助けて!!チートラマン!! (後藤陸将)
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やめて!!藤丸のライフはもうゼロよ!!

一発ネタにしては続きすぎたので、「やめて!!冬木市の復興予算はもうゼロよ!!」から独立させることにしました。

また、主人公名はアニメにならって藤丸立香に変更しました。


「……ぱい。起きてください、先輩」

 目を開いたとき、最初に飛び込んできたのは、超至近距離からこちらを純粋な目で見つめる美少女――マシュ・キリエライトの姿だった。

「気がついてくれましたか、よかった……」

 どうやら、自分は大の字になって倒れていたようだ。とりあえず、上半身を起こして周囲を見渡してみる。

 周囲には人里はなれた山奥にあるカルデアには存在しないはずのビル群。足元はアスファルトで舗装された道路。道路標識や路上の広告などは全て日本語で書かれている。そして、彼はその視界の片隅にある看板を見てほくそえむ。その看板には、「冬木市民会館この先400m」と書かれていた。

 

「マシュ!怪我は大丈夫なのか!?」

 内心でガッツポーズをしつつも、表面上はまるで事態を飲み込めていないかのように彼は振舞う。

「先輩。私は大丈夫です」

 最初から全てを理解していながら、マシュの怪我を確認した彼は、続いてマシュに問いかけた。

「一体、何が起こったんだ?俺にはさっぱり読み込めない……」

 そして、全てを知っていながら白々しくもマシュに事態の説明を求めた。

 

 ――特異点Fだ!!作戦通りィィ!!

 

 これまで誰にも話していなかったが、彼には前世の記憶があった。彼は、所謂転生者というやつだ。生前は型月作品に熱中していた普通の会社員だった。ある日、通勤につかっていた駅のホームで突然後ろから突き飛ばされ、電車に轢かれたと思ったらこの世界に転生していた。

 アニムスフィア家に縁のある魔術師の家系に生まれたことでこの世界が型月ワールドであることを知った彼は、生誕直後からカルデアにマスターとして参加するために全力を注いできた。

 スマホ向けゲーム『Fate/Grand Order』も当然プレイしていた彼は、おっぱいタイツ師匠や乳上に会いたい一心で魔術の鍛錬に幼いころから熱心に取り組み、オルガマリーと交流する機会も積極的に利用してきたのである。

 その甲斐もあって、マスターとして選ばれた彼は、原作の流れに乗るためにこの日まで万全の準備を重ね、行動にも細心の注意を払ってきた。

 この世界には過去にゴジラが出現していたり、カルデアにロード・エルメロイ二世と衛宮士郎らしき赤毛の青年がいたりと、自分の知るシナリオとの相違点がいくつか存在していたため、不安視していた部分もあった。

 しかし、マシュの説明を聞いた分では、今のところシナリオには大きな剥離はないようだ、彼は、Fate/Grand Orderのシナリオ通りに展開を進められていることを確信する。

 

「事態は分かった。だけど、ここでジッとしているのは危険だ。すぐに……」

 シナリオ通りなら、ここにいればエネミーに襲撃されるのは確実。すぐにサーヴァントを召喚して戦力を整えた上で霊地まで移動。カルデアとの通信体制を整えた上でキャスターの兄貴と協力体制を結ぶ。

 この時のために幾度となくシミュレートしてきた状況だ。彼は次になすべきことを瞬時に判断して行動に移そうとする。

 しかし、ここでふと、違和感に気づく。自分の知るFate/Grand Orderの序章、炎上都市冬木は、文字通り燃え盛る都市が舞台だったはず。破壊を免れた地域もあるかもしれないが、周囲に()()()()()()()()()()()()()のはおかしい。

 まさか、自分という異物が混入したことによりストーリーのズレが生じたのか!?――そんなことを考えていたその時、地面が震えた。

 

 

 

「■■■■ー!!」

 

 

 

 ズン……ズンという巨大な物体を大地に叩きつけているような振動に次いで、巨大な咆哮が空気を震わす。

 そして、その声の聞こえてきた方向に視線を移した彼は絶句した。

 

 そこにいたのは、ここに出現するはずの雑魚エネミーでも、シャドーサーヴァントでも、相変わらずの中ボスっぷりを発揮するはずの黒い騎士王でもない。

 

 

 

 直立歩行する肉食恐竜のようなイメージのスマートなフォルムに、巨大な角。まさにステレオタイプな「怪獣」らしいデザイン。

 ()()()()における1970年代のテレビ特撮ブームのきっかけとなった番組の第一話に登場し、以後も複数の作品に登場する知名度の高いモンスター。

 

 

 

 映画にまで出演し、毎回見事な「噛ませ犬」っぷりを見せつける凶暴怪獣。

 

 

 ――そう、アーストロンがそこにいた。

 

 

 

 

 

「何でさ」

 

 

 Fate/Grand Orderのシナリオ展開が序章で木っ端微塵に砕けたことを理解した彼は、ただ呆然と運命の夜の主人公の台詞を呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<おまけ TVCM風予告>

*この予告通りにシナリオが展開されるとは限りません

 

 

 人理継続保障機関・カルデア。

 それは、人類の決定的な絶滅を防ぐために成立された特務機関である。

 ここには、人類史を存続させるというただ一つの目的のために、全世界から優秀な研究者が集められた。

 そして、彼らは見事に期待に答え、数々の成果を挙げる。

 

 代表的なものを挙げれば、疑似地球環境モデル・カルデアス、近未来観測レンズ・シバ、守護英霊召喚システム・フェイト。そして霊子演算装置・トリスメギストスだ。

 

 世界が怪獣や外宇宙からの侵略者の手で脅かされる中、人理継続保障機関により人類史は百年先までの存続を保証されていた。

 

 しかし、西暦2015年。何の前触れも無く未来領域が消失。精査したところ、人類は西暦2017年――つまりは、僅か2年後に絶滅する事が判明―――いや、証明されてしまった。 

 人類存続の尊命を担う人理継続保障機関はこの事態に対し、術者を霊子化させて過去に送りこみ、事象に介入する事で人類史の消失原因たる歪みを取り除く計画を立案する。それに伴い、全世界からマスター適性を持つ48人の候補を集めた。

 

 

 そして、ついに術者を霊子化させて過去に送りこむレイシフト実行の日。

 

 人類史を遡り、失われた未来を取り戻す、史上最大の聖杯戦争が、いま開幕する。

 

 

 

 

 未来の失われた世界。

 ロード・エルメロイ二世はかつて憧れた戦士の志を継ぐ青年と、偶然(?)生き残った少年と共にマスターとなって探求の旅に出る。

 

 

 果たして、人類を否定し、人類史の破滅を願うものは何者なのか。

 

 

 

 

 

 

 

人理定礎値 C+

第1の聖杯 魔女覚醒 西暦1431年 邪神百年戦争 オルレアン

 

「私はフランスを許さない」

 

――天地否それ滅びなん――

 

 

最初の聖杯探索(グランドオーダー)の舞台は1431年。

本来であれば、以後数百年間における国境をほぼ定めた百年戦争の最中にあるフランス王国。

邪神が産声を挙げるとき、古の民が時の揺り篭に託した最後の希望が蘇った。

災厄の影の舞う空の下で光の聖旗と闇の聖旗が雌雄を決する。

 

 

 

 

人理定礎値 B+

第2の聖杯 The Real Guardian of the Universe 西暦0060年 永続狂気帝国 セプテム

 

「主が、『名は何か』とお尋ねになると、それは答えた。『わが名はレギオン。我々は、大勢であるがゆえに』」

 

――消滅するのは、人理か、レギオンか。――

 

 

2度目の聖杯探索(グランドオーダー)の舞台は西暦0060年。

ローマによる平和(パクス・ロマーナ)の最中にあるローマ帝国に、異形の軍団が襲来する。

ギリギリまで踏ん張る勇者たちのもとに駆けつけたのは、地球が生み出した大地の光。

そして、ローマを守るべく、ティベリス川にはローマ帝国の総力を結集した最終防衛ラインが敷かれる。

今、賽は投げられた。

 

 

 

 

人理定礎値 A

第3の聖杯 わたしが地球人 西暦1573年 封鎖終局四海 オケアノス

 

「人間は今では自分たちが地球人だと思ってるけど、本当は侵略者なんだ」

 

――人類はこの地球を故郷とすることすら許されないのだろうか――

 

 

3度目の聖杯探索(グランドオーダー)の舞台は1573年。

数多の海賊たちが財宝とロマンを追い求めて海に出た大航海時代。

大地を取り戻せと叫びながら襲い来る、海に住まう海底人たちとその眷属たち。

海底人の守護神獣に対するは、かつての東洋の覇者たる大海軍の末裔たちの駆る超兵器。

そして、人理焼却にその果てを海に閉ざされた円環海域(オケアノス)に、海の青き巨人が降臨する。

 

 

 

 

 

人理定礎値 A-

第4の聖杯 闇の支配者 西暦1888年 死界暗黒都市ミストシティ ロンドン

 

「たとえ人の心から闇が消える事が無くても僕は信じる……!!人間は……自分自身で光になれるんだ!!」

 

――人類の未来をつくるのは、死者ではない――

 

 

4度目の聖杯探索(グランドオーダー)の舞台は1888年。

文明の発展と隆盛を迎える産業革命期の大英帝国。

新たなる時代に進もうとする人類の前に、滅びの使い、怪獣ゾイガーが蘇る。

闇に包まれ、進むべき未来を閉ざされた都市に最後に来るもの。恐ろしい闇、巨大な悪。

その時人は、自分自身の力で絶望から立ち上がり、光となる。

 

 

 

 

 

人理定礎値 A+

第5の聖杯 明日へ…… 西暦1783年 北米神話大戦 イ・プルーリバス・ウナム

 

「人類よ、そのもの達の中へと同化せよ」

 

――恒久的世界平和、その答えの一つがそこにはあった――

 

 

5度目の聖杯探索(グランドオーダー)の舞台は1783年。

多数からなる一つ(イ・プルーリバス・ウナム)を志し独立戦争の最中にある北アメリカ。

世界を支配する超大国が生まれる以前、夜明けを待つ大地に現れた完璧な世界。

完全無欠の生命体。争いの無い世界。滅びのない永遠。

人は今、歩むべき未来を問われる。

 

 

 

 

人理定礎値 EX

第6の聖杯 超決戦!ベリアル銀河帝国 西暦1273年 暴虐皇帝要塞 マレブランデス

 

「ウルトラ戦士の心なんて何万年も前に捨てたよ!」

 

――光の国の長い歴史の中で、一人だけ力の誘惑に負けた者がいた――

 

6度目の聖杯探索(グランドオーダー)の舞台は1273年。

多くの人々の信仰の寄る辺となる聖地は、そこにはもはや存在しない。

そこにあったのは、光の国で唯一闇に墜ちた狂戦士が統べる超帝国。

暴虐と破壊と殺戮の支配する大地を取り戻すべく、地球を地球人より愛する親子が立ち上がる。

 

 

 

 

 

人理定礎値 ?

第7の聖杯 シン・Grand Order 西暦1941年 絶対怪獣戦線 地球(テラ)

 

「■■■■■■――!!」

 

――私の役目は終わった――

 

最後の聖杯探索(グランドオーダー)の舞台は1941年。

全世界に同時に出現した怪獣たち。

しかし、それはある一体の怪獣を蘇らせた影響を受けたにすぎない。

人類史を終わらせようとした存在の目的は、最初からあの怪獣にしかなかったのだ。

怪獣王が、人類史上最大の戦乱の中で怨嗟に満ちた産声をあげる。



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一体いつから炎上都市冬木がチュートリアルだと錯覚していた?

 ――アイエエエ!?アーストロン!?アーストロンナンデ!?

 

 

 隣にマシュがいなければ、彼は確実に絶叫していたことだろう。

 本来、この特異点Fに出現する敵はシャドーサーヴァントかスケルトン、竜牙兵ぐらいだった。これぐらいなら、服装から察するに原作通りにデミサーヴァントとなれたマシュがいればどうにかなるだろうし、途中からは()()()()とても頼りになるキャスニキも加勢してくれるはずだ。

 そして、裸一貫で特異点に放り出されることを予め知っていた彼は、切り札たる聖晶石を40個持参していた。戦力が不安ならばサーヴァントを追加で召喚することができるのだ。序章の突破だけなら、作家系キャスターでも引かない限りレアリティの低いサーヴァントでも頼もしい戦力となりうる。

 これなら、原作知識を持ってる自分にとっては楽勝!!と彼は高を括っていた。人類史を背負っている負けられない戦いであるのに、彼はこの戦いに対する必死さが乏しかった。最初からこの特異点における物語の流れを知っているが故に、自分が負けるはずがないと確信していたからだ。

 彼は、人類史の一大事に対し、いかに自分の強さをアピールしつつ可愛いサーヴァントといい関係を築こうかとあれこれ考えていたのである。取らぬ狸の皮算用とはまさにこのようなことを言うのだろう。その下心を成就させうるだけの能力を得るために努力を惜しまず、人生の全てをこの時のための鍛錬に費やしてきたとはいえ、あまりにも彼の覚悟は軽かった。

 だからだろう、目の前に現れた原作の展開を木っ端微塵に破壊する大怪獣の姿を見て、ただ呆けていることしかできなかったのは。

 

 彼の存在に気がついたアーストロンは、息を大きく吸うと同時に喉を発光させ、口内に熱を溜め込む。

「先輩、危ない!!」

 アーストロンが自分たちを標的に定めたことを察したマシュは、とっさに彼を庇うように前に出てその巨大な盾を構える。そしてその直後、アーストロンの口からマグマ光線が発射された。

 一直線に迫り来るマグマ光線は、マシュの構える盾に直撃。すさまじい衝撃と熱と爆風が着弾点を襲った。まだまだ盾の使い方にも慣れていないマシュは、凄まじい衝撃にふんばりきれずに吹き飛ばされてしまう。

 彼も、体勢を崩したマシュに激突されて巻き込まれる形で吹っ飛ばされて地面にたたきつけられる。熱風と爆風そのものはマシュが遮ってくれたとはいえ、人一人を軽々と吹き飛ばす衝撃は凄まじく、背中からたたきつけられた彼は、肺の空気を全て押し出されて悶絶する。

「グゥウ!?」

 身体強化の魔術を咄嗟に使ったため、彼には目に見える大きな外傷はない。すぐに覚醒した彼は、周囲を覆いつくした巨大な影に気づき、顔を上げる。

 そこにいたのは、唸り声を上げる巨大な異形。その姿を見た彼は震え上がる、先ほど骨の髄まで響く衝撃と彼を襲った圧倒的な『“死”の恐怖』を思い出したのだ。

「ア、アァ……」

 彼は、思わず後ずさりする。こんなはずではない。この特異点は敵サーヴァントも弱く、サーヴァントをそれほど育てなくても突破できる優しい敵のレベル設定になっていたはず。なのに、どうして自分はここまで追い詰められているのか。

「せん……ぱ……い」

 その声を聞いた彼は一縷の希望に縋るように、声の聞こえてきた方向に首を回す。見なくても、声で分かる。この声は、マシュのものだ。デミサーヴァントである彼女の助けがあれば、ここから一時的に撤退することも難しくはないはずだ。

 その後で、カルデアのDr.ロマンと連絡を取ってこちらも態勢を立て直せばいい。アーストロンだって、型月屈指のチートサーヴァントであるカルナやアルジュナ、ギルガメッシュを召喚できれば倒せなくはないだろう。 そう、だからここは戦略的撤退を――そんなことを考えながら彼は声の聞こえた方向に振り向き、そして表情を一変させた。

「だい、じょうぶですか……」

 マシュはボロボロだった。マグマ光線の衝撃に耐え切れず、盾を保持しきれなかったためだろう。腕は曲がらないはずの方向に曲がっており、身体のいたるところから血を流しながら力なく横たわっている。間違いなく、重傷だ。ただちに死ぬことはないだろうが、怪我の状況からして立ち上がって移動することすら難しいだろう。

 アーストロンの得意技であるマグマ光線なんぞ、名前負けしているただの火球で、帰ってきたウルトラマンでもウルトラマンサーガでも大した威力はなかったはず。だが、その大した威力のない技を1発くらっただけで、デミサーヴァントであるマシュがボロボロになっている。

 マシュが未だ自分と融合した英霊の正体すら知らず、宝具の真名解放ができない状況であるとしても、その破壊力は脅威の一言だ。

「な……そんな!?」

 彼が身体強化したとしても、サーヴァントの身体能力には遠く及ばない。だからこそ、マシュに抱えてもらって逃げようと考えたわけだが、その頼みの綱であるマシュは満身創痍。彼は、自分だけでも逃げる方法はないか必死で考える。

「逃げ……て……ください。私は、もう……」

 だが、その考えは途中で投げかけられたマシュの言葉によって霧散する。身体はボロボロで、もはや逃げ切れない状況にあることを知りつつ、それでもマシュは彼の身を心配して、逃げろと言ったのだ。

 下心を原動力に人倫など欠片も存在しない魔術師の世界を生きてきた彼とはいえ、根は現代日本で育った正常な倫理観を持つ一般市民だ。自分の命をその身を挺して守り、満身創痍となった美少女を即座に見捨てられるほどに冷徹にはなりきれなかった。

「ああ、畜生!!」

 何も考えず、ただ衝動的にマシュの身体を抱き上げ、その身体を背負って走り出す。後先のことなど彼の頭には無い。ただ、この場を逃げるためだけに全力で身体強化をかけて彼は駆け出した。

 身長60mの怪獣の歩幅から考えうる移動速度からすると、魔術師が身体強化をして全力疾走した程度で逃げ切れるような相手ではない。それに加えて、人一人背負いながらの逃走となると、成功の確率は皆無に等しい。身を隠せる場所は周囲にないわけではないが、アーストロンが暴れまわれば身を隠せる場所ごと潰される可能性も高い。

 それでも、彼は必死に逃げる。

「先輩、だめです!!私を見捨てて……」

「うるさい!!黙ってろ!!……クソ、どうしてこんな!!」

 背負っている彼女を見捨てて逃げれば自分だけは助かるのに、誰かを見捨てることすら怖くてできない小心者。そのくせしてどこぞの顎鬚うっかり貴族のように、計画は万全だと余裕ぶる阿呆。おまけに、一人では逃げることすらままならない弱者。

 その挙句にとった行動が自殺行為――正確に言えば、心中のような行為だ。自身の情けなさに反吐が出そうだ。かつての生では、ラスボスメーカーの顎鬚や、事態を悪化させることしかできない横恋慕蟲おじさん、小物ワカメの醜態を笑っていたが、今の自分の方が彼らよりももっと情けない。

「クソクソクソ……畜生めぇえ!!」

 もはや、何に、誰に対してものか分からない罵声と共に彼は走った。

 

「何だ、やる時はやるやつみたいだな、坊主」

 

 必死で彼が走っていたその時だ。彼を前にあるビルの上に青いローブを纏った男が姿を現した。

「小賢しくて好きになれない輩と同じ臭いがすると思ったが……まだ見どころが残っていたか」

 少年が必死で少女を背負って逃げる姿を見ていた男は、口角を吊り上げる。そして、彼もローブの男の存在に気がついた。

「……アンタは!?」

しかし、逃げることに必死な彼は立ち止まって助けを乞うという思考にはいたらず、ただ叫ぶことしかできなかった。

「頼む、アーストロンを倒してくれ!!」

 非常時とはいえ、初対面の人間に言うことでも、頼むことでもない。だが、男は彼の事情も何となく察している。だから、特に追究することもなくカラカラと笑って応えた。

「ハハハ!!槍さえあればそれもできたんだろうが、生憎今の俺は()()()()()でな」

 男は杖を構え、その先に光を灯す。

「だが、足止めぐらいならば今の俺でも楽勝だ」

 凄まじい魔力が男から溢れつつあるのを感じたのだろう。アーストロンも標的をローブの男に切り替え、男を焼き尽くさんとマグマ光線を発射しようとする。しかし、マグマ光線が放たれる前に男は準備を完了していた。

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社───倒壊するは灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)!!」

 男の言霊と共に、細木の枝で身体が構成された巨人が出現する。そして、巨人はアーストロンに抱きついてその身を焼き焦がす!!

 人間から見れば全長十数メートルのそれは確かに巨人と言えるだろう。しかし、身長60mのアーストロンからすれば、それは股ほどの高さしかない。いくら激しく燃えていようとアーストロンの全身を焼き尽くすには小さく、そして何より、巨人が纏う炎は熱さに耐性のあるアーストロンにとっては致命傷となるほどの熱さではなかった。

 とはいえ、自身の脚に抱きついて炎上する灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)がアーストロンにとって取るに足らない存在かといえば、そうではなかった。突然現れ、自身に纏わり付き、大怪我を負わせるほどではないが、火傷を負わせるほどには破壊力のある正体不明の物体。

 アーストロンは灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)を引き剥がそうと必死になって暴れる。そして、彼はどうにか灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)がアーストロンの注意を引きつけているうちに、アーストロンの目の届かないところまで逃走することに成功した。

 

 

「…………あ、ヤバ」

 身体強化に回していた魔力が切れ、彼は膝から崩れ、前に倒れこむ。しかし、彼が崩れる直前に横から入り込んだ腕が彼を受け止めた。

「大丈夫っスか!?しっかりしてください!!」

 そして、疲労と魔力の枯渇から意識を失いかけた彼の瞳は、最後にその視界にポニーテールの少女の姿を写した。

「うわ!?後ろの女の子も酷い怪我です!!オトコ、すぐにこっちの女の子運んで!!」

「オトコ言うな!!ネコさんと呼びなさい!!」

 

 その顔を覚えている。

 茶色いセミロングの髪、短めのポニーテールにジャージの長袖とブルマ。一見どこにでもいそうな体育会系美少女(?)の姿。

 ――かつて見た彼女の姿が、あの物語の中における日常の象徴だったから。

 まるで、攻略対象の幼馴染お姉さん系ヒロインではないかと思ったほど。

 

「君は……」

「私は藤村大河!!この街を守るレジスタンスのリーダーやってます!!」

 

 彼は、自分がついさっきまで死の直前にいたことを忘れるくらいに、彼女が浮かべた希望に満ちたきれいな笑みに見惚れていた。

 

 

 

 

 

 

『ドキュメントFGO』

 

 

 

名前:アーストロン

種別:凶暴怪獣

身長:60m

重さ:2万5000トン

能力:口から出すマグマ光線

 

 

 頭の鋭利な角「スラッシュホーン」と口から吐く「マグマ光線」を武器とする地底怪獣。

 黒くて堅い表皮はミサイル攻撃ぐらいではびくともしない。両腕と尻尾も中々の力がある。……まぁ、大概の怪獣はこれぐらいの防御力と力は持ち合わせているのだが。

 主食は鉄なのに、何故か地上に現れて暴れまわる。ウルトラマンメビウスでの登場時は宇宙凶険怪獣ケルビムに操られていたので分からなくもないが、帰ってきたウルトラマンでの登場時は本当に何故地底に帰ろうとしなかったのか分からない。凶暴なのは分かるが、藁葺き屋根の家しかない山間部で何が暴れたくなるほどにアーストロンにとって気に入らなかったのだろうか……。

 なお、スラッシュホーンは武器であるとともに、弱点でもある。これを折られると目を失ったシャコの如く戦意を喪失してしまう。

 その王道的なデザインもあってか、ウルトラマンジャックの最初の敵に抜擢され、その後のシリーズでも度々登場する。……のだが、その度にあまりいいところもなく倒されてしまう。メビウス出演時は、操られていただけなのにとばっちりで首チョンパされており、出番があるだけマシとはいえ、幸の薄い怪獣である。

 しかも、弱点であるスラッシュホーンを破壊して勝利したのはウルトラマンジャックだけであり、その他の対戦相手には弱点を狙われることもなく普通に敗北している。弱点を狙わなくても普通に勝てる程度の実力しかなのだろう。

 一応、ウルトラギャラクシー大怪獣バトルで白星があることにはあるが、白星を挙げた直後にエレキングに水中に引きずり込まれ、感電させられた上に爆死させられている。

 このような戦績では噛ませ犬といわれても仕方がないかもしれない。




ドキュメントFGOとは、ウルトラマンメビウスにおける防衛チーム、GUYSが度々三章しているGUYS総本部のデータベースに記録された過去に活躍した防衛チームと戦った怪獣や宇宙人の「アーカイブドキュメント」のようなものと考えてください。
ただし、ドキュメントFGOは過去の防衛隊の記録ではなく、主人公の立香君の記憶ですので、ところどころ妙な記述がある場合もあります。


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型月名門のお約束?そんな道理、円谷の理でこじ開ける!!

「助けていただいて、ありがとうございます」

「いいのよ。見殺しになんてできなかっただけだから」

 見ているものを安心させる柔らかな笑みを浮かべる若き日のタイガー……もとい、藤村大河。

 第五次聖杯戦争時の彼女のよりも魅力的で、より可愛らしく感じるのはやはり、若いからなのだろうか?助けてもらっていながらそんな不謹慎なことを転生者である藤丸立香は考えていた。

 どうやら、さきほどのパニック状態から一周回って多少は周囲の状況が理解できるほどに冷静になったらしい。アーストロンの出現に加えて藤村大河という型月一の幸運値を誇るヒロインになれない女、それに加えて先ほどから背中にあたるものすごく幸せになれる柔らかい感覚。それらが彼の中でこんがらがった結果だろう。

 立香は大河に先導され、状況の整理とマシュの治療を兼ねて彼女たちの本拠地に向かっていた。

 

「それで……君達は一体どこから来たの?」

 純粋な疑問なのだろう。大河の瞳には、打算的な考えは一切見て取れなかった。立香はここで回答を渋って彼女たちとの関係を悪化させることは拙いだろうと考え、とりあえず魔術のこと以外は話すことに決めた。しかし、藤村大河はその直後回復したばかりの冷静さを吹っ飛ばす一言を告げる。

 

「あ、私たちは魔術についても知ってるから、神秘の隠匿については気にしなくていいからね」

「はいぃ?」

 

 立香は負傷して身動きが取れないマシュを背負ったまま頭を抱えた。何故、魔術には縁の無かった彼女が魔術について知っているのか。そのことが、この炎上都市冬木におけるイレギュラーな事態と何か関係があるのか。頭が全く整理できず考えも纏まらない。

 

「ど、どうして魔術を?まさか魔術とこの状況に関係が?」

 混乱している立香を見て、大河は苦笑する。

「え~と、色々と訳が分からないみたいね。なら、こっちから事情を説明した方がいいか」

「しかし、大河。そうはいうものの、私たちではあまり専門的な話はできない。ここは()()に任せた方がいい。彼も、同じ魔術師の方が話が通じやすいだろう」

 オトコと呼ばれていた女性が助け舟を出す。

「先生……ですか?」

 立香に背負われているマシュが尋ねる。

「ええ。私達レジスタンスの協力者でね。昔は神童って言われていた天才魔術師らしいの」

 オトコの言葉に反応し、立香が我に帰る。この冬木は、タイガーの容姿が弟子ゼロ号であることから考えるに、第四次聖杯戦争のころと見て間違いないだろう。そして、その時期に冬木にいるであろう魔術師、そして神童と呼ばれた男。彼の中で点が線となり繋がった。

 

 まさか、彼女たちが()()と呼ぶ男は――

 

「フラフラと出歩いてはまたお客を拾ってきたのか君は」

 気がつけば、どこか見覚えのある純和風の大きな邸宅――第四次聖杯戦争後には衛宮邸となる屋敷の前まで来ていた。そこで、ローブに身を包んだ金髪の男が大河を出迎える。

「先生すみません……でも、見過ごせなくって」

「全く。君には様子を見るということを頼んだだけだ。彼らが敵か味方かあるいは無関係だった第三者か……そんなこともわからずに連れてくる理由がそれかね」

 先生と呼ばれた男は溜息をついた。どうやら、大河の扱いにはかなり難儀しているらしい。彼の溜息からは彼の疲れがどことなく感じ取れる。

「貴方は、まさか……」

「君の推察通りだろうな。私はアーチボルト家9代目当主、ケイネス・エルメロイ・アーチボルトである。今はこのレジスタンス組織『藤村組』の協力者をしている」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レフ……ロマニ……誰かいないの!?」

 

 立香たちが、レジスタンス組織『藤村組』の拠点に辿りついていたころ、立香たちがいる深山町とは未遠川を挟んだ反対側に位置する都市部の一画で、オルガマリー・アースミレイト・アニムスフィアは声を張り上げていた。

 彼女は人理継続保障機関(カルデア)の責任者にして、時計塔を統べる12人のロードの一つであるアニムスフィア家当主を担う若き才女である。しかし、静寂に支配された街で誰かに助けを求める姿は、彼女の立場に相応しい堂々たるものではなく、まるではぐれてしまった親を必死になって探そうとする迷子のようであった。

 

「どうして私がこんな目に……大体なんでスタッフの誰も私を助けにこないのよ」

 彼女は少し前に、車どころか人の影すら見えない交差点で目を覚ました。

 目を覚ます前の彼女の最後の記憶は、管制室で終わっている。

レイシフトに向けた準備が終わったところで突然目の前が真っ赤に染まり、轟音が全てを掻き消していたところまでしか覚えていない。

 それが何故こんな無人の地方都市にいるのか。彼女には自分の身に何が起こったのか、まるで理解できなかった。かろうじて理解できたことといえば、ここがかつて世界最悪の規模の聖杯戦争の果てに人の住めない土地と化したはずのFUYUKIと呼ばれる土地であり、どうやら人の気配は周囲にないということ。

 そして、自分は管制室にいたときと同じ服装と持ち物しか持ち合わせていないということぐらいだ。

 しかし、彼女の災難はこの未訪の地での遭難に留まらなかった。突如地面が大きく揺れ、オルガマリーは立っていることもままならずにアスファルトで舗装された道路に這い蹲る。

「こ、今度は何!?」

 地の底から聞こえてくる地響きが次第に大きくなり、振動もまた次第に強く、より振れ幅が大きくなっていく。

 オルガマリーの後方で何かが爆発したかのような衝撃音が響いた。吊られて振り返ったオルガマリーが見たのは、まるで噴火か何かに巻き込まれたかのように宙に弾き飛ばされた土砂やコンクリート片、そして、巨大な鞭のような物体だった。

「触手……いや、腕!?」

 突如地底から出現した()()はゆっくりと身体を起し、その姿を地表に晒す。

 鞭のようにしなる長い両腕。体表には無数の鋭い棘が生えており、頭部には巨大な二本角。

 その巨大な生物の名は、グドン。

 地底怪獣の別名を持つ、中生代ジュラ紀に生息していた恐竜の一種である。

「あ……あぁ……」

 オルガマリーは目の前に出現したグドンの咆哮に恐怖し、足が竦んで動けないでいた。強者が己が存在を知らしめんがために放つ巨大な咆哮に、彼女の人間としての本能が圧されていたのである。

 そして、グドンは彼女の方にその足を向けた。オルガマリーは這うようにして逃げようとするが、それでは到底グドンの足から逃れられない。実は、グドンには彼女の姿なんぞ目に入っておらず、偶々グドンの進行方向に彼女がいたというだけのことなのだが、そんなことは今まさに踏み潰されようとしている彼女には関係のないことだった。

 

「何なのよこいつら!?なんだってわたしばっかりこんな目に遭わなくちゃいけないの!?」

 

 オルガマリーの脳裏にこれまでの人生が走馬灯のように蘇る。

 思えば、何も報われない人生だったと彼女は思う。

 父の期待に応えるために勉学にも魔術の研鑽にも必死で励んだが、父は三年前に帰らぬ人となった。結局、生まれてからの23年の間、その父ですら娘であるオルガマリーの努力を認め、褒めてくれはしなかった。

 父の死後は、人理継続保障機関(カルデア)の責任者としての立場を引き継いだ。しかし、そこで待っていたのは、親の七光りで所長になっただけの小娘だとして彼女を蔑む協力者たちの嘲笑。さらに質も量も一級品の魔術回路を持っていながら、何故かサーヴァントのマスターとしての適性が皆無であることに対する失望。

 人理継続保障機関(カルデア)の組織運営も、各種設備の開発、保守点検、維持管理、魔術協会との折衝も、全て彼女はこなしてきた。彼女は若く、父の偉業を引き継いだだけでさしたる実績もないし、人類史を救済するマスターとしての役割もこなせないが、組織の責任者としては十分に仕事をしているはずだ。

 それなのに、誰もが彼女の仕事を認めない。彼女の成果を褒めたりしない。彼女を評価してくれない。

 

 そう――彼女は23年間、誰からも認められず、評価されず、褒められない人生を送ってきたのである。

 

「もういや、来て、助けてよレフ!いつだって貴方だけが助けてくれたじゃない!」

 

 目の前には、避けることのできない絶対の“死”。誰からも自身を褒めてもらえず、心の乾きを潤すことなく死を迎えることに、彼女は恐怖する。常に自身を評価してくれる誰かを求めて乾いて砕けそうになっていた心を支えてくれたレフもいない。

 

「いや―――誰か助けて!私を助けて!!こんなところで死にたくない!死んでいいわけない!!」

 

「だってまだ誰も私を認めてくれてない!!」

 

 彼女の魂の叫びもグドンの巨大な足音に掻き消され、誰の耳にも届かない。

 気がつけば、彼女の周囲は巨大な影に覆われていた。

 彼女を覆うその影の正体は、ゆっくりと歩き出したグドンの足の裏だ。

 そして、彼女は目前に迫った死を直視したことで、理解した。

 

「また……またなの!?今度も助けてくれないの!?」

 

 時計搭との交渉で、到底呑めない要求を突きつけられた時も、決済をしなければならない書類が溜まって何日も所長室から出られなかった時も、システム異常が発生して24時間体制で原因究明に追われた時も、誰も彼女に手を差し伸べなかった。

「助けてよ。誰でもいいから、助けてよ……」

 誰が彼女を気遣ってくれただろう。誰が、自分の身を案じてくれただろう。

 オルガマリーの瞳から涙がとめどなく流れ出す。

 それは、これまでの人生の不条理への嘆きか、この後に及んで誰も彼女の味方となってくれないことに対する絶望か。

 

「お願い、誰か――」

 

 迫り来るグドンの足の裏が、頭を抱え、目を瞑って蹲る彼女を覆いつくそうとしたその瞬間。彼女の周囲は光に包まれた。

 

「デュワッ!!」

 

 瞼を閉じている彼女が知覚できたのは、超重量の物体同士が激突したような鈍い大きな音と、続いて何かが勢いよく地表にぶつかったかのような振動だけだった。

 大地がトランポリンのようにはずむほどの振動にオルガマリーも振り回され、何が起きているかも分からずに思わず頭上を見上げた。

 

 そして、彼女は見た。先ほどまで彼女の目の前にいたはずが、数十メートル先で痛みからのたうちまわっているグドンの姿を。さらに、彼女を守るようにグドンの前に立ち塞がるのは、赤いボディーの巨人。

 

 オルガマリーも知識としては知っている。

 十数年前に冬木の地でおきた聖杯戦争で初めてその存在が確認され、数年ほど前から世界各地で目覚めた怪獣から人々を守るために戦う姿が報告されている光の国からやってきた正義と平和の使者。

 どれだけボロボロになろうと、最後まで戦い抜いて人々の命と未来を守り抜く光の巨人。

 

 そう、その名は――

 

 

「ウルトラ……セブン…………」

 

 赤いボディーに銀のプロテクターを纏った戦士は、突然の襲撃に激昂するグドンの前で、ファインティングポーズを取る。

 背筋を伸ばし、両腕を正面に構える隙のない構えをとった戦士の姿を、オルガマリーはただ呆然と見つめていた。

 

 

 ――この日、彼女は運命に出会った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ドキュメントFGO』

 

 

 

名前:グドン

種別:地底怪獣

身長:50m

重さ:2万5000トン

能力:鞭上の両腕から繰り出す打撃

 

 

 

中生代・ジュラ紀に生息していたとされる怪獣で、主な食糧は海老のような味がすると言われている古代怪獣ツインテール。海老のような味がするということは、実際に誰か食べたのだ

 

ろうか?それとも、蟹や海老の旨み成分としても知られる甘味系アミノ酸のグリシンがツインテールの身に含まれていたのだろうか?個人的には後者であってほしいと思う。

全身は棘の生えた甲殻で覆われており、体表はMATのMN爆弾では歯が立たないほど頑丈。。

初登場時はウルトラマンジャックと対戦し、一度はツインテールとの戦いに巻き込まれたウルトラマンジャックを敗退に追い込むも、再戦時は一対一であったためあっけなく倒されている。

鞭のような腕でどうやって地面を掘るんだという突っ込みがあったからか、ウルトラマンメビウスとの戦いの際には、鞭は高速振動しており、その振動で岩盤を掘り進めるという設定が付け加えられた。

特徴的なフォルムからか、幾度か再登場の機会にも恵まれている『帰ってきたウルトラマン』を代表する怪獣のうちの一体。

因みに、ツインテールにとって捕食者たるグドンが天敵であるように、グドンにもまた捕食者で天敵である海の凶悪怪獣が存在するらしい。



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もう大丈夫 私が来た

「地球環境モデルを投影し過去を観測、英霊召喚を応用したレイシフト……それら全てを霊子演算機の導入によって可能にしたわけか」

 

 立香たちは、藤村組を名乗るあきらかに反社会的勢力なネーミングのレジスタンス組織に拾われ、何故かこの組織において魔術関係の顧問をしていたケイネスに自分たちのことを説明していた。

 どうやらケイネスは人理継続保障機関(カルデア)の存在も小耳に挟んだことがあったらしく、説明は短時間で終わった。人格的には何だかんだ言われているが、ケイネスは間違いなくこの時代の魔術師の中では群を抜いて優秀な存在なのだ。

「アニムスフィアの後継者も上手くやれたらしいな。噂でしか聞いたことはなかったが、それなりに優秀だったらしい」

「ええ、まぁ」

「そして、この時代は特異点と化している。なるほどな、特異点の発生原因を解明してそれを排除すればこの特異点は消滅し、特異点にいる我々は消える……しかし、我々の記憶は正しい歴史の流れの中にいる我々には受け継がれないということか」

 冷静に現状を分析するケイネス。時計搭の神童というだけあって、立香の拙い説明でも現状を理解するのにそう時間はかからなかった。

 しかし、立香は先ほどからケイネスの態度に拭いきれない違和感を感じていた。このケイネスは、立香の知るケイネス・エルメロイ・アーチボルトと比べ、人格が非常に丸いのである。

 立香がかつて読んだ第四次聖杯戦争時の冬木を舞台とした作品『Fate/Zero』に登場したケイネスという男は、傲慢でプライドが高く、平気で魔術師以外を見下すエリート意識を悪い意味で丸出しの男だった。

 そもそも、ケイネスのキャラクターはこの物語における主人公、衛宮切嗣の魔術師殺しというキャラクターを描くための素材としての側面が強く反映された設定をされている。おまけに、ヒステリックで自身のミスも認められない器の小さな男だ。所謂噛ませ犬というやつであり、数多のキャラにとって不幸な結末となった『Fate/Zero』においてもその末路の悲惨さはトップクラスである。

 そんな立香が知るケイネスが、他の魔術師の功績を素直に賞賛し、さらには魔術師ですらない藤村大河とここまで良好な関係を築けるのだろうか?彼の知るケイネスであれば、暗示をかけて大河たちを支配下においてあれこれと(的外れな)指示を出しそうなものである。

 しかし、見たところ大河や音子は暗示をかけられている兆候は見て取れない。でなければ、ケイネスにあそこまで馴れ馴れしく接することはできないだろう。時計搭の神童たるケイネスならば自分の目を誤魔化すことのできるほどの精度の高い暗示をかけられても不思議ではないが、だとしてもケイネスに対する接し方を馴れ馴れしくする必要はない。

 また、型月界でもウェイバー・ベルベットと並んで幸運値トップ争いをするラッキーガール、タイガーとはいえ、流石にここまでの人格矯正ができるとは思えない。タイガーにそんな力があったなら、あのワカメはもう少しマシな人間になっていたはずだろう。

 立香が本人を目の前にして失礼なことを色々と考えていると、ケイネスが訝しげな表情を浮かべながら問いかけた。

「……なんだね?私の理解にどこか間違っている点でもあったというのか?」

「いえ、別に」

 自分に非がある可能性を認めてその上で確認してくるなんて、貴方本当にケイネス先生ですか?という疑問が口から出そうになるのをグっと堪えながら立香は答えた。

 しかし、ケイネスは彼が何か別のことを考えていることは察しているのだろう。彼は訝しげな表情を崩そうとはしない。そこに、凛とした女性の声が聞こえてきた。

「あの少年は貴方のことを知っているのよ、ケイネス」

 襖を開けて現れたのは赤髪の女性――ケイネスの婚約者、ソラウ・ヌァザレ・ソフィアリだ。

 本来の歴史であれば、ケイネスが召喚したサーヴァント、ディルムッドの魅了の呪い(チャーム)によって恋心を抱いて暴走。婚約者たるケイネスをとことん追い詰める役回りを担った女性である。まぁ、彼女も中々悲惨な最期を遂げてはいるが、最期の時は意識を失っていた為、ケイネスに比べれば遥かに幸せな最期だったのかもしれないが。

「日本に来る前の貴方を知っていれば、今の貴方の変貌に驚くのも無理も無いわ。そうよね?」

「ええ、まぁ……」

 ソラウに核心をつかれてしどろもどろに答えるぐだ男。それを聞いたケイネスは不機嫌そうに眉を顰めた。

「ソラウ、私は」

「事実は事実よ。貴方はここに来て変わった。昔の貴方のことに対して色々と思うことはあるのでしょうけど、それはそれとしておきなさい」

 ケイネスはソラウの指摘を前に閉口する。どうやら、性格が変わっても二人の間の力関係は変わっていないらしい。

「さて……貴方達の事情は障子越しではあるけど、聞かせてもらったわ。万が一のことを考えて、私は外で待機させてもらっていたの、ごめんなさいね」

 不機嫌そうなケイネスを差し置いて、ソラウがこちらに向き直る。

「今度は私達の番ね。とりあえず、私達が日本に来ることになった理由から説明させてもらうわ」

 そして、ソラウは語りだした。本来の歴史の流れと違う第四次聖杯戦争の中で、一体何が起きたのかを。

 

 

 

 

 そもそも、ケイネスは自身の経歴に武功という箔をつけることができるであろう聖杯戦争に参加するためにこの冬木の地を訪れた。聖杯戦争とは、選ばれた七人のマスターが英霊を召喚、使役する魔術儀式のことであり、自分以外のサーヴァントとマスターを脱落させることが勝利条件となる。

 ケイネスも万全を期して征服王イスカンダルをライダーのクラスで召喚することに成功したものの、召喚されたライダーは自由奔放であり制御することが難しく、ケイネスは文字通りライダーに振り回されていたという。

 とはいえ、大英雄たるイスカンダルを、世界屈指の魔術師であるケイネスがマスターとして支えているのだ。ケイネス陣営は、()()の聖杯戦争であれば比肩しうる陣営は存在しないといってもよかった。ただ、今回の聖杯戦争は通常のそれとは格の違うサーヴァントが複数召喚される異例の事態だったのだが。

 因みに、彼らは知る由もないことではあるが、この聖杯戦争においてイスカンダルとまともに戦えるサーヴァントは聖杯戦争始まりの御三家のひとつ、アインツベルンが召喚したセイバー、アーサー王、加えて同じく御三家が一つ、遠坂家が召喚した英雄王ギルガメッシュぐらいしかいなかったようだ。

 超級のサーヴァントが3体も揃うことになった時点で、この聖杯戦争は通常のそれとは著しく剥離していたといっても過言ではなかった。

 しかし、今回の聖杯戦争は通常の聖杯戦争とは異なるものであった。聖堂教会から派遣された監督役、言峰璃正神父から聖杯戦争開始の宣言がなされた直後、冬木から多数の人が消えたのだ。殺されたのではなく、文字通り血一滴残すことなく消滅したのである。残されたのは、聖杯戦争関係者と、非力な女子供のみだった。

 そして、同時に空に現れた巨大な円盤と、それによって街に放たれた無数の怪獣たち。怪獣たちはまず積極的にマスターとサーヴァントを襲った。

 ケイネスとライダーも街に現れたゴメスを相手に死闘を繰り広げ、令呪三画の消費によって強化された遥かなる蹂躙制覇(ヴィア・エクスプグナティオ)を口内に突っ込ませることによってどうにか撃破したものの、直後にブラックキングの襲撃を受けてライダーを失ってしまう。

 他のマスターたちも迫り来る怪獣相手に抵抗を試みたらしいが、どうやら全ての陣営が撃破されたらしい。というのも、これはケイネスが使い魔を使って各地を偵察した結果分かったことであるが、アインツベルンの森は全身からミサイルを放つ怪獣の襲撃を受けて一面が焦土と化し、遠坂邸は空から降ってきた巨大な繭らしきものに占拠されたそうだ。

 

 これもケイネスの知る由も無いことではあるが、各陣営はキャスターのサーヴァントを除き必死の抵抗の末に全滅していた。

 例えばアインツベルン陣営であるが、彼らは用心棒怪獣ブラックキングの襲撃を受けた。セイバーは魔力放出による高速移動とその身体の小ささを活かしてブラックキングを翻弄、1時間に及ぶ死闘の末に、眼球から脳天を聖剣の光で貫いて撃破することに成功する。

 しかし、その直後にミサイル超獣ベロクロンの襲撃を受け、消耗していたセイバーはミサイルの絨毯爆撃によって致命的なダメージを受けて脱落する。彼女のマスターである魔術師殺しも、身を隠していた森ごと爆撃で燃やし尽くされて脱落した。

 また、おそらくはこの聖杯戦争で(サーヴァントの実力だけを見れば)最強に限りなく近かった遠坂陣営も、複数の怪獣の襲撃を受けて脱落していた。

 磁力怪獣アントラー、双頭怪獣パンドンの同時襲撃を受けながらも令呪を切らずに撃退したあたり、やはり原初の英雄王は並み居る英霊の中でも文字通り格の違う大英雄だったのだろう。

 しかし、英雄王は天下無双であっても、英雄王に魔力を供給する側の遠坂時臣はそうではない。英雄王がじゃれついてくる狂犬(英雄王視点)に誅罰を下している間に魔力が切れ、長年にわたって溜め続けた宝石も二体の怪獣を撃破した時点でほぼ底をついていた。

 乖離剣(エア)を出して天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)を使って二体の怪獣を葬った方が遥かに魔力的な消耗は少なかっただろう。

 しかし、流石にあの英雄王が怪獣とはいえ獣程度に乖離剣(エア)を抜いてくれるはずもなく、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)からの絶え間ない宝具の絨毯爆撃によって時臣はかなりの消耗を余儀なくされていたのである。

 そして、疲弊した時臣は、背後に現れた異形の甲冑をきた何者かに隙を突かれて殺害され、マスターの死亡により魔力供給を絶たれた英雄王は突如頭上から降り注いだ巨大な繭との戦いの末に繭に飲み込まれた。

 因みに、英雄王の直接の敗因はやはり慢心であった。王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)による宝具の絨毯爆撃で繭をボコボコにしていた隙に、密かに繭が地中から回りこませた触手の攻撃を受け、その触手から吸収されてしまったのである。

 吸収の特性と、聖杯によって召喚されたサーヴァントに特攻効果のある何かの力の相乗効果には、流石の英雄王も耐えられなかったらしい。慢心さえしていなければ、この攻撃も避けられただろうが。

 

 その後サーヴァントを失ったケイネスは、自身の敗北が受け入れられず、冬木ハイアットホテルの最上階で「ライダーが弱すぎた」「この聖杯戦争という儀式を考えた田舎の魔術師は愚かだ」「そもそも、こんな下劣な儀式に私が出ては、私自身の格が下がる」などと自己正当化のための他人への呪詛を撒き散らして引篭もった。

 ソラウは呆れてモノも言えなくなり、ケイネスをしばらく放置して頭に昇った血が下がるのを待つことにしたが、2、3日待ってもケイネスの容態に変化はなく、寧ろ悪化の一途を辿っていたらしい。

 そして、ケイネスがブツクサ言いながら引篭もってから数日経ったある日、ついに冬木ハイアットホテルはミサイル超獣ベロクロンの襲撃を受けて倒壊する。

 ケイネスは冬木に持参した全ての礼装を持ってベロクロンを迎え撃ったが、当然のことながらベロクロンに敵うはずもない。圧倒的な力の差の前に、己の魔術師としての誇りも自信も全てを圧し折られ、生まれて始めて彼は絶望というものを知った。

 死の恐怖に震えるソラウを抱きしめることしかできない己の矮小さ、無力さに悔しさを覚え、これまでの己を恥じ、後悔というものを知る。全てが初めての経験だった。この時、これまでの彼を支えていたものは全て折れたのだ。

 もっと、ライダーと言葉を交わし、己の能力に慢心することなく聖杯戦争に望んでいれば、愚痴を垂れ流している余裕があったうちにソラウと共に安全を確保するための策を講じていれば――確実な死をもたらすベロクロンの足音が迫り来る中、ケイネスは過去の己に対して憤りながらも、ただソラウだけでも助かることを祈り、彼女を庇うように覆いかぶさった。

 しかし、己の絶対的な能力を信じていた彼が、初めて誰とも分からない他者の力に縋ったその瞬間。奇跡が起きた。

 

 

 

 

「怪獣のそれとは違う、静かに、それでいてどっしりとした足音と共に現れたのは、巨人だったわ」

 ソラウは、それまでの淡々とした口調から一転して、半ば懐かしむような口調で語る。

 その瞳には光が灯り、胸には澄んだ蒼き輝きを放つカラータイマー。銀と赤、青を基調としたスタイリッシュなボディ。その容貌からは、どこか神聖さすら感じられるという巨人の姿。

 この時点で、立香はその巨人の正体に半ば当たりをつけていた。タイマーや光る瞳という言葉から察するに、その巨人は間違いなく光の巨人――ウルトラマンだ。そして、体色に赤、青、銀とくれば候補者は限られてくる。

 ソラウは語り続ける。巨人は僅かに腰を屈め、両手を前に構えてファインティングポーズを取った。それに対し、ベロクロンはまるで仇を見つけたかのように興奮して巨人にミサイルの集中砲火を浴びせたという。

「飛んでくるミサイルに対して、その巨人は両手を前に出し、目の前に光のバリアを展開したの。ミサイルはバリアに阻まれて、その奥にいる巨人には傷一つつけられなかったわ。無数のミサイルをなお平然としている巨人に対してこのまま距離を取っていても埒が明かないと判断したのか、続いて怪獣は巨人へと突進したの」 

 しかし、巨人はベロクロンの突進を正面から受け止め、そのまま背中から倒れこみながら巴投げをきめた。蹴りを腹に叩き込まれ、そのまま上空へとばされたベロクロンは苦悶の声をあげながら地面にたたきつけられ、その衝撃でケイネスたちも数十センチ跳ね上がったそうだ。

「地面にたたきつけられて苦しそうに立ち上がる怪獣を真っ直ぐ見据えて、巨人は腕を十字に組んだの――そして、その十字に組んだ腕からは澄んだ光の奔流が溢れだし、そのまま怪獣へと突き刺さって、怪獣は爆発四散。私達はウルトラマンダイナに救われた……」

「ウルトラマン……ダイナ?」

 唐突に出てきたその名前にマシュが首を傾げる。彼女も、怪獣が頻出するこの世界で人々のために怪獣と戦い続ける正義の味方――ウルトラマンという存在は知っている。しかし、ウルトラマンダイナなどという光の巨人については心当たりがなかった。

「どんなときも諦めずに困難にぶつかっていく光の巨人――私達を救ったあの巨人の名前よ」

 ソラウがウルトラマンダイナについて語るその様子は、まるでファンが自身の大好きな英雄について語るかのように誇らしげだった。



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救世の聖処女 SSFとは言わせない

 ケイネスの話を要約すればこういうことになる。

 第四次聖杯戦争の開始と同時にこの世界からは非力な女子供と聖杯戦争関係者以外の人間は文字通り跡形もなく消滅し、それと同時に怪獣が多数出現。

 聖杯戦争に参加したマスターとそのサーヴァントは怪獣に抗戦するも、全騎が激闘の末に消滅。ケイネス以外のマスターは消息不明となっており、既にこの世にいない可能性も高い。

 そして、怪獣に襲われて絶対絶命のピンチに陥ったソラウたちを救った光の巨人。ウルトラマンダイナ。

 怪獣を撃退した後、ダイナは変身前の姿――アスカ・シンの姿に戻り、この異常事態を解決するためにケイネスたちと行動を共にすることとなる。その後、この世界に残された子供や女性を保護し、マスターを失いながらもしぶとく生き残っていたキャスターのサーヴァントを仲間に引き入れてレジスタンス組織藤村組を組織したということらしい。

 しかし、そのアスカ・シン――ウルトラマンダイナは今どこに?とマシュが問いかけたところ、帰ってきたのは絶望的なものだった。ウルトラマンダイナは旧遠坂邸に出現した巨大な繭と、その頭上に座す巨大円盤こそがこの特異点を形成している原因である可能性が高いと判断し、これの排除を試みたが、それに失敗したのだ。ウルトラマンダイナは繭に囚われ、最期には物言わぬ石像と化して倒れたという。

 その一部始終を語ったソラウは、最期には年甲斐もなく泣きじゃくっていた。ウルトラマンダイナは、彼らにとっては紛れもなく希望であり、その喪失は絶望と同義だった。そして、ウルトラマンダイナを失い、長期的な活動方針を失って途方にくれていた彼らにとって、自分たちとの出会いは現状の打破に繋がる新たなる可能性だったのだろう。

 だからこそ、彼らは自分たちとの意見交換を重要視しているのかもしれない。

 

 

 

 

 

 マシュは予想以上に悪い状況に顔を青ざめ、ソラウとケイネスも立香たちが現状を打破する可能性としては期待はずれだったためか沈痛な表情を浮かべている。ケイネスの許可を得てカルデアとの通信ラインを確保したはいいものの、カルデアもテロの直後ということもあり大混乱の最中だ。

 状況を共有したDr.ロマニもカルデア側の設備の応急修理やレイシフト中の自分たちの観測だけで手一杯の状態らしく、こちらを積極的にサポートして戦局に寄与できる状態ではない。

 そして、我らが主人公(になってしまった)藤丸立香はケイネスとソラウからこれまでの経緯を聞き、内心では頭を抱えていた。周囲に人がいなければ、Fate/Grand Orderのチュートリアルはどこへ行ったと大声で叫んでいただろう。

 

 状況は最悪と言っていい。

 本来の炎上都市冬木は、チュートリアルの側面が強いステージであり、現れる雑魚敵も動く骨人形ぐらいのものであり、敵となるサーヴァントも一部を除いて理性を失い弱体化した状態だった。

 脅威となる敵は、セイバー・オルタぐらいなもので、後はキャスニキの助力があればどうにかなる。魔神柱も出ないし、石や呼符で☆4以上の鯖でも引いて適当に種火食わせてレベル上げておけば磐石だ。一日に一画回復する令呪を三画切って、全騎HPとAPを回復させるという奥の手もある。

 寧ろ序盤の敵となるのは雀の涙ほどしかないAPだろう。ただ、そのAPもレベルが上がってからは自然回復で十分回せる余裕ができるし、AP全回復の効果がある黄金の林檎なんて腐るほどに持て余すことになる。どうせ同じ黄金の林檎をくれるのであれば、アタランテの絆MAX時にもらえるボーナス礼装の方がよっぽど有用である。

 しかし、現実は非情である。炎上都市冬木はチュートリアルどころか最初からクライマックスの難易度となっていた。ひょっとすると、第七特異点よりもキツイかもしれない。例えるなら、マサラタウンを出て一番道路に入ったと思ったら、そこはシロガネ山だったというところか。こんな設定をした開発陣はユーザーの襲撃を受けるだろう。

 何せ、敵は慢心していたとはいえあの英雄王すら打倒した怪獣軍団だ。加えてこちらの戦力となるサーヴァントは自身と合体した英霊の正体も分からず、真名解放も微妙で戦闘経験も皆無なマシュぐらいで、キャスニキ以外の味方サーヴァントはゼロ。さらに唯一の希望だったウルトラマンダイナは敗北し石化しているという。

 そして、生前に円谷、大映、東宝特撮を愛していた立香はこの無理ゲーとしか言いようの無い難易度ルナティックなステージに心当たりがあった。

 無人となり、絶望する女子供しか残らない街に、突如出現した怪獣たち――アーストロン、ゴメス、ベロクロンにブラックキング、アントラーにキングパンドン。繭と巨大な円盤、石化したウルトラマンダイナ。

 

 ――これ、ウルトラマンサーガじゃん。

 

 ウルトラマンサーガ。端的に説明すれば、ウルトラマンの存在しない世界『フューチャーアース』を舞台に、ウルトラマンダイナ、ウルトラマンゼロ、ウルトラマンコスモスの3人のウルトラマンが全宇宙を支配下に置こうと企むバット星人と戦う映画である。

 状況は、この物語と非情に酷似している。巨大な繭とそこから飛び出る触手はハイパー・ゼットン(コクーン)の能力であるし、女子供など非力な人間を敢えて残し、彼女達に怪獣をけしかけて絶望を味あわせ、その絶望をハイパーゼットンの糧とする点も共通だ。

 そして、この世界に降り立った最初のウルトラマンであるダイナと、その敗北からの石化。まさに、状況は映画『ウルトラマンサーガ』のフューチャーアースそのものだ。となると、この世界に、ウルトラマンゼロとウルトラマンコスモスは存在するのだろうか?しかし、今のところ彼らが存在する兆候は見て取れない。となると、状況は難易度ルナティックを通り越して最悪だ。

 何せ、このウルトラマンサーガという映画におけるラスボスは、ハイパー・ゼットン(イマーゴ)だ。

 そもそも、初代ウルトラマンを倒したこともあって宇宙恐竜ゼットンは最強の呼び声も高い怪獣である。

 超威力の火球、バリアにテレポート。どれも一級品の能力であり、ウルトラマンの必殺技、スペシウム光線ですら倒せなかった。

 しかも、このハイパー・ゼットン(イマーゴ)はEXゼットンやパワードゼットン、ファイヤーゼットンなどといった数ある他のゼットンの亜種、上位種と比べても圧倒的な強さを誇る。

 当然のことながら、かつてバット星人が地球に連れてくるもウルトラマンジャックにあっけなく倒されたぶよぶよした肥満体型で薄汚いゼットン(二代目)など話にならない強さだ。ゼットン養殖にかけては宇宙一と称されるバット星人の面目躍如である。

 ハイパー・ゼットン(イマーゴ)は残像を残し擬似的な分身すら可能とするハイパーゼットンテレポートや敵の放った光線を倍返しで跳ね返すハイパーゼットンアブゾーブ、至近弾にも関わらずウルトラマン3人を戦闘不能に追い込んだ暗黒火球など、チートとしか言いようの無い技を使う。

 実際、ウルトラマン3人がかりでも手も足も出ず、ダイナ・ゼロ・コスモスが合体して誕生した奇跡の超戦士ウルトラマンサーガでようやく互角という化物ぶりであった。もしもこれが敵であるのなら、現状で勝てる可能性なんて皆無といっていい。チートラマン呼ばないと無理だ。

 ウルトラマンギンガSに登場したときは着ぐるみが痛んでいたのか知らないが何故か羽がもがれ、予算不足からかテレポートも火球も殆ど使わずバリアにいたっては使用せずという凄まじい弱体化を遂げていたし、脚本的な問題でどうにかウルトラマンを勝たせるためにハイパーゼットンアブゾーブに至っては容量オーバーで吸収しきれないなどの醜態を晒していたため、この形態であればウルトラマン二人いれば十分余裕を持って倒せるはずだが、これは例外中の例外だ。

 本来のハイパー・ゼットン(イマーゴ)はその辺のウルトラマンを何人か集めたところで戦闘にすらならないのだから。

 せめてハイパーゼットンがギガントかコクーン形態の内に撃破し、バット星人が合体してイマーゴに進化する余地を与えなければワンチャンあるかもしれないが、それですら現状の戦力では絶対に無理だとぐだ男は判断した。

 ギガントを倒すにもゼロ・ダイナ・コスモスの力が必要だった点を考慮すると、この案でもウルトラマン(ナイスとゼアスとピクト以外で)がダイナの他にあと2人は欲しい。しかも、ダイナが復活できるかどうかはちょっと微妙だ。タイガー補正でどうにかなるかもしれないが。

 加えて、アントラーやブラックキングといった怪獣たち。おそらく、これらはバット星人が作り出した生体兵器だろう。ウルトラマンダイナの宿敵、スフィアの細胞を移植された怪獣たちであり、実質的にはスフィア合成獣に近い。

 融合の媒体となった怪獣たちはタイラントを筆頭に中々の強豪ぞろいだったはずだが、ウルトラ兄弟にあっけなく倒されていたところを見るに、身体的スペックだけを重視した結果総合的な戦力のダウンというウルトラ再登場怪獣のお約束設定の犠牲になったのだろう。

 しかし、そうとはいえ彼らも一廉の怪獣だ。ハイパーゼットンを相手にしながらこれらの怪獣を相手取ることはまず不可能と言っていい。どうにかして、怪獣兵器を押さえ込むだけの戦力もそろえなければハイパーゼットンに挑むことすらできないかもしれない。

 呼符でキングかノアを呼べないか。ポケットに入れていた呼符を握り、立香は溜息をつく。

 手詰まりだ。誰かがそれを口にしなくても、この場の皆がそれを理解して沈黙する。特に、新しい勢力の来訪にこの事態を打開する可能性を期待していたソラウは意気消沈といった様子。

 

 

「みんな~!!」

 

 重苦しい空気に皆が内心でちょっとキツイなと感じはじめていたその時、この重苦しい空気を一瞬で打破する明快な女性の声が屋敷に響いた。この空気を読まない――いや、それどころか空気を一瞬で塗り替えてしまう明快な声の主など、一人しかいない。

 

「新しいウルトラマン連れてきたよ~!!」

 

 ケイネスもソラウも、立香も目を丸くして驚く。こいつは何を言ってるんだ?という考えが浮かぶも、ひとまずは声の響いてきた屋敷の門の方へと駆け出す。

「一体あいつは……また勝手に外に出たと思ったら、今度はウルトラマンだと!?」

 ケイネスはぶつくさ言いながらも廊下を早足で歩く。立香も内心で相槌をうちながらそれに続いた。

 そして、彼らは門に辿りつく。

 

「なるほど……レジスタンスの拠点か。かなり腕のいい魔術師が隠匿を担当しているらしいな」

「そのようだ。現地協力としては中々頼もしい」

「ちょっと!?一体何がどうなってるの!?そろそろ説明してよ!!レフ、レフ~!?」

 

 スーツを着た長髪で長身の男に、運命の夜の主人公、そして、我らがレフ依存症のヘタレ所長がそこにいた。

 

 

 

 そして、立香は彼らを連れてきた少女に、救世主を見た。

 

 

 

 

 ――世界は奇跡に満ちている

 

 

 血潮は喜びに湧き、心はやさしさに温まる

 

 

 幾たびの惨禍を越えて不屈

 

 

 ただの一度も諦めはなく

 

 

 ただの一度も投げ出さない

 

 

 彼の者は常に一人に非ず、人の輪の中で笑みは絶えず

 

 

 故に、その世界に絶望はなく

 

 

 藤村大河は、きっと希望に満ちていた

 

 

 

 

 この日、立香は救世の聖処女に出逢ったのかもしれない。



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チュートリアルってなんだっけ?

「打って出るぞ」

 

 突然の所長With時計搭で抱かれたい男No.1&運命の夜の主人公の合流。互いの自己紹介の後、綺礼……じゃなかった、キレイなケイネス先生を交えて行われた情報交換と今後の方針の協議で、最初にそう提言したのは時計搭で抱かれたい男No.1だった。

 

「敢えて、この明らかな劣勢な戦力で打って出るか。考えなしではないのだろう?根拠を聞こう」

 

 ケイネス先生の意見に俺も頷いた。そりゃあ、こんな戦力で打って出るなんて普通は考えない。

 こちらの戦力でまともに怪獣と戦えるのはマシュ(シールダー)に、何故かウルトラセブンになれるSHIROU君、フランス行った途端に役立たずになるが、序章ではとても頼りになる我らがキャスニキ。

 加えて、直接的な戦力にはなれないが、キレイなケイネス先生と、所長という型月的名門お約束不幸コンビに、まさかのスピンオフの主人公まで登り詰めたウェイバー・ベルベットことロードエルメロイ二世。後は所長がマスター候補としてスカウトに来るぐらいには魔術師として見込まれている俺。

 そして、我らが藤村大河(奇跡の聖処女)と、石化しただけでまだ復活の可能性もあるウルトラマンダイナ。

 これが俺の知っている“本来”の炎上都市冬木であれば、このメンバーならセイバーオルタをボコボコにできたはずだが、今俺がいるここはそんな原作知識とウルトラマンでどうにかできるステージではなかった。

 何せ、敵はハイパーゼットン(コクーン)だ。成長の鈍化というペナルティと引き換えとはいえ、それらしい傷を負うことなくウルトラマンダイナを打ちのめした大怪獣を現状の戦力で打倒できるとは到底思えない。できればノアかキング、最低でもゼロとコスモスを呼んできて欲しい。

 

「単純なことです。勝機が万分の一でも残されているときに仕掛けるか、限りなくゼロに等しい時に仕掛けるか。座して死を待つよりは、より分のある戦いに賭ける方がいい」

「時間を置くことが、我々の勝機を削るということか」

 ロードエルメロイ二世は頷いた。

「先ほど聞いた話によれば、敵怪獣は半透明の繭のようなものに包まれているしているとのこと。仮にこれが繭であれば、時間は敵の利となります」

「どういうことですか?」

 皆が重苦しく頷く中、マシュは一人首を傾げた。

「繭というものは、生物が変体をする際の一時的な形態だ。バッタやカマキリ、セミ等、幼虫と成虫の形態に似通った点が多々見られる昆虫は脱皮によって幼虫から成虫へと変化する。一方、幼虫と蝶や蛾といった幼虫と成虫の姿が大きくことなる昆虫は、幼虫から成虫へと成長する過程で、繭や蛹といった形態をとる。前者の昆虫の変化を不完全変態といい、後者のそれを完全変態という」

 本職は教師というだけあってロードエルメロイ二世の説明はとても板についている。

「蛹の中で幼虫は身体を再構築し、全く別の姿となって繭を突き破って羽化し、成虫となる。これまでに観測された怪獣ではモスラがこの代表例とも言える。そして、モスラの例や不完全変態ではあるがキングゼミラの例から考えるに、成虫となった怪獣は確実に幼虫のころよりも強くなる」

「つまり、蛹から出てきたら怪獣はより強くなる可能性が高い。そうなる前に叩いた方がいいということでしょうか」

「その通りだ。加えて、繭や蛹というものは身体をより適したものに再構成するのに不可欠な姿ではあるが、それが同時に大きな弱点でもある。繭をつくった生物は繭になっている間、基本的に逃げるどころか動くことすらできない。それに、その中で生物は体組織を再構成するために、必要最低限の器官を残して身体を分解している。この状態で大きな刺激を受けるだけでも身体の再構築に支障をきたすこともあるし、組織の欠損だってありうる」

 流石、教鞭の才能は時計搭一と評されるカリスマ講師の説明だけあって、タイガーやマシュも興味津々といった様子で聞き込んでいる。

「……この街に現れた怪獣は例外的に動くことができるみたいだが、繭が変態のための形態であることには変わりがないだろう。繭を壊すことができれば敵の変態を阻止できるし、上手くいけば致命的なダメージを与えることができるということだ」

 マシュは関心した様子だ。彼女は基本的に賢い娘であるが、彼女はその生まれから学習に没頭できた時間は非情に少ない。繭=変体途中という考えがすぐに出てこなかったのも、どうやら知っている知識を現実で擦り合わせたことがなかったのだろう。

 

「時間を置くのが得策ではないことはこちらとて承知だ。しかし、ウルトラマンダイナすら叶わなかった繭を相手に、敵が弱点を晒しているから攻め込むというのはいささか短絡的ではないかね?」

 ケイネス先生が、不愉快そうに口を開いた。

「確かに、君達の加入で戦力は増えた。だが、正直に言って君達があのウルトラマンダイナを倒した相手を上回る戦力を持っているとは私には思えない」

 その通りだと俺も思う。

 我らが運命の夜の主人公、衛宮士郎は無限の剣製(アンリミテッドブレードワークス)という中二心を擽る切り札を持つ低位のサーヴァントであれば独力で撃破できるだろう戦士だ。 加えて、この世界ではどういうわけかウルトラセブンになれるらしい。モロボシ・ダンのように彼がウルトラセブンの擬態なのか、それとも初代ウルトラマンのように士郎とセブンが合体しているのかは分からないが。

 ただ、ウルトラマンゼロでさえ単体では歯が立たなかったハイパーゼットンを相手にするには力不足であることも事実である。

 次に、序章限定で大活躍するもフランスではまずリストラされる我らがキャスニキ。戦力としては数えられるが最大火力の灼き尽くす炎の檻(ウィッカー・マン)でもアーストロンを一撃で仕留めるだけの威力はないとなると、ハイパーゼットン相手は厳しいと言わざるを得ない。

 そして、デミ・サーヴァントとなったマシュ。サーヴァントと合体したことで身体能力はサーヴァントに迫るものとなったが、まだ慣れていないこともあってその運用技術が余りにも稚拙だ。宝具の真名解放もできない状態では、アーストロンのマグマ光線すら防ぎきれない。これでハイパーゼットン相手に立ち回れるとは思えない。

 怪獣を相手に紛いなりにも戦える戦力ですらこの心もとなさ。こちらの戦力はハイパーゼットンを相手にするには弱小すぎるのだ。

「貴方の疑念も分かっています。ですから、こちらも用意できるだけの戦力を呼ぶのです」

 ロードエルメロイ二世はケイネスの疑問に答えると、こちらに視線を向けた。

「マスター候補は皆、あのテロの直前に呼符が一人一枚与えられている。藤丸、お前はサーヴァント召喚用の呼符を持っているはずだな?」

「は、はい」

「私は諸事情からサーヴァントの召喚をするつもりがありませんでしたし、エミヤも最初の召喚の際は万が一に暴走したサーヴァントがいたときの押さえとして待機していたので呼符を持っていませんでした。ですが、これで一体サーヴァントを召喚することが可能となります」

「なるほど。戦力を追加するあてはあるということか。しかし、どの英霊を狙って召喚するのだ?言いたくはないが、あの征服王ですら敵の配下に敗北したのだ。並の英霊を呼んだところで話にならん。加えて、英霊のあてがあったとしても、触媒がなければ引き当てることなど叶わない。そのあたりの算段はどうなっている?」

 ケイネスから問いかけられたロードエルメロイ二世は、何も言わずに彼の隣に控える士郎に視線を向けた。

「……なるほどな。ウルトラマンを触媒にすれば、確実に他のウルトラマンを呼べるということか」

 これならば勝機はあるかもしれない。周囲は皆同じような期待の表情を浮かべている。

 しかし、唯一ハイパーゼットン(イマーゴ)を知る俺は内心とても憂鬱だった。

 セブンと一体化した士郎を触媒とすれば、高確率でチートラマン以外では最強と言ってもいいセブンの息子、ウルトラマンゼロを引けるだろう。しかし、セブンとゼロではおそらく、ハイパーゼットン(ギガント)には勝てない。まだ繭のままであれば勝機はあるのだが、数日前に繭だった点から考えるに、羽化まではそう時間がないかもしれない。

 

 ――どうして序章でここまで絶望が濃いんだ

 

 俺は、転生してから初めてこの世界への転生を叶えてくれた神のような存在を呪った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――私は無力だ。

 

「素に銀と鉄。 礎に石と契約の大公」

 魔力供給が始まったことで光を灯した召喚陣を見ながら、オルガマリー・アニムスフィアは唇を悔しげに噛みしめていた。

「降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 風が巻き上がり召喚陣に魔力が満ちる。その前に立ち、召喚の呪文を紡ぐのは唯一生き残ったカルデアのマスター候補、藤丸立香。カルデアの総責任者であり、このプロジェクトのリーダーである自分ではない。オルガマリーにはそのことが歯がゆくて仕方が無かった。

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)。繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する」

 人類の未来のためにこれまで頑張ってきたという自負はある。だが、それと同じぐらいに誰かに自分の努力を認めて欲しかった、褒めてほしかった、頼りにして欲しかったという願望がある。なのに、これまで誰も自身を認めてくれなかった。

 諦められない彼女にできたことは、頑張っていればいつかきっと自分のことを見てくれている誰かが認めてくれると信じること。そう信じて前を向いて歩き続けることが、「誰も自分には期待していないし、認めてはいないかもしれない」という不安を抑えるための唯一の手段であった。

 しかし、今この特異点において、その唯一の手段すら彼女は奪われていた。

 特異点においては、マスターとしての能力を持たない自分はサーヴァントを召喚して戦力を補充することすらできない。代わりにマスターとなるのは極東の魔術師の傍流の次男坊。マスターとして求められる魔術師的な実力でいけば平々凡々な男だ。

 家系から考えるに、彼の生まれ持った魔術師としての素質は下の下のはず。それでもマスターとして求められる程度の魔術師にまでなれたのは、彼が血の滲むような努力をしてきたからだろう。努力家というのは彼女も嫌いではないが、恐らくは彼以上の努力をしているのに、どうして自分は報われないのかと思えてしまう。

 マスターとしての素質はなくとも、せめて魔術の専門家としてこの特異点の解決に智恵を絞るのが自分のなすべきことだとも一時は考えた。しかし、魔術的な知識からチームをサポートする参謀としての役割は、時計搭でもかつて神童として知られた先代のロード・エルメロイが担っている。

 彼女とて名門の出であり、その血に恥じぬだけの才能と魔術師として弛まぬ自己研鑽によって一流の魔術師に登り詰めた才女である。現在の時計搭の若い魔術師で彼女と同等の実力者は片手が数えられるほどしかいない。

 しかし、それだけの才女たる彼女をしても、“神童”ケイネス・エルメロイ・アーチボルトには及ばない。ケイネスは、降霊術、召喚術、錬金術等幅広い分野に手を出していながら、かつ手を伸ばした全ての分野で多大なる功績を修めた正真正銘の天才だった。オルガマリーの知るケイネスは、若くして戦死しているが、生きていれば今頃は「冠位」にすら手が届いていた可能性が高いと言われていたほどの魔術師だ。

 一方、カルデアには疑似地球環境モデル・カルデアス等といったケイネスの功績にも匹敵する発明もいくつかあるが、それらは全てオルガマリーの父、マリスビリーらの功績であり、オルガマリーの功績ではない。功績だけでも魔術師としての格の差は明白であった。

 加えて先ほどの会議での会話で彼女はケイネスと己の頭の出来の差を思い知らされていた。センスも、理解力も、知識も、頭の回転の早さも全てがオルガマリーの数段上。ケイネスが智恵を貸してくれるのであれば、オルガマリーが口を出すような場面は皆無となる。

 マスターとしても、参謀としても自身は必要とされない。となれば、カルデアの責任者という立場を持ってこのチームの司令塔の責を担うのが自分の役割ではないか?一度はそう考えたが、司令塔の席にはエルメロイ二世という彼女よりも相応しい人物がいる。

 魔術師としての階位は祭位にすぎず、魔術刻印も継承していないロードの代行であるロード・エルメロイ二世とオルガマリーを肩書きで比べれば、当然のことながらオルガマリーに軍配が上がるだろう。

 しかし、ロード・エルメロイ二世といえば時計搭の学生のころに第四次聖杯戦争という人類史でも指折りの大怪獣災害から生還し、卒業後は世界各地の怪獣災害の調査、対処してきた時計搭一の怪獣専門家である。

 彼は、あるときは太古の文献や記録からかつて存在した怪獣や封印された怪獣の存在を発見し、またあるときは身の丈に合わない力を求めて三流魔術師が復活させた怪獣の後始末に奔走してきた。

 その任務の際、時には死徒や封印指定級の魔術師との戦いも幾度と無くあったが、彼は立ち塞がった敵を人間離れした体術で例外なく圧倒したという。その戦闘者としての洞察力、戦闘力は封印指定執行者にも匹敵するらしい。その戦闘能力と実績を買われ、今では怪獣関連の厄介ごとは彼の管轄ということで、時計搭特命係などという組織を任されているほどである。

 また、彼は教育者としても優れた実績を上げており、教え子には色位や典位に至ったものも少なくない。

 教育者、怪獣専門家としての功績から、『流派西方不敗』『マスター・ブリテン』『時計搭の気高き赤い猛獣』『スーパーサクソン人』などの異名を持った彼がこのチームを指揮するのに相応しくないなどと異論を掲げる余地はない。

 客観的に見て、実績もなく家柄とカルデアでの肩書き以外では上に立つべき根拠のないオルガマリーと実戦経験豊富で人を指導することにも長けているロード・エルメロイ二世のどちらをトップにするべきかは明白だった。

「――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

 参謀としても、司令塔としても、マスターとしてもオルガマリーは必要とされていない。この場において彼女は足手まといにしかならず、戦局に寄与する余地は皆無だった。それは即ち、彼女にとって最も認めたくない「自分は誰からも必要とされておらず、認められていない」という事実を嫌でも実感させられることに他ならない。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!!」

 

 ――私のやってきたことはなんだったのだろう。私は、そもそも存在している価値が、意味があったのだろうか

 

 認めたくなかった事実と向き合わざるを得なくなり、自問自答と自己否定以外のことが考えられなくなっていた彼女の視界は、やがて召喚陣から溢れ出した光に白く染められていった。



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