前の君と今の君 (おもちゃん)
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第一章 初めてのこの世界
第一話 目覚め


初めまして!おもちゃんと申します。
この「前の君と今の君」が私の初投稿となります。
文法などもおかしなところがあるかとは思いますが暖かい目で見守っていただければ幸いです。
それではよろしくお願いいたします!



 どこからか聞こえてくる囁きや笑い声が重なって合唱のようになっている森のど真ん中にその男ーー黒露夢幻(くろつゆむげん)は居た。

 

「あいつ間抜けそうな顔してるね」

「いたずらしたらどんな反応するのかな?」

「どんないたずらする?」

「そうだねーじゃあk「あたいに任せて!!」うるさっ!」

「チルノちゃんうるさい!」

「あたいにかかればあんなやつ敵でもないよ!」

「チルノちゃんがやったら氷漬けになっちゃって面白い反応が見れないんじゃん!」

 

 まだ今置かれている状況がわからず困惑している自分の頬を一回叩き喝を入れ、声のするほうへ目を向ける。そこには3人の少女がいた。

 

 あいつらなに騒いでいるのだろう。てか今最後のほうに氷漬けになるって聞こえた気がするのだがなんかの比喩?

 

「じゃぁとりあえずこの氷漬けにしたカエル投げてみよう!」

「それいいね!」

「賛成!」

 

 俺があいつらの言葉に対して考察をしている間にあいつらの中では意見がまとまったようだ。

 そして氷漬けのカエルなどというよく意味のわからない単語が出てきた。

 気にせずもう一度考察を始めようとした瞬間チルノと呼ばれていた青い女の子がなにかをこちらに投げたのが見えた。そして次の瞬間、俺の目の前を凄まじい速さで冷気を放つ何かが横切り、その後岩にぶつかり粉々に砕け散った。

 今までのあいつらの言葉からそれが氷漬けになったカエルだったということを理解するのにそう時間はかからなかった。

 

「もーチルノちゃん、ちゃんと当ててよー」

「い、今のはいかくしゃげきってやつよ!」

 

 もしあれが当たっていたと思うとぞっとする。

 あいつらの非常識故の無邪気な行動に俺は恐怖を抱いた。

 

「いかくしゃげきってなーに?」

「え?えーと・・・そう!いかをくしゃっとしてげき!ってして敵をびびらせるやつのことよ!」

 

 この知識の無さや後先を考えない行動などを見るにやはりこいつらは幼い子供なのだろうか。

 俺がそんなことを考えている間にもそいつらの会話は進んで行く。

 

「げきってなーに?」

「え? えーとげきってのは・・げきってのはげきってことだよ!」

「えーなにそれー」

「チルノちゃんの説明だとわかんなーい。」

「うるさいわn「フフーン! この天才でかわいいボクが教えて差し上げますよ!」ちょっとサチコ話に割り込んでこないでよ!」

 

 もう一人俺の命を脅かすことになるかもしれない存在が現れたことにより俺の恐怖心は一層煽られた。まぁ別に震えが止まらなくなるとかそんなレベルまでは行っていないが。

 だがあいつらが喧嘩をしている間に少し情報を整理しておいたほうが良さそうだ。

 逃げてもいいが恐らく俺が逃げたことにはすぐに気付くだろうし俺の体力より子供たちの体力のほうが多いだろうと考えたので逃げることは諦めた。チャンスがあれば逃げるかもしれないが。

 とりあえず今わかっている情報はあいつらの名前程度だ。

 青い色の先ほど氷漬けになったカエルを投げて来たのがチルノ。恐らくカエルを氷漬けにしたのもあいつだろう。

 そして氷漬けになったカエルが飛んできたスピードからしてチルノの腕力はなかなかの物なのだと思う。注意しておかないとな。

 そして後から登場してきた紫色の髪の毛をした子がサチコと呼ばれていた。

 サチコはまだ登場してきたばっかりなのもあり敵か味方かすら判別がつかないが、先にチルノたちのほうに接触したとこを見るとまぁ敵でほぼ間違いないだろう。

 若干ナルシスト。というかだいぶナルシストのようだ。

 チルノと一緒に最初からいた二人はまだ名前すらわからない。

 と、今わかっている情報はこの程度か。

 対策もチルノに気を付けるということくらいしか立てれなかった。

 しかし俺はだいぶ丁寧に情報を整理してたはずなんだが、まだ会話が終わってないとはな……

 もしかしたら逃げるチャンスだったのかもしれない。

 しかし今更それに気付いてももう遅いだろう。

 俺はそう考え少しでも情報を集めることに専念することに決めた。

 

「威嚇射撃っていうのは相手の近くに弾幕を打ち込んだりしてビビらせることを言うんですよ!」

「へー流石サチコちゃん、賢いね!」

「あたり前じゃないですか! ボクは天才でかわいいパーフェクトな妖精なんですから!」

「あ、あたいだってそれ言おうとしてたんだからね! 邪魔しないでよ!」

 

 ふむ、サチコはチルノたちよりも頭が良いようだ。自分で天才と言うだけはあるな。

 しかしそういうことならサチコにも注意をしておかなきゃな。

 サチコ自体はまだこちらに危害を加えてくる素振りは見せないが、あいつらの仲間なら恐らく一緒になって攻撃をしてくるだろうし、その時にあいつの知識はこちらにとってだいぶ不利なことになるからだ。

 あいつらのブレーキ役になってくれる可能性もあるが。

 

「ところであの人は誰です? さっきからずっとこちらのほうを見ているようですが……ボクのファンでしょうか!」

 

 会話が終わったようだ。さぁ、どう動いてくる?

 

「え?誰だろあの人?リーリャ知ってる?」

「ううん知らないよ。サーリャが知ってるかと思ってた。」

「チルノちゃんは?」

「あたいは知らないよ!」

 

 あの二人はリーリャとサーリャと言うようだ。服装や顔や名前の一致具合からして双子か何かなのだろうか。

 ということは置いといてあいつらの言葉に驚愕した。

 まさか俺のことを忘れているとは思わなかった。これなら普通に逃げることも可能だっただろう。

 

「でもあれ人間だよね? いたずらしようよ!」

「「「さんせーい!」」」

「どんないたずらする?」

「ここはあたいの出番ね! 任せなさい!」

「いやいやいや、やっぱりここは天才でかわいいボクの出番ですよ!」

「「ふぬぬぬぬぬ……」」

 

 知能が低いのなら考えは単調なものになるのだからまた同じ行動を取ってくるのだろう。

 しかし逃げられるかもしれない。

 あそこまで馬鹿なのであれば恐らく年齢は相当低いのだろう。

 小中学生くらいにもなれば走力や体力で俺は全く適わないだろうが、幼稚園児程度なら話は別だ。

 とりあえず逃げよう!

 

「ちょっと待ちなさい! あんたどこいくつもり?」

 

 そう思い走り出したが、チルノがこちらへそう呼びかけてきた。

 その時点で俺は一つの自分が犯した大きなミスに気が付いた。

 そう、チルノは氷を投げられるのだ。いくらあいつらより先行して逃げても、逃げる時には必然的に背中を向けることになる。

 その時に後ろから氷を投げられれば全てが終わりだ。

 しかし俺のその絶望を掻き消すような声が聞こえてきた。

 

「チルノちゃん声が大きいよ! それじゃ気づかれちゃうでしょ!ちゃんと作戦を考えてからやらないと!」

「まったく、チルノさんは馬鹿ですね」

「サチコうるさい!」

 

 あいつらはまだ作戦を考えついていなかったのだ。

 チルノは俺に逃げられたらすべてが無駄になると思い俺に声を掛けてきたのだろう。

 その行動はあいつらにとって有利に働く正解の行動だったのだろうが、その馬鹿さ故、二つ以上のことを考えることは出来ないのだろう。

 そして今あいつらはチルノのした予想外の行動によりパニックに陥っているようだ。

 逃げられる。

 そう確信した俺は自分の命のために全速力で走り出した。

 

「どうするチルノちゃん?」

「え? えーと・・・こ、ここはサチコに出番を譲ってあげる!」

「サチコちゃんどうするの?」

「チルノさん都合の悪い時だけ僕に振るのやめてください!そもそもチルノさんが変なことをしなければスムーズにいったんですから!」

「なによ! 出番を譲ってあげたんだから感謝しなさい!」

「結構です! 僕はチルノさんなんかよりよっぽど人気があるので出番を譲ってもらう必要はありません!」

「な!? それは聞き捨てならないわよ!?」

「やりますか!?」

「いい度胸じゃない! やってやろうじゃないの!」

 

 

俺は無邪気な4人組から逃げ切れた。




一話なのに主人公の性格とかがよく掴めないですよね。申し訳ございません。
夢幻は今回の話ではだいぶ考察してて賢く見えますがそれなりの馬鹿でだいぶ軽い感じの奴です。会話が増えてくればそれもわかると思います。
というわけで二話を見ましょう!(露骨な宣伝
え?サチコ?サチコはサチコですよ?いやだなぁ、第一話から別作品からキャラ持ってきたりする小説あります?
はい、第一話から早速持ってこさせていただきました。書いている最中になんとなく思い浮かんできてしまって・・・
本物よりナルシストに磨きかけてます


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第二話 赤い彼女

タイトル思いつかねぇよ…

※2016/12/16 内容いろいろ削ったりその分の埋め合わせとかしました


 俺はは道に迷っていた。

 四人の妖精たちから逃げ出したはいいが、ただ逃げることだけを考えて走っていたからだ。木々が生い茂っているせいで真っすぐ走ることも出来ず、ただ適当に走っていたので元居た場所に戻ることも出来ない。

 俺が解決策を考えようと岩に腰を下ろしたその直後なにか違和感を感じて顔を上げる。

 その違和感の正体は一目でわかった。前から謎の真っ黒な物体がこちらへ向かってきているのだ。

 その正体を確かめようとしてせっかく下ろした腰をまた上げそちらへ向かった。

 

「ちょっとあんたなにしてんの!」

 

 その瞬間上から赤い少女が飛んで来て大声で怒鳴られた。その少女は何故か顔を真っ赤にして今にも食いかかってきそうなほど怒っている。

 

「なにしてんのって言われましても……なんか前から黒いものが近づいてきたのでなにか確かめようと……」

「あんたばっかじゃないの!?」

 

 初対面の人間に馬鹿と言われたことに傷つきながら少しイラついている俺のことはお構いなしに少女は怒鳴り続ける。

 

「あんた人間よね!?一昨日文が人間の里で妖怪が狂暴化してるから気をつけろって新聞ばらまいてたでしょ!?読んでないの!?」

 

 何を言っているのかわからない。

 文という人物、人間の里という場所、ばら撒かれた新聞。

 どれも俺の知らないものだ。

 

「いえ、読んでないです」

「はぁ……あんた人間なんだからもう少し危機管理能力しっかりしなさいよ……」

 

 理解が出来ていないのに話を進められても何にもならない。

 俺は理解することを諦め、先ほどの違和感の正体であった真っ黒な物体についてこの少女に尋ねることにした。

 

「はぁ。何言ってるかわかんないです。ところであれは一体なんなんですか?」

「あれはルーミアっていう人喰い妖怪よ。まぁ妖怪って言ったら普通人を食べるんだけどね」

「え?人喰い妖怪……?」

「ええ、人喰い妖怪」

「ちなみにもしあの暗闇の中に入っていた場合……?」

「運が悪かったら食べられていたでしょうね」

「oh...危ないところを助けていただきありがとうございました」

 

 この少女は俺の命の恩人だったという事を知り感謝すると共に、迂闊な行動はしないように気を付けようと自分を窘めた。

 しかし俺は少女の言葉に一つの違和感を感じた。

 

「運が悪かったら?」

「ええ」

 

 その言葉に疑問を感じる。

 人喰い妖怪と言うのならば人を襲うのが仕事であり存在意義であるはずだ。

 それなのに運が悪ければ。と言うことは襲わないことがあるということであり、それはつまり自分の存在意義を自分で消しているということなのだ。

 

「あの黒いのって妖怪なんですよね? 近づいたらがぶりといかれちゃうんじゃ? そこに運要素なんか存在するのはおかしい気がするんですけど」

「ああ、あの黒いのはルーミアの能力で暗闇が発生してるだけであれが本体なわけじゃないからあれに近づいただけで食べられるなんてことはないわ」

「あ、そうなんですか。……でもあれはその妖怪の能力なんですよね? センサー的な役割持ってたりするんじゃないですか?」

 

 そういうものが無ければあの暗闇には存在意義は無いということになってしまう。

 

「私も最初ルーミアに会ったときはそういうことも考えたんだけどね? 阿求に話を聞いてみたらルーミア自身あの暗闇の中ではなにも見えてないらしくて木にぶつかったりもしてるみたい」

「ああ、そうなんですか・・・」

 

 あの暗闇に存在意義はなかったようだ。

 逆にあの暗闇の本体であるルーミアという妖怪の足手まといにすらなっている。

 自分の中でのルーミアに関しての考察が一通り済んだその次の瞬間、俺のすぐ後ろから声が聞こえてきた。

 

「そーなのかー」

「危ない!」

 

 そーなのかーと声がしたほうを振り向いた瞬間すぐ近くに口を開けながらこっちに飛んでくる女の子を見た。

 恐らくその女の子は暗闇を解除したルーミアの本体なのだろうが、そんなことを考えている余裕は俺にはない。

 ルーミアは人喰い妖怪なのだ。その人喰い妖怪がこちらに口を開けながら飛んでくるということは俺は食べようとしていることに他ならない。

 先ほどまで話していた赤い少女が危ないと叫んでなんとかしようとしているみたいだが、ルーミアにここまでの接近を許してしまったのだ。まず間に合わないだろう。

 つまり俺は食われてしまう。

 警戒を怠った自分を恨みながら、覚悟を決め目を瞑ろうとした。

 しかしその瞬間赤い少女がなにかを投げ、それはルーミアに直撃し、意識を失った。 

 

「ごめんなさい、話に夢中になってルーミアへの注意を怠っていたわ」

「いえいえ、こちらこそ二度も助けていただきありがとうございます」

 

 この少女が謝ることはなにもない。むしろ二回も命を助けてもらったのだ。注意を怠っていたのは俺もなのだし。

 

「とりあえず逃げるわよ」

「わかりました」

「ついてきて」

 

 そう言った直後凄いスピードで赤い少女が走り出した。

 そのスピードに俺は驚愕した。

 俺の二倍以上は早いのではないのだろうか。いや間違いなく早い。

 やはりこれが若さというものだろうか…

 自分の年齢のことを考えると嫌になる。がしかしそこまで考えて一つのことに気が付きボソッと呟いた。

 

「俺、年齢いくつだ?」

 

 そう、なんとなく自分は若くは無いだろうと思っていたが自分の正確な年齢がわからないのだ。

 自分がまだ若いかもしれないという希望を見つけると共にもし20代前半程度でこの体力なのかもしれないということを考え絶望した。

 俺が勝手に天国と地獄を行き来している間に赤い少女は相当先に行っていた。

 ただでさえ走力が違うのにスタートで差をつけられすぎると見失いかねない。

 そうなるとせっかくの無事に帰れるチャンスを失ってしまうことになる。そうならないように俺も全速力で赤い彼女追いかけ走り始めた。

 

 

「はぁ、はぁ…」

「あんた、体力無いわねぇ」

 

 700m以上全力疾走した上でそのセリフが出てきたことに驚かされた。

 普通は100mも全力疾走したら疲れ始めるだろう、その七倍だ。死にかけないやつなんかいない。

 そう指摘しようと少女の顔を見てもう一度驚かされた。

 少女は汗を少し搔いている程度で息を切らしてすらいなかった。死にかけないやつはここにいた。

 

「君が体力ありすぎなんだと思うけど」

「こんくらい普通よ」

 

 俺が異常だと言いたいのだろうか。

 まぁ確かに体力はほかの人より少ないかもしれないが。

 

「ところでなんで私のことを君って呼ぶの?」

「え、だって君の名前聞いてないし」

 

 俺は当然のようにそう返した。というか名前を聞いてないのだから当然だ。

 しかし少女は信じられないというような顔でこちらを見ていた。

 

「え?私を知らないの? 幻想郷では一番有名と言っても過言じゃないと思ってたんだけど……。私は博麗霊夢(はくれいれいむ)。霊夢って呼んでくれていいわ」

 

 こいつもサチコと同じように自分が有名なのが当たり前だと思い込んでいるナルシストなのかと思ったが今までの会話でそんなところは見られなかった。

 なので冗談のつもりかと思ったが少女の顔は嘘をついているようには見えなかった。

 俺は困惑したが別にどうであろうと俺に関係はないことに気づき会話を続けた。

 

「そうかじゃあ霊夢。いろいろ教えて欲しいんだけど」

「一気にフランクになったわね……別にいいけど。で、なにについて教えてほしいの?」

「えっと、とりあえずここってどこ?」

「ここは霧の湖のすぐ近くにある森だけど……」

「霧の湖?」

 

 またもや全く知識の中にない単語が出てきて俺は頭を抱えてしまった。

 

「えっと……本当にわからないの? えーと名前なんだっけ」

 

 その俺の様子に霊夢も困惑し始めてしまった。

 そして最後の言葉でまだ名乗ってないことに気づき名乗ることにした。

 

「ああ俺は黒露夢幻。夢幻でいい」

「夢幻ねぇ……そんな奴人間の里に居たかしら。まぁいいわ。で、本当に霧の湖がわからないの?」

「本当にわからないの?って言われてもわからないもんはわからないしなぁ」

「え、もしかして今私の口調真似した?」

「うん。似てた?」

 

 思い付きでやったがなかなか似てた気がしていたので褒めてもらおうとそう聞いたのだが返ってきた言葉は俺の期待に反し辛いものだった。

 

「全然。てか寒気がしたからやめてちょうだい」

「グフッ。なかなか辛辣・・・」

 

 似てないと言われるのはまだしも寒気がしたと言われたのには流石の俺も傷ついてしまった。

 

「まぁいいわ。で、本当に霧の湖がわからないの?」

 

 霊夢は本日三回目のその質問をしてきた。

 何回質問されようと返事は同じだ。

 

「だからわかんないんだって。気が付いたらあそこにいて。なんのためになにがしたくてあんなところにいたのかもわからないんだ」

「……あんたもしかして記憶喪失ってやつかもね。腕のいい医者知ってるから一回診てもらいに行かない?」

 

 自分でも薄々感づいてはいたがやはりそうなのだろうか。まぁそれしか可能性は無さそうだが。

 

「記憶喪失ねぇ……まぁ記憶がないってことはそういうことなんだろうな。うん、診てもらいに行きたい。案内頼んでいいか?」

「……」

 

 俺の質問に霊夢は黙りこくってしまった。

 なにか都合が悪かったのだろうか。

 

「あ、忙しかった?なら場所を教えて貰えれば」

「あ、いや違うわ。その医者がいるところはやけに迷いづらい場所にあってね? 安全に迷わず行くために一人案内人みたいなのがいるんだけど、どうやってそいつに頼もうかなって思って考えてただけ」

 

 ただ考え事をしていただけのようだ。ビビらせるのはやめてもらいたい。

 

「ほーん」

「ほーんってあんた……あぁそうだ、人間の里にそいつと仲がいい人がいるからその人を通じて頼みましょう」

 

 俺にはその辺の知識は一切ないのだから言われるがままにするしかない。

 

「うーい」

「じゃぁついてきて。絶対にはぐれないようにね」

 

 その言葉を聞き、俺の中に一つの妙案が浮かんできたのでそれを口に出してみる。どんな言葉が返ってくるかは何となく予想はつくが。

 

「手繋いだらはぐれないと思うんで手繋ぎましょう!」

「は?」

 

 予想以上に重く冷たい霊夢の一言により俺の心はボロボロになってしまった。

 これはもう頭を撫でて慰めてもらわないと…

 

「キモイ。」

 

 追い打ちを喰らって俺の心は砕け散った。

 

「今あんたの顔最高に気持ち悪かったわよ」

 

 それは聞き捨てならない。そんなわけが無いだろう。

 

「失礼な。俺はいつでもダンディーだろ?」

「はいはい」

「流すなよ!」

「変なこと言ってないで早く行くわよ」

「はーい」

 

 謎のコントをしながら俺たちは人間の里と言われる場所に向かうのであった。




 夢幻の性格がよくわかりましたね!
 ちなみにこれ時系列的には紺珠伝とか吹っ飛ばして先くらいにあります。
というか別次元的な感じです。ifの世界と考えてください。


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第三話 まるで御伽噺

うまくギャグを入れられない…(まぁそれ以前の問題なんですけどね?)
まぁよかったら読んでってください。


 人里に向かう間俺は霊夢にいろんなことを教えてもらった。

 ここは幻想郷という場所だということ。

 幻想郷でのルールのこと。

 幻想郷でのパワーバランスのこと。

 その他にもいろいろ教えてもらった。

 ……が何一つピンと来なかった。これはマジで記憶喪失で間違いなさそうだ。

 

「そろそろ人間の里に着くわよ」

 

 そう言いながら霊夢が指差す方に目を向けると木々の間からいくつもの民家らしきものなどが見えた。

 

 それから数分程歩いたのち俺たちは人間の里の入口についた。

 人間の里と聞いた時は人間以外のやつらはいないのかと思ったが、九尾の狐みたいなのもいるしそういうわけでもなさそうだ。

 

「あれ? 霊夢じゃないか。その横にいる男はどうした?」

 

 俺の視線に気が付いたかのかはわからないが九尾の狐がこちらに声を掛けてきた。

 

「藍じゃない。こいつは夢幻。ルーミアに近づこうとしてたところを通りがかったから説教してやろうと思ったのだけれど記憶喪失になってるみたいでね。このままほっとくと危ないから永琳に診てもらおうと思って」

「ふむ、なるほどな。永遠亭に行くなら藤原妹紅に案内を頼むんだろ? 藤原妹紅ならさっき寺子屋で見かけたぞ」

「あらほんと? ありがと。行ってみるわ」

 

 九尾の狐は藍さんと言うようだ。霊夢ともかなり親しいことが今の会話からよくわかる。

 ついでに藍さんは俺たちが知りたかった情報を知っていたようだ。

 案内人は藤原妹紅という名前なのか。寺子屋にいたと言うことは教師でもやっているのだろうか?

 しかしもし妹紅さんが教師ならこんな真昼間から道案内を頼むことも出来ないだろうな。どうするんだろうか。

 と、俺なりに必死に考えていたところに藍さんが微笑みながら俺に近づいて来た。

 

「君は……夢幻君と言ったかな?」

「あ、はい」

 

 近くで見ると顔がすごく整っていることがわかった。

 スタイルもいいしモテるんだろうな。

 そんな少し邪な考えを頭に浮かべていると藍さんの手が俺の肩にポンと置いた。

 

「私たちは君の正体がわからなくとも君を歓迎しよう。だが問題を起こせば容赦はしない。それは覚えておいてくれ」

「は、はい」

 

 藍さんが俺の耳元でそう囁いた。

 その時の顔は先ほどの笑顔がすっと消えておりすごい気迫と恐怖を感じた。

 しかしもう一度藍さんの顔を見ると元の人を安心させるような笑顔に戻っていた。

 なんだったんだ…?

 藍さんは笑顔なのに俺はその笑顔に未だ恐怖を感じていた。

 

「それじゃあな。また会う時まで」

 

 そう言うと藍さんはこちらを振り向くことなくどこかへ歩いて行ってしまった。

 藍さんの姿が見えなくなるまで二人でずっと立っていたのだが、藍さんの姿が見えなくなると霊夢が俺の耳に口を近づけて小さな声で質問をしてきた。

 

「藍に何て言われたの?」

「いや、なんか歓迎はするが問題を起こしたら容赦はしない。って言われた」

 

 正直に答えると霊夢は俺の耳元から口を話して少しなにかを考えるような仕草をしながら返事をした。

 

「ふーん?藍がそういうことを言うなんて珍しいわね」

「そうなのか?……なぁ霊夢、俺って問題起こしそうに見える?」

「いや?別に思わないけど。まぁ藍は幻想郷の管理人みたいなやつの式神だし主に代わって忠告しただけじゃないの?あんまり気にしなくていいと思うわよ」

「そうなのか。それならいいんだけど」

 

 あまり気にしなくていいと言われてもあの気迫と恐怖を忘れることはしばらく出来ないだろう。

 そして俺は藍さんの言葉に一つの違和感をあったことに気が付いた。

 

 「正体がわからなくとも……?」

 

 俺は確かに記憶喪失で何者なのかはわからないが、正体は人間だろう。

 普通なら素性が知れないなどと言うのではないだろうか?

 なにを思って藍さんはそう言ったのだろうか。藍さんと親しい様子の霊夢なら少しはわかるかもしれないと思い霊夢に聞こうと思ったが、その前に霊夢の言葉に遮られてしまい聞くことは叶わなかった。

 

「それじゃ寺子屋に行きましょうか」

「……え? なんで?」

「……はぁ。医者がいるところへ案内してくれる妹紅ってやつが寺子屋にいるらしいからよ」

 

 藍さんの気迫に圧倒されそのことがすっかり頭から抜けてしまっていた。元々それがここに来た本来の目的だった。

 

「あぁそうだったな」

「あぁって……あんたのことなんだからもう少し興味持ちなさいよ……」

 

 霊夢がジト目でこちらを向きながらそう言ってきた。

 霊夢はわざわざ俺のために付き合ってくれてるんだし俺がしっかりしないとな。

 そう思い俺は霊夢に謝罪を述べた。

 

「ところで妹紅さんは寺子屋にいるってことは先生なのか?」

「妹紅は先生じゃないわよ。寺子屋で先生をしてる慧音ってやつと仲が良くてよく遊びに行ってるってだけよ」

 

 なるほど、妹紅さんは先生じゃなかったのか。

 まぁそれならこの時間に道案内を頼んでも大丈夫だろう。先生じゃない人がこの時間に寺子屋に自由に出入りしてるのはどうかと思うが。

 

「んじゃまぁとりあえず行きますか」

「そうね」

「寺子屋ってどの辺にあるの?」

「ここから歩いて30分くらいかしらね」

 

 ……30分?

 丁度先ほど霊夢に助けてもらってからこの人間の里に来るまでがその程度だったはずだ。しかしその時はゆっくり歩いていたが相当な距離だったはずだ。

 もう既に人間の里に入っているというのにまた30分も歩くというのは少し変な気がする。

 そこまで考えた俺は一つの結論に辿り着き答え合わせをするために霊夢に聞こえる程度の声で呟いた。

 

「寺子屋って人間の里の中にある訳じゃないのか……」

 

 すると俺の目論見通り反応してくれた。

 しかし答えは俺の考えた結論とは真逆だった。

 

「人間の里の中にあるわよ?」

「なのに歩いて30分もかかるの?」

「ああ、人間の里には幻想郷の中のお店とかがほとんど集まってるからめちゃくちゃ広いのよ」

「あ、そうなんだ」

 

 人間の里をなめすぎていたようだ。人間の里ってそんなに大きかったのか……

 そろそろ足痛くなってきてるんだが…まぁ霊夢は俺のために着いてきてくれてるんだし我儘は言えないな。

 そう思い少しずつ悲鳴を上げ始めている自分の足に鞭を打ちまた歩き始めた。

 

 その後霊夢の言うとおり30分程度歩くと寺子屋に着いた。

 そしてここに来るまでの間に気が付いたことが一つあった。

 霊夢は俺が思っている以上に有名人だったようだ。

 さっきのチルノたちと変わらない程の身長の子供から立派な髭を蓄えたご老人までが霊夢を見かけると挨拶をしてきたりしていた。

 あながち幻想郷一有名というのも間違いなさそうだ。

 

「妹紅いるー?」

 そう言いながら霊夢が寺子屋の中へ遠慮なく入って行った。

 一応寺子屋なのだし誰か出てくるまで外で待っといた方がいいんじゃないかと思いつつ俺も後に続いた。

 

 外から見た感じはその辺の民家より一回り大きいなくらいの感想しか抱かなかったが、中は思ったよりもずっと綺麗だった。

 それにしても子供の声が聞こえないな。今は子供たちはいないのかな?

などと考えているとふすまが一つ開いた。

 

「霊夢? 私ならここにいるけど、どうしたの? 珍しいじゃん」

 

 そのふすまから白い髪の女の子が顔を出してそう答えた。

 この人が妹紅さんか。

 見た目的に思ったよりも幼い印象を受けた。霊夢とあまり変わらないのではないだろうか?

 

「ああ、妹紅。ちょっとこいつが記憶喪失みたいで永琳に診てもらうために永遠亭に行きたいんだけど案内お願いできない?」

 

 妹紅さんがこちらを確認するように見てきたので軽く頭を下げた。

 

「なるほどねー。ちょっと待っててね」

 

 そういうと妹紅さんは部屋の中に引っ込んでいった。

 その部屋の中から妹紅さんとは別の人の声も聞こえた。

 

「ああ、やっぱり慧音と話してたのね」

 

 ということはこの聞こえてくる妹紅さんとは違う方の声の持ち主が慧音さんか。

 慧音さんの声からは大人びたような印象を受けた。まぁ先生をしているくらいだししっかりしてるんだろうな。

 

「お待たせ」

 

 冷静で的確な俺の推理を遮るように中から妹紅さんが出てきた。

 推理じゃないって?うるせぇよ。

 

 

「慧音と話してたのに悪いわね」

「別にいいよ。いつもみたいにただ単に世間話してただけだし」

 

 ところで、霊夢と妹紅さんが話してるところを眺めていて気付いた。

 こうして見ると二人とも服装がかなり奇抜なのだ。

 今更だが霊夢は腋が出てる巫女服に大きなリボンつけてるし、妹紅さんなんか霊夢と同じような大きさのリボンに加えて毛先に小さなリボンがいくつもついてる。しかも袴をサスペンダーで釣ってるし……

 しかし俺が服装のことを考えている間に二人の会話は終わったようで妹紅さんがこちらに話しかけてきた。

 

「君が記憶喪失になってるって子?」

「あ、はいそうです。妹紅さんですよね?急で申し訳ないのですが道案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「道案内の件については霊夢からさっき聞いたところだし別にいいんだけどさ、ちょっと堅すぎない? さん付けで呼ばれるのなんて久しぶりすぎてなんか変な感じだし、妹紅でいいよ?」

 

 と妹紅さん――いや妹紅が苦笑いで言った。

 お世話になるのだし礼儀正しくしなければと思いあんな挨拶をしたが俺自身敬語なんて使い慣れてないしそもそも基本的にはタメ口で喋る人間なのだ。

 妹紅の方からそう言ってくれるなんて、思ってもない申し立てだ。

 

「あ、そう? じゃぁ妹紅で。んじゃ道案内頼む」

「タメ口でいいなんか言ってなくない?」

 

 ……確かに言ってはいないが、下の名前で呼び捨てで呼んでいいってことはタメ口でいいってこととほとんど意味は変わらないと思うのだが。

 だがまぁ、不快にさせてしまったようなので謝らなければならないだろう。

 

「不快にさせてしまい申し訳ございませんでした」

「あはは、冗談だって。名前呼び捨てなのに敬語とか余計変な感じじゃん。君面白いね。ところで君の名前まだ聞いてないんだけど教えてくれない?」

 

 俺は妹紅がどんな奴なのかが今のやり取りで大体わかった気がした。

 ところで妹紅、お前見た目的に明らか俺より年下だろ!

 年下に揶揄われたことに少し不快感を覚えた俺が軽く注意することにした。

 

「お前年上をからかうなよ!いつか痛い目見るぞ!俺の名前は黒露夢幻!夢幻って呼べ!」

「夢幻が年上?まっさかぁ~」

 

 夢幻呼びに移行するスピードがだいぶ速く妹紅の反射神経に少し驚かされつつも、またもや揶揄われていることにだいぶイラッときた。

 

「わたしこう見えても千年以上生きてるんだよ?」

 

 そしてその上にこの嘘だ。

 こいつの目にはどれだけ俺が馬鹿に見えているのだろうか。

 大人をコケにするのもいい加減にしてほしい。

 

「いくらなんでもそんな嘘に騙されるかぁ!」

「いやほんとほんと」

 

 説教とかしたことがないせいであまり怒っているように聞こえないだろうがこれでもそれなりに怒っているのだ。

 嘘を嘘で上塗りしていくやつは嫌いだ。

 妹紅の嘘を暴くためになにかないかと考えている俺があたりを見回していると一つの案が思いついた。

 霊夢に協力してもらえばいいじゃないか。

 

「霊夢~。霊夢からもなんとか言ってやってよ~」

 

 そう言いながら俺が目を輝かせながら霊夢のほうを向くと霊夢と目が合った。

 しかし霊夢はその直後、俺のキラキラした目の受け入れを拒むようにそっぽを向き小さく溜息を吐いた後こう言った。

 

「本当よ」

 

 俺が思いついた妙案はまさかの失敗で終わった。

 三人で悪ノリをするような仲でもないのだから霊夢は一般人の俺の味方をしてくれるだろうと踏んでいたのだがそれは間違いだったようだ。

 

「いやいやどう見ても俺よりあいつ年下だろ!」

「不老不死なのよ」

 

 俺は心の中で苦笑してしまった。

 不老不死などとふざけた単語が霊夢の口から出てくるなどと思わなかったからだ。

 まだ妹紅のほうが信憑性のある嘘をついていた。

 

「そんな都合のいいものあってたまるか!」

「あるんだからしょうがない」

「じゃぁ証拠見せてみろよぉ!」

「死ぬのも結構痛いんだよ?」

「ちなみに幻想郷には妹紅を含めて不老不死が三人いるわよ?」

 

 三人?そんな微妙な線をついてきたんだ。

 どうせなら幻想郷の人たち全員不老不死とか言ってくれたら笑って済ませれたのに。

 しかし俺はここでまた一つ仮説を思いついてしまった。

 この仮説が正解なら不老不死というのも納得が出来る。

 

「おかしいだろ!……あ、もしかして妹紅って人間じゃなく妖怪なのか?」

「私は人間だよ?」

 

 俺の仮説はバッサリと切られた。

 そして霊夢の口から驚きの一言が出てきた。

 

「あと妖怪でも死ぬわよ?」

 

 そんなのさっき教えてくれなかっただろ。

 しかし、妖怪でも死ぬのならやはりこの幻想郷に不老不死の奴は誰一人としていないはずだ。そうでなければおかしい。

 

「じゃぁおかしいだろ!なんで不老不死になってんだよ!」

「蓬莱の薬っての飲んじゃってね」

「御伽話かよ!」

 

 自分が言ったその言葉で俺は偶然にも自分を納得させられた。

 なるほどこいつはなにかの御伽噺を読んでその影響を受けたのだろう。

 そうして自分を納得させられたところをまた妹紅が煽って来た。

 

「まぁ今から永遠亭行くんだし、その時には証明できるんじゃないかな?」

「ふーん?言ったぞ?取り消すなら今だぞ?」

「取り消さないよ。じゃあ嘘だったらなんでも言うこと一つ聞いてあげるよ」

 

 なんでも言うことを聞くという言葉に俺は少し危機感を覚えた。

 俺は紳士だから良いものの女の子がそんなことを言ったらナニをされるかわかったもんじゃないからだ。

 俺は妹紅のために注意をしようと口を開いたがその口から出てきた言葉は俺の発したかった言葉とは違った。

 

「言ったからな?もう取り消せないからな!」

 

 ……俺もまたそちら側の人間だったのだろうか。

 霊夢が俺のほうを嫌悪の目で見てきており、俺はその視線に心を折られかけたが、俺の心が折れる寸前のところで霊夢は何かを思い出したかのような表情を一瞬した後に哀れむような目に変わった。

 よくわからないがまぁ俺の心が折れなくてよかった。

 

「いいよ。その代わり本当だったら夢幻が言うこと一つ聞いてね?」

「ああいいよやってやろうじゃねぇかよ!」

 

負ける可能性がない賭けなんて乗るしかねぇもんなぁ?

 

「あーあ……」

 霊夢が溜息をつきながらこっちを見ている。が俺はそんなの気にしない。永遠亭とやらに行くのが楽しみになってきたぜ!




藍と妹紅初登場です。
藍は結構キャラの扱いムズイです。


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第四話 ヘッドバット

かなり短いですがごめんなさい~


「いってぇー……」

 

 うぅ、頭がズキズキする……

 横でも妹紅が涙目になりながら頭を押さえている。

 そして俺の目の前には慧音先生が仁王立ちで立っている。

 なぜこんな状況になっているのかと言うと妹紅と騒ぎすぎて怒られたのだ。

 

「はぁ……お前ら会って早々仲良くなるのは全然構わんがいくらなんでも騒ぎすぎだ。」

「夢幻のせいで怒られたー。」

 

 …妹紅は馬鹿なのだろうか。お説教されている時に軽口叩くなんてご法度だろ。

 

「妹紅?」

 

 殺気がすごい。先ほどの藍さんよりもよっぽど怖い。

 まぁ怖さのベクトルが違う気がするが。

 

「ひっ…」

 

 妹紅がかわいらしい悲鳴を上げた後小動物のようになってしまった。

 

「そもそもだな。ここは寺子屋であり、公共の場所だ。そんなところで騒いだら他の人に迷惑かかることくらいわかるだろ?」

 

 これは俺の経験上、絶対に長くなるパターンだ。

 そう思うと欠伸が出てきてしまった。

 いかんいかん。気が緩んでいるようだ。

 そう思った瞬間俺は慧音先生の殺気が一層増したのを察知した。

 

「あ、やべ……」

 

 冷や汗をダラダラ掻きながら慧音先生のほうを見るとバッチリ目があった。

 

「夢幻はちっとも反省していないみたいだな。そういえばお前記憶喪失なんだったよな? 頭を強く打てば治るかもしれないな。試してみよう」

「え、いやさっき既に頭突きいただいてるので結構で……」

「問答無用!」

 

俺の悲鳴が真昼間の幻想郷にこだました。

 

 

 

 さっきより痛い……一回目はあれでも手加減してくれていたのか。

 

「さてと、お前ら永遠亭に行くんだったな。あんまり遅いとあちらにも迷惑だろうし今回はこのくらいで許してやる」

「え?」

「ん?どうした夢幻」

 

 しまった…

 慧音先生が俺の予想を綺麗に裏切ってくれたおかげでつい声が出てしまった。

 こんな早く終わるなんて思っていなかったのだ。

 

「夢幻、思ってたより早く終わったな。という顔をしているな?」

 

 慧音先生に図星を指されてしまった。

 正直に答えると俺の頭が割れてしまうことになりかねない。

 嘘をつくのは苦手なのだがそんなことも言っていられない。

 

「え、いやーそんなことないですよハハハ……」

「そうかそうか、そんなに頭突きが気に入ったのか。霊夢、悪いが永遠亭で診てもらったらもう一回ここに連れてきてくれ」

 

 嘘をつくのは失敗したようだ。やっぱり俺は嘘が下手くそなんだな……

 いや、今はそんなことを考えている場合ではない。

 どうにかして再度ここに来ることを防がなければ。

 だが慧音先生に再審を要求しても恐らく通らない。ならば、霊夢を説得するしかない……!

 

「ちょっと待ってくれ霊夢、話し合わないか?」

「自業自得よ。さ、無駄話なんかしてずにさっさと永遠亭に行きましょ。妹紅、道案内よろしく」

 

 取り付く島もないとはこのことを言うのだろうか。

 俺の最後の希望はそうしてあっけなく潰えた。

 

「んじゃそろそろ行こうか。付いてきてねー」

 

 妹紅がそう言いながら立ち上がっった。

 それにしても妹紅はもうすでにケロリとしてるな……まだ頭突きされてから5分も経ってないのに……

 と思ったが別にケロリとはしていないようだ。まだ涙目のままだった。

 

「夢幻、妹紅も霊夢もいるから大丈夫だとは思うが、夜の竹林は危険だから気をつけろよ」

 

 そう慧音先生が声を掛けてくれた。

 慧音先生がここに来てデレるとは思っていなかったので少し嬉しくなった。が、俺は俺自身に向けられている3つの視線に気が付き、周りを見た。

 

「夢幻、なにを考えているのかしらないが顔が気持ち悪くなっているぞ?」

「夢幻、なんとなく考えてることは察せれたけど、いつか痛い目見るよ?」

「あんたねぇ……そろそろいい加減にしなさいよ?」

 

 俺に向けられていた複数の視線は各々の言葉と共に、それぞれ違う感情を醸し出していた。

 特に霊夢の視線がとてもトゲトゲしく俺の心に突き刺さった。

 そして俺が傷ついた次の瞬間に霊夢の口から出た言葉は俺を絶望に突き落とした。

 

「慧音、もう一発夢幻に頭突きお願いしていい?」

「え?ああ、なんだかよくわからないが了解だ」

「ちょ、ストップ!ストーップ!話せばまだわかる!」

 

 まずい。これは本当にまずい。

 既に2発も食らっている上に霊夢に心を引き裂かれている今、もう一発食らえば失神は免れない。

 だが霊夢には前言撤回する気もないようだし、絶体絶命のピンチだ。

 いつもなら無駄に妙案を思いつく癖にこの大事な時になにも案を出さない自分の脳を罵りながら慌てていると、思いもよらぬところから救いの手が差し伸べられた。

 

「まぁまぁまぁ、慧音ちょっと一旦落ち着いて。霊夢も」

 

 妹紅……!

 

「霊夢、男なんてこんなもんだよ。一々気にしてたらキリがないよ?」

「まぁ……確かにそうかもしれないけどね?あいつは今日一日で既に・・・―――」

 

 妹紅が霊夢を必死に説得しようとしてくれている。

 男への偏見がちょっと酷いが今はそんなことを言っている場合ではない。

 てか霊夢いちいち数えてたのか……?

 そしてその隣では慧音先生が頭の上にクエスチョンマークを浮かべている。かわいい。

 

「夢幻?」

 

 妹紅が俺の名前を呼んだ。

 

「……やべ」

「ねぇ、妹紅。あなたが頑張ってる間、あいつは性懲りもなくあんなことしてるわけだけど。まだ庇おうとする?」

 

「ううん。最初から霊夢の言った通りにしておけばよかったね。ごめんね」

 

 自分の失態により、俺は自分を助けてくれた妹紅に見捨てられてしまった。

 妹紅に見捨てられたということは俺に味方がいなくなったということだ。

 つまり

 

「慧音、夢幻に頭突きして」

「わかった」

 

俺の死を意味していた。




いや~実は慧音は三話で登場させる予定だったのですが妹紅だけで話が進んでしまい、このままいくと慧音登場せずに永遠亭行ってしまいそうだったので無理やり突っ込みました。
なのでこの後のストーリーにも特に関係ないですし、実質3.5話みたいな感じです。


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第五話 しばしの別れ

ちょっと書き方変えてみました。
読みにくかったらごめんなさい!


 寺子屋へ出た俺たちは妹紅の案内の元、永遠亭に向かっている。

 そして今俺は先ほどより少しテンションが上がっている。なぜかと言うと俺の右側には妹紅、左側には霊夢がいる。つまり両手に花ってやつだ。

 しかも妹紅も霊夢もかなりの美人。これでテンションが上がらないはずがない。

 

「いや~これはいいな~」

 

 浮かれていたせいか俺はそう口に出してしまった。

 そしてそれを聞いた霊夢と妹紅が俺の側から一気に離れていってしまった。

 

「お、おい。お前ら!違うんだって!」

「そんな顔をしていたら否定してもまったく信じる気にならないのだけどなにが違うのかしら?」

 

 顔?そんなところを見ていたのか。

 いや、そうじゃなくてだな。

 

「わたしはもう千年以上生きてるから顔を見なくてもなにを考えてるのか大体わかっちゃうけどねー」

 

 ……もうどうしようもないようだ。

 言葉で騙せるのなら頑張ろうとも思えるがそれ以前の問題ならばやる気など出てこない。

 

「で?夢幻、なにが違うのか説明してくれない?」

「え、えーと……」

 

 霊夢は俺が言い訳をしようとしたことで更に怒りを増しているようだ。

 これはふざけて返事しては駄目なのはいくら俺でもわかる。しかしだからと言ってどのような返事をすれば波風立てず終わらせることが出来るのかはわからない。

 ならば一か八かにかけてみるしかないか……と俺の脳は思いついた。

 そして俺はすぐさまそれを実行に移す。他に案が思いつかないからだ。

 

「いや、そのー。そう!霊夢と妹紅が可愛すぎてさ……しょうがないじゃん!」

「ブフッ」

 横で妹紅が吹き出した。

 ……笑ったってことは少なくとも納得できるようなものでは無かったということか?

 そしてそれを裏付けるかのように霊夢が下を向いたまま動かない。しかも少し震えているように見えた。

 選択を間違えたようだ。

 せめて記憶を取り戻してから死にたかったな。

 俺はこの世への未練を吐き出すように大きく溜息を吐いた。

 その時にふと霊夢のほうを見ると顔が真っ赤に染まっていた。

 なにがあったんだ?

 

「あれー?霊夢顔が真っ赤になってるよー?どうしたのかなー?」

 

 俺が気づいたのと同じころに妹紅も霊夢の顔が赤くなっているのに気づいたようで、からかうように霊夢にそう言った。

 妹紅は死にたがりなのだろうか。いや、そんな千年以上も生きていたら逆に死にたくなってくるのかもしれないな。

 いや、そんなシリアスな話をしたいんじゃなくて……

 

「キャン!」

 

 なんだ今の可愛い悲鳴は?まぁ状況からして妹紅が発したのだろうが。

 それを確認するために妹紅のほうを見る。

 妹紅は慧音の頭突きをくらった時より数倍すごい顔をしながら頭を抑えていた。

 

「私、用事思い出したから帰るわね。妹紅あとはよろしく」

 

 霊夢はまだ顔を真っ赤にしたままだがそのまま俺たちが来た方向へと引き返そうとしている。

 

「え、ちょ!?霊夢!?」

「俺が悪かった!帰らないでくれ!」

 

 俺は霊夢と別れたくなく、そう駄々をこねた。

 しかしその次に妹紅が紡いだ言葉に俺は言葉を失った。

 

「永遠亭で見てもらったあとはどうしたらいいのー!」

 

 涙目の少女が健気に叫んでいたらなにも知らない人が見れば可哀想に見えるかもしれない。しかしその言っている言葉が酷い、霊夢との別れを惜しむ訳でなく後始末のことを聞いている。お前に情ってもんはねぇのか。

 それでは霊夢が可哀想では無いかと思ったが、妹紅のその質問に対して霊夢が返した言葉で俺は本当に可哀想なのは誰なのかを理解した。

 

「人間の里にでも放してきたらいいんじゃないかしら?」

 

 俺は野生動物かなにかと思われていたのだろうか。

 人間の里に送り届けるでも霊夢のところに連れて行くでもなく人間の里に放すときた。

 霊夢からの思わぬ扱いに俺はかなり傷ついたが二人ともそんなことは気にしていないようだ。

 

「はーい」

「じゃあね」

 

 俺がせめて礼を言おうと口を開く前に霊夢は飛んで行ってしまった。

 霊夢が空を飛べることを今更知ったが、だからどうということもない。

 霊夢はこちらを一切振り返らずに飛んでいき見えなくなってしまった。

 

「あんな躊躇なく帰るもんなのか……」

「あーあ、夢幻があんなこと言うから霊夢帰っちゃった……」

「いや、あれ俺悪くねぇだろ!? 妹紅が霊夢を煽るからだろ!」

 

 事の発端は俺だが煽ったのは妹紅だ。まぁどっちも悪いのかな。

 

「まぁ、帰っちゃったもんはしょうがねぇ。早く永遠亭に行くぞ」

「そうだね。あ、そうそう迷いの竹林であたしとはぐれたら死んじゃうから気をつけてねー」

「そんな大事なことさらっと言うなよ……」

「なんなら手繋ぐ?」

「うぇっ!?」

 

 デジャブを感じる……

 確か霊夢に対して俺も同じようなことを言ったはずだ。まぁ唯一にして一番違う点は本気か本気じゃないかってとこだろう。

 

「ははは。嘘だって」

「んなもんわかってるよ。てかお前俺と発想が変わらねぇぞ」

「うぇぇ……」

「ちょっと黙れよ」 

 

 あんまり認めたくないが俺と妹紅は本質的にはかなり似ている様な気がすると思いつつも俺はそれを口には出さなかった。

 

「ところで夢幻、永遠亭までは送るけど永遠亭の中まで付いてきてほしい?」

 

 少しだけ妹紅が真面目な顔をしてそう言った。

 こんな顔も出来ることに俺はすこし驚いた。

 質問の意図がいまいち読めないが正直に答えてもいいだろう。

 

「んーそうだな。一緒に説明とかしてくれるとありがたいし来てほしいな。」

「そっか。わかった」

 

 少し妹紅が難しい顔をしている。

 

「あ、なんか用事とかあったら別にいいぞ?」

「いやー、そういうわけじゃないんだけどね。」

 

 どういうことだろう。

 用事がないのに付いて来たくないと言うことは何か他の事情があるのかそれともあまり考えたくはないが俺のことを嫌いかのどちらかだろう。

 

「……妹紅って俺のこと嫌い?」

「? 普通に好きだけど?」

 

 ということは他の事情があるっていうことか。嫌われてる訳でなくてよかった。

 しかし普通に好きってのはあくまで中の上なのかそれとも上なのかがよくわからないんだよな。俺だけかもしれないが。

 

「んーじゃあなんでそんな難しい顔してるんだ?」

「そうだなぁ……説明すると長くなっちゃうから説明は省くけどまぁ簡単に言えば永遠亭にいるある一人のやつと因縁があるっていう話。まぁ着いたら多分わかると思う。

 

 因縁か。まぁ信じ切っている訳ではないが本当に千年以上生きているなら因縁の一つや二つあるものだろう。

 

「さ、早く行こうよ」

「そうだな」

 

 妹紅もあまりその話はしたくないようだし、さっさと行くか。

 一人減って少し寂しくなったが自業自得とも言えるので甘んじて受け入れよう。また後で謝りに行きたいな。




霊夢帰っちゃった……
てか永遠亭に行くまで長すぎるような気が自分でもちょっとしてきてます……
まぁ永遠亭編は一章の中でも一番長くなると思いますはい。飽きずに頑張って!


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第六話 うさ耳

申し訳ございません!
本当は昨日投稿するはずだったのですが、ネットの調子が悪く投稿ができませんでした・・・
本当に申し訳ございません。


 それは俺と妹紅が霊夢と別れて、迷いの竹林を歩いている最中の出来事――

 

「ん? 今なにかあそこで動かなかったか?」

 

 俺の右側にある竹藪のほうを指差しながら妹紅に尋ねた。竹藪のなにかが走っていったような気がしたのだ。

 

「え? ほんとに? 気付かなかったな。ちょっと見てくるよ」

 

 そういいながら妹紅は俺が指をさしている草むらのほうへと走っていった。

 

「んー? なにもいないよー?」

 

 一分ほど探したのち妹紅が戻って来てそう言った。

 見間違いだったのだろうか。

 

「そうか。見間違いだったのかもしれんな。すまんすまん」

「しっかりしてよー。あ……もしかして老眼?」

「違うわ!」

 

 周りの物もはっきり見えてるしそんなことはないだろう。

 というかさっきのは見たというより気配を感じたってだから視力は関係ないはずだ。

 

「もー冗談だってアハハハ」

「はいはい、わかってますよーっと」

 

ガサッ

 

 次は俺の左側にある竹藪でなにかが走ったような気がした。

 気がしたというか音も聞こえたし何かしらいるのだろう。

 自分で確かめに行こうとした所を妹紅に見つかった。

 

「どうしたの?」

「いや、なんかこっちの草むらがまた動いたような……」

「え~? ほんとに?」

 

 妹紅が疑いの目をこちらに向けてきている。俺はすぐに疑いを晴らそうと弁解を始める。

 

「いや、これはマジだから」

 

 この言い方だとさっきのは嘘だったと言うことに取られてしまうかもしれないが咄嗟に出てしまったのだからしょうがない。

 

「ふーん?」

 

 俺のことを信じていないような声を出しながら妹紅が俺の左側にある草むらを覗きに行った。

 しかしまたすぐに帰ってきて首を横に振った。

 

「なにもいなかったけど? ……もしかして夢幻、私をからかってるの?」

「いや、本当に音がしたんだよ」

 

 少し妹紅は怒っているようだ。俺にからかわれると思っているからだろう。 

 でも俺にしか聞こえてないってこともないと思うんだが。

 

 

「妹紅はなにも聞こえなかったのか?」

「聞こえてたらこんなに夢幻を疑ったりしないでしょ?」

 

 正論を言われてしまった。

 幻覚か何かなのだろうか。だとしたら早く永遠亭に行ってみて貰わないとな。

 そう思いながらふと振り向いてみるとうさ耳の少女が走っていた。

 

「ちょちょちょ!妹紅!あれ!」

 

 俺は直感でその少女が先ほど草むらを走っていた正体だと察し、妹紅からかけられている容疑を晴らすためにと少し強めに俺の前を歩いている妹紅の肩を叩いた。

 

「そんなに慌ててどうしたのさ」

「いいから!あれ見て!」

「ん~?」

 

 妹紅は俺に対してすごい顔をしながら俺が指した方向に顔を向ける。

 しかしその反応は俺が思った通りのものとは違った。

 驚くわけでもなく怖がるわけでもない。ありふれた日常の風景を見ているかのような顔をしていた。

 

「ああ、てゐか。こんなところにいるなんて珍しいね」

 

 うさ耳を付けた少女がこんな妖怪も出ると言うところで一人でいるのになにも行動せずただ見ているだけの妹紅に俺は少し苛立ちを感じた。

 

「そうじゃなくて!女の子がこんなところにいたら危ないだろ?ここ妖怪とかも出るんだろ?」

「え?」

「ん?」

 

 妹紅と俺との間になにか認識の違いが生まれているような気がする。

 妹紅は危機感を持つ必要は無いというような顔をしている。そう思うからにはなにか理由があるのだろうか?

 そう思った直後妹紅は何かを思い出したかのように手をポンと打った。

 

「そうだ!ごめんごめん、夢幻が記憶喪失ってこと忘れてた。普通の人間として話してた」

「その言い方は俺が変な人間みたいに聞こえるからやめろ」

「実際そうじゃん?」

「妹紅?」

「なに? やる?」

「おう、いいぞ」

 

 妹紅がなぜか喧嘩に乗り気なのとその顔が少しにやけているところが気になるが、女に勝負を売られて逃げるわけにはいかない。

 そう思い俺は思いっきり手を横に広げてゴールキーパーのような姿勢をとった。

 

「よーし!」

 

 それを見た妹紅が思いっきり突っ込んできた。

 それに対し俺は横に伸ばしていた腕を妹紅に対して伸ばした。そしてそれに対抗するように妹紅を腕を伸ばして俺の伸ばした手に合わせてきた。つまり取っ組み合いの形になった。

 この時点で俺は勝利を確信した。

 

「ふふふ。いくら千年以上生きてるからって男にパワーで勝てるわけないだろ?」

「それはどうかな? ていうか夢幻、私が千年以上生きてるってことすっかり信じてくれてるみたいだね」

「まだ信じてねぇよ。そんなのいくら何でも信じられねぇって何回も言ってんだろ? ただの煽りだよ」

 

 いつもより三割増しでウザく言ってみた。それが妹紅の反骨心を煽ったのか

 

「ああ、そう。残念だよ」

 

 そう言った瞬間先ほどもわかりやすくにやけた。

 その次の瞬間に俺が妹紅にぐっと押された。

 

「お前、その華奢な体のどこからそんな力が出てくるんだよ」

「千年以上の生活で身に着けたからね」

「ああ、そうかい。千年以上の生活で身に着けた力を俺に破られて可哀想だな!」

 

 俺は妹紅をそう煽り、力を出すために踏ん張ろうとした直後、

 

 地面が落ちた。

 

「は?」

 

 俺はそのまま3m程落下して地面と尻でキスをした。

 

「痛って~……」

「「あっはははははははははははは!!!」

 

 俺のその言葉に反応したように二つの笑い声が上から響いてきた。

 そして俺はもちろんそこに違和感を感じた。

 上には妹紅しかいないはずだ。しかし二つ聞こえると言うことは誰かがいると言うことに他ならない。

 となると霊夢が実は帰ってなくて俺に復讐するために落とし穴を仕掛けていたのだろうか。

 でも霊夢にしては声が高かったような………

 俺の頭の中に出てきたその疑問は穴の上から覗いてきた顔により解決された。

 

「うさ耳娘……!」

 

 さっき一人で走っていたうさ耳を付けた少女が犯人だったのだ。

 妹紅と二人で声を上げながら笑っている。

 

「あっはははは!お腹痛い!こんなにきれいに引っかかるやつ初めて見たよ!流石夢幻!」

「あっははははは!こんなにきれいに引っかかるやつ初めて見た!こういうやつがいるとやりがいがあるんだよね!」

 

 あいつら……

 ここまでコケにされてしまってはお仕置きしなければな。早く上がって懲らしめてやろう。

 そう思い俺が落ちてきた穴を見上げると一つのことを思い出した。

 

「あ……」

 

この落とし穴は3メートル以上あったということを。




うさ耳娘と言ってもうさみんさんじゅうななさいの方ではありませんのでご注意を。


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第七話 因幡のホワイトラビット

今回短いですよ!


「おーい、そろそろ出してくれー」

 

 自力ではこの落とし穴から出ることが出来ないことを理解した俺は上にいる二人にそう頼んだ。

 しかし返ってきたのは

 

「あっははは!ちょっと待って!お腹痛い!あはははは!夢幻ほんと最高だよ!」

「引っ掛けといてなんだけど、どうやったらそんなに綺麗にかかるの!?あっはははは!お腹痛い!」

 

 二つの笑い声だった。

 その後、15分ほど経ちようやく笑いが収まった二人に俺は引き上げられた。

 もちろんその15分間俺は穴のなかで一人佇んでいた。

 

「さ~て?二人とも?」

 

  ここからは俺のお楽しみの時間が始まる。

 

「「はい」」

「何か言うことは?」

「「申し訳ございませんでした」」

 

 ぴったり息が合っていることに笑ってしまいそうになった。合いすぎだ。

 いやいや今はそんなことを考えている場合ではない。

 

「素直なのはいいぞ。今回は特別にグリグリで済ませてy「ブフッ」おい今笑ったのどっちだ」

 

 少なくとも今笑ったほうが反省していないのがしっかりわかった。そして先ほどの慧音の気持ちも理解でき、俺は心の中で慧音に謝った。

 

「妹紅でございます」

「ちょっ!てゐ!?」

 

 さっきもてゐって言ってたな。てゐというのはこいつの名前なのだろう。

「なに~?」

 

 てゐは俺と妹紅に目が合わせないように視線を外しているが、わざとらしすぎる。

 

「いや、なに~?じゃなくてさ!笑ったのてゐじゃん!」

「なんのことかわからないなー。お兄さん早くこの妹紅にお仕置きを」

 

 てゐがキラキラした目で俺と目を合わせてきた。キラキラしてるところがもう滅茶苦茶怪しいのだが。

 

「夢幻はわたしのこと信じてくれるよね!?」

 妹紅が涙目でこちらを見てきた。

 涙目の妹紅に揺すられたというわけではないが俺はてゐがクロだと確信した。この妹紅の目は嘘をついているものではないはずだ。

 

「妹紅。大丈夫だ」

「え?」

 

 妹紅がすごく嬉しそうな顔になった。

 そして同時にてゐの顔が一瞬青くなったのも俺は見逃さなかった。

 

「てゐ?」

 

俺なりに出来る限り凄みを効かせてみたのだがどうだろうか。

 

「もしかして、お兄さんこの真っ白なわたくしてゐを疑っていらっしゃるのですか?」

 

 どこかの詐欺師のような喋り方をしてきたところを見ると俺が凄んだのは意味が無かったようだ。

 

「真っ白なのはてめぇの服だけだろ」

「確かに!お兄さん面白いねーあはは!」

 

 笑っているてゐに俺は怒りを少し感じた。

 こうなったら痛い目に遭ってもらおう。

 

「クロだな。妹紅捕まえろ」

「夢幻様の仰せのままに」

「ちょっと待て妹紅。話せばわかるからさ! 一旦落ち着こう!」

 

 やっとてゐが素を出したな。

 ここで情けをかけるようなら妹紅も同じ目に遭ってもらうことになるが…?

 そう思いながら妹紅のほうを見たがその心配は無さそうだ。

 

「夢幻様のご命令だから仕方ないね。諦めなさい」

「ちょ!」

 

 てゐは逃げようとしたがすぐさま妹紅に捉えられた。

 

「さ~てこの兎。どうしてやろうか」

「痛くしないでね……?」

「こいつ全く反省してねぇな」

「じゃあ私の炎で皮を全部剝ぐ?」

 

 妹紅が相当惨いことを提案したことに俺は非常に驚いた。

 そんなことを言うとは…嵌められそうになったのをそこまで恨んでいるのだろうか。

 

「いや、それはいくらなんでもやりすぎだろ……」

「皮!?それだけはやめてください!」

 

 急にてゐの反応が変わった。さっきまでは追い詰められているのにどこか余裕そうな態度だった癖に一気に下手に回ったのはなんでだ?

 

「なんでこいつ皮に反応したんだ?」

「だいぶ昔にワニを騙したら仕返しに前身の皮剝がれたらしいんだよ」

「なかなか惨いな……」

 

 まぁ騙したのが悪いし自業自得だと思うが。

 そこで俺は一つ気が付いた。

 

「なぁ、妹紅。確かそんな神話みたいなの無かったか?」

「ああ、因幡の白兎のこと?」

「確かそうだったと思う」

「てゐはその皮を剥がれた白兎だよ」

「……ほんもの?」

「ものほん」

 

 こいつそんな前から生きてたのか。まぁもちろん嘘の可能性も高いが。

 ただそれが本当だとすると妹紅が不老不死と言うのもあり得る話になってくるな。

 

「ちょっと妹紅!プライバシーの侵害だぞ!」

 

 てゐが叫んだ。いつの間にか態度も元に戻っている。

 そもそも神話に書かれているのだしプライバシーもなにもあったもんじゃないと思うのだが。

 

「んでてゐ?まだ罰は決まってすらないぞ?」

「ゲッ。忘れてると思ってたのに」

 

 俺は妖精かなにかと思われているのだろうか。

 チルノ達と同レベルと思われていると思うと腹が立ってきた。

 

「やっぱ皮剥ぐか」

「そ、そうだ!お兄さんたち永遠亭に行くんだよね!?だったら診察費と治療費無料にしてもらうように師匠に頼むからさ!それで許してくれない?」

 

 これからてゐ相手には皮剥ぐっていうのは使えるなと思い俺はこっそり脳内にメモしておいた。

 ん?あれ?

 

「永遠亭って金とんの?」

「そりゃ病院なんだからそうでしょうよ。夢幻そんな常識まで忘れちゃってるの?」

 

「いや、言ってみただけ」

 

 なんとなく永遠亭は無料で診てくれると思ってた。何故だろう。

 

「なーんだ。それで?夢幻はどうしたい?」

 

 妹紅はてゐをビビらせるためにそう聞いてきたのだろう。

 てゐが後ろでまた真っ青になってる。だが妹紅にその気は無いようだ。俺も同じ意見なのでてゐの提案に賛成した。

 

「てゐのていあん……ふふっ」

「!?」

「どうしたの?夢幻」

「今誰かここに居た?」

「いや私たちしかいないけどどうしたの?」

「そ、そうか……」

 

 今のは誰だったんだ? というか俺の脳内での考えを一言一句間違えずに呼んでいたのだろうか。怖すぎる。

 俺はだいぶ冷や汗を掻いたが話を先に進めようとする。

 

「まぁ金取られないならそれでいいかなって」

 

 我ながら強引すぎる話の戻し方だとは思ったが今少しパニックになっているのであまり考えられなかった。

 そういやそもそも今文字通り無一文だから金払うことになったら診てもらえなくてなってしまうことに気が付きてゐに少しだけ感謝した。

 

「ありがとうございます!」

「んじゃ、さっさと永遠亭に行こうぜ」

「そうだね」

「そうですね!」

 

 ……そういえばてゐ俺に敬語使ってきているが、俺はなにもしてないはずなのだが。妹紅のボスを演じはしたが。

 

「なぁてゐ?お前の皮剥ぐって言ったの妹紅だし俺なんにもしてないぞ?」

「……それもそうだ。じゃあ夢幻早く行くぞ」

「てゐ?」

「調子に乗って申し訳ございませんでした」

「よろしい」

 

 俺たちはてゐが増えて三人に戻ったこのメンバーで永遠亭へ向かう。




てゐの口調に特徴がなくて難しいです・・・
もういっそうさみんさんじゅうななささいにしとけばよかったかな?
まぁウサミン星人の代わりにダジャレの女王を少し出しましたが


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第八話 歌って踊れる兎

今回はデレマス要素が含まれていると言いますか、デレマスとのダブルパロディのような感じとなっておりますので、苦手な方は読まないほうがいいかもです。



 てゐをたっぷり懲らしめた夢幻たちは3人で永遠亭へと向かっていた。

 その途中で静かな竹藪の中から不思議な声が聞こえてきた。

 

 ミンミンミンミンミンミンウーサミン!ミンミンミンミンミンミンウーサミン!

 

 ……なんだ?この妙に頭に残る声。

 てゐとか妹紅なら知っているのだろうか?

「妹紅、てゐ。この声なんだ?」

「私は知らないよ?」

「妹紅は知らないか。てゐは?」

「……」

「てゐ?」

 

 てゐから返事がない。

 不思議に思っててゐのほうを見てみると、とても苦い顔をしていた。

「え、てゐ?どうしたんだ?」

「心当たりがある……」

 

 呆れているような声でてゐはそう返してきた。

 てゐは知っていたのか。

 

「それで?この声はなんなんだ?」

「新入りの兎だと思う」

「兎なんて次々入ってくるもんじゃねぇのか?」

「いや、まぁそうなんだけど。あいつは兎の中でも多分一番キャラが濃いから頭の中にしっかり残ってる」

 

 まぁ確かにこんな声を出している奴なのだからキャラは相当濃いのだろう。

 

「ふーん?まぁいいや。害はなさそうだし、さっさと行こうぜ」

 

 霊夢から音や唄で人を惑わせる妖怪とかもいると聞いていたので警戒していたが、それなら大丈夫だろう。

 そう思い歩き出した所でてゐから呼び止めてきた。

 

「ちょっと待って」

「ん?どうしたんだ?」

 

 そう言ったてゐの顔は先程までのふざけている顔でなくキリッとした顔になっていた。

 

「わたし、これでも兎を束ねる立場だから。ちょいと説教してやりたいんだけど。いい?」

 

 なるほど。そういうことか。

 正直さっきまでのこいつだったらそんなことは信じられなかったが今の顔つきを見ると確かに兎のボスなのだろうと思うことが不思議と出来た。

 

「まぁ、別に構わんが……」

「じゃぁちょっと呼んでくる」

 

 そういうとてゐは声のするほうへと走り出していった。

 

「うーい」

「わかったー」

 

 俺と妹紅はやる気のない返事をして、てゐを送り出した。

 

その直後に

 

「安部!ちょっとこっちこい!」

 

 てゐの怒号が静かな竹林に響いた。

 そんな大きな声出すなら、別に草むらのほういかなくてもよかっただろ。と俺は心の中でツッコミを入れたがだからどうと言うこともない。

 

しばらく経った後にてゐと共に先ほどの声の持ち主は草むらからそいつは現れた。

「てゐさん。もうわかりましたから。そんな怒らないでくださいよー……」

「うるさい安部!まだ説教は終わってない!」

「ウサミンかナナって呼んでくださいってば!」

「今はそんなことどうでもいい!」

「良くないです!」

 

 ウサミン?とか言うやつはてゐにいろいろ説教されたようでボロボロになっていた。

 

「えーと、まぁなんだ。お疲れ様」

「いえ、お気遣いありがとうございます。それでは、仕切り直して、コホン。ナナは歌って踊れる兎目指して、ウサミン星からやってきたんですよぉっ! キャハっ!」

「……」

「……」

「……」

「なにか言ってくださいよぉ!」

 

 これは……思ってた以上にキャラが濃いな。

 てゐが頭の中にしっかり残ってるって言ったのも納得だ。

 だがお気遣いありがとうございますとか言ってきた辺り案外真面目なのかもしれない。それならなぜこんなことになってるのだという疑問は残るが。

 

「ま、まぁがんばってるんだね!応援してるよ」

 

妹紅はウサミンに対して哀れむような目をしながらそう言った。

 

「お前は普通に発生したただの妖怪兎だろ」

「ちょ!?違いますって!」

 

 妹紅の目に気が付いて少し悲しそうな顔をしていたウサミンにてゐが止めを刺していった。

 キャラを作る姿勢を崩さない辺りは好きだな。

 

「んで、ウサミン?ナナ?はあんなとこでなにしてたんだ?」

「どっちでもいいですよ!ナナは歌って踊れる兎になるためにレッスンをしてたんです!」

 

 先ほど俺の前であれほど盛大にぶっちゃけられていたというのに心が強いなこの子。

 

「へー。あ、俺は夢幻な」

「興味ないなら聞かないでくださいよぉ!夢幻さんですね。わかりました!」

 

 この喋り方とか素直な感じなどがとても俺好みなのに気が付いた。一言で言うならばめちゃくちゃカワイイという感じだ。

 

「ナナってかわいいな」

「ふぇ?な、な、なにを言い出すんですか!」

 

 照れている姿もとてもカワイイ。

 

「え?いや、普通にかわいいなーって思ったからそのまんま言ったんだけど……」

「てゐさん、この人いつもこんな感じなんですか?」

「そうなの?妹紅」

「うん、そうだよ」

「やっぱりですか」

 

 おう妹紅。まぁ霊夢の時ですでに一回やらかしたのは否定できないがその一回だけだろうに。まぁいい。

 

「ところでナナ」

「はい?」

 

 ナナは少し拗ねたような顔をしながらそう返事してくれた。

 

「ナナ、なんか一曲歌えたり踊れたりする?」

「ええ、もちろんですよ!」

 

 歌って踊れる兎を目指しているナナにはそれを聞かれたのが嬉しかったのか拗ねた顔はどこへやら。にこやかな顔に戻っていた。

 

「じゃあちょっとここで見せてくれよ」

「はい!いいですよ!ちょっと待っててくださいね」

 

 そう言いながらナナは先ほど出てきた草むらのほうへ歩き出した。

 

「ん?どこ行くんだ?」

 

 そう俺が呼び止めるとナナは少し困ったような顔をしながら振り向き、遠慮気味に言った。

「さっきレッスンしてる最中にてゐさんに連れてこられちゃったので、CDとか置いてきちゃったんですよ~」

「ちょっと、わたしが悪いみたいな言い方やめろ」

 

 あ、遠慮気味に言ったのはこいつのせいか。

 

「なるほどな。手伝おうか?」

「いえ、大丈夫です。そこで待っててください!」

「そうか?」

 

 ナナはその言葉を聞いたか聞いてないのかわからないようなタイミングで草むらのほうへと走りだしてしまった。

 

ナナはその後手にCDとプレーヤーを両手に持ちすぐに帰ってきた。

 

「じゃあ、始めてもいいですか?」

「おう、いつでもいいぞ」

 

 俺がそう返事をすると、先ほど手際良く用意していたプレーヤーの再生ボタンを押した。

 そして、曲が始まった。

 

「そのとき空から、不思議な光が降りてきたのです・・・」

「それは…ナナでーっす☆

ああーっ、ちょっと引かないでください!

ウサミンパワーでメルヘンチェーンジ☆

夢と希望を両耳にひっさげ

ナナ、がんばっちゃいまーす☆」

 

 思ってた以上に濃い曲でナナらしい曲だった。これはいつ聞いてもナナの曲だと一瞬でわかるだろう。

 

その後も歌は続いた……

ミミミンミミミンウーサミン!

 

 

「どうでしたか~?」

 

 少し汗を掻いているナナは満面の笑みでそう聞いて来た。

 

「うん、ナナらしくてとてもよかったよ」

「ほんとですか!?そう言ってもらえてとても嬉しいです!」

 

 めちゃくちゃ幸せそうな顔をしている。

 そして俺はもう一つ持っていた感想を口に出した。

 

「あの曲すごい中毒性高いな」

「そうですか?」

「うん、今も頭の中でミミミンミミミンウーサミン!ってずっと流れてる」

 

 これは忘れられる気がしない。

 

「あはっ!確かにそうやって仲間たちにもよく言われます」

「また機会があったらナナの歌、聞かせてくれよ。」

「もちろんです!」

 

「じゃあ、そろそろ行くか」

「そうだね」

「みなさん、どこへ行かれるのですか?」

「夢幻、記憶喪失みたいでさ。永遠亭で診ておらうと思ってね。」

「え?夢幻さん記憶喪失だったんですか?」

「みたい。」

「そうだったんですか……ごめんなさい……」

 

 ナナは申し訳なさそうに頭を下げてそう言った。

「別に気にしてないからいいよ。まぁてことで、そろそろ行くわ。またな」

「いつでもお待ちしております~」

 

そうして俺たちはナナと別れ、歩き始めた。




ミミミンミミミンウーサミン!
以前からこの後書きでウサミンじゃないですよ!とか言ってたのに出すとかどんな神経してるんでしょうね。作者の顔が見てみたいですよ!(すっとぼけ
ウサミンの歌ったりしてる部分はどうしようかほんと悩みました…
ちなみに自分ははしぶりんと茜とウサミンの担当Pです。つまり……?


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第九話 到着

書くことがあんまりない・・・


 ナナと別れて俺たちはまた元のように静かな竹林を歩いていた。

 正確に言うとナナの歌声は聞こえてきているが。

 

 少し日が暮れ、竹林は少しずつ暗くなってきている。

 

「あーこりゃ帰る時には真っ暗だね。」

 

 妹紅のその言葉を聞き、俺は少し心配になってきた。

 なぜかと言えば夜は妖怪たちが活発になって危険だからと聞いたからだ。

 妹紅がいれば安心とも聞いているわけだが。

 

「わたしが言えば永遠亭で泊めてくれると思うけど?」

「お、マジで?」

 

 てゐからの思わぬ提案に俺は心を躍らせた。

 妹紅がいるから安全とは言われてるけど安全に帰れるならそっちのほうが良いに決まってる。

 

「ちなみに私は?」

「姫様が良いって言ったらいいんじゃない?」

「それダメって言ってるのと変わんないじゃん」

 

 妹紅と仲の悪い輝夜ってやつが永遠亭の主らしいのでしょうがないと言えばしょうがないのだろうか。

 

「なんとかできないのか?」

「無理だろうねー」

「まぁ、私はいつも通り自分の家で寝るから大丈夫だよ」

 

 妹紅がサラッと言った今の言葉を聞き俺は少し驚いた。

 

「え?妹紅ってマイホームあんの?」

「いや、いくら死なないって言っても寒いもんは寒いし、そんくらいはあるよ」

 

 なんとなくだが妹紅は不老不死なことも相まって衣食住にはあまり興味を持っていないと思っていた。

 だが妹紅が言ったように不老不死でも痛覚などはあるのだ。それならば家は必要だろう。

 

「まぁてゐ、一応聞いてみてくれ」

「はいはーい」

 

 

 そうこうして話しながら歩いているともうだいぶ暗くなってきた竹林の奥に明かりが見えてきた

 

「あれが永遠亭か?」

「そうだよー」

 

 見えている明かりの規模から察するに小さくはないようだ。

 

 永遠亭に少しの期待を持ちながらそのまま歩いて行くと、鬱蒼と生えていた竹藪が少しずつ開けてきた。

そしてその先には俺が想像していたよりずっと大きな屋敷が見えてきた。

 

「うお、でかっ」

「まぁねー。月の都の技術を駆使して建てられた屋敷だし、その辺の民家とは訳が違うよ」

 

 月の都やてゐのドヤ顔などツッコみたいところはいくつかあるがまぁ、ツッコまないでおいてやろう。

 

「さ、早く入ろうぜ?」

「「あ……」」

 

 俺が歩き出すと、二人がなにかを察したような声を出して目を背けた。

 そしてその次の瞬間、

 

 

 俺の足が宙に浮いた。

 なんだろうこのデジャブは。

 

 そしてやはり俺は落ちていった。

 

「はぁ……てゐか……」

 

 あいつまだ懲りてないようだな…

 穴から出たらしっかり懲らしめてやる…ってあれ?

 

「俺まだ落ちてるぞ?」

 

 てゐへの憎しみを募らせている時にそのことに気が付いた。

 落下し始めてから経過した時間などを考えても既にかなりの距離を落下してるはずだ。

  その疑問を解決しようと恐る恐る下を見てみる。

 

「えっ………」

 

 すると下は底が見えず真っ暗闇が続いていた。

 これは本当にシャレにならない。

 

「夢幻ー大丈夫ー?」

 

 上から妹紅の声が聞こえてきた。

 妹紅はこっちの状況がわかっていないはずだ。俺が死んでから犯人を捕まえてもらうためにも情報は提供しておかなければな。

 

「あー妹紅。よく聞きたまえ。俺はまだ落下している最中だ」

「あ、そうなの? ……ってえ?ちょ!? もう夢幻が落下し始めてからもうだいぶ経ってるよ!?」

「うん。俺死ぬみたいだわ。霊夢と慧音と藍さんによろしく頼むわ。どうか真相を暴いてください。それだけが私の望みです。とかまぁどこぞのミステリー小説みたいに言ってみたけど犯人はそこにいる兎だろうし焼いといて」

 

 恐怖のあまり逆に余裕が出てきている。

 しかし上から例のウサギの叫び声が聞こえてきた。

 

「ちょっと!?その落とし穴はわたしが仕掛けた落とし穴じゃないよ!」

 

 慌てて弁解しようとしてるみたいだが、無理がありすぎる。

 こんな凶悪な罠お前以外に誰が仕掛けるというのか。

 

「しっかしこれいつまで落ちるんだよ。もういっそ一思いにやってほしいんだが」

 

 そう呟いた直後、なにか網のようなものにキャッチされた。

 

「あれ?助かったのか?」

 

 俺がいまいち現在の状況を把握できていないところに聞いたことのない声が飛んできた。

 

「遂に引っかかったわね!てゐ!いつもの仕返しよ!」

 

 顔は見えないが恐らく相当なドヤ顔をしているのだろう。しかし引っかかったのはてゐではなく俺だ。

 

「ねぇねぇ、鈴仙?わたしここにいるけど?」

「怖かったでしょ?フフフ、これに懲りたらもういたずらはやめることね!……って、え?」

「あーあー。鈴仙が無関係な一般人に罠を仕掛けて落としたー」

「え?一般の人?え?嘘?」

 

 鈴仙とかいう最悪な野郎の声から自慢気な雰囲気は消え、代わりに焦りの感情がにじみ出てきた。

 

「ほんとだよー。ねー夢幻ー」

「おう、ほんとだぞ。とりあえずここから出してくれないか?」

「わ、わわ、わわわわわ。す、すみません!今すぐ引き上げますから!」

 

 そう言ってすぐに縄を投げてよこしてきた。

 掴まるとすごい力で引きあげられた。摩擦で手が燃えそうになった。

 

「ふー、久しぶりの外の空気だなー」

「一分も経っていないよ」

 

 てゐが無駄にツッコみを入れて来た。

 

「実際にはそうでも体感的には1時間くらいに感じたからいいんだよ!」

「あはは、でも無事でよかったよ」

 

 妹紅はそう苦笑いしながらそう言った。

 

「ほんとだよ…」

 

 さて、お説教タイムと行こうか。このブレザー着てるうさ耳野郎が鈴仙で間違いないだろう。

 

「鈴仙と言ったか?」

「はい……」

「夢幻、ちょっとストップ」

 

 俺がお説教を始めようとしたタイミングでてゐが止めてきた。

 

「なんだよ、てゐ?」

「夢幻がお説教するよりもっと鈴仙に効果的な人にお説教してもらうよ」

「誰だ?」

「ちょっと呼んでくるね」

 

 そう言いながらすごいスピードで永遠亭の中にてゐが入っていった。

 

「ま、まさか…」

 

 鈴仙がボソッとつぶやいた。

 そちらを見てみると顔は真っ青で凄まじい速さでガタガタと震えている。

 俺にはその効果的な人とやらが思いつかないというか知識の中に無いので頭の上にクエスチョンマークを浮かべて首を傾げることくらいしか出来ないのだが、鈴仙はもうその人物が誰か察しがついているようだ。

 

 

 数分後てゐは一人の女性を連れて帰って来た。

「ただいま」

「お帰り、ところで横の方は?」

「私は八意永琳よ。ここで医者をやっているわ」

「ああ、あなたが」

 

 赤と青のツートンカラーの服に十字マークの入った帽子とこれまた印象的な容姿を……

 そしてまたしてもすごい美人。

 

「それで、貴方が夢幻さんでいいのかしら?」

「え?あぁはい」

 

 すでに永琳さんには話は伝わっているようだ。

 てゐのお陰だろうか。話がスムーズに進むのでありがたい。

 

「この度はうちのウドンゲが申し訳ございません。たっぷり絞っておきますから」

「ひっ」

「ねぇウドンゲ?一切関りを持ったことのない?それも一般人を?罠に仕掛けるとは一体どういう了見かしら?」

 

 永琳さんの後ろに阿修羅が見える。なんかもう迫力がヤバい。見ているだけで泣きそうになってくる。

 

「まぁ、その件に関しては後でしっかり話を聞くとして、夢幻さんは私に用事があったのよね?」

「えぇ、ちょっと記憶喪失になっちゃったみたいで。診察してもらいたいのですが」

「わかったわ。こっちに来て頂戴」

「じゃあ夢幻、私はここで」

 

 妹紅がそう言って踵を返した。

  俺がついてきて欲しいと言ったのは忘れているのかそれとも聞く気がなかったのかどちらだろう。

 しかし永琳さんに肩を掴まれ、妹紅が不思議そうな顔をしながらこちらを向いた。

 

「何言ってるの?妹紅。夢幻さんは記憶喪失なんでしょ?だったら補足とかする人が必要でしょう。」

「え、でも輝夜が……」

「私が止めたら姫様はすぐにやめるでしょう」

「ま、まぁ確かにそうだけど……」

 

 そこまで輝夜とやらに会いたくないのだろうか。必死に逃げだす口実を考えているようだが永琳さん相手には敵わないと諦めたのだろう。溜息を小さく吐いた。

 

「いいから黙ってついてきなさい」

「はーい……」

 

 永琳が最後にそう言って永遠亭に入っていくと、妹紅も渋々ついていった。

 俺も妹紅に続いて永遠亭の中に入っていった。

 

「お師匠様ー。わたしはどうしたら?」

「ああ、そうね。てゐは鈴仙が逃げ出さないようにきつく縛って見張っておいて」

「はーい、わかりました」

 

 そうてゐが返事をした。

 なんとなくてゐのほうをちらりと見るとすでに鈴仙が縛られていた。

 いくら手馴れているからといって早すぎると思うのだが。まぁ縛るのが手馴れているというのもおかしな話だが。

 そう思いつつも口には出さず永琳と妹紅の二人に続いて、永遠亭の中に入っていった。




永遠亭に来るまでに時間かかりすぎちゃいましたテヘペロ
これからは出来るだけ更新ペース上げていく予定ですのでよろしくお願いします!


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第十話 胃痛

 俺は永琳さんに言われた通り大人しく後ろにくっついて永遠亭に入って行った。しかしそこには思いもよらぬ光景が広がっていた。

 廊下が長すぎるのだ。向こう側が見えない。

 先が真っ暗闇に見えるという共通点から、さっきの落とし穴のこと思い出して体が震えている。

 なにかの間違いではないだろうかと永琳さんに質問をぶつけてみる。

 

「あの~永琳さん。この廊下は一体どこまで続くんで……?」

「あ、ちょっと待ってちょうだいね」

 

 すると俺の質問には答えず、永琳さんが何かを始めた。

 なにをしているのだろう。永琳さんが何かを手元でやっているのはわかるのだが俺のところからは角度の問題で丁度見えない。

 そう思った直後、廊下が一気に縮んだ。

 

「は?」

「ふふ。そういう反応をしてくれる人は最近いなかったから、ちょっと嬉しいわね」

「あの、今一体なにをされたんですか?」

「そもそも廊下が永遠に続いていたのは私の術なの。」

 

 永琳さんが少しドヤ顔になりながらそういった。とても可愛いが今それよりも大事なことをサラッと言っていた気がする。

 

「永遠だったんですか?」

「ええ、そうよ。先が見えなかったでしょ?」

 

 永遠亭ってのはそこから名前を取っているのだろうか。

 もしかしてさっきの鈴仙の落とし穴も?いや、永琳さんはそんなことに手を貸すようには見えない。多分鈴仙が必死に掘り続けたのだろう。

 

「はぁ、なんだかすごいですね。でも、なんでそんなことを?」

「まぁここには貴重な物がたくさんあるから、それを盗む泥棒とか魔理沙とかに対する防犯システムみたいなものよ。普段はしてないんだけど今日は診察もお休みだったからね」

「魔理沙?」

「いえ、こちらの話よ。気にしないで」

 

 俺の前にいる妹紅が吹き出していたところを見る感じ笑うところだったみたいだな。

 俺としたことが……

 てか今日診察お休みだったのか。鈴仙のやったことのお詫びに診てくれるって感じなのかな?運が良かったのか悪かったのか。

 

「さぁ、こっちよ」

 

 そう言いながら永琳さんは金がふんだんに使われている襖を開けて、奥へと入っていった。

 それに続いて部屋に入った瞬間俺は言葉を失った。

 

「……は?」

 

 中には見たこともないような機械でいっぱいだった。

 

「ふふふふ。そこまで驚かなくてもいいじゃない。あなた、本当に面白いわね」

 

 永琳さんは本当に愉快そうに笑ったが、俺は未だに空いた口が塞がらない。

 

「こんなものがあったら誰でも驚きません?」

「いいえ、ここに初めて来た患者さんでもそんなに驚きはしないわ」

「そんなもんなんですか?」

「そんなもんなのよ。」

 

 俺のリアクションが大袈裟なのか、ほかの患者のリアクションが薄いのか。

 できれば後者であってほしいが。

 

「さ、座って」

 

 そう言って指差された丸い椅子に俺は腰かけた。

 

「永琳、わたしは~?」

「付き添いに椅子なんか出さないわよ」

「ちぇー。」

 

 答えが見えているのに聞く妹紅がかわいらしくて少しにやけてしまった。

 

「じゃあ、いくつか質問していくわね」

「はい」

 

 どんとこい。

 と言ってもほとんど何も憶えていないのだが。

 

「名前は?」

「黒露夢幻です」

「名前は憶えていたのね?」

「ええ」

「じゃあ、どこで目を覚ましたの?」

「えっと、確か……霧の湖周辺らしいです」

「らしい?」

「地名がわからなかったので霊夢に聞いたらそう言われたので」

「霊夢には会っているのね?」

「はい」

 

 あー、あとで霊夢に謝りに行かなきゃならないんだった。胃が痛くなってくる。

 

「ところで霊夢は来てないのよね?」

「はい?」

「霊夢はなんだかんだ言って優しい子だから、あなたみたいな人がいたら一緒に来てると思ったんだけど……」

 

 うっ、永琳さんが俺の胃を痛めつけてくる。なにせ霊夢が帰ってしまった原因の一つは俺にあるのだから。

 もう一つは勿論妹紅だ。

 

「夢幻さん?」

「あー永琳、それは私が答えるよ」

 

 俺が返事に困っているところで妹紅が助け舟を出してくれた。

 

「なんで?」

「夢幻にその質問はちょっとかわいそうだからね」

「?」

「えーとね。確かに霊夢も途中までは一緒に来てたんだよ。だけど、夢幻が霊夢のことを考えず発言しちゃってそれに怒って帰っちゃったんだよ」

「ああ、そういうことね」

 

 妹紅に対しての感謝の気持ちは一気に消え失せた。その通りなんだけれども言い方を少し考えてくれても良かったのではないかと思う。

 

「なるほどね。確かに夢幻さんならやりそうね」

「永琳さんあなたには俺がどんな風に見えてるんですか」

「ふふ、ごめんなさい。冗談よ」

 

 意外とお茶目なんだなこの人。

 しかし話してて頭が良いんだろうなってことがすごく伝わって来た。医者をやっているくらいだから実際頭は良いのだろう。

 

「話が逸れちゃったわね。それで、どこか痛いところはあったりしない?」

「てゐに仕掛けられた落とし穴のせいでケツが痛いです。あと、ずっと歩いて来たので足が痛いです」

「てゐ?」

「ええ、てゐ」

「あの子……」

 

 てゐには悪いが自業自得だ。やられっぱなしでは俺の気は収まらない。

 

「まぁそれは後でキッチリ処理するとして、頭とかは?」

「特に」

「わかったわ。そうねぇ、一旦CT撮ってみましょうか」

「しーてぃー……?」

「簡単に言えば脳を透かして撮るってことよ。」

「なにそれこわい」

「怖くないわよ」

 

 脳を透かして撮るとかどんなだよ。こえぇよ。

 

「そこの部屋に入って、その中に置いてある機械に寝て頂戴」

 

 CTなる謎の単語に怯えるが医者である永琳さんの指示に逆らって良いことは何もないので諦めて指示に従う。

 

「はい」

「私はどうすれば?」

「もう用済みと言えば用済みだけど外に行く間に輝夜に遭遇して面倒起こされても困るし私についてきて頂戴」

「はーい」

 

 二人のそんな話を聞きながら永琳に言われた部屋の襖を開けると、非常にごつい機械が置いてあった。

 畳の上に置いてあり、雰囲気的にあってない気がするのだがまぁ俺がとやかく言うことでもないだろう。

 そう一人で納得しながら言われた通りに機械の上に寝っ転がる。

 すると驚くことが起きた。

 

「あーあー。聞こえる?」

 

 この場にいない永琳さんの声が聞こえたのだ。

 

「その反応は聞こえてるってことでいいのよね?今はスピーカーを通して話かけてるのよ。」

 

 スピーカーとかいうまたもや出てきた聞いたことのない単語に頭を抱えつつ心を落ち着かせた。

 

「ところで永琳。あの機械で検査する人って変な服着てなかった?」

「よく知ってるのね。まぁ大丈夫でしょ」

 

 まぁ大丈夫でしょという医者からあまり聞きたくない言葉が出てきてしまった。非常に怖い。

 

「じゃあそのままじっとしてて頂戴ね」

 

 そうスピーカーから流れた直後プチッという音がしてなにも聞こえなくなった。

 代わりに俺が寝っ転がっている機会がウィーンという音を立てながら動き出した。

 なにをされるんだろうとビクビクしているとスピーカーからまたぶちっという音が聞こえてきてその直後に永琳さんは言った。

 

「はい、終わりよ」

 

 その言葉を聞いてなにも返答出来なかった俺に対して永琳は続けてこう言った。

 

「もう出てきていいわよ」

「え?」

 

 なにもしていないし、なにもされてないのにもう終わったと言われてもどう反応したらいいのだろうか。

 とりあえず永琳さんに言われた通りに部屋を出て先ほどの診察室へ戻った。

 

「お疲れ様」

「疲れるようなことなにもしてないです」

「まぁ、それもそうよね。ふふ」

「夢幻が困惑してるのを見てるの、楽しかったよ」

「うるせぇ」

「それで、これを見てちょうだい」

 

 永琳さんが持っている棒の先には変な似たような写真が並べられていた。

 

「これは?」

「あなたの脳の写真よ」

「ああ、さっき撮ったという」

「ええ。それで、これを見ても特になにも異常は見当たらないわ」

「そうですか」

「そうですか。って…まぁいいわ。とりあえず私に出来ることはなさそうね」

 

 あんなごっつい機械を使ってもわからないのなら異常は無いと思うのだが。

 というか医者にわからなかったら俺にもわからないだろう。

 

「あ、そうだ。あなたのこと気に入ったからこれ渡しておくわね」

 

 そう言って永琳さんはカードを渡してきた。

 

「これは?」

「まぁ永遠亭に診察とか関係なく遊びに来ることを許可するパスポートみたいなものよ」

「へー」

「もうちょっと喜んでくれてもいいんじゃないかしら? これを渡すなんて滅多にないんだから。まぁいいわ、これを永遠亭の玄関のところにある機械にスキャンしてもらえば診察してる途中じゃなかったら私が会いに行くわ」

 

 最後の一文は勿論俺は聞き逃さなかった。毎日妹紅に連れてきてもらって毎日使おう。

 

「永琳、夢幻のこと本当に気に入ったんだね。それ、永遠亭に住んでる兎たちと依姫さんと豊姫さんくらいにしかまだ渡したことないでしょ」

 

 永遠亭に住んでる兎は業務的に必要だろうから除くと俺入れて三人だけなのか。特別扱いされるのはとても嬉しい。

 

「ええ、夢幻さん面白いじゃない?」

「確かに」

 

 永琳さんに特別扱いされたお返しとは言ってはなんだが一つ提案してみる。

 

「永琳さん良かったら俺のことは夢幻って呼び捨てで呼んでいただけませんか?ちょっとさん付けで呼ばれると違和感が……」

 

 相手はお医者さんという立場なので一歩引いて喋っていたがここまで特別扱いされたら大丈夫だろう。

 

「いいわよ。そういうことだったら夢幻も私のこと永琳って呼んでちょうだい。そっちのほうが仲良さそうじゃない? あと、敬語じゃなくていいわよ」

「ん、わかった。じゃあ永琳な」

「ふふ、少しも躊躇わないのね。そういうとこも好きよ」

 

 一気に永琳からの好感度が上がった気がする。恐らく前からこの程度の好感度だったんだろうが、敬語じゃ無くなったからだろうか。タメ口というのは偉大だと思った。

 

「さてと」

 

 永琳が立ち上がった。

 

「どこ行くの?」

「てゐを懲らしめにね」

 

 なるほどそのイベントが残っていたか。

 遂に仕返しが出来るとなると不思議と口角が上がってきてしまう。

 

「俺も付いて行っていい?」

「私もー」

「別に構わないわよ。じゃ、行きましょう」

 

 そう言って俺らは部屋を出た。




 夢幻の知識はあくまで中の世界での知識という設定になっております。
 でもまぁじゃあなんでそれ知ってるんだよ。みたいな矛盾が出てきてしまいますがその辺は見逃してもらえればと…


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第十一話 お前のことは忘れない

意味深なサブタイトル…


 永琳と共に、てゐと鈴仙の元へ向かう。

 が、その途中にあるT字になってる廊下で永琳が立ち止まりこう聞いて来た。

 

「二人のところへ行く前に、寄りたいところがあるんだけどいいかしら?」

「別に構わんよ」

「ありがとう」

 

 断る理由も無いのでそう答えた。

 すると、永琳は玄関とは反対の方向へと歩き出した。どこへ行くのだろう。

 

 少し歩き、廊下を一回曲がったところで永琳はまた立ち止まった。

 

「じゃあ、ちょっとここで待っててくれる?」

「なぁ、ここ……なに?」

 

 俺がそう言ったのには理由がある。

 その理由とは、立ち止まった目の前の襖が他の襖とは全く違う雰囲気を放っていたからだ。そもそも見た目からして違う。

 他の襖は金をふんだんに使用した豪華な和風の襖なのだが、この襖だけはどぎつい黄色と黒が交互に並べられているのだ。

 

「ここはいろんな薬品が置いてある部屋よ」

「いや、薬品置いてるだけだったらこんな襖にする必要なくないか?」

「いろんな薬品と言ってもいろんなものがあるのよ?」

 

 永琳が意味深な笑みを浮かべながらそう言ったことに対して恐怖を感じた。

 だがそれ以外にもなにか理由がある気がするのだが……しかし永琳が教えてくれなければわかるはずも無いので諦めた。

 

「てか、なんでお仕置きの前にここに立ち寄ったんだよ」

 

 そこまで口にした瞬間、俺の頭に一つの仮定が浮かんできた。

 

「なぁ、永琳。まさかとは思うけどその薬品をお仕置きに使ったりするなんてことはないよな……?」

「そのまさかよ?」

 

 サラッと言った辺りに永琳のSさがわかってしまった気がする。

 それにしても薬品でお仕置きされるてゐと鈴仙に少し同情してしまった。

 まぁ何度も言うが自業自得だししょうがない。

 

「じゃ、待っててね」

 

 そう言い残すと永琳は異様な雰囲気を放っている襖を開けて奥へ入って行ってしまった。

 

「なぁ、妹紅。永琳ってドS気味のやつだったのか?」

「気味っていうかドSそのものだよ」

 

 そう妹紅が口に出した瞬間、開きっぱなしの襖の向こうから注射器が2本飛んできた。

 

「妹紅~?夢幻~?聞こえてるわよ~?」

「「ご、ご、ご、ごめんなさい!!!」」

 

 二人ピッタリ息を合わせて大声で謝った。

 すると永琳が慌てたような声で言ってきた。

 

「ちょ、ちょっと!夢幻はいいとして妹紅、あなたがそんな大きな声を出したら…!」

「ん?」

「あ……」

 

 なんのことか理解できてない俺とは裏腹に、妹紅が真っ青になっていった。

 その直後、廊下を走ってくる音が聞こえた。

 

「妹紅!いるんだったら出てきなさい!」

「か、輝夜……!」

 

 その単語を聞いてようやく気付いた。妹紅と仲の悪いらしい輝夜だな。

 しかし声はとても近いところから聞こえているしどうしてもエンカウントは避けられないはずだ。

 そう考えた直後襖の向こうから手が伸びてきて、妹紅を引きずりこんでしまった。

 そして襖も閉められた。

 

「あ……」

 

 俺は廊下に置いていかれてしまった。

 その直後、輝夜らしき人物が角を曲がってき、その姿を現した。

 

「貴方……誰?」

 

 そいつは俺のほうを見てきょとんとしながらそう問いかけてきた。

 

「俺か?俺は黒露夢幻。夢幻って呼んでくれ」

 

 出来るだけ自然にふるまおうとしたのだが失敗した。逆に不自然だ。

 しかしそいつは気にした様子もなく続けて質問してきた。

 

「そう。それで夢幻はなんでこんなところにいるの?」

「永琳に着いてこいって言われたから言われるがままに着いてきただけだが?」

「……本当に?」

 

 非常に疑われているがそれも仕方ないだろう。いくら医者の家だからと言って休診日にしかもこんなところに不審人物以外の何者でもない。

 ここで俺は一つ思い出した。先ほど永琳に貰ったパスポートだ。

 永琳に信頼されているとなれば信じてもらえるだろう。そう思い、俺は先ほど永琳に貰ったパスポートを見せた。

 

「あら、本当みたいね。疑ってごめんなさい。ところでここら辺に妹紅いなかった?」

 

 思った以上に効果があったようだ。

 そしてやはり来たかこの質問。だが正直に答えるわけもない。

 

「いや?見てないけど」

「そう……妹紅を見つけたら教えて頂戴ね」

「わかった。ところで君は輝夜でいいんだよな?」

「ええ、蓬莱山輝夜よ。永琳に聞いたのね」

「ああ。じゃあな」

 

 そう俺が言うと輝夜は走り去ってしまった。

 

「ふ~」

 

 ぼろが出ないか心配だった。それにしても輝夜は和風美人という感じで妹紅とは別のベクトルで可愛かった。あの二人見た目だと結構対照的でいいと思うのだが。

 そのようなことを考えていると襖の向こうから妹紅の声が聞こえてきた。

 

「夢幻、もう行った?」

「ああ、もうどっかへ走って行っちまったよ。」

 

 襖の奥からの小声での永琳の問いかけに同じように小声で答える。

 

「はー……」

 

 俺の返事を聞いて、安堵した顔で永琳と妹紅が出てきた。

 永琳は謎の薬瓶を両手に持って。

 

「まったく。妹紅はもっと気を付けてちょうだい」

「はい。すいませんでした」

「さ、行きましょう」

 

 そう言うと、輝夜から逃げるように素早く玄関のほうへと向かった。

 

 

 

 

「あ、お師匠様ー。遅かったですね!」

 

 てゐがとてもにこやかな顔をして俺たちを出迎えてくれた。

 この後に地獄が待っているとも知らずに。

 

 そして何故か鈴仙はどこから持ってきたのかわからない木材を使って作られた吊るし台に吊し上げられていた。てゐは建築士かなにかなのだろうか。

 しかしてゐをどうやって捕まえるんだろう。あいつすばしっこいから簡単には捕まえられないと思う。

 そのような不安を込めて永琳を横目で見ると永琳はウインクで返事をしてきた。

 なにか策があるようだ。

 

「ところでてゐ」

「なーに?ご師匠様!」

 

 てゐがめちゃくちゃ生き生きしている。可哀想に。

 

「あれ、どう思う?」

「え?」

 

永琳の作戦が理解できたが、てゐは意外と賢い。そのような手に引っかかるのだろうか。

 そう不安に思っていたが予想に反しててゐは永琳が指差した方を向いた。永琳がそのてゐに永琳が素早く近寄る。そしてどこから出したのか、注射器をてゐに突き刺し中の薬品を注入した。

 

「あっ」

 

 そう小さく声を上げた直後てゐは崩れ落ちた。

 

「ちなみに永琳、その薬品は?」

「麻痺薬よ」

「くっそ~。いつもならこんなの引っかからないのに。浮かれてた……」

「馬鹿ね」

「?でもちょっと待ってよご師匠様。わたしなにもしてなくない?」

「夢幻を落とし穴に落としたらしいじゃない?」

「あっ」

 

 てゐが俺たちのほうに恨むような目を向けてきている。

 

「「自業自得じゃん?」」

 

 俺と妹紅が綺麗にハモった。

 

「で、でも!それだったら妹紅も一緒に笑ってたじゃん!」

「どうなの?夢幻」

「いや、確かに妹紅も笑ってたけど仕掛けたのはあいつ一人だし。妹紅は別にいいよ」

「贔屓だ!」

 

 そうてゐが叫んだ。しかし残念お前が悪い。

 

「さてと、麻痺が解けない内にてゐからやっちゃいましょうかね。妹紅も手伝ってちょうだい」

「うーい」

「あれ?俺は?」

「貴方がやるといろいろ問題になっちゃうからあなたは見といて」

「?まぁ、うん。わかった」

 

 俺がやると問題になるお仕置きってなんだろう。

 

「じゃあ、てゐ暴れないでね?」

「今回だけは許してー!」

 

 そうてゐが叫んだが、永琳は気にせずお仕置きを始めてしまった……




サブタイトルに深い意味はなかったです。むしゃくしゃしてやりました。反省はしていません。後悔もしていません。

もう少しで永遠亭の話は一旦終わる予定です。


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第十二話 永遠亭の夜

サブタイトルネタ切れです(早い


 あれは惨かった。この世の終わりを見たようだった。

 俺は永琳によるてゐと鈴仙に対するお仕置きという名の処刑を思い出して、そのような感想を浮かべていた。

 麻痺薬を注入されて身動きが取れなくなったてゐは鈴仙と同じように吊るされ、その後は……言葉にするのもおぞましい。

 そして今俺の前には意識がなくなったてゐと鈴仙が横たわっている。

 

「なぁ、永琳。こいつらどうすんの?」

「ここに置きっぱなしにしとくってのはどうかしら……」

「いや、駄目だろ」

「まぁ冗談よ。でも別にそれでも大丈夫なのよ?」

「危ないだろ。妖怪とか出るんだろ?」

「ええ」

「いくらてゐがこの辺の兎を束ねてるくらいすごいとは言え……あ」

「そういうことよ」

 

 なるほど、すでに俺の知識の中に答えは合ったってことか。

 

「さてと。妹紅こいつら永遠亭に入れるの手伝ってちょうだい」

「えー」

「あら、あなたもこの兎たちと同じ様になりたいのかしら?」

「なんでもお申し付けください」

「助かるわ」

 

 恐怖で人は支配するとはまさにこのこと。あの妹紅が一瞬で忠実な部下へと早変わり。

 

「永琳、俺は?」

「んーどうしようかしら。どうしたい?」

「足と尻が痛い」

「私が湿布貼ってあげましょうか?」

「いえ、自分で貼ります」

 

 永琳に貼ってもらうってのはなかなか良い提案だがまだ俺にはその勇気は無かった。

 

「まぁ、本当に足とか痛いなら先に休んでてもらってもいいけど?」

「んー。そうしたいけど今日どこで寝ていいのか知らんしな」

「あー。普通なら鈴仙にそういうのはやらせてるんだけど、今この有り様だしねぇ……」

 

  それをやった犯人が何を言っているのだろうか。しかしそれを口に出してしまうと俺もこいつらと同じ死体になってしまうと思い口に出すのは堪えた。

 

「まぁ手伝うよ」

「とは言っても私と妹紅で一人ずつ持っていくし、あなたが出来ることってなにかあるかしら……」

「ないね」

「ないか」

 

 妹紅が持ってく分を俺が持ってくって発想はないのだろうか。まぁ悔しいが俺より妹紅のほうが力あるだろうし、仕方ないか。

 

「まぁいいわ。後ろくっついて来といてちょうだい」

「うーい」

 

 俺の役職は賑やかしになったようだ。

 戦士1、僧侶兼魔導士兼その他1、賑やかし1、死体2ってどんだけパーティー編成下手なんだろう。などとしょうもないことを考えつつ、永遠亭の中に再び入って行った。

 

 

 

 

 その後、てゐと鈴仙は永琳の手によって謎の機械の上に固定されて放置されたようだ。そして妹紅は輝夜に遭遇しないようこっそりと俺に別れを告げ帰って行った。

 俺はと言うと永琳が敷いてくれたふっかふかの布団で永琳と二人でぐっすり寝て……

 

「…なんでお前がここに居るんだよ!」

「あら、別にいいじゃない」

「よくねぇよ!」

「私だって寂しいときはあるのよ?」

「はいはい、わかったから早く出てけ」

「釣れないわねぇ……」

 

 悲しそうな顔をしながらそう言って永琳は部屋を出て……行かない。

 

「永琳さん?」

「あら、一緒に寝る気になってくれたの?夢幻」

「いや、そうじゃなくてだな」

 

 はぁ……頭まで痛くなってきちまう。

 

「なんで俺の横でもう一枚布団を敷こうとしてるんだよ!」

「なんでって言われてもここわたしの寝室だし」

 

 その言葉に衝撃を受けた。ここで寝ろと言われたのでその通りにここで寝ようとしたのだが永琳の寝室だなんて聞いていない。

 

「……他の部屋って空いて無いか?」

「他の部屋は輝夜が占領してるから空いてないわねぇ……あ。一つだけ空いてる部屋があるわね。」

 

 最初からそこを教えてほしかった。

 

「お!どこだ?教えてくれ!」

「薬品部屋」

「…一緒に寝ようか」

「嬉しいわ」

 

 そうして俺は仕方なく永琳と共に寝た。もちろん、特に何も起きなかった。

 

 

 

 

「はぁ~あ」

 

 俺が目を覚ました時にはすでに外は明るくなっていて、永琳の姿もなかった。

 

「さて、どうするか」

 

とりあえず誰かいないか読んでみよう。

 

「おーい!誰かいないかー?」

 

 そう叫ぶと廊下から走って誰かがこちらに来る音が聞こえてきた。

 そして数秒後

 

「夢幻!よくもわたしを売ったな!」

 

 てゐが勢いよく襖を開け、俺をすごい形相で睨みつけながらそう言った。いつもの俺ならその形相を見てひるんでしまったかもしれないが、今は余裕をかましていられた。

 

「夢幻!お前だよ!お前に言ってるんだよ!」

 

 てゐがなにを言おうと俺にはノイズにもならない。

 なぜなら

 

「夢幻、おはよう」

「おう、おはよう。永琳」

 

 てゐが勢いよく開けた襖の向こう側に死刑執行人の姿が見えたからだ。

 

「え、あ、あ。お師匠様。これはえーっと違うんですよ。あのーなんというか」

 

 てゐが物凄い量の汗をかきながら、昨夜の鈴仙をも上回るスピードで震えながら言葉を振り絞っていた。

 

「あら、てゐ。こんなとこで何をしていたのかしら?」

「えーっと。あ、そうです!夢幻が起きてきたのでおはようの挨拶をしようと」

「そうなの?夢幻」

 

 お前も後ろから聞いていたというのに、段々と逃げ道を無くして追い詰めていくとはやはり中々のSだな。

 

「俺の顔を見るやいなや、よくもわたしを売ったな!とか言ってきたぞ」

「あら、そうなの。てゐ、夢幻はそう言ってるけどなにか弁解は?」

「うぅ、ございません……」

 

 てゐがこの世の終わりのような顔でこちらを見ているが気にしない。犯罪者に同情してはいけない。

 

「そう。わかったわ、てゐ。後でわたしのところに来なさい?あなたが前から知りたがっていた薬品についての授業をたっぷりしてあげるわ」

「はい……」

 

 全部お前が悪いんでしょうがない。

 

「んで、永琳。俺はこれからどうしたらいいんだ?」

「昼過ぎくらいに妹紅が迎えに来るらしいから、それまではまぁ朝食食べた後はみんなでゆっくり過ごしましょう。今日は医者としての仕事もちょうどお休みだしね」

「うーい」

「朝食はどうする?わたしや輝夜たちと一緒に食べるか後で一人で食べるか」

「それ一人で食べる利点無いだろ。お前らと一緒に食べるよ」

「そういうと思ったわ。じゃあ着いてきて頂戴」

 

 見るからに生気が無いてゐも一緒に俺と永琳は朝食を食べに向かった。




十一話にしてようやく一日目が終わりました…
スローペースにもほどがある。誰だよ!こんなスピードで書いてるやつ!私です!
まぁ一年経っても一日が終わらないような漫画もありますし....ね?


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第十三話 朝食

朝食回。
若干のキャラ崩壊ご注意を(今更


 俺が永琳に連れられ朝食会場に着いた時には既に輝夜と鈴仙は食べ始めていた。一緒に食べるってなんだろう。

 輝夜は俺を見かけると意外そうな顔をしながら挨拶してきた。

 

「あら、夢幻おはよう。泊まって行ってたの?」

「ん、輝夜おはよう。そうだぞ」

「ふーん」

 

 あまり興味がなさそうだ。まぁ既に永琳がいるのにこれ以上俺に興味津々なやつが増えられても困るし別にいいのだが。

 

「鈴仙もおはよう」

「お、おはようございます……」

 

 こっちは俺に怯えすぎだ。俺お前にはほんとなにもしていないはずなのだが。というかむしろこっちが被害者なんだが。

 

「あら、鈴仙元気がないわね。どうしたの?」

 

 今気づいたがここに居るメンバーで知らないのは輝夜だけだ。

 

「実は昨夜、夢幻さんに痛めつけられまして……」

「おい!」

「え?夢幻ほんと?」

 

 輝夜がドン引きしている。どう責任を取ってくれるつもりなのだろうか鈴仙よ。

 

「いえ、輝夜。違うわよ」

「サンキュー永琳。」

 

 俺が言うよりも永琳に言ってもらったほうが輝夜にとっては信じやすいだろうしな。

 

「あら、永琳が説明してくれるのかしら?」

「ええ、そうよ」

「お、お師匠様!」

 

 鈴仙が泣きそうな顔で永琳に飛び掛かった。いや、泣いているな。

 

「別に輝夜ならいいじゃない。輝夜だったら何もしないわよ」

「前そう言ってお師匠様が姫にチクった後、姫すごい棘のある言い方してきたりして扱い滅茶苦茶だったんですよ!?」

「そうなの?輝夜」

「なんのことかわからないわね」

 

 なるほど、鈴仙はいじられキャラだったようだ。認識を少し改めなければな。

鈴仙はいじれらキャラ……鈴仙はいじられキャラ……鈴仙はいじられキャラ……」

「私はいじられキャラじゃないです!」

 

 いつの間にか口に出ていてしまったようだ。

 

「鈴仙はいじられキャラじゃないの。ねぇ永琳」

「ええ、鈴仙はいじられキャラよ?」

「わたしも鈴仙はいじられキャラだと思う」

「ちょっとぉ!?」

 

 三人の同意が得られたからいじられキャラでファイナルアンサーだ。

 

「で?永琳。説明を早くしてちょうだい」

「ああ、ごめんなさい。ええとね、まぁ簡単に言うと鈴仙がなにもしてない無実の夢幻を落とし穴に落としたのよ」

「簡単に言いすぎじゃないですか!?」

「あら、鈴仙が完全に悪いじゃないの。ふーん」

「ああもう…私のストレスが溜まっていく一方に……」

「ああ、そういえば純狐のこともあるしねぇ……」

 

 純狐とは誰のことだろう。まぁいい、てかそろそろ飯食わないと。

 

「んで、永琳これ食っていいの?」

「ええ、いいわよ」

「美味そうだな。いただきます」

 

 よく見たことない肉と白米とみそ汁と漬物か。肉以外は和食のテンプレートとも言えるようなメニューだな。でもなんかすっげぇ美味そう。

 

「美味そうより美味いのほうが嬉しいのだけれど」

「え、これ永琳が作ったの?」

「ええそうよ」

 

 そうだったのか。なんとなく永琳は料理できないイメージがあった。

 永琳にできないことなんかあるのだろうか?ってうま!なんだこの朝食うま!

 

「うっま。やばいこれめっちゃ美味い。こんな美味い。こんな美味いもん食ったの初めてだ!」

「あら、典型的な褒め言葉三連発ね。ちょっとつまらないわねー」

「いやこれ美味すぎて言葉が出てこない。語彙力が死んだ」

「じゃあもっと食べられるわよね?」

「もちろんだ!これだったらいくらでも食えるぜ!」

「あらそう」

 

 今の永琳の言葉になにか恐ろしさを感じだが何故だろう。

 その疑問はすぐに晴れた。

 

「はい、じゃあこれ全部食べてね」

「……は?」

 

 そう言いながら永琳が持ってきたのは永琳の身長に届きそうなほど盛られたごはんと鍋一杯に入ったみそ汁とどんぶり一杯分の漬物だった。

 

「なぁ、永琳。食べ物で遊ぶのは良くないと思うぞ?」

「遊んでなんかないわよ?おいしいって言ってくれる人にたくさん食べてもらいたいと思うのは当たり前じゃない」

 

 なんなのだろう。この悪意のなさそうな悪意の塊は。

 

「永琳なにか怒ってるのか?」

「いいえ?怒ってなんかないわよ。むしろ夢幻がおいしいって言ってくれたから機嫌が良すぎるくらいよ?」

「じゃあこの仕打ちはなんですか?」

「仕打ちってなにかしら?さっきいくらでも食えるぜ!って言ってたじゃない」

「いや、まぁ言ったけどさ。流石にこの量は無理じゃないかな?」

「あら、私の作ったご飯が食べられないというの?」

「いやだからそうじゃなくてだな……」

 

 なぜ姑みたいなことを言われなければならないのだろう。

 というかこの状況どうしよう……これ本当に食わないといけないのだろうか?

 鈴仙でも輝夜でもてゐでも誰でもいいから誰か助けてくれ…

 そう思い三人の顔を見るとなにかを堪えるような顔をしている。いや、そのなにかの正体はわかってる、笑いだ。笑いを堪えている。そんなに俺が虐められてるのが楽しいのだろうか。

 ……いやなにかが違う。こいつらはそんな奴らじゃ多分ない…よく見ると永琳も若干笑いを堪えてるように見えるぞ…なんなんだ。訳がわからねぇ…

 俺は疑問の迷宮に囚われそうになっていた。

 

「ブフッ」

 

しかしその迷宮の壁は輝夜の笑い声により壊された。

 

「あっははは!ごめんなさい。もう耐えられないわ。永琳いくらなんでもやりすぎよ!夢幻困ってるじゃない。あっはは!」

「姫様が最初に崩れたかー」

「輝夜が笑うなんて珍しいわね」

「だって夢幻の顔が!あはははは!」

 

 迷宮の壁は壊されたが更に置いてかれた。

 

「どういうことだ?」

「さすがに永琳でもこの量を一人に食べさせるなんてしないわよ。冗談に決まってるじゃない。それなのに夢幻ったら……あはは!」

 

 冗談?

 冗談ということはさっきの永琳のも演技なのか。絶対に役者に向いていると思う。後でおすすめしておこう。

 

「じゃあこの大量の朝食はなんだよ。やっぱり遊んだのか?」

「違うわよ。これはみんなの分よ」

「みんなの分だぁ?」

「ここにいる5人でこれを食べるってだけよ」

「いや5人でもこの量はキツくねぇか?」

「一人一人が普通の胃袋だったらキツいでしょうね」

 

 普通の胃袋¨だったら¨ということは……

 

「誰だ?」

 

 その質問の答えは永琳と鈴仙とてゐの指が教えてくれた。

 そうつまり、

 

「私よ」

 

 輝夜だった。

 

「え、輝夜ってこんなにスレンダーなのにそんなに食うのか?」

「ええ。輝夜のその体の中にどうやってそんなに入るのか私も不思議で不思議で」

「姫の食べる量は相当だよー。まぁ見てたらわかるって」

 

 そんなにか……楽しみにさせてもらおう。

 

「さて。じゃあ輝夜。そろそろいいわよ」

 

 永琳がそう言うと同時に俺の目の前にあった大量の朝食が一気に減った。

 

「え……」

 

 何が起こったのだろうか。答えはわかってはいるのだ。わかっているのだが信じられない。

 確認のために横を見ると輝夜がすごい勢いでそれを口の中に放り込んでいる。間違いないようだ。

 放り込んでるというより口の中に吸い込まれていってると言ったほうが正しいかもしれない。なんだこいつは。ブラックホールか何かか?

 俺がそのような考察を繰り広げている間、鈴仙とてゐは横で醤油の取り合いを始めたりしていた。

 まぁ、とりあえず俺も食おう……

 そうして賑やかな朝食の時間は過ぎていった…




ほんとにただの朝食回。
次の次かさらにその次くらいで物語が大きな変化を迎えるかもしれません…
というか本来それ十話くらいでやっとく予定だったんですけどね。
今は起承転結の起のところです。もう少しで承に移行ですね。
この物語は転の部分がめっちゃ長くなります。
数年くらいは(リアルタイムで)続くと思います。てか続きます


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第十四話 さようなら

いつもよりは長くなっちゃいました!
申し訳ございません!


「夢幻?入っていいかしら?」

「どうぞー」

 

 朝食を食べ終えみんなで少し談笑をした後、永琳の寝室に戻りゆっくりしていたところに永琳が入ってきた。

 

「自分の寝室だから聞く必要は無かったかしらね」

「まぁそれもそうだな。んで?どうした?」

「お迎えが来たわよ」

「あれ?もうそんな時間か?」

 

 時計の方を見るとまだ長針は11時を指していた。

 

「ちょっと早くねぇか?」

「まぁ何時とは言っていなかったし昼頃だから間違ってはないわよ」

「そうか」

 

 昼食もここでお世話になるつもりだったのだが。というかこのまま出て行って昼食どこで食うんだろう。俺は金を持ってないのでどこかで食べるなんてことも出来ないし。

 

「昼食はどうする?」

 

 永琳も俺と同じようなことを考えていたようだ。

 

「んー。ここでお世話になるつもりだったんだが妹紅を追い返すわけにもいかないしな」

「そうねぇ。輝夜がいるから一緒に食べるってこともできないし」

「でも俺ここ出ても金とか持ってねぇし飢え死にして終わりだぞ」

「まぁ確かにそうねぇ。妹紅はほぼほぼサバイバル生活みたいなものだし霊夢に集ろうものなら飢え死にの前に死んじゃうしねぇ……」

「…妹紅のほうはわかるんだが霊夢のはどういうことだ?」

「霊夢ねぇ、あんまりっていうかほとんどお金無いのよ。妖怪退治とかの依頼よく受けてるのにこれは義務ですから。とか言っちゃって報酬受け取らないのよ。なんでかしらねぇ」

「へぇ、霊夢そんなことしてたのか。じゃあどうやって生活してるんだ?」

「お賽銭を使ってるわ」

「えぇ……」

 

 お賽銭箱の金使うってのは巫女としてどうなのだろうか。それなら普通に報酬受け取ったほうが良いと思うのだが。

 

「んーそうねぇ。少し待っててくれるならお弁当作ってあげられるけど」

「マジで!?」

 

 最高の提案だ。永琳の美味い飯は食べられるし妹紅を追い返す必要もない。唯一残念なところを上げるとするならな永琳たちと一緒に食べられないということだが、しょうがない。

 

「えぇ。あんまり凝ったものは出来ないけど」

「妹紅に話つけてくる!」

 

 俺はそう言って勢いよく部屋を飛び出して玄関のほうへ向かった。

 

 

 

 玄関が開いていたため俺はその勢いのまま外へ飛び出した。

 

「うわっ!」

 

 妹紅は飛び出てきた俺をすれっすれで避けた。

 

「よう妹紅!おはよう!」

「おはようじゃないよ。なんでそんな勢いで飛び出してくんのさ……」

「妹紅に早く会いたかったからさ」

「はいはい。んで?どうしたのさ」

「なにが?」

「その様子だとまだ戻らないんでしょ?」

「なんでわかるんだよ」

 

 まるで熟年夫婦のようだ。

 

「いやなんとなくだけど」

 

 熟年夫婦だったようだ。

 

「まぁその通りだ。何故だかわかるか?」

「わかんないから聞いてるんだけど」

「正論を言うなよ。んで答えを教える前に、お前昼食どうするかとか考えてるか?」

「ん?そういや考えてなかったな。…あぁなるほどね」

「うん、察しが良くて助かるよ。そういうことだ」

「んーわたしはどうしたらいいんだろう」

「昼食のことか?それとも待ち時間のことか?」

「どっちもかな。」

 

 確かにどっちもそれなりに大事な問題だな。よし、

 

「永琳に聞いてくるわ!ちょっと待ってろ!」

「なんでそんなに行動が素早いのさ……なんかあったの?」

「テンションが上がってるだけだよ!」

 

 そんな困惑している妹紅を置いて俺は永遠亭の中へともう一度飛び込んでいった。

 

 

「ちょっと夢幻!うるさいわよ!」

「夢幻!うるさい!」

「夢幻さん!もう少し静かにしてください!」

 

 永琳の元へ向かうまでの間に三名程から罵声を浴びせられたが、心折れることなく俺は走って行った。

 

「あら、夢幻。早かったのね。まだ出来てないわよ」

「そりゃそうだろ」

 

 そこでは永琳がエプロンをつけて弁当を作ってくれていた。

 エプロン姿……いい!

 

「エプロン似合ってるぞ、永琳」

「ありがとう。それでどうしたの?」

「弁当を妹紅の分も作ってくれないか?」

「なんだ、そんなこと?元から作ってるわよ」

「え、なんで?」

 

 もしかして妹紅が迎えに来たことを永琳に伝えた時に妹紅から既に言っていたのだろうか。それだったら俺のこの行動は…

 

「夢幻がお弁当食べてる横で妹紅は眺めてるだけとか可哀想じゃない」

「まぁ確かにそうだが…」

 

 永琳ならやり兼ねない……

 

「ふぅん?その顔は私ならやり兼ねないと思ってる顔ね?」

「ギックゥ!」

 

 永琳も勘が鋭いことを忘れていた。

 

「口でギックゥとか、そんなこと普通言わないでしょ……」

「はははは……」

 

 それはノリで言っただけなので見逃してほしい。

 

「で、用事はそれだけ?」

「ああ、あと弁当が出来上がるまで妹紅はどうしてたらいいんだ?」

「見つからないなら私の部屋に入ってもらっててもいいけど?」

 

 さっき廊下走ってきたとき永琳の部屋よりも手前のところで輝夜達に怒られたし厳しそうだな。

 

「無理そうならまぁ、外で待っててもらうしかないかしらね」

「一旦帰ってもらうってのは?」

「別にそれでも構わないけれどそんなに時間は掛からないわよ?」

 

 永琳の後ろにある弁当箱を見るとおかずも半分くらいは埋まっていた。早すぎる。

 というより一旦帰ってもらうなら追い返すのと同じじゃないか。

 

「じゃあ大人しく外で待ってるわ」

「そう、じゃあ後で私が外まで持ってくわね。そのまま帰るなら輝夜たちに挨拶しといたら?」

「そうだな。サンキュー」

 

 そう言うと俺はその部屋を後にし、輝夜たちのところへ向かった。

  挨拶するのとは別の目的も兼ねて。

 

「あら、夢幻も一緒に遊ぶ?」

「そうしたいところだがあんまり時間が無いんでな」

「そう、残念ね。あんまり時間が無いというのは?」

「まぁ単純にもうすぐ帰るってだけだ」

「あら、帰っちゃうのね。寂しくなるわ」

「えー!夢幻帰っちゃうのー!?」

「夢幻さん帰っちゃうんですか……また来てくださいね!」

 

 みんな少なからず別れを惜しんでくれているようだ。こんな少しの間だけでもこんな友情が生まれるんだな。

 それを知れて良かった。まぁ記憶喪失になる前の俺は知っていたのかもしれないがな。

 

「それで一つ聞きたいんだが、輝夜。お前これ知ってるんだったよな?」

 

 そう言って俺はポケットの中に大事にしまっていた永琳から貰ったパスポートを輝夜に見せた。

 

「ええ、知ってるわよ?それがどうかした?」

「永琳にこれをスキャンする機会が玄関にあるって聞いたんだが見当たらなくてな。場所を教えてくれないか?」

 

 先ほど妹紅のところに行くときに少し探していたのだが見つからなかったのだ。本当は永琳に聞こうと思っていたのだが、俺らのために頑張ってくれているので今は永琳に聞くのは悪いし輝夜に聞くことにしたのだった。

 

「あら、そんなこと?いいわよ」

 

 そう言うと輝夜は立ち上がった。それに続くように鈴仙とてゐも立ち上がった。

 

「別にお前らはいいぞ?」

「姫様いないとゲームの続き出来なくて暇だからさー」

「私は一応従者でもあるので」

「ほーん。まぁ別にいいけどさ」

 

 四人で部屋を出て俺はあることに気が付いた。

 玄関を閉めた覚えが無いのだ。開けっ放しだとしたらかなりまずい。輝夜が妹紅のことを見ることになってしまう。

 

「すまん少しだけ待っててくれ」

 

 そう言うと三人を追い越して玄関のほうへと走った。

 そしてその玄関は案の定空きっぱなしだった。

 

「あ、夢幻。やっぱり早かったね」

「妹紅、すまんが今から玄関のところまで輝夜が来るから一応隠れておいてくれ」

「え?う、うんわかった」

 

 妹紅も輝夜と遭遇するのが嫌なのかすぐさま竹林の草むらへと走って行った。

 それを確認した俺は輝夜たちのところへ戻ろうと後ろを向くと、輝夜たちがちょうど曲がり角を曲がってこちらへ向かってくるのが見えた。

 鉢合わせ無かったからよかったものの待ってろと言っていたのに。

 

「夢幻、どうしたのよ」

「いや、自分でもう一回確認しておこうと思ったんだよ」

「ふーん?」

 

 自分でもだいぶ苦しい言い訳だと思ったが妹紅が居たなんて言える訳もないししょうがない。

 

「で、その機械はどこにあるんだ?」

 

 と言った瞬間に輝夜の後ろに機械があるのが目に入った。

 

「あ……」

「ん?」

「すまん今見つけた」

「なんだったのよ……」

 

中じゃなく外にある可能性を考えてなかった……

 

「これだよな?」

「ええそうよ」

「すまんすまん。外にあるとは思わなかった」

「えー。夢幻、私たちが来た意味あった?」

「正直なかった。すまんなてゐ」

「別にいいけどさー」

「えと、じゃあ戻りましょうか」

 

 ここで永琳に言われた言葉を思い出した。

 俺はここで永琳をずっと待つことになるので中に入って行くこいつらとはもう会えないだろうし挨拶を済ませなければ。

 

「俺ここで迎えがもう少しで来てくれることになっててもう中には戻らないから今挨拶済ましちゃっていいか?」

「ええ」

「まぁ改まって言うことでもないが。半日の間世話になったな。ありがとう。楽しかったぞ」

「むーげーん。折角だし一人ずつ挨拶してこうよ」

 

 てゐがそんな提案をしてくるとは思わなかった。まぁただ、狙いが見えてるからなぁ……

 

「そうだな」

 

 てゐの口角が上がったのを俺は見逃さなかった。

 そして鈴仙の手になにかが握られているのも俺は発見した。

 

「ただし鈴仙はその手に持ってるものを置こうか」

「あ、バレちゃいましたか」

「なに企んでたんだ?」

「レモン汁を目に……」

 

 思ったより凶悪なことを考えていたようだ。

 

「んで、てゐは?」

 

 そう俺が問いかけるとてゐが手のひらを見せてきた。

 その手のひらには大量の画鋲が張り付けられていた。

 

「お前ら全く反省してねぇな…あとで永琳に報告しとくからな。」

「「ごめんなさい夢幻様~!」」

「ったく」

このやりとりもしばらく出来なくなるのか、そう考えると少し寂しいな。と思いながらレモンと画鋲を回収した。

 

 

「んで一人ずつへの挨拶だったか?」

「ええ」

「んじゃあ輝夜から行くか。まぁ今回の滞在ではあんまり話す機会とかなかったけど、また来た時はよろしくな」

「ええ。次はもっと遊びましょうね」

 

 そういえば結局こいつらが遊んでるゲームには参加できなかった。また次来た時には必ず一緒に遊びたい。

 

「んで、鈴仙。まぁ出会い方はだいぶ酷かったけど、一緒にいるときは楽しかったぜ。輝夜と同じで今回あんまり話せなかったけどまた次来たらよろしくな」

「いつでも寄ってってくださいね!あとわたしたまに人間の里に営業に行ってるので見かけたら声掛けてください!」

 

 そんなことをしているのか。ならばこの先鈴仙に会うのが一番多くなりそうだ。

 

「おう。んで最後にてゐか。まぁお前には色々やられたけどその辺も含めて良い思い出になったぜ。また遊ぼうぜ」

「うん!竹林に来るときには落とし穴に気を付けてね~」

「次仕掛けやがったら永琳にチクってストップも掛けねぇからな」

 

 前回情けを掛けたのが間違いだったか?まぁ多分いたずらを仕掛けるのもてゐなりの表現なんだろうな。

 さてと、こんなもんか。なんかすごいしんみりしちゃったけどまた来れるしな。

 

「じゃあね。夢幻」

 

 そう言って三人は部屋へ戻って行った。

 そしてその三人と入れ替わりで永琳が弁当を二つ持ってこちらへ歩いて来た。

 

「おまたせ、夢幻」

「全然待ってねぇよ。よくそんなに早く作れるな」

「月の技術の応用。」

「そうなのか」

 

 未だに月の技術ってものがわかっていない。また今度来たときに教えてもらおう。

 

「ところで夢幻、さっき輝夜たちにお別れの挨拶をしてたみたいだけど私にはないのかしら?」

「もちろん永琳にも言うよ」

「あら嬉しい。じゃあどうぞ」

「そう改まって言うことでもないんだがなぁ……恥ずかしくなってきちまう」

「ふふ、意外と初心なのね」

「からかうなよ。んで、そうだな……まぁ永琳には今回ほんと世話になったな。礼を言っても言い切れないくらいだ」

「別にお礼なんて良いのに。わたしも沢山楽しませてもらったんだし」

「そういうわけにもいかないだろ。まぁなにか上げるってこともできねぇんだけどな。まぁそんなところだ。本当にありがとう。また寄らせてもらうから、その時はよろしくな」

「ええ、いつでも待ってるわ。ところであなた家あるの?」

 

 全く考えていなかった。記憶を無くす前に家があったのかどうかわからない。

 無くはないと思うのだが人間の里でも俺のことを知っている人物はいなかったし人間の里に住んでいなかったのかもしれない。

 

「わからん」

「じゃあ霊夢に謝り終わったらうちに来たらいいわよ」

「いいのか?」

「ええ。夢幻なら大歓迎よ」

 

 俺にとっては最高の提案だった。仮に家があったとしても捨てよう。

 

「んじゃあまた帰ってくるわ」

「ええ、それじゃあね」

 

 そう言うと永琳は俺に弁当を渡した。その顔がどこかで寂しそうで後髪を引かれる思いだったが霊夢に謝らないわけにもいかないしな。

 どうせすぐ帰ってくるんだ。

 

「じゃあな」

 

 そう言うと俺は永琳と永遠亭に別れを告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この永遠亭に戻ってくることはもう二度とないことを知らずに…




シリアスかなと思わせてなんだーシリアスじゃないじゃん。ってさせてから思いっきりシリアス!って感じになりましたね。

最後の意味深なセリフはなんでしょうね(すっとぼけ


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第十五話 信じるしかない

 時間空いて申し訳ございません……
 なんとか今までの話の書き直しは終わりました!お待たせして申し訳ございませんでした!



 俺は永琳たちに別れを告げ、弁当箱を持ちながら永遠亭へと来た道を妹紅と歩いていた。

 

「夢幻ー。そんな泣きそうな顔しないのー」

「うるせぇ……」

 

 霊夢に謝ったらまた戻ることになるのだが、何故かとても悲しい気持ちになっている。

 たった一日の間で俺の心の中でのあいつらはそれほどまで大きな存在になっていたのだ。

 

「なっ」

 

 横で妹紅があり得ないと言った顔をしながら後ろを向いてそう言った。

 

「どうした?」

 

 俺がそう言い妹紅のほうを見た瞬間に妹紅が消し飛んだ。

 

「は?」

 

 妹紅の姿は跡形も無くなってしまった。

 何が起こったのかまだわかっていない俺は妹紅が先ほど見ていた方向へ目を向ける。

 そこには俺がよく知った人物が仁王立ちしていた。

 

「輝夜!?」

「あら夢幻。さっきぶり」

「そうじゃなくて!なにをしたんだよ!」

「妹紅を殺しただけよ?」

「お前……!」

 

 輝夜はさも当然のように言い放った。

 

「まぁ殺したと言っていいのかわからないけどね」

「何を意味のわからないことを……!」

 

 人を一人殺しておいてその様なことを言っている輝夜に怒りを覚えた。いや怒りどころではない、殺意だ。

 俺は輝夜に殴りかかろうとした。

 しかしその寸前で俺の後ろで爆発が起きた。

 

「まぁそうよねぇ……」

 

 輝夜がその爆発を見て残念そうにそう言った。

 俺も爆発が起こったほうへ目を向けるとそこには死んだはずの妹紅が居た。

 

「は?」

「ったく輝夜ぁ……後ろからいきなりは卑怯すぎだよ……」

「どうせ死なないんだからいいんじゃない」

「死ななくても痛いもんは痛いってことは輝夜もよく知ってる癖に」

 

 二人とも当然のように会話を始めた。

 

「ちょ、ちょい待て。どういうことだ? 妹紅死んだんじゃ……」

「まぁ死んだっちゃ死んだよ? でも言ったじゃん。私不老不死だって。信じてくれてなかったの? 信用無いなぁ」

「……」

 

 そのことがすっかり頭から抜け落ちていた。抜け落ちていなくても信じていなかったが。

 

「妹紅あんたほんと馬鹿ねぇ……不老不死なんて言われても信じられるわけないじゃないの」

「いや夢幻結構単純だし信じてくれるかなーって」

「あぁなるほど」

「納得してるんじゃねぇよ」

「まぁでもこれで信じてくれたでしょ?」

「いや、実は攻撃避けててただの演出だったって可能性が……」

「えぇ………まぁいいよ。これで信じてくれるでしょ」

 

 そう言って妹紅は大きな火の玉を出現させもの凄いスピードで輝夜に向けて放った。

 

「ちょっ妹紅!いきなりはずるいでしょ!」

「背後から仕掛けてきたくせになにを言ってるんだか」

「お前らなんでもありだな……」

 

 妹紅に文句を言ったものの避けきれなかった輝夜は火の玉に丸焦げにされた。しかしその後すぐに元の姿へ戻った。

 

「これで信じれるでしょ?」

「まぁここまでされちゃぁなぁ……」

「そっか、良かった。ところでそれを知ってどう思った?」

「え? んー。凄いなーとしか思わなかったけど。なんでだ?」

「ううん、それならいいんだ」

 

 妹紅は会話をそこで無理やり終わらせた。すると輝夜が俺の耳元まで走ってきて

 

「聞かないであげて。妹紅にはトラウマがあるのよ」

 

 と言ってまたさっきまで居た位置に戻って行った。

 聞かれたくない事情があるならそう言えばいいのに。

 

「んで?輝夜はなんで私が居るってわかったのさ」

「そりゃ竹林に迎えが来るなんて言ったらあんたしかいないでしょ」

「あー……なるほどね」

 

 そう言うと妹紅はジト目でこちらを見てきた。

 確かにそこは気にしてなかったので申し訳ないと思う。

 

「それじゃあ私は帰るわね」

「あれ?戦わないんだ」

「もう疲れたわよ……じゃあね夢幻また後で」

 

 輝夜はそう言って永遠亭のほうへ走り出した。

 

「おう」

「あ、ちょっと待って」

 

 急に振り返って輝夜は俺の元へ走って来た。

 

「どうしたんだ?」

「永琳パスポート貸してくれない?」

「いいけど」

 

 理由を聞いていないが別に輝夜が悪用したりなんてしないだろうと思いそのまま渡した。

 すると輝夜はポケットから謎のチップを出し、永琳パスポートに貼った。

 

「なんだそれは?」

「私と永琳からのプレゼントよ。月の都でもトップレベルの技術を使って作られているの」

「ほう。でもなんでそんなものを?」

「わからないわ。永琳が嫌な予感がするからとか言ってたけど」

 

 嫌な予感?何があると言うのだろう。

 

「てかわからないってなんだ。お前からのプレゼントでもあるんじゃないのかよ」

「私もよくわからないのだけどなんか髪の毛一本抜かれて永琳がいろいろやってたから私からのプレゼントでもあるってことで」

「なんだそりゃ。で?これにはどんな効果があるんだ?」

 

 すると輝夜は微妙そうな顔をしながら顔を傾け言った。

 

「わからないわ。永琳曰く別の世界軸に行ったときにも使えるとか言っていたけど、天才が言うことはわからないのよね」

「別の時間軸?」

「そこが一番わからないのよね。まぁお守り程度に持っておくといいんじゃないかしら」

「中々おかしなものを持たされたようだな」

 

 会話が一段落したとこであることに気が付いた。

 

「てゐと鈴仙からは?」

「無いわ」

 

 渡されてもないし言われてもないのでなんとなく答えは見えていたがやはり少し悲しいものだ。

 

「しょうがないわよ。あの二人出かけちゃって髪の毛抜いたりすることも出来なかったんだから」

「あぁなるほどな」

 

 残念だがそれならしょうがないだろう。

 

「じゃあ今度こそまたね」

「おう。またな」

 

 そう言うと輝夜は永遠亭へと走って行った。今度は戻ってくることもなく。

 そして妹紅のほうを見ると退屈そうな顔をしていた。実際退屈だったのだろう。

 

「すまんすまん」

「別にいーよーだ。どうせ私になんか興味ないんでしょー」

 

 妹紅が拗ねてしまった。恐らく演技なのだろうが、ほったらかしにしてしまっていたのは確かだ。

 

「そんなこと無いぞ。妹紅のことは大好きだぞ」

「はぁ……そんなこと言うから霊夢に帰られたのがまだわかってないのかね」

「耳が痛い限りです」

 

 胃も痛い。

 

「まぁそんな冗談は置いといて早く行こうよ」

「だな」

 

 そう言って俺らが歩き出そうとした瞬間草むらから何かが飛び出してきた。

 そしてその何かにはまたもや俺の見知った顔が混じっていた。

 

「ナナ?」

「はい!夢幻さん!昨日ぶりです!」

 

 特徴的な見た目と特徴的な個性を持った兎。ウサミンこと安部菜々だった。

 しかしその背後に俺の知らないやつが三人いた。

 

「ナナ、その後ろにいる三人組は?」

「はい!この三人を紹介したくて今日姿を現したんですよ!」

「そうなのか。じゃあ紹介を頼む」

「じゃあみくちゃんからお願いします!」

「わかったにゃ」

 

 そう言って猫耳をつけた子が一歩前に出てきた。そして俺はこの時点で確信した。この子もナナに負けず劣らずの特徴的な兎だと。

 

「こほん。前川みくにゃ!初めましてなのにゃ!よろしくなのにゃ!」

「あ、はい」

 

 やはりキャラが濃かった。というより濃すぎる。語尾に「にゃ」を付けるほどまで猫キャラを推してくるとは思わなかった。

 

「にゃー!なんにゃその反応は!」

「いやーナナに負けない個性をお持ちだなぁと」

「ナナを色物みたいにいうのはやめていただけませんか!?」

「猫ちゃんはみくのアイディンティティなの!」

「そうなんですか……」

 

 反応に困った。可愛いとは思うのだがこのキャラ故少し扱いづらいのだ。

 

「まぁまぁみくちゃん落ち着いて。じゃあ次は李衣菜ちゃんお願いします!」

 

 ナナがみくとの会話を遮って進行をし始めた。

 そして李衣菜と呼ばれる兎は不意打ちを喰らったように慌てた後、自己紹介を始めた。

 

「あっ、ごめん。音楽に夢中で。ん~、自己紹介ですか? えっと、ロックな兎目指して頑張ります! こんな感じでいいですか?」

「もう~李衣菜ちゃん!名前を忘れてますよ!」

「わ、そうか。えっと、多田李衣菜って言います。よろしくお願いします!」

「うん、よろしく」

 

 ヘッドホンを首にぶら下げたこの兎は多田李衣菜というらしい。音楽に夢中で話を聞いていなかったのはどうかと思ったがある程度礼儀正しい子のようで良かったと思った。ナナとみくがいるのにこれ以上個性が強い奴が出てこられても困るからだ。

 

「はは!だりーはやっぱりどこか抜けてるな」

「うぅ……」

 

 もう一人の特徴的な髪型をした兎に李衣菜はからかわれて赤面してしまった。

 

「じゃあ夏樹ちゃん!最後に決めちゃってください!」

「おう!任せとけ!アタシ、夏樹。だりーと同じでロックが好きなんだ。よろしくな」

「おう」

 

 夏樹は中々男勝りの性格のようだ。ここで疑問が一つ出てきた。

 

「ナナはなんでこいつらを俺に紹介しようと思ったんだ?」

「その質問、待ってました!実はナナ達4人でユニットを組んでるんですよ!」

「ほう、そうなのか」

「アスタリスクwithなつななって言うのにゃ!」

「ユニットってことはこの4人で活動してるってことでいいんだよな?」

「うん、そうだよ。もちろんこのメンバー以外と活動することもあるけどね」

 

 そう李衣菜が付け加えた。と言うことはこの4人以外にも歌ったり踊ったりする兎がいるということなのだろう。またどこかで会ってみたいな。

 

「じゃあなにか聞かせてくれるのか?」

「ああ。準備も済ませてある。こっちへ来てくれ」

 

 そう言って夏樹が草むらの方へと歩いて行き、ナナとみくと李衣菜もそれに続いて草むらの方へと歩いて行った。

 俺はそのまま付いて行こうとしたが、妹紅のことを思い出し立ち止まった。

 もし妹紅が行きたくなかったらどうしようと思ったからだ。

 確かめるために妹紅のほうを見ると楽しみそうに目を輝かせていたので問題無さそうだ。そう思い夏樹たちの後を追った。

 

 そうして誘導された先にはスピーカーなどが置かれている大きなステージがあった。

 

「こりゃすげぇな」

「みくたちが頑張って作ったのにゃ!」

 

 みくが自慢げに胸を張りながらドヤ顔をしていた。それを見た俺たちは少しおかしくて笑ってしまった。

 

「なんで笑うにゃあ!?」

「まぁまぁみくちゃん。ステージに上がりましょう」

 

 ナナがみくの手を引きながらステージに上がった。李衣菜と夏樹もそれに続くようにステージに上がった。

 そしてあることに気が付いた。夏樹がギターを持っていたのだ。

 

「夏樹はギター弾けるのか?」

 

 そう質問すると夏樹は苦笑いしながら

 

「じゃなかったらステージに持ってこないだろ。まぁロック好きなんだからギターくらいは弾けないとな。なぁ?だりー?」

 

 と答えた。話を振られた李衣菜のほうを見ると

 

「なつきちー……」

 

 悔しそうな顔をしながら夏樹を睨んでいた。李衣菜はギターが弾けないようだ。なんだかそれが少し可愛らしく感じた。

 

 

 そしてみくと李衣菜の掛け声に合わせて曲が始まり俺と妹紅はそれを見て聴いていた。

 

 

「どうでしたか!?」

「どうだったにゃ!?」

「どうでした!?」

「どうだった?」

 

 曲が終わるなり4人はそう言った。俺はそれに対して正直に答えた。

 

「うん、かっこよかったし、凄くよかったよ」

「かっこよかったって!やっぱりこのロックは夢幻さんに伝わったんだなぁ。夢幻さんがわかってくれる人で良かったです!」

「にゃ!?可愛さは!?」

「あぁ、曲調的に合わないと思ったから言わなかっただけでダンスとか可愛かったぞ」

「ほら!夢幻ちゃんは可愛さもちゃんと理解してくれてたよ!」

「夢幻ちゃん……?」

 

 なぜ年下の女の子にちゃん付けで呼ばれたのかわからないが別に訂正するほどでも無かったので口は出さなかった。

 

「でもさきにかっこいいって言ってくれたってことはロックのほうが勝ってたんだよ!」

「曲調的に合わなかったから言わなかっただけでしょ!」

 

 何故だか雲行きが怪しくなってきた。これは俺が悪かったのだろうか。

 そう思い謝ろうとした瞬間衝撃の出来事が起こった。

 

「「むむむむむ!」」

「解散だ!」

「解散にゃ!」

 

 目の前で*withなつななが解散してしまった。

 俺はどうしたらいいのだろうとナナと夏樹の方へと目線を向ける。すると二人は談笑していた。

 まさか気づいていないのだろうか。そう思い二人の会話に耳を傾けるとそれは違うことがわかった。

 

「まただりーとみくが解散芸やってるぞ」

「あはは。あの二人はほんと変わらないですねぇ」

 

 なるほど、日常茶飯事のようだ。それならば心配することはないだろう。

 

「じゃあ俺たちそろそろ行くわ。ありがとうな」

 

 そう言いながら妹紅と席を立った。

 

「引き留めて申し訳ございませんでした!また今度!」

「兎以外の観客は久しぶりだったから楽しかったぜ。また聴きにきてくれよな」

「今日はありがとうございました!またよろしくお願いします!」

「夢幻ちゃん。またね~!」

 

 4人がそれぞれの挨拶を返してきてくれた。みくと李衣菜は仲直りしたのだろうか。

 そんな疑問を持ちながらも俺たちは博麗神社へとまた歩き始めた。




 半分デレマス回。
 アスタリスクの二人では李衣菜派なんですけどお好み焼きにケチャップをかけるのはありえないと思います。関西人なんでお好み焼きにご飯は普通なのです。その点ではみくにゃん派です。


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第十六話 悲しい別れ

 この話にて一章は終わりとなります。


「はぁ……」

 

 俺は妹紅と共に竹林を抜けて博麗神社へと続く道を歩いていた。

 

「夢幻さっきから溜息多くない?」

「だってこれからのことを考えると……」

 

 妹紅や永琳に怒られるのはまだ良い。だが霊夢の怒ったときのあの目は耐えられる自信がない。

 しかしここで謝らないと後々めんどくさいことになるのはわかっているので結局は今謝りに行くしかないのだ。

 

「まぁ怒った霊夢は怖いからねぇ。夢幻の気持ちはわからないでもないよ」

 

 俺がビビったりしているのを妹紅が慰めるというような会話を繰り返していると石段が見えてきた。

 

「妹紅、これだよな?」

「うんそうだよ」

 

 もう周りには森しか無いし道を間違えたりしていない限りここが博麗神社なのだろうと言うのはわかっていた。だがそれでも聞いたのは自分の気持ちを整理するためだ。

 もしかしたらここは博麗神社ではないのかもしれないと思いながらこの石段を登り霊夢に会っても覚悟を決めることも出来ずぐだぐだになってしまうだろう。だからもうここで覚悟を決めておかねばならないのだ。

 そして妹紅の肯定の言葉によって俺の逃げ道は無くなった。これでいいのだ。

 覚悟を決めた俺は最後に喝を入れるために自分の頬を強く叩いた。

 

「うっし行くか!」

 

 俺は目の前の石段を駆け上り始めた。

 

「この石段結構長いからそんなスピードで行くとバテるよー?」

 

 スピードを落として一歩一歩踏みしめながら行くことにした。

 後ろで妹紅がクスクス笑っているのがわかるが反応したら負けだ。後ろを振り向いて妹紅に一発入れたい気持ちを抑えながら石段を上がっていく。

 石段は妹紅の言うように中々に長かった。そしてその石段を上がった先には目的の人物がほうきで境内を掃いていた。

 そしてその人物――霊夢は俺たちの姿を見ると手に持っていたほうきを縁側に立て掛けに行って後に俺らのところへと向かって来た。

 

「……なんの用かしら?」

 

 口調は少しキツめだったが顔を見るとそこまで怒っているようには見えなかった。

 

「その、昨日のことを謝りたいんだけど」

「別にそんなの良いわよ」

 

 なんなのだろう。なぜか調子が狂う。恐らく理由は俺と霊夢との温度差だ。

 俺はしっかりと誠心誠意込めて謝ろうとしているのだが、霊夢は多分本当にそこまで怒っていないような気がする。

 だが今日は謝るために来たのだ。霊夢が怒っているのかはわからないがとりあえず謝ろう。

 

「まぁとりあえず謝らせてくれ。昨日はお前の気持ちも考えず軽率な発言をして悪かった。許してくれ」

 

 深く頭を下げながら俺はそう言った。しかしなんの反応もない。

 頭を下げているため霊夢の足しか見えないが、霊夢はただ呼吸をしてそこに立っているだけだ。呆れるでもなく笑うでもなくただ立っている。

 俺がその予想外の霊夢の行動に困惑し、どうすればいいのかを考えていた所で霊夢がようやく口を開いた。

 

「顔上げなさいよ」

 

 言われた通りに顔を上げ霊夢の目を見つめる。その目には呆れの感情が見えるが顔は小さく笑っていた。

 

「あんたはほんと話を聞かないわね」

「と言うと?」

「別に私怒ってないってば」

 

 霊夢が大きく息を吐きながら笑った。その笑顔には見る者を癒す力があるように思える。

 しかし本当に怒っていないとなると一つ疑問が残る。

 

「じゃあなんで昨日帰ったんだ?」

「え……」

 

 俺の質問を聞くと霊夢は小さく声を発した後、顔を背けてしまった。

 

「なんで昨日帰ったの~?」

 

 妹紅が俺の発言を反復するように口に出した。俺と違うのはその言葉に揶揄いの意図があるということだ。

 

「妹紅、謝りに来たってことは昨日のこと理解したんだと思ってたんだけど違うの?」

「夢幻なりには頑張ったんじゃない?一歩届かなかったけど」

「まぁ、そうねぇ……」

 

 二人がよくわからない会話をし始めた。

 一歩届かなかったとは何のことだろう。それを聞こうとしたのだがその前に霊夢が振り向き俺に質問をしてきた。

 

「で?記憶喪失の件はどうだったの?」

「あーそれな。結局なにもわからなかった」

「え?そうなの?」

「ああ、脳のどこにも異常は見られないどころか体全体にも強く打った跡はなかったらしい」

「へぇ」

 

 霊夢が意外そうな顔をしながら頷いた。恐らく霊夢も永琳の医者としての腕をよく知っていたのだ。だからその永琳でもわからなかったのが意外だったのだろう。

 

「これからどうするつもりなの?」

「夢幻は永遠亭の奴らにめちゃくちゃ好かれて、これからは永遠亭で生活していくそうだよ」

 

 なぜか俺でなく妹紅が答えた。だがまぁそれはいい。問題は霊夢の反応だ。

 これまでの経験からして理由はわからないが霊夢は怒ったり素っ気無くしたりしてくるだろうと思っていた。

 しかし今回の霊夢は怒るでもなく素っ気無くなるでもなく喜ぶでもなく俺の方をただじっと見ていた。

 

「ど、どうかしたか?」

「なんで夢幻が永遠亭の奴らに好かれたのかがわからないんじゃないの?」

「それは俺にもわからんのだが……」

 

 妹紅が割と筋の通ってる説を唱えてきたので納得した。しかし霊夢は未だに微妙な顔をしている。

 

「霊夢?」

「いえ、妹紅の言ったことも間違ってはないわ。それも気になってる。でもそんなことよりももっとマズイことが起こってるわ」

 

 そう霊夢が言った。すると横に居た妹紅が

 

「あーやっぱり?気のせいかと思ったんだけどやっぱりそうだったんだ」

 

 二人の間では話が完結したようだ。しかし俺には全くわからないし心当たりもない。

 

「霊夢?なにが起こってるんだ?」

「あんた……呪いがかかってるわよ」

「へ?」

 

 呪いをかけられていることに一番慌てるべきなのだろうが、俺的にはそんなことよりも信じたくないことがある。

 

「一つ聞くぞ。昨日霊夢と別れる以前にはかかっていなかったのか?」

「ええ」

 

 その返事だけでその信じたくないことを信じえざるをえない環境に一気に追い込まれてしまった。

 

「呪いはかけられるもので、自然にかかったりすることはないよな?」

「そうよ。呪いは人為的なことでしかかからないわ」

 

 この時点で既に俺の希望はほぼ潰えていた。なぜなら俺が霊夢と別れてから接触した奴らは今では良い信頼関係を築けているやつしかいないからだ。

 妹紅、永琳、てゐ、輝夜、鈴仙、ナナ、李衣菜、みく、夏樹。こいつらが俺に呪いをかけたとは考えられないし考えたくない。永遠亭での夜以外ではずっと一緒に居た妹紅ならなにかわかるかもしれない。聞いてみよう。

 

「なぁ妹紅?」

「なんかやけに落ち着いてるね。どうしたの?」

「その呪いをかけたやつってのはお前か永琳か輝夜か鈴仙かナナか李衣菜かみくか夏樹の誰かかの可能性が高いんだよな?」

 

 落ち着いてなどいるものか。心臓が締め付けられるような思いだ。信頼している人物を疑うなんて。

 

「……多分今名前が挙がった中には居ないと思う」

「なんでだ? 俺はこいつら以外には誰とも接触してないぞ? なにか根拠があるのか?」

 

 妹紅のその言葉に俺は希望を感じた。だがそれが妹紅からの慰めの言葉なら何の意味もない。しっかりと根拠を示してほしいのだ。

 

「じゃあ一人一人説明していくね。まず永琳、永琳には呪いをかけることは多分出来ないと思う。永琳は薬とかの知識なら誰にも負けないけど呪術には疎かったはず。次に輝夜。輝夜には絶対に出来ない。なぜなら輝夜は永琳以上に何も出来ないから」

「なかなかきっぱり言うんだな」

「まぁね」

 

 正直永琳も輝夜も100%ないとは言い切れなさそうだ。だが可能性は低そうだ。一応今のところは安心していいレベルまでは信じることが出来る。

 

「というか永琳にも輝夜にもてゐにも鈴仙にも多分出来ない。なぜなら呪術の練習には生物の体が必要だから。そして妖怪と妖精には呪術は効かない。となるとこの幻想郷で使えるのは人間。もしくはあの付近にいる兎。そのどっちかになる」

「人間が使えるのなら人間を使えばいいんじゃないか?」

「人間の里で行方不明になった人間は確かにいるけどその行方不明になった人間だけじゃ数が全く足りない」

「じゃあ兎は?」

「兎のボスはてゐなんだよ。てゐはそんな仲間を実験に使うことなんて絶対に許さない」

 

 そうだったのか。てゐが協力していれば永遠亭の誰にでも出来るだろうが話を聞いている限りその可能性も低そうだ。これでとりあえず永遠亭の奴らの証明は出来た。

 

「じゃあアスタリスクwithなつななのやつらはどうなんだ」

「あの子たちはもっと簡単だよ。あの子達と接触したしていた時はわたしもずっといたじゃん?」

「ということはあいつらにかけられていたらお前が気づいてたってことか」

「そういうこと」

 

 恐らく永遠亭の奴らよりも信じられるだろう。だがもう一人だけ証明が出来ていないやつがいる。

 

「じゃあ、妹紅。お前自身はどうなんだ?」

「んー正直疑われてる本人が言っても信じられないと思うんだけど夢幻に呪いがかかってるかもと思ったのは今日の朝永遠亭に迎えに行ったときなんだよね」

「じゃあ夜の間にかけられた可能性が高いってことか」

「あっさり信じてくれるんだね。まぁつまりはそういうこと」

 

 確かにさっき妹紅が言ったことは嘘で俺に呪いをかけたのは妹紅ってこともあるかもしれない。だが妹紅自身が違うと言っているのだから信じたいのだ。この二日で築いてきた信頼を疑いたくないのだ。

 

「となると結局犯人はわからないのか」

「うん、そうだね。ただ夜の内にかけられたって可能性が高いってことしかわかってないし」

「うーん……まぁいいや」

「いいの!?」

 

 妹紅が信じられないと言ったような顔をしている。馬鹿を見るような顔に近いかもしれない。

 だが今のところ体に異常は起きてないし自分の意思もしっかりしている。呪いの効果を感じていないのでそこまで危機感を持てないのだ。

 

「ところで今俺にかけられてる呪いってどんなもんなのかわかるか?」

「いえ、見たことない呪いね。全くわからないわ」

 

 霊夢が悔しそうな顔をしている。それは巫女としてのプライドからか、それとも目の前にいる人を助けられないという自分の無力さに対してなのか。それは霊夢にしかわからない。

 

「ちなみに解除したりすることはできない?」

「本当に悪いんだけどできないわね。呪いが複雑すぎるわ」

 

 呪いが複雑すぎる。その言葉を聞き俺にもとうとう危機感が芽生えてきた。

 恐らく霊夢の言い方からして普通の呪いなら解除できるのだろう。つまり逆に言えば今俺にかかっている呪いは普通じゃないということだ。

 

「とりあえず気をつけなさいね」

「うんありがとう」

 

 霊夢から有難い忠告を貰いこれからどうしようかと考える。

 とりあえず永遠亭に戻ることになるが呪いに関しての情報を集めたい。今思いつく頼りになりそうな人は慧音先生と藍さん。だが藍さんはどこにいるのかがわからないため慧音先生くらいしか頼れないだろう。

 

「妹紅、慧音先生のとこ行っていいか?」

「え?うん」

 

 呪いに関して幻想郷でトップレベルに詳しい霊夢でも解除できないなら、人間ではないとはいえあくまで寺子屋の先生である慧音先生に解除することはできないだろう。だが先生だ。なにか情報は持っているかもしれない。なにもわからない今は情報が大事なのだ。

 そう考えた俺は寺子屋へと向かうことを決意する。

 

「じゃあそろそろ行くわ。またな」

「ええ」

 

 霊夢に別れを告げそのまま石段のほうへと向かう。

 その瞬間なにか異質な雰囲気を感じ取った。そしてそれと同時に霊夢が叫んだ。

 

「夢幻!避けなさい!」

 

 その言葉に驚き霊夢のほうを向こうとした瞬間に自分の胸の辺りに違和感を感じた。

 恐る恐る自分の胸を見ると――真っ赤な槍が貫通していた。

 

「は?」

 

 今の状況が理解出来ず小さく声を発すると同時に俺の体から力が抜けその場に崩れ落ちた。

 霊夢と妹紅が俺のところへと駆け寄ってくるのが見える。しかし体は既に力がほとんど入らなくなっている。

 

「夢幻!しっかりして!」

「夢幻!しっかりしなさい!死んじゃダメ!」

 

 俺は現在の状況をようやく理解した。そしてこの後のことも。俺は殺されたのだ。今はまだ辛うじて意識はあるがそう遠くない内に意識も消え俺は死ぬだろう。

 そしてそこまで理解した途端霊夢の言葉が急に面白く思えた。俺だって死にたくないがもう体も動かないのに死んじゃダメっていうのはキツイ。体の感覚だってもうほとんどない。あとは死ぬのを待つしかないのだ。

 そう思ったとき少しだけ体に力が戻った。神様が最期に時間をくれたのだろうか。

 その神様のプレゼントを受け取ると両腕をそれぞれ霊夢と妹紅の頭に乗っける。そして弱弱しい声でかすれながらも声を出す。

 

「お前ら……ごめんな……迷惑ばっかりかけて……」

 

 喋るたびに口から血があふれ出てくる。だがここで言いたいことは全て言っておかなければならない。だってもうこの先こいつらと会ったり喋ったりすることは出来なくなるのだから。

 

「こんな俺に……優しくしてくれてありがとう……その優しさが気持ちよかった……」

「そんなのどうでもいいから!死ぬなって言ってるじゃん!」

 

 俺の最期の言葉をどうでもいいと言いきられたことに少し笑ってしまった。

 

「ごめん……もう無理そうだわ……この二日間……本当にありがとう……俺のことは……忘れて……これから楽しく……過ごしていってくれ……」

 

 そう言い終わると同時にまた体から力が抜けていく。腕から力が抜ける前に二人の頭を撫でてやる。

 

「馬鹿……そんなこと……出来るわけないじゃない!」

「そうだよ!夢幻はもうわたしたちの大事な人なんだよ!だから……死なないでよ……」

 

 二人が大粒の涙をこぼしながらそう言ってくる。俺の目からも涙が溢れ出してきた。

 そして腕からも力が抜けていく。腕が二人の頭から滑り落ちて地面につくと同時に俺の体にはまったく力が入らなくなり瞼も閉じていった。

 黒露夢幻は――死んだ。




 やっと夢幻が死んだ……!
 疾走感が凄すぎて読者を置いてけぼりにする始末……申し訳ございません。
 さぁ夢幻がようやく死にましたが新たな歴史の道しるべの物語はまだ始まったばかりというかようやく始まるというか。
 夢幻に呪いをかけたのは誰なのか?夢幻を槍で殺したのは誰なのか?それがわかるのはこの物語が終わりを迎えるころになりますがもしよろしければそれまでお付き合いお願いいたします!
 これにて一章終了です!


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第二章 世界への理解
第十七話 なんでどうして


2章の始まり―!(作品名変わりました)


 どこからか聞こえてくる囁きや笑い声が重なって合唱のようになっている森のど真ん中に俺はいた。

 

「……」

 

 どうしてこうなった。

 今俺が混乱している原因は二つある。

 一つ目は俺の横で寝ている二人の人物だ。妹紅と霊夢が俺に添い寝をする形で寝そべっている。目が覚めた時からこの状態なのだ。混乱しないほうがおかしい。だがもう一つの原因に比べればこんなことなんてことはない。

 

「なんで……俺生きてんだ?」

 

 そう俺は今生きているのだ。俺は確かに博麗神社で真っ赤な槍に胸を貫かれて死んだ。なのに生きている。服をまくって槍が刺さっていたところを見たが傷もない。

 まさかあれは夢だったのだろうか?そうも考えたがあの痛みや感触は今でもしっかり覚えている。夢ではない。

 俺の横で寝ているこいつらなら、なにか知っているかもしれない。そう思い二人の頬をぺちぺち叩きながら叫ぶ。

 

「おい!妹紅!霊夢!起きろ!」

 

 すると霊夢が薄っすらと目を開けこちらを見た。

 

「夢幻?おはよう……もうちょっと寝かせて……」

 

 そう言いもう一度瞼を閉じてしまった。しかし数秒後ガバッと起き上がって

 

「夢幻!?夢幻なの!?なんでここに居るの!?」

 

 俺の肩を掴み全力で揺さぶりながらそう叫んだ。脳がグラグラする。このままじゃせっかく生きてるのにまた死んでしまう。

 

「ちょいストップ落ち着け霊夢」

「落ち着いてられる訳ないでしょ! あんた死んでたわよね!?」

「多分」

 

 落ち着けと言っているのに落ち着かねぇなこの巫女は。

 するとその霊夢の叫び声に目を覚ました妹紅が目を擦りながら起き上がってきた。

 

「んも~霊夢うるさいな~……夢幻静かにさせてよ~それが夢幻の仕事でしょ~?」

 

 とてものんびりした口調で怒ってきた。だが俺はそんな仕事を任された覚えはない。

 文句を言おうとしたが寝っ転がって二度寝を始めてしまった。だが数秒後に霊夢と同じような動きをしながら起き上がった。

 

「え!? 夢幻!? なんで!?」

 

 妹紅は俺の頭を全力で揺さぶって来た。こいつらは俺を殺したいのか。

 こんなところで死ぬわけにもいかないので二人を引きはがす。

 

「ちょっとどこに行くつもりよ!」

「どこにも行かねぇからとりあえず落ち着いて座れ」

 

 俺の言葉は霊夢の耳には届いていないようだが妹紅にはしっかり届いたようだ。霊夢を頭から押さえつけて座らせた後に自身もゆっくりと座ってくれた。

 霊夢はとても何か言いたげな顔をしてこちらを睨んでいる。だが俺にもなにがなんだかわかっていないのだ。そんな顔をされてもどうしようもない。

 

「んじゃあ取り合えず二人に聞くぞ。俺って死んだよな?」

「死んだ」

「死んでた」

 

 二人とも食い気味に答えてきた。

 やっぱりそうだよなぁ。俺死んでたよなぁ。

 

「俺はお前らを撫でてからの記憶が無いんだがその後どうなった?」

 

 今思うとあの時滅茶苦茶恥ずかしい事言ってたな。いっそその辺覚えてないとかいう俺得な流れになったりしないだろうか?

 そんなあり得ない期待を込めて二人の顔を見ると何かを必死に思い出そうとしていた。

 あれ?これもしかして本当に覚えてないんじゃね?

 

「あのー二人とも?もしかして覚えてらっしゃらないとか?」

 

 確認のためにそう問いかけると二人はアイコンタクトで会話をし始めた。何かを相手に押し付けようとしているような感じだ。しばらくすると妹紅が俺の方を向き、話し始めた。

 

「えーとね、まず夢幻が私たちの頭を撫でながらこっぱずかしいセリフを言った後死んだじゃん?」

「覚えてやがったか……」

 

 しっかりと覚えてるんじゃねぇかよ。顔が熱くなってくる。人間、死の間際は何やらかすかわからねぇな。

 

「それで夢幻が死んでから霊夢が激昂して……そこからが覚えてないんだよ」

「覚えてない?」

 

 それだったら俺とほぼ同じじゃねぇか。だが妹紅がそう言うならしょうがない、霊夢にも話を聞こうと思って霊夢の方を向いたのだが

 

「私も同じよ。夢幻が死んでから犯人を殺してやろうと札を取り出したところまで覚えているのだけどその後が……」

 

 申し訳なさそうに霊夢もそう答えた。

 となると情報が全く無いな。どうしようか。

 

「結局俺は死んだのかなぁ……」

「ここに居るってことは死んで無いんじゃないの?」

「まぁそうなのかな」

 

 妹紅に正論を言われてしまった。そんなことはわかっているんだ。死んでいたら俺がこの場に存在してる訳がない。

 そう文句を言いたくなったがこれは自分の感情をぶつけているだけだ、妹紅にはなんの罪もない。

 しかしこれからどうしようか。そう考え始めた瞬間横から何かが飛んできた。

 

「槍!?」

 

 俺が博麗神社でくらった槍が飛んできたのか!?そう思いとっさに避けた。しかしその飛んできたなにかは俺がいた場所の地面にぶつかると砕け散ってしまった。

 霊夢と妹紅が近づきその欠片を手に持ってまじまじと見つめ始め、その直後に二人が口を揃えて言った。

 

「「氷……?」」

 

 氷だと?二人のその言葉に驚きを隠せない状態で自分でも確かめようとすぐそばに落ちていた欠片を拾う。

 

「冷たっ!」

 

 思った以上に冷たかったせいでその欠片を放り投げてしまった。するとその欠片は放物線を描き飛んで行って落下地点にちょうどあった尖った岩にぶつかって更に小さく砕けた。

 

「……氷だな」

 

 氷だった。

 となると槍を投げた犯人とは別の奴か……?俺が氷が飛んできた方向を見ると同時に妹紅と霊夢も同じ方向を向いた。恐らく三人共同じ考えに至ったのだろう。

 そしてその方向には見覚えがあるやつらが4人いた。

 

「ちょっとチルノちゃん!ちゃんと当ててよ!」

「避けるあいつのほうが悪いの!あたいは悪くないもん!」

「フフーン!やっぱりこれだからチルノさんは困りますね!」

 

 サチコやチルノといった妖精たちだ。となるとこれは氷漬けになったカエルか。つい昨日のことなのに懐かしさを覚えながらも違和感を感じた。

 数が多い?

 

「1、2、3、4、5、6……やっぱり多い」

 

 4人は名前までしっかりとわかる。チルノとサチコとリーリャとサーリャだ。だが後二人多い。

 

「フヒ……まぁまぁサチコちゃん……失敗は誰にでもあるよ……」

「うん……そうだよ……ほらあの子もそう言ってる……」

「ショウコさん、コウメさん……やっぱりお二人は優しいですね……」

「ショウコうるさい!失敗なんかしてないもん!」

「う、うるさい……?……ゴートゥーヘールッ!!フヒヒヒヒフハハッアッハッハ!!今私に向かってうるさいって言ったかぁチルノォ!?」

「い、言ったわよ!」

「ゴートゥーヘールッ!!アッハッハ!!そうかそうか!てめぇを炎で溶かしてやんよぉ!」

「ひっ」

 

 揃いも揃ってキャラが濃い……えーと?あの性格が一気に逆転した銀髪のやつがショウコで、何か見えてる萌え袖の子がコウメか。

 

「さてどうしたものか」

 

 そう口に出す直前に俺の両端にいた二人が何かを取り出した。妹紅も霊夢もお札を取り出したようだ。なにをする気だ?と聞く前に妹紅は炎を出し霊夢はその札をそのまま放り投げた。

 そしてそれに気付いた妖精たちは小さく悲鳴を上げて逃げ出した。

 

「ったく、夢幻になにかあったらどうするつもりよあいつら」

「ほんとにね」

 

 こいつらはこんなヤンデレキャラだっただろうか?少し恐怖を覚える。

 俺はあんまりヤンデレキャラ好きじゃないんだがな……

 

「それでどうする?」

 

 主語がないがこれからの行動のことを指しているのだろう。どうしたものかと考え始めたところで妹紅が口を開いた。

 

「夢幻、慧音のとこに行くって言ってなかった?」

「あ、そういえばそうだったな」

 

 槍で貫かれる前に確かに言っていた。あそこで博麗神社にしばらく滞在することにしていれば槍で貫かれたりはしなかったのだろうか。そう考えたが過ぎたことを今更考えてもしょうがない。

 

「んじゃ早速行くか」

「ええ」

 

 色々ありすぎて冷静になれず気付かなかったが落ち着いて周りを見てみるとさっき妖精たちと出会ったところは俺がこの幻想郷で目を覚ましたところと同じだったらしい。更に霊夢と妹紅の先導の元歩いて行く途中に、霊夢と出会ったところも通ったので前回俺が通った道は正しかったようだ。

 俺自身も何となく道を覚えていたこともあって人間の里には前よりだいぶ早く着くことが出来た。

 

「慧音先生は寺子屋だよな?」

「うん」

 

 妹紅に一応確認を取ってから寺子屋へと向かう。すると途中に見知った人物がいた。

 

「おや? 霊夢じゃないか。藤原妹紅も。珍しいな」

 

 九尾の狐の藍さんだ。

 しかし俺をなんでスルーしたのだろう。やはり警戒されているのだろうか?まぁいいやとりあえずこちらから挨拶してみようか。と思い口を開こうとした瞬間藍さんの口からあり得ない言葉が飛んできた。

 

「ところでその男は誰だ?」

「……え?」

 

 今……なんて言った?

 

「なによ藍もう忘れたの?」

「忘れたもなにも私はこの男と面識は無いが」

「なっ」

 

 名前を忘れたとかならまだわかるが面識がない?いくらなんでもそれはないだろ。

 俺は怒りよりも驚きの感情のほうが大きかった。知的そうな印象を受けていたのにこれは認識を改めざるを得ない。

 

「えと藍さん? この前八百屋で藍さんが買い物してた時に会いましたよね?」

「八百屋なら今行って来たところだが?」

 

 そう言いながら藍さんはその手にぶら下げていた袋を見せてくれた。その中には確かに八百屋で買ってきたのであろう大根やゴボウなどが入っていた。だがそういうことではない。

 

「いやあのですね? 八百屋に今行っていたのはわかりますけど今はそういう話じゃなくてですね」

「そうよ藍。あんたそんなに馬鹿なやつじゃないでしょう?」

「そうは言われてもほんとに憶えがないんだがなぁ……」

 

 藍さんは頭にかぶっていた独特な帽子を脱ぎポリポリと頭を掻いている。ほんとに憶えてないのか……?

 

「すまんが夢幻君?と言ったかな。それはいつの話だったか教えてくれないか?」

「ええと多分昨日だったと思います。ただついさっきまで記憶を失って倒れていたのでもしかしたら一昨日とかかもしれないですけどとりあえずごく最近のことですよ」

「昨日……ではないな。というか私は八百屋への買い物は基本橙に任せているから八百屋にはここ最近来てないぞ」

 

 俺はそんなに眠ってたのか?それにしては腹もそんなに減ってないが。

 

「最近と言うのは?」

「んー……3か月ぐらいは来てないんじゃないかな」

「えっ……」

 

 3か月?流石にそんなに寝ていたはずがない。そんなに寝ていたなら餓死するか妖怪に食われるか妖精のいたずらに巻き込まれて死んでいる。じゃあこの藍さんは別人……?いや比較的仲の良いらしい霊夢が見間違えるはずもないし同名の九尾の狐がそこんじょそこらに居るわけがない。居てたまるか。だが一応確認しておこう。

 

「なぁ霊夢、幻想郷に藍さんって二人くらい居る?」

「居るわけないじゃないこんな珍獣」

「本人を目の前にして珍獣とはなかなか度胸があるな霊夢」

 

 ふと後ろを見ると置いてけぼりにされ空気になっている妹紅がこちらを睨んでいるがしょうがない。今はこの状況を理解することが先決だ。

 

「藍さん、もう一度聞きますが本当に俺を知らないですね?」

「申し訳ないが本当に知らない」

「そうですか……」

 

 藍さんが本当にわからないのならこれ以上は話が進まないと思った俺は話を切り上げた。すると藍さんがこちらに近づいて来た。話の切り上げ方が露骨過ぎたか……?

 一瞬身構えたが藍さんは俺の耳元に口を近づけた。その仕草で藍さんが何をしたいのか、もっと言うなら何を言いたいのかがわかった。

 

「夢幻くん。」

「私たちは君の正体がわからなくとも君を歓迎しよう。だが問題を起こせば容赦はしない。それは覚えておいてくれ。でしょ?」

「これは驚いた。読心術でも使えるのかい?」

「いえ前会った藍さんにそう言われたので」

「そうか。その藍は本当に私だったのかもしれないな」

 

 俺の少し捻った言い方に藍さんも捻って返したようだ。だが残念ながらそれは全く捻られてない。事実だ。そのはずだ。

 

「じゃあな。また思い出したら伝えに行くよ」

 

 そう言うと藍さんは背中を向けて歩いて行ってしまった。

 

「ねぇ夢幻、これどういうことだと思う?」

「うーん。妹紅は?」

「全くわかんないや。てか霊夢は夢幻の意見を聞いてるんだから夢幻の意見を答えなよ」

「はいすいませんでした」

 

 さっきから妹紅が正論を言うことが増えてきたような気がする。空気になる回数に比例して増えていくのだろうか?まぁそれは冗談としてどういうことだと思うって聞かれてもなぁ……

 

「うーん……いくつか仮説は思い浮かんだ」

「どうぞ」

 

 正直仮説にすらなってないが別に言っておいて損にはならないだろう。

 

「まず一つ目、藍さんが記憶喪失」

「それは無いわね」

 

 どうぞと言った割にバッサリと切られてしまった。どうぞと言ったのは妹紅だが。

 

「俺もそう思ってるけど一応根拠を聞いておこうか」

「私の事とかは憶えてるわけだし記憶喪失にはなってないんじゃない?ってだけよ」

「俺とほぼほぼ同意見だな。ここ最近の記憶だけ抜けてるってこともあり得るが。妹紅はどう思う?」

「わたしもそれは無いと思うなー。あんだけ強い人が記憶喪失になるようなことになんてならないと思うし」

 

 なるほど、確かにそれもそうだ。あの人の実力を見たことは無いが霊夢や妹紅から話を聞いた限り滅茶苦茶強いらしいしな。

 記憶喪失になると言えば頭を強くぶつけたというのが一番多いだろうが、あの人がこけるとは思えないし何かをぶつけられたとも考えにくい。

 

「じゃあ二つ目、藍さんに会ったのは夢だった。俺が死んだのも夢だった」

「ふざけてんの?」

 

 妹紅に怒られてしまった。だが三人の記憶が一致しているというところを除け案外辻褄は合う。そのことを二人に伝えると

 

「確かにそれはそうだけど三人の記憶が一致してるってところはどうしても無視できないわよ」

「うん。流石にそれはあり得ないね」

 

 常識で返されてしまった。だがもちろん俺も二人と同意見だ。

 俺が死んだ夢を三人が偶然見るとかならまだぎりぎり可能性はなくも無いだろう。だが俺が博麗神社で誰かが投げた真っ赤な槍で胸を貫かれたというところまで一致しているというのはあり得ない。それに藍さんと会ったのが夢なら妹紅とも出会っていないだろう。それは今の状況から考えてあり得ないだろう。

 

「じゃあ三つ目。これが最後だ。俺たちが新しい世界に来たってことだ」

「はぁ?あんたふざけんのもいい加減にしなさ……」

 

 そこまで言うと霊夢の動きは止まってしまった。妹紅も腕を組んで静かに考察を進めているようだ。そう、恐らく霊夢も妹紅も気づいたのだろう。

 この説は突拍子が無さすぎる。新しい世界に来たというところはさっきの夢説と同じでほぼほぼあり得ない。

 だがこの説だとそのことをを除いて全てに説明がついてしまう。

 俺が死んだはずなのに傷一つ無いことや藍さんが俺のことを覚えていないこと。その他諸々説明がつく。俺が霊夢に出会う前に目覚めた場所で、今回目覚めたということも新しい世界に来たときのお約束ってやつだ。

 

「で、でもちょっと待ちなさいよ。だったらなんで私たちだけ記憶があるのよ!」

 

 そう記憶を俺たちは引き継いでいる。問題なのは俺たち´だけ´というところだ。だが俺たちはあの時すぐそばにいた。それが俺たちだけ記憶は引き継いでいる理由の説明になるかもしれない。が、やっぱり新しい世界に来たというのはやはり信じられない。

 

「まぁ結論を出すのは慧音先生に会ってからでもいいんじゃないか?」

「まぁそれもそうね」

「あ、そっか。もし新しい世界に来てるってなら慧音も夢幻のこと憶えてないはずだもんね」

 

 そう、そして慧音先生に会いに行かなければ俺が妹紅と出会うことも絶対に無かった。つまり夢であったという説は潰れるのだ。その確認のためにもやはり慧音先生に会わなければならない。

 だがここで俺の頭に俺個人として最悪な可能性が浮かんできた。俺が槍で貫かれる前、――こんなことを言ってしまうと霊夢に本当に申し訳ないのだが――霊夢よりも絶大な信頼関係を築いた永遠亭の奴ら、永琳輝夜てゐ鈴仙たちから俺の存在が忘れられているかもしれないのだ。その可能性が俺を絶望に叩き込もうとしてきた。だが現時点ではあくまで可能性だ。まだそうと決まったわけじゃない。諦めるにはまだ早い。そう自分に言い聞かせ何とか心を折らずに耐えることが出来た。

 

「よし……行こう」

 

 妹紅と霊夢と共に寺子屋へ向かう。




 雲行きが怪しくなってきましたね……


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第十八話 やっと会えた初めまして

シリアス展開って書いてて結構辛いですねぇ……



 俺たちは何か普通ではないことが起こっている状況に慌てつつ全速力で寺子屋へ向かった。そのお陰で前回歩いた時の三分の一程度の時間で着くことが出来た。

 

「ここだよな?」

「うんあってるよ」

 

 寺子屋の前で心を落ち着かせるためにもと、呼吸をゆっくりと整えながら最後の確認をしていた。

 俺の質問に答えた妹紅は俺と霊夢の呼吸も整ってきているのを確認すると一歩前に出た。

 

「けぇぇぇぇぇねぇぇぇぇぇぇ!」

 

 妹紅の大声が人間の里に響き渡る。周りの人たちが異常者を見るような目でこちらを見ていたが霊夢が睨みつけるとすぐにどこかへと走って行った。

 ちなみに妹紅が大声を出す理由は全く無い。強いていうなら三人ともそういう気分だったからと言った感じか。勿論霊夢が周りの人たちを睨みつける理由もなかった。霊夢が若干イラついていたというだけだ。正直自分達でも何がしたいのかよくわかっていない。ただなんとなく気分に任せて行動している。大筋だけはしっかりしているがそれ以外の行動は異常者のそれだ。周りの人たちの反応は何も間違っていなかった。

 そして三人がようやく落ち着いて来たところで慧音先生が慌てた様子で出てきた。

 

「どうした!? なにかあったのか!?」

 

 俺は心の中で必死に祈る。

 頼む、慧音先生は憶えていてくれ。藍さんが忘れていただけであってくれ。大声で叫んで迷惑をかけた罰としてヘッドバットを思いっきりしてくれ。そしてまた前みたいに長ったらしい説教をしてくれ。

 横目で霊夢を見ると霊夢もまた何かを祈るような顔をしている。一歩前に出ているせいでわからないが妹紅も同じはずだ。頼む俺たち三人の願いを叶えてくれ……!

 

 しかし俺達の願いも虚しく希望は慧音先生の言葉によって打ち砕かれた。

 

「その霊夢の横にいる男に関連しているのか?」

「あ……」

 

 妹紅が小さく声を発する。俺は既に地面を見つめただひたすら歯をくいしばっていた。

 

 (やっぱりか。慧音先生も……憶えてなかったか……)

 

 正直なところこんな結果になるのはわかっていた。ここに走ってくるまでに出会い、声を掛けてきた人たちの中には以前霊夢と2人で人間の里を歩いていた時に出会った人たちもいた。だがその誰もが俺のことは憶えていなかった。

 涙がこぼれてくる。

 

「なんで……なんで俺のことを憶えてないんだよ……」

 

 小さく、嗚咽を交えながら呟く。その呟きは恐らく霊夢と妹紅にしか聞こえていない。霊夢は俺の背中に手を添えてきた。

 

「私たちがいるから……いつか絶対になんとかしてみせるから……」

 

 霊夢の声にも嗚咽が混じっている。

 霊夢はなんだかんだいって責任感が強く仲間想いの奴だ。多分俺が槍に貫かれるのを防げなかったことでこうなったと思い、責任を感じているのだろう。だが霊夢は何も悪くない。強いていうならば運が悪かっただけだ。俺と出会ってしまいあの場に出くわしてしまっただけなのだ。責任を感じる必要なんてどこにもない。

 妹紅はと言うと背中が少し震えている。恐らく呼吸を整えているのだと思う。妹紅にはこの後もう一つだけ仕事を頼んでいる。だがその仕事は声を発することになるから泣きながら、呼吸が整っていない状態で喋っても仕事を果たしたとは言えない。妹紅はそれをわかっているからこうして呼吸を整えているのだろう。

 

「な、なぁ妹紅? どうしたんだ?」

 

 慧音先生がこの重い雰囲気に耐えられなくなったのか妹紅に話しかける。妹紅は呼吸が落ち着いて来たらしく慧音先生の問いかけに答える。

 

「慧音さ……こいつのこと、憶えてない?」

 

 妹紅が俺をことを指しながらそう慧音に問いかける。

 妹紅に頼んでいたもう一つの仕事は慧音先生が俺のことを憶えていなかった場合、もう一度慧音先生に確かめることだった。文面だけではそこまで大した仕事に見えないかもしれないが希望を潰され、絶望の渦に叩き込まれている所で言葉を紡ぐというのは案外難しい。それでも妹紅が自分からこの仕事をやると言ったのは妹紅も責任を感じているからだろう。

 本来これは俺がやるべき仕事であり俺がやるはずだった。だが妹紅が自分がやると言って聞かなかったので妹紅の優しさに甘えることにしたのだ。男として情けない。

 妹紅の質問に困惑した様子の慧音先生はしばらく考え込んだのち、俺の目の前まで来て俺の顔をよく眺めしっかりと確認した。だが慧音先生の顔は申し訳なさそうにしている。それだけでこの後の展開は察することが出来た。

 1分ほど俺の顔を確認した慧音先生は申し訳なさそうな顔をしたまま俺に頭をペコリと下げてから妹紅の元へと戻って行った。

 もう俺たちは3人共覚悟を決めた。そして妹紅の問いに対する慧音先生の答えは俺たちの考えていた通りだった。

 

「申し訳ないが見覚えはない。名前を教えてはくれないか?」

 

 そう言うと慧音先生は俺のほうへと目線を向ける。霊夢と妹紅も俯いたままこちらを向く。

 

「黒露……夢幻……です」

「黒露夢幻……」

 

 慧音先生は何度か俺の名前を繰り返していたがやはり思い当たるものは無かったらしい。

 

「すまない、記憶に無い。以前どこかで出会っているのかな?」

「ええ、まぁ……」

 

 もうこれ以上何かを聞かれても答えられる自信がない。顔を伏せたまま会話をするのが失礼に当たるのは重々承知だ。だが泣いた顔を見せて心配させたくもない。

 俺の涙が地面へと落ちシミを作る。それを慌てて靴で踏んで隠す。なにもわかっていない慧音先生にこれ以上心配や迷惑を掛けたくない。

 

「それじゃあ……行きますね……時間を取らせて申し訳ございませんでした……」

「ああ……憶えていなくてすまなかったな。また思い出せたら連絡するよ。もし良かったらまた来てくれ。ゆっくり話がしたい」

「え、でも……」

 

 この慧音先生は前の慧音先生とは違う。今の慧音先生と話しても混乱させてしまうし俺自身も混乱してしまう。そう思い断ろうとしたが慧音先生が先に声を出した。

 

「嫌だとは言わせんぞ? 霊夢、悪いが一段落ついたらまたここに連れてきてくれ」

 

 慧音先生がニヤリとしながらそう言った。そして俺と霊夢は顔を見合わせた。

 

(そうかそうか、そんなに頭突きが気に入ったのか。霊夢、悪いが永遠亭で診てもらったらもう一回ここに連れてきてくれ)

 

 前の慧音先生と別れる間際に慧音先生が言った言葉が頭の中に蘇ってきたのだ。恐らく霊夢もそうなのだろう。

 そんなに前の事じゃないはずなのにとても懐かしく感じる。

 霊夢が慧音先生の頼みに答える。

 

「ええ、今度こそは必ず」

 

 霊夢の今度こそという言葉の意味に疑問を感じたようだが何かを察してくれたようだ。

 

「……そうか前はこの約束は果たしてくれなかったみたいだな霊夢? あとでお説教だ」

「ちょっと!? なんで私が!?」

 

 霊夢の慌てている様子を見て俺と妹紅と慧音先生は一緒に笑い出した。霊夢は慌てていてそれどころじゃ無さそうだが。

 そうだ、この慧音先生は前の慧音先生ではない。だけどこの慧音先生も慧音先生なんだ。そのことをしっかり理解できた。

 

「それじゃあそろそろ行くわね」

「ああ。この後はどこに行くつもりなんだ?」

「永遠亭かな」

「ふむ。妹紅、道案内はしっかりな」

「言われなくてもわかってるよー」

 

 最後に慧音先生とそんな会話をし俺たちは寺子屋から永遠亭へと向かい始めた。

 

「これで夢って説は無くなっちゃったわね」

「そうだな。いよいよ別の世界に飛んできた説が濃厚になって来たな」

「そんな物語みたいなことある?」

「不老不死のやつが何言ってるんだよ」

 

 不老不死なんか異世界に並ぶレベルであり得ない話だろうが。

 

「それもそうだね。ところでさ夢幻」

「どうした?」

「ナナたちに会う?」

「……」

 

 ナナと言えば槍に貫かれる前に迷いの竹林で仲良くなった兎だ。たちと付けたのはナナと比べれば関りがまだ浅いがそれでもとても仲良くなった夏樹、みく、李衣菜の3人のことがあるからだろう。

 ナナたちが俺のことを憶えてないかどうかを調べて憶えていなければこの3人しか前の記憶は持っていないことがほぼ確定となる。今後のためにも会っておいたほうがいいだろう。

 だが妹紅が会うか聞いたのは俺のことを気遣ってくれたのだろう。関りが槍に貫かれる前一番薄かった慧音先生や藍さんの記憶から俺が抜けていただけであそこまで傷ついたのだ。言い方は悪いがあの二人よりよっぽど仲の良かったナナたちに忘れられていれば立ち直れなくなる可能性もある。

 

「うん、会いに行こう」

 

 だが既に俺のことを憶えているのは霊夢と妹紅だけだと覚悟している。ナナたちに忘れられていてもああやっぱりなで済ませることが出来るはず。もし憶えてくれていたらそれは俺にとって、俺たちにとって最高の喜びになる。

 

「大丈夫なの?」

「おう!」

 

 元気よくそう答える。だが妹紅がジト目になってこちらを見ている。

 あれ?おかしいな。

 

「……ほんとに?」

「……多分」

 

 正直威勢を張っていた。――恋愛的な意味ではなく友達としてだが――大好きなやつにこんなやつ知らないと言われて傷つくなというのは無理がある話だ。だがそれでも行かなければならない気がするのだ。例えどんな結果が待っていようと。




これから数話の間こんな感じのシリアスが続くかと思いますがよければお付き合いお願いします。
全くもってどうでもいい話になるのですがこの話、特に終わりの方の大好きだったやつに嫌いと言われて傷つかないはずがないというあたりなんですが、私自身も執筆時現実で同じ様な状況になっておりまして(流石に槍で貫かれたりはしてないです)夢幻に感情移入(というか自身を投影してしまってる部分もあるかもしれませぬが)しすぎてしまってキーボード叩きながらちょっと涙をこぼしてたり……
まぁそんなどうでもいい話は置いといてですね、実は私の好みで出しているように見える(かもしれない)346アイドル達なんですがこの物語において結構大事な役割を持ってたりします。


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第十九話 歓喜

 更新ペースを上げるとか言ってたのは誰ですかねぇ……(すっとぼけ
 ごめんなさい許してくださいなんでも島風


「いつまでうじうじしてんのよ……女々しいわよ」

 

 霊夢が俺の様子を見てストレートに罵ってきた。確かに過ぎ去ったことをいつまでも引きずっているのは男らしくないと俺も思う。

 

「でも慧音先生が……」

 

 仲良くなった人に忘れ去られているというのは相当キツイ。しかも今、ナナ達のところに向かっているが恐らくナナ達も俺のことを忘れているだろう。いや忘れているというより知らないのほうが正しいかもしれない。まぁどちらにせよ処刑台に向かっているようなものだ。そしてその処刑台はもうそこまで遠くない。

 

「妹紅さんや、あとどれくらいで着くかの?」

「じいさん、昼ご飯はさっき食べたじゃないの」

「てめぇがボケてるじゃねぇか!」

「わたしはボケてないよー。むしろボケは夢幻のほうで」

「やんのかゴラァ!」

「やってやろうじゃないのゴラァ!」

「なんでも語尾にゴラァ付ければいいと思ってんじゃねぇぞゴラァ!」

「そうだったのかゴラァ!以後気を付けるよゴラァ!」

 

 喉が渇く。少し大声で騒ぎ過ぎたか?まぁ楽しければいいのだが。

 

「んで? あとどんくらいでナナ達のステージに着くんだよ」

「夢幻も一緒に居た癖になんで憶えてないかなぁ」

「こんなところで道なんか憶えられたもんじゃねぇ」

 

 気が付いたら竹伸びてたり新しく生えてきたり無くなったりしてるのに道を憶えられていられる方がどうかしていると俺は思う。なんか竹以外に目印でもあんのか?いや無いな。ここ竹しかないし。

 

「勘だよ勘」

「なんで言葉に出してないのにわかるんだよ気持ち悪い」

「あ、そんなこと言っちゃうんだ?」

「妹紅もそろそろ答えてあげなさいよ」

「はいはい」

 

 俺たちの無駄で謎なコントは呆れた雰囲気の霊夢によって幕を閉じさせられた。俺と妹紅の会話は8割コントになるからツッコみがいないと無駄に体力を消耗してしまうことになるのでやはり霊夢がいないと困る。

 

「えーとねナナ達のステージは」

 

 そこまで言ったところで妹紅の動きが固まった。輝夜でも現れたのか?

 

「どうした?」

「えっと、ナナ達のステージは……ここだね」

 

 そう言って右へ視線を向ける。俺も妹紅に倣って同じ方向を見るとなるほど。一見じゃステージがあるのかわからないが不自然に竹が真っすぐに生えていたりして知っているものが見ればナナ達のステージだとわかるだろう。

 

「ちょっと覚悟を決めさせてくれ」

「はーい」

「しょうがないわねぇ」

 

 妹紅と霊夢の両方が気だるげに返事をしてくる。もっとシャキッとしてほしいがお願いをしている立場でそんなこと言えるはずもなくゆっくりと呼吸を整える。

 すると右側の草むらがガサガサと音を立てて動き始めた。

 

「妖怪!? 獣!?」

 

 霊夢が臨戦態勢に即座に移った。その判断スピードと反射神経は尊敬する。が、俺と妹紅を顔を見合わせる。

 

「ちょっと! なにボサッとしてんのよ! 早く身構えなさい!」

 

 怒っている。激おこである。

 確かに嫌な予感はする。だが俺と妹紅が感じている嫌な予感と霊夢が感じている嫌な予感は恐らく別物だ。

 霊夢が感じている嫌な予感はつまり身の危険であろう。だが俺と妹紅が感じている嫌な予感は言うなれば心の危険だ。このままでは俺の精神がズタボロにされてしまうかもしれない。

 俺は自分の精神の危険に憶えながらも霊夢の様子を見て一つ気が付いた。のですぐに霊夢を止める。

 

「霊夢は一旦落ち着け」

「なんでよ」

「いいから」

 

 そう言うと霊夢は不思議な顔をしながら手に持っていたお札をしまった。

 あぶないあぶない。あのままだと草むらから出てきた瞬間に霊夢が攻撃してしまっていた。

 

「夢幻! 来るよ! 覚悟は決まった?」

「全く決まってねぇがもうどうしようもねぇだろ」

 

 俺は悟りの境地へと達した。ジタバタせずに自分の運命を受け入れれば良いのです。

 などと冗談を言っている場合ではなく、普通にヤバいし冷や汗はダラダラだ。でも音的にもう来るし。もうどうしようもねぇし。

 

「夢幻さ、そんなお菓子を買ってもらえなくて拗ねたような顔をしている暇があればもう少しだけでも覚悟を決めておいたほうが良いと思うよ。言っとくけど精神壊されて廃人みたいになっちゃってもどうしようも出来ないからね?」

「そんな顔をしてねぇよ。まぁ廃人になったら永琳のとこ連れっててくれ」

 

 どこかのバトル物の主人公が最後に言いそうな言葉を発したところで草むらから遂にそいつが出てきた。

 

「キュピピーン!ウサミン星から電波をキャッチして来ました!安部菜々です!」

 

 ナナだ。最初はこのキャラのせいでちょっとなんだこいつみたいに思っていたところがあるが今では大好きだ。応援したい。

 

「お久しぶりです!」

 

 さぁどう来るか?と言っても俺は半分心が折れている。

 ナナの口から誰ですか?とか初めまして!とか聞きたくない。お久しぶりと言うことは少なくとも妹紅のことは憶えているようだ。

 

「妹紅さん!」

 

 くっ……

 

「それから」

 

 ん?

 

「夢幻さん!」

 

 え……?

 

「ナ、ナナ?今何て言った……?」

 

 妹紅と霊夢の顔をチラリと見ると顎が外れそうな顔をしている。漫画なら目も飛び出してそうだ。

 正直今あんまりふざけていられる様な気持ちではない。

 ナナは俺の質問に不思議そうにしている。そしてしばらくしてから口を開く。

 

「えーと、お久しぶりです妹紅さんそれから夢幻さんって言いましたけど……あれ? もしかして菜々名前間違えてました?」

「い、いや間違ってないけど……」

 

 体が震える。他人に憶えていてもらえることがこんなに嬉しいなんて。俺は嬉しさのあまりナナに飛びついて抱きついた。

 

「ナナ!ありがとう!」

「え、え、えぇぇ!? な、何がですか!?」

 

 ナナが顔を真っ赤にして慌てている。慌てているというよりは混乱している。だが俺はそれに構わずナナを強く抱きしめえながら涙を零している。

 

「え、ちょ! 夢幻さん!? どうしたんですか!?」

 

 恐らく俺が泣いてるのを見て心配してくれているのだろう。ナナはやっぱり優しい子だ。

 そのまましばらくナナを抱きしめながら泣き、ようやく落ち着いて来たところでナナから離れた。

 

「あ、えーっとごめんナナ。急に抱きしめたりして」

「い、いえまぁそれは良いんです! 気にしないでください。でもなんで泣いてたんですか?」

「えーとな」

 

 どう説明しようかと頭の中で整理をする。するとその様子を見たナナが慌てて声を掛けてきた。

 

「あ、あの!答えにくいことなら全然大丈夫ですから!」

「あーいや、そういう訳じゃないんだ。ナナには何も隠さず話すつもりだから。ただちょっと整理させてくれ」

「そういうことでしたらいつまでも待ちますよ!」

 

 あぁ……ほんとナナ可愛いなあ……だがまぁその前に頭の中を整理することが必要だ。

 俺が必死に頭の中で今まで起こったことを整理していると妹紅が、俺の忘れていた大切なことを聞いてくれた。

 

「ナナ、李衣菜たちはいないの?」

「あ、そうですね! 結構大事な話みたいですし皆で聞いたほうがいいですかね? ステージのところにいるので今すぐ呼んできます!」

 

 そう言うとナナはステージのほうに駆け出して行った。

 しかしすっかり李衣菜たちのことを忘れてたな。本来アスタリスクwithなつななが揃ってるところに俺たちから行くつもりだったのだがナナが一人で飛び出してきてしまったのでその辺が全て抜けていてしまった。ナナが俺たちのことを憶えていてくれたことの衝撃もデカかったしな。

 李衣菜たちに心の中で謝罪していると4人が草むらから出てきた。

 

「お待たせしました!」

「夢幻さん! お久しぶりです!」

「夢幻ちゃん! 久しぶり~! 元気にしてたかにゃ?」

「夢幻、久しぶりだな! 元気そうで良かったぜ!」

 

相変わらず李衣菜はヘッドホンをつけてるしみくは猫耳と猫しっぽをつけてるし夏樹は特徴的な髪型をしてるしで、別れたのはつい最近のはずなのにとても懐かしく感じる。

 

「おう、みんな久しぶり」

 

 皆俺のことを憶えてくれているようで嬉しすぎる。しかし妹紅のほうを見てみると口をとんがらせていた。

 

「どうしたんだ? 妹紅」

「なーんでみんなナチュラルにわたしのことをすっ飛ばしてるのかなーって」

「あぁ別に忘れてたわけじゃないぜ? 妹紅も久しぶり」

「その取って付けたような挨拶なんなのさー」

「まぁまぁ皆さん! 立ち話もなんですしステージのほうへ!」

「おうありがとうな」

 

 ナナに促されステージのほうへとみんなで向かう。




 ここまで読んでくださってる方たちならわかると思いますし前も言ったと思いますけどわたしウサミン担当Pでございますキャハ☆そしてしぶりん担当Pであり茜担当Pでもあります。その三人には甲乙つけられませぬ。なのでウサミンしぶりん茜担当Pです。
 ……おい今ウサミンSSRとか言ったの誰だ?
うわぁぁぁ!限定ウサミンが最初に出た時にはまだデレステやってなかったですし復刻の時にはまだウサミンの担当になってなかったんですもん!フェスはいくら回しても来なかったよ!モバマスのほうではまぁそれなりにSRいますけど……


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第二十話 理由

間が開いてしまいすいませんでした!決してポジパのイベントがあったからとかじゃないですはい。


 ナナ達に誘導された場所は前来た時とほとんど変わっておらず懐かしさを覚える。ここ迷いの竹林の特徴としてある竹の成長スピードはここでも変わっていないようでステージのバックなどはだいぶ違うが。

 

「ではここで少しお待ちください!」

 

 そう言うとナナが李衣菜と夏樹を連れてステージの裏へ引っ込んでいった。恐らく机や椅子を用意しに行ってくれたのだろう。俺たちにも手伝いくらいさせてくれてもいいと思ったがナナ達の気遣いをありがたく受け取っておくことにした。というより今はそれ以上に気になることが一つある。

 

「夢幻チャン、なんにゃその目は……」

 

 みくだけがナナに連れていかれなかったのだ。確かに猫耳猫尻尾にこの口調と少し周りと浮いているところはあるが……

 

「みく、なにかあったら俺たちに相談してくれよ?」

「……なんか夢幻チャンたち勘違いしてるみたいだけど、別にみくはハブられたりしてるわけじゃないのにゃ……」

 

 よく今の言葉だけで俺の考えてることがわかったな。しかしではなぜ置いて行かれたのだろうか。三人行くなら四人行っても変わらないと思うんだが……

 ふとみくのほうを見るとキッとした目でこちらを見返してきた。なにか強い覚悟を感じる目だ。使命を全うしようとしている目とも言えるだろう。

 

「みくは夢幻チャンたちが変なことしないようにナナちゃんたちに頼まれてるのにゃ!」

「夢幻あんた……この娘たちに変なことしたの……?」

 

 みくは胸を張ってどうだと言わんばかりの顔で理由を明かしてきた。だが言葉選びを少し間違えてるような気がする。霊夢が勘違いして俺に殺気を向けてきているではないか。

 

「おい、みく。変なことの詳細を教えてくれ。じゃないと俺が殺される」

「え、殺され……ひっ」

 

 霊夢の殺気に気が付いたみくが小さく悲鳴をあげた。まぁそういうわけだ早く早く。俺が死ぬ前に。

 

「え、えっと、ナナちゃんがさっき、夢幻さんたちは手伝おうとして私たちを追ってくるかもしれないから絶対に通さないようにしてください。体調優れないようですし。ってみくに伝えてきたのにゃ」

 

 ナナはほんとに心配性だな。別に体調が優れないわけじゃなくて混乱してるだけなのに。

 

「夢幻はこの娘たちになにもしてないのね?」

「うん、してないよ」

 

 妹紅が霊夢の疑いを晴らす一撃を放ってくれた。というかそうだ、こいつはナナ達に会ったときにずっといたんだからお前が言ってくれたらすぐに終わってたんじゃないか。

 そのことに気づき少し妹紅を恨めしく思うがみくがここに残ってる理由がしれたしまぁ良いか。

 そんな話をしているとナナたちがパイプ椅子と簡易机を持って戻って来たので声をかける。

 

「ナナ、俺たちにも手伝わせてくれよ」

「いえ!夢幻さんたちはお客さんですから!」

「そーそー。あんたらはお客さんなんだからお客さんらしくしてなって」

 

 あまり客だからといってふんぞりかえっているのは好きではないのだが……と思っていると既に設置は終わっていた。早いな。

 

「ささ!こちらへどうぞ!」

 

 ナナが引いてくれた椅子に俺たちは座った。そしてその向かい側にアスタリスクwithなつななの4人が座る形になった。まぁ座ってすぐにナナは俺たちのお茶をいれるために席を立ったのだが。別にいいって言ったんだけどなぁ……まぁありがたく受け取ろう。

 暫くするとお盆に6個の湯飲みと急須を乗せて戻って来た。

 

「お待たせしました~!」

「ありがとうな」

 

 ナナはいっつもキャピッとしてるのにこういう湯飲みを使ったりするから中々ギャップがある。そのギャップを可愛らしく思いながら湯飲みを取ろうとするとあることに気づいた。

 

「……6個?」

 

 この場には俺・妹紅・霊夢・ナナ・みく・李衣菜・夏樹の七人がいる。しかし湯飲みは6個、つまり誰かの分は無い。ここで一つの可能性に気づいた。

 

「みく、お前やっぱり……」

 

 やっぱりみくはハブられていたのだろうか……あの素晴らしい歌やダンスの裏にこんな悲しいことがあるなんて!俺は悲しい……そう思いながらみくのことを同情的な目で見る。

 

「だーかーら!みくはハブられたりしてるわけじゃないってば! 何度言ったらわかるにゃ!」

「ひーふーみー――……ああ!自分の分を忘れてました!ちょっと取ってきます!」

 

 みくが唸り声を上げるのと同時にナナが間違いに気づき即座に立って不思議なポーズをしてから走って行った。ところで今どきの子でもひふみで数えるものなのか……?

 

「夢幻チャン!みくはハブられてないにゃ!むしろ全然みんなと仲良いにゃ!ね?夏樹チャン李衣菜チャン!」

「え、そうだったのか?」

「そうだったの?」

「もー!二人とも―!!」

 

 ああなるほど、みくはいじられキャラなんだな。これなら心配は無さそうだ。

 みくの扱いがわかったところでナナが戻って来た。

 

「お待たせしてすみませんでしたー!」

「全然待ってないぞマジで」

 

 みくたちの今の会話の間に行って戻ってきよった……なかなかやるな……

 

「では早速本題に入りましょうか」

 

 そのナナの一言で場の空気は一気に変わった。さっきまでふざけていたみくたちもも真っすぐこちらを見ている。

 俺たちはその真っすぐな視線に応えるようにすべてを包み隠さず話した。すると意外なことにもアスタリスクwithなつななのメンバーは誰一人として俺たちの話を疑わなかった。

 

「なぁお前ら……自分から言っといてなんだけど疑ったりしないのか?」

「そりゃ夢幻が殺されたのに今ここにいる事とか普通じゃあり得ないことばっかりだったけど今アタシらに嘘をつく必要が無いし、なによりあんたらの目は嘘をついてる目じゃねぇ」

 

 夏樹の言葉になんだそりゃと思ったが目を口ほどに物を言うともいうし今の夏樹の目を見れば冗談で言ったわけじゃないってことがよくわかる。それにしても夏樹の言葉にはどこか頼もしさを感じる。いや李衣菜やみくたちの言葉に頼もしさがないってわけじゃないが夏樹の言葉にはすべてを任せてもいいと思えるほどの頼もしさがある。なんなんだろうな?

 

「で、ここまでの話を聞いて心当たりとか気付いたこと、なんでもいい。何かないか?」

「んーとですね、全く関係ないというか私が忘れてるだけかもしれないですけどいいですか?」

 

 李衣菜がすぐに手を上げてきた。李衣菜はこういうところがいいと思う。周りの空気を気にせずに言いたいことが言える、これは凄いことだと思う。別に李衣菜は空気が読めないわけではない。だが一番槍を切ってくれるタイプなのだ。どんなところにも一人は欲しいタイプだ。

 李衣菜は立ち上がると俺たちではなくアスタリスクwithなつななのメンバーのほうを向き皆に問いかけた。

 

「皆さ、さっき夢幻さんたちに会ったときに普通に久しぶりって言ってたけど前会ったのっていつだったか憶えてる?」

「え? そりゃぁ……あれ?いつだ?」

 

 沈黙が流れる。この件に関してはそもそも藍さんと話した時から俺らにはわからないと三人の中では結論が出ている。

 

「前回夢幻さんたちに会ったのは7月10日だにゃ。そんなことも憶えてないのかにゃ?」

 

 するとみくが立ち上がりドヤ顔をしながらそう答えた。みくがしっかり憶えているということは李衣菜の疑問は解決だろう。それに伴って俺らも今の日付を認識することができた。

 他にはないか?そう聞こうとして周りのやつらを見ると思っていたのとは逆の顔をしていた。

 

「お、おいお前らどうしたんだ?」

「いや実は私やなつきちも前夢幻さんたちと会った日付が7月10日ってことは憶えてたんです。でもそれだと……」

 

 そこで李衣菜が口を濁した。するとその李衣菜の言葉を引き継ぐようにナナが喋り始めた。

 

「ええナナもそう記憶してます。でもそれだと絶対に無視できないおかしなところが出てくるんです。みくちゃん今日の日付、憶えてますか?」

「え、うん。今日は7月……10日?」

 

 みくの言葉が進むにつれてみくの顔も信じられないといったような顔に変わっていった。だがそれはみくだけではない、俺や妹紅や霊夢も同じだ。

 

「日付が……同じ……?」




今回短くてすみません!
本来幻想郷での日付は「第121季月と夏と火の年」とか「第121季長月の五」とかみたいな数え方なんですが今後更に時系列がややこしくなっていくこの作品でそんな数え方をするとこの作品を読んでくださってる皆さんが絶対混乱すると思ったのでこの作品では普通に2017年2月28日みたいな感じで書いて行こうと思いますのでよろしくお願いします。
それでですね、それよりも大事なお話があるのですが、今までのデレマスキャラが出てくる話では苦手な方は飛ばしてくださっても構いませんと言っていたのですがちょっと大きな変更が入り前言ったようにデレマスのキャラがこの物語の中でも大きな役割を果たすことになりまして、デレマスキャラが出ている話を飛ばして読むと全く話が理解できなくなると思われますのでそういう方はこの辺で切ってくださるほうが良いかもしれません。別に構わないよ!と言う方はこれからもどうかよろしくお願いします!


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第二十一話 空気の変化

 またまた間が空いてしまい申し訳ございません……ちょっと熱出したりしてまして……


 俺たちが前回ナナ達に会った日と今日が同じ日だと言うのはあり得ない。なぜなら前回ナナ達と会ってから俺は永遠亭で夜を越したからだ。だがアスタリスクwithなつななのメンバーの間での認識は一致している。

 

「カレンダーを一日めくり間違えてるとかは?」

 

 妹紅がこのまま悩んでいて仕方ないと思ったのかはわからないがまだ可能性がある質問を口に出した。ただ流石にそれはないだろうな……と言おうとすると代わりに夏樹が俺が思っていたことをそのまんま言ってくれた。

 

「一日めくり間違えてて日付が一緒ってならカレンダーめくろうとして気づいた奴がいるってことだろ。でも今月のカレンダー当番はあたしだ。しかもあたしはカレンダーを毎日しっかりめくった記憶があるから誰かが戻したりしてない限りカレンダーでのミスは無いぜ」

「そっか……」

 

 夏樹の完全な反論に妹紅は何も言い返せず黙ってしまった。当然妹紅が場の雰囲気をひっくり返そうとして先の発言をしたことはこの場の全員がわかっている。しかし妹紅の沈黙により場の空気自体もまた重く沈んでしまった。夏樹が慌てて空気を盛り返そうとする。

 

「あ! わ、悪いそういうつもりじゃなかったんだ。ただ時間が繰り返されてるとかじゃなかったらカレンダーの印刷ミスくらいしか後は無さそうだよなぁ……ハハッ」

 

 しかし夏樹が自分のキャラを捨てたジョーク交じりの発言もこの空気には打ち勝てなかったようで誰も笑うものはいなかった。

 

「ハハッ……」

 

 夏樹の悲しい笑い声が小さく竹林に広がって行った。

 それから数分後夏樹が恥ずかしさからなのか申し訳なさからなのか虚しさからなのかはわからないがうずくまってしまったのを見たナナが慌ててソロライブを始め、なんとか空気は話し合いが出来るような状況に戻った。

 

「とりあえず今の状況を整理しようぜ……」

 

 ナナが盛り上げてくれたこの空気の中に未だ数パーセント残っている重い空気の発生源の夏樹が司会を務めようとしてくれた。だがその状況で司会されても空気がどんどん沈んでいってしまう。そう思い夏樹と代わろうとしたところで俺より一足先にナナが立候補してくれた。

 

「はい!それでは早速整理していきましょう!夢幻さんお願いしてもいいですか?」

「おう任せとけ」

 

 そうは言ったもののどうまとめたらいいのかがいまいちわからない。というかまとめるべき場所がよくわからいのでとりあえず重要そうなところだけをまとめることにした。

 

「えーと今俺たちが過ごしている今日はカレンダー通りだとすれば7月10日で、俺たちがお前たちと初めて会った日も7月10日。しかしこの場にいる全員が一度7月10日を終えている記憶がある」

 

 ここまで喋ったところで一つ違和感に気づいた。

 

「あれ……?李衣菜と夏樹とみくはナナと俺が初めて会った日より一日ずれてるよな……?」

 

 そう、永遠亭へ向かった時に俺と妹紅はナナに出会った。しかしその場にはナナ以外のアスタリスクwithなつななのメンバーはいなかった。そして俺は永遠亭で一夜を過ごしそこからの帰り道で夏樹や李衣菜やみくと出会ったのだ。しかし初めて会った日は7月10日という認識になっている。もしかしたらそこに何かのヒントが隠されているかもしれない。

 

「んー……あ、そっか」

 

 みくが一人で納得したような声を出した。なにかわかったなら情報は共有しようぜと言おうと思ったがその前にみく自身から話し始めてくれた。

 特にどうといったことは無いがナナといいみくといい李衣菜といい行動が素早いやつが多いことに気づいた、俺らがほとんどなにも出来ていない。しかし今はみくの発言に耳を傾けることにする。

 

「悪いけど夢幻チャンたちが期待してるようなことは一切ないにゃ。夢幻チャンたちがナナチャンと出会ったのは7月10日、みくたちが夢幻チャンと出会ったのは7月11日で間違いないにゃ。李衣菜チャンたちが初めて会ったのが7月10日って言ったのはナナチャンが夢幻チャンと会った日に帰ってきてからやたら夢幻チャンの話をしてたからだと思うにゃ」

「ちょ、ちょっとみくちゃん!? その話は他の人には内緒でって言ったじゃないですか!」

「そうだったかにゃ?猫ちゃんは気まぐれだからにゃー」

 

 猫設定便利だな……と思ったが設定とか言うとまたみくに怒られてしまうのでそっと胸の内に秘めておくことにした。さてと、みくが言ったことを本人たちに確かめなくてはと思い李衣菜と夏樹のほうへ目を向ける。夏樹は未だに顔を伏せている。だがもう気にせず話を進めることにした。

 

「みくはああ言ってるがどうなんだ?李衣菜」

「あーまぁ間違ってはないですしほとんど合ってますよ。ただ初めて会った日って今回の場合は私たちが会った日というよりナナちゃんが会った日のほうが状況にあってるかなって思ったのでそういうことで話してました。紛らわしくてごめんなさい」

 

 李衣菜が頭を掻きながらそう言った。となると何もヒントは無かったわけだ。しかしまぁその判断は普通というか賢い判断だったと思う、俺たちが深く考えすぎてしまっただけだ。まぁなんの打ち合わせもなくその判断を下してお互いの意図も理解してたアスタリスクwithなつななの連係には驚かされたが。

 

「じゃあまとめの続きに行くか。だから今の状況を説明できる理由を可能性の高い順に言っていくとなにかしらの異変が起こった、カレンダーの印刷ミス、同じ時間を繰り返しているってな感じか?」

「まぁ……でも異変が起こったところであの藍まで影響を受けるとはあんまり思えないんだけどねぇ……」

 

 霊夢が横からもっともな意見を言ってくれ、俺も思わずうなずいてしまった。霊夢や妹紅曰く藍さんはこの幻想郷でもトップレベルの妖獣なのだそうで更にその上に立っているのは霊夢を含めた数人のみらしい。つまり異変だった場合その藍さんの上に立っている数人が起こしたとしか考えられない。他に可能性があるというのなら妖獣特化の異変とかだろうがそんなの霊夢からも聞いてないし無いだろう。

 

「同じ時間を繰り返してるって説が一番説明つくってのがなんとも言えないね……」

 

 妹紅の言う通りである。現実的に考えるとそんなことはあり得ないのだがその常識というものを取り除いてしまえばほとんどのことに説明がつく。この常識の扱いに非常に困る。

 

「そうだ」

 

 ようやく夏樹が顔を上げて一言発した。みんなが一斉に夏樹のほうへと顔を向ける。

 

「とりあえず永琳さんのとこ行ってくればいいんじゃないか?月の技術でなにかわかるかもしれねぇし」

「うーん」

 

 正直月の技術なるものは永遠亭に沢山あったが正直そこまで凄いと思ったのはあまり多くない。でもこの場で話合いしていても出てくる情報や意見には限りがあるし月の技術が無くても永琳の頭が良いのは間違いない。確かに夏樹の言う通り永遠亭に向かうのが今は良いかもしれない。

 

「俺は夏樹の意見に賛成だが他のみんなはどうだ?」

「そうですねぇ……確かにそれ以外今の状況を打破できる手はなさそうです私も夏樹さんの意見に賛成です」

 

 俺やナナに続いて霊夢や李衣菜やみくも賛成意見を出してきた。しかし一人だけ渋い顔をしているやつがいる。

 

「妹紅はどうなんだ?」

「うーん……輝夜が……」

 

 その一言を聞いて納得した。こいつらは仲が悪いんだった……しかし俺は以前妹紅が輝夜に殺された時の状況を思い出し、思ったことをそのまま口に出してみた。

 

「あのさ、お前と輝夜って実はすごい仲良いだろ」

「はぁ?」

 

 妹紅がしかめっ面をしながらこちらにゆっくり振り向いてきてとても怖い。しかし俺は自分の意見を言っているだけなのだから何が悪いというのだと自分を落ち着かせながら言葉を続ける。

 

「いやお前らの会話見てたら自分の気持ちに素直になれない二人が照れながら喧嘩してるようにしか見えないんだが」

 

 俺の発言を聞いて妹紅以外の全員は噴き出した。しかしその分妹紅の怒りは溜まって行ったようで指先に小さな火を小さくちらつかせながら俺に迫って来た。

 

「夢幻? 今の発言を取り消すなら許してあげるよ?」

「生意気言ってすいませんでした」

 

 怖すぎる、このままだったら殺されてしまう気がしたので自分のプライドは土に埋めて即座に謝った。何度も繰り返し頭を下げている俺の姿を見てまたみんなが笑っている。笑わせるのは好きだが笑われるのは大っ嫌いなんだよこの野郎と思いながらもただひたすら頭を下げ続ける。

 

「許そう。まぁいっか輝夜と会っても永遠亭に入ってさえしまえば永琳が止めてくれるし」

 

 その妹紅の一言で満場一致で永遠亭行きが決まった。




ちょっとなつきちがキャラ崩壊してしまいましたかね……?まぁいつもCoolに決めてるなつきちもたまにはこんな時があってもいいんじゃないですかね(適当
正直この小説で筆者自身混乱したりしてましてちょっとこれからも更新スペース空いちゃうかもしれないんですがたまに見に来て「お!更新されてるやんけ!見たろ!」みたいな感じで見てくれたら嬉しいです


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