【艦これ】私立相談役と元ブラック鎮守府 (泉井 暁人)
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始まりと挨拶
始まり


 さて、始まめましょう。運命と言う名の物語を…。


 2016年 2月 鎌倉市 人工島『横浜鎮守府』

 

 人工島とは思えない自然豊かで前の鎮守府と変わらない環境だと私は聞いていた。でも、実際は違う。

 風の噂で聞いた『ブラック鎮守府』、まさかここだと思わなかった。

 提督の横暴な態度、休憩なしの出撃、大破寸前でも入渠禁止、食事も残飯のような代物だった。

 まさに地獄のような場所に私はいた。

 精神が狂い、部屋に閉じこもる子。提督の行為に泣きながら悲鳴を上げる子。解体された子。

 「さぁ、次はお前だ」

 もう、逃げ場なんてない。だったら……、せめて、解体される運命なら最後の最後まで抗いたい。

 だから、私は逃げた。東京まで逃げ、倉庫の入口に掛けられている看板。

 『私立相談役事務所』

 もし、どんなことを言われても私は諦めない。絶対に……。

 

 

 

 

 2016年 8月某日 鎌倉市 人工島『横浜鎮守府』

 

 日本の本土から2.5km近く離れている場所に鎮守府は存在する。自然豊かで街も栄えており、何より艦娘が日々戦っている場所でもある。

 そんな場所に、一人隠密行動する人物がいた。

 顔の右部分だけを仮面で隠し、左部分は素顔ではあるが目はゴーグルで隠されている。そして身体を黒いマントで覆っている。

 「さてと、相談されたからには依頼は遂行する」

 ポツリと、誰も聞いていないのにその人物は呟く。

 目の前には憲兵が3人程監視をしていた。憲兵がいる向こうには月夜で照らされた鎮守府が見えていた。

 「さて、始ますかね?」

 そう言って一気に憲兵の後ろに近付き、生い茂る草木を揺らす。

 「おい、何かいるぞ?」

 「気のせいだ。眠くて幻聴でも聞こえているんだろう?」

 憲兵は幻聴だと言って無視したが、横に居た同僚がいないことに気付いた。

 「おい、あいつどこ行ったんだよ?」

 「こっちだよ」

 その瞬間、二人は茂みに引きづられ、一人は気絶しており、一緒に引き込まれた憲兵も気絶していた。

 「さて、お前に問う。面倒事は嫌いだから一回で答えろ」

 ボイスチェンジャーを使用している為に機械独特の声で聞かれる。憲兵は恐怖に震えていた。

 「た、頼む。命だけは……!」

 「言ったろ、面倒事は嫌いだ。話せば命は助ける」

 憲兵は首を上下に動かし、マントの人物は聞く。

 「提督は今どこにいる?執務室か?」

 「い、いや。別館だ…」

 憲兵の男は答えたくなさそうな声で言う。

 「執務室じゃないのか?別館のどこだ?」

 マントの男は憲兵に聞く。憲兵は少し、躊躇うが、意を決して言った。

 「別館5階、505号室で今頃お楽しみの最中だと思う……」

 マントの男はポツリと、一言だけ言った。

 「解った。ではしばし気絶してもらう」

 そこから、憲兵の意識は無い。

 

 「さて、向かいますか」

 マントの男はそう言って別館の5階、505号室に向けて走る。

 

 「しかし、ザル警備過ぎて途中から笑えてくるわ」

 マントの男はそう言って505号室の扉の前に立つと、部屋の中から音がした。何かを打ち付ける音、女性の悲鳴に似た声、荒い息遣い。おそらくヤッている最中なのだろう。自分は胸糞悪い気分になる。依頼内容通りの行為が行われているようだ。

 自分は我慢の限界で扉を蹴り飛ばして室内に入るとそこには禿げた男と青髪の少女が裸同士でいた。ハッキリ言う、マジで臭い……。

 「な、何だ貴様!?」

 「ある人物からの相談によって、この『犯罪相談役』である『黄泉』が貴方に罰を下しに参りました」

 不気味な笑みを浮かべながら言った自分に相手は動揺した声で「う、浦風!こいつを殺せ!!」と叫び、浦風と呼ばれた少女が自分の前に立つ。

 「お願いします。この場から去って下さい……」

 「はいそうですかって言って帰るとでも?残念だけど、それは無理だよ。今回の依頼人、君達を助けて欲しくてボロボロになりながらも自分が経営する事務所まで赴いたんだよ」

 自分の言葉に彼女は口を両手で隠して、涙を流し始める。何が起きているのかが把握出来ない禿げ男を自分は睨んだ。

 「さて、こっから先は君に見せられない。全員を叩き起して大事な荷物だけを持ってこの別館から出るんだ。良いね?」

 自分がそう言うと彼女はそのまま出て行く。禿げ男は恐怖に震え、自分に命乞いする。

 「た、頼む!殺さないでくれ!!」

 「それは聞けない案件だ。お前は罪を犯し過ぎた。そのまま恐怖を抱えたまま死ね」

 そして、両腕にナイフを突き刺し、禿げ男の叫び声が別館に響き、一斉に扉が開かれると外に向かう足音が聞こえる。

 「な、何でだよ。何で誰も助けないんだよ!!」

 「だって、火災が起きれば誰だって逃げるだろ?」

 そう、事前に発火装置をセットし、タイミングよく燃え始めた。

 「さて、これは完全犯罪。誰にもバレてはいけない」

 「ま、待ってくれ!!」

 助けを求める禿げ男、しかし自分は聞こえないふりをして廊下に出て一言だけ言った。

 「燃えろ。地獄の業火によって自身の罪を償え」

 「嫌だァァァァァァァ!!」

 木造建築だったのが災いだった為に燃えが早く、脱出が間に合うかの問題だった。

 「急げ!!」

 そして、廊下の突き辺りに窓があるのを見つけて走る際に、誰かの助け声が聞こえた。

 「だ、誰か……」

 か細い声で、自分はすぐさま声が聞こえた場所に向かう。

 202号室とギリギリ目視出来る部屋に入ると茶髪のロングヘアーの人が倒れていた。

 「今助ける!」

 彼女を担ぎ、そのまま窓から飛び出す。そして、別館は倒壊。消火活動が行われている最中、自分は彼女を木に寄りかかるようにして寝かせるとそのまま逃げ去った。

 これが、自分が最初に横浜鎮守府に訪れた時の出来事だ。

 




 あとがき

 初めての艦これを執筆しますので不慣れな場面もあります。それでも、皆さんが楽しめるように頑張ります。


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第2話 依頼

 2016年 9月1日 東京都 某所

 

 日本の首都である街、東京。『深海棲艦』に領海権を奪われ、海の自由を失った現代の日本。

 その街の寂れた場所の倉庫に、自分は住んでいる。

 おっと、まだ名を名乗っていなかったな?

 自分は『材原明斗(さいはらあきと)』、私立相談役として様々な案件を日々解決している。

 そもそも、私立相談役と言うのは俗に言う『何でも屋』である。と言うのも自分はただ話を聞いて助言をするだけ。それでその相談内容相当の金額で生活する。最初は胡散臭い感じで見られていたが、最近は大企業の会長や有名人、政治家等も訪れる程になった。

 そんな自分に相談をし、そろそろ復帰予定である艦娘がいた。

 「お疲れ様です。明斗さん」

 茶髪の髪をポニーテールに結わえ、胸当てをした和風少女、加賀型1番艦正規空母『加賀』さんだ。彼女は約半年前にこの事務所を訪れ、自分にある相談をした。

 「もう動いて大丈夫なの?半年前に来た時よりは回復しているだろうけど……」

 自分は加賀にそう問う。

 「もう、貴方には迷惑をかけることは出来ないです。そろそろ海軍の上層部が私を探しに来る筈です……」

 加賀は落胆した様子で言う。

 「それに、貴方には随分とお世話になりました。なので、これ以上迷惑をかけたくないのです」

 自分は何も言わずにいた。彼女の言い分には一理あるが、自分の気持ちを彼女に言った。

 「迷惑だなんて……、自分は一切思ってないよ。まだ復帰するかしないかは君の気持ち次第で、無理なら一応自分からも頭下げて言うから大丈夫だよ」

 自分の言葉に彼女は少しホッとした表情で「ありがとう」と言う。

 すると、扉が突然開かれると武装した軍隊が室内に突入、自分に銃口を向けて加賀の両腕を掴んで拘束する。

 「明斗さん!」

 撃たれると思ったのだろう。加賀は艤装を展開する。海軍の連中は動揺するが自分は「しなくて良いよ。加賀さん、()()()()()()()()()()()()」と言った。

 自分の発言に相手は驚く。ターゲットに自分達の素性がバレているのだからだ。

 「そうだね……。ここに来た理由は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 自分はそこまで言うと隊長らしき人物が自分に向けていた銃を下ろす。

 「そうだ。横浜鎮守府秘書艦『長門』からの情報提供でこの事務所に来た。事情説明の為に一緒に同行してもらうぞ」

 「拒否権は無いんでしょ?だったら行くよ」

 そう言ってソファーから立ち上がり掛けられたいた藍色と白の縞々柄のパーカーを羽織る。

 「その代わり、彼女には手を出すなよ?」

 「分かっている。海軍大将から直々に言われているのだからな」

 ほぉぉ…。海軍大将から直々に言われて来たとなると相当面白い展開になりそうだ。

 「分かりました。私も脱走した時に解体処分も覚悟していたのです。……行きましょう」

 彼女はそう言って自分と一緒に黒塗りの車に乗り込む。

 

 東京都某所

 

 連れてこられた場所は随分と古びた場所で人の気配すら感じ取れない場所だった。

 しかし、目の前にいる白の軍服に身を包む男を見て、思わずにやけた。

 「ご苦労、ここからは私達のみで話す。席を外せ」

 命令された連中はそのまま車に乗り込んでどこかに走り去って行った。

 そして、物陰から長身黒髪、露出がある服装の女性が姿を現す。

 ……冬寒くないのかなぁ……。

 「長門…」

 どうやら、加賀さんのお知り合いのようでおそらく彼女が情報提供をしたのだろう。彼女は少し、申し訳なさそうな表情でいたが、海軍大将は長門さんにも目をくれずに話を始める。

 「さて、君に聞くけど8月に起きた横浜鎮守府放火事件に関与しているか?」

 唐突に海軍大将は言った。しかし、

 「してる訳無いじゃないですか~。それとも、自分が犯人とでも?無理ですよ、新聞によると放火された時刻が深夜の0時から1時の間。自分は0時30分に東京のあるコンビニにいたので無理ですよ」

 そう言って財布からレシートを見せる。海軍大将さんはそれをひったくって釘付けになる。

 「何なら、その店に行って確かめます?防犯カメラに写っている筈ですから」

 ニッコリと微笑む自分。海軍大将さんは驚愕の表情で自分を見る。加賀さんは自分のことを見るけど、自分は加賀さんの顔を見て、彼女は察してくれた。

 「嘘だ……」

 「要件はそれだけですか?無いんでしたらそろそろ帰らせていただきますよ」

 その言葉に海軍大将はもう一度自分の表情を見て

 「駄目だ!貴様には色々と話を……」

 「そこまでだ」

 その場にいない、別の声が聞こえると艦娘が6人で自分達を囲む。

 加賀さんと長門さんは身構え、状況が掴めてない海軍大将。その最中で平然としていたのが自分だった。

 「そこまでするのかい?羽柴さん」

 「ん?何だ、そこにいるのはお前か明斗」

 短髪黒髪をオールバックにして、チンピラを思わせる風貌の男性、それでも大本営の上層部である『羽柴高胤(はしばたかたね)』は自分の顔を見て少し嬉しそうな表情だった。

 「丁度良かった、お前に頼みたいことがあるんだよ」

 「だったら、艤装を解除させてまともに話せるようにしろよ…」

 自分はそう言うと彼は自分達を囲っていた艦娘に解除するように言うと解除し、まともに話せる。

 「ちょ、ちょっと待ってくれ!何故貴方がいるんですか!?羽柴次長!!」

 「そこにいる明斗に話があるから来たんだよ。日本海軍は下がってろ」

 そう言われて大将さんは後ろに下がる。羽柴は加賀さんと長門さんを見て、言った。

 「今回の件はすまない。こちらの不手際で君達艦娘に心に残る傷を負わせてしまった」

 突然の謝罪で二人は驚き、「いえ!こうして加賀に会えただけ私は心強いです」と長門さんは言うが、

 「私は…、皆を犠牲にして彼のもとに行ったのです。責められても仕方ないのです」と言う。

 しかし、羽柴は加賀さんにこう言った。

 「確かに一部の人はそう言うだろうが、同時に大本営や彼に君は助けを求めた。そのおかげで他の鎮守府の艦娘が救われた。それだけは、覚えてて欲しい」

 加賀さんに言った後、自分の方を見た羽柴は、

 「そこでだ、明斗。君に相談をしたい、横浜鎮守府には今は提督がいない。代理として現場に赴き、艦娘のカウンセラーをして欲しいのだが、引き受けてくれるか?」

 「それは、私立相談役である自分に相談しているの?それとも、ただの権力を使った命令か?」

 自分はそこだけ確認を取る。そこが最も重要な部分であるからだ。

 「相談だ。君に依頼しているのだ」

 その言葉で、自分は言った。

 「分かりました。この私立相談役である材原明斗は羽柴さんのご相談を承諾しましょう」

 かくして、自分は横浜鎮守府の提督代理として赴任することになったのである。

 



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第3話 いざ、鎮守府へ!

 まぁ……。うん。
 皆さんが楽しめれば幸いです……。

 では、続きです。


 三日後 東京 私立相談所前

 

 太陽が顔を見せ始める夜明けに自分は事務所前にいた。しばらく休業にするのでお得意先に連絡を入れたり、羽柴から聞かされていた横浜鎮守府の再建の準備もあり、出発日をずらして、今日鎌倉市に向かう。

 「さて、行きますか……」

 入口に『しばらく休業させていただきます』との張り紙を貼り、荷物を積んだ状態で停めている大型バイクに跨がると、エンジンをふかし、事務所を後にした。

 

 「新しい提督が今日来るんだよね……」

 野外に設置されたテントで作業をしていた私は三つ編みポニーテールが特徴の夕雲型1番艦『夕雲』が両手を机に伸ばして呟く。

 先程から同じ事しか言わないので私は夕雲に

 「さっきから同じ事を言い過ぎよ?皆だって不安があるしまた前みたいになるって思っている子もいるけど、我慢しよう」

 「そう言う『高雄』だって本音だと嫌なんでしょ?」

 夕雲に指摘された私はペンを持つ手を止めた。

 確かに前任みたいな人だったら如何しよう……とかまた地獄の始まりだと思うと恐い。でも、長門や加賀が太鼓判を押している人と聞いたので、複雑な気分なのが事実。

 「さ、私達は提督が来る前に書類を終わらせましょう」

 夕雲に言った私は再びペンを走らせる。でも、その手は微かに震えていた。

 

 「毎度ありがとうございました~」

 両手に大量の荷物を抱えた状態で店内から出てきた自分に通り過ぎる人全員が驚く。

 「ちょっと買い過ぎたかな…?」

 皆のお土産として買ったはいいが、流石に買い過ぎたと自分は思った。

 早朝に出発した為、あっちには後1時間後辺りには着くと考えた。

 バランスよく買い物した品をバックに入れ、出発をしようとしたら、

 「おい!如何してくれるんだよ!!?」

 怒声が聞こえたので声がした方を見るとチャラい男ら数人で二人の女性を囲っているのが見えて自分は見過ごせずに男らの方に歩く。

 「待ってください!私達はぶつかっていません!!」

 「だったら如何やってアイスが服に付くんだよ!?」

 如何やら男の服にアイスがついたからそれをあの二人のせいにしているのだと考え、仲裁に入る。

 「まぁまぁ、お兄さん方、ちょっと落ち着いてください」

 「あ゛!?なんだお前!」

 男らが振り返って自分を睨むがこちらもそれ以上に睨み返すと目線を逸らした。

 「そちらの女性さんも悪気があった訳じゃないのでこれで手を打って下さい」

 そう言って福沢さんを一枚男に渡すとそれで満足したのか「次から気ぃ付けろよ!」と言って離れていった。

 「あ、あの!ありがとうございます!!」

 男らが去って漸く容姿が見られる。

 一人目は灰色に近い髪をツインテールに結い、白の袴に黒の胸当て、赤よりは朱色に近いミニスカートの少女。

 二人目はショートの茶髪ではあるが毛先周辺が黒。そしてどことなく長門さんと雰囲気が似ている女性だった。

 「そちらこそ、大丈夫だった?変な連中だったから」

 自分がそう言うとツインテールの子が「大丈夫です!」と言った後に「まだ、名前言ってませんでした。翔鶴型2番艦正規空母の瑞鶴です!」と言った。

 「私は長門型2番艦戦艦の陸奥です。先程は助かりました」

 如何やら艦娘のようだ。だからと言って別にどうこうと言うのではないので自分は関係なかったが、

 「別に、あんな連中がいるだけで悲しいもんですよ。お二人はどちらまで?」

 「横浜鎮守府です。前の鎮守府から新しく来る提督のサポートするようにと言われまして」

 その言葉を聞いて自分は羽柴の顔を思い出す。大方交渉(脅し)でもして寄越したのだろう……。

 「なんだ、丁度自分も横浜鎮守府に用があるから一緒に行く?側車に乗せられるから」

 そう言って愛車である『ツェンダップ KS750』に取り付けたウラル社の側車『ギア・アップ』を親指で指しながら「一応二人なら乗せられるから」と二人に言う。

 「でも……、申し訳ないよ。私達は「良いんだよ。一人で向かうのも虚しいから…ね?」……そ、そう言うなら……」

 瑞鶴は自分にそうは言うが、自分の押しに押されて承諾してくれた。

 早速自分は荷物を整理して側車に乗せられるようにすると陸奥さんが「瑞鶴、貴方が乗りなさい。私は彼の後ろに乗るから」と言った。

 ……、それを聞いた自分は少し焦った。陸奥さんが側車の方に行くかと思っていたので安心していたけど、まさかの事態に自分は平然とした顔で「えぇ、分かりました」と言った。

 その時、瑞鶴が「まだ、お名前聞いてなかったですね」と言った時に自分が名乗っていないのを思い出した。

 「あぁ、まだだったね?自分は材原明斗、東京の方で私立相談所を営んでいるんだ」

 「私立相談所?」

 聞き慣れない言葉に瑞鶴は首を傾げる。そこで自分は「簡単に言えば助言者。その人の悩みを聞いて解決策を導いてあげる。それを仕事にしているんだよ」と答えた。

 「成程。しかし、何故横浜鎮守府に?」

 「秘密。守秘義務があるからね」

 そう言ってエンジンをふかし、駐車場を後にして横浜鎮守府に向かう。

 

 「高雄さん!緊急事態です!!」

 それは突然だった。書類整理に追われていた私の元に長良型2番艦軽巡洋艦『五十鈴』が慌てた様子で私に報告する。

 「横浜鎮守府近海に深海棲艦が敵襲です!」

 その言葉を聞いて驚く。鎮守府にはまともに戦えるメンバーがいない。

 「敵は?」

 「軽母が2隻の駆逐が5隻です!」

 相手の真意が分からない。でも、それだけなら……」

 「解った。私が出撃するわ」

 「待って下さい!高雄さんだけでは「五十鈴、それ以上何も言わないで」…はい」

 そして私は早歩きで出撃用意をする。例え、轟沈してでも……。

 



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第4話 初めましてと過激なる歓迎

 不慣れな部分もありますが、それでも楽しんで下さればありがたいです……。


 潮風を浴びながらバイクを走らせる自分は漸く姿が見え始めた横浜鎮守府に少し嬉しさを感じたが、その近くで黒煙が見えた。

 「も、もしかして深海棲艦!?」

 瑞鶴の言葉にバイクを急ブレーキをかけて、双眼鏡を取り出すと、黒髪ショートの女性が一人で戦っていた。

 「瑞鶴さん、陸奥さん!!今すぐ向かってくれる!!」

 「了解です!」

 「任せて」

 二人は快く承諾してくれた。幸いにも海岸の近くだった為に二人はすぐに行ける。その時、自分は陸奥さんに「陸奥さん!単装砲用の砲弾を3つ程貰える?」と聞く。陸奥さんはハテナマークを頭に浮かべながら「良いですよ…」と言ってくれた。

 その際にインカムを二人に渡して、

 「それを今戦っている人に渡して。自分はここから指揮を執る。良い?安全第一だよ。もしも何かあったら遠慮なく言ってくれ。全力でサポートする」と言った。

 「「分かりました!」」

 そう言って二人は応援に行った。

 「さて、あぁ言っちゃったから自分も頑張りますか……」

 そう言って先程陸奥さんから貰った単装砲の砲弾を見つめながら、呟いた。

 「全く、こんなものでアイツ等は倒されるのか……。忌々しい屑共は…!!」

 そう言って積んでいた荷物の中から細長い物を取り出すと布を外す。それは太陽の反射で輝いていた。

 「銃火器の威力、舐めるなよ?」

 

 「(此処までなのかな……。)」

 満身創痍の状態である私はそんなことを考えていた。

 大破寸前でこのまま深海に堕ちてゆくのも悪くないかなと思っていた時だった。

 「お願い!九九式爆撃機!!」

 後ろから声が聞こえたのと同時に目の前の深海棲艦に攻撃が行われていた。

 「えっと、高雄さんですよね?本日付で佐世保鎮守府から転属して来ました瑞鶴「陸奥です!今は目の前の事態に集中よ!」了解!」

 瑞鶴さんと陸奥さんが私の応援に来てくれた?私は涙を堪えていると、陸奥さんに「後、これを」と通信機器の類を渡され耳に装着すると、

 「聞こえてますか?」

 声が聞こえた。歳はまだ若い印象を持たせた。

 「聞こます」

 そう返事すると声の主は「良かった。後は二人に任せて海岸の方まで来れる?無理なら陸奥さん達にお願いするけど」と言ってくれた。

 「いえ、一人で行けます」

 多分新しい提督なのだろうと思うと気が重くなる。

 だからこそ、敵からの砲撃に気付けなかった。

 「避けて!!」

 「え?」

 後ろを振り向いた瞬間、砲弾が見えた。

 「(あぁ、死ぬんだな……)」

 と、思えた。でも、次の瞬間遠くから何かが砲弾に当たり、爆発。私は無事だった。

 

 「ふぅ~。一発目は助ける為」

 そう言って散弾銃に砲弾を装填、標準を深海棲艦に狙いを定めて、

 「くたばれ」

 引き金を絞る。

 発射された砲弾は散弾銃には不可が大き過ぎる。しかし、その砲弾はそのまま深海棲艦に直撃、轟沈した。

 「皆、海岸の方に帰って来て。簡単な治療をするから」

 インカムを通じて言い、終了すると辺りには静けさが残る。

 

 声の主に言われた通りに海岸に戻ると眼鏡をかけた少年が「ご苦労様。えっと、名前教えてくれます?」と私の方を見て言った。

 「え、はい!高雄型1番艦 重巡洋艦『高雄』です。先程はありがとうございました」

 「いえいえ、一人で戦っている姿が見えたから偶然一緒だった彼女らを行かせたんだよ」

 その人はそうは言ってくれたけど、小刻みに震えていた。

 「あ、寒かったよね!?ちょっと待って!」

 そう言って彼は自分が来ていたパーカーを私に羽織ってくれた。

 「て、提督?」

 「ごめんごめん、気付かなくて……。ってか、自分は提督じゃないよ。一応代理は頼まれたけど……」

 その言葉に私は驚きが隠せなかった。書類上では正式な提督が来ると聞かされていたから……。

 「え、って事は……」

 瑞鶴と陸奥さんがガクガク震えながら彼を見る。

 「それじゃ、改めて自己紹介するのも何だけど。初めまして、本日付で横浜鎮守府に配属された“提督代理”の材原明斗だ。まぁ、別に海軍出身でもないしただの民間人だから普通に明斗とか材原で良いよ」

 私は驚いてそこからの記憶がない。

 

 「で、落ち着いた?」

 とりあえず三人が気がつくまで待った自分は三人に尋ねると三人ともやっぱり驚きが隠せないようで「ほ、本当に提督何ですか……?」と聞く。

 「あぁ、駄目駄目。提督って言葉は禁止です。今は心のケアの為に明斗か材原のでお願いします」

 そう言った自分。三人は納得してくれた様子で「分かりました」と言ってくれた。

 「さて、少々定員オーバーだけど行こう。横浜鎮守府に」

 そう言って定員オーバーしているバイクで横浜鎮守府に通じる橋を渡った。

 

 横浜鎮守府 正門前

 

 六年前に完成したばかりの横浜鎮守府の正門前に立つ自分達4人はそのあまりにの悲惨さに自分は驚いていた。

 「こ、ここが横浜鎮守府ですか……?」

 陸奥さんと瑞鶴さんも呆然としていた。別館が消えている上に正門の柵の向こう側から雑草が生えている。

 「あれ、何だか涙が出てくるよ……」

 自分の豆腐メンタルだときついよ……。とりあえず、自分は柵を開き、敷地内に入ると突然砲弾を浴びる。

 「殺ったか!?」

 「手応えがあった!」

 「えっと、他の人に迷惑だからさぁ……」

 そう言って取り出していた壊れた軍刀を地面に放り投げて言った。

 「人を恨んでいるのは分かるけど、場所を考えてね?」

 自分が生きていることにあっちは驚きを隠せずにいるようで、自分は自己紹介をすることにした。

 「初めまして、私立相談所所長であります私立相談役の材原明斗と申します」

 



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第5話 初仕事と思惑

 風月雪桜さん、誤字脱字報告ありがとうございます。
 皆さんも何か見つけたら教えていただけるとありがたいです。

 では、続きをどうぞ。


 

 「さて、先に言うけど自分はさっきも名乗った通りただの民間人で提督じゃないよ?」

 「そ、その前に何で生きているんだよ!?普通だったら死んでるぞ!?」

 おっと、中二病臭い感じの人からそう言われた。確かに、普通の民間人なら死んでいるからね。

 「こう見えて元軍人で、つい反射的に落ちていた軍刀で砲弾を斬ったんだよ」

 「(いやいや、軍人でも不可能ですよ!?)」

 その返答に思わず心の中で突っ込んだ一同。しかし、当の本人は気にもせずに言葉を続ける。

 「だから、仲良くしてくれとは言わないけど、命を狙うなら演習場だっけ?そこでならいつでも申し出を受けるからさ」

 そう言って近くに設置されていたテントが気になって高雄さんに聞く。

 「えっと、コレなに?」

 「執務室(仮)です。本館はその、提督反対派がこの書類とテント類だけを外に放り出して立て篭っている状態で……」

 「あ、そうなの……」

 まぁ、別館が放火されたら仕方ないか……。

 自分は何も言わずに積み上げられた書類を見る。

 「これって前任の提督が置いていった書類?」

 「えぇ、そうです」

 あはは、笑えないわ……。

 そしていつの間にか先程の連中は姿を消していた。

 「さて、書類仕事の前に」

 そう言って自分が言ったのは、

 「草むしりだ!」

 「「「……はい?」」」

 皆が聞き返したのでもう一度言った。

 「ですから、草むしりですよ。テントとかを設置するので。もしかしてこの寒さの中をあれで過ごす気ですか?」

 そう言って愛車の方に向かい、荷物に積んでいた鎌を三個程取り出す。

 「た、確かに分かるけど…」

 陸奥さんがそう言う。

 執務室(仮)で寝袋だけだと確実に寒い。

 「だったら、急いで始めましょう。今晩のご飯も作らないといけないので」

 後ろからの声に自分は後ろを振り向いた。そこには加賀さんと長門さんが草刈り機を手に持ってそこに立っていた。

 「長門姉さん!」

 「ム?転属してきた陸奥だな。改めて宜しくな」

 「さぁ、高雄さん達も一緒に始めましょう。彼自身が提督ではないと言っても一応提督代理として今日来てくれたのです。……ね?」

 高雄さんや陸奥さん、瑞鶴さんがそれぞれ鎌と草刈り機を持って始めてくれる。

 「草むしり終わったらお土産のお菓子もあるので……」

 その時の自分は苦笑いしか出来なかった。

 

 「チッ!忌々しい奴め!!」

 本館の執務室の窓から提督反対派が草むしりをする明斗を見ていた。

 「しかし、先程のあいつの口ぶりから本当に提督ではない可能性があるぞ?」

 褐色の肌にクリーム色の髪色。大和型2番艦戦艦『武蔵』である。彼女は先程の明斗砲撃現場にはいたが、彼の人間離れした戦闘能力には疑いを持っているが彼が提督と言う件は違うと考えている。

 「けど!この鎮守府にいる艦娘は判るでしょ!!あのクズ野郎のせいでどんな目にあったかも!!」

 声を荒げて言った女性、金剛型3番艦戦艦『榛名』だ。彼女の身体には至る所に擦過傷や痣の痕が白の袴等から見えていた。

 「だったら、殺ろう」

 誰かが呟いた一言。それはか細い声でその部屋に居た艦娘は誰が言ったのかさえ分からないでいたが、

 「そうだな……。始末すれば早い話だな」

 「行動を起こすなら早い方が良いよ」

 「なら、今夜だ」

 悪魔の様な微笑で鼻に土がついている明斗を見ていた。

 

 東京 大本営 第5会議室

 

 重苦しい空気が漂う会議室内で、白髪頭の老人は大声で叫ぶ。

 「一体何を考えているんだ!!ただの一般市民に依頼するなど!!」

 「元帥。そのことでご報告が」

 白髪頭の老人、改めて元帥は部下からの報告を聞く。

 「何か分かったか?」

 「えぇ、彼の両親は元軍の関係者でした」

 そう言って部下は話を続ける。

 「父親は陸上自衛隊の特殊作戦群所属でした。そして、何より面倒事なのが母親の方です。母親は海軍の大元帥の『音針 源蔵』氏の一人娘である事が分かりました」

 その言葉に室内にいた一同は目を見開いて報告した部下を見る。

 「ば、馬鹿な!?あの『海神』の孫だと申すのか!?」

 元帥もこの事態には流石に驚き、考える。

 「元帥。もし暗殺などを企て、世間に露見すれば私達は間違いなく処刑行きになりますが、いかがなさいますか?」

 部下の言葉に、頭を悩ませる元帥。しかし、この機を逃せば確実に不味い事になる。そして、

 「今すぐ横浜鎮守府の視察団と後任の提督を任命するのじゃ!その後に暗殺する」

 元帥は「阿破破」と笑う。

 この先に起こる問題など知らずに……。

 

 「こんな感じで良いかな?」

 4時間かけて草を刈り、テントを3つ設置した自分達は自炊の用意を加賀さんと長門さんがしている間に他の人は荷物をテント内に置いたり着替えをしていた。

 え?自分は何をしているかって?書類の整理をしているけど?

 「これも無理。アレも駄目だな」

 殆どが現状ではとても出来ない任務ばかりでそれらを全て自炊の為に焚いた炎の中に放り込んで炎の勢いを増させる。

 「明斗さん、すいません。衣服お借りしてしまい……」

 「良いよ。前任は皆の給料も私腹に肥やして贅沢三昧だったんでしょ?」

 パーカーと白のカッターシャツ等を高雄さんに渡した自分。

 男性物だからブカブカではあるが、特に問題はなさそうだ。

 「……皆、出来たわ」

 加賀さんがそう言って皿にカレーを盛り付ける。

 簡単なカレーにして簡易椅子に座って皆で食べる。

 「う、美味い……」

 「久々の食事だな……」

 高雄さんと長門さんの言葉に自分は手の動きを止めた。

 「え、えっと~。あ、そうだ!明斗さんはご両親と一緒に住んでいるんですか?」

 瑞鶴の言葉に自分は気持ちが冷めて、カレーを椅子の上に置いて「ごめん、夜風を浴びてくる」と言ってその場を後にした。

 

 「え、えっと……」

 明斗が去った後、重苦しい空気になっていた。

 「すまない、別に彼を傷付けるつもりで言った訳では……」

 「皆分かってる。彼自身が特に……。でも……ご両親の話は今後彼の前では禁止」

 長門が謝ると加賀が弁論をするが、両親の話だけは少し怒りの表情を見せていた。

 「何か、あったのですか?」

 陸奥が加賀に尋ねると、彼女は答えた。

 「彼のご両親は、10年前の『1109事件』で……。亡くなったのです」

 

 第1波止場

 

 思わずこっちまで来てしまったが、本音では艦娘も深海棲艦も嫌いだった。母さんを、父さんを殺した連中が嫌いだった。殺してしまいたい程に。

 でも、瀕死の状態で訪ねて来た加賀さんを見て、そんな気持ちは消えていた。むしろ、夜這いや物を落としただけで異常に怯えたり、何かと精神が不安定だった。

 だから、加賀さんを家に居候と名目でカウンセリングを行いつつ事情を聞き、全てを終わらせた。

 でも、まだ前任の爪痕がある。

 「自分がしっかりしないとなのに……」

 両親と自分、そして妹と一緒に撮られた家族写真を見つめていた時、「おわっ!?」と声が聞こえて後ろを振り返るとそこには数人の少女と女性。そして、小さな小人がいた。

 「て、天誅を!!!!」

 そう叫んで鉄パイプを自分に振りかざす。でも、それを手で掴んで、言った。

 「えっと、カレー皆で食べる?」

 



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第6話 攻撃と涙

 

 「それじゃあ、自己紹介してもらえると助かるよ」

 あの後、皆の元に戻った自分は襲いかかろうとした(?)艦娘達と一緒に皆とカレーを食べる。

 「工作艦の明石です!開発や修理関係は私に一言言って下さい」

 腰付近まであるピンク色の髪の女性が先に自己紹介する。成程、後で開発してもらおう。……色々と、

 「私は夕張型第1艦軽巡洋艦『夕張』です。出撃もするけど大体が明石の手伝いで工廠にいるから。宜しくです」

 緑?灰色と緑色が混ざった髪を緑色のリボンで結わえた子だと覚える。

 そして、少女達の方を見る。

 「あ、暁型第1艦駆逐艦『暁』及び左から」

 「……暁型第2艦駆逐艦『響』……宜しく」

 「暁型第3艦駆逐艦『雷』!雷じゃないからね!」

 「暁型、第4艦駆逐艦『電』だよ」

 どうやら4人姉妹の様で他の艦娘よりは元気があると感じられて一安心する。

 「ところで、司令官「司令官じゃないよ。ただの民間人」…明斗お兄ちゃんは何でここに来たの?」

 暁に聞かれた質問。自分は最初は答えるか悩んだが、言った。

 「皆の心のカウンセラーとこの横浜鎮守府の復興って言うのが名目だけど……」

 「だけど?」

 自分はそこで言葉を濁らせる。

 「ま、まぁそんな所だよ……。さ、そろそろ片付けて寝よう。色々と疲れたからね」 

 話を強引に中断させて片付けを始めることにした。

 

 「ねえ、あの人信用出来る?」

 テント内、寝袋に入って眠りに就く前に、夕雲が私に言った。

 「明斗さんの事を?」

 「そう……。私達のことを騙そうとしている気がするの」

 確かに。前任の件もあり、すぐに信用しろと言われても無理な話。でも、私は信じても安心だと思う。

 「夕雲、あの人は大丈夫。前の鎮守府の提督と似た雰囲気が感じられたから。それに、高雄さんの事も守ってくれたんだよ?」

 瑞鶴が夕雲に反論する。

 「それも、作戦の一つだったら……」

 「そこまで。今は寝ましょう?」

 私はそう言って目を閉じる。この先は誰にも分からないけど、久しぶりに安心して眠れる。

 

 「ふぅ……」

 皆が寝静まった深夜の2時頃。自分は明石に頼みたい建造に関する書類をノートパソコンで作成して印刷した書面を見ていた。

 「なぁ、教えてくれ。自分は、一体如何すれば良いんだ?みらい……」

 パイプ椅子に座りながら、1人で呟いた自分。その時、人の気配を感じて後ろを振り返る。

 暗闇に紛れる様に黒い衣装に身を包んだ女性がいた。緑色のセミロングの女の子が自分に向けて殺意を放っていた。

 「新しい提督ですね?」

 「提督じゃない。代理ではあるけど……」

 毎回同じ台詞を言うのもあれだが、良い加減にして欲しいなと思っていたけど、

 「何故、貴方は泣いている?」

 彼女に指摘された時に、自分は涙を流している事に気付いた。

 「あ、あれ?何でだ……。な、何で、涙が止まらない……」

 ポロポロと流れる涙。分からない、何故だか分からない。でも、艦娘と関わったからか、昔の、あの事件が脳裏に蘇る。

 『―――明斗、貴方だけでも生きてちょうだい―――』

 『嫌だよ、嫌だよ母さん!!』

 『提督駄目です!貴方も一緒に!』

 『―――後はお願いね、みらい―――』

 思い出したくない場面。あの日、あの瞬間さえなければ今、自分はここまで黒く、汚れていなかっただろう……。

 「それで、命を奪いにでも来たのですか?」

 「いいえ」

 だったら何しに来たのだろうか?自分は涙を拭きながら思うと、彼女はおもむろに何故か服を脱ぎ始めた。

 これには流石に動揺し、「な、何してるんだよ!?さっさと」この先の言葉は言えなかった。

 彼女が強引にキスをしたからだ。舌を自分の口の中に入り込ませる。

 手馴れているせいか空いていた手で自分の腕を掴んで彼女自身の胸を鷲掴みにする。

 「(や、やばい!)」

 そして強引に身体を離し、テントから出た時、彼女は呟いた。

 「もう、遅いわ」

 木々の間から放たれた弓矢。頬を掠めて地面に突き刺さる。砲弾などを使わずに弓矢を使ったのは他の人に邪魔されない様にだと考え、

 「そう来るか」

 そう言って工廠方面に走りだす。

 「今度こそ殺してね……。瑞鳳」

 少女は木の上で弓を構えていた少女に言い、明斗を追いかけていった。

 

 祥鳳型2番艦軽空母『瑞鳳』、それが私の名前だ。

 前任の数々の非道の行いが総て自分自身に降りかかり、燃え盛る別館と共に死んだ。皆衰弱していた。前任のせいで皆が皆疲れていた。だからこそ、新しい提督が来ると聞いた時、私は殺そうと思った。でも、一番仲が良かった加賀さんが私に一人で逃げた事を謝った際に、

 「新しい提督は、前の人とは違います。私達のことを第一に考えています」

 あの加賀さんが太鼓判を押した人。僅かながら私も興味を持った。

 そして今、私はその人に矢を放とうとしている。

 「ごめんなさい……」

 一人呟いた私は矢を放った。

 木々の間をすり抜け、その人に当たった。

 と、思った……。

 「矢って意外に痛いんだからそんなに放つのを止めてくれよ?」

 下を見た。目を見開いて驚いた。

 「な、何で……!?」

 「何でって言われても矢を避けてここまで来たんだよ」

 待って、だったら鈴谷は!?

 「あ、さっきの子は気絶させて今はテント内で休ませているよ」

 私はすぐさま矢を彼に向ける。

 「出てって。死にたくなければ」

 「殺したくない…。からじゃないの?」

 本心を暴かれて動揺した。でも、何も言わずに矢を向ける。

 「安心しな、何もしないし自分はただこの鎮守府の復興と君達のカウンセリングをしに来ただけ。ほかは何にもしないよ」

 出任せだ。私は自分に言い聞かせる。でも、彼の目はまっすぐ私の顔を見ていた。

 「まずは降りたら?話を聞いてあげるから」

 揺らぐ心。私は悩んで悩み、木から降りた。その時、横から何かが当たり、そのまま気を失った。

 



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第7話 訪問者と完成

 

 目の前で撃たれた。自分はそれに驚き、横を見る。黒ずくめの人物が銃を持っていた。

 「死ね」

 自分は呟くと同時にホルスターから愛銃、『ベレッタM9A1』を抜き、素早く標準を構えて引き金を絞る。

 人物の首に被弾した為に血が飛び散り、男は痙攣しながら、死んだ。

 図ったかのようにぞろぞろと連中が出てくる。

 「貴君には死んでいただきたい」

 「でしたら、自分を狙えよ」

 怒り心頭状態になった自分は口調も砕けて、目を細めていった。

 「悪は断罪する。それが犯罪相談役、『黄泉』の役目だ」

 相手が先制攻撃を仕掛ける。

 サバイバルナイフを外側になるように持って自分の首筋を狙って払う。しかし、ナイフが首筋に当たる前に相手の手首を掴んでベレッタでこめかみに一瞬で標準を構えて引き金を絞る。

 弾丸は頭部に入ると弾丸は脳内を掻き混ぜながら後頭部から飛び出る。

 「まずは一人目」

 すると、全員が自分に襲いかかるがしゃがみ、攻撃を避ける。そしてベレッタを空に向けて敵の顎を撃ち抜く。

 吹き出る血を気にもせずに死体をどかして瑞鳳のそばまで駆け寄ると腹部に被弾した銃弾をピンセットで摘出すると彼女を抱き抱えて工廠まで走る。

 「妖精!」

 自分の声で妖精は目を覚ましてこっちを見る。

 「頼む!瑞鳳の入渠を頼む!」

 血まみれの自分に驚く上に瀕死の瑞鳳で妖精はすぐに入渠場に案内してくれた。

 

 「入渠って浴室なの……」

 一人呟いた自分は瑞鳳には悪かったけど服を破いて彼女を浴槽に浸らせる。すると、壁に時間が表示され、後は妖精がしてくれるので自分はその場を後にして、死体の処理をしないとだ。

 

 「さて、あんたらの存在はなかったことになる。残念だったな」

 呟いた自分は穴の中にマッチを入れて死体と共に燃え盛る炎を見つめていた。罪を重ねるのも、汚れるのも自分だけで十分だ。理想の為に、悪を撲滅する為に、命を賭けて世界に喧嘩を売る。あの日の復讐は終わらない。

 

 夜が明けた頃に、自分は執務室に戻るとそこにあの子は居らず、眠気覚ましに珈琲を淹れる。

 「あ、提督。おはようございます」

 「おはよう、高雄さん。それと、提督じゃないよ?」

 高雄さんがいつの間にか縫い直された制服で執務室に来た。

 「あ、失礼しました!」

 「別に良いよ。それよりも、朝ご飯の用意してもらっても良いかな?」

 「了解です」

 そう言って高雄さんは昨日鍋を行った場所に走っていった。

 「さて、これをお願いしに行くかな……」

 一枚の紙を持って自分は工廠の方に歩いて行った。

 

 「お~い、明石さんと夕張さん居る~?」

 「あ!明斗さん!!」

 自分は中に入ると丁度明石さんと夕張さんが居た。が、瑞鳳もいた。

 「えっと、色々とごめんね……」

 「いえ、こちらこそ助けて頂いたので……」

 少し気まずい雰囲気の最中、二人が自分を遠くに連れて行き、

 「瑞鳳に何をしたんですか?」

 「まさか……、襲ったんですか!?」

 「違うから。断じて」

 自分は昨日の件を話した。勿論襲撃者の事は言わないで。

 「成程、それでですか……」

 「そうだよ。まぁ、彼女の事は自分が話を聞くけど、代わりに、これを建造して欲しいんだ」

 そう言って渡した書面を見た明石が驚いた表情で自分を見た。

 「本当に、建造するんですか?」

 「あぁ、頼む」

 自分は真剣な表情で明石に言った。

 

 「ってな訳で瑞鳳さんが加わりました!」

 朝食時に自分は彼女を連れて皆の前で言う。瑞鳳さんは「ま、待ってよ!?まだ私は提督反対なのよ!?」と言った。

 「いや、自分提督じゃないから。君達は提督反対な訳で別に民間人は良いんでしょ?」

 自分は首を傾げな言う。自分の返答に瑞鳳はしばし悩み、唸りながら最終的には……。

 「本当に、貴方に任せて大丈夫なの……」

 「勿論。心の悩みから鎮守府の復興までこの私立相談役の材原明斗にお任せあれ」

 自分は瑞鳳にそう言った。瑞鳳は微笑み改めて、

 「祥鳳型2番艦軽空母『瑞鳳』、改めて宜しく。明斗」

 「あぁ」

 自分は瑞鳳の手を握ったと同時に正門から黒塗の外車が数台鎮守府内に入ってきた。

 自分は身構えて皆もそれぞれ戦闘態勢をとる。

 そして、車内から出て来た白髪交じりの老人を見た自分は、すぐに構えを解除して、言った。

 「来たってことは説明して貰えるよね?爺さん?」

 「おぉ、明斗。久しいな……」

 自分と爺さんの会話に全員が唖然としていた。

 「えっと、明斗。この御方は?」

 長門が自分に説明を求めてきたので自分は爺さんの自己紹介をした。

 「あぁ、紹介するよ。自分の祖父で大本営大元帥の音針源蔵だよ」

 「「「「「「ええええええええ!!!?」」」」」」

 まぁ、全員が驚くのは仕方ないだろう。だって祖父が大元帥だって言ってないし。

 「横浜鎮守府の皆、孫の明斗が世話になっている。及びに今回の件は本当に済まなかった!」

 そう言って頭を下げた爺さん。これには流石の護衛も驚き「だ、大元帥!?貴方が頭を下げたら」と途中まで言ったところで、

 「馬鹿者!!わしらの落ち度でこの様な事態になったのだ!せめてもの謝罪としてこうして頭を下げているのだ!」

 爺さんはそう言った。すると、見かねた加賀さんが、

 「頭を上げてください大元帥。確かに私達は辛い思いや悲しみに暮れました。しかし、明斗が来てくれたことで少しばかり改善はされています」

 その言葉に爺さんは顔を上げて、

 「すまない、本当にすまない!」

 自分も流石に爺さんに「まだ、一部の人は自分が来たことに不安とか抱えているけど、自分もそれなりに頑張るから」

 「明斗……」

 その時、工廠の方から『うぎゃあああああああ!!!』ととても女性の叫び声に聞こえない声が聞こえてきた。

 「行きましょう!」

 瑞鶴が先に走り出して皆で追いかけ始めた。

 もしかして、完成したのか?

 あの子に、もう一度あの子に会えるのか……。

 



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第8話 あの子と新たな問題

 漫画『ジパング』より、イージス艦みらい登場です!


 

 工廠の中に全員が入り、腰を抜かしている夕張さんと唖然とした表情でいる明石さんがいた。

 「何があった!?」

 長門さんが明石さんに声をかける。彼女は唖然としたままある方向に指を指して「あ、あれ……」と言った。

 皆がその指先を見る。

 そこには身長が170cmくらいの少女がいた。白のジャケットを羽織り、中は青のベストと白のブラウス。下は青のミニスカート、そして桜の形を象ったボタン。しかし、彼女の毛先は白く、目は赤色だ。

 ようやく、ようやく彼女に会えた。

 「みらい……、じゃと?」

 「皆さん、初めまして!()()()()()()()()()()()()3()()()()()()()()()()()です!宜しくお願いします!!」

 爺さんは驚き、他の人はやっぱり唖然としている中、自分は一歩歩きだし、彼女に手を差し出す。

 「初めまして、自分は明斗。君の活躍を期待するよ」

 彼女は、少し戸惑いながらも自分の手を握った。

 

 「明斗、何故あの子が建造されたんじゃ?」

 あの後、自分と爺さんは二人だけで歩き、みらいの話になった。

 「自分が建造依頼した。でも、自分は知りたかったんだ。例え別人でも何であの時、母さんを助けないで、自分を助けて死ぬのを覚悟で守ってくれたのか……」

 「想いを……、知りたいのか……」

 自分の想いを爺さんに伝えると爺さんはそれ以上何も言わずに、肩に手を乗せた。

 「なら、絶対にあの子を、幸せにするんじゃぞ?」

 「うん……」

 潮の匂いが鼻孔を通り、少しだけ、母さんとの思い出を思い出させてくれる。

 「ってか、それよりも自分が提督って可笑しいでしょ?」

 自分はふと、爺さんに言い忘れていた事があったので言うと、

 「実はな…、ここの前任が解体処分、もしくは轟沈報告した艦娘の一部が今も何処かで囚われているとの情報を得た」

 そう言って自分に書類を渡す爺さん。自分はじっくりゆっくりと読む。

 「その上、放火事件の際に前任の部下が数人の艦娘も捕らえた情報もあって、海軍も大本営としても助け出したいのが現状じゃが……」

 「一部の艦娘反対派や奴隷の様に扱うブラック提督の為に動けないと…?」

 「そんな所じゃ…。しかし、羽柴から明斗がここの艦娘のカウンセラーとして行く事を聞いての、書類の一部を変更してわしが提督職にしたんじゃ」

 自分は頭を掻きながらこの国の行く末が分かった気がしながら、

 「解った。だったら、提督と名乗るのは今は止しておくけど、その行方不明の艦娘達は自分が捜す。それと、別館の再建の工事とこの鎮守府に所属する艦娘の給料の支払い。頼むよ」

 自分は爺さん頼むと「解った、帰ったらすぐにでも手配しよう」と言ってくれた。しかし、爺さんはまだ伝えたいことがあるらしく……。

 「もう一つ、頼んでも良いか?」

 「内容による」

 そう言って茶封筒を自分に渡す。封を開けて中身を読む。

 「演習?」

 「あぁ、舞鶴鎮守府所属、『第10鎮守府』との演習試合。そこの提督が」

 「ブラック提督……。解った、引き受けるよ」

 理想の為にまずはブラック提督を潰すのが先決だな……。自分はそう想い、爺さんの頼みに了承する。

 「すまないな……。一週間後に横須賀鎮守府の演習場で行う」

 「それで、話は終わり?」

 「終わりじゃ」

 爺さんとの話が終わり、爺さんに「じゃあ、早く帰ったら?今頃秘書艦の初春さんが書類に追われているよ?」と言う。

 爺さんは呵々と笑いながら「安心せい、その心配は無用じゃ」と言った。

 本当に大丈夫なのか……?

 

 深い深い暗闇の中に私はいた。

 あぁ、そうだ。私は沈んだんだ。だからこんな場所にいるんだ……。

 でも、突然誰かに引っ張られる感覚に襲われると光に包まれた。

 

 「うぎゃあああああああ!!!」

 奇声にも似たその叫び声に私は驚いてビクッとした。

 そして、私は不思議な感覚に襲われて動かしてみる。腕が動いた。いや、それよりも、腕があった。足もある。

 「嘘……」

 そう、私は人間に生まれ変わったみたいだ。

 イマイチ状況が掴めていない中で入口から見知らぬ人達が入り、私を見て腰を抜かしている二人に駆け寄る黒髪の人、ピンク髪の人が私を指さす。

 「みらい……、じゃと?」

 老人の方が「ありえない」ばかりの表情で呟いた。私は元気な声で、

 「皆さん、初めまして!横須賀基地所属ゆきなみ型3番艦護衛艦『みらい』です!宜しくお願いします!!」

 敬礼をして、自己紹介をしたけど……。皆唖然としている…。でも、茶髪の人が一歩歩きだして、私の傍まで寄ると、手を差し出してくれた。

 「初めまして、自分は明斗。君の活躍を期待するよ」

 私は、この人が新しい人なのかなって想いながら手を握った。

 

 「成程、つまり私は艦娘と呼ばれる存在になった訳ですね?」

 「概ね、その通りだ」

 あの後、明斗指令と別れて他の皆さんと案内も兼ねて諸々の事情を聞いた。深海棲艦によって領海権が奪われ、シーレーンも失った日本……。

 ふと、長門さんが私に「一つ聞いても良いか?」と言った。

 「何でしょうか?」

 私は長門さんに言うと、長門さんは悲哀の表情で言った。

 「前に、ある資料で見たんだ。()()()()()()()()()()()()

 その言葉の意味が解らなかった。でも、他の人は理解したらしい……。

 「つまりだ。我々は史実で言えば第2次世界大戦で活躍した。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 突きつけられた事実。私は落胆し、自信が持てなくなった。

 「お~い、皆に話があるから来てくれ~」

 遠くから明斗指令の声が聞こえた。

 



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第9話 気合とあの頃

 

 昼食であるサンドイッチを皆に回しながら全員に行き渡ったのを確認してから爺さんから頼まれた話を皆に切り出した。

 「実は、一週間後に舞鶴鎮守府所属第10鎮守府と演習を行なう事になった」

 自分の発言に皆が驚き、動揺する。まぁ、いきなり一週間後に演習だって言えばそうだろう。しかし、自分は皆を静かにさせると話を続ける。

 「皆が言いたい気持ちは解る。でも、今回の演習で君達が味わってきた苦しみを今もなお耐えている艦娘達がいる」

 この発言で全員が真剣な表情になる。自分はその表情を見て少し、安心すると言う。

 「皆には一週間後に備えて練習をしていて欲しい。明石さんと夕張さんには皆の新装備の開発をお願いする今回は参加できないけど、他の皆は演習場で特訓するのも良し、この大量の書類を片付けるのも良し。皆に任せるから!」

 自分が全部言い終わり「じゃ、サンドイッチ食べ終わった人から各自自由にして良いから」と言うともう食べ終わったらしく皆が一気に演習場に走って行った。

 

 みらいを除いて……。

 「みらい、話がある。良いかい?」

 コクン。無言で頷くみらいの手を引いて正門の外側まで出ると皆から見えない位置に行くと、

 「如何した?そんな悲しい顔して」

 「い、いえ…。ボーキサイト足りなくてお腹が空いているだけですよ」

 無理矢理作り笑顔で誤魔化そうとするみらい。自分はみらいのおでこにデコピンをした。

 彼女は「痛い!?」と言うと額を抑えて蹲る。自分はしゃがむと彼女の顔を見る。彼女は泣いていた。

 「昔、ある娘がイージス艦だからと言って今の君みたいに悲しんでいた」

 その言葉にみらいは顔を少し上げて自分の顔を見る。自分はあえて無視して話を続ける。

 「けど、ある女提督さんがその娘に言う。『イージス艦だからと悲しむな。彼女らが矛ならば君は盾になれ』と言ったそうだ」

 自分はこれ以上何も言わないでいた。みらいが「盾……」と呟くと自分は彼女に

 「そうだ。イージス艦は全ての矛じゃない。国を守る盾として建造された」

 すると彼女は元気を取り戻した様で「指令!ありがとうございました!」と言う。

 「指令じゃない、明斗って呼んでくれって言っただろ?」

 しかし、みらいは自分の言葉をスルーして「では、演習場に行って頑張ります!」と言うとそのまま走り去って行った。

  「全く、世話の焼けるイージス艦だ……」

 そうは言ったが、実際問題彼女が落ち込む訳も解らなくともない。けど、イージス艦はその為に建造され、そして国を守る。だからこそ、自分はあんなふうに言ったのだが……。

 「さて、工廠に行くかな…?」

 一人呟いた自分はそのまま工廠に向かう。けど、この時提督反対派が動いていたのに気付かなかった。

 

 「瑞鳳もあっち側に寝返り、こちら側も雲行きが怪しい。そこでだ、あの屑の秘密を探ることにした」

 皆を集めて最初の言葉がそれだった。

 横浜鎮守府提督反対派、聞こえは良いかもしれないが、実際のところただの引き篭りだ。

 でも、提督反対派には属してはいるが賛成派の連中と密会している連中もいる。…ん?私か、私は中立の立場だ。ただ、大和姉さんが見つけることさえ出来ればそれだけで良い……。

 「武蔵!貴方があの屑の秘密を探ってきてくれる?」

 話を聞いていなかった私に司会進行役である霧島が私に言う。ここで断れば面倒だ。私は仕方なく「解った、すぐに行こう」と言い、食堂を後にする。

 

 「とは、言ったものの……」

 アイツ等が勝手に執務室に溜まっていた書類とテントを放り出して高雄達を追い出したのには罪悪感を抱くが、案外楽しそうに過ごしている。

 「まぁ、兎に角適当に探して渡せばアイツ等も十分だろう……」

 独り言を呟きながら提督代理の荷物を探る。

 「ん?」

 ふと、机の上に伏せる様に置かれていた写真立てに気がつき、写真立てを起こした。しかし、その写真に私は驚いた。

 「ちょっと」

 後ろを振り返ると異常なまでに殺気を放つ提督代理がいた。

 「それを見るなんていい度胸ですね?」

 彼の顔をよく見て、理解した。

 「提督代理……。主は、『音峰鏡子』提督の息子か?」

 すると提督代理は驚愕の表情で私を見る。

 「って事は、あの時の……。いや、ありえない。だって、あの時……」

 「艦娘には練度、つまりゲームで言えばレベルアップをする。あの頃の私はまだ改二ではなく、まだ不慣れな頃だった」

 私は彼に近づき、言った。

 「すまなかった、提督を…、妹さんを守れなくて……」

 申し訳ない気持ちしかない。あの事件、あの事件さえなければ今も彼女は生きていたかもしれない。

 しかし、彼の顔色は暗いままだ。すると、彼は私に顔を向けて言った。

 「帰って下さい。まだ、あの事件を忘れられないので……」

 私は何も言わずにそのまま立ち去った。

 

 「明斗の過去?」

 「はい、できる限り教えて欲しいのです!」

 演習を皆で行い終わった後にみらいから突然聞かれた。

 「私も明斗とは半年過ごしたが一切過去の話は話さなかった」

 「そうなのか?案外話しそうな感じではあるけどな」

 長門は私にそう言ったけど、実際のところ、彼は、孤独な人なのだ……。

 



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第10話 対戦相手と想い

 先に警告します。初っ端から嫌な気分にします。ダメな場合はブラウザバックを推奨します。


 舞鶴鎮守府所属第10鎮守府

 

 舞鶴鎮守府だけではカバーしきれない事もあり、新たに新設された鎮守府。しかし、そこもまたブラック鎮守府だった。

 「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!」

 「こっち来い!!」

 日常的な暴力、

 「あ、ああははははははははははははは」

 「助けて助けて助けて助けて助けて助けて」

 精神が崩壊した艦娘、

 「イッ、イクッ!イカせてッ!!?」

 「オラッ!!もっと喘げ!!」

 昼夜問わず犯し続ける連中と抵抗する事なく犯され続ける艦娘。

 あぁ、何で、何でこんな事になったんだろう……。

 「オラッ!!さっさと出て来い!!」

 隠れ場所である部屋の前に多分あのクソ野郎の部下がいるのだろう。私一人なら別にこの後が如何なろうと関係無いけど、

 「こ、怖いよぉ……」

 後ろで怯えている第6駆逐艦の皆がいる。こんな私が、誰も守れなかった私が、守ってみせる。

 「ごめんね……」

 私は扉を開けて、廊下に出た。

 「私に用があるんでしょ?だったら早く要件を言いなさい」

 「落ち着けよ、提督からのお呼び出しだ―――」

 大破寸前の傷を隠す為に片目や両腕は包帯まみれになり、長くしていた髪も短くなり、奴らを睨み返す。

 「矢矧?」

 大丈夫、今度こそ、全てを護ってみせるから……。

 

 第10鎮守府執務室

 

 「1週間後に横浜鎮守府と演習を行う」

 呼び出されてみればいきなり屑野郎からそんな言葉が発せられた。

 「安心しろ、あっちとは交友関係を持っているから別に勝っても負けても何も言いやしないさ。ただ、負けたらもっと恐ろしい事をするかもな?」

 それだけ言って部屋から追い出した。

 演習メンバーは皆中破以上の状態であいつは『今回だけ特別に使わせてやる』と上から目線で言った。

 多分、この鎮守府の実情がバレないようにと布石を置くのだろうと考えながらも久しぶりの入渠なので内心喜んではいる。

 「ご、ごめんなさい……。私がもっと言えば…」

 最初にそう言ったのは今回の旗艦を任されている戦艦である『扶桑型2番艦航空戦艦山城』だった。

 彼女もあの屑からの暴力を受けている。でも、彼女は必死に耐えている。

 そう、彼女の姉艦である扶桑が海軍の上層部にこの現状を一人、轟沈として姿を消して救援に言ってくれたからだ。1週間前にそれは行われ、今回の演習も多分彼女が無事に伝えてくれたからだと信じている。

 「仕方ないよ。山城が全て悪い訳じゃない。全てはあの屑が悪いんだ」

 次に呟くのは『千歳型1番艦軽空母千歳航改二』だ。彼女は水上機母艦だったけど、改装されて軽空母になった。

 そんな彼女も暗い表情で言う。彼女も山城同様姉妹艦を人質に取られている。だからこそ、彼女も彼女も顔には出さないではいるが、内心では屑を殺そうとしている。

 だから、あっちの皆には悪いけど負けて……。

 

 横浜鎮守府 執務室(仮)

 

 一方で、書類整理を終わらせた明斗。演習で疲れた皆が寝ている中で一人夜空を眺めながら珈琲を飲んでいた。

 「隣、宜しいですか?」

 ふと、声が聞こえて明斗は振り返るとそこには高雄と加賀の二人がいた。

 「良いよ」

 明斗は了承すると二人は持ってきた折りたたみ椅子に座り、明斗と一緒に夜空を眺めた。

 特に話題もなく、ただ時間だけが過ぎてゆく中で、明斗が口を開いた。

 「二人には、話さないといけないね……」

 「何をですか?」

 高雄が明斗の言葉に首を傾げる。それに対して加賀は悲しい表情で明斗を見た。

 「前任が死ぬきっかけになった放火事件。実は、自分が起こしたんだよ」

 明斗は申し訳なさそうな表情で言うが、

 「解ってましたよ。私も、テントで寝ている皆も」

 その言葉で明斗は高雄の顔を見た。

 「な、何で……」

 「あの時、明斗が大和を助けて逃げる際に仮面を外した明斗の顔を見たんです。最初は怪しい人だと思いましたよ……。でも、瑞鶴と陸奥さんと一緒に来た人があの時の人だとは思いませんでしたよ?」

 高雄の言葉に、明斗は何も言えずに、ただ、「ごめん……。もっと早く来ていれば……」と言う。

 「明斗は悪くない。私の、カウンセリングをしていたから……。私が謝るべきなのに…」

 明斗の言葉に加賀も謝る。しかし、高雄は二人に

 「二人共、謝らないで。今皆が笑顔になっているのも二人のおかげなんだから」

 「でも、提督反対派と、高雄さんの本心が聞けてない」

 明斗は高雄に向けて言う。高雄は驚き、明斗を見る。

 「もう、素直になっても良いんですよ?」

 高雄は静かに涙を流し始めると嗚咽を出しながら明斗に抱きつきながら泣いた。加賀は何も言わずに立ち上がるとその場から立ち去る。

 「辛かった、辛かった~~!!!」

 「もう、大丈夫ですよ……」

 泣きじゃくる高雄にそう言いながら背中をさする明斗。

 彼は誓う。

 もう、二度と彼女達にこんな思いをさせない。絶対に……。

 しかし、彼のこの思いも第10鎮守府との演習日になった時、あの事件で果たされなくなると知らずに……。

 

 そして、第10鎮守府と演習する日になった。

 その日は空は快晴、演習にはもってこいの天候だ。しかし、今回の演習はそんな心が躍るような話ではなく、

 「ついに、来たか……」

 横須賀鎮守府の演習場で、決死の作戦が行われる日なのである……。

 「初めまして、横須賀鎮守府の提督であります『凬森慎也』中佐です」

 「提督代理の材原明斗です」

 ピシッと城の軍服を着こなし、正義感の強そうな好青年だと一目で分かった。

 「横浜の一件、我々海軍がしなければならない事を君に任せてしまい、申し訳ない」

 「構いませんよ。提督職も慣れませんけどそれなりに頑張っているので」

 自分はそう言うと風守さんはクスッと笑うと、

 「やっぱり、音峰少将さんと似てますね」

 その言葉に自分は驚いた。

 「私は、あの人に憧れて海軍に志願したのですよ。彼女の様な、提督に……」

 淋しげな顔で言った風守さんは「さ、行きましょう。明斗君の艦娘さん達は別室で待機しているから」と言う。

 「すいません、色々と迷惑かけて……」

 「構わないよ。それに、音森さんの息子さんに会えて私も嬉しいからね」

 風守さんの爽やかな表情に自分は直視出来なかった。爺さん、この人の階級上げた方が良いよ……。

 自分は心の中でそんな事を呟きながら対戦相手である第10鎮守府の提督に会いに行く。

 



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第11話 演習と結果

 そして、それが別れの始まりとなった。


 

 「初めまして、横浜鎮守府の提督であります材原と申します。階級は少佐であります」

 「舞鶴鎮守府所属第10鎮守府提督の大和田だ。階級は貴様の遥か上の中将だ」

 凬森さんの案内で連れてこられた部屋に今回のターゲットがいた。我が物顔で椅子に踏ん反りがえり、舌打ちをしていた。

 爺さんからの事前の話し合いで一応偽の階級で少佐として名乗り、慣れない白の軍服に身を包んでいる自分。新人だと思わせ、なおかつ前任の息子だと名乗って相手を油断させる作戦になっている。

 「では、試合は30分後に行います。お二人は艦隊のメンバーにお伝えする事があればお早めに」

 凬森さんが言った直後に大和田は「では、行かせて貰うぞ?」と言い、部屋から出て行った。

 「では、自分も」

 「あ、明斗さんにはこれを」

 そう言って渡されたのは憲兵を呼ぶ為の笛だ。

 「彼の悪事が確定、目撃した際にはそれで呼んで下さい。もう鎮守府各所に憲兵は隠れておられるので」

 「了解しました」

 自分はそう言って部屋を出て行くと真っ先に皆の元に向かう。

 

 扉の前に着くと『コンコンッ』とノック音を出し、

 「入るよ」

 「どうぞ~」

 扉の向こうから返事が貰えると自分は室内に入る。

 「明斗か?今回は勝つぞ」

 長門さんは自分にそう言うと主砲である『41cm連装砲』を見せる。

 今回のメンバー、バランスを考え長門さん、加賀さん、高雄さん、夕雲、そして、みらい……。以上の5名で行うことにした。

 「本当は6人の方が良いんだろうけど、相手もそこまで馬鹿じゃないだろうから出来るだけの可能性を排除した結果がこれなんだよね……」

 自分で選んでアレなのだが、正直な話、不安だ。まだ心に傷を残し、いきなり演習と言われれば当然怖がるだろうと思ったが、

 「大丈夫、私達は勝利するわ。絶対に」

 「そうです。明斗さんが頑張っているなら、私達も頑張る」

 「ま、まぁ!今回だけ特別に手伝ってあげるわ」

 それぞれが想い想いを言ってくれている中、みらいは不安な表情でいた。

 「みらい」

 「あ、明斗……。恐い、失敗したら如何しよう……」

 重大な事態だからこそ、みらいは不安がっていたが、

 「安心しろ。みらいは自分が一番好きだったイージス艦だ。その名に恥じぬ成果を見せてくれよ?」

 自分は笑顔で言うとみらいも不安が吹っ切れたようで「はい。みらい、頑張ります!」と言ってくれた。

 「さて、時間だ。自分は見ている事しか出来ないけど、皆の事を信じているよ」

 「「「「「はい!!!」」」」」

 元気な声で返事をした皆はそのまま演習場に向かう。

 「頑張れ、自分は応援するよ…。心の底から……」

 

 「勝利を掴め。あいつの息子だろうが関係ない。徹底的に潰して再起不能にさせてやるんだ!」

 あいつがそんな言葉を私達に言った後、皆である作戦を練っていた。

 「帰り際に、全てを終わらせる」

 「うん……。皆で一斉攻撃さえすれば……」

 この時点で既に私達は後に引けない場所にいた。だからこそ、奈落にとことん堕ちてしまおうじゃないか……。

 皆で頷き、そして演習場に歩きだした。

 

 「見物ですな?」

 演習場の観客席から自分はこの大和田の隣で演習が始まるのを待っていた。

 「そうですね……」

 少し、微笑んだ自分。この後の結果は目に見えてはいるが、今はじっと我慢してみていよう。この男の慌てる姿を…。

 そして、『ヴィィィィィィィ!!!』と開始の合図音が響くと両チームが一斉に動き出す。

 6対5、1人の戦力差は結構大きいので相手も慢心をしていたのか、それともこの屑に対する嫌がらせなのかは知らないが、陣形が少しずれていた。

 自分だけなのかと思ったが、それは凬森さんも、大和田も気付き、長門さん率いる艦隊はそれぞれの長所を生かし、相手を翻弄する。

 特に、みらいは防御に特化しているのでトマホークや短魚雷を駆使しながら加賀さん達をサポート、そしてどんどん相手が劣勢になり、

 『ヴィィィィィィィ!!!』、終了の合図音が響く。

 勝者は無論横浜鎮守府だ。

 「お疲れ様です」

 自分はそれだけ言うとその場を凬森さんと一緒に後にした。

 「くっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 大和田の怒りのこもった叫びを後ろから聞きながら……。

 

 「さて、作戦はこれからです」

 「解ってます。始めましょう、狩りを」

 微笑む自分、けど、これがあの人との永遠の別れになるなんて……。

 

 「勝ちましたね」

 演習が終わり、皆で喜んでいた。

 「しかし、相手のあの行動、少し不気味だったな?」

 長門さんがポツリと呟く。確かに戦う意志は見えられたが、何処か復讐心が垣間見えた。私は胸騒ぎを感じると、「明斗の元に向かいます。皆はここで待ってて」と言うとそのまま部屋から出て明斗の元に向かう。

 後ろから「加賀!待つんだ!!」と長門さんの声が聞こえたけど、私は無視して走り出していた。 

 「(早く、早く彼の元へ……!!)」

 焦る気持ちと心に抱く違和感を抱きながら廊下を走り、明斗を捜す。

 その時、『ピィィィィィィィィィィ!!』と笛の音が聞こえた。音がした方に走り出すと数人の憲兵と演習相手の提督、そして明斗がいた。

 傍には戦艦の山城憲兵の後ろに隠れるようにいた。

 「加賀さん!?部屋で待機しててって言ったのに」

 「すいません、胸騒ぎを感じて……」

 「特に何も起きてないから安心して?」

 明斗にそう言われて頭を撫でられた。多分私の顔は真っ赤になっているのだろう、明斗は心配した顔で「え、加賀さん大丈夫!?」と言う。

 「大丈夫…、気にせずに……」

 明斗は「そう……。もし何かあったらすぐ頼るんだよ?」と言う。私は、その言葉を聞いて「はい…」と答えた。

 「明斗君!無事かね!?」

 「えぇ、大丈夫ですよ。彼女を第10鎮守府の皆と合流させて外で待機させて下さい。大元帥が手配した迎えの車が来るので」

 凬森さんの心配をよそに明斗は淡々と答える。

 凬森さんも「そ、そうか……。では、山城一緒に行こう」と言われて連れて行かれた。でも、その時の山城の口元が、嗤っていた。

 



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第12話 逮捕と別れ

 ある人との別れ、そして暴走。


 

 大和田が出て行くのを確認すると自分はそのまま後を追いかける。大和田は怒り心頭で後ろからつけられているのにも気づかずにそのまま肝娘の待機室に一旦立ち寄ると怒声が廊下にまで聞こえ、このまま突入しようかと思ったが、扉が開く音が聞こえて戦艦の山城を連れてそのまま何処かに向かう。

 ゆっくりと、後を追いかけ、そしてプレートが付けられていない部屋に入った。

 扉の前に着き、扉を少し開けて中の様子を見る。

 「全ての責任はお前にあるんだぞ!!巫山戯るな!!」

 彼女に向けて暴力を振ろうとしたその瞬間、扉を勢いよく蹴り飛ばし、後ろを振り返った大和田に向けて後ろ回し蹴りを喰らわせる。

 左の方に吹き飛び、段ボールや棚を倒す。

 当の本人は何が起きたのかが解らずに「なっ……!!」と少々間抜けな声を出していた。

 「ピィィィィィィィ!!!」

 笛の音を聞きつけた憲兵達が大和田を捕らえ、山城さんを保護する。そんな大和田は自分に「嵌めやがったな!?」と負け犬の遠吠えを吠えるが、

 「嵌めてませんよ。寧ろ今回の演習は貴方を捕まえる為に行われたものですから」

 自分は大和田にはっきりと言うと大和田はそのまま顔を伏せた。

 その時、誰かが走ってくる足音が聞こえてくるとそこに加賀さんが息を切らしながら立っていた。

 「加賀さん!?部屋で待機しててって言ったのに」

 「すいません、胸騒ぎを感じて……」

 「特に何も起きてないから安心して?」

 自分は加賀さんにそう言って頭を撫でた。すると、加賀さんの顔が真っ赤になり、自分は心配して「え、加賀さん大丈夫!?」と言った。

 加賀さんは少し、恥ずかしそうに「大丈夫…、気にせずに……」と答えた。それでも心配だった自分は「そう……。もし何かあったらすぐ頼るんだよ?」と加賀さんに伝える。そして加賀さんも「はい…」と言ってくれた。

 「明斗君!無事かね!?」

 すると、加賀さん同様息を切らしながら凬森さんも来ると自分は「えぇ、大丈夫ですよ。彼女を第10鎮守府の皆と合流させて外で待機させて下さい。大元帥が手配して迎えの車が来るので」と言う。

 凬森さんも「そ、そうか……。では、山城一緒に行こう」と言い、彼女を連れて行く。

 でも、これが間違っていたと……。この時の自分は知らなかった。

 

 「それじゃあ、行こうか」

 明斗は私にそう言うと手を握ってくれた。私は前の鎮守府の提督との思い出が蘇る。そうだ…、明斗はあの人とよく似ている。だから、私はこんなにも安心が出来るんだ……。そんな風に感じられた。横須賀鎮守府の入口に着くと凬森提督と先程の提督、そして数人の憲兵が待っていた。

 「待たせましたか?」

 「いえ、問題ないですよ」

 明斗の問いに凬森提督は微笑みながら言うと「外に憲兵の皆さんが待機しています。護送の見送りが終わったら皆さんの迎えも着ます」と明斗と私に言ってくれた。

 「解りました」

 明斗の手が扉に触れた時、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「え?」

 けど、明斗は扉を開き、外の光が見えた時、第10鎮守府の艦娘が主砲を向けているのが見えた。私は無我夢中で走り、明斗を庇う様に抱きつくと耳をつんざく爆音が響いた。

 

 何が起きたのかが、解らなかった。

 加賀さんが自分を庇う様に抱き着く所までは覚えているが、そこから先が覚えていない。

 辺りには焦げ臭さと埃っぽさ、そして死臭の匂いが充満していた。

 「加賀さん、だいじょ……」

 自分の言葉はそこで途切れた。加賀さんの上半身が見えた。けど、()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「あ……、きと。だ、いじょう、ぶ…」

 「喋らないで!!死んじゃ駄目だよ!!」

 強く、強く彼女を抱く自分。しかし、加賀さんは自分に、

 「あ、とは……。まかせ、ま、したよ…。て、いとく……」

 その言葉を最後に、加賀さんは喋る事はなくなった。()()()()()()()()()()()()()()()()()……。

 「あ、明斗!!生きてるか!?」

 「明斗ーー!!」

 凬森さんや長門さん達の声が聞こえた。でも、自分の心には何も響かない。

 「明斗だいじょ……!?加賀…加賀!!」

 「彼女は死んだよ…。自分を庇って……」

 長門さんは加賀さんに声を掛けるが、自分が彼女の希望を打ち砕いた。いや、アイツ等がこんな事さえしなければ良かったのに……。

 死んだ憲兵が所持していた軍刀2つを両手に持ち、痛みも気にせずに、言った。

 「お前らを、コロシテヤル」

 

 「しかし、加賀は遅くないか?」

 「もしかして抜け駆けしていたりして?」

 加賀が出て行った後、待機している私達は加賀の帰りが遅い為に心配していた。夕雲がポツリと呟いた言葉に夕雲以外の4人が『ピクッ!?』と反応する。

 「っま、まさかねぇ~」

 明らかに動揺している高雄を見て、私も動揺しているのかと心配になった直後、突然砲撃音が聞こえた。

 「何事だ!?」

 音がした方に走り出した私達は他の憲兵も慌てている様子から予想外の事態が起きているのだと察する。

 

 入り口付近にまで近づくと焦げ臭さと死臭の匂いが鼻にツンと来るともしかして…と、わたしは最悪な展開を考えたくなかったが、

 「嘘、でしょ……」

 そこは地獄絵図だった。

 入口の壁自体砲撃で壊れたので外の青空が一望出来るが黒鉛でそれは無理そうだ…。私は一人先に階段を降りると残骸に埋まっている明斗と加賀を捜す。

 「喋らないで!!死んじゃ駄目だよ!!」

 その言葉で明斗がいる場所が分かり、近づくと、誇りで見えないが明斗の姿が見えた。

 「あ、明斗!!生きてるか!?」

 私は明斗に声を掛ける。しかし反応がない。

 「明斗だいじょ……!?加賀…加賀!!」

 下半身を失った加賀に私は声を掛けるが、

 「彼女は死んだよ…。自分を庇って……」

 明斗の目は死んでいた……。いや、虚構を見詰め、ただならぬ雰囲気を出していた。

 そして、死んだ憲兵が所持していた軍刀2つを両手に持ち、不気味な笑みを浮かべながら明斗は言った。

 「お前らを、コロシテヤル」

 



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第13話 栄光の第1艦隊と狂気の武人

 初正規空母欲しさに物資をケチって建造、待ちに待った結果…。まさかの加賀さん登場で、脳裏に「小説で退場させたからこっちで……」と恐ろしい想像をしてしまった作者でした。
 続きです。


 凬森提督から指令された海域も無事攻略し、帰投している時だった。

 「ねぇ、鎮守府の方から黒煙上がってない?」

 島風が指を指しながら言った先は黒煙を上げている横須賀鎮守府だ。

 「もしかして…、敵襲!?」

 鈴谷が不安そうな声で言うけど、私は「急ごう!」と言う。それに続いて金剛も「ohそうですネー!!愛しのテートクが待ってマース!!」と通常運転で話している。

 そんな会話をしていると、鎮守府が近くなり、黒煙が上がっている場所が正門付近だと特定も出来た。

 「大破、中破の者は入渠、小破と無傷の人は私と一緒に現場に!」

 『了解(デース)!!』

 待ってて、提督。私が、この長良がすぐに!!

 

 「フフッ、アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!!!」

 飛び交う銃弾砲弾を両手に持つ軍刀で斬って斬って斬りまくる。

 「如何した?もっと撃てよ?」

 狂気の笑みを浮かべているのだろう。その場にいる全員が表情を凍りつかせ、震えているのだから。

 「さぁ、懺悔しろ。加賀を殺したその罪を!!!!」

 第10鎮守府の連中に一歩一歩確実に近づいて行く。恐怖に震え、慄くその姿は滑稽だった。

 「さぁ、死ね。そしてその命で償え」

 そう言って斬首しようとしたが、後ろからの気配を感じて振り返ると砲弾が飛んでくるがこれも斬る。

 「これは一体どういう状況なのかしらねぇ?」

 「戻って来たのか……。長良、金剛、島風、不知火」

 どうやら、出撃していた艦隊が戻って来たようだ。面倒だが、ここで戦闘不能にすれば後が楽だろう。

 「良いでしょう、かかって来なさい…!!」

 

 目の前にいる男、提督と同じ白の軍服を着ているので他の鎮守府の提督なのだろうか?

 けど、明らかに殺気を剥き出し、今にも攻撃をして来そうな感じだ。

 「テートク!!大丈夫デースカ!?」

 「わ、私は大丈夫だ。けど…、彼の方がまずい」

 提督はあの人の方を見て言った。何が起きたのか状況が把握出来ない中で、黒塗の車が数台止まると中から大元帥と大本営の人間が出て来た。

 「な、何が起きたのじゃ…!?」

 驚いている大元帥に彼がそちらを見ると、

 「爺さん、答えてくれ……。人の命ってこんなにも、儚く、脆いのか……?」

 涙を流しながら、言う彼に大元帥は「明斗…、落ち着いてそれを地面に置くのじゃ」と言った。

 「落ち着け?巫山戯るなぁぁぁぁ!!!!!」

 彼の怒声は鎮守府内にいた他の皆にも聞こえたらしく、こちらに向かってくるのが分かる。

 「目の前で、目の前で自分が護るって言った人を死なせてしまったんだぞ!!!!目の前で、母さんや妹の未依や、母さんの秘書艦の『みらい』が死ぬ瞬間を見た自分に落ち着けだって…?巫山戯るなよ!!!」

 傷口から血を流し、大声で言う彼に、ある種の恐怖を覚える。

 「それでも、これ以上暴れないで頂戴?」

 「だったら、殺せよ?自分を…。この材原明斗を!!!!」

 狂っている……。焦点の合わない目、三日月の様に口角を上げている。そしてボロボロにはなっているけど白の軍服を着ている。

 砲弾を斬っている時点で私達に勝ち目はないのが分かる。でも、この人を止める方法があるのかと聞かれると、あるにはあるけど、上手く事が進む筈がない。

 「皆、動かないでね?私が一人で行くわ」

 皆に微笑んで言った私は艤装を解除して一気に走り出す。相手も「自殺行為に等しいな!!」と叫び、刀身が私の身体を掠める。服が破けるが気にもせずに腹部に渾身の正拳を喰らわせる。

 「ングッ!?」

 防御は一切考えていなかったのが幸いで、彼はそのまま後方に吹き飛ぶとそのまま地面に倒れて気を失った。

 「か、確保ォォォ!!!」

 憲兵の声が聞こえてくると私はそのまま地面に座り込んだ。

 

 あの後、少年は憲兵に拘束されるとそのまま病院に搬送された。彼が殺害しようとした艦娘も別の車で横須賀鎮守府を後にした。私は金剛と島風、不知火に文句を言われつつも無事で良かったと言われて、私も「うん…ありがとう」と返事をした。

 そして、提督と大元帥が私達に事の顛末を話してくれた。それを聞いた私は、怒りが込み上げてきた。

 「何よそれ……。助けた張本人を殺そうとしたの!?」

 熊野が声を荒らげて提督に言う。提督も「熊野、私もそんな気持ちだ。しかし、憶測でしかないが、多分最初に出てくるのが第10鎮守府の提督だと思ったのだろうだから彼女らは砲撃をした。しかし、砲撃した後になって砲撃した相手は別人だと解ったのだろう」と説明した。

 「それで、あの少年は?」

 霧島が冷静な声で大元帥に問うと大元帥も「病院で治療を受けておるが……、意識はまだ戻らん」と言う。

 「如何して…、如何してなの!!」

泣き崩れる長門さん達……。あの少年は大元帥の孫で、最近ブラック鎮守府と摘発された横浜鎮守府の提督代理として所属する艦娘達のカウンセリング等をしていたらしい…。そして今回の逮捕劇に参加、事の終わる手前で……。

 「今回の件はわしに責任がある……。あの子の、心の傷を抉ってしまったのじゃからな……」

 大元帥もぐったりとした状態で言う。私達には如何する事も出来ない…。彼女らを慰めるのも、彼の悲しみを取り払うのも……。

 



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第14話 帰還と悪夢

 加賀さんが死に、指令も意識不明の状態のまま私達、横浜鎮守府の艦隊は横須賀鎮守府を後にした。

 凬森さんと大元帥から「ここで、しばらく気を休めてから……」と言われたけど、今はただ、鎮守府で休んでいたい……。二人の思い出のある……。

 横浜鎮守府の正門を開くとそこには見覚えのない人達が陸奥さんに怒鳴っていた。

 「如何ゆう事だよ!!加賀が死んだって!!?」

 「私も詳しくは聞いてないけど……」

 陸奥さんがこちらを見て、他の人も見る。兎みたいな耳の機械を装着した人がこちらに近づくと、

 「オイ、答えろ長門。何で加賀は死んだんだ!!」

 「ブラック鎮守府提督を拘束、大本営に護送する前に、その鎮守府の艦娘が加賀と明斗を提督だと思い込んで砲撃、加賀は死亡、明斗は意識不明の重体だ」

 簡潔に、事務的に言った長門さん。でも、俯いて悔しそうな表情をしていた。

 「くそ!!俺達は提督さえいなくなれと思ってはいたが…、何で加賀が死ななきゃいけないんだよ!!!」

 その人はとても憤怒していた。加賀さんにとても過敏に……。

 「まずは、加賀に追悼しよう。明日には別館の工事も入るとの事だから今日しかないだろう……」

 長門さんの言葉に皆が頷いて簡易的だけど木の板で十字架を作り、皆で追悼した。自然と私は、涙を流していた……。

 

 あれから3日が経った。

 俺はやりきれない気持ちを吐き出せずに苛々していると長年一緒にいる武蔵から呼び出された。

 「それで…、呼び出した理由は言ってくれるよな?」

 「当たり前だ。お前にとっても、私にとっても非常に吉報な事だ」

 そう言って武蔵は大きな茶封筒を俺に投げる。すかさずキャッチした俺は茶封筒の中身を確認した。

 「おい、嘘じゃないよな?」

 「当たり前だ。もう一つ補足するとあの材原明斗は鏡子提督の息子さんだ」

 武蔵の発言に、俺は驚いて睨む。

 「あの人の家族は全員死んだ!!俺はそう聞いているぞ!!」

 「上層部の情報規制と嘘の情報を流したのだろう…。元を正せば大本営と海軍の失態によって起きた事件だからな」

 俺は更に苛々が募り、近くに置かれていたドラム缶を蹴り飛ばす。

 「他の鎮守府に行った別のメンバーの話にもよれば、明日辺りに正式な後任が着任する。前任と同様の男だ」

 「……、もう打つ手は無いのか?」

 俺は武蔵に聞く。武蔵は「はぁー」と深い溜息を吐いて、言う。

 「ある。しかし、本人が立ち直らない限り無理だがな」

 その発言で、俺は察した。

 「つまり…、お前はクソ野郎をとるか鏡子提督の息子かを選べって言うのかよ?」

 「それしか無いだろう。本人は意識不明のまま、状況はまたあの時と同じくなるぞ?」

 俺は考えた。こんなクソみたいな状況を打破する方法は一つしかない。

 「仕方ない。俺は『パァァン!!』何だ!?」

 俺と武蔵は音がした方に走り出した。如何やら正門付近からで、木々を抜けた所で目の前の光景に、驚き、動けなかった。

 「おや?まだ居たのかね?」

 「に、逃げろォォォォ!!!」

 血まみれの状態で叫んだ長門。男の手には拳銃が握られていた。俺は後から来た武蔵の手を引いて「逃げるぞ!!」と言い、走り出していた。

 「ほらほらほらほら!!滑稽に逃げて見せろ!!俺は後ろから撃つぜ?」

 何発も聞こえてくる銃声、他の皆の呻き声や叫び声が聞こえている中で、俺と武蔵は海に出るとそのまま横浜鎮守府から逃げた……。

 

 「フン……」

 脱走したのが二人だけ…、詰まらないものだな。

 「さて、この私がこの鎮守府に着任した『大木田』提督だ…!」

 元ブラック鎮守府、私の遊び場程度にはなるだろうな?

 「さぁ、執務室に案内したまえ?」

 また面白い場所に来たぞ。

 

 そして、1ヶ月の時が流れ、

 

 「ん……?」

 眩しい光に目を細め、身体中の骨を鳴らしながら身体を起こした。

 何故自分は病院に居るのかが分からない。けど、その後に体が冷たくなっていく加賀さんが脳裏を過ると全てを思い出した。

 「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 自分の叫び声に気づいた看護師や医師が慌てて「どうしました!?」と自分に声をかける。

 あの時、自分は外で待機しててなんて言わなければ……。先に扉を開け無ければ……!!!!

 「うわあああああああああああ!!」

 目一杯声を張り上げ、嗚咽交じりの泣き声も出していた……。

 

 「少し、落ち着きましたか?」

 「はい……」

 十数分叫び続けて、ようやく気持ちに余裕が出来た。

 担当医師から全ての事情を聞いて、3日後には退院と言われたが、明日に退院したいと無理を通して明日退院になった。

 「ごめん……」

 誰にも届かない、懺悔の言葉を自分はポツリと呟いていた……。

 

 次の日、無事退院となりタクシーで一旦事務所の方に帰った。

 重い足取りで歩いていると、入り口付近に誰かが倒れている事に気づいた。

 「おい、大丈夫か……」

 自分は思わず、目を見開いた。

 何故なら、そこに倒れていたのは……。死んだはずの加賀さんだったからだ。

 



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第15話 本音と嵐

 目の前の光景が信じられずにいた。だって、それはそうだろう?死んだ人間が倒れているんですよ?

 「誰かのイタズラなのかは知らないけど……。一応中に入れますか…」

 無視しても良かったけど、母さんとの想い出もあって、前の加賀さん同様に室内に入れるとソファーに寝かせて自分はベットに倒れこむ。やっぱり…、身体動かしていないから疲れた……。あ、ご飯作らないと……。

 

 「―――きと、――明斗、起きるのじゃ、明斗!!」

 人が疲れてぐったりと寝ているのに誰がか起こす。自分は少し不機嫌気味に「誰ですか?」と身体を起こして起こした人物を見る。

 「全く、源蔵と言いお主も少し寝起きが悪くないか?」

 紫色の紙をポニーテールに結わえた女性が立っていた。しばし考えて言う。

 「初春さん?なんで居るんだよ……」

 「そこは、俺が説明しよう」

 初春さんの後ろから羽柴が出て来た。成程、またか……。

 「すみませんが、もう二度と提督関連の依頼を受ける気は「ブラック鎮守府を助ける依頼でもか?」…、嫌だ」

 羽柴からの依頼内容は察した通りで拒否の返事を即答する。

 「あんたらも、もうしばらく此処に出入りしないでくれ……。顔も見たくない…」

 自分は二人に本心で言った。もう、関わりたくないのだ……。

 「そうか……。でも、ついでに言わせて貰うが、大本営の一部が今暴走を始め、源蔵さんは死んだ。初春君は私が保護したが今やあそこはただの負の塊だ」

 羽柴の発言で、自分の怒りはピークに達した。

 「だから何なんだ!!!お前らのような人間が居るから世の中は悪が蔓延るんだよ!!いい加減に自覚しろよ!!」

 羽柴に面と向かってはっきりと言う。もう、これ以上、誰かが死ぬのは見たくないのだ……。

 「確かにそうかもしれない……。しかし、君の玄関前に倒れていた加賀は、君に会いに来たのだよ」

 「馬鹿馬鹿しい。死んだ人間が会いに来れるか!?」

 「確かに一度は死んだ……。けど、それは現在ではない。1109事件で死んだ加賀だ」

 言っている意味が解らない。すると、鍋を持った加賀さんが来た。

 「お久しぶりです……。明斗君」

 その時、昔の記憶が一瞬だけ蘇り、自分は問う。

 「もしかして……、母さんの…」

 「改めて紹介します。『元横須賀鎮守府第1艦隊所属加賀』です。お久しぶりです、明斗君」

 自分は目の前の光景が信じられなくて、到底信じる事が出来ずに涙を流して、言った。

 「本当に、加賀さんなのかい……?」

 「えぇ、鏡子提督の加賀です。事件の際には提督とみらい、そして私達が死んで貴方は悲しんでくれたと聞いて、申し訳ない気持ちになりました……。でも、今度は私が貴方を救います」

 やっぱり、やっぱりあの時の加賀さんだ……!!

 「そう…、そうなのね……」

 自分はしばらく静かに泣いた。爺さんの死と加賀さんの帰還を含めて……。

 

 「落ち着いたかの?」

 初春さんが自分に聞く。自分は「えぇ、落ち着きましたよ」と答える。

 「でも……、なんで爺さんは…」

 「さっきも話したが大本営の艦娘反対派が暴走、最初に被害者が源蔵じゃった……」

 爺さん……。自分は死んだ爺さんが最期どんな想いだったのかを考えた。おそらく、自分に対する謝罪だろうと想うと、何だか申し訳ない気持ちになる。

 「そして、横浜鎮守府にはブラック提督が赴任、前よりも更に悪化しておる」

 また面倒な事態になっているのか……。羽柴と初春さんは自分に「お主のトラウマを我々海軍と大本営が作り出したのは承知だ。しかし、今だけでも良いんだ。力を貸してくれ」と……。

 正直な気持ち、虫が良すぎる話で誰だって断るだろう……。でも、自分は渋々ではあるが、

 「良いですよ。その代わり、除隊前の階級を……。それと、加賀さんには後で聞きたいこともあるので」

 羽柴は自分の返事を聞いて「解った、自衛隊に交渉してくる。初春君はそのまま彼の傍に居てくれ」とだけ言うとそのまま出て行った。

 残った三人は、無言だったが、自分が口を開く。

 「じゃ、加賀さん。話してくれますか?」

 「えぇ、話します。私が知る限りの事を……」

 そう言って、加賀さんは語りだした……。10年前の事件を…。

 

 10年前、関東襲撃事件、後に『1109事件』と呼ばれる事件、私達第1艦隊は鏡子提督の指示で沖合に待機していた深海棲艦の艦隊を潰す為に沖に出ていた。

 最初は優勢だった第1艦隊、けど、新種の深海棲艦の出現に伴ってこちらが段々不利になり始めた。そして更に台風が私達に直撃、私の意識はそこで失って、そのまま目覚める事はなかった……。

 



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第16話 現状と不安そして…

 更新が遅くなりました。
 続きです。明斗の過去を知る加賀さん、そしてあの屑提督がいる横浜鎮守府は…。


 

 あの屑提督が赴任してから1ヶ月、横浜鎮守府はまた前のような体制になった……。

 捨て艦に暴行、性行為に理不尽な解体。精神も身体もどんどん蝕まれてゆく。

 でも、高雄さんや陸奥さん、指令を信じて待っている人達は必死に耐えていた。

 そんな時だった、屑提督が私達を呼び出した。またセクハラ行為かと思ったら、

 「お前達にはある島の調査に行って貰いたい」

 そう言った後に資料を渡して部屋から追い出された。その後で皆で確認すると10年前の1109事件の際に沖合で深海棲艦と戦っていた艦隊の生存者が居ると言われている孤島で、私達は次の日雲行きが怪しい中、出発した。

 地図に指されていた場所は硫黄島だった。かつてそこは第二次世界大戦にて、『硫黄島の戦い』とまで知られている場所だ。

 深海棲艦の出現以降、島の立ち入り禁止とされ、深海棲艦の餌食となった輸送船や客船の墓場となっている。

 その場所に、私達は向かう事になった。

 「しかし、本当に居るのだろうか?」

 「解りません……。でも、資料が本当であれば鎮守府のレベルも上がる上に…」

 「明斗も戻ってくると思うんだな?」

 「はい……」

 メンバーの一人でもある長門さんと私は二人で話していた。

 ちなみに今回の出撃メンバーは私みらい、長門さん、 陸奥さん、瑞鶴さんの四人だ。

 「正直な話、あいつ絶対何か企んでると思うんだよね……」

 瑞鶴さんが不安そうな声であの屑提督について言っていた。確かに瑞鶴さんの言う通りで何を企んでいるのかが解らない。

 そして真っ黒い雲が覆う空の下で、目の前に深海棲艦の艦隊が見えてきた。

 「行くぞ!」

 長門さんの掛け声で戦闘態勢に入る。今は、目の前のことに集中しないと……!!

 「“イルギャアアアアア!!”」

 駆逐艦3隻、軽巡洋艦1隻、巡洋艦1隻、そして……。

 『“アイアン…ボトム…サウンドニ…シズミナサイ…!!”』

 初めて見る深海棲艦、私は動揺した。肌は白に対し、服装や髪、艤装は対照的な黒。それでも深海棲艦の悍ましさは醸し出していた。

 「クソ!補給もまともにしていないこの状況で正面から戦えん!撤退だ!!」

 長門さんの指示で退却する事になった私達。けど、雨が降り始めると海は大荒れ、台風が近づいていた。

 「このままだと死ぬぞ!!」

 必死に逃げようにも風と波で思うように動けず、高波によって私はそのまま海中に沈んでいった……。

 

 ひんやりとした風で私は身体が震えて、目を覚ました。

 「ここは……」

 目を覚ました場所は洞窟だった。目の前は海面で大量の難破船や破壊された船舶があり、そう簡単に入れない感じだった。

 「奥に、行くしかないのね……」

 一人だからか恐怖と不安しか感じられない。それでも一歩一歩洞窟の奥に進む。

 水滴の落ちる音、洞窟内で響く風の音。それらが私に更に恐怖を与える。

 でも、その時だった。

 「ん?」

 洞窟の奥で僅かに何かが光っているのが見えた。

 一縷の希望だ…と私は想うと走る。海水で濡れているので気持ち悪い感触を感じるけど、今はあの光の正体を……。

 そして、その光が放つ源を見つけた。

 妖精だった。眠りについている妖精……。私は地面に座り込んで悲しい気持ちになる。出口かと思ったらまさかの妖精だった。

 「もう、怖いのは嫌だよ……」

 誰にも聞こえるはずのない呟き……。でも、声が聞こえた。

 「貴方は一人ではありません」

 何処か懐かしい声……。そうだ、指令を庇って死んだ……。

 加賀さんの声に…!!

 「加賀さん!!」

 私は目一杯声を張り上げて加賀さんの名前を呼んだ。

 すると、私の声に共鳴するかの様に妖精も目を覚まし、眩い光を放った。

 

 暗い、海の底に私はいた。あぁ、そうか……。私は死ぬのですね…。この暗い海の底で、私は死ぬのですね…。

 けれど、私の意識は暗い海の底から一気に快晴の空に向かう。

 『加賀さん!!』

 在りし日の、懐かしい声…。そう、あれは提督が珍しく息子さんを連れて来た日の事だ……。

 

 10年前 横須賀鎮守府

 

 「こちらの事情で二日間程、息子の面倒を見てくれない?」

 食堂で朝食を食べていた折、提督が私達にそう言った。提督は自身のプライベートに関しては話さず、既婚者で息子さんと娘さんが居ると言う事しか知らない。

 その提督が今、私達の目の前で言い切った。

 「えっと……。提督の息子さん?」

 「えぇ、夫が海外に二週間派遣される事になって…、娘の方はすんなり宿泊先が決まったんだけど……」

 提督は私達に申し訳なさそうに言う。

 「大丈夫ですよ。非番の子達や第六駆逐隊も居るので」

 赤城さんは提督に言うと皆も頷く。けれど、提督は浮かない顔のまま

 「一筋縄ではいかないのよ……。うちの息子は…」

 私はふと、気になったことを提督に問う。

 「提督、その肝心の息子さんは?」

 「あぁ、うちの息子なら資料室に居ると思う…。あの子、無類の本好きなのよ……」

 

 提督の指示通りに資料室に入る。

 資料室はちょっとした図書館で艦娘の歴史、船としての記録現在における作戦の資料などが保管されている部屋だ。

 普段は誰も立ち入らないので少し埃っぽいが、風が吹いているので誰かが居るのは確実だった。

 「さて、何処から探そうか……」

 何処に居るのか捜そうとしたその時、

 「お姉さん、『加賀型第1番艦 正規空母』の加賀さんでしょ?」

 声の聞こえた左の方を向く。両手一杯に大量のファイルや本を持ち、何処か達観した目つきをする少年がいた。

 

 そう、これが私と彼との最初の出会い…。

 



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第17話 過去1

 幼き明斗とそんな明斗を心配する加賀さんの過去話……。


 「お姉さん、『加賀型第1番艦 正規空母』の加賀さんでしょ?」

 自分は加賀さんにそう言った。

 父さんが自衛隊の派遣でしばらく家を空ける事になって妹の未依はすぐに泊まる場所が決まったけど、自分は友達なんて居ない上に親戚の家に行ってもつまんないから母さんの指揮する鎮守府で過ごす事になった。

 煩い同級生も居らず、艦娘の事が良く知れる事が出来る資料室に朝から篭って見ていた。

 だからこそ、空母の加賀さんに会えたのが一番の驚きだった。

 「え、えぇ。私が空母の加賀だけど…、貴方が?」

 「音峰明斗。母さんの息子です」

 自己紹介すると机の上に持っていた資料を置いた。

 「それ…、全部見るの?」

 「うん、遊んでいるよりこうして歴史を見ていた方が楽しいから」

 そう言って読み始めた。本当に提督の息子さんなのだろうか…?私は疑問を抱くが、明斗少年の資料を読んでいる姿が提督とよく似ていると感じた。

 すると、扉が開かれて提督が中に入る。

 「明斗、まだ居たの?それに、ちゃんと挨拶した?」

 「したよ母さん。それに、まだ半分程残ってる」

 は、半分ってもう半分も読んだの!?

 内心驚く私に提督は話を続けて

 「全く……。読むのも良いけど、朝ごはんだけ食べてね?美味しいご飯が待ってるから」

 「うん……」

 提督は諦めて私に「後はお願いね、加賀さん」と言い残して資料室から出て行った。

 私は如何したものかと考えるけど、少年は夢中になって読んでいた。

 「ねぇ、加賀さん。この漢字なんて読むの?」

 明斗少年に呼ばれ、その漢字の読みを読む。

 「哨戒よ」

 「哨戒って読むんだ……。ありがとうございます、加賀さん」

 お辞儀をして、また読み始める少年。礼儀正しい…そう感じた私。

 その時、『グゥ~~~』と静かな資料室に響き、私は少年を見る。

 「と、時には休憩も大事だよね……」

 恥ずかしそうに俯いて言う少年、私は少年に「食堂まで一緒に行きます?」と聞く。

 

 「お?加賀さんの隣に居るのが提督の息子か?」

 間宮さんの作った食事を明斗少年と食べていた時、遠征から戻って来た天龍と第六駆逐隊が食堂に入り、私達の姿を見つける。

 「初めまして、母さんの息子であります音森明斗です」

 「礼儀正しいな…。俺の名は天龍、フフ怖いか?」

 「全然」

 天龍の自己紹介に真顔で答えた明斗少年に天龍は些かショックを受けたようだ。

 「そ、そうか……」

 「天龍お姉ちゃん~!しっかりして~!!」

 天龍が思いのほか落ち込み、第六駆逐隊が天龍を心配する。

 「ちょっと!幾らなんでも酷いよ!!」

 「だって、怖くないものを怖いって言う必要がある?」

 暁が明斗少年に申すが、彼も一歩も引かずに平然と答える。

 流石にこの空気のまま食べる気はないので仲裁に入ろうとしたが、

 「全く、お前は仲良く出来ないのか?明斗…」

 提督が自ら仲裁に入り、明斗少年に言う。

 「天龍もそれくらいで凹まない……」

 「へ、凹んでない!?」

 一応復活した天龍も明斗少年に「まぁ、兎に角宜しくな」と言った。

 明斗少年も「宜しくお願いします」と返事をする。

 「ご馳走様でした」

 もう食べ終わった少年は食器を置きに行くとそのまま食堂を後にした。

 「あの子…。頭が良いから全てが無駄だって思っているのよね……」

 悲しそうに言う提督。私は明斗少年の後を追いかけるように急いでご飯を食べる。

 

 「良し、続きを見よう」

 自分は一人で呟くとそのまま読みかけだった資料を読み始めた。

 こんな下らない世界に居るより、可能性が広がる空想世界に浸っていた方が自分には十分……。

 しばし読み耽っている時に、誰かが入って来た。最初は母さんだと思ったけど……。

 「また、読んでいるのね?」

 加賀さんだった。自分は「何か問題でもありますか?」と淡々と答えた。

 夏の暑さも少しだけ涼しい風が窓から入り蒸し暑い室内を必死に涼しくしようとしている。

 「隣、座るよ」

 「どうぞ」

 自分はそう言って読む。

 加賀さんはじっと自分を見つめている。自分はそれが気になってあまり集中できないので…。

 「あの…、何で見つめているのですか?」

 「君の事が気になったからよ…。きみの年頃なら外で遊ぶかと思うんだけど?」

 「騒がしい奴らと一緒にしないで下さいよ。自分はこんなにも下らない世界で生活するなら空想世界に浸っていたいんですよ……」

 そう…、あんな奴らのせいで転校した『柊人』を思い出さない様に……。

 「でも、案外下らなくも無いものよ?」

 けど、加賀さんは自分に反論する。自分は「なら証拠を見せて下さいよ?」と言う。

 「証拠…、窓から見れば解るわ」

 自分はそう言われて窓から外の風景を眺める。

 そこから見えたのは欲まみれの建物と山が見えるくらいだった。

 「前じゃなくて下」

 下を見ると丁度服を着たまま水遊びをしている人達が見えた。

 「下らないですよ。服の後始末だって大変なのに」

 自分は椅子に座ってまた読み始める。

 加賀さんは自分のその姿を見て諦めたらしく、そのまま出て行った。

 



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第18話 過去2&現在

 過去、そして現在……。


 

 「ハァ~」

 執務室で思わず溜息を吐いてしまった私に秘書艦であるイージス艦のみらいが心配そうな声で「如何しました?提督」と聞く。

 「息子の件よ…。あの子頭がいい上に友達が転校してからずっとあんな感じなのよ……」

 そう、新学期が始まる前に転校してしまった柊人君で明斗は友達を作ろうとせずにずっと本を読み耽っている。

 「あの子には言っていないけど、その友達も亡くなったのよね……」

 「ふ、不慮の事故ですか…?」

 みらいは聞いてはいけない様な声で私に聞く。そんなみらいに私は二か月前の新聞を渡した。

 「丁度呉鎮守府所属の鎮守府で事件があったでしょ?その事件の際に民間人にも負傷者が出たの…。そのうちの一人が……」

 柊人君からの親戚の方から連絡を受けて遺体を見た時、私は思わず目を背けてしまった。遺体の損傷が酷いとか、そんな話じゃない。この事実を認めたくなかった。明斗に言えば絶対に孤独になっちゃう…。だからこそ、私はあの子に隠し事をしている。

 「だから、あの子には同年代の友達が出来てくれると嬉しいのに……」

 そんな私にみらいは「大丈夫ですよ、明斗君も今はあんな感じでも心境が変われば元気に遊び回りますよ」と言ってくれた。

 「そうだと……、良いね」

 快晴の空を見つめながら、呟いた私は今目の前にある書類と向き合い、事務仕事を終わらせて明斗と遊ぼうと決めた。

 

 「終わった……」

 時計の針が四時を過ぎた頃に、資料室の全ての資料を読み終えた。

 ずっと真剣に読んでいたから目に少しだけ痛みを感じて持っていた目薬をさした。横を見ると出て行った筈の加賀さんが両腕を枕にして気持ち良さそうに寝ていた。

 「如何したら良いんだろう……」

 起こすのも癪な上に加賀さんの寝顔に自分は顔を赤くして目を逸らした。

 「明斗~?居るなら返事…って、加賀さん寝てる?」

 こくり。

 無言で頷いた自分、母さんは自分に聞こえる程度の声で「解った」と言った。

 「加賀さんは私が見るから執務室に行ってて?」

 「解った」

 自分は母さんに執務室に行くように言われて自分は資料室から出て行った。

 

 「やはり…、この問題は解決出来そうにないかね?」

 「えぇ、我々だけではとても無理な話です」

 横須賀鎮守府から舞台を移し、大本営本部の元帥の執務室、『音針源蔵』元帥の執務室内は嫌悪な雰囲気を出していた。

 「そうか……。やはりこの先の運命は変えられそうにないのか……」

 彼が頭を悩ませている案件、それは『ブラック鎮守府及びブラック提督』と『新型深海棲艦』の目撃情報だ。

 艦娘を捨て駒として戦う鎮守府の実態と新型の深海棲艦によって日本の防衛機能は著しく落ち込んでいる。

 それらによって日本に対する奇襲も考えられているが大本営のスポンサーは中々その重い腰を上げずにいるのだ。

 「全く、これ以上他の皆にも迷惑をかけるわけにも行かぬのにな……」

 「解っております元帥。しかし、これ以上は我々にも限界です」

 源蔵は唸り、天井を見上げる。横須賀の提督をしている娘が心配であり、娘にもこれ以上負担をかけるわけにもいくまいと考えてはいるが、現実はそうはいかないのだ……。

 

 そして、横須賀鎮守府では比叡のカレーでひと騒動はあったが、二日目は特に何事もなく、明斗は鎮守府を後にして祖父母の家に行った。

 その時、明斗と加賀はある約束をしていた。

 

 『あの、もし良かったら……け、け…』

 『け?』

 『見学しても良い?十一月九日の提督候補生の訓練の時の、加賀さんの姿……』

 『えぇ、いつでも見に来てね…。明斗君』

 『君付けしないで加賀さん……』

 

 それらの意識が一瞬にして走馬灯のように駆け抜け、彼女の意識は覚醒すると目を覚ました。

 しかし、彼女がいたのが薄暗い洞窟で目の前に提督の秘書艦であるみらいが居るくらいだ。

 「こ、ここは……?」

 彼女が小さく、呟くと一緒にいた『祥鳳型第1番艦 祥鳳』と『高雄型第2番艦 愛宕』も応急処置要員の妖精によって装備も服もボロボロだけど、生きてはいた。

 「えっと…。加賀、さんですよね……?」

 とりあえず、彼女から事情を聞かないといけないわね……。

 

 「みらいは何処に行ったんだ!?」

 みらいの安否も不明のまま硫黄島まで来た私達だが、不安と焦りで押しつぶされそうな気分だ。

 「長門姉さん、落ち着いて……。確かに焦るのは分かるけど、焦っても意味がないよ」

 「陸奥さんの意見に同意です。一旦上陸しましょう。このままじゃ燃料切れになってしまうので……」

 陸奥や瑞鶴に言われ、私は渋々だが「解った、一旦上陸して休もう」と二人に言うと近くの海岸に上陸した。

 

 上陸して思ったことは、島には硫黄が吹き出し難破船や破壊された船舶の残骸で荒れ放題と言う事実。

 「この状態の島で生きているのか……?」

 「生きれるさ」

 声が聞こえて右の方を見ると小破状態の武蔵と天龍がいた。

 「ふ、二人共無事だったのか?!」

 「あぁ、しかし途中で深海棲艦に襲われてしばらくこの島から出れなかったのだ」

 二人に無事にあえて一安心した私。瑞鶴や陸奥も喜んでいた。

 「二人に聞くが、みらいを見ていないか?」

 「ん?嵐に巻き込まれて行方不明なのか?」

 「あぁ」

 私の表情を見た長門は私達に「ついてこい。10年前の艦娘が居る可能性の高い場所がある」と行って歩き出した。

 私達も後を追いかけるように走り出した。

 



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第19話 探索と再会

 10年の歳月、人の思いも艦娘の思いも一緒だ。


 

 「つまり、私達は10年前に轟沈されたと報告されたんですか?」

 彼女、みらいから一通りの話を聞いた。

 あの事件も10年の歳月が流れて提督は死に、秘書艦だったみらいも轟沈したと言う。そして目の前にいる彼女は明斗が建造したみらいだと説明してくれた。

 「で、でも!ここから脱出して明斗君に会えれば……!」

 「それは…、ちょっと無理があります」

 愛宕の言葉を遮るようにみらいは先月起きた事件を私達に話してくれた。

 「目の前で……。誰だってなりますよ…。特に明斗君は優しい少年だったから余計に……」

 「だからこそ、今皆さんが会いに行っても信じてくれるかは……」

 場の空気が暗くなる。けど、私は冷静な声で「まずは脱出しましょう。多分奥に行けば出口があると思うから……」と三人に言う。

 「そう、ですね……」

 皆が立ち上がる時、足元がふらついて地面に倒れそうになった時、みらいが私を支えてくれた。

 「加賀さんしっかり!?」

 「脚を負傷しているんですから加賀さんは愛宕さんの肩をお借りして歩いた方が……」

 祥鳳さんが加賀さんに心配して言う。加賀さんは最初は渋っていた様子でしたが、最終的には「愛宕さん、お願いします」と言った。

 「了解です!」

 愛宕さんの肩を借りて歩く加賀さん。もし、指令が見たらどんな想いになるのだろうか……。

 「みらいちゃん~、置いて行くよ~~?」

 「あ、待って下さい!!」

 置いていかれそうだったので考えるのをやめて私は三人の後を追いかけた。

 

 「ここだ」

 天龍達が連れてきた場所、そこはかつて航空自衛隊が使っていた基地だった。確かにここなら比較的に安全な上にしばらくだったら大丈夫だろう…。

 「この基地の地下は迷路のようになっていて何箇所が海に繋がっている。その内の一つがあの難破船の墓場の洞窟に行ける道がある」

 なら、そこに行く為に攻略しないといけないのか……。

 「なら、早速行こうではないか?」

 「その前に修復材で回復しろ。この基地に残っていた高速修復材で大丈夫だと思うが、何が起きるか分からないからな?」

 武蔵に言われ、三人で高速修復材で破損した場所も修復され、私達は地下迷宮に挑む。

 

 「しかし、本当にたどり着けるのか?」

 「解らない……。しかし、可能性を捨てる気はない」

 一緒に行動する最中に私は、疑問に思ったことを武蔵と天龍に聞く。

 「なぁ、10年前の生き延びた艦娘達、二人の知り合いなのか?」

 その発言で二人の歩みは止まり、私の顔を見る。

 「む、武蔵さん?天龍?」

 陸奥も心配そうな声で聞く。武蔵は諦めた様子で言った。

 「そうだ…。当時、私と天龍は横須賀基地に所属していた。あの事件の際に私は東北方面の深海棲艦の艦隊を、天龍は内地で上陸した深海棲艦を迎撃していた……。その時、横須賀鎮守府の提督とその家族、そして艦娘が基地や人々を守っていた。しかし、防衛は成功したが提督と提督の家族、横須賀鎮守府所属艦娘十五名が死亡、轟沈する結果になった。私と天龍は提督の息子、明斗も死んだのだと思っていた……。しかし、一か月前に横浜鎮守府に訪れた時に……」

 「生きていたと……」

 私が代わりに答えると武蔵は頷いた。

 「俺も最初は信じられなかった……。でも、確かに提督と何処となく面影が似ていた……」

 深く、悲しむ二人にかける言葉がなく、如何声をかければ良いか悩んでいると突然横の壁が崩壊した。

 『ひゃあああああ!!?』

 瑞鶴と陸奥、天龍が驚き、私と武蔵の後ろに隠れた。

 「な、長門さん私です!!」

 土埃が舞う中で、私の名を叫んだ人物、

 「みらいか?」

 私は確認の為に聞きなおす。そして「はい、みらいです!」と言った。

 「良かった、無事だったか……」

 安堵した私だが、みらいの後ろにいた三人の艦娘が気になった。

 「えっと、貴方方は?」

 「加賀さん!!」

 私が聞こうとしたが、先に天龍が先に言う。成程、この三人があの屑提督が言っていた10年前の事件に生き延びた艦娘達なのか……?

 「天龍……、それに武蔵も……」

 脚を負傷している加賀は二人の名を呼んだ。すると武蔵も「加賀、愛宕、祥鳳……。生きていたか……」と呟いた。

 両者に何があったのかはわからないがただ一つ言えるのが険悪な空気が流れていることぐらいだ。

 「と、とりあえずここから出ましょう?」

 みらいの一言で私も言いやすくなり、「そ、そうだな……。一旦上に戻ろう」と提案する。

 

 10年の月日が流れていた……、嘘だ。

 信じたくない。ありえない。

 けれど、天龍や武蔵が嘘を言っている様子はない上にみらいも何一つとして知らないと言っているから現実なんだと想い、唇を噛み締める。

 信じたくもない事実。提督が死んだと言う事実だけは嘘であって欲しかった。

 「つまり、みらいさん達は横浜鎮守府の所属でそこの提督から私達の捜索を命令されてこの硫黄島に来たと……」

 「えぇ、そうです。そこの提督はブラック提督で、多分戦力を増やす為か、もしくはただの遊び相手を増やす為だと思います……」

 彼女達も相当な苦労をしているらしく、あの頃の楽しい日々を過ごした私にとって彼女らにとっては羨ましい事だと思う。

 「一先ず、私と天龍の用事も、みらい達も探索が終わった。後は帰るだけだが…」

 「提督……ですね?」

 「あぁ」

 そう、轟沈扱いになっている私達は帰る場所がない。その為強制的に横浜鎮守府に所属扱いになる。

 「しかし、一つだけ可能性はある。音森鏡子提督の息子さん、明斗君だ」

 明斗君…。あの素直じゃない子か……。

 もう、私は全てがどうでも良くなった。鏡子提督が死んだなら、もう生きてる意味も無い……。

 だけど、話が進んでいる中で、加賀さんは椅子に座ったまま静かだった。

 



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第20話 そして…

 話が終わり、明斗の決意とブラック提督達の遊戯。


 

 「良し、加賀は愛宕に曳航、他は自力でここから脱出し、一応横須賀基地に移動しよう。凬森提督なら保護くらいしてくれるはずだ」

 長門は皆に言い、出撃用意をする。私も脚さえ負傷していなければ曳航する事は無いのに……。

 けれど、成長した明斗に会えるのは少しだけ嬉しく思う。微笑していたらしく、愛宕さんから「如何しました?何か嬉しいことでも?」と聞かれた。

 「いえ、一つだけ心残りがあったので彼に会えるのが……」

 私はそう愛宕に答え、久しぶりの海面を見た。10年前と変わらず、まだ、戦いは続いているのだと改めて自覚させられる。

 「行こう。本土に帰り、そして新たな提督を迎えに行こう」

 そして、10年ぶりに海に出た……。

 

 「途中深海棲艦の艦隊と遭遇、そのまま戦闘になり私だけを逃がしてくれて他の皆は……」

 一連の出来事を加賀さんは知っている限りのことを話してくれた。

 みらい達は……。いや、轟沈している筈はない。絶対に……。

 「辛かろう……。明斗、しばし席を外せ」

 「自分の家なのに席を外すのですか…」

 初春さんに言われた自分だけど、そのまま外に出て新鮮な空気を吸う。加賀さんの鳴き声が僅かに聞こえて来た。

 空を見上げて、母さんや死んだ加賀さん達の顔を浮かべる。二度と見られない人達の笑顔を思い浮かべ、小さく呟く。

 「大丈夫……。血まみれになるのは自分だけで十分…。彼女達だけでも、幸せになって欲しい。この腐りきった世界が変わっても……」

 すると、先程出て行った羽柴が戻ると自分に「無事に、除隊前の階級が君の元に戻った。君のかつての上司は『君が戻って来てくれて嬉しいよ。今度宴会でも開こう』と申していたぞ?」と言ってくれた。

 「遠慮します。っと伝えてください」

 羽柴に伝えた自分は階級の印であるバッジを見ていた。あの時の、無力だった自分が初めて成長したと認められた証の品。

 自分は家の中に入り、二人に言った。

 「加賀さん、初春さん。自分、材原明斗『特別陸将補』と一緒に来てくれますか?」

 改めて、二人に問う自分。加賀さんは永遠に忘れない。殺した艦娘は抹殺する。この世に生まれたことを後悔さえさせて懺悔させながら斬首する。

 でも、その前に母さんとの思い出を護る為に、戻る。闇の正義の元へ……。

 「えぇ、勿論」

 「当たり前じゃ。源蔵の仇討じゃ」

 今日、ここで自分は決意を新たにした。

 この世界ごと、全ての悪を撲滅してやる。例え出来なくても良い。少しでも、善人が生き易い世界にさえなれば……。

 

 横浜鎮守府 執務室

 

 「へぇ…?『艦娘遊郭』ですかい?」

 横浜鎮守府内の執務室、ここで大和田大佐はほくそ微笑む。自分のおもちゃを与えられた子供のように……。しかし、無邪気な表情ではなく残忍な笑みではあるが…。

 『あぁ、そこでは全国各地から艦娘が集い、毎晩の様に自分自身の欲を満たせる場所だ』

 「そんな面白い場所があったなら何故教えて下さらなかったんですかい?」

 『貴様が艦娘の精神を壊す恐れがあったからな?そんな毎回の様に入荷出来ないんだ』

 電話の主は大和田にそう言う。

 しかし、電話の主及びそこに行く者はこの男だけは来て欲しくないのでずっと秘匿していたのであった。

 「でも、教えてくれたんですから場所は教えてくれますよね?」

 『あぁ、勿論だ』

 そして、電話の主は大和田にその場所を言う。誰もその場所を聞いていない。知っているのは電話の主と大和田のみ。

 『では、三日後に…』

 「楽しみにしていますよ?」

 ふたりの会話は終了、そして執務室の電気が消えた。

 

 次の日、明斗は防衛省に赴き、自衛隊の幕僚長に面会する為に赴いたのだ。

 「幕僚長、お客様です」

 「あぁ、入り給え」

 案内した職員はそこで来た道を戻り、明斗は平然とした顔で「失礼します」と言い、室内に入る。

 室内には筋肉隆々な男性と茶色を基調した制服に身を包む女性の二人がいた。

 「おぉ、久しいな?材原明斗特別陸将補」

 「えぇ、そうですね?香原幕僚長殿?」

 そう、この人が陸上自衛隊のトップである香原幕僚長。孤独だった自分に一から格闘術を教えてくれた人だ。

 「しかし、君をあんな形で除隊させたことは申し訳ない」

 「構いませんよ……。それで、横に居られる方は艦娘で?」

 自分は幕僚長に問う。すると女性は自ら名を申してくれた。

 「私、お洒落な重巡洋艦の熊野と申します」

 「私はいらないと言ったんだがね……」

 二人の態度が対極過ぎて笑いそうになったが、堪えて話を続けた。

 「それで、自分を呼んだ訳は?」

 幕僚長に訳を聞く。先程の表情から一転、険しい表情になる幕僚長は静かに言う。

 「日本海軍……。海上自衛隊とは別に独立して設立された組織だが、最近は横領や重罪の隠蔽、そして艦娘に対する暴力などが私の元に報告される」

 「陸上自衛隊に報告しても意味ないかと……」

 別組織の事情をこの人に報告しても……。と想った自分だが、本人はそうは思っておらず。

 「別組織でも、人権を無視した組織は我々の敵だ。例え身内だろうが」

 殺気丸出しで自分に言う。自分はそれを無視しながら「それで、自分が始末しろと?」と聞く。

 「始末とまではいかないが……。『艦娘遊郭』と呼ばれている建物がある場所にある。そこを叩いて欲しい」

 そう言われ、秘書の熊野さんから受け取る。

 「普通は海軍からの命令だと思うんですけど……」

 「仕方ないだろう……。私の友人も艦娘賛成派だが、大本営内部の暴走で身動きができないから陸自に頼むと言われたんだ」

 全く、面倒事しか起きないのかな……。この場所は、

 「解りました。引き受けますが、一つだけ頼みがあります」

 「何だ?私にできる範囲内ならば引き受けよう」

 「解りました。では、自分の頼みは―――」

 言い終わった自分はそのまま幕僚長の執務室を後にした。

 



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第21話 久しぶりと対面

 嫌な表現が一部あります。嫌な方はブラウザバック推奨です。


 「久しぶりだな……」

 今、自分は横浜鎮守府の正門前に立っていた。

 あの時は瑞鶴さんと陸奥さんと高雄さんが一緒だったけど、今は初春さんと加賀さんが一緒だ。

 「決まっておるのか?」

 「当たり前じゃん。まずは、提督に挨拶に行くけど二人は艦娘を集めて、そして解体もしくは轟沈扱いにされた人を割り出して」

 「解った。明斗も気をつけて」

 「解ってる」

 そして、自分は正門を開く。さぁ、手始めにこの鎮守府を返して貰おう?

 

 「フンッ!!」

 「ンンンッ!!?」

 執務室に隣接する部屋、そこは本来提督の寝室とされているが、前任の個人的な部屋として使われ、誰に近づかない。

 しかし、大和田はその部屋を全面的に活用し、自身の遊び場としている。

 「ほぉら、もっと鳴け雌牛!!!」

 喜悦の表情で鞭を振り続ける大和田。両手を鎖で縛られ、口にはギャクボールでまともに声が出せないでいるのは武蔵だった。

 大和田は武蔵の背中に何度も鞭を叩きつけ、痛々しい傷を増やしていた。

 「ン゛ンッッ!!」

 鎖がジャラジャラ鳴り、必死に鎖を解こうとする武蔵だが、大和田は「無駄な事を!!」と言い続け、ムチを振り下ろす。

 その時、『コンコンッ』とノック音が響く。大和田は「誰だこんな時に」と呟きながら執務室の方に出る。そして扉を開いたと同時に顔にパンチを喰らった。

 「な…、何だ貴様!!?」

 「上官に対する態度かな?大和田大佐」

 パンチをした人物、勿論明斗である。額に青筋を浮かべながら大和田に言う明斗は愛銃のベレッタをホルスターから抜き出すと大和田の両肩、腕、脚を撃った。

 「うぎゃああああ!!!!」

 「他人には暴力を加える癖に自身の耐久値は皆無ですか?」

 「他人には暴力を加える癖に自身の耐久値は皆無ですか?」

 肩、腕、脚を撃たれ、激痛に襲われる中で、目の前にいる明斗に対する恐怖心もあった。

 「まぁ、良いですよ。そこでしばらく悶えていて下さいよ?」

 明斗は大和田に冷めた目でハッキリと言うとそのまま隣室に向かい、武蔵の姿が見えた明斗は目を逸らす。

 「ご、ごめん!不可抗力ですので……」

 そう言いながら武蔵を縛っていた鎖を解き、自身が着ていた外套を武蔵に渡す。

 「すまない……」

 「い、いえ…。こちらも来るのが遅くなったしまったのもあるので……」

 声を震わせながら言う明斗。武蔵はその明斗の姿に、

 「フフッ」

 微笑する。

 明斗も咳払いし「では、改めて大和型第2番艦武蔵さん。自分、材原明斗特別陸将補の指揮下に入ってくれますか?」と言う。

 武蔵は頷き、「戦艦武蔵、提督の指揮下に入ろう」と言った。

 その時、大和田が扉から身体を出して手に持つ拳銃を明斗に向けて「死ねぇぇぇぇぇ!!!」と叫びながら発砲した。

 しかし、明斗は糸も容易くかわす。銃弾は窓ガラスを割り、そのまま消え去る。

 「動かない方が良かったのに……」

 明斗は面倒臭そうに呟きそのままベレッタで腹部を撃った。

 「グフッ……!!」

 大和田はそのまま倒れこむ。そこにタイミングよく憲兵が室内に入るとそのまま大和田を連れて行った。

 「いやぁ、何だこの悪趣味な部屋?」

 そして、憲兵と入れ違いに羽柴が室内に入る。

 「知らない。あの男の処分、お願いしますよ?」

 「解ってるさ。そっちこそ、ここの鎮守府の艦娘頼むぞ?」

 明斗に言った羽柴はそのまま出て行った。武蔵はポカーンとした表情で一連の出来事を見ていた。

 「え、えっと明斗指令?」

 「何?武蔵さん」

 明斗は平然とした顔で武蔵を見る。武蔵はその表情を見て諦めて「いや、何でもない。とりあえず服を着るから出てくれないか?」と明斗に言う。

 すると明斗は顔を真っ赤にして慌てて部屋から出て行った。

 

 「皆に話があります」

 横浜鎮守府所属の艦娘全員を集めた初春と加賀は皆にそう言う。

 加賀の姿を見た一同は動揺するが、天龍や長門、一部の人間は無事に帰投し、加賀が明斗を連れて来てくれたのだと内心喜ぶ。

 「本日付で、新しく提督が着任します。……失礼、もうしてます」

 加賀の言葉に反対派の野次が飛ぶ。初春はその野次に対して「音針源蔵元大元帥の孫じゃ。それでも不安かの?」と冷気を纏った声で言う。

 一旦は静かになるが、榛名と霧島が反論する。

 「それは確かな筋なのですか?」

 「えぇ、私は音針大元帥の秘書艦じゃ。新しい提督の顔も何度も見ておるわい」

 「ありえないですね?大元帥の家族は皆死亡したと聞いております?」

 「それは軍事機密事項に触れる為にそう書類上ではなっているだけ」

 一進一退の状況。両者が火花を散らす中で、誰かが小さく、呟く。

 「―――加賀さんを殺した提督の元に就く気なんて無いわよ―――」

 『ヒュッ』

 床に突き刺さる矢、矢を放ったのは加賀だ。彼女からは言うまでもなく怒っている。

 この姿に流石の天龍も「誰だよ……。言った奴…」と呟いた。

 「別に私や初春さんの言葉を信用しなくても良いわ。―――でもね、明斗に対する悪口は許さないわよ?」

 冷徹な顔で静かに言った加賀。その姿に榛名も霧島も黙る。重苦しい空気の中で、食堂の扉が開かれた。

 扉を開けた人物に、長門や高雄、一部の人間は表情が明るくなった。

 「お久しぶり、と言った方が正しいかな?艦娘の皆さん」

 



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第22話 叫びと作戦

 。・:*:・゚Merry Christmas♪
 皆さんはどんな一日をお過ごしになる予定ですか?
 作者は普通にアルバイトで一日が潰れます。カップル?ケーキ?
 そんなもの存在しませんよ?
 それはともかく、続きです。


 

 「改めて、紹介します。本日より着任する材原明斗特別陸将補です。加賀さんの件に関して皆が自分を憎んでいるのは知っている。でも、自分を殺すのは別に構いもしないけど、三日だけは待って貰えるかい?」

 自分は本館の食堂で皆に宣言した。前回はまともにしていなかった挨拶を今こうして出来た。

 けれど、やっぱり不安はあるらしく自分に『巫山戯るな!!』とか『消えろ!!』と聞こえる……。

 「消えても良いけど、君達にとっては不利になるだけだよ?」

 自分はそう言って初春さんからある物を受け取る。

 「この鎮守府で解体、もしくは轟沈処分になった艦娘、『金剛』、『比叡』、『日向』、『赤城』、『翔鶴』、『大鳳』、『龍田』、『川内』、『能代』、『酒匂』、そして『大和』。計十一名はある場所に居て、生きている」

 自分はハッキリと言うとやはり死んだと思っていた人達が生きていると解り、喜ぶ。

 「ハッタリよ!!皆騙されないで!!」

 「ハッタリだと思いなよ?」

 自分は霧島さんに言うと、

 「けどねぇ、生きている人間の命を捨てることになっても構わないの?」

 ニッコリと満面の笑みで言った自分。別に怖らがせるつもりはなかったけど皆顔面蒼白で震えていた。

 「怖らせて如何する……。明斗」

 「そんなつもりは無かったんだけど……」

 長門さんに言われて自分は頭を掻く。すると、茶髪の女性が一歩前に出て自分に「ならば提督、その救出作戦に私も同行したいです」と申し出た。

 「お姉さんが心配だから?」

 自分は彼女にそう尋ねた。彼女は少しだけ表情を歪ませて言う。

 「本音はそうです…。でも、一つだけ約束をしてほしいんです」

 「出来る範囲ならなんでも」

 自分は彼女に聞くと、予想外の返答が帰ってきた。

 「もし、皆が無事に戻ったら。全ての行為を私にだ「巫山戯るな!!」え?」

 大声で怒鳴った自分に第六駆逐隊が震えていた。

 「良いか!自分は前のクソ野郎共と違う!!この鎮守府に所属する君達は最大限の敬意と人としての権利もある!!兵器だ、ただの奴隷?違うだろ!!君達は!!自分達には倒す事の出来ない深海棲艦を倒す力も、能力を持っている!!君達の誇りを!!名前を!!艦娘の存在を否定する人間は!!この自分が許さない!!」

 大声で皆に言い切る自分。それに対して加賀さんは「流石です。明斗提督」と褒めている(?)と思いたいが、初春さんとかには「大丈夫なの?」と心配する声も聞こえた……。

 「だ、だったら……。暴力を振るいませんか?」

 「振るわない!」

 「入渠禁止とか、残飯だけの生活も……」

 「一切ない!!」

 「夜の情事も……」

 「無し!!人としての生活をここで保証する!!」

 一瞬の静寂、その言葉に皆が歓声を上げる。泣き崩れる人、大喜びする人、二度と味わうことのない生活を手に入れた事に今皆が喜んでいる。

 「流石、鏡子提督の息子さんだ。あの人とそっくりだ」

 母さんを知っている人からは言われた自分。母さんに似ていると言われて少しだけ恥ずかしいと感じた自分。

 すると、先程の榛名さんと霧島さんが自分の前に来て、

 「「先程は、失礼しました!」」

 謝る二人に自分は顔を上げるように言い、

 「お姉さんが心配で、前任達の行いの中で必死に耐えていたんでしょ?なら、仕方ないよ」

 二人に言った自分。すると、涙と鼻水を出しながら二人は自分に抱きついて号泣する。

 それを見た他の人達も抱きついて、何故か長門さん達も抱きついてきて身動きが出来なくなった自分は色々とまずい気持ちを必死に抑えていた。

 

 もう、どれだけの月日が流れたんだろう……。それさえ解らないまま、太陽の光も水平線もずっと見ていない。

 薄暗い地下牢に囚われたまま、ずっと奴隷の様な扱いを受けている。あの屑提督に脅されて連れてこられた場所がここで、賭けに負けたので担保にしていた私を連れてきたとハッキリと言った。

 私の前に解体、轟沈処分になっていた艦娘もいた。

 後から聞いた話、ここは艦娘遊郭と呼ばれている場所で、身売りや金儲けの為にここに連れてきては毎晩の様に犯す。

 勿論私も見知らぬ男性に無理矢理抱かれ、イカ臭いまま地下牢に囚われたままでいる。

 逃げ出せなくもない。でも、残された皆を人質にされて逃げ出せない。他の艦娘も同様に……。

 日本国籍の艦娘だけでは飽き足らず、ドイツ、アメリカ、イタリア、イギリス、フランス国籍の艦娘もこの場所にいる。

 けど、その日は少しだけ違和感を感じた。毎日変わらない風景の中で、一つだけ、些細な違和感。

 「へぇ、ここが艦娘遊郭……」

 白の軍服に仮面をつけた人が呟きながら入口から入って来た。

 他の鎮守府提督や関係者はその彼を見て一斉に自前の二十六年式拳銃をその人に向ける。

 「貴様……。何者だ!!」

 禿げ頭の提督が声を張り上げてその人に問う。そして、その人は緊迫した雰囲気の最中で「何者?何、自分はただの犯罪相談役の者ですよ」と少々気の抜けた声で言う。

 けれど、その人は仮面を外して不敵な笑みで名乗る。

 「初めましてブラック提督及び堕落した海軍、大本営上層部の皆さん。自分は犯罪相談役の黄泉、ある人からのご相談で貴方方を殺しに参りました」

 その直後に一発の銃声が響くと先程声を張り上げた禿げ頭の提督が額に穴を開けた状態で倒れた。

 「さぁ、断罪の時間ですよ?」

 



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第23話 狂宴と救出

 

 「トラック泊地!!?」

 救出作戦で一番大事な部分、皆が囚われている場所を言うと長門さん達が驚く。

 「待って下さい!!あそこは一番ホワイトな鎮守府だって言われている場所で」

 「それさえ上層部の情報操作だよ。あそこが一番ブラックで同時に全鎮守府から連れてこられた艦娘がいる場所でもあるよ」

 霧島さんの言葉に即反論する自分。自分だって信じたくはなかった。でも、それさえ否定させて貰えない証拠が沢山あるから、行くしかない。

 「救出作戦で六人、海自のイージス艦を護衛して欲しい。志願者は?」

 言った途端に全員が名乗り上げる。けれど、自分は「ほとんどの人はだめだ。引き篭っていた上に精神的なストレスも抱えているのに出撃は禁止。これが終わったら定期的なカウセリングと実践に向けての演習とかのスケジュールを組むから」とバッサリと切り捨てた。

 「そんなぁ~…」

 悲しむ一同に自分は「戻って来たら甘い物でも作るからそれで手を打たない?」と提案する。すると夕雲さんに「提督、料理出来るの?」とハッキリと言われた。

 「出来る。ひとり暮らしが長かったから殆どの料理は出来るよ」

 「怪しいけど、解った。今回は手を打ちましょう」

 自分だけ納得出来ない言い方をされて対応に困ったが、気を取り直して「今回は加賀さん、初春さん、高雄さん、みらい、夕張さん、瑞鶴さんで」と言った。

 「わ、私達で……」

 「あぁ、大丈夫だよ。ただイージス艦を護衛してくれれば。後はこっちで処理するから」

 それに…、あんなものを見せられないしね……。

 「じゃ、残る人達はこの食堂の掃除をお願いします。皆が帰って来た時に安静にする場所を確保したいので」

 そう言いながら掃除道具を置いてお願いする。すると皆は道具を持っていくと掃除を始めてくれたので良かった。

 「じゃ、護衛お願いしますね?」

 『はい!!』

 護衛メンバーと共に鎮守府の波止場に向かう。

 

 「お待ちしておりました!!明斗海将補!!」

 「別にもう海自じゃないから敬礼はしなくても良いんですよ?」

 「いえ、上官に対する敬意と尊敬を込めての敬礼ですので!」

 そう言われてしまうと何も言えないので頭を掻く。

 長門さん達は呆然としたまま「明斗……。少将だったのか?」と聞く。

 「元ね?それに自分は陸自だけど、臨機応変に様々な場所に赴くから『特別将補』と言う本来は存在しない階級を手に入れたんだけどね?」

 長門さんにそう言うと自分は改めて、

 「これより、トラック泊地に乗り込む!!途中で深海棲艦や脅迫されて攻撃してくる艦娘も想定されるだろう、それらを突破して作戦を遂行する!!君達の実力を期待するよ」

 『はい!!提督(司令)!!』

 敬礼した皆の姿、前に見た覚えがあると思ったら母さんの時だと想い、少しだけ嬉しく想った。

 「出航だ!」

 自分はイージス艦に乗り込み、皆は艤装を展開、海の上に立つ。

 そして、トラック泊地に向けて出航する。

 

 「きゃあああああああああ!!!」

 「痛いよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 阿鼻叫喚の状況の中でその人は平然と拳銃の引き金を絞る。艦娘じゃなくて、提督達に……。

 「自分は君達の救助に来た!!外には自衛隊が待機している!!他に囚われている艦娘が居るならば誰か案内して欲しい!!」

 その人は大声で言うと他の皆は一気に入口に走り出す。それを聞いた提督達は「出鱈目を!!」と叫び、他の艦娘に向けて発砲しようとする。でもその前にあの人が提督達を射殺する。

 「君、案内できる?」

 いつの間にか横に立っていたその人に聞かれた私は、「は、はい……」と答えた。

 「じゃ、案内を頼む。他の子は自衛隊に任せれば大丈夫だから」

 その人に言われた私は地下牢に案内する。地下に降りる途中で確かに海上自衛隊と名乗る声が聞こえた。

 下に降りるにつれて嫌な臭いが充満する。慣れていたと思っていた匂いに改めて吐き気に襲われる。

 「つらいなら、先に戻っても大丈夫だよ。自分ひとりで行くから」

 「い、いえ。大丈夫です」

 心配してくれるこの人に私は何処かで出会った様な気がして尋ねた。

 「あ、あの……。前に何処かで」

 途中で言葉が途切れた。最初は何が起きたのか解らなかったけど、男性の呻き声と何かが吹き出す音が聞こえたのと同時に顔に血が飛び散った。

 彼の足元を見ると首から血を流す男性が倒れていた。男性の手には血まみれのナイフが握られていた。

 多分、襲われそうになった私を庇って男性を殺したのだと私は理解した。

 「すまない、これを使って」

 この人はポケットからハンカチを私に渡してくれた。私は素直に受け取ると顔を拭く。

 この人の顔にはベットリと血が付いているのに気にもせずにいる。

 「さぁ、行こう。時間が惜しい」

 「え……。あ、はい」

 歩き出した彼の後を追いかけて地下牢に案内する。

 牢には衰弱している娘も居れば、死んでいる娘もいる。

 それでも彼は牢の鍵穴をナイフで壊していく。

 「さぁ、逃げ給え。君達の枷は何一つない。外に逃げ出し、外の空気を吸うのだ」

 彼が言った瞬間、牢屋の扉が勢いよく開かれると一人の艦娘が手に硝子の破片を手に握りなから彼に体当りした。

 「死になさいよ!!」

 「悪いけど、それは出来ないよ横浜鎮守府所属川内さん?」

 彼が川内の名前を出して私は驚いた。川内の雰囲気が何一つ残っていなかったのもあるけど、彼女は彼に憎悪を抱いている。すると、彼は高らかに、牢屋にいる艦娘に言った。

 「自分は横浜鎮守府提督に着任した材原明斗少将!!君達の救助に来た!!君達をここに連れてきた提督や関係者は一生塀の向こうに住む!!君達は自由になった!!」

 それは、とても信じられない事実だった。

 だって、目の前にいる人が新しい提督だなんて……。

 「う、嘘でしょ……?」

 「嘘じゃないですよ。自分が新しい提督です。川内さん?」

 川内にそう言った提督は私に近づくと着ていた外套を私に着せた。

 「皆が帰りを待ってますよ。戦艦大和さん?」

 その言葉に、私は涙を流した。

 



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第24話 収拾と新たなる始まり

 24話で第一部が終了となります。第25話から第二部へと移行します。
 では、続きをどうぞ。


 建物内にいた艦娘全員を保護した上で建物の外に出た。外の空気は新鮮で、少しだけ、ホッとした。

 衰弱しきっている娘達をイージス艦に乗船させているのが見えた。そして、手錠をかけられ観念している提督達の姿も見えた。

 「提督」

 「ん?」

 後ろを振り返ると毛布で身体を隠した艦娘、十一人が立っていた。

 「改めて、私達の為に来て下さって」

 「君達の為じゃない。皆の為に来たんだよ。今はゆっくり休んで、鎮守府に着いたら帰りを待っている皆にその姿を見せてあげな?」

 そう言って近くにいた自衛官に彼女らをイージス艦に乗せるように言うとそのまま連れて行った。

 「お疲れ様です。明斗」

 横から加賀さんがタイミングよく現れたのには驚いたけど、顔に出さずに「ありがとうございます、加賀さん」と答えた。

 「あれ、他の皆は?」

 「囚われていた艦娘の対応に当たっています」

 成程。納得した自分に加賀さんはタオルを差し出して、

 「血を拭いてください。その状態ですと何かと誤解を生むので」

 「あぁ、忘れてた」

 タオルを受け取り、顔を拭く。中々拭き取れないので水道水で顔を洗い、改めて拭く。

 「ふぅ、サッパリした」

 赤く血まみれになったタオルを見入っていると加賀さんに「如何かしたか?」と聞かれた。自分は「いや、何でもないよ」と答えた。

 「でも……。悔しいよ。救えたはずの命もあったのに、救えなかった」

 自分が突入した時点で亡くなっていた艦娘も何人かはいた。

 もし、自分がもっと早くこの場所を特定して突入さえしていれば……。

 「明斗。確かに救えた命もあったかもしれない。でも、彼女達が護ってきた娘達の胸の中でずっと生き続ける」

 「そうだと、良いね……」

 それでも、悲しむ自分に加賀さんは予想外の行動をとった。

 いきなり顔を近づけたかと思うと加賀さんはそのまま唇を重ねた。

 「……いつまでも哀しまないで下さい。彼女達が報われないので」

 「う、うん……」

 顔が真っ赤になる自分。恥ずかしさもあるけど……。

 「へぇ~」

 「そんな関係なんだ~~」

 ニヤニヤ顔で自分と加賀さんを見る長門さん達に海自の皆さんも悔しそうに見ている。

 「ち、違!?」

 「私達も負けていられないな?」

 な、何に負けていられないんですか……?

 必死に誤解を解く為に必死に弁論するけど、加賀さんは頭の上にハテナマークを浮かべ、状況が掴めていない。

 「だから誤解です!!!」

 夜の泊地に自分の声が轟いた……。

 

 「そうか、御苦労だったな」

 卓上ライトの光だけが、彼を照らしている。陸上自衛隊幕僚長の香原は一人頷きながら通話相手に労いの言葉を伝えるとそのまま通話を終了した。

 「これで一段落……」

 彼は呟き、そして机の中から一枚の写真を取り出す。

 写真には香原自身と信頼していた部下と撮った写真だ。

 「お前さんの子供は立派に成長して生きている……」

 死んだ部下に小さく、報告する。写真の裏には鉛筆で『香原陸将と音峰陸佐』と小さく書かれていた。

 

 「提督、失礼します」

 真夜中の三時頃、私は提督の執務室に足を運んだ。今回の一件の報告書類をまとめたからだ。本当なら夜が明けた頃で良かったけど、提督自身がその時間に持ってきて欲しいとの指示だったので持って来た。

 「あぁ、ごめんね?こんな遅くに頼んじゃって高雄さん」

 明斗提督は疲れた表情をせずに窓際に腰掛けていた。部屋は運び込まれた艦娘が静かに寝ていた。

 「いえ、提督の指示であれば……」

 そう言った私は書類を提督に渡す。彼は一枚一枚スピーディに読んでいく。五分くらいして、読み終えた提督は机の上に書類を置く。

 「成程……。今後の予定もこれで作れるよ。ありがとう、高雄さん」

 提督は感謝の言葉を呟くと「後は自室に戻っても大丈夫だよ」と言ってくれた。

 「い、以上ですか?」

 「以上だよ?……もしかして変なこと考えていた?」

 提督に指摘された私は顔を真っ赤にして、「ば、馬鹿めと申し上げますわ」と言った。

 「冗談だよ。……でも、何か不安とか嫌な事があったらなんでも相談して?こう見えても一応私立相談役何だから」

 ニッコリと笑った提督を見た私は目を閉じて、ただ「はい……」と返事をして執務室を後にした。

 

 高雄さんが帰ったあと、一人であることを考えていた。

 「深海棲艦さえ倒せうる兵器……」

 それは、ある人物が深海棲艦について徹底的に調べ上げ、艦娘の艤装以外でも倒せうる兵器の設計図を残していた。

 しかし、後に彼は反逆罪で処刑。設計図諸共闇に消えたと噂されている。今、明斗が所持しているのはその兵器の設計図だ。

 形は回転式拳銃と散弾銃をモチーフにされた武器。使用する銃弾は艦娘が使用する弾薬、それを使いやすく尚且つ装填しやすさを求めている。

 「ふっ、楽しみだな……。これ以上にないくらい」

 一人微笑む自分。ようやく、ようやく自分自身との悔みを断ち切れる。

 そう思うと口角を上げてにやけた。さぁ、始めよう。復讐劇を、母さん達を殺した奴らに復讐だ……!!

 

 「師団、ですか……?」

 『あぁ、そうだ。アメリカとイギリスが()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 横須賀鎮守府執務室、凬森提督は電話の主に言われた言葉を聞き返す。

 新たに開発した艦娘……。凬森は疑問しか抱かなかった。

 「それで、横須賀鎮守府に迎えて交流会でも開くのですか?」

 『まぁ、そんなところだ。しかし、スパイも紛れ込む可能性もある。横浜鎮守府の明斗に応援を頼むと良いだろう。彼は深海棲艦で荒れていた日本の闇で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 「そうですか……」

 そしてある程度話して電話を切ると凬森は天井を眺めて、呟く。

 「ジャック・ザ・リッパー……。とてもそうには見えなかった」

 凬森は一人、呟くとそのまま卓上ライトを消した。

 



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第2部 宣戦布告
第25話 カウセリング


 第2部の始まりです。


 

 12月初頭 横浜鎮守府 執務室

 

 12月に入り、ようやく動ける様になった皆にカウンセリングを定期的に行っている。引き篭っていた艦娘達は高雄さんや長門さんに任せて実戦特訓をして貰っている。

 「それじゃあ、金剛さんと比叡さん。最近の調子は如何ですか?」

 執務室に二人を呼んだ自分。トラック泊地の件で精神的なストレスを抱えているので、こうして定期的にカウンセリングを行っている。

 「テートクのおかげでゼンカーイデース!」

 「もっと具体的な返答が欲しいんだけど……」

 金剛さんはこんな感じで出撃させて欲しいと言ってはいるが、榛名さんと霧島さんからはまだ出撃させないで欲しいと言われているのでさせていない。

 それに、彼女の艤装もまだ修理中のも理由の一つだ。

 「比叡さんは?」

 「まだ…、出撃は遠慮するよ」

 比叡さんは前任の暴力によって出撃がトラウマとなってしまい、艤装を展開すると震えが止まらなくなるらしい。

 「解った。じゃ、次に自分の中で楽しい出来事はあったかな?」

 二人に簡単な質問を問いかけながら診断を終えると二人はそのまま執務室を出て行った。

 「まだ、心を開いてくれないか……」

 二人の詳細が書かれた書類を眺めながら呟く。すると、右隣の部屋から加賀さんが出てくると自分の前にティーカップをおいてくれた。

 「お疲れ様です。明斗」

 「ありがとうございます……」

 感謝の言葉を述べてから飲む。紅茶の風味が広がり、心が落ち着く。

 「明斗、あまり無理しては駄目ですよ。身体には毒ですから」

 加賀さんに指摘された自分だが、まだやっていない人もいるので「今日の分が終わったら休みますから大丈夫ですよ」と答えた。

 そして、次の人が執務室に入る。

 「待ってたよ。能代さん、酒匂さん」

 

 「まだ……。出撃は……」

 「解ってるよ。この鎮守府に所属する艦娘の殆どがまだ実戦には出れない状態だから。横須賀鎮守府と横須賀鎮守府に所属する鎮守府には申し訳ない気分だけどね…」

 自分は二人にそう言いながら話をする。

 「それで、最近は思い返さない?」

 「まだ…寝ている時にうなされたり前任のことを思い出すよ……」

 前任の爪跡はひどく、今もなお苦しめられている艦娘も数人いる。二人も同様でセクハラを受けたり入浴中を覗くなどの行為もあったらしい…。

 「あの、不細工な顔が不意に思い出すと震えが止まらないの……」

 自分は何も言わずに彼女達の話を聞くことに徹した。

 

 「まだ出撃は無理そうだね……」

 「精神的に不安定ですと実戦でも味方にも影響を与えますからね……」

 明斗は深く考えていた。少しでも彼女達の蟠りを剔除し、生き生きとした顔を見てみたいと思っている。

 けれど、今の状況を見ても出撃なんて無理な話だ。

 「困ったね……」

 困り果てた自分に、一本の電話がかかる。受話器をとり、「もしもし?」と尋ねると横浜鎮守府の凬森提督からだった。

 「明斗君かな?横須賀の凬森と言えば分かると思うけど……」

 「分かります。前の一件は失礼しました」

 一か月前の事件の際には横須賀鎮守府には多大な迷惑をかけた自分。その件を謝罪するが、凬森提督は「気にしないで下さい。私も無事に復帰しましたので」と言ってくれた。

 「それで、一体どんなご要件で?」

 「実は、三日後にアメリカとイギリスから新規開発された艦娘が横須賀に訪れることになった」

 凬森提督から話を切り出された自分。新規開発された艦娘……。少しだけ興味が沸いた。

 「それで?」

 「あぁ、多分各国のスパイが暗躍すると思われているんだよ。そこで、君と所属する艦娘と一緒に来ないかい?」

 少し、怪しいので葉をかけた。

 「自分に声をかけるなんて光栄に思いますよ」

 「明斗君は信頼している上に香原幕僚長から直々に…あ」

 幕僚長の名が出た時点で確定した。おおよそ、自分の実績を知っている為に彼に提案でもしたのだろう。

 「良いですよ。ただ、二艦隊と秘書艦と共に訪れますのでそこだけはご了承ください」

 「いえいえ、こちらは大丈夫だよ!それじゃ、三日後にね!!」

 通話が切れる。受話器をそっと、置く。そして加賀さんに、

 「三日後に横須賀鎮守府に向かう。自分、加賀さん。そしてカウンセリングを受けている十一名と一緒に向かいます」

 「演習か何かですか?」

 「いえ、ただの交流です」

 ニッコリと微笑みながら答えた自分に首を傾げる加賀さん。

 こうして、横須賀鎮守府に赴くことになった。

 

 「無事、完了しました」

 闇が覆う室内。その闇を近寄らせないように光を放つ一つのカプセル。

 カプセル前には白衣を纏う男性が二人。一人は表情を歪ませて言う。

 「遂に、遂に完成した……!!」

 高らかに嗤う男性。カプセル内には青年が培養液に浸かりながら眠る。これが、新たな戦いの始まりにして、一つの可能性を生み出させた。

 「さぁ、始めよう!!人類絶滅計画を!!」

 

 「japanですか?Admiral」

 「ウム。その通りだ」

 船に揺られながら私は、遥か先の極東の島国、『日本』を目指している。

 「本来ならばこの様な事をしている場合ではない。しかしだ、日本には幾多の艦娘がいる」

 Admiralは不敵な笑みを浮かべながら私に話す。

 けれど、私は……。

 



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第26話 到着と交流

 今年最後の投稿です。皆さんは良い一年でしたか?
 では、良いお年をお過ごし下さい。


 

 三日後 横須賀鎮守府 正門前

 

 鎮守府を高雄さん達に任せて、自分を含めた十二名の艦娘と共に横須賀鎮守府に訪れた。

 加賀さんは外見が変わっているので少し残念そうな表情をしていた。自分は出発する前に買っていた花束を手に持ち、あの時の出来事が蘇る。

 「遅くなったね……」

 「司令官、何か言いましたか?」

 心の声が出ていたらしく、大鳳に指摘された。自分は平然を装って「何でもないよ」と言う。

 すると、あの時自分を気絶させてくれた長良さんが正門前に来てくれた。

 「どうも、横浜鎮守府の材原です。前回は失礼しました」

 「いえ、材原さんもお辛い経験をされたのですから……」

 加賀さん以外は首を傾げる。自分は「気にしないで」と言うと歩き出す。そして、修復された玄関横に置かれている花束に気付き、自分も持っていた花束を置いた。

 「ごめん、先に行ってて。すぐに追いつくから」

 皆にはそう言い、行かせると一人しゃがみ手をそっと合わせた。

 「(加賀さん。遅くなってごめんね……)」

 運命の因果なのかは解らないけど、今、こうして自分が生きているのは加賀さんのおかげであるのは事実であり、同時に感謝もしている。

 「(ありがとう……。忘れないよ、永遠に……)」

 「あの、もしもし?」

 不意に後ろから声をかけられて士官拳銃である二十六年式拳銃をクイックドロウする。

 「お、落ち着いて下さい!」

 「あ…、失礼。いきなり声をかけられたのでつい……」

 急いでホルスターに仕舞う。すると、凬森提督が入口から出てきた。

 「あれ?明斗君。まだ入ってなかったのかい?」

 「え、えぇ」

 自分はそう答える。すると、相手から「知り合いですかね?」と尋ねる。

 「今回の日米英の艦娘交流会にて護衛をさせて頂く材原明斗少佐です」

 凬森さんが答える前にハッキリと言った自分。身元も知れぬ相手にあまり情報を与えたくないのも理由の一つだけど……。

 「これはこれは…。お初お目にかかえります。私はイギリス海軍中将でありますジャック・ノエルと申します」

 四十代前半だと思われる彼。物腰が良さそうな感じを出してはいるが、何処か食えない雰囲気を出す。

 「そして、今回誕生した艦娘のウォースパイトとシリアスだ」

 一人目は色白で碧眼、髪は肩より少し下まで伸びたセミロングの金髪で、両側頭の一部を三つ編みとし、その毛先を後頭部で結ぶティアラにしている女性だった。

 「我が名は、Queen Elizabeth class Battleship Warspite!…よろしく、頼むわね」

 彼女の挨拶が終わると、もう一人が輝きを放つ銀髪の少女。天龍さんとよく似た機械を付け、髪は肩より少し伸びたセミロング。左の髪の毛を三つ編みにし、その毛先を右の肩にむけている。そしてなにより、左目を眼帯で隠しているのが個人的に気になった。

 「シリアスです。お見知りおきを」

 「こちらこそ、三日間よろしくです」

 イギリス海軍の三人に挨拶を終えると自分も凬森提督の案内で横須賀鎮守府を歩く。十年前に半壊したのもあり、自分が覚えている廊下も無く、少し寂しい気持ちになるが、今はそんな気持ちになっている暇はない。

 「こちらです」

 会議室と書かれた部屋に案内される。そこにはアメリカ海軍の関係者と凬森提督の秘書艦、そして横浜鎮守府の面々だ。

 「遅かったではないかね?」

 態度がデカイアメリカ海軍に疑問を抱くが何も言わずに自分の席に座る。

 「今回、日本に訪れて下さったアメリカ海軍少将マイケル・アレキサンダー氏。戦艦アイオワ、軽巡洋艦オハマ。イギリス海軍中将ジャック・ノエル氏。戦艦ウォースパイト、防空巡洋艦シリアスの皆さんが我が横須賀鎮守府に来て頂いたことを感謝します。私がこの横須賀鎮守府の提督であります凬森と申します。そして彼が、今回の交流会で警護及び横浜鎮守府の提督の」

 「材原明斗少佐です。わざわざお越し頂きありがとうございます」

 とりあえず、歓迎の言葉を話し、提督と艦娘達と分かれることになった。

 

 テートクと別れて、艦娘達だけの交流会になりましたネ。

 「姉様、少々居心地が悪いです……」

 「比叡、我慢デース。テートクも少しでも回復して欲しくて連れてきてくれたのデース」

 比叡にはそうは言ったけれど、正直な話。私自身もあのテートクを全部は信じきれてはいない。でも、そんな彼は私の気持ちも知った上で優しく話してくれる。

 「アラ?もしかして金剛?」

 声をかけられた。後ろを振り返ればそこにはウォースパイトがいた。

 「ohー!お久しぶりネー!!」

 「久しいわね、金剛、比叡!」

 ウォースパイトに会えて私と比叡は大喜びで、最近の近況を互いに話しながら昔を懐かしんだ。

 

 「加賀さん、一つ聞いてもよろしいですか?」

 食事を食べている途中で、一緒に来た大鳳と大和さんが話しかけてきた。

 「私で答えられる範囲であれば」

 私は二人にそう答え、何を尋ねるのかと思うと。

 「提督……、明斗(さん)は何かを企んでいます」

 二人から言われた言葉。私はそれを聞いた途端に、

 「大鳳はともかく、大和さん。貴方は鏡子提督を知っているはず?彼を信用できないと……?」

 「ち、違うわ。信用しているわ。ただ……ここ最近狙撃銃や回転式拳銃を執務室で手入れしているのを目撃して……」

 確かに、前に触っていたのを第六駆逐隊に見られて私の方から厳重注意したから誰もいない時に手入れをしていたのでしょう……。

 「大丈夫よ、ただ前に私が注意してから誰もいない時にそうしているだけよ」

 「なら……、良いんですけど」

 二人との会話が終わってまた食べ始めた。でも、確かに明斗が不審な行動をしている時が多々ある……。

 信用したいけど、信用ができない。一番、辛い思いをしている彼を支えないといけないのに、私が信じなきゃいけないのに……。

 「駄目ですね……。私は」

 「駄目じゃないですよ」

 横を見ると赤城さんが大量の料理をのせたお皿を持って立っていた。

 「加賀さんは提督のことで不安に感じている。だったら、本人に聞けば良いんですよ。貴方なら提督は信じて下さると思いますから」

 赤城さんに言われた私は微笑み、「ありがとう赤城さん。少しだけ、安心しました」と言った。

 「加賀さんはクールさも大事ですけど、愛する人に対する好意も大事ですよ?」

 赤城さんに指摘されて私は顔を真っ赤にして顔を伏せた。

 



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第27話 会談と始まり

 新年、明けましておめでとうございますorz
 今年も艦隊これくしょん及びこの小説を宜しくお願いします。
 では、続きです!


 

 一方で、こちらは緊迫とした雰囲気の中で日本と米英が両者睨み合っていた。

 それは、皆と別れて別室で彼らに唐突に言われたのだ。

 「我が国と深海棲艦打倒の為に協力してくれ。無論、艦娘の囮や捨て駒戦法も視野に入れてだ」

 この発言で自分と凬森さんの琴線に触れ、先に凬森さんが物申した。

 「お二人方、一体何を申されておるのですか?」

 丁寧に言っているつもりでしょうけど、額に青筋を浮かべている時点で相当イラっとしているのが解る。

 「貴方方はよくご存知でしょう?我が国、アメリカは深海棲艦の本拠地と化しているのですぞ!!有能な部下も、役に立つ艦娘もいない。だからこそ、わざわざこの国まで訪れたのですよ!」

 中将さんの言い分も多少は分かるが、それでも言い方もあるはずで……。

 「でしたら、新規開発されたあの子達はただの道具に過ぎないと?」

 「あぁ、勿論だ!」

 その言葉を聞いた瞬間に立ち上がると二十六年式拳銃をホルスターからドロウすると標準を中将の額に定める。

 「戦争を起こす気かね?」

 「面白いではないかね?」

 海外勢の二人はニヤニヤした顔で言う。ここで射殺をすれば確かに自分は罪人のレッテルを貼られる上に深海棲艦と米英を敵に回すことになる。

 「…………」

 自分は何も言わずに銃をホルスターに仕舞い、席に座る。

 「それで、そちら側にはメリットがありますが、こちらにもメリットがないと話にもなりませんよ?」

 自分は相手にハッキリと申した。相手の発言内容によって対応を変えようと考えていた……。しかし、ここでまさかの返答をされた。

 「あるさ。そちらの大本営さんらが大いに我々の話を受け入れてくれたよ」

 これには自分も凬森さんも驚いた。

 あの馬鹿共がこんな話を受け入れたと聞いていない上にまだその考えて突き通すつもりなのかと……。

 「と、言う事はだ。私達と協力しようではないか?」

 そして、冒頭に戻る。

 

 「さぁ、貴方方にも協力を願いますよ?」

 到底理解できない案件。自分と凬森さんは静かに考える。

 「(今、こいつらの言う通りになればまた皆の様な子が増える……!!)」

 けれど、打開策が見つからない……。諦めかけた時、

 『―――諦めてはいけませんよ、明斗―――』

 ふと、だれかの声が聞こえた。聞き覚えのある声で……。

 『―――明斗が信じる道を進んで下さい。皆、貴方を信頼しているので―――』

 そして、自分は反撃に出た。

 「捨て駒戦法や囮も厭わないと言いましたね?」

 「あぁ、そうだが…」

 その言葉で、自分は確信し、微笑する。

 「では、建造費や資材に関しては全部そちらで出して下さるんですよね?」

 その言葉に二人を余裕の表情から一変、焦りの表情が見えてきた。

 「な、何を申されているのやら……」

 「全く、解りませんなぁ~~?」

 動揺している。チャンスとばかりに矢継ぎ早に「解らない?何を申されているのですか?貴方方が提案された協定、それを理解していないのと同じ意味になりますが?」とか「建造費や資材全てをこちらで受け持つとでも思いましたか?」とか「協力関係である以上、両者平等にならないと話にもならないのでね?」とその他色々申した。

 凬森さんは( ゚д゚)ポカーンとした表情で自分を見ている。

 相手も困り果てた時、外から砲撃音が響いた。

 

 会談の始まる二時間前 横浜鎮守府

 

 「何だよ~明斗が居ないと詰まんないな~~」

 横浜鎮守府では暇を持て余す天龍と長門の姿が見られた。

 二人は談話室でゆったりと休んでいた様子だ。

 「天龍、提督が居るか居ないかで気分を変えるな?」

 「んな事言われましてもねぇ~。長門さんだってさっきからソワソワしている上に雑誌、上下逆さまですよ?」

 天龍に指摘された長門。確かに上下逆さまで、長門は顔を真っ赤にして「さっさと言え!!」と言ってから向きを直した。

 「はぁ…。早く帰ってこないか」

 途中で天龍の言葉が途切れた。天龍は何かを察知したらしく、近くにあった伝令管に向かって、

 「全員、艤装を展開の用意しろ。多分深海棲艦が来てる」

 すると、けたたましいサイレンが鳴り響く。天龍の言う通り、深海棲艦が攻めて来たようだ。

 全員が慌ただしく海に面する波止場などに走り、戦闘可能メンバーが艤装を展開、深海棲艦の艦隊に出撃する。

 「けれど…。嫌な予感がする……」

 高雄が出撃メンバーに呟く。それは長門と陸奥も感じていたようで……。

 「確かに…、今までの感じと全然違う」

 「戦艦級でも居るのだろう」

 しかし、彼女らの予想を遥かに上回った。

 何故なら……、

 『シズムガヨイ、カンムス……!!』

 男の深海棲艦だったからだ。

 これには皆が絶句し、言葉を発せなかった。

 「に、逃げましょう……」

 みらいが呟いた言葉。皆が同意し、離脱しようとした前に、相手が攻撃を始めた。

 『ユケ、ワガカンセンヨ!!』

 マントの内側から幾多の零戦が飛び出す。これには皆が驚き、撤退する。

 「何だあの新種は!?」

 「解らない!!」

 撤退する彼女らを追撃する零戦、後ろの方にいる艦娘を集中的に攻撃、中破や大破にまで追い込む。

 「きゃあ!」

 「みらい!」

 長門はみらいの為に急いで戻り、逃げようとするが、

 『ヒョウジュン、カンリョウ……!!』

 戦艦の主砲が二人を視界に捉えていた。

 「(くそ!今から標準を構えても遅い!)」

 ここまでか……。長門は死ぬのだと考えた。

 しかし、

 「全く、迷惑極まりない連中だ」

 通信越しに聞こえた声。それと同時に一発の銃弾が新種の深海棲艦に被弾する。深海棲艦は銃弾を受けた場所を抑え、狼狽える。

 「な……!何処から撃たれたんだ!!?」

 長門は周りを見るが、誰もいない。一緒に来たメンバーも撃っていない。そしたら、誰が……?

 すると、先程の声がまた聞こえて来た。

 「さぁ、早く逃げたまえ。俺があいつを処理するから今の隙に」

 長門はみらいを曳航しながら、皆と一緒に逃げる。その際に零戦が追撃ちするかと思えば全てが撃ち落とされる。

 「一体誰が……?」

 長門は疑問を抱きながら横浜鎮守府に向かった。

 



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