の美景が広がる。北に向いて右手に大きな

如意ヶ嶽(通称大文字山)の大の字。

 

真北の松ヶ崎の妙法の二字。

左手上方の舟山にヨットのような船の形。

 

左手下方金閣寺岩山に小さな大の字。

最も西のほう左手奥が鳥居の形だ。

 

どんな意味があるのだろうか?

左手からみると鳥居、大、ヨット、

妙法、特大の大の字である。

 

よくよく見ると舟形を頂点とした

立体ピラミッドに見えなくもない。

『あ、そうか』

と気づいたその時、右手に握り締めていた

ナムストーンが震えだした。

 

みんなで目を見合わせる。そっと開けてみると、

なんとピンク色にバイブレーションを起こしている。

 

天空を見上げると真っ暗で何も見えない。

もう雨は止んでいたがおそらく上空は

暗くて重たい雨雲なのだろう。

 

数十秒ほどバイブレーションが続いたかと思うと

みんなの体が急に上空へと跳ね上がった。

 

斜め45度から水平を通り越して、

みんなの意思とは関係なくそのまま、

 

雨雲を突き抜けて、上空数百mを跳ね上がる。

雲の切れ目からまだ美しい炎文字が見ている。

 

 



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天空の瞳2

安定水平に入ってゆっくりと空中で停止。

雲はすっかり晴れて新月の闇夜に

炎は最大限大きく輝きだした。

 

その時である。各自の石が手の甲を

突き抜けて白い光を四方に放った。

 

見つめられている。5人はとてつもなく

巨大な瞳を天空に見た。

 

大空がそのまま瞳なのである。

美しく澄み切った乙女の瞳。無心で

純粋な汚れなき瞳の中に5人はいた。

 

メロディが聞こえる。

妖精のような歌声。

心の底から癒される音と旋律。

 

遠い昔母に抱かれし安心の心ね。

ゆるやかな旋律が暖かい笑い声に変わった。

瞳が微笑んでいる。

 

不思議と5人の心にダイナミックな

エネルギーがふつふつと湧き上がってきて

体中にみなぎった。

 

5人は我に返った。充実感に満ち満ちて。

数分の出来事が数億年のDNAへの

原点回帰のひと時になったような気がした。

 

否、それは数億年ではない、もともと、

いまもむかしもこれからも存在している

宇宙の原点なのかもしれない。

 

ナムストーンの不思議な響きに、

それと連なる何かを皆感じ取っていた。

 

石の輝きは元の輝きに戻りピンクの色も

落ち着いてきた。45度のホーバリング

を維持しながらゆっくりと皆は下降を始めた。

 

大文字の送り火の炎がはっきりと見下ろ

せてきたが炎の勢いはかなり低下してきた。

 

水平飛行に移り、鴨川をくだり

京都タワーを迂回して、

嵐山を北上する。

 

消えかかった鳥居の炎を飛び越えて、

もうほとんど消えた左大文字、

まだかなり明るい舟形。

 

ほとんど鎮火した妙法の真上を通過して

東山如意ヶ岳を上昇する。

 

さすがの大の字も炎が衰え始めた。

さらに上昇して戻る。

 

宝ヶ池から北山、上賀茂、金閣と

炎はすっかりと消えて愛宕山登山口

に着地した。

 

なんだったんだろう?あの瞳は。

『がんばってね』

と言われている気がした。

 

京都中央ホテルに戻ってみんなで総括した。

みんなもやはり同じように目撃し体験していた。

 

レイはカトマンズにある寺の上層に描かれた瞳の、

さらに超特大の瞳にじっと見つめられている思い

がした。神の目、天の瞳といわれるものだ。

 

実際に宇宙にはそのような瞳が存在している

のだろうか?安らぎのメロディと妖精の笑い声。

みんなは今体験した。これは真実のようだ。

 

太古の昔天空より舟を呼ぶとはこのことだったのか?

と言うことは一応実験は成功した。現在でも天空より

舟を呼ぶことは可能であるという実証だ。

 

静かな興奮がみんなを包む。

たった今宇宙の瞳と接触できたのだ。

確信のエネルギーが個々の体中に満ちてきた。

 

我々の使命はいったい何なのだろうか?

何のためにこのようなことを体験して

いるのだろうか?

 

5人は地球規模の特殊な使命がある

のではと感じ始めていた。

 

5人はこれから起こる世界的な事件に

神経を研ぎ澄まさねばと決意した。

 

京都での実験は以上ですべてで終了し

翌日翌々日と琵琶湖や大阪を観光して

20日の正午皆は関空より帰国した。

 

レイはネパールへ、ケムンはトルコへ

ナセルはエジプトへ。そしてキーツは

ヨーロッパへ。

 

オサムオサナイはみんなを見送ると

中国雲南省へ行く手続きをはじめた。

キーツは帰国後すぐに大英博物館に

向かうはずだ。

 

我々の使命は何なのか?がこれからの

一大テーマである。世界的な事件に気を

配りながら各自勉学に励み

 

また来年8月の再会を約して元気一杯

皆それぞれの国へと帰国したのであった。

 

 



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光る石1

キーツはユーロトンネルを抜けて

ロンドンに向かっていた。

 

大英博物館には世界の芸術品や

歴史的な遺物など人類の貴重な遺産が

数多く収集保存されている。

 

植民地時代に強奪されたものがすこぶる多いが

これらの国が独立後には本来返却されるべき物なのに

英国政府はかたくなに返却を拒否し続けている。

 

世界の遺産はそれにふさわしい国家のもとで

厳重堅固にかつ安全に保持されるべきものだと

自負しているのだ。

 

その中のアフリカコーナーにその石は在った。

光る石(SHINNING STONE)と書かれてガラスケース

の中に厳重に安置されていた。

 

「1940年にアフリカのマラウイ湖付近で発見され

探検隊が持ち帰った」と添え書きがしてある。

 

普通の半透明な黒ずんだただの石だ。

添え書きにはさらに「はじめは青く不気味に輝いていた、

放射性物質ではありません」とあるだけだ。

 

キーツは係員に尋ねた。

 

 

「何かこの石に関する記録はありませんか?」

「この館には添え書き以上の記録はありませんが

国立図書館に当時の探検隊の公式記録が

永久保存されているはずですが」

 

 

キーツは国立図書館へ急いだ。

すると、あった。

 

『アフリカ探検隊の記録1940年植民地

マラウイ30日間の記録』というのが見つかった。

 

村人がマラウイ湖の近くに不思議な石がある

というので探検隊がたずねてみると木の祠の中に

 

この石が祀られて、村人の話では数年ごとに

青く不気味に輝くという。

 

1年前からはかなり頻繁に輝くとのことで、

放射能や熱が無いのを確かめて持ち帰ったそうだ。

それからの記録は無い。

 

キーツは考えた。ひょっとしたらと思って

大英博物館の当直の記録を調べてみることにした。

 

幸い博物館からはOKがでた。その日その日の

昼夜の当直記録が1日もかけることなく

記録されているのだ。

 

1940年12月7日午後1時アフリカより

「光る石」搬入、マラウイ探検隊とだけ記されていた。

 

ところが1945年8月5日午後11時15分ごろ

アフリカコーナーの「光る石」が突然光った

 

と記されている。さらに4日後大きく輝いて

1週間後元の黒い石に戻ったとの記録だ。

 

日本時間では8月6日午前8時15分人類初の

実戦原爆投下の時刻と完全に一致している。

 

長崎投下が4日後の9日だ。やはり、

キーツはみんなに報告した。

 

このころオサムオサナイは中国の

雲南省にいた。省都昆明には省立の

博物館もあるが光る石が置いてあるのは

民族博物館のほうである。

 

この博物館は昆明市の南、湖の北側に

あってエリア別に各地の民族の村に

分かれている。その中のアミ族の

民族館にその石はあった。

 

雲南省は人口約一億人日本の3倍の面積があって

1年中気候の安定した、夏涼しく冬暖かい

春のような都市、別名春城とも言うそうだ。

 



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光る石2

白族を中心とした北部大理方面とこの昆明、

さらに南のミャンマー、ラオスとの国境地帯、

 

ゴールデントライアングルといわれる

西双版納方面とに分かれている。

 

漢民族はこの省では少数派で約30の

山岳民族がその大半を占めている。

 

昆明の近郊に石林しーりんという

超特大カストロ大地があって、日本の

秋吉台の比ではない、ここで

 

アミ族の農民が1945年の8月に

鍾乳洞の中で光る石を見つけた。

 

しばらく自宅に隠し持っていたが

時々不気味に光るので気味が悪くなり

博物館に届けたのだ。

 

この博物館館長の陳学良は超自然現象の

専門家で光る石の記録も細かく記されていた。

 

光る石は地震計のように

その程度に応じて輝いているようだ。

 

ちなみに相当大きく輝いたと思われる

1945年8月以降の年次と

 

それに符合する事件とを列挙してみると、

とんでもないことが分かった。

 

1946年6月   ビキニ原爆実験(米)

1949年8月   原爆実験(ソ連)

1951年4月   朝鮮戦争

1952年10月  原爆実験(英)

1954年3月   ビキニ水爆実験(米)

1957年5月   水爆実験(英)

1960年2月   サハラ原爆実験(仏)

1961年9月   核実験再開(ソ連)

1962年10月  キューバ危機

1964年10月  中国初の原爆実験 

1965年2月   ベトナム戦争

1966年7月   仏、核実験

1967年6月   中国、水爆実験

1968年9月   仏、水爆実験

1970年10月  中国、3メガトン水爆実験

1974年5月   インド、地下核実験

1979年12月  アフガン戦争

1986年4月   チェルノブイリ事故

1991年1月   湾岸戦争   

 

これは偶然なのか、まさに人類の生命の危機を

報せるセンサーそのものではないか。

 

キーツと情報を詳しく交換してみた。

キーツは大英博物館の日誌から

光る石が輝いた記録を一覧表にしてみた。

 

すると核実験のみならず人類の一触即発の

危機のときには必ず警告を発するがごとくに

不気味に青く輝いているのだ。

 

もう間違いない。光る石は地球と人類の

生命の危機のときにその危険を警告するのだ。

 

もうひとつの発見はその危機が回避できた時には

光る石は明るいピンクに輝きだしたという点だ。

キューバ危機のときの色の変化がそれを物語っている。

 

光る石はまさに地球が保持するナムストーンのようだ。

おそらくペルーの石もメキシコの石も同様のはずだ。

 

「何か地球規模の事件が起きたときには石に

変化が起こるはずですので注意して観察をお願いします」

オサムは両館長に依頼のメールを送った。

 

それにしても光る石にしろナムストーンにしろ

もっと存在していてよさそうなのに、

ほんとにこれだけしかないのだろうか?

 

今後地球的規模で危機が迫った時には

必ずあちこちで光るはずだ。

 

地球の危機を報せる光る石と

我々の持つナムストーンとの

関係はどうなのか、まだまだ謎は多かった。

 



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空前のテロ

暑い夏も終わり九月に入った。新学期が始まる。

夏の疲れも取れない11日の蒸し暑い夜、

一斉にナムストーンがバイブレーションを起こした。

 

キーツが、ナセルが、ケムンが、レイが、

オサムオサナイに連絡する。

 

日本は夜半だがヨーロッパは夕方。

トルコ、エジプトは午後。ネパールは昼だった。

 

オサムにはナムストーン仲間に危険が迫った時には

胸騒ぎがして、不気味に輝くナムストーンに

いくら祈っても明るさが戻らないことは何度かあった。

 

しかしキーツの大洪水の時にはおおよその予測がついたのだが、

今回は違う。何の前触れもなくしかも5人全員に同時に

バイブレーションが起きている。

 

石は青黒く輝いていた。その時、雲南からメールが届いた。

「光る石が輝いています」

 

大英博物館からも連絡が入った。

「石が不気味に輝いています」

 

メキシコとペルーに連絡すると向こうは早朝だった。

博物館に早めに出向いてもらうとはたして、

石は不気味に青黒く輝いていた。

 

まちがいない!何かが起こる。

祈るまもなく大事件は起きてしまった。

 

空爆、原爆。人類の手による人類への無差別攻撃。

空前の自爆テロが起きた。

 

旅客機を乗っ取りそれごと道連れにしてしかも2機が

ニューヨークの貿易センタービルに突っ込んだのだ。

 

高さも方角も変えて緻密な計算どおりに2期の航空機は

数分の差をおいてビルに激突した。

 

両機とも機体全体がすっぽりとビルに水平に

少しの無駄もなく突っ込み、すぐさま炎上した。

 

約1時間後にビルは完全に崩壊し瞬時にして

数千人の命が奪われた。

 

この日はほかにも国防省ペンタゴンに一機が突っ込み、

さらにもう一機がこれは失敗して丘に突っ込んだ。

 

6機が同時にハイジャックされてそのうち4機が

乗客もろとも突っ込み自爆したのだ。

 

問答無用の大規模同時多発テロが起きてしまった。

「もしかして、これだったのか?」

オサムオサナイは後悔しつつ手ごたえを感じた。

 

石はすでに輝きをなくしグレイに打ち沈んでいる。

今回は対応が遅れはしたが、これでナムストーンと

光る石が人類の危機に必ず反応することがわかった。

 

問題はどうすればそれを阻止できるかということだ。

オサムオサナイは各博物館に依頼をした。

 

「次回もし光ったらずっと光が収まるまで

ナムストーンと唱え続けてください」

 

危機を予知できるものは今、光る石と我々だけだ。

このことを知るものでしか今は祈れない。

 

危機が回避できなければ、人類は近い将来

間違いなく滅亡するだろう。

 

われわれの手で光る石とナムストーンを数多く探し出し

仲間を全世界に増やし張り巡らせて、ナムストーンの

大合唱で危機を阻止するしかないのだろうか?

 

世界全体が9・11以降大混乱に陥った。

冷静にきわめて慎重に日常性を取り戻さなければ、

テロリストの思う壺だ。

 

アラブの論理だけですべてを正当化するには無理がある。

今こそ思想の正邪を正さなければならない時なのだ。

 

根本的に悪いのは他を受け付けない原理主義だ。聞く耳を

持つことと仲良くやることがすべての根本だと思うのだが。

 

人類が苦労して蓄積した富を破壊や分断のために使用すること

ほどおろかなことはない。人類の幸福のために使われてこそ

賢明なる智慧と言えるのではなかろうか。

 

邪悪な悪魔の仕業が戦争とテロを生む。今こそ声を大にして

この悪魔と戦うべき時だ。

 

次なるバイブレーションは何時来るのか。日ごとに人類の終末は

迫っている気がする。一致団結して人類を救えるか否か?

油断のならない緊張が9月一杯続いた。

 



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ドナルド1

10月にはいってすぐにドイツのキーツカーンから

 

オーストラリアで光る石が発見されたという情報が届いた。

 

 

 

 

オーストラリア中央部にあるエアーズロック付近を

 

パトロールしていた国立公園の警備員ポールモーガン

 

が砂漠に輝く光る石を夕暮れの薄明かりの中で発見した。

 

 

 

 

自宅に持ち帰ったところすぐにうわさが立ち、新聞記者が

 

訪ねてきて写真を撮って帰った。9月11日のことだ。

 

 

 

 

翌日地方新聞の片隅に写真入で出ていたこの記事がちょうど

 

オーストラリアを旅していた英国人の目に留まった。

 

 

 

 

彼には大英博物館で光る石のコーナーの責任者をしている

 

友人がいた。この記事を送るとその友人は大いに喜んで

 

キーツカーンに送ってよこしたのだ。

 

 

 

 

オサムオサナイはその住所に電話をいれた。まだ若い

 

青年の声がして本人だった。石は家に飾ってあるという。

 

 

 

 

オサムオサナイは詳しく事情を説明して、石が青黒く

 

不気味に輝くことがあったら真剣にナムストーンと

 

光が鎮まるまで唱え続けてくださいと依頼した。

 

 

 

 

「ナムストーン?」

 

「そうです。ナムストーン。できれば声に出して叫び続けてください」

 

「分かりました。その時はナムストーンと唱え続けてみます」

 

 

 

 

それから数日してナセルとケムンから同時にメールが届いた。

 

 

 

 

「いまアメリカから奇妙なメッセージが発信されている。

 

確認されたし」

 

 

 

 

タイトルを検索すると確かにあった。

 

 

 

 

『光る石の謎を知っている方連絡下さい。僕のおじさんを

 

助けて!ドナルド ブッシュ テキサス USA』

 

 

 

 

さっそくアクセスしてみて驚いた。アメリカ合衆国の

 

テキサス州ヒューストンからの発信である。

 

 

 

 

『僕は不思議な石を持っています。僕の心を映す不思議な石です。

 

僕が幸せを感じているときはこの石もピンク色に輝いていますが

 

僕が悲しく落ちこんでいるときは灰色です。この9月11日からは

 

 

 

 

暗く沈んだままです。僕のおじさんはジョージ ブッシュという人で

 

今アメリカ合衆国の大統領をしています。僕は彼の一番年下の甥っ子

 

です。どうか僕のおじさんとアメリカ国民を助けてください。

 

 

 

 

ドナルド ブッシュ 18才 高校生男子

 

ヒューストン テキサス USA』

 

 

 

 

というものだった。

 

オサムオサナイは直接国際電話をかけてみた。

 

なかなかつながらない。メッセージを伝えて

 

電話を切った。

 

 

 

 

「ドナルド君へ。次にバイブレーションが起きて

 

石が鈍く青黒く輝いたら『ナムストーン』と

 

色が収まるまで唱え続けてください。

 

オサムオサナイ KYOTO JAPAN」

 

 

 

 

すぐに返事のメールが届いた。

 

 

 

 

「何故あなたは僕の石が9月11日に

 

バイブレーションが起きて青黒く輝いたのを

 

知ってるんですか?」

 

 

 

 

オサムオサナイは詳しく今までの状況を

 

ドナルドに伝えた。

 

 

 

 

「空を飛ぶなんて信じられない?」

 

 

 

 

「信じなくてもいいから次にバイブレーションが

 

起こったら収まるまでナムストーンと

 

唱え続けてください」

 

 

 

 

「それはOKします」

 



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ドナルド2

数日後にドナルドからメールが届いた。

 

 

 

 

『ナムストーンを唱え続けたらやっと石が

 

明るく輝き始めました。これからは落ち込んだら

 

まずナムストーンを唱えます。早く皆さんに会い

 

たいです。その時はよろしくお願いします』

 

 

 

 

彼は一人っ子で兄弟がいない。

 

いつも孤独に暮らしていたようだ。

 

 

 

 

『よく分かりました。我われを信じてしっかりと

 

着いてきてください。君のおじさんとアメリカ国民、

 

さらには全人類を救いましょう。

 

 

 

 

年が明けたら8月に日本で会いましょう。その時は

 

我々と一緒に空を飛ぶんですよ。弟ドナルドへ。

 

日本の兄オサムオサナイより』

 

 

 

 

ドナルドはうれしくて人が変わった様に明るく積極的

 

になった。両親はとても喜んだ。その秘密は誰にも分か

 

ってもらえない。

 

 

 

 

数日たってとうとう我慢しきれずに

 

ドナルドはおじさんに手紙を書いた。

 

 

 

 

「おじさんおげんきですか?僕は来年マサチューセッツ工科大学に

 

進学しようと今猛勉強しています。

 

 

 

 

おじさんとあったのはもう10年前になります。おじいちゃんが

 

亡くなったときでした。その時小学生のぼくにおじさんは

 

こう言ってくれました。

 

 

 

 

『ジュニア、おじいちゃんの魂は今天国に上っているよ。ほら空の

 

あそこを見てごらん、おじいちゃんがこっちを見て手を振っているよ』

 

 

 

 

空を見上げて一緒に手を振ってくれましたね。おじさん憶えてますか?

 

僕は一生忘れません。あの時のおじさんの励ましを。

 

 

 

 

おじさん!僕はいまあたらしい発見をしました。悲しい時辛い時には

 

大空に向かって叫びます。ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン。

 

 

 

 

これはマジックワードです。すると天空におじいちゃんが現れて、

 

頑張れドナルド今が踏ん張り時だと力強く励ましてくれます。

 

 

 

 

ミラクルワード『ナムストーン』一度そんな時には唱えてみてください。

 

親愛なるジョージおじさんへ、ドナルドより」

 

 

 

 

しばらくしてブッシュおじさんから返事が来た。

 

親愛なる甥ドナルドの次に、

 

大きくNAMSTONE!と書いてあった。

 

 

 

 

「ナムストーンありがとう。今度悲しいことがあったら

 

天空を見上げて唱えてみるよ。すばらしい励まし

 

ありがとう。NAMSTONE!」

 

 

 

 

ドナルドはとてもうれしかった。おじさんは必ず

 

実行してくれる。

 

 

 

 

そのころオサムオサナイは自宅であれこれ考え込んでいた。

 

ポールやドナルドみたい人たちがこれから

 

かなり増えてきそうな気がする。

 

 

 

 

少人数では地球規模の危機は回避できない。

 

たくさんの仲間がほしい。光る石もナムストーンも

 

これから各地で発見され続けるだろう。

 

 

 

 

我々が空を飛ぶくらいでは原爆一個も阻止できない。

 

とにかく全世界を巻き込んで

 

たくさんの仲間を開拓するしかないように思われる。

 



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カシミール1

1971年インド北部ジャムカシミール州の

 

カルギルという町に一人のパキスタン青年がいた。

 

 

 

 

イスラムのターバンを巻き口とあごに黒ひげをはやした

 

青年将校は貿易商人に化けてカシミールの

 

イスラム過激派の動向を探るために潜入した。

 

その名をガウリ・ムシャラフという。

 

 

 

 

カシミール南部の町々は緑多く山と湖に囲まれて

 

19世紀半ばの藩王国時代までは夏なお涼しき

 

インド最大の豊かな避暑地だった。

 

 

 

 

ガウリはここでイスラム商人の5人兄弟の末っ子

 

として1947年1月に生まれた。

 

 

 

 

何不自由なく育つかに見えたムシャラフ家に悲惨な

 

大激震が襲ったのはこの年の8月であった。

 

 

 

 

英領インドはインドとパキスタンとに分離独立する

 

ことが決定、イスラム教徒は西と東のパキスタンに

 

その方面に住むヒンドゥー教徒はインドへの民族

 

大移動が全国規模で起こったのである。

 

 

 

 

インド最大の藩王国の国王マハラジャ3世は悩みに

 

悩んだ。藩王国の8割はイスラム教徒である。

 

 

 

 

パキスタンに接するこのカシミール藩王国はパキスタン

 

に帰属することが誰の目にも順当であろうと思われた。

 

 

 

 

だがしかし一つだけ不当なるものが存在した。しかも

 

それは決定的に不純なものだった。それは、

 

藩王自身は代々ヒンドゥー教徒であるということだった。

 

 

 

 

 

藩王マハラジャ三世は藩王国の独立をもくろんだ。

 

そのためには英国に頼らず独自の軍隊を持たねばならない。

 

マハラジャ三世はイスラム教徒の武装解除を命じた。

 

 

 

 

ところが時すでに遅くイスラム教徒と住民の一部がパキスタン

 

への帰属を求めて武装蜂起し、その年の10月にパキスタン

 

正規軍が西部国境を越えてカシミールに侵攻した。

 

 

 

 

マハラジャ三世はあわてふためきインドへの帰属文書に

 

署名をしてしまう。これを受けてインド正規軍がカシミール

 

南部から北上する。こうして第一次印パ戦争は始まった。

 

 

 

 

ムシャラフ一家は着の身着のまま国境を越えてパキスタンの

 

伯父のもとへ急いだ。荷車に家財道具と祖母と乳飲み子

 

ガウリを積んで父母兄弟力を合わせ西の山々の峰を越え

 

パキスタンへと必死で逃げた。何日も何日もかけて・・・。

 

 

 

 

西へ向かうイスラム教徒、東へ向かうヒンドゥー教徒。

 

いたる所でいざこざが起きた。夜になると襲われた。

 

虐殺、暴行、略奪が繰り返され一年以上もそれは続いた。

 

 

 

 

移動人口1500万人以上、死亡者30万人以上

 

という当時の記録が残っている。

 

 

 

 

1949年1月国連決議で停戦が実現したカシミールは

 

南北に分断されパキスタンが北部のアザトカシミールを

 

インドが南部のジャムカシミールを支配することになった。

 

 

 

 

ガウリはパキスタンの首都イスラマバードの叔父のもとで

 

手厚く育てられた。成績優秀で陸軍士官学校へ志願する。

 

叔父はことのほか喜んだが、実のところガウリは軍人には

 

なりたくなかったのだ。

 

 

 

 

こよなく文学を愛し古典を愛しカシミールの大自然を愛する

 

青年ガウリ、わがふるさとカシミールよ!

 

しかし彼の幼少のころの壮絶な体験はトラウマとして

 

心奥深く消えることなく残っていた。

 

 

 

 

この頃中国とインドはダライラマの亡命直後で

 

カシミールの国境付近は極度に緊張していた。

 

そしてついに1962年11月中国がインド国境を突破し

 

中印戦争が勃発しカシミール東部を領有した。

 



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カシミール2

15才幼年兵のガウリは級友たちと

 

狂おしいまでに心が高ぶった。何時の

 

日か必ずカシミールの地を取り返すのだと。

 

 

 

 

それから3年、その戦いの日は来た。

 

1965年5月、第二次印パ戦争が始まったのだ。

 

 

 

 

18才のガウリは見習士官として東部戦線の

 

後方補給基地の任務に着いた。だがしかし戦闘

 

らしい戦闘はまったくなくすぐに戦争は終結した。

 

 

 

 

最前線はインド軍とパキスタン軍が一進一退を

 

繰り返していたが、パキスタン軍が攻勢を

 

仕掛けたところで停戦となった。

 

 

 

 

ソ連を中心とした国連決議が可決されたのだ。

 

開戦前の実効支配ラインまで撤退し、

 

両軍は兵を引き上げた。

 

 

 

 

ガウリは実戦に参加できなかった悔しさと、

 

カシミールわが故郷カルギルの町を

 

奪還どころか見渡すこともできなかった。

 

そのもどかしさだけが心に残った。

 

 

 

 

今は耐えるしかない。じっと時が来るまで

 

身体と精神を鍛えに鍛える時だ。ラマダンを

 

控えガウリは真摯に神に祈った。

 

 

 

 

1971年12月、東パキスタンで暴動が起こった。

 

インドが以前から独立派を支援しているという情報が入っていて、

 

パキスタン軍部は秘密裏に独立派幹部の動きを探索していた矢先だった。

 

 

 

 

すぐにパキスタン軍が暴動の鎮圧祈りだしたが動乱は市民を巻き込んで

 

独立運動へと拡大しついにインド正規軍が独立運動支援を掲げて

 

東パキスタンに侵攻し第三次印パ戦争が始まった。

 

 

 

 

このときガウリは24才の精悍な情報将校に成長していた。

 

『カルギルに入りインド内部より敵をかく乱せよ』

 

雌伏24年、故郷奪還の特命を秘めてついにガウリは故郷カルギルに潜入した。

 

 

 

 

旧市街のほぼ中央、イスラム商館の一室、10畳ほどの部屋に

 

大きな絨毯が敷いてあって壁下に沿って長い枕のようなソファー。

 

暗がりの中で4人の男がアラーに祈りを捧げている。

 

 

 

 

祈り終えると4人は横長に寝そべって頭を中央に寄せて話し始めた。

 

チャイとハッシシが運ばれてくる。口ひげ頬髯をはやした4人の真剣な

 

まなざし。中央がイスラム教師オマル青年、ガウリより年上で威厳がある。

 

 

 

 

右隣がイスラム過激派のリーダー、ウサマ青年。サウジアラビアの豪族の出身で

 

カシミール藩王国とは昔から縁の深い独立運動家である。

 

 

 

 

左隣がシャリフ青年、同じくイスラム過激派のリーダーで、パキスタン陸軍の

 

秘密機関に属していてガウリの先輩に当たる。カシミールの

 

パキスタンへの併合を目指している。

 

 

 

 

ガウリはオマル教師を介してまだできたばかりのイスラム過激派と連絡を取り

 

支援せよとの密命を帯びて潜入してきたのだ。

 

 

 

 

東パキスタンにインド軍が侵攻したというニュースを

 

ガウリは昨日カルギルの酒場で聞いた。カシミールでも戦闘が始まる。

 

正規軍の勢力はほぼ互角で山岳部はゲリラ戦だ。

 

 

 

 

そこで勝敗の鍵を握るのがジャムカシミールのイスラム過激派

 

ということになる。正規軍はすぐには動けないから

 

パキスタン国内のイスラム過激派と連携して突破口を開かなければならない。

 

 

 

 

まだ勢力は微々たるものだが必ずその日は来る。

 

今は意見の分かれている両派を団結させることが第一だ。

 

 

 

 

この時パキスタン領内に強力なイスラム戦士育成機関を

 

創設することと武器弾薬等全面支援が確約された。

 

 

 

 

初めての過激派との会談終了後みんながイスラム商人の

 

館をそっと忍び出たところで砲撃が始まった。

 

 

 

 

インド軍からの砲撃だ。東パキスタンにインド軍が侵攻すると

 

同時にパキスタン軍が停戦ラインを越えて南下してきたのだ。

 

 

 

 

町から国境南の峡谷付近までは10数キロ離れてはいるが

 

空気を切り裂く砲撃の音はよく聞こえる。

 

 

 

 

ラジオはがなり立てている。町の周囲には強力なインド軍が

 

守備を固めていて北方の大峡谷を挟んで両軍は

 

対峙したまま動きが取れなくなるはずだ。

 

 

 

 

この峡谷を超えることは両軍にとって至難の業なので

 

町の人々は少しも慌てはしない。停戦ラインはその峡谷の

 

さらに北部の稜線に沿って地図上に規定されている。

 

 

 

 

砲撃は数日続き時折偵察機が来るくらいでそのうち

 

停戦になるはずだ、人々は皆そう思っている。

 



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ガウリ

ガウリは2台のトラックに食料を積んで山間部に向かった。

 

日暮れまでに村につかねばならない。数キロ手前の峠でもう日没間近だ。

 

 

 

 

この付近は山賊が出没する。まだ組織化されていないゲリラもいるが

 

武器が容易に手に入るため昼はおとなしい農民の一部が

 

夜は山賊に早変わりするのだ。

 

 

 

 

峠を下りかけたところで襲撃された。なだらかな山側の林の陰から

 

自動小銃で撃ってくる。谷川も林で10数メートルほど下が

 

小川になっている。

 

 

 

 

こちらは武装した部下が5人、直ちに飛び降りて応戦する。

 

ゲリラは10人ほどか。激しい銃撃が一瞬ぴたりと止んだ。

 

息を止めて1秒2秒。

 

 

 

 

「谷側へ逃げろ!」

 

ガウリは叫んで木陰へ飛び降り根元にうずくまった。

 

その瞬間、ドカーンという音と衝撃で前方のトラックの真下に

 

火柱が上がった。ロケット弾だ。

 

 

 

 

おそらくソ連製の対戦車ロケット砲、インド軍から奪った

 

携帯可能な最新式のものだ。予想外の反撃でそれもプロと

 

思われる銃撃で敵は貴重なロケット砲を持ち出したのだ。

 

 

 

 

食料を積んだトラックはもんどりうって木々をなぎ倒しながら

 

谷へと転がり落ちていった。両こぶしを強く握りしめて

 

頭を抱え込み木の根元に思いきりうずくまる。

 

 

 

 

すぐ脇の木々をなぎ倒してトラックは川に突っ込んだ。再び沈黙。

 

1秒2秒3秒。山側からサーチライトが点灯した。2台目の

 

トラックとその周りをなめるように光の輪が動く。

 

 

 

 

さらに周りの木立を一通り照らしたかとみると10数人の武装

 

ゲリラがトラックを取り囲みエンジンがかかるやみな素早く

 

飛び乗って闇の彼方へ消えていった。

 

 

 

 

星あかりに5人の死体が転がっている。峠のほうに戻った

 

ということは町の商人と山賊とは仲間なのか?それとも

 

誰かが通報したのか?ロケット砲がゲリラの手にということは?

 

 

 

 

等々極度の緊張の中でめまぐるしく頭は回転する。

 

 

 

 

音も収まり光の影も消えて再び静寂に戻った。

 

 

 

 

ガウリは大きく深呼吸をしてゆっくりと立ち上がる。

 

 

 

 

握りこぶしはしっかりと握りしめたままだ。

 

 

 

 

 

ふと見ると右手の中が光っている。

 

 

 

 

青白い輝きが握りこぶしから漏れ出ているではないか。

 

 

 

 

 

「なんだこれは?」

 

 

 

 

 

ガウリは恐る恐る握りこぶしを開いてみた。

 

 

 

 

汗にまみれた掌の中で奇妙な形をした

 

 

 

 

半透明の石が青白く輝いている。

 

 

 

 

 

まじまじと顔を近づけてじっと見つめていると

 

 

 

 

徐々に輝きは収まり普通の乳白色の

 

 

 

 

不透明な石になった。

 

 

 

 

 

「不思議な石だ・・・」

 

 

 

 

 

ガウリは右のポケットにそっとその石を忍ばせて

 

 

 

 

谷を上り村へと向かった。

 

 

 

 

 

ゲリラの統一戦線はまだまだ暗中模索だ。

 

 

 

 

そうこうしているうちに東パキスタンでは

 

 

 

 

インド軍が勝利しバングラディッシュとして

 

 

 

 

独立してしまった。

 

 

 

 

 

カシミールではインド軍の空爆が始まり

 

 

 

 

大峡谷を挟んで対峙したままで停戦してしまった。

 

 

 

 

 

1972年一応戦勝国となったインドに有利な協定が

 

 

 

 

結ばれてしまう。けっきょくイスラム過激派は

 

 

 

 

何もできずにガウリは大きな課題を抱えたまま

 

 

 

 

あの不思議な石を携えて帰国した。

 



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タリバン

 

第37話タリバン

 

 

 

 

帰国後ガウリはイスラム戦士の育成機関創設に尽力した。

 

 

 

 

しかし心は晴れなかった。カシミールは遠のくばかりだ。

 

 

 

 

 

国境の警備は強化されカルギルにはインド軍の前線司令部

 

 

 

 

が常設されて蟻のこ一匹は入れないほどになった。

 

 

 

 

 

ガウリは結婚もし二人の子供も設けたが、カシミールへの

 

 

 

 

望郷の念は日ごとにつのり育成訓練所での昼食後に必ず

 

 

 

 

屋上に上って東のカシミールの山脈を眺めて過ごした。

 

 

 

 

 

将軍は孤独であった。掌の石だけが彼の心を知っていた。

 

 

 

 

隊員たちは峻厳な将軍のこのような姿に神々しいまでの

 

 

 

 

畏敬の念を抱き始めた。

 

 

 

 

 

ガウリは連日数十名の戦士に戦闘訓練を施すとさらに

 

 

 

 

あのオマル教師を招いて徹底したイスラム原理主義を説

 

 

 

 

いていった。さらに13歳からの神学生を募り時間をかけて

 

 

 

 

イスラム戦士を育成していった。

 

 

 

 

 

それから2年後のある日ガウリは新築なった訓練所本部棟

 

の屋上でいつものように昼食後カシミール方向の山脈を眺

 

めながら右ポケットの中の小石を撫でていると、

 

突然すさまじいバイブレーションが起きた。

 

 

 

 

すぐに取り出して見つめて見ると青黒く不気味に輝き

 

小刻みに振動している。

 

「ナムストーン、ナムストーン!」

 

 

 

 

思わず口をついて出た。驚愕の目でじっと石を見つめながら

 

ナムストーンと唱え続けた。光は徐々におさまり再び

 

元の乳白色に戻った。全身汗だくだ。

 

 

 

 

幸い誰にも見られていない。大きく深呼吸をしてガウリは

 

何事もなかったかのように階下の教室へ降りて行った。

 

 

 

 

すぐさまオマル教師が駆け寄ってきた。いつもは冷静な教師が

 

血相を変えている。

 

 

 

 

「シャリフ参謀長のところへ大至急行ってください。

 

インドが先ほど地下核実験をやりました」

 

ガウリは軍の車で東部司令部へ急行した。

 

 

 

 

パキスタン東部司令官はあのシャリフである。

 

 

 

 

 

「ガウリ ムシャラフ君ついに宿敵インドが中国に対抗して

 

 

 

 

地下核実験を強行した。国連及び各国がもちろん我が国も

 

 

 

 

 

国を挙げて非難演説をするだろうがわれわれとは立場が違う。

 

 

 

 

われわれは秘密裏に核開発を開始せねばならぬ。

 

 

 

 

ムシャラフ君、君に特殊任務を指令する。直ちに

 

 

 

 

 

北京に赴きパキスタンの核開発の意志を伝え何としても

 

 

 

 

技術支援を勝ち取ってくれたまえ。中距離弾道ミサイル

 

 

 

 

の開発援助も忘れずに、以上!」

 

 

 

 

 

     ーーーーーー

 

 

 

 

 

時は流れてそれから5年がたった。1979年春、

 

 

 

 

アフガニスタンの治安回復のためにとソ連軍が

 

 

 

 

アフガン北部から南下した。

 

 

 

 

 

アフガン戦争の始まりである。ガウリはこの時

 

 

 

 

陸軍東部方面軍の司令官であると同時に

 

 

 

 

イスラム戦士育成機関の最高責任者でもあり

 

 

 

 

 

さらに陸軍参謀長として極秘裏に核開発、

 

 

 

 

中距離弾道ミサイル開発の総責任者でもあった。

 

 

 

 

総参謀長はシャリフで次期首相を目指していた。

 

 

 

 

 

実戦部隊の隊長はオサマ。オマル教師はこの時

 

 

 

 

すでにアフガン東部に潜入して神学生を主体とした

 

 

 

 

イスラム原理戦闘集団タリバンを立ち上げようとしていた。

 

 

 

 

ソ連のアフガン侵攻とともにアメリカはパキスタンに接近した。

 

 

 

 

アメリカからの全面的な支援を得てイスラム戦士は続々と

 

 

 

 

アフガンへと送り込まれた。

 

 

 

 

 

この間にも核とミサイルの開発は着実に進み、カシミール峡谷

 

 

 

 

では両国のミサイル基地が一つまた一つと増築されていった。

 

 

 

 

 

泥沼のアフガン戦争もゴルバジョフの登場とともに1989年に

 

 

 

 

終結する。この時戦う場を失ったイスラム戦士の多くが

 

 

 

 

カシミールに潜入した。

 

 

 

 

 

インド領ジャムカシミールではイスラム過激派が徐々に

 

 

 

 

増え続け独立派と併合派とに分かれて一大勢力になっていた。

 

 

 

 

 

やがてシャリフ首相が誕生しガウリムシャラフは総参謀長に就任した。

 

 

 

 

アメリカが核開発に難色を示しあからさまに批判してきたが

 

 

 

 

ムシャラフは中国や北朝鮮から技術輸入して中距離弾道ミサイル

 

 

 

 

「ガウリ」の完成も間近であった。

 

 

 

 

 

ガウリとは12世紀にインドを征服したイスラム戦士の名だ。

 

 

 

 

パキスタン側に核とミサイルが配備されればあとはインド領

 

 

 

 

ジャムカシミールでのイスラム過激派の武装蜂起を待つだけだ。

 

 

 

 

 

20年前のバングラディッシュ独立の報復だ。カシミール独立支援

 

 

 

 

を名目にジャムカシミールを制圧する。核は両国とも使用できない

 

 

 

 

だろうから、とすれば両国のイスラム戦士が連携を密にして

 

 

 

 

 

さらにパキスタン国軍が援護すれば地上戦での優位停戦は可能だ。

 

 

 

 

カシミール奪還はもう時間の問題だった。

 



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危機1

1997年秋、シャリフとムシャラフは軍総司令部で

 

 

 

 

二人きりで会談した。来春のインドの総選挙で右派が

 

 

 

 

勝利しそうだという情報が各地から頻繁に届くようになったからだ。

 

 

 

 

 

年ごとにイスラム過激派のテロが多発し民族主義

 

 

 

 

ヒンディ至上主義派の台頭が著しい。これは予想できたことだが

 

 

 

 

いよいよ決戦の時を迎えつつあることは実感できた。

 

 

 

 

 

もし右派が圧勝して政権を取ったならば、その時中距離弾道

 

 

 

 

ミサイル実験を強行する。それによって新政権の出方が

 

 

 

 

わかるから和解も有利に導いていける。

 

 

 

 

 

そうでなければ核保有を天下に知らしめるのみだ。年明けとともに

 

 

 

 

25のミサイル基地が完全臨戦態勢に入った。

 

 

 

 

 

ガウリは右ポケットの不思議な石が小刻みに震え鈍く輝いている

 

 

 

 

ことを数日前から知っていた。ナムストーンとかって不意に口を

 

 

 

 

ついて出た言葉で祈ってみても輝きは収まらなかった。

 

 

 

 

 

その春ついにインドで政変が起きた。インド独立以来の

 

 

 

 

国民会議派がヒンデゥー至上主義の右派政党インド人民党に

 

 

 

 

とってかわられたのだ。

 

 

 

 

 

パキスタンは中距離弾道ミサイルの発射実験を強行する。

 

 

 

 

インドは直ちに反応した。24年間凍結していた地下核実験を

 

 

 

 

世界の非難をはねのけて強行したのだ。

 

 

 

 

 

ついにパキスタンも対抗して初の地下核実験を強行し

 

 

 

 

核保有があからさまになった。極度の緊張がカシミールに走る。

 

 

 

 

あの時シャリフの指示を得てムシャラフが中距離ミサイル発射の

 

ボタンを押した。ポケットの石は輝きを増し小刻みに震え続けたが無視した。

 

 

 

 

実験は成功した。地下核実験の時はムシャラフはためらった。

 

石のバイブレーションがすさまじく青黒い輝きも極限に達していた。

 

 

 

 

脂汗をかきながら数十秒の間をおいてムシャラフはボタンを押した。

 

数キロも離れているのに大地の底から不気味な激震が襲う。

 

地球の悲鳴のような低音振動が響く。

 

 

 

 

激しい横揺れ。ポケットの石と波長が同じみたいだ。石は激しく振動し

 

青黒く不気味に光り輝いたかと思うと閃光を放って黒い塊になった。

 

 

 

 

ムシャラフはその後数日間は右足を引きずりながら身も心もひどく疲労困憊

 

していた。実験は成功したが気は重く毎夜ナムストーンを祈り続けた。もう

 

核のボタンは押すまい、この時ムシャラフは心の底からナムストーンに誓った。

 

 

 

 

1999年2月インドのバジパイ首相がパキスタンを訪問してシャリフ首相

 

と会談をした。とにかく全面戦争だけは避けなければならない。両国首相は

 

カシミールの緊張緩和を目指してラホール宣言を発表した。

 

 



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危機2

 

第39話危機2

 

 

 

 

千歳一遇のチャンスが到来した。

 

カシミール独立運動は激化していった。

 

ムシャラフはパキスタン東部にイスラム戦士を終結させた。

 

 

 

 

いよいよカシミール奪還の日は近い。

 

ムシャラフの心は高鳴った。

 

 

 

 

カルギルでインド軍施設へのテロが激化し

 

住民移動が始まった。

 

 

 

 

南は南へと難民の列が連なり、ついに

 

5月カルギルの町はイスラム過激派に占領された。

 

 

 

 

インド軍はミサイルともども南下しカルギルの町を捨てて

 

スリナガル山系まで退却を完了していた。

 

ムシャラフは50年目にして宿願のカルギルを奪還したのだ。

 

 

 

 

ここでパキスタン正規軍を大量に送り込めばカシミール南部の

 

制圧は可能かもしれないがあまりに危険すぎる。

 

決断しようとすると石が不気味に輝く。これは罠かもしれない。

 

 

 

 

和平交渉を探るシャリフ首相から待機の指令が来た。

 

国境で数万のパキスタン正規軍が待機する。

 

カルギルでイスラム武装勢力がじっと息を凝らして待機する。

 

 

 

 

1日が過ぎ二日がたち交渉は決裂した。三日目未明、

 

インド空軍による大規模な空爆が始まった。

 

カルギル周辺からカシミールの峡谷に沿って

 

日夜空爆は続いた。

 

 

 

 

実効支配線を越えれば全面戦争になる。

 

パキスタン側から対空ミサイルを一発でも発射すれば

 

これもまた全面戦争だ。全面戦争は核に直結している。

 

 

 

 

イスラム武装勢力の防空機能はゼロに等しかった。

 

カルギル近辺のミサイルや高射砲はインド軍が持ち去って

 

まったく無防備だ。

 

 

 

 

インドはパキスタンの侵略行為を国際社会に訴えつつ空爆を続行した。

 

仲介役のアメリカはインドに有利に動いた。アメリカは1年前の

 

パキスタン核実験からパキスタンに経済制裁を科していたのだ。

 

 

 

 

シャリフ首相は窮地に立った。カルギルではヒンディー過激派との

 

戦闘が熾烈を極め死者は1000人に近づいた。

 

 

 

 

カルギル南のスリナガル山麓に集結するインド軍は10万を超えた。

 

60発のミサイルはインド各地からパキスタン全土に照準が定めてある。

 

 

 

 

パキスタン側のミサイル「ガウリ」25基も発射準備は完了していた。

 

核弾頭搭載の可能性は大だ。実効停戦ラインからパキスタン側にも

 

6万を超える正規軍が待機していた。

 

 

 

 

日一日とカルギル北部の空爆は激しさを増しヒンディー過激派の

 

襲撃が激化していった。

 

 

 

 

カルギル占領部隊イスラム過激派の総指揮官はウサマだった。

 

独立派のリーダーとしてカルギルを拠点にテロを指揮し

 

パキスタンからのイスラム戦士を導きいれて一大勢力になっていた。

 

 

 

 

5月10日パキスタンからのイスラム武装勢力一万を迎え入れて

 

カルギルを制圧したが町はもぬけの殻で全く抵抗らしい抵抗はなかった。

 

空爆開始とともにヒンディー過激派が潜入してきた。

 

 

 

 

このころムシャラフは東部戦線司令部にいた。

 

右ポケットの小石は小刻みに震え続けている。

 

戦況が緊迫してくると振動と不気味な輝きは確実に増大した。

 

 

 

 

首相官邸と数分ごとに連絡はとっている。

 

シャリフ首相は開戦と同時にアメリカに連絡を入れた。

 

開戦時期はムシャラフ総参謀長に一任していたが

 

それは5月10日未明であった。

 

 

 

 

イスラム過激派を合流させカルギルを制圧したところで

 

停戦交渉に持ち込むという作戦であった。

 

ミサイルを配備し大量の正規軍を国境沿いに待機させて

 

おけばインド軍もおいそれとは手出しはできまい。

 

 

 

 

アメリカはインドに自制を促し国連でパキスタンの侵略

 

であると認めさせた。シャリフは条件次第でイスラム

 

過激派は撤退させるとアメリカとの交渉に入った。

 

 

 

 

交渉は難航し日増しに空爆とヒンディー過激派のテロが

 

激化していった。1ヶ月がたってやっと停戦合意に達した。

 

過激派同士の戦闘で1000名以上が戦死し、

 

ついに撤退命令が下った。

 

 

 

 

独立派にもパキスタン領への正式な撤退命令が下った。

 

独立派の指揮官ウサマは怒り心頭に達した。

 

裏切られたのだ。パキスタンにもアメリカにも。

 

 

 

 

アメリカとの交渉のためにカシミールは利用された。

 

アメリカはインドとパキスタン両国と取引をしたのだ。

 

 

 

 

ウサマは悩んだ。自爆すべきかとどまるべきか?

 

はたまたパキスタンのイスラム武装勢力と合流すべきか。

 

 

 

 

ムシャラフ総参謀長はウサマを将軍として正規軍に迎える

 

と約束していた。しかし数日後ウサマは10数名の腹心と

 

ともに行方をくらました。「イスラム戦士よ永遠なれ!

 

アメリカに死を!」という言葉を残して。

 



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9.11-1

こうして最終戦争の危機は回避された。だがしかしそれは

 

また新たなる不毛の大掛かりなテロ戦争の幕開けでもあった。

 

 

 

 

7月には撤退を完了しイスラム武装集団はパキスタンにとどまった。

 

カシミール独立派の一部は地下に潜みまた過激なイスラム戦士は

 

国際テロリストとして欧米諸国へと散っていった。

 

 

 

 

指導者オサマを失ったカシミール独立派は軍部反シャリフ派と連携し

 

て軍事クーデターを起こしこの年の10月ついにシャリフ首相を解任した。

 

 

 

 

すぐさまムシャラフ総参謀長を首相にという声が上がったがムシャラフは

 

固辞した。ナムストーンの微妙な輝きの変化が首相就任を辞退させ続けた

 

のだ。それでも実権は着実にムシャラフに集中していった。

 

 

 

 

そしてついに21世紀、2001年6月にムシャラフは大統領に就任した。

 

すべての公的行事を終えて3ヶ月、大統領府最上階の祈りの部屋で

 

久方ぶりに至福の時を過ごした。

 

 

 

 

その日もカシミールを望む山並みは美しく9月の空はすがすがしく冴えわたり

 

火をつけたばかりの煙草の煙を大きく吐き出したその時だった。

 

右ポケットの石がにわかに大きくバイブレーションを起こした。

 

 

 

 

「ナムストーン、ナムストーン、ナムストーン・・・」

 

一度目はインドの核実験の時二度目は自らが核実験の

 

ボタンを押した時だった。

 

 

 

 

このバイブレーションは間違いなく何かが起こる前兆だ。

 

必死で祈ったが光は収まらずさらに青黒く輝きと振動を増大

 

させて閃光を放ち黒くて重い塊になってしまった。

 

 

 

 

何かが起きた。人類生命を脅かす何かが起きたのだ。

 

ムシャラフは大急ぎで執務室へ駆け降りた。

 

すべてのモニターが同じ映像を流している。

 

 

 

 

アナウンサーが絶叫する。

 

「ニューヨークの貿易センタービルに旅客機が激突し炎上しています。

 

飛行機丸ごとの自爆テロのようです。あ、またもう1機が突っ込みました」

 

 

 

 

「こちらペンタゴン。旅客機が炎上しています」

 

「旅客機2機がハイジャックされた模様」

 

「混乱しています。ニューヨークセンタビルに2機の旅客機が激突炎上

 

しています。ああ、中層から崩れ落ち始めました。最悪です、

 

センタービル崩壊です」

 

 

 

 

ムシャラフはウサマのあのひげ深い面長な冷徹なまなざしと、イスラム

 

よ永遠なれアメリカに死を!という言葉を思い出した。

 

 

 

 

『ただではすまん。これは戦争だ。国際テロとの戦いを宣言する』

 

 

 

 

すぐにアメリカ大統領からのメッセージが届いた。テロリストによる

 

アメリカへの宣戦布告と見なす。国際テロとの戦いに加わるように

 

との内容だった。

 

 

 

 

ほどなく首謀者はウサマであると断定された。

 

しかもアフガニスタンのタリバンがかくまって

 

いることが判明したのだ。

 

 

 

 

あのオマル教師率いる神学生イスラム原理集団

 

がほぼアフガン全土を支配している。ムシャラフ

 

は以前からタリバンを支援し続けててきた。

 

 

 

 

だが大統領となった今はすでにウサマとは

 

カルギル戦で決別し今は決断の時だ。

 

 

 

 

12月に入って5人の武装グループがインド国会

 

を襲撃した。数十名の死者が出てインドはこの

 

グループをイスラム過激派と断定しパキスタンと

 

 

 

 

インドの対立は一層激化した。両国合わせて数十

 

万人規模の軍隊が実効支配線付近に投入された。

 

 

 

 

ムシャラフは決断した。国際的な反テロ機運の

 

高まりの中でタリバンと決別することを。

 

 

 

 

 

しかしということはカシミールのイスラム武装

 

勢力とも手を切ることになる。そして自らがテロ

 

の標的になることを意味しているのだ。

 

 

 

 

アメリカはこれを歓迎した。パキスタンへの

 

経済制裁もこれを機に完全解除された。

 

 

 

 

そうしたある晩ムシャラフは不思議な夢を見た。

 

ナムストーンナムストーンと叫びながら空を

 

どんどん上昇していく夢だ。

 

 

 

 

宇宙からちっぽけなわが国土をじっと見下ろし

 

ている自分がいる。俺はいったい地上で何をして

 

いるんだろうと考えながら飛んでる自分がいる。

 

 

 

 

さらに上空に舞い上がって国境も何もわからない

 

青い地球がそこにはあった。かけがえのない地球

 

 

 

 

宇宙と同じ心を持つ宇宙、わが心生命とはいったい

 

何だ、生きてるって何だと思うとすさまじい感動が

 

背骨を突き抜けて湧き上がってきた。

 



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9.11-2

ムシャラフはうっすらと額に汗を浮かべ現実に目覚めた。

 

小鳥のさえずりも淡い太陽の日差しもすべてが新鮮だった。

 

何かがムシャラフの奥底で変化した。

 

 

 

 

日ごとに見るものすべてが慈しみの対象となってきた。

 

実務は変わらず多忙ではあったが心にゆとりができた。

 

ナムストーンが心のありようをそのまま表すこともよく分かった。

 

 

 

 

ナムストーンと唱えると石も心にも生命力がわいてくることを

 

何度も経験した。そうしたある日パソコンの掲示板に、

 

 

 

 

「不思議な石をお持ちの方いませんか?今度激しく振動し

 

青黒く輝いたら必死でナムストーンと祈ってください。

 

詳しいことは下記まで御連絡ください」

 

 

 

 

「ナムストーンだって!」

 

ムシャラフは驚いた。あの石と出会ったとき無意識に口をついて

 

出た言葉が”ナムストーン”だったが、不思議な一致だ。

 

 

 

 

世界ではもうかなり存在するのかもしれない。今度輝いたら

 

ということは、この9月に世界中でこの石は輝いたに違いない。

 

必死で鎮めようとしたが静まらなかった。

 

 

 

 

これからもこのようなことが起こりうるということだ。

 

ムシャラフは大きくゆっくりとため息をついた。

 

 

 

 

ほどなくアメリカはアフガニスタンの空爆を開始した。

 

タリバンの掃討とウサマのあぶり出しのために連日

 

空爆とミサイルを撃ち込んだ。

 

 

 

 

地下深くを破壊する新型爆弾も投入された。

 

タリバンは降伏したがそれでもウサマは現れなかった。

 

 

 

 

ムシャラフはナムストーンが小刻みに震え続けている

 

ことを知っていた。不気味に青黒く輝きを増していた。

 

このアフガンから不穏な動きが始まっているようだ。

 

 

 

 

ムシャラフは基地をアメリカに開放しタリバン攻撃の

 

さなかである。パソコンに向かう暇はなかった。

 

パキスタン領内のイスラム過激派の中にはまだ

 

たくさんのタリバン支持者がいるのだ。

 

 

 

 

アフガン攻撃が長引くにつれムシャラフは不眠不休で

 

イスラム戦士と将軍たちをなだめに回った。

 

 

 

 

身も心も疲れ果てて官邸でぐっすり眠りこんだ

 

ムシャラフに真夜中ついにバイブレーションは起きた。

 

 

 

 

階上の小部屋に駆け上がり大声でナムストーンを叫び続けた。

 

30分間大きく震えたり青白く輝いたり閃光を放ったりしていたが、

 

必死で祈るとパッと明るい光を放って乳白色の美しい石に戻った。

 

 

 

 

「今回はうまく危機を回避できたようだ。

 

ナムストーンメンバーに連絡してみよう」

 

 

 

 

「はい、こちらは日本のオサムオサナイです。

 

今回は危機が回避できました。イラクでの

 

核発射を阻止することができました。

 

間もなく詳しい情報を送ります」

 

 

 

 

実はこの時イラクではとんでもないことが起こっていた。

 

一国の独裁者が判断を誤ったとき、それは

 

全人類の死滅を意味するのだ。

 



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イラク1

この年も暮れ12月24日未明に2回目の大バイブレーションが起きた。

 

はたして各国のナムストーンと光る石も不気味に輝き始めていた。

 

 

 

 

オサムオサナイは確認した。直ちに唱題に入る。テキサスのドナルドも

 

ナムストーンを唱えていた。おじさんに電話を入れる。

 

 

 

 

「おじさん、10分でも結構です。どこかでナムストーンを唱えてください。

 

ぜひお願いします。何かが起きます。訳は後からわかりますから」

 

 

 

 

全世界の数少ない光る石とナムストーンはますます不気味に輝いた。

 

十数人のナムストーンメンバーは必死でナムストーンを唱え続けたのだ。

 

 

 

 

ちょうどそのころイラクの国境沿いと首都バグダッドはあわただしかった。

 

しかもそれは秘密裏にあわただしかった。ヨルダン国境でスカッドミサイル

 

3基が急速移動をしていた。夜8時である。宇宙偵察衛星は30分ごとに

 

天空を巡っている。この30分で決着をつけなければすべてが水の泡になる。

 

 

 

 

バグダッドのイラク国防省作戦室にはフセイン大統領以下政府首脳が勢ぞろい

 

していた。シェルターから出てきた大型スカッドミサイルにはその先端に

 

小型原爆が搭載されていた。定位置に3基並んでミサイルは角度を西方45度

 

イスラエルの各都市にセットされていた。

 

 

 

 

バグダッド作戦室のフセインは発射準備完了を確認すると

 

第一基目の発射を直ちに命令した。作戦室最前列の高官が

 

赤いボタンをぐっと押した。

 

 

 

 

ところがミサイルは発射されない。国境のミサイルは空を見上げたままだ。

 

連絡が入ってあわただしくミサイル周辺機器を点検し始めた。

 

5分後フセインは二基目の発射を命令した。

 

 

 

 

歴史的なイスラムのユダヤへの核攻撃の瞬間は克明にビデオに写し

 

取られている。イスラムの英雄サダムフセインの決定的瞬間、

 

しかしこれも発射しない。

 

 

 

 

フセインは司令塔から降りてくると第三基目の赤いボタンの前に立った。

 

カメラに向かい握りこぶしを作って全国民に訴える。

 

ついにフセイン自ら第三基目の赤いボタンを押した。

 

 

 

 

決定的瞬間はそれでも起きなかった。

 

唖然として空を見つめるサダムフセインイラク大統領。

 

 

 

 

ヨルダン国境では午後8時30分、あわただしく3基のミサイルの

 

再チェックがなされていた。原因はいまだ全く不明だ。

 

バグダッドの緊急指令で発射は中止直ちにシェルターへ帰還せよ、

 

とのことだったがその混乱ぶりは激しく慌ただしかった。

 

 

 

 

天空の偵察衛星はそれを見逃さなかった。克明に追跡アプローチ、

 

ズームアップされて直ちにペンタゴンCIA情報分析局へ。

 

国防省から大統領へ緊急連絡が入る。

 

 

 

 

「イラクが軍事行動を開始しました。ヨルダン国境に3基の

 

スカッドミサイルが慌ただしい動きをしています」

 

 

 

 

映像と国防省長官からの詳しい説明が入る。中東キプロス、

 

トルコ、サウジアラビア、クェートの米国軍、ペルシャ湾の

 

空母エンタープライズ、米国3軍は直ちに臨戦態勢に入る。

 

 

 

 

大統領の一言の命令で戦闘開始である。1991年の湾岸戦争でも

 

壊滅できなかったフセイン体制、テロの温床、父の代からの仇敵。

 

休戦協定に違反して国連の核査察をこの数年ずっと拒み続けてきた

 

サダムフセインはいったい何をしようとしているのか?

 

 

 

 

スカッドミサイルの動きはまさに異常であった。

 

大慌てでシェルターに身を隠そうとしているのだ。

 

 

 

 

米大統領の決断を高官たちがかたずをのんで見守っている。

 

「大統領ご決断を。イラク総攻撃のご決断を!」

 

 

 

 

大統領が何かつぶやいた。

 

「ナムストーン」

 

「え?ナムストーン?」

 

高官たちが顔を見合わせ一瞬の沈黙が流れる。

 

 

 

 

大統領が声を発した。

 

「ちょっと待ちたまえ諸君!総攻撃は中止だ!」

 

とその時緊急直接電話が入った。

 

 

 

 

バグダッドに潜伏中のCIA局員から大統領に直接電話だ。

 

電話の声は諜報員らしからず興奮してかん高かった。

 

 

 

 

「大統領!たったいまイラクのサダムフセインが自殺しました!

 

イラクのフセイン大統領がピストル自殺しました。確実な情報です。

 

フセインはたった今バグダッドの国防省内作戦室にて自ら

 

 

 

 

短銃を口内に向け発射し自殺しました。即死です。ビデオ映像を

 

送ります。さらに重大な発表があります。3基の核弾頭を積んだ

 

スカッドミサイルがこれもたった今ヨルダン国境沿いのシェルター

 

にて3基とも反フセインの部隊によって拘束されました。

 

 

 

 

繰り返します。イラクフセイン大統領はたった今バグダッドの

 

国防省内作戦室にて核を搭載した3基のスカッドミサイルの発射に

 

失敗し反フセイン高官メンバーによって取り囲まれ、銃を抜いて

 

 

 

 

対峙する形になりましたが、フセイン側の高官全員が降伏すると

 

同時にフセインは手に持った短銃を口内に突っ込み、自ら発射して

 

即死しました。今現場の映像が送られていると思います。

 

 

 

 

もう一度繰り返します。イラクのフセイン大統領が自殺し

 

フセイン体制はたった今崩壊しました・・・・・・・・・」

 



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43話

米国大統領ジョージブッシュはナムストーンと低くつぶやいて

 

どっかと椅子に腰を下ろした。一呼吸おいて再び立ち上がると、

 

唖然として立ち尽くしている高官たちをゆっくりと見回して、

 

おもむろに威厳をもって指令した。

 

 

 

 

「イラク攻撃態勢は直ちに解除し通常配備に戻すこと。次に

 

サダムフセインの死亡を確認しこのビデオを全世界に公開

 

すること。イラクの民主化勢力を支援し速やかに新政府を樹立

 

すること」

 

 

 

 

そして小さくつぶやいた。

 

「ふーむ、これだったのか、ドナルド」

 

 

 

 

      ーーーー

 

そのころオサムオサナイはひたすらナムストーンを唱えていた。

 

石は真夜中に激しくバイブレーションを起こしたままで

 

ずっと不気味に輝いていたからだ。

 

 

 

 

ところが明け方ピカッと閃光を放って振動はぴたりと止まった。

 

徐々に色はピンクに変化し再びドクンドクンと波打った。

 

 

 

 

『このピンクはあの時の・・・』

 

一息大きくついてオサムは大文字の夜のあの大きな瞳を思い出した。

 

その時である。テレビの画面に臨時ニュースが流れた。

 

 

 

 

「臨時ニュースをお知らせします!」

 

画面はフセイン自殺の瞬間をとらえていた。

 

 

 

 

「日本時間午前2時40分、イラクのフセイン大統領が

 

政府高官の面前で短銃で自殺し、フセイン政権は崩壊しました。

 

反フセイン民主勢力が臨時内閣を樹立し、まもなく

 

臨時政府による記者会見が行われます。くりかえします。

 

 

 

 

イラクのフセイン大統領はイスラエルへの核攻撃に失敗し、

 

バグダッドの作戦司令室にて短銃により自殺しました。この

 

映像がその時の映像です。間もなく新政府による記者会見が

 

始まります。核攻撃失敗の詳しい内容はまだわかりません・・」

 

 

 

 

もしかしたらこれだったのかもしれない。今回の祈りは成功した!

 

そう信じよう。その時ドナルドからメールが入った。

 

 

 

 

「ジョージおじさんから連絡あり『ドナルド本当にありがとう。

 

ナムストーンを信じるよ。これからもよろしく!』」

 

 

 

 

ほどなく緊急記者会見が始まった。全世界が緊張する。

 

「イラク新政府は次の新事実を映像とともに全世界へ公開する。

 

 

 

 

(1)フセインは核弾頭を積んだスカッドミサイル3基を

 

イスラエルへ向けて12月24日午後8時発射準備を完了させた。

 

 

 

 

(2)第1基目第2基目も発射に失敗し第3基目は自ら発射ボタン

 

を押した。失敗の原因はいまだに全く不明である。

 

 

 

 

(3)失敗確認後3基のスカッドミサイルを即座にシェルターに

 

移動したがこれらはすべて衛星に探知され、もしこの時攻撃されて

 

いればイラクは国内で核の自爆となっていた。国連軍、なかんずく

 

 

 

 

米国の自制に新政府は全イラク国民を代表して感謝する。今この

 

核はシェルター内に新民主政府軍の管理下で厳重に確保されている。

 

できるだけ早い時期に国連に手渡したいと願っている。

 

 

 

 

(4)フセインが核攻撃失敗を悟った瞬間、作戦室内に緊張が走った。

 

フセインを囲んで副官が3人さらにその周りを他の高官15名が取り

 

囲んだ。全員手に短銃を持って10数秒対峙した。副官3名が短銃を

 

 

 

 

床に落とすと同時にフセインは自らの口内に短銃を突っ込み瞬時に発射

 

した。弾丸は口内から小脳を貫通し即死であった。ビデオはすべてを

 

記録している。フセインがイスラムの英雄となるべくカメラはセット

 

 

 

 

されていたのだが、まさかの失敗で逆にすべての事実を映像として

 

記録されることとなった。

 

 

 

 

(5)新政府はいまだ未熟でイラク国民は貧困にあえいでいる。われ

 

われ新政府は全世界に向けて一日も早い民主化と自由化の促進をここに

 

宣言する。願わくば理解ある先進諸先輩国からの絶大なる支援を

 

心の底より切に要望する次第である。以上」

 



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各地で

それ以降ぽつぽつと光る石が発見されていった。

 

12月24日初夏のクリスマスイブの日、南半球

 

ブラジルアマゾン川の中流の大都市マナウスは大雨だった。

 

 

 

 

環境資源研究所の所長サントスグランデは雨の中

 

不気味に光る石を研究所の原生林の林の中で見つけた。

 

雨具を身に着けぬかるみを見回りをしていた時だ。

 

 

 

 

恐る恐る眺め言っているうちにピカッと光ってピンク色に

 

変化した。徐々に輝きは落ち着いてきて白っぽい普通の石に

 

なってしまった。そっと手で触れてそのまま持ち帰った。

 

 

 

 

ペルーではピクニックの家族が牧場の池の中に輝く石を発見

 

して大騒ぎになりパトカーまで出動した。チリでは教会の

 

裏の薄暗い墓地の中で不気味に輝く墓石を司祭が発見、

 

 

 

 

神の祟りかと恐れおののいたがよく見ると墓石の後ろの丸い

 

小石が光り輝いていたのだと分かった。やはり大きく輝いて

 

ただの小石になってしまった。司祭はその石を持ち帰り

 

マリア像の下に安置して十字を切った。

 

 

 

 

南アフリカではダイアモンドの採掘現場や鉱山でそのまま

 

持ち帰った人もいれば博物館に届けた人もいた。フィンランド

 

ではビバーク中の登山家が氷河に輝く不思議な石を持ち帰った。

 

 

 

 

 

オサムオサナイは時を感じた。光る石が各地で発見されだしたということは

 

ナムストーンも各地で活性化し始めているはずだ。オサムは

 

再び大々的にタイトルキャンペーンを張った。

 

 

 

 

「アンビリーバブルストーン!ドンチュウノウ?」

 

 

 

 

予想通りかなりの反応がある。オサムオサナイは世界的なナムストーン

 

ネットワークの構築が必要だと感じた。

 

 

 

 

ヨーロッパを中心にキーツがその責任者になった。

 

中東からロシアをケムン、アフリカをナセル、

 

インドとネパールをレイ、中国を雲南の陳、

 

オーストラリアをポール、北米をドナルド、

 

南米をペルーの国立博物館館長のロベルトパッチーノ、

 

そして日本と東南アジアをオサムオサナイが掌握した。

 

 

 

 

まだ空を飛ぶようなことはないが、ナムストーンのマジックワードと

 

石の色彩コントロールの件を実例を交えて新メンバーに伝えた。

 

 

 

 

不思議なことにナムストーンを所持するメンバーは一様に

 

純粋な何かを持っている。個性は各人全く違うがDNAの

 

奥底に共通する清らかな何かがあるようだ。

 

 

 

 

そういう部分は新メンバーにも言えた。よく考えてみると

 

最初の5人もそうだった。ナムストーンによって

 

奥底のその部分は確実に進化していってるようだ。

 

 

 

 

年が明けて3月大英博物館が科学雑誌ネイチャーに

 

光る石の真実(the truth of brightstones)

 

という論文を発表した。

 

 

 

 

所蔵のマラウイから持ち帰った光る石の写真と輝いた

 

記録とその時の世界情勢とを列挙し比較した論文なのだ。

 

 

 

 

反響はすさまじくさらに世界の各地から光る石の発見が

 

なされた。この時「ナムストーン」が公に公開された。

 

 

 

 

ナムストーンの祈りが人類の危機を救うかもしれないと

 

権威ある科学雑誌が発表したのだ。その最後の章で

 

光る石とは別に個別のナムストーンがあることも発表された。

 

 

 

 

これは所持しているものにしか見えないその人の心を如実に

 

表現する不思議な石でナムストーンを唱えることによって

 

心をコントロールできるというものだった。

 

 

 

 

各地の光る石は公開され、個別のナムストーンメンバーには

 

数人のグループによるユニットが生まれ始めてきた。

 

空中遊泳が始まるのは時間の問題だ。

 



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封印

蒸し暑い夜の10時ごろオサムオサナイに国際電話が入った。

 

アンクルジョージからだった。

 

 

 

 

「実はドナルドから昨年のクリスマスイブに電話があって

 

『おじさん!大至急ナムストーンを唱えてください!』

 

というので、会議中30分の休憩をとってトイレで唱えた。

 

 

 

 

理由は後でわかるということだったが、まさかあのイラク

 

の事件、原因不明になってはいるが、あのスカッドミサイル

 

を止めたのは君たちなのか?」

 

 

 

 

「ええ、たぶんそうだと思います。あの当時は光る石が世界

 

でまだ数個、ナムストーンメンバーはわずかに6名でしたが、

 

危機が迫ると石は不気味に輝き始めます。

 

 

 

 

と同時にみんなでナムストーンを唱えて石がピンク色に落ち

 

着けば危機を回避できる可能性は高まります。

 

が、去年の9月11日は警告はあったのですが祈りが

 

間に合わなかったようです」

 

 

 

 

「なるほど」

 

 

 

 

「次回輝いたら直ちに全員で祈ろうと約束して12月24日

 

にすさまじいバイブレーションが起きました。この時は全員で

 

祈りに入りました。おじさんにも祈っていただきましたね。

 

 

 

 

そのあとの政変はわれわれにはあまり関係ないと思われます。

 

次にまたこのような危機が起きた時には大統領に

 

陣頭指揮を執ってもらえるといいんですが」

 

 

 

 

「なるほど、よくわかったよ。いろいろとよく考えてみよう。

 

個人の努力次第でナムストーンの能力が開化できれば人類の

 

悪しき宿命も転換できるはずだからな」

 

 

 

 

今後連絡を密にすることを確認してアンクルジョージは電話を切った。

 

 

 

 

このころナセルは実業家として東奔西走していた。

 

それでも天文学会誌には毎月隅々まで目を通していた。

 

 

 

 

今月号の片隅に先月号の訂正記事が出ていた。ナセルは

 

なぜかそれがすごく気になっていた。

 

 

 

 

「先月号の最終ページの三行報告の中でハワイキラウェア

 

天文台が発表した『3年後の8月に地球に巨大隕石が衝突

 

かも?』という記事は、再計算の結果全くの誤りであった

 

ことが判明しました。訂正し謹んでお詫びいたします」

 

 

 

 

先月号を確認してみると、最終ページの各地方天文台報告

 

の中で、確かにあった。

 

 

 

 

「3年後の8月15日に巨大隕石地球に衝突の可能性80%、

 

ハワイキラウェア天文台」

 

 

 

 

ナセルは直接キラウェア天文台に電話を入れてみた。なか

 

なかつながらない。やっとつながるといきなり怒鳴られた。

 

 

 

 

「今言ったじゃないですか、リック天文台とローウェル天文台

 

では確認できたといってますが、キットピーク天文台とパロマ

 

山天文台ではまだ未確認だそうです。オーストラリアのストロ

 

ムロ天文台も確認してます。英国のグリニッジ、日本の野辺山

 

とも今連絡をとってます。現在再計算中ということです!」

 

 

 

 

と言って一方的にガチャっときられた。これは何かある。再度

 

かけなおしたが二度とつながらなかった。本来なら「ご迷惑を

 

おかけしてすみません」で済むところだ。

 

 

 

 

本能的にナセルは何かを感じてオサムオサナイに詳細に報告した。

 

 

 

 

その数日前にオサムオサナイのところにはレイ、キーツ、

 

ケムンからの研究報告が届いていた。

 

 

 

 

レイからは仏教の神髄法華経の中に人の仏性を信じてひたすら

 

礼拝行に徹した菩薩の話があるとか。東天に向かって「ナムミョウー」

 

と唱える教団がこの50年間で飛躍的に拡大しているとかの報告だった。

 

 

 

 

「東天に向かってナムストーンか・・・」

 

オサムは東の空を見上げた。

 

 

 

 

キーツからの報告はミイラだった。

 

過去のミイラの中に先祖返りというのがあって

 

三つ目のミイラがあったという記録が

 

ドイツの図書館に残っている。

 

 

 

 

骨相学の権威ルーマニアのドラアキラ医学博士のところ

 

には旧石器時代からの三つ目の頭がい骨が三体現存する。

 

 

 

 

ケムンからの報告では人類が類人猿として猿類と決定的

 

に分岐した時点から最古の骨格遺跡発見までの間には

 

数十万年の謎の期間がある。

 

 

 

 

最終氷河期の時期を挟んで文明発祥の時期との数十万年

 

の間の遺跡や記録は謎が多く数も少ない。

 

 

 

 

確かにメキシコやユカタン半島のアステカ、オルメカ

 

以前の文明、ペルーのマチュピチュ以前の文明、ナスカ

 

の巨大地上絵や最近続々と発見される海底古代遺跡など、

 

 

 

 

その遺跡の壁面には謎の三つ目や宇宙線らしき舟の絵柄

 

が必ずと言っていいほど克明に描かれている。

 

 

 

 

ムー大陸やアトランティスの物語はプラトンの記述以前から

 

その事実は数千年にわたり口承されてきたものだ。

 

 

 

 

とするならばノアの箱舟やリグベーダや中国の古書の

 

記述から人類は共通の大天変地異を経験しているのだ。

 

 

 

 

それでも地球誕生からの数十億年に比べれば数万年前の出来事だ。

 

それが遺跡に刻まれていることは間違いない。

 

 

 

 

地球を2億年ほど席巻した恐竜は6500年前の小惑星衝突によって

 

絶滅したといわれている。それは間違いないだろう。

 

核爆弾数千発分の衝撃だったといわれている。

 

 

 

 

それでも地球は生き残った。人類は一万年年前の氷河期を生き延びて

 

この数千年で地球的規模で繁栄しているように見える。

 

いつ何かで絶滅しても何の不思議もないのだ。

 

その兆しを今この時見過ごしてはならない。

 

 

 

 

ケムンの報告を確認しえた時ナセルからの連絡が入った。

 

「キラウェア?」

 

オサムオサナイは思わず小声で叫んだ。

 

何かが地球的規模で起きようとしている!

 

その時オサムのナムストーンは薄紫に輝いた。

 



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予兆

太陽から何兆キロメートルも離れた冥王星の外太陽系宇宙の果てに

 

数千億個の彗星の巣があるという。

 

 

 

 

この太陽を中心とする一番外側の辺境の彗星雲オールトの中で

 

ほとんどの彗星のもととなる星が一生をかけて極寒の暗黒空間の中を

 

ゆっくりとゆっくりと太陽の周りを公転している。

 

 

 

 

今から230万年前のある日この中の一番大きな星がことりと太陽

 

に向かって落ち始めた。大宇宙の瞳が遠い地球という美しい星に

 

憐みの瞬きを送ったからだ。

 

 

 

 

この星は230万年の長旅を経てやっと惑星のいる領域にたどり着いた。

 

土星から木星にかけてその強力な引力で軌道が捻じ曲げられて、火星

 

から地球への直撃コースに定まった。

 

 

 

 

まだ地球上の誰も気が付かない。黙々と太陽接近への道のりを進んで

 

くる。この星が火星と木星間の小惑星群に突入したときはじめて探索機

 

に探知された。

 

 

 

 

そしてそれはじわじわと宇宙の光と影の中を縫うように地球に接近して

 

いた。地球の数十倍の容積を持つその巨大ガス状彗星は急速に濃縮拡散

 

を繰り返しながら、

 

 

 

 

あたかも天空のアメーバのように地球を目指していた。

 

その軌道は狂うことなく地球を一直線に貫いていたのだ。

 

 

 

 

6月に入って京都はうっとおしい梅雨に入った。

 

その日も蒸し暑い曇り空だった。

 

オサムオサナイは胸騒ぎを感じて石を見た。

 

今日の梅雨空のように暗く沈んでいる。

 

 

 

 

ナムストーンと囁くと申し訳なさそうに

 

僅かばかり明るくなるだけだ。そのとき、

 

ナセルからメールが入った。

 

 

 

 

「ハワイのキラウェア天文台に電話が通じません。

 

ハワイのメンバーに動いてもらってはどうでしょうか?」

 

「了解しました。すぐ連絡をとってみます」

 

 

 

 

確かにキラウェアには全く通じない。

 

ハワイにはすでに数十人のメンバーがいて

 

中心者のカメハメハはハワイ大学のメンバーとともに

 

5人で空中飛行をたびたび繰り返している。

 

 

 

 

キラウエアには光る石もある。さっそくカメハメハに

 

動いてもらったが、天文台はすでに米国海軍によって

 

封鎖されているとのことだった。

 

 

 

 

オサムオサナイは全世界200か国の中心メンバーと

 

大英博物館を通じて350か所の光る石所持者に向けて

 

緊急連絡第一号を発した。

 

 

 

 

「近いうちに地球規模での大事件が発生しますので、心して石を

 

見守っていてください。少しの変化でもあればみんなと連絡を

 

取り合い全世界にナムストーンの渦を巻き起こしていきましょう」

 

 

 

 

その頃世界各地の大型望遠鏡を持つ天文台はすべて各国の軍隊に

 

よって封鎖されていた。

 

 

 

 

アメリカ合衆国、ニューヨーク国連本部、ペンタゴン、ホワイトハウス

 

はこの日厳しい報道管制がしかれた。

 

 

 

 

「公式発表はまだ先だ。押さないで押さないで。今再分析中だから

 

発表までもう1日かかります。まだ不必要に騒がないでください!」

 

 

 

 

世界各国のマスコミは一様に息をひそめその時を待った。

 

丸一日がたった。6月10日未明、国連から全世界に向けて

 

重大発表がなされた。

 

 

 

 

「全世界の皆様へ緊急連絡です。こちらは国連事務総長のアナン

 

ムサバキです。これから全世界の良識ある皆様へ、驚くべき事実を

 

公開しなければなりません。どうか動揺することなく冷静に対処

 

していただきたいと思います」

 

 

 

 

全世界が注目する一大発表が始まった。

 

 

 

 

「ハワイキラウェア天文台が科学研究誌5月号に『3年後の8月25日、

 

巨大彗星がこの地球に衝突する確率は80%』と報告され、世界中の

 

天文学者が『何という無責任な重大発表を専門誌に流すのだ、至急訂正

 

しろ』という抗議の元再分析をした結果翌月に訂正記事を出しました」

 

 

 

 

ブラジルではサッカーの試合を中断し皆大型スクリーンにくぎ付けに

 

なった。ニューヨークの証券取引所も急落が続き緊急に取引を閉鎖した。

 

 

 

 

「全世界の有名天文台に再度詳細な分析をお願いしました。その集計結果が

 

本日出ましたので発表いたします。グリニッチ時刻8月15日午前1時

 

ガス状巨大彗星が月に衝突引き続き9時間後の午前10時に地球に衝突いた

 

します。確率は99%です。この彗星は濃縮拡散を周期的に繰り返す巨大

 

 

 

 

ガス状彗星で質量はほぼ地球と同じですが拡散したときは地球の10倍の

 

容積になります。計算では月面に衝突時の密度は地球の4倍、地球衝突時

 

が5倍位になります。地球通過時間は約30時間、衝突時にはどうなるか

 

との予測は全く不明であります。どの程度の被害が出るかもわかりません」

 

 

 

 

深夜の渋谷電光掲示板にニュースが流れる。人々は足を止め近くのモニター

 

画面に人垣ができる。バーもクラブも一瞬音楽が鳴りやんだ。

 

 

 

 

「がしかし対策はあります。この後米大統領に詳しい説明をしていただき

 

ますのでご安心ください。真実をありのままに今申し上げました。いまこそ

 

全人類大結束してこの彗星の通過に耐え抜こうではありませんか。それでは

 

引き続き万全なる対策マニュアルをブッシュ大統領にお願いいたします」

 



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SAC1

「ただいま国連のアナン事務総長の重大発表を繰り返します。

 

二か月後の本年8月15日午前10時に巨大ガス状彗星が

 

地球に衝突いたします。

 

 

 

 

約30時間で通過しますが、かなりの障害が予測されます。

 

この間十二分に研究を尽くして当日を迎えたいと思います。

 

分析とマニュアル作成のために発表が遅れたことをお詫びい

 

たします。

 

 

 

 

詳細なる分析の結果、このガス状彗星はほぼ1年前に存在が

 

確認されていましたが、昨年春のケープ天文台発表のものが

 

最初です。

 

 

 

 

銀河系宇宙に最も近いウルトラ第3星雲との中間点に新星誕生

 

と報じられましたが、30日後には消滅さらに30日後に

 

再出現という不可解な新星ということでしたが、

 

 

 

 

その後キラウェア天文台と共同で追跡調査の結果、

 

拡散濃縮を繰り返すガス状単独彗星ということが判明

 

いたしました。

 

 

 

 

さらに今では加速度がついてほぼ間違いなくこの8月15日に

 

地球に衝突します。しかし慌てないでください。

 

 

 

 

これから述べる対処法を確実に守ればこの危機は十分に

 

乗り越えられますので大丈夫です。

 

 

 

 

ちなみにこのガス状アメーバ型彗星のことを

 

SUPER AMEBA COMET(SAC)と表示いたします。

 

それではSAC対処策を発表いたします」

 

 

 

 

全世界に緊張が走る。

 

 

 

 

「まず初めに国連軍のSAC対策です。

 

(1)火星付近に近づくまでの間に探索衛星をSACに衝突させてガスの更なる詳細な

 

分析を行う。今のところN、O、H、Cなどが多く地球の大気と組成が似ている。

 

 

 

 

(2)火星を通過したのちに何らかの手立てを用いて、SACの軌道変更を試みる。

 

核の使用もありうる。

 

 

 

 

(3)月に衝突する前に全地球を覆うバリアを成層圏に作る。

 

 

 

 

(4)通過する30時間の間、このバリアを補強維持する。以上です」

 

 

 

 

ここで緊張が少し緩む。

 

 

 

 

「次に各国市民のSAC対策としては超巨大なハリケーンや巨大砂漠の大規模砂嵐に

 

対応するものと想定できるので核シェルターなどにに30時間こもるしかない。

 

 

 

 

SACが成層圏に入ると一時的に地球の温度が1度ほど上昇する可能性があり水位が

 

上がるので沿岸部は要注意。かなりの電波障害が起こる。絶対に戸外に出ないこと。

 

 

 

 

ガスは今分析中ですので更なる対策が必要とあれば直ちに公開します。

 

今こそ一致団結してこの危機を乗り越えましょう!以上です」

 

 

 

 

続いて各国首脳のアピールが続く。

 

 

 

 

そのころ各地の光る石やナムストーンは

 

バイブレーションを起こし始めていた。

 

 

 

 

石の輝きは低下しおびえている。

 

今回は皆以前から胸騒ぎを感じていた。

 

 

 

 

地球的規模で何かが起こるそれはまさに

 

この発表だったのだ。

 

 

 

 

石がこれだけ反応しているから衝突は免れない。

 

どうやって生き延びるかだ。

 

 

 

 

SACは最大限濃縮すれば地球以上に硬度のある

 

物質になるが拡散すれば磁気嵐程度で終わるやもしれぬ。

 

 

 

 

衝突の衝撃を少しでも避けるには、

 

彗星の軌道を変える努力をしながら大気圏に

 

バリアを張り最大限に拡散させるしかない。

 

 

 

 

そのうえで30時間耐える。

 

イメージとしては煉瓦に豆腐が衝突する感じだが、

 

何が起こるかわからない。

 

 

 

 

あの恐竜が消滅したときのように。

 



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SAC2

オサムオサナイはメンバーに緊急連絡第2号を発した。

 

 

 

 

「みなさん祈ってますか?本日の国連の発表で私たちは地球的

 

規模の大災難とはガス状アメーバ型彗星(SAC)の衝突だと

 

いうことを知りました。戦う相手が明確になりました。

 

 

 

 

相手の軌道を変えるか、大気圏にバリアをはるか、最大限に拡散

 

させるかをなさねばなりません。相当のエネルギーが必要です。

 

更なるメンバーの増加が必須です」

 

 

 

 

せめてメンバーが1億を越えなければそれは不可能だ。

 

ということは、

 

 

 

 

『衝突は避けられない!』

 

 

 

 

このころ世界はパニックになっていた。

 

今月中旬にはSAC探索に行った3基の

 

宇宙衛星が帰還する。

 

 

 

 

最終分析発表は月末だそれではもう遅い。

 

そう考えた人々が自己防衛に走ってパニック

 

が始まった。

 

 

 

 

一気にシェルター作りが加速する。

 

冷戦時代の第三次世界大戦前夜のようだ。

 

 

 

 

開発途上国や軍事独裁国では権力者だけが

 

シェルターを作った。裏社会のグループも

 

秘密裏に壕を作る。

 

 

 

 

多くの人々はなすすべもなく不安を抱えたまま

 

日常を送るしかなかったのだ。

 

 

 

 

いつの時代もそうであるようだ。

 

時代の激流の中で洗い流されるのは

 

人類の大半を占めるこれら弱者だ。

 

 

 

 

今回の大衝突もそうなるのか?

 

オサムオサナイは純真なる弱者を

 

何とか生き残せるすべはないものか。

 

 

 

 

メンバーに緊急連絡第3号を発した。

 

 

 

 

「目標は衝突までに1億人。今月末までに

 

1000万人。現在メンバーは300万です。

 

全力で頑張りましょう!」

 

 

 

 

7月中旬探索器は無事に帰還した。データは

 

直ちに分析されわずか4日で世界に公表された。

 

 

 

 

(1)SACの元素組成比は地球の大気の組成比とほぼ同じ。

 

最大限に拡散状態で突入すればほぼ無害。電波障害が起こる程度。

 

 

 

 

(2)SACは8月15日グリニッチ標準時間午前1時に月に

 

到達し約30分で通過。午前10時に地球に至り約30時間で

 

通過。

 

 

 

 

(3)月衝突と同時に電波障害が現れ、気圧が急速に高まり、太陽

 

の光が微粒子で遮られ氷の嵐に包まれます。マイナス20度の寒波が

 

 

 

 

30時間続きます。オーロラと稲妻雷鳴のとどろく中で人々はじっと

 

氷の嵐が通過するのを待ちつづけなければなりません。

 

 

 

 

コンピューターなどは使用不能になります。特に寒さに不慣れな

 

熱帯地方はこの寒波に注意してください。

 

 

 

 

一時的に海面上昇が起こりますが1mもないものとの予想ですが

 

海辺は十分に注意してください。

 

 

 

 

 

(4)高濃度の氷の砂嵐と磁気嵐が30時間続くという

 

ことですが十分乗り越えられますのでご安心ください。

 

 

 

 

この後詳しいことや最新ニュースを繰り返しお伝えいた

 

しますので国連からの発表はこれでひとまず終わります。

 

 

 

 

オサムオサナイは国連の発表を聞いて何か大切な情報が

 

抜け落ちている気がした。シェルターでも防ぎきれない

 

何かが起こるような胸騒ぎがした。

 

 

 

 

光る石とナムストーンはバイブレーションを増大しているし。

 

輝き具合も今までにないほど青黒く沈み込んできた。

 

 

 

 

それでも一つの救いはこの高まりでさらに多くの光る石と

 

ナムストーンが発見されたということだ。

 

 

 

 

いよいよ8月に入った。衝突まであと2週間。

 

石は合計で800万を超えた。

 

 

 

 

天空がSACの影響で霞がかかったように太陽の光を遮り始めた。

 

 

 

 

この日久しぶりにジョージおじさんから電話が入った。

 

「どうだい?オサムオサナイ。今回は乗り越えられそうかな」

 

 

 

 

「今メンバーは800万人に達しましたが。乗り越えられるか

 

どうかはわかりません。何か大きな情報の欠落があるように

 

思えてならないのですが」

 

 

 

 

「ふむ。もう一度再分析をさせよう。何かあれば公表する。

 

現時点では情報の隠ぺいは人類への裏切り行為だ。

 

ナムストーンも全面公開したいがどうだ?」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

日ごとに天空は暗くなってきた。

 



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バリア

 

 

オサムオサナイは緊急連絡第4号を発した。

 

 

 

 

「今回の国連発表に安心してはいけません。ナムストーンの

 

バイブレーションは高まり、石の色は青黒く打ち沈んだままです。

 

 

 

 

警告は人類の危機を訴え続けたままです。全人類に全く無害で

 

あるならばナムストーン及び光る石は明るく輝きを取り戻すはず

 

 

 

 

ですそれがないばかりか逆にさらにどす黒さが深まっている

 

ということは、間違いなく危機は地球全体人類すべてを滅亡させる

 

 

 

 

ほどの規模のものだと考えざるをえません。

 

気を抜くことなく最大限の緊張をもってこの2週間を耐え抜きましょう!」

 

 

 

 

このころテキサスのドナルドは遊泳を試みていた。5人のメンバーで

 

オサムオサナイに言われたように手をかざしてナムストーンと叫ぶと

 

ふっと宙に浮く。

 

 

 

 

このことはハワイやヨーロッパの各地ですでに試みられていたのだ。

 

ハワイではカメハメハを中心に。

 

 

 

 

ヨーロッパではキーツを中心に各地で空中遊泳が始まっていた。

 

フッセンのお城からスイスアルプス山中にかけて。

 

 

 

 

チューリンゲンの森の上空。ピレネー山脈やアルハンブラの宮殿上空。

 

英国ネス湖近辺。ユトランド半島からスカンジナビアにかけて、

 

 

 

 

5人のメンバーでユニットを組んで天空へと舞い上がる。

 

 

 

 

北アフリカではナセルを中心にピラミッド上空やアスワンダム付近で。

 

中東はケムンが中心者でアテネの神殿上空やカッパドキアで。

 

 

 

 

インドヒマラヤ上空はレイを中心に。中国では雲南省を中心に。

 

南米ではペルーを中心に。オーストラリアではエアーズロックで。

 

 

 

 

5人のユニットの場合には他のユニットとの交信が可能だ。

 

その日グランドキャニオンから飛び立ったドナルドのユニットは

 

 

 

 

モニュメントバレーから飛び立ったインディアン系のユニットと接触

 

した。遠くに姿が見えると耳元で声が聞こえる。

 

 

 

 

「こちらモニュメントインディアナの5名です。3時の方向に上昇中です」

 

 

 

 

「あ、見えました。こちらグランドテキサスの5名ですよろしく。

 

ナムストーン!」

 

 

 

 

5人共通の不思議な会話が成立している。

 

ドナルドはナバホ山を迂回するとキャニオンの方向へ

 

反転した。素晴らしい夕日が沈む。

 

 

 

 

5人が夕日に見とれていたその反対側の宇宙で、

 

大きな美しい瞳が一瞬やさしく微笑んだ。

 

 

 

 

南米ではナスカを飛び立ったユニットが、チチカカ湖

 

を飛び立ったユニットとマチュピチュの上空で接触した。

 

 

 

 

中国では敦厚を飛び立ったユニットがゴビ砂漠上空で

 

北京から飛び立ったユニットと遭遇している。

 

 

 

 

インド、ネパール方面の中心者はレイだった。レイは

 

女性だけのユニットを立ち上げてヒマラヤの上空で

 

インドのユニットと接触している。

 

 

 

 

ついには国境を越えてあちこちで3つ4つユニットが

 

複合的に接触するようになってきた。

 



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アポロジュニア1

 

 

大統領ブッシュは再分析を各研究所に依頼したが、二日後、

 

 

 

 

『探索機からの資料はもう十分に解析された、

 

あとは人類が直接SACに突入してみるしかない』

 

 

 

 

という結論に達した。大統領は決断した。

 

4人乗りアポロジュニアを緊急発進することにした。

 

 

 

 

SACが火星をかすめて地球に近づいてきている。

 

あと10日で月がSACに触れる。

 

 

 

 

この時を期して地上からアポロジュニアを送り込み

 

SACに突入を試みる。

 

 

 

 

SACの密度は中心部も周辺部もほぼ均一だ。これは

 

不思議なことだが探索機が持ち帰った資料で証明されている。

 

 

 

 

これで安全が確かめられれば、人類は心を一つにして

 

30時間SAC通過に耐えればいいということになる。

 

 

 

 

もし何らかの異変が起こればその時は緊急を要する。

 

全人類の英知を絞って大至急対策を考え出すしかない。

 

 

 

 

探索機の分析では楽観的だがナムストーンは危機を警告

 

し続けている。しかもその警告は高まりつつあるのだ。

 

 

 

 

ブッシュはオサムオサナイを信じた。アポロジュニアを

 

飛ばすしかない。ところが、

 

 

 

 

突然のアポロジュニア発信命令で待期していた宇宙飛行士

 

4人がNASAに向かう途中4人とも事故で死亡したのだ。

 

 

 

 

何かがこの作戦を阻止しようとしている。

 

ブッシュは天に向かって叫んだ。

 

 

 

 

「ナムストーン!ナムストーン!ナムストーン!」

 

大統領は直ちに命令した。

 

 

 

 

「予備飛行士を全員集合させよ。その中から

 

私が面接して4人を選ぶ」

 

 

 

 

ところがである。10名いる予備飛行士のうち

 

6名までがけがと病気で入院中だったのだ。

 

集合したのは次の4人のみだった。

 

 

 

 

操縦士のチャーリーはかなり偏屈で無口な

 

イスラエル生まれのユダヤ教徒。24才。

 

 

 

 

情報通信のモハメドは饒舌なアラブ人。

 

イスラム教徒で26才。

 

 

 

 

ジェームズは冷静な英国紳士で何でもこなす。

 

クリスチャン29才。

 

 

 

 

ジャッキーはひょうきんで面白い中国系の仏教徒

 

でメカが専門。23才。

 

 

 

 

何とかこの4人で出発するしかない。

 

無事帰還できればそれでいい。

 

 

 

 

「このメンバーで十分だ」

 

大統領は決断した。

 

 

 

 

「君たちの使命はただ一つ。月の周りをまわって地球に

 

無事帰還してくれればいい。ただし月の裏側でこの

 

ガス状星雲SACに触れてもらう。何か異変があれば

 

 

 

 

直ちに地球と連絡をとって大至急対策を考え出さなくて

 

はならない。その分析と判断が全人類の存亡にかかわって

 

くる。SACに人類で最初に突入する君たちは英雄だ」

 

 

 

 

チャーリーはアポロジュニアを直接操縦できることが夢の

 

ようであった。

 

 

 

 

モハメドはほんとは過激なイスラム教徒だった。いままで

 

なかなか先輩飛行士になれなかったのは秘しても隠し切れない、

 



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アポロジュニア2

独りよがりな危険性がどうしてもにじみ出てくるから、

 

後回しにされ後輩に追い抜かれていったのだ。

 

 

 

 

自分では教官でもいいNASAに残れればと思っていたから

 

こんな幸運はない。一つ間違えば9.11のテロに

 

参加していてもおかしくはない自分を感じていたのだ。

 

 

 

 

ジェームズは典型的な英国紳士でその情報処理能力と判断力

 

は的確だ。あまりに慎重すぎるために予備飛行士のままできた。

 

最初にして最後のチャンスだと思っている。

 

 

 

 

ジャッキーはめっぽうメカに強い。体も強靭で陽気な性格だ。

 

ただ一つ身長が170㎝に満たないために後回しにされてきた。

 

 

 

 

大統領が続ける、

 

 

 

 

「戦いはこれからだ。何か異変が起きたなら失敗は許されない。

 

君たちの正確な情報掌握、分析、判断が60億全人類の生死を

 

分かつのだ。最重要な責務である。覚悟して出発してくれ。

 

万が一判断がつかない異変が起きたならば」

 

 

 

 

皆は真剣なまなざしで大統領を見つめた。

 

 

 

 

「その時は必死でナムストーンと唱えてくれたまえ。以上!」

 

 

 

 

『ナムストーンだって?大統領は気でも狂ったか』

 

とチャーリーは思いつつ顔だけは真顔で大統領を見つめていた。

 

 

 

 

モハメドは、

 

『ナムストーンなんて知らないね。俺にはアッラーがついている』

 

と大統領を睨み返した。

 

 

 

 

ジェームズとジャッキーは二人同時に、

 

「ナムストーン!」

 

と唱えていた。大統領は右手握りこぶしをどんと

 

左胸にあてて、

 

 

 

 

「イエス、ナムストーン、OK?」

 

「ナムストーン、OK!」

 

4人は一応声をそろえてナムストーンと答えた。

 

 

 

 

ガス状アメーバ大彗星SACはさらに詳しく分析された。

 

惑星間をものすごい速度で加速しながら進み、星に近づく

 

と急速にブレーキがかかる。高速移動中は高濃度に凝縮し

 

 

 

 

ブレーキがかかると拡散する。組成は炭酸ガスと水が90%

 

後がN、P、Sの化合物である。いわゆるハレー彗星と同じ

 

組成である。通常の彗星には核というものが存在するが、

 

 

 

 

SACには存在しない。拡散濃縮を繰り返しながら途中の

 

小惑星群を飲み込み吐出しして濃度を高めて進む。

 

まるで天空のアメーバそのものだ。

 

 

 

 

ほうき星のようにケイ酸塩のチリの尾や炭酸ガスイオン

 

のプラズマの尾がないのも特徴だ。ただしほうき星と同

 

じように周囲は水素のコロナ雲に包まれている。

 

 

 

 

木星軌道からははるかに離れていたが、それでも大きくSAC

 

の軌道は押し曲げられた。火星との間の小惑星群に次々と

 

衝突しながら火星をかすめた。この時SACの軌道はさらに

 

 

 

 

捻じ曲げられて地球直撃コースに定まったのだ。SACは

 

なぜ今まで発見されなかったのか?彗星というのは、いきなり

 

現れるから彗星というのだということで発見は難しい。

 

 

 

 

彗星はどこからやってくるのか?それは太陽から何兆キロメートル

 

も離れた冥王星の外、太陽系の果てからやってくる。230万年

 

というとてつもなく長い年月を経て、やっと木星を通過した。

 

 

 

 

このころ初めて存在が確認された。宇宙空間移動中は高濃度の

 

塊になるので高性能望遠鏡でもとらえにくい。心臓の鼓動の

 

ように収縮拡大を繰り返しながらアメーバ彗星は近づいてくる。

 

 

 

 

小惑星と衝突するときは大きく拡大して、その惑星の邪悪な物、

 

醜悪なものを全部吸い取ってしまう、天空のクリーナーでも

 

あるのかもしれない。

 



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アポロジュニア3

そのたびにアメーバ彗星SACは質量を増し不気味に増大する。

 

なぜこの彗星が今地球に向かっているのか?オサムオサナイは

 

直感的に善なるものを感じていた。いつか昔夢で見たのだ。

 

 

 

 

大きな瞳が飛んでくる。宇宙の果てから飛んでくる。邪悪な物

 

を吹き飛ばし、悪い奴らを食い尽くす、正義の星雲!そんな夢

 

を見たような気がする。ついにその星がやってきた。

 

 

 

 

地球までの距離は6000万km。火星とほぼ重なる位置に

 

白い点が肉眼でもはっきりと見えだした。

 

 

 

 

この天空の白星は日ごとに拡大していく。各地の光る石とナムストーン

 

は激しいバイブレーションを続けている。黒く深く沈み込んで

 

不気味な輝きだけがましてきているのだ。

 

 

 

 

ついにアポロジュニアが出発した。60時間で月の裏側へ出る。

 

この時SACとはじめて接触する。その瞬間何事もなければ

 

地球は救われる。

 

 

 

 

ジュニアは月の軌道に入るとすぐに激しく揺れだした。

 

ドライアイスと氷の粒の激しい砂嵐のようだ。

 

 

 

 

稲妻がありとあらゆる方向から光り続け、オーロラが走る。

 

雷鳴と氷の塊が激しく宇宙窓を打つ。

 

 

 

 

(ジェームズ)「ただいま本機はSACに突入いたしました。

 

揺れは激しいですが軌道は保たれています」

 

 

 

 

(チャーリー)「操縦には問題有りません」

 

(モハメド)「かなり大粒のひょうが降っている。超大型の

 

砂氷嵐ってとこか」

 

 

 

 

(ジャッキー)「メカも以上ありません」

 

(ジェームズ)「何とか外に出てみようと思います」

 

(宇宙センター)「危険はないか?」

 

(ジェームズ)「外に出てみなければわかりません」

 

 

 

 

(センター)「それが使命だ」

 

(皆)「それが使命です!」

 

(ジャッキー)「是非やらせてください!」

 

(センター)「OK!幸運を祈る!」

 

 

 

 

(ジェームズ)「ジャッキー、準備はOKか?」

 

(ジャッキー)「準備完了!」

 

(ジェームズ)「みな、準備はOKか?」

 

(皆)「準備完了!」

 

 

 

 

ジャッキーがジュニアの外に出た。

 

 

 

 

(ジャッキー)「すごい砂嵐です。いや、ひょう、氷の粒の嵐です。

 

宇宙服がぼこぼこと音を立ててへこんでますが突き抜けるほどでは

 

ありません。直径1cm位の粒です。稲妻がくまなく光っています。

 

 

 

 

嵐です。風速は40mくらい。微妙な黒い光る粒が混じって

 

います。稲妻が光るとパッと変色して虹色に輝きます」

 

 

 

 

ジュニア内のモハメドが呟いた。

 

 

 

 

「オーロラの氷の嵐というのが実態か。月でこの程度だったら、

 

地球上ではもっと拡散しているはずだから、30時間なんとか

 

耐えられるかもしれないな」

 

 

 

 

外のジャッキー、

 

 

 

 

「何か音が聞こえます。風の音のような。どこが中心かわかり

 

ませんが渦が巻いています。その中で全く異質な音が聞こえます。

 

圧力が高まってきました。ものすごい圧力です。キーンという音

 

に変わりました。めまぐるしく目が回ります。ああっ!」

 

 

 

 

(ジェームズ)「戻れ!ジャッキー!」

 



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アポロジュニア4

 

 

(チャーリー)「私が外に出ます!」

 

(ジェームズ)「いやいい。ジャッキー!」

 

(ジャッキー)「ナムストーン、ナム・・・」

 

(ジェームズ)「ジャッキー!聞こえるか?」

 

 

 

 

(ジャッキー)「こちらジャッキー。大丈夫です。

 

周りが明るくなりだしました」

 

(ジェームズ)「早く戻ってこい!」

 

 

 

 

(ジャッキー)「あ、嵐がやみました。淡いピンク色で

 

心地よく輝いています。何か見えます、天空一杯に。

 

瞳です。大きな瞳です。何かとても心が落ち着いています。

 

ふわっと雲に浮いているみたいです」

 

 

 

 

(ジェームズ)「早く戻ってこい!ジャッキー!」

 

(ジャッキー)「キャプテン。眠たくなるほどいい気持ちです。

 

何か聞こえてきました。天使の歌声のようです」

 

 

 

 

(ジェームズ)「何を言っているのだジャッキー?窓から見ると

 

外はすごい嵐だぞ。どこにいるのだ?声は間近に聞こえるのに」

 

 

 

 

(ジャッキー)「ZZZZZZZ」

 

(ジェームズ)「眠るなジャッキー!もどってこい!」

 

 

 

 

(センター)「なにかおきたのか?」

 

(ジェームズ)「ジャッキーが外で。しばらくお待ちください」

 

(ジャッキー)「今そちらに戻ります!」

 

 

 

 

ジャッキーがそう言った直後にジュニアが大きく揺れた。

 

船内の圧力が急速に高まってきた。稲妻が走り、

 

オーロラが舟を取り巻く。すごい圧力だ。

 

 

 

 

(ジェームズ)「みな、大丈夫か?」

 

(チャーリー)「頭がキーンとする」

 

(モハメド)「目が回る、目が回る」

 

(ジェームズ)「ナムストーン!ナムストーン!」

 

 

 

 

アポロジュニアの周りのオーロラは消え揺れも止まった。

 

ゆったりと雲の上に浮かんでいる。

 

 

 

 

雲はピンクに輝き、天空には大きな瞳が見える。

 

天使の歌声が聞こえてくる。

 

 

 

 

ゆったりと眠っているジェームズ。

 

ハッチからジャッキーが入ってくる。

 

 

 

 

(ジャッキー)「はーい、キャプテン。ただいま戻りました」

 

(ジェームズ)「お帰りジャッキー。どう?ハッピー?」

 

(ジャッキー)「イエス、ベリーハッピー!

 

チャーリーとモハメドは?」

 

 

 

 

二人は操縦席にうつ伏せているチャーリーの肩をたたいた。

 

ぐらっと振り向いたチャーリーは死んでいた。

 

 

 

 

両眼をカッと見開いて眉間から打ち抜かれたように丸い穴

 

が開き、血が流れ出ている。モハメドも同じだ。

 

 

 

 

(二人)「チャーリー?モハメド?」

 

 

 

 

(センター)「キャプテン!何が起きたのか報告してくれ!」

 

 

 

 

(ジェームズ)「報告します。死者2名生存者2名。生存者は

 

ジェームズとジャッキー。死者2名はチャーリーとモハメド。

 

眉間を撃ち抜かれて即死です。原因は何かさっぱりわかりません。

 

 

 

 

舟は今すこぶる安定していて揺れもなく気分は良好です。SACと

 

同じスピードでこのまま地球軌道に入ります。SACは淡いピンク

 

色に輝いていて雲に乗っているような感じです」

 

 

 

 

(センター)「二人は何で死んだんだ?」

 

(ジェームズ)「さっぱりわかりません。急にキーンと音がして

 

すごい嵐と揺れの中、圧力が急速に高まってきて苦しくなり

 

目が回ってきて思わず叫びました」

 

 

 

 

(センター)「助けてくれ!と叫んだのか?」

 

(ジェームズ)「いいえ、ナムストーンと叫んで気絶しました」

 

(センター)「?」

 

 

 

 

(ジェームズ)「ふと気が付いたらジャッキーが帰還していて

 

周りは嵐も止んでとても静かで心地よく、二人でチャーリーと

 

モハメドを起こしたんですが、眉間を撃ち抜かれ即死のようで」

 

 

 

 

(大統領)「二人に確認したい。圧力が急速に高まり頭がキーン

 

となった時ナムストーンと叫んで二人はなぜか助かっていると

 

いうことだな?」

 

 

 

 

(ジェームズ)「そうです。その通りです」

 

(大統領)「誰も信じないだろうが、これを公表しよう」

 

 

 

 

宇宙船アポロジュニアは地球への落下軌道に入った。

 

地球から見ると、まさに黒雲が天空を覆い尽くし、

 

氷の嵐に巻き込まれる直前で稲妻、オーロラ、雷が轟き、

 

ヒョウが降り出してきた。

 

 

 

 

急速に温度が下がり、気圧が高まって息苦しい。

 

黒光りする粒子がまとわりついてくる。

 

 

 

 

一陣の突風が吹いて、いよいよ氷の砂嵐が磁気の乱れを

 

伴って30時間地上で荒れ狂うのだ。

 

 

 

 

地上1万数千メートル、宇宙船から地球が見える。ピンク

 

の雲のようなアメーバ彗星の最先端に押されるように見え

 

隠れしながら地上へ落下していく。

 

 

 

 

落下地点の南太平洋まであと数周。ヒマラヤの峰々が下方に見える。

 

その近くに小粒の何かが見える。飛行機ではない。なんとそれは、

 

 

 

 

水平飛行する5人のスカイダイバーだ。インド洋から東アフリカに

 

かけてアポロジュニアは少しづつ高度を下げていく。

 

 

 

 

スカイダイバーの五角形のシルエットが下方のあちこちで見えてきた。

 

ジュニアは南極上空を通過して南米を北上しヨーロッパ上空を横切る。

 

 

 

 

スカイダイバーの密度が急に増加して天空一杯に広がってきた。

 

こちら側から見ればピンク色の幸福な雲に見えるが、

 

 

 

 

地上から見上げればまさに氷の嵐の到来だ。嵐の雲を突き抜けて

 

5人のユニットダイバーが宇宙船のすぐ真下まで無数に広がり

 

浮上してきている。

 

 

 

 

ほぼ宇宙船と同じ高度でとどまり、ともにゆっくりと落下していく。

 



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大衝突1

 

 

大統領は世界に向けて最後の声明を発表した。

 

 

 

 

「全世界の善良なる皆さんに国連から最後のメッセージをお届けします。

 

あと数時間で地球は強力な氷の嵐に包まれてしまいます。30時間それは

 

続きます。シェルターや強固な建物の中に隠れれば氷の粒や寒波強風は

 

 

 

 

防げますが、気圧の高まりや電磁波は防げません。苦しい戦いですが30

 

時間耐え抜きましょう。宇宙飛行士4名を乗せたアポロジュニアがアメーバ

 

彗星SACに先ほど突入いたしました。しばらくして事故が起きました。

 

 

 

 

急速に圧力が高まってきて押しつぶされそうになった時キーンという音が聞

 

こえてきて皆気絶してしまいました。2人は生き残りましたが二人は残念

 

ながら即死でした。どうやって生き残れたのか?それはナムストーンと叫んだ

 

 

 

 

からのようです。理由はわかりませんが確認された唯一の事実ですのでキーン

 

という音が聞こえてきたらナムストーン!ほかはありません。ナムストーンを

 

お忘れなく。幸運を祈ります。ナムストーン!」

 

 

 

 

8月15日9:00AMニューヨーク。国連本部。上空は真っ黒。

 

稲妻とオーロラが走り雷鳴がとどろく。メディアがアメーバ彗星

 

SACの到来を告げる。

 

 

 

 

「こちらニューヨークです。SACが空を覆い尽くしました。

 

間もなく氷の粒が大量に降ってきます。風速40メートルの

 

氷の嵐がやってきます。建物の中へ避難してください!」

 

 

 

 

同時刻、グランドキャニオン。天空に向かって5人ユニットが飛び

 

上がる。各地から次々と飛び上がる。黒雲を突き抜けるとそこは別世界

 

無数のユニットが天空を覆い尽くしている。

 

 

 

 

宇宙船がその中をゆったりと落下していく。その雲の真下は氷の大嵐だ。

 

10:00AMハワイキラウェア天文台。ものすごい氷の嵐。常夏の

 

島にひょうが降り、寒波と稲妻、雷とオーロラが荒れ狂う。

 

 

 

 

テレビは叫ぶ。

 

 

 

 

「ただいま全世界が氷の嵐に巻き込まれました。キーンとなったら

 

ナムストーン、ナムストーンと叫んでください。ただいま全世界が

 

氷の嵐の中に入りました。これから暴風雨になります。避難して

 

ください・・・・・・」

 

 

 

 

電波障害が起きてぷつんと電源が切れた。テレビもコンピューターも

 

全ての明かりが消えた。すさまじい風の音。氷の嵐がすべてを飲み込む。

 

 

 

 

11:00AM、嵐の東京霞ヶ関官庁街。黒雲に覆われ激しい氷の嵐。

 

オーロラと稲妻が不気味にビル群にまとわりつく。

 

 

 

 

12:00AM、北京天安門に大粒のひょうが降る。空は不気味な黒雲。

 

首脳は大急ぎで地下シェルターに隠れる。激しい氷の嵐が襲ってくる。

 

オーロラと稲妻、雷鳴が天安門広場に轟きわたる。

 

 

 

 

13:00、クレムリンもバッキンガムも凱旋門も。ピラミッドも

 

万里の長城も自由の女神もすべてが黒雲に覆われ、氷の嵐と稲妻

 

オーロラにまとわりつかれてしまった。今や世界中がついに

 

大彗星雲にすっぽりと覆いつくされてしまったのだ。

 



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大衝突2

14:00AM、宇宙から見ると地球は黒紫色の楕円形

 

アメーバ星雲に完全に喰い包まれてしまったように見えた。

 

 

 

 

15:00,暗闇に光る稲妻が至る所に走りオーロラが

 

地球中をめまぐるしく色彩を変化させながらあちこちと

 

無数にはいずりまわっている。

 

 

 

 

16:00,ついに世界中の電気が消えた。あと24時間

 

人類は耐えることができるだろうか。これから気圧が急速に高

 

まる、耳をつんざく超音波嵐が吹き荒れる。

 

 

 

 

17:00,予想では電磁気嵐が最初にやってきて海が沸騰

 

するかと思われたが、幸い海は大荒れに荒れているだけで、沸騰

 

することはなかった。大気中の酸素が激減して窒息するということ

 

にもならなかった。ただただ稲妻とオーロラの氷の嵐が吹き荒れた。

 

 

 

 

18:00,オサムオサナイは京都にいた。ナムストーンメンバー

 

には、5人一組で飛び上がり氷の嵐の雲の上空へ出るように、と

 

最終連絡指令が発せられていた。

 

 

 

 

19:00、地上8000mまで氷の嵐の黒雲は降りてきていた。

 

気圧が急速に高まる。ベテランメンバーは何度か上空に舞い上が

 

っては新メンバーを横につないで5人で再び地上に舞いおりて、

 

また4人を引き連れて舞い上がる。

 

 

 

 

20:00、「僕を信じろ目をつぶってナムストーンと叫ぶんだ」

 

フッと舞い上がる。

 

 

 

 

21:00、嵐の中をグングンと上昇して一気に重厚な

 

黒雲を突き抜けると、大歓喜の天上の世界に遭遇する。

 

善良な仲間たちが手をつないでふんわりと浮遊している。

 

 

 

 

22:00、遠くに宇宙母船の姿が見える。ゆっくりとゆっくりと

 

地球を巡りながら地上へ舞い降りていく。

 

 

 

 

23:00、その分黒雲から下の世界は急速に気圧が高まり

 

稲妻とオーロラ氷と電磁波の嵐がさらに強まる。

 

 

 

 

24:00、オサムオサナイは家族を呼んだ。父母妹と手をつないで

 

4人で集中してナムストーンを叫ぶ。ベテランメンバーはもう一人で

 

十分上昇下降ができた。3人までならつれて上がれるのだ。上空で

 

5人のユニットを組めばいい。

 

 

 

 

1:00AM、キーツはヨーロッパで、ナセルはアフリカで、

 

ケムンは中東部で、レイはインドと東南アジアで、全世界の

 

ベテランメンバーは何度も上昇下降を繰り返した。

 

 

 

 

2:00AM,ナムストーンを持っていない新メンバーも

 

続々と上昇してきた。5角形の人間ネットが地球を包む。

 

ナムストーンを唱え宙に浮いている。その分下降制御の

 

バリアとなって黒雲の下降速度がさらにスローになってきた。

 

 

 

 

3:00AM,世界に広がった光る石の周りには数千人の人々が

 

ナムストーンを唱えて集まってきた。徐々にその場が地上から浮き

 

上がり、ついには黒雲を突き抜けて天空へ舞い上がった。

 

 

 

 

4:00AM,雲南でペルーでメキシコで大地ごと天空へ舞い上がった。

 

世界の各地で。エアーズロックでは人々を乗せたまま浮上した。

 

 

 

 

5:00AM,イースター島では島ごと舞い上がった。それでも天空

 

の人々は数億人どまりだった。

 

 

 

 

6:00AM,ますます圧力は高まり耳がツーンとなってくる。

 

寒い。人々は鼓膜が破れそう思考が滞ってきて気が狂いそうだ。

 

 

 

 

7:00AM,あと10時間、地上に残された人々は我先にと

 

逃げ惑った。暗闇の中で金持ちたちは自前のシェルターに隠れた。

 

 

 

 

8:00AM,中東アラブの王族たちは石油の富で地下宮殿を作っていた。

 

一握りの一族が衛兵たちと地下に潜んだ。

 

 

 

 

9:00AM,アフリカの小国では軍隊が権力者の私兵と化して

 

庶民を蹴散らし地下に隠れた。

 

 

 

 

10:00AM,各地の武装勢力、ゲリラ、テロリスト、やくざ、マフィア

 

裏社会もこぞって堅固な地下壕を作り身を隠した。

 



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エピローグ

11:00AM、先進国では財閥、政治家、高級官僚、金持ち

 

などは極めて手際よく地下に逃れた。多くの庶民はすべて見放

 

されたのだ。

 

 

 

 

12:00、各国の軍隊ではもうすでに地下司令部、大規模作戦壕

 

が完備されていて作戦将校と特殊部隊壕に潜ったが一般の兵士の

 

ほとんどは家族の元に戻っていた。

 

 

 

 

13:00、ジェームズとジャッキーの乗ったアポロジュニアは

 

高度4000mを切ってきた。ヒマラヤ、アルプス、ロッキー等

 

の山々はすでに黒雲の上に突き抜けていて無数の人々が

 

ナムストーンの大合唱で浮遊している。

 

 

 

 

14:00、人口密度の高い中国からインド東南アジアにかけては

 

天空での浮遊の密度が他とそう変わらないということはものすごい

 

数の人々が地上で、この黒雲の真下で押しつぶされそうな圧迫力の

 

中でもがいているということか?

 

 

 

 

15:00、オーロラ稲妻が地を走りすさまじい雷鳴がとどろく。

 

マイナス20度の寒波、氷の嵐が荒れ狂う。不気味に輝く黒雲が

 

高層ビルに絡みつく。通風口から鍵穴からドアの隅から黒雲は室内

 

 

 

 

に入り込んでくる。気圧が急速に高まりキーンという音がして

 

目が回り始める。ナムストーンと叫んで次々と人々が天空へ舞い

 

上がっていく。

 

 

 

 

16:00、全地球全世界の庶民が今當に押しつぶされ

 

ようとしていた。すさまじい圧力だ。稲妻とオーロラの黒雲

 

は地上を隅々までくまなくはいずり始めた。

 

 

 

 

どんな強固な建物でも中に入り込んできた。頭がキーンと

 

痛くなる。強烈な耳鳴り。ぐるぐると目が回る。立って

 

いられない。座ってもだめだ。みなうずくまった。

 

 

 

 

約30億人の人々がこの最終の決定的瞬間を迎えた。

 

「もうだめだ押しつぶされる!」

 

頭が割れそうだ。眉間がきりきりといたんできた。

 

 

 

 

するとその時、多くの人々は黒雲の上空から天の声を聞いた。

 

遠くで大合唱が聞こえる。大空の大合唱。それは、

 

「ナムストーン、ナムストーン」

 

の大合唱だった。

 

 

 

 

地上の庶民の多くは氷の雨を見上げた。

 

「ナムストーン、ナムストーン」

 

一人また一人と口ずさむ。

 

全世界のいたるところで人々は叫び始めた。

 

「ナムストーン、ナムストーン」

 

 

 

 

地上の大合唱は天空の大合唱と一つに溶け合った。

 

地上をはいずりまわっていた黒雲は地下へと潜る。

 

 

 

 

天空の人々も今は皆地上に舞い降りてくる。

 

地球全体ががナムストーンに包まれた。

 

 

 

 

宇宙に広がる大きなやさしい瞳に見守られ、

 

世界はピンクに包まれた。少しずつ

 

天空には青空が戻ってきた。

 

 

 

 

そうした中でもどうしても救われない人たちがいるものだ。

 

臆病な人やひねくれ者プライドだけが高くて独善的で人の

 

善意に素直になれない人たちだ。

 

 

 

 

意外と多く素直にナムストーンを言えなかった人々は約10億人

 

もいたのだ。残念ながらこれらの人々は生き残れなかった。

 

 

 

 

17:00、宇宙母船は静かに南太平洋に着水した。

 

オーロラ輝く黒雲は海中へも向かった。

 

 

 

 

ついに30時間が過ぎた。地上はすべて明るさを取り戻した。

 

まるで台風一過のすがすがしさだ。何事もなかったかのように

 

またいつもの日常に戻ったかに見えた。

 

 

 

 

海や山や森川辺。牧場や湖。大自然は元のままだった。

 

小鳥のさえずり。牧場の馬や牛も何の変化もないようだ。

 

ただ、人たちの中に生き残れなかった一部の人たちがいた

 

という事実を除いて。

 

 

 

 

浮遊していた人たちはそれぞれの国や故郷にゆっくりと

 

下降し戻っていった。非常にゆっくりと着地し。何事も

 

なかったかのように青空を見上げ両手を広げて大きな欠伸をした。

 

 

 

 

不思議なメロディーが聞こえてくる。天使の歌声だ。人々は

 

やさしい母のまなざしを天空に感じた。それは銀河系ほど

 

もある大きな瞳がじっと地球を見つめていたからのようだった。

 

 

 

 

オーロラに輝く不気味な黒雲層は、さらに密度を高めながら

 

地下へ地下へともぐりこんでいった。すべてのシェルターに、

 

地下壕に、地下の宮殿に。どんなに完璧に密封していても

 

黒雲は進入してきた。海にも。

 

 

 

 

北極海、潜水艦が浮上した。ハッチが開いて一人だけナムストーン

 

と言いながら這い出てきた。ほかは全員死んでいた。

 

 

 

 

地下宮殿も独裁者もみな眉間を撃ち抜かれ死んでしまった。エゴや

 

邪悪が眉間からアメーバ彗星SACに吸い取られたとしか思えない。

 

一様に皆同じ、そんな死に方だった。

 

 

 

 

東京霞ヶ関の地下官僚システムは崩壊した。悪意ある

 

官僚や政治家、極悪人はすべていなくなった。SACは

 

地球上の全ての邪悪を吸い取るクリーナーだった。

 

 

 

 

これは40億年に一度あるかないかの宇宙の大異変でも

 

あったようだ。

 

 

 

(エピローグ)

 

 

 

 

アメーバ彗星SACの衝突から一か月が過ぎた。

 

地上には青空の平和が戻ってきた。

 

太古の楽園が復活した。

 

 

 

 

何事もなかったかのように40億の人々は、

 

日常性を取り戻した。

 

 

 

 

生き残った良心的な役人もちろんボランティアと

 

心ある政治家もちろんボランティアとNPOなど

 

が協力し合って各国の政治行政は復活した。

 

 

 

 

人間第一主義、絶対平和主義、全人類平等主義が

 

全人類のモラルとして確立された。

 

 

 

 

国連を中心に満場一致で核廃棄法案が採択され直ちに実地された。

 

科学者は核の無害化に知恵を絞った。世界にはならず者国家は

 

なくなり軍備は段階的に廃止されて、災害救援隊として

 

全世界にネットワークされた。

 

 

 

 

人類の富はすべて福祉と教育と芸術とスポーツに配分され、

 

国際交流は日常化し国境もなくなってきた。人口問題も環境問題

 

もなくなった。世界統一言語が普及し全世界の人々はごく普通に

 

人々のために奉仕した。

 

 

 

 

軍備競争や経済競争は全くなくなり、人道競争のために人々は

 

汗を流し、美しい星地球はさらに緑多き豊かな星になった。

 

 

 

 

(おわりに)

 

 

 

 

東洋仏法の神髄、法華経の信解品に、

 

 

 

 

「無上宝珠(聚) 不求自得」

 

 

 

 

とある。

 

 

 

 

もともと宇宙にも我々の命にも、

 

それを貫く一大法則があるらしい。

 

 

 

 

それを悟るを佛といい。

 

迷うを凡夫というのだそうだ。

 

 

 

 

南無宝珠と信じて唱えることが、

 

自らの宝を顕しえる唯一の方途と説かれている。

 

 

 

 

南無宝珠とはすなわち、

 

 

 

 

「ナムストーン」

 

 

 

 

のことなのであるようだ。

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー完ーーーーーーーーーーー

 



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