ウルトラマンオーブ ─Another world─ (シロウ【特撮愛好者】)
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キャラ設定


はじめまして、シロウ【特撮厨】と申します。
処女作なので、見苦しいことばかりだと思いますがよろしくお願いします。

今回は、キャラ設定です。

※11/20 15:43、一部修正しました。


オリジナルキャラクター

 

草薙眞哉(シンヤ):ウルトラ作品が好きな青年。ある日事故に巻き込まれるが、謎の光によって救われる。その光から「オーブを助けて」と頼まれ、ウルトラ戦士達のウルトラフュージョンカードが収まったカードホルダーを託される。その光に導かれ、こちらの世界へやって来た。

 元いた世界では「ウルトラマンオーブ」が放映していなかったため当然オーブのことは知らず、「新しいウルトラマン?」としか思えなかった。オーブの正体を知り、共に戦うことになる。その後はSSPのメンバー見習いになり、SSPのオフィスに寝泊まりをする。

 性格は明るく、時々熱血漢。怪獣の知識もある。ウルトラ作品が好き過ぎて、時々言葉の中にウルトラ作品の台詞を混ぜることもある。誰にも気付かれないが、その台詞がガイに影響を与えることも。

 

 

(ヨミ):中性的な雰囲気の青年。黒を基調とした服装に身を包んでいる。ジャグラスジャグラーと行動を共にする。ジャグラーが持たない怪獣カードを所有しており、そのカードを彼に提供しサポートに徹する。生身の戦闘もこなし、ジャグラーの背中を預かることも。ジャグラーの指示には忠実に従う。

 シンヤの邪魔や妨害をしたり、何かとシンヤと対立する。

 惑星侵略連合の宇宙人や、魔王獣に対しても物怖じせず、むしろ楽しんでいる様子。

 これから先の未来で起こることや、これまで何があったのか全てを知っているかのような態度でシンヤやガイ、他のキャラクター達を挑発する。

 ダークリングをもう1つ所有しており、彼が怪獣を呼び出すこともあるが、彼のダークリングは特殊で、ジャグラーと違って怪獣同士でフュージョンアップをしても、自身が一体化する必要がない。

 姿を変える能力はないが、エネルギー弾を発射したり、「詠之刃(ヨミノヤイバ)」という小太刀を持っている。

  性格はシンヤと真逆で、ジャグラーとよく似ている。

 

 

TV本編キャラクター

 

クレナイ・ガイ:TV本編の主人公で、ウルトラマンオーブの人間態。本編とは特に変わりはないが、シンヤの事情を聞き、共に戦うことになる。

  ヨミのことは当然知らないため、ジャグラーと共にいるヨミに違和感を感じながらも、魔王獣やジャグラーとの戦いに身を投じる。

 シンヤとの戦いの中で大先輩であるウルトラ戦士達の意志を学んでいく。

 

SSPメンバー:本編と特に変わらず。

 

ジャグラスジャグラー:本編と(ry

  クレナイ・ガイと因縁の深い相手。通称「ジャグラー」で、ヨミには「ジャグラー様」と呼ばれる。行動を共にするヨミには自分に近い「何か」を感じていて、信頼を寄せている。

  普段過ごすための仮の姿──人間態と、本来の姿──魔人態に変貌する能力を持つ。

  ガイと互角の実力の持ち主で、日本刀に似た「蛇心剣」という剣を持っている。





…いかがだったでしょうか。
オリキャラにはまだまだ公表できない設定もありますが、察しの良い方は気付いてしまうかも…
(´・ω・`)
次回はちょっとしたプロローグを、それから本編に入ろうと考えています。
更新ペースは安定しないと思いますが、完結目指して頑張りますのでどうぞよろしくお願いいたします。


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主要キャラ4名のプロフィール

お久し振りです。

もうじき1周年という事で、シンヤ君達のプロフィールを載せようと思います。
もしかすると、新しい発見があるかも知れません。


〇主人公サイド

・草薙眞哉(くさなぎ しんや)……今作の主人公。

 本来は別世界(ウルトラ作品が放映されている世界)出身の人間だが、ある時を境にこちらの世界へとやって来た。20代前後。

 こちらの世界に来る際に、『ウルトラフュージョンカード』が収められたカードホルダーを託される。これらのカードはオーブのフュージョンアップに使われる他、シンヤ自身が用いた場合、一定時間のみウルトラ戦士の力を宿らせる。他にも、フュージョンカードからウルトラ戦士と共に戦った防衛組織の武装を具現化させる事も出来るようになった。

 これまでは一般人だったシンヤだが、こちらの世界に来た事で様々な能力が発現している(例:身体能力の向上、前述した2つの能力、サイコメトリーや透視等の超能力)。

 物語開始時点での格闘技術はそうでもなかったが、数々の戦いやガイとの特訓を通じて、ヨミと同等のレベルまで昇華。今後の特訓次第では、その力はもっと伸びる可能性を十分に秘めている。

 

〇シンヤが使用したウルトラフュージョンカード

・ウルトラマンレオ

・ウルトラマンネクサス アンファンス

・ウルトラマンダイナ

・ウルトラマンマックス

・ウルトラマンメビウス

 

・クレナイ・ガイ……今作のもう1人の主人公で、ウルトラマンオーブ其の人。

 惑星O(オー)-50(フィフティ)の『戦士の頂』に輝く光に選ばれ、ウルトラマンオーブへと変身出来るようになる。

 ウルトラマンとしてのファーストミッションではダイナやコスモス、ガイアとアグルら4人のウルトラ戦士と共闘している。

 それからは『戦士の頂』の光から与えられたミッションを果たすべく様々な宇宙を渡り歩き、数々の出会いと別れを繰り返しながら、今に至る。

 シンヤと出会って間も無い頃はつっけんどんな態度を取っていたが、今ではお互いに信頼し合える良好な関係を築き上げた。現在は、シンヤと共にSSPのオフィスに居候している。

 ルサールカでの一件以降、長らく本来の力(オーブオリジン)を失っていたが、その真実が明らかになった事で本来の自分を取り戻し、地球を守り続ける決意を新たにした。

 

〇作中に登場したフュージョンアップ形態

・スペシウムゼペリオン

 ……ウルトラマン×ウルトラマンティガ

・フォトンビクトリウム

 ……ウルトラマンガイア(V2)×ウルトラマンビクトリー

・バーンマイト

 ……ウルトラマンタロウ×ウルトラマンメビウス

・ハリケーンスラッシュ

 ……ウルトラマンジャック×ウルトラマンゼロ

・ライトニングアタッカー

 ……ウルトラマンギンガ×ウルトラマンエックス

・フルムーンザナディウム

 ……ウルトラマンコスモス×ウルトラマンエックス

・サンダーブレスター

 ……ゾフィー×ウルトラマンベリアル

・エクリプスモナーク

 ……ウルトラマンキング×ウルトラマンコスモス(エクリプスモード)

・オーブオリジン

 

 

 

〇敵サイド

(ヨミ)……ジャグラスジャグラーの従者を自称し、シンヤとガイの前に立ち塞がる青年。本人のポテンシャルも高く、歴戦を潜り抜けたガイとも肩を並べる実力の持ち主。相手の懐に潜り込み、小太刀のような武器「詠之刃」で接近戦に持ち込む戦闘スタイルを取る。

 相手を焚き付ける場面も多く、その度に怒りの矛先を向けられるが、それらを意に介さず受け流す技量もある。

 些細な事が原因でジャグラーに銃を向けたナックル星人ナグスに対して、何の迷いも無く刃を抜く非情な一面も。

 もう1つのダークリングを所有しており、怪獣や宇宙人を使役する。他にもヨミ個人の能力として、自身が発する闇の波動を浴びせる事で、怪獣を凶暴化させる。これを浴びた怪獣が、ごく稀に進化するケースもある。

 ギャラクトロンの別名「シビルジャッジメンター」やガイの過去を知っている、別世界出身のシンヤにしか分からない筈の台詞を発したりと、未だに謎が多い。

 

〇ヨミが使用した怪獣・宇宙人カード

・どくろ怪獣 レッドキング

・凶暴竜 ロックイーター

・凶悪宇宙人 ザラブ星人

・奇獣 ガンQ

・フィンディッシュタイプビースト ガルベロス

・半魚人兵士 ディゴン

・傀儡怪人 チブロイド

・誘拐宇宙人 レイビーク星人

 

・ジャグラスジャグラー……ガイの宿敵の青年。

 ウルトラ戦士達によって地球に封印されていた魔王獣を復活させた。

 かつてガイとは良き相棒とも呼べる関係だったが、ある出来事がきっかけで決裂、次第に闇へと堕ちて行った。その過程で、「宇宙で最も邪悪な心を持つ者の元を巡り、持ち主の力を増幅させる」と言われているアイテム『ダークリング』を入手している。この事からメフィラス星人ノストラは、「クレナイ・ガイは光に選ばれ、ジャグラーは闇に魅入られた」と言い表した。

 格闘技術はガイと互角かそれ以上で、日本刀に似た刀「蛇心剣」を帯刀している。

 胸に三日月のような赤い傷痕が刻まれた「魔人態」へと変身する。

 ガイ(ウルトラマンオーブ)を闇に落とそうと画策したが、この時にガイが本来の力を取り戻した事で完全に敗北。同時にダークリングも、ジャグラーの元を離れていった。

 

〇ジャグラーが使用した怪獣・宇宙人カード

・地底怪獣 テレスドン

・磁力怪獣 アントラー

・古代怪獣 ゴモラ

・超古代怪獣 ゴルザ

・大蟻超獣 アリブンタ

・宇宙凶険怪獣 ケルビム

・用心棒怪獣 ブラックキング

・宇宙大怪獣 ベムスター

・6体の魔王獣カード

・ウルトラマンベリアル

・宇宙恐竜 ゼットン

・双頭怪獣 パンドン

 

〇今後登場予定の怪獣(オリジナル回を含む)

・一角超獣 バキシム

・一角紅蓮超獣 バキシマム

・二面鬼 宿那鬼(すくなおに)

・超古代植物 ギジェラ

・宇宙恐竜 ヤナカーギー




ナオミさん達は概ね原作通りなので、今回は載せていません。
今後登場予定の怪獣達がどんな活躍をするのか、ご期待下さい(パロディ、オマージュ要素まみれになるかと思われますが)。
今回名前が出た怪獣が、今後登場予定の全怪獣では無いので、他の怪獣が登場するかも知れませんよ。

最新話も現在執筆中です。頑張ってます。
今作は必ず完結まで持っていきますので、もうしばらくお付き合い下さい。

ではでは、また……ノシ


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プロローグ はじまりの始まり

これから始まります


「あ……。これ、ヤバいパターンのヤツだ」

 

 学校帰り、いつもと同じ道を歩いていたのだが。建設中のビルがあったことに気が付かず、その近くを歩いていた自分の自己責任なんだけど。

 

 誰だって、頭上から建設用の機材が降ってくるなんて思わないだろう?

 

 僕は、草薙眞哉。絶賛命のピンチ中だ。

 地元の大学に通っていた、まぁどこにでもいる一般人だ。周りと少し違っているとするなら、子どもの頃から好きなウルトラマンが、今でも好きってことかな?

 そのおかげなのか、周りには話の合う奴は一人もいないし、退屈な毎日だった……。

……って、人生振り返ってる場合じゃないよ!?とにかくここから動かなきゃ!

 でもこんな時だってのに、足は動いてくれないし、両目は悠長に降ってきた機材の観察まで始めるし。

 その機材は僕が名前も知らないものばっかりで、大きさはどれも不規則で、バラバラに降ってきている。どう足掻いたところで、これから回避するには遅すぎる。

 この時。僕は確実に死を直感した。

 

 ……いや、まだ終わりたくない。そんな強い想いが、燃え上がった。

 死にたくない。まだ生きたい。こんなところで、僕の人生を終わらせたくない!

 僕が尊敬するあの人達だって、絶対に最後まで諦めなかった!だから僕だって!

 無駄な足掻きだと思われるかも知れない。それでも……それでも!!

「僕は……!僕はっ……!!」

 

『──ッ!』

 

 目の前に機材が迫った時。どこからか声が聞こえて、

 

 僕は、光に包まれた。

 

 

 

 

 

 目を開く。

 目の前に広がるのは、白一色の天井。

 背中に硬い感触があって、寝転がっていることを認識した。

 周囲を見回そうと首を動かす。首はまだ繋がっているようだ。

 次に両腕と両足が動くか確認。問題ない。

 立ち上がれるか。難なくクリア。

 改めて周囲を見回す。そこは病院とも違う、純白の空間だった。

 

(ここは……。一体……)

 

 ウルトラ作品を見ていた僕には、見覚えのある空間だった。こういう場所だと、その主人公と一緒に戦っているウルトラ戦士が語らったり、新しい力を授かる時によく登場する場所だ。

 

(ということは……、僕は……)

 

───草薙、眞哉さん…。

 

(っ!?誰!?)

 

 聞き慣れない女の人の声が聞こえて、反射的に振り返ったけど、僕以外はここにいなかった。

 

───眞哉さん、あなたに頼みがあるのです。

 

(……君が、助けてくれたの?)

 

 姿の見えない彼女にそう訪ねる。しばらく沈黙が続いて、それが肯定だと認識した。

 

(……僕に出来ることなの?)

 

───えぇ。あれを見て下さい。

 

 その途端、後ろから音が聞こえた。小さな音ではなく、巨大な何かがぶつかり合う衝撃音だった。

 すぐに振り向くと、驚愕の光景が広がった。

 

 そこはどこかの森。周りが暗いことから、夜なのだと察した。そんな中で、巨大な2つの影が争い合っていた。

 一方は光輝く巨人。額には水色に光る発光体があり、胸にはアルファベットの「O」の字が見えた。

 

(……ウルトラマン?でも僕はあんなウルトラマンは……知らない)

 

 もう一方は、光の巨人と対になるような黒い体。顔と認識できる箇所には、赤く光る結晶が目立つ。胸には青いパーツがあった。

 

(あれは……ゼットン?でも僕が知ってるゼットンとは違う……?)

 

──ゼットンは、かつて初代ウルトラマンを倒したことがある怪獣だ。その体は、どの種族も黒と金を基調とした色使いだった。だからこそ、あんな色のゼットンは見たことがなかったのだ。

 

 やがて、そのゼットン──マガゼットンは頭部から火球状の蒼いエネルギー弾を、眞哉の知らないウルトラマンに向けて発射。それが直撃して生まれた爆風は凄まじく、周囲にまで影響を及ぼした。

 

 それがいけなかった。

 

(あっ……!女の子が……!)

 

 その近隣に住んでいたのであろう金髪の少女が、その爆風に巻き込まれたのだ。なぜこの場所に女の子が…。眞哉はそう思ったが、一方の巨人の方にも動きがあった。

 

 その少女とは知り合いだったのだろうか。怒りに震える巨人は、剣のような形状の武器を取り出した。その剣にエネルギーを充填し、光線としてマガゼットンに解き放った!

 

『ーーーーーーーッ!!』

 

 巨人の声にならない叫びと共に放たれた光線は、マガゼットンに直撃した!だが怒りに任せて放った広大なエネルギーは、巨人でさえ制御が効かず、その剣は持ち主から離れていき、マガゼットンに激突した。

 その時の衝撃は先程の爆風を遥かに超え、森林一帯を飲み込むドーム状になって、辺り一面を焼け野原に変えた……。

 

(そんな……)

 

 僕は自分でも気付かない内にそう呟いていた。ウルトラマンは、これだけの力を持っていると改めて実感せざるを得なかった。

 

───彼を、オーブを助けて下さい。

 

(オーブ?あの巨人……ウルトラマンのこと?)

 

 長い沈黙。

 

(どうして僕なの?)

 

 また沈黙。

 

(……僕にしか、出来ないことなの?)

 

───彼に伝えて欲しいのです。あなたがよく知る、英雄達の意志を。

 

(……っそんなこと言われたって、分からないよ!)

 

───あなたにならきっと出来ます。……これを授けます。

 

 彼女がそう言うと、上から何かが降りて来た。僕はそれを両手で受け取った。

 どうやらカードホルダーのようだ。表紙には特徴的な「O」のマーク。早速めくると、そこには数々のカードが入っていた。

 

(ウルトラ戦士のカード!?それに……エックスまで!?)

 

 全ページをめくると、所々抜けているカードはあったけど、ほとんどのウルトラ戦士のカードがあった。

 

───ウルトラフュージョンカード。あなたの、オーブの力になってくれます。

 

  改めて全ページをめくってウルトラ戦士達のカードを確認していく。そこには僕が尊敬して止まない人達がいた。この人達と一緒なら、きっと出来る。そんな根拠のない自信が、ふつふつ沸いてくる。

 

(分かった……。まだよく分かんないけど、僕に出来ることを、精一杯やってみる!)

 

  その声の主は、静かに微笑んだ。目には見えないけど、そんな気がしたのだ。

 

───ありがとう。では、あの光に向かって進んで下さい。その先にオーブがいます。

 

  僕の視線のずっと先に、強い光が輝いていた。一歩ずつ、ゆっくり進んで行く。その光に辿り着いた時だった。

 

───オーブを、ガイをよろしくお願いします…。

 

  その声を聞いて振り向いても、誰もいなかった。

 

「……行ってきます」

 

  そこにいない誰かにそう呟いた僕は、光の向こう側へと進んで行った。




お昼にキャラ設定を投稿したので、これで2本目ですね。
これから先もこの調子でやれたらいいな~

※眞哉君が所有するカードで抜けているカードは、ガイさんが主にフュージョンアップに使うカードです。
それ以外にも数枚抜けていますが、その理由はいずれ。

またお会いしましょう。ノシ


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第1話 夕陽の風来坊 ー前編ー

どうも。
マガゼットンのあの技、「マガ光弾」って名前でしたね…。

お気に入り登録、ありがとうございます。
今回から本編開始です。


 ある日の公園。友達と遊ぶ小さな子どもや親子、カップルでにぎわうこの場所で、人々はいつもと変わらぬ平和な一時を過ごしていた。

 その中に、ベンチに腰掛けた親子がいる。母親は子どもに、『風の又三郎』の絵本を読み聞かせている。

 

「どっどど どどうど、どどうど どどう。青いクルミも吹き飛ばせ。すっぱいカリンも吹き飛ばせ……」

  子どもに語りかけるように、優しく読む母親。一方の子どもも、ずっと聞いていたのだが──。

 

「──とり!」

 

 どこからか何かの鳴き声が聞こえたかと思えば、子どもが突然、正面に見えるビル街を指差した。その指先を追い、母親もビル街を見た。

 すると、巨大な黒雲が生まれ、黒い渦を巻く竜巻が突如発生した。それも1つだけではない。いくつもの竜巻が、ビル街を襲った。

 公園で過ごしていた人々はそれに気付いて、悲鳴を上げて逃げ惑う。そんな中、先程の親子に向かって、ビル街の一部だったであろうビルの残骸が降って来た。

 数分前まで人々が平和に過ごしていた公園は、地獄へと一変した──。

 

 

 

 場所は変わり、東京都多摩市北川町──。どこにでもある平和な町。そこに一軒のオフィスがある。1階はガレージで、黄色い車が停められている。このオフィスがどういった建物なのかはっきり分かる看板があって、とても特徴的だ。

 僕は、外に建て付けられた金属製の階段を上り、2階にあるデスクの扉をノックして、しばらく時間を置いてからその扉を開けた。

 

「ただいま戻りました~」

「あ、おかえりシンヤ君。いつもお疲れ様」

 

 この人は、夢野ナオミ。このオフィスに本拠地を構える組織──SSPの発起人兼代表で、キャップと呼ばれている。

 SSP──Something(サムシング) Search(サーチ) People(ピープル)──は、ナオミさんを中心に設立された怪奇現象追跡サイトのことだ。モットーは、「世界のミステリーや怪奇現象を解明すること」。

……しかし閲覧数や経営状態はあまり良くなく、オフィスの家賃は滞納気味で火の車。

 だからナオミさんは、色んなバイトを掛け持ちしているのだ。

 

「いえいえ。ナオミさんこそ、お疲れ様です。……ところで、そちらのお2人は今、何を?」

 

 ナオミさんの後ろに視線をずらすと、パソコンの前でアンテナの様な装置の説明をする眼鏡をかけた青年と、それの説明を受ける茶髪の青年がいた。2人は僕を見つけるなり急に寄って来て、ほとんど同時に話し始めた。

 

「おかえり、シンヤ君。いや聞いてよ、超大スクープなんだよ!あのね……」

 

 この人は、早見ジェッタ。ナオミさんとは大学時代からの友人らしく、「ジェッタ」というのはあだ名で本名は「早見善太」というそうだ。

 SSPのウェブ・カメラ担当で、自分のスクープがきっかけで世界的な有名人になるのが夢……らしい。

 

「おかえりなさい、シンヤ君。ジェッタ君の話より僕の話の方が興味ありますよね?あ、これですか?これは、ストームチェイサーと言って……」

 

 こっちの眼鏡の人は、松戸シン。SSPの調査分析を担当している。小学生の頃にカオス理論の高次元定理?を発見して、23歳という若さで博士号?を取得した天才。そこまで頭の良くない僕には、とにかくすごい人だってことしか分からない。

 

「2人とも落ち着いて!いっぺんに聞くなんて出来ませんよ~!」

 

 そして僕は、草薙眞哉(シンヤ)。ある日この世界にやって来た、いわゆる異世界人だ。

 この世界にやって来てすぐに、泊まる場所がなくて困っていた僕に声をかけてくれたのが、ナオミさんだった。ナオミさんは大家さんに掛け合って、僕を大家さんの家に泊めてもらえるようにしてくれた。その時の恩返しで、僕もこのオフィスの家賃やら水道代やらの返済を手伝っている。

 それでこのオフィスに顔を出すようになって、ジェッタさんやシンさんと知り合った。2人とも悪い人ではないんだけど、せめてこのオフィスの家賃の返済を手伝って欲しいんだよね……。

 

「分かりました!ジェッタさんのお話から聞かせていただきます!シンさんは、その後!」

 

 2人をなだめて、まずどちらの話から聞くかを決めた。ジェッタさんは嬉しそうに笑っていたけど、シンさんは少し落ち込んでいた……。

 

 

 

「鳥を見た?」

「そう!無茶苦茶な竜巻でビルが降ってきて大騒ぎな時、巨大な翼を持つUMA(ユーマ)を目撃した人がいたんだ!ほら、これ見てよ!」

 

 ジェッタさんが使っているタブレットの画面には、暗い雲を背景に巨大な鳥、もしくは翼を広げた龍のような影が写った写真が表示されていた。

 

(この世界に生息している地球の怪獣……なのか?だとしたら、何でこんなことを……?)

 

 その画像を見ながら、僕はそう考えずにはいられなかった。ネットの人達は鳥だって言っているけど、間違いなくこれは怪獣だ。最近頻繁してる異常気象も、きっとこの怪獣が絡んでいる……。そう決めつけるのは早すぎるかも知れないけど。

 

「確かに鳥に見えなくもないですけど……これ捏造とかじゃないんですか?」

 

 さすがにこれを怪獣だって言っても誰も信じてくれないと思った僕は、周りの意見と合わせてこれを鳥ということにして、ジェッタさんに質問をしてみた。

 

「何だよ~これは捏造とかコラ画像とかじゃないって!」

 

 何で信用してくれないのかな~、とジェッタさんは頭を掻きながらぶつぶつ呟いた。

 

「とりあえず、このUMA?については分かりましたけど、これとシンさんの発明品がどう繋がるんです?」

 

 ジェッタさんが見せてくれた画像と、シンさんのアンテナのような発明品のお互いを見比べながら、今度はシンさんの話を聞くことにした。

 

「よくぞ聞いてくれました!これは、僕が発明したストームチェイサーと言って……あ、それはもう説明済みでしたね。えっと、気圧センサと磁力測定器を組み合わせた万能気象追跡マシンで……」

 

 そんな具合で、シンさんは発明品の説明を語り始めた。説明は日頃聞き慣れない単語ばかりで、理解が追い付かず混乱しそうになった。

 

 簡潔にまとめるなら、

 

「つまり……。これを使って、観測した数値が大きい場所の周辺に、あのUMAがいると?」

 

 といったところだろうか。その予想が正しいかどうか、シンさんに同意を求めた。

 

「まぁ簡単に言えばそうなりますかね。シンヤ君が来る前に、このことを話し合っていたんです」

「もしスクープ映像取れたら、俺達大金持ちだよ!ね、シンヤ君も行こうよ!」

 

 ジェッタさんはずいぶん乗り気だけど、その大金持ちって考えはどうかと思うな~……とは言えず、ふとナオミさんが持っていた請求書の束を見て話題を変えてみた。

 

「でも、先月分の家賃も払わなきゃいけないんじゃないですか?そんなことしてるとほら……」

 

 僕がそう言ったと同時に、オフィスの扉をノックする音が外から聞こえた。

 

「夢野さ~ん?お家賃のことでお話に来たんですけど……」

「やばい大家さんだ……。先月の部屋代まだだし……」

「さっさと出かけた方が良いんじゃないですか?裏口から……!」

 

 小声で囁きながら、ナオミさん達はすぐにでもこの部屋から出られる準備を始めていた。

 それを見て僕は思わず溜め息をついたけど、決心して3人に言った。

 

「分かりました、僕が足止めしますから、皆さんは裏口から出て下さい……!」

「ありがとう、シンヤ君…。それじゃあSomething Search People、出動~!」

「しっ!声が大きいですよ!」

 

 最初は小さい声で話していたのに、急に大きい声を出すものだから、シンさん達に口を押さえられながらナオミさんは裏口へ向かって行く。

 

「あ、どうも~大家さん。いつもお疲れ様です……。ナオミさんなんですけど、ついさっきバイトがあるって出かけたばっかりなんですよ~。それで僕が留守番頼まれちゃって……エヘヘ」

 

 僕の方も、大家さんに対してそれらしい嘘を言いつつ、後ろを時々確認していた。そうしている間に、ナオミさん達は裏口から出ていった。

 

 

 

──その頃、零下20℃のトラックの荷台の中に5時間もいた謎の若者が、この町にやって来ていた。

 

 

 

「ふ~……。大家さんの話、だんだん長くなるから嫌なんだよな~。……でもいっつもお世話になってるし、あんま悪いこと言えないんだよね」

 

 そんなこんなで大家さんの足止めを終えた僕は、オフィスの畳部屋に寝転がった。首だけを動かして自分のカバンを見た僕は、カバンに手を伸ばして中身を取り出した。

 カバンの中には、あの時授かったカードホルダーがいつも入っている。そのページを何度もめくりながら、あの時の言葉を呪文を唱えるように天井に言う。

 

「これがオーブの力になる……か。そもそもオーブって誰なんだ?」

 

 オーブ。きっとこの世界にいるウルトラマンのことだろう。でもウルトラ戦士達の力を使うウルトラマンなんて、見たことも聞いたこともなかった。

 

「この事件に、オーブは関わるのかな……?」

 

 ジェッタさんに見せてもらったあの画像を思い出しながら、ふと呟いていた。

 

「ただいまシンヤ君!すごいよ!UMAは実在したんだ!キャップ、ちゃんと撮ってたよね!?」

 

 すると、ついさっき出かけた3人が帰って来た。咄嗟に僕は、カバンの中にカードホルダーを押し込んだ。これはまだ誰にも見せたことがないし、色々問い詰められるのは嫌いだからだ。

 中でも、特にテンションが高いのがジェッタさんだ。これでアクセス爆上がりだ~!とか何とか言っている。余程すごいものを見たのだろうか……?

 

 しかし、映っていたのはナオミさんがSSP-7の後部座席で叫んでいる映像だった。ジェッタさんはものすごいショックを受けていた。まぁそうだろう。世紀の大スクープを撮影していた自前のビデオカメラを紛失して、ナオミさんのスマホで撮影を頼んだ結果がこれなのだから。

 SSP-7というのは、SSPが使っている車のことだ。ガレージに停められている黄色い車がそうだ。

 しかしこの映像を見ると、かなり画面が揺れている。竜巻にでも巻き込まれたのだろうか……?そう思うだけで、SSP-7の頑丈さには驚かされる。

 

「仕方ないですよ。ものすごいパニック状態だったんですよね?大目に見ましょうよ」

 

 ジェッタさんへのフォローを入れていると、シンさんが「これを見て下さい」と自分のデスクのパソコンを示した。

 

「あの男が言っていた、『悪魔の風』について調べてみたんですよ。『太平風土記』にも、悪魔の風を吹かせる『マガバッサー』という妖怪の記載があります……」

 

 そこからは、シンさんの分かるような、分からないような解説が始まった。今日の天気図を見せられたり、「バタフライ効果」やらの説明、何かのスイッチが入ったシンさんが、後ろの黒板に何かしらの方程式を書くまでに至った。黒板消しの粉でむせる僕らを気にせず、夢中になるシンさんを何とかなだめて、明日またあの「マガバッサー」なる怪獣を探しに行くことになった。

 

 今度は僕も同伴することにした。きっとまた、あの巨人は現れる。そんな気がしたのだ。

 

 

 

「大丈夫ですか?ナオミさん。そんなに持ったら危ないですよ……。僕も持ちます」

「大丈夫。昨日はお世話になったし、このくらい……」

 

 後日、町中にやって来たSSP+αは昨日の怪獣を探すべく、調査を始めた。しかし何時間粘っても現れないので、ジェッタさん達がナオミさんにおつかいを頼んだのだ。何でも、手が空いているのがナオミさんだったから。僕も手が空いていたから、ナオミさんの付き添いをしている。でもナオミさんは僕も含めた4人分のコーヒーを持ちながら歩いている。手伝おうとしているのだけど、さっきから大丈夫の一点張りなのだ。

 

「そうやって歩いてて、他の人にぶつかっても知りませんよ……って!もう言わんこっちゃない……」

 

 ナオミさんは、目の前から歩いて来た人にぶつかって、その人の服をコーヒーで汚してしまった。

 その人は黒いスーツに身を包んだ、いかにもホストのような雰囲気の男性だった。

 

「あぁ、すみません……」

「……大丈夫です。では……」

 

 その男性はナオミさんが謝った後、笑顔でそう言って立ち去ろうとした。

 

「あの、クリーニング代を……」

 

 ナオミさんが言いかけたと同時に、向こうの空から雷の音が聞こえた。男性はそれを聞いて、こう言った。

 

「嵐が来そうですね……」

「変な、天気です……」

「僕は嵐が好きですよ。退屈な世界から心を解き放ってくれますからね」

 

 ナオミさんが不思議そうな顔をすると、さっきよりも大きな音が聞こえた。その方角を見ながら、聞き慣れない言葉を男性は発した。ナオミさんは思わず男性に聞き直した。

 

「『Un coup de foudre(アン クー ドウ フードル)』……。日本語で何を意味するか分かりますか?……雷の一撃。出会い頭の一目惚れです」

 

 稲光が走った時だった。その男性の背後に、人間ではない、別の「何か」が見えた気がした。咄嗟に僕はナオミさんの前に出た。でも気が付いた時、その人はもういなかった。

 

「シンヤ君……?どうかした?」

「あ、いえ……。何でも……ないです」

 

 後ろのナオミさんにそう言われて我に返った僕は、そう言わざるを得なかった。

 すると、シンさんがストームチェイサーに反応が出たと連絡をしてきた。2人に合流するために、僕らは走り出した。

 その時も、僕の頭の中にはあの人のことが引っかかっていた。

(今の人……。一体、何者なんだ……?)

 

 

 

 

 

 2人がいた広場に到着すると、ストームチェイサーから点滅するような電子音が聞こえていた。

 それと同時に、巨大な勢力の気圧が真上に迫っていた。

 気圧の中心は黒い渦を巻き、禍々しいとしか表現しようがなかった。

 そこから生まれた暴風が広場にいた人々を襲い、ナオミさんを黒い渦へと吹き飛ばした!

 

「キャップー!」

「ナオミさーん!」

 

 ナオミさんは吸い込まれるように空に昇って行く。それを僕らは見ていることしか出来なかった……。

 

 

 

 逃げ惑う人々の流れに呑まれてしまった僕は、ジェッタさん達ともはぐれてしまった。

 何も出来ずに周囲を見回していた時だった。空から誰かが降りて来たのだ。

 その人は、黒いジャケットを来た男性で、他に誰かを抱えているようだった。その抱えられた人は、僕の見知った人だった。

 

「ナオミさん!無事だったんですね……!」

 

 僕が安心すると、その人は僕とナオミさんを見比べて言った。

 

「こいつの知り合いか?なら任せたぜ。じゃあな……」

 そう言って立ち去ろうとした時だった。空から巨大な怪獣が降り立った!

 

「あれが……、マガバッサー……!?」

 

 そこにいたのは、蒼い体躯で巨大な両翼を広げる怪獣。その額には赤い結晶が輝いていた。

 

「おでましになったな……!」

 

 マガバッサーを睨み付けながら、その人は走り出した。その先には避難誘導をする男性がいた。

 

「足元、気を付けて!足元!」

「あぁ、丁度良かった!お願いします!」

 

 その人は避難誘導をしていた男性に、ナオミさんを抱えた状態のまま預けた。どうやらナオミさんとその男性は知り合いのようだ。

 するとジャケットの人は、避難する人々とは逆方向に走って行った。

 

「えぇ!?そっちは逆ですよ!?」

 

 僕はその人の後を追った。後ろでナオミさんが何か言っていたけど、全然気にならなかった。

 

 そうしなきゃいけない。そんな考えが頭をよぎった。

 

 

 

 その人は、人目に付かない証明写真機の中に入って行った。そしてカーテンを閉めた時だった。機械とは違う眩しい光が内側から差し、力強い声が聞こえた。

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 更に眩しく光り輝いたかと思って目をつぶり、次に目を開いた時。

 僕の目の前に、見たこともないウルトラマンが立っていた。

 

『俺の名はオーブ。闇を照らして、悪を撃つ!』




…いかがでしょうか。
書いた自分でさえ後半が読みづらい…。他の投稿者の方々はすごいなと改めて実感します…。

オーブの声を『』で、オーブリングの音声を【】で表示しようと思うのですが、どうですか?

登場する町や住所はオーブ本編での設定なので、実在しません。

後編へ続きます。


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第1話 夕陽の風来坊 ー後編ー

後編です。どうぞ。


『俺の名はオーブ。闇を照らして、悪を撃つ!』

 

──その声と同時に降臨した、紫の光の巨人。その体には、どことなくウルトラマンやウルトラマンティガを彷彿とさせる意匠が施されていた。

 スペシウムゼペリオン──。ウルトラマンとティガ、2人のウルトラ戦士の光線技が由来なのだろうか。

 

  僕はあの巨人を一目見て、そう思った。そして──

 

(あの人がオーブ……ウルトラマンオーブ……。)

 

 証明写真機に入って行った、あの人が巨人の正体だと確信した。

 

 マガバッサーは対峙した巨人を敵だと認識、足音を轟かせて、得意の飛行能力を合わせた頭突きを巨人に繰り出す。巨人は押されるものの、頭を押さえ付けて弾き返す。マガバッサーの両翼を両腕でガード、腹部に蹴りのカウンター。

 巨人は苦戦してもすぐに仕切り直し、マガバッサーへ確実にダメージを与える。その戦い方に迷いはなく、歴戦をくぐり抜けて来たことを窺わせた。

 

 その頃別の場所でも、SSPのメンバー達はこの戦いを見守っていた。

 

「何なんだ、あれは……?」

 

 ジェッタがそう呟くと、どこから現れたのか、ナオミとシンヤが先程出会ったスーツの男性が近くにいた。

 

「ウルトラマンオーブ。輝く銀河の星……光の戦士ってヤツさ」

 

 マガバッサーは両翼を羽ばたかせて、突風を起こす。その威力は、オーブの身動きが取れない程だった。

 突風が止んで、ナオミが周囲を見ると、やはりあの男性はいなかった。

 

 オーブは、縦に回転する円盤のようなエネルギー波をマガバッサーに仕掛ける。しかし、マガバッサーは得意の飛行能力で回避し空に逃げようとする。しかし、オーブの体が紫に光ったと思えば、投げた円盤をキャッチし上空のマガバッサーに向けて投げ、マガバッサーを追跡する。

 

「今のは……八つ裂き光輪!?それにスカイタイプの高速移動!?」

 

 僕は身を乗り出してそれを見た。そして、オーブの能力を自己分析した。

 オーブは、2体のウルトラ戦士の能力を使いこなすのだ。だから、ウルトラマンの八つ裂き光輪(ウルトラスラッシュ)を使えて、ティガのタイプチェンジ能力の一部を使えたのだと。

 その光輪──「スペリオン光輪」は、マガバッサーの左翼に直撃。スピードが緩んだところにオーブが攻撃を開始。自分の土俵だった上空で圧倒されたマガバッサーは、背中から地面に落とされた。

 

[出来上がりまで、後1分。]

 

 証明写真機の機械的なアナウンスが後ろから聞こえた時、丁度オーブのカラータイマーが赤く点滅を開始。それと同じタイミングで、オーブに異変が起きた。

 

「何だありゃ……?」

 

 オーブの体から、半透明なウルトラマンとティガが飛び出し、苦しそうにしていたが、またオーブの体内に収まった。オーブ自身も胸を押さえていた。

 再び構えたオーブは右腕を空へ伸ばし、左腕を広げてエネルギーを充填。

 十字を組んだ腕から放たれるは、スペシウムゼペリオン最大の必殺光線──!

 

『スペリオン光線!』

 

 光り輝く光線はマガバッサーを正確に捕らえ、マガバッサーは爆発した!その爆発でマガバッサーの蒼い羽が宙を舞った。

 その勝利を喜び合うSSPメンバー達。オーブはそれを見た後、天空を見上げどこかへ飛んで行った。

 

 証明写真機から出た男──クレナイ・ガイは、大地に突き刺さる巨大な赤い結晶の前に立った。その結晶は、マガバッサーの額に付いていたものに酷似していた。

 リングのようなアイテム、オーブリングを正面に突き出すと結晶が割れ、そこから生まれた粒子状の光がリングに吸い込まれ、1枚のカードになった。そのカードに対して一礼。

 

「マガバッサーを封印していたのは、ウルトラマンメビウスさんでしたか。お疲れ様です」

[ご利用、ありがとうございました。]

 

 それと同じタイミングで、写真が排出された。

 写真を何とか取り出したガイは、SSPのメンバーの無事を確認、ナオミからハーモニカのようなアイテム──オーブニカを受け取っていた。ナオミを竜巻から救出した時、ナオミがガイの懐から飛び出したそれをキャッチしていたのだ。

 余程大切なものだったのだろう、とても安心した表情を見せた。それからそのオーブニカで、メロディを奏でながら沈み行く夕陽に向かって歩いて行った。

 そのメロディに、どこか懐かしさを覚えたナオミだったが、この場に彼がいないことに気付いた。

 

「あれ?そう言えば、シンヤ君は?」

「あ、ホントだ……。どこ行ったんだろ?」

 

 

 

「待って!待って、下さい!」

 

 あの人がナオミさん達から離れてしばらくして、僕はようやくメロディを奏でるあの人を見つけた。探し出すのにそこら中を走り回ってかなり疲れていたけど、後ろ姿を見て精一杯大きな声で呼びかけた。

 

「アンタ、さっきの……」

 

 その人は演奏を中断して、息を切らしている僕の方を見た。

 

「オーブ!……あなたが、ウルトラマン、オーブですよね?」

「何言ってんだ、そんな訳ないだろ……」

「見てましたよ、全部。証明写真機のところから」

 

 誤魔化そうとしたけど、詳細な状況を説明されては反論出来なかった青年は僕に問う。

 

「アンタ……何者だ?」

「誤解しないで下さい。別に、世間に公表するつもりじゃありません。僕は、あなたの味方です」

「馬鹿馬鹿しい……」

「待って!これ、見て下さい!」

 

 立ち去ろうとしたその人を追いかけて、僕はカバンの中にあるアレを渡した。それを見たあの人は、驚いた表情を見せた。

 

「これ……!どこで手に入れた?」

「……お話、聞く気になってくれました?」

 

 夕陽に照らされた僕は、その人に笑顔を向けた。

 

 

 

──時は流れて、夜。禍々しく光る赤いリングのようなアイテムを持つ男がいた。その男はリングから、オーブが倒した怪獣のカードを取り出した。

 

「……オーブ、お前は希望の光か……。それとも、底知れぬ闇……かな?」

 

 リングの赤い光に照らされた男は、ナオミ達が出会ったスーツの男だった。その男は笑顔だったが、日中見せたものとは違う、邪悪に満ちた笑みだった。

 そんな時、男──ジャグラスジャグラーの背後から、拍手が聞こえた。

 

「『風ノ魔王獣 マガバッサー』のカードを手に入れましたか、さすがです……。これでまた一歩、目的に近付きましたね」

 

 その相手は、黒い服装に身を包んでいた。何より目を惹いたのはその中性的な外見で、声を聞かない限り女性に見間違えられそうな雰囲気だった。

 

「お前は……誰だ?」

 

 ジャグラーは警戒心を露にしていた。後ろを取られたこともあるが、声をかけられるまでその存在に気が付かなかったことが、彼の警戒心に拍車をかける。

 

「お初にお目にかかります。私は(ヨミ)……と申します。以後お見知りおきを……ジャグラスジャグラー様」

「……そのヨミが、俺に何の用だ?」

「あなた様のお力になるために来たのですよ。悪い話ではないでしょう?」

 

 そんな警戒心剥き出しのジャグラーに対して、とても好意的に接して来るヨミ。ジャグラーにとって、この男には怪しさしかなかった。

 

「フッ……そうか」

 

  ジャグラーはどこからか取り出した剣──蛇心剣で、ヨミに斬りかかる。

 狙うは、首──!

 しかし相手は、その攻撃を自身の武器で防いでいた。ジャグラーの剣よりも短い小太刀のような剣──詠之刃(ヨミノヤイバ)で。

 

「いきなり不意討ちとは。流石ですね、危うく首が飛ぶところでした……。ですが……」

「ッ!?ガハッ!」

 

 ヨミは不意討ちを仕掛けられたことを責めることもなく、むしろ賞賛していた。しかし間髪入れずに、がら空きになったジャグラーの胴体に、黒いエネルギー弾を接射した。

 それには対処出来なかったジャグラーは受け身を取ることも出来ず、後ろへ飛ばされた。

 

「少し……油断し過ぎではないでしょうか」

 

 苦しそうに顔を歪めるジャグラーに近付いたヨミは、懐からあるものを取り出した。それを見たジャグラーは、目を見開いてヨミを見上げる。

 

「ジャグラー様……。私と少し、お話しませんか?」

 

 ヨミが取り出したのは、ジャグラーが持つものと同じ赤いリング──ダークリングだったのだ。ダークリングに照らされたヨミは笑顔で、ジャグラーはその笑顔から「何か」を感じ取った。

 

 

 

 

 光と闇──。それぞれに選ばれた男達の元に、異なる男達が集う。

この物語は、どこへ向かうのだろうか──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

ガイ「……って何だこのコーナーは?」

シンヤ「はい。今回から始まったこのコーナーは、ウルトラマンオーブの能力について、ガイさんと僕で語っていきましょう!……というコーナーです」

ガイ「作者も思い切ったな」

シンヤ「そう言うことは言わないであげて下さい」

 

 

シンヤ「さぁ気を取り直して、早速始めていきたいんですが……記念すべき初回、何を話しましょうか?」

ガイ「そうだな……。なら、これを紹介するぜ!」

 

【ウルトラマンオーブ!スペシウムゼペリオン!】

 

ガイ「『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン』。ウルトラマンさんとティガさんの光の力で戦う、バランスの取れた姿なんだ」

シンヤ「名前は互いの必殺光線の『スペシウム』光線と『ゼペリオン』光線がモチーフなんですね。

 共演歴の多いこのお2人。『ウルトラマンティガ』第49話『ウルトラの星』で初共演、映画『大決戦!超ウルトラ8兄弟』では昭和と平成のウルトラ作品の豪華コラボで再び。最近ではウルトラマンエックスさんと共演して、新しい力を授けてくれたんですよね!」

ガイ「そうだな。必殺技は『スペリオン光線』。この光線で、魔王獣達を倒して行くぜッ!」

シンヤ「ところでその『魔王獣』と言うのは一体何なんです?」

ガイ「その説明は、次回するって作者が言ってたぞ」

シンヤ「ガイさん……。そう言うことあまり言わないで下さいって……」

ガイ「? そうなのか?」

シンヤ「では、今回はここまで!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の前に突然現れた、草薙シンヤ。どうやら別の世界から俺を助けるためにやって来たそうだが、お断りだ!

 そんな中、レッドキングが突如暴れ出す!それにパワーアップまでしやがった!

 シンヤの俺と一緒に戦いたいって強い想いが、俺に新たな力を与える!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『豪腕の巨人』。

 俺の名はオーブ。闇を砕いて、光を照らせッ!!




ヨミさん登場です。ホモじゃないんです。忠誠心が強いだけなんです。本当です、信じて下さい!

次回からいきなりオリジナル回です。タイトルと名乗りでほぼネタバレしてますが、次にどの姿になるか分かりますよね?

隠れたサブタイトルは、『ウルトラQ』第12話『鳥を見た』でした。

ではノシ


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第1.5話 豪腕の巨人 ー前編ー

オリジナル回。
時間がかかりました…。

この作品にも歴代ウルトラ作品のサブタイトルが隠れています。空いた時間にでも探してみて下さい。

それでは、どうぞ。


 突如町に現れた怪獣騒動の後。僕は、ナオミさん達SSPが使っているオフィスの大家さんの家へと帰って来た。

 この世界で寝泊まりできる場所がここで、今の僕はいわゆる居候なのだ。

 

「ただいま戻りました」

「お帰りなさい、草薙君。……あら、そちらの方は?」

 

 大家さんが言っているのは、僕の後ろにいる人のことだ。黒いジャケットを着て、帽子を被っているため怪しさが十分伝わってくる。

 僕はその人の紹介を始めた。

 

「えっと僕の先輩で、今日偶然町で会ったんです。それで家で少し話でもしないかって……」

 

 その人は被っていた帽子を外して大家さんに軽く会釈をした。ぶっきらぼうに見えるけど、案外しっかりしているようだ。

 

「急な話なんですけど……良いですか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。これから晩ご飯だけど、そちらの方もいかが?」

 

 急な来客にも決して嫌な顔をしない大家さんは、本当に良い人だなと思う。しかも食事に誘うとは、こういった人は、このご時世にはとても貴重かつ希少な存在だろう。

 この人を紹介して貰えて、本当に良かったと思う。そして、現在滞納しまくっているオフィスの家賃を少しでも早く返済出来るように頑張ろうと思った。

 

「は、はい。是非」

 

 食事の誘いをすぐに受けたその人は、とても嬉しそうな反応を示した。

 余程空腹だったのか、それとも──

 

 

 

「……んで、アンタは何者なんだ?」

「じゃあ改めてご挨拶を。草薙眞哉です」

「俺はガイ。クレナイ・ガイ」

 

 食事を終えた僕達は、僕が自分の部屋として利用させてもらっている部屋にやって来た。

 まずお互いの自己紹介を済ませ、向かい合う形で座った僕は今日何度目かの質問をした。

 

「えっとガイさん。何度も確認しますけど……あなたがウルトラマンオーブで間違いないんですよね?」

「……あぁ」

 

 ガイさんは、またこの質問かと呆れた様子で答えた。

 実際、子どもの頃から憧れていたウルトラマンが目の前にいるのだ。興奮を隠せなかった。

 

「はぁ~!本物のウルトラマンとこうして話せるなんて、夢にも思いませんでしたよ!人生、何が起こるか分かりませんね!」

「本物……?どういうことだ?」

 

 僕の一言に気がかりなところがあったのか、ガイさんはそう聞き直した。

 

「僕がいた世界では、ウルトラマンはテレビの中にしか存在しないんです。小さい頃、初めてウルトラマンを見た時はとても興奮しました……。って今も本物のウルトラマンが目の前にいて、興奮しっぱなしですけど」

 

 苦笑いをしながら思ったままをガイさんに伝える。そして、疑問に思っていたことを聞いてみた。

 

「でも、どうしてか『ウルトラマンオーブ』って作品は放送してなかったんですよ。だからガイさん……オーブを見た時は、全然心当たりがなかったんです。……何でなんでしょうか?」

「そんなの、俺が知る訳ないだろ……」

 

 そんな答えが帰って来たが、当然だ。そんなことまで知っているはずがない。我ながら馬鹿なことを聞いたものだ。

 

「それより俺が聞きたいのは、アンタがそれをどこで手に入れたのかだ」

 

 ガイさんが指を指したのは、僕の持つカードホルダーだった。

 

「そうですね、では早速説明させていただきます……」

 

 僕はカードホルダーを膝の上に置いてこれまでの経緯を話し始めた。

 

「なるほどなぁ……。そんなことがあって、この世界にやって来たのか」

「えぇ。……あの、教えて下さい。今日現れたあの怪獣は、一体何なんです?」

「───あれは魔王獣だ」

「魔王獣……?」

「あぁ。遥か太古の地球で暴れていた怪獣達で、それぞれ6つの属性を持っている。今日現れたのは『風ノ魔王獣 マガバッサー』だ」

「太古の地球……?あっ、『太平風土記』!」

 

 それを聞いた僕は、昨日シンさんが言っていた『太平風土記』を思い出した。この世界の歴史を記した古文書のことだ。あの時はただの古文書と思ったけど、こんなところで重要になってくるとは思わなかった。

 

「そのどれもが強大な力を持ち、放っておけば世界を滅ぼしかねない危険な存在だ」

「そんな……。それじゃあ、あんな怪獣がまだ5体いるってことですか!?」

「いや、残りは3体。光と闇、風は既に倒されている。その証拠が……、これだ」

 

 ガイさんは腰にぶら下げたカードホルダーを開けて、中身を取り出して僕の前に出した。

 

「ウルトラマンとウルトラマンティガ……ウルトラマンメビウスのカード!?」

 

 そこにあったのは、なぜか僕のカードホルダーに抜けていたウルトラマン達のカードだった。

 

(そうか、ガイさんが持っていたのか……。)

 

「この先輩達が、魔王獣達を封印してくれていた……。俺は今、先輩達の力を借りて戦っているんだ」

「そうだったんですか……」

 

 これで全て納得がいった。あの時変身した時にウルトラマンとティガの名前を呼んでいたのはそう言うことだったのか。

 そして僕が授かったこのカードの意味も。このカードでオーブに新しい力を与えるためだったのだと。

 

(そう言えば……あの森で戦っていたのは、ガイさんだったのかな……?)

 

 そんな時ふと、あの空間で見たビジョンを思い出した。

 光り輝く巨人がどこかの森で戦うあの光景。その巨人はどこかオーブに似ていた。だからこそ、ガイさんに関係してるんじゃないかと思ったのだ。

 

「ところでさっきのアンタの話だが……」

「……信じてくれるんですか?」

「信じるも何も、アンタは俺と一緒に戦うために来たんだろ?」

「はい!是非……」

 

 これから一緒に戦いたいと、そう言おうとした。ガイさんもそう言ってくれると思った。

 でも、ガイさんの返事は違った。

 

「だが、その話を受ける訳にはいかない」

「そんな!?どうしてです!?」

「あいにく、俺は1人でもやっていける。足手まといはゴメンだ」

 

 突き放すような、キツい一言だった。そう言ってガイさんは立ち去ろうとした。そんな時にも僕は、あの時のビジョンの一部を思い出し、さらにガイさんを問い詰める。

 

「……また、誰かを巻き込みたくないからですか?」

「……何?」

「あの時の女の子みたいに、僕が巻き込まれないようにするためですか?」

 

 僕が言っているのは、あの森の戦いのことだ。それと一緒に、あの巨人がガイさんなのかどうかも確かめるための問いだった。

 

 その時ガイは、あの日々を思い出していた。

 あの少女と共に過ごしたのは短い間。だが今でも鮮明に思い出せるキラキラした記憶だった。

 いや────忘れてはいけないのだ。自らの強大な力が招いた、あの悲劇を。

 

 どうしてこの青年が知っているのかは知らないが、ガイは拳を強く握り締めて、背中越しに言った。

 

「……そうだって言ったら、どうする?」

 

 その背中から滲み出る雰囲気から、僕はしまったと思った。ガイさんの踏み込まれたくないところまで、踏み込んでしまった。

 

「それは……」

 

 僕はその罪悪感から、何も言うことが出来なかった。

 

「そう言うことだ。……邪魔したな、飯美味かったって、よろしく伝えといてくれ」

 

 電気の消えた廊下を、ガイさんは歩いて行く。何も出来ない僕は、ただその背中を見つめることしか出来なかった……。

 

「ガイさん……」

 

 

 

 

 

 翌日。僕はSSPのオフィスにやって来た。既に3人は来ていて、それぞれが何かしらの作業を行っていた。

 

「おはようございます……」

「おはよー、シンヤ君」

「おはよー」

「おはようございます、シンヤ君。……おや、随分お疲れのようですが、昨夜は眠れませんでしたか?」

 

 僕を心配してくれたのか、シンさんはそう言ってくれた。昨夜のガイさんとの会話をずっと思い出していて、気付いたら朝になっていたのだ。

 

「シンさん……。えぇまぁ……。ずっと考え事してて」

「なるほど、なら眠る前にコーヒーを飲むことをオススメします」

「えぇ?シンさん、そういう時はホットミルクなんじゃないの?」

「いえいえ、コーヒーのカフェインにはリラックス効果が……」

 

 ジェッタさんとシンさんの、いつも通りの会話が始まった。ジェッタさんが質問をして、シンさんが答える。

 時々言い争いに発展するけど、何だかんだ仲の良いコンビなんだろう。

 

 そんな2人を眺めながら、うとうとし始めた時。SSPのオフィスの扉が開いた。

 

「よぉ、お前ら!今日も元気か?」

「おじさん!どうしたの?」

「ちょうど休憩時間でな、近くまで来たもんだからさ」

 

 やって来たのは、青い制服に身を包んだ男性だった。確かこの人は昨日の怪獣騒動の時、避難誘導をしていたっけ。

 

「えっと、ナオミさん。こちらの方は?」

「私のおじさんの、渋川一徹さん。防衛チームのビートル隊の隊員なの」

「ビートル隊の渋川だ。よろしく」

「はぁ……」

 

 僕が聞くとナオミさんが紹介をして、改めてその人は僕に笑顔で自己紹介をした。

 とても笑顔の似合う人で、手を差し出していたから僕は渋川さんに握手を返した。

 

「にしてもナオミちゃん、昨日みたいにあんま無茶しないでくれよ。ナオミちゃんに何かあったら、義姉さんにどんな顔して会えば良いんだよ?」

「今ママは関係ないでしょ。おじさんいっつもそればっかり」

「でもよ……っと。はい、こちら渋川……」

 

 ナオミさんと何か話をしていたけど、腰の無線から連絡が入る。様子を伺っているとどんどん表情が険しくなっていった。

 

「悪ぃ、緊急事態だ。また市街地に怪獣が出やがった!」

「えぇ!?」

 

 僕は驚かずにはいられなかった。昨日現れたばっかりなのに、また怪獣が出るとは思わなかったからだ。

 

「避難誘導に当たらなきゃならねぇ。そんじゃあナオミちゃん、あばよ!」

 

 そう言って、渋川さんはオフィスを出ていった。

 振り返ると、ジェッタさん達は出かける準備をしていた。

 

 

 

 SSPのオフィスで、渋川隊員が連絡を受け取る数分前。

 ビルの屋上から眼下の景色を眺める男がいた。その瞳に写るのは、笑顔で町を行き来する人々だった。

 

「……平和な町ですね。先日あんなことがあったのに、何事もなかったかのように過ごしている。全く人間というのは愚かな存在ですね。いつまでもこの平和が続くと錯覚している。またこれから、その平和が脅かされることにも気付かずに……」

 

 邪悪な笑みを浮かべるヨミが、左手にダークリングを握った時だった。

 

『♪~』

 

 どこからか、ハーモニカの音が聞こえた。その音色を聞いたヨミは、頭を押さえ始めた。

 

「うっ……。何て酷いメロディだ……」

 

 ヨミが後ろを振り向くと、帽子を被ったジャケットの男─ガイがいた。

 

「お前は……?」

 

 ガイにとってヨミとの出会いは意外だった。てっきりあいつ─ジャグラーが何か始めるつもりなのかと思っていたからだ。だが、そこにいたのは見知らぬ相手だった。

 

「……初めまして、クレナイ・ガイ様。私はヨミ。ジャグラー様に仕える従者です」

 

 ヨミは丁寧な口調で、己が主の仇敵に自己紹介をした。その不敵な笑みに、ガイは警戒心を向けた。

 

 ガイとヨミは互いに、本能的に目の前の男が敵であることを察した。

 

「ヨミだが何だか知らねぇが、お前が平和を脅かすなら容赦はしねぇ!」

「フン……。人間の少女1人も救えないウルトラマンが、何を言っているのやら」

「何……?」

「その挙げ句、本来の力も失ったのでしょう?そんなあなたがよくもまぁ……」

 

 少女一人も救えない──。

 本来の力も失った──。

 

 その発言が、ガイの怒りを誘った。ガイの素早い拳が、ヨミの顔に向かって放たれた。

 

「黙れ……!」

「おぉ、怖い怖い。ですが……」

 

 しかし、顔に直撃する寸前でヨミはガイの拳を片手で受け止める。

 ガイは更に追撃の手を緩めず攻めるが、ヨミはその一手一手を的確に捌く。

 

「そんな攻撃をかわせない私ではありませんよ?」

「くっ!ちょこまかと!」

 

 ガイは一撃を放つがヨミはその威力を利用し、後ろに下がる力と変えて距離を取る。

 

「ハハッ。今から楽しいゲームを始めましょう?プレイヤーはあなた。見事障害を乗り越え、ゲームクリアを目指して下さい」

「ゲームだと!?ふざけんな!」

「……残念ですがあなたに拒否権はありませんよ。さぁ、怪獣ゲームの始まりです。出でよ、レッドキング……!」

 

【レッドキング!】

 

 ヨミは懐から取り出した1枚のカードを、ダークリングに読み込ませる。闇を纏ったカードは町の中心部へ飛んで行き、巨大な怪獣として実体化する。

 レッドキングは町中を暴れ始め、平和に過ごしていた人々は突如現れたレッドキングに恐怖し、混乱に陥った。

 

「ジャグラー様からお借りしたレッドキングです。平和を脅かすなら容赦はしない……でしたっけ?……早く倒さないと、町が大変なことになりますよ?」

「お前……!」

 

 ヨミの隠す気のない挑発に、ガイは怒りを露にする。今はこの相手よりも、町で暴れるレッドキングの撃破が最優先だ。

 ガイは両腕を体の前で交差させ、左手に持っていたオーブリングを正面に突き出す。その途端、リングの中央から光が溢れ出た。

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 紫色の輝きを放つ光の戦士─ウルトラマンオーブが町に降り立つ。その姿を見た人々は、歓喜や安堵の様子を見せた。

 

『闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 

 

 渋川さんの忠告を無視して市街地にやって来た僕らが初めに見たのは、中心部で対峙するオーブと怪獣の姿だった。

 

(あれはどくろ怪獣 レッドキング!手強い相手ですよ、ガイさん……!)

 レッドキングは、好戦的で凶暴な怪獣だ。ウルトラ戦士達と何度も戦った怪獣で、そのどれもが強敵だった。

 

『オリャア!』

 

 僕がそう思って見守る中、戦いを有利に運ぶオーブ。硬い体表に攻撃が中々通らず苦戦もしていたが、確実に追い込んでいく。

 

「よぉし、そのまま決めちゃえ、オーブ!」

 

 自前のビデオカメラで戦闘を撮影しながら、ジェッタさんは興奮気味に言う。

 でも僕は違った。何でか順調に事が進み過ぎている気がした。

 

(何でだ……?どうしてこんなに嫌な予感がする?)

 

 対してオーブもトドメを刺すべく、必殺光線の構えを取った!

 

『スペリオン光線!』

 

 スペリオン光線はレッドキングに直撃。レッドキングはそのエネルギーに耐えきれずに爆発した!

 

 ……その寸前僕は、レッドキングの瞳が一瞬赤く光ったのを見た。

 

『どうだ?大したことなかったな!』

 

 オーブは、とあるビルの屋上にいる誰かに向けて話しているようだった。

 

 オーブに話しかけられたヨミは悔しがる様子も見せず、オーブを褒め称える。だが……。

 

「お見事です……第2ラウンドと参りましょう」

『!? ウォァ!?』

 

 レッドキングに勝利したはずのオーブだったが、砂煙の向こう側から自分に向かってくる巨大な拳の一撃をまともに喰らってしまう。

 

「あれは……!」

 

 その砂煙が晴れた時、そこにいたのはレッドキングであってレッドキングにあらず。

 その名はEXレッドキング。白かった全身はマグマのように赤黒く、膨張していた。瞳も赤くなり、何より注目するべきはその両腕。あまりにも巨大化した拳はまるで塊のようだ。

 

「EXレッドキング……。どう攻略致しますか?」

 

 黒い巨獣は咆哮、オーブに襲いかかる。カラータイマーを点滅させるオーブは迎撃の構えを取り攻撃を喰らわせるが、硬い体表に覆われた皮膚にその一撃は大したダメージにはならない。

 逆に敵から放たれた重い一撃が、オーブを襲う!

 

『「くそっ……。何てパワーだっ……!」』

 

 この状況はあまりに不利だとガイは察知した。この姿はバランスの取れた形態だ。だが、攻撃に特化している訳ではない。ティガさんのパワータイプの能力を使えたとしても、残された時間ではそう長くは戦えない。

 手持ちのカードもウルトラマンさんとティガさん、メビウスさんの3枚。EXレッドキングに対抗出来るほどのカードが現在ここにはないのだ。

 

 まさしく絶対絶命。

 

 反撃が来ないこの瞬間を、EXレッドキングは見逃さない。肥大化した両腕を大地に叩き付ける。するとオーブ目掛けて一直線に火柱が上がる。EXレッドキングの得意技「フレイムロード」だ!

 

『グワァァ!』

 

 進化前のレッドキング戦で体力を消耗した上に、更に体を酷使したオーブにフレイムロードを回避するだけの力は残っておらず、オーブは為す術なくその一撃を喰らった。

 最早立ち上がる気力も尽きたオーブは、荒い呼吸をしながら姿を消した……。

 

「オーブッ!!」

 

 勝利の雄叫びを上げたEXレッドキングも時間が切れたのか、次第にその姿を消し始める。そして再びカードに戻ったレッドキングは、自らを召喚した者の元へ飛んで行った。

──本来、怪獣カードは一度使えばまたカードに戻ることはない。だが、ヨミのダークリングで実体化を行った場合はその条件は当てはまらないようだ。

 

「ゲームクリア、失敗です。またの挑戦をお待ちしております」

 

 

 

 EXレッドキングが消滅した後、渋川さんと合流した僕らはこっぴどく叱られ、そのお詫びとして渋川さん達のお手伝いをすることになった。まぁ自業自得だよねと思いながらみんなと離れて作業をしていた時だった。

 

「……ガイさん!しっかりして下さい、ガイさん!」

 

 向こうからガイさんがフラフラとやって来た。全身ボロボロで、歩くことさえやっとのようだった。

 さっきの戦いで傷付いたことが原因だろうか、僕を見るなり力なく倒れる。すかさず支えたけど、ガイさんの全体重がどっと僕にかかる。

 何度か呼びかけたけど、それに応える様子はない。どうやら気を失っているようだ。

 

 それでもガイさんは小声で「ナターシャ……」と呟いていた……。




EXレッドキング強くし過ぎましたかね…?

後編はしばらくお待ち下さい…。


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第1.5話 豪腕の巨人 ー後編ー

予定通りの時間に上げれて良かったです。

『ウルトラマンサーガ』を見ていて何度も号泣しちゃいました…。

今回はサーガにも関係あるあの作品の名言が登場ですよ~

それでは、どうぞ


──それはどこかの森の中。

 強敵との戦いで傷付き、俺は身近な樹木に背中を預けていた。

 そんな時、口にひんやりとした感覚を覚える。それが水だと気が付き、一口。

 重くなった瞼を開く。そこにいたのは──

 

「あっ……」

「気が付きましたか、ガイさん?」

 

 そこにいたのは、昨日出会った青年だった。名前は…何だったろうか。右手に水の入ったペットボトルを持っていた。

 場所も森の中ではなく、瓦礫だらけの町中だった。

 

「アンタ……、何で……」

「動かないで下さい。傷の手当てしないと……。少し染みますよ……」

 

 彼はどこからか持ってきていた救急箱から消毒液やガーゼを取り出し、俺の手当てを始めた。

 

「……どうして」

「へ?」

「どうして……俺を助けてくれるんだ?」

「どうしてって……。困った時はお互い様ってことじゃ、ダメですか?」

 

 彼は少し考えた後、子どものような無邪気な笑みを俺に向ける。

 

──俺は1人でもやっていける。足手まといはゴメンだ……。

 

 昨日のことを思い出した。あんなに冷たい態度で突き放したと言うのに、この青年は……。

 そう思った途端に、自分がとても情けなくなった。

 

「……1人でもやっていけるなんて、言った矢先にこれか……」

「ガイさん……。ガイさんは、野球のピッチャーマウンドがどうして高いのか、考えたことありますか?」

 

 治療を続けながら、青年はそう問いかけて来た。

 野球は知っている。確か互いに9人1組でチームを組んで、攻守に分かれて行う球技のことだったような気がする。

 でも、マウンドが高くなっていることなんて知らなかったし、むしろ考えたことすらなかった。

 

「何だよ急に……」

「ピッチャーは孤独だって言いますけど、僕はそう思いません。マウンドの中央が高くなっているのは、仲間にその背中がよく見えるようにするためなんです。頑張れ!負けるな!って……。そんなみんなの声が、一番届く場所なんです……」

 

 青年は何かを思い出すように優しく語りかける。

 その表情はとても穏やかだった。

 

「えっと、何を言いたいかって言うと、その……。ガイさんは一人じゃないってことです。僕もいますし……それに、ほら!」

 

 そんなこんなで治療は終わって、青年は慌てながらも何かを必死に伝えたい様子だった。それからカバンから何かを取り出した。

 それは分厚い本のようなカードホルダー。そのページを数枚めくりながら、青年は言った。

 

「こんなに偉大な先輩方も一緒です!だからきっと、大丈夫です!」

「アンタ……」

 

 青年の屈託のない笑顔は、とても輝いて見えた。

 その笑顔をずっと見ていると、青年の表情は少しムッとなった。

 

「……ガイさん。僕は「アンタ」って名前じゃないですよ。僕は、草薙眞哉です」

「あぁ……悪い」

 

 

 

 

「さぁ、休憩時間は終了。ゲームを再開しますよ……!来い、EXレッドキング!」

 

【レッドキング!】

 

 ダークリングにレッドキングのカードをリード。またレッドキングが現れるが、今度はいきなり進化したEXレッドキングの姿で実体化した。

 

「また出やがったな……!」

 

 EXレッドキングが現れたのは、僕がいくつか買ってきた菓子パンをガイさんが食べていた最中だった。腹が減っては何とやらである。

 でもガイさんの方も傷が完治した訳じゃない。EXレッドキングに立ち向かうために立ち上がるけど、その表情は少し苦しそうだった。

 

「ガイさん……」

「大丈夫だ。今度は絶対負けねぇ……!」

 

 ガイさんは左手に握るオーブリングを正面に突き出し、光の巨人へと姿を変える──。

 

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 町中に登場するオーブ。だがどことなく肩で息をしているようだ。

 それでも果敢に向かって行く。だが硬い体表にはその攻撃はあまり意味はなく、その度に自分の倍以上の一撃が返ってくる。それでも立ち上がり何度も攻撃を繰り返すが、結果は変わらない。

 

『グゥ……!ガァァ!』

 

 既に満身創痍のオーブに追い討ちをかけるように、EXレッドキングはフレイムロードを繰り出す。

 ついにオーブは膝を突き、力なくうつ伏せに倒れる。

 

(ダメだ……。もう力が……)

 

 オーブの中──。そこにガイはいた。前回の傷が仇になった。もう立ち上がる気力すらない。

……このまま消えても良いんじゃないだろうか。

 そう思って目を閉じようとした時。ガイの耳に声が届いた。

 

「オーブッ!あなたが倒れたら、誰がこの星を守るんですか!?あなたが……あなたがウルトラマンだって言うなら、もう一度立ち上がって!あなたには、僕がついてる!あなたは一人じゃない!!」

 

(シンヤ……?そうだ……。アイツは、俺と一緒に戦いたいって言ってくれたんだ……!その想いに答えられないでどうする……!)

 

 オーブはゆっくりと立ち上がる。既に体は限界を迎えている。だが、体の底から力が沸いて来る。

 

『「まだ……俺は戦える!共に戦う、仲間がいてくれる!」』

 

「オーブッ……!」

 

 その時。シンヤの持つカードホルダーが輝く。

 そのカードホルダーから、2枚のカードがオーブのカラータイマーへ向かって飛んで行く。

 

 

 

『「このカードは……!」』

 

 突如目の前に現れたその2枚のカードを、ガイは受け取った。

 その2枚からは強い意志を感じた。2人の先輩方の意志もそうだが、何より彼の意志を感じ取った。

 

『「……行くぜ、シンヤ!」』

 

 

「ガイアさん!」

【ウルトラマンガイア!V2!】

「ビクトリーさん!」

【ウルトラマンビクトリー!】

「大地の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 フォトンビクトリウム!】

 

 オーブの体が光ったと思ったら、上空から光と共に巨人が現れ、着地と同時に轟音と砂煙が舞う。砂煙が晴れた時そこにいたのは、オーブだった。でもさっきとは姿が全く違っていた。

 全身が様変わりしていて、頭部や腕にV字のクリスタル。額のクリスタルは黄色く輝き、アーマーのようなものを纏う。何より巨大な両腕が目立っている。

 

『闇を砕いて、光を照らせッ!』

 

 オーブはそう言うと戦闘態勢に入る。対するEXレッドキングも、雄叫びを上げる。

 

「姿が変わったところで……!行け!EXレッドキング!」

 

 ヨミの指示で、EXレッドキングはオーブの胴体へ巨大な拳を振るう。だが──

 

『ハッ、こんなもんかよ!』

 

 オーブの方は微動だにしなかった。さして痛がる様子はなく、まるで岩石のようだ。

 EXレッドキングは拳のラッシュ。しかしオーブの頑丈なボディ──いや、岩乗なボディには通用しない。

 

『今までのお返しだぁ!オラァッ!』

 

 オーブは渾身の右ストレート。EXレッドキングの巨体を軽々吹き飛ばす。

 何とか立ち上がるEXレッドキングの頭上には、ヒヨコが回っている。

 

『「これで決める!」』

 

 オーブは右の拳を引きずりながら接近し、その最中にエネルギーを拳に集中させる。

 その拳から放たれる一撃は──!

 

『フォトリウム……ナァックル!!』

 

 豪快な右アッパー!天空に吹き飛ばされたEXレッドキングは、体制を立て直すことが出来ない。

 その隙をオーブは見逃さなかった。

 今度は頭部のクリスタルにエネルギーを集中。

 そこから放出されるのは、2つの大地の力を得た光の刃──!

 

『フォトリウムエッジ!!』

 

 回避することすら出来ないEXレッドキングに、その一撃が直撃。膨大なエネルギーを二度も喰らい、市街地の上空で爆発した!

 その戦いを見守っていた人々は、歓喜の声を上げる。

 

「ゲームクリア、おめでとうございます……。

 次こそは……!」

 

 ヨミは怒りを滲ませながら、元々いた場所から消えた──。

 

 

 

 オーブは戦いを終え、ふと下を見ると笑顔でサムズアップをする彼の姿が見えた。

 彼に頷いて飛び立とうとした時だった。

 

「ここは……一体?」

 

 ガイの意識は、見知らぬ空間にあった。後ろに気配を感じて振り向くと、そこには二人の英雄がいた。

 

「あなた方は……」

 

『オーブ。君達の地球は、君達の手で守って行くんだ』

『共に戦う仲間がいるってことを、忘れんなよ』

 

 地球が生んだ大地の巨人と地底を守護する太古の巨人の言葉を受け取ったガイは、力強く頷いた。

 

「これからも、よろしくお願いします!」

 

 オーブは空を見上げ、飛び立った。

 

 

 

 

 

「……おかえりなさい、ガイさん」

「あぁ、ただいま」

 

 オーブとレッドキングの激戦を終えて、町の人々は復興作業を始めた。中にはSSPのみんなや渋川さんの姿もある。

 ガイさんに肩を貸しながらその様子を見て、ふと僕は呟いていた。

 

「この人達を……ガイさん、あなたが守ったんですよ」

「……」

 

 人々を見つめるガイさんの目に、涙が見えた気がした。

 

 すると、僕を見つけたナオミさんがやって来た。

 ガイさんは僕から離れて立ち去ろうとした。でもすぐ立ち止まって、僕に2枚のカードを返却した。

 

「……ありがとな。これからも頼むぜ、シンヤ」

「……!はい!」

 

 懐から出したオーブニカでいつものメロディを奏でながら、ガイさんは去って行った。

 

「シンヤ君、良かった~無事で……。ケガない?」

「はい、平気です。……ナオミさん、頼みがあるんです」

 

 ナオミさんは首を傾げて、少しきょとんとした。

 

 

 

 

 日が暮れて、どこかの地下駐車場。お互い黒い装いで揃えた2人の男がいた。

 

「ヨミ。お前のおかげで楽しいものが見れた。感謝するぜ」

「ありがとうございます、ジャグラー様。……これよりもっと楽しいゲームをまた始めようと考えているのですが、いかがですか?」

「ほう……。一体どんなゲームだ?」

「それは……」

 

 ヨミはレッドキングのカードをダークリングで読み込ませ、地底に向かって撃ち込む。

 地底には光る球体があり、何かを封じ込めているようだった。だが、レッドキングのカードがその輝きの一部を覆う。

 

「オーブがレッドキングと戦っている間に発見出来て良かったですよ」

「なるほどな……。次のゲームも面白くなりそうだ」

 

 

 

 

 

「今日からSSPに所属することになりました、草薙眞哉です!見習いですが、これからもよろしくお願いします!」

 

 翌日。

 ジェッタさんとシンさんの前でそう言って、深々と頭を下げた。

 

 先日ナオミさんに頼んだのは、SSPへの正式な加入だった。これまでは時々顔を出す程度だったけど、これからのSSPの活動の中できっと魔王獣は現れると思った。そしてその先々でガイさんにもきっと遭遇するだろうと考えたからだ。

 ナオミさん曰く、まずは見習いからのスタートということで同意を得た。

 僕が顔を上げると、2人とも何度も瞬きをしていた。

 

「えぇ?シンヤ君ってSSPに入ってたんじゃないの?」

「僕もてっきりそう思っていましたけど……」

 

 2人とも僕が既にSSPの一員だと思ってくれていたようだけど、これじゃあ僕の重大発表も意味がないみたいになってしまった。

 

「えぇ~?そんなぁー……」

「まぁとにかく!これからもよろしくね、シンヤ君!」

 

 ナオミさんのフォローに答えるべく、ふと思い浮かんだ懐かしいセリフを言ってみた。

 

「GIG!」

「ジーアイジー……?何それ?」

「あ…。了解って意味ですよ…アハハ……」

 

 やっぱりこっちの世界じゃ通じないか……。

 そう思って、笑って誤魔化した。

 

(これからもっと、忙しくなりそうだな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「さぁ始まりました、このコーナーも2回目ですよ!ガイさん!」

ガイ「今回はオリジナル回。本編の1話と2話の間の話ってことらしいな」

シンヤ「そうですね。それじゃあガイさん、早速いきましょう!」

ガイ「あぁ、今回紹介するのはこれだ!」

 

【ウルトラマンオーブ!フォトンビクトリウム!】

 

ガイ「『ウルトラマンオーブ フォトンビクトリウム』。ウルトラマンガイアさんと、ウルトラマンビクトリーさんの大地の力で戦う攻防一体の戦士なんだ」

シンヤ「『ウルトラマン フュージョンファイト!』限定キャラで、岩のようなボディと巨大な両腕が特徴的ですよ!

 必殺技は巨大な拳から放つ『フォトリウムナックル』!今作オリジナルで『フォトリウムエッジ』という技も使います!」

ガイ「お互いに大地の巨人って繋がりがあるんだな」

シンヤ「そうです!それにガイアさんにはXIG(シグ)とアグルさんが、ビクトリーさんにはギンガさんとシェパードンって頼れる仲間がいるんです!」

ガイ「今回の一件で俺は、仲間の大切さを学べた……。これからもよろしくな、シンヤ!」

シンヤ「こちらこそ、よろしくお願いします!ガイさん!それじゃあ今回はここまで!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 平和な町を襲う新たな脅威。そしてその裏で蠢く謎の影。

 邪悪を封じる龍脈が乱れる時、次なる魔王獣がその姿を現す!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

土塊(つちくれ)の魔王』。

 俺の名はオーブ。闇を照らして、悪を撃つ!




いかがでしょうか?

ちなみに、隠れていたサブタイトルは『ウルトラマンダイナ』第27話の「怪獣ゲーム」でした。

ではノシ


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第2話 土塊の魔王 ー前編ー

どうも。
お気に入り登録、ありがとうございます。

では、どうぞ。


 ある日。

 ジェッタさんが自分の正面にセットしたビデオカメラに向かって、何かを話していた。

 ふと気になって、思い切って聞いてみた。

 

「……ジェッタさん、何してんですか?」

「ん、これ?未来の自分宛のビデオレターだよ」

「へ、へぇ……」

 

 そんなに大したことではなかった。

 SSPのサイトの運営を主な活動としているジェッタさんは、いつもこうなのだ。

 そんなジェッタさんに呆れているのは、僕だけではなかった。

 洗濯物の入ったカゴを持ったナオミさんが僕らの方にやって来て、ジェッタさんに言う。

 

「ジェッタったら仕事もしないで遊んでばっかりいて……」

「母ちゃんみたいな言い方だな……」

「今月のギャラ減らしちゃおっかな……?」

「仕事します!さてこないだの特ダネ、反響はっと……」

 

 さすがにお金のことを言われれば仕事をしない訳にもいかないジェッタさんは、先日のマガバッサーの一件を掲載したサイトのページでアクセス数を調べ始めた。

 しかし思いの外、アクセス数は上がっておらず、むしろ減少していた。

 

「全然アクセス数伸びてないですね……」

 

 僕がそう言うと、ナオミさんは無理もないと言った。

 実際あの怪獣──マガバッサーが起こした被害は大きく、様々なニュースサイトに当時の写真や動画が多数取り扱われているのだ。

 この一件は、僕らだけのものではないのだ。

 

「だってあの巨人の名前はさ……!」

「もう浸透してるみたいですよ……。ウルトラマンオーブって……」

 

 いつの間にか後ろに来ていたシンさんが、表情を歪めながら教えてくれた。

 深刻そうな顔で、首を曲げていた。

 

「シンさん!?大丈夫ですか!?」

「あぁ痛た……」

 

 僕がシンさんの状況に気付いた時、ジェッタさんは他のニュースサイトを検索。そこにはSSPのサイトを丸々パクったような記事がたくさんあった。

 パソコンの画面を見ながら、ナオミさんも危機感を感じ取ったようだ。

 

「もっとビックなネタ探さないと……。まだ誰も掴んでないような世紀の大ネタ……!」

「ナオミさんがいつになくやる気だ……!」

「いつもは経費削減で手一杯なのにね~」

 

 ジェッタさんがそう言って、ナオミさんをからかう。その一言にムッとしたナオミさんは、ジェッタさんの背中を叩く。

 

「あっ……。バイトの時間なので僕はお先に……」

 

 ふと時計を見ると、そろそろバイトの時間だった。

 僕は先日SSPに加入はしたけど、今まで通りオフィスの家賃の返済を手伝っている。

──僕がそれを手伝う必要はないと思うかも知れないけど、加入して以来、僕はこのオフィスで寝泊まりをしている。

 大家さんはまたおいでと言ってくれたけど、いつまでもお世話になる訳にもいかなかった。

 僕の事情を聞くと、ナオミさんは笑顔で送ってくれた。

 

「分かった、行ってらっしゃい」

 

 

 

 場所は変わって、北川町の銭湯の通り道。

 日中にもかかわらず風呂を上がったばかりの青年が、美味しそうにラムネを飲んでいた。

 その道の正面、ここより遠いところに高いビルが建っていた。

 

「すっかり変わっちまったな、この町の風景も……。昔はあのビルの向こうに、綺麗な夕陽が見えたもんさ……」

 

 そのビルを見つめながら、何かを懐かしむようにガイは独り言を呟く。

 そんなガイの隣に、小さな子どもがいた。その子どももラムネを飲みたいようだが、昔懐かしい瓶ラムネの開け方を知らないために四苦八苦していた。

 

「……坊や、貸してみな。こうやるんだよ……」

 

 ガイは子どもが持っていたラムネを受け取り、飲み口のビー玉を押し込もうとするが、少し苦戦。押し込めはしたが、勢い余ってラムネを少しこぼしてしまった。

 ガイがすまなさそうにラムネを子どもに手渡した、次の瞬間だった。

 自分達の目の前に(そび)え立っていたビルが、何の前触れもなく沈んだ。

 崩れたのではなく、文字通り沈んだのだ。

 

 

 

 その事件は、瞬く間に報道された。世間では地盤沈下として取り扱われていた。

 

「うちのオフィス大丈夫かな……?」

 

 ニュースを見たナオミは、その恐怖からオフィスの心配を始めた。

 ジェッタは、ネットから噂や情報を集める。都市開発に反対する勢力の陰謀やら、中には地底人から人類への警鐘といった声もあった。

 

「地底からの挑戦かぁ……。そそられますねぇ!」

「だろ?今度こそアクセス数を稼ぐチャンスだよキャップ!」

 

 シンが食い付き、ジェッタは思わず立ち上がりナオミに同意を求めた。

 

「話題性も社会性もバツグンね。これ以上被害を出さないためにも、早速調査開始しましょう!

 よぉ~し、Something Search People、出動!」

「「おぉー!」」

「じゃ、私バイト行ってきまーす」

 

 やる気十分に号令をかけるが、ナオミはバイトに行く支度を始めた。

 そんなナオミにジェッタとシンは、超常現象とバイトのどっちが大切なのかと聞く。

 

「だって……バイトしないと家賃も払えないんだもん……。シンヤ君が手伝ってくれてるけど、いつまでも頼る訳にもいかないし……。じゃあ行ってきます!」

 

 そう言うと、ナオミはそそくさと出ていってしまった。最終的にジェッタとシンは、二人で行くことにした。

 

 

 

 崩落したビル現場にて。

 立ち入り禁止の看板やテープが貼られる一方で、ガイはその内側──がっぽり開いた大穴の側に立ち、右手をかざして目を瞑る。

 すると瞼の裏に、機械のような出で立ちの魔物の姿が見えた。

 

「土の魔王獣か……」

 

 すると後ろから、テープをくぐった男性がやって来た。ビートル隊の、渋川一徹だ。

 

「おい、君!ここは立ち入り禁止だ。危ないから下がんなさい」

 

 その注意を聞いたガイは、渋川に対して労いの言葉と会釈をした。

 

「いつも地球の平和のために、お勤めご苦労様です」

「そりゃどうもご丁寧に……。ん?君は、前にもナオミちゃん達と一緒にいたな?」

 

 ガイがその質問に聞き直そうとした時。

 また別のビルが沈んだ。

 その緊急事態に、渋川が沈んだビルへ駆け出すよりも速く、ガイは走り出した。

 

「おい、待て君!」

 

 後ろから呼ぶ声が聞こえたが、ガイにとって今はそれどころではなかった。

 

 

 

 どこかの建物の、暗い調整室。赤く光るリングを持った男──ジャグラーがいた。

 何かが描かれたカードを額に当て、呪文のような言葉を唱える。唱え終わると、そのカードをリングの中心に通す。

 

「……テレスドン」

 

 するとそのカードは地底へと打ち込まれる。その先には、ガイが数分前に見た魔物とそれを封じ込める光の球体があった。

 だが球体は既に何かに覆われていて、先程打ち込まれたテレスドンのカードの影響で、更に覆われてしまった。

 ジャグラーは新たなカードを取り出す。そして先程と同じように、何かを唱え始める。

 

『~♪』

 

「ぐっ……うぅ……」

 

 それを妨害するように、どこからかメロディが聞こえた。するとジャグラーに急な偏頭痛が襲った。

 振り返るとそこには、己の仇敵──クレナイ・ガイがいた。

 

「……相変わらず酷いメロディだ。せっかくの良いムードが台無しだ」

「ジャグラー。お前さんと良いムードになろうなんて気は、さらさら無い」

 

 ガイはそう断言してすぐに、ジャグラーへ先制攻撃をしかけた。だがジャグラーも負けてはおらず、ガイの一撃を受け流し、距離を取る。

 

「運命の再会だぞ?ずいぶん荒っぽいご挨拶だな?」

 

 ジャグラーがそう言う合間にも、ガイは攻撃の手を緩めず攻め続ける。その一撃一撃を受け止め、防ぎ続けるジャグラー。どちらも互角の戦いを繰り広げる。

 

「今度は土の魔王獣か!」

「この星の生命など、全て土塊(つちくれ)に還してやる!」

 

 互いに距離を取り睨み合うが、ジャグラーがダークリングを構え、すかさず先程のカードを地底に打ち込んだ。

 

「どんなに魔王獣を復活させようと……この俺がぶっ倒す!」

 

 ガイはジャグラーへ力強く宣告するが、ジャグラーはそれを嘲笑う。

 

「ハァハハハハハハハハッ!カッコいいねぇ!……まぁ精々頑張れよ」

 

 ジャグラーはそう言い、立ち去ろうした。

 

「待て、お前に聞きたいことがある。ヨミ……。アイツは何者だ?」

 

 ガイは先日接触した謎の青年について、ジャグラーから聞き出そうとした。ジャグラーの従者と本人が言ったため、きっと何かを知っていると睨んだのだ。

 

「さぁな、俺にも分からんよ。1つ言えるのは……お前の敵だってことさ」

 

 ジャグラーは背中越しに言うが、最後に邪悪な笑みを向けて今度こそ去って行った。

 

 ガイは追いかけようとするが、突如起こった大きな揺れで身動きが取れず、逃げられてしまった。

 

 

 

 

 

「あれ……?確かこっちの方にガイさんが……」

 

 今日のバイト帰り、どこかへ走るガイさんを見かけた僕はその後を追ってここまで来た。

 でもガイさんの姿どころか、他の人の姿も見えない。

 

(……もしかして迷子になった?)

 

 まだこの世界の土地勘について知らないことだらけな僕にとっては、最も大きい失敗だ。

 これから先、どうしようかと悩んでいた時だった。

 

「あっ、すみません……」

 

 隣を通り過ぎた人にぶつかりそうになって慌てて横道に避けるが、その人は特に気にかけることもなく、静かに去って行った。

 それは黒い装いの、怪しい雰囲気の青年だった。外見年齢は僕と大体変わらないくらい。

 その青年の雰囲気に僕は、根拠のない胸騒ぎを感じ取った。

 

「……? ……!?」

 

 首をかしげながらまた歩き出した僕の後ろから、背筋がゾッとするような気配がした。

 急に振り返ると、さっきの青年がその手に小太刀のような武器を持って、僕に向かってそれを降り下ろしていた。

 何とかそれをかわすことは出来たけど、驚いた拍子で尻餅を付いた。

 

「ちっ……。外したか」

「ちょっと待って!何なんです、あなた!?何で僕を……!」

「そんなの……あなたが知る必要はないですよ!」

 

 立ち上がったばかりの僕に、青年は攻撃を止めることをしない。ギリギリのところを逃げようにかわすけど、素早い一太刀はどれも的確に僕を狙う。

 僕が油断した途端に、鋭い一突きが放たれる。

 何度目かの偶然で、それもかわすことに成功する。

 相手も驚いているけど、何より驚いているのは僕自身だ。こんなに動けるとは思わなかった。いわゆる「火事場の馬鹿力」ってやつだろうか……?

 

「逃げるのは上手いですねぇ?……ならこれでどうです!」

「うわぁ!?」

 

 すると青年は、空っぽの左の掌から黒いエネルギー弾を打つ。真っ直ぐ打たれたそれは確実に僕の顔に飛ばされる。

 咄嗟に顔を反らして直撃を免れたけど、僕の代わりに直撃した建物に、小規模なクレーターが出来上がった。

 

「今のは……。あんた、人間じゃないのか?」

「かもしれませんね。今のは確実に仕留められると思ったんですが……」

 

 右手に握った小太刀を見つめながら、青年は答えた。

 本能的に僕は察した。この男は僕の──敵だと。

 

「……何者なんだよ、あんた」

「さぁ?でもこれだけは言っておきますよ。

……草薙眞哉。あなたが手にした光が、私という闇を生み出した」

「!?何で僕の名前を……!それに、どうしてその言葉を…!」

 

 数々の驚きが重なり、愕然としていた時だった。聞いたことのある声がどこからか聞こえた。

 

「シンヤ!大丈夫か!?」

「ガイさん!えぇ、何とか……」

 

 ガイさんは僕を庇うように、青年の前に立ち塞がる。その背中はとても頼もしく見えた。

 

「またお会いしましたね、ガイ様。先日のゲームはお楽しみいただけましたか?」

 

 どうやら青年はガイさんとは顔見知りのようだったが、その会話の中に気になることがあった。

 

「先日……?まさか……レッドキングはあんたが呼び出したのか!?」

「ご名答」

 

 僕の問いかけに、青年は歪んだ笑みを交えて答える。

 これまでは中性的な好青年の雰囲気だったのに、これが彼の本性なのだと思うと改めてゾッとした。

 

「ふざけんな!お前らの計画は、俺が全部打ち砕く!」

「健闘を祈ります……では」

 

 ガイさんは青年に敵意を向けながら宣言した。

 丁寧なお辞儀を返した彼が指をパチンと鳴らすと、黒い霧になってその場から忽然と消えた。

 

「ガイさん……。今のは……」

「アイツはヨミ。まだ何者かは知らねぇが、今はっきりしてるのは」

「僕らの敵……ですか」

「……あぁ」

 

 

 

 

 

「相変わらずポンコツな発明だよな。あれじゃ、俺達ただの役立たずじゃん。……聞いてんのかよ」

「待てよ……?問題は断層ではないとすると……。そうか!」

 

 数分前、シンの発明品が崩落するビルを予測した。だが崩れたのは別のビルで、ジェッタはその発明品への不信感を募らせていた。

 一方のシンは、タブレットを使って地域一帯の断層図で何かを調べていた。そして何かに気付いて、結論を導き出した。

 

「お願いします、シュワシュワコーヒーです!シュワシュワコーヒーの試飲会を行っております!たった一杯で美味しくシュワシュワ……」

 

 別の場所では、ナオミがバイト先のチラシを配っていた。行き交う人々はそれを断る素振りをして、ナオミの前を通りすがる。

 そんな時、すれ違った男性の肩がぶつかり、ナオミは派手に転んだ。

 あちこちに散らばったチラシを集める最中、愛用のスマホが振動。相手はどうやらSSPの分析担当からだった。

 

「もしもし、シン君?今シュワシュワコーヒーでいっぱいいっぱいなの」

『もう、それどころじゃないんです!分かったんです!次の発生現場が!』

 

 シン曰く、東京は世界屈指の風水都市であり、地底には様々な龍脈──気の流れるルート──が流れ、それが乱れると災いが起こるとされている。

 例の『太平風土記』にも、巨大な魔物や伝説の龍脈という記述があったそうだ。

 ビルが沈んだ3つのポイントとその龍脈を重ね合わせた結果4つ目のポイントが判明。このポイントが沈めば、龍脈は完全に破壊される──。

 その説明を受けていたナオミだったが、町行く人々の中に先日の事件で出会った男性を見た。

 ナオミは本能的に、その後を付け始めた。

 

 

 

 どこかのビルの地下駐車場。男の後を付けたナオミはそこへやって来た。

──このビルが龍脈の流れる4つ目のポイントであることを、ナオミはまだ知らない。

 ナオミは、蛍光灯一本だけが照らす暗がりを進み、柱の影から男性の姿を確認した。

 

「……ゴモラ」

 

 男性は不振な行動を取っており、謎のカードを左手に持つリングに通した瞬間、赤黒いオーラが地底へと伸びた。

 懐からまた別のカードを取り出して、何かを唱える。

 ナオミはスマホの録画機能でその一部始終の撮影を試みる。そんな時、誰かから連絡が入る。慌てたナオミは間違ってスピーカーモードにしてしまう。

 何とかして電話を切り、バレたのではないかと不安げに男性を見る。

 だがそこには既に男性はいなかった。辺りを見回すが、首もとに寒気を感じた。

 

「ハッ……!」

「やぁお嬢さん……。またお会い出来ましたね?」

 

 男性──ジャグラーはいつの間にかナオミの後ろに回り込んでいたのだ。例えようのない恐怖を感じて、ナオミは問いかける。

 

「……あなた、ここで何しているの?」

 

 だが返ってきたのは、全く関係のない言葉だった。

 

「恋は矛盾に満ちている……。謎が多いほど、危険が多いほど強く惹かれ虜になっていく……。まるでこの世界そのものだ」

 

 男性の右手がナオミの首を絞める。力を込められ、息をすることが出来なくなりかけた時だった。

 

「おい。そいつを離せ」

「あなた……、どうしてここに……!」

 

 そこにいたのは、あの時助けてくれたジャケットの青年だった。

 ナオミは、後ろの男性に拘束されたまま彼と向かい合い、引きずられるように後ろに下がる。

 そんな中、突如何かの声が聞こえた。その声に彼──ガイは反応した。

 

「土の魔王獣が目覚める……!そいつが目覚めれば地上のものは土に飲み込まれ、消滅する……!」

「あなた達……、一体何者なの?」

 

 ジャケットの青年と後ろの男の2人にナオミは問いかける。

 それに答えたのは、ジャケットの青年。

 

「……この世には、知らない方が幸せなこともある」

「幸せなんていい。真実が知りたいの!」

 

 諭すように優しく語るガイの言葉に反発して、自分の本音をぶつけるナオミ。

 そして、後ろの男にも動きがあった。

 

「お嬢さん……続きはいずれ、夜明けのコーヒーを飲みながら……!」

「きゃああ!」

 

 ジャグラーはナオミの耳元でそう呟くと、ガイに向けてナオミを投げ飛ばす。ガイは咄嗟に受け止めるも、勢いで倒れ、ナオミは後頭部を地面にぶつけて気絶した。

 

「かつてウルトラ戦士に封印された『土ノ魔王獣 マガグランドキング』よ……。この怪獣達のパワーを喰らい、悠久の眠りより目覚めよ!」

 

 再びダークリングを構え直したジャグラーは、懐にしまっていた最後の1枚を打ち込む。何かを封じていた光の球体は、完全にその光を覆い尽くされた。

 それと同時に揺れが起こり、だんだん大きくなっていった。

 

「お前の吹くメロディよりもっと良い音色を聞かせてやろう……。魔王獣の雄叫びを!」

 

 ガイにそう言い放つと、ジャグラーはどこかへ去って行った。

 気絶したナオミを抱えたままガイは出口へ走り出し、ビルが完全に崩落したと同時にビルから飛び出すことで、崩落に巻き込まれずに済んだ。

 何とか着地したガイは、抱えたナオミを見ながら呆れる。

 

「ったく、手間のかかるヤツだ……」

「ガイさん!やっぱりこのビルでしたか……?」

 

 崩落したビルを見た僕はガイさんを見つけて、すぐに駆け寄る。

 

「あぁ。お前に教わった通り、ここに来て正解だったぜ」

 

 あの後、シンさん達からどこのビルが崩れるのか連絡が入ったのだ。先にガイさんにその場所を教えて、その後に僕がここに来たという訳だ。

 

「ナオミさん!?どうしたんですか?」

「安心しな、気絶してるだけだ。……こいつを頼みたい」

 

 ガイさんはナオミさんを優しく壁に寄りかからせると、僕にそう言った。

 

「分かりました。……必ず、勝って下さい!」

「あぁ、任せろ……!」

 

 強く頷いたガイさんは、どこかへ向かって走り出した。




いかがでしょうか。
相変わらず駄文だな~と読み返して何度も思います…。

後編に続きます。


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第2話 土塊の魔王 ー後編ー

どうも。

劇場版の特報ムービーが発表されましたね。
TV本編はクライマックスに近付いてますが、こちらはまだ序盤ですw

後編です。どうぞ。


「ナオミさん!しっかりして下さい!」

 

 ナオミさんに必死に呼びかけるけど、反応が全くない。

 このまま目覚めなかったらどうしようと、僕が不安げにしていた時だった。

 

「キャップ!シンヤ君も!」

「大丈夫!?」

「シンさん!それにジェッタさん!」

 

 どこからか、慌てた2人がやって来た。

 

「どこにいたの!?見た、さっきの!?」

「ビルが倒れたんですよ!」

「え!?ちょっ、ここどこ!?」

 

 その騒がしさにナオミは目を覚ますが、ついさっきまで地下にいたのに、突然外で目を覚ましたために、状況が掴めていないようだった。

 

 

 

 すると再び揺れが起こるが、今までで一番大きな揺れであった。

 ビルが崩落した4箇所で、空に向かって赤い光の柱が伸び、その4箇所を繋ぐように謎の光が大地を伝う。

 その光が繋がった中心部に、機械のような魔物が君臨する。それこそが『土ノ魔王獣 マガグランドキング』──!

 復活したマガグランドキングは、手始めに全身から周囲を吹き飛ばすエネルギーを放射。すると周囲のビルが瞬く間に吹き飛ばされた。得意技の「マガ一閃」だ!

 

「万物は土から生まれ、土に還る……」

「命は一瞬の灯火、この世は一瞬の夢……。ですか?ジャグラー様」

 

 それを眺めていたジャグラーだったが、いつの間にか現れたヨミがジャグラーの言葉を補う。

 ヨミに対してジャグラーは、邪悪な笑みを返した。

 

 

 

 マガグランドキングが直進する道路に立ち、ついに対峙したガイ。

 オーブリングを構え、目の前の敵と戦うための姿へと変わる──!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

 

 ガイの側に、初代ウルトラマンとウルトラマンティガのビジョンが、それぞれ悠然と並び立つ。

 オーブリングに向けていた視線を上げたガイは、何の迷いもなくオーブリングを掲げ、トリガーを引いた!

 

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『俺の名はオーブ!闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 初めは距離を置き、構えていたオーブだったがマガグランドキングに果敢に立ち向かう!

 

『ウリァッ!』

 

 飛び膝蹴りを命中させ、後ろ回し蹴り、拳のラッシュを繰り出す。だが、マガグランドキングの要塞のようなボディには効果はないようだ。

 反撃の右ブローをティガのスカイタイプの高速移動で回避、今度は体を赤く光らせてパワータイプの力強い攻撃をぶつける。マガグランドキングも反撃で左腕のクローを振るうが、オーブはまたもかわす。

 互いに譲らない戦闘が展開されていたが、マガグランドキングはマガ一閃を発動。近距離で喰らったオーブはダメージを負う。

 オーブはスペリオン光線で牽制するように発射。だが、頑丈なボディには全く通用しなかった。

 マガグランドキングは胴体にエネルギーを集中。それをレーザーとして発射する。

 オーブはかわしたが、そのレーザーが直撃した後ろのビルに大穴がぽっかり開いていた。

 

「あのレーザーが当たったビルに、穴が!?」

 

 マガグランドキングはレーザーを連射。そのどれもがビルに当たり、また穴を開ける。

 これこそマガグランドキングのもう1つの大技、「マガ穿孔(せんこう)」!

 

 僕らSSPはその一部始終を離れた場所から撮影していた。でもその流れ弾が近くのビルに直撃。その上層階が崩落を始めた。

 

「SSP、総員退避~!」

 

 ジェッタさんとシンさんは真っ先に逃げたけど、ナオミさんは足がすくんで動けないようだった。僕が何とか連れて行こうとするけど、もう間に合わない。

 

「ナオミさん!」

「キャップー!シンヤ君!」

 

 そんな絶体絶命のピンチを、オーブが救ってくれた。

 高速移動で僕らの元まで駆け付け、落ちそうになったビルを寸前でキャッチしたのだ。

 そのビルを地面に置き、またマガグランドキングに対峙するが、マガグランドキングはマガ穿孔を発射。回避出来なかったオーブに直撃し、胸のタイマーが点滅を開始した。

 

「もう時間が……!」

 

 更に追い討ちをかけるように、魔王獣はマガ穿孔を撃ち込む。オーブの頭部に直撃し、オーブは大きく後ろに飛ばされる。

 すぐに片膝立ちで再び構えるが、放たれたマガ穿孔を咄嗟にかわす。レーザーはオーブの後ろのビルに直撃するが、穴は開かずにレーザーを反射した。

 

「ん……?何であのレーザーが当たったのに穴が開かないんだ?」

 

 僕が疑問に思った時、オーブもそのビルを振り向く。

 そのビルは正面がガラス張りで、まるで鏡のようだった。

 それを見て何か思い付いたオーブは、マガグランドキングに撃ってくるよう挑発する。それに答えるように、レーザーが放たれた。

 直撃しかけたその一瞬で、オーブは円形のバリア「スペリオンシールド」を形成する。レーザーの威力に押し切られそうになるけど、それを何とか制御してマガグランドキングに打ち返す。

 するとどうだろう。オーブの攻撃では一切傷付かなかった装甲に、穴が開いた!

 それを見たシンさんが、興奮気味に状況の解説を始めた。

 

「そうか!最強のレーザーと最強の装甲は両立できない!中国の故事に登場する矛と盾……!」

「まさしく矛盾!」

 

 剥き出しになったマガグランドキングの内部目掛けて、オーブは必殺光線の構えを取った!

 

『スペリオン光線!』

 

 内部に撃ち込まれた光線のエネルギーに耐え切れなくなったマガグランドキングは、一瞬膨張して間髪入れずに爆発した!

 

「やった!」

「ありがとう!ウルトラマンオーブ!」

 

 魔王獣に勝利し、飛び立って行ったオーブにジェッタさんは若干わざとらしく言う。

 その手に持ったビデオカメラには、オーブの戦闘とジェッタさんの実況がしっかり録画されていて、この実況が後でネットで叩かれるのはまた別のお話。

 

 

 別の場所では、ジャグラー達がマガグランドキングのカードを回収していた。

 そのカードを手にしたジャグラーは、ぼそっと呟いた。

 

「……俺からも礼を言わなきゃな、ウルトラマンオーブ」

 

 ジャグラーのすぐ隣で、ヨミはそれを眺めて笑みを浮かべながら、意味深なことを発言した。

 

「残るはあと……2枚」

 

 

 

 また別の場所では、ガイが地面に突き刺さった赤いクリスタル──マガクリスタルから魔王獣を封印していたウルトラ戦士のカードを回収する。

 オーブリングをマガクリスタルにかざすと、クリスタルが砕かれ光となり、1枚のカードに変わる。その戦士は、ウルトラ兄弟6番目の戦士だった。

 

「やはり封印していたのは、ウルトラマンタロウさんでしたか。お疲れさんです」

 

 ガイは腰のカードホルダーから全てのカードを取り出し、その全てを改めて眺めて言った。

 

「これから、世話になります」

 

 

 

 マガグランドキングの騒動の後、夕暮れ時にガイはまた銭湯の通りにいた。だが日中と違っていたことがあった。この騒動で通りの正面のビルが崩落したため、綺麗な夕陽を眺めることが出来た。

 崩落したビルは復旧工事を始めており、また明日にはこの景色は見れなくなるだろう。

 

「あっという間にビルが建つな……」

 

 ガイは昔の景色を思い出すが、この景色が今しか見れないと思うと少し寂しい気持ちになる。

 そうしていると、昼間のラムネの子がまたラムネを飲めずに困っていた。

 

「またお前か……。貸してごらん」

 

 ガイはその子からラムネを受け取り、ビー玉を押し込む。今度こそはこぼさずに開けることに成功した。

 

「セェーフ……!」

 

 ガイは子どもにラムネを手渡す。それを受け取り、笑顔で去って行く子どもを見送った。

 

「あっ!こないだの風来坊!」

 

 するとガイの後ろから、SSPの3人が銭湯を利用しにやって来た。ガイを指差しながらジェッタがそう言うと、ガイはそこから立ち去ろうとする。

 その背中に、ナオミは呼びかける。

 

「待って!教えて……あなた、何か知ってるんでしょ?」

「言ったはずだ。知らない方が幸せなこともある……」

「それでも知りたいの……。この世界の裏で、何が起こっているのか」

 

 ガイはしばらく何かを考えて、SSPの3人に振り返る。

 その姿は夕陽に照らされ、とても印象的だった。

 

「……1つだけ教えてやる。俺の名はガイ。クレナイ・ガイ」

 

 

 

 SSPのオフィスに帰って来た後、僕の頭の中はあのヨミという青年の言葉でいっぱいだった。

 

──あなたが手にした光が、私という闇を生み出した

 

「僕が手にした、光……」

 

 僕はカードホルダーのページを何度もめくりながら、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「今回もこのコーナーが始まりましたよ!草薙眞哉です!」

ガイ「クレナイ・ガイだ」

シンヤ「ガイさん、今回は何を紹介しますか?」

ガイ「そうだな……。じゃあこの姿について詳しく紹介するぜ!」

 

【ウルトラマンオーブ!スペシウムゼペリオン!】

 

シンヤ「あれ?この姿はこのコーナーの第1回で紹介しましたよね?」

ガイ「今回は、前回紹介しきれなかった能力や技についての解説をやっていこうと思うんだ」

シンヤ「なるほど」

ガイ「まずはこの能力。体の色が何色に光るかで発現する能力が変わるんだ!」

シンヤ「この能力は、ウルトラマンティガさんのタイプチェンジ能力の恩恵ですね!紫に輝けばスカイタイプのような素早さを、赤く輝けばパワータイプのようなパワフルな一撃を敵に与えることが出来ます!」

ガイ「次はこの技。『スペリオン光輪』。ウルトラマンさんの『八つ裂き光輪』を模した技なんだ」

シンヤ「『八つ裂き光輪』が初登場したのは、ウルトラマン第16話『科特隊宇宙へ』。必殺のスペシウム光線が通用しないバルタン星人2代目に対して使用。

 それから先のウルトラ作品でもこの切断技は受け継がれ、現在はウルトラマンオーブに受け継がれました」

ガイ「時々『ウルトラスラッシュ』と紹介されることもあるが、ウルトラマンさんの技を『八つ裂き光輪』と紹介することが多いぞ」

シンヤ「さすがガイさん、詳しいですね!」

ガイ「いや、シンヤには負けるさ」

シンヤ「えへへ……。じゃあ今回はここまで!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『水ノ魔王獣 マガジャッパ』の影響で、町中の水が臭くなっちまった!このままじゃ銭湯にも入れないぜ!

 タロウさん、メビウスさん!俺に、新たな力を貸して下さい!

次回!

『ウルトラマンオーブ─Another world─』

『怪獣水域』。

 紅に、燃えるぜ!!




次回は「熱いやつ」です。作者の駄文で熱くならないと思いますが……。

当分は本編通りに、その後にオリジナル回をやる予定です。

隠れていたサブタイトルは『ウルトラマンマックス』第21話『地底からの挑戦』でした。

ではノシ


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第3話 怪獣水域 ━前編━

どうも。

作者の個人的な理由で投稿が遅くなりました……。
申し訳ありません……。

オーブのスピンオフ作品のPVを見て「これパワータイプじゃね?」と思った作者です。

それでは、どうぞ。


 ある日の夜更け、どこかの湖。

 何事もなかった水面に、突如水飛沫が上がる。

 それと同時に、夜空に光る何か。月か星かと思えば巨大な怪物が姿を現し、それは怪物の眼球であった。

 そこにいたタツノオトシゴのような怪物──水ノ魔王獣 マガジャッパはその半身を水中に沈める。

 それはまるで、湯船に浸かる時のようだった。

 

 

 

 それから時は流れて。現在、SSPのオフィスではあるトラブルが発生していた。

 

「ヤバい、ヤバい!ヤバーい!」

 

 ナオミさんが急に叫び始めたのだ。その声の方が聞こえた方を見ると、蛇口の栓を必死に捻る水浸しのナオミさんがいた。だけど水は一向に止まる気配はなく、ただただナオミさんの絶叫が響くだけだった。

 

「ど、どうにかしてー!」

「もぉー!修理中ですよね!?状況を悪化させてどうするんですか!離れて下さい!」

 

 僕がナオミさんに渡すタオルを準備する中、シンさんが銃のようなものを構えて蛇口に向かって撃つ。すると、その銃から帯状のエネルギーが射出されてあっという間に蛇口ごと水を固めてしまった。

 その威力と性能の高さを喜び合う2人。僕は、水浸しのナオミさんにバスタオルを渡す。

 

「大丈夫でしたか?ナオミさん」

「ありがとうシンヤ君。いやー、一時はどうなるかと思ったよ」

「いえいえ、僕は何もしてませんし……。一応業者さんに連絡しておきます」

 

(そう言えば……この世界にはクラ〇アンってあるのかな?)

 

 業者さんへ電話をかけようとした時、ふとそう思った。僕の元々いた世界ではTVのCMで見かけることの多かったあの業者さん。安くて早くて安心な、水のトラブルならお任せのクラシ〇ン。でも水道を水ごと固めてしまったから、これは専門外なのかも知れない……。

 

 

 

 そんな僕らとは対照的に、1人悲観する男がいた。

 普段はあんなに明るいはずのジェッタさんが、パソコンの画面を見つめながら、鼻をすすっていた。どうやら、お涙頂戴な動画を見ている訳ではなさそうだ。

 

「……もしかして、絶賛炎上中?」

 

 ナオミさん達に倣って、ジェッタさんの後ろからその画面を窺う。

 それはSSPのサイトで、先日のウルトラマンオーブを撮影した動画のページが表示されていた。

 でも注目すべきなのは、視聴者から寄せられたコメント欄。

 

 こいつの実況いらねー、実況ウザー……。

 

 動画を撮影し、実況をした本人にはどれもキツい一言ばかりだった。

 ジェッタさんの目には、涙がしっかり浮かんでいた。

 

「……泣いてんの?」

「泣いてないって!ちょっとシャワーでも浴びてスッキリしてくる!」

 

 ナオミさんが心配するように話しかけると、急に立ち上がったジェッタさんは駆け足で浴室へと向かった。

 

(ジェッタさん……、強がってもバレバレですって……)

 

 その後ろ姿を見届けながら、僕はそう思った。

 ジェッタさんは自分がそうしたかったからそうしたのに、こうも一方的に叩かれてしまうのが、ネットの怖いところだと思う。

 この挫折をバネに、今後とも頑張ってもらいたいものである。

 自分のデスクに座ったナオミさんに、シンさんがさっきの銃──スーパー・アブソーベント・ポリマーガン、通称SAPガン──の開発費の相談を持ちかけていた時だった。

 

「うわぁ~!くっさー!!超くっさ!!ちょっと……」

 

 浴室の扉から出て来たのは、腰にタオルを巻いただけのジェッタさんだった。少し離れた距離からでも臭う、強烈な臭気を纏った半裸のジェッタさんが飛び出して来た!

 ジェッタさん本人もこの状況を掴めていないのかパニックに陥り、僕らに近付いて来た!

 

「うわぁ!臭い!」

「ジェッタさん臭い!臭いですって!」

 

 離れていても臭いのに、近付かれるとその臭気がダイレクトに嗅覚を襲う。ナオミさんやシンさんはその臭いに耐え切れず、嘔吐(えず)き出した。

 水のトラブルに続いて、僕らSSPを臭いのトラブルが襲った……。

 

 

 

「…………………………」

 

 場所は変わって、銭湯。

 入り口には店主の文字で、「臨時休業」を知らせる貼り紙が貼られていた。

 それを見たガイは持っていた荷物を地面に落とし、絶句していた。

 

「……ガイちゃん、すまねぇなぁ……。ご覧の通り、臨時休業なんだよ……」

 

 入り口が少し開き、中から壮年の男性が掃除用のモップとバケツを持ちながら困った顔で出て来た。

 

「おやっさん……!どういうことなんだよ、一番風呂を楽しみにしてたのに……!」

 

 その男性はこの銭湯「鶴の湯」の店主で、常連のガイとは顔見知りだった。そのため互いに「ガイちゃん」、「おやっさん」と呼び合う仲だった。

 

「それがよぅ……水が急に臭くなっちまったんだよ、ホラ!」

 

 右手に持ったバケツをガイの顔の高さまで持ち上げて、臭いを嗅がせる。だがガイは表情ひとつ変えない。

 それに驚き自分も臭いを嗅ぐが、その強烈さに顔色を変えた。

 

「えぇ!?臨時休業って……!」

 

 上下ジャージで揃えたジェッタさんと一緒に銭湯へやって来たけど、そこには臨時休業の貼り紙。

 ジェッタさんの臭いに、表に出ていた店主のおじさんは鼻を摘まみながら顔をしかめた。

 

「うわっ、くっせぇ!洗ってねぇ雑巾みたいな臭いだ、お前……!」

 

 左手のモップで、おじさんは自分から離れるようにとジェッタさんを拒む。ジェッタさんはどこか心外だなと言いたげな顔だった。

 

「臭いが取れないから来たのに、臨時休業って……」

「ん、なんだ。兄ちゃん家の水も臭うのか!?こんな感じか!?」

「うわっ……!」

「くさいっ!」

 

 おじさんはバケツを僕らの方に向けて言う。その臭いはやはりキツかった。

 

「……ガイさん!」

「よぉ、また会ったな。……それにシンヤも一緒だったか」

 

 ガイさんはジェッタさんの肩を掴んでそう言う。

 ジェッタさんは僕にガイさんと知り合いだったのかとひそひそと話して来るけど、近付かれると臭いが……!

 そんな僕とガイさんを見比べて、ジェッタさんはガイさんに問いかける。

 

「ガイさんは俺のこと臭いって……」

「あぁ、これくらいの臭いなら何でもない」

 

 ガイさんはぶっきらぼうにそう答える。

 そんな僕らの後ろを、プール帰りの小学生達が駆けて行った。

 その先にはプールやコインランドリー、料亭やらクリーニング屋が建ち並んでいたが、そのどれもが「臨時休業」の貼り紙を出していた。

 

「一体どうなっちまってるんだ……?」

「早くおやっさんの沸かした一番風呂に入りたいからな……。よし、ちょっくら行ってくる!」

 

 ジェッタさんが戸惑いの声を出し、状況を飲み込めずにいた時だった。

 ガイさんはどこかに向かって走り出した。

 その背中に、銭湯のおじさんが問いかける。

 

「ガイちゃん!どこに何しに行くんだよ!」

「風呂に入るんだ、一肌脱ぐのは当然だろ!」

 

 ガイさんは振り向いて、キメ顔でそう言うとまた走り出した。

 

「……うまい。座布団1枚」

 

 

 

「ダメだ……。全然臭いが取れないよ……」

 

 ジェッタさんは全身にスプレーを振りかけて臭いを消そうと試みるけど、その効果は薄い。

 シンさんはこの状況の解析を始めていて、1人だけガスマスクを着用していた。

 ナオミさんが、冷蔵庫の中の非常用の食料と水を確認するために冷蔵庫を開けると、そこには水が1本あるだけ。

 ジェッタさん曰く、シンさんが夜食に消費してしまったらしい。

 

「すみませんナオミさん……。僕がちゃんと確認していれば……」

「あぁ、気にしないでシンヤ君!大丈夫だよきっと」

 

 少なくともこうなってしまったのは、僕にも責任がある。これからは、こまめに確認しようと思った。

 ジェッタさんの臭いに耐え切れなくなったナオミさんは、スライスした生姜や生姜そのものをジェッタさんの身体中に纏わせる。

 臭みを取るには生姜が一番とは言うものの、まるでモンスターを退治する勇者か何かのようにも見えた。

 

「おい、ちょっといいか……。うぇ、くせぇ!ここもか!」

 

 オフィスの扉が開き、渋川さんがやって来た。開口一番に臭いを指摘され、ジェッタさんは不機嫌だった。

 渋川さんがやって来たのは、どうやら僕らがこの異臭騒ぎの一件で何か掴んでいるのではないかと睨んだかららしい。

 ビートル隊でも、数週間前から似たような現象の調査を行っていたそうだが、臭いの発生する原因究明には至っていないそうだ。

 

「だから、正攻法じゃない私達を頼ってきたってこと?」

「まぁね。……なぁナオミちゃん、何かネタないかな?」

 

 渋川さんはナオミさんにせがむ。

 するとパソコンをいじっていたシンさんが何かを突き止めた。

 

「見つけました!これです、これ!」

 

 シンさんの一声に、全員の視線がパソコンの画面に釘付けになる。

 その画面には、『太平風土記』の1ページが表示されていた。

 古い言葉で記されたそれを読めない渋川さんは、シンさんに読むように要求する。渋々了承したシンさんは、そのページを読み始める。

 そこにはマガジャッパと呼ばれる魔物の記述があった。何でも、水を臭くしてしまう魔物だったそうだ。

 

(これはまさか……魔王獣!?だからガイさんは……!)

 

 僕がそう考えていると、ナオミさんは何かに感づいたようだった。

 

「じゃあ、突然水が臭くなった怪奇現象の原因って……」

 

 

 

 

 

 

 どこかの湖にて。そこでは、マガジャッパが未だに湯船もとい湖に浸かっていた。

 

『♪~』

 

 すると、どこからかメロディが聞こえた。マガジャッパはその音に反応し、聞こえた方角へ顔を向ける。

 そこには、オーブニカを奏でるガイの姿があった。

 

「やはり、魔王獣マガジャッパか……」

 

 ガイを認識すると、マガジャッパは鳴き声を上げる。

 

「大自然を風呂替わりか……?おいお前ッ!ちゃんとかけ湯してから入れッ!マナー違反もいいとこだぞ!!」

 

 よほど風呂に入りたかったのか、ガイはマガジャッパに吼える。

……それにしてもこの男、実に庶民的である。

 それを聞いたマガジャッパは、勢い良く立ち上がる。それと同時に、汚水の飛沫も立ち上がる。

 マガジャッパは、鼻先から強烈な水圧「マガ水流」をガイに向かって放つ!

 それを間一髪でかわすガイ。更にマガ水流を撃ち出すマガジャッパ。飛び込み前転の要領でかわすが、受け身を取れずガイはダメージを負ってしまう。

 その勢いで、ガイはオーブリングを手放してしまった。数歩先に落ちたオーブリングだったが、それを拾うことは叶わなかった。

 なぜならそれを拾ったのはガイの因縁の相手、ジャグラーだったからだ。

 

 

 

 

 

 渋川さんの無線に、湖に怪獣が出現したと連絡が入った。

 以前異変のあった地域の近隣にも、湖があったかどうか、シンさんが渋川さんに言う。

 

「あったと思うが、それがどうかしたか?」

「これまで異変があった地域の湖を結ぶと、ある一定の大きさ、深さのある湖を移動していることが分かるんです」

「まるで、温泉巡りですね……」

 

 僕がそう呟くと、シンさん達も頷いていた。

 

「よぉし……、『湖のひみつ』ね……!」

 

 そのネタを、早速ジェッタさんがSSPのサイトで更新する。

 どこかで聞いたことのある言葉だったけど、今はそれどころではなさそうだ。

 調査に行くにあたって、シンさんがジェッタさん専用に脱臭グッズで急遽作成したプロテクターを纏わせる。その見栄えは、先程の生姜の鎧よりも遥かに良かった。

 

「すげぇじゃん、シンさん!」

「さすが天才。これで臭い対策もばっちりね!」

「すごくヒーローっぽいですね!」

 

 そんな様子ではしゃぐ僕らSSPを見かねた渋川さんが口を開く。

 

「行くなって言っても聞かないのは分かってる。でも、ナオミちゃん達だけじゃ危険だ。俺も一緒に行く」

「じゃあ情報も共有ね、ギブアンドテイクってことで。

 よぉ~し、Something Search People、出動!」

「「「おぉー!」」」

「お、おぉー!」

 

 渋川さんは戸惑いながらも、僕ら3人に混じって声を上げた。

 

 

 

 場所は再び湖の畔。緊迫した空気が、ガイとジャグラーの間に漂う。

 そんな2人の後ろを、マガジャッパは湖を縦断してまた別の場所へ向かって行った。

 オーブリングを握るジャグラーは、それを本来の持ち主に渡すように持つが、手放す様子は全くなかった。

 

「随分と不甲斐ないな……。大切なものだろ?……取り返してみろよ。こいつも、昔のお前自身も」

「……昔も今も、俺は俺さ」

「フフッ…、かっこいいなぁ……。他のウルトラマンの力を借りなきゃ変身出来ない男が」

 

 面倒くさそうに頭を掻いたガイは、間髪入れずにジャグラーに殴りかかる。それをヒラリとかわすジャグラー。左フックをガード。更に繰り出されるガイの攻撃に、的確なカウンターを決めていく。

 

「俺は本気のお前とやり合いたいんだ……」

「疲れるよ、それは!」

 

 今度はジャグラーが動き、一撃を喰らわせようとするが、即座にガードしたガイに阻まれる。

 

「こんなもんか?今のお前は?」

「くっ……!」

 

 そんな切迫した状況でも、ジャグラーはガイへの挑発を止めない。再び互角の殺陣が展開するが、ガイはジャグラーの左腕に膝蹴りを当てる。その勢いでジャグラーの持つオーブリングは宙を舞い、ガイはそれを的確にキャッチした。

 ジャグラーと向き合ったガイだったがそこにはジャグラーの姿はなく、その代わりに背後から嫌な気配を感じ取る。

 

「完全には錆び付いてないようだな……」

 

 いつの間にかガイの後ろを取っていたジャグラーは、そう言い残すとどこかに去って行った。

 それを見送ったガイは、マガジャッパの後を追った。

 

 

 

 現場に到着した僕らSSPを出迎えたのは、巨大な怪獣と周囲に充満した強烈な臭気だった。

 

「しかし、ひでぇ臭いだな!」

 

 その臭いを例えるように、ナオミさんはおばあちゃん家の裏庭にいたシマヘビやアオダイショウの臭い、ジェッタさんは洗ってないザリガニの水槽の臭い、シンさんは有機溶媒のビリジンをより強烈にした臭い、渋川さんは洗わないで放置した柔道着を詰め込んだカバンを開けた時の臭い……等とそれぞれが違った例えをした。

 

「とにかく、臭いですーっ!!」

 

 するとマガジャッパが森林を薙ぎ倒しながら、僕らの前を横切った。その時の臭いは今までより強烈で、その場にいた全員が嘔吐くほどだった。

 

「間違いない、あれが臭いの原因だ!」

「これが怪獣の臭い……貴重な瞬間です……」

「いやあれが臭いだけであって、全ての怪獣が臭いとは限りませんよ……!」

 

 臭いを堪えながらシンさんが感心するけど、すかさず僕がツッコミを入れる。

 そんな僕らに目もくれず、マガジャッパはズンズン進んで行く。

 

「あの怪獣、今度はどこの湖に移動するか予測が付く?」

 

 ジェッタさんはシンさんにそう聞く。すぐさまタブレットを使って予測した結果、次に向かうところは湖ではなくダムだという予測が出た。そのダムは、東京都の水源を多く担っているダムだった。

 これを放っておけば日本だけではなく、やがて世界中の水まで影響を及ぼすことが懸念された。

 

「よぉし、本部に連絡を入れる!ナオミちゃん達はここまでだ!これ以上は危険だから、引き返せ!」

 

 それを知った渋川さんは、何としてでもそれを食い止めるべく、自分の役割を果たそうとする。

 それでもナオミさんは、自分達の商売だからと言って食い下がる。渋川さんはナオミさんをなだめようとするけど、突然ジェッタさんが声を張り上げる。

 

「スクープだけの問題じゃない!

……そりゃ時にはバカやったりして、怪獣出現を面白可笑しく記事にしてるけど、真面目に書いたって誰の目にも触れないじゃんか!……だけど、俺達がこうやって追跡取材をして、リアルタイムで更新することで、炎上しても拡散さえすれば……!1分でも1秒でも早く怪獣から避難出来る人がいるかも知れないだろ!?

 それに……。銭湯の平和を取り戻して、綺麗さっぱり洗い流したいんだよ……!」

「ジェッタさん……」

 

 ジェッタさんのの熱意にはさすがの渋川さんでも折れたようで、最後まで僕らに同行してくれた。

 

「もう少ししたら、本部の隊員達が現着する!」

「それまでの間、侵攻を食い止められれば……!」

「僕に任せて下さい!これを怪獣の頭上に向けて撃って下さい!」

 

 そう言うとシンさんは、持って来ていたSAPガンを渋川さんに手渡す。

 当初は戸惑っていた渋川さんだったが、しっかり狙いを定めて球状のエネルギー弾を発射する。

 マガジャッパの頭上で爆散したそのエネルギー弾の効果は抜群で、その体表を固めることに成功した。

 

「ワーオッ!よぉし、もう一発浴びせてやるか!おい!よく見とけよ!」

 

 それを見て機嫌を良くした渋川さんは、SAPガンを担いだままマガジャッパに接近する。

 一方のマガジャッパは機嫌を損ねたようで、何か攻撃を仕掛けるような素振りを見せた。

 

「渋川さん!その先は危ないです!」

 

 渋川さんを止めようと必然的に後を追う形になった僕に向かって、マガジャッパが鼻先から強烈な水圧を放った。

 

「ギャーッ!」

「うわぁぁ!」

 

 渋川さんへの攻撃の巻き添えを食らった僕の耳には、ナオミさんの絶叫が聞こえていた。

 

「おじさーん!シンヤ君ー!」




いかがでしょうか。

後編に続きますよ。


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第3話 怪獣水域 ー後編ー

後編です。

誤字、脱字あればご報告を。


「うわぁぁぁぁ!」

 

 マガジャッパの攻撃を喰らった僕は、しばらく宙を舞っていた。まさかこんなに飛ばされるとは思っていなかったからだ。

 でもいずれ地面に叩き付けられることに気付いた僕だったが、どんな風に受け身を取るべきなのかさっぱりだった。

 やがて地面が見え始めた辺りから、僕は力強く目を瞑っていた。

 でも僕は痛みを感じなかった。その代わりに、力強い何かに抱えられる感覚があった。ゆっくり目を開くと……。

 

「あ……!ガイさん!」

「……ったく。大丈夫か?」

「えぇ、何とか……。」

 

 呆れた様子のガイさんに降ろしてもらった僕は、ジェッタさんのあの言葉を思い出して、それを伝えた。

 

「ガイさん、お願いします!銭湯の平和を取り戻して下さい!」

「銭湯の平和と来たか……。じゃあ行くぜ!」

 

 ガイさんは両腕を交差させて、左手のオーブリングを正面に突き出した──!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『俺の名はオーブ!闇を照らして悪を……』

 

 森の中に、仁王立ちでウルトラマンオーブが現れる。いつものように名乗りを上げるけど、後ろからマガジャッパが体当たりを仕掛けてきた!

 

「えぇ!?名乗りを妨害したぁ!?」

 

『グゥ……』

 

 接近したマガジャッパが放つ臭気に、オーブは顔を反らす。何とか迎え撃とうとするけど、マガジャッパの臭いはオーブにも多大な影響を与えているようだった。

 オーブが攻撃を当てようにも、その臭いでまともに接近戦すら出来ないために、距離を取ろうと蹴り技を炸裂させる。

 小型化させたスペリオン光輪を手裏剣のように飛ばす。だが、臭いのせいで若干へっぴり腰気味に放った光輪は、マガジャッパの頑丈な体表にはあまり意味の無いようにも見えた。

 マガジャッパは、長い尻尾でオーブのがら空きになった脇腹に一撃を与える。その勢いでオーブは地に伏した。

 マガジャッパは、今度は両腕の吸盤から「マガ吸引」を発動させ、オーブを引き寄せる。その強風にはオーブでさえも吸い寄せられる。

 両腕でオーブをがっちりホールドしたマガジャッパは、口から黄色いガス「マガ臭気」を至近距離から放つ。

 その余波は、離れた場所から見ていた僕の元にまで届いた。

 

「痛てて……。目がヒリヒリする……!」

 

 その臭さを間近で受けたオーブへのダメージはとてつもなく、再びオーブは地に伏した。

 それを絶好のチャンスと見たマガジャッパは、体を透明化させて、周りの風景に溶け込んだ。

 

「透明化まで出来るのか……!」

 

 マガジャッパを見失ったオーブの背後から、実体化したマガジャッパのボディアタックが炸裂!

 オーブが倒れた近くで、ナオミ達はその一部始終を撮影していた。そのせいもあってかオーブは身動きが取れずにいた。マガジャッパの尻尾攻撃を喰らい、マガ吸引で引き寄せられたオーブは、また身動きが取れなくなってしまった……!

 

「ガイさん……!」

『「こうなったら……、この力を!」』

 

 ここでガイはオーブリングを再び構え、新たなカードを手にした!

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

 

 ガイが2人のウルトラ戦士のカードをリードすると、左側にウルトラマンタロウ、右側にウルトラマンメビウスのビジョンが実体化。

 続いてガイは一度交差させた両腕を大きく広げ、身体を左に捻ってオーブリングを勢い良く掲げた!

 

「熱いやつ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

『オリァッ!!』

 

 飛び上がったオーブは何度も空中回転を繰り出し、強烈な飛び蹴りをマガジャッパの顔面に叩き込んだ!

 

「あれは……!スワローキック!?」

 

 今の技は、ウルトラマンタロウのスワローキックだった。オーブがその技を使ったということはつまり…!

 

「あの姿は……!」

 

 そこにいたのは、真紅の巨人。頭部から伸びる角、身体に刻まれているのは金のファイヤーシンボル……!

 

「タロウさんと、メビウスさんの力……!」

 

『紅に、燃えるぜ!』

 

 力強く名乗りを上げると左正拳突き、膝蹴り、チョップをスピーディーに決めていく。

 やはり姿は変わっても臭いには耐えられないようで、少ししかめるようなリアクションを取った。

 するとなぜかマガジャッパの鼻をほじくり、首を掴んでからの、ジャイアントスイング!

 マガジャッパが立ち上がると、すかさずフライングボディプレスで追い討ちを仕掛け、右の拳に炎を纏わせ、大打撃を与えた!

 だが、マガジャッパも負けてはいなかった。マガ水流を放つが、オーブはそれを回避して炎を纏ったスライディングキックで足を崩した!

 

『「俺に触ると……火傷するぜッ!」』

 

 オーブの身体が赤く光り、ガイが熱く吠える。

 

『ストビューム……ッ、ダイナマイトォ!』

 

 その声と共にオーブの全身が炎となった!

 

(あの技は……!)

 

 僕はあの技に心当たりがあった。

 ウルトラマンタロウの『ウルトラダイナマイト』、ウルトラマンメビウスの『メビュームダイナマイト』に酷似していたからだ。どちらとも使用すれば身体への多大なダメージを負う、まさしく諸刃の剣。

 それを使ったガイさんへのダメージはきっと大きくなるはずだ。

 

『ウォォァァァ!』

 

 雄叫びを上げながらマガジャッパに特攻していくオーブ。そしてマガジャッパを捕らえた瞬間、凄まじい爆発が起こる。その威力は、周囲の森林に炎が燃え移るほどだった。

 

「オーブ……ガイさんは……!?」

 

 爆風が晴れた時、そこには力強く立ち尽くすオーブがいた。その姿を見て、僕は少しホッとした。

 オーブは飛び去って行き、その時の衝撃波は森林の炎を消して行った。

 

「そう言えば……、渋川さんとシンヤ君は!?」

 

 それを眺めていたSSPの3人はマガジャッパの攻撃で行方の分からなくなった2人のことを思い出し、急に慌て出す。すると誰かが白い煙の向こう側から走って来る。

 

「おーい!おーい!」

 

 そこから現れたのは渋川さんだった。

 3人は渋川さんの無事を確認して、ビートル隊が一般人に心配かけさせてどうするんだと言う。

 すると渋川さんは「面目ない」と笑顔で答えた。

 

「いやいや、シンヤ君は!?」

「そうだった!渋川さん!シンヤ君知らない!?」

「いや、俺は見てないな……」

「そんな……」

 

 ナオミが落胆した時だった。ポケットのスマホが小刻みに震え始めた。誰からの連絡かと思って出てみると、驚きの人物からだった。

 

『もしもし、ナオミさん?僕です、シンヤです!』

「シンヤ君!無事だったの!?」

『えぇ何とか。ウルトラマンが、オーブが助けてくれました』

 

 

 

 それから色々と長い話を終え、合流場所を教わった僕は電話を切り、ガイさんを探し始めた。もしかしたら今頃どこかで倒れているかも知れない。そう思えて仕方なかった。

 

「こいつは、ウルトラマンジャックさんの力でしたか。お疲れさんです。よろしくお願いします」

 

 探し始めて間もなく、ガイさんを見つけた。

 

「ガイさん!大丈夫ですか!?」

「シンヤ!お前も無事だったか」

「そんなことより!体はなんともありませんか?あの技は…」

「あぁ、何ともないぞ」

「……無理してないですよね?」

「おぅ」

「そっか……、なら良かった……」

「?」

「あ、そうだガイさん!銭湯のお湯、臭くなくなったみたいですよ!」

「ホントか!ならすぐに行かなきゃな!」

 

 ガイさんは、心の底から嬉しそうな顔を見せた。

 

 

 

 一方ジャグラーもまた、マガジャッパの怪獣カードを回収していた。ダークリングの中央からカードを取り出すと、まるでマガジャッパの臭いを嗅ぐようにそのカードの臭いを嗅いでいた。

 

「最後の1枚もこの調子で頼むぞ……。オーブ」

 

 

 

 場所は町の銭湯。日中発生した異臭騒ぎもあってか、銭湯はこれまでにない賑わいを見せていた。

 

「はぁ~……。一番風呂は地球上において最高の贅沢だ……」

「最高ですね~……」

 

 ガイさんと少し離れたところでお湯に浸かっていた僕も、釣られてそう言う。

 まだ体や髪を洗っているジェッタさんやシンさんが大袈裟だと笑うけど、今ならガイさんの気持ちがとても分かる。こうして当たり前だと思っていることが本当に幸せなことなんだなと改めて思う。

 そうしてしみじみとしていると、ジェッタさん達が湯船に飛び込んで来た。そこから離れていた僕は無事だったけど、ガイさんは顔に水飛沫が思い切りかかる。

 そんな2人に対して、ガイさんは怒りを爆発させる。

 

「……湯船に、飛び込むなぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「いや~良い湯でしたね、ガイさん!」

ガイ「あぁ……そうだな」

シンヤ「ホントにすみません……。後でお2人にはよく言っておくので……」

ガイ「あぁ、頼むぞ……。せっかくの気分を台無しにしやがって……」

シンヤ「えぇと、今回紹介するのはこれです!」

 

【ウルトラマンオーブ!バーンマイト!】

 

ガイ「『ウルトラマンオーブ バーンマイト』。タロウさんとメビウスさんの力で戦う、熱い戦士なんだ」

シンヤ「名前はメビウスさんの強化形態『バーニング』ブレイブ、タロウさんのウルトラダイナ『マイト』が由来。

 メビウスさんは設定上タロウさんの教え子で、登場シーンや戦闘の構えが、タロウさんと同じだったりします」

ガイ「そう言えば、『ウルトラマンメビウス』第30話『約束の炎』だと、攻撃や動きが完全にシンクロする小ネタがあったみたいだな」

シンヤ「そうなんですよ!あの息のぴったり合ったコンビネーション!とても震えました!」

ガイ「バーンマイトの必殺技は、全身に炎を纏って敵に体当たりを仕掛ける『ストビュームダイナマイト』だ!」

シンヤ「この技のモチーフはタロウさんの『ウルトラダイナマイト』とメビウスさんの『メビュームダイナマイト』。どちらとも自爆技で、マガジャッパ戦で僕は内心ハラハラでしたよ……!」

ガイ「心配かけて悪かったよ」

シンヤ「分かってくれるなら良いんですよ……。

 それでは、今回はここまで!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突如現れた巨大な火の玉。吹き荒れる熱風に町は大混乱だ!

 これは火ノ魔王獣の仕業に違いない!大惨事になる前に、何とかしないとな!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『真夏の空に火の用心』。

 闇を照らして、悪を撃つ!




駆け足気味になってしまった今回の作品。

待ってくださった方々には本当に申し訳ないと思います…。

恒例の隠れサブタイは、『ウルトラセブン』第3話『湖のひみつ』でした。

ではノシ


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第4話 真夏の空に火の用心 ー前編ー

メリークリスマス!
作者はいわゆるクリぼっちです……。

オーブのTV本編が最終回を迎えましたね……。
放送が開始した当初は「そりゃないだろ~」と思ったオーブでしたけど、いつの間にかどっぷりはまってました。

それでは、こんな寒い季節に熱いやつです。
どうぞ。


 強い日差し。

どこかでセミが鳴いている。

 ただいまの気温、40℃。

 町行く人々は誰もが汗だくで、日傘や扇子で暑さを凌いでいる。

 それでも、暑さが去ることはなかった。

 

 場所は町のカフェ。店内は南国をイメージしているのか、装飾やBGMがそれらしいもので統一されている。

 今日は客でいっぱいで、店員もフロアを駆け巡り大忙しだ。それだけお客でいっぱいだと、当然店内に入れない人もいる。

 我らがSSPのキャップ、夢野ナオミがこの店でバイトをしているため、ジェッタとシンもこの店にやって来たのだが……。

 

「てか何だよこの暑さ……!」

「地球温暖化が問題視され、都市部ではヒートアイランド現象が進む一方だと言うのに……。全くみんな呑気なものです……。わざわざ可愛い仲間がバイト先まで遊びに来ているというのに、この仕打ちとは……!」

 

 炎天下のテラスに晒される2人の元に、仕事モードのナオミがお冷やの水を持ってくる。

 

「仕方ないでしょ、店内がいっぱいなんだから……。空いたらちゃんと移れるようにするから。で、何か分かった?」

 

 ナオミが聞いているのは、最近頻繁に発生している怪獣騒動や光の巨人、ウルトラマンオーブについてだった。しかし分かったことは少なく、むしろ突然現れる怪獣達や風来坊の青年──ガイのことなど、世の中分からないだらけとジェッタはお手上げの様子だ。

 ジェッタとシンは渡されたお冷やを一気に飲み干し、おかわりを頼む。仕事モードのナオミはメニュー表を差し出すも、そのメニュー表をうちわ代わりに使われる始末だった。

 

「そういやシンさん、シンヤ君は?」

「あぁ、今日もバイトが入ってたみたいですよ。確か……アイスの移動販売?でしたっけ」

 

 

 

「ん~いや、ラムネか?あ、アイスかな?どっちにしようかなぁ?」

「まだですかガイさん?いい加減早く決めて下さいよ~」

 

 今僕が何をしているかと言うと、ラムネにするのかアイスにするのかをなかなか決めてくれないガイさんへの接客だった。

 いつもこの仕事をしているおじさんがこの暑さでバテてしまって、急遽僕がこの仕事を代理で行っている。

 この暑さだと、やっぱり冷たいものが結構売れる。特に炭酸飲料やアイスクリームが人気だ。

 これまで何人ものお客さん達が、ラムネやアイスを買いに来ていた。そのこともあってか、事前に準備していた品数がどれもギリギリになりつつあった。

 だからこそ、ガイさんは真剣に悩んでいるのかも……。

 

「じゃあラムネ……、いや!やっぱり、アイス!」

 

 悩みに悩んだガイさんが選んだのは、棒のアイスだった。冷たくてシャリシャリで、人気の高いアイスだ。

 ようやく買ったアイスに、ガイさんがかじりつこうとした時だった。

 

「うわぁ!?暑っ!?」

 

 どこからか熱風が吹き荒れ、思わず目を瞑った。

 次に目を開けた時、ガイさんが持っていたはずのアイスが既に無くなっていた。それに驚いているガイさんの様子を見るからに、さっきの熱風でアイスが溶けてしまったのだろうか。

 

「ガイさん!あれ見て下さい!」

 

 空を見上げた僕の目に飛び込んで来たのは、巨大な赤い火の玉だった。それから発せられる熱波の影響で、町の人々は途端に倒れ出した。

 

「熱波襲来、ですか……!?あれは一体……?」

「今度は火ノ魔王獣がお出ましか……!」

 

 そう言うと、ガイさんはオーブリングを構える。だがその右手は、さっきのアイスの棒を持ったままだった。

 しかもハズレの棒だった。

 咄嗟に近くのゴミ箱にきちんと外さずそれを投げ入れる。

 気を取り直していつもの構えを取ったガイさんは、オーブリングを正面に突き出した!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『ジュワッ!』

 

 オーブは火の玉へ向かって飛び立って行く。僕もそれを追いかけようとした時だった。

 

『もしもしシンヤ君!オーブが出たの!』

「こっちでも確認しました!僕はオーブの後を追います!」

『分かった!それじゃあ向こうで会おう!』

 

 ナオミさんからの電話を切り、僕はオーブが飛んで行った方へ走って行く。

 

 火の玉に正面から対峙したオーブは、その手から水を放出する。初代ウルトラマンの「ウルトラ水流」を模した「オーブ水流」である。

 しかし火の玉の熱がオーブ水流を上回り、その効果はあまりなかった。

 次にオーブは「スペリオン光輪」の構えを取るが、いつものとは違って身の丈程の、特大の「スペリオン光輪」を生成した!

 それを思い切り投げて直撃させるが、やはり決定打にはならない。

 すると今度は体を紫色に輝かせて、火の玉の周りを高速移動する。高速移動で分身をいくつも作り出し、必殺光線を全方位から集中砲火させる!

 

『スペリオン光線!』

 

 やがて光線を撃つのを止めたオーブだったが、火の玉には以前変化が見られなかった。

 するとオーブのカラータイマーが点滅を始めた!

 

「エネルギーの消耗が激し過ぎたんだ……!」

 

 これまでのオーブの戦いを思い出した僕は、そう結論付けた。

 あの姿のオーブはバランスの取れた形態で、光線技も応用の利くものばかりだ。

 今回の戦いでは、その光線技でエネルギーを多く使い過ぎたために、いつもよりカラータイマーの点滅が早いのだ。

 一度着地したオーブは思い切り大地を蹴り、火の玉へ向かって飛ぶ。そして巨大な円状のバリア「スペリオンシールド」を自分と火の玉の間に作り出し、そのまま宇宙に向かって飛んで行く。

 

「まさか大気圏外まで押し戻す気ですか、ガイさん!?」

 

 宇宙まで火の玉を押し出したオーブだったが、カラータイマーの点滅がだんだん早くなり、やがて点滅が止まった……。

 

『グァァ……』

 

 力なく地球に墜落したオーブ。落下した場所には盛大な砂埃が立ち上がった。

 

「ガイさん!!」

 

 それを目撃した僕は、その場所まで全速力で駆けて行った。

 

 

 

 大地に落下したオーブは変身が解かれ、クレナイ・ガイの姿に戻っていた。その姿になっても負ったダメージは深く、仰向けで荒く呼吸をしていた時だった。

 自分の元に歩み寄る人影。その顔を見た途端に、ガイはその相手の名を呼ぶ。

 

「がぁっ……。ジャグラー……ッ!」

 

 左手で頭を抱えたジャグラーはガイの顔を覗き込むように腰を屈めて口を開いた。

 

「何をしている……?こんなものじゃないはずだ……」

 

 姿勢を正したジャグラーは、ガイの左腕を踏みつける。その痛みにガイは顔を歪めるが、ジャグラーは決して止めるつもりはない。

 

「お前は選ばれた戦士なんだろ?なぁ?光の戦士……」

 

 そう言うと右手でガイの胸ぐらを掴み、自分の顔の高さまで持ち上げる。ガイは先程の戦いで蓄積したダメージが原因で、反撃する気力もなかった。

 

「どうした?もっと俺を楽しませてくれ……」

 

 ジャグラーは右手だけでガイを後ろに投げ飛ばす。ガイは近くの建物に激突し巨大なクレーターを建物の壁に刻み込み、そして地面に落ちた。

 

「あまり時間はないぞ……」

 

 

 

 僕が落下現場に到着した時、そこにいたのは倒れているガイさんと、マガバッサーの時に出会ったあの男性だった。

 

「ガイさん!……あんた、あの時の!」

「おや?お前に会うのは、マガバッサーの時以来だな?」

 

 飄々とした態度を崩さないその男は、邪悪な笑みを浮かべている。

 何より心配なのはガイさんだ。気を失っているだけかも知れないけど、さっきのダメージもあるはずだからだ。

 

「……これもあんたがやったのか?」

「そうだ……。と言ったらどうする?何の力もない地球人が」

「ふざけんなッ!」

 

 そう言ってその男性に殴りかかるも、素人当然の僕の攻撃など当たる訳がなかった。

 慣れた手つきで攻撃を回避する男性。カウンターを仕掛け、その攻撃が僕に届こうとした時だった。

 世界がスローモーションのようにゆっくりと動き出した。それなのに僕の体はいつも通りに動く。僕が捉えたのは、丁度男性のカウンターが僕に直撃する手前だった。咄嗟にそれをガード。カウンター返しの回し蹴りが男性に当たった。

 それには男性も驚きを隠せない様子だった。

 対する僕自身も驚いていた。この間のようなことがまた起こるとは思っていなかったからだ。

 

(何だ?まるで……自分の身体じゃないみたいだ)

 

「っ……!そうか、お前がヨミが言っていた奴か」

 

 ヨミ。彼のその一言で思い当たるのはあの青年だった。

 この間のマガグランドキングの時、僕を襲ったあの怪しげな青年。

 ガイさんから名前を聞いていた、僕らの──敵。

 

「やっぱりあいつも、あんたの仲間なのか」

「……話は終わりだ。お前のその光は、俺には眩し過ぎる……」

「僕の……光?」

「1つだけ教えてやるよ、俺はジャグラー……。ジャグラスジャグラーだ」

 

 そう言った男性──ジャグラーは一瞬姿を変えた。その姿はまるで甲冑を纏ったかのようで、瞳は蒼く光っていた。

 僕がそれに驚いて何も出来ないでいると、ジャグラーは黒い霧となって消えてしまった。

 

 

 

「何だよこれ……!」

 

 SSPの3人が目の当たりにしたのは、地面に出来た巨大なクレーターだった。その光景に息を飲んでいたが、ナオミが不意にオーブがどこに行ったのかと言う。彼らが周囲を見回すと、見慣れた青年の影を2つ見た。

 

「ガイさん!シンヤ君も!」

「皆さん!ガイさんが……!」

 

 シンヤの側には、うつ伏せで倒れたガイの姿があった。

 全員で駆け寄り呼びかけるが、反応が返って来ない。

 

「おい!かまいたち……いや、お前達もいたか!おい……ガイ君じゃねぇか!」

「渋川さん……!ガイさんの反応がないんです」

「何?」

 

 渋川はガイの左胸に耳を当てて、心臓が動いているのかを確認する。

 

「大丈夫だ。とにかく運ぶぞ!」

 

 そう言われたSSPのメンバー達は、寝たままのガイを持ち上げて運び始めた。

 その上空をヘリが飛んで行く。ヘリから見た地面のクレーターは、巨人が倒れたかのような形をしていたという……。

 

 

 

 SSPのオフィスまでガイさんを運び、横に寝かせる。

 看病を僕とナオミさんで行い、ジェッタさんは病院への電話、シンさんはガイさんの荷物から身元の分かるものを探していた。

 

「連絡先や、身元の分かるものは何1つありませんね~」

「すごい汗……!」

 

 眠っているガイさんの顔や首に、ものすごい量の汗が浮かんでいた。ナオミさんは、ガイさんのおでこに乗せたタオルを絞ろうとした。

 

「僕がタオルを絞りますから、ナオミさんはガイさんの汗を拭いてあげて下さい」

「う、うん。分かった……」

 

 僕がガイさんのおでこのタオルを手に取った瞬間。

 そのタオルはまるで熱湯で絞ったかのような熱さだった。

 

「暑っつ!!」

 

 思わず後ろにいたジェッタさん達に、そのタオルを投げてしまった。シンさんはタオルをキャッチしてしまい、その熱の洗練をまともに受ける。ジェッタさんは直接触った訳ではないけど、腕に少しかすっただけで驚いていた。

 ナオミさんが汗を拭き取ろうと、濡らしたタオルでガイさんに触れた瞬間。

 タオル越しに、その熱が伝わった。

 

「何?この熱……!」

 

 ナオミさん達がそれに驚いている時、僕には少し思い当たることがあった。

 

(そう言えば……。セブンさんも高熱にうなされたことがあったっけ……)

 

 それは「ウルトラセブン」の終盤、ウルトラセブンことモロボシ・ダンを90度近い高熱が襲った時のことだった。度重なる戦いで蓄積した疲労が原因だったけど、それでもセブンさんは最後まで戦い抜いたのだった。

 

(ガイさんも……オーブも、僕らを守るために戦ってくれてるんだよな……)

 

 未だに眠るガイさんを眺めて、僕はそう思った。

 ジェッタさんによると、どこの病院も熱中症の患者でいっぱいとのことだった。

 そのためガイさんを、しばらくここで休ませることになった。

 

 

 

──どこかの森の奥深く。

 メロディを奏でる自分と、笑顔でハミングをする少女がいる。

 俺達は、その平穏な日々が続くと思っていた。

 その日々を…俺が壊してしまった。俺自身の強大な力が原因で、俺はあの娘を──

 

 

 

「う、うぅ……」

 

 絞ったタオルを、僕がナオミさんに手渡した時だった。ガイさんが微かに声を出したのだ。

 

「何?どうしたの……?」

 

 ナオミさんが、ガイさんのおでこに置いたタオルを換えようと手を伸ばした瞬間。

 ガイさんの右手が、ナオミさんの手を掴んだ。

 

「いきなり何……って熱っ!」

 

 まだ熱が下がっていないのか、ナオミさんはガイさんの手をほどこうとする。でもそれは男女の力の差。ほどくことが出来ない。

 後ろのジェッタさん達が、冷やかすようにそれを眺める。別にそんなんじゃないとナオミさんが弁解するけど、2人は止める気配がない。

 その騒がしさが聞こえたのか、ガイさんは目を覚ました。

 

「あっ……。良かった、気が付いて」

「ここは……?」

「僕達のオフィスです。大丈夫ですか、ガイさん?」

「シンヤもいたのか……。そうか、俺はアイツと戦って……」

 

 情けなさそうに顔を覆ったガイさんは、無理矢理起き上がろうとする。それを僕らが抑える。

 

「じっとしてなきゃダメですよ、熱もあるんですから……」

「俺に構うな……!」

 

 起き上がろうとしたガイさんだったけど、まだそこまでの気力はなかったようで、また仰向けに寝転がった。

 

「何よ、助けてもらってその言い方……。ってもしもし、もしもーし!」

 

 気付くとガイさんはまた眠っていた。でも今度は、寝息も安定していた。

 そのガイさんの態度に、ナオミさんは呆れた。




後編に続きますよ~。


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第4話 真夏の空に火の用心 ー後編ー

後編ですよ~

※誤字修正しました。ご指摘ありがとうございました。


 その夜。

 ガイさんへの看病は続き、ナオミさんはうちわでガイさんに風を送っていた。

 すると、オフィスの扉が開く。うちのオフィスに、しかもこんな時間に来る人と言えばこの人しかいない。

 

「ひゃあ~、あっついなぁオイ!」

「渋川さん……」

「……おい、彼の様子はどうだ?」

 

 渋川さんは、どうやらガイさんの様子を見に来た様子だった。

 渋川さんの問いかけに、ナオミさんは首を横に振ることで答える。

 

「そうか……。お前達のところで、あの火の玉について何か分かったことないか?」

 

 渋川さんはジェッタさんにそう尋ねる。ジェッタさんも首を横に振って答える。

 渋川さん達ビートル隊でも調べているらしいけど、正体が分からない上に冷却弾も全く通用しなかったそうだ。

 かといってあのままにしておく訳にもいかない。

 それは僕らだって同じだった。

 

「俺は……奴の正体は、怪獣じゃねぇかって思ってるんだよ。だからお前達なら、何か情報を掴んでるんじゃないかと思ってな。例のやつを使ってさ……」

「『大平風土記』ですか?さすがに、そう都合良く何でも載ってる訳……」

「ありました……」

 

 僕が渋川さんにそうツッコミを入れようとした時、渋川さんに叩き起こされたシンさんがタブレットを持ってやって来ていた。

 その場にいた全員の視線が、シンさんのタブレットに集まる。シンさんは寝惚けながらも、僕らにそのページを読み始めた。

 

「『空に2つの日輪昇りし時、地上の物皆焼き尽くされん。偽りの日輪。此れ災いの焔、禍破呑の……』」

 

(マガパンドン!?じゃあ、あの火の玉の正体は……!)

 

「やっぱり怪獣の仕業じゃん!」

 

 シンさんによると、火の玉の熱が加わったことで気温が一気に上昇したとのこと。あのまま放っておけば、至るところで高温火災が発生していた可能性もあったそうだ。

 

「そして、辺り一面は火の海になる……」

「大惨事の一歩手前だったってことですか……」

 

 僕は渋川さんと向き合ってそう話していた。

 すると、シンさんのデスクからアラーム音が聞こえた。

 

「皆さん大変です!これ見て下さい!」

「火の玉の高度が下がってる!」

 

 シンさん達は、日中火の玉の観測をしていた。だからこそその情報がリアルタイムで更新されて、今に至るのだ。

 それを知った渋川さんは、本部に至急ありったけのミサイルを撃ち込むように要請する。

 それを受けたビートル隊本部は、火の玉にミサイルを撃つ。だが健闘虚しく、そのどれもが到達する一歩前で、火の玉から発せられる熱のせいで爆発してしまう。

 

 

 

 しばらくして夜が明けて、日の出と共にガイは目覚めた。

 今の状況を確認するためにゆっくり起き上がり、周囲を見回す。

 

「気が付きましたか?ガイさん」

「シンヤか……。俺に構うなって言ったろ…」

「またそうやって……。前にも言ったじゃないですか、あなたは1人じゃないって」

「あのな……。そう言えば、あの火の玉はどうなった!?」

 

 呆れながらそう言うガイだったが、その正体が恐らく怪獣だと認定された、あの火の玉のことを尋ねた。

 すると、シンがパソコンの画面を見ながら大声で叫んだ。

 

「下降が止まりました!」

 

 火の玉が停止したのは都心の上空。すると火の玉──マガパンドンは、無数の火炎弾「マガ火球(ひだま)火炎弾」をばらまくように撃ち、建物を破壊する。

 SSPのオフィス周辺の建物にも火炎弾が直撃し、爆発した。

 高温に加えて、上空からの火炎。町が灼熱地獄になろうとした時、ナオミ達は支度を始めた。

 それと同時にガイも立ち上がるが、また座り込んでしまう。

 

「ガイさん、もう起きて大丈夫なの?ホントにホントに大丈夫なのね?」

 

 ぶっきらぼうにガイは答えるが、その視線は外に向いたままだった。

 そんなガイめがけて、ナオミが急に銀色の何かを投げる。それが何なのか分からないガイは、ナオミに問いかける。

 

「防火スーツ。シン君が前に作ってたの。それ着て、地下室に避難してて!あそこなら、備蓄用の食料と水もあるし。地下だから少しは安全なはずよ!」

「お前達は?」

「この世紀の大スクープを収めに行くんだよ!」

「なら僕も行きます!僕だって、SSPの一員です!」

 

 身支度の途中のナオミ達へ、シンヤは強く発言する。

 するとナオミは優しげな表情を浮かべて、シンヤに語りかける。

 

「シンヤ君は、ガイさんと一緒にいてあげて?ここの留守を任せたいの」

「ナオミさん……」

「大丈夫!きっと帰って来るから」

「待て!今行くのは危険だ!」

 

 ガイがSSPの3人を止めようとした時だった。

 急な停電が発生して、エアコンから白い煙が上がる。ジェッタとシンがそれにむせ返っている最中に、ナオミはガイに笑顔で答える。

 

「心配しないで!あんな炎ぐらい、私達の情熱で吹っ飛ばしてやるわよ!」

 

 その発言に、シンヤは思わずツッコミを入れたくなった。だが、ガイの表情を見てそれを止めた。

 

「吹っ飛ばす……?そうか……!」

 

 ナオミの台詞で何か閃いた様子だったが、シンヤもそこだけではガイの考えを理解するのは難しかった。

 

「Something Search People、出動~!」

「「了解!」」

 

 やがて、全身銀色のスーツに身を包んだSSPの3人が、愛車のSSP-7を駆り現場へと向かって行った。

 それを見ていたガイは面倒くさそうに言う。

 

「……ったく、見てらんねぇな!」

「ガイさん……」

「安心しな、俺も絶対帰って来る」

「……無事に帰って来てくれたら、アイスごちそうします!」

「フッ……。じゃあ、行って来る!」

 

 オーブリングを構えたガイを、光が包み込む──!

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

「熱いやつ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

 昇る太陽を背に受けた紅い巨人が、町に降り立った!

 

『待ってろ魔王獣……。今度の俺は、ちょっと違うぜ!!』

 

 町に降り立った紅い巨人──ウルトラマンオーブ バーンマイトは、空中回転を何度も繰り返し、着地する。その着地地点で、先日敗北した火の玉と対面する。

 火の玉──マガパンドンは、空中からマガ火玉火炎弾で威嚇攻撃を繰り出すが、オーブは怯むことなく立ち向かう!

 

『お前の炎を吹き飛ばしてやる!!ストビューム……バーストォッ!!』

 

 オーブは、体に刻まれたファイアーシンボルに炎のエネルギーを集中させる。そして七色の光と共に、渦巻く火炎弾を撃ち込む!

 オーブが放ったストビュームバースト。それは、ウルトラマンメビウス バーニングブレイブが使用するメビュームバーストと同系統の技だ。オーブはそれに、ウルトラマンタロウの力を上乗せして放ったのだ。

 超高温の火の玉を張り巡らしたマガパンドンに直撃した火炎弾は、特大の爆風を放つ。

 するとどうだろう。マガパンドンの周囲の火の玉が、文字通り吹き飛ばされていた!

 

「ほう……。爆風消火の要領か」

 

 この戦いを観戦していたのはSSP達だけではなく、ジャグラーも例外ではなかった。

 

 爆風消火。それは、爆弾を破裂させてその爆風で火を消したり、周囲の物体を吹き飛ばして消火帯を作ることで、延焼を防ぐ消火法である。森林火災や油田火災など、大規模な火災を鎮火するのに用いられることがある。

 オーブはそれを応用することで、強烈な爆風を起こし相手の炎を吹き飛ばしたのだ!

 

 これまで火の玉で身を包んでいたマガパンドンが、ついにその真の姿を現す。

 真っ赤な体色、身体から生える無数の刺。鳥の頭のような顔が2つあり、身体の所々に亀裂が走っていた。

 オーブはマガパンドンと戦闘を開始する!

 両者互角の戦いが展開する中、マガパンドンに動きがあった。

 オーブに頭部を押さえ付けられていた時、マガパンドンは左右の口から火炎弾「マガ火球」を至近距離から放とうとする。

 それを察知したオーブは、マガパンドンの左右の口をそれぞれ両方の拳で塞ぐことで、マガ火球を封じることに成功した!

 それからはオーブが怒涛のラッシュ!マガパンドンの顔面に膝蹴り、がら空きのボディにボディーブローを連発。右足を掴み持ち上げ、何度も回して投げる!

 

 再び構えたオーブは、すかさず姿を変える!

 

『これでトドメだ!!』

【ウルトラマンオーブ!スペシウムゼペリオン!】

 

『スペリオン光線!』

 

 必殺のスペリオン光線を、マガパンドンに向けて撃ち込む!

 だが、マガパンドンもそれだけでは終わらない。スペリオン光線をまともに喰らいながらも高い防御力で耐え続け、怯むことなくオーブに向かってずんずん進んで行く……!

 オーブも負けるものかと長時間光線を撃ち続ける。

 そしてマガパンドンがオーブに肉薄した時、ついに耐え切れなくなったマガパンドンが背中から倒れ、爆発した!

 

 SSPの面々が手を振るのを見たオーブは、空の彼方へ飛んで行った。

 

 

 

 マガパンドンの身体に埋め込まれていたマガクリスタルが、大地に突き刺さっていた。その前に立ち、オーブリングをかざすガイ。クリスタルが砕け、光の粒子となってオーブリングに吸い込まれた。そこから新たなウルトラ戦士のカードが生成される。

 その戦士は、光の国の若き最強戦士だった。

 

「おぉ!マガパンドンを封印していたのは、ウルトラマンゼロさんでしたか!お疲れさんです!」

 

 

 

 オーブの戦いを眺めていたジャグラーは、左手に持つダークリングから、敗北したマガパンドンのカードを回収した。

 そして、これまで回収した魔王獣のカードを全て取り出す。その中には「邪神 ガタノゾーア」に酷似した魔王獣「闇ノ魔王獣 マガタノゾーア」や、「光ノ魔王獣 マガゼットン」のカードがあった。

 

「闇と光……。そして風、土、水……火。これで全ての魔王獣は揃った……。残るは……、『黒き王』の力のみ……!」

「『黒き王』の力……。新たなゲームの始まりですね」

 

 ジャグラーの後ろから、まるで初めからそこにいたかのように突然ヨミが現れ、邪な笑みを浮かべる。

 ジャグラーも、それに答えるように笑った。

 

 

 

「ただいま~」

「皆さん、おかえりなさい!」

「ただいま~。ちょっとガイさん、シンヤ君!すごいのが撮れたんだよ~!」

 

 ナオミさん達が帰って来た。ガイさんは、カップアイスを腰掛けながら食べている。

 するとジェッタさんが僕らに駆け寄り、ビデオカメラで録画した映像を見せる。そこには、オーブが怪獣を倒した映像が収められていた。

 僕としては、現場でこの戦いを見たかったと思っている。でもオフィスを空っぽにして出る訳にも行かなかったのだ。

 

「へぇ~良く撮れてますね!さすがジェッタさんです!」

 

 僕がそう言うと、ジェッタさんは照れ臭そうに笑った。

 

「もうすっかり元気になったみたいね!」

「皆さん、アイス食べませんか?実は結構前に買って来てたんですよ~!冷凍庫の中に……」

 

 ナオミさんがガイさんにそう言い、僕はみんなにアイスをごちそうしようとした。

 でも、ガイさんが今食べているアイスを見て、嫌な予感がした。

 

「ガイさんそれ……!僕が買って来たアイスじゃ……!」

 

 その声と同時に、ナオミさん達も冷凍庫の中身を確認する。

 だが中身は空っぽで、アイスらしきものは何一つなかった。

 

「あたしのアイスがない!」

「僕の分もありません!」

「俺のもない……!」

「ちょっと……!これどういうこと……」

 

 ナオミさんがガイさんに詰め寄ろうとした時だった。

 そこには既にガイさんの姿はなく、置き手紙とわずかなお金が置かれているだけだった……。

 

「もぉー!また逃げられたぁ!」

「これじゃ足りませんよぉー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」

 

ガイ「アイス、ごちそうさんな!」

シンヤ「……(ムスッ」

ガイ「悪かったよ、あんなに食っちまってさ……」

シンヤ「アイスごちそうするとは言いましたけど、だからって全部食べることないじゃないですか……それに、お金足りなかったし……」

ガイ(『食べ物の恨みは恐ろしい』って、こういう時に使うのかな……)

シンヤ「……今回紹介するのは、これです」

ガイ(シンヤのテンションが、いつものテンションより、あっさりしてる!)

 

【ウルトラマンオーブ!バーンマイト!】

 

ガイ「今回は、この姿が使う技の紹介だぜ!

 まずは『スワローキック』。タロウさんの得意技を受け継いだんだ!

 次は『ストビュームカウンター』。燃える炎を拳に宿して、豪快なブローを放つぜ!

 最後に『ストビュームフット』。すれ違いざまに炎を纏ったスライディングキックを喰らわせるんだ!

 どれもマガジャッパ戦で使って、大ダメージを与えたんだ!」

シンヤ「紹介お1人でお疲れ様でした。僕、アイスが食べたいです。ガイさんのおごりで」

ガイ「……あ~もう分かったよ!それでチャラだな!?」

シンヤ(無言でサムズアップ)

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 卑劣な宇宙人の策略で、ナオミが捕まってしまった!

 まったく、じゃじゃ馬は危険も考えずに飛び込んじまうから、困ったもんだぜ!

 こうなったら、俺も新たなカードを切らなきゃな!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『逃げない心』。

 光を越えて、闇を斬る!!




…いかがだったでしょうか。
次回はキレの良いやつです。
作者のキレのない文章で書けるかどうか分かりませんけど、頑張ります。

そろそろスピンオフ作品『ウルトラマンオーブ THE ORIGIN SAGA』の配信が始まりますね。
作者も楽しみです。

今回の隠れサブタイは、『ウルトラマンガイア』第28話『熱波襲来』です。

皆さん、良いクリスマスをお過ごし下さい。
ではノシ


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第5話 逃げない心 ー前編ー

大晦日に失礼します。
今年もあっという間でしたね~……。
皆さんはやり残したことはありませんか?

今回は、本編のストーリーに多少手を加えてみました。ゼロとジャックに縁のある「あのお方」が登場しますよ~

お気に入り登録して下さった方々、
どうもありがとうございます。
それでは、どうぞ。


 ある日の明け方。僕は走り込みをしていた。

 始めようと思ったのには理由がある。別にダイエットとか、健康のためとかではないのだけど。

 先日までの出来事で、僕の身体に変化が起こっていたのは明白だった。どうしてそうなってしまったのかはさっぱりだけど、またそんなことが起こった時、身体が動きについて来れなくなるかも知れない。

 そんな時に備えて、身体作りをしておこうと思ったのだ。

 

「ふっふっ、ふっふっ……。ふぅ~……」

 

 とある公園に到着した僕は、呼吸を整えようとして足を止める。日頃運動をほとんどしなかった僕にとっては、ほんの数時間走っただけでもかなり息切れをしてしまう。

 

(『男はいつも1人で戦うんだ。自分自身と戦うんだ』……か)

 

 そんな時僕が思い出したのは、『ウルトラマンメビウス』第34話に登場した「ある男性」の台詞だった。宇宙人に負けた主人公の特訓を、その男性が遠くで見守っている時の台詞だ。

 その人は、最初は厳格な態度を取っていたけどその回のラストでは、昔と変わらない優しい笑顔を見せてくれたっけ。

 

「……よし、そろそろ再開しなきゃ」

 

 その台詞を思い出した僕はその人に背中を押された気がして、まだ頑張れそうだと思った。

 そしてまた走り出そうとした時だった。後ろから聞き慣れた声が聞こえた。

 

「お、シンヤじゃないか。何やってんだ?」

「ガイさん!おはようございます。えっと……走り込みを」

「へぇ、頑張ってるみたいだな」

「えへへ……。ところでガイさんは、どうしてここに?」

「あぁ、そうだった。さっきこれ拾ったんだけどさ……」

 

 ガイさんが持っていたのは、腕が取れかかった人形だった。それもどうやら手作りのようだ。

 誰かが昨日にでも落としたのだろうか。そうだとしてもこれを直して、持ち主の元に返さなきゃいけない。

 

「じゃあ、今からうちのオフィス来ませんか?確か裁縫道具ありましたし」

「なら決まりだな」

 

 

 

 SSPのオフィスにて。早見ジェッタが目にしたのは、同僚の松戸シンが謎の装置を組み立てている光景だった。

 

「何?今度は何ひらめいちゃった訳?」

「3時間待ってくれたらジェッタ君にも分かりますが、これは未来予測システムです!時間は直線じゃなく螺旋で進むんですよ~……」

「未来は予測するもんじゃないでしょ、自分で作るもんだよシンさん!」

 

 それぞれが未来に対する持論を展開する中、オフィスに上がって来る足音が2つ聞こえた。

 

「来たのは誰だ……?」

「ただいま戻りました~」

「シンヤ君おはよー。あ、ガイさんも一緒だったんだ」

「はい。あの、裁縫道具ありませんか?ガイさんがこれ拾ったんです」

「ちょっと貸してもらっていいすか?あー、ここの腕のとこっすよね?」

 

 僕がガイさんの持っている人形を示すと、ジェッタさんがガイさんからその人形を受け取る。

 人形を見ただけで、ジェッタさんはそれが手作りだと見抜き、自分もよく妹にこういうのを作っていたと話す。そして自分のデスクから裁縫道具を取り出し、慣れた手つきで修理を始めた。

 

「そう言えば、ナオミさんはまだ帰って来てないんですか?」

 

 僕がそう言うと、シンさんがさっき着信があった気がすると言った。僕も自分のスマホを確認すると、ナオミさんからの着信が来ていた。

 ジェッタさんも自分のスマホを確認していて、録音されたメッセージを再生した。

 

『起きて、ジェッタ君!SSPに情報提供が来たんだよ!宇宙人と怪獣が隠れてるんだって!あたしの位置情報を確認して……』

「ちょっとシンさん、シンヤ君!」

 

 それを聞いたジェッタさんは、嬉しそうな表情で僕らを手招く。そして、次のメッセージを再生する。

 

『助け……』

 

 さっきの嬉しそうな声とは一変して、聞こえたのは何かに怯えるナオミさんの声、金属音、ナオミさんのものではない高らかな笑い声。そして、

 

──ゼットン……。

 

「…………!」

 

 最後に聞こえたのは、聞き間違えようのないあの怪獣の鳴き声だった。

 僕の周りで慌てるジェッタさん達に目もくれずに、僕はすぐにでもナオミさんの元に走り出そうとした。

 でも、次に聞こえたメッセージが僕の足を止めた。

 

『えっと、クレナイ・ガイって名乗ってる人に伝言です。この女を、助けに来てね』

 

 最後にかけて若干脅迫のような声を聞いたガイさんは立ち上がり、ジェッタさん達に問いかける。

 

「彼女はどこだ?」

 

 

 

 

 

 とある地下施設にて。

 宇宙人に捕まったナオミは鎖で張り付けにされて、身動きが取れずにいた。

 

(どうして……!どうしてこんなことになっちゃったの……!?)

 

 ナオミは数時間前のことを思い出していた。

 

 

 

 アルバイトが終わって、身支度を整えていた時。

 突然自分のスマホに電話が入った。知らない番号で戸惑いもしたが、出ることにした。

 

「はい、もしもし……」

『私今、宇宙人を追いかけてます!』

「え!宇宙人!?」

 

 電話の相手はどうやら少女のようだった。

 少女が言うには、自分は今宇宙人の後ろを追いかけていて、1人では不安だからすぐに来て欲しいとのこと。

 いわゆる、情報提供だった。

 場所を聞いたナオミはジェッタとシン、シンヤに同様の連絡を入れるが、誰も出なかったためジェッタにだけメッセージを送った。

 その場所に辿り着いたナオミは連絡をくれた少女「真渡子(まどこ)」と合流して、彼女の案内で宇宙人の潜伏している建物へと侵入した。真渡子はどんどん進んで行き、最後には地下まで案内された。

 ナオミは真渡子の先頭に立ち、薄暗い通路を進んで行くと奥の方で蠢く謎の人型を見つけた。

 すると突然真渡子がナオミの口を塞ぎ、近くの壁へと追いやる。

 驚いたナオミだったが、彼女の声がだんだん違うものになっていくことに気付く。

 

「おっと……。警戒心無さ過ぎ。だから簡単に罠に掛かっちゃう……!諦メテ大人シク餌ニナレ!」

 

 最後は全く違う声になっていた。怯えるナオミは抵抗しようと暴れる。すると施設の何らかの装置が作動し、漏れ出た白煙が少女を襲う。

 真渡子はナオミから離れると、バレエのようにくるくる回って本来の姿へと変わる。

 それに驚いたナオミは逃げようとするが、後ろの鉄柱に激突し、気を失ってしまった。

 

 それがナオミの、最後の記憶だった。

 

 

 

 そして現在、ナオミは自分を拘束する宇宙人──「ゼットン星人マドック」に反抗しようとした。だが身動きが取れない今の状態では、何の意味もない。

 

「やめて……!」

「餌は生きが良いほど獲物の食い付きが良くなる……。暴れろ!」

 

 マドックはナオミにけしかけるが、それは逆効果だったようで、ナオミはただ目の前の宇宙人を睨み付けていた。

 

「あぁ?どうした、暴れろ!……何だよ」

 

 ナオミの態度に呆れた彼は、これまで着用していたセーラー服を脱ぎ始め、身近にあったケースから黒い作業着を取り出し、袖を通した。それを間近で見たナオミは、明らかに不快な表情を見せる。

 それに気付いたマドックは、ナオミに近付き更に脅しをかける。

 

「あぁ?どうした?もっと叫べ!思いっきり悲鳴を上げろ!」

「こんな地下室で叫んでも、悲鳴なんて誰にも聞こえない……!」

「ハッ、他の人間には聞こえなくてもヤツには聞こえるさ」

「……ヤツって誰のこと?」

「すぐに分かる……」

 

 ゼットン星人は、ナオミの履いていた片方の靴を暗がりに向かって投げた。靴はしばらく転がったが、次の瞬間巨大な鎌のようなものが現れ、靴を潰して引き摺り床を削った。

 ナオミがその方を見ると、黄色い発光体がいくつも浮かび上がっていた……!

 

『ゼットン……!』

 

 それを見たナオミは耐え切れなくなって、ついに絶叫を上げる。

 その発光体──ハイパーゼットンデスサイスは、ナオミの叫びに反応するように、頭部の発光体を怪しく点滅させる。

 ゼットン星人がナオミの絶叫を聞きながら高笑いをしていた時。

 どこからかハーモニカのメロディが聞こえた。

 

『♪~』

 

「言ったろ?狙い通り、餌に食い付きやがった!」

「罠よ!ここに宇宙人がいるの!だから来ちゃダメ!」

 

 そのメロディを聞いたゼットン星人は上手くいったと言わんばかりに、笑い出す。

 ナオミはどこかにいるあの風来坊に向けて叫ぶ。

 

「ひねくれ者でね……。来るなと言われたら、逆らいたくなる」

 

 非常口に立っていたガイは、ついにゼットン星人と対峙する。するとゼットン星人はどこからか取り出したビーム砲をガイに放つ。それをかわしたガイは、落ちていた歯車をゼットン星人に投擲する。頭部に直撃した歯車は、その勢いのままゼットン星人を吹き飛ばす。

 その隙にガイは、ナオミを拘束する鎖を解く。

 

「危険を考えずに飛び込むからこうなる!」

 

 そう言いつつもナオミを救出することに成功したガイ。だが、ハイパーゼットンデスサイスの鎌がガイ達を襲った!その一撃は直撃はしなかったものの、近くにあった汚水菅を切り裂き、中身を溢れさせる。

 

「ガイさん……!」

「大丈夫だ、掠っただけだ。行くぞ!」

 

 ナオミにスマホを手渡し、脱出しようとするガイ。

 だがナオミは、ゼットンを撮影しようとカメラを向ける。

 するとゼットンは、胸の発光体に熱エネルギーを集中させ、「暗黒火球」をナオミに放つ!

 咄嗟にガイがナオミを突き飛ばしたことで、ナオミは回避出来たが、代わりにガイが喰らってしまった!

 

「あぁ……!ごめんなさい、ごめんなさい!」

 

 何度も床に転がり、肩を押さえながら立ち上がるガイにナオミは誤りながら駆け寄る。

 そんな時でも、ゼットンは鳴き声を止めようとはせず、それはまるで恐怖を駆り立てるようだった。

 ガイとナオミは、ドラム缶の後ろに移動して姿を隠す。

 マドックは余裕を見せ、ドラム缶の向こうのガイに語りかける。

 

「クレナイ・ガイ……。お前のことは全て、調査済みだ。どうしても助けに来たくなる大事な女がいる、ということもなぁ……!」

 

 ナオミが「大事な女」という言葉をおうむ返しで呟くと、ガイは体勢を変えながらナオミに言う。

 

「いいか?あいつが何を勘違いしてやがるかは知らないが、あんたは逃げろ。俺は残る」

「ガイさんも逃げよう?風来坊なんだもん、逃げるのは得意なはずだもん!」

「俺はただ……、他人と関わるのが面倒なだけだ」

「なら……どうして助けに来てくれたの?」

「余計なお世話なら帰るぞ……?」

 

 マドックの指示で、ゼットンはまた暗黒火球を放つ。火球がこちらに飛んで来るのをを見たナオミは、ガイを掴んで即座に移動する。

 

「危ないっ!」

 

 2人を追い詰めたマドックは、まるで楽しむようにもう一発放つと予告する。

 ナオミはその場にあった消火器を構えて、今までのお返しと言わんばかりにゼットン星人に突っ込んで行って、顔に目掛けて噴射する。

 

「この~っ!」

 

 不意を突かれたマドックに、それの効果は絶大だった。

……むしろ、ゼットン星人の眼球は顔の真ん中にあるため、眼球へのダメージの方が大きいのかも知れない。

 

「何やってんだ!行くぞ!」

 

 ガイに手を引かれて、ナオミはそこを後にする。

 だが2人を逃がすまいと、ハイパーゼットンは巨大化する……!

 

 

 

 建物のシャッターのわずかな隙間から脱出した2人だったが、地下から巨大化したハイパーゼットンデスサイスが天井を突き破り現れる。

 

『ゼットン……!』

 

 2人を追うのはハイパーゼットンだけではなく、マドックも2人を追跡する。

 

「待てコラァ!」

 

 ナオミは地下から持ったままの消火器を再び構えてマドックと対峙する。

 

「あたしは逃げないっ!」

 

 するとマドックの頭上からコンクリート片が落下、それに驚いたマドックは転びかける。

 

「いいから逃げろ!無茶と勇気を間違えるなッ!」

 

 ガイの言葉に反抗しようとするナオミだったが、ハイパーゼットンの姿を見て了承し、去って行った。

 

「死んじまったら……。どんな秘密も解き明かせないぜ……!」

 

 ナオミが去った後ガイはそう呟き、オーブリングを構える……!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 町に現れたオーブは名乗りも上げず開幕早々、ハイパーゼットンデスサイスにスペリオン光輪を投げる。

 だがハイパーゼットンデスサイスは、スペリオン光輪の中央の空白部分に鎌を差し込み受け止めて見せた。

 

「ハッハッハ!お前の力は調査済みだ!お前に、ハイパーゼットンデスサイスは倒せない!」

 

 ハイパーゼットンデスサイスに対して絶対の信頼を寄せていたのか、ゼットン星人マドックはご満悦の様子を見せる。

 だが、オーブは一切たじろぐ様子もなく、マドックに言い放つ。

 

『なら、アンタの知らない俺を見せてやるよ!』

 

 上空に跳んだオーブは後方宙返りを繰り出し、その姿を変える!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

 

 ガイの側に、先程リードしたカードに描かれていたウルトラマンジャックと、ウルトラマンゼロのビジョンが並び立つ。

 ガイは一度右腕を高く掲げて、オーブリングを目の高さくらいの位置に構えた後、勢い良くそれを突き上げた!

 

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

 青い姿に変わったオーブは、ビルの屋上に乗る。だが驚くことに、ビルが崩れることはない。

 太陽の光を背に受け立ち上がった「ウルトラマンオーブ ハリケーンスラッシュ」は、ハイパーゼットンデスサイスとマドックに向けて名乗りを上げた!

 

『光を越えて、闇を斬る!』




後編に続きます。


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第5話 逃げない心 ー後編ー

後編ですよ~
今回、主人公が…。

それでは、どうぞ


 僕が現場に到着した時には、オーブの戦いは始まっていた。

 オーブの相手は、ハイパーゼットン。

 元々ハイパーゼットンは、かつて初代ウルトラマンを打ち破ったことのある「宇宙恐竜 ゼットン」の別個体を素に「バット星人」が生み出した怪獣だ。

 不完全体の繭「コクーン」とコクーンから孵化した「ギガント」、成体になった「イマーゴ」の3つの形態がある。

 でもあのハイパーゼットンはイマーゴに近いけど、両腕にギガントの「ギガンティスクロー」のような鎌を備えている。

 

 対するオーブも新たな姿に変わっていた。

 胸部や肩には銀色のプロテクター、頭部の2つのスラッガー。全体的な色使いからウルトラマンゼロさんの力を使ったのだろうか。でも、よく見てみると胸と腰、二の腕はウルトラマンジャックさんの模様だった。

 

「あれが、ゼロさんとジャックさんの力を借りた姿なのか!」

 

『光を越えて、闇を斬る!』

 

 名乗りを上げたオーブはビルの屋上から飛び降り、ハイパーゼットンに攻撃。それに反撃するようにハイパーゼットンは腕を振るう。だがオーブの素早い身のこなしで回避され、連続蹴りを喰らう。その一撃一撃には、青い旋風のような波動が起こる。

 受け身を取りつつも善戦するオーブ。ハイパーゼットンの腕を掴んで背負い投げを繰り出すが、地面に直撃する寸前でハイパーゼットンの姿が消えた。

 

「テレポートまで使えるのか……!」

 

 ハイパーゼットンテレポート。最初のゼットンから受け継がれた瞬間移動能力だ。

 消えたハイパーゼットンを探すオーブだったが、突如横から現れたハイパーゼットンの両足蹴りを喰らう。だが逆に両足を掴んでハイパーゼットンを振り回す。それはまるでウルトラマンジャックの「ウルトラハリケーン」のようだった。

 その勢いで投げ飛ばすが、再びハイパーゼットンはテレポート。オーブの背後を取る。それに気付いたオーブは、頭部のスラッガーにエネルギーを溜めて光の刃を飛ばす。「オーブスラッガーショット」だ!

 それすらテレポートでかわしたハイパーゼットンはまたオーブの背後に回り、暗黒火球を数発至近距離からぶつける。

 オーブはスラッガーショットで飛ばした刃を頭部に戻し、ハイパーゼットンがどこから現れるか周囲を警戒する。

 そしてハイパーゼットンの鳴き声が聞こえた瞬間、額のランプが光ると赤と青の閃光が走り、オーブが消えた。

 

「オーブが消えた……!まさか!」

 

 僕がそう言うと、空中に突如オーブとハイパーゼットンが取っ組み合いをしながら現れる。

 オーブもハイパーゼットンに対処するべく瞬間移動を使ったのだ。すぐさま消えた2体はまた町に降り立つ。

 ハイパーゼットンを鳴き声を上げると、胸部に熱エネルギーを溜め始め、暗黒火球を放つ!

 対するオーブは頭部のスラッガーから再び光の刃を作り出すと、目の前で円を描くように刃を回転させて火球を防ぐ。

 だが、オーブはそれだけでは終わらない!

 

『オーブスラッガーランス!!』

 

 その円の中心から三又の槍を召喚し、低く構える。

 ハイパーゼットンはありったけのエネルギーを暗黒火球として撃つ!

 オーブは、オーブスラッガーランスを構え直し、ランスのレバーを1回引き先端をハイパーゼットンに向ける。

 

『オーブランサーシュートッ!』

 

 槍の先端からは強力な光線が放たれ、暗黒火球を相殺する。その爆炎を目眩ましにして、オーブは間合いを詰めて胸部の発光体を貫き破壊する!

 今度はランスのレバーを2回引き、敵の体内に高エネルギーを放つその技は──!

 

『ビッグバンスラストッ!!』

 

 その技は、オーブスラッガーランスを相手に突き刺し高エネルギーを体内に放ち内側から爆発させて倒すもので、それを喰らったハイパーゼットンは爆発した!

 その爆風は凄まじいもので、僕は思わず尻餅を突いてしまった。

 オーブはオーブスラッガーランスを光の刃に戻し、また頭部に収納する。そして空を見上げて飛び立って行った。

 

 

 

「おのれ、ウルトラマンオーブめ……!あんな隠し玉を持っていたとは……!」

「お前は……ケムール人!?」

 

 オーブが飛び立って行ったのを見た僕は、後ろから突然宇宙人が現れたことに驚き、その外見から何者かを察して名を呼ぶ。

 しかしそれは外れていて、宇宙人はわなわなと震え始め、ついに怒りを爆発させる。

 

「俺は……!俺はケムール人じゃねえ!ゼットン星人マドック様だぁ!」

 

(やっぱり、似てるって自覚はあるんだ……)

 

 その様子を見て、僕はそう思わずにはいられなかった。

 実際、ゼットン星人とケムール人の見た目の違いとは頭の向きと、単眼かそうではないか。もっと細かく見比べれば手や爪の長さぐらいしかないのだ。

 それに驚いた拍子に答えてしまったのだ。間違えてしまっても仕方ないだろう。

 

「こうなりゃ自棄だ!テメェを始末してやるっ!」

「ッ!!」

 

 するとケムール人……もといゼットン星人は、右手に持っていたビーム砲を八つ当たり気味に、僕に向かって撃ってきた!

 直撃しそうになったその瞬間、1枚のカードが僕の目の前に飛び出す。そのカードから解き放たれるエメラルド色の光が、僕を包み込む。

 

 僕が目を開いた時、そこには僧侶の格好をした男性がいた。その顔は歴戦をくぐり抜けた戦士の顔をしていた。

 

「おおとり……ゲンさん!どうして……?」

『ちょっとした気まぐれだ。大切な人をこれ以上失う悲しみを、彼に──オーブに味合わせたくはない』

「……」

 

 僕がその言葉を聞いて思ったのは、ゲンさん─レオの過去だった。故郷を追われ、円盤生物との戦いでMACの仲間達や恋人を失ったゲンさんだからこそ、その言葉はとても重く、響くものがあった。

 

『それにゼロも戦ったんだ。ならば師である俺も、黙って見ている訳にはいかんだろ?』

 

 そう言うとゲンさんは照れ臭そうに笑う。その笑顔はとても優しい笑顔だった。

 するとゲンさんの隣に、ウルトラマンレオの幻影が現れた。次第に2人は1つになっていき、僕の目の前にはウルトラマンレオが立っていた。

 

『僅かだが俺も力を貸そう。だが、これだけは忘れるな。お前達の戦いは、必ず勝たねばならない戦いなのだと』

「……!はい!」

 

 力強い返事をした後、ウルトラマンレオは光の粒子となって僕と融合する──!

 

「ハハッ、俺の名前を間違えたからだ!」

 

 マドックは、オーブに敗北した腹いせを解消出来たと上機嫌に笑う。

 だが、目の前に始末したはずの地球人が現れたことでその笑いは途絶えた。

 ゼットン星人の眼前に立つ僕の左薬指には、金色の獅子の指輪が嵌められていた。

 それを見て全てを理解した僕は一度左腕を水平に伸ばし、次に両腕を身体の正面で交差、最後に右腕を力強く突き出す!

 

「ヤァッ!!」

「その構え……!まさか、宇宙拳法か!」

 

 ゼットン星人は再び武器を構えて、僕に向けて放とうとする。でもその一瞬を見逃さなかった僕は跳躍してゼットン星人のビーム砲の銃身にボレーキック、それを蹴り飛ばす。そしてすかさず敵の懐に入り込む。

 

「武器に頼れば隙が生じる……。最後に頼るべきは、自分自身だッ!」

「ぐぉぉぉっ!!?」

 

 がら空きになった胴に渾身のフック、それを喰らったゼットン星人に後ろ回し蹴り、更に正拳突きを放つ。

 だがゼットン星人も負けじと両手を重ねてガード。

 それでもシンヤの追撃は止まない。ゼットン星人の伸ばした両腕を、下から掬い上げるように左アッパーで持ち上げ、また胴体に正面蹴りを撃ち込む!

 連続攻撃を喰らってフラフラなゼットン星人に、空手の要領で何度も拳を撃ち込み距離を取る。

 シンヤはまた最初の一連の動作をして高く跳び、全力で吠える──!

 

「エイヤァァァァッ!!」

 

 レオさんの必殺技「レオキック」を模倣した飛び蹴りが、ゼットン星人に炸裂する。その威力は模倣したものだとしても、ゼットン星人を吹き飛ばすには十分だった。

 そして着地をした拍子に、薬指から指輪が消えた。

 何の偶然か、僕が戦っていた時間は2分40秒程だった。

 

(レオさん……、ありがとうございました!)

 

 今までの戦いの反動からなのか、身体がどっと重く感じた。初めてまともな戦いを経験した結果がこれだと言うなら、自分はまだまだだなと思う。

 肩で息をしていたけど、肺に全く酸素が回らない。その状態のまま苦しんでいた時だった。

 

「調子に乗りやがって……!たかが……、地球人ごときがぁ!」

 

 いつの間にか立ち上がっていたゼットン星人が武器を拾っていて、僕に向けて銃を放つ。

 身動きの取れない僕は、今度こそ終わったと思った。

 

「させるかよっ!」

 

 すると、颯爽と駆け付けたガイさんがウルトラマンさんのカードを正面にかざした。その瞬間、そのカードからバリアが発生してゼットン星人の攻撃を弾き返す。

 予期せぬ事態に驚いたゼットン星人は、その反撃をかわすことが出来なかった。

 

「ハイパーゼットンを育てて、何するつもりだった?」

「お前を倒せば、俺の名が上がる……」

「ガイさんを、倒すためだけに……?」

 

 ガイさんの肩を借りて立ち上がった僕は、地面に横たわるゼットン星人 マドックに近付く。そしてガイさんは、マドックに今回の事件の経緯を尋ねた。

 マドック曰く、ガイさんを誘き寄せるためにナオミさんを餌にしたらしい。しかもずっとガイさんを観察していて、ガイさんがナオミさんのことを放っておけないと結論付けたようだ。マドックはガイさんに、ナオミさんの何が特別なのかを苦し紛れに問いかける。

 

「いるべきじゃないところで居合わせる……不注意の塊みたいな女ってだけだ」

 

 いつも通りぶっきらぼうに、ガイさんは答える。

 するとナオミさん達が合流する。ジェッタさんとシンさんは、初めて目撃する宇宙人に興奮気味だったけど、被害者であるナオミさんが2人を制する。そしてその宇宙人が悪者だと知ったシンさんが、目的が侵略なのかと言うと、マドックは急に笑い出して意味深な一言を呟く。

 

「お前達はまだ……この腐りかけた星に、侵略する価値があると思っているのか?フッ、笑わせるぜ……!いつか……この星を捨てて……、逃げ出すだろう……よ」

 

 そう言い残すとマドックは頭の触角から黒い液体を吹き出し、白い泡となって絶命した。

 その様子を見たジェッタさんはかなり引いていたけど、ナオミさんはそれを見つめながらこう言う。

 

「あたしは……自分で散らかした部屋は自分で片付けなさい。そう言われて育ったの……。だから逃げない……!」

「まぁ頑張れよ。俺には関係ない」

 

 僕をシンさんに預けたガイさんはまたどこかへ去ろうとするけど、その背中にナオミさんは叫ぶ。

 

「関係あるよ!この星で生きてるんだもん、この星の上で起こることは、全部関係あるんだよ!

……お礼ぐらいさせて!……何か美味しいもの作る!」

「……美味しいもの?」

 

 その一言を聞いたガイさんは振り向き、目の色を変える。それを見た僕らも釣られて笑顔になった。

 それから渋川さんが遅れてやって来たけど、僕らは美味しいものに釣られたガイさんとSSPのオフィスに戻ることにした。

 

 

 

「どーぞ!特製マッシュルームスープよ!」

「スープか……。いただきます」

 

 オフィスに到着してすぐにナオミさんは調理に取りかかり、特製のスープをガイさんに振る舞う。

 それを一口運んだガイさんは、少し表情を歪める。ナオミさんは不安げに尋ねる。

 

「……味、変だった?」

「いや……、懐かしい……。二度と味わえないと思ってた…」

 

 ガイが思い出したのは、金髪の異国の少女の記憶。

 ナオミの作ったスープが、その少女が作ってくれたスープの味によく似ていたのだ。

 己の過去を思い出しながら食べ続け、気付けばスープ皿は空になっていた。

 

「ごちそうさま……」

 

 食べ終えたガイさんはゆっくり立ち上がると、オフィスの棚に置かれたマトリョーシカ人形を手に取り、1つ1つを丁寧にかつゆっくりと分解していく。

 

「それは……あなたと同じね。幾つもの別のあなたが、あなたの中に隠れてる感じ」

「最後の1つを開けてみれば……結局、空っぽだって分かる」

 

 ナオミさんが歩み寄り、ガイさんに語りかける。そして最後の1つを手に取ったガイさんは、それも分解しようとする。

 でもナオミさんが素早くそれを取り、ガイさんに言う。

 

「最後の1つは開けちゃダメなんだって、パンドラの匣みたいでしょ?」

 

 ガイさんとナオミさんが話をしていたら、オフィスの扉が開く。そこにいたのは小さな女の子。その手にはポスターが握られていた。

 どうやら、今朝がたガイさんが拾ったお人形の持ち主のようだった。ジェッタさんが人形を預かっているというポスターを作成していて、そのポスターを頼りに1人でここまで来たそうだ。

 ジェッタさんが女の子の話し相手をしていて、ガイさんが人形を拾ったことを教える。その子に感謝されたガイさんは照れ臭そうに笑う。

 女の子がオフィスを出て間もなく、ガイさんもここから出て行く準備をしだした。

 

「もう行くよ……」

「そう……。屋根が欲しくなったら、それはここにあるから」

 

 ナオミさんが言うと、ガイさんは少し考える素振りを見せてナオミさんに振り向く。

 

「……2、3日ここで世話になるか。あんたの作るスープ、美味いしな。おかわり」

 

 そう言いガイさんは、またテーブルに戻る。

 それを見ていたジェッタさんはナオミさんを小突く。

 

「やったじゃん、キャップ!」

「僕もそのスープ食べたいです!」

「分かった!大盛り?」

 

 その日また一段と、SSPのオフィスが騒がしくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「ヤァッ!!」

ガイ「おっと、びっくりした!何だよ急に……」

シンヤ「あ、すみません……。ちょっと今回のことが印象強すぎて……」

ガイ「ったく……。もうこのコーナー始まってるぞ?」

シンヤ「そうでしたね……。では今回紹介するのはこれですっ!」

 

【ウルトラマンオーブ!ハリケーンスラッシュ!】

 

ガイ「『ウルトラマンオーブ ハリケーンスラッシュ』。ジャックさんとゼロさんの力で戦う戦士だ。現在登場している他の形態より体重が軽くなっていて、その身軽さを活かしたスピーディーな格闘戦を繰り広げるんだ」

シンヤ「由来はジャックさんのウルトラ『ハリケーン』、ゼロさんのエメリウム『スラッシュ』。ゼロさんの要素だけが強くてジャックさん要素があまり目立っていないようですが、よーく見れば分かるはずですよ!」

ガイ「この姿では三又の槍『オーブスラッガーランス』を巧みに使いこなして戦うんだ!

 ところで、このお2人には密接な繋がりがないように思えるんだが……」

シンヤ「何を言ってるんですか!ちゃんとありますよ!2人はお互いにセブンさんからブレスレットを授かってますし、2人ともウルトラハリケーンを使うって共通点があるんです!」

ガイ「おぉ……!なら、どうして今回レオさんが登場したんだ?」

シンヤ「レオさんはゼロさんの師匠で、ジャックさんとは『ウルトラマンレオ』第34話『ウルトラ兄弟永遠の誓い』で、アシュランを倒すため一時的に共闘しました。

 ハリケーンスラッシュの詳しい技の紹介は、また別の機会ですね」

ガイ「次回はオリジナル回だ!今回はここまで!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以前、北川町で頻発していた停電騒ぎがまた発生した!

 その原因はなんと、怪獣の仕業だった!?

 なら、このお2人の力をお借りするぜ!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『闇夜の(いかずち)』。

 電光雷轟、闇を討つ!




…いかがでしょうか。

これが年内最後の投稿です。
また来年お会いしましょう。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマン』第31話『来たのは誰だ』です。

皆様、良いお年を…。

ではノシ


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第5.5話 闇夜の雷 ━前編━

新年明けましておめでとうございます!
前回は(勝手に)冬休みをいただきました。

新年1回目の投稿なのですが、今回創作が難航して全く考えが纏まらず今現在、後編すら手がついておりません……!

投稿予定時間を大幅に過ぎてしまって申し訳ありませんでした……。
そして今回は長い!くどい!
誰が書いたんだこれ……(作者本人ェ……)

それでは始まりま~す……


 東京都多摩市北川町。

 時刻は深夜を周り、街灯の光はあってもほとんどの住宅は明かりが消えている。

 そんな中で明かりが点いているのは、この時間でも営業している居酒屋ぐらいだろう。店内には上司の接待をする者もいれば、友人同士で飲み交わす者もいた。

 

「おい新入り!牛スジ煮込み、3番テーブルに持っていきな!」

「はい!分かりました!」

「『はい』じゃねぇ!返事は『ガレット』だ!」

「ガ、ガレット!」

 

 そんな居酒屋で僕、草薙眞哉はアルバイトをしていた。

 日中のバイトでも十分稼げてはいるけど、滞納に滞納を重ねたSSPのオフィスの水道代やら光熱費の返済は未だ終わっていない。だからこそ、こうして深夜のアルバイトを最近始めたのだ。

 この居酒屋「じんの」は店長が一代で立ち上げたお店で、店長の知り合いが数名働いている。つい最近出来たばかりでまだ人数は少ないけど、とても繁盛しているのだ。

 厨房から調理を担当している加藤ゴウキさんの力強い声が聞こえた。すぐさま受け取り、お客様の元まで運んだ。

 

「お疲れ様シンヤ君。ごめんね、ゴウキも悪気がある訳じゃないのよ……」

「あ、ありがとうございます。アリサさん」

 

 休憩時間に入った僕に、オレンジ色のエプロンを着た滝アリサさんが「眼兎龍茶」とパッケージに書かれた烏龍茶を差し出していた。

 加藤ゴウキさんと滝アリサさんはこのお店の店長さんの知り合いらしく、オープン当初からの仲だそうだ。それでも男女の関係ではなく、お互いに信頼できる仲間と言った関係のようだ。

 

(どう見ても、あの2人にしか見えないんだよな……)

 

 アリサさんから貰った眼兎龍茶を飲みながら、何度も2人を見る。何度見ても結局、『ウルトラマンギンガS』に登場する防衛チーム『UPG』の松本ゴウキ隊員と、杉田アリサ隊員にしか見えなかった。それにこのお店の「じんの」という名前も、恐らく隊長の陣野義昭さんからじゃないかと思う。

 しかもアリサさんの話によると、今日はシフトに入っていないけど他にも細田ワタルさんや、松本ハヤトさんという人がバイトをしているらしい。

 

(う~ん……。何でもありなのかね、この世界は)

 

 色々考えて結論付けた僕は、最後に眼兎龍茶をぐっと飲み干してまた作業に戻ろうとした。

 すると、店内が急に暗転した。

 

「何だぁ!?停電か!?」

「な、何も見えねぇ!」

「きゃあ!ちょっと、どこ触ってるんですか!」

 

 店内にいたお客さんは、突然起きた停電にパニックに陥っていた。アリサさん達が落ち着くように必死に呼びかけていた時、どこからか何かが落ちてくるような音が聞こえた。

 

「今度は何だよ!?」

「僕が外見て来ます!ゴウキさん達は、お客さんをお願いします!」

「お、おい!新入り!」

 

 何も見えない暗闇の中で怯えるゴウキさんにそう言って僕は裏口の方まで走って行き、表の通りに出た。

 

 外に出ると、周囲一帯が真っ暗になっていた。近所の住宅に住んでいる人達の姿がちらほらと見受けられた。やはりその人達も不安げな様子を見せていた。

 しばらくしてまた、あの音がした。反射的に振り向いた時そこにいたのは、月明かりに照らされた怪物だった。

 

「か、怪獣……!?」

 

 夜空に光る5つの目、岩のような巨体。背中には巨大なコイルが生えている。それだけであれが何者なのかはっきりした。

 

「ネオダランビア……!違う、サンダーダランビアか!」

 

 サンダーダランビア。

『ウルトラマンダイナ』に登場した宇宙球体スフィアが他の生物や物体と融合し、自身が核となることで誕生した「スフィア合成獣」のネオダランビアによく似た怪獣だ。全身の電気発生器官が特徴的で、その名の通り電気を用いた攻撃を得意としている。

 その影を目撃した住民の方々は、悲鳴を上げながら逃げ出す。逃げると言っても逃げ場などなく、ただひたすらにサンダーダランビアから距離を取ろうと必死に走るだけ。

 その騒動を聞き付けた「じんの」のお客さん達も、店から飛び出し逃げる。さっきまで結構酔っ払っていた人達も、すっかり酔いが覚めたようでしっかりとした足取りで走っていた。

 そんな中で1人、転んでしまった中年男性がいた。すぐにその人の元に駆け付けた僕は、その人に肩を貸して走り出す。

 サンダーダランビアもそれに気付いたのか、僕らだけを狙い出す。ゆっくりと近付きながら、僕らとの距離を詰めてくる。

 

「俺のことはいい……!俺を置いて、あんちゃんだけ逃げろ!」

「何言ってるんですか!諦めないで下さい!」

「このままじゃ、2人ともやられちまう!だから……!頼むよ……!」

「……!」

 

 僕が肩を貸していたおじさんが、急に弱音を吐き出した。何とか勇気付けようとするけど、おじさんは完全に心が折れていた。

 そんなおじさんに向かって、全力で声を上げる。

 それと同時に暗い空の彼方から、力強い声が聞こえた。

 

「『諦めるなぁ!』」

 

 僕らに迫っていたサンダーダランビアの巨体が、突然倒れる。サンダーダランビアの倒れた轟音の後に砂煙が上がり、何かが着地する音がした。砂煙が晴れた時、『ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオン』が現れた!

 

「オーブッ!」

 

 オーブはゆっくり立ち上がって僕らの方を見る。僕と目があったオーブは静かに頷くと、サンダーダランビアに向かって行った。

 

「新入りぃー!大丈夫かー!?」

「ゴウキさん!この人、足を怪我しているんです……!」

「何ぃ?……よっしゃあ!俺に任せろッ!」

 

 僕らがオーブを見つめていた時、戻って来たゴウキさんがやって来た。どうやら他の人達は無事に避難することが出来たようだ。

 僕が事情を説明すると、ゴウキさんは自分よりも重いはずのおじさんを1人で背負う。

 

「1人で大丈夫ですか!?僕も手伝いますよ!」

「ハハッ、心配すんな!先輩に任しとけ!」

 

 そう言い残すと、ゴウキさんは全速力で来た道を戻って行った。

 僕は、オーブの戦いを見守るべく近くの建物の階段を上り始めた。

 

『オリァッ!』

 

 オーブは接近戦で優位に立っていた。サンダーダランビアはその大きさ故に、あまり俊敏には動けなかったのだ。サンダーダランビアの攻撃を素早くかわして、逆にカウンター攻撃を的確に決めていた。

 身体を赤く輝かせたオーブは、重い正面蹴りを喰らわせて敵との距離を取る。

 このチャンスを見逃さず、一気にたたみかける!

 

『スペリオン光輪!』

 

 紫に光る円盤型のエネルギーを、サンダーダランビアに向かって投げる。その光輪は真っ直ぐサンダーダランビアに飛んで行き、直撃する。

 

……はずだった。

 

『なっ!?』

 

 サンダーダランビアに直撃する寸前で、スペリオン光輪が砕ける。それに驚いたオーブに対して、サンダーダランビアはしてやったりといった様子で、ご満悦だった。

 

「亜空間バリアか……!」

 

 僕には今のタネが何なのか、心当たりがあった。

 スフィア合成獣は一部の例外はあっても、大抵は亜空間バリアという特殊なバリアを展開することが出来る。その強度は個体によってバラバラだけど、頑丈なものなら光線技も通用しない強度を誇る。これには、スフィア合成獣と戦ったウルトラマンダイナさんも苦戦した。

 サンダーダランビアは、ネオダランビアの亜種に当たる怪獣だ。やはり、亜空間バリアを使うことが可能だったのだ。

 

『「中々やるな……!じゃあ、これでどうだ!」』

 

 まさかの事態にも動じずに、オーブは新たな姿に変わる!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

『オーブスラッガーランスッ!』

 

 ハリケーンスラッシュに姿を変えたオーブは、専用武器の『オーブスラッガーランス』を召喚し構える。

 サンダーダランビアは甲高い雄叫びを上げ、オーブを威嚇する。しかしオーブはそれにも怯まずに特攻。槍の穂先を突き立てようとした。

 だがサンダーダランビアの背中のコイルがスパークし、そこから電撃が発せられる。その放電はオーブスラッガーランスの先端に直撃。それを伝って高圧の電流がオーブに流れ込む!

 突如流れ込んできた電流への対処が出来ず、オーブは得物を手離してしまう。それに伴って、オーブスラッガーランスは消滅した。

 それからは一方的な展開が続いた。

 これまではオーブが有利に事を進めていたが、形勢逆転。サンダーダランビアが電撃を帯びた触手を伸ばしてオーブを痛め付ける。最初の放電が効いているのか、オーブはまともに動くことが出来ずにいた。次第にオーブのカラータイマーが点滅を始める。

 勝機を見出だしたサンダーダランビアは、両手の触手でオーブを縛り上げる。必死に抵抗をするオーブだったが、これまでで最大威力の電流がオーブを襲う!

 

『ウォアァァァ!!』

 

 痛々しいまでの絶叫を上げるオーブ。それを眺め、サンダーダランビアはほくそ笑む。

 

『クッ……!』

 

 最後の力を振り絞ったオーブは頭部のスラッガーにエネルギーを集中させ、刃型の光線『オーブスラッガーショット』を放つ。その刃はサンダーダランビアに直撃せず、両手の触手を切断することに成功した。

 触手を斬られたサンダーダランビアは混乱するが、その怒りの矛先をオーブに向ける。

 満身創痍で立ち上がるオーブだったが最早立つだけの気力もなく、すぐに膝を付き姿を消した。

 オーブが消えたのを見届けたサンダーダランビアも、役目を終えたかのように、ゆっくりとその姿を闇夜に溶け込ませていった。

 

「ガイさん……!」

 

 僕はオーブとサンダーダランビアが姿を消した後、オーブが消えた場所まで全速力で駆けて行った。

 怪獣がいなくなってしばらくすると、町に明かりが灯り出す。でもその明かりは昨日よりも少なく、怪獣被害の規模の大きさが窺えた。朝になればもっと詳しい情報が入ってくるとは思うけど、目撃者は時間帯もあってかそこまで多くはない。

 荒れ果てた町でガイさんを探し始めて、およそ数十分経過した。辺り一面が暗く、身の回りに何があるかも分からない。

 そこで、スマホに搭載されているライトの機能を使う。このライトの明るさも中々のもので、あるとないとでは大違いだった。

 周囲を照らして歩いていると、近くで呻き声がした。その声が聞こえた方にライトを向けると、仰向けで倒れるガイさんを見つけた。

 

「ガイさん!まさか……どこかにケガを!?」

「いや……、身体中が痺れて、動けねぇんだ……」

「そんな……。とにかく、ここを離れましょう。オフィスまで連れて行きますから」

「あぁ……、頼む……」

 

 倒れるガイさんをゆっくり立ち上がらせて、肩を貸す。全身が痺れて、歩くこともやっとなガイさんは足を引きずるようにして歩く。それを少しでも補助できるように、ガイさんの歩幅に合わせ時間をかけて僕も歩き続けた。

 

 

 

 

 

 別の場所では、オーブとの戦闘で負傷したサンダーダランビアが傷を癒していた。だがその最中、黒ずくめの不審な人影がサンダーダランビアに歩み寄っていた。

 

「……サンダーダランビア。貴様には少し、試したいことがあってな……」

 

 そう言うと青年は、右手をサンダーダランビアに向けてかざす。すると、青年の掌から黒い波動が放たれる。それを浴びたサンダーダランビアは絶叫するが、瞬く間に身体の修復が終わっていった。

 

(なるほど……。ヤツが強くなれば、私の力もわずかに増幅しているのか……。)

 

 その掌を見つめて、何度も拳を開いたり閉じたりを繰り返した青年は、怪獣の甲高い咆哮を聞きながら踵を返した。

 

「実験は成功、か……。……さて。これからもっと面白くなりそうだな……」

 

 青年はそう呟くと、これまで堪えていた笑いを一気に爆発させた。ただその笑い声は、愉悦に満ちた奇妙な笑い声だった。

 

 

 

[──本日未明、北川町を中心とした一帯で、原因不明の大規模な停電が発生しました。

 近隣住民からは、『闇に光る目』の目撃証言が多く寄せられており、最近頻発している怪獣騒動が関連しているのではないかと言う声もあります。

 北川町では以前にも停電が発生しており、今回の一件が関連していると見て現在調査が進められています。

 本日は番組内容を一部変更して、本日未明に発生した停電事故の速報をお伝えします……。]

 

 翌日の朝。SSPのオフィスにメンバー全員が揃った後、ジェッタさんはスマホのワンセグ機能でニュース番組を視聴していた。そのどれもが、深夜に発生した停電の報道ばかりでそれぞれ似たり寄ったりな内容の番組だらけだった。

 

「うわぁ……。どのニュース番組で取り上げてるのも、夕べのことばっかりだよ……」

「確か夕べ、シンヤ君はこの時間帯バイトだったっけ。……もしかして遭遇したりしちゃった?」

「えぇ、まぁ……」

「嘘ぉ!良いな~。その瞬間撮れたら、俺達SSPの注目度うなぎ登りだったのに~」

 

 ジェッタさんは何度も番組を切り替えていたけど、ついに骨が折れたのか、ワンセグを切ってスマホをデスクに置いた。

 ナオミさんがふと夕べのことを思い出し、僕に問いかける。僕が答えると、ジェッタさんは惜しいことをしたと言いたげな雰囲気で溜め息を付いた。

 それを咎めるように、ナオミさんがジェッタさんを注意した。

 

「そんなこと言わないの。でもこれじゃ、夜安心して眠れないかも……」

「またこんなことが起きるって考えると、確かに恐ろしいですね……って、うわぁぁ!僕のパソコンのデータが飛んでる……!」

 

 これまで平然を保っていたシンさんが突然悲鳴を上げた。よほど大切なデータが入っていたのか、データの復旧作業を血眼になって取り組み始めた。

 

「こっちでも問題アリ……か」

「そう言えばガイさんは?まだ寝てんの?」

 

 唐突にジェッタさんから声をかけられ、慌てながらもそれらしいことを伝える。

 

「えっと、朝から調子が悪いとのことなので、まだ寝てます」

「そっか。でも意外だなぁ。ガイさんでも体調崩すことあるんだ」

「そりゃあ、誰だってそういうことあるでしょ」

 

 ジェッタさんとナオミさんが納得しているのを眺めて、僕は内心ホッとした。さすがに「夕べ怪獣と戦って、そのダメージを癒している」……とは口が裂けても言えないからだ。

 するとオフィスの扉が急に開かれた。僕らのオフィスに来る人なんて、この人に決まっている。

 

「ヘイヘイヘーイ!今日も来たぞー!」

「おじさん!忙しいんじゃないの!?」

「そう言うことは、言いっこ無しだよナオミちゃん!……ところで、お前らの方で今回の事件の調査は進んでるか?」

「やっぱりそれが目当てか……」

 

 ビートル隊の渋川さんがやけに高いテンションで入って来るなり、いつものように僕らに情報の提供を依頼する。

 その態度に呆れるジェッタさんだったけど、渋川さんは少しムッとした表情で反論する。

 

「あのなぁ、俺達ビートル隊だって頑張ってんだぞ?それでも手がかりがないから、最終手段としてお前らに協力を依頼してるんだ。それに、お前らの腕を信頼してる人達だって少なからずいるんだからな」

「どうだかね~……」

「こいつ信用してねぇなぁ……。とにかく!何か……頼む!この通りだ!」

 

 ジェッタさんのリアクションに一瞬表情を暗くした渋川さんは、改めて僕らに依頼を申し込んだ。手を合わせながら頼んでいることから、その本気度が伝わって来る。

 渋川さんに返事をしたのは、血眼のシンさんだった。

 

「そんなこと言われても……。僕らにも情報が全くなくて、お手上げなんですよ……」

「えぇ……、マジかよ……。せめて、目撃者に話を聞けたら良いんだけどな……」

「あ……!渋川さん、いますよ!目撃者!」

 

 落胆する渋川さんを見ていた時、僕の脳裏にあるアイデアが閃いた。

 

 

 

「……という訳なのですが、お時間よろしいでしょうか?」

「えぇ、ご心配なく!」

 

 SSPのオフィスには、「じんの」のゴウキさんとアリサさんがやって来ていて、渋川さんに昨晩の様子を互いに思い出しながら話していた。

 サンダーダランビアが出現した地域は、現在立ち入り禁止となっていた。ゴウキさん達からすれば、1日でも早く営業を再開させたいと言う心境だったから、今回渋川さんに協力することにしたそうだ。

 そんなこんなで話し合いが終わり、渋川さん達3人が立ち上がった。

 

「ご協力感謝致します」

「いえいえ。今度は是非とも、お客様としてお越し下さい。お待ちしております」

「はい、ではまた近い内に」

 

 アリサさんが丁寧な口調で渋川さんに語りかけ、2人はきれいなお辞儀をしてオフィスから去って行った。

 僕は2人にお礼を言おうと思い、2人の後を追った。オフィスの扉を開けて外に出た時には、2人は丁度階段を降りきったばかりだった。

 

「ゴウキさん、アリサさん……急なお話を受けてくださって、ありがとうございました」

「気にしないで、困った時はお互い様でしょ?」

「アリサさん……。そうだ、ゴウキさん。夕べのおじさんは、あの後大丈夫でしたか?」

「おう!きっちり避難させたぜ!」

「こう言ってるけど、戻って来た時はものすごく息切らして大変だったのよ?」

「アリサ……!それは言わないでくれって頼んだじゃねぇか!」

 

 その情けなさそうなゴウキさんのリアクションに、僕とアリサさんは笑い声を上げた。釣られてゴウキさんも笑い出す。

 

「まぁ、この事件が解決したらまたうちに来いよ、シンヤ!」

「……!ガレット!」

 

 ゴウキさんが差し出す右の拳に、僕もまた拳をぶつけてグータッチをした。

 

 

 

 

 

「こちら渋川。民間人の情報提供により、今回の停電事故は怪獣の仕業である可能性が浮上した。各自、厳重に警戒されたし。報告は以上」

 

 僕がゴウキさん達を送って帰って来た時、渋川さんは通信機で本部に連絡を入れていた。しばらくした後、また本部から連絡が入った。通信機から聞こえる声に表情を一切変えず、渋川さんは会話を終えた。

 どうやら本部の方針で、怪獣を撃退する作戦を決行することになったそうで、渋川さんは本部に急遽戻らなくてはならなくなった。

 いつも通りの爽やかな笑顔を残して、渋川さんは急ぎ足で帰って行った。

 

 

 

 時が経つのはあっという間で、時間は既に夕方。町中に街灯がぽつぽつと灯り始めた。

 いつも通りならこの時間帯には、まだ遊んでいる子供達が少なからずいるのに、今日の町には人は誰もいない。毎日うるさいくらいに走っている自動車も皆無。みんな何かに怯えるように、静まり返っていた。

 その町を僕らのSSP-7だけが走っていた。

 

「今日こそはしっかり収めるぞー!」

「僕のパソコンのデータを飛ばした恨み……!思い知らせてやりますよ!」

「2人とも少しは落ち着きなよ…。あぁシン君、しっかり前見て!」

 

 静かな町とは打って変わって、車内はとてもにぎやかだった。助手席でビデオカメラのバッテリーの確認をするジェッタさん、データの復旧作業で疲弊しきった表情で蛇行運転を繰り返すシンさん、その運転で悲鳴を上げるナオミさん……。

 ちなみにガイさんはまだ目覚めなかったために、机に簡単な料理や水を置いて寝かせたままにした。そしてもう1つ、置いてきたものがあった。後は、ガイさんがそれに気付いてくれるのを願うだけだ。

 手頃な建物を見つけた僕らは近くの駐車場にSSP-7を駐車させて、屋上へ上った。

 

「さぁ、どっからでも来ぉい!撮影準備は出来てるぞ!」

「そう言って出て来たらどうすんの……っ!?何!?地震!?」

 

 ジェッタさんの力強い声が町中に響き渡り、ナオミさんが呆れ気味に突っ込みを入れようとした時。突然足元が揺れ始めた。広い屋上には寄りかかれる物などなく、僕らはその場に小さくしゃがみ込んだ。

 それから間もなくして大地が盛り上がった思えば、恐ろしい雄叫びを上げてサンダーダランビアが地中から飛び出した!

 

「ホントに来たぁー!?」

「あれ見て下さい!ビートル隊のゼットビートルです!」

 

 シンさんが指差しをした方角に見え始めたのは、銀のボディに青いラインが走る複数の戦闘機だった。

 あれがビートル隊の『ゼットビートル』だ。これまでも活躍はしていたけど、大抵はオーブが怪獣を倒した後にやって来たり、あまり実力を振るうことがなかった。でも今回はオーブが現れるよりも前に登場した。ビートル隊もいつでも発進出来るように準備をしていたことが伺える。

 ゼットビートルはミサイル攻撃を開始するが、サンダーダランビアの亜空間バリアに阻まれて、失敗した。反撃するサンダーダランビアは背中のコイルに電気を溜め、一気に放つ。解き放たれた電撃は、発信源を中心としてドーム状に広がり、身の回りを飛び交っていたゼットビートルの大半を撃墜する。

 

(全方位に向けての放電!?いつの間にそんな技まで……!)

 

 今の技には、さすがに驚きを隠すことが出来なかった。

 そもそもあんな攻撃を使えることなど、思っても見なかった。そんな中、ある1つの考えが浮かんだ。

 

(まさかサンダーダランビアが……進化したのか!?)

 

──命あるものは、常に前に進みます。昨日までのデータなど……。

 ふとした瞬間に、XIG(シグ)の司令官の台詞が脳裏を過った。

 その可能性はなるべく考えたくはなかったけど、そうとしか思えなかった。

 

「何だよ今の……!あぁっ!カメラ壊れたぁ!何で?何でだよぉ!」

 

 今の電撃の余波がこっちにも届いたのか、ジェッタさんのビデオカメラが故障してしまった。

 被害はそれだけでは留まらず、先日の二の舞になってしまう。辺り一面が暗い闇に染まる中で、怪獣の眼光だけが煌々と輝いていた。

 

 

 

 SSPのオフィス。

 家主のいなくなった部屋で、ガイは覚醒する。瞼を上げると、月に照らされていたことに気付いた。これまで身体中にまとわり付くような不快感を生んだ痺れはすっかり消え去り、スムーズに起き上がることが出来た。

 

(今まで、ずっと寝てたのか……)

 

 多少寝ぼけながら頭を掻いていた最中に、自分がどうしてこうなったのかを思い出す。すぐに行動を起こそうと立ち上がるが、机の上に置いてあった料理を見つけた。

 少しでも腹の足しにしようと急いで口に運ぶ。その机の上には料理以外にも、2枚のカードが置かれていた。

 

(シンヤのやつ……!ありがたく使わせてもらうぜ!)

 

 最後にコップの水を飲み干したガイは、オーブリングを構え、2枚のカードを読み込ませた!

 

「ガイアさん!」

【ウルトラマンガイア!V2!】

「ビクトリーさん!」

【ウルトラマンビクトリー!】

「大地の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 フォトンビクトリウム!】

 

 

 

 凶暴性を増したサンダーダランビアは、叫びながら町を蹂躙し続ける。ゼットビートルは果敢に挑むものの、亜空間バリアに阻まれ撃墜されるの繰り返しだ。

 打つ手なしと思われたその時だった。

 

『ウォラァァッ!!』

 

 サンダーダランビアが何者かに殴られる。

 不意打ちを喰らわせた豪腕の巨人は、轟音を響かせて町に降り立った。

 

「おぉ!ウルトラマンオーブ!」

「待ってましたー!」

『ずいぶん待たせちまったな、後は任せな!』

 

 両腕を構えて突き進むオーブ。サンダーダランビアはそれに対して電撃で迎え撃つが、攻防一体のフォトンビクトリウムの岩乗なボディには傷1つ付くことはなかった。

 相手の放電をノーガードで凌いだオーブは、巨大な拳を最大限活かした接近戦で攻め立て、ボクシングのコンビネーションのように左右の拳を全力で叩き込む。

 

『これで決める!フォトリウムエッジッ!!』

 

 頭部のクリスタルから光の刃を解き放ったオーブだったが、その時サンダーダランビアにも動きがあった。

 オーブの攻撃を当然のように亜空間バリアで防いでいたが一向に割れることがなく、次第に強度が増していくようにも見えた。

 そしてサンダーダランビアが吠えたと同時に、オーブの『フォトリウムエッジ』が打ち消された。それに追い討ちをかけるが如く、サンダーダランビアが変貌した──!

 全体のシルエットは肥大化。背中から更にコイルが数本生え、下半身は「ダランビア」のような複数の巨大な足となって、これまで黄色く発光していた器官が紅く光り出した。

 その変貌を目の当たりにしたオーブ。驚愕で何も出来ないでいると、足に巻き付かれていた触手で持ち上げられ、宙吊りになってしまう。

 

『「馬鹿な……!この姿の俺をこんな軽々と……!」』

 

 これまで使用したフュージョンアップ形態の中でも、この姿はダントツの重さを誇っていた。その重さこそ、この姿の攻撃力と防御力の高さを証明するもの。だが今となっては、まるで指で摘ままれているような状態だ。

 勝ち誇るサンダーダランビア改め、ネオサンダーダランビアは、本数の増えたコイルから強大な電力を起こし、触手を伝わせてオーブに電流を流す。

 

『グアァァァァァッ!!』

 

 長い時間電流を受けたオーブのカラータイマーの点滅がだんだん早まる。更に宙吊りのまま、頭を地面に叩きつけられる。そこにあったのは戦いではなく、ただの暴力そのものだった。

 もう見ていられないと、ナオミさん達は視線を反らす。

 抱きしめたカバンに力を込めて、泣きそうになっても僕は決して目を背けることはしなかった。

 その時僕は、カバンの中のカードホルダーが光を放っていたことに気が付かなかった。




新たに「ネオサンダーダランビア」というオリジナル怪獣を登場させました。そのまんま過ぎですかね。
アナウンサーとか渋川さんの話し方がホントに違和感だらけになっていると思いますが、ご了承下さい…。

ゲストキャラの名前の由来は、「役者さんの名字」+「演じたキャラ名」です。今後もゲストキャラは出していきたいなと考えてたりします。
隠れサブタイは、ものすごく分かりやすいと思います。

後編はお待ち下さい…!何とか頑張ってみます!


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第5.5話 闇夜の雷 ━後編━

お任せしました、後編です!

この間アクセス数を確認したらとんでもない数のアクセス数、しかもお気に入り登録もしていただいてありがとうございます……!

こんな拙い文章しか書けない作者の作品を読んでいただいて、誠にありがとうございます!

前回より短いですが、どうぞ。


 サンダーダランビアが進化し、より凶暴性を増したネオサンダーダランビアの触手に両足を掴まれ、宙吊りの状態で身動きの取れないウルトラマンオーブ フォトンビクトリウム。

 オーブの体内でガイも何とか抵抗するが、逆さまになっていて身体を動かすことすらままならない。次第にカラータイマーの点滅が始まり、余計に焦らせる。

 

『「こいつ……!いい加減にしろっ!」』

 

 オーブは両腕の手甲に刻まれているV字のクリスタルにエネルギーをチャージし、触手めがけて三日月型の光弾を発射した。

 

『フォトリウムスラッシュ!』

 

 ガイは以前、シンヤからウルトラマンガイアとウルトラマンビクトリーの話を聞いたことがあった。2人の共通点はもちろん、2人がどんな技を使えるのかまで詳細に聞いて、その時の記憶を呼び起こして新たな技を発動させた。参考にしたのは「ガイアスラッシュ」と「ビクトリウムスラッシュ」。それぞれ発動方法は違えども、2人の大地の巨人の力が籠った一撃はネオサンダーダランビアの不意を突き、片方の触手を切断することに成功した。

 触手を切られたネオサンダーダランビアはオーブの重量に耐え切れず、オーブを離す。その一瞬の隙を突き、オーブは拘束を解いた。

 再び構えを取るオーブだったが、また振り出しに戻ったことが無念でならなかった。この姿で勝機を見出だした途端に、相手がパワーアップを果たしたのだ。こちらもそれに対抗しうる力があれば……。そう感じていた時だった。

 ガイの目の前に、光輝く2枚のフュージョンカードが現れた!

 

『「これは……!新しいカードか!」』

 

 その2枚を手に取り、近くのビルの屋上に視線を反らす。そこには、自分の勝利を信じてこちらを見つめる彼の姿があった。

 再びネオサンダーダランビアを睨み付けたオーブは、空高く飛び上がり、新たな姿に変わる!

 

「ギンガさん!」

【ウルトラマンギンガ!】

「エックスさん!」

【ウルトラマンエックス!】

「未来への可能性、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ライトニングアタッカー!】

 

 姿を変えたオーブは、回転をしながら着地する。

 頭部や両肩、両腕と両足には水色に輝くクリスタル。周囲の灯りが消えた暗い町では、そのクリスタルがより幻想的に見えた。

 全身はサイバー感に満ちたメカニックな雰囲気を強調していたが、先程のフォトンビクトリウムよりシャープな出で立ち。

 これこそが、「ウルトラマンオーブ ライトニングアタッカー」だ!

 

『電光雷轟、闇を討つ!!』

 

 名乗りを上げ、ウルトラマンギンガのファイティングポーズを取ったオーブは、拳で地面を叩きネオサンダーダランビアに挑む!

 ネオサンダーダランビアは新たに獲得した下半身を駆動して、オーブを迎え撃つ。

 町のど真ん中で、取っ組み合いを始める巨人と怪獣。両者拮抗した戦闘を展開し、オーブがネオサンダーダランビアの雁首をがっしり抱え込むように掴む。何とか身動きを封じたが背中のコイルが発光し、オーブの目を眩ませる。

 その隙にオーブにもう片方の触手を伸ばして、再三の触手攻撃を繰り出しオーブの片腕を絡め取る。

 オーブも負けじと、綱引きのようにその触手を引っ張り鍔迫り合いが始まった。

 やはりネオサンダーダランビアは、その場面でも電撃攻撃をオーブに喰らわせた。

 

『「またか……!だがな!」』

 

 そう言うとオーブは、全身のクリスタルを発光させる。するとその電撃がオーブに吸収されていった。

 オーブはネオサンダーダランビアの放つ電撃を吸収し、それを変換して自らのエネルギーにしたのだ。

 そのエネルギーを右手に集め、手刀を繰り出す。その一撃は、相手の触手を切断する。

 両方の触手を失ったネオサンダーダランビアに、オーブは右手のエネルギーを楔型に変化させた光弾を発射した。当然、亜空間バリアがそれを防ぐが、光弾はそれを貫通してネオサンダーダランビアに直撃した!

 その圧倒的な力には、ガイも驚きを隠せなかった。

 

『(すごいパワーだ……!でも、この姿にはまだ上がある……!そんな気がする──!)』

 

 オーブは右腕のクリスタルから、白く輝く光の剣を伸ばして構えを取る。その状態のまましばらく睨み合いが続き、両者はお互いの様子を伺い続ける。

 先に痺れを切らしたのは、ネオサンダーダランビア。背中のコイルから放電を起こすが、オーブはそれを左手だけで防ぎ切り、打ち消す。

 そしてオーブは予備動作をせずに、ネオサンダーダランビアの背後に回りこみ、右手の剣で斬りつける。それに反応したネオサンダーダランビアは振り向くが、再びオーブに後ろを取られ一撃を喰らう。

 

『エクシード……ッ、ギンガセイバー!!』

 

 オーブは技を叫ぶと、文字通り電光石火の速さで斬撃を繰り出し、ネオサンダーダランビアの全身の電気発生器官を破壊する!その速さは、ネオサンダーダランビアに亜空間バリアを展開する暇を与えない程であり、最早されるがままとなっていた。

 

『これで!最後だッ!!』

 

 そう言うとオーブは、豪快な横薙ぎでネオサンダーダランビアのコイルを全て破壊した!

 オーブの剣戟が止んだ時、ネオサンダーダランビアの全身には無数の切り傷が刻まれていた。

 右腕の光剣を収めて、オーブはネオサンダーダランビアを指差して宣告した。

 

『これでお前は……、二度と電撃を放てない!!』

 

 ネオサンダーダランビアは、電気を起こそうとするが、電気発生器官を全て破壊させてしまったために、満足に電気を起こすことが出来なくなっていた。

 その一瞬をオーブは見逃さなかった。上空に高く飛び、全身のエネルギーを集中させるように四肢を縮め、一気に解き放つ!

 

『アタッカーギンガッ……、エーックスッ!!』

 

 身体全体でアルファベットの「X」を表現するかのごとく、両腕と両足を伸ばしたオーブは充填したエネルギーを雷撃に変えて、ネオサンダーダランビアにぶつける!

 ダメージの蓄積したネオサンダーダランビアは回避が間に合わず、上空からの雷をまともに浴び、やがて悲痛な叫び声を上げながら、その巨体は四散した!

 

「やったぁー!!オーブが勝ったよー!!」

「やっぱすげぇよ、オーブは!!オーブッ!ありがとーっ!」

「すごいです!すごすぎです!」

 

 オーブの戦闘を間近で見届けたSSPメンバー達は、その興奮を抑え切れないようで、夜だと言うのに大声で騒ぎ始めた。

 そんな中で、シンヤだけがオーブに微笑んでいた。その微笑みには歓喜の他にも、安堵の様子が見て取れた。

 

『「ありがとな……。シンヤ」』

 

 ガイはそう呟いた直後、後ろに誰かの気配を感じた。ゆっくり振り向くと、そこには未来から来た銀河の覇者と、人間とユナイトして戦った光の戦士がいた。

 

『あんたがこの世界のウルトラマンか?』

 

 爽やかな雰囲気の声で先に話しかけてきたのは、ウルトラマンギンガ──礼堂ヒカルだった。

 もう一方の巨人、ウルトラマンエックスは一体化(ユナイト)している青年──大空大地と、コソコソと会話をしていた。

 

『なぁ大地、つまり彼は……私達の後輩と言うことなのか!?』

『「もう、少し落ち着きなよエックス。全然先輩っぽく見えないぞ?」』

『だがなぁ……。私に後輩が出来るなんて、考えても見なかったからなぁ……』

 

 傍から見ればあたふたと1人漫才をしているようにも見えなくもないエックスを、ギンガは半分呆れながら眺めていた。

 

『まぁ、あいつらはいつもあんな感じだから、気にしないでくれ』

『「ちょっとヒカルさん!そりゃないですよ!」』

『そうだ!私だっていつもこうと言うわけでは……!』

 

 ギンガの一言がよほど不服だったのか、エックスと大地はギンガに食ってかかる。

 その状況を払拭するように、ギンガがエックスを落ち着かせる。

 

『とにかく!俺達の力が必要なら、いつでも使ってくれ!』

『あぁ!今後ともよろしくな、オーブ!』

『「また近い内に、どこかで会いましょう!」』

 

 そう言い残して、ギンガとエックスは姿を消した。

 それを見届けたガイは、気持ちを切り替え夜空を見上げて、暗い空に飛び立って行った。

 それを目で追ったシンヤ達は、必然的に空を見上げることになった。

 

「わぁ……!皆さん、見て下さい!」

「おぉー!めっちゃ星綺麗だ~!」

「素敵……!」

「こんなにたくさん星が見えるなんて……!」

 

 空一面には星が散りばめられたように広がっていて、普段は見ることの叶わない数多の星座がそこにはあった。

 

「おーい!お前ら無事かー?」

「あっ、ガイさんも来たー!」

「ほら見てガイさん!あれ白鳥座じゃない!?ほらあそこ、あそこ!」

「えぇ?どれだよ?」

 

 後からやって来たガイと合流したSSPは、年甲斐もなく満天の星を見てはしゃぎあった。

 そんな彼らを見守るように、1つの星が瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

ガイ「さぁ、このコーナーの始まりだ!」

シンヤ「はぁ~……。星、綺麗だったな~……」

ガイ「おいシンヤ、進行役がしっかりしないでどうすんだ!」

シンヤ「……はっ!いけない、いけない……!2回連続ですみません…」

ガイ「次からは気ぃ付けろよ?……今回紹介するのは、これだっ!!」

 

【ウルトラマンオーブ!ライトニングアタッカー!】

 

ガイ「『ウルトラマンオーブ ライトニングアタッカー』。この姿は、ウルトラマンギンガさんとウルトラマンエックスさんの力で戦うんだ!」

シンヤ「『ウルトラマン フュージョンファイト!』で初登場。ウルトラマンを題材としたイベント『ウルトラマンフェスティバル』のライブステージで映像のみでしたが出演しました。

 必殺技は『アタッカーギンガエックス』!今作では『エクシードギンガセイバー』と言う技を使用しました!」

ガイ「『エクシードギンガセイバー』はギンガさんの『ギンガセイバー』と、エックスさんの強化形態であるエクシードXの『エクシードスラッシュ』を組み合わせた技だ!残像が残るぐらいの高速で相手を斬りつけるんだ!」

シンヤ「ギンガさんとエックスさんが共演したのは、『ウルトラマンX』第13話『勝利への剣』と、第14話『光る大空、繋がる大地』。

 モルド・スペクターに捕まり、連れて来られる形でエックスさんの宇宙にやって来たビクトリーさん達を追って、13話ラストでギンガさんが登場。その過程でグア軍団を単独撃破するなど、ギンガさんの腕前も向上していました。

 14話では、融合してグア・スペクターに変貌したグア兄弟を、ギンガさんとビクトリーさん、エックスさんの3大ウルトラ戦士が迎え撃ちました!」

ガイ「『きたぞ!われらのウルトラマン!』でも、エックスさんのピンチに駆け付けてくれたんだよな!」

シンヤ「また、あの2人に会えるでしょうか?」

ガイ「あぁ、きっと会えるさ。そう遠くない内にな。

 それじゃあ今回はここまでだ!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一度立ち入ったら出てこられないと言い伝えられている、古い森。

 まさに現在のダークゾーンだぜ。

 調査に向かったSSPの前に現れたのは、宇宙人と女の幽霊!?

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『入らずの森』。

 闇を照らして、悪を撃つ!




…いかがでしょうか。
今回のオリジナル回を作成するに当たって、かなり悩みました。
ライトニングアタッカーとどの怪獣を戦わせるかが特に難題で、候補の中にはパズズであったりネロンガであったり、シーゴリアンだったりと選出で時間を使いました…。

次回からは更新ペースも去年と同じくらいになる予定なので、次回もよろしくお願いします!

隠れていたサブタイトルは、『ウルトラセブン』第16話「闇に光る目」でした。

ではノシ


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第6話 入らずの森 ー前編ー

どうも。

試験も終わって、ようやく投稿出来ました……。

『絆の力、おかりします!』の最新PVが格好良すぎて、何度も見直してますw

それでは、どうぞ。


 某所にて。

 天井から射し込む光が、玉座を照らしていた。だがそこには本来座るべき君主がおらず、玉座の前で2名の異星人が横一列に整列していた。

 彼らは、惑星侵略連合。地球侵略を企む宇宙人達の連合組織である。

 

「──では、状況を聞こう」

「偉大なるドン・ノストラ。タバコを吸う人間は、減少の一途を辿っております……。幻覚タバコ作戦は、中止せざるを得ません」

 

 この場に姿を現さないドン・ノストラの声に、配下のメトロン星人タルデが答える。

 幻覚宇宙人 メトロン星人。

 かつて「ウルトラセブン」と戦った宇宙人であり、巧妙な侵略作戦を立てた。それからの同胞達も至妙な作戦でウルトラ戦士達と数々の戦いを繰り広げてきた。

 メトロン星人タルデは、同胞達の実績もあってこの惑星侵略連合に参加したと思われる。

 メトロン星人タルデの報告を受けたノストラは、どこか嘆くように言葉を発した。

 

「時代は変わったな……。自分の快楽のためには、星を売っても良いと思う奴らばかりだ」

「いっそひと思いに、ぶっ殺してやりますか?」

 

 好戦的で荒っぽい印象を感じさせる、ナックル星人ナグスがノストラに提案した。

 暗殺宇宙人 ナックル星人。

 以前「ウルトラマンジャック」の抹殺を図った宇宙人だ。ジャック打倒のためにデータを徹底的に調べ上げ、鍛え上げた「用心棒怪獣 ブラックキング」と共同でジャックを完膚なきまでに叩きのめし、1度は敗北に追い込んでいる。

 そしてこれまでもこの一族は、様々な謀略でウルトラ戦士達を苦しめて来た。

 そんなナックル星人ナグスを咎めるように、タルデはノストラに提唱した。

 

「だが、地球にはウルトラマンオーブがいます。早く奴を何とかしなければ……」

「誰だッ!?」

 

 ナグスは突然背後からやって来た何者かを察知して、咄嗟に腰の光線銃を構える。

 突然の来客にタルデも驚きを隠せなかった。

 そこにいたのはスマートなスーツを着用した男と、黒い装いの中性的な青年だった。

 

「惑星侵略連合の皆様、お初にお目にかかります。私の名はジャグラー……」

「そして私はヨミ……。ジャグラー様の従者です」

 

 ヨミはそう言うと丁寧に腰を折る。

 彼らの登場に対して、配下の2人ほど動揺せずにノストラは尋ねた。

 

「君達の噂は聞いている。我々に何の用だ?」

「奴は私達にお任せ下さい……」

 

 空っぽの玉座に鋭い視線を向けたジャグラーは、そう呟いた。

 

 

 

 青い空にさんさんと輝く太陽。相も変わらず蝉達がどこかで鳴いている。良い具合のそよ風も吹いていて、絶好の洗濯日和だ。

 天候にも恵まれた今日、ナオミさんは、溜まっていた洗濯物を洗っていた。それも通話をしながら作業をしている。話し相手はどうやらナオミさんのお母さんのようで、お見合いについての連絡だったようだ。ナオミさん本人はお見合い自体受けるつもりは無いようで、断ってほしいとお願いしていた。

 僕はというと、乾いた洗濯物を取り込む作業を手伝っていた。

 SSPのオフィスの下はガレージで、愛車のSSP-7が停められている。その広いスペースには洗濯機があって、今日みたいな良い天気の日は洗濯をしているのだ。

 通話を終えたナオミさんが、乾いた衣類の入った洗濯篭を1つ持ってオフィスに戻ろうとした時。ナオミさんが見たのはステテコ1枚でハンモックに寝転がる、風来坊のだらけきった格好だった。

 

「ちょっと……!何か着てよ……!」

 

 洗濯篭からシャツを1枚ガイさんに渡して、ナオミさんは足早に戻って行った。

 つい先日、このSSPのオフィスに住人が増えた。

 それがこの男、クレナイ・ガイさん。

 以前ガイさん本人から聞いた話によると、かなり長い間この地球を放浪していたらしい。

 そしてその正体は、魔王獣復活を阻止し、この地球を守るために銀河の彼方からやって来た光の戦士、ウルトラマンオーブ!!

……何て言っても、こんな格好じゃ説得力に欠けるのだが。

 

「んー。ん?今日のラッキーカラーはブルーか~」

 

 ナオミさんの話を聞いているのかいないのか、はっきりしない返事をしたガイさんは、読んでいた雑誌の1ページに注目した。

 僕も内心やれやれと言った感じで、ナオミさんの後を追った。

 ここに住むようになってから、ガイさんはいつもこんな具合で過ごしている。本人としては悪気はないのだろうけど、何と言うか……図々しいなぁと思ってしまう。

 僕だってここに住ませてもらっている身だけど、せめて何か手伝ってくれればいいのに……。

 でも、地球の平和のために戦ってくれているのだ、あまり非難するのは良くない。

 気を取り直そうと首を横に振って、階段を上ろうとした時、階段を上る渋川さんに出会った。

 僕に気付いた渋川さんは、僕が話しかけるより早く話しかけてきた。

 

「おぉ、シンヤ君。ナオミちゃん達いたかな?」

「はい、みんなオフィスに揃ってますよ。今日はどう言ったご用件で?」

「今日は、お前達に見てもらいたいものがあってな……」

 

 

 

「そこを拡大してくれ」

 

 渋川さんが持ってきたのは、クワガタムシを捕まえた子供が2人写ったある1枚の写真だった。

 でも注目すべきポイントはそこではなく、背景の青空だった。シンさんがパソコンにそのデータを取り込んで、渋川さんの示す1箇所を拡大する。

 そこには、落花生のような形の「何か」が飛んでいる瞬間が写り混んでいた。

 

「これは……!」

「空飛ぶ円盤だ!」

「綺麗に撮れてんな~」

「そうですね……。ってガイさん!ステテコ1枚でうろうろしないで下さいよ……!」

 

 いつからそこにいたのか、ガイさんは腕組みをしながら写真を眺めていた。でもその格好は先程と全く変わらず、逞しい上半身を晒したままだった。

 それに照れたのか、ナオミさんはジェッタさんの方へ移動して、この写真の詳細を尋ねる。

 

「ちょっと、この場所は?」

「ここはな、市民公園に隣接する小さな森だよ。行政の管理地域で立ち入り禁止なんだけど、ここはな、昔から妙な噂があってな……」

「妙な噂……?」

「何ですか、それ?」

 

 そう僕が聞くと、シンさんが急に立ち上がる。その手には懐中電灯を持って、まるで驚かせるように、顎の下を照らしていた。

 

「その森は、さる高貴な方のお墓だと言う言い伝えがあります。江戸時代から『入らずの森』と呼ばれ、誰も立ち入らないんです」

「先輩から噂聞いたことある!入った人は、誰も出てこれなくなるって!」

 

 シンさんの解説を聞いたジェッタさんが、急にハイテンションになる。

 そのテンションに引き気味なナオミさんは、冷静に対応する。

 

「出てこれなくなるって……。100m四方位しかないみたいだけど……」

「これこそ現代のダーク・ゾーンだよ!調査しに行こう、キャップ!ガイさんも一緒に……」

 

 ジェッタさんが上がったテンションのまま、ガイさんに話しかけようと振り向いた時には、既にガイさんはいなくなっていた……。

 

「また消えた……」

 

 

 

 場所は変わって、僕らSSPと渋川さんはその現場に到着した。そこには、写真の子供達がいた。

 

「こちらが、情報をくれたダイキ君とケンジ君だ」

 

 僕らが挨拶をすると、ダイキ君とケンジ君は元気良く返事をしてくれた。

 

「SSPのサイト、時々見てます!」

「ほとんどガセばっかりだけど、たま~に面白いよね」

 

 ダイキ君がそう言ってくれたからか、ナオミさん達は嬉しそうな表情をするけど、ケンジ君のストレートな物言いに、表情がだんだんと引きつっていった。特にジェッタさんは、カメラを持っていない方の手に力を込めていた。

 そんな3人の前に移動した僕は、ダイキ君達と目線を合わせて、この子達が今回提供してくれた情報について、改めて聞いてみた。

 

「君達が、UFOを見たの?」

「僕は見てないけど、友達のお兄さんの友達が見たって!」

 

 ダイキ君がそう教えてくれたけど、友達のお兄さんの友達……?う~ん、何だかとってもややこしい……。

 それからダイキ君達は、この森について教えてくれた。

 昔、ある中学生がこの森で肝試しをして、その最中に、白い服を着た女の姿を見たとか……。

 

「この森には、絶対UFOや幽霊がいるんだよ!」

 

 子供ながらの無邪気さで、ダイキ君達ははしゃぎ出す。

 

「UFOなのか幽霊なのか、はっきりしてほしいですね……」

「どっちでも良いじゃんか、何か撮れれば俺達にとっては大成功だよ!」

「まぁ、そうですけど……」

 

 僕が呟いていると、ジェッタさんも若干テンションが上がっていているようだった。

 それを肯定すると、今度は渋川さんが話し出す。

 

「とにかく調査は早い方が良いな。この辺りは行政の再開発地域に入ってるからよ」

「どういうことですか?渋川さん」

「もうじき、この森が消えるってことだよ」

「消える……?」

 

 振り返ると、「ここは再開発事業用地です」と赤文字で書かれた看板を見つけた。

 どうやらこの森を壊して、新しいビルを建設する予定らしい。

 例え小さな森だとしても、地球の環境を身勝手に変えてしまうのはどこの世界でも同じみたいだ……。

 

 

 

 シンヤ達は知らなかったが、この森には惑星侵略連合の基地が隠されていた。

 その基地で宇宙人達は、カードゲームに勤しんでいた。

 カードゲームと言ってもただのカードゲームではない。彼らの行っているカードゲームは、怪獣の力を宿したカードを用いたポーカーだった。

 

「再開発だか何だか知らんが、調査が入ればこの基地の存在が知られてしまうぞ……?俺達の方が人間に侵略されるとは、どういうことだぃ!」

「ここから見る夕焼けは綺麗だ……。この自然を壊すとは、本当に人間と言うのは傲慢だな」

 

 ジャグラーは、正面に座るナグスとタルデに視線を向ける。ナグスは人間への苛立ちからか机を叩き、タルデは地球の夕焼けの美しさを賞賛する。ヨミには今回のポーカーでディーラーを頼んだ。だからなのか、ヨミは全員を眺めながら終始ニコニコしていた。

 

「おっと、いただきだ!風属性のフォーカードだ!」

 

 すると動きがあった。ナグスが手札を全て明かしたのだ。

 そこにはアントラー、ノーバ、シルバーブルーメ、メルバ、リトラの5枚が揃っていた。何の繋がりも無いように見えても、アントラーを除いた4枚は風属性。つまり、フォーカードだ。

 フォーカード。「クワッズ」や「フォー・オブ・ア・カインド」とも呼ばれる。トランプで例えるなら、同じ数字もしくは同ランクのカードを4枚揃える役のこと。この怪獣カードの場合は、属性または同ランクのカードを揃えることで成立する。

 これには誰も敵わないと詰んだナグスは上機嫌だったが、それに待ったをかける男がいた。

 

「ちょっと待った……。レッドキング、エレキング、キングゲスラ、キングオブモンス、キングジョー……。キングのファイブカード」

 

 ジャグラーの手札にはその5枚が揃っていた。

 ファイブカード。ワイルドカード──いわゆるジョーカーと呼ばれるカードを使用する「ワイルドポーカー」では最強と呼ばれる役で、同じ数字のカード4枚+ワイルドカード1枚の組み合わせで成立する。

 その大番狂わせには、ナグスもタルデも驚きを隠せなかった。

 

「そんな手アリかよ!?おい、ディーラー!お前……コイツが勝てるようにイカサマしやがったな!?」

 

 するとナグスはジャグラーを指差しながら、これまで平然としていたヨミにいちゃもんを付ける。

 しかしヨミも臆することなく、ナグスに言い返す。

 

「はて?私はディーラーという立場上、皆様には公平に対応していたつもりだったのですが……」

 

 あらぬ疑いをかけられたと言わんばかりに、ヨミは弁解する。そんなヨミを庇うように、ジャグラーは口を開く。

 

「どうやら、私の部下がイカサマをしたと思われているようですが……。どのみち皆さんのようなのんびりした侵略ゲームでは、まぁ居場所を追われるだけでしょうね」

「何だと……テメェッ!」

 

 苛立ちがピークに達したナグスは、腰に携行した光線銃を引き抜き構える。

 しかしそれよりも早く、ジャグラーがどこからともなく取り出した蛇心剣をナグスの首元に突き付ける。

 

「……面白い。あなたの銃と私の剣……、どちらが早いか勝負してみますか?」

「ぐっ……。冗談だ」

 

 ジャグラーの鋭い眼光に気圧されたナグスは、大人しく銃をしまう。ジャグラーもそれを見届けて、剣を下ろした。

 しかし……。

 

「例え冗談だったとしても……」

「ッ!?」

「ジャグラー様に武器を向けたことには、変わりはないですよ?」

 

 ナグスは背筋が凍えるような感覚を覚えたが、その感覚は即座に首筋に集中する。

 いつの間に後ろに回り込んだのか、ヨミが小太刀の刃を首筋に当てていた。ナグスは視線を横に反らすと、氷のような眼差しのヨミと目が合った。

 ナグスに助け船を出したのか、それともヨミを咎めようとしたのか、ジャグラーが静かに話し出した。

 

「ヨミ……。お前も武器を下ろせ」

「……承知致しました。……ですが、次はありませんよ」

 

 最後にそう言って、ヨミはまたディーラーとしての役割を果たすべく、怪獣カードの束をシャッフルし始めた。

 

 

 

「おーい、気ぃ付けろよ!」

「霧が濃いですね……」

「霧すごくて全然見えないんだけど……」

「どーもこの森は地磁気が乱れてますね~」

 

 森に入ってからしばらく経って、僕らは林の中をずんずん進んでいく。どこからともなく霧が立ち込めて来て、僕らの行く手を阻む。

 するとシンさんが持ってきた発明品が何かを察知したように、アラームを鳴らした。

 

「どうしました、シンさん?」

「見て下さい。この地下には、いくつも空洞があります。4世紀頃の円墳に酷似しています」

「と言うことはこの森に、古墳が眠ってるってことか?本当かよ?」

 

 謎のアンテナとタブレットを接続したシンさんの発明品に、みんなの視線が集まる。タブレットの液晶にはここら辺のマップが映し出され、僕らのいるポイントがサークルで表示されていた。

 そのサークル周辺一帯が水色に光っていて、シンさんはこれを円墳のようだと言っている。

 その報告に、渋川さんはとても懐疑的だった。

 シンさん達が周辺の探索を開始して、僕もそれに混ざろうとした時だった。

 ナオミさんは、ある1箇所を見つめていた。

 

「……?」

「ナオミさん……?」

「いや、あれ……」

 

 

 

「監視カメラが、人間の姿を捕捉しました」

 

 時を同じくして、惑星侵略連合の基地。

 ナックル星人ナグスの手下の黒服が現れ、ナグスに報告をした。

 ナグスは右手をかざして空中にディスプレイを展開する。

 そのディスプレイにジャグラーも視線を向ける。すると、ジャグラーにとっては馴染み深い連中の姿を見た。

 

「ほぅ……。奴ら、ウルトラマンオーブの仲間ですよ」

「6人か……」

「6人?5人じゃないか?」

 

 タルデが人数を数えて声に出すが、ナグスはタルデの数え間違いを指摘する。ナグスの瞳には、その場に地球人が5人いるようにしか見えなかったからだ。

 すると、先程自分の首筋に刃を当てた男がその補足をするように発言する。

 

「少し離れたところに、白い服の女がいますね」

「女……?そんなのいないぞ?」

 

 やはり何度見直しても、ナグスにはその白い服の女は見えなかった。

 

 

 

 目の前に現れた白い服の女の人を直視していた僕とナオミさんだったけど、その人はすうっとその姿を消してしまった。

 

「……ッ!」

「キャップ?シンヤ君?どうかした?」

「そこに、白い服の人が……」

「僕も見ました……!」

 

 ナオミさんが、さっきの人がいた場所を指差しながらみんなに説明する。僕もナオミさん同様、頷きながら話す。

 渋川さん達もその方を見るけど、何も見えていないようだった。

 

「いや?俺には何も見えないけど」

「でもいたんですよ……!本当です、信じて下さい……!」

 

 

 

「消えたッ!?どういうことだ!」

「おいおいおい、気味の悪いこと言うなよ……!」

 

 白い服の女が消える瞬間を見たタルデが動揺していると、ナグスは急に立ち上がり両手で自身を抱き上げる。

 ──この瞬間、ジャグラーとヨミは内心ほくそ笑んでいた。

 

「……奴らを空間幻惑装置で、この森に閉じ込めろ!久し振りの人間狩りだぁ……!」

 

 そんなことも知らないナグスは部下に指示を出し、意気揚々と出ていった。

 

 

 

「あれ?」

「故障ですか?」

 

 森の探索を続行していた途中で、シンさんの発明品の液晶が突然映らなくなってしまった。僕らが駆け寄って画面を見ても、やっぱり真っ暗だ。

 不思議そうな顔で機械の向きの方角を変えたシンさんが、突然息を飲んだ。

 

「ハァッ……!」

 

 僕らもその方を見ると、森の奥から赤い目の宇宙人とその手下のような黒服が現れた!

 

「お前は……ナックル星人!?」

「侵略宇宙人か!」

 

 僕が咄嗟にみんなの前に出ると、すかさず渋川さんがビートル隊隊員が所持する拳銃「スーパーガンリボルバー」を構えて飛び出す。

 ナックル星人は、右手に持っていた光線銃の一撃で渋川さんのスーパーガンリボルバーを破壊する。

 

「渋川さん!」

「バカめ!そんな貧弱な銃で、俺に敵うと思うか?」

「SSP、総員退避~!」

 

 危機を察したナオミさんの号令で、全員が一斉に駆け出す。いつ後ろからやって来るか分からないナックル星人達に警戒しながら、時々後ろを見て走る。

 すると先頭を走っていたナオミさんの足が止まる。何事かと思ってその視線の先を見ると、ナックル星人達が待ち構えていた。何度も逃げるけど、その度にナックル星人達は待ち伏せていた。

 何度目かの逃走で体力を消耗していたナオミさんが、何かにつまずいて転んでしまった。

 

「う、うわぁぁぁ!」

「ナオミさんっ!大丈夫ですか!?」

「痛ったぁ……。ってこれ……!」

「これは……、石碑?」

 

 ナオミさんが転んだことに気付いたジェッタさん達が戻ってきて、僕らに駆け寄る。ナオミさんはその石碑を示し、それにシンさんが食い付いた。その石碑に刻まれていた一文を読み上げたシンさんは、これがすごい発見かも知れないと声を上げた。

 

「それより早く逃げないと奴らが……!ほら来たって!」

 

 ジェッタさんが叫んだ時には、既にナックル星人達が接近していて、僕らは石碑のことも忘れて一心不乱に駆け出した。

 

「おい!どうなってんだよ!?逃げても逃げても、待ち伏せされてるぞ!?」

「まるで、空間全体が歪められてるみたいです……!」

 

 渋川さんとシンさんが走りながらこの状況を話し合う。

 シンさんが言っていた「空間全体が歪められている」と言うのは、きっとその通りだ。そしてそれを操っているのは、きっとナックル星人もしくは別の宇宙人の仕業に違いない。

 

「そろそろ終わりにしようかぁ?」

 

 走り続けて体力の限界に達しつつある僕らに、ナックル星人の光線銃が火を吹いた。

 足元に発射された光弾の火花に驚いた僕らは、ほぼ同時に尻餅を突いた。

 

「もうダメだ……!」

 

 ジェッタさんが諦めかけていた時、僕ももうダメだと思い始めていた。

 それでも、それでもまだ諦め切れない自分がいた。

 ナックル星人から目を反らしたナオミさんは、林の間を見つめていた。僕もそれに習って横を見ると、さっきの女の人が手招きをしていた。

 

「あ、あの人……!こっちにおいでって……!行ってみよう!」

 

 今度はジェッタさんにも見えていたようで、あれが幽霊だと言い怖がる様子を見せたけど、ナオミさんが駆け出したのを見て後を追い始めた。

 その道をずっと走り続けていたら、いつの間にか森に入った場所まで辿り着いていた。

 

「抜けた……!」

「おい!来たぞ!」

 

 森から出られて安堵したのも束の間、ナックル星人達まで森を抜けていた。

 

「よっと……。どうやって幻惑装置を振り切った?まぁいい……。行け」

 

 ナックル星人が黒服に指示し、僕らも逃げようとするけど、行く手をそれぞれ阻まれてしまった。

 

「お前らもう袋のネズミだ!」

 

 万事休す。そう思った時、渋川さんが笑い出した。

 

「ハッハッハ……!ッハッハッハッハ!この私の柔道5段、空手3段の腕前を見せる時が来たようだな……!おいお前達、危ないから下がってろ!」

「渋川さん……!」

 

 渋川さんがこれまで見せたことのないかっこよさで、ナックル星人に挑む!呼吸を整えて、(謎の)側転を繰り出してナックル星人に殴りかかる!

 しかし現実は非情だった。

 

「おらよっと!オラァ!もういっちょ!」

 

 逆にナックル星人に掴まれ、頭突きを3発喰らって僕らの元に戻ってきた。

 

「全然ダメじゃん……!」

「強ぇよ、あいつ……!」

 

 ジェッタさんがそれに呆れて渋川さんに言うが、渋川さんは情けない声で答える。

 今度こそダメかと思った瞬間。あのメロディーが聞こえた。

 

『♪~』

「何だ、この曲はァ……!頭が痺れる……!どこだ!?あそこだッ!」

 

 それを聞いたナックル星人とその手下は頭を抑え始める。このメロディーがどこから聞こえるのか周囲を見渡したナックル星人は、ある建物を示した。

 そこにいたのは、帽子を深く被った風来坊だった。

 

「お前は誰だァ!!」

「お前みたいなゲス野郎に、名乗る名前は持っちゃいねぇ!」

「ナメた口利きやがって……!俺は宇宙最強の……!」

 

 そう名乗る前に、ナックル星人に飛び蹴りが炸裂した!

 その飛び蹴りを喰らわせた本人はゆっくりと表を上げた。

 

「ガイさん!」

 

 その姿を確認した僕は、思わず前に飛び出した。

 

「シンヤ!お前も下がってろ!」

「いえ、加勢します!ガイさんはナックル星人を!僕は、この黒服達を!」

「あんまり無茶すんなよ!」

 

 ガイさんはナックル星人の光線銃の弾丸を素手で弾き、相手に蹴りとアッパーのコンボを与える。

 僕はというと、黒服2人を相手取っていた。ここでも以前の現象が起こり、黒服達の挙動1つ1つがはっきり見えた。その打撃を受け流し、逆に黒服達を沈めていく。

 

「いいから早く逃げろッ!」

「ここは、僕達が食い止めます!」

 

 僕とガイさんの戦いを物陰から見つめていたナオミさん達に、逃げるよう促すガイさん。

 それを受けてか、ナオミさん達はさっさと駆けていった。

 

「やっと現れたな……。オーブ」

 

 この戦いを眺めていたのは、ナオミ達だけではなかった。

 ジャグラーは1枚の怪獣カードを構えて、ダークリングに読み込ませる。

 

【アリブンタ!】

 

 地面に撃ち込まれたカードは、あるべき姿へと変貌する!

 土砂を巻き上げ現れたのは、「大蟻超獣 アリブンタ」だ!

 

「怪獣だ……!」

「怪獣じゃない……!『超獣』アリブンタだ!」

 

 ジェッタが怪獣だと声を上げたが、ジャグラーはすかさずツッコミを入れる。

 大蟻超獣 アリブンタ。

 かつて「ウルトラマンエース」と死闘を繰り広げた「異次元人 ヤプール」の配下のエージェント「ギロン人」が、ヤプールから拝借した超獣だ。

 超獣とは、怪獣を超える力を持つ生物である。その力は凄まじく、ヤプールが復活する度に超獣も現れ、何度もエースを始めとしたウルトラ戦士達を苦戦させてきた。

 アリブンタは、口から何でも溶解する強力な蟻酸を放射する。それを浴びた空き家が文字通り溶けた。その側を走っていたナオミ達も危うく巻き込まれるところだった。

 何とかSSP-7の元に辿り着いたナオミ達は乗り込もうとするが、この場にいない人達を探す。

 

「ガイさんとシンヤ君はどこ?」

「そう言えば渋川さんは?」

「あ、あれを見て下さい!」

 

 シンの呼び声に釣られて、シンが指差す方角を見たナオミとジェッタが見たのは、円盤が空に浮上する瞬間だった。

 

「UFOだ!撮って、撮って!」

 

 その決定的瞬間を逃す訳にはいかないと、ナオミ達はガイ達を探すことを忘れて円盤の撮影を開始した。

 

 

 

 ナックル星人達を退けたガイとシンヤは、アリブンタと円盤のそれぞれを見つめる。

 

「ガイさん、相手は超獣、一筋縄ではいかない相手です。油断しないで下さい!」

「超獣か……。あぁ、任せな!」

 

 左手に持ったオーブリングを構え、ガイは戦うための姿へと変わる!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 町に降り立ったオーブは、いつものファイティングポーズを取って名乗りを上げた!

 

『俺の名はオーブ!闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 オーブの登場に高揚するSSP。

 そして白い服の女が、オーブを見つめていた。

 

「あそこに白い着物の女性の幽霊が!ほらあそこです!」

「そんな一編に撮れないって!」

 

 シンがその女の存在に気付いて、オーブを撮影するジェッタのカメラの向きを無理矢理変える。

 それに対してジェッタは必死に抵抗し、オーブを撮り続けた。

 

『オォーッ、シャアッ!』

 

 しばらく睨み合いが続いていたが、先に動いたのはアリブンタ。オーブに向かって行くが、がら空きの胴体に蹴りを入れられ、すかさず繰り出されるチョップを喰らう。負けじと鉤爪を振るうが、後ろ回し蹴りで弾かれ宙を斬る。

 オーブはアリブンタを掴んでそのまま押し倒す。だが、逆にマウントを取られてしまう。肉薄するアリブンタを蹴り飛ばして何とか体勢を整える。

 するとアリブンタは反撃で、蟻酸をオーブの顔面に吹きかける。オーブであっても蟻酸を浴びせられてはたまらなかったのか、脇に転がって蟻酸のシャワーを回避した。しかしあれを浴びたからか、顔を押さえ出す。

 その隙を逃さなかったアリブンタは、両腕から火炎を放射する。直撃する寸前でオーブは脇に飛び、何とか避けられたが火炎は周囲を焼き、その一帯で爆発が起こった。

 勝ち誇るように鳴き声を上げるアリブンタに向き合ったオーブは、改めて超獣の恐ろしさを痛感した。

 

『害虫駆除は、大変だぜ!』

 

 そう言い放つとオーブの身体が輝き、オーブはその姿を変えた!

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

「熱いやつ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

『紅に、燃えるぜ!』

 

 巨大な角を持つ紅の巨人に変化したオーブは、炎を全身に纏って現れ空中に飛ぶ。

 それを迎撃しようとアリブンタは鉤爪に火炎を集中させる。

 だがオーブもまた、両腕に炎を纏わせてアリブンタに特攻。両者が衝突した時、火炎同士がぶつかり爆風が起こる。その爆風で、アリブンタの火炎は鎮火された!

 

『これが、爆風消火ってヤツさ!』




後編に続きます。


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第6話 入らずの森 ー後編ー

続きです。
この回のアリブンタの仕草が可愛かったなと個人的に思った作者です。

では、どうぞ。


 先程の特攻で再びアリブンタを押し倒したオーブは、その隙にまた姿を変えた!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

『光を越えて、闇を斬る!』

 

 身軽で素早い青き巨人に変身したオーブは、この姿での名乗りを上げる。アリブンタも起き上がり、オーブと対峙する。

 オーブは頭部のスラッガーに手を添えて、2枚の刃型のエネルギーを生成する。それを正面で回転させ、この姿専用の武器を召喚する。

 この時、アリブンタもその仕草を真似ていて、これから何が起こるのかと首を傾げた。

 

『オーブスラッガーランスッ!』

 

 三又の槍「オーブスラッガーランス」を掴んだオーブは両手でそれを回して、構える!

 

『シャアッ!』

 

 ハリケーンスラッシュ特有の素早い動きで得物を振るい、オーブは打撃を決めていく!

 するとこの戦いは不利だと察したのか、アリブンタは土を掘り起こして逃走しようとする。

 そうはさせないと、オーブは高速移動でアリブンタの元へ急ぎ、オーブスラッガーランスでアリブンタの背中を突き刺す。

 

『おい!この下には、大事な古墳が埋まってるんだ!ッ……!壊すんじゃねぇ!』

 

 オーブスラッガーランスでアリブンタを突き刺したまま持ち上げたオーブは、アリブンタを空高く投げ飛ばす!

 そしてオーブスラッガーランスのレバーを3回引き、レバー付近の赤いボタンを押してアリブンタに向かって飛び、斬りかかる!

 

『トライデントスラッシュ!!』

 

 ランスの穂先にエネルギーを集中させ、光の刃を生成。その刃でアリブンタを何度も斬り付ける。トドメに右下段から左上段に向けて、斜めにアリブンタの胴体を斬り上げる!

 上空で身動きの取れなかったアリブンタは、トライデントスラッシュの斬撃をまともに喰らい、爆発!

 オーブの勝利にSSPの面々は盛大に湧き立ち、ジェッタはナオミに感想を述べさせる。戸惑いながらも、ナオミはぎこちない笑顔でカメラに向かって感想を言った。

 すると聞き慣れた声がして、ナオミ達はその方を向いた。

 

「おーい、おーい!」

「皆さ~ん!」

「あっ、渋川さん達だ!」

 

 アリブンタとの戦いを終えたガイさんと合流した僕は、ナオミさん達を見つけて走り出す。途中で渋川さんも合流して、僕らは全員無事に集合した。

 

「ご心配おかけしました」

「いや~ガイさんもすごかったけど、シンヤ君ってスッゴい強いんだね!俺、びっくりしちゃったよ!」

「確かに!やはり、人は見た目によらないということですね!」

「何かスポーツとか、格闘技とかしてたの!?やっぱり、ボクシングとか!?」

 

 ジェッタさんとシンさんの質問攻めを、苦笑いで誤魔化そうとするけど、やっぱり2人は止まらなかった。

 視線を横にずらすと、ナオミさんが僕達に言う。

 

「みんな、心配したのよ?今までどこ行ってたの?」

「そっちこそ、ケガはないのか?」

 

 ナオミさんが僕らを心配するけど、ガイさんの問いかけに口ごもって、小さな声で今日のことへの感謝の言葉を発する。

 するとジェッタさんが叫び出す。どうやら録画がされていなかったようで、シンさんはそれを録画ボタンを逆に押してしまったのではと指摘する。

 せっかくしっかり撮れたと思っていたジェッタさんは落胆するけど、ナオミさんが慰める。

 

「まぁ良いんじゃない?この森は、そっとしておきましょうよ……」

「あぁ。古墳が発見されてしまった以上、再開発計画は見直されるだろうな」

「それにしても、あの女性は誰だったんでしょうか?」

 

 僕らを助けてくれたあの女性のことを思い出して、僕が疑問に思ってそう言うと、シンさんが自分なりの考察を述べた。

 

「石碑には、玉響姫(たまゆらひめ)とありました。神話にある幻の姫君です。あれは、彼女の残留思念かも知れません」

「そっか。じゃあ帰って調べよう!行こ!」

 

 そして僕らは帰りの支度を始めたけど、ガイさんが立ち止まって森の方を見つめていた。

 

「ガイさん……?」

 

 僕も森を見ると、そこには僕らに微笑む玉響姫の姿があった。ガイさんが彼女に微笑み返すと、玉響姫はまた姿を消した。

 

「さ、俺らも行こうぜ?」

「は、はい。……あの、ガイさん!お願いしたいことがあります!」

「何だ、改まって」

「僕に……僕に、戦い方を教えて下さい!」

「は……?」

 

 突然そう言われたガイさんは、呆けたような顔になっていた。それはそうだろう。そんなことを言われるなんて、きっと予想していなかっただろうから。

 それでも折れずに、更に押す。

 

「今回のことで、僕も力不足を実感しました……。だから、ガイさんに戦い方を教わりたいんです!」

「お前な……」

「ガイさん、お願いします!」

 

 僕が深くお辞儀をして、しばらく沈黙が続いた。

 やっぱりダメかと思った時。ガイさんの手が、僕の肩に乗った。

 

「俺の指導は厳しいぞ?」

「……は、はい!よろしくお願いします!何なら、滝の流れを切ったり、ジープでも頑張りますよ!」

「さすがにそこまではしねぇよ……。それに何だよジープって……」

「あ、アハハ……」

 

 こうして、僕はガイさんに鍛えてもらえることになった。

 

 

 

「我が身内のために、貴重な超獣カードを使ってくれて、悪かったな……」

 

 惑星侵略連合の円盤内の広間。

 これまで空っぽだった玉座に腰かける宇宙人がいた。

 その名は「メフィラス星人ノストラ」。惑星侵略連合のリーダーで、配下から「ドン・ノストラ」と呼ばれている。

 悪質宇宙人 メフィラス星人。

 知性的な宇宙人でありながら、ウルトラ戦士と同等の戦闘力を持つ。

 初代メフィラス星人は地球を手に入れるために、ある1人の少年に地球代表として、地球を差し出すように交渉を迫ったが、何度も拒否され交渉は決裂。ウルトラマンと互角の戦闘を繰り広げたが、宇宙人同士の戦いは無意味とし、ウルトラマンに停戦を申し入れリベンジを誓って地球を去って行った。

 これまで多くの同族達が、ウルトラ戦士達と熾烈な戦いを繰り広げて来た。

 ノストラはこれまでのメフィラス星人とは違って、白いマントのようなものを羽織っていた。

 

「ウルトラマンオーブ……。聞きしに勝る力です」

 

 ナックル星人ナグスがノストラに言うが、ノストラに跪くジャグラーが口を開く。

 

「だが奴は決して無敵ではありません。

 本来の力を失ったオーブは、ウルトラマンの能力を宿したカードを2枚使って変身しています。……奴より強力な手札を持てば良いのです……。

 では皆様。今宵はこれにて、失礼……」

 

 そう言い残してジャグラーとヨミは立ち上がり、円盤から去って行った。それを見届けたメトロン星人タルデが、ノストラに進言する。

 

「偉大なるドン・ノストラ……!あのような者達を仲間に加えてよろしいのですか!?奴は元々、光の勢力に身を置いていたと聞きます。我々の寝首をかくつもりなのかも知れません……!

 それに……、奴の従者を名乗るあの男は危険です!早急に、手を打たねば……!」

 

 それを受けたノストラは、のっそりと重い腰を上げる。

 だがその口から発せられたのは、タルデの予想を大きく裏切る一言だった。

 

「最後に笑うのは、切り札を持つものだ……」

 

 ノストラはマントを翻し、隠し持っていたカードを取り出す。

 そのカードは、M78星雲・光の国出身で唯一の暗黒ウルトラ戦士のカードだった。

 そのカードを見つめながら、ノストラは語り出した。

 

「この宇宙には、光と闇のカードが眠っている……。ジャグラーは、強力な魔王獣カードを6枚持っている。奴からそれを頂戴するのだ……!」

 

 

 

 惑星侵略連合の円盤から降りて、しばらく夜風を浴びつつ立ち尽くしていたジャグラーは、待ち人が来るのを待っていた。

 そして、ようやくやって来た相手に尋ねた。

 

「ヨミ、どうだった?」

「やはりノストラが『黒き王』のカードを所有しておりました。連中も我々を利用する腹積もりのようです。いかが致しますか、ジャグラー様?……今の内に全員、潰しましょうか?」

 

 ヨミはあの広間を退室した後、ジャグラーの密命を受けて円盤の中に潜み、彼らの会話の一部始終を全て盗み聞いていた。

 その詳細をジャグラーに伝えたヨミの瞳は、殺意に満ちていた。

 

「まぁ待て。きっとその時は来る。……それまではまだ、奴らに乗っかってやろうじゃないか」

 

 そんなヨミを抑えたジャグラーは邪悪な笑みを浮かべながら、夜空の暗闇に飛んで行く円盤を眺めて、ふと呟いた。

 

「さぁて、最後に笑うのは誰かな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「皆さーん!ウルトラヒーロー大研究のコーナーですよ~!」

ガイ「今回はちゃんと忘れてなかったみたいだな」

シンヤ「ガイさん……。前回までのことは水に流して下さい……」

ガイ「さぁて、どうしようかな」

シンヤ「(今回のガイさん意地悪だなぁ……)さ、今回紹介するのはこの方ですよ!」

 

【ウルトラマンオーブ!ハリケーンスラッシュ!】

 

シンヤ「今回は、この姿のオーブの使用する技についての紹介です!」

ガイ「まずは『オーブスラッガーショット』。頭のスラッガーから刃型の光線を撃つんだ。この技はゼロさんの『ゼロスラッガー』のように軌道を操作できるんだ!」

シンヤ「名前の由来はゼロさんのゼロ『スラッガー』とジャックさんのウルトラ『ショット』らしいですね」

ガイ「次は『オーブランサーシュート』。専用武器の『オーブスラッガーランス』のレバーを1回引くことで発動!槍の穂先から光線を撃つんだ!」

シンヤ「オーブスラッガーランスを使って発動する技は、複数あります。その1つが『ビッグバンスラスト』。ランスのレバーを2回引いて発動!相手に直接突き刺して、高エネルギーを体内に放つという中々エグい技です…!先程の技と合わせて、ハイパーゼットンに対して使いました!」

ガイ「最後に紹介するのは、『トライデントスラッシュ』。レバーを3回引いて発動。斬撃系に当てはまる技で、穂先にエネルギーの刃を生成して、相手を何度も斬り付ける技なんだ!」

シンヤ「今回現れた、惑星侵略連合の宇宙人達……。どれもウルトラ戦士の皆さんを苦しめた連中ばかりです!ガイさん!これからも、頑張りましょう!」

ガイ「あぁ!どんな奴が相手でも、俺は絶対に負けない!」

シンヤ「その意気です!それでは、今回はここまで!」

 

 ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 予知夢を見る謎の少女、ハルカ。

 怪獣の出現を言い当てる彼女が出した次の予言。それは、オーブの敗北。

 冗談じゃない!未来は変えられるってこと、俺が証明してやるぜッ!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『霧の中の明日』。

 紅に燃えるぜぇ!




…いかがだったでしょうか。
次回はちょっと手を加えたいかなと考えています。

隠れサブタイトルは、『ウルトラセブン』第6話『ダーク・ゾーン』でした。

ではノシ


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第7話 霧の中の明日 ━前編━

どうもです。

お気に入り登録、ありがとうございます。
それでは、どうぞ……。


 少女は瞼を開く。

 周囲は真っ白な空間で、そこがどこなのかも分からない。視線を左右に泳がせると、8月20日のカレンダーと翼の生えた象の石像が見えた。

 足元を見ると、スカートの裾が風に吹かれて揺れていた。その風のおかげで気付いたことだが、どうやら自分は霧の中にいたようだった。

 その幻想的な空間に戸惑っていた時だった。どこからか、獣の唸り声に似た音がした。

 少女が咄嗟に見上げると、霧の中に瞳を輝かせる巨大な怪物を見た。

 

 

 

 少女はまた瞼を開いた。だがそこは、これまで自分が過ごしていた部屋で、自分はベッドの上で横たわっていたことに気付く。

 外からは電車の走行音や鳥のさえずりが聞こえて、中途半端に開いていたカーテンの隙間から朝日が射し込んでいる。

 身体を起き上がらせてベッドから降りた少女は、学習机の卓上カレンダーの日付を確認する。

 今日は、8月19日だった。

 すぐに立ち上がって机に向かった少女は、使い慣れたスケッチブックの空白のページに鉛筆を走らせていく。そこに描くのは、ついさっき夢で見た巨大な影。

 その絵のデータをパソコンに転送して、自身が運営するサイト──『HARUKAの夢日記』に掲載する。

 

『8月20日、つばさぞう公園にて巨大怪獣が出現』

 

 エンターキーを押せばそれで終わりなのだが、少女──霧島ハルカはそれを一瞬躊躇うが、意を決してエンターキーを押した。

 

 

 

「『HARUKAの夢日記』?」

「何ですか、それ?」

「良いから見てよ!」

 

 ナオミさんと僕がそれぞれ菓子パンを頬張っていた時、ジェッタさんが聞き慣れないサイトの名前をナオミさんに言っていた。僕も聞いたことがなかったからそれに便乗して聞き返すと、ジェッタさんがパソコンを見たまま手招きをした。

 

「はぁ~、気持ち良かったな~」

 

 僕らがジェッタさんの元へ行こうとした時、丁度ガイさんも浴場から出て来た。今回は先日とは違って、きちんと上下衣服を着用していた。それもどうやらズボンはシンさんの、ベストはジェッタさんのお気に入りのものだったようで、2人がそれぞれガイさんに指摘する。

 そんなジェッタさんにナオミさんは、サイトの説明の催促をする。

 ジェッタさんによると、このサイトの日記ではこれまで現れた怪獣のことが書かれているらしい。

 

「『5月29日、空から巨大怪鳥、降臨』……って、これ!マガバッサーじゃないですか!」

 

 僕もジェッタさんのパソコンの画面を拝見すると、そこには鉛筆で描かれた巨大な鳥──マガバッサーが写し出されていた。

 その他にも魔王獣達やハイパーゼットン、EXレッドキング、サンダーダランビアに最近僕らがあの森で遭遇したアリブンタが描かれていた。

 

「しかもどの日記も、怪獣が現れる前の日に更新されているんだ!」

 

 ジェッタさんは得意げに補足の説明をする。

 その説明にナオミさんが口を開くより早く、僕がジェッタさん達に尋ねる。

 

「後から、更新日を改ざんしたって可能性はどうですか?」

 

 僕の質問に答えたのはシンさんだった。シンさんもそう思ってサーバーの情報を調べてみたらしいけど、改ざんの痕跡は見つからなかったとのことだ。

 

「じゃあ……この人は、あらかじめ怪獣を夢で見てるってこと!?」

「そう!予知夢だよ!」

 

 予知夢についてシンさんが熱く語り出し、そのメカニズムを解き明かすことが出来れば、現在開発中の未来予測システムに応用出来るかも知れないと上機嫌になっていた。

 

「そして、これが最新の日記!」

「8月20日って……!明日じゃない!」

 

 ナオミさんとジェッタさんが最新の日記に釘付けになっていた時、僕も違った意味で画面から目が離せなかった。

 

(この怪獣……!まさか!)

 

 

 

 場所は変わって、『HARUKAの夢日記』を運営するハルカの自宅にて。ハルカのパソコンに『NAOMI』と名乗る人物からのメールが届いた。

 ハルカはそのメールをすぐに開いて内容を確認した。

 

『ハルカ様。

 あなたの夢日記に興味を持ちました。

 私も、幼い頃に不思議な夢を見て、現在頻繁する怪獣出現とウルトラマンオーブについて調べています。あなたに不思議なシンパシーを感じます。

 直接会ってお話しませんか?』

 

 そのメールに怪しさを感じつつも、ハルカはその誘いを受けることにした。

 

 

 

「『SOMETHING SEARCH PEOPLE』……?取材だなんて聞いてないんですけど…」

「記事にはしません。私の、個人的な興味だから」

 

 SSPのオフィスにやって来たのは、あのサイトを運営するハルカさんだった。

 ナオミさんから名刺を受け取ったハルカさんは、警戒心を露にする。

 実はあのメールを送ったのは、我らがSSPのキャップであるナオミさんだった。素性を明かさなかったことに対して、申し訳なさそうにハルカさんに今回の対談の説明をした。

 僕はナオミさんに何とか無理を言って、今回の対談に同席させてもらえるように手配してもらった。

 霧島ハルカ。都内の大学に通っているそうで、その傍らあのサイトを運営しているらしい。

 綺麗な髪を肩まで伸ばしていて、どこか暗い印象を抱かせた。

 そこに水を差すように、ジェッタさんとシンさんが割り込んでくる。それぞれがSSP特製の紅茶とシフォンケーキをハルカさんに差し出す。特にシンさんは「シフォンケーキ」のことを「シ・フォン・ケイク」と、なぜかこだわりを見せる呼び方で差し出す。

 

「もう、2人ともそんなキャラじゃないでしょ!ほら下がって!下・がっ・てっ!」

 

 ナオミさんは、2人をなだめるように脇に追いやる。2人は渋々それを了承した。

 ナオミさんがそうしている間に、僕はハルカさんに問いを投げかけた。

 

「えっと……。ハルカ、さんで良いですか?」

「え……。は、はい」

「ありがとうございます。で、ハルカさんは、いつから予知夢を見るようになったんですか?」

「子供の頃から。不吉な前兆をよく夢に見ていたんです。それが最近、怪獣の夢ばっかり見るようになって……」

「子供の頃から……」

 

 ハルカさんの受け答えははっきりとした返答だったけど、どれも語尾が弱々しい自信のないものだった。

 

「じゃあ、今朝の日記も?」

 

 ナオミさんがそう聞くと、ハルカさんはまた自信なさげに頷いた。

 

「夢の通りなら、明日つばさぞう公園に怪獣が現れるってことよね?」

「……でしょうね」

 

 ナオミさんは、そのハルカさんの一言が気になって聞き返すけど、脇からジェッタさん達がまた割り込んで来て、ナオミさんの声を掻き消した。

 

「それって、すごい力じゃんか!」

「怪獣の出現を予知出来るなら、犠牲者を減らせるかも知れません!」

 

 ジェッタさん達は意気揚々と語るけど、ハルカさんはそれを「無理」の一言で切り捨てる。

 その場にいたガイさんを除いた僕らは、ハルカさんのその言葉に疑問を抱いた。その雰囲気を察したのか、ハルカさんは塞ぎがちに呟く。

 

「明日は見えても……。明日を変えることなんて出来ない」

「どういう意味……ですか?」

 

 僕がそう聞くと、ハルカさんは僕を直視しながら言い放った。

 

「運命には逆らえないってこと。……こんな力があっても、今まで良いことなんて何もなかった」

 

 そう言ってハルカさんは視線を下げる。

 僕は、その言葉に何か深い意味があるように思えた。

 

「ナオミさん、あなたは違うんですか?」

 

 するとハルカさんはナオミさんと向き合って、そう聞いた。ナオミさんも突然話を振られるとは思っていなかったのだろう、少し戸惑いながらもハルカさんに語り出す。

 

「……私はね、小さい頃に光の巨人の夢を見たの」

 

 ナオミさんは、その夢の内容を思い出すようにゆっくりと続きを語る。

 

「SSPを立ち上げたのもその不思議な夢がきっかけなの。あの夢にどんな意味があるのか、それはまだ分からないけど……。ウルトラマンオーブとは何か運命的な繋がりを感じるの。

 ……ハルカさん。あなたの見る予知夢も、もしかして、誰かの運命に関係があるんじゃないかな?」

 

 そうナオミさんが言っている最中にふと視線を動かすと、ガイさんは少し驚いた様子だった。

 僕も、その光の巨人について思うところがあった。

 僕がこの世界にやって来るきっかけになったあの時、僕は怪獣と戦う光輝く巨人の姿を目撃した。あの巨人が何だったのか、まだそれは分からない。もしかしたら、あれはオーブだったのかも知れない。

 でも、そのことを思い出していた時、僕の中に1つの疑問が生まれた。

 

(あれ……?僕は、この世界に来る前、何をしていたんだっけ……?)

 

 生まれた疑問を突き詰めようとするけど、ある一定のことを思い出そうとすると、その先がまるっきり思い出せなくなっていた。

 

(何で……?何で思い出せないんだ……?)

 

 その疑問に四苦八苦していた僕を現実に引き戻したのは、これまで平静を保っていた人物の一言だった。

 

「おっ、明日の天気は晴れか。絶好の洗濯日和だぞ?」

「ちょっと、今大事なお話ししてるんですけど?」

 

 ガイさんの心ない一言に呆れたナオミさんは、ガイさんを言い咎めた。

 するとハルカさんは、帰る支度を始めて立ち上がった。

 

「もう良いですか?学校行かなきゃいけないので。……失礼します」

 

 そう言って一礼すると、ハルカさんは足早に去って行った。最後にチラッと、ガイさんを見て。

 

 

 

 町に轟音が響いて、それと同時にあちこちで爆発が起こったのが見えた。

 その原因は、私が予知した恐ろしい怪獣が、町を襲っていたからだ。怪獣は、その口から虹色の怪光線を発射。町中を破壊する。

 次に見えたのは、さっきナオミさんのオフィスで見かけた男の人。左手にリングのようなアイテムを持っていて、それを天高く掲げると、その人は炎を纏う紅の巨人へと変わっていた。

 そしてその時、私の隣にいたのは……。

 

「……さん!……ルカさん!ハルカさん!」

 

 その声でハッと目を覚ましたハルカは、自分がどこにいるのかを把握した。

 場所はつばさぞう公園。自分はどうやらあの後、ここでうたた寝をしてしまったようだ。

 そして正面を見ると、つい先程分かれた人と再会した。

 

「あなた……。えっと……」

「眞哉です。すみません、寝ていたところを起こしてしまって……」

「う……。ううん、気にしないで」

 

 少々ぎこちない会話をしていた時、隣から別の声が聞こえて、ハルカはすぐにその方を見た。

 そこにいたのは、瓶のラムネを片手に公園を眺める青年だった。

 

「平和だな……。明日、ここに怪獣が現れるなんて誰も知らない。こんな穏やかな日常が明日も、明後日もずっと続けば良い……。アンタもそう思わないか?」

 

 ガイさんはハルカさんにそう言いながら、少しずつラムネを飲んでいた。

 その横顔をじっと見ていたハルカさんは、驚いた様子でガイさんを指差しながら言った。

 

「ウルトラマンオーブっ!」

「ブフッ……!いきなり何言い出すんだ……!」

 

 それを聞いたガイさんは、盛大にラムネを吹き出した。

 僕も焦りながらガイさんのフォローに回った。

 所々途切れながらもハルカさんに何とか言い聞かせようとするけど、ハルカさんは僕にも食い気味に攻め立てる。

 

「が、ガイさんが、う、ウルトラマンオーブ?や、やだなぁ、ハルカさん……!そ、そんな訳、ないじゃないですかぁ……!」

「ようやく思い出した!あなたも今までの予知夢の中に出て来た!そっか、さっきからあなたに感じてた違和感はこれだったんだ!」

「ぐ、偶然、居合わせたって、可能性もあながち……」

「いいえ、それはないわ!オーブのいるところに、あなたはいたもの!偶然な訳ないわ!」

 

 その指摘の嵐にたじたじになってしまった僕をスルーして、ハルカさんは次の標的をガイさんに切り替える。

 

「今夢に見たの!明日あなたが、ウルトラマンオーブになって怪獣と戦う姿」

「それ、ただの夢だろ?」

「あなたは不思議なリングを持ってた。その力で、ウルトラマンになるんでしょ!?」

「エッ、すごいな……!そこまでお見通しなのか……!?」

「じゃあ、本当にウルトラマンなんだ!!」

「ハルカさん!声が大きい……!」

「すごい!!みんなは救世主とか、光の巨人とか言ってるけど、その正体は人間だったんだ!そりゃ、誰も気付かない訳よね……!」

 

 大声で捲し立てるハルカさんを何とかしようと、僕とガイさんは必死に反抗するけど、そんな僕らの会話を聞き付けた子供達が、ガイさんの周りに集まって来た。

 

「なになにー?ウルトラマン?」

「ウルトラマンなのー?変身してー!」

 

 みんな期待に瞳をキラキラ光らせて、ガイさんを見つめる。それもそうだろう。憧れのヒーローが目の前にいるのだから。僕もきっと、この子達と同年代なら同じことをしていたと思う。

 でも今はそれどころではない。

 何とかして子供達を落ち着かせようと、僕は必死に考えて1つの答えに辿り着いた。

 

「みんな違うんだ!この人は、えっと……そう!ラムネのお兄さん!ラムネのお兄さんだよ!」

「そ、そうだよ!?僕、ラムネのお兄さんだよ!?」

 

 ガイさんも一瞬戸惑う様子を見せたけど、これに便乗して自分からそう名乗った。

 それからしばらくの間ガイさんは、子供達に「ラムネのお兄さん」の愛称で呼ばれるようになったらしい。

 

 

 

「俺の名は、クレナイ・ガイ。アンタの力を借りたい。明日現れる怪獣から、この町を救いたいんだ。……夢のこと、詳しく聞かせてくれないか?」

 

 公園から少し離れた川の流れる広場に僕らは移動して、ガイさんはハルカさんに協力を依頼した。

 でもハルカさんの答えは、オフィスの時と変わらなかった。

 

「……言ったでしょ。明日は見えても、明日を変えることは出来ないって」

「どうして言い切れる?」

 

 ガイさんが尋ねると、ハルカさんはこれまで予知夢が関わって来たことを自白した。

 子供の頃から見るのは決まって不吉な夢ばかりで、初恋の男の子が転校して失恋する夢や、ハルカさんの両親がケンカして、家族がバラバラになる夢……。

 しかもそれは全部現実になって、運命はあらかじめ決まってるんだと思い知らされたという。

 

「どうせ運命は変えられないんなら……。こんな力、初めからなければ良かったのに……」

 

 俯きながらガイさんに背を向けて、ハルカさんはそう語った。

 でもガイさんはハルカさんに更に問い続けた。

 

「本当にそう思うか?」

「え?」

「だったら、なぜ絵を描き続けている?なぜ夢日記のサイトを始めた?

 アンタは、心のどっかで信じてるんじゃないのか?その絵が……、いつか誰かの運命を変えられるかも知れないって……」

 

 ガイさんがそう言い終わる前に、ハルカさんはこれまで溜め込んでいた胸の内をさらけ出した。

 

「私は救世主じゃないっ!あなたみたいに運命を変える力も……」

「俺だって同じだッ!救世主なんかじゃない……!」

「ガイさん……」

 

 ガイさんも首を横に振って、本音をハルカさんにぶつける。

 ガイさんが今思っているのは、きっとあの少女のことだと僕は察した。

 レッドキングが現れた時期に、僕がガイさんに聞いた、ガイさんの忘れてはいけない過去の深い傷痕のことだと。

 

「かつて救えなかった大切な命もある……。その時に、本当の姿も、力も失っちまった。今は、他のウルトラマンの力を借りて戦ってる。

 過去は変えられない……けど、未来は変えられる。頼む……。アンタの力が必要なんだ」

 

 またハルカさんは塞ぎ込んでしまったけど、僕はガイさんの前に飛び出して深く頭を下げた。

 

「ハルカさん。僕からも、お願いします……!」

「ねぇ、シンヤさん。あなたは、怪獣が怖くないの?」

「へ……?何ですか、急に……」

「だって、いつもオーブや怪獣がいるところに、あなたはいる。ねぇ、どうして怖くないの?」

 

 そう聞かれて、僕はしばらく考えてしまったけど、背負っていたカバンからあのカードホルダーを取り出して、そこから1枚のカードを抜き取る。そして向こう岸の建物を見ながらぽつぽつと言葉を繋ぐ。

 

「僕だって、本当はものすごく怪獣が怖いですよ。あの建物みたいに大きいし、口から火や光線まで吐きますし、顔だって、おっかないんですから。本当に怖いですよ……。でも、戦うんです。怖いものに立ち向かって行く。それが、本当の勇気なんじゃないですか?」

「シンヤさん……」

「だから、ハルカさんも戦いましょう!その、運命ってやつに。……ね?」

 

 僕はハルカさんと向かい合わせになってからそう言って、最後に軽く微笑んでみせた。

 その後、ハルカさんは何も言わずに去って行った。

 するとガイさんが近付いてきて、僕に聞いた。

 

「シンヤ……。今の言葉は……」

「教わったんです。遠くの星から、来た人に」

 

 そしてさっき取り出したカードを、ガイさんに見せた。

 遠くの星から、愛と勇気を教えにやって来た、熱血先生のカードを。

──後で知ったことだけど、僕らとハルカさんとの会話を、公園の調査に来ていたジェッタさん達に目撃されていたようで、それを聞いたナオミさんは顔を膨らせてアルバイトへと向かったらしい。

 

 

 

 その夜、ハルカは新しく描いた怪獣の絵を添付して、サイトを更新した。

 サイトを更新しようと思ったのには理由があった。何より大きいのは、今日聞いた言葉だった。

 

──未来は変えられる。

 

 その言葉に僅かな希望を見出だして、ハルカはエンターキーを押した。

 

『皆さんにお願いです。明日、つばさぞう公園に怪獣が現れます。この日記を見た方は、出来るだけ多くの人に伝えて下さい。どうか1人でも多くの皆さんが助かりますよう……。』

 

 するとすぐさまコメントが寄せられてきた。早速確認するが、その内容はハルカの心を深く抉るものばかりだった。

 

──予知夢なんてどうせインチキでしょ

──不吉な絵ばっか描いてんじゃねぇよ

──アンタの妄想のせいで、怪獣が現れるようになったんじゃないの?

──すげぇ!みんな、明日怪獣見に行こうぜ!

──このサイト不気味。HARUKAって、何者だよ?

 

 サイトのコメント欄に殺到する心ない文字の羅列に耐えられなくなったハルカは、パソコンの画面を勢いよく閉じた。

 ハルカの抱いた希望はいとも容易く打ち砕かれ、ハルカは深く絶望した。

 

 

 

 

 

 ハルカはまた夢の中にいた。

 今回瞼を開いて目撃したのはこれまで見てきた夢の終わりで、とても信じられない光景。

 霧に包まれた町に怪獣を倒したオーブがいたのだが、倒したはずの怪獣がオーブの背後に回り込む。

 その怪獣は自分が予知夢で見た怪獣で、口から吐いた怪光線がオーブの背中に直撃。オーブは断末魔を上げて倒れ、変身が解除される。

 慌てて自分はオーブに変身する青年の元に駆け寄って、何度も何度も呼びかけるが、一向に返事はなかった。

 

 ハルカが目撃したのは、オーブが完全に敗北する瞬間だった。

 

 

 

 自分が悲鳴を上げてその夢は終わり、ハルカは跳ね起きる。どうやら昨晩はあのまま、机に突っ伏して眠ってしまったようだ。

 既に夜は明け、鳥のさえずりが聞こえた。驚いたハルカはカレンダーの日付を確認する。

 今日は、8月20日。

 つばさぞう公園に怪獣が現れて、オーブが敗北する日。

 しばらくカレンダーを凝視していると、窓の向こうから怪獣の雄叫びが聞こえた。

 

 

 

 8月20日。

 今日は朝から霧が立ち込めていて、先日の天気予報では晴れだったのにと、人々はがっかりしていた。

 つばさぞう公園は今日も変わらず、たくさん人が訪れていた。その大半は、『HARUKAの夢日記』に誘われてやって来たギャラリーばかりだった。

 各々は本当に怪獣が現れるのか、どうせガセだろ、早く出て来いとはやし立てる。

 僕とガイさんも、この公園に来ていた。ナオミさん達には何も言わず来てしまったけど、怪獣が現れるのを黙って見ているだけなんて出来なかった。

 すると霧の中に、何かが光ったのが見えた。どこからか吹いてきた風が霧を払うと、そこには巨大な怪物がいた。

 その突然現れた怪獣に、人々はパニックに陥る。

 僕はあの怪獣が何なのかを知っていた。

 

「やっぱり……!あれは、ホーだったんだ!」

 

 硫酸怪獣ホー。

 人間の負の感情「マイナスエネルギー」から誕生した怪獣で、その両目からは硫酸の涙を流し、尻尾からは毒ガスを放つ。

 そして僕は、どうして今回ホーが現れたのかを考えた。ホーが出現したということは、その源泉であるマイナスエネルギーを誰かが生み出したということだ。

 それが一体誰なのかを推測した時、1人だけ心当たりがあった。

 そんなことを考えている間にも、ホーは町を破壊する。踏み潰された自動車が爆発を起こし、町中には非常用のサイレンが響き鳴り渡る。

 ガイさんはどこかを目指して走り出し、僕もそれに倣って走る。そしてガイさんが辿り着いたのは、昨日ハルカさんと落ち合った場所。

 そこにはホーを直視するハルカさんがいた。

 

「ハルカ!」

「ハルカさん!」

 

 僕らの声に気付いたハルカさんは僕らに振り向く。その表情はどこか悲しげだった。

 

「奴は人間のマイナスエネルギーに反応して暴走する!早く止めないと……!」

「待って……!あなたは、あの怪獣には勝てない!」

「何言ってんだ!」

 

 ハルカさんは、今朝見た夢を語り出す。オーブが怪獣に敗北する夢を。

 立っていられなくなったハルカさんは、その場にへたりこんでしまった。

 

「やっぱり明日は変えられない!運命には逆らえないのよ……!」

「ハルカさん……」

 

 するとホーに異変が起きた。

 周囲に立ち込める霧を首から吸引し、目から硫酸の涙を流し始めた。その涙は、町の建物を溶かしだす。

 それを見たガイさんは、目を見開いてハルカさんに語りかける。

 

「……ハルカ、よく聞け!奴を暴走させてるのは、アンタ自身。その悲しみと絶望なんだ!

『運命には逆らえない』……。その想いこそが、マイナスエネルギーの正体だったんだ!」

「……やっぱりマイナスエネルギーの発生源は、ハルカさんだったんだ……!」

 

 どうやら、僕とガイさんの考えていたことは同じだったようだ。

 この可能性はあまり考えたくはなかったけど、昨日のハルカさんの話していたことや、ハルカさんが抱いていた哀しみとを組み合わせれば、ホーの出現する要素は十分揃うのだ。後はハルカさんが絶望するような出来事が重なれば、その悲しみと絶望を糧にしてあの怪獣は誕生したということだ。

 

「嘘よ……。私が、あの怪獣を……?」

「嘘なんかじゃない、しっかりしろ!……アンタ自身の心が、明日を闇に染めてどうする!?」

 

 ガイさんがハルカさんに語りかける間にも、ホーは霧を吸引し怪光線を発射。町を破壊し続ける。

 町を守るため、ガイさんはホーの元に向かおうとするけど、ハルカさんがガイさんの腕を掴む。でもガイさんはその腕を優しく放す。

 

「待って……!」

「アンタが夢に見た運命なんて、俺が変えてやる……!」

「ハルカさんは僕が……!それと、これを……!」

 

 駆け出そうとするガイさんに、懐から取り出した1枚のカードをガイさんに差し出す。

 ガイさんはそれを受け取り力強く頷いて、ホーに向かって行った。




「ラムネのお兄さん」誕生回でした。

後編に続きますよ~


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第7話 霧の中の明日 ━後編━

後編です。
マイナスエネルギーの生み出した怪獣を退治する専門家の登場です。


 左手に掴んだオーブリングを天高く掲げたガイは、紅の巨人へと変わる!

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

「熱いやつ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

 オーブは登場と同士に、上空から火炎弾をホーめがけて撃ち込む!

 そして町に降り立ったオーブは、力強く名乗りを上げた!

 

『紅に燃えるぜ!』

 

 するとホーは、そっぽを向いて泣き出した。その涙は流れ落ちて、道路を溶かす。

 ついさっきの火炎弾が良くなかったのかと、オーブが申し訳なさそうに脱力した時だった。

 オーブの方に顔を向けたホーが、不意打ちで怪光線を発射した!

 咄嗟にかわしたオーブがホーを見ると、上手くいったと喜ぶようにホーが手を叩いていた。

 つまり、さっきの涙は嘘泣きだったのだ。

 

『アアッ!!……ノヤロォ!!』

 

 まんまと騙されたオーブは怒り、ホーの首を掴みにかかる。振りほどいて頭部をがっしり捕まえてからの、勢いを付けたヘッドバット!痛がる様子を見せたホーに対して、殴りかかろうとしたオーブは動きを止める。

 その隙を突かれてホーのビンタ、頭突きのラッシュを喰らって飛ばされてしまう。

 そこから起き上がった途端に、怪光線をお見舞いされる。

 

『ウォアアッ!!』

 

 それを見つめていた僕らだったけど、ハルカさんが諦めたかのように叫ぶ。

 

「やっぱり勝てない……!運命を変えるなんて無理なのよっ!」

 

 ハルカさんの心境に呼応しているのか、ホーはオーブを圧倒。魔王獣を始めとした多くの強敵と渡り合ってきたオーブが、一方的に押されていた。

 起き上がろうとする度に蹴られ、まるでサッカーボールのように町を転がる。仰向けになったところを何度も踏みつけられて、次第にカラータイマーが点滅を開始した!

 

「このままじゃ……ガイさんが……!」

 

 オーブのピンチに俯いてしまうハルカだったが、隣から大声でオーブを応援する声が聞こえた。

 

「オーブ!頑張れ、オーブ!!」

 

 必死に叫ぶシンヤの横顔を見たハルカは、昨日出会った人達の言葉を思い出していた。

──ハルカさん。あなたの見る予知夢も、もしかして、誰かの運命に関係があるんじゃないかな?

──過去は変えられない……けど、未来は変えられる。

──怖いものに立ち向かって行く。それが、本当の勇気なんじゃないですか?

 

「……運命を、変えられる。変えなきゃ!」

 

 シンヤの前に飛び出して、ハルカはオーブに向かって叫んだ。

 

「負けないで!オーブっ!」

「もう一度立って、ウルトラマンオーブ!!」

 

 2人の応援が届いたのか、オーブはホーの足を掴んで押し飛ばした!

 オーブは額のクリスタルを輝かせると、全身に炎を纏ってホーに特攻した!

 

『ストビューム、ダイナマイトォォ!!』

 

 がっしりホーを捕縛したオーブは、全身の炎を一気に爆発させる!爆発が止んで、そこにいたのは膝立ちで構えるオーブだった。

 勝利を確信したオーブはゆっくりと立ち上がるが、背後に霧が密集して再びホーが出現したことに気付かなかった。

 霧を吸い込んだホーは、怪光線をオーブに撃つ!

 

 これは奇しくも、ハルカが見た夢の再現だった。

 しかし、運命を変えると決意した少女は、オーブに叫ぶ!

 

「後ろよ!避けて!」

 

 それを聞いたオーブは上空に飛び上がり、怪光線を回避。ホーの背後に着地した。

 

「ハルカさん……!やりましたね!」

「運命が……、変わった……!」

 

 これまで絶対に変えられないと信じてきた運命が目の前で変わったのを見て、ハルカは思わず笑顔になった。

 するとホーの首から煙が吐き出され、ホーも脱力した。

 向かい合わせになったオーブは、高らかに宣言する!

 

『俺も変わるぜ!』

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 紫の戦士『スペシウムゼペリオン』に姿を変えたオーブはホーに構えるが、一方のホーは涙を一滴流した。

 敗北を悟ったことによる悔しさの涙か、それともハルカの心境が反映された感謝の涙か。オーブにそれは計り知ることが出来なかった。

 そして必殺の『スペリオン光線』の構えを取った時だった。

 オーブの意志──ガイに語りかける男がいた。

 

「あなたは……」

「オーブ、迷える彼女を救ったその姿、実に見事だった。だが奴は、マイナスエネルギーが生み出した怪獣。私の力を貸そう」

「──ご協力、感謝します!」

「ハハッ、そう遠慮はするな。同じウルトラ戦士だろう?さぁ、私のカードを……!」

 

 瞳を開いたガイは、シンヤから受け取ったカードをオーブリングに読み込ませた。

 

80(エイティ)さん!」

【ウルトラマン80(エイティ)!】

 

 オーブはスペリオン光線とは逆に構えを取る。

 左腕を斜めに、右腕を水平に伸ばし、両腕を頭上で交差させる。そして両腕を腹部に下ろして放つのは──!

 

『バックルビーム!』

 

 腹部に集中させたエネルギーを、ホーに照射。

 するとホーは大人しそうに鳴き、光の粒子となって消滅した。

 ホーが消えた後、町中の霧も消えて、辺りは夕焼けのオレンジ一色となっていた。

 視線を感じ取ったオーブは振り返る。そこにはこちらに精一杯手を振るシンヤと、笑顔で頷くハルカがいた。

 2人を見届けたオーブは、輝く夕陽に向かって飛んで行った。

 

 

 

 後日、郵便受けに入っていたお便りを整理していた僕とナオミさん。僕らSSP宛に届いていたのはほとんどが請求書ばかりだった。

 請求書を何度か数えると、ナオミさん宛に便箋の手紙が届いていた。

 

「ナオミさんにお手紙です。差出人は……、ハルカさんからです!」

「ハルカさん!?何なに?」

 

 それを聞き付けて、ジェッタさんとシンさんが寄って来る。

 ナオミさんは便箋から手紙を取り出して、読み始めた。

 

『夢野 奈緒美様。

 この前は、急に出ていってしまってごめんなさい。

「明日は見えても、明日を変えることなんてできない」

 先日、私がお伝えした言葉、この場を借りて撤回させていただきます。

 私はある人と出会い、その人の運命を変えることができました。

 奈緒美さんの幼い頃に見たという光の巨人の夢。きっとそれも、あなたとウルトラマンオーブの運命に、何らかの関係があるのだと思います。

 いつか真実が明らかになりますよう祈っています。』

 

 SSPの面々が、ハルカからの手紙を読んでいた頃。ガイは橋に寄りかかって、いつもの曲を奏でていた。

 演奏を終えた時、後ろから突然声をかけられたガイは振り向く。

 

「素敵な曲ね」

「おぉ、元気にしてるか?」

 

 そこにいたのはハルカだった。しかし、以前と違って髪を2つに結い、表情がよりはっきり見えるようになっていた。

 ガイに返事をしたハルカだったが、少し考える様子を見せた。そしてぽつりぽつりと話し出した。

 

「……あなたの未来を夢に見たの。とても不吉な夢」

 

 その夢とは、ガイが苦痛の表情で1枚のカードに手を伸ばすというもの。そのカードは邪悪なオーラを纏い、夢の内容をより一層不吉なものにしたのだと。

 しかしハルカは、ガイと向かい合って笑顔で言う。

 

「でも心配しないで!あなたが教えてくれた通り、どんな運命も、きっと乗り越えられるから。あなたなら……あなたと、あの人ならきっと」

 

 それを聞いてガイはシンヤのことを思い出して、苦笑い気味に答える。

 

「そいつは頼もしいな」

「ガイさんしっかりね?」

「あぁ……、アンタも。幸せになれよ?」

「ありがと」

 

 感謝を述べたハルカはガイに近付いて、小さな声で耳元に囁く。

 

「……ウルトラマンオーブさん」

 

 そう言われて照れるガイだったが、笑顔で去ろうとするハルカを呼び止める。

 立ち止まって振り返るハルカが両腕に抱えるスケッチブックを指差して、ガイはこう告げる。

 

「ハルカ!……もしも明日を見失ったら、捜せばいい。アンタの明日は、そのスケッチブックみたいに真っ白だ」

 

 スケッチブックに視線を落とし、正面を向きながらハルカはまた笑顔でこう言った。

 

「『明日を捜せ』……。素敵な言葉」

 

 そう言い残して去って行くハルカを見届けたガイは、決意を新たに、ハルカとは逆の道を歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「ふっふっ!」

ガイ「どうした、シンヤ?空手の練習か?」

シンヤ「あ、ガイさん。いえいえ、これは今回紹介するウルトラ戦士さんのヒントです!」

ガイ「ほぉ~。その人は一体誰なんだ?」

シンヤ「じゃあ、ガイさんも一緒にやりましょう!こう、正拳突きを交互にして……」

ガイ「えっ、えっと……こうか?」

シンヤ「そうですそうです!それから……!」

 

 ~数分後~

 

シンヤ「皆さんおまたせしました!今回紹介するのは、この方です!せーの……」

 

(ガイとシンヤ、左右交互に正拳突きを繰り出し、右腕を高く上げて……!)

 

ガイ&シンヤ「「エイッティッ!!」」

 

シンヤ「ウルトラマン80(エイティ)さん。宇宙警備隊の隊員で、『ウルトラ兄弟』の九男です。

 地球には『矢的猛』という名前で、中学校教師として滞在していました」

ガイ「教師だったのか!」

シンヤ「その他にはないキャラクター性から、『ウルトラマン先生』や『80先生』と呼ばれることも。その傍ら防衛隊にも所属していて、かなり多忙だったかと思います。

 しかし物語が進むに連れて怪獣との戦いが激化。やがて、志半ばで学校を去ることになってしまいます」

ガイ「どうして、エイティさんは教師になろうと思ったんだ?」

シンヤ「それについては『80』本編終了から25年後の、『ウルトラマンメビウス』第41話『思い出の先生』をご覧下さい。この回は、真の最終回としてかなり高い評価を得ました」

ガイ「そろそろエイティさんの紹介の本筋に入るぞ。

 エイティさん本人の戦闘能力は高く、ウルトラ兄弟では唯一、本編で全勝するという快挙を成し遂げたんだ!」

シンヤ「主な必殺技は『サクシウム光線』。中でも『バックルビーム』はサクシウム光線以上の威力があります!

 しかし近年の劇場作品では、初の黒星を付けられてしまいました……」

ガイ「俺もいつか、エイティさんの指導を受けてみたいぜ……!」

シンヤ「えぇ、僕もです!では、今回はこの辺で!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魚屋に訪れる親子。

 これが人間なら普通の光景だが、半魚人だって言うんだから、町は大混乱だ!

 しかも、近海を荒らす怪獣まで出現してしまった!

 これじゃあ、魚が食えなくなっちまうぜ!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『都会の半魚人』。

 光を越えて、闇を斬る!




…いかがでしょうか。
これまで出番のない80先生に、今作オリジナル要素としてスポットライトを当ててみました。
80先生を使ったフュージョンアップ形態が思いつかなかったこともあって、こんな形になってしまって申し訳ありませんでした…。
もっと勉強が必要だなと思った回でした。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラセブン』第23話『明日を捜せ』でした。

では……ノシ


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第8話 都会の半魚人 ━前編━

 誰もが仕事を終えて、帰路に着く夕暮れ時。町中にそれを知らせる鐘の音が響く。

 北川町のとある魚屋では、この時間にタイムセールとして大安売りを行っていた。

 そしてこの店の店主の源さんこと、戸松源三郎はセールに向けて、商品の乗った笊に半額と書かれた札を差し込んでいく。

 すると日頃見慣れた主婦が、魚介類を買い求めにやって来た。

 

「やっぱ、生モノを買うにはこの時間に限るわね~!」

「勘弁して下さいよ~!そんなお客様ばっかりになったら、魚屋は3日で干上がっちまいますよぉ!」

 

 笑いを交えて会話は弾み、その主婦を皮切りにぞくぞく客がやって来た。

 今日の営業が終了して、営業当初に比べてすっかり重くなったシャッターを下ろして、店主は店じまいの準備に取りかかった。

 今日の営業でも、売れ残りはいくつかあった。その売れ残った魚介類を1つひとつ見比べて、砕いた氷を敷いた発泡スチロールの中に入れる。

 しかし源三郎は適当なものを選んでいた訳ではなかった。この仕事を始めて数十年、そこで培って来た観察眼で新鮮なものだけを選び抜いてゆく。

 源三郎はその発泡を抱えて店裏の倉庫へと足を運び、倉庫内の手持ちのランタンに明かりを灯す。

 その明かりを元に奥へ奥へと進んで行く源三郎は、倉庫の棚の奥からこちらを覗く相貌に気付かなかった。

 色鮮やかな大漁旗で区切られたスペースに到着した源三郎は、手前の旗を外した。

 

「遅くなっちまったな!今日は、良いネタが売れ残ったよ!坊や、腹ペコかい?坊や、坊や~?」

 

 倉庫と言っても、そこはある一種の居住スペースになっていた。そこには子供が遊びに使うような玩具が数点置かれていて、ここに子供が暮らしていることを感じさせる。

 しかし、どうしてこんなところに子供が……?

 それには深い訳があった。

 姿を見せない子供を探して、明かりを片手に呼びかける。その源三郎の背後に、身体中に魚のようなヒレの生えた人影が近付いていた。

 その人影──半魚人は鳴き声を上げて源三郎を脅かす。

 それに反応して源三郎は振り向き、人影の顔を照らす。しかし彼は一切動じず、むしろ笑顔で話しかける。

 

「何だよ、誰かと思って隠れてたのか?全くよぉホントに!はい、これを食べな!坊やは?」

 

 そう言って彼は、先程店から持ってきた発泡スチロールを手渡す。半魚人は、感謝するように頭を下げた。

 源三郎がそう問いかけると、物陰から一回り小さな半魚人の子供が飛び出して来た。そのわんぱくっぷりに、源三郎は笑いながら子供をくすぐる。

 ここにいたのは、ラゴンの親子だった。

 

 海底原人 ラゴン。

 彼らは、2億年前に地球に存在した爬虫類が進化を遂げたものである。性格は基本的に大人しいが、凄まじい怪力を持っている。

 源三郎とこの親子が出会ったのは、数週間前に遡る。

 ある日源三郎がいつものように店じまいをしていた時、この親子はやって来たのだ。

 最初は驚いてビートル隊に通報しようかとも考えた。しかし親子の様子を見ると、どうやら腹を空かせているようだった。

 源三郎はそんな彼らを匿い、食料となる魚を分けていたのだ。

 

「坊や。……はい、お土産だ!」

 

 そう言って源三郎が取り出したのは、漁船を模した玩具だった。彼はこれまでにも様々な玩具をプレゼントしていて、ここにある玩具は全てそれだった。

 それを受け取ったラゴンの子供はよほど気に入ったのか、手足をじたばたさせて喜び出した。

 源三郎とこの親子は、当然言葉は通じていない。

 でも確かに、彼らの間には種族の壁を越えた強い繋がりがあった。

 

 

 

 外から聞こえる怪獣の雄叫びと、腹の底まで響くような足音。

 突如現れた怪獣の仕業で、北川町全土が灼熱の地獄と化した。

 SSPのオフィスに取り残され、おまけに瓦礫に挟まれて身動きの取れないナオミ。どこからか何かが燃えた臭いがして、危機感を覚えたナオミはひたすら手を伸ばす。

 

「助けて……!誰か……!」

 

 弱々しい掠れた声で救いを求めるが、ここには自分しかいない。一貫の終わりを痛感したナオミは瞼を閉じた。

 だが何者かが現れ、ナオミの行動を制限していた瓦礫を退けて、彼女の身体を抱き抱える。

 それが誰なのか気になったナオミは瞼を開く。

 そこでナオミが見たのは、かつて自分を殺そうとした男の邪悪な笑みだった。

 ジャグラーに新手の危機感を覚えたナオミは離れようとするが、しっかり捕まってしまっていて逃れることも叶わない。

 必死に抵抗しようとするも、顔を反らすことしか出来ないナオミの耳に飛び込んで来たのは、あの風来坊の声だった。

 

──大丈夫だ、俺がナオミを助ける。

 

 その声にハッとしたナオミは、顔を上げる。

 そこにいたのはあの男ではなく、クレナイ・ガイだった。

 ナオミを抱き抱えた状態のまま、天井を突き破り飛び上がるガイ。

 その突然のことに驚いたナオミは悲鳴を上げて──。

 

「ウワァァァァァッ!!」

 

 夢から目覚めた。

 目覚めたナオミは辺りを見る。そこはいつもと変わらないSSPのオフィスで、火事も起きていないどころか、瓦礫もない。

 そして自分が右腕を高く上げていたことに気付き、スッと降ろす。

 少し離れたところでジェッタとシンが昔懐かしいブラウン管のテレビを弄っていて、また別の場所にはハンモックに寝そべる風来坊、自分の側に尻餅を突いたまま、驚きの表情で固まった青年がいた。

 

「どうしたのシンヤ君!?」

「イ、イエ……。何デモ……ナイ、デス」

 

 そう言って首を振るけど、シンヤの顔は一切動いてはいなかった。むしろ、言語すら危うい状態だった。

 それを見かねたジェッタが、ナオミにどうしてこうなったのか経緯を語り出す。

 

「……キャップがうなされてたから、シンヤ君が声かけてたんだよ。それなのに、キャップがあんな声で叫ぶから……」

「えぇ!?ご、ごめんシンヤ君!」

「アハハ……、オ気ニナサラズ……」

 

 やはり、首を振るだけしかアクションを取れないシンヤへの謝罪の言葉を連ねるナオミ。

 そんなナオミに、シンがこんなことを聞き出した。

 

「夢を見ると言うことは、熟睡出来ていないということです。またいつもの夢ですか?」

「……違う。今までのと似てるけど……。違う夢」

 

 いつもの夢というのは、光の巨人が現れる夢のことだ。

 しかしその夢ではなかったため、そう言ってナオミはハンモックで寝ているガイをチラリと見た。

 

 すると、ジェッタ達がこれまで弄っていたブラウン管にニュースが映し出された。

 報道されていたのは、魚が姿を消したというニュースだった。近海ではここ数日の間で、魚が全く捕れないということが続いて起きていた。

 この事態を受けて、沿岸警備命令も発令されたとのことだった。

 

「海で何かあったの?」

「外来種が群れで漁場に紛れ込んで来たか……。あるいは……」

「腹ペコの怪獣が現れた!」

「また怪獣!?」

 

 テレビを前にして、ナオミさん達は話し合っていた。

 僕はと言うと、頭を振ったり頬を叩いたりして、さっきの状態から切り替えようと頑張っていた。

 テレビの調子が悪くなってしまったのか、ジェッタさん達はテレビを叩いていた。

 

「何で、のこのこ怪獣が現れるようになっちゃったのかな?」

 

 ナオミさんがふと、そんな疑問を掲示する。

 それに対してジェッタさんは、世界の終焉が始まった、とネットで騒いでいることを説明する。

 シンさんはどの異常気象も、1つひとつを見れば観測史上類例がない訳ではないと言う。でもそれが同じ年に同時多発するのは、自然界のバランスが崩れている証だとも言った。

 

「地球は、アンバランスゾーンになってるってこと?」

 

 ナオミさんがそう言うと、ジェッタさんがそれをサイトの見出しに使おうと提案する。

 するとこれまで眠っていたはずのガイさんが、突然話し出す。

 

「怪獣だって、人間の前に出て来たかねぇはずだ」

「あれ、起きたんだ」

「アヒルみたいな声に、安眠を妨害された……」

 

 ガイさんが言っているのはきっと、さっきのナオミさんの絶叫のことだろう。それを指摘されたナオミさんは少し不貞腐れるけど、ガイさんの発言に疑問を持って問いかける。

 するとガイさんはナオミさん達を見据えて、こう告げる。

 

「ちょっと歩き回っただけで攻撃してくる危険な生き物が生息してる場所に……、誰が好き好んで踏み入ってくるんだ?」

 

 その指摘には、ナオミさん達も思わず黙りこむ。

 このガイさんの一言は僕ら人間にも、怪獣にも言えることだ。藪を突つけば蛇が出て来ると知っているから、誰だって手を出さない。

 それはきっと、怪獣だって同じなんだ。

 これまで多くのウルトラ戦士達の戦いを見てきた僕は、そう思わずにはいられなかった。

 

 場所は変わり、ラゴンの親子の住む倉庫。

 普段は外に出てはいけないと、源三郎に止められているのに、ラゴンの親は大漁旗を頭に被り、慌てた様子で倉庫の外に出てしまった。

 誰かに見られていないかを気にして、住宅街を走るラゴン。しかしそれは余計に目立ってしまって、目に留めた近所の主婦が、ビートル隊に通報をしてしまった。

 

 

 

 源三郎の魚屋では、今回のニュースの影響による打撃をまともに受けてしまっていた。

 魚屋だと言うのに、店頭に全くと言って良い程に魚が並んでいないのだ。

 魚を買い求めにやって来た主婦も、この現状を良く思っていない様子だ。

 

「あらぁ?お魚が全然捕れないって、ホントなのねぇ!」

「冷凍モノの値段も、高騰しちゃってて……」

「怪獣が海の魚、ぜーんぶ食べちゃったって聞いたけど?」

 

 この主婦もあのニュースを見ていたようで、何気なく話題を振るが怪獣が魚を食べると言うことに心当たりがありすぎる源三郎は、笑いながら誤魔化そうとする。

 

「そりゃ、おっかねぇなぁ!」

「そりゃあ怪獣だもの!おっかないわよ、ねぇ?」

 

 その主婦は後から来た他のお客に聞くが、その相手は源三郎が良く知る怪獣、ラゴンだった。

 思っても見ない来客に源三郎はまさかと驚いたが、それ以上に主婦が驚愕していまい、その悲鳴は近所の住宅街まで届いた。

 それは運悪く、市民からの通報を受けて周囲のパトロールをしていた渋川の耳にまで届いてしまった。

 

 

 

 

 

 この緊急事態に、源三郎はラゴンと自分を店に残して、シャッターを降ろした。

 そして源三郎は、ラゴンが来店した理由を問い質す。

 

「何やってんだよもう……!出歩いちゃダメだって言ったろ!?」

 

 怒り半分に呆れながら声を細めて、ラゴンを叱る。

 ラゴンは困り果てた様子を見せるが、急に手足をじたばたと動かし始める。

 ラゴン親子は源三郎と言葉が通じないために、日頃からこのように身ぶり手振りで、自分が今どう思っているのかを伝えていた。

 

「坊やが?……何?」

 

 その動作から、ラゴンの坊やに何かあったのかと思ったが、やはりそれだけでは伝わって来なかった。

 ラゴンはその動作に続いて、ぐったりとしたポーズを取る。

 

「坊やが……、病気か!?」

 

 すると今度、ラゴンは店にある魚の絵を指差して、それを食べる動きをした。

 しかしそれでは、自分が魚を食べたいのかと源三郎に受け取られてしまう。

 ラゴンはまた自分の子供を表現しようと手足を動かし、それに続けて魚を食べる動作をした。

 この動作から、源三郎はラゴンが何を伝えたいのかを理解した。

 

「坊やに、魚を食べさせたいのか!」

 

 それを知った源三郎は魚を取りに、保冷庫のある店の奥へと急いで行った。

 待つことしか出来ないラゴンは、源三郎の背中を見つめるが、店の外から聞こえるシャッターを激しく叩く音に仰天した。

 

 

 

『町の魚屋に、半魚人が現れた』

 

 それを知ったナオミさんは、一目散に現場へ急行した。

 急な事態にジェッタさん達は準備に手間取ってしまって、僕だけがナオミさんを追って現場にやって来た。

 到着した時には既に人だかりが出来ていて、そこにシャッターを叩きながら叫ぶ渋川さんを見つけた。

 

「おい!この店の中に、半魚人のような怪獣がいると言う目撃者がいる!シャッターを開けなさい!おい!」

 

 その人混みを掻き分けて、ナオミさんがシャッターの前に辿り着く。そして渋川さんと同様にシャッターを叩き始めた。

 

「お願いします、開けて下さい!」

「ナオミさん……!お店の人に迷惑ですよ!」

 

 何とかナオミさんの元に追い付いた僕は、ナオミさんを抑えようとする。僕らに気付いた渋川さんも、ナオミさんを追い返そうと必死になる。

 ナオミさんは、半魚人がいるなら下がる訳にはいかないと更に反抗する。

 そんなナオミさんの肩を掴んで、渋川さんはナオミさんにいつものように告げる。

 

「おい待て、おい……!お義姉さんからも、危ないことしないように見ててくれって言われてるんだよ!」

「ママは心配し過ぎなの。もう子供じゃないんだから!」

「子供のことを心配しない親なんていないって……!な?お母さんの気持ちを分かってやれよ!」

 

 渋川さん達の会話が一段落しそうになった時、2人の近くにいた主婦達がブーイングを飛ばして来た。

 

「ちょっとあんた達、何話してんのよ!」

「そうよ!早く怪獣を何とかしなさいよ!」

 

 これが呼び水になったのか、周囲の人だかりが渋川さんに殺到する。

 その場にいた人達を落ち着かせようと、渋川が説得を始めたのと時を同じくして、その後ろを源三郎達がこっそりと去ったことに誰も気付いてはいなかった。

 

──ただ一部を除いて。

 

「遅れたよ、もう……!」

 

 ようやく現場に着いたジェッタ達が見たのは、渋川を取り囲む大勢の人の群れだった。ジェッタは何とか撮影を試みるが、その人達に阻まれて撮影することが出来なかった。

 すると、左手に何やら奇怪な発明品を持ったシンがジェッタを呼び止める。

 

「ジェッタ君ちょっと……!アレを撮った方が良いと思います……!」

 

 その発明品からはアラームが鳴っていて、シンが指差す方角を見たジェッタは瞳を輝かせた。

 

 こっちの人だかりでは、渋川さんとナオミさんが口論を始めた。

 安全確保のために下がるよう指示する渋川さんに、意地でも下がらないと主張するナオミさん。この2人を仲裁しようと、僕が間に入ろうとした時だった。

 ジェッタさんとシンさんが割り込んで来て、ナオミさんを下がらせる。

 ナオミさんは、ここで下がったらスクープなんて物に出来ないと俄然やる気の様子。

 でもジェッタさんがビデオカメラで撮影した映像を見た途端に、目の色を変えて3人一緒に走り去った。

 その出来事に全員呆気に取られていたけど、僕はナオミさん達の後を追うことにした。

 

「渋川さん、僕もこれで……。ちょっと!?どうしたんですか!?」

「おい、お~い!……そんなに下がんなくても良いと思うけどなぁ……」

 

 

 

 魚屋を離れしばらくして、僕はナオミさん達がどこに行ったのか、辺りをキョロキョロと探していた。

 

「どこ行っちゃったんだろ……」

 

 ここでも僕の土地勘の無さが災いして、僕は迷子になっていた。

 気が付けば商店街を離れて、広い通りに出ていた。日が照って出来た影を歩く、涼しげな格好の人がちらほらと見受けられる。

 一旦落ち着こうと足を止めて深呼吸を始めたと同時に、周辺のマンホールの蓋が突然飛び出した。蓋が外れた箇所からは、凄まじい勢いで水柱が上がる。

 僕の足元にもマンホールがあって、危険を察した僕は咄嗟に離れる。それと同時にマンホールの蓋が宙を舞う。

 

「ふおっ!?……何だよこれ……!」

 

 突然の異常事態に、僕以外の通行人もパニックに陥っていた。だが男の子の頭上から、マンホールの蓋が落ちて来ていた。

 それに気付いた男の子は、頭を押さえてしゃがみこむ。それでも、直撃は避けられない。

 

「危ないっ!」

 

 飛び出した僕は、子供の元まで走る。

 そして子供を抱き抱えて、脇に転がる。

 数秒前まで子供がいた場所には、マンホールが落ちて出来た窪みがあった。

 荒くなった呼吸を無理矢理押し止めて、子供の安否を確認する。

 

「……大丈夫だった?ケガは、ない?」

「……うん、ありがとー!」

 

 子供は元気に返事をしてくれて、その返事に僕は笑顔で答える。

 しばらくするとその子の母親がやって来て、僕はその子を預ける。

 

「じゃあね、バイバイ」

「バイバ~イ!」

 

 母親に抱えられた男の子にお別れをして、僕はまたナオミさん達の捜索を再開した。

 

 

 

 源三郎の後を追って、ある倉庫に辿り着いたSSP一行。薄暗い倉庫の中を、懐中電灯で照らして進む。

 この倉庫に入ってから、シンの発明品の「UMA探知機」の反応が強くなりだした。

 どうやらこの探知機は、シンが小学4年生の時にツチノコを探そうと作ったものらしい。今回はそれを、半魚人を探すのに使用していた。

 半魚人にだんだんと近付くに連れて、探知機の反応が大きくなる。ようやく本物の半魚人と対面出来ると、ナオミはやや興奮気味に言う。

 シンは探知機を頼りに、どこに半魚人がいるのか色んな方角を向く。そして探知機が、今日一番の反応を示す。だが目の前には積み重なった段ボールの山。

 つまり……。

 

「後ろに何かいます……!」

 

 シンがそう言い、3人はゆっくりと振り向く。

 そこにはまるで人間とは思えない、全身にヒレや水かきのある半魚人がいた。

 

「「「っ!ワァァァァァ!」」」

 

 その驚きの光景に、ナオミ達とラゴンはバラバラに散開した。

 その中でシンは、倉庫の最深部に逃げ込んだ。

 そこでシンは大漁旗が掛かれた、不自然に盛り上がった狭いスペースを見つけた。震える手を伸ばして、恐る恐る旗を引っ張る。

 そこにいたのは、ついさっき見た半魚人よりも小さな半魚人だった。

 

「子供の半魚人!?」

 

 これには驚きを隠せなかったシンだったが、別の場所から飛び出して来た源三郎にはよりいっそう驚いた。

 

「待ってくれ!病気なんだよ、乱暴なことはしてあげないでくれっか……?」

「病気ですか!?ちょっと見せて下さい……!」

 

 そう言ってシンは、どこからともかく聴診器を取り出して装着する。

 

「君は、獣医か!?」

「子供の頃の夢、第1位は平和を守るスーパーロボットの開発、第2位はタイムマシーンの発明、第3位は、獣医でした。……ちょっと口開けて下さ~い」

 

 それを聞いた源三郎は安心して、シンの手助けとしてラゴンの子供の口元を照らす。

 その様子を見たナオミとジェッタも、その狭いスペースに集まる。

 ラゴンの子供は、シンに抵抗してじたばた暴れる。

 それを物陰から目撃したラゴンの親は、子供が乱暴を受けていると誤解して、シンに襲いかかろうとした。

 その寸前で、シンはラゴンに動かないように指示を出し、続けて子供の足元を暖めるように依頼する。

 ラゴンはシンの言葉を理解しているようで、子供の足元に巻き付けた大漁旗を上から擦って暖めようとする。

 しかし子供は泣き出し、一向に泣き止む気配がない。

 困り果てた源三郎はこう呟いた。

 

「音楽を聞かせれば落ち着くんだけどなぁ……!いつもラジオを聞かせてるからねぇ?」

 

 源三郎の指摘は間違いではなかった。

 ラゴンは音楽を好む性質を持っていて、彼らも例外ではなかったのだ。

 それを聞いたジェッタは、ナオミに何か子守唄を知らないかを尋ねる。

 一瞬戸惑いを見せるナオミだったが、1つ心当たりのある曲を思い出し、鼻唄を奏でる。

 その音が聞こえたのか、これまでじたばたと動いていたラゴンの子供が動きを止めて、耳を澄ませる様子を見せた。そこでナオミは鼻唄ではなく、その曲を歌い出す。

 

『♪~』

 

 それを聞いた子供は、すっかり調子が良くなったようだった。

 それに安堵したナオミ達を、大きな揺れが襲った。

 

「何!?急に……!」

「おい!ここは危険だ!早く避難しろ!」

 

 どこから駆け付けたのか、ナオミ達の後ろにはガイがいて、外に出るよう呼びかける。

 それに従って外に出たナオミが目撃したのは、地中から飛び出た怪獣の姿だった。

 

「ナオミさん!ガイさんも……!ってあれは、グビラ!」

 

 海沿いの倉庫の通りに立ち尽くしていたナオミさん達を見つけた僕の目が捉えたのは、鼻先の角が鋭いドリルのようになった怪獣『深海怪獣グビラ』だった。

 倉庫からは、ジェッタさん達やラゴンの親子が飛び出て来たけど、それに反応する時間が惜しかった僕はガイさんの元まで走った。

 

「ガイさん!……まさかグビラが……!」

「あいつが魚を……!」

「あぁ。海の魚を喰い尽くして、陸上の海産物を狙ってるんだ」

 

 ここにいた全員の視線がグビラに集中する。

 するとグビラの瞳が一瞬キラッと光り、こっちに向かって前進を開始した。

 それに愕然としたナオミさんが1人でに言うが、ガイさんが冗談交じりに答える。

 

「何で真っ直ぐこっちに……?」

「美味そうな魚がいると、気付いたのかもな」

 

 ガイさんが振り向いた視線の先には、あのラゴンの親子がいた。

 魚屋のおじさんとシンさんが、声を揃えて冗談じゃないと言う。

 そしてガイさんは、ラゴンに向かって走り出す。

 

「早くその親子を隠せ!俺は奴の注意を引いてみる!」

 

 ガイさんの自己犠牲を受け取った僕達は、少しでもグビラから離れようとする。

 でも、ラゴンの子供が足を止めて引き返してしまった。

 

「待って!そっちはダメぇ!」

 

 叫びながらナオミさんも引き返そうとする。

 その前に僕が飛び出して、振り向き様に告げた。

 

「僕が連れ戻します!だから、皆さんは早く!」

 

 そう言って僕は全速力で倉庫に戻る。

 でも倉庫には既にグビラが到達していて、どれだけ急いでも間に合わない。

 

(こんな時、もっと早く動ければ……!)

 

 僕がそう強く思った時。

 カバンの中にあるはずのカードが1枚、目の前に現れる。そのカードを見て、僕はそれの使い道を理解した。

 

「力を借ります……!ネクサスさんッ!」

 

 するとカードが光の粒になって、僕の周囲を取り囲む。そして僕は、ウルトラマンネクサスの基本形態『アンファンス』が使用する高速移動「マッハムーブ」で一気に加速した。




後編に続きます。


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第8話 都会の半魚人 ━後編━

後編です。
それでは、どうぞ。


 倉庫に戻ってしまったラゴンの子供が、戻って来てまで取りたかったもの。

 それは、源三郎から貰ったばかりの漁船の玩具だった。

 水を張った発泡スチロールに浮かせていたそれを取ったラゴンの子供は、一瞬安心する素振りをしたが、近付いて来る地鳴りにハッとする。

 グビラが倉庫を壊すより先に、僕はラゴンの子供の元に到着した。

 

「どうしてこんな危ないこと……!」

 

 僕は最初、この子を叱るつもりだった。

 でも、漁船の玩具を大切そうに持ったこの子を見ていると、そんな気も消えてしまった。

 

「全く……。行くよ!捕まってて!」

 

 その子を抱き抱えて、すぐに外に出ようとした時だった。倉庫が激しい音を立てたと同時に、グビラの鼻先の角が、倉庫の天井を突き破った。

 

 

 

 グビラは容赦なく倉庫の屋根を破壊して、被害を大きくしていく。ドリルの回転で火花が散り、屋根の残骸が逃げるナオミ達に降り注ぐ。

 残骸のシャワーが止み、ナオミは顔を上げたが、途端に呆気に取られてしまう。

 ナオミが見たのは、怪獣の角の上で半魚人を抱き抱えるシンヤの姿だった。

 

 僕が気が付いた時、いつの間にやら外に出ていた。

 しかし、それにしては視界がいつもより広く、向こう側に見える建物の最上階と同じ位置にいた。

 腕の中には、抱き抱えられたラゴンの子供。

 ふとした瞬間に目が合って、僕は笑顔を作ってみせる。

 気を取り直して辺りを見渡すと、青空が広がっている。足元を見れば、灰色の床。それも所々ギザギザで危なっかしい。でもその床の数メートル先は続きがなくて、その下には敷き詰められたかのような倉庫が、行儀良く綺麗に並んでいた。

 その時点で、僕は今、どんな状況なのかを察してしまった。いや、察しなければいけなかった。

 ゆっくりと首を後ろに回すと、白い体表に黒い模様が描かれた怪獣がいて、その青い瞳と目が合ってしまった。

 

「え……?え?」

 

 するとグビラは突然吠えて、金切り音を鳴らして角を回転させる。

 普通なら僕らは、このまま落ちて終わりなのだろうけど、この状況で易々と落ちる訳にはいかなかった。

 これまで感じたことのない危機感を覚えた僕は、グビラの角に乗ったまま両足を最大限駆動して、何とかこの現状を維持する。

 僕は今、『ウルトラマンサーガ』の主人公と同じ状況に立たされていた。

 

「うぉおぉぉぉぉ!?ちょちょちょちょちょちょっとぉぉぉぉ!!?」

 

『サーガ』の主人公は、ウルトラマンゼロと同化していたからこそ、高い身体能力を発揮していた。

 でも僕は、言ってしまえば一般人。これが長時間続けば、いずれ体力切れを起こす。つまりそれは、この子の生命が脅かされるということ。

 それだけは何としても避けなければならない。

 そんなこんなで粘り続けていた僕だったけど、グビラは突然角を振り上げる。その勢いで、僕らは大空に投げ出される。

 

「うぉあぁぁぁっ!ああっ、坊やが!」

 

 グビラに投げ飛ばされた時の反動で、僕はあの子を手離してしまっていた。空中でその子を探していたら、グビラが口を開けたまま上を見上げていた。

 その真上を見ると、僕同様に空を舞う半魚人の坊やがいた。でもここからだと手が届かない距離にいた。

 届かない右手を無理矢理伸ばすけど、坊やはそのまま垂直に落下。グビラの口内に吸い込まれていった。

 

「……!坊やぁああああ!」

 

 僕も垂直に落下していくが、僕が落ちたのは段ボールやら何やらが雑に積み重ねられた山の上。背中から派手に激突して、苦痛に顔を歪める。

 運が良いのか悪いのか、丁度僕が落ちたのはナオミさん達が何も出来ずに僕らを見守っていた通路に近い場所だった。僕はグビラに呑まれたあの子に向かって、震える手を伸ばした。

 

「ガアッ……!ッハァ……!ぁ……、坊やぁ……!」

 

 

 

 グビラがラゴンの子供を呑み込んだのを目撃したガイは、咄嗟に物陰に隠れて左手のオーブリングを構える!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

『光を越えて、闇を斬る!』

 

 町に現れた青い巨人は、額のクリスタルを発光させてグビラの元に高速で移動する。

 オーブは、顔を上げのけ反った体制から元に戻ろうとしたグビラの角の根元にチョップを当てて、グビラの下っ腹に拳を連続で叩き込む。

 

『ウォオォォォ!リャアァッ!』

 

 そして、溜め気味に右の拳をぶつける。

 その一撃はグビラにかなり効いたようで、グビラの目尻に涙が浮かぶ。

 ようやく元の体制に戻れたグビラは、背中から潮を吹き出す。その勢いで、先程呑まれたラゴンの子供が潮に乗って吐き出された。

 自由落下するラゴンの子供を、オーブは掌でキャッチする。その一部始終を見ていたナオミ達は歓喜した。

 ナオミ達と向き合ったオーブは腕をゆっくり下ろし、地面に手を着くと軽く握っていた手を開く。

 そこからは、無事に救出されたラゴンの坊やが現れる。ラゴンの親は、しっかりと子を抱き締める。ナオミ達も駆け寄って、親子の再会を祝福する。

 その後、ナオミの号令で全員がその場を離れる。

 道中、ナオミ達は段ボールに埋もれるシンヤを発見。ラゴンの子供の無事を知ったシンヤも、涙を流してその子を抱き締めたという。

 

 ラゴンの子供を助けることに成功はしたが、まだグビラを撃退した訳ではないオーブは、改めてグビラに戦いを挑む。

 グビラの背に飛び乗って打撃を与えるが、今のオーブはスピードに特化した姿。これと言ってダメージを与えられず、逆に振り落とされてしまう。

 鼻先のドリルを回転させながら、グビラはオーブに突撃。鼻先を掴んでこれを回避したオーブだったが、グビラの怪力がそれを上回りマウントを取られる。

 自身の顔面に向けられたドリルを顔を反らすことで回避するが、依然としてドリルの回転は収まろうとしない。

 力を振り絞り、片手で何とかグビラの刺突を抑えるオーブは、すかさずオーブスラッガーランスを召喚する!

 

『グォオォォッ……!オーブスラッガーランスッ!』

 

 ランスの穂先をグビラの鼻先に引っかけて、力の限り押し込む!

 そのままグビラはのけ反った状態で町を転がり、体制を立て直す。

 それよりも早く、オーブはタイプチェンジ能力で姿を変える!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 仁王立ちでどっしりと構えるオーブは、体制を立て直したばかりのグビラに挑発するように手招きをする。これに腹を立てたグビラは、砂埃を巻き上げてオーブにドリル攻撃を仕掛ける。

 だが、オーブの狙いはそこにあった。

 

『シャットダウンプロテクト!』

 

 そう言うとオーブは、伸ばした右腕から念力の渦巻き状の光線をグビラ目がけて照射。その光線を左腕も使って分割し、相手を球状の膜で覆う。それを念力で空中まで持ち上げると、グビラを包み込んだ巨大なシャボン玉のようにも見えた。

 この技は初代マンの「ウルトラエアキャッチ」と「ウルトラアタック光線」、ティガの「ミラクルバルーン光線」を合わせたもので、オーブはグビラを陸から遠ざけるためにこれを使用したのだ。

 飛び立ったオーブは、シャットダウンプロテクトで閉じ込めたグビラを彼方の水平線まで運び去って行った。

 それを眺めていたナオミ達一向だったが、源三郎が去って行くグビラに向かって叫ぶ。

 

「もう、人間のいるところに来るんじゃねぇぞぉー!」

「来るんじゃねぇぞー!」

 

 彼に倣ってかシンも海に向かって叫び、そこにいた全員が微笑んだ。

 

 

 

 後日。

 ラゴンの親子を乗せたSSP-7が、川沿いの道を走っていた。

 別れの時が、やって来たのだ。

 

 そして到着した川の畔で、坊やがはしゃいでいた。僕らはそれを、源三郎さん達から少し離れたところで眺めていた。ジェッタさんは相変わらずビデオカメラを回しているけど、誰1人として彼らに水を差すことはしなかった。

 そうしていると、ラゴンの坊やが源三郎さんに抱き付く。きっと僅かな時間だっただろうけど、姿の全く違う彼らの心は怪獣と人間の垣根を越えて、確かに繋がったのだと僕は確信した。

 

「おじさん、捕獲しなくて良いの?」

「ビートル隊が怪獣を攻撃するのは、市民を守るためだ……。危険のない、絶滅危惧種を捕まえるためじゃない」

 

 ナオミさんが渋川さんに問いかけて、渋川さんはそれに答える。するとラゴンの坊やがやって来て、渋川さんの手を取って引っ張って行く。その微笑ましい光景には、僕も笑顔になった。

 それを見ていた僕に、SSP-7の側にいたガイさんは唐突に問う。

 

「そうだ、シンヤ。ケガはもう良いのか?」

「えぇ。まだ少し痛みますけど……」

 

 今回の一件で無茶をした僕は、結構なケガを負った。でもあんな高さから落ちたと言うのに、骨折に至るケガはなく、ナオミさん達からは少し不振がられた。

 人間の身体って、案外頑丈に出来ているのかも……?

 

 ラゴンの親子を撮影していたジェッタさんが何かを決意したのか、ビデオカメラの撮影を中断した。今回はちゃんと全部撮れていたのに、である。

 その行動に、僕はジェッタさんの優しさを感じ取った。

 

「『恵みを分け合える方法はきっとある』……か」

 

 僕がそう呟くと、またやって来た坊やがナオミさんに何かを頼むようにジェスチャーをする。それを見たシンさんは、ナオミさんにまた歌って欲しいのではと推測する。それには坊やも激しく頷いていた。

 ナオミさんは少し戸惑っていたけど、源三郎からも頼まれて、後には引けなくなっていた。

 

 そして、ナオミさんは歌い始めた。

 

『♪~』

 

 その曲は、どこか懐かしさを覚える雰囲気でもありながら、寂しさも兼ねたメロディだった。

 この曲に、これまでは見守るだけだったガイさんがナオミさんの元に歩み寄り、歌っている最中のナオミさんにその曲について尋ねた。

 

「その曲……、知ってんのか?」

「……うん。何でかな……?ずっと前から、知ってる気がするの」

 

 ガイさんに尋ねられるとは思っても見なかったのか、ナオミさんは自信なさげに答える。しばらく沈黙が続いた後、ナオミさんはまたその曲を歌う。

 でも今度は、ガイさんが懐から取り出したオーブニカの演奏も組み合わさり、綺麗な旋律が生まれた。

 

『『♪~、♪~』』

 

 ナオミさんが歌い終えたと同時に、ラゴンの親子は手を繋いで水の中に消えて行った。

 それを見つめるナオミさんの横顔を、なぜか直視するガイさん。今の曲が何か関係してるのだろうか……。

 ガイさんの視線に気付いたナオミさんが、ガイさんの顔を見る。咄嗟に顔を反らしたガイさんは、誤魔化すようにナオミさんに告げた。

 

「……先に帰ってる。夕飯はピザで良い」

 

 そして僕の目の前を通過して、ガイさんは帰って行った。

 ガイさんがどうかしたのかナオミさんに聞こうと僕が駆け寄った時、源三郎さんもやって来てこう言った。

 

「ピザも良いけど魚も喰え!……そう言っとけ!」

「……はい」

 

 源三郎さんに苦笑いで答えたナオミさんは、離れて行くガイさんの背中をじっと見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

ガイ「(……どうして、ナオミがあの曲を知ってたんだ?だって、あの曲は……)」

シンヤ「……イさーん!ガイさーん!コーナー始まってますよ~!」

ガイ「……」

シンヤ「……ええっと、ガイさんから返事がないので、今回は僕が1人で進行したいと思います!

 さぁ今回紹介するのは、これです!」

 

【ウルトラマンオーブ!スペシウムゼペリオン!】

 

シンヤ「今回、オーブが使用した技の説明をしたいと思います。

 今回使ったのは『シャットダウンプロテクト』。初代ウルトラマンさんの『ウルトラアタック光線』と『ウルトラエアキャッチ』、ティガさんの『ミラクルバルーン光線』の複合技です。

 次は、それぞれの技の紹介です。

 ウルトラアタック光線は、『ウルトラマン』第31話『来たのは誰だ』にて使用。必殺のスペシウム光線が通用しないケロニアを倒しました。他にも、復活したアントラーを一撃で倒したことから、ウルトラマンの最強技とも呼ばれることもあるとかないとか。

 ウルトラエアキャッチは、いわゆるウルトラ念力の一種で、第25話『怪彗星ツイフォン』で2代目レッドキングを空中に固定、分裂させた八つ裂き光輪でトドメを刺すまでの繋ぎ技として登場しました。

 ミラクルバルーン光線は『ウルトラマンティガ』第12話『深海からのSOS』の対レイロンス戦で、パワータイプにタイプチェンジしたティガさんが繰り出しました」

 

シンヤ「……やっぱりガイさんの反応が薄いな。

 では今回は、この辺で失礼します。

 次回はオリジナル回!次にオーブは、どんな姿に変わるのでしょうか?お楽しみに!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

シンヤ「何で最後だけ出て来るんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪獣保護団体が保護したのは、突如飛来した宇宙怪獣。

 何ぃ!?この怪獣、妊娠してるのか!?

 俺達SSPが招待されてやって来た怪獣島で、俺を待っていたのは──!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『慈愛は再び』。

 繋がる力は、心の光!




……いかがだったでしょうか。

次回のオリジナル回。
もうどの怪獣が出るのか、どの姿が出るのか既にバレバレですが、待っていて下さい。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマン』第6話『沿岸警備命令』です。

では……ノシ


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第8.5話 慈愛は再び ━前編━

どうも。

『ウルトラファイトオーブ』にライトニングアタッカー参戦!やったね!
今回は『THE ORIGIN SAGA』の要素をちょっぴり混ぜて見ました。

お気に入り登録、ありがとうございます。
それでは、どうぞ。


 太陽系第三惑星、地球。

 我々の住んでいるこの星に、遥か彼方の宇宙から「何か」が飛来した。

 このことを受けて、ビートル隊の各員に緊張が走る。それの正体が不明な現状では、侵略目的の宇宙人の円盤が来た可能性も否定出来ない。

 ビートル隊の解析班が、飛来した物体に生命反応を感知した。

 つまり飛来したのは、宇宙怪獣。

 ビートル隊が迎撃準備を開始し出したと同時に、宇宙怪獣は日本国内のとある山間部に墜落したとの補足の情報が伝達された。

 これを受けてビートル隊日本支部は、情報特務隊らに現場検証の任務を命じたのだが、ビートル隊に一本の通信が入る。

 

 

 

 

 

「怪獣保護団体?」

「そんなのあったの、おじさん?」

「あぁ、俺も詳しいことは今まで知らなかったんだけどな……あっちぃ!」

 

 SSPのオフィスに、いつものように現れた渋川さんは差し出されたコーヒーを啜る。でも淹れ立てのコーヒーは当然熱く、渋川さんはその熱さに顔をしかめる。

 怪獣保護団体とはその名の通り、怪獣を保護することを目的としているらしく、渋川さん達が調べたところ長い歴史のある団体なんだとか。

 一時期怪獣が頻繁に出現していたことがあって、その頃に発足。元々は大きい組織で、数多くの怪獣達を保護したらしいけど、全く終わりの見えない怪獣出現の影響から、各国は怪獣を保護するのではなく撃退する方針に変更。次第に組織は解体、そして現在の形で落ち着いたとのこと。

 

「じゃあ、その団体さんが今回の事件を預かった……ってこと?」

「んまぁ、そんなところかな」

 

 今度はしっかり冷ましてから、渋川さんはコーヒーをくいっと飲み干す。

 ここで1つ疑問が浮かんだ僕は、渋川さんに問う。

 

「じゃあ渋川さんは、今日はどう言った用件でこちらに?」

「それなんだけどな。……お前ら、怪獣見たくないか?」

 

 渋川さんは、この場にいた僕ら全員に向けて尋ねた。でもナオミさん達のリアクションはほぼ皆無に等しかった。

 その気持ちは分からなくもない。僕らはこれまで、数々の怪獣達やオーブの戦いを間近でスクープして来たのだから、渋川さんには悪いけど「えっ、今更?」と思わざるを得ないだろう。

 この冷めた空気を察したのか、言い方が悪かったと渋川さんは改めて説明を始める。

 

「……この団体が私有する島があってな、この島に先日の宇宙怪獣が保護されてるんだ。んで、お前らにその島へ来ないかって話が来たんだよ!」

「「「……え?……えぇ~!!」」」

 

 渋川さんの言葉は誰も予測していなかったようで、これまで能面のような表情で澄ましていたナオミさん達が一気に食い付いた。

 こうして後日、僕らSSPはその怪獣島へ向かうことになった。

 

 

 

 都内の港からビートル隊の保有するボートに乗って、怪獣島に向かう僕らSSP。どうして移動手段がボートなのか渋川さんに尋ねたけど、「行けば分かる」の一点張りだった。

 シートに並んで腰かけたジェッタさん達は興奮を抑え切れないようで、年甲斐もなくはしゃぐ2人をナオミさんが注意する。

 

「宇宙怪獣と対面かぁ……!いやぁ、楽しみだねぇシンさん!」

「一体どんな姿なのでしょうか……。僕もワクワクしてきましたよジェッタ君!」

「2人とも、はしゃぎ過ぎ。遊びに行くんじゃないんだからね」

「「はぁ~い」」

 

 のんびりとした返事をしたジェッタさん達から視線をずらすと、いつもの茶色い帽子を深く被ったガイさんがいた。

 

「おーい、そろそろ見えて来たぞ~!」

 

 渋川さんに呼ばれて、僕らは甲板に向かう。今日は日本晴れで、外に出た途端に青空と大海原が僕らを歓迎していた。

 ちょうど季節は夏だけど、風を切って進む船がその暑さを飛ばしてくれる。

 渋川さんが言った通り、正面に巨大な島が見え始めた。

 この島は、元々実在していた無人島をモデルに作り上げた人口島らしく、その元となった島もまだ健在しているそうだ。

 島に目が釘付けになっていた時、シンさんが叫び出した。

 

「皆さん!あ、あれ!見て下さい!」

 

 シンさんの指差す方角を見ると、島の上空を飛び回る巨大な鳥の群れを目撃した。

 

「すげぇ……、さすがは怪獣島!スケールが全然違うよ!」

 

 早速ジェッタさんが、持参したビデオカメラで撮影を始める。今回はカメラとバッテリー両方の予備を数台持ってきているらしく、余程の力の入れようだ。

 島の船着き場にボートを係留させて、僕達は初めてこの島に上陸した。

 島中が自然に溢れていて、日頃都内で過ごしている僕らにはそれがとても新鮮に見えた。

 その風景をぐるりと撮影していたジェッタさんが、ふと動きを止める。

 そこには青いジャケットを着た男性がいて、僕らに歓迎の挨拶をしようとする。

 でも僕は、誰よりも先に飛び出す。その人は僕が良く知る「真の勇者」その人で、いてもたってもいられなかった。

 

「皆さん、ようこそお越しくださいました。僕は……」

「「ムサシさん!?」」

「……へ?」

 

 青いジャケットのその人は、当然不思議そうな顔をした。

 それよりも僕が不思議だったのは、僕と一緒にガイさんも飛び出していたからだ。

 

 

 

「『夏空』……、ムサシさん?」

「えぇ、夏空ムサシです」

 

 夏空さんから名刺を受け取り、それをじっくり見つめたり夏空さんを見比べたりを何度も繰り返す。でも何度見ても名刺には「春野」とは書かれていない。

 しかし、この人はどう見ても「春野ムサシ」さんだ。それがどうしても信じられなくて、僕は夏空さんの顔を凝視する。

 そんな僕に戸惑ったのか、夏空さんは少し苦笑い気味に尋ねてくる。

 

「あの……。もしかして僕ら、どこかで会ってますか……?」

「あ……。いえいえ、今日が初対面で合ってます。

 ……すみません、知っている人に、とてもそっくりだったので……」

「あ、なるほど……。でも世界には自分にそっくりな人が3人いるって言いますし、何も可笑しくはないですよ」

 

 僕は申し訳なくなって、夏空さんに弱々しい声で謝る。それでも夏空さんは笑顔で対応をしてくれた。

 すると夏空さんはガイさんの方を向いて、僕の時とは異なる意見を発した。

 

「でも……、クレナイさんとは不思議と、初めて会った感じがしないんです。ずっと前に、どこかで会ったことがある。……そんな感じがします」

 

 そう言ってガイさんを見つめる夏空さん。

 しばらくして、夏空さんは手を叩いて気を取り直す。

 

「では立ち話も何ですから、皆さんをご案内させていただきます!どうぞ、こちらです!」

 

 先導する夏空さんに続いて、僕らは森の道を進んで行く。その道は左右どちらを見ても木々が並び立っていて、時々見上げれば木漏れ日が差していた。

 そうしている内に森を抜けて、丘の上に立つ研究施設に辿り着く。

 夏空さんに連れられて施設の中に入ると、男の子が廊下からこっちに向かって元気良く走って来た。

 

「お父さん、おかえりなさい!」

「ただいま。ほら、お客さんだよ。挨拶して?」

「こんにちは、夏空ダイチです」

 

 そう言ってダイチ君はぺこりとお辞儀をする。

 ナオミさん達も笑顔で返事をすると、ダイチ君が背負っていたリュックサックからスマホに良く似た機械を取り出す。

 夏空さんを除いた僕ら全員の視線が、その機械に集中した時、機械から女性の声に似た音声が聞こえた。

 

[初めまして。ビートル隊の渋川一徹さん、Something Search Peopleの皆さん。私は、ダイチの友人のAI『UX』です。以後お見知り置きを]

 

 突然喋ったUXに驚いたナオミさん達だったけど、その驚きはすぐに消えて、UXに興味津々な様子だ。

 夏空さんの話によれば、知り合いの若い科学者さん達がAI込みで発明した高性能マシンで、それをダイチ君にプレゼントしたものらしい。その方々の写真を見せてもらうと、1人が若干ぽっちゃり気味の男性で、もう1人が眼鏡をかけたテンションの高めな女性だった。

 

(どう見ても……。マモルさんとルイさんだ……。)

 

 その写真を見て、僕はそう思うしかなかった。

 つまり夏空さんもダイチ君も、この世界における「春野ムサシ」と「大空大地」に当たる人物だと言うことだ。ダイチ君は子供だけど。

 

 

 

 それからまた場所を変えて、今度は大きなモニターが設置された、いかにも特撮作品に登場しそうな雰囲気の部屋にやって来た。

 

「まずは、これをご覧下さい」

 

 夏空さんが部屋にいた別の職員さんに指示すると、モニターにこの島の全貌が表示された。

 そこには、多くの怪獣達が映し出される。

 確認できるだけでも、モグルドンやリドリアス、果てはティグリスなど……。様々な怪獣達やその親子が生息していた。

 それには僕も驚きを隠せず、ナオミさん達はよりいっそう驚いていた。

 

「わあっ……!すごい……!」

「こんなに怪獣達がいるなんて……!」

 

 夏空さんがこれもまだほんの一部ですが、と補足の説明を入れて語り出す。

 

「彼らも、この星で生まれた生命です。今はこうして保護という名目で僕ら職員以外の人間達とは隔離されていますが、僕の理想は彼ら怪獣達と人間が共に暮らせる世界を創ることなんです」

「僕も大きくなったら、父さんのお仕事のお手伝いするんだ!」

 

 夏空さんが話を終えた後、ダイチ君が僕らに元気良く話し出す。そんなダイチ君を、夏空さんが撫でる。2人とも、互いに嬉しそうな表情をしていた。

 

「さて、今回の本題に移りたいと思います。モニター切り替えて下さい」

 

 他の職員の方がモニター切り替えると、そこには鳥に似た怪獣が大きなお腹を擦っていた。

 

「ブフッ、何あのでっかい腹ぁ!」

「すげぇ腹だなぁ、おい!」

「あれが宇宙怪獣……、ですか?僕が思い描いていたのと全く違う……」

 

 ジェッタさんと渋川さんが、あの怪獣の特徴的なお腹を指差して笑う一方で、未知の怪獣との遭遇に心を踊らせていたシンさんはかなり肩を落としていた。

 でも僕は、それどころではなかった。

 

「ザランガ……!ザランガじゃないですか!」

「ザランガ……?あの怪獣?」

「そうです、あの怪獣はザランガです!」

 

 ナオミさんが尋ねて来たから、僕はそれに答えた。すると今度は、夏空さんが僕に詰め寄る。

 

「君は、あの怪獣のことを知っているのかい?」

「はい。そうだ夏空さん!ザランガの体温を計ることが出来ますか!?」

「それは、えっとぉ……。これか!」

 

 夏空さんは部屋のコンピューターを操作して、ザランガを撮影するカメラの機能をサーモグラフィに変更する。

 サーモグラフィとは、物体から放射される赤外線を分析する装置のこと。

 さすがは怪獣達を保護している施設、こういった設備も充実しているということか。

 そこには、ザランガの体温をリアルタイムで計測した映像が映る。そこには僕が考えていた通り、腹部を中心として高い熱量を発するザランガが映し出されていた。

 

「やっぱり……!この怪獣、妊娠してます!」

 

 僕のこの一言に、この部屋中が一瞬で静まり返る。

 そうしてしばらくして、ガイさんと僕以外のその場にいた全員が驚きの声を上げた。

 

……えぇ~~~~~~~~~~~~~~!?

 

 

 

 

 全員が落ち着いた後、ザランガについての説明を任された僕はモニターを背にして全員の前で話し出す。

 

「『宇宙怪獣 ザランガ』。あれは……。いえ、彼女は、出産のためにこの地球にやって来たんです」

「「出産!?」」

「シンヤ君、それってあれか?卵を産む時に何万キロも泳いでくる……。えっと……、マグロ!マグロみたいなもんか!?」

「渋川さん、それを言うなら鮭だよ……」

「そうそう、それだよそれぇ!」

「遠くの宇宙から来るなんて、何だかロマンチックな怪獣ね……」

 

 夏空さん親子が口を揃えて驚いて、渋川さんとジェッタさんがいつものにぎやかな会話を繰り広げる中、ナオミさんがザランガへ向けて好感の意見を述べる。

 

「話を戻します。ザランガは出産時期が近付くと、体温が急上昇します。それが起これば、母子ともに死亡する恐れがあります」

「それって結構ヤバいじゃん!」

「えぇ。でもザランガは、身体を冷やすために海の惑星を目指す習性があると聞きます」

「シンヤ君に頼まれて調べてみたところ、どうやらあの怪獣は江戸時代にも地球にやって来ていたようです。これを見て下さい」

 

 職員さんからパソコンを借りたシンさんが、モニターに古い書物の画像を表示する。

 

「『座濫駕。天より落ち、燃える獣。海原より大小の獣となりて天に上る』とあります。あの怪獣は、以前生まれたザランガが、再び帰って来たのではないでしょうか」

「『地球生まれの宇宙怪獣』……ってことか」

 

 夏空さんがぽつりと呟き、僕はそれに頷いて夏空さんに提案する。

 

「どうやらまだ出産時期には到達していない様子ですから、ザランガを海まで誘導する作戦を考えましょう」

「あぁ、よろしく頼むよ!」

 

 こうして、僕らと夏空さんとの共同作戦が行われることになった。

 

 

 

 ムサシ達大人が難しい話し合いを始めた時、ダイチはこっそり部屋を抜け出して施設付近の森へやって来た。

 そして辺りに誰もいないことを確認。大きく息を吸い込み、森の奥に向かって大声で叫んだ。

 

「……お~い!バモ~!」

 

 ダイチが叫んでからしばらく経った後、茂みの中から体毛に覆われた人間大の怪獣が現れた。

 

「今日も来たぞ、バモ!」

「バモバモ~♪」

 

 その怪獣とダイチは何度も会ったことがあるようで、「バモ」と呼ばれている怪獣はダイチに(じゃ)()く。

 戯れ付くバモの瞳を見つめながら、ダイチは言い聞かせる。

 

「いい?これから父さん達がお仕事始めるから、絶対に森から出ちゃダメだよ?」

「バモ?」

「……バモのことは父さん達にも言ってないんだ。だから、絶対びっくりされちゃうよ」

「バモ……」

 

 ダイチの言葉を理解しているのか、バモはへこんだ。そんなバモを元気付けようと、ダイチは明るく振る舞う。

 

「だいじょぶだよ!今日だけだから、終わったらまた来るよ!」

[ダイチ。ムサシさん達が知らなくても、私は知っているぞ?]

「UX!父さん達には内緒だからね!」

「バモバモ!」

「もうバモまで~!ハハハッ!」

 

 そうやって笑い合っていたダイチ達の後ろから、枯れ枝を踏む音がした。反射的に振り向いたダイチは、バモを庇うように立ち上がる。

 そこには黒い装いのいかにも目立つ青年がいた。

 青年はバモを見て、卑屈に嗤う。その笑みにダイチは幼いながらも背筋がゾッとする感覚を覚えた。

 

「へぇ、珍しい怪獣だねぇ?」

「お兄さん……誰?どこから来たの?」

「エヘヘ……。ナ・イ・ショ♪」

 

 悪戯っぽく人差し指を口に当ててそう言うと、青年──ヨミは左手に持っていたダークリングに1枚のカードを読み込ませる!

 

【ロックイーター!】

 

 黒い波動がダークリングの中央から溢れ、そこから小型の「凶暴竜 ロックイーター」が数匹出現した!

 

 凶暴竜 ロックイーター。

 恐竜に良く似た姿の怪獣で、単独で行動する大型種と群れを成して行動する小型種が存在している。

 肉食性の凶暴な気性の持ち主であり、人間との共存は不可能に近いと思われる。

 これまで見たことのない凶悪な怪獣を目の当たりにしたダイチは、驚きの余り尻餅を着く。

 

「な、何この怪獣!?」

「アハハッ!楽しい愉しい鬼ごっこの、始まりだぁ!」

 

 ヨミの声が号令になり、ロックイーターが一斉にダイチ達に襲いかかった!

 

 

 

「……よし、ではこの作戦でいきましょう!」

「夏空さん。私達にも、何かお手伝いさせて下さい」

「ありがとうございます、助かります」

 

 ナオミさん達が夏空さんに、今回の作戦で自分達が何をすべきなのかを聞いていた時、ガイさんからラムネの差し入れがあった。

 

「お疲れさん、ほら」

「どうも。……そうだ、ガイさんってムサシさんのこと、ご存知だったんですね」

 

 それを受け取ってから、僕はガイさんに気になっていたことをようやく聞くことが出来た。何度か聞こうとはしたけど、ザランガについての説明やら何やらでその機会がこれまでなかったのだ。

 尋ねられたガイさんは少し考える素振りを見せたけど、遠くの空を眺めながら語り始めた。

 

「『慈愛の勇者』ウルトラマンコスモス。俺は昔、彼に会ったことがあるんだ。ほんの少しの間だけだったが、一緒に戦ったんだ」

「すごい……。そんなことが……」

「あぁ。僅かな時間だったが、俺にとっては忘れられない思い出だ」

 

 僕の羨望の眼差しに照れ臭そうに笑いながら、ガイさんは昔のことを話す。

 そんな時突然、大きな地鳴りが起こる。何事かと、ガイさんはすかさず構える。

 すると、施設から連絡を受け取った夏空さんが大声を出して驚く。

 

「夏空さん、どうかしたんですか!?」

「シンヤ君……!島の怪獣達の様子が変なんだ!」

 

 夏空さんがタブレットを操作して、この島に生息する怪獣達の映像を僕らに見せる。

 姿の違う怪獣達はどれも、空を見上げて遠吠えをしていた。夏空さんによれば、これまでこんなことは一度もなかったとのこと。タブレットに釘付けになっていた僕らのすぐそばでも、怪獣達の遠吠えが聞こえ始めた。

 

「怪獣達が、何かを伝えたがってる……?」

「何か……?それは、一体!?」

「僕にも分かりません。でも……怪獣達には、僕らに伝えたいことがあるんだと思います」

 

 僕の推測を夏空さんが問い質すけど、僕は言葉にならない考えを無理矢理言葉に変える。

 

「そう、例えば……。『警告』」

 

 僕がそう呟くと、夏空さんの携帯電話に連絡が入る。夏空さんは操作を誤ったのか、通話をスピーカーにした。

 通信機の向こう側からは、プログラムされているような機械的な女性の声が。

 

[ムサシさん!良かった、繋がった!]

「UX!?どうして君が……!」

[非常事態です!正体不明の怪獣が、我々の前に出現しました!]

「何だって!?」

[こちらで独自に解析しましたが、この怪獣には攻撃と捕食の感情しか識別出来ませんでした……]

「それよりも、君達は今どこにいるんだ!ダイチは……!ダイチは無事か!?」

[ダイチは無事です!こちらの座標を転送します!]

 

 それっきりで通話は途切れ、代わりに島の地図が画面に映る。その地図には僕らのいる場所が青い矢印で、近くの森の中に点滅する赤い点があった。

 

「すぐ近くじゃないか……!行かなきゃ……!」

 

 夏空さんが駆け出したと同時に、施設の職員からザランガの体温が上昇を開始したと連絡が入る。出産時期に突入したのだ。

 

「こんなに嫌なことが立て続けに起きるなんて……」

「どうしよう……キャップ、シンさん!」

「そんなこと言われても僕には……!」

「お、落ち着け、かまいたち!……いや、お前達!」

 

 ナオミさん達は一気にパニックに陥っていた。そしてナオミさん達を落ち着かせようとする渋川さんまでもが焦り出す。

 すると地図を見終えたガイさんがすかさず走り出す。そのガイさんを追うべく、僕は夏空さんに事情を話す。

 

「夏空さん……。ダイチ君は僕達に任せて、皆さんとザランガを海まで誘導して下さい」

「でも君は……!」

「大丈夫です。絶対に助けますから……!」

 

 夏空さんにしっかりと言葉を伝えた僕は、森にいるダイチ君を目指して疾走する。




小さな子供相手にロックイーターを仕向けるヨミさん、ホント鬼畜(作者ェ…)

後編に続きますよ。


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第8.5話 慈愛は再び ━後編━

どうも。

後編の執筆が予想以上に難航してしまって、予定通りの投稿が出来ず申し訳ありません…。

それでは、どうぞ。


 森の中を走る僕の目に、僕よりも先に走って行ったガイさんの背中が見え始める。

 

「ガイさん!やっと追い付きました……!」

「シンヤ!……特訓の成果が出て来たみたいだな!」

 

 ガイさんの言う特訓とは、以前僕がガイさんに依頼したもので、特訓とは言うものの内容は基本的な体力作りだ。でも基本だからこそ、真剣に取り組まなければならないのだ。

 次第にガイさんと並走する形になり、ダイチ君の捜索を続ける僕らの目の前に、二足歩行で移動する恐竜のような怪獣の群れが現れた!

 

「あれは、ロックイーター!」

 

 僕の声に反応したのか、ロックイーター達は僕らを標的と認識したようで、巨大な顎を開いてこちらに迫る。

 反射的に構えた僕だったけど、それより早くガイさんの拳がロックイーターに炸裂する!

 しかしロックイーターの皮膚は頑丈であり、生身で戦うガイさんは拳を抑えてその痛みに顔を歪め、その隙にロックイーター達はガイさんを取り囲む。

 そんな絶望的な状況でも、ガイさんは僕に振り向いて言う。

 

「シンヤ、ここは任せろ!」

「でもガイさんが!」

「ここで俺達がやられちまったら、誰がダイチを助けるんだ!いいから早く行けぇ!」

 

 ガイさんがそう言う最中でも、ロックイーター達はガイさんに群がり、その度に痛みを堪えながらガイさんはロックイーター達を退ける。

 

「……ッ絶対にダイチ君を助けます!」

「あぁ……!頼んだ!」

 

 ガイさんがロックイーターを引き受けて、僕はダイチ君を探すべくまた森の中を走り出す。

 

 それを見たガイは拳を握り直し、再び闘志を燃やした。

 

 

 

「ダイチ君ー!」

 

 森を走り続けて数分が経過したけど、未だダイチ君を見つけられない。

 こうしてる間にも、ガイさんはボロボロになっていく。その想いが僕を余計に焦らせる。

 ついに足が止まり、地面に膝を付いてしまう。これまで休みなく走っていたのが祟ったのか、いくら空気を吸っても全く足りない。

 そんな自分の不甲斐なさが腹立たしくなった時、木の葉が揺れる音がした。

 咄嗟に顔を上げてその音がした方に目を向けると、視界の先に僅かに揺れる茂みがあった。

 もしかしたらロックイーターがこちらにもいたのかも知れないと思い、慎重に近付いて行く。ただでさえ走り続けて跳ね上がった心拍数が、更に上昇する。

 もしも、もしもここにいるのが、ダイチ君じゃなかったら……?

 そんな嫌な考えが頭をよぎったけど、意を決して茂みの裏を除き込む。

 そこにいたのは、人間には程遠い、つぶらな瞳で非常に愛くるしい姿の怪獣がいた。

 

「うおぉおっ!?……え?キング……バモス?」

「バモ♪」

 

 僕が驚嘆の声を上げた後、名前を言い当てると相手も嬉しそうに鳴いた。

 すると他の茂みから、僕らがずっと探していた男の子が胸に飛び込んで来た。

 

「っと……ダイチ君!……無事だった?」

 

 僕がダイチ君を優しく抱きしめると、身体が少し震えていた。余程怖い目に合ったのだろう。そっと頭を撫でてみる。それからダイチ君が落ち着くまで、ずっとそのままの体制を保ち続けた。

 

「よしよし……。怖かったよね、ゴメンね。遅くなって」

 

 僕がそう呟くと、ダイチ君は首を横に振る。そしてまた、頭を撫でる。

 それを続けていると、ダイチ君の震えも収まった。ダイチ君が僕を見上げる形になり、僕はダイチ君に問う。

 

「ダイチ君、僕に教えてくれる?あの怪獣さんのこと」

 

 僕が言っているのは、僕らを見つめるキングバモスのことだ。このキングバモスのことは、きっと夏空さんも知らないはずだ。でもこの子はきっと、キングバモスのことを何か知っているはずだ。

 するとダイチ君も、僕を見上げて語り始めた。

 

 この不思議な怪獣、キングバモスとの出会いを。

 

 

 

 一方その頃、ダイチの父親ムサシとナオミ達SSPと渋川は、ザランガを海に誘導する作戦を実行していた。

 その作戦とは至ってシンプル。

 ザランガにも聞こえるよう大音量で、さざ波の音を乗用車から流しながら海まで誘導するというもの。後に音量が足りないことが判明したが、ここはSSPの発明家である松戸シン博士の出番。彼の技術力でスピーカーを改良することで難なくカバー。

 作戦が功を奏したか、ザランガは順調に乗用車の後を追う。

 

「良い感じじゃん、これ!」

「このまま上手く行けば、もう海は目の前ですよ!」

「でも、最後まで気ぃ抜くんじゃねぇぞ!」

「よ~し!Something Search People、もう一踏ん張りよぉ!」

 

 SSPの面々が上機嫌になる中、森に行ったままの我が子を心配しているムサシは自然と無口になる。

 そんなムサシを励まそうと、ジェッタはムサシに話しかける。

 

「大丈夫ですよ!ガイさんもシンヤ君も、あぁ見えて強いっすから!怪獣なんかには絶対負けませんよ!」

「うん……、だと良いんだけどね……」

 

 そう言ってムサシは、窓の外を眺めながら息子の無事を祈り始める。

 

(ダイチ……!どうか無事でいてくれ……!)

 

 

 

 

 

「そっか……。そんなことがあったんだ」

「うん、でも初めてだよ。バモが僕以外の人に懐くなんて」

「バモ~♪」

 

 ダイチ君からこのキングバモスとの出会いを聞き終えると、さっきまでダイチ君を落ち着かせていたのを見ていたのだろうか、バモと呼ばれるこの怪獣は僕に戯れ付いて来た。

 キングバモスは本来人懐っこい性格だから、ダイチ君は不思議がっているけど、これが自然なのだ。

 そしてこのキングバモスという怪獣には、もう1つ隠された性質があるのだが、これまでの様子だとダイチ君はまだ知らないようだ。

 それを告げようとした時、忘れたくても忘れようのない声が聞こえた。

 

「坊や、見ぃ~っけた!……おや。これはこれは、草薙シンヤではないですか」

「ヨミッ!!」

 

 即座にダイチ君達を庇うように立ち、ヨミを睨み付ける。あいつがどうやってこの島にやって来たのか、気になるところではあるけど今はそれどころではなさそうだ。

 すると声を震わせながら、ダイチ君はヨミを指差して言う。

 

「あの人だよ……!あの人がさっきの怪獣を……!」

「やっぱり……。今度は何を企んでる!?」

「フフッ、ドン・ノストラはこの島に大変興味を示しておられるのでね。まずは視察をと」

 

 今、ヨミは気になる言葉を発した。

 ドン・ノストラ。初めて耳にした言葉だ。そしてヨミの口調から、ドン・ノストラと言うのはヨミの雇い主ではないかと推測した。

 気になって聞き返すが、見事にあしらわれてしまう。

 

「とにかく……貴方には邪魔されたくないのですよ!」

 

 そう言ってヨミは、伸ばした右腕から黒い光弾を発射する。それが直撃するより前に、何とかダイチ君達を連れて逃げる。

 それでもヨミは容赦なく雨霰のように光弾を乱射する。

 すると、バモがその光弾の前に立ち塞がる。

 

「バモ!ダメだ!」

 

 ダイチ君の叫びも空しく、黒い光弾は全弾命中。周囲に土煙が起こる。

 その突然の光景に、ダイチ君は呆気に取られる。

 僕もそれに対して茫然として立ち尽くしていたけど、その土煙の中から何かがゆっくりと現れる。

 

「バモ!無事だったの……バモ?」

 

 バモは息が上がっていたが、次第に呼吸は荒くなっていく。

 そしてバモは、これまで溜め込んでいたものを発散させるように咆哮。変化はそれだけに留まらず、みるみる身体を巨大化させて行く。やがて、この島で暮らす怪獣達と同程度の巨体へと変貌した!

 

 キングバモスのもう1つの性質。それは、興奮状態になると神経細胞が刺激されて巨大化し、見境なく暴れ回るというもの。

 これは予期していなかったのか、ヨミは不吉な笑みを浮かべた。

 

「おぉっと……。では私はこの辺で。後のことはお任せします」

 

 そう言い残して、ヨミは霧散した。

 ヨミが消えた後でも、キングバモスは暴れ続ける。瞳は赤く染まり、自分が暮らしていたはずの森林を破壊する。

 何の偶然が重なったのか、キングバモスの進路には海を目指すザランガがいた。

 

「バモ……。そんな、どうして……?」

「とにかく、ここを離れよう!」

 

 ダイチ君を抱き抱え、キングバモスに巻き込まれないようにこれまで通って来た道を全力で走る。

 

 

 

 ナオミ達は突然現れたキングバモスに驚いて、蛇行運転を繰り返し、想定していたルートを大きく反れる。

 それに連れられてか、ザランガもフラフラとした足取りで歩く。

 そして車を捨てて逃げることを選んだと同時に、森からシンヤ達が飛び出して来た。

 

「ダイチ!」

「父さん……!」

 

 ここでようやく、親子は再会を果たす。

 感動的な一幕かも知れないけど、まずはここから離れることを優先すべきだろう。

 それはこの親子も重々承知の上のようで、ひとまず全員が研究施設まで戻ることになった。

 

 

 

 ザランガに接近するキングバモスを目撃したガイは、全身に走る激痛を堪えながら、オーブリングを掲げた!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 怪獣島に出現したウルトラマンオーブ。しかし登場して間もないはずなのに、肩で息をしている。

 これは、先程までロックイーターと戦っていたガイのダメージが反映されていた。特に拳は、力を込めても握っている感覚がない程に危うい状況だった。

 それでもザランガを守るために、オーブはキングバモスに戦いを挑む。

 暴れるキングバモスを押さえ込もうと取っ組み合いになるが、力量の差が激しいのか、逆に押され出す。

 やがて、勢いに任せてオーブを横に投げるキングバモス。投げ飛ばされてもなお立ち上がるオーブだったが、そんなオーブを不安がって駆け寄って来たザランガの巨大な腹が、オーブを突き飛ばす。

 

『オウワァッ!?』

 

 ザランガには悪気など更々なく、オーブに必死に頭を下げる。その光景はまるでコメディのようだった。

 オーブの戦いを施設のモニターから観戦するシンヤ達も、この光景はギャグをしているようにしか見えなかった。

 

「でも、あの怪獣は一体どこからやって来たんだ?あれがUXの言っていた怪獣なのか……?」

 

 キングバモスを見つめるムサシは、不意にそう呟く。すると、ダイチがムサシの前に立って話し始める。

 

「お父さん、ごめんなさい。僕、あの怪獣のことずっと内緒にしてたんだ……」

「え……?ダイチ、それは……」

 

 ムサシは屈んでダイチと目を合わせる。

 その2人を見つめて、シンヤはムサシに告げる。

 

「……夏空さん。ここから先は僕の推測なんですが、あの怪獣──キングバモスは、この島のモデルになった無人島に元々住み着いていたのではないでしょうか?」

「あの……、無人島に……?」

 

 ムサシは驚いていたが、この島をモデルになった島に近付けて作ったのなら、自ずと彼の生態環境に適したものになるはず。つまりキングバモスは、この人口島を、本来の生態していた島と勘違いして、この島にやって来た……。というのが、シンヤの仮説である。

 

「そして、この島でひっそりと暮らしていたキングバモスと、ダイチ君が出会った……」

「……そうなのか、ダイチ?」

 

 ムサシにそう尋ねられるダイチは、口を固く結び俯く。

 

 そんな間にも、暴走するキングバモスと戦うオーブの体力は確実に削り取られる。次第にキングバモスは、両腕の鋭い爪でオーブの身体を引き裂く。

 このままではオーブの体力が尽きてしまうどころか、ザランガも危機的状況に陥ってしまう。

 悪手に続く悪手に、誰もが悔しさを滲ませていた。

 

 

 

 

 

 そんな時、オーブとして戦うガイの元に2枚のカードが届く。そのカードを通じて、ガイの中に怪獣との共存を望む親子と、その親子と同じ理想を抱いた2人の勇者の強いイメージが流れ込む。

 そのイメージを確かに受け取ったガイの瞳に士気が宿り、再び立ち上がる力へと変わる!

 

『「繋げてみせる……!2人の理想を、未来に!!」』

 

 オーブリングを握る左手に力を込めて、ガイは新たな能力を宿す姿へと変化する!

 

「エックスさん!」

【ウルトラマンエックス!】

「コスモスさん!」

【ウルトラマンコスモス!】

「繋がる優しさ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 フルムーンザナディウム!】

 

 眩い輝きが晴れたと同時にそこにいたのは、右腕を天高く伸ばす新たな姿のオーブだった。

 全身が機械的なボディ、両手両足は青に染まったスマートな佇まいの戦士となったオーブは右腕を下げながら名乗りを上げた!

 

『繋がる力は、心の光!』

 

 相手の姿が変わったことに一切動じないキングバモスは、雄叫びを上げて腕を振るう。

 だがオーブが変わったのは、外見だけではない。

 キングバモスの攻撃をそのまま受け止め、その勢いのまま受け流す。それでも収まらないキングバモスは、乱暴に腕を振り回すが、またオーブはそれを受け流したり避けたりと、極力ダメージを与えないような戦闘スタイルでいなして行く。

 ここでようやく体力のピークに達したのか、キングバモスの動きが鈍り出す。

 この勝機を逃さないウルトラマンオーブは、両腕を高く掲げ、次に全身を使って大きく振りかぶるように、左側に捻る。そして正面に向き直りながら左腕を伸ばして、光の粒子状の光線を放つ……!

 

『フルディウム光線……!』

 

 フルディウム光線はこの姿特有の光線で、怪獣を倒すのではなく怒る怪獣や興奮する怪獣を沈静化させるための光線だ。フルディウム光線を浴びたキングバモスは多少抵抗する素振りを見せたものの、だんだん脱力していき、暴れる前の人間サイズの大きさへと戻っていった。

 

 次にオーブはザランガと向き合い、かつてザランガの出産に立ち合ったウルトラマンコスモスも使用した「ルナコールド」と同様の技を放ち、ザランガを冷却。そのザランガに今度は「トランスバブル」によく似た技を発動し、ザランガを海まで連れて行った後、オーブは飛び立った。

 

 

 

 一連の騒動が終息し、海岸にやって来たムサシ達が見守る中、その瞬間は訪れる。

 ザランガは無事に、元気な子供「ベビーザランガ」を出産した。

 ベビーザランガは生まれたてだと言うのに、母親の周りを飛び回る。そしてザランガの親子は、ムサシ達に感謝を告げるようにそちらを向いて、宇宙へと帰って行った。

 

「さよーならー!」

「どうか、お元気でー!」

「おーい!また来いよー!」

「バイバ~イ!」

 

 SSPや渋川達が遠い空に飛んで行くザランガに思い思いの言葉で見送っていると、ダイチの元に駆け寄る怪獣の姿があった。

 

「バモ!バモだ!」

「バモ、バモー!」

 

 キングバモスが辿り着くよりも早くダイチは彼の元に走り、数分振りの再会に喜び、お互いに抱き合う。

 そんな2人にムサシはゆっくりと足を運び、キングバモスを見据えて質問をする。

 

「……君がバモだね?」

「お父さん……」

 

 父親の真剣な眼差しを今日程恐ろしいと思ったことの無かったダイチは、必死に震えを抑えるよう努めた。

 しかしそんなダイチの心境とは裏腹に、ムサシは朗らかな表情でキングバモスを撫でる。

 

「……フフッ、これからもよろしく」

 

 それを見たダイチは心から喜び、またキングバモスと抱擁を交わした。

 

「!……やったね、バモ!僕ら、これからも一緒だよ!」

「バモ~♪バモ、バモ♪」

 

 

 

 今日の一部始終を見届けた僕らにも、この島との別れの時が来る。見送りにはムサシさんとダイチ君、そしてキングバモスが来てくれた。

 簡単な別れの挨拶を交わした後、僕らはボートに乗り込んで本土へと向かった。

 だんだん遠くになって行く怪獣島を見つめる僕は一瞬だけだが、島の上空から彼らを見守る金色の女神の幻を見た気がした。

 

 

 

 

 

 その夜、ムサシは不思議な夢を見た。

 気が付くと怪獣島の草原に立ち尽くしていて、後ろから大きな影が自分を覆う。

 何事かと振り向けば、青い光の巨人がこちらを見下ろしていた。

 初めて目にしたその巨人に驚きはしたが、幼い頃から彼のことを知っているような感覚をムサシは覚える。

 すると今度は、島中の怪獣達が空高く飛んで行くのだ。それを目で追うと、生命が芽吹く自然豊かな惑星が現れる。そこでは人間と怪獣達が共存していて、ムサシが理想とする楽園が実現されていた。

 また巨人の方を見ると、何かを伝えるように、巨人もムサシを見つめていた。

 そして巨人は頷いた後、その惑星に向かって飛び立つ。

 

 彼に手を伸ばして、その夢は終わった。

 不思議な夢に困惑はしたが、ムサシは寝室の窓から、遠く輝く明星を見上げて微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「……Zzz」

ガイ「……Zzz」

シンヤ「……ハッ!いけない、いけない。今回は色々ありすぎて、すっかり寝てました……!早速このコーナーに入りたいと思うのですが……」

ガイ「……Zzz」

シンヤ「……ガイさんもすっかりお疲れのようなので、今回も僕1人でお送りしたいと思います。

 さぁ、今回紹介するのは、これです!」

 

【ウルトラマンオーブ!フルムーンザナディウム!】

 

シンヤ「『ウルトラマンオーブ フルムーンザナディウム』。怪獣との共存を目指すウルトラマンコスモスさんと、ウルトラマンエックスさんの能力を秘めた姿で、『ウルトラマン フュージョンファイト!』で初登場しました。名前の由来は、コスモスさんの『フルムーン』レクトとエックスさんの『ザナディウム』光線から来ています。

 顔や全身はエックスさんの要素がとても強いですが、手足がコスモスさんのように青くなっています。とは言っても、コスモスさんのような青色ではなく、むしろ水色に近いでしょうか。

 必殺技は、『フルディウム光線』。怪獣を大人しくさせるための光線なのでしょうが、フュージョンファイトではゲームの演出上、光線を浴びた相手が爆発する仕様となってます……」

 

シンヤ「ふわぁ……。僕もまた眠くなって来ました。それでは、今回はこれにて以上となります…」

 

シンヤ「次回も……見てくれよな……(……Zzz」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 惑星侵略連合の次なる一手。

 それはオーブの偽物を差し向けること。

 ババルウ星人め、俺に化けて悪事を働こうったって、そうはいかねぇぜ!

 ……って、あれ?何か様子がおかしいな?

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『ニセモノのブルース』。

 闇を照らして、悪を撃つ!




…いかがだったでしょうか。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマンコスモス』第27話「地球生まれの宇宙怪獣」でした。

次回は馬場先輩の登場回です。
ではノシ


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第9話 ニセモノのブルース ━前編━

どうも、お待たせしました。
本日「絆の力、おかりします!」公開開始!
作者はどうやら公開初日には見に行けないようなので、皆さんには是非楽しんでいただきたい一心でございます…。

『THE ORIGIN SAGA』も次回で最終話を迎える一方で、この作品はまだまだ序盤!
「こんな回もあったな~」みたいな感じで読んでいただければと…。

では、どうぞ。


 宇宙空間で停滞している、惑星侵略連合の円盤。

 その内部では、連合を束ねるリーダー・メフィラス星人ノストラが玉座にどっしりと腰掛け、配下の宇宙人達とウルトラマンオーブについて語らっていた。

 

「ウルトラマンオーブが強い理由は何か……。それは、人間達との絆の強さなのだよ。人々の希望が奴へ力を与えている」

「それは同時にオーブの弱点でもあります。……何より彼は、戦いの最中に人間を傷付けることを恐れます」

 

 ノストラの言説に、ホストのような佇まいのジャグラーが介入する。それを聞いたノストラの配下達は、呆れるように鼻で笑った。

 これを受けたノストラは、次の作戦を実行する。

 

「……宇宙指令M774!ババルウ星人!」

「ドン・ノストラ……、ご用でしょうか」

 

 ノストラに招集され、彼の眼前で跪いたのは黒のボディと金色の髪、頭部に2本の角を生やしたババルウ星人だった。

 暗黒星人 ババルウ星人。

「暗黒宇宙の支配者」とも呼ばれ、かつてウルトラの星のエネルギーや軌道を制御する巨大な鍵「ウルトラキー」を盗み、ウルトラの星と地球を衝突させようと企んだ宇宙人である。

 ウルトラキーは光線銃としても使用でき、その一撃は惑星を破壊することも可能な危険な代物なのだ。

 今回呼ばれたババルウ星人ババリューは、これまでの同族の実績を買われてこの連合に所属していた。

 そしてノストラは、ババリューに命令を下す。

 

「お前の変幻自在の能力で、ウルトラマンオーブに変身し、地上を攻撃するのだ。そしてオーブと人間の信頼関係を、壊してしまえ!」

「畏まりました……。フンッ!」

 

 そう言って立ち上がると、ババリューは口元に手を添える。すると彼の身体が輝き、たちまちウルトラマンオーブの姿へと変わっていた。

 ババルウ星人の固有能力として、優れた変身能力がある。ウルトラキーを盗んだ時も、ウルトラマンレオの弟「アストラ」へと化け、ウルトラ兄弟とレオの同士討ちを図った程である。この変身能力には、アストラの兄であるレオでさえも気が付かなかったのだ。

 こうして、ウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオンへと変身したババリューは、計画を遂行すべく地球へと向かった。

 

 

 

 それを知らないナオミ達SSPとガイは、都内のとあるハンバーガーショップへと足を運んでいた。どうしてガイも同行しているのかと言うと、ジェッタにハンバーガーを奢ると言われたからだった。

 ハンバーガーのセットを2人前注文していたガイは、ジェッタが運んで来たそれを受け取り、嬉しそうに目を輝かせる。やはりこの風来坊、地球の食べ物には目がないようだ。

 向かい合って座るジェッタとガイの隣の席にシンが座り、その向かい側にはナオミとシンヤが腰掛けていた。ナオミとシンヤが何を聞いているのかと言うと、シンが発明した人工知能の解説だった。

 その人工知能の目的とは、ナオミの代行をするといったもの。シンが手元のタブレットをナオミ達に向けると、そこにはこちらを見て言葉を発する3頭身程のキャラクターと、何らかの円グラフが表示させていた。

 ナオミはそれを見て、自分の代わりになる人工知能を作るのは大変だったのではと尋ねる。

 開発者の松戸シン曰く、「赤字よ!」「どういうこと?」「何これ!」「顔でも洗って、反省しなさい!」等々単純な事しか言わないから、作るのは簡単だったとのこと。それを聞かされたナオミは腹を立てて文句を言うが、己を模した人工知能も同様のことを言ったため絶句した。

 その脇でジェッタは、コップに挿したストローで水面にあぶくを作ったりしていた。

 

「怪獣が現れないと……暇だねぇ~……。……待って、何だあれ!?」

 

 退屈だったのか、窓の外を眺めていたジェッタさんは何を見たのか突然店を飛び出す。それを追う形でナオミさん達も店から出ると、遠くの住宅街に金色の人影を目撃した。

 その光が晴れると、ウルトラマンオーブが突如出現した。

 

「ウルトラマンオーブ!」

「「……え?」」

 

 突然現れたオーブに、僕とガイさんは互いに変な声を出しながら目を見張った。

 それはそうだろう。本物のウルトラマンオーブは、ここで食事をしているガイさんなのだから。

 そしてガイさんの方を見ると、オーブが登場した驚きからか、食べようとしていたフライドポテトを皿の上に落として呆然としていた。

 それにナオミさん達は気付いていないかも知れないけど、あのオーブ──にせウルトラマンオーブは腕の構えが本物とは左右逆なのだ。まるで、鏡の鏡像のように。

 突然現れたオーブを見て新しいスクープを予感したのか、ナオミさんはいつもの号令を叫ぼうとするけど、ナオミさんを遮ってジェッタさんが号令を言い渡す。

 

「よ~し!」

「Something Search People、出動~!」

 

 これまで退屈にしていたのが嘘のように、ジェッタさんはいの一番に駆けて行き、それをシンさんとナオミさんが追いかける。

 ガイさんと僕は、にせウルトラマンオーブを眺めて立ち尽くしていたけど、気を取り直してナオミさん達の後を追った。

 

 僕が現場に着いた時にはとっくに人だかりが出来ていて、そこにいた全員の視線がオーブに集中していた。気が付くとガイさんの姿はなく、きっとあの偽物の退治に行ったのだと僕は思った。

 けど、そのガイさんの腕を掴んで引きずるジェッタさんを見つけた。

 何をしてるのかジェッタさんに問い質すと、さっきハンバーガーを2個奢ったから取材を手伝ってもらおうとしたそうで、このスクープをモノにしたいジェッタさんは余計に焦ってガイさんの腕をより強く引いた。

 

 

 

「さぁ、ババルウ星人!地上を破壊するのだ!」

 

 オーブに化けたババリューの耳に、ノストラの声が届く。それを受諾したババリューは、まずどこから破壊するかを決めようと周囲を見回す。

 それを見たナオミは、オーブがいつもと様子が違うことを不振に思った。怪獣もまだ出て来ていないのに、どうしてオーブが現れたのか。これには、シンも同じ気持ちのようだった。

 すると今度は地鳴りが起こり、ババリューは戸惑う。

 

『「な、何だ!?」』

 

 咄嗟にババリューが振り返ると、大地を突き上げて地中からテレスドンが現れた!

 

 地底怪獣 テレスドン。

 全身が鎧のような強固な皮膚で包まれていて、怪力任せの攻撃を得意とする怪獣だ。

 このテレスドンは、惑星侵略連合がウルトラマンオーブと人間達との絆を断ち切るための作戦を実行しようとしたと同時に偶然出現した、いわゆる野良怪獣だった。

 この予期せぬ事態に混乱したババリューは、ノストラに答えを求めるが……。

 

『「これは……どういうことですか!?」』

「分からん……。想定外だ」

『「わ、私はどうすれば……アッ!?」』

 

 ノストラの返事に更に戸惑ったババリューは、背後のテレスドンに気が付かず、背中に頭突きを喰らい倒れる。

 ついにはノストラに「自分の身は自分で守れ」と言われる始末であり、仕方なくそのテレスドンとの戦闘へと突入する。

 ババリューは現在オーブの姿に化けているが、似せているのは見かけだけで、オーブの強さまでは真似ることは出来ないため、終始テレスドンに圧倒される。テレスドンの顎を押さえ付けて行動を制限するが、抵抗空しく振り払われ地に伏す。

 すかさずテレスドンは口から火炎を吐き、何とか立ち上がったババリューの背中を焼く。

 

『「ぐわぁあぁぁぁっ!!あっちぃなぁ、このヤロォ!もう勘弁ならねぇ!」』

 

 これには腹を立てたババリュー、テレスドンに飛びかかって頭部を掴み力任せに殴打を何度も繰り出す。

 これに参ったのか、テレスドンは地面を掘り返して撤退した。

 

『「何だこのヤロォ!二度と来んな、野良怪獣!……あ~、疲れた。……っ!やべぇ……!」』

 

 テレスドンを退けて疲れたのか、ババリューは脱力するがその拍子で変化が解けそうになってしまい、慌てて姿を消した。

 

 しかしババリューは気付いてはいなかった。

 先程の戦いで、偶然地球人の子供を助けていたことを。

 

 

 

 何とか難を逃れ、人目の付かない場所で呼吸を整えようと足を止めたババリューだったが、そんなババリューに休みを与えないと言わんばかりにビデオカメラを構えた青年が駆けて来た。

 

「っはぁ、はぁ、はぁ……。あ~、妙なことになっちまったぜ……。ウォアッ!?」

「あなたが、ウルトラマンオーブですね!?」

 

 今日こそはウルトラマンオーブの正体を突き止めると躍起になっていたジェッタは、先程オーブが消えた場所へと急行。

 そこにいたのは金色の宇宙人で、彼がオーブの正体だと早とちりしたジェッタは、カメラを構えたまま全速力で叫びつつ彼の元へと走る。

 

 咄嗟のことで驚いたババリューは、得意の変身能力で今度はチャラい金髪の人間態になる。しかしその瞬間もジェッタに撮られてしまい、それを誤魔化して何とかこの場を去ろうとする。

 

「……何の、ことだ?」

「え?あ、ちょっと待って下さい!せめて、お名前だけでも……」

 

 ババリューはジェッタに名前を聞かれてつい口走りそうになるが、咄嗟に思い付いた偽名を語る。

 

「ババルウ、いや……。馬場、竜次」

「ば、馬場、竜次?あ~……なるほど?正体が分かると?活動がやりにくい……?……うんうんうんうん、ヒーローって、そういうもんですよね!?」

「ま……まぁ、そういうもんだ!」

 

 この誤魔化しが効いているのか、ジェッタは余計な考察をババリューに述べる。その返事を予想していなかったババリューは戸惑いながらも肯定する。

 その直後ジェッタがババリューの両手を取りつつ、ババリューを見つめてこう言った。

 

「分かりました!僕、絶っ対に秘密にします!」

「そ、そうだよ!俺とお前の、秘密だ!じゃあ……!」

 

 何とかジェッタを振り切ったババリュー改め馬場竜次は、すぐさま駆け去って行く。

 この2人のやり取りを、遠くからガイは見守っていた。

 

 

 

 この騒動の後、ノストラの元へ戻ったババリューは今回の報告を行う。

 しかしノストラは、命令を実行しなかったババリューに対してご立腹のようで、声を尖らせてババリューを追及する。

 ノストラや配下の宇宙人達に睨まれ、肩身の狭いババリューはおどおどとした口調で答えた。

 

「それで……?これからどうするつもりだ……?」

「も、もちろん引き続き、宇宙指令を遂行いたします!」

 

 ババリューを見ていたのはノストラの配下達だけではなく、つい最近惑星侵略連合に介入した怪しげな2人組の1人──ヨミが自分に近付き、耳打ちをする。

 

「手こずっているようなら……、私も手伝いましょうか?」

「う、うるせぇ!俺だけで十分だ!」

「ハハッ。その意気ですよ、その意気」

 

 どうやらこの男は自分に発破をかけるつもりで近付いて来たようで、からかう様子を見せる。

 それに腹を立てたババリューは鼻息を荒くして、円盤から出て行った。

 

 

 

 昨日の一件から一夜明けて、今日は朝からそのニュースがラジオから流れていた。ウルトラマンオーブの活躍のおかげで、怪我人は出なかったとアナウンサーが言う。

 そのニュースが報道される度に、僕は「あのオーブは、偽物です!」……と大声で叫びたくなる。そう叫んだところで、誰も信用してくれる訳はないんだけど……。

 

「シンヤ?お~い、シンヤ?」

「へぇ!?……どうかしましたか、ガイさん?」

「いや……。お湯、溢れてる」

「え……?うわぁ!やっちゃったぁ……!」

 

 これまで僕が何をしていたかというと、ナオミさん達にお茶を出そうとしていたのだった。

 ガイさんに話しかけられてから湯呑み茶碗を見ると、注いでいたお湯はとっくに溢れていて、机を濡らしていたことに気が付いた。僕は慌てて布巾を手に取り、一心不乱に机を拭く。

 その傍らで、ガイさんは濡れていないコーヒーカップに残ったお湯を注いでコーヒーを飲み始める。

 この一部始終を見ていたからではないだろうけど、ジェッタさんはなぜか終始ニヤニヤしていた。そんなジェッタさんを気味悪がって、ナオミさんはジェッタさんに尋ねた。

 

「さっきからニヤニヤして気持ち悪いな~……。何なの?」

「別に~?……ちょっとガイさん!」

 

 するとジェッタさんは、ガイさんの元に駆け寄って肩を掴む。そしてガイさんにだけ何かを囁いていた。ちなみに僕はまだ机を拭いていたから、盗み聞きをするようで悪いけどその会話が間近で聞こえていた。

 …そもそもジェッタさんは隠すつもりがないのか、かなり聞き取りやすい声量で話していたから盗み聞きになるかどうかは分からないけど。

 

「実を言うと俺、ガイさんがウルトラマンオーブなんじゃないかって思ってたんだ……。

 でも違った!誰にも言うなって言われたけど、ウルトラマンオーブの正体、見ちゃったんだ……!」

「……何者なんだ?」

「さぁ?よく分かんない。何しろヒーローは、風のように現れて……、風のように去って行くからね……。はい、じゃあガイさん!これ持って!」

 

 そう言ってジェッタさんは、いつも持ち歩いている撮影道具が一式入ったカバンをガイさんに持たせる。

 この行動が理解出来なかったのか、ガイさんはかなり仰天した。

 

「えぇ!?何これ!?」

「何これって、昨日奢った分も全然働いてないでしょ?だからね?今日は、一日中付き合ってもらいます!ね?」

 

 困惑するガイさんを尻目に、ジェッタさんはガイさんの背中を押してオフィスから出て行ってしまった。

 しばらく呆けていた僕だったけど、ナオミさんとシンさんにお茶を新しく淹れ直した後、2人の後を追った。

 

 

 

 僕がガイさん達を追って走っていた時に、パトロールをしていた渋川さんに偶然出会った。そこで渋川さんに、ガイさん達を見かけなかったかと尋ねると、何分か前に顔を合わせたこととジェッタさんの高校時代の先輩だと言う人を見かけたこと、最後に、その人を含めた3人で公園に向かったことを教えてもらった。

 渋川さんに教わった道なりに進むとその公園に到着したけど、そこにはガイさんとジェッタさん、そして子供達に囲まれる金髪の男性がいた。

 その男性から少し離れたところに、ガイさんはいた。

 それを見た僕は、ガイさんの元に駆けて行った。

 

「ガイさ~ん」

「おぉ、シンヤか。よくここが分かったな」

「えぇ、渋川さんに教わって……。ところで、あの人と子供達は……?」

「……ジェッタが言うには、昨日オーブに助けられた子供達で、あいつがオーブの正体らしいぞ?」

「えっ……!?じゃあ、あの人宇宙人なんじゃ……!」

 

 僕が飛び出そうとした時、ガイさんが僕の肩を掴んで僕を静止させる。

 

「……あいつには大切な使命があるらしいからな、そっとしといてやろうぜ?」

「いや、アレ全然そっとしてませんよね?」

「フフッ……。あ、シンヤ。これよろしく」

 

 ガイさんは足元に置いていた三脚やらカバンやらを僕に預けて男性を取り囲む子供達の輪へと混ざり、日頃のジェッタさんの見様見真似で撮影を始めた。

 

「えっ?え、えぇー……」

 

 

 自分がオーブの正体なのだと誤解している子供達に、すっかり懐かれてしまって困惑するババリュー──馬場竜次。

 そんな竜次にジェッタの助け船が差し出される。しかし、それは竜次の考えていたような助けではなかった。

 

「じゃあ、ババリューさんに、質問がある人?」

「「「はい!はい!はい!」」」

 

 元気良く手を伸ばす子供達の中からジェッタは、マサトという少年を指名した。

 

「ぼく、逆上がり出来ないんですけど、どうすればいいですか?」

「……はぁ?」

「そりゃあ、諦めずに練習することですよね?」

「そう……だね、諦めちゃいけない」

「じゃあ、次の質問!」

 

 今度指名されたのはシンジという少年。

 このマサトとシンジは、先日オーブに化けた竜次が無意識に救っていた子供達で、後からジェッタにオーブの正体が「ババリューさん」だと聞いていたのだ。

 

「ねぇ、ぼくもウルトラマンのようなヒーローになれますか?」

「いや、それは流石にちょっと……」

「なれますよねぇ?」

「なれ……るよ?夢を持っていれば、君のなりたいものに、きっとなれる」

「そのためには、お父さんやお母さんの言うことをしっかり聞いて、好き嫌いしないでいっぱい食べないといけませんね?」

「あ……。まぁ、そんな感じかな?」

「みんな、分かった?」

「「「はーい!!」」」

 

 竜次への質問だったはずだが、ほとんどジェッタが答えて竜次が後から補足するといった形で、質問の時間は終了した。

 その最中、竜次はとても複雑な表情を何度も作っていた。

 

 

 

 時は流れて夕暮れ時。

 そろそろ帰る時間だと言うのに、子供達はまだ元気に遊び続けていた。

 子供達に散々振り回された竜次は、ベンチにどっしりと腰を下ろしていた。

 そんな竜次の元にジェッタが駆け寄り、数枚の画用紙を差し出す。

 

「今日はご苦労様でした……。先輩……、これ」

 

 疲れから俯き気味になっていた竜次がそれを見て振り向くと、そこには子供達からオーブに宛てた、たくさんのプレゼントの山があった。

 

「何だよこれ……!」

「子供達からのプレゼントなんです。是非、貰ってあげて下さい」

 

 ジェッタが差し出していた画用紙を受け取った竜次の中で、何かが揺らぐ。

 それを必死に誤魔化そうと、竜次は咄嗟にジェッタに質問をした。

 

「……あのさ、1つ聞いてもいいか?……ヒーローってさ、そんなに良いもんなのか?」

 

 そう聞かれたジェッタは、食い気味に答えて竜次の隣に腰かける。

 

「そりゃそうですよ!僕なんて、子供の頃からずっと憧れてましたもん」

 

 それからジェッタは、子供の頃のことを、自分がヒーローに憧れる理由を竜次に語り出す。

 昔からヒーローに憧れていたジェッタは無茶ばかり繰り返していて、生傷が絶えなかったこと。

 ヒーローと言うのは、わざと危ないことをするものではなく、地味で目立たないことでも、誰かのために一生懸命頑張るのがヒーローなのだと教わったこと……。

 そしてジェッタは、自分の想いを竜次に伝える。

 

「世の中には、弱い人や困ってる人に……手を差し伸べてあげる存在が必要なんです。けど……僕には、馬場先輩みたいなことは出来ない……。

 そんな時、奇跡のヒーローが目の前に現れた……!

 ……先輩。僕はそれをみんなに伝えることで、誰かの役に立てたら良いなって、そう思うんです」

 

 それを聞いた竜次は、子供達が書いたウルトラマンオーブの絵に目を落とす。お世辞にも上手いとは言えない絵ばかりだったが、彼らなりにオーブに感謝を伝えたいという気持ちがひしひしと伝わって来た。

 そうしていると、ジェッタが紙パックのジュースを竜次に差し出す。

 

「これは、僕からの気持ちです」

「お、おう……」

 

 それを受け取って、竜次は飲み口にストローを突き刺し、一口飲む。初めて味わったその甘さに、竜次は感激を覚える。

 

「美味いなこれ……!何て飲み物なんだ!?」

「それ、バナナオレですけど……」

「バ、バナナオーレ?」

「バナナオレですよ。適当に選んじゃったんですけど、それで良かったですか……?」

「あぁ……気に入ったぜ!バナナオレ!」

 

 ジェッタと竜次の会話を、ガイとシンヤは木陰に隠れて聞いていた。

 シンヤはジェッタの話を聞いて、彼が日頃そんなことを思っていたとは……と考えを改める一方で、竜次の正体が何者なのか目星を付けていた。

 

 

 

 連合の円盤に、本来のババルウ星人としての姿で帰還したババリューは、周囲に誰もいないことを確認して、溜め息混じりに手近な椅子に座る。

 子供達からのプレゼントで貰った、オーブの似顔絵を1枚ずつ見ていると、ナックル星人ナグスから突然声をかけられ、ババリューは飛び上がりすかさずその絵を隠す。

 ナグスは、ババリューの挙動を不審がるが追及はしなかった。

 

「どうした、ババリュー?……?変な野郎だぜ」

「あ、いや……、別に。なぁ、おい……。人に憎まれるより、喜ばれる方が何倍も気持ちが良いもんだよな?そう思ったことは、ないか?」

「……何を言ってんのか、さっぱり分かんねぇなぁ?」

 

 ババリューのその問いかけを一蹴して、ナグスはどこかへ去って行った。

 それを見届けて、ババリューはまた座り直して背もたれに寄りかかる。ふと漏れた溜め息で平静を装うが、その心は未だに揺れ動いてばかりだった。




バナナオレの下りは、分かる人には分かる小ネタです。
分からなかった方は、『鎧武外伝 仮面ライダーデューク/仮面ライダーナックル』をご覧下さい。

後編はしばしお待ち下さい…。


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第9話 ニセモノのブルース ━後編━

どうも。

何とか間を開けることなく投稿出来ました…。
今回はちょこっと手を加えました。

それでは、どうぞ。


 子供達に「ババリューさん」の愛称で呼ばれるようになった竜次。ガイとシンヤ、ジェッタが見守る中、今日もまた子供達と一緒に公園で楽しく過ごす1日を送っていた。

 竜次の励ましのおかげで苦手を克服することが出来たと言う声は後を絶たず、今ではすっかり子供達のヒーローとなっていた。

 未だ自分をウルトラマンオーブだと信じている子供達に罪悪感はあったものの、彼らと平穏な日常を過ごす中で、竜次にはある1つの考えが浮かび上がっていた。

 

(俺、このままウルトラマンオーブになるって人生もあるんじゃねぇのかな……?)

 

 そんな竜次の偽りだらけの日常は、突然終わりを迎えた。

 竜次達のいた公園の上空に、惑星侵略連合の円盤が出現した。

 この円盤の出現に驚いたジェッタが竜次に駆け寄る。

 

「UFOだ……!」

 

 円盤内には、破壊作戦がいつまで経っても始まらないことへの怒りで震えるノストラの姿があった。

 

「もう待てんぞ……!いつになったら破壊作戦が始まるのだ!!」

 

 上空の円盤に全員の視線が釘付けになっていた時、ジェッタが竜次に尋ねる。

 

「馬場先輩、あれはもしかして侵略宇宙人ですか……!?」

「あ、あぁ……」

 

 そう答えた竜次だったが、相手はノストラ。自身の首領に当たる人物だ。彼に刃向かえば、裏切り者として処刑される可能性さえ考えられる。

 そうして身動きの取れない時、マサトが竜次に願い入れる。

 

「ババリューさん、やっつけて!」

 

 このマサトの一言で、子供達からの切実な願いが竜次に殺到する。それを聞いた竜次は悩みに悩んだが、覚悟を決めて走り出す。

 人目に付かない林の中で足を止めた竜次は、両腕を身体の前で交差させ、その両腕を高く伸ばす。

 黄金の輝きに包まれた竜次は、その身をウルトラマンオーブへと変えた!

 オーブの出現に子供達は一気に沸き立ち、その大きな背中に声援を届ける。

 そんなことなど知ったことではないノストラは、ババリューに命令を下す。

 

「まず手始めに、その子供達から踏み潰せッ!」

『「そ、それは……」』

 

 一向に動きを見せないオーブを不思議がって、子供達は声援を止め、その途端に公園を静寂が支配した。

 その静寂の中でも、ノストラはババリューへの指図を止めることはなかった。

 

「どうした……?早く踏み潰せぇ!!」

 

 苛立ちを露にするノストラだったが、ババリューの返事で更にその苛立ちを加速させる。

 

『「出来ません……」』

「何だと……!?」

『「そんなこと出来ません……。俺は今、ウルトラマンオーブなんです!」』

 

 この時ババリューは、自らの意志でノストラの命令に背いた。ノストラは部下の反抗が信じられず、激しくババリューを批判する。

 だがババリューは子供達との思い出を振り返りながら、彼らのヒーロー「馬場竜次」として主張をする。

 

「お前はニセモノだッ!ババルウ星人だろう!!」

『「確かに俺は……悪の星の元に生まれた暗黒星人だと思ってました。

 だけど、こいつらが教えてくれたんです!運命は変えられる……俺だって、ヒーローになれるって!」』

 

 それを聞いたノストラはババリューを見限ったのか、ジャグラーに指示を出す。

 

「ジャグラー、奴を処刑しろ」

「畏まりました……」

 

【ケルビム!】

 

 ノストラの指示に従ったジャグラーは、ダークリングに1枚の怪獣カードをリードする。

 円盤から紅い光線が照射され、その光線からケルビムが実体化する!

 

 宇宙凶険怪獣 ケルビム。

 頭部の角と鰭状の耳、中2本が長い4本指が特徴的な怪獣だ。

 ケルビムの登場に怯える子供達を守るために、ババリューは「ウルトラマンオーブ」として立ち向かう。

 乱暴に腕を振り回してケルビムを殴打するが、ババリュー自身戦闘慣れしていないために、これといったダメージにはならず、ケルビムの右ブローで弾き飛ばされる。俯せに倒れるオーブに、ケルビムは尻尾の先端の瘤で追撃する。ケルビムの尻尾の瘤には鋭利な刺が生えていて、それが余計にダメージを与える。

 何とか立ち上がったオーブは、渾身の右ストレートをお見舞いする。しかしこれにも動じないケルビムは、左手でオーブをはたき、追い討ちの火球を炸裂させる。

 

『「グ、グアアッー!!」』

 

 防御の構えを取る隙も与えられず、オーブは工業団地に仰向けで倒れた。そのダメージが効いたのか変身が解け、本来のババルウ星人の姿を子供達の前で晒してしまった。

 これまでオーブだと信じていた存在の正体が、偽物の宇宙人だったことを知って、子供達は驚愕する。

 その子供達の表情を見たババリューの身体に、これまで負ったダメージよりもっと重い一撃を喰らった感覚が走る。

 子供達それぞれの顔を見たババリューは胸が苦しくなり、これまで騙していたことを自白した。

 

「……そうだ、俺はウルトラマンじゃねぇ。暗黒星人のババルウさ……。お前達を騙していたんだ……。すまねぇ……。所詮俺は偽物なんだ……」

 

 膝を突いて四つん這いになっていたババリューの胴をケルビムは蹴り飛ばし、本能の赴くままにババリューを痛めつける。

 絶望の淵に立たされたババリューの耳に届いたのは、彼にとって信じ難い言葉だった。

 

「──がんばれ、ババリューさん!」

「がんばってぇー!!」

 

 ババリューに助けられたマサトとシンジが叫び、他の子供達もババリューを必死に応援する。

 この子供達の声援と一緒に、ジェッタとシンヤが言葉を届ける。

 

「……そうだ、諦めるな馬場先輩!あなたが誰であろうと関係ない!子供達に言ってくれたじゃないですか!『夢を追いかければ、いつかはヒーローになれる』って!あなたが……、あなたが僕達に夢を見せてくれたんじゃないですか!!」

「アンタのことを、子供達が応援してるんだろ!?アンタは子供達裏切って平気なのかよ!!今まで騙してたこと少しでも詫びてるなら……もういっぺん、立ち上がってみせろよ!!」

 

 これを聞いたババリューの全身に、力が漲る。

 ケルビムに踏み付けられていたババリューだったが、この声援を受けて再び立ち上がった!

 

「そうだ……お前らの言う通りだ……!ここで、諦めてたまるかぁぁぁ!!いよぉぉぉしっ!!やってやらあぁぁぁ!!」

 

 ケルビムに持てる力の全てをぶつけるババルウ星人だったが、これを不快に感じたノストラはこれまで静観を貫いていたヨミに命じた。

 

「ヨミッ!貴様も手伝えッ!!」

「それでは私は、子供達に更なる絶望を……」

 

【ザラブ星人!】

 

 ヨミもジャグラーと同様に、自らのダークリングにカードを読み込ませる。

 するとババリューとケルビムの眼前に、バーンマイトの姿のオーブが現れた!

 これにジェッタは、今度こそ本物が現れたのかと推測したが……。

 

「本物のオーブ……!?」

「いえ、違います!よーく見て下さい、目付きが悪い。あれは、真っ赤な偽物です!」

 

 シンヤに言われた通り、ジェッタは目を凝らすと、本来バーンマイトにはないはずの黒いラインが入っていて、目元も若干つり上がっていた。

 

 ヨミが召還したザラブ星人にも、ババルウ星人に良く似た変身能力が備わっている。ただし、ババルウ星人の変身と比べれば、ややおかしい箇所がいくつもある。

 召還されたザラブ星人は降り立つ直前、その一瞬でオーブに化けたのである。

 つまりあれは、もう1人の「にせウルトラマンオーブ」と言うことだ。

 

 この展開を予期していなかったババリューは当然焦るが、眼前で構えるにせオーブ バーンマイトのボディーブローを喰らってしまう。

 

「グハアッ……!?」

 

 オーブの全形態中でも攻撃に特化しているバーンマイトの一撃は、ケルビムとの戦闘で既にボロボロだったババリューを更に追い込む。

 ボディーブローを喰らって咳き込むババリューに、非情にもケルビムはトドメの火球を放つ。

 

「ウワアアーッ!」

「先輩っ!」

 

 子供達とジェッタの悲鳴が上がった時、場所を移したガイはオーブリングを構えた!

 

「ガイアさん!」

【ウルトラマンガイア!V2!】

「ビクトリーさん!」

【ウルトラマンビクトリー!】

「大地の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 フォトンビクトリウム!】

 

 

 

 ケルビムともう1人のにせオーブの猛攻で力尽きかけていたババリューは、目の前に迫る火球を直視して終わりを悟った。

 

(これで一巻の終わりか……。)

 

 自分の運命に身を委ねたババリューは、諦めるように視線を反らす。

 しかしケルビムの放った火球は、直撃することがなかった。

 何が起こったのかと視線を上げると、ババリューのすぐ目の前に、サークル状のバリアを展開する本物のウルトラマンオーブの姿があった。

 本物の登場に言葉の出ないババリューは、ただただオーブを見つめる。その視線に気付いたのか、オーブはゆっくりと振り向いてババリューに頷いてみせる。

 

 そして標的を自らの偽物と怪獣に見定めたオーブは、勇猛果敢に勝負を挑む!

 まず、にせオーブが本物を襲うが、彼には本物ほどの勇ましさはなく、フォトンビクトリウムの鉄拳を叩き込まれる。その勢いのままにせオーブはケルビムと激突し、本来のザラブ星人の姿へと戻ってしまう。それでもザラブ星人はオーブに猪突猛進するが、渾身の必殺技「フォトリウムナックル」を喰らって空高く舞い上がり、上空で爆散。

 残るは、ケルビムただ1体。

 ケルビムの胴体に、重さを乗せた正拳突きをヒットさせる。負けじとケルビムも右腕を振るうが、オーブはこれをノーガードで凌ぐ。

 ケルビムの突進を左腕のみで抑えたオーブは、更にタイプチェンジ!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

『光を越えて、闇を斬る!』

 

 タイプチェンジと同時に起こった突風で、ケルビムは転倒。オーブは、ケルビムが倒れたのと同じタイミングで名乗る。

 再び起き上がったケルビムはオーブに襲いかかるが、オーブは召還したオーブスラッガーランスで竜巻を精製。ケルビムを天高く飛ばす。

 そして自らも高く飛び上がり、ランスのレバーを3回引き赤いスイッチを押すことで、この姿の必殺技を発動する!

 

『トライデント、スラーッシュ!!』

 

 高速で切り刻まれたケルビムは爆発、オーブの勝利だ!

 オーブの勝利に子供達とジェッタが歓喜の声を上げていたが、これまでそれを見ていたのはババリューも同じだった。

 力なく倒れたババリューは片手で顔を覆って、小さくこう言うのだった。

 

「へへっ……やっぱ、本物はすげぇや……」

 

 そう言い残し、ババリューは金色の光になって消えた。

 それを目撃したジェッタは嫌な予感がして、ババリューの消えた場所へと走った。

 

 

 

 作戦が失敗した挙げ句、オーブにも負けた惑星侵略連合の宇宙人達の間を嫌な空気が漂っていた。そんな中で口を開いたジャグラーとヨミは、この作戦のことを嘲笑う。

 

「ドン・ノストラ……。あなたのやり方は、人間の心の善悪を問う昔ながらのやり方です。……時代はもっと進んでるんですよ」

「次こそ皆様の作戦が成功することをお祈りします。では、我々は失敬致します……」

 

 そう言ったヨミだけは丁寧に礼を行って、彼らは円盤を去る。

 これを聞いたノストラの配下達は、悔しさを露にする。ノストラはと言えば、いつものように玉座に着座していたが、誰も彼の拳がわなわなと震えていたことに気付いていなかった。

 

 

 

 身体の節々から走る痛みに耐えながら、ババリューはその場を離れる。もう、ここにはいられない。それが分かっているからこその行動だった。

 それだと言うのに、呼び止められたババリューは足を止めてしまう。

 

「先輩……!待ってよ先輩……!」

 

 ババリューが振り返ると、そこにはジェッタと自分が変わるきっかけをくれた子供達がいた。

 子供達は口を揃えてババリューに感謝を述べる。

 

「ありがとう、ババリューさん!」

「ありがとー!」

 

 自分がニセモノの宇宙人だったと言うのに、そんな自分にこの子供達は、感謝の言葉を届けに来てくれた。それに涙ぐんだババリューは、涙を堪えて右手を突き出す。それからまた歩き出し、ジェッタ達の前から姿を消した。

 

「馬場先輩……!」

 

 ババリューの後を追おうとするジェッタだったが、突然現れたガイに静止される。

 

「行かせてやれよ!……ヒーローってのは、風のように去って行くんだろ?」

 

 ババリューの消えた道を見つめるジェッタとガイ、そして子供達。

 

 これまで「ニセモノ」にしかなれなかったババルウ星人ババリューはこの日、子供達にとっての「本物のヒーロー」になったのだ。

 

 

 

 ババリュー……馬場竜次が姿を消してから数日が経過し、ガイ達は彼との思い出がいっぱい詰まった公園へと足を運んでいた。

 公園では相変わらず、子供達が元気いっぱいにはしゃぎ合っていた。

 

「馬場先輩、どこ行っちゃったのかな……?」

「きっとまた……、どこかで会えますよ。……僕らは、この空で繋がってるんですから」

 

 ババリューとの別れの淋しさからかジェッタがそう呟くと、シンヤが晴れ渡る空を見上げながらバナナオレを飲む。

 ガイが目線を逸らすと、母親に連れられた小さな女の子が帽子を落としてしまった。それを黒髪の清掃員の青年が拾い、その親子に優しく接していた。

 ガイと目が合ったその青年は口元に手を添えて、嬉しそうな表情をガイに向けてまた作業に戻った。

 それを見て、彼が何者なのかを察したガイは笑みを浮かべ、落ち込むジェッタを励ました。

 

「さぁな……。ヒーローってのは案外、その辺にいるんじゃないか?」

 

 その励ましを受けたジェッタは、平和な公園をまた眺め始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

ガイ「さぁ、ウルトラヒーロー大研究の時間だ。今回もヒーローを紹介していくぞ」

シンヤ「今回は、誰を紹介するんですか?」

ガイ「今回紹介するのは、この人だ!」

 

【ババルウ星人ババリュー!】

 

シンヤ「えっ、ガイさん!?この人は……。あぁ、なるほど」

ガイ「紹介を続けるぞ。『ババルウ星人ババリュー』。元々は惑星侵略連合に属していた宇宙人だ。持ち前の変身能力でオーブに化けて、人々との絆を断ち切ろうと企んでいたようだが、突然現れた野良怪獣のテレスドンと戦うことになってしまったんだ。そんな中で偶然子供達を助けてしまったことで、こいつの運命が変わったんだ」

シンヤ「ババルウ星人という宇宙人はこれまでも、卑劣な作戦でウルトラ戦士の皆さんを追い詰めましたが、今回のババリューさんは、どこかコミカルで人間味のあるキャラクターとして描かれていました」

ガイ「今回登場したザラブ星人は、ウルトラシリーズの長い歴史における元祖『にせウルトラマン』なんだよな」

シンヤ「その通りです!ザラブ星人から始まったにせウルトラマンの歴史は、『偽物=悪者』のイメージを根強くさせましたが、にせウルトラマンの中にも『善のにせウルトラマン』がいることを忘れないで下さいね!」

ガイ「あぁ、こいつもその1人って訳だな!

 ……おっと。悪いがそろそろお別れの時間だ」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の宿敵、ジャグラスジャグラー。奴との因縁は遥か昔から続く、光と闇の戦い。

 だが、お前との腐れ縁もこれまでだ。さぁ、ケリを付けようぜッ!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『ジャグラー死す!』。

 光を越えて、闇を斬る!!




……いかがだったでしょうか。

フォトンビクトリウムの出番が多いのは、単純に作者が平成3部作でガイアが好きだということもあって、かなり優遇してるなー……という自覚があります。
作者の中では、フォトンビクトリウムは、サンブレの次くらいに攻撃力が高いという(勝手な)位置付けにあります。

皆さん、オーブの映画はどうでしたか?
作者も早く見たいです……。

次回の更新もきっと遅いと思いますが、よろしくお願いします!

隠れたサブタイトルは、『ウルトラQ』第21話『宇宙指令M774』でした。

では……ノシ


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第10話 ジャグラー死す! ━前編━

皆さん、お久しぶりです。
おおよそ2週間ぶりの最新話投稿です。

それでは、どうぞ…。


 ある日の晩。

 SSPのオフィスでジェッタとシンは渋川と談話、ガイはオフィス内の小上がりに寝転がって寝息を立てて、何もない時間を過ごしていた。

 そんな中オフィスの扉が開き、伝統的な色合いの法被を羽織ったナオミが帰って来る。それも大きな袋を2つ抱えて。

 しかしジェッタとシンはそれを迎え入れる様子を見せず、むしろ表情が曇り出す。

 

「はぁ~疲れたぁ……。おじさんもいたんだ。丁度良かった」

「おう、ナオミちゃんお帰り。またバイトか?精が出るねぇ~」

「みんなお待ちかねのお土産!今夜もSSPたこ焼きパーティーよ!」

「ワォ~!ナオミちゃんありがとね!ヒュー、ヒュー、ヒューッ!」

 

 そう言ってナオミは、たこ焼きがたくさん入った袋を持ち上げる。場を盛り上げようと渋川は指笛を鳴らそうとするがどれも失敗し、ジェッタとシンは嬉しさ半分悲しさ半分といった表情を見せた。

 ナオミが法被を着ていたのには理由がある。

 連日行われているお祭りの出店で、ナオミはたこ焼き屋のバイトをさせて貰っていて、売れ残ったたこ焼きを営業終わりにいただいていた。

 今夜で3日目のたこ焼きパーティーを開催しようと、ナオミはパックに詰められたたこ焼きを幾つも机の上に並べる。

 しかしジェッタは、渋川と焼き肉に行く約束があると断り、シンに至っては胃の調子が優れないため先に帰ると言い出した。

 ナオミは立ち去ろうとするジェッタ達の前に立ち塞がり、たこ焼きを一緒に食べようと約束したことを主張するが、彼らにとって3日連続たこ焼きはもう限界だった。それぞれが言いたいことを言った後に、ジェッタ達はオフィスから去って行った。

 この騒がしさには、これまで眠っていたガイも目が覚めてしまった。

 

「騒がしいなぁ……」

 

 ガイはゆっくりと起き上がって不平を漏らすが、たこ焼きのパックを両手で抱えるナオミと目が合ってしまう。

 彼女とたこ焼きを交互に見比べたガイに、ナオミは嬉々たる表情を向けてパックを差し出す。

 

「……ガイさんなら、食べてくれるよね!」

 

 これには流石のガイでも苦笑いを浮かべるが、仕方なく余ったたこ焼きを食べることにした。

 

 

 

 惑星侵略連合の円盤内では、ジャグラーとナックル星人ナグスがテーブルを挟んで座っていた。

 ナグスが視線を向けるのはテーブルの上。

 そこには不規則に並んだ怪獣カードがあり、中央にだけカードが1枚附せられていた。

 ジャグラーがめくったそのカードは、地獄の王を模した怪獣のカードだった。

 

「ほう、『閻魔怪獣 エンマーゴ』……。『突然の死』を暗示する不吉なカードです。地獄に落ちぬようくれぐれもご注意を……」

 

 彼らが行っていたのは、怪獣カードを使った占いだったようだ。それはまるで、タロット占いのようにも見えた。

 タロットと言うのは占いに使用するカードのことを示していて、それぞれのカードの意味によって現在・過去・未来を占うことが出来る……らしい。

 この怪獣カードを使った場合にはどうなるのかは分からないが、エンマーゴのカードにはそう言う意味があるようだ。

 しかしその結果に納得がいかなかったのか、ナグスは鼻で笑う。

 

「フンッ、俺は占いなんか信じねぇぞ!」

「あなたが占ってほしいとおっしゃったんじゃないですか……」

 

 そんなナグスを、ジャグラーの脇におっ立っていたヨミが盛大に皮肉ると、愛想を悪くしたナグスはその場を離れる。

 

「クッ……!ヤロウ、いつか見てやがれ……!」

 

 ナグスが去り静寂が訪れた後、ジャグラーはこれまで入手した魔王獣カードを懐から取り出し、それぞれを眺め出す。

 これらのカードは、ウルトラマンオーブによって倒された魔王獣達の残留したエネルギーを、ジャグラーが自らのダークリングを介してカード化したもの。しかしジャグラーはそのカードをコレクションとして集めるのではなく、「ある目的」のために使おうとしていた。

 その目的を遂行するには、まだもう1つピースが欠けている。

 

(残るは、最後の1枚……。)

 

 魔王獣カードをじっと見つめるジャグラーの元に、手裏剣のように回転して飛んで来る怪獣カード。それはジャグラーやヨミを掠めることなく、先程ナグスを占っていたテーブルに突き刺さる。

 突然飛来したカードに驚いたヨミは、それに描かれていた怪獣を確認した。

 

「ブラックキングのカード……!?」

「……これは?」

 

 ジャグラーは突き刺さったブラックキングのカードを引き抜き、カードが飛んで来た方角に視線を向ける。

 すると、静かな足取りで何者かがやって来る。

 

「『用心棒怪獣 ブラックキング』。そのカード、君に託そう」

「ドン・ノストラ……!」

 

 メフィラス星人ノストラに背を向けたまま立ち上がろうともしないジャグラーに代わり、ヨミは深々と頭を下げる。ノストラはヨミをチラリと見ただけで、ジャグラーに語りかける。

 

「君は言ったな……私の侵略作戦は最早時代遅れだと。ならば君自身の手で、ウルトラマンオーブを始末してほしい」

 

 ジャグラーは手元のグラスを口に運び喉を潤した後、ノストラに答える。

 

「待ってましたよ……。そのお言葉」

「奴を倒し、ウルトラマンのカードを全て奪い取るのだ」

「それ相応の報酬はいただけるんでしょうね……?」

「もちろん……。君が一番求めているのは、このカードだろ?」

 

 これまでジャグラーに背を向けていたノストラは振り向き、1枚のカードを見せびらかす。

 ノストラがジャグラー達に見せたカード、それは彼が切り札だと豪語する『ウルトラマンベリアル』のカードだった。

 

「君が我ら惑星侵略連合に近付いたのも、全てはこの切り札を手に入れるため……」

 

 ノストラはジャグラー達の背後を通り過ぎ、ジャグラーの間近で歩みを止める。

 ベリアルのカードを目撃したジャグラーは一本取られたと言いたげに笑い出す。

 

「あなたに隠し事は出来ませんねぇ……」

「こいつを手に入れて何をしようとしてるのか興味はない……。だが奴の命は、このカードに匹敵する値打ちがある」

 

 ノストラが言い終わると同時にジャグラーは立ち上がり、威圧的な視線をノストラにぶつける。

 

「報酬は高ければ高い方が燃えると言う……。約束は守ってもらいますよ……?」

 

 そう言い残し、ジャグラーとヨミは立ち去ろうとするが、ノストラの一言に足を止める。

 

「無論……。惑星侵略連合首領の名にかけて……」

 

 それを聞き、背中越しにジャグラーは薄ら笑いを浮かべて今度こそ円盤から立ち去った。

 

 

 

 すっかり夜も更けて、そよ風が吹き抜ける中。

 SSPのオフィスの階段を上り終えた僕は、入り口の引き戸を開けた。

 

「ただいま戻りました~」

「お帰り、シンヤ君。そっちはどうだった?」

 

 僕を迎えたのはナオミさんの声だった。

 声のした方を見れば、何かしらの書類を纏めるナオミさんを見つける。

 ナオミさんが言っているのは、僕がお手伝いをしているかき氷屋の売り上げのことだろうか。

 ちなみに僕もナオミさんと同様に、お祭りの出店のバイトをしていた。

 それを聞かれた僕は自慢気に答える。

 

「ふふ~ん、今日も大繁盛でしたよ!」

「えぇ~?何か秘訣とかあるの?ねぇ、教えて!」

「教えられる訳ないじゃ……」

 

 ふと視線を反らすと、机の上に山のように積み重なったたこ焼きのパックを目撃してしまった。

 微妙な空気が漂う中、僕は口を開いてナオミさんに尋ねた。

 

「あ……今日も、たこ焼きパーティーですか……?」

「う……うん」

「だ、大丈夫ですよ。僕、たこ焼き大好きですし……」

 

 ナオミさんはちゃんと答えてくれたけど、何とも言えない表情で僕となるべく目を合わせないようにしていた。

 そんなナオミさんを励ますべく、僕は何とかフォローに回ることにした。

 ナオミさんが落ち込む一方で、僕がまた視線を反らすと、ただ黙々とたこ焼きを食べるガイさんがいた。

 

「うん……。冷めたたこ焼きも、中々イケんな」

 

 どうやらたこ焼きを温めることなく食べていたガイさんの目の前には、多くのパックが重なっていた。

 それを見て少し呆れそうにもなったけど、突然寒気を覚えた。

 思わず振り返ると、ナオミさんのデスク付近の棚に置かれているマトリョーシカ人形を指でなぞる怪しげな男──ジャグラーがそこにいた。

 

「久し振りですねぇ……お嬢さん」

「あなた……どこから入ったの……!?」

 

 ナオミさんが驚くのも無理はなかった。

 このオフィスに立ち入るには、僕が入って来た入り口か、もしくは日頃あまり使用しない裏口から入るしか手段がない。

 だが、これまでどちらかの扉が開くこともなければ、その物音すらなかったのだ。

 突然現れたジャグラーを警戒して、僕はナオミさんを庇うように立ち塞がるけど、ガイさんが僕らの前に飛び出して威嚇をする。

 

「その薄汚い手を離せ……!」

「おぉ……、怖いねぇ……」

「何しに来た……!?」

 

 威嚇を緩めず、ガイさんはジャグラーに問い質す。

 するとジャグラーが姿を消す。どこに行ったのか辺りを見渡すと、いつの間にかジャグラーは、僕らに近い柱に寄りかかっていた。

 ガイさんが僕らを咄嗟に庇い、また緊迫した空気が流れる。ジャグラーはどこかを見つめながら、意味深な言葉を呟き始める。

 

「空は……夜明け前が一番美しい……。暁の空。それは新たな世界の幕開けを予感させてくれる」

「戯れ言はよせ……!」

「お嬢さんと夜明けのコーヒーを飲みに来た……。と言いたいところだが……」

 

 ジャグラーは卑屈に笑いながら僕の後ろのナオミさんを見つめてそう言い、すぐにガイさんと向き合う。

 

「ガイ、その命いただくぞ……」

 

 それだけ言い残すと、ジャグラーは霧のようになって、この場から消失した。

 ジャケットに袖を通して、ガイさんはジャグラーの後を追おうとする。でも、ナオミさんがガイさんの歩みを止める。

 

「待って!命をいただくって……!」

「……あぁ」

「おじさんに知らせなきゃ……!」

「必要ない!」

「でも、あの人普通の人間じゃない!一体何者なの!?」

「腐れ縁ってヤツさ……。奴とケリを着けなきゃいけない。その時が来たってことだ」

「でも……!」

「ここで待っていてほしい。必ず、戻る……!」

 

 ナオミさんに微笑んで、ガイさんはオフィスを飛び出して行った。

 ナオミさんは、その背中を見つめることしか出来なかった。

 

「ガイさん……」

 

 

 

 

 

「ドン・ノストラァ!ブラックキングは、この俺が手に入れた最強のカードだ!それをあんな野郎に軽々しく譲っちまうとは、一体どういう……!」

 

 場面は変わり、惑星侵略連合の円盤内。

 そこでは珍しく、ナックル星人ナグスがノストラに対して声を荒らげていた。

 ノストラがジャグラーに授けたブラックキングのカードは本来ナグスの所有物で、彼はこのカードに並々ならぬ愛着があった。

 そのカードを勝手に譲り渡されてしまったことに激しい怒りを覚えるナグスは、ノストラに食って掛かる。

 しかしノストラは、余裕綽々とした態度でナグスに対処する。

 

「光と闇。どちらが勝とうと知ったことではない。知恵のあるものは、寅と亥を噛み合わせて利益を得るのだよ。……ナックル星人。お前には仕事がある」

 

 

 

 

 

 ガイさんが飛び出して行った後、どうにも不安が拭えなかった僕は、ナオミさんの手伝いをし終えた後にガイさんを追っていた。

 遠くの空はだんだんと明るくなっていて、もうじき夜明けなのだと予感させる。

 

「……どっちに行ったんだろ」

 

 見通しの悪い曲がり角に差し当たり、辺りを気にせず曲がろうとした時、向こう側からやって来る誰かとぶつかってしまった。

 

「あたっ……!だ、大丈夫でしたか……!?」

「むぅ……、少しは気を付けたまえ……!」

 

 僕がぶつかってしまったその人は、尻餅を突いて頭を横に振っていたけど、僕は別の問題で驚いた。

 僕がぶつかったのは、赤く細長い上半身に青い下半身、胸部から腹部にかけて走る黄色い発光器官。

 僕の知る中では、宇宙一ちゃぶ台の似合う宇宙人だったからだ。

 

「メ、メトロン星人……!?」

「ムッ!?いかん、変装が解けてしまった……!」

 

 僕に正体がバレてしまったメトロン星人は露骨に焦りだし、すっくと立ち上がると足踏みを始める。

 そんな彼と向かい合わせになった僕は彼を静止させようと、両手を突き出し宥めようとする。

 

「キ……キエテコシ、キレキレテ……!」

 

 僕の唱えた呪文のような言葉。

 これは宇宙語で「僕、君、友達」を表す言葉だ。

 やや語尾が震えて辿々しくなってしまったけど、きちんと気持ちは伝わったことを信じてメトロン星人を見つめていると、彼は足踏みを止めて首を傾げた。

 

「……?何だその分かりにくい宇宙語は」

 

 こうして僕は、何とかメトロン星人タルデさんとコミュニケーションを取ることに成功した。

 

 

 

 

 

 既に日は昇り、ジャグラーは閉鎖された牧場跡地に佇んでいた。手付かずになった草原の雑草は、腰の高さまで伸びていて、少し風が吹くだけでゆらゆらと揺れる。

 その風に乗って、ジャグラーにとって不快なメロディが耳に届く。途端に偏頭痛がジャグラーを襲う。

 

『♪~……』

 

 頭を抑えてジャグラーが振り返ると、ウェスタンハットを斜めに被り、歩み寄って来る因縁の相手がいた。

 オーブニカの演奏を中断して、それを懐にしまい終えたガイに、ジャグラーは思い切り振りかぶって右ストレートをお見舞いしようとする。

 しかしそれはガイも同じ。それに答えるように、ガイもまた右ストレートで迎え撃つ!

 

「「オラァッ!!」」

 

 ガイとジャグラーの拳がぶつかり合い、その衝撃で周囲の雑草が舞い上がる。

 互いの拳はそれぞれを掠め、右腕を伸ばしたまま膠着状態が続く。

 自然に背中合わせになる2人だったが、右腕越しにジャグラーはガイと目を合わせて口を開く。

 

「良いねぇ、その顔……。あの日を思い出す……」

「俺はとうの昔に忘れちまったな」

「フンッ、釣れないなぁ……」

「お前との腐れ縁も今日までだ。さぁ、ケリを着けようぜ!」

 

 それが号令となり、ガイとジャグラーの鍔競り合いが始まる。

 ジャグラーは渾身のアッパーを振るうが、その衝撃でガイの帽子を打ち上げるだけに終わった。

 一向に決着は着かず、次第に2人は常人とは思えない高速移動を繰り出す。

 ジャグラーの攻撃をかわしたガイは空高く飛ぶと、落下する勢いでジャグラーに拳を叩き込もうとするが、ジャグラーはこれを回避。ガイの拳はそのまま地面に直撃し、大地を抉る。

 

 この戦いを円盤内で密かに傍観していたノストラは、ガイとジャグラーの因縁を語り出した。

 

「ジャグラー。君達の因縁は耳にしている。

 遥か昔、君達2人は、銀河の果てで雌雄を決したそうだな?クレナイ・ガイは光に選ばれ……君は闇に魅入られた……。

 今こそ教えてやりたまえ!君の選んだ闇の力の方が、光より遥かに偉大であることを!!」

 

 その間にも、ガイとジャグラーの決闘は平行の一途を辿っていた。その最中、ガイが懐にしまったはずのオーブニカが地面に落ちる。

 それに気を取られたガイの背中を、ジャグラーが蹴り飛ばす。飛ばされた反動でオーブニカを拾ったガイは受け身を取り、再びジャグラーと向かい合う。

 

「それでも本気なのか?戦いに集中しろッ!!」

 

 せっかく全力で戦えていると言うのに、少しのことで気を緩めるガイの不甲斐なさに苛立ちをぶつけるジャグラーは、半ば呆れ気味に問いかける。

 

「……お前恐れてるんだろ?人間を傷付けることを」

 

 その指摘でガイが思い出すのは、あの少女と過ごした平和な日々や、少女と過ごした森。

 自身が壊してしまったその日々と、己の力で焦土と化してしまった森に木霊する慟哭──。

 

「何をそんなに恐れている……?小娘1人守れなかっただけだろ?

……どうしてそこまで、人間に執着するかね。たかが人間ごときに惑わされるから、本当の力も失っちまったんだ!えぇ?有り難いウルトラマンさんの力を借りなきゃ、戦うことも出来ない。

所詮その程度のお前が、闇の力に刃向かおうなんざ愚かしいんだ!!」

 

 そう言ってジャグラーは蹴りかかるが、ガイは冷静にそれを捌く。すかさずジャグラーは二手三手と詰め寄るが、そのことごとくを防がれる。

 

「言いたいことはそれだけか……!」

 

 ジャグラーは左ブローを振るうが、瞬時に放たれたガイの発勁を胴に貰う。

 その威力に蹲るジャグラーに、ガイは言い放つ。

 

「……お前が何を企もうと、俺は人間を守り抜く!」

「おぉ、怖い怖い……」

「どんなに魔王獣を復活させようと無意味だ。6体全て倒した今、お前の本当の目的も潰えた」

「フッ……」

 

 ガイはジャグラーの企みを本人に突き付けるが、当のジャグラーは余裕の表情で乱れた服装を整える。

 

「今まで魔王獣を甦らせて来たのは、マガオロチを復活させるためだったんだろ?

 闇・光・風・土・水・火。6つの魔王獣の封印が破られる時、この世に出現すると言う大魔王獣。だが、その策略ももう終わりだ……。お前は俺が倒すッ!!」

 

 ガイは宣言と共にジャグラーを睨み付ける。その瞳には、迷いなど一切なかった。

 

「だったら……本気でかかって来いよ……?ウルトラマンオーブ……!!」

 

 ダークリングをガイに向けて構えるジャグラーと、同様にオーブリングをジャグラーに向け構えるガイ。

 最早今の2人に、これ以上言葉を交わす必要はなかった。




テレビ本編ではどこに行っていたのか不明だったタルデさんを、このような形で登場させました。

ノストラがナグスに仕事を依頼する時の台詞、これで合ってましたかね…?

後編はしばらくお待ち下さい…!


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第10話 ジャグラー死す! ━後編━

お久し振りです…!
また2週間ぶりの更新です。

中途半端なところで待たせてしまってホントに申し訳ありません…!

それでは、どうぞ


 ジャグラーがブラックキングのカードをかざすと同時に、ガイは腰に携帯しているフュージョンカードホルダー内部のカードケースを引き出す。

 その間にもジャグラーはダークリングに怪獣カードをリード、怪獣を実体化させる!

 

【ブラックキング!】

 

 用心棒怪獣 ブラックキング。

 かつてウルトラマンジャックを抹殺するために、ナグスの同族に当たるナックル星人が連れてきた怪獣だ。

 その強靭な肉体は、ジャックのスペシウム光線はおろかウルトラブレスレットに耐え得る防御力を誇る。

 そんな強敵に臆することなく、ガイはオーブリングを構えた!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

『光を越えて、闇を斬る!』

 

 ブラックキングの正面に舞い降りたウルトラマンオーブは、例に漏れず名乗りを上げる。

 しかしジャグラーはそれに反論するように口を開き、ブラックキングに命じる。

 

「いいや……闇こそが光を覆い尽くすんだ。行け!ブラックキング!!」

 

 その命令を受け、轟音と咆哮を上げながらオーブに突撃するブラックキング。オーブもまたブラックキングに向かって行き、突風を纏った蹴りを数発繰り出すが、どれも決定打にはなり得ない。

 ブラックキングの懐にチョップを喰らわせるが、これに動じるブラックキングではない。腕を掴まれたオーブは乱暴に押し出されるもすかさず体勢を取り直し、頭部の2つのスラッガーからオーブスラッガーショットを放った。だがこれもブラックキングの両腕に弾かれる。

 弾かれたそれを用いて、次にオーブは専用武器のオーブスラッガーランスを具現化。両手で持ち構えてブラックキングに斬りかかるが、体表を浅く傷付けるだけに終わった。

 ランスを振りかぶっての殴打を与えようとするが片手で防がれ、胸部に重い一撃を貰う。

 その一撃でふらつくオーブに、ブラックキングは口から赤色破壊光線「ヘルマグマ」を放つ。しかしオーブはオーブスラッガーランスを高速で回転させ、ヘルマグマをブラックキングに跳ね返す。

 自身に返って来たヘルマグマに驚く素振りもなく、ブラックキングはそれすら弾き飛ばす。しかもダメージは一切なく、オーブに迫る余裕すらあった。

 

『タフな野郎だ!……だったらこれだッ!』

 

 このままでは埒が明かないと判断したオーブは、これに対抗すべく別の姿へと変わる!

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

「熱いやつ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

『紅に、燃えるぜ!』

 

 全身に燃え滾る炎を振り払い名乗ったオーブは、高速でブラックキングにタックルをお見舞いし、再び掴みかかった後にブラックキングを投げ飛ばす。更に顔を掴み上げて豪快なウェスタンラリアットを決める。

 負けじとブラックキングはヘルマグマを吐くが、オーブは空高く飛びこれを回避。そのジャンプを利用してスワローキックを放つが、ブラックキングは何とこれを片手で掴み防ぐ。

 得意のスワローキックを弾かれた勢いで反転したオーブは、間髪入れず着地と共に七色の光を纏わせた火球弾「ストビュームバースト」を撃ち込むが、ブラックキングはお得意のヘルマグマでこれを相殺。

 この衝撃で生まれた爆発に紛れ込んだブラックキングはオーブに特攻、強烈な頭突きを喰らわせる。

 それを喰らい、仰向けに倒れるオーブのカラータイマーが赤く点滅を開始。勝機を見出だしたブラックキングは、更にヘルマグマで追撃する。

 次第に押され始めるオーブを傍観していたジャグラーは落胆を露にする。

 

「この程度なのか……?お前にはホントがっかりだよ……。トドメを刺せ!ブラックキ……!」

 

 そして、自らが使役するブラックキングに命令を飛ばそうとした時。

 ジャグラーの背後から放たれた銃弾が、ジャグラーの右肩を撃ち抜いた。

 突如たる出来事に顔を歪めるジャグラーが振り向くと、不気味に笑いながら光線銃を構えたナックル星人ナグスが歩み寄って来た。

 

「貴様……!」

「ヘッヘッヘッ……。まさか俺の名を知らなかった訳じゃねぇよなぁ?俺はナックル星人、『暗殺宇宙人』だ……!この俺が地獄に落ちるって?地獄行きは……テメェの方だッ!!」

 

 ナグスの光線銃が再び火を噴き、放たれた銃弾は的確にジャグラーの左胸──心臓を射抜いた。

 その異常事態を察したオーブがジャグラーを見ると、痛みを堪えるジャグラーと目が合った。

 その視線に気付いたジャグラーはニヤリと笑い、オーブに手を伸ばしながらやがて力無くゆっくりと倒れ、爆発した。

 

『ジャグラー!』

 

 それを目撃したオーブが驚愕の声を上げたと同時に、ナグスは高らかに笑い、その瞬間を見ていたであろうノストラに嬉々として声を上げた。

 

「ハッハッハッハッ!やりましたぜぇ!ドン・ノストラァ!!」

「残るはウルトラマンオーブだけだ。奴にトドメを刺し、ウルトラマンのカードを、全て奪い取れ!」

「やれぇ!ブラックキングッ!!」

 

 ナグスが本来の主君であることを本能的に察知したのか、ブラックキングはナグスの指示通りにオーブに迫る。

 しかし、このナグスとノストラの卑劣な作戦に、オーブの怒りは爆発。それを体現するかのように、バーンマイトの全身に炎が迸る。

 それに怯えもせず、ブラックキングはヘルマグマを放射するが、何とオーブはヘルマグマの炎を吸収。更にヘルマグマのエネルギーを上乗せし威力の増幅した「ストビュームカウンター」でブラックキングを弾き飛ばした!

 その威力は凄まじく、これまで優勢だったブラックキングが、何度も地を転がる程だった。

 オーブの反撃はそれだけでは止まらず、全身に炎を纏わせたオーブはブラックキングに特攻し、渾身の必殺技を喰らわせた!!

 

『ストビューム、ダァイナマイトォォォォ!!』

 

 ストビュームダイナマイトを受けたブラックキングは爆死し、この戦いを観戦していたナグスは、その爆風で軽く吹き飛ばされてしまった。

 全身の炎がようやく収まったオーブは、勝利の余韻に浸ることもなく、ただ静かに立ち尽くしていた。

 

 

 

「くっ……、ウルトラマンオーブめ……ッ!こいつは……!」

 

 吹き飛ばされたナグスだったが、その傍らにある怪獣のカードが数枚あちこちに散らばっていたことに気が付いた。

 そのカードとは、ジャグラーが回収していた魔王獣のカードだった。オーブは倒せなかったが、これを持ち帰ればノストラへの良い土産になると思ったナグスは、そのカードを一心不乱に集め始める。

 6枚全て回収し終えたナグスは、意気揚々と円盤へと帰ったが、魔王獣のカードを持ち去ったのを物陰から密かに見つめる存在に、ナグスは全く気付かなかった。

 

 

 

 一方、嫌な予感が拭えずにガイが無事に帰って来るのを、オフィスでずっと待っていたナオミ。

 先程数分前に、ガイを探しに飛び出したシンヤが帰って来たのだが、肝心のガイが未だに帰って来ない。

 次第に言い様のない不安がナオミを襲い始める中、オフィスの扉が開く。

 ガイが帰って来たのかと思ったが、やって来たのは夕べ帰ったジェッタとシンの2人だった。2人共ガイが朝からいないことを不思議がるが、やがて2人は今日の予定を確認し始める。

 彼らがいつも通りに過ごす一方で、激戦をくぐり抜けたガイは傷だらけの身体を引きずって帰って来た。

 しかし彼らにそれを悟られまいと、玄関の扉を開ける前に何とか呼吸を整え、平然を装ってその扉を開けた。

 

「よぉ……。今帰った……」

「……おかえり」

 

 ガイの笑顔を見て安心したのか、ナオミもまた笑顔になった。

 

 

 

 場面は切り替わり、惑星侵略連合の円盤内。

 メフィラス星人ノストラと、ナックル星人ナグスが自分達の目論みが成功したことを喜び合っていた。

 

「よくやった。ウルトラマンオーブは仕留め損ねたが、十分過ぎる収穫だ」

「ヘッ。あいつ、口ほどにもない野郎でしたぜ」

「愚かな奴め……。この私が、究極のカードをみすみす手放すとでも思ったか……」

 

 そう言ってノストラは、ナグスが回収した6枚の魔王獣カードを取り出し眺め出す。

 この勢いに乗ったナグスは、ノストラに新たな作戦を提唱する。

 

「ドン・ノストラ!この7枚のカードを使って、地球へ攻撃を開始しましょう!ド派手に行きやしょうぜ!名付けて、怪獣総進撃……グハァ……!」

 

 最後まで言い終わる前に、ナグスは突然倒れる。

 何事かと思い、焦るノストラだったが途端に余裕の態度を見せる。

 

「……やぁ。やはり来ると思っていたよ。ヨミ」

 

 ノストラの眼前には、右手に小太刀を握るヨミがいた。恐らく、その小太刀でナグスを貫いたのだろう。小太刀をよく見ると、その切っ先から一定のリズムで「何か」が滴り落ちていた。

 ノストラ同様に平然としているヨミだが、その内心はきっと怒りで満ちているとノストラは睨んでいた。

 そんなノストラに、ヨミは歪んだ笑みを浮かべながら問いかける。

 

「ならば、私がなぜここに来たか……、分かってらっしゃいますよね?」

「あぁ、そうだな……。差し詰め、ジャグラーの弔い合戦と言ったところかなッ!」

 

 ゆっくりと立ち上がったノストラは、ヨミの不意を突いて必殺技の「グリップビーム」を照射する。

 しかしその光線は、ヨミが懐から取り出した1枚のカードに吸い込まれた。

 

「ッ!?」

「ガンQのカードです……。私、念には念を押すタイプなので」

 

 ヨミが使用したのは、『奇獣 ガンQ』の力を宿したカードだった。ガンQには相手の攻撃を吸収する能力があり、これはカードの状態でも適応するのだ。

 ヨミはすかさず、吸収したグリップビームを、ノストラに撃ち返した。

 しかしノストラはそれをかわし、隠し持っていたもう1枚の怪獣カードからリング状の光線を発射する。

 それに拘束されたヨミは、身動きが取れなくなってしまう。

 

「なっ、これは……!?」

「『念には念を』……か。残念だが、私とて用心はしているのだよ」

「ベロクロンのカード……!?そう言うことか……!」

 

 ノストラが使ったのは、『ミサイル超獣 ベロクロン』のカード。その名通り、ベロクロンにはミサイルやロケット弾を飛ばす能力があるが、それ以外にも金縛り光線を手から放つことが出来るなど、まさしく「全身武器」と言っても過言ではない充実した武装が備わっている。

 今回ノストラが使用したのは、その内の1つ「テリブルハンドリング」。相手の動きを封じる技である。

 

「くっ……!卑怯なっ……!」

「卑怯もラッキョウもあるものか……!よくも貴重な超獣カードを使わせたな……!この罪は大きいぞ!!」

 

 ヨミを拘束したノストラは、その怒りも込めてグリップビームを再度放つ。今度こそ光線が直撃したヨミは、苦悶の声を上げてその場に伏した。

 

「ハハハハッ!!この私に敵うと思ったか!?この愚か者め!!」

 

 死に瀕したヨミを何度も踏みにじり、ノストラは声を荒げる。やがてヨミの呼吸がしなくなったことを確認したノストラは、玉座に着こうとした。

 しかし、背後から何者かの足音。すかさず振り向くと、そこには死んだはずのジャグラーが蛇心剣を構えて立っていた。

 

「貴様……!なぜ生きている!?確かにナックル星人が心臓を……!!」

 

 それに答えるように、ジャグラーは1枚のカードをノストラにかざす。怪しげな赤い光を輝かせたそれを見たノストラは驚愕した。

 

「ベムスターのカード……!?だがヨミは……!」

「私が……何ですって?」

 

 その声を聞いたノストラの瞳に飛び込んで来たのは、更に信じられない光景だった。

 ジャグラーの背後から、先程まで床に転がっていたはずのヨミが、何の外傷もなく現れたからだ。

 

「ヨ、ヨミ!?なぜお前まで……!!」

 

 するとヨミは、再び怪獣のカードを取り出す。

 そのカードには、地獄の番犬を模した怪獣『フィンディッシュタイプビースト・ガルベロス』が描かれていた。

 ガルベロスは、相手に幻影を見せることが出来る。実はヨミは、ノストラがベロクロンのカードを使ったタイミングにこれを使い、ノストラから逃れていた。

 初めからノストラ達の策を見抜いていたジャグラーとヨミは、敢えてそれに乗ることで、今こうしてノストラを追い詰めることに成功したのだ。

 

「ガルベロスのカードだと……!?おのれぇ!」

 

 それでも往生際の悪いノストラは、ジャグラーにグリップビームを撃つが、ジャグラーはこれを蛇心剣の刀身だけで弾く。それに伴って軽い爆発が発生するが、それが止んだ時ノストラは息を飲んだ。

 そこにいたのはジャグラーであってジャグラーにあらず。

 ジャグラーはその身を胴色の甲冑に変え、瞳を蒼く光らせ、胸には三日月にも見える紅い傷が刻まれていた。

 これこそがジャグラーのもう1つの姿「魔人態」、「無幻魔人 ジャグラスジャグラー」としての姿……!

 その姿に恐怖を覚えたノストラは、何度目かのグリップビームを撃とうとするが、それよりも早くジャグラーの魔人の如き一太刀がノストラを切り裂いた!

 

「策士策に溺れるとはこのことだ。ノストラ、アンタの時代は終わりだッ……!!」

 

 ノストラに背を向けたまま、ジャグラーは逆手に持ち替えた蛇心剣をノストラに突き刺し、強引に引き抜く。

 

「ガアッ……!おぉのぉれぇぇぇぇぇ!!」

 

 断末魔を上げながら、ノストラは爆発。

 そしてジャグラーの元に、紫に光る1枚のカードが飛来する。それを左手に取ったジャグラーは、自分の元に戻って来た魔王獣達のカードを右手に持ち、それぞれを眺める。

 

「ついに我が手に来たか……!最後のカード……!」

 

 惑星侵略連合の円盤内に、連合の面々は誰1人としておらず、ただジャグラーの悦に入った笑い声だけが木霊した……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「ふんふんふ~ん♪」

ガイ「やけに上機嫌だな、シンヤ。何か良いことでもあったのか?」

シンヤ「え?いえいえ、そんなことないですよ~?」

ガイ「……絶対何か隠してるだろ」

シンヤ「そんなことないですってば!さ、今回は誰を紹介しますか?」

ガイ「(怪しすぎる……)そうだな。なら、今回紹介するのは、この人だ!」

 

【ウルトラマンジャック!】

 

ガイ「ウルトラマンジャックさん。『ウルトラ兄弟』の四男で、初めて地球を守る目的で地球にやって来たウルトラ戦士なんだ。ウルトラブレスレットを駆使して戦ったぞ」

シンヤ「ジャックさんは本編では『ウルトラマン』と呼ばれていて、『ジャック』という呼び名も後々決まったものなんです。なので『ジャック』という呼び方は直撃世代の方々にはあまりピンと来ないらしく、ファンの方々の間では様々な略称があり『帰ってきた新ウルトラマンジャックⅡ世』なんてジョークがあるとか」

ガイ「そんなことまで……。いつもお世話になってます」

シンヤ「地球を去る時、『ウルトラ5つの誓い』という偉大な言葉を残して去りました。これは後に、『ウルトラマンメビウス』でも登場しました」

ガイ「『ウルトラ5つの誓い』?何なんだ、それ?」

シンヤ「えぇ!?ガイさん知らないんですか!?」

ガイ「あぁ。なぁ教えてくれないか?」

シンヤ「分かりました!……おっと、お別れの時間です。

 それでは皆さん、今回はこの辺で失礼します」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然やって来た、ナオミの母親。

 中々強烈なキャラクターだが、良いお母さんじゃないか。

 だが、そんな平穏な日常に終わりを告げるかのように、ついに最悪の脅威が甦ってしまった!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『大変!ママが来た!』

 闇を照らして、悪を撃つ!




……いかがだったでしょうか。
大安売り並みに怪獣カードを登場させました。もっと出番あっても良かったと思ったもので。

ノストラのあの台詞ですか?
言わせたかったんですよ、あれ。

ジャグラーの魔人態は、『THE ORIGIN SAGA』のこともあって真の姿って呼ぶべきかどうか悩んだので、もう1つの姿ってことにしました。

隠れたサブタイトルは、『帰ってきたウルトラマン』第1話『怪獣総進撃』でした

では……ノシ


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第11話 大変!ママが来た! ━前編━

どうも。
投稿に間が空いてしまい、申し訳ありません。

UA数1万回突破…!ありがとうございます!
この作品を読んで下さる皆さんのためにも、より精進していこうと思います!

それでは、どうぞ…。


 ある日の夜。

 僕らSSPは、行き付けの銭湯である鶴の湯にやって来ていた。

 僕とガイさんは一足先に湯船に浸かっていて、ジェッタさん達はまだ身体を洗っている。

 そんな中、壁を挟んだ向こう側──女湯の方から、ナオミさんの声が聞こえた。

 

「……ねぇ、ガイさん」

「んん?」

「……私の恋人になってよ」

 

 ナオミさんの衝撃発言を聞いたジェッタさん達は、派手に床を滑って、ピラミッド状に積み重なった洗面器に追突する。

 

「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」

「ジェッタさん!?シンさん!?」

 

 これに驚いた僕は湯船を飛び出し、足元に気を付けながら2人に歩み寄る。

 この発言には流石のガイさんでも絶句していて、しばらく放心状態になっていた。

 一方、壁の向こう側のナオミさんもまた照れているのか、少し言いづらそうに頼み込んでくる。

 

「お願い……。やっぱり、ガイさんしかいないの……!」

 

 

 

 後日。

 ガイとナオミは、都内の高層ビルに店を構える高級レストランを訪れていた。

 ガイはグレーのスーツに眼鏡と、いかにも真面目な青年風の格好だったが、あまり着慣れない服装のため窮屈そうにしていた。

 ナオミもまた、お洒落な白いドレスを身に纏い、ガイと並んで腰かけていた。

 

──ガイ達は気付いていなかったが、実はこのレストランに、シンヤがアルバイトで訪れていた。

 シンヤとしても、これは全くの偶然だった。2人が出かけることは知っていたが、まさかこの店だったとは思ってもなかったのだ。

 今はウェイターとして働いてはいるものの、どうしてもガイ達が気になってしまい、時々2人のテーブルを遠目に見ていた。

 

 どうして彼らがこの場所にいるのか……。

 すると、ナオミの元に1人の女性が駆け寄ってきた。

 

「ナオミ!」

 

 その声を聞いたナオミは振り向いて、相手に手を振った。ナオミに親しげに話しかけたその女性は、ナオミと同時に振り向いたガイの顔を見て驚いた。

 

「きゃあ……!カッコいい~!ナオミ~!やだぁもぉ、こんな素敵な彼がいたなんて~!お名前は?」

 

 静かなレストランに、女性のやけにハイテンションな声が響く。

 ガイは立ち上がり、会釈と共に自己紹介をする。

 

「あ、ガイです」

「ガイ君!まぁ、どんな字書くの?名字は?ねぇ、お婿さんに来て下さるんでしょ~?」

「もうママ……!いきなり止めてよ……!」

 

 グイグイとガイに迫る女性を何とか引き剥がしたナオミは、彼女を必死に宥めた。

 そう、この饒舌でテンションの高い女性こそナオミの母、夢野圭子(けいこ)だ。

 今回彼女が、わざわざ地元から足を運んだのには理由(わけ)があった。

 圭子は、以前からナオミに縁談を持ちかけていたのだが、その悉くをナオミは断っていた。

 そして今回、「恋人が出来た」と娘から連絡を受け、遠路遥々都会へとやって来た……と言う訳だ。

……しかし、これはナオミの虚偽。

 先日の銭湯でのガイへの告白は、この日だけ偽の恋人を演じてもらうため、急場凌ぎのための告白だったのだ。

 

「ゴメンゴメン……。で?いくつなの?今お仕事は?お酒造りに興味ある?」

 

 圭子が座れるよう支配人が椅子を少し引き、ガイ達が腰かけようとする前に、圭子はまたガイを問い詰める。

 それを止めようとナオミが制するが、嬉しそうにしながら圭子は、ガイに夢野家の事情を話し出す。

 

 夢野家は、酒造を家業としているのだが、圭子の高祖母の代から女系一家で、「好きなことをしたければ、跡取りを確保してから」と言う仕来りが存在していた。

 圭子は、両親に若い頃からずっとそう言われて育ち、やりたいことを諦めてきたそうだ。

 つまり、圭子が好きに生きるには、愛娘のナオミが婿を確保するしかない……と言う訳らしい。

 だからこそ圭子は、ようやく自由に生きることが出来ると舞い上がっているのだ。

 これからの人生を想像していた圭子は、突然我に返り、ナオミに問いかける。

 

「……で、いつにする?結婚式」

「あ、それは、試験に受かってから、だよね?」

 

 ナオミはガイの足を蹴り、手筈通りに喋るように指示する。一瞬顔を歪めたガイだったが、左手の掌に書かれたカンニング用のメモをチラチラと見ながら片言に話し出す。

 

「あ、はい。あの、ベン……ゴシ?あれ……弁護士?弁護士……弁護士を目指してまして……。あの……その……司法試験の勉強をしています」

 

 普段から聞き慣れない言葉の羅列に悪戦苦闘しながら、ガイは笑顔を交えて圭子に説明した。

 圭子はガイの言葉を頷きながら聞き、ふと思い出したことを問いかける。

 

「あ、そうなの~……。でも弁護士って、悪い人の味方なんでしょう?」

「ママ、それって偏見だよ……。ねぇ?」

「は、はい。僕は正義の味方です」

 

 にこやかに答えたガイに理解を示したのか、圭子も自然と笑顔で返した。

 しかし、圭子の後ろから突然やって来た男によって、その空気は一変した。

 

「ハッハッハ……。本当にこんな男で良いんですか?」

 

 そう言って、ガイの表情を覗き込むように腰を曲げていたのは、ガイの宿敵のジャグラスジャグラーだった。

 先日の戦いで、てっきり死んだと思っていた相手が目の前に現れ、ガイは驚いて思わず立ち上がる。

 

「お前……!生きてたのk……?」

「あら素敵~!私この子の方がタイプかも~!ナオミ、ママに紹介して?」

 

 ガイの事情など知ったことではない圭子は、ジャグラーのことが気に入ってしまったようだ。

 ナオミは先日のことを一応知っていたため、ジャグラーを終始警戒する。

 

「私ですか?私はこういう……」

「こっち来い……!」

「へぇ?」

 

 自ら名乗りだそうとしたジャグラーだったが、ガイに強引に腕を掴まれ、間の抜けた声を上げながら人気のない店内の隅まで連れて行かれた。

……その際一瞬だけ、魔人態の幻影がジャグラーから幽体離脱のようにはみ出していた。

 

 

 

 ジャグラーを壁に押し付け、いつもの調子で対立するガイ。しかしジャグラーは、なぜか上機嫌気味に答える。

 

「お前……!死んだとばかり……!」

「だからお前はダメなんだ!目に見えることしか見ようとしない、その影で何かが起こってるなんて想像もしてないんだろ?愚かだな……」

「影で……?お前何を企んでるんだ?」

「お前を利用すること♪」

「何……?」

「お前は、魔王獣を倒したと良い気になってるかも知れないが、実はそr」

 

 緊迫した雰囲気がその空間に漂っていたが、それをカメラのシャッター音が台無しにする。

 

「2人共!はい、バター♪ぃやったぁ!面白くない?バターってねぇ!そうだ、お友達にお写真送っちゃお!」

「もうママ……!」

 

 突然やって来た圭子が、中々に古いかけ声でガイとジャグラーと一緒に写真を撮ってはしゃぎ、慌てて駆け付けたナオミが圭子を連れ去る。

 まるで台風が過ぎ去ったような静寂の後、ガイが気を取り直してジャグラーに訪ねる。

 

「……何だっけ?」

「あ、あぁ……。お前は魔王獣を倒したと良い気になってるかも知れないが……。それは実は全て、俺のためだったんだよ」

「どういうことだ……?」

「つまり、ありがとうってことだ。俺のために魔王獣を倒してくれたんだからな……」

「お前……!」

「何だ……、やる気か?」

「あぁ……!決着を着けてやる……!」

 

 ジャグラーの胸ぐらを掴んだガイは、必死の形相でジャグラーを睨み付ける。それに応じるようにジャグラーもその気になる。

 今度こそ、この2人に決着が着くか……そう思われた時。

 

「喧嘩は止めて!私のために争わないで!……って、私じゃないか~」

「ママ……!この人達のとこに来ちゃダメだって……!」

 

 2人の間に、再びやって来た圭子が割って入り、切迫した雰囲気を掻き回す。

 また慌てて駆け付けたナオミが圭子を連れ去ろうとするが、圭子はナオミを説き伏せる。

 

「良いわねぇ、女の夢じゃないの~。良い男が、自分を取り合ってくれるなんて~……」

 

 その隙にジャグラーは、その場を離れる。

 ガイもその後に続こうとするが、圭子に捕まってしまう。

 

「あなたもぼんやりしてちゃダメよ?もう、日取り決めちゃいましょう!決めましょう!」

 

 一方的にまくし立てる圭子を連れて、ナオミはその場を後にする。

 圭子のペースに翻弄され続けたガイは少々呆れながらも、自分達のテーブルに戻った。

 

 

 ガイ達のテーブルには元々空きの席があり、ガイが戻ると我が物顔でそこに座るジャグラーの姿があった。

 ジャグラーは人目も気にせず、机上にこれまで入手してきた魔王獣のカードを並べ出す。

 そのカードを初めて見たガイは、驚きを露にする。

 

「おい……!それは……!」

「お前のおかげで手に入ったんだ♪」

「何?」

「……お前の魔王獣退治は、すb」

「お待たせ致しました」

 

 ジャグラーが重要な説明を始めようとした時、まるでそれに合わせたように、ウェイター達が色鮮やかなソースのかかった肉料理を運んで来た。

 その料理が人数分並んだ後、ガイはウェイターに軽く会釈し、改めて椅子に腰かける。

 

「……っておい聞いてるのか」

「あぁ……。悪い」

「いいか?お前の魔王獣退治は、このカードを手に入れるために、全て俺が仕組んだこと。お前は、俺の掌の上で踊らされてただけだ……」

 

 魔王獣のカードを全て並べたジャグラーは、左手に持っていた最後の1枚───先日、ノストラから奪取したカードを、にこやかにガイに見せびらかす。

 

「それは……!べリアル……!?」

 

 ウルトラマンベリアルのフュージョンカードを凝視するガイに、ジャグラーは何かを預言するように、意味深な一言を語る。

 

「楽しめ……!これから大きな災i」

「わぁ~美味しそ~う!」

 

 本日何度目かの圭子からの妨害が入り、これまで散々彼女に振り回されて来たジャグラーも、ついに苛立ちを見せる。

 

「おいぃ……!!」

「やだぁ~、そんな怖い顔しな~いの。あ、お腹空いたんだ?食べて食べて~?」

 

 そんなジャグラーのことなど、どこ吹く風と言った様子で、圭子はジャグラーにも食事を勧める。

 だがジャグラーは、戸惑いながらも断ろうとする。

 

「いや、俺は……!」

「そうよママ、無理に勧めない方が……」

 

 これにはナオミも賛同しているようで、圭子に異論を述べた。

 しかし圭子は全く気にしていないようで、ナオミに答える。

 

「大丈夫、この方の分もちゃ~んと追加したから……。さ、食べましょ!お肉切ってあげましょうか~?ほら、ガイ君も食べて?」

「えぇ……」

 

 圭子の勧めもあって、ガイとナオミも料理をいただこうとした時。ジャグラーが食べやすいようにナイフで肉をカットしていた圭子の手が止まり、窓の外に視線が向かう。

 

「──やっぱり、東京は物騒ねぇ……」

 

 その圭子の呟きを疑問に思ったナオミ達は、窓の外に顔を向けた。

 

「……?ああっ……!」

 

 そこには、円らな瞳でこちらを見つめる、巨大な女性が出現していた。

 まるで、古来の姫君を連想させる衣装を纏った女性の出現に、町中の人々は見上げることしか出来なかった。

 そしてその女性は、ある高層ビルの窓を覗き込む。そのフロアは、ちょうどガイ達が食事を取っていたレストランがあった。

 

『光の者よ……』

 

 レストランを訪れていた客人達は、突然の出来事に驚き逃げ惑う。

 もちろんそれにはナオミと圭子も混じっていたが、そんな中ガイは眼鏡を外し、窓際に歩み寄る。

 

玉響姫(たまゆらひめ)……!」

 

 彼女は玉響姫。

 以前ナオミ達が「入らずの森」の調査に立ち入った際、宇宙人の罠に嵌まったナオミ達の脱出に、一役買った人物である。玉響姫は既にこの世には存在せず、彼女の残留思念が幽霊として森に潜んでいたのだ。

 そして今、彼女がガイ達の前に姿を見せたのには理由があり、ガイにある警告を与えた。

 

『大きな災いが……、起きようとしています』

「大きな災い……」

 

 ガイは玉響姫の警告を復唱するが、その後ろでは不貞腐れたジャグラーが、先程の肉料理をやけ食いしていた。

 

「だぁから、それを、俺が言おうと思ってたんだよっ!」

 

 伝えたかったことを伝え終えた玉響姫は、満足げに微笑んで町から姿を消した……。

 

 

 

 

 玉響姫が町中に現れた後ナオミさんとガイさん、そしてその騒動を受けてレストランの営業が終了してしまった僕は、SSPのオフィスに帰って来ていた。

 ちなみに圭子さんは、レストランを出てから渋川さんを呼び出してどこかへと向かって行ったきりだった。

 玉響姫が出現したことはジェッタさん達の耳にも届いていたようで、シンさんがあの森の一件以降、玉響姫について詳しく調べていたらしい。

 シンさんは、箱いっぱいに詰め込まれた書類の山を、全て小上がりの畳の上にぶちまける。その書類から玉響姫に関わるデータを探すシンさんの傍らで、ジェッタさんとナオミさんは互いに疑問を投げかける。

 

「でもさぁ、玉響姫って、前は霊体で現れただろ?それが今度は実体で現れるって、よっぽどのことなんじゃないの?」

「大きな災いって何なんだろ……?」

「あっ、あった……!」

 

 玉響姫について書かれた書類を探し当てたシンさんが、その文章を読み上げる。

 曰く、玉響姫は太古の霊能力者で、絶世の美女だったが、その美貌に魅せられたオロチに拐われてしまった。

 すると、1人の勇者がオロチを封印し、玉響姫を助けた。助けられた玉響姫はオロチが復活しないよう、勇者の力を借りて結界を張り、入らずの森を守り続けている……。

 

「災いは、オロチの復活なのかな……?」

「悪魔は再び……」

 

 シンさんの話を頷きながら聞いていたナオミさんとジェッタさんがそう呟いた後、シンさんが突然息を飲む。

 

「玉響姫の結界が、崩壊する恐れがあるかも知れません!」

 

 それを僕らと少し離れた場所で聞いていたガイさんは、急に立ち上がると扉を開けたまま、どこかへ向かって飛び出して行った。

 

「ガイさん!」

「俺達も行こう!」

「うん、Something Search People、出動!」

「「「おう!」」」

「何なのー?その変な英語!」

 

 僕らもガイさんの後に続こうとして、いつもの号令がかかった時、開いたままの扉の向こうから呆れるような声が聞こえた。

 扉の方を見ると、入り口に吊るされた珠暖簾を掻き分けて、圭子さんとたくさんの荷物を持った渋川さんがやって来ていた。

 圭子さんは流暢な発音で、ナオミさんの号令を訂正する。

 

「the search of something…….使うなら正しく使いなさいよね~、何のために大学出したんだか?」

「もう……!今それどころじゃないの!」

 

 事態が事態のため、居ても立ってもいられないナオミさんは、圭子さんの側を横切ろうとするけど、圭子さんの呼びかけに足を止める。

 

「待ちなさい!ホントは結婚とか、跡継ぎとかどうでも良いのよ。あなたに危ないことしてほしくないの。こんな危険なところに、1人でいてほしくないの……!

……だからね?一緒に帰ろ?お願い……」

 

 圭子さんは、真剣な表情でナオミさんに語りかける。

 でもナオミさんは、圭子さんと向き合いながら反論する。

 

「……1人じゃないもん。仲間と一緒だから」

「仲間……?この男の子達が、あなたを守ってくれるって言うの?」

「おじさんもいるし……!ガイさんも、シンヤ君もいるもん……!」

 

 ナオミさんは、渋川さんを前に押し出して、愛想笑いを浮かべる。けど、渋川さんが頼りない様子を見せると渋川さんを押し退けて、今度は僕の手を取り引っ張る。

 これには圭子さんも我慢の限界を迎えたようで、母親としてナオミさんを叱る。

 

「いい加減にしなさい!……あなたの小芝居に付き合ってたけど……。あなたホントは、あの人のこと良く知らないんじゃないの……?」

 

 ナオミさんの作戦は、圭子さんには始めからお見通しだったようだ。

 その叱責を受けたナオミさんが、黙りこくってしまったと同時に、雷音と凄まじいフラッシュが部屋中を照らし出す。

 

「何だ……!?」

 

 それに反応したジェッタさんが、すかさず窓を開けて外を見る。

 ジェッタさんに続いた僕達がそこから見たのは、遠くの空で蠢く悪雲と、その中心に開いた巨大な穴。禍々しく渦を巻いて、所々紅い稲妻が走っていた。

 

「あの穴は……!?」

「入らずの森の方角です……!」

 

 シンさんがタブレットで起動した地図とその方角を見比べて、その場所がどの辺りなのかを突き止める。

 この常軌を逸した現象を目の当たりにした圭子さんは、何かを恐れる様子を見せた。

 そんな圭子さんに、ナオミさんは語り出す。

 

「ママ、ごめん……。色んなこと、ホントごめん……。

 でも、これが私の仕事なの。……行こう」

 

 そしてナオミさん達が駆け出して行ったけど、僕は圭子さんと少しだけ話をすることにした。

 

「あの……。圭子さん」

「えっと、君は……」

 

 圭子さんは、僕のことは存じ上げないと言った表情になる。それもそうだ。こうして面と向かって圭子さんと話をするのは、これが最初なのだから。

 そう思った僕は自己紹介も兼ねて、圭子さんに思いの丈をぶつけようと試みた。

 

「……草薙眞哉って言います。……こんなこと言うの、変かも知れませんけど。僕は、ナオミさんのおかげで、ここに居場所が出来たんです。ナオミさんがSSPを立ち上げなきゃ、僕らはきっと出会うこともなかった。……ナオミさんは、僕らにとって大切な、仲間なんです。だから……、その……」

 

 伝えたいことがたくさんあるのに、どう言葉にするべきなのか、さっぱり見当もつかない僕が口ごもりながら俯いていると、僕の両肩にずしっとした重み。

 ハッとして顔を上げると、圭子さんが僕の肩に手を置いていた。

 

「……もう十分伝わったわ。……あんな娘だけど、娘のこと、よろしくね?」

 

 そう言って、圭子さんは微笑む。

 その優しさに満ちた微笑みを受けて、僕もナオミさん達の後を追った。

 

 

 SSPのオフィスに残されたのは、圭子と渋川のみ。渋川が歯痒い表情を浮かべているのを見た圭子は、その背中を一押しする。

 

「……行ってちょうだい?あぁ言う無鉄砲な子を守るのも、あなた方ビートル隊のお仕事なんでしょ?」

「……はい!」

 

 軽くお辞儀をして、自分の仕事をしに向かった渋川を、圭子は見送った。

 そして不穏な空気を察知したのか、遠くの空に開いた穴を見つめながら、先程聞いた青年の名前を思い出していた。

 

(草薙……。まさか、ね。)




この回のジャグジャグさんがとにかく面白くて、録画したTV本編を何度も見返しました。
まだTV本編を見たことのない方、必見ですよ。

後編に続きます。


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第11話 大変!ママが来た! ━後編━

久し振りに、前後編続いての投稿です。

そう言えば、最新ウルトラマンの情報が出ましたね。
どんな作品になるのか期待しつつ、こちらの作品も投稿し続けようと思います。

それでは後編、どうぞ。


 SSPの誰よりも早く、入らずの森を訪れたガイ。

 以前SSPらがこの森を訪れた時、地下に古墳が埋まっていたことが発覚し、それ以来、この森に立ち入ることはほぼ不可能になった。現在でも森の入り口のあちこちに、侵入禁止の黄色と黒のロープが張り巡らされている。

 そんな中、森の入り口付近に置かれていた椅子に腰かける男の姿。

 この場にはあまりにも不釣り合いな、ホスト風の出で立ちの男は、ガイを見るなり呟いた。

 

「……遅ぇよ」

「裏でコソコソ立ち回りやがって……。ご苦労なこった」

 

 ジャグラーに対して、冷淡な態度を取るガイだったが、ジャグラーの視線に何かを感じ取り、ぶっきらぼうに尋ねた。

 

「……何だよ」

「……お前と直接殺り合うのも、これが最後かな……。ハアッ!」

 

 のっそりと立ち上がったジャグラーは、ガイの不意を突き、闇のエネルギー弾を発射。

 咄嗟に反応したガイは、それを素手で掴み、闇のエネルギーを光に変換し投げ返す。

 その隙に、魔人態に変貌したジャグラーは光弾を弾き、ガイに迫る。

 肉薄した両者は、攻防一体の戦闘を展開。互いに決め手に欠ける中、半ば強引にジャグラーがガイを振り払って距離を取る。

 すかさずジャグラーは、ダークリングを取り出す。その背後に、玉響姫が実体化して警告する。

 

『いけません……!止めさせて下さい!』

「もう遅い……!甦れ、魔王獣の頂点に立つ大魔王獣……!!」

 

 玉響姫を一瞥したジャグラーは、これまで入手してきた6体の魔王獣のカードを、天高く掲げたダークリングに読み込ませる。

 ジャグラーの頭上で、魔王獣カードが不気味な光を放ちながら、地中にエネルギーを注ぐ。

 その影響で土砂が激しく巻き上がり、玉響姫がそれに巻き込まれてしまう。

 

「……ッ!玉響姫ッ!」

 

 咄嗟に身構えたことで、何とか無事だったガイだが、玉響姫が巻き込まれたことに動揺する。

 しかし、それを遥かに凌駕する出来事が発生した。

 入らずの森の大地を突き上げて、紫色の光を放出する肉塊のようなモノが出現する。よく見ればソレは微かに脈動し、肉塊そのものが生きているかのようだ。

 その肉塊の中に瞬く僅かな光を、ガイは目視する。

 

「フンッ……!」

 

 だがジャグラーが、最後の仕上げと言わんばかりに、ウルトラマンベリアルのカードをダークリングを介して射出。その光に向かって一直線に飛んで行くベリアルのカードは、その光を打ち砕いた!

 ベリアルの闇の力を受けた肉塊の脈動は加速し、やがて土煙を上げて爆散。

 爆発と共に紅い閃光が走り、ついに最悪の脅威が顕現する……!

 

「見ろ……!如何なる惑星(ほし)をも喰い尽くす大魔王獣、マガオロチだッ!!」

 

 大魔王獣 マガオロチ。

 全身に刺のような突起があり、特に背中から生えている突起は、まるで翼のようだ。

 直立歩行の真紅の体躯で、胴体には目玉のような器官が6つ発達していて、この怪獣を言葉で表現するなら、まさに「魔王」の言葉が相応しい。

 完全復活を遂げたマガオロチは、金切り声に似た不気味な咆哮を上げて町へと進行する。

 これに怒ったガイは、ジャグラーに激昂する。

 

「お前の目的は俺だろ!!関係ない奴らを巻き込むなッ!!」

「フフフッ、退治出来るもんならやってみろ!」

「くっ……!」

 

 憎々しさを滲ませたガイは、ジャグラーよりも、マガオロチの撃退が最優先だと頭を切り替える。

 

 入らずの森に急行していたSSPだったが、マガオロチの復活を受け一旦SSP-7を急停車させて、この緊急事態を一早く報道する。

 

「ヤバいよヤバい……!伝説のオロチが復活しちゃったよ…!」

 

 足元に伸びた樹木を踏み倒し、マガオロチは足音を轟かせて進み続けた……!

 

 

 

 

 

 

 マガオロチの出現を受けて、町中に避難を勧告するサイレンが鳴り渡る。

 見晴らしの良い丘の上に立ったガイは、町に進行するマガオロチを見据えて、オーブリングを構えた!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 上空から町に降り立ったウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオンは、マガオロチに戦いを挑むべく、額のクリスタルを輝かせて接近する。

 これに対してマガオロチは、全身に電流を迸らせて、口から電撃光線「マガ迅雷」をオーブに喰らわせる。

 

『ウォアアアアッ!!』

 

 まともにそれを喰らったオーブは一撃で吹き飛ばされ、巨大なビルに叩き付けられてしまう。

 しかし、マガオロチの攻撃は止まず、町を破壊しようと放ったマガ迅雷がオーブに着弾し、余計に体力を削る。

 雄叫びを上げて突進するマガオロチに、オーブは必殺光線を発射する!

 

『スペリオン光線!』

 

 スペリオン光線は、確実にマガオロチに直撃している。だがしかし、マガオロチの硬すぎる体表はスペリオン光線を弾き、微塵もダメージにはならなかった。

 これまで数多くの怪獣達を破ってきたスペリオン光線が全く効かず、マガオロチはオーブの首を片手で絞め上げて、力任せに投げ飛ばす。

 地を転がり、何とか状況を立て直そうとしたオーブを、マガオロチの長い尻尾が絡め取る。マガオロチはその尻尾からマガ迅雷を直接流し込み、オーブにダメージを与えた!

 身動きも取れない上に、強力な攻撃を受けたオーブは、別の姿で勝負を挑む!

 

「ジャックさん!」

【ウルトラマンジャック!】

「ゼロさん!」

【ウルトラマンゼロ!】

「キレの良いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

『オーブランサーシュートォッ!!』

 

 ハリケーンスラッシュに姿を変えたオーブは、マガオロチの背中目がけてオーブランサーシュートを撃つ。

 しかしこれも、マガオロチを倒すには全く足りない。

 

『光を越えて……!闇を斬るッ!!』

 

 オーブのいつもの名乗りにも疲労の色が見え隠れしていて、これまで受けたダメージの大きさが伺えた。

 オーブは、オーブスラッガーランスを振るって素早い斬撃を繰り出すも、マガオロチはそれを全て見切った上で回避。斬撃が届く前にランスを弾き、オーブを捕らえると、ランスを弾き飛ばしてオーブの戦力を削ぐ。

 オーブはマガオロチの下顎にニーキック、後ろ回し蹴りを炸裂させるがノーダメージ。もう一撃回し蹴りを喰らわせるが、片手で防がれて地に手を付いた拍子に、マガオロチに蹴り飛ばされてしまった。

 だが、オーブはその勢いを利用して、先程弾き飛ばされたオーブスラッガーランスを拾うことに成功する。この機を逃さず、オーブはオーブスラッガーランスを用いた最大の大技を発動する!

 

『トライデントスラッシュ!!』

 

 高速の斬撃がマガオロチを切り裂くが、直撃した箇所に火花が散るだけで、マガオロチは微動だにしない。

 オーブは四撃目を叩き込もうとするが、何とマガオロチは、トライデントスラッシュの軌跡すら見抜き、オーブスラッガーランスを鷲掴み、受け止める。

 マガオロチはランスを掴んだまま、オーブを強引に引き寄せ、自らの腹部の鋭い刺にオーブの胴体を突き刺す。

 その生々しい音は、遠くからこの戦いを見守っていたナオミ達の耳まで届き、彼らを戦慄させる。

 

「何だよアイツ……!オーブの攻撃が何も効かない!」

 

 これまで、オーブが戦って来た多くの怪獣達との格の違いを見せつけられたジェッタは、マガオロチの圧倒的な強さに身震いした。

 その隣でオーブを見守るナオミとシンもまた、この脅威の前では焦燥感に駆られてしまう。

 マガオロチに刺された胴体を押さえるオーブのカラータイマーが赤く点滅を開始し、現在オーブに力を貸しているゼロとジャックが半透明になって、オーブの身体から漏れ出る。

 この姿でも歯が立たないと判断したオーブは、両肩を上下させながら最後の手段に出る。

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

「熱いやつ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

『ストビューム……!ダイナマイトォォォォォ!!』

 

 燃え盛る火炎を纏ったウルトラマンオーブ バーンマイトは、捨て身の覚悟でマガオロチに特攻。

 ストビュームダイナマイトの激しい爆発の後、そこには炭と化したマガオロチと、満身創痍となり膝を突いたオーブの姿があった。

 何はともあれ、マガオロチを倒したオーブにナオミ達は安堵するが、その表情はすぐさま驚愕の色に染まった。

 炭化したことで、完全に生命活動が停止したはずのマガオロチの肉体が熱を帯び始め、まるで殻を突き破るかのように、マガオロチは即座に復活し、活動を再開した。

 胸を押さえて何とか立ち上がったオーブに、マガオロチは非情にもマガ迅雷を浴びせる。

 反射的にオーブは、「∞」を描いたような形状のバリア「ストビュームディフェンサー」を展開するが、残り僅かなエネルギーで生成されたバリアではマガ迅雷を防ぎ切れず、あっという間にバリアは割られてしまう。

 

『グォアアアアアッ……!!アアッ……、グッ……』

 

 更に追い討ちのマガ迅雷が数発直撃したことで、今度こそオーブは力尽き、膝を突いて光の粒子となって完全に消滅した……。

 変身が解除され仰向けに倒れたガイは、痛みを堪えて再び起き上がろうとするが、これまで負った傷は深く、力尽きて気を失ってしまった。

 勝利の雄叫びを上げたマガオロチを眼前にしたSSP達も危機感を覚え、この場から離れようとする。しかし、SSP-7に乗り込もうとしたナオミが足を止める。

 

「ねぇ……!ガイさんは……!?」

「僕が探しに行きます……!ナオミさん達は、早く逃げて下さい!」

 

 ナオミがガイを探しに駆け出すよりも先に、シンヤが彼女を制して飛び出して行く。

 幸いにも、辺り一帯には白煙が上がっていて、それを目眩ましとしたシンヤはオーブが消滅した地域───瓦礫の山となった町の方へと駆けて行った。

 

 

 

 その頃、力無く倒れたガイの元に、ジャグラーが足を運んでいた。自分が近付いても全く反応を示さないガイに警戒しつつも、ジャグラーはガイとの距離を詰め、身じろぎもしないガイを見下ろして呟く。

 

「これでホントにおしまいか……?」

 

 ジャグラーが視線を動かすと、ガイが右腰にいつも携行しているフュージョンカードホルダーが目に飛び込んで来た。

 それに向かって震える手を伸ばし、カードホルダーに手をかけたジャグラーはホルダー本体を少し捻り、カードホルダーを奪うことに成功した。

 

「フフッ……フハッ……!フッハァハハハッ!ハァーッハハハハハハッ!!ハァーッハハハハハハッ……!!」

 

 高嗤いと共に、邪悪に満ち溢れた笑みをガイに向けるジャグラー。

 最早、自分の邪魔をする存在が消えたマガオロチは、本能の赴くまま、破壊の限りを尽くす。

 マガ迅雷が着弾した場所には爆発が発生し、北川町は火の海へと変貌した──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シンヤ「今回の『ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!』のコーナーはお休みです……!ガイさん、どうかご無事で……!

 次回も、見て下さい……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 凶悪な力で暴れる大魔王獣。

 だが、カードを奪われた俺には何もすることが出来ない……。

 勝利の鍵を握るのは、マガオロチを封印していた勇者のカードと、闇の力──。

次回。

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『黒き王の祝福』。

 光と闇の力、お借りします。




……いかがだったでしょうか。

今回、ラストのコーナーがなかったのは、シンヤ君がガイさんを探しに行ったからです。
次回は、多少手を加えてお送りする予定です。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマン』第19話『悪魔はふたたび』でした。

では……ノシ


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第12話 黒き王の祝福 ━前編━

どうも。
また間を空けてしまいまして、申し訳ございませんでした。

今回は長くなりそうなので、前・中・後の3部編成でお送りしたいと思います。

それでは、どうぞ。


 ナオミ達と別れ、瓦礫や建造物の残骸で溢れ返った町で、ガイを捜索するシンヤ。瓦礫が崩れて来そうな場所は、なるべく避けて歩くが、足元や頭上にも細心の注意を払う。しかし、いくら歩いても景色は変わらず、辺り一面無惨な光景が広がるだけだった。

 そんな中、どこからか誰かの嗤う声が耳に届く。こんな状況で嗤っていられるのは、正直おかしいとシンヤは思ったが、その声がした方へと歩を進めた。

 その場所もまた、建物の残骸で散乱していたが、他よりかは少々開けている空間だった。

 そこには、仰向けに倒れる黒いジャケットの青年と、青年の傍らでほくそ笑むホスト風の男がいた。

 

「ガイさん……!それに、ジャグラー!」

「ん……?一足遅かったな、草薙シンヤ……」

 

 シンヤは必然的に、倒れたガイを挟んだ状態で、ジャグラーと対面する。

 そのジャグラーの手には、普段ガイが携えているカードホルダーが握られていた。

 

「それは、ガイさんの……!それを返せ!」

 

 シンヤがジャグラーに詰め寄ろうとした時、突然大地が大きく揺れる。何事かとシンヤは咄嗟に身構えるが、その隙にジャグラーは、その場から退散していた。

 ジャグラーを逃がしてしまったことを悔やむが、シンヤはガイをここから移動させることを優先した。

 

 

 

 シンヤがガイを発見した頃、マガオロチにも動きがあった。町をある程度破壊し尽くしたことによる疲労からか、マガオロチは蹲るように動きを止めた。その際、近隣に生えていた御神木を踏み潰したが、マガオロチにとってはどうでも良いことだろう。

 活動停止したマガオロチに対して、ビートル隊による厳戒態勢が敷かれる一方で、ジェッタとシンはその現場を訪れていた。

 立入禁止の看板の影に隠れながら、ジェッタはビデオカメラをマガオロチに向けて、実況を開始した。

 

「……蹲っている怪獣は、依然動きません。また、いつ暴れ出すか分からない怪獣に怯え、東京から逃げ出す人が続出しています……。まさに、怪獣無法地帯……!」

 

 ジェッタの傍らでシンが、タブレット端末が接続された光線銃のようなアイテムを、マガオロチに向ける。

 

「……ちょっと何やってんの、シンさん!?」

 

 シンの行動に驚いたジェッタは、ビートル隊の隊員に気付かれないようにと小声で尋ねる。

 それに答えようと、シンはジェッタに顔を向けた。

 

「何って……。新しく発明した、生態反応分析機です。怪獣に触れなくても、バイタルや脳波が分かるんで~……まずいなぁ」

 

 端末の画面に表示された分析結果を見て、にこやかな表情を浮かべながらも、シンは危機感を露にした。

 ジェッタは、シンの発明品のことだからまた故障したのかと思い、それを発明した本人に聞く。

 

「……使う前から壊れた?」

「いや、壊れてたら良いんですけど……」

「……どうしたの?」

 

 何か言い辛そうにしているシンの様子がおかしいことを察したジェッタは、詳しい事情を更に追及する。

 そしてシンは、分析機を使ったことで判明した分析結果をジェッタに開示した。

 

「バイタルも脳波も、活性化してるんですよ!」

「と言うことは?」

「いつ動き出してもおかしくない!」

「ちょっと静かにして……!」

 

 この結果を受けて、声を張り上げるシンを抑えるジェッタだったが、マガオロチは未だ動かなかった。

 

 

 

 極度の疲弊から、酷く(うな)されるガイ。

 そんな状況で誰かの視線を感じ取ったガイは、うっすらと瞼を開いて、それが誰からの視線なのかを確認する。

 その視線は、ある少女が向けていたもの。悲しげな瞳を向けるその少女のことをよく知っていたガイは、少女の名前を呼んだ。

 

(ナターシャ……?)

 

 ガイが瞼を開くと、そこにあの少女はおらず、ただ見慣れた天井が広がっていた。

 自分の側に誰かが座っていることを察知したガイは、その誰かに目を向けた。

 

「あっ、良かった……」

 

 そこには、ガイが目覚めたことに安堵したナオミの姿があった。

 そして自分が、SSPのオフィスにいることを理解したガイはゆっくりと起き上がろうとする。

 

「ありがとう……。もう大丈夫……、うっ、ぐっ……!」

 

 だが、マガオロチとの戦いで負ったダメージのせいで、ガイは思う様に身体を動かすことが出来ない。特に、マガオロチに貫かれた胴体に走る激痛は凄まじく、途端にガイは胴体を押さえて悶え苦しむ。

 

「大丈夫じゃないじゃない……!やっぱり、病院行こ?」

 

 ガイの様子を懸念するナオミは、起き上がろうとするガイを制する。

 しかしガイは、咄嗟にナオミの手を握り、彼女を見つめて答えた。

 

「ホント大丈夫だから……。もう少し……、休ましてくれ」

「でも……!」

 

 大丈夫だとは言うものの、苦しそうに喘ぐガイのことが気がかりでもあり、ふとナオミはガイに尋ねた。

 

「……ねぇ、ナターシャって、誰?」

 

 その問いかけに、ガイはハッとした表情になり、無意識に握ったナオミの手を離す。

 どうしてナオミが彼女の名を知っているのか。それが不思議で堪らなかったガイはナオミから目が離せず、何とか起き上がってナオミに問いかけた。

 

「どうしてその名前を……?」

「無意識の中で呼ぶんだなんて、大事な人なんだね……」

 

 これまで自分が魘されていたこと、その時彼女の名前を呼んでいたことを知り、ガイは多少の情けなさを覚えた。

 ナオミから顔を反らし、ガイは昔のことを思い出しながら、断片的にナターシャのことを話し出す。

 

「……大事な人だった。……助けられなかった。俺を助けてくれたのに……、俺は……」

「もう良いよ、話さなくて。……ホントゴメン、余計なこと聞いて……。何か食べられそう?そうだ、スープ作ろっか?」

 

 ガイの辛そうな横顔を見たナオミは、申し訳ない気分になってしまい、ガイの話を中断させる。

 何とかガイを元気付けようとしたナオミは、以前好評だったスープを作ることにして、キッチンへと急いだ。

 

 

 その際、シンヤが淹れたお茶を啜る圭子とすれ違うが、どうやらさっきの話が聞こえていたようで、圭子は申し訳なさそうにぼそっと呟く。

 

「盗み聞きする気はなかったんだけど……」

 

 怪獣の出現で、町中が混乱するこんな状況でも落ち着いた雰囲気でお茶を飲む母に向けて、地元に帰るよう要求する。しかし、圭子は未だにナオミも連れて帰る予定のようだった。

 そんな母を見て、ナオミは話し出す。

 

「……ねぇ、ママ。私が見る、不思議な夢のこと覚えてる?」

「……あの、巨人が出てくるって言う?」

 

 ナオミの言う不思議な夢とは、光の巨人が登場する夢のこと。子供の頃から現在に至るまで、この夢を見ていたナオミは、その度に圭子に夢のことを話していた。

 ナオミの発言に見覚えのある圭子は、真剣な表情で聞き返す。

 それに頷いたナオミは、自分の今の素直な気持ちを話し出す。

 

「うん……。ここには、その夢の謎を解く鍵があるような気がするの。その謎に、確かに近付いてる気がして……。それに、こんなに夢中になれること、他にないの……!だから……、お願い……!」

 

 SSPのオフィスを見渡しながら、真っ直ぐな想いを圭子に伝えたナオミと圭子の間に、押し詰まったような空気が流れる。

 そんな中、オフィスの階段を駆け上がる誰かの足音が鳴り響き、突如扉が開かれる。

 現れたのはジェッタとシンだったが、何やら非常に焦った様子を見せ、ただいまを言うより先にジェッタが唐突に口を開く。

 

「玉響姫だよ!玉響姫を探そう!」

「えっ!?」

「怪獣がもうすぐ目覚めます!」

「オーブはもういないし、ビートル隊も歯が立たないだろうし……!」

 

 ジェッタがそう喋る中、小振りなアタッシュケースに内蔵された発明品を見つけたシンはジェッタに呼びかける。

 

「準備完了!」

「行こう!」

「あぁ、ちょっと待って……!」

 

 何のことか話が飲み込めないナオミとシンヤは、2人を引き止めようとする。だが余程の緊急事態だからか、2人はナオミを振りほどいて急ごうとする。

 そんな空気を一変させたのは、突然出て来た圭子の号令だった。

 

「Something Search People、出動~!フゥ~!」

 

 それはSSPが出動する度にナオミが命じる号令だったが、今の号令は一昔前のスーパースターのようなポーズを取った圭子が、上機嫌な掛け声をオマケに付けた、これまでのとは少し違ったものだった。

 これにはナオミも絶句したが、圭子を心配そうに見て問いかける。

 

「ママ……、何してんの……?」

「あれ……?間違ってた?」

 

 何かおかしかったのかと、圭子はジェッタ達とナオミの顔を交互に見比べて同意を求める。

 だがジェッタは、社交辞令気味に圭子に答えた。

 

「いえ、バッチリです!」

「じゃあ、出動!」

 

 これに頷いたジェッタ達は足早に駆け出して行ったが、何とこれに圭子も続こうとする。

 母を巻き込む訳にいかないナオミは、圭子の腕を掴んで引き止める。

 しかし圭子は不思議そうな顔でナオミに尋ね、続けて話し出す。

 

「ダメ……!ママはここにいて!」

「どぉしてぇ~?何であなたがこんなに夢中になってるのか、ママも知りたいの。……ナオミは、ガイ君についててあげなさい?OK?」

 

 そう言い残して圭子は、ジェッタ達の後を追った。

 自分はこれからどうしようかと迷ったナオミは、ガイをチラリと見る。

 ナオミと目が合ったガイは頷いて、ややぶっきらぼうに答えた。

 

「……俺は大丈夫だから」

「僕が見てますから、大丈夫です。ナオミさんも行って下さい」

 

 これまでほぼ蚊帳の外だったシンヤが留守番を買って出たことで、覚悟の決まったナオミは、ガイに掛け布団をかけて念入りに釘を刺す。

 

「……大人しく寝ててよ!?絶対だからね!」

 

 ナオミが出て行ったのを確かめたガイは、すぐさま跳ね起きて自分も出かける支度を始めた。

 布団の側に畳まれていたジャケットを小脇に抱えて、右腰に目を向けた。だが、いつも身に付けていたはずのカードホルダーがそこにないことに驚愕する。

 奪われたカードホルダーの中には、ガイが力を借りてきたウルトラ戦士達のカードが6枚収められている。それがないと言うことは、現状ウルトラ戦士の力を借りなければ戦うことの出来ないガイにとってかなりの痛手だ。

 誰の仕業なのか見当が付いたガイは、その相手を探しに行こうと立ち上がる。

 だが立ち上がったのはガイだけではなく、愛用のリュックを背負ったシンヤがガイに進言した。

 

「ガイさん、僕も行きます……!いえ、連れてって下さい!お願いします!」

「シンヤ、お前……」

「きっとヨミも現れます。その傷で、あの2人を相手にするなんて危険過ぎます!」

 

 ガイはシンヤの真摯な眼差しから、この非常事態を招いたことへの罪悪感と、それ以上に自分を助けたいと言う強い意志を感じ取った。

 その熱情に根負けしたガイは、軽く溜息を吐いてシンヤに答える。

 

「分かったよ……。でも、危ねぇと思ったらすぐ逃げろ」

「逃げませんよ。僕がここにいるのは、ガイさんを救うためですから」

 

 互いに向かい合ったガイとシンヤは、そう言葉を交わして出発した。

 

 

 

 圭子も加わったSSP一行は、打倒マガオロチの切り札になるかも知れない玉響姫を探しに、入らずの森を訪れた。マガオロチの出現で、以前立ち寄った時とは全く地形が変わってしまった森の散策を開始して、数分が経過した。少しでも捜索の足しになればと、シンが持参した発明品を使う中、ジェッタはくたびれつつも森中に向かって叫ぶ。

 

「玉響姫〜……!助けて下さ〜い!出て来て下さいよ〜……!」

「ダメです、全く反応がありません……」

「ここじゃないのかな……?」

「でも、ここじゃなきゃどこにいるって言うの……?ウワァーッ!」

 

 ジェッタとシンに続いて、普通に歩いていたハズのナオミが、突然悲鳴を上げて転んだ。毎度毎度転ぶナオミを、呆れながらも心配してジェッタ達が駆け寄る。何とか自力で起き上がったナオミは、自分が何に躓いたのかを確認しようと振り向く。

 その足元には、大きな石が転がっていて、よく見れば何やら文字が刻まれていた。

 それに見覚えのあったナオミ達は、それが玉響姫の石碑の破片であることを突き止めた。辺りを見回せば、石碑の破片はあちこちに散らばっていた。すぐさまナオミ達は、その石碑を復元すべく破片を集め始める。

 しかしナオミは、圭子が何か別のことをしていたことに気付き、恐る恐る尋ねる。

 

「ママ?……何してるの?」

「何って、お花の種を蒔いてるのよ。この前ね?珍しいお花の種を買ったの。すっごく綺麗なお花が咲くのよ〜?」

「でも、今そんなことしてる場合じゃないでしょ?」

 

 すると圭子は、ナオミを無視して近くにいたジェッタを呼び止めて、水を持ってくるように指示する。

 ここから水道のある入り口の公園までは、かなりの距離があるために、ジェッタも困惑する。だが圭子は、そんなジェッタを急かして、すぐに公園へと向かわせた。

 この圭子の態度に、ナオミも限界を迎えて腹を立てる。

 

「ジェッタ……!もう、ママいい加減にしてよ!こんなことするために来たんじゃないんだって……!」

「そんなにカリカリしな〜いの。ほら、あなたも手伝って!はい!」

 

 それでも圭子のペースは一切変わらず、花の種が入った袋から種を適量取り出し、ナオミに差し出す。

 それを受け取り戸惑うナオミをじっと見つめて、圭子は語った。

 

「大地は……、生命を待ってるのよ。

 ……どんなに破壊されても、大地は諦めないの。いつだって、新しい生命を育てようって、待ち構えてるのよ……」

 

 受け取った種と圭子を交互に見比べて、キョトンとしたナオミ。

 するとシンが、ある程度集まった石碑の破片から磁気反応を感知した。これを復元すれば、玉響姫が復活するかも知れないと、ナオミ達は僅かな希望を見出した。

 ちょうどジェッタも戻って来て、ナオミ達はまた石碑の復元を開始した。

 

 

 

 一方ガイとシンヤは、ジャグラーを探して町中を歩き回っていた。ガイは傷が痛むようで、時々休憩を挟みながら探していたが、成果は皆無。

 シンヤがガイに肩を貸しながら、高架下に差し当たった時、ジャグラーは彼らの眼前に現れた。

 

「探し物は……。これですか?」

 

 いかにもわざとらしく、ガイのカードホルダーを見せびらかすジャグラーの隣には、シンヤの予想通りヨミが不敵な笑みを浮かべていた。

 飛び出そうとするシンヤを制したガイは、ジャグラーに1歩ずつ近寄る。対するジャグラーもまた、ヨミを後ろに引き下がらせる。

 カードホルダーを持つジャグラーの右腕を掴んだガイは、ジャグラーを威嚇する。

 

「返せ……!」

 

 ガイとジャグラーの間を切迫した空気が漂い、途端に2人は戦闘を開始した。

 ガイの腕を強引に振り解き、胴体目がけてボディーブローを狙うジャグラー。だがガイはそれを防ぎ切り、反撃の右腕を振るう。しかしジャグラーは、横に逸れることで回避、その隙にガラ空きになったガイの腹部に、膝蹴りを叩き込む。

 マガオロチ戦のダメージが、特に集中している腹部への一撃は、想像を絶する痛みとなってガイを襲う。喰らった拍子にガイは、身体を曲げて倒れる。不運にも、倒れた先には手すりが取り付けられていて、ガイは手すりに派手にぶつかる。

 

「……何かお前かっこ悪いよ」

 

 その体たらくを見たジャグラーは、ガイを見下しそう呟くと、倒れたガイの顔を覗き込むように屈み、ガイを挑発する。

 

「お前ホントかっこ悪いからさぁ……。せめて自分の負けを認めて、俺の勝ちを讃えろよ」

「ふざけんな……!」

 

 その挑発に怒りを滲ませて立ち上がるガイを、ジャグラーは更に嘲笑う。

 

「負け犬の遠吠えってやつか?」

 

 それと同時に大地が揺れ始め、付近のビルの向こう側に、再び活動を開始したマガオロチが見えた。

 

「始まった……。ガイ、死なずにこの星が滅ぼされるのを、たっぷり見物してくれよな」

 

 マガオロチがまた大暴れする中、ジャグラーはガイに背を向けたまま、捨て台詞を吐いてヨミと共に消えた──。




…いかかでしょうか。

中編は今作オリジナル要素なので、ツッコミどころ満載かと思われます。
ですが現在執筆途中なので、気長に待っていただければ幸いです…。

皆さんに1日でも早くお届け出来るよう頑張りますので、今回はこの辺で…。



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第12話 黒き王の祝福 ━中編━

どうも。
何とか中編、書き終えました。

暖かい目でご覧下さいませ……。


 休眠状態から目覚めたマガオロチを見上げ、何も出来ずに歯痒い思いをしているガイにシンヤは駆け寄り、5枚のカードを差し出す。

 

「……あまり、無茶しないで下さいね」

「あぁ、お前もな……。必ず戻る……!」

 

 そうシンヤに告げたガイは、一目散に駆けて行き、すかさずオーブリングを構えた!

 

「ギンガさん!」

【ウルトラマンギンガ!】

「エックスさん!」

【ウルトラマンエックス!】

「シビれるヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ライトニングアタッカー!】

 

 マガオロチは、相も変わらずマガ迅雷を撃ち、破壊の限りを尽くす。あちこちで爆煙が上がり、町が跡形も無くなるのも目前となった時。

 空の彼方から稲妻のように、颯爽と光の戦士が舞い降りた──!

 

『電光雷轟、闇を討つ!』

 

 マガオロチを眼前に捉えたウルトラマンオーブ──ガイの脳内に、様々な情報が流れ込む。その膨大な情報量に、ガイは僅かばかりクラっとなり頭を押さえるが、それが全てマガオロチに関するものだと言うことに気付く。

 この姿のオーブには、相手のデータを解析する能力が備わっている。かつてのサンダーダランビア戦は初陣だったがために、この能力の真価を発揮することは無かったが、今ならその全てを存分に役立てそうだ。

 マガオロチの攻撃を防御ないし回避しつつ、精密機械のように解析を続けるオーブ。そして解析が終了し、1つの結論を導き出す。

 

『「危険な賭けだが……、今はこれに賭ける!」』

 

 覚悟を決めたオーブは、バク宙を繰り出してマガオロチと距離を置く。そんな隙をマガオロチが見逃す訳も無く、オーブが着地するタイミングを狙い、マガ迅雷を放つ。

 しかし、オーブの狙いはそこにあった。

 着地したオーブは咄嗟に両腕を伸ばし、バリアを形成。そのバリアはマガ迅雷を凌ぎ切り、逆にそれのエネルギーを、自分が回復するためのエネルギーに変換した。

 ライトニングアタッカーは、電撃を操ることに特化した姿でもあり、マガオロチのマガ迅雷を逆用することで、不足していた分のエネルギーを補給したのだ。

……実際、これは一か八かの大勝負だったため、ガイも内心ホッとしていた。

 オーブの様子がおかしいことにマガオロチが気付き、マガ迅雷を解除した時には、既にオーブのエネルギー充填が済んでいた。

 

『「ここからは、俺の戦いだッ!!」』

 

 強く言い放ったオーブは、自分の拳同士をぶつけて気合いを入れ直す。その際生まれたスパークを、オーブは両腕に纏わせ構える。今オーブの拳には、青と黄の稲妻が迸っていた。

 そんなものは虚仮威しだと言わんばかりに、マガオロチはオーブに迫り、乱暴に腕を振るう。

 それが直撃するより先に、オーブは一瞬でマガオロチの顔面に鋭い鉄拳を叩き込み、マガオロチが今の一撃で怯んだ隙に、俊敏な連続攻撃で一気に攻め立てる!

 マガオロチは反撃しようと何度も腕を振り回すが、そのどれもが空を切る。

 ゴツゴツとして重そうな見た目のライトニングアタッカーが、なぜこうも素早く動くことが可能なのか。実はこれにも、この形態の固有能力が関係していた。

 拳に電撃を纏わせたのと同様に、オーブは全身に電流を循環させることで、一時的に雷と同等の速度で移動しているのである。

 もちろんそれを実行するためには、オーブの保有する全エネルギーだけでは不足してしまう。そこで活かされるのが、エネルギー充填に逆用したマガ迅雷。その膨大なエネルギーを応用することで、オーブは今、マガオロチを終始圧倒しているのだ。

 

『さぁ、まだまだ行くぜッ!』

 

 マガオロチと一旦距離を置いたオーブは、両腕のクリスタルから光の長剣を伸ばす。そのまま超スピードでマガオロチの懐に飛び込み、それぞれの斬撃をクロスさせるように「ギンガエックスセイバー」を繰り出し、マガオロチの体表を斬り付けた!

 悶えるように吠えたマガオロチの胸元には、オーブが刻んだ傷痕がしっかりと残っていたが、前回のバーンマイト戦で見せた脅威的な再生能力が作用し、だんだんとその傷痕が塞がりつつあった。

 それを目の当たりにしたオーブは空高く飛翔し、全身のクリスタルを黄色く輝かせて威力の増した必殺技を放った!

 

『アタッカーギンガエックスッ!!』

 

 オーブの必殺技が上空から放たれたのを察知したマガオロチは、それを迎撃しようとマガ迅雷を躊躇うことなく放射した。

 オーブとマガオロチの雷撃が、互いの間合いでせめぎ合い、やがてそのどちらも空中で爆発。

 爆発の影響で発生した黒い爆煙が、マガオロチの視界を遮る。

 そしてこの瞬間を待っていたオーブはマガオロチ目がけて急降下しつつ、別の姿にチェンジした!

 

「エックスさん!」

【ウルトラマンエックス!】

「コスモスさん!」

【ウルトラマンコスモス!】

「繋がる優しさ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 フルムーンザナディウム!】

 

 マガオロチに接近するオーブは、引き絞った右手に光のエネルギーを集中させる。

 黒煙を突っ切り、先程自分が斬り付けた傷痕をその瞳に捉えたオーブは、それを目がけて右手を伸ばし叫ぶ!

 

『お前の邪気を浄化する!フルディウムフラッシャーッ!!』

 

 今オーブの放った一撃は、ウルトラマンコスモスのルナモードが使用する「フルムーンフラッシャー」と同様に、相手の邪気を祓うための浄化技だが、ウルトラマンエックスの力を上乗せすることで、浄化の力を高めたのだ。

 ライトニングアタッカーの姿で、ガイがマガオロチの解析をする中で最も目に付いたのは、マガオロチ内の魔王獣達の邪気と闇の力だった。

 マガオロチを復活させる際、ジャグラーは全ての魔王獣と、ウルトラマンベリアルの力を注ぎ込んだ。つまりマガオロチには、マガオロチだけではなく魔王獣達の力とベリアルの力も宿っているということになる。

 解析結果から導き出された答えは、その全てを取り除くことが出来れば、こちらにも勝算はある……と言ったもの。

 ガイがシンヤから預かったカードの中には、それを可能とするウルトラマンコスモスのカードが含まれていた。

 そのため、ある程度ライトニングアタッカーで深手を負わせることで、この策を実行したのだ。

 

『ウオォォアァァッ!!』

 

 最後の一押しを決めようとオーブが吠える。

 その右手から放たれる光は、マガオロチの傷痕から体内に浸透し、マガオロチを少しずつ浄化していった。

 

 

 

 その瞬間を、シンヤは大通りからずっと見守っていた。これならきっと、あの怪獣に勝てる。

 そう思った時だった。

 シンヤの背後から、砂利を踏んで歩み寄る誰かの足音が聞こえた。

 それが一体誰なのかすぐ察知したシンヤは、警戒心を露わにして振り向く。

 

「やっぱり来たか……ヨミ!」

 

 シンヤが言い放ったのと同時に、ヨミはその歩みを止めた。隠す気がないのか、ヨミの左手にはダークリングが握られている。

 シンヤの呼びかけにヨミは鼻で笑ってみせて、続けて答えた。

 

「当然でしょう?これ以上、あなた方に邪魔されるのはゴメンですからね……!」

 

 するとヨミは、胸元のポケットから1枚のカードを取り出し、正面に構えたダークリングにそれを読み込ませる──!

 

【ディゴン!】

 

 ダークリングから放たれた闇の波動から現れたのは、人間に似た、二足歩行の怪物達。

 しかし人間と違って、黄色い双貌と緑色の肌。そしてその肌は濡れているのか、テカテカと光っている。

 まるで、魚が一人歩きをしているかのような、この怪獣は──!

 半魚人兵士 ディゴン。

 高い知性を持つ「水棲生命体 スヒューム」が操る遺伝子改造兵士で、知能はあまりないが強靭な腕力の持ち主で、それを活かした集団戦法を得意としている。

 尚且つ、スヒュームが健在なら、いくらでも補充が利くという厄介な性質を持っている。

 以前、ラゴンの親子に出会ったシンヤだったが、このディゴンの見た目はそれを遥かに凌ぐ醜悪さを身に纏っている。

 

「コイツら……!」

 

 ディゴンの群れと対峙したシンヤは、即座に身構えて戦闘態勢に入る。

 その内の1匹がシンヤに迫るが、それを回避しつつ2匹目の胴体に勢いを付けた正面蹴りを浴びせる。直後、シンヤは最初のディゴンが背後から近付いて来るのを察知して、豪快な裏拳を放る。それは見事にディゴンの側頭部を直撃し、喰らったディゴンは倒れ伏す。

 

「よしっ……、っと!」

 

 自分の攻撃が上手く入ったことに喜び、一瞬油断したシンヤに別のディゴンが飛びかかる。取り付いたディゴンを強引に振り払うものの、また1匹とシンヤを狙って迫り来る。

 その物量に、やがて押され始めるシンヤ。正面のディゴン目がけて拳を喰らわせるが、別の1匹が近付いていたことに気が付かず、咄嗟に振り向いた時にはディゴンの平手打ちをまともに貰っていた。

 ディゴンの怪力から放たれたその平手打ちは、一撃でシンヤを叩き伏せた。それを皮切りに、ディゴンの大群は一斉にシンヤに群がる。

 必死に抵抗するシンヤだったが、自分を押しつぶそうと言わんばかりに来襲するディゴンに、次第に限界を迎えかけていた。

 何とか頭部を死守しようと両腕を交差させた時、1枚のカードが手元に飛来した。そのカードを見て、その訳を察したシンヤは、カードに向かって頷いた。

 

「本当の戦いは……ここからだっ!ダイナさんっ!!」

 

 それが呼び声になったのか、カードから放たれた輝きがディゴンを弾き返した。

 ディゴンの拘束から、ようやく解放されたシンヤはゆっくりと立ち上がると、再びディゴンの群れに立ち向かって行く。

 これまで押されていたのが嘘のように、パワフルかつダイナミックな攻撃で、シンヤはディゴン達を圧倒。

 シンヤが、最後の1匹に全力で横蹴りを叩き込むと、辺り一面に伸びていたディゴン達が消滅した。

 勝利を確信したシンヤは肩で息をしながら、ヨミを指差し言い張った。

 

「どうだ見たか!僕の超ファインプレー!」

 

 一方のヨミは一度俯いたが、依然として余裕綽々といった様子で笑みを浮かべるだけだった。

 

「お見事……ですが、誰もこれで終わり……なんて、一言も言ってませんよ?」

 

 ヨミはその表情のままシンヤを讃えるが、一瞬で顔色を変えてもう1枚のカードをダークリングにスキャンした──!

 

【チブロイド!】

 

 すると今度は、ディゴンとは対照的な人型の集団が具現化した。

 機械的な装甲を纏い、顔に見られる部位は紫色のバイザーで覆われていて、表情を窺うことは不可能だ。

 この集団は傀儡怪人 チブロイド。

「チブル星人エクセラー」が制作したアンドロイドで、個々の戦闘力が高く、しかも集団で襲って来るため、ディゴンとは違った意味で厄介な相手である。

 ディゴンとの戦闘で疲弊しているシンヤに、チブロイド達は一斉攻撃を仕掛ける。シンヤも何とか気力を振り絞り戦うが、ディゴン達と打って変わって、連携の取れた攻撃を繰り出すチブロイドに、シンヤは翻弄される。

 

 そんなシンヤを尻目に、ヨミはマガオロチを黙視する。

 オーブの浄化技を受けたせいで、すっかり大人しくなってしまった伝説の大魔王獣の有様を見たヨミは、内心がっかりしていた。

 失望を込めた視線を向けたヨミだったが、呆れるように溜め息を吐いた後、ぼそっと呟いた。

 

「……さて、私も助け舟を出しますか」

 

 ヨミはマガオロチに手を伸ばすように、右腕を掲げる。その腕からは黒い波動が放たれ、マガオロチの全身を繭のように包み込む。

 

『何だ!?この異常な闇のエネルギーは……!?』

 

 それを眼前で目撃したオーブは、何が起こったのかと警戒する。

 フルディウムフラッシャーでマガオロチの邪気を祓い、鎮静化させることに成功した矢先、この不可解な現象が発生したため、オーブは頭の整理が追い付かない。

 するとマガオロチが、闇の繭を内側から引き裂き、再び姿を現した!

 その瞳には、また獰猛な光が宿っていた。

 

 

 

 またしても暴走するマガオロチを捉えたシンヤは驚愕して、チブロイドの攻撃を捌きながら、この原因を生んだヨミに問いただす。

 

「そんな……!お前、一体何をした!?」

「さぁ?……強いて言うなら、強くなったのはあなただけではない、ということです」

 

 人を喰ったような態度で質問に答えたヨミは、シンヤに追い討ちをかけるように、更にもう1枚カードをスキャン。

 

【レイビーク星人!】

 

 次に現れたのは、鳥もしくは恐竜のような尖った顔の宇宙人達。複眼状の黄色い眼で、リーダー格と思われる宇宙人の眼は赤かった。

 奴らは誘拐宇宙人 レイビーク星人。

 人間によく似た生物を奴隷として酷使していたが、結果その生物の数を減らしてしまい、代用として夜な夜な人間を縮小光線銃でミクロ化させて、拉致していた宇宙人だ。

 レイビーク星人もチブロイドに加勢して、シンヤを襲う。必然的に一対多数の戦闘を迫られるシンヤの顔には、苦痛の色が浮かんだ。

 そんな中、シンヤの身に異変が起こる。

 ウルトラ戦士の活動限界である3分間を迎えてしまったのだ。ガイとの特訓で技量や体力は上がっていたものの、こればかりは克服することが出来なかった。

 

 一方のオーブも、これまでの計画が全て水の泡になったことで、再び凶暴性を宿したマガオロチと戦わざるを得なくなってしまった。決死の覚悟で立ち向かうオーブだったが、マガオロチの攻撃を捌き切れない。

 このままでは不利だと考えたガイは、別の姿に変わろうとするが、それよりも先に放たれたマガ迅雷が直撃。

 それによってオーブは片膝を突き、2度目の敗北に悔しさを滲ませながら姿を消した。

 奇しくもそれは、2大勢力に圧倒されたシンヤが倒れ込んだのと同じタイミングだった。

 連戦による消耗でうつ伏せに倒れ、レイビーク星人とチブロイドを睨んだシンヤと、何度倒れても人々を守るために立ち上がるガイ。

 

 マガオロチはそれを嘲笑うように吠えて、また町を蹂躙し始めた。




次回、ようやく後編です。
長い寄り道をさせてしまいまして、申し訳ございませんでした。

なるべく早い投稿が出来るように、精一杯努力しますので、よろしくお願いします……。


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第12話 黒き王の祝福 ━後編━

ようやく12話完結です。
長かったですよね、申し訳ありません。
そして、今回も長いです。

どうぞ。


 場所は変わり、ナオミ達SSP一向がいる入らずの森。

 何とか玉響姫の石碑を復元し終えたナオミ達は、これで玉響姫が現れるのかと期待する。

 しかし周囲には何の変化も起きず、これで玉響姫が復活すると思い込んでいたジェッタ達は狼狽した。

 そんな彼女らを追い詰めるように、シンのタブレット端末に、マガオロチが復活したという最新情報が入る。

 実は、この数分前までオーブが戦っていたのだが、なぜかそのことは報道されなかった。

 そんなこととは露知らず、シンは入って来たニュースをナオミ達に伝える。

 

「あっちが復活しちゃいましたよ!もう逃げましょう!こっちに向かって来ます!」

「で、でも!玉響姫が最後の希望なんじゃないの!?」

「だけど……!」

 

 玉響姫の復活に希望を抱くナオミと、避難を優先しようとするシン。

 その傍らで、未だに花の種を蒔く圭子を見たナオミは彼女に歩み寄り、ここから離れるよう申し出る。

 

「ママ、シン君達と一緒に逃げて!ここにいちゃ危ない!」

「やぁだ、怪獣こっちに来るの?じゃあちょっと待ってね〜、今お水だけあげちゃうから。は〜い、ど〜ぞ〜」

「もう、そんな悠長なこと……!」

 

 こんな危機的状況にも関わらず、圭子は普段通りに振る舞い、これまで蒔いた種に水を撒き始めた。

 それに呆れてしまうナオミ達だったが、次の瞬間信じられない光景を目の当たりにした。

 圭子が蒔いた種の1つが突然、青白い光を放ちながら芽吹いたのだ。それを境に、ナオミ達の足元が青く輝く。圭子は勿論のこと、これまで数多くの超常現象をスクープしてきたSSPでさえ、この神秘的な現象には驚きを隠せなかった。

 すると、先程芽吹いたばかりの双葉が強い光を放ち出す。その光はやがて人型を形成して、太古の姫を甦らせた。

 

「玉響姫……!」

 

 待ちに待った玉響姫の復活に、ジェッタ達は歓喜した。

 玉響姫は優しく微笑み、森の木々を飛び越えて、どこかへと向かった。

 

 

 

 

 

 進撃するマガオロチに追い付いたガイは、今度こそ決着を付けようとオーブリングを構えようとするが、空から何かが近付いて来るのを感じ取る。

 咄嗟に見上げると、白い衣服を纏った女性が舞い降りて来た。女性が降り立った後、ガイはその女性に語りかける。

 

「玉響姫……!無事だったのか!」

 

 すると玉響姫は、ガイに1枚のカードを差し出す。光を放ち輝くそのカードは、宇宙警備隊隊長のウルトラ戦士のカードだった。

 

「これを渡しに来ました。この力が、マガオロチを封印してくれていたのです」

「ゾフィーさんが守ってくれていたんですか……!」

「それからもう1枚……」

 

 続けて玉響姫は、胸元からもう1枚カードを取り出した。

 ゆっくりと手を伸ばし、そのカードを受け取るガイだったが、放たれる暗い輝きも相まった徒ならぬ雰囲気に、危うく呑まれかける。

 

「これは……、ベリアル……!」

「光あるところ、必ず闇があります。しかし、その力はあまりにも強大。強過ぎる力は、災いをもたらすこともあります」

 

 その言葉に頷いたガイは、躊躇わずにオーブリングを正面に突き出した!

 

「ゾフィーさん!」

【ゾフィー!】

「ベリアルさん……!」

 

 ガイがベリアルの名を呼び、オーブリングにカードをスキャンしようとした時。ベリアルのカードが闇の属性だからなのか原因は不明だが、オーブリングにスキャンしようにも、カードスキャンが出来ない。

 何としてでも読み込ませようと、実力行使に打って出るガイだったが、まるでベリアル本人がそれを拒んでいるのか事態は進展せず、オーブリングとベリアルのカードがせめぎ合う力によって、ガイは弾かれてしまった。

 

「ううっ、くっ……!ああっ!

 うっ……。ベリアルさん……!お願いします!んんっ……!」

 

 地を転がり、何とか立ち上がったガイは二度目の挑戦をするものの、やはり上手くいかず派手に吹き飛ばされてしまう。

 ガイの痛々しい姿を見て、悲しげな表情を浮かべる玉響姫だが、これ以外に打つ手がないのが現状なのだ。だからこそ、ガイの力を信じるしかない。

 

「その力が、最後の望みです」

「ぐっ……、頼みます!ベリアルさん!」

 

 そしてガイが三度目のスキャンに挑もうとした時、マガオロチが足音を踏み鳴らし、自分達の真正面まで迫っていたことに気付く。

 金切り声を上げて、こちらを威嚇するマガオロチに対して玉響姫は、ガイのために少しでも足止めをしようと試みる。

 

「テンゲン ソワ ヤ フルべ ユラユラ!」

 

 そう唱えた玉響姫は、両手に宿った霊力をマガオロチに向けて照射。マガオロチは、青い球体状の結界に閉じ込められてしまう。

 それを鬱陶しいと思ったのか、マガオロチは結界内部でじたばたと暴れる。

 このままでは不味いと察知した玉響姫は、更に呪文を詠唱する。

 

「テンゲン ソワ ヤ フルべ ユラユラッ!!」

「玉響姫ッ!」

「ガイ!早くカードを!その力を使いこなしなさいっ!」

 

 自分が早くこの力を会得しなければ、玉響姫の身に──最悪の場合、ナオミ達全員に危機が及ぶことになる。その考えが余計にガイを焦らせる。

 改めて三度目に挑むが、そんなガイの心境など知らないと言わんばかりに、リングとカードは互いを拒絶する。

 ついにマガオロチはマガ迅雷を放射して、内部から結界を破壊しようとする。

 

「テンゲン ソワ ヤ フルべ ユラユラッ!!」

 

 玉響姫は、更に呪文を重ねがけすることで、マガオロチを食い止めようとする。

 しかし、マガ迅雷の威力に押され始め、結界に亀裂が入り出す。

 事態はより一層悪化するばかりだと言うのに、一向にスキャン出来ないベリアルのカードを見つめるガイ。

 

「──くっ、離せよ!離せってば!」

 

 そんなガイの耳に、聞き慣れた青年の声がした。ハッとしたガイは、その方角を向いた。

 

「シンヤッ!」

 

 玉響姫のいる通りの反対側、つまり自分の後ろに、複数の異星人達に取り押さえられたシンヤがいたのだ。

 なぜここにシンヤが……。

 そう思った時に、恐れていた事態が起きる。

 玉響姫の張っていた結界が更にひび割れてしまい、その音を聞いたガイは反射的にそちらに振り向く。

 それはちょうど玉響姫が術を解いたと同時で、こっちを見た玉響姫は一瞬、何かを呟いた。

 

「────、───」

 

 それを聞き取ろうとした時には既に遅く、マガ迅雷が彼女を直撃。目の前が爆発し、咄嗟に身構えたガイが向き直ると、そこに玉響姫の姿は跡形もなく、ただ燃え上がる炎が辺り一面を焼き焦がしていた。

 

「玉響姫ぇー!!」

 

 それを見てしまったシンヤは悲痛な叫びを上げたが、一方のガイは違った。

 マガオロチをじっと睨み付け、野獣のような唸り声を上げたガイは、空に向かって吠えた。

 

「グッ、クッ……!ウウッ……ウ゛ォォア゛ァァァァァァァァッ!!」

 

 その叫びには、ガイ自身の明確な負の感情が籠っていた。町を蹂躙し、あまつさえ玉響姫をも消滅させた、マガオロチに対するとめどない憎しみか。力及ばず何度もマガオロチに敗北した無力な自分自身への怒りか、はたまたその両者なのか。

 ガイの昂った感情と、湧き上がった殺意に呼応したベリアルのカードが、怪しく光り輝く。だがそれに目もくれずガイは、ゾフィーのカードをスキャンしたことで待機状態のままだったオーブリングに、ベリアルのカードを通す。

 

【ウルトラマンベリアル!】

 ゼェァッ!──ンハハハハハハハッ!!

 

 スキャンには成功したが、どこからともなくベリアルの嗤う声がした。

 それはまるで、ガイの中で生まれた怒りと憎しみを祝福し、迎え入れるようにも受け取れた──。

 震える右手を高く掲げたガイは、怒りに任せて両腕を振り回しながら叫び、オーブリングのトリガーを引いた。

 

「ア゛ア゛ァァァァァ──ッ、ウ゛ア゛ア゛ァァァァァァ──ッ!!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 サンダーブレスター!】

 

 ガイの荒々しい叫びの直後、オーブは真紅の閃光を纏って町に降り立つ。だが着地と同時に放たれた衝撃波で、近隣にそびえ立っていたビル群が、一気に破壊される。

 その余波は、異星人達に押さえ込まれていたシンヤの元まで届き、異星人達をシンヤごと吹き飛ばす。運が良いのか悪いのか、吹き飛ばされたシンヤは付近の建物の壁に背中から激突してしまう。

 何とか異星人から解放されたものの、巻き上がった砂埃やら何やらで盛大にむせて、その場に倒れるシンヤ。

 オーブが現れたと思われる場所を見上げると、白煙の向こう側に大きな人影を見た。

 やがて煙が晴れると、その全貌が明らかになる。

 これまでのオーブとは全く違い、全身が筋骨隆々としたマッシヴな体型。全体はシンプルに赤、黒、銀で統一されたカラーリング。

 よく見れば両肩に、ゾフィーのウルトラブレスターに似た意匠が見られるが、鋭く尖った指先と吊り上がった瞳を見てシンヤは戦慄した。

 

「ベリアル!?……違う!オーブ、なのか……?」

 

 その見た目は、ウルトラマンベリアルにとても酷似していたためシンヤは錯覚してしまうが、胸のカラータイマーがアルファベットの「O」の形だったことで、あの巨人はオーブなのだと自覚した。

 目の前に現れたオーブを、敵と断定したマガオロチは再び金切り声を上げる。

 それはオーブも同じで、ボディに描かれた赤い模様が禍々しい光を放つと、オーブは野太い声を上げてマガオロチに特攻。

 マガオロチを抉るような生々しい音と共に、頭部を乱暴に掴んだオーブは、手近なビルにマガオロチの頭部を叩き付けた!

 当然ビルは倒壊するが、それもお構い無しにオーブは、マガオロチの頭部を執拗に殴る。

 魔人態となったジャグラーは、この戦いをとあるビルの屋上から観戦していたが、このオーブの異常なまでの強さの訳を理解する。

 

「アイツ、闇のカードを使いやがった!」

 

 そしてオーブは、マガオロチの額に生えているマガクリスタルを掴んでマガオロチを強引に起こし、顔面に膝蹴り、左ブロー、右ブローのラッシュを喰らわせる。

 マガオロチも反撃するが、オーブはそれも意に介さずマガオロチの右足の付け根を蹴る。マガオロチがそれに怯むと、オーブはマガオロチの首を抱え込んで引き寄せ、後頭部にエルボーを連発。抱え込んだマガオロチの頭部を力任せに振り上げ、がら空きになったボディに重い蹴りを浴びせる。

 蹴り飛ばされたマガオロチを睨め回すように、ゆっくりと振り向いたオーブは、身近にあった廃屋同然のビルを乱暴にもぎ取り、何とそれをマガオロチ目がけて投げた!

 

 この戦闘を見ていたのはシンヤ達だけではなく、まだ入らずの森にいたナオミ達も、シンのタブレットに入ったニュース映像を通じて見守っていた。

 圭子はオーブの戦い方を見て「乱暴な人」、ジェッタは「ちょっと怖い」と各々の印象を述べていた。

 

 負けじとマガオロチは尻尾を振るうが、オーブにそれを掴まれて、ジャイアントスイングの要領でビルに投げ飛ばされ激突する。

 マガオロチが起き上がるより先に、引き寄せたマガオロチの尻尾を左脇に抱えたオーブは、右手に紅の光輪「ゼットシウム光輪」を作り、その光輪でマガオロチの尻尾を切断。それを振り回して、マガオロチを容赦無く殴打した。

 怒りに震えるマガオロチは、マガ迅雷を乱射。しかし1発目を切断された尻尾で防がれ、続く2発目は片手で、泣きの3発目は防御されることも無くノーガードで凌ぎ切られて、オーブの接近を許してしまう。

 肉薄したオーブはマガオロチの首を片手で締め上げ、後方のビル街に投げ飛ばした!

 事の一部始終を目撃していたジャグラーは露骨に悔しがり、普段からは想像も出来ない声でオーブに叫んだ。

 

「なぁんでだよガイィィィ!!何なんだよ!?

 一度ぐらい俺に勝たせろよ、コノヤロォォォォ!!」

 

 シンヤもまた、ウルトラマンらしからぬオーブの戦い方を見て恐怖していたが、いつの間にか現れていたヨミに驚く。

 しかしヨミはシンヤに目もくれず、全身の震えを押さえているのか、自分を両手で抱きしめる素振りを見せて、歓喜に酔いしれる。

 

「ハハッ……、ハハハッ!ッハハハハハ……!!

 最ッ高だ……!そうだよこれだよ、これを見たかったんだ!!……これが!これこそがッ!!『黒き王の祝福』だァァァァァァァッ!!」

 

 高らかに嗤うヨミが両手を広げたのと同時に、オーブもマガオロチにトドメを刺そうとする。

 右手に闇、左手に光の力を集中して、引き絞った右腕を横に構えた左腕に十字を組むように交差させたオーブは、必殺の「ゼットシウム光線」を放つ。

 光と闇のエネルギーが螺旋を描くように放出され、直撃したマガオロチの肉を抉り散らすような音を立てる。長時間それを喰らい続けたマガオロチはついに爆発、消滅した。

 それを見たジャグラーは発狂。やがて脱力したように魔人態を解き、とぼとぼとその場を後にした。

 

 飛び去ったオーブを見つめるシンヤの側で、興奮し切ったヨミがその場にへたりこんで荒く呼吸をしていた。その息遣いは一種の色情を彷彿させ、ヨミの中性的な外見がそれをより一層際立たせた。

 呼吸が落ち着き、蕩けた表情でシンヤを見つめるヨミはゆったりと立ち上がるものの、その足取りは産まれたての小鹿のようで、不安しか無かった。

 

「……おかげで良いもの見せて貰ったよ。また、見れると良いなぁ……、ヒヒッ」

 

 不気味な笑い声を残して、ヨミはどこかへ向かって歩いて行った。

 壁伝いに何とか立ち上がるシンヤは、ガイを探し始めた。

 

 

 

 変身を解除したガイが、ボロボロになった町をふらついていると、ぐったりと瓦礫に腰かけたジャグラーを見かけた。ジャグラーもガイの存在に気付いたようで、顔を上げた。

 

「俺を笑いに来たのか……?」

 

 ジャグラーはそう言うと、ガイと目を合わせず遠くを見つめて話し続ける。

 

「カッコよかったよ、お前。全てを破壊し尽くすお前の姿……、惚れ惚れしたなぁ……」

 

 そう言ってもガイの反応が無いため、おもむろに立ったジャグラーは潔く負けを認め、奪い取ったカードホルダーをガイに投げ返してその場を離れようとする。

 しかし最後にガイに振り向くと、冷徹な視線を向けて問い質す。

 

「……楽しかっただろう?強大な力を手に入れて、全てを破壊するのは……」

「そんなことは……」

 

 ガイはそれを否定しようとするが、ジャグラーがその言葉を遮る。

 

「いい子ぶるなッ!!所詮、お前も俺と同類だ。楽しめ……!」

 

 意味深な台詞を吐いて、笑いながら立ち去るジャグラー。ガイはその言葉を振り払おうと、一度目を瞑って空を見上げる。その空はガイの心境を表すように、僅かに曇りがかっていた。

 

 

 

 霧が立ち込め始めた森の中で、木々の騒めきを聞いていた圭子にナオミは歩み寄り、今度こそ帰ろうと提言する。

 圭子もそれに賛成したが、こっちにガイがやって来ているのを見て、ナオミに顎で示す。

 それに気付いたナオミが振り向いた後、ガイを見つめて圭子はポツリと呟いた。

 

「……『握った手の中、愛が生まれる』」

「何?それ」

「ひいおばあちゃんの遺言なんだって。あなたも頑張んなさいよ〜?ん?」

「うん。あ、送ってく」

「良いの!一徹さんが送ってくれるから。じゃあねぇ〜」

 

 最後までマイペースのままナオミと分かれた圭子は、ガイとすれ違う際、何かを話しかけるとガイは照れ臭そうに笑った。

 やって来たガイと向かい合ったナオミは、ガイにそのことを尋ねた。

 

「ねぇ、ママに何言われたの?」

「あ……、うん。ありがとな?色々と」

「うん……。ねぇ、だからママに何言われたの?もう……!」

 

 そう言ってナオミを誤魔化すと、ガイは懐からオーブニカを取り出して、いつものメロディを奏で出す。

 そのメロディは、森の外に到着した圭子の耳まで届き、彼女の心に例えようの無い違和感を与えたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「さて始まりました、ウルトラヒーロー大研究のコーナーです!

 今回、色んなことが立て続けに起きましたが、頑張りましょうね、ガイさん!」

ベリアル「……アァ?」

シンヤ「って、ベリアル……さん!?」

ベリアル「おいお前。今、オレを呼び捨てにしようとしたな?」

シンヤ「えぇ!?いえいえ、滅相もございません!陛下!」

ベリアル「……フンッ、調子の良いヤツめ。なら、とっとと進行するんだな」

シンヤ「はいぃっ!かしこまりましたっ!」

 

【ウルトラマンオーブ!サンダーブレスター!】

 

シンヤ「『ウルトラマンオーブ サンダーブレスター』。ゾフィーさんとベリアル陛下の力を宿した形態で、名前の由来は陛下のベリアルジェノ『サンダー』と、ゾフィーさんのウルトラ『ブレスター』かと思われます。

 これまで登場しているフュージョンアップ形態の中でも、身長と体重の数値が最も高くなっています」

ベリアル陛下(以下、陛下)「ふん……。続けろ」

シンヤ「全身ムキムキのマッチョ体型で掛け声は野太く、野獣の雄叫びのようです。

 陛下の力を借りているだけあって、その戦闘力は高く、苦戦を強いられたマガオロチを終始圧倒しました。ですがその力の強大さ故に、暴走するリスクが高いことも事実です」

陛下「当面の問題は、ヤツがオレの力を使いこなせるかどうかだが……まぁ到底不可能だろうな」

シンヤ「必殺技は、光と闇の力を合わせた『ゼットシウム光線』。これは、ゾフィーさんの『Z光線』と陛下の『デスシウム光線』が由来でしょうか」

陛下「ようやくオレも、満を持しての登場か。ここから、オレの覇道が始まるのさッ!!ガァーッハッハッハッハッ!!」

シンヤ「へ、陛下!落ち着いて下さ~い!では皆さん、次回も見て下さいね!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渋川のおっさんが、数十年振りに再会した女性。何と、その人が初恋の相手らしいんだ。おっさんも中々、隅に置けねぇな。

 そんな中、正体不明の怪獣がビートル隊本部を襲う!

次回。

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『赤い靴の思い出』。

 紅に……燃えるぜ。




……いかがだったでしょうか。
ラストのコーナー、陛下の口調になるべく寄せて書いたのですが、どうにも違和感が……。

次回なのですが、本編の13話ではなく、別物の丸々オリジナル回にさせていただきます。
次回予告が既にネタバレ気味ですが、よろしくお願いします!

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマン』第8話『怪獣無法地帯』でした。

既にご存じかとは思いますが、これまで投稿した全話に多少の手直しを加えさせていただきました。

では……ノシ


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第13話 赤い靴の思い出 ━前編━

お久し振りです&お待たせしました……!

一番やりたかった話だけあって、かなりじっくり考え過ぎた結果11600字でございます……(震え声)
今回登場のオリジナルキャラは実在する人物とは一切関係ありませんので、ご了承ください。

色々と問題作になっていると思われるので、後が怖いですが、どうぞ……。



 マガオロチの脅威が去り、一時の平穏を取り戻した地球。特に被害が大きかった北川町も、国からの支援やボランティアのおかげで、少しずつ復興の兆しが見え始めていた。

 

 とは言え、地球を狙う異星人達がいなくなった訳では無い。ジャグラスジャグラーらの魔の手によって、事実上壊滅した惑星侵略連合が前線基地として運用していた円盤も、宇宙空間に未だ駐在したままだった。

 その円盤内部で、メトロン星人タルデは、1人寂しくやけ酒……いや、やけ眼兎龍茶を呷っていた。その証拠に、タルデの足元には、空っぽになった眼兎龍茶がいくつも転がっていた。

 現在タルデは、悔恨の念に駆られていた。

 先日ジャグラーは、ドン・ノストラから強奪したウルトラマンベリアルのカードと魔王獣のカードを使い、大魔王獣 マガオロチを復活させた。

 その時タルデは、この目的のためだけに、自分達はジャグラー達に利用されていたのだと知った。

 自分がもっと早くジャグラー達の企みを看破していれば、偉大なるドン・ノストラや、同輩のナグスが死ぬことも無く、惑星侵略連合が崩壊することも無かったのだ。

 私怨を抱いたタルデは、乱暴にテーブルを叩き付け、両腕をワナワナと震わせた。

 

「おのれジャグラスジャグラーめ……!この恨み、晴らさでおくべきかァッ……!」

 

 ジャグラーへの恨み言を並べるタルデだったが、そのせいもあってか、背後に近付く何者かの存在に気付くのが遅れた。

 

「……随分と荒れているな。メトロン星人タルデよ」

 

 背後から呼びかけられたタルデは気が動転し、咄嗟に立ち上がり振り向く。

 そこには、醜悪な外見の異星人達が数名列を成していた。

 

「貴様らは……!ドルズ帝国の民か!」

 

 タルデの眼前に姿を現したのは、凶悪宇宙人 ドルズ星人だった。

 毒々しい体表と、脳髄が肥大化したような頭部が特徴的で、非常に好戦的な種族でもある。

 M88星雲に自分達の国「ドルズ帝国」を築いており、かつてはあのウルトラマンタロウと1戦交えたこともあったと言う。

 そのドルズ星人達の中から、恐らくリーダー格と思われる1人がずいと一歩踏み出し、タルデに近付きながら嫌味ったらしく言い現す。

 

「ノストラが死に、今ではお前1人だけの惑星侵略連合にはもう、何も出来はせんだろうなぁ……。これからは、我らドルズ帝国の天下だ。まぁ、よく見ておくがいい」

 

 

 

 渋川一徹は、姪っ子の夢野ナオミらが経営する専門サイト「SSP」のオフィスの掃除を手伝い終えて帰路に着いたついでに、町内のパトロールを行っていた。平和になったとは言え、市民の安全を守ることが自分達ビートル隊の務めである以上、このパトロールも無下にも出来ないのだ。

 すると早速道端に、どこかの子供が落とした物とみられる、小さな赤い靴を1足だけ見かけた。

 渋川がそれを拾い上げ内側を見ると、平仮名で「ゆかり」と書かれていた。

 この靴を落とした子はまだ近くにいるのではと思った渋川が周囲を見回すと、母親らしき女性に抱きかかえられ、靴が片足脱げていた少女の姿を目撃した。そこで渋川は、その女性を呼び止めることにした。

 

「すみません、そこの奥さん。これ、お子さんの靴じゃありませんか?」

「え?……あっ、すみません。私ったら、気が付かなくって……」

 

 突然呼び止められた女性は一瞬キョトンとしたが、渋川の持つ赤い靴と、娘の片足を交互に見比べて事態を把握する。

 慌てながら渋川に一礼し、その靴を受け取った彼女は一度娘を下ろして、靴を履き直させる。

 渋川は気さくに笑い、控えめに振る舞ってみせた。

 

「いえいえ、当然のことをしたまでですから。それにしても、可愛らしいお子さんですね」

「まぁ、可愛らしいだなんて……。ほら、裕佳梨?おじさんにお礼は?」

「おじさん、ありがとう!」

 

 母親に再び抱きかかえられた少女は、渋川に笑顔でお礼をして家路に就いた。

 渋川もそれを手を振りながら見送ったのだが、胸の中に何かが突っかかるような違和感があった。

 

 渋川を襲ったその感覚は、家族が待っている自宅に到着しても消えることは無かった。

 今まで黙っていたが、渋川は既婚者である。妻と中学生の一人娘、徹子の3人暮らしなのだが、娘は絶賛反抗期中で、まともに話をしてくれない……と言った、ごく一般的な父親としての悩みを、渋川は抱えていた。

──まぁ、その話は後々するとして。

「ゆかり」と言う名前にどこか身覚えがある渋川は、その名前を頭の中で何度も連呼する。

 そんな具合で何時間も頭を捻り続けたが、結局妙案は浮かばずに終わり、仕方無く渋川は床に就くことにした。

 

 その夜。渋川は、懐かしい記憶を夢に見た。

 自分がまだ幼い頃、確か8歳ぐらいだった頃だろうか。

 ある日渋川少年は、友人達と遊んでいた。その中に1人、一際目立つ赤い靴を履いた女の子がいたのだ。何でも、家族に買ってもらったばかりの新品らしい。

 実を言うと渋川少年は、この少女に淡い恋心を抱いていた。これまでも渋川は、彼女に想いの丈を告げようと計画を練っていた。しかし、相手はクラスのマドンナ的存在だったため、肝心な一歩が踏み出せず失敗に終わっていた。

 だから今日こそはと、人知れず意気込んでいたのだが、楽しい時間はあっという間に過ぎて行き、夕暮れ時となってしまった。

 各々が帰り始める中、渋川少年はその少女を追いかけて呼び止める。夕陽に照らされた彼女を見据えて、自分の気持ちを言葉にしようとするが、渋川少年にはやはり伝えることが出来なかった。

 不思議がる彼女を何とか誤魔化し、渋川少年はまた今度遊ぼうと約束をした。一方の彼女もまた、渋川少年に笑顔で頷き、手を振り帰って行った。

──それが、渋川がその少女の姿を見た、最後の瞬間だった。

 

「ハァッ……!」

 

 夢から目覚めた渋川は跳ね起き、呼吸を整えながら寝汗でびっしょり濡れた額を拭う。

 ついさっき見た夢のおかげか、昨夜の疑問が解決した渋川は早朝にも関わらず、自室の押入れから小学生だった頃の文集を掘り起こし、昔懐かしい級友の中から「榮倉ゆかり」の名前を発見したのだった。

 

 

 

 それからしばらく時間が経った日中。

 渋川がSSPのオフィスを訪ねると、相変わらずいつもの顔ぶれが揃っていて、今日も各々が何かしらの作業を行っていた。

 軍手を装着し、スパナ等の作業工具を持ったシンが、デスクの後ろの巨大な装置をいじり、SSPのカメラ担当のジェッタはサイトの編集に追われているのか、パソコンに目が釘付けになっている。

 渋川が部屋をぐるりと見回すと、ここで居候しているシンヤとガイの姿が見当たらなかった。きっと、2人でどこかに出かけたのだろう。

 キッチンの方に目を向ければ、そこには1人お茶の準備をするナオミがいた。

 渋川がやって来たことに気が付いたナオミは、一旦作業の手を止めて、渋川を笑顔で出迎えた。

 

「あ、おじさん。いらっしゃい」

「よぉ、ナオミちゃん。今日も可愛いねぇ!」

「冗談よしてよ、もう子供じゃないんだから……!今日はどうかしたの?また協力依頼?」

「うん……。まぁ、ちょっと、な?」

 

 ナオミからの指摘を受けて、渋川は少し言いづらそうに頭を掻きながら首肯し、今回の依頼内容を話し出す。

 

「『赤い靴失踪事件』……?」

「それ知ってる!あれ……?でも、その事件って確か、俺らの生まれる何十年も前の事件でしょ?」

 

 ナオミは心当たりが無さそうに、渋川が依頼した事件名を復唱する。

 オカルトチックな事件名に聞き覚えがあったのか、ジェッタは食い込み気味に答えるが、即座に疑念を抱いたのか年長者である渋川に聞き返した。

 彼らの疑問に答えるように、インターネットを駆使し、その事件の関連情報を収集したシンが、代表して説明を開始する。

 

 赤い靴失踪事件。

 ジェッタの言う通り、この事件はSSPの3人が生まれる以前に発生した怪事件だった。事件内容は「赤い靴」を履いた子供が失踪すると言ったものだが、対象は少女のみ。

 まるで童謡の「赤い靴」を連想させるような内容から、当時の報道関係者はこの事件をそう呼ぶようになり、やがてこの名称で全国的にも認知されたと言われている。

 誰も名前を知らないような地方からこの事件は発生したが、感染症が人から人に伝染するように、全国で続々とその被害が確認された。

 解決の糸口が一向に見つからぬまま時間は流れて行ったが、この事件は突然終わりを迎えた。

 1974年2月8日。なぜかこの日から事件は全く発生しなくなった。

 次第に警察も捜査を打ち切り、未解決事件として取り扱われることになった──。

 

「……何か、いかにも怪しい事件ね」

「俺も内容は初めて知ったけど、これは……」

「えぇ……」

 

 ナオミ達はこの事件についての詳細を知り、言葉を詰まらせた。そんな重い空気の中で、渋川は口を開く。

 

「……実は昨日から、これに似た被害が相次いで報告されてる」

「ええっ!?」

 

 この渋川の発言に、ナオミ達は驚きを隠せなかった。ナオミが声を上げると、続けてジェッタとシンが、ここぞとばかりにまくし立てる。

 

「この事件の再来ってこと!?」

「そんな……!何とかして食い止めないと!」

「だから頼む!お前らの力を貸してくれ!」

 

 渋川は深々と頭を下げて、協力を懇願する。

 その様子を見て、対応に困ってしまうナオミ達。

 これまでも、SSPは渋川らビートル隊の依頼を受け続けて来たが、今回の渋川には今まで以上の必死さがあったからだ。

 

 ここまで渋川が必死なのには理由があった。

 先程渋川が言ったように、先日からこの事件は報告されている。もしも、自分が昨日出会った少女が、この事件の被害に遭っていたら……。

 渋川の胸中は、その考えがひしめき合っていた。

 

 思わず顔を見合わせたナオミ達は、覚悟を決めたように頷き合う。そしてナオミが、渋川に語りかける。

 

「分かった。私達だって、いつも助けられてばかりじゃ無いんだから!

 よぉーし!Something Search People、出動!」

「「了解!」」

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 北川町のとある高台では、上下白のジャージ姿の若者と、半袖シャツにGパン、首にペンダントをぶら下げた不思議な青年が睨み付け合う。両者は互いに拳を握り締めており、切迫した空気が漂っていた。

 沈黙を先に破ったのは、ジャージの若者。対面する相手目がけて一直線に突っ込み、先制攻撃を仕掛ける。

 

「たぁっ!」

「ふっ!」

 

 しかし青年はそれを難無くいなし、巻き返しに出る。青年は、態勢を崩されてよろける若者の背中を軽く小突く。すると若者はよろけた勢いもあって、盛大に転んだ。

 それでもめげずに立ち上がり、若者はまた青年に向かって行くが打ちのめされ、また立ち上がるの繰り返しになってしまう。

 そして何度目かのリベンジの末に、豪快な足払いを喰らって、若者は仰向けに倒れた。

 背中を打ち付けたことによる痛みで顔を歪める若者。しかしその表情に悔しさは全く無く、目の前に広がる青空を見上げて、いっそ清々しそうに呟いた。

 

「痛ったたぁー……。あー、やっぱり、ガイさんには敵わないなぁー……」

 

 そう独り言ちるシンヤの額に、冷たい瓶ラムネが1本。

 その冷たさに驚いて目線を上に向けると、ついさっきまで自分と立ち合っていた青年が、笑顔でラムネを差し出していた。

 

「そうでも無いぞ?シンヤだって、前と比べりゃ筋は良くなってるんだ。後は、シンヤ次第だ」

 

 それを聞いて起き上がったシンヤは、ガイからラムネを受け取り、一度グイッと飲んだ後に溜息を吐いた。

 2人がここで何をしていたのか。

 単刀直入に言うなれば、特訓である。

 以前シンヤはガイに、自分を鍛えてほしいと頼み込んだ事があった。これまでもシンヤは、ガイから提示された課題をこなして来たが、お互いに時間が取れる日にはこうして手合わせを数時間行うことにしていた。

 これで数回目になる手合わせでも、あまり成果を示せなかったと内心落胆するシンヤだったが、顔を上げた瞬間に飛び込んで来た光景を目の当たりにして、しばらく釘付けになっていた。

 その様子を不思議がったガイは、シンヤに声を掛けた。

 

「どうかしたか、シンヤ?」

「いえ、あれ……」

 

 ガイは、シンヤが示した方角を見つめる。

 そこは小さな公園で、何人かの子供達が仲睦まじく遊び回っていた。

 そんな中、いかにも怪しげな全身黒ずくめの服装の人物が現れ、1人の少女に近付こうとしていた。

 それを不審に思ったガイは、何食わぬ顔でその人物に詰め寄った。

 

「おい、アンタ。ここで何してる?」

 

 それに驚いたのか、黒ずくめはガイを突き飛ばし、急にその場を去っていった。咄嗟にシンヤもガイに駆け寄り、倒れたガイを起き上がらせる。

 

「ガイさん!大丈夫ですか!?」

「この程度の事、心配すんな。それよりも、追うぞ!」

 

 シンヤは気持ちのスイッチを切り替えて、ガイと共に、たった今逃走した相手の後を追った。

 

 人気の少ない通りに直面したシンヤ達が周囲を見回すと、先程の黒ずくめを発見、逃がすものかと全速力で駆け走る。

 シンヤを追い越したガイは黒ずくめの人物の肩を掴むが、一方の相手はそれを強引に振り払い、攻撃を仕掛ける。

 しかし、これは相手が悪過ぎた。

 なぜなら彼が相手にしているのは、歴戦の猛者である「ウルトラマンオーブ」其の人。黒ずくめの攻撃を見切ったガイは、これを一蹴。ガイの渾身の一撃を喰らった黒ずくめが倒れ込み、シンヤ達をキッと睨み付ける。

 だがその顔は、人間の顔とは言い難い程にかけ離れており、一目で宇宙人だと判明した。

 その外見に心当たりのあったシンヤは、その宇宙人の正体を看破した。

 

「お前は……、ドルズ星人!」

「ぬぅ……、我らを知る人間がいるとは……!」

 

 ガイに殴られた頬を押さえながらドルズ星人は立ち上がったが、まだ引き下がるつもりは無いようで、その瞳には獰猛な光が灯っていた。

 かつてドルズ星人が行った非道な作戦を知っていたシンヤは、強気な口調で問い質す。

 

「今度は何が目的だ!性懲りも無く、また地球侵略か!」

「また……だと?その口振り、貴様この世界の人間ではないな?そうか、だから我らを知っていたのか。なるほど、ようやく合点が行った」

「なっ……!?」

 

 その指摘を受けて、シンヤははっきりと狼狽える。

 これまでシンヤは、自分が別の世界からやって来たことを見抜かれることは一度も無かった。これを知っているのは、現段階でもガイだけである。しかし今回は軽はずみに口を開いたせいで、それを悟られてしまったのだ。

 そんなシンヤを尻目に、ドルズ星人は自分達の目的を口にした。

 

「ご察しの通りさ、異世界人。我々はこの地球に、ドルズ帝国を築き上げる!かつてウルトラマンタロウによって成し得なかった我々の理想、今度こそ実現してみせよう!」

「ふざけんな!お前らの企みは、俺達が撃ち砕いてやる!」

「残念だが、計画は既に始まっている。止められるものなら止めてみろ……!」

 

 狼狽して何も言い返せないシンヤに変わって、ガイがドルズ星人に言い放つ。

 だがドルズ星人はそれを嘲笑し、捨て台詞を吐いて撤退した。

 

 

 

 直ちに調査を開始するSSP一行。これには、依頼者である渋川も同行した。今回参加していないシンヤには、ナオミが事の経緯を電話で説明をした。

 失踪した少女らが最後に目撃された現場に立ち寄り、何か証拠になりそうな物品や、何かが残されていないかを捜索する。

 すると、シンが持ち込んだ測定機に反応があった。この測定機は、以前発生したマガオロチの騒動で利用した「磁気測定機」を一部改良し、「ある対象」のみを感知することに特化した一級品である。

 その対象は、地球には存在しない別の生命体。つまり、宇宙人や宇宙怪獣を探すことを前提としたマシンとも言えよう。

 測定機の結果が正しいとするなら、この事件には宇宙人が関わっているという事になる。

 一行はSSP-7を駆り、他の現場にも向かったが、そこでも同様の反応が観測された。

 これを本部に報告した渋川によれば、宇宙人絡みの事件という事もあって、ビートル隊の捜査への参加が正式に決定されたとのこと。

 それを聞いて沸き立つナオミ達だったが、様々な場所を巡ったため、時刻は夕時を迎えていた。

 そのため渋川は、今日の活動は一旦お開き、続きは明日に持ち越しと発案。ナオミ達も渋々ながら、その考えで合意した。

 

 そして一度、SSPのオフィスに帰還した一同。

 ガレージにSSP-7を駐車した後、ナオミ達が帰って来たのとほぼ同じタイミングで、オフィスから飛び出して来る青年が1人。

 それは、日中不在にしていたシンヤだった。

 急いで階段を降りたシンヤは、丁度そこにいた渋川の元に駆け寄った。

 

「皆さん、おかえりなさい!……じゃなくって、渋川さん!渋川さんに、お客さんです!」

「えぇっ?」

 

 突然そんな事を言われた渋川だったが、心当たりなど全く無かったため、ひとまず階段を上り、オフィスの扉を開いた。

 そこではガイと1人の女性が、奥のキッチンのテーブルに向かい合うように座っていた。しかし女性の方は、こちらに背を向けて座っているため、一体誰なのか分からない。

 待ち人が来たことに気付いたのか、女性は渋川の方に振り向いた。

 渋川をその瞳に捉えた女性は立ち上がり、まるで数十年振りに友人と再会したかのように、渋川の元に駆け寄る。

 

「渋川君!?あなた、渋川一徹君よね!?」

「えっ、どうして俺の名前……」

「私、ゆかり!ほら、小学生の頃、一緒に遊んだじゃない!」

「ゆ、ゆかり……ちゃん!?」

「そう!やっぱり覚えててくれたのね!」

 

 騒ぎを聞き付けたナオミ達がオフィスに到着した時、この光景に全員が言葉を失う。しかし、ナオミ達の考えていることは同じだった。

 

(((……どういう事なの、これ)))

 

 

 

「紹介するよ。彼女は、榮倉ゆかり。俺が小学生の頃の同級生だ」

「初めまして。急に押しかけちゃって、ごめんなさいね?」

「「「はぁ……」」」

 

 状況があまり飲み込めていないナオミ達一同だが、渋川の隣に並んで座るゆかりの挨拶にとりあえず頷く。ちなみにシンヤは、事前にゆかり本人の口から事情を聞いていたため、3人ほど混乱はしなかった。

 渋川にとっては級友との再会で、何よりゆかりは昔と相変わらず美人のままだった。まさに、天にも昇る心地であろう。

 そんな時だった。シンの測定機が、突然アラーム音を鳴らした。これでは、せっかくの感動の再会が台無しだ。それを鬱陶しく感じたジェッタは、その測定機を発明したシンを咎める。

 

「ちょっとシンさん、何で今それ鳴らすんだよ!空気読んで!」

「いやいやいやいや!僕がやった訳では……!」

「はぁ!?じゃあ何、故障したっての!?」

「僕の発明品に限って、そんなハズは……!」

「2人ともうるさい!とにかく、それ黙らせて!」

 

 些細な事で、言い争いにまで発展したジェッタとシンをナオミが注意し、測定機をどうにかするように命じる。

 3人のいつも通りのやり取りに、渋川は思わず苦笑いを浮かべる。だが、ゆかりは面白そうに口元を押さえていた。

 すると今度は、誰かの携帯電話が鳴る。この場にいた全員が携帯を確かめるが、どうやらゆかりの携帯電話の着信音だったようだ。

 

「ゴメン、渋川君。両親からだわ。そろそろ帰らなくちゃ」

「なら、途中まで送るよ」

「良いの。丁度、近くまで来てるみたいだから」

「あ……。じゃあせめて、階段の下まで」

「……うん、分かった」

 

 すっくと立ったゆかりはナオミ達に一礼して、渋川と一緒にオフィスを後にした。

───それと同じタイミングで、シンの測定機のアラーム音が弱まった。

 

 階段を降りながら、渋川はゆかりに気になっていたことを訪ねた。

 

「本当に久し振りだよな、何十年振りだろ……。でもゆかりちゃん、今まで一体、どこに行ってたんだよ?」

「うん……。国外を、あちこち回ってたのよ」

「へぇ……!」

 

 まさか、ゆかりが海外に行っていたとは思わなかった渋川は驚きの声を上げたが、もう既に階段の下まで着いてしまった。

 するとゆかりが振り向き、渋川に問い掛ける。

 

「渋川君って、確か……。ビートル隊に勤めてるんだったかしら。あの草薙君って子が教えてくれたんだけど……」

「うん、そうだけど……。それがどうかした?」

「私、明日になったら、また日本を発たなきゃいけないの……。だから最後に、ビートル隊がどんな職場なのか見学してみたいわ。もちろん、無理は承知の上だけど……」

「平気だよ!俺、上司に掛け合ってみる!なら明日の午前中、ここで待ち合わせでどうかな?」

「本当!?嬉しいわ。じゃあね、渋川君」

「おう、あばよ!」

 

 笑顔で去って行くゆかりに、自分もまた笑顔で返す渋川。それから彼女は、一度も振り返ること無く歩いて帰って行った。

 ゆかりが帰って行くのをしっかりと見届け、再びオフィスに戻った渋川を待っていたのは、ナオミ達からの質問の嵐だった。

 

「おじさん!あの人と昔、どんな関係だったの!?」

「ただの同級生って訳でも無さそうな雰囲気でしたし~!」

「ねぇ、渋川さん!良いじゃん教えてよ~!」

「あー!わかった、分かったっ!説明してやるから、離れろーっ!」

 

 寄ってたかるナオミ達を振り払いながら、渋川は自分と彼女との思い出話や先程話していた事を語り出す。

 

 

「「「渋川(おじ)さんの、初恋の人~!?」」」

「……そうだよ、俺の初恋だよ!何だ!文句あっか!?」

 

 渋川の話を聞いて、一斉に声を上げるナオミ達。

 自身の甘酸っぱい昔話をした事による照れ隠しなのか、声を張り上げる渋川。

 それを聞いてニヤニヤし出すジェッタは、ここぞとばかりに渋川をからかう。

 

「てことは?若かりし頃の恋心が?また芽生え出した~……ってこと?」

「うるせぇ!そんなんじゃねぇよ!」

「渋川さん、痛いっ!折れちゃう!あぁ、やめて!それ以上いけない!」

 

 さすがに冗談がキツすぎたのか、ジェッタは渋川からキツめのお仕置きとしてアームロックをお見舞いされる。

 痛がるジェッタを見兼ねた渋川はこれを解き、ナオミ達に告げた。

 

「とにかく!俺は明日の予定入っちまったから、お前らも明日は休みだ!以上!解散!」

 

 そう言い残して、渋川は出口に向かってずんずんと進んで行く。

 その渋川の様子を見て、反省の色を示したSSPの面々だったが、これで引き下がらないのがSSP。懲りない彼らの明日の予定は、一日中渋川を尾行する事で可決された。

 

 

 渋川らと分かれたゆかりの携帯電話に、一本の電話が入った。画面を開いて確認すると、「非通知」の文字が表示されている。この電話を誰が掛けて来たのか、心当たりのあったゆかりは何の不審感も抱かずに、その電話に応答する。

 携帯電話の向こう側から聞こえるのは、男性の声。その男性に聞こえるような声量で、ゆかりは冷徹に喋る。

 

「えぇ。……渋川一徹への接触、成功しました。明日、作戦を決行します」

『よろしい。では、健闘を祈る』

「……了解しました」

 

 それだけの短い会話で、ゆかりとその男性との通話は終了した。

 だがゆかりの表情に渋川と再会した時の明るさは微塵も無く、氷のような冷たさだけがそこにあった。

 

 

 

 

 

 翌日。

 SSPのオフィス前で合流した渋川とゆかりは、早速北川町の散策に駆り出した。

 ……その後ろを、ガイとシンヤも伴ったSSPが変装をして追跡する。

 ちなみに本日の渋川の服装は、普段通りのビートル隊の制服だった。思えば渋川は、これと言って私服らしい私服はあまり持っていなかった。むしろ、着慣れたこの制服の方がかえって気楽だった。

 その行く先々で渋川は、町中の人々に声を掛けられたり、手助けを求められたりした。それに困り果てる渋川にゆかりは、それだけ町の人々に信頼されている証拠だ、と彼を褒め称える。

 それからも2人は町の喫茶店に入ったり、買い物をしながら楽しく過ごし、思い出話に花を咲かせる。経過を観察するナオミ達も、このムードに思わず顔を綻ばせる。

 

 2人は一度、休憩を挟む事にしたようで、ゆかりは一旦渋川と別行動を取る。

 そんな中、手頃なベンチに腰掛けた渋川のスマートフォンが震える。すかさず取り出した渋川は、送られて来たメッセージを読み、神妙な面持ちになった。

 しばらくして、渋川の元にゆかりが帰って来る。

 だがゆかりが戻った時、渋川の顔色は悪くなっていて、ゆかりはそれを心配する。

 

「お待たせ、渋川君。……大丈夫?顔真っ青だけど」

「えっ、平気平気!じゃあそろそろ、ビートル隊の基地に行ってみるか!」

 

 何とか誤魔化して気分を切り替えた渋川は、ゆかりをビートル隊基地まで案内を始める。

 しかし、渋川達が歩いているのは本来の道筋では無く、むしろ遠回りになるようなコース。ナオミ達はどうして渋川がこの道を選んだのか、後を追いながら疑問を持ち始める。

 そんなナオミ達の尾行を始めから気付いていた渋川は、足を早めてナオミら一行を振り切った。

 

 やがて渋川らは、ビートル隊基地からは程遠い波止場に到着する。ゆかりは渋川を信じ切っていたため、どうして今、自分達がここにいるのかと困惑する。

 

「ねぇ、渋川君。ここのどこに、ビートル隊の基地があるの?」

 

 先程から自分に背を向けたままの渋川に、ゆかりは尋ねる。

 すると渋川もようやく振り向くが、すかさず腰のホルスターからスーパーガンリボルバーを引き抜き、目の前のゆかりに標準を合わせて、それを構えた。

 

「……芝居はもう終わりだ。ゆかりちゃん」

「芝居って、何のこと?ちょっと待って、渋川君……!何かの冗談でしょ?」

「ゆかりちゃん、君は知らなかったんだね。君のご両親が、何年も前に亡くなったこと……。なのに昨日君は、『両親から連絡が来た』と言った。

 ……有り得ないだろ?亡くなった人間から、連絡が来るなんてさ」

 

 親しい人物から銃を向けられて怯えるゆかりに、渋川は淡々と真実を語り出す。

「榮倉ゆかり」の親族は既に、この世を去っていた。先日渋川がSSPのオフィスを去り、帰宅前に独自に調査を進めた結果判明した事だが、それを知った時の衝撃を渋川は忘れられそうにも無かった。

 

「違うの……。私は……」

 

 涙目になりながら後ずさり、頭を振るゆかりはなお否定を続けるが、渋川はこれまで揃えた情報を武器に、ゆかりを追い詰める。

 

「そしてもう1つ。俺が個人的に頼りにしてる知り合いが、俺達が子供の頃に起きた失踪事件を調べていたら、行方不明者のリストを偶然発見したんだ。そのリストの中に、君の名前があった。……確かな情報だよ」

 

 名前は伏せたが、渋川は事前にシンに過去の失踪事件を調べるよう、個別に依頼をしていた。その調査の結果が、先程渋川の元に届いたという訳である。

 撃鉄を引いた渋川は気を引き締め直し、改めて目の前のゆかりに問い掛ける。

 

「君は誰だ?正体を見せろ……!」

「渋川君……。っ!ううっ……!」

「ゆかりちゃん!」

 

 突如胸を押さえて苦しみ出し、倒れ込むゆかり。構えを解いた渋川はゆかりに駆け寄ろうとする。

 だがゆかりは手を伸ばしてそれを制し、苦しみに耐えながら真相を全て自白する。

 

「国外を回ってたなんて嘘よ……!42年前……渋川君と分かれたあの日……。私は、ドルズ星人に拐われて、ドルズ帝国まで連れて行かれたの……!それから身体中のあちこちを弄られて……ドルズの侵略兵器に、改造された……!

 私の身体は、ドルズの指令を受けて、約50時間後に怪獣に変貌してしまうのっ……!渋川君に近付いたのも、ビートル隊を壊滅させて、地球を侵略するため……!」

 

 苦痛に耐えかねて蹲るゆかりに、渋川は今度こそ駆け寄るが、顔を上げたゆかりを見て息を呑んだ。

 美しかった彼女の姿は消え失せ、そこには人面の半分が鱗状に変わってしまったゆかりがいた。

 その反応を見て、全てを理解してしまったゆかりは声を振り絞って渋川に懇願する。

 

「もウ時間ガ無イ……!オ願い、シブカわ君。わたしがマだ、人間デいラレる内ニ、ワタしヲ撃ッて……!」

 

 それを聞き届けた渋川はゆっくりと立ち上がり、「かつて榮倉ゆかりだったモノ」に銃を向けた。

 後は銃爪を引くだけという時に、先程振り切ったはずのナオミ達が自分達の元に大急ぎで駆けつける。

 事態を飲み込めていないナオミ達は、渋川の行いを一斉に非難する。

 

「おじさん!何してるの!?」

「そうだよ渋川さん!ゆかりさんは、渋川さんにとって大切な人なんでしょ!?」

「なのにどうして、渋川さんが銃を向ける必要があるんですか!?」

 

 自分が彼女の事を、どれだけ大切に想っていたかを知るナオミ達の言葉は、渋川の心を深々と抉る。

 だが渋川はそれらを振り払うために、自分自身の決意を口にした。

 

「彼女は、ゆかりちゃんは、怪獣なんだ……!だから彼女は……!この怪獣は、俺が殺る……!」

 

 スーパーガンリボルバーを構える渋川の右腕が震え、その震えを抑えようとしているのか、渋川の左手に力が籠もる。

 標準をしっかり彼女に合わせた渋川は、泣きそうになりながら銃爪を──!

 

「おじさん、ダメぇーっ!」

 

 

 

 

 タァーン─────────。

 

 

 

 




1974年2月8日。
この日付の意味に気付いてくれる人がいると信じて、前編は以上とします……。

後編は執筆中ですので、お待ち下さい。


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第13話 赤い靴の思い出 ━後編━

またまた、お待たせ致しました(土下座ァ
今作オリジナルのフュージョンアップ形態として、以前頂いたアイディアを基にした形態を登場させました。

ではでは、どうぞ。



 銃声に驚き反射的に目を閉じたナオミ達が、恐る恐る瞼を開くと、そこには未だ健在なゆかりと、銃を握った渋川が立ち尽くしていた。

 スーパーガンリボルバーから放たれた銃弾は、ゆかりにではなく、ゆかりの眼前の地面に直撃していた。

 力無く構えを解いた渋川は膝を突き、泣き崩れながら何度も地面を殴る。

 

「出来ねぇ……!俺には出来ねぇっ!こんなこと、出来るわけねぇだろ!ちくしょうっ……!」

 

 決心を固めたと言うのに、最後の最後で揺らいでしまった己の無力さを嘆き、四つん這いになって嗚咽を漏らす渋川。

 一種の遣る瀬無さがこの場を支配し始めた時、渋川を見つめるゆかりに異変が起こる。

 

「シぶ川……、クん……」

 

 呼び掛けられて顔を上げた渋川の瞳に飛び込んで来たのは、あまりにも生々しい一幕だった。

 先程までゆかりの顔半分に浮かび上がっていた鱗が全身にまで到達、身体のあらゆる箇所から高熱による白煙と共に、凄まじい衝撃波を放出する。

 それらが収まった後、そこに「榮倉ゆかり」の姿は無く、彼女と入れ替わるように、黄色い双眸を輝かせた青い体躯の巨大怪獣が発現していた。

 その場に立ち尽くすシンヤは、この怪獣の名を暴く。

 

(あれは……!メモール!)

 

 うろこ怪獣 メモール。

 その名の示す通り、全身が鱗で覆われたサイボーグ怪獣で、主な武器は口から吐く火炎と、手から噴出する赤い煙、そして長い尻尾である。

 以前ウルトラマンタロウが対峙した怪獣だが、実はその正体は凶悪宇宙人 ドルズ星人の魔の手によって改造された1人の地球人で、今回のゆかりもまた例外では無いと言う訳だ。

 

 咆哮を上げ、暴れ始めるメモール。ナオミ達がメモールの足元に目を向けると、その足はまるで赤い靴を履いているかのように赤くなっていた。

 放心状態のまま、微塵たりとも身動きを取らない渋川の手を取りその場から離れるナオミ達。その道中、何度か振り向いてメモールの動向を探る。

 すると怪獣出現の一報が入ったのか、数機のゼットビートルが現着。目標をメモールに定めて搭載されたミサイルによる攻撃を開始する。

 それに対してメモールは火炎を吐き、ゼットビートルを撃墜。雄叫びを上げながら暗雲垂れ込める町を破壊するが、ナオミ達の耳にはそれが悲痛な叫びにも受け取れた。

 

「あの怪獣……。もしかして、泣いてるの……?」

「メモールが……ゆかりさんが、泣いてるんだ……!」

 

 ナオミとシンヤがメモールを直視しながらそう呟くと、メモールは次のターゲットを渋川に変更したのか、渋川達に襲い掛かる。

 あわや絶対絶命の危機に陥ったナオミ達を救うべく、一度ガイは一行から分かれ、オーブリングを構えた!

 

「タロウさん!」

【ウルトラマンタロウ!】

「メビウスさん!」

【ウルトラマンメビウス!】

「熱いヤツ、頼みます!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

 迫り来るメモールに為す術も無く、思わず顔を伏せたナオミ達。だがメモールが全く襲って来ない事に気付きふと顔を上げると、そこにはメモールの接近を食い止めるウルトラマンオーブ バーンマイトの姿があった。

 

「オーブ……!」

『オオォォォォーッ、リィアァァァァッ!!』

 

 メモールの両手をがっしりと掴み、取っ組み合いの形となったオーブは、渋川達から何とか距離を取ろうとして、メモールを市街地まで押し込む。

 メモールは長い尻尾を振るってオーブを攻撃。反撃に出ようとするオーブだったが、ガイ自身が事情を知ってしまったが故、下手に手を出せないと言う悪循環に陥る。しかもメモールの攻撃の手が緩まる事は無く、防戦一方の展開が続く。

 メモールは、未だに逃げようとしない渋川達に目掛けて火炎を放射するが、オーブが渋川達の眼前に駆け付け、身を呈してそれを阻止する。

 するとこれまで静観していた渋川が飛び出し、メモールに向けて声を張り上げる。

 

「ゆかりちゃんっ!!もうやめてくれ!!俺はこれ以上、君が誰かを傷付けるのを……君が傷付くのを見たくないっ!!頼む……!元の優しいゆかりちゃんに戻ってくれよぉっ!!」

 

 その声に反応したのか、メモールは渋川だけをじっと見つめる。ナオミ達は渋川の強い想いが、あの怪獣に通じたのだと直感する。

 しかしその直後、メモールは頭を押さえて苦しみ出す。その素振りに、一体何が起きたのかと全員が目を見張る。

 オーブもメモールの変化に戸惑いを隠せないが、背後から襲い来る何者かからの不意討ちをまともに喰らってしまった。

 

『「ぐあっ……!お前は……!」』

 

 オーブの内部──インナースペースと呼ばれる場所に潜在するガイを突然の痛みが襲い、ガイは思わず表情を歪めた。

 忌まわしげに後ろを向けば、そこには先日邂逅した異星人が下卑た笑みを浮かべていた。

 そのまま語りかけるドルズ星人に、ガイは敵意を露わにして接触する。

 

「ちゃんとした姿では初めましてだな、ウルトラマンオーブ。俺の名はヴァルガ、ドルズ星人ヴァルガだ」

『「昨日逃がしたヤツか……。今更何の用だ!」』

「なぁに、失敗作が手こずっていると聞いたからな。ほんの少しの助力だよ」

『「失敗作、だと……!?」』

「当然。たかだか地球人1人の呼び掛けで、自我を取り戻しかけたのだからなぁ……。だから先程、再教育を施させて貰った。より強固な洗脳をな……!」

『「……キッサマァァァァァァァァ!!」』

「ハハハッ、無駄だッ!」

 

 怒りに震える拳を硬く握り、ドルズ星人ヴァルガを征伐しようとしたオーブだったが、ヴァルガの声に反応したメモールが、オーブを羽交い締めにする。

 身動きが取れず困惑するオーブを、ドルズ星人ヴァルガは挑発する。

 

「メモールは、創造主たる我等ドルズの命令には決して背く事は出来ない。謂わばそのオンナは、俺の意のままに動く操り人形さ!!ウルトラマンオーブ、今日が貴様の最期だッ!!」

 

 2対1と言うあまりにも卑怯な戦法で、執拗にオーブを痛め付けるドルズ星人ヴァルガ。

 そんな中、怒りを力に変えたオーブは強引にメモールの拘束を振り解き、ヴァルガと真っ向から勝負を挑む。

 元々好戦的な種族の一員という事もあってか、ヴァルガ個人の戦闘力は中々のものだった。

 しかしパワーに優れる上、事の元凶であるドルズ星人達への強い憎しみを抱くウルトラマンオーブ バーンマイトの戦闘力はそれを遥かに上回り、終始これを圧倒。

 ヴァルガとの掴み合いになったオーブは、巴投げの要領でヴァルガを投げ飛ばし、フィニッシュを決めるべく胸部にエネルギーを集中する。

 

『これで決めてやる!ストビューム……!?』

 

 必殺の「ストビュームバースト」を炸裂させようとしたオーブだったが、その動作は途中で中断されてしまう。

 何とヴァルガを庇うように、両腕を広げたメモールが、オーブの前に立ちはだかった。

 

「言っただろ?コイツは、俺の操り人形だとな……!」

 

 息を切らしながら、ヴァルガはオーブに言い放つ。

 オーブがメモールを傷付ける事が出来ないのをいい事に、ヴァルガはメモールを盾にしてオーブの攻撃の手段を押さえ込んだのだ。

 身動ぐオーブの一瞬の隙を突き、ヴァルガに操られるメモールは火炎放射でオーブを追い詰める。

 

『(くそっ……!どうすれば……、どうすればゆかりさんを元の姿に戻せる……!?)』

 

 この窮地の真っ只中でもガイは、メモールに変えられてしまったゆかりを救う術を模索し続ける。だが解決策は見つからず、ついにカラータイマーが赤く点滅を開始した。

 

『(もう……やるしか、ないのか……!?)』

 

 覚悟を決めようにも、今尚心が揺れ動くガイ。

 そんな時、ガイの脳裏に誰かの声が響いた。

 

──オーブ……。ウルトラマンオーブよ……。

 

 それを聞いたガイは、咄嗟に振り向く。

 するとそこは見慣れたインナースペースではなく、辺り一面が真っ白な空間だった。

 ガイがその風景を一望していると、自分がこれまで一度も出会った事の無いウルトラ戦士が1人、天空からゆっくりと舞い降りる。

 金と紫を基調とする、一種の神々しさを感じさせる銀色の身体。プロテクターを肩に装着し、裏地が赤い銀のマントをたなびかせるその戦士は───。

 

「あなたは……一体……」

──私には、沢山の呼び名があってな。

 人間達は皆、私をウルトラマンキングと呼ぶ。

「あなたが……『伝説の超人』と呼ばれているキングさんですか……!しかし、なぜ……?」

──私は今、遠い別の宇宙から、君に直接語り掛けている。私は、怪獣にされてしまった人間を救いたいと言う君の心に感銘を受けた。私の力を使うと良い。何か、役に立てるかも知れん。

「えっ、そんな、恐れ多い事は……!」

──ウルトラマンオーブ……いや、クレナイ・ガイ君。この世界を、彼女を救えるのは君だけだ。頼んだぞ……!

 

 それを最後に、ガイとウルトラマンキングの不思議な語らいは幕を閉じた。

 

 

 

 身体に走った衝撃でハッとしたガイは、現在の状況を理解しようとする。

 やはりメモールは依然としてヴァルガに操られており、オーブの眼前まで迫っていた。

 乱暴に両腕を振り回して攻撃を繰り出すメモールに対して、咄嗟に防御の姿勢を取ったオーブ。

 苦しそうに唇を噛むガイの目の前に、黄金に輝く2枚のカードが飛来した。

 その内1枚は、先程邂逅した銀色の巨人。

 そしてもう1枚は、優しさと強さ、そして勇気を体現する光の巨人のカードだった。

 

『「キングさん……!有り難く、使わせていただきますッ!!」』

 

 その2枚を手に取り、偉大な戦士へ向けて感謝の言葉を述べたガイは、オーブリングを再び構えた!

 

「キングさん!」

【ウルトラマンキング!】

「コスモスさん!」

【ウルトラマンコスモス!エクリプスモード!】

「奇跡の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 エクリプスモナーク!】

 

 突如オーブの発した眩い輝きに、シンヤ達とヴァルガは思わず目を覆う。

 やがてその光が収まり、彼らが再びオーブを捉えた時、そこには猛々しさを纏った戦士が現れていた。

 額のランプは黄金に光り輝き、全身には赤と青のラインが走る。何よりも目に止まるのは、両肩の金のプロテクターと、その姿の貫禄を醸し出すウルトラマントであろう。

 古来の王族を彷彿とさせるそのマントを横になびかせたオーブは、声高らかに名乗りを上げる!

 

『この身に纏うは……!ウルトラの奇跡!』

 

 全く動かずともその身体から溢れ出すオーブの闘気に、メモールの後方にいたヴァルガは数歩後ずさる。

 だがすぐさま頭を切り替えて、メモールに檄を飛ばす。

 

「しょ、所詮、虚仮威(こけおど)しだ!やれッ、メモールッ!」

 

 ドルズ星人ヴァルガの指示通り、メモールはまたしても火炎を吐く。

 しかしそれに怯む事無く、オーブはウルトラマントを翻す。するとその炎は、マントに引火する事無く無効化された。

 続いてオーブはマントを一度脱ぎ捨て、目にも止まらぬ高速移動でヴァルガに接近。怒涛のラッシュを仕掛ける!

 

『シェアァッ、ハァアッ!!ンンンッ……、デアァァァァッ!!』

 

 力強さを込めた野太い掛け声と共に、オーブは右手の拳に金色のエネルギーを集中させ、渾身のストレートパンチを叩き込んだ!

 ヴァルガを派手に殴り飛ばしたオーブだったが、その追撃は終わらない。再び高速で移動したオーブは、ヴァルガの両脚を掴み取り、豪快に放り投げた!

 オーブに投げ飛ばされ、ヨロヨロと立ち上がったヴァルガは、自身に程近い場所にいたメモールを呼び寄せ、到来したメモールを再び盾のように扱う。

 ヴァルガのそのやり方に、正直嫌気が差したガイだったが、その心にもう迷いは無かった。

 

『「またそれか……!だが、その手はもう通用しねぇよ!」』

 

 オーブは両腕を胸の前で交差させ、黄金色と藍緑色の輝きを両腕に宿し、その2つのエネルギーを溜め始める。

 それを目の当たりにしたナオミ達は戦慄し、全員を代表してジェッタが口を開けた。

 

「まさかオーブ、あの怪獣にトドメを刺す気じゃ……!?」

 

 2つのエネルギーを充填し終えたオーブは、両手先をメモールに向けて真っ直ぐに伸ばし、2つの光線を同時に放った!

 

『コズミューム……!フラッシャァァァーッ!!』

 

 2色の光線はやがて一点に交わり、メモールに直撃する。その光景に誰もが息を呑んだが、それを遥かに凌ぐ現象が直後に発生する。

 何と直撃したはずのオーブの光線が、メモールの身体を貫通し、メモールの背後に立ち尽くしていたヴァルガに命中したのだった!

 たった今オーブが放った光線は、オーブが現在力を借りているウルトラマンキングの「キングフラッシャー」と、ウルトラマンコスモス エクリプスモードの「コズミューム光線」の合わせ技であり、後者の特性である「邪悪な敵だけを倒せる」効果を色濃く受け継いでいた。であるから、ドルズ星人ヴァルガには絶大な効果を発揮した、と言う訳である。

 

「なあッ!?そんな……!この俺がァァァァッ!!」

 

 そうなる事を全く予期していなかったドルズ星人ヴァルガは反応が遅れ、成す術も無く空を仰ぎ断末魔を上げて爆砕した!

 

「やったぁー!!オーブが勝ったぁー!!」

「あの宇宙人だけを倒すだなんて、凄すぎですよ!」

「すごい……!オーブって、あんな事も出来るのね……!」

 

 オーブの逆転勝ちに、ナオミ達は一気に沸き立ったが、渋川とシンヤの表情は未だに曇ったままだった。

 なぜならオーブの傍らには、横たわったメモールの姿があったからだ。

 

『(キングさん……もう一度、奇跡の力、お借りします)』

 

 身動きを全くしなくなったメモールの傍に膝を突いたオーブは、先程外したウルトラマントをメモールに被せる。続けて両腕を交差させると、そこから水色の光が放たれる。

 するとどうだろうか。メモールの巨大な身体がみるみる小さくなっていき、やがてその面影すら無くなったではないか。

 それを目撃した渋川は、オーブのいる一帯まで一目散に駆けて行く。その後を、ナオミ達も全力で追いかけた。

 

 

 

 実は、シンヤ達とは別の場所で、この一部始終を見ていた者達がいた。それは、ドルズ星人ヴァルガと共に地球に来訪したドルズ星人達だった。

 彼らもこの戦いをずっと見ていた訳では無い。

 かつての同胞と同様、地球人達を数名捕らえて、惑星ドルズに連れ去る算段だった。

 しかし、ウルトラマンオーブとその仲間達の活躍もあって止むを得ず、せっかく捕らえた貴重な人間達を全員捨てて、本星へと撤退する事となり今に至っている。

 だがやはり彼らも全く懲りていない様で、次に地球に来る時には、メモールの大軍団による逆襲の計画を企てていた。

 だが、彼らを思いもよらない緊急事態が襲った。突如、警報のアラームが円盤内部に鳴り渡ったのだ。

 これにはリーダー格と思われるドルズ星人も動揺を露わにして、部下に向けて声を荒らげる。

 

「一体何が起こっている!?」

「全くの原因不明です……!皆さん、足元が……!」

 

 その言葉に従って、この場に居合わせたドルズ星人達が全員足元に目を向ける。

 そこにあったのは、黒一色の絨毯……いや、自分達を呑み込まんとする、あまりにも深過ぎる闇黒だった。

 彼らが気付いた時には既に手遅れで、膝元まで迫っていた冥闇に、誰もが成す術も無いまま引きずりこまれて行く。

 ある者は精神に支障を来して発狂し、またある者は藁にも縋る思いで必死に手を伸ばすものの、彼らに手を差し伸べる者など、元より存在しなかった。

 

 

 

 ドルズ星人達が迎えたこの事態を、地球から見つめる者が1人だけいた。

 真っ黒い喪服の様な装いで、邪悪な笑みをたっぷりと浮かべるその男は、死に行くドルズ星人達に向けて感謝の言葉を述べた。

 

「あなた方には感謝していますよ、ドルズ星人。おかげで、中々に良質なマイナスエネルギーを手に入れる事が出来ましたからね……。わざわざM78ワールドから呼び寄せた甲斐があった……、と言うものです」

 

 そう言って男は、右手にしっかりと掴んでいた黒い球体──マイナスエネルギーの塊をじっと見つめて、舌舐めずりをする。

 このマイナスエネルギーは、渋川がゆかりの真実を知り彼が絶望した際に発生したものである。

 しばらくそれを眺めていた男は、何の躊躇いも無く、文字通りそれを飲み込んだ。

 その味に満ち足りた表情を見せた男は、遠い宇宙に向けて冷たい一言を呟いた。

 

「ドルズ星人……お前らは用済みだ」

 

──こうして。ドルズの星団は、他の誰に気付かれる事も無く、瞬く間に壊滅したのだった……。

 

 

 

 怪獣と異星人の騒動から、既に数日が経過した。

 ドルズ星人ヴァルガが、ウルトラマンオーブに敗れた後の事だ。

 彼らドルズ星人が起こしていた誘拐事件は未だ解決に至らず、また数十年前の再演になるかと思われていた。

 そんな中、ビートル隊に匿名の報せが入った。それには、今回ドルズ星人が連れ去った人々が捕えられている場所の情報が含まれていたのだ。

 半信半疑のビートル隊が調査を進めた結果、その情報通りの場所に気を失って倒れていた人々を発見、全員を無事に保護したのだった。

 

 何はともあれ、平穏な日々を取り戻した北川町。

 SSPのメンバーも、いつもと変わらぬ日々をいつものように過ごしていた。

 今日も人数分のお茶を淹れていたシンヤの耳に、誰かが階段を上り始める音が届いた。誰が来たのか想像の付いたシンヤは、湯呑み茶碗をもう1つ取り出してその人の分もお茶を用意し出す。

 すると数分と待たない内に、オフィスの扉が開け放たれたと同時に、陽気な声が室内に響いた。

 

「おーっす!よぉ、お前ら!今日も来たぜ~!」

「おじさん……。いらっしゃい」

 

 渋川の来訪に、先日の事を思い出してしまったナオミは、やや気が重そうに返事を返した。

 だが渋川は相変わらず、晴れ晴れしく冗談めかしてナオミに語り掛ける。

 

「何なに、どうしたナオミちゃん、暗いぞ~?

……もしかして、バイトクビになったとか?」

「そうじゃない……。おじさん……結局、ゆかりさんに何も言えず終いだったじゃない?ホントに、あれで良かったのかなって……」

 

 ナオミが言っているのは、オーブとメモール、ドルズ星人ヴァルガの戦いが終わりを迎えた後の事だ。

 あの日、オーブの元に行き着いたナオミ達が見たのは、人間に戻ったゆかりの姿だった。

 しかし元の姿に戻れたとは言え、異星人に改造を施されたゆかりの身体に、異常が残っている可能性も否定出来なかった為、ゆかりはビートル隊の本部が置かれているパリ支部の医療施設に入れられる事が決定した。

 そのせいで、渋川はゆかりに想いを告げる事も出来ず、また暫し別れる事となってしまったのだった。

 渋川の心境を察したナオミが、切なさを感じさせる口調で語り掛けるものの、対する渋川は気にしていない様子で答える。

 

「良いんだよ、ナオミちゃん。……それにさ、人間誰しも、大事に取っておいた思い出に、別れを告げなきゃならない事があるんだ。そんな風にして、男は成長していくんだから……。お前達だって、今に同じ思いをするさ」

 

 そう言って渋川は、自分を見つめるジェッタとシンに向けて、年長者だからこそ言える深い言葉を送った。

 そんな渋川に、淹れ終えたお茶をトレーに乗せたシンヤが近付き、湯呑み茶碗を差し出して口を開く。

 

「それでも僕は……僕はなるべく、先に延ばしたいですね……」

 

 シンヤのその一言に思わず微笑んだ渋川は、一口お茶を啜る。

 しかし、熱めのお茶が入っていた事に気が付かなかった渋川は毎度の如く、その熱さに顔をしかめたのだった。

 

「……あっちぃっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

ガイ「さぁ、『ウルトラヒーロー大研究!』の時間だぞ」

シンヤ「今回は誰を紹介しましょうか?」

ガイ「今回はある『偉大なお方』を紹介するぞ」

シンヤ「了解しました!では、今回紹介するのはこの方です!」

 

【ウルトラマンキング!】

 

ガイ「ウルトラマンキングさん。『伝説の超人』と呼ばれていて、他のウルトラ戦士の方々から見ても、神様のような存在なんだ」

シンヤ「初登場は、『ウルトラマンレオ』第26話『日本名作民話シリーズ! ウルトラマンキング対魔法使い』。

 宇宙の魔法使い『怪獣人 プレッシャー』の魔法で小さくなってしまったレオさんを助ける為に、キングさんは地球に降り立ちました。

 何と言っても特徴的なあのお髭は、ウルトラ族の年齢で4万5千歳を越えないと生えてこないそうです!」

ガイ「よ、4万5千歳……!?俺もまだまだって事か……」

シンヤ「……ずっと気になってたんですけど、ガイさんって、一体、今お幾つなんですか?」

ガイ「人の年齢を聞くのは失礼だって、前ナオミが言ってたぞ」

シンヤ「え……。えぇー……」

ガイ「話を戻すぞ。キングさんの強さはまさしく別格で、ウルトラ兄弟の方々と比較すると、ウルトラ兄弟と人間程の能力の差があると言われているんだ」

シンヤ「それ以外にも、ウルトラマンヒカリさんにナイトブレスを、ウルトラマンギンガさんにはウルトラフュージョンブレスを授ける……等々、多方面に渡って活躍されています。

 そんな偉大な方から力を貸していただけるなんて……!すごいですよ!ガイさん!」

ガイ「あぁ。キングさんからお借りした力は、あれが最初で最後だったが、おかけで俺も渋川のおっさんも助けられたぜ……」

シンヤ「そうですね……!それでは、今回はこの辺でお開きです!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然SSPの前に出現した、謎の巨大ロボット。

 シンは、平和を守るスーパーロボットだ、なんて騒いでいるが、果たしてこいつは、敵か味方か……?

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『暴走する正義』。

 闇を照らして、悪を撃つ!




……いかがだったでしょうか。
色々と詰め込んだ今回の裏話を、活動報告の方で掲載致しますので、そちらも合わせて読んでいただければと。

新番組の『ウルトラマンジード』が始まる直前だと言うのに、ようやく、ようやく(大事な事なので2回)ギャラクトロン回に近付きました……!
夏の暑さにも負けず頑張りますので、これからもよろしくお願いします……!

隠れたサブタイトルは、『帰ってきたウルトラマン』第22話『この怪獣は俺が殺る』でした。

では……ノシ


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第14話 暴走する正義 ━前編━

いつぶりかの、お昼投稿です。

ウルトラマンジード、始まりましたね!
(ジード第1話放映までには、投稿間に合わせたかったです……)

ちょこっとアレンジを加えた結果、少々長めになっております。
それでは、どうぞ。


 天候にも恵まれた、平穏無事な今日。

 緑豊かな山間の道路に、オープンデッキの黄色い自動車が停められていた。

 その車の周囲には数名の男女がおり、何かしらの撮影を行っていた。

 探検隊の一員を連想させるベージュの服装の女性は、目の前でビデオカメラを構えるジャケットの青年に振り向き、やや芝居がかった口調で声を発した。

 

「ネバー・セイ・ネバー。出来ないなんて言わないで?

 何もしない内から、出来ない、なんて言いたくないです。そう思う私達、SSP『Something Search People』は、いつだって不可能に挑戦します。いつだって、好奇心が新しい世界のドアを開くんだって、そう信じています。

 そんな私達の合い言葉、それが『ネバー・セイ・ネバー』。怪獣、UFO、幽霊等、どんな不可解な出来事も、私達にお任せ下さい!今なら、出張無料で……」

「はい、カットォーッ!ガイさん、もっとちゃんとカメラで追っかけてくれないと……!」

 

 何もかもが順調に思われたその撮影は、映画監督の様な出で立ちの早見ジェッタの怒号により中断された。

 それに異論を唱えたのは、カメラマンを担当した風来坊、クレナイ・ガイ。

 ガイは、自分がちゃんと撮影していた事を証明する為に、ビデオカメラの液晶モニターで先程録画した映像をジェッタやナオミに見せ付ける。

 ガイの言う通り、撮影はきちんと行われていたのだが、一度だけ被写体のナオミが画面の中心から僅かにズレてしまっていた。

……実はこの時ガイは、片手に持っていた瓶ラムネを一口口に含んでおり、映像はその際にズレてしまったものと思われる。

 そんな些細なミスを指摘したジェッタは、本日何度目かの撮影のやり直しを通告した。

 それにうんざりする態度を取ったナオミに、水分補給のドリンクを片手にシンヤが歩み寄り、激励の言葉を投げ掛ける。

 

「お疲れ様です、ナオミさん……」

「もぉ~!シン君がいてくれたら、こんな苦労しないのに~……!」

「あはは……。ところで、シンさんは今日、どちらにお出かけになったんですか?」

「小学生の頃から知り合いの人の職場。シン君、時々お手伝いに行ってるの」

 

 

 

 ナオミ達がいる山間部から場所は変わり、町のとあるバネ工場。

 今日も今日とて精密機械が稼働し、大小さまざまなバネを製作。そのバネに、社員達の厳密なチェックが入る。

 ここはコフネ製作所。「常に向上心」を社のモットーと掲げる、バネ一筋の町工場である。

 今日はその社員以外にも、SSPの松戸シンが工場の手伝いに、ビートル隊の渋川一徹が納品回収にこの場を訪れていた。

 自身もまた作業を行っていたこの工場の社長、小舟惣一(こふねそういち)は一度溜め息を吐く。

 すると、検査を終えたバネの入った青いケースを抱えたシンがやって来た。

 

「全品、検査終わります!」

「おう、手伝ってくれてありがとよ!助かったよ!」

 

 惣一がシンに答えると、他の社員も検査を終えると報告し、惣一は彼を労う。

 バネの袋詰めを始めたシンに渋川が近付き、やや声を抑えてシンに話し掛ける。

 

「……おい、相変わらずチェックが厳しいねぇ」

「安全第一です。それに小舟さんは、単なる部品とは思ってませんから」

「バネは人間と同じだ。どんな苦難に押し潰されようとも、それを跳ね除ける力がある!」

 

 シンのその言葉が聞こえたのか、惣一は嬉しそうに答える。惣一のその言葉に、社員全員が拍手喝采を上げた。

 それを盛り上げようと思ったのか、渋川は指笛を鳴らすが、掠れた音しか出なかった。

 

「コフネ製作所のスプリングは、軽くて丈夫。そりゃあ、うちのメカニックも、一目置く訳ですね!」

 

 ビートル隊としての意見を述べる渋川に、惣一は表情を緩めた。

 やがて、バネの箱詰めを終えて「検品済」の赤いシールが貼られたダンボールを積み重ねた台車を、シンと渋川、製作所に勤める小太りの社員、田丸が運び出す。

 ビートル隊への納品作業を終えて、もう一度社員と向かい合った惣一は、この先の作業内容を指示する。

 

「さぁ!明日から、改良品の開発だな!」

「またゼットビートル用のスプリングに、改良加えるんですか?それより、ロケットモーターの開発……」

 

 その宣言に、社員である芝尾が難色を示すが、惣一は芝尾の元に歩み寄り、彼の肩に手を乗せて言い聞かせる。

 

「他と同じじゃあ、退屈じゃないか。それにうちは今まで、バネ一筋でやって来てるんだ。これからも、バネで勝負してくんだよ!」

 

 惣一の言葉に納得したのか、芝尾も不承不承ではあるものの、それを承知する。

 すると先程の運び出しが終わったのか、シンが惣一に近寄り、親しげに話し掛ける。

 

「その精神、大好きです!この先もすごいスプリングを作り続けて下さい!」

「うん。……シン君がいつか作るって豪語している、今までに無い災害救助用ロボットの部品も、最っ高のバネを用意してやるからよ!ハッハッハッハッハッハ!!」

 

 シンに対する惣一も、和気藹々と言った様子でシンの肩を掴み、豪快に笑って見せた。

 そこには年齢の壁を越えた、ある一種の強い繋がりがあった。

 

「さぁ、みんな!納品も終わったし、『いつもの』やるとするか!」

 

 この言葉に、コフネ製作所の全社員が一気に沸き立つ。その一方で惣一は、シンにも誘いの言葉を投げ掛けた。

 

「シン君、ナオミちゃん達も呼んでも構わねぇぞ!」

「良いんですか!?」

「どうせやるなら、大勢いれば楽しいもんなぁ、おい!」

 

 

 

 ナオミ達がシンから連絡を貰い、コフネ製作所に向かったのは、撮影時の衣装等の着替えが済んだ後だった。到着した時、製作所の外には社員が数名集っていて、何かの準備に取り掛かっている最中のようだった。

 ナオミ達の到着に気が付いたのか、その中からシンが飛び出して来る。

 

「キャップ、遅いですよ!何してたんですか?」

「ゴメン、シン君。思いの外、撮影が長引いちゃって……」

「まぁとにかく、小舟さんも待ってますから、早く来て下さいよ!」

 

 そう言ってシンはナオミの手を掴んでズルズルと引っ張って行く。それに連られてジェッタとシンヤ、ガイもその後を追う。

 そこにいたのは60代程度の男性。その男性──小舟惣一は、ナオミ達が来た事を確かめると、一度作業の手を止めて、ナオミ達の元に近付いた。

 

「よぉ、ナオミちゃん!待ってたぜ!……ん?そっちのお若いお2人さんは、初めましてだな?」

「どうも、クレナイ・ガイd……」

 

 ガイが自己紹介をしようとした時、それを遮るようにシンヤが驚いた様子で飛び出した。

 

「ヒビキ隊長!?どうしてここに……いや、総監?んー……。でも、隊長の方が僕的には馴染み深いと言うか……」

 

 シンヤが驚いたのも、無理は無い。

 なぜなら小舟惣一は、かつてウルトラマンダイナと共に戦った防衛組織「スーパーGUTS」の隊長である「ヒビキ・ゴウスケ」に瓜二つの人だったからだ。

 だがヒビキ隊長は、ウルトラマンダイナ最終話後の時間軸では、「国際平和維持組織 TPC」の総監となった。その為、シンヤは彼を隊長と呼ぶか総監と呼ぶかの二択に迫られていた。

──そもそも、小舟惣一=ヒビキ・ゴウスケでは無いのだが……。

 

 シンヤの様子を不審がった惣一は、腕組みをしてシンヤの前に立ち、自己紹介を始めた。

 

「……?なぁ兄ちゃん、俺をどっかの誰かと勘違いしてるみてぇだが、俺は小舟惣一ってんだ。悪ぃが、人違いだぜ?」

 

 それを聞いたシンヤは、自分の間違いにようやく気が付き、頭を掻きながら改めて自分も自己紹介をした。

 

「あ……。も、申し遅れました、草薙眞哉って言います。……すいません。知っている方に、とてもそっくりだったものですから……」

「何、俺のそっくりさんだって!?不思議な事もあるもんだなぁ!っハッハッハ!」

 

 シンヤの話を聞いた惣一は、先刻まで抱いていた不審感などそっちのけで豪快に笑って見せる。

 惣一のその笑い方に、シンヤはヒビキ・ゴウスケ氏の面影を見て、少し微笑んだ。

 すると製作所の社員が、惣一を呼びにやって来る。

 

「社長~、準備が整いました!」

「おぉ!そうかそうか!そんじゃあ、いっちょやるかぁ!!」

 

 惣一の雄叫びが響き、それが伝染ったかのようにナオミ達を除いた全員も声を上げた。

 これから一体、何が始まるのか。シンヤには想像が付かなかった。

 

 

 

 熱々の鉄板の上で焼かれる豚バラ肉と、刻まれたキャベツや人参、モヤシ等の野菜達。

 料理人が駆使する2本の銀のコテによって良く解れた中華麺が、彼らと良く混ざり合う。

 最後に、味の決め手となる秘伝のソースが全体と交わった事により、遂にこの料理は完成した。

 

「さぁー!!食え食え~!!」

 

 ナオミ達全員に振る舞われたのは、小舟惣一特製の絶品焼きそば。

 皿に山盛りで盛られた焼きそばを、各々が美味しそうに頬張る。これには社員達だけでは無く、ナオミ達も舌鼓を打つ。

 その様子を優しげな面持ちで見つめる惣一の耳に、誰よりも大きな声が届く。

 

「うん、美味いッ!お代わりッ!」

 

 いの一番に完食したガイは右腕をぴんと伸ばし、お代わりを貰いに席を立つ。

 惣一はガイの、こちらの気持ちが良くなるような食べ方を賞賛した。

 

「よぉ、兄ちゃん!良い食いっぷりだなぁ!!」

「地球の焼きそばで、一番美味い!」

「いやぁ、気に入った!よし!この焼きそばの作り方を伝授してやろう!!」

「ホントか!?」

「このコテを上手~く使って、素早く丁寧に麺を解す!そして、秘伝のタレッ!!……やってみろ!」

「はいッ!」

 

 そう言って惣一は、ガイにコテを授ける。

 それを受け取ったガイは、コテを十字に組んで精神を統一させる。決心の固まったガイは、鉄板にコテを突き立て、熱い掛け声を言い放った。

 

「……熱いヤツ、頼みます!ホワチョオオオッ!!」

 

 往年の武闘家を思い起こす叫び声を放つガイの素早いコテ捌きが、中華麺と野菜、そしてタレを混ぜ合わせる。そんなガイの背後には、熱く滾る真っ赤な炎が見え始めていた。その様子に、惣一は思わず呆気に取られてしまった。

 それを眺めていたシンは、一緒に食事をしていた芝尾や田丸と談話を始める。

 

「小舟さんの特製焼きそばを食べると、仕事に一区切りが付いたって実感が湧いて来ますね~」

 

 シンの言葉に同意するように、田丸は何度も頷く。それに続けて芝尾も、現在に至るまでのあれこれを思い出すように、しみじみと語り出す。

 

「景気の悪化でうちも大変だったけど、本っ当に良かったよ。あの時、ビートル隊のコンペが無かったら、どうなってたか……」

「あぁ……でも、そのコンペ、良くOKしましたよね?ゼットビートルって、戦闘機じゃないですか?小舟さん、そう言うの嫌うって言うか……」

 

 芝尾の声を聞き、シンは改めて疑問を抱き、そのままの言葉で問い掛けた。

 彼が言っているのは、かつてのコフネ製作所が倒産すら危ぶまれた頃の話だ。

 当時は経営難の影響で、会社を畳む事すら念頭に入っていた。

 そんな中、ビートル隊が運用するゼットビートルの緊急脱出装置用のスプリングの競技会で、コフネ製作所のバネが採用されたのだ。

 しかし、コフネ製作所の長である小舟惣一は、争い事を好まぬ人物。この話は見送られるかと思われた。ところが惣一は、これを承諾。

 以来コフネ製作所は、ビートル隊に自分達のバネを提供し続けている……と言う訳だ。

 シンが抱いた疑問に答えたのは、焼きそばの調理をガイに一任した惣一だった。

 

「俺は……生命を救う為に、技術を提供したんだ。戦う為だけの用途だったら、ココが闇に染まっちまうってもんだろ?ハッハッハ……」

 

「ココ」と称して、握り締めた拳で己の胸を叩いた惣一は、相も変わらずにはにかんで見せた。

 そんな時突然、何かの音が鳴り渡った。

 ここにいた全員が反射的に空を見上げると、上空に何らかの紋様が刻み込まれた紅い円形の魔法陣が出現する。最初は1つだけだった魔法陣から、6つの小さな魔法陣が分裂。初めの魔法陣を取り囲む。

 一体何事かと一同が目を見張る中、魔法陣達は降下し始め、そこから巨大なロボットが召喚された。

 巨大ロボットは、コフネ製作所の目の前の大きな畑に落下、その衝撃が全員に伝わる。

 正体が全く不明なそれを見つめて、惣一は口を開く。それに続いて、シンはボソッと呟いた。

 

「何だこりゃあ……?」

「空の、贈り物……」

 

 微動だにしないそのロボットに、全員が呆然としている中、その沈黙を破ったのはシンだった。

 

「これはスゴいです……!見た事無い巨大ロボットですよ!」

「何なの、これ……?」

 

 ナオミがそう言うと、そのロボットの登場に興奮したシンが、蹲る形で停止しているロボットの懐に入り込み、細部をまじまじと観察する。

 そのロボットは、長髪を1つに束ねた竜人のような出で立ちで、至る所に施された金と銀の装飾が真っ白なボディに映えて、その神秘性を際立たせていた。

 

「この高貴な色……!竜人って感じが最高です!はあっ……!」

 

 ロボットの外観にすっかり見惚れてしまったシンを追って、カメラを構えたジェッタがこれの呼び名を提案する。

 

「じゃあさ、ギャラクシードラゴンって名前にしようよ!」

「ギャラクシー?宇宙から来たとは限らないのにですか?彼の名前は、サルヴァトロンです!ちなみに、イタリア語の『救世主』からの発想です!」

 

 ジェッタの考えた名前に納得のいかなかったシンは、自分が考案した名前を公表する。

 しかしこれが原因で、言い争いになってしまう。

 

「その『ヴァ』の発音が如何にもオシャレでしょ~?みたいな感じで、全然気に入らない!」

「見当違いのネーミングよりマシです!」

 

 取っ組み合いのケンカにまで発展してしまったジェッタとシンの仲裁をしようと、ナオミが2人の元まで駆け出す。

 

「ちょっと……!ちょっと、どうでも良い事でケンカなんかしないでよ……!」

 

 何とか2人を落ち着かせようと奮闘するナオミだったが、ロボットが起こした変化に目を奪われる。

 ロボットの中心部に埋め込まれていた赤い球体から溢れ出た温かな光が3人を包み込むと、優しいメロディが流れ出す。

 

『♪~……♪~……』

 

 それはまるで歌っているようで、そのメロディに全員が耳を傾ける。

 これのおかげで冷静さを取り戻したのか、ジェッタとシンは次第にケンカを収める。

 この隙にナオミは2人を引き離し、仲直りをするよう申し入れた。

 

「ほら、ロボットもケンカするなって言ってるよ?」

「……言い過ぎました。ごめんなさい。」

「俺も……ムキになってゴメンな」

 

 ジェッタとシンが仲直りをしたのを察知したのか、ロボットは光とメロディを止ませた。

 これを受けてシンは、1つの仮説を立てた。

 

「僕達のケンカを止めてくれた……?」

「こいつ、良いヤツじゃん!」

 

 ジェッタがこのロボットの行いを賞賛した直後、ナオミが突然声を上げた。

 

「ギャラクトロン!」

「「え……?」」

「ギャラクシードラゴンと、サルヴァトロンが合体した時、新たな勇者が誕生する!その名はギャラクトロン!

 あなたの名前は『ギャラクトロン』!だからね~?」

 

 そう言ってナオミは、何の警戒もせずにロボット──ギャラクトロンの爪先をぺたぺたと触る。

 するとナオミが触れた箇所から、赤い波紋が広がる。それを見たシンは、驚いた様子でナオミを咎めた。

 

「あぁ、キャップ!素手で触っちゃダメですよ!未知の物なんですから……!」

「あ……。ごめんごめん」

 

 シンのその指摘に反省の色を示したナオミだったが、再びギャラクトロンに動きがあった。

 赤い球体から放たれた不思議な赤い光がナオミを包み込むと、彼女の身体のあちこちを読み込み始める。その感覚にナオミは、ある種のこそばゆさを感じた。

 

「何か、くすぐったいんだけど……」

 

 しばらくするとスキャンを終えたのか、赤い光はまた球体に戻って行く。

 その現象が止んだと同時に、これまで見ているだけだったシンヤとガイが、ナオミの元に駆け付けた。

 

「ナオミさん!」

「大丈夫か?」

 

 自分を心配するシンヤとガイに答えた後、ナオミはこれまでに感じた事を述べ出す。

 

「うん、ちょっとびっくりしただけだから……。気のせいかもだけど、強い意志を感じたの。この世界の平和を守るって……」

「じゃあもしかしたら、ギャラクトロンとオーブが仲間になって、怪獣と戦って、町を守るとかって言うのも有りうるって事!?」

 

 ナオミの言葉を聞いたジェッタは、もしもの可能性を掲げ、シンは惣一の元に急いだ。

 

「小舟さん!あのロボット、僕達で調べませんか!?」

「それは良い考えだな!……俺の所に来たからには、覚悟しろよ!!」

 

 シンの提案に乗った惣一は、身動ぎしないギャラクトロンを指差してそう宣言したのであった。

 

 

 

 シンと惣一が話し合っている間に、シンヤは密かにギャラクトロンと命名されたロボットに近付く。自分の中の好奇心がそうさせているのか、一歩また一歩と近付き、シンヤは恐る恐る手を伸ばし、指先、そして掌と言った具合でギャラクトロンに触れた。

 すると突如シンヤの脳内に、何かの映像が流れ込む。

 

 廃墟となった、どこかの町並み。

 辺り一面の、焼け野原。

 無造作に転がる、死屍累々。

 何度も場面は移り変わったがそのどれにも、かつて栄えたであろう文明が辿った最期がそこにはあった。

 シンヤが最後に見たのは、燃え盛る街に1人取り残された少年のイメージ。

 少年が空を見上げれば、宙に浮かぶ純白の竜人が。

 無数の炎のようなエネルギーを充填し、こちらに狙いを定めていた──。

 

「ううっ……!何だ、これ……!」

 

 そのビジョンを境に、シンヤを激しい頭痛が襲う。今すぐにでも頭が粉々に砕けそうな感覚がしたシンヤは、それを防ごうと無我夢中に頭を押さえるが、耐え切れずに膝を突いた。

 シンヤの急変を感じ取ったのか、すかさずガイが馳せ参じた。

 

「どうしたシンヤ!?大丈夫か!?」

「ガイさん……。急に、頭が……!」

「もういい、喋るな……!ジェッタ、来てくれ!」

 

 ガイに呼ばれたジェッタが駆け付け、2人でシンヤに肩を貸す。

 それを見兼ねた惣一のご厚意で、製作所の一室を借りたガイは、シンヤを部屋のソファに横たわらせる。

 するとシンヤを心配した社員達が、氷のうを持って来てくれた。それを額に乗せたシンヤは、傍らにいたガイに謝った。

 

「ううっ……すみません、ガイさん……」

「心配すんな、俺もいつも世話になってるからな。……ところで、一体何があった?」

 

 そう訪ねられたシンヤは、ナオミと同様に自分もギャラクトロンに触れた事、直後に見覚えの無い映像が頭の中を駆け巡った事、その映像についての詳細、それから激しい頭痛に襲われた事を、朦朧とする意識の中で包み隠さずに伝えた。

 

「──そうか、良く分かった」

「あのロボット……きっと、皆さんが考えているような代物じゃないです。……ガイさん。気を付けて、下さい……」

 

 自分が抱いた不安を、ガイに警告する形で言葉にしたシンヤは、ゆっくりと瞼を閉じる。それからすぐに寝息を立て始めたシンヤを見て、ガイは安堵したのだった。

 

 

 

 ガイが外に出たのは「VTL」のロゴの入ったワゴン車が、丁度コフネ製作所前に停まった時だった。

 その車からは、毎度お馴染みの渋川と、戦闘服に身を包んだビートル隊の隊員が数名降りる。

 それに気付いたナオミは、渋川に声を掛けた。

 

「あ、おじさん!」

「……!おい!お前達、何やってんだ!降りろ!降りろって!」

 

 渋川が、突然声を荒らげたのには訳がある。

 なぜなら、惣一を含めたコフネ製作所の社員数名とシンが命綱も無しに、自分達にとって正体不明のロボットの上に登っていたからだ。

 自作の解析装置を持ち、ロボットを調査していたシンは一度作業の手を止めて、社員達と一緒に渋川の元に集合した。

 その傍らで、ビートル隊の隊員が立ち入り禁止を示す黄色いテープを貼り始めた。

 

「解析結果のデータは、ビートル隊に提供しますから!僕達に、最後まで解析をやらせてもらえませんか?」

「渋川さん!俺からも……お願いします!この通りです!」

 

 シンの説得に続いて、惣一が頭を下げると、社員達とナオミまでもが一緒に頭を下げた。

 それを見た渋川は露骨に焦り、惣一に頭を上げるよう申し出た。

 

「いやいやいやいやいやいや!……あの、社長にそこまでされたら、許可しない訳には……!」

「……ありがとうございます!」

 

 それを聞いた惣一は、してやったりと言った表情を浮かべた後に、渋川と硬い握手をした。

 その直後に渋川は、彼らにある条件を付与したのだった。

 

「でもねでもね、でもね?最大限の、安全対策はさせてもらいます」

 

 その後ビートル隊の手配で、強固なワイヤーとそれを括りつけて地面に固定する為のミサイルが届けられた。

 ビートル隊の協力の下、ワイヤーでギャラクトロンを拘束する。これによって、シン達はより安全にギャラクトロンの解析に専念する事が出来た。

 

 

 

 

 

 ギャラクトロンの解析はそれからも続き、辺りはオレンジ色に染まっていた。

 これまでの調査で判明した事はあるにはあるのだが、それ以上に不明な事が山ほどあった。

 そんな中で惣一は、解析したギャラクトロンの内部構造を見て唸ってしまう。

 

「全て未知の物質か……。物理法則を無視したパーツがあちこちにあるぞ……。こんなすげぇもん、どっから来たんだ?」

「どっから来たって……。おい、宇宙からじゃねぇのか?」

 

 惣一のその言葉に、渋川はシンに解答を求める。

 シンは惣一の喋り方を真似たような口調で、渋川に説明を始めた。

 

「解析結果を見ても、大気圏を突入した形跡は一切ありません。とても宇宙から来たとは、考え難いです……」

 

 シンが言うように、大気圏に突入した形跡が無いと言う事は、ジェッタの「ギャラクシードラゴン」は的外れなネーミングだった事が証明されてしまった。

 説明の最中、その名前を付けようとした当の本人の顔をチラリと見たシンだったが、彼に若干の怒りの色が見えた為、忍び声になった。

 また分からない事が1つ増えたと落ち込む面々に、離れた場所にいたガイがぽつりと呟いた。

 

「別次元の文明が造った物かもな……」

 

 ガイ自身、始めからそうではないかと目星は付けていたのだが、シンヤとの語らいでそれが決定的な物に変わった為、今の発言に繋げたのだ。

 

「その可能性も、否定は出来ねぇな。ここをよーく見てれ」

 

 ガイの言葉を受けた惣一は、自分の使うパソコンの画面に表示させた映像を全員に見せる。そこには、波打つような波形のパーツが幾つも映し出されていた。

 

「成分は解らねぇが、これはゲル状のバネだ。こんなとんでもねぇもん、世界中探したって誰にも造れやしねぇ!」

 

 自身もバネを造る事を生業としている惣一にとって、この発見は驚くべきものであると同時に、自分達との技術とは天と地の差がある事を見せ付けられる結果となった。

 全員の視線が惣一のパソコンに向けられる中、別の解析を進めていた田丸の機器がある反応を感知した。

 

「社長!この音なんですけど……」

 

 田丸に呼ばれた惣一は、彼の元に駆け寄る。ナオミ達もまた、その後に続いた。

 様々なコードが接続されたスピーカーからは、特殊な音が一定のリズムで刻まれていた。それに連動する形で、デスクに置かれた赤い警光灯が回転していた。

 どうやらその音は、ギャラクトロンが発している物のようだ。その証拠に田丸が駆使するパソコンには、蹲るギャラクトロンが地面に向けて何かを広範囲に照射するイメージ図が映っていた。

 

「特殊なソナーを使って、地球の様子でも探ってるんじゃねぇのか?」

「きっと、この星の環境を調べてるんじゃないでしょうか?何とか、コミュニケーションを取る方法を見つけ出さないといけませんね~!」

 

 惣一の推測を聞いたシンが続けてそう仮定すると、近くにいたガイと急に肩を組む。

 ギャラクトロンはやはり蹲ったままで、だんまりを貫き通していた。

 

 

 

 次第に辺りも暗くなって行くが、彼らの調査はまだまだ終わらない。数台の照明機器を組み終えたガイは、惣一を呼ぶ。

 

「っし……!師匠!準備出来たぜ!」

 

 今日の焼きそばパーティーでお世話になった事もあってか、ガイは惣一の事を「師匠」と崇めるようになった。

 その師匠である惣一がガイの元にやって来るのに、1分と掛からなかった。

 惣一は更に田丸と芝尾を呼び寄せて、照明機器をそれぞれの場所に設置するよう指示。

 ギャラクトロンを囲むように設置された照明が、同時にライトアップ。その光景に、ガイは感嘆の声を上げた。

 照明に照らされたギャラクトロンにシンは近付いて、巨大なそれを見上げて独り言ちた。

 

「僕の名前は、松戸シン!……って言ったみたものの、言語学習機能は備わっているんでしょうか?

 どこから来て、何を、目的としてるんでしょうね……。これ程のロボットなら、災害救助でも大活躍出来そうです。でも……悔しいですが、今の僕の技術じゃ、これは造れませんね……!」

 

 コーヒーを片手に、椅子に腰掛けてシンを見守るガイに、惣一は歩み寄る。

 それに気付いたガイは、急いで立ち上がろうとするが、惣一はそれを止めてガイの隣に座り、数十年前シンと出会った日の事を語り出した。

 

「……俺が初めて会ったのは、小学生ロボットコンテストの、審査員をやった時だったかな……。あいつが1年生の時、変梃なロボット造って参加してよ。もちろん、入選なんか出来なくてよ……。悔しがって、泣きじゃくりながら、一生懸命俺に質問して来やがったよ。で……1年後、入選したよ。いつかきっと、人の役に立つ究極のロボットを造るんだって、豪語してたっけなぁ……」

 

 ギャラクトロンをただじっと見つめるシンは、彼に自身の夢である、究極のロボットの姿を重ね合わせたのだった。




何気に、シンヤ君の新しい能力(?)が覚醒しました。

ジーッとしてても、ドーにもならないので、後編の投稿を早めに出来るよう、頑張ります。
なので、しばらくお待ち下さいませ……。


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第14話 暴走する正義 ━後編━

何とか、間を開けずに投稿出来ました……。
誰か僕に、『THE ORIGIN SAGA』DVD全3巻を下さい……(切実)。

では後編、どうぞ。



 夜も明けて、翌朝。

 昨夜はSSP-7内で眠りに就いたジェッタが目を覚ます。外はすっかり明るくなっていて、いつもより遅い目覚めになったようだ。ジェッタは欠伸を1つした後、車から降りる。

 助手席にはナオミが眠っており、ジェッタは彼女を起こさないようにと優しくドアを閉めて、既に朝食を取っている面々の元へと足を運んだ。

 

「おはよ~ございま~す……」

「おぉ、いいとこに来たな!さぁさぁさぁさぁ、食え食え!」

 

 真っ先にジェッタを迎えたのは、朝から清爽な表情を浮かべた惣一。彼がジェッタに差し出したのは、焼きそばパン。昨日の残りかと思われたが、惣一曰く焼きたてだと言う。

 朝から食べる焼きそばパンも中々に格別で、先日とはまた違った味わい深さだった。

 どうやら全員が製作所に泊まり込んで作業を続けていたらしく、先日と同じ面子が揃っていた。中には渋川や、途中で熱中症らしき症状を見せて離脱していたシンヤの姿もあった。その食べっぷりを見る限りだと、どうやら十分に回復したようだ。

 水入らずと言った雰囲気で食事が進む中、ある変化が起きる。

 ギャラクトロンが発する特殊な音を観測していた機器が音を出さなくなり、それと同じタイミングで警光灯がストップしたのだ。

 それに真っ先に気付いたガイとシンヤが立ち上がると、測定器がアラート音を鳴らした。全員に緊張が走る中、誰よりも早くパソコンに食い付いたシンが現状を報告する。

 

「活性化してます……!」

 

 それを表すように、ギャラクトロンの瞳に赤い光が灯る。これに連動する形で、己が身を拘束するワイヤーを軋ませながら、ギャラクトロンが起動した……!

 

「ギャラクトロンが動いた……!」

 

 ギャラクトロンは立ち上がる過程で、身の回りのワイヤーごと地面に突き刺されたミサイルを引っこ抜く。

 そうして2本の両足で立ち上がった白色の竜人は、中心の赤い球体を輝かせる。

 誰もがそれを見て仰天する中で、ギャラクトロンは後頭部から伸びる「ギャラクトロンシャフト」を更に伸ばすと、鉤爪のように鋭く尖った先端のアームで駐車されたままのSSP-7を捕縛した。

 この行動に意表を突かれた面々は、同時に飛び出す。そしてジェッタが、驚愕の真実を述べる。

 

「キャップがあの中に……!」

「何ぃ!?」

 

 それを聞いた渋川が思わずジェッタを見るが、時既に遅し。

 胸の赤い球体まで運ばれたSSP-7は、ナオミを乗せたままギャラクトロンに取り込まれてしまった。

 

「……ナオミちゃぁぁぁん!」

 

 車が揺れた事でナオミは目を覚ましたが、そこは既にギャラクトロンの体内。その薄気味悪い空間に、ナオミの顔に恐怖の色が浮かんだ。

 

「……ここどこ!?」

 

 周囲をキョロキョロと見回すものの、ナオミの目には真っ暗な空間以外には何も見えなかった。

 すると僅かに開いていた窓の隙間から、軟体動物の触手のように蠢く無数のコードの群れがナオミに襲い掛かる。

 腕、脚、首筋と言った順でやがて全身を縛られるナオミ。身動きの取れないナオミは、例えようの無い畏怖にただ叫ぶ事しか出来ずにいた。

 しかしこれだけでは終わらず、突然伸びたコードがナオミの耳から脳内に直に差し込まれた。

 

「……っ!アアアアアァァァーッ──!」

 

 自分の身を襲った不気味な感覚に、ナオミは思わず絶叫するが、彼女の叫びは突如収まった。

……その際ナオミの双眸からは、輝きが全て消え失せた。虚ろな目になったナオミは、ぽつりと言葉を零した。

 

「──この世界の解析は完了した」

 

 この言葉は、確かにナオミが発したものだが、ナオミでは無い別の存在の意志が介入していた。

 これに続くように、ギャラクトロンにも異変が起こる。何と、ナオミと全く同じ声で自分の目的を演説し始めたのだ。

 

[各地で起きている紛争、差別、残虐さを理解した。この世界の為に、争い全てを停止させる]

 

 聞き慣れたナオミの声に、信じられないと言った様子でジェッタが反論するものの、ガイがすぐにこの事態を解説する。

 

「何言ってんだよ、キャップ!?」

「違う……!奴に精神を支配されてるんだ……!」

「えぇっ……!」

 

 これには驚きを隠せないジェッタ達。

 そんな彼らに向けて、ナオミの声を借りたギャラクトロンは更に語り出した。

 

[別の世界でもそうして来たように、全ての争いを止める。

 すなわち、この世界をリセットする。それが我が使命。我が正義]

「別の世界……!?そうか、そう言う事だったのか……!」

 

 このギャラクトロンの発言に、心当たりがあり過ぎるシンヤは思わず声を上げた。

 先日、シンヤが見たあの不可解なビジョン。

 あれは、自分達がギャラクトロンと命名したこのロボットが数々の世界をリセット──滅ぼして来た際のビジョンだったのだ。

 

「リセットって……まさか!?」

 

 その意味を理解したシンが顔を上げると、ギャラクトロンは両眼から紅の閃光光線を発射。

 それが着弾した地点には、彼が召喚された時と同じような魔法陣が、コーラス音に良く似た音と共に展開。

 直後、広範囲に渡った大規模爆発が発生した。

 これの爆風に巻き込まれたジェッタらは、成す術も無いまま吹き飛ばされてしまう。

 燃え盛る炎を背にしたギャラクトロンは、都市部に向けて進行を開始するのだった。

 大きな怪我も無く、何とか無事だったシンヤ達。

 咄嗟に反応出来たガイとシンヤ以外は、自分以外の面々の補助もあってようやく立ち上がった。

 ギャラクトロンを憎らしげに見るガイは、奴が自分達の世界にやって来た理由を改めて推測した。

 

「別次元の連中、こいつに手を焼いて、こっちの世界に捨てたって事か!?」

「次元を越えた、不法投棄って事?」

「あぁ……!」

 

 ガイの推測に、ジェッタも同意のようだった。

 この事態を受けて渋川は、ビートル隊本部に連絡を飛ばす。その隙にガイは、都市部に向かうギャラクトロンを追い始めた。

 

 

 

 

 

 時間帯が時間帯なだけあってか、街には通勤する社会人達や、その他大勢の一般人達が数名存在していた。

 そんな中、原因不明の轟音と揺れが彼らに伝わった。何事かと辺りを見回すと、街中に突如巨大なロボットが出現したではないか。

 ロボットの出現に、街の人々は足を止めて、手元のスマートフォンのカメラで撮影を始めた。

 しかしギャラクトロンは人畜無害な彼らに向けて、紅い閃光を撃ち放つ。これの爆発により、一帯のビル街が薙ぎ倒されてしまった。

 何とかギャラクトロンに追い付いたガイは、走りながらギャラクトロンを非難する。

 

「お前は答えを急ぎ過ぎなんだよッ!」

 

 そしてオーブリングを構えようとした瞬間、ガイの目の前に面倒な男が立ち塞がった。

 

「……どこかへお急ぎですか?クレナイ・ガイ様」

「ッ、ヨミ……!」

 

 ヨミの出現に、思わず足を止めてしまったガイ。その間にも、ギャラクトロンは街を破壊し続ける。

 毎度の如く自分の邪魔ばかりするヨミに、憤りを覚えるガイは、乱暴な口調で啖呵を切った。

 

「そこを退け!……それとも何か?お前があいつを呼び寄せたのか?」

「まさか。私にとっても、アレの登場は予想外でした。ただ1つ、ガイ様に忠告を、と」

「……忠告だと?」

 

 自分達と敵対している筈の人物からの予想だにしない一言で、ガイは彼が何を考えているのか、皆目見当が付かなくなってしまう。

 そんなガイに対して、ヨミは頼んでいないのにも関わらず、饒舌を振るう。

 

「一方的に己の正義を振り翳す、あのロボット……『シビルジャッジメンター ギャラクトロン』とでも呼びましょうか。アレの力は強大です。恐らく……ベリアルの力でなければ、太刀打ち出来ないかと」

 

 この一言でガイは、マガオロチとの闘いを思い出す。初戦では、マガオロチの規格外の強さに手も足も出なかったが、ベリアルの闇の力は、それを遥かに上回る力を秘めていた。

 だがその強大な力が故、制御が効かずに、暴走の一歩手前まで追い込まれてしまった事も事実。

 しかも今回は、ギャラクトロンの内部にナオミが人質同然に囚われているのだ。ベリアルの力では、ナオミを傷付けてしまうかも知れない。

 それを念頭に置いたガイは、平然を装ってヨミを静かに睨み付けた。

 

「……俺がそんな話を鵜呑みにするとでも思ってんのか?」

「ハハッ、しないでしょうねぇ?未だに使いこなせていないベリアルの力で、大切な人を傷付けてしまうかも知れませんしn……」

 

 しかしガイの魂胆などお見通しだと言わんばかりに、ヨミは分かり切った様子でガイを煽る。

 最後まで言い切ろうとしたヨミだったが、彼の頬をガイの拳が掠める。

 先程よりも強い眼差しをヨミに向けたガイは、威圧感のある声で恫喝した。

 

「……用は済んだだろ。とっとと失せろ……!」

「──では御武運を。ウルトラマンオーブ……」

 

 爆発寸前の緊迫した状態でも、余裕の表情を見せつけたヨミは霧のように消失した。

 今しがたの語らいで生まれた雑念を払おうと頭を横に振ったガイは、今度こそオーブリングを構えた!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 暴れ回るギャラクトロンの影響で、街の人々はビルの倒壊に巻き込まれそうになるが、間一髪と言った所で回避に成功する。

 それと同じ瞬間に、紫色に光り輝くウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオンが降り立つ。

 オーブは勇猛果敢にギャラクトロンに向かい、背後から掴み掛って、発射目前だった閃光光線を上にずらした。

 続けてギャラクトロンの頭部を掴んで、動きを封じようとするが、ギャラクトロンの胴体の球体が紅く光り出す。

 警戒して距離を置こうとするが、それは先日ナオミを読み込んだものと同様の光線だった。オーブの解析を終えたのか、ギャラクトロンは何事も無かったかのように、オーブの眼前を素通りした。

 オーブ自身も戸惑いを隠せないが、自力で自分達を追って来たらしいジェッタの声に振り向いた。

 

「オーブーっ!キャップが中にいるんだー!」

 

 その声に頷いたオーブは街を駆け、改めてギャラクトロンと対峙する。

 両目を光らせて透視光線を照射したオーブは、ギャラクトロンの紅い球体内部で囚われの身となったナオミの姿を確認した。

 それを目撃したオーブは、何とかナオミを救い出すべく球体を掴んで、強引に引き剥がそうとする。

 しかし全く動じないギャラクトロンは、左腕のアームからも閃光光線を撃つ。まともに光線を喰らったオーブは吹き飛ばされ、後方にそびえ立つビルに激突。ビルは見る形も無く倒壊した。

 これらの騒動に、他のビル内に残されていた人々は目を見張った。すると暴れ回るロボット怪獣が、自分達のビルに向かって来た。身の危険を感じた人々は混乱に陥り逃げ惑うが、ギャラクトロンは双眸を紅く輝かせる。

 そうはさせるものかと駆け付けたオーブが、ギャラクトロンの頭を掴み、すんでの所で人々を救う。だが発射された光線は、ビルを幾分か破壊した。

 街中で闘い続ければ被害が拡大するばかりだと判断したオーブは、体重6万1千トンを誇るギャラクトロンを持ち上げ、別の場所まで運ぶ為に飛翔した。

 

 

 

 オーブを追いかけて、街まで走ったジェッタ達がコフネ製作所に戻ると、ギャラクトロンの放った光線の爆発で炎が燃え移り、ボロボロになった製作所がそこにはあった。

 沢山の思い出が詰まった大切な職場が半焼してしまった事で、田丸は人目も憚らずに涙を流す。

 

「何で、こんな事に……」

 

 フラフラとした足取りで製作所に近寄るシンは、足下に焼け焦げたゼットビートルの設計図があった事に気付いた。その場にしゃがみ込んでそれを手に取ったシンは、涙を浮かべながら口を開いた。

 

「僕達は……何か間違えたのでしょうか?」

 

 震える両手で、設計図の両端を握り締めるシンに歩み寄った惣一は、自分なりの熱い言葉でシンを励ました。

 

「──立つんだ。俺達には、渋川さんに頼み込んで、解析をさせて貰った責任がある!

 何が出来るか分からねぇが……、度が過ぎた正義を放って置けねぇだろ!?……さぁ、行くぞ!!」

 

 ギャラクトロンの行いに絶望し、ほぼ無気力になったシンを無理矢理立たせ、惣一は芝浦と田丸に会社を任せる。それから自分が運転するワゴン車にジェッタとシン、シンヤを乗せて、オーブとギャラクトロンを追いかけ始めた。

 

 

 

『リィヤァアアアアアッ!!』

 

 人気の無い山奥の平野に、ギャラクトロンと共に移動したオーブは相手との距離を取ると、間髪入れずに必殺光線の構えを取った!

 

『スペリオンッ、光線ッ!!』

 

 まずは相手の動きを止めようと、脚に狙いを定めてスペリオン光線を撃つオーブ。

 だがギャラクトロンはそれを先読みしたのか、足元に魔法陣を張りピンポイントの防御で、オーブの光線を無効化した。

 これに対するオーブは、青き素早い巨人に姿を変えて迎え撃つ!

 

『……ッ!シュワァッ!!』

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

『光を越えてッ!闇を斬るッ!!』

 

 専用武器であるオーブスラッガーランスを具現化させてギャラクトロンに斬り掛かるオーブだったが、その太刀筋すら見切られ、全ての攻撃を捌かれる。

 下半身を狙って攻撃を集中させるが、ギャラクトロンの強固なボディにダメージを負わせる事は叶わず、逆に蹴り飛ばされてしまった。

 即座に起き上がり、オーブスラッガーランスを拾い上げ再び闘いを挑むが、どれも決定打にはなり得ない。

 そこでオーブはオーブスラッガーランスのランスレバーを3回引き、素早くランストリガーをタッチする。

 

『トライデントスラッシュッ!!』

 

 だがこれは、初撃の段階で槍をギャラクトロンに掴まれた事で無効となり、挙句の果てには槍を彼方に弾かれてしまった。

 その一瞬の隙を突き、逆にギャラクトロンは伸ばしたギャラクトロンシャフトでオーブの首を絞め上げる。

 

『ウウッ!?ウォアアッ……アアッ……!』

 

 身動きを封じられたオーブのカラータイマーが、赤く点滅を開始。徐々に首を絞める力が増して行く中、オーブは抵抗すらままならない。

 これに追い討ちを掛けるように、ギャラクトロンは左腕に装備されている回転式の大剣「ギャラクトロンブレード」を起動。

 無防備となったオーブの腹部に、それを躊躇無く突き立てた──!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「現在進行形で大ピンチの中始まりました、『ウルトラヒーロー大研究!』のコーナーです!今回は、この方を紹介しますよ!」

 

【ウルトラマンダイナ!】

 

シンヤ「『伝説の英雄』ウルトラマンダイナさん。スーパーGUTSの隊員『アスカ・シン』さんが変身するウルトラマンで、サムズアップがとても印象的。戦い方は、パワフルかつダイナミック!

 ティガさん同様タイプチェンジ能力を持っていて、基本形態の『フラッシュタイプ』、素早さと超能力に長ける蒼き戦士『ミラクルタイプ』、凄まじいパワーで、並み居る強敵を正面から打ち破る紅蓮の勇士『ストロングタイプ』を駆使して戦います!」

 

シンヤ「ウルトラマンティガの続編に当たる今作では、前作のGUTS隊員の方々も大勢ゲスト出演されていました。

 名付けの親は、スーパーGUTSのミドリカワ・マイ隊員。その由来はダイナミックのダイナ、ダイナマイトのダイナ、そして……」

 

シンヤ「物語の終盤、『宇宙球体 スフィア』の本体『暗黒惑星 グランスフィア』との最終決戦。

 スーパーGUTSとの連携作戦で見事この強敵を打ち倒すものの、消滅したグランスフィアが生じさせた時空の歪みに吸い込まれ、ダイナさん並びにアスカさんは行方不明になってしまいます。

 ……この衝撃のラストから12年。ダイナさんは帰って来ました!」

 

シンヤ「ダイナさんの復活は、『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説 THE MOVIE』にて。ダイナ最終回以降、アスカさんは別次元の宇宙『M78ワールド』で旅を続けていたらしく、ベリアル陛下との決戦に参戦しました。

 その後も様々な多次元宇宙を渡り歩き、その名は別次元の宇宙にも知れ渡る事となります。

 噂によると、どうやらガイさんとも面識があるらしいですが……?(後でガイさんに直接聞いてみよう……)」

 

シンヤ「……と言った具合で、今回はお開きです!

 長々しい話にお付き合いいただき、ありがとうございました!」

 

シンヤ「次回も見てくれよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球の生態系をリセットしようとする、ギャラクトロン。

 こいつを止めるには、俺があの力を使いこなすしかない。

 闇と光を結びし最強の力。ナオミを助けるために、今はこれに賭ける!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『ネバー・セイ・ネバー』。




……いかがだったでしょうか。
ナオミさんが取り込まれるシーン、恐ろしい位に筆が進んで、危うく触手プレイに目覚めそうになりました(震え声)。多分その時作者、ギャラクトロンに洗脳されてたのかも知れない……。

もうじき『絆の力、おかりします!』も発売開始しますね。皆さんは予約しましたか?
作者はお金が無いのでBlu-ray版を泣く泣く断念して、通常版を予約しました。
ジャグジャグ……。くっ……!

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマン』第34話『空の贈り物』でした。

このペースを維持出来るようになりたい……。
では皆様、これにて……ノシ


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第15話 ネバー・セイ・ネバー ━前編━

どうも。

今回で終わるギャラクトロン回。
少しばかり、手を加えてお送り致します。


永遠(とわ)なる勇者──」

 

 ギャラクトロンを追うワゴン車が、トンネル内を走行する。そんな中で助手席に座るシンが、俯きながら呟く。

 

「正義のロボットだなんて……勝手に思い込んで、僕はバカです……」

 

 彼は、突如現れたギャラクトロンに、自身の夢である災害救助用ロボットの姿を重ねていた。

 だからこそ、ギャラクトロンのした事と、自身の先入観との食い違いを嘆いていた。

 そんなシンを労るように、ワゴン車のハンドルを握る惣一が、1つの例え話を語り出す。

 

「……2種類の人間がいるんだよ、シン君。他の連中が疑ってるものを信じる奴と、他の連中が信じてるものを疑う奴。発明家は、その両方でなくちゃいけねぇ。だから……無理にでも顔を上げて、前を見るんだよ、シン君!ん?」

 

 それを聞いたシンは鼻を啜り、その言葉通りに顔を上げて前を向く。やがて車はトンネルを抜け、外の景色が見え始める。

 その時彼らの目に飛び込んで来たのは、ギャラクトロンシャフトに首を掴まれ、腹部を貫かれたウルトラマンオーブの姿だった。

 

「オーブが……!」

「オーブッ!」

 

 後部座席の窓からそれを目撃したジェッタとシンヤが声を上げ、惣一とシンも思わず苦悶の表情を見せた。

 

『グォアァ……!ウウッ……』

 

 深々と腹部を貫かれたオーブの身体から、苦しみに悶えるジャックとゼロの幻影が漏れ出す。

 ギャラクトロンは左腕のブレードを引き抜くと、シャフトを振るって強引にオーブを放り投げる。

 最早立ち上がる気力も残されていないオーブにギャラクトロンは近付き、取り込んだナオミの声でオーブに忠告をする。

 

[私は、私に与えられた唯一のコマンドを実行中だ。君はこの星とは無関係な存在。邪魔はするな]

 

 そう告げられたオーブは、再び立ち上がる事も出来ないまま変身解除、その場から姿を消した。

 

「オーブが消えた……!」

 

 橋の上に駐車したワゴン車から飛び出したシンヤ達。オーブが消失した事で、立ち尽くしたままのギャラクトロンに向けて、シンが大声で叫ぶ。

 

「……ギャラクトローンッ!!」

 

 その声に反応したのか、ギャラクトロンがゆっくりとシンヤ達に振り向く。

 彼らと向き合う形となったギャラクトロンは、下顎を動かして言葉を発するが、それはシンヤ達にとってとんでもない言葉だった。

 

[──人間の文明から争いが無くならないのは、この星の残虐な自然界を模倣しているからだ。この宇宙には最初から、有り余る程のエネルギーが満ちている。別の生物からエネルギーを奪わずとも済むように、全てがデザインされている。

 だが、この星の生態系は、自分の生命を永らえさせる為に他の生命を奪い、この星そのものも傷付け疲弊させ、天然資源を掘り尽くすような、低レベルの文明を良しとしている]

「僕達の文明は、低レベルだって言ってるんですか!?」

 

 感情を一切感じさせない、無機質な眼差しを向けるギャラクトロンにシンは反論するが、対するギャラクトロンも冷徹に言い返す。

 

[──耳が痛いか?だから君達は耳を塞ぐ。都合が悪いからと無視する。だがこの星は、君達の都合で存在しているのでは無い。

 よって、この星の文明と、「食物連鎖」と言う間違った進化を選んだ生態系を、総てを、リセットする]

 

 それを聞いたシンヤは嫌悪感を露わにし、惣一は怒りを滲ませながら吠える。ジェッタもまた、ギャラクトロンを激しく批難した。

 

「好き勝手に言ってくれる……!アイツ、神様にでもなったつもりかよ!」

「文明だけじゃなく、大自然を根絶やしにするってか!?」

「何勝手な事言ってんだよ!?お前だって、キャップの事利用してるじゃんか!平和が望みなら、他の星の女の子を拉致ったりするなよ!!」

 

 これを聞いたギャラクトロンは、左腕のギャラクトロンブレードを解除し、一時停止する。それはまるで、ジェッタ達の指摘に対して耳を塞いでいるかのようにも捉えられた。

 そんなギャラクトロンに向かって、ジェッタはナオミの身柄を返還するように声を荒らげる。

 惣一とシンはその隙に、ギャラクトロンへの対抗策を考えようと、あらかじめワゴン車に積んでおいた解析用の機材をセットし始めた。

 

 

 

 

 

 ギャラクトロンに敗れ、満身創痍と言ってもほぼ過言では無いガイは、片膝を突いたまま携行しているカードホルダーから1枚のカードを取り出して、それを一点に睨み付ける。

 そのカードに描かれているのは、紛れも無くウルトラマンベリアルだ。

 そもそもガイ達が持つウルトラフュージョンカードとは、歴代のウルトラ戦士の力の一部を宿した結晶。だと言うのに、このベリアルのカードからは、ベリアル本人の強過ぎる邪悪な気配が漏れ出ているような感覚があった。

 腹立たしい限りだが、ヨミの忠告通りこの力を頼らざるを得なくなってしまった事に、ガイはより一層不満を募らせる。

 それと同時に頭を過ぎるのは、この力を託して消えた、玉響姫の言葉であった。

 

──強過ぎる力は、災いをもたらすこともあります。

 

 ギャラクトロンと言う脅威に太刀打ち出来るのは、現状ベリアルの力のみ。

 だが、また制御が効かずに暴走してしまうのでは無いかと言う恐れが、ガイを踏み止まらせる。

 

「確かに俺には……アンタを制御出来ない……。

 くっ……!」

 

 ベリアルのカードを見つめながら、舌打ちをするガイ。苦悩するガイは、先日撮影を行った際のナオミの言葉を思い出す。

 

──ネバー・セイ・ネバー。出来ないなんて言わないで……?

 

 その時のナオミの表情を思い浮かべながら、ガイはただ無気力に空を見上げていた。

 

 

 

 一方、地球の生態系と文明のリセットを始めようとするギャラクトロンへの対抗策を考えようと、一晩掛けて集めたデータの解析を進めるシン。

 その傍らで、ジェッタと共にギャラクトロンの動向を探り続けるシンヤの元に、惣一がやって来た。

 

「よぉ、兄ちゃん。今日は調子良いみてぇだな。

 ……にしても驚いたよ。まさか兄ちゃんが、あんな風に啖呵切るとはよぉ。見直したぜ、俺は」

「いえ、そんな……」

 

 こちらに歩み寄った惣一に会釈をしたシンヤだったが、先程彼のすぐ側でギャラクトロンを批難した事を思い出し、やや恥ずかしげに答えた。

 そんなシンヤを見兼ねた惣一は、気にしていないと言った風に笑いかけ、シンヤを励ます。

 

「そんなに謙遜するこたぁねぇさ。……何だか、兄ちゃん見てたら、血気盛んなアイツの事を思い出したぜ」

 

 誰かをしみじみと思い出すように口を開いた惣一に、シンヤはふと尋ねてみる。

 

「……?その人、どんな人だったんですか?」

「ん?まぁ、良くも悪くも真っ直ぐな奴だったなぁ。それによ、誰が何度止めたって無茶ばっかりしやがる。そんでいっつも、俺が目くじら立てて、そいつを叱るんだ。……でもその度にアイツは言うんだ、『無茶かも知れないけど、無理じゃない』ってな」

「っ!」

「……最近は何してんだかよく知らんが、無鉄砲なアイツの事だ。世界中あちこち歩き回って、また無茶ばっかしてんだろうよ」

 

 惣一の言う「アイツ」と言う人の言葉に、聞き覚えのあったシンヤは、思わず目を見開いて驚く。

 それに気付かずに惣一は、遠くの空を見上げながら思いを巡らせていた。

 

 

 

 惣一とシンヤが語り合うその一方で、ギャラクトロンの解析を続けていたシンだったが、途中で作業の手が止まってしまう。

 それを心配した惣一が、シンに声を掛けた。

 

「……どうした?」

「科学って、最初から暴走する宿命にあるのかも……」

 

 シンがそう呟いたと同じタイミングで、優しげなメロディと共に、ギャラクトロンが再起動する。

 

『♪~……、♪~……』

 

 複数の魔法陣を纏わせたギャラクトロンシャフトを、天高く伸ばしながら浮遊。その徒ならぬ雰囲気に、シンヤ達も本能的に警戒する。

 

「ヤバい……!何かすごいヤバい気がする……!キャップー!!」

 

 ギャラクトロン内部のナオミに向けて、ジェッタが届かぬ叫び声を上げる。

 するとビートル隊専用の乗用車に乗った渋川が駆け付け、ゼットビートルがこちらに向かっている事、後は自分達に任せるようジェッタらに告げて、再び車を走らせた。

 その間にもギャラクトロンは、無数の火柱らしきエネルギーの充填を始める。これに見覚えのあったシンヤは、ギャラクトロンに向けて声を荒立てた。

 

「まさか……!やめろぉおぉぉぉぉ──!!」

 

 シンヤの叫びも空しく、ギャラクトロンは最大の必殺技「ギャラクトロンスパーク」を発射。

 彼方の山岳地帯に命中した光線は、超巨大な魔法陣を広げると同時に大規模な爆発を起こし、そこで生きていたであろう全ての生命諸共、辺り一面を焦土へと変貌させた。

 この光景を目の当たりにしたガイは、遂に覚悟を決めて、オーブリングを構える!

 

「……やるしかねぇ!!」

 

「ベリアルさんッ!」

【ウルトラマンベリアル!】

「ゾフィーさんッ!」

【ゾフィー!】

 

 オーブリングに2枚のカードを読み込ませると、ガイの両脇にベリアルとゾフィーのビジョンが並び立つ。

 ガイが右腕を突き上げ、両腕をゆっくりと振り回す動作をすると、その2人も同様の動きを取る。

 この動作を一通り終えたガイは、左手に握るオーブリングを掲げた!

 

「闇と光の力……お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 サンダーブレスター!】

 

 初陣とは打って変わり、一度目で変身が完了したウルトラマンオーブ サンダーブレスターが、ギャラクトロンが破壊した森林に現れる。

 彼はおもむろに立ち上がると、猛獣のような雄叫びを上げた。

 

『……ウ゛ォア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ──!!』

 

 この咆哮と共に、オーブの全身が紅く光り出す。やはり今回も、暴走の兆候が見え隠れしていた。

 その一方では、現場に到着したゼットビートルが、浮遊するギャラクトロンに向けてオーブの頭上を空高く飛んで行く。

 これを目撃したオーブは力強く大地を駆けると、ギャラクトロン目掛けて飛び上がった。

 

 

 

 ゼットビートルを操縦するパイロットがギャラクトロンの周辺を旋回し、敵の一瞬の隙を突いて捕獲用電磁ネットを発射する。

 

「捕獲用電磁ネット、発射!よしっ……!」

 

 作戦は上手くいき、見事ギャラクトロンの捕獲に成功。これに安心し切ったパイロットが、気を緩めた次の瞬間。

 彼の目の前にウルトラマンオーブが高笑いをしながら出現し、思わず彼は息を呑む。

 何とオーブは邪魔な小バエを叩き落とすかのように、ゼットビートルを自らの手で撃墜させる!

 これに続けて、内部にナオミが囚われているにも関わらず、ギャラクトロンに重い一撃を叩き込んだのだった!

 オーブが叩き落としたゼットビートルが、墜落し爆発するのを、シンヤ達は瞬きもせずに見つめていた。

 

 先の一撃で引き摺り降ろされ、地に落ちたギャラクトロンを力任せに蹴り上げるオーブ。ギャラクトロンも再び起き上がると、オーブを完全に敵と認識して、戦闘を開始する。

 ただでさえ凶暴なサンダーブレスターの容赦の無い猛攻をも耐え凌ぐギャラクトロンは、右腕のアームを変形させた砲塔から雷撃を放射。

 オーブがそれにたじろいだ隙に、ギャラクトロンは右腕を射出し、それを自在に操作してオーブを翻弄する。

 だが、これで引き下がるオーブでは無かった。

 頭上から雷撃を放射し続けるギャラクトロンの右腕を両腕で掴み取ったオーブは、それを武器にして投げ返す。

 これによってギャラクトロンは右腕を喪失、戦力を削られてしまった。

 だがオーブの猛威は止まる事を知らない。怯んだギャラクトロンの隙を見逃さず、背後に回ったオーブは後頭部のギャラクトロンシャフトに狙いを付ける。

 それをがっしりと掴むと、オーブは力任せに引き千切り、何度も踏み躙りながら愉しそうに嗤う。

 

「──え?」

 

 オーブがギャラクトロンシャフトを引き千切った拍子に、ナオミを洗脳していたコードが耳から抜けた。

 これによって、ナオミは正気に戻った。

 だがしかし、身動きの取れない事には変わりは無く、未だ状況が飲み込めないナオミは、薄暗い空間に怯える一方だった。

 

「ここ、どこ……!?」

 

 

 

 ウルトラマンオーブとギャラクトロンの戦闘を、遠くから傍観する者が1人。

 すっかりオーブに圧倒されているギャラクトロンに、侮蔑的な視線を向けたヨミは、がっかりした様子で溜め息を吐く。

 腰掛けに丁度良かった岩石から、重い腰を上げたヨミは身体中の関節をゴキゴキと鳴らし、悪戯な笑みを浮かべて独り言ちた。

 

「──さぁてと。少しばかり、ちょっかいを出しにでも行きますかねッ!!」

 

 そう呟くとヨミは、常人とは思えない跳躍を発揮して、一気に戦場まで飛び立った。

 

 

 

 

 

 戦況は変わらず、ギャラクトロンが不利。

 自慢のギャラクトロンシャフトを引き千切られ、その箇所から白煙を上げるギャラクトロンは、背後のオーブと向かい合う。

 オーブは未だにギャラクトロンシャフトを踏み付けており、こちらが振り向いた事にまだ気が付いていないようだった。

 その隙を突こうと、ギャラクトロンが密かに企んだ時。「ギャラクトロン」と言う1つの個体を形成する為のプログラムが、ある異常を感知する。

 どうやら外部から自身のメインシステムにアクセスする何者かが存在していて、システムを書き換えようとしている。始まりは何とも無かったが、その進行は凄まじく、プロテクトを実行しようにもそれすら凌駕するスピードで侵攻される。

 目の前の巨人以上の脅威を感じ取ったギャラクトロンのプログラムに、謎の声が直接語り掛ける。

 

(無ダな抵抗は、スるナ。じキニ貴様ハ、俺ノ操リ人形トなるノダかラナ……!!)

 

 まるで、自分自身が塗り潰されるような例え用の無い恐怖に、機械である筈のギャラクトロンが支配される。

 そして、ギャラクトロンが迎えた最期の瞬間。

 巨大な翼を大きく広げた、おぞましき漆黒の魔獣の幻影を、彼は垣間見た。

 

[─────────ッ!!]

 

 ナオミの声とも違う絶叫を上げるギャラクトロン。この光景を目撃したシンヤ達も、思わず目を見張った。

 叫び続けるギャラクトロンに気付いたのか、オーブは今一度この強敵と向かい合う。

 するとどうした事か、純白のギャラクトロンの全身が黒く染まり、喪失した部位を代替するように、新たな右腕とシャフトが発現した。

 紅く輝く双眸だけを残し、闇の巨獣として生まれ変わったギャラクトロンは吠える。

 その雄叫びは空気を振動させて、ビリビリと響く感覚をシンヤ達に与えた。

 

「一体何が……!?」

 

 ギャラクトロンの異変に驚愕するシンヤにも、突如として事変が起きた。

 彼がその目に捉えたのは、オーブとギャラクトロンだけでは無く、ギャラクトロンの内部に囚われているナオミと、これを強大な闇の力で支配している因縁深き相手の姿だった。

 透視に近い能力が現れた事への驚きもあったが、裏で暗躍する存在を目撃したシンヤは、心の底で毒づいた。

 

(ヨミ……!アイツ、また……!!)

 

 周囲を見ても、ヨミの存在に気付いているのは自分を措いて他におらず、真相を知っているのはシンヤだけだった。

 姿を変えたギャラクトロンに気圧される事も無く、オーブはギャラクトロンの胸部──現在、ナオミが捕えられている箇所──に正拳突きを叩き込む。

 

「キャアアアアアーッ!!」

「キャップーっ!!」

 

 ギャラクトロンがその一撃を喰らったと同時に、ナオミの悲鳴が響き渡る。これを聞いたジェッタは叫喚し、ナオミの名を呼ぶ。

 しかしギャラクトロンはそれすら気にせずに、復元した右腕の砲塔から紫色の雷撃を発射。先程よりも威力の増した雷撃に、流石のオーブでさえ多少引き下がる。

 それを見逃さなかったギャラクトロンは、引き伸ばしたシャフトでオーブの右腕を掴み取り、彼の行動を制限する。

 このやり方に苛立つ様子を見せたオーブは、空いた左手で作り出した「ゼットシウム光輪」でシャフトを切断して、拘束を強引に振り解く。

 接近戦に突入したオーブとギャラクトロンは、両者共に引けを取らない大乱戦へと発展する。

 彼らが争い合う度にナオミの阿鼻叫喚が轟くが、それを打ち消すように、両者の雄叫びがその場を埋め尽くす。

 

 一度距離を取り合った双方だったが、オーブが突進を仕掛け、ギャラクトロンは左腕のギャラクトロンブレードを装備して迎え撃つ。

 だがオーブはこの時左手の爪にエネルギーを溜めており、すれ違いざまに「Zクロー霞斬り」を繰り出し、ブレードの接合部を破壊した。

 再び両者は近接戦に縺れ込み、オーブは赤黒い波動を両手に纏ってギャラクトロンを殴打する。

 それは最早ウルトラマンでは無く、本能に従い暴れ狂う「凶暴な怪獣」と全く変わらなかった。

 ジェッタはこの争いを止めて欲しいとシンに懇願するが、無気力同然となった彼に出来る事は皆無であり、ただ匙を投げた。

 

「シンさん……!オーブ止めてよ……!」

「無理です……僕には何も出来ません……」

 

 するとここに来てようやく、オーブのカラータイマーが赤く点滅を開始。これまで何度もそれを見て来たシンは、弱々しく発言した。

 

「ジェッタ君……。オーブはもうすぐ消えてくれます……」

 

 後はオーブが力尽きて、消滅するのを待つだけ。自分の無力を痛感したシンはそう呟いて、その時が来るのを待っていた。

 それに対してオーブの動態は一切止まず、先程斬り落としたギャラクトロンブレードの刀身を握り、ギャラクトロンの身体を乱暴に叩き付ける。

 砲塔を兼ねた右腕のクローで反撃に打って出るギャラクトロンだったが、得物を持ち替えて刀身部分を振るったオーブによって、それも叩き斬られてしまった。

 大半の装備を失ったギャラクトロンを蹴り倒しても尚、攻撃の手を緩めないオーブに向けて、ジェッタは悲痛な叫びを上げた。

 

「キャップがホントに死んじゃうっ……!やめろぉぉぉっーー!!」

 

 ジェッタの叫びで理性を取り戻したのか、オーブは攻撃を中断して沈静化。

 ……しかし、その隙を突いたギャラクトロンが両眼から閃光光線を撃つ。

 咄嗟にギャラクトロンブレードを盾代わりにして防御を取ったオーブだったが、これには耐えられずに弾き飛ばされてしまった。

 身体を起こして立ち上がったギャラクトロンだったが、そこには本来の高貴なボディは跡形も無く、見窄らしさだけが残っていた。

 戦線復帰したオーブと対峙したギャラクトロンは何かを伝えるかのように、先日ジェッタとシンを仲裁した時と同様の優しげなメロディを流し始めた。だがそれは同時に、命乞いをするかのようにも見受けられた。

 

『♪~……。♪~……』

 

 両陣営の間に、安らかなメロディが流れる。

 しかしそれすら無視したオーブは情け容赦無く、必殺の「ゼットシウム光線」を放つ。

 オーブが十字に組んだ両腕から放出された光線は、無防備のギャラクトロンに着弾。内部のナオミとヨミ諸共にギャラクトロンは爆散し、この世界から消滅した。

 この激戦を勝ち抜いたオーブは、かつては森林が生い茂り、今では焼け焦げてしまった大地に1人立ち尽くす。

 やがて時間切れを起こしたオーブは、赤い粒子となってその場から消失したのだった。




むぅ……。
毎度の事ながら、どうにもくどさが残るなぁ……。
後編は、夕方に投稿しますよ~。


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第15話 ネバー・セイ・ネバー ━後編━

久し振りの、前後編連続投稿……!
うーん、どうにかこの調子が続けば良いのに……。

作者が愚痴を少々零しつつ、後編です。


 爆散したギャラクトロンの残骸から、全身に重傷を負ったナオミが発見された。

 担架に乗せられ運ばれる意識の無いナオミに、必死に呼び掛けるジェッタ達と渋川の声が、救急搬送された病院に響き渡る。

 

──キャップ……!キャップ!!

──ナオミちゃん!死ぬなよ!頑張ってくれよ!俺よぉ……義兄さんや義姉さんに、どんな顔して詫びりゃ良いんだよ!?

 

 

 

 変身が解除され、人間としての姿に戻ったガイは、ボロボロの身体に鞭打って立とうとするが、かなり体力を消耗している為に終始肩で息をする始末だった。

 そんな中脳裏を過ぎるのは、涙を浮かべてこちらを見つめるナターシャや、これまでの長い旅路で出会ったかつての仲間達の姿だった。

 

「ぐっ……!くっ……!ううっ……!」

 

 それでも立ち上がったガイは、足元に落ちていたウルトラマンベリアルのカードを見つけてそれを睨んだ。

 

……この力のせいで、俺はまた──!!

 

「ぐうっ……!!」

 

 怒りと憎しみを乗せた拳を、ベリアルにぶつけようとするガイだったが、その拳はベリアルを捉える事無く、すぐ側の地面に激突した。

……元はと言えば、これはベリアルでは無く、この力を制御出来なかった自分自身が全ての原因なのだ。ベリアルを憎むのは、それこそお門違いと言うもの。

 この行為に空しさを感じたガイはゆっくりと立ち上がり、ベリアルをじっと見下ろす。

 その後ガイは僅かにナオミの気配を感じ取り、これを辿り彼女が搬送された病院まで、疾風の如き速さで向かった。

 

 

 

 病院のベッドで横たわるナオミの傍らに、彼女が意識を回復させるのを、じっと待つジェッタとシンヤが腰掛ける。

 その病室の外では、渋川と惣一がナオミの担当医と会話を交わしていた。

 

「相変わらず、意識不明の状態が続いております。病院側としても最大限の努力をしたのですが……。後は、本人の頑張り次第かと」

 

 そう言って深々とお辞儀をして去り行く医師に、会釈をする渋川と惣一。

 その直後に、ナオミの母親から彼女の事を任されていた渋川は、今回の一件を彼女に伝えるべく、重い足取りで屋上へと歩いて行った。

 そんな渋川を見送った惣一は、同じく病室の外にいたシンの元に歩み寄る。この事件で彼もまた、心に深い傷を負っており、椅子に座ったまま頭を抱えて蹲っていた。

 惣一はシンの肩を叩き、隣に腰掛ける。

 泣きそうになるのを必死に堪えるシンは、弱々しく独り言を並べた。

 

「……科学で平和は作れない。作れるのは暴走する怪物だけなんです。だから……、リセットするしかないのかも知れません。生命を奪い合う生態系は、確かに間違いなのかも……!」

 

 シンの頭を過ぎるのは、地域一帯の生態系を破壊したギャラクトロンの姿。

 鼻を啜りながら喋るシンの言葉を聞いた惣一は、じっくりと考え抜いた末に、励ましの言葉を投げ掛けた。

 

「──機械と同じ頭で考えたらそうかもな。だがな、シン君。機械は体温は測れても、想いの熱さは測れねぇ。……人間は違うだろ?

 人は……人の想いの強さに共感出来る。なぜか分かるか?」

「……心が、あるからですか?」

「そうだ……!俺達にはハートがある。だから大自然は争ってるんじゃなく、支え合ってるんだって分かる!

──シマウマが増えれば、草原が消えちまう。だからライオンがシマウマの数を減らす!」

 

 惣一が持ち出した食物連鎖の例え話の続きを、シンは断片的にだがしっかりと紡ぎ出す。

 

「ライオンが死ねば、大地に還り、その大地に、草が生え……」

「その草を食べて……。シマウマが育つ!!

……決して争ってるんじゃねぇよ。この地球(ほし)は……バラバラに生きる道じゃ無く、協力し合って、1つのでっかい生命として生きる道を選んだんだ……!」

地球(ほし)が丸ごと、1つの生命……」

 

 勢いを付けて立ち上がった惣一は、シンに背を向けながらも熱く語り続けた。

 

──ついでながら皆様は、『ガイア理論』なるものをご存知だろうか。

 地球と云う1つの星と、地球に生きる総ての生物が互いに結び付き、環境を構築する事を一種の「巨大な生命体」として考える憶説の事だ。

 この説が提唱された1960年代当初は別の名称もあったが、後にギリシャ神話の女神「ガイア」を由来に持つこの名前となったとされている。

 

 惣一が語っているのはまさしくこの事であり、この意味を理解したシンを見つめて、惣一は精一杯の想いを込めて、改めて彼を鼓舞するのだった。

 

「だからよ、シン君……!頭じゃなく、ハートで物事を見ろ!あのロボットには見えなかった世界を、見据え続けるんだ!うん!?」

 

 惣一の励ましにシンは、これを忘れないように、何度も何度も頷いた。

 

 

 

「……はい。大丈夫と思うんですけど……はい。

 ちょっと落ち着いて……。……?はい」

 

 その頃、屋上で通話を続けていた渋川の脇を、一陣の風となったガイが通り抜けた。渋川はそれに一瞬気を取られたが、何でも無かったかのように、また通話相手に話し続けた。

 ガイの勢いはこれに留まらず、廊下の椅子に座っていたシンと惣一の眼前を素通りした。

 その2人がこれに気付いて顔を上げたのと同時に、誰かが廊下を走る音と、惣一を呼ぶ声が彼らの耳に届いた。

 

「社長……!」

「おぉ……。どうした、何があった!?」

 

 惣一の元に駆け付けたのは、彼が製作所を任せた筈の芝尾だった。

 その彼が慌てた様子で駆け寄って来た為、余程の一大事が起きたのでは無いかと身構える惣一は、芝尾の肩を掴んで一体何があったのかを尋ねた。

 芝尾は息を整えつつ、涙ぐみながら惣一に説き始めた。

 

「墜落したゼットビートルのパイロット……。無事でした……!」

「……ホントか!?」

「うちのバネが……!緊急脱出装置用スプリングが、パイロットを救ったんですよ、社長……!」

「良かった……良かった!!うん!!良かったなぁ……!」

 

 惣一が芝尾を慰める一方で、ナオミがいる病室の前に立ったガイは、意を決して扉を開いた。

 そこには横たわったナオミと、彼女にタブレットを向けて語り続けるジェッタ、少し離れた場所で彼らを見つめるシンヤの姿があった。

 

「『ネバー・セイ・ネバー』……。諦めないんじゃ無かったの?キャップ……」

 

 ガイがやって来た事に気が付いたのか、シンヤがガイの名を呼ぶ。その声や表情には、心苦しさが滲み出ていた。

 

「ガイさん……」

 

 ジェッタもまた、たった今駆け付けて事情を知らないであろうガイに、ナオミの現状を語り出した。

 

「キャップ……意識戻らないかもって……」

 

 ジェッタが席を立った直後、入れ替わる形で椅子に腰掛けたガイは、眠ったままのナオミの左手を握り締める。そんなガイに続いて渋川や惣一、シンが病室にやって来た。

 ナオミの手を握ったまま目を瞬かせて、ガイはぽつりと呟いた。

 

「──俺は、オーブを許せない……」

 

 彼がこのように言うのも、無理は無い。

 闇の力を制御出来なかったせいでナオミは傷付き、また大切な人を守れずに戦いに巻き込んでしまった事への自責の念が、ガイの心に暗い影を落としていた。

 その一言にシンヤは動揺を隠せず、思わずガイの名を呼んだ。

 ガイの発言を聞いたジェッタもまた、その意見に賛同する姿勢を見せた。

 

「ガイさん……!」

「俺も……。オーブは味方だって信じて来たのに……」

 

 これを聞いたシンヤは衝動的にジェッタの胸倉を掴み、わなわなと震えながら、場所を弁えずに怒号を飛ばした。

 

「……ジェッタさん、そんな言い方無いじゃないですか!オーブは……ウルトラマンは、今まで僕らを助けてくれたじゃないですか!なのにっ、それなのに……っ!

……謝れ。今すぐ、今すぐオーブに謝れよ!!」

 

 数多くのウルトラ戦士の戦いやオーブの戦いを、この場にいる誰よりも近くで見守って来たシンヤにとって、ジェッタの発した一言はまさしく地雷だった。

 滅多に感情を露にする事が無いシンヤの激情に、ジェッタを含めた全員が圧倒される。

 しかし、これには売り言葉に買い言葉。ジェッタも負けじとシンヤを掴み返して吠える。

 

「……っじゃあ何だよ!?シンヤ君は、キャップがこんな事になったのに平気だってのかよ!!」

「2人とも、少し落ち着いて下さい……!」

 

 ジェッタとシンヤの仲裁に入ったシンだったが、それでも2人の言い争いは終息しない。

 これを止めたのは、年配者である渋川だった。

 

「いい加減にしろ、お前らっ!ここ病院だぞ……!それに、俺達がどんなに声荒らげたってなぁ……!ナオミちゃんが今すぐ目ぇ覚ます訳じゃねぇんだ……!」

 

 この言葉を受けてシンヤとジェッタは落ち着きを取り戻し、納得のいかない表情を浮かべながら互いの拘束を解いた。

 一部始終を見守っていた惣一は、この場にいる全員に向けて語り出した。

 

「──科学と同じだ。強力なパワーを作り出した途端、破壊と暴力に呑み込まれてしまう。そんな闇に、制御が利かなくなる。

 自分の闇ってのはな、力ずくで消そうとしちゃいけねぇんだ。逆に抱き締めて……電球みたいに自分自身が光る!そうすりゃ、ぐるっと360度、どこから見ても、闇は生まれねぇ」

 

 それを聞いたガイは、ナオミの手を握る自分の両手に顔を寄せて目に涙を溜めた。

 するとナオミの瞼がゆっくりと開き、傍にいたガイの名を呼んだ。

 

「ガイ、さん……?」

「ナオミ……」

 

 目を覚ましたナオミにジェッタ達は息を飲んだが、言葉を発さずにガイとナオミを見つめる。

 朦朧とする意識の中、状況が飲み込めないナオミは天井を一点に見つめながらガイに尋ねた。

 

「わたし……どこで、なにしてるの……?」

 

 この問い掛けにガイは、ナオミの手を離さずに、泣くのを堪えながら答える。

 

「病院で……。俺が手を握ってるよ」

「とても……あったかい……」

 

 そう述べて再び瞼を閉じたナオミは、眠りに就いた。

 それを見たガイは咽び泣き、落ち着きを取り戻した直後にナオミを見つめて、彼女に別れを告げる。

 

「俺は消える。……また逃げたんだと、思ってくれても良い。今の俺は……あんたの側にはいられない」

 

 そう言い残して病室を去って行くガイ。

 誰も彼を追おうとはせず、その背中をただじっと見つめるだけだった。

──彼を除いては。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ガイさん!!……また、帰って来ますよね?」

 

 しばらく時間を置いてからガイの後を追い、何とか追い付いたシンヤ。

 呼び掛けにも応じず背を向けたままのガイに叫ぶが、彼は足を止めただけで、こちらを振り向く事は無かった。

 肩越しにシンヤを見たガイはぽつりと呟き、シンヤと別離した。

 

「……悪い」

 

 それを聞いたシンヤは、年甲斐も無く号泣しながらガイの背中に届くような大声を上げた。

 

「……僕、待ってます!ガイさんが帰って来るのずっと……!ずっとずっと、待ってますから!」

 

 本来の風来坊に戻ったガイは、歩を緩める事無く進み続けた。彼がどこに向かうのか、それは彼にしか分からない。

 

 

 

 

 

 荒れ果てた大地に、乾いた風が吹き付ける。

 数時間前まで、ギャラクトロンとの死闘を繰り広げた焼け野原に戻ったガイは、ずっと回収されずに砂に埋まったままのベリアルのカードを見つめて考えを巡らせた。

 

(闇を抱き締める。そんな強さを……俺は見つけられんのか……?)

 

 砂に塗れたベリアルのカードを拾い上げ、再びホルダーに収納したガイは、己自身と向き合う為に「あの場所」へ向けて歩みを進める。

 地面に残されたガイの足跡も、吹き抜ける突風が運んだ砂利によって次第に埋もれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「……中々ショッキングな展開が続いてますが、今回も僕がナビゲーターを務めさせていただきます。

 さぁ、今回紹介するのはこの方です!」

 

【ウルトラマンネクサス!】

 

シンヤ「『受け継がれてゆく魂の絆』ウルトラマンネクサスさん。数あるウルトラ作品では珍しく、主人公が最終話まで変身しない事でも有名な方です。

 基本形態である銀色の『アンファンス』から、第二形態の『ジュネッス』へと二段変身。襲い来るスペースビーストや、全てを裏で操る黒幕『アンノウンハンド』に立ち向かいました」

 

シンヤ「ネクサスさんは、自身が選んだ『適能者(デュナミスト)』と呼ばれる方々と一体化。適能者の力は新たな適能者へと継承され、劇中ではネクサスの前日譚に当たる映像作品『ULTRAMAN(ウルトラマン)』を含めて、5名の人々がウルトラマンに選ばれました。

その他にも『ウルトラマンX(エックス)』第20話『絆-Unite(ユナイト)-』にてゲスト出演した際に、新たな適能者を選出しました」

 

シンヤ「しかし物語のシリアスな設定や、放映当時の新聞に取り上げられてしまう程のホラー要素等々、あまり子供受けする作品ではありませんでした。

 僕個人としては苦難や苦悩の果てに、誰かに背中を押される立場だった主人公が、やがて誰かの背中を押す1人の人間として成長する過程を描いた、所謂王道的な作品だと感じています」

 

シンヤ「ガイさんが負った心の傷は、とても深いです……。でもガイさんならきっと、また戻って来てくれると僕は信じています!」

 

シンヤ「次回も見てくれよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 失意の俺の前に、新たな脅威『合体魔王獣 ゼッパンドン』が現れる。

 だが、俺はもうあの力は使えない。

 あの闇の力に頼れば、きっとまた同じ過ちを……!

 

次回。

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『忘れられない場所』。




……いかがだったでしょうか。

小舟惣一を演じた木之元亮さんの演技力もあって、惣一さんの言葉1つ1つがとても重みのある名言となっている14話と15話。
この機会に是非、もう一度見直してみてはいかがでしょうか。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマンG(グレート)』第13話(最終回)『永遠(とわ)なる勇者』でした。

ではでは皆さん、また次回ノシ


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第16話 忘れられない場所 ━前編━

どうも。

※今回は「ウルトラマンオーブクロニクル」第5章「ルサールカより愛を込めて」の内容を多く含みます。



──時を遡る事、1908年。東欧諸国に位置する辺境の地・ルサールカ。生まれ育った故郷を離れて、この地で孤独に暮らす少女がいた。

 彼女の国では現在内乱が勃発しており、それを避ける為に彼女の父親は、戦火の届かぬこの土地に愛する娘を疎開させたのだった。

 

 その生活がしばらく続いたある日の事。

 ルサールカの森で薬草を摘んでいた少女は、突如出現した光の巨人と、巨大なモンスターの激戦を目撃した。

 少女の身の丈を、遥かに超える巨体を誇る金色の怪物──「宇宙戦闘獣 (スーパー)コッヴ」は両腕の鋭い鎌と額から発射する光弾で、巨人を確実に追い込んで行く。

 目の前で繰り広げられる光景に、信じられないと言わんばかりに少女は言葉を失う。しかし少女はなぜか、巨人の勝利を心の底から祈っていた。

 多大なダメージを負っているにも拘わらず、巨人は勇猛果敢に立ち向かい、壮絶な戦いの末に辛くもこの強敵を打ち破る。勝利を掴んだ巨人は力尽き、ルサールカの森の外れで姿を消した。

 

 少女は、巨人が消えた場所まで一目散に駆ける。

 森の外れに到着した少女が発見したのは、樹木にもたれ掛かる、傷だらけの青年だった。

 少女は青年の元に近付き、口元に水を運ぶ。青年はその水を一口飲んだ。意識はあるらしく、少女は心から安堵した。

 瞼を開いた青年は精悍な顔立ちだったが、その表情にはやや戸惑いの色が浮かんでいた。

 少女は青年が誰で、一体何者なのかと尋ねる。

 

 

 

 これがナターシャ・ロマノワと、後にクレナイ・ガイと呼ばれる青年の、運命的な出会いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギャラクトロンの一件で瀕死の重傷を負い、一時は危うい状態に陥ったものの、奇跡的に意識が回復したナオミ。

 立場上、彼女の部下に当たるジェッタとシンは、順調に回復に向かっているナオミを見舞いに、彼女が入院している病院を訪れていた。

 横一列に並んで通路を歩く2人だったが、何かを思い出したシンが、唐突に口を開いた。

 

「……あ、ジェッタ君。分かっていると思いますが、キャップの前であの話は……」

「分かってるって、ガイさんの事でしょ?」

「もう、だからその名前は禁止!キャップだって一応、女子なんですから……!」

 

 呆れ気味に返答するジェッタと正反対に、慌てる素振りを見せるシン。

 彼が言っているのは、あの日の出来事だ。

 ナオミが意識を取り戻した直後、ガイが自分達の前から何も言わずに去ってから、早くも数日が経過しようとしていた。

 今日ここにいないシンヤは、いつガイが戻って来ても良いようにと、SSPのオフィスでずっと留守番をしているらしい。

……あの日シンヤの激情を間近で見たジェッタは、未だに彼とのわだかまりが解けておらず、同じ場所にいると何だか気まずくなってしまうのだ。

 

 そんな事があった為に、2人はナオミの前では「ガイ」と言う言葉を極力使わないようにと制定したのだが……。

 

「あーもう、こんな時にガイさん、ホントどこ行っちゃったんだろ……」

「だからそれは禁止……!」

 

 それでもやはりジェッタの口からは、ガイの名前が零れ出す。

 これを咎めるシンだったが、ここは病院。あまり大声は出せない為、全て小声での注意となった。

 やがてナオミの病室前に達したシンは、またジェッタが口を滑らせないようにと釘を刺した。

 

「この部屋に1歩でも入ったら、『ガイ』って口に出すのは禁止ですよ。絶対に言わない、良いですね?」

「……分かった!」

 

 改めて誓いを交わしたジェッタとシンは、病室の扉を開けたのだった。

 

 

 

 ジェッタが差し出したタブレットに映し出される、古ぼけた白黒の動画を直視するナオミ。

 どこかの森で起きた謎の大爆発をフィルムに収めたその映像は、20世紀の初頭に撮影されたものであった。

 この映像が一体何なのか疑問に思ったナオミは、動画のタイトルを読み上げて、ジェッタとシンを問い質した。

 

「『ルサールカ大爆発』……?」

 

 それを尋ねられたジェッタはナオミに対してしどろもどろに説明を開始するが、所々で突然シンが声を上げて妨害をした為、重要な内容が頭に入って来なかった。

 シンがなぜこのような行動に出たのかと言うと、先程取り決めた約束が影響していた。意味合いは違えども、ジェッタの説明中に何度か「ガイ」と言う単語が登場した事で、それを誤魔化す為の妨害だったのだ。

 やがてジェッタも音を上げて、説明を放棄してしまった。

 

「あー、もう俺ダメだぁ……!」

「何が何だかよく分かんない!3行で要約!」

「あぁもう、シンさんやって!」

「!?えぇっ、えっとー……」

 

 動画の説明を押し付けられ、タブレットを受け取ったシンは戸惑いながらも気を取り直し、ルサールカで起きたこの事件の概要を説明した。

 

「1908年に……ルサールカで起こった大爆発は……原因不明とされており、人類史上最大のミステリーの1つです……!」

 

 何とか「ガイ」と言う単語を入れず、尚且つ簡潔な説明で概要を伝えたシンを、ジェッタは拍手で褒め称える。これを聞いたナオミも十分に理解出来た様子で、何度も頷いてみせた。

 更にシンはその映像を見た上での考察を、ナオミに語り出した。

 

「……ギャラクトロンの爆発を見て、推察したんです。もしかしたら、当時のルサールカでも、同じような事が起こっていたのでは無いか、と」

「……どういう事?」

「つまり、ルサールカにも、オーブのようなウルトラマンが存在し、怪獣や宇宙人と戦っていたのでは無いかと……」

 

 最後に仮説ですが、と付け加えてシンが説明を終えた直後、ナオミは繰り返すようにルサールカの名を唱える。

 

「ルサールカ……」

「……ルサールカが、どうかした?キャップ?」

 

 ナオミの何気ない呟きに反応したジェッタが、反射的に尋ねる。

 これにナオミは、自分でも半信半疑と言った具合に返答したのだった。

 

「うん……。何か、聞いた事があるような気がするのよね……」

 

 ルサールカの地名をどこで聞いたのか。それを思い出そうとして、天井をじっと見つめるナオミ。

 ナオミの疑問に答えを見出したのは、どこからか聞こえた女性の声だった。

 

「それ……。私のひいお婆ちゃんの故郷よ」

 

 その声が聞こえた方角を、訝しげな目で見つめるナオミ。

 声がしたのは病室の入り口。そこに立っていたのは、サングラスを装着し上下黒のスーツで固めた2人組だった。見た目はさながら、アメリカを舞台にしたSF映画に登場する、黒ずくめの男達だ。

 彼らが一体何者なのか、ナオミには見当が付いているようだったが、ジェッタとシンはお互いの顔を見合わせ声を揃えた。

 

「「……誰!?」」

 

 終始無言を貫いて歩を進める2人組の内、髭面の方と向き合ったナオミは、未だこの黒ずくめの正体に気付いていないジェッタとシンの為にも、彼の身元を明かした。

 

「……おじさん、ママ。何やってんの?」

 

 そう。彼らの正体は、ナオミの実母である夢野圭子と、ナオミの叔父に当たる渋川一徹であった。

 以前彼女は、何かと物騒な事件が多発している東京からナオミを連れ戻しに遥々上京したのだが、伝説の大魔王獣の復活やら何やら一悶着あって、結果的には娘が東京に残る事を認めたのである。

 

 変装していたのが圭子と渋川だと知り、ジェッタとシンは驚きを隠せなかった。

 娘のツッコミを受けてサングラスを外した圭子は、同じようにサングラスを外した渋川にそれを預けて、鼻の下に貼り付けていた付け髭を躊躇無く剥がす。その想像を絶する痛みに、圭子は思わず顔をしかめる。

 その一方でナオミは、裏で片付け作業に追われる渋川の姿を覗き見て、呆れながらに責めた。

 

「もー、おじさんも止めてよ……」

「この人止められないの、ナオミちゃんが1番良く知ってるでしょ……!」

 

 ナオミの指摘に小声で答える渋川だったが、圭子の帽子を手渡されて、また片付けを始めた。

 そんな義弟を尻目に、圭子は改めてナオミにルサールカについて語り出した。

 

「だからルサールカってのは、私のひいお婆ちゃん……つまり、あなたのひいひいお婆ちゃんが生まれ育った場所なのよ」

「そっか、だから聞いた事あったんだ……」

 

 少し前に生まれた疑問が解消されたナオミは、納得した表情を見せる。

 続いて圭子は、持って来ていた荷物の中から1つの人形を取り出す。それは本来SSPのオフィスに置いてある筈のマトリョーシカ人形だった。

 これはナオミも予想外だったようで、圭子と渋川に顔を向ける。

 

「……え?」

「SSPのオフィスから持って来た!」

「これ、そのお婆ちゃんの幸運のお守り。だからナオミが東京に出る時、持たせたんじゃない」

「だからって、病室にまで持って来なくても……」

 

 渋川と圭子の話を聞いたナオミは、2人に面倒をかけてしまったと思うのと、わざわざそれを持って来る必要があったのかと考えてしまう。

 しかし圭子は手近な椅子を引き寄せ、ナオミの傍に腰掛けてからも話を続けた。

 

「だけど……お婆ちゃんは、このお守りのおかげで……動乱の時代を生き抜き、日本で幸せな余生を過ごしたそうよ?今回の事故で、瀕死だったナオミが奇跡のぉ、V字……!回復を果たしたのも、このお守りのおかげだったりして~って、ママ思ってんのよね~……」

 

 渋川と一緒に両腕を上げて「V」を作った圭子は、マトリョーシカ人形を見つめて意味深な言い回しをする。

 これまでの話を聞いていたジェッタ達だったが、なるべく彼女の機嫌を損ねるような表現を避けて、圭子らが来てから感じていた疑問を、シンは圭子に問い掛けた。

 

「……それにしても、お母様はどうしてそんな珍妙な仮装をなさっているのですか?」

「だぁって、マスコミがしつこいんだもん!」

「マスコミ!?」

 

 圭子が窓の外を指差したのと同時に、窓辺にいたジェッタとシンは外の様子を伺う。

 圭子の言う通り、病院の外には数多くのテレビ局のカメラやら、撮影用の機材等がセッティングされており、中にはマガグランドキングが引き起こした大規模な地盤沈下を始めとした怪事件を報道し続けて来た「TKBニュース」のレポーターの姿もあった。

 今回の事件。暴走していたとは言え、オーブはゼットビートルを撃墜させ、そればかりか一般人であるナオミを巻き込み重傷を負わせてしまった。

 そのことから世間ではオーブを批判する声が高まり、オーブは味方では無く、怪獣や宇宙人と同じ人類の敵ではないのかとの声が多数上がるようになっていた。

 どうやらまだ、ナオミが意識を取り戻した事は彼らには公表されてはおらず、そのおかげでナオミはこうして無事に過ごせているが、圭子らに取ってはいい迷惑と言う訳だ。

 

「マスコミのヤツら……ナオミちゃんから、オーブを批判するコメントを引き出そうとしてるんだよ……」

「ウチにもいっぱい押しかけてるって。パパもすっかり参っちゃってるみたいで……」

「そんな……」

 

 ナオミは身の回りで起きている事態を重く受け止めて、愕然とした。

 ジェッタはナオミを見つめて、彼女が今回の事故をどう思っているのかを問う。

 

「……キャップは、オーブが憎くないの?」

 

 ジェッタからの問いにナオミは少し考える素振りを見せ、考えを纏め終えた彼女は、オーブの行いに理解を示す発言をした。

 

「……分かる気がするのよね……オーブの気持ち。あの時……私、自分が何をしてるのか分からなかった。オーブにも、同じような事が起こってたんじゃないかな。何か、巨大な力が彼を支配していたのかも……」

「……それは、マスコミの前では言わない方が良いな。ナオミちゃんの身に、危険が及ぶ事になるかも知れない」

「えっ……?」

 

 これを聞いた渋川は、ナオミにその意見は口外しないようにと指摘をした。

 渋川の言う通り、それ程まで国民のオーブに対する怒りの声が高まっている……と言う事だ。

 ジェッタ曰く、本日も国会議事堂前で「オーブを許すな」と言うデモ行進が行われているとの事。

 渋川が言うには、ビートル隊内でもウルトラマンオーブに対する批判の声が高まっており、次にウルトラマンオーブがビートル隊の前に姿を現した時、彼を攻撃する事になるかも知れない……と言う段階にまで至っているらしい。

 重苦しい空気が立ち込め始めた病室で、これを破るのはやはり彼女だった。

 呆れながら椅子から立ち上がった圭子は、SSPのオフィスに立ち寄った際に言葉を交わしたシンヤの事を思い浮かべながら、全員を非難した。

 

「あーやだやだ……。みんな忘れっぽいのねぇ~?あのウルトラマンに、散々助けてもらったんじゃないのさ!草薙君の方が、よっぽど人間出来てるわよ?」

「……いや義姉さん。ナオミちゃんは、命を落としかけたんですよ?」

「でも生きてるじゃない!ナオミだけじゃない。一徹さんのとこのパイロットも、無事だったんでしょ~?あのウルトラマン、日頃の行いが良いんじゃな~い?」

 

 娘と同様にウルトラマンオーブへの一定の理解を示し、誇らしげに腕組みをして直立不動の姿勢を取った圭子は、再び椅子に腰掛けて、向き合ったナオミを賞賛した。

 

「過去の恩を忘れないのは、人として、大事な事。ママ、あなたと草薙君が誇らしいわ!」

「ママ……!」

「……でもね?ガイ君の事はすっぱり忘れなさい」

「───え?」

 

 圭子が発したまさかの一言に、横になっていたナオミは思わず上体を起こして食い付いた。

 対するジェッタ達は、これまでタブー扱いにしていたガイの話題があっさりと登場してしまった事に慌てふためき、圭子が話を続けるのを止めようとする。しかし圭子の口は塞がらず、お得意の饒舌を披露し続けた。

 

「こぉーんな大事な時に、頼りにならない男なんか絶対ダメ!!……ママね、最初からガイ君の事、気に入らなかったの!」

「……あ、あのねぇ!私と彼は何でも無かったn」

「皆まで言うな~!!……ママはちゃ~んと分かってます。あなたがガイ君の事を想ってるって」

「……はぁ!?」

 

 ナオミの反論も全部分かっていると言わんばかりに遮り、ガイとナオミの関係を間違って解釈したまま、圭子は窓際のジェッタ達の元に歩み寄って更に続けた。

 

「若い娘はねぇ?み~んなガイ君みたいな、掴み所の無い男に惚れるもの!だけど?退屈でも、地に足付いた男と一緒になった方が幸せなの。ねぇ、一徹さぁ~ん?」

「えっ!?そこで、俺に振るんですか!?」

「もういっその事、草薙君なんて良いんじゃない?あの子も結構良い男よ~?」

 

 自分が言いたい事を言い続ける圭子にナオミは、早く地元に帰るよう食って掛かるが、ジェッタとシンが安静にするようにと抑える。

 この2人だけではナオミを抑えられず、遂には渋川も参戦して彼女を落ち着かせようとした。

 

「……もぉ~!Something Search People、全員退場ーっ!!」

 

 いよいよ我慢の限界を迎え、声高らかに全員の退室を宣告したナオミは、掛け布団を頭の上まですっぽりと被ったのだった。

 

 

 

 

 ナオミの病室を後にして、病院の待合室に出た圭子は、外の景色をじっと見つめていた。

 そんな彼女の元に渋川は近付いて、先程の行為の真意を問い質した。

 

「……義姉さん、何であんな事を?ガイ君がいなくなって、1番ショックを受けてるのは、ナオミちゃんなんですよ?」

「……あれが、ナオミの為なのよ」

 

 窓の外を眺めたまま、圭子はそう答える。

 

 その頃病室では、マトリョーシカ人形を手に取ったナオミが、特製マッシュルームスープをガイに振る舞った、あの日の事を思い出していた。

 

──それは……あなたと同じね。幾つもの別のあなたが、あなたの中に隠れてる感じ……

──最後の1つを開けてみれば……結局、空っぽだって分かる……

──最後の1つは開けちゃダメなんだって、パンドラの匣みたいでしょ……?

 

 ほんの数ヶ月前の出来事だと言うのに、今では何十年も昔の事のように思えてしまう。それ程までに、彼と過ごしたこの数ヶ月が、キラキラと輝いていたのだと改めて痛感したナオミは、マトリョーシカ人形をじっと見つめて、独り言を並べた。

 

「……ガイさん、あなたは、だぁれ?どこにいるの……?」

 

 ここでは無い世界のどこかにきっといるガイに思いを馳せて、ナオミはただ窓の向こう側の世界を目に焼き付けた。

 

 

 

 今もガイの事を思っているのは、ナオミだけでは無い。

 SSPのオフィスで1人きり、ガイの帰還を待ち続けているシンヤ。いつの間にか眠っていたようで、自分が今横たわっている事に気付く。

 ゆっくりと上体を起こしたシンヤは、現段階で最後に覚えている記憶を思い出す。

 渋川と圭子がここを訪れて、ナオミにマトリョーシカ人形を持って行くと言っていた。そして自分は2人にお茶を差し出して、圭子と少し語り合った。詳しい中身は朧気だが、確か自分は、彼女にこう言ったのでは無かっただろうか。

 

──オーブが危険視されるのも分かります。

 でもウルトラマンはこれまでずっと、僕らの事を守ってくれたんです。

……例え、ウルトラマンが世界中から敵視されるような事があったとしても……味方が僕だけになったとしても、僕は彼の味方であり続けたい。

……そう、考えてます。

 

 それから2人がオフィスを立ち去る時に、圭子から何かを差し出された筈。そう思ったシンヤは、ズボンのポケットから2つ折りになった小さな紙を見つけた。

 それにはどこかの住所らしき文字が書かれており、これを見てシンヤは、圭子が何と言っていたかを思い出した。

 

──草薙君の名字って、今時結構珍しいじゃない?この前聞いた後、私ちょっと気になっちゃって。だから調べてみたのよ〜。

 はいこれ。もし忙しいなら、後ででもそこ行ってみたらどうかしら?何か分かるかも知れないわよ?じゃあねぇ~♪

 

……こう言っては何だが、圭子は空気を読まずにその場の空気を掻き乱す事に定評があり、その一方で時々勘の鋭い一面を垣間見せるのだ。

 彼女が残したこのメモ書きも、いつか役に立つかも知れないと思ったシンヤは、それを財布の中にしまい込んだ。

 

「ガイさん……いつになったら帰って来るかな」

 

 シンヤは、ガイが愛飲していた瓶ラムネを幾らか備蓄していた。彼がいつ帰って来ても歓迎出来るようにする為だ。しかし今日もガイが帰って来る気配が無い為、蓄えていた瓶ラムネを1本取り出して、そのビー玉を押し込んだ。

 シンヤには、この瓶ラムネにもガイとの思い出がたくさん詰まっていた。ビー玉を押し込めばシンヤはいつも失敗し、その度にガイに笑われた。最近は成功する事も多くなったが、その全てが大切な思い出だ。

 いつもガイが陣取っていた小上がりに目が行ったシンヤはそこに上がると、中央に置かれていたちゃぶ台に突っ伏す。

 すると、突如発生した強烈な睡魔がシンヤを襲う。抵抗する事も無く、睡魔に身を委ねたシンヤは、ぐっすりと眠り始めた。




シンヤ君がヒロイン風になってしまった……。
だが、後悔はしていない。

続きは後編、夕方に投稿(予定)です。


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第16話 忘れられない場所 ━後編━

後編です。
ジャグジャグの雰囲気を文面に落とすのは、中々難しいです……。


 ナオミとシンヤがガイの身を案じる一方で、日本から遠く離れたルサールカの森に、来訪する青年がいた。

 数百年前の大爆発の爪痕は皆無に等しく、大空を舞う鳥の声が森中に響き渡り、木々は青年の身長を遥かに超えるまでに成長していた。

 

「ルサールカ……。あれから100年か……」

 

 森を散策していた青年──クレナイ・ガイは、かつてこの場所でナターシャと共に過ごした日々の思い出を回想した。

 

 

 

──彼女と初めて出会った日の事を、今も鮮明に覚えている。強敵との闘いで深手を負った俺を見つけたナターシャは、素性も知らない赤の他人である筈の俺を助けてくれた。

 一時的な間だけだったが、俺は自分が「ウルトラマンオーブ」である事を忘れてしまっていた。

 それを心配してくれた彼女が住む小屋に、2人で暮らす事になった。

 ルサールカの清浄な風土は、俺を順調に回復へと向かわせた。特に、ナターシャが作ってくれたきのこスープは格別だった。

 そんな生活の中で、彼女にも変化があった。

 これまでナターシャはずっと、孤独の中で生きてきた。だが、俺が近隣の村の人々と交流を深めると、彼女も俺を通じて人々と心を通わせるようになったのだ。

 ある日俺は、懐から取り出した楽器───オーブニカで、自分の故郷の曲を演奏した。そのお礼としてナターシャも、自分の故郷に伝わる子守唄を教えてくれた。

 

『♪~、♪~……』

『♪~、♪~……』

 

 俺達は森へと散策に出かけてはこのメロディを合奏し、お互いにとっても心地良い日々を過ごしていた。

 

 だが、そんな日々も終わりを告げた。

 俺達の生活が一ヶ月程度続いたある日。突如空に不気味なオーロラが出現し、その中からプリズムに似た「光怪獣 プリズ魔」が襲来した。

 咄嗟に駆け出した俺は光に包まれ、ウルトラマンオーブに変身した。闘いの中で記憶を取り戻した俺はプリズ魔に立ち向かい、これを撃破した。

 激しい戦闘で、著しく体力を摩耗した俺に追い討ちを掛けるように、封印を解かれた「光ノ魔王獣 マガゼットン」が森の中に現れた。

 奴の侵攻を食い止める為に俺は行こうとするが、ナターシャは俺を止めようとした。俺は彼女にオーブニカを託し、必ず帰って来る事を約束。

 ナターシャと分かれ、光の戦士の姿となった俺は、マガゼットンに向かって行く。

 

『オォラァァ!!シュアァッ!!』

 

 微かに残る力を振り絞り、マガゼットンと相対する俺の耳に、ナターシャの声が聞こえた。その声を頼りに周囲を見回すと、オーブニカを握り締める彼女の姿を目撃した。

 

『ナターシャ!?なぜここに……』

「その声、もしかして……ガイ!?」

『早く逃げろ!ナターシャ!』

 

 これまでずっと暮らしていた相手が、あの日森で目撃した光の巨人だと知ったナターシャは、驚愕の声を上げた。

 俺はオーブの姿のまま、ナターシャにこの場から早急に離れる事を進言する。

 その一瞬を突いたマガゼットンは、頭部の赤い発光体から発射した「マガ光弾」で俺を襲った。

 俺に直撃したマガ光弾の爆風は広範囲に渡り、俺の側にいたナターシャを巻き込んだ。

 

『ナターシャ!!……!!』

 

 彼女を闘いに巻き込み、殺してしまったショックから、俺は我を忘れて暴走。そのせいで俺は、ウルトラマンオーブ本来の力を失う事になった。

 マガゼットンに勝利した事で、これを封印していた「初代ウルトラマン」さんのカードを獲得したが、俺が失ったものはそれよりも大きかった。

 焼け野原に残っていたオーブニカを拾い上げて、ナターシャは本当に死んでしまったのだと知った俺は、枯れ果てるまで涙を流して叫び続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な事まで思い出してしまったガイは、瞳を閉じてこれを振り払おうとした。

 そんな彼の背後から突然、腐れ縁同然の宿敵の声が聞こえた。

 

「──やはりここにいたか。

 ……ここに来ても失ったものは戻らない。お前は昔の自分には決して戻れないぞ」

 

 毎度の如く神出鬼没に現れたジャグラーに対して、背を向け続けるガイ。

 それでもジャグラーは喋り続けて、ガイの怒りを少しずつ煽り立てる。

 

「ベリアルが新しいお前を引き出してくれたじゃないか。あれがお前の本当の姿だ」

「違う……!」

「恥じる事は無い。力を持った者は、己の力を試す為に他のものを破壊し、支配したくなるのさ」

 

 ガイとは正反対に、上機嫌な雰囲気でガイの元まで詰め寄ったジャグラーはふと足を止めて、彼を更に挑発した。

 

「ただし……。お前の場合、大事なもの程壊したくなるようだな。……昔も、今も」

「何……?」

 

 ジャグラーのこの発言に我慢の限界を迎えたガイは、怒りに任せて拳を振るう。それをヒラリと躱したジャグラーは魔人態へと変貌し、ガイの後ろに回り込む。

 この流れのまま戦闘が開始され、全く引けを取らない両者が鍔迫り合う。

 やがて両者の闘いは、格闘戦からエネルギー弾の撃ち合いへと移行する。ガイが放った光弾をジャグラーは片腕で弾き、逆にジャグラーが放った闇のエネルギー弾はガイが光に変換して撃ち返す。だがジャグラーはそれを蹴り飛ばし、反撃のエネルギー弾を発射。

 間髪入れずにジャグラーは、機関銃のように闇のエネルギーを乱射する。この数に対処出来なかったガイは数発を貰い、地に伏してしまった。

 

「これを見ろ……!ハアッ!」

 

 鞘から引き抜いた愛用の邪心剣を、ジャグラーは天高く掲げる。すると刀身から放たれた紫色の光が天に届き、ルサールカ上空に赤黒い渦を形成する。その渦の中心地からは、紅い稲妻を放ちながら蠢く「ナニカ」が出現した。

 上空を見上げるガイに対してジャグラーは、それが一体何なのかを説明する。

 

「覚えているか……?お前が引き千切ったマガオロチの尻尾だ!お前がマガオロチを倒して飛び去った後、密かにヨミが回収したんだ」

「そんな馬鹿な……!」

「さぁ、始めようか……!」

 

 真実を知って驚愕するガイを尻目に、ジャグラーはダークリングを構えて2枚の怪獣カードを読み込む!

 

「ゼットンよ!」

【ゼットン!】

「パンドンよ!」

【パンドン!】

「お前達の力、頂くぞ!」

 

 ガイがウルトラ戦士の力を借りてフュージョンアップを行うかのように、ゼットンとパンドンの怪獣カードを使ったジャグラーは、そのエネルギーを自身ごとマガオロチの尻尾に送り込んだ!

 直後ルサールカの大地に紅い閃光が照射され、爆発音と共に砂煙が立ち上がる。

 砂煙が晴れた時、そこにいたのは鮫のような鋭い顔つきで、うねりを上げて吹き上がる火柱のような両肩を持つ怪獣であった。

 だがこの怪獣の実態は、初代ウルトラマンとウルトラセブンを苦しめた強豪「宇宙恐竜 ゼットン」と「双頭怪獣 パンドン」、そして1度はオーブを撃破した「大魔王獣 マガオロチ」の意匠を全て受け継いだ、新たな魔王獣だった。

 

『「超合体!ゼッパンドン!!」』

 

 ゼッパンドン内部のインナースペースに存在し続けるジャグラーが、この怪獣の名を叫ぶ。

 全身から異様なオーラを放出する「合体魔王獣 ゼッパンドン」の雄叫びが、ルサールカの森に響き渡った。

 

 

 

 

 

 この脅威を前にしても、怖気付く事無くガイはオーブリングを構えた!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

『俺の名はオーブ!闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 ルサールカに降臨したウルトラマンオーブ スペシウムゼペリオンと、ゼッパンドンが睨み合う。

 先に動いたのは、ゼッパンドン。ゼットンとパンドンの鳴き声を混ぜ合わせたような声を上げながら、オーブに向かって突き進む。

 オーブもこれを向かえ撃つが、マガオロチ譲りなのかゼッパンドンの防御力は高く、あまりダメージにはならず、胴体に蹴りを叩き込まれた。

 その反動でオーブは一旦距離を取るが、ゼッパンドンは頭部の口腔から超高温の火球「ゼッパンドン撃炎弾」を撃つ。

 これにオーブは、上空に飛翔する事で対処したが、すかさずゼッパンドンは、頭部の両脇に発達しているパンドンの頭部に似た器官から、紫色の破壊光線を発射する。

 すんでの所で回避したオーブは、着地後すぐに反撃を開始した。

 

『スペリオンッ、光輪!』

 

 鋭い切れ味を誇るスペリオン光輪が、ゼッパンドン目掛けて真っ直ぐに飛んで行く。

 だがしかし、ゼッパンドンは固有能力を何も使わずにこれを両顎で受け止め、煎餅のように噛み砕いてしまう。

 ジャグラーが融合している影響か、ゼッパンドンは奥歯に詰まった光輪の一部を、鉤爪状になった指先で取り除く人間じみた動作を取る。

 除去が済んだゼッパンドンは、オーブを挑発する素振りを見せた。

 この挑発に乗ってしまったオーブは、必殺光線の構えを取った!

 

『スペリオンッ!光線!!』

『ゼッパンドンシールドォ!!』

 

 オーブが放ったスペリオン光線は、ジャグラーの声と共にゼッパンドンが前面に展開した、六角形のバリアによって阻まれてしまった。

 勝ち誇るように吠えるゼッパンドンの内部空間では、ジャグラーがオーブを嘲笑った。

 

『「ハッ!光線技はゼッパンドンには通用しない!」』

 

 これに対してオーブは、別のフュージョンアップ形態による打倒を試みた。

 

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 ハリケーンスラッシュ!】

 

 オーブスラッガーランスを構えたオーブを迎撃するゼッパンドンは、拳を掴んで指を鳴らす。

 オーブは額のクリスタルを発光させて、かつてゼットンの同族でもある、ハイパーゼットンデスサイスの瞬間移動とも互角に渡り合った高速移動を発動。

 しかし、ゼッパンドンもゼットンの力を用いている事もあって、瞬間移動能力でオーブの高速移動を逆に翻弄する。

 背後を取ったゼッパンドンは、オーブに襲い掛かるが、オーブも負けっぱなしで終われない。

 

『そこだァ!!』

 

 瞬間移動の先を読み、実体化していたゼッパンドンにオーブスラッガーランスの穂先を突き立てる事に成功したオーブ。

 素早くランスレバーを2回引き、ランストリガーをタッチしたオーブは、相手の体内に高エネルギーを放つ事で、内部から相手を爆破させる「ビッグバンスラスト」を仕掛けた。

 だがゼッパンドンは、全身の高熱でオーブが思わず手を放してしまう程にオーブスラッガーランスを熱し、体内に吸収してみせた。

 反撃に出たゼッパンドンは、口から稲妻の光線を放射してオーブを追い詰める。その証拠に、オーブのカラータイマーが点滅を開始した。

 ゼッパンドンは元々高い戦闘力を有しているが、一体化を果たしたジャグラーの知性が加わり、オーブを終始圧倒すると言う結果を生んだのだ。

 

『「闇の力を頼れ。このまま滅びるか、闇に堕ちるか。お前にはそれしか無いんだ!」』

 

 オーブ内部のインナースペースでジャグラーの声に反応したガイは、ウルトラマンベリアルのカードを手に取りそれをじっと見る。

 ジャグラーの言う通り、この力を使えば、目の前の強敵を退ける事も可能だろう。

 だが、もしも制御出来ずにまた暴走してしまったら……?

 悔しげに表情を曇らせたガイは、ベリアルの力に頼らずゼッパンドンに立ち向かう道を選んだ。

 

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 バーンマイト!】

 

 登場して早々にスワローキックを叩き込んだオーブだったが、この程度の技で揺らぐゼッパンドンでは無かった。怪力自慢のバーンマイトでも、ゼッパンドンに指したるダメージを与える事は叶わず、逆に力負けする一方であった。

 やがて派手に蹴飛ばされたオーブは地を転がり、追撃の手を緩めないゼッパンドンの火球攻撃の餌食となり、全身がボロボロに傷付いていく。

 

『「もう終わりか!?ガイッ!!」』

 

 オーブであるガイの不甲斐無さに、ジャグラーは失望の声を上げた。

 フラフラになっても尚立ち上がったオーブは、僅かに残っていたエネルギーを炎に変換し、全身に纏わせる。

 

『ストビュームッ!ダイナマイトォォォ!!』

 

 真っ赤に燃え滾る業火と化したオーブは、「ストビュームダイナマイト」で決死の特攻。オーブの大爆発に、ゼッパンドンは巻き込まれた。

 オーブの爆発にも無傷で耐え凌いだゼッパンドンだったが、オーブはこの爆発で生じた爆炎を目眩しとして利用する事で、戦場からの一時撤退を成功させた。

 

『「どこだ……ガイ……!どこだァァァ!!」』

 

 まんまとオーブに出し抜かれ、逃げられてしまったジャグラーは、1人空しく叫び続けた。

 

 

 

「ぐっ……!ううっ……」

 

 何とか戦線を離脱出来たものの、虫の息となったガイは、痛みを堪えながら森を歩き続け、近くに生えていた樹木にもたれ掛かり瞼を閉じた。

 すると、誰かが自分の頬に触れたのを感じ取る。

 瞳を開いたガイの目の前には、この世には既に存在しない筈の少女がいた。

 

「ナター……シャ?」

 

 数百年振りに再会したナターシャが、自分を迎えに来たのかと感じたガイは、彼女に手を伸ばす。ナターシャもガイの手を握るが、彼女はガイに何も描かれていない白紙のフュージョンカードを託したのだった。

 

「これは……?」

「あなた自身よ。ありのままのあなた」

 

 ガイの問い掛けにナターシャは答えたが、どこか聞き覚えのある声にハッとしたガイが彼女を見ると、そこにいたのはナターシャでは無く、自分が別れを告げた筈のナオミだった。

 

「ナオミ……!?」

「戻って来て、私の元へ。……私は、ありのままのあなたを受け入れる」

 

 ガイの手を握り、微笑んでみせたナオミは立ち上がると、森の奥へと歩み始めた。

 去り行くナオミの名を呼ぶが、彼女はどんどん遠ざかって行く。

 

 ナオミ─────!!

 

「……ッ!!」

 

 ガイが目を覚まし、咄嗟に辺りを見回してもナオミはおろか、ナターシャの姿も無かった。

 不思議な夢を見たと思ったガイだったが、その手には彼女らから託された真っ白なカードが握られていた。

 

「俺には何も見えない……。己の心も……守るべき未来も……」

 

 未だに立ち直る事も出来ず、すっかり意気消沈してしまったガイは、再び瞼を閉じた。

 

 

 

「♪~、♪~、♪~……」

 

 その頃、日本。

 病室のベッドで横になっていたナオミは、ガイがいつも演奏していたオーブニカのメロディをハミングする。

 

「♪~、♪~、♪~……」

 

 するとどこからか、そのメロディを奏でる口笛が聞こえた。これを聞いて安心したのか、ナオミは瞳を閉じて、眠りに就いた。

 

 これを奏でていたのは、白衣を着込んだ1人の男性。通路の真ん中を足音を立てて歩く彼の両脇には、病院の関係者が数名倒れ込んでいた。

 ではなぜ彼が、その人達を救わないのか。

 なぜなら彼は医者では無く、白衣を着たジャグラスジャグラーだったからだ。

 ゼッパンドンから一時的に分離したジャグラーは邪心剣を取り出し、刀で廊下を引き摺りながら一歩、また一歩とナオミの病室を目指して進んで行くのであった。

 

 

 

 その頃、SSPのオフィス。

 そこで眠っていたシンヤが、突如目を覚ましたと同時に跳ね起きた。

 

「何だ……!?今の夢……」

 

 シンヤが見た夢と言うのは、彼が知る筈の無いどこかの森で、オーブとこれまでに例の無い怪獣とが死闘を繰り広げる場面と、入院しているナオミの身に迫り来る災厄のイメージだった。

 

「さっきの夢が本当だとしたら、ナオミさんが危ない……!」

 

 この悪夢に嫌な胸騒ぎを覚えたシンヤはすぐにオフィスを飛び出し、全速力で病院へと向かって駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「今回も僕が、ナビゲーターを務めさせていただきます!さて、今回紹介するのは、この方です!」

 

【ウルトラマンティガ!】

 

シンヤ「『超古代の戦士』ウルトラマンティガさん。GUTS隊員の『マドカ・ダイゴ』さんが変身するウルトラマンです。

 特徴的なのは、昭和のウルトラ戦士とは違う赤・青紫・銀色のカラーリング。

 現在まで続いている『タイプチェンジ』を初めて駆使したウルトラ戦士で、基本形態の『マルチタイプ』やスピードとテクニックに特化した青紫色の『スカイタイプ』、パワーと耐久力に秀でた赤色の『パワータイプ』の3つを臨機応変に使い分けて闘いました」

 

シンヤ「他にも全身に金色の光を纏った『グリッターティガ』、劇場作品では全身が黒い『ティガダーク』や、スカイタイプとパワータイプに該当する『ティガブラスト』、『ティガトルネード』等の様々なバリエーションの派生形態が登場しました」

 

シンヤ「80さん以来約16年振りの完全新作なだけあって、当時は大きな話題となりました。

 放映終了後の現代であっても根強い人気を誇り、後世の劇場作品にも度々客演しています」

 

シンヤ「TV本編最終話のその後を描いた劇場作品『THE FINAL ODYSSEY』でダイゴさんは、次回作『ウルトラマンダイナ』の主人公『アスカ・シン』さんとすれ違っていて、ダイナ終盤でゲスト出演を果たした際には、思い悩むアスカさんに昔の自分の姿を重ねたのか、助言を与えました」

 

シンヤ「……と言う訳で、今回はこれにて以上となります!僕は、ナオミさんの元に急ぎます!」

 

シンヤ「次回も見てくれよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 合体魔王獣 ゼッパンドンの脅威が迫る中、遂に明かされる、俺とナオミの数奇な運命。

 その絆と、己を信じる勇気が、俺の力を呼び覚ます!

次回。

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『復活の聖剣』。

 これが、本当の俺だァッ!!




……いかがだったでしょうか。

最後の「ウルトラヒーロー大研究!」は、当初の予定ではティガダークを紹介する予定でした。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラセブン』第47話『あなたはだぁれ?』でした。

ではこれにて……ノシ


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第17話 復活の聖剣 ━前編━

皆様、ご無沙汰です。
勝手に夏休みをいただき、今回帰って参りました。

今回覚醒するのは、オーブだけではありません。


 全速力でSSPのオフィスから風を切り、ようやく病院前に到着したシンヤ。

 シンヤが自身の両目に意識を集中させると、ギャラクトロンの時と同様の現象が起きた。

 その目に映ったのは、病院の外観からでもはっきり分かる程に、あるフロア一帯だけを包み込んだ黒いオーラだった。

 そこにナオミがいると推察したシンヤは、1分でも早くそのフロアに向かおうとする。

 だがシンヤの行く手を阻むように、道の中央に立ち塞がる者がいた。

 忘れもしないその相手を目の前にして、シンヤは仇敵の名を呼んだ。

 

「やっぱり生きてたんだな、ヨミ……!」

 

 シンヤに呼ばれたヨミは、明確にニヤリと笑ってみせた。

 ナオミと同様ギャラクトロンの爆発に巻き込まれた筈のヨミだったが、外傷は1つも無く、健全な様子でシンヤに答える。

 

「当然。あの程度で死ぬ私だとでもお思いですか?ベリアルの力が如何程か、1度直に手合わせをしたかったのでね」

「手合わせって……!その為だけに、ナオミさんを巻き込んだのか!?」

「……何か問題でも?」

 

 ヨミは悪びれる様子など一切無く、ただ不思議そうに首を傾げるだけだった。

 これを見たシンヤは怒りを通り越して溜め息を吐き、改めてこの敵手と向かい合った。

 

「……今、はっきりと分かったよ。やっぱり、僕とお前は相容れないんだって」

「何を言い出すかと思えば……。光と闇にそれぞれ選ばれた我々が、分かり合えるとでも?」

 

 ヨミのこの一言が皮切りとなって、両者の間には緊迫した空気が流れ始める。

 そして次の瞬間、双方は目にも止まらぬ早さで肉薄し、激しい攻防を繰り広げる。互いに一手先の攻撃を予測し、それを防いではまた反撃のイタチごっこが延々と続いたが、組み合う形で一度両者は睨み合う。

 これだけ荒々しい戦闘を展開しつつも、呼吸を一切乱さぬ余裕のある表情でヨミは、自分と互角に渡り合える程の成長を遂げたシンヤを賞賛した。

 

「……また腕を上げましたね?草薙シンヤ」

「まぁ、ね……。絶対にお前を倒す……!」

「ハハッ、言ってくれますね。──では、存分に楽しませて下さいよ?」

 

 シンヤの威嚇を軽く笑って過ごしたヨミは、より一層口角を上げた。

 それから間も無く、シンヤとヨミによる第2ラウンドが開幕した。

 

 

 

 

 

 B519病室。

 この部屋こそ、今回の事件で重傷を負った夢野ナオミが入院している病室である。

 病室の扉に「夢野奈緒美」の名前を確認した医師は、ゆっくりと扉を引いた。

 彼が室内に入ると、彼女はこちらに背を向けてぐっすりと眠っていた。患者を誤って起こさないように、ゆっくりと歩み寄った医師は、ひそひそと彼女に語り掛けた。

 

「……夢野さ〜ん、診察ですよ……。血圧測りますね……」

 

 眠るナオミに近付いた医師は、彼女の左腕の手首を掴んだ。

 医師に触れられた事で気が付いたのか、ナオミは目を覚ますが、途端に彼女は息を呑んだ。

 

「……?……!?」

「おやぁ……?脈拍が上昇してますねぇ……?少し熱もあるようだ……。恋の病って奴かな?」

 

 医師の正体は白衣を纏ったジャグラーであり、彼はナオミの左腕を自分の顔に引き寄せ、ナオミに迫った。

 目の前の男の行為に恐怖を覚えたナオミは必死に抵抗するが、ジャグラーは彼女の耳元で囁く。

 

「離して……!」

「なぜ、マスコミに真実を公表しない?

 ウルトラマンオーブには失望した。奴は人類の敵であり、この星から排除すべきである。

 あなたがそう言えば、人類は一斉にオーブを敵視する。奴は一巻の終わりだ……!」

 

 そう言いながらぐいぐいと距離を詰めてくるジャグラーを押し退け、ナオミは強く叫んだ。

 

「……っオーブは敵なんかじゃない!きっと、自分の力の大きさに苦しんでるだけ!あなたはなんでオーブの事を憎むの?……一体、何があったの?」

 

 ナオミの強い眼差しに、軽蔑の態度を取ったジャグラーは彼女に背を向ける。そんなジャグラーの背中に、ナオミは更に問い掛けた。

 

「もしかして、ガイさんの行方も知ってるんじゃ……?」

「アイツはあなたの事を置いて逃げ出した。そんな男の話はどうでも良い」

「どうでも良くなんかない!……きっと、私達には言えない、深い事情があるんだと思う。ガイさんは……必ず帰って来る」

「フンッ……、ずいぶんと肩を持つじゃないか。──試してみるか?」

 

 ナオミの口からガイの名が出て来た事で、ジャグラーは一段と難色を示す。

 しかしナオミの返事を聞いたジャグラーは、冷酷な笑みを浮かべた後にどこからともなく蛇心剣を引き抜き、振り向きざまに彼女の顔面スレスレの宙を斬った。

 目の前の光景に怯えるナオミだったが、自分の傍で何かに亀裂が走った音を聞く。

 ハッとして脇を見ると、そこには曾祖母のお守りのマトリョーシカ人形があった。しかし、触れていない筈の人形が倒れ、床に落ちた拍子に最後の小さな人形を残して、全ての人形がいつの間にか斬られてしまっていた。

 言葉の出ないナオミだったが、魔人態としての本性を曝け出したジャグラーを目撃して、思わず後ずさった。

 怯えるナオミを一笑したジャグラーは、蛇心剣を構えてナオミを襲う。

 

「フフッ……次はお前の番だ……!ハッ!!」

 

 ジャグラーは振りかぶった蛇心剣でナオミを斬りつけようとしたが、彼女が悲鳴を上げたと同時に現れた光によって一瞬動きが止まってしまう。

 ジャグラーの魔の手からナオミを救い、彼女を抱き抱えた光が徐々に弱まる。

 そこにいたのは、遠いルサールカの地から颯爽と駆け付けたガイに他ならなかった。

 

「……遅かったな。あと少しであの世行きだったぞ?」

 

 気絶したナオミを両腕で抱えるガイは、背後から語り掛けてくるジャグラーを一切顧みる事も無く、光の速さで病室を後にした。

 魔人態を解いたジャグラーは、そんなガイを見てほくそ笑んだのだった。

 

 

 

 ナオミが次に目を覚ました時、そこは現在休工中の工事現場の事務所のようだった。それを証明するように、周囲には赤い三角コーンや黄色と黒のロープ等が纏められていた。

 それ以外にもナオミは、自分の身体に見覚えのあるジャケットが、掛け布団のように掛けられていることに気が付いた。

 彼女がゆっくりと上体を起こすと、その傍らには数日前にいなくなった筈のガイが座っており、咄嗟にナオミはガイの名を呼ぶ。

 

「ガイさん……」

「ナオミ……。すまない……」

「……えっ?」

 

 開口一番に自分への謝罪の言葉を述べたガイに戸惑うナオミだったが、ガイは尚も語り続ける。

 

「俺のせいでまた巻き込んじまって……。大切なマトリョーシカも……この通りだ。

 これ以上大切なものを傷付けたくないのに……。俺といるとみんな不幸になる……」

 

 既の所でナオミを救ったガイはその際に、現在自分の手の中にある小さなマトリョーシカ人形を拾い上げていた。

 しかし自分がナオミを巻き込んでしまった事が原因で、彼女の大切な人形は、最後の1つを残して壊されてしまった。

 それを握り締め、悔恨の念に駆られ自己嫌悪に陥った今のガイには、これまでの勇猛さは微塵も無かった。

 そんなガイを叱咤するように、ナオミはすっくと立ち上がり、彼の元に歩み寄る。

 

「勝手に決めないで……!

 ……あなたが何者で、どんな秘密を抱えているのかは分からない。……けど、一緒にいるって、私が自分で決めたの!……あなたの事、信じてるから」

「ナオミ……」

 

 自身を見上げるガイと目線を合わせるようにしゃがんだナオミは、ガイが握っているマトリョーシカ人形についての説明を始めた。

 

「……それ、ママが病室に持って来てくれたの。祖先のお婆ちゃんが残した、幸運のお守りなんだって。……最後の1つは、ガイさんが持ってて」

 

 ガイの手を握って人形を託したナオミに、ガイはやや訝しげに尋ねる。

 

「どうせ中身は空っぽなんだろ……?」

「違うよ?……最後の1つには、『希望』が残されてるの」

 

 ナオミの言う『希望』が一体何なのか、皆目見当も付かなかったが、ガイは小さな人形をじっと見つめたのだった。

 

 

 

 場所は変わり、ナオミの入院している病院。

 ビートル隊本部より連絡を受け、足早に去る渋川を追うジェッタとシンだったが、先程彼から聞いた耳を疑うような話について追究した。

 

「それ……!本当なんですか!?」

「あぁ。ビートル隊は、オーブを攻撃対象に指定した」

「早急過ぎます!オーブが敵と決まった訳では……」

 

 ビートル隊によって正式に下されたその決定に、反論の姿勢を見せる2人だが、それに納得していないのは渋川も同じ。

 歩みを止めた渋川は、人々の平和を守る立場にいる自分ならではの言葉を、2人に説き始めた。

 

「俺だってそう思ってるさ!

 ……だけど、これ以上犠牲が出るのを……黙って見過ごす訳に行かない。

 ……いいか?何かを守るって事は、何かを傷付ける覚悟を持つって事なんだよ!……まぁ、俺が言えた事じゃねぇけどな……」

 

 渋川が最後に言葉を濁したのは、異星人によって怪獣に変えられてしまった、かつての幼馴染に対して引き金を引けなかった出来事を思い出したからだろう。

 あの時渋川は、あと一歩のところで決心が揺らいでしまった事が原因で、町への被害を余計に大きくさせてしまった。だからこそ、次こそはその二の舞を踏む訳には行かないのだ。

 辛い現実を突き付けた渋川は、再び急ぎ足で2人から離れて行った。

 その背中を見つめるジェッタとシンだったが、ジェッタは不意にぽつりと呟く。

 

「……何かを守る事と、傷付ける覚悟。それって、オーブも一緒なんじゃないかな?

 オーブだって、何かを守る為に、何かを……傷付けながら闘って来た。正義にだって、光と闇の面がある。そういう事なんじゃないかな……?」

 

 これまでのオーブの闘いを振り返りながら、ジェッタはシンに語り続ける。

 オーブは、自分達を守る為に時には自ら傷付き、またある時は多くの人々を救う為に何かを傷付けながら闘った。

 渋川の言葉を聞いたジェッタは、正義の持つ二面性を、今回改めて痛感したのだった。

 彼の言葉を受け止めたシンにも、思う所はあったのか何度も頷いて見せたが、突然愛用のスマホが振動した。

 それは病院関係者からの電話であり、咄嗟に電話を取ったシンが聞いたのは、入院していた筈のナオミが、病室から忽然と姿を消したとの緊急連絡であった。

 

 

 

 

 ナオミが病室からいなくなった事を、ジェッタとシンが知った頃。

 この騒動の中心的な立場にあるナオミは、作業台の上に腰掛けたまま、背後の離れた場所に座っているガイに問い掛けた。

 

「……ねぇ。ガイさんはオーブの事、どう思う?」

「何だいきなり……」

 

 ナオミからの唐突な問いに、ガイは下を向いたままぶっきらぼうに答える。

 ガイの言葉を聞いたナオミは、数時間前の病室で自分を襲ったジャグラーの言葉を思い出しながら、自分の意見を述べ始めた。

 

「あの男が言ってたの。……世の中には、オーブを非難する人も多いけど……だけど、私はオーブを信じてる。

 ギャラクトロンを倒した時、確かにオーブは私の事を傷付けた。けど、今こうして無事でいられるのは、オーブのおかげ。……例え、世界中の人が敵になっても。私は、オーブに救いの手を差し伸べたい」

 

 話の最中に振り向くナオミだったが、対するガイは自分と目を合わせようともしない。それでもナオミは、ガイを見ながら語り続ける。

 ナオミが自分の意見を言い終えた直後、顔を上げたガイと目が合った。

 自分に向けられた視線に言葉を詰まらせてしまったナオミは、身体をずらし膝を抱えて座り直す。

 その直後彼女は、ある言葉を呟くのだった。

 

「……『握った手の中、愛が生まれる』」

「……何だ、それ?」

「ママが言ってたの。祖先のお婆ちゃんの遺言なんだって。そのお守りを残した、ルサールカ出身のお婆ちゃん」

「……ルサールカ?」

 

 ナオミの口から出たその一言に、言葉を失ったガイは呆然とした。

 そんなガイの変化に気付くことも無く、ナオミはあの曲を奏で出す。

 

『♪~、♪~……』

 

 その直後、ガイは自分の手の中に、僅かながら違和感を覚える。

 咄嗟に視線を向けると、今まで握り締めていた筈の小さなマトリョーシカ人形が、斜めにすっぱりと切られていた。恐らく、病室でジャグラーが振るった斬撃の余波で壊れていたのだろう。

 しかしその中に、古ぼけた小さな写真が1枚収められている事に気付いた。

 ガイは丸められていた写真を取り出し、それに何が写っているのかを見る。

 その白黒写真には108年前の自分、そして自分と背中を合わせて微笑む少女の姿が写されていた。

 

「ナターシャ……!!」

 

 その写真はかつて、ルサールカの森でとある1人の写真家が自分達の為に撮ってくれた、唯一の写真であった。

 自分が死なせてしまった筈のナターシャの写真が、なぜこの人形に収められているのか。

 ガイは、自分が招いたあの忌々しい過去を思い出しながら、その理由を推し測る。

 

(君はあの爆発に巻き込まれ、死んだんじゃ……)

 

 まさかと思ったガイは、写真から目を離してナオミを見つめる。

 そしてナオミが奏でるメロディを聴いた事で、その考えは確信に至った。

 

(ナオミは……ナターシャの子孫……!)

 

 それに気付いてすぐ、ガイの瞳から涙が零れた。

 今にして思えば、思い当たる節は幾つもあった。

 ナオミがあの日作ってくれた、特製きのこスープの味に、自然と懐かしさを覚えた事も。

 彼女が小さい頃から見続けていたと言う、光の巨人の夢も。

 そして何より、彼女がどうして、異国の子守唄を知っていたのかという事も。

 これで全ての辻褄が合ったガイは写真を見つめて、ナターシャとの思い出を振り返った。

 

(ナターシャ……。君はあの惨劇を生き抜いて、生命を繋いでいたのか……!!)

 

──これから語るのは、ガイの知らない真実。

 ウルトラマンオーブとマガゼットンの戦闘に巻き込まれてしまった、ナターシャ・ロマノワ。

 しかし彼女は何者かによって救われており、森の外れに置き捨てられていた所を村人に助け出され、町の病院に収容されたのだ。

 彼女が退院した後、故郷の国の動乱がルサールカの地にまで及んだ事で、ナターシャは単身日本へと亡命。通訳の日本人男性・夢野氏と恋に落ち、ナターシャは彼の実家である造り酒屋に嫁いだ。

 しかし、それでもナターシャはガイの事を忘れる事が出来なかった。彼との思い出の品は、1枚の写真だけ。

 そこで彼女は、その写真をマトリョーシカ人形の中にしまい込んで、最後の1つは開けてはいけないと子や孫に言い聞かせた。

 それに不満そうにする子供達にナターシャは、その代わりとして、彼らに幸せになれるおまじないを伝えた。

「握った手の中、愛が生まれる」──と。

 

 ガイは今もまだメロディを奏で続けるナオミを、涙を流しながらぎゅっと抱き締めた。困惑するナオミにただ一言、「ありがとう」と呟いて。

 抱擁を解いたガイはナオミの両肩を優しく握り、彼女を自分と向き合わせると、ある依頼を申し込んだ。

 

「……ナオミ、頼みがある。今のメロディ、今度オーブが現れたら、歌ってやってくれないか?……オーブを救ってやって欲しい」

 

 状況がほとんど飲み込めず戸惑っていたナオミだったが、ガイの様子を見て、余程重要な依頼なのだと理解した上で首肯をした。

 すると、突如として雷鳴が鳴り渡る。

 ガイとナオミがその方角を見ると、上空に赤黒い渦が生じていた。その渦は、かつてマガオロチが出現した際に発生したものと酷似していた。

 それを目撃した事で、ナオミは何とも言いようの無い不安に駆られる。

 そんなナオミに、ガイはナターシャの時と同じように、オーブニカを彼女に手渡した。

 

「ナオミ……。これを持っていてくれ。俺は必ず、帰って来る。必ず……!」

 

 ナオミの姿だけを一点に見つめるガイの瞳には、いつも通りの強い意志が宿っていた。

 すぐさま駆け出そうとするガイを呼び止めたナオミは、彼が貸してくれたジャケットを差し出した。彼女からジャケットを受け取り、しっかりとそれを身に纏ったガイは、あの渦を目指して駆けて行った。

 ナオミは遠ざかって行くガイの背中を、ただじっと見つめるのだった。




後編は、夕方に。


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第17話 復活の聖剣 ━後編━

後編です。
作者はTV本編でのこの回、どうしても涙無しでは見る事が出来ません。


 上空に突如発生した、正体不明の赤黒い渦。

 その付近の森林地帯では、シンヤとヨミの死闘が繰り広げられていた。

 ヨミの放った光弾を咄嗟に回避したシンヤは、何とか身を隠そうとして樹木にもたれ掛かった。

 

「ぐっ……、くっそぉ……!」

「ハハッ。もう限界だ、なんて冗談でも言わないで下さいよ?お楽しみは、まだまだこれからなんですから」

 

 度重なる戦闘と同時に森中を駆け巡った事で、体力が底を尽きそうだったシンヤは、憎々しげに表情を歪め、対するヨミに関しては、愉しそうに笑う余裕すら見えた。

 ここまでシンヤが追い込まれた主な原因は、2つあった。それはヨミの高過ぎるまでの近接戦闘のセンスと、彼の精密な射撃の腕だ。

 接近戦では何とか喰らい付いていたシンヤだったが、一度距離を取った途端にヨミは、エネルギー弾による追撃を繰り出す。シンヤは光弾の直撃を免れようとして森中を駆け巡り、体力をすり減らしていたのだ。

 遠距離攻撃への対抗手段を一切持たないシンヤにとって、これはあまりにも不利な状況であった。

 この激戦が開幕する以前まで息巻いていた筈のシンヤは、現在の自分の不甲斐なさを痛感すると同時に、ある事を考えていた。

 

(ヨミの……アイツの光弾に対抗出来る、強力な「武器」が欲しいっ……!)

 

 シンヤがそのように考えた直後、上空の渦から真紅の閃光が降り注ぎ、それと共に激しい爆発音が響き渡った。

 閃光が射した場所には土煙が立ち込め出し、煙が晴れた時そこに現れたのは、シンヤの夢に登場した未知なる怪獣──ゼッパンドンであった。

 夢で見た怪獣の出現に、シンヤは驚いて身を乗り出す。その背後からヨミは唐突に、シンヤへの解説を開始した。

 

「あの怪獣は……!」

「『合体魔王獣 ゼッパンドン』。マガオロチの尾を核として、ゼットンとパンドンが融合し誕生した、新たな魔王獣ですよ」

 

 ヨミの声に反応したシンヤはすかさず振り向き、無意識の内に拳を握っていた。

 それを見たヨミは不気味に嗤い、息付く間も無く攻撃を開始した。

 

 

 

 シンヤとヨミが戦闘を繰り広げていた場所の近辺には、上空から出現したゼッパンドンの元に駆け付けたガイの姿があった。

 

「ジャグラー……!」

『「全力で来い……!俺に太刀打ち出来るのは、闇のカードだけだ!!」』

 

 ゼッパンドン内部のインナースペースから聞こえた、ジャグラーのあからさまな挑発を受けたガイは、右腰のカードホルダーから闇のカード──ウルトラマンベリアルのウルトラフュージョンカードを取り出した。

 ベリアルのカードは、相変わらず異様なオーラを放っているが、今のガイにはナオミから貰った言葉があった。

 

──あなたの事、信じてるから……!

 

「俺はもう闇を恐れない……。ナオミのくれた勇気で、闇を抱き締めてみせる!!」

 

 かつての自分には得る事の叶わなかった、「自分の闇を抱き締められる強さ」を手に入れたガイは強い決意を胸に、オーブリングを構えた!

 

「ゾフィーさん!」

【ゾフィー!】

「ベリアルさん……!」

【ウルトラマンベリアル!】

「光と闇の力……お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 サンダーブレスター!】

 

 土砂を巻き上げながらゼッパンドンの眼前に着地した、ウルトラマンオーブ サンダーブレスター。

 これまで通りならば、登場直後は雄叫びを上げるのだが、今回はそうはならなかった。

 

『──闇を抱いて、光となる!!』

『それで良い……!』

 

 オーブの名乗りにジャグラーが答えると、オーブはゼッパンドンに飛び掛かり、顔面への重いチョップ、数回のボディーブローを叩き込む!

 ゼッパンドンも反撃に出るが、これにも怯まないオーブは勢いを付けたヘッドバッドと何度目かの顔面チョップをお見舞いする。

 だがゼッパンドンには指したるダメージは無く、雄叫びを上げたオーブは、体重4万5千トンのゼッパンドンを両腕で掴み上げる。後はそのまま投げ飛ばすだけだったが、近距離から放たれたゼッパンドン撃炎弾の餌食となり、あえなく失敗した。

 先の攻撃で怯んだオーブに、ゼッパンドンは速やかに反撃を開始。右脚の蹴りと左腕での追撃で、オーブを退ける。

 対するオーブは、隣に建設されていた電波塔に目をやり、強引にそれを引き千切り武器にした!

 これにはジャグラーもご満悦の様子で、厭らしく笑うのだった。

 

『「イイねぇ〜、その暴れっぷり!惚れ惚れする……!」』

 

 オーブとゼッパンドンが闘っている現場に到着したジェッタとシンが目撃したのは、丁度この瞬間であり、これを見たシンは息を呑み、ジェッタは叫んだ。

 

「オーブがまた暴走してます!」

「しっかりしてくれよ、オーブっ!」

 

 武器を得たオーブだったが、ゼッパンドンは火炎弾でオーブを追い詰めて行く。

 この2体の戦闘を、建物の屋上から見つめていた者が1人いた。ビートル隊の、渋川一徹だ。

 渋川は複雑な心境で通信機に手を伸ばし、ビートル隊本部へと連絡を飛ばした。

 

「……ウルトラマンオーブ、出現!」

[了解。ゼットビートル、緊急発進!]

 

 渋川からの連絡を受け、3機のゼットビートルがビートル隊基地より発進した。

 そんな事とも知らずに、オーブは電波塔を振り回してゼッパンドンを殴る。

 しかし電波塔は武器にするには脆く、一撃でへし折れてしまう。だがオーブは電波塔が粉々になるまで攻撃の手を緩めず、ゼッパンドンの顔面を掴みながらボディーブローを浴びせ続けた。

 これにも動じないゼッパンドンは、オーブを弾き飛ばす。

 地を転がったオーブは、マガオロチやギャラクトロンを打ち破った必殺光線の構えを取った!

 

『ゼットシウムッ!光せえぇぇぇんッ!!』

『ゼッパンドンシールドォッ!』

 

 これでもゼッパンドンシールドを破る事は叶わず、オーブはゼッパンドンが放った破壊光線を喰らい、倒れてしまった。

 

『「(ぬる)いッ!お前の闇はそんなもんか……!?」』

 

 必殺のゼットシウム光線を防がれ、ジャグラーの煽動を受けたオーブは大地を叩き付け、ゆっくりと立ち上がるのだった。

 

 

 

 

 飛来したゼットビートルが、ウルトラマンオーブとゼッパンドンの姿を捕捉した。

 ゼットビートルを操縦するリーダー格の隊員と、彼の部下が無線で会話をする。

 

[ターゲット、確認!]

[まずは、ウルトラマンオーブに攻撃を集中せよ!]

[ホントに良いんですか……!?]

[良いんだ!]

[……っ了解!]

 

 オーブと怪獣の姿を確認した隊員は、リーダー格の隊員の指示に困惑するが上司には逆らえず、渋々それを了承した。

 双眼鏡で現場を見つめる渋川は、オーブの付近にナオミ達がいるのを目撃した。

 

「アイツら……!」

 

 ガイの後を追って、森へ駆け付けたナオミは、ただオーブの背中をじっと見つめており、それを見つけたジェッタらが彼女の元に駆け寄った。

 

「キャップ、何でこんな所に……!」

「危ないから逃げましょう!」

 

 2人の制止を振り切ったナオミは一歩前へ踏み出し、オーブに向けて叫ぶのだった。

 

「オーブ、私信じてる!どんな姿になっても、どんなに力に溺れそうになっても、私の命を救ってくれたあなたの事、ずっと信じてるから!!」

 

 これを聞いたオーブはゆっくりと振り向き、ナオミをじっと見つめる。

 ナオミもまた、オーブに頷いて見せた。

 

[攻撃開始!]

[[了解!]]

 

 そんな中、ゼットビートルによるオーブへの攻撃が開始。予期せぬ事態にオーブは振り向くが、続くゼッパンドンの火炎弾や破壊光線の応酬が、周囲を炎に包み込む。

 これにはオーブは当然の事、近くにいたナオミ達までもが巻き込まれた。

 ジャグラーはそれを嘲笑い、己の勝利を確信した。

 

『「ハハハハ!!お前はまた大切なものを守れなかったんだ!終わりだな……。さらば、ウルトラマン!!」』

 

 ゼッパンドンの追撃は止まる事を知らず、周囲では爆発が起こる。

 これに巻き込まれまいと、ゼットビートルは各機全速力で退避して行くのだった。

 

[全機、退避せよ!退避だ!]

[[了解!]]

 

 ヨミとの戦闘を継続していたシンヤは、ナオミ達が爆発に巻き込まれた瞬間を運悪く目撃してしまい、思わず膝を突いて唖然としてしまった。

 もう一度立ち上がろうにも、これまでの無理が祟ったのか、はたまた大切な人々が目の前で爆発に巻き込まれた事への絶望か、全身に力が全く入らない。

 シンヤがそうしている間にも、ヨミは背後から近付き、この絶好の機会を逃さんとしている。

 ジャグラーとヨミは意図せず同時に笑ってみせたが、ジャグラーがある事に気付く。

 

『「ハハハッ……、あァ?」』

 

 ……爆煙が晴れた時、そこには傷1つ負っていない、ナオミ達の姿があった。

 では、なぜ彼らが無事に助かったのか。

 その答えは、ただ1つ。

 サンダーブレスターを制御したオーブが、身を呈してナオミ達を爆発から守っていたからだ!

 その手に握っていたカメラをオーブに向けたジェッタは、この動画を観ているであろう視聴者に向けたメッセージを添えた。

 

「……視聴者の皆さん、オーブです!ウルトラマンオーブが、僕らを救ってくれました!!」

「オーブ……っしゃ!」

 

 病院の屋上からそれを見た渋川は、思わずガッツポーズを取り、間近で目撃していたシンヤの瞳からは、一筋の涙が零れた。

 ナオミ達を救ったオーブは、ナオミを見つめながら一度頷く。その意味を理解したナオミは、ガイから頼まれていた事を実行する。

 

『♪~、♪~…』

『「ぅぐあぁぁ……!このメロディは……!」』

 

 ナオミが奏でる、ルサールカに伝わる子守唄のメロディに、ジャグラー並びにヨミは苦しみ出す。

 そしてガイが奏でるオーブニカのメロディと、ナオミのメロディが結び付いた時、奇跡が起こる。

 オーブ内部のインナースペースで、ナターシャから託された白紙のカードを取り出したガイは、それを一点に見つめて言葉を紡ぐ。

 

「己を信じる勇気。それが力になる──!!」

 

 これに応えたのか、白紙だったカードが光り出し、1人のウルトラ戦士の姿が浮かび上がった。

 それは巨大な聖剣を構えた、新たなオーブの姿だった。

 

「これが本当の俺だ!!」

 

 もう迷いなど微塵も無いガイはそのカードを構え、オーブリングにカードを読み込ませる!

 

【覚醒せよ!オーブオリジン!】

 

 この声と共に、ゼッパンドンにも異変が起きた。

 ゼッパンドンの尾──マガオロチの尻尾から光が放たれる。

 光は剣の形を取り、オーブのカラータイマーに向けて飛んで行く。

 

『「この光はッ……!?」』

 

 光を掴もうとジャグラーは手を伸ばしたが、ジャグラーの手は空を切り、光はオーブへと向かう。

 その神秘的な光景を目撃したシンヤは、先程の様子が嘘のように声を上げた!!

 

「オーブが……!オーブが変わる!!」

 

 カラータイマーを経由して、インナースペースにいる自分の元に飛来した光の剣の名を、ガイは高らかに呼んだ!

 

「オーブカリバー!!」

 

 数百年の時を超え、己の元に戻って来た勇者の聖剣「オーブカリバー」の感触を、懐かしく感じるガイ。

 

──オーブカリバー。

 それは、遥か彼方の「惑星O(オー) -50(フィフティ)」の戦士の頂に輝く光の意志に選ばれた者に与えられる聖剣。

 かつてガイはこの頂に登り、光の戦士として選ばれ、ウルトラマンオーブの力を得たのだ。

 

 オーブカリバーを構えたガイは、地水火風4つのエレメントが宿る中央のカリバーホイールを回転させる。

 天高く掲げた剣の柄のトリガーを引くと、火、水、土、風の順で4つの紋章が輝き、それと共にガイのオーブニカのメロディが流れた。

 

『♪~、♪~、♪~』

 

 そして、オーブも新たなる姿へと変化した。

 巨大なオーブカリバーを右手に握り、その身体も赤、銀、黒と言ったシンプルな佇まい。

 それを見たジャグラーは、忌々しさを込めた声を上げる。

 

『「その姿は……!!」』

 

 対するオーブはオーブカリバーを大きく振り回し、顔の側で再び剣を構え、声高く名乗りを上げた!!

 

『俺の名はオーブ!ウルトラマンオーブッ!!』

 

 この時オーブは初めて、自分を「ウルトラマン」と名乗った。

 そう、これこそがオーブ本来の姿「ウルトラマンオーブ オーブオリジン」!!

 

(夢で見た……光の巨人……!)

 

 オーブオリジンを見たナオミは、今まで見ていた夢に登場していた巨人の正体を知り驚愕した。

 オーブカリバーを下ろし、悠然としてゼッパンドンへと歩み寄るオーブオリジン。

 ゼッパンドンが放つゼッパンドン撃炎弾を一刀の元に斬り伏せ、飛び上がったオーブオリジンは、オーブカリバーの一撃を叩き込む!

 

『オォーッ、シュアァァァァッ!!』

 

 これまでオーブのどんな攻撃にも動じなかったゼッパンドンが、ここに来てようやく、ダメージらしいダメージを負った。

 真の姿と、己を信じる勇気を取り戻した今のオーブに、最早ゼッパンドンは敵では無かった。

 この逆転劇を観戦していたヨミも、目に見えてはっきりと狼狽え出す。

 

「馬鹿なッ……!ジャグラー様のゼッパンドンが、あんなに易々と……!」

 

 ヨミが狼狽える一方で、オーブの勇姿をその目に焼き付けたシンヤの中で、再び闘志が燃え出す。

 そして、それと同時にシンヤの新たな力が覚醒する!

 

「僕だって、まだ戦える!マックスさんっ!!」

 

 シンヤが呼び寄せたのは、最強最速のウルトラ戦士「ウルトラマンマックス」のカード。

 シンヤ本人には、オーブ同様に歴代ウルトラ戦士の力を借りる事で、戦闘力を引き上げる力がある。今回もまた、その能力を使うのかと思われたが、そうではなかった。

 シンヤが構えるウルトラマンマックスのカードが、次第に変化して行き、やがて赤い拳銃の形を形成する。

 それを手に取ったシンヤは、ヨミに標準を合わせて引き金を引く。咄嗟に反応したヨミはその銃撃を躱すが、僅かに頬を掠めた。

 シンヤが現在その手に握っているのは、「ダッシュライザー」と呼ばれるレーザー銃である。これは、本来ならばマックスと共に戦った対怪獣防衛チーム「DASH(ダッシュ)」の隊員が装備している武器だ。

 シンヤは新たな能力として、「ウルトラ戦士と共に戦った防衛チームの武器の具現化」を会得したのだ。

 頬を伝う血を雑に拭ったヨミは、怒りを露わにしてシンヤに襲い掛かる。

 

「くそッ……いい気になるなァッ!」

「もういっちょ!メビウスさんっ!!」

 

 逆上したヨミとは正反対に、素早くかつ冷静に事態へ対処したシンヤは、マックスに続いてもう1人のウルトラ戦士のカードを呼び寄せた。

 シンヤの手元に到来したウルトラマンメビウスのカードは、「トライガーショット」の形となって、彼の手中に収まる。

 すかさずシンヤは、トライガーショットを通常のハンディショット形態から、銃身を伸ばしたロングショット形態へと変形、通称「トリプルチェンバー」と呼ばれる3連シリンダーを回転させ、ヨミに銃口を向けた。

 

GUYS(ガイズ)の皆さん、お借りします!キャプチャーキューブ、シュートッ!!」

 

 トライガーショットから放たれた青い光線は、ヨミを包み込んで閉じ込める事に成功した。

 シンヤが使用したのは、立方体型のバリアフィールドを発射して、1分間だけ対象を物理的衝撃から隔絶する「キャプチャーキューブ」。この技術も、本来ならメビウスの世界に存在した「GUYS(ガイズ)」と呼ばれる怪獣防衛隊が有するものだ。

 キャプチャーキューブの強度は高く、流石のヨミであっても内側から破る事は叶わなかった。

 それを見つめながら、シンヤはヨミに申告する。

 

「しばらく、そこで大人しくしてて貰うよ!」

 

 シンヤとヨミの戦闘に一区切りがついた一方で、オーブとゼッパンドンの闘いにも動きがあった。

 ゼッパンドンが怯んだ隙にオーブカリバーを構え直したオーブとガイは、カリバーホイールを回して土属性の紋章部分で回転を止め、トリガーを引いて再びホイールを回す。

 

『オーブグランドカリバー!!』

 

 地面に突き立てたオーブカリバーから、円を描く様な動きで2発の光線が同時に放たれ、左右からゼッパンドンを挟み撃ちにする。

 

『ッ!ゼッパンドンシールド!!』

 

 咄嗟にゼッパンドンはシールドを左右に展開し、光線を迎え撃つ。

 だがオーブグランドカリバーの一撃はゼッパンドンシールドを容易く破り、ゼッパンドンに多大なダメージを与えた!

 この反動はゼッパンドン内部のジャグラーの元にまで届き、思わずジャグラーもその威力に驚きを隠せなかった。

 

『「ぐぁっ……!シールドを破るとは!」』

 

 この勝機を逃さなかったガイは、オーブカリバーをオーブリングに読み込ませる。

 

【解き放て!オーブの力!】

 

 力を解放したオーブカリバーのカリバーホイールを高速回転させて、トリガーを引いたガイは、再びホイールを回す。

 4つの紋章が光り輝くオーブカリバーで、天空に巨大な円を描いたオーブは、ゼッパンドン目がけてオーブカリバーを振り下ろした!

 

『オーブスプリームッ、カリバァァーッ!!』

 

 オーブカリバーの剣先より放たれた、最強の必殺光線の直撃を喰らったゼッパンドンは爆散し消滅!

 オーブの完全勝利だ!!

 

──本来の力を取り戻したオーブに敗北した上、切り札であるゼッパンドンを倒されたジャグラー。地に伏しても尚、まだ終わらないと言わんばかりにダークリングに手を伸ばす。

……だが、ダークリングはジャグラーの目の前で、突然光となって消滅した。

 ダークリングとは、「宇宙で最も邪悪な心を持つ者の元を巡り、持ち主の力を増幅させる」曰く付きの品である。それがジャグラーの元から離れたと言う事は、宇宙のどこかにいる別の誰かが、ダークリングに選ばれた……と言う訳だ。

 ダークリングの消滅を目の当たりにし、耐え切れなくなって発狂したジャグラーの慟哭が、延々と響き渡った。

 

 これを感じ取ったヨミは、半ば強制的にキャプチャーキューブを内部から破壊し、捨て台詞を吐いて撤退した。

 

「この借りは必ず……!ジャグラー様……!」

 

 激戦の果てに、体力も底を尽きかけていたシンヤは、オーブに感謝の言葉を投げ掛けているSSPメンバー達の元へと歩いて行った。

 

 草原を飛び跳ねながらオーブに手を振る、ジェッタとシン。

 オーブは、自身に微笑みを向けているナオミと向かい合うと、空の彼方へ飛び立って行った。

 そんなオーブの背中を見つめながら、ナオミは改めて感謝の言葉を述べた。

 

「ありがとう……!」

「礼を言いたいのは、オーブの方だろうな」

 

 ナオミ達の元に戻ったガイは、ナオミに対して優しく口にするのだった。

 すると、ガイの存在に気付いたらしいジェッタとシンが駆け寄って来る。

 

「ガイさんじゃん!ちょっと、今までどこで何してたんだよ!」

「ん?まぁ、色々とな?」

「僕達の心配も知らずに、呑気な人ですねぇもう!」

 

 この場にいた面々が暖かな雰囲気に包まれた時、丁度笑顔を浮かべたシンヤが到着した。

 しかし全身に擦り傷や打撲痕を負ったシンヤを見るや否や、ナオミが真っ先に彼を心配した。

 

「皆さ〜ん!」

「シンヤ君どうしたの、そんなにボロボロになって……!大丈夫?」

「え?えっとー、そこで転んじゃって。えへへ」

 

 あからさまな嘘を吐いたシンヤだったが、ナオミ達はあえてそれには言及しなかった。

 すると今度は、日頃から良く聞き慣れた声が、どんどん近付いて来るのが聞こえた。

 

「おーい!おい!みんな無茶しやがってぇ!」

 

 声の主である渋川は、運悪く身近にいたシンヤにタックルを喰らわせてしまう。ただでさえ傷を負っているシンヤにとっては、どんな軽い衝撃でもかなり傷に響くのである。

 それを改めて知り、シンヤを労わった渋川だったが、いつの間にかそこにいたガイの存在に気付いて、声を掛ける。

 ナオミは、渋川や多くの人に対して心配をかけてしまった事を謝罪した。

 

「おじさん、ごめんなさい……!」

「いや、お前達には感謝してるよ。お前達の中継映像を見て、ビートル隊はオーブを攻撃対象から除外した」

 

 渋川からその言葉を聞いたジェッタとシンは互いに抱き合って喜び、今後への決意を新たにした。

 

「よぉーし!俺達SSPもこの調子で、どんどん突っ走って行くね!オーブの謎も、絶対突き止めてみせる!な、キャップー!」

「おい!まだ無茶すんのかよ、お前らよぉ〜!」

 

 今回、これだけの大事に巻き込まれたと言うのに、全く懲りずに駆け出すジェッタとシンを、渋川は追いかけた。

 それを呆れ半分で見守るシンヤ達。ナオミはその傍らで、ガイから預けられたままだったオーブニカを返還した。

 オーブニカを受け取ったガイは改めて、この地球を守り抜く決意を固くするのであった。

 

(君の繋いだ生命は、100年後の未来を生きている。ナターシャ、安心してくれ。これから先の未来を、俺はずっと守り続ける。

 この星に、命が続く限り──!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

ガイ「よぉ、クレナイ・ガイだ。かれこれ数回ぶりの登場になっちまったが、みんな俺の事は覚えててくれたか?」

シンヤ「おかえりなさい、ガイさん!」

ガイ「俺がいない間、ずっと1人で司会進行を頑張ってたみたいだな、シンヤ。お疲れさんです」

シンヤ「えへへっ。やっぱり、このコーナーにはガイさんもいなきゃダメですね!」

ガイ「そうかもな。さぁ、今回紹介するのは……!」

 

【覚醒せよ!オーブオリジン!】

 

ガイ「『ウルトラマンオーブ オーブオリジン』。本来の力を取り戻した、俺の真の姿だ!光と闇の2つの属性を併せ持ち、聖剣『オーブカリバー』から放つ様々な大技で、どんな強敵にも立ち向かう!」

 

ガイ「実はこのオーブオリジンには、前身に当たる姿があるんだ。オーブの力を授けられて、間も無い頃の俺の姿。その名も、『オリジン・ザ・ファースト』。オーブオリジンよりも黒い色が少なくて、初代ウルトラマンさんを彷彿とさせる、赤と銀の出で立ちなんだ」

 

ガイ「最大の必殺技は、『オーブスプリームカリバー』。オーブオリジンの光と闇、そしてオーブカリバーに宿る4つの属性を合わせて、剣先から虹色の光線を放つんだ!!」

 

ガイ「108年前のルサールカでの闘いで、俺はこの力を制御出来ず、結果として甚大な被害を与えちまった。そのせいで、ナターシャとこの力の両方を失った……。

 だが、今回の一件で真実が明らかになった事で、俺は本当の自分を取り戻せたんだ」

シンヤ「ガイさんが力を取り戻して、物語は終わり……では無いんですよね?」

ガイ「あぁ。まだまだ地球を狙う奴らは大勢いる。俺はこれからも、この星を守り続ける!」

シンヤ「僕だって、ガイさんと一緒に闘いますよ!」

ガイ「あんまり無茶はすんなよ?……っと、残念だが、そろそろお別れの時間だ」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビートル隊の隊員、渋川一徹。

 人々の平和を守る、彼の悩みの種は多い。

 町に潜む宇宙人の陰謀、迫り来る怪獣。

 そして、年頃の娘──!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『ハードボイルドリバー』。

 銀河の光が、我を呼ぶッ!!




……いかがだったでしょうか。
シンヤ君の新しい能力、どうでしたか。

次回からなのですが、作者本人がそろそろ忙しい時期に突入しますので、また間隔を空けた投稿になると思われます。
空いた時間で執筆は続けようと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラマン』第39話(最終回)『さらばウルトラマン』でした。

では皆さん、またいつか……ノシ


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第18話 ハードボイルドリバー ━前編━

どうも、長らくお待たせ致しました。
まだ忙しい時期真っ只中ですが、合間に書く事が出来たので投稿します。
では、どうぞ。


──渋川一徹の朝は早い。彼の長い1日は、1杯のコーヒーから始まる。

 彼は、科学特捜チーム「ビートル隊」隊員として、日夜宇宙人や怪獣の魔の手から、人々の平和を守っている。

 ある時は宇宙人が関与したと思われる事件現場の捜査、またある時は地球で悪事を働いていた宇宙人「宇宙怪人 ゼラン星人」を追跡……。

 そんな渋川の唯一の弱点、それは──。

 

 

 

 いつものように、SSPのオフィスにやって来た渋川は、ナオミ達3人を前にして椅子に腰掛け、1人娘のテツコとの不仲を打ち明けるのだった。

 

「テツコがさぁ……俺の事イヤって言っててよぉ……最近じゃあ、ろくに口も聞いてくんねぇんだよ!!」

 

 愛娘の話がヒートアップして、思わず立ち上がった渋川を何とか落ち着かせようとして、ナオミ達は渋川を一度座らせた。

 渋川の娘のテツコは現在中学生。つまり、絶賛反抗期真っ盛りと言う訳だ。

 自分も学生時代、両親に対して反抗的な態度を取った事があったナオミには、テツコの気持ちも多少は理解出来た。

 だからこそナオミは、テツコの気持ちを汲み取る姿勢を見せた。

 

「テツコちゃんも、色々あるんだよ……」

「……色々ってなんだよ!?テツコは、まだ中学生なんだよ!悪い道に進まなきゃ良いんだけど……。

 ……なぁ、ナオミちゃん。俺、どうしたらいいかな?」

 

 ナオミの言葉に食ってかかった渋川だったが、自信なさげにナオミに助けを求めた。

 ナオミも内心やれやれと言った具合で、渋川に答える。

 

「しょうがないなぁ……私、事情聞いてみるよ」

「頼むよ……。お前達も、頼む。……あちっ!」

 

 ナオミだけでは無く、ジェッタとシンにも協力を仰いだ渋川は、差し出されていたお茶を一口啜る。そして毎度の如く、その熱さに顔をしかめるのだった。

 

 

 

 しばらく時間を置いた後、ナオミはSSPのオフィスにテツコを呼び、事の経緯を説明した。

 差し出されたお茶を飲んだテツコは、その熱さに顔をしかめるが、ナオミの話を聞いた途端に立ち上がり、声を荒立てた。

 

「あっち……!えぇ?一徹そんな事言ってたの!?バッカじゃないの!?大体あんな父親嫌いになってトーゼンだよ!!仕事でほとんど家にもいないし、いたとしてもゴロゴロしてるかダジャレ言うだけなんだよ!?」

 

 余程渋川の話が癇に障ったのか、テーブルを叩きながら叫ぶテツコを、ナオミ達は何とか宥める。

 ムスっとした表情のまま座り直ったテツコに、ナオミは実の父親を名前呼ばわりする事へのツッコミを入れようとするのだが……。

 

「まぁまぁ落ち着いて……。テツコちゃん、お父さんの事、一徹って呼ぶんだn……」

 

 またテーブルを叩きながら立ち上がったテツコは、驚愕するナオミ達の眼前で、自身の名前への不平不満を言う。

 

「テツコって呼ばないで!!大体一徹の『徹』を取って『徹』子とか、も〜恥ずかしいしちょーダサいじゃん!……私はもうその名前を捨てたの!私の名前は、キャ・サ・リ・ン♡フフッ!」

「「「……キャサリン!?」」」

 

 何とも微妙なネーミングセンスに呆気に取られ、口を揃えてそれを復唱するナオミ達3人。

 ……実は、オフィスの外では渋川がそれを盗み聞いており、これに多大なショックを受けた渋川はがっくりと肩を落とし、とぼとぼとオフィスを去って行った。

 まさか父親にそれを聞かれていたとは露知らず、テツコは更に捲し立てる。

 

「それから、私が悪い道に進むんじゃないかとか言ってるけど……」

 

 テツコは、つい先日の出来事を語り出した。

 それは、彼女が町のとある露天商を訪れた時の事。ずらりと並ぶ綺麗なアクセサリーに見惚れていたテツコは、その露天商を営む好青年「タカヒロ」との何気無い会話を楽しんでいた。

 しかしその最中に渋川が乱入し、自分とタカヒロを遠ざけようとしたとの事。

 

「せっかく噂のタカヒロさんと仲良く話してたところだったのにぃ〜!あ、でもでもでも!私にだけ、ネックレスもくれたし?まだチャンスあるかも〜?みたいな?」

 

 そう言ってテツコは胸元から、タカヒロから貰ったと言うネックレスを取り出した。

 青い鉱石を荒く削り出したようなそのネックレスは、お世辞にも女性向けのそれとは言い難い見た目ではあったが……。

 これまでの話を聞いた上でジェッタは、渋川を擁護する。

 

「まぁまぁ……。お父さんも、父親らしいとこ見せたかったんじゃないのかなぁ、テツコちゃんn……」

「キャ・サ・リ・ン!!……そもそも、あの人は父親としてどころか、仕事だってろくな事してないって!」

 

 またテツコと呼ばれた事に腹を立てたテツコは、年上である筈のジェッタに食らいつく。

 そして彼女の何気無い一言で閃いたナオミは、テツコにある提案をする。

 

「……そうだ!明日丸1日お父さんの事、尾行してみない?そうすればお父さんの事、見直すはず!」

「それは良いかも知れませんね、キャップ!僕も、渋川さんの仕事については興味があったので!」

「ん〜……!絶対ヤダ!!」

 

 これにはシンも賛同したが、肝心のテツコが乗り気では無く、返事を渋ってしまう。

 すると、そのタイミングで、今まで出かけていた2人組が帰還した。

 

「フンフンフ〜ン♪」

「ただいま戻りました〜……。全くもぉー、ガイさんってば、なんでこんなに鯛焼き買うんですか……あぁ、ちょっと、1人で全部食べないで下さいよ?」

 

 帰って来たガイとシンヤがそれぞれ両手に持っていたのは、箱詰めされた鯛焼きが幾つか入った大きめの袋だった。鼻歌を交えて上機嫌なガイとは裏腹に、半分呆れ気味な雰囲気を見せるシンヤ。

 その2人を見たテツコは色めき立ち、ナオミに彼らが何者なのかを尋ねる。

 

「……ねぇねぇ、誰あの人達!?」

「あぁ、うちの居候みたいな事してるクレナイ・ガイさん。そして向こうが、草薙シンヤ君。

 ガイさん、シンヤ君。こちら、おじさんの娘さんのテツコ……」

「キャサリンと申します!よろしくお願いします、ガイさん、シンヤさん!」

 

 小上がりで1人鯛焼きを食べるガイと、それを見守るシンヤの元に駆け寄ったナオミは、2人にテツコを紹介するが、テツコはそれを押し退けて自分からキャサリンと名乗った。

 それを聞いたガイはテツコに握手を求め、シンヤは鯛焼きを勧める。

 

「……渋川のおっさんとこの?おぉ、どうもキャサリン」

「こちらこそよろしく、キャサリンさん。あ、鯛焼きお1ついかがです?まだまだ沢山ありますし。もちろん、皆さんの分もありますからね〜」

 

 シンヤのその声が呼び水となったのか、ジェッタ達は小上がりに殺到し、自分が食べる鯛焼きを選び始めた。その傍らテツコは、ナオミにある条件を掲示した。

 

「……私、ガイさん達が行くなら、行っても良いかなぁ〜……なんて♪」

 

 テツコの面食いな一面にナオミは言葉を失ったが、気を取り直してガイに頼み込んだ。

 

「……ガイさん、シンヤ君。一緒に行ってくれる?おじさんの尾行」

「僕は一向に構わないですけど……」

 

 その話を聞いたガイは、関わりたくないと言いたげに顔を伏せて、鯛焼きを食べ続ける。

 しかしジェッタにしつこく付き纏われ、ガイは思わずうんざりとした表情を浮かべた。

 

「ガイさん!遂に分かったんだよ、オーブの正体が!思い出してよ……!オーブが消えた直後に、必ず渋川さんが現れたでしょ?」

 

 ジェッタは、これまでオーブが闘いを終えた直後に、爽やかな笑顔で手を降りながらこちらに駆け寄って現れた渋川の姿を回想する。

 その話を、まるで馬鹿馬鹿しいと言いたげな表情で聞いていたガイだったが、ジェッタは調子に乗って更に喋り立てた。

 

「間違い無い……!渋川さんがオーブだったんだよ!渋川さんを尾行すれば、オーブに変身する瞬間を見られるはず!こんなチャンス無いよ、行ってみよ?ねぇガイさん!ね?

 キャップ〜、ガイさんも行くって〜!」

 

 ガイの事情も聞かずにゴリ押しを続け、ほぼ強引に丸め込んだジェッタによって、明日の渋川の尾行にガイとテツコも参加する事となった。

 ナオミ達が盛り上がる一方で、ガイの表情は曇るばかりだった。

 

 

 

 そして後日、予定通りに渋川の尾行を決行するSSP御一行+α。しかも、各々が身元が割れないよう変装をする程の徹底ぶり。ガイに至っては、普段と何ら変わらない恰好だが。

 時々後を付けているのがバレそうになる一幕もあったが、何とかバレる事無く尾行を続ける事が出来た。

 いざ尾行をしてみたものの、特に目立ったのは、渋川が数々の女性ばかりと話をしていたという事。メイドや女子大生、主婦にキャバ嬢風の女性等々……。

 それらを目の当たりにしたテツコは父親に失望し、ナオミ達の元から離れようとする。

 

「もぉー信じらんない!あのバカ親父……!」

「ちょ、ちょっとテツコちゃん!?」

「もう2度とその名前で呼ばないで!!」

 

 ナオミの制止を振り切って、テツコは足早にその場から去って行く。それを止めようと、ナオミはテツコの後を追った。

 

 

 

 

 

 ナオミ達の元から離れ、付近の公園が見渡せる高い広場で1人佇むテツコ。思わず溜め息を吐いたが、突然差し出された瓶ラムネの冷たさに驚く。

 テツコが後ろを向くと、ラムネを差し出しているガイとシンヤがそこにいた。

 ガイからの差し入れを受け取り、一口。

 するとテツコの視界に、公園で仲が良さそうに遊ぶ親子の姿が飛び込んで来た。

 

「……子供の頃、あの人は、平和の為に頑張ってる、カッコいい人なんだと思ってた。ヒーローだって、信じてた。……フフッ、バカみたい。何言ってんだろ私……」

 

 昔の事を思い出しながら、テツコは独り言のように呟くが、途端に我に返って誤魔化すように笑ってみせた。

 そんなテツコを諭すように、ガイは意味深な言葉を投げ掛ける。

 

「……太陽は沈んだら見えなくなる。でもね、見えないだけで、地平線の向こうでは、ずっと輝いているんだよ」

「……何、それ?」

「見えないところで輝いている光もある……ヒーローなんてのはそんなもんなんだよ」

「分かんない……言ってる事、分かんないよ……」

「いつか分かるさ、キャサリン?」

 

 そう言うとテツコの肩を軽く叩いて、ガイはその場から去った。

 シンヤと2人きりになったテツコだったが、直後にナオミの声が聞こえた為、そちらを向いた。

 

「テツコちゃーん!ここにいたのね!お父さんが廃工場に入って行ったんだって!もう一度見てみよう?そうしたらきっと、お父さんの勇姿が見られるハズ!……ね?」

 

 テツコは、自分達と離れた場所から叫ぶナオミの声を聞いたが、どうすべきなのか決断に迷いが生じてしまう。

 そんな中で、シンヤが口を開く。

 

「……誰かを守りたいと思う心。単純な事だけど、それがヒーローにとって、一番大切な事です。渋川さんは、誰よりもそれを良く知っている人です。だからキャサリンさん。もう少しお父さんの事、信じてみませんか?」

 

 その言葉が後押しになったのか、テツコは父親の後を追う事を決めた。

 

 

 

 一足先に廃工場で待っていたジェッタらと、シンヤ達が合流した。

 到着が遅れた事を謝ったナオミはジェッタに咎められたが、すかさずシンが現状を報告する。

 

「さっきから男の人と揉めてて……。あ、あそこです!」

 

 シンが指差した方角を、身を隠しながらシンヤ達も見ると、渋川が若い男性を問い詰めている最中だった。

 

「……観念しろ!お前一体、何企んでんだ!?」

「いや、違います……!」

「嘘付け!俺はなぁ、お前の正体は分かってんだ……!」

 

 離れた場所から聞こえる声だった為、何を話しているのか聞き取りづらい状況ではあったが、その男性がタカヒロだと理解したテツコは物陰から飛び出す。

 

「さ、最悪……!」

 

 ナオミ達の制止も聞かず、テツコは大声を上げながら渋川の元へと駆け出した。

 

「止めて!!タカヒロさんに何するつもり、このバカ親父!!」

「テツコ!?お前、どうしてここに来た!!」

 

 最愛の娘の登場に驚きを隠せない渋川ではあったが、テツコはこれまで溜めていた怒りを爆発させて、父親にぶつけた。

 

「一徹の事、1日中尾行してたのよ!!……仕事もろくにしないで、女の人とイチャイチャしてさ!!今度はタカヒロさんをこんなところに呼び出して、何するつもり!?……もう一徹なんて、父親だと思ってないから!!」

 

 そう言うとテツコは、タカヒロを庇おうと思い、彼に近付こうとする。

 だが、それを止めたのは他でも無い渋川だった。

 

「止めろ!その男に近付くな!」

 

 ジタバタと暴れるテツコを抑えようとする、渋川とナオミ達。

 その一方でタカヒロは、唐突に口を開いた。

 

「回収したヤセルトニウムを返して貰おうか」

 

 その口調に、これまでの好青年のような雰囲気は無く、氷のような冷徹さだけがそこにあった。

 聞き覚えの無い単語の登場に、戸惑いながらテツコはそれを聞き返した。

 

「ヤセルトニウムって何……?」

「おい……お前ら下がってろ!!」

 

 テツコ達を制する渋川に対してタカヒロは、どこからともなく取り出した大きな青い石を片手に語り出す。

 

「フフッ。付けていれば、みるみる痩せる魔法のパワーストーン『ヤセルトニウム』。まさか自分ノ生体エネルギーガ奪ワレテ、コノ母体石ニ吸収サレテイルトモ知ラズニサァ……地球人ハ本当ニ愚カダ……!」

 

 次第にタカヒロの声が変わって行くのと同時に、タカヒロの姿も人間の姿から、昆虫の複眼のような顔を持つ宇宙人へと変わる。

 その正体を見たシンヤは身構えた後に、タカヒロの真名を看破する。

 

「お前は、シャプレー星人!!」

「その通り……!そうさ、俺の名前は『シャプレー星人カタロヒ』さ!」

 

 本性を見せたタカヒロ改めシャプレー星人カタロヒは、厭らしい笑い声を上げる。

 

 暗黒星人 シャプレー星人。

 暗黒星雲にあるシャプレー星からやって来た宇宙人で、かつて『核怪獣 ギラドラス』を操りウルトラセブンと闘った宇宙人である。

 

 その姿を見て悲鳴を上げたテツコを見たカタロヒは、思い出したかのように彼女に狙いを定めた。

 

「そうだ、お前にも付けてたんだったなぁ……。エネルギーを吸い取ってやる!オラッ!」

 

 カタロヒが、右手に握るヤセルトニウムの母体石を正面に突き出すと、テツコが首に掛けていたネックレスが光る。テツコのネックレスも、ヤセルトニウムだったのだ!

 ネックレスから放たれたテツコの生体エネルギーが、母体石へと吸い込まれて行く。一通りエネルギーを吸い切られたところで、テツコは力無く倒れ込む。

 

「テツコ!おい……テツコォ!!」

 

 倒れたテツコの元に真っ先に駆け寄り、顔色の悪くなった彼女を抱き抱える渋川を、カタロヒは輝きを放つ母体石を手にしながら嘲笑う。

 

「ハーッハッハッハ!この星は、まさに俺の人間牧場さ!石に吸収されたエネルギーで、こんな事も出来るんだぜぇ……?いでよ、ベムラーッ!!」

 

 天高く掲げられた母体石が輝くと、青い閃光と共に土砂を巻き上げて、「宇宙怪獣 ベムラー」が召喚された!

 ただこのベムラーは通常の個体とは違い、ヤセルトニウムが吸収したエネルギーによって強化された個体だった。その証拠として黒みを帯びた体色に青い背びれ、頭部の2本の角が最大の特徴だ。

 進行するベムラーは角を発光させると、口から「ハイパーペイル熱線」を放つ。熱線が着弾した一辺には、巨大な爆発が起こった!

 ナオミ達一行とは別行動を取っていたガイは、ベムラーの姿を目撃した。

 

「そんな事だろうと思ったぜ……!」

 

 ガイが視線を逸らすと、そこにはテツコを抱き抱える渋川の姿があった。

 

「……ナオミちゃん。テツコを安全な場所に。

──俺の……俺のたった1人の娘を……っ!絶対に許さねぇ!!」

 

 渋川は、ぐったりとしてしまったテツコをナオミ達に預ける。

 最愛の娘に手を出し、何より彼女の純情を蹂躙したカタロヒと対峙した渋川は上着を脱ぎ捨て、スーパーガンリボルバーを構える!

 

「渋川のおっさん、後は頼んだぜ!」

 

 それを見たガイはカタロヒの相手を渋川に任せ、自分はベムラーに挑むべく、オーブリングを構えた!




後編をお待ちくださいませ。


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第18話 ハードボイルドリバー ━後編━

後編です。
多少読みづらいかと思われますが(いつもの事)、よろしくお願いします。


 前回で自分の本来の力を取り戻したガイだったが、これまで同様、ウルトラ戦士の力を借りて立ち向かう!

 

「ウルトラマンさん!」

【ウルトラマン!】

「ティガさん!」

【ウルトラマンティガ!】

「光の力、お借りします!」

【フュージョンアップ!ウルトラマンオーブ!

 スペシウムゼペリオン!】

 

 テツコを連れて安全な場所へと移動する最中にも関わらず、ジェッタは彼女をナオミ達に任せて、オーブの登場と共にカメラを向けた。

 

「渋川さん変身だぁ〜!……えっ?えっ、えっ?えぇーっ!?」

『俺の名はオーブ!闇を照らして、悪を撃つ!』

 

 未だに渋川がオーブだと信じて疑わないジェッタがその目に捉えたのは、怪獣と対峙するオーブと、宇宙人に銃口を向ける渋川の姿だった。

 これによって、ジェッタの「渋川=ウルトラマンオーブ」と言う仮説は脆く崩れ去った。

 

「オーブ!そっちは頼んだぞ!」

 

 登場したオーブにそう言った渋川は、より一層気を引き締める。

 ここに、「ウルトラマンオーブvsベムラー」並びに、「渋川一徹vsシャプレー星人カタロヒ」の闘いの火蓋が切られた。

 

 両者共に睨み合い、オーブとベムラーが動いたと同時に渋川は引き金を引く。しかしヤセルトニウムの母体石によって弾かれてしまい、2発、そして3発と撃ち続けるが、それらも無効化された。

 カタロヒは超人的な飛躍を繰り出し、廃工場の屋根に着地。渋川は狙いを定めて銃を撃つが、カタロヒは瞬間移動でこれを翻弄する。

 遂に渋川の攻撃が母体石に直撃するが、母体石はこれを吸収する。

 

 スーパーガンリボルバーは実弾を発射するのでは無く、リボルバーの中のエネルギーカートリッジでエネルギーを充填して、これを放つのだ。

 母体石はスーパーガンリボルバーから放たれた一撃を吸収する事によって、これを打ち消したものと思われる。

 

 さっきのお返しと言わんばかりに、カタロヒは母体石からエネルギー弾を渋川の足元目がけて発射。渋川はこれを躱したが、オーブとベムラーの戦闘で飛んで来た流れ弾によって吹き飛ばされてしまう。

 それを天高く跳ぶ事で回避したカタロヒは、再びエネルギー弾で渋川を追い込んで行く。

 

『ウゥリャアッ!!』

 

 オーブは飛び上がり、ベムラーの頭部にチョップを叩き込むと、連続で回し蹴りを繰り出す。だが強化されているだけあってか、ベムラーはびくともしない。

 すれ違いざまに飛び蹴りを喰らわせて、一度ベムラーと距離を置いたオーブは、早期決着を狙って必殺光線を放った!

 

『スペリオンッ、光線!!』

 

 しかしベムラーは、必殺のスペリオン光線を頭部の角で吸収する。

 光線技を得意とするスペシウムゼペリオンにとって、このベムラーは相性が悪かった。

 反撃に出たベムラーはハイパーペイル熱線を撃ち、オーブを弾き飛ばす。

 ピンチなのは渋川も同じで、遮蔽物を利用しながらカタロヒの攻撃を躱しつつ銃撃を繰り出すものの、母体石によって全てが無に帰してしまう。

 

「ムダだ、ムダだぁ!!」

「ちきしょう……!」

 

 いくら渋川が柔道5段・空手3段の腕前で、尚且つスーパーガンリボルバーの名手だとは言え、相手のカタロヒは宇宙人で、渋川は地球人。いかにしても埋める事の出来ない身体能力の差がある事を、渋川は痛感した。

 一方オーブも、反転攻勢に出たベムラーに追い込まれて行く。仰向けで倒れたオーブをベムラーは踏み付けるが、負けじとオーブもベムラーを蹴り上げて態勢を立て直し、ベムラーの首を掴んで放り投げる。

 

『シュワァッ!!』

 

 すぐさま起き上がったベムラーは、ハイパーペイル熱線を放射。オーブは何とかこれを回避した。

 

「うわぁっ……!」

 

 カタロヒとの激戦で発生した爆発で、地を転がった渋川だったが、すかさず身を潜めてカートリッジを排莢し、次のカートリッジを装填しようと懐に手を伸ばす。

 しかし不幸な事に、手持ちで残されたカートリッジは後1つだけであった。

 

「残り1発か……」

 

 銃を使える回数が限られてしまった事に、渋川の顔は曇ったが、何も無いよりはマシだと最後の1発を装填して身構える。

 だが、いつの間にか目の前に現れていたカタロヒに胸ぐらを掴まれ宙吊りとなってしまう。

 

「フハハハッ、つーかまえた♪」

「こ、の野郎……!ぐっ……!」

 

 

 

「ぐわっ……うらぁ……!うっ、ごふっ……」

 

……誰かが、苦しそうにしている声が聞こえた。

 辛うじて意識を取り出したテツコが見つめる先には、満身創痍になりながらも宇宙人に立ち向かう、自分の大嫌いな父親の姿があった。

 決して状況が好転する訳では無いのに、渋川は何度も立ち上がり、そしてカタロヒの格闘術に圧倒されて傷を増やす。

 そんな父親の姿を見つめるテツコの脳裏に、ガイとシンヤの言葉が思い浮かんだ。

 

──太陽は沈んだら見えなくなる。でもね、地平線の向こうでは、ずっと輝いているんだよ。

──見えないところで輝いている光もある……ヒーローなんてのはそんなもんなんだよ。

──誰かを守りたいと思う心。単純な事だけど、それがヒーローにとって、一番大切な事です。だからもう少しお父さんの事、信じてみませんか?

 

 最後まで闘志を絶やす事無くカタロヒに挑んだ渋川だったが、カタロヒは決着を着けようとする。

 

「これで最後だ……!」

 

 カタロヒが渋川を力任せに投げると同時に、ベムラーもオーブに突進を喰らわせる。吹き飛ばされたオーブは道路に背中から落ち、巨大なクレーターを作り出す。

 投げ飛ばされた渋川は、積み重なった段ボールに激突、立ち上がる気力はほとんど残っていない。

 それはオーブも同じで、カラータイマーの点滅が始まった。

 

『グォアァ……』

 

 勝利を確信したカタロヒとベムラーが、渋川とオーブにゆっくりと迫る。

 絶体絶命の大ピンチに追い込まれた両者だったが……。

 

「お父さん!頑張れーーーっ!!」

「テツコ……!!」

「頑張れっ!!……っ頑張れーーー!!」

 

 生体エネルギーを吸われ自分も限界のはずの娘から、名前では無く「お父さん」と呼ばれた事で、渋川の中で再び闘志が燃え上がり、彼はもう一度立ち上がる。

 そしてオーブも立ち上がり、真の力を解放する!

 

【覚醒せよ!オーブオリジン!】

 

 オーブオリジンのフュージョンカードをリードしたオーブリングの輪から、勇者の聖剣が召喚される。

 

「オーブカリバー!」

 

 オーブカリバーを手に取ったインナースペース内のガイは、カリバーホイールを高速回転させ、オーブカリバーを高く掲げる。

 そして柄のトリガーを引く事で、本来の姿へと変わる!

 

『♪~、♪~、♪~』

 

 オーブカリバーを右手に握ったウルトラマンオーブ オーブオリジンが登場し、名乗りを上げた!

 

『銀河の光が、我を呼ぶ!』

 

 一方、再び立ち上がった渋川だったが、危機的状況である事に間違いは無かった。身体はボロボロ、残された銃弾も残り1発。

 一体どうすればいいのかと策を講じていた時、視界に飛び込んできた「ある物」を見て、1つの妙案を思い付く。

 厭らしく笑うカタロヒを見据えた渋川は、その作戦の実行する為の行動に出た。

 

「……っうあぁああああっ!!」

 

 叫び声を上げながら、カタロヒに特攻する渋川。

 オーブカリバーから繰り出した横一閃で、ベムラーを斬り付けるオーブ。

 渋川は、密かに隠し持っていた粉塵をカタロヒの顔にぶつける事で視界を奪い、その隙にカタロヒの背中に飛びかかり、その首を絞め上げる。

 ベムラーが放つハイパーペイル熱線を、オーブはカリバー中央のカリバーホイールを盾替わりにする事で防ぐ。

 テツコ達が見守る中、渋川は絞め上げたカタロヒを引きずって、ある場所まで誘導する。

 

「こっちだよオラァ……!」

「離せェ……!!」

 

 ハイパーペイル熱線を弾き飛ばしたオーブは、その一瞬を見逃さず、ベムラーの角を2本同時に叩き斬る!

 それに怯んだベムラーにトドメを刺すべく、オーブはオーブカリバーを構える!

 ガイはカリバーホイールの回転を火属性の紋章部分で止めた後、トリガーを引いて再びホイールを回した!

 

『オーブフレイムカリバァーッ!!』

 

 大きく描いた円状の炎の輪がベムラー目がけて飛んで行き、ベムラーを閉じ込めるように高速回転した直後、丸い結界となる。

 それを目撃した渋川も、最後の仕上げに移った。

 

「今だっ……!!」

 

 カタロヒの拘束を解き、最後の1発が込められたスーパーガンリボルバーを向け、カタロヒに白い歯を見せてから引き金を引く。

 スーパーガンリボルバーの弾丸は、カタロヒの背後に置かれた「火気厳禁」と書かれたドラム缶に着弾した。

 オーブカリバーでベムラーを縦一文字に斬り付け、オーブはベムラーを倒す。

 ベムラーの爆発と同じタイミングでドラム缶も爆発し、当然その間近にいたカタロヒは、その爆炎をまともに浴びた。

 

「──あばよ」

 

 ドラム缶の爆発を背にして、渋川はカタロヒへの手向けの言葉を呈するのだった。

 持ち主を離れたヤセルトニウムの母体石は、原型を残す事無く粉々に砕け散った。

 勝利したオーブと渋川は互いに無言の挨拶を交わして、闘いを終えた。

 飛び立つオーブにサムズアップを向ける渋川は、力尽きたように倒れてしまった。

 これにいち早く駆け寄ったのは、もちろんテツコだ。

 

「大丈夫!?」

 

 それを見た渋川はすっくと立つと、何でも無いと言った具合に笑ってみせた。

 

「あぁ、大丈夫だ!俺はビートル隊の渋川一徹だぞ?こんな事くらいで、へこたれる俺様じゃ……」

「ちょっ、ちょちょちょちょ……!」

 

 強がっていたのか全身の力が抜け切ってしまい、へなへなと倒れる渋川。

 それを支えたテツコは、まんざらでも無い様子を浮かべた。

 

「……カッコよかったぞ!」

「あ、いててて……。へへっ……」

 

 後に判明した事だが、渋川はシャプレー星人カタロヒがばら撒いていたヤセルトニウムを回収しようとしていた。だから、女性とばかり会っていたのだ。

 ……つまり、タカヒロ(カタロヒ)がテツコにネックレスをあげた時に言ったとされる「君だけにあげる」というのは嘘だったという事だ。

 渋川の一連の行動の訳にSSPの面々が納得した時に、オーブとしての闘いを終えたガイが駆け付けて来た。

 

「おぉ、ここだったか」

「ガイさん……。渋川さん、オーブじゃなかったんだ。オーブって、一体誰なんだろうなぁ?」

「……ん?さぁな」

 

 ジェッタとの会話を続けていたガイだったが、遠くから声が聞こえた方を向く。

 事件解決と同時に誤解も解けたが、相変わらずケンカばかりの渋川親子の姿が、そこにあった。

 

「……父さんって呼んでくれたな?いつでも父さんって呼んでも良いんだぞ〜?テツコー!」

「あー、ちょっと触んないで!てゆーか……あ、ゴメン……。てゆーか、テツコって呼ぶの止めて!私の名前はキャサリン♡なんだから!」

「何がキャサリンだよ〜?お前はテツコだろ!」

「いや、キャサリンだから!」

 

 その様子を微笑ましく見つめるSSP一行。

 ケンカばかりだが2人とも楽しそうで、『喧嘩するほど仲がいい』とはよく言ったものだなとナオミ達は思った。

 

「信じ合える人がいるって、いいもんだな……」

 

 目には見えない「親子の絆」を感じ取り、そう呟いたガイに反応してか、シンヤが口を開いた。

 

「……僕はそうじゃないんですね。残念です」

「いや、そういう意味で言ったんじゃなくてだな……」

「ふふん、分かってますって!皆さん、僕らも帰りましょう!」

 

 シンヤのその提案に乗ったナオミ達も、帰路に着く。その最中に、何か思い出したかのようにガイが全員に尋ねた。

 

「……そう言えば、テツコって、誰だ?」

 

 

 

 

 

──その夜。

 

「くそっ、人間共め……覚えておけ……!」

 

 命からがらあの爆発から生還したシャプレー星人カタロヒは、人間に負けた屈辱を味わいながら、傷だらけの身体を引きずっていた。

 人間への復讐に燃えるカタロヒだったが、突如何者かの気配を感じ取った。

 

「お、お前……!ぎゃああああああ……!」

 

 鮮血のような紅い満月が照らす夜。

 カタロヒは謎の男が振るう刃を受けて、絶命した。その亡骸は、男の足元にいつの間にか広がっていた泥のような真っ黒い闇の中に沈み出す。

 秘密裏にカタロヒを始末した男は、邪な笑みを浮かべてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ガイとシンヤの、ウルトラヒーロー大研究!」」

 

シンヤ「うぐぐぐ……!」(シンヤ、重そうなアレイを持ち上げようとする)

ガイ「どうした、シンヤ?特訓か?」

シンヤ「……やっぱりダメだ。もう少し軽いアレイにするべきだったかなぁ……」

ガイ「特訓も良いが、今やるべき事はそれじゃ無いよな?」

シンヤ「あっ、そうでした!では、今回紹介するのはこの方です!」(シンヤ、そのアレイを軽々と持ち上げる)

 

シンヤ「あっ、出来た!」

 

【ウルトラの父!】

 

シンヤ「『ウルトラの父』。本名は『ウルトラマンケン』さん。M78星雲光の国では、宇宙警備隊の大隊長兼最高司令官を務めている方です。ウルトラマンタロウさんのお父さんでありながら、エースさんの養父でセブンさんはウルトラの父の義理の甥に当たります。

 血の繋がりの無いウルトラ戦士の方々からも『ウルトラの父』と呼ばれているのは、その偉大さや人柄から、実の父親のように慕われるようになったからだそうです」

ガイ「タロウさんのウルトラホーンは、ケンさん譲りだったんだな」

シンヤ「このウルトラホーンは、ケンさんの一族にのみ生えているらしく、宇宙のあらゆる情報をキャッチする器官なんです」

ガイ「あらゆる情報を!?すごいな……」

シンヤ「初登場は『ウルトラマンA(エース)』第27話『奇跡!ウルトラの父』。「地獄星人 ヒッポリト星人」によってブロンズ像にされてしまったウルトラ5兄弟を救出する為、地球に駆け付けました。この時、武器である『ウルトラアレイ』を使用し、放たれた閃光でヒッポリト星人にダメージを与えました!」

ガイ「すごいな、ケンさんは……!さすがタロウさんのお父さんだな(まさか……今回紹介するのがケンさんだったから、シンヤはアレイを使っていたのか!?)」

シンヤ「どうしました、ガイさん?もう終わっちゃいますよ?」

ガイ「あ……あぁ、気にすんな。ちょっと考え事をな?」

シンヤ「なるほど。では皆さん、今回はこの辺で!」

 

ガイ&シンヤ「「次回も見てくれよな!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 SSPのオフィスに突然やって来たキャサリン。

 キャサリンが言うには、渋川のおっさんの様子がおかしいんだと。

 思わず呆れちまった俺達だったが、これが町を揺るがす大事件の始まりだった!

次回!

『ウルトラマンオーブ ─Another world─』

『キャサリン・ストラグル』。

 親子の力、お借りします!




……いかがだったでしょうか。
何とか書く事が出来た今回でしたが、次回からもまた間隔の空いたノロマ投稿になると思うので、ご了承くださいませ。

隠れたサブタイトルは、『ウルトラセブン』第22話『人間牧場』でした。

次回、久しぶりのオリジナル回。
何が出るのかバレバレですが、ちゃんと書けるかどうか不安だな……。

では、またいつか……ノシ


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