ゴジラ・ウォー! (葛城マサカズ)
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第1話「巨大不明生物です!」

 茨城県沖の太平洋で海上保安庁が巨大不明生物と遭遇した。

 その巨大不明生物は西へ進み茨城県ひたちなか市へ向かっていた。

 ただの大きな生物であり何の被害も無い事から茨城県もひたちなか市も静観していた。

 だが巨大不明生物がひたちなか市に上陸し建物や車両に被害が出始めるとひたちなか市は住民への避難勧告を発令する。

 「麻酔か何かで動きを止められないか?」

 「いや、死傷者が出る前に警察の銃で撃ち殺すべきだ」

 ひたちなか市の役所では市長をはじめ防災課長など有事に参集する者達が意見を出し合う。

 「知事がどうやら自衛隊の治安出動を要請しようとしているらしい」

 茨城県知事がひたちなか市で暴れる巨大不明生物を自衛隊に対処させるつもりだと情報が流れてきた。

 「あのデカさなら大砲で撃つのがいいかもな」

 ひたちなか市の市長がそう納得しかけたときだった。

 「政府が治安出動の要請を却下しました」

 市長をはじめ皆が驚いた。

 「どうすんだアレは?かみね動物園からの麻酔だけが頼りか?」

 ひたちなか市は巨大不明生物へ対応する手段として日立市かみね動物園に麻酔を提供するよう要請していた。

 「政府は文部科学省に戦車道履修者による害獣駆除を要請しました」

 また一同は驚く。

 「アレを女子高生に任せるのか?正気か?」

 

 「政府は茨城県ひたちなか市に被害を与える巨大不明生物に対して文部科学省に戦車道履修者による害獣駆除を要請しました。これは現地に戦車道履修者が多く在籍する学園艦がある為であり事態の早期終結を考えての事です」

 TVでは内閣官房長官が会見を開き淡々と述べる。

 「政府の要請により茨城県大洗町の学園艦である大洗女子学園へ文部科学省は戦車道履修者による害獣駆除への出動を求めました。これは茨城県知事からの要請があった自衛隊の治安出動に政府内で意見がまとまらなかった為とも言われています」

 官房長官の会見に続いてアナウンサーが解説するように伝える。

 「と、いう訳で私達に出動要請が来ている」

 大洗女子学園の生徒会の会長室で生徒会長の角谷杏がTVを指して言った。その顔は呆れている。

「社会的な貢献は学園艦の存立維持には大きなプラスになりますよ」

 学園艦を監督する文科省の学園艦教育局の役人は杏へそう嫌味のように電話で言った。どうやら大学選抜チームとの大洗女子学園廃校か存続かを賭けた試合での遺恨を晴らすようだ杏には聞こえた。

 「本当に私達がするんですか?」

 不安そうに杏へ尋ねるのは西住みほだった。廃校寸前だった大洗女子学園を戦車道全国高校生大会の優勝と大学選抜チームとの試合に勝ち存続できる働きをした英雄とでも言える少女だ。

 「戦車道連盟も生徒の安全が確保されるならと文科省の要請を承諾したそうだ」

 生徒会広報である河嶋桃がため息混じりで言った。

 「法的にも試合ではない特殊事例の項目で行政の要請に基づく害獣駆除と言う部分があって合法ではあるの」

 生徒会副会長である小山柚子が戦車道のルールなど規則が書かれた本を開きながら言った。

 「安全が確保ってどう確保するんですか?あんな怪物相手に」

 みほは怒りが混じる言い方になっていた。

 みほの考えは皆も同じだった。害獣退治と簡単に言うが相手は体長50メートルもの生物だ。

 「だけど政府は自衛隊を出さない。このままだと大洗にあの化け物はやって来る」

 杏は窓よりひたちなか市から幾筋も伸びる黒煙を見ながら言った。

 「大洗を守れるのは私達になってしまったんだ。西住ちゃん、無理を承知でやるしかないんだ」

 杏はみほへ向かい頭を下げた。

 「私からも頼む」

 「副会長として私も」

 桃と柚子もみほへ頭を下げる。

 みほは頭を下げる三人を目の前にして戸惑いながらも決意を理解し覚悟を決めた。

 「分かりました。私は害獣駆除へ行きます。しかし行くのは志願者だけです」

 みほの条件に杏は「もちろんだ」と返した。

 



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第2話「みんなの覚悟です!」

「我々大洗女子学園は文科省の要請により害獣駆除へ出動する。しかしその害獣は街を破壊できるほど巨大で凶暴だ。今回の出動は志願者だけで行う」

 戦車道で使う戦車が置いてある倉庫の前に大洗で戦車道をしている生徒達が集まっていた。まず桃が説明をする。

「志願するつもりでも、よく考えてほしい。この出動は命の保証はない」

 杏がこう言うとさすがに一同はざわめく。

「時間があまりない。5分で志願するかどうか決めてくれ」

 杏はそう言うと桃と柚子を連れてその場を去る。

「西住殿はどうするんですか?」

 みほへ尋ねるのは秋山優花里だった。

「私は行く。隊長だから」

「私も行きます。一人じゃ戦車は動かないですよ」

 みほの決意を聞くと優花里は即答する。

「私も行きます」

 五十鈴華はいつもの微笑みで言う。

「行く。操縦手がいるだろう」

 と冷泉麻子は当たり前のように言う。

「もう、みんな行くなら私も行く!」

 武部沙織もたまらずな風に言う。

「みんなよく考えて。怪我どころか死ぬかもしれないんだよ」

 みほは慌てて考え直すように促す。大切な友人を死地へ連れて行くような事はしたくないのだ。

「でも遠くから見るだけの方が辛いです。何か出来るのなら大洗の皆さんを守りたい」

 優花里がぽつりと言う。

「私の操縦ならあんな化け物に追いつかせはしない」

 麻子は当然という風である。

「あんな大きな身体なら外しはしません」

 華も自信満々だ。

「色んなところとの連絡は私に任せてよ」

 沙織も胸に手を当て任せてと言うポーズをする。

「みんな・・・ありがとう」

 みほは感謝した。

「隊長、バレー部もといアヒルチームは全員行きます!」

 あんこうチームの一致団結を見てアヒルチームの磯部典子が名乗り上げる。

「我らカバさんチームも皆が出撃する」

「レオポンもみんな行くよー」

「ウサギチームの私達も行かせてください」

「アリクイの私らも行くぞなもし」

「こういう時こそ風紀委員の出番よ」

 次々と皆が志願する。その誰もが不安な顔は無い。

「みんな聞いてくれ」

 意気高く沸く皆に杏が呼びかける。

「もう一度聞く。本当に行くのか?」

 杏は確認を重ねる。この場にいる皆は弱小チーム、無名チームと言われながらも強豪校と背水の陣のような戦いを繰り返し潜り抜けた戦友みたいなものだ。

 経験と腕を磨いた彼女たちは頼もしい。しかしそれは軍人や兵士としてではない。スポーツチームの一員としての頼もしさだ。

 杏にはそんな彼女達の覚悟を今一度確かめたかった。

 皆は杏やみほを見つめながら「はい」と揃えて答えた。

 「大洗は私達の地元です。大洗が壊されるのは嫌だ」

 典子が志願の理由を言うと他の皆が「私も同じ」「そうだその通り」と同意したり頷く。

 杏は彼女たちの眼を見渡しながらその覚悟はしっかり固まっていると分かった。

 

 



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第3話「出動です!」

「あれはCH-47チヌークですかね。自衛隊と米軍どちらでしょうか」

学園艦の上空に2機のヘリが現れた。優花里は双眼鏡でその形を見て特定した。ローターを直列した機体はチヌークという大型輸送ヘリしかない。

「ここに自衛隊の飛行機で来るのは蝶野教官ぐらいだ」

桃は以前、自衛隊の輸送機から10式戦車で空挺降下し校長の車を破壊した事がある。

チヌークは学園艦の上空に来ると旋回をはじめ、学園の上空へ進むとグラウンドへ着陸を始めた。

「みんな集まっているわね」

チヌークから降りたのは大洗女子学園で戦車道の指導をした陸自戦車教導隊の蝶野亜美一等陸尉だ。格好は迷彩の戦闘服である。

「たった今、全員が出動に志願で決まりました」

「そう、覚悟したのね」

蝶野は陰りのある顔をした。

「本当なら私達自衛隊が対処すべき事態なのに、ごめんなさい」

蝶野はみほや杏など大洗で戦車道をしている皆へ頭を下げた。

「そんな蝶野さんが謝る必要は無いですよ」

みほは慌てるように言った。

「ホント政府とか何考えているか分からないから現場が苦労しますね」

杏が蝶野の苦しい思いを察したように労う。

二人の気遣いに蝶野は「ありがとう」と答えた。しかし自衛官として大人としての責務から来る苦々しさは晴れる事はなかった。

「私は戦車道の教官としてこの駆除作戦での指導をやる事になりました。以後、私からの発言は指導です」

戦車道の特殊事例には害獣駆除や治安出動・災害救援では教育指導をしている自衛隊の隊員による指導を受けながら行動を行うとある。

「それは実質指揮権を発動するという事では?」

杏が咎める。

「君達が指揮能力が無くなれば蝶野一尉に指揮させるがね」

チヌークから眼鏡をかけたスーツの男が現れた。杏の眉と頬が一瞬はねた。また皆も「またアイツだ」と騒ぎ出す。

「まったく随分な歓迎ぶりだね」

彼こそ文科省学園艦教育局長である役人もとい辻廉太だ。大洗の町でエキシビジョンマッチの後で学園の廃校を告げに来たので大洗の皆は顔を知っている。

「この駆除作戦では私が君達の監督をする。だが現場の指揮は君達に任せるよ」

辻の言葉にまず蝶野が不機嫌な顔を一瞬見せた。

学園艦を行政上監督しているとはいえ戦車や戦車道が何か分からない役人が作戦に介入できる権利がある言うのだ。作戦や戦闘の本職である蝶野にとっては面白くないだろう。

「蝶野二等陸尉、大洗女子学園の戦車道履修者へ実弾の支給を要請します」

辻が言うと蝶野は「要請を受理しました。ただちに実弾を支給します」と答えた。

競技用の弾薬とは違い殺傷能力がある実弾は学園艦それぞれにある。これは防衛省が管理している。だから文科省の役人は自衛官の蝶野に要請したのだ。既に大洗学園で保管している弾薬の支給は防衛大臣の認可を受け蝶野により支給される手はずになっていた。

「これより実弾を支給します。慎重に扱うように」

学園艦の戦車道用の倉庫から蝶野が連れて来た自衛隊員達により実弾である砲弾が運び出されみほ達に渡される。

いつも競技用の砲弾を扱う彼女らもさすがに顔は緊張気味に砲弾や機銃弾を持ち自分達の戦車へ入れる。

「実弾の支給終わりました」

みほが報告する。

「では出発しましょう。警察のパトカーと私の乗る軽装甲機動車が先導します」

大洗港に接岸していた学園艦から茨城県警のパトカーを先頭に蝶野が乗る軽装甲機動車が引き連れる大洗戦車道の戦車が続く。

「ここは大洗港です。巨大不明生物の駆除作戦に大洗女子学園の学園艦からパトカーに先導されて学園の生徒が乗る戦車が出動しています」

大洗港ではマスコミが大洗女子学園の出動を生中継している。

「全国戦車道大会での優勝校とはいえ巨大不明生物との戦いを女子高生ですよ。彼女たちで駆除作戦ができるか大きな疑問がありますね」

中継を見ていたニュース番組のコメンテーターをしている中年の女性が不安げに言った。

「おいおい本当にあの子らが行くのか?」

出動する大洗女子の面々を大洗町の人々が心配して見ている。大洗の町で縦横無尽に戦う大洗女子の姿に驚喜したものだが巨大不明生物と言う得体の知れないモノを相手に向かうのだ。地元の子たちとあれば尚更心配になる。

「おおい、無茶すんじゃねーぞ」

老人達は戦車へ向かいそう大声で呼びかけずにはいられなかった。

 



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第4話「連絡は大事です!」

 ひたちなか市に巨大不明生物が上陸して立ち向かったのは警察と消防であった。

 「とにかく追い出すんだ」

 という県警の方針で警察の放水車と消防車が高圧の放水で巨大不明生物を追い出しにかかる。

 「あんな不気味な奴でも環境保護とか動物愛護団体がうるさいからな」

 トカゲが大きくなったような姿で見開いた状態のように丸い目は不気味さを感じさせていた。だが不気味な姿であろうと無闇に殺してしまうと動物愛護や環境保護の団体から「貴重な命を奪った」「生態系の破壊」と言われかねない。

 そんな事情から放水による追い出しが行われている。 

 「効いているみたいだ。嫌がっている」

 高圧放水が腹や顔に当たると巨大不明生物は首を多く振ったり身をよじる反応をした。放水をしている警官と消防士は撃退できると確信を持ちはじめた。

 「政府が自衛隊の出動を認めず大洗女子学園に駆除を要請しました」

 茨城県警本部で大洗女子の出動要請を聞いても県警本部長である三宅警視監はあまり関心を抱かなかった。

 「女子高生が来る前に追い出せるだろう。それより住民避難は順調か?」

 放水での撃退に自信を持つ三宅が気になるのは住民避難の進捗であった。警察は放水作戦と同時に住民避難の誘導を県や市の職員と共に行っている。

 放水による撃退に見込みがあり、残る懸案は住民に死傷者を出さないように避難させる事だけだと三宅は考えていた。

 「なかなか海に行ってくれんな」

 三宅はTVの中継や報告される巨大不明生物の位置を見ていた。だが巨大不明生物は放水により歩みが鈍って進路を変えられても陸地が続く南へと進んでいる。

 「やはり駆除か」

 三宅は県の公安委員会から「駆除を要請するが、できる限り追い出すようにせよ」と要請を受けていた。50メートルのk巨体が市街地を進み被害を拡大させるようでは追い出しができないのであれば駆除するしかない。猪や熊とはスケールが違う。

 「警備課長、銃器対策部隊は配置に就いているか?」

 三宅は警備部長へ尋ねる。銃器対策部隊は狙撃手や短機関銃を持つ隊員が居る部隊だ。銃による犯罪に対抗する部隊でもあるが対テロでの警備の役割もある。

 「狙撃班は配置に就きいつでも撃てます。他の隊もひたちなか市にあり車輛で待機しています」

 ここで言う他の隊とはMPー5短機関銃を持つ隊員の事だ。避難の邪魔にならないように輸送車で待機しているのだ。

 「市と県に連絡、これより駆除作戦を行う」

 こうして警察による駆除作戦が開始される。

 「狙いを定めました。射撃許可をください」

 狙撃手は巨大不明生物の東部、眉間の辺りに狙いを定めた。

 「少し待て住民避難が完了していない。待機だ」

 狙撃手はM24狙撃銃を構え引き金を引くだけの姿勢のまま待たされる。

 「やはり徒歩での避難は早くとはいかんか」

 突如出現した巨大不明生物にひたちなか市はパニック状態になる。道路は逃れようとする車で渋滞した。渋滞は進まず事故も起きた。渋滞が進まないと見て県警は車を捨てて徒歩での避難を指示する。

 だが歩きで避難させると足腰の強さで差出る。年齢が若く健康であれば走ってでも行けるが高齢者や病弱な者の足は当然遅い。

 思うような避難は望むべくもない。

 「必ず命中させます。むしろ外すなんて無理です。射撃許可をください」

 狙撃班は自分の腕に自信があった。外す事は無い。流れ弾で市民を巻き添えなんてしないと。

 「あの図体が倒れたら何人か巻き添えになる。射撃は待て」

 しかし県警本部は待てと命じた。

 「このままでは那珂川を越えて大洗町に入るな」

 三宅は巨大不明生物の動きをそう読む。ひたちなか市を南下すれば那珂川の向こうにある大洗町がある。巨大不明生物はその大洗に向かっている。

 「巨大不明生物が那珂川に入ったら射撃だ。河の中なら倒れても大丈夫だろう」

 ひたちなか市内の避難は進まず混乱するばかりだ。誰も居ない河の中で倒しても巨大不明生物に潰される事はない。

 「自衛隊から連絡です。大洗女子の戦車を大洗町の那珂川南岸に展開したいと言っています」

 三宅に大洗女子学園の動向が入る。連絡担当は蝶野が行っていたので自衛隊からの連絡となっている。

 「警備部長、大洗女子の戦車と連絡はしているか?」

 三宅はが訊く。

 「これからです」

 放水作戦に効果がある事から大洗女子に関して警備部長はそこまで注意を払ってなかった。

 「自衛隊に連絡して大洗女子の作戦行動が防衛省や自衛隊の管轄なのか尋ねろ」

 この巨大不明生物が上陸する事件でまとまった指揮系統は市や県の下に参集した警察と消防ぐらいだ。

 「文科省と自衛隊が監督や指導をしていると言っています」

 「よく分からんな」

 三宅は大洗女子が文部科学省の監督下で自衛隊の指導下で動いている奇妙さに呆れた。

 平素の行政と教育の二元的な部分がそのまま出ているとはいえ有事では厄介としか言いようがない。

 「防衛省や自衛隊の作戦でないなら県警の指示で駆除作戦を遂行して貰いたいと要請すると伝えてくれ」

 三宅はとにかく指揮系統を纏めたかった。市民の巻き添えを回避する為の避難誘導や那珂川で巨大不明生物迎撃作戦を一つの指揮系統で行い手違いが起きるのを防ぐためだ。

 「茨城県警の指示に従えと?」

 現場に急行中の軽装甲機動車の車中で蝶野から三宅の要請を役人もとい辻は聞いた。その反応は複雑そうであった。

 「自衛隊で何か通知はあったか?」

 辻は蝶野に尋ねる。

 「防衛省も自衛隊もどこの指揮下に入るとは聞いていません」

 政府が文科省へ戦車道履修者による駆除を要請した時に一元指揮を誰にさせるか決めていなかった。ただ出せばすぐに駆除するだろうと思っていたせいである。

 「こっちも何も聞いてない。まったく」

 辻は自分の携帯電話を取り出し文科省へ尋ねる。

 蝶野は今更そんな事をしてい辻に苛立ちを感じた。いや、無理矢理あんな化け物に戦車に乗れるからと女子高生に立ち向かわせる政府にも苛立ちが収まらない。

 「どうした?大洗女子か自衛隊から連絡は?」

 「ありません」 

 辻が文科省へ問い合わせをしているので蝶野から返答が無く三宅は困ってしまった。

 「警察庁に文科省の戦車道履修者を指揮していいか尋ねろ」

 三宅は独自に問い合わせをする事にした。全国の警察本部を統括する役所である警察庁へ尋ねたのだ。

 「どうなりましたか?」

 一方で辻は文科省への問い合わせが続いている。蝶野は途中経過を訊く。

 「政府内で協議中らしい。事務次官も警察庁と国家公安委員会と話し合っている」

 「今からそれでは間に合いません!」

 蝶野は思わず声を荒げた。

 そんな時に辻の携帯電話が鳴り、軽装甲機動車に積んでいる無線機が蝶野を呼ぶ。

 「当面は茨城県警の指揮下で作戦を行うように」

 二人が聞いたのはそういう指示だった。

 「県警本部より大洗女子の戦車隊へ。これより駆除作戦を県警の指示に従うように、要請のあった那珂川南岸の展開を承認する」

 三宅は無線で指揮権発動を宣言した。

 

 



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第5話「駆除作戦開始です!」

 「西住さん。駆除作戦を那珂川南岸で行うわよ。それと今から私達は茨城県警の指示に従って動くようになったわ」

 蝶野はみほへ伝えた。

 「何か変更があるんですか?」

 「これから警察との共同作戦になるわ。まず警察の指示が優先される。けど貴方達への監督権と指導は変わらないけどね」

 「分かりました」

 蝶野との通話を終えたみほは通信を担当する沙織へ話しかける。

 「武部さん。これから警察との共同作戦だから警察の無線も聞いてて」

 「え~警察無線ってどうだったけ?」

 沙織は無線に関する自分のノートを捲りながら調べる。

 「警察無線はデジタル無線ですからここの無線機で聞けるか。それに聞けたとしても違法にならないか問題がありますよ」

 優花里が言うとみほは迂闊だったと思った。

 「武部さん。聞こえて来る無線だけ聞いてて」

 「うん、分かった」

 みほは優花里の助言を聞いて沙織に指示する。

 「西住さん。警察との連絡は私がします」

 蝶野はみほ達のやりとりを聞いてそう言った。

 

 「駆除作戦に大洗女子の戦車も加わる。だが作戦方針は変わらない。那珂川であの化け物を倒す。市街地であの大きな身体を転がすわけにはいかない」

 三宅は改めて作戦方針を定める。

 「駆除作戦は那珂川の北側から狙撃班が射撃し、目標が止まってから南岸にある大洗の戦車が攻撃する計画です」

 警備部長が蝶野と連絡して立てた計画を言った。

 「それで行こう」

 警備部長の案を三宅は了承した。

 

 「那珂川で駆除作戦を行いますので那珂川大橋と湊大橋は通れません。避難は西へ向かって下さい」

 ひたちかな市ではパトカーや市の防災無線がそう市民へ呼びかける。避難誘導する警官や市の職員も同じだ。

 「ここで駆除作戦が行われます。危険ですので退避してください」

 対して那珂川南岸の大洗町では巨大不明生物を見たり撮影しようと河岸に集まるマスコミや野次馬を警官が退去させていた。

 「お、来た!来た!」

 警官によって渋々退去させられる野次馬達は大洗女子の戦車が現れるとまたカメラを構えた。

 「そこ!止まるな、戦車の邪魔になる」

 大洗女子の戦車を撮影しようと立ち止まる人々を見つけた警官が厳しく注意する。さすがに図太い野次馬もカメラを収めて退去する。

 「大洗女子のみんな頑張れよ」

 カメラを提げた男が手を振りながら退避する。

 キューポラから半身を外に出しているみほや杏など車長たちは手を振って応える。

 「あんなギャラリーを見ていると親善試合を思い出すなあ」

 手を振りながら退避する野次馬達を見て八九式中戦車の車上からアヒルさんチームの磯部典子が言った。

 二度行われた大洗町での親善試合ではこうした熱心なギャラリーが居たのを典子は思い出していた。

 「でもこれから行くのは本当の戦闘です。気を引き締めて」

 みほが注意する。これから行くのは今までの試合以上の注意が必要になるのだから少しの気の緩みが命取りになる。

 「この河岸に展開します。警官の誘導に従って停車してください」

 みほは那珂川南岸に到着するとそう無線で指示する。

 河岸には警官が二人立ち大洗女子の戦車を笛を吹きながら手を振り誘導する。

 「あれが巨大不明生物…」

 停車し、那珂川の向こうにあるひたちなか市をみほは見た。街の影に隠れながらも背中と背ビレのようなモノが蠢く様が見えた。

 「西住さん。駆除作戦について説明するわ。巨大不明生物が那珂川中ほどに入ってから警察の狙撃班がまず射撃して動きを止めます。そこから戦車で射撃します。あくまで河の中で倒すのが目的よ」

 蝶野が無線で作戦をみほへ伝える。

 「分かりました。みなさん今の説明聞こえましたか?」

 みほと蝶野の間で交わされる無線は大洗女子の戦車にも回線が開かれている。みほは皆が作戦内容を理解したか確認する。

 7両の戦車からは「聞こえました」「ちゃんと聞いたよ」と言う返事が聞こえた。

 「では指示があるまで待機してください」

 みほは無線で指示を終えると息を吐く。段々と近づく巨大不明生物に緊張が高まっているのだ。

 「西住殿」

 優花里が心配して呼びかける。

 「優花里さん大丈夫だから」

 みほは巨大不明生物を見つめながら応える。

 「気持ちが限界になったら言ってください。今回は我慢するのは禁物ですよ」

 優花里は優しく言う。優花里は隊長として一人悩むみほを何度か見ていた。

 全国戦車道高校生大会ではサンダースとの試合では追われながら次々に撃破されいつフラッグ車も撃破されてもおかく無い時、プラウダとの試合では学園存続が危うくなり皆の意気が挫けそうになった時、大学選抜との試合では8両で30両と殲滅戦をしなければならないと知った時

 どれも隊長であるみほは一人悩んでいた。

 優里花はそんなみほを支えてやりたいと思っていた。

 黒森峰との試合で渡河中にエンジンが止まってしまったウサギさんチームのM3中戦車を助けるかどうか悩んだ時に沙織が「行ってあげなよ」と言って背中を押すように。

 「ありがとう」

 そんな持ちを知っているみほは下を向き優花里へ笑みを見せた。

 「目標は那珂川へ入ったわ!準備して!」

 蝶野は急報する。

 「全車射撃用意!」

 みほは姿勢を戻しながら指示する。

 そして那珂川へ向くとそこに居る巨大不明生物の全体をみほは見た。

 それは四つん這いのような姿勢で動き、魚のように丸く大きな目と大きな釘か針金のような牙が覗く口元が気味の悪い印象をみほに与えた。

  「・・・・」

 みほは言葉を失う。それは他の皆も一緒だ。

 「こりゃ本当に化け物だね」

 杏が背筋が冷えるのを感じながら言う。

 「うわ~キモい」

 「こんなの本当に倒せるの?」

 「みんな、それでもやるよ!」

 ウサギさんチームの面々は巨大不明生物の容姿に騒ぎ始める。

 「あんなのゲームでよく見たけどキモいなあ」

 アリクイさんチームのねこにゃーがゲンナリしながら言う。

 「こういう化け物を倒すのは何だろう?」

 「ヤマタノオロチ伝説?」

 「アジ・ダハーカ?」

 「それだ!」

 歴女達の集まりであるカバさんチームは緊張しながらもいつもの調子を崩していない。

 みほは皆の声を聞きながら巨大不明生物を凝視していた。

 河をゆっくりと進み大洗へと近づいている。

 もう少し近づいたら河の真ん中だ。戦闘開始はもうすぐ。

 「え?倒れた」

 巨大不明生物はうつ伏せに倒れた。

 「どうしたんだ?死んだのか?」

 桃が主砲の照準器から巨大不明生物を見ながら困惑する。

 「疲れて眠ってしまったのでしょうか?」

 同じく主砲の照準器で見つめていた華が言う。

 「蝶野さん。作戦開始ですか?」

 みほは蝶野に尋ねる。

 「待って、県警に問い合わせているから」

 蝶野もこの事態に焦っているような声がした。

 「西住隊長、眠っている内に攻撃した方がいいんじゃないですか?ヤマタノオロチみたいに」

 カバさんチームの車長であるカエサルが言う。

 ヤマタノオロチは酒を飲んで寝ているところを須佐之男命(スサノオノミコト)倒された。「古事記」や「日本書紀」に書かれた伝承をカエサルが言っている。

 「待ってください。県警からの指示が出るまでは攻撃してはいけません」

 みほは抑える。

 

 「現場から射撃していいか問い合わせています」

 県警本部では警備部長が三宅へ訴える。

 「いや待て、アレが死んでいるかもしれん」

 三宅は慎重だった。

 それは県警のヘリがカメラで映す巨大不明生物の様子からでもあった。

 巨大不明生物は首のエラから血液らしい液体を噴出していた。那珂川に倒れた今もエラから赤い液体が河口へ向けて流れている。

 もしかすると失血死したのでは?と三宅は思った。

 「しかし止めを刺すべきかと」

 警備部長は進言する。

 「だが死体を無闇に撃ったと言われかねない。様子を見よう」

 三宅が躊躇う理由は動物への殺傷行為に対しても世間の目が厳しい事だ。熊を狩る猟友会に対しても苦言をするのだから。

 

 「散々暴れて満足したら寝ているのかしら。まったく迷惑ね」

 カモさんチームのソド子が倒れている巨大不明生物を見ながら言う。

 「このまま寝ているか死んでいるなら私らはお役御免で帰れるね」

 杏は気楽に言う。

 大洗女子の面々は巨大不明生物が動かなくなり安堵し始めていた。

 だがみほは目を険しくしたまま巨大不明生物を見つめている。

 (何かおかしい)

 みほは巨大不明生物の身体が何か変だと思えた。具体的に何が変なのか分からないが違和感を感じた。

 「起きた!」

 「立ったぞ!」

 「わあ!」

 巨大不明生物はいきなり起き上がり立ち上がる姿勢になる。

 「目標の形状が変わった!」

 県警ヘリのパイロットが驚きながら報告する。

 巨大不明生物は両足で立ち上がると無かった両腕が生えた。まさに違う姿に変化したのだ。

 その巨大不明生物は大きく口を開けると雷鳴のような咆哮を上げた。

 「くっ・・・・」

 雄叫びを上げる巨大不明生物にさすがのみほもキューポラの端を掴み臆する心を抑える。

 

 「駆除作戦開始だ!」

 三宅は巨大不明生物が立ち上がると即座に作戦開始を命じた。

 「こちら狙撃班、照準を定めるのに少し時間を下さい」

 だが作戦の第一段階である狙撃がすぐにできなかった。巨大不明生物の頭部へ撃ち気を引かせるのが巨大不明生物が立ち上がったせいで狙撃銃の狙いが外れてしまっている。

 「もう戦車に撃たせましょう」

 警備部長が言う。

 「そうだな。大洗女子に射撃開始と伝えろ」

 この間は巨大不明生物は立ち上がったまま動かなかった。

 「西住さん、県警から射撃開始要請が来たわ」

 「了解です」

 今度はみほが射撃開始を命じようとした時だった。

 巨大不明生物はまた四つん這いの姿勢になった。姿勢を屈めるや河口へ向けて走り出す。

 「砲撃開始!」

 みほが命じるが巨大不明生物を追うように砲塔を回さないといけない。固定砲塔のⅢ号突撃砲とヘッツァーは車体ごと向きを変えないといけない。

 「くそ、狙いが追いつかない」

 Ⅲ号突撃砲の砲手であるエルヴィンは車体の向きが巨大不明生物に追いつかず照準が定まらない事に焦れる。

 「逃げるな~食らえ!」

 37ミリ砲を装備した小さい砲塔があるM3が最初に砲撃をする。砲手の大野あやは罵声と言える言葉を口にしながら射撃を続ける。

 だが動き続ける巨大不明生物にはなかなか当らず那珂川に水柱を立てるだけだ。

 「照準よし」

 「撃て!」

 華はようやく巨大不明生物の背中に照準を合わせた。

 Ⅳ号戦車の75ミリ砲が放たれる。Ⅳ号が砲撃を始めた時に他の戦車も向きを変え砲撃を始める。

 「え?避けた?」

 華が呆けたような声を出した。巨大不明生物は背を屈め砲撃を避けたように見えたからだ。

 「違う、海に潜った」

 みほは双眼鏡で巨大不明生物を見ながら起きた事を華へ言った。

 巨大不明生物は那珂川から太平洋に出て潜った。

 Ⅳ号をはじめ大洗女子の放った砲弾は海へ落ち水柱を立てた。

 「蝶野さん。移動して追撃しますか?」

 みほが尋ねる。

 「いいえ。たった今県警から駆除作戦中止の指示が来た。海の中じゃ砲撃は当てられないわ」

 「分かりました。みなさん作戦中止です。砲撃をやめて下さい」

 こうして巨大不明生物の脅威は突然現れ突然去った。

 「どうなるかと思ったけど大した事無かったね」

 沙織は陽気に言った。

 「もう来るんじゃないぞ~」

 レオポンチームの車長であるナカジマがポルシェ・ティーガーからそう海へ向かって言う。

 「さあ、帰ろ帰ろ」

 杏がホシイモを齧りながら言う。

 (本当にこれで終わりなのかな?)

 みほは安心できなかった。

 もしも戦車を恐れて逃げたのであればいいと思っていたが西住流の武人たる心が手応えの無い撃退に不安を残していた。



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第6話「陸へ上がります!」

 「またここに来るとはね」

杏はいつもの長椅子に腰かけながら呟く。

ここは大洗女子学園廃校が決まり大学選抜チームとの試合まで寝泊まりした旧小学校の校舎だ。

 「今度はキャンプはやめた方がいいね。寒いし」

 「火を起こすのもメンドーしだね」

 外の校庭ではウサギさんチームの面々がしゃべりながら荷物を校舎に運び入れている彼女たちは前来た時には校舎ではなく野外でテントを張り魚を釣ってキャンプのように過ごしていた。

 だが今は11月であり火を起こしキャンプをするのは気が進まないようだ。

 他の大洗女子の面々、戦車道履修者は自衛隊のトラックで運ばれた自分たちの荷物を校舎に運んでいる。その近くでは別の自衛隊のトラックから弾薬箱を自衛隊員達が降ろし校舎から離れた森に運んでいる。

 その弾薬はもちろん、戦車道履修者が乗る戦車に使うものだ。

 だからⅣ号戦車をはじめ大洗の戦車もこの旧小学校の校庭に停められている。

 何故またここへ来ているのか?それは前日に遡る。

 

 「政府はあの巨大不明生物がまた来ると推測している。君たちには陸で待機するようになった。明日には旧小学校へ移動しそこで当分は生活して貰う」

 巨大不明生物が大洗から去った後で学園艦に帰った直後に杏やみほ達は辻によって集められてこう言われた。

 「みんな。ごめんなさい」

 蝶野はすまなそうに頭を下げた。だが辻は毅然と立ったままだ。

 「まだ私達だけであの化け物と戦わせるつもりですか?」

 みほは辻へ食い下がる。

 「大丈夫だ。全国の戦車道履修者へ出動を要請したよ。君たちだけではない」

 辻の答えにみほは呆気にとられ反論する気を無くした。

 「どうしても自衛隊は出ないんですか?」

 杏が蝶野と辻へ訊く。その口調と目は険しい。

 さすがに地元であり緊急事態だから杏も渋々要請を受け入れたが今度ばかりは意を唱える。

 「ええ。政府が自衛隊の出動を承認しないから」

 蝶野は俯きながら答える。

 「あの敗戦から我が国は平和憲法を制定し武力行使には慎重なんです。日本の武力行使が周辺諸国に影響を及ぼす事も理解して欲しい」

 辻は諭すように皆へ言った。

 「つまり、あの巨大不明生物を倒すまで私達でやると?」

 杏は険しい顔のまま二人に尋ねる。

 「政府の方針が変わらない限りはそうよ」

 蝶野は小さくはないが低い声で答えた。

 「蝶野一尉の言う通り政府の方針が変わらない限りは君達があの巨大不明生物と戦う。ああそうだ、警察が支援をすると言っていますから貴方たちだけではない」

 辻は相変わらずだ。

 国家公安員会と警察庁は巨大不明生物が再度上陸した場合は戦車道履修者と共に駆除作戦に参加する方針を定めていた。これは自衛隊の出動が政治で止められているせいだ。

 「質問は以上かね?」

 「はい。これ以上聴きたい事はありません」

 両者の間に冷たい空気を残して応答が終わる。

 杏の心中は怒りに満ちていた。

 何故ここまでさせるんだ!?と杏は辻へ問いたかった。だが「政府が決めた事」としか言わないだろう。どんなに怒りをぶつけてもあの鉄仮面のような辻から別の返事は返って来ない。

 

 「いつまでここにいるのでしょう?」

 生徒会の荷物を運び終えた柚子が杏へ話しかける。

 「分からないな。このままここで卒業かもね」

 カメさんチームの杏と柚子に桃は三年生である。数か月後には大洗女子学園を卒業する。

 「それは嫌です。学園艦で卒業式をするんだ。あんな化け物なんかすぐ倒して」

 桃が思い込むように言った。

 あの巨大不明生物が出現して日常が壊されている事を実感しつつあった。

 巨大不明生物によって家を壊されたひたちなか市の住民を学園艦は受け入れていた。誰もがこの先どうなるか不安な顔をしている。

 その姿が大洗女子の面々に暗い影を落とした。自分達の責任と言う影が。

 

 「政府は巨大不明生物の再上陸に備え文科省を通じて全国の戦車道履修者に対して駆除要請を出しました」

 「あ、お姉ちゃんだ」

 みほ旧小学校の校舎内に設けられた食堂に備えられたテレビで姉である西住まほの姿を見た。それはニュース映像に映る姿だ。

 「東京へ向けて出発する熊本県の戦車道履修者」というテロップと共にみほと逸見エリカがティーガーⅠ重戦車と共に映っていた。

 「あれはサンダースのケイさん。みんな東京へ行くんですね」

 優花里は次に映るサンダース大学付属高校のケイを見た。学園艦から大洗の戦車を運んだC-5ギャラクシー輸送機にサンダースのM4中戦車が乗る作業をケイが指揮している様子が映っている。

 「東京は首都だからな。しかも人口が1300万人だ。優先して強豪校のチームを配置するのは当然だろう」

 麻子がいきなりぶっきら棒に言う。

 「大洗は田舎だから後回しかあ」

 沙織が言う。

 「どうやら他は聖グロだと地元の神奈川で待機、知波単も地元の千葉で待機みたいです。プラウダは東京行きですね」

 優花里は自分のスマートフォンで検索した情報を皆へ伝える。

 「こっちは私達だけなんですね」

 華がぽつりと言う。

 「もし大洗に再上陸したら知波単が救援に来るかもしれないですね」

 優花里が地図を思い浮かべながら言う。

 「知波単はあの化け物へすぐ突撃しそうだな」

 麻子が言うと「確かにやりそう」とみほは微笑む。

 知波単学園の戦車道は突撃精神旺盛で作戦も戦術も突撃が第一のチームだ。みほ達は大洗でのエキシビションマッチと大学選抜チームとの試合で知波単と組んでいたのでその突撃精神を目の当たりにしている。

 それは「こ・う・た・い(後退)」と伝えても「と・つ・げ・き(突撃)」と聞き間違える程に。

 「そういえば茨城県の近くの県に戦車道をやっている学校があったような」

 華が何かを思い出す。「栃木のアンツィオですね」と優花里が答えた。ここで言うのは栃木県のアンツィオ高校の事だ。

 「そうです。アンツィオとの試合では御馳走になりました」

 華は全国戦車道高校生大会第二回戦の後でアンツィオの生徒達と夕食を食べた事を思い出す。イタリア風の学校だけあって全てイタリア料理だったが調理器具と材料を丸ごと会場に持って来るだけあってどれも美味だった。華はその記憶に笑みを浮かべる。

 「来たらごはんは毎日イタリアンかあ。それもいいね」

 沙織は嬉しそうに言う。アンツィオの生徒は部活の部費を集める為に毎日屋台を出しているおかげて総じて料理の腕は高い。沙織はそれに期待しているようだった。

 

「大洗の諸君!アンツィオが応援に来たぞ~!」

P-40重戦車をはじめアンツィオ高校の戦車がみほ達の居る旧小学校に現れたのは翌日の午前だった。

 「アンチョビさ~ん」

 「おお、チョビ!よく来たね」

 みほと杏は笑顔で出迎える。

 「文科省から大洗の応援に行くように言われてな。」

 アンツィオの隊長であるアンチョビがみほと杏に握手しながら来た理由を語る。

 「タカちゃ~ん。来たわよ」

 アンツィオの副隊長であるカルパッチョが大洗に居る親友であるカバさんチームのカエサルもとい本名、鈴木貴子を見つけると駆けて行く。

 「ひなちゃんもここで待機なの?」

「うん、だけど色々持って来たから楽しみにしていて」

親友二人の温まる旧交カバさんチームの面々は遠くから見守る。

「なんか前に会った時より暗くないかい?」

アンツィオのもう一人の副隊長であるペパロニはアンチョビの傍へ来てみほと杏へ言う。

「今度は試合じゃないし、みんなの中には家を失った知り合いも居るらしいから」

みほがその理由を答える。

一見いつもの調子に見える大洗の面々だったが巨大不明生物と戦う命の危険と被害に遭う知り合いを目の当たりにして重い気分が心の底にあった。それがどうやら顔に出ていてペパロニにもその落ち込みが分かった。

「そんなんじゃあの化け物に負けちまうぜ。そんな事だろうと姐さんが準備させた甲斐がありましたねえ」

ペパロニはみほからアンチョビに顔を向けて言う。

「今日からここでお世話になるからな。お土産代わりにと思ってアンツィオ高校の味を楽しんでくれ」

アンチョビは照れながら言う。

「じゃあ準備すっかあ」

ペパロニがグレーのパンツァージェケットの上からエプロンを着る。

他のアンツィオの生徒達も調理道具や食材の入った箱をトラックから降ろしている。

「けど私達だけ頂くのは」

みほがすまなそうに言う。

「被害を受けた街の人を気にしているんだな?その点は大丈夫だ。アンツィオの学園艦からみんなが出ておもてなしをしている」

アンチョビはみほが困った顔になったのを見て行った。

アンチョビの言うとおりにひたちなか市ではアンツィオ高校の生徒が被災者に日頃鍛えた腕による料理を振る舞っていた。

「じゃあ今日はアンツィオの御馳走になろうじゃないか!」

杏が皆へ大声で言うと歓声が上がる。

校庭はこうしてアンツィオ主催のパーティの様相になった。

「自衛隊の皆さんも是非食べてください」

アンチョビが離れた場所で作業をしている自衛隊員達に呼びかける。しかし自衛隊員達はある幹部を見つめる。蝶野だ。

「せっかくですから頂きましょう」

蝶野の許可が出ると隊員達はパーティの輪に向かう。

 だがその輪に蝶野は加わらずに居た。

 「蝶野さん。この鉄板ナポリタンおしいですよ」

 一人で居る蝶野のところに杏はペパロニが作った鉄板ナポリタンを持って来た。

 「ごめんなさい。気を遣わせてしまって」

 蝶野は杏から紙皿に盛られたナポリタンを受け取りながら謝る。

 「そんな態度はよしてください。気を遣うのはあの役人だけでいいんです」

 杏が言うと蝶野はクスリと笑う。

 「そう言えばあの役人は文科省に戻ったんですね」

 「ええ。駆除作戦に全国の戦車道履修者を東京を中心に集めるから纏める監督官に就任したそうよ」

 辻は各地から東京や関東防衛に集まる各地の戦車道履修者を監督する戦車道履修者派遣部隊総監督官に就任したので東京の文科省へ戻っている。

 「邪魔者がいなくなりましたね」

 杏がニンマリとした笑顔で言う。

 「ホント、せいせいしたわ」

 蝶野は緊張が解けたように両手を上げ背伸びした。

 「こういう時は酒でも持って来て憂さ晴らしする時なんでしょうけど私らは未成年ですから」

 と言いながら杏はアンチョビから貰ったぶどうジュースが入っている小瓶を取り出す。

 「そうそう、気分が良い時は美味しいのよ」

 蝶野は高機動車に隠している日本酒の瓶を取り出す。

 「では、邪魔者がいなくなって乾杯」

 杏はぶどうジュースの入った紙コップ。蝶野は日本酒の入った紙コップ。二人は紙コップをくっつけて乾杯する。

 「角谷さんが大人だったら色々飲ませたいのになあ」

 蝶野がほんのり顔を赤くしながら言う。

 「その時は大人の授業お願いしますね」

 「ははは。大人の授業ってエッチねえ」

 「蝶野さん。もう酔っぱらってません?」

 



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第7話「情報提供です!」

今回からカヨコが登場します。
カヨコとケイの交友関係があるようにカヨコの祖母の地元を長崎と本作では設定ていますが、シン・ゴジラでは長崎なのか広島なのかははっきりは出ていないです。


 西住まほは愛車と言えるティーガーⅠ重戦車から外を眺めていた。

 その光景は無限のように広がる街並みだった。

 「これが東京か」

 みほは黒森峰の戦車道履修者達を率いて東京に来ていた。

 文科省の要請で東京での配置に就くべく熊本から黒森峰女学園の戦車道履修者は向かった。戦車に乗るまほ達が熊本空港から羽田空港まで民間機で移動し、戦車はトレーラーで高速道路で向かった。

 東京都内にトレーラー隊が合流するとまほ達は合流した。まだトレーラーに積まれた戦車に乗り込み戦車を動かして降車させる為だ。

 降ろす場所である新宿御苑まで黒森峰の面々は戦車の上から東京を見物する。

 見物とはいえ夜だ。よく見渡せるとは言い難いが煌々と光る街の灯りは熊本とは大違いで黒森峰の皆は楽しんでいた。

 夜間の移動は重量物の移動が夜間に定められている道路交通法に従った為だ。巨大不明生物が襲来している非常時なら昼間でも移動できたが、襲来していない今は平時の法律に従っている。

 「隊長、10時に東京タワーが見えますよ」

 副隊長の逸見エリカがティーガーⅡ重戦車から無線でまほへ教える。

 「初めての東京だからってあまり浮かれるなよ」

 まほは隊長として釘を刺す。エリカは恐縮して「すいません」と小さく答えた。

 (あれが東京タワーか。綺麗なものだな)

 しかしまほも大都会東京の夜景に心が少し浮かれ赤くライトアップされた東京タワーを眺める。

 思わず持っている携帯電話に手を伸ばし撮影してメールでみほへ送ろうかと思ったがエリカを諫めたばかりなのを思い出した。

まほは手をティーガーⅠの砲塔の上に乗せ東京タワーをまたしばし眺めた。

 

 在日米軍横田基地にはサンダース高校の戦車が集結していた。

 輸送機でここまで運び降ろしてから展開地域が決まるまで待機となっていた。

 「ケイ!久しぶりね」

 サンダースの隊長であるケイは自分の戦車であるM4シャーマン戦車を整備していた。そこへ誰かが呼ぶ。

 「カヨコ!久しぶり!」

 ケイは振り返ると大きな笑顔で迎えた。その人はカヨコ・アン・パタースンだ。彼女はアメリカ人だが祖母が日本人なので一見日本人見える容姿をしている。

 そんなカヨコとケイの縁は祖母の地元が長崎であり、ケイの親戚とカヨコが仲が良くカヨコが祖母の墓参りに来た時にケイと出会い縁が続いていた。

 「こんなところで会えるとはね」

 「本当に、日本へ来たのは仕事?」

 ケイはカヨコがアメリカ議会の議員である事を知っている。

 「そう。聞いてよ、ドレスのままパーティ会場から仕事へ行けって言うのよ。酷くない?」

 「酷いわ。しかもドレスのままって余裕無さ過ぎだよね」

 「でしょう。着替えようと思って日本の役人にZARAが無いか聞いても分かって無いし」

 「そうとうストレス溜まっているわね」

 カヨコは溜まった愚痴をケイへぶつける。 

 「そうだ。ケイ、大洗の戦車乗っている子と知り合いかしら?」

 

 「お姉ちゃんが東京に着いたってメールがあった。困ったら連絡しなさいって」

 みほは姉からメールがあった事を昼食を食べながらあんこうチームの皆へ語る。

 「優しいお姉さんですね」

 華は普通に連絡し合えている西住姉妹を嬉しく思っていた。みほが熊本から大洗へ来てから溝が出来ていた事に華も戦車道を続ける為に母親との仲が悪くなった事で理解があった。

 「困った事ですか。火力向上にティーガーⅠかティーガーⅡ、欲を言えばヤークトティーガーを借りたいですね」

 優花里が冗談で言う。

 「あんな重過ぎる戦車の操縦は難しいんだぞお。どこを通るか気遣いがなあ」

 あんこうチームでは操縦を担当する麻子が優華里へいつもの気だるい調子で言う。まだ寝起きなので尚更低い声だ。

 「ティーガーの操縦は車と同じハンドルですしパワーステアリングもありますから重い戦車の割には動かしやすいですよ」

 優花里はティーガーの操縦に関して明るく答える。ティーガーは自動車の走向装置を導入しているのでⅣ号のようなレバーによる操縦とは違うと優花里は言っているのだ。

 「じゃあ私は生徒会に呼ばれているから行くね」

 談笑に花が咲く中でみほは昼飯を食べ終えると生徒会室へ行く。

 「西住ちゃん来たね。じゃあ始めようか」

 生徒会の部屋に入ると杏が会議の開始を告げる。メンバーは柚子・桃にアンチョビと蝶野が居る。

 「西住さんの言うアメリカ政府関係者が会いたいと米軍経由で防衛省から連絡が届いたわ」

 蝶野が言う。

 「何で私なんでしょう。アメリカ政府の人と会った事はないのに」

 みほは困惑していた。

 昨夜、ケイからカヨコに会って欲しいとメールがあった。メールにはカヨコがアメリカ大統領の特使だとも書かれていた。

 みほは用件は何か尋ねると「カヨコは会うまで話せないと言っている。嫌なら私から断るよ」と返事が来た。みほは意を決して会うと決めた。

 だが事が政治絡みだとみほも分かっていた。なので杏と蝶野に朝一番で相談し今に至る。

 「防衛省からの連絡だと現地訪問の一環で西住さんに会いたいと言っているけどそれなら外務省か文科省から話が来るのに変よねえ」

 蝶野もカヨコの訪問に疑念を持っていた。

 「アメリカも巨大不明生物を私達で倒せと言いたいからかねえ」

 杏が言う。彼女も今度ばかりは何も読めない。

 「彼の国は無茶を言いますからね」

 桃もこれから過大な要求をされるのでは?と警戒をしている。

 「だけど何か支援をしてくれるならありがたいけどね」

 柚子はそう希望を持つように言うが彼女も不安だった。

 「だけど、会ってみないと分からないぞ」

 アンチョビが言う。

 「西住ちゃん会うのが嫌なら私と蝶野さんで会うよ」

 杏はみほへ助け舟を出す。

 「いいえ。私は会います」

 みほは会うと言う部分では決心していた。

 

 カヨコは米陸軍のUH-60で旧小学校の校庭に着陸して来た。

 サングラスをかけたスキンヘッドのいかついSPらしきスーツの男を連れて待っていたみほと杏に挨拶をする。

 「会ってくれて嬉しいわ。私はアメリカ大統領特使のカヨコ・アン・パタースンです」

 「はじめまして。私が大洗女子学園の戦車道隊長の西住みほです」

 みもはカヨコの目をまっすぐ見ながら挨拶をする。

 

 「私は大洗女子学園生徒会の角谷杏です。政治の話なら私が受けますよ」

 杏がカヨコへ進んで挨拶をする。

 「あなたが母校を廃校にしないように官僚と渡り合ったミスカドタニね。政治なら貴方に話すわ」

 カヨコは杏が廃校を回避しようと文科省や戦車道連盟と折衝を重ねていた事を知っていた。それは事前に会う人物のプロフィールを知るいつもの事に過ぎない。

 「さすがアメリカさんだ。何でも知っている」

 「そうよ。だから貴方達に教えに来たの」

 

 

 「日本政府にあの怪物の対策本部が出来たのは知ってる?」

 生徒会室に場所を移すとカヨコが尋ねる。

 「巨災対ですか?」

 蝶野が答える。巨災対は巨大不明生物災害特設対策本部の略称だ。

 「そう、その巨災対の情報を私は教えに来た。どうも貴方達を管理している文部科学省は融通が利かないから軍を通じて連絡して会っているわけ」

 カヨコは日本政府が巨大不明生物に軍事力を使わずスポーツの戦車に実弾を撃たせて倒す方針のままだと聞いて呆れた。ならば巨災対の情報を教えて少しでも有効な対策を立てさせようとしたが「国家機密を外部には教えられない」と対策本部長の矢口蘭堂は断る。

 「だがアメリカから情報が伝わったのなら私は止めようが無い」

 矢口のアドバイスからカヨコは行動に出た。

 「非公式な情報ですね?」

 蝶野は確認するとカヨコは「そうよ」と答える。

 「あの怪物はある科学者に関係している。名前は牧悟郎。城南大学で統合生物学の教授をしていた。その牧は学会から追放されてアメリカでエネルギー省の仕事をしていた」

 カヨコは連れて来た男から書類を受け取ると資料を広げる。そこには眼鏡をかけた老人の写真、牧悟郎の写真もあった。

 「牧は生物の専門家でありながら放射性物質の研究機関で働いていた。牧は自分の研究が終る直前に日本へ来て行方不明になった。日本の警察に捜索を頼んだら大洗の病院で亡くなっていた。大洗で何をやっていたかは分からないわ」

 資料とカヨコの説明を受けある老人が巨大不明生物と何か関係があるとまでみほ達には分かった。

 「まさかあの化け物をこの老人が作ったとか?」

 アンチョビがカヨコへ訊く。

 「その可能性が高いわ。だから政府以外にこの情報を出したくないみたいよ」

 「文部科学省も牧教授の属していた大学の面子を守るためで秘密にしたかったのかもしれないですね」

 杏がそう推測すると「貴方本当に政治は得意ね」と感心した。

 「パタースンさん。この情報を他の戦車道履修者にも伝えるんですか?」

 みほが尋ねる。

 「必要ならそうするけど、今はこの情報は貴方達が一番必要だから教えたの」

 カヨコが答えると「どういう事でしょう?」と今度は蝶野が訊く。

 「あの怪物がここへ来る可能性が高いからよ」

 みほと柚子・桃が「ええ!」とどよめく。

 「根拠はあるんですね?」

 蝶野が尋ねるとカヨコは少しかぶりを振る。

 「確証とは言えない。だけど牧教授が大洗であの怪物を呼び寄せる仕掛けを残していたら再上陸はありえるわ」

 カヨコの言葉に杏もみほも信じて良いのかと思う不安が沸く。

 「つまり、パタースン議員は大洗の私達にまた戦う可能性が高いと言いたいのですね」

 蝶野が言うと「ええそうよ」とカヨコは肯定する。

 「だけど心配しないで、水面下で日本政府を動かす働きかけは色んな人がしているわ」

 カヨコは不安げな大洗の面々に自信に満ちた顔で言った。



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第8話「家元の二人です!」

 

 北関東某所

 「ねえミカ、こんな所でのんびりしていいの?」

 アキはカンテレを弾くミカへ尋ねる。

 「急げばいいものじゃない」

 ミカはいつものおどけた態度でアキへ言う。

 ミカは石川県の継続高校で戦車道の隊長だ。文科省の要請で東北地方に愛車であるBT-42で向かっていた。

 だがミカは北関東の森でこうして焚火を前にカンテレを弾くのんびりした日々を送っていた。

 「さすがにお役所からの指示だよ。遅れるのはマズイんじゃないの?」

 アキは心配してやまない。非常事態に関しての指示だから遅れたら怒られやしないかと思っていた。

 「役所の言う事が正しいとは限らない。のんびり様子見をする時も大事さ」

 「なによそれー」

 ミカの妙な返事にアキはまたかと呆れた。

 

 

 西住しほは東京に来ていた。

 同じく東京に来ている娘のまほに会う為ではない。自分が継承している戦車道の流派西住流家元として東京に来ていた。

 熊本から空路で行き羽田空港から東京に入るとタクシーで霞ヶ関へ向かう。

 「あらこれは西住流家元」

 霞ヶ関に着くと島田流家元である島田千代がタクシーを降りるしほへ話しかける。

 「これはこれは島田流家元、貴方も文科省にです?」

 しほがそう尋ねると「ええそうよ」と千代は上品に答える。

 お互いは大洗女子学園と大学選抜チームの試合では静かに火花を散らしていたが試合意外ではこうして同じ家元同士として友好的に接している。

 「貴方の次女の方が大洗であの化け物と戦っていると聴きましたわ。気が休まらないでしょう」

 千代はしほを気遣う。

 「私の娘ですから化け物相手でも簡単にやられないと思います」

 しほがこう凛と答える。

 千代はいつものしほだと思った。

 「心配していないと言うと嘘にはなりますが」

 しほがそうポツリと言うと千代はしほにも母親らしいところが在るのだと微笑む。

 

 文科省ではしほや千代など戦車道の各流派家元が集まり辻から巨大不明生物駆除の協力を改めて要請された。

 「貴方方の娘さんやお弟子さん、関係する皆さんが命の危険に晒される事をお詫びします」

 辻の態度は杏や蝶野に対してと違い腰が低く言葉遣いが丁寧であった。

 各流派の家元は誰もが何らかの名士と人脈が在る。粗相があれば自らの身が危ういからだ。

 「お詫びと言っても責任は取らないんでしょう?」

 「スポーツ選手がここまで命を張るなんて信じられないわ」

 家元達は次々に辻へ厳しく責める。

 辻は「真に申し訳ありません」と困った顔で繰り返すばかりだった。

 その様子をしほと千代は黙って見ていた。

 「西住流家元、貴方の娘さんは大洗で巨大不明生物と戦ったそうですね。貴方はどう思ってらっしゃるの?」

 辻を一番責めている家元がしほへ尋ねる。

 「私はたとえ化け物を倒す事でも大事な役目と思います。その役目を果たすだけです」

 しほが淡々と言うが尋ねた家元は納得してない。

 「娘さんが心配ではなくて?」

 「勿論心配です。ですが私の娘達は簡単に根を上げる様には鍛えてはおりません」

 辻と家元から家元同士が対立する様相に変わってしまった。

 険悪な空気が室内を包む。

 「さすが西住流、勇ましい事ですわ」

 刺々しい空気に温い風を送るように千代がのんびりと言う。

 「けど、皆様の不安は最もですわ」

 千代は立ち上がると険悪な二人の間に立つ。

 「辻さん。いざとなれば自衛隊が出てくるようになりませんか?」

 千代は温和に訊いているが辻にとって苦しい質問だ。

 「申し訳ない。私から自衛隊が出動するとは確約できない」

 辻がまた頭を下げる。

 千代は肩から力を抜きため息を吐く。

 

 「このまま私達でやるしかないようね」

 文科省から出るとしほは千代へ言う。少しの苛立ちがあった。

 あの化け物を倒して欲しいと請われれば持てる力を発揮するだけだが命じた方が余りにも無責任に思えたからだ。

 「そのようね。文科省はアテにならないし」

 千代もしほと同じであった。

 「家元の御二人」

 そこへ呼ぶ男の声がする。誰だとしほと千代が見ると眼鏡をかけた小太りの男が居た。

 「確か保守第一党の泉さんでしょうか?」

 千代が尋ねると男は「憶えていただいてありがたい」と笑顔で返す。

 この男は泉修一と言い政権与党の保守第一党議員で党の政調副会長をしている。そんな政治家が秘書を連れて文科省の前でしほと千代を呼び止めた。

 「何か御用ですか?」

 しほが訊く。

 「はい。今回の戦車道履修者による駆除作戦についてお話ししたい。ここでは何ですから場所を変えませんか?」

 泉の誘いにしほが「いいでしょう」と答えると千代も「構いませんわ」と続く。

 しほと千代は泉が乗って来たレクサスに乗り込む。

 

 レクサスは赤坂の料亭で止まる。

 泉が贔屓にしているだけあって女将も中居もよく心得たように泉の求めに素早く応じ準備もしている。

 「いい店ですね」

 千代がそう褒める程に居心地が良い料亭だった。

 だがしほはいつもの険しい表情と雰囲気のままだ。

 「西住さんはあまりここはお好きではないですか?」

 さすがに泉が気遣う。

 「いえ、用件を早く聞きたいだけです」

 「膳が整ってからと思いましたが、いいでしょう」

 泉は先付しか出ていない状態だったがしほの様子から話す事に決めた。

 「戦車道をしているお嬢さん達に駆除作戦を要請した事は政府内でも渋々通した案だったんです」

 「渋々ですか…」

 泉が言うと渋々の部分でしほの眉が僅かに跳ねる。

 「自衛隊が出動し武器使用をすれば武力行使にあたる。それが憲法違反であるとか周辺諸国の反感を買うとか意見が噴出したんです」

 泉は政権与党の幹部として知りえた政府の内情を語る。

 「それで戦車道による駆除と決まったのですか?」

 しほが尋ねる。

 「巨大不明生物はあの図体ですからね。銃弾で効果があるのか武器の素人でも心配になりましてね。国家公安委員長を兼ねる金井防災大臣が戦車は自衛隊以外にもあっただろうと言い出したのが始まりです。そこが妥協点だと閣内でまとめて今に至るのです」

 「政治家は気楽に言ってくれるわね」

 しほが金井大臣を恨むように言う。

 「だからこそ政治家として自衛隊が出動できる下地を整えたい」

 「その下地を私達にですか?」

 千代が言うと泉は「お願いしたい」と応える。

 「家元である御二人なら政治家だけではなく色んな人脈をお持ちだと思います。その人脈を通してお願いして貰いたい」

 泉は前に置かれたお膳台を横へどけると頭を下げる。

 「まあまあ泉さん。頭をお上げになって下さい」

 千代は慌てて泉の姿勢を元に戻すように求める。

 「分かりました。外から圧力をかけるのですね」

 しほがすっきりと言うと泉は「ありがとうございます」と頭を下げる。

 「素直ですね西住さん」

 千代はしほがまだ少し泉をいじめるのでは無いかと思っていた。

 「目的が分かれば私は満足です。後はどう作戦を展開するかが私の関心です」

 「なるほど」

 しほはシンプルな思考であった。

 「では食事をしながら作戦会議としましょう」

 千代が笑みを浮かべて言うとしほは頷く。泉は女将を呼び膳を運ぶように伝えた。

 



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第9話「ゴジラと命名です!」

 「巨大不明生物に名前がついたわ。ゴジラと言うそうよ」

 一方で大洗では夕食を前に蝶野がみほ達へ伝えた。

 「こんな時に名前なんて全くどうでもいい」

 桃が苛立つように言う。

 「まあ、言い易くはなったね。巨大不明生物なんて長過ぎ」

 杏が言う。

 「そう言えば大洗に上陸したから大洗君なんて言われてますよ」

 柚子がタブレットを皆に見せながら言う。そこにはネット上で巨大不明生物と言う名前は長いから大洗に現れたので大洗君にしようと書かれた記事が出ている。

 「まず上陸したのはひたちなか市だろ?」

 アンチョビが柚子のタブレットを覗きながら言う。

 「ひたちなか君は長くスギ」

 杏が干し芋を揺らしながら言う。

 「それもそうだ」とアンチョビは合点する。

 「でも愛着は湧かないな」

 みほがそう言うと皆は「確かに」「だよねー」と同意する。

 あくまで巨大不明生物もといゴジラは倒す相手なのだから。

 

 

 「ふう。陸で移動するのは結構しんどいわね」

 停車させたT-34/85中戦車から降りるとカチューシャは一息する。

 カチューシャは青森県のプラウダ高校で戦車道の隊長をしている。

 「お疲れでしょう。さあ」

 カチューシャの前でしゃがみカチューシャをおんぶしようとするのは副隊長のノンナだ。

 「それはいいわ。みんなに晩御飯を食べさせないと」

 ノンナのどこか自分を子ども扱いする態度を断りカチューシャは隊長として指示する。

 青森県から鉄道で茨城県の宇都宮まで移動し、そこから千葉県の陸上自衛隊習志野駐屯地へ自走してやって来た。

 長距離の自走をほぼ1日中ずっと行いカチューシャもノンナもさすがにくたびれている。

 それはプラウダの生徒皆もそうだ。

 「お~いみんな。肉入りのシチー作ってあるから食堂へ来てくんろ」

 先行して習志野駐屯地へ来ているプラウダの生徒がカチューシャ達へ訛りのある声で呼びかける。彼女達は受け入れ準備と晩飯を作って待っていたのだ。

 その呼び声にクタクタの彼女達も目を輝かせて食堂へ歩き出す。

 「ノンナ、ここから大洗は近いんだっけ?」

 歩きながらカチューシャはノンナへ尋ねる。

 「近くはないですね。80km以上はあるかと」

 「遠いわね」

 「みほさんが気になりますか?」

 「あんな化け物相手にしているんだし気にはなるわ」

 やはりカチューシャは素直ではない。いつも通りだとノンナは思った。

 

 

 日本近海の太平洋では海上自衛隊が護衛艦と哨戒機により捜索を続けていた。

 何度もアクティブソナーによる音波を放ち海中と海底を調べた。だがなかなかゴジラの影も捉えられない。

 それは日本近海各地も同じだった。

 もう遠くへ行ったのではないかと捜索にあたる隊員達が思っていた時だった。

 「不明の音源を捉えました」

 日の出にはまだ時間がある未明

 護衛艦「むらさめ」のソナーを担当する水測員が当直に立つ艦橋の副長へ報告する。

 「潜水艦か?」

 「いえ、スクリューの音は無し。しかし海の底で何か動いています」

 報告を受ける副長は休んでいる艦長と水測長を起こし探知した事を告げる。

 「また外れかもしれんが。そちらへ行く」

 艦長も水測長も今まで潜水艦以外の不明な音源を探知しては陸地からの反響音、水棲生物の動く音など外れを当てていた。

 そのせいか探知報告を聞いてものんびりしたものだった。

 「さて、クジラかな?ゴジラかな?」

 寝起きの水測長は冗談を言いながら保存した音のデータを聴く。

 ヘッドフォンを耳に当て水測長が聞き入ると顔は寝ぼけまなこから険しくなる。

 「艦長、魚やクジラでも陸の音でもありません。聞いた事が無い音です」

 「ゴジラか?」

 「可能性は大きいですね。ゴジラの音紋データが無いので可能性としか言えませんが」

 「分かった。水測長はそのまま配置に就き音源に異変がないか観測せよ」

 艦長は次にゴジラらしきものを探知したと第1護衛隊司令部へ通達する。

 その報告は次に第1護衛隊群司令部へ届き自衛艦隊司令部と続き海上幕僚監部を経て自衛隊のトップである統合幕僚長へ届く。

 統幕長から防衛大臣へ届き内閣官房長官や内閣危機管理監にまで届いたが「むらさめ」が探知したのがゴジラなのか見極める為に総理大臣や他の閣僚にはまだ伝えていない。

 「不明の目標が浮上中!」

 「むらさめ」は探知した不明の音を放つ物体が浮上しているのを察知した。

 「対水上対潜戦闘用意、これは実戦だ!」

 艦長は既に配置に就かせていた艦内の総員へ告げる。

 ゴジラに対しての武力行使は自衛隊の最高司令官である総理の許可が必要だが、浮上した時にゴジラと確認され許可が下りれば主砲や魚雷で攻撃するつもりであった。

 「不明の目標は震度50のまま西へ向かっています」

 水測長の報告に艦長は忌々しく感じた。

 海中に潜るナニモノかがゴジラだと分かれば許可を貰い実弾を撃てる。

 だが潜ったままではゴジラか否か分からない。

 「艦長、このままの進路だと大洗へ向かいます」

 航海長が海図でゴジラらしい目標が向かう進路を指した。

 「すぐに報告だ。ゴジラらしきものが大洗へ向かうと」

 

 「はあ、ゴジラらしきものですか。大洗に」

 辻は寝ているところを携帯電話で起こされた。

 「分かりました。すぐに大洗へ警戒するように指示をします。では」

 携帯電話を切ると今度は大洗に居る蝶野の電話番号へかける。

 「起きたかね。ゴジラらしいのを海自が発見した。どうやらそちらへ向かっているらしい。いつでも出動できるようにして警戒態勢にしておくように」

 辻は早口に言うと電話を切りベッドから降りる。

 「まだ4時か。やれやれ早出出勤か」

 



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第10話「2度目の出動です!」

「非常呼集!非常呼集!ただちに全員起床!」

 午前4時15分に柚子はパジャマのまま緊急の放送をする。その放送は大洗女子学園の面々が眠る旧小学校の校舎全域に響き渡る。

 「ゴジラですね」

 放送を聴いて飛び起きた優花里が同じくすぐに起きたみほへ言う。みほは「うん」と言い頷く。

 「ほら、起きて!」

 一方で沙織は早起きができない麻子をなんとか起こそうと布団をどけ身体を揺らす。

 「ゴジラめ恨んでやる」

 沙織に文字通り叩き起こされた麻子は低い声でゴジラへの恨みを口にする。

 「早く着替えろ!すぐに戦車を動かせるようにしておけ!」

 制服とタンクジャケットに着替えた桃が校舎を見回り皆が起きているか確認に回っている。

 スピーカーから流れる放送と桃の見回りで嫌でも起きた皆は寝ぼけながらも着替えて校庭にある自分達の戦車のところへ向かう

 「う~さむう」

 「戦車も冷え冷え」

 10月の早朝4時半はまだ陽が出ていない。ウサギさんチームの皆はその寒さに震えながらエンジン起動や各部のチェックに回る。

 他のチームも同じく冷たい戦車のエンジンをかけ暖機運転を行い外側と内側で点検を行う。

 「こちら蝶野、無線のテストをする。各戦車は今の交信がちゃんと聞こえるか返事をして」

 蝶野は軽装甲機動車から無線通信のテストをしている。

 「こちらあんこう。感度良好です」

 「アンチョビも感度良好だ」

 「カバさんチームも感度良好」

 「アヒルチーム良く聞こえます」

 こんな感じで全部の無線の状態が確認される。

 「ついさっき、ゴジラがこの大洗へ向かっていると連絡があったわ。今度は前のように逃げるとは限らないわ」

 蝶野の言葉に皆の目に少し険しさが入る。

 前のゴジラ上陸の時は戦車が攻撃を開始したと同時にゴジラは海へ逃走した。だが今度も同じとは限らない。逆に反撃されるかもしれない。

 「攻撃も大事だけど自分達の安全も第一に、車長のみんなは危険だと判断したら回避できるように考えて動いて」

 「了解です」

 「分かりました」

 車長それぞれの返事はいつもの戦車道をしている時とは違い自分らしさを出さず真面目だった。

 「たった今、文科省より総監督官から出動要請が来たわ。これより出動します」

 蝶野は自衛隊の無線機で辻からの要請を受けた。

 「作戦は以前話した通りです。作戦の配置通りに動いてください」

 みほが隊長として無線で呼びかける。

 既に大洗の皆でゴジラ襲来の時に備えての迎撃作戦計画を立てて皆へ説明をしていた。

 部隊編成としては大洗部隊とアンツィオ部隊に分かれている。その二つをみほが大洗部隊の部隊長を兼ねて指揮を執る事になった。

 「ではアンツィオ部隊はひたちなか市へ向かう」

 アンチョビはアンツィオの部隊をひたちなか市へ向かう。ゴジラが大洗へ来る可能性が高いとはいえひたちなか市へまた上陸する可能性もあるからだ。

 「こちらは防災大洗です。ゴジラ襲来警報が発令されました。住民の皆さんは指定の避難所へ向かってください」

 大洗市内では防災無線が録音してある警報を繰り返し流していた。その警報やテレビに携帯電話に通知される警報もあって住民は学校などの避難所へ向かう。

 その避難民を県警が誘導し戦車の通り道を空けている。その道をみほ達は県警のパトカーに誘導されて大洗の町中を移動する。

 「駆除作戦の計画はそちらの案で行う。銃器対策部隊と放水部隊を掩護に向かわせている」

 「了解しました。掩護ありがとうございます」

 みほは茨城県警本部長の三宅からの指示を受ける。この迎撃作戦を統括して指揮しているのは茨城県警のままである。

 「こちらレオポン、磯前神社へ到着」

 みほの耳にレオポンチームからの報告が入る。レオポンチームはポルシェ・ティーガーに乗っているチームだ。

 ポルシェ・ティーガーは自動車で有名なポルシェ社が作った重戦車でヘンシェル社と競うティーガーⅠになる重戦車のコンペに出品された戦車だ。しかし駆動系が比較的シンプルなヘンシェル社の方が選ばれた悲運の戦車でもある。

 しかし火力はティーガーⅠと同じく88ミリ砲であり大洗女子の戦車隊では最強の火力だ。しかも長距離の射撃ができるので小高い丘にある磯前神社にポルシェ・ティーガーが展開した。ゴジラが射程内に入ればまずレオポンチームが射撃を開始する計画になっている。

 「西住ちゃん。大洗公園に到着したよ」

 杏が報告する。その言葉はいつも通りだ。

 杏のカメさんチームはウサギさんチームと共に大洗公園の駐車場に展開した。

 「戦車隊へ港中央の駐車場を確保した」

 「了解しました」

 県警は大洗港の港中央にある広い駐車場を戦車と警察車輌の展開要地として警官を出して確保していた。

 みほや蝶野の居る大洗部隊主力は港中央の駐車場に展開する。とりあえず港中央に戦車を配置しゴジラがどこへ上陸しても動ける態勢にするのが作戦計画である。

 「こちらカモさんチーム大洗サンビーチ駐車場に到着したわ」

 風紀委員のカモさんチームとゲーマ三人組のアリクイリームさんは港中央より南西にある大洗サンビーチの駐車場に展開した。

 こうして大洗の戦車隊は四箇所に配置を完了した。

 「後はゴジラが来るだけ」

 皆が配置に着いたと分かるとみほはキューポラから半身を出し双眼鏡で港の向こうに広がる太平洋に視線を向ける。

 防波堤があり水平線すら見えず昇ったばかりの朝日が眩しく見える。

 まだ静かな光景がゴジラが来る実感を薄める。

 だがあの防波堤を越えてゴジラが現れるのを想像するとみほの背筋は寒くなった。

 「みぽりん」

 沙織が突然みほを呼ぶ。

 「大丈夫だって、いざとなったら麻子の操縦テクニックで逃げられるからさ」

 緊張しているみほを心配した沙織が声をかけたのだ。

 「ありがとう沙織さん。だけど逃げるより華さんの射撃で仕留めたいな」

 みほが笑みを見せながら言うと華は「勿論、今度こそ必中です」と自信を見せる。

 「西住殿、これならゴジラもイチコロですよ」

 優花里がおどけて言うとみほの緊張は少し和らいだ。

 「みんな。頑張ろう」

 「はい!」

 ゴジラの襲来を前にあんこうチームは気持ちをより高めた。

 

 

 



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第11話「頼もしい助っ人です!」

C-5からヤークトティーガーを空挺降下させられるか(ヤークトティーガーの長い砲身がC-5のカーゴドアにぶつからないか)が疑問だったけど演出優先で今回の場面になっております。


 「アメリカ特使から連絡?何だそれは?」

 三宅はこれからゴジラと戦おうとしている時に他国の特使から連絡が届き困惑する。

 「外務省の仕事だろうに」と三宅は文句を言いつつアメリカ特使と繋がる回線の電話を取る。

 「こんな非常時に時間を頂き感謝します」

 もちろんアメリカ特使と言うのはカヨコだ。カヨコはまず電話を受け取った事に感謝を伝える。

 「用件は手短に願いたい。非常時ですので」

 三宅は丁寧に話すが内心は早く電話を切り上げたい苛立ちが募る。

 「では用件を伝えます。もうすぐ大洗に空から援軍が来るわ。大洗公園の辺りの国道108号を空けて貰いたい」

 カヨコの用件に三宅はより戸惑う。

 「まさかアメリカ軍が来るのか?」

 「違うわ。だけど援軍になるのは確かよ。すぐに空けてください」

 三宅は要領を得ない答えに困りながらもアメリカが何か助けてくれるんだろうと判断した。

 「日本政府や関係する機関は承知ですか?」

 組織の人間として聞かねばならない点だ。勝手に動いたと言われない為にだ。

 「既に通達済みよ」

 カヨコの返答に三宅は納得した。

 「了解した。すぐに現場の警官へ国道108号を空けるように伝える」

 

 

 「県警本部より国道108号で警備にあたる警官へ告ぐ、大洗公園前を中心に108号から車輛など障害物となる物をどけよ。空から増援が到着する」

 県警から発せられる無線でみほは何かが来ると知った。

 「何が来るんでしょう?」

 優花里がみほが何か知っているのではと尋ねる。

 「私も増援が来るなんて初めて聞いた」

 「黒森峰やプラウダが来ればいいんですけどねえ」

 「そうだね。黒森峰の重戦車が来れば心強いけど」

 そう会話しているとキューポラから上半身を出しているみほの視界に何かが映る。低空で南から大洗へ進入する空の影が幾つも。

 「来た?」

 みほが空を見上げると小さい機影は飛行機としての形をはっきりさせた。

 「あれはC-5ですよ。サンダースが持っているのと同じものです」

 優花里は砲塔の左側面にある出入り口を空け半身を出すと双眼鏡で機影を確認した。

 文科省により廃校が一時は決定された時に大洗の戦車をサンダースへ預けた時にサンダース附属高校が持つ大型輸送機Cー5で運んだ時があった。

 その時に飛来したのと同じ機体が幾つも大洗に近づいていた。

 「あのC-5はアメリカ軍の標識ですよ!」

 優花里は頭上を通過したC-5の機体に描かれたどこの所属かを示す標識、いわゆるマークを見た。

 そこには円に白い星が描かれ左右に長方形の模様もあるアメリカ軍である事を示す標識が描かれていた。

 「どうなっているんだ?米軍が助けに来たのか?」

 桃はヘッツァーのキューポラから外を見た。

 大洗公園の上空に低空で近づくC-5は後部のカーゴを開けると何かを投下していた。

 「戦車?あれはティーガーⅠって事は黒森峰か」

 磯崎神社で様子を眺めていたナカジマが投下物を双眼鏡で見た。それは全国戦車道高校生大会の決勝で見た戦車だ。57トンの巨体がパラシュート付きの板に乗り国道108号に降下する。

 「ティーガー1にヤークトパンターですよ!あーヤークトティーガーまで空挺降下させてます!」

 優花里は空から頼もしい戦車たちが降りて来るのを無邪気にはしゃいだ。

 みほはティーガー1が来たと聞いて姉のまほが来たのかと思った。

 そんな時に無線からその姉の声が聞こえた。

 「みほ、聞こえるか?」

 「お姉ちゃん!」

 「すぐそちらに着く。私達もゴジラと戦う」

 「ありがとう」

 わだかまりが消えた姉妹

 みほは素直に感謝した。

 大洗からの転校手続きの書類を母親のしほを通さず印鑑を押してくれた事

大学選抜との試合で真っ先にエリカと共に味方として駆けつけてくれた事

 みほは姉まほの存在が頼れる存在として大きくなっていた。

 「みほさん。黒森峰だけじゃなくてよ」

 無線に今度は聖グロリアーナの隊長であるダージリンが出た。

 「ダージリンさんも!」

 「ヘイ!みほ!私も来たよ!」 

 今度はサンダースの隊長であるケイの声も聞こえる。

 「すごい!みんな来てくれたんだ!」

 無線を聞いて沙織が感激する。

 大洗公園前の国道108号は黒森峰・聖グロリアーナ・サンダースの戦車が集まる形になった。

 それぞれの戦車へ乗るまほやダージリン・ケイなどは米軍のMV-22オスプレイに乗って大洗公園に来ていた。

 「急いで。それぞれの戦車に乗りエンジン始動!」

 「じゃあみんな、ハリアーップ」

 まほやダージリンにケイはオスプレイから降りると皆を戦車へと走らせる。

 「頼もしい援軍だね」

 杏は降りてきた戦車を眺めていた。

 「東京を守る戦車を回すなんて気が利きますね」

 桃は素直にそう思った。

 「それはどうかな」

 杏はそう辻が気を利かせているなんて思えなかった。

 

 「大洗に行けといつ言った?アメリカからの要請?なんだそれは?」

 辻はTVの映像で大洗へ東京防衛に配置させていたはずの黒森峰やサンダースの戦車が来ているのを知った。

 辻はすぐに黒森峰の指揮所に電話をかける。

 電話に出たのは黒森峰の副隊長である逸見エリカだ。

 「知らないんですか?私は知っていると思っていました」

 「初耳だ。まったく勝手な事を。ともかくすぐに戻るように伝えたまえ」

 「ですがもうすぐ大洗にゴジラが来ますよ?」

 「東京を空にする訳にはいかん」

 「東京には黒森峰の主力が残っています。東京を守る戦力はあります」

 エリカが言うとおりに黒森峰の戦車のほとんどは残っていた。

 大洗へ向かったのはティーガー1とヤークトティーガー・ヤークトパンターが1両づつにパンターが2両の5両だけだからだ。

 「だが勝手な行動をした事は後で何らかの処分が下ると覚悟しておきたまえ」

 辻はそう言うとエリカとの通話を終える。

 「全く、どいつもこいつも私を困らせる」

 無理矢理押しつけられた総監と言う立場になり、家元や保護者からの突き上げを受け勝手に動く者が現れ辻の頭を痛めた。

 そこへ辻の机に置かれた電話が鳴る。

 「西住流の家元が?」

 しほからの電話を受けた事務員からの問いかけに辻は電話を受けると決めた。

 「これは家元、どうされました?」

 「お忙しいところ申し訳ありません。実は私の娘についてです」

 「お姉さんの方ですか?」

 「はい。無断で持ち場を離れたと聞きまして。娘の不始末を電話からですが謝罪します。申し訳ありません」

 いつもの隙がない強気な態度ではなく、しおらしい態度でしほは辻へ謝る。

 辻はいつもと違う声色のしほに逆に恐縮する。

 「無断での行動は困ります。せめて相談をしてくれれば」

 しほへ優しく辻は一応の非難はする。

 「はい。そうした事ができない不躾な娘に私が育ててしまい申し訳ありません。母親として恥ずかしく思います」

 電話口の向こうで頭を下げているかのような声をしほはしている。

 辻はこれが母親なのかと感心していた。

 「文科省や関係する所へ迷惑をかけましたので責任を取り戦車道のプロリーグ設置の委員を辞退します」

 しほは続けてこう言った。

 さすがに辻は驚く。

 「いっいえいえ、そこまでならなくても結構ですよ」

 「しかし娘の不始末は親が責任を負わねばなりません」

 宥める辻だったがしほは頑固に辞任すると言い続ける。

 「いえいえ結果的に大洗防衛の戦力が強化できましたので良しとしていた所ですよ」 

 辻はとうとうここまで言った。

 「本当ですか?」

 「はい本当ですよ。これでゴジラが倒す事ができれば満足です」

 「では、しほや他の生徒の皆さんに責任を追及する事はないのですね?」

 「そうです。その通り」

 辻はこの時しまったと思った。

 「優しい御配慮ありがとうございます。西住家と西住流を代表して感謝を申し上げます」

 しほはそう告げてから電話を切った。

 「まったく、みんな自分勝手だ・・・」

 辻はまたぼやいた。

 しほがまほ達が勝手に動いた件で辞任すると高校生にゴジラと戦わせている監督者である辻にも責任追及が及ぶだろう。

 「大洗を助けに行った娘の母親が責任を負っているのに」

 と省内で言われるのは確実だろう。

 それを辻は回避する為にしほを許したのだ。

 「俺も勝手にやりたいもんだよ。まったく」

 辻は自分が居るデスクを思わず蹴った。

 



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第12話「ゴジラ再襲来です!」

「あ~また一番乗り逃しちゃった」

 国道51号を水戸方面からプラウダの戦車隊を連れて大洗に入ったカチューシャは悔しがっていた。

 大学選抜チームと大洗学園の試合で各学園の皆で助太刀に行った時にカチューシャは一番乗りをしようとしていたが黒森峰やサンダースに先を越されてしまっていた。

 今度こそ一番乗りで大洗へ行こうとカチューシャは心に決めていた。

「黒森峰やサンダースは飛行機ですから仕方ないですよ」

「ん~もう!」

輸送機で大洗に乗り込む黒森峰とサンダース・聖グロリアーナに追い越されてしまった。

それを仕方ないとノンナが言うもののカチューシャの悔しさは晴れず戦車の中で地団駄を踏んだ。

 

「大洗の皆さん!知波単の鉄獅子が推参であります!」

国道51号を鉾田方面から西絹代が引き連れて来た知波単学園の戦車が大洗に入った。

「プラウダに知波単も!大学選抜を思い出しますねえ」

次々と来る増援に優花里は興奮状態だった。

大学選抜との試合では黒森峰やサンダース・プラウダなどの学園の皆が大洗学園へ短期転入生として助太刀に来ていた。

 辻は急な選手と戦車の増員にカンカンに怒っていたが対戦相手である大学選抜チームの隊長である島田愛里寿が「どんな相手でも受けて立つ」と大洗の増員を認めて試合をしてくれた。

 その時の事を優花里もみほも思い出していた。

「お~い、継続高校がこっちに来たよ」

 無線でアンチョビがみほへ言った。

 継続高校のミカは自分が乗るBT-42突撃戦車だけではなく継続高校が持つKV-1重戦車・Ⅲ号突撃砲も連れて来ていた。

 だが大洗ではなくアンツィオが展開するひたちなか市に来ていた。

 「ねえミカ、大洗じゃなくていいの?」

 BT-42の車内でアキが尋ねる。

 「みんなが行くから行けばいいとは限らない」

 ミカはいつもの煙に巻く言い方で返す。

 「またそう言う」

 アキはミカのいつもの返事に呆れる。

 ミカの判断は戦車が続々と集まる大洗ではなくアンツィオしかいない、ひたちなか市に行く合理的な判断と見える。

 だが実際は気まぐれなミカの性格のせいであった。

 「これが友情と言うものか。若いとはいいものだな」

 次々と集まる各校の戦車道の戦車と選手に三宅は羨ましそうに見ていた。

 だが一方で大変なのは蝶野であった。

 現場の戦車の運用は彼女に任されていたからだ。アンツィオをひたちなか市に置き大洗学園を大洗市街に配置する最初の計画が次々と助けに来た各校の戦車により崩れた。

 「応援に来た各校のみんな、配置を伝えます。黒森峰は大洗水族館へ、サンダースは大洗公園に、聖グロは国道磯前神社前の国道108号へ、知波単は大洗サンビーチへ、プラウダは港中央へ。さあ配置に就いて」

 蝶野は大洗の地図を見て大急ぎで考えた配置を早口気味に無線で伝えた。

 すぐに「了解」「分かった」と返事が来てそれぞれの戦車が茨城県警の誘導を受けながら配置へ向かう。

 「それと各校をまとめる隊長に西住みほさんにお願いするわ。西住みほさんを大隊長とします」

 蝶野が続けてそう指示を下す。

 「分かりました。大隊長を引き受けます」

 みほはすぐに大隊長の役目を引き受けた。

 また大学選抜の試合でやった各校の皆をまとめる大隊長になるとは思わなかったが気心知れた者同士だから不安はなかった。

 

 「あ~これはこれは家元」

 東京で泉はレクサスの車内で携帯電話でしほと話をしていた。

 「文科省の辻を納得させましたか。さすが家元」

 しほは辻と電話で話してアメリカが加担しているとはいえ黒森峰が無断で東京から大洗へ応援に行った事を納得させた。

 それを聴いて泉は愉快と言う口調になった。

 「泉さん。自衛隊出動の件どうにかなりますか?」

 一方のしほは険しい顔のままだ。TV電話で会話をしていたら泉はしほの機嫌を取ろうと躍起になるほどの険しさだ。

 「家元の皆さんが色んな方達と話してくれたおかげで政府内も自衛隊出動をしようと言う雰囲気作りはできました。ありがとうございます」

 しほや千代は人脈を使い政界へ影響力のある者達と面会をして巨大不明生物もといゴジラの駆除に自衛隊を出動させるように働きかけて欲しいと求めて回った。

 その甲斐あって政府内ではゴジラ駆除に自衛隊を出動させるべきでは?と言う意見が出るようになっていた。

 「ではすぐに」

 「すみません。すぐには無理です」

 泉がそう答えるとしほからのため息が電波に乗って聞こえた。

 「まだ政府内では戦車道によってゴジラが倒せると思っているのです。戦車道によってゴジラが倒されれば丸く収まる。その考えが根強いのです」

 「やはりそうですか」

 泉の説明にしほは納得した。

 まだゴジラは銃弾も砲弾の射撃を受けていない。みほ達により撃退できる可能性がある。だから政府内は自衛隊が出るまでもないと言う楽観論が強かった。

 「しかし最悪に備えるのが政治家の務めです。これから官邸に向かい総理や閣僚へ自衛隊の出動を強く訴えます」

 「分かりました泉さん。お願いします」

 しほは泉が自衛隊出動に向けた仕上げをしようとしていると分かった。

 「任せて下さい。家元達のおかげで私の戦いも勝てそうです」

 泉は冗談のつもりで言った。

 しほはその意味は分かっていたが無言で微笑んだ。

 

「自衛隊より報告!ゴジラがひたちなか市より5kmの海域まで接近中です」

茨城県警本部にゴジラの追尾をしていた海自からの報告が入る。

「戦車隊の配置は完了したか?」

三宅が尋ねると蝶野から「完了しました」と返事が来た。

「今度こそ倒すぞ」

迫る戦いに三宅は緊張する。

ただ気味の悪い化け物を駆除する。害虫や害獣を倒すのと変わらない。

だが三宅は見た事の無い巨大生物に自然と畏怖を感じていた。

「本部長、戦車隊の西住隊長からです」

三宅と連絡を取るのはみほだった。

「応援が来ましたので作戦について打ち合わせをお願いします」

 みほの要請に三宅は「うむ。変更があるか?」

 高校生にしては丁寧な口調で接するみほに対して三宅は努めてくだけて接しているがみほの態度は変わらない。

 「海上のゴジラへ射撃を行う最初の案は変わりません。ですが海上での迎撃で食い止められず上陸を許した場合は市街での戦闘を認めて欲しいのです」

 蝶野を通じて茨城県警に渡されたゴジラ迎撃作戦はひたちなか市または大洗を太平洋側から侵攻するゴジラを海上で迎撃するのを基本にしていた。

 海上ならば射撃を全力でできるしゴジラの巨体を倒しても二次被害は無い。

 だが海上での迎撃に失敗して上陸を許してしまった場合は市街地での駆除作戦続行を計画に盛り込んでいた。

 県警は市街地での駆除作戦に難色を示し三宅は「極力海上への射撃で駆除するようにてくれ」と蝶野やみほへ伝えていた。

 だが、みほは万が一を感じて市街地での作戦続行を三宅に求めた。

 「あくまで海上迎撃での駆除に全力を尽くしてくれ。市街地での作戦続行は住民避難の状況と合わせて判断する」

 「分かりました。海上での駆除に全力を挙げます」

 みほは市街地での作戦続行が難しいのは分かっていた。

 避難の状況は沿岸地域こそ完了していたが内陸の住民の避難は続いている。三宅がゴジラを海に居る間に駆除したいと拘るのは理解できていた。

 だがみほはあのゴジラが戦車で簡単に倒せるようには思えなかった。

 

 「ゴジラが浮上!ひたちなか市まであと3km!」

 海面のすぐ下を潜って泳いでいたゴジラはひたちなか市を前にして起き上がった。

 「あれがゴジラなのか…」

 「すげえデケー」

 ひたちなか市にあるアンツィオの面々は初めて直に見るゴジラの姿に息を呑んだ。

 いつもの陽気さが消える程に。

 「前より大きくなっているぞ」

 「河嶋もそう見えるか」

 「それに二本足で立ってる」

 ヘッツアーから上半身を出してカメさんチームがゴジラを見て驚嘆した。

 以前上陸した50mの身長よりも大きくなっていた。また歩行も地を這うようなものではなく堂々と二本足で立ち海面を掻き分けるように進んでいる。

 「大隊長より各車戦闘用意!」

 みほはゴジラの巨大化に一瞬呆けそうになったが気を持ち直して指示を下す。

 「県警より戦車隊へ。射撃のタイミングは任せる。いつでも射撃して構わない」

 三宅からも戦闘許可の無線連絡が入る。

 「大隊長より連絡。黒森峰のティーガーⅠとヤークトティーガーが射程に入り次第射撃して下さい。大洗のレオポンさんチームとプラウダのスターリン重戦車も同じです」

 みほは射程の長い砲を持つ戦車にまず射撃を指示する。

 とにかく海の上でゴジラを倒す。

 ならば引き付ける必要はない。射程に入り次第撃ちゴジラにダメージを与えるのだ。

 「私とヤークトティーガーでまず射撃する」

 まほは自分の乗るティーガーⅠとヤークトティーガーをゴジラに向けて撃てる位置に移動させる。

 「ノンナ任せたわよ!」

 「分かりました」

 カチューシャの激励を受けながらノンナは乗っているスターリン重戦車と呼ばれるIS‐2重戦車を那珂川にかかる海門橋に向かわせる。

 「ゴジラがひたちなか市まであと2km」

 「大隊長より各車へ。射撃用意良しか?」

 ゴジラとの距離の報告を聴いて射撃準備が整ったかみほは尋ねる。

 「完了した。いつでもいいぞ」

 「こちらレオポン準備良し」

 「いつでもどうぞ」

 まほにレオポンチームのナカジマにノンナが完了したと答える。

 みほはひと呼吸をしてから指示を出す。

 「大隊長より各車へ射撃開始!」



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第13話「ゴジラへ射撃開始です!」

 「目標!ゴジラ!距離1800!」

 まほは自分の乗るティーガーⅠとヤークトティーガーへ命じた。

 ティーガーⅠとヤークトティーガーは大洗水族館の南側にある駐車場に展開して1800m先のゴジラへ狙いを定める。

 「照準良し!」

 「撃て!」

 2両の重量級戦闘車輌から撃ち出される砲撃は駐車場にあるパトカーや残る一般の自動車を揺らす衝撃波を広げた。

 実はこの駐車場にはもう1両の重戦車が居た。

 レオポンチームのポルシェ・ティーガーだ。

 レオポンのポルシェ・ティーガーはゴジラへの射撃位置を確保すべく磯前神社から移動し黒森峰が展開する大洗水族館の駐車場に来てまほが射撃命令を下すと同時に88ミリ砲を撃った。

 「すげえ。これが重戦車の砲撃か」

 3両の重戦闘車輌の128ミリ砲と88ミリ砲の射撃を間近で見た警官は衝撃波で砂埃を浴びながら驚嘆した。

 ノンナの乗るIS-2の122ミリ砲から撃ち出す砲撃もコンクリートと鋼材で作られた海門橋を橋の上部にある半月状のアーチ部分も含めて大きく揺らした。

 大洗に展開する戦車道の戦車では射程が長く威力の大きい4発の砲撃はひたちなか市の那珂湊漁協市場の方へ向かう会場のゴジラへ向けて伸びて行く。

 「続けて撃て!」

 「連続して射撃する」

 「続けて撃つよ!」

 初弾の命中を確認する前にまほやノンナ・ナカジマは連続しての射撃を指示する。

 100mを越える化け物には128ミリや122ミリの巨砲でも1発では無理だと見えるからだ。

 「全弾命中!」

 大洗水族館やひたちなか市の湊公園に展開している陸自の観測班が戦車の砲撃がゴジラの胸部や腹部に命中したのを確認した。

 「どうだ?効いたか?」

 三宅は砲撃がゴジラにダメージを与えたのか気になり部下へ尋ねる。

 一方でみほは双眼鏡でゴジラの方を黙って見つめていた。

 「蝶野さん。戦車をひたちなか市か那珂川南岸に移動させるべきかもしれません」

 みほは無線を通じて蝶野に意見を伝える。

 「そうね。だけど混雑する心配がるわ。まず聖グロを那珂川南岸に移動させましょう。それからプラウダかみほさんが動くか決めましょう」

 蝶野は慎重だった。いきなり何十輌もの戦車が一度に動けば広いとは言い難い道路で戦車の渋滞が起こりかねない。

 「分かりました。ダージリンさん。海門橋の前まで前進して下さい。カチューシャさんもいつでも動けるようにして下さい」

 「分かったわ」

 「こっちはいつでも行けるわよ」

 みほの指示に二人とも返事をする。

 その声はなんとも頼もしい。

 みほは思わず口元に笑みが浮かぶ。ライバルの頼もしさを感じたからだ。

 「アンチョビだ。ゴジラが全然止まらないぞ。あと500m近づいたら継続と一緒に射撃を始めていいか?」

 アンチョビが言う通りゴジラは重戦車の砲撃を受けても進路を変えずひたちなか市に迫っている。もう上陸するまであと1300mほどまで近づいている。

 「はい。射程距離に入ったら海上への射撃を開始してください」

 「了解した。けど市街ですぐに戦闘になるぞ」

 アンチョビはみほへ市街での戦闘許可を促す。

 「市街地での戦闘はまだ県警から許可が出ていません。でも許可は求め続けます」

 「分かった。海上でなんとかやっつける」

 みほの固い声色でアンチョビは察した。

 「パンター射撃開始!」

 ゴジラとの距離が1000mになったところでまほはパンターを射撃に加える。

 「Ⅲ号突撃砲は射撃開始」

 ミカはⅢ号突撃砲G型に射撃を指示して継続高校もゴジラとの火蓋を切る。

 「こちらも行くぞ。セベモンテ射撃開始!」

 継続高校の射撃が始まった少し後でアンチョビはセベモンテ自走砲に射撃開始を命じる。

 ゴジラは戦車の砲撃が増えたとはいえあまり歩みに鈍さは見られない。

 「こちらダージリン、海門橋の手前まで来たわ」

 「了解しました。橋を渡ってひたちなか市へ向かって戦闘に加わって下さい」

 みほはゴジラの様子からすぐに加勢が必要だと感じた。

 射撃戦はアンツィオがアンチョビが乗るP-40重戦車が加わり、継続高校がKV-1が撃ち始めていた。

 ここは火力を強化する為に聖グロのチームをひたちなか市へとみほは向かわせる。

 「さて、私達も始めるとしよう」

 BT-42の車内でカンテレの弦に手を乗せ撫でながらミカが同乗しているアキとミッコへ言う。

 「黒森峰の128ミリ砲でも効かないのにウチの114ミリ砲で効くかな?」

 アキは不安そうに砲塔をゴジラへ向ける。

 BT-42はKV-1重戦車の車体にイギリス製114ミリ榴弾砲が入る砲塔を乗せた戦車である。ソ連重戦車をアウトレンジで撃破する事を目的としたヤークトティーガーの砲とは威力が違うものがある。

 「アキ、人生には無理だと思ってもやらなければならない時がある」

 ミカがそう言うとアキはまたかと思いつつその通りだとも思った。

 あのゴジラを倒すなり追い出すなりしないと多くの人達が危険に会うのだから。

「こちらダージリン、ひたちなか市の海洋高校前に到着したわ。これより戦闘を開始する」「了解しました」

海門橋からひたちなか市に入った聖グロのチームは茨城県立海洋高校の前に到着した。そこからは漁港が近くに在り海がすぐ傍の地点だ。付近は港の整備によって作られたであろう空き地が広くある。そこには既にアンツィオや継続高校の戦車が展開していた。

 「ゴジラ、いざ尋常に勝負!」

 クルセーダー巡航戦車に乗るローズヒップが漁港の辺りを走り回りゴジラへの射撃位置へ着く。

 「全車発砲、撃て」

 ダージリンは自分の乗るチャーチル歩兵戦車やクルセーダーにマチルダ歩兵戦車が漁港で配置に就くのを確認すると射撃を命じた。

 漁港やその周辺ではアンツィオ・継続・聖グロの全ての戦車が射撃をゴジラに浴びせる。

 「射撃は頭部と足に集中しなさい」

 ダージリンは距離が800mになっているので精密に狙う射撃を命じた。

 それに応えるようにチャーチルの砲手であるアッサムはゴジラの頭部、眉間に75ミリ砲弾を命中させる。

 「こんなに撃っても効かないの?」

 みほはゴジラの撃たれ強さに驚嘆した。ゴジラは戦車の砲撃を受けて炸裂を身体中に浴びていたが痛がる様子も弱っていく様子も見られない。

 「みほさん。まだ全力を挙げての攻撃じゃないわ。まだこれからよ」

 蝶野がみほを気落ちさせないように言う。

 「そうですね」

 みほは蝶野の言葉に納得した返事をするが何かがひっかかる。

 「西住殿」

 蝶野との交信を終えたてすぐに優花里がみほを呼ぶ。

 「秋山さんどうしたの?」

 「もしかしたらなんですけど。砲弾が榴弾だから効果が薄いのでは?」

 装填手であり砲弾をよく見ている優花里ならではの意見だった。

 「貫通力が無いから…」

 優花里の指摘する意味をみほはすぐに理解した。

 榴弾は当たるとすぐに炸裂する仕組みの砲弾だ。だが装甲の固い戦車ではある程度のダメージは与えられるが装甲を貫く威力が無いので戦車を撃破できる砲弾では無い。

 「ゴジラも固い装甲のような皮膚だったら榴弾は厳しいかもしれないです」

 優花里の意見にみほは絶句を禁じ得ない。

 戦車道を履修できる学校では特殊事項により実弾を配布しているが榴弾しか置いていない。これは害獣駆除や治安出動までを想定していて他国軍隊が日本に着上陸して起きた有事における戦車戦は想定してないからだ。

 「でも、少しでもあの化け物を押し返せるなら撃ち続けないと」

 みほは失望しかける感情を押し潰してゴジラとの戦いを続ける気持ちを奮い立たせる。

 

 



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第14話「ゴジラ大洗に迫ります!」

長らく更新してなくて待たせてしまい、すみません。


「撃って撃って撃ちまくれ!」

 桃がそう無線で叫ぶ。

 誰もが戦車の砲弾で簡単にゴジラが倒せないと分かっていた。

 だが砲弾を沢山撃てば倒せるか追い払えるのでは?と希望を持っていた。

 それを示すように那珂川の周辺に集まる戦車は次々に砲弾を放つ。

 「止まらない・・・」

 みほはゴジラが砲弾の直撃を受けても倒れずひたちなか市の目前に迫る。

 「三宅さん!ゴジラを止められません!市街地での戦闘許可をください!」

 みほは無線で求める。

 その声は茨城県警本部に届く。

 「ひたちなか市の東部と大洗町の北部の住民避難完了は確認できています」

 県警本部では警備部長が住民の避難状況を三宅へ伝える。

 避難完了した地域はみほ達が展開してゴジラと交戦している場所だ。

 三宅は「その住民避難の状況は間違いないか?」と尋ねる。

 「消防も同じ報告をしています。間違いないでしょう」

 警備部長は現場の部隊と消防からの報告を受け取っていた。

 「よし、戦車隊へ告げる。市街地の戦闘を許可する」

 「了解しました」

 みほは作戦の障害が少し減ったと思えた。しかし街に被害を出しながらの戦いになる事に苦い気分になる。

 今までやった大洗市街で行った戦車道の試合とは違う。

 砲弾の直撃で旅館を全壊させた時はしっかりした補償もあって試合での破壊も余興として住民は楽しんでいた。

この戦いで壊された家や建物は住民にとっての悲劇となる。

 (でもやめる訳にはいかない)

 みほは苦い気分を噛みしめながら市街戦へと移る覚悟を固める。

 「大隊長車より各車へ、これよりゴジラと市街戦に入ります。ゴジラとは距離を開けて射撃をしてください」

 みほの指示に皆が「了解」と返す。

 市街戦に移る事に気後れはない。

 それぞれの戦車はみほの指示通りにゴジラと距離をあけるべく陣地転換の動きを行う。

 「近いと水平での射撃しかできないわね」

 ひたちなか市へ前進した聖グロは戦車の主砲の射程距離を生かした射撃が出来ない。

 ダージリンは出来る事を判断した。

 ゴジラに近いからだ。

 戦車の砲は上へ上がる角度が限られる。

 そして市街と言う射界が限られる砲を水平に向けた射撃しかできない。

 「グロリアーナの各車はゴジラの足へ射撃を集中しなさい」

 ダージリンは聖グロの戦車各車へ伝える。

 「しかし、黒森峰やプラウダの重戦車の砲撃にゴジラは耐えたんですよ。足に集中射撃をしても倒せる確率は低いです」

 ダージリンの乗るチャーチル戦車で砲手を努めるアッサムが悲観していた。

 彼女はデータ主義の考えを持つ。

 戦車道の試合の勝敗もデータの確率から見る性格だ。

 そんな彼女が勝てる確率の低さを言う。

 「倒せなくても住民避難の時間稼ぎになればいいわ」

 ダージリンにしろ誰もがゴジラを戦車の砲撃で倒せる自信は無くなっていた。

 だが、与えられた住民を守ると言う使命を諦めていない。

 「ゴジラ上陸!ゴジラが那珂港漁港に上陸!」

 観測している自衛隊員が無線で喚くように報告する。

 「大隊長車より各車へ、ゴジラが上陸しました。ゴジラの動きに注意しながら射撃を続けてください。アンツィオとグロリアーナ・継続の皆さんは後退しながら射撃をしてください」

 みほはゴジラに近いアンツィオと聖グロリアーナ・継続のチームを戦いながら後退させる。

 「なんだか旗色が悪くなって来たね」

 BT-42の車内でアキが砲弾を装填しながら言う。

 「でも諦めるものじゃない」

 ミカは相変わらず車内でのんびりカンテレを弾いている。

 「でも、このままでも勝てそうにないんだよ?」

 「時を待つ。それも必要だよ」

 ミカの謎かけかけのようないつもの返事にアキはあきれた。

 「くっそう、機銃じゃ弾かれるばっかりだ」

 ペパロニはCVー33でゴジラの足へ機銃での射撃を浴びせるがシャワーの噴射がぶつかるように機銃弾はゴジラの皮膚で四方八方に弾け飛ぶ。

 「砲撃でもイマイチだな。みんな無理に攻めるなよ」

 アンチョビは自分の乗るP-40の砲撃でもゴジラには何も感じていないと見えた。血気盛んな性格もあるアンツィオの面々がより攻撃的になってゴジラに迫るのをアンチョビは指示で止める。

 「西隊長、上陸した敵はすぐに叩くべきじゃないでしょうか?」

 玉田は知波単の隊長である西へ意見を述べる。

 「そうです。総攻撃を!」

 「一気に海へ叩き落としましょう!」

 細見と池田が玉田に同調して意気盛んに総攻撃を西へ求める。

 「待て、あの敵は危険過ぎる。無闇に動くな」

 西は逸る3人を諫める。

 これはいつもの戦車道の試合ではない。

 西はチームメイトに流されまいとしていた。

 3人は西の気迫もあって総攻撃の意見を引っ込める。

 

 「ゴジラが進路を南へ変えました」

 観測している自衛隊が報告する。

 「ここままだとゴジラは大洗町へ向かいます」

 予想される進路も共有される情報として流れる。

 「なんでこっちに来るんだ!」

 ゴジラの大洗侵攻予想を聞いた大洗町長は愕然として思わず町役場の対策室で叫んだ。

 「もう!何で止まらないの!」

 Ⅳ号戦車の車内で沙織がたまらず叫ぶ。大洗町が彼女の故郷だからだ。

 「こちらアヒル!大隊長、攻撃に参加させて下さい!」

 大洗のアヒルさんチームの磯辺典子がみほへ興奮した声で求める。

 「気持ちは分かります。でも待機です」

 みほは典子の心情は分かっていた。

 アヒルさんチームの面々は近藤妙子が北茨城市だが他の3人はひたちなか市か大洗町の出身である。

 ひたちなか市出身の河西忍と佐々木あけびは前のゴジラ上陸からゴジラを撃退する意欲が高まっていた。

 そこへゴジラが大洗へ侵攻すると聞いて典子もよりゴジラへの攻撃を切望した。

 元から熱血体育系のアヒルさんチームなのだから血気に逸る。

 そんなアヒルさんチームの心情をみほは分かった上で制止する。

 アヒルさんチームの八九式中戦車は火力が大きいとは言えない。重戦車の砲撃でも耐えるゴジラと戦わせるには荷が重いと判断したからだ。

 「…分かりました」

 典子はみほの指示に従った。

 「くそ、何にもできないなんて!」

 通信を終わり典子は肩を震わせる。

 「悔しいよね。私もだよ」

 忍が典子を慰める。

 「チャンスボールは来るよ絶対」

 あけびがそう言いながら典子の右肩に手を乗せ慰める。



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第15話「ゴジラと戦います!」

 「麻子さん那珂川の近くまで進んでください」

 みほはⅣ号の操縦手である冷泉麻子へ指示する。

 「おう」と返事した麻子はⅣ号を港中央の駐車場から那珂川へと北上させる。

 「優花里さん砲弾を装填」

 「はい!」

 装填手の秋山優花里はⅣ号の75ミリ砲へ砲弾を込める。

 「華さん。ゴジラが見えたらゴジラの膝へ照準してください」

 「はい」

 砲手である五十鈴華はその姿が近くなるゴジラを砲の照準器に捉える。

 「沙織さん。他の皆の動きに異変があったらすぐに言ってください」

 「分かった」

 通信手の武部沙織は通信機での通信をやりつつタブレットPCで各チームの動きを見ていた。

 「ウサギさん、カバさん、アリクイさん私に付いて来て下さい。これより大隊長車も戦闘に加わります」

 みほは各チームへ宣言するように言った。

 「出番だよ!前進!」

 「出陣じゃ~!」

 「よし行くにゃ~」

 みほに指名された戦車は大急ぎでみほの下へ向かう。

 「ケイさん。大洗町にある戦車の指揮を任せます。私は那珂川での戦闘を指揮します」

 「OK!任せて」

 サンダースの隊長であるケイは気前よく引き受ける。

 射程が短く砲の火力が高いと言えず戦闘に参加していない大洗町にある戦車の指揮をみほはケイに任せた。

 「ナオミ、みほに付いて行って」

 「みほ、ウチのナオミをそちらに行かせたわ」

 「助かります」

 サンダースのチームが持つ最大の火力である17ポンド砲のファイヤフライも加えたみほの隊はゴジラ迎撃の前線指揮に向かう。

 ゴジラは進路を南に向かい、那珂川の海門橋へ近づいていた。

 アンツィオに継続と聖グロのチームは戦い続けていたものの、ゴジラに押されるように湊公園や海門町へと下がっていた。

 「みほさん。私とアンツィオに継続の皆さんはゴジラの背後から攻撃するのはいかがかしら?」

 ダージリンはみほに尋ねる。

 「はい、お願いします。那珂川でこちらと挟み撃ちにします」

 みほはダージリンの案を採用する。

 「背中を撃っても効くかな?」

 BT-42の車内で砲弾を装填しながらアキが言う。

 「それでもやるのさ。効くまでね」

 ミカはカンテレを弾きながら相変わらずだ。

 「ノンナ、川の南岸に下がって私と合流しなさい」

 カチューシャが海門橋にあるノンナのIS-2を下がらせる。

 プラウダのカチューシャが乗るT-34/85中戦車をはじめ移動して那珂川南岸に布陣していた。

 「ゴジラが那珂川に入ります」

 自衛隊の報告と同時にゴジラは那珂川へ足を付けた。

 海門橋の左をゴジラは川面を掘り返すような足取りで進む。

 「撃て!」

 那珂川南岸に到着するとみほはⅣ号でゴジラの攻撃に参加する。

 ウサギのM3中戦車やカバのⅢ号突撃砲、アリクイの三式中戦車、ナオミのファイヤフライも続けて撃つ。

 Ⅳ号のキューポラから上半身を出してみほはゴジラを見上げる。

 周囲の大洗や黒森峰・プラウダの戦車が砲撃を繰り返す爆風を体に感じながらも不気味な恐ろしさを感じていた。

 「アイツは痛くないのか?」

 17ポンド砲でゴジラの膝に何度も砲弾を命中させているナオミが悪態をつく。

 ゴジラの右足の膝はナオミ以外にも砲弾を撃ち込んでいたがゴジラの表情は変わらない。

 むしろゴジラは感情があるのか分からないほどに無表情だ。

 「このままじゃ突破される…」

 ゴジラは那珂川の中で前後から撃たれても進み続けている。

 「みほさん。大洗で遅滞戦闘をするべきよ」

 蝶野が無線でみほへ呼びかける。

 遅滞戦闘とは一気に退却するのではなく少しづつ後退しながら戦う戦術だ。

 (でも、それだと大洗の町が…)

 蝶野の作戦は大洗の町をゴジラとの戦いの戦場にする事を意味している。

 みほには躊躇があった。

 だがこのまま留まってもゴジラに潰される危険がある。

 「分かりました蝶野さん」

 みほが大洗での戦闘を決意した時だった。

 「ゴジラが進路を変えた。西へ転進!」

 「え?」

 思わぬ展開にみほは呆けてしまう。

 だがすぐに気を取り直す。

 「ケイさん!川又町へ大洗に残る戦車を連れて移動してください!」

 「分かったわ!さあみんなハリーアップ!」

 意表を突かれた格好になった。大洗から別方向へゴジラは進み出したのだ。

 慌ててみほは大洗の隣にある町へ大洗町に残る戦車を移動させる指示を下す。

 「マズイぞ!川又町にはまだ避難者が居る」

 三宅はゴジラの新たな進路におののく。

 大洗町からの避難を優先させた為に川又町の住民も避難できていない。また大洗からの避難者が川又町には居た。

 「避難誘導を急がせろ!」

 「いや間に合わない…」

 「なんとかならんか!」

 ひたちなか市や茨城県の対策本部ではゴジラの動きにとうとう混乱が生じていた。

 「このままじゃ、このままじゃ」

 自分の手が届かない所へ向かうゴジラにみほは焦りの言葉が口に出る。

 「落ち着けみほ」

 まほが無線で妹へ言う。

 「焦っては何もできない。まずは深呼吸してみろ」

 みほには毅然とした姉の声が頼もしく聞こえた。

 まほの言われた通りにみほは一呼吸する。

 「ありがとうお姉ちゃん」

 「うん」

 姉の助言にみほは落ち着いた。

 「三宅さん。ゴジラの進路上にある川又町やひたちなか市の市街での戦闘許可を求めます」

 まず県警本部長の三宅へみほは要請する。

 「その地域の避難はまだ完了していない。戦闘は許可できない」

 三宅は苦い声で言った。

 「戦車の展開はしても構いませんか?」

 みほは三宅へ更に要請する。

 「展開までなら良いだろう」

 「ありがとうございます!」

 「大隊長車より皆さん。ゴジラは進路を変えました。那珂川の両岸にある戦車はゴジラを追います。聖グロ・アンツィオ・継続の皆さんはひたちなか市の市街からゴジラへ攻撃を続行してください。ここ那珂川南岸のプラウダや黒森峰などの戦車は川又町へ移動します」

 みほの指示が終わるとそれぞれのチームから「了解」の返事が来る。

 「戦車隊へゴジラが那珂川に居る間なら攻撃を許可する」

 三宅からの追伸が来た。

 「大隊長車よりゴジラが川の中に居る間だけ射撃を続行してください」

 攻撃の機会が与えられたとはいえゴジラは相変わらず歩みが止まらない。

 「もう少し攻撃力があれば…」

 みほはより大きな戦力があればと思った。

 もはや持てる戦力だけではゴジラを倒すには限界が生じているのでは?とみほは思えた。

 しかし望む戦力をみほが出せる訳では無い。

 「今ある力でやるしかない」

 みほがそう決心を改めた時だった。

 ゴジラの背中が大きく爆発した。

 「何だアレは?」

 「姐さん。あんな派手に爆発する砲弾ウチにありましたっけ?」

 「あれは戦車の砲弾の爆発じゃないですよ」

 アンツィオの三人がコントのようなやり取りをしていた。

 だがあの爆発を見た他の皆を同じような会話をする程に大きな爆発が起きた。

 「まさかアレは!」

 みほには憶えがあった。

 大学選抜チームとの戦いで苦しめられたあの巨大な爆炎と似ていた。

 「やってやるや~ってやるぜ嫌なアイツをボコボコにい~♪」

 「愛里寿さん!」

 「間に合いましたねみほさん」

 「おいらボコだぜ」の歌を歌いながら無線に現れたのは大学選抜チームの隊長である島田愛里寿だ。

 「島田さんが来たと言う事はカールでゴジラを撃っているんですね。凄い!」

 優花里が言うカールとはカール自走臼砲だ。

 大学選抜チームとの試合ではひまわり中隊を山から60センチの巨弾により追い出している。

 あの60センチ砲でゴジラを撃つのだから分かる優花里はそんな状況に燃えていた。

 「ゴジラの移動速度が低下しています」

 観測していた自衛隊員が報告する。

 「さすがブレスト・リトフスクやセバストポリの要塞を撃破した60センチ砲の威力だなゴジラも痛いだろう」

 Ⅲ号突撃砲から砲隊鏡でゴジラを見つめるエルヴィンが自分で言って自分で納得する。

 エルヴィンが言う要塞はどれもカール自走臼砲が攻略に参加したソ連の要塞の名前である。

 「みほさん。こちらは那珂湊マリーナから射撃をします」

 「了解しました」

 愛里寿は大学からセンチュリオンやパーシングを引き連れて来ていた。

 重戦車クラスのこれらの戦車には愛里寿の傍に居るメグミ・アズミ・ルミも来ている。

 「高校生にばかり任せてられないわ」

 「さあ、大学生の力をゴジラに見せましょ」

 「では始めましょうか」

 カールの砲撃を背中や頭部に受けながらゴジラはセンチュリオンとパーシングの砲撃が更に見舞われる。

 「これはイケルぞ!」

 カメさんチームの川嶋桃が大学チームの参戦に希望が見えた。

 ゴジラは次々に降る60センチ砲弾を受けて悲鳴のような鳴き声を上げる。

 この様子を見て誰もが桃のような勝つ予感を抱き始めた。

 



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第16話「自衛隊も出動です!」

 「足は止めた。もう少し押せばゴジラも戦意を失うかも」

 愛寿里はセンチュリオンの砲塔に上半身を出してゴジラを見つめる。

 県立那珂湊高校の校庭に布陣したカール自走臼砲がゴジラの頭や背中を痛打しているおかげかゴジラはその歩みを止めている。

 しかもゴジラはカールの60センチ砲弾が命中すると痛みを感じたのか呻くような鳴き声を漏らしている。

 愛寿里はゴジラへ確実にダメージを与えていると確信していた。

 「大隊長車へ。みほさん。あと一押しです、頑張りましょう」

 「こちら大隊長、救援感謝します。おかげで流れが変わりました」

 愛寿里の大学チームの参戦はみほを勇気づけていた。

 「大隊長車より各車へ、ケイさんが指揮する戦車以外はゴジラへの射撃を続行してください。カールの砲撃で弱ったゴジラを追いこみます」

 明らかに生気を取り戻したみほの指示に皆も気分が明るくなる。

 それは皆それぞれが言う了解の返事で分かるほどだった。

 「もう少しパンチが欲しいかな。カールがもう1門あればいいんだけど」

 杏はゴジラの様子を見ながらぽつりと言った。

 確かにゴジラの足は止まったがそれ以上が進まない。

 杏はまた一つ大きな火力をゴジラにぶつける必要があると感じていた。

 だがもはや戦車道で繰り出せる火力はもはや最大限に達している。

 

東京にある総理官邸では総理大臣をはじめ閣僚全てがゴジラに対応する対策本部に集まっていた。

 対策本部の置かれた官邸地下にある危機管理センターには大洗町に迫るゴジラと戦車道の女子高生と女子大生が戦う様子が大型モニターに映し出されていた。

 「大学生もやっているのか」

 総理大臣の大河内は島田愛里寿が戦車道をする大学生達を引き連れて戦う様子に感心していた。

 だがその様子を苦々しく見る者が居た。

 文部科学大臣の関口悟朗である。

 金井防災大臣の気まぐれな発言から戦車道のをしている高校生達を指導する立場になっていた。

 関口からすれば面倒を押しつけられたものの、自分の職域で首都防衛を主に考えた防衛態勢を作り上げた。

 それがいつの間にか女子高生達が勝手に戦車を大洗へ持ち出しゴジラと戦っている。しかもアメリカが協力していて大きな声で文句が言えない。

 仕方なく関口は戦車道のチームを監督している学園艦総局長の辻へ八つ当たりをした。

 だがそうしている内に今度は大学生が勝手に動いた。

 「文科省は飾りか!勝手にやりやがって!」

 関口は心の中でそう憤懣をたぎらせる。

 ケイやまほに愛里寿らの動きは関口からすれば自分を無視した失礼な動きに見えて腹が立つのだ。

 閣僚達はそんな関口の心境は理解していたが同情の声をかける事はない。問題は関口のメンツでは無いのだ。

 「総理、ゴジラがこのままあの地域で暴れていると別の危険があります」

 内閣危機管理監の郡山肇が大河内へ言う。

 「どんな危険だ?」

 「大洗には原子力の研究施設があります。そこには研究用の原子炉がありゴジラによって破壊されると原子力災害も併発する危険があるのです」

 大洗には日本原子力研究開発機構の大洗研究開発センターがある。

 原子炉としては高速増殖炉の実験炉である常陽と材料試験炉のJMTRが置かれている。

 「本当か!?そんな事知らなかったぞ!」

 大河内は驚きの声を上げる。原発を所管する経済産業大臣の葉山が思わず背後の経産省の官僚や秘書へ「どうなっているんだ!?」と声を荒げる。

 「ゴジラなら原発を壊すぐらい簡単だ・・・マズイぞ」

 環境大臣の菊川はゴジラが原子炉格納容器を建屋ごと破壊する様を想像した。

 「総理、戦車道の高校生と大学生は健闘していますが撃退にしろ倒すにしろ決定打を与えられません。このまま彼女達に任せて良いでしょうか?」

 巨災対の矢口がいつもの断定的な物腰で提言する。

 「だがな見て見ろ、ゴジラは動きを止めたぞ。このままなら弱らせて倒せるんじゃないか?」

 金井が矢口へ異論を唱える。

 確かに那珂川でゴジラはカールからの巨弾を浴びて動きを止めていた。

 「しかしゴジラがこのまま倒される保証はありません」

 矢口は金井の言い分を正面から否定する。

 さすがに金井は不機嫌な顔を隠さない。

 「ではどうするのが良いだ?」

 大河内は矢口に尋ねる。

 「自衛隊を出動させてゴジラを駆除すべきです」

 矢口の意見に閣僚がざわつく。

 自衛隊が出動して武力行使をするのはゴジラが出現した当初に「周辺諸国の感情を刺激する」として却下されていた。

 「戦車道による駆除でも一部の国から非難が出ている。自衛隊の出動となれば非難はより強くなるだろう」

 外務大臣の国平はそうぽつりと言う。

 「お言葉ですが」と矢口が言おうとした時に総理大臣補佐官の赤坂秀樹が口を開いた。

 「総理、もはや事態は他国の感情を気にしている時ではありません。我が国の国民の生命と財産を守る事を第一に考えるべきです」

 内閣では密かな重鎮と言える赤坂の発言に国平も金井も二の句が続かない。現実主義者で理論家の赤坂を説き伏せる言葉が無いからだ。

 「総理、自衛隊はいつでも出動できる準備はできています」

 防衛大臣の花森はすかざず言った。

 大河内はもう少し様子を見て決断すべきではないかと想った。

 ふと一人の男の言葉を思い出す。

 「総理、そろそろ自衛隊の出動をさせる時です。娘さんが戦車道をやっている親御さんもいつ自衛隊が出るのかと私や議員の皆さんへ連日陳情に来られています。そろそろ抑えられませんよ」

 官邸危機管理センターに入る直前に泉修一政調副会長が強引に面会してこう告げた。

 泉の言う通りに戦車道をやっている高校がある地域の選挙区の議員には自衛隊を出動させてほしいと言う陳情が連日ある。

 また政財界の要人も大河内や他の閣僚へ自衛隊出動を勧めて来ている。

 それでも大河内は迷った。

 そんな大河内の心の内を察する男が居た。

 官房長官の東竜太だった。

 「総理、時間がありません。今ここで決断を」

 東に促され大河内は一呼吸置く。

 「分かった。自衛隊をゴジラ駆除に出動させよう」

 

 「やっと大河内さんが決心したか」

 泉は秘書から大河内が自衛隊の出動を決心したと携帯電話で聞いた。

 この自衛隊出動決心の裏側には泉の動きがあった。

 泉はしほの約束通りに政府への説得に動いていた。

 総理である大河内へは一言だけ言ったに過ぎないが政府内に自衛隊出動へ向けて流れる裏工作をしていた。

 特に郡山が大洗町の原子力関連施設をゴジラが破壊する懸念を持ち出すきっかけになったのは泉が持ち込んだ資料による。

 また家元であるしほと千代は人脈から要人への陳情や戦車道をやっている娘の保護者達へ働きかけていた。

 泉にしほ・千代の三人の努力が実ってようやく大河内内閣から自衛隊出動を引き出せたのだ。

 

 東京市ヶ谷の防衛省内にある中央指揮所では統合幕僚監部がゴジラ駆除作戦への自衛隊出動について動き出していた。

 「政府から自衛隊によるゴジラの駆除作戦実行が下命された」

 矢島統幕副長が統幕の面々に切り出す。

 本来であれば統幕長の財前が仕切るところだが財前は政府の危機管理センターにあり統幕は今は矢島が代わり取り仕切っている。

 「治安出動だが武器使用は無制限だ」

 この自衛隊出動の法的根拠を一時は防衛出動にすべきとの意見が政府内にあったがそこで「周辺諸国への刺激」が考慮され治安出動と言う事になった。

 「大洗には戦車道の部隊を支援する少数の陸自隊員を派遣していますが実戦部隊ではありません。第1師団や第6師団に富士教導団は出動しましたがすぐに作戦行動はできません」

 石倉陸上幕僚長が現状を報告する。

 自衛隊の部隊のほとんどがゴジラの捜索や警戒以外は出動しておらず政府から出動の命令が下ってもすぐに戦車や火砲が大洗に駆けつけられる状況では無かった。

 「やはり航空戦力しかないな。空自のF-2と陸自の対戦ヘリをまずは大洗へ急行させよう」

 矢島がそう作戦方針をまとめる。

 この作戦に従い青森県の三沢基地から爆弾を搭載したF-2戦闘機が出撃し、千葉県木更津基地からはAH-1対戦車攻撃ヘリコプターが出撃した。



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第17話弾薬が無くなりそうです!

「やっと出動ね」

 蝶野は自衛隊がゴジラとの戦いに出動した事に安堵する。

 ようやく大人がゴジラと戦える。それに菊地原は胸に鬱積したモノが晴れる思いだった。

 「みんな。もうすぐ自衛隊が来るわ。あともう少し持ち堪えて」

 蝶野は戦車へ向けて通信する。

 あと20分もすれば木更津からの対戦車攻撃ヘリがまず飛来する。

 続けて三沢からの戦闘機だ。

 これらが到着したら戦車道のみんなを一時後退させようと蝶野は思った。

 蝶野のこの考えはまだ子供であるみほ達をゴジラから遠ざける意図もあったが根本的な問題もあった。

 「大隊長へそろそろ砲弾が無くなりそうだ」

 「こちらレオポン、弾がもうすぐ無くなるよ」

 ゴジラと最初から戦っていたまほのティーガーⅠやレオポンのポルシェティーガーなどの戦車で砲弾が尽きようとしていた。

 蝶野は砲弾が無くなるのが分かっていた。

 自衛隊が来ないままだとゴジラから離れる機会を掴めないからだ。

 「蝶野さん。自衛隊はいつ頃来ますか?」

 みほが尋ねる。

 「あと15分ほどで陸自の対戦車ヘリがゴジラを空から攻撃するわ」

 「分かりました。砲弾が無くなった戦車を下げて他の戦車で空いた分をカバーします」

 「それで行きましょう。あともう少し頑張って」

 みほは蝶野とのやり取りを終えると残弾の確認を行う。

 最初から戦っていた重戦車はどれもがすぐに砲弾が尽きると答えた。

 「大隊長へ。黒森峰の戦車は砲弾が無くなった」

 まほがまず砲弾が尽きたと報告する。

 「プラウダもノンナのIS-2が弾切れになったわ」

 カチューシャがノンナを下がらせながら言った。

 「ノンナの分も撃ちまくりなさい!」

 ノンナが退場したもののカチューシャは残るT-34を押し出しゴジラへ撃ち込む。

 「私達も厳しいわね」

 「そろそろ限界かな」

 「こっちも弾が無くなるぞ」

 ダージリンとミカもアンチョビも残弾が心許ない。

 「大隊長、あともう少しで大洗町の那珂川沿岸に戻るわ」

 ケイからみほへ無線が入る。

 「了解しました。無理を言ってすみません」

 大学選抜チームの来援により川又町への備えは完了した。みほは川又町へ移動中のケイが率いるサンダースと知波単・大洗の一部をまた大洗へ呼び戻していた。

 残る予備戦力となったこの戦車で弾切れとなった黒森峰やプラウダなどの戦車の穴を埋めるのだ。

 「いいって、気にしない気にしない。早くゴジラを倒しちゃおう!」

 ケイは陽気にみほへ答える。

 そのゴジラはどうなっているか。

 まだ続くカールの射撃もあってまだ足止めが出来ていた。

 海上からはゴジラを発見して追尾していた海自の護衛艦「むらさめ」が76ミリ砲でゴジラを攻撃している。

 「大隊長、サンダース攻撃に入るよ」

 「こちら知波単。攻撃を開始する」

 大洗町の那珂川南岸に到着したサンダースと知波単の戦車はゴジラへの攻撃を始める。

 M4シャーマンと九七式中戦車の砲火がゴジラへ向けられる。

 火力が少し弱まったが火力を絶やさないようにと戦車道の少女たちは努力する。

 そんな様子を砲弾が尽きて大洗水族館の駐車場へ下がったまほはティーガーⅠの砲塔の上に立ち見つめる。

 無言で妹が戦う姿を見つめていた。

 「来た」

 まほの上空をAH-1対戦車攻撃ヘリが4機通り過ぎる。

 「CPこちらアタッカー1、目標を確認した」

 「アタッカー1、こちらCPただちに攻撃せよ」

 「CP、アタッカー1了解、攻撃を開始する」

 もう戦車道の戦車が攻撃をしている為にAH-1が攻撃するか否かを政府や自衛隊が迷う必要は無かった。

 「アタッカー1、CP、武器の使用制限は無い。那珂川の中にゴジラが居る間は無制限だ」

 「了解した。まずは誘導弾による攻撃を行う」

 AH-1には機体の両側に戦車を撃破する為のTOW対戦車ミサイルを8発搭載している。

他にも19発入りのロケット弾ポッドを2基、機首には20ミリバルカン砲がある。

 この三種類の武器を使う自由がAH-1の小隊に与えられていた。

 4機のAH-1は大洗水族館の上空から西へ変針して巌船の夕照付近の上空でホバリングする。

 「距離500、発射!」

 AH-1の4機は一斉に2発づつのTOWをゴジラとの距離が500mの位置で放つ。

 TOWはゴジラの頭部へ命中する。

 爆発はしたが効果は不明だ。

 「アタッカー1より各機へ。続けて撃て!使用する武器は各自自由!」

 AH-1小隊の隊長はゴジラへのTOWの効果が不明と分かると持てる装備全ての使用に踏み切る。

 20ミリ機関砲が唸りTOWとロケット弾が乱れ撃ちのように放たれる。

 「聖グロと継続にアンツィオで残弾が無い戦車は今の内に下がってください」

 みほはAH-1が派手に戦っている間に弾切れの戦車を後退させる。



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第18話「止めを刺します!」

 「西住さん、空自の爆撃が始まるわ那珂川北岸の戦車を退避させましょう」

 蝶野は統幕からの連絡からみほへ伝える。

 「大隊長から聖グロ・アンツィオ・継続の皆さん那珂川とゴジラから離れてください。自衛隊の戦闘機が爆弾を投下します。巻き込まれないように退避してください」

 みほの指示にすぐ「了解」の返事が届きまだ那珂川北岸にあった戦車はひたちなか市の市街へ移動する。

 「これでゴジラも倒せそうですね」

 オレンジペコが言う。

 「さてどうから。戦いは最後までどうなるか分からないものよ」

 ダージリンはいつもの格言を言う口調で言ったが眼は気が抜けないと言っていた。

 戦車道の戦車がゴジラから離れてすぐに上空に三沢からのF-2が到着した。

 「Cleared attack.」

 「Cleared attack. Fire. Ready...now. Bombs away. Laser on」

 F-2の主翼に吊り下げられた2発の2000ポンド爆弾が投下される。

 「Lasing.」

 2000ポンド爆弾にはGBUー38/Bが装着され誘導爆弾(JDAM)となっている。

 大洗の戦車隊の観測班に同行している爆撃誘導員がゴジラへの爆撃を誘導する。

 「Completed!」

 爆弾はゴジラの頭部と背中に命中して大きな爆煙がゴジラを包む。

 「やったか!」

 爆煙がまだ晴れていないが桃が嬉しそうに言う。

 それは他の皆もそうだった。

 三宅もそうだし東京の政府や統幕の面々もそうだった。

 「ゴジラが進路を北東へ転進」

 爆煙が晴れてゴジラの姿が見えると変化があった。

 大洗か川又町へ進んでいたゴジラがひたちなか市の市街へ戻るような動きを見せた。

 「市街地に入る前に第二派の爆撃をせよ」

 対ゴジラの自衛隊統合任務部隊を指揮する山岡東部方面総監はF-2による第二撃を命じる。

 別のF-2が同じく2発の2000ポンドのJDAMをゴジラへ投下する。

 またしても大きな爆発と爆煙がゴジラの上半身に広がる。

 だが煙から顔を出したゴジラの様子に変化は見られない。

 「爆撃が効いていない?」

 みほはゴジラの様子を見て落胆する。

 ゴジラはどの方向から攻撃をしても効かないのではないかと思えた。

 「みほさん」

 そこへ愛里寿が呼びかける。

 「カールにはコンクリート貫通弾と言う特殊な砲弾があります」

 「徹甲弾のようなもの?」

 「はい。カールを大学で預かる時に物好きな人達が作った物ですけど」

 カールは要塞を攻撃する為にコンクリート貫通弾なる砲弾がある。

 大学では物好きな生徒有志によりコンクリート貫通弾が作られていた。

 戦車道の試合には使えないが趣味として作られたその砲弾は3mの厚さのコンクリートを貫く事に成功していた。

 「蝶野さん。カールで徹甲弾のような特殊な砲弾を使用します。良いですか?」

 みほは急くように蝶野へ尋ねた。

 みほにとってはカールの特殊な砲弾が最後の希望だった。

 「許可します」

 蝶野が答えるやみほは「大隊長よりカールへ。コンクリート貫通弾で射撃して下さい」と即座に命じた。

 「やるぞ!才能の無駄遣い、無用の長物扱いされた私の砲弾が役に立つぞ~!」

 趣味でコンクリート貫通弾を作った大学生達がはしゃぐ。

 彼女達も自分たちが作った砲弾を管理するとしてカールと共に来ていた。

 「これよりコンクリート貫通弾による射撃を行う」

 愛里寿がそう報告した時にカールは放った。

 貫通弾は那珂川の北岸に右足を乗せようとしていたゴジラの背中に命中した。

 ゴジラは高い声で鳴く。

 貫通弾がゴジラの背中を貫いたのだ。

 「やった!私の砲弾がゴジラを倒すぞ~!」

 砲弾を開発した大学生たちは歓喜した。

 「凄い。さすがカールだ」

 エルヴィンが砲隊鏡でカールが放った貫通弾の効果を見て嘆息した。

 彼女はカールが攻撃したソ連軍のセヴァストポリ要塞のようにゴジラが崩れるのを期待した。

 「砲弾が残っている戦車は攻撃を再開。カールは貫通弾で射撃を続行してください」

 貫通弾が刺さりよろけるゴジラを見たみほは命じる。

 「ここで自衛隊と協力して一気にゴジラに止めを刺します!」



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第19話「ゴジラは強敵です!」

 「目標距離1000!ヘルファイア発射!」

 SH-60K対潜哨戒ヘリがヘルファイアⅡミサイルを放つ。

 ゴジラの捜索で関東沖の太平洋に居た護衛艦「いずも」から発艦した哨戒ヘリはどれも対艦装備として海自が保有する対戦車ミサイルであるヘルファイアⅡを2発づつ持って大洗に急行した。

 海自では小型船用の武器であるが対戦車ミサイルのヘルファイヤ

 強固な装甲を打ち抜くミサイルだがゴジラの皮膚では貫くには足りない。

 それでもヘルファイアを持つSH-60Kは発射し続ける。

 「目標捕捉、誘導弾発射!奴にぶつけろ!」

 厚木からのP-1対潜哨戒機もゴジラ攻撃に参加する。

 1機で8発の91式空対艦誘導弾を装備したP-1は矢継ぎ早に抱える対艦ミサイルをゴジラへ向けて発射する。

 木更津からのAH-1と三沢からのF-2も新着の機と入れ替わり攻撃を続けている。

 「築城からも爆装したF-2が出撃」

 「明野と八戸からAH-1が発進し急行中」

 「護衛艦『たかなみ』と『はたかぜ』が間もなく作戦海域に到着」

 「八戸から誘導弾装備のP-3Cが出撃」

 「戦車教導隊の一部が水戸市に前進」

 自衛隊は集められる戦力を次々に大洗へと結集させようとしていた。

 しかしどのミサイル・爆弾・機関砲弾もゴジラの身体を貫くには至っていない。

 でも大学選抜のカールが放つ自家製貫通弾に貫かれ傷を負うゴジラにとってはダメージを溜める効果があった。

 みほにはゴジラが衰えているのが分かった。

 (あと一押し)

 止めが欲しい。

 「愛里寿さん。貫通弾はあと何発ありますか?」

 みほは愛里寿に

 「2発です。今からその内の1発を撃ちます」

愛里寿がそう言った直後にカールから貫通弾が放たれる。

 貫通弾はゴジラの腰の辺りを貫く。

 ゴジラは悲鳴を上げながら姿勢をしゃがむように崩す。

ゴジラの重さに那珂川北岸の河岸は耐え切れず地盤が崩れる。

地滑りのように崩れる河岸に巻き込まれてゴジラは那珂川へ戻される。

崩れる河岸でゴジラは転び河の中で倒れ込む姿になってしまった。

 「いいぞ!勝てるぞ!」

 桃がはしゃぐ。

 「思ったよりも弱いね」

 「ゴジラだって所詮は生き物だからね」

 「このままぶっ殺せー!」

 M3に乗るウサギさんチームは倒れたゴジラに思うままの事を言い出す。

 「西住さん。文科省から撤収の指示が来たわ。後は自衛隊に任せて」

 蝶野がみほへ伝える。

 自衛隊の部隊が続々と出動してゴジラと交戦に入った事で辻は駆除作戦を自衛隊へ移行させようと判断しての事だった。

 「分かりました皆へ伝えます」

 みほはゴジラへ止めを刺そうと思っていたが砲弾を撃ち尽くした戦車が次々に出ている事を思い出し承諾する。

 「皆さん。文科省から撤収の指示が出ました。後は自衛隊に任せます」

 みほの指示に皆はほっと肩の力を抜く。

 倒せるか分からない得体の知れないゴジラとの自分達との戦いが終わり一同はほっとしていた。

 血の気が多いローズヒップやペパロニに知波単の面々は「もう少し!」と食い下がってはいたがダージリンやアンチョビ・絹代が攻撃続行を認めず引き下がらせた。

 でも最後の一撃を加えるところがあった。

 大学選抜チームのカールだった。

 貫通弾の最後の一発を放とうとしていた。

 「この最後の射撃を終了したら即座に撤退してください」

 愛里寿はカールを担当する学生達へ指示を出す。

 「了解、これを撃ち終えたら移動します」

 砲弾の装填に10分がかかるカール

 ようやく込めた砲弾をカールが放つ。

 「撤収だ!急げ!」

 カールの撤収支援をしているルミがパーシングの車上から呼びかける。

 撃った砲弾が命中したかどうか見る暇無くカールの撤収作業を皆で行う。

 誰もが見てなくても当たる。

 命中してゴジラの致命傷となるだろうと自信があった。

 だがその確定している筈の結果は覆る。

 那珂川で横向きに倒れたゴジラは自衛隊の攻撃を浴びつつ寝返りを打つようにうつ伏せの姿勢になった。

 もはや力尽きる前の姿に見える。

 ゴジラがこんな姿になったのを見て政府と文科省はゴジラの駆除を自衛隊主体に移行しても良いだろうと判断したのだ。

 弱っていると思われるゴジラに異変が起きる。

 ゴジラの背ビレが光り出したのだ。

 「何の光?」

 みほはゴジラの放つ光に不気味さを感じた。

 「みほ、急げ」

 悪い予感を感じたまほが無線で撤収を急ぐように促す。

 「なんという化け物ぶり…」

 さっきまで血気盛んに止めの攻撃を主張していた知波単の面々はゴジラの放つ光の不気味さに色を失う。

 「何が起きるか分からないぞ。撤収急げ」

 絹代がこう言うと皆は素直に戦車を走らせゴジラから離れる。

 「カチューシャ、すぐにゴジラから離れて!」

 ノンナが強い口調でカチューシャへ言う。

 カチューシャは「分かってるわよ!」と答える。

 異常さにカチューシャも気づいていて乗っているT-34をゴジラから離れるように走らせていた。

 「番狂わせが起きたようね」

 ダージリンは言う。

 「ゴジラに負けるという事ですか?」

 オレンジペコが不安げに訊く。

 「そうかもしれない。何かが起きるわ」

 ダージリンの核心に満ちたような発言は現実になる。

 

 カールから撃たれた最後の貫通弾はゴジラの光源へ向かうように落下する。

 このまま行けばゴジラの背中のど真ん中に着弾する。

 だが着弾できなかった。

 ゴジラの背中から光線が伸びた。

 その光線は同時に幾つも出て対空砲火の如く那珂川の上空に放たれた。

 「砲弾が撃ち落とされた!?」

 蝶野が思わず叫んだ。

 ゴジラは背ビレから放つ光線でカールの砲弾を撃墜したのだ。

 カールの砲弾を撃ち落としたゴジラはゆっくりと起き上がる。

 口の中が光に満ちていた。

 「カールは放棄!すぐに逃げて!」

 愛里寿はとっさに命じる。

 「カールは捨てる!こっちに来い!逃げるぞ!」

 ルミはカールを移動させる作業をしている生徒達を呼び寄せ戦車や砲弾を輸送したトラックに急いで乗せた。

 「みんな乗せたらすぐ行け!」

 カールの面々を乗せた車両は急発進で出発する。

 カールから離れてすぐカールが爆発した。

 「くそ、化け物め!」

 ルミは悪態をつく。

 ゴジラはカールへ口からの光線を一閃浴びせてカールを破壊した。

 「目標が活動を再開!口や背ビレから光線での射撃を始めた!」

 自衛隊はゴジラの異変をそう報告する。

 「攻撃続行だ!下にはまだ戦車道の女の子達が居る。彼女たちの撤収を掩護する!」

 AH-1の小隊を率いる隊長は決心する。

 みほ達がゴジラから十分に離れるまで攻撃を続けるつもりだった。

 AH-1が攻撃を続行するとSH-60KやP-1も攻撃を続行する。F-2もゴジラの頭上へ再度の進出をした。

 「西住さん!早く遠くへ逃げて!ゴジラから離れて!」

 蝶野が怒鳴るような大声でみほへ退避を促す。

 誰もがゴジラの異変を恐ろしいと分かっていた。

 だが手負いだ。まだ押せば倒せるかもしれない。

 そんな思いで自衛隊のパイロット達や指揮官は攻撃を続ける。

 しかしゴジラはそんな人間の希望を砕くように口や背ビレから光線を放つ。

 その光線は飛行するAH-1やSH‐60Kを薙ぎ払い

 F-2を投下した爆弾ごと撃ち落とした。

 P-1が撃ち込む対艦ミサイルもことごとく四散する。

 「こんなのアリか…」

 アヒルさんチームの磯辺典子は自衛隊の攻撃を迎撃するゴジラに呆然とする。

 バレー部の熱血部長もゴジラの異常な力に無力さを実感する。

 「皆さんゴジラから早く離れて!自衛隊の攻撃がいつまで続くかわかりません!」

 みほは自衛隊の攻撃がゴジラに通用しなくなっていると認めた。

 いつ自衛隊も撤収するか分からないと判断した。

 「全車全速!ハリアープ!」

 ケイはジョークや気遣いの言葉が出ないほどになっていた。

 どの戦車も残る燃料を気にせず全速でゴジラから離れる。

 だが燃費の悪いまたは機関に難のある重戦車が途上で停車してしまい他の戦車に乗り移り退避を続ける。

 まほもティーガーⅠを全速で続けて走らせたせいで履帯が外れてしまい停車してしまった。

 「お姉ちゃんこっち!」

 まほとティーガーⅠの乗員をみほはⅣ号戦車の車上に乗せる。

 まほは砲塔の上でみほの肩に手を置き「ありがとう」と感謝する。

 ティーガーを置き撃墜される自衛隊機やミサイルの爆音の音が遠くなる。

 大洗サンビーチの辺りまで下がった所で一同は停車する。

 「こんなに…」

 Ⅳ号戦車を停止させたみほはゴジラの方を見る。

 ゴジラは那珂川にまだ居た。

 だがゴジラの周囲は撃墜された自衛隊機やミサイルによる炎と煙が幾つも上がっている。

 ここまでの損害が自衛隊に出た事にみほは絶句する。

 「西住さん。自衛隊に攻撃中止の命令が出たわ。まだ遠くへ避難して。戦車の燃料が無くて避難できないならこちらで車輌かヘリを迎えに行かせるわ」

 蝶野からの無線が入る。

 自衛隊に損害が出て攻撃が通じないと分かると大河内総理は攻撃中止を命じたのだ。

 「分かりました。燃料が乏しいので移動手段の手配をお願いします。大洗総合運動公園まで戦車で行きます」

 そうやり取りを終えた時だった。

 ゴジラは再び光を放ち始める。

 その姿にみほもまほも思わず身を固くして見つめてしまう。

 体内で光源を充填したゴジラは再び口から光線を撃ち始める。

 ゴジラは身体を四方に振るように動かしながら光線を出し続ける。

 「町が!大洗の町が!」

 ゴジラの光線は那珂川をはさむひたちなか市と大洗町に撃ち込まれた。

 大洗町では大洗水族館が粉砕された。

 瓦礫となった水族館を踏みつぶしてゴジラは大洗町へと進む。

 「皆さん!すぐに移動します!行き先は大洗総合運動公園!」

 みほは火が付いたように叫んで指示を出す。

 まだ燃料がある戦車が指示に従い発進する。

 その間にもゴジラは大洗の町へ光線を撃ち込み炎上させる。

 「優花里さん。残弾は?」

 みほが装填手の優花里に尋ねる。

 その声はなんだか冷たく恐ろしい。

 「残り3発」だと優花里が言おうとした時にまほがみほの肩を掴む。

 みほは振り返る。

 「みほ、ダメだ。これ以上戦ってはいけない」

 振り返ったみほは姉の険しい顔を見た。

 黒森峰でもまほの怖い顔は何度か見たが今は有無を言わせない気迫がある。

 「みほ。お前は十分に戦った。これ以上はいいんだ。もう、いいんだよ」

 まほは感情が止まるみほの右手を取り今度は優しい目で苦労を労う。

 みほは少し間を置いて冷静になる。

 「麻子さん。運動公園へ行きましょう」

 みほは退避する戦車の列にⅣ号戦車を合流させた。

 「お姉ちゃんありがとう…」

 無線で拾えない小声でみほはまほへ言った。



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第20話 ゴジラは止まりました

 大洗は炎上した。

 ゴジラは口から光線を吐き次いで炎を口から放った。

 身体の中にあるエネルギーを全て吐き尽くしたゴジラは大洗駅の構内で動きを止めた。

 まるで岩のように固く動かなくなったゴジラは立ったまま沈黙している。しかしゴジラへの恐れは消えない。

 どんなに静かになってもいつゴジラがいつ動き出すか誰もが不安だった。

 その不安を顔に隠しきれない少女が居た。

 西住みほだ。

 みほは大洗から戦車で皆と脱出した後で蝶野が手配した自衛隊のヘリと合流できた。

 しかしUH-60が2機だけでは全員は乗れない。

 みほは戦車を大洗に置いて来た人をヘリに乗せて待避させた。

 その中にはティーガーⅠを大洗に置いたみほの姉である西住まほも居た。

 「また戻ってくる」と妹へ言い残しまほはUH-60に乗り込んだ。

 残るみほ達は燃料が僅かな戦車と共に大洗運動公園で次のヘリか車輛を待つ事にした。

 だが次の何かはやって来ない。

 「ごめんなさい。次のヘリをいつ出せるか分からないの」

 みほと合流した蝶野も困った顔で言った。

 ゴジラの動きが止まったとは言え大洗とひたちなか市からの避難は続いていた。

 ゴジラから出る放射線によって水戸市にも避難指示が出ていた。

 この避難を支援する為に自衛隊のヘリが出動していた。

 「この辺りは放射線の危険は無いようですね。それで市民の避難が優先されているののでしょう」

 優花里はスマホで政府がweb上で挙げている放射線の分布や濃度についての情報を見て言った。

 「でも放ったらかしは酷いよ」

 沙織がぼやく。

 「危険が無いならいいじゃないか。私は寝る」

 麻子は操縦席に座ったまま寝始めた。

 「せめて燃料があれば移動できるけど」

 みほは周りを見渡していた。

 サンダースや知波単に聖グロなどの面々が残っている。

 彼女たちは戦闘の疲れでぐったりとしゃがんでいたり、戦車の上や中で寝込んでいるのが多い。

 「お茶と菓子を差し上げられればいいのですが・・・」

 華が心配そうに言う。

 ゴジラと戦い数時間、誰もが疲れていた。

 華はそんな彼女達に何か手を差し伸べたかった。

 だが手持ちのお茶も菓子も少ししかない。

 「お~い戦車のみんな!」

 そこへ大声で呼びかける声がした。

 声の主は軽トラックでやって来た。ゴジラの惨禍を受けても元気な初老の男だった。

 「腹が減ってるだろう?飯を届けに来たぞ」

 ビニールシートを被せた荷台にはオニギリやサンドイッチにペットボトルや魔法瓶に入ったお茶や味噌汁があった。

 「ありがとうございます!」

 みほは戦車から降りて初老の男へ礼を言う。

 「さあさあ、どうぞどうぞ」

 軽トラックの荷台を解放して食事を提供し始める。

 他の皆は初老の男へ礼を言うとオニギリやサンドイッチに飲み物を取り食事を始める。

 「助かります。さすが旅館ですね。どれも美味しい」

 杏は初老の男へ礼を言う。

 この初老の男は大洗で旅館を営んでいた。

大洗での聖グロとの親善試合に聖グロ・プラウダ・知波単を呼んで行われたエキシビジョンマッチで2度自身の旅館は戦車の突入を受け全壊もしたがその都度大きな公的支援を受けての修復や改築または新築をする事ができた。

彼からすれば何か戦車道の女子高生達へ礼がしたいと考えていた。それを今果たしているのだ。

 「良いって事よ。町を守る為に戦ってくれたんだ。これぐらい当り前さ」

 「でも町は守れなかった…」

 「あんな化け物相手によくやった!十分やったんだ胸を張りなよ」

 大洗を守れなかった事を悔やむみほを初老の男は肩を叩き労う。

 みほはその声に目尻を潤ませた。

 

「以上が牧悟郎の経歴になります」

 ゴジラが大洗で活動を止めてから二日後に文部科学省の会議室で大臣出席の会議が開かれていた。

 議題はゴジラ問題で文科省が関わる案件についてである。

 その会議に学園艦総局の局長でありゴジラに対する戦車道の害獣駆除作戦の監督をしている辻も末席に居た。

 辻は渡された牧教授についての資料をふと見る。

 資料には牧が亡くなる前に乗ったプレジャーボートに残っていた遺留品も資料として載っていた。

 その中のA4用紙が入るサイズの封筒に入っていた紙の画像が辻の目に入った。

 「私も好きにした。君たちも好きにしろ」

 何かのメッセージのようだ。

 (お前は好きにできたからいいかもしれないが・・・)

 辻は牧が無責任な放言を書いたとしか思えなかった。

 (好きにできるなら苦労はないよ)

 牧の好きにした事で自分に苦労が降りかかったと感じて牧への怒りすら辻には沸いた。

 会議ではまず牧教授に関しての対処が議題となった。

 一般には広まっていないが政府など関係筋には牧教授がゴジラ出現の原因だと断定されている。

 アメリカの研究機関に所属しているとは言え日本人で日本の大学で教鞭を執っていた教授となれば無視はできない。

 「大臣、マスコミから質問があった場合はいかがしますか?」

 牧は故人となっているが何かの処断が必要だと意見が出る。

 「日本の大学で教えていたのは素直に認める。ただしゴジラを牧が作っていた事は何も知らない。これでいいだろう」

 文科省大臣である関口は面倒だと言う口調で答える。

 「次に対ゴジラ作戦に文科省が協力する件についてです。配布資料の【巨大不明生物の活動を抑制する作戦】をご覧ください」

 進行役の言うままに辻はその資料のページをめくる。

 (これは!)

 作戦の概要に目を通して辻は驚いた。

 「配布資料にある通り、ゴジラを大洗女子学園の学園艦を使い封じ込める作戦を行います。文科省としては学園艦を作戦に提供する事になりました」

 進行役はスラスラと概要を述べる。

 だが辻はこんな事は知らない。いつの間にか学園艦を使う事が決まり困惑している。

 「学園艦総局長は知らなくて困惑しているだろう」

 文科省次官が辻へ話しかける。

 「この作戦は国家の機密事項だ。君にも教えていなかった」

 辻は内心で憮然としながらも「はい」と返事をする。

 「大洗の学園艦は今も学生とその家族が住んでいる。総局長には住民の退艦と作戦の準備を同時進行で進めるんだ」

 「はい」

 辻は無表情で淡々と応じる。

 「これでようやく大洗の学園艦を廃艦にできる。因縁の学園艦とおさらばできるな」

 関口は辻へからかうように言った。

 これまで二度も廃艦の決定を覆された辻

 その都度、文科省内で風当たりが強くなり肩身が狭い思いをした。

 だが今度ばかりは廃艦の決定を試合の勝敗で撤回はできない。廃艦は確実にできる。

 辻は「これは役人として喜ぶべきだろうがなあ」と感傷と言える気分になる



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第21話「学園艦がピンチです!」

 みほ達は知波単学園の学園艦に居た。

 大洗運動公園で救援を待っていたみほ達は日没直前にやって来た陸自部隊と合流して戦車を陸自のトレーラーに乗せ高機動車やトラックに分乗して千葉県館山まで行き、館山の港に寄港している知波単の学園艦に一時避難していた。

 一時の避難はいつしか一週間がすぐに過ぎてしまっていた。

 「わわっ!さすが西住さん!追いつけない!」

 みほは絹代に頼まれて戦車道の練習に付き合っていた。

 絹代が乗るチハとみほが乗るⅣ号が手合わせをしていた。

 絹代が「全力でお願いします!」と願い出たせいかみほは本気で絹代に当たっていた。

 一度も絹代のチハの砲撃を受けまいと急機動を繰り返すⅣ号

 麻子の高い操縦技術もあり絹代のチハでは振り回されるばかりだ。

 「あちゃ~やられた」

 みほのⅣ号からペイント弾が放たれ絹代のチハは撃破されてしまう。

 ペイント弾が被弾したのはこれで3度目でチハには三カ所も白いペイント弾が炸裂して広がった所がある。

 「西さん。一旦休憩しましょう」

 みほはⅣ号を停車させてから絹代へ言った。

 「分かりました。休憩が終わったらもう1回戦お願いします!」

 みほは和やかな声で「はい。いいですよ」と答えた。

 そんなみほの様子を見ていた優花里は久しぶりにみほは気晴らしが出来たと見えた。

 知波単に来てからみほはゴジラで炎上した大洗を気にかけていた。

 また共に戦い別のルートからゴジラから退避した継続やアンツィオ・大学選抜の面々を案じていた。

 継続とアンツィオに大学選抜の面々が無事だと知るとみほは安堵した。

 だがTVなどで見る大洗の惨状を見る度に顔を曇らせていた。

 そんなみほにとってこの手合わせで気分転換が出来たんだと優花里は思えた。

 知波単学園にみほと同行して避難していた黒森峰やサンダース・聖グロなどの大洗以外の皆はそれぞれの学園へ帰って行った。

 「みほさん。諦めたらいけないわよ。あなたは2度も学園を救ったのだから」

 みほが気落ちしているのを察したダージリンが学園へ帰る前に言った。

 「そうそう。元気無くしたらダメダメ」

 ケイも陽気にみほを励ます。

 そんな中を少し照れながらカチューシャが割り込む。

 「私との試合で変な踊りをして元気を取り戻したじゃない。あんたはそんなに弱くないわよ」

 準決勝戦で追いつめられた大洗だったがみほがあんこう踊りを踊る事で士気がどん底だった大洗の面々を復活させた時のことをカチューシャは言っている。

 「ありがとう」とみほは笑みを見せて応えた。

 だがゴジラの被害を受けていない大洗の学園艦に未だ戻れないのがみほには引っかかっていた。

 蝶野に尋ねても「何故か許可が出ない」とだけ。

 みほは嫌な予感を抱えていたせいで元気が無い表情が出てしまっていた。

 その予感は的中していた事をすぐにみほは知る事になる。

 「揃ったようだね。始めるとしよう」

 辻が知波単学園にやって来た。

 誰もが辻を疑うような視線を向けている。

 「政府は対ゴジラ作戦で大洗の学園艦を使用する事を決めた。この作戦は主に自衛隊が担当する事となった」

 辻の言う作戦の概要に杏やみほの表情は凍る。

 学園艦がゴジラとの戦いに使われる。

 それは学園艦が無くなる事を意味している。

 どんな風に学園艦が使われるか分からないが学園艦をゴジラに向けて無事に済む訳がない。

 「君達の役目は終わりました。政府を代表して礼を申し上げる。ありがとうございました」

 辻は礼を言うが口調は突き放すようだ。

 「学園艦をどうするんですか?」

 みほは辻へ尋ねる。

 「作戦内容は機密です」

 辻が素っ気なく答えるとみほは肩を震わせる。

 「何故学園艦を使うんですか?どうして大洗の学園艦なんですか!?」

 みほは憤慨していた。

 みほにとって大洗の学園艦は第二の母校だからだ。

 「・・・もう決まった事です」

 辻は少し困った顔をしてそう弱く答えた。

 「でも!」

 「西住ちゃん!」

 杏は熱くなるみほを大声を出して止めた。

 みほは我に返り口を閉ざす。

 「では作戦開始までに退艦をしてください」

 辻はそう言うと去って行った。

 辻は自分が出た部屋から大洗の生徒達が騒ぐのが聞いた。

 自分の悪口を言っているのだろう。薄情だ冷血だと言っているに違いないと辻は自覚している。

 恨まれるのも仕事の一部だと割り切っているが何度も彼女達へ失望と怒りを与えるのは辻の心にやり切れない気持ちを沸かせていた。

 (恨まれるままに去っていく。それが俺の仕事なんだ)

 感傷に浸る辻の携帯電話が着信の振動を伝える。

 上着の内ポケットから携帯電話を取り出してから電話をかけて来た相手の番号を見る。知らない相手だ。

 だが辻は文科省の誰か、議員の誰かかもしれないと通話に応じる。

 「保守第一党政調副会長の泉です。辻さん会って話がしたいんですがいつが空いてますか?」

 辻は驚いた。政権与党の幹部からの電話だ。

 「これは泉先生!今夜でも、いや夕方からでも時間は空いています」

 辻は泉が何故自分を呼ぶのか分からないまま夕方に新しい予定を加えた。

 



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第22話「学園艦の底にも生徒はいます!」

 みほ達大洗の戦車道の面々は久しぶりに学園艦に戻って来た。

 母校に戻れたが誰もが浮かない顔をしている。

 もうすぐこの学園はゴジラへの攻撃に使われる。最期の時が近いからだ。

 戦車は文科省の指示で知波単学園が預かっていた。

 沈むかもしれない艦に置けないと言う理由とみほ達が戦車を使って学園艦で実力行使をするのを防ぐためだ。

 「また荷造りをするなんてね」

 自分の住む部屋で荷造りするみほは二度目の廃校の通告を受けた後での荷造りを思い出した。

 あの時も大洗の学園艦が無くなる悲しさ心がいっぱいになりながら荷造りをしていた。

 だがサンダースが大洗の戦車を預かり輸送機でまた運んでくれたり、生徒会長の杏が文科省や戦車道連盟を回り廃校を撤回できる試合をセッティングして希望が開けた。

 だが今度は国家の危機だ。

 みほや大洗の生徒達ができるレベルを超えていた。

 「仕方ないか・・・」

 そう自分に言い聞かせて理不尽を飲み込もうとする。

 だが心の底には自分の戦車であのゴジラを倒して学園艦を守りたいと言う気持ちがくすぶる。

 人知を越えた化け物だが戦う術を知るみほにとっては「どうにかならないか」と言うもどかしさがあった。

 

 一方で川嶋桃は学園艦を下へ下へと下る。

 学園艦の内部は艦を動かす船舶科や艦内で魚を育てる水産科の生徒達が活動している。

 しかし艦の底へ近づくにつれて雰囲気はガラリと変わる。

 大洗のヨハネスブルクと称される無法地帯に様変わりする。

 そこには生徒が居るのだが無法地帯だけあり柄が悪い。知らない者や見回りに来る風紀委員が来るとからかうのが挨拶代わりで敵意をむき出しにする者ばかりだ。

 しかし桃が来ると違った。

 誰もからかう事はしない。むしろ「桃先輩こんちわッス!」とこの無法地帯にしては丁寧な挨拶をする。

 そんな桃はバーのような趣の「Donzoko」と言う部屋に入る。

 そこには5人の生徒達が居た。

 その一人が演台で独自の振り付けをしながら歌う声がBGMになっている。

 「これは桃先輩」

 天然パーマの頭をしたラムが慇懃に出迎えた。

 「桃先輩お久しぶりです」

 桃が入ると奥の席に居たお銀が席を立って迎えた。

 ここDonzokoに居る生徒達は退学処分にされそうなところを桃が庇った事で大洗の学園艦に残れた者達だった。

 桃への恩義を感じて態度は丁寧なのだ。

 「何か話があるんでしょう?ここへ」

 お銀は桃をカウンターの席へ誘う。

 「桃先輩何にします?」

 カウンターでコップを磨いているバーのマスターのような出で立ちをしているカトラスが何か飲み物が要るか尋ねる。

 「ジンジャエールを頼む」

 桃の注文にカトラスはすぐ応えてジンジャエールを注いだコップを置いた。

 お銀はスコッチ風麦茶なるものをカトラスに所望した。実は普通の麦茶なのだが。

 ドリンクが揃うとお銀が話しかける。

 「陸の方で苦労されたようで。ご苦労様です」

 お銀はゴジラと戦った事について桃をねぎらう。

 「ありがとう。だが倒せなかったんだ」

 桃は顔を俯かせる。

 「あんなデカイ化け物じゃ白鯨でも連れてこないと勝てませんよ。白鯨なんて居るか知らないけど」

 いつものお銀の様子に桃は少し微笑む。

 「お銀、そしてみんな聞いてくれ」

 ジンジャエールを一気に飲んでから桃は切り出す。

 Donzokoに居るお銀にラム・カトラス・フリント・ムラカミが桃の傍へ寄る。

 「政府はあの怪獣、ゴジラを倒すためにこの学園艦を使うと決めた。学園艦から全員の退艦も決まった。すまない」

 桃は言い終えると涙ぐむ。

 「桃先輩のせいじゃないですよ」

 お銀が桃の肩に手を乗せ気遣う。

 「しかしお前達の居場所がなくなってしまう。私達がゴジラを倒せなかったばかりに」

 にじみ出た涙を振り散らしながら桃は言う。

 「桃先輩、海賊は新しい船を探すだけです。どこに新しい船があるかは知らないけど先輩にいつまで甘える訳にはいかない」

 「またお前はそう言う!もうどうにもならないんだぞ!」

 桃は感情を爆発させた。

 泣きながら喚く桃にカトラスもラムもフリントもムラカミも戸惑う。

 「カトラス。ホットワインを桃先輩へ」

 お銀が注文するとカトラスはカップに注いだ暖かい飲み物を桃の前へ置く。

 「桃先輩まあ飲んで」

 まだ何かを喚く桃へお銀が勧める。

 「でも・・・あー頂こう」

 まだ収まらない桃だったか目の前に置かれたカップに手を伸ばし一口飲む。

 「なんだワインじゃなくてレモンティーじゃないか」

 「そこは気分とノリですよ」

 お銀がホットワインと言ったのは紅茶のレモンティーだった。

 暖かい紅茶にレモンの甘酸っぱさが身体に染みると桃も心が落ち着いてきた。

 「すまない。取り乱してしまった」

 桃は恥入るように謝る。

 「今度ばかりは前みたいに退艦する事を知らなかったとか、気がつかなかったと言うのは無しだぞ」

 桃はお銀に釘を刺すとお銀は苦笑いをする。

 二度目の廃校通告で学園艦から皆が退艦し学園艦が大洗の港から出港した時にお銀達は学園艦に残っていた。

 廃校のショックや退艦する為の色々な作業に風紀委員も生徒会も艦底に居るお銀などの生徒達を半ば忘れていた。

 風紀委員のそど子だけは1度だけ学園艦の底へ降りてお銀や他の生徒達へ退艦の通知をした。だがいつもからかわれるそど子のせいか誰もまともに聞かない。

 そど子が渡した退艦に関する説明文の紙はすぐに丸められ捨てられるかバッティングごっこの玉となる始末だ。

 一方で桃は戦車をサンダースへ預ける準備に追われ、自分達の退艦もあってお銀達が退艦したのか確認する暇が無かった。

 お銀や艦底の面々はそど子の通知を忘れて変わらぬ日常を送っていた。

 誰も咎めないまま日々は過ぎ大学選抜チームに勝って廃校を撤回させ学園艦が大洗女子学園に戻る間も何事もなく暮らしていた。

 桃が艦底の事を思い出し学園艦に戻ると急いでお銀達へ会いに行った。するとお銀達は「え?そんな事があったんですか?」と驚いた顔をして桃を呆れさせた。

 「分かってますよ先輩。海賊は沈む船と運命は共にしないですから」

 桃はその返事に少し心配になりながらレモンティーを飲む。

 

 「え!?ゴジラへ対して熱核攻撃!」

 みほは思考が一時真っ白になるようなショックを受けた。

 生徒会の部屋でみほや戦車道のメンバーが呼ばれて多国籍軍によるゴジラへの核攻撃が決まったと蝶野が告げた。

 「大洗で使うんですか!?」

 優花里が驚きながら尋ねる。

 ゴジラが居るのは大洗だからだ。

 「選択肢としてはありだが選ぶとはな」

 麻子も信じられないと言う態度を示す。

 それは誰もが同じで蝶野へ思い思いの事をぶつける。

 そんな時にみほの携帯電話が鳴る。

 サンダースのケイだ。

 「もしもし、ケイさん」

 「ハローみほ、ゴジラに核攻撃をするって聞いた?」

 「はい。蝶野さんから今聞きました」

 「学園艦を使う自衛隊の作戦が失敗したらアメリカは核兵器を使うと知り合いから聞いたわ」

 ケイの言う知り合いがカヨコだとみほはすぐに分かった。

 「もう学園艦が助かる事は無い・・・」

 ゴジラとの作戦が失敗してかろうじて学園艦が残る道は核攻撃に移る事で閉ざされたとみほは思った。

 「みほ、これはどうなるか分からないけど」

 ケイはそう前置きした。

 「知り合いはアメリカに三度目の核攻撃を日本ではさせないと言っていたわ。もしかすると何か希望はあると思う。落ち込んでいたらラッキーは逃げるよ」

 「ありがとうケイさん」



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第23話「巨災対の人が来ました!」

 大洗の学園艦は館山港で艦内の生徒や関係者の半分を降ろすと対ゴジラ作戦の準備が始まった。

 艦内を改造する作業は民間の造船業社を中心に始まる。

 作業員とクレーン車やフォークリフトなどの工事に関係する車輛が学園艦の中を行き交うようになった。

 「とうとう始まったか」

 杏は生徒会室から作業が進められている様子を眺めていた。

 対して生徒会室は荷造りした段ボールが並び部屋を空にする準備をしている。

 「あの時を思い出すなあ」

 「大学選抜と試合をする前のですね」

 生徒会副会長の柚子が残る書類のファイルを段ボールに入れながら杏が思い出している場面を言い当てる。

 夏の時に文科省が突然学園艦の廃艦を通告して退艦の為に荷造りをしたあの時だ。

 (あの時は大学選抜チームとの試合に勝って学園艦を取り戻せた。でも今回ばかりは無理だ)

 今回はゴジラを倒すために学園艦が使われる。

 国家や国民を守るためとなれば試合に勝って取り戻す事はできない。

 「西住どうした?」

 柚子と同じく荷造りをしていた桃が生徒会室に入って来たみほへ声をかける。

 「会長」

 みほが杏を呼ぶ。

 「西住ちゃんどうしたの?」

 「戦車で、私達の戦車でまたゴジラと戦えませんか?」

 みほの発言に柚子と桃は驚く顔をする。

 「何を言っているんだ西住、あの化け物とまた戦うなんて正気じゃないぞ!」

  桃は思わず声を荒げる。

 「西住ちゃん。あんこうチームのみんなは賛成したの?」

 杏はみほへ質す。

 「チームでは行きません。私一人で行きます」

 「一人で操縦や砲撃なんかできないぞ」

 桃が呆れたように言う。

 「まさか練習用の車内キットを使うの?」

 柚子がそう言うとみほは「はい」と答えた。

 戦車道の練習道具には個人練習ができるキットがある。

 例えば砲手だけが戦車が動く試合に近い状態で練習する為に操縦と装填の部分を自動で動くようにするのだ。

 戦車の車内の操縦・砲手・装填の位置に機械を置き自動化するのだ。

 その練習道具の車内キットを使えば一人で戦車で戦う事はできる。

 「勝算はあるの?」

 杏は険しい顔でみほへ訊く。

 「ゴジラは皮膚がとても固いです。でも体内なら固くは無い筈です。ゴジラが口を開けた瞬間を狙い撃てば倒せるかもしれません」

 とんでもない作戦だ。と桃と柚子は思った。

 杏も同じだ。

 「西住ちゃん。そんな無謀な戦いはダメだよ」

 杏はみほを哀れむ目で諫める。

 杏はみほの心情を理解していた。

 「西住さん。どうしてそこまでしてやろうとするの?」

 柚子はみほの真意を確かめる。

 「大洗は私にとってこの学園艦は第二の故郷だからです。ここでようやく親友が出来て嫌いな戦車道も好きなれた。私が自分を変えられた大事な場所だから」

 実家のある熊本の黒森峰女子学園で戦車道を姉のまほとしていたみほ。 しかし試合中の救助を巡り戦車道の考え方の違いから戦車道の流派の一つでもある西住家からみほは去って大洗へやって来た。

 一時は捨てた戦車道を再びやるはめになったが戦車道をやる事でかけがえのない親友を得る事ができた。

 自分を変えられた場所としてみほは大洗と学園艦には強い思い入れがあるのだ。

 「そうね。ここがあるから私も杏も桃と出会えた」

 柚子はみほの感情を理解した。

 「西住もそこまでこの学園艦に思いがあったのか」

 桃はみほの思いを知り涙目になる。

 杏はそのみほの思いは理解していた。

 文科省や戦車道連盟を巡り学園艦廃艦の撤回に奔走した自分に劣らないいや勝るかもしれない思いを。

 「いっその事、この学園艦を乗っ取ってどこかへ逃げるか」

 杏が張った気を抜いて言う。

 「いいですね。外海に出てしまえばこっちのものです」

 杏の冗談に桃が乗る。

 「学園艦を降りた生徒も呼び戻してみんなでね」

 柚子も乗る。

 みほはそんな三人の様子に少し戸惑う。自分の決意を込めた張りつめた気持ちが和らぐ。

 「君達、学園艦の乗っ取りは困るよ」

 そこへ男の声がする。

 聞き覚えのある声、あまり良い覚えがない声だ。

 「文科省の辻さん今日は何の御用で?」

 杏は冷たい態度で生徒会室の入口に立つ辻へ言った。

 「話がある。学園艦の命運が変わるかもしれない」

 「・・・・どんな話ですか?」

 杏は警戒心を高めながら辻の話を聞く事にした。

 「まずは人を紹介したい」と辻は答える。「どうぞお入りください」と辻が呼びかけると男女二人が生徒会室に入る。

 「はじめまして角谷生徒会長、私は巨災対事務局長の矢口です」

 「巨災対の尾頭です」

 スーツ姿の二人は挨拶する。

 「巨災対の偉い人が来るとは驚きました」

 杏は素直な感情で挨拶に応える。

 「いえいえ偉いと言う訳でもありません」

 矢口は謙遜する。

 「東京からこの大洗へ何故来られたのです?現地の視察ですか?」

 杏は早速矢口の目的を探る。

 「対ゴジラ作戦の変更をしたいからです。予定されている作戦は学園艦の艦内をある液体で満たし、ゴジラを学園艦の中へ入れてゴジラの活動を止めると言う内容です。これを変えたい」

 矢口の説明にみほや杏は初めて聞いた作戦内容に驚く。学園艦をゴジラの棺桶にしようと言うのだから。

 「しかしゴジラをその液体の中へ落としても規定量を飲み込めるか不明ですし学園艦にゴジラが想定通りに乗る確率も低いと我々巨災対は考えたのです」

 尾頭はいつものぶっきら棒な態度で説明を加える。

 「ゴジラをその液体の中に溺れさせる訳ですか。作戦としては合理的な気はします。学園艦を使う事以外は」

 杏は皮肉を込めて矢口へ言う。

 「あの、その液体とはなんですか?」

 みほが矢口へ聞く。矢口は「尾頭さん」と言い専門家へ託す。

 「血液凝固剤です。ゴジラの体内に流れる血液循環を止めてゴジラの活動を停止させます。ゴジラは体内に原子炉のような器官があり血液はいわば冷却水なのです。冷却水が流れなくなると原子炉はメルトダウンを防ぐためにスクラム(強制停止)を行います。ゴジラの体内でこれと同じ事が起きると考えられています。ゴジラの体内でスクラムが起きるとゴジラは体温が低くなりゴジラの身体は凍結されると思われます。この凍結をさせるのが我々の目的です」

 尾頭はいつもの調子で説明した。

 さすがに杏やみほには全体を理解することはできなかった。

 「つ、つまり血液凝固剤でゴジラを凍らせると言う訳ですね」

 みほは尾頭の説明を要約した。

 尾頭は少し不満そうな顔をしたが「そうです」とみほの理解を肯定する。

 「この血液凝固剤をゴジラの体内へ入れる方法として我々が立案したゴジラの口へコンクリートポンプ車を使い流し込む作戦があった。だが学園艦ごとゴジラを海中に沈める作戦が政治の中で勢いが強くなって決まってしまった。このままでは不確実な作戦でゴジラを止められないだろう」

 矢口は語り始めた。

 「この学園艦へ密かにコンクリートポンプ車を持ち込み我々の作戦を実行しようと考えた。ここから君達に相談したい事がある」

 矢口は杏やみほ・柚子に桃へそれぞれ向いて言う。

 杏やみほも黙って何を言うのか待っている。

 「失礼な事だが、先ほどの君達の会話を聞いてしまった。戦車でゴジラの口を攻撃すると言ってましたね」

 みほの発言について矢口は訊いている。

 「はい。ゴジラの皮膚は硬いので口の中ならダメージを与えられるだろうと思って」

 みほが答えた。

 「そのアイディアを頂きたい。戦車の砲弾に血液凝固剤を積めて戦車で打ち出しゴジラの口へ入れる。戦車と乗員は自衛隊が用意する」

 矢口の案に杏や桃・柚子は納得した。戦車で打ち出すなら学園艦から離れた所でゴジラを倒せるかもしれない。

 「矢口さん。戦車を使う作戦なら私も参加させてくれませんか?」

 みほは矢口へ求めた。

 「ダメだ。これ以上君達を戦わせる訳にはいかない」

 矢口ははっきりと拒否する。

 「でもここは私の第二の故郷なんです。守りたいんです」

 純粋なみほの意志に矢口は「気持ちは分かる」とは言った。

 「その気持ちはこの学園の皆も同じ筈だ。だが我慢して欲しい。本来戦う役目がある自衛官の出番なのです。自衛官に任せて欲しい」

 矢口はみほを説得する。みほの理性は説得に納得はできていたが感情は納得していない。

 それでも「わかりました」とみほは答えるしか無かった。

 杏はみほの右肩へ手を置きみほを労う。

 「ところで辻さんが矢口さんと尾頭さんを連れて来たのですか?」

 杏は辻へ尋ねる。

 「そうです。私も思うところがあって好きにやらせて貰っているそれだけです」

 辻は眼鏡で感情を隠すいつもと変わらぬ様子で答えた。

 その答えに矢口はニヤリと微笑む。

 辻が好きにやらせて頂くと言う心境になったのは泉との会食がきっかけだった。

 「辻さん。貴方は大洗の学園艦を本当に廃校にしたいのかね?」

 お互いに少々酒を飲んだ後で泉は辻へ尋ねる。

 「私が廃校にしたい訳ではないです。上の意向ですよ」

 正直に辻は答えた。

 「そうでしょう。そうでしょう。私も党の幹部とはいえより上の意向には逆らえんですからね」 

 泉は共感していると言うと辻は幾分心が和らぐ。

 「どうでしょう辻さん。そろそろ好きにされては?」

 泉が提案すると辻は目を丸くする。

 「泉先生、役人ですよ私は。そんな好き勝手なんてできませんよ」

 官僚として役人として制度と上位下達で縛られた環境に長年居る辻にとって好きに何かをすると言う提案は困るところである。

 「できますよ。貴方の心意気だけです」

 「そんな無理を言う」

 「女の子を泣かせた役人と言われていいんですか?」

 泉の言葉が辻の心の棘を刺激した。

 辻とて人間である二度目の廃校の宣告をした時にはさすがに悪い事をしたなと良心の痛みを感じた。

 「そう言われたくは無いですね。でもそう汚名を負っても私は組織や政策を守りますよ」

 「しかし組織はそんな献身的な貴方を簡単に捨てるでしょう。それでは貴方は報われないし間違いは正されない」

 辻は反論する言葉を重ねる事は出来なかった。

 組織を守れても間違いを犯す事に荷担する。それは悩ましい部分だ。

 悩む辻の脳裏にある記憶が蘇る。

 「私は好きにした。君らも好きにしろ」

 ゴジラ騒動の張本人と言える牧が残したメモの一文だ。

 (ちくしょう・・・)

 心中で辻は悪態をつく。

 「泉先生、私は好きにしようと思います」

 こうして辻は自らの意志で動く事を決めたのだ。




今回書いた「車内キット」は今回のストーリー上登場させた公式には無い物です。


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第24話「譲れない気持ちがあります!」

 千葉県館山の港に陸上自衛隊の戦車が続々と集まっていた。

 どれも射撃で高い技能を持つ砲手が乗る戦車ばかりだ。なので全国の各部隊から74式戦車から90式・10式と集まっている。

 「こうして見ると頼もしいですね戦車と言うのは」

 辻は学園艦の上から集結する戦車を眺めていた。

 「戦車が好きになりましたか?」

 蝶野が少しからかうように言う。

 「嫌いじゃないですよ。ただ最近は戦車で泣かされてばかりでね」

 辻の答えに蝶野はクスリと笑う。

 「ところで最近はずっとここですね。文科省に帰らなくていいんですか?」

 辻は矢口と尾頭を連れて来てから現場の監督や指導と称して辻は大洗の学園艦に残っている。

 「本省の方針に逆らっているんです。帰れませんよ」

 反逆を覚悟した辻の胸中を蝶野は察した。

 「それにここに残った方が我々の作戦の準備がしやすい。何より気になる事もありますからね」

 「気になること?」

 「またあの子達が何かやるんじゃないかと」

 辻がそう言った時だった。

 辻の携帯電話が着信の音が鳴る。

 「はい。あ~はいはい。そちらへ行きます」

 いつもの平然とした様子で電話を切ると何処かへ向かおうとする辻

 「何かあったんですか?」

 蝶野が辻の背中を追うように尋ねる。

 「私の思った通りの事が起きました。これから対応に向かいます」

 

 学園艦の航行や艦内全体への電力・水道などエネルギー供給をコントロールする制御室に何者かが乱入した。

 自衛隊に制御室を引き渡す前なのでまだ船舶科の生徒達が居た。

 「ここはウチらが頂くよ」

 「さあ、出て行って貰おうか」

 そこへ船舶科と同じ制服を着た5人が制御室を占拠に現れた。元から居る船舶科の生徒達は彼女が何者か分かっていた。素直に従う。

 「どん底の生徒だと思う人達が5人来ました。はい制御室を取られました」

 出て行かされた制御室を出て行くが出てすぐにこの事態を携帯電話で伝えた。

 制御室を占拠したのはバーどん底の面々だった。

 「桃先輩これで学園艦は私達の物です」

 お銀が川嶋桃を誘う。

 桃だけではなく角谷杏や小山柚子も制御室に入る。

 「すまない。なこんな事をさせて」

 桃はお銀達に謝る。

 「いいんですよ。他人にいいようにされるなら奪う方がいい」

 「西住ちゃん、これからどうする?」

 角谷杏は背後を振り返る。そこにはみほが立っている。

 「ここには臨時の操舵装置がある筈です。これで学園艦を外洋へ出します」

 みほは制御室に入ると臨時操舵装置を探し始める。

 学園艦は正式な操舵の機能が何らかの事故で動かない場合に備えて臨時の操舵装置が何カ所もある。

 みほは艦の動力をも管理出来る制御室を占拠する事で学園艦を動かそうとしていた。

 その為に杏や桃へ相談し桃がどん底の面々を頼ったのだ。

 「でも動かし方を知っているのか?」

 「先輩これでも船舶科ですよ。船を動かすのは当たり前です」

 お銀は自信満々に言う。

 「頼むぞ。私達は船に関しては素人だ」

 桃が頼もしそうに言うとお銀は嬉し気に微笑む。

 みほが考え桃やどん底の面々をも巻き込んだこの企ては制御室を占拠して学園艦のコントロールを奪い学園艦を外洋へ出して対ゴジラ作戦に使わせないようにするのだ。

 「矢口さんの案は良いと思います。でもやはり学園艦は無事には済まないと思います。私はこの学園艦を遠くへ逃がしたいです」

 杏や桃・柚子へ頭を下げてみほは頼み込んだ。

 「西住ちゃん。本気で学園艦を乗っ取るの?」

 杏が覚悟を尋ねた。

 「はい」

 短い返事だがみほの眼は揺るがず真っ直ぐだった。逆に杏や桃・柚子が覚悟を決める正眼だった。

 こうしてみほに生徒会・どん底メンバーによる学園艦制御室を占拠する動きになったのだ。

 「おい、待て!ここは通さないぞ!」

 ムラカミがいきなり大声を上げる。

 「力づくとは感心しませんね」

 桃とみほにとって知っている声だった。辻だ。

 「やはりあなたですか」

 もほが辻とムラカミの脇から顔を出して対応する。

 「可能性が低いと思っていた予想が当たりましたよ」

 辻はムラカミから辻へ向き直る。

 「私達がこうすると予測していたんですか?」

 「最悪の事態を想定するのも私の仕事です」

 ムラカミの身体を挟んでみほから緊迫した空気が醸し出される。

 「西住さん。貴方には2度も大洗の廃校を阻止された。学園艦を存続させる為に貴方や大洗の生徒達が行動に出るのは予想していました」

 みほは黙っている。

 「2度も阻止された当時は正直貴方達を恨んだ。文科省で私は肩身の狭い思いになりましたからね。でも今は貴方達の行動力が美しく見える」

 思わぬ辻の言葉にみほ達は無言で驚く。

 「ここまで母校を愛して守ろうとする純粋な気持ちが私には美しいと見えた。大人になりしがらみがある私にはね」

 みほはこの辻の思いに緊張の糸を和らげる。

 「そんなお世辞を言って私達を翻意させる気だな」

 桃が皆へ警告するように言う。

 「河嶋先輩、ここは役人さんを信じましょう」

 「おい西住」

 桃が止めるように言う。

 「辻さん。私達をどうします?」

 杏がみほと並ぶ位置に進んで尋ねる。

 「このまま制御室を占拠するなら警察に通報します。ですがすぐに制御室を出てくれるなら何も無かった事にしましょう」

 辻の提案にみほは悩まし気な顔をする。

 「制御室を明け渡したら計画通りにゴジラへの作戦を決行するんですよね?」

 みほは辻へ尋ねる。

 「そうです」

 「作戦を決行すれば学園艦が被害を受けるはずです。私はそれが嫌なんです」

 みほは必死に訴える。

 自分にとっては故郷に等しい大洗の学園艦を守る為に。

 辻はみほに気圧されたが眼鏡に手をかけて気持ちを整理する。

 「機密なので本来なら言えないのですが。作戦はゴジラの体力を消耗させてから学園艦から戦車で血液凝固剤をゴジラへ撃ち込む段階で進みます。学園艦が被害を受ける可能性を低くしています」

 辻が説明をするがみほは納得し切れていない。

 辻が信用できるかどうかではない。みほが腑に落ちる何かが無い。

 「西住ちゃん」

 杏がみほへ何かを促すように言う。だがみほは黙っている。

 「西住殿!西住殿!」

 そこへ優花里やあんこうチームの面々が駆けつける。

 「何をしているんですか西住殿!」

 「私達抜きなんて酷いよ」

 「そうです。加勢しましたのに」

 優花里に沙織に華がみほへ制御室占拠の行動に自分達が居ないのを問う。

 「みんなまで巻き込む訳にはいけないと思って」

 みほはすまなそうに言う。

 「ここまで一蓮托生で来たじゃないか水臭いぞ」

 麻子がこういうとみほは俯く。

 「君達、説得に来たのかね?それとも応援に来たのかね?」

 辻はあきれ顔で尋ねる。

 「そういえばどうするんだっけ?」

 と沙織

 「秋山さんが『とにかく行きましょう』と言うので何も決めてないですね」

 と華

 「とにかく一大事なので早く駆けつけた方がいいとしか考えてなかったです」

 優花里は髪をかきながら苦笑いをする。

 「とりあえず、今はどうなっているんだ?」

 麻子がこう言うと辻は「制御室を明け渡すように説得しているところです」と答えた。

 杏が「ゴジラから学園艦を守る為に制御室を占拠して学園艦を外洋へ逃がしたい」と説明した。

 「ふむ」と麻子は状況把握に思案した。

 「西住さん。ゴジラを退治する作戦に参加したいのではないかな?」

 麻子の結論に誰もが疑問しか浮かばない。

 「麻子どういう事?」

 沙織が訊く。

 「今まで西住さんは諦めなかった。困難に立ち向かった。本当にしたいのはあのゴジラと戦う事じゃないのか?」

 麻子の意見にみほは心を突かれたような気持になる。

 「でもまた化け物相手になんて…」

 優花里がまさかと言う思いになる。

 自衛隊の攻撃が効かず逆に反撃して自衛隊機を撃ち落としたゴジラ

 そんな化け物とまたみほを戦わせたくないと優花里は思っていた。

 「そうかもしれない…」

 みほは呟く

 「戦車道とはいえ戦う術を知っている。出来るならあの化け物を倒すか追い払いたいと思っていた」

 みほの思いに戦車道をしている誰もが同意する。

 スポーツ競技とはいえ戦う技術だ。自分の故郷が襲われているならその外敵から守る為に立ち上がりたい気持ちは沸く。

 「西住殿気持ちは分かります。でも相手は戦車じゃありません。砲弾もミサイルも効かないゴジラなんですよ。無茶です無謀ですよ!」

 優花里はみほを止めようと必死になる。

 「でも血液凝固剤をゴジラの口に撃ち込めばゴジラを凍結できます。やるなら私がゴジラへ撃ち込みたいです」

 みほは熱意を語る優花里は首を振りみほの意見に否を示す。

 「西住さんの1両だけじゃ全弾撃ち込んでも足りないわよ」

 制御室前へやっと来れた蝶野が言う。

 「そうそう。みぽりん無理しちゃダメだよ」

 沙織が蝶野の言葉に乗るようにみほへ諭す。

 「いいえ。西住さんには今回の作戦に参加して貰おうと思います」

 「いいんですか?」

 蝶野の提案に辻が確認する。

 「いいんです。やめろと言っても収まらないでしょ」

 「確かに。この子達はそんなに素直じゃない」

 大人二人の会話にみほが苦笑いする。確かにそうだと。

 「作戦に私も参加します。ゴジラの口を狙うのは簡単じゃないですよ」

 華がみほや蝶野へ不敵な顔で言う。

 「わっ私も参加します!Ⅳ号には自動装填装置はありません!慣れた装填手が必要です!」

 優花里が慌てて参加を表明する。

 「操縦手が要るだろう。私も参加する」

 麻子も参加を示す。

 「もーみんなまで!じゃあ私も参加する!」

 最後に沙織も参加を示した。

 「生徒会カメさんチームも参加するよ!」

 杏が言うと桃が「会長」と言って少し驚く反応したが拒むことは無かった。

 「桃先輩、もうこの部屋は必要ないですね」

 お銀が場の空気が和むのを察して言う。

 「ああ。迷惑をかけた。退艦の準備に戻っていいぞ」

 「いや、私達も作戦に加わりたいと思うんですよ」

 お銀の思わぬ申し出に桃は「おい」と言うとお銀は小指を口の前に立てる。

 「分かった。だが大事になるような事はするなよ」

 

 

対ゴジラ作戦が戦車道履修者の高校生から自衛隊へ移ると生徒達は母校へと帰還をしていた。

 西住まほも東京から逸見エリカなど皆を熊本へ連れて帰っていた。

 ゴジラと戦ったが誰もが無事で帰す事が出来たのは幸いだった。一応は病院で放射線を浴びていないか検査はされたが異常は無かった。

 しかし燃料が切れてまほのティーガーⅠとヤークトティーガーを大洗に置いたままになっている。

 取りに行こうにも休眠中のゴジラから出ている放射線のせいで大洗は立ち入りが禁じられた地域になっている。

 戦車以上に心配なのが妹であるみほだった。

 最初からあの化け物と対峙していた。

 それだけでも姉として感服するばかりだ。

 「政府は対ゴジラ作戦に大洗の学園艦を使用する事を決定しました。生徒とその家族をはじめ学園艦の関係者は全て退艦する事になりました」

 このニュースに触れてみほが熊本へ帰るのかと思った。

 だがみほからの連絡は無い。

 (みほはどうするのだろうか?)

 大洗の友人達と茨城県の高校へ転入するのだろうか?まほは気がかりだった。

 こういう時に母親であるしほと話せばいいのだがこの親子は家族である前に戦車道西住流の家元と後継者と言う師弟関係に近い上下関係がある。

 姉妹揃って戦車道を始めてから気安い会話ができる間柄ではなくなった。

 だが母親のしほが何か動いていたのはまほにも分かっていた。

 それはゴジラを戦うのを戦車道の生徒から自衛隊へ移すよう促す政治活動だった。

 その事についてもしほはまほへ語ってはない。

 「まほ」

 不意にしほが呼ぶ。

 上座へ座る家元へまほは正座して向き合う。

 「戦車を大洗に置いたままでしたね」

 「はい。立ち入り禁止の規制が解除されたら回収に行こうと思います」

 「近い内に解除があるかもしれないわ。準備をなさい」

 「分かりました」

 いつもと変わらない会話だった。

 「大洗へ行く時には我が家にある戦車を使いなさい。私のティーガーⅠも持って行きなさい」

 「え?」

 まほは耳を疑った。

 西住家には戦車道家元だけに戦車がある。

 まほもⅡ号戦車を自家用車のように使っている。それとは別にしほが昔乗っていたティーガーⅠが保管されている。

 しほのティーガーはさすがにまほは触れる事も無かった。

 しほが黒森峰で戦車道の選手として使っていた思い出の戦車だからだ。

 それを使っていいと言うのだ。まほは驚いた。

 「戦車を持って行くのはあくまでゴジラが迫った時の自衛の為よ」

 「分かりました」

 しほの言いたい事が分かりまほは弾んだ返事をする。

 妹を助けに行きなさいとしほは言っているのだ。

 

 総理官邸にある巨災対の本部では矢口ら主要な面々による会議が開かれていた。

 「全国の化学プラントを総動員して必要量の血液凝固剤を確保できました」

 巨災対のまとめ役と言える厚生労働省医政局研究開発振興課長の森文哉が報告する。

 血液凝固剤の生産は日本全国の化学メーカーに呼びかけ製造プラントを総動員して行われた。

 「ゴジラによる工業の被害がひたちなか市だけに留まったのが幸いでした。東京湾沿岸の工業地帯にあるプラントも動員できたので予定通りの生産ができました」

 経済産業省製造産業局局長の町田一晃が語る。

 血液凝固剤の生産は時間との勝負だった。

 多国籍軍による熱核攻撃までの期日に間に合わせなければならなかった。だが主要な工業地帯が無事であった為に期日に間に合ったのだ。

 「ところで、矢口プランの作戦に女子高生を参加させるのは本当ですか?」

 防衛省統合幕僚監部防衛計画部防衛課長の袖原泰司が矢口へ尋ねる。

 「そうだ。母校を守る為に大洗女子の生徒達が協力を申し出てくれた」

 矢口はそう答えた。

 「戦車道の履修者で戦車での戦闘ができるとはいえ彼女たちは未成年の民間人です。自衛隊の作戦に参加させるのはいかがなものかと」

 「私も同じ考えだったが彼女達は母校守りたい一心が強いと知って作戦参加を認めた」

 「しかし問題になるのでは?」

 森が案じて矢口に訊く。

 「既に政府の決めた作戦から外れて準備を進めている。一つ問題が増えても変わらないよ」

 「ですが事務局長の今後に影響しますよ」

 森は矢口の政治家としての生命を心配していた。

 「後悔を残さないのが僕の使命だと思っている。この作戦で悔いが残るようにはしたくないんだ」

 矢口の理念に森と袖原は納得した



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第25話ヤシオリ作戦開始です

「H℮yカヨコ!もうアメリカかな?」

ケイはカヨコからの電話を受けた。

「まだ日本にいるわ。まだやる事があるから」

「そのやる事はゴジラをやっつける作戦かな?」

「貴方知っているの?」

「そりゃー大洗の事だしね」

カヨコは「なるほど」とほほ笑む。

「その作戦にアメリカは協力するわ。むしろ軍の将兵達が沢山志願しているけどね」

「それは心強い。頼みにしているわ」

ケイの口調に少しケイコは疑問が出て来た。

「ちょっとケイ、まさか」

「そのまさかよ。今から大洗へ行くわ」

ケイは携帯電話で話しながらC-5輸送機へ乗り込む。

「一度戦ったからって危険な事に変わりないわ」

カヨコはさすがに止めに入る。

「でも友人が戦っているのに見ているだけはできないわ」

ケイの答えにカヨコは止めるのを諦めた。

 

大洗の学園艦では大洗女子学園の校庭に自衛隊員とみほら大洗の生徒達に化学メーカーの民間人が一同に並んで集まっていた。

みほ達は戦車道の試合で使うパンツァージャケットを着ている。

「みんな来てくれましたね」

優花里は大洗の戦車道履修者の全てが参加した事を言った。

誰もが自分の母校を守れるならと自ら志願して来た。

「結局みんなを巻き込んでしまった」

みほはそこを悔やむ。だが誰もの真剣な思いを断る事も出来なかった。

「でも西住殿一人で戦わせてしまうのはみんな嫌なんです。戦うなら皆で、困難は皆で乗り越えたいんですよ」

優花里の言葉にみほは「ありがとう」と呟くように言った。

 

並ぶ面々の前に矢口が立つ。

「今回のヤシオリ作戦遂行に際し、放射線流の直撃や急性被曝の危険性があります。ここにいる者の生命の保証は出来ません。だが、どうか実行してほしい!

この作戦は自衛隊のみならず大洗女子学園の生徒達も戦車に乗り、血液凝固剤を製造した民間企業の皆さんも作戦を支援する為に参加してくれました。

この場に居る皆さんが最後の砦です!日本の未来を、君たちに託します。以上です」

矢口の訓示が終わると皆は解散して学園艦での作戦準備の仕上げにかかる。

作戦実行は翌日だ。

「では私はこれで」

矢口の訓示が終わると辻は学園艦を去ろうとする。

「これからなのに降りるんですか?」

蝶野が問う。

「作戦変更に私が協力していたのがバレましてね。本日付で学園艦総局長の役職を更迭されました。明日からは官房長付きになって処分待ちですよ」

「ようやく一緒にやれたのに残念です」

蝶野は辻と分かり合える気がしていただけに辻が去るのを悔やむ。

「ありがとう」

作戦準備に慌ただしい中を辻は退艦すべく歩く。

「あれはサンダースの輸送機と黒森峰の飛行船」

学園艦の上空に現れた機体に辻は気づいた。

「サンダースと黒森峰が助けに来たのか。これなら後は大丈夫ですね。では後を頼みます」

蝶野はその辻の背中を敬礼して見送った。

 

 

対ゴジラ作戦いわゆる「ヤシオリ作戦」実行の日が来た。

作戦実行を取り仕切る矢口は前日から大洗に留まっていた。

矢口はヤシオリ作戦を指揮する指揮所へ向かう。

格好は真っ白のタイベックと呼ばれる防護服を着ている。

ゴジラからの放射線を幾らか体内の侵入を防ぐためだ。

空母の艦橋のような構造物の屋上に指揮所は置かれている。ここなら全体がよく見えるからだ。

「東京じゃ作戦変更の全容はもう知られている。だが俺に任せろ!作戦の邪魔はさせない」

泉からの電話で矢口は背中を守ってくれる相棒に感謝した。

泉は東京に残り政府や与党を抑える。

「学園艦は予定の位置に着きました。大洗の方からも作戦準備完了の報告が入りました」

自衛隊の作戦部隊を統括指揮する大洗戦闘団の隊長である丹波一等陸佐が報告する。

「米軍から連絡、各部隊予定位置に着きました」

「現在、北東の風2メートル、ゴジラからの放射線は内陸部や東京湾へ流れるのは最小限に留まると思われます」

次々と入る報告を矢口は聞き入る。

「茨城県からの住民避難完了の報告がまだです」

ヤシオリ作戦実行の日は広報していたが住民避難は間に合わなかったのだ。

「いえ。この機は逃せません。決行します。自治体に屋内待機を徹底して下さい。丹波一佐、お願いします」

矢口は決断する。この決断を即座にする為に矢口は大洗の学園艦に乗っているのだ。

「分かりました。関東地区の各自治体に連絡。以降、50時間の一切の外出自粛と全住民の屋内待機を要請」

「了解。常澄より連絡。無人車両全車切り離し完了。ゼロポイントを通過」

「では、ヤシオリ作戦を開始する。第1段階、陽動始め!」

矢口の決断と丹波の号令によってヤシオリ作戦は始まった。



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第26話ゴクゴク作戦です!

 時間は矢口の訓示の後に遡る。

 黒森峰の飛行船とサンダースの輸送機が大洗の学園艦上空に飛来して来た。

 「大洗の生徒以外を増やしてもいいんですか?」

 矢口と同行している袖原が矢口へ尋ねる。

 「調べると彼女達は放っておいても自発的に集まる傾向にあるようです。止めるより管理下に置く方が賢明ですよ」

 矢口は大洗女子の生徒達がヤシオリ作戦に参加すると表明した時にみほをはじめとした関係者について調査していた。

 大洗と大学選抜との試合では大洗と対戦した学校の生徒達が連絡し合い助太刀に来た事と、大洗にゴジラが襲来した時の救援

 この二つの事例を見ても止めるのは難しい。ならば目の届く管理下に置こうと矢口は決めたのだ。

 

 飛行船からはまほとエリカの黒森峰のティーガー重戦車

 輸送機からはサンダースのケイとナオミのシャーマンとファイヤフライだけではなく、聖グロリアーナのダージリンのチャーチルにプラウダのカチューシャとノンナのT-34とスターリンに継続高校のⅢ号突撃砲

更に大学生の愛里寿やメグミ・アズミ・ルミのセンチュリオンとパーシングが降りた。

 ダージリンやカチューシャ・愛里寿はサンダースの輸送機に載せて貰い大洗の学園艦へ来たのだ。

 「無事を祈っています!」

 輸送機を操縦するアリサが無線でケイや他の皆へ伝える。

 誰もが皆を連れて来てはいない。先の大洗でのゴジラ迎撃戦でゴジラの恐ろしさは分かっていた。行くなら自分達だけでとそれぞれは決めていたがエリカやノンナ・メグミ・アズミ・ルミはほぼ無理矢理に強引な形で同行していた。

 「みなさん。来てくれたのはありがたいのですが、本当に危険ですよ。学園艦の上ですから万が一にも逃げる事はできないかもしれません」

 みほは加勢に来た皆へ感謝しつつも危険だと警告する。

 「そんな事は百も承知だ。姉として危険に立ち向かう妹を見るだけなんてできない」

 まほが毅然とこう言うと「さすがお姉さんね」とケイが感心する。

 「もう船は出ましたよ。降りるなんてできません」

 愛里寿は言う。その通りに学園艦は館山の埠頭から離れていた。

 「武運を祈ります!」

 埠頭では絹代をはじめ知波単学園の生徒達が手を振り見送る。

 「う~ん」

 みほは困ったような顔をした。

 「皆さん!」

 みほは吹っ切れた顔で皆の方へ向き直る。

 「一緒にゴジラを倒しましょう!」

 その言葉に一同が「おおー!」と歓声を上げる。

 「ところで、作戦名は?」

 ダージリンが不意に尋ねる。

 「え~とゴジラを凍らせる作戦だから・・・ゴジラ凍結作戦はどうもイマイチだし・・・血液凝固剤を飲ませるのでゴクゴク作戦にしましょう」

 こうしてヤシオリ作戦はみほら戦車道の面々ではゴクゴク作戦で通る事になる。

 

 ヤシオリ作戦当日

 学園艦の上甲板は戦車のエンジン音に満ちていた。

 自衛隊と戦車道の戦車がエンジンの暖機運転を行い作戦開始に備えている。

 「緊張してる?」

 継続高校のアキはⅢ号突撃砲の車内でカンテレを弾くミカに尋ねる。

 カンテレを弾くのはゴジラと戦う緊張を和らげているのかと思えたからだ。

 「いいや、暇つぶしさ」

 ミカはいつもの涼やかな表情を変えずに言った。

 ミカ達はいつものBT-42では無かった。ゴジラに対して長距離の射撃を行うと聞いて継続高校が持つ戦車で砲の射程が長い長砲身の75ミリ砲を装備したⅢ号突撃砲G型を選んだ。

 この射程の問題は知波単では解決できなかった。

 知波単が持つ九七式中戦車や九五式軽戦車では長射程の砲撃はできないからだ。なので参加を見送った。それはアンツィオも同じだった。

 学園艦に居るが戦車に乗っていない生徒も居た。

 大洗のアヒルさんチームとカメさんチームにカモさんチームだ。

 どれも砲の射程は短いからだ。

 みほは三チームの面々に退艦を促したが誰もが断った。

 「生徒会が降りる訳にはいかないからね」

 「戦車を降りても風紀委員なのよ」

 自分の役職があると言ってカメさんチームとカモさんチームは残り

 「戦車で戦えなくても準備とかマネージャーみたいにサポートをします!」

 アヒルさんチームの磯辺典子をはじめ四人のバレー部員達はみほへそう熱心に訴えて残った。

 「みんなここまでしてくれる」

 みほは戦車の間をせわしなく回り準備を手伝うアヒルさんチームの面々を眺めて思いにふける。

 本当に命が危ういのに駆けつけてくれる皆

 大学選抜でも感じた感謝をみほは無言で噛みしめる。

 

 「学園艦予定位置に到達」

 「第6護衛隊予定海域に到着」

 「YashioliOperation Participation Arrangement Completed」

 「茨城県警より関係各位へ県沿岸部の住民避難を確認、ただし沿岸以外の避難は続行中」

 戦車の無線にヤシオリ作戦に関わる各所の無線が入る。

 「CP(指揮所)よりタイガー1(自衛隊戦車部隊の隊長車)とアンコウ1(戦車道戦車部隊の隊長車)へ、あと5分で作戦を開始する」

 作戦開始が近いと告げる無線にみほが「了解」と返答する。

 「アンコウより皆さん」

 すぐにみほは戦車道の戦車が使う無線の周波数で呼びかける。

 「もうすぐ作戦開始です。これからの戦いはこの前の戦いよりも厳しい戦いになります。命を落とすかもしれません。そんな危険を覚悟でこの作戦に参加したみなさん、ありがとう」

 みほは一旦言葉を区切り一呼吸する。

 「CPより全部隊へヤシオリ作戦を開始する。第一段階開始」

 指揮所からの作戦開始が告げられる。

 「では、ゴクゴク作戦開始します。みんなで無事に帰りましょう!全車、戦闘陣地へパンツァーフォー!」



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第27話ヤシオリ作戦第1段階です!

 ヤシオリ作戦第一段階は鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の無人列車で実行される。

 ディーゼル機関車2両で爆薬を満載した貨車の列を引っ張り貨車の後ろにも2両のディーゼル機関車が繋がり列車を押すこの列車は遠隔操作で動かされゴジラへ向かい走行している。

 この無人在来線爆弾と称された列車は2つ編成され水戸駅と新鉾田駅から出発した。

 南北から大洗駅に鎮座するゴジラへ向かって出せる全速で向かう。

 ゴジラの手前に近づくと列車を押す2両の機関車がスピードを上げ列車を加速させる。

 唸る機関に軋む車輌の連結に車輪が突撃の雄たけびのように響く

 「無人在来線爆弾突入!」

 望遠で大洗のゴジラを撮影しているカメラからの映像で状況を監視している陸自隊員が報告する。

 2つの無人在来線爆弾はゴジラの足に激突した。

 激突の瞬間に先頭の機関車は潰れ、2両目の機関車は先頭の機関車にぶつかると逆立ちする形になり後ろに繋げている貨車の列を振り上げる。

 振り上げられた貨車の列はゴジラの足へ列全体でぶつかり搭載している爆薬を炸裂させる。

 この爆発に眠っていたゴジラが不機嫌な鳴き声を上げ目覚める。

 「無人在来線爆弾によりゴジラが活動再開」

 「作戦第二段階誘導開始」

 丹波は作戦を次に段階へ進める。今度はゴジラを大洗から海へ学園艦へと誘導するのだ。

 「誘導ボートを始動させます」

 海自の隊員が大洗の沖に浮かべている2隻のプレジャーボートを無線操縦で動かし始める。

 そのボートが大洗沖で旋回を繰り返しボートの存在をゴジラにアピールする。

 ゴジラはそれに気がついたように海へと身体を向け歩み出す。

 「ゴジラが大洗港区より太平洋へ出ました」

 「ゴジラは誘導ボートを追っています。誘導成功です」

 「ゴジラはエサに食いつきました」

 誘導役を担う誘導ボートには核燃料の廃棄物が入った容器が載せられている。

 「まずは最初の成功ですね」

 矢口はゴジラを作戦海域へ引っ張り出せた事にまず安堵した。

 カヨコがもたらしたアメリカのゴジラ情報の中には海底へ不法投棄された核物質をゴジラが捕食しているというものがあった。

 そこで立案されたのがこの誘導作戦である。

 「ゴジラは学園艦へ向けて前進中、あと10分で作戦海域に到達します」

 隊員の報告は矢口をはじめその場の者達の心を引き締める。

 あと10分でゴジラとの決戦が始まるのだと。

 「西住さん、あと10分で作戦開始です」

 蝶野亜美は矢口の近くに居て作戦の推移を共に見ていた。あと10分で作戦開始と聴き無線機でみほの乗るⅣ号と通話する。

 「了解です」

 みほは短く答える。

 「武運を祈ります。くれぐれも無理をしないで」

 「分かりました」

 通信はこれで終わる。

 もはや長く語る事は無かった。亜美はみほの覚悟を知りみほも亜美へ訴える事が無かったからだ。もはや両者の意志は一つになっていた。

 「対策副本部長、海自と米軍の攻撃準備完了です」

 伊丹が矢口に報告する。

 矢口は巨災対の事務局長から対策本部長へ昇格していた。

 これは泉による活動が大きい。矢口に対ゴジラの権限を持たせてヤシオリ作戦を実現させようとしたのだ。

 そうなったのは文科省が大洗の学園艦を使う対ゴジラ作戦を打ち立て準備段階まで進めたからだ。対ゴジラ作戦に文科省が突出した事に矢口と泉が危機感を抱き巨災対主導へ引き戻す為に矢口を昇格させたのだった。

 「もうそろそろ見えますか?ゴジラが」

 矢口は誰ともなく尋ねる。

 「まだ2km先ですが。こちらを」

 亜美が双眼鏡を矢口へ渡す。

 そこには影としか見えないゴジラの姿が見えた。

 「対策副本部長、ゴジラが作戦海域に入ります」

 「開始のタイミングは任せます」

 矢口は伊丹に委任する。

 「作戦第2段階に入る。航空部隊攻撃開始」

 伊丹の号令によりヤシオリ作戦は第2段階へ移る。

 「第1波攻撃開始」

 まずは米軍の無人攻撃機による攻撃が始まる。大洗の学園艦からの連絡と誘導を受けた無人機の群れはゴジラへ殺到する。

 それらの無人機は主翼に提げたミサイルや爆弾をゴジラへ向けて放つ。

 だがどのミサイルも爆弾もゴジラが背ビレから打ち出される熱線によって撃墜される。

 ゴジラの熱線はイージス艦のレーダーでもあるかのようにミサイルも無人機も全て撃墜する。

 「予想通りです。飛行する物体は全て撃ち落としています」

 袖原は自分がゴジラにはイージス艦のレーダーに近い探知能力があり飛行物体を高い確率で撃墜すると言っていたのが証明されたとも感じた。

 「第1波に続き第2波全滅!第3波攻撃開始!」

 「どんどん投入しろ、消耗戦でゴジラに熱線を放出不可になるまで吐かせるんだ!」

 無人機部隊は次々に落とされては新手が攻撃を開始する。

 有人の戦闘機や爆撃機ではできない戦いだ。

 だがゴジラの熱線放出が止まる気配はない。

「熱線放出がなかなか尽きない」

 亜美は遠くで対空砲火のごとく周囲へ熱線が放たれている光景を見て焦りを感じた。 

 ゴジラは無尽蔵のパワーがあるのではないかと。

 ゴジラが熱線を吐く能力があるまま、みほ達と戦わせたくはない。

 「第4波に続き、第5波攻撃開始!」

 5つ目の無人機の群れが攻撃を開始すると変化が起きた。

 ゴジラの背ビレからの熱線放出が止まったのだ。

 「目標の背部からの放射線放出が停止しました!」

 「第5波攻撃を続行!」

 撃ち落とされない無人機は攻撃を続けゴジラの身体を着弾による爆炎で包む。

 「目標!尻尾から熱線放出!」

 「あんな事ができるなんて!」

 ゴジラは尻尾の先から熱線を放つ、あたかもホースで散水するように尻尾を振りながら熱線を周囲へ振り向ける。

 また口からも熱線を放ち攻撃能力は回復する。

 健在だった第5波の無人機はたちまち次々に撃墜される。

 「ゴジラプルームが予想値の2倍を超えています。海上ですが汚染する地域が拡大する恐れがあります」

 ゴジラの熱線放射はゴジラからの放射線放出を増大させていた。

 熱線がゴジラから出るごとに放射線の数値は高くなる。それは放射線による汚染濃度が高くなる事を意味する。

 今回の作戦では太平洋上で行われているが風向きによっては日本の陸地へ向かうかもしれないし、他国へ広がる場合もある。

 「続行です!ここで止めたら全てが無駄になってしまいます。攻撃を続けて下さい!」

 矢口は汚染拡大に動揺が生じ始めた指揮所の空気に喝を入れるように作戦続行の決心を表明する。

 「第6派攻撃せよ!攻撃の手を緩めるな!」

 矢口の意志を受けて伊丹は更なる攻撃を指示する。

 第6波も尻尾や口から熱線を放つゴジラによって次々と落とされるがゴジラに変化が生じる。

 「目標体内の放射線流が低下しています」

 衛星からゴジラの体内にある放射線量を観測していたデータがゴジラの体内で燃え上がる様に存在する放射線の流れが低下している事を示唆した。

 それはゴジラが今度こそ熱線が出せない事を裏付ける。

 ゴジラは自身の口から出ていた熱線が消えて面食らう。

 「目標の熱線放出停止を確認」

 「作戦を次の段階へ移す。学園艦前へ」

 ゴジラからの熱線が止むと大洗の学園艦がゴジラへ向けて進み出る。

 その学園艦を操船するのは本来の船舶科の生徒達では無く海自の隊員達だ。

 だがそんな海自隊員達に何者かが近づく。

 不慣れな学園艦の操船に集中する隊員達に学園艦を知り尽くす者達が迫る。

 「おーとっ騒がないでね。騒ぐと面倒な事になる。どう面倒かは分からないけど」

 お銀が隊員の一人を背後から羽交い絞めにする。

 隊員の目の前には睨んで腕組みをするムラカミが「面倒を起こしそう」に見えて隊員はお銀の言う事に従う。

 「さて、この船は頂くよ」

 矢口やみほ・亜美が知らない間に学園艦はドン底の面々によって掌握されていた。

 それが分かるようになったのは学園艦のポールに翩翻と黒字に髑髏を描いた海賊旗が挙がってからだ。

 「こちらはドレイク、河嶋先輩、この船は私達が動かします」

 桃の携帯電話にお銀から通話が来た。

 「おい、なんという事をしてくれたんだ!」

 桃はどん底の面々が何をしたのか察して慌てる。

 「不慣れな自衛隊の皆さんでは学園艦はゴジラに捕まってしまいます。私達は腐っても船舶科ですよ。学園艦の動かし方はよく知っています」

 「だがな」

 桃の心配をお銀が「どうか大船に乗った気になって下さい、おっと学園艦は大船でしたね」と心配ないと断言する。

 「分かった。お前達に任せるぞ」

 桃は信じるしかないと決めどん底のメンバーの学園艦を任せる事にした。

 

 「目標まであと3kmです。あと1kmで作戦を開始します」

 「こちらアンコウ、了解です」

 みはは亜美と連絡していた。

 ゴジラと学園艦は共に近づき距離は縮まる。

 陸自と戦車道の連合戦車隊はゴジラと2kmの距離から射撃を開始する事に決めていた。

 あと1km距離が近づけば戦いが始まる。

 「みなさん、もうすぐ作戦開始です。これがゴジラとの最後の戦いになります。倒して皆で帰還しましょう」

 みほは改めて通信を戦車道の各車に伝える。

 「ねえ、ミホ。固過ぎちゃダメ!勝利の女神も逃げるわよ」

 ケイが陽気にみほへ通信を送る。

 「その通りね。勝利の女神は笑顔に振り向くと言う言葉がありますわ」

 ダージリンがケイの言葉を肯定する。

 「辛気臭いのはカチューシャには性には合わないわ」

 カチューシャも続く。

 「そういう事だ。みほ、相手は強大過ぎるが気力で負けてはならないぞ」

 まほが締めるように言う。

 皆から送られる言葉にみほは微笑む。

 「では皆さん、ゴクゴク作戦階です!」

 みほの顔に笑みがあった。



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第28話ゴクゴク作戦です!

 「さーて、これから私達は白鯨に挑んだエイハブ船長とピークォド号の皆と同じ勇気が要るよ」

 お銀は傍に居るカトラスやフリント・ムラカミ・ラムに向けて言う。

 誰もが真剣な顔で聞き入る。

 「行くぞ!覚悟は良いか?」

 お銀の呼びかけに「おおお!」と誰もが気勢を上げながら学園艦はゴジラへ接近する。

 「間もなく自衛隊戦車の射程内に入ります」

 「攪乱射撃をせよ。無人機第7波も攻撃開始!」

 丹波はゴジラを攪乱する目的で海自の護衛艦や米軍の艦艇・無人機に攻撃を命じる。

 ミサイル攻撃を受けてゴジラの身体に爆発の閃光が幾つも瞬く。

 「タイガーの射程内に入りました」

 「より攪乱と牽制をする。サンダー射撃開始」

 丹波はゴジラが陸自戦車の射程に入るとわかると203ミリ自走榴弾砲M110と99式155ミリ自走榴弾砲の増強特科大隊へ射撃を命じた。

 海と空からのミサイル攻撃に苛立ちを募らせていたゴジラが口を開け叫ぶ。

 「タイガーへ注入作戦開始せよ」

 ゴジラが頑なに閉じてた口が開くと丹波は陸自戦車への射撃を命じた。

 各部隊から集められた射撃の腕が立つ乗員が乗る10式戦車をはじめ90式戦車・74式戦車がゴジラの口めがけて血液凝固剤入りの砲弾が発射される。

 タイミング悪くゴジラの口が閉じて口内に入れられなかった砲弾もあるがどの砲弾もゴジラの口へ命中している。

 「あんこうの一部の戦車が射程に入ります」

 「あんこうへ任意に射撃開始を伝えろ」

 丹波はあんこうもとい戦車道の戦車が種類が多く射程が違うのを知ってそう命じた。

 「あんこうへ任意に射撃開始」

 「あんこう了解!」

 みほは命令を受けるとまずは射程の長い重戦車であるティーガーⅠやM26・IS2へ射撃を命じた。

 「続けてファイヤフライ射撃開始!」

 みほの指示を受けるがファイヤフライの射手であるナオミは撃たない。

 彼女の目は何かを待つように微動だにしない。

 そして何かを見るやナオミは76ミリ砲の引き金を引く。

 ナオミの撃った砲弾はゴジラの喉奥へと命中した。

 それを確認したナオミがニヤリと微笑むと同時にゴジラは喉奥の痛みにより大口を開けて鳴き叫んだ。

 「今です!撃て!」

 みほは好機とばかりに他の戦車への集中射を促す。

 それは陸自の戦車も同じだった。

 砲弾の雨を見舞うようにゴジラの口へ撃ち込まれる。

 この間、ゴジラからは熱線が放たれなかった。それを見て米空母「ロナルド・レーガン」から発艦して空中待機していたFA-18Eスーパーホーネットの編隊が攻撃に加わる。

 スーパーホーネットは装備した空対艦や空対地ミサイルをゴジラへ向けて発射する。

 更に護衛艦「はたかぜ」と米軍駆逐艦「マスティン」が主砲による攻撃を行おうとゴジラへ近づく。

 「いいぞ~いいぞ~」

 桃が熱線を放てず攻撃を受け続けるゴジラを眺めて気分が大きくなったように言う。

 「計算上ですがですが投与量30パーセントを突破」

 血液凝固剤入りの砲弾が幾ら消費されたかリアルタイムで分かるネットワークシステムを事前に構築し安田の持つ端末に繋がっていた。

 「華さん狙い難い?」

 みほがⅣ号戦車の砲手である華に尋ねる。

 「首を振られると難しいですね。でも少しパターンが読めて来ました」

 ゴジラの口を開けさせるためにミサイルや砲弾による攻撃が続いている。攻撃自体は効かなくてもゴジラを苛立たせて叫ばせれば良いのだ。

 怒りによる叫びをした時に砲弾が撃ち込まれる。

 華などの砲手はその瞬間を狙って撃つのだ。

 だが戦車とは違いゴジラの気まぐれで上下左右に降られる頭部にある口を狙うのである。

 いきなり狙いが外れてしまう事もあるから難しくもある。

 だからどんどん撃ち込むと言う風にはできない。上手く狙いを定めて少しづつ撃つのだ。

 「航空攻撃は続くか?」

 丹波は尋ねる。

 「無人機第9派と共に三沢と米空母にグアムから出撃した部隊が来ます」

 情報幕僚が答える。

 熱線を出さないゴジラへ自衛隊と米軍の航空部隊が攻撃を続けている。

 三沢からは空自のF-2と米空軍のF-16が出撃し空母「ロナルド・レーガン」から新たに出撃したスーパーホーネットが攻撃を引き継ぎ、グアムからはB-52が巡航ミサイルを搭載して出撃しゴジラ攻撃に向かっている。

 「このまま押すぞ」

 丹波はゴジラへの攻撃が続き圧倒できていると見ていた。

 このまま血液凝固剤を飲み続けてくれと願った。

 矢口もこのまま作戦が進む事を願う。

 だがゴジラに異変が起きる。

 背びれが紫色に怪しく光り始めた。

 「あの光は!?」

 背びれの光に気がついた途端にゴジラは尻尾の先と口から細い光線を放つ。

 光線を放出する尻尾を振り回し頭上を飛び回る米軍の無人機や迫るミサイルを撃墜する。

 「Oh my God!ゴジラが回復した!?」

 ケイが思わずM4の車内で叫ぶ。

 「あんこう!陣地を変えて回避すべきだ!」

 まほがみほへ提案する。

 「了解です。全車一旦砲撃を中止して陣地移動の用意を」

 みほはまほの意見を採用する。

 陸自の戦車も砲撃を止めゴジラの様子を伺っているようだ。

 「こっちを睨んでる・・・」

 熱線が復活したゴジラがこちらを向いてさすがのカチューシャも怯む。

 「どうもゴジラの動きが少し鈍いように見える」

 大学選抜チームのルミがゴジラを観察して気づく。

 「やはりそう見える?」

 アズミも同感だと言う。

 「血液凝固剤が効いているようね」

 メグミは希望を見いだした。

 復活したように見えるゴジラだが確実にダメージを与えている。

 「無人機以外の航空攻撃は一時中止!潜水艦に攻撃せよと伝えろ!」

 丹波は復活したゴジラへ新たな攻撃を命じる。

 ゴジラ攻撃に海自の潜水艦「ずいりゅう」・「こくりゅう」・「せいりゅう」が学園艦の近くに潜水して待機していた。

 この3隻の潜水艦が魚雷を一斉に発射する。

 合わせて18本の魚雷はゴジラの右足に命中した。

 不意の足への攻撃にゴジラは姿勢を崩す。

 それでもゴジラは学園艦へと近づく。

 「下がるよゴジラと距離を開けるんだ」

 お銀は学園艦を後進させてゴジラに捕まらないようにする。

 ゴジラは二度目の魚雷攻撃を受けてよろめく。

 それでもゴジラは学園艦に迫る。

 「どうしてこっちに近づく?潜水艦は無視か?」

 エルヴィンはゴジラの動きを不思議に思った。

 自分の足を突く潜水艦を無視して戦車の攻撃が止んだ学園艦に近づくのは何故か?

 「離れても来る・・・」

 学園艦を追いかけるゴジラをみほは忌々しいとばかりに睨む。



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第29話 学園艦に隠された真実です!

 ヤシオリ作戦前日の学園艦内

 杏は矢口に呼ばれて艦内の奥を歩いていた。

 「こうして大人の皆さんと歩いていると、何か悪い事をしたような気分ですよ」

 杏は矢口へ声をかける。

 何故、自分が呼ばれた分からないまま蝶野も合わせて三人で学園艦の艦内を歩く。

 「悪い事ですか。それは私の方ですね」

 矢口は苦笑する。

 「どういう事です?」

 「それはすぐに分かるわ」

 杏の問いに蝶野が答える。

 「ここよ」

 蝶野の指す部屋は学園艦の倉庫で使っている区画の一つだ。

 区画の出入り口の前には、小銃持つ隊員が警備に立っている。

 「かなり重要な物を置いるようですね」

 杏は物々しい様子に少し物怖じする。

 「今回の作戦に必要な物です。警備は必要ですからね」

 矢口はそう言いながら警備の隊員に許可証を見せる。

 許可証を確認した隊員が出入り口の鍵を解除し、ドアを開けた。

 内部はほんとど何もない。内部を警備する隊員と一つの長方形の箱だけがあった。

 「あれが重要な物ですか?」

 「あの箱の中身が重要なのです。中身は牧悟朗教授です」

 矢口が言った名前に杏は聞き覚えがある。カヨコが独自に公開したゴジラを作ったと思われる科学者の名前だ。

 「まさか、ご遺体ですか?」

 「そうです。最初は大洗の病院に収容されていました。ゴジラの襲来で水戸市の病院に移されていたのをここに持って来たのです」

 矢口は説明をするが牧教授の遺体を何故、学園艦に運び入れたのか杏は疑問に思う。

 「その牧教授の遺体が何故重要なのです?」

 「蝶野一尉、データーを角谷さんに」

 蝶野は持っているカバンからクリップで止めた書類を取り出した。それを杏へ渡す。

 「これは、ゴジラが大洗へ上陸をした時のデータです。ゴジラが上陸してどう動いた分析したものよ」

 蝶野の説明を聞きながら杏は書類に目を通す。

 その中には大洗の地図の上に赤色のいびつな線が引かれている。天気予報で見た台風が実際に通った進路みたいだ。

 「この赤い線がゴジラが通ったルート、注目して欲しいのは二度目の上陸の時よ」

 杏は二度目の大洗上陸時のゴジラのルートが描かれた項を見る。

 「この部分、ゴジラは進路を変えているんです」

 蝶野が指したのは那珂川でゴジラが西へ向きを変えた時だった。

 「そういえば、急に川の中で向きを変えましたね」

 杏にとっては、那珂川の南岸で戦車道の面々とでゴジラへ射撃を加えていた時だった。

 「私は気まぐれかと思いましたが」

 「理由があったのよ。あの向きを変えた方向に牧教授の遺体があったの、いや運ばれていた。大洗の病院から病院の職員によって車に乗ってね」

 「まさか、ゴジラが牧教授の遺体を追って?」

 「そうよ。牧教授を運んだ病院職員への聞き取りと、職員が持っている携帯電話の位置情報を確認したらゴジラが向きを変えた時と牧教授の位置が合うのよ」

 「しかし、ゴジラはどうやって牧教授の位置が分かるんですか?」

 杏は資料に書かれていない根拠について尋ねる。

 「それは分からない。巨災対でも確証を得るまでには至ってないわ。でも、牧教授の遺体があった大洗に二度も上陸した事は偶然とは言い切れない」

 「つまり、可能性を試す訳ですね」

 杏がそう理解すると蝶野は「そうよ」と肯定する。

 「遺体を利用するのは倫理的に問題がある。だが、そこまでしなければゴジラを日本列島から離して戦う事が出来ないんです」

 矢口が牧教授の遺体を利用する事の意義を語る。

 「理解できます。あの化け物をどうにか出来るなら、何でも利用しないと」

 杏は矢口の思いは理解できた。

 砲弾もミサイルをもってしても倒せない怪物と戦うには普通の方法だけでは足りないのだ。

 

 「ゴジラ近づく!」

 「近くに来てくれるのは良いんだが、さすがにおっかないな」

 ゴジラが接近を続けている事は無線から何度も伝わって来る。杏は学園艦内に置かれた作戦指揮所に居て、双眼鏡でゴジラを見つめる。

 血液凝固剤で少しは弱くなっているとはいえ、まだ恐ろしさは大きい。

 (学園艦に牧教授の遺体があるから離れたくてもゴジラは寄って来るなんて、言えないなあ)

 杏は数少ない真相を知る者である事をすまいないと思っていた。

 だが、必要な秘密だと理解してもいた。

 

 「タイガーより、あんこうへ」

 まほがみほを呼ぶ。

 「あんこう受信」

 「そろそろ各車は砲弾を撃ち尽くす頃だ。補給はどうする?」

 まほが指摘するように血液凝固剤入りの砲弾は撃ち尽くされようとしていた。撃ち出す砲弾はゴジラの口に全て命中している訳ではなかった。

 幸いなのは砲弾が補充できるほどに余分がある事だ。

 「砲弾が無くなった戦車から補給をしましょう。射撃再開までに補給を済ませておこうと思います」

 「それが良いな」

 まほは妹の案を良しとした。

 ゴジラが尻尾から光線を放つようになって血液凝固剤の射撃は一時中断していた。

 学園艦にゴジラが光線や火炎を向けないように、米軍の無人機部隊や海自の潜水艦がゴジラを攻撃して牽制している。

 「大隊長車より各車へ、砲弾の残りを報告してください」

 みほが呼びかけ、返る報告からノンナが乗るスターリン重戦車の砲弾が少ないと分かる。積める砲弾が一番少ない戦車だからだ。

 「ではノンナさんから補給をして下さい。次に補給する戦車は―」

 みほは血液凝固剤入り砲弾の補給作業に入るよう指示する。

 

 みほが砲弾補給を始めたと同じ頃に自衛隊の戦車も順次砲弾補給を始めていた。

 「持ち込んだ砲弾で間に合えば良いが」

 袖原がゴジラに血液凝固剤の効果が出るのが先か、砲弾が尽きるのが先かが気になり出した。

 指揮所では丹波ら部隊の指揮官が補給と射撃をする戦車の入れ替えを指示している。また砲弾の命中した数から血液凝固剤の投入量を測る安田は黙って静かだが、眼は数字の情報を睨んでいる。

 矢口はそうした光景を目にしながら作戦の推移を見つめる。

 ゴジラは尻尾を振り飛んで来る米軍の無人機部隊と戦っている。血液凝固剤の効果が出てゴジラが光線や火炎を出せなくなるのはいつだろうか?もしかすると、人智を越えたゴジラは血液凝固剤を克服して回復しているかもしれない。

 矢口はまだ動くゴジラに憶測を巡らす。

 「計算上では現在の投与量は47パーセントです」

 安田が矢口に話しかける。

 「まだ足りないですね」

 「そうです。最低限度まで28パーセントは投入しなければなりません」

 矢口は安田の観測に「何か無いか」とゴジラに血液凝固剤を再び投与できる状況を作れないかと渇望する。

 「米軍が巡航ミサイルによる遠距離からの攻撃を提案しています」

 丹波に米軍からの連絡が入る。

 「許可する」

 丹波の許可を得て、グアムから発進した4機のB-52爆撃機はゴジラから1000kmの海域で、合わせて80発のAGM-86巡航ミサイルを放つ。

 この80発の巡航ミサイルはゴジラの尻尾に背ビレからも放つようになった光線により全てが撃墜された。

 「まだあんなに力が残っているのか」と誰もがゴジラを畏怖する。

 「続けて、米原潜より巡航ミサイルが発射されます」

 丹波にしろ矢口にしろ、ぶつけられる物なら何でもぶつけると言う心境だった。

 米軍は原潜「シャイアン」と「コロンビア」からトマホーク巡航ミサイルを2000km離れた海域から発射した。

 合わせて24発のトマホークがゴジラに向かう。

 「命中!ゴジラ熱線を発射せず!」

 ゴジラが何処からも光線も火炎も出さず、その身体にトマホークが命中した。

 「好機だ!血液凝固剤の撃ち込みを再開せよ!ゴジラが何も出さない今の内に!」

 丹波はすぐに命じる。

 「全戦車へ、射撃再開!」

 この指示はみほの耳に入る。丁度あんこうチームのⅣ号が砲弾を補給している最中の時だった。

 「大隊長車から全車へ、補給が済んだ戦車からゴジラへ射撃を再開してください」

 みほ以外で補給中は愛里寿が率いる大学選抜のパーシング4両だった。

 「あんこう復帰までタイガーが指揮を執る!」

 まほが指揮権を発動した。

 「こちらタイガー、射撃ができる戦車から撃ち方はじめ!」

 まほがそう命じるとノンナのスターリン重戦車、カチューシャのT-34、カバさんチームと継続のⅢ号突撃砲が射撃を開始する。

 「どんどん撃ち込んで、海に沈めてやる!」

 カチューシャは血気盛んにT-34の砲を撃ち込む。ノンナはあまり多くない砲弾を確実に命中させようと照準を正確に合わせてから撃つ。

 「戦車で八岐大蛇伝説をしている気分だ」

 エルヴィンは砲隊鏡でゴジラを見ながら言う。

 「同じ事を考えていたぜよ」

 おりょうが同感だと応える。

 「でも、ゴジラは好きで血液凝固剤を飲んでいる訳じゃないけどな」

 左衛門佐が言う。伝説では八岐大蛇は須佐之男命が用意した桶の酒に自ら首を突っ込んで飲んでいた。

 だが、ゴジラは人類によって無理矢理、血液凝固剤を飲まされている。

 「でも、しっかり飲んで貰わないとね」

 カエサルが砲弾を装填しながら言った。

 「あと何発撃てば良いのかな?」

 砲を照準しながらアキはぼやく。

 「たとえどんなに巨大で強くても、崩れる時は来るさ」

 ミカは砲弾を装填しながら、いつものように胡乱な事を言う。

 「それがいつなのかって話だよ」

 「そう、遠くない。でもすぐじゃない」

 「もう」

 ミカは相変わらずだと呆れるアキであった。

 「さて、私達も始めましょうか」

 オレンジペコから射撃準備が出来たとダージリンは聞き行動を始める。

 「果たしてこの攻撃は効いているのでしょうか?」

 オレンジペコは不安を述べる。

 「アッサム、確率はどうかしら?」

 ダージリンは戦車道の試合を計算により勝つ可能性を見出すアッサムに尋ねた。

 「ゴジラが相手ではデータが足りませ。、正直分かりかねます」

 アッサムは正直に答えた。

 「倒せるかどうか分からないのですね」

 オレンジペコがより不安を募らせる。

 「こんな時に相応しい言葉があるわね。<幸運の女神は勇者に微笑む>だからゴジラが倒れるまで撃ち続けるのよ。幸運の女神を引き寄せる為にね」

 いつもの格言披露をするダージリンに呆れながらも、実感がある言葉だともオレンジペコには感じ取れた。

 




久しぶりの投稿になります。
お待ちしていた方にはすみませんでした。
次回の第30話で最終話にする予定です。


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第30話 終局です。

 「血液凝固剤の投与量が75%を突破、投与すべき最低量を超えました」

 安田が矢口に報告する。

 矢口は黙って頷き安田に聞いたと応える。

 その矢口の目は血液凝固剤入りの砲弾を撃ち続ける戦車群にあった。

 陸自と女子高生戦車道の合同チーム

 ゴジラと言う災厄に立ち向かう面々を矢口は直に見下ろす。

 「あともう少し頑張ってくれ」

 矢口は血液凝固剤の投与量が90%を越えた安田から聞くとそう独り言ではるが、戦車の皆へ言った。

 

 「なんだかゴジラに白い物が増えたような」

 華がゴジラに照準を合わせながら変化に気づく。

 血液凝固剤によってゴジラの皮膚で氷結が始まったのだ。

 「みんな、ゴジラに血液凝固剤が効いている。もう少しよ」

 蝶野が戦車道の戦車へ呼びかける。

 誰もがあともう少しと撃ち続ける。

 「この様子ならゴジラはもうダメだな」

 ムラカミが自衛隊のカメラで撮影されているゴジラの様子をモニターで見ながら言った。

 サメさんチームは自衛隊が学園艦を操艦する為に設置した機器を使っていた。その中には外部の様子を見る為のモニターが幾つもある。

 「安心するのは早いぞムラカミ、手負いの獣は危ないと言うじゃないか。獣を手負いにした事はないけどね」

 お銀は油断できないと言った。

 そのゴジラは学園艦を前に棒立ちのようになり、静かになった。

 「やったか?」

 矢口は動かないゴジラに勝ちを見出そうとした。

 だが、ゴジラは大口を開けて咆哮すると学園艦へ飛びかかった。

 「あんこうから全車へ、退避!下がって!」

 みほは咄嗟に指示を下す。

 陸自の戦車も命令を受けて下がる。

 ゴジラはまさに血液凝固剤で身体の機能を止められる前に力を振り絞って飛んだ。その跳躍は学園艦の艦首に上半身を乗せた。

 さすがの矢口や安田・杏ら学園艦に乗る皆が言葉が出でない程に戦慄させた。

 「これがゴジラ…」

 みほは違った。

 目の前にあるゴジラの頭

 Ⅳ号に乗る優花里や華・麻子・沙織は眼前のゴジラに身体が硬直する。

 しかしみほは違った。

 「あんこうから皆さん。射撃を再開してください」

 みはは無線で呼びかける。ゴジラと向かい合いながら。

 「あともう少し、もうひと押しなんです。勝ちましょう」

 みほの低い声は決意の固さを感じさせた。

 「了解した。射撃を再開する」

 まず応えたのは姉のまほだった。

 「この好機は逃せないわね」

 ダージリンが続く。

 「一気にケリをつけるわ」

 カチューシャが威勢よく言う。

 「ラストスパート、ガンガン行くよ!」

 ケイも景気よく応える。

 「撃て!」

 みほが命じると戦車道の全車が撃つ。

 「遅れを取るな!一気に凍結させろ!」

 丹波は陸自の戦車隊に射撃再開を命じた。

 学園艦にのしかかるゴジラはみほを睨むように見つめる。そんなゴジラの口には次々と血液凝固剤入りの砲弾が命中する。

 「投与量100%!臨界点を越えました!」

 安田が急いて報告する。

 矢口は黙って報告を聞きながらゴジラと戦車群を見つめる。

 途端、ゴジラが再び吠えた。

 「あんこうから各車、退避!散開!」

 みほは吠えるゴジラに危険を感じて退避を命じる。どれは陸自の戦車も同じだ。

 けれどもゴジラは吠えたと思ったら力が抜けたように学園艦から滑り落ちる。

 「胸部中心部の温度がマイナス196度に低下、ゴジラは凍結されたものと推測します」

 ゴジラをモニターしていた根岸がゴジラの凍結を報せる。

 全身が白く凍ったゴジラは学園艦から落ちると太平洋に呑まれるように沈んだ。

 「ゴジラに捕まらないように離れるよ」

 お銀はゴジラが復活した場合を考えて学園艦を後進させて沈み行くゴジラの位置から離れる。

 「ゴジラは?」

 矢口は誰ともなく尋ねる。

 「潜水艦と哨戒機の報告では沈降が続き動きが無いようです」

 丹波が報告する。

 「体温が回復している様子はありません」

 根岸が報せる。

 「ゴジラは沈黙したものと思われます」

 安田が結論を出す。

 「目標の沈黙を確認、現時刻でヤシオリ作戦を終了する」

 丹波が作戦終了を全部隊に告げる。

 「あんこう、大隊長車から各車へ。作戦終了です。みんなありがとう」

 みほは丹波から作戦終了を聞くと戦車道の皆へ感謝を伝えた。

 第二の故郷を守る事が出来た。それが親しい皆によって実現できたからだ。

 

 

 数カ月後

 年を越した四月に聖グロリアーナ、黒森峰、サンダース大学附属・知波単、プラウダの学園艦が大洗港に来ていた。

 修復が完了した大洗女子学園学園艦の再開を祝う為である。

 そこより外洋では、海自の護衛艦二隻が海底で凍りながら眠るゴジラを監視している。

 大洗女子学園の入学式と合わせて学園艦再会式典が午前中に行われ、午後には学園艦再開のエキシビジョンマッチが大洗の学園艦で行われた。

 「間に合ったようだね」

 杏はエキシビジョンマッチの会場に到着すると安堵した。

 杏はこの春に大洗女子学園を卒業して大学に進学していた。

 「これも黒森峰のおかげだね」

 「そうだな。手配した後輩たちに感謝だ」

 柚子と桃がしみじみと言う。

 杏と桃・柚子の三人は同じ大学に進学していた。同じ日に開催されていた大学の入学式が終わると、新しい大洗女子の生徒会が手配した黒森峰のヘリで大洗の学園艦に来る事が出来た。

 「ご進学おめでとうございます」

 杏達の前に五十鈴華が挨拶に来た。

 「出迎えご苦労、ヘリの手配ありがとうね生徒会長」

 杏は華の挨拶に応える。

 「どうもまだ会長と呼ばれるのは慣れませんね」

 華は照れた様子である。五十鈴華を生徒会長にあんこうチームの面々で大洗女子学園の生徒会は新しい世代に交代していた。

 「その内慣れるよ」

 杏は華の背中を叩いて励ます。

 「では、試合がありますので行きます。後で皆を連れて改めて挨拶に伺います」

 華はこれから始まるエキシビジョンマッチにあんこうチームの一員で参加する為に杏達の前から去る。

 「ん?あれは」

 桃が訝しい顔で誰かを見つけた。

 「あれは文科省の・・・」

 柚子も警戒するような顔でその誰かを見る。

 「辻さんじゃないですか。お久しぶりです」

 杏はあえて辻に近づいて話しかける。

 「角谷さんですか。お久しぶりです」

 辻は変わらず固い態度で接した。

 「私の母校のお祝いに来てくれたんですね?」

 「そうだが、正確にはあそこにおられる大臣の仕事として付いて来たのだよ」

 辻はその先生を指し示す。矢口だった。

 「矢口大臣ですか」

 矢口はこの年のはじめに、ゴジラによる被害を受けた大洗町やひたちなか市を復興させる巨大不明生物災害復興大臣に就任していた。

 辻はそんな矢口の秘書として働いていた。これには泉の紹介があったからだ。

 「安心しました。文科省を辞めたと聞きましたから」

 思わぬ心配に辻は思わずたじろぐ。恨まれていると思っていたからだ。

 「これも泉先生のおかげです。では仕事に戻りますので」

 辻は名士達との歓談を終えた矢口のところへ戻った。

 「大洗女子学園再開記念エキシビジョンマッチ、開始まであと10分になりました。観覧の皆さまは今少しお待ちください」

 会場の放送が試合開始がもうすぐだと告げる。

 「私達も行こうか」

 杏達は観覧席へ向かう。

 そのエキシビジョンマッチは大洗と黒森峰の連合チームに聖グロ・プラウダ・知波単の連合チームが戦う組み合わせになっていた。

 「逸見さん」

 「なに?」

 みほが黒森峰の隊長であるエリカに無線で話しかける。

 「前生徒会の皆さんが会場に到着できました。ヘリを貸してくれてありがとうございます」

 沙織から杏達の到着を聞いてみほはエリカに感謝を伝える。

 「いいのよこれぐらい。OBのお世話も戦車道よ」

 エリカはあっさりとした、どこか前隊長のまほを彷彿とする答えをする。華からの要請でヘリを貸したのはエリカだった。

 「時間になりました。試合開始!」

 戦車道連盟の運営本部から無線で報せが入り、試合開始を告げる花火が打ち上げられた。

 「さて、大隊長さん。御命令を」

 エリカがみほに促す。

 「そうですね。行きましょうか」

 エリカの尖った口調はみほにとっては心地よい。

 姉である黒森峰のまほをはじめ、聖グロのダージリンにサンダースのケイやプラウダのカチューシャ、ライバルの誰もが卒業してそれぞれのチームは新しい隊長に代わっている。

 それだけにエリカと話せる事は、みほにとって心が落ち着くのだ。

 「大隊長車から各車へ、パンツァーフォー!」

 復興半ばの大洗町、新しい生徒会長が発足し再開した大洗女子学園

 そこでみほは三年生に進級し、戦車道の隊長として新しい春を迎えたのだった。

 

(終)




 これにて、「ゴジラウォー!」は終わりになります。
 2016年から思いつきで書いた本作を読んでくれた皆さま、ありがとうございます。


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