難易度ハードな人理修復 (村正 ブレード)
しおりを挟む

序章 特異点F 炎上汚染都市 冬木
序章


 私は思った。
 あれ?職員の殆どが居ないのに、カルデア充実しすぎじゃね?と。

 私は考えた。
 いや、それもサーヴァント達が居るからか。

 私は閃いた。
 ならば、極力サーヴァントを召喚させなければ、難易度はもっと上がるんじゃね?と。

 大丈夫大丈夫、マシュ以外のサーヴァントが居ると明言されたのは第四特異点から(多分)だから。


 「◼️◼️◼️ーーッッ!!」

 

 自分の目の前で、ボロボロの服を着た骨人―――スケルトンが吼える。

 その叫びが耳に入ると同時に、自分の傍らにいた少女―――マシュ・キリエライトが眼前に出る。

 

 「先輩、下がって指示を!」

 

 「わかった!」

 

 後ろへ下がり、マシュへ指示を出す。正確に、かつ的確な指示を。

 

 「―――――ふう、何とか切り抜けましたね、先輩」

 

 戦闘を危なげなく切り抜けて、移動する。

 

 「それにしても、此処は一体何処なんだ?」

 

 なんとなく口にしたその疑問を、マシュが機械的な口調で答える。

 

 「ここは、2004年の冬木市の、丁度聖杯戦争が始まった時期です、先輩」

 「2004年の冬木市、か……」

 

 思えば、自分はなぜこんな所に居るのだろうか。俺は思考の隅で、そんな事を考えていた―――――

 

 

 

 最初は、街で見つけた張り紙だった。『人理継続保証機関・カルデア 局員募集中』と書かれた張り紙に興味を持ってしまい、何気なく応募したら、なんと受かってしまい、全長6000メートルもある雪山を登る羽目になった。

 今思えば、あれだけの行動力が自分に有ったとは思わなかった。

 

 「此処が、カルデア―――」

 

 雪山にそびえ建つそれは、轟々と吹き荒れ、視界を隠している猛吹雪の中でも尚、確かな存在感を放っていた。

 

 「………よし」

 

 覚悟を決め、中へ進もうとすると、アナウンスが聞こえてきた。

 

 ――塩基配列ヒトゲノムと確認

 

 ――霊基属性、善性・中立と確認

 

 ――99%の安全性を保障

 

 ――ゲート、開きます

 

 機械的なアナウンスが終わると、正面ゲートが開いた。霊基属性、が何なのかはよく分からないが、なんにせよ中に入る許可が出たのだ。深呼吸して中へと進む。

 

 「―――此れは……」

 

 そこはひどく未来的な空間であった。見とれていると、催促するようにサイレンが鳴る。

 惚けていた俺は、サイレンに驚いてしまい、慌ててゲートを潜る。

 ゲートを潜った俺を待っていたのは、先程と同じアナウンスだった。

 

 ――ようこそ、人類の未来を語る資料館へ。

 

 ――ここは人理継続保障機関カルデア。

 

 そのアナウンスを聞いて改めて、自分がここで働くのだという事を認識した。

 

 ――最終確認を行います。

 

 ――名前を入力してください。

 

 「名前、名前っと」

 

 目の前に置かれた端末に、自分の名前を入力する。

 

 ――認証、クリア

 

 ――あなたを霊長類の一員であることを認めます。

 

 ――はじめまして新たなマスター候補生。

 

 ――これより登録を行います。

 

 ――シミュレーション起動

 

 ――どうぞ有意義な時間をお過ごしください。

 

 認証はこれで終わりの様だ。余韻に浸っていると、段々瞼が重くなってきた。

 此処まで不眠不休で来たのだ、きっと疲れが出てきたのだろう。

 完全に意識が落ちない内に、ゲート近くに有ったベンチに寝転ぶ。

 

 意識が途切れる瞬間に視界に入ったのは、白い毛の動物と、白衣を着た眼鏡の少女だった。

 

 




 どうだったでしょうか。

 楽しんでもらえれば幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一節

私は思った
あれ?第四特異点まで召喚禁止だと難易度ハードじゃ無くね?

私は考えた
でもなー、そう簡単に召喚させたく無いしなー

私は閃いた
そうだ!アレを使えばいいじゃ無いか!

そんな訳で、ちょびっと修正。
第四特異点まで召喚禁止を、特異点一つにつき一人召喚させる、に変更しました


 眼が覚めると、其処は薬品の匂いが嫌でも匂う場所―――つまりは病室だった。

 

 「……此処は……?」

 

 俺は起き上がると、ベッド近くのデスクでパソコンを弄っている人に声を掛けた。

 

「ん?…ああ、目が覚めたのか」

「えっと、貴方は…?」

「僕の名前はロマニ・アーキマン。皆にはDr.ロマンって呼ばれてる」

 

 そう言って彼はベッド傍の椅子に座る。

 

 「気分はどうだい?」

 「いや、特には…」

 「…そうか」

 

 その答えを聞くと、彼は嬉しそうに微笑んだ。

 

 「あの、アーキマンさん」

 「ロマンでいいよ。堅苦しいのは好きじゃないしね」

 「じゃあロマンさん、俺はどうしてこんな所に居るんですか?」

 「うん、先ずは其処から話そうか」

 

彼、ロマンさんは簡潔に此処までの経緯を話してくれた。

 

 「―――とまあ、こんな感じなんだけど、何か質問はあるかい?」

 「じゃあ一つ。…その、話に出できた子の事なんですけど…」

 「マシュのことかい?」

 「はい、後でお礼を言おうと思って」

 「うん、それじゃあまずは―――」

 

 ロマンさんが言葉を続けようとするが、携帯の着信音によって遮られる。

 

 「あー、」

 「いえ、お構いなく」

 「…ごめん」

 

 誰からかは知らないが、だからといってそれを邪魔する訳にはいかない。通話が終わるまで待っていよう。

 

 「――――――ああ、なるべく早く行くよ、それじゃあ」

 「…誰からだったんですか?」

 「此処での上司みたいな人さ。…もし君がいいなら、一緒に来るかい?」

 「…良いんですか?」

 

 勝手に連れて来て、怒られたりしないのだろうか。もしそうならば、申し訳ない。

 

 「ははは、別に構わないよ。何せ、初の正式稼働だからね。見物人は多い方がいいのさ」

 「…それって、大丈夫何ですか?」

 「安心してくれ、試験稼働では失敗していないから」

 

 それが一番怖いんですが。…まあ、こんな機会は二度も無いだろうから、喜んで行かせて貰うが。

 

 「お願いします」

 「うん。…動けるかい?」

 「えっと、はい。普通に動けますが」

 「なら良かった。…丁度良い、折角だからカルデアを一周していこう」

 「……それって、大丈夫何ですか?」

 「心配要らないよ。遅かれ早かれ此処を案内するんだからね。だったら、早いうちにしておいた方がいいでしょ?」

 

 そう言いながら微笑んでいる彼に溜息を吐きつつもベッドから立ち上がる。……まあ、初日だし、これくらいは許されるだろう。ロマンさんは知らないが。

 

◼️◼️◼️◼️◼️

 

 「キューッ、キューーーッ!」

 「ん?…うわっ!?」

 

 エントランス、書庫、寮エリア、トイレなど、カルデアの中の施設を回りつつ、ロマンさんと談笑していると、突然視界が黒に染まる。

 

 「ちょっ、大丈夫かい!?」

 「……ぷはっ!…はい、大丈夫です。それにしてもロマンさん。この子は一体…」

 

 そう言って俺は先程まで顔に張り付いていた白い不思議生物を指す。件の人物?は、腕から抜け出そうと体をふるふる動かしている。かわいい。

 

 「ああ、その子はフォウ。…僕がカルデアに来て一年位にはいてね。新種の生物らしい。」

 

 新種の生物、か。こんな不思議生物が見つかったなら、マスコミが押し寄せてきそうだけど。

 

 「情報漏洩を避けるのもあるけど、こんな新種めったに出会えないからね。観察も兼ねてここで保護しているんだ」

 「…そんなに珍しいんですか?この不思議生物」

 「何せ、幻想種の現物みたいなのものだからね」

 「幻想種、ですか…」

 

 ロマンさんとそんな話していたその時、事件は起こった。

 

 とてつもない爆音と共に、カルデアが大きく揺れた。―――俺たちが爆発が起こったということを理解するのに、それほど時間は掛からなかった。




難易度について簡単に。

イージー:超絶ヌルゲー。

ノーマル:まんまFGO。

ハード:この作品の難易度。特異点一つにつき一人召喚出来る。

ベリーハード:初期のこの作品。第四特異点迄召喚禁止。

ルナティック:鬼畜ゲー。最後までマシュ一人。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二節

書いてる途中で自分でもよくわからん展開になってしまった……。

だが後悔はしていない!


 「な、何だ、この爆発音は!?」

 「キュキュ、フォーウ!」

 

 大きな爆発音と振動が収まると、照明が消える。その後、すぐに非常用のサイレンが鳴り響く。

 

 「モニター!急いで管制室を映してくれ!」

 

 ロマンさんが身に付けていた通信機に怒鳴ると、目の前にあった大型モニターに管制室の映像が映る。

 

 息をするのを一瞬忘れた、そう思わせる程に、管制室の様子は酷かった。

 

 「―――――」

 「―――これは」

 「ロマンさん、これは!?」

 「…君はすぐに避難するんだ」

 「避難しろって、ロマンさんは!?」

 「僕は管制室に行く。もうじき隔壁が閉鎖されるだろうからね、その間に外へ出るんだ!」

 

 そう言ってロマンさんは走っていく。ここには、俺と俺が抱えているフォウだけが残った。

 

 (……どうする。ロマンさんの言う通り、外に出るか?…………いや、追いかけよう)

 

 例え初対面の人だとしても、そんな簡単に見捨てるわけにはいかない。直ぐにロマンさんを追いかける。…見つけた。隔壁の前でロマンさんが四苦八苦している。

 

 「―――――くそ、もう閉まってる!」

 「フォウ、フォーウ!」

 「ロマンさん!」

 「な!?どうして追いかけてきたんだ!?」

 「ロマンさんを見殺しに出来なかっただけですよ」

 「見殺しって、君は…まあいい、此処をこじ開ける。手伝ってくれ」

 「わかりました、それで、どうするんですか?」

 

 こじ開けるといっても、一体どうするのだろうか。まさか、持ち上げる訳ではないだろう。

 

 「何処かに隔壁を開けるためのレバーが有るはずだ。其れを探してくれ!」

 「分かりました!」

 

 …………………………

 

 「ありました!」

 「よし!上げてくれ!」

 

 ロマンさんの指示通りにレバーを上げると、隔壁がゆっくりと開いていく。

 

「僕は予備電源を入れてくる!君は生存者を捜してくれ!」

「わかりました!」

 

……………………………

 

隔壁を潜り、管制室まで駆け抜ける。管制室に辿り着き、生存者を捜す。

しかし、其処に有るのは死体と瓦礫の山だけ。何度見回しても、生存者が居るとはとても思えなかった。

だが、万に一つの可能性を求め、生存者を捜し続ける。きっと、居るはずだと。そう思わなければ、俺は立って居られなかった。

 

 「………ぁ」

 

 声が聞こえた。耳を澄まさなければ聞こえぬ程に小さい声。だが、今の俺にはその声が驚くほどによく響いた。

 場所など分からぬ筈なのに、無意識に体が声の方へと向かう。

 瓦礫に挟まれている少女が居た。一目散にその娘の元へ駆ける。

 

 「大丈夫ですか!今瓦礫を―――」

 

 瓦礫を退かそうとして気づく。―――彼女の下半身が潰れていることに。

 

 「―――――ッ」

 「……わたしの事は…いいですから…早く他の方の所へ……」

 「駄目だ」

 「……え?」

 

 この少女は、まるで自分は助かりたくないかの様に言う。善人なのか。それとも、ただの阿呆なのか。はたまた、何も知らない無垢な人間なのか。それは俺には分からない。

 だけど、だからと言って見捨てていいわけがない。例え、この少女があと一日の命だったとしても、恐らく同じ行動をしただろう。だって―――――

 

 「直ぐに助ける、じっとしていてくれ」

 

 ――――――だって今俺の目の前に居るのは、この少女だけだったから。

 だから助ける。恨んだっていい、殺意を向けてもいい。だけど俺には、君を助ける事しか出来ないから。

 

 ―――――

 ―――――

 

 瓦礫を退かしていく。―――――ここで助け出しても、無意味だと分かっていた。

 

 ―――――

 ―――――

 

 瓦礫の数が減ってきた。―――――このまま助け出しても、きちんとした治療が出来ないと分かっていた。

 

 ―――――

 ―――――

 

 瓦礫はもう数える程になった。―――――苦しみながら死ぬならば、此処で潰されるほうがいいと、 身勝手ながらも分かっていた。

 

―――――

―――――

 

少女に向かって手を伸ばす。―――――だけど、例えそうだったとしても。

 

―――――

―――――

 

伸ばされた少女の手を握る。―――――こんな顔をしている娘を見捨てるなんてこと、俺には出来ないから。

 

―――――レイシフト、開始

 

ふと、少女の声が聞こえた気がした。―――――良かった、と。

 

その瞬間、突然意識が途切れた。




終盤、線が二本ずつ入っているのは仕様です。

次から特異点Fに入ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三節

再投稿しました。


 目が覚めて初めて目に入った物は、木材で出来た天井だった。

 

 「どこだ此処…というよりも、どうしてこんな所に?」

 

 先程までカルデアの中に居たのに、いきなり見知らぬ家の中とは。一体どういう事なのだろうか。

 

 「此処は二千四年の冬木市です、先輩」

 「ああ、なるほど。ありがとう………え?誰?」

 

 声の聞こえてきた方に振り向くと、其処には身の丈程の大盾を抱えた少女がいた。

 

 「……覚えていないんですか?」

 「いや、そもそも初対面……って、ああ!」

 「?」

 

 いや、そうだとしてもおかしい。目の前の彼女は確かに……いや、こんな所に居る時点で、そんなことを言ってられないか。

 

 すると突然、ポケットから音が鳴る。なんだと思い取り出すと、なにやら通信機が出てきた。よく見ると、側面の突起が赤色に点滅している。

 

 「なんだこれ…とりあえず押してみよ」

 

 ポチっとな。…すると、突然目の前にロマンさんが映る。

 

 『ああ!やっと繋がった!…コホン、こちら管制室。二人とも、聞こえるかい?』

 「え?えっと……」

 「こちらAチーム、マシュ・キリエライト、レイシフトに成功。先輩も無事です、ドクターロマン」

 『良かった。無事にレイシフトに成功できたようだね』

 「……あの、ロマンさん?」

 『ん?どうしたんだい?』

 「この子は一体…」

 

 その問いを聞いたロマンさんは一瞬固まった後、声を出して笑った。その態度に顔をしかめ、もう一度問いただす。

 

 『ごめんごめん、もう自己紹介した後だと思ったよ。何せ、レイシフト開始から数十分も経っているんだ。』

 

 数十分?数分の間違いでは無いのか。少なくとも自分が起きたのはつい先程なのだが。その事を伝えると、ロマンさんは首を傾げた。

 

 『あれ?こちらの観測ではレイシフトからもう三十分は経っているんだけど』

 「その事については私が。先輩、通信機をお借りしてもよろしいでしょうか?」

「別に構わないけど…」

 『マシュ?』

 

 彼女によると、レイシフトは無事に完了したものの、俺がいつまで経っても目覚めずにいたため、近くの小屋に移動。その後、目覚めるまで護衛をしていたという。

 

「ーーー以上が、レイシフト後に有った全てです」

『ありがとうマシュ。それにしても成る程。そういう事情が有ったのか』

「はい、それでは次に、此処近辺の状況ですがーーー」

 

二人は何やら話をしている様だが、全く話についていけない。外を見ると、辺り一面が炎の海であるという事に気付いた。

 

「……え?」

「どうしましたか先輩、窓の外を眺めて……外がどうかしましたか?」

 

どうやら通信が終わった様で、彼女は通信機を渡してくる。其れを受け取ると、俺は立ち上がる。

 

「いや、なんでも無いよ」

「そうですか……そういえば、自己紹介がまだでしたね。私の名前はマシュ・キリエライト、マシュで結構です。先輩は?」

「俺の名前はーー。これから宜しく、マシュ」

「……先輩、名前をもう一度お願いします」

「……?」

 

取り敢えず、もう一度名前を伝えるが、マシュは首を捻ったままだ。

 

「むう……」

「マシュ?どうしたんだ?」

「…先輩の名前が聞き取れないんです」

「え?」

 

聞き取れない?一体どういう事だ?

 

「こう、靄がかかった様に、先輩の名前だけが聞き取れないんです」

「靄って言っても、普通に喋っているだけなんだけど……」

 

その後色々試したが聞き取れず、結局この問題は後にした。

 

「……いつまでもこんな所に居るのは危険ですから、何処かへ移動しましょう」

「……そうだな」

 

こんな所で隠れていてもいずれ見つかるだろう。何にとは知らないが。そう結論付けた俺達は足早に此処を出た。

 

数分後、先程の小屋から炎が立ち昇ったのを、俺たちは見逃さなかった。




次が初戦闘の予定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四節

 かなり遅い更新となってしまいました。

 今回は最初の敵サーヴァント戦。お相手は……?


 火柱が小屋の辺りに立ち昇ったのを見た俺達は、早足に、それこそ駆ける様にその場から離れた。

 少しでも距離を稼ごうと、俺を抱えて走っているマシュが俺に聞いてきた。

 

 「あの、先輩。先程の火柱の件ですが…、あれを敵と決めつけるのは早計では無いでしょうか」

 

 マシュの問いは、やはりというか先程の火柱の件だった。確かに、味方かもしれない可能性もある以上、そそくさと逃げていったのは間違いだったかもしれない。只でさえ人手が足りていないこの状況でもある、戦力の増加は願ってもない事だろう。

 でも、もしも敵だったら?その時は、こちらの生存は絶望的だ。マシュの戦闘能力を疑っている訳ではない。仮にもし戦闘になった場合、まず間違いなく俺を狙ってくるだろう。素人の一般人がサーヴァントの攻撃を凌ぐのはほぼ不可能に近いだろう。例え、マシュが守ってくれていたとしても。

 その事をマシュに告げると、渋々と納得してくれた。とはいえ、逃げたといっても充分に追って来られる距離だ。気を抜けば、殺られるのはこちらだ。

 思考の海に沈み込んでいた俺だったが、マシュの制止によって意識を引き上げられる。

 

 「どうしたんだ、マシュ。着いたのか?」

 「はい。ですが……」

 

 その歯切れの悪い返答に前を見るが、何かがある訳ではない。一体如何したのだろうか。

 

 「おう、遅いじゃねえか。随分待ったぜ」

 「―――――!?」

 

 突然、前方に人影が現れた。黒いローブを纏い、色素の抜けた金色の瞳でこちらを見つめている。

 

 「"キャスター"のサーヴァント…!」

 「…へぇ、一般人の素人と聞いてたが、少しは見所があるじゃねえか。なら話は早い。

 ―――構えな、そこのサーヴァント。仮にも英霊の身なんだろ?ちったあ楽しませてくれよ?」

 

 マシュは俺を降ろし、前に出る。その姿を見たキャスターは口角を上げると、此方に向かって声を張り上げる。

 

 「おい、坊主!勝負の邪魔だ、すっこんでろ!

 ……安心しな、手前のサーヴァントを片付けたら次はお前さんの番だ」

 

キャスターの言葉を聞いて、マシュの顔付きが変わる。不安気な少女の顔から、意思の強い戦士の顔へと。

 此処は意地でも残るのが格好いいのだろうが、俺にはそんな勇気は無い。大人しく、戦闘を見守っていよう。

 

 「ごめん、マシュ。頑張って」

 「はい、マスター。必ず守ってみせますから」

 

 俺はその場から離れ、近くの瓦礫に隠れる。キャスターは俺が離れると、棘の付いた杖を出現させ、槍のように構える。マシュはその身体よりも大きい盾の角を地面に叩き付け、己を鼓舞させる。

 

 暫く睨み合っていた二人だったが、近くの廃墟が崩れた瞬間に戦闘が開始された。

 

キャスターはそのクラスとは思えぬ速度でマシュに迫り、炎を纏った杖を突き出す。マシュはそれを難なく防ぎ、お返しとばかりに盾を振るう。

 自身の首を刈り取らんと迫る盾を姿勢を限りなく低くした状態から杖で逸らし、次の瞬間跳ね起きる様に杖が切り上げられる。

 マシュは飛び退くことで回避し、着地とほぼ同時に突撃する。流石のキャスターもこれには反応出来なかったのか、押し出されるようにして吹き飛んだ。

 だが、それで気が緩んでしまったのだろう、キャスターの次の攻撃をモロに喰らってしまう。驚くべきことに、キャスターは自身の得物である杖を放ったのだ。杖は信じられない速度で迫り、マシュの鳩尾を綺麗に穿った。

 

 「ぐぁっ!?」

 「マシュ!」

 

 マシュは咄嗟に踏ん張った事で吹き飛ぶことは無かったが、それでも盾を支えに蹲ってしまう。杖はマシュを穿ったあと、回転しながらキャスターの手の中に収まった。

 

 「なかなか筋は良かったが、気が緩むのは頂けねえな。“この”俺相手だったから良かったものの、槍があったならあれで終いだったぜ」

 「ぐ、ぅうっ……!」

 

 マシュは治まらぬ痛みに耐えながら、必死に体勢を立て直そうとする。しかし、上手く立ち上がれず、倒れてしまう。

 

 「無駄だ。先端接触と同時に発動するようにルーンを仕込んでおいた。俺としちゃあこんな手は使いたくは無かったんだがよ、上からの指示でな。まあ、恨むんなら俺を恨みな」

 

 キャスターは杖を逆手に持ち換え、マシュの頭部目掛けて振り下ろした―――――

 

 

 半ば叩きつけるように降り下ろされた杖は、あっけない位にマシュの頭部を砕いた。

 

 「ぁ、―――――」

 

 その段末魔はあまりに静かで、苦痛に歪んでいた。

 

 「……………」

 

 キャスターは静かにこちらに歩いてくる。彼が一つ歩を進める度に、自分の寿命が縮んでいくのが分かる。

 せめて一子報いようと辺りを見回すが、これと言った武器は見付からなかった。

 

 キャスターが目の前で歩を止めると同時、ゆっくりと顔をあげていく。

 息が荒くなっているのが分かる。冷や汗が止まらない。

 首元に杖が添えられる。切れ味を強化したのか、少し触れただけで少し血が流れる。

 

 「じゃあな、坊主。もし次があれば、俺と敵対しないこった」

 

 先程マシュを砕いた杖が、自身の脳天めがけて振り抜かれた。

 

 

 

 だが、それが俺の脳天を砕くことは無かった。

 




 次回、決着


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五節

むむむ、戦闘描写難しい。


 キャスターの攻撃を防いだのは、体よりも大きな盾だった。

一瞬マシュかと思ったが、目の前にいたのはマシュでは無く、彼女そっくりな青年だった。

 

 「無事ですか、マスター」

 

 呆然としている俺に、目の前の()()が声を掛けて来る。急いで頷いた俺を見て、青年は微笑んだ。

 すると彼は、盾を押し込み、キャスターを弾き飛ばした。キャスターは空中でくるりと一回転して着地した。

 

 「……貴様、何者だ」

 「盾の騎士、とでも名乗っておこう、"光の御子"よ」

 「ほう?……一応聴いておくが、何故分かった?」

 

 その問いに青年は愚問だと言いたげな顔で、

 

 「なに、あなたの事はずっと見ていた、それだけのことだ」

 「……なるほどな。道理で”アイツ”が警戒してた訳だ」

 

 ”アイツ”?まて、ということは、敵の大将は()()()()()()()()()()()ということになる。つまり、敵の大将は、()()()()()()()()()()()()()()()サーヴァントである可能性が高い。

 いや、今はそんな事はどうでもいい。今は、この状況を切り抜けないと。

 

 「マスター」

 「え!?、あ、はい、なんでしょうか?」

 「ふふっ、そんなに畏まらなくても良いですよ。それよりマスター、命令(オーダー)を。私は、何をすれば良いのですか?」

 

 青年―――盾の騎士―――は真剣な眼差しで命令(オーダー)を求めている。命令(オーダー)、そんなものは分かりきっている筈だ。

 

 「命令(オーダー)は一つ、―――キャスターを、倒せ」

 「了解です、マスター」

 

 盾の騎士は俺を守るように立ち塞がると、腰の剣を抜いた。

 

 「……話は終わったか?」

 「ええ。貴方をコテンパンにしろ、との命令です」

 「……聞いてた話とは随分違うな、お前さん。もっとこう、キラキラしてるもんだと思ってたんだが」

 「……?戦場でキラキラ等していたら、嫌な意味で格好の的です。私は守るモノではありますが、好んで敵に襲われる様な趣味は持ち合わせてはいませんよ」

 「前言撤回。お前さんは聞いてた通りの奴だ」

 「…変わった方ですね。さて、世間話はこれくらいにして、始めましょうか」

「いいぜ」

 

 瞬間、二人の姿が掻き消えた。え?と驚いているのも束の間、目の前で起こった衝撃波で吹き飛ばされそうになった。

そして、理解した。この戦いは、先ほどの様な児戯では無く、本物のサーヴァントの戦闘なのだと。

 

 

ーーーーー

 

 杖と剣が打ち合い、衝撃波が広がる。始めは一つづつだったそれは、秒の速さで二つ、三つと増えていく。その数が十を超えた時、それは動いた。

 同時に起こった十の衝撃波、その全てから藁の腕が飛び出した。

 

 「なっ!?」

 「オラァ!!」

 

 飛び出した腕によって十の像、その殆どが回避せずに搔き消えるが、ただ一つだけがその腕を回避した。すかさずキャスターはその数瞬の隙を逃さずに心臓狙って突き出した。

 得物が得物ならば『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)』の名を叫んだであろうその突きは、盾の騎士を()()()()()

 

 「何っ!?」

 「油断したな、光の御子よ!」

 

 盾の騎士はその不安定な姿勢とは思えぬ程の速度で盾を振るう。キャスターは杖を引き戻し盾の様に構え防ごうとするが、直後に突き出された剣によって心臓を貫かれた。盾の騎士はそのままキャスターを盾にする様に地面に落下した。

 不意に不意を重ねたその一撃はキャスターを仕留めるに充分なものであった。

 キャスターは震える腕で盾の騎士を引き寄せ、二言三言話すと光の粒子になって消えていった。

 

 「―――――」

 

 この間、体感で凡そ15秒。自身にとっては余りに短い時間だが、彼らからすればそうでは無いのだろう。

 盾の騎士が此方に向かってくる。遠目では外傷はない様に見えたが、近くで見ると所々に傷があるのが分かる。傷の治療が出来れば良いのだが、治療の心得はあるものの道具が無い。

 

 「お怪我はありませんか、マスター」

 「うん、俺は大丈夫。それよりも、騎士さんの方は大丈夫?……ごめん、傷の治療ができたら良いんだけど」

 「ああ、いえ、ご心配無く。―――の通り、治療は自分で出来ますので」

 「!?!?」

 

 盾の騎士が黄金の光に包まれる。数瞬後、光が消えるとあった筈の傷が無くなっていた。

 先程の戦闘といい、今の現象といい、サーヴァント程"超常"の言葉が似合うものは早々居ないだろう。尤も、彼らが特別なのかも知れないが。

 

 「……どうしましたか?マスター。呆けている様ですが」

 「……いや、なんでも無い。それよりも騎士さん、さっきキャスターと話した内容って何ですか?」

 「彼は敵の首魁の居場所と、今は私と首魁以外のサーヴァントは居ないと言っていました」

 

 成る程。気になる事は幾つかあるが、敵の首魁の居場所が分かったのは大きい。それに、首魁との戦闘中に乱入者が出る事が無い事も分かった。早速ロマンさんに連絡して、状況を知らせよう。

 

 

ーーーーー

 

 「―――てな感じです」

 『成る程。それで、その、君の隣にいるサーヴァントは、一体何者なのかな?…僕にはマシュにしか見えないのだけれど、データでは霊基反応が英霊のソレ何だけれど』

 「ああ、えっと、彼は……?」

 

 そういえば、彼の名前を聞いていない事を思い出した。それどころか、彼については全く知らないといっていい。ロマンさんへの回答に困っていると、彼が前に出てきた。

 

 「……そうですね、良い機会ですし、自己紹介しましょうか。

 私の真名は“ギャラハッド”。此度はクラス“シールダー”として現界しました。……とはいっても、今の私は彼女の体に取り憑く様に現界している為、本人とは言えないのですが」

 

 ギャラハッド。アーサー王伝説に登場する円卓の騎士の一人だ。同じ円卓の騎士の一人、“湖の騎士”サー・ランスロットの息子で、“最も穢れなき騎士”と呼ばれていたとされている。彼の逸話には色々あるが、最も有名なのはやはり“聖杯探索”であろう。

 ギャラハッドは生前、旅の途中で出会った騎士達と共に聖杯と手に入れ、昇天したという。

 成る程。それならば先程の治癒の説明がつく。聖杯を使えば、あの程度の傷の治療等有って無い様なものだ。

 ロマンさんはギャラハッドの名に驚いたものの、意外にもすんなりと納得していた。

 

 『成る程……、それならば彼女の身体を使っていても不思議は無い。……でも、僕が言うのも何だけど、君が表に出てくる事は無いと思っていたけれど』

 「……本来ならば傍観者に徹底しているつもりだったのですが。人理の崩壊と、仮とはいえマスターの危機が重なり、こうして表に出てきたという訳です」

 『……そっか。……マシュの意識は残っているのかい?』

 「彼女については心配有りません。表に出てきたといっても、彼女の意識を塗り潰した訳では無いので。私が引っ込めば彼女の意識が表に出てくるでしょう。尤も、聖杯のお蔭なのですが。自惚れる訳では無いのですが、私か、或いはかの“イエス・キリスト”でも無い限り不可能だった事でしょう」

 『……すまない。手を借りるばかりか、マシュの事まで』

 「いいえ、礼には及びません。身体を借りているのですから、此れくらいは当然です」

 『ありがとう、ギャラハッド君。……そろそろ通信を切るよ。ーー君、君の健闘を祈る。どうか、無事に帰って来てくれ』

 「はい、ロマンさん。安心して待っていて下さい」

 

 俺のその言葉を最後にカルデアとの通信が途切れる。

 そして俺たちは、敵の首魁の元へと足を進めた。

 

 ―――最初の歯車が回り始める迄、あと少し。




 特異点Fに出てきたサーヴァントで、この作品に出てきていないのは

・アーチャー(エミヤ)

・ランサー(武蔵坊弁慶)

・ライダー(メドゥーサ)

・バーサーカー(ヘラクレス)

 この四人の内、誰か一人は一切出番が有りません。
 なお、よく似た別人は出てくる模様。

 次回、敵の首魁との遭遇


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六節

今回はちょっと短め


 ロマンさんとの通信から約三十分が経った頃、俺達の目の前には巨大な空洞が()()()()()()()()。比喩では無い。文字通り立ち塞がっているのだ。

 離れた場所から見た限りではただの空洞であったし、かなり近付いた今でもそれは変わらない。しかし、空洞に足を踏み入れようとすると、どうしても弾かれてしまうのだ。ギャラハッドに破壊出来るか聞いて見たが、聖杯を使えば破壊は可能だが、代わりに首魁に気付かれてしまうだろうという事でその案は却下された。

 そうなると、この結界を破る方法を考えなければならない。この結界は外見では判断し難い事もあって、成る程確かに有用だ。この結界を張った者が分かれば解除方法の一つは浮かんでくるかも知れないが、一番可能性のありそうなキャスターは既に退去してしまったし、他のクラスのサーヴァントにこれ程の結界を張ることの出来る者がいるとは考え難い。

 

 「……ギャラハッドさん」

 「呼び捨てで構いません、マスター」

 「ありがとう。それじゃあギャラハッド。聴きたいことが有るんだけれど、良い?」

 「ええ、構いませんよ。何でしょうか」

 「……今残っているサーヴァントで、君とあと一人、首魁のクラスをキャスターから聞かなかったか?」

 「……ええ。確かに聞きました。敵の首魁のクラス、それはーーー」

 「それは……?」

 「―――セイバーのサーヴァント。キャスターが言うには、世界最高峰の聖剣を持った剣士だとか」

 

 セイバー、つまりは剣士のサーヴァント。聞いた話によれば、セイバーの通称は“最優”のサーヴァントだとか。それに加え、世界最高峰の聖剣を持ったサーヴァント。最高峰とは、性能面もそうだが、英霊の世界では知名度も関係している。そうなると、かなり絞られてくる。

 ……待てよ?確かキャスターはギャラハッドを見て“アイツの言った通りの奴だ”と言っていた。つまり、円卓関係者、それもかなり親密な者と言うことだ。

 

 ランスロット?いや、ランスロットに結界を張れる様なスキル、または宝具が有るとは思えない。

 

 ……まさか、アーサー王か?アーサー王は世界最高峰の聖剣である『エクスカリバー』を所持者だ。それに、もしアーサー王ならば、結界宝具の一つや二つ持っていてもおかしくは無い。

 その事をギャラハッドに伝えると、直ぐに頷いた。どうやら、彼は薄々感づいていたらしい。

 

 しかし、正体がわかったからなんだというのだ。此方には結界を破壊する力は持っていても、通り抜ける力はない。

 

 「……マスター。少し宜しいでしょうか」

 「…?どうしたの、ギャラハッド。何か作戦が?」

 「ええ。尤も、私単体ならば簡単ですが、マスターと一緒となると、危険だと考えて今まで伝えなかったのですが」

 「……教えてくれ、ギャラハッド。この結界を通り抜ける方法を」

 「……命を失うかもしれません。それでも、良いのですか?」

 「…………うん。覚悟は、出来てる」

 「…では、私の手を取って、決して私から離れない様に。それと、意識をしっかりと保ち続けて下さい」

 

 ギャラハッドの手を取り、結界の方へと足を進める。そして、自分の身体が結界に触れた瞬間、

 

 「ァ―――――」

 

 俺の魂が粉々に千切れ飛ぶ感覚に襲われた。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 『―――――』

 

 此処は―――?

 

 『―――ほう。穢れ落ちた理想郷から拒まれた魂の欠片が、まさか此処にたどり着くとはな』

 

 貴方は―――?

 

 『ふん。貴様に我が名を識る資格等無い。そして、()()が貴様に教える義務も義理も無い。だが―――』

 

 ―――?

 

 『―――そうだな。私の事は、“  の王”とでも呼ぶがいい。……尤も、貴様がその名を我が前で呼ぶ事は無いだろうがな』

 

 ―――  の、王―――

 

 『そうだ。―――ク、ハハ――』

 

 ―――何が、可笑しい―――?

 

 『何、困っていた所に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。……さて、名を喪った人間よ。貴様、此処で果てる事を良しとするか?』

 

―――此処で、果てる―――?

 

 『そうだ。もし、良しとするならば、特別に天国とやらに連れて行ってやろう。しかし、良しとしないのならば―――』

 

 ―――………もんか

 

 『―――ほう?』

 

 ―――良しとなんて、する、もんか―――!

 ――そうだ、まだ、俺は―――!

 ―俺は、まだ―――!

 俺はまだ、まだ何も、成し遂げちゃいない―――!

 

 『―――――。―――ク、クハハ、クハハハハハハハ―――!』

 『いいだろう! 名を喪った者よ!今一度貴様の魂を繋ぎ合わせ、世界を救う為のチャンスをやろう!』

 

 チャンス?

 

 『そうだ!何、貴様は人間なのだろう?ならば、臆せず、恐れず、立ち上がり続けて見せるがいい。そうすれば、何れは成し遂げられるだろう』

 

 ―――――

 

 『なんだ。臆したか?』

 

 ……王様

 

 『?』

 

 ありがとう

 

 『―――ふん。感謝など求めていない。…………これで、貴様の魂は形を取り戻した。さっさと行くがいい。そして、二度とこの場所に足を踏み入れるなよ』

 

 ……約束は出来ない。だけど―――いや、何でもない。

 それじゃあ王様、さようなら

 

 『…………』

 

 

 そして俺は、光の向こうへ向かって足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして 玉座に残った王は、其の顔を醜悪に歪めた。

 

 

 




 次回、騎士王決闘


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第七節

いろいろオリ設定満載。
苦手な方はブラウザバックを推奨します。


再投稿&少し増量しました。


 

「……ぅ、こ、ここは……?」

 「…!マスター!」

 「ギャラハッド―――?」

 

 目が覚めると、そこにはギャラハッドの姿が。

 辺りを見回すと、そこは見たことのない荒野が広がっていた。

 ……どうやら無事に結界を抜けられたらしい。

 

 「ギャラハッド、ここは一体……」

 「―――この場所の名は『全て遠き理想郷(アヴァロン)』。我が宝具の中であり、貴様が一度砕けた場所だ」

 「―――――!?」

 

 声の聞こえた方を向くと、其処には黒い鎧を身に付けた“騎士”がいた。

 ……いや、それよりも、気になることがある。

 

 「マスターが一度砕けた、とは?」

 

 そうだ。自分が一度砕けたとは、一体どういうことなのだろうか。例えそうだとしても、どうして自分はここに居る?

 

 「……ふむ、成る程。そういうことか。いやなに、私の勘違いだったようだ」

 「…はぐらかさないで頂きたい、()()()()()

 「はぐらかしてなどいない、サー・ギャラハッド。先程にも言った通り、私の()違いだ。そこに他意も無ければ、嘘も無い」

 「…………分かりました、アーサー王。では―――力尽くで聴き出すとしましょう」

 「フッ……出来るものなら、やってみろ!」

 

 騎士―――アーサー王―――のその一声で、二人の戦闘(決闘)が始まった。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 先手を取ったのは意外にもギャラハッドの方だった。

 ギャラハッドはまず盾を投げ、アーサーの視界を覆い隠すと同時、腰の剣を構えて突撃した。アーサーは向かってくる盾を難なく回避し、ほぼ同時に振るわれた剣を弾いた。

 続けて背後に突き刺さった盾を引き抜き、お返しとばかりにギャラハッド向かって投げた。ギャラハッドはミサイルの如き速度で迫る自身の盾をつかみ取り、回転することで衝撃を逃がしてそのまま地面に叩き付けた。

 アーサーの追撃。魔力を集中させて瞬間的に放出する、所謂(いわゆる)『魔力放出』を用いて跳躍し、更に魔力を放出して落下を加速させてのからの上段斬り。すかさず盾を上に向け、斬撃を受け止める。そのままアーサーを弾き飛ばそうとするが、

 

 「―――『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』!」

 「ッ!―――『純潔なる血十字(ホワイト・リフレクト)』!」

 

 上方から襲い掛かる魔力の奔流を純白の十字型の紋章が受け止める。魔力と紋章は拮抗していたが、紋章が光を増すと魔力がアーサーの方へと矛先を向ける。一瞬の内に跳ね返された自身の魔力を苦も無く受け流し、その際作った反動で大きく飛び退いた。

 

 「……相変わらず、見た目に反しての馬鹿力ですね」

 「そういう卿こそ、見ないうちに随分と技量を上げたな。…恐らく、ランスロット仕込みか」

 「………ええ。一時期は父に手解きを受けていました。尤も、一度も勝てませんでしたが」

 「ふ。奴とて円卓の中では歴代最強だった男だ。例え息子とて、そう簡単に膝など付けられんよ。

 さて、貴様の今の実力も概ね把握した事だ。―――――久方ぶりに、本気を出してやろう」

 「―――――――!!」

 

 アーサーを纏う魔力大幅に増加する。それに比例するかの様に増す重圧は、敵に容赦を無くした時の父を思い出す。

 地面が陥没すると同時に、アーサーが飛び出してくる。風を纏い、音の壁を幾つも越えてくるその突撃を前に、盾を突き出して構える。

 

 衝撃。

 

 名馬の突進ですら霞むほどのその衝撃に身体が一瞬浮き上がりかける。それに更に追い打ちを掛けるように、聖剣の魔力が解き放たれる。

 先程の様な広範囲の砲撃では無く、聖剣に魔力を留め斬撃と同時に解放する、“過重解放(オーバーロード)”と呼ばれる対人用の技術だ。この技術を齎したのはかの湖の騎士、サー・ランスロット。彼の齎したこの技術により、蛮族の撃退効率が格段に向上した。

 これが意味するのはつまり、”対人戦においては無類の強さを発揮する”という事だ。

 

 「『堅牢なる城塞(ホワイト・ウォール)』!……ぬ、ぁぁあ!!」

 

 光の斬撃に対抗するのは純白の城壁型の紋章。斬撃と城壁は一瞬拮抗していたがしかし、程なくして紋章に罅が入る。綻びの入った紋章は瞬く間に砕け散り、その向こうに居たギャラハッドもまた、大きく吹き飛ばされた。

 

 「ぐぁぁあ!!」

 

 吹き飛ばされ、地面に転がったのも束の間、非情にもアーサーはさらなる追い打ちを仕掛ける。今にもはち切れそうな程に魔力を纏った聖剣を前に、ギャラハッドは盾を突き出すが、時既に遅し。

 聖剣によって、ギャラハッドは呆気なく両断され――――――

 

 「―――ギャラハッドォ!ッ、死ぬなぁぁあああ!!!」

 

 ―――――マスターの必死の叫びが、正に奇跡ともいえる現象を引き起こした。

 

 「な、にぃッ!?」

 

 ギャラハッドを両断するはずの聖剣は、先程砕けた城壁の紋章によって刃を振るうことは無かった。

 更に出現した十字型の紋章によって、アーサーは大きく弾かれた。

しかし、それだけでは終わらない。盾から新たに時計型、冠型、人形型、門型、剣型、槍型、鎧型、盾型、馬型、矢型、そして杯型の紋章が出現する。

それらが合わさり、並び、或いは重なり、一つの大きな紋章を創り出す。

 

それは城。誰もが考え、願い、そして求めた物。

それは国。誰もが欲し、妬み、そして望んだ物。

それは宝。誰もが祈り、尊び、そして掴んだ物。

 

 

名をーーー

 

 

 

 

 

 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)

 

 

白亜の城の顕現と共に、ギャラハッドは立ち上がる。




純潔なる血十字(ホワイト・リフレクト)
ギャラハッドの盾に刻まれた十三の紋章の一つ。
純潔を約束した血十字は、対象に降りかかるあらゆる厄災をはね除ける。

堅牢なる城塞(ホワイト・ウォール)
ギャラハッドの盾に刻まれた十三の紋章の一つ。
堅牢と謳われた城塞は、対象をあらゆる災害から護り抜く。

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)
ギャラハッドの盾に刻まれた十三の紋章、その全てを解放する事で顕現する、『理想』を体現した城。
城を構成する紋章の全てを完全に使用出来る。
さらに、⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️⬛️事も可能。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第八節

お久しぶりです。
描写に悩んだり、全く書いていなかったりして、1年以上間が空いてしまいました。
では、どうぞ。


 『いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』。

かつて、全てを投げ打ってでも守りたかったモノ。

それが今、仮初めのモノとはいえ目の前にーーー倒すべきものとしてーーーある。

 

「………」

 

ーーーだが、それがどうした。()()()()()で、戦意を喪失するとでも思ったか。

白亜の城への攻撃を拒否する意思をカリスマで押さえつける。幸いにも、()()()()()()経験から、カリスマによる意思制御の方法は理解している。スキルの効果を、他者から自身に切り替えればいいだけだ。

 

先程よりも速い速度でギャラハッドが迫ってくる。それを迎え撃つーーーのではなく、()()()()()()()()()()()()()()()()が振るう剣を躱し、そのまま腕を掴んで前から迫るギャラハッドに向けて放り投げた。

投げられたギャラハッドはギャラハッドに当たる直前に搔き消える。代わりにギャラハッドの体がブレて三人に増え、縦一直線に隊列を変える。増えたギャラハッドは違う得物を構えている。それぞれ馬上槍、剣、弓だ。それらを剣を腰だめに構えて迎え撃つ。

最初に接近したのは剣を構えるギャラハッド。それに向かい剣を振るうが、跳び上がる事で避けられる。続いて接近したギャラハッドが矢を放つ。それを紙一重で避け、続くギャラハッドの構える馬上槍を切り裂き、飛び退く。

 

「この程度か?」

「まだだ!」

 

瞬きの瞬間に出現した()()()()()ギャラハッドが一斉に攻撃を仕掛けてくる。そんな数では逆に攻撃し辛いだろうと思ったが、よく()ると、その攻撃の全てが邪魔をする事なく襲い掛かる様になっている。

上手いものだ。並みの騎士であれば、いや、円卓の騎士であっても、容易くは突破できないであろう。だがーーー

 

「『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』」

 

ーーー貴公の敵が誰であるか、忘れた訳ではあるまい。

刃に極光を纏わせた剣が、地空にいるギャラハッドを全て薙ぎ払う。

 

「……ッ!!」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という予感がするのとほぼ同時に襲って来たギャラハッドの攻撃を弾き、胸に突き刺した。

 

「ぐっ!」

「残念だったな。あと一瞬早ければ私を仕留められただろうに」

「………、ええ、そうですね」

 

ギャラハッドの胸から剣を引き抜こうとした瞬間、ギャラハッドの手が剣を握る腕を掴んだ。

 

「……?」

「貴方の勘が働くのが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ーーーーーーッッ!!!」

「私()の勝ちです、アーサー王」

 

()()()()()()()()()()

 

「な、にーーー、」

 

背後を覗くと、剣を突き刺しているカルデアのマスターの姿があった。

 

馬鹿なーーー。気配は感じなかった筈だ。勘が鈍ったわけでもない。

ならば、何故。

 

「ーーーーーーー。

そうか。そういう事かーーー!」

 

勘が鈍ったのではなく、()()()()()()()のだ。

感では背後から刺しにくる相手がギャラハッドだとは視えていなかった。それを勘違いした結果がこの有様だというのだから笑えてくる。

 

「フ、私もまだまだ未熟、という事か」

「まさか。貴方が完璧だったからこその結果です」

「皮肉かそれは。まあいい、貴卿らの勝ちは変わらん」

 

ああ、だがーーー、

少し、悔しい。

 

「よく、聴け」

「………?」

「まだ、聖杯を巡る旅は、グランドオーダーは始まったばかりだという事を、よく覚えておけ。」

 

その返答を待たずして、私の霊基(からだ)は光に消えた。

 

 

……………

 

 

「勝っ、たーーー」

 

アーサー王の身体が消えた瞬間に、俺は地面に膝をついた。

その姿を見たギャラハッドが、優しい声音で語りかけてくる。

 

「お疲れ様でした、マスター」

「そっちこそ、お疲れ様」

 

額に汗が流れているギャラハッドは、思いの外辛そうだ。アーサー王から受けた傷は聖杯により修復されているが、精神はその恩恵を受けていない、という事だろうか。

 

突然、地面が大きく揺れ始めた。

 

「な、なんだーーー!?」

「これはーーー!」

 

その時、ポケットの通信機から音が鳴り響く。

急いで通信機を取り出し、モニターを開いた。

 

『ーーーああ、ようやく繋がった!』

「ロマンさん!」

『二人とも無事かい!?』

「はい、二人とも無事です。大きな怪我もありません」

『良かった。突然映像が消えたから、心配したよ』

 

ロマンさんは安堵した表情を浮かべるも、すぐに顔を引き締めた。

 

『二人とも、よく聞いてくれ。その特異点は修復されたために消滅する。消滅する前にこちらでサルベージするけれど、瓦礫が降ってくる可能性もある。注意してくれ』

「分かりました」

「ご安心を。マスターが帰還するまで傷一つ付けさせません」

『気を付けてね!』

 

その言葉を最後に通信が切れ、自身の周りを光が包み始めた。

真上から降ってきた瓦礫をギャラハッドが盾で砕いた瞬間、身体全部が光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……………

 

 

玉座に座っているモノの前に、緑のシルクハットを被った男性が歩いてくる。

 

「王よ、ただ今戻りました」

「ーーーご苦労だったな」

「はい。カルデアの爆破と聖杯の奪取、及び()()()()()()()を完了しました。聖杯の奪取には少々手間取ったものの、無事に手に入れることができました」

「こちらでも特異点の崩壊を確認した。概ね、計画通りだ」

「ですが、奴の代わりに新たなマスターが出てきました」

「その事については問題ない、既に手は打ってある」

「では、計画に修正はないと?」

「ああ」

 

 

ーーーすべて、こちらの手の内だ。




次章に入る前に幕間が少し入ります。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

幕間
サーヴァントステータス(冬木編)


カルデア陣営のサーヴァントステータスを幕間毎に入れていきます。
今回はギャラハッド。


 クラス:シールダー

ランク:☆☆☆☆

 真名:ギャラハッド

 

 

 誉れ高き円卓の騎士にして、理想と讃えられた騎士。

 また、唯一の聖杯探索の成功者でもある。

 

 

 

 

 ステータス

 筋力:B ■■■■□ 耐久:A ■■■■■

 敏捷:B ■■■■□ 魔力:EX ■■■■■

 幸運:EX ■■■■■ 宝具:B+++ ■■■■□

 

対魔力 A+:自身の弱体耐性をアップ

騎乗 B+:自身のクイックカード性能を少しアップ

 

カード構成

Arts×2 Quick×1 Buster×2

スキル構成

魔力防御:A

自身のアーツカード性能をアップ(1ターン)&自身の防御力を大アップ(3ターン)

万能の騎士:B+

自身のNP効率をアップ(3ターン)&自身の弱体耐性をアップ(3ターン)&自身の攻撃力をアップ(3ターン)&自身にガッツ効果を付与(1回)

十三の戒:B++

自身に様々な効果をランダムで付与

宝具

今は遥か理想の城(ロード・キャメロット):B+++

Artsカード:味方全体の防御力を大アップ(3ターン)&味方全体の攻撃力をアップ(3ターン)〔オーバーチャージで効果アップ〕&味方全体に弱体無効効果を付与(2ターン)&味方全体のNPを増やす〔オーバーチャージで効果アップ〕&スターを獲得〔オーバーチャージで効果アップ〕

 

 絆レベル1で解放

 身長/体重:166cm/58kg

 出典:アーサー王物語

 地域:イギリス

 属性:秩序・善 性別:男性

 

 

 絆レベル2で解放

 『十三の戒』

 ランク:B〜B+++ 種別:対人・対軍宝具等

 サーティーン・コマンドメンツ。

 ギャラハッドが生前に生まれ持った十三の加護。

 それと同時に、ギャラハッドに戒められた誓いでもある。

 誓いを護る限りはギャラハッドに万能の力を与えるが、誓いを一度でも破れば、これ等は一転して自身に厄災を齎す呪いとなる。

 『純潔なる血十字』や『堅牢なる城壁』はこの宝具に含まれる。

 『いまは遥か理想の城』は十三の加護を一つに纏めた、いわば集大成。

 

 絆レベル3で解放

 『聖なりし黄金の杯』

 ランク:EX 種別:対人宝具

 ホーリー・グレイル。

 彼が王より命じられた探索により手に入れた聖なる杯。

 正確には宝具ではなく、聖遺物にカテゴリされる。

 

 絆レベル4で解放

 自陣防御:A

 味方、ないし味方陣営を守護する際に発揮される力。

 防御限界値以上のダメージ削減を発揮するが、

 自分はその対象には含まれない。

 また、そのランクが高ければ高いほど守備範囲は広がっていく。

 

 絆レベル5で解放

 万能の騎士:B+

 生前、様々な分野で上位に入っていた事により発現したスキル。

 体験した事のあるものなら勿論、初見であっても一定以上の効果を発揮出来る。

 しかし、器用万能にはなれても器用全能にはなれないのと同じく、そのすべてで一番にはなれない。

 

 〔騎士の理想〕をクリアすることにより解放

 彼は仲間と共に聖杯探索を達成させた。

 しかし、聖杯を王に献上する事は叶わず、昇天した。

 彼は自身の一生に対し後悔もなければ未練もない。

 だが、彼は騎士として、王の命を果たせなかった。

 もし、彼の心に未練や後悔の念があるのだとしたら、それは恐らくーーー。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

医務室にて

特異点Fの修復から半日経った頃。

 

「はい、これで検査は終了。お疲れ様、()()くん」

「ありがとうございました、ロマンさん」

 

彼はそう言って頭を下げて医務室から出て行く。それを手を振って見届けた後、レオナルドを呼び出しつつパソコンに向き直る。

レオナルドが来るまでに現在のカルデアの状況を整理しておこう。

現在カルデアは元顧問、レフ・ライノール・()()()()()の破壊工作によりその機能の6割を停止しており、元所長のオルガマリー・アニムスフィアはその爆発の中心点にいたために死亡している。またレイシフトの為コフィンで待機していたマスター達を重症或いは死亡に追い込み、マイルームにいた一般選抜のマスターに限っては()()()()()()()()消し飛ばされていた程だ。

更に厄介なことに、守護英霊召喚システム・フェイトが破壊されていた。原型こそ保っているため修復は可能だが、恐らく本来の性能を発揮する事は出来ないだろう。精々、召喚の補助ができる程度だ。

とはいえ、食料や電力に関しては問題ない程度の損失だったのが不幸中の幸いだろうか。

 

情報を整理していると、後ろのドアが開き、馴染みの声が聞こえてくる。

 

「やぁロマ二。私を呼び出すなんて一体何の用だい?」

 

そう言いながらこちらに近づいてくる彼女?ーーーレオナルド・ダ・ヴィンチーーーに対し、真剣な表情で答える。

 

「これを君に見せておきたくてね」

「これは?」

 

彼女の視線の先には二つの写真があった。

 

 

「こっちが白野くんがカルデアに来た時の魔術回路の写真、でこっちがさっき撮ったばかりの彼の魔術回路の写真だ」

「魔術回路の写真? わざわざ私に見せるものかい……!?」

「気付いたかい?」

「………これは、魔術回路が増幅している、のか? いや、それだけじゃない、なんだこれはーーー!」

 

元々白野くんの魔術回路は、他の一般選抜のマスターと同様カルデアの魔術礼装の補助なしでは魔術をまったく起動できない程度の数しかなかった。しかし、特異点から帰った彼の魔術回路の数は、()()()と、考えられない程に増幅している。

それだけじゃない。その72本の魔術回路、その全てが()()()()()()()()()()()()

突然増えた魔術回路もそうだが、魔術回路が右腕に集中しているなんて事は、僕の知っている限りではーーー否、魔術の歴史においてもあり得ない事だ。

 

「……これを、彼は知っているのかい?」

「いや、まだ伝えていない」

「賢明だね。こんなことを伝えたら、彼でなくとも混乱するよ。現に私がそうだからね。

しかし、なんだってこんなことに。まさか、レイシフトの影響で?」

「それはないよ。彼のレイシフト適正は高いと言っても異常なほどじゃないし、何より稼働実験でこんなことは起こったことがない」

「ふむ……」

「個人的には、特異点での通信途絶中に何かあったんじゃないかと思ってるんだけど、どう思う?」

「……そうかもしれない。後、彼の名前が喪失していることにも関係しているのかも」

 

彼の今の名前、岸波白野というのは実質的な人類最後のマスターである彼が自身に付けた偽名であり、彼の本当の名前は彼がレイシフトした瞬間に喪失しているのだ。

正しくは、彼自身は名前を覚えているものの、それ以外の誰もがーーー登録したカルデアにさえーーー彼の名前を知らないし、聞くことが出来ない。

 

「それは違うよ」

「む?」

「彼の名前が喪失したのと、この事は関係ない」

 

そうだ。彼の名前が喪失した事にはきちんと理由がある。尤も、それも想定外の事態に変わりはないのだが。

 

「彼の名前が喪失したのは、コフィン無しでのレイシフトが原因だ」

「コフィン無しでのレイシフト自体にそんな欠陥は無かったはずだけれど?」

「うん。だから、それも異常事態なんだ。本来コフィン無しでのレイシフトは、成功率を格段に下げるとはいえ、こんなことにはならない筈なんだ」

「だが、結果として彼は誰かに名前を呼んでもらえなくなってしまった」

「………うん」

 

もし、あの時彼を行かせていなければ。

もし、彼の他にマスターが居たならば。

もし、人理焼却(こんなこと)なんて起こらなければ。

そんな事が頭の中で浮かび続ける。

 

「……ロマニ。今は、目先の問題に目を向けるべきだ」

「レオナルド」

「気にするなと言ってるんじゃない。でも、いくら悩んだってしょうがない事だろう。それに、このことに関して君に責任は無いんだぜ?」

「…………」

 

……そう、なのかな。

 

「……ありがとう、レオナルド」

「なに、感謝されるほどのことでもないだろう? 私は問題を棚上げしただけさ」

 

僕にとっては、そうなのさ。

 

その時、背後のドアが開いた。真剣な表情を浮かべた彼が入ってくる。

少し、背筋が冷えた気がした。

 

「ロマンさん」

「な、なにかな?」

「システム・フェイトの使用許可を、貰いに来ました」

 

そう言った彼の手には、黄金の杯が握られていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。