俺のFateな話 (始まりの0)
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主人公紹介

ネタバレありです。

最後には召喚したサーヴァント一覧があります。


 名前:無皇 龍牙(むこう りゅうが)

 

 性別:男性

 

 出身:2016年の日本

 

 容姿:黒髪、黒目、顔は中の上。魂は最上級のイケ魂らしい。

 

(FGO開始時):黒髪、黒眼、顔は中の上、服を着ているので分からないが筋肉質な肉体をしている。魂は女神をも魅了する最上級のイケ魂。ギルやエルキドゥと同じ革紐を腰に巻いている。

 

 身長/体重・子供時:140㎝/40㎏

(FGO開始時):179㎝/100kg

 

 属性::中立-善

 

(子供時)筋力:B 耐久:B 俊敏:A+ 魔力:EX 幸運:E 宝具:??? 

 

(FGO開始時)筋力:EX 耐久:A- 俊敏:A- 魔力:EX 幸運:E 宝具:EX

 

 好きな物:子供、ギル、エルキドゥ、ウルクの民達とのふれあい、猫

 

 嫌いな物:ギル達に害成す者、傲慢な神々

 

 特技:計算・書類処理等の事務(ギルの補佐をしていた事で身に付いた)

 

 趣味:釣り

 

 

 

 

 

 

 ・スキル

 

 ①『カリスマA+』

 

 ウルクでの生活と生まれながらの素質。

 

 ②『黄金律A』

 

 人生においてお金がどれだけ付いて回るかという宿命。以前は持ちえなかったスキルだが、ギルから貰った黄金の鍵により獲得。決して幸運は上がらない。

 

 ③『【無】の加護』

 

 生みの親で在る【無】の加護。龍牙だけの持ちえる固有スキル。

 

 在りとあらゆる物理・魔法・概念の干渉を無効化する。

 

 神の呪いや祝福も無効にし、宝具もBより高位の物でなければ無力化する。

 

 

 ④『【創造】【破壊】』

 

 創造龍と破壊龍の力…………名の通り森羅万象を創造し破壊する。だが実際はこれは本当の力の一端でしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 ・マスタースキル

 

 

【天性のマスター】

 

 立香と同じスキルだが、龍牙の方は経験によるものが大きい。

 

 また令呪も回復可能だが、膨大な魔力があるため、回復は数分で回復させることも可能。自然回復は1つ1日掛かる。

 

 

 

 

【たらし:EX】

 

 性格であり魂の形。しかし龍牙は規格外のEX。

 

 EXでは本体の神霊を確実に落とせる。イシュタルに惚れられたのもこれが原因。

 

 男女問わずに深い信頼を向けられるが、龍牙の性格上、主に孤高であった存在に惚れられやすい。イシュタル曰く、魂の在り方・輝きが特に神格の高い女神にはドストライクらしい。

 

 唯、心に決めた恋人やらマスターがいるサーヴァントには信頼のある仲間としか認識されない。尚、此方も無自覚である。正直、無自覚なだけに質が悪い。

 

 

【???】

 

 龍牙の持つもう1つのマスターとしての特殊スキル。未だ未登場なので不明。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある世界の一般人だった少年。毎日変わらない日々に退屈していた所、「世界を滅ぼす存在」に出会い何故かその身に宿してしまった。産まれ付き、変わった力を持っていたので、1つ増えてもどうでもいいと言う考えであった。

 

 しかし突然住んでいた世界の人間達の愚かしさに呆れた神々が人間達を滅ぼすと言いだし、人間達に攻撃しかけてきた。

 

 丁度その時に、龍牙は新しいゲームを買って帰ろうとしていたが神々の攻撃によりソフトが瓦礫の下敷きに。それに激怒した龍牙は自分に宿る「世界を滅ぼす存在」の力を使って神々に攻撃、次々にぶちのめした。それはあくまでも発端に過ぎず、家族や友、人間を護るために戦った。

 

 神々を倒した後は人々に【神殺しの英雄】と謳われていたが、何時自分達にその矛先が向けられるかと恐怖した人々に殺された。

 

 本人はそれを受け入れていたものの、何故か以前より好きで在ったFateの世界に転生? した。しかも子供の頃の英雄王に出会った。

 

 全体的にステータスは高いが、幸運だけは前世? からなかった。どれくらい運がなかったと言うと、10個の内1個当たりがあるとする。9回引いて全て外れという何とも残念な運の持ち主。

 

 ギルガメッシュに興味を抱かれ、城に招かれた。そして彼女の父ルガルバンダに会い、話し合っている内に気に入られた事でギルガメッシュの従者にされた。彼女の母であるニンスン神にも気に入られており、本人は知らないが息子認定された。

 

 ギルガメッシュの未来を見通す目をもってしても龍牙の事は見透せなかったのは、彼の内包する力に秘密がある。

 

 ギルガメッシュの事は「ギル」と呼ぶ。

 

 その正体は根源()が産み出した人間であり、傲慢となった神々を裁く為に、人を見定める為の存在。

 

 ギルガメッシュと同じ裁定者であり、神が驕り、人が敗北した時、彼が総てを終わらせる。逆に人が堕落した時、裁定を下す。言わば根源()が産み出した世界を護る為の安全装置。

 

 

 

 

 ・宝具

 

 

 ・王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

 ランク:E~A++

 

 種別:対人宝具

 

 レンジ:1~99

 

 最大捕捉:1000人

 

 

 英雄王ギルガメッシュの持つ宝物庫、または人類の知恵の宝庫。正確には別れの際にギルガメッシュから渡された、宝物庫の鍵である王律剣バウ=イルの合鍵である。魔力を流し、欲しいものを思い浮かべるだけで呼び出せ、武器等を発射することも出来る。

 

 これにより本来ギルガメッシュしか扱えない宝物庫を扱うことが出来る。だがあくまでも合鍵である為、総てを扱える訳ではない。一部制限があるが、大抵のサーヴァントはこれでも充分に対応可能。

 

 ギルガメッシュの計らいか、ウルクで過ごしていた際に使用していた龍牙の私物も収納されている。

 

 

 

 

 ・召喚祭壇

 

 ランク:A 種別:召喚宝具

 

 古代ウルクに居た頃、龍牙が発明した祭壇。英霊、神霊、魔獣など様々な物を呼び出す事が出来る。型月世界の本来聖杯を用いなければ行えない【第3魔法・魂の物質化】すらも可能にする万能祭壇。

 

 本来は宝具でなかったが、ギルが宝物庫に収納した事で宝具へと昇華した。

 

 

 

 ・終末剣エンキ

 

 ランク:? 種別:? 

 

 アヌ神により管理されていた神造兵器の1つ。世界を滅ぼした「ノアの大洪水」の原型「ナピュシュティムの大波」を引き起こす事ができる。宝物庫の鍵を使い出してからは、宝物庫に入れている。

 

 龍牙はエンキに認められているため、水の上を走ったり、洪水に飲まれないなどの加護が与えられる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・創造龍(クリエィティス・ドラゴン)

 

 根源(【無】)の生み出した創造の概念そのものであり、龍の姿と名前は龍牙が与えたもの。

 

 12枚の金色の翼、黄金の2本の角、純白の鱗、銀色の瞳、尻尾と言った姿で西洋のドラゴンに近い姿であり、とても美しく見る者を魅了する。

 

 12枚の翼に埋め込まれた12色の宝玉には、火や水と言った属性があり創造龍クリエィティス・ドラゴンはそれを操る事ができる。

 

 元は【創造】である為に、【無】から与えられた「生」と「光」「創造」を司る存在。

 

 生命を与える存在ではあるが、龍牙の事になるとそれを無視して逆に奪う事もある。

 

 この度、出て来た姿は山10個分の大きさで在ったが、あくまでこの龍牙に合わせての大きさ。実質の大きさは計り知れないが、自由自在(ミクロ~世界以上の大きさ)である。

 

 正直、チート的な存在である。現在は龍牙の身体に宿っているので、状況において龍牙がその力を使うことが可能である。

 

 

 

 

 ・創造龍の翼(クリエィス・ウィング)

 

 

 龍牙に宿る創造龍の力の一部を身体に具現化させた状態。

 

 発動時は龍牙の背から【12色の宝珠の付いた黄金の翼】が出現する。この状態では空を飛べ、翼を使った攻撃を繰り出せる。

 

 強度も凄まじく、ウルクではギルとエルキドゥの攻撃を真面に受けたとか。また翼自身に創造龍の意志が宿っているので、視覚からの攻撃で在っても翼自身が防いでくれる。

 

 そして能力は【万物の創造】。これを使えば水であろうと、鉱物であろうと、剣であろうと創り出せる。構造さえ知っていれば、基本的に何でも創れる。

 

 しかしこの状態では魔術・神秘に関わる様な物は創れないと言う制限が掛かっている。

 

 

 創造時には【創造(CREATE)】と音声が鳴る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・創造龍の鎧(クリエィス・ドラゴメイル)

 

 

 創造龍の力を鎧として具現化しその身に纏う。

 

 12枚6対の金色の翼、翼の12色の宝玉、黄金の2本の角のついた龍を模した兜、両腰部と両腕部のアンカー、腰辺りから出る尾。破壊龍の鎧とは酷似しているが、破壊龍の鎧とは対照的な神々しい鎧。背中の翼の12色の宝玉にはそれぞれ、森羅万象を司っている。万物の創造の力の元であり、万象の操作・合成を行う。

 

 

 深紅=(FLAME):炎の操作・発現。

 

 蒼=(WATER):水の操作・発現。

 

 茶=大地(EARTH):大地の操作・発現。また鉱物も大地の産物の為、創造可能。

 

 緑=植物(PLANT):植物の操作・発現。

 

 黄=(THUNDER):雷の操作・発現。

 

 黄緑=(WIND):風の操作・発現。

 

 白=(LIGHT):光の操作・発現。

 

 黒=(DARKNESS):闇の操作・発現。

 

 マゼンタ=空間(SPACE):空間の操作。異空間、平行世界の行き来が可能。

 

 シアン=時間(TIME):時間の操作。時間の行き来が可能だが、時代に干渉する事になるため、龍牙自身は使う事は殆どない。

 

 オレンジ=調和(COSMOS):総てを調和し、在るべき姿へと戻す力。

 

 金=生命(LIFE):【無】より与えられた生命を与える力。この力を使うには創造龍クリエィティス・ドラゴンの許可が必要。

 

 それぞれの宝玉の力を使う時は各宝玉の属性の音声が鳴る。またそれぞれの宝玉には、各属性の力を吸収し自らの力とする事も可能で在り、無限に近い力を得れる。

 

 両腰部の剣は破壊龍の方と同じ様に、双剣・ライフル・大剣などに変形させる事が可能。

 

 剣の名は創造・破壊とも龍の牙(ドラゴ・ファング)(形としたらOOガンダムのGNソードⅡをイメージ)。

 

 

 

 

 ・使用技

 

 ①魔力収束砲【神を射抜くは龍の息吹(ロンギヌス・ブラスター)

 

 創造龍の鎧、破壊龍の鎧のそれぞれの龍の牙のライフルモードで使用可能な技。

 

 銃口に魔力を収束させ、それを放つ単純な技であるが、通常の魔術師では不可能な魔力の量と質のため威力は絶大。広域の砲撃、貫通・遠距離に砲撃などとバリエーションは多彩だが、それぞれ神殺しの名に相応しい力を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)

 

 根源(【無】)が生み出した【破壊】であり、【創造】である創造龍とは対なる存在。

 

 12枚の翼、禍々しい光を放つ紅い2本の角、漆黒の鱗、あらゆる物を砕き喰らう牙、総てを引き裂く爪、尾の先には紅い宝玉がある。創造龍が西洋のドラゴンに近いのに対し、破壊龍は東洋の龍に近い姿をしている。

 

 その力は元が【破壊】で在る為に「破壊」「死」と言った物。総ての存在に「死」「滅び」を与える存在であり、「神を喰らう者」つまりは神の天敵である。

 

 創造龍と同じく大きさに限界はない。

 

 龍牙が以前の世界で神々を滅ぼせたのも、この力によるものが大きい。

 

 完全なチート存在であるが、龍牙がその力を扱うにあたって使い方は超難関であり小石を壊すとしても、少し力加減を謝れば世界その物の破壊に繋がる可能性もある。

 

 

 

 

 ・破壊龍の眼(ノヴァズ・アイ)

 

 

 龍牙に宿る破壊龍の力の一部を身体に具現化させた状態。

 

 発動時は龍牙の眼が【金色の龍の眼】に変質し、龍を模した仮面が出現する。その状態では視覚が強化され、数十キロ先の対象をハッキリと認識できる程の視力になる。更に、透視能力・能力や存在の解析能力が付与される。

 

 そして能力は【視覚に入った物質の破壊】。本来の破壊龍の力は【存在その物を破壊】する事が可能だが、この状態では幾分か制限が掛かっている。

 

 対象破壊時には【破壊(Destroy)】と音声が鳴る。

 

 

 

 ・破壊龍の鎧(ノヴァズ・ドラゴンメイル)

 

 破壊龍の力を鎧として具現化しその身に纏う。

 

 紅い2本の角のある龍を模した兜、刺々しい形の鎧、両肘・両膝部は鋭くなっている。

 

 両腕・両腰部には龍を模したアンカーが在り、移動・相手への牽制などに使用できる。腰の辺りからは龍の尾が出ており、先には黒い宝珠が装備されている。背には12枚の翼が在り、全力を出せば数分で太陽系を横断できる。

 

 両腰部にはアンカーとは別に、双剣・龍の牙(ドラゴ・ファング)が装備されている。双剣・ライフル・大剣などに変形させる事が可能。

 

 尾の宝珠は【喰《EATER》】と音声と共に、敵の魔力攻撃を吸収できる。吸収した魔力は自分の魔力へと変換させるか、吸収した魔力で一時的に身体能力向上されるか、自分の魔力を上乗せして跳ね返すかの3つの方法がある。

 

 この状態では更なる破壊の力を使う事が可能。

 

 

 

 

 ・破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)龍化(DRAGOON DRIVE)

 

 破壊龍の力を更に解放した姿。

 

 発動すれば5m程の大きさに巨大化し、鎧は龍の身体そのものへと変貌する。

 

 変貌すれば、聖杯のバックアップを受けた魔神柱の全力の一撃を受けても無傷で済む防御力を誇り、サーヴァント達が苦戦した魔神柱をいとも簡単に引き裂く事ができる。

 

 発動する際には、その身体と精神を破壊龍に近付ける必要があり、その所為で、やがては破壊龍に取り込まれる可能性もある。

 

 本来、龍牙に制限が掛けられてなければ、力を代償にする事でそれを防げるのだが、現在は制限が掛けられているのでそれが不可能である。

 

 発動後、龍牙の身体の一部が龍に変わってしまう。時間をかけて元に戻す事は可能だが、変わったまま放置しておくと、そのままとなってしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ・使用技

 

 ①破壊の誓約

 

 破壊龍の鎧を装備時に破壊の力を発動する際に、龍牙自身の力と引換えに破壊龍の力を引き出す為に必要な行動。

 

 自分の内なる破壊龍に力を奉げ、その代わりに破壊の力を使う権利を得る。1つの存在を完全に破壊する為には相応の力を代償に捧げる必要だある。対象の大きさ・存在に応じて消費する力は変わる。

 

 一度発動されれば、物理的に防御する事は不可能。

 

 発動時には【BREAK】と言う音声が鳴る。

 

 

 

 

 ②輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)

 

 破壊龍の力の一端。

 

 破壊龍の持つ「死」の力を用いて生み出された白い光を纏った漆黒の焔。

 

 見た目は禍々しいが、魂をあるべき場所へと還し導く為の焔であり、魔だけを焼き尽くす浄化の焔。生きている者を焼く事はない。

 

 この焔は龍牙のみだけでなく、サーヴァントの武器に纏わせる事も可能である。

 

 

 

 

 

 ③破壊龍の槍(SPEAR THE NOVA)

 

 破壊の力を雷を模した黒い槍へと変化させた技。

 

 放たれると、破壊する対象に合わせて分裂し、躱されたとしても当たるまで追尾し続ける。また龍牙自身の意志で動かす事も可能。

 

 

 

 

 ④神を射抜くは龍の息吹(ロンギヌス・ブラスター)

 

 創造龍の物と同じ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~詠唱~

 

 ・「鎧化」

 

 ―【無】より産まれし(創造or破壊)の龍よ。(創造or破壊)の力を我が身を纏う鎧と成せ―

 

【(龍名):龍鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~サーヴァント~

 

 ・セイバー(剣士)

 

 沖田総司

 

 ネロ・クラウディウス(嫁王)

 

 アルテラ

 

 

 ・アーチャー(弓兵)

 

 織田信長

 

 アタランテ

 

 

 ・ランサー(槍兵)

 

 スカサハ

 

 ロムルス

 

 

 ・ライダー(騎手)

 

 牛若丸

 

 マルタ

 

 

 ・アサシン(暗殺者)

 

 謎のヒロインX(アルトリア・ペンドラゴン)

 

 山の翁

 

 

 ・キャスター(魔術師)

 

 キルケー

 

 

 ・バーサーカー(狂戦士)

 

 ヴラド三世

 

 ヘラクレス

 

 

 ・ルーラー(裁定者)

 

 ジャンヌ・ダルク

 

 

 ・アヴェンジャー(復讐者)

 

 ジャンヌ・ダルク・オルタ



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キャラ紹介【ウルク】

 名前:ギルガメッシュ

 

 性別:女性

 

 出身:ウルク

 

 容姿:基本的に原作の子ギルのままだが、髪は龍牙に男と間違われたので腰くらいまで伸ばしている。

 

 身長/体重:子供時:140㎝/30㎏

          :168㎝/「殺す」

 

 属性:混沌・善

 

 筋力:A 耐久:B 俊敏:B 魔力:B 幸運:A 宝具:EX

 

 

 この世界の英雄王。性別は原作と違い女性。俗にいう姫ギルである。

 

 偶々、散歩していた時に龍牙に出会う。そして他の人とは違う接し方をする事と全てを見通す自分の眼をもってしても見透せなかった謎の存在である龍牙に興味を抱き、自分の従者にした(ルガルバンダに気に入られた事もある)。

 

 初登場時は子ギルの姿で在ったため、男か女か分からなかったがとある出来事をきっかけに龍牙に女であることが分かる。原作よりもステータスが高いのは女である事が分かった事件が原因らしい。

 

 龍牙が旅に出た数年間で、素直な子ギルから立派な暴君へになっていた。龍牙が戻って来てからは、彼の負担が凄まじい物になった。

 

 それからエルキドゥと出会い盟友となり落ち着いたものの、エルキドゥと共に鎖で縛った龍牙をヴィマーナで引きずり回したり、龍牙にイタズラをしかけたりと楽しい日々を過ごしていた。

 

 幼い頃より傍にいた龍牙に好意を抱いているものの、素直になれなかったが、イシュタルが龍牙に求婚した際に我慢できずにエルキドゥと共に龍牙を襲った。

 

 最後には龍牙との再会を約束し、宝物庫の合鍵を渡した。

 

 

 

 

 

 ・宝具

 

 ①王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

 ランク:E~A++

 

 種別:対人宝具

 

 レンジ:1~99

 

 最大捕捉:1000人

 

 

 

 毎度おなじみ、バビロニアの宝物庫。人類の知恵の叡智であり、あらゆる宝の原典。

 

 古今東西の宝具が収納されている……だがギルガメッシュはこれ等の所有者であり、担い手で無い為に真名解放できない。

 

 

 

 

 ②天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)

 

 ランク:EX

 

 種別:対界宝具

 

 レンジ:1~999

 

 最大捕捉:1000人

 

 

 究極の一にして、乖離剣エアより放たれる一撃。

 

 回転する3つの円筒が風を巻き込む事で生み出される、空間を斬り裂く一撃。

 

 ギルガメッシュ曰く「生命の記憶の原初であり、この星の最古の姿、地獄の再現」。

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:エルキドゥ

 

 性別:なし(龍牙の一言で女性になってる)

 

 出身:メソポタミア

 

 容姿:原作そのまま

 

 身長/体重:自由自在

 

 属性:中立・中庸

 

 筋力:― 耐久:― 俊敏:― 魔力:― 幸運:― 宝具:A++

 

 

 神々の王アヌの命令で創造の女神アルルが泥から産み出した宝具。

 

 天の楔であるギルガメッシュが神々に反乱した為に、彼女を連れ戻す役割を持つ天の鎖。元々は理性も知性もない毛むくじゃらの獣だったが、聖娼婦シャムハトが理性を、龍牙が知性を与えた事で現在の姿になった。

 

 ギルガメッシュと盟友になり、龍牙を含めた3人で常に行動していた。味方と認識した者には優しく、敵と認識した者には容赦ない。特に龍牙と別れる原因となったイシュタルには……。

 

 イシュタルが求婚した際には、ギルガメッシュと共に龍牙を襲った。別れの際には自分の身体から宝物庫の合鍵を首に掛ける為の鎖を産み出し渡した。

 

 

 

 

 

 ・宝具

 

 人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)

 

 ランク:A++

 

 種別:対粛清宝具

 

 レンジ:0~999

 

 最大捕捉:1000人

 

 

 エルキドゥ自身を1つの神造兵器と化し、アラヤ・ガイアの抑止力を自身に流し込み撃ち放つ、天地を貫く巨大な光の槍となる。

 

 抑止力そのものとも言え、人類・星への破壊行為に反応して威力を激増させる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:シャムハト

 

 性別:女性

 

 

 聖娼婦シャムハト……後にギルガメッシュのエルキドゥに関わる重要な人物。女神の様な美の持ち主。この度は龍牙とギルガメッシュの教育係、相談相手である。

 

 

 

 

 

 

  名前:ルガルバンダ

 

 性別:男性

 

 

  現在のウルクの王であり、ギルガメッシュの父親。ギルガメッシュが神にとっても人間にとっても重要な存在であるため、ギルガメッシュが産まれてからは距離を置こうとしたが、それでも可愛いい娘であるため、そんな事を忘れて溺愛している。

 

 ギルガメッシュが龍牙を連れて帰って来た時は自ら剣を持ち、娘に近づく龍牙という悪い虫を切り伏せようとしたくらいにギルガメッシュの事を愛している。

 

  始めこそ王を王と思わない態度の龍牙に思う所があったものの、龍牙の人柄と未知なる知識未来の知識を気に入り大概の事は許しており、最近では個人的なものや政治的なことまで相談している。

 

 

 

 

 

 名前:ニンスン

 

 性別:女性

 

 

 夢解きと知恵の女神。ルガルバンダの妻であり、ギルガメッシュの母親である。

 

 ギルガメッシュがつれて来た龍牙に対し興味を持っている。成長した我が子が恋する乙女である事に気付いており、龍牙が帰って来た時にはとても喜んだ。

 

 イシュタルの事を阿婆擦れと称している。

 

 龍牙が帰って来てからはルガルバンダと共に「孫、孫」と連呼し、催促していた。



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特別編
バレンタイン【ウルク】


 ~ウルク~

 

「……チョコレートが食べたい」

 

 

「「ちょこ?」」

 

 ウルクの城の自室で仕事をしていた龍牙が突然そう言い出した。ギルガメッシュとエルキドゥは龍牙のベットの上で横になっており、龍牙の言った「チョコレート」が何なのか分からず首を傾げている。

 

「俺がいた時代に在った菓子だ。甘くて美味いんだ、これが。時々、無性に食べたくなる」

 

 

「いずれ人類が産み出す物なら我が庫に入っているだろう……まぁ日頃それなりに頑張っている貴様の為に開いてやらんこともない」

 

 

「チョコレートと言えば、バレンタインか」

 

 

「「ばれんたん?」」

 

 

「起源は確かローマにいた司祭の人だったか。

 

 好きな人や世話になった人に女性がチョコレートレートを渡すんだ。渡すチョコレートにも義理と本命があったな、懐かしいなぁ」

 

 

「ほぉ、面白そうな行事だな……それで貴様は貰えたのか?」

 

 ギルガメッシュの言葉に固まる龍牙。

 

「龍牙なら女性にモテると思うよ、優しいし……」

 

 

「まぁ……それは認めるがな。で、どうなのだ?」

 

 ギルガメッシュは面白い答えを期待しているのか笑みを浮かべている。

 

「もっ貰ってたよ……(母親と妹から)本命を」

 

 龍牙もやはり男なので多少は見栄を張りたい様だ。

 

 ギルガメッシュは望んでいた答えではなかった為に黙ってしまった。

 

(誰からも貰えなかったのかと思い笑い飛ばしてやろうと思っていたが………(色んな女に)貰っていたとは)

 

 言葉と言うのは言い方によってはどうとも取れるのである。ギルガメッシュはチョコレートとやら女性から貰った龍牙を想像する。

 

「まぁ、言ってもしk「エルキドゥ、龍牙を縛れ」えっ?」

 

 

「うん、分かった」

 

 エルキドゥは戸惑う事もなく、直ぐに龍牙を自分から出した鎖で拘束する。

 

「なんで?!エルキドゥももう少し戸惑うとかはないのか?」

 

 

「ギルが意味もなくそんな事は言わないからね」

 

 

「エルキドゥ」

 

 

「連れて行くんだね、分かるとも!」

 

 エルキドゥはギルガメッシュが何を言いたかったのか直ぐに理解すると、龍牙を抱き上げた。

 

「ちょっと待て!これはダメ!恥ずかし過ぎる!」

 

 それは俗に言うお姫様抱っこである。

 

「さぁ、逝こうか?」

 

 

「字が違うー!」

 

 

 ーいやぁぁぁぁ!ー

 

 その日、エルキドゥにお姫様抱っこされた龍牙の姿牙王。城内で見られ、一時期噂になったのは言うまでもない。

 

 

 

 ~ギルガメッシュside~

 

 (わらわ)は英雄王ギルガメッシュ。神と人との間に産まれた存在。

 

 別世界の未来より来た、我が従者である龍牙。我の中では龍牙は無くてはならない存在である。しかし勘違いするでないぞ、あくまで従者としてだ……唯、龍牙が他の女と居るのを見ると無性に腹が立つ。

 

 主である我をこんなにも腹立たせるとは、不敬なので毎回、難題を言って困惑させてやる。疲れ、困っている奴の顔を見ると我が満たされる。今も、奴の慌てる姿が……ウム、愉悦。

 

 まぁ、それなりに感謝はしておるのだぞ。奴のお蔭でエルキドゥとも出会い友となり、奴の気遣いで民への配慮が行き届き、民もそれなりの暮らしをしている。

 

 そして今回、チョコレートとやらの事を聞いた。後、バレンタインと言う行事の事も。何でも有象無象の女共から、チョコレートを貰ったとか……その姿を想像する。殺意が湧いてきたが、女共を取り払い、そこに我を置いてみる。ウム、悪くない……寧ろ、良い。

 

 臣下に褒美を与えるのも王の役目。エルキドゥに龍牙を拘束させ、我は厨房にやって来た。

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 ~厨房~

 

 この場にいるのは、龍牙(拘束)、ギルガメッシュ、エルキドゥ、シャムハトだけである。その他の者は全て退出させた。

 

「と言う訳でチョコレートとやらを作るぞ」

 

 

「おっー」

 

 やる気を出すギルガメッシュとエルキドゥ。シャムハトはそれを暖かい目で見守っていた。

 

「作り方、知ってるのか?」

 

 

「我を誰だと思っている?英雄王ギルガメッシュなるぞ、菓子と1つや2つ簡単に作ってみせよう!」

 

 そう言ってエルキドゥと共に調理を開始したギルガメッシュ。

 

「はぁ……」

 

 

「大丈夫ですか、龍牙様?」

 

 

「あぁ……ちょっと疲れてるけど、まだ徹夜3日目だ。まだいける」

 

 

「そっそれは大丈夫ではないかと……」

 

 

「大丈夫さ、最高で1ヶ月半は徹夜したし」

 

 

「……もしかして、王とエルキドゥ様の時の」

 

 

「あの時は……ヤバかったな」

 

 

「大変でしたね」

 

 それはギルガメッシュとエルキドゥが初めて会った時、宝具が飛び交い、天地開闢の名を冠する力の衝突、それ等により起きた衝撃波、飛来したする宝具や瓦礫。

 

 市民達は龍牙の張った結界により、負傷者はでなかったものの、建物などへの被害が大きく、加えて戦いによる騒音で市民達は悩まされていた。戦いが終わってからは、後始末で龍牙が眠れなかったのは言うまでもなかった。

 

「はぁ……眠い」

 

 普段から徹夜とは言え、流石に睡魔が襲ってきた様だ。

 

「出来たぞ」

 

 

「嘘っ!?」

 

 龍牙がシャムハトと話していたのが1時間くらいだ、普通は豆から作るのであれば数時間~数十時間は掛かる筈なのだが。

 

「そんな訳が……出来てるし」

 

 龍牙は立ち上がり、ギルガメッシュとエルキドゥが作ったチョコレートを見てみると、しっかりと出来ていた。

 

「すげぇ……高級店みたいだ。と言うかどうやってこんな短時間……」

 

 龍牙が周囲を見てみると、至る所に宝具が散らばっていた。

 

「フフン!」

 

 

「何かを作るって言うのは面白いね」

 

 どや顔をしているギルガメッシュと、楽しそうな表情のエルキドゥ。

 

「では食うがよい!味は保証しよう、何故なら我手ずから作ったのだからな!」

 

 拘束から解放された龍牙がチョコレートに手を伸ばそうとすると、シャムハトがギルガメッシュとエルキドゥに何かを耳打ちする。

 

「なに……しかし、それは」

 

 

「ふぅん、それで龍牙が喜ぶならボクはいいよ」

 

 顔を赤くするギルガメッシュ。エルキドゥは別にいいんじゃないと言う顔をしている。

 

「良く分かんないけど、頂きm『ジャラ』えっ、また!?」

 

 再びエルキドゥの鎖で拘束された龍牙、再びエルキドゥに抱えられて、この場を後にした。

 

 

 ~龍牙の自室~

 

「……へ?」

 

 彼の自室のベッドこの上に座っているギルガメッシュ。彼女の膝の上に頭を乗せている龍牙。つまりは膝枕状態だ。そしてエルキドゥは龍牙の上に覆い被さっている。

 

「こっこれは一体……なにごと?」

 

 

「シャムハトがこうすると良いと言うからな、美の結晶である我の膝で寝れるなど、貴様くらいしか居らんのだ。感謝するといい」

 

 

「こんな事で龍牙の疲れが取れるなら何時でも言ってね」

 

 

「では食え……あっ……あ~ん」

 

 

「あ~ん」

 

 先程作ったチョコレートレートをギルガメッシュとエルキドゥが摘まみ、龍牙の口へと運んだ。

 

 ー旨かったが誰にチョコを貰ったのかと聞かれて、正直に話してしまい、殴られたのは言うまでもないー

 

 

 

 

 ~翌日 早朝~

 

「ふぁ~良く寝た」

 

 ギルガメッシュ達にチョコを食べさせて貰い休んだ龍牙は、寝起きが良かった。

 

「ん~……ん?」

 

 ふっと横を見てみると、幾つかの箱があった。

 

「何だ?」

 

 龍牙は良く分からなかったが、一先ず木箱を開けてみた。

 

「これは焼き菓子か……もぐっもぐっ……これはシャムハトの味だ。後でお礼を言おう、残り2つ」

 

 残り2つの箱は木箱ではなく、宝石や金等を散りばめた装飾箱だった。

 

 赤い箱には、金で形作られた弓の様な装飾と宝石のネックレス。黒い箱には、金で作られた槍の様な装飾と水晶のブレスレットだった。

 

「誰からだ?……この槍は何処かで見たような……はて?」

 

 誰からか分からなかったが、懐に仕舞い、仕事へと向かった。

 

 

 

 

 ~???~

 

「あの方は……よっ喜んでくれたかしら?喜んでくれたわよね?だって私自ら、マアンナを型どって作った物だもの……ギルガメッシュと泥人形が作った菓子より喜んでくれるわよね」

 

 好きな男の事を神具を使い盗み見していた女神は、喜んでいる好きな男の事を想像し顔を赤くした。

 

「アイツなんかに負けてられないのだわ。かっ彼の死後は私の傍にいて貰って………家で疲れた私を出迎えて貰う。いい……いいわ。その為にもアイツの魔の手から彼を守らないと」

 

 半身である女神から男を守る為に、強いては自分の未来の為に孤独な女神は明日も頑張るだろう。



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バレンタイン【カルデア】

第3特異点の後の話です。


 ~カルデア 厨房~

 

「と言う訳で今日はバレンタインデーだ。チョコレートを作るぞ!」

 

 

「お姉ちゃんがちゃんと教えて上げるから頑張ろうね、マシュちゃん!」

 

 

「はっはい!宜しくお願いします!エミヤさん、ブーディカさん」

 

 バレンタインデー当日、マシュはエミヤとブーディカに指導を受けていた。

 

「ではまずは用意しておいたチョコを溶かす所から始めるとしよう」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 ~カルデア 食堂前~

 

「男性、立ち入り禁止かぁ」

 

 

「すまない、門番を頼まれんだ。悪いが彼女達の作業が終わるまでは入らないでくれ」

 

 

「Arrr」

 

 食堂前に張り出された紙を見てそう言うロマン。その横には立香を始めとする男性サーヴァント達がいた。ジークフリートとランスロット(狂)は女性陣に門番を頼まれた様だ。

 

「でもエミヤくんは入っているんだろう?」

 

 

「ぁ~アレはオカンだから仕方ねぇよ」

 

 ロマンの言葉に対してそう言う、青タイツのクーフーリン。彼はランサークラスで召喚されたクーフーリン、先日立香に召喚された。

 

「よっと!」

 

 食堂の奥から矢が飛来したが、彼は簡単に回避した。

 

「でゅふふ……チョコでござるかぁ、楽しみでござるなぁ」

 

 エドワード・ティーチ、オケアノスで出会ったライダーである。

 

「Arrr!」

 

 ランスロット(狂)はティーチを視界に入れた瞬間、凄まじい殺気を放つ。どうやらオケアノスで在った事が切っ掛けの様で、完全に敵視……と言うより危険人物として認知されている様だ。

 

「ランスロット殿、何で拙者をそんなにも敵視するでござるか!?」

 

 

「無理にでも入ろうとするなら気絶させた後に、拘束してエリザベートのコンサートだそうだ」

 

 それを聞いた瞬間、男性陣は絶対に入らない様にしようと心に誓った。

 

 

 

 

 

 ~数時間後 食堂内~

 

「できました!」

 

 完成したチョコを掲げるマシュ。

 

「うん、上手くできてるじゃないか」

 

 

「そうだね、上手に出来たね!」

 

 どうやらカルデアのオカン(エミヤ)やブーディカから見ても上手くできたらしい。

 

「じゃ、包装して……これで完成だね」

 

 

「はい!」

 

 ブーディカにより包装され、バレンタインチョコが完成した。

 

「それじゃあ、渡しに行こうか」

 

 

「すっ少し恥ずかしいですが、頑張ります!」

 

 そして完成したチョコを配ろうとしたが、何かを思い出し、エミヤの方を向くマシュ。

 

「エミヤさん、今日はありがとうございました!これはその……お礼です!」

 

 そう言ってチョコの1つをエミヤに渡した。

 

「私にかね……ありがとう。頑張ってくれ」

 

 

「はい!」

 

 マシュは厨房を出て行った。

 

 

 

 

 ~管制室~

 

「僕にかい?ありがとう、嬉しいよ!見てくれ、ダ・ヴィンチちゃん!マシュがチョコをくれたんだ!」

 

 

「ロマニ……いい年齢のおっさんが燥ぐなよ。なに、私にもかい?いやぁ嬉しいねぇ」

 

 

「わっ私に……あっありがとう」

 

 ロマニはチョコを受け取り燥いており、ダ・ヴィンチはそれを見て呆れている。オルガマリーは自分が貰えると思ってなかったらしく、顔を赤くして受け取った。

 

 

 ~廊下~

 

「「俺にか?ありがとよ、嬢ちゃん!」」

 

 

「ありがとう」

 

 クーフーリン2人、ジークフリートに渡した。

 

「!?……Arrr……Th…ank……yo…u」

 

 ランスロット(狂)にもチョコを渡す。自分は絶対に渡されないと考えていたらしく、差し出された時は困惑していた。だが最後にはしっかりと礼を言った。

 

「マシュ殿、せっ……ぶへぇら?!」

 

 変態紳士ことティーチはランスロット(狂)に殴り飛ばされ、壁に激突し気を失った。マシュはそっと気を失った彼の傍にチョコを置いてその場を去った。

 

 

 ~side out~

 

 

 ~立香のマイルーム~

 

「はぁはぁ……色んな意味で危なかった」

 

 この部屋の主、立香はベッドに腰を掛けている………かなり疲れている様だ。

 

 この部屋に着く前に女性に追い掛けられた。

 

安珍さま(マスター)……本日はバレンタインです。なので私を差し上げます』

 

 リボンを身体に巻いた清姫に追い掛けられ、(性的に)丸呑みにされそうになった。

 

『子イヌ!チョコよ!受け取りなさい!』

 

 エリザベートにタコの形をしたチョコを渡された………受け取ったはいいが、本能的にこれは食べると大変なことになると感じた。

 

 他にも女性サーヴァント達からチョコを渡された。

 

「先輩、居られますか?」

 

 

「やぁ、マシュ」

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

「ちょっと……ね」

 

 マシュは机の方を見て、彼に何が在ったのか直ぐに理解した。

 

「あっあの……先輩」

 

 

「?」

 

 

「どっどうぞ」

 

 マシュはハートの形をしたチョコを立香に差し出した。

 

「えっ俺に?」

 

 

「はっはい……エミヤさんとブーディカさんに教えて貰いながら作ったので、食べれるとは思います」

 

 

「ありがとう、嬉しいよ」

 

 

「よっ喜んで頂けたなら幸いです」

 

 マシュのチョコを受け取った立香、2人は顔を赤くして沈黙していた。

 

『若いっていいね』

 

 

『僕にとってあの子は娘……妹みたいな感じだから思う所があるなぁ』

 

 

『Arrrr』

 

 事の成り行きを見守る影達が在り、それに気付いた立香とマシュの顔が更に真っ赤になったのはいうまでもなかった。




~第6特異点後の場合~

「マシュからのチョコ………」

狂戦士の自分、他のサーヴァント達、マスターである立香がマシュからチョコを受け取ったのを影から見ている騎士。

「マシュ……彼には渡さないの?」


「どうせ、他の女性から貰うのですから私のチョコなんて必要ないかと」


「Nooooooooooo!!!」

この日、1人の剣士が狂戦士にクラスチェンジした。


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古代ウルク編
EP0 姫との出会い


姫ギルが出て来る作品が中々ないなと思い、思いつきで書いてます。

主人公は生身で英雄と戦える肉体の持ち主です。


 さて……少年の話をしよう。その少年は特に一般人と変わらない存在であった。ただ1つだけ人とは違う力を持っていたが……。

 

 何処にでもある日常を過ごしていた少年は世界を滅ぼす存在と相対してしまった。少年は世界を滅ぼす存在を………自分の意志と関係なくその身に宿してしまった。

 

 何故か、その世界を滅ぼす存在の力を手にしてしまった少年は普段と変わらない生活をしていた。世界を滅ぼす存在と相対して何で普通に暮らしているのだろう?

 

 少年「世界を滅ぼす力?面倒なだけじゃん、使わなければいいじゃん。気にしたら負けだよ、負け」

 

 と気にも留めなかったのだ。少年は普段通りの生活をしていたのだが………変化が起きた。

 

 少年自身にではなく世界にだ。

 

 世界は突然、神と名乗る者達に人間達は支配された。その神達曰く「人間は愚かで醜い存在だ、此処で滅べ」らしい。

 

 人間達も抵抗したものの、神々の人智を越えた力に敗北した。そんな中で少年はいきなり滅ぼすと言われて黙ってる訳がなかった。

 

 少年「勝手に出てきて、滅ぼすってなんだ!お前等の所為で発売したばっかりのゲームソフトが瓦礫の下敷きになっちまったじゃないか!?」

 

 という理由で自分の中の世界を滅ぼす存在の力を使い、神々を倒し始めた。その様から少年に付いた名が【神殺しの英雄】。

 

 神々を倒し終えた後、人々は少年を英雄と称え、謳っていた。しかしそれも直ぐに変わる。1人の人間が言った。「あの強大な神を倒したあの少年が何時か自分達に牙を向けるかも知れない」と。

 

 その一言が世界に拡散し、次第に少年を恐怖の対象として見た。やがて総ての人類が少年を排除しろと言い始めた。少年を捕まえようと世界は動く、しかし少年は抵抗する事無く捕まった。

 

 少年「これもまた人の選んだことか……まぁ仕方ないか」

 

 その言葉を最後に少年は世界から抹消された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(えっと此処は何処でしょうか?……死んだと思ったら荒野にいるなんて……確かに【神殺しの英雄】なんて呼ばれてたけど、最後は人間に裏切られて殺された………一応唯の人間だったんだけどなぁ……でも確かに死んだと思ったんだが……人間って首を斬られても生きてたっけ?……いや確実に死んだよな。それで生き返ったと考えるのが打倒か……)

 

 かつて世界を救い、人間に抹消された少年は荒野で目を覚ました。少年は哀しそうな顔で空を見上げる。

 

 

「はぁ……エクステラやGOの続き気になるなぁ」

 

 と裏切られた事よりゲーム続きを気にしていた少年。

 

 

「これから………どうしよう?」

 

 

「ねぇ……君、そんな所でどうして寝てるの?」

 

 その声で振り返ると、綺麗な金髪の人物が立っていた。

 

 

「(あれぇ?凄く何処かで見た事があるんですけど……具体的に言うとAUOの子供……つまり子ギルに似てる)俺も何で寝てるのか分かんない。気が付いたら此処に居た」

 

 

「ふぅ~ん……」

 

 

「取り敢えず1つ聞きたいんだけど………もしかして、もしかすると君はギルガメッシュだったりする?」

 

 

「へぇ~ボクの事知ってるのに……そんな口を聞いてるんだ。面白いなぁ」

 

 そう少年の眼の前にいる人物こそ、後の英雄王ギルガメッシュその人である。

 

 

(憧れのFateの世界に来ちゃいましたか……でも不幸だ……幼年体とはいえ、目覚めて直ぐあの英雄王と会うなんて…って事は此処は古代ウルクか……神様殺したから、呪いでも掛けられたのか?)

 

 などと考えている少年に、ギルガメッシュは興味を持った。

 

 

「ねぇ君、普通ここは未来の王であるボクにタメ口なんてしたら、命乞いすると思うんだけど……」

 

 ギルガメッシュ……神の血が3分の2流れている王の中の王。子供とは言え、常人とは何から何まで異なる存在だ。未来の王なので父や母、神々以外誰であろうとタメ口なんてできる訳がない。

 

 

「知らん、例え神の血が流れていようと、なかろうと子供は子供だ。第一!俺は神が嫌いだ!」

 

 

「ぷっ……プッ……ハハハハハ!アハハハハハハハ!このボクの前で神が嫌いだなんて発言する『子供』がいるなんて思いもしなかったよ!」

 

 それもその筈、此処が古代ウルクであれば神々は絶対の存在、しかも神の血を引く王子の前でそんな発言をするなんて在り得ないのだ。

 

 

「ん?子供?誰が?」

 

 

「誰って……君も子供じゃないか、見た所ボクと同じくらいかな?」

 

 

「(俺の記憶が確かなら俺は高校生の筈)」

 

 少年は立ち上がると、ギルガメッシュと大体同じくらいの視線の高さだ。

 

 着ている服、革ジャン、シャツ、ズボン、何時もと変わらない。両手を見る、小さい。両脚を見る、短い。顔に触る、プニッとしている。ギルガメッシュに背を向けて、ズボンの中を確認する。

 

 

「色々と縮んでる~!?」

 

 

「?……縮んでる?何が?」

 

 これが俺と英雄王のファースト・コンタクトである。言わせて貰うと「不幸だ」。



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人物紹介+とある日の話

 ~人物紹介~

 

 

 名前:無皇 龍牙(むこう りゅうが)

 

 性別:男性

 

 出身:2016年の日本

 

容姿:黒髪、黒目、顔は中の上。魂は最上級のイケ魂らしい。

 

 身長/体重・子供時:140㎝/40㎏

 

 属性:?・?・?・?

 

 筋力:B 耐久:B 俊敏:A+ 魔力:EX 幸運:E 宝具:???

 

 

 とある世界の一般人だった少年。毎日変わらない日々に退屈していた所、「世界を滅ぼす存在」に出会い何故かその身に宿してしまった。産まれ付き、変わった力を持っていたので、1つ増えてもどうでもいいと言う考えであった。

 

 しかし突然住んでいた世界の人間達の愚かしさに呆れた神々が人間達を滅ぼすと言いだし、人間達に攻撃しかけてきた。丁度その時に、龍牙は新しいゲームを買って帰ろうとしていたが神々の攻撃によりソフトが瓦礫の下敷きに。それに激怒した龍牙は自分に宿る「世界を滅ぼす存在」の力を使って神々に攻撃、次々にぶちのめした。

 

 何故神を倒せたかと言うと、龍牙に宿る「世界を滅ぼす存在」と言うのが、神または世界に対しての天敵であった為である。

 

 神々を倒した後は人々に【神殺しの英雄】と謳われていたが、何時自分達にその矛先が向けられるかと恐怖した人々に殺された。

 

 本人はそれを受け入れていたものの、何故か以前より好きで在ったFateの世界に転生?した。しかも子供の頃の英雄王に出会った。

 

 全体的にステータスは高いが、幸運だけは前世?からなかった。どれくらい運がなかったと言うと、10個の内1個当たりがあるとする。9回引いて全て外れという何とも残念な運の持ち主。

 

 ギルガメッシュに興味を抱かれ、城に招かれた。そしてギルガメッシュの父ルガルバンダに会い、話し合っている内に気に入られた事でギルガメッシュの従者にされた。ギルガメッシュの母であるニンスン神にも気に入られており、本人は知らないが息子認定された。

 

ギルガメッシュの過去・現在・未来を見通す目をもってしても龍牙の事は見透せなかったのは、彼の内包する力に秘密がある。

 

 ギルガメッシュの事は「ギル」と呼ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:ギルガメッシュ

 

 性別:女性

 

 出身:ウルク

 

容姿:基本的に原作の子ギルのままだが、髪は龍牙に男と間違われたので腰くらいまで伸ばしている。

 

 身長/体重・子供時:140㎝/30㎏

 

 属性:混沌・善

 

 筋力:A 耐久:B 俊敏:B 魔力:B 幸運:A 宝具:EX

 

 

 この世界の英雄王。性別は原作と違い女性。俗にいう姫ギルである。

 

 偶々、散歩していた時に龍牙に出会う。そして他の人とは違う接し方をする事と全てを見通す自分の眼をもってしても見透せなかった謎の存在である龍牙に興味を抱き、自分の従者にした(ルガルバンダに気に入られた事もある)。

 

 初登場時は子ギルの姿で在ったため、男か女か分からなかったがとある出来事をきっかけに龍牙に女であることが分かる。原作よりもステータスが高いのは女である事が分かった事件が原因らしい。

 

 

 

 

 

 宝具:王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

 ランク:E~A++

 

 種別:対人宝具

 

 レンジ:1~99

 

 最大捕捉:1000人

 

 毎度おなじみ、バビロニアの宝物庫。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 名前:シャムハト

 

 性別:女性

 

 

 聖娼婦シャムハト……後にギルガメッシュの盟友に関わる重要な人物。女神の様な美の持ち主。この度は龍牙とギルガメッシュの教育係、相談相手である。

 

 

 

名前:ルガルバンダ

 

性別:男性

 

現在のウルクの王であり、ギルガメッシュの父親。ギルガメッシュが神にとっても人間にとっても重要な存在であるため、ギルガメッシュが産まれてからは距離を置こうとしたが、それでも可愛いい娘であるため、そんな事を忘れて溺愛している。

 

ギルガメッシュが龍牙を連れて帰って来た時は自ら剣を持ち、娘に近づく龍牙(悪い虫)を切り伏せようとしたくらいにギルガメッシュの事を愛している。

 

始めこそ王を王と思わない態度の龍牙に思う所があったものの、龍牙の人柄と未知なる知識(未来の知識)を気に入り大概の事は許しており、最近では個人的なものや政治的なことまで相談している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~何時かの日の出来事~

 

 

「ふぃ~……疲れた。何で俺がこの歳になって剣術なんてやらないといけないんだ?」

 

 龍牙は従者になってから、剣術やら政について学んでいた。しかし元が高校生だけに学力もあり、【神殺しの英雄】と言われるだけあり子供になっても身体能力は高いので苦ではないが。

 

 

「まぁ楽しいから良いんだけど………ん~今日は水が冷たいなぁ~」

 

 現在、剣術の汗を流す為に水浴びをしていた。

 

 

『ん~今日も疲れましたね……ゆっくりと水浴びして休みましょう』

 

 其処にやって来たのはギルガメッシュである。

 

 

「ん?」

 

 

「よぉギル」

 

 

「………」

 

 ギルガメッシュが龍牙を見ると固まった。

 

 

「お前も水浴びか?」

 

 

「(なっなんで龍牙が此処に?……裸……龍牙の裸……何でだろう顔が熱く……)」

 

 

「どうかしたか?………あれ?」

 

 龍牙はギルガメッシュの方を見る………何故か若干胸に膨らみある、下に視線をやると男にあるべき物がついてない。

 

 

「………ギルって女?」

 

 

「……まさか男だと思ってたの?」

 

 

「うん……」

 

 

「ブチッ(何でか分かんないけど……頭に来た)」

 

 ギルガメッシュの背後の空間が歪み、剣が出て来る。あっバビロンだ……射出はエルキドゥ戦で初めて使うから一斉に剣が降ってくることないけど……素っ裸じゃ抵抗できねぇ!

 

 

「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

「のわぁぁぁぁぁぁ!?待て!話し合おう!」

 

 

「問答無用!!!(何でかわかんないけど、思考が冷静じゃなくなってる!)」

 

 

「お前だってあんな恰好をしているから悪いだろう!女だったらもっと女らしい恰好しろよ!」

 

 

「間違えた君が悪い!大人しく斬られろ!」

 

 既に半狂乱のギル……らしくないなぁ。心なしか顔が赤いのは気の性だろう……なんて考えてる場合じゃねぇ!やばい!死ぬ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この事件はシャムハトに止められるまで、約半日続き沐浴場は半壊し2人は仲良く風邪をひいたとか。

 

 その日から事ある毎にギルガメッシュは龍牙に攻撃を仕掛け、龍牙はそれを避けるので筋力や俊敏性が上がったのは別の話である。



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EP1 従者な日常

 ~城のとある一室~

 

「少しは反省してね……はいもう一枚」

 

 

「いでででででっ!!ごめんなさい!俺が悪かったです!」

 

 ギルは拘束されギザギザの板の上で正座している龍牙の膝の上に重石を乗せた。

 

 

「全く君って奴は……そんなにあの娘達との話が楽しかったのかな?」

 

 ギルは冷たい視線を龍牙に向けながら、もう1つ重石を置く。ギルがこんな事をしているのは、龍牙と出掛ける約束していたのだが困っていた女中達がいたので龍牙が助けて遅れたのが原因だ。

 

 

「違うってば!困ってたから助けただけだって!」

 

 

「その割には鼻の下が伸びてたんだけど……」

 

 龍牙は視線をギルから反らした。

 

 

「……キノセイジャナイカナ?ハハハ、ヤダナ……ギル、ソンナコトナイナイ」

 

 

「……まぁいいさ。今回はこれ位で許してあげる、取り敢えず行くよ」

 

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウルクより少し離れた荒野~

 

 

「ん?……此処って俺がいた場所か?」

 

 龍牙はこの荒野に見覚えがあった1年前にギルと出会った始まりの場所だ。

 

 

「そうだよ、君に出会って1年か……時間が経つのって早いね」

 

 

「そういやそうだな。もう1年か………」

 

 

「うん……龍牙は本当に訳が分からない存在だよね、ボクの眼をもっても見通せない人間……人間かな?」

 

 

「おいこらっ、人間以外に何に見えるんだ?ただの人間の子供だ」

 

 

「でも人間とは思えないよね………ただの子供は壁を駆けあがらないし、素手で剣術の先生の剣を折って倒さないし、100人の兵達を勝ち抜いたりしない。国の政に口を出さないから」

 

 この1年でギルは龍牙の人間離れした身体能力、頭脳を見た。

 

 その1.ちょっとしたトラブルでギルが剣をもって龍牙を追いまわした事があり、行き止まりに追い詰められたが壁を駆け上り逃げ延びた(勿論、後に制裁されたが)。

 

 その2.従者として強くなる為に戦いの武南を受けていたのだが、素手で剣を殴り折り倒した。

 

 その3.国の100人の兵士達とバトルロワイヤルで勝ち抜いた。

 

 その4.偶々悩んでいるルガルバンダ王の相談に乗り助言すると喜ばれ、何故か国の政まで口を出す様になっていた(どうしてこうなった?)。

 

 

「ハハハ、なんでこうなったんだろう………はぁ」

 

 この1年の出来事を振り返って見ると、ただの子供とは思えない行動だと思った。思い出すと疲れた顔をして、近くにあった岩の上に寝転んだ。そして自分の手を見る。

 

 

「どうかした?」

 

 

「この先、どうすっかなって思って」

 

 

「どうするってなにが?」

 

 

(まさか未来知ってます、それを変えるにはどうするかってなんて言えない)

 

 

「またそうやって黙る………龍牙は自分の事を何も話してくれないし、大切な事は言ってくれない」

 

 

(言えないから……違う世界の未来から来ましたなんて頭おかしいと思われる)

 

 

「まぁいいか………そう言えば龍牙、1つ聞きたい事があったんだけど」

 

 

「なに?」

 

 

「龍牙って友達っている?」

 

 

「友達か………」

 

 龍牙の脳裏には1人の人物の顔が思い浮かぶ、神を殺すと言う大罪を犯してでも人類を救い(本人は曰くゲームソフトの仇だが)……人類に裏切られ殺された英雄。だが唯一ただ1人だけ自分を信じてくれた友人がいた。

 

 

「居るよ……いや、正確には居ただな」

 

 ギルは信じられないって顔をしている。

 

 

「そっ……そうなんだ、ねぇ…友達ってどんな感じ?」

 

 

「どんなって………何でも相談できて、一緒に居て楽しい奴かな……(そう言えばアイツ……ちゃんと生きてるかね?)」

 

 異世界の友人を想いながら瞳を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ龍牙……龍牙、寝てる……全く自分勝手な……」

 

 眠ってしまった龍牙を見ながら、自分も岩に腰かけた。

 

 

「君は一体どういう存在なんだろう……この1年、君を見てたけど本当に掴み所のないよね……」

 

 そう言って、ギルは寝ている龍牙の頭に触れた。

 

 《バチッ》

 

 音と共にギルの手が何かに弾かれた。ギルは何が起きたのか理解できなかった。龍牙は寝ている、だが黒い髪が白く染まって行く。

 

 

「龍牙?」

 

 龍牙が目を開く、その黒眼も金色に染まっていた。

 

 

「【汝は誰だ?】」

 

 龍牙の声が男の様な、女の様な声に変わっている。今までの龍牙とは全く異なっている。そしてその身から放っている異様な力をギルは肌で感じていた。

 

 

「君こそ何者だい?それに龍牙はどうしたんだ?」

 

 

「【眠っておられる……夢を見ておられる。遠き日の夢を】」

 

 白く染まった髪の龍牙はそれだけ言うと立ち上がり、空を見上げた。

 

 

「【成程………御可哀想に……人間を護り、人間に裏切られるなど】」

 

 その瞳から涙を流し、手で顔を覆う龍牙。そして突然、力が抜けた様に倒れた。

 

 

「ちょ……龍牙!?」

 

 倒れた龍牙を起こし揺さぶり起こそうとする。

 

 

「あばばば、なんだ?!何事だ!?」

 

 

「りゅ……龍牙だよね?」

 

 

「えっ……うん、勿論俺だけど……」

 

 ギルは龍牙の身に何が起きたのか全く理解できなかったが、本人は何も覚えていない様なので言わない事にした。いや正確には言いたくなかった、言えば龍牙が何処かに消えてしまいそうな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 真っ暗な闇の中に巨大な何かがいた。

 

 

 -イナイ……イナイ……ドコニモイナイ。我……お……壊ス…コワス……ケス……滅ス…コレ違ウ、此処でモなイ―

 

 巨大な存在は何かを探して居る、そして何かを壊そうとする。だが見つからない、真っ暗な何処かも分からない場所でずっと探し続ける。

 

 

 ―ドコ?ドコに居ル?―

 

 探す……探す……探す……見つからない。だが変化が起きた。

 

 

 ―こノ匂イ……懐カしイ、匂イ……イタ……ミツケタ―

 

 巨大な存在は何かを見つけたらしく、その匂いの方向へと進んでいった。



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EP2 迫る影

 ~???~

 

 何処か分からないが、3つの人影確かにそこに在った。3つの影は並々ならぬ存在感を放っている。

 

 

「それで東に突然現れた【奴】についてだが」

 

 3つの内、一番巨大な影がそう言った。

 

 

「俺も見てきたが、【奴】は異質な存在……下手すれば一万年前に現れた巨人(ヤツ)の再来…いやよりも厄介な存在だ」

 

 光りを放つ影がそう言う。

 

 

「馬鹿な……巨人(ヤツ)よりも厄介だと何を根拠に」

 

 

「視線だけで神を消滅させられる様な存在が厄介でないと?」

 

 光を放つ影の言葉に巨大な影ともう1つの影が驚いているのだろう、影が歪んで見えた。

 

 

「視線だけで…消滅だと…」

 

 

「あぁ、肉体も魂も消滅した。何とか隙をついて俺が無理矢理に【奴】が出て来た【穴】に押し込んだが……正直、生きた心地がしなかった」

 

 光を放つ影の言葉に何も言えなくなった2つの影。

 

 

「【奴】は始めは俺達にも気もつかず何かを探している様だった」

 

 

「何かを探す……何をだ?」

 

 

「さぁな……でも、ウルクの方向を向いていた。俺から言えるのは【奴】は神々(俺達)にも、この世界にとっても死神だろうよ。本音を言うと二度と会いたくない」

 

 

「……【奴】の目的は分からないが、もしウルクに来るような事があれば」

 

 

 

「確実に終わりだな」

 

 光を放つ影ともう1つ影が話を進める中で、巨大な影は沈黙していた。

 

 

「シャマシュ…マルドゥク」

 

 巨大な影は2つの影をそう呼んだ。

 

 光を放つ影、シャマシュ……真実と正義、冥界、占いを司る神であり、太陽神でもある。

 

 もう1つの影、マルドゥク……エア神を父に持ち、世界と人間の創造主とも言われる神だ。

 

 

「「アヌ神」」

 

 2人の神が巨大な影に向かいそう言う。

 

 アヌ神……天空、星の神、神々の王であり、エア・エンリルと三柱神の1人である。

 

 

「此度の事……恐らく一万年前よりも最悪な事になるだろう」

 

 アヌの言葉によりシャマシュとマルドゥクは驚きの顔をしている。神々の王でさえ、今回の事を重く見ているのだ。

 

 

「だが退く訳にはいかん、我が退けば人も、この星も終わる……何としても止めなくては」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 龍牙はボロボロな廃墟となった街で目を覚ました。

 

 

「あぁ……またこの夢……って事は」

 

 空は灰色の雲で染まっている。空を見ると、雲の間から一筋の光が龍牙に降り注いだ。

 

 

「普段は眠ってるのに何の用だ?」

 

 

【奴が来る……もう直ぐ我が片割れがこの世界に来るだろう。どうか、奴を止めて下さい……奴は嘆いている、哀しんでいる、求めている】

 

 

「そっか……あぁ、分かったよ。でもさぁ、もう少しこの風景なんとかなんない?」

 

 廃墟となった街を見ながら龍牙は空に向かってそう言う。

 

 

【無理だ、此処は貴方の心象。どうにもならない】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~深夜 龍牙の部屋~

 

 

「なんでだよ?!俺の心象ってあんなのなの?!」

 

 夢から覚めた龍牙はそう叫んだ。

 

 

「………はぁ、ん?」

 

 龍牙は身を起こそうとしたが、右手が重く身を起こせなかった。

 

 

「くぅー……すぅ」

 

 横を見てみると、美しい金色が目に入った。

 

 

「此奴……また人の腕を枕代わりに………」

 

 何故か龍牙の腕を枕にして眠っているギル。龍牙にしては3~4日に1回は寝惚けて龍牙の所に来る、ギル。どうしてこうなったかのかと言うと、陽気の良い日に昼寝していた龍牙、ギルはそれを見つけ、自分も陽気に負け寝てしまったのだ。その時、偶々龍牙の腕を枕にしたのが始まりだ。

 

 それをルガルバンダに見られて、何とも言えない恐怖を味わったとか。

 

 

「しかしまぁ……こうして黙ってりゃ可愛いんだけどなぁ……これが成長したら慢心の塊になるなんて……考えたくないなぁ……」

 

 寝ているギルを見て、成長した彼女の事を考えてみた。慢心の塊となったギルに使い回されて、ボロボロになっている自分の姿しか思い浮かばない。

 

 

「はぁ……それよりもアイツの言葉……奴が来るのか……仕方ないか、どうにかして止めないとな」

 

 夢の中で聞いた言葉を思い出しながら、ギルを起こさない様に器用に腕を抜き身を起こした。

 

 

「でも話を聞く限り、暴走状態……俺の事も真面に認識するかどうか……取り敢えず素手より武器が必要だよな」

 

 

「ふぅん……武器が要るの?」

 

 

「おわぁっ!!!いってぇ~!……何時から起きてたの!?」

 

 突然声を掛けられた事で、寝台から落っこちた。頭を打ったのか大きなタンコブが出来ていた。

 

 

「『はぁ……それよりもアイツの言葉』がって辺りからかな」

 

 

「………それで何が来るの?」

 

 

「お前には関係ない……」

 

 

「君の話から察すると、それなりの相手が此処に来る。此処はボクの国でもあるんだよ、関係なくないよね」

 

 

「…………確かにそれもs……っ?!がぁぁぁぁぁっぁぁ!!」

 

 何かを言おうとした時、龍牙は突然目を押さえて悶え苦しんでいる。ギルも突然の事で慌てている。

 

 

「もう直……ぐ……って…早過ぎでしょ……あんにゃろ……」

 

 そう言いながら、何とか起き上がると外が慌ただしくなってきた。

 

 

「龍牙様!大変で……ギルガメッシュ様も此方に居られたのですね」

 

 

「シャムハト、どうかしたの……外も慌ただしい様だけど」

 

 

「そっそれが……このウルクに魔獣が迫っています!」

 

 ギルはその言葉に驚きを隠せなかった。たかが魔獣如きがウルクに来る事自体ありえないのだ、このウルクの国にはアヌやシュマシュなど多くの神々に護られている。故に魔物如きが近付くことはできない。

 

 

「ただの魔獣じゃない……」

 

 

「龍牙様?」

 

 

「【破壊】【破滅】【死】……奴はそれ等を具現した様な存在だよ、奴は」

 

 今はギルもシャムハトも誰も龍牙の言葉の意味が理解できなかったが、直ぐに龍牙の言葉の意味を身をもって知ることになった。



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EP3 漆黒と純白

 ~ウルクから離れた荒野~

 

 ウルクの国より離れた場所に在る荒野に、突如巨大な【穴】が開く。

 

 そしてその【穴】からそれは現れた。

 

 

 【グルルルルルル………】

 

 巨大な12枚の翼、禍々しい紅い光を放つ巨大な2本の角、漆黒の山10個ほどの巨大な躰と鱗、金色の獣の眼、あらゆる物を砕きそうな牙、総てを引き裂く爪、長い尾の先に光る紅い宝玉。

 

 それはまさしくドラゴン……いや正確には龍だ。

 

 漆黒の龍が見ているのはウルクの国のある方向。

 

 

 【ハ……イ………カイ………ハカ………イ……イ……グオォォォォォォォォォォ!!!】

 

 漆黒の龍は咆哮を上げながら、ウルクの方向に向かい飛ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウルクの城~

 

 ウルクに迫る巨大な魔獣が迫っていると聞き、龍牙とギルはシャムハトと共にルガルバンダ王の元に向かった。

 

 

「ルガルバンダ王!」「父上!」

 

 

「ギルガメッシュに、龍牙か……」

 

 

「あらっギルちゃん、龍牙くんも来たのね」

 

 其処に居たのは、ルガルバンダ王と美しい女性がいた。

 

 

「母上、どうして此処に?」

 

 

「お久しぶりです、ニンスンさん」

 

 彼女はニンスン神。女神にしてギルガメッシュの母親である。

 

 

「今回のこの国に迫る魔獣は危険な存在です、この事態に大いなる父アヌ神を始め神々が魔獣を止めます。貴方達は直ぐに神殿へ」

 

 

「なっ!?神々が総出で……それほどに強大な魔物なのですか?!」

 

 

「……ニンスンさん、奴は神じゃ止められない……いや神だからこそ奴には勝てない。神々を喰らうのが奴の本能だから」

 

 龍牙はどうやら迫る魔獣の存在を知っている様だ。

 

 

「何故そのような事を知っているのです、龍牙くん」

 

 

「眼が疼いて疼いて……仕方ないんですよ。アレを止めれるのは俺だけ……詳しい事を話している暇はない。此処に居ても感じる、奴は破壊の本能に飲まれてる。放って置けばこの世界が壊れますよ………ニンスンさん、此処は俺に任せてくれませんか?」

 

 

「………」

 

 ニンスン神は何故龍牙が迫る魔獣を知っており、それを止められるのは自分だけだと言うのか理解できなかった。だが分かる事はある、他の神々の協力を得て国の守護も強化しているが、その守護を越えて感じる巨大な力。

 

 シャマシュ神に聞いた話からしても今までにない脅威だ、大いなる父であるアヌ神でさえも危機だと言っている。その様な危険な存在を、この子供は自分しか止められないと言っている。しかしその眼は本気だ、虚言ではない。そして、龍牙から感じる何かの力を身をもって感じる。

 

 

「……まぁ子供が言っても信じられないのは分かります……っち仕方ない、お前は先に行き止めておけ。直ぐに俺も行く」

 

 龍牙は目を瞑ると、髪が白く染まっていく。開いた眼は金色に染まり、その身からは膨大な力が溢れる。そして龍牙の身体から巨大な光が溢れだし、魔獣のいる方向へと飛んでいく。

 

 

「ふぅ……一先ずアイツに行かせたから時間は稼いでくれるだろう、とは言ってもアイツ等が本気で戦ったら大地の方が保たないだろうけど……」

 

 

「龍牙くん……貴方は一体」

 

 

「唯の子供って………流石にこの状況じゃ言えないか………普通に生きて、暮らしてただけなんだけどなぁ。アイツ等に魅入られて、神様と戦って、人類に裏切られ、此処(別世界)に来て……でも仕方ないか。はぁ」

 

 ニンスン神に聞かれ、龍牙は諦めた様に溜息を吐いた。そして空を見上げる。

 

 

「さっきから誰かに見られてる感じがするから、多分見てるんだろう!神様逹!」

 

 空に向かってそう叫ぶ。すると辺りに眩い光が満ちた。全員は光により視界を奪われるが、直ぐに回復した。そこには灼熱の光を放つ黄金の装飾を纏った神が、その横には雷を纏う神がいた。更に2人の背後には途轍もなく強大な力を放つ髭の生やした神がいた。

 

 

「太陽神シャマシュ様……それに世界と人類の創造神マルドゥク様……そして神々の王であり父アヌ神」

 

 ニンスン神がそう言うと、龍牙以外が皆、頭を下げる。

 

 

「そなたが先程の強大な力を放った者か?」

 

 アヌ神が龍牙にそう問いかける。どうやら龍牙が先程放った光の事について聞いているのだろう。

 

 

「そうだよ……」

 

 

「おい小僧!貴様、大いなる父にその様な口の聞きか「よい」」

 

 シャマシュが龍牙の口の聞き方に腹が立ったのか、発言するがアヌ神に制され下がった。

 

 

「此処に来ようとしている奴の事は俺は良く知ってる。奴はアンタ達、神にとっては天敵だ。奴は神を喰らう者、世界を壊す者……その様に産まれた存在」

 

 アヌ神がそれを聞くと、水晶の様な物を取り出すと、水晶から光が放たれ漆黒の龍が映し出された。そして龍と対なす様に純白の龍まで現れ漆黒の龍と戦っている。

 

 

「……何故そなたはこの存在を知っている?それにこの白き者は…」

 

 

「白いのは俺が放った奴だ、何で俺が奴の事を知っているか……奴も元々俺の中に居たからね」

 

 

「……そなたならアレを止められるのか?」

 

 

「勿論……でも今の俺はかつて程の力はない。だからアンタ達の武器を1つ貸して貰いたい」

 

 

「良かろう」

 

 

「アヌ神!?」「この様な人間の小僧を信じるのですか?!」

 

 シャマシュとマルドゥクがそう叫ぶ。神々を敬いもせず、得体の知れない者、しかも人間を信じる事など出来る筈がない。だがアヌ神は龍牙の眼を見て理解した、この眼は信じるにたるものだと。

 

 アヌ神が手を上げると、黄金の双剣が現れた。その双剣からは途轍もない力を感じる。

 

 

「終末剣エンキ……得体の知れない俺にこんな物渡していいの?」

 

 終末剣エンキ……双剣ではあるが、本質は「水を呼ぶ剣」。神話の世界を滅ぼす大海嘯【ナピュシュテクムの大波】を引き起こす神造兵器だ。龍牙は前世?よりFateのファンであった為、それを知っていた。

 

 

「本当にそなたが奴を止めてくれるのであれば構わぬ」

 

 

「じゃあありがたく……よいしょっと。じゃあ短い間だけどよろしく頼むよ」

 

 《キィ---ン》

 

 龍牙がエンキに向かい言った瞬間、エンキが応える音を立てる。

 

 

「どうやら終末剣がそなたを認めた様だな……他に必要な物は?」

 

 

「サービスがいいね……」

 

 

「アレはそなたの言う様に神にとっての天敵……多くの神が奴に倒された。儂であろうとそれは例外ではないだろう、そなたが奴を止めてくれるのなら儂は出来る限りそなたを助けるだけだ」

 

 

「……じゃあ俺をあそこに送って欲しい」

 

 

「それだけでいいのか?」

 

 

「十分………出来るなら白い奴の上に送ってくれればありがたい」

 

 

「分かった……では直ぐに送るぞ」

 

 アヌが龍牙に手を向ける。龍牙は頷くと、光に包まれその場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~荒野~

 

 

 【グオオォォォォォォォ!!!!】

 

 

 【ガアアァァァァァァァ!!!!】

 

 荒野の真中で純白と漆黒がぶつかり合っていた。2つがぶつかり合った衝撃で、大地は割れ、雲は掻き消え、大気は震えている。

 

 

 【正気ニ戻レェェェェェェェ!!!】

 

 純白の龍は漆黒の龍に向かい吠える。その姿は美しいの一言だ、12枚の翼、12枚の翼にある様々な色の宝玉、神々しい光を放つ巨大な黄金の2本の角、純白の鱗と山10程の巨大な躰、銀色の獣の眼。西洋のドラゴンに近い姿である。

 

 

 【グオオォォォォォォォ!!!】

 

 漆黒の龍はただ咆哮を上げ、暴れる。それに意味はない、ただ本能に任せて破壊を続けるのみ……眼に映る存在の総てを破壊する。万物も、神々も、生命も、世界も……総てを破壊する。それが彼の龍の本能であり、その為だけに産まれた存在なのだから。

 

 

 【コノ阿呆ガ!】

 

 純白の龍はそう叫びながら、再び漆黒の龍に向かおうとするが自分の上に光が現れた事に気付いた。

 

 

「待たせたな!」

 

 光と共に現れたのは龍牙だった。純白の龍はそれに気付くと自分の頭を上げ龍牙を乗せた。

 

 

 【漸ク来ラレタカ……我等ノ王ヨ】

 

 

「あぁ……完全に暴走状態じゃねぇかよ」

 

 

 【破壊……破壊……破壊スル、グオォォォォォォォォォォ!!!】

 

 漆黒の龍は咆哮を上げる、その躰からは禍々しい闇が溢れ周囲の物を侵食していく。

 

 

「やべぇ、このままじゃ向こう千年は草木も生えず蟲一匹より付かなくなる」

 

 

 【アレハ私ガ止メヨウ。王ヨ……奴ノ眼ヲ覚マシテヤッテホシイ】

 

 

「珍しい、お前がアイツを心配するとはな。普段は仲悪いのに」

 

 純白の龍は全から神々しい光を放ち、漆黒の龍の放つ闇をせき止めている。

 

 

 【私ニモ狂イタクナル気持チハ分カル、永劫ト云エル時ヲ待ッテイタ………ヤット巡リ会エタ貴方ヲ失ッタ哀シミハ、ソレ程深イノダ】

 

 

「………ならまずは殴ってでも目を覚まさしてやるさ」

 

 アヌ神より貸して貰ったエンキを握り締め、目の前に居る漆黒の龍を真っ直ぐ見つめた。

 

 神さえも恐れる龍………それを止める為に龍牙は全身に力を巡らせた。



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EP4 激闘

 ~荒野~

 

 

【グオォォォォォォォォォォ!!!!】

 

 

【ガアァァァァァァァァッァ!!!!】

 

 神々しい光を放つ純白の龍と禍々しい闇を放つ漆黒の龍が激しくぶつかり合う。この戦いが始まって既に数時間が経過した、両者とも退かぬ激しい戦いだ。

 

 

「そこぉ!!!!!!」

 

 ぶつかった瞬間に龍牙は純白の龍の頭を蹴り漆黒の龍に向かい跳ぶ。そしてその手に持つ黄金の剣……終末剣エンキを振りかぶり、漆黒の龍の頭に剣を叩きこむ。

 

 

 《ガキィン!》

 

 

「うおっ!?」

 

 だが堅牢な龍の躰にはそう簡単には傷は入らず、龍牙は剣を弾かれ飛ばされる。それを純白の龍が受け止めると直ぐに漆黒の龍から距離を取る。龍牙の攻撃は幾度も繰り返しているが通る様子はない。

 

 

「ッ~~~~手が痺れるぅ~アイツ、どんだけ堅いんだよ!?魔力を全部筋力に回してんのに傷1つ付いてねぇ。やっぱこの状態じゃ」

 

 

【完全ニ力不足】

 

 

「そうだよなぁ……このままじゃ均衡状態が続くだけか……かと言って持久戦をする余裕はない」

 

 

【私ト奴ノ衝突ハ世界二負担ヲカケル】

 

 

「できるだけ早く終わらせたいが……」

 

 

【ガアァァァァァァァァァァァ!!!】

 

 暴れ回る漆黒の龍を見てそう簡単にはいかないと考える龍牙。

 

 

「無理矢理にでも俺の中に押し込めるか……」

 

 

【無理ダロウ……前ニ貴方ノ中ニ入レタノハ互イニ同意ガアッタカラダ】

 

 

「えっ?俺は同意してなかったと思うんだが……まぁいいか。やるしかない……『魔力解放……全身の筋繊維・神経線維に伝達【筋力強化】【神経伝達加速】【耐久強化】』」

 

 龍牙はエンキを変形させてトンファーにすると、自分の中の魔力を全身へと巡らせる。

 

 

「一瞬でいい、奴の動き止めれるか?」

 

 

【命令トアラバ止メヨウ】

 

 

「時間もねぇし、次で力の半分をつぎ込むぞ」

 

 再び純白の龍は漆黒の龍に襲いかかり、その爪を長い胴体に立て、牙で噛み付いた。

 

 

【今ダ、王ヨ!】

 

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 龍牙は凄まじい速度で漆黒の龍の胴体を駆け上がる。それに気付いた漆黒の龍は自由な尾を振り上げ上げ、それを龍牙に叩き付けようとする。

 

 

【サセヌ!】

 

 純白の龍は自分の尾で漆黒の龍の尾を受け止める。その間に龍牙は頭の辺りまで来ていた。胴体を蹴り、一気に頭の上まで跳ぶ。

 

 

「『魔力操作、耐久に回した魔力を【筋力】と【神経伝達】に回す』ハアァァァ」

 

 落下の中で防御に回していた魔力を全て攻撃の為に筋力と神経伝達速度に回す、それは攻撃を受ければ直ぐに終わってしまうことを意味するが純白の龍が漆黒の龍を止めている為、問題はない。

 

 

「オラッ!オオォォォォォォ!」

 

 漆黒の龍の頭の真ん中に目掛けて繰り出すのは、エンキ(トンファー)による連続の打撃。

 

 1度では効かないのは良く分かっている、ならば10、20…と繰り返せばいい。

 

 

「【加速】【細胞活性】」

 

 だがそんな攻撃を続ければ、神造兵器であるエンキは未だしも生身の身体がついていける訳がない。

 

 

「【加速】【細胞活性】」

 

 龍牙が使った魔力操作による身体能力の向上は簡単に言えば魔力によるブーストだ。しかし魔術師の使うブースターと違う。人間は自分の身を護る為に、無意識の内に脳がリミッターを掛けており20~30%の力しか出せない。しかし龍牙は魔力操作によりそれを強制的に解除している。

 

 

「【加速】【細胞活性】」

 

 更にその上で魔力で筋力・神経伝達速度を上げ、凄まじい力と速度で連撃を繰り出している。だが常に100%以上の力を出し続ける事など不可能だ。その様な事をすれば身体が崩壊する。

 

 

「【加速】【細胞活性】」

 

 だが龍牙は魔力により細胞を活性化させる事で驚異的な治癒能力で崩壊した細胞を修復していく。それには死ぬ様な苦痛が伴う。

 

 

「【加速】【細胞活性】」

 

 例え苦痛が伴っても龍牙が止まる事はない。それが龍牙の生き方だ……自分の考える通りに生きる。誰にも指図されず、自分の意志を突き通す。自分の大切な物の為であれば死も、痛みも恐れない。

 

 

「ウオオオオオォォォォォォォォォ!!!!」

 

 連撃でも漆黒の龍の堅牢な身体には傷は与える事は出来ないだろう。だが衝撃は堅牢な身体の内部を揺らす事は出来る。

 

 

「目を………」

 

 龍牙は右腕を振り上げ、残っている魔力を総て筋力とエンキに回し力を収束させていく。

 

 

「覚ませぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 龍牙の渾身の一撃が漆黒の龍の頭に叩き込まれ、漆黒の龍を地面に沈めた。その一撃は巨大な漆黒の龍の頭を地面に叩き付ける程の力……龍牙の右腕の骨は砕け、筋繊維は裂け、神経もズタボロだ。

 

 

【グギャ……ァァ】

 

 先程の一撃で漆黒の龍は脳を揺らされた、つまり脳震盪だ。それにより漆黒の龍は気絶している。

 

 

「はぁはぁ………」

 

 龍牙は気を失いそうになっていたが、何とか踏みとどまっている。落下しそうになるが純白の龍に助けられ、今は地面に降りた。そして漆黒の龍へと近付いていく。

 

 

「ぁあ……クソいてぇ、こんにゃろ。これで目を覚まさなかったら次は津波で水の底に沈めてやるからな」

 

 脚を引き摺りながらもゆっくりと歩を進めていく。右手は既に使い物にならないが、左手に双剣の柄を引っ付け、弓の状態のエンキを持っている。

 

 龍牙は何とか漆黒の龍の所に辿り着くと、エンキを地面に突き立て左手で漆黒の龍に触れる。

 

 

「ほらっ、起きろ」

 

 龍牙は静かにそう言った。まるでそれは家族に向ける様な、優しい言葉。漆黒の龍はそれを受け、再び目を開けた。そしてゆっくりと顔を上げ、その眼で龍牙の姿を捉えた。

 

 

【王よ………申し訳ありません】

 

 

「全く……お蔭で身体はボロボロだぜ」

 

 

【王よ……私は……】

 

 先程までとは違い、漆黒の龍の眼には破壊の意志はない。ただ龍牙を見つめている。

 

 

「別にいい。許す………お前は俺を裏切ったあの世界の人間達が許せなかったんだろう、俺の為に怒って、哀しんでくれた。だからいいよ……っ……ぁあもうダメ」

 

 それだけ言うと、龍牙はその場に倒れた。流石に龍牙も限界が来ている。

 

 

【拙イ……王モ限界ダ。破壊ノ】

 

 

【あぁ……創造の】

 

 純白の龍と漆黒の龍が互いに顔を合わせるとその身体を光と闇に変え始めた。光と闇は龍牙の身体の中へと入って行く。

 

 

【我等ガ王ヨ】

 

 

【我等は貴方と共にある】

 

 2体の龍は愛おしそうな眼で龍牙を見つめながらそう言う。龍牙はそれを聞きながら意識を手離した。



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EP5 世界の根源

 それは世界が始まる前の話。

 

 世界には何もない……所謂【無】であった。

 

 その【無】の中で1つの意志が産まれた。意志は永い時の中で何も無い事に詰らなく思い、意志は2つの概念を産み出した。

 

 1つは【創造】……【無】より何かを生み出し、世界を創り出す。

 

 1つは【破壊】……世界を壊し、創造により生み出した物を【無】へと還す。

 

【無】の意志はこの2つはどの様な状況においても変わらない法則とした。

 

【無】の意志はこの2つの概念に意志を与えた。そして言った。

 

 

 -今の世界は何も無い。故にお前達はこれより万物を創り壊せ-

 

【無】の意志は【創造】と【破壊】にそう言い付けると、【創造】と【破壊】はその言葉通りに世界を創り、時が経てば壊すという事を繰り返す。

 

 何かを創り、壊していく。だがそれは単純な作業に過ぎない。2つはこれを繰り返しながら時を過ごした。【創造】は星と言う存在を産み、それを【破壊】が壊そうとした時、変化に気付いた。星に自らの意志で動き回る者達を見つけた。【創造】と【破壊】はこれを【無】に報告する。

 

【無】はこの者達に『進化』『繁殖』『心』『光』『闇』と言う概念を与えた。

 

 

 -産めよ、増えよ……そして汝等の生き方を私に見せておくれ-

 

【無】はそう言った。そして【創造】に『生』『光』を司る権利を与え、【破壊】に『死』『闇』を司る権利を与えた。

 

 

 -お前達はその力をもって生命達を育み、増やし、世界を光と闇で満たすのだ-

 

 そう言って【無】は自分から生まれた場所に帰り見守る事にした。

 

【創造】は生命を守り、命を与えた。【破壊】は生命に死を齎し、命を刈り取った。永い時の中で生命の中に『人間』と言う存在が産まれた。『人間』は他の種族とは違う進化を遂げた、『人間』は生き残る為に『知恵』をつけ、爪と牙を捨て武器を作り出し、子孫を残し人の営みを行っていく。

 

【無】がこれを見て1つの事を考えた。【無】は【創造】と【破壊】を呼び出し、目の前で1人の人間の子供を産み出した。

 

 

 -この子は我が子である。お前達はこれよりこの子に仕え、この子の生き様を見守れ-

 

【創造】と【破滅】はこの言葉に従い、【無】の子の傍に在り続けた。子は成長し【創造】と【破壊】に姿を与え、名を与えた。

 

 子は生きている中で、常に人間の傍にあった。星の意志たる『神』と言う存在……その中でも傲慢で人間を玩具の様に見る者を、闇より産まれた『魔』という存在と戦った。何故そうしたのか本人にも分からない、ただそうしたかったからである。

 

 時が経ち、子はやがて人間としての生を終えようとする。本来生命は死ぬと魂は輪廻の輪と言う場所に行き、次の生が来るまでそこで留まる。

 

【創造】と【破壊】はこれを見て、自分が仕える者をこのまま死して他の者の様に輪廻の輪に還していいのか?と。自分達を産み出した【無】の子を……自分達が仕えるべき存在を他の者を……自分達に姿を与え、名をくれた大切な者をこのまま送っていい訳がない。

 

 ならばどの様な時も共に在るべきではないか。【創造】と【破壊】は子が死すと、自分達の一部を子の魂に埋め込み。次なる生へと送った。

 

 その子はまた人間として生まれ、再び『神』と戦う事になった、自分以外の何かの為に………。しかし最後は『人間』に裏切られました。

 

 これに【創造】と【破壊】は怒り、『人間』逹に滅ぼそうとしましたが………子が守ろうとした物を消し去る訳にはいかない。

 

【創造】は直ぐに子の肉体と魂を復活させましたが、この世界には子の居場所のないと考え、【無】の生み出した『可能性の世界』の1つへと連れて行きました。

 

【破壊】は子が死ぬ原因となった者達を滅ぼし、『人間』に恐怖を植え付けました。しかし【破壊】は怒りによりその本能に飲み込まれたまま、子の元に向かうことになりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウルク 神殿~

 

 この場にいるアヌ神、シャマシュ神、マルドゥク神、ニンスン神、ルガルバンダ王、ギルガメッシュはそんな話を聞いて唖然としている。

 

 

「まぁそんなこんなで俺は現在此処にいます」

 

 

「……信じがたい話ではあるが、あの様な存在を見た以上信じない訳にはいかないな」

 

 龍牙の言葉にそう言うアヌ神。

 

 

「1つ聞きたい、もうあの龍が暴走する事はないのか?」

 

 そう言ったのはシャマシュ神だ、この世界の神でありウルクを護る身としてはそれが心配なのだろう。

 

 

「ないよ。奴は俺の中で眠ってる……俺が此処に居る以上、暴走する事はない」

 

 

「つまり逆に言うなら、龍牙が此処に居る限りは暴走しないけど……龍牙の身に何か在ったら暴走しちゃうってことだよね」

 

 

「まぁそうなるな………後、この話は此処だけの話にして貰いたい」

 

 世界の根源など理解できぬ者からすれば恐怖でしかない、故に此処にいる者達だけの話とする事にした。そしてアヌ神、シャマシュ神、マルドゥク神は互いに顔を見合い頷くと告げる

 

 

「「「では無皇龍牙、荒ぶる龍を止めし汝を認めよう」」」

 

 こうして龍牙はアヌ神、シャマシュ神、マルドゥク神に認められ、ウルクに滞在できるようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ龍牙、そう言えばあの龍達ってなんていうの?」

 

 

「あぁ………それは」

 

 ギルに聞かれ、龍牙は告げる。自分が与えし創造と破壊の名を……。

 

 

 -無より万象を、命を産み出す龍を……創造龍(クリエィティス・ドラゴン)

 

 -万物を壊し、死により魂を次の段階へと進ませる龍を……破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)-と。



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EP6 俺の知るギルがこんな暴君の訳がない

 どうも、異世界のウルクに来ちゃいました龍牙です。

 

 まぁ色々とありましたが、現在はウルクの王の補佐をしてます。

 

 破壊龍の事件から2年と半月が経ちました。この2年の内、1年は世界を知るために旅をして色々な場所を冒険しました。だって冒険は男のロマンだもん。

 

 

「冒険したいので旅に出ます」

 

 そう言ったのが1年半前。当時はギルやニンスン神が反対していましたが、(冒険の素晴らしさを教えた)ルガルバンダ王の力を借りて説得して、1年と言う期間付きで了承を得ました。

 

 態々了承がいるのか?ハハハハハハ、ギルの従者とはいえ実質、居候の身だからね。

 

 正直言うと、凄く楽しかった。だが1年なんてものは直ぐに過ぎる。始めは土産と冒険の話を持って帰るなんて気軽な気持ちでいたが……冒険に出たのが間違いだったと思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~冒険が終わり帰還した時~

 

 

 俺は久し振りに故郷に帰る気持ちでウルクへと帰って来た。

 

 しかし何故か民に覇気はなく、死んだような眼をしている者までいる。

 

 何事かと思い俺は城まで走った。

 

 そして城の玉座に座っていたのはルガルバンダ王ではなく、ゴゴゴゴゴッと王者の風格を現すギルガメッシュだった。そして始めの一言が……。

 

 

「やっと帰ったか、たわけ。この1年、何の音沙汰もなく、良くも(わらわ)の前に顔を出せたな」

 

 

 ーあっ……これはまさか…もしかしなくてもー

 

 

(わらわ)に何か言うことはないのか……そうか、喋らぬか詰まらん。(わらわ)は機嫌が悪い、貴様の話を慰めにしてやろうと思ったが……せめて散り際で我を楽しませろ」

 

 そう言ってギルガメッシュは玉座から立ち上がり、宝物庫から弓を取り出す。俺は目の前で起きてる事に、頭がついて行かなかった。

 

 たかが1年で人ってこんなにも変わるものかと思ったが、このままでは針ネズミにされそうなので、必殺技を繰り出す事にした。

 

 

「すっ……すいませんしたー!!!」

 

 そう言って放ったのが【必殺技:Japanese DO☆GE☆ZA】である。ギルガメッシュはそれを見て固まっている。

 

 取り敢えず俺はこの状態で話す事にした。

 

 

「何故連絡をしなかった?連絡用にと天の父より頂いた水晶を渡していたであろう」

 

 俺は旅に出る前に、ギルガメッシュがアヌ神より賜った物で2つの水晶だ。魔力を注ぐ事で、水晶と水晶が繋がり、相手の顔を見ながら会話ができると言うTV電話顔負けの道具である。

 

 しかし俺は旅の途中で紛失してしまったのだ。それをギルガメッシュに伝えると「バカ」と言われた。

 

 それからはギルガメッシュに質問をされ続けそれに(土下座のままで)答えると言うのが半日続いた。

 

 やっと解放され、汚れを落とす為に以前に創造龍の能力で作った大浴場に入ったのだが、ギルが我が物顔で入ってきた。

 

 

 ーお前に羞恥心はないのか!?ーと聞いたところ。

 

 

「我の身体に恥ずべき所などない!」

 

 とワールドワイドな事を言われた。

 

 以前の世界では共学であったが女子とは殆ど会話したこともなく、彼女も居なかった為に、耐性なぞ在る訳のない俺は鼻血を滴ながら部屋へと戻った。

 

 

 

 

 ~回想終了~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在~

 

 それからと言うもの、大変であった。

 

 機嫌が悪いから税を上げようとするギルを止め、もっと民の事を考えるように数日不眠不休で話した。

 

 

「ならば我の機嫌を良くしてみせよ」

 

 と言うので、彼女の機嫌を取るのにはどうするべきかと考え、この時代にはない料理やら、デザートなどを作ったな(遠い目)。

 

 

 罪人だからと問答無用で首を斬ろうとするのを止め理由を聞きそれに合わせて罪を償わせる様に説得した。

 

 この時代では当然の事かも知れないが、人には心がある。どうしようにもならない程、激情などにかられる事もあるだろうから……故に話を聞くことは大切である。

 

 何処から【ゲームソフトの復讐の為に神に喧嘩を売った奴が言うと納得するな】と聞こえてきた。気の所為だろう。

 

 死して終わりと言う考えはあまり好ましくない。生きて償わせると言うのも1つ考えだ。

 

 

 目に留まった結婚しようとしている花嫁を強奪するのを止める為に喧嘩もした。

 

「人様の幸せを奪うのはダメだ、そうような事をすれば何時か自分に返ってくるぞ」と言ったが、そう簡単に引き下がるギルガメッシュではない。最終的には剣による(一歩間違えば死ぬ)喧嘩で決着をつけた。

 

 俺もかつては【神殺しの英雄】と呼ばれた者、加えて剣術を我流であるが毎日続けていたので、バビロンの一斉掃射をしない慢心王が勝てる訳なく、二度とそんな事はしないと誓わせた。

 

 殴り合いじゃないのか?それは俺の役目じゃないし、ギルとは言え女……女を殴るのは嫌だ。

 

 剣で殺し合いしてる?殺し合いじゃなく喧嘩なので問題ない。

 

 

 等々、暴君の限りを尽くすギルを抑える為に俺は日々、ストレスと戦っていた。

 

 帰って来て半年、ストレスの所為で胃痛と抜け毛が多くなって来たような気がする。

 

 ぁあ……偶に辛辣であったが、素直で笑顔が可愛いいギルは何処に行ってしまったのだろう?

 

 慢心王になると分かっていたとは言え、自分が居ればもう少し何とかなったのかと考える龍牙だが、その答えは知るよしもない。

 

そう言えば、最近街を歩いていると妙な視線を感じるんだけど気の所為だよね?後々凄く面倒な事になりそうな気がするのも気の所為の筈だ。うん……そう言う事にしとこう。さぁ今日もお姫様の手伝いをしますか。



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EP7 女王の心

 ボクは孤独で在った。神と人との間に生まれた故に、他者とは異なり、視えているものも、考え方も違う。神が人に対する楔として創られたのがボクだ。

 

 他者がボクを畏れ敬う、ボクは神の子であり、王になることを約束された身だから当然の事なのだ。しかし、中には怪物を…異質な物を見るような目で見てくる輩もいる。

 

 ギルガメッシュは完成された完全な存在だ。その容姿も、思考も、性格も、力も何もかもが完全な存在。

 

 それを嫉妬する者もいる、畏れる者もいる、敬う者もいる。ギルガメッシュを特異な目で見る者達が殆どだ。

 

 そんな人間達を「自分達と異なる存在を恐れるのは当然だ」と考え、そんな人間達に呆れながら過ごしていた彼女に変化がおきる。

 

 偶々散歩していた時に見つけた1人の少年だった。ウルクでは見た事のない服を着て、荒野の真ん中で眠っている。そして、自分の見通す眼をもってしても見透せないその少年に興味をもった。

 

 目を覚ました少年はボクの方を見ると、ボクがギルガメッシュであるか尋ねてきた。ボクは此処でこの少年がどんな反応をするか試したくなった。

 

 少年に自分がギルガメッシュであり、未来の王である自分に、神の血を持つ自分に不敬な態度をとって命乞いはしないのかと?聞いた。

 

 普通であれば命乞いをしてくる場面だ。

 

 

『知らん、例え神の血が流れていようと、なかろうと子供は子供だ。第一!俺は神が嫌いだ!』

 

 とギルガメッシュの予想に反する答えが返って来た。それによりギルガメッシュは少年を気に入り城へと連れ帰って従者にした。

 

 しかし、少年……龍牙は従者であっても態度は変わらず

 

『王子?知らん。神の血?神は嫌いだ、俺にとって意味はない。お前は俺と同じ子供だ、何故同じ子供を敬わないといけない』という感じだ。

 

 試しに敬語で話させてみたが……正直気持ち悪かった…何処がと言われれば分からないが生理的に受け付けない様に嫌だった。

 

 

 

 

 

 

 

 つい先日、このウルクに神々さえも消し去る破壊龍が迫って来た。

 

 驚いた事にその龍は元々、龍牙に宿っていた存在。龍牙自身も異世界の未来から来た者で、原初の神とも言える存在(【無】)が生み出した創造龍(クリエィティス・ドラゴン)破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)の主であり、原初の神とも言える存在(【無】)の子供。

 

 産まれながらにして強大な力を持ち、人間の傍にあって人間とは異なる存在。

 

 それはボクと似た境遇の身でありながら、自分の意志を貫き、その力をもって驕った異世界の神々を倒し、最後には護った筈の人間に裏切られた。

 

 その話を聞いた時、ボクはなんて馬鹿で、お人好しなんだろうと思った。でも……だからこそ、龍牙は龍牙たりえるのだとも思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アレから2年……ボクは(わらわ)になり、半年前に父上から王位を継いだ。

 

 奴は1年前に突然、旅に出た。世界を知りたい等と抜かしてこの国から出ていきおった。(わらわ)も母上も反対したが父上も味方に付けた奴を止められなかった。

 

 奴が居なくなってと言うもの、毎日が詰まらん。退屈だ………政を行い、法を作りながらもつい奴がいた筈の隣を見てしまう。本来で在れば奴の頭脳と知識を使いウルクを整えるつもりで在ったが……居ないならば仕方がない。

 

 

「もう直ぐ1年経つな……そろそろ戻ってくる頃合いか……もしも女など侍らせ帰って来ようものなら……どうしてくれよう?」

 

 そんな事を考えながら原初の女王は従者の帰りを待つ。

 

 果実を食べつつ、フッと戻って来た龍牙の隣に自分以外の存在が居ると考えて見る。

 

 考えて見ると何故か無性に腹が立ち、持っていた果実を握り潰していた。女王はこんなにも腹が立つのか分からなかったが……もしそんな事があろうものなら……。

 

 

 ー(わらわ)の隣に居らぬなら……(わらわ)から離れようとするならいっそー

 

 と考える女王。しかしその考えを下らないと思った。

 

 

「そう言えば母上が奴が帰ってくるのだからと香油やらを持ってきたな………何故その様な物を持ってきたのだ?」

 

 母である女神リマト・ニンスンが近頃持ってくるのは、我が身を飾る装飾品やら香油。その様なもの、我が庫に腐る程ある。母はそれを知っているのに何故に持ってくるのか女王は分からなかった。

 

 

 

 母と言えば、我が父であるルガルバンダ先王はある事に夢中になっている。それは「教育」だ。

 

 父は龍牙の未来の話に出てくる【学校】という者を、龍牙が旅に出る半年程前に設立した。何でも身分に関係なく子供達が学べる場所だとか。

 

 ルガルバンダはそれを聞くと、直ぐ様【学校】を建てた。貴族や王族だけが教育を受け、平民は受けれない。

 

 ー平民と言うだけで学に差が尽くのは間違いだ、貴族であろうと平民であろうと人間には未知なる才能は眠っているー

 

 と龍牙が言った事が始まりだ。

 

 故にルガルバンダは【学校】を作った。読み書き、武術、計算などを小さい内から出来る様になれば、その中で才能を開花させる者もいるだろう。そうなればこの国の未来も明るくなるからだ。

 

 しかし貴族の中にはそれを良く思わぬ者もいる故に、ルガルバンダ直々に貴族、平民を差別せずに勉強を教える者達を選び自分自身もそれに加わっている。以前に【学校】とやらを見に行ったが素晴らしいの一言であった。

 

 貴族も平民も関係なく子供達が切磋琢磨に勉強に、武術に励み競い合う。醜い貴族の争いを日々見てる(わらわ)からすれば新鮮なものだった。

 

 子供達には此処に入る段階で、【学校】の中では身分は関係ない説明している。頭の固い大人では簡単にはいかないが、純粋な子供達であれば直ぐに打ち解けたのだろう。

 

 一番驚いたのは、父ルガルバンダである。我の記憶の中では父が笑っている事はあまりなかった。何時も王たらんとする父はそう簡単には笑わなかったが、此処では笑っていた。

 

 最近は頻繁に宮殿に顔を出し、龍牙が帰って来たか?孫の顔が見たい!としきりに言ってくる。

 

 確かに少しの事で死ぬ人間にとって世継ぎは大事であるが、この身には神の血が流れる故にそう簡単には死なないので、未だ世継ぎを作る気などないし、(わらわ)と釣り合う男など居ない。

 

 父と母にそれを言うと大きなため息を吐かれ、2人揃ってやれやれと肩を竦められた。

 

 そんな事を思い出していると、シャムハトがやって来た。

 

 

「ギルガメッシュ王!」

 

 シャムハトにしては珍しく慌てている。どんな事があっても大概は落ち着いているのに。

 

 

「どうしたシャムハト。お前がその様に慌てるなど、余程の事があったのか…また魔獣でも攻めてきたか?それとも巨人か?」

 

 

「龍牙様がお帰りになられました!」

 

 ギルガメッシュはそれを聞くと、先程考えていた事を思いだし覇気が溢れだす。

 

 

「そうか、やっと戻ったか……何一つ連絡も寄越さずに……よし、疾くと此処につれてまいれ」

 

 そして原初の女王は従者と再会するのであった。




11/29日、少し修正しました。


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EP8 エルキドゥ

 ~宮殿 玉座の間~

 

 ギルガメッシュが王位を継いで数年。

 

 龍牙はギルガメッシュの政を補佐しながら過ごしていた。龍牙がウルクに戻ってきてからと言うもの、ギルガメッシュの横暴は龍牙により少しではあるが抑えられていた。それでも民は苦しんでいる、王の暴挙を補うのも補佐の役目、龍牙は朝も夜も関係なく忙しく走り回っていた。

 

 だがそんな時、龍牙の夢の中にアヌ神が現れた。

 

 

「どうかしたのか、アヌ神?また将棋か……それなら今度にしてくれ、今日は疲れてる。ゆっくり休ませてくれ」

 

 龍牙は破壊龍の一件以降アヌ神やシャマシュ神、マルドゥク神と交流している。アヌ神からは正式に終末剣を譲渡され、俺が休みの日は創造龍の能力を用いて創った将棋やらチェス、トランプなどをして親睦を深めている。

 

 神は嫌いだと言ってなかったか?

 

 傲慢な神は嫌いであるが、アヌ神達は人間と共存しようとする神々である。敵対する理由がない以上、必要以上に毛嫌いする気はないし、向こうが友好的なのに一方的に嫌うのは失礼だろう。それに話せば中々に楽しいし、この世界の魔術や神秘を知る機会でもあるからだ。

 

 

『いや今日は遊びに来たのではない……龍王よ』

 

 龍王とはアヌ神達が俺につけた仇名である。

 

 

『我は驕ったギルガメッシュを戒める為に女神アルルに命じ【諌める者】を創り、地上に送った。そなたにはその者を探し出して欲しい』

 

 

「【諌める者】……か」

 

 

『戦神二ヌルタの力も宿っている為、ギルガメッシュと同等の力を持っている………では頼んだぞ』

 

 アヌ神はそう言うと消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その夢を見た次の日、狩人親子から平原に現れる野人を倒して欲しいと懇願された。

 

 龍牙は前世の知識とアヌ神から告げられていたので、その野人が【諌める者】だと知っていた。

 

 

「ギル……この件は俺に任せて欲しい」

 

 

「ほぉ……お前がか……良いだろう、お前であればそう簡単に死なんだろうしな」

 

 

「(いや過労で死にそうだ)後、シャムハトを連れて行きたい」

 

 

「シャムハトを?……まぁいいだろう。疾く行け」

 

 そうして俺はシャムハトと共に野人の出る平原へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~平原~

 

 狩人親子の案内でやって来た龍牙とシャムハト。

 

 

「龍牙様」

 

 

「ん?」

 

 

「何故私を供に選んだのですか?」

 

 

「それは貴女が娼婦であると同時に巫女であるからさ。今回の野人は神々が驕ったギルを諌める為に送った者……今の奴は獣でしかない、だからこそ貴女の力で奴に理性を与えて欲しいんだ」

 

 

「天の神々がその様な………分かりました。私に出来るのであれば」

 

 2人はそう話していると、獣達の水飲み場にやって来た。その水飲み場には獣達と……泥の様な身体の野獣がいた。

 

 

「アレが……シャムハトは此処で待っていて」

 

 龍牙はシャムハトを此処で待機させると、自分は獣達に近付いていく。

 

 獣達は龍牙に気付くと、何故か逃げもせずに逆に近寄って来た。

 

 

(フフフ、こんな事があろうかと思ってウルクの獣達とは友達になっていたのだ)

 

 野人は初めて見た獣以外の存在……人間で在りながら異なる何かを宿す存在を警戒する。恐らく獣の本能が龍牙の中の2体の龍の力を感じたのだろう。

 

 

「母神に造られた泥の獣よ、俺はお前の敵ではない……傷付けもしない。だからお前の力を貸してほしい」

 

 そう言って野人に手を伸ばす、野人は始めは警戒していたが龍牙に敵意が無い事が分かると自らその手に触れてきた。

 

 

(ふぅ……なんとか上手くいったな。後はシャムハトに理性を与えて貰って、俺が知恵を与える)

 

 そうして龍牙とシャムハトは行動を開始した。

 

 1週間、シャムハトに野人を預け、俺はそこに通い知恵を与えた。やがてその姿は獣から人……シャムハトと瓜二つとなった。そして名前を与える【エルキドゥ】と。

 

 こうして力の大半と引換えに人間の姿と知恵を手にしたエルキドゥを連れ、ギルガメッシュの元に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウルク~

 

 待っていたのは威圧を放つ黄金の鎧を纏う女王だった。

 

 

「貴様が……………我を諌めるだと?」

 

 

「そうだ。僕が君の………慢心を正そう」

 

 と始まった戦い……1対1の戦いなんて生易しいものではない、どう見ても戦争だ。シャムハトはこの戦いを「世界が七度生まれ、七度滅びた様だった」と後に語る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っておい、こんな所でしたら街に被害が出るぞ」

 

 龍牙はそう言ったが、戦いに夢中の2人にはそれに気付かない。この時は殴り合いや剣での攻防なので良かったが、ギルガメッシュは宝具を財宝庫……王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から武器を発射すると言う方法を考え付き実行した。

 

 エルキドゥもコレに対抗し、自分の能力で地面により武器を創り出し放つ。武器と武器はぶつかり、弾け飛び街へと被害を出し始めた所で龍牙が動いた。

 

 街に被害を出さぬ様に、結界を張り飛来する宝具をエンキで弾き続けるが、無尽蔵な武器を弾き切れず巻き込まれた龍牙。

 

 

「こらぁぁぁぁっぁぁ!!テメェ等ァァァァァァ!!!」

 

 飛んできた武器に巻き込まれボロボロになった事で龍牙の堪忍袋の緒が切れた。日頃のストレスもあり、溜まっていたものが爆発した。

 

 龍牙は間に入り、エンキで2人の攻撃を止めていた。ギルガメッシュとエルキドゥは戦いを止められ、文句を言おうとしたが龍牙の顔を見て止まった。鬼神すらも裸足で逃げ出す程の怒りの表情を見てギルガメッシュとエルキドゥは命の恐怖を感じ固まっていた。

 

 

「人様に」

 

 総てを凍て付かせそうな低い声で呟く……そしてギルガメッシュとエルキドゥの鎧と服を掴む。

 

 

「迷惑かけんじゃねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 そのまま2人を荒野の方に向かい投げ飛ばした。

 

 その時の龍牙を見てシャムハトは『恐怖の大王が舞い降りた』と語る。これから続く数日の戦いの中で唯一戦いが止まった瞬間である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~荒野~

 

 龍牙に投げられたギルガメッシュとエルキドゥは荒野に着地していた。

 

 

「………龍牙、怖かったね」

 

 

「うむ……普段、滅多に怒らんからな。あぁいう奴ほど怒ると怖いのだ」

 

 エルキドゥはそれに同意し、互いに顔を見合わせ落ち着くと再び戦いを始めた。

 

 それから数日の2人は戦い続けた。龍牙はと言うと、ウルクに被害が出ない様に不眠不休で結界を張り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュとエルキドゥは数日戦い続けて、同時に倒れ込んだ。既に限界であった為、2人はピクリとも動かない。

 

 

「はぁはぁ………お互いに、全て悉く出し尽くしたか」

 

 ギルガメッシュの表情は、財宝を全て使い切り、満身創痍にも関わらず晴れている。恐らく、此処まで全力で戦ったのは彼女の人生で初めての事だろう。

 

 

「大事な財宝を使い尽くして惜しくないのかい?」

 

 エルキドゥはギルガメッシュにそう尋ねる。

 

 

「なに……それに値する輩で在れば、くれてやるのも一興。だが財を投げ放つなど…悪い癖を付けさせてくれた……まぁそれも悪くない」

 

 ギルガメッシュはそう言うと、笑みを浮かべた。

 

 こうしてギルガメッシュとエルキドゥは友となった。

 

 その頃、ウルクでは………不眠不休、全力で国1つに結界を張り続けた龍牙は戦いが終わったのを感じ取ると気を失っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからギルガメッシュは何に対しても、龍牙やエルキドゥの意見を聞く様になり少しは暴挙もマシになった……が龍牙は日々ストレスで胃を傷めている。

 

 

「はぁ……疲れたぁ」

 

 

「龍牙、お疲れ様……眼の下凄い隈だよ」

 

 

「完徹5日目だからな………」

 

 この所、龍牙は眠れていない。それは何故かと言うと、つい先日起きたギルガメッシュとエルキドゥの戦いで出た国への被害の後始末である。

 

 現在、龍牙はエルキドゥと共に街の中を歩いている。偶々出会ったエルキドゥに散歩に誘われ、息抜きに散歩している。

 

 

「そう言えばエルキドゥのその姿はシャムハトを真似たんだったな」

 

 

「うん、僕は泥人形だからね。男でも女でも、動物でも、武器にも鎧にもなれるよ」

 

 

「へぇそうなんだ………この見た目で男と言うのは勿体無いと思う」

 

 

「龍牙は僕が女の子の方がいいの?」

 

 

「うん、だって可愛い女の子に囲まれてみたい……と言う訳で女の子で居て下さい」

 

 何とも不純な理由であり、普段は決して言いそうにない事を言う龍牙。恐らく疲れているんだろう。

 

 

「まぁ僕はどっちでもいいし……じゃあ女の子でいるとするよ」

 

 こうしてエルキドゥの決まっていない性別が決まった(何時でも変更可能)。

 

 

「っ!?」

 

 龍牙は何か不気味な気配を感じ振り返るが何も無い。

 

 

「どうかした?」

 

 

「いや……なんか妙な視線が……気のせいか」



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EP9 フンババ狩りと女神

 ~森~

 

 龍牙()、ギル、エルキドゥの3人はエンリル神の管理するレバノン杉の森に来ていた。それもこれもギルの一言が原因である。

 

 

「龍牙!エルキドゥ!神の生み出した穢れを祓いに行くぞ!」

 

 神の生み出した穢れ……すなわちそれは神々の森の守護をしているエンリル神が生み出した怪物・フンババの事である。その声は洪水、口は火、息は死を齎すと言う巨大な怪物だ。

 

 人々に対する自然の生み出した恐怖であり、大地の穢れである。

 

 

「ギル、別に神々の命でもないし、アレを倒したらエンリル神の怒りを買うんじゃないのかい?」

 

 

「その様な事、百も承知よ。しかしこれ以上、あの魔物を野放しにする訳にはいかん」

 

 確かに人間に対しては害悪であるが、フンババを倒してしまっては神々も威厳を折られると等しい為に黙ってはいないだろう。

 

 だが反対はしない、現在の神々の殆どは人間を自らの所有物の様にしか思ってない。このままでは人々は永遠に神々の奴隷である。俺はそれをこの身をもって知っていた、以前の世界の神々も人間を傀儡としか思っていなかった故に人間を滅ぼしに降臨した、最後には人間である俺の手で逆に滅ぼされた。それが人間の一歩となったのなら、この命を差し出した意味もあると言うものだ。

 

 ギルが圧政した事も、人類の先を見据えて事だった。

 

 ーだが俺を連れて行かなくていいんじゃないか?エンキと同じ神造兵器のエアで倒せるし、宝具をぶっ放せばおわるじゃん、少しは休ませてほしいー

 

 

「黙れ!従者である貴様は黙って(わらわ)の傍に居ればいいのだ!」

 

 もうヤダ、この暴君……と考えつつも、此処で嫌と言えば暴言の後に涙目+上目使い攻撃がくるので大人しく従おう。アレをされると相手がギルと言えど……いや美人であるギルがするからこそ凄く罪悪感がある。

 

 出る所が出て、引っ込んでる所は引っ込んでるこの我儘ボディと美貌……偶に出るデレは反則である。エルキドゥにしてもそうだが、寝惚けて俺の寝台に入ってくる………それに加え俺が入浴していると2人して乱入してくる……俺も男なので我慢できない。

 

 理性(天使)煩悩(悪魔)がほぼ毎日戦っている為、真面に寝る事すらできない。本当に手を出しそうだ。でもこの所、理性(天使)まで「もう我慢しなくていいんじゃない?」とか言ってくる。

 

 そんな事を考えていると、辺りに瘴気が漂ってきたので意識を周囲の警戒に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 3人の足元が割れ、牛の頭、猛禽類の様な脚と尾と男性器が蛇になっている山の様な怪物が現れた。その禍々しい眼で睨まれれば普通の人間なら石化しているだろう。

 

 

「これがフンババ……醜悪だな」

 

 ギルがそう呟くと、俺とエルキドゥは同意する。

 

 フンババは巨大な口の様な物があり、そこから毒気が放たれ、周囲の木々を枯らしている。

 

 

「はぁ……じゃあやりますか」

 

 それから俺はエンキを取り出し、エルキドゥと共にフンババに攻撃を繰り出す。ギルは様子見の為に財宝庫から武器を放っている。この時にエアやエンキの真名解放をしていれば直ぐにでも終わったが、今回の目的の1つが木を手にいれる事であったのでそれはできない。

 

 毒やら炎は俺やエルキドゥにとっては問題ないが、咆哮して洪水を起こすのはどうなんだ?俺はエンキの加護が、エルキドゥは神の加護があるから問題ない。ギルは流されたが……取り敢えず俺達はギルを助け、一旦退いた。

 

 俺達は退いた後、森に被害を出さずにフンババを倒す方法を考えた。

 

 ①フンババを殺さず倒す。

 

 ②森の木を手に入れる。

 

 ③フンババを配下にする。

 

 これが俺達の目的である、①と③はフンババを殺すとエンリル神の怒りを買いそうなので、配下に置き森を管理させる為だ。

 

 俺はアヌ神やシャマシュ、マルドゥクなどからこの世界の魔術などを習ったため、神獣やらを従属する方法や後々に役立つ術を開発したので問題ない。

 

 と言う訳でシャマシュ神の所を訪れて、ギルに加護を与えて貰う。頼んだ俺達が言うのもアレだが、神々の鼻っ柱折ろうとしているのにいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再び俺達は森に訪れた。

 

 

 《また来たか、折角見逃してやったのに……アギャギャギャ!》

 

 此方を見て嘲笑っているフンババ。仕方ない、ちょっと怖がらしてやろう。

 

 龍牙は自分の中に居る、破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)の力を呼び出す。すると龍牙の黒い龍を模した仮面が出現する。目の周りを覆う仮面を着けると、龍牙の眼が金色の獣の眼に変わる。

 

 

「破壊されるか、服従するか選べ」

 

 龍牙が破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)の力を放ちながらそう言うと、フンババは震えだし腹を見せてきた。獣が腹を見せると言う事は相手に服従すると言う意味だ。

 

 

 《ふっ服従します!僕になるから許して下さい!命だけは御助けを!》

 

 

「「…………」」

 

 それを見てギルとエルキドゥは唖然としている。シャマシュ神から加護まで貰ったのに、龍牙のちょっとした脅しで終了した。

 

 

「えっ……もう終わり?こんな終わりでいいの?」

 

 脅した当の本人も驚いている。それだけ龍牙の中の破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)が危険な存在だと言う事だろう、神から与えられた使命よりフンババの獣としての本能が強く働いたようだ。

 

 

「まぁいいか。じゃあ契約ね………かと言ってそのままじゃ危険だよね。依代は……ライオンの頭してるしアレでいいや」

 

 そう言ってコートの裏から取り出したのは、騎士王が好みそうなライオンのぬいぐるみ(龍牙Ver)。

 

 ライオンのぬいぐるみ(龍牙Ver)とは、龍牙が作った白いライオンを模した大人1人くらいの大きさの鬣モフッモフッのぬいぐるみである。どうやってコートに仕舞ってたのか少し気になるが、置いておこう。

 

 

「と言う訳でこれを依代に……ほいさっ!」

 

 と軽いノリでぬいぐるみをフンババに投げると、魔法陣が展開しフンババとぬいぐるみが1つになった。こうしてフンババを下した龍牙達は木を切り出した。

 

 と言ってもフンババの指示のもと、必要な分だけを切った。自然を守るのも人類が生きる為に必要な事である。ギルは取れるだけ取ってしまえと言うが、自然は人間だけの物ではないので、何とか説得した。動物達も関わってくるのでエルキドゥも此方の味方だったので、説得は簡単だった。

 

 そして俺達はウルクに凱旋する。俺達を引き裂く原因が待っているとも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ウルク~

 

 

「ぁ~やっと終わった。寝るぞ…絶対にゆっくり寝るぞ」

 

 

「折角一仕事終えたんだしまた宴じゃないの?」

 

 

「当然だ。あの様な腑に落ちない終わりかたであったが、此度の事を解決したのは龍牙だからな。国を上げて祝杯を上げ、我直々に褒美をとらす」

 

 

「なら休み下さい」

 

 心からの願いを言うがギルの耳に届かなかった。ため息を吐きながら、フッと何時もと違う事に気付く。何時もなら民達の喝采が出迎えてくれるが……静かだ。

 

 ギルとエルキドゥが止まった。

 

 

「急に止まってどうした……ん?」

 

 龍牙は前に居るギルとエルキドゥの向こう側を見てみると、金色の髪を靡かせ、眩い宝石や金で身を飾った女性が立っていた。

 

 だが唯の人間ではない、その身から放つのは神の力だ。龍牙は目の前の女性が女神であると理解した。

 

 

「私はイシュタル。無皇 龍牙、かつてこの世界に襲来した神すら越える破壊の力を使いこなし、フンババすらも平伏させた。我が夫なるに相応しい!私の物となりなさい!そうすれば私の身体も心も、貴方の物となる。貴方に永遠の快楽を与えましょう!」

 

 流石の龍牙も驚いた。なんだこの女神は初めて会った相手に求婚してきた。

 

 それに何で破壊龍の事を知ってるの?

 

 

「驚いているのですね。私の様な高貴な神が突如求婚してくるのか、何故貴方の秘密を知っているのかと……貴方の事は良く知ってます。

 

 私が初めて貴方を見たのは我が父アヌ神と『しょうぎ』とやらをしている時のこと……貴方は此方に気付きませんでしたが、私は貴方のその美しい魂に、貴方の姿に一目惚れしました。

 

 それから貴方の事を調べました、破壊の龍を宿していることも知りました。でも強大な破滅力を手にしても、決して曇ることない魂。貴方が気になってずっと見てました。

 

 毎日遅くまで民のために走り回っていることも、息抜きの為に街に出た時は必ず子供達と遊んでいることも、民達の相談に乗り感謝されていることも、たまに仕事を終えると宮殿を抜け出して民達とお酒を飲んでいることも、朝起きて酷い寝癖が付いていることも、そこの2人と寝ていることも……全部知ってます。

 

 私の物になって下さい。そうすれば私が永遠に貴方を愛しましょう」

 

 龍牙はそれを聞くと、寒気が襲った。

 

 

「……1つお聞きしたいのですが、最近凄く視線を感じたのは」

 

 

「私です、神の力を使い視てました」

 

 そう満面の笑みを浮かべていうイシュタル。目がヤバい。

 

 龍牙があまりの事に固まっている、そんな龍牙に近付こうとするイシュタルだが、剣を持ったギルと鎖を持ったエルキドゥに往く手を阻まれる。

 

 

「これは我の物だ!貴様なんぞにやらん!」

 

 

「ボク達が黙っている内にさっさと失せなよ!」

 

 と言った、イシュタルはそれに激怒し口論となる。更にギルの母であるニンスンまで現れ激しくなる。

 

 龍牙は終始固まっており、我に帰る頃にはイシュタルの怒りを買っていた。

 

 

 

 

 

 

 ーアレ…俺とウルクのピンチじゃね?ー



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EP10 褒美

 ~ウルク 宮殿 龍牙の部屋~

 

 

 部屋の真ん中で正座している龍牙。

 

 その前には仁王立ちの最古の最強コンビ、ギルガメッシュとエルキドゥがいた。

 

 

「龍牙!貴様という奴は……我が従者でありながらイシュタル(アバズレ)の元に行くと言うのではなかろうな!?」

 

 

「ダメだよ龍牙、イシュタル(アレ)はきっと君を不幸にするよ」

 

 

「エルキドゥの言う通りだ!奴が求婚した男の結末は貴様も知っているだろう!」

 

 

「えっと、イシュタルの夫達が不遇な死を遂げてるんだったかな……あんまり覚えてないが」

 

 

「そうだ、冥界下りの際には自分が生き返る為に夫を身代わりとした。アレはそういう女だ」

 

 

「ギルのお母さん……ニンスン神も言ってたよ『イシュタル(アバズレ)だけは止めなさいって』」

 

 ギルもエルキドゥは未だしも……ニンスン神まで、同胞をアバズレってどうなんだと思ったが龍牙は口にしなかった。

 

 実際にイシュタルは愛や豊穣の神であると同時に残虐な女神で、動物に非道を行ったり、愛の冷めた相手には酷い仕打ちをするとか……アヌ神から困ったものだと愚痴を聞かされた事のあった龍牙。

 

 

「しかしあそこで俺が返事をしなかったのも悪いと思う……取り敢えず神殿に赴いて話し合ってみるか」

 

 そう言って立ち上がろうとする。

 

 

「「駄目!」」

 

 とギルガメッシュとエルキドゥに止められる。

 

 

「何故?」

 

 

「怒った奴がウルクに犠牲を出さぬ代わりに、自分の物となれと言ってきたら」

 

 

「お人好しで、優しい龍牙の事だから民やボク達を庇って了承するよね?」

 

 確かに龍牙であれば『自分』と『ギルやエルキドゥ、民』を天秤に掛ければどうするかなど分かりきっていた。

 

 

「でもだな…」

 

 何かを言おうとする龍牙であったが、ギルは何かを思い付くと龍牙の腕を掴む。

 

 

「……………そう言えばフンババを下した褒美が未だだったな」

 

  龍牙はこれを聞いて?を浮かべる。今、そんな事を言ってる場合か?

 

 

「我直々に褒美をやろう……ついでにあんな女の事、忘れさせてやる」

 

 そのまま部屋の奥にある龍牙の寝台に向かっている。龍牙は危機を感じギルの手を振り払い逃げようとする、これまでにない速さで。

 

 

「戦略的撤退!」

 

 後、1歩で部屋から出てると言う所で……《ジャラッ》と音を立てて龍牙の身体に鎖が巻き付いた。龍牙はその鎖の先を見てみた。その鎖はエルキドゥの服の袖の中から出ている。

 

 

「えっエルキドゥ……」

 

 

「龍牙、逃げちゃ駄目だよ」

 

 

「良くやったぞ!盟友よ!」

 

 

「ボクも混ぜてね!」

 

 

「ウム!唯一無二の盟友であるお前で在れば良いだろう!」

 

 2人はそんな会話をしながら、鎖を引いていく。

 

 

「ちょっ……まっ……」

 

 龍牙は完全に寝台の中へと引きずり込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 -あぁぁぁっぁぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!―

 

 その日、謎の叫び声が宮殿内に響き渡った。何が在ったかは神のみ………神様も知らず、本人達だけが知る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~夜中~

 

 

『前の世界のお父様、お母様、妹、ついでに弟………俺はもう汚れた大人になってしまいました。

 

正確には食べられました。正直途中から暴走した気がするが……。

 

何が在ったかは此処では拙いので話さない、皆さんのご想像にお任せします。ただ最後の方にギルとエルキドゥに【野獣】やら【狼】だって言われました。

 

 その2人は現在俺を挟む形で寝ています。産まれたままの姿で………さてこうして寝てる訳にもいかない、俺はこのままじゃどうなるか【知ってる】から………』

 

 龍牙は身を起こすと、ギルとエルキドゥの頭を撫でる。

 

 

「大切なもの……やっと見つけたのにな。だからこそ護らないと……」

 

 龍牙は2人を起こさない様に寝台を抜け出す。そしてある者の元へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~アン神殿~

 

 此処は天の父であるアヌ神を祀る神殿だ。龍牙は此処を訪れたのは、勿論この神殿の主に会う為である。

 

 

「アヌ神」

 

 

「龍王よ……スマヌ」

 

 アヌ神が申し訳なさそうに龍牙に謝っている。

 

 

「はぁ………話し合いをする暇もないか」

 

 何が在ったのかは先日まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『天の父よ!天に輝きし聖牛を引き降ろし私にお与えください!!!天の牡牛(グガランナ)とそれを制する手綱を!』

 

 ギルとエルキドゥに追い返されたイシュタルが父であるアヌ神の元へと赴き、そう叫ぶ。天の牡牛(グガランナ)……それは天の父アヌ神が持つ宝具であり、ウルクでは聖牛と崇められ、黄道十二星座である牡牛座にも数えられる、フンババとは次元の違う神獣だ。一度放たれれば、地上のマナも生命も一切を吸い尽くし動物も、草木も、大地も死に絶え、地上にあらゆる厄災を齎すだろう。

 

 しかしアヌ神もイシュタル自身の数々の愚かな行動とその性格を知っている、そして今回の事も全て把握している。故に了承する訳にもいかない、何より今回の事に自分達の恩人でもある龍牙が関わっているのだから。

 

 

『天の父アヌ神と言えど我が恋を邪魔するのであれば冥界の亡者を地上に溢れさせます!』

 

 冥界の神にはあるまじき発言である。その様になれば世界のバランスは崩れてしまう。だが今のイシュタルであれば本当にそうしてしまうと感じたアヌ神は渋々、天の宝具……天の牡牛(グガランナ)を与えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………スマヌ」

 

 アヌ神はただ謝る事しかできなかった。

 

 

「いや……アンタは世界を護る為に最善の手を尽くした。それだけだ……まぁ分かってた事だが………今回はどうにかする。その代わりに幾つか頼めるか」

 

 

「あぁ……」



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EP11 天の牡牛

 ~荒野~

 

 龍牙はギルと初めて会ったこの荒野で、色々な事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 この世界に来てギルと初めて会った日のこと、ルガルバンダ王と色々な話をしたこと、ギルが女だと発覚した日、破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)が襲来した日に死にそうになった時のこと、ルガルバンダ王と学校を作った日のこと、旅のこと、1年ぶりに帰った来たら殺されそうになったな……それから、それから……仕事に追われて死にそうになったっけ……良く生きてたな俺。

 

 沢山の思い出がある、楽しかった事も、辛かった事も、死にそうになった事も…………アレ?死にそうになったのが、7割くらい占めてんだけど。

 

 まぁ………それなりに良かったさ、此処での生活は面白かったさ。大事な物も出来た………だから俺の総てを賭して護るさ。絶対にな……。

 

 

 

 《ヴオォォォォォォォォォォ!!!》

 

 龍牙は轟音で我に帰ると、地平の彼方から来る巨大な牛を確認した。

 

 それは雲が小さく見える程、巨大な躰で天を翔ける天の牡牛(グガランナ)。そして天の牡牛(グガランナ)の上空を飛んでいる空を翔ける舟から此方を見降ろすイシュタル。

 

 龍牙はその場から飛び上がり、イシュタルと同じ高さまで上昇する。イシュタルは龍牙を見るとニッコリと笑みを浮かべた。

 

 

「考え直して頂けましたか?私の物になることを」

 

 

「俺も返事を返さなかったのは悪かったと思ってるよ、女神イシュタル」

 

 龍牙はそう言うと、イシュタルは表情を明るくする。

 

 

「しかしだからといって、天の牡牛(そんなもの)でウルクに来てどうするつもりだったんだ?」

 

 

「私の物となってくれるなら、不敬を働いたギルガメッシュとエルキドゥ(泥人形)を殺すだけで許しましょう。断わるなら天の牡牛(グガランナ)の一撃を持ってウルクを滅ぼしましょう」

 

 イシュタルは学ばない愚神であるが、慈悲の心はある。何より人間を愛しているのだ。特に自分の信者には慈悲と愛情をもって接するほどに人間を愛している。

 

 

「………まずは俺の返事だが……俺はアンタの事を1つも知らない、知らない相手を愛せないし愛する気も無い」

 

 

「ならば今から知っていけば良いではないですか」

 

 

「まぁ……そうなんだが……それでもギルとエルキドゥを……俺はアイツ等の事も大切だ」

 

 

「……まさか……フフフ、そうですか。私よりもあの娘達を選ぶと言うのですね」

 

 

「いやだから話し合いを」

 

 

「必要ありません。あなたが大切に思うあの2人とウルクには消えて貰いましょう」

 

 

「あぁ……やっぱ話し合いは無理か。最後に言っておくけどアンタは本当の俺を知らない、だから俺はアンタの気持ちに答えることはできない」

 

 

「何を言っているのか分かりませんが……貴方が私の物にならないのは分かりました。もういいです……さようなら、私が本気で愛した人…ウルクと共に滅びなさい」

 

 イシュタルは哀しそうな眼で龍牙を見つめ、聖牛に命令を下す。

 

 

「消し飛ばしなさい……天の牡牛(グガランナ)

 

 天の牡牛(グガランナ)はその身の神威を解放する。後に全知全能の神の権能の原典とも言われる神の一撃を。

 

 照準はいうまでもない、龍牙とその背の遥か遠くにあるウルクだ。

 

 龍牙はそれを前にしても武器を手にしない。イシュタルは絶大な力を前に絶望したのかと思った。

 

 だが龍牙には武器等必要ない、なんせその身には真の原初より産まれた2つの力があるのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《ゴオォォォォォォォォォォォ!!!》

 

 放たれた神の一撃、それは一瞬で龍牙を飲み込んだ。そして遥か遠くに在るウルクを滅ぼす……筈だった。

 

 その滅びの一撃は何の前触れもなく消滅したのだ。イシュタルは何が起きたのか理解できなかった。

 

 そしてその眼で、滅びの一撃に飲まれて消えた筈の龍牙の姿を捉えた。

 

 

「ばか………な。そんな訳がありません!一体何をしたのです?!あの一撃を消し去るなど……神霊くらいなもの!それをどうして!?」

 

 

「アンタは破壊龍の戦いの時に実際にその力を目にした訳じゃないから知らないだろうけど……これが破壊の力だ」

 

 先の破壊龍のことは、神の中ではその場に居たアヌ神、シュマシュ神、マルドゥク神、ニンスン神達しか知らない。アヌ神はシュマシュ神達にもギルガメッシュ達にも口外しない様にした。

 

 イシュタルがどうやって知ったのかは定かではないが、詳細な事は知らされていない。故に破壊龍がどの様な力を持つか、どの様な存在かも知る由はない。

 

 

「『我は……産まれし………である』」

 

 

 -我は無より出でし破壊の龍なり-

 

 

「『破壊龍よ………れ』」

 

 

 -破壊の力をもって、王が敵を破壊しよう-

 

 

「『我、………と化し世界も………破壊し無へ……う………には死を与え………輪廻に還そう』」

 

 龍牙は詠唱を終えると眩く禍々しい光が包み込み、辺り一面を覆う。

 

 そして現れたのは、巨大で強大な何か……イシュタルはそれを目にして恐怖する。何かは咆哮と共に天の牡牛(グガランナ)に牙を立て、喰らい尽くす。それもほんの数秒で……。

 

 恐怖したイシュタルは逃げ出す、目の前の存在は神を滅ぼすものだ。そして龍牙の言葉を思い出した。

 

 

 -それにアンタは本当の俺を知らない-

 

 だがそんなこと、考えている暇はない。一刻も早くこの場から逃げることを優先した。

 

 

 強大な何かはそれを見て咆哮した。



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EP12 別れ





 龍牙は総てを終えると元の姿に戻り地上に降りた。

 

 そして全て終わった事を悟る。振り返ると、アヌ神、シャマシュ神、マルドゥク神がいた。

 

 

「終わったな……」

 

 

「あぁ…」

 

 龍牙の言葉にそう返すシャマシュ。だがその眼は後悔と哀しみが宿っている。

 

 

「アヌ神、約束を果たそう………」

 

 

「………本当によいのか?」

 

 

「アンタが約束を守ってくれるなら俺はそれでいい」

 

 龍牙がアヌ神との交わした誓約………

 

 1.この件の後にギルやエルキドゥに神の呪いが及ばぬ様にすること。

 

 2.事を終えるまでウルクを護ること。

 

 この2つだ。

 

 1つ目、本来の歴史であれば天の牡牛を倒した後、エルキドゥは神の呪いに掛けられ苦しみ死んでいく。それを防ぐ為だ。

 

 2つ目、例え破壊の力であっても万分の一でもウルクを危険にする可能性があった。故にその保険だ。

 

 

「では始めよう」

 

 アヌ神、シャマシュ神、マルドゥク神は龍牙を囲む様に立つ。

 

 誓約の代償は、龍牙がこの時代より居なくなる事だ。その理由は、他の神々だ。

 

 アヌ神達は龍牙の事を理解し、受け入れているが………他の神々は納得しない。自分達を滅ぼす様な存在を近くにおいて置く訳がない。何より人間がそれを持つ事を許さない。だからこそ何が何でも龍牙を排除しに掛かるだろう。そうなれば龍牙だけでなく、ギルにもエルキドゥにもウルクの民にも飛び火するだろう。それは龍牙にとって最悪の未来だ。

 

 それを回避する為に、龍牙はこの時代から消える。正確には龍牙を別の時代に送ると言う事だ。龍牙自身、違う世界には行きたくなかった、何故なら。

 

 

(この時代に未練はない……いやあるが、だからこそ未練はない。何より大切な彼女達が無事でいられるのなら……)

 

 龍牙は目を瞑る。次に目を開けば違う光景が広がっているだろう。だが龍牙は最後にこの世界で見つけた何よりも大切な彼女達の事を考えた。

 

 

「きっと……アイツ等怒るだろうなぁ」

 

 

「当たり前だ!」

 

 龍牙は驚いて目を開けると、肩で息をしているギルとエルキドゥがいた。

 

 

「「バカァァァァァァ!」」

 

 そして2人は同時に殴り掛かって来た、2人の拳が吸い込まれる様に龍牙の顔に吸い込まれ、吹っ飛んだ。数メートル……いや十数メートルほど。

 

 

「自分一人で解決しおって!しかも我に何も言わずに消える等……ふざけるな!」

 

 

「そうだよ!どうして何にも言ってくれなかったの!?」

 

 2人は龍牙のマウント・ポジションをとってガクッガクッと揺さぶっている。

 

 

「ちょ…っ説…明を……させて」

 

 龍牙は一先ず、2人を止めると事情を説明した。しかし2人が納得する訳がない。

 

 

「ふざけるな!お前が居なくなったら……………」

 

 

「……ごめん。でもこれしかない、お前達を、民を巻き込まない方法は」

 

 

「だが!……お前が居なくなれば、誰が我を叱るのだ!?誰が我の機嫌をとるのだ!?誰が……我を女として愛してくれる…の…だ……」

 

 彼の英雄王の瞳から雫が溢れ出す。龍牙は今まで彼女のこんな姿見た事はないので、かなり驚愕した。

 

 

「………ギル、俺は何時かこうなる事は分かっていた……だからそれなりに準備はしてる」

 

 

「何をいって……」

 

 ギルは何を言っているのか理解できていなかった……だが龍牙がそんな嘘を吐く訳がない。

 

 

「もしもの時の為にとって置いた方法があるのさ……ギルとも、エルキドゥともまた会える方法が」

 

 

「本当に!?」

 

 

「だが違う時代に行くのであれば……未来であったとしても我と言えどいずれは死ぬ」

 

 エルキドゥとギルは龍牙が何処の時代に飛ばされるか分からないが、それが遥か未来であれば会う方法はない。ギルにも人間の血が流れている、故に寿命もある。

 

 

「まぁ今は詳しくは言えないけど、確実に会う方法はある」

 

 

「真か?」

 

 

「勿論……でもそれにはギル達に関わる物がいる」

 

 

「関わる物?……ならこれをやる。丁度渡そうと思っていた所だ」

 

 ギルはそう言うと宝物庫から小さな黄金の鍵を取り出した。

 

 

「……鍵?」

 

 

「うむ、合鍵だ」

 

 何の?と聞こうとしたが、何となく何の鍵か分かったので、ありがとうと言いそれ受け取る。

 

 

「ボクは何を渡せばいいかな……基本的にボクって物を持ってないし、持っててもそれは龍牙やギルがくれた物だし」

 

 龍牙は考えているエルキドゥとギルから貰った鍵を見て、何かを思い付いた。

 

 

「ならこの鍵を首から掛けれるように、エルキドゥの体の一部を鎖にしてほしい」

 

 

「それでいいの?わかった…」

 

 エルキドゥは自分の体を細い鎖にして龍牙に渡す、龍牙はそれを受け取ると鍵を通し自らの首に掛ける。

 

 

「ありがとう」

 

 龍牙は2人から送られた物を握り締める。

 

 

「ギル……エルキドゥ……勝手な俺を許して欲しい」

 

 

「馬鹿者が……全く……自分勝手な奴だ」

 

 

「本当だよ」

 

 

「………さぁ時間か、ギル、エルキドゥ……また会える、そして………」

 

 龍牙は彼女達にしか聞こえない声で何かを言うと、再びアヌ神達の元に戻る。それ以上の言葉は不能だ、彼女達にはそれ以上言う必要はない。言わずとも彼女達は龍牙を信じている、その龍牙が「また会おう」と言った……彼女達にはそれだけで十分だった。

 

 アヌ神達が再び龍牙に手を向けると、天を貫く光が立ち昇った。そして龍牙は何も言わずにアヌ神逹に身を任せ、ギルとエルキドゥ……そして今まで過ごしたウルクをその眼に焼き付ける。

 

 

『これもまた俺らしいか………』

 

 龍牙はそう呟くと静かに目を瞑り、意識を手離した。



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人理修復 序章 【炎上汚染都市 冬木】
EP13 入局


 無皇龍牙です、アヌ神達に違う時代に送られました。

 

 その行先が2014年の日本だったのは少し驚いたが、俺は直ぐに生活を再開した。

 

 取り敢えず、また縮んではいないので一安心しだぜ。それからギルから貰った鍵は何処かで見た事あったと思ったら、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の合鍵の様な物で、宝物庫を使う事ができる。一部だけだが……とは言っても莫大な財宝だ。

 

 一先ずはこの時代の情報収集で動き回っていた、1年程はアルバイトをしつつ生活していた。それでフッと本屋で立ち読みをしていたらバイトの募集の本に目が留まった。

 

 それは以前の世界から知っている名前があった。見た時は咳き込んで、周りの客や店員に痛い目で見られて精神的にダメージを負ったがな。

 

 直ぐに応募し採用となった、何せこれから大変な事が起きる。ギルやエルキドゥと再会したいが、このままじゃ再会どころではない。

 

 特に変わった事もなかったので、これまでの事は省かせて貰う。普通に生活してただけだし……戸籍?どうとにでもなったよ……魔術で。現在俺は、そんな事を言っている場合ではない。何故なら俺が現在いる場所は…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~現在 2015年 標高6000mの雪山~

 

 

「ささささささぶっ!!!!!」

 

 標高6000の雪山の上、例え服をどれだけ着こもうと寒いものは寒い。

 

 

「誰だぁ!!こんな所に作った奴はぁ!!!どんなだよ!こんなところで生活って何考えてんの?!」

 

 雪山の頂上付近に造られた建築物の前にいる龍牙。かなり厚着で、マフラーやゴーグル、キャップを被ってはあるが寒そうだ。

 

 

「電源設備が壊れたら確実に死ぬな、こりゃ………ん?これが受け付け?」

 

 龍牙は何やらカメラの様な物の前に立つとアナウンスが聞こえてきた、ほんの数秒で何やら確認が終わるとゲートが開くので中に入る。

 

 

「あぁ……寒かった……というか迎えもなしに現地集合ってなんだよ!?ちょいと疲れた……休もう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの起きて下さい」

 

 

「はっ!?寝てた!完全に寝てた!」

 

 龍牙はどうやら眠っていた様だ。顔を上げると紫色の髪の眼鏡を掛けた少女が立っていた。

 

 

「ん……あれ、君は?」

 

 

「私はマシュ・キリエライトと言います。何故先輩方はこの様な所で眠っておられたんですか?」

 

 

「雪山を歩いて登ってきた」

 

 

「えっ!歩いてですか!?」

 

 

「うん、集合場所には集合日時になっても来なかったんで………ぁ~寒かった。あれ?先輩方?複数形?」

 

 龍牙はマシュが複数形を言っている事に気が付くと、横を見た。そこには黒髪、青い眼の自分と同じ位の少年がいた。

 

 

(ぐだ男だ!ぐだ男がいる……それにマシュってことは……段々思い出してきた)

 

 

「俺は何でこんな所で寝てたんだろう……良くわかないけど、夢を見ていた様な」

 

ぐだ男がそう言う。ぐだ男は龍牙に気付く。

 

 

「えっと俺は藤丸立香……貴方は?」

 

 

「(凄く似てるよな)無皇龍牙だ、取り敢えず1つ聞きたいんだが……」

 

 

「なに?」

 

 

「君、母親方の性は遠坂とかだったりする?」

 

 

「えっ……違うけど」

 

 

「そっか……ならいいんだ。俺の気の性だ(こんだけ似てて血縁関係ないって……)」

 

 それから途中でレフと名乗る此処の局員と会い、遅れながらも龍牙は入る事に成功した。

 

 此処は『人理保障機関・カルデア』、簡単に言えば未来の人類社会の存続を保証する機関だ。魔術と科学の力で100年後の未来を観測する。しかし予想外の事態が起こり人員を募集したのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~中央区画 カルデアス前~

 

 広場の様な場所の中央にある地球儀を模した観測機器「カルデアス」、これを用いてカルデアでは人類の未来社会を予測するのだが……現在此処は火に包まれている。

 

 原因は不明であるが、突然、警報がカルデアに響き渡り現在に至る。

 

 

「先輩……手を握っててくれますか?」

 

 そう今にも消えそうな声で言ったのはマシュだった、彼女は現在瓦礫の下敷きになり重傷だ。彼女の前にいるのは立香。彼はマシュの手を優しく握った。どうやら彼は警報を聞き、直ぐに此処に駆けつけた様だ。

 

 そして次の瞬間、辺りは光に包まれた。



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EP14 初戦闘

 ~炎上する都市~

 

「起きて下さい、先輩達」

 

 

「あぁ……」

 

 

「うぅ……」

 

 声を掛けられ目を覚ました龍牙と藤丸は辺りを見回した。何処を見ても火、火、火……炎に包まれている。しかし先程のカルデアスの前ではない、もっと広い空間だ。

 

 

「ふぅ……やっぱ此処って…それにしても」

 

 

「?……ところでマシュ」

 

 そう言って2人はマシュの方に視線を向ける。マシュは先程までの白衣と眼鏡ではなく、眼鏡を外し(特に腹部)露出の多い恰好になっており、大きな盾まで持っている。

 

 

((露出多いな……))

 

 と2人してマシュを見ている。

 

 

「あっあの何でしょうか?」

 

 

「いや……気にしないで」

 

 

 《グギャァァァァ!》

 

 2人は異質な叫びに気が付くと、振り返る。そこに居たのは10体程の剣を持った骸骨だ。カタッカタッと音を鳴らしながら骸骨……スケルトン達は此方に近付いている。

 

 

「意志疎通は無理そうな生物……敵です!先輩達は下がっていて下さい!」

 

 マシュは盾を構え2人の前に出る。しかし此処で下がる龍牙ではない。

 

 

「無皇先輩?」

 

 

「あの程度、1人で十分」

 

 そう言うと龍牙は身体を動かしている。

 

 

「でっでも相手は」

 

 

「うん……大丈夫。マシュ、君は藤丸君に近付いてくる奴等を倒してくれ」

 

 龍牙は自分の魔力を全身に行き渡らせ、身体を活性化させるとスケルトン達の群れに突っ込んだ。

 

 

「よっと!」

 

 魔力で強化した拳で群れの一番後方にいたスケルトンの頭部を殴る。スケルトンも魔物ではあるが、はっきり言って強いとは言えない。殴ったスケルトンの頭は簡単に砕けてしまった。

 

 

「………もっとカルシウム摂れよ」

 

 龍牙はそう溜息を吐いていると、剣を持った6体のスケルトンが襲い掛かって来た。

 

 

「ひぃ……ふぅ…みぃ……6体か、残り3体は藤丸君達の方に行ったか、ほぃ」

 

 一番始めに襲ってきたスケルトンの剣を避けて奪うと、その勢いで襲ってきたスケルトンを斬る。

 

 残り5体。

 

 奪った剣で次に襲ってきた2体を斬り、刀身を確認すると刃が大きく欠けていた。

 

 残り3体。

 

 

「本体だけでなく、剣まで脆い……まぁギル、エルキドゥと倒した神代の魔物とか比べるのは間違いか……おらっよっと!」

 

 欠けた剣は投げると1体のスケルトンの頭に突き刺さり、バラバラになって崩れた。

 

 残り2体。

 

 

「はぁ……この1年、真面に戦ってないから感覚鈍ってるなぁ」

 

 再び溜息を吐いて、居ると声が聞こえてきた。

 

 

『無皇さん!後ろ!後ろ!』

 

 

「藤丸くんの声……うしろ?」

 

 龍牙の後ろには残っていた2体のスケルトンが剣を振り上げ立っていた。本人は気付いていないが、何時の間にか近付いてきていた。そしてその剣は振り下ろされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立香はマシュに指示を出していた。

 

 

「マシュ!前!」

 

 

「はい!行きます!」

 

 マシュは立香の指示の元、簡単に3体のスケルトンを倒した。

 

 

「戦闘終了です、先輩」

 

 

「あぁ……お疲れ様、マシュ。無皇さんは?」

 

 

「それがあちらで……危ない!」

 

 

「えっ……あっ!?無皇さん!後ろ!後ろ!」

 

 立香は、溜息を吐いている龍牙の後ろで2体のスケルトンが剣を振り上げている事に気付くと直ぐに声を上げた。

 

 龍牙はそれに気付いた様で、此方に顔を向けている。だが次の瞬間に剣は振り下ろされた。マシュは龍牙を助ける為に駆け出そうとしているが間に合う訳はない。

 

 

 ()()()()()()

 

 

「「えっ?」」

 

 剣が振り下ろされたと言うのに、龍牙は平然と立っており、近くには折れた剣先が突き刺さっている。剣を振り下ろしたスケルトン達に至ってはただ折れた自分達の剣を見ている。

 

 そして、龍牙はスケルトン達の頭を掴むとそのまま握り潰した。

 

 

「ふぅ……終わった、終わった」

 

 そう言って平然と此方に歩いてくる龍牙。

 

 

「無皇さん!怪我は!?」

 

 

「ないよ」

 

 

「いやでも、斬られてましたよね?!」

 

 立香の問いにそう答えるが、2人は目の前で剣を振り下ろされているのを見ていたので黙っている訳にはいかない。

 

 

「大丈夫、鍛えてますから…………アレくらいなら防げるよ」

 

 

「「えっ!?」」

 

 

「ハハハ、アレ位で死んでたらアイツ等と付き合ってられないし……君達の方は怪我はない?」

 

 2人はその問いに「問題ない」と答えた。こうしてこの時代での初戦闘を終えた。



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EP15 召喚

 ~炎上している都市~

 

 一先ず戦闘を終えた3人はその場で状況を整理しようとすると、通信が入る。

 

 相手はカルデアの管制室に居るドクター……ロマニ・アーキマン、通称ドクターロマンだ。そして分かった事が幾つかある。

 

 まず、マシュの格好についてはマシュがサーヴァントと融合しデミ・サーヴァントとなったこと、契約している者……つまり彼女のマスターは立香だとロマンが解析した。そして此処は龍牙達のいた時代ではないらしい。

 

 カルデアは被害は出たものの取り敢えずは無事であるらしいが、未だ予備電源などで繋いでいるらしく安定していないらしい。

 

 それから、カルデアに住みついていた謎の動物フォウ君まで此処にレイシフトしていた。

 

 通信を安定させる為に霊脈地へと向かう様にロマンに指示されたので3人は徒歩で向かっている。途中でスケルトン達が出たものの、龍牙、立香の指示を受けたマシュが連携し倒していた。

 

 

 

 

 

 

 

『きゃーーーーーーーー!』

 

 歩いていると女性の叫び声が聞こえてきたので走って向うと銀髪の女性がスケルトン達に追い掛けられていたので助けた。

 

 その女性はカルデアの所長オルガマリー・アニムスフィアであったが、戦闘経験はなく逃げていたらしい。

 

 取り敢えず全員を落ち着かせ、現在分かっている状況を説明した。

 

 それからマシュの持っている盾が召喚サークルなるものになるので置く様に言われ、戦闘経験のある龍牙は周りを警戒していた。

 

 霊脈の上に召喚サークルが出来たことでカルデアとの通信が安定し詳しい状況が分かった。マスター候補の殆どが危篤状態で、その者達を何とか延命させる為に冷凍処置を施した。

 

 しかしカルデアの機能は8割方失っており至急立て直しが必要だと言う事だ。そしてこの時代・場所を特異点Fと呼称し、この場にいる人間だけでこの事件の原因を見つけないといけない様だ。

 

 そして現在は戦力を補充する為に、かつての英雄をサーヴァントとして召喚する用意をしている。

 

 

「取り敢えず貴方達、サーヴァントを召喚しなさい」

 

 龍牙と立香はそう言われ、サーヴァントを召喚する事になった。そして立香が召喚を始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立香はマシュが設置した召喚サークルの前に立ち召喚の為の詠唱を始める。因みに立香は一般人らしく詠唱を知らないので、事前にオルガマリーから教えて貰ったらしい。

 

 

「(詠唱中)……………抑止の輪より来たれ!天秤の守り手よ!」

 

 召喚サークルに青い光が灯り回転を始め、光の輪が3つとなり回転数を上げ眩い光を放つ。光が納まると現れたのは黒い肌で、両手に斧を持った巨大な男だった。

 

 

「ムゥゥウウウウウゥゥゥ………」

 

 何やら唸っている。

 

 クラス:バーサーカー 真名:ダレイオス三世である。古代ペルシャの王にしてペルシャの最後の王であり、彼の征服王の好敵手として知られる英雄である。

 

 

「えっとダレイオスさん、これから宜しくお願いします」

 

 

「オォォォォォ」

 

 立香がダレイオスにそう挨拶すると、唸り声で返答してきた。

 

 サーヴァントは騎士(セイバー)弓兵(アーチャー)と言った7つのクラスに別けられ召喚される。中でも狂戦士(バーサーカー)は理性と引換えに爆発的に能力を上げるクラスだ。

 

 立香は召喚を終えると、それを伝える為に龍牙を探すがその場にいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙は立香が召喚している間に、一度その場を離れていた。

 

 理由はサーヴァントを召喚する為である。ならば何故マシュの設置した召喚サークルを使わないのだろう。

 

 その理由は直ぐに分かる、龍牙は少し広い場所に出ると首から掛かっている宝物庫の鍵を握る。すると空間が歪み中央に水晶玉の置かれた祭壇の様な物が現れた。

 

 

「よし、作って置いて良かったぜ。取り敢えず龍脈の上に設置したし……後は点検っと」

 

 祭壇をくるっと見回すと「良しっ」といい正面に立ち、手を翳すと祭壇の中央の水晶玉から魔法陣が展開する。

 

 

「誰が来るかは分からんが……まずは【封印式】を展開し【偽装術式】を展開……準備完了」

 

 総ての準備が整うと龍牙は詠唱を始めた。

 

 

「(詠唱中)……抑止の輪より来たれ!天秤の間持ち手よ!」

 

 3つの光輪が現れ光と共にサーヴァントが召喚された。

 

 

「サーヴァント牛若丸、罷り越しました」

 

 現れたのはマシュよりも露出の酷い少女のサーヴァントだった。隠せているのは大事な所のみだった。そして少女は牛若丸と名乗った……つまり後の源義経である。

 

 

「………」

 

 流石に龍牙も驚いていたが、直ぐに冷静になる。

 

 

「貴方が私の主殿ですか?」

 

 

(ギルよりはマシか……ギルの場合は完全に全裸で………恥じらいもしないんだから)

 

 龍牙はギルが「A~U~O~キャスト・オフ!」と言っているのが脳裏に浮かぶ。最終的は「我の身体に恥ずべき所はない!」と言って笑っている姿が浮かぶ。実際、在った事なのでそれはもう鮮明に……それを振り払うと龍牙は視線を牛若丸に向ける。

 

 

「そうだよ、無皇龍牙だ。クラスはライダーでいいかな?」

 

 

「はい、此度のクラスはライダー……ライダーですけど何やら違和感がある様な。まぁ気にしません、私、天才ですから」

 

 

「(良く分からん)取り敢えず契約は完了だね」

 

 

「はい、これより武士として誠心誠意尽くさせて頂きます。して主殿、此処は何処ですか?」

 

 状況の把握できていない牛若丸に説明した、牛若丸は納得した様だ。

 

 

「よしじゃあ、俺の仲間の所に戻ろうか」

 

 

「はい!」

 

 龍牙は指を鳴らすと宝物庫に祭壇を仕舞う。牛若丸に先程のは何かと聞かれ、【違う空間に物を収納する術】と説明し納得して貰った。

 

 そして2人は立香逹の元に戻るが……牛若丸を見てマシュとオルガマリーから痛い目で見られたり、主である龍牙に対するオルガマリーの口の聞き方が気に入らなかったのか本人を斬ろうとしていた牛若丸を止めるのが大変だったりと短時間の内に色々な事が起きた。




~所持サーヴァント~

・無皇 龍牙

ライダー【牛若丸】



・藤丸 立香


シールダー【マシュ】

バーサーカー【ダレイオス三世】


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EP15.5 理由

 ~カルデアに来る1年前~

 

 アヌ神達よりこの時代に来た龍牙はギルから貰った宝物庫の鍵の力で黄金律を得た為、働きながら宝くじ等をしてお金を稼いでいた。

 

 龍脈の走る土地を見つけ、稼いだ金でそこを購入して家を建てていた。

 

 そして、ギル達と再会するべく準備を始めた。

 

 

「多分ギルの事だから俺の造ったアレも仕舞ってる筈だけど……あった」

 

 龍牙が宝物庫の中から引き出したのは、ウルクにいる頃に自分で造った中央に水晶が安置された祭壇だ。恐らくギルが龍牙の居なくなった後、私物も宝物庫に仕舞っていたのだろう。

 

 この祭壇はサーヴァントを召喚する為に龍牙が自ら造った物だ。祭壇を龍脈の上に置き、祭壇が龍脈より魔力を吸い上げているのを確認すると龍牙は触媒となるギルから貰った鍵とエルキドゥの一部を用いて造られた鎖を祭壇に置いた。

 

 まずサーヴァント…かつての英雄を召喚する為には、世界の外側にある「英霊の座」にある英雄の魂をコピーし、その魂を物質化させる魔術…正確には第3魔法「魂の物質化」を用いて英雄を現界させる。

 

 また触媒を用いることで特定の英雄を呼び出す事が可能である。

 

 本来であればそれらは「聖杯」により行われるが、龍牙は目の前にある祭壇がそれらを行ってくれる様に作った。

 

 龍牙は術式が完全に機能していることを確認すると詠唱を始める。

 

 

「(詠唱中)……抑止の輪より来たれ!天秤の護り手よ!」

 

 詠唱を魔法陣が眩い輝きを放つが、次の瞬間に消えてしまった。

 

 

「なんで……」

 

 龍牙は召喚が失敗した事に驚いている、そして詳しく原因を調べ始める。

 

 

「祭壇の術式に問題はない………魔力もしっかりと龍脈から吸い上げている。なら何が問題だ……ギルやエルキドゥが召喚を拒否しているとも考えられない……全くないとも言えないが、一応召喚には強制力が働くし………一番考えられるのは………確か今年は2014年だとしたらアレが起こる1年前、もしかしたら崩壊は徐々に始まって………取り敢えず確認しに行くか」

 

 龍牙はその場で座り込むと自分の意識を身体から離した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙は目を開けると何故か星空の中に居た。

 

 

「此処に来るのも久しぶりだな………」

 

 何かを探すかの様に周りを見渡す。そして水の中を泳ぐ様に移動を始めた。

 

 

「あった、あった」

 

 辿り着いたのは巨大な渦だった。それは白なのか、黒なのか、良く分からない色をしている光が渦を作っていた。龍牙はその渦を懐かしそうに見ている。

 

 

「ただいま」

 

 

 《おかえりなさい》

 

 何処からか優しい声が響く。目の前にある渦から光が伸びて来ると龍牙を包み込んだ。

 

 

「……………………………………そう……そう言う事か。でも良く彼女達、それで納得したね………そっか……分かったよ、俺もできるだけの事はするよ。うん………何とかするよ、ならこっちは任せるね」

 

 龍牙は1人で喋っている、光が離れると龍牙は何かに引っ張られていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼の王の仕掛けた人類史の崩壊、その影響は未だ人には観測されていなかったが少しずつ迫っていた。

 

 よって世界の抑止力が働き始めていた。時を越えて存在する7つの『特異点』……その1つにメソポタミア……バビロニアがある。それが原因でギルやエルキドゥを召喚できない……それがこの世界で言う「根源の渦」……【無】の言葉だった。

 

 大いなる母である【無】の言葉は絶対だ。決して違える事のない、絶対の宣告だ。この世界に絶対など存在しない………しかし【無】だけは例外だ。母たる【無】の言った事は決定事項である、未来だろうが、過去だろうが、現象であろうと、何であろうと全て内包しているのが「根源の渦」とも呼ばれる【無】なのだ。何故?そんな事が分かるか?

 

 何せ【無】は俺の産みの親だ、俺はその親に会う為に世界の外に行く事ができる。この世界の魔術師達からしたら羨ましいことこの上ないだろうが俺からすれば親に会うだけのことだけど。【無】は総てを内包しているので男であり、女なので母親なのか?という話だが………俺の前では女の姿で出て来るので「母親」と言う事にした。

 

 そして最後に言われたのは『この世界を救いなさい』だ。まぁ人類史が崩壊したらギル達にも会えなくなるしね、因みに前の世界で神々を滅ぼしたのも【無】に言われたからなんて口が裂けても言えない。

 

 さて、まずは準備しないといけないね。人類史修復なんてこの世界の主人公たちに任せるべきだと思うが……言われた以上はしないといけない。それが俺の役目だから……彼女達との再会まで道は遠いが仕方ない。今の内に言い訳を考えておこう。

 

 

『他の雑種共を召喚しながら、何故我を呼ばなかった……しかも何やら有象無象の女共に囲まれて鼻を伸ばしておるとは………我というものが在りながら………少し仕置きが必要な様だな、お前が誰のものなのか再びその身体に教えてやる(意味深)!』

 

 

『僕は怒ってないよ……僕は物だからね、龍牙が誰を抱こうと何も思わないよ。でもちょっと身体を動かしたい(意味深)気分なんだ、これまで呼ばなかった埋め合わせとして付き合ってくれるよね?』

 

 絶対に天の鎖で縛られた後にバビられるな……。かと言って俺1人じゃどうしようもない事もある、ランダムで召喚するなら男が出るか、女が出るか分からない訳だし……まずはカルデアを見つけないといけない。前途多難だな、全く。

 

 

 その数ヶ月後に本屋でカルデアの求人を見つけ、1年後には予想もしない人物と再会するなど夢にも思わなかった龍牙である。




~状況整理~

 龍牙=【無】の子供

 【無】=この世界で言う「根源の渦」の意志の様なもの。


 カルデアに入る1年前にギル逹を召喚しようとするが失敗。

 原因を突止めるべく「英霊の座」の根源の渦へと向かう。

 親である【無】によると「バビロニアに特異点があるので召喚できない」と言われた。ついでに世界を救いなさいとも………。

 その半年後、本屋でカルデアの求人を見つけ応募した。











~とある日、宝クジを買った龍牙~

 目の前には札束の山がある。


 「100円の宝クジが100万になった。それが10回以上続くとか………これが黄金律というやつか……素直に凄い、黄金律すげぇ」

 龍牙は黄金律の凄さを初めて知った。


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EP16 シャドウサーヴァントとキャスター

 ~特異点F 炎上都市~

 

 無事にサーヴァントを召喚した龍牙と立香。一先ず一行は大橋、港跡、教会跡を探索していた。

 

 

「はぁ!!!」

 

 

「キエェェェェェェイ」

 

 

「このまま押し切ります!」

 

 スケルトンが現れたが、牛若丸、ダレイオス三世、マシュの3人により簡単に倒された。

 

 

「主殿!やりました!」

 

 

「流石、牛若丸だ……良くやった!褒めてやる!」

 

 

「そんな褒められると照れます、ぁあそんな、主殿に頭を撫でて頂けるなんて牛若は幸せです」

 

 敵を倒した牛若丸を褒めて撫でる龍牙。

 

 

(完全に犬だな……確かブレーキの壊れた忠犬って言われてたっけこの子……確かに見えない筈の尻尾が見える)

 

 牛若丸が無い筈の尻尾を振っている様に見えて仕方がない龍牙。その戦い振りでついつい褒められ、頭まで撫でられた事で完全な忠犬となった牛若丸は倒したスケルトンから戦利品を剥ぎ取ってくる。

 

 これを見て龍牙は「その内、デーモンの頭やら心臓を持ってきそうだ………血に塗れたままのやつを」と思った。

 

 

「………マシュ、ダレイオスさん、お疲れ様」

 

 

「はい!」

 

 立香は戻ってきたマシュとダレイオスを労った。ダレイオスは言葉を理解したのか頷いている。

 

 

「ふぅ……誰も居ないわね。一体どうなってるのかしら?」

 

 オルガマリーが誰もいない街を見ながらそう呟いた。

 

 

「所長、死にますよ」

 

 オルガマリーは突然声を掛けられると共に後ろに引っ張られた。すると今までいた所に短刀が突き刺さっていた。

 

 

「あわわわ………なっなに」

 

 それを理解するとオルガマリーは涙目になっており、その場にへたり込んだ。

 

 

「敵ですよ、死にたくなかったら下がってください。牛若丸!」

 

 オルガマリーを引っ張ったのは龍牙だった、龍牙が呼ぶと直ぐに牛若丸が前に出る。龍牙は辺りの気配を探りながら、周辺の地理を確認した。

 

 

「敵!?」

 

 

「あぁ……出やがったなサーヴァント。気配がない、『気配遮断』………恐らくアサシンクラスだろうよ。此処は遮蔽物が多すぎる、一旦此処から離れた方がいいな」

 

 

「どうすれば……」

 

 

「マシュは藤丸君を護って!ダレイオスさん!所長担いでください!」

 

 龍牙はマシュとダレイオスにそう言い放つ。

 

 

「了解です!」

 

 

「主殿!私が殿を務めます!」

 

 

「よしっ……じゃあ広い場所に行くぞ!」

 

 牛若丸が駆け出し、龍牙達はその後に続いていく。次々に短刀が飛んでくるが、龍牙に向かってくる物は牛若丸が叩き落とし、立香に飛んでくる短刀はマシュが盾で防ぐ。オルガマリーはダレイオスに抱えられているので大丈夫そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 広い場所に出た龍牙達は直ぐに一箇所に固まる。その方が何処から攻撃が来ても対処しやすいからだ。

 

 

「一体どうなってんのよ?!」

 

 

「多分サーヴァントです……」

 

 

「でもマスターになる様な人間は……」

 

マシュにサーヴァントだと言われるが、サーヴァントが現界し続ける為にはマスターが必要だ。だがこの街に来て誰1人も人間を見ていない。

 

 

『多分聖杯があるからだ、特異点となったことで誤作動を起こしたのかも知れない』

 

 そう説明したのは通信機から聞こえたロマンの声だ。

 

 

「来た」

 

 龍牙の言葉に皆は龍牙の視線の先を見ると、2つの黒い影を纏ったサーヴァントが現れた。

 

 

 《ミツケタゾ。我ガ獲物、聖杯ヲコノ手ニ》

 

 

 《誘イ込コンダツモリノ様ダガ、誘導サレタノハ貴様等ノ方ダ!》

 

 

 《サッサト終ワラセルゾ、ランサー。何処ノ英霊カ知ランガ、御首二違イナイダロウ》

 

 

 《ァア、ソウダナ、アサシン……エッ!?》

 

 ランサーと呼ばれたシャドウサーヴァントは牛若丸の方を見ると固まってしまった。

 

 

 《スマヌ、アサシン!突然、腹ガ痛クナッテキタノデ某ハ此処デ失礼スル!》

 

 

 《何ヲ言ッテイルノダ、ランサー!?》

 

 

 《離セ!アサシン!》

 

 何やらその場から離れようとしているランサーを止めているアサシン。

 

 

『おらよっ!』

 

 声と共に炎が飛来し2人のシャドウサーヴァントを焼く。

 

 

 ()()()()()()()()()

 

 シャドウサーヴァント達は完全に不意打ちだった為に、そのまま炎で焼き尽くされた。

 

 流石にコレには唖然となる一同。揃って炎が飛んできた方向を見てみると、青いフードを被っている、杖を持った男が立っていた。

 

 

「おう、大丈夫か坊主ども」

 

 男は普通に話し掛けてきた。

 

 

「そう警戒すんなよ、俺はキャスターだ」

 

 

「えっと俺達は」

 

 まずは情報交換をする事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 青いキャスター……真名をクーフーリン、この世界の事を知る龍牙は彼の正体を知っていた。クーフーリン自身も話の中で自分の名前を言ったが……そう簡単に話していいのか?と思ったが話を進めた。

 

 まずこの時代の特異点だと思われるのは、キャスターによると「大聖杯」というものらしい。何でもその大聖杯はこの街の心臓の様な物で、手強いサーヴァントが守っている。そのサーヴァントのクラスは最良と言われるセイバーだそうだ。

 

 後、もう1体バーサーカーのサーヴァントがいる。そのサーヴァントはセイバーよりも厄介だそうだが、一定の場所から動いていない。

 

 取り敢えず、一同はバーサーカーは無視と言う事で形で「大聖杯」を目指す事にした。



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EP17 マシュの覚悟と宝具

 キャスター:クーフーリンの情報により、一同は【大聖杯】のある円蔵山の中にある大空洞へと向かっていた。道中、スケルトンの群れと遭遇したがマシュや牛若逹の活躍により事なきを得ていた。

 

 

「それにしてもやっぱ杖は慣れねぇなぁ」

 

 

「そう言えばクーフーリンさんと言えば魔槍で有名ですものね」

 

マシュはクーフーリンの伝説を想いだしそう言った。

 

 

「ランサーで召喚されてたら楽だったんだが……キャスターで召喚されちまったからな。無い物ねだりはしねぇ……そういやそっちのマスターは戦い慣れしてるみたいだな、魔術師ってのは魔術に頼る様な奴ばかりだと思ってたが……まぁ例外もいたが……坊主もそういう口か?」

 

クーフーリンは先程までの龍牙の戦いを見ていた。それ故に龍牙に尋ねた。

 

 

「俺は……まぁ魔術とか使えても、最後にはこの身で戦わないといけないから……それなりには鍛えたよ(主にギルからの宝具射出から生き延びる為に)」

 

 

「そっか……ん?どうした嬢ちゃん?」

 

 クーフーリンは話をしていて落ち込んでいるマシュに問いかけた。

 

 

「その……私は先輩達や皆さんのお蔭で戦闘経験は積めています。ですが未だに英霊の象徴と言える【宝具】を発動できません………どうやら私は欠陥サーヴァントみたいです」

 

 宝具とはその英霊の象徴ともいえる物だ、それは様々な逸話・伝説が元となっている。クーフーリンで言えば師である影の国の女王から譲り受けた魔槍がいい例だ

 

 

「宝具ですか……私の場合は複数在ります」

 

 牛若丸はそう言う。英霊によっては牛若丸の様に複数の宝具を持つ者もいる。

 

 

『恐らく、デミ・サーヴァントになった影響だろうね。だからマシュには宝具が使えない』

 

 

「あぁ?何言ってんだ、嬢ちゃんがサーヴァントとして機能してる以上は、宝具は使えるに決まってんだろう?」

 

 

『えぇ!?そうなの?!』

 

 通信でロマンが話に入ってきたが、クーフーリンに言われ驚いている。

 

 

「本来、英霊と宝具はセットなんだぜ。それが出せないのは嬢ちゃんの心の問題か、魔力が詰まっているかのどちらかだな。まぁ、大声でも出せば使える様になるだろ?」

 

 

「そうなんですか?!そー!なー!んー!でー!すー!かー!」

 

 クーフーリンの言葉を真面に受け取りマシュは大声で叫びだす。

 

 

「ちょっと?!いきなり大声出さないでよ!鼓膜が破れるかと思ったじゃない!」

 

 いきなりマシュが大声を出した事で耳を塞ぐオルガマリー。

 

 

「まぁ所長の鼓膜はいいとして……マシュが宝具を使えないと今後困るな、仕方ない。ちょいと荒療治するとしようか」

 

 

「ちょっと私の鼓膜はいいってどういうことよ!?」

 

 龍牙はオルガマリーの抗議を無視して懐から小さな笛を取り出した。

 

 

「「「笛?」」」

 

 それは黒い笛で、何処か禍々しい力を放っている。それを見て文句を言っていたオルガマリーも固まっている。

 

 

 《ピィ――――!》

 

 

「魔物を呼ぶ為の笛だ……マシュ、宝具は理屈や理論じゃ使えないよ」

 

 

「どっどう言う事ですか?」

 

 

「………ヒントは君の持つ(それ)は何の為に使うのかな?」

 

 

「えっ?」

 

 

「これには俺も牛若丸も手を出さない。キャスターも手を出すなよ」

 

 

「………あぁ」

 

 クーフーリンもそれに了承した。

 

 

「ちょ……ちょっと!?何を言って……ひぃ?!」

 

 オルガマリーが何かを言おうとした時、龍牙が殺気を飛ばすと脅えてその場にへたり込んだ。

 

 

「マシュ・キリエライト……これから先に待つのは生死を掛けた戦いだ、この程度の事でやられる様なら君も、マスターの立香も直ぐにあの世行きだ。だったら此処で死んだ方がマシだろう?俺には自分の役目と約束がある、だから何を犠牲にしてもでも俺は進み続ける」

 

 皆はそれを黙って聞いていた。

 

 

「この狂った状況だ、何が起きるか分からない。だから藤丸君のサーヴァントである君には藤丸君を守って貰わないといけない。どんな状況でもな」

 

 

「私が………先輩は私が守ります!」

 

 

「言葉だけでは足りない………その言葉が本当かどうかは見せて貰おう」

 

 

「マシュ……がんばれ!」

 

 立香は心配そうにマシュを見るが、マシュの眼に決意が見えた為、応援する事にした。

 

 

「はい!マシュ・キリエライト!戦闘開始します!」

 

 龍牙は周りにスケルトン達が集まって来たのを確認する。10~20体程集まっている。マシュは覚悟を決め、スケルトンの群れに向かって行った。

 

 

 

「お前さんも中々やるねぇ、わざと嫌われ役をやるなんて」

 

 マシュが行った後、キャスターが龍牙にそう話し掛けた。

 

 

「牛若やダレイオス、アンタが居たら大概は何とかなりそうだからね。あの子の為にも悪役にでもなるさ……その為にアンタにも一肌脱いで貰うよ、光の御子」

 

 

「まぁ……乗り掛かった舟だ、任せときな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦闘が始まって少し経った。

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 スケルトンの群れを全滅させたマシュは既に疲弊しきって来た。

 

 

「ご苦労だな嬢ちゃん」

 

 

「クー……フーリ…ンさん……はぁはぁ」

 

 

「疲れてる場合じゃねぇぜ……次の相手は俺だ」

 

 クーフーリンはそう言うと、その身の魔力を高め始める。それを見てマシュは驚いていた。今まで味方だった彼が何故自分の前に立つのか分からなかった。

 

 

「どうしてって顔だな……あの坊主も言ってたろ?これから戦うのはサーヴァントだって……わりぃがマジで行くぜ。死ぬ気で踏ん張りな、アンサズ!」

 

 クーフーリンはそう言うと杖を振るい炎を放ってくる。

 

 

「くっ!?」

 

 マシュは炎を何とか盾で防いだが、大きく後ろに下がってしまう。だが次に飛来する炎を見て直ぐに盾を構え直した。

 

 盾の軋む音がする、飛来する炎にマシュは盾を構えるので精一杯だ。

 

 

「おらっ!本気で受け止めないと後ろのマスター達諸共消し炭になるぞ!」

 

 クーフーリンは更に魔力を高めだす、マシュはそれを肌で感じ直感した。【宝具】が来ると。

 

 

「『我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社………倒壊するはウィッカー・マン!オラ、善悪問わず土に還りな!』」

 

 詠唱を終えると共に、枝で構成された巨人が火炎を纏い現れる。火炎を纏った巨人はマシュに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

「(守らないと……私が……じゃないと皆……例え今だけでも……偽物でも……皆、無くなってしまう……守りたい!皆を……先輩を!護りたい!)あぁぁっぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 その意志に呼応するかのようにマシュの構える盾の前方に光の盾が出現し巨人を防ぎ切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁはぁ……私……いま……」

 

 

「いやぁ……それなりに加減したがマスター諸共無傷とはな……」

 

 クーフーリンはマシュが完全に自分の宝具を防ぎ切った事に驚いていた。そして拍手の音が聞こえてきた。

 

 

「見せて貰ったよ、マシュ・キリエライト。試す様な事をして悪かったな」

 

 

『パンッ、パンッ、パン』と拍手が聞こえてきた。

 

 

「いぇ……龍牙先輩は私の為になs《パクッ》」

 

 拍手をしたのは龍牙だ、そう言いながら膝を付いているマシュに近付くとマシュの口に何かを放り込んだ。

 

 

「っ!美味しいです!」

 

 口に入れられた何かの美味しさに立ちあがったマシュ。

 

 

「身体の方も大丈夫そうだな」

 

 

「マシュ?身体は大丈夫なのか?」

 

 後からやって来た立香がそう聞いた。マシュは先程まで倒れそうになっていたのに全くその様子はない。

 

 

「はい……あれ?あんなにも疲れていたのに、身体が嘘の様に軽いです!?」

 

 

「龍牙、マシュに何喰わせたんだ?」

 

 

「えっと……確か【禁断の果実】【アンブロシア】とかの原典だったかな。食べれば魔力が満ち、瀕死でも直ぐに回復し、老人も若返る果実」

 

 それを聞いて全員、驚いていた。なんでそんな物を龍牙が持っているのか?と。立香を始め、マシュ、オルガマリー達も聞くが……。

 

 

「秘密」

 

 と言って教えてくれなかった。

 

 実際はバビロニアの宝物庫より取り出したのだが、そんな事を言うと何でそんな物を使えるのかと聞かれるに違いないと思い、あえて龍牙は言わなかった。単に彼が説明するのが面倒だと思ったからだろう。

 

 皆……特に魔術師であるオルガマリーは理由を知りたかったが、忠義が臨界点突破してそうな牛若丸に刀を向けられたので黙ってしまった。

 

 それからマシュの宝具は、元となった英霊の真名も不明であった為、名前が分からなかったのでオルガマリーが【ロード・カルデアス】と名付けた。

 

 一休みした一行は、再び大聖杯の元へと向かう為に、歩を進めるのであった。

 

 この時は龍牙は知らなかった……自分達のいるこの世界で、本来ない筈の異変が起きている事を……。



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EP18 弓兵

 ~特異点F 円蔵山~

 

 一行は、やっと円蔵山に大空洞の入口に辿り着いた。そして中へと向けて歩を進める。

 

 クーフーリンが先頭を行き、魔術で火を灯している。

 

 

「すげぇ……禍々しい魔力だな」

 

 龍牙は奥から流れてくる禍々しい魔力を肌で感じ、そう呟いた。

 

 

「そう言えば、キャスター。この先に居るのはセイバーだけなのか?」

 

 立香がそう尋ねると、クーフーリンは頭を掻く。

 

 

「確かにセイバーは一番、奥にいるが……その道を守ってるアーチャーが居やがる。どの道、邪魔してくるだろうから倒さなきゃならん」

 

 

「そう言う事は早く言いなさいよ」

 

 クーフーリンの言葉にオルガマリーはそういい放つ。

 

 

「光の御子、セイバーとアーチャーの真名は分かる?」

 

 龍牙はクーフーリンにそう尋ねる。

 

 この先に居るのはサーヴァントのクラスの中でも最良と言われるクラスのセイバー。仮に自分が知っている存在ならかなり面倒な事になると龍牙は考えていた。

 

 

「あぁ、知ってるぜ。これから先の戦闘、嬢ちゃんを頼りにしてるぜ。なんせ嬢ちゃんの盾なら奴の宝具を防げるかもしれねぇと思ったからだ。宝具が使えねぇと厳しいと思ったが、龍牙の坊主のお蔭で使える様になったんで良かったぜ」

 

 

「貴方がそこまで言うなんて……余程有名な英雄みたいね」

 

 クーフーリンの表情が真剣になって行くにつれ、その重要性を理解したオルガマリーがそう呟いた。

 

 本来、聖杯戦争において真名の把握はサーヴァント戦において重要になる。有名であればある程、その武器も弱点も分かり易くなるのだ。

 

 

「俺の他にいたサーヴァントが倒されたのも、奴の宝具が強力過ぎたからだ。あれは見れば誰だって分かる……王の選定する岩の剣の二振り目にして、星が産み出した奇跡。この時代においても、圧倒的な知名度を有する聖剣」

 

 龍牙以外の全員が固唾を飲んだ。

 

 

「【約束された勝利の剣(エクスカリバー)】……それを持つのは騎士の王と誉れ高い、アーサー王だ」

 

 クーフーリンがそう言った瞬間、龍牙は何かの気配を感じると鍾乳洞の奥を見る。

 

 

「おう、言ってる傍から来やがったぜ。未だアイツを守ってんのかよ、テメェは」

 

 クーフーリンは鍾乳洞の奥から現れた影を纏う男が現れた。

 

 

「生憎とこれが役目でね、お引き取り願おうか。最も、逃げられればの話だが……」

 

 

「ハッ!上等!ここらで決着付けようや!そろそろ膠着状態にも飽きてきたんだ!」

 

 クーフーリンがそう言って杖を構えるが、龍牙が止める。

 

 

「アンタやマシュには騎士王の相手が待ってる、此処は俺に任せろ」

 

 

「では主殿、私が…」

 

 

「いや、牛若丸も今の内に休んでおいて……」

 

 

「ですが相手はサーヴァントです!」

 

 そうサーヴァントはかつての英雄であり、戦闘能力は人間を遥かに勝っている。

 

 

「問題ない……無銘の英霊よ、俺は慢心しない」

 

 

「何を言っているのか分からないが……マスターが前に出るなど、愚の骨頂!」

 

 影を纏ったサーヴァントが両手に双剣を召喚すると、凄まじい速度で龍牙に襲い掛かった。確かに魔術師であろうと人間ではサーヴァントに勝つ事はできない。

 

 唯の人間……魔術師ならばこのまま影を纏うサーヴァントに斬り伏せられるだろう。

 

 目の前にいるのは唯の人間ではない、しかも人類最古の宝物庫の鍵を持っているなど影のサーヴァントが知る筈ない。

 

 

「がっ?!な……に……」

 

 影のサーヴァントは何が起きたのか全く理解できなかった。自分は双剣で目の前に居る龍牙を斬ろうとした、だが現在、腹に6本、背に5本の剣が突き刺さっていた。しかもその剣全てに神秘が宿っていた。

 

 

「何…処か……ら」

 

 

「無銘の英霊、言ったろ俺は慢心などしないって……さようなら」

 

 龍牙がそう言うと、影のサーヴァントは黄金の粒子となって消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程の戦闘を見ていた立香達の眼には、影のサーヴァントが龍牙に斬り掛かった、だが何故かサーヴァントの方が剣で貫かれていた。

 

 

「一体何が起きたんだ…?」

 

 

「わっ分かりません……一瞬で敵サーヴァントが剣に貫かれました」

 

 立香、マシュ、オルガマリーは目の前で何が起きているのか分からなかった。だが牛若丸逹、サーヴァントは違っていた。その眼は何が起きたのか見えていた。

 

 

「主殿の、あの武器は一体何処から……」

 

 

「おいおい……まさか…あの野郎の宝具だと……なんの冗談だよ」

 

 

「ちょっと貴方達だけ分かってるみたいだけど、アイツはなにしたのよ?!」

 

 分からないのでイラだっているオルガマリーがそう叫ぶ。

 

 

「多分、違う場所に在る武器を高速で飛ばしたんだろうよ。それこそ俺達サーヴァントでもギリギリ見える位の早さだ、坊主達に見えなくて当然だ」

 

 クーフーリンは立香達にそう説明した。

 

 

「ふぅ……終わった。どうかしたかな、皆?」

 

 龍牙は何事もなかったかの様な顔をしている。皆は何が起こったのかはクーフーリンに説明して貰ったが、何故龍牙がそんな力を持っているのかは分からない。

 

 

「いっいえ無皇さんのさっきの力……」

 

 

「あっ……まぁ知りたいって思うよね。でもそれは追々説明するとしよう。この先には騎士王が控えている、これが最後の休憩になる。ゆっくり休むんだ、俺は周りを見てくる。」

 

 

「主殿!私も御供します!」

 

 

「んじゃ、俺も行くか」

 

 立香に言われそう答えると、龍牙は辺りに敵がいないかを確認する為に、牛若丸、クーフーリンと共に見回りに向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしても驚いたぜ、龍牙の坊主があの慢心の塊の女王の宝具を使うなんてな」

 

 見回りしている時に、クーフーリンが突如そう言った。

 

 

「アハハハ……流石第5次聖杯戦争に参加していただけはある、彼女は4次からの生き残りでいたんだろう?」

 

 

「あぁ、お前アイツの知り合いか?」

 

 

「知り合い……と言うより彼女の従者みたいなものかな。彼女が聖杯に参戦していたことは知識として知ってたからね……この時代で実際に会った訳じゃない」

 

 

「従者?知ってた?ますますわかんねぇ……お前さんは一体」

 

 

「さてね……言えることは唯1つ、俺は自分の目的と理由の為だけに戦ってる自分勝手な奴ってことさ」

 

 

「主殿、私には良く分かりませんが私は主殿がどの様な存在であってもついて行きます!」

 

 何時の間にか忠誠MAXの牛若丸はそう言った。彼女自身、誰かの為に戦っている。生前は兄の為に戦ったものの、理解されず非業の死を遂げた。

 

 しかし龍牙は以前の世界より画面の中だけとは言え彼女の事を多少なりに知っていたので、ついつい褒めてしまった。本人曰く「(構って欲しそうにしている犬を見てるようで)可愛いのでつい…」だそうだ。未だ出会って間もない自分を信じ、認め、褒めてくれる。彼女にはそれで十分だった。

 

 更に龍牙は普通の魔術師などと比べ物にならない程の力の持ち主なので、牛若丸自身のスペックも向上している。その内に完全にブレーキが壊れて、狼人間から種を恐喝してきたり、1人で目玉びっしりの柱を倒して目玉を献上しそうだ。

 

 

「ありがとう、牛若丸。俺の事は落ち着いたら話すよ」

 

 そう言って牛若丸を撫でる。牛若丸はそれを気持ち良さそうに楽しんでいる、そして在りもしない筈の尻尾が見える。

 

 

「まぁ俺はお前さんが何者であれ、あの宝具を使えるのなら心強い」

 

 

「でも俺はあくまで合鍵を持ってるだけ……いわば借り物だ。あんまり使いたくない」

 

 

「ハハハ、確かにお前さんならサーヴァントと生身でやり合えそうだな」

 

 

「未だ真面なサーヴァントとは戦ってないがやるだけはやるさ」

 

 3人は話を終えると、立香達の元に戻り奥に待つ騎士王の元へと向かう。



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EP19 黒き聖剣

 ~円蔵山 大空洞~

 

 龍牙達は円蔵山の最深部……「大聖杯」のある大空洞へと足を踏み込んだ。そこに満ちる膨大な魔力、

 

 

「あれが……大聖杯?超級の魔術炉心じゃない!?どうしてこんな物が極東にあるのよ!?」

 

 一同が見たのは、巨大な黒い杯だった。それは聖なる願望機とはかけ離れた禍々しい気配を放っている。

 

 

「気を引き締めろ……本命が来たぞ」

 

 クーフーリンの視線の先には、敵意を持って此方を見降ろしている黒くなった聖剣を携えた漆黒の騎士王が佇んでいた。

 

 

「先輩、あのセイバーさん良く見れば女の人です!アーサー王は男性だと思っていたんですが…」

 

 

『当時のお家事情だろうね。昔は男子じゃないと王位を継げなかったみたいだし。全く…マーリンも趣味が悪いなぁ』

 

 伝承ではアーサー王は男だと言われているが、この型月の世界ではよくある事だと龍牙は考えながら通信してきたロマンの話を聞いていた。

 

 

「対話は期待すんなよ。奴はあの状態になってから一度も言葉を発してねぇ」

 

 クーフーリンが警告の為にそう言ったが……。

 

 

「ほぅ……面白いサーヴァントと人間がいるな」

 

 平然と喋りだした。

 

 

「喋んないんじゃなかったの?」

 

 

「なにぃ?!セイバー、お前喋れたのか!?今までわざと黙り込んでやがったのか!?」

 

 

「何をしていても常に見られている。故に案山子に徹していた」

 

 セイバーが喋っていなかったのは、当の本人がそうしていただけの様で何時でも喋れたようだ。

 

 

「それにしても小娘。貴様、中々面白い盾を持っているではないか」

 

 セイバーはマシュを見てそう言った瞬間、黒き聖剣に魔力を収束させていく。それが巨大な剣の形を形成した。

 

 

「話していても始まらない。貴様の盾と私の聖剣。どちらが上か試させて貰う!」

 

 

『なんて出鱈目な魔力なんだ!?これが、アーサー王のエクスカリバー!……藤丸君!』

 

 セイバーの言葉と共に聖剣の魔力が解放される。

 

 

「マシュ!宝具を展開するんだ!」

 

 

「はい!……『真名…偽装登録……行けます!宝具、展開します!』」

 

 マシュは宝具【仮想宝具 擬似展開/人理の礎(ロード・カルデアス)】を展開し、光の盾を出現させる。

 

 

「『卑王鉄槌———極光は反転する。光を呑め!【約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!】』」

 

 聖剣より放たれた凄まじい威力の黒き魔力の奔流はマシュの展開した光の盾に激突し、その破壊力をもって光の盾を破壊していく。

 

 

「うっ…うあぁぁぁぁぁあっぁぁぁぁああ!!!!!」

 

 マシュも負けぬ様に盾に魔力を込め続ける。

 

 

「負け……ない…絶対に……私の後ろには先輩達がいる……絶対に護ってみせる!」

 

 マシュの【護る】と言う意志に応えたのか、光の盾はその輝きを取り戻す。いや更に輝きを増し漆黒の暴風を防いでいる。徐々に漆黒の魔力の奔流は小さくなっていき消えた。

 

 

「はぁはぁ……やり…ました……護り抜きました」

 

 見事に漆黒の聖剣をを防ぎ切ったマシュ。

 

 

「ほぅ…やるではないか。別段、手を抜いたと言う訳ではないが」

 

 

「負けられません。私の後ろに先輩達がいるかぎr……あれ……はぁはぁ」

 

 マシュはセイバーの聖剣を完全に防ぎ切ったが身体にかなりの負担が掛かって居る様だ。盾を支えに立っていたが、ガクッと膝が折れ、膝をついた。

 

 

「ご苦労様マシュ……よく防いだな。よくやった」

 

 龍牙はマシュの頭に手を置いて前に出る。

 

 

「藤丸君、所長、マシュの回復を……ダレイオスとクーフーリンは3人を守っていてくれ」

 

 

「あぁ……だがどうするつもりだ?」

 

 

「俺と牛若丸で奴を叩く」

 

 

「ほぅ……唯の人間が面白い事を言う。人の身でこの私と戦うと?」

 

 その言葉に歪んだ笑みを浮かべながら、龍牙を見ている騎士王。

 

 

「だっ駄目です、龍牙先輩。あのサーヴァントは今までとは……」

 

 

「ハハハ、それくらい見りゃ分かるよ。さて騎士王、俺が相手だ」

 

 

「面白い……初めて貴様を見た時から他の者とは違う何かを感じていた。だがまずは小手調べ……此奴を倒して見せろ!」

 

 セイバーがそう言い、手を上げると上から巨大な影が降りてきた。巨大な躰、石斧を持ったシャドウサーヴァントだ。

 

 

「なぁ!バーサーカーだと!?アイツは街の端の方で動かな筈じゃなかったのか!?クーフーリン!」

 

 

「確かにその筈だったんだが……」

 

 

「まぁ出て来たものはしゃあねぇ……」

 

 そう言って、龍牙は現れたバーサーカー(シャドウ)を見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■―――――!!!」

 

 バーサーカー(シャドウ)は咆哮すると龍牙に襲い掛かる。

 

 

「大英雄の影……戦いらしい、戦いになってきた!」

 

 

「主殿!御供します!」

 

 龍牙は宝物庫より終末剣(エンキ)を呼び出し、牛若丸も刀を抜いた。

 

 

「おらぁ!」

 

 -ガキィン!—

 

 龍牙はバーサーカー(シャドウ)の石斧を片手のエンキで防ぐ。

 

 

「はぁ!」

 

 牛若丸は龍牙が攻撃を防いでいる間にがら空きの胴体へ斬撃を放つ。

 

 

「■■■■!」

 

 バーサーカー(シャドウ)は攻撃を受けると、直ぐに下がる。シャドウサーヴァントは言わばサーヴァントの成り損ないだ。サーヴァント程ではないが通常の魔術師からすれば十分脅威であり、龍牙逹が戦っているのはギリシャ神話に出て来る英雄ヘラクレスの影。影とは言え大英雄……かなりの力を持っている。

 

 

「流石は大英雄!影とは言え中々やる!牛若丸!援護する!一気に突っ込め!」

 

 龍牙はエンキを弓に変形させると、矢をつがい光の弦を引く。

 

 

「心得ました!我が兵法お見せします!」

 

 牛若丸は龍牙の言葉を疑う事無く、バーサーカー(シャドウ)へと駆け出そうとする。

 

 

「『【壇ノ浦・八艘跳!】』」

 

 壇ノ浦・八艘跳:牛若丸……義経が壇ノ浦の戦いにおいて船から船へ飛び移ったと言われる逸話の具現である。どの様な足場であろうとも、小さな足場さえあれば彼女の跳躍を止める事はできずその跳躍力を強化していく。

 

 バーサーカー(シャドウ)は凄まじい速さで自分の方に向かってくる牛若丸を斬り伏せる為に石斧を振り上げるが、無数の光の矢により両腕が吹き飛ばされた。

 

 

「■■■!?」

 

 その光の矢は弓形態のエンキより放たれたものだ。

 

 

「そこっ!」

 

 跳躍力で強化された牛若丸の斬撃がバーサーカー(シャドウ)に叩き込まれた。バーサーカー(シャドウ)は斬撃を真面に受け、そのまま消滅してしまった。

 

 

「ふぅ……影ならこの程度か。さて騎士王、待たせたな」

 

 

「主殿、あの者は……」

 

 戻ってきた牛若丸は直ぐに龍牙の前に立つ。それほどセイバーの力が凄いと言う事だろう。

 

 

「ほぉ……そちらのサーヴァントも中々やるな。ならば我が聖剣、受けてみろ!」

 

 再び聖剣に魔力が収束していく。

 

 

「主殿!あの一撃は…」

 

 

「うん……凄まじいね。でも」

 

 龍牙は牛若丸の前に出ると、両手に持つエンキを宝物庫に仕舞う。

 

 

「すぅ……はぁ……」

 

 龍牙は自分の顔に手を翳すと、黒い仮面が現れ目の周りを覆い、その瞳が龍のものに変化する。

 

 

「!……何をしようとしているのか知らんが受けよ!『卑王鉄槌―――極光は反転する!光を呑め!』」

 

 膨大な魔力が騎士王の黒き聖剣へと収束し、再び巨大な黒き光剣を形成する。

 

 

「【約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!!!】」

 

 かつてブリテン島を守る為に顕現したとされる魔竜ヴォ―ティガーンの破壊の息吹。その破壊の力が龍牙達に向かって放たれる。

 

 

「無皇さん!」

 

 

「龍牙先輩!」

 

 

「無皇!」

 

 

「龍牙の坊主!」

 

 4人が龍牙に声を掛ける。龍牙はその声に振り返る、4人はその顔を見て驚いた。迫りくる破壊の息吹、なのに龍牙は笑みを浮かべている。

 

 漆黒の破壊の息吹が龍牙と牛若丸を飲み込んだ。



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EP20 龍の鎧

 -【無】より産まれし破壊の龍よ。破壊の力を我が身を纏う鎧と成せ-

 

 

破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)龍鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙逹のいた場所から約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)より放たれた漆黒の奔流よりも禍々しく黒い光が溢れ出す。

 

 

「なに!?」

 

 

【グオォォォォォォォォォォォォ!!!】

 

 龍の咆哮と共に黒き聖剣の光は、禍々しい光に呑み込まれた。

 

 辺りに砂埃が舞い、この場にいる全員の視界が遮られる。

 

 しかし、サーヴァント達は違っていた。例え視界が遮られていても感じた、言葉に現せない程の異質で圧倒的な力を。

 

 

「ムゥゥゥン!」

 

 中でも理性を封じ本能が高まっているダレイオスは、この気配を最も警戒していた。

 

 

「おいおい、なんだよこの力……こんな物がこの時代にあっていいのか!?」

 

 

「ッ!同感だ、光の御子。これ程の力は我等の時代でさえなかったぞ……」

 

 クーフーリンも、敵である騎士王も生前ですら感じた事のない力を目の当たりにしていた。

 

 砂埃が消え、現れたのは漆黒の鎧だった。

 

 血の様に紅い2本の角のある龍を模した兜、金色に光る瞳、刺々しい形状の鎧、腰の辺りから出ている太い龍の尾、尾の先に付いている禍々しい力を放つ玉、背から生える12枚の翼。

 

 

「貴様………何者だ?!」

 

 

「無皇龍牙。そしてこの鎧は破壊龍の鎧(ノヴァズ・ドラゴメイル)……騎士王、悪いが倒させて貰う!」

 

 龍牙は一気にセイバーに向かい駆け出し、拳を放つ。その速さは一般人の肉眼では捉える事はできない、しかし騎士王はサーヴァントだ。常人を遥かに凌ぐ動体視力を持っている為、龍牙の動きを捉え自分の持つ聖剣で攻撃をガードした。

 

 

「ッ!」

 

 ガキィン!と金属の衝突音と共にセイバーは十数メートルほど吹き飛ばされた。

 

 

「何と言う力……貴様、本当に何者だ!?」

 

 

「ただの(異世界から来た)マスターさ。騎士王よ、少しばかり俺に付き合って貰うぞ」

 

 龍牙は両腰部に装備されている剣を手にし構える。そして背中の翼が消えた。

 

 

「今の俺の力が何処までサーヴァントに通用するか、試させて貰おう。牛若丸は手を出さないでくれ」

 

 龍牙は顔だけを振り返らせると、牛若丸を見てそう言った。牛若丸はそれを聞くと、黙って頷いて下がった。

 

 

「……いいだろう。貴様と言う存在を見極めさせて貰おう」

 

 セイバーもまた黒く染まった聖剣を構えた。龍牙は右手の剣を地面に突き刺しコインを出し上に放り投げた。龍牙は再び剣を構えた。

 

 コインが宙を舞い、2人の間へと落ちていく。2人は沈黙したまま、互いを見据えている。そして地面にコインが落ちた。

 

 -チャリーン-

 

 その瞬間、2人は駆け出した。

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 黒い龍牙の剣と漆黒の聖剣がぶつかり合い、火花を散らす。

 

 

「流石は!おっと……アーサー王!よっ……危ねぇ……魔力放出と剣術……超一級だ!」

 

 

 -ガギィン!ガンッ!ガガガッ!-

 

 

「貴様こそ!中々にやるではないか!剣もそうだが、避けるのも上手い!」

 

 龍牙はセイバーと剣を交えながら、致命傷となる剣戟を躱す。

 

 

「そりゃ、もっと凄いのを毎日の様に避けてたからな。この程度は簡単さ……おらっ!」

 

 セイバーの剣を回避した後、龍牙はジャンプし双剣を振り下ろす。しかしセイバーは後方に下がる事で回避した。

 

 

「面白い……ならば受けてみよ!『極光は反転する……光を呑め!』」

 

 セイバーの聖剣に膨大な魔力が収束していく、それは先程マシュや龍牙が受けたものとは比べ物にならぬ程強大な力だ。龍牙はそれを感じ取ったのか、自分の後方を確認した。

 

 離れてはいるが、射線上には立香やマシュ達がいる。このまま回避すれば確実に立香達に直撃するだろう。防御を行うマシュはクーフーリンやオルガマリーにより多少は回復しているが、先程より威力の上がった聖剣を防げるかどうか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~立香side~

 

 

 

 立香は龍牙が聖剣の光に呑まれる時に、手を伸ばし彼の元に駆けようとしていた。自分が唯の人間で間に合ったとしても何も出来ないと分かっていながらも、体が自然と動いた。

 

 マシュ達に止められた。此方を振り返った龍牙は笑みを浮かべていた。そして次の瞬間、龍牙は聖剣の漆黒の光に呑み込まれた。

 

 それを見て、立香もマシュも、この場にいる全員が龍牙は死んだと思った。サーヴァントと対等に戦え、先頭を切って自分達を守ってくれた心強い存在が死んでしまったと。特にマシュやクーフーリン達は聖剣の力を知っている為に生きているなどと考えなかった。

 

 悲しみ、後悔と言った感情が込み上げてくる瞬間、恐怖が襲ってきた。

 

 

【グオォォォォォォォォォォ!!!】

 

 全てを否定するかの様な咆哮がこの洞窟内に響く、そして騎士王の漆黒の聖剣の光を蝕む禍々しい光が現れ、聖剣の光を呑み込んだ。

 

 辺りに砂埃が舞い、視界が遮られる。だが恐怖は一向に薄まらない。

 

 マシュやクーフーリンが有り得ないという様な表情をしている。ダレイオスも何かに警戒するように唸っていた。

 

 オルガマリー所長に至っては恐怖で震え、その場にへたり込んでいる。自分もへたり混みそうになるが、何とか踏ん張る立香。

 

 そして、龍牙とセイバーの凄まじい攻防が始まった。それは素人の目で見ても分かる、これが英雄の戦いだと。剣と剣のぶつかり合いで火花が散っている。立香はその戦いに見入っていた。

 

 

「あれ?」

 

 セイバーと龍牙が距離を取り、龍牙が一瞬此方を見たのに気付いた立香。セイバーの聖剣に魔力が収束している。再びあの力を使うのだと……だがこのままいけば自分達が巻き込まれてしまうと。

 

 

「ッ!」

 

 マシュやクーフーリン達もそれに気付き、動こうとするが気付くのが既に魔力は聖剣に収束し終えていた。

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙は後方を確認し、立香達を見て回避が間に合わないと考えた。

 

 

「仕方ない……あんまり手を晒し出したくないが」

 

 龍牙の眼が鈍い光を放つ。

 

 

「【約束された勝利の剣(エクスカリバー・モルガン)!】」

 

 聖剣の力が解放され、漆黒の魔力の奔流が放たれ真っ直ぐ龍牙とその後方にいる立香達に向かう。

 

 

「【(EATER)】」

 

 鎧の尾の先に装備されいる黒い宝玉が光を放ち、セイバーの放った聖剣の光を吸収していく。

 

 

「なっなに!?」

 

 

「ご馳走様……これはお返しだよ、騎士王」

 

 背中の翼が展開し、次の瞬間に龍牙の姿が消え、一瞬の内にセイバーの懐に潜り込んだ。そして剣でセイバーの胸を貫いた。

 

 

「がっ!?」

 

 

「誉れ高き騎士王……もう1人で頑張る必要はない、全部1人で背負い込まなくていい」

 

 

「………フッ、不思議な奴だ。唯の人間で在りながら私と対等に戦い、その様な言葉をかけてくるなど。しかし見事です……結局私1人では同じ結末にしかならないと言う事ですか……」

 

 

「騎士王……そなたは闇に堕ちながらも世界を護ろうとした、十分立派だよ」

 

 セイバーの身体が金色の粒子となって消えていく。

 

 

「フフフ……人理修正、冠位指定(グランドオーダー)は既に始まっている」

 

 

「あぁ………俺は【知ってる】。だからもうお休み……アルトリア・ペンドラゴン、願わくば次に会う時には君と共に戦える事を祈ろう」

 

 セイバー……アルトリア・ペンドラゴンは笑みを浮かべて消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わった……のか……げっ…こっちも時間切れか」

 

 クーフーリンも金色の粒子となって消えていく。

 

 

「今度は龍牙の坊主!立香の坊主!今度はランサーとして呼んでくれや!」

 

 クーフーリンはそう言うと消えてしまった。



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EP21 黒幕(笑)

 セイバーとの戦いが終わり、龍牙は鎧を消した。

 

 

「すぅ……ふぅ……ぁ~久々に使って疲れた」

 

 そう言いながら立香達の元へと戻る。

 

 

「無皇さん……」

 

 

「龍牙先輩」

 

 立香とマシュが龍牙を見ている。

 

 

「怖いか?別にいいんだ……慣れてるから、何言われても問題ない」

 

 先程の姿と力は彼等を恐怖させるには十分なものだった。かつて龍牙はその力の性で周りから恐怖され、最後には人類全てに敵と見做され殺された。だから彼等が恐怖しても仕方ないと考えていた。

 

 

「たっ確かに怖かったですけど………凄かったです!」

 

 

「はい!あのセイバーさんと真面に戦うなんて……ですよね!所長!」

 

 と2人は興奮した様子で龍牙に詰め寄り、マシュはオルガマリーを見る。オルガマリーは震えて岩の影に隠れていた。

 

 

「まぁいいよ。それよりマシュ、これ回収しておいてね」

 

 龍牙が出したのはセイバーが持っていた聖杯だった、マシュはそれを受け取ると自分の盾の収納スペースに入れた。

 

 

「(もう少し威厳を見せて欲しいな)さてと、居るんだろう?出て来いよ」

 

 龍牙がそう言うと、大聖杯の方から1人の男が現れた。

 

 

「いやはや、まさか君達が此処までやるとは。私の計画の想定外……それにイレギュラーが現れようとは」

 

 緑のスリーピースとシルクハットの紳士風の男……その男をこの場にいる全員が知っていた。レフ・ライノール。ロマンと共に魔術を学んだ魔術師であり、オルガマリーが絶対的な信頼を寄せる存在。

 

 

「レフ?ああ、レフ!良かった、貴方生きてたのね!?」

 

 オルガマリーはそう言ってレフに近付こうとするが、龍牙が止めた。

 

 

「止めときな、所長。あれは人間じゃない」

 

 

「なっ何をいって」

 

 

「いいえ、マリー所長!下がって下さい……レフ教授は……危険です。マスターも下がって下さい」

 

 

「外見は人ですね……ですが妖魔の類でしょう。飛び切り邪悪なものだと思います。主殿、お下がりを」

 

 マシュもデミ・サーヴァントになった影響か、レフが人間でない事を感じ取り、牛若丸も龍牙を下げる。

 

 

「フム……やはりデミ・サーヴァントとなったマシュやサーヴァントは私が人間とは根本的に違う存在だと分かるようだね……まぁ予想はしていたが……分からないのは、そこの貴様だ」

 

 レフは忌々しそうに龍牙を殺気を込めた目で睨む。

 

 

「無皇龍牙……貴様は何故、初めて会ったあの段階で私を疑いの目で見ていた?マリーやロマンすら長年騙してきたのに……唯一、カルデアの人間ではお前を除いて誰1人、私が人間だと疑わなかった。なのに何故、貴様は初めて会った私を疑った?教えてくれないかな、無皇龍牙?」

 

 

「なぜ?……簡単の事さ、ただ【知っていた】。そしてお前……臭いんだよ」

 

 

「知っていた?臭い?どう言う事かな?」

 

 

「前者については答える気はない………後者については俺は鼻が利くんでな、64番目の伯爵」

 

 

「!!!……私の真名まで知っているとは……腹立たしい…人間如きに正体を見破られるなど……もっと早く殺しておくべきだったか」

 

 

「ハハハ……お前如きが俺を殺すって?まずはそいつを倒してからにしてくれるかな?」

 

 そう言って龍牙はレフの後ろを指差した。

 

 レフは振り返ると、そこには巨大な獣がいた。

 

 

「なっ!?」

 

 

【潰れろ!】

 

 巨大な猛禽類の様な脚がレフに振り下ろされた。

 

 

「ぐぇ!?」

 

 

 -ドガッ!ゴンッ!ガンッ!ガンッ!-

 

 

「ちょ……ぐぉ…潰r……ごほっ!?やめ」

 

 

 -グシャ!ベキッ!-

 

 

「序でに毒」

 

 

【了解】

 

 毒々しい色の液体がレフに垂らされた。その液体はレフの身体を溶かす。

 

 -ジュウゥゥゥゥ-

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁっぁぁ!……くっ…クソッ!」

 

 レフは何とか獣の脚から逃げ出すと、宙に浮き身体が消えていく。

 

 

「ぜぇぜぇ……何なのだその野獣は!?」

 

 

「俺の使い魔」

 

 

「なっ人間がこんな巨大な魔獣を?!……まぁいい!どうせ、貴様たちはこれから知る地獄と化した世界と残酷な未来で絶望するがいい!あぁ!そうだ、良い事を教えてやろう!」

 

 身体が4分の3くらい消えた所でレフは醜悪な笑みを浮かべ、オルガマリーを見ている。

 

 

「マリー……君は既に死んでいる」

 

 

「えっ?わっ私が死んでる?どういうこと……レフ?」

 

 

「どう言う事もなにも、そのままの意味だよマリー。レイシフト実験時の爆発……あれを行ったのは私だ。そしてその時に使った爆弾の1つは君の足元に設置していたのさ。そして爆発で死に、魂だけの存在となりこの次元にレイシフトした。でなければマスター適性のなくレイシフトできない君が此処にいる筈ないだろう?」

 

 オルガマリーはそれを聞くと、絶望し俯いてしまう。

 

 

「まぁ信じるか信じないかは君の自由だ。そろそろ私は退散させて貰うよ……君達の絶望した表情を見れないのは残念だよ、ははは…ぶへっ?!」

 

 レフは高笑いしている最中に巨大な石を顔面にぶつけられ、そのまま消えてしまった。

 

 

「ナイス!流石俺の使い魔……」

 

 どうやら石を投げたのは龍牙の使い魔の様だ。使い魔は何やらドヤ顔をしている。

 

 

「私が……私が…死んで……いや死にたくない!死にたくない!」

 

 錯乱を始めたオルガマリー。その身体は徐々に消えていく。

 

 

(ぁあ……どうするか、今後の為に助けるか?)

 

 龍牙はそんな事を考えながら、錯乱しているオルガマリーに近付いた。

 

 

「いや!いや!未だ私は誰にも」

 

 

「所長、生きたいですか?」

 

 

「えっ……」

 

 

「生きたいですか?それともこのまま死にます?」

 

 

「いや!死にたくない!生きたい!……だって未だ誰にも認められてない!このまま死にたくない!」

 

 龍牙はそれを聞くと、手を上に伸ばす。眩い光と共に金の輝きを放つ果実が現れた。龍牙はそれを取ると、その一部を千切りオルガマリーに差し出した。

 

 

「このまま消えたくないなら食え」

 

 

「あっ……うん。パクッ……ゴクッ」

 

 すると消えかけていたオルガマリーの身体が徐々に元に戻って行く。

 

 

「身体が元に……」

 

 

「取り敢えず、これで肉体は元に戻ったな。ドクター、レイシフト宜しく頼む。この果実を食って、肉体再生している途中なら所長もレイシフトできる筈だ」

 

 龍牙の持っていた果実が消えると、通信でドクターロマンに繋いだ。何が何なのか分からないロマンも一先ず急いでレイシフトの準備を行った。

 

 そして龍牙達はカルデアに戻るのであった。



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EP22 生命の実

 龍牙は目を覚ますと、白い天井を目にした。綺麗なベッドで寝かされていた。

 

 

「知らない天井だ……まさかこの台詞を言う事になろうとは、よいしょっと」

 

 そして身体を起こして、周りを見た。薬品、包帯、ガーゼ、ピンセットなどの医療器具。此処は医務室だと直感した。

 

 

 -怪我をした?直ぐに患部を切断します!-

 

 

「……いる訳ない。未だいる筈がない……彼女が出て来るのは未だ先の筈……うん」

 

 脳裏にこの場に居ない筈の直ぐに怪我したら患部を切断しようとする婦長の姿が思い浮かぶ。そして「婦長はいない、婦長はいない」と言い聞かせた。

 

 

「何を仰っているのですか、主殿?」

 

 

「どわぁ~!?怪我してません!だから切断しないで下さい!」

 

 いきない声を掛けられ、驚いた龍牙はベッドから転げ落ちると土下座する。

 

 

「私は主殿を傷付けません」

 

 

「って牛若丸か……ぁあ良かった。婦長かと思った」

 

 

「ふちょうとは一体なんですか?」

 

 

「いや気にしないでくれ……それよりアレからどうなった?俺の記憶ではレイシフトに入って、疲れてぶっ倒れたと思うんだが」

 

 龍牙は自分の記憶を思い出していた。レイシフトでカルデアに戻ってそのまま疲れで倒れてしまった。それは合っているのか、牛若丸に確認した。

 

 

「はい、間違いありません。急に倒れられた時は何事かと思いました」

 

 

「久々の戦いでちょっと疲れた。流石は騎士王という所か…………最良のクラスセイバー……騎士王であのレベルか。やっぱ普通のサーヴァントとしての現界であの強さ……ちょいとばかり見直さないといけないか」

 

 龍牙は立ち上がると、目を瞑り魔力を全身に廻らせる。

 

 

「『全身の状況確認・診断……【外傷なし】【腕部、脚部に微細な筋断裂……戦闘によるものだと思われる、全治約2日】。封印術式・正常作動、【能力限定】【魔力封印】……魔力封印を5%を解除』」

 

 龍牙の足元に魔方陣が展開し、魔法陣がゆっくりと上昇し龍牙の身体魔方陣を潜る。龍牙が自ら施した封印が解除されたらしく先程より魔力が上がっている。

 

 

「『封印術式・解除の問題なし』」

 

 龍牙はそう言い終えると目を開けた。

 

 

「凄い魔力です」

 

 

「一応普段から封印はしてるからね……取り敢えず牛若丸には俺の事を話しておきたいが……それは部屋に戻ってからにしよう……ねぇドクターとサーヴァント」

 

 龍牙は入口の方を向いてそう言うと、入口からドクターロマンと女性が入って来た。

 

 

「アハハハ、ごめんね。盗み聞きみたいなことしちゃって」

 

 ドクターロマンが申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「まぁサーヴァントと対等に戦える一般人の正体が気になるのは分からなくもないですから」

 

 

「では教えて貰いたいね」

 

 女性がそう言う。龍牙はジッとその女性を見ている。

 

 

「おやっ、どうしたのかな?もしかして私の芸術的な美しさに惚れちゃった?」

 

 

「モナリザそのままだな……レオナルド・ダ・ヴィンチ」

 

 

「私の真名を見破るとは……そこまで有名なのかな!?」

 

 

「そういや………アンタってモナリザ以外に何したんだっけ?」

 

 

「なっ!?」

 

 ビシッ!と何かに亀裂が入る音がした。

 

 

「わっ私の偉業を知らない……だって?冗談だよね?」

 

 

「何かのカレンダーにモナリザが載ってて、名前は知ってたけど………何したんだ?牛若丸は知ってる?」

 

 

「私は存じません」

 

 

「ぬわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ありえない!!!モナリザを知ってて、他の事を知らないって何なの?!」

 

 ダ・ヴィンチは頭を抱えて、悶えている。どうやら誰でも自分の事を知っていると思っていたらしい。

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチ……モナリザや最後の晩餐・医学・航空工学など様々な分野で偉業を残した天才だが、龍牙はそこまで深く知らなかった様だ。

 

 

「「興味ないから(です)」」

 

 龍牙と牛若丸はそう言った。それを聞いたダ・ヴィンチは「興味ないって……興味ないって……」と呟きながら部屋の隅っこで体操座りをしている。

 

 

「そう言えばお……おる………おる……おるが………えぇと……あっそうだ!オルガメリー所長は?」

 

 

「誰がオルガメリーよ!?私はオルガマリーよ!」

 

 

「そりゃ失敬……興味ないものは人だろうと、物だろうと記憶には留めない性格なもんで」

 

 

「私は貴方の上司よ!上司の名前くr……ひぃ!」

 

 と文句を言いながら入って来たのはオルガメリー……じゃなくオルガマリーだった。しかし口の聞き方が主である龍牙への気に喰わなかったのか、オルガマリーに刀を向ける牛若丸。

 

 

「貴様……主殿に助けて貰った分際で舐めた口を聞くな」

 

 

「牛若丸……戦闘経験がなく、たかがスケルトン相手に逃げ回っていたとは言え一応カルデアの所長だからね」

 

 ーグサッ、グサッー

 

 オルガマリーの精神に悪意のない言葉の刃物が刺さる。

 

 

「しかし主殿!コレは主殿に命を救われたのにも関わらず、名前を間違えただけで主殿に舐めた口を聞きました!」

 

 

「いや、まぁそれについては俺も悪いし……牛若丸だって親から貰った名前を変に間違えられると嫌だろう?」

 

 

「ムッ……確かにそれはそうですが……」

 

 牛若丸は何かを考えているが、一向に刀を下ろそうとしない。

 

 

「(何となくこの子の扱い分かってきた。完全に犬だ)牛若丸は俺の事を思ってやってくれてるんだろう……ありがとう、こっちにおいで撫でてやろう」

 

 それを聞いた瞬間に牛若丸は龍牙の前に立っており、頭を差し出していた。龍牙は牛若丸の頭を撫で始める。

 

 

「はぁ~主殿の撫では心地好いですぅ」

 

 蕩けた表情になっている牛若丸。

 

 

(ギルとエルキドゥ、動物達で鍛え上げた撫でテクを見せてやる。牛若丸は謙虚に言って来るが、ギルの場合は威圧してくるからなぁ)

 

 等と考えていると、オルガマリーやドクターロマンの事を思い出したので顔をそちらに向ける。

 

 ドクターロマンは乾いた笑顔で此方を見ており、オルガマリーはロマンの後ろに隠れ此方を伺っている。ダ・ヴィンチに至っては未だ立ち直ってない。

 

 

「そういやドクター、藤丸君は?」

 

 

「立香君なら未だ部屋で休んでるよ」

 

 

「マシュの方は?」

 

 

「彼女なら藤丸君の様子を見てるよ」

 

 

「そう……それで状況を説明してくれるか?カルデアの被害、生存者数とか」

 

 

「あぁ……カルデアの被害については…」

 

 ロマンと復活したダ・ヴィンチによって現在の状況を伝えられ、各時代に現れた特異点についても説明された。

 

 

「(俺というイレギュラーがいるがゲームとさほど変わってないな)成程…大体分かった」

 

 

「なら、次は君の事を聞かせて貰いたいな」

 

 龍牙がそう言うと、ダ・ヴィンチがそう言う。龍牙の力について聞きたいんだろう。

 

 

「俺はそう簡単に話すつもりはないよ」

 

 

「君のあの力についてもそうだけど、カルデアと君とのパスが繋がっておらず、マシュの作った召喚サークルを使用せずサーヴァントを召喚……全く以て謎だらけだ」

 

 そう龍牙は立香の様にカルデアとの魔力パスが繋がっていない。立香の場合は戦闘時や召喚時などの時以外は自分の魔力を使わず、目に見えないパスを通じてカルデアの魔力でサーヴァントを維持している。

 

 だが龍牙はそのパスが繋がっておらず、全て自分の魔力で補っている。

 

 

「でしょうね。パスは繋げてないもん、自分で補えるし他からのパスを繋ぐと面倒だしな」

 

 

「「「えっ!?」」」

 

 

「俺の事は話すつもりはない……会って間もない輩を信頼するほど、俺は出来た人間じゃないんでね……藤丸君が目を覚ましたら教えてくれ、俺は部屋に戻るとしよう」

 

 龍牙はその場を後にしようとする。牛若丸もそれに続く。

 

 

「君の言う事も最もだ。だがこれだけは教えてくれないかな……所長を助けた時のアレはなんだい?これは個人的な興味でね、教えてくれると嬉しいんだけど」

 

 龍牙が部屋から出ようとした時、ダ・ヴィンチがそう聞いてきた。

 

 

「それくらいなら……所長の肉体はあの野郎の策略で吹き飛んだ訳だ、大聖杯の影響で一時的に実体化したみたいだが、まぁあのまま放って置いたら」

 

 

「おっ置いたら?」

 

 龍牙の言葉に固唾を飲む当の本人。

 

 

「聖杯を回収したから魂は実体化できなくなり、魂は魔物やらシャドウサーヴァントに喰われてたかもな………もしくはゴーストにでもなってたか、最悪…魂そのものが消滅かな」

 

 オルガマリーはそれを聞くと顔を真っ青にしていた。

 

 

「だから俺は魂に肉体を与える為に、【生命の実】を使っただけだ」

 

 

「【生命の実】だって!?」

 

 

「生命の樹に成っている実……とは言っても俺の言う【生命の樹】とアンタ等の知る生命の樹が同じとは限らんがね」

 

 龍牙がそう言って掌を上に向けると、何も無い空間から金色の光を放つ果実が現れた。果実は光を放ちながらゆっくりと回転している。

 

 

「凄まじい高密度の魔力……計器振り切ってるよ!?」

 

 

「神秘……」

 

 ロマンは計器を確認するとメーターが全部振り切っていた。オルガマリーはその輝きに見惚れている様だ。

 

 

「此奴は文字通り、命を与える実。どんな病も治し、死者に命を与える。理論上はサーヴァントを受肉させることも可能だ」

 

 

「サーヴァントの受肉まで?!」

 

 

「一体、何処でそんなものを……」

 

 

「さてね……そこまで教えるつもりはない」

 

 龍牙の掌の上で回りながら金色の光を放つ果実は、そのまま消えてしまった。

 

 

「じゃあ藤丸君が目を覚ましたら連絡下さい」

 

 龍牙はそう言うと、牛若丸と共に部屋から出ていった。



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EP23 召喚、ドッキリと幸運E

 ~龍牙のマイルーム~

 

 医務室より自分の部屋に戻ってきた龍牙。牛若丸も部屋に居る。

 

 

「ふぅ……一先ずは成功という所かね。まだ先は長いな………オルレアン、セプテム、オケアノス、ロンドン、イ・プルーリバス・ウナム、キャメロット………長過ぎだな。まぁ1つ1つ潰していかないと駄目だからなぁ……それにしても特異点のこと……どうにも疑問だな」

 

 

「主殿、どうかしたのですか?」

 

 

「俺達はこれから各時代の特異点を修正する。でもそこで出た犠牲の事について考えていた………特異点が修正されたとしても、その時代で出た犠牲はどうなるかなと思ってな」

 

 

「それは……」

 

 牛若丸は言葉に詰まる。

 

 

「特異点が修正されれば死ぬ筈のなかった者達は蘇る………と言うのは素人の考えだ。その時代で50人が魔物に殺されたとする。特異点を修正したとしても50人が魔物ではなく、獣に殺されたという事実に変わる」

 

 簡単に言えば【死んだ人間は蘇らない】という事だ。例え特異点を修復してもその時代で死んだ者達は蘇らない。特異点が修復されても、死んだという事実は変わらずその原因だけが違う事象に変わるだけ……。

 

 

「これからは出来るだけ、被害を出さない様にしないと……」

 

 

「主殿、1つお聞きしても宜しいでしょうか?」

 

 

「あぁ……構わないよ」

 

 

「主殿は何故、戦うのですか?」

 

 

「話しておくか。俺自身の事も含めてね」

 

 龍牙は牛若丸に自分の事、目的を話した。牛若丸は何故、そんな重要な事を自分に話したのかと聞いた。

 

 

「長い戦いになる、これから共に戦うので在れば俺の事も知っておいて欲しい。俺は世界を救うと同時に個人的な戦いをする事もある………それには牛若丸が見た、あの力を使う事もあるだろう。大体の魔術師やら英霊がアレをみれば」

 

 牛若丸はそれを黙って聞いていた。

 

 

「俺はサーヴァントを唯の道具として見るつもりはない、1人の人間として接する。だから不満が在れば遠慮なく言って欲しい」

 

 

「……分かりました」

 

 

「じゃあ改めて宜しくな、牛若丸」

 

 

「はい!この牛若丸、誠心誠意尽くさせて頂きます!」

 

 

『ピッー!ピッー!ピッー!』

 

 話が終わったタイミングで通信が入る。

 

 

『龍牙くん、立香君が目を覚ましたよ。彼への説明はダ・ヴィンチちゃんがしてくれている。君は制御室に来てくれ』

 

 ロマンからそう通信が入る。

 

 

「分かった………じゃあ牛若、行こうか」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルデア 制御室~

 

 龍牙と牛若丸が部屋に入ると、先に立香とマシュが来ていた。部屋には立香、マシュ、ダ・ヴィンチちゃん、オルガマリー、龍牙、牛若丸が揃った。

 

 

「無皇さん」

 

 

「龍牙先輩」

 

 

「やぁ2人とも……アレ、ダレイオス三世は?」

 

 

「あぁ、彼なら此処に入りきらないんで別室に居て貰ってるよ。じゃあ揃った所で、新たなサーヴァントを召喚しようか」

 

 ロマンがそう説明した。そうしてダ・ヴィンチちゃんが小さい虹色の石を渡してきた。

 

 

「これは聖晶石……これを使って召喚して貰う。自分の魔力で召喚するのもいいが、これは純粋な魔力の塊だからね。君達の魔力を無駄使いはして欲しくないからね。扱いには気を付けてね」

 

 

「この石……そう言えばシャドウサーヴァントを倒した時に落としましたね」

 

 マシュがそう言って戦闘中にシャドウサーヴァント聖晶石を取り出した。

 

 

「シャドウサーヴァントやサーヴァントからは取れるみたいだね……これからも頑張って集めてくれたまえ。今回は所長からの出血大サービスで藤丸君と無皇君にそれぞれ15個ずつ用意してくれたよ……因みに一回の召喚で3つ消費だ。合計5回だね」

 

 

「ふっフン!別に貴方達の為じゃないわ!このままじゃ人類が危ないからよ!勘違いしないでね!」

 

 顔を真っ赤にしながらそういうオルガマリー。

 

 

「そりゃ有難い……石……石……石……ふっふふふ……どうせ星3とか礼装しかでないんだ」

 

 石を受け取った龍牙は何やらブツブツと呟いている。周りの者達は何か分からず首を傾げている。

 

 

「なにやら無皇君はトリップしているから、先に藤丸君がするといい。方法は簡単、これをそこにある魔法陣に放り込んで詠唱すればいい」

 

 ダ・ヴィンチちゃんにそう説明されると、聖晶石を受け取った立香は魔法陣に放り投げ詠唱を始めた。

 

 詠唱が終わる頃には龍牙も元に戻っていた。

 

 12の光の球が高速で回転し始め、青い光の輪が3つとなり、その中央から人影が現れた。

 

 

「おっと、今回はキャスターで現界か。あぁ、お前等か。前に会ったな」

 

 青いローブ、杖、それは先の特異点で共に戦ったクーフーリンだった。

 

 

「宜しくお願いします、クーフーリンさん」

 

 

「おうよ、宜しくな。坊主……おっとまだ召喚の続きがあるんだな」

 

 クーフーリンが召喚サークルの上から退くと、再び立香は聖晶石を投げ込み詠唱をした。

 

 今回は光の輪は1つの様だ。

 

 

 -激辛麻婆豆腐-

 

 

「うげっ!?」

 

 どうやら概念礼装の様だ。概念礼装とはサーヴァントに装備するとものだ。クーフーリンはそれを見て嫌な顔をしている。

 

 それから6個消費して、概念礼装「青の黒鍵」「鋼の鍛錬」が出た。

 

 

「坊主!頼むからその礼装、俺に付けてくれるなよ!」

 

 何故か必死にそう訴えてくるクーフーリン。立香は何故だろうと思うが、龍牙はニヤッと笑みを浮かべている。

 

 そして最後の石を放り込んだ。すると、青い光球が金色に変わりバチッバチッと音を立てながら高速回転していく。光と共に人影が現れた。

 

 

「サーヴァント・アーチャー。召喚に応じ参上した……って凛!?いやしかし男……他人のそら似か?」

 

 龍牙が現れた赤い外套のアーチャーを見ると、立香の後ろに隠れた。

 

 

「えっと俺はf『遠坂立香です。母親の名前は遠坂凛……父親は正義の味方だそうですが、あんまり詳しく教えてくれませんでした』えっ?」

 

 

「……がはっ!」

 

 勿論、立香の台詞を奪ったのは龍牙である。だがそんな事、知らないアーチャー……英霊エミヤは吐血した。

 

 -ドッキリ大成功-と書いたプラカードを掲げて、エミヤに見せた龍牙。それを見て、エミヤは心の底から安堵した。そして何とか立ち上がる。

 

 

「こういう冗談はこれっきりにしてくれ給え………というか、何故凛と私の事を知ってるんだ!?それに君は誰だ!?」

 

 

「俺は無皇龍牙、藤丸君と同じくマスターだ。何故、そんな事を知っているかは内緒……まぁ宜しく頼むよ」

 

 そう挨拶すると、立香と入れ替わり召喚サークル前に立ち聖晶石を放り込んだ。

 

 

 -偽臣の書-

 

 

「……次だ、次」

 

 

 -偽臣の書-

 

 

「よっ……良くある事だ」

 

 

 -偽臣の書-

 

 

「………フッ……次こそ」

 

 

 -偽臣の書-

 

 

「おのれぇ!!ワカメがぁーーー!!!」

 

 同じ物が4回も続けて出て来た事で完全にキレた。流石にこれには他の周りの皆も顔を引き攣らせている。エミヤとクーフーリンに至っては何とも言えない表情で龍牙を見ていた。

 

 

「はぁはぁ…………べっ別に狙ってないし……うん……高ランク欲しいなんて思ってない(無欲……無欲……無欲……欲を捨てろ)」

 

 自分にそう言い聞かせて、最後の聖晶石を放り込んだ。これこそ俗にいう【無欲召喚(ガチャ)】。

 

 

 -ヘブンズ・フィール-

 

 

「…………ダ・ヴィンチちゃん、ワカメは緑色のゼリーに変換で……」

 

 

「あっ……うん……」

 

 そうしてこの日の召喚が終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 立香とマシュ、クーフーリンは龍牙の事を聞きたかったが、召喚時の落ち込み様が凄まじかったので何も聞かない事にした。

 

 龍牙と牛若丸は、龍牙のマイルームに戻ってきていた。

 

 

「…………幸運E……絶対Eより低いというか俺に幸運なんてないだろう……やっと来た高ランクが概念礼装って……もうやだっ。せめてサーヴァントが良かった。ワカメめ……」

 

 部屋に用意されていたベッドの枕が涙で濡れている。「ワカメ、何時かボコしてやる」と連呼しているのは気の性だろう。

 

 

「主殿……そんなに落ち込まないで下さい。私が精一杯つくしますから!」

 

 ぽんぽこりんと笑顔を見せる牛若丸。

 

 

「ありがとう、牛若……牛若は本当に良い子だ、よしよし」

 

 と傷付いた心を牛若丸を撫でて癒す龍牙。

 

 この性で、牛若丸の忠誠度が更に上がったのは言うまでもない。



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第1特異点 百年戦争 オルレアン
EP24 龍牙の使い魔


あけましておめでとうございます。

今年初めての投稿です。これからもどうぞ、宜しくお願いします。


 ~特異点Fから帰還して数日~

 

 管制室に呼ばれた龍牙達は、集まった。既に管制室には立香やマシュ、立香のサーヴァント達が集まっていた。

 

 龍牙は自分の事を話さなかったが、立香やマシュ、ロマン逹は少なくとも龍牙は敵対しないと考え深く聞く事を止めた。

 

 恐らく、無理矢理聞き出す事はできないと思ったのだろう。それに無理に聞き出そうとすれば、彼のサーヴァントである牛若丸が黙っていないだろう。因みに所長であるオルガマリーはロマンとダ・ヴィンチの後ろに隠れている、原因は牛若丸である。それは勿論、龍牙への態度が気に喰わないので牛若丸が睨んでいるからだ。

 

 

「さて、次の特異点だけど西暦1413年のフランスだ」

 

 ロマンが説明したのは、次の特異点についてだ。龍牙は既に知っていた「第一特異点 邪竜百年戦争オルレアン」……そこにレイシフトするとの事だ。立香は少し不安そうな顔をしている。

 

 

(藤丸君、そんな不安そうな顔をしないでよ、君なら出来る……というか出来て貰わないと困るからね。俺は君に死なれたら困る)

 

 そんな立香を見て、龍牙はそんな事を考えていた。

 

 

「次のレイシフトはフランスか……」

 

 

「では説明は終わるね、レイシフトは3時間後に行うよ。君達も不安だろうけど、僕やダ・ヴィンチちゃん、生き残った職員達で全力でサポートする……って聞いてる龍牙くん?」

 

 

「あぁ、聞いてるよ。ドクターロマン、俺や藤丸君は自分達のできる事を最大限して、ドクター逹も自分達の出来る事を最大限する。それだけでしょう……そんで勝利を勝ち取る、それでいい。今から緊張していたら保たないからね。リラックスだよ、リラックス」

 

 そう言って、大人1人より大きなライオンのぬいぐるみにもたれ掛かり、鬣をモフッモフッとしている。

 

 

「先輩!大きなライオンのぬいぐるみです!」

 

 

「そうだね、それにしても大きいね」

 

 マシュがキラキラした目でライオンのぬいぐるみを見ている。

 

 

「アハハハハ、確かにこりゃでけぇな。今にも動きそうだな」

 

 そう言って、雑にぬいぐるみに触れるクーフーリン。

 

 

「動くぞ」

 

 

「はぁ?」

 

 

【気安く触れるな】

 

 ガブッと言う擬音と共にぬいぐるみがクーフーリンの頭に噛みついた。

 

 

「ななな何がどうなってるんだ!?いでぇ!」

 

 

【主人、食べていいか?】

 

 

「ダメ、離しなさい」

 

 

【ぺっ!】

 

 ぬいぐるみはクーフーリンを吐き出した。クーフーリンは涎まみれだ。

 

 

「どっどうなってるんだ?!」

 

 

「これはなんとも不思議な現象だ………どう見てもライオンのぬいぐるみなのに」

 

 ロマンとダ・ヴィンチちゃんがぬいぐるみを見ている。サーヴァントとしてこのカルデアにいるダ・ヴィンチちゃんにもぬいぐるみが何なのか分からない様だ。

 

 

「いでぇぇぇ……頭砕かれるかと思ったぜ。というか、此奴は一体なんなんだ?」

 

 頭を摩りながら、クーフーリンがぬいぐるみをジッと見ている。だがぬいぐるみが何なのか分からない様だ。

 

 

「此奴は俺の使い魔だ、ほれっ自己紹介しろ」

 

 

【主人がそう言うならば……我が名はフンババである】

 

 

「「「「「フンババ!?」」」」」

 

 立香以外が全員が驚きの声を上げ、身を退く。

 

 

「フンババってあのメソポタミア神話に出て来るあの魔獣かい!?」

 

 

「それにしては姿が違う様な……」

 

 

「そりゃそうだ、このぬいぐるみは形代に過ぎんからな……本当の姿は藤丸君やマシュ達は見ただろう?」

 

 

「「「えっ?もしかして……」」」

 

 立香、マシュ、オルガマリーは思い出していた。先の特異点でレフを叩き潰していた獣の事を。

 

 

「その通り………普段からあの姿だと周りに害悪を齎すから戦闘以外はこの形代になって貰ってる。まぁ何でそんな魔獣を使役してるかって聞きたいだろうが、答えるつもりはない。まぁ自分の事も話さない、異質な力を持つ正体不明の輩を信用できないのは分かる。信用しろとは言わないし、して貰わなくていい。嫌ってくれも構わんよ、慣れてる。でも少なくとも君等と目的は同じだ、敵対するつもりはないさ」

 

 龍牙はそう言うと、フンババは龍牙を乗せたまま立ち上がった。フンババはそのまま歩きだし、出口の方へと向かう。

 

 

「じゃあ3時間後ね……俺は部屋に戻って準備してくるよ」

 

 フンババに乗ったまま、部屋を出てしまった。牛若丸は霊体化すると、龍牙を追ったのだろう気配が遠のいていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 管制室を出て、カルデアの廊下を歩くフンババ(ぬいぐるみ)とそれに乗る龍牙。すれ違った局員達が振り返ったのは言うまでもない。

 

 

【しかし良かったのか主人?】

 

 

「何がだ?」

 

 

【我の真名をバラしたら、あの者共も警戒するのではないか?】

 

 

「いずれはお前に出て貰う事もあるし、それで後々に疑われるよりいいだろう。まぁ、俺は誰に何と言われても止まるつもりはないけどね……1つ目、こんな所で躓くつもりはないけど、準備はしっかりとしてとくか」

 

 龍牙は自分の部屋に入ると、準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~管制室~

 

 立香とマシュはレイシフトの準備の為に部屋へと戻っている。

 

 

「自分で用意したサーヴァント、膨大な魔力、ドラゴンを模した鎧……謎の刀剣を出す力、所長を蘇らせた【生命の実】」

 

 

「それに加えてあの高い戦闘能力、あれは鎧の力によるだけでなく彼自身の力だろうね」

 

 

「それにメソポタミア神話の魔獣フンババ……本物かどうか分からないけども、レフを叩きのめしていた魔獣は神話通りの姿だったと思うわ」

 

 現在、管制室で話し合っているのはロマンとダ・ヴィンチちゃん、オルガマリーだ。

 

 

「はぁ……あの時は此方のモニターが切れてたから把握出来なかったけど」

 

 

「所長も震えてばかりじゃなく、もっと観察しておいて欲しかったな」

 

 

「しっ仕方ないじゃない!本気で怖かったんだもん!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言葉にそう反論するオルガマリー。

 

 

「まぁまぁ、ダ・ヴィンチちゃん、あの状況じゃ仕方ないよ。でも彼の経歴、外は人理焼却で連絡つかないから何とも言えないけど……怪しい所がない訳ではない。だからと言って彼は僕達に敵対するつもりはないようだし……さっきの言葉も嘘ではないだろうね。少なくとも敵なら態々面倒な事をしてまで所長を蘇らせようとしないと思うよ」

 

 

「確かに………まぁ彼の事は置いといて僕達もレイシフトの準備をしないと」

 

 ロマンの言葉にダ・ヴィンチちゃんも同意すると準備を始めた。




・使い魔紹介

 真名:フンババ

 種族:神の造った魔獣

 主:無皇 龍牙


 元々はエンリルにレバノン杉の持ちの番人。しかし龍牙の中の破壊龍の力を感じ平伏し龍牙の使い魔となった。

 顔はライオン、脚は猛禽類、尾と男根の先端が蛇となっている。神話通りの姿だが、本来の姿は真っ黒な巨体、左右3本ずつの腕、巨体の頂点には紅い1つの眼がある。

 普段は息だけで周りに害毒を齎すので、龍牙の用意したライオンのぬいぐるみを依代にしている。龍牙に平伏したものの、魔神柱以上の力を持ち、龍牙が統べていなければビーストとして顕現した可能性もある。


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EP25 聖女

 ~第一特異点 オルレアン~

 

 

「さて……レイシフトしたはいいんだけど、此処何処だろう?」

 

 

「見る限り……廃墟の様ですね、主殿」

 

 龍牙はあの後、準備を終えて立香達と共にレイシフトを行ったのだが………何故か立香達とは違う場所に着いたらしい。龍牙と牛若丸は辺りを見廻す、どうやら村が在った様だが今は廃墟になっている様だ。

 

 

「うん………それにろくでもない状況の様だね」

 

 龍牙がそう言うと、瓦礫から何かが現れた。それは人だった。それも1人じゃない、大勢いた。

 

 

「人間……ではないですね。動く屍ですか」

 

 それはこの廃墟で死んだ者達だった。それが何かによって動かされている様だ。

 

 

「死んで、生者の生を求め動く(リビング・デッド)………決して自分の物になる訳ないのに」

 

 

「主殿、この者達は……」

 

 牛若丸は刀を引き抜き、構えている。

 

 

「うん、もう助けられない。せめて………その苦しみから解放してやろう『破壊龍よ……死を司る龍よ。苦しみ続ける魂達をその力を持って、彼の者達の魂を輪廻の輪へと還せ』」

 

 龍牙の顔に龍の仮面が現れ、その眼が龍の物に変化した。そしてその手に漆黒の焔が出現した。

 

 

「【輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)】………牛若!」

 

 

「はい!」

 

 龍牙は牛若丸に声を掛けると、漆黒の焔が牛若丸の持つ刀の刀身を包む。

 

 

「その焔は死者を導く焔………彼等の魂を解放を」

 

 

「承知しました!はぁ!!!」

 

 牛若丸はそのまま駆け出し、屍達を攻撃し始める。龍牙も死者達に向かい、漆黒の焔を放つ。焔は意志があるかの様に、屍達を飲み込んでいく。

 

 

 -■■■■■-

 

 屍達は声ならぬ声を上げ、焔の中で燃え尽きていく。牛若丸も、焔の灯った刀で屍達を斬っていく。

 

 そして約数分で周辺に居た屍達は倒し尽くされた。龍牙は漆黒の焔に包まれた屍達を何とも言えない表情で見ていた。

 

 

「主殿……如何なさいましたか?」

 

 

「いや………以前もこんな事が在ってね、その時の事を思い出していただけさ」

 

 

「この様な事が在ったのですか?」

 

 

「あぁ……俺のいた世界でね。思い出すだけでも胸糞悪いけどね………」

 

 焔が消え、辺りに燃え尽きた屍達の灰が積もっている。すると、その灰の中から光の球が幾つも現れ始めた。牛若丸は敵かと思い再び刀を構えるが、龍牙が止めた。

 

 

「大丈夫………突然に死して、苦しかっただろう、辛かっただろう………でももう、安心して。大いなる魂の故郷に還りなさい」

 

 龍牙がそう言うと、光球………先程の屍達の魂が龍牙の周りを周っている。龍牙はその魂の1つ1つに触れていく。

 

 

「………そう」

 

 龍牙は最後に自分の仮面に触れると、仮面が光に変わり魂達と共に天へと昇っていく。そして確かに龍牙は聞いた。

 

 

 ―ありがとう―

 

 という声を……。

 

 

「破壊龍よ、この魂達を【輪廻の輪】へ………大いなる母の元へと………ふぅ」

 

 

「主殿、あの魂達は何処へ?」

 

 

「あるべき場所へと逝ったよ………これ以上、命が失っていくのは哀しい事だ。牛若、こんな事、止めないとね」

 

 

「泣いておられるのですか……見ず知らずの者達の為に?」

 

 龍牙は何故か涙を流していた。見知らぬ者達の為に泣いていた。

 

 

「何故か涙が流れてくる………天命を迎えずに死した命を見ると、何故か涙が流れてくる。昔からそうだ………これが、俺自身の心なのか………それとも俺の中の龍達の哀しみか………はたまた我が母の哀しみか」

 

 自分の中にいる2体の龍……創造龍(クリエイティス・ドラゴン)破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)は大いなる【無】より産まれた存在、そして2体1対で世界を……生命を育んできた父母だ。【無】もまた父であり、母である。

 

 龍牙はそんな彼等の哀しみを受けてか、それとも自分の哀しみか………分からないが、彼は泣いている。

 

 

「はぁ………こんな事では先が思いやられるな」

 

 涙を拭い空を見上げた。本来なら青空が在る筈の空に光の輪が在った。龍牙はその光の輪がとある人物の宝具である事を知っていた。

 

 

「名前は忘れたが………凄まじい熱量だ、1つ1つが聖剣のそれに匹敵するか……フン、アレの力の供給源……考えずとも分かるが、もしそうだとするなら………アレの発動主はいい趣味をしている」

 

 龍牙は忌々しそうに、空の光輪を睨みつけている。

 

 

「……まぁいい。牛若、取り敢えずは藤丸君達と合流しよう………俺自身飛んでいくのも、宝物庫から舟を出すのもいいが……怪しまれるから馬が在れば楽なんだが」

 

 

「主殿!お任せください!」

 

 牛若丸がそう言うと、隣に大きな白い馬が現れた。

 

 

「馬だな……」

 

 

「はい!我が愛馬!太夫黒(たゆうぐろ)です!時の皇より賜った馬です!」

 

 

「(そう言えば馬に乗ったシーン在ったのに、戦闘では一切乗ってなかったよな。そういや、この子ライダークラスだったよね)中々、足腰の強そうな馬だね」

 

 龍牙がそう言い手を伸ばすと、太夫黒の方から龍牙の手に擦り寄って来た。

 

 

「おぉ!コヤツは中々に気性の荒い奴なのです、私以外が触ろうとすればその者は蹴られたくらいです!それを太夫黒から触れるとは………流石、我が主殿です」

 

 

「そうなの?……結構人懐っこい奴だと思うけど……太夫黒……お前の力を貸してくれ」

 

 そう言って太夫黒を撫でる龍牙。太夫黒はそれに応えるかの様に、顔を上げた。それはまるで乗れと言わんばかりだ。

 

 

「さて……藤丸君はどこにいるのやら……通信は安定してないし……そうだ、アレが在ったな」

 

 龍牙は宝物庫から在る物を取り出した。それは宝石で飾られた木の棒の様な物だった。

 

 

「たらたたったたん!【探しもの杖】!」

 

 何処かの青い猫型ロボットの様な声でそう言うと、その杖を高く掲げる。

 

 

「【探しもの杖】?人を探すなら【たずn】「それ以上は駄目だ!色々と駄目だ!」良く分かりませんが、主殿が言うのであればいいません」

 

 牛若丸が何かを言おうとしたが、直ぐに止めた。その名前を言うのは拙いからだろう。

 

 

「ではこの【探しもの杖】を探したい物・人を思い浮かべながら、地面に立てて……離します。そして倒れた方向にそれが在ります」

 

 龍牙が杖を離すと、倒れた。そして杖を回収し、太夫黒に乗る牛若丸の後ろに乗った。

 

 

「では主殿、この方向なのですね」

 

 

「あぁ……じゃあ頼むよ、馬に乗るのは久しぶりだから御手柔らかに頼むよ」

 

 

「はい!では参ります!」

 

 牛若丸は太夫黒の腹を軽く蹴る。そして太夫黒は牛若と龍牙の2人を乗せて駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~その頃、立香やマシュ~

 

 龍牙と逸れた立香とマシュ、エミヤ、クーフーリンは途中で会った兵士に攻撃されたが、峰打で撃退し、その兵士の後を追った。

 

 因みにダレイオス3世は現在、霊体化しており立香の傍に控えていた。流石にバーサーカーに峰打と言っても力が他のサーヴァントと違って段違いの為に、加減が出来ないので控えて貰っていた。

 

 

「これは……酷いですね」

 

 

「砦の外壁がボロボロだな。これでは長く保たないだろうぜ」

 

 

「あぁ、兵士もかなり疲弊している様だしな」

 

 マシュ、クーフーリン、エミヤの順にそう言う。

 

 

「っ……拙いな。向こうからワイバーンがくるぞ!」

 

 エミヤはアーチャークラスで現界しており、常人の数倍以上の視力を持っており、その眼で空から来るワイバーンの姿を確認した。

 

 

「ワイバーンですか!?しかし、十五世紀にワイバーンが居たと言う記録はありません。恐らく」

 

 

「レフ教授の仕業か……」

 

 マシュの言葉に立香がそう言った。だが悠長に言っている暇はない、ワイバーンは砦に攻撃を始めた。

 

 

 《キシャアァァァァァァ!》

 

 炎を吐き、砦や人間を燃やしていく。総ての兵士達が絶望した時、彼女は現れた。

 

 

「諦めてはいけません!水を被って下さい!それで炎は凌げます!」

 

 

「あ、貴女は…」

 

 その姿を見た、兵士達は驚いた。彼女はただの村娘で在りながら、この国を救わんが為に、旗を振るい、最後まで戦い抜いた英雄なのだから。

 

 

「動ける人は負傷者を砦の中へ!此処は、私にお任せください!」

 

 

 聖少女ジャンヌ・ダルク……国の為に戦い、最後には国に殺されてしまった英雄だった。

 

 

「残った兵士は武器を取り、私に続いて下さい!」

 

 ジャンヌは旗を槍の様に振るい、ワイバーンの群れに立ち向かっていった。

 

 

「先輩、どうしましょう?」

 

 

「取り敢えず、砦を守ろう。クーフーリンも、エミヤもいい?」

 

 

「あぁ、構わんよ」

 

 

「いいぜ!」

 

 

「ダレイオスさんはマシュの援護を!」

 

 

「■■■■■!!!」

 

 ダレイオスも実体化すると、マシュと共に砦の兵士達を護る為に戦闘を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁ!偽・螺旋剣(カラドボルグ)!」

 

 

「おらぁ!燃えちまいな!」

 

 エミヤは投影魔術で作りだした剣を矢に変え放ち、クーフーリンは魔術を用いて空に居るワイバーン達を落とすが一向に数が減らない。

 

 

「おいおい、なんだよこの数は!?」

 

 

「全く、何処からこんなに出て来るのやら」

 

 クーフーリンとエミヤがワイバーンの数に呆れている。1体1体は大した事ないが、こうも数が居ると面倒なことこの上ない。

 

 

「くっ……なんていう数……主よ、どうか御加護を」

 

 ジャンヌがそう言った瞬間、天から眩い光が出現する。ワイバーン達はその光を避けているのか、群れの中央に大きな穴が空いた。

 

 

「主……なのですか?」

 

 ジャンヌは光を見て、本能的にそう呟いた。光が段々と弱くなり、その場にいる一同はそれを見て唖然となる。

 

 純白の鎧に、12枚の黄金の翼、翼に嵌め込まれた12色の宝玉。それは『美しい』の一言だった。その鎧は何も言葉を発する事無く、右手を上げた。それだけで、ワイバーン達は散って行った。




 ・輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)


 破壊龍の力の一端。破壊龍の持つ「死」の力を用いて生み出された禍々しい白い光を纏った漆黒の焔。その禍々しい焔の姿とは裏腹に魂を在るべき場所……【輪廻の輪】へと導くための焔であり、魔だけを焼き尽くす浄化の焔の為、生きている者を焼く事はない。

 この焔は龍牙が扱うだけでなく、サーヴァントの武器に纏わせる事も可能である。








 ・探しもの杖

 ランク:B 種類:探索宝具 レンジ:1 最大捕捉:1人(個)


 探し物・人を探し出す為の宝具。使い方は簡単、探し出したい物・人を想いながら杖を地面を突き、離すだけ。

 そして倒れた杖の方向に探し人・物がある。確率はほぼ100%、外れる事は殆どない。

 元ネタは【〇ね人ステッキ】。







 ・太夫黒(たゆうくろ)

 生前、牛若丸が時の帝より賜った馬。

 かなり優秀な馬だが、気性が荒く、牛若丸以外が触れようとするとその者達を悉く蹴り飛ばしたとか。

 何故か龍牙は蹴られておらず、逆に懐いている。牛若丸によると、太夫黒に蹴られなかったのは、龍牙を入れても5人もいないとか。


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EP26 知らずの内に怨みを買った

 砦の兵士達を救うべく、現れた救国の聖女ジャンヌ・ダルク。そして、彼女を助けるべく、立香はエミヤ達に彼女を援護する様に指示を出した。

 

 しかし1体1体は大した事のないワイバーンであっても、かなり数は多いために苦戦していた。だがそこに突如現れたのは神々しい光を放つ純白の鎧だった。その者は手を上げるだけでワイバーン達を追い払ったのだ。

 

 ジャンヌや立香達はその鎧の者を見上げていた。

 

 

「貴方は主なのですか?」

 

 ジャンヌはそう呟いた。

 

 

「いいや、俺はお前達の崇める神ではない。この壊れかけた世界を認めたくない唯の人間だよ」

 

 鎧の者は地面に着地すると、砦に向かい手を翳すと、砦が光に包まれる。

 

 

復元(Restoration)

 

 鎧がそう呟くと、砦を包む光が収まる。先程までボロボロであった砦が建てたばかりの様に新しくなる。

 

 それには、立香やマシュ、エミヤ達だけでなく、砦にいた兵士達も驚いている。

 

 

「これだけでは、ワイバーン達の攻撃を防ぐには心許ないな。『耐久・向上、耐炎を付与』」

 

 鎧がそう呟くと魔法陣が現れ、砦の外壁に吸収された。

 

 

「これで、多少はマシになったか……」

 

 鎧は光の粒子となって、消えていく。そして鎧が完全に消え、現れたのは龍牙だった。

 

 

「「「「無皇さん(龍牙先輩・龍牙の坊主)!?」」」」

 

 

「やぁ、藤丸君にマシュ、エミヤに、クーフーリン、ダレイオス三世」

 

 

「でも、無皇さんはなんで……」

 

 

「いやぁ……俺もなんで君達と別の所に転移したのか良く分からないんだよね。その辺りはドクターロマン辺りに教えて欲しいくらいだけど、俺の方の通信機は調子が悪いのか動いてくれなくてね………」

 

 

『いや……その色々と調べてみたけど、分からないです。はい……通信機については多分、龍牙君の膨大な魔力で通信機がいかれちゃったのかなぁ……なんて』

 

 立香の通信機から出た映像で、視線を逸らしているロマン。

 

 

「つまり主殿に不良品を渡したと言う事ですか、ロマン殿」

 

 突然現れた馬に乗った牛若丸。

 

 

「牛若、周りに敵は?」

 

 

「いいえ、特に敵影はありません。あのワイバーン共は主殿の御威光で逃げていきましたし、ゾンビもいませんでした。所でロマン殿、主殿に不良品を持たせたのですか?」

 

 

『いやそう言う訳ではない……筈だと思うよ』

 

 

「ロマン殿、帰ったら覚えておいて下さいね」

 

 牛若丸の鋭い刃の様な視線がモニター越しで、ロマンに突き刺さる。

 

 

「まぁまぁ……ドクターが一概に悪い訳じゃないんだし、そう怖い顔をしない。でも、この周辺もあんな事になってたら目も当てらんないからね………まずは怪我人の手当てが先…と言いたい所だけど」

 

 龍牙は砦の兵士達に目を向ける。兵士達の視線はジャンヌに向けられている。

 

 

「……魔女……竜の魔女だぁ!」

 

 1人の兵士がそう言うと、他の兵士達も脅え始め、砦に篭ってしまった。龍牙は予想していたのか、溜息を吐く。

 

 

「取り敢えず、此処から離れるとしよう。じゃないと攻撃されそうだ……そうなれば此方も、身を守る為に剣を抜かなければなんないからね。そうなる前に去ろう、無駄に血を流すのは良くない」

 

 周りの状況を見た立香も龍牙の言葉に同意して、この場を離れる事を決めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~森の中~

 

 一先ず、森の中に退避した一同。

 

 

「近くに魔性の物の気配がします。砦も近い……」

 

 

「あぁ、みたいだね。この辺り、一帯を浄化しておくとしよう……」

 

 龍牙の背中に先程の金色の12枚の翼が生える。そして、翼に嵌め込まれている12色の宝珠が全て真っ白に染まった。そして翼から眩い光が放たれ、森の中にいる魔物達を消滅させた。

 

 

「ふぅ……取り敢えず、魔物はこれでいい。はぁ………疲れた」

 

 

「さぁ、主殿!火の支度ができました!近くの川で魚と、食べれそうな木の実を用意しました!ささっ此方にどうぞ!」

 

 何時の間にか、焚火と食事の用意をしていた牛若丸が火の近くに座る様に龍牙に勧めた。龍牙は勧められた場所に座ると、ジャンヌの方に視線を向けた。

 

 

「取り敢えず、自己紹介しようか」

 

 それから龍牙や立香はジャンヌと自己紹介を終え、互いの状況を確認した。

 

 ますサーヴァント、英霊ジャンヌ・ダルクはクラス:裁定者(ルーラー)として現界した。そして、この時代はジャンヌが人間として生きてきた時代の直後である事が分かった。

 

 裁定者(ルーラー)とはエクストラクラスであり、他のサーヴァントに対する【特殊令呪】やサーヴァントの真名を見抜く【真名看破】といった特殊能力があるが、それが現在使用不可らしい。

 

 龍牙と立香、マシュは自分達の事を話し、ジャンヌと協力する事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無皇龍牙……1つお聞きしたいのですが」

 

 

「ふぁに?」

 

 龍牙は牛若丸の用意した魚を食べながら、ジャンヌに声を返した。

 

 

「あの、食べてからでいいですよ」

 

 

「ゴクッ……なに?」

 

 

「貴方は本当に主ではないのでしょうか?……あの時、ワイバーンを追い払った時のあの光……アレはまさしく主の光でした」

 

 ジャンヌはかつて、神の声を聞いた少女。その彼女が龍牙の放った光は主……神の光だと言ったのだ。

 

 

「それについては俺も興味あるぜ、冬木の時のあの力……さっき使ってたのとは正反対の力だったぜ。あん時はまるで破壊の権化って感じだったが………今回のはまるで違ってた。一緒に戦う以上、知っておきたいんだが」

 

 そう言ったのはクーフーリン(術)だった。彼は冬木で戦った時の記憶がハッキリある様で、龍牙の力の事が気になっていた。立香もマシュも興味津々で龍牙の方を見ている。

 

 

「差支えなければお教え頂けませんか?」

 

 ジャンヌにそう言われ、立香とマシュの方を見る。何やらキラッキラッした目でこっちを見ている。

 

 

「………はぁ、じゃあ少しばかり私情を話そう」

 

 龍牙は自分の通信機を外し、立香に通信機を切る様に言った。立香はそれに従い、通信機の電源を切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―総ての世界は【無】から創造され、破壊により【無】へと還る。これはあらゆる、平行世界・次元世界・宇宙において決して変わらない【無】が定めた絶対の法則だ―

 

 

「【無】?……とは何も無いと言う事でしょうか?」

 

 マシュは龍牙の話した【無】について考えを巡らせる。

 

 

 ―まぁ簡単に言えばね。【無】とは言わば、絶対の意志だ………この世界では【根源の渦】とか呼ばれている。【無】とは【根源の渦】の意志の様な物と考えてくれればいい―

 

 

「根源の渦?」

 

 

「先輩は元一般人なので分からないでしょう……【根源の渦】とは世界の外側に存在すると言われる全ての魔術師が最終終着点とする、全ての始りであり、終わり。ありとあらゆる概念・存在を内包するものだと聞いています」

 

 マシュは立香にそう説明するが、立香は今一分かっていないらしい。

 

 

 ―まぁ簡単に言えば、【無】と言うのは世界の意志そのもの。【無】は創造と破壊と言う概念を産み出して、世界を創る様に命じたそうだ。そして創造と言う概念は人間の言葉で表すなら【神】、破壊は【破壊神】【邪神】という所だろう。俺はその創造と破壊の力を持っている、決して覆す事のできない世界の理そのものをね―

 

 

「はぁ!?そんな事、不可能だろ!?普通の人間が理、そのものを内包できる訳がねぇ!仮にそんなもんを人間の身体に内包したとしても身体が耐えれる訳がない!」

 

 クーフーリン(術)はそう言い放つ。普通の人間がそんな力を身体に封じれば、使うどころか封じた時点でその者の身体は崩壊するだろう。

 

 

 ―仮にこの身が【創造】と【破壊】を扱う為に生み出された存在だとすれば話は別―

 

 

「そんなもの、できる者がいる訳がない」

 

 エミヤはそう言う、クーフーリンもそれに同意する。

 

 

 ―普通はそう考えるよね、でも深く考えないでくれ……俺が持ってるのは【創造】と【破壊】の力さ。ついでに戦闘能力は経験に基づくものだよ―

 

 龍牙はそれだけ言うと、欠伸をして眠そうにしている。

 

 

「まぁそう言う事さ……なんで、そんな馬鹿げた力を持っているのかは想像にお任せすると。後、この話は他言無用で願うよ。特にダ・ヴィンチちゃん辺りに聞かれたら根掘り葉掘り聞いて来そうなんで……じゃあ俺は少し休ませて貰うよ」

 

 龍牙は立ち上がると、何処かに行ってしまった。牛若丸も霊体化してその後に続く。

 

 話が終わった一同は何が何なのか分からないと言う顔をしていた。

 

 

「えっと彼は何時もあんな感じなのですか?」

 

 

「はっはい、龍牙先輩は大切な事は何も仰ってくれません………ですがジャンヌさんは、何故龍牙先輩を主だと?」

 

 

「あの方の放っていた光が、かつて感じた主の御威光に似たものだったからです」

 

 ジャンヌは龍牙が行った方向を只々見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何処かの城の玉座に座っている女性が近くにいる男に視線を向けた。

 

 

「ねぇ、見たジル?」

 

 真っ黒な鎧を着て、ジャンヌと同じ顔をしている女性。彼女こそ、ジャンヌ・ダルク・オルタ、この時代の人々に「竜の魔女」と呼ばれた存在だ。

 

 

「えぇ、見ましたとも。あれこそ主の光!なんと忌々しい!」

 

 彼女の従者、キャスターとして現界したジル・ド・レェはワイバーン達を退けた光についてについて話し合っていた。

 

 

「本当に忌々しい………」

 

 ジャンヌ・オルタもまたワイバーンを退けた光を思い出し、イラだっている。

 

 

「ですが、ジャンヌ、ご安心を。例え相手が誰であろうと貴女の歩みを止める事はできません、私がさせません!」

 

 

「そうね……ジルが一緒なんですもの…大丈夫よね。私は少し休むわ……」

 

 ジャンヌ・オルタはそう言うと、玉座から立ちあがり出ていってしまった。ジルはそんな彼女を笑顔で見送った。ジャンヌ・オルタが出ていったのを確認すると、クワッ!と目を見開いた。

 

 

「おのれぇぇぇぇぇっぇぇぇ!!!!忌々しい神めぇぇぇっぇっぇぇ!!!」

 

 今にも目玉が飛び出しそうな程、目を見開いている。

 

 

「御身が我が前に現れるとは思っても見なかった!!いずれは天の座より引き摺り降ろしてやろうと思っていたが、手間が省けた!!!我が聖処女を救わなかったにも関わらず、他の民を救う為に現れるとは………フフフフフフフ………ハハハハハハハハハハ!!!その光を汚し尽くしましょうぞぉぉぉぉ!!!」

 

 狂ったかの様に、獣の様に叫び続ける。総ては国の為に、民の為にと戦い続けた聖女を救わなかった神への怨み、憎しみが彼をそうさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へっ………へっくしゅん!ずずっ……誰か噂してるのかな」

 

 

「主殿、大丈夫ですか?」

 

 

「あっうん……俺は少し休むとするよ」

 

 龍牙はそう言うと、大きな木にもたれ掛かり眠りについた。半狂乱となったジル・ド・レェに完全に標的にされているなど露知らずに。



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EP27 ラ・シャリテ

 ~話し合いの翌日~

 

 朝が来た。そうなると、必然的に朝食を取らねばならない。サーヴァントは魔力だけあればいいが、生身の人間である立香と龍牙は違う。生きているので、食事は絶対だ。一食抜いても死にはしないが、今は戦いの中だ。いざと言う時に動けなくなるのは頂けない。

 

 龍牙は目を覚まし、そんな事を考えていた。取り敢えず近くの川に魚でも捕りに行くかと考えていた時……

 

 

「おはようございます!主殿!朝食の支度は出来ております!」

 

 ブレーキの壊れた忠犬……牛若丸がそう言ってきた。牛若丸が調理したのだろうか?

 

 

「いいえ!私は魚や木の実を捕ってきただけです、調理はエミヤ殿がしました!」

 

 

「あぁ、そうなんだ。ありがとう」

 

 

「いぇ!従者として主の食事を用意するのは当然の事です!」

 

 

「よし!褒美に撫でてやろう!」

 

 

「あっ…そんな……あぅう、牛若は幸せ者です」

 

 

(あっ……つい褒めてしまった。どうにも牛若を見てると犬に見えて仕方ないな)

 

 こうして再び忠誠度が上がる事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 食事を済ませた一同は、一先ずオルレアンへと向かう事にした。しかし、直接向かうのは困難なのでその周辺の村や町で竜の魔女の情報収集と敵陣営の戦力調査をして敵の情報も集める為に、まずは目的地をラ・シャリテへと進路をとった。

 

 

「歩いていては間に合わないかもしんないんで……掴まってくれ」

 

 そう言い出したのは龍牙だった。一同は振り返って見ると、背に先日見た黄金の翼を生やしていた。その腕には先日見た白い鎧の腕部だけが装備されており、手には鎖が握られていた。

 

 

「あっラ・シャリテの名前を聞いて思い出した。多分、街は襲われる」

 

 

「えっ、無皇さん、それは一体どう言う事ですか!?」

 

 

「ぇ~あ~、俺の力に未来視って物が在ってな。その力で未来が見えたんだ、この先の村が襲われる……信じる、信じないは君等次第だ。俺は行く……さっさと決めてくれ。無駄に血が流れるのは嫌いなんだ」

 

 龍牙に未来視の力はない、しかしこの世界でこれから起こる事を画面の向こうからとは言え知っているからだ。だが、違う世界から来たといきなり言っても信じられる訳がないので、龍牙は敢えてそんな嘘を吐いた。

 

 立香達も龍牙が未来視や鎧について、聞きたいと言う気持ちはあったが、「村が襲われる」と聞いてはそんな事は後回しだ。

 

 

「サーヴァントは霊体化してくれ、そんで着いて来れば振り落とされないだろう………藤丸君はマシュとジャンヌにしっかりと抱き留めて貰いなよ」

 

 

「はい!」

 

 

「君等も色々と知りたいだろうが、後回しだ!ちょいと飛ばすから歯食いしばれ!」

 

 龍牙がそう言うと、背の翼が大きく広がりその場から飛び上がった。その手に握られている鎖にはマシュとジャンヌが掴まっており、2人に抱えられる形となった立香がいる。他のサーヴァント達は霊体化した。

 

 龍牙はこの先の村へと向け、翔け出す。生身の人間である立香に悪影響のない範囲のスピードで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本来、数時間かかる筈の道のりを十数分で村が直ぐ近くに見えた。既に村は煙が立ち上っており、人々の叫び声が聞こえる。

 

 

「一足遅かったか!でも未だ、生きてる人間はいる!藤丸君、此処から先、一般人の君には多少居心地は良くないだろうけど、良く見ておいてくれ!この先、この村で起きる様な事が沢山起きる!」

 

 

「はっはい!」

 

 立香は龍牙にそう言われたものの、何の事か分からずにいたが、その言葉の意味を直ぐに理解する事になった。

 

 

 

 村についた龍牙は直ぐに立香達を降ろすと、周りの状況を確認する。

 

 

「サーヴァントが5。距離はあるけど……殺された人間がリビングデッドになってやがる」

 

 敵サーヴァントを感知した龍牙、しかし目の前には殺された人間がゾンビとなり生きている人々を襲っていた。

 

 

「藤丸君達とジャンヌは此処から東にいるサーヴァントの元に向かってくれ」

 

 龍牙は着地しながら翼を消し、そう言った。

 

 

「ですが、貴方と1人のサーヴァントでこの数は」

 

 

「問題ない、でもクーフーリンとエミヤ。彼等の手を借りたい。生きている人達を助けてくれ」

 

 

「承知した」

 

 

「任せときな」

 

 2人は現界し龍牙の言葉に了承した。龍牙は2人に1袋ずつ何かの入った袋を渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「簡易的ではあるが、治療魔術を込めた玉だ。傷に翳すだけで、術式が展開する様に設定してる。多少の怪我なら、完治できる。ないよりはマシだと思ってね」

 

 

「お前……こんなの用意してたのか」

 

 

「救える命は救うのが俺のやり方だ……失った命は聖杯であろうが、人理修復しようが戻らないから……出来るだけ命は救いたいと思って用意したんだ、不要だったか?」

 

 

「いや、俺は治療のルーンってのは得意じゃねぇから助かる……お前がどう言う人間か、何となく分かってきたぜ」

 

 

「私としてもかなり助かるよ……君はかなりお人好しの様だ」

 

 

「何とでも言え」

 

 龍牙はそう言いエミヤとクーフーリンを見送りながら、破壊龍の眼(ノヴァズ・アイ)を発動させた。

 

 

「牛若!お前も藤丸君達と共に行ってくれ、俺も直ぐに追いつく」

 

 

「しかし……分かりました。御武運を……藤丸殿、マシュ殿、ジャンヌ殿、参りましょう」

 

 

「でも無皇さんが…」

 

 

「主殿で在れば大丈夫でしょう。此処に居ては邪魔になります、行きましょう」

 

 牛若丸の言葉に戸惑いながらも頷くと、マシュとジャンヌと共にサーヴァントの元に向かった。藤丸のサーヴァント、ダレイオスも現界しその後に続いていった。

 

 

「さて………と」

 

 龍牙は彼等を見送ると、直ぐに周りを確認した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―■■■■■■―

 

 唸り声を上げて、リビングデッドとなった者達が集まって来た。

 

 

「救われたいか………そうだろうな。その苦しみから解放してやる………【輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)】」

 

 魂を在るべき場所へと導く輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)を発動させ、全身から黒焔を放つ龍牙。その眼にはリビングデッドとなった者達に対する憐みと哀しみが宿っている。

 

 

「痛みはない………今此処に救済を……そして彼等の魂に安らぎを」

 

 龍牙はそう言うと、黒焔が龍の形になり辺りのリビングデッド達を焼き尽くしていく。その焔に包まれたリビングデッド達は灰になる瞬間、安らかな表情へと代わった。少なくとも龍牙にはそう見えた。

 

 

「この先、こんな事ばかりか………あぁ…嫌になる。でも俺は俺の役目を果たさないとね」

 

 燃え尽きた灰から魂達を眺めながら、龍牙はそう呟いた。そんな考えを振り払うかの様に首を振るうと、立香達の後を追い掛けつつ、現れたリビングデッドを倒しながら進むのであった。



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EP28 決着?いいえ、逃げます

 ~ラ・シャリテ~

 

 龍牙は魔力で身体強化し、5分と掛からず立香達に追い付いた。

 

 そこに居たのは嘔吐している立香と彼を護るマシュ、ジャンヌ、ダレイオス、牛若丸、そして彼等に相対するワイバーンの群れと、5人のサーヴァント達だった。

 

 

「予想通りに5人いるな」

 

 

「うぇ……むっ無皇さん」

 

 

「大丈夫か、藤丸君?…………まぁ気持ちは分かる、俺も始めの頃は慣れなかったからな、今も慣れないけど」

 

 立香に近付き、様子を見た。恐らく、周りの無残に殺された無数の死体を見て気分が悪くなったのだろうと、考えた龍牙はポケットからハンカチを取り出し渡して立香を立ち上がらせた。立香の反応は当然だろう、こんな光景を見て平然としている一般人はいない。

 

 

「当分の気持ち悪いだろうけど、取り敢えず気持ちはしっかり持っておけ。目の前には敵がいる」

 

 龍牙は立香にそう言うと、マシュとジャンヌの前へと出た。

 

 

「ルーマニアの王ヴラド三世、ツンデレ乙女脳カーミラ、龍騎士のシュヴァリエ・デオン、聖女(拳系の聖なる女性)マルタ………そして竜の魔女ジャンヌ・ダルク・オルタ」

 

 

「これは奇怪な事だ、我等の真名を見破るとは」

 

 

「全くだね……少なくとも私の知り合いでもない」

 

 

「あらっ私はそんなに有名かしら……まぁそっちにはジャンヌ()がいるから分かるのは当然かしら」

 

 ヴラド三世、デオン、ジャンヌ・オルタはそれぞれそう反応した。自分の真名が何故見破られたか分からなかったが、自分達の真名を見破った目の前の人間に興味が沸いた様な目をしている。

 

 ヴラド三世はルーマニアの王としてよりも、吸血鬼ドラキュラとしてのイメージが強い英霊である。ハロウィン・イベントでは大変な扱いを受けたが、裁縫得意の面倒見のいいおじさんである。ピックアップで来てくれた。

 

 シュヴァリエ・デオン、女であり男、男であり女として語られる人物。謎が多く、性別は判別できず、自己暗示によって男にでも、女にもでもなる。細い体にも関わらず筋力Aである。モーさんピックアップで呼符で来た、初めての金演出で期待していたので残念。

 

 ジャンヌ・ダルク・オルタ、ジャンヌの憎しみの側面という話であるが、実際は違う。今は此処で離さないが、知ってる人は知ってる。ピックアップ時に無課金で溜めた石を60個消費で来た。

 

 

「ちょっと待ちなさいよ!私、なんか変な呼び方されたんだけど!?」

 

 彼女はカーミラ、ドラ娘の別の未来の姿。娘時代から乙女脳(スイーツ)、ツンデレが歳を経て磨きが掛かっている。特に狙ってなかったので興味はない、アサシンだし、アサシンだったらジャックがいいです。ロリ可愛い、おかあさんよりパパまたはお兄ちゃんと呼んでほし………コホン、何でもないです。

 

 

「私も何か含みのある言い方をされた様な気がするんですが……」

 

 彼女はマルタ、祈りだけで悪竜を鎮めたと言われる聖女だ。多分、祈り=拳orドスの効いた睨みだと思ったのは俺だけじゃないと思う。だって水着になって鉄拳で制裁だよ?始めて見た時はちょっと驚いたわ。俺のカルデア(スマホ)に来てくれた聖女様です。

 

 以上、解説:龍牙でした。

 

 

「気にしないで、ツンデレ、聖女(姉御)

 

 

「よし、殺す!今すぐ殺すわ!」

 

 カーミラは完全にご立腹の様だ、本当に今すぐでも龍牙に襲い掛かりそうだ。マルタに至っては殺気を込めた瞳で睨んでいる、あっ周りのワイバーンが逃げ出した。

 

 

「さてと……冗談はさて置いて……ジャンヌ・ダルク・オルタ……長いな、よし、邪ルタ!」

 

 

「誰が、邪ルタよ!?」

 

 

「えぇ……長いもん、仕方ない。ジャンヌ・オルタ………何でこの村を襲ったのか教えて欲しいんだが」

 

 

「理由?……私は国に裏切られ、総てに裏切られただから復讐よ。そしてこの国を滅ぼすの、全部!全部、この国の全部を炎で包んでやるわ!」

 

 その眼には自分の祖国フランスに対する怒りと憎しみしかない。龍牙は彼女がある人物の願いにより生み出された存在である事を知っていた故に、少し考えた。彼女が悪いのか、ジャンヌを裏切り辱めた国が悪いのか……それとも歪んだ願いを持った者が悪いのか………それに答えなどない。

 

 正しいとは人の数だけあり、他から見れば間違っていてもその人物からすれば正しいのかも知れない。龍牙はそう考えていた、されど……。

 

 

「例え、そうでも…………此処には命が在った、それが奪われた………悲しい事だ、此処にいた者達の子に、そのまた子へと繋がる筈だった命の光が失われたのは」

 

 龍牙は近くで亡くなっていた亡骸へ近付き、開いていた瞳を閉じた。

 

 

「だから………俺は君達を倒すとしよう」

 

 

「倒す?……ぷくくく……アハハハハハハハ!面白い事を言うのね!?見た所、貴方唯の人間……マスターよね?人間である貴方がサーヴァントに勝てるとでも!?」

 

 ジャンヌ・オルタは龍牙の言葉を聞き、笑い出した。周りのサーヴァント達も笑っている。それもそうだろう、普通は人間がサーヴァントに敵う筈がない。龍牙は普通ではない事を知らない彼等が笑うのも無理はない。

 

 だが、龍牙の背に金色の翼が生えた瞬間、ピタリと笑いが止まる。

 

 

「『【無】より産まれし創造の龍よ。創造の力を我が身を纏う鎧と成せ』」

 

 

創造龍(クリエィティス・ドラゴン)龍鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙の身体を眩い光が包み込んだ。そして光が止むと、そこには穢れの無い純白の鎧を纏った龍牙がいた。

 

 

創造龍の鎧(クリエィティス・ドラゴンメイル)

 

 12枚6対の金色の翼、翼に埋め込まれた12色の宝玉、黄金の2本の角のついた龍を模した兜、両腰部と両腕部のアンカー、腰の辺りから出る尻尾。その姿は、おとぎ話や伝説に出て来る騎士の様だ。

 

 

「【グオォォォォォォォォォォォ!!!】」

 

 龍牙が龍の様な咆哮を上げた。

 

 

「(理性は残ってるけど、殺戮の為の狂化されてるな。取り敢えずは)ワイバーンの群れは邪魔か。風よ」

 

 龍牙はジャンヌ・オルタを含めた5人のサーヴァントの位置を確認し、空を飛ぶワイバーン達へと視線を向けた。

 

 

(WIND)

 

 龍牙の声ではない声と共に、翼に埋め込まれた12色の宝玉の内、黄緑の宝玉が光り始めた。

 

 そして龍牙が手を上げると、突風が吹き始め、その風が小さな台風の様になり空を飛ぶワイバーン達を巻き込んだ。台風の中で互いにぶつかり合い、風によりその肉を引き裂かれているワイバーン達は全滅した。

 

 

「なっ?!私のワイバーン達がこんなにもあっさりと………その光……あの時に見た、忌々しい主の光」

 

 ジャンヌ・オルタは憎しみに満ちた目で鎧を纏った龍牙を睨み付けた。

 

 

「俺はお前等のいう神じゃないし、基本的に神嫌いだし……最近、良く間違えられるなぁ」

 

 

『パチッ』

 

 龍牙はそう言いながら溜息を吐いた。指を鳴らすと、空の台風が掻き消えた。

 

 

「さてと………唯の人間が相手してやるよ。藤丸君、マシュ、少し休んでな(牛若、彼等を頼んだよ)」

 

 龍牙は背中に装備されている2振りの刀の内、1振りを鞘から引き抜き、剣先をジャンヌ・オルタ達に向けた。その行動と同時に牛若丸に念話を送った、牛若丸はそれを受けると立香達を護る様に彼等の前に立つ。

 

 

「ふふふ……いいわ、忌々しい神め。此処で滅ぼしてくれる!行きなさい、バーサーク・ランサー!バーサーク・アサシン!バーサーク・セイバー!バーサーク・ライダー!」

 

 ジャンヌ・オルタは自分のサーヴァント達に命令を出した、サーヴァント達はその命令を受け、龍牙へと襲い掛かる。

 

 

「『炎よ。聖光の力を得て闇を焼く、神炎と成れ』」

 

(LIGHT)】【(FLAME)

 

 龍牙の背の翼の白い宝玉と赤い宝玉が輝き、手に持つ刀の刀身を白い炎が覆う。

 

 

「死になさい!その血!全て搾り取ってあげるわ!【幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)】」

 

 カーミラが自分の宝具を使用した。

 

 

「ん?」

 

 龍牙が後ろを振り返るとアイアン・メイデンが現れた。アイアン・メイデン、それは聖母マリアを模ったとも言われる女性の形をした空洞の人形……空洞の中には無数の針が在り、閉じ込められるとその針に串刺しにされる拷問危惧である。逸話ではカーミラはこの拷問危惧を使用し処女の血を絞り取り、それを浴びたと言われている。

 

 幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)はその逸話が宝具に昇華したものだ。

 

 

「(確かランクCの対人だったな……それに女性特攻だったか)……あっ」

 

 龍牙は前の世界の記憶を呼び起こした。それを思い出している間に幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)に閉じ込められてしまった。

 

 

「?!未だ死んではないわ!」

 

 カーミラは宝具の中で龍牙が未だ生きている事に気付くと、そう叫んだ。

 

 

 ―ギッ……ギィー―

 

 幻想の鉄処女(ファントム・メイデン)が内側より抉じ開けられた。中から傷1つない白き鎧をが現れた。

 

 

「うべぇ~血生臭い……全く、普通なら死んでるぞ」

 

 

「無傷ですって!?」

 

 

「この程度じゃ死なんよっと!」

 

 龍牙が右手に持つ白い炎を纏う刀を振るうと、斬撃が炎の刃とカーミラへ飛来する。

 

 

「えっ……ちょw!?」

 

 炎の刃の直撃を受けたカーミラは爆発した。

 

 

「ふぅ………どわっ!?」

 

 一息ついた龍牙に遅い掛かって来たヴラド三世とデオン。2人の槍と剣を咄嗟に手に持つ刀で防いだ。

 

 

「我等の攻撃を難なく防ぐとは……」

 

 

「やっぱり只者じゃないね、君」

 

 

「そりゃどうも……やべぇ、鈍り過ぎだ。セイバー時は力任せだったけど……今後はそう言う訳にはいかないか」

 

 龍牙はそう言いながら、左手でもう1振りの刀を振り抜いた。それに一瞬早く気付くたヴラドとデオンは後ろに下がった為に無傷だ。

 

 

「はぁ!」

 

 2人が下がった段階で後方に居たマルタが連続で魔力弾を放つ。龍牙はそれに気付くと、回避しつつ両手の刀で魔力弾を斬り裂いていく。魔力弾は全て捌いた時点で龍牙は一度下がると、空を見上げる。

 

 

「そろそろか……」

 

 

「余所見なんてしてていいのかしら?はぁ!!」

 

 

「良くもやってくれたわね!」

 

 龍牙がそう呟いた直後、マルタとボロボロの格好のカーミラが同時に魔力弾を放ってくる。龍牙はそれを刀で全て斬り伏せた。

 

 

「ありゃ、流石にあの程度では倒せなかったか」

 

 ボロボロのカーミラを見て、そう言うと何故か刀を2振りとも鞘に納めた。

 

 

「なんのつもり……私達()を目の前に武器を収めるなんて、もしかして命乞いかしら?なら泣き叫んで命乞いなさい、そうすれば私の奴隷にしてあげてもいいわよ?」

 

 ジャンヌ・オルタが武器を収めた龍牙に対しそう言い放つ。龍牙は一度、立香達の方に視線を向けてみる。牛若が今にも龍牙を侮辱したジャンヌ・オルタに襲い掛かりそうな勢いだが、何とか理性で抑えているが既に手には刀が握られておりぷるっぷるっと震えている。

 

 

「お断りだ。取り敢えず目的は果たしたし逃げさせて貰うよ」

 

 

「はぁ?!逃がすとおもっt『カランッ』ん?」

 

 ジャンヌ・オルタは足元で何かを蹴った感触を覚えて、下を見てみると無数の缶が転がっていた。しかしこの時代にこんな物があるだろうか?

 

 

「なにこれ?」

 

 ジャンヌ・オルタはその缶を持ち上げてみる。他のサーヴァント達もその缶に注目した。缶自体は黄色に魚のマークが描かれており、上部にはピンが付いている。そのピンには細いワイヤーがついており、それを辿って行くと龍牙の方へと向かっていた。

 

 

「せぇの……ほいっ!」

 

 龍牙が何かを引っ張る仕草をすると、ジャンヌ・オルタの持つ缶と地面に転がる無数の缶のピンが全て抜けた。

 

 

「「「「「?」」」」」

 

 ジャンヌ・オルタ達は何が起きたのか分からず頭に?を浮かべる。次の瞬間、缶から煙が噴き出した。

 

 

「げほっ!げほっ!?なにこれ!?くさっ!」

 

 煙で咽るジャンヌ・オルタ逹、視界は勿論遮られている。

 

 

『フハハハハハハ!どうだ!くさやの匂いを忠実に再現したスモークグレネードだ!じゃあな!』

 

 そう笑う龍牙の声が聞こえ、「ふざけるなぁー!」と叫びたいジャンヌ・オルタ逹だが臭さで真面に呼吸できない一同は咽かえ続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハハ!どうだ!くさやの匂いを忠実に再現したスモークグレネードだ!じゃあな!」

 

 煙に向かいながら笑いそう叫ぶ龍牙。一旦落ち着くと、龍牙は直ぐに反転した。

 

 

「と言う訳で逃げよう」

 

 

「「「ぇえ!?」」」

 

 龍牙の発言に驚く立香、マシュ、ジャンヌ。

 

 

「戦わないんですか!?」

 

 

「今は戦わない。現在優先すべきは生き残った人達を救う事……エミヤ達のお蔭で生き残った人達は避難する事ができた。今回はそれでいい」

 

 

「でっでもそれじゃあ……」

 

 立香は周りの無残に殺されている村人の亡骸を見る。

 

 

「分かってるよ、藤丸君。此処で死んだ人たちの仇は討つ。でも今は生き残るのが優先。死んだ人達より生きてる人達を助けないとね」

 

 

「っ……分かりました。マシュ!ダレイオスさん!」

 

 

「了解です、先輩」

 

 

「ジャンヌもそれでいいね?」

 

 

「はい、構いません」

 

 龍牙達はその場から撤退した。今、生きてる人達を助ける為に。立香達には疑問があった、あのスモークグレネードどうしたんだろうと?

 

 

「創造したのさ、前々から役立つだろうと思って練習したかいがあったよ」

 

 と言われて唖然とした一同であった。



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EP29 神殺しVS聖女

 龍牙達はラ・シャリテから撤退し、生き残った村人達を助けたエミヤとクーフーリンと合流するべく合流ポイントへと向かった。

 

 来た時の様に、龍牙により運ばれた立香達。合流ポイントはラ・シャリテの近くの森を抜けた先だ、そこまでは数分で到着した。だが龍牙はポイントまで行かず、近くに立香達を降ろした。

 

 

「無皇さん、此処ですか?」

 

 

「いや、ポイントはもう少し先なんだが……問題は」

 

 龍牙はジャンヌの方を見た。エミヤ逹が助けたのはラ・シャリテの村人達、襲ったのはジャンヌと同じ顔をしたジャンヌ・オルタ。この状況でジャンヌを連れて行けば騒ぎになるのは間違いない。

 

 

「……取り敢えず、藤丸君とマシュは先にエミヤ逹と合流してきてくれ」

 

 

「分かりました。行こう、マシュ」

 

 

「はい、先輩」

 

 立香とマシュはエミヤ達の方へ先に向かった。

 

 

「主殿、サーヴァントの気配です」

 

 

「うん、そうだね」

 

 牛若丸がサーヴァントの気配に気付き、その方向を睨む。

 

 

「ちょっと待ってくれよ、僕等は君達と戦う気はない」

 

 そう言って木の陰から出て来たのは、2人の男女だった。

 

 

「武器をしまって下さらない?私達、戦う気はないの」

 

 赤いドレスを着た女性がそう言うが、牛若丸は刀の柄から手を離さない。

 

 

「牛若、彼女達は大丈夫だ」

 

 

「……分かりました」

 

 牛若丸は刀から手を離すが、未だ現れたサーヴァント達の事を警戒しているのか龍牙の前を庇う様な体勢でいる。

 

 

「取り敢えず自己紹介だ。俺は無皇龍牙、未来からこの異常を修正しに来た者だ」

 

 

「まぁ!未来から来られたの?!」

 

 

「俺達の目的はこの時代を修正すること……つまりはこの騒ぎを起こしてる奴等を倒す。そっちの目的は時代は違えどフランス(自国)を救う事だろう、マリー・アントワネット王妃?」

 

 

「あらっ?私、名前言ったかしらアマデウス?」

 

 

「いや、マリーは言ってないと思うよ」

 

 

「なら貴方はどうして私の事知っているの?もしかして貴方もサーヴァントで、何処かで会ったのかしら?」

 

 

「いいや、俺は一応生身の人間。貴女に会うのは初めてですよ王妃様、それにモーツァルト」

 

 ―マリー・アントワネット:国を愛し、民を愛し、国に愛された。産まれながらにしての偶像(アイドル)である、その微笑みは民を癒し、彼女の眼差しは心酔を得る。革命により悲惨な最期を迎えたフランス王妃でもあり、「パンがなければお菓子を食べればいいじゃない」と言った人でもある。王族ならではの発言だと思う。

 

 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト:世界に名立たる天才作曲家にして演奏家。音楽に対しては聖人、人間に対してはクズの部類にはいるらしい。あんまり星1だからあんまり育てなかったな……でも彼の音楽は常にマリー・アントワネットの為に捧げられていたらしい。男としては見習いたいと思う―

 

 

「僕の事まで……一体、君は何者だい?」

 

 

「人間ですよ……知っているだけのね。俺はこの世界を護らないとならんので戦うが、貴方達はどうする?」

 

 

「貴方が誰かは分からないけど……民を護って下さるなら是非とも協力させて頂くわ。ねぇアマデウス」

 

 

「まぁ、マリーがそう言うなら」

 

 

「それで、そちらは?」

 

 マリーはジャンヌの方を向いてそう言う。

 

 

「わっ私はジャンヌ・ダルクと申します」

 

 

「知ってますわ!憧れの聖女ジャンヌ・ダルク!」

 

 

「…………私は聖女なんかではありませんよ」

 

 

「えぇ、皆もそれは分かっていたと思います。ですが貴女は聖女と呼ばれるに相応しい功績を残した。オルレアンの奇跡、ジャンヌ・ダルク」

 

 顔を赤くし聖女である事を否定するジャンヌ。だがジャンヌの残した功績は聖女と呼ばれるに相応しいものだとマリーは言った。そんな話をしながら、互いに情報を交換していた。途中で、立香やマシュ達とも合流し召喚サークルを近くの霊脈に設置した。村人達は今はクーフーリンの作ったルーンの結界内に居るので、現在は安心らしい。

 

 これからどうするか話し合いの最中に龍牙は何かを感じて、森の奥の方を見る。

 

 

「主殿、どうかなさいましたか?」

 

 

「……竜の気配だ。どうやら向こうの聖女様が来た様だな」

 

 龍牙の言葉を聞いて、皆は戦闘準備に入る。その数秒後、空からワイバーンの群れが現れた。だがワイバーン達は襲い掛かって来ない。その中の1体のワイバーンの背からサーヴァントが降りてきた。

 

 

「こんばんわ、皆さま。騒がしい夜ね」

 

 

「全くだ。聖女マルタ、その様子じゃ残ってる理性を振り絞って此処にきた感じかな」

 

 

「えぇ、あの竜の魔女の所為で今にも暴れ出しそうだけど………残った理性が貴方達を試せと囁いている。竜の魔女が騎乗する究極の竜種……私を越えれなければ、アレは倒せないもの。それにしてもあのワイバーン達使えないわね……いや貴方がいる所為かしら、謎のマスターさん?」

 

 マルタは興味深そうな眼で龍牙を見る。

 

 

「多分正解かな、幻想種と言えど獣としての本能があるからな……ワイバーン共も自分の命は惜しいらしい。藤丸君達は下がってな」

 

 

「でっでも」

 

 

「未だ顔色が戻ってない、そんなんじゃ真面に指揮できないだろう」

 

 立香にそう指摘された、確かに未だ顔色が悪い。あの様な惨劇を見たからだろう、一般人の彼に直ぐに立ち直れと言うのは酷である。しかし本来なら此処で戦うしかない。だが此処には本来居ない筈のイレギュラー(龍牙)がいる。

 

 

「これから悲惨な事が数多くある………辛くて膝を付く事もあるだろう、でも最後には立ち上がれ。立ち上がり、戦わないと明日はない。だが辛い時は休みも必要だ、君が自分で立ち上がるまでは俺がサポートする。今は休息の時だ、君は休んどけ………無理しても強くはなれん」

 

 龍牙はそう言い、立香を下がらせる。龍牙なりに立香の身を案じてるのだろう。

 

 

「話は済んだかしら?私も自分を抑えるのが大変なんだけど」

 

 

「待ってくれてありがとう」

 

 

「敵に礼を言うの?可笑しな人……我が名はマルタ!そして出でよ我が宝具、【愛知らぬ哀しき竜(タラスク)!】」

 

 彼女の身から魔力が溢れ、呼び掛けに応えた巨大な亀の様な竜【タラスク】が顕現した。

 

 

「私如きに勝てぬ様では竜の魔女には勝てませんよ」

 

 

「そりゃそうだ」

 

 

創造龍(クリエィティス・ドラゴン)龍鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙はそう言うと、創造龍の鎧(クリエィティス・ドラゴンメイル)を纏った。

 

 

「あの人と似た光………」

 

 

 《グゥゥ………》

 

 マルタとタラスクは龍牙の鎧から溢れ出る力に気を圧されるが、それを振り払う。

 

 

「さて……行きますか!」

 

 

「タラスク!」

 

 龍牙はその場から飛び上がると、マルタはタラスクに指示を出し龍牙を追撃させる。

 

 

「おらっ!」

 

 タラスクの体当たりを避け、すれ違い様に甲羅へと攻撃する。

 

 

 ―ガァン!ガキィ!―

 

 

「かってぇぇぇぇな!おい!」

 

 

「その程度の攻撃でタラスクの甲羅には傷1つ付きません!」

 

 

「成程……ならこうするまでだ!」

 

 龍牙はタラスクの背に向かい翔け出した。そして自分の魔力で筋力と俊敏を強化する。

 

 

「1回で駄目なら10回!10回で駄目なら100回繰り返すまでだ!」

 

 ―ガンッ!ガガガガガガッ!―堅い物と物がぶつかる音が響く。龍牙の鎧を纏った拳とタラスクの甲羅のぶつかる音だ。

 

 

「何度やっても無駄……はっ!まさか!」

 

 

「どっせぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 

 ―ガァン!ビキッ!―

 

 数十回拳を繰り出した所で、大きく腕を引き拳を放つ。凄まじい音と共にタラスクの甲羅に罅が入る。龍牙は出鱈目に拳を繰り出した訳ではない、数十回の拳を全て同じ一点に寸分違わず放っていた。例え強固な甲羅であっても、同じ場所を集中的に攻撃されれば傷が入るだろう。

 

 

「くっ!調子に乗るんじゃないわよ!『愛を知らぬ哀しき竜よ。星の様に!』」

 

 完全に口調が変わったマルタはタラスクの真名を解放する。その全ての魔力をタラスクに注いだ。此処で決めに来るのだろう。

 

 

「【愛知らぬ哀しき竜(タラスク)!!!】」

 

 タラスクは光を纏い、高速回転をしながら龍牙に向かい放たれた。

 

 龍牙はそれを見ると、右手で腰の剣を抜いた。剣はライフルの様な形へと変形した。そして銃口に瞬時に魔力が収束する。

 

 

「【神を射抜くは龍の息吹(ロンギヌス・ブラスター)】」

 

 白い閃光が光を纏うタラスクの身体を貫通した。

 

 

「嘘っ……」

 

 

「もう、休みな」

 

 

「しまっ……!」

 

 タラスクが倒された事で唖然としていたマルタの懐に潜り込んだ龍牙はそう言うと、剣でマルタを斬り裂いた。

 

 マルタの傷口から黄金の粒子が噴き出し始め、ゆっくりと倒れる。龍牙はそんな彼女を抱き留めると頭部の鎧が消え、顔を現す。

 

 

「ふふ……優しいのね」

 

 

「君に敬意を示しているだけだ。狂化されながらも、聖女たらんとした君にね」

 

 

「そう……全く、聖女の虐殺なんてさせんじゃないってぇの」

 

 

「魔女のドラゴンの天敵はリヨンかい?」

 

 

「何故それを……貴方は本当に何者なの?」

 

 

「さてね……せめてもの冥途の土産に教えて上げよう。俺は【異世界の神殺しさ】」

 

 とマルタにだけ聞こえる声でそう言った。それを聞くと、納得した様な顔をするマルタ。

 

 

「そういう事もあるのね………ごめんなさい、タラスク。今度は、まともな所に召喚されたいわね」

 

 そしてマルタは完全に消滅した、それにより宝具であるタラスクも消滅する。

 

 

「………ふぅ、一先ずは此処までは変わってないか」

 

 龍牙はそう言いながら鎧を解除した。そして空の光輪を見上げた。

 

 

「何にせよ……早く終わらせたいものだ、この様な惨劇は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~マルタを倒した翌日~

 

 龍牙は目を覚ますと、朝日を見ていた。特に変哲もない朝日であるが、非日常である現在からすれば、今日を迎える事のできた喜びが在った。

 

 

「今日を迎えれた……はぁ、これが何もない日常なら嬉しいんだがな」

 

 

「あっ……無皇さん」

 

 

「ん?藤丸君か……おはよう」

 

 

「おはようございます」

 

 どうやら立香も今、起きた様だ。

 

 

「顔色は戻ったな……今日は行けそうか?」

 

 

「はい……昨日はすいませんでした」

 

 

「別に君が謝る必要はないさ。あんなもの見ればあぁなるのが普通だ……昨日も言った様に無理はするな。辛い時は休んどけ、それもマスターに必要な事だ。そうじゃないといざと言う時にサーヴァント達が動けなくなる」

 

 

「はい……あの無皇さん。無皇さんも始めは俺みたいだったんですか?」

 

 

「そうだよ………もっと悲惨な状況だった。あの時は数日、飯が食えなかったくらいだ。今じゃそんな事はないけど……怒りは心の中に持ってるよ」

 

 

「……俺も……俺も……俺も強くなりたい。今の俺はマシュやダレイオス逹に頼ってばかりです。だから強くなりたい、皆の足を引っ張らない様に」

 

 

「……自分なりに頑張ればいいさ。ただサーヴァントや魔物と戦おうとしないでくれよ、俺みたいなのは特異なんだ。それに……強大な力って言うのは良い事ばかりじゃない。だから君は君の出来る事をすればいい、君にはマシュやエミヤ逹がいるんだから」

 

 

「はい!でも無皇さんはどうしてあんな力を……」

 

 

「元からアレ等は俺の中に在ったのさ……いや、正確にはアレ等の力を使う為に俺が産まれたってところか」

 

 

「それってどう言う……」

 

 

「おっとそろそろ朝飯にするとしよう、腹が減っては何とやらだ」

 

 龍牙はそう言うと、話を打ちきり皆の元へと戻るのであった。その背中を見ながら立香は思う。

 

 

 ―きっとあの人は凄い経験をした来たんだろう……力の話をした時、とても哀しそうな顔していた。何時か追い付きたい。あの人の様にサーヴァントと戦う事は出来なくても、共に戦いたい―

 

 立香はそう思いながら龍牙の後を追った。



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EP30 士気って大切だよね

 久し振りにこちらの方を更新しました。

 F/GOのCCCコラボは進んでいるでしょうか?

 自分は現在、KP集めまくってKPアイテムを全部購入した所です。

 後はヘブンズホール倒して、BBちゃんをゲットして、アイテム回収するだけ………するのが大変だけど……。


 ~マルタを倒した翌日~

 

 龍牙、牛若丸、ジャンヌは立香達と離れて、ある場所へと向かっていた。

 

 立香達は龍殺しを探す為に、リヨンへと向かった。龍牙達はこの時代のフランス軍の元へと向かう事にした。情報では東の砦にいるそうだ。

 

 その理由は先のラ・シャリテの生き残り達を保護して貰う為だ。因みにエミヤとクーフーリンは村人達の所に残り護っている様だ。

 

 

「龍牙、1つお聞きしていいですか?」

 

 

「ん?」

 

 森の中を草木を別けながら進む一同。ジャンヌは龍牙に声を掛けた。

 

 

「ラ・シャリテの生き残り達の事です。彼等は女性や子供、お年寄りもいます。私達、サーヴァントなら未だしも普通の人間の脚では東の砦まで数日はかかりますよ?」

 

 

「それについては問題ない。置換魔術(フラッシュ・エア)を使えばいい……一応、魔法陣は設置してきてる。後は砦の方に魔法陣を設置して、俺が魔力を流せばいいだけだ」

 

 

「用意周到ですね」

 

 

「まぁ、ある程度の事は想定しているからな。おっ……森抜けた」

 

 話をしていると、丁度森を抜けた。

 

 

「ジャンヌ、此処から砦までどのくらい?」

 

 

「私達なら走れば半日もすれば着くかと」

 

 

「よし……後は走って行けば」

 

 

「主殿!」

 

 牛若丸が龍牙に声を掛ける。龍牙とジャンヌは牛若丸の方を向いてみると、彼女は自分の宝具・黒太夫に乗っていた。

 

 

「さぁ、お乗りください!」

 

 

「じゃあ、頼むよ。黒太夫」

 

 ―ブルルッン―

 

 彼がそう言うと、黒太夫は任せろと言わんばかりに首を振った。龍牙は牛若丸の手を借り黒太夫に乗った。

 

 そして牛若丸が腹を蹴ると、黒太夫が一気に駆け始めた。

 

 

「えっ……あの私は!?」

 

 ジャンヌは置いていかれた。

 

 

「ジャンヌ殿は走って来て下さい!」

 

 牛若丸がそう叫ぶ。ジャンヌは何故私だけ?と思いながらも直ぐに駆け始める。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから約半日程、ジャンヌと黒太夫は走り続けた。途中でワイバーンやらゾンビを倒しながらだが、やっと砦が見えてきた。だが流石のジャンヌも疲れが見えるが、黒太夫は殆ど変らぬ速さで走り続けている。

 

 

「牛若、少し休もう」

 

 

「はい、分かりました」

 

 牛若丸は手綱を引き、黒太夫を止めた。

 

 

「はぁはぁ………」

 

 

「大丈夫か、ジャンヌ?」

 

 止まり、肩で息をしているジャンヌに声をかける龍牙。

 

 

「なっなんとか……でも少し疲れました」

 

 

「まぁ、契約はされてないからな……取り敢えず」

 

 龍牙はジャンヌの肩に触れる。すると凄まじい量の魔力がジャンヌに流れ込む。

 

 

「あっ……魔力が」

 

 

「流石に魔力なしじゃ辛いだろう?」

 

 

「ありがとうございます。強くて……温かい魔力です」

 

 

「えっ、魔力にそんなのあるの?」

 

 

「私が感じた個人的な感想ですけどね」

 

 と他愛もない話をしていると、牛若丸が砦の方を見て何かに気付いた。

 

 

「主殿!どうやら砦がワイバーンに襲われている様です!」

 

 

「どうやら休んでいる暇はなさそうだ、ジャンヌ行けるか?」

 

 

「はい!」

 

 

「黒太夫も、もう一踏ん張り頼むよ」

 

 ―ブルルッ!―

 

 再び彼等は駆け始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~砦~

 

 

「踏みとどまれ!此処で我等が退く訳にはいかない!」

 

 砦に群がるワイバーン、それに対抗する兵士達。兵士達の戦闘に立つ鎧を着た男性が剣を掲げそう叫ぶ。兵士達もそれにより士気を上げた。

 

 しかし相手は人外……数も多い、そして相手は飛んでいるので分が悪い。

 

 

「報告!北側の部隊の被害甚大!このままでは突破されるのも時間の問題です!」

 

 

「くっ……しかし此処で我等が退けば後ろの民が……」

 

 この砦の指揮官、ジル・ド・レェは必死に策を巡らせるが戦力も数もこの数日の攻防で確実に減っている。だが自分達が退く訳にはいかない、逃げれば此処に居る民達が無残にやられてしまうだろう。

 

 

『はあぁぁぁぁぁ!』

 

 

『せやぁぁぁぁぁ!』

 

 砦を襲っていたワイバーン達が何者かの攻撃により次々に墜ちていく。

 

 

「なっなんだ?!」

 

 

「あっ……アレは」

 

 ジル・ド・レェはその者達の内の1人に見覚えが在った。いや忘れる筈がない……共に戦場を駆け、旗を翳し自分達を勝利へと導いた聖女……ジャンヌ・ダルク。竜の魔女と呼ばれるジャンヌではない、本当のジャンヌだと彼は彼女を見て理解した。

 

 

「ジャンヌ!」

 

 

「ジル!急いで、負傷者を下がらせなさい!此処は私達で対処します!」

 

 

「ジャンヌ殿!直ぐに」

 

 

「そうですね……ジル、急いで!」

 

 

「はっはい!」

 

 ジルは状況が理解できなかったが、そんな事は関係ない。共に戦ったジャンヌが言うのであれば、自分はそれを信じるのみ。

 

 

「皆!我等が聖女が蘇った!立ち上がれ!剣を掲げよ!神は我等を見捨ててはいなかった!」

 

 

『『『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』』』

 

 ジルと兵士達の指揮が跳ね上がる。此処に居る兵士達の殆どは生前のジャンヌと共に戦った戦士達だ。故に彼等には目の前にいる彼女が竜の魔女でなく、本物のジャンヌであると分かったのだ。

 

 

「……ジャンヌ殿!」

 

 ワイバーンと戦っている牛若丸がジャンヌに声を掛けると、直ぐにジャンヌと共にその場から下がった。

 

 

(WIND)】【(FIRE)

 

 

 ―炎よ、風の力を借りて激しく燃え上がれ―

 

 ワイバーン達を逃がさない様に風の渦が出現し、そこに炎が加わった。まさに灼熱の嵐というべき現象が起きた。そんな中にいるワイバーン達は勿論、炎に焼かれ黒焦げになるのは言うまでもない。ほんの数十秒でワイバーンの群れは丸焼きにされると、炎は消えた。

 

 

「おぉ……これは一体」

 

 皆が空を見上げると、そこには白銀の鎧を纏った人物がいた。

 

 

「あっちぃ……自分でやっといてアレだけど、もう少し考えないとね」

 

 鎧が消え、龍牙が地面に降り立った。

 

 

「ふぅ……えっと……アンタがジル・ド・レェ?実は村人達の保護を頼みたいのだが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―と言う訳で、無事に砦に辿り着けた俺達なのだが……神と勘違いされて本当に困った。

 

 まずは俺の力を使って、砦を修復・強化をした。それからジル達に、近くに在る大きな街へ案内された。そこで置換魔術(フラッシュ・エア)の陣を描いて、俺の魔力を流してリ・シャリテの村人達の方へと繋ぎ、村人達を移動させた。

 

 そこからジャンヌの登場で、ざわめく民達―

 

 

「皆さん!私はジャンヌ・ダルク!炎に焼かれ、死した私ですが、私の姿に化けて現れた悪魔より愛するフランスを救う為に蘇りました!」

 

 村人や兵士達の前で名乗り上げるジャンヌ。それを聞いて、村人や兵士達は歓喜の叫びを上げる。龍牙はそれを見て、少し昔の事を思い出していた。

 

 

「何時の時代も人と言うのは変わらないな……」

 

 かつてウルクで過ごした日々、ギルガメッシュやエルキドゥと共に戦い、ウルクに帰還した時には民達は目の前にいる人々と変わらぬ様に出迎えてくれた。

 

 

「さて………藤丸君達と合流しないとな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~その頃、立香達~

 

 

安珍様(ますたぁ)

 

 

「子イヌ!」

 

 

「御2人とも!先輩から離れて下さい!」

 

 何やら大変な事に巻き込まれていた。



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EP31 決戦前夜

「えっと……」

 

 俺達はジル・ド・レェに村人を託して、藤丸君達と合流していた。エミヤとクーフーリンは俺の判断で彼等の所に残してきた、もしもの時の為にだ。

 

 離れる前に、ジルが付いてくると一騒ぎあったがジャンヌの目潰しで騒ぎは収まった。目を潰しをされたのにジルが嬉しそうだったのは気の性だろう。

 

 さて、藤丸君と合流したのはいいのだが……

 

 

「あの2人ともそろそろ離れて欲しいんだけど」

 

 藤丸君は清姫とエリザベート・バートリーに引っ付かれていた。因みにマシュはその後ろで頬を膨らませている。

 

 清姫……安珍清姫伝説で有名な少女。逃げた安珍を追い掛けて竜(または蛇)へと変わり、寺の鐘に隠れた安珍を焼き殺し、自らも身を投げれたと言われている。嘘つき焼き付くすガール……ヤンデレである。

 

 エリザベート・バートリー……美しさを保つ為に女性の血を浴びていたと言われており、竜の魔女の方のジャンヌが召喚したカーミラのモデルとなった伯爵夫人。アイドルを称しているが、美声を台無しにする壊滅レベルの音痴。赤い皇帝と一緒にすると、その場は殺人現場になるに違いない。

 

 

「君も大変だね………色々と」

 

 同情の眼で彼を見ながらそう言うと、「だったら助けて下さい」と言う眼で龍牙を見るが首を横に振られた。

 

 

「ぇ~と………取り敢えず、状況説明しよっか」

 

 

 

 ー俺と藤丸君は互いに情報交換をした。ロマンとダ・ヴィンチちゃんも通信で参加してる。

 

 まず俺達は村人達を無事に届けた事を伝えた。

 

 藤丸君達は無事に龍殺し…英雄ジークフリートと無事に出会えた。その際にジャンヌ・オルタ達と鉢合わせして戦闘になったがジークフリートのお陰で、ジャンヌ・オルタ率いる魔竜ファヴニールを退けたという。

 

 だがジークフリートには呪いが掛かっており、今はまともに動けないらしい。横にいる清姫とエリザベートはジークフリートを探す途中で喧嘩をしてる所に出会ったと……取り敢えず言えるのは御愁傷様だな。

 

 それで呪いを解くためにジャンヌに視て貰うと、聖人が後1人必要だとかー

 

 

「なぁジャンヌ」

 

 

「はい、何でしょう?」

 

 

「つまりはジークフリートに掛かってる呪いを解くにはジャンヌだけでは力が足りないと?」

 

 

「はい。最低でも後1人、聖人がいなければ彼の呪いは解けません」

 

 

「(それで、あの人を探さないと行けない訳なんだが……)聖人ではないけど、聖なる力ならある訳だし……こいつで何とかならないかな」

 

 龍牙はそう言うと、創造龍の翼(クリエィス・ウィング)を出した。そしてその中の白い宝玉……光・聖を司る宝玉が光始めた。

 

 

「光・聖を司る創造龍の宝玉……これの力があればジャンヌだけで解呪できないか?」

 

 

「凄い聖なる力……確かにこれがその力があれば彼の呪いを解く事は可能です」

 

 

「なら話が終わった後に解呪するとしよう……それで話の続きなんだけど……ジャンヌ・オルタは新しいサーヴァントを召喚してたんだね?」

 

 

「はい……真っ黒な騎士と緑色の狩人、多分クラスはバーサーカーとアーチャー……後は黒いコートの英霊……その人については」

 

 立香はマリーとアマデウスの方を見た。

 

 

「多分クラスはアサシンだね」

 

 

「彼の名はシャルル=アンリ・サンソンよ」

 

 シャルル=アンリ・サンソン……暗殺者ではなく処刑人。パリにおいて死刑執行を務めていたサンソン家の4代目であり、死刑を廃止する様に幾度も国に嘆願したが受け入れられず、死刑を執行し続け最後には自身が最も敬愛する国王と妃……つまりマリー・アントワネットを処刑した人物だ。

 

 

「処刑人か(見てはないから何とも言えないけど……変わってなければあの者達……全員狂化されてるから真面に会話なんてできないだろう。まぁ一日でも早く決着をつけないと犠牲が増えるばかりだしな)」

 

 

「龍牙先輩どうしました?」

 

 

「いや……その様子なら次々にサーヴァントを呼ばれる可能性がある。ならば一気に決着をつけるべきだと思ってな、次の犠牲が出る前に」

 

 

「でもワイバーンや魔竜……サーヴァント達、それに竜の魔女。そう簡単には……」

 

 

「確かに……エンキを使う訳にもいかないしな」

 

 

「「「エンキ?」」」

 

 龍牙の言ったエンキという言葉に全員が反応した。彼はそれを見ると黄金の双剣エンキを取り出した。

 

 

「終末剣エンキ……此奴を使えばノアの大洪水の原型…【ナピュシュティムの大波】を引き起こせる。まぁでも……使えば」

 

 

『ダメェ!絶対ダメェェェェェ!そんなことしたら、フランスが滅んじゃうじゃないか!却下です!』

 

 

「アハハハハハ……だよね。俺も使いたくない……だから別のを使うさ。一先ず、作戦を考えるから皆はゆっくり休んでよ」

 

 龍牙はそう言うと、ジャンヌと共にジークフリートの解呪を行った。そして立香達から離れた龍牙は少し離れた場所に座り込むと状況の整理を始めた。

 

 

 

 

 

 ―こっちの戦力は俺、牛若丸、ジャンヌ、マリー、アマデウス、ジークフリート、マシュ、ダレイオス……エミヤとクーフーリンはジル・ド・レェの所にいるから除外と考えてる。もしもサーヴァントがあっちに攻め込んだら、フランス軍と言えど保たないし。

 

 相手はジャンヌ・オルタ、キャスターのジル、狂化されたヴラド三世、カーミラ、ランスロット、アタランテ、サンソン……多分、他にも呼ばれてるだろう。だが問題はファヴニール……それにキャスターのジルだ。Zeroみたいな海魔を呼ばれたら困るしな。一気に殲滅が望ましい……か―

 

 

「なら……久々にアレを使うとするか」

 

 龍牙はそう呟くとニヤッと笑みを浮かべた。

 

 

「ふぅ……ふぁ~、眠い。今日は色々とあったな、ジャンヌの眼球突きとか、ジルの悶えながら喜んでいる姿とか、エミヤが料理をして活き活きしている姿とか……民の喜ぶ姿とか」

 

 

「民の喜ぶ姿ですか?」

 

 

「うん……ぇ?」

 

 声のした方向を見ると、ジャンヌが立っていた。

 

 

「何か用か?」

 

 

「あっはい、少しお聞きしたい事がありまして」

 

 

「なに?」

 

 

「貴方はどうして戦うのですか?」

 

 

「えっと……急にどうして」

 

 

「私は生前、戦乱の世で家族を奪われました。そんな中で民達の平穏を護りたいと言う思いがあり、そして主の声を聞き戦う事を決心しました。私には国を、民を護りたいと言う意志が在った……でも貴方は何故、死ぬかもしれない戦場で戦うのですか?」

 

 

「俺の戦う理由……そこまで難しい事じゃないよ。世界を護る事が……母より与えられた存在意義、2体の龍を与えられた者の運命、後は………俺が戦うと決めたからさ。それに……もぅあんなのはごめんだ」

 

 そう言う龍牙、ジャンヌはその言葉の意味が分かる訳がない。

 

 だがその時の龍牙は哀しみ・怒り・後悔と言った感情が入り混じった表情をしていた。それを見た彼女は、彼にそれ以上聞く事は出来なかった。

 

 

「さぁ~てと明日に備えて今日はゆっくりと休むとしよう」

 

 龍牙はそう言いながら何時もの表情に戻ると、休む為に近くに在った木にもたれ掛かる。

 

 

「じゃあ、俺は寝るよ……ジャンヌも少しでも休んでおきなよ。明日はこの特異点最後の戦いになる………から……やすん……くぅ……すぅ」

 

 余程疲れていたのか、言い切る前に眠ってしまった。

 

 ジャンヌは少し困惑していたが、明日は決戦。このまま龍牙を休まようと考えた、だがこのままではゆっくり休めないだろうと考え、在る事を考えて実行した。



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EP32 オルレアンへ進軍

7月6日サブタイトル変更しました。


 ~オルレアン~

 

 無数のワイバーン、無数の海魔、狂化を施されたサーヴァント達……キャスターのジル・ド・レェ……そして竜の魔女ジャンヌ・ダルク・オルタ。そして最大の敵……邪竜ファヴニール。

 

 それに対して、立香達はマシュ、エミヤ、クーフーリン、ダレイオス、マリー、清姫、エリザベート、アマデウス、ジャンヌ、牛若丸……そして対ファヴニールに呪いの解けたジークフリート。

 

 数では圧倒的に魔女側が有利だ……真面に正面から戦い数で押されれば、如何に英霊たちと言えどやられてしまう。

 

 だが今回は龍牙(イレギュラー)がいる。そんな彼がたてた作戦は……

 

 

「あっあの……なんで戦場(こんな所)で電車ゴッコしてるんですか?!」

 

 

「藤丸君、静かに……此奴は姿は隠せても声は消せないから(ボソッ」

 

 立香はそう言われると、慌てて口を押えた。

 

 彼等は何をしているのかと言うと、布を持って敵のど真ん中を歩いていた。それは子供達がする電車ゴッコの様だった。

 

 因みに此処に居るのは、龍牙、牛若丸、ジャンヌ、立香、マシュ、清姫、エリザベートの7人だった。

 

 

「この布はどう見ても神秘の塊、龍牙先輩はどうしてこんな物を持っているのですか?(ボソッ」

 

 

「さぁ、分からないけど……敵に見つからずに此処までこれたんだし(ボソッ」

 

 

(流石は【ハデスの隠れ兜】……ステルス性は抜群だ。よくこれで、ギルやエルキドゥにイタズラされたっけ……おっと懐かしんでいる場合じゃないか)

 

 今回の作戦は龍牙が宝物庫から取り出した宝具【ハデスの隠れ兜】を使い、7人は敵の大群の中へと進行する。残りのメンバーは現フランス軍の方へ合流し、開戦の合図を待っていた。

 

 

「この辺りでいいか……皆は此処で待機していてくれ。ドデカい一撃をかますから」

 

 龍牙はハデスの隠れ兜から出ると、破壊龍の仮面を出現させた。

 

【破壊龍:龍鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 そして、破壊龍の鎧を纏うと空へと翔け昇る。ワイバーンよりも高い高度までいくと彼は地上を見降ろした。

 

 

「さて開戦の花火だ!」

 

壊す(BREAK)壊す(BREAK)壊す(BREAK)壊す(BREAK)壊す(BREAK)!】

 

 鎧から【壊す(BREAK)】と言う音声と共に、龍牙の手の禍々しい力が収束していく。

 

 

「『破壊の力よ、槍となりて我が敵へ降り注げ』」

 

 龍牙が収束した力を左手で握ると、槍へと変化した。龍牙に気付いたワイバーン達は彼に向かい突撃を開始する。

 

 

「遅い!破壊の力、受けるがいい!!」

 

破壊龍の槍(SPEAR THE NOVA)

 

 龍牙は破壊の槍を地上に居る敵軍に向かい投擲する。すると破壊の槍が光り始め、無数に分裂を始めると意志があるかの様にワイバーンと海魔へと向かう。

 

 ワイバーン達は回避しようとするが、追尾機能がついているのかワイバーン達を追い掛けている。海魔達もそれに追い掛けられ、槍に串刺しにされた。槍に貫かれたワイバーンや海魔達は悲鳴を上げる間もなく、黒い光となって消滅してしまった。

 

 

「ふぃ~……これをすると疲れるんだよな。ぁあ~……まぁワイバーンや海魔は殆ど倒したし、後はサーヴァントか」

 

 龍牙は溜息を吐きながら、頭部の鎧を解除し立香達の元へと戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見ていた立香やジャンヌ達は唖然としていた。

 

 

「そ……そんな」

 

 

「ぁ~……疲れた。流石にあんだけの数を一気に破壊すると目が痛い」

 

 

「りゅ…龍牙先輩、今のは一体……」

 

 

「この声はマシュ……ぇえ~とこの辺か」

 

 何もない空間に手を伸ばし、何かを掴むと引っ張った。どうやらハデスの隠れ兜を掴んだ様で、それを引っ張った様だ。

 

 

「盛大にやったけど怪我はないか?」

 

 

「はっはい……ですが、その姿は?」

 

 

「そうよ、何よ!その姿は!?」

 

 破壊龍の鎧を見た事ないジャンヌやエリザベートが龍牙に詰め寄る。

 

 

「ぁあ……ジャンヌ達はこれを見るのは初めてか、此奴は破壊龍を鎧化した物……創造龍と対なす鎧だ。そんで今の攻撃は、破壊の力を槍へと変えて放つ。放った槍は俺の意志で操れるんだけど……これがまた疲れるんで、今の俺だと1日に1回が限界」

 

 先程の技【破壊龍の槍(SPEAR THE NOVA)】は、破壊の力を槍へと変え、それを放つ技だがかなり使っている本人はかなり疲れるらしく1日に1回しか使えないらしい。

 

 

「さてと……マシュ、ジャンヌ、牛若丸。此処から先はサーヴァントがいるみたいだから気を付けてくれ」

 

 龍牙は鎧を解除すると、ハデスの隠れ兜を消した。その代わりに、エンキを呼び出し装備する。

 

 マシュ達は聞きたい事が山積みだが、龍牙から放たれる殺気を感じ此処が戦場であると再認識して、先へと進み出した。

 

 少し進むと、そこには強化を施された黒騎士、狩人がいた。

 

 

「殺す!コロス!コロス!!」

 

 

「Aaaaaaa――!!!」

 

 どうやら黒騎士達は戦闘する気満々の様だ。

 

 

「湖の騎士と純血の狩人……狂化されているか。痛々しいな」

 

 

「Arrrrrthurrrrr!!!」

 

 黒騎士はジャンヌを見た途端に襲い掛かった。いきなりの事だったが、マシュが直ぐに反応して盾で黒騎士の攻撃を防ぐ。

 

 

「やっぱジャンヌとアーサー王が似てるから襲い掛かってきたか……」

 

 

「どっどう言う事ですか!?」

 

 マシュは龍牙の呟きにそう聞いた。

 

 

「アイツの真名はランスロット……円卓最強の騎士であり、誰よりもアーサー王を敬愛した。だが裁かれる事がなかった為に苦悩し狂戦士に身を落とした存在だ。ジャンヌとアーサー王……アルトリアの魂が似てる。だから襲ってきたんだろうさ」

 

 

「どうしてそんなに詳しいんですか?!くっ!はあぁぁぁぁ!」

 

 会話しながらも攻撃を防いでいるマシュ……一瞬の隙をついて、彼女は盾でランスロットを押し返す。

 

 

「藤丸君、マシュ達に指示を……俺は狩人の方を相手するから。牛若、行くぞ」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ、初めましてアタランテ」

 

 

「汝、何故我の名を知っている!?」

 

 

「さてね……狂化されてさぞ、悔しかろう。だが安心しろ、直ぐに解放してやる」

 

 

「ぐぅぅぅ……コロス!コロス!コロス!あのルーラーも貴様も全部!」

 

 どうやらジャンヌ・オルタの狂化の所為で自分でも衝動を抑えきれずにいる。

 

 

「(ジャンヌを目の敵にしている。ぁあ、そう言うのもあったか)牛若、彼女の矢は早い、俺も手伝うから上手く躱せ!」

 

 

「承知!」

 

 牛若丸は龍牙の指示により飛び出した。

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 牛若丸はその俊敏性を活かしてアタランテの懐に入ろうとするが、相手は神話に出てくる狩人だ。

 

 

「でやあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 そう簡単に懐を許す訳もない。常人が追いつけぬ速さで移動して矢を連射し、牛若丸の接近を阻む。

 

 龍牙はその様子を見ながら、次にどうするかを考えていた。

 

 

(さっき破壊の力を使ったから、後数十分は鎧も宝物庫も使えない………ならば使える力で戦うまで)

 

 

「牛若!いっきに決めろ!」

 

 

「はい!【壇ノ浦・八艘跳】」

 

 牛若丸の宝具・【壇ノ浦・八艘跳】……凄まじい跳躍力で敵に接近し一撃を放つ。だがアタランテも易々とそれを決めさせる訳がない。

 

 

「『二大神に奉る……【訴状の矢文(ポイボス・カタストロフェ)】!』」

 

 アタランテの宝具……『弓に矢を番え、放つと言う術理』そのものが具現化したもの。太陽神と月女神に加護を訴え、それに答えた神々は敵へと光の矢を降らせる。

 

 それは非常に広範囲への攻撃で、対軍宝具に分類される。それが牛若丸を倒す為だけに放たれた。

 

 跳躍を始めた牛若丸に光の矢が雨の様に降り注ぐ。

 

 

「広域殲滅……しかし!」

 

 龍牙は魔力を筋力強化に回し、エンキを弓状態にして矢を番えた。そして矢に魔力を収束させ、最大限の力で放つ。

 

 その矢はアタランテに当たらずに、彼女の上を通り何処かへと飛んでいく。

 

 

「何処をねらっ……まさか?!」

 

 アタランテは矢が来た方向を見た。最大の力と魔力が収束した矢により、光の矢が弾かれ、真っ直ぐと自分に向かう道が出来ていた。

 

 龍の力を使わぬ、龍牙だけの力で放たれた一撃は一瞬だけ、アタランテへの道を開いた。

 

 だがその一瞬だけで十分だった。龍牙が開いた道を通り八回跳んだ牛若丸がアタランテへと迫っていた。アタランテは直ぐに避けようとするが、既に時は遅い。

 

 

「がっ?!」

 

 一閃の元に狩人は斬り伏せられた。

 

 

「……ふっ……これで終わりか」

 

 

「ぁあ、そうだよ。アタランテ……終わりだ」

 

 

「そうか……やっと終われるのだな。これでいい……これで………礼を言う、見知らぬ人間よ」

 

 アタランテはそう言うと、光の粒子となって消えて行った。

 

 

「ふぅ……ご苦労様。牛若」

 

 

「はい、主殿。大丈夫ですか、御顔の色が」

 

 そう言われると、龍牙はその場に膝を付いた。

 

 

「封印状態の俺じゃこれが精一杯か…………俺の破壊って言うのはその物質や存在ごと消し去ることだ。1つの存在を消すって言うのは俺もそれなりの対価を払う、本来なら俺の力を代償にどうにでもなるけどね………流石に数が多すぎた……ふぅ」

 

 龍牙はそう言うと、その場に座り込んだ。

 

 

「俺の方は少し休めば回復するよ………さてと」

 

 龍牙は立香の方を見る。

 

 立香とマシュやジャンヌ達がランスロット(狂)と戦っていた。

 

 経験は浅いが的確に指示を出している立香。マシュ、ジャンヌ、エリザベート、清姫に指示を出しランスロット(狂)といい勝負をしていた。だが相手は理性を封じ狂化された戦士……しかもアーサー王の円卓騎士最強と言われるランスロット卿だ。

 

 

「流石は円卓最強……今のマシュ達じゃ少しキツイか」

 

 マシュ、ジャンヌ、エリザベート、清姫……4人のサーヴァント……しかしランスロット(狂)……最強の騎士が相手だ、時間と共に此方が追い詰められるのは言うまでもない。

 

 龍牙はそれを良く知っていた。彼の騎士の宝具がなんなのかを。

 

 

「Aaaaaaa!!!」

 

 ランスロット(狂)の魔力が高まり始めた。

 

 ランスロットの宝具……騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)………彼が武器として認識できるものであれば、どんな武器・兵器であろうとDランク相当の擬似宝具として、自分の支配下に置く。それが相手の宝具だろうともだ。

 

 そして何処からともなく、ガトリング砲が落ちてきた。それをランスロット(狂)が宝具と化す。

 

 

「Arrrrrthurrrrr!!!」

 

 ガトリング砲の銃身が回転を始めた。それを見て、立香達は身構えた。これから起きる事は容易く想像できるからだ。

 

 今からではマシュやジャンヌの宝具は間に合わない。普通ならば数秒後には彼等は蜂の巣になるだろう。

 

 

「ッ!先輩!私の後ろに!」

 

 サーヴァント達が立香を護る為に彼の前に移動した。

 

 

「Aaaa……」

 

 だがそのガトリングが放たれる事はなかった。何故か分からないが、ランスロット(狂)はガトリングを撃たなかった。

 

 

「Ga…la……d」

 

 ランスロット(狂)は何かを呟くとガトリングを降ろす。その行動を一同は理解できない。

 

 龍牙はその理由を知っていた……それは後々に語られるだろう。

 

 

「だが」

 

 

「Aaaaaaaa!!!!!」

 

 龍牙の呟きと共にランスロット(狂)は頭を押さえて、苦しみ出すと再びガトリング砲を構え、起動させる。

 

 

「狂化はそう簡単に抗えんか……だけどお蔭で回復したよ」

 

 龍牙はそう言うと、破壊龍の眼(ノヴァズ・アイ)を発動させる。それにより再び仮面が装備され、彼はランスロット(狂)の持つガトリング砲に意識を向け、それを発動させた。

 

 

「【破壊(Destroy)】」

 

 それと共にガトリング砲はこの世界から消去された。

 

 

「Ga?!」

 

 

「皆!今だ!」

 

 ランスロット(狂)が何が起きたのか理解できず、混乱していた。立香はその隙を逃す事なく、マシュ達に指示を出した。

 

 

「はい!」

 

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 

「でやぁぁぁ!」

 

 

「しゃぁぁぁ!」

 

 マシュ達はそれを聞き、直ぐに攻撃を仕掛けた。ランスロット(狂)はそれを真面に受けた。

 

 

「Aaaaa……アーサー王……私は…私は」

 

 彼はそう言うと消滅した。




・破壊の誓約

 破壊龍の鎧装備時に破壊の力を発動する際に、龍牙自身が自分の力と引換えに破壊龍の力を引き出す為に必要な行動。

 自分の力を内なる破壊龍に捧げて、その代わりに破壊の力を使う権利を得る。1つの存在を完全に破壊するには相応の力を代償にしないといけない。対象の大きさ・存在に応じて消費する力は変化する。

 しかし発動されれば、物理的に防御する事は不可能に近い。

 発動時には鎧より【BREAK】と音声がなる。








・破壊龍の槍(SPEAR THE NOVA)

 破壊の力を雷を模した黒い槍へと変化させた技。

 放たれると、破壊する対象に合わせて分裂し、躱されても当たるまで追尾し続ける。また龍牙の意志で動かす事も可能。









~メンバー~

・オルレアン侵攻組

龍牙、牛若丸、立香、マシュ、ジャンヌ、清姫、エリザベート


・後方組

エミヤ、クーフーリン(術)、ダレイオス、ジークフリート、マリー、アマデウス


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EP33 邪竜失墜する

 ランスロット(狂)とアタランテを倒した一同は、ジャンヌ・オルタがいるオルレアンの城へと向かっていた。

 

 此処に来るまでにワイバーンや海魔達がいたが牛若丸達の活躍により難なくを進めていた。既に城が目視で確認できる所まで来ていた。

 

 

「……妙だな」

 

 

「どうしました、無皇さん?」

 

 龍牙の言葉に反応する立香。

 

 

「此処まで来たっていうのに、ファヴニールが姿を見せない」

 

 

「そう言えば……そうですね」

 

 

「……後方のエミヤ達が戦闘をした様子もない。奴等が向こうにいるなら連絡が来る手はずになっている……後、考えられるのは」

 

 

『お生憎さまね、私達は此処にいるわよ』

 

 龍牙達がその声を聞いて、上空を見てみるとファヴニールとワイバーンの群れがいた。その上にはジャンヌ・オルタとサーヴァント達がいる。

 

 それを見て、龍牙は舌打ちをする。

 

 

(向こうに攻めて無かったのか……攻めてくると思ってジークフリートを向こうに残してきたんだけど)

 

 龍牙達はハデスの隠れ兜を使い敵の本拠地へと向かう→サーヴァントとフランス軍がおり、進軍を開始する→そこにジャンヌ・オルタ達が攻めてくる→守りの少なくなった城を攻め落とす→戻ってきたジャンヌ・オルタ達を休む暇を与えず攻撃する。

 

 少なくともファヴニールはジークフリートが倒してくれると考えていた。だが現実はそう簡単に行かなかった様だ。

 

 

「はぁ……城に残っていたとは……予想外だ」

 

 

「ふ……ふふふ……悔しいですか?自分の思惑が外れて……アハハハハハハ!」

 

 溜息を吐きながらそう呟く龍牙を見て、笑っているジャンヌ・オルタ。

 

 

「まぁいい………どうせ倒さなきゃならんしな。藤丸君、作戦Bだ」

 

 

「はい、マシュ!清姫!エリザベート!」

 

 

「はい!」

 

 

「はい、旦那様(ますたぁ)

 

 

「分かったわよ!」

 

 立香達は直ぐに戦闘準備を始めた。

 

 

「フン!たかがサーヴァント如きがこのファヴニールの相手になるとでも?!」

 

 ジャンヌ・オルタはファヴニールに指示を出し、邪竜はその咢に魔力を収束させる。

 

 恐らく、竜がよく使う竜の息吹(ドラゴン・ブレス)だろう。サーヴァントと言えど、まともに受ければやられてしまうだろう。

 

 

「ジャンヌ!」

 

 

「マシュ!」

 

 龍牙と立香が2人に声を掛けた。

 

 

「はい!真名、偽装登録……いけます!宝具、展開します!」

 

 

「我が旗よ!我が同胞を守りたまえ!【我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)】!」

 

 2人の護りの宝具が発動された。それと同時にファヴニールが息吹を放つ。邪竜の息吹は広範囲に放たれ、龍牙達を飲み込む。

 

 マシュとジャンヌの宝具により、彼等は無傷で済んだ様だ。しかし宝具を使用したマシュとジャンヌには少し疲労が見えた。

 

 

「無様ですねぇ……聖女様……あれ、あの男がいない?」

 

 ファヴニールの上からジャンヌ達を見降ろしていたジャンヌ・オルタは龍牙が居ない事に気付いた。

 

 

『すまないが、墜とさせて貰う……邪悪なる竜は失墜し、世界は今洛陽に至る。撃ち落とす』

 

 

「はっ!?」

 

 ジャンヌ・オルタは声のした方向を見てみた。自分達の少し後方、そこに魔法陣が描かれており、そこには龍牙とフランス軍にいる筈のジークフリートや他のサーヴァント達がいた。

 

 そして既にジークフリートは宝具を発動させていた。

 

 かつてファヴニールを殺した剣……その名は……

 

 

「【幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!】」

 

 放たれた黄昏の剣気はファヴニールに直撃した。それにより飛んでいたファヴニールは失墜する。

 

 ジャンヌ・オルタは直ぐにファヴニールから飛び退き、近くにいたワイバーンへと飛び乗ったことで無傷で済んだ様だ。

 

 何故、フランス軍と共にいる筈のサーヴァント達が此処にいるのか………その理由は簡単だ。置換魔術(フラッシュ・エア)だ。龍牙は予め、サーヴァント達に置換魔術(フラッシュ・エア)の陣が掛かれている場所に待機する様に言っていた。万が一にと用意していたらしいが、どうやらそれが功を制したらしい。

 

 

「くぅ……まさか、私のファヴニールがやられるなんて」

 

 地上へと降りてきたジャンヌ・オルタは忌々しそうに龍牙を睨む。

 

 

「ジークフリートがいないと思って油断したな……もしもの場合の為に準備しといてよかった。さてジャンヌ・オルタ、此処からはサーヴァント同士の戦いと行こうじゃないか……うおっ?!気持ち悪ぃ!」

 

 龍牙が言っている最中に、海魔が襲い掛かって来た。

 

 

「ジャンヌ!此処はサーヴァント達に任せて一旦、退くのです!」

 

 そう言ったのは、ジル(キャスター)だ。彼は魔導書により海魔を大量に召喚し始めた。

 

 

「ですが、ジル!」

 

 

「落ち着いて下さい……ファヴニールがやられた以上、新たに戦力が必要です」

 

 

「そうですね……サーヴァント達よ、彼等を倒しなさい!」

 

 ジャンヌ・オルタはサーヴァント達にそう告げると撤退した。

 

 

「ぁ~あ……行っちゃった。一先ずは目の前のサーヴァントか」

 

 龍牙は飛んで行ったジャンヌ・オルタとジルから、目の前の狂化されたサーヴァントへと目を向ける。

 

 

「シュヴァリエ・デオン、サンソン、ヴラド三世、カーミラか」

 

 

「無皇さん……どうしますか?」

 

 

「……俺と牛若、ジャンヌが半分を引き受けよう。残りは頼めるか?」

 

 

「はい!」



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EP34 第1特異点 修復完了

 今回でオルレアン終了です。

 結構長くなってます。


 龍牙は牛若丸とジャンヌを引き連れ、バーサークセイバーことシュヴァリエ・デオンとヴラド三世と相対していた。

 

 

「さてと……ノロノロとしている場合じゃないので、さっさと始めようじゃないか……聖杯は目の前……漸く1つ目が攻略できるんだ。此処まで来て、手は抜きはしない」

 

 

「主殿!どうか、指示を!」

 

 

「行きます!どうか、主の御加護を」

 

 龍牙の前に牛若丸とジャンヌが出る。

 

 

「牛若はバーサークセイバーを、ジャンヌはバーサークランサーだ」

 

 

「はい!」

 

 2人はそれぞれ、言われた通りの相手の元へ向かい戦闘を始めた。

 

 

(さてと……今の牛若丸とジャンヌなら、狂化を施されたあの2人といい勝負か。でも急がないと……サーヴァントを召喚される可能性がある。ゲームなら時間がなくてシャドウサーヴァントが召喚されてたけど……現在の此処は、現実……イレギュラーが起こる可能性もありうる……ってそれは俺か)

 

 現在、牛若丸とジャンヌは相手サーヴァント達といい勝負をしている。相手は狂化を施されており、理性と引換えに身体能力が格段に向上しているため、攻めきれずにいた。

 

 

「俺の力も回復しきってないけど……」

 

 龍牙は立香達の方へと視線を向ける。エミヤやクーフーリン、マリー達が合流したことであちらは有利に進んでいる様だ。

 

 

「藤丸君も頑張ってるな……よし、こっちも早く終わらせるか」

 

 彼はそう言うと、胸のペンダント……バビロニアの宝物庫の鍵へ自分の魔力を流し意識を向けた。

 

 

「牛若!ジャンヌ!一旦下がれ!」

 

 

「承知!」

 

 

「はい!」

 

 その声により2人はその場から大きく後退する。龍牙は鍵を使い、宝物庫から数本の宝剣・宝槍をデオンとヴラド三世に向かい放つ。それも多方向で死角をついてだ……例え英雄であっても、凄まじい速度で放たれた宝具の防御・回避するのは至難の技だ。

 

 

「ぐっぅ!」

 

 

「がぁ?!一体どこから!?」

 

 デオンとヴラド三世は一体何が起きたのか理解できなかった。確かな事は、己の身に突き刺さっている武器の総てが宝具であることは分かった。彼等に龍牙がバビロニアの宝物庫を鍵を持って居るなど知る由もない。

 

 

「2人とも今だ!」

 

 

「覚悟!」

 

 

「決めます!」

 

 牛若丸とジャンヌは一気に駆け出し、渾身の一撃を放った。

 

 その一撃を真面に受けた2人の霊核は完全に破壊され、消滅し始めた。

 

 

「ぁあ……私の敗北か。これで我が身の呪いも解ける……貴方達に感謝を。そして、愛しの王妃に謝罪を……マリー様、申し訳ありません」

 

 

「これで終わりか。夢も、野望もついえるか……だが良い、許す。名も知らぬ、奇怪な力を持つマスターよ。機会が在れば余を呼び出すがいい、お前との旅ならば退屈しそうにない」

 

 デオンとヴラド三世はジャンヌ・オルタに掛けられた狂化が解け、笑みを受けべながらそう言うと完全に消滅した。

 

 

 

 

 

 

 マシュ、エミヤやマリー達は立香の指示による連携により勝利を勝ち取った。

 

 

「マリー……僕は……僕は」

 

 

「サンソン……私は民に望まれ王妃になった。民無くして王妃は王妃と呼ばれない。だから民が望むなら、自分が望まなくても退場する。次の誰かの笑顔に繋がるなら。最後はどうあっても私の人生は華やかだった……それでいい、それでいいの。

 

 例えどんな時代であっても、大切な人達(国民)を守るために。大切な(フランス)を守るために。私は私の出来る事をします」

 

 

「君は何時だってそうだった……国を愛し、民を愛して……」

 

 

「そして貴方もまた私の愛する民なのよ、サンソン」

 

 

「君は自分を処刑した僕までも民と呼ぶのか」

 

 サンソンは消滅の間際にマリーにそう言われて、安らかな表情で消滅した。

 

 

「未来が過去を否定するのではなく。過去が未来を否定するなんて……何て出鱈目な少女なのかしら……でも、だからこそ……鬱陶しいぐらい眩しいのね。

 

 ああ……そう私はやっぱり生きても死んでも、1人きりという事ね」

 

 カーミラはそう呟きながら消滅した。

 

 

「さようなら、私の未来。悲しいくらいに分離してしまった、もう1人の自分。だからって罪が軽くなる訳でもないし、私への恐怖が無くなることもない。それでも私は……何度でも未来を否定するし何度でも唄うのよ」

 

 カーミラはエリザベートの未来……故に色々と思う所が在ったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙は立香達と合流すると、直ぐに城へと侵入した。

 

 エミヤ、クーフーリン、ダレイオス、マリー、アマデウス、ジークフリートは外でワイバーンなどの駆除を行っている。

 

 

「城に侵入したのはいいんだけど……なんで海魔がこんなにもウジャウジャいるんだよ!?気持ち悪いんだよ!!」

 

 城へ入ったものの、海魔達が行く手を阻んでおり中々奥へと進めなかった。しかも海魔は普通の攻撃では倒す事は出来ず、切ってもそこから再生・増殖してしまう。

 

 

「仕方ない……藤丸君、マシュ、ジャンヌ達と共に先に行け。俺が道を開く」

 

 

「龍牙先輩!?」

 

 

「でも、それじゃ……」

 

 

「大丈夫だ……ほらっ、見ろ。海魔共の後方からシャドウサーヴァントがやって来ている。普通のサーヴァントに比べると弱いけど、数が多くなればジリ貧だ。安心しろ、直ぐに追いつく」

 

 

「っ……分かりました」

 

 

「龍牙……」

 

 

「ジャンヌ、あのジャンヌ・オルタと決着付けて来い」

 

 龍牙はそう言うと、ジャンヌの肩に手を置き自分の魔力を彼女へと送った。

 

 

「……はい!」

 

 

「よし……頑張って来い。破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)よ、我が身を纏え」

 

 

破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)龍鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙は破壊龍の鎧を纏うと、腰に装備されている剣・龍の牙(ドラゴ・ファング)を引き抜き、ライフル形態へと変える。

 

 

「魔力収束開始……『収束完了まで3・2・1……完了』」

 

破壊の息吹(ノヴァズ・ブラスター)

 

 銃口へと破壊の力が収束し、龍牙の眼の前にターゲット・サイトが出現した。

 

 

発射(シュート)

 

 ―グオォォォォォォン!!!―

 

 引き金が引かれ、黒い光が銃口より放たれ城の廊下を破壊の力を帯びた魔力が突き抜けた。海魔は魔力の砲撃により、ほぼ全滅していた。海魔の肉片は再生の為に蠢き出すが、直ぐに黒く染まり消滅してしまった。

 

 

「さぁ、今だ!本丸まで駆け抜けろ!」

 

 

「「「はい!!」」」

 

 龍牙により開かれた道を立香達は駆け抜けて行った。

 

 それを見届けると、鎧を解除すると疲れた表情をして。隣には牛若丸がいる。

 

 

「主殿、大丈夫ですか?」

 

 

「あぁ……少し疲れただけだ。やっぱリミッター掛かってるとしんどいなぁ。後は彼等に任せて休もう」

 

 

「主殿がそう仰るなら……どうやら周囲には魔物は居ない様です」

 

 龍牙は辺りを見回すと、座るのに良さげな瓦礫を見つけたのでそこに腰かけた。

 

 

「ふぅ……えっと魔力回復まで約15分か」

 

 

「主殿、少しお尋ねしたいのですが……どうして、力に制限などをかけていらっしゃるのですか?あの力なら制限を解けば主殿御一人でも解決できるとでは?」

 

 牛若丸の言うとおり、龍牙が制限さえ解けば特異点の攻略など簡単だろう。なのに何故か彼は力を制限している。

 

 

「牛若は俺の創造と破壊の力どう思った?」

 

 

「圧倒的です。例え相手が英霊であっても遅れを取る事はないと思います」

 

 

「まぁそうだな。本来は神を殺す事さえ可能だからな……でもこの力はリスクも伴う」

 

 牛若丸はそれを聞き、首を傾げた。

 

 

「特に破壊の力って言うのは、存在そのものを消してしまう物……」

 

 龍牙はそう言いながら近くに落ちていた瓦礫の石を積み上げ、塔を作る。

 

 

「これを世界に例えるとして……破壊の力を使って物を破壊する」

 

 そう言いながら、龍牙は塔の下の方の石を1つ2つと取り除いていく。

 

 

「1つや2つなら問題なくても、破壊を続けると……」

 

 土台の弱くなった石の塔は崩れた。

 

 

「つまり、主殿の力は使えば使うほど世界も壊れていくと言うことですか?」

 

 

「世界は簡単には壊れないけど………使い過ぎればそうなる可能性もある。普通なら世界の修正力が働いてくれるんだけど、今は人理焼却なんて起きてる状況だから正直、あんまり期待できない。俺は使いたくないが生き残る為に……護る為には使わないとね」

 

 

「そうだったのですか……」

 

 

「前の世界では一刻の怒りで神様に戦争吹っかけて大変になったから注意しよう」

 

 

「確か大切な物を壊されてお怒りになられたとか」

 

 

「あっうん……スゴクタイセツダッタンダヨ……ウン」

 

 

 ―言えない……たかがゲームソフトを壊された怒りで神々と戦う切っ掛けになったなんて言えない。―

 

 

「主殿がお怒りになるなんて余程の宝物だったのですね」

 

 

 ―そんなキラキラした目で俺を見るな。定価7000円ほどの物なんですよ!7000円が無駄になったから神々に喧嘩を吹っかけるなんて言える訳ない!ギルとエルキドゥに言った時なんか、それをネタにされて弄られ続けたんだ!俺にとっての黒歴史だ……絶対に言えない。あっ……魔力の回復終わった―

 

 

「そっそうなんだよ……よし、魔力の回復も終わったし行くとしよう」

 

 話と黒歴史を思い出し悶えていると15分経った様で魔力が回復した。これ以上話すとボロが出そうなので話を切り替えて立香達の元へ向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 龍牙と牛若丸は立香達の元に辿り着くと、彼等と聖杯を持ったキャスターのジル・ド・レェが相対していた。

 

 

「もうジャンヌ・オルタを倒したのか………ぇえ~と取り敢えず1つ確認したいんだけど……すげぇ事になってるんだけど」

 

 現在のキャスターのジル・ド・レェは聖杯の力で大量の海魔を召喚し、全身に纏っていた。

 

 

「超キモイだけど!やべぇ、鳥肌が止まらないんだけど!」

 

 

「無皇さん、落ち着いて下さい。気持ちは分かるんですけど……」

 

 

「この匹夫共がぁぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 目玉が飛び出しそうになっているジル・ド・レェ。それに反応する様に、海魔達の動きが活発化し始めた。そして龍牙や立香達を囲む。

 

 龍牙は辺りを見廻して状況を確認する。無数の海魔とジル・ド・レェ……対して此方はジャンヌ・オルタとの戦闘でボロボロとなった立香やマシュ、ジャンヌ達と龍牙と牛若丸………戦況的に不利なのは言うまでもない。

 

 

「ジル!もうこんな事は終わりに」

 

 

「終われぬ……終わる訳には行かぬのです。国に、神に……世界の総てにジャンヌの威光を知らしめ、復讐するまでは、私の戦いは終わらぬ!!!」

 

 これだけ狂っていても、多くの屍を積み上げようと彼は止まらない。

 

 ジル・ド・レェは戦前、ジャンヌ・ダルクを信じ、尽くしてきた。故に彼女が民を想いどれ程、苦しんだか、哀しんだか、痛みを受けたかを知っている。

 

 なのに聖女は裏切られ、魔女の烙印を押されて火炙りにされた。だからこそ彼はジャンヌの為に凶行に出る。

 

 

「圧倒的に物量差が在り過ぎだろう。聖杯のバックアップがあるからか………」

 

 

「ジル!!!」

 

 

「さて……まずは誰から海魔の餌食にしましょうか……ジャンヌは勿論最後ですが」

 

 

「おい、コラッ!ギョロ目!」

 

 

「おやぁ……貴方は」

 

 叫びながら龍牙は前に出る。

 

 

「俺にはお前の気持ちは分からない……どちらかと言うと俺はジャンヌと同じ裏切られた側(・・・・・・)だからな。

 だからこそ言える。ジャンヌもそうだと思うけど復讐なんて望んでいないんだよ」

 

 ジャンヌは彼が自分と同じだと言われ驚いていたが、その言葉に大きく頷いた。

 

 

「ふざけるな!貴様の様な凡夫がジャンヌと同じだと!?」

 

 

「いや、だから裏切られたと言う意味で……駄目だ此奴、話聞いてない」

 

 

「く……ブツブツ…………じゃ……殺す!嬲り殺してくれる!」

 

 駄目だ、こりゃと肩を竦める龍牙に一斉に海魔が襲い掛かった。

 

 龍牙は抵抗する事無く、海魔に纏わりつかれていく。それを見て、牛若丸は助けようと駆け出そうとするが主に手で制されて止まった。

 

 

「はぁ……仕方ない、疲れるけど頑張るか」

 

 そう呟くと龍牙は完全に海魔に包まれた。そしてブチッブチッと肉が引き千切られる音が聞こえ始めた。

 

 

「「無皇さん(龍牙先輩)!?」」

 

 

「ヒャヒャヒャヒャ!!!どうですかジャンヌ?信頼した者が喰われ、消えゆく様は?痛ましいでしょう?哀しいでしょう?悔しいでしょう?」

 

 

「ジル……貴方はという人は」

 

 

 ―【無】より産まれし創造の龍よ。創造の力を我が身を纏う鎧と成せ―

 

創造龍(クリエィティス・ドラゴン)龍鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 海魔の好き間から白い光が漏れだすと、海魔達は吹き飛ばされた。

 

 

「ぁ~気持ち悪かった……カルデアに戻ったら一番にシャワーだなこりゃ」

 

 光がゆっくりと消え、その中心には創造龍の鎧を纏った龍牙がいた。

 

 

「その光……ぉぉぉぉぉぉぉぉお!!正しく神の光だ!神はやっと御光臨されたのか!」

 

 

「いや、だから神じゃないって……どいつもこいつもよりにもよって神と間違えやがって。俺は神なんて嫌いだって」

 

 

「その威光、我が盟友プレラーティの海魔をもって穢してくれる!私はこの時を待ちに待っていたのだ!」

 

 創造龍の鎧の放つ光を主の光と勘違いし、歓喜に振えていた。ジルの目的は神を座より引き摺り降ろし、穢すこと……それが叶うと思っている様だ。ジルは海魔達に一斉に龍牙を襲わせた。

 

(LIGHT)

 

(FLAME)

 

 創造龍の翼(クリエィス・ウィング)の12の宝珠の内、深紅と白の宝珠が輝き、龍牙の周囲に白い炎が出現し、その形を龍に変化させ、龍牙の身体に巻き付いた。、

 

 

創造龍の聖焔(クリエィス・ブレイム)……邪と魔だけを焼き祓う炎だ。おらっ!焼き尽くせ!」

 

 

 ―ガアァァァァァァ!―

 

 それに応える様に炎龍は咆哮を上げ、海魔に襲い掛かる。炎龍に飲み込まれた海魔達は苦しそうに悶えながら、灰となり消滅していく。

 

 

「おのれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 

「うわぁ…目玉、飛び出そうだ」

 

 ジル・ド・レェの眼が飛び出しそうなのを見て、退いている龍牙。そして何かに気付いた様に、海魔を燃やしている炎龍に指示を出す。

 

 炎龍は指示を聞き、海魔を産み出すジル・ド・レェの魔導書を狙った。

 

 

「なぁ!我が盟友からの贈り物が!?よくもぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「残念だけどアンタの相手は俺じゃない」

 

 

「なに……『ジル!』」

 

 ジル・ド・レェが龍牙に気を取られている隙に、ジャンヌが駆け出し彼の胸を貫いた。

 

 

「ぐぅ!……ジャン……ヌ……何故」

 

 

「もういい……もういいのですジル。貴方はもう十分すぎるほど私につくしてくれました」

 

 

「もうすぐ……もうすぐ貴女の潔白と神の不在が証明……できたと……いうのに」

 

 

「私は誰も憎んでいません。それにジルがどんなに世界を変えても、私は死に、貴方は殺人鬼になる……それは変えられません。だから……せめて希望を残して戻りましょう?私達のあるべき場所へ」

 

 ジャンヌはまるで子供をあやすように彼に声を掛けた。

 

 

「おぉ……ジャンヌ……聖女よ、地獄に逝くのは私だけで」

 

 ジャンヌの本心を聞いたジル・ド・レェは、安らかな表情となってこの特異点より消滅した。その場には、彼が持っていた聖杯が残った。

 

 

「これで第1特異点の修復完了か……」

 

 龍牙は鎧を解除すると、その場に膝を付く。かなり疲労しているのか、汗を滝の様に流している。

 

 

「ぁ~調子乗り過ぎたな………」

 

 

【魔力配分ヲ考エナイカラダ、王ヨ】

 

 

「全く……その通りで」

 

 

【これではこの先が思いやられるな、王よ】

 

 

「はぁはぁ……神代の時代なら全力でやっても問題ないんだけどなぁ。言っても仕方ないことか」

 

 自分の中にいる龍達と話していると、牛若丸やジャンヌ、立香達が心配して此方に駆けてきた。

 

 

「無皇さん、大丈夫ですか?」

 

 

「なんとか……聖杯は?」

 

 

「大丈夫です、無事に回収しました」

 

 どうやら、ジル・ド・レェの持っていた聖杯は無事にマシュの盾に回収されていた。

 

 

「これでこの特異点は修復されるな……おっと俺達も戻る時間だな」

 

 龍牙は息を整え立ち上がると、立香やマシュ達が光に包まれ始めた。

 

 

『皆、良くやった!間もなく特異点の修復が始まる。レイシフトの準備は終わっているから早く戻って来て!』

 

 ロマンからの通信で帰還の為のレイシフトが始まった事を知る。

 

 

「もう行かれるのですか?」

 

 

「あぁ……まだ多くの特異点を修復しないといけないからな」

 

 周りにいる清姫、エリザベート達も光に包まれる。消える前に立香に何かを伝えると、彼女達は英霊の座へと還った。

 

 

「さて……じゃあな、ジャンヌ。また会おう」

 

 龍牙達はレイシフトによりカルデアへと帰還した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 

「………何処ここ?」

 

 龍牙は目を開けると、何処かの街中にいた。

 

 

「えぇ~い!避けるな!」

 

 

「いい加減しぶといですよ!さっさと倒されて下さい!」

 

 目の前では美少女2人が戦っていた。一体何が起きたのだろう?



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ぐだぐだ本能寺編
EP35 此処は何処でしょう?


ぐだぐだ本能寺に入ります。


 Q.此処は何処ですか?

 

「分かりません」

 

 

 Q.貴方1人ですか?

 

「いいえ、忠犬牛若丸が一緒です」

 

 

 Q.カルデアに帰還したのでは?

 

「その筈でした……だけど目を開ければ見知らぬ土地です」

 

 

 Q.目の前で何が起きてますか?

 

「軍服少女と着物少女が戦っています」

 

 

 Q.ではこれからどうしましょう?

 

「取り敢えず声を掛けてみましょう」

 

 現実に戻った龍牙は目の前で戦っている少女達に声を掛ける事にした。

 

 

「あの~」

 

 

「ハッ!」

 

 

「甘いわ!」

 

 2人は戦う事に夢中になっているので気付かない。

 

 

「御嬢さんたち」

 

 

「是非も無し!」

 

 

「我が秘剣の煌めき受けるがよい!」

 

 目の前の少女達が放つ魔力が格段に跳ね上がる。恐らく大技を使うのだろう。

 

 恐らく放たれればこの辺り、一帯は消し飛ぶだろう。だが話を聞いて貰えない主人公(龍牙)は少し怒っているのか彼の額に青筋ができている。

 

 

「チッ……破壊龍よ、我が身を纏え!」

 

破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙は破壊龍の鎧を纏うと、2人の少女の間に入ると尾に付いている龍玉を掲げる。

 

 

「喰らえ!」

 

 

(EATER)

 

 破壊龍の鎧……その尾に付いている宝珠はどの魔力を喰らう。龍牙はそれを利用し、目の前の少女達から魔力を奪う。そうする事で、彼女達を無力化しようとしている。

 

 

「くっ……魔力が」

 

 

「魔力を奪われた……何者です!?」

 

 

「取り敢えず話を聞いてほしいんで……無力化させて貰った」

 

 龍牙は鎧を解除すると、目の前の彼女達を見た。彼女達は動けないが、彼に対して警戒を解いてないらしく睨んでいる。

 

 

「儂等の戦いを邪魔しおって!」

 

 

「そうです、邪魔をしないで下さい!」

 

 

「……お団子あるけど?」

 

 

「話し合い賛成です!」

 

 桃色の着物を着た少女が話し合いに賛成した。

 

 

「っておい!お主!」

 

 

「金平糖やお酒もあるけど」

 

 

「お主、中々分かっておるではないか!」

 

 龍牙は思った……チョロいと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 桜セイバーこと沖田総司……幕末の京都で活躍した新撰組の一番隊隊長。

 

 魔神アーチャーこと織田信長……第六天魔王を称する日本の三英傑の1人。

 

 

「成程、成程……あっノッブ、そこのお茶取って下さい」

 

 

「ほれっ……人理焼却のぅ、それでお主が世界を救うマスターの1人か」

 

 

「あぁ……それで君等は何故か、此処に召喚されて戦っていたと」

 

 

「うむ」

 

 ―どうやらぐだぐだ本能寺の様だ―

 

 

「それで1つ聞きたいんだけど」

 

 ―ノッブ、ノッブ―

 

 

「なんでしょう?」

 

 ―ノブブ!ノッブ!―

 

 

「俺達、囲まれてない?」

 

 

「囲まれておるな」

 

 彼等は信長に似た小さい何かに……何者達かに囲まれていた。

 

 

「ノッブだな」

 

 

「信長殿ですね」

 

 龍牙と牛若丸がそう呟くと、周りの生物ノッブの1体が火縄銃の様な物を取り出した。

 

 

「ノッブ!」

 

 ―ドキューン!―

 

 その火縄銃から放たれた弾丸が龍牙の額に直撃した。

 

 

「主殿!?」

 

 

「龍牙さん!?」

 

 

「大丈夫か!?」

 

 牛若丸達は彼を心配して駆け寄る。ノッブ達は龍牙が倒れたのを見て笑っている。

 

 

「ノブブ!」

 

 

「ノッブ!」

 

 

「ぁ~痛かった……いきなり撃たれるなんてちょっとびっくり」

 

 龍牙は何事も無かった様に起き上がる。それには勿論、龍牙の事を知らない沖田や信長、ノッブ達が驚いている。

 

 

「お主、何故生きとるんじゃ!?」

 

 

「昔は問答無用で宝具で撃たれたし、それに比べたら問題ないよ」

 

 

「ほっ本当に大丈夫なんですか!?」

 

 沖田は心配そうに彼の額を確認している。

 

 

「銃撃を真面に受けてかすり傷1つないなんて、貴方何者ですか!?」

 

 

「龍牙君です……さてと」

 

 龍牙は立ち上がると、自分を撃ったノッブの前に行く。そしてノッブを持ち上げた……(目の笑ってない)笑顔で。

 

 

「いきなり撃つ様な悪い子にはO・HA・NA・SHIが必要だよね?」

 

 

「ノブッ!?」

 

 そしてO・HA・NA・SHIが始まった。



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EP36 泡沫の夢

 ―取り敢えず、なんだかんだでサーヴァントを数体倒してこの特異点の中心、大阪に来た。飛び過ぎ?と言っても特に変わりなかったし―

 

 

「それにしても……皆、ぐだぐだだったな」

 

 これまで倒したサーヴァント達の事を思い出して俺はそう呟いた。ゲーム通りに進んだのだが……残るは大阪、つまり豊臣秀吉ならぬ

 

 

「フハハハハハハハハハ!よく来たな雑種共!」

 

 

「……うわぁ~こんな形で再会かぁ」

 

 そこにいたのは俺が良く知る人物だった。

 

 

「我が名は黄金郷ジパングの主にして人類中世の英雄女帝、豊臣ギル吉である!黄金も、茶器も、この世の財は総て我の物!」

 

 

「相変わらず揺るがないなぁ……本来なら変な発言する筈なんだけど……」

 

 

「まさかこの様な形で再会するとは思わなかったぞ、龍牙(愛しき者)よ。まぁこれは一刻の夢の様な物だ………夢だから、龍牙の隣に誰が居ようと関係ない。夢だから、お前を殺そうと問題ない」

 

 

「あっ滅茶苦茶怒ってる」

 

 ギル吉の眼には光が無くなっている、笑顔なのに眼が笑ってない。どうやらご立腹の様である。彼女にとっての一刻の夢とは言え、龍牙の周りに美少女がいるのを見たのが原因だろう。

 

 

「龍牙さん、あの金ぴかお知り合いで?」

 

 

「主殿……斬っていいですか?」

 

 

「知り合いだよ……取り敢えず皆は下がってね。牛若も落ち着いて………アイツは豊臣要素が混ざってても英雄王だから……っておわ!!もう撃ってきた!?」

 

 沖田と牛若丸と話していた龍牙なのだがギル吉はもう既に我慢の限界の様で、バビッてきた。彼はそれを走りながら回避する。

 

 

「死ね!この浮気者がぁーー!!」

 

 

「待て、待て!彼女達とはそう言う関係じゃないってば!」

 

 

「そう言って女を落とすのが貴様であろうがぁ!ウルクでも一体何人の女を落としたと思っている!?」

 

 

「全く覚えがありませんけど!?」

 

 

「この鈍感がぁ!」

 

 雨の様に降り注ぐ宝具、それを避けてはいる龍牙。相手は混じっているとは言え、英雄女帝ギルガメッシュ。それに加えて、彼女は龍牙の癖も戦い方も熟知しているので次第に龍牙の身体に宝具が掠り始めた。

 

 

「やばっ!」

 

 龍牙は次第に状況が悪くなっている事に気付くと、エンキを呼び出した。

 

 エンキを使い回避しきれない宝具を弾いていく。

 

 

「くっ……『ジャラ』ん?」

 

 龍牙は飛んできた宝具を一通り弾き飛ばすと、次の回避行動を取ろうとするが足に冷たい感触と鉄の音がした。

 

 

「えっ天の鎖(エルキドゥ)

 

 天の鎖(エルキドゥ)……ギルガメッシュの盟友の名を冠する神を縛る鎖。龍牙に神性はないので唯の丈夫な鎖でしかないが、一瞬の隙を作るには十分だった。

 

 

「チィ!ならっ創造龍の翼(クリエィティス・ウィング)!」

 

 龍牙は創造龍の翼(クリエィティス・ウィング)を呼び出した。既に宝具は放たれていたが、龍牙は余裕の表情を見せている。

 

 全方位、死角から放たれた宝具……だが創造龍の翼(クリエィティス・ウィング)には創造龍の意志も宿っている。創造龍は主を護る為に動き始めた。

 

 かつてウルクでギルとエルキドゥの攻撃を真面に受けていた翼が、ギル吉の宝具を弾き飛ばす。

 

 

「ギル!これで夢は終わり、目を覚ます時間だ!」

 

 龍牙は創造龍の翼(クリエィティス・ウィング)が宝具を弾き飛ばしている間に、エンキを弓形態にすると矢を番い構えていた。そして矢は放たれた。矢はギル吉の胸を貫いた。

 

 

「フッ……全く……相変わらずだ」

 

 ギル吉の霊核は龍牙により完全に破壊された。身体も光になって消えて行っている。だが彼女は龍牙に向かい歩き出す。

 

 

「なんで避けなかったんだ?お前なら回避できただろうに」

 

 

「なに……そろそろ、戻ろうと思ってな。この泡沫の夢は心地が良い……しかし目覚めの時間だ。王としてウルクに戻らねばならん」

 

 

「そうか」

 

 

「龍牙よ……ウルクに戻って来るので在れば早く来い」

 

 

「あぁ……そうするつもりだよ。だからもう少し待っててくれ」

 

 龍牙は知っていた、7つ目の特異点がウルクで在る事を……。

 

 

「全く……大事な時にお前は我の傍に居らんとは……従者失格だ。チッ時間がないか……」

 

 

「うっ……あの時はあぁするしかなか……むぐぅ」

 

 消えそうになっているギル吉……もとい英雄女帝ギルガメッシュは龍牙の首に掛かっている宝物庫の鍵……バウ=イルを掴み引っ張る。バウ=イルにはエルキドゥの身体から作った鎖を通しているので、引っ張られようと千切れはしない。

 

 なので、龍牙も引っ張られてる。その結果、龍牙が前のめりになりギルの方へと倒れそうになったが、柔かい何かに当たる。

 

 

「むがっ、うぅぅぅぅぅ(何コレ?!と言うか息できねぇ)!!」

 

 倒れそうになった龍牙を自分の胸で受け止めたギルガメッシュ。かなり役得ではあるが……かなり強い力で抱き締められている為、呼吸ができなくなっている。

 

 

「フム……懐かしい感触だ……ん?……シドゥリが起こしに来たし、目を覚ますとしよう」

 

 ギルガメッシュはそう言うと、この特異点から完全に消滅した。

 

 

「はぁはぁ……死ぬかと思ったけど……まぁ……元気そうで何よりだったな」

 

 龍牙はそう呟くと、息を整え立ち上がった。

 

 改めて彼は決意する、1日でも、1秒でも早くウルクに戻ろうと。先程、ギルガメッシュと接触した際に龍牙には見えた。バウ=イルを通して少しだけギルガメッシュの記憶が流れ込んできた。そして知った……特異点となったウルクの状況を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「王よ、お目覚めですか?」

 

 

「あぁ……随分と愉快な夢を見た」

 

 

「夢ですか?」

 

 

「フフフ……懐かしい奴に出会った」

 

 

「?」

 

 

「さて……シドゥリ!今日も政を始めるぞ!」

 

 

「おっ王!?今日くらいはお休みに……ってもう居ない?!」

 

 

「フハハハハハハハハ!往くぞ、シドゥリ!」

 

 

「全く……貴女と言う方は」

 

 総ては国を、民を護る為に王として彼女は戦い続けている




・今回の設定

ギル吉……賢王のギルガメッシュが見た一刻の夢。最後にバウ=イルを通して現在のウルクの状況を龍牙に伝えた。


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EP37 信長が2人!?

 ~カルデア 局長室~

 

 カルデアではオルレアンより帰還した立香達。だが龍牙と牛若丸が帰還しなかった事で騒ぎとなった。

 

 

「龍牙くんが行方不明になって3日か……」

 

 

「無皇は一体何処へ行ったのよ……全く」

 

 

「正直、何処に行ったのかも分からないね。反応もないし」

 

 

「レイシフト直前までは彼の反応は確認できた。レイシフトが始まったと同時に消えた……その後の反応は全く無い」

 

 ロマン、ダ・ヴィンチ、オルガマリーが行方不明の龍牙の事に付いて話し合っていた。

 

 

「でもレイシフト途中に消えるなんて……普通は在り得ないね。彼については謎が多い……多過ぎる。立香君達の報告では特異点Fとは別の力を使ったらしいし」

 

 

「それに彼の話に出てきたと言う無……僕達で言う根源の渦……その意志が産み出したと言う【創造】と【破壊】の力。訳の分からない事だらけだ」

 

 

「でももし……無皇が根源の力を使ってるとすれば、それはもう魔術とかそんなレベルの話じゃないわ」

 

 ダ・ヴィンチ、ロマン、オルガマリーの順に言った。だが考えれば考える程、彼がどう言う存在か、何者か……彼の目的など様々な事を考えてしまい余計に訳が分からなくなる。

 

 

「はぁ……止めよう。彼の事も考えないといけないけど……立香君の次のレイシフト先、第2特異点の事も考えないと」

 

 

「そうだね……今回、立香君が召喚したセイバーとキャスターのジル・ド・レェ、ジークフリート達。戦力としては十分だね……でも一度のレイシフトで遅れるのは6体……マシュを入れると5体が限界だ。メンバーについては立香君に任せてようと思う」

 

 ロマンの言葉で話を次の特異点に切り替えた。

 

 

「それについては問題ないわね……藤丸は未だ未熟だけど、少しずつ経験も積んでいるし次の特異点は彼に任せましょう」

 

 オルガマリーの言葉にロマンとダ・ヴィンチが驚いている。

 

 

「「所長がデレた」」

 

 

「べっ別にそんなんじゃないわよ!彼も頑張ってるし……すっ少しくらい認めてやってもいいかと……ごにょごにょ」

 

 顔を真っ赤になっているオルガマリー……次第に何を言っているのか分からなくなり、そのまま部屋を出て行った。

 

 

「全く所長も素直じゃない」

 

 

「素直すぎる彼女って言うのも想像できないなぁ」

 

 2人はそんな事を考えながら、自分達の仕事へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ぐだぐだ特異点 大阪~

 

 

「はぁ……取り敢えず終わった」

 

 

「う~む……奴が何者か分からんが、これで儂の目的は果たされた!」

 

 龍牙とギル吉の戦いを見ていた魔人アーチャーこと織田信長は聖杯を手にしていた。

 

 

「フハハハハハハ!これで12体のサーヴァントが聖杯にくべられ、儂は力を完全に取り戻した!」

 

 そう言いながら笑う魔人アーチャー。

 

 

「そして聖杯の力を使いこの空間を我が物として、貴様等の世界に乗り込んでくれるわ!」

 

 

「ぁ~うん……まぁ分かってたけど」

 

 

「そうそう、我が名は「織田信長だよね?」えっなんでバレとるのじゃ!?」

 

 

「さっきお昼ご飯の時に聞いてもいないのに自分から自己紹介してたじゃないですか」

 

 

「えっ何してるの儂!?」

 

 

『ふっ、馬脚を現したな!』

 

 皆が声のした方向を見る。

 

 

「そう、儂じゃ!」

 

 

 

 ―そこに立っていたのは目の前にいる織田信長だった。つまり信長が2人居る事になる。

 

 元から一緒に居た信長を良いノッブ、偽物を悪いノッブと区別した。

 

 どうやら悪いノッブは元は信長の一部らしく、良いノッブがトイレに行った時に襲い縛っていたらしい。

 

 そして何やら言い合いをしている信長ズ……そして悪いノッブは宝具・第六天魔王波旬を発動したので辺り一面は炎の海。神性・神秘を持つ者には絶大な力を発揮するが神性持ちの居ないこの状況では少し熱くなっただけに過ぎない。

 

 あっ……でも俺、生身だから熱い。加護が在っても熱いものは熱いな―

 

 

「なぁ、牛若、沖田。2人共やっちゃ駄目かな?」

 

 

「良いのではないのでしょうか」

 

 

「良いんじゃないですかね」

 

 

「ちょっと待て!儂まで殺す気か!」

 

 良いノッブが抗議の声を上げる。

 

 

「だって長いし、熱いしさっさと終わらせたい」

 

 

「儂が言うのもなんじゃが扱い酷くない?!」

 

 

「そうじゃ!そうじゃ!」

 

 悪いノッブが良いノッブの扱いを憐むと良いノッブもそれに乗り声を上げる。

 

 

「味方なr「せぃ!」のわぁ?!この人斬りめ!せめて言わせんか!」

 

 悪いノッブが何かを言おうとするが、沖田が斬り掛かった。

 

 

「だって戦場で言葉を交わす必要なんてないでしょう?」

 

 

「え~」

 

 そうして悪いノッブと沖田の戦闘が始まった。

 

 

「おぉ~凄い剣撃……悪いノッブの銃撃もすげぇ」

 

 

「えぇい!龍牙!魔力が足らん!」

 

 感心しながら龍牙は2人の戦いを見ていたが、ジャンヌと行った様に良いノッブに魔力を回した。途中から、良いノッブも参加し始めたとは言え、良いノッブは本来の力を悪いノッブに殆ど奪われているので1対2でいい勝負をしている。

 

 

「沖田殿の剣……凄まじいですね」

 

 

「速いとかそんなレベルじゃないもんな。俺でも目で追えない……でもこういう時って彼女のアレが出そう」

 

 そう言いながら状況を見ている龍牙と牛若丸。

 

 天才剣士である沖田総司の保有スキル「縮地(B)」……瞬時に相手との間合いを詰める技術だ。

 

 

「決めます……我が秘剣のきr……ゴフッ」

 

 

「人斬り、こんな時にか!?」

 

 沖田が奥義を発動しようとするが、此処で彼女の保有スキル「病弱(A)」が発動……彼女は吐血した。

 

 天性の打たれ弱さ、虚弱体質……彼女の場合は生前の病と後世の民衆のイメージによるものだ。発動すると、あらゆる行動時にステータスが低下する。発生率は高くないが……何時発動するか分からず、今回の様に戦闘中に発動すると致命的である。

 

 

「あらら……仕方ない。牛若丸!」

 

 

「承知!」

 

 牛若丸は龍牙の指示で駆け出し、悪いノッブに攻撃する。

 

 

「って、今度はそっちの露出狂か!」

 

 

「誰が露出狂だ!これは素早く動く為のものだ!」

 

 牛若丸は悪いノッブの銃撃を回避しながら、攻撃を繰り出し続ける。

 

 

「えぇい!お主等、儂の事を忘れて居るじゃろう!」

 

 良いノッブは完全に存在を忘れられていたので激昂し、自分も銃撃を開始する。

 

 

「沖田、大丈夫か?」

 

 

「ぅう……申し訳ありません。こふっ」

 

 

「病弱スキルか……何時発動するか分からないのか困るよな。取り敢えずっと」

 

 龍牙は苦しんでいる沖田の背中に手を当てた。すると彼の手に暖かい光が灯る。

 

 

「『魔力流入……診断開始……病弱スキル発動中、ステータス低下・一時的に行動不能』」

 

 龍牙は自分の魔力を沖田へと流し、彼女の状態を診断した。

 

 

「成程……これなら、こうして……」

 

 

「ん……これは……身体が軽くなりました!どうやったんですか!?」

 

 

「治ったんじゃないよ、一時的に病弱スキルを抑制しただけだ……沖田さんは最後まで戦いたいんだろう?」

 

 

「!?……はい!」

 

 病弱スキルが抑制され、動ける様になった沖田は再び刀を持って立ち上がる。

 

 

「龍牙さん、私の剣を見ていて下さい!参ります!」

 

 龍牙はそう言う彼女を笑顔で見送る。そして彼は悪いノッブとの決着をつける為に指示を出した。

 

 

「牛若丸!信長!そろそろ幕を引くぞ!」

 

 

「承知!」

 

 

「良かろう!」

 

 龍牙の指示を聞き、牛若丸は駆け出した。

 

 

「えぇい!ちょこまかと!鬱陶しい!」

 

 悪いノッブは自分の攻撃を回避する牛若丸に狙いを集中させる。

 

 悪いノッブ……織田信長はクラスアーチャーに属し、主武装は火縄銃と日本刀「圧切長谷部」。現在は遠距離なので火縄銃による銃撃が主だ。だが牛若丸は持ち前の俊敏さを用いてそれを回避している。

 

 

「だから儂を忘れるでないわ!」

 

 存在が薄くなっている良いノッブは自分の半身である悪いノッブに火縄銃を放つ。

 

 

「のわっ!?ぇえい、面倒な!」

 

 悪いノッブは良いノッブの銃撃を下がる事で回避した。この行動が彼女の結末を決めた。

 

 ―1歩音越え―

 

 

「儂の三段撃ちでまとめて葬ってくれる!」

 

 悪いノッブは牛若丸、良いノッブを龍牙と沖田をまとめて倒す為に宝具を発動させようとする。

 

 ―2歩無間―

 

 

「ムッ!人斬りが居らん?!」

 

 悪いノッブは桜セイバー……沖田総司が居ない事に気付いた。

 

 ―3歩絶刀―

 

 次の瞬間、信長の前に沖田が現れた。

 

 沖田総司の秘剣……彼女の剣から放たれる三つ突きが同じ位置・同時に存在する剣戟。

 

 

「【無明三段突き!】」

 

 局所的にではあるが、事象にさえ干渉する事実上防御不可の魔剣が悪いノッブの霊核を貫いた。

 

 

「がっ……くぅ…おのれ、良いノッブとカルデアのマスターとサーヴァントめ。だが忘れるな!幾ら儂が倒れようと第2、第3の悪いノッブが」

 

 

「えぇい!そんな事あって堪るか!」

 

 

「ちぇ~せめて最後まで言わせんか」

 

 最後に魔王らしい言葉を言おうとしたが、良いノッブに言葉を遮られて悪いノッブはそのまま消滅した。

 

 すると周辺に異変が起き始めた。龍牙は急いで悪いノッブの持っていたこの特異点の聖杯を回収した。

 

 

「おっとこの空間が消滅し始めたか……」

 

 

「主殿、どうしましょう?」

 

 

「う~ん……多分、大丈夫だと思うよ。この特異点に来たのは偶然にせよ、必然にせよ……なんとかなるんじゃない?」

 

 龍牙と牛若丸の身体が光に包まれ始めた。どうやら無事に戻れるようだ。そして次の瞬間、世界は眩い光に包まれた。



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EP38 帰還と召喚

 ~カルデア 中央管制室~

 

 カルデアの中枢、カルデアスの前に備え付けられたコフィンがある。立香達は此処からレイシフトを行う。

 

 

「ん……なんだ、この反応?」

 

 

「おやおや~何やら異常な魔力反応だねぇ~」

 

 管制室でレイシフトしている立香達をサポートしているロマンやダ・ヴィンチちゃんとスタッフ達。彼等はカルデアスの近くで異常な反応を検知した。

 

 彼等がカルデアスを見ると、その前に光が出現した。

 

 

「はぁ~休みなしに2つの特異点とか……ハードだ」

 

 

「龍牙君!?」

 

 突如、行方不明になっていた龍牙が現れた事に驚いた職員一同。ロマンは直ぐに龍牙に駆け寄った。

 

 

「ぁ~ドクター、お疲れ様。状況報告とか、色々あると思うけど……流石に疲れたから先に休ませてくれ」

 

 

「えっ…あっ確かに疲れてるみたいだけど……一体なにが……と言うか、彼女達は?」

 

 ロマンは彼女達と言った。此処に居るのは自分と契約している牛若丸しか居ない筈……なのにロマンは何故、彼女達と言ったのだろう?

 

 

「彼女達?……ドクター、俺より疲れてるんじゃないか?」

 

 

「あの主殿……」

 

 

「なぁ、牛若。此処には俺とお前……あれ?」

 

 龍牙は振り返ると、牛若丸がいた。その横には沖田総司と織田信長がいた。

 

 

「……何故に?」

 

 

「えっと私達に何が何やら」

 

 

「ウム……どうやら、儂と人斬りは龍牙とパスが繋がった様じゃの」

 

 

「みたいですね……龍牙さんから魔力が来てます」

 

 

「『魔力パスの確認……牛若丸(ライダー)沖田総司(セイバー)織田信長(アーチャー)との接続を確認。サーヴァント契約……問題なし』……一体なぜ?……あっ!」

 

 龍牙は少し考える様に顎に手を当てて先の特異点の事を思い出していた。そしてある事に気付いた。

 

 

「一時的とは言え君等に俺の魔力渡したな………その時に繋がったのか」

 

 ふっと思い出してみると、沖田の状態を確認した時に自分の魔力を流した。信長には戦闘前に魔力を渡していた。その影響で何故か正式に彼女達と契約する事になったらしい。

 

 

「成程……良かったですね、主殿!召喚時には礼装しかでませんでしたから」

 

 ―グサッ―

 

 

「あの後も全くサーヴァントが召喚されなかったのでびっくりしましたが、戦力が増えてなによりです」

 

 ―グサッ!グサッ!―

 

 牛若丸の言葉が龍牙の心に突き刺さる。龍牙はサーヴァントを召喚の為に石を媒体にカルデアで召喚を行ったが、偽臣の書(ワカメ)の所為でサーヴァントが召喚できなかった。あの後も自身の魔力を用いてカルデアのシステムを使い召喚するも礼装しか出なかった。その時、暗い顔をして「ガチャ……ガチャ」とずっと呟いていたのは言うまでもない。

 

 

「まぁでも……本当にありがとう、ぐすっ」

 

 

「えっと……良く分かりませんが貴方のサーヴァントになった以上、この剣を奉げます!」

 

 

「お主で在れば我がマスターに不足はない!宜しく頼むぞ!」

 

 こうして龍牙のサーヴァントに沖田総司と織田信長が加わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍牙、説明中~

 

 

「成程……君と牛若丸は目を覚ますと、何処かの特異点に居て……それを解決して来たと」

 

 

「そう……それにしても向こうでは数日、カルデアでは1週間以上経ってたとは……それで藤丸君は?」

 

 

「彼ならサーヴァント達と共に第2特異点にレイシフトしているよ」

 

 

「そっか……なら俺も直ぐに行かないと」

 

 龍牙はロマン、ダ・ヴィンチ、オルガマリーと情報を交換していた。先の特異点に居たのは数日で在ったが、カルデアでは1週間以上経っていた。その間、立香はサーヴァント達と一緒に第2特異点へと行った様だ。

 

 マスターである立香を除き、レイシフトできるのはマシュを含めた6人のサーヴァントらしい。龍牙はふっとレイシフトしているメンバーを聞いた。

 

 

「立香君とマシュ……エミヤ、クーフーリン、後は立香君が新たに召喚したサーヴァント、バーサーカーのランスロット、清姫…」

 

 ダ・ヴィンチが立香が連れて行ったメンバーの名前を言っていく。

 

 

(狂スロット……それに清姫かぁ……藤丸君……御愁傷様)

 

 龍牙は清姫の名前を聞いた瞬間に心の中で、立香に対して手を合わせる。彼は生前のこの世界のテーマにしたゲームをしていた為にサーヴァント達についても良く知っていたので、清姫の名を聞いた時には本気で立香に同情した。

 

 

「後はランサーのエリザベートの6名だよ」

 

 

「エリザベートか……彼女も召喚さr……えっ?」

 

 龍牙はエリザベート(自称:アイドル)の名前を聞くと顔を青ざめさせた。エリザベート・バートリー……拷問や少女の生き血を浴びた等で有名だ……問題は彼女ではない。正確には彼女自身もそうなのだが、次の特異点に居るであろう人物と一緒の場所にいると大変な事になる事を龍牙は知っていた。

 

 

「ドクター……俺、直ぐにレイシフトするよ。じゃないと特異点修復する前に、世界が終っちゃう」

 

 

「どういうこと?」

 

 

「とっ取り敢えず、俺は直ぐに準備する。その前に召喚だけしとこう」

 

 

「良く分からないけど、レイシフトするなら明日にしよう。君も疲れているだろうし」

 

 

「あっ……でも……そうだな。今日は休もう……藤丸君やエミヤもいるし大丈夫だろう」

 

 

 

 

 

 

 龍牙はロマン達から今日は休む様に言われたので、マイルームに戻っていた。

 

 

「あっ召喚……召喚しておこう」

 

 サーヴァントの事を聞いて召喚しようと突然思った彼は、宝物庫から召喚祭壇を取り出した。

 

 そして、準備を終えると自分の魔力を流して影響を始めた。

 

 

「(サーヴァント来い!)抑止の輪より来たれ!天秤の護り手よ!」

 

 マイルームの中に光が満ち、龍牙の視界が効かなくなる。光が収まり、目を開けるとそこには2人の少女が立っていた。

 

 

「サーヴァント・ルーラー。ジャンヌ・ダルク。御久しぶりです、お会いできて本当によかった!」

 

 

「サーヴァント・アヴェンジャー。召喚に応じ参上しました……どうしました、その顔は?さっ契約書です」

 

 そこに現れたのはオルレアンで在った2人のジャンヌだった。驚き過ぎて唖然となっている龍牙、彼は2人に「ちょっとタイム!」と言うと部屋から出て行った。

 

 

「まさか貴女と一緒なんて……最悪、死にたい気分です」

 

 

「貴女も召喚されるとは思いませんでした……世界が焼却されている以上、なにが起きても不思議ではありませんが……あっそうです、私をお姉ちゃんと呼んでみませんか?」

 

 

「ふざけんじゃないわよ!死んでも言うか!」

 

 ジャンヌの言葉に怒って言い返すジャンヌ・オルタ。

 

 

「はぁ~……落ち着いた」

 

 

「「あっ」」

 

 

「……本当にジャンヌ達がいる!しゃあ!!!」

 

 と2人を召喚出来た事を喜んでいる龍牙……テンションが上がり過ぎて途中から、夢じゃないかを確かめる為に壁に自分の頭を打ち付けるなど色々と大変だった。

 

 途中、牛若丸と沖田達と部屋に来て互いに自己紹介などを終え、1日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ジャンヌぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!」」

 

 

「久しぶりですね、ジル……キャスターとセイバーの貴方がいるのは不思議な気分ですね」

 

 

「と言うか、五月蠅いわよ」

 

 ジャンヌとジャンヌ・オルタを見て、歓喜の声を上げるセイバー(綺麗な)ジルとキャスター(狂った)ジル。

 

 

「しかし貴女の様な邪悪をジャンヌとみとめr「フン、まぁ……頼りにしてるわ、ジル」……御任せ下さい!」

 

 綺麗な方のジルがジャンヌ・オルタに何かを言おうとするが、顔を赤らめそう言うオルタを見るとジャンヌに接する様に言い方を変えた。

 

 その日、2人のジル・ド・レェからダ・ヴィンチちゃんに羽織やら団扇などが注文されたのは言うまでもない。




~龍牙契約サーヴァント~

・セイバー
沖田総司

・アーチャー
織田信長

・ライダー
牛若丸

・ルーラー
ジャンヌ・ダルク

・アヴェンジャー
ジャンヌ・オルタ



~立香契約サーヴァント~

・シールダー
マシュ(後輩)

・アーチャー
エミヤ(オカン)

・ランサー
エリザベート・バートリー(アイドル?)

・キャスター
クーフーリン(アニキ)

アマデウス(マリー命)

・アサシン
サンソン(マリー命)

・バーサーカー

ダレイオス(?)

ランスロット(意思疎通可能な狂戦士)

清姫(自称:マスターの妻)


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EP39 夢

今回は龍牙の過去について少し触れます。


 1人の子供がいた。子供は産まれながらに不思議な【力】を持っており、大変頭も良くでその考えも普通の子供とは異なっていた。

 

 とある日、親類が死にその葬儀でのことだった。子供は言った

 

 

 ―何故哀しむの?死は生きる者の終着点、そして新たな始まりなのに―

 

 そんな事を言う子供に「異質」「気味の悪い」と言う視線を向ける大人達。頭のいい子供はそれに気付き、自分の考えは人とは異なる事と知った。

 

 それからは、考えを隠し、力も隠して生きていた。

 

 10歳の時に彼の力が増えた、元々持っていた力とは対なす【力】。その2つを手にした時に、彼は自分がどう言う存在なのかを知った……いや正確には思い出した。

 

 彼は力を理解しそれなりにコントロールしていた……だが感情が高まると彼の意志に関わらず発動した。だから彼は自分の感情を押し殺し、暮らしていた。もし何かのきっかけで力が発動し、悪ければ暴走し世界が危機にさらされる。暴走しなくても発動している所を誰かに見られると、自分だけでなく家族にも迷惑が掛かると彼は理解していたからだ。

 

 悩む彼の支えは家族と1人の友達だった。家族は両親と妹、弟、そして1人の友である男の子……俗にいう幼馴染だけは彼の悩みに気付いていた。どういう悩みなのかは彼等も分からなかったが、黙って彼の傍に寄り添っていた。

 

 その生活が17年続き、子供は少年になるくらいに成長していた。彼は家族や幼馴染のお蔭で、普通の生活をする上ではある程度、感情を押し殺す事なく過ごす事ができ、何かが在り感情が高ぶっても本気で怒らなければ力が発動する事はなくなっていた。

 

 彼は普通に生活する中で、様々な事を考えていた。この時代で自分が生を受けた意味、力の使い道、世界の変化など彼の頭の中では常にそう物が渦巻いていたが家族や幼馴染と一緒にいる時間だけは年相応の人間として過ごせていた。

 

 そんな彼は在る事を思いつく「このままなら、普通の人間として暮らしていけるのでは?」と。しかし運命は彼を人として過ごさせはしなかった。

 

 それはとある日の事だった、幼馴染と共に遊ぶ為に発売したばかりのソフトを買いに行った。その帰りにこの世界……人類を脅かす事件が起きた。

 

 突如起きた天平地異、それだけならば自然災害だけというだけの話、だが今回は違う。天変地異の直後に現れた、神を名乗る存在とその先兵達。そして神々は言い放つ。

 

 

 ―傲慢で、愚かな人間達よ。我々はもうお前達を守らない―

 

 

 ―自分達の利だけを考え、他の種族を滅ぼし、信仰すらも忘れかけ、この星を蝕むなど許される事ではない―

 

 

 ―知性を持ったが故に、理を忘れた人間。あろうことか、同族で無意味に争うなど―

 

 

 ―このまま行けば、数百年もしない内にこの星は駄目になる―

 

 

 ―この星にはお前達だけでなく、他の種族もいる。お前達だけの為に他の種族を犠牲にする事はできない―

 

 神々はそう言い放った。

 

 地球()を、他の生命を護る為に人間を滅ぼすと言った。神の言う事は正しいだろう。

 

 人間は目に見えぬ神でなく、自分達に便を齎す科学を求めた。そして神への信仰を忘れると同時に、自然への感謝も忘れていった。自分達の益の為に、他の種族を狩り、森を伐採し、廃棄物を海へと流し汚す。その所為で幾つもの種族が滅びてしまった。そしてこのまま行けば、この地球そのものが駄目になる。

 

 これを聞いた人類は突然、現れた神々を認める事ができなかった。いきなり神だと名乗る者が現れて、それを信じられる訳がない。だが殆どの人間が目の前で起きる人智を超えた力に絶望していた。だがそんな中で別の事を考えている者がいた。その者は瓦礫の下敷きになってしまったビニール袋を見つめて、項垂れていた。

 

 その中身は家の手伝い等をして苦労し手に入れたソフト、例え数千円の物で在っても高校生の彼からすれば大金だ。苦労しやっとの事で手に入れ、友と遊ぶのを楽しみにしていた。それを目の前で潰された。

 

 幼い頃から抑制していた感情が爆発した。そして理屈など関係なく神々(原因)を排除する為に今まで隠し続けていた【力】を解放する。向かってくる神の使い達を倒して、神の1人を倒した所で他の神達も訳が分からなくなり撤退した。

 

 そして少年は我に帰る。

 

 ―やってしまった……一刻の怒りに任せて神殺しをしてしまった―

 

 と後悔した。勿論、その光景は世間に知られる事になる。そうなれば、世界の人々は自分達とは違う力を持つ彼に助けを乞うのは必然だった。少年は人類を守るなどと言う大義名分で戦うつもりはなかった……自分を支えてくれた家族と親友の為に戦う事を決意する。

 

 神々は少年を排除する為に全霊を尽くしたが、2体の龍の力を持つ彼を止める事はできなかった。少年は終始「人に機会を与える様に」言い続けたが、神々には届かなかった。

 

 程無く、少年と神々との戦いは集結する。神々を滅ぼすのではなく、今一度人間に機会を与える様に言い続けた少年と、神々(自分達)を未だに信仰し続ける者達を信じて、残った神々は引き下がったのだ。

 

 闘いが終わり、少年は人々から【神殺しの英雄】と呼ばれる様になっていた。

 

 それからというもの、彼の力に縋る者、利用しようとする者、恩恵を預ろうとする者、心から彼に感謝する者、様々な考えを持つ人間が彼の周りに集まっていく。そしてある時、1人の人間が言った。

 

 ―神をも殺す力を持つ者……仮に暴走した時に止められる存在が居るのか?―と。

 

 居る筈もない、彼はその気になれば世界を壊せる存在だ。神でも対抗できなかった存在をどうやって止めれるだろうか?

 

 その言葉をきっかけに、恐怖は伝染し、瞬く間に世界へと広がってしまった。そして世界は少年の意志に関係なく彼を抹殺する方向へと進んでしまう。人種、国、勢力、様々な理由で争い続けていた世界は……皮肉にも一丸となった。人類の為に孤独ながらも戦った少年を殺す為に。

 

 刀剣類、銃、爆弾、ミサイル、毒ガス……核兵器、人類はありとあらゆる兵器を用いて少年を攻撃する。しかし少年は加護により全くの無傷だった。それを見た人々は更に少年に畏れを抱くのは必然だった。そして迫害は家族までに及んだ。

 

 少年は被害にあった家族を見て激昂し、怒りにより力を使い、周囲を破壊してしまった。少し落ち着いた時に周囲を見回した。そこであるものを見つけた、自分を恐怖の眼で視る人間達……その中の子供を守る様に抱き締める母親。その時、少年は気付いた。

 

 

 ―そうか……弱いからこそ、恐怖する。自分の命を……自分の大切な者達に害が及ばないかと。だからこそ、自分達と違うものを排除しようとする―

 

 その気持ちは自分も同じだった。神と戦ったのも家族や幼馴染を守る為……その恐怖の大元が無くならない限りは彼等に平穏はないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だから少年は人柱となった。家族や幼馴染を巻き込まない為に、人々が安心できる日を迎える為に。

 

 人類の代表達に、家族の安全を引き換えに自分を処刑する様に取引をした。代表達はそれを受け入れ、家族の安全を約束した。

 

 そして少年は自らの加護を消し……命を散らせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍牙side~

 

 自室で休んでいた龍牙は目を覚ました。

 

 

「随分と懐かしい夢だ……はぁ……」

 

 家族との思い出、幼馴染と過ごした楽しい時のこと、神々と戦い勝利し人々から感謝された時のこと、人々から怖れられた時のこと、化物と言われた時のこと……昨日の事の様に鮮明に思い出せた。

 

 嫌な事もあったが、嬉しい事も沢山あった。あの様な結末で在ったが、ギルガメシュやエルキドゥにも出会えた。だから龍牙はあの結末に後悔はなかった。

 

 

「レイシフトの時間まで未だ時間はある……もう少しだけ寝よう」

 

 そう思って再び、ベッドの中へ潜り込んだ。先の特異点での疲れも抜けきっていなかった為に直ぐに睡魔が襲ってきた。

 

 

「ふぁ~……明日はローマか。皇帝、神祖、女神、魔神柱……それに彼女か。まぁ……最悪の場合、もう一段階上を使うだけ……それで駄目なら最終手段か」

 

 

【主人よ】

 

 龍牙は今にも眠りそうな眼で横を見てみると、ぬいぐるみ状態のフンババがいた。

 

 

「どうした?」

 

 

【またあの夢を見たのか?】

 

 

「あぁ……最近は見てなかったけど……な」

 

 フンババはそれを聞くと黙って、ベッドの上にあがり龍牙の上に乗った。彼も黙ってフンババを撫でた。

 

 

「ありがとう……おやすみ」

 

 彼はそう言って睡魔に身を任せて眠りについた。



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第2特異点 永続狂気帝国 セプテム
EP40 いざ、ローマへ!


 ~カルデアス~

 

 一通りの説明をロマニから聞いた龍牙は自分が連れて行くメンバーを彼に伝えた。

 

 

 ―どうやら藤丸君はローマの皇帝を助け、現在はローマにいる様だ。まだ藤丸君のバイタルが確認されている事からコンサートは開かれてないらしい……本当に良かった―

 

 

「じゃあ、今回の龍牙君の面子は牛若丸、ジャンヌ・ダルク、ジャンヌ・オルタ、沖田総司、織田信長の5人でいいね?」

 

 

「あぁ、それで藤丸君達からの連絡は?」

 

 

「通信が安定しないから何とも言えないよ」

 

 

「取り敢えず着いたら探すか…」

 

 

「それから龍牙君、これを」

 

 ロマニが取り出したのは新しい通信機の様だ。オルレアンで使っていたのは壊れてしまった為、新しいのを用意してくれたらしい。

 

 

「前みたいに壊れないよな?」

 

 

「一応戦闘でも壊れないように設計してるから大丈夫……だと思う」

 

 

「助かる……俺はレイシフト後、藤丸君と合流するって事で良いな」

 

 その言葉にロマニは頷き、龍牙はコフィンの中に入る。そしてレイシフトが始まり、彼の視界は青い光で覆い尽くされた。

 

 

 

 

 

 

 ~第二特異点 永続狂気帝国 セプテム~

 

 

「……眩しい……って言うか超あつい!」

 

 龍牙は暑さで目を覚ました。目を覚ませば付近はゴロゴロとした岩が在り、煙が出ている場所もある。

 

 

「此処は……みんな、いる?」

 

 龍牙がそう声をかけると、牛若丸達が現れた。

 

 

「皆、いるな……それで此処はどこなんだ?」

 

 

「さぁ分かりません……ですが此処に霊脈があるのは確かです」

 

 

「えぇ……付近には生命の反応はありません。ただ霊脈が近い所為か、死霊系の敵の気配があります」

 

 牛若丸、ジャンヌがそう答えた。

 

 

「取り敢えず……カルデアに連絡をするか」

 

 そう言ってつい先程、ロマニから貰った通信機を操作した。どうやら今回は壊れていなかった様で、ちゃんとカルデアに繋がった。

 

 

『やぁ龍牙君、今回はちゃんと繋がった』

 

 

『取り敢えず状況を説明するね。今、君がいる所は立香君とマシュが設置した召喚サークルの在ったエトナ火山だ。立香君達はローマのネロ皇帝と合流してガリアへ向かったよ、君もそっちに合流してくれたまえ』

 

 安堵した様子のロマニと笑顔のダ・ヴィンチちゃんが龍牙にそう説明した。

 

 

「了解した……さてと」

 

 龍牙は通信を切り、サーヴァント達の方に向き直る。

 

 

「じゃあ……行こうか。牛若丸以外は今回が初めての戦いになるけど……よろしく頼むよ」

 

 

「はい!沖田さんに御任せください!」

 

 

「マスターと認めた以上、儂はそなたに従うぞ」

 

 

「はい!共に戦いましょう!」

 

 

「フン、契約した以上は従ってあげるわよ、マスターちゃん」

 

 沖田、信長、ジャンヌ、邪ルタがそれぞれそう返事を返す。

 

 牛若丸は自分に構ってくれないので頬を膨らませている。

 

 

「牛若丸も頼むぞ」

 

 

「はい!」

 

 ちゃんと牛若丸にも声を掛けて、頭を撫でようと手を伸ばすが

 

 

 ―キシャアァァァァァァ!―

 

 スケルトンやら、ゴーストの群れがやって来た。

 

 

「ぁ~………取り敢えず迎撃だ。俺はサポートするよ……牛若、沖田は突っ込め!信長は2人の道を開いて!その次にジャンヌと邪ルタは牛若たちの援護を!」

 

 自分の魔力をサーヴァント達に送りながら支持を出していく。サーヴァント達も、それに従い戦闘を開始した。

 

「撃てぇぇぇい!」

 

 まず信長の火縄銃により、ゴーストの群れに隙間ができた。

 

 

「参ります!」

 

 

「せい!」

 

 

 その隙間に牛若丸と沖田が突っ込みゴースト達を蹴散らす。ゴースト達は牛若丸と沖田を倒すためにそちらに集中する。

 

 

「はあぁぁぁ!」

 

 

「フン!」

 

 時間差でジャンヌ達が突っ込みゴースト達を後ろから倒す。戦闘は1分掛からずに終了した。

 

 

「ぁ~ゴースト相手じゃ指示いらなかったかな……」

 

 サーヴァント達の戦闘があまりに呆気なく終わった為、龍牙はそう呟いた。

 

 

「そんな事はありません、マスター」

 

 

「そうです!全ては主殿の指示の賜物です!」

 

 

「ははは、ありがとう。じゃあ、移動しよっか」

 

 

「その前にマスターよ」

 

 

「なに、ノッブ」

 

 

「以前の特異点で、儂と人斬りをとめた時に使っておった力の事を聞きそびれたと思ってのぅ」

 

 龍牙はふっと思い返してみた。

 

 2人を止めた時も、ジャンヌ達を召喚してからも自分の事を話してなかった。

 

 

「そう言えばそうだった……まぁ歩きながら説明しよっか」

 

 龍牙は腕に着けていた通信機を仕舞う。もしもこれが自分のサーヴァント以外にバレると面倒だからだ。

 

 

 ~龍牙一行 移動&説明中~

 

 

「むぅ」

 

 

「「ぐすっ」」

 

 

「……」

 

 龍牙から説明を聞いて、それぞれ反応するサーヴァント達。

 

 信長は何やら難しい顔をしており、沖田とジャンヌはその時の龍牙の心情を考え涙し、邪ルタはムスッとした表情で涙目になっている。

 

 

「そこまで深く考える必要はないよ」

 

 

「マスター……貴方は家族と友人を守る為とは言え、人類に裏切られ命を差し出した。憎くくはないのですか?」

 

 ジャンヌも同じ様に裏切られた身、なので彼に憎しみはないのかと尋ねた。そう聞かれて龍牙は少し考えた。

 

 

「昔は多少なり憎しみはあったかもな。人として生きるために生を受けたのにそれを全うする事を許されなかったからな。

 

 ………でも今はない。あっちの人類がした事は間違ってはない。誰だって何時、爆発するか分からない核爆弾を身近において起きなくないだろうしな。それで大切な人達が傷付くと考えれば尚更だ。だから家族と親友の安全だけは保証する様に取引した。もし俺が相手の立場ならそうしていた。

 

まぁ…未練はないかと言われれば未練はある。だから未練はない、こんな俺はを家族だと言ってくれた人達を護れるのなら……。

 

 それにそうならなかったら、お前らと会えなかった訳だしな!」

 

 そう笑みを浮かべて龍牙は言った。その言葉に嘘はない。

 

 

「じゃが、向こうの人間達が約束を反故するとは思わなんだのか?」

 

 信長はそう尋ねた。確かにその約束は守られなければ意味がなく彼が無駄に命を散らしただけだ。

 

 

「それについては問題ない、一部の人間以外の記憶は改竄した」

 

 

「改竄?」

 

 その言葉を聞いて首を傾げる沖田。

 

 

「そっ……俺には家族はなく天涯孤独の身……そして神を倒し、力に溺れ、暴走した。それを人間の手で討ち果たしたと」

 

 それを聞いてサーヴァント達は驚いた。

 

 

「しかしそれでは……あまりに」

 

 

「それを言うならジャンヌだって魔女の汚名を着せられたじゃないか……あくまで家族や友人、俺を信じてくれた人達の為に汚名を被っただけだ。

 

各国の上層部の人達は俺に同情的だったし……万が一、約束を反故するなら俺の中の龍が顕現して暴れるぞと脅しもかけておいたし……それに本当の俺を覚えてくれてる人が1人でもいるならそれでいいさ」

 

 彼にとっては自分が罵倒され殺されるよりも、自分の家族や友人が傷付く方が辛かったのだろう。

 

 だからこそ汚名を被り、死んだ。 例え汚名を着せられても、誰か1人でも本当の自分を覚えてくれてるなら……喜んで命を捧げた。

 

 

「おっあれがローマ駐留軍か……さて話は此処まで、さっさと人理を修復しようじゃないか!」

 

 龍牙は目視でローマ軍を確認してそう言うと歩き始めた、ジャンヌ達も互いに顔を見合せ、気持ちを切り換えると先へと進む。



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EP41 女神の島へ逝こう

 龍牙達はローマ軍の元へ赴き、立香達の事を聞くことにした。

 

 始めこそ、警戒されていたが、皇帝の元に連れていかれ立香達の知り合いだと歓迎された。

 

 

「カルデアの勇者よ、良く来た!そなたの事は立香やマシュ達から聞いているぞ!」

 

 

「光栄です、ネロ陛下……それで彼等は?」

 

 

「ブーティカやスパルタクスの元に行っておる。そなたが望むなら案内させるが?」

 

 

「いぇ……彼等が此方に戻るまで待たせて頂きます。その間に情報が欲しいのですが」

 

 

「ウム」

 

 龍牙達の目の前に居る少女こそ、第5代ローマ皇帝、ネロ・クラウディウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクスである。

 

 咬みそうな程長い名前だ。彼女こそ後世に暴君と呼ばれる皇帝だ。

 

 彼女の生涯・思いを知る龍牙は思うところがあるが、今は人理修復が優先だ。気持ちを入れ換えてネロから情報を聞いていた。

 

 

 情報を整理すると、どうやらDE……カエサルを倒してガリアを取り戻したらしい。現在はその帰路で【古き神がいる島】へと向かう話をしていた所だそうだ。

 

 余談だが、ブーティカさんの母性の象徴とあのエロい服装を見ていてジャンヌ達に抓られてしまった。

 

 後、スパルタクスはバーサーカーらしい発言だったけど、同朋と認めてくれたらしい。それに清姫やランスロット、と会話をしたのだが………一番、ランスロットが話し易かったよ。

 

 エリザベート?はてなんの事だろう………藤丸君達の話によると、レイシフトした場所がズレたらしいので一緒ではないらしい。心の底からよかったと思う………まぁ恐らく直ぐに会う事になるだろうがね。

 

 

 

 

 

 

 ~移動中~

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁ!!!!」

 

 

「ぎょぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 

「あばばばばば!!」

 

 

「ちょw浮いて、ドリフト!?」

 

 ネロ陛下が操舵する舟に乗った一同なのだが、絶叫マシン宜しく凄まじい操舵だった為に島に着く頃には皆が顔を青くしていていた。

 

 

 

 

 

 

 

 ~噂の島~

 

 

「うっ…………」

 

 

「おぇ……うぷっ」

 

 

「…………」

 

 サーヴァント達は特に三半規管が強化されているのでそうでもないが、ネロ以外の生身の人間……龍牙、立香、ネロ以外の護衛の兵士達は着くなり地面に膝を付いた。

 

 

『ぁ~立香くん、龍牙くん、バイタルが凄く不安定になっているけど大丈夫かな?流石はネロ陛下の操舵だね……浮いたり、ドリフトターンしたり………僕なら耐えれないかな』

 

 ドクターロマンがそう通信を入れてきた。

 

 

「だっ大丈夫です……」

 

 

「こっこれくらい……あいつらにヴィマーナで引きずり回された事に比べれば……うぷっ」

 

 

『えっとご苦労様……でも休んでいる暇はなさそうだ、サーヴァント反応だ、気を付けて』

 

 そうドクターが言うと、島の奥の方からサーヴァントがやって来た。

 

 

『ん?なんだ、この数値……普通のサーヴァントとは違う?』

 

 

「えぇ、そうよ。ふつうのサーヴァントではないわ」

 

 そして現れたのは唯のサーヴァントではなく、その姿からまさに()()という言葉が相応しい可憐な少女だ。龍牙は彼女の正体を知っていた。

 

 

「御機嫌よう、勇者の皆さま。当代における私のささやかな仮住まい、()()()()()へようこそ。

 

 あら、あら、どんな立派な勇者が到来したのかと思ったのだけど……サーヴァントが……混じって……」

 

 女神は龍牙の姿を視界に捉えると驚いた様な表情をしている。

 

 

「この感じ……」

 

 マシュはデミ・サーヴァントになった影響からか彼女から感じる神性に驚いていた。

 

 

「貴方……面白いわね。その身に宿るのは原初の力かしら?でももう1つあの巨人(セファール)を思い起こさせる破滅の力………それにその洗練された魂。まるで大神が手ずから創り出した宝物みたいね………数々の英雄と呼ばれる人間を見て来たけど貴方の様な存在は初めてよ」

 

 

「それは光栄です、女神ステンノ………でもあまり()を見るのはお勧めしないな。特に真性の神である貴方では逆に喰われかねませんよ?」

 

 

「私、名前を言った覚えはないのですけど………でも忠告は聞いておくわ。その力、私達()を殺す物ね。あまり深入りすると本当に食べられてしまいそう」

 

 ステンノの言葉に牛若丸達以外が反応するが、龍牙が話を進める様に言い、ステンノが立香やネロに試練を出した。洞窟の中の宝物を取ってくると言うものだ。

 

 龍牙はそれを断わり、外で待つ事にした。

 

 理由はこうだ「外に敵が来るかもしれない(面倒な事になるだけだから)、外で待機してるよ」だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~海岸~

 

 立香やマシュ達が洞窟に入っている最中、龍牙は砂浜に座り海を見ていた。

 

 

「ぁ~静かだなぁ~………」

 

 

「龍牙と言ったかしら、貴方はどうして入らなかったの?」

 

 

「きっとろくな事にならないからですよ、女神様………それにそろそろ、来る頃ですしね」

 

 龍牙がそう言うと、ルーラーの力を持つジャンヌが何かを感じたのか旗を構える。

 

 

 「余、の、!」

 

 それは海から現れた。

 

 

「余の……!ふるまい、は、運命、で、ある!!

 

 捧げよ!その身体!

 

 捧げよ!その命!」

 

 現れたのは狂戦士のクラスを持つカリギュラ。暴虐の伝説を持つ古代ローマの三代目皇帝であり、ネロの叔父にあたる存在だ。

 

 彼もまたこの時代に召喚された連合ローマ帝国の皇帝の1人だ。

 

 

「なんとなく感じていたけど、やっぱ予定より早く来たか……俺と言うイレギュラーの影響か?まぁいい、彼女(ネロ)とアンタを倒させるのは俺としても心が痛む……暴虐無人なアンタでも姪の彼女(ネロ)には優しい叔父だった。だから俺がアンタを倒す……っと死霊系のエネミーまで居やがる。ジャンヌ、邪ルタ、信長!敵を各個撃破だ!」

 

 

「はい!」

 

 

「いいわよ」

 

 

「よかろう!」

 

 ジャンヌ達、3人はエネミーを撃破する為に散って行く。

 

 

「牛若、沖田、相手はバーサーカーだ……狂化されてる分、頑丈で馬鹿力……気を付けろよ」

 

 

「「はい!」」

 

 

「おぉぉぉぉ……我が妹の子……ネロはどこだ?」

 

 

「ネロ陛下なら洞窟の中だ。でも行かせないよ……牛若、沖田、交互に攻撃!」

 

 

「「承知!」」

 

 沖田が先に駆け出し、カリギュラに斬り掛かる。

 

 

「ぬぅ!」

 

 カリギュラは襲い掛かって来た刃を素手で払いのけ、拳で沖田に殴りかかる。しかし沖田は俊敏さでそれを避けた。その隙をついて牛若丸がカリギュラに斬り掛かる。

 

 カリギュラは狂化により身体能力を上げている分、理性は低く、攻撃も大振りだ。剣技と速さを主体とする戦い方の2人………攻撃が当たらなければどうという事はないのだ。

 

 牛若丸と沖田には自分の攻撃は当たらず、2人の攻撃は確実に自分を傷付けていく。

 

 

「おぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 カリギュラは咆哮すると、2人を振り払った。

 

 

「ぐぅぅぅ……」

 

 

「流石は狂戦士………そう簡単にはとらせてくれないか」

 

 狂戦士(バーサーカー)のクラスを与えられたサーヴァントは理性を封じられ、狂化によりステータスを上げる。カリギュラも狂戦士(バーサーカー)のクラスを与えられている。知名度の高い牛若丸と沖田でも、無理に突っ込めば手傷を負う可能性もある。

 

 

「『魔力・強化……筋力向上………矢への魔力収束、完了』牛若丸!沖田!」

 

 龍牙はエンキを弓矢に変形させ、魔力により筋力を向上させ、更に魔力を矢へと収束させる。声を聴いた牛若丸と沖田は左右に別れる。その瞬間、龍牙は矢を放った。矢は凄まじいスピードでカリギュラの膝を貫いた。

 

 

「ぐおぉぉぉぉぉ!?」

 

 

「2人とも!止めだ!」

 

 

「「承知!」」

 

 牛若丸と沖田は駆け出した。先に牛若丸が、カリギュラとすれ違い様に彼の身体に斬撃を放った。そして沖田がカリギュラの懐に入りその霊核を貫いた。

 

 

「ぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおお!!」

 

 カリギュラは霊核を貫かれ、既に消滅し始めていた。

 

 

「なっ何事だ!?おっ叔父上!?」

 

 カリギュラの咆哮を聞いた立香とネロ達は洞窟から出てきた。そして何が在ったのか、理解した様だ。

 

 

「ぉぉぉぉぉぉぉ……ネロ……我が愛しい妹の子……お前は美しい………」

 

 カリギュラはネロの姿を捉えると、そう言い放ち、手を伸ばす。

 

 

「月の、女神……より、も…聖杯の……輝き、より、も…だ……」

 

 そうしてカリギュラは完全に消滅した。

 

 

「叔父上……敵将カリギュラ、打ち取った。見事な働きであった。礼を言うぞ、龍牙、そしてそのサーヴァント達よ」

 

 

「この程度、問題ない……ジャンヌ達も無事か?」

 

 

「はい、この程度問題ありません」

 

 

「当然よ、あんな雑魚相手にどうこうなるほど弱くないわよ」

 

 

「ウム」

 

 一先ず、戦闘が終了した事で武装を解除した龍牙。

 

 

「アレが子イヌの言っていたマスターね……正直言うと、子イヌの方が可愛い顔をしてるわね」

 

 

「ナハハハハハ!キャットはどちらかというと、向こうの方が好みだぞ?」

 

 皆が声のした方向を見ると、エリザベート(自称・アイドル)(理性がありそうにないサーヴァント)がいた。

 

 

「先輩!!戦闘準備します!」

 

 

「ウム、その方が良さそうだ」

 

 

「ぁ~賛成」

 

 マシュ、エミヤ、クーフーリン(術)が戦闘準備を始めた。

 

 

「ちょw落ち着いて!アレはエリザベートだ」

 

 

「わっ分かっています……分かっているのですが」

 

 

「酷くない?!」

 

 

 ―藤丸君の話を聞いたのだが……やっぱロクでもない事になってなかったので洞窟に入らなくて正解だったと思う。

 

 一先ず、エリザベート、タマモキャット、ステンノが仲間になったのは言うまでもないが……帰りもあの船に乗ると考えると……うっぷ。

 

 取り敢えず、敵を蹴散らしながらローマに戻ってきた。ネロに部屋を用意していた貰ったのでゆっくり休むとしよう―

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 龍牙は純白と漆黒、2つの色に染まった世界で目を覚ます。

 

 

 ―ぁあ……蠢いている―

 

 

 ―歴史を蝕む者達が―

 

 龍牙の眼の前に現れたのは2体の龍……己の中にいる無より産まれた創造龍と破壊龍。

 

 

「魔神柱か……」

 

 

 ―それだけではないのです……王よ―

 

 

 ―原初の存在も動き始めている―

 

 創造龍と破壊龍は龍牙に対して言い放った。

 

 

「原初の存在……なんだそれは?」

 

 

 ―それは王の自身の眼で確認するといいでしょう―

 

 

 ―アレは王と関わりの深い時代にいる……近付けばやがて接触することになる―

 

 

 ―しかしアレは悲しい存在です……願わくば我等を救った様に貴方が()()を救ってくれる事を願います―

 

 2体の龍はそう言い龍牙を見降ろしている。

 

 

「相変わらず良く分からん事を……お前等は何時もそうだ、重要な事は言わない。まぁいいさ………俺は俺のすべき事をするのみ」

 

 

 ―我等が王よ、我等の力は貴方の想うがままに使えばいいのです―

 

 

 ―それがどういう結果であれ、何かに繋がる事になるだろう―

 

 

「何せよ【アレ】を使う様な状況にならなきゃいいが……万が一の場合は使う。いいよな?」

 

 龍牙がそう言うと、それに龍達が頷き、世界は白と黒に包まれた。



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EP42 決戦前

 龍牙は自分のサーヴァントとネロや立香達と共にアサシン・荊軻の案内で王宮へ向かっていた。今は敵陣に着く前の休憩をしていた。

 

 これまでの経過を簡単に説明しよう、敵側のダレイオスの登場やブーティカが敵に召喚されたキャスター諸葛亮孔明(ロード・エルメロイⅡ世)とアレキサンダーに捕えられたり、ローマの神祖・ロムルスが登場し、ネロは困惑していた。

 

 

(あらすじはそれほど、変わっていない。でも皇帝が落ち込んでいると……士気が落ちる)

 

 

「………」

 

 ネロが困惑し落ち込んでいる原因は、先に上がった神祖・ロムルスの登場の所為だ。

 

 神祖・ロムルス……ローマの建国神話に登場する国造りの英雄にして、生きながらに神の座に祀られた存在。ネロは勿論のこと、カリギュラの様な歴代皇帝が最も敬愛し、尊敬する存在。

 

 そんな英雄が現在ローマ……そして自分の敵になるなど信じたくないのは当然だろう。立香達とこれからどういう作戦で行くかを話し合っていたが、彼女の事が気になり声を掛けた。

 

 

「(放っておく訳にはいかないか)……皇帝陛下」

 

 

「むっ……龍牙、立香、マシュか」

 

 

「落ち込んでますね……まぁ建国王が敵になったとしたら落ち込む……いや戸惑うのは仕方ない事です」

 

 

「ウム……正直言うと、まだ迷っているのだ。本当に余は正しいのか……このまま神祖に敵対していいのかと」

 

 ロムルスは言わばローマそのもの。これまで信じていたものと敵対するなど困惑するのは当然だ。

 

 

「ん~俺から言える事はただ1つ。()()()()()()()()()()()()だ。

 

 この時代は今を生きている貴女達の物だ。過去の亡霊が貴女達の生き方を左右していい訳がない。これは当然の事……こんな簡単なことは()()()知っている」

 

 

「今を生きているのは余達か……そうだ、その通りだな!それに」

 

 

「これまで見て来た連合側の人達は笑ってなかった」

 

 立香がそう言った。これまで連合国の者達と遭遇したが笑いを浮かべている者達はいなかった。

 

 

「そうだ!以下に完璧な統治であろうと、笑い声のない国など在ってたまるか!」

 

 

「笑顔……国か…(何時だったが、ギルに同じ言った事を在ったな)」

 

 かつてウルクで過ごしていた時の事を思い出した。龍牙が旅に出て、ウルクに戻ってきた当時、民達がギルガメッシュの圧政により苦しんでいた。その時に龍牙は立香と同じ様な事を言ったのだ。

 

 もう既にネロに迷いはないだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~王宮~

 

 龍牙達は現在、王宮の目の前に立っていた。この先に待つのは神祖ロムルスだ、決して容易い事ではないだろう。

 

 

「では往くぞ!荊軻、案内せよ!!」

 

 

「承知した。此方だ」

 

 さて、これから敵大将の元に向かおうとする時に現れたのは多数のシャドウ・サーヴァント達だった。

 

 

「チッ……仕方ない。藤丸君と陛下達は先に行ってください。俺達が道を開けますんで、信長、火縄の用意を」

 

 

「良いのか?あの程度なら余達が戦っても」

 

 

「恐らくシャドウ・サーヴァントは無制限に出てくるでしょう。此処で時間を喰うと更に増えてくる。だったら2組に分かれた方が勝率が上がります」

 

 

「そっそうか……だが死ぬでないぞ!」

 

 

「勿論……牛若、ジャンヌ、邪ルタ、沖田は信長の射撃後、直ぐに中央に道を開けてくれ」

 

 龍牙の指示にそれぞれ返事を返すと、戦闘準備を整えた。

 

 

「マスター!何時でも撃てるぞ!」

 

 

「よし……撃てぇぇぇぇぇ!!」

 

 龍牙の声と共に、信長が待機させていた大量の火縄銃が放たれる。銃撃は全て、シャドウ・サーヴァント達に直撃し、吹き飛ばした。

 

 

「皆、出番だ!」

 

 

「フン!」

 

 邪ルタが手を向けると、炎が出現しシャドウ・サーヴァント達を焼き尽くし、中央に道を作った。

 

 

「はあぁぁぁ!!」

 

 

「セイッ!!」

 

 

「てやぁぁぁぁ!!」

 

 続いて、牛若丸、沖田、ジャンヌが道の左右の敵の残党を掃討した。これで立香達は戦闘する事無く、行けるだろう。

 

 

「今だ!」

 

 龍牙の掛け声と共に立香達は駆け出した。そして敵将の元へと向かう。彼等を後姿を見送ろうとするが、シャドウ・サーヴァントや魔物達が出てきた。

 

 

「取り敢えず、皆、敵を一掃してくれ………スマンが、少し魔力を溜める(奴がどれほどのものか、分からないが油断は身を滅ぼす。だからこそ、万全でいく)」

 

 龍牙はシャドウ・サーヴァントをサーヴァント達に任せるとこの地に通っている龍脈から力を吸収し始めた。

 

 

 《グルルルルルルルル!》

 

 

 《ガアァァァァァァァ!》

 

 龍牙は自分の中にいる龍達が何かに対して敵意を剥き出しにしている。

 

 

「あぁ、分かってるよ。お前達の言いたい事はな……だから待て」

 

 

「マスター?」

 

 

「あっ、ごめん。抑えるのに必死でな」

 

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 この場にいるサーヴァント達が龍牙の髪と眼の変化に気付き驚く。黒髪、黒眼だった彼は銀髪、金眼へと変化していた。それだけでなく、龍牙から来る魔力の質が変化していたのだ。

 

 

「さてと……大体、片付いたか。じゃあ、皆、行くよ」

 

 そう言って龍牙は歩き始める。その身に宿す龍達を必死に抑えながら……。



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EP43 魔神柱、降臨

 ~王宮 玉座の間~

 

 

「ハアァァァァァ!」

 

 

「ぐっ………見事……見事だ、ネロ……愛し子よ。良くぞ(ローマ)を倒した、それこそネロ(ローマ)だ」

 

 立香やマシュ、サーヴァント達の協力で、ネロの一撃がロムルスを貫いた。そしてロムルスはネロを讃える。

 

 彼自身、人類の滅びを良しとしていない。サーヴァントという立場上、やむなく従っていただけのこと。その気になれば自害も出来ただろうがロムルス自身、ネロを見定める為に戦っていた。

 

 

「レフ教授!勝負はつきました!」

 

 この場にいるのは、レフ・ライノール……特異点Fにてカルデアを裏切った人間……。

 

 

「いやはや、ロムルスを倒し切るとは。デミ・サーヴァントや寄せ集め()()がやるじゃないか。まぁしかし、所詮は人間か。

 

 冬木で見た時よりも成長した様だな。やはりあの場で殺しておくべきだったか……いやそれよりも奴はどこだ?!私をコケにした、あの人間は!!!」

 

 どうやら、龍牙にやられたことを根にもっている様だ。

 

 

『此処に居る』

 

 扉を破り入ってきたのは、龍牙とそのサーヴァント達だった。

 

 

「無皇……龍牙ァァァ!」

 

 レフは龍牙を視界に入れると、激昂する。

 

 

「やっとだ……やっとこの時が来た。あの時、この私の顔に泥を塗った貴様を殺す事が出来る」

 

 龍牙はそれを黙って聞いていた。

 

 

「させません!先輩達は私が護ります!」

 

 

「フン、デミ・サーヴァント風情が………まぁいい。

 

 所詮、貴様等ではどうにもならない結末は確定している。人間など、無能で存在する意味などないのだからな!」

 

 そう言うと、彼は黄金の杯……聖杯を取り出した。先の特異点でジル・ド・レェが持っていた物と同じ物だろう。

 

 

「ならば、哀れに消え行く貴様等に、我等が王の寵愛を見せてやる!」

 

 そして、レフは聖杯を取り込み、醜悪な笑みを浮かべると彼の姿が変貌し始めた。

 

 天井を貫く地に突き立つ巨大な醜い肉の柱……その体表は黒く、無数の赤い目玉が連なっている。

 

 

「なっなんだ、この怪物は……醜い!この世のどんな怪物よりも醜いぞ、貴様は!」

 

 ネロがそう言い、他のメンバー達も目の前に現れた異形に警戒する。

 

 

『この反応はサーヴァントでもない、幻想種でもない!伝説上の本当の【悪魔】の反応なのか!?』

 

 ドクターロマンが通信で、変異したレフについて言い放つ。

 

 

 《全く優秀だなロマニ・アーキマン!それでは改めて自己紹介しよう!

 

 我が名はレフ・ライノール・フラウロス!七十二柱の魔神の一柱!魔神フラウロス!

 

 これが王の寵愛そのものだ!思い知れェェェ!》

 

 変貌したレフ……魔神柱フラウロスの複数の眼がギョロリと動き、光ると怪光線が放たれた。

 

 それに反応したマシュやサーヴァント達はマスター達を護る為に防御に回った。立香はマシュに守られ、龍牙はジャンヌにより護られた。

 

 

 《フハハハハハハハハハ!!!これこそ、我が王の力の一端だ!》

 

 

「あぁ、そう……」

 

 龍牙はジャンヌに下がる様に伝える。始めは自分達が戦うと言おうとしたが、パスを通ってくる魔力の変化に気付く。そして龍牙の眼が鈍い光を放っていたのを見て下がる。

 

 

 《死ねぇぇぇぇぇぇぇ!無皇 龍牙!!》

 

 龍牙に向けて、放たれる怪光線。光線は龍牙を包み込む。それを見て、立香達は叫ぶ。

 

 

「無皇先輩!!!」

 

 だが、光線が掻き消えその場に破壊龍の鎧(ノヴァズ・ドラゴンメイル)を纏った龍牙が立っていた。

 

 そして、静かに龍牙は魔神柱を見ていた。



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EP44 龍化

 ~王宮 玉座の間~

 

 降臨した魔神柱フラウロス。

 

 それを静かに見ている龍牙。現在、彼は破壊龍の鎧(ノヴァズ・ドラゴンメイル)を纏っていた。

 

 

「立香、マシュ、アレは龍牙なのか?」

 

 

「はい……そうです。詳しい事は分かりませんが、アレは破壊の力だそうです」

 

 

「破壊の力……?」

 

 ネロはそれを聞くと首を傾げる。

 

 

「恐らくアレは純粋な破壊の力だろう」

 

 

「神祖殿?!未だ!!」

 

 ネロ達に声を掛ける神祖ロムルス。彼に対して皆は警戒する、今まで敵対していたサーヴァントが話しかけて来れば当然だろう。

 

 

「安心するといい、今の私は愛し子(ネロ)の一撃によりサーヴァントとしての呪縛より解放された。今は何とか存在を保っているが長くは保つまい。

 

 アレは恐らく破壊の概念そのもの………それだけではない、死と言う概念でもある。巻き込まれぬ様に気をつけるのだ」

 

 神祖ロムルスはそう言うと、彼等を庇うように前に立つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 《その力……危険だ……消えろ!無皇 龍牙!!!》

 

 怪光線を放つフラウロス。龍牙はそれを防御することもなく、フラウロスを見上げていたが突然変わる。

 

 

「グオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 龍牙が咆哮する、その瞬間、彼の身体から凄まじい衝撃波が放たれた。それにより怪光線が掻き消された。

 

 

 《馬鹿な!?掻き消しただと!?在り得ん!サーヴァントでもない唯の魔術師如きがその様なこと、出来る訳がない!!!》

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ………ふぅ……いいだろう」

 

 龍牙はそれだけ言うと、両手を広げ天を仰ぐ。

 

 

「『大いなる母よ、我が身に宿る戒めを解き放つ許可を頂きたい』」

 

 ―構わない、貴方の想うがままに………でも制限時間は3分―

 

 

「3分か十分だよ」

 

 ―でも無理しないでね。創造と破壊もそうだけど、貴方が苦しむのは嫌だから―

 

 

「はいはい……神々との戦い(あの時)と比べれば未だマシな方だと思うよ」

 

 ―それでも……気を付けてね。後、『はい』は1回―

 

 

「はぁ……この頃、口五月蠅くなってきたなぁ………全く」

 

 

 《なっ何を!何を言っている?!誰と話しているんだ?!それになんなのだ、貴様は!?》

 

 フラウロスは龍牙の妙な行動と彼から溢れ出している力に困惑していた。

 

 

「うるさい……3分しか時間ないからさっさと終わらせるよ」

 

 龍牙は紡ぐ破壊の力を引き出す言の葉を。

 

 

 

「『我が声に応え、目覚めよ。創造より産まれし、あらゆる存在を喰らいし破壊龍よ。

 

 森羅万象を【破壊】をもって無へ還そう。苦しみ、もがき、彷徨う魂達を【死】をもって輪廻の輪へと導こう。

 

 我【楔】としての役目を果たす。我が魂力を喰らい、我が肉体を通し現世へ顕現せよ』

 

 龍牙が言の葉を紡ぐ度に、その身を変貌させていく。

 

 身長約180㎝しかなかった龍牙は5mほどに巨大化しており、鎧も今までの物とは異なっており、それは生き物様に変貌していた。

 

 黒く堅牢な鱗に覆われた身体、全身に脈動する血管、咢より見える巨大な牙、両手足の先の鋭い爪、背から生えた翼、先に龍珠の付いた太い尾。

 

 小さくはあるが、その姿はまるで……龍そのものだった。

 

 

「【破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)龍化(ドラグーン・ドライブ)】」

 

 これまでに竜種……ワイバーンやドラゴン、ファヴニールと言った存在が数多居たが、これは今まで見て来た中でも異質な存在感を放っていた。

 

 

「グガァァァァァァァァ!!!」

 

 龍化した龍牙が咆哮する。唯の咆哮だけ、周辺の空間が歪み、大気が、世界が震える。

 

 

 《なっなんだのだ!?これが人間だと言うのか?!》

 

 

「グルルルルル…………」

 

 龍化した龍牙は魔神柱・フラウロスをジッと睨みつけ唸る。

 

 

 《貴様はなんだ?!それは何なのだ!?》

 

 龍化した龍牙は何も答えない………答える必要などない。今の彼にとって、魔神柱は倒すべき敵だ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ………破壊すべき対象(もの)なのだから。

 

 

「ハカイ……ハカイスル」

 

 

 《なに?》

 

 

「破壊スル……世界ヲ乱スモノヲ!」

 

 

 《ふざけるな!!!貴様の様な化物にやられて堪るか!!!貴様が死ねぇぇぇぇ!!!》

 

 フラウロスの全身の眼が、龍牙を凝視して、これまでにないくらい光を放つ。

 

 龍牙に向かい放たれた怪光線……恐らくこれまでにない力だ。恐らく取り込んだ聖杯の力をフルに使った一撃だろう。

 

 

 ―焼却式・フラウロス―

 

 

「グルルルルル」

 

 怪光線が目前に迫った瞬間、龍化した龍牙がその口を大きく開き、怪光線を()()()しまった。

 

 

 《はっ?》

 

 

「「「「えっ?」」」」

 

 フラウロスだけでなく、立香やマシュ達、龍牙のサーヴァント達もこれには驚きである。防御した訳でもなく、打ち消した訳でもない……文字通り()()()しまったのだ。

 

 

「ガアァァァァァァ!」

 

 龍化した龍牙は魔神柱へ接近すると、その身体へと牙を突き立てた。

 

 

 《ぐあぁぁぁぁぁぁ!!!》

 

 そのまま、魔神柱の肉を噛み千切り、爪で引き裂いていく。この場に響く、魔神柱の悲鳴………フラウロスも必死に抵抗している、怪光線を放ったり、その巨体で龍牙に攻撃するものの全く効果はない。

 

 

 《ふっ……ふざけるなぁーーー!!!》

 

 フラウロスは自分の陥っているこの状況を認めたくなかった。

 

 

 《人間がぁぁっぁあああ!!!!人間如きがぁぁぁぁぁあ!!!!!このフラウロスにこの様な!!!!!》

 

 だからこそ限界以上の魔力を引き出し、龍牙を吹き飛ばす。

 

 

 《その力が人間だと!?貴様の様な存在が人間である訳がない!!!この化物がぁぁぁぁぁ!!!》

 

 フラウロスはその身に取り込んだ聖杯から更に魔力を引き出し、光線を放つ。だが龍牙はそれを喰らう。

 

 

「ぐっ………がぁ……ぐぅぅぅぅ……ぎゃ……ハハハ……」

 

 龍牙の様子が変わる。先程まで、ただフラウロスを滅ぼす為に集中していた。だが突如、笑い始めた。

 

 

「ギャハハハハハ!!!」

 

 笑いと同時に凄まじい破壊の力の暴風が吹き荒れる。立香、マシュ、そして彼等のサーヴァント達……ネロは震えた。

 

 変貌した龍牙から放たれた圧倒的な力も原因の1つだった。だが最も大きな要因は別の物だ。

 

 生物としての本能が叫ぶ、【アレは在ってはならない物……生きている限りは決して敵わぬ存在……逃げろ】と。

 

 

「ハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 

 《なっ……なんなのだ……それは………貴様は……その身体に何を抱えている?!》

 

 フラウロスは目の前にいる龍牙が笑い始めた時からその異変に気付いていた。龍牙から放たれる気配……人間としての気配が在ったものの、笑い始めてから人間の気配とは別の()()の気配が現れた。

 

 

「ハハハハハハハ……ガッ!?ぐあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 笑っていた龍牙は突如苦しみ始める。そして、その身体に罅が入り出した。



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EP45 破壊の大王、降臨する

 

 龍牙の中にいる無より産まれた創造龍と破壊龍、本来この龍達はどの様な状況で在っても世界に顕現してはならない。

 

 何故なら創造と破壊と言う概念そのものが実体化した存在そのものである龍達は、唯、そこに在るだけで世界に大きな影響を及ぼしてしまうからだ。

 

 龍牙がその力を必要とした場合には龍牙を纏う鎧として力の一部が顕現する。だがそれでは足りないと考えた際には更にその力を引き出す為に、龍牙の身体を媒体として龍を顕現させる……それが龍化(ドラグーン・ドライヴ)である。

 

 力を使う為に、その魂を龍達に喰わせ、一体化する龍化(ドラグーン・ドライヴ)。これにはデメリットが存在する。龍牙が一体化する際にはその身を龍の力で変貌させる。そして力を行使する為に精神さえも龍に近付ける必要がある。

 

 だがこの際に長時間一体化していると、龍側に精神を引っ張られてしまう。そうなれば破壊を行うだけの機械へと変わる。先程、笑っていたのは破壊龍側に引っ張られ破壊衝動に飲まれていたのである。

 

 このデメリットを防ぐ為に、龍牙は膨大な魔力を代償としているが、現在は魔力が制限させているのでそれは頼りにならず、龍化(ドラグーン・ドライヴ)に制限時間が産まれる。

 

【無】との会話で出てきた3分と言う時間はこの制限時間の事だろう。

 

 

「ォォォォォォ!」

 

 最終的にその身体は粉々に砕け散り、中から人間の姿の龍牙が現れた。

 

 

「はぁはぁ……あぶねぇ……危うく飲まれる所だった。やっぱ制限があると………不便だ」

 

 龍化(ドラグーン・ドライヴ)の影響なのか、疲弊した様子の龍牙。

 

 

 《(弱った……この期を逃す訳にはいかん)貴様は危険だ!死ねぇぇぇ!!》

 

 疲弊した龍牙を見て好機と思ったフラウロスは龍牙に怪光線を放とうとする。先程放った―焼却式・フラウロス―を放つつもりだろう。

 

 ジャンヌ達が龍牙を庇おうと駆け出し、マスターを前に立つ。だが龍牙はこれを危機として見ておらず、笑みを浮かべていた。

 

 

【EAT】

 

 

 《なっ……なんだ?!魔力が……魔力が喪われていく!?》

 

 機械的な音声と共に、フラウロスの魔力が抜けていく。その魔力は龍牙の背後に浮いている宝珠へと吸収される。

 

 

 《ぐわぁぁぁぁぁぁ!!》

 

 凄まじい量の魔力が龍牙の宝珠へと吸収され、フラウロスはその魔神柱としての姿を顕現し続ける事が不可となり、レフの姿へと戻った。

 

 

「すぅ………ふぅ………御馳走様、レフ教授。お蔭で体力も戻ったぜ」

 

 

「ぐぅぅ……貴様、私の力を喰らったのか!?」

 

 

「おうさ………お前に牙を突き立てた時に準備は整っていたんだ。このままその魂諸共、喰らい尽くすだけだ」

 

 

「おのれぇぇぇ……だが私の勝ちだ!!!」

 

 龍牙はレフの足元に魔法陣が浮かんでいるのに気付く、その手には聖杯が握られている。レフが用意していた魔法陣……それはサーヴァントの召喚陣だ。レフの魔力が魔法陣に注がれ、光を放つ。

 

 

「此れより現れるは、西方世界を蹂躙し尽くした大英雄!!例え貴様が化物であっても勝ち目はない!出でよ!破壊の大王・アルテラ!!!」

 

 魔法陣から凄まじい密度の魔力が人の形を造り、彼の大王は顕現する。

 

 現れたのは、褐色の肌と流れる銀髪を靡かせた少女………だか彼女の放つ威圧感は尋常な物だ。

 

 

「さぁ!行け!アルテラよ!この世界を破壊しろ!何よりあの化物に鉄t……」

 

 レフは最後まで言葉を言い終える事無く死んだ。

 

 

「うるさい」

 

 そう言ったアルテラが、三色の光を放つ剣により、レフを真っ二つにしたのである。

 

 

「私は……フンヌの戦士である」

 

 アルテラがそう言うと、彼女は聖杯を吸収し、その力を高める。龍牙はそれを見た瞬間、拙いと直感する。

 

 

「令呪を持って命じる!我がサーヴァント達よ!仲間を連れ、この城より脱出せよ!!!」

 

 龍牙は絶対命令権・令呪を使い、サーヴァント達にそう命じた。サーヴァント達は困惑している立香、マシュ、ネロ達を抱え、その場から駆け出した。他のサーヴァント達も直感的に拙いと感じたのか、直ぐにその場から駆け出す。

 

 

「この西方世界を壊す、破壊の大王である」

 

 アルテラの持つ三色の光を放つ剣が、その輝きを増しながら回転を始めた。

 

 

「【軍神の剣(フォトン・レイ)】」

 

 静かに告げられた真名と共に極光が周囲を包んだ。そして城は影も形もなく吹き飛んだのである。



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EP46 危険視

 ~城より離れた荒野~

 

 

「はぁはぁ……」

 

 立香達はジャンヌ達により、何とかアルテラの宝具から逃れる事は出来た。

 

 

「死ぬかと思ったぞ」

 

 ネロはそう呟いた。

 

 

「マスター……マスターは?!」

 

 ジャンヌ達はふっと龍牙の姿がない事に気が付いた。龍牙の令呪により、立香達はジャンヌ達に抱えられ、被害は免れたがそれにマスターである彼は含まれていない。

 

 

「ふぅ………危なかった。流石は軍神の剣……城が影も形もなく消し飛んじまった」

 

 そう声がして、龍牙がジャンヌ達の横に出現した。

 

 

「マスター!御無事ですか?!」

 

 

「あぁ………何とか逃げれたよ」

 

 龍牙は立香達の方を見る。どうやら怪我はない様だ……だが立香のサーヴァント達は龍牙に対して敵意を持っていた。

 

 当然だろう………龍牙の使った力………アレは英雄である彼等とは決して相容れぬ物だと、彼等は分かっていた。ジャンヌ達はそれに気付いたのか、龍牙を守る様に立ちはだかる。

 

 

「……まぁ、敵意を持つのは分からんでもないよ。俺の力はそれだけ危険な物だと自分でも理解しているから………だけど今は此処で争うよりもアルテラ(彼女)をどうにかすべきではないのかな?」

 

 

「……龍牙よ、お主は一体なんなのだ?」

 

 ネロがそう龍牙に尋ねる。

 

 

「少なくとも俺は人間です………誰かを守りたいと思い、戦うだけの人間………ちょっと人間離れした力は有しているけど………ローマに害を成す事はありませんのでご安心下さい、陛下」

 

 

「ちょっと?……それはどうかしらね」

 

 今まで黙っていたステンノが発言し始めた。

 

 

「アレは神々(私達)を殺し………世界に滅びを齎す力よ。それに関してはアルテラ(あの女)と同じね……それにしてもまたアルテラ(あの女)と相まみえるなんて……」

 

 ステンノは堂々としているが、少し震えている。

 

 

「むぅ……確かにあの力、キャットの奥底の本能が危険だと告げていたぞ。正直、もう見たくないぞ」

 

 タマモキャットもそう言った。タマモキャットのオリジナル、つまり玉藻の前はとある神の分身の様な存在。なので彼女もまた龍牙の力を恐れていた。

 

 

「女神ステンノ、タマモキャット……昔を思い出したかな?」

 

 

「!………そう、貴方。知ってるのね……アルテラ(あの女)のこと」

 

 

「えぇ……少しですけど。まぁそんな事はおいて置いて………ジャンヌ、彼女は?」

 

 龍牙はジャンヌの裁定者(ルーラー)のクラス特性であるサーヴァントに対する知覚能力を頼る。

 

 

「……少しずつ此方に近付いて来てます」

 

 

「この先は………ローマか」

 

 

「なっ!?あやつは我がローマを灰燼に帰すつもりか?!」

 

 

「でしょうね、彼女は文明を滅ぼす者………此処一帯で大きな文明はローマですから……此処から先に進ませる訳にはいかないか。行かせれば多くの犠牲がでる事になる……それはさせない、彼女自身も望まない事だろうから」

 

 龍牙はアルテラと言う存在を知っていた。前の世界で、画面越しにではあるが、彼女がどう言う存在で、何を願っていたかを見ていた。

 

 

「陛下……俺を信用できないのは当然の事だと思います。ですが……今は貴女の国を救う為に、貴女のお力をお借りしたい」

 

 

「余の?」

 

 

「我等は戦う事に集中したい……だがあの軍神の剣が解放されれば、被害が及ぶ。だから貴女の劇場をお借りしたいのです。あの劇場に、アルテラを招けば少なくとも余波でローマに被害が出るのを防ぐ事ができしょう」

 

 

「何故、余の劇場の事を知っているのか分からぬが………ローマを守る為であれば喜んで力を貸すぞ」

 

 

(ローマ)も力を貸そう。今のローマをあの者に壊させる訳にはいかぬ」

 

 

「ありがとうございます………さて、藤丸君達は俺を信用できないと言うなら無理に協力しろとは言わない………君達から見れば俺は魔神柱と同じ様な異質な存在だからね、俺自身、それを一番分かっている」

 

 龍牙はそう言うと、身を翻す。

 

 

「それに……嫌われるのは慣れている」

 

 

「マスター」

 

 ジャンヌや沖田達は彼から聞いた事を思い出した。

 

 始まりは己の些細な怒りで在った、だが人類を護る為に戦った。それも命がけでだ……破壊龍の力は無償ではない。その魂を、魔力を、すり減らし戦った。これまでのワイバーンやドラゴンとの戦いではない、本物の神々との戦いだ。これまでしてきた戦いとは消耗の度合いが違う。

 

 幾度も傷付き、血を吐き、死にそうにもなった。そこまでして護った人類に裏切られた、もしその力が自分達に向けられたらと言う人間の浅はかな思い違いで……石を投げられ、化物だと蔑まれ、その命を散らせた。

 

 

「例えどう思われてもいい………俺がする事は変わらな……ぃ」

 

 そう言い龍牙はアルテラが来る方向へと向き直るが、膝を付き、目を抑える。

 

 

「マスター!?」

 

 

「主殿、御顔が!!」

 

 龍牙の眼は黒から金色に変化し、人間の丸い瞳孔ではなく、蛇の様な盾に長い瞳孔になり、血涙が流れ出ている。加えて眼の周囲が黒く変色、鱗の様な物がびっしりと生えている。

 

 

「ッ……龍化(ドラグーン・ドライヴ)の反動が………」

 

 

「……そう、そう言う事ね」

 

 

「成程なぁ」

 

 ステンノとタマモキャットが納得した様な顔をしている。

 

 

「どう言う事だ?」

 

 全く分かっていない、立香やネロ達。

 

 

「さっきのあの龍になった影響ね………あの時の詠唱にもあったでしょう?」

 

 

 ―我が魂力を喰らい、我が肉体を通し現世へ顕現せよ―

 

 

「魂力……つまりは魂だな。あの龍の姿になる為に、自分の魂を喰わせたのであろう。等価交換だワン」

 

 

「それにその姿を見る限り魂だけじゃなく、身体の一部も食べられてそうね」

 

 

「はぁはぁ………龍化(ドラグーン・ドライヴ)は本来、世界に顕現できない破壊龍を俺の身体を通して顕現させる方法。その代償に魂・魔力を消費する。破壊龍を同化させる以上、多少なりに身体が浸食されても、俺自身の力で元に戻す事も可能………少し苦痛はあるが、それは俺が我慢すれば問題ない」

 

 龍牙はそう言うと立ち上がり、眼から出た血を拭い、振り払う。

 

 

「無駄話はこれで終わり………彼女の取り込んだ聖杯の影響で余計な奴等まで集まって来たみたいだし」

 

 彼はそう言うと、空を見上げた。他の者達も空を見上げてみると、空に黒い小さな何かが数えきれない程、現れ始めた。

 

 

「アレは……ワイバーンか!」

 

 

「フム、100は居るかのぅ」

 

 この中でアーチャーである、エミヤと信長がそう言った。アーチャークラスである2人には

 

 

「空を飛ぶ敵ですか……」

 

 

「しかもあの数……」

 

 

「面倒ね」

 

 

「あんなにも高いとアーチャークラスのノッブなら撃ち落とせそうですけど、私達には手が出せませんね」

 

 ジャンヌ、牛若丸、邪ルタ、沖田がそう言う。

 

 

「主殿、動けそうですか?」

 

 

「大丈夫と言いたい所だけど………身体を治すのに少し時間が掛かる、完治まで約10分……それまで俺は動けないし、お前達に魔力を回せない」

 

 牛若丸が龍牙に聞くと、彼はそう答えた。彼は自分の顔に手を翳し、淡い光を放っている。その光を受け、徐々にであるが龍牙の顔は元に戻り始めている。

 

 

「宝具の使用はできんという事か」

 

 

「じゃあ、その治すのを後回しにすればいいじゃない」

 

 信長が落ち着いた様子でそう言い、邪ルタが龍牙に向かいそう言う。確かに全てが終わってから治せばいい話…………普段の龍牙なら自分の事は後回しする筈だが、今回は自分を治す事を優先している。

 

 

「まぁ……後回しでもいいんだけど、これだけは放っておけない」

 

 

「ならばその時間、私が稼ぐとしよう。既にこの身は過去の物………未来に繋がる世界(ローマ)を護れるならば、この身を捨てる意味もあろう」

 

 

「ならば私達も行こう」

 

 

「そうね、私達じゃあのアルテラを倒すのは無理だけど………時間を稼ぐこと位はできるよ」

 

 ロムルス、荊軻、ブーディカがそう言う。

 

 

「異形の力を持ちしマスター。カルデアのマスター……そして愛し子(ネロ)よ。この世界を頼む」

 

 ロムルス達は、アルテラのいる方向に向かい駆けて行く。

 

 彼等はサーヴァント……既に一度は死んだ身、今、自分達に出来るのは壊れかけた世界を護る為の最善の手に全力を尽くす事だけだ。

 

 

「神祖ロムルス、荊軻、ブーディカ……」

 

 龍牙は静かに彼等の名を呟くと眼を瞑り、己の身体を治す事に集中した。

 

 

(枷の掛かったままの俺じゃ、龍化後真面に戦えない。情けない………かと言って枷がなければ俺は世界に()()()()()()

 

 仕方ない……深く、深く入るしかないか)

 

 龍牙は自分と繋がる根源()へと意識を向ける。深く……深く………その意識を根源()に歩み寄って行く。彼の身体に薄らと何かの紋様が浮かんでいるのを、誰も気付かなかった。



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EP47 開幕・黄金劇場

 ~立香・マシュside~

 

 

 ―無皇 龍牙………カルデアで残った俺以外のもう1人のマスター。

 

 特異点Fで彼が見せた力……オルレアンで見せた力……マスターとしても、魔術師としても彼は俺よりも上だ。

 

 正直、彼の力を見た時に見た感想はまるでテレビに出てくるヒーローを見た様な感じがした。どんな状況でさえも覆してくれる正義の味方……でも今回、あの城で見た龍化(ドラグーン・ドライヴ)と言うあの力は、素人である俺の眼から見ても危険だと感じた。

 

 これまで相対したジャンヌ・オルタ、ジル・ド・レェと言ったサーヴァントやファヴニールと言った幻想種、レフ教授が変身した魔神柱もかなり危険だと思った。

 

 でも無皇さんが使ったのは、これまでの敵とは全く異なる異形の力………無皇さんの龍化(あの姿)を見た瞬間、本能が訴えていた。【アレに近付いてはならない】と。

 

 マシュやエミヤ、クーフーリン達が元に戻った無皇さんに完全に敵意を向けていた。だけど無皇さんはあの後、令呪を使って自分のサーヴァント達に俺やマシュを外に連れ出す事を命じた。そして自分が危険だと分かっていると言った時、何処か悲しそうな……寂しそうな表情だった―

 

 

 

 

 

 

 

 ―無皇 龍牙先輩……私のマスターである先輩と同じく生き残ったマスターの1人。

 

 彼は不思議な感じがします……先輩と変わらない歳だと言うのに、ドクターやダ・ヴィンチちゃんの様な大人びた雰囲気を放っていた。年齢と外見が在っていないと言った感じでしょうか。

 

 そして特異点Fでアーサー王を相手した時に見せた漆黒の鎧、オルレアンで見せた純白の鎧、サーヴァントと同化しているからでしょうか、アレは相反する物だと感じました。

 

 それに彼はまるで未来が見えている様に行動し、最善の手を前もって行っている。先のオルレアンでも村人達が襲われているのを感知し、治療の手段までも用意していた。所長の時もそうだった。それが何故かは分からないが、彼の行動は誰かの為に行動していた。だから私は彼が味方で安心していた。

 

 でも龍化と呼ばれる、あの力………私の中の霊基が危険だと訴えていた。【アレは世界を滅ぼす力……英霊の敵である】と………ですが、私は彼を敵と思えません。これまで彼は幾人もの人々を、私達を助けてくれたから―

 

 

 

 

「皆!戦闘準備!!!」

 

 これまで事を見守っていた立香がそう声を上げる。

 

 

「しかしマスター……」

 

 

「エミヤが言いたい事は分かるよ。でも今はアルテラを何とかしないと」

 

 

「むっ……それは……そうだな」

 

 

「他の皆も、いいね。今はローマを護る事が優先だ!」

 

 立香はマスターとして今すべき事を決定しサーヴァント達に告げる。

 

 

「分かりました、マスター」

 

 

「まぁ………マスターの決定だ。お前さんがそう言うなら先に厄介事を片付けるとしよう」

 

 

安珍様(マスター)がそう仰るなら」

 

 

「子イヌが言うなら私もそれでいいわ」

 

 

「Aaaaaa」

 

 マシュ、クーフーリン(術)、清姫、エリザベート、ランスロット(狂)が立香に同意した。

 

 

「皆!ブーディカ達が時間を稼いでくれている間に、ワイバーン達を迎え撃つよ!

 

 エミヤとクーフーリン、エリザベートは前に!ランスロットと清姫は宝具の準備!マシュは護りを固めて!」

 

 立香の指示によりサーヴァント達は動いていく。

 

 

投影・開始(トレース・オン)!」

 

 

「くらいな!アンサズ!」

 

 エミヤが弓で投影した宝具を矢をとして放ち、クーフーリン(術)はルーン魔術の炎で飛んでいるワイバーンに攻撃を仕掛ける。

 

 

「あぁ!鬱陶しい!!!ねぇ!子イヌ!私の宝具()で一掃しちゃ駄目なの?!」

 

 エリザベートが背に竜の翼を生やし飛びながら槍でワイバーンに攻撃を仕掛けているが、あまりの数に嫌になったのか宝具を解放しようと立香に進言する。

 

 

「駄目だ!マスター聞くんじゃないぞ!あんな物使えば、敵味方問わずに終わりだ!使うなら私が死ぬ気で矢を撃つ!」

 

 

「それには同意だ!アレを使うって言うなら、俺も死ぬ気でルーンを使う!」

 

 エミヤとクーフーリン(術)がワイバーンの攻撃の激しくする。

 

 

「何よアンタ達!あんな物とか、アレとか、私の歌を間近で聞けるって言うのに!失礼じゃない!」

 

 

「ふざけるな!君が演習の時に宝具を使った後、大変だったんだぞ!」

 

 どうやら彼女の宝具の所為でエミヤ達は酷い目に合った様だ、立香やマシュも彼女が宝具と言った瞬間に顔を真っ青にさせた。

 

 

「そっそうだね、宝具はランスロットと清姫にお願いするから!2人供、行ける?」

 

 

「はい!安珍様(マスター)の愛で満タンです!」

 

 

「魔力ですよね!」

 

 清姫の発言に突っ込みを入れるマシュ。

 

 

「Arrrr!!!」

 

 ランスロット(狂)も準備が出来た様だ。

 

 

「皆、後退!後方から援護を!ランスロット!」

 

 ランスロットの宝具【騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)】が解放される。この宝具は彼が生前、丸腰で戦う羽目になった際に楡の木で敵を倒したエピソードが宝具がした物。彼が武器と認識した物を擬似宝具とするものだ。

 

 何処からともなく「JM61A1」が降ってくる、ランスロットはそれを受けると擬似宝具と化す………JM61A1とはデカいガトリング砲である、しかも普通の人間では扱える様な代物ではないが、彼の力なら問題ない。

 

 

「Arrrrthurrrrrrr!!!」

 

 ガトリング砲の砲身が回転を始め、銃弾が発射された。銃弾は空にいるワイバーン達に向け放たれ、ワイバーン達を貫いていく。

 

 ランスロット(狂)は銃口をゆっくりと動かし、撃ち続けていく。ワイバーン達はそれを回避するべく動いていく。

 

 ワイバーン達は知能が低い為に気付いていない………自分達が地上に近い一箇所に集められている事に。

 

 

「清姫!今だ!」

 

 

「どうか御照覧あれ!これより逃げた大嘘吐きを退治します。【転身火生三昧】!」

 

 清姫の身体が炎に包まれ、その身を竜へと転身させていく。

 

【転身火生三昧】……清姫伝説で有名な話だ。約束を破った僧を追い掛けた清姫が竜または蛇へと変化し、鐘に隠れた僧を焼き殺したと言う伝説。

 

 実際に清姫に竜種の血が混じっていたとは記憶されておらず、恋い焦がれた人間へのあくなき妄執だけで竜になってしまったと言う物だ。

 

 竜となった清姫はワイバーン達へ向かい、突進しその炎で彼等を焼き尽くした。

 

 

「よし!」

 

 ワイバーン達はこれにより全滅したが、次の瞬間、三色の光の球が安堵した彼等に襲い掛かった。

 

 

「マスター!」

 

 立香に向かってきた、光の球はマシュがその盾で防ぐ。他のサーヴァント達もそれを回避するが、竜になっていた清姫は何発か受けてしまい吹き飛ばされる。それにより宝具は解除され、元の清姫の姿に戻った。

 

 

 

 ~side out~

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター……これは一体」

 

 ジャンヌ達が自分達はどうするかを考えていると、漸く龍牙の変化に気付く。彼の全身に輝く紋様が浮かび上がっていたのだ。

 

 ジャンヌ達が声を掛けるが、彼は全く反応しない。

 

 

「ちょ……ちょっと、コレ見てみなさいよ」

 

 邪ルタが龍牙の手を見て驚いており、他の者達にもそれを伝えた。

 

 龍牙は先程、脱出するにあたって令呪を1画使用した。

 

 令呪……高純度の魔力の塊であり、サーヴァントに対する絶対的な命令権。本来の聖杯戦争であれば使用した令呪は戻る事はない、だがカルデアでの令呪は使用しても、魔力が令呪に供給され約1日で1画回復する様になっている。

 

 龍牙もカルデアとは別系統……自分の創った召喚式でサーヴァントと契約している。令呪もカルデアと同じ様に1日あれば回復する。

 

 だが先程、使用した令呪は既に回復して始めていた。それはつまり、龍牙の全身に凄まじい魔力があるという事だ。だが彼は疲弊していた筈なのに何故この様な事が起きているのだろう。

 

 そう考えていると、龍牙が瞳を開けた。顔の黒い鱗も消え、開いた彼の目は人間の物へと戻っていた。

 

 

「すぅ………はぁ」

 

 息を吐くと、彼は立ち上がった。

 

 

「ん~……ぅ~……はぁ」

 

 身体を動かしたり、伸ばしたり、手を開いたり握ったりと自分の身体を確認している。

 

 

「マスター!大丈夫なのですか!?」

 

 

「あぁ………身体も元に戻った、魔力もな」

 

 

「ちょっと!何が在ったかくらいは説明しなさいよ!」

 

 

「あぁ……後でな、ジャンヌ。アルテラはどの辺り?」

 

 

「はい………先程、ロムルス、荊軻、ブーディカの反応が消えました。彼女は再びゆっくりとでは在りますが、此方に向かって来ています。あっ……今、藤丸さん達と接触しました」

 

 

「分かった。さて……陛下」

 

 

「ウム……そなたの正体が何であれ、ローマの為に戦ってくれると言うのであれば余はそなたと共に戦おう!」

 

 龍牙はネロの言葉に頷くと、アルテラと立香達のいる方向へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アルテラと対峙していた立香達。彼等は改めて彼女の力を目の当たりにする。

 

 

「この私の行く手を阻むか」

 

 

「清姫……くっ」

 

 

「そこを退け……私は文明は破壊するが、命は壊さない。邪魔をしなければお前達を壊しはしない」

 

 アルテラは立香達に向かいそう告げる。

 

 

「残念だがこれ以上は進ませないよ」

 

 後ろから龍牙とネロ達がやって来て、彼女にそう言い放つ。

 

 

「何故阻む?お前達では私に勝てないのは理解しているだろう」

 

 

「阻むぞ、貴様を進ませる事は出来ぬからな。

 

 貴様は言ったな……世界を滅ぼすと、何故だ?世界はこんなにも美しく、愛が満ち溢れていると言うのに……勿体無いと思わぬか?」

 

 

「私は、フンヌの戦士である。この西方世界を滅ぼす………破壊の大王」

 

 ネロの言葉に何の反応も示さず、先の城で言った事を繰り返し言うアルテラ。

 

 

「また、それか。哀れな……本当に美しい物を知らぬのだな。花も、愛も、世界も……何もかも」

 

 

「私は……美しさなど、愛など、私は知らない」

 

 これまで機械の様に同じ事しか言わなかった彼女が反応を見せ、そう言った。

 

 

「この世界には例え君の破壊の剣であろうと壊せない物がある。だから俺は君と剣を交えよう」

 

 龍牙がそう言うと、背に創造龍の翼を出現させた。

 

 

「そんな……事はない………この世界に私の壊せぬもの……など……ない!」

 

 そう言うアルテラの全身から凄まじい力が溢れ出し始めた。

 

 

「ネロ陛下!」

 

 

「ウム!我が才を見よ!万雷の喝采を聞け!インペリウムの誉れを此処に!咲き誇る華の如く……」

 

 龍牙の合図と共にネロが薔薇を放り投げた。薔薇が魔力と共に散り、地面に剣を突き立てると彼女を中心に世界が染められていく。

 

 

「開け!黄金の劇場よ!」

 

 龍牙達は光で目を瞑り、再び開けた時にはそこは荒野でも、ローマでもなかった。

 

 そこに広がるのは、豪華爛漫の黄金と赤の2色、そして薔薇の花びらが舞い散る黄金劇場だった。



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EP48 第2特異点・セプテム修復完了

 ~招き蕩う黄金劇場(アエストゥス・ドムス・アウレア)

 

 そこに広がるのは黄金劇場。ネロ・クラウディウスの心に描いた黄金劇場を具現化した大魔術である。

 

 

「これは………」

 

 

「これが黄金劇場か……創造龍よ、その力を我が身に纏う鎧と化せ!」

 

 

創造龍(クリエィティス・ドラゴン)鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙は黄金劇場を見廻すと、創造龍の鎧を展開する。

 

 

「なっ!なんだその鎧は先程の物とは大違いではないか!それに……良い!とても良い!」

 

 

「それはどうも………アルテラ、夢は此処で終わらせよう。唯の破壊しかない悪夢は」

 

 龍牙は腰の龍の牙(ドラゴ・ファング)を構える。

 

 

「終わるのは私ではない……お前だ!」

 

 アルテラは龍牙に向かい、剣を振るう。彼女の剣は鞭の様に伸び龍牙へと向かう。

 

 

「フン!流石に強い……だが!」

 

 龍の牙(ドラゴ・ファング)で彼女の剣を受け止め、弾き返した。龍牙は弾いた瞬間に翼を大きく広げ、アルテラに向かい突っ込んだ。

 

 

「うりゃあぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 龍牙とアルテラが剣を交える。龍牙の龍の牙(ドラゴ・ファング)とアルテラの軍神の剣(フォトン・レイ)が衝突する度に凄まじい衝撃波が起き、それにより黄金劇場に亀裂が生じる。

 

 だがこの黄金劇場はネロの魔力により構成されている為、彼女の魔力さえあれば直ぐに修復される。

 

 

「龍牙よ!余はこれの維持に集中せねばならん!それに壊され続ければ長い時間は維持できぬぞ!」

 

 

「了解!」

 

 ネロは凄まじい魔力を持っているとは言え、生身の人間だ。この黄金劇場を維持する為には莫大な魔力を消費続けている。龍牙はそれ聞き、短時間で勝負を決める事にした。

 

 

「はあぁぁぁぁ!!!」

 

 

「なっ……何故だ……何故、お前の攻撃が私に当たる?」

 

 アルテラは困惑していた。剣を交える度に龍牙の剣の早さが上がって行くのだ、やがて彼の剣の早さに追い付けなくなり始めていた。

 

 

「【筋力強化】【加速】【細胞活性】」

 

 その理由は、龍牙が自分自身を魔力操作によりブーストを掛けていたからだ。生命が自身を護る為のリミッターも強制的に解除し、魔力で筋力・神経伝達速度・肉体治癒を行っていた。

 

 

「隙あり!」

 

 動揺していた彼女の隙を突き、彼女に一撃を与えた。

 

 

「ぐっ……損傷、拡大。これ以上は危険」

 

 

「もう夢は終わりだ」

 

 

「終わらない……私はまだ」

 

 アルテラの脳裏に草原が浮かぶ、それをきっかけに色々な物が彼女の頭に浮かび始めた。

 

 

「終わらない……終わるのはお前だ!」

 

 アルテラの持つ剣が七色の魔力と共にゆっくりと回転を始めた。

 

 

「いいだろう……来い!」

 

 龍牙が龍の牙(ドラゴ・ファング)を重ね、大剣へと変化させる。

 

 

「【軍神の剣(フォトン・レイ)】!」

 

 放たれた七色の破壊の光が龍牙に向けて放たれる。

 

 

「混沌たる世界を我が力にて鎮めん」

 

調和(COSMOS)

 

 創造龍の翼(クリエィス・ウィング)のオレンジ色の宝玉が光を放ち、龍の牙(ドラゴ・ファング)の刀身を包み込む。

 

「うおぉぉぉぉぉ!」

 

 文明を破壊する宝具・軍神の剣(フォトン・レイ)。その力は彼の騎士王の聖剣にも匹敵する力を持っている。だと言うのに龍牙は迷うことなく、アルテラに向かい突撃し、大剣をぶつける。

 

 始めは拮抗していた七色の破壊の光は、龍牙の大剣のオレンジ色の光に徐々に押され始める。

 

 

「なっ何故だ?何故、破壊されない?何故、私が押されている?」

 

 あらゆる物を破壊する自分の剣を真正面から受け止め、押し返す龍牙を見て驚きを隠せないアルテラ。この瞬間、彼女は隙が出来た。

 

 

「ネロ陛下!」

 

 

「漸く、余の見せ場だな!」

 

 ネロは劇場の維持を一時止め、剣を構えアルテラに向かい駆け出した。

 

 

「【童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)】!」

 

 ネロの剣技が繰り出される。アルテラは宝具使用中の為、身動きが出来ずその直撃を受けてしまい、宙へと打ち上げられる。

 

 龍牙はそれを見て、翼を広げアルテラより高い位置へ飛び上がった。そして、龍の牙(ドラゴ・ファング)をライフルへと変形させる。

 

 

「これで終わりだ……お休み、アルテラ」

 

 龍牙は静かにそう言うと、その銃口に凄まじい魔力を収束させた。

 

 

「【神を射抜くは龍の息吹(ロンギヌス・ブラスター)】」

 

 神をも殺す龍の息吹が放たれアルテラを包み込んだ。その瞬間、彼の翼の緑色の宝玉が光を放つ。

 

 アルテラは龍牙の魔力の奔流の中で見た。一面に広がる花畑を。

 

 

「ぁ……あぁ……これで夢は……醒めるのか。少し残念だ……もう少しこの光景を……み……て」

 

 最後に彼女が見たのは、創造龍の翼(クリエィス・ウィング)の樹木や草花といった植物を司る宝玉の見せた幻だ。

 

 龍牙はせめて最後に彼女に世界の美しさを見せてやりたいと思い見せたものだった。

 

 彼女はそれを見ると普通の少女が見せる笑みを浮かばて消滅した。

 

 

「お休み……アルテラ。因果が交差する機会があれば、また会おう」

 

 龍牙は地面に降り、鎧を消すとそう呟いた。そして、彼は先にアルテラに取り込まれていた聖杯を回収する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネロの黄金劇場が解除され、元の荒野へと戻る。

 

 

「終わった……のか?」

 

 

「えぇ……終わりですよ、ネロ陛下」

 

 

「そうか!そうか!皆の者!良くやった!」

 

 

「さて……もう始まったか」

 

 龍牙は自分の体の違和感を感じ、直ぐに立香達の元へ向かう。

 

 

「藤丸くん」

 

 

「むっ無皇さん」

 

 立香に声をかけた龍牙。立香のサーヴァント達は龍牙の事を警戒しそれぞれ武器を構える。

 

 

「そう警戒しないでほしい。俺は唯、聖杯を渡しに来ただけだから」

 

 そう言って龍牙は聖杯を差し出した。マシュはそれを見ると少し警戒しながら彼から聖杯を受け取る。

 

 

「聖杯……回収しました。マスター、これでこの特異点は修復完了です」

 

 

「あぁ……」

 

 マシュからそう聞いた立香は返事を返すと龍牙を見る。

 

 彼は何も言わずに、立香達から離れると自分のサーヴァント達の元へ向かう。

 

 

「無皇さん!」

 

 龍牙は何も言わずに止まる。

 

 

「お願いです……貴方の事、教えて下さい。貴方はこれまでずっと俺達を助けてくれた。だから信じたい……でも」

 

 事情を知らない龍化の力を見たサーヴァント達は完全に龍牙を世界を滅ぼす可能性のある存在だと見ていたから、力の事を、龍牙自身の事を聞きたいと考える立香。

 

 

「まだ……その時じゃない」

 

 龍牙はそれだけ言うと、段々と光に包まれ始めた。彼のサーヴァント達も同様にだ。

 

 

「また……何処かに引っ張られている。母よ、少しは休ませてくれてもいいと思うのだが……まぁ仕方ないか」

 

 龍牙はそう言うと、サーヴァント達と共にその場から消えた。

 

 それに驚く立香達だが、自分達もレイシフトが始まっている事に気づいた。

 

 

 

 

 

 

 龍牙に疑いが掛かり、すっきりとしない終わりであったが、これにて、第2特異点セプテムは修復されたのであった。




漸く、セプテム終った。

次回はあの人が出ます。

ヒント?

では、あるサーヴァントの証言をお聞き下さい。


サーヴァントA(全身タイツの槍使い)

「あっ?あの人がどんな人間か……。

フム……強いな。俺等の時代じゃ敵なしって感じだったけど……まぁ若作りはし過ぎだけどな!

何せいい年齢して、若い俺達に混じってたんだからな。もう少し年齢を考えr「我が愛弟子よ、誰が年寄りなのだ?詳しく教えて欲しいものだ……勿論、槍を交えながら」


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

翌日、サーヴァントAは串刺しになって発見されました。


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冥界異変
EP49 廃墟での出会い


明けましておめでとうございます。

今年、初の投降です。これからも宜しくお願いします。


 ~炎に包まれた街~

 

 燃え盛る炎の中に現れた本作の主人公(龍牙)

 

 

 Q.さて……此処は何処でしょう?

 

 

「分かるか!」

 

 

 Q.何故、こんな所にいるのですか?

 

 

「恐らく【無】()が飛ばしたんじゃないか?」

 

 

 Q.サーヴァント達は何処に?

 

 

「どうやら俺、1人の様だ。でもサーヴァント達とのパスは切れていないから無事なのは確かだ」

 

 

「何を1人でぶつぶつ言っておるのだ、お主は?」

 

 龍牙は声を掛けられる。振り返って見ると、そこには紅い槍を携えた女性が立っていた。

 

 

「……タイム!」

 

 

「?」

 

 

「ちょっと待って!気持ちの整理の時間を下さい!」

 

 

「まぁ良かろう」

 

 龍牙は深呼吸すると、少し落ち着いた様だ。

 

 

「えっと……確認ですけど、貴女は影の国の女王のスカサハ様でしょうか?」

 

 

「ほぅ……これは驚いた儂の事を知っておるのか?」

 

 

「えぇ……まぁ。俺は無皇 龍牙と言います」

 

 影の国の女王・スカサハ……クーフーリンを始めとする、多くのケルトの英雄達の師てあり、冥界である影の国の女王である。クーフーリンの宝具、ゲイ・ボルグも彼女が彼に授けた物である。

 

 龍牙は彼女に自分が人理焼却で生き残ったマスターの1人で、特異点を修復してきた事を話した。

 

 

「成程の……だが……お主はそれだけではなかろう。只者ではない眼をしている」

 

 

「なっなんの事やら」

 

 

「これでも儂は多くの英雄達を見てきた。故に人間を見る目は自信がある。

 

 産まれながらに使命を持ち、力に苦悩し……そして裏切られた者の目だ」

 

 スカサハはこれまでに多くの英雄達を見てきた故に、龍牙の本質の一部を見抜いた。

 

 

「では貴女は寂しそうな目をしている。死を奪われた事で、死ぬことが出来ない故の孤独ですか……」

 

 

「……ハハハ!初見でそこまで見抜かれたのは始めてだ。中々に良い目を持っているな」

 

 

「それはどうも……それよりも、この周りのゴーストはお知り合いですか?」

 

 龍牙とスカサハはゴースト達に囲まれていた。

 

 

「全く、ゆっくりと話も出来んな……良かろう、龍牙よ。マスターである、お主の指示に従おう。仮契約と言うやつだ」

 

 

「それじゃ宜しくお願いします、スカサハさん」

 

 

「儂の槍、上手く使って見せろよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「5時方向、敵3!1時方向からも敵4!

 

 後ろは此方で倒すので前に集中を!【筋力強化】!【俊敏向上】!」

 

 

「いいだろう!」

 

 龍牙はスカサハに指示を出し、エンキを弓形態にし、援護しつつ、魔術を使いスカサハのサポートを行っていた。

 

 自分で戦ってばかりで、此処に来て、マスターらしいことを出来たなぁと考えていた龍牙であった。

 

 

「……それにしてもキリがない」

 

 戦闘が始まって約30分が経とうとしていたのだが……何故か全然敵が減らない事に気付く。

 

 

「此方が消耗するばかり……スカサハさん、1度退きましょう。このままじゃジリ貧ですよ!」

 

 

「確かにそうだな……いいだろう」

 

 

「じゃ、後退を」

 

 龍牙は近くに転がっている石ころを拾うと、それを握り締める。

 

 

「くらえ、即席の閃光玉だ!」

 

 龍牙がそう言い、石を投げる。石はゴースト達の真上に来ると、凄まじい光を放った。

 

 

「戦略的撤退!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~廃墟のビルの一室~

 

「これでよし。儂のルーンで結界を張った、一先ずはこれで安心だ」

 

 

「ご苦労様です、取り敢えず水と干し肉です」

 

 そう言い龍牙はスカサハに水筒に入った水と革袋に入った干し肉を渡す。

 

 

「ほぅ……こんな物を持ち歩いておるのか」

 

 

「えぇ……それにしてもあの数のゴースト、一体どうなってるんだか?」

 

 

「確かに……あの数は異常だな」

 

 

「人理焼却の影響か……それとも何か別の原因か。取り敢えず調べてみるしかないか」

 

 

「そう言えば、お主と出会う前に妙な気配を感じたな」

 

 

「妙な気配?」

 

 スカサハの言葉に首を傾げる龍牙。

 

 

「あぁ、ここから北東の方角に巨大な魔力……それに冥界に属する者特有の気配が含まれていた」

 

 

「北東……丑寅の方角か、これまた不吉な方角に。まぁそこに何かがあると見て間違いないか」

 

 

「では一休み終えればそこに向かってみるとしよう」

 

 龍牙とスカサハは北東に向かうことに決めた。



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EP50 登場、冥界の女主人

 ~崩壊した街~

 

 龍牙はスカサハと共に彼女が感じた気配の原因を確認する為に北東に向かって進んでいた。

 

 

「途中でゴースト共を倒して進んできたけど………」

 

 

「些か飽きたな」

 

 出てくるゴーストが弱過ぎて、スカサハが飽きていた。

 

 

「まぁ……気持ちは分からなくもないですが(主に種火・素材の周回で経験済みだし)」

 

 

「何故、その様な遠い目をしておるのだ?」

 

 

「種火……素材……周回……(ブツブツ」

 

 

「しっかりせぬか!」

 

 

「はっ?!……負の連鎖に飲まれる所だった。助かりました」

 

 

「良く分からぬが元に戻って何よりだ」

 

 スカサハの声で我に戻った龍牙は気を取り直すと、再び歩を進め始めた。

 

 

「ん?」

 

 少し歩くと龍牙は何かに気付いた様で、しゃがみ込むと地面に手を当てる。

 

 

「これは………冥界の」

 

 

「ほぉ………冥界の気配が分かるとは驚いたぞ。普通の人間には分からない筈なんだが」

 

 

「まぁ、冥界には何度か行ってますし、知り合いもいますから」

 

 

「……お主、本当に人間か?」

 

 

「一応、人間ですよ………ただ、普通の人間がした事ない経験を嫌と言う程してきただけですよ(主に神殺しとか、平行世界に行くとか、毎日寝ずに仕事を約半年続けるとか、宝具ブッパとか)」

 

 

「まぁいい………それよりもこの魔力、凄まじい」

 

 この先から感じる凄まじい量の魔力を感じ、スカサハはそう呟いた。

 

 

「取り敢えず、行ってみるしかないですね」

 

 龍牙とスカサハは気配の元に向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは……デカい穴だな」

 

 

「穴ですね」

 

 気配の元に辿り着いた2人の前にあったのは、100mくらいの大きさの穴だった。底を覗いてみると、真っ暗で全く見えない。龍牙は試しに石を放り投げてみた。

 

 

「音が聞こえない……石が小さすぎたか」

 

 と龍牙は近くに在った人間大の大きさの瓦礫を持ち上げ放り込んだ。しかし地面に当たった音は聞こえない。

 

 

 ―ギャアァァァァ!―

 

 

「駄目だな………何か悲鳴みたいの聞こえて来たけど」

 

 

「そうか?儂は何も聞こえなかったが………恐らく、冥界に繋がっているのだろう」

 

 

「取り敢えず、穴、閉じちゃいましょうか。この穴からゴースト共が出て来てるみたいですし、閉じてしまえば出て来なくなるでしょうから」

 

 

「フム……そうするとしよう。しかしどうやってこれを閉じるか」

 

 

「まぁ………方法はなくはないですよ」

 

 龍牙はそう言うと、その背に創造龍の翼(クリエィス・ウィング)を出現させる。そして12の宝珠の内、茶色の宝珠が光り始めた。

 

 

「大いなる大地よ、死者が這い出す冥界の穴を閉じたまえ」

 

大地(EARTH)

 

 大地を司る創造龍の宝珠が輝きを増すと、冥界へと続く穴が段々と閉じ始めた。

 

 

「なんだ、それは?」

 

 

「まぁ、後々に説明を………ん?」

 

 スカサハにそう返す龍牙だが、順調に閉じていた穴は何故か半分ほど閉じた所で止まってしまった。

 

 

「足りない……瓦礫でもいいか」

 

 龍牙がそう言うと、近くの瓦礫を指差した。すると瓦礫が浮き始め、穴の上まで移動すると粘土の様な物質に変わり、穴を塞いでいく。それを幾度も繰り返し段々と穴は小さくなっていった。

 

 

「ふぅ、後一回くらいか」

 

 龍牙は目の前にある1m位の大きさの穴を見降ろした。

 

 

「じゃあ、これで終わ………何か物凄いデカい反応が下から」

 

 

「ぼさっとするでない!」

 

 龍牙は何かの反応を感じると、スカサハに襟を掴まれてその場を離れる。次の瞬間、穴を突き破り巨大な何かが現れた。

 

 

「なんだ……アレは?」

 

 

「儂の経験上、アレは神の類だぞ。だが……アレからは純粋な悪意しか感じぬがな」

 

 

「……この感じ、聖杯を取り込んでいるみたいだな」

 

 現れたのは超が付くほど、巨大なゴースト。そしてそのゴーストからは凄まじい魔力と聖杯の力を感じた。

 

 そしてスカサハはこのゴーストが神である事を指摘する。

 

 

 ―おのれぇぇぇぇ!人間がぁぁぁぁ!!!よくも私の邪魔をしたなぁ!!!―

 

 と叫ぶゴースト。しかし何の事なのかと思い首を傾げる龍牙とスカサハ。

 

 

「えっと………俺達、何かした?」

 

 

 ―私が事をなそうとしておったのに、私の上に巨大な石を落としよって!!!―

 

 

「石?………あっ」

 

 龍牙が自分が先程、落とした瓦礫の事を思い出した。

 

 

「アハハハハハ、俺だ。やったの」

 

 

 ―この【ネルガル】に対して何たる無礼!人間如きが!!―

 

 

「ネルガル……確か太陽と冥界の神だったか。なんで此処に?」

 

 

『ちょっと!勝手に出るんじゃないわよ!』

 

 再び穴……冥界から巨大な魔力……そして神性を感じた龍牙。

 

 冥界より現れたのは金髪、金眼、そして輝く槍を持った女神が現れた。

 

 

「あっ………」

 

 

「今度は女神が」

 

 

「ちょっと!冥界から勝手に出るのは止めて欲しいのだわ!」

 

 

 ―おのれ、エレシュキガル!私を追って来たか!―

 

 

「当たり前よ!私の寝首を掻こうとしたのよ!石が落ちて来なかったら、どうなって……い…た………か」

 

 エレシュキガルと言う女神はネルガルを名乗るゴーストに殺されかけた様で、龍牙が落とした瓦礫が直撃した事でそれを邪魔されたのを怒っていた様だ。

 

 エレシュキガルは龍牙を見ると、段々と声が小さくなり、顔を真っ赤にする。

 

 

「ななななななっ………にゃんでアンタが此処にいるのよ!?」

 

 

「久しぶり、エレちゃん」

 

 どうやら龍牙はこの女神を知っている様だ。

 

 

「まぁ色々と在ってね………」

 

 

「知り合いか?」

 

 

「えぇ……昔、冥界に落ちた時に世話になった女神で」

 

 

「普通、冥界に落ちたら死ぬと思うのだが……」

 

 

「まぁ……俺の説明は後で。エレちゃん、状況の説明を頼むわ」

 

 龍牙は状況が分からない為に説明を求めた。

 

 

「えぇ……」

 

 エレシュキガルの説明によると、目の前にいるのは太陽と冥界の神・ネルガル。かつてエレシュキガルと冥界を取り合った神で、彼女に負けた本来は出て来る事がなかった冥界の王……の残滓。

 

 ネルガルの悪意そのものらしく、何故か聖杯を手に入れ力を取り戻した様で。その力で、この時代に冥界を繋げたのも彼らしい。エレシュキガルが眠っている所を憑りつこうとした時に、龍牙が落とした瓦礫の直撃を受けたという事だ。

 

 

 ―貴様等が邪魔さえしなければ、エレシュキガルの身体を奪い、冥界を苦しみと嘆きの世界に変えられたと言うのに!―

 

 

「私に憑こうとしたのはそんな事の為だったの?!」

 

 

 ―冥界は苦しみの土地だ!屈辱の地だ!恐怖と嘆きが蔓延する世界であるべきなのだ!―

 

 

「違います!冥界とは、死後の一時の静寂の世界。魂達が安息を得る為の場所です!」

 

 

「ネルガル神の悪意………エレシュキガルの言う通りだ。大罪人が地獄に落ちるなら納得する。だが普通に、懸命に生きる人々が、そんな地獄に落ちるのは許さん」

 

 

 ―泥から創り出された人間如きが知った口を聞くな!―

 

 

「はぁ…………真面な会話のできない相手は疲れる」

 

 龍牙はそう言うと創造龍の翼(クリエィス・ウィング)を消し、自身の眼を破壊龍の眼(ノヴァズ・アイ)へと切り替えた。

 

 

「言って聞かないなら…………力尽くで押し通るまで」

 

破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙は破壊龍の鎧を纏う。

 

 

「っ!」

 

 

「なっ!?」

 

 

 ―なっなんだ、その力は!?―

 

 破壊龍の力に驚愕する、エレシュキガル、スカサハ、ネルガルの残滓。

 

 

「神すらも知らぬ未知なる力って所か………神を相手にするのは久しぶりだ」

 

 龍牙はそう言うと、両腰に装備された龍の牙(ドラゴ・ファング)を引き抜き、剣先をネルガルに向ける。

 

 

「相変わらず物騒な力なのだわ!」

 

 

「詳しい事は分からんが、先に奴を倒すのが先決か」

 

 エレシュキガルとスカサハはそう言うと、槍をネルガルへと向けた。

 

 

 ―おのれぇ!!!ならば、此処で皆殺しだ!!!その上で、エレシュキガルの身体を奪ってくれるわぁ!!!―




・エレシュキガル

冥界の女神様。龍牙がウルクにいた頃に既に在っていたらしい。



・ネルガル(悪意)

冥界のもう1人の神……の残滓。

何故か、聖杯を手に入れており、その所為で力を取り戻した。エレシュキガルの身体を乗っ取ろうとするが、龍牙が落とした瓦礫に直撃し邪魔をされた。


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EP51 冥界事変終結

 ~燃え盛る街~

 

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 龍牙は破壊龍の鎧を纏い、龍の牙(ドラゴ・ファング)をネルガルの悪意に対して振るっていた。

 

 

 ―ぐおおぉぉぉぉぉ!!なんだ、なんだのだ!貴様は?!―

 

 

「唯のマスターですけど!」

 

 

 ―おおぉぉぉぉ!!!神であるこの身が人間如きにぃぃぃぃ!―

 

 ネルガルは凄まじい魔力の砲撃を放つ。

 

 

「例え威力があろうと、当たらなければどうという事はない(キリッ」

 

 

 ―おのれ!おのれ!おのれぇ!人間に圧されるなど!在ってたまるかぁ!!!―

 

 ネルガルの雄叫びと共に凄まじい衝撃波が放たれる。龍牙はそれを龍の牙(ドラゴ・ファング)を振るい衝撃波を放ち、打ち消した。

 

 

 ―邪魔をするなぁ!!!エレシュキガルさえ、取り込めば我が冥界を地獄の様な世界に変え、永遠に人間共の神話として語り継がれるのだ!!!―

 

 龍牙はそれを聞くと目を細める。

 

 

「忘れられるか……」

 

 

「例えどんな理由があってもそんな事は許さないわよ!」

 

 

「えぇい!儂の事を忘れるでないわ!」

 

 エレシュキガルが光の剣を放ち、スカサハは無数のゲイ・ボルグを放つ。

 

 

 ―ぐぅ!ならばぁぁぁ!甦れ、悪しき霊達よ!―

 

 ネルガルの声により、地の底から無数の骸達が地上に蘇える。

 

 

「またかよ……」

 

 現れたのはゴースト&スケルトンの大群だった。

 

 

「仕方ない………ちょっと疲れるが」

 

【BREAK!BREAK!】

 

 龍の牙(ドラゴ・ファング)を銃形態へと変形させると、その場から飛び上がった。

 

 

「『破壊龍よ。死を司る龍よ。苦しみ続ける魂達をその力を持って、彼の者達の魂を輪廻の輪に還せ………【輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)】』」

 

 翼を広げると、全身に黒焔が彼の全身を覆い尽くす。そして龍の牙(ドラゴ・ファング)の銃口を地へと向けると、黒焔が銃口へと収束し、彼の前に無数の魔法陣が展開する。

 

 

「【破壊の咆哮は魂を導く(リミッド・ノヴァズ・ブラスター)】」

 

 そう呟き、引き金を引く。銃口から放たれる黒い閃光………それは魔法陣を通過するごとに分裂する。

 

 そして1が10に、10が100に、100が1000へと別れ、スケルトンとゴーストの大群を討ち抜いていく。

 

 撃ち抜かれたスケルトンとゴースト達は黒焔に包まれて消滅した。

 

 

 ―ばっ馬鹿な……これが……これが人間の力だと言うのか!?神たる我が力が全く意味を成さないだと!?これは、これではまるで―

 

 龍牙は地面に降り立つと、手甲を残し鎧を消した。

 

 

「かつて巨人を思い出すか?まぁいい、もう終わらせよう………ネルガル。お前の時代は終わった…………そして次の代へと紡がれたんだ」

 

 

 ―ふざけるな!まだ私は終わってなどいない!私は……―

 

 

天の鎖(エルキドゥ)

 

 龍牙は宝物庫を開き、かつて共に居た鎖を呼び出した。

 

 天の鎖(エルキドゥ)……神を縛る鎖。例え残滓であろうと、神であるネルガルを捕える事は可能である。

 

 

 ―これは?!逃れられんだと!?―

 

 

「スカサハさん………」

 

 

「あぁ。魔境、深淵叡智……」

 

 スカサハはスキル・【神殺し(B)】を発動した。そして自身の槍、ゲイ・ボルグを構えると魔力を込めた。すると槍が光り、巨大になる。

 

 

輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)

 

 龍牙はスカサハのゲイ・ボルグに触れ【輪廻の龍焔(リミテッド・ノヴァ)】を纏わせる。

 

 

「これは……成程、これがお主の力か」

 

 

「まぁ……じゃあ、お願いします」

 

 

「良かろう……【貫き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ・オルタナティブ)】!」

 

 放たれた神殺しの槍はネルガルを貫き、黒き龍焔が彼の全身を包み燃やしていく。

 

 

 ―ああぁぁぁぁぁぁっぁ………消える……我が消える―

 

 

「お前の事は俺が記憶に刻もう」

 

 

 ―お前が覚えておくと……人間のお前が、神である我を―

 

 

「あぁ」

 

 

 ―フッ………フハハハハハ………それはそれで面白い…―

 

 

「その焔は魂をあるべき場所へと還すものだ……神であろうと、人であろうと、関係なくな」

 

 

 ―ふっ………あぁ……心地良い……神の悪意たる我がこんなにも安らかな気持ちで消えれるとはな―

 

 

「お休み……偉大な神・ネルガル」

 

 ネルガル神の悪意である筈の彼は……最後の最後で安らかな表情となり消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネルガルが取り込んでいた聖杯を回収し、封印を施した龍牙。

 

 

「これで終わりか……さて」

 

 龍牙はエレシュキガルの方を向く。

 

 

「なっなによ…」

 

 

「いや、別に………それよりもその姿」

 

 

「あぁ……イシュタルの奴が今のウルクに呼び出されたのよ。アイツ、依代で呼ばれたから、その影響ね」

 

 

「エミヤが見たら、胃潰瘍になりそうな話だな」

 

 

「?………そういや、貴方。お父さま達に追放されたんじゃなかのったの?」

 

 

「されたよ。追放されたのは遥か未来でね」

 

 

「あぁ……成程」

 

 龍牙の一言で彼女は納得した様だ。

 

 

「取り敢えずこの聖杯は俺が回収させて貰うよ。君は戻るかい?」

 

 

「えぇ………やっと地上に出れたとは言え、このままにはしておけないもの。私が戻れば、この穴も綺麗に戻るわ」

 

 

「そりゃ残念だ……折角、再会できたのに」

 

 

「えっ……あっ……わっ私だって残念だと思ってるし……(ごにょごにょ」

 

 

「まぁ……また会えるさ」

 

 

「べっ別に私は……」

 

 と言いつつも、顔がにやけているエレシュキガル。

 

 

「あっそうだ………まぁ、無いとは思うがギルに会う事が在ったら『       』って伝えておいてくれ」

 

 

「……分かったわ。貴方も無理するんじゃないわよ……貴方の力、無償ではないんでしょ?」

 

 エレシュキガルがそう言うと、龍牙は笑みを浮かべる。

 

 

「そう………じゃあ、またね」

 

 エレシュキガルは彼を見ると、冥界へと続く穴へと飛び込んだ。すると、穴は閉じた。

 

 

「聖杯を回収した。取り敢えずどうにか戻るか」

 

 

「まぁ、待て」

 

 どうやって戻ろうかと考えている龍牙をスカサハは止めた。彼女は満面の笑みを浮かべている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぁ~………(凄く嫌な予感がする)」

 

 

「お主の力、しかとこの眼で見たぞ」

 

 

「ハハハ……俺の力なんて微々たる物ですよ。さて、どうやって帰ろうかな」

 

 

「待て………少し儂と殺り合っていけ。あの力、神殺し……いやそれ以上の力と見た。あの力なら儂を殺せるかもしれん」

 

 

「アハハハ、やっぱり……そう来たか。でも今は人理を護るのが優先で」

 

 

「なに、最後までせよとは言わんよ。一撃でよい、それでお主の力も分かる」

 

 

「俺も疲れてるんだけどなぁ」

 

 何としてでも彼女との戦いは避けたい龍牙なのだが……スカサハ本人はやる気満々だ。さて、どうやって断わろうかと考えていたのだが……

 

 

「もしお主が儂の満足のいく力を見せたなら、儂がお主の槍となってやろう」

 

 

「つまりはサーヴァントとして契約して頂けると?」

 

 

「勿論……この槍、この身体、お主の好きにしてくれて構わん」

 

 

「それはつまり……」

 

 

 ―ほぅ……我の目の届かぬ所で女に手を出すか。戻ってきたら覚えておけ―

 

 

 ―アハハハハハ、龍牙も命知らずだね。ギルを怒らせるなんて―

 

 

「!?………きっ……気の所為だよな……うん……アハハハ。

 

 コホン、貴女が味方になってくれるなら心強い。なら一撃だけ付き合いましょう」

 

 残していた手甲が光を放ち、龍の牙(ドラゴ・ファング)を出現させる。

 

 

「彼の有名なスカサハが相手なら気が抜けないか……」

 

 龍牙が構えを取ると、その眼が破壊龍に物へと変化し、全身から凄まじい力が溢れ出した。

 

 

「ッ………面白い!」

 

 スカサハも槍を構えた。

 

 

「「………」」

 

 両者、無言のまま静かな時間が流れる。

 

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

「それぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 両者が駆け出し、剣と槍が衝突した。



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EP52 ???にて

 ~???~

 

 

「此処は」

 

 

「ジャンヌ殿!目が覚めましたか!」

 

 星々が輝く宇宙の様な場所で目を覚めましたジャンヌ・ダルク。彼女は声を掛けられ、そちらの方を見てみるとそこには牛若丸、邪ルタ、沖田、信長がいた。

 

 

「皆さん、御無事でしたか……あれ、マスター?」

 

 周囲を見回すが龍牙の姿がないことに気付いた。

 

 

「アイツはいないわよ。此処も何処だか分からないし」

 

 

「私達も急に此処で目を覚まして何がなんやら」

 

 

「魔力はマスターから来ておるから無事だとは思うが……それにしても落ち着かんのぉ、浮いていると言うのは」

 

 邪ルタ、沖田、信長がそう言う。彼女達は目を覚まして此処にいたらしく、立っているのではなく浮いていた。まるで宇宙にいる様な感じなのだろう。

 

 

「本当に此処は何処なんでしょう?」

 

 

 ―此処は世界が始まった場所―

 

 

「誰!?何処にいるのよ!」

 

 周囲に声が響く、たがこの場には龍牙のサーヴァントである彼女達以外は居ない。

 

 だが、彼女達の前に巨大な光の渦が現れる。ジャンヌ達はそれに驚く。その渦は段々と小さくなり人の形に変わる。

 

 そこに現れたのは女性……だが人間でないのは言うまでもない。全身から眩い光を放っており、右眼は人間と変わらないが、左眼は白眼が黒く瞳が白くなっている。

 

 ジャンヌ達は突然現れた、この女性を警戒していた。

 

 

 ―私、敵じゃない。貴女達を呼んだのは、私―

 

 

「アンタ、誰よ?」

 

 

 ―私は……貴方達が根源と呼ぶ者―

 

 

「「「「!?」」」」

 

 

「何故、貴女は私達を此処に呼んだのですか?」

 

 ジャンヌ達が驚く中、牛若丸は根源にそう尋ねた。

 

 

 ―私、息子が心配……あの子は裏切られた。

 

 あの子は泣いていた「ただ普通に暮らしていたかっただけ」だと……「俺は人として生きていたかった」と。

 

 でも人間はその力が自分達に向けられるのを畏れて、「化物」「怪物」と言って石を投げた、罵った―

 

 女性はそう言うと、ジャンヌ達の後ろを指差した。

 

 するとそこに、スクリーンの様に何が映し出された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『化物!』

 

 

『本当に恐ろしい』

 

 

『やはり怪物は怪物か』

 

 

『人の振りした化物め……よくも家の人を!』

 

 そう言って人々は巨大な鎖で拘束されている少年に向かい、石を投げ、鈍器で殴り、罵倒し、銃で蜂の巣にされた。だが少年の傷は少しすると治癒してしまう。

 

 少年はただ黙ってそれを受けていた。その一方的な暴力は七日七晩続き、そして最後には【神を殺した槍】と呼ばれる無数の槍で全身を貫かれ、少年は息絶える。 亡骸となった少年に向かい、人々はまだ暴力の手を止めない。

 

 

 

 

 

 

 

 その光景を見て、ジャンヌや沖田達は涙する。

 

 酷すぎる……例えどんな悪人であっても、死をもってその罪を罰せられる。だと言うのに、死して尚、人々は少年を責め続けられているのだから。

 

 

 ―だから私は我慢出来なかった……愛しい子がこれ以上、侮辱されるのが。だから幾度、あの世界を滅ぼそうと考えたか……でもそれではあの子の願いが叶えられない。だから我慢した。

 

 だけど、私はこれからもあの子が裏切られ続けるのは嫌…………だから貴女達にも知ってもら……―

 

 

【グオオォォォォォォ】

 

 

【ガアアァァァァァァ】

 

 2つの龍の咆哮が響く。

 

 

「母よ……これは一体どう言う事?」

 

 巨大な純白と漆黒の2体の龍と共に現れたのは、自分達のマスターだった。

 

 

 ―久しぶり。会いに来てくれなかったから、お母さん寂しかった―

 

 根源()はそう言うと、龍牙の元に駆け寄り、彼を抱き締めた。

 

 

「その姿を見るのは久しぶり………と言うか、抱き締めないで下さい」

 

 

 ―反抗期?―

 

 

「反抗期ではなく、恥ずかしいんだけど」

 

 

 ―むぅ………昔は喜んで胸に飛び込んできたのに―

 

 

「小さい頃の話ね。俺はもうそれなりの歳なんだけど」

 

 

 ―お母さんに欲情?……バッチ、来い―

 

 

「しません」

 

 

 ―何故?小さい頃は「お母さんをお嫁さんにする」って言ってたのに……お母さん、悲しい―

 

 

「いい加減にしないと嫌いになりま……―分かった、おふざけ止める―」

 

 龍牙にそう言われると、大人しくなった根源()

 

 2人のやり取りを見ていたジャンヌ達。

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

「えぇ~と………」

 

 

「あっあのマスター……その……お母さんと言うのは」

 

 

「うん……此方、俺の魂の母親かな。肉体はちゃんと人間の母親がいるし」

 

 

「フム、成程のぅ……根源が母親とは……これは色々と説明して貰わねばならんな」

 

 と龍牙の後ろにスカサハが現れた。

 

 

「……とっ取り敢えず、何が在ったのか状況の説明しよっか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~状況説明中~

 

 根源()により大きな机と椅子が用意され、食事が出された。

 

 

「成程……未知の特異点でネルガル神を倒したマスターは、そのままスカサハ(彼女)と勝負。彼女がマスターを認め、契約したと」

 

 

「もぐっもぐっ………ゴクッ………そう言う事。それで、母よ……何故、ジャンヌ達(彼女達)が此処に?」

 

 食事をしながら龍牙はあった事を説明した、次にジャンヌ達が何故此処にいるのかと聞いた。

 

 

 ―カルデア(あそこ)は現在、貴方に疑惑を持っている。故に危険……またあんな事になる可能性があった。

 

 この子達は貴方のサーヴァント。万が一にも疑いの目で見られる可能性が在る、後ついでに貴方の事を教えておく必要が在った―

 

 

「そういう事………俺の事については伝える必要はなかったでしょう?」

 

 

 ―そんな事はない。また貴方が裏切られるの見たくないから―

 

 どうやら、彼女……【無】は我が子が裏切られるのを見たくないと言う親心から彼女達を此処に連れて来たらしい。

 

 

「まぁ……そのありがとうございます」

 

 

 ―デレた。可愛い―

 

 

「はぁ……これからどうするか」

 

 

 ―我が子、スルースキル身につけた。ぶぅ~―

 

 

「母よ………俺は少し休みたい。ジャンヌや牛若達も疲れているだろうし……場所を用意して頂けるとありがたいのだが」

 

 

 ―貴方の空間はそのまま……好きに使えばいい。次の特異点へは私が送る……今回の事に関しては【アラヤ】も【ガイア】も協力的だから簡単―

 

 

「じゃあ、皆、取り敢えず行こうか」

 

 

「えっ……はい」

 

 龍牙はジャンヌ達を連れ、その場から消えた。皆が居なくなったのを確認すると、【無】が手を振ると机等が消えた。

 

 代わりに、彼女の前に何かの映像が現れる。

 

 少女が深い暗闇の中で寝ていた………この少女は悲しいのか涙を流している。

 

 

 ―同じ母として、貴女には同情する………だけどあの子が救ってくれる。あの子なら……きっと裏切られた気持ちが分かるから………だから今はお休み―

 

【無】は映像に映る少女に向かいそう言った。そして【無】は映像を消すと何処かに消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 

 私を呼ばないで……起こさないで……。

 

 もう――たくない。だから眠った……なのに、私は呼ばれた。

 

 いや……もぅ――たくない。

 

 

 

 

 

 

 彼女は願う……己が本能により傷付ける事を。

 

 あの子等も、間違いなく己が子なのだから。だから傷付けたくない……だけど彼女の本能がそれを許さない。

 

 だから願う。

 

 

 

 

 ―わたしを  さないで―



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EP53 カルデアにて

 ~カルデア 所長室~

 

 現在所長室に、カルデア最後のマスター・藤丸立香、マシュ・キリエライト、セプテムのレイシフトに参加したサーヴァント達、ロマニ・アーキマン、レオナルド・ダ・ヴィンチ、所長のオルガマリー・アニムスフィアが集まっていた。

 

 

「それで件の彼……無皇 龍牙君の事なんだけども」

 

 ロマニの一声で話し合いが始まった。今回の問題は、龍牙の事だった。

 

 モニターに龍牙が龍化(DRAGOON DRIVE)を使った時の映像が映し出された。

 

 

「魔力値:計測不能、属性:不明、見た目はドラゴン……攻撃力:レフ……コホン、魔神柱を容易く引き裂く、防御力:魔神柱の全力の怪光線を受けて無傷。

 

 立香君からの報告と端末の映像から判断した結果だ。間違いないのね?」

 

 

「はい、それにとても恐怖を感じました」

 

 ロマニの言葉に立香はそう答えた。

 

 

「加えて、サーヴァント達から………アレは世界の外敵だとも聞いた。サーヴァントの皆さんもそれに間違いないかな?」

 

 ロマニはエミヤ、クーフーリン、清姫、エリザベート、ランスロット(狂)を見る。

 

 

「正直、彼の人柄については短い期間しか過ごさなかったが……悪人には見えなかった。いや……積極的に救える者は救おうとしていたな」

 

 エミヤが龍牙の人柄についてそう答えた。

 

 

「あぁ……此奴の言う通りだ。だがな………あの力は、世界の外敵だ」

 

 

「理由を聞いても?」

 

 

「ぁ~……理由か、強いて言うなら戦士の……いや英雄の本能だな。

 

 俺達英霊は人類の害悪に対してはかなり敏感なんだ………龍牙の坊主のあの力……前に見たファヴニール、アレが子供に見えたぜ」

 

 クーフーリンは龍牙の力についてそう言った。

 

 

「私は本当の英雄ではないのでその様な感覚は持ち合わせていませんが………正直申しますと、身の危険を感じましたわ」

 

 

「それは同感ね……もし、アレと一対一なら私は逃げるわね」

 

 

「Aaaaa」

 

 清姫、エリザベートがそう答えた。ランスロット(狂)もそれに同意の様だ。

 

 

「フム……ダ・ヴィンチはどうかな?」

 

 

「私かい?私は実際にそれを見た訳ではないしねぇ………まぁ、彼が不可思議な存在と言うのは同意かな。私としては色々と知りたいかな。

 

 英霊達はこう言ってるけど、これまで共に戦ってきた立香君とマシュの意見はどうかな?」

 

 ダ・ヴィンチはそう答え、立香達に尋ねた。

 

 

「……俺はあの人が敵だとは思えません。無皇さんは、これまでずっと俺達を助けてくれました」

 

 

「私も先輩に同感です……私の中の英霊は敵だと思っているようですが、少なくとも龍牙先輩はあの力を悪意を持って使おうとはしていませんでした。

 

 それに敵だと言うなら、私達を潰す機会は幾らでも在ったと思います」

 

 

 立香とマシュは、龍牙を敵でないと思っている様だ。

 

 

「ふざけないで!どう見てもアレは敵よ!邪悪よ!あの訳の分からない鎧の時からも邪悪な力を感じていたもの!」

 

 

「でも貴女は、その邪悪に助けられた……ではないかな、所長?」

 

 

「ッ!」

 

 オルガマリーの言葉にダ・ヴィンチがそう指摘する。オルガマリーはそう言われると何も言えなかった。

 

 彼がどう言う意図を持っていたとしても、カルデアスに魂を取り込まれそうになっていたのを助けたのも、魂だけでそのまま消滅する筈だった彼女を【生命の実】で救ったのも龍牙だ。

 

 

「謎の力……生命の実……異常な魔力と身体能力。

 

 加えて彼の経歴、改めて確認した……人理が焼却された今は確認できないけど……どう見ても一般人。でも完全に戦い慣れている。謎だ」

 

 

「まぁそれだけじゃねぇだろうな」

 

 ロマニの言葉にクーフーリンがそう答えた。

 

 

「どう言う事、キャスニキ?」

 

 立香が彼にそう尋ねた。

 

 

「アイツが冬木で使った力はもう1つある」

 

 

「あぁ……私も思っていたが……アレは……見間違いだと思ったぞ」

 

 

「どう言う事?」

 

 クーフーリンとエミヤの言葉に立香は首を傾げた。

 

 

「アイツが使っていた黄金の双剣……それを出す時に使う黄金の波紋が在っただろう?」

 

 

「そう言えば……」

 

 立香達は今まで、鎧や異常な力ばかりの事で頭が一杯だったが、それ以外の龍牙の力を思い出した。確かに、龍牙は黄金の双剣を使う際には彼の手元に黄金の波紋が広がっていたのを見た。

 

 

「アレを私やキャスターは知っている……正確には違う私達が経験したと言うべきか。アレは宝具だ」

 

 

「宝具?……でも」

 

 

「あぁ……英霊が宝具を持つなら分からなくもない。だが正真正銘、龍牙の坊主は人間だ。

 

 それにあの宝具は、そんじょそこらの英霊の物じゃない………なんせ……あれは」

 

 

「人類最古の王にして、英雄の王の持つ宝具」

 

 

「古今問わず、東西問わず、あらゆる英雄の宝具の原典を内包した庫」

 

 

「「英雄王・ギルガメッシュの宝具、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)」」

 

 

「「「「なっ!?」」」」

 

 立香以外のエミヤとクーフーリンの言葉に驚愕した。

 

 

「えっと……」

 

 

「まぁ簡単に言うなら、武器庫が歩いている様な物だ」

 

 

「えっ!?」

 

 始めは分からなかったが、立香はエミヤの言葉でようやく理解した様だ。

 

 

「英雄王ですって……でもそんなこと」

 

 

「英雄王・ギルガメッシュ……ウルクの女王……正直、あの我儘姫の宝具を見たくなかったがな」

 

 

「なっ……英雄王って女だったのか」

 

 ギルガメッシュの名が出て唖然となっているオルガマリー。

 

 クーフーリンがギルガメッシュを女だと言うと、更に驚く一同。

 

 

「アーサー王やネロさんも女性でしたし……そう言う事もあるのでしょうか?」

 

 

「嬢ちゃん……気にし始めたらキリがないぜ」

 

 困惑しているマシュにそう言うクーフーリン。

 

 王が女性だったり、騎士が女性だったり、男の娘だったりと、この世界(型月)ではよくある事だ。

 

 

「訳の分からない事だらけだね……現在、彼は行方が分からない……以前も違う特異点へ行ってた様だし、また戻ってくるだろう。それで、どうしよう……彼の処遇は」

 

 ロマニがそう言うが、事は簡単に決めれる話ではない。

 

 未だ、龍牙が敵だと言う確証は自分達にはない。龍牙を敵とするのならば……彼+彼のサーヴァントを相手にしなければならない。

 

 現在の彼のサーヴァントは、牛若丸、ジャンヌ・ダルク、ジャンヌ・オルタ、沖田総司、織田信長……(加えてスカサハなのだが、未だ彼等は知らない)。どのサーヴァントも一級…………加えて、未知の存在である龍牙を相手するなど無理がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―愚かな―

 

 巨大な魔力が、凄まじい圧力、殺気がこの部屋を覆う。

 

 サーヴァント達は、その気配の主がいる方向を見る。

 

 

「下がれ、マスター!」

 

 サーヴァント達が、立香達を自分達の後ろに下がらせる。そして気配の主がいる、部屋の入り口の方向を向き、それぞれ武器を構える。

 

 扉を開いた。そこに居たのは、大きな獅子………のぬいぐるみだった。

 

 

「お前は………」

 

 

「フンババ」

 

 それは、龍牙の使い魔……太古の魔獣フンババだった。フンババは部屋に入ってくると、ソファーの上に昇った。

 

 

【特にそこの小娘……我が主に救われながら、主を邪悪などと………本来、貴様はあそこで、太陽と化した擬似天体に飲み込まれ、永劫に苦しみ続ける運命だった。

 

 だが我が主はそれは忍びないと考え、救ってやったと言うのに………今、此処で殺そうか?】

 

 

「ひぃ…!」

 

 フンババに殺気を当てられた事で、オルガマリーは悲鳴を上げ、震えだす。

 

 

【フン………口だけか。何故、我が主はこの様な者を態々……まぁいい。今、我はお前達に敵対する命は受けていない。

 

 早々に役目を果たし、主の元へ赴くだけの事】

 

 

「役目だと?」

 

 

【我が主からの言葉だ、良く聞くがいい。

 

『先の戦いで俺が世界を滅ぼしかねない存在故に、君達は俺に疑いを持つのは当然の事だ。

 

 なので、俺はカルデアより退去しよう。そうすれば君等も安心して眠れるだろう。

 

 少なくとも、これから出会っても邪魔をしなければ俺が君達を害する事はない。信じるか、信じないかは君達が判断してくれ』との事だ】

 

 フンババはそれだけ言うと、段々とフンババが薄くなり始めた。

 

 

「まっ待って!無皇さんは一体」

 

 

【生き残ったマスターよ、汝は汝の役目を果たすがいい。汝が知りたい事はいずれ分かるだろう】

 

 

「えっ……うっうん」

 

 

【後そこのデミ・サーヴァントよ、お前は自分の身を大事にする事だ。守りの英霊を宿すとは言え、お前の身は1つなのだから】

 

 

「えっ……はっはい」

 

 

【最後にそこの黒い狂戦士………しっかりと護ってやれよ】

 

 

「Arrrr」

 

 フンババはそれだけ言うと完全に消えてしまった。

 

 

 

 カルデアは困惑していた。未だ見ぬ、真の敵の姿も見えない……強力な味方で在った龍牙が退去。

 

 これから先、彼等どうするのだろうか……。




 龍牙:カルデア退去。これからの活動は【無】より行われる。加え、スカサハがサーヴァントになった。





 カルデア:龍牙が抜け戦力低下。

 龍牙と話し合う派:立香、マシュ、ロマニ、ダ・ヴィンチ。

 龍牙が恐いので排除派:オルガマリー

 未だ分からない派:エミヤ、クーフーリンなど


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第3特異点 封鎖終局四海 オケアノス
EP54 いざ、最果ての海へ


 ~龍牙の空間~

 

 世界の外側……【無】。そして此処は龍牙の為だけに創られた空間。

 

 一見すると、カルデアのマイルームにしか見えない。だが此処はカルデアではなく、龍牙が創造した場所でしかない。

 

 サーヴァント達にも各自、似た様な部屋を用意されていた。

 

 そして龍牙はこの部屋のベッドの上で眠っていた。勿論、1人でだ。

 

 

「はぁ……母よ、何故此処に」

 

 

 ―可愛い子の成長を確認しに……別に他意はない……じゅるり―

 

 

「あのなぁ……」

 

 1人で眠っていたのだが、何故か母である【無】が侵入し、彼の布団の中に潜り込んでいた。

 

 本人曰く、龍牙の成長を確認しに来ただけらしいが………最後の涎を垂らしたのは気の性だろう。

 

 

 ―うんうん、我が子、成長した。()()()も経験したから少し大人になった?―

 

 

「フン!」

 

 龍牙は【無】の頭に手刀を叩き込んだ。

 

 

 ―痛い………我が子、そう言うプレイをしたいの?あの金髪と緑髪の子達は結構攻めt「アンタ、一体何処から見てたんだ?!」……理性が吹き飛んだ所しか見てないから―

 

 

「しっかり見てるじゃないか?!流石に息子のそう言う事を覗くのはどうなの!?」

 

 

 ―冗談……鎖で拘束されて寝台に引き込まれた所までしか見てない。あの頃の我が子、理性(天使)煩悩(悪魔)が毎晩鬩ぎ合ってたから、限界だと思ってた―

 

 

「はぁ……そろそろ起きたいので、退いて下さい」

 

 

 ―はぁ~い……朝ご飯、出来てる―

 

 

「あぁ……」

 

 

 ―それで、サーヴァントの中では誰を抱きt「着替えるので出てってください」―

 

 龍牙は【無】を抱えると、部屋の扉から外に放り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~食堂~

 

 龍牙が自分の空間内に作った食堂に、サーヴァント達も集まっており、食事を終えると、次のレイシフト先について話し合っていた。

 

 

「それじゃ、説明しようかな。

 

 次のレイシフト先はオケアノス………まぁ簡単に言えば海だ」

 

 

「あのマスター……万が一、カルデアの方々に会えばどうすればいいでしょうか?」

 

 とジャンヌが手を上げてそう言った。

 

 

「カルデア……攻撃して来ない限りは手出し無用で。フンババの話では向こうは未だ俺の事をどうするか決めかねてるらしいから」

 

 

「事情を説明して協力……と言うのはやはり無理でしょうか?」

 

 

「はっ、馬鹿じゃないの?あっちのサーヴァントは完全にマスターちゃんを敵視してじゃない。それにあんな話、そう簡単に信じられないわよ」

 

 邪ルタがジャンヌにそう言う。

 

 龍牙はサーヴァントに、ウルクの事を含めて既に話している。【無】の配慮でそれを光景を彼女達は目にしていた。

 

 仮にいきなり話しても信じられる保証はない。それに龍牙には1つ思う所が在り話すつもりもなかった。

 

 

「取り敢えず暫くは無理だ。なので、今は俺は俺で動く……」

 

 

「それがお主の方針なら従おう」

 

 

「主殿がそれで良いので在れば、私もそれに従います」

 

 スカサハも牛若丸も龍牙の方針に従う様だ。それを聞いて沖田、信長も同意した。ジャンヌもどうやら納得した様だ。

 

 

「それは置いてといて……行くとしますか。母よ」

 

 気を取り直して、次の特異点へと行こうと【無】へ話しかける。彼女?が頷くと、龍牙とサーヴァント達が光に包まれる。

 

 

 ―じゃあ、送る―

 

【無】がそう言うと、龍牙とサーヴァント達は此処から消えた。



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EP55 狩人と羊飼い

 ~???~

 

「母により第3特異点・オケアノスに送られたのだが………本当に見渡す限り海だね」

 

 

「海ですね」

 

 

「海ね」

 

 オケアノスに送られた彼等は無人島にいる。

 

 

「むぅ……弓兵クラスの儂の目でも一番近くの島が点にしか見えんぞ」

 

 

「どうします、泳ぐのは無理ですよ」

 

 信長と沖田がそう言う。例えサーヴァントとだとしても、距離が離れすぎている。

 

 

「取り敢えず舟でも出すか」

 

 龍牙がそう言うと、首に掛かっている英雄王から貰った鍵に意識を向けた。

 

 

(舟………ぁ~嫌な思い出しかない)

 

 

【龍牙のバウ=イルを確認。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)へ接続します】

 

 龍牙の脳内にそうアナウンスが聞こえてくる。

 

 

【何が御入り用ですか?】

 

 

(ヴィマーナ、出して)

 

 

【……承認しました】

 

 すると、龍牙達の前に巨大な黄金の波紋が現れ、巨大な舟が出現した。

 

 天翔る王の御座(ヴィマーナ)……宝物庫の中でも龍牙が一番、舟の1つだ。

 

 

「凄い」

 

 

「これ、本当に飛ぶんですか?」

 

 

「飛ぶよ……(主に引きずられた記憶しかないけど)」

 

 龍牙はそう言いながら天翔る王の御座(ヴィマーナ)へと乗り込むと、玉座に触れる。すると、バウ=イルを通して情報が流れ込んできた。

 

 

「よしっ……動かせそうだ。皆、乗ってくれ」

 

 サーヴァント達が乗り込んだのを確認すると、龍牙が動く様に念じると天翔る王の御座(ヴィマーナ)はその翼を広げて動き始めた。

 

 そして凄まじい速さで青空へと飛び上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて……飛び始めて早1時間」

 

 

「見渡す限り海……幾つか島はありましたが、動物や植物、ワイバーンなどしかいなかったですね」

 

 

「これからどうしましょう、主殿?」

 

 

「取り敢えずサーヴァントの反応が在ればそっちに向かうんだけど……ジャンヌ?」

 

 

「付近にはありません」

 

 裁定者(ルーラー)クラスの特権を使い、周辺を確認するがどうやらサーヴァントはいないらしい。

 

 

「ん?サーヴァント反応2。カルデアのサーヴァントではない様です………あの辺りの島です」

 

 ジャンヌがサーヴァントの反応を見つけ島を指差した。龍牙はそちらに向かい、舟を動かした。

 

 数分でその島に到着したのだ。

 

 

「光学迷彩解除、着陸」

 

 ヴィマーナの能力の1つ【光学迷彩】を解除すると、目的の島へ着陸した。目立つので直ぐに、宝物庫へ仕舞う。

 

 

「それでどうしますか?」

 

 

「(いる可能性があるのは、2組。どちらがいる島かは分からないけど)……こうする。すぅ……」

 

 龍牙は息を大きく吸い込むと木々が生えている森へと向かって……。

 

 

「森に隠れているサーヴァント!大人しく出てきて下さい!こっちに敵意はありません!」

 

 と叫んだ。

 

 

「出て来るんでしょうか?」

 

 

「まぁ……普通なら出て来ないだろう。それにしても流石はマスター、大胆だな」

 

 ジャンヌとスカサハが喋っていると、ガサッガサッと言う音が聞こえてくる。そして男女が出てきた。

 

 1人は獣耳の女性、1人は青年だった。

 

 

(向こうの方にも会いたかったけど……こっちのペアだったか。でもまぁ……獣耳最高!)

 

 龍牙は2人を見ると、ガッツポーズをする。

 

 

「会った事はあるけど、あえて初めまして……と言っておこう。

 

 麗しの狩人・アタランテ。そしてソロモン王の父・ダビデ」

 

 

「「私(ボク)の事を知っているのか(い)?」」

 

 

「アタランテの方はオルレアンで一度会ってる………まぁ別の君と言うべきか」

 

 

「そうか……それで汝達が敵でないと言う証拠は?」

 

 

「ん~……信じて貰うしかないかな。まぁ……言葉だけでは信用できないか?」

 

 それもそうだろう、突然現れた謎のマスターとサーヴァントを信用しろと言うのも難しい話だ。

 

 

「俺を敵だと思うなら此処で射ればいい。まぁ……簡単にはやられないけど」

 

 

「……いいだろう、話くらいは聞こう。ダビデは……いない」

 

 アタランテがダビデの方を見るが、彼の姿はなかった。

 

 

「僕のアビシャグになってくれないか?」

 

 とジャンヌ達をナンパしていた。

 

 

「この不埒者!」

 

 

「あっーーーー!」

 

 アタランテはそう言い、ダビデに矢を放ち、その矢はダビデの尻に突き刺さった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~???~

 

 

 ―ほぅ……この特異点には奴がいるのか。

 

 ふっ……此度は守ると言う枷がなくなった、全力の奴と我、どちらが強いか決着を付けようか。

 

 フハハハハハハ!―



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EP56 おやっ主人公の様子が……

 狩人アタランテとダビデ王に会った龍牙は自分達の目的を話した。

 

 ①イアソン率いるアルゴー号の発見。

 

 ②召還されているサーヴァントの排除。

 

 ③聖杯の回収or魔神柱の殲滅。

 

 ④特異点の修復。

 

 以上が龍牙達の目的である。カルデアの事についても、自分が脱退したことを含め話した。

 

 理由を聞かれたが、そこは濁した。

 

 

「それで先程の飛ぶ船はなんだ?」

 

 

「……えっと(ギルの)コレクションの1つ?」

 

 

「(お前の)コレクション……どう見てもアレは神の舟だぞ?」

 

 

「細かい事は気にしない、気にしない。」

 

 龍牙はアタランテにヴィマーナの事を聞かれて、そう言った。ダビデはと言うと……

 

 

「美しい、是非僕の妻に」

 

 

「ほぉ……流石は巨人を倒し、像にまでなった王だ。誰が一番美しいのか良く分かっている。しかし残念だが、今の儂はマスターの槍でな。お主の妻になるつもりはない」

 

 スカサハを口説いていた。

 

 

「ガンド!」

 

 黒い球体が弾丸の様に撃ち出され、ダビデに直撃すると、彼の動きを封じた。

 

 

「あれ、身体が……」

 

 

「ダビデ王……少し話を聞きましょうか?」

 

 と龍牙は笑みを浮かべてそう言う。

 

 

「あっ……ごめん、ごめん。こうも美女ばかりだとね」

 

 

「ジャンヌやスカサハ達が美人なのは認めるが、話を聞いて貰えないなら………こっちにも考えが在りますけど?」

 

 彼の後ろに巨大な何かを幻視したダビデは固まってしまった。

 

 

「……はい」

 

 

「全く………どうかした?」

 

 

「いっいぇ……」

 

 

「お主……天然のジゴロだな」

 

 龍牙はジャンヌが顔を真っ赤にしているのがどうしたのか聞く。スカサハも微妙に顔が赤い、どうやら本人は原因だと全く気付いてない様だ。

 

 

「良く分からんが、話を戻そう。君等の目的は人理を護ること……OK?」

 

 

「その通りだ、そちらも目的が同じであるなら、我等も協力しよう」

 

 

「うん、僕もそれで構わないよ」

 

 アタランテとダビデも協力してくれる様だ。

 

 

「これから宜しく………じゃあ、ヴィマーナに乗って移動するか。此処に居ても仕方ないし」

 

 龍牙は宝物庫からヴィマーナを取り出すと皆で乗り込むと、再び空へと舞い上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん~……」

 

 ヴィマーナの玉座に座りながら、龍牙は唸っていた。

 

 

「マスター、どうかしました?」

 

 唸っている龍牙を心配し、沖田やジャンヌ達が声を掛ける。

 

 

「この特異点に来てから、何やら見られてる感じがあるんだけど………」

 

 

「何の気配もないけど……」

 

 

「気にし過ぎじゃろ?」

 

 とサーヴァント達に言われたので、考えない様にした。

 

 

「ムッ……東に舟を発見。数は3。2隻は知らんが……もう1隻はアルゴーだ!」

 

 アタランテの目が舟を見つけた様だ。それを聞くと、龍牙は玉座から立ち上がった。

 

 

「船上は?」

 

 

「どうやら戦闘を行っている様だ。奴も出ているか」

 

 

「ふっ……そうか」

 

 アタランテの言葉に笑みを浮かべた。

 

 

「主殿?」

 

 

「「「「マスター?」」」」

 

 笑みを浮かべる龍牙………だが、それはこれまでの龍牙の物ではなかった。まるで別人の様な、笑みだ。

 

 

「えっ……どうかした?」

 

 

「いっいぇ……」

 

 

「そう……」

 

 龍牙はヴィマーナを舟がいる方向に向けて飛ばす。先程の笑みは気の性だったのか、何時もの龍牙に戻っていた。

 

 

「スカサハ……今のは」

 

 

「まるで別人の様だったな……この中で一番付き合いの長い牛若丸はどうだ?」

 

 

「あの様な主殿は初めてみました」

 

 サーヴァント達は先程の龍牙の異変に驚いており、話し合っていた。

 

 

「じゃあ、皆!戦闘準備!」

 

 龍牙の1声でサーヴァント達は先程の事を一旦心の隅に置き、戦闘準備を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~カルデアside~

 

 カルデアのマスター・藤丸 立香。マシュ、エミヤ、クーフーリン(術)、ランスロット、ジル・ド・レェ(剣・術)を連れ、オケアノスへとレイシフトしていた。

 

 オケアノスに着いた一行は海賊船の上にレイシフトし、戦闘などが在ったものの……彼の有名なフランシス・ドレイクと会う事ができ、協力してくれる様になった。途中の島でバーサーカーのアステリオス、アーチャーのエウリュアレと会い仲間となった。

 

 途中で黒髭ことエドワード・ティーチ(変態紳士)に狙われたエウリュアレを護る為に戦闘、しかしティーチに仕えていたヘクトールが、ティーチの持っていた聖杯とエウリュアレを拉致した。

 

 ヘクトールは元いた、アルゴノーツへ合流し三つ巴の戦闘となっていた。

 

 

「全く、どうするんだいこれは!?」

 

 流石のドレイクもこの三つ巴の戦いをどうするべきかを決めかねた。

 

 

「まずはエウリュアレの奪還が最優先です!」

 

 マスターである立香はエウリュアレの奪還を優先させ、サーヴァント達に指示を出していく。

 

 

「メアリー氏!アン氏!なんとしてもエウリュアレたんを奪い返すのです!後……あの黒いのメッチャこっちを狙って来てるんで何とかして貰えるとありがいのですが!」

 

 

「前者については何とかしますが、後者については自業自得の様な物なので嫌です」

 

 

「アンに同感」

 

 現在、ティーチはランスロットに狙われていた。理由は分からないが、彼がマシュを下賤な目で見た瞬間にマスターの許可なく「JM61A1」をティーチに向かい乱射した。

 

 ティーチの元にいる彼の有名な女海賊であるアン・ボニーとメアリー・リードは狙われているのを自業自得だといい、拒否した。

 

 

「Arrrrrthurrrrr!!!」

 

 

「酷いでござるぞ!うわぁ、また撃ってきた!」

 

 

 

 

 

 

 一方、アルゴノーツでは

 

 

「ハハハハハハ、流石は僕のヘラクレス!さぁ、そのままやってしまえ!!!」

 

 この船の船長とも言える存在……英霊・イアソンはヘラクレスの活躍を見て笑いを上げていた。

 

 

「■■■■―――――!」

 

 

「クッ!流石、大英雄ヘラクレス。そう簡単には倒させてくれんか」

 

 

「クソッ!ランサーで召喚されてりゃ、もう少しマシだったんだが………」

 

 現在、大英雄ヘラクレスと戦闘していたエミヤとクーフーリン(術)。しかしヘラクレスの宝具・十二の試練(ゴッド・ハンド)の効果によりBランク以下の攻撃を無効化される故に苦戦を強いられていた。

 

 

「えうりゅあれ……たすける!」

 

 バーサーカー・アステリオス……彼はミノタウロスであり、迷宮に閉じ込められ、皆に脅えられていた。だが、エウリュアレと出会い彼女が本当の自分の名前を呼んでくれた故に彼女を助ける為にヘラクレスに挑む。

 

 

「■■■■――――!!!」

 

 ヘラクレスの巨斧がアステリオスの斧とぶつかり火花を散らせる。一見、互角に見えるが……少しずつ押され始める。エミヤとクーフーリン(術)が参戦し、やっと拮抗していると言う感じだろう。

 

 

「ぐぅ!」

 

 

「ぐぁ!?」

 

 アステリオスとエミヤが吹き飛ばされる。クーフーリン(術)もルーン魔術で援護するものの、それを無視しアステリオスとエミヤに止めを刺すべくヘラクレスは駆け出そうとする。しかし何か危険を感じたのか、直ぐに後方に飛んだ。

 

 ヘラクレスが先程までいた場所には10本ほどの朱い槍が突き刺さっていた。

 

 

「ありゃ、まさか!?」

 

 クーフーリン(術)がその槍を見て驚いた。

 

 

「戦場で何をぼっーとしておる、セタンタ」

 

 

「おいおい、まさかアンタまで召喚されてやがったのかよ………しかもそっち側かよ」

 

 クーフーリン(術)は自分の前に降りたった女性と、その横に居た聖女の姿を見てそう呟いた。

 

 

「おい、キャスター。あの女性は知り合いか?」

 

 

「あぁ……俺の師匠……影の国の女王だ」

 

 その言葉に驚いているエミヤだが、次に登場した少年を見て更に驚く。

 

 

「無皇 龍牙……やはり現れたか」

 

 

「やぁ、エミヤ。空から見てたけど、藤丸君とマシュは息災かい?」

 

 

「あぁ、マスターも彼女も元気でいるよ……唯、何処かの誰かさんが何も言わずに消えたから少し困惑していたがね」

 

 

「そう……でも未だ、俺の事を話す時期じゃないんでね。まぁ君達が居るから大丈夫だろう……さてと、スカサハ、ジャンヌ、彼の相手は俺がするよ」

 

 

「……しかし相手はヘラクレスですよ?」

 

 

「まぁ……そうなんだけど、何故か妙に彼と戦いたい気分でね。もし、後ろの彼等が襲ってきたら相手を頼むよ」

 

 龍牙がそう言うと、スカサハ達の前に出た。彼女達もそれで納得している様だ。

 

 

「くっ……無皇、流石にそれは無謀だというものだ」

 

 エミヤがそう言う。確かに無謀だ、特異な力を持っていたとしてもだ。

 

 

「黙れ、フェイカー」

 

 

「!?」

 

 振り向いてそう言う龍牙。だがその顔が一瞬、誰かの物と被る。

 

 

「アレ?俺今、何言ったの………何だか……とても眠くなって」

 

 急に龍牙は眠気に襲われ、その場に倒れそうになる。だが倒れる前にジャンヌに支えられた。

 

 

「マスター、どうなさったのですか!?」

 

 

「……下がれ、女」

 

 直ぐに龍牙が顔を上げる。ジャンヌにそう言うと、立ち上がった。

 

 

「マスター?」

 

 

「下がれ、ルーラー……マスターではない様だぞ」

 

 スカサハは龍牙の雰囲気が変わった事に気付き、ジャンヌにそう言った。

 

 

「■■■■!」

 

 ヘラクレスは咆哮する。目の前にいる敵に………1人の少年に。彼の本能が告げていた、目の前にいるのは自分が最も苦手とする敵だと。

 

 ジャンヌとスカサハも龍牙の雰囲気が変わった事に気付き、龍牙?に問いかける。

 

 

「龍牙で在れば眠っている。(わらわ)が暫しこの身体を借りておるだけだ……久しくに(わらわ)と同じ存在に会えた故に、(わらわ)手ずから奴を倒そうと思ってな」

 

 

「貴方は……」

 

 龍牙?の手元に黄金の波紋が浮かび、何かの瓶を取り出した。龍牙?はその中身を飲み干すと、その姿が変わっていく。

 

 長い金の様な髪、赤い蛇の様な目、「美」を体現した様な身体………そして黄金の鎧。

 

 

「我が名は英雄王・ギルガメッシュである!さぁ、ヘラクレスよ!枷のなくなった貴様の力を見せてみよ!」

 

 理由は定かでないが、龍牙の身体を乗っ取り最古の英雄王がこの場に顕現した。

 




と言う訳で、ギルガメッシュが主人公を乗っ取りました。

何故、出たのか?

姫ギルの活躍が少ないからです!


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EP57 英雄王VS大英雄

 ~船上~

 

 

「フハハハハハハ!どうだ、ヘラクレス!」

 

 

「■■■■!!!!」

 

 宝物庫より射出される英雄殺しの宝具……ヘラクレスはそれを石斧で叩き落としていく。だが数が多過ぎる為に幾本かはヘラクレスの身体に突き刺さってしまう。

 

 どうやって英雄王が龍牙の身体を乗っ取ったのかは分からないが、今言える事は唯1つ。

 

 現在、この場で行われているのは神話の英雄の戦いだ。

 

 

「子守をしていなくてもこの程度か、ヘラクレス?」

 

 

「■■■■―――!!!」

 

 ヘラクレスはそう言われると、咆哮を上げ、飛んでくる武器を弾くとギルガメッシュに突撃を始めた。

 

 

「そうだ!そうでなくてはな!」

 

 ギルガメッシュは宝物庫から巨大な剣を取り出すと、それを振るいヘラクレスの攻撃を受け止めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘラクレスが押されているだと?!ありえない!最強の英雄であるヘラクレスが……何なんだ、あの女は!?」

 

 

「いっイアソン様、落ち着いて下さい!」

 

 イアソンは押されているヘラクレスを見て、焦っている。それを落ち着かせようと、彼の隣に居た彼の妻……メディア・リリィが窘める。

 

 

「おいおい、あの女、ギルガメッシュって言ってたけど………まさか、あの英雄王が女だったとは驚きだねぇ」

 

 ヘクトールはギルガメッシュとヘラクレスの戦いを見て、そう言った。

 

 

「ッ!いい加減に離しなさいよ!」

 

 拘束されているエウリュアレは暴れるが解けそうにない。

 

 

「って何よ、アンタは!?」

 

 

「「「ん?」」」

 

 エウリュアレの声に気付いたイアソン、メディア・リリィ、ヘクトールは彼女の居た方向を見る。

 

 そこにはエウリュアレを抱えた沖田がいた。

 

 

「あっども……貰って行きますねぇ~」

 

 

「サーヴァントか、させる訳ないz……メディア!防御!」

 

 ヘクトールは何かに気付くと、メディアに声を掛けた。彼女は直ぐに防御の魔術を使い結界を張った。

 

 次の瞬間、上空から飛来した無数の矢と閃光が結界に直撃する。

 

 

「チッ、一瞬遅かったのぅ……決まっておれば、蜂の巣に出来たのに」

 

 

「流石はメディア……展開は早いか」

 

 皆が見上げると、そこには空を飛ぶ黄金の舟に上に立つ信長とアタランテがいた。

 

 

「まぁ防御されようと……儂等は自分の役割を果たすだけじゃがな!」

 

 

「往くぞ!」

 

 信長の周りに無数の火縄銃が展開し銃弾を撃ち始め、アタランテも矢を放ち始めた。

 

 

「ヘクトール!何とかなりませんか?!」

 

 

「こうも多いとな……おじさんもそう簡単には手を出せないなぁ」

 

 絶えず放たれる攻撃を見て、どう見ても手を出せそうにない。その隙にエウリュアレを抱えた沖田がその場を離脱した。

 

 

「ひぃ!」

 

 一方イアソンは絶えない攻撃に小さく悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ギルガメッシュside~

 

 

「ハハハハハハハ!」

 

 

「■■■■!!!」

 

 剣と巨剣がぶつかり、火花を散らせている。どう見ても、ギルガメッシュは楽しんでいる様にしか見えない。

 

 

「っ……と」

 

 一瞬だけ、ギルガメッシュがふらつくが直ぐに体勢を立て直した。

 

 

「ん?どうやら……龍牙のサーヴァントは目的を達成した様だ。仕舞いか……致し方ない。友よ!」

 

 ギルガメッシュは沖田達がエウリュアレを奪取した事に気付くと、宝物庫から最も信頼する宝具を呼び出した。

 

 宝物庫から飛び出したのは神を縛る、盟友の名を冠した鎖だ。

 

 天の鎖(エルキドゥ)はヘラクレスを追尾し、その身を拘束した。

 

 

「■■■■!?」

 

 

「神を縛る鎖だ!貴様の様に神性が高い者は逃れられん!以前は逃れたが、今回はそう簡単にはいかんぞ!」

 

 そう言うと、ギルガメッシュはその手に黄金の鍵を呼び出した。

 

 

「仮初の身である故に全力では放つ事は出来ぬが………手向けとして受け取れ」

 

 黄金の鍵を捻るとそこから赤い水晶の様な物が広がり、やがて彼女の手に1振りの剣が呼び出された。

 

 それは剣と言うには歪な形だが、放たれる力は確かな物だった。

 

 

「起きよ、エア」

 

 かつて天と地を引き裂いた乖離剣は主に応える様に、刀身を回転させ始めた。

 

 

天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!」

 

 次元を斬り裂く一撃が放たれ、ヘラクレスを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ………中々に面白かったぞヘラクレス」

 

 倒れるヘラクレスを見ながら彼女はそう呟いた。

 

 

「ギルガメッシュ……」

 

 

「流石は英雄王……大した物だ」

 

 

「ほぅ……龍牙のサーヴァントか……全く我が居ながらこの様な美女を侍らせるとは……それで1つ聞くが、此奴とはもう寝たのか?」

 

 ジャンヌとスカサハに声を掛けられたギルガメッシュは彼女達にそう聞いた。

 

 

「ねっ……あぅ」

 

 

「残念ながら儂は未だだ………もう少しマスターを見定めてからだな」

 

 ギルガメッシュにそう聞かれると、顔を真っ赤にするジャンヌ。スカサハに至っては恥じる様子もなくそう答えた。

 

 

「チッ………戻ってきたら思い知らせてやる」

 

 

「そっそうではなくて、何故貴女がマスターの身体を!?」

 

 

「ヘラクレスと龍牙が戦うのを知った故に介入させて貰った。

 

 今の我は鍵に残る思念…………全力は出せぬが中々に楽しめたぞ」

 

 ヘラクレスと龍牙が戦う事を知り、彼の持つバウ=イルの中に在ったギルガメッシュの思念がヘラクレスと戦う為に出て来た様だ。相変わらず何をしでかすか分からない女帝だ。

 

 

「お主とマスターはそう言う関係か?」

 

 

「フッ………もし、貴様等が此奴に手を出すので在れば気を付ける事だ。中々に手強いぞ……()()と」

 

 ギルガメッシュはスカサハの言葉にそう言うと、彼女の姿が段々と変わっていく。

 

 

「フム……時間か。まぁ思念だけではこの辺りが限界か」

 

 ギルガメッシュの姿が龍牙へと戻った。

 

 

「いつつ………ギルの奴、ぐぅ……人の身体を乗っ取りやがって……しかも魔力で身体を無茶苦茶に動かしやがったな……」

 

 

「マスター、大丈夫ですか?」

 

 

「あぁ、心配掛けたな……道理で変な感じだった訳だ……戦況は?」

 

 

「フム、どうやら沖田達は上手くやった様だぞ」

 

 

「なら、撤退。舟に戻ろう……後、動けそうにないので助けて貰えるとありがたいんだが」

 

 どうやら乗っ取られた影響で身体が動かせそうにない様だ。

 

 

「分かりました。では飛びますよ」

 

 

「儂が反対側を支えよう」

 

 龍牙は両側から支えられると、飛び上がりそのままヴィマーナへと乗り込んだ。

 

 

「おい、師匠!?龍牙の坊主は……」

 

 

「セタンタ……お前には教えた筈であろう、どの様な力でも使い方が問題だと。確かにマスターの力は危険な物だろう、しかしマスターがどう言った人間か考えれば分かるだろう?」

 

 

「ッ……」

 

 龍牙の力の事を伝えようとしたクーフーリンはスカサハにそう言われて、黙ってしまう。

 

 

「まだまだ未熟よな……」

 

 

「いたた……じゃあ、行くか」

 

 龍牙が思念を送りヴィマーナが動き始める。

 

 

「今だ、ヘクトール!やれ!やってしまえ!」

 

 攻撃が止んだ時、イアソンがそう叫んだ。

 

 

「はいはい、恨みはないが………!?」

 

 ヘクトールは宝具を解放しようとするが、何かを感じ振り返った。だが何かはヘクトールやメディア達の間を駆け抜けた。

 

 

「聖杯は頂いたぞ!」

 

 

「なっ……何時の間に!?」

 

 駆け抜けたのは牛若丸だった。彼女の手には黄金の杯が握られていた、どうやらヘクトールが黒髭から奪った物の様だ。

 

 彼女は直ぐにヴィマーナに飛び乗った。

 

 

「くっ!」

 

 

「甘いわ!」

 

 

「させん!」

 

 ヘクトールが急いで宝具を発動させようとするが、アタランテと信長の攻撃により邪魔された。その間にヴィマーナはかなり離れてしまった為に攻撃不可能となった。

 

 

「はぁ……完敗だねぇ」

 

 

「敵は私達の隙をついて全て退却、聖杯も、エウリュアレも奪われました……負けですね」

 

 とヘクトールとメディア・リリィはそう呟き、戦闘は終了したのである。




~戦闘終了後~

ヴィマーナの玉座に座る龍牙。どうやらギルガメッシュに身体を乗っ取られた影響が抜けていない様だ。


「主殿!聖杯を取ってきました!」


「流石、牛若…………良くやった!」


「はい!あの……出来れば頭を撫でて頂ければ」


「ご苦労様」

と牛若丸の頭を撫でる龍牙。


「でアンタ、誰よ?」

キッと龍牙を睨めつける女神・エウリュアレ。


「あっどうも、女神エウリュアレ。無皇 龍牙と申します」


「それで私をどうするつもりよ?」


「さぁ……どうした物ですかね?あぁ、アステリオスも他の輩も無事で済んでご安心を」


「そう……」

アステリオスが無事と聞いて安堵するエウリュアレ。


「取り敢えず……合流ポイントに行きますか」

龍牙はある場所に向けて、ヴィマーナを動かし始めたのである。


「はわぁ~……主殿の撫で方は極楽ですぅ」

気が付けば犬を撫でまわす様に、牛若丸を撫でていた龍牙。そして、何故か彼の頭の上に金の延べ棒が落ちてきたのであった。


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EP58 「後は宜しくね」

 ~カルデアside~

 

「此処が目的の場所か、ダビデ王」

 

 

「そうさ、目的の島だよ。カルデアの諸君」

 

 ダビデは何故か、立香達の乗っていたゴールデンハインド号に居た。ゴールデンハインド号とはフランシス・ドレイクの海賊船である。

 

 

「うぅ……何で、BBAが居てロリっ娘がいないのでござるか?」

 

 

「キモッ……やっぱあそこで消滅するべきだったよね、アイツ」

 

 

「そうですわねぇ……本当に何で生きてるんでしょう?」

 

 何故か敵で在ったティーチやアンやメアリーまで居る。ティーチに至っては縄で縛られている。

 

 彼等が何故此処に居るのかと言うと理由は凄く簡単な話だ。本来であれば、アンとメアリーは立香率いるサーヴァント達に倒され、その後、隙を突かれてティーチはヘクトールに裏切られ聖杯を取られて消滅、イアソン達が登場する筈で在った。

 

 だが今回はヘクトールがアン達が戦っているタイミングで裏切り、ティーチから聖杯を奪取。イアソン達が出現した。その場でティーチは消滅し、アン達も消える筈だったが、何故か彼は消滅を逃れていた。そこから三つ巴の戦いが始まった。

 

 そして龍牙の介入が在り、ティーチは舟を喪い、ドレイク達に助けられたのである。その際に「デュフフフ……生脇いいでござるなぁ。prprしたい」と言った際にはランスロット(狂)が暴れて大変だったのは別の話である。

 

 龍牙を追うにしても、敵を迎え討つにしても、一先ずは傷付いた舟の修理が必要だと言っていた所、ダビデが登場。「翼竜の鱗を使って補修すればいい。近くに翼竜が沢山居る島がある」と言われて、その島にやって来た。当初はいきなり現れた彼を警戒した。だが自らの真名を明かし必要なら縛り上げてくれてもいいと言った彼に困惑していたが、舟の損傷具合から修理を優先したのだ。

 

 島に到着した一同は、舟を止め、島に野営の準備を行っていた。そこでカルデアのオカン(エミヤ)が活躍したのは言うまでもない。一段落した所で、島の奥へと案内された一同。

 

 

「別に罠はないよ、安心してくれたまえ」

 

 と言いながら島の奥へと進むダビデと立香、マシュ、彼のサーヴァント達、ドレイク、加えてこの特異点で出会ったアステリオス、アルテミス(恋愛脳)オリオン(女好きな熊)

 

 歩いている途中でアルテミスがオリオンと結婚した暁にはどうのこうのと言って身体をくねらせていた。

 

 

「お~い、連れて来たよ」

 

 そう言うダビデの向かう先には、翼竜の山と龍牙、彼のサーヴァント達がいた。

 

 勿論、龍牙の登場に驚くカルデアは構えてしまう訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ落ち着き給えよ………態々、舟の修理の為の材料を確保して上げたんだから」

 

 と言う龍牙。

 

 

「りゅ……龍牙よ、本当にアルテミス様なのか?」

 

 アタランテはアルテミスを見て、龍牙にそう聞いた。

 

 

「はぁ~い、アタランテ」

 

 狩人アタランテは幼き頃に男でないからと捨てられ、それを見た狩猟と純潔の女神アルテミスが彼女を哀れに思い聖獣の雌熊を送り、育てられた。勿論、彼女はアルテミスを信仰している。その女神がこんな恋愛脳だと思わず唖然としていた。

 

 

「………わっ私の精神もこの大海に来て多少ではあるが、鍛えられた……今更、信仰してい頽た女神が恋愛脳系(スイーツ)だからって頽れたりしない……」

 

 

「まぁまぁ………神様だって色々あるんだよ。特に位の高い女神ってそう言う方面に関しては大概恋愛脳系(スイーツ)だし………病む事もあるんだろうなぁ」

 

 イシュタルに求婚された人(経験者)は遠い目でそう言った。彼が求婚→襲われ→病んだ女神を止めた()の事を思い出している間に、ジャンヌがドレイク達に龍牙の紹介をしてくれていた。

 

 

「コホン………さて、互いの自己紹介が終わった所で………女神様」

 

 我に帰った龍牙がそう言うと、影から現れたのはエウリュアレだった。

 

 

「えうりゅあれ!」

 

 

「あらっアステリオス、私は無事よ。だから泣くのは止めなさい」

 

 

「えうりゅあれ……無事……おれ、うれしい!」

 

 アステリオスがエウリュアレに駆け寄った。彼女の無事を喜ぶ、アステリオスを見て龍牙は思った。「尊い」と。

 

 

「とうt……コホン、女神様はお返しするよ。と言うか、何で黒髭達までいるんだか……(俺の介入で本来の流れが変わったという事か)」

 

 

「………」

 

 

「そう警戒しないで欲しいな、特にエミヤと藤丸君には……君達には(女難的な意味で仲間な)ボソッ」

 

 

「待ちたまえ!私がなんだって!?」

 

 

「騎士王、姉、ツンデレ、後輩、義妹」

 

 

「……ごふっ!?」

 

 

「あの人、私と同じで病弱なんでしょうか?」

 

 吐血するエミヤを見て、沖田は龍牙に尋ねた。「彼の場合は精神的な……というより、自業自得かな」と伝える。

 

 

「?」

 

 

「まぁ……君の場合はこれからか。それよりもドレイク氏、銃をこっちに向けないで欲しいんだけど」

 

 

「敵ではないって証拠はあるのかい?」

 

 ドレイクが銃口を向けたまま龍牙にそう言う。同時に立香はカルデアとの通信を開いた。

 

 

「俺の口から言っても信用ないのは分かってる……特に藤丸君やマシュ達はローマで俺の力を見ているからね。特に所長辺りなんか前から怪しんでたとか言いそうだね」

 

 

『ギクッ!』

 

 

「彼女を助ける必要はなかったんだけども………あんな子供みたいに泣かれると、見捨てた場合の後味が悪いしね。救ったのがカルデアにとっては良かったみたいだし……まぁ良しとしよう」

 

 

『ではそこで膝を抱えている所長は置いといて、話を聞こうじゃないか龍牙君』

 

 立香の通信機によりロマ二とダ・ヴィンチの映像が現れると、ダ・ヴィンチが龍牙に向かいそう言う。

 

 

「やぁ、相変わらずの様だねダ・ヴィンチちゃんは………ドクターも元気そうで何より」

 

 

『あぁ……龍牙君、僕としては君を信じたいと言う気持ちはある。けど英霊達の言っている事がどうしても嘘だと思えない。

 

 率直に聞くよ………君は味方なのかい?それとも』

 

 

「俺はのんびりと暮らしたいんだけど…………世界がそうはさせてくれないんでね。

 

 俺は自身の役目を果たしたいだけなのさ。もし役目の邪魔をするなら、君達は敵になるね……でも、まぁ……正規の英雄であるエミヤやクーフーリン達にとっては俺は敵だろうね」

 

 

『英霊の本能……世界の……人類の敵に対する敵対心。それが君に……正確には君の力に反応した』

 

 

「「ジャンヌ!何故……何故です!?何故世界の外敵である様な者についているのですか!?」」

 

 

「「ジル……少なくともマスター(ちゃん)はその様な存在ではありません(じゃないわよ)!」」

 

 ジャンヌ崇拝者のWジルがジャンヌに対しそう叫ぶ。目が今にも飛び出しそうである……Wジャンヌはジル達に対して目潰しを行った。

 

 

「「のぉぉぉぉう!!これこそジャンヌの目潰し!」」

 

 目を突かれたと言うのにとても嬉しそうな顔をしているジル・ド・レェs。

 

 

「痛そう……確かに俺の力は世界を壊す力。それは生きている者達にとって……人類にとっては畏怖の対象だろうね。

 

 でも力は使い様によって、壊すだけでなく護りにも使える。それに破壊って言うのは何も悪い事ばかりではないよ、破壊は新たなる0への希望であり、無限の可能性に繋がる物だ。それもまた、世界の真理の1つ………っと藤丸君には難しかったか。

 

 じゃあ簡単に………俺の役目は世界を守る事だ。例えどれ程、化物だと罵られようとね」

 

 

『話を纏めると、君の目的は世界を、人理を守る事であり、邪魔をしなければ此方にも協力すると考えていいのかな?』

 

 ダ・ヴィンチがこれまでの話を纏めて、龍牙に尋ねる。

 

 

「そう言っているでしょ……嘘を吐いてないし、嘘を吐く必要もないもの。それに俺が敵だっていうなら君達は特異点Fでやっちゃってるよ」

 

 

『確かに。では君はカルデアから消えたのは何故だい?』

 

 

「態々、敵対心満々の連中の所に行っても面倒というのもある。加えて俺みたいなのが居たら、カルデア分裂しそうだからね。

 

 特にそこで膝を抱えているであろう所長なんて、信じていた魔神柱(レフ)に裏切られて大変だった訳で、そこに俺みたいな邪悪な存在がいると余計に所長が人を信じられなくなるでしょ」

 

 

『うぐっ!』

 

 

「人理を修復する為にはカルデアの職員達の協力が居る。俺の様な不安要素はそこにいたらそれも出来なくなって、作業効率も落ちそうだしね。

 

 だからこそカルデアを離れた。今回ばかりは()()()()()()も協力的だから移動は簡単な訳だしね」

 

 

「アラヤ?ガイア?」

 

 

「先輩、アラヤと言うのは人類が存続するべき無意識に生み出した防衛装置の様な物。ガイアは星の生存本能の様な物です」

 

 

「その通り、ガイアに関しては人理が滅びようと星そのものが続けばいいと思っているから、協力して来ないと思ったけど………協力してくれるから有難いね」

 

 

『その口ぶりだと、まるで抑止力と会話できるみたいじゃないか』

 

 

「どうだろうね……それは君達が知る必要のない話だ」

 

 龍牙はそう言い、目を細めると聖杯を取り出した。牛若丸がイアソン達から強奪した物だ。

 

 それらをマシュに向かい投げた。マシュはそれを受け取る。

 

 

「せっ聖杯」

 

 

「俺には必要のないものだ…………ヘラクレスはギルが10回殺した。残るのは、ヘラクレス残り2、ヘクトール、イアソン、メディアだ。奴等を倒さないとこの特異点は終わらない。後は君達に任せるよ。

 

 此処で魔神柱如きを倒せないなら人理修復なんてものは不可能だからな。だから早く修復しておくれよ。

 

 俺は次の特異点へ現れるであろう()に会う必要がある。そして見定める」

 

 

「奴?見定める?」

 

 

()が何者で、目的が何なのか」

 

 一瞬だけ、龍牙の眼が破壊龍のそれへと変貌し、その身から龍化した時と同じ様な気配が溢れる。この場にいる全員が身を強張らせる。

 

 

「こっこれって……」

 

 

「ッ!」

 

 特にアルテミスとエウリュアレは顔を青ざめさせた。彼女達(神々)に刻まれる事になった恐怖の原因と似た力を、龍牙より感じたからだ。

 

 

「それと後、猫の皮を被った奴の正体とね」

 

 そして一瞬だけ、通信機に映し出された映像を見る。直ぐに気配は消え失せ、目も人間の物へと戻る。すると龍牙と彼のサーヴァントが光に包まれ始めた。

 

 

「……ふぅ。じゃあ、後は頑張ってね」

 

 龍牙はそう言うと、サーヴァント達と共にこの特異点から消えた。




と言う訳でオケアノスの事を立香達に任せた主人公。

果たして今回は真っ直ぐ拠点に戻れるのでしょうか?


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ちょっとした幕間
EP59 (自称)最強のセイバー


 ~???~

 

 オケアノスをカルデアの立香達に任せた龍牙。

 

 

「此処は何処だ!?と言うか、何で毎度真っ直ぐ帰れないんだろう!?」

 

【無】の空間内にある拠点へと戻ろうとしたが現在、良く分からない場所に居る主人公。

 

 

「ジャンヌ達はいないな」

 

 

 ―彼女達、先に戻ってる―

 

 

「えっマジで!?なんで、俺だけ!?」

 

【無】からジャンヌ達が先に戻っていると報告を受けた龍牙。

 

 

 ―これも運命(Fate)。貴方の為になること―

 

 そう言うと【無】の気配が遠のいた事を感じた龍牙。

 

 

「はぁ……勘弁してよ。と言うか此処何処?!」

 

 龍牙は周囲を見回してみる。

 

 

「何かの操縦スペースの様だ、その証拠にレバーやらボタンが沢山ある。これで外が荒野や森なら工事用の重機を想像するが、生憎と正面に見えるのは()()

 

 もう一度言うよ、()()だ。大切な事だから2回言ったよ」

 

 

「きゅう……お腹が空きました」

 

 そして目の前で倒れている青いジャージと帽子を被った見知った顔の少女を見た。

 

 

「どう見ても………」

 

 その後、星5とか、ぶっちゃけ都合がいいとか呟くと目の前の少女の空腹を満たす為に動く事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もきゅもきゅ!ずずっ……もきゅもきゅ………ごきゅごきゅ」

 

 

「アハハハハ………すげぇ、20人前は軽くいったな」

 

 目の前にいるあるt……謎のヒロインⅩの前に積み上がった無数の皿を見て顔を引き攣らせる龍牙。

 

 

「ふぅ……御馳走様でした」

 

 

「もういいの?」

 

 

「ほらっ食事は腹八分目と言いますし」

 

 

「腹八分目………ねぇ。まぁ、これだけ綺麗に平らげてくれると嬉しいけども」

 

 

「それで貴方は誰ですか?何故に、私のドゥ・スタリオンⅡに乗っているのです?」

 

 目の前の食事を平らげる事に集中していた彼女は龍牙の事を知らずに出された食事を食べていたらしい。

 

 

「あぁ、俺は……」

 

 

 

 ~主人公、説明中~

 

 

 

 龍牙は簡単に自己紹介と目的を話した。

 

 

「成程、人理修復ですか」

 

 

「出来れば君には味方になって貰えればありがたいんだけど」

 

 とダメ元で彼女を勧誘してみた。

 

 

「残念ながら私にはセイバー抹殺と言う使命があります!人理修復など二の次です!」

 

 

「来てくれたら……ご飯食べられるんだけどなぁ」

 

 

「えっ……」

 

 

「和食、洋食、中華、なんでもお腹一杯食べれるんだけど」

 

 

「わっ私はセイバー……まっ……抹殺」

 

 かなり揺らいでいる謎のヒロインX。

 

 

「果物、洋菓子、和菓子」

 

 

「しっ使命」

 

 ご飯からデザートまでと言われてかなり惹かれているX。

 

 

「それもちゃんと仕事さえしてくれれば食べ放題」

 

 

「しっ仕事?」

 

 

「基本的にはサーヴァントとして戦うこと……きっとアルトリア種が一杯出て来るよ」

 

 

「どっどう言う意味ですか?!」

 

 龍牙はかなり動揺しているXに止めを刺しにかかった。

 

 

「聖槍持ってナイス・ボディになったアルトリアとか」

 

 

「聖槍持って成長したアルトリアですって!?こっちは聖剣2本で成長しないのに、ふざけるな!!

 

 絶対にぶっち斬る!という事は、私の仕事はアルトリアの殲滅という訳ですね!?」

 

 

「うん、後ついでに他の敵を倒してくれると助かるね」

 

 

「これから私は貴方の剣となr「その前に、俺がどう言う存在か説明する必要がある」ふぇ?」

 

 実際に破壊龍の鎧やその力を見せ、自分がどう言う存在かを話した。

 

 

「成程……貴方はそう言う存在ですか。私としては世界を護り、セイバーを倒せるのであればそれで構いません!」

 

 

「じゃあ、契約してくれるって事でいいかな?」

 

 

「はい!では宜しくです、マスター!」

 

 こうして、ヒロインXと契約を果たしたのである。



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EP60 違うんです、素材が欲しかっただけなんです!

 ~龍牙の空間 食堂~

 

 先にこの空間に戻っていたジャンヌ達。

 

 

「マスターいませんね」

 

 

「どうやら別の場所に行った様じゃな」

 

 

「マスターちゃん、何でこうも寄り道するのかしら?」

 

 沖田、信長、邪ルタがそう呟く。

 

 

「まっまぁ……マスターの意志ではないようですし」

 

 

「マスターは厄介事に巻き込まれる体質な様だな」

 

 

「主殿は望もうと望まないともですね」

 

 ジャンヌ、スカサハ、牛若丸がそう言う。その通りで在る、彼自身は真っ直ぐ帰りたいと思っても世界はそう簡単に彼を帰さないのであった。

 

 

「どうやら、カルデアの方々は無事に魔神柱を倒した様ですね」

 

 彼等が座っている丸いテーブルの中央には大きな水晶があり、そこにはオケアノスの光景が映し出されていた。そこには立香達はヘラクレスとヘクトールを倒し、メディア・リリィにより魔神柱ファルネウスへと変貌させられたイアソンを打倒した姿が映し出されていた。

 

 

『はぁ……疲れた』

 

 そう声が聞こえると、ジャンヌ達の前に穴が開きそこから龍牙が現れた。

 

 

「マスター、御無……じで」

 

 

「誰じゃ?」

 

 ジャンヌ達が、龍牙の横にいる人物を見た。

 

 

「セイバー発見!まっs「その子等は味方だからね。喧嘩するなら、ご飯無しで」すいませんでした!」

 

 沖田を見たヒロインXが彼女に斬り掛かろうとしたが、龍牙にそう言われるとXは直ぐに土下座した。

 

 

「一体どこに行ってたのよ、マスターちゃん」

 

 

「えっと」

 

 龍牙はヒロインXと会った時の事を話し始めた。

 

 

 ①宇宙船ドゥ・スタリオンⅡの中で目を覚ます。

 

 ②空腹で倒れていたヒロインXを発見。

 

 ③ご飯を作って与えた。

 

 ④自分と人理焼却について説明。

 

 ⑤食事を提供するので協力を申請。即答でOK、契約。

 

 ⑥取り敢えず、此処へ帰って来ようとしたが急に宇宙船が故障。近くの星に不時着。

 

 ⑦何やら魔神柱に似た存在が襲ってきたので撃退。

 

 ⑧そのまま龍牙の力で帰っても良かったが、素材を落としたので修理に使える。「魔神柱じゃない、これは素材柱だ。宜しい、ならば狩りだ」と言い狩りを始めた。

 

 ⑨山ほど素材を集めて宇宙船修理。その後、宇宙船は宝物庫に収納する。

 

 ⑩龍牙の力を使い、此処に戻ってきた。

 

 それを聞いて、苦笑いをしているサーヴァント達。

 

 

「俺だって早く帰りたかったんだけど………途中から楽しくなっちゃって。ほっ、はいチャーハン出来上がり」

 

 

「いや、中々に面白かったですね、マスター。もきゅもきゅ」

 

 お腹が空いたので説明しながら料理をしていた龍牙。

 

 

「あっ美味しい」

 

 

「美味じゃ!」

 

 

「……物凄く女性として負けた気が。小龍包、熱々です」

 

 

「ジャンヌ、俺は男なんだけど………肉焼くから待っててね」

 

 そう言いながら、冷蔵庫から取り出した肉を鼻歌を歌いながら焼き始めた。

 

 邪ルタに至っては夢中で食べていた。

 

 

「ウム、中々な腕前……マスター、その歌はなんじゃ?」

 

 

「狩りゲーで、肉を焼く時の歌」

 

 

「ほぅ」

 

 

「上手に焼けました~」

 

 

「おぉ………美味しそうです!」

 

 楽しく食事をしていく龍牙とサーヴァント達。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~龍牙の空間 召喚部屋~

 

 此処は龍牙の空間にある部屋の一室で、此処に召喚祭壇を置いていた。

 

 

「と言う訳で!召喚します!」

 

 やる気満々で召喚祭壇の前に立っている龍牙。

 

 

「良く考えれば、前の特異点の後召喚してなかったんだよね~。この祭壇では礼装は出ない!という事は爆死する事はない!」

 

 

「マスター、爆死とはなんですか?」

 

 後ろに現れたヒロインX。

 

 

「Xで例えるなら、ご飯を食べようとしては邪魔をされる様な物かな?」

 

 

「なんと!?」

 

 

「と言う訳で……いざ!今日は、残った魔力をたんまりと使うぞ!」

 

 龍牙は祭壇に手を翳し、魔力を流していく。

 

 

「―――――抑止の輪より、来たれ!天秤の守り手よ!」

 

 祭壇から出現した魔方陣から光が溢れ出し、5つの人の形を成した。




さて、召喚されたのは誰でしょう?

答えは……次回をお楽しみに。


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EP61 召喚後の親睦会

 ~龍牙の召喚部屋~

 

 ヒロインXと共に契約を果たし戻ってきた龍牙は、食事を終えた後、召喚を行う為に此処に来ていた。

 

 そして、残った魔力を全て召喚へと回した。そして現れたのは5つの影。

 

 

「―――(ローマ)が、ローマだ」

 

 

「汝がマスターか……って龍牙()だったか」

 

 

「サーヴァント、此処に参った。余に血を奉げるマスターはそなたか?」

 

 

「我が名はアルテラ。フンヌの裔たる軍神の戦士だ」

 

 

「うむ、装いも新たに再登場!嫁セイバー、あるいはネロ・ブライドと呼ぶがいい!」

 

 召喚されたサーヴァント達を見て、目を瞬きをした。

 

 

 

 ―神祖・ロムルス。ローマの建国神話に登場する国造りの英雄。ローマの人である、俺は個人的に好きだ。偉大なローマ……いいね、ローマ!

 

 麗しの狩人・アタランテ。出会ったばっかりなので触れないが……好感度を上げて是非とも触りたい。後、子供好き……うん、子供はいいよね。ギルとエルに言ったら「そういう趣味か」と言われた、失敬な。

 

 ヴラド三世。ルーマニアの王で、吸血鬼の伝説の元となった人物。当の本人はそれを忌むべき名と言っている、ハロウィンイベントでは礼装の件で世話になったな。編み物教えて貰おう

 

 アルテラ。フンヌの王にして、文明破壊っ子。その正体はかつてこの星を襲来した白い巨人の頭脳体のバックアップ。だが今の彼女は人として生きた英霊だ。彼女には世界が美しいのを教えて上げよう。

 

 さて、問題は……ー

 

 

「ん?どうかしたか、マスター?」

 

 何でもないよと笑みを浮かべる龍牙。

 

 ーそう言って首を傾げている、ネロ・クラウディウス………赤王ではなく、嫁王の方だった。確か、この世界で召喚されるブライドはサビーズと出会ってないネロだったな。何で赤でなくて、ブライドなんだろう?

 

 まぁいいか。ロムルスと楽しそうに話してるし、両手を広げて「ローマ!」と叫んでいる。俺も混ぜて欲しいー

 

 

「ぁ~コホン、取り敢えず俺の事を説明しておこうか。もし納得しかない、俺とは組めないと言うならまだ契約は完了してないから座に戻って貰っていいよ」

 

 龍牙はそう言うと、自分の正体と目的を話した。途中で【無】が介入して、ジャンヌと同じ様に彼の過去を見せたりした。龍牙は止める様に言ったが、親としては捨て置けなかったらしく、龍牙を違う空間に移動したらしい。

 

 取り敢えず、無事に彼等との契約を完了した。

 

 

 そして、翌日。

 

 

「という訳で、今日は親睦会を開きたいと思います。好きなだけ、飲んで食ってくれ。

 

 じゃあ、乾杯!」

 

 龍牙はサーヴァント達と親睦を深める為に、パーティーを開いた。

 

 机の上に並んだ沢山の料理、古今東西の世界中の料理で、因みに全て、龍牙の手料理だ。

 

 

「あの、マスター。この料理には何が入っているんでしょうか?」

 

 

「ちょっと、そっちのを寄越しなさいよ」

 

 

「ずずっ……やっぱり日本人は味噌汁ですねぇ」

 

 

「むっこの茶碗、中々な物じゃな」

 

 

「この肉、絶妙な焼き加減だな」

 

 

「もきゅもきゅ」

 

 

「料理もまたローマである」

 

 

「むっこのアップルパイは中々の甘さだ。何、砂糖等は使ってないだと」

 

 

「フム、上物のワインであるな」

 

 

「ウム!マスターは料理も上手いのだな!何です、神祖殿?えっ口の周りについている?そっそんな、神祖殿に拭いて貰うなど畏れおおい」

 

 

「料理は……良い文明、破壊しない」

 

 それぞれのサーヴァントはこの親睦会を楽しんでいた。

 

 

「ふぅ……」

 

 楽しんでいるサーヴァント達を見て、少し昔の事を思い出した龍牙。

 

 

(家族とはこうやって食事してたっけ……ウルクでもギルとエル、たまに城で保護してた孤児達と食事してたな)

 

 

「そう言えばマスターよ、これは親睦会なのだろう?折角だ、マスターの好きな物等を教えるがよい」

 

 ネロがそう言い出した。 他のサーヴァント達も興味があるようだ。

 

 という訳で、審問大会が始まった。

 

 

 

 

 Q.好きな食べ物は?嫌いな食べ物は?

 

「食べ物で言うなら、寿司やラーメンとか、他にも好きなのは多いな。嫌いなのは………トマトかな。食えないって訳ではないが、好んで食べようとは思わないね」

 

 

「マスター、寿司!ラーメン!食べたいです!」

 

 涎を垂らしながら手を上げるヒロインX。

 

 

 Q.好きな物、嫌いな物は?

 

「動物や子供は好きかな、仕事で疲れた時に子供らの笑顔や可愛い動物との触れ合いは癒しだね。嫌いなのは醜い欲望を持った下種共、後は自分勝手な神とか」

 

 

「マスターとは気が合いそうだ!うんうん、子供の笑顔はいいな!」

 

 嬉々として龍牙の手を取るアタランテ。

 

 

 Q.得意な事は?

 

 

「計算・書類とか事務処理、物を創る事と壊す事」

 

 

 Q.趣味は?

 

 

「外でする物なら冒険、釣り。家でするならゲーム、プラモ作りとかだね」

 

 

「ぷらも?」

 

 

「ぁ~簡単に言うと人形的な物かな」

 

 

「おぉ!つまりは芸術か?!ならば余と気が合いそうだ!!」

 

 ネロの城で見た彫像を思い出した。ネロ曰くタイトルは【花と妖精】だと言っていたが、龍牙はそれを見て、某怪獣映画に出てくる花怪獣を連想した。

 

 

 Q.望みは?

 

 

「今は第7特異点でアイツ等との再会………そんでこの人理焼却の黒幕をぼk………倒して、さっさと平和に暮らす事だな」

 

 と皆がそれぞれ、龍牙に質問していく。そして最後にスカサハが質問した。

 

 

 Q.女はいるのか?

 

 

「………………」

 

 そう言われた瞬間に龍牙の顔が強張った。

 

 

「ねっ……彼女いない歴=年齢×3(前の世界+前世+この世界)です」

 

 

「英雄王はお前の女ではないのか?」

 

 そう言われると龍牙は何かを考える様な仕草をする。

 

 

「アイツは………手のかかる妹?」

 

 

「ほぅ……では未だという事か」

 

 

「えっ何が?」

 

 

「童貞か、否かと聞いている」

 

 スカサハがそう言った瞬間、乙女達が顔を真っ赤にした。

 

 

「ばっ馬鹿じゃないの!?」

 

 

「ちょ……貴方は何を言っているのですか?!」

 

 

「そそそっそうです!こんな食事時に」

 

 

「ぶふっ!?」

 

 特に反応したのは邪ルタ、ジャンヌ、沖田、ヒロインXだった。信長はその問いに笑っており、ネロは興味深そうに話に耳を傾け、牛若丸はそれが重要な事なのかと言う顔をしている。アタランテは完全に顔を逸らしている。アルテラは何の事か分かっていない様だ。

 

 

「流石は聖処女、中々に面白い反応だ………で、どうなのだマスター?」

 

 

「えっと……その………まぁ、そう言う経験はあります。はい……アレ、何でこんな話に?」

 

 

 

 

 

 

 

 ~翌日~

 

 

「あっおはよう、ジャンヌ」

 

 龍牙は起きて、以前の様に自分の布団に潜り込んだ母を外に叩き出し、着替えて部屋を出た。そしてジャンヌや邪ルタ達に出会ったのだが……皆、顔を真っ赤にしてその場を去るのだった。

 

 

「………」

 

 

「気にする事はない、マスターよ。時間が解決してくれよう」

 

 

「マスターよ、お前もまた我が子(ローマ)だ」

 

 それから数日間、ジャンヌ達に避けられた龍牙をヴラド三世とロムルスに慰められる姿が目撃された。



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第4特異点 死界魔霧都市 ロンドン
EP62 いざ、ロンドンへ


 ~龍牙の空間 ミーティング・ルーム~

 

 

「と言う訳で、次の特異点に向かうメンバーを決めたいと思います~」

 

 龍牙は集まったサーヴァント達にそう言った。

 

 

「次の特異点はロンドンだと聞いたが」

 

 

「その通り!次の特異点での目的は黒幕と会う事、情報収集だ。現れるのは……………」

 

 龍牙は前の世界の知識を活かして、次の特異点で現れるであろう英霊達の名前を言った。

 

 

「「マスター!!!!」」

 

 その英霊達の事を聞いたアタランテ、あr……謎のヒロインXが龍牙に迫る。

 

 

「是非とも私を連れて行ってください!!!!」

 

 

「私もだ!」

 

 

「分かった、分かった。じゃあ、Xとアタランテの2人ね。後はヴラド三世、ジャンヌで4人か。後は……牛若丸とスカサハね」

 

 今回のメンバーは、謎のヒロインX、アタランテ、ヴラド三世、ジャンヌ・ダルク、牛若丸、スカサハの6人に決定した。

 

 

「残りのメンバーは今回は休みという事だけど……万が一が在れば()()事になるから準備はしておいてね」

 

 龍牙の言葉に残る事になったメンバーはそれを了承した。

 

 

「じゃあ、母よ………って、何で部屋の隅で体操座りしてるんですか?」

 

 

 ―我が子………最近、冷たい………母、悲しい―

 

 

「はぁ……帰ったらパフェ作りますから」

 

 

 ―…………生クリームたっぷり?―

 

 

「アイスも乗せますし、果物も入れますから」

 

 

 ―我が子の手作り……やる気出た、じゃあ行くよ―

 

【無】が手を翳すと、龍牙達が光に包まれ始めた。

 

 

 ―早く終わらせてね―

 

 

「努力はしますよ」

 

 龍牙とサーヴァント達は浮遊感と共にこの場から消えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~ロンドン~

 

 

「さて……取り敢えず着いたな」

 

 

「此処がロンドンか……やけに霧が出ているな」

 

 ロンドンへとレイシフトした龍牙とサーヴァント達は周囲を見渡した。街中の様だが、濃い霧が出ている所為で周囲が見えなかった。

 

 

「人体には有害な霧ですが……サーヴァントは大丈夫みたいですね」

 

 

「では何故、主殿は平然とされているのですか?」

 

 ジャンヌがこの霧の事について話す、そして牛若丸の言葉にサーヴァント達が一斉に龍牙を見る。

 

 

「俺だもの」

 

 と言う龍牙を見て、納得としているサーヴァント達。

 

 

「流石、主殿!」

 

 

「ありがとう………それよりも気付いた?」

 

 

 ―ガシャン!ガキィン!ドゴッ!―

 

 

「明らかに戦闘している音だね……方向は……」

 

 

「此方の方だな……」

 

 アタランテが耳を動かしながらそう言う。

 

 

「じゃあ、案内宜しく……ジャンヌはサーヴァントの感知を」

 

 

「はい」

 

 

「ではついてこい」

 

 アタランテが音する方向に向かい駆ける。龍牙と他のサーヴァント達も彼女の後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔だ!」

 

 霧の立ち込めるロンドンの街中で赤い甲冑を着た者が岩の巨人や人形と戦っていた。

 

 

「弱いくせに……数だけは多いぜ」

 

 手に持つ剣で岩の巨人……ゴーレム、そしてオートマタ達を斬り伏せていく。

 

 

「チッ………赤r「セイバァァァァ!!!」えっ?」

 

 甲冑の人物は声に驚いていると目の前のゴーレムやオートマタが斬り裂かれた。

 

 

「ゴーレムに、オートマタかよ。良し、皆、戦闘準備ね」

 

 

「テメェ等……この霧の中で動けるって事は唯の人間じゃねぇな」

 

 

「まぁ……自己紹介は後だ。取り敢えず手を貸すから」

 

 そこにやって来た龍牙とサーヴァント達。

 

 

「いらねぇ」

 

 甲冑の人物は龍牙の支援を断った。

 

 

「マスターのお気遣いを断わるとは何事ですか、バカ娘!」

 

 

「誰がバカで、おんn……えっ?」

 

 バカ娘と言われた甲冑の人物は文句を言おうとするが、言った人物……謎のヒロインXを見て固まった。

 

 

「良いから手伝いなさい!バカ娘!」

 

 

「はっはい!」

 

 甲冑の人物は「構ってくれた」と呟きながら、謎のヒロインXと共にゴーレムやオートマタ達を斬り始めた。ヒロインXの言葉が余程嬉しかったのか、嬉々として敵を倒していった。

 

 

「……マスター。これ、私達の出る幕が」

 

 

「良いんじゃないかな……()()の共同作業と考えれば」

 

 ジャンヌの言葉にそう言う龍牙。彼は甲冑の人物とヒロインXを見てニコニコと笑みを浮かべていた。



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EP63 叛逆の騎士

 ~ロンドン街中~

 

 ヒロインXと甲冑の者の活躍によりゴーレムとオートマタを倒した一同。

 

 

「マスター終わりました!」

 

 

「うん、ご苦労様」

 

 

「テメェ……父上に舐めた口を」

 

 ヒロインXにタメ口を聞いた龍牙に剣を向ける。

 

 

「黙りなさい、バカ娘。それに私のマスターに剣を向けるとは何事ですか?!」

 

 

「えっ……はい」

 

 ヒロインXにそう言われてしょんぼりとする甲冑の者。

 

 

「まぁまぁ……えっと俺は彼女のマスター、無皇 龍牙。この人理修復を行っている、取り敢えず落ち着いて話が出来る場所に行かないか?」

 

 

「分かった、ついて来い」

 

 龍牙達は甲冑の者の隠れ家へと向かうことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ~隠れ家~

 

「此処だ」

 

 

「へぇ……此処ね」

 

 龍牙一行は案内された隠れ家に入る。

 

 すると甲冑の者の兜が音を立てて変形し始めた。そして、顕になったその者の顔はアル……ヒロインXに似ていた。

 

 

「取り敢えず、自己紹介だな。オレはモードレッド、知ってるとは思うが父上の息子にして、唯一の後継者だ!」

 

 

「子供と言うのは百歩譲って認めますが、後継とは認めません」

 

 

「ちっ父上が認めてくれた…」

 

 モードレッドはヒロインXが自分の子供と認めてくれたのが嬉しいのか、涙目になって喜んでいる。

 

 

「なんか、俺の知っているアルトリアじゃない」

 

 龍牙は前の世界で見た彼女のモードレッドに対する態度があまりにも違うので驚いていた。

 

 

「私は超絶可愛いくて、強く凛々しいアルトリア・ペンドラゴンではありません!謎のヒロインXです!

 

 それに私は違う私と違って寛容です。子供を認めぬ程、愚かではありません」

 

 どうやら他の彼女と違って寛容な様だ。

 

 

「エミヤのお陰かな?」

 

 

「誰です、それ?」

 

 

「………衛宮士郎」

 

 

「どちら様で?」

 

 

「全然記憶にない?」

 

 

「はい」

 

 龍牙はそれを聞いて思った……ヒロインXもそう言う可能性の世界の人物かと

 

 

「何やら騒がしいね」

 

 話していると奥から眼鏡を掛けた青年が出てきた。

 

 彼の名はヘンリー・ジキル。怪奇小説の主人公である狂心を宿した紳士……正確にはその小説のモデルとなった人間だ。

 

 龍牙は一先ず彼にも自己紹介し、情報を求めた。ジキルは頭脳で、モードレッドは実戦でこれまで協力していたらしい。

 

 彼等からの情報によれば、この都市を覆っている魔霧は生物が吸い込むと身体に害を与え数時間で死に至らしめる物らしく、ジキルの計算では数十万単位で死者が出ている可能性があると言う。いずれは都市の全てが死に絶えるだろう。

 

 加えて、先程の戦闘で現れたゴーレムやオートマタ達も現れた事で脅威が増えた。魔霧自体は屋内には入らない様だが、食料や水が尽きれば飢えてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「急がないとね……ジキル、そしてモードレッド、今回の件を早急に片付ける為に君達に協力を仰ぎたい」

 

 

「オレは構わねぇぜ」

 

 

「此方としても助かる」

 

 彼等は協力する事になり、まずはジキルの協力者であるフランケンシュタイン氏との接触する事を決めた。

 

 

「ぇ~……行くメンバーはモードレッド、俺、アタランテ、ジャンヌ、ヒロインXだ。牛若丸、ヴラド三世、スカサハは此処に残って周囲の探索。宝具は各自の判断で使ってくれていい、唯、建物に損害は出さない様に頼む」

 

 

「承知!」

 

 

「よかろう」

 

 

「分かった」

 

 こうしてメンバーを決め、二手に別れる事にした。




次回は噂のあの英霊が出ます。

さて、誰でしょうか?


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EP64 小さな暗殺者

 ~ロンドン 街中~

 

 フランケンシュタイン氏と接触する事になった龍牙達は、モードレッドの案内で彼の元へ向かう事にした。

 

 

「また、オートマタにゴーレム……それにホムンクルスまで出てきやがった。はい、皆、戦闘準備」

 

 龍牙達の目の前にはオートマタやゴーレムの群れが現れた。

 

 

「あぁ、私が後衛を務める故に3人は暴れるがいい」

 

 

「よし、やるぜ!」

 

 

「セイバーでないのが残念ですが……我が剣に錆にしてやります!」

 

 

「どうか、主の御加護を!」

 

 アタランテが弓を構えた瞬間、モードレッド、謎のヒロインX、ジャンヌが駆け出した。

 

 

「皆、敵が多い!モードレッドとXはそのまま突っ込んで!ジャンヌは2人を襲おうとしている敵を!アタランテ、援護!」

 

 

「分かった!はぁ!」

 

 突破力のあるモードレッドとヒロインXが正面から敵の群れに突っ込んだ。ジャンヌは2人を攻撃しようとする敵を潰し、アタランテが3人をカバーしていた。

 

 龍牙の指示の甲斐があってか、数分もしない内に戦闘は終了した。

 

 

「戦闘終了……お疲れ様」

 

 

「……マスター、未だの様です」

 

 ジャンヌの言葉に龍牙は目を閉じ、周囲の気配を探った。確かに何かの気配がある……目を開けると、周囲の霧が濃くなっていた事に気付いた。

 

 

『解体するね』

 

 

「「「マスター!」」」

 

 龍牙はサーヴァント達の気付いた、自分の首にナイフが当てられている事を。

 

 

「アサシン……ジャック・ザ・リッパー」

 

 

「アレ?わたしたちのこと、知ってるの?」

 

 サーヴァント達は龍牙の後ろに居るサーヴァントを見た。白髪の子供の姿………その愛らしい姿とは裏腹に凄まじい殺気を放っている。

 

 

「あぁ、知ってるよ」

 

 

「まっ……」

 

 サーヴァント達が動こうとするが龍牙はそれを制した。

 

 

「取り敢えず、この危ないのは退けて貰おうか」

 

 龍牙はそう言うと、破壊龍の眼(ノヴァズ・アイ)を発動した。そしてジャックのナイフをその手で触れた。すると、龍牙の手に黒い光を放ちナイフを破壊した。

 

 

「あっあれ?」

 

 

「駄目だよ、そんな危ないのを振り回しちゃ」

 

 ジャックは破壊されたナイフを見て、何が起きたのか分かっていない様だ。一先ず、彼女は龍牙から距離を取った。

 

 

「テメェ……」

 

 モードレッドがジャックに斬り掛かろうとする。

 

 

「ヒロインX、モードレッドを止めてくれ」

 

 

「おっお言葉ですがマスター……今回のバカ娘の行動h「戻ったら焼肉食べ放題」止めなさい!マスターにはお考えが在るようです!」

 

 焼肉食べ放題と聞いて、モードレッドの行動を肯定しようとしていたヒロインXは掌を返した様に彼女を止め始めた。

 

 

「ちっ父上?!なんで食い物なんかで買収されてるんだよ!?」

 

 

「買収とは失礼な!マスターの命だから致し方なくです!(じゅるり」

 

 

「涎垂らしながら言っても説得力ないからな!」

 

 と親子のやり取りしている中で、ジャンヌとアタランテはジャックを見て複雑な表情をしている。

 

 

「マスター……どうするつもりでしょうか」

 

 

「分からん……だが万が一の場合は」

 

 アタランテは弓と矢を構え、何時でもジャックを射抜けるように準備をした。だがこれはアタランテにとっては辛い事だろう。彼女の願いは「この世、全ての子供達が愛される」なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「コホン、後ろの騒がしいのは置いといて………」

 

 龍牙は破壊龍の眼(ノヴァズ・アイ)を解除しながら、ジャックを見る。彼女は龍牙の事を警戒している様だ。

 

 龍牙はその様子を見ると、その場にしゃがみ込み、ジャックと視線の高さを合わせる。

 

 

「こんにちは」

 

 

「……こんにちわ?」

 

 ジャックは戸惑いながらも、龍牙の挨拶に返事をした。

 

 

「俺は龍牙って言うんだ」

 

 

「りゅうが?」

 

 

「そうそう……ジャックは此処で何をしているのかな?」

 

 

「わたしたちはお腹が空いてるの………だから食べるの。でも全然、お腹いっぱいにならない、ぺこぺこなの」

 

 サーヴァントは現界するだけでもかなりの魔力を消費する。そして契約していないジャックがその魔力を補充するのに使う方法は【魂喰い】。つまり人を()()()()()()と言う行為だ。

 

 

「そっか………でもそれじゃあ、君は満たされないよね(この子が求めるのは……)」

 

 

「あなたは知ってるの、どうしたらお腹いっぱいになるのか?」

 

 

「お腹が一杯になるかは分からないけど」

 

 龍牙は手を彼女の前へと突き出した。

 

 

「?」

 

 ジャックは何をしているのか分からなかった。そして龍牙がその手を開くと、ポンと音を立てて掌にぐるぐるキャンディが現れた。

 

 

「はい」

 

 

「えっ、わたしたちにくれるの?」

 

 

「うん……どうぞ」

 

 龍牙は笑みを浮かべてそう言い、キャンディをジャックに渡した。

 

 

「………おいしい」

 

 ジャックはキャンディを舐めると子供らしい笑顔を浮かべる。

 

 

「そんな恰好で寒いだろうに」

 

 龍牙はそう言うと、自分の来ているコートを脱いで彼女に掛けた。

 

 

「あたたかい」

 

 

「それは良かった」

 

 龍牙はそう言うと、ジャックの頭を撫でた。そして彼女に魔力を流し込む、彼女が【魂喰い】を行う理由は魔力を欲する為だ。ならば一先ずは魔力を与えれば無容易に殺しはしないだろうと考えた。

 

 

「あなたは、どうしてわたしたちにやさしくしてくれるの?」

 

 

「俺も、もしかしたら君みたいになってたかも知れないから……かな」

 

 目の前にいる少女は……ジャック・ザ・リッパーと言う伝説に組み込まれたのか、また伝説を取り込んでしまったが分からないが、彼女は「堕胎により、産まれる事を拒まれた数万以上の胎児の怨念」だ。彼等が望んでそうなった訳ではない……この子達は社会と言うシステムの犠牲者だ。サーヴァントとして顕現したこの子達は「母の胎内へ還る」事を願っている。その為の手段は殺す事しか知らない。何が善で悪なのか知る前に彼等は拒絶された。

 

 龍牙もまた産まれながらに人とは異なった存在だ。異なる考え、知能、力を持ちながら人間として生きてこれた、それは偏に家族と親友の存在が在ったからこそだ。もし家族や友人にさえ見捨てられていれば、今の龍牙はなく、力の限りに全てを拒絶し、破壊する事しか知らない存在となっていただろう。だからこそ、龍牙はジャックと自分を重ねていた。

 

 

「よいしょっと」

 

 

「わぁ」

 

 龍牙は立ち上がると、ジャックを抱き上げる。彼女は抱き上げられるが、抵抗はしない様だ。

 

 

「取り敢えず、用が済んだら一緒にご飯食べよっか」

 

 

「ごはん……わたしたちも?」

 

 

「うん、ジャックも一緒に食べよう」

 

 

「あなたは………マスター(おかあさん)?」

 

 

「ぇ~と……俺は男だからどちらかと言うとおとうさん……でもジャックにはそう概念がないのか」

 

 ジャックにとって男性だから、女性だから「おかあさん」と言う訳ではない。彼女達にとって、マスターは性別は関係なく、自分を甘やかし、愛していくれる人こそ「おかあさん(マスター)」なのだ。

 

 

「俺よりもあっちの方がおかあさんって感じだけど」

 

 ジャンヌ達を見てそう呟く。

 

 

「マスター……その子をどうするつもりですか?」

 

 ジャンヌが龍牙にそう聞く。

 

 ジャンヌはジャック・ザ・リッパーを知っている。知っているからこそ………ジャック(彼女達)は決して救われない魂である事を。

 

 

「あぁ……そっか、座には時間の概念はなかったんだっけ。ジャンヌとアタランテは()()()()()()()()()()のか」

 

 

「はい………だからこそ」

 

 

「ッ!」

 

 違う自分達が経験した事違う自分達が経験した事(Apocrypha)は彼女達も記録として知っていた。そしてジャック(彼女達)がどう言う結末を迎えたのかも。

 

 

「まぁ……この子の事はゆっくりと考えるさ」

 

 

「ですが……」

 

 

「この子が救われぬ存在だって言うなら……俺だってそうだよ。世界を破壊する存在、化物、現に罪人とは言え何人も手に掛けた」

 

 

「………」

 

 

「話し合える相手なら無理に戦う必要はないだろう?」

 

 

「はぁ……分かりました」

 

 龍牙の言葉を受け入れ、ジャンヌは了承した様だ。

 

 

 ―それから俺達は、ジャック・ザ・リッパーを連れてフランシュタイン氏の元に赴くが、彼は既に今回の特異点の黒幕達に召喚されたキャスター・メフィストフェレスにより亡き者になっていた。

 

 戦闘シーン?……って言っても、ジャンヌ、アタランテ、モードレッド、ヒロインXが一斉に襲い掛かった。何やら、言おうとしていたが登場数秒で退場した。

 

 それで彼の書斎に入ると、そこには人造人間のフランケンシュタイン……フランちゃんがいた。取り敢えず、彼女とフランケンシュタイン氏が纏めた資料を持って隠れ家へと戻る事にした―

 

 

 

 

 

 

 ~隠れ家~

 

 

「おかあさん、おいしいね」

 

 

「うぅー」

 

 ジャックとフラン達は現在、俺の出したケーキを食べていた。

 

 ジキルはジャックをつれて来たと言うと顔を引き攣らせていたが、取り敢えず害はない事を伝え、もしも場合は自分がどうにかすると言い納得させた。

 

 

 ―おかあさん、認定された俺。

 

 やべぇよ!ジャック、可愛過ぎるよ!純粋無垢な笑顔が眩し過ぎるよ!俺の中の父性だけじゃなく母性や色んな物が目覚めそうだよ?!

 

 出来ればお父さん……いやお兄ちゃんがいいけど―

 

 

「どうしたの、おかあさん?」

 

 

「ううん、おいしいかな、ジャック?」

 

 

「うん、おいしいよ!」

 

 頬にクリームを付けながら、笑顔を浮かべるジャック。アタランテが物凄い笑顔で、ジャックのクリームを拭いている。

 

 

 ―ぬわぁぁぁぁぁぁっぁ!やべぇぇぇぇ!もう、真の黒幕見るとかどうでも良くなってきた!

 

 いや、駄目なんだけどね。でもそんな気がする…………アタランテなんてデレデレだよ。何だかんだ言っていたジャンヌでさえ、小さい妹が出来たみたいに構ってる。

 

 はぁぁぁぁ………癒されるね。小さい頃のギルにはこの純粋さがなかったんだよ。えっ慢心王になる前は純粋だって、アレは猫被ってるだけ。基本、俺に対しては小さくても、大きくても、同じだよね。全く無慈悲で、らんb『ゴッ!』―

 

 

「まっマスター!?」

 

 

「主殿、お気を確かに!!」

 

 

 ―さっ最近……宝物庫が勝手に開くんだけど……どうすればいい……か…な(ガクッ―

 

 龍牙の真上に大きなダイアモンド(人間の頭の倍くらいの大きさ)が落下してきた。その直撃を受けた彼はそのまま気を失った。




~バウ=イル~

宝物庫の合鍵の中にあるギルガメッシュの残留思念は腹を立てていた。


「暇だ」


【はぁぁぁぁ……癒されるね】


「ムッ……龍牙の思念か……ほぅ、殺人鬼を引き込みおったか。奴は子供に甘いからな。それがアイツの良い所であるのだが……」


【小さい頃のギルにはこの純粋さがなかったんだよ】


「………」


【猫被ってるだけ。基本、俺に対しては小さくても、大きくても同じだよね】

ギルガメッシュは宝物庫内にあった大きなダイアモンドを用意した。


【全く無慈悲で、ら】


「死ねぇぇぇ!!!」

用意したダイアモンドを龍牙の上に開いた門から、彼に向かって放り投げた。


―ゴッ!―

物凄い音と共に龍牙は気を失った。


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EP65 一刻の楽しみ

 ~隠れ家~

 

「ねぇねぇ、おかあさん」

 

 

「あぁ、なんだ?」

 

 ジャックにおかあさんと呼ばれて嬉しそうに笑うアタランテ(獣っ娘)

 

 

「おかあさん」

 

 

「なんですか、ジャック?」

 

 始めは戸惑っていたが、今では受け入れているジャンヌ(聖女)

 

 

「これ、美味しいね、おかあさん」

 

 

「そうか、そうか、一杯食べるといい」

 

 自分作った料理を美味しいと言って貰えて笑みを浮かべるスカサハ。

 

 

「おか……おじいちゃん、これ暖かいね!」

 

 

「そうか。これもつけるといい」

 

 自分が作った毛糸の手袋をして喜んでいるジャックを見て、帽子も追加するヴラド三世(おじいちゃん)

 

 何故「おかあさん」じゃないのか?流石に「おかあさん」は止めさせてくれと彼に懇願されたので、ジャックには「おじいちゃん」と呼ばせる様にした。「おじさん」ではないのか?ちょっと無理があったので、「おじいちゃん」にした。ヴラド三世はそう呼ばれて嬉しかったようだ。

 

 

「………」

 

 

「ちっ父上(オロオロ」

 

 Xは部屋の端で膝を抱えており、モードレッドはそれを見てどうしていいか分からずオロオロしている。

 

 何故そうなったのかと言うと……時はジャックを連れて此処に来た時まで遡る。

 

 

 

 ~回想~

 

 ジャックを連れてきた俺達。勿論、皆、驚いたのは言うまでもない。

 

 問題は此処に来た時のジャックの反応だ。

 

 

「うわぁ~おかあさんがいっぱい!」

 

 ジャックはそう言った。女性陣の胸を見ながら。

 

 ジャンヌ、スカサハ……凄い(何がとは言わない)。

 

 アタランテ、牛若丸……そこそこ。

 

 この時は女性陣を見てそう言った。それからヴラド三世が寒いだろうと腹巻きを作り、ジキルも何かと構うようになり、おかあさん認定された。

 

 ふっとそこでXが気が付いた。鎧を着ていたモードレッドは仕方ないにしろ、何故女である自分は呼ばれないのだろう?と。

 

 ジャックに聞いたところ。

 

 

「?」

 

 首を傾げられた。女の人の匂いは分かるらしいが、Xからはご飯の匂いがしたそうだ。

 

 

 ~回想終了~

 

 

 

 という訳で、彼女は現在進行形で落ち込んでいる。

 

 

「主殿!ただいま、戻りました!」

 

 牛若丸が周囲の偵察より帰って来た。

 

 

「見て下さい!主殿!デーモンが居たので首を取って来ました!」

 

 牛若丸の手にはデーモンの首がぶら下がっていた。加えてホモンクルスの首まである。

 

 あれぇ、デーモン居たっけ?

 

 

「ごっご苦労様、取り敢えず血が飛ぶから向こうに置こっか」

 

 

「はい!」

 

(以前に敵から聖晶石を取ってきたので褒めた。それを切っ掛けに、牛若丸は首やら心臓を取って来る様になった。

 

 カルデアにいた時……丁度、オルレアン攻略中だったかな、朝起きたら、目の前にワイバーンやらモンスターの死骸があった時はマジでビビったね)

 

 

「………ふっ……フフフ………ご飯の匂いって…」

 

 

「ちっ父上、落ち着いてくれ!オレはそんなの気にしないから!」

 

 

「貴女に慰められても嬉しくありません」

 

 

「まぁまぁ、ほらっX。グラタン出来たよ」

 

 

「食べます!」

 

 結局はご飯で機嫌が直る様だ。

 

 

「いぇ、私は可憐で強くて優しい王アルトリア・ペンドラゴンではありません。セイバーの中のセイバー(本当はアサシン)、謎のヒロインXです」

 

 グラタンやサラダ、龍牙の用意した料理を頬張りながらそう言うヒロインX。

 

 

「もぐっもぐっ……これうめぇ!」

 

 

「バカ娘!マスターが私の為に作って下さった物を勝手に食べんじゃありません!」

 

 

「一杯あるんだから、モードレッドも人の分を取らない。親子揃って、顔についてるぞ」

 

 

「おかあさん、おいしい!」

 

 

「そうか、良かった………ほらっ付いてるぞ」

 

 皆で楽しく食事している。こうしていると、世界が本当に終わろうとしているなんて思えない。だが、もう直ぐ魔神達の主が降臨する。その時こそ、龍牙にとって本当の始まりとなるだろう。



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EP66 思い出の家

 ~ロンドン 隠れ家~

 

「……」

 

 

「……」

 

 龍牙は現在、カルデアのマスター藤丸立香と机を挟んで座っていた。

 

 龍牙の後ろには彼のサーヴァント達がおり、立香の後ろにはマシュ、エミヤ、清姫、フランシス・ドレイク、アルトリア・ペンドラゴン(騎士王)、アルトリア・リリィがいる。

 

「……御愁傷様」

 

 げっそりとしているエミヤを見て、龍牙がそう呟いた。

 

「「シロウ(エミヤさん)、どういう意味ですか?」」

 

 

「さっ…さぁな(いっ胃が痛い、人理修復の為とはいえ、この面子は……)」

 

 不思議そうな目で見られて首を傾げるアルトリアズ、彼女達と因縁のある彼にとっては色々と大変だろう。

 

「まぁ、その内……義理の父、母、妹とか出るな」

 

 

「がふっ」

 

 

「直感だけど、赤い同級生」

 

 

「ぐっ!?」

 

 

「清純に見えて結構腹黒い後輩」

 

 

「ぐぁ!」

 

 

「姉も出てくるんじゃ……」

 

 全てに心当たりのあるエミヤは今にも死にそうになっている。

 

「きっ君は何を知っている!?」

 

 

「確かこうだったな。『俺はっ…みんなを幸せにしたかったんだ!』」

 

 

「えっエミヤ、待って!自害しようとしないで!」

 

 

「シロウ、落ち着いて!」

 

 龍牙の言葉を聞いたエミヤは干将・莫耶を投影すると、刃先を自分の首もとに向けた、それに気づいたアルトリアと立香はそれを必死に止める。

 

 

 

 

 一先ず落ちつきを取り戻したエミヤ。改めて向かい合って座る龍牙と立香。

 

「えっと……その」

 

 立香は何かを言おうとするが、言葉に詰まってしまう。

 

「前も言ったけど、俺は君達が敵対する気がないなら戦うつもりはないよ」

 

 

「なら説明してほしいんです。貴方のことも、貴方の本当の目的も」

 

 

「言ったろ、未だその時じゃないって」

 

 

「じゃあ、何時なんですか?その時と言うのは」

 

 

「さて……何時かね。その時としか言えないな、一先ずは特異点の修復が優先だもの」

 

 龍牙はそう言うと立ち上がり、外へ向かおうとする。

 

「俺がこの特異性で集めた情報はジキルに渡してるから聞くといい。俺は俺で勝手に動くから」

 

 彼はそう言うと、サーヴァント達と共に外に出ていってしまった。

 

 

 

 

 

「しかし、あそこから出てどうするつもりだ?例え、お前にこの霧が効かなくとも拠点がないと困るであろう?」

 

 ヴラド三世が龍牙にそう聞いた。サーヴァント達は魔力さえあれば活動は可能だ、しかし龍牙は人外の力を持っていても生身の人間だ、衣食住がないと後々に響く事になる。

 

「取り敢えず………即席の家を作るか」

 

 龍牙はそう言うと、近くの路地に入る。サーヴァント達はどうするのだろうと思いながら、後についていく。龍牙は人気のない場所までくると、近くの壁に触れる。

 

「うん、しっかりとしてる」

 

 龍牙はそう言って宝物庫から取り出した剣で掌を切った、当然の如く血が出る。そしてその血で壁に魔法陣を書いていく。

 

マスター(おかあさん)、何やってるの?」

 

 

「お家を作ってるんだよ、後は隠蔽の術式を書いてっと………これで良し」

 

 どうやら完成した様だ。彼は血で書いた魔法陣に触れると、魔法陣が光り出し扉に変わった。そして扉を開けると、中へと入って行く。サーヴァント達も後について入ると驚いた事に、そこに広がっていたのは……何の変哲もない家だった。

 

「此処は………」

 

 

「異空間に俺の記憶を元に再現した物を作った。一先ずは此処を拠点にするよ」

 

 相変わらずやる事が人外レベルである。

 

 

 

 ~家?~

 

「マスターはどうしました?もきゅもきゅ」

 

 

「このケーキ、美味しいね」

 

 Xは龍牙との約束通り、焼き肉を食べている。不思議な事にこの家の冷蔵庫はどれだけ食材を出しても尽きないそうだ。ジャックはちょこんと座ってケーキを食べていた。

 

「少し疲れたそうなので、お部屋でお休みになっています」

 

 

「そうか………ルーラーよ、この家は」

 

 

「恐らくそうなのでしょう」

 

 ヴラド三世は家の中を見廻してジャンヌに話しかける。

 

「此処が主殿の家と言う訳ですか」

 

 牛若丸も周りを見廻してみる、テレビや冷蔵庫を始めとする家電、ソファーや箪笥と言った家具、壁に張っている子供が書いたであろう絵など、生活感が在った。

 

「これは」

 

 

「写真と言うものか」

 

 ジャンヌとスカサハは写真を見つけた。そこには龍牙と2人の子供、そして両親らしい男女が映っていた。

 

「これがマスターの家族ですか……もきゅもきゅ」

 

 

「おい、立って喰うな………ジャックが真似をするだろう」

 

 

「おっとこれは失礼………」

 

 

「あっ、マスター(おかあさん)だ」

 

 

「幸せそうな家族ですね」

 

 

「あぁ……だがマスターはこの幸せを捨ててまで世界の安定を取った。元は根源より産まれた身とは言え、人として生を受けた以上、その生を全うしても可笑しくはなかったというのに」

 

 スカサハは幸せそうな家族写真を見てそう言った。

 

「主殿は幸せそうですね」

 

 

「えぇ」

 

 サーヴァント達は写真に写るマスターの姿を見て、本来ならマスターはこんな戦いをするべきではなかったと考えていた。

 

 だが、今は人理そのものの問題………そんな事を言ってはられない状況だ。だからこそ、この戦いが終わった後の事が気になった。だが今は、彼等はその考えを飲み込んだ。今はそれを考えていても仕方がないからだ。

 

 今できる事は敵を倒す事だけだ。



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EP67 サーヴァント交代

 ~龍牙の隠れ家 私室~

 

「「すぅ……すぅ………」」

 

 龍牙が空間を捻じ曲げ、自分の思い出を元に作った家………そして此処は龍牙の私室の様だ。

 

 棚には漫画やらフィギュアが並んでおり、机には筆記具、その横には教科書が積まれていた。そして、この部屋の主、龍牙はベッドの上で眠っていた………寝間着姿のジャックと。

 

「これは………起こすべきでしょうか?」

 

 

「時間的には朝だ、起こすべきだろう」

 

 

「そうですよね………ってアタランテ、何をしようとしているのです!」

 

 

「朝は未だ早い、こんな幸せそうに寝ているのだ。もう少し寝かせてやれ…………私は此処で二度寝する。万が一の為だ」

 

 朝、龍牙を起こしに来たジャンヌ、スカサハ、アタランテ。

 

 アタランテは顔を赤くしながら龍牙のベッドに潜り込もうとする。それをジャンヌが止めていた。

 

「離せ、ルーラー………この子がマスターに懐いているとはいえ、監視は必要だろう」

 

 

「たっ確かに………ですが、男女が床を一緒にするのは」

 

 茹で蛸の様に顔を真っ赤にしながら言うジャンヌ。

 

「ほぉ……聖処女はやはり生娘か」

 

 

「すっスカサハまで何を言うんですか!」

 

 

「ん………ぅ」

 

 

「ん~……ぅ…みゅ」

 

 

「「「!?」」」

 

 大声を出し過ぎて、龍牙とジャックが起きそうになり、慌てて口を押える3人。

 

「やはりもう少し寝させてやるとするか………それにしてもこうして見ると、マスターは未だ幼さが残っているな」

 

 

「そうですね、こうして見ると本当の兄弟の様です」

 

 龍牙とジャックが一緒に寝ているのを見て、ほんわかしている3人。

 

「ん………ぅ~ん」

 

 龍牙は目を覚ますと、寝惚けた顔をして身を起こした。

 

「おっおはようございます、マスター」

 

 

「ん~………ねむぃ」

 

 

「おかぁさん……むにゃ」

 

 龍牙は未だ完全に寝惚けている様で座ったまま舟をこいでいる。ジャックは龍牙の腹部に抱き付いている形になっている。

 

「そっち……の粘土……板……はギルに………そっちは神殿に……未だ10徹目……だか……ら……大丈夫」

 

 

「いぇ、それは全然大丈夫じゃありませんから!」

 

 龍牙の寝言に突っ込みを入れるジャンヌ。どうやら夢の中でも仕事をしているらしい。

 

「くぅ……」

 

 龍牙はそのまま倒れた。

 

「ほぉ」

 

 その結果、スカサハの母性の象徴へとダイブする形となった。

 

「「ななななな」」

 

 それを見て耳まで真っ赤になっているジャンヌとアタランテ。特に2人は男性経験が極端に乏しい為に、異常に反応している。

 

 スカサハは色々と経験が豊富な為に、この程度では動じて居ない様だ。彼女は何かを考えると龍牙の頭を撫で始めた。

 

「フム………これは中々」

 

 

「ぅん………母さん………」

 

 

 ーキュンー

 

 彼女達の中の母性本能が発動した。

 

「なっ何ですか今のは」

 

 

「はっ母親とはこんな気持ちか」

 

 

「……」

 

 ジャンヌ、アタランテは勿論、スカサハまで顔を赤くし沈黙が続き、互いに顔を見合せた。

 

 

 

 ~1時間後~

 

「んっ……はぁ~、よく寝た」

 

 

「ん~……マスター(おかあさん)?」

 

 

「おはよう、ジャック……アレ?何で、スカサハ達が?」

 

 自分の横やジャックの横を見てみると、ジャンヌ、アタランテ、スカサハが眠っていた。

 

「迷い混んだのかな?」

 

 

「ぅ~マスター(おかあさん)、お腹空いた~」

 

 

「そうだね、朝ごはんにしよっか。俺は先に降りてるからジャックは皆を起こして着替えておいで」

 

 

「はぁ~い」

 

 数分後、ジャックと共にやって来た彼女達の顔が赤くなっていたのは言うまでもなかった。

 

 

 

 ~朝食後~

 

 朝食を終えた龍牙とサーヴァント達は席に着いていた。

 

「それじゃ、これからの事を話そうか。黒幕が出てくるから、何人かメンバーチェンジを行うよ。

 

 固定は相性を考えてヴラド、牛若丸、X、ジャンヌだ。スカサハとアタランテは他のメンバーと交代だ」

 

 

「そっそんな…」

 

 

「仕方あるまい、マスターの指示だ」

 

 アタランテはジャックと離れる事にショックを受けており、スカサハはマスターが決めた事ならばと考えていた。

 

「大丈夫だ、アタランテ……きっと、ジャックは連れて帰るから!」

 

 

「マスター!」

 

 

「じゃあ、始めるか」

 

 パチッと指を鳴らすと、アタランテとスカサハの足元に魔法陣が出現し、彼女達の身体が少しずつ魔法陣から出る光により2人の姿が徐々に薄くなっていく。

 

「「ではマスターの事は頼んだぞ」」

 

 彼女達はそう言うと、完全にこの場より消えてしまった。

 

「それじゃ、アルテラ、信長」

 

 スカサハ達の居た場所にアルテラと信長が呼ばれた。

 

「呼んだな」

 

 

「ウム!」

 

 こうして、新たに呼ばれた2人。

 

「あたらしいおかあさん!?」

 

 ジャックがその光景を見て目を輝かせている。

 

「ちょっと待って下さい!私と変わらない(胸の)大きさで、何で私の時はご飯の人なんですかぁ!?」

 

 ヒロインXがジャックの態度があり違い過ぎるのでブーイングしている。

 

 そして、ジャックに聞いた。

 

「彼女は?」

 

 そう言い、ジャンヌを指差す。

 

「おかあさん!」

 

 

こっち(牛若丸)は?」

 

 

「おかあさん!」

 

 

こっちは(アルテラ)?」

 

 

「おかあさん!」

 

 

こっちは(信長)?」

 

 

「おかあさん!」

 

 

「私は?」

 

 

「ごはんの人!」

 

 

「だから何でですか?!」

 

 

「おいしい、ごはんの匂いするよ?」

 

 改めてそう言われてショックを受けているヒロインX。その場に膝を付き倒れ込んでしまった。

 

「えっと………食べる?」

 

 そう言って、龍牙は大福を取り出すとXに差し出す。

 

「頂きます」

 

 直ぐにXはそれを受け取るともきゅもきゅと食べ始めた。

 

「ぅう……いいんです。その内、アルトリア顔=食べ物と言うイメージが付くんです」

 

 

(それに関してはちょっと違うけどもう遅いかな?正確にはアルトリア=大食いってイメージは定着していると思う)

 

 取り敢えずXを落ち着かせると、龍牙は一息ついて立ち上がる。

 

「じゃあ、皆……行こうか!」

 

 一刻の安息を終え、サーヴァント達と共に再び特異点へと踏み出した。




戦闘は次回に持ち越します。

~次回予告~

青×2 VS 黒大

です。

殆ど答え出てますね(笑)


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EP68 燃える嫉妬心、輝くは星の聖剣

 ~ロンドン~

 

約束された勝利の剣(エクス・カリバー)!!!!!」

 

 

無銘勝利剣(エックス・カリバー)!!!!!!」

 

 

「グッ!…………なんなのだ!貴様等は!」

 

 

「「駄肉はそぎ落とす!」」

 

 黒い槍を携えた女神に向かい、剣を向けてそう言う2人のサーヴァント。

 

 事の始まりは数十分前に遡る。

 

 

 

 

 

 ~数十分前~

 

 魔霧を発生させていた元凶マキリ・ヴィルゾン、ニコラ・テスラを倒した立香やマシュ達の前に現れた黒き聖槍を携えた王。

 

「あれは……いいえ、彼女は間違いなくアーサー王です」

 

 

『残った魔霧の殆どを吸収しながら現界している!まずいぞ、この魔力量は!』

 

 通信でDr.ロマンがそう解析を行うが、言うまでもない目の前に居る彼等がその力を肌で感じていた。

 

「オレを「セイバ――――!」

 

 黒き槍を持つ騎士王に向かって何かを言おうとしたモードレッドの言葉を遮る様に斬り掛かった存在がいた。セイバーと叫びながら斬り掛かるサーヴァントなど1人しかいない、ヒロインXである。

 

 黒き槍を持つ騎士王は槍でXの剣を受け止め、弾き返した。

 

「へぇ……もう此処まで来たのか、早いね、藤丸君」

 

 立香達が振り返るとそこには龍牙とそのサーヴァント達が立っていた。

 

「マスター!アレですか?!聖槍を持って駄肉を手に入れたアルトリアは?!」

 

 

「「駄肉?」」

 

 言葉の意味が分からない、騎士王アルトリア・ペンドラゴン(セイバー)とアルトリア・リリィは首を傾げる。

 

「そうです!良く聞きなさい!そっちのアルトリア!アレはアルトリアの裏切り者です!」

 

 

「どう言う意味だ!?」

 

 

「こういう意味です!」

 

 ―ビシッ―

 

 何かにヒビが入る音がした、すると黒き槍を持つアルトリアの鎧にヒビが入り砕け散った。

 

 そして現れたのは大きなお山が2つである。

 

「「はっ?」」

 

 それを見たヒロインXとアルトリアは唖然とした。リリィはキラッキラッした目で黒い槍のアルトリアの胸を凝視している。

 

「「はあぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 ヒロインXとアルトリアの声が重なった。

 

「ちょっと待ちなさい!何ですか、それは?!」

 

 

「あっあそこまで大きい………だと」

 

 驚愕している2人を見ている槍のアルトリアだが、まるで意志がないかの様に微動だにしない。

 

 それもその筈、この黒い槍のアルトリアはマキリの詠唱により呼び出された存在であり、彼女は現在暴走状態にあり真面な会話ができる状態ではないからだ。

 

「こっちは聖剣2本持ってもちっとも大きくならないのに、聖槍で大きくなるとか」

 

 

「ふっ………フフフ………フフフフフフフ……なんですか、それ?」

 

 おっと、ヒロインXとアルトリア(騎士王)の様子が可笑しい様だ。異変を感じ取った龍牙と立香はそれぞれのサーヴァントに近付いた。

 

「「削………す……落と……削ぎ落とす!」」

 

 彼女達はどうやらずっと同じ言葉を繰り返している。

 

「うわぁ………」

 

 

「怖っ!」

 

 龍牙と立香はそんな彼女達を見て、そう呟いた。

 

「マスター………魔力回して下さい、あの駄肉を削ぎ落とします!宝具を使います良いですね?分かりました!全力でマスター(と私)の敵は倒します!」

 

 マスターである龍牙は何も返事を返していないのに、1人で話を終えたXは何時もの聖剣と黒い聖剣を装備して構えを取る。

 

 アルトリア(騎士王)も同じ様にマスターを説得したのか、聖剣を構え、何時でも真名解放できる様に剣へと魔力を流す。

 

「アルトリアとの共闘とは考えていませんでした」

 

 

「私も貴女に背を預けるとは思いもしませんでした」

 

 

「言いたい事はありますが……」

 

 

「えぇ、考えている事は分かります……」

 

 

「「先ずはあの駄肉を削ぎ落とす!」」

 

 ヒロインXと騎士王の心が1つになった。

 

 全てはマスターの敵を打倒する為に(抜け駆けした槍の自分を倒す為に)

 

 

 

 

 

 ~現在~

 

「こうして、現在に至ると………もしもの為に結界張ったけど…………ハハハ、ギル達が喧嘩した時みたいな惨状だ」

 

 現在の状況を説明する龍牙。

 

 ロンドンの街が段々と廃墟と化していく。

 

「さてと………流石、ロンドン全域を覆っていた魔霧を取り込んだ事はある。

 

 聖槍の加護があるとは言え、こうも均衡するとは………仕方ない、他のサーヴァントが参戦すると怒るだろうから………ヒロインX、全霊を持って敵サーヴァントを倒し、勝利を手にせよ………令呪を2画を持って命じる」

 

 このままじゃ、埒があかないと考えたのか龍牙は自分の右手の龍の形をした令呪がに意識を向け、ヒロインXへ命令を出した、使用した令呪は役目を終え消えた。

 

「分かりました!マスターに勝利を奉げましょう!」

 

 令呪の力により強化されたヒロインX。その手に持つ2振りの聖剣が今まで以上に輝きを放つ。

 

「ならっ、俺も」

 

 戦闘が激しかった為に、下がっていた立香が自分も令呪を使おうとする。

 

「止めときなよ、藤丸君。これから黒幕が出て来るんだ、令呪は残しておいた方がいい」

 

 龍牙はそう言うが、立香はどうしてそんな事を知っているのかと考えるが、今は戦闘が先だ。出そうになった言葉を飲み込み手を降ろした。

 

「青いセイバー!かましなさい!」

 

 

「いいだろう!『束ねるは星の息吹!輝ける命の奔流!受けるがいい!』」

 

 騎士王、アルトリア・ペンドラゴンの持つ星の聖剣が刀身に黄金の光を収束させていく。

 

 それを見た、黒い聖愴を携えた王は自らの槍の力を解放させた。

 

「『聖槍、抜錨………突き立て、喰らえ、十三の牙!』」

 

 黒い王の持つ槍が凄まじい魔力を放ち、槍が回転を始めた。そして魔力の奔流がまるで槍が巨大化した様な状態となる。

 

「【約束された勝利の剣(エクス・カリバー)】!!!」

 

 

「【最果てにて輝ける槍(ロンゴミニアド)】!!!」

 

 聖剣より放たれし金色の魔力の奔流と黒い聖槍より放たれた黒い魔力の奔流がぶつかった。

 

 ―結界を維持するのも………あっやべっ、凄い魔力消費―

 

 2つの魔力の衝突により、龍牙の張っている結界が破損しそれを修復する為に彼の魔力が物凄い勢いで持って行かれている。

 

 拮抗している金色と漆黒の魔力が巨大な爆発を起こした。

 

「ぐっ!」

 

 黒い王は直ぐに体勢を立て直そうとする。しかし、彼女は忘れていた………もう1人のヒロインX()の存在を。

 

「『星光の剣よ………赤とか白とか黒とか………聖槍のアルトリア(裏切り者)とか消し去るべし!』」

 

 ヒロインXはその手に持つ2振りの聖剣から発した魔力をブースター変わりにして、黒い王へと凄まじい速度で接近した。そして懐に入り込むと2振りの聖剣で黒い王を滅多斬りにした。

 

「『ミンナニハナイショダヨ!【無銘勝利剣(えっくすかりばー)】!!!』」

 

 最後に大きく聖剣を振りかぶり、掛け声と共にX字に斬り裂いた。その一撃が黒い王の霊核を完全に破壊した。

 

「…………そうか………終わりか………フフフ」

 

 黒い王はそれだけ言うと、完全に消えてしまった。

 

「フフフ!見ましたか!マスター!私の勝利です!」

 

 

「あっ……うん」

 

 嬉しそうにそう言うヒロインX。だが龍牙は後ろに居るモードレッドが気になっていた。

 

「父上に出番、取られた………でも父上、かっけぇ……ぅう」

 

 アルトリアとヒロインXに出番を取られて落ち込み、暗い雰囲気を出しながら地面に「父上」と書き続けているモードレッド。

 

 真後ろでそんな事をされては気にならない訳がない。

 

「まぁ、なんにせよ、悪は滅びました!」

 

 

「帽子の私の言う通りです!悪は去りました!」

 

 ヒロインXとアルトリアに関しては、スッキリとした様で、満面の笑みを浮かべ互いに笑い合っていた。

 

「………取り敢えず、それでいいか。さて……君等は少し休むといい」

 

 龍牙は立香にそう伝える。彼等は未だ龍牙の事を警戒している様だが、疲労も在ったのでそれに従った。

 

 元凶である王の降臨まで、後少し………彼の王と邂逅した龍牙は一体どうするつもりだろうか?




と言う訳で、今回はアルトリアとヒロインXがメインでした。


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EP69 現れる絶望

 ~ロンドン 地下大空洞~

 

 ロンドンを魔霧で覆い尽くす計画を立てた首謀者『マキリ・ゾォルケン(M)』が魔霧の発生装置を置いていた空間だ。

 

 そこにいた龍牙とそのサーヴァント達。そして此度、特異点に召喚されたサーヴァント、坂田金時、玉藻の前が彼の傍にいた。

 

「なぁ、お前さんがアイツ等の言ってた危険な力を持つ存在か?」

 

 

「ん~端から見てもそんな感じはしませんけどねぇ~………魂はかなりイケ魂ですし」

 

 

「どういう風に聞いているかは知らないけど………まぁ危険な力は持ってはいるな。特に太陽神の荒御霊である玉藻の前()が見たら、かつての恐怖を思い出すかもね」

 

 龍牙はそう言った。玉藻の前はどうして、それを知っているのかと考えるが口には出さなかった。

 

「確かに俺は破壊の力を持つ……でも世界を壊す気なんかないさ。する意味はない、しても面白い事はない。世界を壊すよりも誰かと一緒に居て、笑って暮らす方が数倍楽しいだろ?」

 

 そう笑みを浮かべて言う龍牙、それを見て金時と玉藻は警戒を解いた。

 

「どうやら、本当に世界をどうこうするつもりはなさそうだな」

 

 

「ですね………先程の言葉に嘘はなかった様ですし」

 

 

「そりゃどうも」

 

 

「アンタは、カルデア(向こう)の連中から警戒されている様だが、それでいいのか?」

 

 

「別にいいさ。人間は誰しも自分と異なる存在を畏怖する、故に、迫害し、排除しようとする。それは当然の事だよ、俺は元々は向こうにいたけど、俺の力が知れると危険な存在と認識された。だから俺は向こうを離れた………人理修復には彼等の力も必要不可欠だ、不安の種の俺が居なくなれば円満だろ?」

 

 

「つまり貴方は…………自己犠牲にも程がありますよ」

 

 金時の問いにそう答えた龍牙、玉藻の前はそれを聞いてそう言った。

 

「俺はそれでいいのさ…………時に誰かがそう言う役をしなきゃならない。それが俺だったってだけの事さ………さて、どうやら来た様だな」

 

 龍牙が振り返ると、此方に歩いてくる立香達の姿が見えた。

 

「話は終わり………そろそろ時間だ」

 

 

 

 

 

 

 

「さて藤丸君、通信機でドクターに繋いでくれるかな」

 

 

「えっ……はい」

 

 

『やぁ、龍牙君。久しぶりだね』

 

 通信機を使いカルデアと通じると、ドクターロマンの姿が映し出された。

 

「現在のこの場の状況の変化は感知しているか?」

 

 

『どういう……なんだ、これは?何かが、そっちの特異点に召喚されようとしている?!何だこの反応は!?』

 

 

『空間の歪みに、膨大な魔力、何かがそちらに召喚されようとしている。藤丸君、マシュ、警戒したまえ!』

 

 ドクターロマン、ダ・ヴィンチちゃんの声が通信機から聞こえる。

 

 素人である立香も周辺の異常を肌で感じ息を飲んだ、マシュは立香を守るために彼の前で盾を構える。

 

 そして、この人理焼却の主犯が登場する。

 

 立香と彼のサーヴァントはその力に驚愕し、龍牙もまた同じ様に驚いていた。

 

 フラウロスが王と讃え、忠を尽くしていた主が顕現した。



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EP70 魔術王、顕現す

「魔元帥ジル・ド・レェ。帝国真祖ロムルス。英雄間イアソン。そして神域碩学ニコラ・テスラ。

 

 多少は使えるかと思ったが………小間使いすらできぬとは興醒めだ。下らない。実に下らない。やはり人間は時代を重ねるごとに劣化する」

 

 突如、この特異点に降臨したヒトの様な影はそう告げる。

 

「マシュ、マスター、下がれ」

 

 

「あぁ、その方がいい。ありゃあヤクいぜ。まっとうな娘っ子が直視していいモンじゃねぇ」

 

 エミヤと金時がそう言うとサーヴァント達が一斉に前に出た、立香とマシュを庇う様に武器を構える。

 

「そのようでございますねぇ。私も退散退散。一尾の身では見るだけで穢されそうです」

 

 

「オイ、なんだこのふざけた魔力は。竜種どころの話じゃねぇぞ。これは、まるで」

 

 

「伝え聞く悪魔、天使の領域か。いや、それでも物足りない。このシェイクスピア、生粋の魔術師ではないとはいえ、キャスターの端くれとして理解しました。

 

 無尽蔵とも魔力量。存在するだけで領域を圧し潰す支配力………まさに、まさに神に等しい創造物!というか神そのもののような気さえします!

 

 そうですな、我が友アンデルゼン!我々はそろそろお暇しましょうか!」

 

 

「貴様はどうしてそう大げさなんだ。だいたい神といっても種類があるだろに。俺が怖いのは編集の神だけだ。

 

 まぁ逃げるのは賛成だが、まさか本命がこの段階でやってくるとはな」

 

 玉藻の前、モードレット、シェイクスピア、アンデルゼンがそう言う。モードレット以外はどうやら逃げようとしている様だ。

 

 立香の通信機からドクターロマンの声が聞こえる。謎の敵の登場で映像は届いてない様だ。

 

「ほぅ、私と同じで声だけは届くのか。カルデアは時間軸から外れたが故、誰人も見つける事はできない拠点となった。

 

 あらゆる未来―――すべてを見通す我が眼ですら、カルデアを観る事は難しい。だからこそ生き延びている。無様にも。無残にも。無益にも。

 

 決定した滅びの歴史を受け入れず、いまだ無の大海にただよう哀れな舟だ。

 

 だが、それがカルデアであり、藤丸立香と無皇龍牙と言う個体。

 

 燃え尽きた人類史に残った染み。()の事情に唯一残った、私に逆らう愚者の名前か」

 

 影は淡々とそう語る。そして、より一層その存在が強くなり続けている。

 

 そして立香がその影に向かい叫ぶ。

 

「お前がレフの言っていた「王」か!」

 

 

「ん?なんだ、既に知り得ている筈だが?そんな事も教わらねば分からぬ猿か?

 

 だがよかろう、その無様さが気に入った。聞きたいならば応えてやろう。

 

 我は貴様等が目指す到達点。七十二柱の魔神を従え、玉座より人類を滅ぼすもの。

 

 名をソロモン。数多無象の英霊ども、その頂点に立つ七つの冠位の一角と知れ」

 

 ソモロン王。聖書にも登場する古代イスラエルの王。ダビデの息子であり、72柱の悪魔を従えイスラエルの最盛期を築いた王であり、歴史上最も偉大な魔術師だ。

 

 そのソロモンが登場した。サーヴァント達は彼の王の登場に驚愕している。

 

 ソロモンとサーヴァント達が会話する中、龍牙の耳にはそれが全く届いてなかった。

 

(アレはサーヴァントとは違う1つ上の冠位…………だがそれだけじゃない。奥に隠れているのはもっと違う………異質な存在。

 

 ソロモン、魔神柱、冠位、蘇生……………そうか、そう言う事か)

 

 

「さて………今の私は貴様に聞きたい事がある。無皇龍牙」

 

 ソロモンはあろうことか、龍牙に声を掛ける。

 

「貴様は一体何だ?フラウロスを屠る程の力を持っていながら、我が眼を持ってしても見通せぬ存在。そんな物は在ってはならぬ。

 

 それに何故、()()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 ソロモンが龍牙に向かいそう言う。その言葉にこの場にいる全員が疑問を感じた。『そこに居ながら、存在しない』。その言葉はあまりにも矛盾しているからだ。

 

「生憎俺はそういう存在でな。それが分からないのならそれがお前の限界だ。

 

 まさか()()()()()()()が人理を………人類そのものを焼却しようとしているとはな」

 

 龍牙はニヤッと笑みを浮かべながら、ソロモンに言い放つ。

 

「なに?」

 

 

「人より出でた身でありながら人を否定しようとは…………命も輝きも知らず、生の喜びも知らず、他者を愛する事も知らず、怒りや憎しみと言った負の面でしか人を見ぬ存在が、人間を、歴史を否定するとはな。

 

 腹立たしい、これでは前の世界の神々(奴等)と同じ。人の全てを知った気でいる愚か者だ」

 

 龍牙は圧倒的な力を持つソロモンに対して言い放つ。

 

「くっ………クハハハハハハハハ!産まれ十数年しか生きていない小僧が知った口を聞く。

 

 だが面白い。ならば我が力を知り絶望するがいい。此度は6柱程度で遊んでやる!」

 

 ソロモンがそう言うと同時に、6柱の魔神柱が顕現した。

 

 魔術王との最初の戦いが今、始まる。



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EP71 第四特異点・ロンドン修復完了

 どうもお久しぶりです。

 やっと落ち着いたので更新しました。


 顕現した魔術王。

 

 そして立香と龍牙に遊びと称して、6柱の魔神柱を呼び出した。

 

「藤丸君………君等が俺に対して、警戒しているのも分かる。俺が話さないから信じきれないと言うのもな。だが生き残りたいなら協力してくれ」

 

 

「はっ……はい!」

 

 龍牙の言葉に了承する立香。魔術師としては素人の彼にも今の状況がどれ程、拙い状況なのか理解できた。故に未だ信用しきれないとは言え、これまで自分達に協力してくれた彼の提案に頷いた。

 

「よし、藤丸君のサーヴァントは全員彼を護れ!ジャンヌは万が一の場合の為に彼等の傍に!

 

 ヴラド、牛若丸、X、アルテラ、信長は魔神柱を迎撃。金時達も協力してくれれば助かる」

 

「おう!任せときな!」

 

 

「ぇ~面倒ですが………逃がしてはくれなさそうですし、仕方ないですねぇ」

 

 どうやら金時やタマモ達も協力してくれる様だ。

 

「助かる…………さてと」

 

【破壊龍:鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙は破壊龍の鎧を纏い、宙に浮いた。

 

「待たせたな、魔術王(仮)」

 

 

「ほぅ、それがフラウロスを倒した力か」

 

 

「そうだ」

 

 龍牙はソロモンにそう答えながら、翼を広げその身を包む。

 

「ソロモンを語る者よ。最後に1つ聞く…………止める気はあるか?」

 

 

「ある訳がなかろう、無駄に浪費する物を私が有効に使ってやるんだ。感謝して欲しいものだ」

 

 龍牙の問いにそう答えるソロモン。それを聞いた彼は決意する。

 

「そうか…………なら此方も全力でいく。

 

『我が声に応え、目覚めよ。創造より産まれし、あらゆる存在を喰らいし破壊龍よ。

 

 森羅万象を【破壊】をもって無へ還そう。苦しみ、もがき、彷徨う魂達を【死】をもって輪廻の輪へと導こう。

 

 我【楔】としての役目を果たす。我が魂力を喰らい、我が肉体を通し現世へ顕現せよ』」

 

 龍牙の身体が龍の身体へと変貌していく。

 

「【破壊龍(ノヴァズ・ドラゴン)龍化(ドラグーン・ドライヴ)】」

 

 ソロモンはその龍牙の変貌を見て目を見開いた。

 

「これは……なんだ?なんだ、その力は?」

 

 ソロモンの目はあらゆる未来を見通し、あらゆる魔術の術式を看破する。だと言うのに、目の前に龍牙の力が欠片も分からなかった。

 

「これは………魔術?いや魔法………違う。これはそんな次元の物ではない…………そうか………貴様は!世界側の……抑止力に関る者……抑止の使徒か!?」

 

 

【否………我ハ抑止に非ズ】

 

 それは龍牙の声だけではなく、別の男の声も重なっていた。

 

「抑止の者ではないだと?!ならば何故、存在できる!?その力は世界の内に存在してはならぬものだ!」

 

 ソロモンが余裕の表情を崩す、それに呼応するかの様に魔神柱達も騒ぎ始めた。

 

【我ハ世界ノ行末ヲ見守ル存在………ソシテ新タナル可能性ヲ齎スモノ】

 

 

「なに?」

 

 

「【例え冠位の力を隠れ蓑にし、人より出でたお前であろうと、これまで生きてきた命を否定し無かった事にする事も、今を生きる命を否定する事も許しはしない】」

 

 

「人には何の価値もない!無駄に時を消費し、無駄に死んでいく!ならばこの私が有効に使ってやろうと言うのだ!それの何が悪い!」

 

 

「【お前には言葉では分からぬ様だ。ならば力で示そう】」

 

 

 ―グオオォォォォォォォ!!!―

 

 龍化した龍牙が咆哮を上げる。そして、魔神柱に襲い掛かった。

 

 その爪を魔神柱の身体に突き立て、引き寄せると鋭い牙で噛みついた。ジャンヌ達と戦っている魔神柱、立香達と戦っている魔神柱、噛みつかれている魔神柱を除いた2柱が龍化している龍牙へと襲い掛かる。

 

【グルルルルル…………】

 

 魔神柱達は龍化した龍牙へと光線を放ったり、体当たりし、何とか引きはがそうとしているが龍牙はその力を一向に緩めようとしない。

 

「【人は確かに死を克服する事はなかった。だが人も、他の生命も、違う形での未来を紡ぎ、永遠を手にした。

 

 そして死への恐怖を捨てなかったのも、知性を捨てなかったのも、次なる段階へ進むために必要だったからだ】」

 

 

「必要なことだと?!貴様等が繰り返してきた愚かな歴史がか!?」

 

 

「【それを選んだのは人自身………ならば俺はそれを見守り、時に助けるだけのこと。それが俺に与えられた役目だ】」

 

 

「なに?」

 

 龍化した龍牙は背の12枚の翼が体当たりしてくる魔神柱達を受け止めると、弾き飛ばし、噛みついている魔神柱を離し、そのまま回転すると尾で殴り飛ばす。

 

「【Break!Break!Break!Break!】」

 

 龍牙は【破壊の制約】により力を解放していく。

 

破壊龍の息吹(ノヴァズ・ブレス)

 

 龍化した龍牙の咢より、漆黒の破壊の威が放たれる。

 

「なl」

 

 それは一瞬の事だった。ソロモンと魔神柱達、後方に在った魔力炉も漆黒に飲み込まれた。破壊龍の息吹(ノヴァズ・ブレス)が止むと、龍化している彼の身体にヒビが入り砕け散った。

 

「ふぅ……」

 

 

「バカな……この冠位を得た私を傷付け、3柱の魔神柱が消し飛ぶなど」

 

 周囲にいた魔神柱が消し飛んだものの、ソロモン自身はそれほど、傷を負っては居なかった。

 

「目覚めたはがりとは言えこの身に傷を……」

 

 

「その程度で驚くなよ、グランドキャスター」

 

 

「「「グランドキャスター?」」」

 

 魔神柱と戦っていた立香たちが声を上げる。

 

「元々、サーヴァントとは人類が立ち向かう事の出来ない敵に対してのカウンター。人類の生存本能(アラヤ)地球の生存本能(ガイア)により呼ばれた兵器とでも言うべき存在だ。

 

 そして、人理を護る時代の最高峰の七騎の頂点に立つサーヴァントこそ冠位(グランドクラス)だ」

 

 

「その通りだ………この身は冠位を受けし魔術師だ。通常のサーヴァントよりも一段階上の存在………サーヴァントでさえ、この身に傷を付ける事など不可能に近い。

 

 だと言うのに…………貴様は」

 

 腹立たしそうに龍牙を睨み付けるソロモン。

 

「フッ………神に近しくなった自分が傷付けられるのは不思議か?

 

 まぁ、そりゃそうだろうさ。英霊でもない、人間に傷付けられるなど考えないか。普通は………残念ながら、俺はその普通には当て嵌まらないんでな」

 

 

「くっ…………くっ……ククク!ギャハハハハハハハ!

 

 人間に当てはまらない人間か!面白い!順調に進んでいた我が人理焼却に貴様の様な存在が現れようとは………。

 

 だが………それが貴様の限界だろう。まだ私には届かん」

 

 ソロモンが龍牙の顔の変化を見て笑いを上げる。龍牙の顔の半分が黒い鱗に覆われていた。

 

「「「!!?」」」

 

 立香とマシュ達は龍牙のその顔を見て、驚きの声を上げる。

 

「人の身ではあの力は強大過ぎる………この身と魂を代償に力を発動させる」

 

 

「つまりは命を削ってと言う訳か!ハハハハハ!愚かしいにも程がある!」

 

 

「(別に命を削ってる訳じゃないけどね。寝りゃ回復するし……勘違いしてるみたいだし、黙ってよ)

 

 愚かしいか、愚かしくないかは置いといて……向こうも決着がつきそうだ」

 

 

「向こう?カルデアのサーヴァントと貴様のサーヴァントの事か……我が此所にいる以上、たかがサーヴァント如きが」

 

 ソロモンはタダのサーヴァントが束になったとしても、項目早く魔神柱がやられる訳がないと思っていた。そして、魔神柱達の方へと視線を向ける。

 

「【血濡れ王鬼(カズィクル・ベイ)】!」

 

 

「【壇ノ浦・八艘跳び】!」

 

 ヴラド三世の宝具【血濡れ王鬼(カズィクル・ベイ)】が彼の体内より放たれる。放たれた杭は1柱の魔神柱を串刺しに、地面に縫い付けた。

 

 牛若丸が追い討ちを掛けて、【壇ノ浦・八艘跳び】を発動し一閃を放つ。

 

 それを受けた魔神柱は苦痛の叫びを上げ消滅した。

 

「これが魔王の三段撃ちじゃあ!」

 

 

「【軍神の剣(フォトン・レイ)】!」

 

 信長の宝具【三千世界(さんだんうち)】が発動し、三千丁の火縄銃が展開、一斉射撃を行った。それを受け怪光線を放とうとした魔神柱の目玉が殆ど撃ち抜かれた。

 

 回復の間もなく、アルテラの宝具【軍神の剣(フォトン・レイ)】が発動。どこか未来的な意匠を思わせる三色の光で構成された刀身が回転し、虹の如き魔力光を纏ったアルテラが流星の様に魔神柱に突進し風穴を開けた。その為、直撃を受けた魔神柱は消滅した。

 

「……………」

 

 これには魔術王も目が点となっている。本来、普通のサーヴァントが束になってやっと滅ぼす事の出来る存在。だと言うのに、それぞれ2体だけで魔神柱が倒された事が信じられない様子だ。

 

 立香とそのサーヴァント達も同じ様に目が点となっている。

 

「まぁ、確かに普通のサーヴァントの出力で魔神柱を倒すのは骨が折れるだろう。ならサーヴァントの出力を上げてやればいい」

 

 

「馬鹿な!奴等も冠位だと言うのか?!」

 

 

「いいや、冠位には適性が必要だから冠位じゃない。まぁ色々と制約はあるが簡単に言えば魔神柱や世界、人に害成す存在に対してだけ抑止のバックアップが付く様にしただけのこと」

 

 

「「「「…………」」」」

 

 それを聞いて唖然とするサーヴァント達と魔術王、立香は魔術等に関しての知識が少ない為か良く分からない顔をしている。

 

「そんな事が出来る訳が……」

 

 

「現にサーヴァントが倒しているだろう…………とは言うものの、少し苦労したがな。まぁ準備期間は結構あったからな」

 

 

「馬鹿な!我が人理焼却の計画を見抜いていたと言うのか?!」

 

 魔術王は激高する、自分が長い時を掛けて準備してきた人理焼却がたった1人の人間に見破られていた事に怒りを覚えた。

 

「別に見抜いて訳じゃない……………ただ()()()()()だけさ」

 

 龍牙は自身を浸食している鱗の部分を手で覆い、ニヤッと笑みを浮かべそう言い放った。

 

「ふっ………クハハハハハハハハ!良いだろう!お前がどの様な存在で在れ、我が前に立ちはだかるならば七つの特異点を乗り越え我が元に来るがいい!その時は我が全霊を持って相手をしてやろう!」

 

 魔術王は笑いながらそう言い放つと、自身の後ろに空間の歪みを産みだしその中へと消えて行った。

 

「言われずともそうするさ、人より出でた者よ…………さて、取り敢えずこれでこの特異点は修復完了か」

 

 龍牙がそう言うと、金時や玉藻達が徐々に消え始めていた。そして自身と自分のサーヴァント達も何時もの光に包まれ始め、この特異点を去ろうとしていた。

 

「無皇さん」

 

 

「藤丸くんか………」

 

 

「貴方は………」

 

 

「君の言いたい事は分かる。まぁそれは次の機会にでもしようか………カルデアに用が出来たしな」

 

 龍牙はそう言うと、そのままサーヴァントと共に消えてしまった。

 

 魔術王の出現、多くの疑問が残ったが彼等が龍牙の事を知るのも時間の問題だろう。

 

 こうして第四特異点は修復された。



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Fate/Zeroオーダー
EP72 なんでさぁぁぁ!!


「なんでさ…………って俺の台詞じゃないのに…………でも………なんでさぁぁぁぁぁ!」

 

 龍牙は星が輝く夜空に向かって叫んだ。彼の手には1枚の紙が握られていた。その紙には何かのイベントの案内が書かれているのだが、問題は場所である『紅州宴歳館・泰山』と。

 

 何が問題なのか?そう此処は【無】ではなく………新たな特異点である冬木市であった。更に言うなら龍牙は今から何が起きるのを知っており、それに巻き込まれると思うと胃が痛くなったのである。

 

 

 

 ~夜 冬木市 公園~

 

「はぁ………」

 

 取り敢えず怒りを叫ぶと言う行動で発散させた龍牙は一先ず落ち着いた。

 

「今回こそ真っ直ぐ帰れると思ったのに………」

 

 彼が真っ直ぐ帰れないのはお約束である。

 

「大丈夫ですか?落ち着いて下さいマスター、はい、お水です」

 

 

「ありがとう、ジャンヌ」

 

 そう言って何故か共にこの特異点に着いたジャンヌからペットボトルのミネラルウォーターを受け取る龍牙。

 

「ごくっごくっ………ぷはぁ………取り敢えず、その服装を何とかしないとな」

 

 龍牙がジャンヌに視線を向ける。彼女は現在、何時もの戦闘時の格好である。今は時間が時間なので人はいないが、これから動く為にも街に繰り出す必要がある。

 

「私は霊体化しておきますから」

 

 

「まぁ、今のジャンヌは純粋にサーヴァントとしているから霊体化できるんだっけ………でも折角だし、霊体化してるのは勿体無いでしょ。

 

 応急だけど………庫から…………駄目だな。ギルが着てたのは露出多すぎだし、取り敢えず鎧を消してみて」

 

 

「はっ……はい」

 

 ジャンヌは言われた通り、鎧の部分を消した。(霊基再臨第二段階の鎧や鎖、手甲、剣が無くなった姿)

 

「取り敢えず……それでいいか。次は…………寝る場所か。いや、その前に日時の確認かな。聖杯戦争真っ最中か、開始前か……………今すぐ、無理矢理にでも帰りたいけど…………そう言う訳にもいかないか。

 

 さてと…………当面の資金を用意するとしようか」

 

 

「ですがどうやって」

 

 

「もう此処にある」

 

 龍牙がそう言うと、宝物庫から黒い鞄を取り出した。その中には沢山の金塊が入っていた。

 

「これ……どうしたんですか?もしかして」

 

 ジャンヌは龍牙が自分の力で創ったのかと思った。

 

「違うよ、人理修復を始める前の1年くらいで貯めた物だよ。時代が違うと現金は使えないからな。なら時代に関係なく価値のある物を持っておく方がいいと思ってな」

 

 

「成程…………ですがどうやってこんなにも」

 

 

「黄金律って…………凄いんだよ」

 

 龍牙が遠い目をして空を見上げた。それを聞くとジャンヌはそれ以上追求しなかった。

 

 

 

 

 

 ~数時間後 冬木市内 ホテル一室~

 

「えっとベッドはマスターが使って下さい」

 

 

「サーヴァントとはいえ女をソファーで寝かせれるか!嫌と言うなら令呪使うぞ!」

 

 

「こんな事で令呪を使わないで下さい!」

 

 2人が何を言い争っているのかと言うと………一先ず、色々な手を使って金塊の一部を現金に換えホテルに泊まる事にしたのだが………此処で問題が起きた。

 

 本日はほぼ満室状態で、1室しか取れなかった。つまり龍牙とジャンヌが同室と言う事になる。仕方ないと諦め、同室でと言う事になったのだが…………ベッドが1つしかなかったのである。

 

「あの受付………ダブルだと言うから2つかと思ったのに………しかも何やら勘違いしてたし」

 

 

「あははははっ……」

 

 受付の女性が「お似合いですね」とか言っていたのを思い出している。だがすぐにそれを止めた。

 

「そんな事は置いといて、今日はもう寝よう。明日はすることが多い………それに先の疲れも取れてない。ジャンヌはベッドで寝るように」

 

 龍牙はそういうと、自分はソファーに寝転び、そのまま眠りについた。どうやらロンドンでの疲れが取れてない様だ。

 

「お休みなさい、マスター」

 

 ジャンヌはそう言うと、龍牙に布団を掛け、自らもベッドで眠りについた。

 

 




 主人公、聖女と同室しました。


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EP73 召喚と麻婆

 ~翌日~

 

「と言う訳で…………色々探索しよう」

 

 龍牙はそう言うとジャンヌと共に街へと繰り出した。

 

 まず彼等が行ったのはサーヴァントの気配を辿りながら地形の把握を行っていた。ジャンヌはルーラークラスの探知能力があるのでサーヴァントが居れば直ぐに分かる。ついでにジャンヌの服を買いに行った。

 

 因みに現在のジャンヌの服装は白いコート、シャツ、ブラウンのロングスカートである。

 

 それに龍牙にはジャンヌを連れ歩くのはもう1つの目的があった。

 

(もしあのサーヴァントが召喚されているなら、直ぐに飛びついてくるだろうけど………反応がない。と言う事は未だ召喚されてないのか、それとも様子を見ているのか?

 

 でも他のサーヴァントの反応もないし…………う~ん。細かい日時が分からないし、ぶっつけで行くにしても)

 

 等と頭をフル回転させている龍牙。

 

「あっ………あのマスター」

 

 

「どうかしたか、ジャンヌ?」

 

 

「ほっ本当に食べるんですか………()()

 

 

「うっ」

 

 ジャンヌは()()を指さした。白い皿に盛られた血の様な赤………その中に浮いている白く小さい物体。ジャンヌは()()から漂ってくる匂いに鼻を抑える。

 

「匂いだけでもの凄く辛い!と言うか目と鼻が痛いんですが!?」

 

 

「一度食べて見たかったんだよね。泰山の【激辛麻婆豆腐】」

 

 

「それって本当に食べ物なんですか!?」

 

 

「どう見ても食べ物だろう…………と言う訳で頂きます。もぐっもぐっ………確かにこりゃ辛い…………でも旨い」

 

 

「ぇ……」

 

 

「ジャンヌも食べてみれば?」

 

 とレンゲで麻婆豆腐を掬い、差し出す。つまり、あ~んという奴だ。

 

 端から見れば仲のいいカップルに見える。差し出しているのが激辛麻婆豆腐じゃなければ。

 

「!……ぅ……遠慮しておきます」

 

 ジャンヌは突然の龍牙の申し出に喜んで食べようと考えたが、間近で麻婆豆腐の匂いを嗅ぐと物凄く痛かった為に断った。

 

「そう……こんなに美味しいのに」

 

 と残念そうに自分で麻婆豆腐を食べる龍牙。

 

「あのマスター……」

 

 

「ん?」

 

 

「マスターはちゃんと味覚はありますよね?」

 

 と聞いてしまった聖女であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ~数時間後 街中~

 

「ぅう………未だ口が痛いですぅ」

 

 

「そう?」

 

 あの後、ジャンヌも激辛麻婆豆腐を試しに食べたのだが……………数時間経っても未だ口が痛い様だ。龍牙はどうともなってない様だが。

 

「さてと……それは置いといて、月は満月………魔力が最も高まる日。そして2ヵ所から魔力。これは召喚の時の反応だな。と言う事は未だ聖杯戦争前と言う事か。

 

 取り敢えず大聖杯の様子は後で確認するとして…………」

 

 

「ですが、マスター。これから一体どうなさるおつもりですか?」

 

 とジャンヌが龍牙にこれからの方針を訪ねた。

 

「ジャンヌはBAD ENDとHAPPY END、どっちが好き?」

 

 

「えっ………それは………勿論幸せな終わりの方がいいですよ」

 

 恐らく殆どの人がどちらかと聞けば、ジャンヌと同じ意見だろう。

 

「俺もそうさ。まぁ………例外はあるけどね、特に好きな女がいるのに付き合うと疲れるとか言って他の女に走る男とか………ざまぁと思ったね」

 

 

「?」

 

 

「まぁこのネタは分からないか………それは置いといて。俺もHAPPYな方が好きさ。だからそれに向けて頑張るとするか」

 

 

「良く分かりませんが、頑張りましょうマスター!」

 

 

「あぁ………と言う訳で戦力を整える為に召喚しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 場所は変わって、ホテルの部屋。

 

 部屋の机などは端に寄せられ、中央には龍牙作の召喚祭壇が設置されている。

 

「マスター、此処では龍脈から魔力はとれませんが」

 

 

「問題ない。抑止力のバックアップがついてるからな。部屋も結界で隔離したし…………さて始めようか」

 

 龍牙はそう言うと、右手を翳し、全身に魔力を駆け巡らせる。

 

 

 

 

 

 -この身は創造と破壊の理を宿せし調停者………終わりなき転生を繰り返し、生命の往く末を見定める者なり。

 

 星の生命本能(ガイア)人類の祈り(アラヤ)よ。我を【座】へと繋げ。

 

 ………………告げる-

 

 それは普通のサーヴァントを召喚する詠唱とは異なっていた。これは龍牙のオリジナルの詠唱であり、抑止の力を得る為に創った物だ。

 

 

 ―我、汝等との縁を手繰る。我が声、我が願いを聞いたならば応えよ。

 

 汝等の身は我が元に、我が命運を汝の剣に預けよう。

 

 誓いを此処に。

 

 我は常世総てと善と成り、また悪と成る者。

 

 汝等三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ!天秤の守り手よ!-

 

 龍牙から祭壇へと送られた膨大な量の魔力、それにより世界の外側に在る『英霊の座』から招かれた英霊の魂が実体化する。

 

「やぁ、もう君を寂しくさせない。この魔女キルケ―を呼び招いたのだからね」

 

 

「私はマルタ。ただのマルタです。きっと世界を救いましょうね」

 

 

「私が来たからには、どうか安心なさい。すべての命を救いましょう。すべての命を奪ってでも、私は、必ずそうします」

 

 

「■■■■――――!」

 

 龍牙は召喚されたサーヴァント達を見て瞬きを繰り返した。

 

(魔女キルケ―………予想外だな。6章以降に登場したのかな?

 

 聖女マルタさんか。水着じゃタラスク、ボコボコにされてたな……聖なる拳の乙女だな。

 

 5章まだなのにナイチンゲール(婦長さん)か………色々な意味で拙いな、この特異点では。まぁいい……問題は)

 

 一番最後に召喚された岩の巨人へと視線を向ける。

 

「英雄ヘラクレス………まさかあの大英雄が俺みたいな存在の呼びかけに答えてくれるとは」

 

 大英雄ヘラクレス………オケアノスでも戦闘となったサーヴァントだ。

 

「えっと………召喚祭壇からの情報には俺の事も入れておいたから分かるだろうけど………本当に俺なんかと契約していいの?」

 

 龍牙はあらかじめ、自分の情報も召喚祭壇に入力しておいた。勿論、元居た世界もだ。

 

「勿論だよ!ピグレット!さっきも言った様に、私は君を寂しくさせないさ!我が神、ヘカテに誓ってね!」

 

 

「私も構いません。貴方にはオルレアンで私でない私を止めてくれた恩がありますし………貴方にならこの力を託せます」

 

 

「構いません。私は患者がいるのであれば何処にでも駆け付けます。それに貴方はどんな状況でも救える命を救おうとする………その意志は私と通じる物がありますから」

 

 

「…………」

 

 キルケー、マルタ、ナイチンゲールはそう言うと、龍牙の右手の令呪が強い光を放ち契約が完了した。ヘラクレスは狂化の為、意思疎通は出来ない。だが龍牙は彼の意志が理解できた。再び令呪が輝き彼との契約も完了した。

 

「ハハハ………こりゃ心強いな(アレ?でも魔力は5体分持っていかれたんだけど………気の所為かな?)」

 

 疑問を残しながらも無事に召喚を終えた龍牙であった。

 

 彼の目指すのは皆が幸せになる未来………それを実現する為に彼は英霊達と縁を結んだ。




と言う訳で麻婆食べてから、召喚を行いました。

先の特異点からオケキャスが来ました。

マルタさんと婦長さん、ヘラクレスは………後々出てきた意味が分かります。


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EP74 突撃、蟲屋敷

 ~数日後 冬木市 ホテル一室~

 

 龍牙は冬木一帯の地図を机の上に広げて、思案していた。

 

(大聖杯はこの世全ての悪(アンリマユ)の影響で汚れている。

 

 サーヴァントはジャンヌの探知に引っ掛かったな。数は6……と言う事はキャスターの召喚は未だと言う事か)

 

「ねぇねぇ、ピグレット……構っておくれよ~」

 

 

「なんなんですか!貴女は!マスターに引っ付かないで下さい!」

 

 龍牙に抱き付こうとするキルケーを押さえるジャンヌ。

 

(でも此処が俺の知る特異点と全く同じ……と言う訳でもない。その証拠に彼の姿を確認した……と言うことはそう言う世界線と言うことなのか?

 

 どっちにしても、この聖杯戦争を止めるにはギルが動く段階で止めに入るか。

 

 それから各勢力の説得…………取り敢えずは)

 

 どうやら彼の知る特異点とは異なる状況にあると下調べで分かったので、これからどうするかと考える。そしてまず一番始めにする事を決めて立ち上がると、右手の令呪に意識を向ける。

 

「令呪を持って命じる、アタランテよ、我が元に来たれ」

 

 令呪が一画消費され、【無】にいるであろうアタランテが呼び出された。

 

「おぉ、マスターか……また厄介事に巻き込まれている様だな」

 

 

「あはははは、言わないで」

 

 

「それで、私を呼び…………キルケーにヘラクレスまでマスターに召喚されたのか」

 

 

「やぁやぁ、アタランテ。久しぶりじゃないか。まさか同じマスターに召喚されるとは……奇妙な縁だねぇ」

 

 アタランテとキルケーは旧知の仲であるので、話が弾んでいる。

 

「それはそうと、アタランテとヘラクレスには頼みがあるんだけど」

 

 アタランテとヘラクレスは首を傾げる。龍牙が2人にその頼み事を言うと、アタランテは怒った様だ。

 

「マスター……見損なったぞ」

 

 龍牙の発言に冷たい目を向けるアタランテ。

 

「大丈夫、大丈夫…………」

 

 龍牙がアタランテに何かを言うと

 

「何だ、そう言う事だったのか。先に言ってくれ、勘違いしたじゃないか」

 

 先程とは変わり満面の笑み浮かべるアタランテ。

 

「後、徹底的にそこ潰していいから。

 

 あっこれ、向こうに行く為の宝具ね。全部終わったら念話で連絡してね、繋ぐから。これは詳しい情報ね」

 

 そう言うと移動用の宝具と情報の書いた紙をアタランテに渡した。それを受け取ると、アタランテとヘラクレスは直ぐ行動を開始した。

 

 

 

 

 

「さてと…………俺達は俺達で乗り込むとしようか」

 

 

「何処へですか?」

 

 

「ボロボロのおじさんの所へ」

 

 

「つまり患者ですね!勿論私も同行します!」

 

 と言うナイチンゲールの気迫に圧される龍牙。

 

「あっ……はい。コホン、じゃ行くといますか」

 

 

「はい。それで場所は?」

 

 マルタにそう聞かれニヤッと笑みを浮かべる龍牙。

 

 

 

 

 

 ~数分後 冬木市 深山町~

 

「と言う訳でやって来ました。御三家の1つ間桐家………取り敢えずチャイムを鳴らしてみよ『ガチャ…』「ぐぅっ·····」およっ?」

 

 ある屋敷のチャイムを押そうとするが、中から誰か出てきた様だ。その者は男性で、龍牙はその男に見覚えが在った。

 

「間桐雁夜」

 

 

「だれ……だ。うぐぅ…………」

 

 男は苦しそうに胸を押さえ屋敷の外壁にもたれながら、龍牙を見る。

 

「俺?………俺は通りすがりのマスターさ」

 

 

「なぁ!?」

 

 

「待て、待て、俺は戦いに来た訳じゃない」

 

 彼はこの特異点で行われる聖杯戦争のバーサーカーのマスターである。彼はある目的の為にこの聖杯戦争に参加した。

 

「なに?」

 

 

「俺は貴方がこのままいけばどうなるか知ってるし、誰も幸せにならないからね」

 

 

「何を言っている!」

 

 雁夜が己がサーヴァント、バーサーカークラスを持つランスロットを呼び出した。

 

「だから戦うつもりはないと言っているのに………それにこんな街中でやり合うつもりかい?」

 

 

「…………」

 

 

「それに俺はその気になれば、貴方の大切な子のいる屋敷を消し飛ばす事だってできるんだ」

 

 そう言う龍牙の後ろにマルタが現界する。

 

「…………」

 

 雁夜は息を飲む、もし目の前の男の言う事が事実であるとするなら危険だと考えていた。仮にも御三家の屋敷だ、結界は張っているがサーヴァントの宝具を使われれば一溜りもない。

 

 彼にとって家も家族もどうでもよかった。問題は屋敷の中に居る1人の少女だ。少女は彼が戦う為の目的でもある。その大切な存在を失う訳にはいかない。

 

「本当に敵意はないのか?」

 

 考えて漸く出て来たのはその一言だった。

 

「勿論、俺は貴方にも、中に居る子にも手を出すつもりはない。まぁ……蟲爺は例外だけどね」

 

 

「ほぅ………面白い事を言う小僧だ」

 

 雁夜と話していると屋敷の中から老人が現れた。

 

「これは、これは………」

 

 

「儂がどうとか言っておったが………」

 

 

「その通りさ、マキリ・ゾォルケン」

 

 

「ほぉ、よく調べておるな………小僧」

 

 この老人こそマキリ・ゾォルケン………先の特異点でも現れた、聖杯戦争を考案した魔術師の1人でもある。

 

「調べた訳じゃない。唯、知っていただけさ…………そしてさようなら」

 

 龍牙はそう言うと紫色の液体の入った試験管を取り出し、マキリに向かい投げる。試験管はマキリの前に落ちると勿論、試験官は割れ、中身が地面に飛び散った。紫色の液体は直ぐに気化を始めた。

 

「ぐっ……………ぐおおおぉぉぉぉぉぉ?!」

 

 すると、何故かマキリは苦しみ始め、地面に転がるともがき始めた。

 

「なぁんだぁぁぁぁぁぁぁこれぇはっぉぉぉ!!?」

 

 マキリは徐々に身体が崩れ、無数の虫達がもがき死に絶え始める。数十秒で人間としての姿を維持できなくなっていた。

 

「それは殺虫剤の原典を俺が少し改良した物でね。魔力を持つ蟲だけを殺す………延命に延命を重ねて身体を人から蟲に置き換えているアンタには良く効くだろう?」

 

 そう老魔術師、マキリ・ゾォルケンは延命の為に自分の身体を蟲へと変え人外と成り果てた魔術師だ。

 

 そして龍牙が先程投げたのは、蟲だけを殺す毒の原典だ。少し改良したようだが、マキリを殺すには十分効果を持っている様だ。

 

「うぐっ!ぐぅぅぅぅ」

 

 マキリの横にいた雁夜も先程の毒に当てられたのか、胸を抑え苦しんでいる。

 

「あっそう言えば、アンタも蟲が入ってるんだった………」

 

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!」

 

 龍牙は急いで、雁夜に近付くと身体を確認する。彼の服の中から無数の蟲が這いずり出てきた。蟲達は苦しんでいるのか、キィーキィーと鳴きながら地面の上で悶えている。

 

「こりゃ………やばそうだ。このままナイチンゲールに引き渡すと大変な事になりそうだし……」

 

 龍牙が右手を開くと、そこに光が集まり始め、黄金に輝く果実が現れる。龍牙自身の持つ生命の実、その一部を取ると雁夜の口に放り込んだ。

 

 すると先程まで苦しんでいたのが嘘の様に穏やかな顔になり眠った。

 

「今のは……」

 

 

「それはまた後で説明するよ………俺は屋敷にいくとするよ」

 

【創造龍:鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 生命の実を消すと、その身を純白の鎧で包む。

 

「そう言えばバーサーカーは何処に行ったんだ?」

 

 彼の近くにジャンヌ、ナイチンゲール、キルケーが現界した。

 

「どうやら、バーサーカーは何処かへ去った様です。恐らく令呪による転移だと思われます」

 

 ジャンヌがそう言うと龍牙は首を傾げた。

 

「だってマスターは此処に………あれ?令呪がない。令呪はあの爺が考案した物………………って事は蟲を介して引き抜けてもおかしくないか?この男の魔力も蟲によるものだし………って事は爺の本体は別の場所か」

 

 龍牙はそう言って、マキリ・ゾォルケンであった蟲の残骸を一瞥すると視線を屋敷に戻す。

 

「まぁ、爺の事は置いておこう。先にお姫様を助けるとしようか」

 

 金色の翼を広げ、龍牙は屋敷の中に飛び込んだ。



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EP75 解放

 以前に上げていたのが何故か途中で切れていたので再投稿します。


 -この家に来たときは、いたくて、くるしくて、きもちわるかった………でも、もう何も感じない。

 

 お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも居ない。お爺様がそんな人達は居なかったと思いなさいって言っていた。だからもう、あの人達とは会えないんだと分かった。

 

 ある日、雁夜おじさんが家に帰って来た。おじさんはまたあの人達と会わせてくれると言った……でもおじさんは日に日に痩せて、変わっていった。もう昔のおじさんの面影はない。

 

 でも私は期待してない………おじさんは多分、お爺様に殺されてしまうから-

 

 少女(間桐桜)は諦めていた。

 

 その身は無数の蟲に汚され、苦痛を与えられた事により、彼女は心を閉ざした。そうする事で心が壊れる事を何とか止めていた。

 

 彼女がその様な仕打ちを受けているのか?それは彼女が魔術師の家系に産まれ、才に恵まれていたからだ。

 

 ならば何故、彼女がこの様な目に合っているのか……それは簡単だ、魔術は基本一子相伝の技だ。どれ程、優秀でも一族の魔術を伝えられるのは1人だけ。その場合、片方の才能は潰さなくてはならない。加え娘の才能は特異な物で、家に加護がなければ魔術協会に標本にされかねない。

 

 彼女には姉が居り、その姉もまた優秀な才を持っていた。当主である彼女の父親は悩んだ……「本当にどちらかの才能を取り、片方の才を潰していいのか」と。

 

 故に彼女の父親は娘を養子に出すことに決めた。古くから付き合いのある魔術師の名門の家に養子を出すことで娘の才能を潰さずにすむと考えたのだろう。

 

 彼女の父…遠坂時臣は()を同じく魔術の御三家である間桐家の養女に差し出した。だがこの時、時臣は間桐の当主である臓硯の事をもっと調べておくべきだった。

 

 臓硯は娘を引き取ると直ぐに行ったのは自分の蟲達に娘を辱しめさせた。それは彼女を間桐の属性と合わせる為の調整であり、いずれ優秀な子を産ませる為だ。つまり臓硯は娘を「胎盤」としてしか見てなかったのだ。

 

 家族に捨てられ、苦痛を与えられ、心を閉ざした彼女……今の彼女にとっては希望は毒にしかならない。だからこそ何に対しても期待しない。

 

 今日も何も考えず、感じず、全てを諦め、1日を終えようとしてた少女()

 

 

 

 

 

 

 だがそんな彼女()の前に白い鎧が現れた。

 

「誰?」

 

 桜は鎧に向かいそう尋ねた。普通、自分の家に正体不明の存在が現れたら恐怖するだろう。桜が既に心を閉ざしている事もあったが、何故か目の存在に対して恐怖を感じなかった。

 

「通りすがりさ。お嬢さんは何で地下(こんな所)にいるのかな?ジメジメしてるし、変な虫は一杯いるし、お嬢さんが居ていい場所じゃないよ」

 

 鎧はそう言うと、桜の前に膝を付いた。

 

「お爺様に此処にいる様に言われたの」

 

 

「そう……なら此処から出よう」

 

 

「でもお爺様」

 

 

「大丈夫……外で君のおじさんが待ってるから」

 

 

「雁夜おじさんが?」

 

 

「あぁ」

 

 

「でも……」

 

 桜は蟲達に視線を向ける。ただの蟲ではない臓硯の使い魔達だ、数十秒あれば人1人を食い尽くしてしまう。

 

 鎧は桜が言いたい事が分かった様で、何も言わずに彼女を抱き上げる。彼女はそれに抵抗する事はなかった。

 

「子供は子供らしく笑って、学んで、食べて、寝て、遊び、成長すればいい。だから君はこんな所にいる必要はない。例え蟲爺が何と言ってもね」

 

 鎧はそう言うと、桜を左腕で抱え、右手で腰の剣を引き抜いた。

 

 次の瞬間、蟲達が襲い掛かってきた。桜はそれを見ると目を瞑ってしまう。

 

 だが何時まで経っても蟲達に触れられた感触はなかった。目を開けてみると、金色の翼に吹き飛ばされる蟲達が目に入った。

 

「まずは害虫駆除を始めようか」

 

(FLAME)

 

 金色の翼に付いている赤い宝石が光り出すと、鎧の持つ剣の刀身が炎が纏う。

 

「燃え散れ」

 

 鎧は蟲達に向かい一閃を放つ、蟲達が炎に包まれ一瞬で消し炭と化した。

 

 そして鎧は金色の翼を広げ、宙に浮くと剣を銃に変え天井へと向けた。

 

「私………外に出ていいの?」

 

 桜は鎧にそう聞いた。

 

「勿論」

 

 鎧がそう言うと、銃口に光が収束していく。

 

「今のお嬢さんに出ると言う選択は出来ないだろう。だから今回は俺が背中を押そう」

 

 銃の引き金を弾くと、巨大な光が天井を貫いた。

 

 

 

 

 

 ~屋敷前~

 

「ぉ~」

 

 屋敷前にいた、キルケーは屋敷を貫いた魔力を見てそう声を上げる。その数秒後、少女を抱えた白い鎧が屋敷から飛び出してきた。

 

「それじゃ、行くわよ。魔女さん、問題ないかしら?」

 

 

「当たり前だよ、私を誰だと思ってるんだ?魔女キルケーだよ」

 

 

「あら心強いこと……」

 

 マルタはキルケーに確認すると、マスターから魔力を送って貰う。

 

「愛を知らない哀しき竜……ここに」

 

 マルタの背後に巨大な影が現れる。

 

 彼女が生前に倒した悪竜、リヴァイアサンの子とされる彼を召還した。

 

 トゲを持つ亀の甲羅を持つ竜、タラスク。その外見から一般的な竜とはかけはなれてはいるが歴とした竜である。

 

「星のように!【愛を知らぬ哀しき竜よ(タラスク)】!」

 

 マルタが後方に大きく飛び上がりその杖で………タラスクをぶん殴った。それにより凄まじい速度で回転しながら屋敷に向かい飛ぶタラスク。屋敷にタラスクが直撃すると、大爆発を起こした。

 

「ぉお……すっげぇ」

 

 そう言いながら、鎧は彼女達の前に降りてきた。そして鎧だけが光となって消えた。

 

「じゃあ、婦長………この子の事を頼む」

 

 

「了解です。では私はこの子を連れて帰還すると言う事で宜しいですね、司令官(マスター)?」

 

 

「構わない………それとそっちの気を失ってるおじさんもね」

 

 龍牙はそう言うと、手を翳す。すると空間に穴が開いた。そして自分の腕に抱えている少女をナイチンゲールに渡す。彼女は少女と倒れている間桐雁夜を脇に抱える。

 

「では司令官(マスター)、私はこれで」

 

 彼女はそう言うと、穴へと消えて行った。

 

「さてと………取り敢えず、いきなり屋敷が消えるのは問題だし直しておくか。キルケー、結界はまだ保つかな?」

 

 

「勿論さ、ピグレット」

 

 

「ならいい………」

 

 龍牙が爆散した屋敷の残骸に向かい手を翳すと、残骸が浮かび上がり、光を放つ。

 

「地下は埋めて、取り敢えず側だけでも」

 

 瓦礫は徐々に元の形へと戻って行った。

 

「ふぅ~、これでよし…………後、屋敷に細工して戻るとしよう」

 

 そう言い屋敷の中へと入っていく、ジャンヌ、マルタ、キルケーも彼の後に続き入って行った。

 

 

 

 

 

~数時間後~

 

「ぅ………此処は……知らない天井だな」

 

間桐雁夜は目を覚ますと、身体を起こした。どうやら彼はベッドに寝かされていたようだ。

 

「俺は………確か敵襲があって……はっ!桜ちゃん!」

 

雁夜は自分が命を捨ててまで助けようとした少女の事を思い出し、ベッドから飛び降りようとする。

 

「おっとそんなに勢いよく降りるなよ、雁夜おじさん」

 

声を掛けられ、顔を上げるとそこには自分の邸を襲撃してきたマスターの少年の姿を確認した。

 

「おまlt「シッ!」!?」

 

少年は人差し指を口の当て、雁夜の声を止める。

 

「お姫様が起きちゃうからね」

 

 

「お姫様?」

 

雁夜はふっと自分の左腕に温もりを感じた。そしてそこに向かい視線を落としてみるとそこには紫色の髪の少女が眠っていた。

 

「桜ちゃん!?」

 

 

「大丈夫だ、今は眠っている………ちょっと前までアンタを心配そうに見てたんだけど、あの場所から解放されて安心したんだろう。ゆっくり寝かしてやれ」

 

 

「……お前が桜ちゃんと俺を?」

 

 

「あぁ、少しばかり手荒になってしまったけどね。先に謝っとくよ、アンタの家をぶっ潰してしまって悪かった」

 

 

「いっ家を潰した?!」

 

 

「あぁ。蟲共は焼き払って、魔術的な物は宝具でぶっ壊した」

 

雁夜はそれを聞いて唖然となる。

 

「蟲爺は殺り損して、アンタも令呪を取られバーサーカーを奪われたけど、後でどうにでもなるから置いておこう。まずは間桐雁夜と間桐桜を救う俺の目的は達成されたからね」

 

 

「???」

 

雁夜の頭の中は?で埋め尽くされていた。何故自分達を救う必要があったのか、そもそも何故この少年は一体誰なのか等、色々な事が彼の頭に浮かぶが答えが出る訳もない。

 

「何故俺を!?それに桜ちゃんまで!?」

 

 

「そうだな………強いて言うなら俺がしたい事をしただけだ。それよりも身体の方は大丈夫か?」

 

 

「えっ?………あぁ、そう言えば身体が軽い。それに痛みもないし……!?」

 

雁夜はふっと壁に掛っている鏡を見た。刻印虫と言われる虫を体内に入れた事により、髪は黒から白髪へと変わり、左半身は麻痺し顔面の左半分は硬直し左眼は視力を失っていた。だと言うのに、現在は身体は軽く、ぼんやりではあるが左眼の視力が回復している。雁夜は自分の顔を触ってみた。少しだけだが肌にハリが戻っていた。

 

「一体どうなって……」

 

 

「まぁ、細かい事は置いといて………これからの事だ。取り敢えず考えているのは2つ。

 

1つは桜ちゃんと一緒にこのまま身体が回復するまで此処でいること。

 

もう1つは桜ちゃんと一緒にこの街を出ることだ」

 

 

「まっ待ってくれ!俺はまだ時臣にf「本当にそんな事をしていいのか?」なに?」

 

雁夜の言葉を遮る様に龍牙は言葉を挟む。

 

「その娘があんな目にあったのは、蟲爺の事をよく調べず養子に出した遠坂時臣の所為でもあるだろう。

 

だが、同時にその娘の父親でもある」

 

 

「父親だから!桜をこんな目に合わせてもいいっていうのか!?」

 

 

「いいや、そうは思わんし、それでいいって言う奴がいたらぶん殴ってる。

 

今の桜ちゃんにとって必要なのは、最も安心できる場所で日常を過ごす事だ。肉体的な傷は治したものの、精神的なものは下手に弄られないしな」

 

 

「桜は魔術とか、医療じゃ治らないのか?」

 

 

「記憶を封じるなりすればいいんだけど、もし記憶が戻った際にどうなるか想像できないしな。特に彼女の場合、属性が希少なもの……それが暴走する可能性もある。

 

だからこそ、今の桜ちゃんに必要なのは」

 

 

「安心できる場所……葵さんや凛ちゃんと過ごす事だと?」

 

 

「あぁ……アンタが遠坂時臣に良くない感情を持ってるのは知っている。だが、時に父親の存在も必要となるだろう」

 

雁夜は何で知ってるんだと言いたかったが、今はそんな場合ではないので言葉を飲み込んだ。

 

「桜ちゃんの事を思うなら時臣の事は諦めろ」

 

 

「ッ………」

 

雁夜は時臣に対する感情が爆発しそうになる。だが、ふっと自分の腕にしがみつく桜へと目を落とす。

 

余程、雁夜の身が心配だったんだろう。少女はぎゅと彼の腕を抱いていた。

 

「俺が復讐を止めれば……桜は元に戻るのか?」

 

 

「完全に元に戻るのかは保証できないが………今よりはマシになる。

 

ゆっくりと時間をかけ心を癒し、成長を見守るしかない。まぁ…………後々、姉妹揃って男を取り合うとかもあるかもな」

 

龍牙の脳裏には茶髪の少年を黒髪の少女と取り合う成長した桜の姿が浮かぶ。

 

「桜と凛が恋!?」

 

未来を想像してかなりショックを受けている雁夜。

 

「そんな未来もあるって話だ。

 

今できる事は1日でも早く母親と姉の元に戻すこと……さて雁夜、アンタはどうする?

 

二兎を追う者一兎も得ずと言うだろ、あんたが選べるのは……遠坂時臣(個人的な私怨)か、間桐桜(少女の未来)かの2つだ」

 

 

「俺は……もし片方しか選べないなら、桜の未来を取る」

 

と雁夜は自分の憎しみよりも少女の未来を取った、龍牙はそれを聞いて嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ならその方向でアンタと桜ちゃんの今後を考えるとしよう、アンタ等はもう少し休むといい」

 

 

「あぁ………龍牙だったか、何で俺や桜を助けたのかは分からないがありがとう」

 

 

「さっきも言った様に俺の個人的な目的の為さ………取り敢えず詳しい事は後々にしよう。じゃおやすみ」

 

龍牙はそう言うと出口に向かって歩いて行く。

 

「あぁ言ってくれて良かった。洗脳する手間省けたな(ぼそっ」

 

 

「えっ、なにって?」

 

 

「いや、何も………じゃ」

 

何やら聞こえてはならない言葉が聞こえたので雁夜は声を上げるが、龍牙は部屋を出て行った。

 

「……良く分からないけど、悪い奴ではなさそうだな」

 

雁夜はそんな事を呟きながら、横になると眠気が襲ってきた。

 

うとうとしながら、これからの事を考えていた。住む場所や、仕事のこと、何より桜の事を考えながら睡魔に身を任せた。




 


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EP76 

 ~冬木市 港~

 

「さてと…………騎士王と魅了の騎士の戦闘が始まったか」

 

 コンテナの上にいる龍牙。彼は座りながら、遠くで戦っている騎士達を見下ろしていた。

 

「流石は騎士対騎士の対決だな…………でもそろそろ来そうだな」

 

 龍牙はそう言うと彼の視線の先に戦っている2人の間に雷が落ちた。土煙が晴れると、そこには戦車に乗った大男がいた。

 

「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争においてはライダーのクラスで現界した!」

 

 と堂々と名乗った征服王イスカンダル。本来、聖杯戦争において英雄達の真名は隠す物だ。何故ならその英雄の名を知られると言う事は、宝具を知られ、弱点を知られる事に他ならないのだから。

 

征服王は真名を名乗っただけでなく、セイバーとランサーを勧誘を始めた。

 

「アハハハハ、本当真名名乗ってに勧誘するとは…………おっ断られた。さて…………そろそろアイツが出てくる頃か」

 

 

『我を差し置いて王を名乗る不埒者が2匹も現れるとはな』

 

 総てを平伏させる様な覇気が籠った声と共に外灯の上に黄金の粒子が集まった。

 

 長い金色の髪、血の様に赤い瞳、この世の者とは思えぬ美しい相貌、そして黄金の鎧…………人類最古の王にして、英雄達の王、龍牙にとっては再会を約束した相手だ。

 

 女帝ギルガメッシュが今この場に現界した。

 

「取り敢えず、止めないとね…………はぁ、止まってくれるかな? 止まって貰わないと困るんだけど…………する事が一杯あり過ぎて、頭が痛くなってきた」

 

 

「大丈夫ですか、マスター?」

 

 彼の後ろにジャンヌが現界する。

 

「私が行きましょうか? これでもルーラーですから、何とか止められるかと」

 

 

「大丈夫…………ジャンヌはセイバー、ランサー、それとライダーに話を付けてきてくれ。俺がいるのに出てこないのが分かると絶対機嫌損ねるし、あいつの機嫌損ねると、被害が余計に大きくなるからな。

 

 あの時は大変だったなぁ……城の修理に政……睡眠時間を削って削って……フフフ……1日28時間労働、一睡も出来ずに……よく生きてたな俺」

 

 龍牙は昔の事を思いだしているらしく、段々と死んだ目になっていく。

 

「まっマスター?」

 

 

「おっと嫌な事を思い出していた。さてと……とそろそろ行きますか」

 

 彼はそう言うと、コンテナから飛び降りギルガメッシュの元へ向かい飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ~ギルガメッシュside~

 

 第四次聖杯戦争……聖杯なる願望器を求め、七人の魔術師(雑種)共が七人の英霊を召喚しその覇権を競うと言うものだ。

 

 (わらわ)は聖杯等に興味はないが、宝である以上は我の物だ。だが我の許可なく有象無象がそれを手に入れる事など不敬極まりない故に、我は召喚に応じた。後は裁定者として現代に生きる人間(雑種)を見定めてやるのも王の役目だからだ。

 

 我自身に願いはあるが、願望器などに頼るつもりはないがな。

 

 我を召喚した雑種……魔術師、遠坂時臣。一言で言うなら「退屈な男」である。

 

 我が現界する為の魔力を献上し、臣下として敬意を払っている故に従ってやっているが……これならば、弟子である言峰とやらの方が面白そうだ。あやつはまだ自身の悦に気付いてないが中々の逸材のようだしな。

 

 我は霊体のまま街を彷徨いていた。理由は暇潰しだ、だが途中でサーヴァント同士の戦闘の気配を感じそちらに赴いた。

 

 そこではランサーと思われる男と、セイバーであろう男装の騎士が攻防を繰り広げていた。

 

 ランサーはそこそこの美形であるものの幸運は低そうだ。セイバーは……ウム、金髪碧眼の美少女か。我の好みだな。

 

 更に途中でライダークラスだと思われるサーヴァントが乱入してきた。ライダーは真名を名乗り、他のサーヴァントを勧誘し始めた。

 

 マケドニアの征服王イスカンダル、ブリテンの騎士王アルトリア・ペンドラゴン、輝く貌のディルムッド。

 

 それぞれ名のある英霊達であるが……我を差し置いて王を名乗るとは不敬である。

 

 我こそが唯一無二の王であると言うのに……故に奴らに真の王がどういう物か知らしめてやろう。

 

 

 

 

 

 

 バビロニアの英雄王……ギルガメッシュは電灯の上に現界し、セイバー達を見下ろしていた。

 

「貴様も名のある王と見受ける。ならば、名乗りくらい上げればどうだ?」

 

 イスカンダルが、顕現したギルガメッシュに向かいそう言った。

 

「問いを投げるか? 雑種風情が、 王たるこの我に向けて? 

 

 我との拝謁の栄に浴してなお、この面貌を見知らぬと申すなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すら無い」

 

 そう言いながらギルガメッシュは二丁の宝剣、宝槍を展開し待機させる。

 

 要するに自分の顔くらい知っていて当然、知らぬなら生きている価値はないと理不尽極まりない事を言っている。

 

 言っている事はさておき、彼女から放たれている殺気と覇気は本物である故に、セイバー達は警戒している。今、まさにギルガメッシュの宝具が放たれようとしていた。

 

 だが次の瞬間、光球が両者の間に舞い降りた。

 

 『相変わらず無茶をいう』

 

 光が消え、金色の翼が広がり白い鎧が現れた。



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EP77 戯れ

 ギルガメッシュは驚いていた。

 

 幼き頃から共にいた従者……愛する者は神々の所為で自分の元を離れた。

 

 生前は彼がいなくなってからは盟友と共に国を発展させることに尽くした。死後、自分は英霊として召し上がられた。

 

 そして、聖杯戦争に召還された。この度は人の進歩を観ること、世界の財の全ては自分の物で聖杯という財を獲ろうとする者達を裁く事を目的としていた。前者に関しては分からなくもないが、後者に関してはどうかと思うが英雄王なので仕方ない。

 

 それだけの目的であったが、彼女の求めていたものが今、目の前にいる。

 

 故に歓喜する。

 

 

「ふっ……フハハハハハハ! まさか……まさかこの様な形で再会出来るとはな!」

 

 

「俺からすれば2回目なんだが……お前からすれば今回も前も夢の様なものだからなぁ。

 

 と言う訳でさ、此処は俺に免じて退いてくれない?」

 

 龍牙はギルガメッシュにそう言った。

 

「無理に決まっておろう! 求めていた物が目の前にあるのに我が我慢できると思うか!」

 

 ギルガメッシュはそう言いながら王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の砲門を解放し、宝剣、宝槍が現れ、その矛先が全て龍牙に向いた。

 

「ですよねぇ……こうなるとは思っていたけど……仕方ない。頼むから前みたいに被害気にぜす射ってくるなよ」

 

 龍牙はそう言いながら両腰にある龍の牙(ドラゴ・ファング)を引き抜き構えを取った。

 

 それから暫し沈黙が続く。

 

 風が吹き、ギルガメッシュの長い金髪が舞い上がる。両者は未だ全く動かず静まり返っている。

 

 そして風が止んだ。その瞬間

 

「フハハハハハハ!」

 

 

「うおらぁぁぁぁ!」

 

 王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)から宝剣、宝槍等、あらゆる武器の原点が放たれる。

 

 まずは正面から飛んでくる宝具を龍の牙(ドラゴ・ファング)で弾きながらギルガメッシュに接近しようとするが、接近する前に更に追撃来るので近付くのは難しい。

 

「ぁあ! ちくしょう! 相変わらず贅沢な宝具の使い方だな!」

 

 

「フハハハハハハ! そう言いながら平然と捌いているではないか!」

 

 

「当たり前だ! どんだけお前等に酷いめに合わされたと思ってる! 慣れだよ! 慣れ! と言うか何で徐々に数を増やすんだよ!」

 

 徐々に増える宝具の数に文句を言う龍牙、それに対してギルガメッシュは笑っている……俗に言う愉悦顔である。

 

「その顔辞めろ! もの凄く腹立つ!」

 

 

「ならっ……次はこれはどうだ?」

 

 ニヤリと笑みを浮かべ、パチッと指を鳴らす。

 

 すると夜空に王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)の門が出現し、そこから剣が現れる…………山くらいある超が付く程、巨大な物だ。

 

 この瞬間、この戦いを見ているマスターである魔術師達が唖然としたのは言うまでもない。またこの時点でギルガメッシュのマスターである遠坂時臣とこの戦争戦争の監督役……冬木教会の言峰璃正は気を失いそうになる。

 

 何故なら、聖杯戦争……ひいては魔術は秘匿されなければならない物だ。英霊同士の戦いであればある程度の被害が出るのは予想している。監督役や他の魔術師もそれは理解しており、対策もしているのだが……今回はそれでカバーできる程、簡単な話ではない。

 

千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)!? 港とは言え、街が近いのにそんなん出すの!?」

 

 

「以前の様に押し返して見せよ!」

 

 空中に停滞していた千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)が落下を始める。

 

「……胃が痛い。なんでこんな事に……」

 

 龍牙は鎧の上から腹を押さえている。

 

「はぁ……ふぅ、仕方ない」

 

 そう呟くと龍の牙(ドラゴ・ファング)を両腰に仕舞い、右の拳を握る。

 

 凄まじい量の力が溢れ出し龍牙に収束する。次に取った行動は

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 その翼を大きく羽ばたかせ、一気に加速し千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)に向かい飛翔する。

 

 そして

 

 

 

ドカッ! 

 

 千山斬り拓く翠の地平(イガリマ)を殴り飛ばし、そのまま宝物庫に無理矢理押し戻した。

 

「ハハハハハハ、それでこそ龍牙よ!」

 

 

「はい、終わり! これ以上はお前の遊びに付き合わんぞ!」

 

 龍牙はギルガメッシュに向かってそう叫ぶ。

 

「よかろう、此度はこれで下がるとしよう……ではな龍牙(愛しき者)よ」

 

 ギルガメッシュはそう言うと霊体化し、その場から去っていった。

 

「相変わらず自分勝手な……アイツらしいと言えばそうなんだが……【乖離剣(エア)】を抜かなかっただけましか」

 

 そう言いながら地面へと着地し、鎧を解除し振り返るとセイバーとそのマスター、ランサー、ライダーとそのマスターが唖然として此方を見ていた。

 

「御無事ですか、マスター?」

 

 そしてジャンヌが龍牙に向かい走ってくる。

 

「「「「「マスター?」」」」」

 

 

「あぁ、あれくらいは遊びみたいなもんだ」

 

 

「「「「「遊び?」」」」」

 

 龍牙の言葉に反応するこの特異点のマスターとサーヴァント達。

 

「さてと……ジャンヌ、彼等に説明は?」

 

 

「しようとしたのですが……途中からマスターとアーチャーの戦闘が始まりまして」

 

 

「ぁあ、そりゃ無理だな。あの状況では話せないものな」

 

 そう言うと、セイバー達の方を向いた。

 

「取り敢えず、お茶でもしながら話し合いでもどうかな……マスターとサーヴァント諸君」

 

 龍牙はそう笑顔で言うのだか……怪しまれたのは言うまでもない。

 

 

 

 



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EP78 会談

明けましておめでとうございます。

今年も宜しくお願いします。


 ~遠坂邸~

 

「王、御説明頂けますでしょうか?」

 

 ギルガメッシュのマスター、遠坂時臣は丁寧な言葉で上機嫌な彼女に問い掛けた。

 

「何がだ、時臣」

 

 

「突如現れたあの鎧の者の事。そして何故、宝物庫をあそこまで解放されたのかをです」

 

 

「奴は()の物よ……そして我が庫を解放したのは言うまでもない、奴がそれに値する強さを持つからだ」

 

 

「……後者はともかく、前者はどういう意味でしょうか?」

 

 

「そのままの意味だ……まぁ、案ずる事はない。奴はサーヴァントではないからな」

 

 ギルガメッシュの言葉に固まる時臣。

 

「サーヴァントではない?」

 

 

「奴は生身の人間よ……まぁ只の人間ではないがな」

 

 

「なぁ!?」

 

 

「そし……ん?」

 

 ギルガメッシュは何かを感じて、宝物庫の門を開けるとそこから手紙が出てくる。

 

「フム……成程な、貴様にだ、時臣」

 

 

「私に?」

 

 時臣は手紙を受け取るとそれに目を通す。

 

「承知しました。王よ、後1つお伺いしたいのですが……あの鎧の者は信用がおける者でしょうか?」

 

 

「それは我が保証しよう」

 

 ギルガメッシュはただ、それだけ言うと霊体化して消えた。

 

 

 

 

 ~数日後 冬木教会~

 

 この場は此度の聖杯戦争の監督役がいる教会。

 

 因みにこの周辺での戦闘は禁止されている。

 

 この場に揃っていたマスターとサーヴァント達。

 

 セイバー陣営、衛宮切嗣とアイリスフィール、騎士王アルトリア・ペンドラゴン。

 

 アーチャー陣営、遠坂時臣、英雄王ギルガメッシュ。

 

 ランサー陣営、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト、魅了の騎士ディルムット・オディナ。

 

 ライダー陣営、ウェイバー・ベルベット、征服王イスカンダル。

 

 監督役、言峰璃正とその息子であり元アサシンのマスター、言峰綺礼がいた。

 

 マスターとサーヴァント達は此処は中立地帯と言う事もあり大人しくしている。

 

 そこに教会の扉が開き、龍牙とジャンヌが入ってきた。

 

「マスター、サーヴァントの諸君。集まって貰い感謝するよ。まぁ『脱落』したアサシン、名乗りでないキャスター、バーサーカーは参加してないのは当然か……さて、改めて自己紹介を。俺は無皇 龍牙、こっちはルーラーのジャンヌ・ダルクだ」

 

 龍牙は周囲を見回してマスター達に挨拶した。

 

「取り敢えず警戒しているのも分かるが、此処は一応中立地帯だから少し気を緩めてほしい」

 

 

「それで一体なんの用だ……マスターを集めて一網打尽にでもしようと言うのか」

 

 

「全くだ……」

 

 切嗣の言葉に同意する様に頷くケイネス。

 

「俺の正体やらジャンヌの事を聞きたいだろうが、先に本題に入る……この聖杯戦争についてだ。今から俺が言う事はこの街の今後にも関わることだ」

 

 龍牙の言葉に反応するマスター達。

 

「俺は数日前に柳洞寺の奥にある大聖杯を見てきた。そしてその中に居る者を確認してきた」

 

 大聖杯の中に居る者? と言う反応を見せるマスターや監督役。

 

「遠坂時臣……アンタはアンリマユを知っているか?」

 

 

「アンリマユ……ゾロアスター教の邪神の事かね?」

 

 

「そう……第3次聖杯戦争において奴はアヴェンジャー(復讐者)のクラスで召喚され、初期に敗退。本来はそのまま英霊の座に還る筈だったんだが……現在も聖杯に残り汚染している。万が一このまま聖杯戦争が進めばこの辺りは泥により厄災に合うだろう」

 

 これを聞いたジャンヌ以外の全員がコイツは何を言っているんだ? と思った。

 

「疑うなら後で確認すればいい。だがこのまま戦いを続けるなら……俺もアンタ等の前に立ち塞がらないとならない」

 

 龍牙は場の全ての者達に対して鋭い視線を向ける。

 

「監督役」

 

 龍牙はこの度の監督役である神父言峰璃正の方を向く。

 

「取り敢えず聖杯戦争の中止を進言する」

 

 

「むぅ……確かに君の言うことが本当であるなら今すぐにでも止めるべきだが……」

 

 璃正はジッと龍牙を見る。他のマスターとサーヴァント達もだ。何せ、それぞれには聖杯に託す願いがあり、此度の聖杯戦争に参加しているからだ。それが突然現れた正体不明の存在に邪魔されようとしているからだ。

 

「俺の事に関しては深くは聞かない方向で……じゃ俺は此所までで。後、遠坂とアインツベルン、エルメロイの所に赴くので宜しく」

 

 と足早にその場を離れよう身を翻し歩き出す……のだが

 

「たわけ……我を無視して帰ろうなど二万年早いわ」

 

 ギルガメッシュがそう言うと王の財宝の中から天の鎖(エルキドゥ)が現れ龍牙の首に巻き付いた。その瞬間、エルキドゥが龍牙にヘッドロックをしている姿が幻視したのは気の所為だろう。

 

「ぐぇ!?」

 

 天の鎖に引っ張られ後ろに倒れた龍牙。

 

「まっマスター!? アーチャー! 何をするんですか! マスターは生身の人間ですよ!?」

 

 

「ルーラーよ、我は少なくともお前よりはこやつの事を知っておる。このくらいではびくともせんわ!」

 

 とギルガメッシュは勝ち誇った顔で言い放つ。

 

「ちょっ……待て、マジ首が……」

 

 

「後でと言わずに今すぐに行くぞ、時臣、我は先に戻るぞ! フハハハハハハ!」

 

 

「ぐぇぇぇ」

 

 ギルガメッシュは上機嫌で笑いながら龍牙をひき釣りながら外に出ていく。

 

「ちょっとアーチャー!」

 

 ジャンヌも彼女とマスターを追い外に出た。

 

 残されたサーヴァントとマスター達、監督役は互いに目を合わせる。

 

「取り敢えず後日、大聖杯を確認と言うことで」

 

 

「あぁ、そうだな」

 

 

「ウム……」

 

 と言うの会話があり、今回の会談は終了となった。

 




大きなベッドの上で

「離せギル!何するつもりだ!」


「愛する男と女が再会してする事は1つであろう?」


「待て!此処は全年齢対象で「案ずるな…どうにかなる」なるかぁ!」


「アーチャー!マスターから離れなさい!」


「えぇい!邪魔をするな、ルーラー!これは男と女の問題だ!」


「だからと言ってマスターを襲われるのを黙っては見てられません!」

ーバチッ バチッー

ギルガメッシュとジャンヌの間に火花が散る。



その日の夜、冬木市にある大きな屋敷の一角が吹き飛んだとか。


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EP79 話し合い(遠坂家)

 ~遠坂邸~

 

 会談の翌日、遠坂邸に居た……と言うより無理矢理連れて来られた龍牙、何やら窶れている。昨夜なにかあったのだろう。

 

 現在、窶れた龍牙は応接室のソファーに座っており、その足の間に座っている子供……正確には若返りの薬で子どもになったギルガメッシュ……つまり子ギルだ。

 

「……何で子供の姿に?」

 

 

「アハハハハ、大人の僕は子供の姿で迫ったらどうなるかと考えて若返りの薬を飲んだみたいで……まぁ、見た目だけ変える物もあったんですけどねぇ……」

 

 

「……何しようとしてるの、バカなの? バカだろ」

 

 

「言わないで下さいよ。僕も気にしてるんですし……それにこの僕の方が龍牙にとっては都合がいいでしょう? 大人の僕と違って僕は空気読めますし」

 

 

「まぁ確かに……本当になんで、あんな性格になったんだろうね?」

 

 こんな会話をしているが、これは龍牙でなければ成り立たない会話である。子供の姿でも、英雄王である。バカなどと言えば宝剣、宝槍で串刺しになってるだろう。

 

「全くです……と言うの訳でこれお願いします」

 

 と子ギルが宝物庫から取り出したのはブラシである。

 

「……はぁ、分かりましたよ、お姫様」

 

 龍牙はブラシを受け取ると、子ギルの髪をブラシでとかし始めた。

 

「素直なのはいいことです。まぁ、僕の髪に触れられるんですから役得ですね」

 

 

「お前の場合、断ると剣や槍が飛んで来るからな。痛いのは勘弁だ」

 

 

「そこは嘘でもそうだと言うべきです、龍牙は本当に女心が分かってませんね」

 

 ぷくっーと頬を膨らます子ギル。

 

「ハイハイ、そりゃ悪かったな……それはそうと、遠坂時臣は遅いな?」

 

 

「そう言えばそうですね、大空洞の聖杯を確認に行くと言ってましたね……そろそろ戻ってきても良さそうですけど」

 

 子ギルは龍牙にブラッシングさせながら宝物庫から取り出した飲み物を飲んでいる。

 

「それで龍牙、これからどうするつもりですか?」

 

 

「取り敢えずは各陣営の説得、聖杯の解体等々……皆ハッピーエンドになる様に頑張るさ」

 

 

「そうですか……そう言う所は昔から変わってませんね」

 

 話をしていると、扉が開く音と共に部屋に入ってきたこの屋敷の主、遠坂時臣。

 

 時臣は子ギルの姿に驚いているが、薬の事を説明すると納得したようだ。

 

「待たせてしまってすまないね。先程、大空洞を確認してきた……どうやら君の言った事は本当の様だ。

 

 大聖杯の中に何かが存在している。もし君の言う事が正しければ……聖杯戦争は中止だ」

 

 はぁ~とため息を吐きながら頭を押さえる時臣。

 

「そりゃそうだな」

 

 

「……君が何者かは分からないが、魔術を扱う者として、この地の管理者である遠坂家の当主と礼を言う。お陰で無駄な犠牲を出さずにすんだ」

 

 時臣は立ち上がると龍牙に対して頭を下げる。

 

「別にいいさ。今回はもう1つ話があってきたんだ」

 

 

「話?」

 

 龍牙が指を鳴らすと、彼の後ろの空間が歪み穴が開くそこから1人の男が現れる。

 

「君は……間桐雁夜」

 

 それは雁夜だった。

 

「時臣……」

 

 雁夜は時臣を視界に捉えると彼を睨む。しかし龍牙からの視線を感じ、睨むのを止め、時臣から視線を外した。

 

「何故、魔術の道から背いた彼を此処に?」

 

 

「その前に……ジャンヌ」

 

 龍牙がこの部屋の扉に向かい声を掛けると、扉が開きジャンヌと1人の女性が入ってきた。

 

「「葵(さん)」」

 

 

「あなた……雁夜くん」

 

 それは遠坂葵……時臣の妻である。

 

「始めまして……遠坂葵さん。まぁ、そこに座って」

 

 

「えっと……」

 

 葵は突然の事で困惑している。何故此処に自分が呼ばれたのか分かっていない。しかし時臣から座る様に促され、彼の横に腰掛けた。

 

「俺は龍牙と言う……一応魔術とかもやってる男だ。

 

 さて話と言うのは時臣氏と貴女に関わる事でね……まぁショックだろうけど、目を背ける事はしないでくれよ」

 

 龍牙はそう言うと子ギルに退くように促し、彼女が龍牙から降りると、小さな置物と金の皿を取り出し目の前の机に置いた。

 

 葵はそれが何か分かっておらず、時臣もその正体が分からないものの、その置物から感じる神秘を肌で感じ取る。続けて、皿に瓶に入った赤い液体を入れ、皿が液体で満たされると置物を中に入れた。

 

 すると置物の上部から光が溢れ、壁に何かが映写された。

 

 ーいやぁぁぁ! なにこれ、いやぁぁ! たすけておとうさん、おかあさん、おねえちゃん! ー

 

 聞こえてきたのは悲痛な叫び声だった。

 

 映し出されたのは……無数の蟲達に蹂躙される少女の姿だった。

 

 そして時臣と葵はその少女に見覚えがあった……ない筈がなかった。間桐桜……旧姓遠坂桜、つまりは時臣と葵の娘だったからだ。

 

「さっ……さくら……?」

 

 

「こっこれは一体……」

 

 目の前に映し出された映像は2人にとっては受け入れがたいものだった。

 

 時臣と葵には2人の娘がいた。2人は愛らしく、姉妹仲も良く、平和な日々を過ごしていた。だが問題があった……2人が継いだ魔術の才能だった。

 

 魔術師の術は一子相伝……つまり1人にしか受け継がれない。故にどちらかを選び、どちらかを潰さなければならない。加えて桜の属性は「架空元素・虚数」と呼ばれる稀有な物だ、魔導の家の庇護がなければホルマリン漬けにされる。

 

 だからこそ時臣は桜を護るためにも間桐家の養子に出した。だと言うのに目の前に映し出された映像はなんだと時臣は思い立ち上がる。

 

「これは一体どういうことだ!?」

 

 

「どういうこと? ……アンタ達夫婦があの娘を地獄落としたんだろう?」

 

 

「私はこの「自分はそんなつもりはなかったとか言うなよ。アンタは間桐の魔術が……いや間桐臓硯がどういう人物かも知らないくせに養子に出したろ。家と家が古くからの付き合いと言うだけで……あの蟲爺は娘を次の世代を産み出す胎盤としか見てなかったのさ」」

 

 

「さっ……さく……らは……?」

 

 葵は目の前の映像が受け入れられない様子だが、やっとの事で声を絞り出した。

 

「小さな子供があんな目に合って無事だとでも思ってるのか?」

 

 龍牙は更に現実を突きつける。それを聞いた葵は気を失いそうになる。時臣も立っていられなかったのか、ソファーに倒れる様に座った。

 

 それと同時に映像が消え、置物と皿がその場から消えた。

 

「まぁ命と身体は無事だ、俺が治しておいたからな……だが精神面は正常とは言えないが、雁夜のお陰で薄皮一枚で保っている」

 

 

「か……りやくん……?」

 

 それを聞いて2人は顔を上げる。

 

「この男は間桐の魔術の事を知ってたから家を飛び出した。でもアンタの娘が間桐の養子となったと聞いて戻ったんだ……とは言え少し遅かったかもしれないが、それでもこの男が戻らなかったらどうなっていたことやら。

 

 俺には魔術の家柄の考えは分からんが……子供を不幸にして繁栄や栄誉を手にする様な家なら潰れてしまえ」

 

 龍牙にそう言われ、彼の言葉が時臣と葵の心に突き刺さる。

 

「……時臣」

 

 そこまで黙っていた雁夜が声を出した。

 

「お前にとっては俺は魔術の道に背いた負け犬だろうさ……だがな! 今のお前はなんだ!? 

 

 魔術の名誉が何だが俺には分からない! だがそれは桜をこんな目に合わせてまで、魔術の道を歩まさないといけなかったのか!?」

 

 雁夜の言葉が時臣の胸を抉る。これを見る前であれば、万が一姉妹共に魔術師となり聖杯を巡って争う事になってもそれは名誉な事だと言っていただろう。

 

 しかし今は違う。彼自信、娘を思い養子の選択した。魔術師として、父として最も良い選択をした筈だったが、結果は娘を不幸にした。こんな事になるのなら間桐以外に養子先を探すなり、他の方法が取れた筈だ。

 

 それは葵にも言える事だった。遠坂の家に嫁入りした時から覚悟はしていた、だがもし自分が反対していれば桜をあんな目に合わせずすんだのではないかと考えてしまう。

 

「何とも皮肉な話ですねぇ……守る為に手放したのに、実際は自分が娘を不幸にしていたなんて」

 

 黙っていた子ギルがそう呟く。子ギルのその言葉が2人に更に追い討ちをかける。

 

「アンタ等の元にあの娘を返すのは簡単だが……どうしたものか」

 

 龍牙はそう呟きながら、どうするかと考えていた。

 

「母親だけは連れて行くか。

 

 どうにも今のあの娘の精神状態じゃ、時臣(アンタ)に会わす訳には行かないしな。

 

 遠坂葵さん……取り敢えず、隣の部屋に待機して貰ってるもう1人娘さんと用意してくれるか? 

 

 今のあの娘に必要なのは、平穏な一時だからな」

 

 

「はっ……はい!」

 

 葵はすぐに返事をすると飛び出す様に部屋を出た。龍牙がジャンヌに目を向けると、彼女はその場から意図を理解したらしく葵を追い掛け出ていった。

 

「ギル、こっちは頼んでいいか?」

 

 

「はぁ……仕方ありませんね」

 

 龍牙は子ギルにそう言うと、部屋を出ていった。




と言う訳で今回は遠坂との話し合いでした。


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EP80 話し合いのその後

 ~冬木市内 高級ホテル~

 

「「桜!」」

 

 龍牙によって、彼等が滞在しているホテルの一室に遠坂葵と桜の姉である凛を連れてきた。

 

 現在、桜はアタランテと共にいた。

 

 2人は桜を見つけると、桜に飛びついた。

 

「……」

 

 桜は少し驚いた様だが、反応は殆どない。今の桜にはそんな余裕がないからだ。

 

「ごめんなさい……ごめんなさい、桜……」

 

 葵は桜に謝り続ける。

 

 此処で今にも葵を射殺しそうな目を向けるアタランテ。

 

「この娘を此処まで追い詰めたのに、よくも顔が出せたものだ」

 

 アタランテは葵に向かいそういい放つ。

 

「っ」

 

 

「アタランテ……」

 

 

「分かっているマスター……だが私は許せない」

 

 

「分からなくもないけども……雁夜、悪いが娘達を隣の部屋に」

 

 

「あぁ……凛ちゃん、桜ちゃん、向こうに行こうか。お母さんは彼と話があるから」

 

 

「えっ……あっ……うん」

 

 凛と桜は雁夜に連れられ隣の部屋に行った。

 

「さて……遠坂葵さん、そっちに座って」

 

 

「……はい」

 

 葵は龍牙に促され、ソファーに腰掛ける。

 

「取り敢えず桜ちゃんの状態は理解してくれたかな?」

 

 そう聞かれ葵は頷く。

 

「今のあの娘は、親に捨てられ、生きる希望がない様な状態だ。

 

 勿論そんな事になったのは、言わずとも分かるな?」

 

 彼女は理解している。自分と夫の所為であると。

 

「今の状況でアンタに出来る事は……なんの変哲もない日常を過ごさせてやることだ。

 

 その中で、あの娘に自分は生きていていい、必要とされていると思わせる事だ。取り敢えず……家事でも手伝わせ、褒めてやればいい。そんな小さな事でもあの娘には生きる力を与える。

 

 それで少しずつではあるが、元に近い状態まで戻る筈だ。だがある時、蟲共の記憶が蘇ってパニックになる事もあるだろう……そんな時は黙って抱き締めてやれ」

 

 

「……私は……あの子の傍にいてもいいのでしょうか?」

 

 

「ふざけるな!」

 

 黙っていたアタランテが葵の首を掴む。

 

「何故だ! 何故、あの子を捨てた!? 親であったなら何であの娘を護ってやらなかった! 

 

 もし養子に出すなら、何故もっと相手の事を調べなかった!? 

 

 お前に分かるか、親に捨てられる悲しみが! 苦痛が! どれ程のことか!」

 

 英雄アタランテ……その出生は王であった父が男児を欲していた為に、森に捨てられた。それを哀れに思った女神アルテミスが雌熊を遣わせ、育てたと言う。その生い立ちからアタランテは「子供は庇護し、愛情を注ぐ存在」だと考えている。

 

 だからこそ、彼女は葵が許せなかった。

 

「アタランテ、ストップ……相手は人間だから死ぬから」

 

 

「チッ……マスター、私は子供達の所へ行く」

 

 

「あぁ……それはそうと、そんな恐い顔をしてると恐がられるぞ」

 

 

「ムッ……分かった。少し頭を冷してから行くとしよう」

 

 アタランテは葵の首から手を放すと、霊体化してその場から離れた。

 

 ゴホッゴホッと咳き込みながら起き上がる葵。

 

「まぁ……言いたい事は彼女と変わらない……正直、アンタ達にあの娘を返すのは気乗りはしないよ。アンタの旦那は根っからの魔術師だし、同じ事を繰り返さないとも限らないし……アンタはアンタで旦那に従って子供の事は二の次となってはねぇ」

 

 そんな事はないと言おうとするが、その通りである。時臣の意見に反対しなかった故に、桜はあの様な目にあった。

 

「とは言え……今の桜に必要なのは、さっきも言った様な変哲もない日常だ。

 

 だからこそ、アンタを連れてきた。まぁ……返す返さないかはあの娘の精神がマシになってからか……。

 

 まずは数日、此処で過ごして貰う。聖杯戦争は停戦中とは言え、万が一があるからな」

 

 龍牙は立ち上がり、部屋を出ようとする。

 

「あの娘の傍に居ていいか、悪いかは知らない。だがあの娘の身体と心に一生消えぬ傷をつける原因となったのはお前達夫婦なのも事実だ。

 

 それは絶対に忘れるな」

 

 彼はそう言うと、部屋から出ていった。

 

 彼が出ていってから、葵はずっと考えていた。

 

『夫の意見を反対していれば』『何がなんでも桜を手放さなければ』と葵の頭の中にそんな考えばかりが周り続けている。

 

 

 

 ~遠坂家 屋敷~

 

 遠坂家の現当主、時臣は頭を抱えていた。

 

「どうした、時臣」

 

 時臣が顔を上げると、ギルガメッシュが現界していた。因みに今は薬の効果が切れたのか、大人の姿だ。

 

「王よ……私は娘の幸せを願っています。恵まれた才能をもって、自分の道を切り開いて、立派な魔術師となってくれると信じ間桐の家に養子に出しました。

 

 間桐ならば必ずや桜に幸せのある未来を与えてくれる筈だと。それを魔術師の教育も受けさせずに胎盤としての扱いを受けていたなどと……許されることではない!」

 

 時臣がそう言う。それに対してギルガメッシュは

 

「全く……たわけよな。いや、魔術師はその様なものなのか?」

 

 

「どういう意味でしょう?」

 

 ギルガメッシュの言葉にそう答える時臣、彼本人は未だに気付いていない。

 

 彼女が冷たい目を向けている事に。

 

「お前が案じているのは、娘のことか? それとも娘の魔術師としての将来か?」

 

 

「それは……」

 

 時臣はそう言われ、黙ってしまう。

 

「我が見た限り、貴様が案じているのは後者の方だ。

 

 貴様なりに娘の将来を案じて出した結果がこれとは……愚かな」

 

 ギルガメッシュの言葉が時臣に胸に刺さる。

 

「子供とは親の思う通りにはならんぞ、時臣。

 

 お前が思った道を子供が絶対に通るとは限らん。だがそれは子供自身が選んだ道だ。子供の人生は子供の物だ、親がどうこう言える物ではない」

 

 時臣はギルガメッシュの言葉にその通りだと思った。そして思い返してみる、自身は親から魔術の道か、それ以外の道を選ばせて貰えた。だからこそ娘達にも選択肢を与えようと考えていた。だが、今、自身が考えている娘達の未来は魔術の道を歩んだ時の事ばかりだ。

 

 長女の凛は魔術の道を真剣に考えていた、だが桜はどうだった? 凛ほど、魔術に興味を持っていたのだろうか? その様な事を娘達としっかりと話をした記憶などなかった。

 

 確かに桜の素質は稀有な物だが、もっと他に方法を考えていればと後悔の念が時臣にのし掛かった。

 

「私は……親、失格ですね。私は魔術の事だけで、娘達の意思を考えてなかった」

 

 

「それに気付いたならば1つ成長したと言うことだ……後はどうするべきかは、娘の心を癒してから考えよ」

 

 ギルガメッシュはそう言うと、霊体化し始める。

 

「王よ、ありがとうございます」

 

 時臣は己の過ちを気付かせてくれたギルガメッシュに一礼し、感謝する。

 

「ではな……我は暫く出かけるとしよう」

 

 時臣はギルガメッシュが去ると頭を上げる。その顔を心から彼女に対し感謝している表情だった、




と言う訳で一旦、遠坂家の話しは此処で区切りです。



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EP81 話し合い(衛宮家)

 ~冬木市 アインツベルンの城~

 

 此処は冬木市の外れにあるアインツベルンが保有する土地内にある城である。アインツベルンが聖杯戦争の為だけに、城を丸ごと持ち込んだのである。

 

 そこに滞在するのは、セイバー陣営のマスター 衛宮切嗣、その妻アイリスフィール、切嗣の助手 久宇舞弥、そして、サーヴァントのアルトリアである。

 

 そして机を挟み彼等の前にいるのは、先の埠頭での戦いを見せた龍牙とルーラーであるジャンヌだった。

 

「改めまして、無皇 龍牙とルーラーのジャンヌ・ダルクだ。

 

 話し合いで来てるんだし、殺気は収めて欲しいんだが……まぁ無理な話か」

 

 

「当然だ……アレだけの力を見せておいて警戒するなと言うのが無理だ」

 

 

「まぁいい……それで話だが、聖杯の事は確認したか?」

 

 

「……あぁ、確かに聖杯の中に何がいる。それは確認した」

 

 

「ならばアンタ等には聖杯を諦めて貰う」

 

 

「ふざけるな!」

 

 龍牙の言葉にダンッと目の前の机を叩き立ち上がる。

 

「簡単に諦められるか!」

 

 それもその筈、切嗣は今回の聖杯戦争に全てをかけていた。

 

「恒久的な平和か」

 

 

「! ……どうして僕の願いを知っている?」

 

 

「知っているからだ……それで納得しろ。

 

 さて、アンタはこの聖杯戦争を人類最後の争いとするつもりだな」

 

 

「そうだ……」

 

 龍牙が自身の願いを知っていた事に驚くが、切嗣は彼の言葉に頷く。

 

「聖杯が正常でない以上、それは破滅に繋がる。それとも今のまま、聖杯戦争を続けてこの街を火の海にするか?」

 

 

「……少なくとも、そのつもりはない」

 

 

「なら良かった……続けるつもりなら俺も対処しないといけないしな。

 

 まぁ、正常な聖杯であっても止めたかもしれんがな」

 

 その言葉を聞き、切嗣が反応する。

 

「別に平和を願うのが悪いとは言わないよ。でも……聖杯がどの様な手段を取るか次第だ」

 

 龍牙の言葉に場の全員が疑問に思う。平和を願うのは悪くないと言うのに、何故、手段次第で止めるのかと。

 

「まず争いを無くす為には人から闘争を取り上げる必要がある。だがそれを取り上げれば人類は終わりだ」

 

 全員が更に疑問を深める。

 

「人から闘争を取り上げれば争いは止むだろう……しかし人類はそこで破滅する。

 

 何故なら闘争とは人の進化の根本の1つだからだ。人は他者と競い合い、高め合う事で、次の一歩へと進む。それは歴史が証明している。人の歴史は争いの歴史と言っても過言ではない。残念ながらそれが事実だ。

 

 それに闘う事を止めれば、外敵から攻撃を受けても反撃しないと言う事だ。アンタはそこの奥さんが獣や敵に襲われても何もしないつもりか?」

 

 切嗣はそれは無理だと思った。もし妻が襲われる事があれば、自分は武器を持ち敵を倒すだろう。

 

「人を守る事と人の進化から闘争はきって離せないものだ……哀しいけどそれが人間と言うものだ」

 

 切嗣はそれを聞いて、力が抜けたのか、倒れる様に椅子に座る。

 

 切嗣は龍牙の言葉を聞いて納得してしまったからだ。この星では生き残る為に進化し適応する事が必要だ、加えて戦いの手段と意思を無くせば外敵に対して人を守る術がなくなる。そうなれば一時的に争いを止めても、将来的には多くの命が失われると。

 

 同時に今までしてきた事は何だったのかと考える。

 

「アンタの考えは素晴らしいと思うよ。争いのない世界っていうのは……だが衛宮切嗣。

 

 平和って言うのは人類全体で、永い時をかけて考えないといけない物だ。アンタ1人が背負うべきものではない」

 

 

「僕は……」

 

 切嗣は語る。今まで彼は戦い続けてきた。幼い頃、父の実験が原因で初恋の女の子が使徒になり、住んでいた村が全滅した。その影響で、彼は多くを救う為に常に少数を切り捨ててきた。子供も、老人も、魔術の師であり母親の様に思っていた人も。

 

 そして、この度、聖杯と言う万能の願望器を手にし、この戦いを人類最後の流血にすると考えていた。

 

 その為に聖杯の器として妻ですら犠牲にすると覚悟を決めた。だが聖杯は穢れ、使えば破滅。例え正常であり、願いが叶っても人類に未来はない。

 

 平和の為に戦い続けた彼の夢は失われた。

 

「確かに……アンタはこれまで大小を秤にかけて命を救ってきた。それが正しいかどうかは分からない。

 

 でも、アンタに救われた命があるんだ。その命達がこれから多くの命を繋ぐ。

 

 アンタはアンタで最善を尽くし戦った。後の事は……未来の人間に任せればいい」

 

 

「未来……」

 

 

「人は命を繋ぐ事で未来を手にした。アンタが出来なかった事は、今を生きる子供が、これから産まれてくる子供達の誰かが達成してくれる事を信じるしかない。

 

 アンタは十分、他者の為に生きてきた。だけど、もう自分や自分の大切な物の為に生きてもいいんじゃないか?」

 

 龍牙はそう言うと立ち上がり、自分の背後に手を翳す。するとその空間に穴が開く。そこから巨人が出てきた。

 

 場の全員が固まる。

 

「ご苦労様、ヘラクレス」

 

 龍牙は巨人をそう呼んだ。ヘラクレスは頷くと、視界に切嗣達を捉える。

 

 ヘラクレスはゆっくりと彼等に近付く。

 

 セイバーを始め、アイリスフィール達も警戒するが、ヘラクレスはその場に膝をつき、腕に抱える布を見せた。

 

 切嗣達はその布に包まれているものが直ぐに分かった。

 

「「イリヤ!?」」

 

 切嗣とアイリスフィールの娘、イリヤスフィールだった。どうやらイリヤスフィールは眠っている様だ。

 

 彼等は直ぐに我が子に近付き、抱き上げた。

 

「大丈夫だ。今は疲れて眠ってるだけだから」

 

 

「でもどうやって……」

 

 

「ヘラクレスに攻め込んで貰って拉致ってきた。ついでにアインツベルンも潰した」

 

 

「「はっ?」」

 

 切嗣、アイリスフィールは驚愕する。

 

「アンタ等家族を聖杯から解放する為さ……メイド2人と金になりそうな物は取っておいたから」

 

 そう言うと、空間の穴から2人の少女が出てくる。彼女等はアインツベルンのホムンクルスだ。

 

「セラとリーゼリット……元々聖杯の器として使おうとしていたけど、失敗したみたいで放置されてたから有効利用させて貰った。

 

 さて、後は奥さんと娘を聖杯から切り離す必要があるな」

 

 

「ちょ……ちょっと待て、待ってくれ! 状況が把握しきれない! 少し頭を整理させてくれ」

 

 情報量が多過ぎて整理出来なかった切嗣がそう言い出した。

 

 それから少し沈黙が続き言葉を発したのは数分後だった。

 

「そのサーヴァントは英雄ヘラクレスで君のサーヴァント」

 

 

「うん」

 

 

「それでその英霊がアインツベルンに乗り込んでイリヤを救った」

 

 

「うん」

 

 

「そしてアインツベルンは彼が……いや君が潰したと?」

 

 

「うん……あっ、これ旨いね、おかわり下さい」

 

 切嗣の質問に答えながら、出された紅茶と茶菓子のお代わりを要求する龍牙。

 

「奥さんと娘……古い考えに凝り固まった魔術の家、天秤にかけるまでもないだろう?」

 

 それはそうなのだが、いきなり過ぎる。

 

「さてと……取り敢えず、聖杯は諦める方向でいいかな?」

 

 此処まできて、諦めないとは言えない切嗣。

 

「……あぁ」

 

 

「なら良かった……さてセイバーがいるから大丈夫だと思うが、暫くは警戒しておくんだな。

 

 取り敢えず奥さんと娘を聖杯から解き放つのは少し後だが……追って連絡するよ」

 

 龍牙はジャンヌとヘラクレスと共に空間に穴を開けこの場を去った。




という訳でハッピーエンドへと向かって突き進みます。


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EP82 始まる異変

 ~龍牙の拠点~

 

「さてと……セイバー、アーチャー陣営に関しては多分問題ないだろう。

 

 キルケー、マルタ、ランサーとライダー陣営については?」

 

 龍牙ほ目の前の2人にそう尋ねた。

 

「問題ないと思うよ、マスター(ピグレット)

 

 

「えぇ、ランサーのマスターはマスターから持たされた宝物で了承しました。ライダーのマスターはそこまで聖杯に執着はなかった様でしたし。ですが、ライダーのマスター権に関してはライダー本人が」

 

 

「そう……まぁ、あの性格だからね。ランサーについては?」

 

 

「ランサーのマスターは宝物と同等の対価だと納得してたよ。ランサーも主の意思に従うとさ」

 

 

「成程……残るはアサシン……言峰綺礼。後は蟲爺とバーサーカーか。

 

 今の愉悦神父はギルとの接触が少ないから多分、自分から動かないだろうけど……アサシンがどう動くか……。

 

 蟲爺に関しては目立った事件も起きてないから動けてないか、隠れてるか……か。

 

 キャスターの召喚はされてないけど、時間の問題かもね」

 

 

「確か、ジルが召喚されるんでしたね」

 

 

「セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、アサシン、バーサーカーの6騎が召喚され、聖杯戦争は停止している。だからこそ、聖杯そのものが、無理にでも召喚しそうだが…………問題はマスターか。

 

 でも本来とは随分変わってるからな」

 

 龍牙がこれからの事を考えていた。

 

(あの男はまだ街に入ってきてない……時期的には入っている筈なんだが……俺の介入で、起きる筈のない事が起きているのか?)

 

 ーコッ、コッ、コッー

 

 龍牙が考えていると、ノックする音が聞こえた。

 

「はい、どうぞ」

 

 彼がそう言うと、桜が顔を覗かせた。

 

「やぁ、桜ちゃん、どうかした?」

 

 

「あっ……あの……あお……おかあさんが……ご飯を作って……龍牙さん達も一緒にって」

 

 

「そうか……では頂こうか」

 

 折角のお誘いなので、ありがたく受ける事にした龍牙。

 

「桜ちゃんも手伝ったのか?」

 

 

「う……うん。お姉ちゃんと一緒に……」

 

 

「そっか……(少しだけど、良くなってきてるな。この調子なら遠からず)」

 

 龍牙はありえるであろう未来を想像し笑みを浮かべる。

 

(だけど……問題はこの子の属性か。魔術協会が放っておかないだろうな。魔術の名門の庇護がいるか、そっちも考えないと)

 

 考える事が多くあるので、疲れると思いながらも桜の為にもできる事をしないとと考える龍牙。

 

 

 

 

 

 ~柳洞寺 地下大空洞~

 

 柳洞寺の地下にある大空洞、此処には大聖杯の超級の魔術炉心がある。

 

 今は無人の筈のこの場所に小さな存在が現れる。

 

「ぐぅ……おのれ……使い魔をかき集めてもこのくらいの身体しか作れんか」

 

 それは子供の半分くらいの大きさしかないが、間違いなく間桐臓硯である。

 

「しかも聖杯戦争が中止とは……」

 

 臓硯の背後にバーサーカーが現界する。

 

「GUUU……」

 

 

「すまぬな……今の儂では現界させるのがやっとじゃ。本体を此処に隠しておいて正解じゃたな、むっ?」

 

 臓硯とバーサーカーが何かに気付き大聖杯を見た。すると大聖杯から黒い泥が溢れ始める。

 

「なんじゃ!?」

 

 泥はやがて、バーサーカーと臓硯と飲み込み始めた。

 

「この泥は……呑まれる!?」

 

 バーサーカーは既に飲み込まれてしまっている。臓硯は何とか逃れ様とするが、魔術を発動することも敵わない。すると彼の前の泥が盛り上がり何かの形を成した。

 

「ぉぉぉおおお! お主は……そうじゃ、儂はお主の姿を偲ぶために」

 

 臓硯はその何かに手を伸ばす。

 

 そして彼はその肉体と魂は泥に飲み込まれた。



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EP83 誘拐じゃないですよ?

 龍牙はホテルの屋上から街を見下ろしていた。

 

「ちっ……やっぱりか」

 

 

「マスター、これは」

 

 異変に気付いたサーヴァント達は直ぐに現界する。

 

「あぁ……仕方ない。今日中に終わらせるか、結界も持って明後日までだろうから」

 

 

 

 

 ~ホテルの一室~

 

 このホテル一室……正確にはこの階全てを借りているランサーのマスター、ケイネス・エルメロイ・アーチボルト。

 

 彼の前にいきなり現れた龍牙。

 

「……いきなり現れるとは思わなかった」

 

 

「いやぁ、すまないね。ロード・エルメロイ……状況が変わったからね。急がないといけないからな。

 

 それで例の話は考えていたくれたか?」

 

 

「まぁ……確かにあの宝物とサーヴァトの所有権は釣り合う物だ。ランサー」

 

 ケイネスの横にディルムッドが現界した。

 

「お前に異存はないか?」

 

 

「主の命ならば……」

 

 

「では始めよう……アンタがするのは簡単だ。令呪を3画をもって命じればいい」

 

 

「宜しい……聖杯戦争が中止してしまったんだ。これではサーヴァントを従えてる意味がないからな。

 

 令呪3画をもって命じる。ランサー、これからは無皇 龍牙に仕えよ」

 

 ケイネスは全ての令呪を使いそう命じた。

 

「ランサー、ディルムッド・オディナ。汝の身、これより俺に預けろ」

 

 

「承知……っ! これは!?」

 

 龍牙とディルムッドの間に契約が結ばれた瞬間、彼に龍牙の戦いの記憶が流れ込んだ。

 

「これが貴方が戦ってきた道なのですか……」

 

 

「あぁ、勿論、俺に仕えるのが嫌ならこの戦いまででいい。共に戦ってくれればいい」

 

 

「いいえ。騎士として、人の為に、未来の為に、この槍、御身に捧げましょう!」

 

 こうして正式にディルムッドとの契約は完了した。

 

「さて……次は此方だな」

 

 龍牙は机の上に赤い石を置いた。

 

「まさかこの目でこの石を見れるとは……」

 

 

「賢者の石……その原典だ。鉱石科のロードたるアンタには喉から手が出る程の代物だろう?」

 

 

「あぁ」

 

 龍牙がケイネスと交わした約束は、ランサーのマスター権と賢者の石の原典との交換だ。

 

「それとこれを」

 

 龍牙は追加で、机の上にピンク色の液体の入った瓶を置いた。

 

「これは?」

 

 

「婚約者の問題を解決する魔法の薬だ」

 

 

「媚薬か?」

 

 

「あぁ、ディルムッドの魅力にかかってるなら、それに負けない男の魅力を見せればいい……それと直ぐにでもこの街を離れた方がいい」

 

 

「どういう事……と聞きたいが、君の顔付きを見るに余程の事らしいな。その忠告、感謝しよう」

 

 龍牙はそう聞くと、背後に手を翳し空間に穴を開ける。

 

「ではな、ロード・エルメロイ」

 

 龍牙はそう言うと、穴へと消えて行った。ディルムッドも彼に続き穴に入ろうとするが、一度止まり振り返る。

 

「ケイネス殿、短い間でしたが御世話になりました。

 

 どうか、ソラウ殿と御幸せに……では」

 

 そう言い一礼すると、彼は穴の中へと消えて行った。

 

「全く……騎士道とやらは理解できん。だが悪い男ではなかったな」

 

 そう言うと宝石と媚薬を懐に仕舞い、婚約者の元に向かうのであった。

 

 

 

 ~教会~

 

 この教会の神父、言峰綺礼は日課である祈りを父と共に行っていた。

 

この世全ての悪(アンリ・マユ)による聖杯戦争の中止……無駄な血を流す事なく、厄災が起こらないのは喜ばしいことだが。

 

 なんだ、この言い様のない歯がゆさは)

 

 綺礼は心に引っ掛かっている何かを感じていた。しかしそれが何なのか分からなかった。

 

 静かな時間が過ぎる中、突如それは起きた。

 

「ご機嫌よう!」

 

 言葉と共に教会の扉が大きな音をたてて開いた。

 

「「……」」

 

 父・璃正と綺礼は直ぐに振り替えると、そこには小さな子供を抱える白い鎧を纏った龍牙がいた。

 

「教会に何用かね……懺悔かな?」

 

 

「人拐いは感心しないがね」

 

 2人は龍牙が抱えている子供を見てそう言う。

 

「失礼な……ちゃんと説得(と言う名の脅迫)してきました」

 

 

「それで、何処のだれを……」

 

 綺礼は龍牙がその場に下ろした子供を見て言葉に詰まる。その子供は銀髪金眼の幼女だ。綺礼が驚いたのはそこではない、この子供の姿が自分が知る女性と良く似ていたからだ。

 

「カレン・オルテンシア……お前の娘だよ、言峰綺礼」

 

 

「!?」

 

 その言葉に綺礼と璃正は驚いた。

 

「なっ「何で連れてきたか? 簡単さ、子供が親といるのは当然の事だろう? 聖杯戦争も中止になったんだ、此処に居ても問題あるまい」」

 

 龍牙はそう言いながら鎧を消す。カレンと呼ばれた少女は綺礼達を見ると龍牙の後ろに隠れた。

 

 綺礼からすれば、もう2度と会うことはなかったであろう娘との再会が果たされ、彼の運命も変わっていく事になる。



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EP84 男の歪み、女の愛

 言峰綺礼は生まれつき、歪んでいた。

 

 他者の幸せや喜びが自分の苦痛であり、他者の不幸が自分の幸福であり、他者の苦痛が自分の快楽と感じていた。

 

 彼は一般的な常識と倫理観を持っていた為、己で己の異常性を理解し、それに苦悩していた。

 

 これを直す為にあらゆる努力をした、鍛練に身を費やし、転属を繰り返していたが最後には興味が失せ絶望していた。

 

 そんな時出会ったのが、クラウディアと言うアルビノの女性だった。彼女は生まれつき病弱であったが、信心深くかった。

 

 彼はそんな余命幾ばくもない彼女を娶った。彼自身、そんな女だから選んだのか、そんな女しか愛せなかったのか分かっていない。クラウディア自身もそんな綺礼の歪みを理解した上で彼を愛していた。

 

 時は流れ、クラウディアは1人の娘を産んだ。綺礼自身それを喜びはしなかった。

 

 そして、クラウディアは自身の残りの命の少なさを感じていた。彼女は幸せであった。唯、苦しみ死んでいくだけの自身を愛し、自身も彼を愛し、彼の子を成す事が出来たから。

 

 妻として、母として夫と子を残していくのは心残りが全くないとは言えない。だからこそ、残り少ない命を家族の為に使おうと決心した。

 

 彼女が選んだのは『自死』つまりは自殺だ。理由は綺礼が癒し尽くそうとしたクラウディアでも直す事が出来なかったと絶望し、己で命を絶とうとしていたからである。

 

 綺礼やクラウディアが信じる教えでは自殺は最も罪深い事だとされている。だからこそ、クラウディアは自分が己で命を断つ事で綺礼に「貴方は生きていていい人間だ」と教えようとした。

 

 血塗れなクラウディアを抱え、綺礼は静かに泣いていた。

 

 

「私にはお前を愛せなかった」

 

 

「いいえ、貴方は私を愛しています。

 

 ほらっ、貴方、泣いてるもの」

 

 

 

 ~現在~

 

「わっ私は……私にはその子を育てる資格はない」

 

 綺礼はそう言った。それ見て父・璃正はどういう事なのか分からなかった。何せ、璃正は子供が産まれていた等聞いてもなかったからだ。しかし、今の息子の見せた表情はこれまで見たことないものだった為、まずは事情を聞く事にした。

 

「綺礼、どういう事だ?」

 

 

 

「父上……私は……」

 

 綺礼は思った、神が与えたきっかけだと。今まで父を欺き、他者を欺いてきた。だが心の何処かで誰かに打ち明けてしまいたいと思っていたが、それをしなかった。

 

 だが、此処まできた以上、此処で話すべきだと。

 

「父上……

 

 人は私を立派だと評しますが、実際は違います。

 

 私は美しい物を美しいとは思えない、他者の幸福が私にとっては苦痛なのです。私は歪んでいると自覚し、これまでこの性根を直そうとしてきましたが、生まれ持ったこれは直る事はなかった。

 

 クラウディアが目の前で命を断ったあの時さえ、自身でクラウディアを殺せたならと考えていた。

 

 ずっと……ずっと、人を、父上を欺いてきた。そんな自分が何より許せないのです」

 

 二十数年、溜めるに溜めてきた物を吐き出した綺礼。

 

「綺礼」

 

 綺礼は俯きながら血が出るほど拳握る。

 

(父は何と言うだろうか? 私の様な存在を産み出してしまった事を嘆くだろうか? 私を畜生以下だと罵るだろうか?)

 

 そんな事を考えていると、肩に手を置かれた。ビクッと体が反応し、ゆっくりと綺礼は顔を上げる。

 

 そこには涙を流していた璃正の姿があった。

 

「すまなかった」

 

 璃正はそう言った。

 

「父上……何故……何故謝るのですか?」

 

 

「お前の成長を見てきながら理解してやれなかった……いや理解しようともしなかった。

 

 お前の苦悩に気付く事が出来ない愚かな父親だ、私は」

 

 

「そんな事はありません! 父上は立派です!」

 

 

「綺礼……全て打ち明けてくれ。私はそれを受け入れよう。

 

 例え、美しい物を美しいと思えなくても、善ではなく悪を愛していても、私はお前を愛している」

 

 璃正は息子の苦悩に気付けなかった事に悲しみ、例えどんなに歪んでいても息子である綺礼を受け入れ、愛していると伝えた。

 

 綺礼はそれを聞き涙が出た。

 

「主は……神はこんな私を赦されるでしょうか?」

 

 綺礼はそう聞いた。それに応えたのは璃正ではなく龍牙だった。

 

「言峰綺礼、俺はお前らの神には会った事はないし、知りもしない。

 

 だがお前はこうして存在している以上、お前は此処に居ても問題ないと俺は思う。

 

 人間には善と悪の面があるし、10人いれば10人とも性格が違う。全く同じ存在などないし、清濁含めての人間だ。

 

 お前の様な人間がいても可笑しくはない。同じ悩みを持っていてもお前の様に自分を律する事なく唯、悦に浸る者もいる。それらに比べればお前はまだ立派だよ」

 

 龍牙はそう言い、カレンを抱え綺礼に近付く。

 

「お前は奥さんが死にそうになった時、泣いていて手を出せなかっただろう?」

 

 

「違う私は泣いてなどいない」

 

 綺礼はそれを否定した。

 

「いいや、お前は泣いていたさ……認めたくないが故の逃避と言う奴だ。

 

 それに苦しむ奥さんに手をかけなかったのは何故だ? 苦しむ奥さんを見ていたかったからか? 違うだろう? 

 

 お前は生きていて欲しかったんだ。心の何処かでそう思っていたから動けなかった」

 

 その言葉が綺礼の胸に刺さる。頭ではそんな事はないと否定しいるのに、何故かその言葉を受け止めている自分がいた。

 

 クラウディアと共に暮らし、傷付き苦しむ彼女を見て美しいと思った。そしてその己の手で殺せたら(愛せたら)と思っていた。だが出来なかった。

 

 何故か、理由は単純だ。こんなにも歪んだ自分を愛し尽くしてくれた彼女を失いたくなかったからだ。

 

「ぁあ……そうか私は失いたくなかったのか」

 

 

「言峰綺礼、お前はどんな歪んでいても人間だ。命ある限りその生を全うしろ。悩み苦しんで苦痛で止まってもいい、だが最後には立ち上がればいい。

 

 お前はまだ若い、やり直そうと思えば幾らでもやり直しがきく。まずは娘と向き合うとこから始めたらどうだ?」

 

 龍牙はそう言い、カレンを彼の前に差し出す。

 

 綺礼はカレンにゆっくり手を伸ばすが、カレンは生まれて初めて見る綺礼を怖がっているのかビクッと体を震わせる。

 

「当然か……」

 

 これまで向かい合おうともしなかった娘、恐らく自分の顔すら覚えていないだろう。いきなり父親だと言われても受け入れられないと綺礼は考えていた。

 

 手を引こうとした時、小さな手が綺礼の手に触れた。

 

「お……と……」

 

 カレンが小さな声で何か言っている。

 

「おとうさん」

 

 カレンは綺礼を父と呼んだ。

 

「すまなかった……許してくれとは言わない。だがこれからはお前の事を傍で見守らせてほしい」

 

 綺礼はそう言ってカレンを抱き締めた。

 

 龍牙の目には2人を抱き締める銀髪の女性も見えていた。女性は龍牙が自分を見えているのか分かったのか、彼に向かい一礼するとそのまま消えてしまった。



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EP85 決戦開始

 言峰綺礼の一件を解決して数時間後、龍牙はセイバー陣営、アーチャー陣営、ライダー陣営を大聖杯のある大空洞に呼び出していた。

 

「さて良く集まってくれた。呼び出たのは言うまでもない、聖杯に関してだ……まぁ見ての通りの状況だけど」

 

 

「これは一体……」

 

 彼等の前に広がっていたのは、大空洞を埋め尽くすどす黒い泥だった。泥は大聖杯から溢れだしており、光の壁に阻まれ、大空洞からは漏れだしていないが凄まじい量だ。

 

「サーヴァントは勿論、人間もそれには触れない方がいい。今は結界で封じ込めてるけど、何か取り込んだらしく泥だけが溢れてきた」

 

 

「これがこの世全ての悪(アンリ・マユ)……何ておぞましい」

 

 目の前の泥を見て、その異様さを身で感じたマスター達。

 

「これを機に、問題を一気に終わらせよう」

 

 龍牙はそう言うと自身の横の空間から何かを取り出した。

 

「「あっアハト翁!?」」

 

 取り出したのは、現アインツベルンの当主、ユーブスタクハイト・フォン・アインツベルンだった。

 

「さてと……奥さん、ちょっと此方に」

 

 

「私?」

 

 龍牙が呼んだのはアイリスフィールだった。彼女は何をするのか分からなかったが、取り敢えずそれに応え龍牙の横に来る。すると龍牙はアイリスフィールの胸に腕を突き刺した。

 

「!?」

 

 

「アイリ!? 妻に何を!?」

 

 それを見て切嗣とセイバーか動こうとするが、ジャンヌがそれを制する。

 

「大丈夫です、マスターを信じて下さい」

 

 

「取り敢えず、その体を普通の人間にする」

 

 そう言って龍牙はアイリスフィールの心臓を抜き取る。そして反対の手を上げると光が集まり黄金の果実が出現する。

 

「心臓を1から創る」

 

 黄金の果実から光が溢れ、アイリスフィールの身体を包み込んだ。

 

「これでよし……」

 

 

「あれ……なんともない?」

 

 

「そりゃそうだ、アンタを殺すつもりはないからね。アンタの聖杯の機能と引き換えに心臓を創っただけだ。ついでに人間並みの命を与えた」

 

 目の前で起きた事が理解出来ていない一同。

 

「命与え……心臓を創る……」

 

 

「……」

 

 魔法……いやそれを越えるであろう奇跡を目の当たりして呆然としているマスター達。

 

「さて……取り敢えずこれを、フンッ!」

 

 龍牙はアイリスフィールから抜き出した心臓をアハト翁の身体に入れる。

 

「ぐっ!?」

 

 

「聖杯が欲しかったんだろ? だったらお前が聖杯になってしまえばいい……それじゃ、逝ってらっしゃい」

 

 アハト翁を持ち上げると、大空洞に向かって投げた。

 

「「えっ……ちょっ」」

 

 周りの者達が止める間もなくアハト翁は結界を砕き、泥に落ちた。

 

 この世、全ての悪(アンリ・マユ)はアハト翁を逃がすまいと、泥を無数の触手の様に動かし、アハト翁を飲み込んだ。

 

「今のアレには器がない……だから与えてやったまでのこと。そうじゃなければアレは形を定めないからな。

 

 ほらっ、本命が出てくるぞ」

 

 龍牙はそう言うと、歩を進め大空洞に入る。

 

 

 

 大空洞に広がった泥が全て、一ヵ所に集まり、ゆっくりと人の形になっていく。

 

「なんだ……あれは?」

 

 

「人? ……いや、まさか」

 

 

『ふぅ……やっとまともな形でこの世に出れたか』

 

 現れたそれは死人の様な白い肌、黒いドレス。その姿はアイリスフィールと全く同じだった。

 

「あれは私……いや違う。もしかしてユスティーツァ様」

 

 それはアイリスフィールの元となった人物、かつて根源へと至る為に聖杯へとなった冬の聖女ユスティーツァ・リズライヒ・フォン・アインツベルンだった。

 

『ほぉ……我の後継か』

 

 

「どうして貴女様がそんなお姿に!?」

 

 

『さてな……何故、我の人格を再現されたかは分からぬが……言える事はただ1つ。

 

 早く我を滅ぼすがいい』

 

 

「へぇ……象っただけでなく、人格も……しかも正気を保っているとは」

 

 

『そなたは……そうか、そなたが異なる時間より来た者か』

 

 ユスティーツァは龍牙は見てそう呟く。

 

 どうやら、ユスティーツァの姿だけでなくその人格も再現した様だ。そして彼女はその意思でこの世、全ての悪(アンリ・マユ)を抑え込んでいる様だ。

 

「俺の事を……まぁいい。さて冬の聖女よ。

 

 俺はその後ろの大聖杯ごと、アンタを破壊する。問題は?」

 

 

『ない……今は我が抑えているが、直にこの世、全ての悪(アンリ・マユ)はこの街を、世界を飲み込むだろう』

 

 

「だろうな。さっさと終わらせて……」

 

 龍牙の言葉の途中で、ユスティーツァの足元から泥が溢れだし、そこから無数の何かが現れる。

 

「Aaaaaaaaa!」

 

 

「「「キシャシャシャ!」」」

 

 それは雁夜のサーヴァントであったバーサーカー、綺礼のサーヴァントであったアサシン達、そして無数な虫だった。

 

「おいおい……蟲爺とバーサーカーはともかくアサシンまで取り込んで居たのか、成る程、だから神父との契約が切れてたのか。

 

 言っても仕方ないか。アンタ等は此処から奴等を出すな、俺が力を解放するまで時間を稼いでくれ。

 

 ギル、お前は慢心で取り込まれない様に」

 

 

「慢心せずに何が王か! ……と言いたい所であるが、お前の言う通りにしよう」

 

 

「お前が素直に聞くなんて……」

 

 

「おかしいと言うのか?」

 

 

「うん……お前が素直に言うこと聞くなんてシドゥリやシャムハトに怒られてちょっとの間だけでしょ?」

 

 

「我とて成長しておるわ!」

 

 

「おふざけは此処まで……さて始めるか!」

 

 この特異点最後の戦いが今始まる。

 

 

 




・ユスティーツァ

アイリスフィールやイリヤの原型となった人物。此度は何の悪戯か、姿と共に人格が再現され顕現。生前の意思を失っていなかった為に、己の意思で少しの間、アンリ・マユを抑えていた。


・アサシン(ハサン)

何時の間にかアンリ・マユに取り込まれていた。


・蟲爺

不老不死を目指した間桐の当主、バーサーカー共にアンリ・マユに取り込まれた。意識は消え去り、身体を形成していた蟲だけが残った。

・バーサーカー(ランスロット)

蟲爺と共に取り込まれ、アンリ・マユの手先となった。


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EP86 終焉の鐘が鳴る

 ~大空洞~

 

 聖杯の本体があるこの大空洞に顕現したアンリ・マユ。その眷属として無数の蟲とアサシン軍団、バーサーカー。

 

 それに立ち向かうのは、龍牙、ジャンヌ、ディルムッド、セイバー、アーチャー、ライダー陣営。

 

「と言う訳で暫く頼む……此処まで魔力使い過ぎたから少し回復させるんで……ジャンヌ、ディルムッド、此処は任せる。一応外にも待機させてるが、出来るだけ出さない様に頼む」

 

 

「はい!」

 

 

「承知!」

 

 龍牙はそう言うと目を瞑り、その場に座り込んだ。ジャンヌはその旗を、ディルムッドは槍を構える。

 

「仕方ない……セイバー、頼む」

 

 切嗣にそう言われ少し驚いた顔をするアルトリア。

 

「貴方に頼まれるのは変な感じですが……分かりました。

 

 我が剣に賭けて奴等を此処から出しはしません!」

 

 セイバーは風王結界を解除する、聖剣が姿を現した。

 

「ライダー! 任せた!」

 

 

「フハハハハハハ! 任せろ! 彼の騎士王や英雄王と並んで戦うのも、また血が滾るわ!」

 

 イスカンダルは雷を纏いながら、戦車ごと突っ込んで行った。ウェイバー君(マスター)を乗せたまま。ウェイバーが何やら悲鳴を上げているが、その悲鳴も直ぐ様、戦車の轟音に掻き消されてしまった。

 

「英雄王」

 

 

「貴様に言われずとも分かっておるわ」

 

 ギルガメッシュは複数の砲門を解放し、そこから宝具が顔を覗かせる。

 

「ハハハハハハ! 魔力の貯蔵は充分なのでな! 派手に行くぞ、雑種!」

 

 宝具の雨が降り注ぎ、アンリ・マユの眷属達が滅していく。

 

 

 

 

 ~大空洞外~

 

 大空洞の外では龍牙のサーヴァント達が待機していた。

 

「はっ!」

 

 

「これでっ!」

 

 

「■■■!」

 

 アタランテ、マルタ、ヘラクレスが散会し、大空洞から溢れたアンリ・マユの眷属(蟲)達を潰していた。

 

 どうやら、出入口だけでなく岩の隙間などからも出てきているらしい。

 

「アタランテ、3時方向! マルタ、少し下がって! ヘラクレスはその場で待機!」

 

 キルケーは後方から支援と指示を出していた。

 

「ぁあ、もう! 多過ぎだ!」

 

 

「キルケー! 口ではなく手を動かせ!」

 

 

「分かってるよ! でもキリがない!」

 

 

「それは仕方ないでしょう。此処で私達が手を抜けば被害を受けるのは罪もない人々です。此処が踏ん張り処! タラスク!」

 

 マルタの背後にタラスクが顕現し、共に敵を倒し始めた。

 

 今の所、彼等の活躍により街に被害は出ていないものの、キリがないのは確かである。

 

 これを解決するには大元を一刻も早く潰すことなのだが……

 

 

 

 ~大空洞内~

 

 それぞれのサーヴァントが、眷属を相手に奮闘している。

 

 蟲は小さいものの、難なく倒せているが問題は無数のアサシン達である。眷属と化しても高いステルス性と閉鎖空間での起動力に長けているアサシン、それぞれのサーヴァントは泥に触れぬ様に注意しつつ戦っており、加えマスターを護らなければならない。

 

 ライダーと共に戦車に乗っているウェイバーを除く、他の者達は魔術や火器による自衛を行っているものの、魔力も無限ではない。前衛であるセイバー、ランサー、ライダー、マスター陣を守りつつ戦っているジャンヌとギルガメッシュ。一気に宝具で一掃出来ればいいのだが、聖杯を破壊し、泥が溢れ出せば少なからず被害が出てしまう為に使用出来ずにいた。

 

 そうしている内にマスター達にアサシン達が得意の暗殺を仕掛け始めた。

 

「アギャャャャ!」

 

 

「キャハハハハ!」

 

 狂った様に捨て身で暗殺を仕掛けてくるアサシン達。

 

「このっ!」

 

 ジャンヌが聖旗でアサシンを打ち倒す。倒されたアサシンはその場で霧散する、だが間を空けずに泥より新たなアサシンが出現……これではただ消耗するだけである。

 

「ギルガメッシュ! 貴女も本気を出したらどうですか!?」

 

 

「本気を出すまでもない……が、これでは消耗する一方か。だがあまり派手な事は出来んな……ムッ」

 

 アサシン達が一斉にマスター達に襲い掛かる。どうやらサーヴァントを倒すよりマスター達を倒した方が早いと気付いたらしい。

 

 前衛のサーヴァントはアサシン達、蟲、バーサーカーを相手にしている為に此方には来れない。

 

「チッ!」

 

 ギルガメッシュとジャンヌがそれに対応しようとする、だがその時

 

 

 

 

ゴーン ゴーン

 

 

 と鐘の音が響き始めた。

 

 それを聞いたアサシン達はピタッと動きを止め、その場から飛び退いた。

 

「これは……」

 

 辺りの気配が変わった事に気付いたサーヴァント達。セイバーは聖剣を解放し、ギルガメッシュはその手に乖離剣を持つ。

 

「成程……残りの一体はアンタだったか」

 

 今まで目を瞑っていた龍牙が何かに気付きそう声をあげる。

 

 ー我を呼び出しし契約者よ。汝、何を成すか? ー

 

 謎の声は龍牙に向かいそう尋ねる。

 

「人理を護る……人が己が手で滅びるなら諦めよう。しかし此度の焼却は人間から産まれながらに、人間を知らない魔神だ。そんな輩に人類を滅ぼさせる訳にはいかない。

 

 だが今は目の前のこの世の悪をどうにかしないと……手伝って貰えるか?」

 

 

 ー良かろう……我を使うがよいー

 

 龍牙の後ろにそれは現れる。

 

 髑髏の仮面、黒衣、大剣、放つそれは死の気配。

 

「我は冠位の暗殺者(グランド・アサシン)、山の翁、ハサン・サッバーハである。

 

 白と黒の龍の力を使いし契約者よ、これより我は汝の影となろう」

 

 始まりにして、終わりの山の翁、冠位を持つサーヴァントが此処に召喚された。

 

 

 



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EP87 終幕

 冠位(グランドクラス)のサーヴァントとは元来、個人に呼びださせる事はない。人類悪(ビースト)に対する最終兵器として抑止力により呼び出されるサーヴァントだ。

 

 ならば何故、龍牙は山の翁(グランド・アサシン)を呼び出せたのか? 理由は簡単だ、龍牙もまた抑止力の力を使いサーヴァントの出力を上げている。人理を守ると言う名目で抑止力と契約し、繋がっているからだ。ならば冠位のサーヴァントを呼べても不思議ではないだろう。

 

「さてと……魔力は貯まったな。さて、ハサン? それとも山の翁と呼べばいいか?」

 

 

「好きにせよ」

 

 

「じゃあ、翁で……取り敢えず、翁は」

 

 

「獣に堕ちし奴等の首を断つ」

 

 ギンッとその目が光り、暗殺者に似合わぬ大剣を引き抜いた。

 

「分かった。じゃあ、他の者達はもう暫く頼む。創造の龍よ、我が身を纏え」

 

 龍牙はその身に創造龍の鎧を纏い、翼を広げた。

 

「汝が準備を行う時間は我等が稼ごう」

 

 山の翁はゆっくりとその歩みを進めた。彼の前には無数のアサシン達がいる。

 

 此度の聖杯戦争にて召喚されたアサシンは、百貌のハサン。山の翁の名を継ぎしハサン・ザッバーハであり、多重人格者。多重人格を駆使して暗殺を行っていた。現在はこの世、全ての悪(アンリ・マユ)の眷属に成り果て、意志なき獣となってしまったが、彼女もまた山の翁の1人。故に百貌のハサンは恐怖する。

 

 何故なら、初代山の翁は始まりのハサンであり、終わりのハサンだからだ。歴代のハサンは皆、死ぬ時、初代に首を刎ねられその役目を終えたからだ。百貌もまた例外ではない、目の前の山の翁こそ、ハサンにとっての『死』なのだ。

 

「百貌よ……我が最後に首を断った者よ。貴様は我等が神の教えに背き、己の(願い)の為に異端の杯を求め、挙げ句の果てには獣へと堕ちたか。

 

 なんと言う堕落……この愚か者め! その首、再び我が断つ! 首を出せ!」

 

 ぶわっと彼の身体から漆黒のオーラが立ち上ぼり始めた。

 

「『神託は下った。聴くが良い、晩鐘は汝の名を指し示した。

 

 告死の羽──―首を断つか【死告天使(アズライール)】!』」

 

 死を告げる天使の名を冠する宝具が解放された。

 

 山の翁の大剣は何の変哲もない大剣であるが、彼が生涯振るい続け、信じ続けた信仰が染みついており、幽谷の境界を歩み続ける剣は、振るう度に全ての命に死を与える。

 

 その一撃を百で貌のハサンを切り裂いた。

 

「「「くぎゎ……ぁあああ」」」

 

 

「ぁあああ……鐘の音が……初代様……申し訳ありま……せ……ん」

 

 最後に正気に戻ったのか、百貌のハサンは山の翁に謝罪し消滅し、そして他の分身体も消滅した。

 

 再び泥の中からハサン達が出てくるかと思ったが、もう出てくる事はなかった。

 

「アサシンが消滅した……」

 

 

「ワハハハハハ! 凄まじい殺気! 凄まじい剣気! うむ! 是非とも余の配下に誘いたい!」

 

 

「ほぉ……」

 

 それを見た各サーヴァントは様々な反応を示すが、その手は止まっていない。この世、全ての悪(アンリ・マユ)の眷属達をそれぞれの宝具で蹴散らしていく。

 

 アサシンは消えたものの、未だに蟲とバーサーカーがいる。

 

「Aaaaaaaaa!」

 

 

「ぐっ! バーサーカー!」

 

 

「取り込まれても、やはりですか!」

 

 バーサーカーはセイバーとジャンヌを執拗に狙い、機関銃を連射している。

 

「何故此方ばかりを」

 

 

「それは……貴女がアーサー王だからです、セイバー」

 

 

「どういう事です、ルーラー?」

 

 

「バーサーカーは……彼は円卓の騎士の1人、ランスロットだからです」

 

 

「なっ!?」

 

 セイバーは驚愕する。セイバー……アルトリアにとってランスロットは最も信頼し、敬愛する高潔な騎士だった。その彼が狂戦士に堕ちる等信じられなかった。

 

「ランスロット……ほっ本当に貴方なのか!?」

 

 

「Aaaaaaa……」

 

 バキッという何かの砕ける音と共にバーサーカーを覆う霧が消え兜が割れ、その手に剣を装備する。

 

 無毀なる湖光(アロンダイト)、円卓の騎士ランスロットの持つ神造兵器だ。

 

「ぁぁ……サー・ランスロット! 何故!? 何故貴方が!?」

 

 

「Ar……thur」

 

 

「何故貴方程の騎士が! バーサーカー等に!?」

 

 

「セイバー」

 

 かつての盟友が魔道に落ちてしまった事に悲しみ膝をつくセイバー。ジャンヌにはその悲しみが理解できた。

 

 本来、この聖杯戦争に召喚される筈であったキャスター……ジル・ド・レェ。彼もまた素晴らしい騎士であったが、ジャンヌの死を切っ掛けに狂い、魔道へと堕ちてしまった。それを第1特異点で目の当たりにしたジャンヌ。

 

「セイバー、貴女がすべき事は嘆く事ではありません。

 

 貴女がすべき事は、理由はどうあれ道を誤った盟友を斬る(救う)事ではないですか!」

 

 ジャンヌはセイバーにそう言う。第1特異点でジャンヌは盟友を止める為に己の剣で彼を貫いた。

 

「っ……ランスロット」

 

 セイバーは再びエクスカリバー(聖剣)を握り締め、立ち上がる。

 

「私は……今を生きる人々を守る為に、貴方を救う為に、貴方を斬る!」

 

 その聖剣が解放され、刀身が眩い光を覆う。

 

 そしてセイバーとバーサーカーの繰り出す無数の剣撃が火花を散らす。

 

「ハアァァァ!」

 

 

「Arthuraaaaaaaa!」

 

 互角の激闘を繰り広げているセイバーとバーサーカー。しかし何かの切っ掛けがあれば、決着はつくだろう。一度互いに距離を取り、息を整える。

 

「ふぅふぅ……」

 

 

【友を止めたいですか?】

 

 

「!?」

 

 セイバーに誰かが声をかける。普通は何処の誰かも分からない声が語りかけてくれば警戒するが、この時、彼女は何故か声に対して安堵した。

 

【止めたいのであれば力を貸しましょう】

 

 セイバーは声の正体は分からないものの、何処か安心する様な声に答える。

 

『ランスロットを止めたい! 何処の誰かは知りませんが、力を貸して頂きたい!』

 

 

【いいでしょう】

 

 その声と共にセイバーの身体に力が溢れ、彼女の周りに人の形をした光が複数現れる。

 

「これは……」

 

 

『王』

 

 

『参りましょう』

 

 

『行くぜ、父上!』

 

 光の正体はかつて自分に仕え共に戦った円卓の騎士達だった。

 

「皆……」

 

 

『ランスロット卿を止めましょう』

 

 

「えぇ! 行きましょう!」

 

 セイバーはかつての盟友共に駆け出す。

 

『おらおらっ! なに父上に剣を向けてんだ!』

 

 

『ランスロット卿、貴方らしくもない。さっさと目を覚ましなさい!』

 

 

「Aa!?」

 

 これには狂化されたランスロットも驚いているらしく、動きが鈍くなる。

 

『何やってるんですか! このおっさん!』

 

 紫色の髪、大きな盾を持った騎士にそう言われ大きな一撃を喰らうバーサーカー。吹っ飛ばされた彼は泣いていた。それ程痛かったのか、全く別の要因かは不明だがダメージは大きい様だ。

 

「ハアァァァ!」

 

 大きなダメージを受け立つのもやっとなバーサーカーは最後にセイバーの一撃をまともに喰らった。

 

「がぁ……」

 

 

「サー・ランスロット」

 

 

「ぁあ……やっと……やっと貴方の手で」

 

 バーサーカーのその顔は穏やかなものだった。完全に霊核に砕かれたらしく、彼は消滅した。

 

 

 

 

 それらを見ていた龍牙は動き出す。

 

「始めよう」

 

 創造龍の鎧を纏った龍牙は、創造龍の翼を大きく広げる。創造龍の翼には12の宝玉が嵌められている。それぞれが万物の象徴だ、それが今、眩い光を放つ。龍牙はその翼で自身の身体を包んだ。

 

 ー我が声に応え、目覚めよ。【無】より産まれ万物を創り、世界を形成せし、母なる創造龍よ。

 

【創造】により無より世界を創れ。偉大なる母の愛により、輪廻の輪の魂達に新たなる【生】を与え、世界を循環させよ。

 

 我【楔】として、【裁定者】としての役目を果たす。我が魂力を喰らい、我が肉体を通し現世へ顕現せよー

 

「【創造龍(クリエィティス・ドラゴン)龍化(ドラグーン・ドライブ)】」

 

 眩い光と共に、龍牙の身体を通し、総ての母たる創造龍が顕現した。

 

 破壊龍が破壊や死、恐怖の化身であるならば、創造龍はその対を成す存在。彼女から発せられる暖かな光は、全てを慈しむ母の愛そのもの。光に照らされた泥と眷属達は浄化され、消滅していく。

 

【ガアァァァ!】

 

 咆哮と共に光が強くなり、泥の面積が狭くなり、この世、全ての悪(アンリ・マユ)の周囲のみとなった。

 

【此処で終わらせよう】

 

 龍牙の声と女性の声が重なり、龍化した彼から凄まじい力が溢れ出す。

 

創造龍の息吹き(クリエィス・ブラスター)

 

 龍化した龍牙は七色のブレスを放つ。

 

 そのブレスを受けたこの世、全ての悪(アンリ・マユ)の依形となったユスティーツァは安堵の笑みを浮かべながら消滅した。



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EP88 それぞれの幸せ

明けましておめでとうございます。

今年の初投稿になります。


 第4次聖杯戦争。

 

 大聖杯を汚染していたこの世、全ての悪(アンリ・マユ)は龍牙の一撃により、聖杯と共に消滅。それと同時にサーヴァント達も、世界を救った事で満足し退去した。

 

 

 

 

 ・セイバー陣営

 

 小聖杯であったアイリスフィールとその娘イリヤスフィールは龍牙の治療により、普通の人間と変わらぬ身体に。その後、切嗣と切嗣が引き取った士郎、メイドのセラとリーゼリットと共に冬木で生活しており、たまに舞弥が遊びに来ていた。

 

「おーい、イリヤ、士郎、こっち向いて~」

 

 

「「切嗣(じいさん)また写真?」」

 

 

「そうだよ、さぁ笑って笑って」

 

 

「あらあらっ切嗣ったら親バカねぇ」

 

 

「えぇ、元の切嗣の面影がありません。ですが……あの切嗣が本来の切嗣なのですね」

 

 幸せそうな切嗣を見たアイリと舞弥、彼女等も幸せそうである。

 

 

 

 

【いいのかな、これ? 士郎君はまだしも……舞弥さんは……まぁ本人達がいいならいいか】

 

 

 

 

 

 

 ・アーチャー陣営

 

 時臣と葵は桜の件を反省し、娘達に自分の未来を選ばせる事に決めた。しかし魔術を継ぐことも考え、通常の教育と共に魔術も学ばせる事に。桜は特殊な属性持ちの為、どうにか護れないかと思っていた所、ケイネスから桜を養女にしたいと話が出てくる。何でも龍牙から頼まれたらしく、養女と言うのは形だけで、エルメロイ家の養女となればそう簡単に手を出させない様にするらしい。

 

「桜! 今度はあっちで遊びましょ!」

 

 

「うん」

 

 子供らしく笑っている凛と嬉しそうな表情の桜、それを見守る葵。

 

 その光景を遠くから見守る時臣。

 

「……」

 

 

「何だ、時臣、落ち込んだ顔をして」

 

 

 

「雁夜か……落ち込んでいる訳ではないさ。こんな場所からしか我が娘達を見守れないとは……親として情けないと思ってね」

 

 

「当然だろ……そんだけの事をしたんだ」

 

 

「あぁ……私は親としては失格だ。出来るだけ魔術の道以外の事を示してやりたいが、根っからの魔術師の私には無理だ。どうしても魔術と絡めて話をしてしまう」

 

 

「……それで?」

 

 

「だから雁夜、君があの子達に魔術以外の事を教えてやってほしい」

 

 

「ちっ……らしくないな。常に優雅だとか言ってるくせに……俺だって完璧な人間じゃない、むしろダメダメな大人だ。けど出来るだけの事はあの子達に教れる事は教えるよ、だからお前も諦めるな。あの子達の親であることを」

 

 

「雁夜……すまない」

 

 

「別にお前の為じゃない……」

 

 雁夜はそれだけ言うと子供達の元に向かった。

 

 

【まぁ……子供達が幸せならそれでいい。後は彼等次第だ】

 

 

 

 

 

 

 ・ランサー陣営

 

 ケイネスは婚約者のソラウと共に帰国、ソラウは現在ケイネスにベタ惚れ、結婚からそこそこ経っているものの、新婚の様に仲がよく、子宝に恵まれた。龍牙に頼まれ、あらゆる方面に手を回して、桜を養女に迎えた。しかし形だけなので、桜本人は家族と一緒に日本で暮らしてる。ケイネス曰く龍牙には感謝してもしきれない恩が出来たと語る。

 

「ケイネス、ご飯よ」

 

 呼びに来たソラウ、彼女の腹部は膨らんでいる。彼女はケイネスの子供を身籠っている様だ。

 

「あぁ、ありがとうソラウ。ぁあ! またそんな重そうな鍋を持って! 何かあったらどうするだ!? 私に言ってくれればいいのに」

 

 

「ケイネス、心配し過ぎよ」

 

 ケイネスは重そうな鍋を持っている身重なソラウを案じてそう言うが、ソラウからすれば心配し過ぎらしい。

 

「いやはや、我が叔父ながら面白い」

 

 

「ライネス、何しに来た?」

 

 

「なぁに、叔母君と産まれてくる子供の様子を見に来ただけさ」

 

 彼女はライネス・エルメロイ・アーチボルト。ケイネスの姪に当たる人物だ。

 

「あらっ、ライネスいらっしゃい。ライネスもご飯食べていく?」

 

 

「あぁ、叔母上のご飯は美味しいから頂こう。それはそうと……叔父上は心配症だね」

 

 

「心配されるのは嬉しくはあるのだけど……何処に行くにも着いてこようとするの」

 

 

「しっしかし重い物があるなら私が持てばいいし、それにソラウは美人だから他の男が寄って来ないとも限らないし……」

 

 

「大丈夫よ、私が貴方以外の男に靡く訳ないでしょう?」

 

 

「ソラウ……」

 

 互いに顔を赤くして見つめ合うケイネスとソラウ。

 

「ぁ~お邪魔の様だし、私はこれで失礼するよ。食事は次回に、するよ」

 

 惚気に当てられたライネスはそそくさとその場から退散した。

 

 

【ぁ~口から砂糖が出そう。人間、変われば変わるものだ】

 

 

 

 

 

 

 ・ライダー陣営

 

 ウェイバーは時計塔へ帰り、魔術の勉学に励む事に。始めこそ、イスカンダル召喚の媒体を盗んだ事をケイネスにネチネチと嫌みを言われたものの、ケイネス本人も彼の魔術の腕に見込んでいる。数年後にはケイネスの補佐等を行う事になった。イスカンダルに認められ、臣下の1人となったのは言うまでもない。

 

「ふぅ……はぁ~、ライダー。お前、こんな大変な道のりを渡ったのか」

 

 彼は現在、砂漠の真ん中にいた。彼は休みを利用して、イスカンダルの軌跡を辿っていた。

 

「……何時かお前に色々話してやるからな。待ってろよ!」

 

 

『ぁあ、それは楽しみだ。待ってるぞ坊主』

 

 

「ライダー!?」

 

 ウェイバーがその声に振り返るが、それにライダーの姿はない。

 

「むぅ……そんな訳ないか、よしっ! 行こう!」

 

 ウェイバーはそう言って立ち上がるとまた歩を進め始めた。

 

 

 

【頑張れよ、ウェイバー君。いずれ王に会えるといいな】

 

 

 

 

 

 ・アサシン陣営

 

 言峰璃正、綺礼、カレンは冬木の教会にて仲良く? 暮らしている。カレンは祈りを捧げ、町人達とのコミュニケーションをとり、年相応の子供として暮らしていた。璃正は爺馬鹿になり、孫娘に近付く男は年に似合わぬ筋肉で排除している。綺礼は始めこそ戸惑っていたものの、共に過ごす内に自分の娘である事を身をもって痛感した。最近ではカレンに対する報復なのか、教会主催の遠足の弁当をキャラ弁にして、満足している。似た者親子である。

 

「お父さん、遠足があるのですが……」

 

 

「ほぉ、そう言えばそうだったね。今度は何のキャラ弁にしようか?」

 

 

「キャラ弁は止めて下さい。普通のでいいです」

 

 

「遠慮するなカレン。可愛い娘の為なら苦労は惜しまない」

 

 

「私はそこまでお子様ではないんですけど……「カレンちゃん!」お爺様」

 

 

「ついさっき可愛い服を見つけたので買ってきた! 是非着て欲しい!」

 

 璃正が持っているのはヒラヒラのついた可愛らしい服だ。璃正はカレンが普段からシスター服以外着ないのを気にして、頻繁に服やらを買ってくる……と言うか度が過ぎて爺馬鹿だ。

 

「はぁ……それよりお爺様、この間、教会の土地を買い取ろうとしていた反社会組織の方々ですけど」

 

 

「うむ! お爺ちゃんが(肉体言語で)説得してきた!」

 

 

「父上……その時、服を脱いでませんでしたか?」

 

 

「あぁ、手榴弾で焼け焦げてしまってな」

 

 

「教会の評判が……」

 

 半裸の不審者が出ると近所の噂で聞いた綺礼はもし父親とバレれば教会の評判が落ちそうなのを心配していた。

 

 そんな父親を愉悦顔で見ているカレン。

 

 

【血は争えないなぁ】

 

 

 

 

 

 ・キャスター陣営

 

 龍牙の介入により、聖杯戦争には召喚されなかったが、聖杯戦争中に冬木の警察署前にボコボコにされた青年が居たとか。

 

「最高にCOOLなことねぇかなぁ?」

 

 

「ちょっとそこのお兄さん」

 

 

「ん……俺?」

 

 

「あぁ……ちょっといいかな?」

 

 

「雨生龍之介だね?」

 

 

「そうだけど、アンタ誰?」

 

 

「通りすがりさ……マルタ(姉さん)お願いします」

 

 

「誰が姉さんですか、マスター? まぁいいです……さてと」

 

 

「へぇ、イカしたお姉さんじゃん」

 

 

「鉄拳制裁!」

 

 

【取り敢えず再起不能にしておいた】

 

 

 

 

 

 ・バーサーカー陣営

 

 雁夜は龍牙の治療により、髪色以外は元通りに。現在は龍牙が残した資金を元手に投資等を行い、遠坂家の近くの家を購入し、桜と共に暮らしている。週に何度か葵と凛が訪れて桜と共に過ごしているのを見守っていた。

 

「ふぅ……一段落ついたな」

 

 雁夜は仕事に一段落つけると椅子に座る。彼の現在の職業は主に写真館と投資である。龍牙の残した金を基に、家と写真館を兼ねた物件を購入していた。元々写真撮影が趣味だった為、それを仕事にした様だ。後は投資もそこそこ上手くいっており、桜と共に暮らしていくには十分な稼ぎを得ていた。

 

 ーコンッコンッー

 

「はい、どうぞ」

 

 雁夜がそう言うと桜が入ってきた。

 

「おじさん、今大丈夫ですか?」

 

 

「あぁ、大丈夫だよ、桜ちゃん」

 

 

「……えっと、その」

 

 

「?」

 

 桜は1枚の紙を持っていた。それを受けとると、それを見た。

 

【保護者参観案内】と書かれていた。どうやら桜が通っている小学校からのプリントらしい。桜はある程度まで精神的にも回復したので、つい最近小学校に復帰し、

 

「保護者参観か……そんな時期かぁ。分かった、葵さんに連絡しておくね」

 

 

「あの……雁夜おじさんにも……来てほしいです」

 

 

「えっ俺?」

 

 桜は肯定した。

 

「でも保護者じゃ……いや保護者ではあるけども」

 

 

「ダメですか?」

 

 

「そっそんな事ないよ! でも俺でいいのかな?」

 

 

「おじさんに……『雁夜お父さん』に来てほしいです」

 

 

「分かったよ、仕事の都合はつけるから……えっ、桜ちゃん、今なんて?!」

 

 

「おっお休みなさい」

 

 桜は恥ずかしかったのか顔を赤くして出ていった。

 

「きっ聞き違い……いや確かに……」

 

 雁夜はお父さんと呼ばれた事が余程嬉しかったのか、幸せそうな顔をして気を失った。

 

 

 

【これは、これは……まぁ良かったな、雁夜おじさん】

 

 

 龍牙の介入によりそれぞれが、各々の幸せをかみしめていた。

 

 

 

 

 

 



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第7特異点 絶対魔獣戦線 バビロニア
EP89 いざ、バビロニアへ


 ~【無】~

 

 龍牙が拠点する空間、彼は此処に帰還し自分の部屋で次の特異点へ向かう準備をしていた。

 

「さて……第6特異点は藤丸君達が攻略した様だし、残るはバビロニアか。久しぶりに帰れるか。

 

 ただ神代だけあってマナが濃いか。俺は別として現代の人間には毒だな……取り敢えず用意だけはしておこう。

 

 バビロニアはかなり不安定だな。神が数柱いる? そりゃ不安定にもなるか、俺も力を使うなら連れていけるのは……って翁は抑止力に呼ばれて先に行ってるのか。なら連れて行けるのは最大2人か」

 

 色々な情報を頭に叩き込む龍牙。

 

「はぁ……神か。どんな神が召喚されてるかは知らんが、出来ればアレは使いたくないなぁ。でも神が相手となると使わない訳にはいかないかぁ」

 

 龍牙は机の引き出しに仕舞っていた何かを取り出した。どうやらそれはアルバムの様だ。アルバムを開くと懐かしそうにそれを見ていた。

 

「失礼します、マスター」

 

 

「ん? ジャンヌとオルタ、スカサハか。何の用だ?」

 

 

「次の特異点についてよ……って何見てるの?」

 

 

「あぁ、昔の写真をな」

 

 ジャンヌ達はそれを聞いて興味を持ったのか、アルバムを覗く。龍牙は見たいならどうぞとそれを譲った。

 

「へぇ、小さいマスターちゃんか……」

 

 

「ほぉ……これが写真とやらか。誰でも扱えるのだったな」

 

 

「あぁ、俺のいた時代では此処まで小さくなってるし、写真だけでなく離れた人と会話も出来るし、調べものも出来る様になったよ」

 

 龍牙はそう言いながらスマートフォンを机の上に置いた。スカサハはスマートフォンを手に取り興味深そうに見ていた。

 

「成程のぉ……こんな便利な物が出来るなら魔術や奇跡が廃れるのも頷ける」

 

 

「まぁね……文明を発展させる毎に、自然への感謝や大切な事を忘れていったのは言うまでもない。だから俺の世界では神が攻めて来た。本来であれば仕方ないことではあるけど、あっちの神々はあまりに傲慢だったから俺が戦った訳さ」

 

 龍牙はそう言いながら椅子に深く座る。

 

「マスターは……後悔はないの?」

 

 

「後悔?」

 

 

「最後には裏切られたんでしょ?」

 

 ジャンヌ・オルタはそう聞いた。

 

「後悔はないかな……家族が無事に過ごせるならそれで良かったんでな」

 

 

「そう……これは?」

 

 ジャンヌ・オルタは少し悲しそうな顔をしていたので、それ以上は聞かず、アルバムに目を落とすと小さい頃の龍牙と同じくらいの年頃の男児が写っていた。

 

「ねぇ、マスター、これは誰?」

 

 

「ん? ……これは」

 

 龍牙は頭に手を当てて誰なのかを思い出している様だ。

 

「ぁあ……小さい頃から一緒だった奴だ。小さい頃から色々遊んでた」

 

 龍牙はそう言う、しかし家族の話をしている時とは違いその声には感情は籠ってなかった。

 

「仲良かったの?」

 

 

「あぁ……」

 

 

「そう……」

 

 3人は龍牙の態度に不思議に思ったが、また嬉しそうに家族の話をし始めたので気にしないことにした。

 

 

 

 

 

 龍牙は準備を整えるとサーヴァント達を呼び出した。

 

「と言う訳で向こうの状況次第で呼ぶので準備していてほしい」

 

 

「ウム……何時でも呼ぶがいい」

 

 

「分かりました」

 

 

「承知!」

 

 龍牙の言葉にそれぞれ返答する。すると彼の身体が光に包まれ始めた。

 

「おっとそろそろ時間か……じゃあ、また」

 

 その言葉を最後に龍牙は旅立った。

 

 

 

 

 



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EP90 花を纏った男?怪しいね!

 龍牙は目を開くと、そこには一面の木々が広がっていた。

 

「森か……どこの森だ?」

 

 周囲を見回すがあるのは木、木、木、ばかり、龍牙がバビロニアに土地勘があっても、これでは分かるものも分からない。

 

「取り敢えず森を抜けないとな……歩いては時間掛かりそうだし、飛ぶ方が早いな」

 

 そう言うと創造龍の翼(クリエィス・ウィング)を呼び出し、翼を羽ばたかせ、背高い木々を越えて空に舞い上がる。

 

「すぅ……はぁ……懐かしい空気だな」

 

 グルっと見渡すが、森と荒地しか見えない。

 

「ん、あれは?」

 

 龍牙は空から何か落ちてくるのが見えた。

 

「もう少しレイシフトの人間の事を考えて欲しいね」

 

 

【創造龍:鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 龍牙は創造龍の鎧を纏うと、落ちてくる何かに向かい加速する。

 

 

 

 

 

 

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 

「マスター! 手を!」

 

 立香はマシュと彼女に引っ付くフォウはこの第7特異点にレイシフトしたのだが、その先は地上から遥か高い空だった。

 

「フォォォォウ!」

 

 立香とマシュは互いに手を伸ばすが、掴めずにいた。

 

「流石にこのまま落ちたら死ぬよ、君等」

 

 

「「えっ」」

 

 立香とマシュが振り返るとそこには龍牙が楽しそうに此方を見ていた。

 

「「龍牙さん!?」」

 

 

「助けはいる?」

 

 

「「はい!」」

 

 

フォウ! フォウ! (早く助けてよ!)

 

 

「了解」

 

 龍牙は2人にそう答えると、2人の手を掴む。すると彼等の落下速度が遅くなり始めた。そしてゆっくりと地上へと降り立った。

 

 2人の手を離して鎧を解除した。

 

「さて……取り敢えず怪我はない?」

 

 

「えっ……はい」

 

 

「大丈夫です」

 

 

「ならっ良かった」

 

 立香とマシュはまだ龍牙を警戒している様だ。少し距離をとっている。

 

「さて……俺には君達に対する敵意はないよ。邪魔をするなら話は別だけど」

 

 

「龍牙さん、まずはありがとうございます……貴方は一体何が目的なんですか?」

 

 立香は龍牙に問う。

 

『それは僕達も聞きたいな』

 

 通信機から声が聞こえてくる。どうやらロマニ達の様だ。

 

「目的は世界を救い、人類を見定める事さ」

 

 

『見定める?』

 

 

「取り敢えず歩きながら話そうか、さっき飛んだ時、都市の方向は粗方分かったんでな」

 

 龍牙は歩き出すと彼等も後に着いていく。

 

『さっきの見定めるとはどういう意味だい?』

 

 

「次はダ・ヴィンチちゃんか……そのままの意味さ。

 

 人類が存続するに値するかどうか……人の、正確には星の支配する種族を裁定する事が、俺の役割だからね」

 

 

「もし人類が存続するに値しなければ……」

 

 

「勿論滅ぼす。そして次に星を支配する種族が生まれるのを待つだけだ」

 

 

『ちょっと待ちなさいよ! 貴方にどんな権利があってそんな事をするつもり!?』

 

 

「次は所長か……どんな権利と言われてもな。

 

 母より生まれた時から、俺はその権利を持ってるからね。だからこそ母は創造と破壊の力を与え……ぁあ、そう言えばそっち方面はあまり話してなかったか」

 

 龍牙はバレても問題ないので、以前の世界の事を省いて、自身の事を話した。

 

『えっとつまり根源は意思を持っていて、君は根源から生まれた?』

 

 

「そう……まぁ、お前達の言う【根源】って言うのは我が母()の一部でしかない。人間には認識出来ない意識だからね、アレは」

 

 

『そして君は生まれながら星の生命を裁定する存在』

 

 

「その通り。幾つもの世界を裁定してきた……必要があれば破壊し、次の種族に機会を与える」

 

 

『つまりは滅ぼす?』

 

 

「そうだ……破壊なくして新たな創造はない。必要なら宇宙新生から始めるだけさ。

 

 安心していいよ、この世界はまだ滅ぼす必要ないからね。だからこうして世界を救おうとしてる」

 

 

『……【まだ】ねぇ』

 

 

「まださ。俺はこの世界の人類に絶望してはないさ、だって目の前にボロボロになっても未来の為に頑張ってる人間もいる訳だしね」

 

 龍牙はそう言うと、立香とマシュを見る。その言葉の意味に気付いた2人は顔を赤くする。

 

「取り敢えず……出てきたらどう?」

 

 龍牙がそう言うと、木の影から白い服を来た男とフードを被った少女が出てくる。

 

「おやおや気付いてたのかい?」

 

 

「うわぁ……花を纏った大男とか怪しい」

 

 

「本当だ!」

 

 

「怪しいです!」

 

 それぞれ警戒態勢を取る。

 

「あれぇ? こんな優しそうなお兄さん居ないよ?」

 

 

「気持ち悪い事を言わないで下さい」

 

 男は少女にそう言われる。

 

「冗談はさておき……花の魔術師マーリンだな。それでそっちは……少し神性を感じる」

 

 

「おや、私の事を知ってるのかい? こっちはアナ、私達はギルガメッシュ王に召喚されたサーヴァントさ」

 

 

『マーリンだって!? あのマーリンなのか?!』

 

 

「ドクターうるさい……それともう1つ気配があるんだけど」

 

 龍牙はそう言うと、後ろの方の木を見る。

 

「やぁ、始めまして。カルデアのマスター達、安心して欲しい。僕に敵意はないよ」

 

 木の影から出てきたのは緑の髪の男にも、女にも見える人物だった。

 

「なっ!?」

 

 龍牙はその人物が誰なのか直ぐに理解出来た。何故ならこの時代で生きていた時に、共に生活していた者なのだから。

 

「エルキドゥ」

 

 

「エルキドゥ?」

 

 

「おや僕の事を知って……っ!」

 

 エルキドゥと呼ばれた人物は龍牙を見ると急に頭を押さえる。

 

「エルキドゥだが……何だ、この違和感は……お前は一体誰だ?」

 

 

「何を言ってるんだい、僕は「エルキドゥならまず一発ぶん殴ってくるか、飛び付いてくる筈なんでね」」

 

 龍牙は己の知るエルキドゥと目の前のエルキドゥの違い気付き指摘した。

 

「……記憶にあった、君は龍牙か」

 

 

「(記憶?)そうだよ、お前は……」

 

 

「まだ時期じゃなかったみたいだね」

 

 エルキドゥにそっくりな人物はそれだけ言うとその場から消えた。

 

(外見、声、魔力、動作はエルキドゥそのものだ。それに記憶とは……一体何があった、ギル? エルキドゥ?)

 

 彼は自身がいない間に何があったのか分からなかったが、異常が起きているのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 ~王宮~

 

 玉座に座る女帝は粘土板を見ながら笑みを浮かべた。

 

「帰ってきたか……遅い」

 

 

「王、如何なさいましたか?」

 

 女帝の側に控えていた女性が声をかける。

 

「奴が帰ってきた、序でに星見の者共も一緒の様だ」

 

 

「まことですか!? それは大変です! 急いでお出迎えの用意を致しませんと!」

 

 

「せんでいい、他の者達には伝えるな」

 

 

「承知しました」

 

 

「後、分厚い粘土板を用意しておけ」

 

 

「はい……何に使われるのですか?」

 

 

「勝手に出ていって、帰るのも遅い奴は一発叩いてやらねば気がすまん」

 

 

「フフフ、そうですか……」

 

 女王と女性は待ち人が帰って来たことに歓喜していた。



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EP91 ウルクに到着、そして再会

 龍牙、立香、マシュ、フォウ、マーリン、アナはウルクに辿り着いた。

 

 因みにマーリンの顔には引っ掻き傷だらけである。理由? 

 

「マーリン、シスベシフォーウ!」である。

 

「おー懐かしいなぁ~……でも帰りたくないなぁ」

 

 龍牙は都市へ入る門の前でそう言うとその場にしゃがみこんだ。

 

「どうしてですか?」

 

 マシュは龍牙にそう訪ねる。先程まで嬉々としていた龍牙が突然そう言い出した事を不思議に思った様だ。

 

「ほらっ……だって、王宮から凄いオーラ出てんだよ。戻ったらどんな目に合わされるやら」

 

 

「「「「?」」」」

 

 龍牙の言葉を聞いて首を傾げる。どうやら王宮から出ている何かは彼しか感じていないらしい。

 

「でも此処まで来て戻らなかったら後でどんな恐ろしい目に合わされるしなぁ……」

 

 等とぼやいていると、王宮の方から何やら集団が向かってきた。それに気付いてない龍牙は更に続ける。

 

「お腹痛くなってきた……帰りたい」

 

 

「えっとあの……龍牙さん」

 

 

「聞かないといけないこともあるし、でも頭も痛くなってきたぁ」

 

 

「アハハハハハ、これはこれは」

 

 

「龍牙先輩」

 

 

「ん?」

 

 声を掛けられている事に気付き振り返ると、ニッコリと笑みを浮かべる女性と沢山の兵士達がいた。

 

「あれ? ……もしかしてシドゥリ?」

 

 

「はい、お久しぶりです。龍牙様」

 

 

「本当に久しぶりだな! 元気にしてた? でも……昔からあんまり変わってないな」

 

 

「えぇ、我が儘な王を叱って、政務を手伝っていましたら歳を取る暇もありませんもの」

 

 

「えっと……ご苦労様です」

 

 

「龍牙様の苦労がよく分かりましたわ……それは、そうと失礼します」

 

 シドゥリと呼ばれた女性はゆっくりと龍牙に近付くと手を大きく振り上げる。

 

「シドゥリ?」

 

 シドゥリはその手を勢いをつけて振り下ろす。

 

 

パンッ

 

 辺りに大きな音が響く。シドゥリは龍牙に平手打ちをした。

 

「……ぇえと」

 

 龍牙は叩かれた理由を探す。

 

「申し訳ありません。王の大切な方に手を上げるなど……」

 

 叩いた本人はその場に膝を付き龍牙に謝罪する。

 

「いや……いいよ、シドゥリの事だ。きっとギルとエルキドゥの為だろ……俺もごめんね、勝手に居なくなって」

 

 

「いいえ、龍牙様はウルクを、国に生きる人々を救う為に戦われました。それは承知しております。ですが……」

 

 シドゥリはその先の言葉に詰まる。それを見た龍牙は何を言いたいのか分かっていたらしく、笑みを浮かべる。

 

「シドゥリ、顔を上げて」

 

 

「龍牙様」

 

 

「ありがとう……アイツの為に怒ってくれて」

 

 

「龍牙様もあの頃から変わっておりませんね」

 

 

「そうかな? ……それでシドゥリ、此処には?」

 

 

「そうでした」

 

 パンッパンッと手を叩くと兵士達が龍牙を囲い、縄で縛り上げた。

 

「ぇえ……」

 

 

「王がこのままでは何処か行きそうなので捕まえてこいとの仰せでしたので」

 

 

「ハハハハハ……よくご存知で」

 

 

「では皆さん、戻りますよ。その方はウルクにとって、王にとって大切な方なので、丁重に御運びする様に!」

 

 

「「「ハッ!」」」

 

 こうして龍牙は兵士達に丁重に運ばれた。

 

 

 

 

 ~王宮 玉座の間~

 

 玉座に座っているのはこの国の王、女帝ギルガメッシュである。

 

 入り口から玉座までの階段まで多くの兵士と綺麗な布を纏った老人達が並んでいた。

 

「王、ただいま戻りました」

 

 シドゥリと運ばれてきた龍牙が入ってくると、兵士や老人達が一斉に入り口に視線を向ける。

 

「シドゥリ、やっぱ縄外さない? 逃げないからさ」

 

 

「そうでした……縄を」

 

 シドゥリは近くにいた兵士にそう言うと、その兵士は龍牙の縄を切った。

 

「ふぅ……」

 

 床に降ろされた龍牙は息を吐くと周囲を見回した。

 

 周りの兵士達、老人達が此方を見ている。その目には涙が浮かんでいた。

 

「そっか……態々集まってくれたのか」

 

 この場に集まっている老人や兵士達は若かりし頃、幼い時に龍牙に助けられ、彼に様々な事を教えられ、その背に憧れた者達だ。

 

 龍牙の言葉を聞いた彼等は溢れん涙を必死に堪えている。

 

「さて……」

 

 龍牙は立ち上がると、彼等との再会も喜ばしいが、待たせてる人がいる。

 

「久しぶり、ギル……えっとただいま」

 

 龍牙は玉座の前まで進むとギルガメッシュにそう言った。

 

「ウム……よくぞ、帰ったな龍牙」

 

 女帝ギルガメッシュは龍牙に向かいそう言い立ち上がるの、宝物庫から分厚い粘土板を取り出す。

 

「ギル、ちょっと待て、なんだその手の粘土板は?」

 

 

「簡単な話だ。勝手に出ていって、サーヴァント(他の女)を侍らす男には仕置きが必要だと思わんか?」

 

 ギルガメッシュは笑みを浮かべながらそう言うものの、目が笑ってない。

 

「ちょっと待って……何かその粘土板から神性感じるんですけど?! そんなで殴る気か?!」

 

 

()を待たせた罰だ!」

 

 

 

ドゴッ! 

 

 

 振り下ろされた粘土板は龍牙の頭に吸い込まれ、砕け散った。

 

「いっ~!!」

 

 

「ふぅ……さて、改めてよく戻ったな龍牙」

 

 スッキリした顔のギルガメッシュは何事もなかったかの様に玉座に腰掛けた。

 

「おまえなぁ……」

 

 

「お前が悪い……」

 

 

「だからって粘土板で殴る事ないだろ! 俺じゃなきゃ死んでるわ!」

 

 

「お前なら大丈夫であろう?」

 

 

「確かに大丈夫だけどさ! 痛いものは痛いんだよ! と言うか何だその格好は?!」

 

 

「ん、似合うだろう? 流石()、何を着させても似合ってしまう」

 

 

「似合うけどもさ! 胸隠せっ!」

 

 露出の激しすぎるギルガメッシュの服を指摘する。ギルガメッシュはそれを自分に恥ずべき所はないと言っているが、龍牙も龍牙で下がらない。

 

 そのやり取りを暖かく見守っている周囲の者達はとても嬉しそうである。



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EP92 政務からの……

 ~王宮~

 

 龍牙とギルガメッシュが再会しそれを見守る老人や兵士達。

 

「取り敢えず……再会出来たのは嬉しいし、他の者達との再会も嬉しい。だけど」

 

 

「そうだな、まずはすべき事があるな」

 

 

「うん……ん? 俺も? これを?」

 

 ギルガメッシュが指を鳴らすと沢山の粘土板が並べられる。

 

「当たり前だ。我の片腕なのだ、これくらいして貰わんと困る」

 

 

「戻ってすぐ政務やらせるの?! 俺をまた過労で倒れさせる気か!?」

 

 

「そう簡単に倒れんだろう?」

 

 

「簡単には倒れないけどさ! 感動の再会から直ぐに仕事って酷くない?」

 

 

「知らん、口を動かさず手を動かせ」

 

 

「はぁ……分かったよ」

 

 龍牙はそう言うと粘土板を手に取り政務を始めた。それを見た老人達は静かにこの場から離れて行った。

 

「これは……シドゥリ、南側に物資補給。東には修理依頼だ。物資の数は……」

 

 龍牙はギルガメッシュと共にシドゥリや兵士に適格に指示を出していく。

 

「……そういや藤丸君達は?」

 

 

「あの方々でしたら一先ず来賓館に案内しました。本日は王はお会いになられないと思いまして」

 

 

「ぁあ……流石シドゥリ。こっちは北だ……と言うか仕事多過ぎじゃない?」

 

 

「仕方なかろう。状況が状況だ」

 

 

「此処に来るまでに何体か魔獣が居た……威嚇したら逃げて行ったけど。相手は誰だ?」

 

 

「それについては後で話す。シドゥリ、これも北側だ」

 

 2人でせっせと政務をこなしていく。すると積まれていた粘土板は1時間もしない内に消えてしまった。

 

「ふぅ……取り敢えず片付いたな」

 

 

「帰って直ぐに政務やらされるとは……まぁこの数倍の仕事を日常的にこなしてたんだけど……1人で」

 

 龍牙がそう言うとギルガメッシュは見る。それに気付いたギルガメッシュは顔を反らす。

 

「数日寝ないなんて当たり前だったんだけどな。俺1人だけ」

 

 ジッとギルガメッシュの方を見ている。

 

「どっかの誰かさんは酒飲んで寝てたな」

 

 

「えぇい! ネチネチと嫌味を言いおって!」

 

 

「ハハハ、これぐらい言っても罰は当たらんだろ……それはそうと聞きたい事がある」

 

 

「なんだ?」

 

 

「【エルキドゥ】の事だ」

 

 エルキドゥの名を口にした瞬間、辺りの空気が温度が一気に下がった。その原因となっているのは勿論、ギルガメッシュである。

 

 表情こそ変わらないが彼女から感じるのは強い怒りと悲しみだった。

 

「……そうか」

 

 龍牙はそれを見て何があったのかは大体は想像出来たのかそれ以上追求する事はなかった。周囲を確認すると、シドゥリを始め全員が暗い表情をしている。

 

「あっ……そうだ! シドゥリ! 久しぶりにシドゥリのバターケーキが食べたいな!」

 

 

「わっ分かりました! 直ぐにご用意しますね! 龍牙様、王がサボらない様に監視お願いしますね!」

 

 

「待てシドゥリ、我が何時サボった?!」

 

 

「つい先日も息抜きと称してサボっておられたではありませんか?」

 

 

「……我にも頼む」

 

 

「はい! では失礼します」

 

 龍牙が何とか話題を変えた事で場の空気が少しだけ和んだ。それにより兵士達の表情も明るくなった。

 

 それから龍牙とギルガメッシュは夜まで政務を行い、それを終えると龍牙の私室で食事をすることになった。

 

 

 

 ~龍牙の私室~

 

「おぉ、昔のまんまだな……よく維持してたな」

 

 龍牙がこの時代から去って、数十年は経っている筈だが、部屋は当時のままであった事に驚いていた。

 

「当然だ、手入れはしっかりとしている」

 

 

「ありがとう……おっこりゃ旨い」

 

 ギルガメッシュと共に運ばれてきた食事を食べている。互いに酒は入っているものの会話が続かない。

 

「ん? ……なぁ、ギル。その杯って……」

 

 

「ぁあ、これか。聖杯だ」

 

 

「聖杯使って酒飲むな!」

 

 

「たかが杯であろう?」

 

 ギルガメッシュの使用しているのは聖杯だった。

 

「そりゃそうなんだけどね……これはこの時代の物か」

 

 

「その通りだ……つまり我の物、なので我がどう使っても問題ない」

 

 

「……さようですか」

 

 相変わらず贅沢な使い方をするなと思いながら龍牙は食事の手を進めていた。

 

 食事を終え少し落ち着くと、互いに情報の共有を行った。

 

「成程。三女神同盟……ティアマト、ケツァルコアトル、それにあのエレちゃんがねぇ。

 

 魔獣はティアマトの子供達か……さてどう動いたものか」

 

 

「何にせよ、ディンギル完成まで後少し……決戦の時はそう遠くはないだろう」

 

 ギルガメッシュからの情報を整理しつつこれからの動きを考える龍牙。

 

「貴様の力、当てにしているぞ」

 

 

「あぁ……ふぅ、さっさと解決してゆっくりと休みたいなぁ」

 

 ベッドに倒れ込む様に寝るとそう呟いた。

 

「そうだな……さっさと終わらせたいのは分かるが」

 

 ギルガメッシュはそう言いながら龍牙の上に跨がった。

 

「えっと……何を?」

 

 

「少々疲れと魔力不足でな……問題を解決する前に我を満足させて貰うとしよう」

 

 

「えっ……ちょ……」

 

 その日、龍牙の私室の明かりが消える事はなかったそうだ。



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EP93 登場!イシュタル!

 ~王宮 玉座の間~

 

 この王宮の主、ギルガメッシュは今日も政務に励んでいた。

 

 それをサポートするシドゥリ、そしてこの場を守る兵士達は心配そうに玉座の方を見ていた。その視線はギルガメッシュに向けられたものではなく、その横に倒れている龍牙に向けられていた。

 

「……」

 

 すっかり枯れ果てており、真っ白になっていた。それに対しギルガメッシュの肌は艶々しており、生気が満ちていた。どうやら龍牙は色々と搾り取られた様だ。

 

 シドゥリも、兵士達も理由を察していた為、何も言わなかったが真っ白になっている龍牙を心配していた。

 

「しっ……死ぬ……マジ無理」

 

 

「なんだ、アレくらいで情けない」

 

 

「ふざけんな……途中から薬盛りやがって……腰が……」

 

 

「お前とて途中からその気になっていただろ。それに何十年もお預けを食らったのだ、アレくらいは我慢せよ」

 

 

「それに関しては悪いと思ってるけど……この状態で仕事やらせるの?」

 

 

「問題あるか?」

 

 ギルガメッシュが笑みを浮かべてそう言うと、龍牙に圧をかける。

 

「あるに決まってる! こんなモチベーションじゃ遅れるばかりだ!」

 

 

「ならっやる気を出せばよかろう?」

 

 

「出来たら苦労してねぇ!」

 

 口喧嘩している様子を安堵するシドゥリや兵士達。これも昔からの光景の為に、やっと何時もの風景が戻ったことを喜んだ。

 

 少しすると1人兵士が入ってきてシドゥリに何かを耳打ちする。

 

「ギルガメッシュ王、龍牙様」

 

 シドゥリは直ぐに2人に声をかけた。

 

「カルデアの方々がお越しになられました」

 

 どうやら立香達がやって来た様だ。

 

「おっ、そうか」

 

 

「フム……」

 

 ギルガメッシュは立香達を通す様に指示した。

 

 シドゥリは一度席を外す。少しすると、彼女は立香とマシュ、アナ、マーリンを連れ戻ってきた。

 

「やぁ、藤丸君にマシュ……よく休めたかい?」

 

 

「はっはい」

 

 

「はい」

 

 挨拶もそこそこに龍牙はシドゥリに向ける。

 

「魔術師マーリン、よく帰還されました。王はお喜びです」

 

 ギルガメッシュはそれを聞き、別に喜んでないぞと顔を出すがシドゥリは続けた。

 

「それで成果は? 天命の粘土板は見つかりましたか?」

 

 

「いや、そちらは空振りだよ。西の杉の森にはなかったよ。全く一体何処に置いたのやら……王様が覚えておいてくれれば話は早かったんだけどね」

 

 

「不敬ですよ、おだまりなさい。粘土板を記した時、王はたまたま疲れていたのです。極度の疲労で記憶が飛ぶ……というのは私も聞いた事がありませんが……王がそう仰るならそうなのでしょう」

 

 

「ぁ~昔、たまにあったな……誰かさんが全く政務に手をつけず2ヶ月完徹した時は記憶が飛び飛びだったよ」

 

 

「「「え゛? 2ヶ月?」」」

 

 2ヶ月完徹と言う言葉に驚き龍牙を見る全員。

 

「なぁ……ギル」

 

 

「……」

 

 視線に耐えかねたのか顔を横に向けるギルガメッシュ。

 

「王……流石にそれは」

 

 

「えぇい! 昔の話だ! そんな目で我を見るな! そこの者共は天文台の魔術師だな! 我は忙しい! お前達と話す時間も惜しいほどにな! よって戦いによって真偽を見定める! 構えるがいい! マーリンは手を出すな! 下がっていろ!」

 

 無理矢理に話題を反らすギルガメッシュ。だがこれでやっと話が進む。

 

「ぁ~……取り敢えず訳すると、ギルはまずは実力を示せって言ってるんだ。悪いけど付き合ってやってくれ」

 

 龍牙がそう言うと立香達は構え出す。

 

「俺は観戦しておくよ」

 

 龍牙はそう言うと玉座の横に用意された椅子に腰掛け、政務の続きを行う事にした。

 

 ギルガメッシュVSカルデア陣営の戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 ものの数分で戦闘は終了。

 

「……」

 

 ギルガメッシュは戦闘を終え不機嫌になっていた。

 

「ギル、満足した?」

 

 

「……龍牙」

 

 

「彼等には彼等の戦い方があるんだよ。それと実力は比例しない、状況に応じて彼等はその力を発揮する。それは俺が保証する」

 

 ギルガメッシュはそれを聞くと何も言わず玉座に座る。

 

「…………よく、これで6つの時代を超えてきたものだ。

 

 龍牙が言うにしても、今のお前達に用は『失礼します!』」

 

 突然兵士が大声で入ってきた、何やら慌てている様だ。

 

「王よ! 大変です! ティグリス河観測所より伝令! 上空に天舟の移動跡を確認! 猛スピードでウルクに向かっているかと!」

 

 その兵士の言葉に立香とマシュ、アナ以外の全員がざわめき出す。

 

「イシュタルめか……あやつは1日前の事すら覚えておられん阿呆か? いや半日前の事も忘れる阿呆であったな」

 

 

「……王よ、王と女神イシュタルとの確執は理解しておりますが、イシュタル様への罵倒はお控え下さい。

 

 イシュタル様はこのウルクの都市神であらせられます。王とて軽々しく非難できる方ではありません。それにこの様な場での非難されますと……巫女所としても立場がないと申しますか」

 

 

「立場など始めからあるか! あの女がウルクを守護したことなど一度でもあるか! 

 

 滅ぼさずともよいものを滅ぼし! 創造しなくてとよいものを創造する!」

 

 ギルガメッシュは宝物庫から取り出した布を龍牙に被せ、玉座の後ろに押し込めながらそう言う。

 

「イナゴの群、砂嵐、子供の癇癪、それら全てを混ぜたのがあの女だ! 

 

 此度もうっかり寝所を滅ぼし、アヌ神に泣き付くのが関の山だ。まぁ、そのアヌ神もとうに消えておる。父親にすら愛想を尽かされるとは自業自得だ! 

 

 ただ1人残され無様に泣きじゃくり、死ぬのが奴の結末に違いない! フハハハハハ!」

 

 日頃貯まっている鬱憤、不満を吐き出すギルガメッシュ。

 

【なぁんですって──!】

 

 天井を突き破り襲来したのは天舟(マアンナ)に乗った女神イシュタルだった。

 

 しかし何処かで見た少女にそっくりだ。

 

「また来たか……さっさと去れ」

 

 シッシッと虫を払う様に手を震るギルガメッシュ。

 

「よくと言ったわね! この私に向かって!」

 

 

「うるさい、目障りだ、我の気が変わらぬ内に消えろ」

 

 

「無礼にも程があるんですけど!」

 

 

「シドゥリ、次の仕事だ」

 

 

「無視するんじゃないわよ!」

 

 

「……そこの天文台の魔術師よ、我を手伝う事を許す! アレをどうにかするぞ!」

 

 

「ぇえ……どうしましょう、マスター」

 

 

「えっと……やるしかないかな?」

 

 取り敢えずイシュタルに向く事にした立香とマシュ。

 

「何よ、アンタ達……私に歯向かうって言うの?」

 

 

「そう言う訳ではないんですけど……」

 

 

「いいわ、昨日も地面に墜ちて鬱憤も貯まってるし……少し発散させてもらうわ!」

 

 こうしてギルガメッシュ、カルデアVSイシュタルの戦いが始まるのだった。

 



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EP94 騒動(強制)終了

 玉座の間にて繰り広げられる攻防。

 

 片や神秘を宿した無数の杖から放たれる魔術と、マシュとアナによる物理攻撃。片や宝石を媒体にした魔術に加え、神舟から放たれる一撃。

 

 広いとは言え、建物の中で放つものではないのだが、ギルガメッシュとイシュタルはヒートアップし止まる事がない。

 

 兵士達はイシュタルに因縁をつけられるのを恐れてはいる。老年の兵士達は若い兵士達を逃がし、自分達はシドゥリと玉座の前に陣取り、守りの体勢に入っている。

 

 何せ、玉座の後ろには龍牙が居る。この状況で龍牙に何かあった場合、ギルガメッシュとイシュタルの本気の殺し合いが始まるのを知っているからだ。

 

 龍牙は事の次第を玉座の後ろから見ていた。

 

「シドゥリ、シドゥリ」

 

 

「はい、何でしょうか?」

 

 

「1つ聞きたいんだが……何故イシュタルはあんな姿に?」

 

 

「そうでしたね……龍牙様は御存知ではなかったんですね」

 

 シドゥリは説明を始める。今や神々はその姿を隠し、姿を現す事はなくなった。

 

 だからこそ、巫女所は神を呼ぶ儀式を行った。儀式は女神イシュタルを依代に降ろす事で召喚は成功した。

 

「道理で……人間臭い性格になった訳だ。以前よりはマシな感じだな」

 

 龍牙は玉座の影から戦いを覗いた。

 

「とは言え……このままじゃ政務が滞るんだよな。只でさえ量が多いのに」

 

 

「龍牙様、いけません! 王の機嫌が」

 

 

「それより徹夜の方が嫌なんだ! 一度滞ると徹夜地獄が始まるんだから!」

 

 龍牙はそう言うと、久しく使ってなかったエンキを呼び出し飛び出した。

 

 

 

 

「このぉぉぉ!」

 

 

「フハハハハハ! 踊れ! 踊れ!」

 

 戦闘は激しくなっていき、あちらこちら破壊されていく。

 

「さっさと消えろ! この淫◯女神が!」

 

 

「何ですって!? アンタだって人の事を言えないじゃない! あの人を誘惑してたじゃない!」

 

 

「奴は我の物だ! 我がどうしようと貴様に関係あるか!」

 

 途中から互いを罵倒する口戦が始まり、更に攻防も強くなる。

 

 

「えっとマスター……私達はどうすれば?」

 

 

「私は嫌です」

 

 

「どうしよう……?」

 

 途中から戦いに入れなくなったマシュ、アナ、立香。

 

 何せ同じ男に惚れた女と女の戦いだ、入れる筈がない。

 

「どうせ、貴様など奴に相手されん!」

 

 

「アンタだって我が儘放題でいつ嫌われるのやら。私ならそんな事にはならないでしょうけど!」

 

 

「我儘を具現した様な貴様がほざくな!」

 

 

「そっくりそのままアンタに返すわ!」

 

 全ての言葉が自分に返ってきてるのだが、互いに気付いていない様だ。

 

「はい! そこまで!」

 

 ギルガメッシュとイシュタルが再びぶつかり合おうとした時、間に割って入る存在がいた。龍牙だ、彼はエンキの剣先を両者に向けている。

 

「龍牙!?」

 

 

「あっあなた、戻ってきてたの!?」

 

 

「2人ともそこまで! 周りを見ろ! どれだけ破壊するつもりだ?!」

 

 そう言われ、ギルガメッシュとイシュタルは周りを見てみる。破壊された壁、床、柱、上げればキリがない。そして互いに顔を見合せると

 

「「コイツが悪い!」」

 

 互いに悪いのは相手だと言い張り指差すギルガメッシュとイシュタル。

 

「両方悪いわ!」

 

 龍牙はそう言うと、ギルガメッシュとイシュタルの頭に拳骨を落とす。

 

「「っ~!!」」

 

 

「ギル! お前はもう少し周りの被害を考えろ! お前の宝物庫の物は1つだけでも強力なんだから!」

 

 

「しっしかしだな」

 

 

「しかしもかかしもあるか! これを直すのにも時間と人手、資材がいるんだぞ! 平和な時はまだしもこの大変な時に周りに迷惑をかけるな!」

 

 

「はぃ……」

 

 ギルガメッシュは久しぶりに龍牙に怒られた事と、龍牙を本気で怒らせたらまずい事を身をもって知っているので大人しくしていた。

 

「それと女神イシュタル!」

 

 

「はっはい!」

 

 

「昔からのギル達と仲が悪いのは知ってるし、アンタの性格もある程度把握してる。けど一応この都市の神ならもう少し考えて貰いたい」

 

 

「でっでも! 私はーむぐっ!?」

 

 と反論しようとしたがギルガメッシュに口を塞がれる。

 

『馬鹿者! 今のこやつに逆らうな! 本気で怒らせたら大変なのだぞ!』

 

 

『はぁ!? この私を怒るなんていい度胸じゃない!?』

 

 

『黙れ! 貴様はあの恐怖を知らんからそんな事が言えるのだ! 前に我とエルキドゥが奴を怒らせた時、説教が3日間続いたのだぞ!』

 

 

『3日!? 長いわ!』

 

 

『あの時は半月程徹夜させていたからその時の影響もあるだろうが……アレを見たアヌ神やシャマシュ神は即効逃げ居ったわ!』

 

 

『お父様達が逃げ出すってどんなに怖いのよ!? と言うか全面的にアンタが悪いじゃない!』

 

 と小声で話し合っている2人。

 

「取り敢えず分かって貰えたら俺はそれでいいけども……ギルは政務に戻って、女神イシュタルはぶち破った天井直してからお帰り下さい」

 

 

「「はっはい」」

 

 

「後、女神イシュタル。これ以上此方に被害がある様なら……その時は覚悟しておいて下さい」

 

 龍牙が笑いながらそう言う。

 

「ひゃ……ひゃい!」

 

 笑っているものの、有無を言わさない迫力により裏返った返事を返すイシュタル。

 

「さてと……藤丸君とマシュ、アナはご苦労様。悪かったね、変な事に巻き込んで」

 

 

「えっと、いえ……俺達始めしか参加してませんし」

 

 

「そりゃ仕方ないよ。じゃあ取り敢えず、シドゥリ。彼等を来賓館へ、色々な仕事を与えてやってくれ。そうすればギルも話をする気になるだろうから」

 

 

「承知しました」

 

 

「ギルもそれでいいな?」

 

 

「うっウム」

 

 

「以上、解散!」

 

 龍牙はそう言うと政務へと戻っていった。

 

 それを見たシドゥリ、兵士達は思った。

 

(王だけでなく、女神イシュタル様さえも叱って、諌めてくれるのはやはり龍牙様しかいない!)と。

 

 

 

 

 

 ギルガメッシュの盟友、エルキドゥの姿をした何者かは上空からウルクを見下ろしていた。

 

(なんだ、この気持ち悪さは……)

 

 エルキドゥ? は胸を抑える。

 

(ギルガメッシュ……龍牙……奴等の事を考えるとノイズと不快さは……一体なんだ? 

 

 ノイズの中に混じっているのは…………この()()の記憶、こんなもの必要ないのに)

 

 エルキドゥ? の目から涙が流れ出す。

 

(なのに……なんでこんなにも僕の心を乱すんだ)

 

 エルキドゥ? は泣きながらその場から離れ飛んでいった。



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EP95 賢王と緑の対決

 ~王宮~

 

 イシュタルの件から数日、龍牙は忙しい日々を過ごしていた。ギルガメッシュの政務の手伝い、魔獣の駆逐などを行っていた。

 

 その空いた、立香とマシュ、アナは街の手伝いなどを行っていた。

 

「ふあぁぁ……おはよう」

 

 

「おはようございます、龍牙様……」

 

 目が覚めた龍牙は今日も政務の為に王宮の玉座の間にやってきた。そこにはシドゥリがいた。

 

「どっどうかしたか? 何を怒っているんだ?」

 

 龍牙はシドゥリを見て固まった。明らかに彼女は怒っていたからだ。

 

「いぇ何も……」

 

 笑っているものの、目が笑っていない。

 

「アレ? ギルは?」

 

 玉座の方に視線を向けるが、この椅子の主はいない。

 

 

「朝からいらっしゃいません」

 

 

「ぁあ……それで」

 

 シドゥリが怒っている理由はギルガメッシュがサボっている事らしい。

 

「それでは龍牙様、本日の政務ですが……此方をお願いします」

 

 

「えっ、ちょっと待って! この量を1人で?!」

 

 龍牙の前に積まれたのは山と見間違える程の量の粘土板だった。

 

「はい、王が居られませんので」

 

 

「……ちょっとでも減ったりは?」

 

 

「しません」

 

 

「そっか……でもさぁ、これって王の判断がないとダメな奴じゃ」

 

 

「これを……朝一で玉座に置かれておりました」

 

 そう言ってシドゥリが差し出した粘土板にはギルガメッシュからの伝言が書かれていた。

 

『今日の政務は全て龍牙に任せる』

 

 それを見た龍牙の脳裏には彼女の笑う姿が浮かんだ。

 

「あんにゃろ…………」

 

 

「この政務の山が終わるまでは寝れませんので」

 

 シドゥリの言葉を聞き絶望する龍牙。なんせ目の前の政務は1日で終わる量ではないからだ。

 

 

 

 

 

 

 ~その頃、ギルガメッシュは~

 

「フハハハハハ! それは実に愉快だ!」

 

 ギルガメッシュは立香とマシュと共に天文台へと向かっていた。その道中で立香とマシュからこれまでの旅路について色々と聞いていた。

 

「お前達はこの旅で様々な事を得たのだな……そうか……」

 

 

「龍牙さんには沢山助けられました」

 

 

「はい、龍牙先輩が居なければ私達は此処までこれたか」

 

 

「さて……それはどうかな」

 

 

「「えっ?」」

 

 

「あやつが居なくてもお前達はお前達なりに特異点を超えて来ただろう」

 

 そう笑うギルガメッシュ。

 

「それで気になって居たのだが……貴様等は恋仲なのか?」

 

 

「「ふぇ!?」」

 

 ギルガメッシュの言葉に顔を真っ赤にする。

 

「まままままマシュとはそういう関係では……えっと」

 

 

「そそそそそうです! 先輩は先輩で…………えっと」

 

 立香とマシュは慌てふためき、互いに視線を交わすと更に顔を赤くして俯いてしまった。

 

 その様子を目の前にしていたギルガメッシュ、モニターしていたダ・ヴィンチちゃん、職員達は思った。

 

『君達早く付き合えよ』と。

 

「まぁ、貴様等はまだ若い……多少時間をかけてもよかろう」

 

 そういうギルガメッシュは優しい顔でそう言った。それはかつて暴君と呼ばれた王とは思えなかった。

 

「そう言えばギルガメッシュ王はその龍牙さんとはその……恋人なんですか?」

 

 立香はギルガメッシュにそう聞いた。マシュはそれに反応し顔を上げる。どうやら彼女も興味があるらしい。

 

「そうさな……奴は我の理解者であり、友であり、心を許せる男か」

 

 

「それは……恋人とは違うのですか?」

 

 

「まっ……まぁ……恋人とも言うか」

 

 珍しく顔を赤くするギルガメッシュ。そんな話をしていると海の近くにある天文台に着いた。

 

「我は天文台に行く、貴様らは周囲を見回っておけ」

 

 ギルガメッシュはそれだけ言うと、天文台に入っていった。どうやら彼女は2人に気を使ったらしい。

 

 先程の馬車での会話もあって、互いに目を合わせると顔を真っ赤にしている立香とマシュ。

 

 それを見ていたカルデアは

 

『誰かコーヒー持ってきて! ブラックの濃いやつ!』

 

 

『ぁあもう! なんでアレで付き合ってないんだよ!』

 

 

『焦れったい! ちょっと行ってくる!』

 

 

『レオナルド! その怪しげな薬を持って何処に行くつもりだい!?』

 

 

『レイシフトして2人の仲を進展させてくる!』

 

 等という騒ぎが起きていた。

 

 

 

 場所は戻って特異点では、立香とマシュは周囲を散策していた。

 

「はぁ……」

 

 

「どうしました先輩?」

 

 ため息を吐く立香に声をかけるマシュ。

 

「いや……のどかで此処が特異点だなんて忘れちゃいそうで」

 

 

「そうですね」

 

 そんな話をしていると

 

「これは舐められたものだね……人類最後のマスターの護衛が1人だなんて」

 

 

「「!」」

 

 振り返るとそこには緑髪の人物がいた。

 

「確か……デミ・サーヴァントだったか。半端者なんかでこの僕に対抗できると思ってるのかい?」

 

 それはエルキドゥを名乗る者、自分達の敵だ。

 

 マシュはすぐに盾を呼び出し、立香を庇う様に立つ。

 

 エルキドゥ?は黙ったまま彼らを見て、動かない。

 

「マスター! 彼からは魔術王の気配がします!」

 

 エルキドゥ?から発せられるのは魔術王ソロモンの気配、それが意味するのはエルキドゥ?は敵だと言う事だ。

 

(どういう事だ?)

 

 

(敵意を感じない……戦う気がない?)

 

 エルキドゥ?は興味なさそうに立香とマシュを見ていた。

 

「まぁいい……今日の目的は君達じゃない」

 

 

「……どういう事だ?」

 

 

「僕は最近おかしくてね……この間……アイツ……そうだ、龍牙に会ってからだ。ずっと……ずっとノイズが走っている。この原因、龍牙は何処だ? アイツを消せば……」

 

 エルキドゥ?は頭を押さえながらそう言う。

 

「ほぅ……お前にしてはらしくないではないか」

 

 そう声が聞こえた、立香とマシュが振り返るとそこにはギルガメッシュが立っていた。

 

「ギル……ガメッシュ!」

 

 

「「ギルガメッシュ王!」」

 

 ギルガメッシュは戦斧を装備しており、どうやら戦う気らしい。

 

「ギルガメッシュ王! 彼はエルキドゥの偽物です!」

 

 

「ほぉ……」

 

 

「ギルガメッシュ!」

 

 エルキドゥ?が腕を振り上げると、炎が出現しギルガメッシュを飲み込もうとする。ギルガメッシュは魔術を行使しこれを防いだ。

 

「偽物にしては良く出来ているではないか!」

 

 ギルガメッシュは宝物庫から魔杖を呼び出し魔術を放つ。

 

「このぉ!」

 

 エルキドゥ?の背後、地面から無数の鎖が出現しギルガメッシュに放たれる。

 

「随分な戦い方だな、何時ぞやは財の無駄使いだと言っていたではないか」

 

 

「アレはお前が……っ!」

 

 何かを言おうとしたエルキドゥ?は突然頭を押さえる。

 

「成程……やはりそういう事か」

 

 ギルガメッシュはエルキドゥ?の様子を見て何かに気付いたらしい。

 

 エルキドゥ?は直ぐに立ち直ると腕に魔力を纏わせながら、同時に鎖を放った。ギルガメッシュは直ぐに反応し、鎖を魔杖の力で薙ぎ払い、戦斧を構える。

 

「随分質のいい魔力を得た様だな、三女神同盟とやらの差金か!」

 

 

「黙れぇ!」

 

 ギルガメッシュとエルキドゥ?が衝突し、地面が陥没、周囲は吹き飛んだ。

 

 立香とマシュは土埃で何も見えなくなる。少しして視界がハッキリとしてきた。ギルガメッシュもエルキドゥ?は互いに距離をおき、立っていた。

 

「ギルガメッシュ…………お前は此処で終わらせる」

 

 エルキドゥ?が地面に手をつくと、再び無数の鎖が出現する。

 

「人類の歴史をお前の死と共に終わらせてやる!」

 

 エルキドゥ?の周辺の地面から光柱が発生した。

 

 ギルガメッシュは黙ったまま、反撃するべく戦斧を消し、両手を広げる。彼女の遥か上空に宝物庫のゲートが出現し、そこから魔杖が現れ、凄まじい魔力の衝撃波がエルキドゥ?に向かい放たれた。

 

 エルキドゥ?はそれを鎖で防ぎつつ、残りの鎖をギルガメッシュに向けて放った。

 

「「ギルガメッシュ王──!」」

 

 ギルガメッシュはそれを視界で捉えているものの、避ける様子も防ぐ様子もない。それを見た立香とマシュは彼女の名を叫ぶ。

 

 爆音と共にギルガメッシュが土煙に飲み込まれた。数十秒が経ち、土煙が晴れるとそこには無傷のギルガメッシュの姿があった。

 

 エルキドゥ?の鎖は彼女の数メートル横に落ちてクレーターを作っていた。どうやら彼女には当たらなかった様だ。

 

 ギルガメッシュはエルキドゥ?の方を見る。エルキドゥ? は無表情のまま立っており、自分の胸を手で押さえていた。そしてそのまま空の彼方へと飛び去った。

 

 最後の一撃、ギルガメッシュが防いだのか、それともエルキドゥ?が外したのか、それは当人達にしか分からない。

 

 ギルガメッシュとエルキドゥ?の邂逅により一気に状況が動き始めた。

 



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EP96 お説教

 ギルガメッシュとエルキドゥ? の衝突、彼女達はその後の帰還。

 

 途中、野営をして帰ったのは次の日の朝だった。

 

「帰ったぞ」

 

 ギルガメッシュと立香、マシュは玉座の間に入るとそこには笑顔のシドゥリが待っていた。

 

「おかえりなさいませ」

 

 

「うっ……ウムッ」

 

 シドゥリは笑顔だった。ギルガメッシュは黙ってさぼ……息抜きに出掛けた。だと言うのにシドゥリは笑顔で出迎えている、だからこそ少し怖いのである。

 

「藤丸さんも、マシュさんもお疲れ様でした……それで王」

 

 

「ぁ……あぁ」

 

 

「気分転換は出来ましたか?」

 

 

「まぁな」

 

 

「それはよぅごさいました」

 

 ニッコリと微笑むシドゥリ。ギルガメッシュは安心したのかほっ、と息を吐いた。

 

「……それで龍牙は?」

 

 シドゥリは玉座の方を見る。ギルガメッシュは玉座の近くまで行ってみると、玉座の後ろで寝ている龍牙を見つけた。

 

「こんな所で寝ておるのか」

 

 

「寝る……と言うより【山の様な】政務を【1人で】処理され、終わったと分かると、気を失われました」

 

【山の様な】【1人】と言う言葉を強調し、笑顔で言うシドゥリ。

 

「王」

 

 

「なっなんだ?」

 

 

「そこにお座り下さい」

 

 と床を指す。

 

「えっ床に?」

 

 

「はい」

 

 

「我は王ぞ! 床などに【お座り下さい】はぃ……」

 

 ニッコリと笑いながら凄まじい圧を放つシドゥリ。ギルガメッシュは大人しく床に正座した。端から見ればイタズラがバレて怒られている子供の様だ。

 

「藤丸さんとマシュさんはお疲れ様でした。館に戻ってお休み下さい」

 

 

「えっと……はい」

 

 

「お先に失礼します」

 

 立香とマシュはその場から去ろうとする。そんな2人に

 

『お前達! 我を助けよ!』

 

 と訴えかけてくるギルガメッシュ。

 

「あっあの……シドゥリさん「藤丸さん……王の事については口出し無用です」はっはぃ」

 

 シドゥリの説得は失敗に終わる。

 

「マシュ……行こっか」

 

 

「はい、そうしましょう!」

 

 立香とマシュはそそくさとその場から退散した。ギルガメッシュはそれを見て絶望する。

 

 今現在、ギルガメッシュに説教できるのは龍牙とシドゥリだけだ。そして長い付き合いでシドゥリが容赦ない事を知っている彼女はこれから起こる事を予想して顔を青くする。

 

「さて……王、少しお話をいたしましょうか」

 

 

「まっ待つのだシドゥリ! せっ政務を進めねば」

 

 政務を言い訳にどうにか逃れようとするギルガメッシュ。

 

「本日分であれば龍牙様が終わらせておられます」

 

 

「なぬっ?」

 

 

「私が王に説教をと申しましたら満面の笑みで政務を為さって下さいました」

 

 ギルガメッシュは龍牙の方を見た。気を失っているが物凄く良い笑顔である。

 

 

「さぁ! 藤丸様、マシュ様、此方へ!」

 

 

「お疲れ様でした! どうぞお休み下さい!」

 

 兵達が察したらしく、直ぐに立香とマシュをその場から連れ出した。

 

「それでは王……夜まで長うございますが、御覚悟を」

 

 その日、夜遅くまでシドゥリの説教をくらったギルガメッシュ。途中目を覚ました龍牙はそれを見て満足そうにしていたとか。

 

 

 

 

 




次回からストーリー進めます。


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EP97 動き出す時

 〜王宮 玉座の間〜

 

 ギルガメッシュが説教をされてから約1週間。

 

「ギル……仕事が終わらないんだけど」

 

 

「此方もだ……」

 

 龍牙とギルガメッシュは山の様な政務に囲まれていた。

 

「次は……魔獣達に目立った動きがない。何か企んでいるのか?」

 

 

「さぁな……問題は三女神同盟だ」

 

 

「イシュタル、ティアマト、ケツァル・コアトルか。取り敢えず何処から手をつけたものか……」

 

 

「ティアマトに関しては話し合いは無理だ、藤丸達にはイシュタルの方に行って貰う。お前はケツァル・コアトルの方へ行け」

 

 

「分かった。出来れば味方に引き込めればいいんだけどな……よっと」

 

 龍牙は立ち上がると粘土板を整理し、出ていこうとする。

 

「待て」

 

 

「ん?」

 

 龍牙はギルガメッシュに呼び止められ、振り返ると、引っ張られる感覚と共に顔に柔らかな感触が襲う。

 

「……え〜と」

 

 ギルガメッシュの胸に抱き寄せられている龍牙、当の本人は目を点にしている。

 

 彼女は一度龍牙を離すと、彼の首筋に歯を立てた。

 

「っ……お前は吸血鬼か?」

 

 ギルガメッシュはどうやら彼の血を飲んでいる様だ。

 

「少しばかり魔力不足でな……後、余計な虫がつかんようにマーキングだ」

 

 それだけ言うとギルガメッシュは彼を離し、そのまま席へと戻っていった。

 

「マーキングって……そもそも俺を好く奴などそうは居らんだろうに」

 

 

「いいから早くいかんか!」

 

 

「引き止めたのはお前だろうに……まぁいいや、行ってきます」

 

 龍牙はそのまま出ていった。

 

「王……偶には素直になりませんと龍牙様に愛想をつかれますよ」

 

 そう言ったのはバターケーキを持ってきたシドゥリであった。

 

「知らん……それに奴とはずっとあぁだったのだ、今更だ」

 

 そう言ってシドゥリの持つバターケーキに手を伸ばすが、パシッとその手を叩かれた。

 

「っ……シドゥリ」

 

 

「王……龍牙様はかなり良い男性です」

 

 

「うっ……ウム、知っておる」

 

 

「今は王の大事な方だと分かっているからこそ、誰も手を出す事はありません。しかし王! 龍牙様も男性です! 優しくされればころっと転びますよ!?」

 

 ギルガメッシュはそれはないと考えるが、龍牙が自分以外の女とイチャついてるのを想像し、怒ったらしく、場が怒気に包まれる。

 

「王、何を想像されたのかは分かりませんが、いい加減にしないとそれが現実になるかもしれませんよ?」

 

 

「……そんな事をしている暇はない」

 

 

「はぁ…………失礼します」

 

 

「なn……あいたっ!」

 

 シドゥリはギルガメッシュの頭に手刀を落とす。そして彼女の顔を両手で掴むと顔を近付ける。

 

「王……私は……いえ、ウルクの民(私達)は王や龍牙様、エルキドゥのお力なくては此処まで来れませんでした。情けないことですが……。

 

 今も王のお力なくては此処に居なかったでしょう。故に我々は貴方達に感謝し、信じております。

 

 ですが、それと同時に貴女達には、幸せになって欲しいのです」

 

 シドゥリは母親が子供に諭す様にそう言う。ギルガメッシュはそう言われて照れたのか少し顔を赤くしてる。

 

「だから少し素直になりましょう。性格は問題ありですが、見た目は美しいのです……もう少し素直に甘えれば龍牙様の心を鷲掴みです!」

 

 

「うっ……ウム。ん? シドゥリ、誰の性格が問題だ?」

 

 

「王です」

 

 キッパリと言い切るシドゥリ。此処まで言えるのは龍牙やエルキドゥを除けば彼女くらいだろう。

 

「我の何処が問題なのだ?!」

 

 

「あらっ……お分かりではないと?」

 

 ニッコリと笑うシドゥリ、そんな彼女を見てギルガメッシュは思った。藪をつついて蛇を出してしまったと。

 

 ギルガメッシュは衛兵達に目を向けた。

 

「そろそろ交代の時間だな!」

 

 

「ぁあ! 我々は見回りを!」

 

 

「異常なし!」

 

 

「今日もいい天気だ」

 

 衛兵達は全力でこの場から去ったり、何事もなかったかの様に過ごしている。

 

(アイツ等ー!)

 

 

「何処が問題なのか……じっくりとお話致しましょう」

 

 

「まっ待て、待つのだ……」

 

 

 

あああああああああっ! 

 

 

 その日、ギルガメッシュの叫び声が王宮に響き渡った。

 

 

 

 

 

 龍牙はギルガメッシュの命令を受けてケツァル・コアトルの元に向かってジャングルを進んでいた。

 

「暑い、蒸す、こういう時はクーラーの効いた部屋に篭もりたい……ああああもぅ! 無理!」

 

 周囲の気温と湿度の高さにより汗を掻きながら進んでいたが、我慢が出来なくなったのか、創造龍の翼(クリエィス・ウィング)を呼び出す。

 

「日陰を飛んでいこう、風の力で物が当たらない様にしてと」

 

(WIND)

 

 龍牙の周囲に風が纏わり付き、葉っぱなどが彼に当たらない様になった。

 

「神殿はこっちの方向だな……じゃあ、さっさと終わらせよう」

 

 龍牙は翼は羽ばたかせると、加速し木々の間に抜けケツァル・コアトルの元に向かった。

 

 

 

「待て! 待てぃ! 此処から先はこのじゃgぶへらっぁ」

 

 

「ん? 何か轢いたか? 動物の気配はなかったし、気の所為か……」

 

 主人公、気が付かぬ内に襲撃者を撃退しました。




という訳で次回、ケッアル・コアトル戦です。


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EP98 VSケツァル・コアトル

 三女神同盟、この第7特異点において存在する女神達、エレシュキガル、ティアマト、ケツァル・コアトルの三女神が結んだ同盟だ。

 

 三女神間で結んだ契約は、それぞれの女神達の活動において不可侵を守る事であり、もし破れば死が待っているというものだ。

 

「さてと……貴女がケツァル・コアトル?」

 

 龍牙はジャングルを抜け、神殿までやってくると待ち構えていた女性にそう尋ねる。

 

「はーい! そうでーす! 私がケツァル・コアトル、貴方は誰かしら? 人間……よね? 翼が生えてるけど、人間よね?」

 

 背の高い女性、勿論ただの女性ではない。

 

 真名ケツァル・コアトル、中南米、アステカ神話における最高存在の一柱であり。生命と豊穣の神、文化の神、雨と風の神、太陽の神として崇められていた存在。

 

「龍牙という。ちょっと特殊な人間さ、今は人類の為に戦ってる。

 

 此処に来たのは戦う為じゃない、三女神同盟の一角の貴女に用があってね」

 

 

「私に?」

 

 

「人類を滅ぼすのは止めて貰いたい」

 

 

「嫌だと言ったら?」

 

 

「戦うしかない……出来れば戦いは勘弁して欲しいんだけ……」

 

 

「嫌で〜す。私、とっ〜ても興奮しています! 何せ貴方がとても強そうだからでぇーす!」

 

 どうやらケツァル・コアトルは戦う気満々の様だ。

 

「ハハハ……はぁ……ですよねぇ」

 

 龍牙は苦笑いしながら、諦めた様な表情をしていた。

 

「女神相手だ……こっちも本気出さないとな。俺が勝ったら言うことを聞いて貰うぞ」

 

 そう言うと龍牙が光に包まれ、創造龍の鎧(クリエィス・ドラゴメイル)を纏い、構えた。それに合わせケツァル・コアトルも姿勢を低くして何時でも駆け出せる状態となる。

 

「「…………」」

 

 互いに無言のまま、睨み合いが続く。

 

 端から見ればただ突っ立ってるだけにみえるが、そうではない。互いに強者である故に、相手の動きを見ながらも、頭の中で無数の攻防を繰り返していた。

 

 風が吹き近くの木から葉が落ちてくる。カサッと葉が小さな音を立てて地に落ちた瞬間、待ってましたと言わんばかりに駆け出した。

 

 龍牙とケツァル・コアトルの拳がぶつかった数秒後、遅れてゴォーと衝撃が発生、2人を中心に周囲の物を吹き飛ばす。

 

「凄い……凄いでぇーす! 私の本気の一撃を真正面から受け止めるなんて! 神でも中々いません!」

 

 ケツァル・コアトルは自身の本気を受け止められた事を歓喜した。

 

「そりゃどうも……成程、こりゃギル達じゃ分が悪い訳だ」

 

 拳と拳かぶつかり合い、力が拮抗している中、何事もないかのよう様に会話している2人。再び離れると、最接近、両者は互いに拳を交える。

 

「善性の頂点……つまりは善性の力では傷付かない訳か」

 

 

「その通り! この短時間で私の特性を見抜けましたね!」

 

 

「骨の一本でも貰うつもりで殴ったのに皮膚に掠り傷もついてない。神の力でも貫通する力だったのに……今の俺の状態ではダメージには期待できないか、ならっ!」

 

 創造龍の鎧が黒い光に包まれていく。

 

【破壊龍:鎧化(ARMOR DRIVE)

 

 創造龍から破壊龍の鎧に切り替える。

 

「グオォォォォ!」

 

 漆黒の力が溢れ出し、龍牙に収束していく。

 

「っ! これは……」

 

 

「あまり時間がない……次で終わらせるぞ」

 

 龍牙の全身に力が巡り、人の域を越え、神の領域へと引き上げる。

 

「凄い……凄いです! 血が滾ります! いいです! 私も次に全部乗せま〜す!」

 

 ケツァル・コアトルも神の力を発動する。ケツァル・コアトルは太陽の神としても崇められていた。故に彼女の発する力は太陽そのものだ。凄まじい熱気が彼女から発せられ、その両腕に灼熱の炎を纏う。

 

「はあぁぁぁ……」

 

 龍牙は腰を落とし構えを取る。

 

「いきまーす!」

 

 ケツァル・コアトルはそう言うと、その場から消えた。彼女は一瞬の内に龍牙へと接近していた。

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

 灼熱の拳が龍牙に迫る。

 

「っ……おおぉぉぉぉ!」

 

 龍牙は顔に迫った拳をギリギリ避けると、彼女の懐に潜り込み自身の拳を放った。

 

 

 

 

 

 

「……何の真似ですか? 拳を止めるなんて」

 

 龍牙はその拳をケツァル・コアトルの胸に当たる寸前で止めていた。

 

「アンタならこの一撃が自分の致命傷になると理解しているだろう?」

 

 

「えぇ……少なくともこの霊基が傷付いていたでしょうね」

 

 

「俺は少なくともアンタが人を見下し、玩具にする様な神には見えない。それなら俺が破壊するべき対象じゃない。

 

 それに開始前に言った筈だ、俺が勝ったら言うことを聞いて貰うと。

 

 俺は人の未来を護りたい、だからアンタの力を貸してもらう」

 

 破壊龍の鎧を解除し、そう言った。龍牙の顔は半分はケツァル・コアトルの拳で焼け爛れていた。

 

「口約束ですよ? 私が裏切るとは思わないのですか?」

 

 

「俺が見る限りはそんな人には見えないし、それに裏切られるなら、信じ切ってから裏切られた方がいいしな」

 

 そう言って子供の様に笑う龍牙。

 

「……」

 

 ケツァル・コアトルは俯いている。

 

「?」

 

 

「私……とぉ〜ても! 貴方が気に入りました! 私、貴方の力になりまーす!」

 

 

「あっ……どうもありがとう」

 

 2人が話していると、ガサッガサッと茂みが揺れる音がした。2人がそちらを見てみると……

 

「あたたたたっ……あんのやろぉ〜ひき逃げしやがってぇ」

 

 虎の服を着たボロボロの女性が出てくる。

 

「あっあんたは……うわぁ……イシュタル、エレちゃんに引き続き、エミヤの胃に穴が空きそう」

 

 その女性の顔を見て龍牙はそう呟く。

 

「あっー! お前は! 良くもアタシをひきやがったな! ククるん! そいつ引き渡して! このわたっ「ジャガーマン、少しうるさい……後、少しお願いがあるの」」

 

 ケツァル・コアトルはジャガーマンに接近する。

 

「ククるん! 私はその「いいわね?」はい! 分かりました!」

 

 ケツァル・コアトルの圧に負け、ジャガーマンは彼女の言うことを聞くことにした。

 

「それでは行きましょう!」

 

 

「えっ……ちょ」

 

 ケツァル・コアトルに抱き抱えられると、その場を飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 〜ウルク 王宮〜

 

「それで?」

 

 ゴゴゴゴゴッと凄まじい圧を出しながら玉座に座るギルガメッシュ。その横には苦笑いしているシドゥリがいた。

 

「ぇえ〜と……ギルの命令通りケツァル・コアトルの協力をだな」

 

 

「私、ケツァル・コアトルはダーリンに従いまーす」

 

 そう言いながら龍牙に抱きつくケツァル・コアトル。

 

「ほぉ……」

 

 ギルガメッシュの圧が更に強くなる。

 

 このままでは拙いと思った龍牙は周囲を見回す。衛兵達はその視線に気付く。

 

「そろそろ交代の時間だ! 駆け足!」

 

 衛兵達はその場から駆け足で去って行く。次はシドゥリに目を向ける。

 

 彼女は龍牙の視線に笑顔で返す、しかしその顔は『御自分の不始末は御自分でお拭い下さい』と言っていた。

 

 既に逃げ場はない、どうするかと考えていると、

 

「ギルガメッシュ王、報告を……」

 

 立香とマシュ達が報告にやって来た。龍牙は助けの視線を彼等に送るが、

 

「……出直します」

 

 

「そうですね、そうしましょう」

 

 どうやら空気を読んで出直した。

 

「さて……邪魔はなくなった。説明して貰おうか」

 

 

(俺も逃げ出したい)

 

 さて龍牙はこの場から生還できるのだろうか?



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EP99 イシュタルを引き込みました

前に更新してからかなり経ちました。また少しずつ更新していきますので、宜しくお願いします。


 〜王宮〜

 

 

 顔を晴らし、全身包帯を巻いた龍牙は粘土板に目を向けていた。

 

「全身打撲、肋骨5本、右腕、左足、骨折。切り傷多数、こんな状態で政務させるとか……お前は鬼か?」

 

 ケツァル・コアトルの一件でギルガメッシュにボコボコにされた龍牙は、今日も今日とて政務をしていた。

 

「フン……その程度で音を上げる程、柔ではなかろう。そう言えば藤丸達が訪ねて来たのであったな。シドゥリ、通せ」

 

 

「はい、王」

 

 

「藤丸君達にはイシュタルを任せたんだったか……」

 

 シドゥリと共に立香、マシュ、イシュタルが入ってきた。

 

「藤丸、マシュ、よく戻った…………見たくない顔ではあるが、それをよく下した」

 

 

「アンタねぇ……これでも一応女神なのよ、それ扱いはいないんじゃない?」

 

 

「フン……宝石に目の眩んだ女神などそれで十分であろう」

 

 

「ごはぁ」

 

 ギルガメッシュにそう言われ倒れ込むイシュタル。それを見ない様にしているのか、違う方向を見ているシドゥリ。

 

 今回ギルガメッシュが立香達に命じたのはイシュタルを味方に引き込む事だ。立香とマシュはそれを果たしイシュタルを連れてきた。

 

「クハハハハハッ! アハハハハハハ!」

 

 立香の報告を聞いたギルガメッシュは腹を抱えて笑っていた。

 

 立香はギルガメッシュに宝物庫の宝石類の3割まで解放する事を許し、それでイシュタルを買収する様に言った。だが立香はイシュタルを1.5割で買収したことで笑っているらしい。シドゥリはそんなイシュタルを見ない様に顔を反らしている。

 

「まぁ……味方になってくれるからいいじゃないか」

 

 

「チッ……だがこれで戦力はある程度整ったか。藤丸、マシュ、ご苦労だったな。追って次の命があるまで休め」

 

 そう言って立香とマシュを下がらせる。シドゥリには彼等の世話を頼んだ様だ。

 

 その場に残った、龍牙、ギルガメッシュ、イシュタル。

 

「さて……イシュタル」

 

 

「なによ」

 

 

「貴様には言いたい事も、聞きたい事も山のようにある」

 

 

「残念だけど三女神同盟の事は言えないわよ。互いに不干渉でいることが条件だもの……」

 

 

「それはケツァル・コアトルから聞いている……聞きたいのは、これについてだ」

 

 ギルガメッシュはそう言うと水晶を取り出す。その水晶から光が出ると何かが投影された。イシュタルはそれを見ると驚いている。

 

「仮に全力の貴様であれば『彼女』をどうにか出来るか?」

 

 ギルガメッシュはそう尋ねる。イシュタルは少し深呼吸すると、ため息を吐く。

 

「はぁ……例え私が本体でも無理ね。足止めくらいならできるでしょうけど」

 

 

「だろうな……龍牙」

 

 

「ん?」

 

 

「お前であればどうだ?」

 

 

「可能か不可能か……世界へのダメージ、生きてる者への犠牲、代償の全てを無視すれば可能だよ。

 

 そもそも俺は根源が産んだ神や世界に対する存在だ。世界……星や宇宙を破壊し、再び創造するのが俺の役目だ」

 

 龍牙はそう言う。

 

「まぁ……ある程度の犠牲は致し方なしとして。そう言えば聞いてなかったな、お前の力の代償を」

 

 

「確かに……あれだけの力、何の代償もなしに使える訳がないわよね」

 

 ギルガメッシュとイシュタルがそう言うと、龍牙は顔を反らす。2人はかつて龍牙の全力であろう力を目の当たりにした。それを用いるにどれ程の代償があるのか……。

 

「ぇっ……と。さて、腹が減ったな。飯を」

 

 龍牙がその場を離れようとするが、ギルガメッシュとイシュタルに掴まれる。

 

「とっとと吐け。吐かないなら、無理矢理にでも吐かすだけのこと」

 

 

「なら私も同行させて貰うわ」

 

 

「なに?」

 

 

「だってこの人が口が硬いのは昔からでしょう。1人で吐かないなら2人でしょ。それに魔力も必要だもの」

 

 

「チッ……だが必要ではあるか」

 

 

「ちょっと待って、俺の意見は」

 

 

「「必要ない(わ)」」

 

 龍牙はそのままギルガメッシュとイシュタルに引き摺られていく。

 

 

 

 〜?〜

 

 白と黒、対を成す2つがそれぞれ龍の形を成した。

 

 其れ等は自分達の間にいる小さな光を見つめていた。その光は眠っている龍牙だった。彼から複数の光が放たれ、それぞれの龍へと取り込まれた。

 

【王は使われるのですね】

 

 

【あぁ……例え御自身を犠牲にしても世界を守られるのだろう。これまでも、これからも】

 

 

【根源なる母はいつまで王を……】

 

 

【分からぬ。創造と破壊の理である我々であっても根源なる母の意志は分からない。今我等に出来るのは王の力となることのみ】

 

 2つは静かにただ龍牙を見守っている。



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EP100 ギルガメッシュ 死すっ!

 〜玉座の間〜

 

「ギル……俺は行くぞ」

 

 龍牙はギルガメッシュにそう言う。現在彼らはこの場で指揮を取りながら、遠見水晶でウルク北方の山岳地帯に派遣した立香達の様子を見ていた。

 

 現在、北方の山岳地帯はティアマト神……正確にはティアマトの権能を取り込んだゴルゴーンが支配していた。ギルガメッシュはそこに立香、マシュ、アナ、マーリン、イシュタル、自分の召喚したサーヴァント、牛若丸、レオニダスを派遣した。

 

 そして彼等は劣勢を強いられており、龍牙は自分も出ると言い出したのだ。

 

「駄目だ、お前の力は最後まで取っておく」

 

 

「しかし……」

 

 

「龍牙」

 

 ギルガメッシュは真っ直ぐ龍牙を見つめる。

 

 ギルガメッシュとて状況は理解している。だが今の龍牙を出すことは出来ない。彼女はこれから先の事も考え龍牙の力を温存すると決めていた。

 

 彼女は玉座から立ち上がると彼の手を取る。

 

「気持ちは分かる。だが、お前の力を使うのは今ではない。

 

 それに奴等とてこれまでの特異点を乗り越えてきた。信じてやるのも先達の務めではないか?」

 

 ギルガメッシュがそう言うと、龍牙は息を吐いた。

 

「俺としたことが少し過保護過ぎたか……まさか俺がギルに諭されるとはな」

 

 

「これでも我は王ぞ? 為になる事を言うのは当然だろう」

 

 

「まぁ、昔に比べて落ち着いたか。無駄に年取っt「フンッ!」ごほっ」

 

 余計な事を言った為、ギルガメッシュに腹に拳を叩き込まれる龍牙。

 

「あーいたい……ふぅ。よしっ、気を取り直して政をやるか」

 

 そう言うと粘土板を取り、政を始める龍牙。本人も立香達の安否は気になるものの、自身がすべき事に精を出すのであった。

 

 

 それから数日後、立香達は帰還した。

 

 結果的にゴルゴーン討伐は成功したものの、牛若丸、レオニダス、アナを失ってしまった。

 

 

 

 〜翌日〜

 

 

「ふぅ……一先ずは終わった。だが休んではいられないか。取り敢えず備えを」

 

 朝起きた龍牙は準備を終え、玉座の間に向かおうとしていた。

 

「りゅ龍牙さま!」

 

 何やら慌てた様子でシドゥリが走ってきた。

 

「どうした、シドゥリ?」

 

 

「ぎっギルガメッシュ王が!」

 

 

「なんだ、また抜け出したか? 全くそんな所は昔かr「ちっ違います!」ではなんだ?」

 

 

「ギルガメッシュ王が……お亡くなりになりました」

 

 

「はっ?」

 

 シドゥリの報告に唖然とする龍牙。

 

 数秒程して我に帰るとその場から駆け出し玉座の間に急ぐ龍牙。

 

 龍牙が玉座の間につくと近衛兵や側近達が静かに涙を流し嘆いていた。

 

「ギル」

 

 龍牙は直ぐに玉座に近付くとギルガメッシュに触れた。

 

「冷たい……死んでから数時間は経ってるな。死因は……過労死か」

 

 賢王ギルガメッシュ……死す。

 

 

 

 

 

 

 〜 ? 〜

 

 

 ギルガメッシュは真っ暗な岩だらけの場所で目を覚ました。ゆっくりと周りを見渡し、自分の状況を把握する。

 

「……フム、王が居眠りから覚めると、冥府の底であったか……」

 

 頬杖をついて溜息を吐くギルガメッシュ。

 

「って……死んでいるではないか、我!」

 

 ギルガメッシュが死にこれから先、どうなるのか……。

 



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EP101 冥界へ

 〜玉座の間〜

 

「はぁ……どうすんの、これ」

 

 現在、この玉座の間では多くの者が嘆いていた。

 

 自分達を導いていたギルガメッシュが死したからである。

 

『ちょ、本当にギルガメッシュ王が死んだのか?!』

 

 

『ロマニうるさいよ、モニター見ればギルガメッシュ王が死んでるのは分かるだろう』

 

 どうやらギルガメッシュの死はカルデアでも騒ぎになってるようだ。

 

「それにしても……あのギルが過労死とはなぁ」

 

 龍牙はそう言いながら食事をしていた。

 

『なんで君は平然としてるの!?』

 

 

「ロマニ、うるさい。それにしても……過労死……生命力の枯渇……あっ」

 

 龍牙は何かに気付いた様だ。

 

「龍牙様、何か知っておいでなのですか?」

 

 

「ぁ〜……まぁ、心辺りがあると言うか、原因は俺と言うか、でも今回の件は元々、ギルが悪くもあって」

 

 

「龍牙様……御説明を」

 

 シドゥリだけでなく、周りの者達も龍牙が原因を知っていると知り彼に迫る。

 

 そして龍牙が事の次第を話し出す。

 

 ギルガメッシュの死因は過労、その兆候は彼がこの時代に来た時から分かっていたらしい。

 

 龍牙は魔力的なパスを彼女と繋ぎ、彼女の使用する魔力の全てを肩代わりしていた。既に身体もボロボロ、生きる為に必要な生命力も枯渇していた。

 

 そして龍牙は彼女の身体を癒やし、生命力を補填する為に自身の生命力を分け与えていた。

 

「成程、ギルガメッシュ王の御身体はそこまで……」

 

 

「まぁ、本人は他の者に心配かけまいと隠していたがな。手先なんて半分壊死してたし、他にも不調があったろうに気合だけで耐えてたな」

 

 それを聞き、周りの者達が嘆いた。何故、自分達はそれに気付かなかったのかと。

 

 半神であるギルガメッシュが本気で隠そうとした事を人間が見抜くのは難しい。しかし、ギルガメッシュと共に歩んできた臣下達はそれでも自分達が気付いていればと考える。

 

「ですが、ならば何故王は」

 

 

「最近は忙しくて時間がなかったからな……パスだけじゃ限界だったか……取り敢えず、冥界に降りて迎えてくるか」

 

 

「可能なのですか!?」

 

 

「蘇生可能だ。しかし、魂は冥界の女神エレシュキガルの元にある。こっちに呼び出すのが難しいし、俺が直接迎えてくるよ」

 

 

「ではお願い致します。それまで王の御身体は我等がしっかり御守り致します」

 

 シドゥリを始め、他の臣下達も頭を下げた。臣下達はこの時、心の底からそう願った。

 

「あぁ……じゃあ、少しの間、頼むよ」

 

 龍牙は身を翻し、何かを取り出した。それは鐘の様だ。

 

 その鐘を振ると「チリーン」と辺りに音が響く。

 

 すると龍牙の床が盛り上がり、そこから門が現れる。ギィィと鉄の重い音が鳴り、門が開いた。その先は真っ暗で、冷たい空気が流れてくる。

 

「行ってくるよ。ぁあそうだ、バターケーキ食べたいから作っておいてね」

 

 龍牙はそれだけ言うと門の中に飛び込んだ。



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EP102 冥界の女神、再登場

 〜冥界〜

 

 冥界、それは死者の国であり、本来であれば生者は踏み込んではならない世界。冥界は神話により様々だが、地下にあるとされており、このメソポタミアにおいても冥界は地下深くに存在する。

 

 龍牙が使った鐘はかつて、彼がこの時代にいた時にこの冥界の主より貰った物で、鳴らすだけで冥界への門が出現し、出入り可能の権利の証となっている。

 

「さてと……取り敢えず奥に向えばいいか」

 

 

「そうね。アイツの事だし奥にいると思うわ」

 

 龍牙は振り返る、そこには女神イシュタルが立っていた。

 

「……疲れが抜けてないな、帰ったら寝よう」

 

 

「幻覚じゃないわよ。ギルガメッシュが死んだって聞いてやってきたのだけど偶々、アンタを見つけて冥界の門を出したから一緒に飛び込んだのよ」

 

 

「あの女神イシュタル……此処はエレシュキガルの領域ですけど」

 

 

「だから?」

 

 

「神話時代からあまり仲が良くないと聞いてますけど」

 

 

「私が気に入らないのよ。私の半身でありながら性格も性質も正反対、何時も暗いしウジウジしてるし、アイツはちゃんと役割を全うしてるのだし胸を張っていればいいのに……」

 

 

「つまり、姉が心配と」

 

 

「ちっ違うわよ!」

 

 神話の時代からあまり仲が良くないと思われていたが、イシュタルなりにエレシュキガルを思っているらしい。依代の影響か、それとも大本のイシュタルの影響なのかはさておき、龍牙はそれを聞き微笑ましく思っていた。

 

「じゃあ取り敢えず行きましょうか、女神イシュタル」

 

 

「……ねぇ、前から思ってたけど他人行儀過ぎない?」

 

 

「多少なりに敬意をはらってるんだが」

 

 

「なら辞めなさい、もっとこう親しみを込めて話しなさい。敬語も禁止よ」

 

 

「はぁ……分かったよ、これでいいか、イシュタル?」

 

 といきなり真っ直ぐ自身を見てタメ口で話し掛けられ顔を赤くするイシュタル。

 

「やればできるじゃない。さっ……さぁ行きましょう(ヤバッ……胸がきゅんとしちゃった)」

 

 赤くなった顔を隠しながら先に進むイシュタル。龍牙も後に続き歩を進める。

 

 

 

 少し進むと大きな門が現れる。

 

「こんなんあったかな? 以前はなかった様な……一本道だし、これを越えないといけないか」

 

 

「チッ……面倒ね」

 

 

『創造と破壊の龍を宿せし龍牙に問う』

 

 と何処からともなく声が聞こえてきた。

 

『美の基準は千差万別のようで絶対なり。黒は白に勝り、地は天に勝る。

 であれば……エレシュキガルとイシュタル。美しいのはどちらなりや?』

 

 

「ちょっと! 前と質問が違うじゃない! しかも名指しってどういう事よ!」

 

 イシュタルはこの質問に怒り講義するが、謎の声は『こた〜え〜よ』と言うだけ。

 

「問題に正解しないと進めない感じか……さてどうこたえt「そんなの決まってるじゃない! ねぇ!」」

 

 イシュタルは龍牙の肩を掴みそう言う。よく見れば爪が食い込む程強く握られているみたいだ。

 

「(何となく予想はつくが)では答えはイシュタル」

 

 それを聞きイシュタルは勝ち誇った顔をし身を翻す。半分脅した様なものなのに満足なのだろうか? 

 

「フフフ、当然よね。アイツは植物と腐敗の女神、私は美と豊穣の女神。どっちが美しいかなんて決まt」

 

 イシュタルが勝ち誇った顔をして、身を翻し髪を靡かせ歩を進める。門に近付いた瞬間

 

 ードガッーン! ー

 

「アババババババッ」

 

 イシュタルに雷が落ち彼女は悲鳴を上げる。雷が止むと黒焦げになったイシュタルがその場に倒れ込んだ。

 

「あちゃー……」

 

 

『バーカーがー』

 

 

「答えはエレシュキガル」

 

 

『よーろーしーいー』

 

 謎の声がそう言うとゴゴゴゴッと重い音と共に門が開いていく。

 

「確か冥界の門は7つだったか……つまりこれが後に6回続くと」

 

 黒焦げになったイシュタルを抱える(お姫様抱っこ)とそのまま奥へと進んでいった。

 

 残り6つの門、その度に質問に答えようとする龍牙の邪魔をするイシュタル。彼女はその度に冥界の雷を受けていた。何故か1つ目の門以降、雷の威力が上がっていたのは気の所為だろう。

 

 その結果

 

 

「力を削がれる=縮むのか……」

 

 龍牙は目の前で掌サイズまで縮んだイシュタルに対してそう言った。

 

 神話の時代、イシュタルは冥界へ降った事がある。その際にも冥界の7つの門を通った、エレシュキガルはイシュタルが門を通る際にその力と権能の象徴する服や装飾品を1つずつ奪い去り、最後には丸裸にしたと言う。今回は力を削がれ縮んだ様だ。

 

「フハハハハハハ!」

 

 門を超えた所で笑い声が聞こえてきた。振り返ってみると、腹を抱えて笑うギルガメッシュが立っていた。

 

「アハハハハハ! ぷくく……ぶはぁ、アハハハハハ! はぁはぁ、イシュ……タル……貴様、何だ、そのチンチクリンな姿は! 我を殺す気か?! アハハハハハ!」

 

 

「なんですってぇ!」

 

 ギルガメッシュは笑いながら苦しそうに悶えている、そんな彼女を見てイシュタルは怒ったのか飛び蹴りをする。

 

 しかしギルガメッシュは指先でイシュタルを摘み、ぷらっぷらっと揺すっている。

 

「離しなさいよ!」

 

 

「フハハハハハハ! 戻ったら日誌につけなければ『英雄王、チンチクリン女神(笑)の所為で腹筋大崩壊と』」

 

 

「誰がチンチクリン女神(笑)よ!?」

 

 

「よぉ、ギル。元気そうでなによりだ……死んでるのに、元気と言うのも変な話か?」

 

 

「ウム、出迎え御苦労」

 

 

「それにしてもギルが過労死とは……昔の俺の方が凄く死にそうだったのに」

 

 龍牙はそう言うとギルガメッシュの笑いが止み、顔を反らす。どうやら彼女も昔の事については自覚はある様だ。

 

「フム……まぁ、その様な事もあったな。ではエレシュキガルの元に行くとしよう」

 

 

「おい、こらっ……って行っちまった。相変わらず自分勝手な……まぁ、仕方ないか」

 

 先に行ったギルガメッシュを追いかけて行く龍牙。

 

「だから離しなさいよぉ!」

 

 掴まれてるイシュタルの叫びは誰も虚しく響いていた。

 

 

 

 冥界の最奥についた。

 

 岩だけの広場と無数の檻の様な物に光の球が浮遊していた。

 

「此処が冥界の最奥か」

 

 

「あぁ……当の本人が見当たらないけど」

 

 龍牙とギルガメッシュが辺りを見回すが誰もいないようだ。

 

「おーい、エレちゃ〜ん」

 

 龍牙がそう言うと奥の方からダダダダダッと何の音がする。

 

「その呼び方止めてぇぇぇぇ〜」

 

 どうやら誰かが走って来たようだ。その誰かは龍牙達の元に着く前に石で躓いた。そして顔面から地面に突っ込み、龍牙達の足元まで滑ってきた。

 

「えっと……大丈夫?」

 

 

「ぅう〜……こんな再会なんてあんまりなのだわぁ」

 

 このイシュタルと瓜二つの少女こそ、この冥界の女主人、エレシュキガルである。



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