未来から帰って来た死神 (ファンタは友達)
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プロローグ

お久しぶりです。また気まぐれで書くことにしました。文章構築スキルが上がってるといいんですけど、ほぼ100%そんなことないので、下手な文章ですがまたお付き合いくださると幸いです。では本編をどうぞ~


ここは526年前の尸魂界、そこではある問題が多発していた。

 

「うむ…」

 

元流斎が眉間にしわを寄せ各隊からの報告書を見ていた

 

「先日から隊士が失踪する事件が多発しておる…」

 

困ったように元流斎が呟いた

 

 

 

 

当時の尸魂界では隊士が失踪する事件が多発していたのだ。原因は不明、隊士の霊圧が感知されないため「死亡したのでは?」と声も上がったが目の前で消えたとの報告もあり、瀞霊廷は混乱状態にあった。

 

「一体どうなっておるのじゃ…こんなことなど護廷十三隊発足後初めての事じゃ…」

 

 

 

 

その後も原因不明の事態は続いた。しかし四年の月日が流れたときついにその原因が判明したのだった。それは一体の仮面が割れた虚…つまり破面が関係していた。その事実が判明後元流斎はすぐ次の行動に出た、

 

「五番隊隊長雷山悟以下5名を隊士失踪事件収拾特務部隊及び虚討伐部隊に任命する。直ちに事態の収拾に取り組むのじゃ!!」

 

元流斎はすぐに収拾がつくと踏んでいた。しかし事件は再び起こった・・・

 

「なに、雷山悟が消えたじゃと!?」

 

部隊長に任命した雷山悟が部下たちの目の前で消えたのだった。その報告を一時帰還した五番隊副隊長、椿咲南美から受けた元流斎は驚きの声を上げた

 

「どういうことじゃ、詳しく申してみよ!」

 

「はい、それがその…」

 

椿咲は自身の目の前で起こったことをそのまま伝えた。雷山と椿咲は破面を追い詰めることに成功したのだが、雷山が斬りかかると同時に光に包まれそのまま消えてしまったとの内容だった

 

「すぐに周りの霊圧を探ってみたんですけど…雷山隊長の霊圧も虚の霊圧も感じられませんでした」

 

「うむ…」

 

しばらく考え込む元流斎

 

椿咲は責任を問われることも覚悟して固く目を閉じたが、元流斎から意外な言葉が返ってきた

 

「椿咲副隊長、今この瞬間よりお主に隊長権限代行を与える。雷山悟及びその他隊士、並びに虚の捜索を命ずる」

 

杖を突く音がその場に響き渡った

 

「は、はい!」

 

そう言い瞬歩で消えた椿咲

 

椿咲以下五番隊隊士全員で雷山が消えた付近一帯を捜索したが結局雷山も虚も見つからなかった。しかし10日が経ったころ

 

「もぉ~、隊長ってば本当にどこ行っちゃったのよぉ…」

 

その場に座り込む椿咲だったが何かを感じ取ったように顔をハッとあげた

 

(この霊圧…まさかっ!)

 

椿咲は覚えのある霊圧を感じ取ったのだ。椿咲は急いでその霊圧がする方へ向かった。そしてその場に立っていたのは・・・・

 

「雷山…隊長…!」

 

椿咲の瞳から涙がこぼれ落ちた。しかしすぐにそれを拭き取り

 

「隊長ーー!」

 

椿咲は瞬歩で雷山の隣へ移動した

 

「いったい今までどこに行ってたんですか!?心配したんですよ?」

 

雷山はしばらく椿咲の顔を眺め

 

「…お前が俺の心配をするなんて珍しいな」

 

「え…あっ!わ、私の悪戯が成功するまで隊長にいなくなってもらっては困るんですよ!ただそれだけです!」

 

自分の言ったことに気づき頬を赤らめながら椿咲は全力で否定した。

 

「ふっ、ああそうだな」

 

その時雷山の顔に笑みが見えた

 

「あれ?隊長何かうれしそうですね」

 

それに気づいた椿咲がそう聞いてきた

 

「んなことはねぇよ。さっさと帰るぞ、椿咲」

 

と否定し雷山は瀞霊廷に向け歩き出した

 

「ちょっと待って下さいよー。あの虚はどうされたんですか?」

 

「ああ、あいつなら倒したぞ」

 

振り返りもせずに答える

 

「…どこでですか?」

 

「そうだなぁ…530年経ったら分かるかもな」

 

「なんですかそれー」

 

そして瀞霊廷に着くとすぐに元流斎に一番隊舎まで来るようにと伝令が来た

 

「……」

 

とても嫌そうにその伝令を聞いている雷山

 

「あーあ、これは完全に怒られますね~」

 

その顔を見てニヤニヤする椿咲

 

「はぁ、めんどくせぇな。ちょっと行ってくるから椿咲は隊舎に戻ってろ」

 

「は~い」

 

「……サボってたらぶん殴るからな?」

 

「私ってそんな信用無いですか?」

 

「ああ、無い」

 

「ひどい!!」

 

そう言って走り去って行った椿咲を見届けて雷山は元流斎の下へ行ったのだった

 

 

 

 

そんな事件から一週間が経ち混乱が収まり始めたある日・・・

 

「失礼します!!雷山隊長と椿咲副隊長はおられますでしょうか!?」

 

春麗と喧嘩をし別れた直後に忙しなく襖を叩く音と雷山、椿咲を呼ぶ声が聞こえた

 

「ん、どうした?」

 

襖を開くと若い死神が報告を始めた

 

「報告します。東流魂街に大虚の反応あり、至急急行せよとのことです」

 

「はぁ、分かった。行くぞ、椿咲」

 

「わっかりました~!」

 

 

 

 

 

 

こうして雷山悟の波乱万丈の物語が再び幕を開ける

 

 





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椿咲南美誘拐篇
第一話


東流魂街に大虚の反応がありと報告を受けすぐ急行した雷山と椿咲だったが・・・

 

「おかしいな…ここらのはずだが…」

 

不思議気に辺りを見回す雷山

 

「虚の霊圧感じませんね。いた痕跡もありませんし…」

 

座り込み休憩する椿咲

 

雷山と椿咲は虚が出現したという場所に到着したのだが、虚の霊圧はおろか虚がいた痕跡すらないという事態に遭遇していた

 

「誤報か…?いや、そんな訳はないはずだが…」

 

「まあいいじゃないですか。仕事サボれますよ?」

 

椿咲に目を向けるといつの間にか花を摘み始め花の冠を作り始めていた

 

「…お前みたいな思考になれたらどれだけ楽か…」

 

顔に手を当て呆れたように首を振る雷山

 

「とにかくさっさと帰るぞ。いつまでもここに居ても意味はないしな」

 

「えー、もう帰るんですか?もう少しゆっくりしていきましょうよ」

 

椿咲が不満をこぼしたが雷山は聞く耳を持たず歩き始めた

 

「もぉ~待って下さいよ。隊長!」

 

椿咲も雷山の後を追って去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その姿を木の上から見つめる男が二人・・・

 

「…どう?行けそうかい?」

 

雷山と椿咲が去って行ったのを確認してから男が話し始めた

 

「ああ、思っていたより霊圧が高かったが、まあ想定の範囲内だな」

 

「…いつ動く?」

 

「今日にでも動くか…」

 

「そうかいそうかい、じゃあ僕は椿咲ちゃんを迎えに行ってくるよ」

 

そう言い二人は木の上から降りた

 

「ああ、頼む。誰にも見つかるんじゃないぞ?」

 

「分かってるよ。そっちも準備をよろしくね」

 

片方の男は瀞霊廷に向かい、もう一方の男は瀞霊廷とは反対の方向へと消えて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東流魂街より瀞霊廷に帰還した雷山と椿咲

 

「あら、雷山さんと南美ちゃん。どうされたんですか?」

 

一番隊舎に向かって歩いていると途中で銀華零に会った

 

「東流魂街に大虚の反応があるから行ってくれと言われたんだが、大虚の霊圧どころかいた形跡もなくてな」

 

「それはおかしな話ですね」

 

「ああ、だからこれから山本の所に行くところだったんだ」

 

「そうなんですか。それは、お引き留めをしてすいません。それでは、私はこれで」

 

ニコッと微笑むと銀華零は歩き出した。しかし数歩歩いたところで何かを思い出したように再び雷山を呼び止めた

 

「あっ!そういえば、春麗ちゃんがとても怒っていたのですけど雷山さんまた何かをしたんですか?」

 

「なんだ、あいつまだ怒ってるのか」

 

「いえいえ、その事ではありませんよ?私も詳しく聞いたわけではないんですがなんでも…

 

『雷山君にまたバカって言われたーー!!』

 

と言っていましたよ?あれ、でも雷山さんは今瀞霊廷に帰って来たばかりなんですよね?」

 

「ああ、そうなんだが…ん~、今日2回も言った記憶がないんだがなぁ…」

 

狐蝶寺にそんなことを言った記憶がない雷山は腕を組み首をかしげて考えていた

 

「とにかく一度春麗ちゃんの所に行ってみたらどうですか?たぶん隊舎に居るはずですし、山本さんの後で行ってみてはどうですか?」

 

「ああそうだな、行ってみるよ」

 

「それでは、私はこれで。南美ちゃんまた隊舎へいらしてくださいね」

 

そういうと銀華零は去っていった

 

「…椿咲、お前三番隊舎に行ったことなんてあったか?」

 

「いえ、行ったことないんですけど…誰かと勘違いしているのですかね」

 

「うむ……まあいい、俺は山本と春麗の所に行くからお前は先に隊舎に戻っててくれ」

 

「了解しました!」

 

こうして雷山は一番隊舎に、椿咲は五番隊舎にそれぞれ向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

~瀞霊廷・一番隊隊舎内~

 

「おい山本、居るか?」

 

一番隊執務室の前に立ち、総隊長・山本元流斎重國に呼びかける雷山

 

その呼びかけに答えるように中から声が聞こえてきた

 

「なんじゃ、雷山」

 

その声が聞こえたと同時に隊首室に入る雷山

 

「いや、大した用じゃないんだが」

 

「…?まあ良い、申してみよ」

 

「ああ、東流魂街に大虚の反応があると俺に報告が来てな。それで実際に行って確認してきたんだが大虚がいた痕跡すらなくってな、それでお前の所に何か報告が来てるかと思ってだな…」

 

その話を聞き終えた元流斎は不思議そうな顔をした

 

「いったいおぬしは何を申しておるんじゃ?大虚の報告など儂の所には来ておらぬぞ」

 

「おいおい、マジかよ」

 

元流斎は自身の所には大虚の報告は来ていないとはっきり言った、雷山は元流斎が嘘をつくとは到底思えないので報告が来てないのは本当の事だと思った

 

「おぬしはその報告を誰から聞いたのじゃ?」

 

実松(みまつ)からだが?」

 

「うむ…分からぬが、とにかく儂の所には報告は来てないとだけ言っておこう」

 

「そうか。とりあえずそんなことがあったと報告しておくよ」

 

 

 

 

元流斎に今回の不可思議なことを報告した雷山は狐蝶寺に会うために十三番隊舎に向かい始めた

 

歩きながら雷山は今回の事を考えていた

 

(いったいどうなってるんだ…?あることないことがあふれてやがるな…)

 

そう考えているといつの間にか十三番隊舎に着いていた

 

「さて、行くか」

 

隊舎内を歩いていると十三番隊副隊長・山吹雷花(やまぶきらいか)と会った

 

「あれ、雷山隊長?どうされたんですか?」

 

「ああ、春麗に会いに来たんだが…」

 

「狐蝶寺隊長なら今中庭にいますよ」

 

「すまんな」

 

山吹に言われた通り中庭へ行くと春麗が花を植えている姿が目に入った

 

「ふんっふんっ ふんっ 」

 

狐蝶寺はえらくご機嫌で鼻歌まで歌っていた、その姿に

 

(白が言っていたのと全く違うんだが…)

 

と思う雷山であった。

 

「よ、よお。春麗」

 

雷山の声に気づき振り返る狐蝶寺、その顔は怒りに満ちているどころか

 

「あれ、雷山君?どうしたの?」

 

雷山がここに居ることが解せぬという顔をしていた

 

「いや、白がお前が怒ってると言ってたから様子を見に来たんだが…」

 

「…ちょっと前に雷山君が私にバカって言ったことでしょ?もう怒ってないよ?あれは私も調子に乗りすぎたしね」

 

雷山はその言葉に違和感を覚えた

 

「ああ、あれは俺も言い過ぎた。…なあ春麗一つ聞いていいか?」

 

「ん、なに?」

 

「お前、今日白に会ったか?」

 

その問いに春麗から衝撃の答えが返ってきた

 

「今日はまだ会ってないよ。仕事が終わったら会う約束はしてるけどね」

 

(どういうことだ…?白は春麗から詳しくはないにしろ事情を聞いている…しかし春麗は今日はまだ会っていないと言っている…どうなってやがる…)

 

「雷山くーん?聞いてるー?」

 

「あ、ああ。すまん、聞いてなかった」

 

「もーっ、雷山君も一緒に来るって聞いたんだよ」

 

「…すまんな春麗。今日はやることが多くてな、行けそうにない。またの機会にしてくれ」

 

「そう、じゃあまた今度ね」

 

そう言って狐蝶寺と別れた雷山は少し速足で隊舎に向かって歩き始めた。

 

 

その頃五番隊舎では椿咲の身に不可解なことが起きていた

 

「隊長いない間何しようかな。うん、隊長にどんな悪戯を仕掛けるかを考えよう!」

そう言いつつ執務室の襖を勢いよく開ける椿咲

 

「さてと…えっ?」

 

椿咲は絶句した。目の前には今十三番隊舎にいるはずの雷山悟が立っていたからである

 

「た、たた、隊長…!?なんでいるんですか…?」

 

 

 

困惑する椿咲がそう言うと雷山はニタァと笑ったのだった

 

 

 

 

 



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第二話

雷山に言われ一足先に五番隊舎に帰ってきた椿咲

 

「隊長にどんな悪戯を仕掛けようかなぁ。あれもいいしこれもやってみたいしなぁ…」

 

そんなことを考えながら椿咲は執務室の襖を勢いよく開けるとそこには

 

「えっ…?隊…長…?」

 

数分前に別れて今十三番隊隊長・狐蝶寺春麗の元にいるはずの雷山悟がいた

 

「隊長、もう帰ってきたんですか…?」

 

椿咲の問いかけに雷山は無反応だった………かに見えたが

 

「ああ、意外と早く終わったんでな」

 

といつも通りの雷山の言葉が返ってきた。安堵した椿咲だったが、彼女はその一瞬を見逃さなかった。椿咲の眼に雷山の顔がニヤッと笑い邪悪な笑みを浮かべているのが一瞬見えた

 

「…!あなた、いったい何者ですか…!?」

 

目の前の人物が雷山ではないと気付いた椿咲は腰に差してある斬魄刀に手をかけた

 

「…は?椿咲、お前は何を言ってんだ?」

 

「へへっ、気安く椿咲なんて呼ぶのはやめてくれないかな?私が何年、雷山隊長の副官をしていると思っているの?」

 

強気にそう言う椿咲だが、顔に余裕は見えず冷汗をかいていた

 

「………」

 

雷山の姿をした者はしばらく沈黙していたが、

 

「ちっ…」

 

舌打ちをし態度を一変させた

 

「さすがに100年近くも副隊長をしている君は騙せなかったかぁ。結構自信があったのになぁ…」

 

残念そうに自分の姿を見る雷山(偽)

 

「残念だけど、ここで大人しく捕まってもらうわ。縛道の六十三…」

 

椿咲が縛道を発動させようとしたその瞬間、時間にして一秒も掛からなかっただろう。しかし椿咲は確かに聞いた

 

「うん、まあ悪くはないね。だけど、甘いよ?椿咲南美副隊長」

 

その瞬間椿咲の視界から雷山(偽)が消えた

 

「…!?どこに…」

 

その瞬間椿咲の目の前に手の平が現れた

 

「しまった…これ…は…」

 

「フフフ…まあ、ゆっくりお休みなさいな。椿咲南美副隊長」

 

椿咲は途切れ行く意識の中でその言葉を聞いた

 

 

 

 

 

 

 

その数分後五番隊舎に雷山が帰ってきた

 

「椿咲、ちゃんと仕事してるかー?」

 

そう問いかけながら執務室の襖を開けたが、執務室には誰もいなかった

 

「……早速いねぇじゃねぇか。どこ行きやがった」

 

そう言ったその時だった

 

「さてと…あれ隊長?もう帰って来たんですか?」

 

執務室の襖が開き椿咲が入ってきた

 

「おい椿咲、お前どこ行ってたんだ?」

 

雷山にそう聞かれると椿咲は少々言いにくそうな顔をしたが

 

「……お手洗いですよ」

 

と答えた。随分とまともな答えが返ってきたので雷山は困った

 

「案外まともな理由だったな…」

 

「さて、隊長も帰ってきて悪戯もできなくなっちゃいましたし大人しく残りの仕事しますかね」

 

「…?」

 

「隊長、どうしたんですか?私の顔に何かついているんですか?」

 

「ん?いや…」

 

雷山は再び前を向いた椿咲に向かって手を伸ばし始めた。

 

「…!?」

 

すると、何かに気づいたように椿咲がその腕を掴んだ

 

「…隊長、私に悪戯を仕掛けても無駄ですよ?」

 

雷山の腕をつかみながらニヤニヤと笑う椿咲

 

「…お前…誰だ…?」

 

腕を振り払い椿咲に向かって雷山はそう問いかけた

 

「えっ?…やだなぁ。悪い冗談はやめてくださいよ~」

 

そうとぼける椿咲に雷山は嘲笑した

 

「残念だが、冗談じゃない。まあ、うまく化けていたとは思う。だがお前は二つミスを犯した」

 

「…!」

 

その瞬間椿咲の顔が緊張したように見えた

 

「一つは今お前が俺の腕を掴んだことだ。…知らなかったか?椿咲は一度もそれに反応出来た事がないんだぜ?」

 

「あ、あれはいつもわざと引っかかってたんですよ!」

 

「苦し紛れの言い訳か。なるほど、確かにそれもあるだろうな。だがな、お前が俺の腕を掴む時に一瞬出した霊圧…あれはどう考えても椿咲の霊圧ではなかった。今は椿咲の霊圧に近づけているようだが、よくよく霊圧を読んでみると若干椿咲の霊圧とは違うな。さあ、猿芝居はやめてそろそろ正体を明かしたらどうだ?」

 

雷山の言葉を静かに聞いていた椿咲だったが、

 

「フフフ…フハハハ…あーあ、バレちゃったかぁ」

 

突如笑い出し斬魄刀を抜いた

 

「バレちゃったもんは仕方ない、ここで戦闘不能に追い込もうか!!」

 

「ッハ!若僧が、俺に勝てると思うなよ」

 

「おりゃ!!」

 

雷山と椿咲(偽)の刃がぶつかりかけたその瞬間

 

「縛道の二十一『赤煙遁(せきえんとん)』」

 

突如現れる赤色の煙

 

「くそっ、新手か」

 

煙が晴れるとそこにはもう椿咲(偽)の姿はなかった

 

「…ちっ、逃げられたか。にしてもあいつは何者なんだ…」

 

そう言った時雷山は机の上に書置きがあることに気づいた

 

「どう見ても椿咲の字じゃないな。…あ?」

 

その書置きにはこう書いてあった

 

 

”椿咲南美五番隊副隊長は預かった。返してほしくば北流魂街八十地区【更木】まで来い。お前の実力は大方把握した、そう簡単に我らに勝てると思うなよ?”

 

 

「…めんどくせぇな、何あいつ捕まってるんだよ」

 

書置きを読み終えた雷山はそう呟いた

 

「だがまあ、助けなければそれはそれで問題だな…」

 

雷山はしばらく目を閉じ考えた

 

(うん、更木は尸魂界で最も治安の悪い場所…当然そこの住人も俺に襲いかかってくるだろう…まあ、負けはしないだろうが、骨が折れるのは事実だな…正直行きたくないな…いや、待てよ?ここで椿咲に恩を売っておくってのもアリだな。少しはあいつを大人しくできるようになるかもしれんな)

 

閉じていた目を開け雷山は呟いた

 

「仕方ねぇ、助けに行ってやるか」

 

そう思い立った雷山は、先ほど訪れた十三番隊舎に再び訪れた

 

「春麗いるかー?」

 

「あら、雷山隊長、今度はどうされたんですか?」

 

「ああ、ちょっと春麗にまた用が出来てな。いるか?」

 

「つい先ほど、銀華零隊長と出かけましたよ」

 

雷山はしまったと声を出した

 

「どこに行ったか知ってるか?」

 

「聞いても教えてくれませんでしたよ」

 

雷山は舌打ちした

 

「あのバカ…」

 

「あ…すいません、雷山隊長」

 

「いや、気にするな。邪魔したな」

 

そう言い十三番隊舎を後にした

 

「仕方ねぇ、霊圧を探って探すか」

 

そこから先は簡単だった。霊圧を探ると狐蝶寺と銀華零は意外と近くにいたため、雷山もすぐ追いつくことができたのだった

 

「―――――という訳なんだが、来てくれるか?」

 

雷山は今まであった事をそのまま話した

 

「あの南美ちゃんが誘拐されるなんて…」

 

銀華零は椿咲が誘拐されたことが信じられない様子だった

 

「確かに信じられないけど、雷山君はこういう嘘は言わないから本当の事なんだろうね」

 

「二人ともすまねぇな。無理なら俺一人で行くg」

 

「それはだめだよ(です)」

 

銀華零と狐蝶寺の声が見事に重なった

 

「いくら雷山さんでも一人で姿も名前もわからない敵の所に行くのは、得策ではないと思いますよ?」

 

そう言う銀華零の後ろで狐蝶寺がウンウンと頷いている

 

「ホントにすまねぇ…」

 

「そんなに謝るなんて雷山君っぽくないよ!元気出しなさい!」

 

「痛っ!?」

 

そう言いながら雷山の頭にチョップをする狐蝶寺

 

「そうですよ、元気出していきましょう。南美ちゃんも無事ですよ」

 

頭を押さえながら二人を呆然と見ていた雷山だったが、

 

「…ああ、そうだな」

 

二人の激励を受け普段通りの彼に戻ったのだった

 

「よし、ここで時間を潰してても無駄だ。さっさと行ってさっさと椿咲を奪い返してくるか!」

 

右腕を上げ意気揚々と言う雷山

 

「帰ってきたら、雷山君のおごりで何か食べよう!」

 

「そうですね!」

 

雷山に対しうれしそうにそう言う狐蝶寺、銀華零

 

「おいおい勝手に決めんなよ。……はぁ、分かったからさっさと行くぞ」

 

「おー!」

 

 

 

 

 

こうして雷山悟、狐蝶寺春麗、銀華零白の三人による椿咲南美奪還作戦が始まるのだった――――

 

 

 

 

 



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第三話

北流魂街八十地区【更木】に向かって移動している雷山、狐蝶寺、銀華零の三人

 

移動しながら銀華零は雷山に向かって質問した

 

「そう言えば、このことは山本さんに言ったのですか?」

 

「ん?言ってないぞ」

 

「えっ…」

 

その瞬間銀華零はその場に止まってしまった。慌てて止まる雷山と狐蝶寺

 

「おいおい、そんなに驚くことか?報告なんか椿咲を奪還した後でいいだろ」

 

「そんなこと言ってるからいつも山本さんに怒られるんですよ!」

 

軽く言い争いを始めてしまった雷山と銀華零。その仲裁に入る狐蝶寺

 

「まあまあ、まずは南美ちゃんを助けることに専念しようよ」

 

狐蝶寺のその言葉に、そうだな。はい。とそれぞれ答える二人

 

 

 

 

 

 

          * * *

 

 

 

 

 

 

北流魂街八十地区【更木】とある洞窟内部

 

「ん…」

 

(ここ…どこ…?そうか…私は…)

 

目を覚ました椿咲は辺りを見回した

 

(…見覚えのない景色だわ。とりあえず、ここから出て戻らないと…)

 

そう思い体を動かそうとした椿咲だったが、

 

(あれ…動けない…それに声も出せない…猿轡か何かされてるのかな…?)

 

「やあ、ようやくお目覚めかい?」

 

すると、椿咲の背後から声が聞こえた

 

「…!んへ?(だれ?)」

 

「ちょっと待って、今外してあげるから」

 

そう言い椿咲の口から猿轡を外す男

 

「ぶはっ。ちょっとちょっと、あなたたちは何者なの?そもそもなんで私が攫われてるわけ!?」

 

その男に対し椿咲は怒り始めた

 

「まあまあ、落ち着いてよ」

 

「落ち着けるわけないじゃない!もう怒った、破道の…」

 

そこまで言って椿咲は気づいた

 

「…!?鬼道が…使えない…?」

 

「フフフ…やっぱり殺気石の錠を使っといて正解だったかな」

 

「…なんであなたたちが殺気石の錠なんて持ってるの?」

 

椿咲のその問いに男は鍵を見せながら答えた

 

「昔僕に着けられてたものを使ってるだけだよ」

 

「…本当にあなた何者なの?」

 

「さあ?そのうち分かるんじゃない」

 

「おい、(やすい)おしゃべりはそこまでにしろ」

 

奥から声が聞こえそこへ眼を向けるともう一人男がやって来たのが見えた

 

「ちぇ、分かったよ。じゃあゆっくりできないだろうけど、ゆっくりしててね」

 

そう言い椿咲に再び猿轡をしあとから来た男とどこかへ行ってしまった

 

「んぐっ…」

 

(…ん~、さすがに一人じゃ無理っぽいなぁ。隊長、助けに来てくれるかな…)

 

 

 

 

 

 

          * * *

 

 

 

 

 

 

「さて、更木に着いたのはいいんだが…どこに行きゃいいんだ?」

 

雷山がそう言ったときだった

 

「よお、死神さんがここに何のようだよ」

 

「なんだなんだ?」

 

と雷山たちに声をかけながら近づいてくる流魂街の住人たち

 

「おいおい、こんなガキが死神かぁ?」

 

と挑発する者もいた

 

「はぁ…縛道の一『(さい)』」

 

その瞬間チンピラたちは手足を動かせなくなった

 

「なんだこれ!?」「動けねぇ」

 

その様子を見た雷山は一息ついた

 

「よし、動きを封じたし行くか…ってどこ行きゃいいんだ?」

 

「霊圧を探ってみてはいかがですか?」

 

困っている雷山に銀華零はそう助言をした。雷山は頷き

 

「霊圧を探るしかなさそうか…」

 

そう呟くと雷山は目を瞑り周りの霊圧に意識を集中させ始めた

 

(…ここから西へ2キロあたりに2つの霊圧が固まってるな…そこか?)

 

「よし、ここから西に行けばよさそうだな」

 

そう言うと三人は瞬歩で消えた。それと同時刻――――

 

「…!」

 

何かに気づいたように顔を上げる安

 

「…来たか。思ってたより来るのが早いな」

 

「まあいいじゃない、どうやら()()()()()()()ちゃっちゃと片付けちゃおう」

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

 

 

・・・その数分後、雷山たちはとある洞窟の前に立っていた

 

 

 

「たぶん、ここだな」

 

「では、行きますか」

 

そう言い中に入っていく雷山、銀華零、狐蝶寺

 

洞窟内は迷路のように放っておらずあっという間に最深部へ到達した

 

「ここが奥っぽいな…」

 

雷山がそう呟いたその時だった

 

「ようこそ、雷山悟五番隊隊長」

 

声のする方へ眼を向けると男が二人立っていた。一人は背が小さく小学生ほどの身長しかない男でもう一人は背が大きくがたいも良い野球選手のような男だった

 

(見たことねぇ面だな…)

 

「それで?」

 

「ん?」

 

「お前らが椿咲を攫ってた奴か?」

 

雷山の眼に殺気が映る。その目にゾッとする二人だったが

 

「そんな怖い目をしないでよ。それに名前で呼んでくれない?」

 

「あ?お前らの名前なんか知らないんだが?」

 

すると安はその言葉を待ってましたというように意気揚々と自己紹介を始めた

 

「僕の名前は、安猟(やすいりょう)こっちのでかいのは藪崎大(やぶさきだい)って言うんだ!よろしく~♪」

 

(こいつなんでこんなテンション高いんだ…?)

 

「まあいい、せっかくここまで来てやったんだ。さっさと椿咲を返してくれないか?」

 

「それは無理な相談だね」

 

「あ?この置手紙には返すって書いてあっただろうが」

 

そう言い雷山は懐からその手紙を出した

 

「それは君をここにおびき出すための罠だよ」

 

「…今、大人しく椿咲の身をこっちに渡せばこのままお前らを見逃して帰ってやる。嫌というなら…分かるよな?」

 

雷山は腰に差してる斬魄刀に手をかけた

 

「分かってるよ。分かってる上で拒否してるんだ」

 

「交渉決裂か…じゃあ仕方ないな」

 

そう言うと同時に雷山は安との距離を一気に詰めた

 

「早っ!」

 

「もらった…!」

 

一気に勝負がついたかに見えたが

 

「…!?」

 

驚いたように顔を上げる雷山。見ると雷山の斬魄刀を安は難なく受け止めていた

 

「言ったでしょう?あなたの実力は大方把握していると」

 

「なるほど、あながち嘘でもないな」

 

そう言い距離を取る雷山

 

「だが、お前らは俺達には勝てないんだよ」

 

雷山のその言葉に違和感を持った安

 

「俺”達”?君一人しかいないのに?」

 

安がそう言うと雷山はニヤリと笑った

 

「一人で来たと思ってたか?信じられないと思うなら後ろを見て見な」

 

そう言い雷山が指を指す方へ安、藪崎は振り向いた。そこには・・・

 

「全てを吹き飛ばせ”風芽(ふうが)”」

 

始解して斬りかかろうとしている狐蝶寺と銀華零の姿があった

 

 

 

 

 

数分前――――――――――――――――

 

 

 

 

 

北流魂街八十地区【更木】に向け急ぐ雷山、孤蝶寺、銀華零の三人。突如雷山がその場に立ち止まった

 

「雷山さん?」

 

雷山に合わせその場で止まる二人

 

「白、ひとついいか?」

 

「なんでしょうか?」

 

「椿咲の始解って今できるか?」

 

「…?ええ、できますけど…」

 

「よし、今から月華を発動したまま更木まで行くぞ」

 

 

雷山のその言葉に銀華零はえっと声を上げた

 

「なぜそんなことを?」

 

「万が一の保険だ。この手紙には俺の実力を大方把握したと書いてあったからな、そのためにお前らにも同行を頼んだんだ」

 

「ああ、そう言うことでしたか。ですが、あなたがそこまで慎重になるのも珍しいですね」

 

「そらまあ、椿咲を取り返すためだからな」

 

「相変わらずですね、雷山さんは」

 

どこか嬉しそうにそう言う銀華零

 

「うるさい、さっさとやれ」

 

照れ隠しをするようにそう言う雷山

 

「写し見とれ”銀鏡(ぎんきょう)”」

 

銀華零の斬魄刀が鏡のようになる

 

「銀鏡、月華(げっか)…!」

 

 

 

 

 

そして今に至る――――――――

 

 

 

 

 

「なんでこの二人が…!?」

 

「一体どういうことだ!?」

 

動揺する安と藪崎。その時生じた隙を雷山は見逃さなかった

 

「隙あり、だな!!」

 

前後を挟まれた藪崎が呟いた

 

「クソッ…!」

 

身体を斬られ藪崎の身体から鮮血が噴き出した

 

「ぐはっ…!クソがッ!!どうなって…やがる…!」

 

藪崎の目の前に剣を立て雷山は言った。

 

「俺の実力を把握するのも悪くはないが、他の奴の実力も把握しておくべきだったな」

 

「クッ…!」

 

悔しそうに歯を食いしばる藪崎。安の方へ眼を向けると

 

「…はぁ、こりゃダメだ」

 

安は両手を上げ抵抗の意思はないと示していた

 

「よし、こいつを瀞霊廷に連れて行く前に椿咲の居場所を…」

 

雷山がそこまで言った時だった

 

「おいおい、情けないなぁ~。もう捕まっちゃったの?」

 

洞窟の入り口の方から声が聞こえた。その姿があらわになった時、雷山・銀華零・狐蝶寺の三人、とりわけ銀華零は絶句した

 

「浮葉…さん…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話

安、藪崎と決着がついたかに見えたが・・・

 

「なんだよ、情けないなぁ~。もう捕まっちゃったの?」

 

と洞窟最深部の入り口から声が聞こえ、誰かが歩いてくる足音も聞こえた。

 

「っ!?お前は…!」

 

洞窟の隙間から流れ込む光でその姿があらわになったとき雷山たち三人……とりわけ銀華零は絶句した。

 

「浮葉…さん…?」

 

その正体は護廷十三隊三番隊副隊長・浮葉刃(ふようやいば)だった

 

「あれ、雷山隊長だけかと思っていたら銀華零隊長と狐蝶寺隊長もいらしたんですか」

 

と意外だというように声をあげる浮葉

 

「ふ~ん…なるほどねぇ…」

 

雷山たちが安たちを取り押さえているのをじっくり眺める浮葉

 

「…もう一人くらい仲間がいると践んでたんだが、まさか浮葉とはな…」

 

浮葉が敵に回っていたことは雷山にも想定外のことだった

 

「何かまずいことでもあるの?」

 

と浮葉に聞こえないよう小声で話す狐蝶寺

 

「奴の斬魄刀はかなり厄介な能力なんだよ」

 

「それってどんなのうりょ…」

 

狐蝶寺がそこまで言ったところで浮葉が再び話始めた

 

「大方、銀華零隊長が誰かの始解でも使ったのでしょうか」

 

とあたかもその場面を見たような口ぶりでそう呟いた

 

「まるでそれを見ていたかのような口ぶりだな」

 

「このくらいのことなど容易に想像できますよ。銀華零隊長が居れば尚更です」

 

「…まあそんなことはこの際どうでもいい。さっさと椿咲を返せ、浮葉」

 

手を前に差しのべる雷山

 

「…1つ条件があります」

 

「条件だと?まあいい、一応言ってみろ」

 

椿咲を返す条件を提示された雷山は眉を細めたが、一応その条件を聞くことにした

 

「条件とは、そこにいる二人を護廷十三隊に復帰させることです」

 

「こいつらは何者なんだ?」

 

「その二人は護廷十三隊を脱退させられた者たちです」

 

本来護廷十三隊には脱退という制度はない。護廷十三隊入隊前あるいは入隊後に思想が危険と判断されると一部の例外もなく皆、地下特別監理棟通称"蛆虫の巣(うじむしのす)"というところへ隔離・収監されるのだ。護廷十三隊に属していた場合それは脱退扱いになる

 

「なるほどな。なぜこいつらが殺気石の定の鍵を持ってんのかと思えばそう言うことだったか」

 

「ええ、そういうことです。それで、条件は飲んでくれますか?」

 

「…1つ聞くが、仮にその条件を断った場合はどうするんだ?」

 

「その場合は、椿咲副隊長に死んでもらいます」

 

雷山はやはりかと呟いた

 

「白、春麗。今からする問いは五番隊隊長からのものとして捉えてくれ。……お前らの隊にそこの二人を入れてやるのは可能か?」

 

顔を見会う狐蝶寺と銀華零

 

「申し訳ありませんが、三番隊は無理です…」

 

「十三番隊もだよ。山吹ちゃんに怒られちゃうんだよ…」

 

と申し訳なさそうに二人はそう言った

 

「…そうか」

 

とだけ雷山は呟いた。雷山は目を閉じ瞑想する形で思考を深め始めた

 

(どうする…?蛆虫の巣の奴を十三隊に復帰させることはどう見ても危険だ…かといって椿咲を見殺しにするわけにもいかない…)

 

雷山の頭では瀞霊挺の安全を取るか椿咲の命を取るか一瞬の迷いが生まれたが・・・

 

(…んなもん、迷うことはねぇじゃないか…!俺は何のためにここに来たんだ?椿咲を助け出すためだろ!?なら、答えは1つ…!1つしかねぇじゃねえか…!)

 

決心した雷山は固く閉じていた目を開けこう言った

 

「…いいだろう。今回限りその条件を飲んでやる」

 

驚いた顔をする銀華零

 

「雷山さん、本気なんですか…!?」

 

「ああ、背に腹は代えられないというやつだ。部下の命より大事なもんは俺にはない」

 

雷山のその言葉を聞き狐蝶寺は嬉しそうに言った

 

「やっぱ雷山君は雷山君だよ。自分自身より他人を優先させるなんてね!」

 

(だからこそ私は雷山君と共に歩むって決めたんだ…)

 

「まあ、雷山さんが決めたことですから私は止めませんけど…」

 

と心配そうに雷山を見た銀華零だった

 

「雷山隊長、ありがとうございます…!」

 

気がつくと浮葉がその場で深く頭を下げていた

 

「礼はいいからさっさと椿咲をここに連れてこい」

 

「はい、分かりました!!」

 

そう言うと浮葉は全速力で洞窟の更に奥に消えていった

 

「しかし、やはり本当によかったんですか?こんなことが山本さんにバレたら雷山さんの責任問題も必至ですよ」

 

「さっきも言ったろう。部下の命より大事なもんはないってな、バレて隊長を罷免されたら潔く隊長の座を椿咲に渡すだけだ」

 

「そうですか…ではその時は私も…」

 

「雷山君が辞めたら私も隊長を辞めよっかなぁ…」

 

「わざわざ俺に合わせずとも、お前らは好きなときに辞めればいいだろうに」

 

雷山がそう言った時、洞窟の奥から椿咲を抱えた浮葉が戻ってきた

 

「ハア…ハア…。さすがに人1人抱えて走るのは疲れますね…」

 

「おっ、帰ってきたか」

 

と呟き雷山は浮葉の隣に移動した

 

「おい椿咲、お前なんで捕まってるんだよ」

 

「ほへ!?はひはひはははひほう!?(あれ!?雷山隊長!?)」

 

「まてまて、何言ってるか分からん」

 

と言い椿咲の猿轡を取る雷山

 

「ぷはぁ、何でここに居るんですか!?」

 

「霊圧を辿って来たに決まってるだろ。まったく、お前が捕まったからあいつらを五番隊に入れる羽目になったよ…」

 

雷山は安と藪崎を横目に見ながら言った

 

「それでも助けに来てくれたんですね」

 

「そりゃお前がいなくなったら……何泣いてるんだ?」

 

見ると椿咲は泣いていた

 

「私はてっきり助けに来ないものだと……」

 

「お前の眼に俺はどう映ってるんだよ。そんな非情な奴にでも見えてるのか?」

 

「いえ…いえ…」

 

目から溢れだす涙を拭く椿咲

 

「さて、さっさと帰るぞ。……浮葉、分かってるとは思うがお前が今回やったことは問題にしないわけにもいかない事だ」

 

「はい、重々承知です…」

 

「…と思ったが、報告したらしたで面倒なことになるから報告はしないでおいてやるよ。まあ、これに懲りてこんなこと二度とやるなよ。やるならせめて白に一言相談してからやれ」

 

「ちょっと待って下さいよ。それを決めるのは私ですって」

 

気が付くと銀華零も狐蝶寺も雷山の近くに来ていた

 

「…お手数をお掛けしました。雷山隊長、銀華零隊長、狐蝶寺隊長…それから椿咲副隊長…」

 

そして雷山は安と藪崎に目を向けた

 

「そして、お前らは当分の間何かするときには必ず俺に一言言ってからやれよ。そうすれば万が一お前らが何か問題を起こしちまったときも俺が擁護してやれるからな」

 

「は~い」と気の抜けた返事をする安と無言で雷山を睨み付けている藪崎

 

(…思ったよりもこいつらの世話が大変そうだなぁ…)

 

「さて、それじゃあさっさと帰…」

 

雷山がそう言言いかけたとき

 

「…よ」

 

とボソッと声が聞こえた

 

「…?誰か何か言ったか?」

 

「…がわねぇよ」

 

その声の正体は藪崎だった

 

「なんだ藪崎か、もう少し大きな声で言え…あ?」

 

見ると藪崎は震えていた

 

「俺は…俺は…おまえらなんかに従わねぇよ!!!」

 

霊圧を荒げる藪崎だったが

 

「っ!?」

 

藪崎の首筋に斬魄刀が当てられ、動きを止めた

 

「…言っておくが、暴れるってんなら迷わず斬り捨てるからな?」

 

見ると雷山の眼には先ほどとは桁違いの殺気が込められていた

 

腰が抜けその場に座り込む藪崎

 

「まあ、大人しくしていれば何もしねぇよ」

 

鞘に斬魄刀を納める雷山

 

(こいつ…これほどの霊圧を…俺はこんな化け物と戦おうとしていたのか…!?)

 

雷山はその場にいる全員の顔を見て再び

 

「よし、今度こそ瀞霊廷に帰ろう」

 

 

 

 

 

こうして被害もなく椿咲を奪還することに成功した雷山、銀華零、狐蝶寺の三人だった―――

 

 



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第五話

「さて、今回の事を説明してもらおうかの」

 

雷山一行は瀞霊廷に帰還してすぐに元流斎に呼び出され、一番隊舎にいた

 

「椿咲が浮葉とどっか行っちまってたから探して連れ戻してきただけだが?」

 

元流斎の問いに雷山は一息置いて答えた

 

「それで説明になっておると思うてか?」

 

閉じていた目を片目だけ開いて再度元流斎が聞いた

 

「ああ、逆に説明になってないのか?」

 

と平然と答える雷山

 

「ほう、ではこやつらは誰かの?」

 

そうすると、一番隊副隊長・雀部長次郎に連れられた安と藪崎が歩いてきた

 

「…!」

 

(げっ、なんで彼らがここに居るの…!?)

 

顔色を変えずいるがに内心焦る狐蝶寺

 

(雷山さんどうするのでしょうか…)

 

内心心配する銀華零

 

「…はぁ、仕方がないな。さっき言ったことは、まあ本当の事だがその時に浮葉が条件を出して来てな」

 

「条件じゃと?」

 

「ああ、その条件ってのはそこの二人を五番隊に入れてやりたいって内容だった。見た感じ問題もなさそうだったから五番隊に入れた。たったそれだけの話だ」

 

と雷山は平然と嘘を言ってのけた

 

「本当にそれだけか?他に言うべきことはないのじゃな?」

 

「ないが?」

 

「…なるほど、しかし妙な話があっての」

 

と元流斎は懐から一枚の報告書を出した

 

「つい先日の事じゃ。地下特別管理棟”蛆虫の巣”から二名の者が失踪したと報告があっての。ついさっきこの二人を四楓院朝八(しほういんあさや)に確認してもらい、この二名が蛆虫の巣の収監者であることが判明した」

 

そう言う元流斎に対し雷山は焦りを感じていた

 

(ちっ、四楓院の奴余計なことを…だがどうするか…)

 

「どうした?何か申してみよ。雷山悟」

 

(さすがに隠し通すのは無理だな…)

 

「はぁ…ああ、そうだよ。そいつらは蛆虫の巣の収監者だ」

 

「おぬし、こやつらが収監者であることを知りながら五番隊に入れたのか」

 

「ああ、そうだが何か問題か?」

 

「雷山、貴様それを本気で言っておるのか!!蛆虫の巣に収監されるものは思想的に問題と判断された者たちじゃ!その者たちをよもや護廷十三隊に復隊させるなど…!」

 

元流斎の言葉に怒りがこもるが雷山はお構いなしに

 

「いいじゃねぇか。こいつらが反乱を起こしたら叩っ斬ればいいだけの話じゃねぇか」

 

と反論した

 

「そう言う問題ではないのじゃ!!」

 

「ったく、話の通じないじじいだな…」

 

その時その場にいる全員が雷山、元流斎両名の霊圧が高まっていくのを感じた。その霊圧は想像を絶しており、浮葉、安、藪崎の3名はすでに立てなくなるほどだった。しかし、そのことを意に介さず二人の霊圧はどんどん上がっていく。そしてついに雀部、椿咲も立てなくなるほどにまで高まった

 

「……」

 

雷山が斬魄刀の柄に手をかけた瞬間

 

「ぐふっ!?」

 

突如雷山の頭に激痛が走った。驚き後ろを振り返ると殴ったのは白だった

 

「痛ってぇ…白、何をしやがる」

 

頭をさすりながら雷山は言った

 

「雷山さん、あなた今山本さんに斬りかかるつもりだったでしょう」

 

「…それの何が悪い?」

 

「今はそんなことをしている場合じゃないでしょう!あなたはここに何しに来たんですか!?山本さんを説得するためでしょう!!なのに、斬りかかったりしたらますます劣悪な空気になるじゃないですか!!」

 

(白ちゃんがここまで怒るのは久々に見たなぁ…汗)

 

狐蝶寺は冷汗をかいて様子を見ていた

 

「その説得ができてないからこうなってるんだろ!?いいか、お前も責任問題に問われかねないんだぞ!?それを何とかしようとしてるんじゃねぇか!!なぜそれが分からないんだ!?」

 

雷山は気が収まらず銀華零と口喧嘩を始めだした

 

「雷山悟、銀華零白後にせ…」

 

「山本は黙ってろ!!」 「山本さんは静かにしていてください!!」

 

「ぐぬぬ…」

 

その口論は護廷十三隊総隊長・山本元流斎重國も入れないほど白熱したものになってしまい、その口論は狐蝶寺が仲介に入ってもなお一時間続いた

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

「さて、ようやく収まったの、それでは処分を言い渡す。三番隊副隊長・浮葉刃は一週間の謹慎処分とし、三番隊隊長・銀華零白は不問とする」

 

「申し訳ありません、山本総隊長」

 

深々と頭を上げる銀華零と浮葉

 

「なお、この二名は雷山の監視下で五番隊隊士として活動することを許可ということとする」

 

「まあ、普通はそうなるわな。こいつらの面倒は任せておけ、山本」

 

雷山も礼儀として元流斎に一礼をした

 

「今回の件について各隊隊長には追って通達する。よって、それまでは安、藪崎の両名は五番隊隊舎の外に出ることは禁ずることになるが良いかの?」

 

「それは仕方ないな。それまでこいつらにおおまかな仕事を教えるか」

 

「では、これにて解散とする」

 

杖を突く音がその場に響いた

 

「よし、それじゃ隊舎に戻るか。安と藪崎もついて来い、隊士の連中にお前らを紹介しなきゃならないしな」

 

「それじゃあ、隊舎に戻りましょう!」

 

そう言いその場を去って行く雷山たちを銀華零と狐蝶寺が呼び止めた

 

「雷山君、ちょっと待ってよ!」

 

「あ?どうしたよいきなり」

 

呼び止められ振り返る雷山

 

「約束を忘れてない?」

 

「約束って……あーあれか…」

 

嫌なことを思いだしてしまった雷山

 

「約束ってなんですか?」

 

雷山と狐蝶寺、銀華零の約束に興味津々の椿咲

 

「南美ちゃんを助け出したら何かおごってくれるって約束だよ!」

 

「お前が勝手にそう言ってるだけだけどな。だが、まあ協力してもらったのは確かだし今回は好きなもん奢ってやるよ」

 

雷山のその言葉を聞き狐蝶寺は喜び飛び跳ねた

 

「やったー!!」

 

「ったく、ホントに餓鬼だな。…お前らも来るか?」

 

雷山は後ろにいる安と藪崎にも声をかけた

 

「もちろんですよ。雷山隊長」

 

「…仕方ねぇからついて行ってやるよ」

 

「よし!それじゃあ出発だー!!」

 

意気揚々と叫ぶ孤蝶寺を無視して雷山たちはその場を後にしていった

 

「ちょっとー!!おいてかないでよーー!!」

 

 

 

 

 

椿咲南美誘拐篇 ~fin~

 

 

 

 



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初代隊長反乱篇
第一話(第六話)


南流魂街79地区【斬鬼(ざんき)】―――――――――――

 

「ハア…ハア…」

 

そこにある森の中を走る影が一つ

 

(いったいあいつは何なんだ…!?)

 

その正体は護廷十三隊の一般隊士だった

 

ドサッ

 

その場に転んでしまう一般隊士

 

「うっ…ててっ…」

 

顔を上げると目の前に一人の死神が立っていて、隊士を見下ろしていた

 

「くっ…!お、お前は何者だ!?」

 

「…俺の名前は影内愧龍(かげうちきりゅう)

 

「影内…愧龍…?」

 

そこまで言った時隊士は気づいた

 

 

「…!!貴様、その羽織はどこで手に入れた…!?」

 

影内愧龍と名乗る死神は隊長羽織を身に着けていたのだ

 

「…これは山本のじいさんからもらったもんだ」

 

「なっ!?貴様…何を言って…!?」

 

「お前に恨みはないが、あいつの命令なのでな」

 

そう言い影内は腰の斬魄刀に手をかけた。次に影内が何をするか悟った隊士は、

 

「……!や、やめろ…この事は誰にも言わぬから…!」

 

命乞いをしたが、無情にも刀は振り下ろされた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浮葉刃が起こした椿咲南美誘拐事件から十ヶ月――――――――

 

「またか…」

 

眉間にシワを寄せ雷山は報告書を読んでいた

 

「隊長、どうしたんですか?そんな難しい顔をして」

 

「ん、いやまた隊士が襲われる事件が多発しはじめてだな…」

 

「隊長が倒したっていう虚がまだ生きていたとかはないんですか?」

 

椿咲が言っているのは、数か月前に起きたとある事件である

 

「いやそれはない、あいつが霧散して消えるのを確かにこの目で見たしな…」

 

雷山はレオネ・フォレスタが消えて行った時の事を思い出していた

 

「そう言えば、その破面はどこで倒されたんですか?あの時はたぶらかされましたが今日という今日はそうはいきませんよ?」

 

その言葉を聞き雷山は一瞬固まった

 

「…気になるのか?」

 

「ええ、もちろん」

 

「…はぁ、仕方ないな。話してやるからこのことを言いふらすんじゃねぇぞ」

 

「了解しましたぁ♪」

 

その後雷山は自身が失踪した10日間の事を話した。自分は未来に飛ばされ、そこの未来で藍染という死神が破面を率いて尸魂界に戦争を仕掛けたこと、自身を未来に飛ばした破面とその仲間との死闘、そしてその戦いで未来の銀華零が死亡したこと

 

「10日の間にそんなことが…」

 

「ああ、ついでにお前は霊術院の講師なんてやってた。信じられるか?」

 

「我ながら信じられませんね。人違いなんじゃないですか?」

 

それは俺も思ったと雷山は答えた

 

「だが、あれは完全にお前だったな。今とそう大して変わらなかった」

 

「え!?私成長しなかったんですか!?」

 

と自分の胸を見て椿咲はそう驚いたように声を上げた

 

「どこ見て驚いてんだよ。頭の話だ、頭の」

 

「ちょっと待って下さい!頭の話ってどういうことですか!?」

 

「は?そのままの意味だが?」

 

「その頭の話ってもしかしてですけど、私がバカっていう話じゃないんでしょうね…?」

 

「もしかしなくてもそういう話だ」

 

「このチビがあああぁぁぁ!!涙」

 

胸ぐらを捕まれ左右に揺すられながら雷山は

 

(なるほど、未来の椿咲のあの言動はこの頃から始まってたのか…)

 

と揺すられていることを気にもとめずそんなことを考えていた

 

気がつくと椿咲は床にうずくまり泣いていた

 

(この光景どっかで見たような…)

 

とその様子を雷山は眺めてみていた

 

「おい、雷山ァ~」

 

その時書類を持った藪崎がやって来た

 

「…結局おまえは一度も俺を隊長って呼ばなかったな」

 

「あ?文句か?生憎そういうのは受け付けてねぇんだわ。他を当たりな」

 

「文句じゃねぇよ。で、その手に持ってる書類は何だ?」

 

「ついさっき外を歩いていたら、狐蝶寺だっけか?そいつにそれを雷山に渡しとけって言われてな」

 

「お前、あいつの言う事は聞くんだな」

 

意外なものを見たというの様な顔をする雷山に

 

「あれと四番隊隊長と三番隊隊長は怒らせたらまずい部類だからな。できるだけ怒らせないよう努力してる」

 

と耳打ちして答える藪崎

 

「そんなもんに努力するなよ」

 

「おいおい、雷山も分かるだろ。あいつらは怒らせたらまずいって」

 

「まあ、否定はしないけどな」

 

「ああ、ところでそこでうずくまってるそれは何だ?」

 

藪崎はいまだ床にうずくまり泣いている椿咲を指差して言った

 

「あー…まあ気にすんな」

 

「……よく分かんねぇがまあいいや。じゃあな」

 

と言い残し藪崎は出て行った

 

「オラ、お前はいつまで泣いてるんだよ。シャキッとしろシャキッと」

 

「だって隊長が…隊長が…」

 

「はぁ…めんどくせぇな」

 

雷山はいつまでたっても泣き止まない椿咲を放っておこうと思った

 

気が付くと椿咲は泣き止んでいた

 

「はあ!泣いたらスッキリしました!」

 

「泣きすぎだバカヤロウ」

 

そう言い机に置いてある湯飲みを取ろうとしたとき

 

「…ん?このセリフ前にも言ったような…」

 

「何一人でコントしてるんですか」

 

「うるさい、元はと言えばだなぁ…」

 

「やっほー、雷山君!あれあれ、また喧嘩ですかね?」

 

雷山が何かを言おうとしたとき狐蝶寺が訪ねてきた

 

「…今日はやたらと人が来るな。というかお前は毎日毎日ここに来てそんなに暇なのか?」

 

「へ?暇なわけないじゃない。仕事を山吹ちゃんに丸投げして来ちゃった」

 

他人事のようにそう言う狐蝶寺

 

「後で山吹に怒られるやつだな。副隊長に説教される隊長なんか見たことねぇぞ」

 

「私が隊長になったら毎日されそう…」

 

「椿咲、お前に隊長を任せるつもりはまだないから安心しな」

 

「そんなこと言わずに、そろそろ私に隊長を任せてもらってもいいんですよ?卍解も修得しましたし、実力は申し分ないと思うんですよ」

 

「今のお前が隊長になったら隊が成り立たなくなるわ。もう少し副隊長で経験を積め」

 

雷山がそう言ったと同時に五番隊第三席・実松矢井がやってきた。

 

「雷山隊長失礼します。……おや、狐蝶寺隊長もいらしたんですかちょうど良かったお二方に山本総隊長から召集が来ております」

 

「あれ、私と雷山君の二人だけ?」

 

雷山の食べているせんべいを横取りしてそれを食べながら狐蝶寺は言った

 

「いえ、隊長全員に対しての召集です」

 

「何の用なんだろうね」

 

狐蝶寺から召集状を受け取る雷山

 

「……まあ大体察しはつくけどな」

 

「え、教えてよ雷山君」

 

「行けば分かることだからわざわざ言う必要もないだろ」

 

席を立ち部屋を出ていこうとした雷山だったが、何かを思い出したように立ち止まり振り返った

 

「そうそう、椿咲はちゃんと仕事しとけよ。それと実松、椿咲がサボってるようだったら問答無用で取り押さえてくれ」

 

それを聞いた実松は椿咲の両腕を掴んだ

 

「ちょっと待ってくださいよ。隊ちょ…」

 

「了解致しました。雷山隊長」

 

「ん、じゃあ行ってくる」

 

 

 

 

 

 

 

 




ー追記ー
南流魂街78地区を79地区に修正しました


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第二話(第七話)

雷山達が一番隊舎に着くと大方の隊長たちがすでに揃っていた。

 

「おじいちゃん!私たちに用事って何?」

 

元柳斎を見て早々狐蝶寺がそう叫んだ

 

「おい狐蝶寺!山本総隊長殿に何て言い草だ!!」

 

二番隊隊長の四楓院朝八(しほういんあさや)が狐蝶寺に突っかかってきた

 

「まあ良い四楓院隊長。狐蝶寺隊長に何を言っても無駄であることはおぬしも重々承知であろう」

 

朝八は自分の定位置に戻っていった

 

「狐蝶寺隊長、もう少し待たれよ。用は他の者達が揃ってから話す」

 

そして数分後空席となっている八番隊隊長以外のすべての隊長が揃った

 

「皆、緊急の招集によう集まってくれた。今回集まってもらったのは、例の隊士襲撃の件についてじゃ」

 

(やはりか…)

 

雷山の予想が見事に当たった

 

「我らもこのまま手をこまねいている訳にもいかぬ。そこで二番隊、四番隊、十二番隊数名を隊士が最も襲撃を受けていると報告がある南流魂街79地区【斬鬼(ざんき)】へと送ることにした。そのことを伝えるための急の招集じゃ。皆、異論はないかの?」

 

「調査くらいなら俺が行ってやるんだがな」

 

「雷山、おぬしはつい先日失踪事件を起こしたばかりじゃろう。残念じゃがしばらくはおぬしに調査を任せるわけにはいかぬ」

 

「……ちっ」

 

「では、二番隊隊長・四楓院朝八、同隊副隊長・四楓院夜九(しほういんやく)、四番隊副隊長・薬師寺見舞(やくしじみまい)、十二番隊隊長・八道矢宵(やじやよい)、同隊副隊長・刳八将(くるやしょう)の5名を調査部隊とする」

 

一礼し四楓院朝八と八道矢宵は瞬歩でその場を去った

 

「卯ノ花隊長、薬師寺副隊長にこの後すぐに朱洼門(しゅわいもん)に集合する旨を伝えてはくれぬか」

 

「了解いたしました」

 

「では以上を以て解散とする」

 

隊長たちが去っていく中、雷山は元流斎に話しかけた

 

「山本、あいつらを信用してないわけじゃないんだが本当にあいつらだけで大丈夫だと思うか?」

 

「何を心配しておるのじゃ。……まあ、確かにいささか不安は残るが大丈夫じゃろうて」

 

「と言ってもだなぁ……今回ただの襲撃とは思えないんだよ。山本」

 

「それはおぬしの勘じゃろう。そもそもおぬしの勘は当たったことないではないか」

 

「まあそうだが…うむ、仕方がない…か」

 

雷山は納得がいってなかったが仕方なくその場を去った

 

五番隊舎へ帰る途中朱洼門へ向かう途中の二番隊隊長の四楓院朝八と副隊長の四楓院夜九の二人を見つけた

 

「よぉ朝八。最近瀞霊廷を騒がしてる奴に言われたくはないだろうが、気をつけて行って来いよ」

 

「ふん、貴様に言われるまでもない。すぐに反逆者を連れてきてやろう」

 

「相変わらず自信だけは達者だな。まあいい、とりあえず気を付けて行けよ~」

 

「……行くぞ、夜九よ」

 

「はい、朝八様」

 

その後朝八たちは八道矢宵たちと合流し南流魂街79地区【斬鬼】へと出発した

 

 

               ・

 

 

               ・

 

 

               ・

 

 

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               ・

 

 

「…よし、ここが隊士が襲撃を最も受けている場所だな。各自あたりを調べ…」

 

「破道の八十三"炎縄(えんじょう)"」

 

その瞬間炎をまとった縄が朝八一行にめがけて向かってきた

 

「!?」

 

「ちっ」

 

朝八一行は難なくよけ、縄はそのまま地面にあたり当たった場所は爆発し土煙が立った

土煙が晴れると目の前に隊長羽織を着た死神が立っていた

 

「やれやれ、ようやく隊長が出てきたか」

 

「……貴様、何者だ?」

 

「俺の名は、影内愧龍(かげうちきりゅう)

 

「聞かぬ名だな。……貴様が着ているその羽織はそう簡単に手に入るものではない。どこでその羽織を手に入れた……」

 

「これは山本のじいさんからもらったものだ」

 

「山本総隊長殿からだと!?……貴様先代の隊長か?」

 

「ああ、先代…いや、初代護廷十三隊九番隊隊長・影内愧龍だ」

 

「初代護廷十三隊だと!?貴様、何を寝ぼけたことを言っている。初代護廷十三隊など生きているわけがないだろう!!それを…」

 

朝八の言葉を影内が遮った

 

「ついこの前瀞霊廷の偵察から戻った蜂乃背(ふうのせ)がじいさんの他4名生存しているのを確認したそうだが?」

 

「なっ…」

 

朝八を含めた全員が驚いている様子だった

 

「まあ、お前らが知らないのも無理はない。あいつらが自ら初代十三隊隊長だと言うとは思えないからな」

 

「……その4名とは誰の事だ…!」

 

「そんなことをお前に言ってどうするよ。これから死ぬお前らに」

 

そういうと影内は腰に差してある斬魄刀を鞘から引き抜いた

 

「さて、お前らはどれくらい持ち堪えるのかな?」

 

「……!」

 

影内の霊圧に高さに気付いた朝八は夜九に命令した

 

「夜九!!今すぐこのことを瀞霊廷に報告しろ!!ここは私と八道隊長で何とかする!!」

 

「か、かしこまりました!!」

 

その様子を見た影内は

 

「逃がす訳がないだろう。”(くる)()とせ”『狂陰(きょういん)』」

 

影内が始解すると夜九が突然苦しみだした

 

「ぐわぁぁ…!!」

 

「夜九、どうした!?」

 

「そんな…あれは…そんなわけは…」

 

夜九は苦しみだしたと思ったら今度はうわ言を言い始めた

 

「貴様、夜九に何をした…?」

 

「ちょっとこいつのトラウマを思い起こしただけだ。中にはお前みたいに効かないやつもいるんだが、そいつには相当なトラウマがあるみたいだな」

 

朝八に怒りが込み上げてきた

 

「八道隊長、報告は瀞霊廷に戻ってからにしよう…」

 

「え?あ、ああ…」

 

「”花見(はなみ)葉見(はみ)ず”『彼岸花(ひがんばな)』」

 

「”(もぐ)()め”『傀儡蟲(くぐつちゅう)』」

 

二人の斬魄刀はそれぞれ短刀とムカデのように変化した

 

「それがお前らの斬魄刀か。思っていたよりも楽しめそうだな」

 

「初代十三隊の実力拝見させてもらうぞ…!」

 

影内はニタァと笑い呟いた

 

「まずは二人…」

 

 

 *  *  *

 

 

「雷山隊長!!」

 

実松が大急ぎで走ってきた

 

「なんだなんだ?そんなに騒いで」

 

「じ、実は…」

 

実松は雷山に朝八たちが初代護廷十三隊九番隊隊長を名乗る者と戦闘状態に入り救援がいるとの報告が入ったことを伝えた

 

「初代九番隊隊長だと!?影内のことか?」

 

「いえ、そこまでは分かりません」

 

「クソッ、椿咲のやつ肝心な時に……実松、俺は山本の所へ行ってくる。椿咲が戻ったらここで待機するように伝えてくれ」

 

「了解しました」

 

雷山は急ぎ足で元柳斎の元へ向かった

 

雷山が元柳斎のもとにつくとそこにはすでに銀華零、狐蝶寺の姿があった。

 

「お前ら何でここにいるんだ?」

 

雷山の問いに銀華零が答えた

 

「山本総隊長に呼ばれたんですよ。雷山さんこそなぜここに?」

 

「俺は山本に用があって来たんだ。山本、朝八たちの救援には俺が行く相手はほぼ間違いなく影内だ。あいつらじゃ勝てん」

 

「雷山の気持ちもわかるが、四楓院隊長たちの救援には銀華零隊長、狐蝶寺隊長の二名に向かってもらう」

 

「なぜだ!?俺が行けば確実にやつを倒せる!!それが…」

 

「雷山!!それはこの二人が信用できないと申しておるのか?おぬしは幼馴染であり最も信頼できるであろう仲間が影内愧龍に敗れると申しておるのか?」

 

元柳斎の怒号が響きあたりがシンッとした

 

「雷山さん、心配しないでください。ちょっと行って帰ってくるだけですよ」

 

銀華零のその顔がかつてレオネ・フォレスタから自分たちをかばってくれた未来の銀華零の顔と重なった

 

「そうだそうだ!私たちを嘗めてもらっちゃ困るよ!」

 

「……分かった、お前らを信じよう。だが、死ぬなよ」

 

「もっちろん!」

 

「では、山本さん。これから朝八さんたちの救援に向かいます。場所は斬鬼ですよね?」

 

「うむ、そうじゃ。敵が本当に影内愧龍かどうかは不明じゃが気を付けてくれ」

 

そうして銀華零と狐蝶寺は斬鬼へ出発して行った。

 

 

 




ー追記ー
南流魂街78地区を79地区に修正しました


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第三話(第八話)

南流魂街79地区【斬鬼】―――――――――――――

 

「はあ…はあ…バ、バカな傷一つ負わせられないだと…!?」

 

その場にひざまずく朝八、その後方では薬師寺が四楓院夜九の手当てをしており朝八と薬師寺たちの間に刳八(くるや)が立っている状態である

 

「もう少し楽しめるかと思えば、所詮はこんなもんか……」

 

「くそっ…」

 

「まあ、いい暇つぶしができたよ。そのことには感謝しておくとするか。じゃあな、二番隊隊長」

 

影内が朝八を切り捨てようとしたそのとき

 

「破道の三十一”赤火砲(しゃっかほう)”」

 

影内に向け火の玉が飛んできたが影内は斬魄刀でその火の玉を叩き切った

 

「なんだ、まだ意識があったのか。十二番隊隊長の…えっと…まあいいか」

 

八道(やじ)は朝八から見て影内の左斜め後方に倒れていた

 

「っふ、こっちのやつから始末しようと思ったがお前から始末することにするか」

 

そう言って影内は八道が倒れているほうへ歩き出した

 

「待て、くっ…」

 

朝八は影内の後を追おうとしたがその場に倒れた

 

「そんな急がなくてもすぐにこいつの後を追わせてやるよ」

 

影内は刀を振り上げこう言った

 

「あと1人でも隊長を連れてくればよかったものを…じゃあな、哀れな十二番隊隊長」

 

刀が振り下ろされるその瞬間だった

 

「縛道の八十”樹縛(じゅばく)”」

 

その瞬間影内の足元から樹木が生えてきて、たちまち影内を捕らえた

 

「これは…」

 

「なんとか間に合いましたね」

 

「まさか本当に影内君がいるなんてね」

 

影内は声のするほうへ目を向けた

 

「っ!!お前らは…」

 

そこにはかつての戦友である、初代三番隊隊長・銀華零白と初代十三番隊隊長・狐蝶寺春麗がいた

 

「なるほど、じいさんはお前ら二人をここへ向かわせたか。てっきり雷山が来るものだと思っていたんだがな」

 

「雷山さんはちょっとした事情でここへは来ませんよ。私たちを人質に取ったとしても無駄です」

 

「まっ、影内君に敗けるつもりもないけどね!」

 

「はっ…ははっ…」

 

ザシュッ

 

影内はたった一振りで自身を縛っている樹木を斬った

 

「二番隊隊長よ、お前が知りたがっていた現在生存している初代十三隊隊長4名のうち2名はお前の目の前にいるその2人だ」

 

「なっ…!?銀華零隊長と狐蝶寺隊長が初代十三隊隊長だと!?」

 

「ごめんね朝八君。言う必要がないと思って言わなかったんだよ。私も白ちゃんも雷山君もね」

 

斬魄刀の峰内を肩にあてながら影内が近づいてきた

 

「だから言ったろ。あいつらが自ら初代十三隊隊長だと言うとは思えないとな。それにしてもまさかこの二人が来るとは思わなかったな…」

 

そう言うと影内は斬魄刀を鞘に納めた

 

「やれやれ、隊長を二人始末できると思ったのにな。ここは退くか…」

 

「私たちから逃げられるとでも?」

 

「もちろんただ逃げるだけじゃ撒けないだろうな。縛道の五十六”雷鳴光(らいめいこう)”」

 

その瞬間影内がいた場所に雷が落ちた。一瞬の出来事だったがその場にはもう影内の姿はなかった

 

「逃げられましたか…春麗ちゃん深追いをしてはいけませんよ」

 

「まずは朝八君たちの救援でしょ?私が辺りを警戒しておくから白ちゃんはみんなをよろしくね」

 

銀華零はうなずくと薬師寺のもとへ歩み寄った

 

「薬師寺副隊長、みなさんの怪我の具合は?」

 

「はい。四楓院隊長、八道隊長は大けがですが命に別条はありません。夜九副隊長、刳八副隊長は共に無傷ですが夜九副隊長の意識が戻っていません」

 

「そうですか…とりあえず一旦瀞霊廷に戻りましょう。またいつ影内さんがやってくるかも分かりませんし」

 

「そうですね。夜九副隊長は私が背負っていきましょう」

 

「分かりました。八道隊長は私が四楓院隊長は春麗ちゃんに背負ってもらいましょう」

銀華零がそう言ったとき朝八がふらつきながらも立ち上がり

 

「いや、私にかまわなくてもいい…これくらいの傷なら自力で歩ける…」

 

「ですが…」

 

「くだらないと思うだろうが、私にもプライドがある…女子(おなご)におぶさってもらったとなれば四楓院家末代までの恥だ…」

 

「はぁ…仕方がないですね。どうしてこうも貴族の方はプライドの高い方ばかりなのでしょう」

 

銀華零がそう嘆いたとき

 

「白ちゃん、みんなの具合どう?」

 

狐蝶寺が木にぶら下がって様子を見に来た

 

「皆さん無事ですよ。私は八道隊長をおぶっていくので春麗ちゃんは護衛をお願いします」

 

「了解!」

 

瀞霊廷へ向け歩き出した数分後、朝八は狐蝶寺にとある質問を投げかけた

 

「狐蝶寺隊長、先ほどの影内との会話の中で雷山悟の名が出てきたんだがまさかやつも初代隊長の一人なのか?」

 

「うん、そうだよ」

 

「なるほど、どうりで山本総隊長殿にあのような態度をとれるわけだ」

 

「そうなんだよね。私も白ちゃんも礼儀はわきまえようよって言ってるのに全く聞かないんだよ~」

 

「……やつは、狐蝶寺隊長にだけは言われたくないって言いそうだな」

 

そして銀華零たちは影内の追撃を受けることなく瀞霊廷に帰り着いたのだった

 

「おいおい、これはまた随分とひどくやられたもんだな」

 

朱洼門(しゅわいもん)で待っていた雷山は朝八と八道の姿を見てそう言った

 

「私たちが着くのがあと少し遅かったら二人ともやられてました」

 

「相手は本当に影内だったのか?」

 

「ええ、まず間違いなく影内さん本人だと思います」

 

「なるほどな……」

 

雷山はそう呟くと朝八のほうへ目を向けた

 

「どうだった朝八。影内は強かったか?」

 

「ふんっ、口ほどにもないな。初代十三隊というのは…」

 

「そう言ってる割にはボロボロじゃねぇか」

 

「ふんっ…」

 

「まあいいさ、お前らはゆっくり休みな。あとは俺たちに任せておいてくれればいい」

 

 

* * *

 

 

尸魂界南流魂街77地区【埜口(きぐち)

 

「おい蜂乃背(ふうのせ)、帰ってきたぞ~」

 

影内がそういうと一人の男が応答した

 

「やっと戻ったか。目的どうり隊長を二人始末できたのか?」

 

「いやそれがな、銀華零と狐蝶寺に邪魔されて始末するまではできなかった」

 

「は?あの二人が来たのか?てっきり雷山が来るかと思ったんだが」

 

「銀華零が言うには、”雷山さんはちょっとした事情でここへは来ませんよ”だとさ」

 

二人の会話を聞いていたもう一人が反応した

 

「ちょっとした事情?なんか気になるねぇ」

 

「ああ、しかし厄介だなこっちは全員で7人あっちは隊長が12人も居やがる」

 

「しかもそのうち5人は俺たちのかつての戦友…山本のじいさんも雷山も存命」

 

「この戦力差はきついところだね~」

 

猫間(ねこま)、何をそんな気楽そうに言ってんだ」

 

「気楽そうに入ってないよ。楽しみなんだよ。彼らとは一度でもいいから戦ってみたかったんだよねぇ」

 

「気分屋のお前が珍しくやる気じゃないか」

 

「僕がやる気になろうがならなかろうが僕の自由さ」

 

「まあ、要注意はたかが5人だし、あいつの能力もある。何とかなるだろう」

 

「じゃあ…?」

 

「ああ、あいつが来たら瀞霊廷を落としに行くぞ。それまで各々準備でもしていてくれ」

 

 

 

 

 

 




ー追記ー
南流魂街78地区を79地区に修正しました

縛道の五十六”雷鳴光(らいめいこう)
効果:自身のいる場所に雷を落として自身の姿を一瞬見えなくする

縛道の八十”樹縛(じゅばく)
効果:地中から樹木を生やし相手の自由を奪い、捕らえた者の霊力を吸い取ることで樹木はどんどんと大きくなる。ただし相手の霊力すべてを奪うことはできない


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第四話(第九話)

瀞霊廷・一番隊隊舎内

 

そこでは帰還した銀華零、狐蝶寺の報告が行われていた。しかし四楓院朝八と八道矢宵の姿はなかった

 

「では、本当に影内本人じゃったと?」

 

「はい、間違いなく影内さんでした」

 

「うむ…誠に信じがたい話じゃが…」

 

「影内を知っている白が言うんだ、間違いないだろ。それに影内自身も白と春麗を知っていたんならなおさら本人の可能性が高い」

 

「しかし、まさか初代十三隊隊長が生きているなんてな…」

 

十一番隊隊長・大澄夜剣八(おおすみやけんぱち)がそう呟いた

 

「いや、影内は死んでいる。それは俺たちが実際に見ているから間違いない」

 

「じゃあなぜ…」

 

「それは山本、卯ノ花、白あたりはもう見当がついてるんじゃないのか?」

 

卯ノ花と白は無言で頷いた

 

「白ちゃんたちわかってるの!?私にも教えてよ!」

 

「ふっ、そういえば死者を蘇らせる斬魄刀を持ち生死不明なやつがいたっけな」

 

「えっ、それってまさか…」

 

狐蝶寺の顔色が変わった

 

「ああ、元十二番隊隊長六道死生(りくどうしせい)のことだ」

 

「…!?バカな、奴が生きているなど…」

 

元柳斎が驚きの声を上げた

 

「確かにあいつが生きているとは思わないが、死んだはずの影内が生きているとなると、あいつの斬魄刀の能力しか考えられない。少なくとも敵は六道の斬魄刀を持ってる」

 

「しかし初代十三隊の隊長たちを生き返らせて何をするつもりじゃ…」

 

「さあ、分からんが隊士や隊長を襲撃したということは十三隊を潰そうとしているのは確かだな」

 

「うむ…」

 

「まあ、警戒することに越したことはないな」

 

「…全隊長に命ず、これより戦の準備にかかれ。奴らがいつ攻めてきても全身全霊を込め相手が誰じゃろうと油断せず髄から粉々に打ち砕け!!」

 

全隊長は一礼し一番隊舎内議場を後にしていった

 

「やれやれ、今度はあの破面より厄介な奴らが相手になったな」

 

一番隊舎を後にした雷山は狐蝶寺とともにそれぞれの隊舎へと戻っていた

 

「ホントだよね、六道君は何を考えてるんだろうね」

 

「ついこの間破面の事件と椿咲の誘拐があったてのに、ここ最近物騒じゃねぇか」

 

「400年前と比べたら平和でしょ」

 

「あの時と比べても異常だろ」

 

(未来の時代の藍染が起こした事の方がまだ可愛く思えるくらいだ。……ん?待てよ、確かあの時見た隊の記録にはこんな出来事書いてなかったような…)

 

「雷山くーん?ちょっと聞いてるー?」

 

気づくと狐蝶寺が雷山の顔を覗き込んでいた

 

「悪い、聞いてなかった」

 

「……なんか雷山君最近考え事が多くなったね。どうかしたの?」

 

「お前と違って考えることが多いんだよ」

 

「ひどい!!」

 

狐蝶寺はその後雷山が見えなくなるまで散々喚き散らしたのだった

 

「戻ったぞ。…あ?」

 

隊長執務室に入るがそこには誰もいなかった

 

(…下らんことしやがって)

 

雷山は何事もなかったかのように自分の席につきこれからどうするかを考え出した。

 

すると突然雷山の背後に椿咲が表れた

 

「隙あり!!油断しましたね、隊長」

 

椿咲は席に座る雷山に拳骨を仕掛けたが

 

「あり?」

 

気がつくと目の前から雷山が消えていた

 

「……まーた失敗かぁ」

 

「お前はワンパターンなんだよ。毎度毎度同じことをしやがって、そんなに俺を出し抜きたけりゃもっと自分の力を磨け」

 

「隊長、そろそろ陽炎写(かげろううつし)を解いて出てきてくださいよー」

 

「やれやれ…」

 

すると隊長執務室の入り口付近に雷山の姿が現れた。それを見てニヤリと笑う椿咲

 

「おりゃー!」

 

椿咲は再度雷山に向けて拳骨を仕掛けたしかし雷山はそれを難なく受け止めていた

 

「だからワンパターンだって言ってるだろ。今はお前とこんなことしてる暇はない、話すことがあるからさっさとそこに座れ」

 

言われたとおりに椅子に座る椿咲

 

「それで、話って何なんですか?」

 

「さっき白と春麗が戻ってきてな。相手が本物の影内だということが確認された」

 

「…確か初代十三隊の隊長は雷山隊長たちを除いたら死んでいるって言ってませんでしたっけ?まさか、生き返ったって言うことなんですか!?」

 

「ああ、そのまさかだ。俺たちの仲間に死者を蘇らせる斬魄刀を持ったやつがいてな、少なくとも相手はその斬魄刀を持っているって結論に至った」

 

「そんな斬魄刀があるなんて…」

 

「時代を飛ばす能力を持つ斬魄刀もあったんだ。死者を蘇らせる斬魄刀があっても不思議じゃないだろう」

 

「そうですけど…」

 

「まっ、そういうわけだ。近々あいつらと全面対決になるかもしれんな。それを頭に入れといてくれ」

 

「了解しましたー!」

 

椿咲はいつも通り返事をした

 

「俺が唯一お前をすごいと思えるのは、その物怖じしないところだな」

 

「いざとなったら隊長が助けてくれますし」

 

「結局俺任せかよ。そんなこと言ってるとホントに助けてやんねーぞ?」

 

「見捨てないでくださいー!!」

 

 

 

* * *

 

 

 

 

「よし、そろそろ行くぞ!」

 

蜂乃背がそう声を上げた

 

「うるさいぞ蜂乃背。それを決めるのは六道のやつだろ」

 

鬱陶しそうに影内は言った 

 

「ホントに自分勝手だねぇ。嫌になっちゃうよ」

 

猫間は自身の斬魄刀を磨きながらそう言った

 

「なんだよお前ら、俺は自分勝手じゃないしうるさくもないぞ。さっさと行って奴らを潰そうぜ」

 

「だから六道が来るまで待ってろって言ってるだろ」

 

影内と蜂乃背の言い争いが始まろうとしたその時だった

 

「うるさいな、くだらん言い争いをするな。まったく、数百年経ってもお前らは変わらんな」

 

「!?」

 

影内と蜂乃背が声のする方を見ると顔に仮面をつけた男が立っていた

 

「ようやく来たか六道。待ちくたびれたぞ」

 

「ああ、悪かったな。……全員揃ってるか?」

 

その場にいた影内、蜂乃背を含めた6人が頷く

 

「よし、では予定通り瀞霊廷へ侵攻する。目標は護廷十三隊全隊長の殺害だ。副隊長以下は生かしておいて構わないが、邪魔するようなら始末しろ」

 

「りょーかいだ」

 

「では瀞霊廷へ向け出発だ!!」

 

 

 

 

 



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第五話(第十話)

南流魂街79地区【斬鬼】を出発した六道死生(りくどうしせい)以下6人はすでに瀞霊廷の南にある朱洼門の目の前までやってきていた

 

「よし、再度確認だ。目標は全隊長の殺害、副隊長以下は放っておいてもいいが邪魔するようなら始末しろ。以上だ」

 

六道が影内たちに再度瀞霊廷襲撃の確認を取った直後

 

「おめぇら、ここで何しているんだ?」

 

当時の朱洼門門番微錠丸(びじょうまる)が六道たちに気づいて近づいてきた

 

「朱洼門の門番か……特に何もしてないさ。ただ、この門を突破させてもらおうとしているだけだ」

 

その時微錠丸は六道たちが隊長羽織を身に着けていることに気づいた

 

「おめぇら何者だ!?悪いが、この先を通すわけにはいかぬ!!」

 

そう声を荒げ六道を攻撃しようとする微錠丸だったが次の瞬間

 

「…うるさい」

 

六道は微錠丸を真っ二つに斬っていた

 

「なっ!?」

 

微錠丸の右半身と左半身がそれぞれ別々の場所へ横たわる

 

「”下僕(しもべ)()せ”『黄泉(よみ)』」

 

始解した六道は斬魄刀を地面に突き刺した。するとその場所から先ほど斬り倒した微錠丸が現れた

 

「ぐはっ……オレァ一体…!?」

 

「朱洼門門番、門を開けてもらおうか」

 

「…!?体が勝手に…動くだと…!?」

 

そして門が開かれ、六道たち全員が難なく瀞霊廷へ侵入した

 

「さらばだ。朱洼門門番」

 

六道が指を鳴らすと微錠丸は消えてしまった

 

「さて、では散開して各々隊長を始末して回れ!瀞霊廷を蹂躙だ!!」

 

その瞬間護廷十三隊全隊長が六道たちの霊圧に気付いた

 

「隊長!なんなんですかこのとても大きな霊圧は!?」

 

椿咲が六道たちの霊圧を感じ取り焦るようにそう言った

 

「ついに来たか……。椿咲、出るぞ!!」

 

雷山が動いたと同時に他の隊の隊長たちも迎え撃つために続々と動き出した

 

雷山が五番隊舎を出たその時

 

「雷山ァ!!!」

 

雷山たちの頭上から蜂乃背がもうスピードで降りてきた

 

「な、なんなんですか!?」

 

突然の事態に動揺する椿咲

 

「やっと見つけたよ。雷山、いよいよ俺とお前の決着をつけるときが来たな」

 

「ちょっと待ってくださいよ。隊長、この人は誰ですか!?」

 

「こいつは護廷十三隊初代十番隊隊長の蜂乃背秋十(ふうのせあきと)だ」

 

「この人が初代十番隊隊長……」

 

「椿咲、気を抜くなよ。こいつは春麗よりも強いからな…」

 

「もちろんですよ!”月夜(つきよ)(まぎ)れよ”『月華(げっか)』!!」

 

椿咲が始解をするとあたりが一気に夜になった。それと同時に蜂乃背が椿咲に問いかけてきた

 

「おい、雷山の横にいるお前」

 

「はいはい、なんでしょう?」

 

「お前名前はなんて言う?」

 

「私は未来の五番隊隊長であり現五番隊副隊長・椿咲南美(つばきさきみなみ)!!」

 

「ほぉなるほど、五番隊副隊長か。そうそう今の内に言っとくが、六道が言うには俺たちの目的はあくまで現護廷十三隊の全隊長を殺害することだ。副隊長以下は殺害の予定には入ってないが、邪魔するようならお前も殺害の対象に入れることになる」

 

「へへっ!そんなの望むところですよ!」

 

「おおっなかなか威勢がいいな。だが後悔するなよ?”(みず)()まれば太古(たいこ)(かえ)る”『水内(みずうち)』」

 

蜂乃背の周りに水滴が現れ始めた

 

「行くぜ!!」

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

影内の姿は四番隊・総合救護詰所にあった

 

「やはり、俺が負傷させた二人はここにいたか」

 

ベッドに横たわっている四楓院朝八と八道矢宵を見下ろす影内

 

「前は狐蝶寺と銀華零に邪魔されたが、今度こそお前らの最期だな」

 

斬魄刀を引き抜き振り上げる影内

 

「じゃあな、二番隊隊長と十二番隊隊長」

 

斬魄刀を振り下ろそうとしたその時

 

「ダメですよ、影内さん」

 

振り下ろそうとした手を止め振り返る影内。そこには四番隊隊長の卯ノ花烈が立っていた

 

「やれやれ、余計なことを言うもんじゃないな。いつもこうして邪魔が入る」

 

「そのお二人はまだ治療中なので、大人しく退室を願いたいのですが」

 

卯ノ花は笑みを浮かべていたが、その笑みからは威圧感が出ていた

 

「……仕方がねぇな。お前が相手となるとさすがに俺だけじゃ勝ち目がないしな」

 

そう言い再び前を向き卯ノ花に背中を向ける影内

 

次の瞬間影内は猛スピードで斬魄刀を抜き四楓院、八道の両名に斬りかかった

 

「縛道の六十一”六杖光牢(りくじょうこうろう)”」

 

その瞬間影内の胴の周りを光が取り囲んだ

 

「……さすがだな。だてに剣八をやっていただけではないな」

 

「……」

 

「で、どうするよ?」

 

鬼道で行動を制限されながらも影内は手を少しずつ動かして八道の喉元へ斬魄刀を突き立てようとしていた

 

「この鬼道じゃ俺を完全止めることは…」

 

「縛道の八十二”鏡界転(きょうかいてん)”」

 

その瞬間卯ノ花と四楓院、八道の姿は元より部屋にあったすべてのものがその場から消えた

 

「…逃げられたか。まあいい、いずれは卯ノ花もあの二人の隊長も殺すことには変わらないからな」

 

 

 

 

 *  *  *

 

 

 

 

そこから東へ少し離れたところでは九番隊隊長の如月陽水(きさらぎようすい)と九番隊副隊長の音羽音色(おとわねいろ)が六道の行く手を遮っていた

 

「おぬし、名は何という?」

 

「……」

 

「何も言いませんね」

 

六道を警戒しながら如月に話しかける音羽

 

「もう睨み合って5分くらい経とう。そろそろ名前くらい名乗ったらどうかな?」

 

「……」

 

如月に見向きもせずに歩き出す六道

 

「うむ、仕方がないのう。ワシの流儀では名前を聞いてから戦うものなのじゃが…”()みわたれ”『青天(せいてん)』」

 

始解したと同時に如月の手から斬魄刀が消えていた

 

「斬魄刀が消えただと……?」

 

如月の始解を見た六道が不思議そうにつぶやいた

 

「…よし、ちょうどいいだろう。お前を俺のコレクションの一つに加えてやろう。そうそう、俺の名前を知りたがっていたな」

 

六道は鞘から斬魄刀を引き抜き切先を如月に向けた

 

「初代護廷十三隊十二番隊隊長・六道死生(りくどうしせい)だ!!」

 

「六道死生じゃと…?」

 

如月は冷や汗をかき始めた

 

(こやつが雷山隊長の言っていた死者を蘇えらせる斬魄刀を持つという……)

 

「ついでにお前の名前を聞いておこうか。名前は何という?」

 

「九番隊隊長・如月陽水(きさらぎようすい)じゃ」

 

「九番隊隊長の如月陽水か…なるほどな」

 

「さて、身体が鈍っているだろうから思う存分やらなくてはな”下僕(しもべ)と成せ”『黄泉(よみ)』」

 

六道は始解をしたが死者を蘇らせようとしなかったので如月は不審に思った

 

「よしこれで準備万端だな」

 

「……死者を蘇らせないのか?」

 

「ほぉ、俺の斬魄刀の能力を知っているのか。まあ、雷山辺りが言ったんだろうがお前はひとつ思い違いをしている」

 

「なんじゃと…?」

 

「俺はなにも死者を蘇らせるためだけに始解をするわけじゃあない。始解をしないと使えない技というものがあるんだよ」

 

「なるほど、それを使うために始解を……」

 

「そういうことだ。六道行使(ろくどうこうし)"修羅道(しゅらどう)"」

 

如月が六道の霊圧が跳ね上がったのを感じたときにはすでに六道は如月の目の前まで迫っていた

 

「!?」

 

如月はギリギリ六道の斬撃を受け止めた

 

「おー、よく受け止めたな。さすがは隊長の事だけはあるな」

 

「はあはあ…」

 

如月は肩で息をしながら驚きを隠せないでいた

 

(こやつ先ほどまでと動きが明らかに違うぞ…!どうなっている…)

 

「解せないって顔してんな。まあ、無理もない。俺がさっき使った修羅道ってのは俺の霊圧と身体能力を一時的に上げる技だ。さっきまでの俺と動きがまるで別人だろ?」

 

「くっ…」

 

「さあ、さっさと俺のコレクションの一つになりな。九番隊隊長の如月陽水さんよぉ」

 

「残念じゃが、それは無理な話だ!!」

 

そう言うと如月は上空へ飛びあがった

 

「音羽副隊長!目を塞げ!!」

 

「何をするつもりだ…!?」

 

「”大閃光(たいせんこう)”!!」

 

その瞬間閃光弾が目の前で炸裂したような光が辺りを包んだ

 

「ぐわああぁぁ!!」

 

目を抑えながら悶える六道。その六道の前に降り立つ如月

 

「さあ、今度はこちらの番だ。六道死生!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ー追記ー
南流魂街78地区を79地区に修正しました

縛道の八十二”鏡界転(きょうかいてん)”
効果:自身が指定したものを相手の視界から消すことができる。またしばらくの間その相手は自分が指定したものに触れることもできなくなる


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第六話(第十一話)

如月(きさらぎ)大閃光(たいせんこう)が炸裂したその頃――――――――――――――

 

(ん?あの光はたしか如月の…)

 

「何をよそ見している、雷山!!」

 

そう言う蜂乃背だが自身の攻撃を雷山に当てることが出来ずにいた

 

「蜂乃背、お前じゃ俺には勝てないぜ?いい加減あきらめろよ!!」

 

雷山が斬魄刀で蜂乃背を吹っ飛ばした

 

「うおっと!さすがにお前相手だときついな、雷山!」

 

「だからさっさとあきらめろよ。今おとなしく帰るんなら見逃してやる」

 

「はっ!やだね!おまえを倒すまでは死んでも逃げない!!」

 

「まったく、お前は昔からそうだ。自分勝手で負けず嫌い…」

 

そういいながら雷山は斬魄刀を前に突き出した

 

「かつての戦友(とも)をこの手で殺すのはさすがに嫌なんだがな。”雷光光りて雷鳴鳴らせ”『雷斬』」

 

始解した雷山の斬魄刀は刀身が稲妻状に折れた刀になった

 

「ようやく始解したか。力の差が少し開いたが、俺にはまだ奥の手ってのはある!」

 

雷山は椿咲に小声で話しかけた

 

「椿咲、お前は今のうちに卍解しておけ」

 

「了解しました!」

 

そう言うと椿咲は後方へ飛び蜂乃背とさらに距離をとった

 

「”卍解”『陽華幻想月(ようかげんそうが)』!!」

 

その瞬間夜だった空に再び日が差し始めた

 

「なに、副隊長が卍解をするだと…!?」

 

「そういやお前が生きていた時に卍解を使った副隊長はいなかったな」

 

「クソッ副隊長の方ならすぐと思っていたがそうも言ってられないな」

 

「言っとくが、椿咲を嘗めるなよ?こいつは俺の初の弟子であり、未来の五番隊隊長だ!!」

 

その瞬間蜂乃背の背後に椿咲が現れた

 

「なっ!?」

 

一瞬反応が遅れた蜂乃背だったがギリギリで椿咲の剣を躱した

 

「あぶないあぶない…それにしてもどうやって俺に気づかれず俺の背後に回ったんだ……?」

 

蜂乃背は不思議でならなかった。雷山だけならいざ知らず椿咲が自身の背後に回り込めるとは到底思えないからである

 

「とりあえず一つずつ試していくか…斬雨(きりさめ)!!」

 

蜂乃背が刀を振ると刃状の水が椿咲に向け飛んで行ったが

 

「へへっ。残念でしたー!!」

 

その斬撃は椿咲に当たることなく椿咲の身体をすり抜けた

 

「すり抜けただと!?相手の攻撃をすり抜ける能力なのか…?」

 

蜂乃背がそう呟いたとき突然蜂乃背の肩から血が噴き出した

 

「しまった…!」

 

椿咲に気を向けすぎた一瞬の隙を雷山は見逃さなかった

 

「椿咲に気を取られすぎたな、隙だらけだったぞ」

 

「……まったく仕方がないな。起死回生の一手となればいいんだけどな。卍解…」

 

その瞬間蜂乃背が水の壁に囲まれ姿が見えなくなった

 

「”卍解”『斬流水内連塊(ざんりゅうすいうちれんかい)』!!」

 

卍解した蜂乃背の斬魄刀は刃の周りを水が高速で回転している状態となった

 

「蜂乃背の卍解か。久々に見たな」

 

「隊長!なんですかあれ!?」

 

「蜂乃背が持っていたかつて流水系最強と謳われた斬魄刀、水内の卍解だ。原理は刃の周りを水が高速で回転していて斬撃の威力はさっきあいつが放った技[斬雨]の何倍にもなるそうだ」

 

「そういことだ!五番隊副隊長!!」

 

蜂乃背は椿咲に向かって再び斬撃を飛ばした

 

「蜂乃背さん!あなたがいくら卍解をしようとも、あなたの攻撃は私には届きません!!」

 

「冷静に考えてみてお前の卍解の能力が大方予想がつき始めててな。今最後の確認をするところだ」

 

その瞬間蜂乃背は斬魄刀を振り上げた

 

「”鎗時雨(やりしぐれ)”!!」

 

「この技はたしか……まずい!!」

 

雷山がそう呟いたとほぼ同時に空から無数の雨が降り始めた。

 

「……雨?」

 

「椿咲!!今すぐ雨の降っている場所から出ろ!!」

 

「え?」

 

椿咲がそう言った瞬間椿咲の死覇装が破れ始めた

 

「え!?何ですかこれ!?」

 

慌てて雨の降っている場所から出る雷山と椿咲

 

「なるほどな、相手の攻撃をすり抜ける能力だと思ったがもう一つの方だったか」

 

「……椿咲、一か八かの賭けをする」

 

「何をするんですか?」

 

「ああ、よく聞けよ…」

 

雷山は椿咲に耳打ちをした

 

「なるほど。しかしそれじゃあ隊長が…」

 

「俺のことは気にしなくていい。今はあいつを倒すのが先決だ」

 

「……了解しました」

 

「ではいくぞ。縛道の五十六”雷鳴光(らいめいこう)”」

 

すると雷山のいた場所に雷が降り注いだ

 

「目暗ましのつもりか。だが、甘いな」

 

椿咲の目の前に蜂乃背が瞬歩で現れた

 

「椿咲南美!厄介なその卍解ごと……消えてなくなれ!!」

 

「かはっ…!!」

 

蜂乃背に斬られ後ろに倒れる椿咲

 

「ちっ、浅かったか…!」

 

なおも追撃を加えようとする蜂乃背

 

「させねぇよ!!」

 

ガンッ

 

雷山が椿咲を庇って蜂乃背の斬撃を受けた

 

「てめぇ…やりやがったな…!!」

 

「おいおい、これは戦争だぜ?それに初めに言ったろう。”副隊長以下は殺害の予定には入ってないが、邪魔するようなら殺害の対象に入れることになる”ってな!!」

 

「ぐわぁ!!」

 

弾き飛ばされる雷山

 

「この副隊長が斬られたことでお前に動揺ができたな。……昔のお前なら、こうも容易くはいかなかったんだろうな。五番隊副隊長椿咲南美、お前の卍解は大したものだった。手合わせができたことには感謝しよう、さらばだ」

 

椿咲に斬魄刀を突き立てようとしたそのときだった

 

「!?」

 

蜂乃背の身体が椿咲の斬魄刀に貫かれた

 

「ぐはっ!!」

 

椿咲はニヤッと笑い呟いた

 

「放電…」

 

その瞬間蜂乃背の身体に電気が流れた

 

「ぐわああぁぁぁ!!!!」

 

椿咲が斬魄刀を蜂乃背の身体から引き抜くと蜂乃背は斬魄刀を地面に突き刺し何とか倒れるのだけは耐えていた

 

「はあはあ…バ、バカな…お前はすでに瀕死のはず…!」

 

「私がですか?はて、あなたには私が瀕死に見えるのですか?」

 

「なんだと…!?」

 

「ふふふっ、残念ですね蜂乃背さん。私が椿咲南美に見えていましたか?」

 

そういうと同時に蜂乃背の目の前にいた椿咲の姿がノイズが走ったように歪み次第に雷山に変わったいった

 

「雷山!?お前…いったいどうなって…!?」

 

目の前の椿咲が雷山に変わったことや雷山の攻撃を受けたことで蜂乃背には明らかな動揺ができていた

 

「お前、椿咲の卍解の能力が分かったんだろ?なら、言わなくてもだいたい想像がつくだろ」

 

「俺に姿を誤認させたのか…!しかしいつ姿を入れ替えた。まさか初めから…!?」

 

「残念だがそれは違う。ほら、お前の視界から俺と椿咲が消えた瞬間があっただろう?」

 

「……!!雷鳴光を放ったときか…!」

 

「大正解。まあ、これは一か八かの賭けだったんだがな。もしこの作戦が失敗してたなら俺が卍解して戦うつもりだったんだ」

 

「成功してよかったですね、隊長」

 

蜂乃背に吹っ飛ばされた椿咲が歩いてきた

 

「さて、蜂乃背。お前とお別れの時間だ」

 

「はぁ…結局お前には一度も勝てずじまいだったな」

 

立ち膝状態だったが座り両手を上げ降参の意思を見せる蜂乃背

 

「…春麗に何か言いたいことがあれば伝えとくが?」

 

「お前なぜそれを…!?」

 

「お前が春麗に好意を抱いていたなんてバレバレだ」

 

「ってことはまさか…」

 

「安心しな。春麗は鈍感だからな、お前が春麗に好意を抱いていたことなんか気づいてないはずだ」

 

 

安心したように息をつく蜂乃背

 

「今更何を言っても遅いからな、狐蝶寺には何も伝えないでおく」

 

「……そうか」

 

そう言い雷山は斬魄刀を蜂乃背の喉元に突き立てた

 

「じゃあな、蜂乃背」

 

そしてそのまま喉を斬魄刀で貫いた

 

貫かれた勢いで後ろへ倒れる蜂乃背

 

戦友(とも)よ安らかに眠れ」

 

 

 

 

 

 

 

 



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第七話(第十二話)

雷山が蜂乃背を敗ったその頃――――――――――

 

「お久しぶりですね。水野瀬さん」

 

銀華零の目の前には十代にも満たないであろう少年が立っていた

 

「お久しぶりです。白隊長」

 

その少年は笑顔で銀華零に挨拶をした

 

「白隊長はお変わりないようですね。てっきりおばあさんになっているものだと思っていたんですけど」

 

さりげなく毒を吐いた水野瀬だが銀華零は顔を変えることなく返答した

 

「そういう事を女性に言うものじゃありませんよと過去にお伝えしたはずなのですが、あなたも相変わらずですね」

 

「他の隊長にもよく言われましたよ。おまえは本当に変わらないなってね」

 

そういった瞬間水野瀬は銀華零に斬りかかった

 

「ダメですよ。戦いにも礼儀がないと」

 

銀華零は難なく受け止めていた

 

「やっぱ白隊長はそう簡単には倒れてくれないですね…!」

 

「ええ、こう見えても私は今の護廷十三隊内でも強いほうだと自負していますし」

 

「それは自負じゃなく傲りなんじゃないですか?”浮かべ”『水萍(すいひょう)』!!」

 

水野瀬が始解すると斬魄刀の刀身がツタに変わった

 

(久々に見ますね…かつて全斬魄刀中最高の防御力を持つと謳われた元七番隊隊長水野瀬永流さんが持っていた流水系の斬魄刀”水萍”)

 

「傲りですか…まあ、そう言われてしまえばそうかもしれませんがみなさんを守りたいというのは紛れもない事実ですよ?”(うつ)()とれ”『銀鏡(ぎんきょう)』」

 

銀華零の始解は鏡のような形となった

 

「不思議な気分ですね!白隊長の始解をついこの間見たばかりなのに400年近く経っているなんて!」

 

「ふふっ、それはあなたが亡くなっていたからそう感じるだけですよ!”銀鏡”『雷斬(らいざん)』!!」

 

鏡の形をしていた銀華零の斬魄刀がたちまち雷山の持つ斬魄刀『雷斬』と同じ風貌になった

 

「げっ!?よりにもよって雷山隊長の始解ですか!?」

 

「ええ、雷山さんの斬魄刀が一番使い勝手がいいので」

 

「ん~困ったなぁ…」

 

そう呟いた直後水野瀬は何か思いついたように顔をあげ口元をニヤつかせた

 

「”破道の三十二”『黄火閃(おうかせん)』」

 

その瞬間水野瀬から霊圧が放たれた。しかし銀華零はそれを斬魄刀を振るい相殺した

 

「三十番台の鬼道では私に届きませんよ?」

 

「いえいえ届かなくても隙を作れれば十分ですよ!”縛道の六十一”『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 

その瞬間六つの帯状の光が銀華零の胴を囲うように突き刺さり動きを奪った

 

「少々油断しましたね…」

 

そんな状況でも顔色一つ変えないでいる銀華零

 

「この状況で顔色一つ変えないのはさすがですね。ですが、これを見たらその余裕もなくなるでしょう! (てん)()べる青竜(せいりゅう)震天(しんてん) 雷帝(らいてい)(とどろく)黒雷(こくらい)大砲(たいほう) 飛翔(ひしょう)賊撃(ぞくげき)し 宝珠(ほうじゅ)蒼乱(そうらん)(さが)せ 四方(しほう)彼方(かなた)(じゅん)ずる四者(ししゃ) 大空(たいくう)()(めぐ)閃光(せんこう)轟音(ごうおん) (ふる)えよ 硬直(こうちょく)せよ (あお)(いかづち)(てん)(はし)れ”破道の八十八”『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』!!」

 

水野瀬が詠唱を終えたと同時に青い雷が放出された

 

「これはなかなかの威力ですね…」

 

銀華零は静かに目を閉じそしてこう呟いた

 

「断空…」

 

その瞬間銀華零の目の前に壁が現れ水野瀬が放った鬼道とぶつかった

 

「ゴホッゴホッ!やっぱり正攻法じゃ無理なのかなぁ」

 

土煙をはらいながら水野瀬が言った

 

「いいえ、今のはだいぶ効きましたよ?水野瀬隊長」

 

土煙の中から姿を現した銀華零は左腕から出血している状態で血が地面にポタポタと垂れていた

 

「いやいやぁ今のは白隊長を殺すつもりで放った鬼道ですから失敗といえば失敗ですよ」

 

「……あなた方はなぜ六道さんに従っているのですか?」

 

「ずいぶん直球ですね。そうですねぇ…強いて言うなら…気まぐれですかね?」

 

「気まぐれですか…」

 

「ええ、気まぐれです。正直死生隊長の恨みとかは興味ないんですよねぇ」

 

(なるほど…六道さんが私たちに宣戦布告をしたのは恨みを晴らすためですか…ですがいったい誰に対してでしょうか…?)

 

「完全詠唱をしても白隊長には防がれちゃうし万事休すかなぁ…」

 

「ならば大人しく投降してもらえますか?」

 

笑顔で水野瀬に語りかける銀華零

 

「残念ですけどお断りします!!”卍解”『琉水雨蓮水萍(りゅうすいうれんすいひょう)』!!」

 

その瞬間地面から無数のハスの葉、ツタ、花が生え始めた

 

「水野瀬さんの卍解久方ぶりに見ますね…」

 

「冥途の土産にしてくださいな!!」

 

「ですが…この程度では私には勝てませんよ?『雷切(らいぎり)』」

 

次の瞬間、銀華零は水野瀬の背後に一瞬にして回り込んでいた

 

「この技は雷山隊長の…!!くっ!!」

 

しかし銀華零の攻撃はツタによって完全に阻止されていた

 

「さすがに雷山さんの技でも通用しませんか…」

 

「山本隊長の攻撃をも防いだツタですよ?いくら雷山隊長の攻撃でも防げるのはあたりまえですよ!!」

 

「…仕方がないですね。私のとっておきを見せてあげましょうか」

 

そう言い銀華零は通常の始解の状態に斬魄刀を戻した

 

「…斬魄刀を戻していったいどうしたんですか?そのままでは僕を倒すことなんて…。っ!?」

 

その時水野瀬は銀華零から得体の知れない恐怖を感じ取った

 

(なんだ…この得体のしれない威圧感は…)

 

「言ったでしょう?私のとっておきを見せると”銀鏡”『降雪(こうせつ)(こう)』」

 

その瞬間空から雪が降り始めた

 

「……なにこれ?」

 

「これは私の斬魄刀”銀鏡”の技の一つです。普段は他の方の斬魄刀の能力を借りて技を放っているので、滅多に使うこともないのですけどね」

 

「どうりで見たことがないわけですよ。まさかそんな隠し技があったなんて…」

 

「あら、別に隠していたわけではありませんよ?ただ使う必要がなかっただけです。その証拠に山本総隊長や雷山さん、春麗ちゃんなどはこの技のことを知っていますよ」

 

「それは白隊長の近親者じゃないですか」

 

「ふふふっ…さて、お話はここまでにしましょう。氷着霜(ひょうちゃくそう)

 

その瞬間それまでただただ降っているだけだった雪が水野瀬に張り付き始めた

 

「冷たっ!?なんでこの雪は僕に張り付くんだ…?」

 

「水野瀬さん、濡れた手で冷えた金属に触ると手が金属が張り付くという現象って聞いたことありますか?」

 

「…知りませんね。そんな現象あるんですか?」

 

「ええ、現世で聞いたことのある現象です。この技はその現象をもとにして作りました。今あなたは”手”の状態で振っている雪は”金属”のような状態です」

 

「なるほど。けど、ツタで屋根を作ってしまえば僕に張り付く雪も降ってこない!」

 

そう言い自身の頭上にツタで屋根を作る水野瀬

 

「ふふっ屋根を作っても無駄ですよ?」

 

銀華零の言葉通り雪はツタでできた屋根を避け直接水野瀬に向かって降っていた

 

「そんな…くそっ!この雪離れろっ!!」

 

水野瀬が必死に雪を振り払おうとしている時とき銀華零は笑みを浮かべていた

 

「残念ですけどその雪はどんなことをしようとあなたから離れませんよ?」

 

「こうなったら…」

 

「私を倒そうと考えてますね?残念ですがそれもできませんよ。試しにそこから動いてみてもよろしいですよ?」

 

一歩を踏み出そうとする水野瀬だったが銀華零の言う通り全く動くことが出来なかった

 

「さてと、それでは少しの間眠っていてくださいね。ああ、心配はしなくても大丈夫ですよ。仮死状態で苦しくはないはずですから」

 

歯を食いしばり悔しそうに銀華零を睨む水野瀬

 

「ちくしょう…!!」

 

そこまで呟いたとき水野瀬は完全に雪に埋もれた。雪が落ちると水野瀬は氷像となっていた

 

「さて、他の方はどうしているのでしょうかね。勝っているといいのですが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話(第十三話)

「”大閃光(だいせんこう)”!!」

 

如月の刀から眩い光が放たれた。それは目を瞑り手で覆っていた六道にも届くほどのものだった

 

「ぐわああぁぁ…!!」

 

目を抑え悶絶する六道

 

「さあ、今度はこちらの番だ。六道死生(りくどうしせい)!!」

 

「……!!」

 

(くそっ、油断した…!!まさかここまでやるとは…)

 

しかしそこで六道はあることに気づく

 

(如月という隊長といた副隊長の霊圧が感じられん…)

 

六道がそのことに気づいた瞬間背後から声が聞こえた

 

「”(ひび)け”『木管琴(もっかんきん)』!!」

 

「っ!?しまった…!!」

 

六道の背後には九番隊副隊長の音羽音色(おとわねいろ)がいた。六道には見えてないが、始解した音羽の斬魄刀は琴の形に変わった

 

「”絶体怨感(ぜったいおんかん)”!!」

 

音羽はそう言い琴の弦を勢いよく弾いた。その瞬間不協和音がその場に響いた。その不協和音の影響で六道は吐血した

 

「かはっ!!」

 

(まさかこれほどとは…!!だが、決して耐えられぬものではない…それにかすかだが目が見えるようになった)

 

「よくもやってくれたな!!これで勝負が決まったと思うなよ!?」

 

目を開いた時六道の目の前まで如月の剣が迫っていた

 

「ちっ!!」

 

如月の剣を間一髪で避けた六道

 

「なるほど…先ほどの音は俺からこいつの意識を外させるための囮か…」

 

如月の斬撃を避けた六道だったがすぐ後ろに音羽の追撃が迫っていた

 

「ふっ…見えてないと思ったか?六道行使(りくどうこうし)畜生道(ちくしょうどう)”!」

 

その瞬間六道は如月の斬撃を避けた体勢のまま斬魄刀を自身の背後に突き刺した。すると突如地面が盛り上がり先刻斬り殺した朱洼門(しゅわいもん)門番微錠丸(びじょうまる)の姿に変わった

 

「ぐはっ!?くそ…またオレァをこんな目に…」

 

そのまま音羽の攻撃を受けた微錠丸は霧散して消えてしまった

 

「ははっ…はははっ…!はっはっはっはっは!!」

 

その様子を見た六道は不意に高笑いをし始めた

 

「ますます俺のコレクションに加えたくなったよ。九番隊隊長の如月陽水!!そして、副隊長の音羽音色!!」

 

「あたしはそのコレクションになるつもりはないんだけど」

 

「そちらがなくとも俺には関係ない。正直言うとな、俺たちだけじゃ雷山と山本の二人を倒すには少々戦力が足りないと思っていてな。こちらが使える駒はいくつあっても足りないくらいなんだ」

 

斬魄刀を構え攻撃態勢に入る六道

 

「だからこそお前ら現在の護廷十三隊に俺の駒になってもらう必要があるんだよ。六道行使”修羅道”!!」

 

移動する瞬間地面を思いっきり蹴り速度を上げ猛スピードで如月と音羽の二人に向かっていく六道

 

「速い…!!”破道の三十一”『赤火砲』!!」

 

「そんなもの食らうわけないだろ!!」

 

音羽は六道に向け鬼道を放ったが六道はそれを斬魄刀で斬り相殺した。そしてそのままのスピードで音羽の懐に入った六道

 

「六道行使”天道(てんどう)”」

 

斬魄刀を一瞬で峰内側に持ち替え音羽を斬りつけると見せかけた六道

 

「そん…な…」

 

斬られたと錯覚し意識を失う音羽

 

「音羽副隊長!!」

 

すぐさま六道に斬りかかる如月だったが六道は簡単に躱した

 

「何をした…?」

 

「何もしてないさ。ただ、斬られたと錯覚させ意識を奪っただけのこと」

 

「…仕方がない”卍解”『暗灯不青天(あんどんふせいてん)』」

 

卍解した如月は切先を六道に向けた

 

「これでおぬしも終わりだ。六道死生!!”光弾砲(こうだんほう)”!!」

 

あたり一面が閃光に包まれた

 

 

 

*  *  *

 

 

 

十三番隊舎から北東へ5㎞地点では猫間若亜(ねこまにゃあ)と十三番隊隊長狐蝶寺春麗(こちょうじしゅんれい)と同隊副隊長の山吹雷花(やまぶきらいか)が相対していた

 

「久しぶりだね、狐蝶寺隊長。隣にいるのは副隊長さんかな?」

 

「猫ちゃん久しぶり!!何年ぶりだろうね!」

 

「やれやれ…相変わらず君は人の話を聞こうとしないね」

 

「それで猫ちゃんたちは何しに来たの?」

 

「君らを殺すためだよ。ああ、そうだ。そこの副隊長君」

 

斬魄刀を構えたまま微動だにせず警戒する山吹

 

「そんなに警戒しなくてもいいのに…まあいいや、君は攻撃対象に入ってないからそこで大人しくしててね。僕の邪魔をしたら……分かるよね?」

 

「そんなことを言われて「はいそうですか」と言うわけがないでしょう。”炎天渦巻(えんてんうずま)け”『炎風(えんぷう)』!」

 

山吹が始解したと同時に日差しが強くなり炎天下になった

 

「やれやれ…言うことを聞いてくれたら楽なんだけどなぁ…」

 

「山吹ちゃんもう戦うつもりなの!?」

 

「当たり前です!!敵を目の前にして戦わない護廷十三隊がどこにいるんですか!!」

 

「ここにいるじゃない」

 

「隊長いい加減にしてください!!」

 

そんな狐蝶寺と山吹の会話を見ながら

 

(うわぁ…絶対狐蝶寺隊長の相手大変だっただろうなぁ…)

 

と敵ながら山吹の苦労を労っていた

 

「もういいです。私が方を付けてきますから」

 

「ふにゃ?」

 

猫間が気付くと山吹はすぐ目の前まで迫っていた

 

「ふむふむ、君の瞬歩なかなか早いね」

 

山吹が目の前まで迫ってきていてもなお猫間は冷静にそう感嘆の言葉を口にした

 

「それはどうも!!」

 

山吹は渾身の一撃を猫間に与えたが猫間はそれを何事もなかったように受け止めていた

 

「……もう一度だけ忠告しておくよ。大人しくしていてくれないかな?」

 

「なんども言わせないでください。貴方は私たち護廷十三隊の敵です。そのような者を放って置くことはできません」

 

「はぁ…仕方がないかにゃ"()わせろ"『木天蓼(またたび)』」

 

始解した猫間の斬魄刀は木天蓼の枝を模した形になった

 

(これが史上最強と謳われる初代十三隊隊長の始解……注意しなければ…!)

 

灼熱旋風(しゃくねつせんぷう)!!」

 

炎天下と相まって猛烈な烈風となった風が猫間と覆いこんだ

 

「ぐぬぬ…思ったより熱いな。だけど、どこを狙っているんだい?」

 

「っ!?バカな…」

 

猫間は旋風が吹いているすぐ横で平然とした様子で山吹を見ていた

 

「そんな…確かに灼熱旋風が当たったはずなのに…」

 

「君の感覚では当たったように見えただろ?だけど、それはあくまで君の感覚ではの話だよ」

 

「なっ!?」

 

「僕の斬魄刀の名前は木天蓼って言うんだ。猫が好きなあれだね。そしてその能力は”対象を正常に動けなくすること”」

 

「対象を正常に動けなくすること…?そんな能力があるわけが…!」

 

再度猫間に斬りかかる山吹だがその攻撃も猫間には届かなかった

 

「頭で考えてどうこうできる代物じゃないんだよねぇ。これで最後だよ。君は大人しくしていてくれないかな?」

 

「そ、そんな…」

 

山吹はその場にへたりこんでしまった

 

「さて、これで君と思う存分戦えそうだよ。狐蝶寺隊長」

 

「もぉ~。山吹ちゃんはせっかちなんだから…それで猫ちゃん何か言った?」

 

「君は本当に人の話を聞かないね。もういいや。さっさと終わらせよ…ん?」

 

猫間は狐蝶寺の斬魄刀が巨大な扇に代わっているのに気付いた

 

「っ!!しまった…!!」

 

「”風化”!!」

 

その瞬間猫間の足元が崩れバランスを崩した。それと同時に狐蝶寺は斬魄刀を開放する前の状態に戻して猫間との距離を一気に詰めた

 

「よいしょー!!」

 

そんな掛け声とともに猫間に斬りかかる狐蝶寺

 

「あぶなっ…!!」

 

猫間は間一髪で狐蝶寺の斬撃を受け止めた

 

「ぐっぬぬ…!」

 

段々と狐蝶寺に押され始める猫間

 

「相変わらず力は強いねぇ…」

 

「しょうがないじゃない。雷山君がいつも斬術の相手に私を選んでくるんだもん」

 

「確かにそれなら否が応にも強くなるわけだね。だけど僕もいつまでもこの状態でいるわけにはいかないんだよ。破道の七十八”斬華輪(ざんげりん)”!」

 

斬魄刀と手をすり合わせ霊圧の斬撃を飛ばした猫間

 

「うおっと~!」

 

しかし狐蝶寺は至近距離で飛ばされた斬撃をいとも簡単に避けた

 

「まさか、あんな至近距離で放たれた鬼道をいとも簡単避けるなんてね…」

 

「私は猫ちゃんが亡くなった後も隊長として経験を積んでいるからね!これくらい余裕余裕」

 

「なるほど、経験ねぇ…だけどその経験とやらも通じない時があるみたいだね」

 

「え?」

 

「気が付かないかった?僕は君が床を風化させた時からこれを張り巡らせてたんだよ。破道の十二”伏火(ふしび)”」

 

そう猫間が言ったと同時にクモの巣状に張り巡らせられた霊圧の糸のようなものが現れ始めた。その糸のようなものは狐蝶寺の身体にまとわりつき自由を奪っていた

 

「ありゃりゃ。捕まっちゃった」

 

「よし、とりあえず一段落ついたかな。このまま六道が来るまで大人しくしててもらうよ。狐蝶寺隊長」

 

 

 

 

 

 

 



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第九話(第十四話)

狐蝶寺が猫間に捕まった同時刻

 

「六番隊隊長…なるほど。おぬしが現在の朽木家当主か」

 

猫間、狐蝶寺がいる地点より北へ4㎞行ったところでは初代六番隊隊長朽木銀雪(くちきぎんせつ)と現六番隊隊長朽木白厳(くちきそうげん)と副隊長朽木雪乃(くちきゆきの)が相対していた

 

「兄上…この方はもしや…」

 

「ああ、我らの考えが間違いでなければあの方だ…」

 

白厳は斬魄刀を鞘に納め名乗りを上げた

 

「貴方は朽木家初代当主朽木銀雪殿とお見受けする。私は朽木家十五代目当主朽木白厳。なぜ貴方が我らに敵対しているのか教えていただきたい!」

 

「…一つ訂正してもらいたい。私は初代当主ではなく二代目当主だ。そこは間違えておかないでもらいたい。それにしても朽木家十五代目当主か。っはは…そんなに続いたのか…実に不愉快だ」

 

笑う銀雪だったが目は全く笑っておらず語尾には怒気がこもっていた

 

「二代目当主…?朽木家はあなたが作られたはずじゃ…!?」

 

「残念だがこの忌まわしき朽木家というものを作ったのは私の父である初代朽木家当主”朽木菊白(くちききくは)”だ」

 

「…なるほど。あなたが朽木家二代目当主だったというのは承知した。しかし、この忌まわしきとはどういう意味なのか説明していただきたい」

 

「そんなのは簡単な話だ。私は貴族…特に五大貴族というのが嫌いでな。今まで幾度となく朽木家を消滅させようとしていだが結局叶わなかった…」

 

銀雪が自身が過去に朽木家を消滅させようとした経緯を説明しているとき雪乃は不安に駆られていた

 

「兄上…この方は本当に銀雪様なのでしょうか…。私には人格を作られた偽物としか思えないのですが…」

 

「…私自身も実際に会ったことがなく本人かどうか判断しかねるが、雷山隊長が言っていた六道死生の能力に他人の人格を作るというのはなかった。つまり、あれが銀雪殿の素の性格と見るのが妥当だろう…」

 

「―――――――というわけだ。だが、私はどうやら幸運なようだ……」

 

「それは一体どういう…?」

 

「この手で朽木家を滅ぼせられるんだからな…!!」

 

その瞬間銀雪の目に狂気が染まり白厳と雪乃には戦慄が走った。

 

「”(かわ)きて()えよ”『燥火松(そうかまつ)』!!」

 

始解した直後銀雪の背後より燃え盛っている樹木が生えてきた。そしてその樹木は火の粉を辺り一面へ撒き散らし始めた

 

「バカな…始解でこれ程の…!?」

 

「兄上、ここは私が!!兄上は始解の用意をなさってください!!」

 

白厳の後ろにいた雪乃が叫んだ

 

「すまない雪乃!!」

 

「”()()らせ”『粉吹雪(こなふぶき)』!!」

 

始解したと同時に少量の粉雪が降り始めた

 

「『舞凍(ぶとう)雪景(せつえい)』!!」

 

降り注いでいた無数の粉雪が白厳と銀雪の間に押し固められ始め壁を形成した

 

(なるほど、火の粉には粉雪か。なかなか洒落てはいるがそんな粉雪程度ではでは私の攻撃を防ぎきることはできないぞ…!!)

 

「これで少し時間が…そんな…!?」

 

粉雪で形成された壁は確かに火の粉を相殺していたが、時間が経つにつれ火の粉の数が増していきついには相殺しきれなくなっていった

 

「ダメだ…このままだと…」

 

(このままだと負ける…!!)

 

「すまない待たせたな雪乃!!”()らせ”『雨水月(うすいげつ)』!!」

 

白厳が始解をすると大雨が降り始めた。その雨が火の粉に当たり水蒸気が発生し始めた

 

「雪の次は雨か…。だが、その大雨程度では私の燥火松には及ばない!!」

 

銀雪は手を大きく広げ巨大な火の塊を作り始めた

 

「バカな!!この大雨の中それほどの火の塊を生成できるだと…!?」

 

「私は今、この時をもって!この手で!!この忌まわしき朽木家を滅ぼす!!!さらばだ、朽木白厳!!」

 

両手を振り下ろし作り出した巨大な火の塊を白厳に向け落とし始めた

 

「兄上!!」

 

巨大な火の塊が白厳に落ちる直前雪乃が白厳を庇い突き飛ばした

 

「なっ!?」

 

その行動は銀雪自身想定外のことであり、思わず驚きの声を上げた

 

「きゃあああ!!」

 

その直後雪乃を巨大な火の塊が襲いその場に雪乃の悲鳴が響いた

 

「雪乃!!」

 

爆煙が晴れるとそこにはひどい火傷を負い血だらけで横たわる雪乃の姿があった。本来なら死んでいてもおかしくはないほどだったが雪乃は火の塊が当たる直前咄嗟に雪で自身を覆い致命傷だけは避けていた

 

「雪乃!!しっかりしろ雪乃!!」

 

雪乃には意識がなく虫の息の状態だった

 

「許さぬぞ…許さぬぞ…!!”卍解”『琉城湖雨水月《るじょうこうすいげつ》』」

 

卍解した瞬間白厳たちの周りには湖が広がった

 

「…なるほど、さすがは私の後継に当たる朽木家十五代目当主…大した卍解だ」

 

辺りを見回し一息ついて銀雪は言った

 

「だが、貴様の卍解など私の卍解で消し飛ばしてくれよう!!”卍解”…!!」

 

そう言うと始解で出現させた燃え盛っている樹木のほうへ向き直った

 

「『燥火松獄炎(そうかまつごくえん)』!!」

 

その瞬間あたり一面を焼け野原にする大爆炎が発生した。爆炎は辺りの水と接触し辺りは大量の水蒸気に覆い包まれた

 

「何も見えない…が、それは向こうも同じ」

 

「まさか私の卍解の爆炎を防ぐとはな…」

 

白厳と銀雪は五感を研ぎ澄まし水蒸気が晴れるのを待っていた

 

「そこだ!!」

 

銀雪はある方向へ握り拳サイズの日の塊を飛ばした

 

「手応えなしか…」

 

銀雪がそう呟いた直後背後に白厳が現れた

 

「ちっ!!」

 

反応して振り向きざまに白厳に斬りかかる銀雪だが白厳はその攻撃を躱し叫んだ

 

「これで終わりだ!!『(はな)()らしの(あめ)』!!」

 

しかし何も起きず銀雪は不審に思った

 

「…何をした?」

 

その瞬間空より始解時同様に雨が降り始めた

 

「また雨か…―――っ!?」

 

その時銀雪は自身の異変に気付いたがすでに時は遅く片膝を付かなければ立っているのがやっとの状態だった

 

「貴様…私の霊圧を…」

 

「…ご名答。私は今あなたから霊圧を奪っている。いや、霊圧では誤解が生まれる。この『命散らしの雨』は文字通りあなたの命を奪う!!」

 

「私の命を奪う…か。この程度で私の命を奪えると思うなよ…」

 

ふら付きながらも無理やり立ち上がる銀雪

 

「私の命が尽きる前に貴様の命も道連れだ!!燥火松獄炎!!」

 

銀雪は再び爆炎を起こそうと霊圧を溜め始めた

 

(これが最後の攻撃…)

 

「くらえ!!」

 

銀雪は再び大爆炎を炸裂させた

 

「”琉城湖雨水月”『城壁水起堀(じょうへきすいきほり)』!!」

 

その瞬間白厳の目の前の水が隆起し水の壁を生み出した。そしてそのまま壁を押し進め銀雪と白厳の中間辺りで力が拮抗し止まった

 

「まさかこれ程の実力だと!?」

 

銀雪が驚きの声を上げたその瞬間水が水蒸気爆発を起こし二人を飲み込んだ

 

「ゴホッゴホッ」

 

銀雪はかろうじて意識を保っていたが白厳は気絶していた

 

「ぐっ…身体が動かぬな…」

 

銀雪は倒れている白厳に目を向けた

 

「ふっ…まさかここまでとはな…。朽木白厳、おぬしは父とは違う道を歩んでくれ…妹君を大切…にな…」

 

銀雪も力尽きその場に倒れた

 

 

 

 

 

*  *  *

 

 

 

 

 

「あれから全く他の方たちに会いませんね。どうしたんでしょうか?」

 

「他のやつらも戦ってるんだろう。あちらこちらで霊圧がぶつかってるしな」

 

雷山と椿咲は蜂乃背との戦いの後ほかの初代十三隊隊長を探すため瀞霊廷内を歩いていた

 

「それにしても誰にも会わなすぎるな。まったくどうしたんだか…ん?」

 

雷山は前方に誰か立っているのを発見した

 

「あれって如月隊長ですよね?」

 

「ああ、こんなところで何やってんだか。音羽の姿もないしな」

 

不審に思った雷山と椿咲は如月に声をかけた

 

「如月、お前こんなところで何やってんだ?」

 

「…雷山隊長か…」

 

振り返った如月はどこか虚ろな目をしていた

 

「っ!!」

 

(こいつのこの目…まさか…!!)

 

その目を見た瞬間雷山の不審感は確信に変わった

 

「椿咲…お前は離れてろ」

 

雷山は如月に聞こえないよう小声で椿咲に注意を喚起した

 

「え…?なぜですか?」

 

椿咲が返答したその時だった。如月が猛スピードで雷山たちに突っ込んできたのだ

 

「ちっ!!退いてろ!!椿咲!!」

 

「きゃっ!?」

 

雷山は咄嗟に椿咲の死覇装の襟をつかんで椿咲を後方へ投げ飛ばした

 

ガンッ!!

 

その一秒後如月の剣と雷山の剣がぶつかった

 

「何のつもりだ…?如月…!!」

 

「ぐっ…!雷山隊長…!!ワシを斬ってくれ…!!」

 

「やはりお前…」

 

一旦距離をとるため雷山は椿咲が倒れているところまで飛び退いた

 

「如月…お前六道に操られてるな…?」

 

「雷山隊長の察しの通りじゃ…」

 

「痛てて…もぉいきなり投げ飛ばさないでくださいよぉ。けれど、なぜ如月隊長が雷山隊長に攻撃を…?」

 

「椿咲、如月は六道に操られてる状態だ」

 

「えっ!?」

 

椿咲が驚きの声を上げた

 

「嘘ですよね…?」

 

その問いに如月は静かに目を閉じ首を横に振った

 

「そんな…何とかならないんですか?」

 

「無理だ。六道に操られてるということは六道に一度殺されているということだ。つまり、如月はもう死んでいるのと同じだ。おそらく音羽も…」

 

「雷山隊長の言う通りじゃ。音羽副隊長もワシと同様になっておる。ただしワシと違ってもう意識は残っておらずただ護廷十三隊隊長を殺すために動く人形となっておる状態じゃ…」

 

如月は自身の力の無さを悔いるように言った

 

「音羽ちゃんが…そんな…」

 

椿咲はショックを受けたようにその場に泣き崩れた

 

「…そうか。如月陽水九番隊隊長、今までご苦労だった。せめて安らかに眠れ」

 

雷山はそう言い如月の背後に回り如月の首を斬りおとそうとしたが如月はそれを避け反撃した

 

「やれやれ…やっぱりそう簡単にいかせてはくれないか」

 

「すまない、雷山隊長。もうワシの思うように動けないのじゃ」

 

「まあいいさ。お前をこのまま放っておくのもなんだしな。さっさと楽にしてやるよ」



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第十話(第十五話)

十一番隊隊長・大澄夜剣八と十一番隊副隊長・旭屋順は未だ初代十三隊の誰とも会わず瀞霊廷内を歩いて移動していた

 

「辺りで戦いが始まってるみたいだな」

 

「そうですね…、こちらが優勢と見るべきでしょうか」

 

「…いや、まだそれは判断するべきでな―――――」

 

その時大澄夜は旭屋を制した。それと同時に旭屋も何かの気配を感じ取った

 

「…隊長」

 

「ああ、どうやらお出ましのようだ」

 

警戒する大澄夜と旭屋の前に初代二番隊隊長・四楓院昼一が歩いてきた

 

「……」

 

昼一は目の前にいる大澄夜達に気付きはしたもののなんの反応も見せずそのまま歩いていこうとした

 

「おいおい、俺たちを無視するなよ」

 

大澄夜は昼一の肩を掴み無理に引き止めた

 

「……」

 

チラッと大澄夜の方を見た昼一は一切その気配を悟らせず大澄夜に斬りかかった

 

「うおっと!」

 

不意を突かれた大澄夜だったが、その攻撃をかわした

 

「さすがは最強と謳われる初代十三隊隊長…攻撃する気配が全く感じられなかった。だが、剣速が遥かに遅い。あれでは俺を倒すことはできない」

 

大澄夜は先刻の攻撃を評価したその時初めて昼一の声を聞いた

 

「…今のが本気だと思ったのか?」

 

「何―――――っ!?」

 

大澄夜はその時驚いた。先ほどの倍以上の側で昼一が迫っていたからである

 

(バカな…こいつ先ほどとは明らかに動きが…!!)

 

「だから言っただろ。今のが本気だと思ったのかとな!!」

 

昼一はそのまま大澄夜を斬りつけた

 

「…なんだと?」

 

大澄夜は斬られながらも昼一の剣を受け止めていた

 

「剣八の名をなめるなよ…!!」

 

「剣八だと…?くっ…!!」

 

昼一はこのままでは斬られると判断し斬魄刀を手放し大澄夜と距離をとった

 

「…冷静な判断だな。”()()れ”『突鎌(とがま)』」

 

始解した大澄夜の斬魄刀は大鎌になった

 

「なるほど。お前が現在の十一番隊隊長か。確か名は大澄夜剣八だったかな」

 

「よく知っているじゃないか。そういうあんたは誰なんだ?」

 

「…いいだろう。私は四楓院昼一(しほういんちゅうい)、初代二番隊隊長にして四楓院家の創設者だ!!」

 

その瞬間昼一は瞬閧を発動させた

 

「なんだ…その技は…!?」

 

「貴様が知る必要はない!!」

 

その瞬間大澄夜の視界から昼一の姿が消えた

 

「消え―――」

 

大澄夜が言いきらぬうちに昼一の拳が飛んできた

 

「ぐわっ!!」

 

大澄夜は何度も地面にぶつかりながら吹っ飛んでいった

 

「くそっ!!お前よくも隊長を!!”()することもできず、永遠(えいえん)(なが)らえよ”『鐚刀(びとう)』!!」

 

始解して昼一に攻撃を仕掛ける旭屋だが昼一はその攻撃を躱し旭屋も殴りつけた

 

「がはっ!!」

 

「貴様らなど私にとっては取るに足らぬ相手よ。さあ、立て。どうした?今の十一番隊隊長大澄夜剣八とはこれほど弱き者なのか」

 

「っは…!!誰が弱き者だって…?」

 

ふら付きながらも立ち上がる大澄夜

 

「たかが数分の手合わせで俺のことを知ったような口ぶりをするなよ…四楓院昼一!!」

 

今度は昼一の視界から大澄夜の姿が消えた

 

「…なるほど。どうやら私は貴様の実力を見誤っていたようだ。瞬閧などという遊びではなく私の斬魄刀で相手をしてやろう」

 

昼一は背後に瞬歩で現れた大澄夜の斬撃を受け止め呟いた

 

「”()しめ”『毒芹(どくぜり)』」

 

大澄夜は態勢を整えるために一時的に昼一と距離をとった

 

(今、奴は確実に始解をしたはずだ…しかし奴の斬魄刀も周りの景色も変わった様子がない…一体どのような能力だ…)

 

「そんなに身構えなくても良い。私の斬魄刀は空気中から刃が飛び出したりするなどの不意打ちのような能力ではない。まあ、説明するより見せた方が早いか」

 

その瞬間何の前触れもなく昼一が2人に分身した

 

「分身しただと…?幻覚…ではないな」

 

「ああそうだ。これは私の幻覚ではなく私自身だ。私の持つ斬魄刀『毒芹』の能力は私を分身させることができるというものだ。そして分身したとしても霊力は分割されずそれぞれが元々の霊力を持っている」

 

昼一の説明を聞き大澄夜は冷や汗を流し始めた

 

「なるほど…。初代隠密機動総司令官は何人もの影武者がいたと聞いたことがあるが、それは奴が斬魄刀の能力で分身していたというわけだったのか」

 

「私に影武者がいただと?笑わせるな、四楓院昼一は過去にも未来にも現在にも私一人しか存在しない。まあ、名が受け継がれているなら同名の者がいるということにはなるがな」

 

そう言った瞬間昼一は自身の姿を4人に分身させた

 

「さあ行くぞ!大澄夜剣八!!」

 

分身した4人の昼一が大澄夜にそれぞれ攻撃を仕掛け始めた

 

(どういうことだ…どいつも攻撃が単調だ…これでは攻撃を当ててくれと言っているようなものだぞ…)

 

不思議に思いつつ昼一を一人斬り捨てる大澄夜

 

「残念、外れだ」

 

「なんだと?……っ!!」

 

突然肩に傷が出来体勢が崩れる大澄夜

 

「なんだこれは…!?」

 

「いくら私自身だろうと所詮分身は分身だ。本体以外を斬れば貴様にダメージが入り本体である私を斬れば私にダメージが入る。そういうことだ」

 

「なるほど…つまりこちらが倒れる前にお前た全員を叩き斬ればいいということだな」

 

再び4人に分身する昼一

 

「果たして出来るかな?」

 

「おら!!」

 

再び大澄夜に攻撃を仕掛けようとした昼一の前に旭屋が割り込んできた

 

「ちっ…」

 

ギリギリで旭屋の剣を躱す昼一

 

「…副隊長が私の瞬閧を受け気を失わぬとはな。思ったよりやりおる…」

 

「なめるんじゃねぇよ。俺は十一番隊副隊長だぞ。あの程度の攻撃なんともないわ!!」

 

瞬歩で昼一の背後をとる旭屋

 

「なるほど。確かにお前をなめていたようだ。お前は強い、だが…」

 

昼一は旭屋の攻撃を躱し逆に旭屋の背後をとり斬りつけた

 

「あくまで副隊長の中ではの話だがな」

 

「くそ…」

 

その場に倒れる旭屋

 

「さて、続きをするか。大澄夜剣―――がっ!!」

 

その瞬間昼一の腹部に激痛が走る

 

(何が起こった…これは、血…だと…!?)

 

何とか背後を見る昼一は目を疑った。ついさっき斬り倒したはずの旭屋が無傷の状態で自身に刃を立てていたのである

 

「…初代十三隊隊長はどいつもこいつも強い、雷山隊長や銀華零隊長がいい証拠だ。だが、いくら強かろうと油断していればこれくらいの傷は負わせることができる…いや、お前が特別油断しすぎていただけかな。四楓院昼一(ちゅうい)

 

「ぐっ…」

 

昼一は無理やり身体を捻り腹に刺さっている斬魄刀を引き抜いた。そしてそのままの要領で旭屋を蹴り飛ばした

 

「はぁ…はぁ…、いったいどうなっているんだ…」

 

傷口を抑えながら昼一が呟いた

 

「簡単な話だ」

 

蹴り飛ばされ壁に激突した旭屋だったが平然と昼一の前まで歩いてきた

 

「俺の斬魄刀を使っている、ただそれだけの話だ。ついでに言っておくがお前じゃ俺を殺すことはできない」

 

「貴様…」

 

旭屋を睨む昼一

 

「さて、そろそろ大澄夜隊長と交代しますか…時間稼ぎも出来ましたし」

 

そう言い終えると旭屋は瞬歩で消えた。そして昼一はその時自身が嵌められていたことに気づいた

 

(そうか…!こやつが私に向かってきた理由は――――)

 

振り返った昼一はどこか楽しそうだが悔しげに呟いた

 

「くそったれ…!!」

 

「”卍解”『血鋭大尖鎌(けつえいおおとがま)』」

 

卍解した大澄夜の斬魄刀は依然大鎌の状態だった

 

「卍解か…しかし今更したところで私の優勢は―――」

 

ザシュッ!!

 

「――――――っ!?」

 

その時昼一は驚愕した。自身は大澄夜に対する警戒を怠っていないにもかかわらずいつ大澄夜が自身の隣にいた分身を斬り倒したか見えなかったからである

 

(バカな…こやついつの間に私の分身を…いや、それよりもこやつの動きが見えなかっただと!?)

 

「ちっ…こいつも外れか。さて、さっさと次のやつを斬り殺すか」

 

そう言い振り向いた大澄夜の目を見た昼一は戦慄を覚えた

 

(こやつ、なんという殺気だ…。これほどの殺気を持つものなど初めて見る…)

 

そう思った昼一はある覚悟をした

 

「やれやれだ。…まさか使うことになるとはな”卍解”『大致死毒芹群(だいちしどくぜりぐん)』」

 

その瞬間昼一の分身が本体を含め10人になった

 

「大澄夜剣八、ここからは根競べだ!貴様の剣が私に届くか私の能力の前に貴様が倒れるか…勝負は最後まで立っていた者の勝ちだ!!」

 

10人の昼一が大澄夜に襲い掛かる――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一話(第十六話)

雷山は一撃目で如月の首を落とそうとしたが失敗したので再び如月との距離をとった

 

「雷山隊長…ワシの意識が残っているうちに言っておきたいことがある…」

 

「さっさと言いな。まさか命乞いとは言わないよな?」

 

「そんなものではない…すでに覚悟はできておる…言っておきたいことは…狐蝶寺隊長と山吹副隊長が猫間という者に捕まったというものだ…」

 

その言葉を聞いた瞬間さっきまで余裕のある顔をしていた雷山から余裕がなくなった

 

「…それは本当か?」

 

「こんな嘘を言ってどうするのじゃ…」

 

「あのバカ…」

 

雷山は片手で持っていた斬魄刀を両手に持ち替えた

 

「悪いな如月。ゆっくりしていられなくなった。手っ取り早く終わらせるぞ」

 

「すまない…雷山隊長」

 

如月がそういった瞬間雷山は如月との距離を一気に詰めた

 

「雷切!!」

 

雷山の攻撃は如月が反応出来る速度を遙かに超えていて如月を稲妻状に斬り捨てた

 

「雷山隊長…後のことは任せましたぞ…」

 

「ああ、言われずとも分かっている」

 

雷山のその言葉を聞き安心したように如月はその場で目を閉じた。それと同時に如月の姿が霧散していった

 

「椿咲、さっき如月が言ってたがどうやら狐蝶寺と山吹が捕まったらしい。あいつらを死なせるわけにはいかないのはお前も分かるな?」

 

「ええ、もちろんですよ!」

 

「よし、今から猫間のところへ行き狐蝶寺及び山吹の両名を奪還しに行く」

 

そう言うと雷山、椿咲は瞬歩で消えた

 

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

 

猫間が待機しているところへ向け六道と影内は歩いていた

 

「それにしてもさっきの隊長の最期は面白かったな!!まさか自分の副官に斬られるなんて傑作だった!!」

 

笑いながら影内は六道に話していた

 

「影内、少しうるさいぞ」

 

「けどよあいつのあの顔見たか?思い出すと笑いが込みあげてくる」

 

影内は顔を覆いゲラゲラと再び笑い始めた

 

 

 

 

 

 

数分前―――――――――――

 

光弾砲(こうだんほう)!!」

 

辺りが閃光に包まれた

 

「やったか…?」

 

その瞬間如月の身体を一つの斬魄刀が貫いた

 

「ぬぅ…くっ…!!」

 

必死に後ろを向くと如月は驚愕した

 

「なっ…!?音羽…副隊長…!?」

 

如月の身体を貫いていたのは如月の副官である音羽音色だったのだ

 

「音羽副隊長…なぜ…?」

 

如月がそう呟いたとき背後に音羽以外のもう一人の気配を感じた

 

「おぬし…何者じゃ…?」

 

「よく気付いたな。俺は影内愧龍(かげうちきりゅう)だ。お前も名前くらいは聞いたことあるだろ?」

 

「なるほど…おぬしが四楓院隊長らを襲ったという初代隊長か…」

 

「ああ、ところでお前はこいつが攻撃をしてきたことを信じられないように見ていたな。なぜお前に攻撃した思う?」

 

「なぜじゃ…?」

 

永堕狂陰(えいだきょういん)…これ何か分かるか?」

 

「っ!!卍解の能力か…」

 

「ご名答。俺の卍解”永堕狂陰”の能力は斬りつけた者の心を壊し意のままに操ることだ」

 

「お…の…れ…」

 

そこで如月は意識を失ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの絶望した顔はいつ見てもたまらないな」

 

「そんなことはどうでもいい。第一お前がもう少し早く来ていればもう少し楽に駒が増やせたんだ。おまけに副隊長の方を壊しやがってあれじゃあただの人形ではないか…」

 

六道は勝手に音羽音色に対して卍解を使ったことに腹を立てていた

 

「…お前って怒ると口数増えるよな」

 

「うるさい。そんなことより着いたぞ」

 

影内が前を向くとそこには猫間が立っていた。そしてその後ろには”縛道の六十三”『鎖条鎖縛(さじょうさばく)』によって捕らえられている狐蝶寺と山吹の姿があった

 

「やあ!って影内(きみ)までいるのかい?」

 

「居て悪いかよ。にしてもよく狐蝶寺を捕まえることができたな、どんな手を使ったんだ?」

 

「あれー?影内君に六道君だー!!」

 

捕らえられていてもなお何事もないようにいる狐蝶寺

 

「話に入ってくるな!!」

 

「ちょっと戦って伏火を使っただけだよ。副隊長君の方は戦って打ち負かしたんだ」

 

「へぇ…なるほどな」

 

六道は二人の会話を聞きつつ斬魄刀を引き抜き近づいてきた

 

「まあ、そんな話はあとでいい。今はこの二人を我々の仲間として向かい入れることが先だ」

 

「「そうだね(な)」」

 

影内と猫間ほぼ同時に返事した

 

「ありゃ?なんか嫌な感じがするんだけど…」

 

「安心しな、すぐに終わるさ。お前はただ目を閉じておとなしくしていればいい…」

 

六道の斬魄刀が狐蝶寺の身体にめり込もうとしたその時だった

 

「”破道の一”『(しょう)』!!」

 

どこからか弱い衝撃が飛んできた

 

「うっ!!」

 

その衝撃は六道の手首にあたり反射的に六道は斬魄刀から手を放してしまった。六道の手を離れた斬魄刀は六道の後方へ飛んでいき地面に突き刺さった

 

「……」

 

六道は驚いたように自分の手首を見た後その衝撃が飛んできた方へと目を向けた。そこに立っていた人物を見て六道は驚いた

 

「何とか間に合ったな…!!」

 

そこには狐蝶寺が捕まったことを知るはずがない雷山が立っていたのだ

 

「雷山だと!?」

 

驚きの声を上げる影内。猫間も驚いたように雷山を見ていた

 

「なぜ…なぜおまえがここにいる!?」

 

取り乱したように影内は問いを雷山にぶつけた

 

「如月に狐蝶寺と山吹がつかまったって聞いてよ。お前らを倒すついでに引き取りに来た」

 

「俺たちを倒すだと?お前一人でか?雷山、お前の実力は確かに俺達を遙かに超えているだが俺たち3人を相手にしたらいくらお前だって…」

 

雷山は影内の言葉を遮った

 

「っは!!頭が回らないなぁ。俺が一人でのこのことやって来ると思うか?」

 

その瞬間雷山は瞬歩でその場から消えた。そしてその後ろには椿咲が立っていた

 

「”破道の八十八”『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』!!」

 

椿咲がそう叫ぶと手のひらから青い雷が放出された

 

「ちっ!!」

 

影内、猫間、六道3人は上空へ飛びあがり椿咲の鬼道から逃れた

 

「えっ!?ちょっと待ってよ!!私たち避けられないよ!!」

 

しかし動けずにいる狐蝶寺、山吹に椿咲が放った鬼道が襲い掛かる

 

「”縛道の八十一”『断空(だんくう)』」

 

その瞬間狐蝶寺の目の前に透明の防御壁が現れ椿咲の放った鬼道を防いだ

 

「まったくお前は本当に手のかかるやつだな。なんで猫間に捕まるんだよ」

 

「いや~ちょっと油断しちゃったっていうかなんというか~…」

 

「まあいい。まずはその縄を解かないとな”縛道の八十九”『解呪(かいじゅ)》』」

 

その瞬間狐蝶寺と山吹を縛っていた鎖条鎖縛が消えた

 

「春麗、お前は猫間を頼む。俺は影内と六道を相手にする」

 

「了解!!」

 

狐蝶寺が解放されたのを見た六道は次の行動に出た

 

「猫間、影内。俺は他の奴らを蘇らせてくる。ここであいつらを足止めできるか?」

 

「無理だって言ってもどうせ行くんだろ?さっさと行け」

 

「悪いな」

 

そう言い残し六道はその場を去っていった

 

「逃がしてたまるか!椿咲、影内を頼んだぞ」

 

そう言い雷山は六道の後を追おうとしたのだが

 

「先には行かせねぇよ…!!」

 

雷山の行く手に影内が立ち塞がった

 

「ちっ…!」

 

影内と雷山の刃がぶつかった

 

「どけ…!影内!!」

 

「どくわけにはいかねぇな…!雷山!!」

 

二人の刀が震え始めた。その瞬間二人は同時に互いの刃をはじき距離をとった

 

「”(くる)(おと)せ”『狂陰(きょういん)』」

 

「”雷光光(らいこうひかり)雷鳴鳴(らいめいな)らせ”『雷斬(らいざん)』!!」

 

互いはほぼ同時に始解した

 

「「いくぜ…!!」」

 



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第十二話(第十七話)

「隊長…今度も私に攻撃をさせてください」

 

「え?それは別にいいんだけど…猫ちゃんが始解したら山吹ちゃんの攻撃が当たらなくなっちゃうよ?」

 

「始解される前に倒します!!」

 

「…分かった。ただし猫ちゃんが始解や卍解したら私と交代してね。大丈夫だよ今度は油断せずちゃんと戦うから」

 

「了解しました」

 

「おぉ~あの二人なかなか激しいね」

 

猫間は狐蝶寺と山吹に目もくれずにすぐ近くで戦う雷山と影内を見ていた

 

「先ほどは油断しましたが今度こそは…!!」

 

「やれやれ、また君かい?さっきも言ったじゃないか。僕の木天蓼は頭で考えてどうこう出来るものじゃないってね」

 

山吹のほうへ目を向け応える猫間

 

「さっきと一緒だと思わないでください!!”破道の三十一”『赤火砲(しゃっかほう)』!!」

 

山吹がそう言うと火の玉が猫間に向け飛んで行った。しかし猫間は慌てることなくその火の玉を斬った

 

「やれやれ…これでは僕に勝てないってことくらいわかるはずなのにねぇ…」

 

土煙が晴れ山吹の姿が見えた猫間は驚いた。山吹は両腕を空に向け伸ばす格好をしていた

 

()てつく大嵐(おおあらし)氷空(そら) 零気(れいき)零下(れいか)零凍(れいとう)(せつ) ()まれば(こお)り (うご)けば()ける 氷点雪日(ひょうてんせっか)寒染(かんぞ)めよ!!”破道の八十六”『氷嵐(ひょうらん)』!!」

 

詠唱を終えると山吹の手から大量の冷気が猫間に向け放たれた

 

「しまった…!!」

 

(木天蓼の能力を使うか…?いや放たれたものには意味がない…ならば断空…?いや間に合わない…避けるしかない…!!)

 

冷気が炸裂し辺りが水蒸気に包まれた。猫間は間一髪で直撃は避けていたが左半身が凍り付いた状態になった

 

「くっ!油断した…」

 

「これで終わりです!!」

 

動けずにいる猫間に突っ込んでいく山吹

 

「…それはどうかな?”卍解”」

 

そういったと同時に辺り一面が木天蓼で覆いつくされた

 

「これは…」

 

「あの気分屋の猫間がここまでやるとは意外だな…」

 

雷山、椿咲と影内が戦う場所も一面が木天蓼に包まれた

 

「”卍解”『迷猫酔木天蓼(めいびょうすいまたたび)』!!」

 

「っ!?これは幻覚…じゃないね…」

 

「正解だよ。これは幻覚じゃなく今まさにここに存在する木天蓼の大群だよ」

 

「なるほど…」

 

「ついでに言うけど、迷猫酔木天蓼の能力は…って説明するより先に見せたほうが早いかな?」

 

猫間は指をパチンッと鳴らした

 

「いったい何を…?なっ!?」

 

その瞬間地面が揺れ始めた

 

「なぜ地面が…!?」

 

「酔うという感覚はわかるかい?迷猫酔木天蓼の能力はその酔うという感覚を強制的に作り出すことができる卍解さ。ちなみに始解と同様に頭で考えてどうこうできるものでもないよ。この術にハマったら最後僕が卍解を解くまでこの感覚は続くのさ」

 

「…やはり初代隊長というのは強いですね。仕方ありません…ここは狐蝶寺隊長にお譲りするしかないですね…」

 

「ッ!!」

 

その時猫間はさっきまで山吹の後ろにいた狐蝶寺がいないことに気が付いた

 

(狐蝶寺隊長はどこに行った…?)

 

猫間が辺りを見回すが狐蝶寺の姿はどこにもなかった

 

「ここだよ、猫ちゃん!!”全てを吹き飛ばせ”『風芽(ふうが)』」

 

猫間の背後に巨大な扇を持った狐蝶寺が現れた

 

鎌鼬(かまいたち)!!」

 

「かはっ!?」

 

猫間に風が襲いかかった。その衝撃で左半身を覆っていた氷は砕け散ったが、代わりに大きな傷ができた

 

(いったいどこから湧いて出た!?)

 

「いやぁ、やっぱ雷山君から教わっておいてよかったね。”縛道の八十七”『陽炎写(かげろううつし)』」

 

「くっ!『陽炎写』…雷山隊長が得意としていたあの縛道か…」

 

「そうだよ。使い勝手がいいから私も教えてもらったんだ。何なら猫ちゃんも教えてもらう?」

 

「今更教わる気もないよ。それに、僕も鬼道なら使えるしね」

 

そう言い猫間は手を合わせ叫んだ

 

「”破道の八十七”『黒炎(こくえん)』!!」

 

猫間が合わせたその手を放すと手の中に黒い炎が燃え盛り始めた。猫間はその炎を狐蝶寺に向け投げた

 

「甘いよ!!”縛道の八十一”『断空(だんくう)』!!」

 

目の前に防御壁を出現させ防御の態勢に入る狐蝶寺。猫間が放った鬼道が防御壁に当たると炎は爆発的に燃えだし一帯の木天蓼を黒焦げにした

 

「あーあ、僕の木天蓼が燃えちゃったじゃないか」

 

「それは私のせいじゃないよ。猫ちゃんが『黒炎』なんて放つからこうなっちゃったんだよ。それはそうと…そろそろいい頃かな」

 

その時猫間は警戒を強めた

 

「…何のことだい?」

 

「私の攻撃のことだよ。鎌鼬(かまいたち)開傷(かいしょう)”」

 

その瞬間猫間の腹部にできていた傷から大量の血が噴き出した

 

「ぐふっ…!!」

 

「へへっ!ようやく猫ちゃんの顔から余裕が消えたね……!!」

 

腹部の痛みに耐えるように顔をしかめる猫間

 

「まさか…こんな技が…あるなんて…」

 

「鎌鼬は猫ちゃんが死んじゃったあとに編み出した技だからね。知らなくて当然だよ」

 

「こんな……こんなことが……」

 

猫間の身体が震え始めた

 

「あって…あってたまるかああぁぁ!!」

 

猫間は腹部から出血することにお構いなしに狐蝶寺に突っ込んでいった

 

「久々に猫ちゃんに会えたし、猫ちゃんと戯れるのも楽しかったよ」

 

その瞬間猫間を巨大な竜巻が包み込んだ

 

「またね」

 

竜巻が消えるとそこにはもう猫間の姿はなかった

 

「っ!?」 

 

異変を感じ狐蝶寺の方へと目を向ける影内

 

「猫間ァ!!」

 

その一瞬の隙を雷山は見逃さなかった

 

「他所見をしている暇があるわけないだろ!!」

 

「ぐはっ!!」

 

吐血する影内

 

「ぐっ…!フフフ…はははは!!!今更こんな程度効くかよ!!」

 

フラフラしながらも立ち上がった影内の目に殺気が走る。その殺気は椿咲や数メートル離れている狐蝶寺も感じ取るほどの凄まじいものだった

 

「雷山ァ!!俺の本気を見るがいい!!”卍解”『永堕狂陰(えいだきょういん)』!!」

 

その瞬間影内からドス黒い霊圧が吹き出し始めた

 

「ついに本性を現したか」

 

「覚悟しろ雷山。お前を廃人にしてやらぁ!!」

 

「やれるものならやってみろ!!”卍解”『雷刃の摩槍』!!」

 

雷山がそう叫んだ瞬間、雷山の斬魄刀に周りの摩擦が吸い寄せられるかのごとく集まり

その後雷が一気に吹き出した。そして雷山の姿が見えると手には刀ではなく槍が握られていた

 

「…本気だな」

 

「お前もな…!!」

 

そのまま二人はタイミングを計るように睨みあい始めた

 

「す、すごい霊圧ですね…それにあれは、槍…ですか?」

 

雷山のとてつもない霊圧を感じ取って山吹が呟いた

 

「そうだよ。あれが雷山君の持つ雷電系最強の斬魄刀”雷斬”の真の姿だよ」

 

「雷山隊長の斬魄刀ってそんなすごいものだったんだ」

 

狐蝶寺の隣で感嘆する椿咲

 

「なんで南美ちゃんがここにいるの?」

 

「さっき雷山隊長に離れてろって言われたんですよ」

 

椿咲がそう説明したと同時に雷山と影内が互いを攻撃すべく猛スピードで近づいた

 

「うらぁ!!」

 

「おらぁ!!」

 

互いの剣と槍がぶつかり雷とドス黒い霊圧が混じり溶け合いそして爆発した。煙が晴れ二人の姿が見えると雷山は多少傷を負っている程度に対し影内は左腕が無くなっている重傷を負っていた

 

「くそっ!!もうダメか…」

 

「…思っていたよりも諦めがいいな」

 

「諦めたわけじゃねぇよ。雷山、六道は今何をやっている?」

 

「…まさかお前!?」

 

「ああ!!そのまさかだよ!!」

 

そう言い影内は自分自身に斬魄刀を突き刺した

 

「しまった…!!」

 

「片腕がなくなった身体なんざいらねぇからよ。ここでリセットさせてもらう。まあ、タイミング次第で蘇られねぇかもしれない一か八かの賭けだがな…」

 

影内は斬魄刀に力を込めた

 

「今回はお前の勝ちにしといてやるよ。雷山」

 

そして一気に自身の身体を真っ二つに引き裂いた

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃雷山たちがいる場所から北に少し行ったところでは――――――――――――

 

 

 

 

 

 

輪廻(りんね)(まわ)(よみがえ)れ”卍解”『六道輪廻黄泉(ろくどうりんねよみ)』」

 

その瞬間地面よりいくつもの人影が現れれ始めた。その中には先ほど倒された猫間と影内の姿もあった

 

「さて、いよいよ決戦と行くか…」

 

 



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第十三話(第十八話)

「六道!!」

 

雷山たちが走ってくると六道はそれが当然であるかのように堂々と座して待っていた

 

「意外と遅かったな。お前らならもう少し早く来ると思ってたんだがな」

 

「それはお前が俺たちのことを買い被りすぎなんだよ」

 

「…まあ、そう言うことにしておくか」

 

ゆっくりと立ち上がる六道

 

「雷山、俺の目的は山本重國を倒し護廷十三隊を文字通り消滅させることだ。すべては山本重國への復讐のため…!!」

 

「…なるほど目的は山本を殺す事か。てっきり俺を殺そうとしているもんだと思っていたよ」

 

その言葉を聞いた六道は驚きの声を上げた

 

「おお、これはまた意外だな。お前ならすぐに気づくもんだと思っていたんだがな」

 

「勘違いするのも無理はないだろう。お前が恨んでいることは大方500年前にお前を殺そうとしたことだろ?あの時滅却師共々お前を始末すると決めたのは山本だが、実行したのは俺達だからな」

 

雷山の推測を否定せず六道はゆっくりと口を開き語った

 

「…ああ、そうだ。当時の護廷十三隊は護廷とは程遠い殺伐とした殺し屋の集団だったのはお前も知っているだろ?」

 

「殺伐としていたかは知らないが、確かにあの時は殺し屋の集団と言われてもおかしくはないな」

 

「どうやらあのじじいは俺がユーハバッハを生き返らせ尸魂界を落とすつもりでいると思ったらしい。あの時ユーハバッハは命からがら敗走したのを何人もの隊長、隊士が見ていたんだが、あのじじいは自分で見たものしか信じようとしなかった」

 

「その結果お前を勘違いで殺そうとした…と?」

 

「ああ、容疑が晴れたとき一言詫びてくれたのなら俺だってこんな馬鹿な真似はしなかったさ。だがな、容疑が晴れ一番隊舎に行ったときあのじじいはなんて言ったと思う!?」

 

六道の口調にだんだん怒気がこもってきた

 

「”おぬしの普段の行いの結果じゃ。日々精進して行いを正すのじゃな”とぬかしやがった!!あの時は俺はすべてを察した。あのじじいは俺たちを都合のいい駒としか考えてないとな!!」

 

「それで山本に殺しあいつが率いる今の護廷十三隊を消滅させることにしたのか」

 

「そう言うことだ。まあ、そんなことを今知ったとしてもお前らがとれる選択肢は変わらないんだがな!!」

 

その瞬間大気にヒビが入り先ほど蘇らせたであろう隊長たちが出てきた

 

「やはりすでに蘇らせていたか…」

 

「雷山、やはりお前の存在は大きかったよ。影内と蜂乃背を潰されたのは痛かった」

 

そう言い雷山に拍手を送る六道

 

「だが、お前ら4人でこの場にいる奴ら全員を相手にするのは無理だ。ここがお前の墓場だ!!」

 

構える雷山たちに初代隊長たちが襲い掛かろうとしたその時

 

「この場にいるのが4人だけだと思いましたか?」

 

「この声…卯ノ花か…!!」

 

どこからか声が聞こえ動揺する六道たち

 

「お久しぶりです。六道隊長」

 

その瞬間卯ノ花、山本元柳斎重國の二人が現れた

 

「卯ノ花隊長におじいちゃん!!」

 

「それだけじゃないぞ!!」

 

大澄夜剣八をはじめとした隊長、副隊長が現れた

 

「みんなまで…!!」

 

歓喜を上げる狐蝶寺

 

「…なるほど。俺たちが全員揃うこの瞬間を待っていたのか」

 

「六道死生、おぬし…」

 

「何も言うな。お前の弁明なんて聞きたくもない。俺の事を使い捨ての駒としか見ていなかったお前をこの手で消すだけだ!!」

 

怒りに身を任せ山本に突撃していく六道

 

「まてっ!!六道!!」

 

六道の後を追おうとする雷山だが影内が行く手を阻んだ

 

「よお雷山…!!さっきぶりだな…!!」

 

「どけ影内…!!」

 

「さあ、さっきの続きと行こうぜ…!!”卍解”『永堕狂陰』」

 

「隊長!!」

 

雷山が影内に行く手を阻まれていることに気づき応援に向かおうとする椿咲だったが

 

「おっとお前は俺が相手をしよう。椿咲南美」

 

「あなたは…蜂乃背秋十!?」

 

蜂乃背がその行く手を阻んだ

 

「呼び捨てか…まあ、そんなことはどうでもいいか。”卍解”『斬流水内連塊(ざんりゅうすいうちれんかい)』」

 

「どうしようかなぁ…」

 

普段の口調とは裏腹に椿咲は内心焦っていた

 

(まずいなぁ…この人には私の斬魄刀の能力のからくりがバレちゃってるから同じ手が通用しない…おまけに鬼道や斬術だけで倒せるほどこの人も弱くないしどうしようかな…)

 

「さあ、椿咲南美よ。さっさと卍解しろ。今度は以前のように惑わされはしない。真正面からお前の卍解を打ち破ってやろう」

 

「はぁ…やるしかないかな”卍…」

 

「待て。椿咲副隊長」

 

卍解しようとした椿咲を十一番隊隊長大澄夜剣八が制した

 

「大澄夜隊長!?」

 

「あなたは雷山隊長の援護に向かえ!ここはこの大澄夜が預かる」

 

「で、ですが…!!」

 

蜂乃背を足止めすると言う大澄夜だが、大澄夜自身もいくつもの傷を負っていて万全の状態とは言い難い状態だった

 

「いいから早く行け!!」

 

「は、はい!あ、ありがとうございます!!」

 

大澄夜に蜂乃背を任せ雷山の下へ向かっていく椿咲と左腕を上げ答える大澄夜

 

「待て!!椿咲南美!!」

 

その椿咲の後を追おうとする蜂乃背だが大澄夜に行く手を阻まれた

 

「おっとお前の相手はこの俺だ…!!」

 

「どけ…!!」

 

「残念だが断る。それより椿咲副隊長より俺との戦いの方が楽しさを味わえると思えるがどうだ?”()()れ”『尖鎌(とがま)』」

 

始解をすると大澄夜の斬魄刀が大きな鎌に変わった

 

「…なるほどな。確かにお前とも楽しい戦いが味わえそうだ」

 

その瞬間二人は一気に近づき互いの刃が交わる音がその場に響いた

 

 

 

 

 

 

「くそっ!!めんどくせぇな!!」

 

影内の太刀筋を躱しつつ雷山がイライラするように言った

 

「それはこっちのセリフだ!お前どういう神経してやがる。お前にはトラウマってもんはないのか!?」

 

雷山は影内の斬撃を受け止め言った

 

「生憎そんなもんは持ったことも持つ気もねぇな…!!」

 

影内は雷山が一瞬出した殺気に臆した

 

「っは!いい殺気を出すじゃねぇか…!」

 

影内がそう言ったその瞬間椿咲が背後より攻撃を仕掛けた

 

「なにっ!?」

 

椿咲の攻撃を受け体勢を崩す影内

 

「隊長!!援護しに来ました!!」

 

「ちっ!!くそが!!」

 

体勢を立て直し椿咲に攻撃しようとする影内だったが

 

「ぐはっ!!」

 

椿咲に意識を向けたことにより影内は雷山の攻撃をもろに受けてしまった

 

「クソがっ…!!また…こんな…!!」

 

「今度こそ終わりだな。影内」

 

「くそ…」

 

そこで影内の意識は途絶えた

 

「よし!椿咲、六道を追うぞ!!」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうした山本重國!!逃げてばかりでは俺を倒せすことはできないぞ!!」

 

「…流刃若火」

 

その瞬間巨大な炎が六道に向け放たれた

 

「”六道行使”地獄道!!」

 

六道は本来相手に攻撃するための技をあえて自分に当て山本の炎を相殺した

 

「さあ、へばってくれるなよ。俺の恨みはまだまだこんなもんではない!!」

 

「六道死生。おぬしが儂を恨んでおったことは知っておる」

 

「なんだ今更弁明か?お前らしくもないし不愉快だ」

 

「まあ話を聞くのじゃ。六道死生…」

 

「黙れ!!あの時お前がどんな考えをもって俺を殺そうとしていたかなんてどうでもいい。ただ俺を殺そうとしそれが必然であったかのようにぬかしやがったお前の言葉が気に食わないんだよ!!もうしゃべるなこの老害がッ!!」

 

「そんなに怒るな。六道」

 

「…雷山か。まさか隊長たちを退けてきたのか?」

 

「いや、何人かは他のやつらに任せてきた。お前との決戦に集中するためにな。なあに、安心しな。山本に手は出させねぇよ」

 

「雷山おぬしまた勝手なことを…」

 

「…いいだろう。山本重國の前にお前を葬ってやろう」

 

雷山は笑みを浮かべ山本に言った

 

「だそうだ。お前は高みの見物でもしてろ山本」

 

「…任せてよいのじゃな?」

 

「俺が負けると思ってるのか?」

 

「……」

 

山本は無言で瞬歩を使いその場を去った

 

「さあ!決戦と行こうか六道。お互い悔いの無いよう最高の戦いを味わおうぜ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十四話(第十九話)

「最高の戦いを味わおうぜ!!」

 

「最高の戦いか…確かに悪い響きではなさそうだが…」

 

六道は瞬歩で雷山との距離を一気に詰めた

 

「お前にその戦いが出来るのか?」

 

六道の斬撃を難なく受け止める雷山

 

「言ってな!”雷光光(らいこうひかり)雷鳴鳴(らいめいな)らせ”『雷斬(らいざん)』!!」

 

始解した雷山の斬魄刀から雷が吹き出した

 

放電(ほうでん)!!」

 

六道はわずかに刀を動かし感電するのを防いだ

 

六道行使(りくどうこうし)修羅道(しゅらどう)”!!」

 

雷山は六道の霊圧が上がり、動きが早くなったのを感じた

 

ガンッ!!

 

六道の刀を受け止めた雷山だったが

 

「うぐっ…!」

 

徐々に六道に押され出した

 

「どうした雷山!!これがお前の全力か!?」

 

雷山を弾き飛ばす六道

 

「くらいな!!六道行使”地獄道(じごくどう)”」

 

その瞬間雷山の身体が燃え始めた

 

「あっちぃな!!」

 

燃えながらも六道に切りかかる雷山だが、六道はいとも簡単にかわした

 

「言っておくがそれは本物の炎だ。さあ、はやく消さないと焼け死ぬぞ?」

 

余裕の笑みを浮かべる六道、一方で雷山は深く息を吸い込み

 

「”破道の八十九”『八峰降水汰咆(はっぽうこうすいたいほう)』」

 

と呟いた。すると空から大量の水が降ってきて雷山を直撃した。しかし次の瞬間には雷山を包んでいた炎は消えていた

 

「残念だが、俺の身体を燃やそうが凍らせようが無駄だぜ?」

 

「まさか自分ごと鬼道を当てて火を消すとはな…だがこれなら効くだろ?”六道行使”修羅道」

 

再び身体能力を一時的に上げ一気に距離を詰め雷山に攻撃する六道

 

「残念だがそれはもう効かない!」

 

六道の斬撃を避け反撃に転じる雷山。しかし六道はそれが当然であったかのように笑みを浮かべていた

 

「お前がよけるか受け止めるかなんて想定内の行動だ。六道行使”畜生道”」

 

六道は刀を地面に突き刺し叫んだ

 

「蘇れ!哀れな門番!!」

 

すると地面が盛り上がり次第に六道が先刻切り殺した朱洼門門番微錠丸の姿に形が整っていった

 

「お前は…!?」

 

微錠丸は雷山の背後の周り雷山を拘束した

 

「くそっ離せ!!」

 

微錠丸に雷山を捕まえさせている隙に微錠丸ごと雷山を切りつけた

 

「くっ…!」

 

六道に切られた衝撃で微錠丸は消えてしまった

 

「とうとう傷を負ってしまったな。雷山よ。六道行使”餓鬼道”」

 

そう六道が言ったとき雷山は身構えたが特に何も起きた様子が見受けられなかった

 

「…何をした?」

 

「何をしたかって?餓鬼道は他人の霊圧を奪う能力だと言えば分かるだろ?」

 

「なにっ!?」

 

その瞬間近くにいた数人が雷山の霊圧が徐々に下がっていることに気が付いた

 

「お前、俺の霊圧を…」

 

「ああ、修羅道は霊圧を多く使うからな。…よし、これだけ奪えばいいだろ」

 

「くそっ…六道のやつやってくれたな…!!」

 

霊力を奪われ息が上がりだす雷山

 

「お前も大したやつだな。本来この技を使うと相手はあまりの疲労に立っていることもできなくなるというのに…」

 

瞬歩で雷山の背後に回る六道

 

「お前が山本重國とほぼ同等の霊力を持っているという噂は本当だったようだな」

 

「っ!!」

 

振り返ろうとした雷山だったが

 

「ぐはっ!!」

 

雷山は一瞬反応が遅れた分六道の斬撃をまともに受けてしまった

 

「はぁ…はぁ…これで終わったと思うなよ…六道…!!」

 

「死にぞこないが何を言ってやがる」

 

その瞬間六道の目の端に一人の人影が映った

 

「お前は…確か雷山の副官の…」

 

「”卍解”『陽華幻想月(ようかげんそうが)』」

 

そこには卍解した椿咲の姿があった

 

「…今更卍解したところで、とっくに勝負は―――――」

 

その時六道は目の前にいたはずの雷山がいなくなっていることに気づいた

 

(雷山のやつどこに行きやがった…?いやこの場にはいるな…だが姿が見えん…どうなっている…?)

 

「おいお前。いったい何をした?」

 

「何もしてないよ。それよりさ、私の相手をしてよ」

 

その言葉を聞いた六道は椿先を馬鹿にするように続けた

 

「俺がお前の相手をするだと?やれやれ…お前程度じゃ俺には勝てんぞ?」

 

「やってみないと分かんないよ?」

 

その瞬間椿咲の姿が一瞬歪んだように見えた

 

(なんだ…今のは…?)

 

刀を構え何が起きても対処できるように臨戦態勢に入る六道

 

「う~ん…どうやらまだまだみたいだなぁ~」

 

「…何の話だ?」

 

「いやいやぁ。私が完成させようとしてる技の話だよ。まだ姿が歪むだけしかできないのか…」

 

「よく分からんが、俺の行く手を阻むなら―――――」

 

六道は椿咲の背後に回り斬りかかった

 

「迷わずに殺すだけだ」

 

さすがの椿咲も初代隊長の攻撃を避けることはできず体から鮮血が吹き出した

 

「そん…な…」

 

力なく倒れる椿咲

 

「言った通りお前では俺には勝て…なんだと!?」

 

六道は驚愕した。先ほど切り倒したはずの椿咲の姿がどこにもなかったからである

 

「何を驚いているの?」

 

驚いている六道を尻目に椿咲が六道の隣を歩いて行った

 

「さきほど切り倒したはずのお前がなぜ平然と立っている!?」

 

不敵な笑みを浮かべ椿咲は答えた

 

「さあ?なぜでしょうかね?」

 

「卍解の能力か…」

 

「そうだよ。私の卍解の能力は相手に幻覚を見せることが出来る。それが私よりはるかに強い人でもね」

 

「なるほど。それは実に厄介な能力だ」

 

「…疑問に思わなかったの?」

 

「何がだ?」

 

「なんで私がこんな簡単に自分の能力を言ったか不思議に思わなかったの?」

 

六道はしまったと思い後ろを振り向いた

 

「残念だけど、あなたはもう雷山隊長にはかつことができないよ」

 

「そう言うことだ!!」

 

その瞬間振り向いた六道の背後から雷山が現れた。六道は反応が遅れてしまい雷山の攻撃を避けるころができなかった

 

「ぐはっ!!」

 

六道に斬魄刀を突き刺す雷山。続けざまにこう叫んだ

 

「放電!!」

 

瞬間、雷山の斬魄刀から雷が放出された

 

「ぐわああぁぁ…!!」

 

六道は悲鳴を上げ後ろに数歩歩いたのちその場にひざま付いた

 

「ようやくひざまずいたな、六道…!!」

 

「くそっ…!!」

 

雷山を睨む満身創痍の六道。しかし雷山も万全の状態とは言えず、ふら付いていた

 

「お前に霊圧を奪われ、斬られたときはもうダメかと思ったよ。椿咲が咄嗟に機転を利かせてくれて助かった」

 

「それほどでもないですよぉ~」

 

「さて、お互いこの様だ。この戦いも決戦といくか」

 

「…そう…だな…」

 

六道は深呼吸をしゆっくりと立ち上がった

 

「やれやれ…この技は山本重國を殺すために取っておいたのにな…六道行使(りくどうこうし)人間道(にんげんどう)”」

 

その瞬間雷山は六道の霊圧がどんどん下がっていくのを感じた。普通の死神なら生命維持すらできないほどにまで

 

「先ほどまでの俺と思うなよ…雷山…!!」

 

六道の目に鋭い殺気が映る。その殺気に晒された椿咲は咄嗟に六道との距離を多めにとってしまった

 

「なかなかの殺気を出すじゃねぇか。殺気だけで椿咲をあそこまで距離を取らせたのはお前が初めてだ」

 

「…褒め言葉として受け取っておこうか」

 

次の瞬間雷山を含め周囲は驚愕した

 

「なっ!?」

 

六道が目にもとまらぬ速さで雷山の懐に近づき斬りつけていたのである

 

(こいつ…なんて速さだ…!!見えなかったぞ…!!)

 

反射的に六道から距離を取る雷山

 

「どうだ?俺の切り札”人間道”だ。この技は俺の霊圧を極端に消費する代わりに斬拳走鬼すべてを限界以上に向上させる技だ。しかしいいデータが取れたよ。お前をここまで圧倒できるなら山本重國も苦労することなく倒せるだろうな」

 

「…なるほど。確かにこれなら山本に戦いを挑むのも無謀なことではないな。それにしても斬拳走鬼すべてを限界以上に向上させる技…か。ハハハ…!!楽しくなってきたじゃねぇか」

 

 

 

 

 

 

 

 




破道の八十九”八峰降水汰咆(はっぽうこうすいたいほう)
効果:空から大量の水を降らす。使用者の加減により雨程度から滝ほどにまで水量を変えることも出来る


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第十五話(第二十話)

六道の攻撃によって深い傷を負った雷山だったが

 

「楽しくなってきたじゃねぇか…!!」

 

その眼にはまだ闘志が残っていた

 

「さすがだな。そこまでの傷を負ってもまだ戦う気力が残ってるなんてな」

 

「こんな程度でへばっていたら、隊長は務まらんよ」

 

「それもそうか…」

 

再び雷山の懐に入ろうとする六道だったが

 

「っ!?」

 

あるところを境に動けなくなった

 

「ぐっ…!なぜ動けない…!?」

 

「六道よ。俺の斬魄刀の能力を忘れたのか?」

 

「しまった…!!」

 

六道は何かを思い出したように声を上げた

 

(くそっ…忘れていた…雷山の斬魄刀は一見するとただ雷を生み出すだけの能力だと思われがちだが実際は違う…奴の斬魄刀の能力は摩擦を操る能力…!!)

 

「ほらどうした?あと少しで俺を貫けるぞ?」

 

「ぐっぬぬ…!!」

 

何とか刀を動かそうとする六道だが微動だにしなかった

 

「ほら、さっきのお返しだ」

 

そう言うと雷山は六道を蹴り飛ばした。蹴り飛ばされ壁に向かって飛んでいく六道

 

「ぐはっ!!」

 

六道は壁に激突した衝撃で吐血する。また六道がぶつかった衝撃で壁が崩れ六道は生き埋めの状態になった

 

「ほら、さっさと出て来いよ。まだ死んでいないだろ?」

 

「ちっ…」

 

自身の上に乗っていた残骸をどけ口元の血を拭う六道

 

「やってくれたな…雷山」

 

「お返しだって言ったろ?」

 

「くそっ…こうなったら…」

 

六道が何かを仕掛けてくると直感した雷山は意識のすべてを六道に向けた

 

(こいつ…何をしてくるつもりだ…?)

 

「フフフ…雷山、俺を見つけることが出来るかな?”縛道の八十七”『陽炎写』」

 

その瞬間その場にいたすべての者が六道の姿に見えるようになった

 

「なるほど陽炎写か…まためんどくさいことしやがって…」

 

雷山がそう呟いた時周りでは何人もの六道同士が戦っている奇妙な光景が広がっていた

 

「…やれやれ”縛道の八十九”『解呪(かいじゅ)』」

 

雷山が使った縛道『解呪』によって六道の『陽炎写』が無効化され、それまで六道の姿に映されていた者すべてが元の姿に見えるようになった

 

「あんな気持ち悪い風景はこりごりだな」

 

「おいおい心外だな。案外面白い風景だったぞ思うぞ?」

 

六道は特に変わった様子がなく雷山の前に依然としていた

 

(陽炎写を俺が簡単に破ることはあいつにも分かっていたはずだ…だがそれでもなお使ったということは何か他に狙いがあるのか…?一応あれを使う用意をしておくか…)

 

「解せないって顔をしてるぞ。俺が陽炎写を使ったことがそんなに解せないのか?」

 

余裕の笑みを浮かべながら六道は続けた

 

「簡単なことだ。お前が斬魄刀の能力を一瞬でも使わないタイミングが欲しかっただけだ」

 

六道は瞬間的に移動速度を上げ、雷山の背後に回った

 

「言っとくが俺はまだ人間道を使っている状態だ。いくらお前でもノーガードで人間道の攻撃を受ければただでは済まない!!終わりだ雷山!!」

 

それは時間にして一秒はかからなかったであろう。しかし六道は確かに雷山の声を聞いた

 

「やはりこれを用意しておいてよかったな…」

 

その瞬間雷山と六道の間に空から雷が降ってきた

 

「なんだと!?」

 

雷に阻まれ六道の攻撃は雷山に届く事がなかった

 

「さっきお前はこれで終わりだと言ったな。残念だがそれはこちらのセリフだ。百降雷壁陣(ひゃっこうらいへきじん)

 

その言葉を合図とするかのようにいくつもの雷が天より降り注ぎ六道の周りに雷の壁を築き始めた

 

「なんだ…これは…?」

 

「あのユーハバッハに重傷を負わせた俺の最高の技だよ。これを使うのは今回で4回目かな、正真正銘これが最後の俺の切り札だ!!」

 

そう言い雷山は手を六道の方へ突き出し握りこぶしにした。そしてそれと同時に雷の壁が収縮し始め徐々に六道の方へ近づき始めた

 

「雷が収縮してきただと!?くそっ!!」

 

雷の壁を止めようとする六道

 

「ぐぬぬ…!!」

 

最初はなすすべもなく押されていた六道だったが

 

「はぁ…はぁ…どうだ!!」

 

収縮する雷を満身創痍ながら無理やり止めることに成功した

 

「それを止めるとはさすがだな。だが、それで勝ったと思うなよ?ここからは根競べだ!!」

 

必死に止めようとする六道だが徐々に押され始め円形に作られる雷の壁が六道の背後に迫る

 

「くそっ…くそがっ…ぐわあああ!!!」

 

背後に迫った雷の壁が六道に触れたと同時に爆発し辺りは爆煙に包まれた

 

「……」

 

雷山は警戒を解かずに煙を見つめていた。煙が晴れると血だらけの六道が立っていた

 

「はぁ…はぁ…これが…お前の全力か…?残念だが…俺には…届…か…」

 

そこまで言った時六道は前のめりに倒れた。その瞬間それまで六道の卍解の能力によって蘇っていた初代隊長たちの姿が透け始めた

 

「なっ!?」

 

「これは…」

 

初代隊長たちの間にも動揺が広がる。

 

「やれやれ…六道隊長もここまでのようだな…」

 

一人がそう呟いたのを合図とするかのように一人また一人と消えていく

 

「やっと終わったか…」

 

雷山がそう呟いた瞬間

 

「雷山!!お前も道連れだ!!」

 

大澄夜を振り切った蜂乃背が猛スピードで雷山に突っ込んできた

 

「蜂乃背…!!」

 

「最後の最後で油断したな!!これでお前との勝負は俺の勝ち逃げだ!!」

 

そう言い刀を振るう蜂乃背だったが

 

「お前は…!?」

 

狐蝶寺が雷山を庇い蜂乃背の斬撃を受け止めていた

 

「…まさかお前に止められるとはな…」

 

そう言うと蜂乃背の姿が透け始めた

 

「結局おまえには勝てなかったな雷山…だがまあ、久々に楽しかったよ」

 

吹っ切れたように、満足したように蜂乃背は言った

 

「じゃあな。雷山と狐蝶寺隊長」

 

すがすがしい笑みを浮かべながら蜂乃背は消えて行った

 

「はぁ…」

 

深いため息とともにその場に座り込む雷山

 

「これで本当に終わりだな…」

 

「そうだね。みんなに久しぶりに会えたのはうれしかったけどもうこんな経験はこりごりだよ」

 

雷山の隣に一緒に座った狐蝶寺が言った

 

 

 

 

 

それから数日後・・・

 

 

 

 

 

 

「うっ…」

 

四番隊・総合救護詰所のベッドの上で目を覚ます六道

 

「おっ、目を覚ましたか」

 

「…雷山か。ここはどこだ…?」

 

「ここか?ここは四番隊の総合救護詰所だ。お前は俺に敗けた後ここに運ばれたんだ」

 

「…そうか。痛っ…!」

 

無理に身体を起こそうとする六道

 

「無理に起きようとするな。お前は今かろうじて生きていると言っても過言ではない状態だ」

 

そう雷山に言われ六道は諦めるようにベッドへ身を任せた

 

「…俺はどうなる?」

 

「さあな。そこまでは俺にも分からんよ」

 

「そうか…」

 

「そうだ。山本がお前に面会したいと言ってたがどうするよ?安心しなお前にも責任があるとかぬかしたら拳骨くらいは食らわしといてやる」

 

六道は目を閉じしばらく考えだした

 

「いいだろう。どうせ監獄に収監される身だからな、今更何を言われたとしてももうどうすることもできん」

 

「だそうだ山本。入ってきていいぞ」

 

雷山に促される形で護廷十三隊総隊長山本元柳斎重國が入ってきた

 

「六道死生、おぬしが儂を恨んでおったことは雷山から聞いた。今更弁明を述べたところでおぬしの気が晴れる訳もあるまい。ただ、一言詫びをいれよう。すまなかった…」

 

六道は頭を下げた元柳斎を驚いたように見ていた

 

「…その詫びをもう少し早く聞きたかったな。だがまあ、気が晴れたよ」

 

 

 

 

 

その翌日、中央四十六室によって六道の裁判が行われ、判決が言い渡された

 

 

 

 

 

「元十二番隊隊長六道死生。反逆罪により中央地下大監獄最下層・第3監獄”無間”にて3千年の投獄刑に処する」

 

「…まあ、そんな所だろうな…」

 

「―――――と言いたいところだが、過去の実績及び情状酌量の余地を認め無罪を言い渡す」

 

「ッ!?なぜだ。俺は尸魂界に反逆したんだぞ!?それを…」

 

「我らの判決の異議は認めぬ!!」

 

その後六道は中央四十六室の議場から解放され、瀞霊廷を行く当てもなく歩いていた

 

「一体何が起きたんだ…?極刑まではいかなくとも千年単位での投獄刑は覚悟してたんだが…」

 

「よお、六道。解放された気分はどうだ?」

 

六道が顔をあげると雷山が立っていた

 

「…雷山、何故お前がここにいる。…まさかお前が…!?」

 

「おっ!察しがいいな。そうだとも四十六室に根回しをしたのは俺だ。いや、正確には俺たちだな」

 

「俺たちだと?」

 

「ああ、さすがに俺一人だけじゃあのじじい共を説得しても無駄に終わるからな。白や春麗、卯ノ花や山本の五人であのじじい共を説得してやった。いくらあいつらが尸魂界の最高司法機関と言われていようが、俺たちには頭が上がらないからな。渋々承諾するしかなかったようだ。まあ、それなりの条件は出たがな…」

 

六道は息を吞み雷山の言葉に耳を傾けた

 

「そんなに緊張しなくてもいい。お前を無罪とする条件だが、”即刻斬魄刀を返却し瀞霊廷への永久に立ち入ることを禁ずる”だそうだ。まあ、こればっかりは従うしかないわな」

 

「何故あの四十六室が俺の無罪を認めたんだ。おかしいのはお前たちもそうだ。俺を無理やり無罪にすればお前たち自身にも影響が及びかねないんだぞ」

 

「さあな。他のやつにどんな思惑があったのかは知らないが、俺はただ、古くからの戦友(とも)を労ってやっただけだ。今までご苦労だったな。六道」

 

「ふん…お前にそんなことを言われる日が来るとは夢にも思わなかったよ」

 

「ああ、俺もまさかお前に言う日が来るとは思わなかった」

 

「…では、俺はもう行く。じゃあな、雷山。お前らとはもう二度と会うこともないだろう」

 

そう言うと六道は雷山の横を抜け去って行こうとした

 

「待てよ、六道」

 

「なんだよ。まだ俺に何か用があるのか?」

 

「お前どこに行くつもりなんだ?」

 

「行くあてなんかねぇよ。どこかその辺りを旅して回るだけだ」

 

「そうか。…六道、お前居場所を逐一俺に教えてくれないか?」

 

それを聞いた六道からは「はあ?」と間の抜けた返事が帰って来た

 

「何故そんな面倒なことをやらないといけないんだ。俺は解放されたんだろ?だったらもうお前らとは関わらない方がいいだろうし何より関わる気もない」

 

「やれやれ…」

 

「…もう用は済んだだろ?だったら静かに復讐に身を焦がれた哀れな死神を見送ってくれ。じゃあな」

 

「また顔を見せに来いよ!俺の友人としてなら喜んで招いてやる!」

雷山の呼びかけに手を上げて答える六道

 

「…あいつ、どうやら吹っ切れたみたいだな。さて、俺もそろそろ隊舎に戻るか」

 

 

 

 

それからさらに数日後・・・

 

 

 

「はあ…はあ…」

 

森の中を走る影が一つ

 

(なんでこんなところにあんな化け物がいるんだ…!!)

 

その正体は流魂街に住む少年だった

 

「うわっ!!」

 

ドサッ

 

少年は少しの段差につまずいてしまい転んでしまった

 

「うっ…ててっ…はっ!」

 

我に返り再び走りだそうとしたが

 

ドンッ!!

 

目の前に虚の足が降ろされた

 

「……」

 

放心状態になりその場で固まってしまう

 

「グラァアアアアアア!!!」

 

虚の爪が少年に振りかざされたその時

 

「”破道の六十三”『雷吼炮(らいこうほう)』」

 

鬼道を浴びた虚は霧散して消えてしまった

 

「やけに騒がしいと思っていたら、お前が虚に追いかけられてたのか」

 

森の奥のほうから一人の死神が出てきた

 

「あ、ありがとうございます…」

 

「礼はいい。それよりさっさとここから去るんだな」

 

「…あの、名前を聞いてもいいですか?」

 

「…名前か?俺の名前は六道、六道死生だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~初代隊長反乱篇 fin~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




縛道の八十七”陽炎写(かげろううつし)
効果:自身の霊圧を使い、陽炎を発生させ任意の姿を写す技

縛道の八十九”解呪(かいじゅ)
効果:八十八番以下の縛道をすべて無効化することができる


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虚圏の女帝篇
第一話(第二十一話)


 

 

 

 

前代未聞、初代護廷十三隊十二番隊隊長・六道死生率いる初代護廷十三隊隊長たちと護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國率いる現護廷十三隊隊長たちとの壮絶な死闘から徐々にほとぼりが冷め始めた頃―――――――

 

 

 

 

~瀞霊廷・五番隊隊舎隊長執務室~

 

 

椿咲は五番隊が修復を担当する地区の見回りに出かけ、雷山は先日の反乱の件に関する書類に目を通していた。そこへ何枚かの書類を抱え五番隊第三席・実松矢井(みまつやい)がやって来た。

 

「雷山隊長少しよろしいですか?」

 

 

「なんだ?」

 

雷山は目線を変えずに実松の呼びかけに答えた。実松は自身が抱えていた書類の一枚を雷山の目の前にそっと置き続けた。

 

「隊長に山本総隊長から一番隊舎への召集がかかっております」

 

「はぁ?まったくいきなり何の用だ…」

 

書類を手渡された雷山は目を通しすぐに席を立った。

 

「悪いが留守を頼む。こればっかりは無視するわけにはいかない内容なんでな」

 

「了解しました。いってらっしゃいませ」

 

雷山は「おう!」と答え実松に留守を任せ一番隊舎へと赴いた

 

「山本、入るぞ」

 

雷山は礼儀として一番隊隊長執務室前で一声かけた

 

「来たか雷山」

 

「ああ、召集状を出してまで俺に何の用なんだ?」

 

「先日の六道の件で九番隊隊長の席が空席の状態になっておる。そこでおぬしの(ところ)の椿咲南美副隊長を九番隊隊長に推薦するという案がわしの元に来ておるがどうする?」

 

それを聞いたとき雷山は驚きと同時にため息と吐いた

 

「はぁ…誰だよ。俺に何も言わずに勝手に椿咲を推薦したのは…」

 

「…狐蝶寺隊長の推薦と聞いておる」

 

雷山はやっぱりあいつかと言いたげな顔をした

 

「やれやれ…あいつにも困ったものだ」

 

「それでどうするつもりじゃ?」

 

「…もう一つ聞くが、なぜそれをわざわざ俺に言うんだ?」

 

「この話を勝手に進めたとしたらおぬしは後で文句を言うであろう?」

 

「よく分かってるな。さすがは500年近くの付き合いだ。まあ、残念だがその話は断っておく。あいつに隊長はまだ早い。あと数年は俺の下に置いておく」

 

「…そうか。椿咲副隊長にはこのことは伝えなくても良いのか?」

 

「伝えなくてもいい。俺が断ったことを知ってうるさくなるだろうからな」

 

「そうか。時間を取らせてすまなかったのう」

 

「気にすんな。護廷十三隊の長はお前だからな。多少なりとも従うのは当然だろ」

 

そう言い雷山は一番隊隊舎を後にした。五番隊隊舎に戻ってきた雷山は絶句した

 

「おい…これはいったいどういう状況だ…」

 

そこには書類が散らかっている隊長執務室と気を失って倒れている椿咲と藪崎、慌てて片づけをしている実松と安の姿があった

 

「実松この状況を説明しろ。なんでこの部屋の書類が散乱していてその真ん中で椿咲と藪崎が気絶してるんだ」

 

「それがその…」

 

 

それは数分前に遡る――――――――――

 

 

「おい雷山!この書類を…っていねぇじゃねぇかよ」

 

「君はいい加減雷山さんを呼び捨てにするのをやめたらどう?あれ、実松さん。雷山さんは留守ですか?」

 

「藪崎…雷山隊長は山本総隊長の所へ行っていていませんよ」

 

「なんだ、あのジジイの所か。まあいいや。この書類を渡しといてくれ。じゃあな」

 

「はぁ…やれやれ」

 

実松が頭を抱え呆れている所に椿咲が帰って来た

 

「隊長~!」

 

「がっ!?」

 

勢いよく部屋に入ってきた椿咲と部屋を出て行こうとした藪崎がぶつかった

 

「痛ってぇな!どこ見て歩いてんだよ!その二つの目は飾り物か何かか!?」

 

「ごめんごめん。えっと…渋崎くんだっけ?」

 

「藪崎だ!!てめぇいい加減にしろよ…!!」

 

「何よ!少し間違えたくらいでそんなに怒らないでよ!!」

 

「元の原因はてめぇだろ!!頭に来たぜ…ここで叩き斬ってやらぁ!!」

 

「それはこっちのセリフよ!!」

 

 

そうして大喧嘩が始まり最終的に両者共に相討ちとなり気絶するという結末を迎えたのだった。

 

 

「なるほどな。それでこの部屋のあり様か」

 

「すいません。止めようとはしたんですが自分も安もとても入れるような状況じゃなかったもんで」

 

「申し訳ないです。雷山さん」

 

申し訳なさそうに頭を下げる安と実松

 

「まあ、原因はそこで気絶してる二人だしな。お前らを責めようとは思わんよ」

 

「うっ…いててっ…」

 

藪崎が目を覚まし頭を擦りながら身体を起こした。

 

「こいつ思ってたより強いな…久しぶりに本気を出しちまった…」

 

「ようやく起きたか。お前何してるんだよ。まあ喧嘩はするなとは言わんがせめて外でやれ」

 

「…なんだ雷山か。この前も言っただろ俺は誰にも従わないとな」

 

「……できればこういうのはやりたくはないが仕方がない。お前に選択肢を二つやろう。行動をもう少し改め五番隊に所属するか。行動はそのままでいいが護廷十三隊から去るか。脅すようで悪いんだが、こればっかりは従ってもらわないといずれはお前も困ることになるぞ」

 

「てめぇ卑怯な手を使いやがって…いいぜそんなに言うなら護廷十三隊なんかやめて――――」

 

「言っておくが、やめるというならその時は俺がお前を叩き斬るからな。まあ、今すぐに答えを出せとは言わん。じっくり考えて後悔の無いように答えを出すんだな」

 

「ちっ…仕方がねぇ。行動くらいは改めてやるよ。言葉使いはこのままでいいのか?」

 

「お前の口調が直らんのは分かりきったことだから俺は別にいいが、場所と人物くらい選べよ。ところでお前が持ってきたって言う書類はどれだ?」

 

「あ?ああ、それなら確かこの辺に…」

 

そう言い散乱した書類をかき分け自分が持ってきた書類を引っ張り出した藪崎

 

「これだこれだ。じゃあ、俺は行くところがあるんでな」

 

雷山に書類を渡すと急ぎ足ぎみに藪崎は去って行った

 

「……おいおい、六道の反乱から舌の根も乾かねぇって言うのにもうこの季節が来たのかよ」

 

雷山の受け取った書類には護廷十三隊新入隊士の入隊時期の報せが書いてあった

 

「…確かここ最近五番隊に配属された人はいませんでしたよね?」

 

「ああ、少し前に山本にそのことを聞いたんだがどうも五番隊配属を希望した奴がいなかったらしい」

 

「そ、それは何かの間違いなんじゃないんですか?」

 

安が気を遣って雷山にそう問いかけた

 

「変に気を遣うな。まあ、考えられる理由は俺か椿咲(こいつ)のどちらかに何かしろ問題があるんだろうな。椿咲(こいつ)の場合は問題しかないだろうが」

 

そこまで言った時ようやく椿咲が目を覚ました

 

「っ!!藪崎(あいつ)はどこに行った!?」

 

「藪崎なら用があるらしくてどっか行ったぞ。そうだ、お前にも説教しないとな」

 

「はい?」

 

「お前もあんまり藪崎にムキになるな。あいつのあの性格は直らんから諦めろ。それに、あいつはああ見えて意外と根はいいやつだしな」

 

「そんなの信じられませんよ」

 

「俺も実際に見た訳じゃないが、この前の六道の反乱の時五番隊の隊士を何人か助けているらしい。おまけに影内をかなりいいところまで追い詰めたらしいしな」

 

「そうなんですか!?とても信じられませんが…」

 

「剣の腕前だとお前よりも上かもな。…ん?」

 

雷山は自分が書類を一枚踏んでいることに気が付いた

 

「これはさっきの書類の続きだな……おっ、ようやく五番隊(うち)にも配属されるぞ」

 

それを読んだ雷山は喜びの声をあげた

 

「何人配属されるんですか?」

 

「ひーふーみー…6人だな」

 

「やっとですか…」

 

永末が疲れたように呟いた

 

「悪いな。前々から少しは回してくれと山本には言ってたんだが、あいつにもどうにもならなかったらしい」

 

「透君いつも一人で頑張ってたもんね」

 

「それはお前が原因だろ。第一お前がもう少し真面目に働けばな…」

 

その時隊長執務室の襖を叩く音が聞こえた

 

「あのすいません!ここは隊長執務室でよろしいでしょうか?」

 

その声はその場にいた誰も聞いたことない声だった

 

「なんか嫌な予感がするのは私だけでしょうか…?」

 

「いや、十中八九新しく配属されて来た奴だろうな」

 

「…どうしましょうか?」

 

「どうするもこうするも無視するわけにもいかないだろ」

 

雷山は部屋の片づけが間に合わないと判断して襖を開けた

 

「こんにちは!!ここに雷山五番隊隊長、椿咲五番隊副隊長がいると聞いて来ました!私は此度五番隊に配属されました雨露雨入(あまつゆあいり)です!!」

 

そこには十代にも満たないであろう少女が立っていた

 

(なるほど。こいつが五番隊に配属されるという…)

 

「五番隊隊長の雷山だ。まあ、立ち話も難だ、かなり散らかっちまってるがとにかく入れ」

 

「わあ!あなたが雷山隊長ですか!よろしくお願いします!!」

 

一礼して隊長執務室に入る雨入

 

「……失礼ですけど、本当に散らかってますね。どうされたんですか?」

 

「ああ、どこぞのアホが喧嘩なんかしやがってな。その片付けの最中だったんだ」

 

雷山が目を向けると椿咲は咄嗟に目を逸らした

 

「そんなときに押し掛けてすいません」

 

「気にすんな。今回は俺の監督不行届のせいでもあるからな。自業自得みたいなもんだ。そんなことより雨露雨入、お前を五番隊に歓迎する。日々の職務を精一杯全うしてくれ」

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

 

 

 



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第二話(第二十二話)

雷山が席を外した隙に大喧嘩をした藪崎と椿咲。その後片付けの最中一人の死神がやって来た。

 

「初めまして!私は此度五番隊に配属された雨露雨入です!」

 

その死神は雨露雨入と名乗った。雷山は執務室が散らかっていたが、雨露を招き入れた。

 

「…失礼ですけど、本当に散らかってますね。どうされたんですか?」

 

「どこぞのアホが喧嘩をしたんだ。まあ、気になるだろうが気にするな」

 

「はあ…そんな時に押し掛けてすいません」

 

「気にすんなって言ったろ。さて、お前を五番隊に歓迎する。日々の職務を全うしてくれ」

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

「よし、次はお前らの紹介かな」

 

雷山は椿咲、実松、安の順に目を向け自己紹介しろと促した。

 

「初めまして!私は未来の五番隊隊長であり、現五番隊副隊長の椿咲南美!よろしくね雨入ちゃん!」

 

「よ、よろしくお願いします」

 

椿咲は雨露に手を振って仲良くしたいと言う気持ちを前面に押し出して自己紹介をした。逆に雨露はあまり関わりたくないなと言いたげに手を振り返した。

 

「五番隊第三席実松矢井と言う。これからよろしく」

 

実松は手を差し伸べ握手を求め雨露はそれに応じた。

 

「僕は五番隊所属の安猟って言うんだ!よろしくね」

 

安は椿咲とはまた違う風に挨拶をし、雨露からの好感を得た。

 

「残りの奴はまた後日に五番隊の集会を開いてその時に紹介する。とりあえず今日はもう戻っていいぞ。まずはここの雰囲気に慣れる所から始めようか」

 

「はい!」

 

雨露の返事がその場に響いたその時だった。

 

「やっほー!雷山くん!」

 

そんな声と共に狐蝶寺が文字通り飛んできた。

 

「……!?」

 

「春麗!?なんでお前はいつもここに入ってくるときに飛んでくるんだ!?やめろ!」

 

「ぎゃ!!」

 

雷山は飛んできた狐蝶寺とチョップで叩き落した。

 

「痛いなぁ…もう…」

 

「……!!」

 

その光景に雨入も驚いてた様子だった。

 

「すいません雷山さん、お邪魔します」

 

狐蝶寺に遅れて銀華零もやって来た。

 

「ん?白も一緒なのか。どうしたんだ?二人が一緒に来るなんて珍しい気がするんだが」

 

「ええ、実はですね…」

 

そこで白が語った理由に雷山が驚かされることとなる。

 

「なに、隊長を引退するだと!?」

 

「ええ、そろそろ自由に生きたくなりまして」

 

「…まあ、俺は止めはしないが春麗も同時に引退するとはなぁ……」

 

「私は白ちゃんに付いていこうかなって思ってね」

 

「なるほど、お前らしいと言えばお前らしいな」

 

「…ひとつ確認なんですが」

 

「何だ?」

 

「雷山さんは隊長を引退するつもりはないんですか?」

 

しばらくの沈黙の後雷山は答えた。

 

「まだないな。後身もまだまだ育ってないし、何より隊長にするつもりの奴があれじゃあな」

 

雷山は後ろで雨露と話している椿咲を見て言った。

 

「やはり雷山さんは次の隊長を南美ちゃんするつもりなんですか?」

 

「そのつもりだ。なんだかんだ言っても俺の唯一の弟子だし、何よりあいつは見かけによらず強いしな。それより、お前らは次の隊長に誰を推薦するつもりなんだ?」

 

「三番隊は浮葉さんを推薦するつもりです」

 

「私は山吹ちゃんを推薦するつもりだよ」

 

「なるほど。それぞれ副隊長に任せるのか。よし、俺も可能な限りあいつらをサポートしてやるか」

 

「よろしくお願いします。しっかりしていると言ってもやはり心配なので」

 

「ああ、任せときな。それで、お前らは引退した後どこに住むんだ?」

 

「北流魂街13地区”旭日焼(あさひやけ)”です」

 

(…やはりか)

 

雷山は未来へ行ったとき自身が銀華零、狐蝶寺と共に”旭日焼”の家屋で住んでいたことを知っていたため、別段驚くほどの事でもなかった。

 

「旭日焼か。…ん?あそこに住める場所なんかあったか?」

 

「あら、忘れたんですか?あそこには昔、一時期ですが私たちが住んでいた家屋があったはずですよ」

 

「うんうん!それならちゃんとあったよ!この前私が見てきたもん」

 

「よくそんな古い物が残ってたな。そうだな…俺もそこに住むとしようかな…」

 

「あら、これは意外ですね。まさか雷山さんの口からそんな言葉が出てくるなんて思いもしませんでしたよ」

 

「私たちがいなくなって寂しくな…ぎゃふっ!!」

 

雷山に頭を殴られその場に倒れる狐蝶寺。

 

「ったく、お前はいつも一言多いんだよ。別に驚くことでもないだろ。それに今から一緒に住むって訳じゃない。俺もいずれ隊長を辞める日が来るだろうからその時の話だ」

 

「なるほど、そう言うことでしたか。でも普段私たちが何をしていようがあまり気にも留めないような方が仕事外の事に対して口を出してきたわけなんですから意外といえば意外ですよ?」

 

「おいおい、お前ら俺のことをどんな風に見てるんだよ」

 

「そうですね…口が悪くて喧嘩っ早い根は優しい隊長さんと言ったところでしょうか?」

 

「大きなお世話だ」

 

「でも最近…特に雷山さんが行方不明になってから帰ってからなんですがどこか変わったような気が――――」

 

「お話し中すいません、雷山隊長。この方々はどなたですか?」

 

銀華零が何かを言いかけた瞬間雨露が雷山に尋ねてきた。

 

「ああ、この二人か。そこに立っているのが銀華零白で地面で気絶してるのが狐蝶寺春麗だ。どっちも俺の同期だ。白、こいつは新しく五番隊には配属された雨露雨入だ」

 

「あら、貴方が新しく五番隊に配属された方ですか。三番隊隊長の銀華零白です。よろしく」

 

銀華零は雨露に優しく微笑んだ。

 

「ご、五番隊に配属されました。雨露雨入です!よろしくお願いします!」

 

雨入は緊張した面持ちで自己紹介した。

 

「雨露…もしかして三番隊に配属された雨露雨明(あまつゆあけ)さんは弟さんですか?」

 

「はい!雨明は私の弟です!なるほど、雨明は三番隊に配属されたんですか」

 

「ええ、ただ…緊張しているのか分かりませんがとても無口な方でして私も浮葉さんもどうしたらいいものかと悩んでいるのですよ…」

 

「あの子は相変わらずなんですね…昔から人前では無口なんですよ。私の前だと割と話してくれるんですけど…」

 

「少しずつ慣れて行ってもらうしかないんでしょうか…」

 

「まあ、それが一番手っ取り早いんじゃないか?」

 

「ふふっ、それもそうですね。浮葉さんも入りたての頃はああいう感じでしたし」

 

「銀華麗隊長、雨明を宜しくお願いします。それから雷山隊長、明日から宜しくお願いします!!では、私はこれで失礼します」

 

雨露は雷山たちに一礼してその場を去って行った。

 

「さて、片付けの続きといくか。おい、椿咲逃げようとするな」

 

椿咲は雨入の後に続いてこっそり逃げようとしていた。

 

「…やっぱやっていかないとダメですか?」

 

「あたりまえだ。元はと言えばお前も原因だろ」

 

そのやり取りを見た銀華零が雷山に尋ねた。

 

「…あえて触れずにいたんですけど、この部屋のあり様はどうしたんですか?」

 

「俺が山本の所に行ってる間に椿咲と藪崎が喧嘩したらしいんだよ。おかげでこのあり様だ」

 

「何と言うかその…大変ですね」

 

さすがに銀華零も苦笑いすることしかできなかった。

 

「これで分かったろ?俺が隊長を引退しない理由が」

 

「”隊長を引退しない”というより”隊長を引退できない”んですね…」

 

「ああ、俺だって本当はさっさと隊長なんかやめて放浪の旅と言うものをしてみたいものなんだがな。全く勘弁してほしいよ…」

 

「まあ、賑やかなのはいいことじゃないんですか?」

 

「他人事だと思いやがって…」

 

「ふふっ、では私もこれで」

 

「おい白、悪いんだが春麗も連れて行ってくれ。片付けの最中でこいつを寝かして置く場所がないんだ」

 

「雷山さんも春麗ちゃんと同じく後先考えずに行動しますよね。よいしょっと…」

 

銀華零は狐蝶寺を背負って執務室を後にしていった。

 

「…隊長を引退してもいいんですよ?」

 

「やかましい。さっさと片づけをしろ」

 

 

 

 



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第三話(第二十三話)

雨入が雷山に挨拶に来た日の翌日。雷山は五番隊の隊士全員を集めて集会を開いていた

 

「よし、大体の奴は来たみたいだな。いない奴にはまた後々伝えるとしよう」

 

雷山は隊士たちより一段高いところから見渡しほぼ全員が集まったのを確認した

 

「今回は、新しく五番隊に配属された面々を紹介しようと思ってな。忙しい中悪いんだが集会を開かせてもらった。じゃあ、俺の堅苦しい挨拶も抜きにして自己紹介でもしてもらうか」

 

雷山は、隊士たちから見て一番左側に立っていた水乱に自己紹介をするように言った

 

「ご、五番隊に配属されました。水乱霞(すいらんかすみ)です。よ、よろしくお願いします」

 

水乱はとても緊張した面持ちで挨拶をした。その後順々に挨拶をして行ったがどの隊士も緊張していたように見えた。…ただ一人を除いて

 

「五番隊に配属されました、雨露雨入です!!一日も早く皆さんの役に立てるように頑張りたいです!!」

 

雨露雨入は前日に雷山や銀華零と言った隊長たちに既に会っていたため緊張はせず堂々としていた

 

「ほぉ…我々の前でも堂々としているとは…」

 

それを感心してみる者もいれば

 

「ちっ、あの小娘…」

 

それをよく思わない者もいた

 

「さて、今回配属されたのは6人だ。一部の者に言っておくが、こいつらが気に入らないからって…」

 

雷山は一部の隊士をチラッと見てそこで言葉をいったん止めた。

 

「ッ!!くっ…」

 

雷山と目の合った数人の隊士は考えを見透かされたことに驚き咄嗟に目を逸らした

 

「あんまり悪さはするなよ。じゃあ、今日からも頑張って行こう」

 

 

 

 

そこから雷山は新入隊士を連れて五番隊隊舎内を案内し始めた。本来は椿咲か実松が行う予定だったのだが、椿咲は副隊長会に参加するために出かけ、実松はこの間椿咲と藪崎が喧嘩した後片付け時に出てきた書類を急いで他の隊へ提出するために出かけてしまい急遽雷山が行うことになったのだった

 

 

 

 

 

「さて、ここが五番隊の隊長執務室だ。俺はここにいることが多いな。もちろん他の隊舎にもあるが場所はバラバラだからまだ慣れない間はその隊の者に聞いて行けばいい」

 

その後も雷山は新入隊士たちに今後業務を行う上で必要なことを教えた。その中には椿咲の捕まえ方なども含まれていた

 

「よし、教えておくべきことはこれで全部かな…」

 

その時雷山の後ろからボソッと声が聞こえてきた

 

「雷山隊長ってすごく昔から隊長をやってるって聞いたのに全然そう言う感じには見えなかったよね…」

 

「でもすごく強いと噂が立っているよ」

 

「本当ですか?でもなんかこう…」

 

「うん。なんとなく強そうに見えないというか…」

 

「ちょっと、それはいくらなんでも失礼だよ」

 

それを聞いた雷山は入って来たばっかりの隊士に怒るのも難だと思い何も聞かなかったことにしたが

 

(…そうか、こいつら俺が本気で戦ってるのを見たことがないんだよな。ちょうどいい機会だし、こいつらと一回戦ってみるかな。俺と戦えばこいつらにもいい経験になるだろうしな)

 

 

 

 

その日の内に雷山は実松経由で新入隊士たちに明日瀞霊廷の郊外に集合するように伝言を流した。新入隊士たちは初めのうち何かしたんじゃないかと気が気ではなかったが、集められたときに雷山が別段怒りをあらわにしている様子ではなかったので一安心した

 

 

 

 

「よし、全員揃ったな。それじゃあ今からお前たちは俺と戦ってもらう」

 

「え!?」

 

その場にいた雷山以外の全員が口を揃えて言った

 

「あ、あの雷山隊長…嘘ですよね…」

 

水乱が不安げに言った。他の隊士たちも顔が強張っていた

 

「何でこんな嘘をつかないといけないんだ。それに安心しろ本気は出さねぇし、お前らを怪我させるようなこともしないしな」

 

そうは言っても水乱の不安は払拭できなかった

 

「はぁ…そんなに怖がらなくてもいいだろ。それに現世の駐在任務と比べたらまだマシな方だ。虚は俺と違ってお前らを殺す気で攻撃してくるからな。これは、お前らが死なないようにするために行うんだ」

 

雷山にそう諭された隊士たちは渋々斬魄刀を構えた。しかしそれは構えと呼ぶにはひどいものばかりで雷山に言わせれば、実践ならまず間違いなくすぐに死んでいるという状態だった

 

「まあ、こんなもんか…よし、遠慮はいらない。どっからでもかかってこい!」

 

雷山は斬魄刀を構えてすらなく隙だらけの状態を維持していたが神臥達新入隊士は誰一人動くことが出来なかった。それほどまでに雷山が普段から放つ威圧感と言うものはすごいものだった

 

「そんな…」

 

「ついこの前霊術院を卒業した俺でも分かるぞ…」

 

「この人…とてつもなく強い…!!」

 

神臥達全員がそう思った時、しびれを切らした雷山が言った

 

「ほら、どうしたよ。そっちから来ないんならこっちから行くぞ」

 

神臥達にその声が聞こえた時にはすでに雷山は背後に回り込んでいた

 

「いつの間に…!?」

 

「ほれ!」

 

雷山はそんな気の抜けた掛け声とともに神臥の頭をコツンと(はた)いた

 

「…!?痛くない…?」

 

「当たり前だろ。訓練なんだから本気でやるわけないだろ。それよりいいのか?今俺に最も近くにいるのはお前なんだぞ?」

 

雷山のその言葉に神臥はハッとし、咄嗟に雷山に斬りかかった。しかし雷山は当然その攻撃を読んでいていとも簡単に躱した

 

「おっと!残念、まだまだ甘いぞ!」

 

「今のは囮ですよ…!!」

 

そう言うと神臥は斬魄刀を捨て雷山の右腕を掴んだ

 

「誰か雷山隊長に鬼道をぶつけろ!!」

 

「えっ…!?で、でも…」

 

「いいから早くしろ!!」

 

「なかなか面白い攻撃だが、俺にはまだ左手があるぞ?」

 

「”縛道の四”『這縄』!!」

 

雷山が神臥に左腕を見せたと同時に黄色の縄が雷山の左腕を捕らえた。さすがの雷山もそれは予想外のことであり驚いた様子だった

 

「神臥君!私が詠唱し終わったらギリギリまで赤火砲を引き付けてから逃げて!」

 

「おう!任せろ!!」

 

(なるほどな…俺に『這縄』を掛けたのは水乱か…あの一瞬でそこまで意識が回るとは大したやつだ…)

 

雷山に鬼道を掛けた正体は水乱だった。そして水乱はそのまま破道を詠唱し始めた

 

「君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ 焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ”破道の三十一”『赤火砲』!!」

 

水乱が詠唱を終えると赤い火の玉放たれ雷山へと向かって行った

 

「一瞬でも逃げ遅れたら危ないからお前は退いてな。神臥」

 

そう言うと雷山は神臥を巻き添えを食らう範囲から投げ出し、そのまま何の素振りを見せず水乱の鬼道を正面から受けた

 

「はぁ…はぁ…いくら雷山隊長でも今のが直撃したら…」

 

しかし数秒後その心配が無用であったことと雷山と自分たちとの圧倒的な力の差が思い知らされることとなった

 

「なっ!?」

 

「無傷…!?」

 

雷山は多少の土煙を浴び羽織や死覇装が汚れてはいたが傷はただの一つも負っていなかった

 

「今の攻撃の仕方は褒めれられるものじゃないが、俺に鬼道を当てたのは見事だ」

 

雷山は羽織についた土埃を払いながら言った

 

「それじゃ、今度は剣の打ち合いと行こうか」

 

雷山は抜刀し、神臥達新入隊士たちでも十分見えるように瞬歩を使わず、歩いて、すごくゆっくりと近づいた

 

「ほら、霊術院で習ったろ?相手が剣を振り下ろそうとしているとき、どうするのが正解だ!?」

 

「くっ…!!」

 

―――――ガキンッ!!

 

「…そう。霊術院では逃げられるならば逃げ、逃げられないと判断したら刀を逸らして威力を殺し、受け止めると習う。だが、それはあくまで相手の実力が自身と拮抗しているときの場合だ。なぜなら…」

 

そう言うと雷山は刀を素早く引き離し、そのまま峰内を神臥の腰部分に優しく当てた

 

「相手が自身より強ければ、高確率でこうやって二撃目が飛んでくるからだ。こればっかりは実力差が開きすぎている時点で防ぎようがない。これを防ぐにはただ一つ、剣の腕を磨くことだけだ」

 

「……!!」

 

神臥は驚きを隠しきれていない様子だった。雷山はその状態の神臥を我に返させてから地面に寝そべるように言った

 

「さて、今から教えることは持論でしかなく根拠がないが、心の片隅にでも置いておいてくれ。今から教えるのは、相手が見せる最大の隙だ」

 

「最大の…隙…?」

 

「これは実力が高かろうが低かろうが共通して言える。例えば、今ここで水乱、雨露、極夜、轟、火波、神臥の誰かが俺を斬り倒したとしよう。どういう気分だ?」

 

「それは…すごく申し訳ない気分になります…」

 

「違う違う、そうじゃない。俺が敵だったとしてそれをやっとの思いで倒したらと言う意味だ」

 

「それなら、すごい達成感が感じられます!」

 

「私ならやっと倒せたと思います…」

 

「そう。まさにそれだ。相手を倒すのに苦労すればするほど倒したときに達成感も感じられるだろうが、やっと倒せたとほんの一瞬だが気が抜ける瞬間が必ず存在する。これはどう鍛えても無くすことはできない。どう頑張ってもずっと緊張していることが出来ないからな」

 

「そうですね…ずっと緊張なんかしてたら気が滅入りますもんね」

 

「ああ、しかしその瞬間こそ相手に少量でも傷を負わせられる絶好のチャンスになる。今から俺が目を閉じて神臥の前に立ってるから神臥が今まさに倒されたと仮定し各々好きなタイミングで攻撃してきてくれ。もちろん殺す気で構わない」

 

「こ、殺す気はちょっと…」

 

新入隊士たちは皆、雷山に刃を向けると言う時点で失礼だと感じていたため、殺す気で攻撃するなど尚更できないと言った

 

「…じゃあ聞くが、訓練でできないことが実践でできると思うか?実践は一つの判断ミスで生きるか死ぬかが変わるんだ。だったら訓練の時点でありとあらゆる想定をしておこうじゃないか。もちろん、それでもなお想定外の事態と言うものは生じるけどな」

 

そう言うと雷山は目を閉じ新入隊士たちの背を向け、相手を斬る絶好のチャンスを意図的に作り出した

 

 

 

 

その後疲労で動けなくなった神臥とずっと様子を窺っている雨露を除く4人が雷山に斬りかかったが、結局誰一人雷山に傷を負わせることはできなかった。雷山は段々攻撃のキレがなくなって来た4人を見て訓練はここまでにしようと考えていた時、雷山自身にとっても周りにとっても想定外のことが起きた。それは今まで攻撃に参加せず、雷山たちの動きを見ていた雨露が雷山に突きをしようとしていた時だった

 

 

 

 

(おっ!ようやく雨露が動いたか。まあ、この攻撃を最後に終わるか…)

 

雷山はそう考えつつ左足を後ろに下げ反時計回りで雨露の背後に回ろうとしていた。しかし雨露はそれを見越したように途中で突きの攻撃を止め、身体を捻り、雨露から見て左側に向かって動いている雷山を斬りつけようとした

 

「ッ!!」

 

雷山は一瞬驚いたが、防ぎきれないと言うほどの攻撃でもなかったため自身の斬魄刀で雨露の斬魄刀を上に弾いた

 

「うわっ!!」

 

斬魄刀を上に弾かれた雨露は重心が後ろに傾きそのまま倒れてしまった。倒れた雨露を見て雷山は先程の攻防を評価した

 

(いくら俺が手加減していたとはいえ、あの短い時間で俺の動きを読んで攻撃してくるとはな…なかなか面白い奴らが入って来たな)

 

「痛たた…」

 

「悪い悪い、大丈夫か?」

 

雷山は倒れている雨露に手を差し伸べた。雨露はそれに「はい!大丈夫です!」と応じた

 

「よし、今日はここまでにしよう。お前たち全員ちゃんと鍛錬をしたら上位席官くらい余裕で行けるだろうな」

 

雷山のその評価は本心から言ったものであり、それが分かった新入隊士たち全員大喜びした

 

「隊長ー!!雷山隊長ー!!」

 

その声が聞こえ、振り向くと椿咲が走って来るのが見えた

 

「どうしたんだ、そんなに急いで」

 

「はぁ…はぁ…雷山隊長、今日隊首会があると言うのは覚えていますよね?」

 

「ああ、覚えてるぞ。…それがどうかしたのか?」

 

「それが、隊首会を始める時間を少し早めるそうなんですよ。それでさっき春麗さんが呼びに来たんです」

 

「はぁ?全く、仕方がないな。俺はこのまま隊首会に向かうからお前はこいつらを五番隊舎まで送り届けてくれ」

 

「わっかりました!!」

 

「じゃあ、任せたからな」

 

そう言って雷山は瞬歩で消えた

 

「さて!じゃあ、早く帰ろうか!」

 

そして椿咲は新入隊士たちを連れて五番隊舎へと帰って行った

 

 

 

 

 

 

 

 




新しく五番隊に入った隊士全員の名前を乗せなかったのでここで紹介します。

雨露 雨入(あまつゆ あいり)

神臥 ヨウ(かみふし よう)

極夜 きいち(きょくや きいち)

水乱 霞(すいらん かすみ)

轟 天(とどろき そら)

火波 橙(ひなみ だい)


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第四話(第二十四話)

雷山が隊首会議場に着くとすでに雷山を除く全隊長が揃っていた

 

「あっ!雷山君やっと来た!せっかく私が遅刻しないようにと思って呼び行ったのにいないなんて、ひどくない?」

 

他の9人は並んでいたが、狐蝶寺だけは入り口付近で雷山の到着を待っていた。その狐蝶寺は雷山が付くと開口一番で文句を言いながら近づいてきた

 

「悪い、ちょっと新しく入ってきた奴らの指導をしてた」

 

「へぇ、熱心だね。私なんか山吹ちゃんに任せっきりなんだ」

 

「それはそれでどうかと思うがな…」

 

「…雷山、狐蝶寺、早う位置に着け」

 

元柳斎がそう言ったものの狐蝶寺がなかなか着こうとしなかったため、雷山と銀華零がが無理やり定位置に狐蝶寺を固定した

 

「…皆揃ったの。では諸君これより隊首会を執り行う」

 

隊首会の始まりと共に杖を突く音が議場に響き渡った

 

「まずは各隊の新入隊員配属の件、ご苦労であった。新入隊員の処遇は各自に委任する。さて、前置きはここまでにして本題に入ろう。四楓院隊長報告を」

 

「はい」

 

元柳斎に指名された四楓院朝八が一歩前に出た

 

「先日の六道死生による反乱の最中に西流魂街39地区”鑢鐚(やすりびた)”にて旅禍と思われる者が現れたと報告があった。現在調査中でこれから私も現地に赴くつもりだが万が一相手が隊長格以上の実力を持っていた場合甚大な被害が予想されるためもう二人の同行を願いたいと思う」

 

「そこで儂と四楓院隊長が協議した結果、五番隊隊長・雷山悟及び十一番隊隊長・大澄夜剣八両名に同行を願いたいということになった」

 

「なるほどな。了解した」

 

「了解しました。山本総隊長」

 

二人の返事を確認した元柳斎は朝八に定位置に戻るよう促した

 

「ではこれより四楓院朝八、雷山悟、大澄夜剣八の三名には”鑢鐚”に向かってもらおう。他に報告することがある者はおるかの?」

 

数秒の沈黙ののち誰も言う事がないと判断した元柳斎は隊首会を終えることとした

 

「以上を以て解散とする。各々仕事に戻ってくれ」

 

隊首会が終わった雷山はそのままの足で五番隊舎へと戻った

 

「戻ったぞ。椿咲、俺がいない間に何か起きたか?」

 

「いいえ。何も起きませんでしたよ?それとも、私が何かやったと思ってるんですか?」

 

「どうしてそういう解釈になるんだよ。まあいい、帰って来て早々なんだが、俺は今から西流魂街39地区”鑢鐚”まで行かないといけなくなった。だから悪いんだがまた留守を頼めるか?」

 

「ええ、構いませんよ?”椿咲南美久しぶりの隊長体験”っていう訳ですね!」

 

「ゔ…おい、あの悪夢を思い出させるんじゃない…あの後どれだけ他の隊から苦情が来たことか…」

 

「わわっ!冗談ですよ!冗談!!」

 

その後雷山は四楓院、大澄夜と合流し”鑢鐚”へと出発していった

 

「それにしても珍しいな。自信家のお前が俺たちに同行を頼むなんてな」

 

目的地に向かう道中雷山が四楓院に問いかけた。普段隠密機動のみで調査する四楓院が今回に限って他の者に同行を頼むと言うのは雷山にしてみれば珍しいことだった

 

「この前の影内の襲撃がそれほどトラウマになったのか?」

 

「ふん…あの程度の敵がトラウマになるなど笑い話もいいところだな」

 

「と言いつつも、今影内の斬魄刀を使われたら奴の能力に蝕まれて苦しむんじゃないか?」

 

「黙れ雷山。いくら貴様が私よりも古くから護廷十三隊に属している隊長でもこの場の指揮権は私にある。私を侮辱することは許さぬぞ…!!」

 

「はいはい、精々気を付けますよ」

 

「……雷山隊長。一つ聞きたいことがあるのだがいいか?」

 

「なんだよ?今更聞くこともないだろうに」

 

「雷山隊長が護廷十三隊結成当初からいる最古参の隊長と言うのは本当か?」

 

大澄夜がそう言った時、雷山は無言で立ち止まった

 

「…それは噂か何かか?」

 

「ああ、噂として聞いたことがある程度なんだが…」

 

「はぁ…まさか、あいつの一件であまり知られたくない事が露見してしまうことになるとはな」

 

「六道死生と知り合い同然のように話していたから、もしやとは思っていたが…やはり雷山隊長は初代護廷十三隊の隊長なのか」

 

「…ああ、そうだよ。俺は護廷十三隊結成当初からいる隊長だ。お前らから見れば、初代護廷十三隊五番隊隊長と言ったところかな。あと、一応言っておくがこの前の六道の反乱は俺達とは無関係だからな。もし俺達がお前らの敵だったらお前らはなすすべなく全滅していただろうしな」

 

「はははっ!!それは間違いないな!!」

 

頭に手を当て大澄夜が大笑いし始めた

 

「黙れと言っているだろう。もうすぐ”鑢鐚”なんだぞ。もう少し静かにしたらどうだ」

 

「それにしても旅禍なんて久しぶりに聞いたな。穿界門もなしにどうやってここまで来たのか…」

 

「それをこれから調査する手筈だ」

 

その瞬間朝八の目の前に隠密機動の死神が現れた

 

「ご報告いたします。………」

 

雷山の位置からは隠密機動の死神の声が小さく最後の方は聞こえなかったが何かしろの報告を受けていることは明白だった

 

「…そうか。お前たちは引き続きこの辺りの捜索を続けろ」

 

隠密機動の死神は「はっ!」と言う声と共に瞬歩で消えた。

 

「どうやら最後にこの辺りで見失ったそうだ。ここからは別れて探すとしよう」

 

報告を受けた朝八は雷山、大澄夜に言った

 

「おいおい、それじゃあわざわざ俺達が来た意味がないじゃないかよ」

 

「まあ、そう言うな雷山隊長。四楓院隊長、旅禍と思われる者を発見した場合はどうすればいいんだ?」

 

「抵抗するようなら反撃して構わないが殺すのはやめてくれ。あくまで無力化させれば良い」

 

「何故生け捕りにする必要があるんだ?そのまま倒せばいいだろ」

 

「いや、相手がどのようにして尸魂界に来たというのが知りたいからな。今後の対策を立てるためにどうしても生け捕りにせよとのことだ」

 

「なるほどな」

 

(まあ、その対策(むな)しくこの後も黒崎達を始めとした旅禍達が尸魂界に乗り込んでくるわけなんだがな…)

 

雷山は未来へ行った時にこれから先に起こることの記録を見て知っているためその対策が無駄に終わることも察していた。しかし、今ここでそれを言えば良からぬ影響を与えかねないと思っているためそれを口外することはなかった

 

「なるほど了解した。生かして捕らえればよいのだな」

 

「頼んだぞ。では、散開しよう」

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「―――――――――と言って別れたはいい物の、あれから誰にも会わないな…」

 

雷山は四楓院、大澄夜と別れた後旅禍を探しながら森の中を彷徨っていた

 

「それにしても”あくまで無力化してくれ”か。俺が手加減しても相手が必ずしも死なないという保証がないしなぁ…全く難儀なことだ」

 

雷山は一度立ち止まり辺りを見回した。しかし森は静寂に包まれ、人影はおろか虚すらいる気配が全くなかった

 

「この辺りにはいないのか…?」

 

そう思った時だった

 

「…ん?この霊圧…誰だ?」

 

雷山は左前方に僅かな霊圧を感じ取った。その方角を見てみると、前方20m程にある草むらの中に人影がうずくまっているのを発見した

 

「さっきの霊圧はあいつのか。まあ、流魂街の住人が霊圧を持っていることはたまにあるから不思議じゃないが…一応声をかけてみるか」

 

雷山は瞬歩を使い距離を詰めた。近づいてみるとその正体は少年であったが何より気になった事が

 

(こいつ…明らかに何かから身を隠しているな)

 

「おいそこのお前。そんな所で何してんだ?」

 

雷山に声をかけられた少年はビクッと驚いたように振り向いた

 

「あ…あ…」

 

振り返った少年の顔はひどく怯えた表情をしていた

 

「やれやれ、そんなに驚かなくてもいいだろ。それで、何してんだ?」

 

「あ…あ…うわああぁぁ!!」

 

少年は雷山の問いに答えることなく全速力で逃げて行った

 

「あっ、おい!?逃げるなよ!!」

 

雷山はその時”縛道の一”『塞』をかけたが少年は縛道がかかる直前横へわずかに移動し逃れた     

 

「ッ!?」

 

その事は雷山にとっても大きな誤算だった

 

「おいおい、いくら手加減したと言っても死神でもない奴が鬼道を避けるだと!?くそっ!!こうなったら…」

 

雷山は瞬歩で少年の前に先回りした

 

「これでどうだ!!」

 

しかし少年はそれを察知していたかの如く進路を変えなおも逃げて行った

 

「間違いない、あいつは俺の気配を感じ取っている。どうりで隠密機動もあいつを見つけ出せなかったわけだ…」

 

雷山はめんどくさいと言いたげにため息を吐いた

 

「はぁ…流魂街の奴にあんまり能力を使うってのは良くないんだけどなぁ…まあ、この際仕方がないか…『雷斬』」

 

雷山はその場で始解し少年の後を追い森の奥へと消えて行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話(第二十五話)

雷山が少年を見つけてからおよそ一時間後のこと。雷山は朝八、大澄夜両名と合流していた

 

 

 

「―――――それで追いかけて捕まえたって訳よ。多少苦労はしたけどな」

 

雷山たちの目の前には雷山が捕まえた少年が”縛道の一”『(さい)』を掛けられている状態で座らされていた

 

「…成程。それでこやつがその捕えた旅禍と言う訳だな?」

 

「現状、そうとも言えるがそうじゃないとも言える。そんな感じだな」

 

「他には誰も見なかったということで良いか?」

 

「ああ、他には誰も見ていないし霊圧も気配も感じなかった。お前らの方もそうだったろ?」

 

「…ああ、確かに私も大澄夜隊長も虚はおろか流魂街の住人すら見てはいない。お前の言っていることは正しいようだな」

 

朝八は怯えた様子で自分たちを見る少年を一瞥し話を進めた

 

「しかし雷山、貴様ほどの実力者がこやつを捕まえるのに苦労するとは思ってもみなかった。いったいどうしたと言うんだ?」

 

朝八は雷山と合流した際に雷山から少年を捕まえるのに苦労したと聞いていたため、それを今聞いていた

 

「ん?ああ、その話か。こいつはどうやら相手の気配を察することが出来るみたいなんだ。それで俺が鬼道を使っても避けるし瞬歩で先回りしようとしても察知して進路を変えたりして逃げ回ってたんだ。それで仕方なく最終的に『雷斬(らいざん)』の能力を使って捕えたんだ」

 

「はぁ…相変わらずだな」

 

それを聞いた朝八はひどく呆れた様子だった。雷山が油断していたこともさることながらまず相手の動きを封じると言う初歩的なことまで怠っていたからである

 

「逃げられる前に鬼道を使って捕えれば良かったろうに、何故それをしなかった?」

 

「おいおい、無茶を言うなよ。まだ旅禍かも分からない流魂街の奴に鬼道なんか使えるかよ」

 

「…成程、それは一理あるか。まあ、今はそんなことはどうでもいいな。雷山、貴様はこやつをどう見ている。参考程度に聞いておこう」

 

「そうだな…」

 

顎に手を当て少年をじっくり見る雷山

 

「…霊圧を少なからず持っていることは珍しくないが、俺たちの気配を察することが出来るのが少し気になるな。だが、別段何かをしようと思っている顔には見えないから今は危険性はないと考えてもいいんじゃないか?」

 

「…成程。大澄夜隊長はどう見る?」

 

「あまり表情から心を読み取るっているのは得意じゃないが、俺も雷山隊長と同じ意見だな。尸魂界に何かをしようと言うのなら逃げるのではなく向かってくると思う」

 

「ふむ…雷山、こやつが我々の姿を見て逃げたことはどう説明する。逃げるということはそれ相応の隠し事があるということじゃないのか?」

 

「それは単純に俺に驚いて逃げただけだと思うぞ?見たところこいつは浦原みたいに穿界門を自分で作る技術も黒崎達みたいに尸魂界に乗り込んでくる理由もなさそうだしな」

 

「……」

 

朝八は雷山が発した浦原、黒崎と言う人名が引っ掛かった。護廷十三隊の在籍期間は自分の方が圧倒的に少ないため確実とは言えないが、過去に浦原、黒崎と言う人物が在籍していたと言うことは少なくとも自分自身は聞いたことがなかったからためだった

 

「…浦原と黒崎とは誰の事だ?」

 

「…いや、少し前に会った馴染み深い奴だ。気にすんな」

 

「……」

 

不思議に思った朝八だったがそれ以上詮索するのは野暮だと判断しそれ以上聞くのはやめたのだった

 

「まあいい。それよりこやつを一時的に瀞霊廷に勾留する必要があるな」

 

「ああ、このまま放っておいてもいずれまた同じ問題が起きるだろうしな」

 

「よし、では大澄夜隊長と雷山はこやつを護送してくれ。私はここに残り他に痕跡がないか調べることにする」

 

「了解した。それでは行こう」

 

そう言い大澄夜は少年を連れ先に歩いて行った

 

「じゃあ、俺も行くか。一応山本には俺の方からお前がまだここらで調査をしていると伝えておいてやるよ。ああ、それと…」

 

雷山は数歩歩いたところで何かを思い出したように立ち止まり振り返った

 

「影内が出てこないと良いな」

 

「貴様…!!」

 

朝八を茶化した後雷山も大澄夜の後を追って行った。その後雷山と大澄夜は無事瀞霊廷に到着した

 

 

 

 

 

~瀞霊廷・一番隊隊舎~

 

 

 

 

 

「…成程。して、こやつが旅禍と思われる者と言う訳じゃな?」

 

元柳斎の前に座らされた少年は顔が強張っており誰がどう見ても緊張しているように見えた

 

「あくまでその可能性があるという程度の話なんだけどな」

 

「…報告通り確かにこの者は少なからず霊圧を持っておるようじゃな」

 

「ああ、だがこの程度の霊圧なら流魂街にザラにいるから尸魂界の脅威になるとは思えないだろ。ましてやお前に怯えている時点でこいつに尸魂界(ここ)を攻め落とすという意志が全く感じられないだろ。まあ、これが演技とかじゃなければの話なんだが…」

 

雷山はチラッと少年を見た。少年は元柳斎の強面を見て今にも泣きそうになっていた

 

「…どうやら今のは杞憂だったみたいだな」

 

「うむ…おぬしらの言いたいことはよく分かった。確かに我らに対する脅威はゼロに近いと考えても良いじゃろう。しかし、それはあくまで現時点での話じゃ。これから数日間は監視する必要がある」

 

「…よし、それは俺がやろう」

 

「ではこの者の処遇は雷山に一任する。また、この者のことについてはしばらくの間口外無用で通し後日の隊首会で各隊長に伝えることにする。四十六室の方にも儂から話を通しておこう」

 

四十六室(あいつら)に言うのか?どうせ尸魂界の平和のために処刑せよとか言ってくると思うぜ?」

 

「雷山、口が過ぎるぞ。立場をわきまえよ」

 

「言っておくが、四十六室(あいつら)がこいつを殺せと言ってきたなら俺はその命令を無視するからな。あの老害共の言うことを聞いていられるか」

 

「……」

 

「す、すごい言いようだな…」

 

雷山の言葉に元柳斎は呆れたように何も言わず、大澄夜は困ったように苦笑いしていた

 

「…この者の件は後日の隊首会で決定するまで保留とする。五番隊隊長・雷山悟並びに十一番隊隊長・大澄夜剣八、ご苦労であった。もう戻って良いぞ」

 

「では、私はこれで失礼します」

 

元柳斎に一礼すると大澄夜は一足先に去って行った

 

「じゃあ俺も戻る。また事態が変わったら呼んでくれ。…ああそうだ」

 

雷山は部屋を出る直前山本にある事を言い忘れていたことを思い出した

 

「朝八はもうしばらく”鑢鐚”で調査をするそうだ。あっちの方でも何か合えればすぐに報告が入るだろう」

 

「うむ。相分かった。四楓院隊長が戻ったら、調査の件について報告を受けよう」

 

「よし、じゃあ俺は戻るからな」

 

そう言って雷山も五番隊舎へ戻って行った

 

 

 

 * * *

 

 

 

「おにいさんさっきのおじいさんは誰なの?」

 

五番隊舎へ向かう道中少年が雷山に問いを投げかけてきた

 

「ん?あいつは護廷十三隊一番隊隊長兼総隊長・山本元柳斎重國だ。まあ、一応立場は俺より上と言ったところだ。それと、俺のことは雷山でいいぞ」

 

「…雷山さんより強いの?」

 

「…最近あいつと本気の戦いをやってないから何とも言えないな。何百年も前に一、二回戦った気がするが、その時は引き分けだったかな」

 

「…雷山さんよりも強いんだ」

 

「今はどうか分かんないが、確かに昔はあいつの方が強かった。それこそ”化物”や”傑物”と言った言葉が似合い程だった。さて昔話はここまでにしよう。それよりしばらくは五番隊の隊舎に泊まってもらうことになるがいいか?」

 

「雷山さんが良ければいいですよ…?」

 

「良いから聞いてんだろ。ああそうだ。一人うるさいのがいるかもしれんが、気にしないでくれ。何なら全力で抵抗してもいいぞ」

 

「は、はぁ…」

 

(一体どんな人が出てくるんだろ…)

 

少年は一抹の不安を抱えたまま雷山と共に五番隊舎へと歩いて行った

 

 

 

 

 

 



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第六話(第二十六話)

 

 

~五番隊・隊長執務室~

 

 

 

「あっ!隊長、やっと帰って来たんですか!?」

 

「思いのほか時間がかかってな。俺がいない間何かあったか?」

 

「いいえ、何もありませんでしたよ。あと隊長に怒られるのが嫌だったので私が判断できる範囲の書類は見ておきました!」

 

「普段からそうしておけば俺は怒んないんだよ。隊長になりたいんなら毎日それを続けろ」

 

「ま、毎日はちょっと…ところでその子は誰ですか?」

 

椿咲は雷山の後ろに隠れている少年について聞いた

 

「ああ、こいつはそうだな…”旅禍疑惑のある少年”と言ったところだな」

 

「この子が旅禍なんですか!?まだまだ幼いじゃないですか!!」

 

椿咲は少年の両肩を掴んで驚きの声を上げた

 

「……!?」

 

少年は驚いたまま固まっていた

 

「だから言ったろ?一人うるさいのがいるかもしれんがってな。それと椿咲、お前は大きな声を出すな。もう少し声を抑えろ」

 

「でもですね!この子が旅禍なんて私は信じられませんよ!?」

 

「だー、もう。話をややこしくするな!”旅禍疑惑がある少年”と言ったろ。まだ旅禍と決まったわけじゃないから騒ぎ立てるな」

 

「ちぇ…ところでこの子はこの後どうするんですか?」

 

「ああ、それなら四十六室の決定が出されるまで五番隊(うち)で預かることにしたぞ」

 

「ええ!?」

 

「そんなに驚かなくてもいいだろ。預かると言っても数日の間だ」

 

「たったの数日なんですか!?」

 

椿咲がそう口走った時、雷山は(あ…そっちの意味で驚いていたのか…)とある意味想定外の事態に少し驚いた

 

「もっと預かっておきましょうよ!なんならまた隊長が総隊長を説得して五番隊に入れちゃいましょうよ」

 

「バカ言うな。あれを何度もできる程俺に権力なんてねぇよ!どうしても入れたいんならお前が山本を説得してこい」

 

「嫌ですよ!!私が総隊長を苦手にしているの知ってるんですか!?」

 

「んなもん知るか。第一お前、山本相手だろうと悪戯を仕掛けるじゃないか。そんなことやっておいて山本のことが苦手と言ってもまるで説得力がないぞ」

 

図星を突かれた椿咲は黙り込んでしまった

 

「まあ、お前の悪戯癖が直らんのはとっくに知ってるから構わんが、そいつにちょっかいは出すなよ。後で文句を言われるのは俺でもありお前自身でもあるんだからな」

 

「はーい…」

 

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

 

「ところで雷山隊長」

 

少年を隊舎内にある宿舎へ送り届けた椿咲が執務室に入って早々に口を開いた

 

「今度は何だ?」

 

「あの子が旅禍じゃないと判断されて流魂街へ送り届けることになった場合ってどうするんですか?」

 

「ああ、それなら俺が信頼できる奴に任せるつもりだ」

 

「白さんたちですか?」

 

「違う違う。そもそも白たちは流魂街に住んでないだろ。桟裡之内史十郎(さんうちのなかしじゅうろう)と言う俺たち3人の育て親だ」

 

「え、そんな人生きているんですか?」

 

「さあな、少なくとも死んだという話は聞いたことがない。まあ、あのじじいがそう易々と死ぬとは思えないしな」

 

椿咲はその時その桟内之内と言う人物に雷山がある程度の信頼を置いていると感じた

 

「その…桟裡之内さんってどんな人なんですか?」

 

「…そうだな。とにかく手厳しいじじいだったよ。もしかしたら今の山本以上に厳しいかもな」

 

「そ、そうなんですか…?」

 

椿咲は冗談が通じず、とにかく厳しい人物が苦手であったため、内心会いたくないなと思っていた

 

「だが反対に白や春麗にはとても甘かった。おかげで俺はいろいろ大変だったんだ」

 

「そうなんですか?」

 

「春麗のあの性格を見て、大変じゃなかったと本気で思うか?」

 

「あっ…」

 

椿咲は現在の狐蝶寺の性格を身をもって知っていするため、幼少の頃の今よりも手が付けられないであろう狐蝶寺はそれはもう凄まじいものであったことが容易に想像できた

 

「だろ?」

 

「なるほど、雷山隊長が面倒見がいいのはそういう過去から来ているんですね!」

 

「今となっちゃ良い笑い話だが、当時は本気で春麗と絶縁したいと思ってたくらいだよ。…さて、俺の昔話はここまでにしてお前ももう自室に戻っていいぞ。珍しく仕事していたしな」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて。お先に失礼します。……ちょっと待ってくださいよ!珍しくって何ですか!?」

 

「そのままの意味だ。まあ、お前のことを少し見直したよ。あくまで少しだけだがな」

 

「なんか嬉しくないですね」

 

「本来なら普通に仕事して褒められるということ自体おかしいことなんだからな。それくらい分かれよ?」

 

「ちぇ…」

 

椿咲は不満そうに呟いた

 

「まあ、お前がちゃんと仕事するようになったらいつでもお前に隊長の座はくれてやるから、精々がんばれよ」

 

「…はーい。じゃあ、失礼します」

 

そう言って椿咲は自室へと戻って行った

 

「…仕事をサボる癖が直れば、器と実力、共に隊長として相応しいんだがな。全く…根は真面目なのに勿体ない…」

 

椿咲が出て行ったのを確認して雷山はそう独り言を呟いた

 

「さて、俺もそろそろ…ん?」

 

席を立ち上ろうとした雷山の目に一枚の書類が映った

 

「五番隊が担当している地区の書類か。…どういうことだ?」

 

雷山が見ている書類には現世にて五番隊が担当している地区の虚関係の事が書かれていた。一見すると、その書類には何の問題がないように見えたが、一つだけ目を向けるべき問題点が隠れていた

 

「比較的小型の虚一体と交戦…結果的にその虚は退却したがその地区の全隊士が負傷し、現在義骸にて回復中…援軍を求む…」

 

(これはまさか…)

 

雷山は隊士全員が負傷したと言う点に違和感を覚えた。いくら虚の攻撃により傷を負ったとしても隊士全員が同じ虚から攻撃を受けるのは考えにくかったためだった。そして何より雷山には”比較的小型の虚”に覚えがあった。

 

「まず間違いなく大虚(メノス)だな。しかし…」

 

雷山は”比較的小型の虚”をアジューカス級の大虚(メノスグランデ)と推察した。しかし、尸魂界にてその霊圧が感知されなかったのが気にかかった

 

「……」

 

(過去にこんなことはなかった気がするが、一応他の奴の意見を聞いてみるか…)

 

 

 

   ~ 翌日 ~

 

 

 

~十三番隊隊舎・隊長執務室~

 

 

 

「あれ、どうしたの?雷山君が自ら来るって珍しいよね」

 

「ちょっと用事があってな。現世で十三番隊が担当している地区の報告書って来たか?」

 

「来たよ。それがどうかしたの?」

 

「見せてもらってもいいか?」

 

雷山にそう言われた時狐蝶寺は困ったような顔をした

 

「それがその…分かんないんだよね。ほら、私って片付けが出来ないじゃない?だから書類の整理とかは全部山吹ちゃんにお願いしてるんだよ」

 

「そうなのか。そういや山吹はどこに行ったんだ?」

 

雷山はその時執務室内に山吹の姿がないことに気づいた

 

「山吹ちゃんなら他の隊に書類を届けに行ってるよ。でもそろそろ帰ってくるんじゃないかな」

 

狐蝶寺がそう言った時だった

 

「隊長、ただいま戻りました」

 

襖が開き山吹が中に入って来た

 

「ホントに帰って来たな…」

 

「あっ、雷山隊長。今日はどうされたんですか?」

 

「ん?いや、ちょっと用事があってな」

 

「そうだ!山吹ちゃん。この間来た現世の報告書ってどこにしまったの?」

 

「はい、それでしたら…」

 

山吹は入り口から3つ目の棚から書類を引っ張り出してきた

 

「現世関係の書類はこれで全部です」

 

「ありがとう!それでこの間のは…あったあった!ほらこれ」

 

狐蝶寺はそう言うと書類を雷山に手渡した

 

「……」

 

「これがどうかしたの?」

 

「いや、十三番隊の方は特に問題はなさそうだな」

 

「そうなの?」

 

「春麗、ついでにこの報告書についてどう思うか意見を聞きたいんだがいいか?」

 

「別にいいよ。だけど、雷山君が私に意見聞きに来るなんてかなり珍しいよね」

 

狐蝶寺は昨晩雷山が見つけた報告書を受け取りその内容を確認した

 

「…これってさ、大虚(メノスグランデ)の事だよね。しかもアジューカス級の」

 

「やっぱりお前もそう思うか」

 

「うん。いくら強くても普通の虚がその場にいた人全員に傷を負わせるのは難しいでしょ。私が虚だったら、一人に傷を負わせた時点で逃げるよ」

 

「…もう1ついいか?大虚が現れて尸魂界に感知されなかったことってあったか?」

 

「私が覚えてる範囲じゃないと思うよ?あんまり覚えてないけど…」

 

「……まあ、このことは一応山本の耳に入れておくか」

 

「あ、これからおじいちゃんの所に行くの?」

 

「…?そのつもりだが」

 

「じゃあ私も付いて行くよ。ちょうどおじいちゃんにも用事があったしね。山吹ちゃん、留守任せてもいい?」

 

「いいですけど…一体どうしたんですか?」

 

「私と山吹ちゃんのこれからに関わることだよ」

 

「…?」

 

山吹は狐蝶寺の言っていることの意味が分からず困惑している様子だった

 

 

 

 

 

 * * *

 

 

 

 

 

「…お前、山吹には言ってないのか」

 

「うん。ギリギリまで黙ってるつもりなんだ」

 

その時雷山は狐蝶寺が今から山本に会いに行く理由を察した

 

「まさかお前が今から山本と会う理由って…」

 

「そうだよ。これからおじいちゃんに隊長を引退するっていうのを言いに行くんだよ」

 

「はぁ…お前山本にも言ってなかったのかよ。一番最初に言うべき相手だろ」

 

「しょうがないじゃない。最近いろいろあって言いに行く暇がなかったんだよ」

 

雷山は呆れた様子で狐蝶寺の話を聞いていた

 

「白も山本に言ってないのか?」

 

「分かんない。最近白ちゃんとはお互いに忙しくて会ってないしね」

 

「…まあ、引退するのはお前らの都合だから俺がとやかく言うつもりはないが、山吹くらいには早めに言っといてやれよ。お前から聞かされるのと他人から聞くのじゃ受け取り方が違うだろうしな」

 

「うん。そうだね」

 

 

 

~一番隊隊舎内・隊長執務室~

 

 

 

「して雷山。儂に何用じゃ」

 

「少し気になることがあってな。一応お前の耳に入れておこうと思ってだな」

 

「気になる事じゃと?一体なんじゃ」

 

「ああ、簡単に言えば、現世で駐在任務をしている奴らがアジューカスと交戦したみたいなんだ」

 

「アジューカスじゃと?」

 

元柳斎は現世にアジューカスが出現したと言う報告を受けていないため若干驚いた様子だった

 

「やはりお前の所にも報告が来てなかったか…」

 

「どういうことじゃ」

 

「百聞は一見に如かずだ。とにかくこれを見てくれたら大体分かるだろ」

 

そう言い雷山は報告書を元柳斎に渡した。報告書を見た後元柳斎は一言、『なるほど…』と呟いた

 

「現世で大虚(メノス)が現れることは稀にある事じゃが、問題はその事態を我々が把握できなかったことじゃな」

 

「ああ、こちら側のミスかそれとも…」

 

「…虚圏で何やら起きているのかもしれん、少し前に起きたあの事件のように」

元柳斎が言っているのは、雷山が未来世界へ行く原因となった事件のことである

 

「あれはあの破面が自分の意志でやっていたことだから虚圏は関係ないはずだぞ」

 

「…この件は近々隊首会で話し合わねばならぬな。このことはしばらく内密にしておこう。おぬしらはもう戻って良いぞ」

 

「あっ、私は雷山君とは別件なんだよね…」

「雷山とは別件か。して何用じゃ?」

「え…あ…」

 

その時狐蝶寺は隊長を止めるということが後ろめたいということもあり珍しく元柳斎の前で委縮してしまった

 

「…珍しいこともあるもんだな。いつも気楽でいるお前が山本相手に委縮するなんてな」

 

その姿を見た雷山は仕方なく狐蝶寺が訪ねてきた理由を答えた

 

「山本、春麗は白と共に隊長を止めるんだそうだ。その事を言いにここまで来たって訳だ」

 

「つまりは引退…いや、名目上は除籍となるかの。……残念じゃが、狐蝶寺隊長。今はそれを見送ってほしい」

 

「…え?」

 

「今現在、護廷十三隊は八番隊、九番隊の隊長二名が不在の状態じゃ。それに加え、おぬしと銀華麗隊長が抜ければ、いくら雷山がおると言うても護廷十三隊の戦力が低下するのは必至じゃ。先ほどの件で万が一虚圏との総力戦に発展すれば甚大な被害が出かねぬ状態になる。それはどうしても避けたいのじゃ」

 

「う、うん…分かった…」

 

「すまぬがこのことを銀華麗隊長にも言うといてくれんか」

 

「それなら俺が言っておこう。それでもう一つ聞きたいんだが…」

 

雷山が聞こうとしたことを元柳斎が察した

 

「構わん。いずれは狐蝶寺隊長も知る事じゃ、おぬしが聞きたいのはあの少年の件じゃろう」

 

「ああ、流魂街へ行かせる許可は下りたのか?」

 

「まだ出てはおらぬが、明日(みょうじつ)までには処遇を決定すると四十六室は言うておった」

 

「そうか。じゃあ、また明日聞きに来よう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~その日の夜~

 

 

 

「…悪いな。忙しいときにわざわざ時間を取らせちまって」

 

「いや、それは気にしなくてもいいですよ。本当はがこちらから出向くべきだったんですよ」

 

「いきなり瀞霊廷に帰ってこいと言う方が酷だろ」

 

「はははっ!それもそうですね。それで今度はどんな用で来たんです?」

 

「ああ、虚圏関連でちょっと聞きたいことがあってな。簡単に言うと、虚圏内で虚たちの頂点に君臨している大虚は何て言うんだ?」

 

「…さすが雷山隊長ですね。何でもご存じだ」

 

「世辞は良いから早く教えてくれないか?」

 

「我々虚討伐遠征部隊が調べた情報ですと、名前は”イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス”。ヴァストローデ級の大虚で虚圏内では【虚圏の女帝】と言う通称で呼ばれていることは分かっています。それと…」

 

「それと…?」

 

「実力はヴァストローデの中でも群を抜いていると噂されています。我々もまだ確認していないので何とも言えませんが、雷山隊長や山本総隊長と同等かそれ以上と予想しています」

 

「なるほどな…。ありがとうな、随分と参考になった」

 

「いえ、こちらこそ。雷山隊長、瀞霊廷に何かあればいつでも呼び戻してください」

 

「まだ戻れそうにないのか」

 

「はい、もうしばらくは戻れそうにないですね」

 

「そうか。お前らも十分に気を付けてな。次会った時は棺桶の中なんてシャレにならないからな」

 

「はい、肝に銘じておきます」

 

「じゃあ、また会おう」

 

 



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第七話(第二十七話)

翌日、旅禍調査で不在の四楓院朝八を除く全隊長が招集された

 

「これより、隊首会を執り行う!!」

 

ターンッ!!

 

元柳斎が杖を突く音が議場に響き渡った

 

「今回諸君らに集まってもらったのには大きく分けて2つの理由がある。うち一つは、それ相応の覚悟を以て対処をせねばならぬものじゃ」

 

「……!!」

 

元柳斎がそう言った時、雷山と狐蝶寺を除く隊長たちの間に緊張が走った

 

「詳細については雷山隊長より説明してもらおう」

 

雷山は一歩前に出て説明をし始めた

 

「一昨夜に現世からの報告書を見て気づいたことなんだが、つい先日現世で駐在任務をしている隊士がアジューカス級の大虚(メノス)と交戦したことが分かったんだ」

 

雷山のその言葉は隊長たちをさらに驚かせることとなった

 

「アジューカス(クラス)の大虚だと…?そんなものの報告など…」

 

「ああ、問題は現世にアジューカスが現れたことではなく、現れた際に尸魂界(こちら)側がそのことを一切把握をできなかった点だ。そこに異常性を感じた俺は昨日に山本に報告し、虚圏側が何かしろの準備をしているんじゃないかと言う結論に至った。そして昨日、虚討伐遠征部隊に会いに行き、虚圏に関していくつか聞いてきた」

 

「おぬしはまた勝手に…」

 

元柳斎は雷山が勝手に動いたことを良しとは思っておらず、若干の不快感を示した

 

「そう言わないでくれ。あいつらに会ってきたおかげでいろいろ分かった」

 

「まさか虚圏側の目的が…!?」

 

「いや、さすがにそれは分からなかった。だが、これから敵になるであろう奴のことは聞いてきた。虚圏にも大虚たちを従え頂点に君臨している奴がいる。名前は『イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス』通称”虚圏の女帝”だそうだ」

 

「”虚圏の女帝”『イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス』か…」

 

「ああ、大虚たちを支配している分その実力も化物だ。虚討伐遠征部隊の面々もまだ確認できておらず断言はできないが、少なくとも山本と同等かそれ以上の実力を持っていると予想しているそうだ」

 

「総隊長殿と同等かそれ以上だと…!?バカを言うな!それが事実だとしたら我々に勝ち目がないことになるぞ」

 

「まあ待て、早まるな。まだ山本以上の実力と決まったわけじゃないし、俺だっているんだ。万一総力戦になった場合でも勝ち目が全くない訳じゃない。まあ、情報が少ない今警戒するしか手がないが…」

 

「…雷山さん、相手方の戦力が想像以上だった場合はどうするつもりなんですか?」

 

「その場合のことも一応考えてはある。まず間違いなく無事では済まない奥の手だがな」

 

「…うむ、ともかく現世にてアジューカス以上の大虚が出現した際の対処として、七番隊隊長・豊生愁哉、十二番隊隊長・八道矢宵を派遣するものとする。しかし万が一虚圏側が我らに宣戦布告をしてきた場合、二名は即時帰還するものとする」

 

その場にいた隊長全員が無言で頷いた

 

「さて、次の議題と行こうかの。雷山、例の少年をここへ」

 

「ああ、少し待っていてくれ」

 

そう言い雷山は一度隊首会議場から出て行った

 

「これは内密にしておったことじゃが、先程の件で有事の際諸君らに無用な混乱を招かぬよう今ここで紹介しておこうと思う」

 

「待たせたな。入るぞ」

 

そう外から聞こえたのち会議場の扉が開かれ雷山が入って来た。雷山の後ろには少年が付いて来ていた

 

「先日の旅禍の件で発見された者じゃ。霊圧を多少持っておるが現時点では危険性は限りなく無に等しいと言える。また、本日中に四十六室よりこの者の処遇が決定される。それによっては――――」

 

その時会議場の扉が開かれ全員がその方へ眼を向けた。そこには伝令係の死神が片膝をついていた

 

「隊首会中失礼します。中央四十六室より伝令です」

 

その時、雷山と元柳斎に緊張が走った

 

「報告します。四十六室の協議の結果、今後におけるその少年の危険性は極めて低いものと判断し、流魂街での居住を条件としたうえで永住を許可するとのことです」

 

「うむ、相分かった」

 

「隊首会中、失礼しました」

 

そう言い伝令係の死神は瞬歩で消えた

 

「と言うわけじゃが。雷山、おぬしこの者を流魂街のどこへ送り届けるつもりじゃ」

 

「それなら、桟裡之内史十郎に任せるつもりだ」

 

「……」

 

「…!!」

 

「えっ!?」

 

雷山が桟裡之内史十郎の名を出したその時元柳斎、銀華零、狐蝶寺の三人は驚いたような顔をした

 

「…おぬしから史十郎の名が出るとは驚きじゃ。なるほど、奴にそやつを預けると言うわけか」

 

「ああ、信頼は十二分だからな」

 

「雷山君、それって本気で言っているの…?」

 

「本気だ。俺たちの面倒を見ていたくらいだし、何よりあいつ以外で任せられる奴なんていないだろ」

 

雷山が正論を言って狐蝶寺は黙ったがどこか納得していなさそうだった

 

「その…雷山隊長。桟裡之内史十郎とはいったい誰の事なんだ?」

 

「…そうだな。お前らに話しておいた方がいいかもしれんな。桟裡之内史十郎と言うのはな、俺と白と春麗の育て親だ」

 

「雷山隊長たちの育て親だと!?」

 

「ああ、何も俺たちは幼少の頃から護廷十三隊に属していた訳じゃない。俺たちが流魂街で彷徨っていた時に拾ってくれたのが、桟内之内史十郎と言う老人だ。まあ、その辺りの話はまた今度にしておこう。今はこいつを桟裡之内の所に連れて行くかどうかが先決だ」

 

「…現状を考えればその方が良いじゃろう。しかし、奴の居場所は儂も知らぬがどうするつもりじゃ」

 

それを聞いた雷山は少し驚いた様子だった

 

「あのじいさん【旭日焼(あさひやけ)】にいないのか?」

 

「知らぬと言うておろう」

 

「桟裡之内さんがの居場所は私が知っていますよ。雷山さん」

 

銀華零はそう声を上げた

 

「確か【神臥(かみふし)】に住んでいるはずです」

 

銀華零が言っているのは北流魂街2地区【神臥(かみふし)】のことである

 

「…なんでそんなこと知ってるんだよ」

 

「100年近く前ですか。久方ぶりに桟裡之内さんから手紙が来ましてね。そのとき知ったのですよ。最近また住いを変えたと言う話も聞きませんし、おそらくまだそこにいると思いますよ」

 

「…では、その少年は銀華零隊長に一任しよう。銀華零隊長、その少年を史十郎の元へ送り届けてもらうことになるが良いかの」

 

「ええ、構いません。ですが春麗ちゃんも一緒に同行してもらってもいいですか?」

 

「うむ、それは構わぬ。では、銀華零三番隊隊長はその少年を桟裡之内史十郎の元へ送り届けるものとする。即時準備に取り掛かってくれ、以上を以て解散とする!」

 

隊舎への帰り道 狐蝶寺が銀華零と共に話しかけてきた

 

「本当にびっくりしちゃったよ。史十郎おじいちゃんにこの子を任せるなんて言い出すんだから」

 

「俺たちが面倒を見ることも出来ないしどうしようもない状況だったから仕方ないだろ。それに俺たちが知る中で最も信頼に足る人物の一人だろ?」

 

「それもそうなんだけど、勝手に決めちゃって良かったの?史十郎おじいちゃんには何も言ってないんでしょ?」

 

「それも心配いらないだろ。春麗と白が二人で行って頼み込めばあのじいさんも嫌とは言えないだろ」

 

そう言ったとき雷山は頭の中で渋りながらも『二人の頼みなら仕方あるまい…』と承諾する桟裡之内の姿を思い浮かべていた

 

「けどなー…」

 

「まあ、どうしても無理だって言うんなら俺がまた後日話し合いに行くと伝えておいてくれ。かなり嫌がると思うが…」

 

「ふふっ、相変わらずですね。雷山さんも桟内之内さんも」

 

「ほっとけ。まあ、何かあったらすぐ連絡するからそれまでは別にじいさんの所でゆっくりしててもいいからな」

 

「わーい!久しぶりに色々話せるや!」

 

「…ほどほどにしとけよ」

 



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第八話(第二十八話)

翌朝、銀華零と狐蝶寺は桟内之内の元へ出発するために瀞霊廷の北にある黒稜門に集合していた

 

「さて、そろそろ出発しますが準備は大丈夫ですか?」

 

「うん。留守もちゃんと山吹ちゃんに任せて来たし」

 

「それでは参りますか」

 

「おいおい、俺が見送りも無しにお前らを行かせると思ってたのか」

 

その声が聞こえたと同時に雷山が瞬歩で現れた

 

「あら、南美ちゃんは来なかったのですか?」

 

「ああ、あいつならまだ寝てる」

 

「そうなんですか?南美ちゃんも相変わらずですね」

 

「まあな。…お前らに言う必要はないと思うが、気を付けて行けよ。いくら治安が良い方だとは言っても流魂街にはゴロツキが思いの外いるからな」

 

「分かっていますよ。ああそうだ、桟内之内さんに何か伝言があれば伝えますがどうします?」

 

「そうだな…」

 

雷山は口元に手を当て桟内之内に何か伝言がなかったを考えている様子だった

 

「…特にないな。まあ、何か用が出来たらこっちから出向くから気にしないでくれ」

 

「そうですか。では、行ってきますね」

 

その後雷山は【神臥(かみふし)】に向け歩いて行く銀華零たちの姿が見えなくなるまで見送ったのだった

 

 

 

 

 

~ 北流魂街1地区【熊好(くまよし)】付近 ~

 

 

「あの…銀華零さん」

 

歩いている途中に少年が銀華零に訪ねて来た

 

「どうしました?」

 

「その…桟裡之内史十郎さんとはどのような人なんですか?」

 

「どのような人…ですか。そうですね…」

 

少年のその問いに答えたのは少年に後ろを歩いていた狐蝶寺だった

 

「史十郎おじいちゃんはすごい厳しい人だったよ!特に雷山君に対してはね。もしかしたら(総隊長の)おじいちゃんより厳しいかも」

 

「そんな人に僕みたいなのが会っても大丈夫なのかなぁ…」

 

それを聞いた少年はいっそう不安そうな顔になってしまい、狐蝶寺は焦りだしてしまった

 

「え…あ、いや…でもね!」

 

そんな狐蝶寺を制して銀華零が語り始めた

 

「厳しいことは確かですが、その厳しさの中に必ず優しさと言うものが入っていましたよ。それは雷山さん自身も気付いていたことです。それが証拠に雷山さんも桟内之内さんもお互いにいがみ合ってはいますが、緊急事態が起きた時は誰よりもお互いを信頼していますからね」

 

「そ、そうなんですか…」

 

「そうなんだよ!昔の話だけど、私が虚に襲われた時なんか普段全く息が合わない雷山君と史十郎おじいちゃんが息ピッタリに私を助けてくれたこともあったくらいだよ」

 

「何だがやっていける気がしてきました。いつか僕も銀華零さんや狐蝶寺さん見たな死神になりたいと思います」

 

「その頃に私たちがいるかは分かりませんが、頑張ってくださいね」

 

「うんうん!その意気だよ!」

 

 

 

 

 

それから数十分歩いたのち銀華零たちは”北流魂街2地区”【神臥】と呼ばれる場所についた

 

 

~ 北流魂街2地区【神臥】 ~

 

 

「さて、そろそろ【神臥】の辺りでしょうか」

 

少年が前を向くとそこには集落のような風景が広がっていた

 

「やっぱ一桁の地区は平和だねー。【更木】とは大違いだよ」

 

「そうですね」

 

銀華零は狐蝶寺の話を聞きつつ、辺りをキョロキョロと見渡し誰かを探しているようだった

 

「…あの方に聞きましょうか。すいません、少しよろしいですか?」

 

銀華零は自身から一番近くを歩いていた初老と思われる女性に声をかけた

 

「おや、死神さんがどうされました?」

 

「この辺りに桟裡之内史十郎と言う方が住んいるはずなんですが、どちらの家に住んでいるか分かりますか?」

 

「ああ!桟裡之内さんかね。あの人ならあの家に住んどるよ」

 

そう言って初老の女性今いる地点からは4軒先の家を指さした

 

「ありがとうございました」

 

「いえいえ。困ったときはお互い様じゃ」

 

そう言い初老の女性は去って行った

 

「桟内之内さんの家が分かりましたね」

 

「じゃあ、早速行っちゃおう!史十郎おじいちゃん久しぶり!」

 

「あっ!ちょっと待ってください、春麗ちゃん!!」

 

「とやー!!」

 

狐蝶寺が家の中に飛び込むと奥の座敷に一人の老人が背を向ける形で座っていた

 

「…ん?この声はもしや…」

 

「春麗ちゃんも相変わらずですね。もし違う方の家だったらどうするんですか…」

 

「銀華零…狐蝶寺…元気でおったか…!!」

 

振り返った老人は銀華零たちの姿を見て驚いた様子だった。先に言っておくがこの老人こそ雷山たちの育て親である桟裡之内史十郎本人である

 

「お久しぶりです。桟裡之内さん」

 

「史十郎おじいちゃん久しぶり!!」

 

桟内之内は約500年ぶりに会う二人の姿を見て感激している様子だった。護廷十三隊隊長と言うのはその重責と任務の危険度から100年続けば良い方と言われているため、桟内之内の感激の中には今なお護廷十三隊隊長の席にいる二人のその努力を称賛している意味も含まれていた

 

「二人共立派になって…」

 

桟裡之内は満足げにうんうんと頷いていたが何かを思い出したように途端に不機嫌になり辺りを見回し、一言呟いた

 

「…奴はいないのか?」

 

「…奴とは誰の事でしょうか?」

 

銀華零も狐蝶寺も”奴”と言うのが雷山の事を指しているのを分かっていたが、銀華零は桟内之内にその名前を呼ばせるためにあえてそうやって質問を返した

 

「ぐぬぬ…雷山だ。雷山、雷山悟の餓鬼のことだ!!」

 

桟内之内は銀華零に怒っている様子だったが、それとは裏腹に銀華零はまるで故人を偲ぶように話を進めた

 

「雷山さんは数年ほど前に亡くなられました…」

 

銀華零のその回答に桟内之内は先程の怒りに満ちた顔から一変して目を見開き驚いた顔になった

 

「ッ!!バカな…雷山が死んだだと…!?信じられん…」

 

「…嘘ですよ。雷山さんなら、瀞霊廷でお留守番をしています」

 

「銀華零…お前図ったな…」

 

「ねっ!言ったでしょ。雷山君と史十郎おじいちゃんは意外と信頼し合ってるって」

 

「もう良い!この話題は止めだ!それで、今回二人が来た理由であろうその少年は何だ?」

 

銀華零に一杯食わされた桟内之内は雷山の話題を止め、今回自身を訪ねて来た最大の理由であろう狐蝶寺の後ろに隠れる少年のことについて聞きだした

 

「単刀直入に言います。桟裡之内さん、この子を預かってはもらえませんか」

 

「いきなり預かれと言われてもな…」

 

「史十郎おじいちゃん、私からもお願い。この子の引き取り手がいないんだよ!かといってこのまま流魂街に放りこむわけにもいかないし、頼れるのは史十郎おじいちゃんしかいないんだよ!」

 

「ぐぬぬ…」

 

しばらくの沈黙の後桟内之内は少年を預かることを承諾した。この場に居る四人は知る由もないが、それはまさに雷山が予想していた通りの構図となっていた

 

「…分かった。二人の頼みなら仕方あるまい、この子供はワシが預かろう。見たところこの子供には十三隊の上位席官クラスまで行ける素質がある。それにどうせ元柳斎が命令したんだろうしな」

 

「ま、まあそんなところだよ。じゃあ、よろしくお願いね!」

 

「やれやれ、ワシも随分と丸くなってしまったの」

 

「桟内之内は昔から優しい方ですよ。それでは私たちはこれで」

 

「ああ、近々また来るが良い」

 

「…雷山さんは連れて来てもいいですか?」

 

銀華零がそう質問した時、桟内之内は一瞬不機嫌そうな顔をして銀華零たちに背を向けてしまった

 

「…まあ、久方ぶりに雷山の顔を見るのも悪くはないかもな」

 

背を向けた直後桟内之内の方からそう一言聞こえた

 

「ふふっ、相変わらず素直じゃないですね」

 

「じゃあまた来るね!」

 

そう言って銀華零と狐蝶寺は桟裡之内の元を去って行った 

 

 

 

 

 

~瀞霊廷・五番隊隊舎内~

 

 

「何で起こしてくれなかったんですか!?私もお見送りすると言ったじゃないですかぁ!!」

 

椅子に座る雷山に椿咲が泣きながら怒っていた

 

「何度も声を掛けたぞ。その度にお前は、『あと5分…あと5分…』と起きなかったじゃないか」

 

「そうなるから頑張って起こしてくださいと言いましたよぉ」

 

「無茶言うな。こうなるだろうから前もって起こし始めたと言うに、その時間を全部使ったのはお前自身だぞ」

 

雷山は椿咲がなかなか起きないであろうことを予想していたため、前もって2時間前に起こし始めようと計画を立てていた。しかし椿咲は目を覚まして1分もしないうちに再び寝始め、『あと5分寝かしてください…』と言う行動を何回も続けたためにその2時間と言う猶予がすべて無くなってしまい、結果的に雷山一人で見送ることになったのである

 

「うぇぇぇん!!」

 

「はぁ…もう二度と会えなくなる訳じゃないんだから、見送り一回行けなかったくらいで泣くなよ……ん?」

 

その時雷山は何かの気配に気が付いた

 

 

 

 

 

―――――同時刻・瀞霊廷上空

 

 

「さて、それではみなさん。準備の程はよろしいですか?」

 

一人の虚がそう言うと同時に黒腔ガルガンタが開き始めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すべてはわたくしの野望の為に―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第九話(第二十九話)

~ 瀞霊廷上空 ~

 

 

「それではみなさん。戦いの準備の程はよろしいですか?」

 

一人のアジューカス級の大虚がそう言うと同時に黒腔(ガルガンタ)が開いた

 

「さて、それでは思う存分余興を楽しみましょう!!」

 

(そう、わたくしが虚圏の全てを牛耳る舞台の余興をね…)

 

 

【緊急報告!!緊急報告!!瀞霊廷上空に大多数の虚の反応有り!!その中にはヴァストローデ級の大虚も含まれています!!各隊至急守護配置についてください!!繰り返します――――――――】

 

 

「やはりさっきの気配は…」

 

「た、隊長!!ヴァストローデの大虚が攻めて来たんですか!?どうしようどうしよう!!」

 

椿咲は自身よりもはるかに強いと言われているヴァストローデ級の大虚が攻めて来たと言う事実に驚き、そして狼狽え始めた

 

「狼狽えるな。ヴァストローデなら余程実力差がない限り二人で対処すれば確実に倒せる。問題は…」

 

雷山はヴァストローデが攻めてきたことはもうどうしようもない事実であり受け入れていた。しかし雷山が危惧していることはその数だった

 

(俺の予想では単身でヴァストローデを倒せるのは俺含め5人。その中の二人は不在、残りの二人は前線においそれと出ることが出来ない…つまり、ヴァストローデが5体以上いたらかなり不利な状況になる…)

 

「くそっ!考えていても良知が明かないか。とにかく出るぞ!!」

 

「は、はいぃ!!」

 

雷山が隊舎の外に出ると、そこら中で虚と死神の戦いが始まっていた。その数は約2000体、席官クラスならものともしない下級虚もいれば、副隊長以上でようやく対処できる大虚と様々な種類の虚が入り乱れていた

 

「まるで地獄絵図だな」

 

雷山がそう言った時、背後から一体の虚が襲い掛かって来たが雷山はそれを見ることもせずに斬り倒した

 

「仕方がない。手こずってる奴を助けながらヴァストローデを倒す作戦で行こう」

 

「はい!!」

 

雷山が他の者の手助けに行こうとしたその時、目の前に一体のアジューカスが現れた

 

「貴方の相手はわたくしが務めましょうか」

 

ガンッ!!

 

雷山の斬魄刀とアジューカスの三叉槍がぶつかり辺りを制するほどのけたたましい音が響いた

 

「…何者だ」

 

「わたくしは【高貴なる神の左腕】”ドゥミナス・ミドフォーゼ”と申します。今回の侵攻の全ての権限を与えられております」

 

「【高貴なる神の左腕】だと…?…なるほど、つまりはイミフィナリオの側近の一人と言う訳か…」

 

「ご名答です」

 

雷山とドゥミナスは互いに武器で相手を弾き距離を取った

 

「貴方の名前を聞いておきましょうか」

 

「護廷十三隊五番隊隊長、雷山悟だ」

 

「五番隊隊長ですか…」

 

そう呟くとドゥミナスは口元をニヤァとさせ、不気味な笑みを浮かべた

 

「そうですか。それはとても良いですね」

 

「…椿咲、お前はとりあえず先に行け。俺はこいつを片してから行く」

 

雷山はドゥミナスに聞こえないくらい小さな声で椿咲にそう言った。椿咲は、目の前にいるドゥミナスと名乗るアジューカスが不気味さを醸し出していたのは気付いていたが雷山を置いて行くわけにもいかずにそれを拒否した

 

「隊長を残しては行けないですよ」

 

「共倒れになるよりマシだろ。何よりこいつはお前じゃ相手にならない」

 

「…分かりました」

 

「その必要はない、ここは儂が残ろう」

 

その声が聞こえたと同時にドゥミナスの周りに炎の壁が形成され、ドゥミナスを閉じ込めた

 

「くっ…!!この炎は一体…!!」

 

「…お前が出てくるなんて珍しいな。それほどまでにお怒りか?山本」

 

「そういう訳ではない。現時点を以て雷山、椿咲両名に総隊長命令にてイミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス討伐を命ずる。すぐさま虚圏へ出発するのじゃ」

 

「…尸魂界(ここ)は任せていいのか?」

 

「おぬしにしては愚問じゃの、よもや儂が倒れると思うてか」

 

「それが聞ければ結構。それじゃあ、この場はお前に任せるからな」

 

そう言うと雷山は、椿咲と共に空に開く黒腔へ向かった。それを見届けた元柳斎はドゥミナスが閉じ込められている炎の壁に目を向けた

 

「さて、小童。おぬしにはこの場で消し炭になってもらおうかの」

元柳斎が炎の壁をどけるとそこにはドゥミナスの姿はなかった。自身に逃げ出すことを一切悟らせずに逃げ果せたドゥミナスに元柳斎は感服した

 

「…儂に一切悟らせぬとは…あのアジューカス思いの外やりおる…」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「…よし、今のところ敵影は無しだな」

 

黒腔を抜けた雷山と椿咲は敵陣のど真ん中に出ることを恐れ、椿咲の始解の能力を使いしばらく身を潜めていた。その後敵の姿がないことを確認し、始解の能力を解除した

 

「それにしても、山本の奴も難儀な命令出してきやがったな。俺よりも実力が上かもしれない奴を討ち取ってこいとはな…」

 

「まあ、でもそうするしかこの戦いを終わらせる方法が無いのも事実なんですよね…」

 

「…今のうちに言っておくが、状況がヤバくなったらお前だけでも逃げろよ。ほら、返事!」

 

「は、はい!」

 

その時椿咲の眼には自身の死を覚悟し、自分を意地でも逃がそうと決意している雷山の顔が映った

 

「さてと、それじゃあ気合を入れて【虚圏の女帝】とやらの本陣に乗り込むとするか」

 

雷山は未来に於いて藍染が居城として使っていた虚夜宮の存在は知っていたため、イミフィナリオもそこを居城としていると考えていた

 

 

 

 

 

~ 虚圏内・虚夜宮(ラスノーチェス) ~

 

 

「うむ…」

 

未来に於いて藍染が座っていた虚夜宮の玉座に座る一人のヴァストローデが悩むように頭を抱えていた

 

(出来れば今は、死神たちとは事を構えたくはないのも事実だが、ドゥミナスが言うておった”死神たちが虚圏内の大虚を始末しようとしている”と言うのもまた事実。しかし…)

 

そのヴァストローデの元に一体のアジューカスがやって来た

 

「失礼します。イミフィナリオ様、バラガン・ルイゼンバーンのことでお話があるのですが…」

 

「バラガンの餓鬼か…大方、妾の部下が居らぬこの好機を以て妾の首を取りに来ると言ったところかの。だとしたら想定の範囲内の話じゃ、そう慌てんでも良い」

 

「いえ、それがここ最近どうにもバラガン一派にこちらの状況が筒抜けなのです」

 

「…その話はドゥミナスが戻ったらゆっくりとしよう。それに、たとえ妾たちの動向が筒抜けだとしてもあやつではどうすることも出来ん。放って置けば良い、それに今は敵方(客人)をもてなすことが先決じゃ」

 

「は、はぁ…」

 

アジューカスは何のことか分からないと言いたげな顔をしていたが、イミフィナリオはそれを意に介さず玉座より立ち上がり、四方に届く程の声で言葉を発した

 

「隠れていては話も出来まい。顔を見せたらどうだ?それとも、妾の不意を突くと言う無粋な戦いがそなたらの好みか」

 

「…これを見抜くとは、【虚圏の女帝】と称されているのは伊達ではないな」

 

そう声が聞こえたと同時に、椿咲の斬魄刀『月華』の能力により虚圏の風景を同化していた雷山と椿咲が現れた

 

「その羽織…隊長格か。ドゥミナスの包囲網を掻い潜ってここまでやって来るとはやりおるな」

 

「褒めていただき恐悦至極…と言えばよいのかな。【虚圏の女帝】イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス」

 

「死神にしては礼儀がなっておるの、少々見直したぞ。だが、所詮それまで名乗ることを忘れておるぞ」

 

「申し遅れたな。護廷十三隊五番隊隊長、雷山悟だ」

 

「…雷山とやら、そなたは妾の首を取りに来たと考えて良いのじゃな?」

 

「質問を返すようで悪いんだが、一つだけ確認させてくれ。お前は、尸魂界を占領下に置こうと考えていて、その考えを改めるつもりもないと言うことでいいんだな?」

 

「…如何にも、そうじゃ」

 

「はぁ…」

 

イミフィナリオからその答えを聞いた雷山は、期待が外れた失望感とやれやれと言う気持ちからため息を漏らした

 

「それじゃあ、さっきの質問の答えは”イエス”だな」

 

ガンッ!!

 

「これはまた血の気の多いアジューカスだな。お前もドゥミナス・ミドフォーゼと同じ”腕”か?」

 

「ドゥミナスと接触済みか。あたしは【高貴なる神の右腕】”エンジェリーナ・クァント”!!あんたを殺す者だよ…!!」

 

「なるほど。【左腕】があれば【右腕】もあると言うことか。だが、お前程度の大虚が俺を倒すのはちょいと早いぜ」

 

「くそっ!!早い…!!なっ…!!」

 

その瞬間雷山は瞬歩でその場から消え失せ、代わりに椿咲がエンジェリーナに追撃を加えた

 

「護廷十三隊五番隊副隊長、椿咲南美!!あなたの相手は私が務めるよ!!」

 

「っは!!副隊長如きがあたしに勝てると思うなよ!!」

 

「互いに一対一(サシ)の戦いと行こうぜ!!」

 

イミフィナリオは雷山の初激を飛び退いて躱し、すかさず懐からステッキ状の武器を取り出し反撃に転じた

 

ガキンッ――――――――

 

「…エンジェリーナの相手はあの小娘に任せると言う訳か。あの小娘如きがエンジェリーナに勝てると思っているとは妾たちの力をナメすぎではないのか?」

 

「あれでもうちの優秀な部下でね。信頼は十二分だ。それにこれであんたも俺との一騎打ちに集中できるだろ?」

 

「大した度胸じゃ、気に入ったぞ。だが、その余裕すぐに後悔に変えてやろう!!」

 

 

 

 

 

 



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第十話(第三十話)

「その余裕、すぐに後悔に変えてやろうぞ…!!」

 

そう言うとイミフィナリオは懐からステッキの形を模した武器を取り出した

 

「”雷光光りて雷鳴鳴らせ”『雷斬』!!」

 

イミフィナリオが武器を取り出したと同時に、雷山も斬魄刀を解放した。解放した雷山の斬魄刀は刀身が稲妻のようにギザギザに曲がり、雷山の周りでスパークが数秒間隔で起こり始めた

 

「それがそなたの武具か。随分と変わっておるの」

 

「そう言うあんたも変わっていると思うぞ。まあ、だからこそ警戒に値するんだがな」

 

「さて、それでは始めようかの。最近退屈しておったのじゃ。久方ぶりに妾の愛おしい武具を扱うことが出来る…!!」

 

 

 

 

 

* * *

 

 

 

 

 

「…随分と変わった形の武器だね。死神でもそんな形の斬魄刀は見たことないよ」

 

そう言う椿咲と相対する【高貴なる神の右腕】エンジェリーナ・クァントの手にはラッパのような形をした武器が握られていた

 

「当然だ。これは死神のような底辺な存在が扱う物とは違う。これは、幾年もの時代の始りと終りを見てきたあたしの宝だ!!」

 

エンジェリーナは息を吸い込むと一気にラッパを吹いた。その音は不協和音を耳元で出されているのようでその音圧は凄まじく、周囲の砂を巻き上げながら椿咲へと向かっていた

 

「”破道の六十三”『雷孔砲』!!」

 

それに対して椿咲は地面に鬼道を放った。放たれた鬼道が地面にぶつかった際の轟音でエンジェリーナの音による攻撃は無効化された

 

「…どうやら音との戦い方は熟知しているようだな」

 

「うん、ついこの間まで音を扱う斬魄刀を持った人が居たからね。その人と修行した時散々音の性質を教わったよ。…もう尸魂界(ここ)には居ないけどね」

 

「同情を誘うつもりか?残念だが、イミフィナリオ様以外の者がどうなろうとあたしの知ったことではない!!”喇叭演武(ラッパえんぶ)”・【第一幕】・『血吹きの雹火(グラニーゾ・サングランデ)』!!」

 

エンジェリーナがラッパを振り上げたと同時に空より血の混じった雹と火が振り始めた

 

「なにこれ…?」

 

椿咲はその雹と火を見た瞬間”地獄絵図”と言う言葉を思い浮かべた。それほどまでにその攻撃は異様さを滲み出していた

 

「熱っ!!」

 

無数に落ちる火の一つに触れてしまった椿咲は小さな火傷を負ってしまった。それを見たエンジェリーナは笑みを浮かべていた

 

「触れたな?【第一幕】”続演”『血染めの火傷(テニードゥ・サングレ・ウナクマドゥラ)』」

 

エンジェリーナの声と共に椿咲の火傷が徐々にその範囲を広げ始め左腕を徐々に侵食し始めた

 

「なにこれ…?熱いし、何よりすごく痛い…」

 

「それは一種の毒だ。その火傷は徐々に身体を蝕んでいき最後は死に至らせる技だ」

 

「そん…な…うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

椿咲はあまりの高熱による痛みで声をあげて悶え始めた

 

「…副官が気になるのか?随分と隙が出来始めてきたぞ」

 

「そう見えているのなら、あいつは大丈夫だって言うことだな」

 

「この状況下でまだはったりを言う余裕があるのか…?エンジェリーナ!!倒したからとて油断はするな!!」

 

「イミフィナリオ様、心配ご無用です。すでにこの者の意識は―――――」

 

その瞬間エンジェリーナの身体に六つの光が突き刺さった。その直後エンジェリーナは身動き一つ取れなくなった

 

「”縛道の六十一”『六杖光牢』」

 

「ッ!!バカな…確かにあんたは…!!」

 

エンジェリーナが背後に目を向けると笑顔で手を振る椿咲の姿があった

 

「死んだと思った?残念、生きてるよ。この通りね」

 

「くっ…!!」

 

「…まずはこの危ないラッパから手を放してもらおうかな」

 

「誰が放すものか…!!」

 

「”破道の一”『衝』」

 

頑なにラッパを手放そうとしなかったエンジェリーナに椿咲は痺れを切らし鬼道を使い無理やりラッパを弾き飛ばした

 

「何故だ…何故あたしの攻撃から逃れることが出来た…!?」

 

「逃れてなんかいないよ。ただ、最初から君の攻撃が当たってなかっただけだよ」

 

「当たってなかっただけだと…?」

 

「うん。私の斬魄刀はね『月華(げっか)』って言うんだ。そしてその能力は”相手に幻覚を見せることが出来る”と言うものなんだよね。ここまで言えば後は私が言わなくても分かるでしょ?」

 

「なるほど…それは良いことも聞いたな…」

 

捕えられ、武器を失い、絶体絶命であろう状況下でも一切焦らずむしろ余裕すら見せるエンジェリーナに椿咲が不信感を抱いた時だった

 

天葬(セレスティアル)!!」

 

エンジェリーナがそう叫ぶと同時に突き刺さっていた六つの光が霧散して消えてしまった

 

「鬼道が消えて…!?」

 

(動揺している今が好機!!)

 

エンジェリーナは素早く振り向き椿咲の腹部の辺りに手を当て虚弾(バラ)を放った。虚弾は椿咲とエンジェリーナの至近距離で爆発し砂煙が舞い上がった

 

虚弾(バラ)虚閃(セロ)よりは威力は劣る。しかしここまでの至近距離ならば、ただでは済むまい」

 

「はぁ…はぁ…確かにただでは済まなかったよ…」

 

砂煙が晴れると腹部を抑える椿咲の姿があった。息は上がっている状態だったが眼にはまだ闘志が残っていた

 

「痛てて…さすがに今のは効いたよ。けど、君を倒すくらいならまだ十分動けるよ」

 

椿咲は斬魄刀を構えると自身の分身を4体作り出した

 

「それじゃあ、再開しよっか」

 

「望むところだ!!」

 

 

 

その頃雷山とイミフィナリオは一進一退の攻防を繰り広げていた

 

 

 

「くっ…!!」

 

「雷山!!そなたの実力はこの程度のものなのか!?甘い、甘すぎるぞ!!」

 

イミフィナリオは幾度も雷山の背後回っては斬りつけると言う戦法を繰り返していた

 

「あんたの動き見切ったぞ!!」

 

雷山は再びイミフィナリオが背後に回ると予測し、斬撃を飛び退いて避けた後間髪入れずに背後に斬撃を繰り返した

 

「なっ!?」

 

しかし当然イミフィナリオも雷山がその作戦に出てくることを予想しており雷山の裏をかいていた。雷山の真横に現れたイミフィナリオはそのままステッキの先端を雷山に突き刺そうとしていた

 

「そのような単純な考えでは妾は倒せぬぞ!!」

 

「そんなことは分かっている。もちろん、あんたが背後以外に回ることもな」

 

雷山のその言葉でイミフィナリオは自身がそこに誘き出されたことに気づいたが、このまま雷山を殺せば全て終わると考えそのまま攻撃を続行した

 

「ほら、発動だ。”地雷(じらい)”!!」

 

イミフィナリオの攻撃が雷山に届く瞬間、突如地面より雷が放出されイミフィナリオの左足を貫いた。しかしそれでも威力は衰えずそのまま身体までも貫いた

 

「ぐっ…!!」

 

痛みに顔を一瞬歪ませたイミフィナリオだったが、そのままの勢いで雷山をステッキで突き刺した

 

「かはっ!!」

 

「少々ダメージを負ってしまったが、妾を倒すには程遠いぞ…!!」

 

「…『肉を切らせて骨を断つ』って言葉、知ってるか?」

 

「何…?」

 

「この攻撃はな、俺が突き刺されるまでが手順だったわけよ!!」

 

そう言うと雷山は刺さっているステッキを鷲掴みにし叫んだ

 

「”静電気(せいでんき)”!!」

 

バチィ!!

 

その瞬間電気機器がショートした際に鳴る音が辺りに響いた。それと同時にイミフィナリオの身体に電気が走り、肉眼でも分かるほど青白く光っていた

 

「なんだ…これは…!!」

 

イミフィナリオはあまりに突然のことに何が起きたのか理解が追い付いていないようだった

 

「静電気だよ。俺の手の平からそのステッキを通してあんたに電気を流しているんだ」

 

雷山のその言葉を聞いたときイミフィナリオは思いついたようにステッキから手を放そうとした、しかしいくら力を入れようともイミフィナリオの手はステッキを握ったまま動かなかった

 

「ぐっ…!!手が離せんだと…!?」

 

「いくら虚だろうが、筋肉と言うものがあるだろう?電気を流されている間はその筋肉が固まり一切動けなくなる」

 

(さすがに五番隊隊長と言う名は伊達ではないか…こうなれば”アレ”を使うしかないのう…)

 

イミフィナリオは雷山に見えないように口の中を自分で傷つけ大きく口を開いた

 

「ッ!!これは…!!」

 

 

 

王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)か――――――――

 

 

 

イミフィナリオが”王虚の閃光”を放つ直前、雷山は微弱な雷をぶつけた。その結果イミフィナリオの”王虚の閃光”はその場で大爆発を起こし爆風は二人を飲み込んだ。

 

「…まさか、妾の”王虚の閃光”をただの爆発程度に抑えるとはな」

 

「…こちらも驚かされたよ。破面でもないのに王虚の閃光(あんなもの)を放ってくるとは…」

 

雷山とイミフィナリオは至近距離で爆発による爆風を受けたことで身体の至る所から血を流していた。しかし二人共そのことを気にする素振りすら見せず平然と立っており笑みすら浮かべていた

 

「やれやれじゃの。こうなればこちらも奥の手とやらを一つ見せるしかないか」

 

「ッ!!」

 

その言葉を聞いた雷山は反射的に身構えていた。しかしイミフィナリオはその程度の構えでは足りぬと言いたげに笑っていた

 

「妾のこれは、身構えたところで防げぬぞ。雷山、妾を失望させてくれるなよ?”万楽死(マサクレース)”!!」

 

イミフィナリオがそう叫ぶと同時に雷山の視界が真っ暗になった

 

(なんなんだ…?いきなり視界が真っ暗になった…)

 

辺りを警戒し目を凝らしていた雷山は次の瞬間雷山は驚愕することとなった

 

「なっ!?」

 

雷山の目の前には笑みを浮かべる狐蝶寺春麗が立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 




名前 イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス
身長189㎝ 体重65㎏ 誕生日は12月27日(由来:かみ→か=か行の一番目であ列の二番目=12 み=ま行の二番目でい列の七番目=27)
ヴァストローデ級の大虚で黒髪と白髪が半々で混ざっているのが特徴の女性の虚。服装は黒と白を基調としたドレスを身に纏っていて、頭には黒色の二本の角とティアラの形をした仮面の名残。背中には白色の羽がそれぞれ生えていて、天使と悪魔を掛け合わせたような外見をしている。武器はステッキの形をした物を使う。一人称は「妾」。【虚圏の女帝】と呼ばれており、現在は虚圏の頂点に君臨している。


万楽死(マサクレース):あらゆる死の幻影を見せ、精神だけを死んだと錯覚させる技。もちろん身体は死んでいないため、死んでいないことに気づけば再び目を覚ます

来死身(ガドゥシダ):強制的に身体能力を徐々に低下させる技。謳い文句は”1分経てば足が動かなくなり、2分経てば腕が動かなくなる。3分経てば握力がなくなり、4分経てば体力がなくなる。そして、5分経てば心臓が止まり死の世界がやってくる”


名前 エンジェリーナ・クァント
身長173㎝ 体重60㎏ 誕生日は10月4日(由来:天使→てん=10 し=4)
アジューカス級の大虚で白髪の女性の虚。服装は白とピンクを基調としたタキシードを身に纏っている。武器はラッパの形をしたものを使う。一人称は「あたし」。【高貴なる神の右腕】と呼ばれているイミフィナリオの最側近の内の一人でイミフィナリオから絶対的な信頼を置かれている。実力は、アジューカス級の大虚としては若干高く隊長並みの実力を持つ椿咲と互角以上に戦うことが出来る程。


~喇叭演武~ 

第一幕:『血吹きの雹火(グラニーゾ・サングランデ)』
効果:空から血の混じった雹と火を降らせる技。この火に触れると小さな火傷を負う

第一幕”続演”『血染めの火傷(テニードゥ・サングレ・ウナクマドゥラ)』
効果:負わせた火傷を全身に広げ全身火傷で死に至らしめる技。この火傷が広がる際の痛みと熱さは想像を絶しこの時点で死に至る者も多い

天葬(セレスティアル)
効果:他人の霊圧を徐々に自身に吸収する技。一度に大量の霊圧を吸収すると霊圧酔いを起こししばらく動けなくなる危険性もある




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第十一話(第三十一話)

イミフィナリオと戦っていた雷山は虚圏に来ているはずのない狐蝶寺と相対していた

 

「春麗、何故お前がここにいる?」

 

「何故っておじいちゃんに言われて雷山君を助けに来たんだよ」

 

「…そうか、では質問を変えよう。何故お前一人だけがここにいる?」

 

「……」

 

雷山は狐蝶寺が来ているならば少なくとも副隊長の山吹は来るはずだと考えていた。しかし目の前の狐蝶寺は何も語らずに押し黙っていた

 

「…やはりお前、本物の春麗じゃないな。いったい何者だ、幻覚…って訳でもなさそうだな」

 

「…そうだよ。私は本物の狐蝶寺春麗じゃない。そうだね…私は君の記憶の幻影と言う所なのかな」

 

「記憶の幻影だと?」

 

その時雷山は目の前にいる狐蝶寺が刀に手を掛けたのを見逃さなかった

 

「動くな。いくら春麗の姿をしていても妙な動きをすれば斬るぞ」

 

「無駄だよ。君じゃあ私を倒すことは出来ないよ。…この空間内ではね…」

 

雷山は目の前にいる狐蝶寺が刀に手を掛けた時点でいつ斬りかかって来ても対応できるようにその動きを警戒していた。しかし、次の瞬間には刀の切先が喉に突きたてられていた

 

「動きが見えなかっただと…!?」

 

「バイバイ、精々頑張って本物の私に会うんだね。ああそれと、あまり私を甘く見てるといつか痛い目に合うから気を付けてね」

 

そう言うと狐蝶寺は斬魄刀で雷山の喉元を裂いた。それと同時に雷山の視界は再び暗闇に包まれた

 

「―――――ッ!!」

 

雷山は飛び起きるように目を見開き頭の中で状況を整理した

 

「はぁ…はぁ…」

 

(今のは何だったんだ…!?)

 

雷山は自身の喉元に触れ傷がないかを確認した

 

(さっきのは幻覚じゃなく実際の痛みだった…)

 

「あの、雷山さん?」

 

突如背後から声をかけられ雷山は振り向いた

 

「…なるほどな…!記憶の幻影とはよく言ったものだ。春麗の次はお前か…」

 

雷山の目の前に銀華零白が立っていた

 

「記憶の幻影…ですか。なるほど、春麗さんはすでに私たちが偽物と言うことをあなたに言っているのですね」

 

「この空間は一体何なんだ?」

 

「それはお答えできません。ですが、あなたなら薄々感づいていることがあるのではないでしょうか?」

 

「…やはり、俺の考えは間違ってはいなかったか」

 

雷山は斬魄刀を構え銀華零を隙を伺い始めた

 

「悪いが、お前を倒して行くぞ。白」

 

雷山自身はいくら銀華零が相手だろうと簡単に勝てると思っていた。しかし結末は雷山の予想とは大きく異なっていた

 

「くそっ…」

 

雷山は銀華零に左腕を斬り落とされる重傷を負っていた

 

「…あなたは確かに本気でした。しかし、この空間内では万に一つも私に勝つことは出来ないのですよ」

 

「…俺が勝てないだと、果たしてそれはどうかな?」

 

「あなたが自信家なのは重々承知ですが、この期に及んでハッタリも大概になさいな」

 

銀華零が刀を振り下ろしているその時、時間にすれば一秒にも満たないであろうその瞬間に銀華零は雷山の声を聴いた

 

「やはり所詮は偽物か、取るに足らない。迂闊だぞ?」

 

「うぐっ!!」

 

次の瞬間銀華零の身体に電気が流れ始めた。その電流は凄まじく、銀華零は刀を持っていることも立っていることも出来なくなりその場に倒れこんだ

 

「だから言ったろ。「迂闊だぞ」とな。何が起きたのか知りたいのなら地面を見て見な」

 

「ふふふっ、こちらも言ったはずですよ。この空間内では万に一つも私には勝つことが出来ないと…」

 

パリーンッ!!

 

その瞬間、銀華零の姿が氷の塊に変わり砕け散った。それと同時に背後から何本もの氷柱が雷山の身体を貫いた

 

「惜しかったですね。私からはあなたの助けとなることは言えませんが、本物の私に無事会えることを願っていますよ」

 

そこで雷山の意識は途絶え再び暗闇が辺りを包んだ。その後、雷山は様々な人物に幾度となく殺され、暗闇に包まれ、目を覚ますと言うサイクルを繰り返し続けた。それは雷山の気が参り一切の抵抗を見せなくなるほどにまで

 

「…まさかお前まで出てくるとはな」

 

雷山の目の前には初代護廷十三隊十番隊隊長・蜂乃背秋十が立っていた

 

「久しぶりだな、雷山。この間はよくも俺を殺してくれたな。今度は俺がお前を殺してやるよ!!」

 

「…もう好きにしろ。いい加減殺され続けるのも飽きてきた」

 

雷山があきらめの言葉を口にしたとき蜂乃背からは驚きの言葉が帰って来た

 

「雷山、てめぇ何を言ってやがる。そんな諦めの言葉を口にする腰抜けに成り下がっちまったのか!?」

 

「……」

 

蜂乃背がそう雷山に問いかけても雷山は項垂うなだれているだけだった

 

「雷山!!俺はそんな腰抜けの奴に負けた覚えはないぞ!!」

 

蜂乃背に殴られた雷山は1メートルほど吹っ飛んだが、それと同時に消えかけていた雷山の闘志が戻った

 

「…痛ってぇな。俺が黙っていれば好き勝手言いやがって…だが、おかげで肝心なことを思い出したよ」

 

(そうだ…冷静に考えれば、死んでいる影内や蜂乃背たちが俺を殺しに来れるわけがない。それに白と春麗が言っていた記憶の幻影と言うあの言葉。この二つから考えられることはただ一つ…これは、イミフィナリオが見せる悪夢の中だ!!)

 

「それでこそ、俺がライバルと認めた男だ!!行ってきな、そして狐蝶寺隊長のことは任せたからな!!」

 

蜂乃背のその声が聞こえたと同時に目の前が真っ白に染まった。雷山が目を開けると元の虚圏の景色に戻っていた

 

「バカな、妾の”万楽死(マサクレース)”を打ち破るだと…!?」

 

イミフィナリオは雷山が”万楽死”を打ち破ったことを信じられない様子でいた。

 

「驚いている場合か?」

 

雷山は瞬歩でイミフィナリオの上空に移動した。移動した雷山は斬魄刀を逆手に持つ独特な構えをした

 

「『落雷(らくらい)』!!」

 

雷山が刀で切った空中に小さな雷の球が浮いていた。その球はしばらくは空中に浮いていたが、次第に重力に従って落下し始め幾つにも枝分かれを繰り返し自然現象の雷を模していった

 

「くっ…!!」

 

イミフィナリオはステッキを自身の前で回転させ、自身に当たる範囲の雷を防いでいた

 

「この程度で妾を倒せると思うてか!!」

 

「思うわけないだろ。足元を見て見な!!」

 

「なに…?これは…!!」

 

イミフィナリオの足元では防がれずに地面に降り注いだ雷が少し浮いた状態で帯電していた

 

「イミフィナリオ、俺の本気を見せてやるよ ”卍解”!!」

 

その瞬間帯電していた雷が雷山の斬魄刀に吸い寄せられるかの如く集まり、閃光と轟音で雷山の姿を覆い隠した

 

「”卍解”『雷刃(らいじん)摩槍(まそう)』」

 

閃光が弱まり雷山の姿が見えた時その手には稲妻状に曲がる刀ではなく、2メートルはあろう槍が握られていた

 

「『雷刃の摩槍』”閃”『一閃刃(いっせんじん)』!!」

 

雷山が槍を振るうと巨大な刃状の雷が放たれた

 

「ぐあっ!!」

 

それはイミフィナリオを直撃したと同時にあまりの威力のため砂煙が舞い上がった。その砂煙は上空にいた雷山や近くで戦っていた椿咲、エンジェリーナをも飲み込んだ

 

(やりすぎたな…何も見えん…)

 

雷山は自身の周りの砂煙の動きに注目し警戒していた。しかしイミフィナリオは雷山が砂煙の動きに反応し動く前に雷山を掴みそのまま地面に叩きつけた

 

「ッ!!」

 

「はぁ…はぁ…今の一撃はなかなか良かったぞ…!!だが、妾の力はこの程度ではないぞ…!!」

 

雷山にステッキを突き刺そうとしたその時イミフィナリオは空から降っている雪の存在に初めて気が付いた。そしてそのおよそ一秒後背後に立つ人物の存在に気づくことになる

 

「そなたらは尸魂界の援軍か…よもやこうも簡単に背後を取られるとは…!!」

 

「ええ、万全の状態の貴女でしたらこうも簡単にはいかなかったと思います。雷山さんのおかげですね」

 

「大丈夫ですか!?雷山隊長」

 

「ああ、済まんな。浮葉」

 

「イミフィナリオ様!!今お助けを!!」

 

椿咲を一時的に退けたエンジェリーナはイミフィナリオから銀華零を引き離すべく攻撃を仕掛けようとしていた

 

「はいはーい!動かないでねー!」

 

「ッ!!」

 

エンジェリーナは銀華零にあと一歩と言う所で背後に現れた狐蝶寺に左腕を掴まれ、首元に斬魄刀を当てられ動きを封じられた

 

「くそっ…今一歩のところで…!!」

 

「南美副隊長、大丈夫ですか!?」

 

「全然大丈夫じゃないよー…」

 

「遅れてすいません。雷山さん、南美ちゃん」

 

「いや来てくれて感謝している。白に春麗…ッ!!二人共離れろ!!」

 

雷山のその声に咄嗟に離れた二人はイミフィナリオとエンジェリーナが白い帯のようなもので捕らえられた瞬間を目撃した

 

「…あら、気付かれてしまいましたか。さすがはイミフィナリオ様と互角に戦っていただけはありますね」

 

その場にいた全員が声のする方へ眼を向けると、今尸魂界にいるはずのドゥミナス・ミドフォーゼが笑みを浮かべて立っていた

 

「ドゥミナス!ちょうどいいところに帰って来た!早くこれを外してくれないか!?」

 

「…本当にあなたは物分かりと言うものがありませんね。エンジェリーナ・クァント」

 

「ドゥミナス…やはりそなたは…」

 

状況が全く掴めていないエンジェリーナとは裏腹に全てを察したイミフィナリオはドゥミナスを静かに見据えていた

 

「さすがはイミフィナリオ様…いえ、イミフィナリオですわ。ですが、あなたの舞台はここで終幕となります。ここからはわたくしたちの舞台をご覧くださいな」

 

ドゥミナスのその号令と共にイミフィナリオの配下ではない虚の大群が現れた

 

「さてと、それでは主演を招き入れ、始めましょうか」

 

 

 

 

 




名前 ドゥミナス・ミドフォーゼ
身長174㎝ 体重60㎏ 誕生日は6月6日(由来:悪魔の数字と言われる666から)
アジューカス級の大虚で黒髪の女性の虚。服装は黒と赤を基調としたドレスを身に纏っている。武器は三叉槍の形をしたものを使う。一人称は「わたくし」。【高貴なる神の左腕】と呼ばれているイミフィナリオの最側近の一人でイミフィナリオから絶対的な信頼を置かれている。実力はヴァストローデ級の大虚と大差がないと言われており、その証拠に十三番隊隊長の狐蝶寺春麗と互角に渡り合っていた。その実力から『虚圏の女帝篇』冒頭は、瀞霊廷へ侵攻する虚の大軍勢を率いる総司令官を務めていた。イミフィナリオも裏切られるまで気づかなかったが、その正体はとある大虚の配下でありイミフィナリオを失脚させるために送り込まれたスパイであった。

堕落(コルピシオン):相手を動けなくする技。体の一部に適用することも、複数人にかけることも可能だが一度発動した後に人数を増減させる場合は一度この技を解かなければならないデメリットを持つ。


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第十二話(第三十二話)

「さてと、それでは主演をお呼びしましょうか。”真の虚圏の王”バラガン陛下を」

 

「ッ!!バラガンだと…!?」

 

雷山にはその名前に聞き覚えがあった。それは未来へ飛ばされた際に参戦した破面たちとの戦いで藍染が率いてきた破面の中にそのような名前の破面がいたと言うことで記憶していた

 

「バラガン陛下をご存じなのですか。なるほど、こちら側のことは全て承知していると言うことですか…」

 

「雷山君、そのバラガンって誰なの?」

 

「バラガン・ルイゼンバーンと言う”老い”の力を持つヴァストローデ級の大虚だ。容姿はあの通り紫のローブを身に纏っている骸骨…現世で最も死神と認知されやすい容姿と言えば分かりやすいな」

 

「あー…なるほどね…」

 

狐蝶寺が何か思い当たるように声を上げた

 

「どうした?」

 

「うん。過去に現世に行ったときに会った子にね。すごく言いにくそうにしてたけど、同じようなことを言われちゃったんだよ」

 

「…そうか。まあ、その話は尸魂界に戻ったらたっぷり聞くとしよう」

 

「戻れる訳があるはずがないでしょう?死神の皆さん」

 

「どうやら上手くいったようじゃな。ドゥミナスよ」

 

「…お出ましか。あいつがバラガン・ルイゼンバーンだ。念のために言うが気を抜くなよ。あいつもイミフィナリオ同様ヴァストローデ級の大虚であることは変わりないからな」

 

現れたバラガンは捕えられているイミフィナリオを見て蔑ました様に話し始めた

 

「”虚圏の女帝”とも在ろうものが無様なものじゃな。何か言うことはあるか?イミフィナリオ」

 

「小僧が随分と言うようになったのう」

 

「どうやら立場を分かっていないようじゃな。だが、まあ良い。イミフィナリオ、貴様の時代は終わった。これからはこのわしの時代じゃ」

 

その時になってバラガンは雷山たちの存在に気が付いた

 

「ドゥミナス、この蟻共は一体何者だ?」

 

「はい、護廷十三隊の隊長格に御座います。イミフィナリオと戦わせて双方葬るつもりだったのですが…」

 

「…失敗(しくじ)ったと言う訳か」

 

「申し訳ありません。バラガン陛下」

 

「まあ、良いだろう。所詮は蟻共、叩いて潰せば良いことだ」

 

そう言うとバラガンは懐から巨大な黒い戦斧を取り出した

 

「虚圏の真の王と戦えるのだ。光栄に思うが良い。やれ、お前たち!!」

 

バラガンの号令と共に配下の虚が雷山たちに突撃してきた

 

「大勢に無勢ですね…」

 

「まずは疲弊している隊長格から狙え!!」

 

虚の軍勢はイミフィナリオたちとの戦いで疲弊している雷山と椿咲から始末するべく二人を重点的に攻撃し始めた

 

「白、春麗!椿咲の援護は任せたぞ!!『雷刃の摩槍』”轟”『雷神狼(じんろう)咆哮(ほうこう)』…すぅ…」

 

雷山は大量の空気を吸い、一時的に息を止め、大声を出すことでそれを吐き出した

 

「◎△$♪×¥●&%#∀!!!」

 

それは言葉ではなく、さながら狼の遠吠えのような声だった。その声は辺りの砂と空気中に漂う静電気を攫い、雷山に近づいていた虚全員に直撃した

 

「ぐあぁぁぁ…!!」

 

大量の静電気を浴びた虚たちは電気分解され跡形もなく消え去って行った

 

「我が兵を…!!」

 

その光景を見ていたバラガンは戦況を大きくこちらに傾ける意味と疲弊している今この瞬間で確実に仕留めるために自ら雷山の前に立ちはだかった

 

「貴様はわしが直々に相手をしてやろう。虚圏の王…いや、虚圏の神と戦い死ねるのだ。光栄に思うが良い!!」

 

バラガンは間を置かずに雷山に戦斧を振り下ろした。しかし雷山も槍でその攻撃を防ぎきっていた

 

「その傷でわしの一撃を受け止めるか。…なるほど、ただの蟻ではないと見える。名を聞いておこう死神」

 

「…五番隊隊長・雷山悟だ。お前の名は知っているから名乗らなくてもいいぞ。バラガン・ルイゼンバーン」

 

「貴様…気安くわしの名を…!!」

 

「黙らせてみろ…!!」

 

雷山たち7人とバラガン率いる虚の大群は初めこそは雷山たちが優勢の状態だったが、数の多さを生かしたバラガンの策により雷山たちは徐々に劣勢になって行った

 

「くっ…!倒しても倒してもキリがない…!!」

 

「浮葉さん危ない!!」

 

銀華零の叫びにハッとし咄嗟に攻撃を防いだ浮葉だったが、バランスを崩し倒れてしまった

 

「しまった…!!」

 

攻撃が浮葉に届く直前、虚は山吹によって斬り倒された

 

「はぁ…はぁ…大丈夫ですか?浮葉さん…」

 

そう聞く山吹自身も頭から血を流し万全の状態ではないように見えた

 

「済まない。山吹副隊長…」

 

その様子をバラガンと戦いながら横目で見ていた雷山はある決心をした

 

(今この場を乗り切るには…この手しかないか…)

 

「ん?貴様、何を企んでおる」

 

雷山が何かしろのことをやろうとしていることをバラガンも察した様子だった

 

「啖呵を切っておいて難だが、ここは一旦退かせてもらおうかと思ってな…全く、退くしか手がない自身の不甲斐なさに腹が立つ…!!」

 

「貴様…!!」

 

雷山はバラガンの戦斧を弾いて空に飛び上がる形で距離を取り、銀華零たちに叫んだ

 

「お前たちここは俺が止めておくから一度退くんだ!!」

 

「雷山さん!?自分が何を言っているのか分かっているのですか!?いくら雷山さんでもその状態で一人では…」

 

万全の状態ではない雷山がたった一人残る危険性を即座に理解した銀華零はそれを止めるように説得を始めた

 

「そんなことを言っている場合か。ここで全員やられるのと、一人がやられることのどちらが得策が分からん訳ではないだろ!いいから一度退いて態勢を整えてくるんだ!!『雷刃の摩槍』”落”『落炎十槍雷陣(らくえんじっそうらいじん)』!!」

 

雷山は『雷刃の摩槍』を十本複製しその全てをバラガンたちと銀華零たちを隔てるように突き立てた。突き立てた槍は他の槍と雷で結び付き雷の壁を形成しそれを無視して行こうとした虚は霧散して消えて行った

 

「さあ、ここを通りたくば、俺殺して行け!!」

 

雷山の気迫に押されバラガンを含めた全員がその場から動けずにいた

 

「…皆さん、ここは一度退きます」

 

銀華零もまた決心したように呟いた。悔しさからか斬魄刀を握る右腕が僅かに震えていた

 

「私は反対だよ!!雷山君死んじゃうよ!!」

 

そう言って雷山の元へ走って行こうとする狐蝶寺を銀華零は抱え走って行った

 

「白ちゃん放してよ!!雷山君が!!」

 

銀華零に抱えられた狐蝶寺は泣きながら暴れていたが次第にその声が遠退いて行った

 

「……お前も行けと言ったはずだぞ」

 

静まり返ったその場で雷山が口を開いた。雷山の背後には椿咲が立っていた

 

「どこに隊長を残して逃げる副隊長がいるんですか?」

 

「バカ言うな。五番隊隊長はお前に任せるつもりなんだぞ。そのお前がここで死んでどうするんだ」

 

「私はまだそれを聞いたことがないので、それを言うのは無しですよ。それに、私って意外としぶといんですよ?」

 

「はぁ…言うことを聞かない副官を持つと大変だ。後で後悔するなよ」

 

「むしろ残ってくれてよかったって言わせてやりますよ!」

 

バラガンはそこでハッと我に返り、残った雷山と椿咲を殲滅すべく配下の虚たちに指示を出した

 

「ええい!何をしているお前たち!!こやつらを叩き潰せ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雷山と椿咲に大群の虚が襲い掛かった――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




雷山の卍解『雷刃の摩槍』には卍解時のみ使える”雷” ”轟” ”閃” ”落”の四つの技が存在する


”轟”『雷神狼の咆哮(じんろうのほうこう)』:大声による音圧で空気中に帯電する大量の静電気を一気に相手にぶつける技。この技は時に音速に達することもあると言う
 
”閃”『一閃刃(いっせんじん)』:槍を振るい一直線上に巨大な刃状の雷を放つ技
 
”落”『落炎十槍雷陣(らくえんじっそうらいじん)』:静電気を使い卍解状態の斬魄刀を模した槍を複製しその全てを相手にぶつける技。放つタイミングを自在に変更することが出来、相手が避けた場所に槍を落とすことも出来る。また、この技は相手より上空にいないと使うことも出来ない
 
”雷”『放電圧死大鎌斬(ほうでんあっしだいれんざん)』:槍の矛部分を鎌の形を模した高電圧の雷で覆いその状態で相手を斬る技。鎌状の部分は変幻自在で好きな形に変えることが出来る。この技を受けた箇所の細胞は電気分解され、補肉剤等を用いても二度と修復が出来なくなるほどの大火傷を負う(事象をなかったことにする井上織姫の”双天帰盾”だと治せる)。雷山は膨大な霊力を使い燃費が悪いと言う点とこの技を”最後の切り札”と位置付けているため滅多に使うことがない。


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第十三話(第三十三話)

態勢を整えるべく一度退いた銀華零たちだったが、銀華零は一度退く以外に何か手があったのではないか、その手を考えるべきだったのではないかと言う自責の念に囚われ、狐蝶寺は雷山を助けることが出来なかった自身の不甲斐なさに涙を流していた

 

 

 

 

 

「山吹副隊長…」

 

「うん…」

 

普段あまり見慣れない隊長たちの姿に浮葉と山吹の二人は思わず顔を見合わせた。そして頷いた後銀華零に進言した

 

「銀華麗隊長、すぐに戻るべきだと思います」

 

「私もそう思います。雷山隊長も南美副隊長もそう簡単にやられるとは思えません。きっと逃れているはずです!」

 

「…そうですね。今はどうするべきかを考えましょうか。春麗ちゃん、泣いている場合ではないですよ」

 

「なんでよ…」

 

「……」

 

浮葉と山吹は狐蝶寺が呟いた言葉の意味が分からず、その場に立ち尽くしていた。反対に銀華零はその意味を察し言葉に詰まっている様子だった

 

「なんで雷山君と南美ちゃんを置いて行ったの…?私と白ちゃんが卍解をすれば全員で逃げることぐらい出来たでしょ…」

 

狐蝶寺のその言葉は先ほどまで銀華零が頭の中で考えていたことの一つであった

 

「春麗ちゃ…」

 

「答えてよ!!」

 

狐蝶寺の怒号がその場に響いた

 

「隊長…」

 

「…何を言っても言い訳にしかなりません。しかし春麗ちゃんの言う通りあの時私が卍解をすれば雷山さんや南美ちゃんが囮になる事態は避けられたと思います」

 

「だったらなんで…なんで見捨てるように逃げてきたの!?」

 

「雷山さんの覚悟を尊重するためです」

 

「雷山君の覚悟…?そんなもの死んじゃったら意味がないじゃない!!」

 

「私だって…私だってそう思いますよ!!」

 

「ッ!!」

 

普段感情的にならない銀華零が声を荒げたことで狐蝶寺は驚いて臆してしまった

 

「しかし雷山さんからすれば、自身が死ぬことよりも春麗ちゃんや南美ちゃんが死ぬことの方がはるかに嫌なことなんです。その証拠に南美ちゃんが攫われた際に隊長を罷免されることを顧みず解放の条件を飲み、六道さんたちとの戦いでは春麗ちゃんが捕まっていると分かった時何よりも優先して助けに行ったのですよ!!」

 

「でも私だって雷山君に死んでほしくないんだよ!!白ちゃんはそう思わないの!?」

 

「そう思っているからこそこれから先程の場所に戻るのですよ!!今度は私たちが雷山さんと南美ちゃんを死なせないために…!!」

 

「……分かった。ムキになって喧嘩腰になっちゃってごめんね?」

 

「構いませんよ。今は状況が状況ですし、何より昔は喧嘩など幾度となくやりましたから」

 

銀華零は浮葉、山吹、狐蝶寺の順に顔を見て言った

 

「それでは行きましょうか。”守られる私たち”ではなく”守る私たち”になるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ見つからないのですか?」

 

「も、申し訳ありません…!!虚圏全域まで捜索範囲を広げてはいるのですが…」

 

「…まあ、そちらに割いている人員も多くはないので咎めることなどはしませんが、困ることは事実ですね…」

 

ドゥミナスはその時何かに気づいたように顔を一瞬ハッとさせた

 

「引き続きあなた方は捜索をメインにお願いします。これ以上そちらに人員を割くわけにはいかなそうなので」

 

「は、はい!承知いたしました!」

 

「…こちらから出向く手間が省けましたわね。あとは…」

 

 

 ー 同時刻 ー

 

 

「蟻共はまだ見つからぬのか?」

 

「は、はい!全力を挙げて捜索しておるのですが…」

 

「もう良い!ドゥミナスを呼べ!奴に状況を説明させる。どうした?ドゥミナスはおらんのか」

 

「申し訳ありません。ドゥミナス様も行方が分からなくなっておりまして…」

 

「あの女狐め…」

 

その時バラガンは空から何かが降ってきていることに気が付いた

 

「なんだこれは…」

 

その正体は雪であったが、虚圏で降るはずのない雪を目の当たりにしてバラガンは自身らがすでに攻撃を受けていると察した

 

「”銀鏡・降雪(こうせつ)(こう)”」

 

「バラガン陛下!!侵入者です!!」

 

一人の虚がそう言うとその場にいた虚すべてが銀華零を方を見た。雪は銀華零の持つ斬魄刀から発生しておりこの場に雪を降らせている犯人だということは明白だった

 

「これだけ降らせれば十分ですか?」

 

「うん。多分全部は倒せないけどかなり数を減らせるよ。”竜巻(たつまき)冷災旋風(れいさいせんぷう)”!!」

 

銀華零の技によって降り始めた雪が、狐蝶寺の作り出した風に乗り、暴風雪となった

 

「こんなもの…!!」

 

暴風雪を意に介さず狐蝶寺たちに攻撃を仕掛けに行った虚たちは初めこそ暴風雪を受け切っていたが徐々に身体が凍っていき風圧で粉々に砕け散っていった。その光景を見た残りの虚たちは恐れから狐蝶寺たちと距離を取り始めた

 

「…この程度でわしを打ち負かせると思ったら大間違いだ!!」

 

バラガンは竜巻に近づき手に持つ戦斧で竜巻を切りつけた。すると、竜巻は急速に勢いを失い次第に消えて行った

 

「他愛ない…」

 

「そんな…私の技が…」

 

狐蝶寺は”冷災旋風”が掻き消されたことに驚いているようだったが、銀華零は雷山の言葉を思い出し落ち着いていた

 

”バラガン・ルイゼンバーンと言う”老い”の力を持つヴァストローデ級の大虚だ”

 

「…なるほど。あれが雷山さんが言っていた”老い”の力ということですか…」

 

「お前たち!!この蟻共を迎え撃て!!」

 

そう叫ぶバラガンを尻目に銀華零は周りに雷山と椿咲の二人がいないことを確認した

 

「皆さん、作戦はBパターンで行きます」

 

「了解です」

 

「それでは、散開!!」

 

銀華零の合図とともに四人は散らばり銀華零はバラガン、狐蝶寺はドゥミナス、浮葉と山吹は”冷災旋風”で倒しきれなかった虚の残党をそれぞれ相手にするべく動いた。唯一ドゥミナスを発見出来なかった狐蝶寺は霊圧を探りドゥミナスの元へと向かった

 

「…見覚えのある顔かと思えば、あの時敗走した蟻か。みすみす殺されに戻ってきたか」

 

ガンッ!!

 

「……」

 

「黙りなさい…!!私は今虫の居所が悪いのです…!!」

 

「貴様の事などわしにとってはどうでも良い、しかしこの場に怒りを持ち込んだのは失敗じゃな。周りが見えておらぬぞ」

 

銀華零の斬魄刀が徐々に錆び始めていた

 

「わしの力は貴様の刀すら朽ちさせる。迂闊にわしの間合いに入ったのが失敗だったな」

 

「…そう思いますか?」

 

「なんだと?」

 

「『銀鏡』”始解”『雷斬』!!」

 

銀華零が『雷斬』と口にしたと同時に、雷山と同様に銀華零の周りでスパークが起こり始めた。またそれと同時に錆び始めていた刀の浸食が止まった

 

「…氷雪の次は(いかづち)か。随分と多彩なことだ。しかし攻撃手段を変えたところでわしには届か…」

 

バチィ!!

 

その瞬間バラガンの身体をを雷の一撃が走った

 

「…なるほど。その雷はわしたちを足止めしそして散っていった蟻の能力か。良かろう…”虚圏の王”バラガン・ルイゼンバーンの実力を見せてやろう…!!」

 

「『放電』!!」

 

銀華零は刀を振るって電気を放ったがバラガンの戦斧の一振りで掻き消されてしまった。

 

「どうした。その程度ではわしの”老い”を防げぬと言ったはずだぞ!!」 

 

(やはり致命傷を与えるまではいきませんか…)

 

銀華零の斬魄刀『銀鏡』は”他人の斬魄刀の能力を写し自在に使える”というものだが、その斬魄刀の本来の持ち主と比べれば能力の扱いが劣ってしまうという欠点があった

 

「他愛無いものだ。わしと戦い散っていったあの蟻の方がまだ粘っておったぞ」

 

「『百降雷壁陣(ひゃっこうらいへきじん)』!!」

 

銀華零が斬魄刀を振り上げると虚圏の空に雷雲が生成された。そして銀華零が刀を振り下ろすとその雷雲から雷がバラガンを囲むように降り注いだ

 

「他愛無いと言ったはずだ!!」

 

バラガンは戦斧を一振りし雷の壁を消滅させた

 

「所詮は蟻、神には勝てぬ!!」

 

「やはり始解ではここまでですか…」

 

銀華零は『雷斬』を写していた『銀鏡』を元の状態に戻した

 

「”卍か…」

 

銀華零が”卍解”と呟こうとした時だった

 

「『雷刃(らいじん)摩槍(まそう)』”閃”『一閃刃(いっせんじん)』」

 

銀華零の右隣ギリギリを刃状の雷が通り抜けた

 

「ぐっ…!!」

 

バラガンは咄嗟に戦斧に纏わせた”老いの力”でその雷を相殺しようとしたが、雷の一撃があまりにも強大だったため相殺しきれず雷に打たれたように雷撃を受け後方へ弾き飛ばされた

 

「『銀鏡』の技ではバラガンに致命傷を与える決定打には欠け、最も攻撃力が高い俺の『雷斬』を使ってもバラガンの”老い”に防がれてしまう。とことんお前とは相性最悪だったな」

 

銀華零は雷の斬撃が飛んできた方を見た。そこに立つ人物を見て銀華零は目に涙を浮かべただ一言呟いた

 

「無事だったんですね…!!雷山さん…!!」

 

 

 



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第十四話(第三十四話)

~狐蝶寺サイド~

 

 

「…やはり先程感じた気配はあなた方でしたか。そちらからいらして下さるとはこちらから出向く手間が省けたものです」

 

「…雷山君はどこ?」

 

「はい?」

 

「雷山君はどこって聞いてんの!!」

 

「そう怒鳴らないでください。雷山悟とそのお連れの方はバラガンに斬られましたよ。ですが…」

 

ガキンッ!!

 

狐蝶寺は何の前触れもなくドゥミナスに斬りかかり言葉を遮った。一方のドゥミナスは三叉槍を取り出し攻撃を防いだ

 

「話は最後まで聞くものですよ」

 

「あなたの言葉なんか聞くだけ時間の無駄だよ!!」

 

「やれやれですね…」

 

ドゥミナスは狐蝶寺を斬魄刀ごと弾いて距離を取った

 

「せっかくですし、わたくしと踊っていただけませんかね」

 

ドゥミナスは三叉槍を構えながら笑みを浮かべて言った

 

「”全てを吹き飛ばせ”『風芽』!!」

 

一方の狐蝶寺は一切の笑みを浮かべず怒りに満ちた表情で始解した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~雷山・銀華零サイド~

 

 

「無事だったんですね…!!雷山さん…!!」

 

銀華零は目に涙を浮かべて呟いた

 

「白、お前は浮葉たちの手助けを頼む。俺はバラガンをどうにかしてくる」

 

「分かりました」

 

雷山は首をポキポキと鳴らした後、弾き飛ばしたバラガンの元に瞬歩で近づいた

 

「…やはり威力が相殺されていたか。お前も大したもんだな」

 

弾き飛ばされたバラガンは多少の砂埃を被っていたが、それでもほぼ無傷の状態だった

 

「貴様何故生きている…!!貴様は確かにわしがこの手で殺したはずだ!!」

 

「お前もおかしなことを言うな。あの程度で俺が殺せると本気で思っていたのか?」

 

「…仮に殺せていなかったとしてもだ、何故貴様の(いかづち)がわしの”老い”を貫いた!!貴様の雷は一切わしに通らなかったはずだ!!」

 

「…あの時の俺の攻撃が本気だと思っていたのか?」

 

「なんだと…!?」

 

「あの時の俺は全力を出せなかったんだ。イミフィナリオと戦った直後だったから当然と言えば当然だ。あの時の俺は半分の力も出ていなかった」

 

「全力の半分以下だと…?」

 

バラガンは雷山の様子からそのことが事実であることは分かっていたが、自分の力に絶対的な自信を持つバラガンにはその事実すら受け入れ難いことであった

 

「詭弁を抜かすな!!あの時貴様が本気だったのは紛れもない事実だ!!その時の力を打ち破ったわしこそ”大帝”バラガン・ルイゼンバーンだ!!」

 

その瞬間バラガンは背後に何者かの気配を感じ取った

 

「バカな…いつの間にわしの背後を…!!」

 

「あなたが雷山隊長と話している最中にだよ!!」

 

「わしの背後を取ったその実力は認めよう。だが、まだまだ詰めが甘いぞ小娘!!」

 

バラガンは戦斧を振るい椿咲を二つに裂いた

 

「ッ!!何が起こった…!?」

 

バラガンは目の前で起こったことへの理解が追い付いていない様子だった。バラガンが戦斧で椿咲を裂いた瞬間椿咲の身体が煙となり霧散してしまったのである

 

「私の斬魄刀は”幻覚を見せる能力”だよ」

 

椿咲のその言葉が聞こえたときバラガンはすでに椿咲に攻撃され地面に叩きつけられた

 

「バカな…蟻如きに大帝たるわしが敗北…だと…」

 

「…お前をここで殺すと未来の出来事に大きな影響を与えかねないからな。ここでは生かしておいてやる」

 

「未来…だと…?」

 

「それからこれは忠告だ。これから先藍染惣右介という死神に用心することだな」

 

バラガンにそう告げると雷山は『静電気』を用いりバラガンを気絶へと追い込んだ

 

「…そういえば、春麗はどこだ?」

 

突如何もない場所から砂煙が上がった。雷山や銀華零からは何が起きたのかは見えなかったがその正体は狐蝶寺がドゥミナスに弾き飛ばされてきたものであった

 

「はぁ…はぁ…」

 

「隊長格というのはこの程度のものなのですか?正直、落胆しました」

 

「大丈夫か!?」

 

砂煙が晴れると同時に雷山たち全員が現れた。その光景を見てドゥミナスはバラガンが敗れたこと、バラガン配下の虚が敗走したことを察した

 

「…どうやらバラガン陛下は舞台から降壇されたようですね。ようやく邪魔な踊り子が消えましたね」

 

「邪魔な踊り子…?それってどういう…」

 

「元々わたくしはバラガン派でもイミフィナリオ派でもないのですよ。【虚圏の女帝】イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス、【虚圏の王】バラガン・ルイゼンバーン、どちらも強大かつ実力のある支配者です。この二人がいる以上わたくしが頂点に立つなど夢のまた夢の話でした」

 

「あなたまさか…」

 

ドゥミナスの話を聞いて事を察した狐蝶寺は驚きを隠せないでいた

 

「…気付きましたか。そうですよ。今回の戦いはすべてわたくしの起こしたことです。イミフィナリオとバラガンを亡き者にしわたくしが虚圏を治めるために、その為に協力頂きありがとうございました」

 

ドゥミナスはバラガンを裏切ったことを何とも思っていない様子だった

 

「…あなたはバラガンやイミフィナリオを裏切って何とも思わないの?」

 

「特に何とも思っていませんよ。わたくしにとってみれば今までも、そしてこれからもお二方とも邪魔な存在です」

 

「あなたって最低!!自分のことしか考えていない!!」

 

「…最低で結構ですよ。ですが、あなたたち死神もわたくしのことを言えないのではないのですか?」

 

「そんなことはない!!」

 

「ふふっ、まさかわたくしが知らないとでも思ったのですか?少し前に尸魂界で死神同士の争いがあったことは、虚圏(ここ)にも知れ渡っていることですよ」

 

「う…そ、それは…」

 

狐蝶寺は押し黙ってしまった

 

「所詮あなたたち死神もわたくしたち虚も考えていることは同じなのですよ。さて、無駄話が過ぎましたね。あなた方に恨みなどと言う下らない感情などはありませんが、将来必ず障害になるであろうあなた方を生かして帰すわけにはいきません。もはや、尸魂界を攻め落とすことなどどうでもいいことなのです」

 

ドゥミナスがそう言ったと同時、雷山たちは金縛りにあったかの如くその場から動けなくなった

 

「…急に身体が動かなく…!?」

 

「ふふっ、当然です。わたくしの”堕落(コルピシオン)”は何人も逃れることのできない技…イミフィナリオですらこの技の前に屈しましたからね!!」

 

ドゥミナスはまず最も手こずるであろう雷山を始末するべく斬りかかった

 

「イミフィナリオとも互角に戦えるあなたは真っ先に始末させてもらいます!!」

 

ガンッ!!

 

「―――――――何故…!?」

 

しかし間に割り言った人物に阻まれドゥミナスの攻撃は通らなかった

 

「春麗…!?」

 

「くっ…!!」

 

攻撃を阻まれたドゥミナスは一度狐蝶寺から距離を取った

 

「…おかしいですね。あなたにも雷山悟と同様にわたくしの”堕落(コルピシオン)”の効力が及んでいるはずなのですが…」

 

ドゥミナスは目の前の狐蝶寺を警戒すると同時に周りの死神たちに技の効力が及んでいるかを確認した

 

(やはりあの死神以外には効力が及んでいるようですね…わたくしが見誤ったと見るべきでしょうか…)

 

「へへっ!あんな技私には通用しないよ!試しにもう一度私にその…何て名前かわかんないけどかけてみなよ!!」

 

「…安い挑発ですね。そんなものにわたくしが乗るとでも?」

 

「乗るとは思ってないよ。けどさ、その技にも弱点くらいはあるんでしょ?例えば、”一度この技を掛けた人以外に同じように掛ける場合は一度この技を解かないければならない”とか?」

 

「…揺さぶりですか?それも無駄ですよ。長年イミフィナリオを欺き続けたわたくしに動揺を誘うなど無謀にもほどがありますよ!!」

 

狐蝶寺の背後に周り斬りかかるドゥミナス

 

「……」

 

「ッ!?わたくしの攻撃を…」

 

しかしドゥミナスの攻撃は狐蝶寺が背後に作り出していた風の壁に阻まれて防がれていた

 

「そう言ってるけどさ、あなたは私の動きを一向に止めようとしないじゃない。それは一体どういうことなの?」

 

「あなた程度ならわざわざ動きを止めなくとも倒せると判断したのですよ」

 

「ありゃりゃ、私も甘く見られちゃったね。だったらさ、やれるものならやってみなよ!!」

 

 

 

 

 



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第十五話(第三十五話)

「あなたは私を簡単に倒せると判断したんだよね。だったらやれるものならやってみなよ!!」

 

そう言ったとたん狐蝶寺が数センチ浮かんだ。それはドゥミナスはおろか雷山すらも見えない程度のちょっとした変化だった

 

「…何年ぶりだろ。本当に久しぶりだなぁ…本気で戦うのは」

 

狐蝶寺は戦いを愉しんでいるように見えた

 

「まずは挨拶代わりにこれをあげるよ。『切風(きりかぜ)』!!」

 

狐蝶寺は扇を振るい切り傷が出来る程の風を生み出した

 

「…生贄虚(スケープ・イマジナリー)

 

その瞬間まだ残っていたバラガンの配下の虚の死体が、ドゥミナスの盾になる形で狐蝶寺の技を受けた

 

「ありゃ?」

 

「ふふっ、雷山悟以外の隊長と言うのはこの程度の者たちばかりなのですか?正直、落胆しました」

 

「他の虚を身代わりにしておいてよく言うよ。そう言うのは自分で受けて無傷だったら言う言葉だよ」

 

「…勘違いをさせてしまいましたね。てっきりわたくしは身代わりにした虚を()()()()わたくしにまで攻撃が届くものだと思っていたので」

 

その言葉を聞いた狐蝶寺は不快感を示した

 

「本当にあなたは私たちを小バカにするのが好きなんだね。不愉快だよ」

 

「不愉快ならば、わたくしを実力で黙らせてみてはどうですか?とてもいい案だと思うのですが」

 

「はぁ…”縛道の五十六”『雷鳴光(らいめいこう)』」

 

それと同時に狐蝶寺のいる場所に雷が落ちた

 

「自身に雷を落としてどうするの…おや?」

 

(なるほど。自身の姿を一瞬だけ隠す技…ですか。さて、どこに行ったのでしょう)

 

その直後ドゥミナスの背後に狐蝶寺が現れた

 

「やはり背後でしたか。ですが――――」

 

その瞬間ドゥミナスは右膝から崩れ落ちる形となってバランスを崩した

 

「――――力が入らない…!?くっ…!!」

 

ドゥミナスは咄嗟に先ほど使った”生贄虚(スケープ・イマジナリー)”を自身の左足に掛けた

 

シュッ!!

 

猛烈な風切音がその場に響くと共にドゥミナスは前方に倒れる形でギリギリ狐蝶寺の剣を躱すことに成功した

 

「…今のはさすがにヒヤリとしました。ですが、あなたの実力ではわたくしに勝つことはできないのです」

 

ドゥミナスは仕返しと言わんばかりに狐蝶寺の背後に周り斬りつけた

 

「かはっ!!」

 

「この程度の太刀筋を躱せないとは、隊長とは名ばかりですか?」

 

前のめりに倒れた狐蝶寺だったが、突如首が180度回転し首だけがドゥミナスを見ている状態になった

 

「なっ…!?」

 

その光景は異様でさすがのドゥミナスも動揺を隠しきれなかった

 

「てっきり気づかぬフリをしているのかと思って警戒してたんだけど、どうやら気づいてないみたいだね」

 

その瞬間倒れている狐蝶寺の姿が足元から靄のように消え始めた

 

「”縛道の八十七”『陽炎写(かげろううつし)』」

 

倒れていた狐蝶寺が消えたと同時にドゥミナスの背後からドゥミナスの首元に斬魄刀を当てている狐蝶寺が現れた

 

「この程度の鬼道が見破れないなんて、虚圏の女帝の最側近は名ばかりなのかな?」

 

「…なるほど。わたくしの背後をとったことは褒めて差し上げましょう」

 

「別に褒めてもらわなくてもいいよ。私にとっては不愉快にしかならないからね。さあ、決着も付いたんだし早く雷山君たちに掛けてる技を解いてくれない?」

 

「決着がついた…と?」

 

その時狐蝶寺は何かを感じ取った。何かと言われれば、それを具体的に説明することが出来ないが、得体のしれない不気味さがドゥミナスから感じ取れた

 

「…どうやら勘がいいみたいですね。ですが、気づいた時にはもう遅いですよ」

 

ザシュッ!!

 

「うっ…!!」

 

「隙が出来ましたね」

 

「かはっ!!」

 

ドゥミナスはその隙を見逃さず、狐蝶寺を蹴り飛ばした

 

「まだだよ!!」

 

狐蝶寺は空中で態勢を整え上手く着地することに成功した

 

生贄虚(スケープ・イマジナリ―)は、何もそこらにいる虚をわたくしの盾にするためだけの技ではありませんよ。この技の本来の使い方は、相手を同士討ちさせることです」

 

そう説明するドゥミナスの横には、申し訳なさそうにして立っている山吹の姿があった

 

「ううっ…すいません隊長」

 

「…気にしなくていいよ、雷花ちゃん。もう、すぐに終わらせるから」

 

「ッ!!これは…」

 

その時ドゥミナスは狐蝶寺の霊圧がどんどんと膨れ上がって行っていることに気づいた

 

(まさか…わたくしの予想を上回っている…)

 

「”卍解”『雷嵐雲風芽(らいらんうんふうが)』!!」

 

狐蝶寺が卍解したと同時に巨大な扇だった斬魄刀がそれぞれ通常のサイズの扇二つに変わり、さらに狐蝶寺の背後に風の溜まり場が出来る格好になった

 

「私は本気で怒ったよ。ドゥミナス・ミドフォーゼ!!」

 

狐蝶寺は浮いている状態で二つの扇を使い回転し始めた。その回転によって小さなつむじ風が出来、次第に大きくなっていき竜巻程の大きさまでなったとき、狐蝶寺回転するのを止め、叫んだ

 

「『竜巻(たつまき)崩来旋風(ほうらいせんぷう)』!!」

 

その瞬間竜巻程の大きさだったつむじ風が一気に膨張し周りにあるものをどんどんと破壊していった

 

「くっ…!!このわたくしが…抑えているので精一杯とは…!!」

 

その攻撃は凄まじく虚夜宮(ラスノーチェス)の床にヒビを入れる程だった

 

(あの場所は…まずいっ!!)

 

ドゥミナスがそう思った瞬間だった

 

「ッ!!何…この霊圧…!?」

 

狐蝶寺は地下から流れてくるとてつもなく巨大な霊圧を感じ取った

 

「…先程から何をやっておるのか分からぬが、随分と騒がしいのう。まるで無粋な戦いをしておる獣のようじゃ」

 

崩れ落ちた床の底からイミフィナリオのいる檻が見えるようになった

 

「なるほど…あれが雷山さんの言っていた…」

 

動けないながらもイミフィナリオの姿を確認する銀華零

 

「ああ、あいつが【虚圏の女帝】イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティスだ。それにしても相変わらずの貫禄だな」

 

イミフィナリオは牢獄に入れられている状態だったが、それでもなおバラガン以上の貫禄と余裕の表情を浮かべていた

 

「どうやら思い通りになっていないようじゃな、ドゥミナスよ」

 

「…ふふっ、あなたの眼にはそう見えるでしょうが、すべて想定の範囲内ですよ…!!」

 

「…想定通りなのは結構なんだけどさ、私と戦いながら他の虚と話している余裕があるなんて私をなめているとしか思えないんだよね」

 

「……」

 

ドゥミナスは歩み寄ってくる狐蝶寺を警戒していた。否、警戒しているつもりだった

 

「ホントに不愉快だよ。世界もあなたも何もかもが…!!」

 

「なっ!?なんですかこれは…」

 

それは一瞬の出来事だった。突然地面から金色の縄が飛び出しドゥミナスの身体を絡め捕った

 

「”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』」

 

「くっ!!」

 

ドゥミナスは腕力で縄を引き千切ろうとしたが、当然そんなことが出来るわけもなく時間だけが無駄に過ぎた

 

「無理だよ。何せその縄は雷山君でさえ腕力じゃどうしようも出来ないものだからね。さて…」

 

狐蝶寺は右手に持っている扇を閉じ刃先をドゥミナスに向けた

 

「これで終わりだよ。ドゥミナス・ミドフォーゼ」

 

「くっ…!!」

 

その瞬間、狐蝶寺の背後から何かが壊れる音が響いた

 

「何!?」

 

狐蝶寺は音に驚き背後を見た。そこには牢獄に捕らわれているはずのイミフィナリオが立っていた

 

「イミフィナリオ…!!」

 

ドゥミナスは驚きと焦りから呟いた

 

「どうした?妾がここにいることがそんなにもおかしなことなのか?」

 

「ええ、十分おかしいことですよ。あなたが入っていた牢獄は自力で出て来られないように細工をしていたはずなんですけど…」

 

「そなたこそおかしなことを言うな。あの程度で妾を閉じ込めたと本気で思えるのか?」

 

「…どうやらわたくしはあなたのことを見くびりすぎていたようですね。【虚圏の女帝】イミフィナリオ・エンペル・ヴェルティス」

 

ドゥミナスは三叉槍を手放し降参の意思を示した

 

「妾もそなたを見くびっておった。まさかここまでのことを一人でやってのけるとはの。どうじゃ?今までの無礼を水に流し再び妾と共に歩まぬか?」

 

「残念ですがお断りしますわ。一度裏切ったあなたに命を救われたとあればわたくしにとって生き恥にしかなりません」

 

それを聞いたイミフィナリオは心底残念そうな表情をした

 

「そんな顔をなさらないでください。すべてはわたくしの欲望が生んだことです。さあ、哀れな虚をどうぞその手で葬ってください」

 

「…良かろう。せめて妾がそなたに終わりを迎えさせよう…いや、そなたの言葉を借りるなら、この舞台を終幕とさせよう。”来死身(スフィリメント)”」

 

「…わたくしの野望はここで潰えますが、それで決して終わりではありません。イミフィナリオ、あなたの座を狙っている虚はわたくしだけではありません。バラガンやバラガンの配下の虚が良い証拠です。あなたの味方は多くいるでしょうが、それと同時に敵も虚圏全域に多くいることをお忘れなく」

 

イミフィナリオの技の効力により、ドゥミナスは肩で息をするようになった

 

「はぁ…はぁ…そろそろ…ですかね…ふふっ…」

 

ドゥミナスはついに立っていられなくなり片膝を地につけた

 

「それでは…さらばです…すぐに会わないことを…願ってますよ…」

 

ドゥミナスは前のめりに倒れ息絶えた

 

 

 

 

 



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第十六話(第三十六話)

「……」

 

狐蝶寺はドゥミナスが倒れた後も数秒間警戒を怠らなかった

 

「ふう…」

 

緊張が解けたと同時に狐蝶寺の卍解が解けた。また狐蝶寺はふら付いて座り込んでしまった。またドゥミナスが倒れたことによりそれまで雷山たちの動きを封じていた技の効力が解けた

 

「春麗!大丈夫か?」

 

雷山は座り込んだ狐蝶寺に心配そうに駆け寄った

 

「…大丈夫だよ。こう見えても私ってタフなんだよ。さてと…」

 

狐蝶寺はふら付きながらも刀を杖代わりに使って立ち上がった

 

「あなたが雷山君が言ってたイミフィナリオって言う虚なんでしょ?」

 

「いかにも、妾がイミフィナリオ・エンペル・ヴェルティスじゃ」

 

「…一応念のために聞くけどさ、あなたも首謀者と考えてもいいんだよね?」

 

「…いかにも、事の発端を辿れば妾がそなたらに戦争を仕掛けたことが始まりじゃ」

 

「…そう、それじゃあ安心できるね!」

 

その時の狐蝶寺は純粋無垢で無邪気な笑顔を浮かべていた。しかしその笑顔を見た雷山と銀華零だけは狐蝶寺が次に何をしようとしているのかを察した

 

「…白」

 

「ええ…」

 

雷山と銀華零が互いに同じことを思っていることを確認したまさにその時

 

「安心できるとはどういう意味じゃ?」

 

「気にしなくてもいいよ。ただ安心して…あなたを()れるっていうだけの話だから…」

 

突如として狐蝶寺はイミフィナリオに斬りかかった

 

「春麗さん!?」

 

「隊長!?」

 

その行動は椿咲や山吹には完全に予想外の出来事だった

 

ガンッ!!

 

狐蝶寺の剣がイミフィナリオに届く直前、雷山と銀華零が間に割り入り斬撃を受け止めた

 

「…そこまでにしろ。春麗」

 

「…どいてよ。雷山君、白ちゃん…!!」

 

「大人しく刀を納めてください…」

 

「どいてって言ってるでしょ!!いくら二人が相手でも私の邪魔をするのなら…殺すよ…!!」

 

狐蝶寺の殺気は周りにいる者すべてに届く程の強烈なものだった

 

「春麗…?いや、お前誰だ?」

 

「……!!」

 

雷山に誰かと問われた時、狐蝶寺は一瞬驚く素振りを見せた

 

「……」(なんだバレちゃったのか…)

 

雷山は狐蝶寺が何かを呟いたように見えたが、声が小さすぎて聞き取ることが出来なかった

 

「雷山君?何を言ってるの。私は私だよ。ただ今は、あいつを消そうとしているだけだよ」

 

その瞬間狐蝶寺は雷山と銀華零を押し退けた。押し退けられた二人はすぐに狐蝶寺の後を追おうとしたが狐蝶寺が密かに作り出していた風の壁に阻まれ一歩出遅れた

 

「くそっ!!これじゃ…」

 

「間に合わない…!!」

 

「これで――――」

 

イミフィナリオは狐蝶寺の初撃を躱したが、狐蝶寺の”悪風(おふう)”により動けなくなってしまった

 

「ッ!!足が…」

 

「――――終わりだッ!!」

 

ガンッ!!

 

イミフィナリオと狐蝶寺の間に一人が割って入り、狐蝶寺の斬撃からイミフィナリオを庇った

 

「…どうして…どうしてみんな私の邪魔するの…?ねぇ…答えてよ南美ちゃん…」

 

狐蝶寺は消え入るような声と泣きそうな顔で椿咲に問いかけた

 

「春麗さん…」

 

狐蝶寺の刀を受け止める椿咲の腕が震えはじめた。いくら隊長クラスの実力を持っている椿咲でも狐蝶寺との間には実力差があった

 

「春麗さん…どうしちゃったんですか…!?」

 

「さっきも言ったじゃない…私はただ、あの虚を消そうとしているだけだって!!」

 

狐蝶寺が力業で椿咲を徐々に押し始めたその時だった

 

「いくら春麗さんでも、これは見抜けないでしょ」

 

「え…!?」

 

狐蝶寺は驚愕した。1秒前、否、それよりも短いほんの少し前まで目の前にいた椿咲が突如として自身の目の前から消え失せたのである

 

「かはっ!!」

 

その直後、今度は後頭部から激しい痛みが狐蝶寺を襲い意識を徐々に奪い取って行った

 

(何が…起きたの…?)

 

薄れゆく意識の中、狐蝶寺は自身を襲った状況を理解しようと後ろを見た。そこには悲しそうな表情を浮かべた椿咲が立っていた。が、そこで狐蝶寺の意識は途絶えた

 

「……」

 

その光景を見たイミフィナリオは反撃しようと袖から出していた右腕を再び袖の中にしまった

 

「…あぁ…怖かったぁ…」

 

椿咲は腰が抜けたようにその場に座り込んだ

 

「椿咲、大丈夫か?」

 

それと同時に雷山が歩み寄って来た

 

「何とか大丈夫ですけど…すっごい疲れました…」

 

「ああ、ご苦労だったな。ところで一体どうやって狐蝶寺を止めたんだ?一瞬お前が二人になったように見えたんだが…」

 

「ああ、あれですかぁ…あれはですね…はぁ…また後でいいですか…?何か話すのもすごい疲れます…」

 

「ああ、悪い。とりあえずそこでゆっくり休んでてくれ。後は俺と白で何とかする」

 

雷山が目を向けるとイミフィナリオは憐れむような眼で雷山たちを見ていた

 

「それであんたはどうするんだ?」

 

「…もちろん降参するつもりじゃ」

 

「ッ!!イミフィナリオ様…!!」

 

イミフィナリオはエンジェリーナを制した

 

「バラガンやドゥミナスが妾に刃向かっていようが、いなかろうが、最初の戦いで決着がついておったのは事実。我々虚圏は尸魂界に全面降伏する」

 

「…分かった。それでは、あんたの降伏宣言を受けてあんたに虚圏の安定化をやってもらいたい。こちらからの要求は以上だ」

 

イミフィナリオは自身を処刑しようと考えなかった雷山に対して驚きを示した

 

「良いのか?妾は命を取られても文句も言えぬ立場じゃ。ましてや妾はこの戦いの首謀者のようなもの。その様な奴を生かしておけば、いずれ同じことをやりかねないという可能性を考えないのか?」

 

「ああ、もちろんこれから先そんなことが全く起きない保証はどこにもない。しかし今回の戦いで荒れた虚圏を治められるのはあんたしか居ないのも確かだ。そこでここは互いに手を引くことが最善だと思ったんだが…」

 

「そなたたちがそれで良いと言うのならそれで構わぬ。そもそも妾にその決定権はない」

 

「よし、それじゃあ虚圏のことはあんたに任せた。もう二度とあんたと戦うことがないのを願いたいな」

 

去って行く雷山たちを見送ったイミフィナリオは小声で呟いた

 

「恩に着るぞ…雷山悟…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚圏から尸魂界に帰還した雷山たちは尸魂界の光景に驚いた。大虚との戦いには勝利していたようだが、それでも各建物はボロボロになり、怪我人が大量に出ていた様子だった

 

 

「おお、これはまた随分と双方共に大暴れしたな」

 

「ええ、まさか懴罪宮や一番隊舎などが大きく破損しているとは…」

 

「全く、誰がこれを元に戻すと思って戦ってたんだよ」

 

「もちろん。それは我ら護廷十三隊の仕事じゃろう」

 

椿咲、山吹、浮葉三人は背後から突然声を掛けられ咄嗟に振り返った。雷山、銀華零の二人は声を掛けられる前から気配を感じていたため声を掛けられたことに特に驚きもしなかった

 

「よお、生きていて何よりだ。山本」

 

「おぬしはあの程度の大虚に儂が敗れると思うていたのか?」

 

「そんなわけないだろ。イミフィナリオが相手だったらいざ知らず、ただのヴァストローデなら楽に勝てるだろうと思っていたよ」

 

「そう言うおぬしはボロボロじゃな。それほどまでに苦戦したのか?」

 

「ああ、思ったよりも今回の戦争は裏が深くてな。ここで話すと長いからまた後で報告する。それより今はこいつらを四番隊の所に連れて行くのが先だろう」

 

「うむ…」

 

元柳斎はただ一人気を失っている狐蝶寺を見て不審に思った

 

「…雷山、何故狐蝶寺隊長のみ気を失っておる」

 

「それもあとで報告する。まあ、また近々隊長全員に言わないといけなくなるかもな…」

 

雷山が言葉を濁したことで山本はこの場で踏み込んではいけないと察しそれ以上追及はしなかった

 

「…相分かった。今は狐蝶寺隊長や椿咲副隊長たちの治療を優先しよう」

 

 

 

 

 

~四番隊・総合救護詰所~

 

 

 

 

 

「ふぅ…何とか全員無事に終わったな…」

 

「ホントに無事に終わって良かったですよぉ…春麗さん何か別人になったみたいに怖かったし…」

 

「ああ…」

 

(春麗のあの変わり様…)

 

 

 

 

 

”退いてって言ってるでしょ!!いくら二人でも私の邪魔をするのなら…殺すよ…!!”

 

 

 

 

 

(あんな春麗は初めて見た…それこそユーハバッハたちとの戦いですらあんな言動はしなかったはずなんだが…)

 

雷山はベッドに寝かされている狐蝶寺を見て不安を抱えた

 

(春麗の身に何か起きていると考えるのが妥当か…?いや、だとしても一体誰がこんなことをやれるんだと言うんだ…?少なくともしばらくは警戒すべきか…)

 

「…長~?もしもし雷山隊長~?春麗さん起きましたよ?」

 

深く考え込んでいたため気づかなかったが、見ると狐蝶寺が目を覚まし銀華零と卯ノ花が話している光景が見えた

 

「まーた考え事ですか?」

 

「ああ、ちょっとな…椿咲、一応お前も春麗の動向をしばらく警戒しておけよ」

 

「は、はい…」

 

椿咲も虚圏での狐蝶寺の暴走っぷりを目の当たりにしているためそう答えるしかなかった

 

「まあ、今は負った傷を癒すことに専念するか」

 

「そ、そうですね!春麗さーん」

 

そう言って椿咲は目が覚めたばかりの狐蝶寺の元へ駆け寄って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――――――俺は甘かった。この時から対処していればあんな面倒事にはならなかったはずだ

 

 

 

 

 

~ 虚圏の女帝篇 fin ~

 

 

 

 

 

 

 




~虚圏のその後~

虚圏は戦いが終わった後、再びイミフィナリオが虚圏を治めた。そして約300年たった時、権力というものに飽きた彼女がバラガン・ルイゼンバーンにその権力全てを明け渡し、エンジェリーナ・クァントや他数名の女性大虚と共に表舞台から姿を消した。その後の消息を知る者はいないが、死ぬことも藍染に利用されることもなく悠々自適な生活を送って居ると噂されている。
ドゥミナスの処遇については”裏切り行為に気づけなかった己の未熟さが招いた結果”とイミフィナリオは考えドゥミナスの死について詳細を知っている者には箝口令を敷き、知らない者にはバラガンとの抗争により死亡したと伝えている


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彼岸の梅雨篇
第一話(第三十七話)


「…今日は久しぶりに晴れになると聞いたんですが、また見事に外れましたね」

 

虚圏、尸魂界を巻き込んだ【高貴なる神の左腕】ドゥミナス・ミドフォーゼの叛逆から数日、尸魂界では梅雨の時期のように連日雨が降っていた

 

「…そう言えば、山吹ちゃんにこんな話をしたことあったっけ?」

 

「どのような話ですか?」

 

「雨を見てるとね、遠い昔に出会った子のことを思い出せそうな気がするっていう話なんだけど」

 

山吹は腕を組み記憶を過去に遡った

 

「うーん…私が覚えている限りでは初耳ですね。…思い出せそうということは覚えていないんですか?」

 

「うん。雨は今までに幾度となく見てるし、そのたびに思い出せそうな気がするんだけど、何故か顔も名前も出来事も思い出せないんだよね。確かにあったっていうのは覚えているのにね」

 

「失礼ですが、夢っていうことはないんですか?」

 

「そんなことないよ。ちょっとした用事で現世に行ったのはちゃんと覚えてるし、記録にも残ってるし」

 

「うーん…はっきりとしたことは言えませんが、いつかふとした時に思い出せるのではないですか?」

 

「そうだね、私もそんな気がするよ。そうだ、雷山君のところに行くつもりなんだけど、何か持っていくものってある?」

 

「あっ!でしたらこれを持って行ってもらってもいいですか?ちょうど三番隊と四番隊にもっていくものが多くて困っていたんですよ」

 

山吹はいくつかの書類を狐蝶寺に渡した

 

「じゃあ、行ってくるね!山吹ちゃんも気を付けてね!」

 

「すいません、ではよろしくお願いします。隊長こそお気をつけて行ってきてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~尸魂界・瀞霊廷内~

 

 

「ここで最後か?」

 

「はい、この地区で最後のはずですよ」

 

「全く、こんな雨の中自分が壊したものではない物の修復をやらないといけないんだ…」

 

「まあまあ、でもよかったじゃないですか。今回の戦いで虚圏側との強いパイプが出来たじゃないですか」

 

「…まあ、イミフィナリオと繋がりができたのは今後にとっては大きな収穫と言えるな」

 

雷山は修繕し忘れている箇所がないことを確認し五番隊舎へと歩き出した

 

「それにしてもすごいですよね。まさか隊長全員が無事だったなんて」

 

「それなんだがどうやらヴァストローデ級は全員山本が消し炭にしたらしい。後の連中はアジューカスとギリアンを中心に叩いていたそうだ」

 

「ヴァストローデ級の大虚を消し炭って…相変わらず容赦がなくて恐ろしいですね。山本総隊長は…」

 

「それくらいやらないと総隊長は務まらないだろ。お前が思っている以上に今の隊長たちや未来の隊長たちは個性豊かすぎるからな」

 

「そう言えば未来の私ってどんな隊長だったんですか?」

 

「さあな?詳しくは知らんが、評判はとても良かったと未来の春麗に聞いたぞ。それもあってかお前が隊長を辞める時に十三隊の隊士ほとんどから考え直してほしいと言われたらしい」

 

それを聞いた椿咲は顔を赤らめ照れ出した

 

「えへへっ…えへっ…」

 

「気持ち悪いからやめろ。それに評判が良かったのはあくまでこれから数十年先のお前だ。今のお前じゃない。大体そんな情けない顔を他の奴に見られたらお前だって…っと噂をすれば…」

 

その時雷山の視線の先には藪崎が立っていた。幸いにも雷山たちに気づいている様子はなかったが、それでも雷山自身も驚いたことには変わりなかった

 

「…どうしたんだ?もっと喜んでみたらどうだ」

 

「隊長ってホントに人の気持ちを考えませんね。はぁ…あんな所を見られなくてよかったです。でもなんでこんなところに渋崎君がいるんでしょう」

 

「…前から思ってたんだが、なんでお前はあいつの名前を覚えられないんだ?」

 

「なんででしょうね。私にも分かりませんよ」

 

「…お前まさかまだあの事を根に持ってるのか?」

 

「べ、別に根に持ってなんかいませんよ…」

 

(あー、なるほどな…)

 

その時雷山は椿咲が過去に藪崎、安、浮葉の三人にいいように利用されたことをまだ根に持っているんだなと察した。が当然そのことを目の前にいる椿咲にいう訳にもいかず

 

「…そうか。ならいいんだが」

 

と言葉を濁すことを選択しその場をやり過ごした。そんなことをやっている間に藪崎は誰かを見つけたように手を振り出したのを椿咲が目にした

 

「…なんか手を振りはじめましたけど」

 

「誰かをと待ち合わせしてたんだろ。っと、あれは…ん?確か雨露雨入だったかな。それとその隣にいるのはこの前白が言ってたその弟か」

 

藪崎と雨露姉弟は親しげに一通り話した後どこかへ去って行ってしまった

 

「意外な接点があったな」

 

「そうですね。今度渋崎君をとっちめて聞き出しま――」

 

「やめておけ。あんまり人の私情に土足で踏み込むのは良くない」

 

「分かりました。私はそう言う死神にはなりたくないので止めておきます」

 

「よし、じゃあさっさと戻って仕事の続きと行くか」

 

「あっ!私ちょっと行くところが…」

 

「どこ行くんだ?」

 

雷山は逃げ出そうとした椿咲の襟をつかみそれを阻止した

 

「いやぁ…ちょっと仕事は遠慮したいなって思ったり…」

 

「バカ言うな。前々から言ってるだろ、早く俺を追い出して隊長になりたいんだったらちゃんと仕事しろって」

 

「雷山隊長を追い出そうなんて思ってないですよ。隊長になりたいのは事実ですけど…」

 

「そう言う比喩表現だよ。むしろそれくらいの意気込みでやらないといつまでも副隊長のままだぞ?」

 

「ちぇ…」

 

「ほら、さっさと行くぞ」

 

 

 

 

 

~五番隊・隊長執務室~

 

 

帰って来た雷山は実松に開口一番で「狐蝶寺隊長が来ております」と言われ、思わずため息を漏らした。普段からよく来ることは分かっていたが、虚圏での出来事があってからは会うのは初めてで、何より仕事の最中に来ているのだから明らかにサボりに来ていることは明確だったからだ

 

 

「で、なんでお前がここにいるんだ?」

 

雷山は椅子に座りお茶を飲んでいる狐蝶寺に問うた

 

「いやね、ちょっと聞きたいことがあって」

 

「聞きたいことってなんだよ。はぁ…お前も本当に仕事しないよな。また山吹の怒りを買うぞ?」

 

「いやいや、今回はちゃんとお仕事の一環で来たんだよ。はい、これ十三番隊から五番隊への書類ね」

 

狐蝶寺から手渡された書類に一度目を落としその書類を椿咲に渡した

 

「とりあえず、俺の机の上にでも置いておいてくれ。あと、逃げたら怒るからな?」

 

「…ちゃんと仕事をやれば本当に隊長になれるんですよね?」

 

「俺がくだらない嘘を言う奴だと思うか?」

 

「…分かりました!じゃあ、ちゃんとやりまーす」

 

そう言うと椿咲は自分の席に着き五番隊内のことに関する書類を確認し始めた

 

「…それで、聞きたいことってなんだ?」

 

「…私って虚圏で何か起こしたの?」

 

 

”ガシャーンッ!!”

 

 

その音と共に雷山と狐蝶寺は目線をそっちに向けた。見るとその音の正体は椿咲が湯呑を落とした音だった。湯呑を落とした椿咲は大慌ててそれを片付け始めていた

 

 

「…何かあったんだね」

 

その一連の流れを見て狐蝶寺は自身が虚圏内で何かをやってしまったと言うことを確信した様子だった

 

「一応聞くが、そんなに知りたいのか?」

 

「うん。あんまり秘密にされるのは好きじゃないんだよ。何て言うか仲間外れにされたみたいでさ、それに私もこれから気を付けることだってできるかもしれないし」

 

「…分かった。単刀直入に言うと、お前が暴走したんだ」

 

「暴走…?どんな感じになの?」

 

「う~ん。何と言えばいいのか分かんないが、一言で言えば『戦闘狂』と言う感じだな」

 

その時雷山は後の十一番隊隊長・更木剣八を思い浮かべていた。しかしあの時の狐蝶寺の様子は戦いを愉しむ更木とはまた違う異質な感じだとも思っていた

 

「…私どうしちゃったんだろ。実はね、あの時の記憶がないんだ。雷山君は知らないかもしれないけど、白ちゃんたちとバラガンて言う虚の前に行ったんだよ。それでその時にドゥミナス・ミドフォーゼがいなくて探してたはずなんだけど…」

 

「途中からの記憶がない…ってことか」

 

「うん。気付いたら戦ってたし、卍解した後なんか急に視界が真っ暗になったんだよ。それで気が付いたらベッドの上に寝かされていたんだよね」

 

「そうか…最近誰か知らない奴に会ったとか、攻撃を受けたとかないか?」

 

「ないない。最近ずっと隊舎から出してもらえなかったんだもん。最近会ったと言えばそれこそ山吹ちゃんくらいだよ」

 

「…まあ、何ともないんなら今は警戒する程度に留めておけばいいんじゃないか?一応虚圏で一波乱あったことは山本の耳には入れてるからな」

 

それを聞いた狐蝶寺は、尚更落胆したような様子だった。普段なら焦るなり、なんで勝手に言ったのかと雷山に詰め寄ったりする狐蝶寺がここまで思い詰めているのは今までになかったため雷山の一層心配になった

 

「…あんまり思い詰めるなよ。お前が自ら命を絶てばお前は楽になれるだろうが、残された奴らは不幸でしかない。お前の幸せが必ずしも他人の幸せと同じとは限らない事は覚えておけよ。まあ、何かあったら、白や山吹、なんなら十三番隊の隊士でもいいから相談しろ。決して一人で抱え込むなよ」

 

「うん、分かった。ありがとうね、雷山君」

 

「礼なんかいい。たった三人の幼馴染だからな。縁起でもないが、死ぬまで付き合ってやるよ」

 

「…本当にありがとうね。ところで何か持ってくものとかある?」

 

その時、狐蝶寺がまだまだ本調子ではないが普段の狐蝶寺に少し戻ったと雷山は直感した。

 

「いや、何もないぞ」

 

「じゃあ、私は戻るね。また明日~」

 

「また明日って…山吹にあんまり迷惑かけるなよ」

 

「ばいば~い!」

 

「全く、本当にしょうがない奴だな。…あれが空元気じゃないといいんだけどな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話(第三十八話)

狐蝶寺から虚圏で起こったことを教えてもらえないかと頼まれた雷山は狐蝶寺に本当に知りたいかを問い、結果虚圏で狐蝶寺が別人のように大暴れしたことを伝えた。それを聞いた狐蝶寺は自分の身にいったい何があったのかと悩み自死も厭わない精神状態に一時陥ったが、雷山の説得でその危機を脱したのだった

 

 

 

 

 

「春麗さんすごいショックを受けていましたね…」

 

狐蝶寺が十三番隊舎へ帰った後、しばらくの沈黙の後椿咲が口を開いた

 

「そりゃ自分の記憶がないときに大暴れしたって聞けば、誰だって不安になるだろ。お前だってそうだろ?」

 

「そうですね…確かにいつまた同じことが起きるのかと考えたらすごい怖いです」

 

「春麗にああは言ったが、相談したにしても解決策が全くない以上、問題を先延ばしにするしかないと言うのが現状なんだけどな」

 

「はい…」

 

 

椿咲は目を閉じて狐蝶寺の剣を受け止めた時のことを思い出していた。真正面から剣を受けた椿咲はあの時の狐蝶寺は自分の知ってる狐蝶寺じゃないと言う気持ちが未だ拭えずにいた

 

 

”さっきも言ったじゃない…私はただ、あの虚を消そうとしているだけだって!!”

 

 

「…雷山隊長。やっぱりあの時の春麗さんは、春麗さんじゃないような気がします」

 

「やっぱりお前もそう思うか…」

 

「なんとなく…と言う感じなんですけど」

 

「まあ、そういった感覚も大事だからな。あと他に気付いたことがあったら何でもいいから言ってくれ。もしかしたらそこに今回のことを解決に導く解答(こたえ)が潜んでいるかもしれない」

 

「はい!」

 

「よし、じゃあさっそく仕事の続きでも…露骨に嫌な顔するな」

 

雷山は仕事を再開しようとすることを露骨に嫌がる顔している椿咲に言った

 

「頭では仕事をちゃんとしたら隊長になれるっていうのは分かっているんですけど、身体が拒絶反応を起こすんですよ」

 

「はぁ…お前なぁ…」

 

雷山が呆れていたその時執務室の外から声が聞こえてきた

 

「失礼します。雷山隊長はいらっしゃいますか」

 

「ああ、いるぞ」

 

襖が開かれると雨露雨入(あまつゆあいり)が立っていた

 

「失礼します。雷山隊長、折り入って相談があるのですが…」

 

雨入が神妙な面持ちで話をし始めたため雷山と椿咲に緊張が走った

 

「…なんだ?」

 

「そのですね…少し暇を頂きたいのですが…」

 

「休暇の話!?」

 

椿咲は緊張していた反動で思わず声を出してしまった

 

「えっ!?」

 

「勝手に勘違いしてた俺たちに問題があったな。それで具体的には何日くらいだ?」

 

「2日ほどです。雨明(あけ)と瀞霊廷内を色々回ってみたくて…」

 

「2日か…」

 

雷山はこれからの仕事の量がどれほどあるかを確認し始めた

 

「うん、別に構わんぞ。今は特に忙しくないし、むしろこういう時に休まないと何時まで経っても休めなくなるからな」

 

「はい!はいはーい!私も行きたいです!」

 

「お前は働き過ぎじゃないだろ。第一、席官じゃない雨露と副隊長のお前じゃ忙しさの度合いが全く違うだろ。それに雨露たちのプライベートに踏み込むんじゃない」

 

「私は都合が合えば椿咲副隊長に来ていただいてもよろしいんですが…」

 

「ほら!雨入ちゃんもこう言ってますよ!それに仕事は帰って来たらちゃんとやりますよぉ…」

 

「…雨露、本当に椿咲が付いて来てもいいんだな?」

 

「はい、雨明には私の方から言っておきます。それに雨明を椿咲副隊長に紹介するいい機会になりますし」

 

「はぁ…、椿咲」

 

「ひゃいっ!!」

 

急に呼ばれた椿咲は驚きながら返事をした

 

「”仕事は帰って来たらちゃんとやる”というあの言葉、忘れたとは言わせないからな」

 

「は、はい!」

 

「よし、じゃあ二日休みをやるから行っていいぞ。雨露たちにいろいろ紹介してやれ」

 

「やったー!隊長、ありがとうございます!!」

 

 

 

 

 

翌日、五番隊隊舎前に集合した椿咲と雨露姉弟は雨入(あいり)の弟である雨明(あけ)と互いに自己紹介をしていた

 

 

「椿咲副隊長、こちらが私の弟の雨露雨明(あまつゆあけ)です」

 

雨入の後ろに隠れている雨明は椿咲を睨むように見ていた

 

「こら、雨明!!なんで椿咲副隊長を睨むなんてことするの!!」

 

「いいよいいよ!あんまり気にしてないから!私は椿咲南美って言うんだ!今は五番隊の副隊長をやってるけど、いつかは五番隊隊長になるんだ!」

 

雨明の警戒心を解こうと明るく話しかけたが、かえって警戒心が増したように思えた

 

「すいません。雨明は知らない人が目の前にいると緊張していつもこうなっちゃうんです。最近、ようやく銀華零隊長には心を開いたようなんですけど…」

 

「うーん…まあ、緊張するんならしょうがないね。じゃあ、気を取り直していこう!」

 

まず椿咲は自身行きつけの甘味処に雨露姉弟を連れて行った

 

「ここが私の行きつけの甘味処だよ!どれも美味しいけど、私のおすすめはお団子だよ!」

 

「あれ、南美さんまたサボっているんですか?」

 

椿咲が店内に入った瞬間声が聞こえてきた。見ると四番隊副隊長・薬師寺見舞が座っていた

 

「また雷山隊長に怒られちゃいますよ?」

 

「サボっているなんて人聞きが悪いなぁ。今日は雷山隊長からお休みをもらったんだよ。それよりも見舞ちゃんもここに居ていいの?」

 

「私はちょっと休憩しているだけです。本当は卯ノ花隊長も誘ったんですけど断られちゃいまして」

 

「私は卯ノ花隊長がここに居なくてよかったと思うよ…」

 

「あの…椿咲副隊長、こちらの方は…?」

 

「あ、ごめんごめん。話に夢中になって紹介が遅れたよ。この子は四番隊副隊長の薬師寺見舞ちゃん。最年少で副隊長になった天才なんだよ!」

 

「もう、椿咲さんったら…」

 

褒められた薬師寺は頬を赤らめて照れている様子だった

 

「見舞ちゃん、この子たちはね。この間五番隊に新しく入った雨露雨入ちゃんだよ。それで後ろに隠れているのが三番隊に入った弟の雨明くん」

 

「よ、よろしくお願いします!ほら、雨明も挨拶しなよ!」

 

「……」

 

雨入の後ろに隠れている雨明は何も言わずにただ薬師寺を見ていた

 

「う~ん…見舞ちゃんでもダメかぁ…」

 

「私何か気に障ることやっちゃったかな…」

 

「すいません!雨明挨拶くらいしてよ!」

 

「見舞ちゃんごめんね。雨明くんものすごい人見知りらしくて、白さん以外まともに話せないらしいんだよ」

 

「人見知りですか…それならこれから徐々に慣れていけばいいですよ。私も護廷十三隊に入りたての頃はそうでしたし」

 

「あの時の見舞ちゃん初々しかったなぁ…」

 

「南美さんに散々悪戯されましたけどね。さて、それでは私はそろそろ戻ります。御三方ともよい休日を過ごしてください」

 

薬師寺は椿咲たちに一礼すると去って行った

 

「さて、それじゃどれ食べた…」

 

「た、助けてくれー!!」

 

椿咲の言葉を遮るように外から人が助けを求める声と爆発音が聞こえてきた

 

「え、何!?」

 

驚いた椿咲は急いで外に出た。そこには惨劇とも呼べる光景が広がっていた。幾人もの隊士が倒れており、辺りが血で真っ赤に染まってる中に白色の羽織を着た七番隊隊長・豊生愁哉(とよおしゅうや)が立っている状態だった

 

「なにこれ…一体どうなっているの…?豊生くん何やってるの!!」

 

「見れば分かることだろう。俺が、邪魔なこいつらを蹴散らしただけだ。まさか、そんなことも分からなくなったのか?椿咲南美」

 

ゆっくりとこちらに顔を向けた豊生の姿を見て椿咲は戦慄を覚えたと同時に違和感を感じた。

 

「これってもしかして…」

 

椿咲は普段の礼儀正しい過ぎる豊生とは明らかに異なっている点と先日の虚圏内での出来事を目の当たりにしている点ですぐに違和感の正体に気が付いた

 

(間違いない、これはあの時と同じだ)

 

「…雨入ちゃん、雨明くん私が豊生くんを引き付けるからその隙に二人とも逃げて」

 

椿咲は豊生に聞こえないように小声で言った

 

「椿咲副隊長を置いて逃げられませんよ…」

 

「大丈夫だって、私こう見えても意外とタフなんだよ?」

 

そう言うと椿咲は抜刀し豊生に斬りかかった。豊生はそれを見て飛び退き椿咲の刃をやり過ごした。その後着地した際に地面を蹴り飛ばしその勢いで突きを繰り出した。一方の椿咲はバク転の要領でその攻撃を躱し逆立ちの状態で鬼道を発動させ、豊生の動きを封じた

 

「”縛道の六十一”『六杖光牢(りくじょうこうろう)』!!」

 

「抜かったか…!!」

 

「雨入ちゃんたち今のうちに!!」

 

「うぅ……椿咲副隊長、すいません!!」

 

自分がこの場において椿咲の邪魔になると察した雨入は雨明を連れて走って行った

 

「さて、これで思う存分…ってわけにもいかないんだけどね」

 

「椿咲、お前まさか忘れたわけじゃないよな!!俺の斬魄刀の能力(ちから)を」

 

「ッ!!豊生くんの斬魄刀で使えるのは破道だけじゃないの!?」

 

「奥の手というものは親しい者にも見せないものだ!!」

 

その瞬間椿咲の『六杖光牢』が何かに掻き消されるように霧散してしまった

 

「お前には、俺のとっておきを見せてやるよ!!”()じり()()え”『鮮彩(せんさい)』!!」

 

豊生が始解したと同時に手に持っていた刀が消え、代わりに拳周りを取り巻くグローブ上の武器に変わった

 

「”破道の三十一”から”三十三”まで”混成鬼道”『黒閃炎(こくせんえん)』!!」

 

「させないよ!!」

 

椿咲は鬼道が放たれる瞬間サマーソルトキックの要領で豊生の腕を上へ弾き『黒閃炎』の軌道をずらした

 

「ちっ…!軌道をずらされたか…!!」

 

「へへっ!だてに副隊長をやってないよ!!」

 

「俺の腕を弾いたその実力は評価に値する。だが、残念だったな。『黒閃炎』は俺の技の中でも珍しい”追尾型”の鬼道だ」

 

「ッ!!…何もない…!?」

 

椿咲は豊生の言葉を聞き鬼道を避けるために背後に目を向けたが、そこに自身に向かって来ている鬼道はなかった。一瞬混乱をした後豊生の言葉が嘘であったことに気が付き態勢を立て直そうとしたが、すでに豊生は二発目の『黒閃炎』を作り出していた後だった

 

「もっと俺の能力(ちから)について知っておくんだったな」

 

豊生は言葉を言い終えたと同時に『黒閃炎』を椿咲に向け放った

 

「やばっ…!!」

 

不意を突かれた状態だったが椿咲は咄嗟に飛び退こうとした。しかし間に合わず黒い炎の中に消えて行った

 

 

 

 

 

 



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第三話(第三十九話)

豊生は椿咲が飲まれた炎を見つめていた

 

「…さすがの椿咲南美もこれで終わりだな。さて、俺は殲滅の続きでも…」

 

その時豊生の視界が上下逆さまになった。最初は豊生もその状況に頭の理解が追い付かずただ呆然とその景色を眺めているだけだった

 

(何が起こっている…?俺は確かに地面に足をつけ立っていたはずだ…)

 

「…さすがに今のはヒヤッとしたよ。あと少し『断空』で周りを覆うのが遅れていたら黒焦げだったよ」

 

椿咲の声が聞こえたと同時に、豊生は自分が椿咲に投げ飛ばしされたことを理解した。しかしそれが頭をよぎったときにはすでに身体が地面に叩きつけられており、すぐに立ち上がることが出来なかった

 

「実際に戦ってみて確信したよ。やっぱりあの時の春麗さんと同じだね。性格も口調も全く違うや」

 

その瞬間椿咲の背後に雷山が援軍として駆け付けた

 

「遅れて悪い!椿咲、大丈夫か!?」

 

「大丈夫ですよ!私は意外とタフだって言ったじゃないですかぁ!」

 

笑顔で雷山の方へ振り返る椿咲の背後では豊生が追撃を加えんとしていた

 

「椿咲、相手を倒しても油断するなと教えだろ!!”縛道の九十九”『禁』!!」

 

雷山が鬼道を放ったと同時に黒いベルトが豊生を絡め捕り、そのまま地面に鋲を打たれる形で固定された

 

「くそっ!!放しやがれ!!」

 

「放すわけないだろ。他の奴らが来るまでそこで大人しくしててくれ」

 

「大人しくしろと言われ…ッ!?ぐっ…!!う"う"う"…!!」

 

初めは拘束を解こうとジタバタしていた豊生だったが、急に動きを止め苦しそうに呻き始めた

 

「どうした豊生!!しっかりしろ!!ッ!?なんだこの霊圧は…!!」

 

雷山は苦しみだした豊生に駆け寄った。駆け寄った時に豊生の霊圧を少し感じ取ったが、霊圧の振れ幅がめちゃめちゃになっており死んでもおかしくない状態にあった

 

「う"う"う"う"…!!う"あ"あ"あ"あ"あ"ァァァァ!!!」

 

豊生は叫び声と共に膨大な霊圧を放出し気を失った

 

「雷山隊長!!豊生君は大丈夫なんですか!?」

 

「…大丈夫だ。息はしているし霊圧も今は安定している」

 

「良かった…」

 

豊生が生きていることを知って椿咲は一安心した様子だった。椿咲にとって豊生は後輩に当たり、昔一緒に修行したこともあって本当の姉弟ほどの絆があると言っても過言ではなかった

 

「安心するのはまだ早い。豊生にやられた奴が結構な数居る。とりあえず四番隊が来るまで応急処置に当たるぞ」

 

「はい!」

 

返事をすると椿咲は倒れている隊士の元へ駆けて行った。それを見送った雷山は突然苦しみだした豊生のことを思い出していた

 

(しかし、なぜ急に苦しみだしたんだ…?それに霊圧の振れ幅の中にわずかに感じた別の霊圧…)

 

「雷山隊長!!」

 

騒ぎの近くにいた薬師寺が雷山に駆け寄ってきた

 

「薬師寺、とりあえずお前は今すぐ命に関わる者を中心に頼む。他の奴は俺と椿咲で応急処置をする」

 

「は、はい!」

 

その後薬師寺と雷山の指揮のもと、迅速に行われた処置の甲斐があり豊生を含めた全員が快方に向かうのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊生の暴走が起きた直後、元柳斎は緊急の隊首会を開くと全隊長に通達した。その後2時間も経たないうちに治療を受ける豊生愁哉とその治療に当たる卯ノ花烈。空席となっている八番隊隊長、九番隊隊長を除く9名が集まった

 

 

「急な招集じゃが、よう集まってくれた。これより、緊急の隊首会を執り行う!!」

 

ッターン!!

 

元柳斎は、現状来ることのできる隊長全員が揃ったのを確認した後、手に持っている杖状に封印している斬魄刀を突き隊首会の開始を宣言した。

 

「皆も知っての通り、七番隊隊長・豊生愁哉が謀反を起こす事態が起きた。さっそくじゃが、最も早く現場に着いた隊長として雷山から事の詳細を説明してもらおうかの」

 

「山本、詳細を説明するのなら俺だけでは足りない。そもそも俺が着いた時には既に椿咲が豊生を鎮静化させた後だった。その椿咲からもまだ詳細までは聞けていないからな」

 

「…つまりは椿咲副隊長をこの場に召喚しなければならぬということじゃな?」

 

「ああ、こうなるだろうと思ってすでに椿咲を連れて来てはいる。あとは山本が許可するかどうかだ」

 

「…良いじゃろう。五番隊副隊長・椿咲南美の入場を許可する!」

 

隊首会議場の扉が開かれ外から椿咲が入って来た。本来、副隊長が隊首会議場に立ち入ることはありえないことだったが、豊生の事の発端を知っているのは椿咲ただ一人であるためこのような措置が取られた

 

「し、失礼します!」

 

椿咲は各隊長たちとほぼ毎日顔を合わせてはいるが、隊首会中に顔を合わせることは当然初めてなので緊張した様子だった

 

「椿咲、そんな緊張しなくてもいい。とりあえず俺が来るまでのところまでは説明してくれ。こればっかりは俺もまだ知らないんだ」

 

「は、はい!そ、それでは報告します!」

 

その後椿咲は雨入たちと休暇中に外から悲鳴が聞こえ駆け付けると豊生が隊士を斬り倒していたこと、豊生の普段の性格からは想像もできない言動など雷山が来るまでに起きたことと自信が不審に思ったことを述べた

 

「うむ、大方のことは皆に伝わったかの。椿咲副隊長、もう下がってよいぞ」

 

「はい!それでは失礼します!!」

 

椿咲は一礼すると隊首会議場を去って行った

 

「豊生愁哉が隊士を切り捨てていた事実はあるが、それは豊生自身の意思ではなく何者かに操られて行っていた可能性がある…か」

 

「ああ、それなら俺も感じたことだから間違いない。それに俺が動きを封じた後に急に霊圧の振れ幅が大きくなったこととその際に僅かだが正体不明の霊圧も感じた。さすがに誰のかまでは分からなかったが…」

 

少しの沈黙の後、二番隊隊長・四楓院朝八が語りだした

 

「隊長格を操れるとなると、相当な実力と共に護廷十三隊のことをよく知る者の可能性が高いということになる。そして、私の記憶でそれに該当する人物が一人だけいる」

 

「申してみよ。四楓院隊長」

 

「はい、護廷十三隊五番隊副隊長・椿咲南美です。おそらく奴が今回の首謀者と思われます」

 

朝八が放った言葉は周囲の隊長、特に銀華零と狐蝶寺を驚かせた。それと同時に雷山は眉をしかめ不快感を示した

 

「…何の冗談だ?」

 

雷山が放ったその言葉には怒りが込められていると銀華零と狐蝶寺は感じた

 

「冗談などではない。状況をまとめた私なりの見解だ」

 

「お前、椿咲の話を聞いていなかったのか?そもそも護廷十三隊や豊生のことをよく知るのは椿咲だけではない、可能性でいえばお前だって首謀者に成りうる話だぞ」

 

「椿咲南美の話か。成程、確かに信頼に足る話だろう。だが、それはあくまで椿咲南美以外の者が述べたのならの話だ。しかし今回意見を述べたのは最も信頼に足らぬ椿咲南美だ。あのような者の話を信じろと言う方が無理であろう」

 

朝八は自身の価値観と偏見で話していた。”あのような悪戯しか能がない死神など時間を割いてまで話を聞く価値もなければ、述べた話が信用に足るものでもない”と言うのが彼の持論であり、護廷十三隊内で最も椿咲を嫌う死神であった

 

「…言いたいことはそれだけか?」

 

「ッ!!」

 

その直後、朝八は強い圧力で押しつぶされる感覚に襲われた。朝八はすぐに雷山が霊圧を自身に向けて放っていることに気付いたが、圧倒的な霊圧差の前にどうすることも出来ない状況だった

 

「確かにあいつは悪戯好きのどうしようもない副隊長だ。だが、あいつがこんなバカな真似をしないのもましてや重要な場面で嘘を吐かないのも俺は知っているんだよ。お前のくだらない価値観であいつを語るな。クソガキが…!!」

 

雷山は朝八に放つ霊圧を徐々に強めていった。それに比例して朝八も立っていることが出来なくなり、遂に膝を地面につけた

 

「……」

 

それを見た雷山は朝八に対して放っていた霊圧を鎮めた。一方の朝八は冷や汗をかき立ち上がることが出来なかった

 

「口だけが…もう少し頭を使って言葉を発しろ」

 

「…雷山、お主の気持ちもわかるが、このような場所で霊圧を荒げるな」

 

「…それは悪かったと思っている。この通りだ」

 

雷山はこの場で霊圧を荒げたことは自分の非であると認めて事の発端である朝八を除く全隊長に頭を下げた

 

「四楓院隊長も、根拠のない憶測で発言するのは控えよ」

 

「も、申し訳ございません…」

 

「…話を戻そう。実は先日の虚圏との戦争時、虚圏内で今回と同様の事態が発生しておる。これに関しては雷山隊長、銀華零隊長両名に説明してもらおう」

 

そう言われ雷山と銀華零が一歩前に出た。雷山は銀華零をチラッと見て自分が話すということを暗に伝えた。そして前置きに”先に言っておくが、これから話すことで変な偏見を持つのは止してほしい。俺と白からの希望だ”と伝え、隊長たちは了承した様子だった

 

「さっき山本から言われた通り、この前の戦争時、虚圏に乗り込んだ春麗が突然人格が変わったように暴走し始めたんだ。今考えてもあの時の春麗の様子は明らかに異常だった」

 

「雷山隊長はどの点で異常だと思ったのですか?」

 

「春麗が止めに入った俺と白に”殺す”と呟いた時だ。春麗は仲間に対しては”倒す”と言う言葉は使っても絶対に”殺す”と言う言葉は使わない。これは400年来の付き合いだから確信が持てる。だからこそ俺も白も不自然に感じたんだ」

 

「俺も一つ狐蝶寺隊長に聞きたいんだがいいか?」

 

それまで黙って雷山たちの話を聞いていた大澄夜が口を開き、狐蝶寺に問うた

 

「疑っている訳じゃいないんだが、狐蝶寺隊長はその時のことを覚えているのか?」

 

「それが…覚えてないんだよね。卍解をしてドゥミナスって言う虚と戦ってた途中まで覚えているんだけど…」

 

「それは確かな話として受け取って良いのじゃな?」

 

元柳斎はその話の真偽を問うために雷山と銀華零を見た。それに気づいた二人は無言で頷いき、狐蝶寺の話に間違った部分もなければ嘘を吐いていない事を暗に伝えた

 

「卯ノ花、豊生はどれくらいで目覚めそうなんだ?」

 

「何とも言えませんが…あと数日は掛かると思いますよ」

 

「うむ…ともかく今は豊生愁哉の回復を待って話を聞く他ないと言う訳か…」

 

「そういや山本、昨日言ってた対策って言うのはもう考えられたのか?」

 

「昨日の今日で対策が練られるほどの程度の低い問題ではない。今はともかく誰が何の目的をもって此度の問題を引き起こしているのかを探るのが先決じゃろう」

 

「…では、各隊で何か変わったことがあれば他の隊へ連絡をし複数人で対処すると言うのを現時点での暫定的な処置としよう」

 

雷山に殺気を向けられてから今まで静かにしていた四楓院がそう提案した。現時点で有効な手がない以上そうするしか他にないと言う理由で雷山含め隊長全員が了承した

 

「では、これを以て解散とする。各々いついかなる事態が起きても厳正に、そして冷静に対処せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第四話(第四十話)

「…俺は調べものがあるんだ。そこを退いてくれ。今はお前に構っているほど暇じゃないんだ」

 

隊首会が終わった直後五番隊隊舎に戻ってきた雷山は、椿咲に行く手を阻まれていた

 

「そう言わずにちょっと待ってくださいよ!!」

 

「はぁ…薮崎と雨露まで引き留めて何をやってるんだ。大した用事があるわけでもなし」

 

「いえ、重要です!すごく重要ですよ!何と雨入ちゃんの弟君がここに来てるんですよ!」

 

「雨露が五番隊に所属しているんだから来てもおかしくないだろ」

 

雷山は呆れたように大きなため息を吐いた。隊首会の最中に朝八が言っていた”時間を割いてまで聞く程の話でもない”と言う点は概ね事実でありそこに関しては朝八に言われても仕方がないと思っていた

 

「せっかくだから隊長も会いましょうよ!」

 

良知が明かないと判断した椿咲は雷山の隊長羽織を掴んだ。羽織を掴まれた雷山は椿咲の勢いに押され無視して行くのを諦めた

 

「分かったから羽織から手を放してくれ」

 

雷山は椿咲の手を叩いて無理やり羽織から手を離させた

 

「はぁ…それで雨露の弟はどこにいるんだ?」

 

「渋s…薮崎君の後ろに隠れてますよ」

 

見ると確かに藪崎の腰辺りに手が一つ見えた

 

「前に白が言ってた通りホントに物静かだな。一言も発さないんで全く気付かなかった」

 

「雷山隊長すいません。ほら、雨明。雷山隊長に挨拶しなよ」

 

「……」

 

顔を覗かせた雨明は雷山を睨んでいた。雨明と初対面で何もした記憶がない雷山は何故睨んでいるのか全く見当がつかず困り果ててしまった

 

「す、すいません!!雨明!!なんでそんな顔するの!!あっ、こら!!」

 

雨入のその声と共に雨明は逃げ去って行った。雨入は雷山に再度謝るとその後を追いかけて行った

 

「それで、雨入の弟と何話してたんだ?」

 

雷山は雨入と雨明をここに連れてきたであろう藪崎に聞いた。藪崎は”別に大したことじゃないんだがな”と前置きをし話し始めた

 

「実は雨露姉弟と俺は知り合いなんだ。それで、雨入に”雨明がどうしても私以外の人と話そうとしないから何とかしてほしい”と言われてな。それで誰とでもすぐに仲良く話せるようになる安に会わせようとしたんだが…」

 

その時藪崎が椿咲をチラッと見たのを雷山は見逃さなかった。その行動で話に出てきてない椿咲がなぜこの場に居たのかと藪崎が何を言おうとしているのかを大体察したのだった

 

「なるほど、つまりは”捕まった”と言う訳か」

 

「ああ、退けと言っても退かねぇからさすがに困ってたんだ。雷山が来なきゃ前と同じことになってたな」

 

「まあ、結果的に手を出さなかったのは褒めてやるよ。白に話は通しておいてやるから明日雨入と安を連れて雨明と思う存分話してきな」

 

「おっ!さすが雷山だな。どこかの副隊長と違って話は通る。じゃあ明日安と雨入を連れて三番隊まで行ってくる。じゃあな」

 

その時藪崎は気付いていない様子だったが、すごく嬉しそうに笑っていた。藪崎が去って行く中、雷山は藪崎との会話の中で一つ気になったことを聞いた

 

「薮崎、一つ聞いていいか?」

 

「今更聞くこともないだろ」

 

「いや、大したことじゃないが、あの場所にいたお前が雨露たちとどうやって出会ったのか気になってな」

 

「んな細かいことなんかいちいち覚えてねぇよ。じゃあな」

 

「……」

 

雷山は執務室に向かい歩きつつ薮崎が雨露たちに会った経緯について深く考えていた

 

(いつどこで出会ったか記憶がないか。まあ、俺も白や春麗との出会いを正確に覚えている訳じゃないから不思議じゃないが…少し調べてみるか…)

 

執務室に着いた雷山は開口一番に椿咲に藪崎の隊記録がどこにあるかを聞いた

 

「藪崎君の隊記録ですか?それならここに…」

 

そう言って椿咲は棚から五番隊前隊士の記録が集積されている書類を出してきた。雷山は護廷十三隊全体絡みの書類や他の隊からの書類、隊長が確認しなければならないものなどは管理しているが、五番隊内に関する書類の管理だけは椿咲に任せていた

 

「おう、ありがとよ」

 

「それにしても珍しいですね。隊長が隊の記録を見たいなんて…」

 

「ちょっと調べ物をな…ん?五番隊入隊以前の藪崎の記録はないのか?」

 

「それなら図書館の方にしかありませんよ。私が管理しているのはあくまでも五番隊にいる間の記録だけなので、異動でいなくなったらその都度異動した隊に持って行ってるんですよ」

 

「図書館か…」

 

「留守はしてるんで、行ってきてもらってもいいんですよ?」

 

「…そうだな。ちょうど白にも用事が出来たことだし少し行ってくるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~瀞霊廷・三番隊隊舎付近~

 

 

「わざわざお見送りなんかしてくれなくてもよかったのに」

 

「そうもいきませんよ。最近、また騒がしくなってきていますから」

 

「それもそうだね。白ちゃんが強いのは分ってるけど、そっちも気を付けてね」

 

「ええ、もちろんですよ。それではまた今度」

 

「うん!またね!」

 

銀華零は歩いていく狐蝶寺の背中を見て隊舎の中へ入ろうとした

 

「……?」

 

銀華零は背後に何かの気配を感じ立ち止まった

 

「…一体何の真似ですか?」

 

銀華零の背後には斬魄刀の切先を銀華零に向けて立ち尽くしている狐蝶寺の姿があった

 

「もう一度聞きますよ?これは一体何の真似ですか?」

 

「……」

 

振り返った銀華零はまず狐蝶寺の虚ろとしている目が気になった。それは先日虚圏で見たものとはまた別のものであったが、銀華零にとっては警戒に値した

 

「春麗ちゃん…いえ、貴方いったい何者ですか?」

 

銀華零は直感的に今目の前にいる人物は狐蝶寺ではないと感じた。それは姿が幻覚によるものという意味ではなく、精神や心と言った内面の事を指していた

 

「……」

 

一方の狐蝶寺は銀華零の言葉に一切の反応を示さずに刀を構え今にも銀華零に斬りかかろうとしている状態だった

 

「仕方ありませんか…」

 

銀華零も刀を抜き狐蝶寺の攻撃を迎撃する態勢に入った。それと同時に狐蝶寺が地面を蹴り猛スピードで銀華零に斬りかかってきた

 

「くっ…!!早い…!!」

 

銀華零と狐蝶寺の刀がぶつかり合おうとしたその時

 

「”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』」

 

「ッ!!」

 

突然、狐蝶寺の身体に鎖が巻き付き動きを封じた

 

「おいおい、これは一体どういう状況なんだ?」

 

声のする方へ視線を向けると雷山が立っていた

 

「雷山さん…」

 

「一応言っておくが、そこを動くなよ。十三番隊隊長・狐蝶寺春麗」

 

「……!!」

 

「春麗の霊圧の中に別の霊圧を感じるな…」

 

狐蝶寺は雷山が乱入したことに驚いている様子だった。雷山は狐蝶寺の霊圧の中に別の者の霊圧を感じ取り自身の考えていた”春麗を操っている者”がついに現れたと察した

 

「…なるほど、ついに姿を現したというわけか」

 

「ぐぬぬ…」

 

捕らえられた狐蝶寺は何とかして鎖を引き千切ろうとしていた

 

「無駄なことはするな。その鎖は死神の腕力じゃどうしようもないものだ。お前はただそこで大人しくしていればいい」

 

「くっ…!!」

 

狐蝶寺は怒りからか雷山を睨みつけた

 

「お前にはいろいろと聞きたいことがある。まず、お前の目的と春麗を陥れようとしている訳を聞こうか」

 

「…ただ一言言うのなら、全ては狐蝶寺隊長のためだからだ」

 

「春麗のため…?それはどういう…」

 

「あなたに分かる訳がありませんよ。狐蝶寺隊長のことを何も知らないあなたではね…」

 

そう言うと狐蝶寺は再び気を失った。気を失いその場に倒れこもうとした狐蝶寺を雷山は慌てて支えた

 

「ちっ…逃げられたか」

 

「雷山さん、春麗ちゃんは大丈夫ですか!?」

 

「ああ、目立った外傷はないしただ気を失っているだけだ」

 

「そうですか…」

 

銀華零はホッとしたように胸を撫で下ろした

 

「白、さっきの春麗の霊圧を感じたか?」

 

「はい、春麗ちゃんとは別に違う方の霊圧がありました」

 

「ああ、やはり春麗や豊生自身が事件を起こしているのではなく。裏で誰かが操っているということだな」

 

「今すぐ山本さんにこのことを伝えましょう」

 

「そうだな」

 

雷山と銀華零は狐蝶寺を三番隊舎へ安置した後元柳斎の元へ向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五話(第四十一話)

瀞霊廷・十番隊隊舎付近―――――――

 

 

「…俺に用があると見受けるが、生憎今はサインなどをしている暇じゃないんだ」

 

十番隊隊長・志波空山の前に一人の死神が立ちふさがった。空山はその死神を見たことがなく、少なくとも十番隊の隊員ではないことは分かった

 

「……」

 

「黙り込んでいないで何か言ったらどうだ。今回の事件のことで相談事や気が付いたことがあれば聞くが…」

 

「……」

 

空山の目の前に立つ死神は何も言わず斬魄刀を引き抜き空山と戦う意思を示した

 

「…なるほど。どうやら、今騒ぎを起こしている者はお前と言う訳か、…いいだろう」

 

空山も抜刀し、その意思に応えた

 

「十番隊隊長・志波空山。大手を振るってまかり通る!!なっ…!?」

 

空山は剣を振るい剣圧で目の前の死神を押し退けようとした次の瞬間、空山の視界が一変していた。先程まで瀞霊廷の街並みを見ていたはずが、身に覚えのない城下町の風景が目の前には広がっていた

 

「なんだここは…?」

 

「……」

 

「何をした…!?」

 

「…これから死ぬ人に答える必要なないですよね。志波空山十番隊隊長さん」

 

「これから死ぬ人にだと…?俺を見くびりすぎだ!!」

 

空山の言葉を聞いた死神は口元をニヤリとさせ笑っていた

 

「見くびっているのはそちらじゃないですかね。私の実力を正確に把握できないあなたでは勝てませんよ?」

 

「…だったら見せてやろうじゃないか。”(かま)えろ”『不動山(ふどうざん)』!!」

 

空山は始解をしたがどこか容姿が変わったや斬魄刀が変化すると言った見た目に分かるような変化は起こらなかった

 

「さて、あなたは私に勝てるかな?」

 

来ると察した空山はより一層警戒を強めた。次の瞬間、死神は瞬歩で空山の背後に回った。その瞬歩での移動を空山は視認することが出来ずその速さは隊長格の死神にも匹敵するものだと空山は直感した

 

「甘い!!」

 

「がはっ!!」

 

死神の攻撃を十分に引き付けた空山は、その攻撃を完璧に見切って躱し、そのまま蹴り飛ばす形でカウンターを放った

 

「うっ…!さすがは十番隊隊長だね…。操ってるのと全然動きが違うや…」

 

空山のカウンターを受けた死神はさすがに無傷とは言えずダメージを負った様子だった。しかし、それでも空山の一撃を受けてもなお立ち上がれたことは空山自身も驚かせた

 

「…驚いたな。俺のカウンターを受け、地面に叩きつけられてもなお立ち上がれるとは…」

 

「…あの程度の事で私が地面に伏せるとでも?本当に失礼な話だね。私は初めに”見くびっているのはそちらの方”だと言ったのに…」

 

「見くびっているというのはお互い様だろう。お前とて俺がカウンターを放ってくるとは思っていなかっただろう」

 

「そんなことは――――」

 

「ないですよ」

 

「ッ!!」

 

空山は突然背後から声が聞こえたことに驚愕した。空山は声のした方を見ると同時に襲撃者の死神とも距離が取れる位置に瞬歩で移動した

 

「あれ?そっちは上手くいかなかったの?」

 

「いくら狐蝶寺隊長を使っても相手は雷山隊長と銀華零隊長だよ?やっぱりどちらか片方ずつじゃないと勝負にすらならないね」

 

「…貴様、何処から湧いて出た…!?」

 

「何もないところからいきなり湧くわけないじゃないですか。普通に入って来ただけですよ。志波空山十番隊隊長」

 

「普通に入って来ただけだと…?」

 

(こいつらいったい何者だ…!!)

 

「今回、僕は大人しく見ているよ。たまには一人でやってもらいたいし、何よりこの後に銀華麗隊長か雷山隊長と戦うならその前に準備運動をしておかないといけないしね」

 

「ちょっとちょっと!いつも私がサボってるみたいに言わないでよ!ちゃんと私の能力で援護してるでしょ!」

 

「何だ…こいつらは…」

 

空山は目の前で喧嘩を始める二人の死神を見て唖然とした。それこそ本当に子どもの喧嘩を見ているような感覚だった

 

「もういいや。そこまで言うなら私で一人でやるもん。その代わり私の戦い方に文句を言わないでよ!」

 

「分かったから早く始めなよ。志波隊長がお待ちみたいだよ」

 

「うん。一応最後の確認だけど、殺しちゃってもいいんだよね?」

 

「それは任せるよ」

 

「了解!」

 

その言葉と共に死神は再度空山に斬りこんできた

 

「これはまずいッ!!”卍解”『不動明恐山(ふどうみょうきょうざん)』」

 

死神は卍解した空山に意を介さず、そのまま斬りかかった。そこで、空山は異変に気付くことになる

 

「なっ!?」

 

空山は死神の斬撃をギリギリで躱した。しかし、それは本来あり得ない事である

 

(卍解の能力が発動していないだと…!?)

 

空山の斬魄刀の能力は”攻撃してきた相手の動きを完璧に見切ることが出来る”と言う能力であり、卍解ともあれば最初の10分間だけはそもそも見切る必要もない物だった。しかし、今の斬撃は動きが全く掴めず、空山は自身の経験のみで躱していた

 

「どうしました?何か解せない事でもありました?」

 

「何をした…!?」

 

「”卍解”『梅雨染櫓(つゆぞめやぐら)』。これ、何か分かりますか?」

 

「…まさか、お前の…!!」

 

「ご名答です。そしてその能力は…っと万が一あなたを取り逃がしたときのために説明は避けておきましょうかね」

 

「抜け目がないな…お嬢ちゃん…」

 

空山は目の前の死神が卍解を持っていると言う事実に驚いており、焦りからか冷や汗をかいていた

 

「ええ、こう見えても長く生きていますからね。さて、そろそろ外で回りが騒ぎ出す頃合い…決着と行きましょうか」

 

「くっ…!!」

 

その後数秒の睨み合いの後、今度は空山の方から仕掛けた。卍解の能力が発動していない以上、空山から仕掛けようが相手の方から仕掛けようが結局は変わらないからである

 

「おらぁ!!」

 

「甘いですよ!!ほら、どうしましたか!?隊長って言うのは名ばかりですか!?」

 

「ぐっ…!!」

 

二人の剣による打ち合いの攻防は終始、襲撃者側の死神の方が圧倒していた。それは空山が決して手を抜いている訳でも空山の隊長としての実力が不足している訳でもなくただ単純に相手の方が強いからであった

 

(こいつ…何て打ち込みをする…!!なぜこれほどの実力を持つ者がいるのを今まで気づけなかった!?)

 

そのような考え事をしていた空山に一瞬、時間にしてコンマ数秒程のほんのわずかな一瞬、隙が生じた。その瞬間を死神は見逃さず、的確な一撃を空山に食らわせた

 

――――ザシュッ!!

 

「ぐはっ!!」

 

腹部を刺され吐血する空山。そんな空山を意に介さず襲撃者の死神は二撃目を放つため一度空山から刀を引き抜いた

 

「はぁ…はぁ…」

 

空山は卍解により霊圧を使いすぎた影響と腹部を刺された出血の影響で意識が朦朧としてきた。そこで空山はある決心をした

 

(こうなれば…)

 

空山は最後の霊圧を振り絞り、自身が使うことのできる最高の鬼道を放つことを決意した。それは危険な賭けであり、使う霊圧量を間違えば霊圧の過剰使用により生命維持が不可能になり結果的に死んでしまうからだった

 

「すぅ~…この空山滅びようとも、お前たちだけは今後の尸魂界のために生かしておけぬ!!二極(にきょく)(ごう) ()がれる煉獄(れんごく)死人(しびと) ()かれる紅蓮(ぐれん)咎人(とがびと) 数多(あまた)幾多(いくた)苦痛(くつう)をその()(きざ)め―――――― 

 

 

 

空山が詠唱を始めた瞬間襲撃者の死神はそれを阻止すべくいくつもの斬撃を空山に加えようとしたが、それを予期していた空山は、その斬撃をギリギリで躱したり剣で弾きながら詠唱を続けた

 

 

 

――――――未来永劫(みらいえいごう)()じる(とびら) ()るがず(ふう)じる強固(きょうこ)(じょう) (おく)すな (おび)えるな (ひかり)()る その(とき)()て」

 

空山が詠唱を終えた直後、死神の周り四方に小さな炎が現れた

 

「”破道の九十二”『氷獄炎牢(ひょうごくえんろう)』!!」

 

空山が鬼道名を口にしたと同時にその炎が一気に燃え盛り、牢獄の形を形成していった。炎の牢獄が完成したと同時に今度はその炎を覆うように氷が形成され始めた

 

「まさか…まだこんな力が残ってたなんて…!!」

 

その言葉を最後に死神は炎の牢獄とそれを覆う氷の壁に囚われてしまった。その状況は相手からすると絶望的な状況だが、もう一人の死神は慌てる様子もなく閉じ込められている死神の方を見ていた

 

「…言っておきますけど、油断しないことですね」

 

「なんだと…?」

 

空山が呟いたその時だった。氷が砕ける音が聞こえ、先程まであった氷と炎の牢獄はその場から跡形もなく消えていた

 

「こんな物騒な鬼道を使わないでくださいよ。まあでも、さすがは隊長ですね。少し見直しました」

 

砕けた氷によって出来た水蒸気の中から閉じ込められていた方の死神が出てきた。その死神は死覇装の左腕、右足部分が焦げ破れており、霜が右側の髪と右腕辺りについている状態で少なくとも無傷という様子ではなかった

 

「さあ、この戦いもいい加減終局としましょうか」

 

そう高らかに言う死神は、戦いを愉しんでいるような笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




”破道の九十二”『氷獄炎牢(ひょうごくえんろう)』

効果:相手の周りを炎で埋め尽くし牢屋を作り出す。その後上から氷の壁で蓋をして相手を閉じ込める技

詠唱:二極(にきょく)(ごう) ()がれる煉獄(れんごく)死人(しびと) ()かれる紅蓮(ぐれん)咎人(とがびと) 数多(あまた)幾多(いくた)苦痛(くつう)をその()(きざ)め  ―未来永劫(みらいえいごう)()じる(とびら) ()るがず(ふう)じる強固(きょうこ)(じょう) (おく)すな (おび)えるな (ひかり)()る その(とき)()


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第六話(第四十二話)

「さあ、この戦いもいい加減終局としましょうか」

 

死神は戦いを愉しんでいるように高らかに言った。その死神にもう一人の死神が近づいて来た

 

「”御触書(おふれがき)”を使ってもそんなにダメージを受けるんだ。結構強力だったの?」

 

「九十番台の鬼道なんて強力に決まってるじゃん。”御触書”を使ったのと私だったからこれだけで済んだんだよ。普通の人なら間違いなく死んでるって」

 

「…バカな」

 

何事もなかったかのように普通に会話をする死神を見て空山はそう呟いた。空山は自身の鬼道を本来の威力で放ったにもかかわらず目の前の死神が無傷で打ち破った事実を信じられない様子だった。

 

「あの鬼道はいくら隊長格の死神でもそう易々と打ち破れるものじゃないぞ…!!それこそ山本総隊長や雷山隊長程の実力者じゃなければまず無理なはずだ…」

 

 

 

 

 

”破道の九十二”『氷獄炎牢(ひょうごくえんろう)

 

 

その鬼道は藍染惣右介が使った”破道の九十”『黒棺』同様に隊長格の死神も一撃で倒すことの出来るほどの威力を有しており、無傷でいられるのはほぼ不可能であった。しかし目の前にいる死神は死覇装こそ破れたりしていたが身体的なダメージはあまり負っているように見えなかった

 

「鬼道を打ち破ったのが信じられないですか?」

 

死神は空山をからかうように笑って見せた。それほどの余裕をまだ持っていることに空山はさらに驚いた

 

「貴様…俺の鬼道を…どうやって破った…!!」

 

その問いに死神は笑うのを止め真剣な眼差しで空山の目を見て答えた

 

「正確には、あなたの鬼道を正面から打ち破ったのではなく、あなたの鬼道を封じたんですよ」

 

「鬼道を…封じただと…!?」

 

「”御触書(おふれがき)『鬼道封殺令(きどうふうさつれい)』……」

 

「何…?」

 

「私の斬魄刀の能力を最大限活かした技の一つですよ。簡単に言えば、あなたがこの空間内にいる間は私が”御触書”を撤回しない限り鬼道の一切が使えないと言うことです」

 

「それで『氷獄炎牢』が不発に終わったのか…」

 

「ええ、少しダメージを受けてしまいましたがあなたを殺すくらいわけないですよ」

 

「くそっ…」

 

(ダメだ…先程の鬼道でほとんどの霊圧を使ってしまったため、意識が朦朧とする…――――ッ!!)

 

気が付くと襲撃者の死神が自身の目の前に立っていた。死神は疲労で動けなくなっている空山の目の前まで瞬歩を使わず歩いて近づいていたが、意識が朦朧としていた空山はそれに全く気付いていなかったのだ

 

「…最初は隊長でも斬魄刀の能力を駆使すれば簡単に倒せると高を括っていましたが、それはどうやら驕りだったみたいですね。ありがとうございました。おかげでこれからは驕らず戦えそうです」

 

死神は刀を四つん這いの状態で跪いている空山の首元に当て首を掻き切る用意をした

 

「さようなら、志波隊長」

 

空山の首を切ったと同時に鮮血が噴出した。その時空山は一瞬意識が飛びかけ倒れこんだが、この者たちをこのまま野放しにすることは自身のプライドが許さぬと執念で意識だけは繋ぎとめた

 

「さて、志波隊長も倒せたし帰ろっか」

 

「そうだね。このままここにいても僕らの計画に支障をきたすだけだからね」

 

目を向けると二人の死神は自身を倒したと思い込んでおり、背を向けて油断していた。空山は、自身の死を覚悟すると同時にせめてどちらか一人だけでも道連れにしようと考えた

 

(せめて…この一撃だけは…決める…!!)

 

ザシュッ!!

 

「え…?」

 

立ち去ろうとしていた死神は突然腹部に激しい痛みとそこから熱が帯びていくのを感じた

 

「斬魄刀…?なん…で…?」

腹部に目をやると刀の切先が15㎝程飛び出ていて斬魄刀が身体を貫通しているということを物語っていた

 

「うっ…!!うぅ…」

 

死神は、痛みに耐えながらなんとか斬魄刀を引き抜き、傷口を抑えながら片膝をついて肩で息をし始めた

 

「はぁ…はぁ…うぅ…痛い…」

 

傷口を抑えてもなお激痛が襲い、死神は顔を歪めて痛みに耐えていた。その様子にもう一人の死神も慌てて駆け寄った

 

「ちょっとちょっと、大丈夫!?」

 

「大丈夫じゃない…さすがにすごい痛い…」

 

「……」

 

もう一方の死神は立っている余力がなく倒れている空山を一瞥して傷口を抑えて痛がっている死神に一言

 

「ちょっと待っててね。すぐに片づけてくるから」

 

と声をかけ、空山に止めを刺すべく刀を引き抜き攻撃を仕掛けようとした。しかし、その刃が空山に届く直前突然地面が揺れ始めた

 

「ッ!!地面が…?まさかッ!?」

 

この空間内でのこの現象に心当たりのあるもう一方の死神は咄嗟に後ろを振り向いた

 

「ごめん…卍解を維持できそうにない…」

 

死神は傷口を抑えながら申し訳なさそうにそう謝罪していた。そこでもう一方の死神は空山に止めを刺すか顔を見られる前に立ち去るか一瞬迷った

 

「くそっ…!!」

 

空山に止めを刺している暇がないと判断したもう一人の死神は、激痛で動けなくなっている死神を抱き抱え瞬歩でその場を後にした。一人取り残された空山はその様子を見て自身が辛くも勝利したことを察した

 

「はぁ…はぁ……ははっ…隊長を…舐めるな…よ…」

 

その空山もそこで意識が途絶えそのままうつ伏せの形で気絶してしまったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死神の卍解が解ける少し前―――――

 

 

「いたか!?」

 

「いえ、まだ発見されません!!」

 

「志波隊長…どこに行かれたのですか…!!」

 

空山がいつまで経っても隊舎に戻らない事態に十番隊は混乱状態に陥っていた

 

「まさか…志波隊長も敵の手に…」

 

「バカなことを言うな!!」

 

十番隊副隊長・浮島鑢(ふじまやすり)の怒号が響いた。隊長が不在の事態に焦りを不安から気が立っていたのである

 

「……ッ!!済まない…今はお前たちに当たっている暇はないと言うのに…」

 

我に返った浮島は怒鳴り散らしてしまった隊士に謝罪した

 

「気にしないでください。志波隊長がどこに行ったのかわからない以上心配になるのは当然ですから」

 

「済まない…お前たちはもう一度廷内を霊圧を探りながら探していてくれ。俺はこの事態を総隊長殿に報告して来てからそっちに合流する」

 

「はいっ!!」

 

隊士が返事をしたその時、浮島を始めとする隊士全員が空山の霊圧を感じた

 

「これは…志波隊長の霊圧…!!」

 

「急ぎましょう!!」

 

しかし、到着した浮島たちが見たのは漫然の状態の空山ではなく、首から血を流し意識を失って倒れている空山の姿であった

 

「志波隊長…!!」

 

浮島はあまりの惨状に絶句したまま立ち尽くしていた

 

「浮島さん早く指示を…」

 

浮島は上の空で隊士の声が聞こえていない状態だった。それに気づいた隊士は浮島の胸ぐらをつかんで大声で浮島の名前を叫んだ

 

「浮島副隊長!!あなたが上の空でどうするんですか!!志波隊長が倒れられた今あなたがこの隊の最高責任者なんです!!」

 

その声で我に返った浮島は、空山が倒れた影響で困惑している隊士たちに指示を出した

 

「まずは急いで四番隊に連絡をしろ!!」

 

「は、はい!!」

 

浮島にそう指示された隊士たちは大急ぎで四番隊舎の方へ走って行った

 

「残った者の中で回道が得意な者は、急いで応急処置の準備をしろ!!」

 

「はい!!」

 

その後数人の隊士が空山に近づき首からの出血を抑えるべく回道での処置を始めた

 

「俺は総隊長殿にこのことを報告してくる。後は任せたぞ!!」

 

「了解しました!!あっ!浮島副隊長!」

 

浮島は隊士に呼び止められて振り向いた。そこには頭を下げている隊士の姿があった

 

「さっきは無礼な態度をしてしまいすいませんでした!」

 

「気にするな、お前がああ言ってくれなかったら俺は動けずにいた!!助かったぞ!!」

 

そう言い残し浮島は一番隊舎に向け走って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第七話(第四十三話)

「此度の首謀者と思われる者と接触したじゃと?どういうことか説明してもらおうか」

 

一番隊舎へ到着した雷山と銀華零の二人は元柳斎に先程の一件を伝えた

 

「単刀直入に言えば、再び春麗が操られる事態が起きた。まあそれは俺たちが何とかしたが、その時に春麗を操っている相手とも会話したというところだ」

 

「…再度問うが、狐蝶寺春麗が自分の意思で事を起こしたという可能性は全く無いと捉えて良いのじゃな?」

 

「ああ、春麗が事を起こした際に霊圧を探ってみたら別の霊圧を感じた。これは白も感じ取ったことだから間違いない。相変わらず誰の霊圧かまでは分からなかったけどな」

 

「…なるほど。ひとまずは狐蝶寺春麗が自らの意思で行動している可能性は低いと言うことにしておこう。して、相手の目的は判明したのか」

 

「奴は去り際に”全ては狐蝶寺隊長のため”と言っていた。その言葉で春麗を慕う誰かの仕業と言うとこまでは容易に推測出来るが…」

 

「春麗ちゃんを慕うものは護廷十三隊に数え切れない程います。その線から絞り込むのは不可能だと思います」

 

「おぬしら二人から見て狐蝶寺春麗を異常ともいえるほど慕っている者はおるか?」

 

そう元柳斎に問われた雷山と銀華零は深く考えていたが心当たりがないように首を横に振った

 

「…残念だが、心当たりがないな」

 

「私もです。少なくとも春麗ちゃんの口から聞いたことはないと思います」

 

「うむ…つまりは現時点で”狐蝶寺春麗を慕う誰か”しか情報がないということか」

 

「…山本、仮に春麗が今回の反逆を企んだ首謀者だったらどうするつもりなんだ?」

 

「…たとえ相手が狐蝶寺春麗だろうと我らの”護廷”の意志は変わらぬ」

 

そう言う元柳斎の顔には並々ならぬ覚悟が現れていた。仮に狐蝶寺が首謀者だった場合、雷山と銀華零は狐蝶寺の処刑阻止に動き、護廷十三隊との全面戦争が避けられない事態に発展すると元柳斎は考えていた。それは残りの全隊長の戦力を比較しても大規模の被害が出ることは誰も目にも明白な事でもあった

 

「…そうか。…山本、お互いに春麗が謀反を起こそうとしてなければいいな」

 

「……」

 

「だが、本当の問題は中央四十六室(ろうがいども)が何を言ってくるかだな。まあ、あいつらが何を言ってこようがどんな手段を使ってでも勝手は真似はさせないがな…」

 

「…雷山さん。あまり手荒なことはしてはいけませんよ?あの人たちを怒らせたら例え雷山さんや私たちでもどうすることも出来ない事態が起きかねませんから」

 

「安心しろ。そうなったら俺の命一つで丸く治めてやるよ」

 

「……」

 

現在の護廷十三隊隊長及び歴代全隊長たちは全員等しく雷山の強さは知っているが、幼馴染である銀華零と狐蝶寺の二人だけはその強さの中に自棄が含まれているのを知っていた。雷山は言葉や行動で”誰か”の死を止めるが、その”誰か”の中には雷山自身のことは一切含まれてはいなかった

 

「雷山、多少に事は儂も目をつぶろう。じゃが目に余る行動は慎め」

 

元柳斎が呟いたその時、十番隊副隊長・浮島鑢が勢いよく入って来た。その形相からただ事ではないことは明白だった

 

「はぁ…はぁ…ご報告いたします…!!十番隊・志波隊長が重傷を負っている状態で発見されました…!!」

 

「ッ!!」

 

その報告はその場にいた雷山と銀華零も驚かせる内容だった

 

「どういうことか説明せよ」

 

「は、はい。志波隊長が隊首会から一向に戻られず、捜索をしていたところ急に志波隊長の霊圧が現れ、現場に急行すると大怪我を負った状態で発見したというものです」

 

「誰の仕業か目星はついておるのか?」

 

「いえ、誰がこのようなことをしたのかは不明です。しかし私どもが到着した際には何者かがいた痕跡もありませんでした」

 

雷山は痕跡が全くないと言う点に引っかかった。隊長一人を瀕死に追い込むほどの激しい戦いに誰も気が付かなかったことも考えにくい話だったが、戦っていた自分自身の痕跡を一切その場に残さずにいられることは不可能に近かった。

 

「ともかく、今は事態の収拾に努めるのが先決であろう。浮島副隊長には四楓院隊長が到着するまでの間、現場の指揮を命ずると伝えよ」

 

「はっ!!」

 

浮島は元柳斎に一礼する瞬歩でその場から去った

 

「雷山、おぬしも志波隊長の襲撃された現場に向かってくれぬか」

 

「ああ、分かった。状況が分からない分俺も現場を見ておこうと思う」

 

その後雷山と銀華零は志波が襲撃された場所に赴いた

 

「それにしても、春麗や豊生と隊長を操っていた奴が今度は志波の…引いては隊長格への攻撃か。とてもじゃないが一人でやっているようには思えないな…」

 

「そうですね。これだけのことを誰にも一切悟らせずたった一人で出来るとは考えにくいですね」

 

「やっぱ白もそう思うか……っと、居た居た」

 

雷山の目線の先には現場を指揮している四楓院の姿があった

 

「朝八、何か痕跡と言えるものは見つかったのか?」

 

「…雷山か。いや、残念ながら何も発見できていない。そもそもこの場で戦っていたのかさえも分からないのが現状だ」

 

「……」

 

「痕跡が一切出てこなかったのなら、志波はあの場で斬り倒されたのではなく別の場所で倒されあの場に置かれたとは考えられないのか?」

 

「なんだと…?」

 

「例えば浮葉の斬魄刀『虚空』のように別空間を生成できる能力を相手が持っていたとするなら、志波と戦っていた痕跡が出てこなくても不思議ではないだろ?戦っていた場所と倒れていた場所が別なんだからな」

 

「では今すぐ浮葉刃の身柄を…」

 

「”もう少し頭を使って言葉を発しろ”と前に言っただろ。浮葉を持ち合いには出したが俺は浮葉が首謀者だとは一言も言ってないぞ」

 

「雷山さん。一つ確認してもいいですか?」

 

そう言う銀華零の顔は浮葉が疑われていると思っているように不愉快そうな顔をしていた

 

「まさかとは思うのですが、浮葉さんを疑っている訳ではないのですよね?」

 

「ああ、微塵も疑ってない。仮に隙を突いて志波を倒したとしてもわざわざ空間外に出す必要がない。そんな真似をすれば自分がやったと自白しているようなもんだ。あれだけ頭が回る浮葉がそんなミスはしない」

 

雷山がそう言い切るのには相応の自信があった。現時点で”別空間に他人を閉じ込める能力”を護廷十三隊内でただ一人しか持ってない浮葉がその能力を使えばまず疑われるのは浮葉自身であることは誰の目にも明らかだった。しかし雷山や銀華零にすら一切悟られることなく椿咲を攫うことの出来る程頭の回る浮葉がこんなヘマをするとは到底思えなかったからである。

 

「疑っていないのなら良いのですが…」

 

「ああ、俺も紛らわしい言い方をして悪かったな。しかし厄介な話になったな」

 

「…なるほど。雷山隊長の仮説が正しかったとすれば”他人を操る能力”を持つ者と”別空間を生成しその中に相手を閉じ込める能力”を持つ者の二人がいるということになると言う訳か」

 

「ああ、そしてその二人が合わせた実力は未知数、少なくとも志波以上の実力になるな」

 

「そうなれば私たちも容易く倒される可能性があることを頭に入れておかなければなりませんね」

 

「つまりは銀華零隊長以上の実力者になる可能性があるということか…」

 

朝八は少し考えた後副隊長である四楓院夜九を呼び寄せた

 

「朝八様お呼びでしょうか?」

 

「夜九、私は山本総隊長殿の元へ行き現時点での調査結果を報告してくる。お前は引き続きこの場での調査を続けよ。私が戻るまでの間はお前に現場の指揮を任せる」

 

「かしこまりました」

 

「…雷山、私はまだ椿咲南美を疑っている。しかし、それは私情ではなく冷静に今までの出来事を私なりに考えたうえで出した答えだ。此度の反逆者が椿咲南美だろうが別の者だろうが、ひっ捕らえる為に私はそれ相応の覚悟をしている。それはお前にも分かっていてもらいたい。では、私はこれで失礼する」

 

四楓院はそう言い終わると同時に瞬歩でその場を去って行った

 

「ふっ、生意気な奴め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第八話(第四十四話)

「さて、この場は二番隊に任せて俺たちは隊舎に戻るか。志波がやられた以上、少なくとも相手の実力は椿咲以上ということになる」

 

「南美ちゃん以上の実力者ですか…」

 

「ああ、厄介なことこの上ないな…そうだ。白に一つ聞きたいことがあったのを思い出した」

 

「あら、珍しいですね。私が答えられるものでしたら答えますよ」

 

「俺が知らない春麗の過去の出来事って何かあるか?」

 

「雷山さんが知らず私が知る春麗ちゃんの事ですか…」

 

銀華零はその場に立ち止まり、目を閉じて腕を組み、自分の記憶を遡っているようだった

 

「私が知っている限りでは雷山さんが知らないことはないはずです。強いて挙げるなら、春麗ちゃんが一度だけ現世に行った時の事でしょうか」

 

「現世に行った事?それは知ってるぞ。その報告も隊首会で聞いたはずだしな」

 

「いえ、隊首会での報告していた事ではないですよ。現世に行った時、当時としては数少ない死神が見える人間に会ったという話です。それは雷山さんには言ったことないと聞きました」

 

「二人の子供か…人数だけだと今回の事件の首謀者の仮説に当てはまるが…」

 

「さすがに偶然でしょう。ですが一応”春麗ちゃんに関わる者”として当てはまりますし、この話はまた後日山本さんに話しましょうか」

 

「ああ、そうだな。…もう一度言うが、白。お前がやられるなんて微塵も思えないが、一応気を付けて行けよ」

 

「雷山さんも気を付けてくださいね」

 

「もちろんだ。それじゃあ、また今度な」

 

「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……?あれは…雨明さん…?)

 

雷山と別れた数分後銀華零は一人佇む雨露(あまつゆ)雨明(あけ)を見かけた

 

「こんなところでどうされたんですか?」

 

「あ、いえ…」

 

雨明は誰かを探すようにキョロキョロと辺りを見回している様子だった

 

「誰かを探しているんですか?でしたら、私が探しますので、雨明さんは隊舎に戻りましょう。今はどこで志波隊長を襲った者がいるか分からない状況ですし」

 

「は、はい…」

 

その後銀華零は雨明と共に三番隊舎へ帰り着き、雨明を隊舎内にある宿舎へ送り届けようとした時、それまでずっと黙っていた雨明が口を開いた

 

「あ、あの…銀華麗隊長…」

 

「どうされました?」

 

「あ…その…じ、実は…相談があって、銀華麗隊長を探していたんです…」

 

「私に相談ですか?……分かりました。あっ、良ければ夜風に吹かれながらゆっくりとお話ししませんか?」

 

「は、はい!」

 

「ふふっ、でしたらここで少し待っていてください。出掛ける用意をしますので」

 

その後銀華零は隊長執務室へ一度行き、雨明と共に”双極の丘”へ赴いた

 

「さて、ここなら広いし景色も奇麗ですし語らうにはいいと思いませんか?」

 

「そうですね。瀞霊廷にこんな場所があったなんて…」

 

「さてと、では相談をお聞きしましょうか」

 

「あ、はい。実はですね…」

 

その時雨明は素早く刀を抜きそのまま銀華零を腰辺りで一刀両断しようとした

 

「まだまだですね…」

 

しかし、それを読んでいた銀華零はその攻撃を躱し雨明の背後に周り逆に斬りつけようとしたが、雨明は瞬歩で銀華零の背後5メートル程に移動しそれを逃れた

 

「…これから倒そうとする相手に殺気を悟らせるようではまだまだですよ。雨明さん」

 

「…いつから気付いていたんですか?銀華麗隊長」

 

「あなたが私に相談があると言った時からですよ。あの時、あなたが私に対して一瞬殺気を向けたのを感じたのが最初ですね。そんなあなたが私を呼び止めたと言うことは私を殺そうとしていることとすぐに分かりました」

 

「…成程。それでむやみに被害を出さないために自らここへ移動してきたと言うことですか」

 

「ええ、ここなら多少無理な戦いをしても大丈夫だと思ったので」

 

「…残念だなぁ…初めの一撃で終わらせるつもりだったのになぁ」

 

「……」

 

銀華零は奇襲を失敗した雨明がその場から逃げようともしないことに不審に思った。

 

(…私の経験上奇襲を失敗した者は態勢を整えるべく一度引くと思ったのですが…もしや何かタイミングを狙っている…?)

 

「出来れば嫌だったんだけど仕方ない。…あれ?」

 

「……ッ!?」

 

雨明の攻撃に備え斬魄刀を構えた瞬間銀華零は何かの気配を感じ取ったようにその場を離れた

 

「…あーあ、せっかく銀華零隊長を倒せるチャンスだったのに…」

 

「ッ!!貴女は…雨入さん…」

 

銀華零が先程まで立っていた場所のすぐ後ろに雨露雨入が斬魄刀を振りかざした状態で立っていた

 

「なんで来ちゃったの?怪我したから大人しくしてなよって言ったのに…」

 

「雨明一人で銀華麗隊長と戦わせる無茶なんてさせるわけないでしょ?」

 

「やはり…そうでしたか…」

 

銀華零は雨明に攻撃された時から薄々雨入も雨明同様に自身を攻撃しに来るであろうと考えていたため雨入がこの場に居ることは特別驚くことではなかった

 

「まさか銀華零隊長を相手にするのに雨明が一人で戦いに来たなんて思ってないよね、銀華零隊長?」

 

「思っていませんよ。雨明さんが一人で来た時点で貴女も来ることは予想していましたから」

 

「さすが史上最強と謳われている初代護廷十三隊の隊長だね。志波隊長以上に隙が見つからないし、攻撃も察知されて当てられないし…けど、あの人の為に銀華零隊長にはここで退場してもらいます!!」

 

「”あの人の為に”…?…まさか、あなたたちの目的は…!!」

 

”あの人の為に”と言う雨入の言葉を聞いた銀華零は、ある一つの可能性に辿り着いていた

 

「…気付いちゃいました?銀華零隊長の考え通りですよ”(あめ)()れ”『雨入(あまいり)』」

 

「ですが、その至った考えを持ち帰らせるわけにはいきません”無意識(むいしき)(うご)(まわ)れ”『夢遊(むゆう)』」

 

二人は解号を唱え斬魄刀を始解させたが、形が変わるなどの大きな変化は見られなかった。

 

「「銀華零隊長、あなたにはここで死んでもらいます!!」」

 

雨明と雨入の声が重なると同時に二人が銀華零に斬りかかってきた

 

「くっ…!!

 

銀華零は二人の斬撃を捌きながら自身の考えをまとめていた

 

(…春麗ちゃんが会ったと言う二人の子供の話。そして”全ては狐蝶寺隊長の為に”と”あの人の為に”という二つの言葉。これらが揃ってようやく分かりました。その時の二人が雨明さんと雨入さん、そしてその目的を言うなれば…)

 

 

 

 

 

”護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗の奪取――――――――”

 

 

 

 

 

(しかし仮に春麗ちゃんの奪取が目的だったとしても、護廷十三隊に入隊した今それを行うメリットがない。なのに何故…?)

 

銀華零が考え事をしながら斬撃を捌いていることは雨明と雨入の二人にも伝わった

 

「考え事しながら私たちの相手をしているなんて戦いとして失礼じゃありませんか!?」

 

ガンッ!!

 

「今しがた考えがまとまったところです。ここからは本気で行きますよ」

 

(とは言ったものの、まだ分からないことが一つだけある…ですが、それは後からいくらでも考えられる。今はここを切り抜けなくては…)

 

「…雰囲気が変わったね。これが銀華零隊長の本気なのかな」

 

「さあ、どうでしょうね。ですが、そうやって警戒するのは良いことですよ。”写し見とれ”『銀鏡』」

 

解号を唱えた銀華零の斬魄刀は、鏡の形に変化した

 

「行きますよ…!!”銀鏡”『雷斬』」

 

「ふふふ…」

 

「…何が可笑しいのです?」

 

「自分の刀をよく見てくださいよ。銀華零隊長」

 

「……?これは…!!」

 

銀華零の持つ斬魄刀『銀鏡』 その能力は自分が知っていて且つ見たことのある斬魄刀の始解のみを自身の刀に映すことが出来る能力である。本来、銀華零が斬魄刀名を口にするとその斬魄刀の形に変化するのだが、今回はその変化が起こらず元の銀鏡のままだった

 

「…何をしたのですか?」

 

「私の斬魄刀は『雨入(あまいり)』と言います。そしてその能力(ちから)は”他人の斬魄刀の能力を封じること”です。この能力の優れているところは相手が斬魄刀を持たない虚でも有効な点です。そしてその発動条件は、死神なら相手の斬魄刀、虚なら仮面に触れることです」

 

「相手の斬魄刀に触れることですか…」

 

銀華零は先程の攻防で雨入の斬撃を己の斬魄刀で防いだことを思い出した

 

「そうです。さっき銀華麗隊長は私の攻撃を斬魄刀で防ぎました。つまり、今は斬魄刀の解放が出来ず、事実上銀華零隊長を無力化出来たということです!!」

 

その瞬間今まで銀華零の背後で斬魄刀を構えタイミングを見計らっていた雨明が斬りかかってきた

 

「…不用心ですね」

 

銀華零は雨明の攻撃を見もせずに躱した

 

「どういう意味ですか?」

 

「言葉そのままです。まさか、斬魄刀の能力を封じただけで私を倒せるなどと思っていませんよね」

 

「思っていませんよ!!”破道の三十三”『蒼火墜』!!」

 

雨明は銀華零の目の前で鬼道を炸裂させ銀華零から視界を奪った

 

(いくら銀華零隊長でも斬魄刀の能力と視界を奪われれば…!!)

 

そう思った雨明は煙の中に飛び込み銀華零の横を通り抜けざまに斬ろうとしたが、銀華零は一瞬にしてその攻撃を予想しており刀の軌道が見えないながらも斬撃を躱した

 

「なっ…!?」

 

雨明にとってみれば目が見えない状態で銀華零が攻撃を完璧に避けることは想定外であり銀華零の横を通り抜け背を向けてしまっている最大の隙を作り出している状態だった

 

「私から視界を奪いに攻撃する。言葉だけ聞けば戦いの定石ですが、この煙と言うものを最大限活かすにはこの攻撃方法しかないと誰しもが気づきますよ。先日あなたたちが退けた志波隊長でもね」

 

「かはっ…!!」

 

すぐに振り向くことが出来なかった雨明は銀華零に背を一瞬向ける形になった。その瞬間銀華零は雨明の背中を蹴り飛ばした。

 

「うあ゛っ!!ぐっ!!がっ!!」

 

雨明は幾度も地面に叩きつけられて行き、銀華零の数メートル先で止まった

 

「雨明!!」

 

その様子を見て雨入は居ても立っても居られなず雨明に駆け寄った。幸い、死んではいなかったがそれでもひどい重傷を負っていた

 

「大丈夫だよ…姉さん…」

ふら付きながらも雨明は立ち上がり再度銀華零に刃を向けた

 

「はぁ…はぁ…」

 

「そんな…私の能力を使って銀華零隊長の斬魄刀を封じれば簡単に勝てる出来るはずなのに…」

 

「簡単に勝てる…ですか…」

 

その言葉を聞いた銀華零は口元を緩ませ、笑みを浮かべていた。その笑みは雨入、雨明の二人からは影になり見えなかったが、すぐにその不気味さを思い知ることになった

 

「…ふふっ、私もナメられたものですね…」

 

「……!?」

 

その時、雨入と雨明の二人は寒気を感じた。それは体感温度が低く凍えると言う寒さよりも、圧倒的強者に殺気を向けられた時に生じる悪寒のようなものだった

 

「まさか斬魄刀の能力を封じるだけで私に勝てると思っている方がいるとは…」

 

「ッ!?」

 

銀華零の眼を見た二人は驚愕した。先程まで温厚で優しさを感じた銀華零の眼が突如として冷たく、殺気に満ちた眼に変わっていたからである

 

「少し痛い目を見てもらうくらいにしておこうかと思いましたが、やめました。あなたたちには……私の刀の錆になってもらいます」

 

その時の銀華零は清々しい程の笑みを浮かべていたが、その笑みは優しさと言うものを一切含んでおらず、”恐怖”と言う二文字しか見えなかった

 

「雨明!!一旦退こう!!このままじゃ―――――」

 

その言葉が聞こえた時雨明の目に斬られて宙に浮く雨入の姿があった

 

「一旦退き態勢を整えようとする。とてもいい案だとは思いますが、それに今更考えが至るのは遥かに遅いですよ?」

 

「うっ…はぁ…はぁ…」

 

銀華零は雨入の左腕を斬り落とすつもりで斬撃を加えたが、雨入の左腕は胴と繋がっており代わりに切り傷が出来ていた

 

(私の斬撃を刀で僅かに逸らして腕を落とされることを避けるとは…さすがに志波隊長を退けただけはありますね…)

 

「ははは…やっぱり銀華零隊長相手に卍解を温存しておこうって言うのは無謀だったかな…」

 

「ッ!?」

 

雨入と雨明は気付いていなかったが、その時銀華零は雨入の発した卍解と言う言葉に驚き隠せなかった

 

(…本来、この二人が始解を修得しているのもあり得ない話ですが、卍解を修得していると言うのはさらにあり得ない話のはず…普通なら口からの出まかせと捉えるべきですが、しかしこの場面でそれを言う意味がない…と言うことはまさか本当に…)

 

「さすがの銀華零隊長もこれには驚きますよね…”卍解”『梅雨染櫓(つゆぞめやぐら)』」

 

卍解をしたと同時に今まで巨大な矛と磔架から成る双極の景色から一変、湖の上に存在する城下町の風景に変わっていた

 

「雨入さん…あなた何処で卍解を…」

 

「さあ、そんなことは忘れましたよ。ですが、1つ言うのであれば、私たちは400年前に一度尸魂界に来ているんですよ」

 

「それは一体どういう――――――ッ!?」

 

その時銀華零の右腕に痛みが走った。見ると雨明が右腕に切り傷を与えていた

 

「私としたことが雨入さんの話に気を取られすぎましたね。仕方ありません、出来れば生け捕りにしようと思っていたのですが、そんな余裕は出来そうにないですね。”縛道の六十一”『六杖光牢(りくじょうこうろう)』」

 

「うっ…!!」

 

銀華零に手傷を負わせた雨明だったが、鬼道を避ける程の余裕は残っておらず銀華零の縛道に捕まりその場から動けなくなった

 

「”御触書”鬼道封殺…」

 

「遅い!!”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』」

 

雨入は雨明の鬼道を解除しようと”御触書”を使おうとしたがそれよりも早く銀華零の鬼道によって囚われてしまい不発に終わった

 

「くっ…!!」

 

悔しそうに銀華零を睨む雨入を他所に銀華零はある鬼道を使う決心をした

 

「この鬼道は雷山さんや春麗ちゃんと考え合い完成させた鬼道です。この鬼道を使うのはあなたたちが初めてですから、その点は誇ってもいいと思いますよ」

 

雨入と雨明はまだ気づいていなかったが銀華零がそう言い終わった瞬間、辺りの気温が一気に下がり始めていた。その証拠に徐々に白い冷気が辺りを漂い始め、銀華零の姿を覆い隠した

 

 

(きり)(けむ)白銀(はくぎん)世界(せかい) 雪景(せつえい)()まる(はな)台地(だいち) (とが)れ・罅入(ひびい)り (くだ)け・霧散(むさん)し ()()水晶(すいしょう)(りゅう)―――――――――――――

 

 

 

銀華零の詠唱がそこまで終わった時気温が氷点下を超え空気中の水分が氷に変わり始めていた。その氷が徐々に数か所に集まり何かの形を形成し始めていた

 

 

 

―――――――――――――喧騒(けんそう)(さいな)まれる(こおり)(はな) 静寂(せいじゃく)(しず)氷河(ひょうが)隙間(すきま) ()かせ・()かれ その()()()し 今世(こんせ)別離(べつり)せよ!!」

 

 

銀華零が詠唱を終えると大気中の水分が氷に変わり複数体の氷の龍を形成していた。

 

 

「”破道の九十四”『氷華龍尖晶(ひょうかりゅうせんしょう)』!!」

 

 

その瞬間形成された全ての氷の龍が雨入と雨明の二人に向け突撃していき二人の身体をそれぞれ締め付けるように体に纏わりついた

 

「か、身体が…!!」

 

「姉さん!!”御触書”は使えないの!?」

 

「さっき一瞬使いかけちゃったからまだ使えないよ!!」

 

「くっ…!!こうなったら…」

 

そこまで言った時点で二人は完全に氷に閉ざされてしまった

 

「……」

 

二人が氷に閉ざされた後も銀華零は気を抜かず二人を見ていた。二人が動く気配も氷が割れる気配の感じなかったため一安心したが、銀華零には胸騒ぎがしていた

 

(私が考案したこの『氷華龍尖晶』なら確かに二人を確実に倒すことが出来るはず…しかしこの胸騒ぎは一体…)

 

「ッ!!」

 

「”破道の九十三”『猛蛇蝶形花(もうじゃちょうけいか)』!!」

 

その時銀華零の背後から声が聞こえたと同時に横を何かが通り過ぎて行き、雨入雨明を氷の龍により拘束から解放した

 

「これは…この鬼道はまさか…」

 

鬼道が放たれた方向を見て銀華零は驚愕することとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




”破道の九十四”『氷華龍尖晶(ひょうかりゅうせんしょう)』

効果:大気中の水分を使い龍を作成する。その龍で対象を捕らえ、徐々に氷の中に閉じ込めていき最終的に氷華の形に整え相手を閉じ込める技。その花は完成すると同時に中に閉じ込めた者もろとも粉々に砕け散ると言われている

詠唱:(きり)(けむ)白銀(はくぎん)世界(せかい) 雪景(せつえい)()まる(はな)台地(だいち) (とが)れ・罅入(ひびい)り (くだ)け・霧散(むさん)し ()()水晶(すいしょう)(りゅう) 喧騒(けんそう)(さいな)まれる(こおり)(はな) 静寂(せいじゃく)(しず)氷河(ひょうが)隙間(すきま) ()かせ・()かれ その()()()し 今世(こんせ)別離(べつり)せよ


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第九話 (第四十五話)

「これは…この鬼道はまさか…」

 

鬼道が放たれた方向を見て銀華零は驚愕した。そこには本来ここにいるはずのない人物が立っていたためである

 

「…これは一体何の真似ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「春麗ちゃん―――――――」

 

 

銀華零が振り向くとそこには狐蝶寺が立っていた。それは普通ならありえない話であった。現在銀華零は雨入が作り出した卍解の空間内に居る状態だった。それは銀華零が空間から出ることも出来なければ他の者が空間に入ってくることも不可能であることを意味していたため狐蝶寺がここにいることはあり得ない話だった

 

「……」

 

狐蝶寺は銀華零の問いかけに一切反応を見せずどこか虚ろな目をしていた

 

「…できれば使いたくはなかったんだけど、仕方ないよね。銀華麗隊長、これが僕の斬魄刀『夢遊』の能力です」

 

「一言で言えば、”他人を操る能力”ですか…」

 

「さすがは銀華麗隊長、正解です。僕の斬魄刀『夢遊』の能力は”他人を睡眠状態に陥れ自由自在に操ることが出来る”です。つまり狐蝶寺隊長の意識は今、僕手中にあるのですよ」

 

雨明がそう言った時狐蝶寺が突っ込んできた。銀華零はそれを狐蝶寺から見て左に移動し躱したが、狐蝶寺はそれを読んでいたかの如く右足を軸に方向転換をし銀華零に斬撃を加えんとした

 

ガンッ!!ガキンッ!!ガンッ!!

 

銀華零はそれぞれ頭部、右腕、脇腹の三か所に撃ち込まれた狐蝶寺の斬撃を左脇腹に少しの傷を受けながらもその全てを捌き切って防いだ

 

「これは…間違いないですね…」

 

銀華零は狐蝶寺のここまでの動きに身に覚えがあった。それはかつて一度だけ見せたことのある狐蝶寺春麗の本気の斬撃であった

 

(…仕方がありませんね。ここまで本気の春麗ちゃんを相手するには賭けに出るしかないですね…)

 

銀華零の卍解は能力の使用不使用を問わず、最短でも一年は始解すら出来なくなる卍解だったため、銀華零は使うのを渋っていた。しかし、先程の攻防で卍解を使わなければ負けると判断しそのリスクを承知で卍解を使う覚悟を決めた

 

「やれやれです。本当は使いたくはなかったんですけどね。”卍解”…」

 

銀華零が卍解と口にするとそれまで鏡の形をしていた刀が斬魄刀を解放していない状態へと戻って行った

 

「斬魄刀が未解放の状態に…」

 

それは雨入と雨明にとっても予想外のことで、二人は一瞬銀華零は本当に卍解を使おうとしているのか疑心暗鬼に陥りそうになるくらいだった

 

「”卍解”『白銀鏡華零(はくぎんきょうかれい)』」

 

 

”卍解・白銀鏡華零”それは初代護廷十三隊三番隊隊長・銀華零白が持っていた氷雪系の斬魄刀”銀鏡”の真の姿である。その能力は”自身が見たことのある他人の始解、卍解を自身の刀に映し自在に使うことが出来る”と言うものであった。また銀華零が他人の卍解を使っている間は自分の斬魄刀本来の技を使えず、使われている卍解の持ち主もまた卍解を使うことが出来ない。先述したがこの卍解を一回でも使うと最低でも一年は始解すら出来なくなるため銀華零がこの卍解を使うことは滅多になく、見たことのある者はほんの一握りである

 

 

(六道さん、かつて共に戦ったあなたの力を少々お貸しくださいね…)

 

「『白銀鏡華零』”卍解”『六道輪廻黄泉(ろくどうりんねよみ)』!!」

 

その時銀華零は賭けに出ていた。雨入の始解の能力がまだ発動しているならば他人の卍解を使うことが出来ず、敗北するのが明白だったからだ。しかし、それは杞憂に終わった。

 

「…やられた」

 

卍解を使った銀華零を見て雨入は呟いた。銀華零は知る由もなかったが、雨入が卍解を発動したと同時に始解の能力が解けてしまっていたのだった。当然それを銀華零が知る術がないため雨入は能力が使えるか分からない状況で卍解を使わないだろう高を括っていたが、銀華零が普段絶対にやらない賭けに出たことでその目論見が失敗に終わったのだった

 

「初めて賭け事をしましたが、外れなければ案外こういうことも悪くはないですね。さて、私に力を貸してください」

 

銀華零の目の前では辺りの霊子が集まっておりそれが徐々に人の形を成していった

 

「水野瀬さん」

 

そう言う銀華零の前に初代七番隊隊長・水野瀬永流(みずのせながる)が立っていた。しかし、現れた水野瀬は銀華零の方へ振り向き不機嫌そうに眉を(ひそ)めた

 

「全く…僕を凍らせておいて手を貸してくださいなんて虫が良すぎるんじゃないですか?白隊長」

 

「あの場合は仕方ないですよ。それに手を貸してくれたらちゃんとお礼はしますよ」

 

「…本当ですよね?」

 

「私は嘘なんて吐きませんよ」

 

「はぁ…分かりましたよ。ですけど、今回だけですよ?白隊長。”卍解”『琉水雨蓮水萍(りゅうすいうれんすいひょう)』」

 

その瞬間地面よりいくつもの蓮の葉や花が生え始めてきた。それは銀華零と水野瀬を守るように生え正面からの攻撃以外通用しないだろうと言うことが明白なほどだった

 

「それでは私も行きますか。”六道行使(りくどうこうし)”『修羅道(しゅらどう)』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~五番隊舎内・隊長執務室~

 

 

「……」

帰って来た雷山は執務室内のソファで寝ている椿咲を見下ろしていた

 

「むにゃ…今度こそは成功ですよぉ…」

 

「…何事も起きてなさそうでよかったが緊張感が足りてないな。まあ、椿咲に限ってはいつもの事か」

 

雷山は椿咲の頬付近に指を向け鬼道を放った

 

「”破道の一”『衝』」

 

「きゃっ!?」

 

頬に弱い衝撃を受けた椿咲は驚いて飛び起きた

 

「痛てて……か、雷山隊長!?」

 

「長らくここを空けていた俺にも非があるが、寝ているのも大概だと思うぞ?」

 

「ね、寝てませんって!目を閉じて瞑想してたんですって!」

 

雷山にそう言う椿咲だが、まだ目が完全に明き切っておらず今にも再び寝そうな状態だった

 

「はぁ…全く、自分よりも強い隊長が倒されたと言うのに熟睡できるその神経はもはや称賛に値するな…」

 

「えへへ…それほどでもないですよ」

 

「何か勘違いしてるかもしれないが、褒めてないからな。ところで何か変わったことはなかったか?」

 

雷山は大して変わったことはなかっただろうと思っていたが、椿咲の口から思いもよらない人物の名前が飛び出してきた

 

「変わったことですか…そう言えば、雨入ちゃんが訪ねてきましたよ?」

 

「雨露がか?一体何の用でだ?」

 

「それが聞く前に帰って行っちゃいましたよ。あっ、でも雷山隊長に何か用があったみたいですよ。開口一番でいるか聞かれましたし」

 

「…このタイミングで雨露が訪ねて来たことが気になるな。それに椿咲に伝言を頼まなかったことも気になる…直接俺に言わなければならない程の重要な情報なのか…?」

 

「うーん、半分寝ぼけてたからハッキリとは言えないんですけど、そんな感じには見えなかったですよ?」

 

「…まあいい。それは明日聞けばいいことだしな。それよりお前は自室に戻ってもいいぞ。半分寝ぼけた状態で居てもらっても困るしな」

 

「じゃあ、お言葉に甘えて寝て来まーす…」

 

「…胸騒ぎがするな。これもただの杞憂に終わってくれればいいんだが…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……おかしいな」

 

狐蝶寺の前に膝まづく水野瀬は左腕を斬り落とされる重傷を負っていた。また水野瀬の卍解により辺りに咲いていた蓮の葉や花が無残に散っていた

 

「春麗隊長ってこんなに強かったっけ?ねぇ…白隊長?」

 

銀華零は水野瀬の後方で意識を失った状態で地面に横たわっていた

 

「……まさか白隊長までやられちゃうなんてね…」

 

狐蝶寺は片手サイズの扇を水野瀬の身体の中心に照準を定めた

 

「切風・四肢裂風」

 

その言葉と同時に水野瀬の両手足が胴体と切り離された

 

「うっ…!!君らが誰なのかは知らないけど、僕を倒したからって悟隊長たちを甘く見ないことだね…」

 

「僕らにも勝てないような人が良く言うよ。悪いけど、君の忠告は無視させてもらうよ」

そう言い雨明は水野瀬の首をはね飛ばした

 

「バイバイ」

 

残された水野瀬の胴体が地面に力なく倒れた時辺りに散っていた蓮の葉や花が一気に霧散して消えた

 

「さて、残念だけど、銀華麗隊長もここで退場してもらおうかな」

 

「うん。元々そのつもりだったしね」

 

そう言う雨露姉弟の視線の先には仰向けの状態で倒れる銀華零の姿があった

 

「じゃあ、狐蝶寺隊長よろしくお願いします」

 

「……切風・断頭!!」

 

ザシュッ!!ドサッ!!

 

「…え?」

 

その光景を目にしていた雨露姉弟は一瞬理解が出来なかった。狐蝶寺は確かに銀華零の頭を斬り落とし止めを刺していた。しかしその攻撃をしたと同時に狐蝶寺は今まさに止めを刺さしたはずの銀華零に峰内の攻撃をみぞおちに食らっていたのだった

 

(あとはあの二人だけ…!!)

 

負傷していてもなお銀華零と雨露たちとの実力差があり銀華零はいとも容易く雨入の背後をとった

 

「うっ!!」

 

雨入の背後に回った銀華零は雨入をそのまま斬りつけた。反射的に雨入は飛び退いたがそれと同時に雨入が作り出していた『卍解・梅雨染櫓』の空間が歪み始めた

 

「梅雨染櫓の空間が…!?姉さん!!」

 

「ごめん後一分くらいしか持たない!!」

 

そう言う雨入の背後に再び銀華零の刃が迫っていた

 

「ッ!?姉さん後ろ!!」

 

ザシュッ!!

 

「きゃッ!!」

 

斬られた雨入はそのまま崩れ落ちて行った

 

「くっ…!!」

 

しかし負傷していたこともあり銀華零は雨入に攻撃をした直後体勢を崩してしまいフラ付いてしまった。その隙を雨明は見逃さずに空かさず反撃に転じた

 

ガンッ!!

 

しかしそれで討ち取れるほど銀華零は甘くなく斬撃を受け止められてしまいそのまま斬魄刀を弾き飛ばされてしまった

 

「これで終わりです!!」

 

銀華零の攻撃を防ぐ手段がない雨明はそのまま銀華零に身体を貫かれた

 

「うっ…!!…ハハッ…さすが銀華麗隊長です。正直史上最強なんて名ばかりだってバカにしていましたけど、その考えは改めますよ…」

 

「……?」

 

銀華零はその時少しの違和感を感じた。初めは雨明が今まさに語ることに対しての違和感と思われたが、雨明は本心から言葉を発しているのだろうと察しそれとは別の何かの違和感だと銀華零は直感した

 

「だから…だから敬意を以てあなたを殺します!!」

 

雨明のその言葉を聞いたとき銀華零は初めてその違和感が何かに気が付いた

 

(雨明さんの姿が、徐々にぼやけて来ている…?……しまった、これは…!!)

 

 

 

 

 

”『陽炎写(かげろううつし)』―――――――――――――”

 

 

 

 

 

直後腹部に激痛が走った。銀華零は背後にいた本物の雨明に斬魄刀を突き刺されていた

 

「私が斬魄刀を弾こうが弾かなかろうが詰んでいたと言うことですね…その手腕は見事です…」

 

斬魄刀を引き抜かれた銀華零は噴き出した鮮血と共に月明かりに照らされた地面へ崩れ落ちて行った

 

「はぁ…はぁ…」

 

雨明もまた限界を迎えておりその場に崩れ落ちた

 

「雨明、大丈夫?」

 

「うん、なんとかね…さすが史上最強と謳われる初代護廷十三隊の隊長だよ…今までの人とは比べ物にならないくらい手強かった…」

 

「…一旦退こっか?ここに居たら真っ先に疑われちゃうしね」

 

「うん…」

 

雨露姉弟は傷を負いながらも瞬歩でその場から離脱した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数分後双極の丘には三番隊副隊長・浮葉刃の姿があった

 

「銀華麗隊長!いませんかー?…おかしいな、銀華麗隊長の机に双極の丘へ来るように書いてあったのに…」

 

辺りをキョロキョロと見回す浮葉

 

「行き違いになったかな…あれ?」

 

浮葉はその時と奥の方で誰か倒れているのを見つけた

 

「こんな夜中に誰だろう…?」

 

歩み寄ってみて浮葉は絶句した。そこには全身血だらけで倒れている銀華零の姿があった

 

「銀華零…隊長…?銀華零隊長しっかりして下さい!!銀華零隊長!!」

 

浮葉の呼びかけに一瞬意識を取り戻した銀華零

 

「…浮葉…さん…?」

 

「銀華零隊長…!!気が付きましたか…!!」

 

浮葉の死覇装を掴み声を振り絞り何かを伝えようとする銀華零

 

「あ…雨露さん…たちに…き…お…」

 

その一言を言い残し銀華零の手が力なく地面に落ちた

 

「銀華零隊長…?銀華零隊長!!そんな…銀華麗隊長!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十話 (第四十六話)

翌日、それは五番隊第三席・実松矢井からの報告から始まった

 

「雷山隊長!!」

 

雷山は普段なら必ずノックをして入ってくる実松がそれをせず大急ぎで入ってきたことでただ事ではない何かが起きたと察した

 

「そんなに急いでどうしたんだ?」

 

「先程各隊へ緊急連絡が入りました。三番隊・銀華麗隊長が…」

 

「おお、白が敵を討ち取ったのか?」

 

「いえ…銀華麗隊長が何者かに重傷を負わされたとのことです…!!」

 

「何だと…白が重傷を…!?」

 

それを皮切りに銀華零白が何者かに重傷を負わされたという情報は瞬く間に瀞霊廷を駆け巡った

 

「実松、それは本当なのか…?」

 

雷山は銀華零が何者かに重傷を負わされたことが信じられない様子であった

 

「は、はい!三番隊・浮葉副隊長からのご報告で、現在総合救護詰所に収容されているそうです」

 

「…分かった。実松、少しの間留守を頼んでいいか?椿咲が来たらここで待機するように伝えてくれ」

 

「はい、了解いたし――――」

 

実松の返事を最後まで聞かずに雷山は四番隊舎へ向かい大急ぎで出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~四番隊・総合救護詰所~

 

 

「白!!」

 

病室の戸を叩く間もなく雷山は部屋へ駆け込んだ。銀華零の病室には三番隊副隊長・浮葉刃と四番隊隊長・卯ノ花烈、同隊副隊長・薬師寺見舞の3名がいた

 

「……!!」

 

寝かされ体中包帯だらけの銀華零の姿を見た雷山は絶句した

 

「…卯ノ花、白の容態は…?」

 

「…私にできることはしました。あとは本人次第ですが…」

 

言いにくそうだったが卯ノ花は続けて言った

 

「…おそらく、今夜が峠でしょう…」

 

「くそっ…くそっ…!!」

 

雷山は壁に額と右拳を押し付け後悔と怒りからくる自責の念に耐えていた。その姿は雷山が普段見せる、誰がやられようとも冷静沈着でいると言う姿からは到底想像できないような姿だったため薬師寺は思わず目を背けてしまった

 

「……浮葉。白を見つけた時どういう状態だったんだ…?」

 

少しの間の後、気分を落ち着けた雷山は壁に額と拳を合わせたまま浮葉に聞いた

 

「…自分が発見したときは既に瀕死の状態でした…そうだ!銀華零隊長が意識を失う直前何かを自分に伝えようとしてました!!」

 

その言葉を聞いた時雷山は初めて浮葉の方へ顔を向けた

 

「なんだと!?白はなんて言ってたんだ!!」

 

「『雨露さんたち…』と言っていました。しかし何故銀華麗隊長が雨露姉弟のことを指したのかが分からないんです」

 

「雨明と雨入か…十三隊に入ったばかりのあの二人が白を倒せるとは到底思えないんだが…念のため後で話を聞くか。浮葉、お前もついて来てくれ」

 

「はい!」

 

「しかし…あの銀華零隊長が瀕死の重傷を負わされるなんて私はとても信じられないのですが…」

 

ベッドに寝かされた銀華零の姿を改めて見た薬師寺見舞が口を開いた

 

「ああ、十三隊の誰もが信じられない話だろうな。今ここにいる白が幻覚の類と言う可能性も0とは言い切れないが、白がこうなってしまった以上非常に厄介なことになったな」

 

「ええ、銀華零隊長は雷山隊長や山本総隊長殿とも互角に戦える隊長です。その彼女がこうなってしまったと言うことは現時点でその敵に勝つことが出来るのは雷山隊長と山本総隊長殿の二人しかいないと言うことになります」

 

「おいおい。卯ノ花、実力だけならお前も十分戦えるだろ」

 

「護廷十三隊の回復の要である四番隊、その隊の隊長が前線に出てくると思いますか?」

 

「戦いの終盤ならそんなこと言ってられないだろ。まあ、俺と山本がやられた時は任せたからな。さて、では雨露たちに話を聞きに行くか」

 

雷山がそう言うと同時に病室に四番隊の隊士が入って来た

 

「失礼します。卯ノ花隊長、山本総隊長より召集がかかりました。至急一番者へ集合せよとのことです」

 

「……分かりました。見舞さん、後のことは任せましたよ」

 

「はい、分かりました!」

 

「緊急の隊首会か…悪いな、浮葉。雨露たちに話を聞きに行くことだがどうにも一緒に行けそうにない。代わりに椿咲を行かせようと思うんだがどうする?」

 

「…いえ、話を聞きに行くくらいなら私一人でも十分です」

 

「だが、雨露たちが今回の首謀者だったらどうする?白を倒すほどの実力だ。まず間違いなく命はないぞ?」

 

「ええ、その時は私の斬魄刀の能力であの二人を一生空間内から出れないようにします。どうかここは私一人で行かせてください」

 

浮葉の目からは確固たる決意が感じ取れた。一人で行かせるのは得策ではないと考えながらも雷山は浮葉の気持ちを汲んだ

 

「……分かった。だが、雨露たちを敵だと思って行動して行けよ」

 

「はい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~一番隊・隊首会議場~

 

 

「これより戦時特例を護廷大命に変更する。諸君、此度の反逆者を発見次第即刻処刑せよ!!」

 

杖を突く音がその場に響いた

 

「山本、まだ誰がやったか分からないうちに護廷大命にしてもいいのか?」

 

「事態は火急じゃ、ここで手を拱いておれば更なる被害が及ぶのは必至の事じゃ。そうなる前に手を打つのが我ら護廷十三隊の使命じゃ」

 

「そうは言っても護廷大命に変更するだけじゃ意味がないだろう。相手は白すら倒す程の強者だ。ただ即刻処刑に変更するだけじゃ―――ッ!!」

 

雷山たちが何かの気配に気づいた瞬間、隊首会議場の扉が開き始めた。しかしその一秒後扉が破壊され、扉の破片が議場内に飛び散って来た

 

「『放電(ほうでん)』!!」

 

扉の破片を避ける態勢に入る隊長たちの中で雷山は一歩前に出て瓦礫の全てを粉砕した

 

「済まない。助かった、雷山隊長」

 

「……一体これはどういうことだ?お前たち…」

 

破壊された扉の外には雨露雨入、雨露雨明の二人が立っていた

 

「どういうことって、今の行動が全てを物語っていますよ雷山隊長」

 

「……浮葉はどうした?」

 

「浮葉副隊長でしたらここにいますよ」

 

雨入が自身の後ろを指さすと目が虚ろでフラフラと歩いてくる浮葉の姿があった

 

「まさか銀華麗隊長が僕たちのことを浮葉副隊長に話していたなんてね。仕方ないからこうやって操ることにしたんですよ。浮葉副隊長、隊長方のお相手お願いしますね」

 

粗く斬魄刀を構えた浮葉が猛スピードで雷山に襲い掛かった。―――――がしかし

 

「がっ…!!」

 

雷山の目の前まで来た浮葉が突然、バランスを崩し転んだ。床に転がった浮葉を見ると胴の部分に六つの光が突き刺さっておりそれにより動きを封じられている状態だった

 

「”縛道の六十一”『六杖光牢』」

 

「……」

 

何の躊躇いもなく浮葉に鬼道を使ったことに雨露姉弟は少し驚いた表情をしていた

 

「あまり舐めた行動をするなよ。雨露雨入、雨露雨明」

 

「生憎舐めてなんかいませんよ。銀華麗隊長に散々言われましたからね。今回ここまで来たのはちょっとした目的があったんですよ」

 

「目的だと?それは大層なことだな。お前たちを捕まえた後でゆっくりと聞こうか」

 

そう言い雷山は雨露姉弟に斬りかかった。雷山の攻撃に対して雨露姉弟は攻撃を避けようと言う行動をしなかったが雷山の攻撃が通ることはなかった

 

ガンッ――――――――

 

「何をする春麗…!!」

 

「……」

 

雷山の斬撃を受け止めた狐蝶寺の目は虚ろな目をしていた。その目は虚圏で狐蝶寺の斬撃を受け止めた時に見た目と全く同じだと雷山は感じた

 

(ッ!!これは…この目はあの時の…)

 

ガンッ!! ガキンッ!! シュッ!!

 

二度の斬撃による攻防の後雷山は狐蝶寺の胴に峰内を食らわせるべく刀を振るったが、狐蝶寺はそれを避け逆に雷山の腹を蹴っ飛ばした

 

「ぐっ…!!」

 

腹を蹴られたことによるダメージはなかったが、蹴られた衝撃によって後方へ引き下げられてしまった

 

「じゃあ、僕たちは行きます。さようなら、護廷十三隊のみなさん」

 

次の瞬間風の渦が雨露姉弟と狐蝶寺を包み込んだ。風の渦が取れるともうそこには誰もいなかった

 

「待ちやがれ!!」

 

「雷山!!」

 

狐蝶寺を追いに行こうとする雷山を元柳斎の怒号が引き留めた

 

「雷山。おぬし、何処へ行くつもりじゃ?」

 

元柳斎の方へ向かずその問いに雷山は答えた

 

「言わなくても分かるだろ。春麗を連れ戻しに行くんだよ」

 

「ならぬ!此度の事件の首謀者は雨露雨明、雨露雨入、狐蝶寺春麗の3名であるとおぬしも分かっておろう」

 

「……」

 

「何も言わずか…こうなってしまった以上我らが動かぬわけにはいかぬ。現時点を以て緊急特例を護廷大命に変更する。雨露雨明、雨露雨入、狐蝶寺春麗の3名は捕縛を第一義とすることに変わりはないが、抵抗を示すようであれば処刑せよ!!」

 

「…お前の言いたいことはよく分かっているつもりだ。山本元柳斎重國総隊長…」

 

「ッ!!おぬし…」

 

元柳斎は口を開いた雷山が『山本』とは呼ばずに、自身のフルネームを呼んだうえ最後に”総隊長”とつけたことで雷山が引き下がらない程の覚悟を決めていると察した

 

「”例え誰であろうと反逆者は等しく処刑される”そんなことは分かっている。だが、どうしても俺は諦めきれない。きっと白…いや、銀華麗隊長も同じことを言うだろう。だから少し期限を設けてもらいたい。明日中に俺が狐蝶寺春麗を奪還できたと判断されなければ、俺はこの件から手を引く」

 

「貴様!!そんなことが許されると思うか!!」

 

雷山の提案に二番隊隊長・四楓院朝八が反発した。尸魂界の秩序を重んじる彼にしてみれば、雷山の提案はとても看過できるものではなかったためであった

 

「…良いじゃろう。ただし、条件がある。雨露雨明、雨露雨入両名はその期限関係なしとすることとし、狐蝶寺春麗の場合は期限を過ぎれば如何なる理由を述べようとも処刑を行うことになるがそれでも良いか?」

 

「ああ、俺か白がやってもダメならもう誰がやっても止められないからな」

 

「うむ。それだけ聞けば十分じゃ。今回の事件の始末は五番隊隊長・雷山悟に一任することとする。また、本日中に二番隊隊長・四楓院朝八を部隊長とする始末特務部隊を編成し明日出発とする!!」

 

「悪いな、恩に着る」

 

元柳斎に一礼した雷山瞬歩でその場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十一話(第四十七話)

雷山は、狐蝶寺を奪還するためには雨露姉弟との戦闘は避けられないと判断しており、隊長にも匹敵する実力を持つ椿咲も連れて行こうと五番隊舎へ立ち寄っていた。

 

隊長執務室へ入ると隊士たちから報告を受ける椿咲が対処しきれず混乱状態に陥っていた。椿咲も混乱に加え、雨入がいなくなったことの報告も入っており、事務能力に長けた実松も対処しきれずにいた

 

「た、隊長ぉ!!助けてください!!」

 

「椿咲、すぐに出かける用意をしろ。話はあとだ」

 

「えぇ!?ちょっと待ってくださいよ!ここに溜まっている書類の山はどうするんですか!?」

 

「今は構っている暇はない。それにその書類ほとんどが必要なくなるはずだ。実松、俺は今から雨露姉弟を追いかける。万が一のことも考えられるが、後のことは山本に任せてあるから山本の指示に従ってくれ」

 

「は、はい!」

 

実松は状況を理解できていなかったため、雷山が最後に言った”山本の指示に従ってくれ”と言うことに対して返事をした

 

「よし、椿咲行くぞ!!」

 

「隊長!?ちょ、ちょっと待ってくださいよ~!!」

 

執務室を飛び出して行った雷山の後を椿咲は慌てて追いかけて行った

 

「一体どうしたんですか!?雨入ちゃんもいなくなっちゃうし、白さんが誰かに倒されたって言うし…」

 

瀞霊廷を出たところで立ち止まる雷山に追いついた椿咲が今までの事の成り行きを聞いてきた

 

「簡潔に言うぞ。まず、雨露たちが今回の事件の首謀者だった。そして白が倒されたことで開かれた隊首会の場に雨露たちが現れ、春麗を連れて姿を消したんだ。あの場での春麗の姿を見て確信した。おそらく虚圏で春麗が暴走した原因はあいつらだ」

 

「雨入ちゃんたちが首謀者…!?白さんを倒したのもあの二人なんですか!?」

 

「ああ、実際にあいつらの口から聞いたわけじゃないが、あの口ぶりからして白を倒したのはあいつらだろうな。そしておそらく志波も…」

 

「そんな…あの二人が…」

 

椿咲は雷山以上に雨露姉弟と深く関わっていたため、二人銀華零と志波の二人を倒したことを信じられない様子だった

 

「分かっていると思うが気を引き締めろよ。あいつらが春麗を操っていると言うことが分かった今、少なくともあの二人のどちらかは始解を会得している」

 

「始解ですか!?いくら何でも会得するのは早すぎますよ!」

 

「ああ、だから今まで首謀者の名に上がってこなかったんだ。……見つけた、春麗はこっちか。椿咲、飛ばすぞ!!」

 

雷山は先程の攻防の最中、狐蝶寺の斬魄刀に静電気と言う形で自身の霊圧を纏わせていた。狐蝶寺だけの霊圧ではとても追える状況ではなかったが、自身の霊圧はいくら離れていようともその痕跡が残っているため探し出すことが出来たのだった

 

「それにしても、なんであの二人が春麗さんを連れて行ったのでしょう…」

 

「さあな、少なくとも俺は春麗からも白からも”雨露雨明””雨露雨入”の名前は聞いたことがない。あの二人に聞けば分かることだが、そう簡単に教えるとも思えないしな…っと思った以上に早く追いついたな」

 

椿咲が前方を見ると十三という文字が書かれた隊長羽織を着る狐蝶寺の背中が見えた

 

「春麗!!」

 

その呼びかけに一度立ち止まり振り返る狐蝶寺だが、その目は雷山たちを見ておらず上の空の状態だった

 

「…てっきり動ける隊長格全員が来ると思ってたんですけど。雷山隊長と椿咲副隊長の二人だけですか。これに関しては想定外だね」

 

「だけど、そんな想定外なんて私たちにとってのハンデとはならない…」

 

狐蝶寺の上にある枝に雨明と雨入の二人が座っていた。その様子から護廷十三隊の誰かが来るのを待っていたと言う様子だった

 

「お前たち…」

 

「あなたも随分しつこいですね雷山隊長。あなたがいくら頑張ろうと、もう狐蝶寺隊長はそちらへは戻らないと言うのに…」

 

「…何故こんなことをした。こんなことをしてもお前らにメリットは何一つないだろ」

 

「メリットがない?それはあなたの主観での話です。僕らにとっては死ぬ可能性があるというデメリット以上のメリットがありますよ。ですが、雷山隊長には到底わからないことです。狐蝶寺隊長のことを何もわかっていないあなたではね…」

 

「春麗のことを名にも分かっていないだと?まるでお前らは知っているような口ぶりだな!!」

 

雷山は抜刀し雨明に斬りかかろうとした。その攻撃に反応するように狐蝶寺が間に入り受け止めようとしていた

 

「無駄ですよ。瀞霊廷での攻防で分かったでしょう。僕たちが攻撃されれば全て狐蝶寺隊長が庇ってくれるとね」

 

「そんなこと分かりきったことだ」

 

「なに?」

 

雷山は斬魄刀を横一閃に振り抜こうとしていたが、それを途中で止め狐蝶寺の懐に入り背負い投げの要領で狐蝶寺を投げ飛ばした

 

「椿咲!!少しの間でいい、春麗を足止めしておいてくれ!!」

 

椿咲は雷山に言われた通り狐蝶寺が雷山の元へ行かないように立ち塞がった。雷山に投げ飛ばされた狐蝶寺は空中でバランスを整え着地しゆっくりと立ち上がった

 

「…春麗さん。あなたを必ず正気に戻します!!」

 

「やっぱり銀華零隊長より先に雷山隊長をどうにかするべきだったかな…」

 

雷山の斬撃を紙一重で躱しながら雨明が呟いた

 

ガキンッ!!

 

「やはり白を襲撃したのはお前か…」

 

「そうですよ。その時雷山隊長も倒そうと思っていたそうなんですけどね…」

 

雨明が瞬歩で雷山の目の前から消えたと同時に背後に雨入が現れた

 

「だから私が雷山隊長を訪ねたんですよ!!”破道の六十三”『雷孔砲』!!」

 

雷山は雨入の鬼道が放たれる直前、反鬼相殺で鬼道を打ち消した

 

「この程度で俺を倒せると思うな!!」

 

「きゃあ!!」

 

椿咲の悲鳴が聞こえ雷山は反射的に声が聞かれた方を見た。椿咲は狐蝶寺に弾き飛ばされ木に背中を打ち付けていた

 

「南美ちゃん、もう終わりなのぉ?へへへっ!!」

 

狐蝶寺は酔った様に頬を紅潮させ、気分が高揚している状態だった

 

「もっとさぁ…楽しい殺し合いをさせてよ!!あの時(500年前)みたいに、いろんなことを忘れてただ戦いに没頭できる殺し合いをさあ!!」

 

その時狐蝶寺の霊圧がさらに上昇した

 

「春麗さん…?」

 

普段の様子からは想像もできないような狐蝶寺の変貌ぶりに椿咲もただ呆然とするとしかできない様子だった

 

「春麗さんどうしちゃったんですか!?元の春麗さんに戻ってください!!」

 

「元の私ぃ?これが私の本性だよ?そんなことよりもさぁもっともぉっと…」

 

殺し合おう(遊ぼう)よ…」

 

「南美ちゃん…?」

 

「ひっ…!!」

 

不気味な殺気を放つ狐蝶寺に椿咲は完全に戦意を喪失してしまった

 

「春麗…!!」

 

「”破道の六十三”『雷孔砲』」

 

その瞬間誰もいない方向から鬼道が飛んできた。その方向からして雷山、椿咲が放ったものではないことは明白だった

 

「『雷孔砲』だと!?いったい誰が…」

 

「…気味の悪い殺気がすると思って見に来てみれば、いったい何をやっているんだ?雷山」

 

現れた一人の人物に雷山と椿咲は驚き、雨明と雨入は警戒感を示した

 

「何故お前がここにいるんだ。六道」

 

そこには少し前に初代隊長たちを蘇らせ瀞霊廷で反乱を起こした初代護廷十三隊十二番隊隊長・六道死生が立っていた

 

「何故と言われてもな…強いて理由(ワケ)を挙げるなら流魂街に住む少年(ガキ)とこの辺りまで来ていたから、だろうな」

 

「…驚いたな。まさかお前が特定の誰かと一緒にいるとは…」

 

「俺の話なんかどうでもいい。それよりこの状況を説明してもらいたい。何故、狐蝶寺春麗がお前たちに刃を向けているんだ?」

 

「簡単に言えば、あの二人が春麗を操っている状態だ」

 

「なるほど。つまりは暗示の類の能力というわけだな」

 

「誰だが知らないんだけどさ、僕たちの邪魔はしないでもらえるかな」

 

雨明と雨入は突然現れた六道に対して過剰ともいえるほどの警戒感を示していた

 

「悪いが見ず知らずの餓鬼の言うことを聞いてやるほど、俺はお人好しではないんでね。”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』」

 

六道は雨明に向け鬼道を放ったが、狐蝶寺が刀を振るっただけで鬼道を相殺した

 

「…本気だな」

 

六道はその攻防一つで狐蝶寺が稀に見せる本気の状態だと見抜いた

 

「なるほどな。何故雷山ともあろうものが手をこまねいているのかと思えば、そういうことか」

 

「ああ、だから今はお前に構っている暇はないんだ。戦いたいならまた今度にしてくれ」

 

「お前と戦う気はない。だが、俺を倒した奴が俺より実力が下の者に殺られるのは癪だ。非力だが、手を貸してやろう」

 

「何人集まっても同じことですよ!!」

 

「果たしてそれはどうかな?」

 

雨入は背後から聞こえたその声に驚いた。咄嗟に目を向けるとさっきまで雷山の隣に立っていたはずの六道がそこにいた。

 

「”破道の六十三”『雷孔砲』」

 

「くっ…!!」

 

雨入は六道が放った鬼道をギリギリで躱した

 

「さすがに雷山を退けているだけはあるな。”修羅道”を使っても攻撃を見切るとはな」

 

攻撃を躱された六道は余裕を見せるように立っていたが攻撃を避けた雨入は反対に冷や汗をかいていて動揺を隠せていなかった

 

「み、見えなかった…」

 

そう一言呟いた雨入は一瞬にして六道が”修羅道”と呼んだ技が非常に恐ろしい技だと感じ取った。

 

(狐蝶寺隊長は今、私たちが攻撃を受ければその攻撃から守ってくれる。だけど今のは狐蝶寺隊長が反応()()()()()んじゃない…反応()()()()()()んだ…)

 

雨入は雨明の斬魄刀をよく知るがために、狐蝶寺が対応できなかったことを理解したがそれは信じがたいことであった。そしてその攻防を見ていた雷山は一見すると無敵とも思える雨明の技に弱点と成り得る点を見つけ出した

 

「なるほど、そういうことか…!!」

 

(六道行使”修羅道”は文字通り六道の身体能力を抜群に上げる技だ。そしてそれは白でも捉えられない程の速さになる。つまりいくら春麗を操ろうが、捉えられない攻撃は庇いようがないということか…!!) 

 

「六道!!」

 

六道の隣へ移動した雷山は、自分が気づいた点を雨露姉弟に聞こえないように小声で伝えた

 

「…知られちゃったかな」

 

その様子を見ていた雨明は自身の能力の一つの弱点を見つけられてしまったと確信した

 

「雨明、ごめんね」

 

六道が雷山に気を取られている隙に雨入は雨明の隣までやって来た

 

「気にしなくてもいいよ。それより準備は出来た?」

 

「うん。いつでも出来るよ」

 

「そう…」

 

雨明は静かに笑みを浮かべていた

 

「…なるほど、確かにそれは考えられる話だな。」

 

「ああ、だからもう一度…」

 

雷山と六道が雨露姉弟に目を向けてようやく二人が木の上に移動していることに気が付いた

 

「そんなに距離を取ってどうしたんだ?さっきの攻防がそんなに怖かったのか?」

 

「…雷山隊長、僕の能力(ちから)を穴を見つけたのは見事です。ですが、それを見つけたところで意味を成さない。何故ならあなたとはここでお別れとなるのですから」

 

「面白い冗談だな。この状況でどうやって逃げるんだ?いくら春麗を操っているとは言ってもお前たちが相手にしているのは、隊長二人だぞ」

 

「それでもお別れとなるのですよ」

 

「”破道の九十三”『猛蛇蝶形花』!!」

 

雨明は狐蝶寺に鬼道を使わせて雷山と六道の意識を鬼道を避ける方に向けさせ一瞬の隙を作り出した

 

「くそっ…!!」

 

「”卍解”『梅雨染櫓(つゆぞめやぐら)』」

 

”卍解”の声が聞こえたときには雨入と雨明を中心に大量の水が辺りを覆い尽くしながら渦を作りつつあった

 

「…もし銀華零隊長の意識が戻ったらよろしくお伝えください」

 

「雷山隊長。少しの間でしたがとても楽しかったです。さよなら」

 

その渦の中に雨露姉弟と狐蝶寺が入って行くと同時に急激に渦が収縮し始めた

 

「くそっ、待ちやがれ!!」

 

その時雷山の目に未だ戦意喪失でうな垂れている椿咲が目に入った

 

「椿咲、何をやっている!!行くぞ!!」

 

しかし椿咲は雷山の声を聞いてもその場から動けずにいた

 

「……」

 

それを見かねた六道は椿咲の腕をおもむろに掴んだ

 

「えっ!?何を…」

 

「受け取れ、雷山!!」

 

六道はどんどんと収縮して行っている渦へと椿咲を投げた

 

「六道、お前…」

 

「雷山悟、椿咲南美、俺を打ち破った時の意地を見せて来い!!」

 

その渦の中に椿咲が投げ込まれたと同時にその渦は消えてしまった。

 

「…雷山、負けたらただじゃ置かないからな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名前 雨露雨入(あまつゆあいり)※二十一話初登場
所属 護廷十三隊五番隊隊士
身長159㎝ 体重49㎏
容姿 肩まで伸びている黒髪をリボンで結んでいる髪型をしている
性格 やんちゃで大胆不敵な性格をしている。ただし椿咲と違い仕事はこまめにやるという一面も持っている
斬魄刀 雨入(あまいり) 解号:雨よ降れ
能力 相手の持つ能力を強制的に封じる能力
始解能力の発動条件:死神なら相手の刀、虚なら仮面に刀で触れること
卍解 梅雨染櫓(つゆぞめやぐら)
能力 相手を湖の上に浮かぶ城下町を彷彿させる空間に閉じ込める能力。この空間内では、対象一人の斬魄刀の能力、技を封じることが出来る
備考 雨明の双子の姉で弟といつまでも仲良くしていたいと思っている。過去に狐蝶寺に助けられ狐蝶寺と共に自身の卍解の能力で造り出した空間に住もうと計画をしている。実力は志波空山や椿咲とも互角以上に渡り合うことができるほど高い

御触書(おふれがき):卍解使用時のみ使える技。この御触書は対象一人に一つしか使用できず、同じ御触書を別の人物に使うことも出来ない。また、一つの御触書を発動したらしばらくの間は同じ御触書を使うことが出来ない
落城(らくじょう):卍解空間を急激に収縮させ、空間内にいるすべての者を押しつぶす技


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第十二話(第四十八話)

渦を抜けると雷山と椿咲の目の前には巨大な湖の上に城下町が広がっているような景色が広がっていた

 

 

「ここが、あいつらの本拠地と言ったとことか…」

 

「雷山隊長、その…さっきはすいません…」

 

「…気にするな。あんな不気味な殺気を向ける春麗を目の当りにしたら戦いたくなくなるだろ。特にお前と山吹はな」

 

「ありがとうございます。それでここはどこなんでしょう」

 

「雨入は間違いなく”卍解”と言った。だとするならここは雨入の卍解空間内と考えるのが妥当だ」

 

「その通りです」

 

何処からともなく雨露雨入の声が聞こえてきた。咄嗟に雷山は辺りを見回したが人影一人見つけることが出来なかった

 

「ここは私の”卍解”『梅雨染櫓』の空間内です。ここで志波隊長と銀華零隊長を倒したんですよ」

 

「…なるほど、どうりで名前が挙がってこないわけだ。護廷十三隊に入ったばかりの奴が”卍解”を会得しているなんて普通は考えつかないからな」

 

「ええ、おかげで動きやすかったですよ。いくら暴れても疑われないのですから」

 

「…せっかくここまで来てやったんだ。大人しく春麗を返してもらおうか」

 

「雷山隊長、まさかとは思いますが、その問いに私が”Yes”と答えると思いますか?」

 

その瞬間家屋の中から狐蝶寺が現れ斬りかかってきた

 

「ちっ!!」

 

雷山はバク転の要領で後ろへ飛び退き狐蝶寺の攻撃を躱した。顔を上げると狐蝶寺の両サイドの家屋の屋根に雨明と雨入が立っていた

 

「あなたも本当にしつこいですね。狐蝶寺隊長はそちらに戻ることもないと言うのに」

 

「…お前はデメリット以上のメリットがあると言ったな。あれはどういう意味だ」

 

「僕たちが答える義理も義務もはありませんよ。そんなことよりあなたにはこの空間から出て行ってもらいたいのですが…」

 

「やれるものならやってみろ”雷光光(らいこうひかり)雷鳴鳴(らいめいな)らせ”『雷斬(らいざん)』!!」

 

始解した雷山の周りでスパークが起こり始めたが、すぐにそのスパークが起こらなくなった

 

「ッ!?これは…」

 

「これこそが私の”卍解”『梅雨染櫓』の能力です。これであなたはこの空間内では斬魄刀の能力を一切使用できない!!そして逆に狐蝶寺隊長は思う存分『風芽』を扱えるわけです!!」

 

その時雷山に斬魄刀を解放して巨大な扇を持った狐蝶寺が迫っていた

 

「なるほどな…」

 

不意を突かれた形だったが雷山は狐蝶寺の持つ扇を受け止めていた

 

「これ程緊迫する戦いは久しぶりだな…!!」

 

状況的には不利に見えたが、雷山は戦いを楽しんでいるように笑みを浮かべていた

 

「悪いが春麗、まずお前には気絶していてもらおうか!!……何!?」

 

雷山は『静電気』と言う技を使おうとしたが、その技が使うことが出来なくなっていることに気付いた

 

「ちっ…」

 

何もできない、何も策を練っていない状態で春麗のそばにいることは不利になると判断した雷山は狐蝶寺の扇を払いのけ距離を取った

 

「『雷斬』の”能力”だけではなく”技”までも封じるか…」

 

「雷山隊長!!大丈夫ですか!?」

 

着地した雷山の隣に椿咲が瞬歩で現れた

 

「椿咲、お前はまだ手を出すな。まずは俺が戦ってお前にあいつらの戦い方の癖を見せる。お前が参戦するのはその後だ」

 

「…了解しました」

 

「”破道の八十八”『飛竜撃賊震天雷砲』!!」

 

雷山は雨露姉弟に接近するための囮として鬼道を放った。雷山の鬼道を防ぐ術を持たない雨露姉弟は避けるしかなくそこを雷山が突いた

 

「くっ…!!さすがにあなたと一対一(サシ)での勝負では勝ち目はなさそうですね…!!」

 

空中で雷山の刀を受け止める雨明が呟いた。その間に雷山の背後には狐蝶寺と雨入が迫っていた

 

「隙を突いているつもりだろうが、春麗は最優先で警戒しているんだよ!!」

 

雷山は振り返ることなく狐蝶寺の刀を躱し雨明ごと狐蝶寺を水面へと叩き落した

 

「雨明!!狐蝶寺隊長!!」

 

「次はお前の番だよ…!!」

 

雨入は突きを繰り出したが雷山は刀で突きの軌道を逸らし雨入の懐に入り込んだ

 

「そんな…!?」

 

雷山は雨入の死覇装を掴み背負い投げの要領で雨入を地面へ投げた

 

「がっ…!!」

 

「姉さん!!」

 

慌てて雨入に駆け寄ろうとする雨明だが雷山が行く手を阻んだ

 

「他人の心配をしている場合か!?」

 

「くっ…!!」

 

「うっ…痛てて…」

 

雨入が身体を起こすと椿咲が立ち塞がっていた

 

「…椿咲副隊長、私に何か用ですか?」

 

雨入の問いに椿咲は背を向け雷山に向け叫んだ

 

「雷山隊長!!雨入ちゃんは私が何とかするのでそちらは春麗さんと雨明くんをお願いします!!」

 

「なっ!?」

 

その一言は狐蝶寺を除く全員を驚かせた

「お前が勝手に決めんな!!だが…」

 

「うぐっ…!!」

 

雨明は雷山の刀を受け止めていたが、雷山の瞬歩を捉えられずに腹部を斬られた

 

「いい判断をするようになったな!!」

 

「はぁ…はぁ…くっ…!!」

 

雨明は息が上がりながらも傷口を手で押さえながら雷山を睨みつけていた

 

「さあ、決戦といこうぜ。雨露雨明!!」

 

「くっ…!!狐蝶寺隊長!!」

 

雨明が叫ぶと狐蝶寺が反応し雷山を無理やり退けた

 

「…決戦ですか。確かに最後の戦いになるでしょう。もちろんあなたの敗北で終わりますがね」

 

「言ってな!!」

 

雷山は雨明に再度斬りかかろうとしたが間に狐蝶寺が割ってい入り代わりに斬撃を受けた。狐蝶寺は雷山の斬撃を容易く受け止めたがその衝撃は凄まじく、辺りに衝撃波を生じさせるほどだった

 

「やはり先に春麗をどうにかしないとダメか…」

 

「……」

 

雷山が考え事をしようとした一瞬の気の緩みを狐蝶寺は見逃ず刀を若干逸らし力を入れている雷山の態勢を崩した

 

「うおっ!?」

 

バランスを崩し刀傷を受けながらも雷山は飛び退いて二撃目を躱した。飛び退きながら雷山はけん制の為に鬼道を放った

 

「”破道の八十八”『飛竜撃賊震天雷砲』!!」

 

巨大な雷撃が目の前まで来たとき狐蝶寺はただ一言呟いた

 

「『断空』…」

 

その瞬間狐蝶寺の目の前に透明な防壁が現れ雷山が放った鬼道を防ぎきった

 

「鬼道なら…と思ったんだがな…」

 

その瞬間狐蝶寺が密かに放っていた『鎖条鎖縛』が雷山を捕らえた

 

 

毒牙(どくが)(へび)吸血(きゅうけつ)(ちょう)蛇蝎(だかつ)(はな) 忘却(ぼうきゃく)(のぞ)(くろ)鬱金花(うこんか) (わか)れを()げる友禅菊(ゆうぜんぎく)―――――――――――――――

 

 

狐蝶寺が詠唱をしているすぐ横では足元に広がる水が風により舞い上げられ、いくつもの蛇の姿を形成し始めていた

 

「ッ!!この鬼道はまずい…!!”縛道の九十一”『枷外(かせはず)し』」

 

狐蝶寺が放たんとしている鬼道の威力を知っている雷山は迎撃しようと己にかけられている縛道の解除に取り掛かった

 

 

―――――――――――――――暴蛇(ぼうじゃ)舞蝶(ぶちょう)(くろ)(あめ)()たれる(はな) 戦慄(せんりつ)(おぼ)える意識(いしき)(そこ) (ちょう)(にら)まれる落魄(らくはく)(みこと) ()(ころ)され・(うしな)い 無惨(むざん)()()せよ ”破道の九十三”『猛蛇蝶形花(もうじゃちょうけいか)』!!」

 

 

狐蝶寺が『猛蛇蝶形花』と叫ぶと同時に何体もの水の蛇が雷山に向かっていった。それと同時に雷山を捕らえていた『鎖条鎖縛』が消滅し雷山は咄嗟に叫んだ

 

「”破道の九十五”『雷弾狼炎椛(らいだんろうえんか)』!!」

 

雷山が叫ぶと同時に背後にモミジの葉を模った雷の陣が現れそこから雷で形成された狼が現れた。その狼は向かって来ている水の蛇を飲み込み爆発して霧散した。爆発、霧散したため辺りは白い煙に覆われた

 

(銀華零隊長の時は失敗したけど今度こそ…!!)

 

雷山の視界が塞がれていることを利用して雨明は突きを繰り出したが、雷山は刀を掴むことでその攻撃を防ぎ、反対に雨明に切り傷を与えた

 

「はぁ…はぁ…何故だ…何故狐蝶寺隊長と僕の二人がかりでも倒せないんだ…!!」

 

「簡単な話だ。俺とお前では実力も経験値も違うということだ。例え春麗を使ってもそれは変わらない」

 

「くっ…!!」

 

「…もう気が済んだだろう。春麗を返してもらおうか」

 

雷山は刀の切先を雨明に向けながら言った。その瞬間雨明は怒りによって震えだした

 

「くっ…誰が…誰が…狐蝶寺隊長を奪わせるものか!!」

 

雨明は雷山の刀を弾いて一瞬の隙を作り狐蝶寺の隣へ移動した

 

「…何故思いつかなかったのだろう。こんな回りくどいことをしなくてももっと楽な方法があったと言うのに…!!」

 

「…もっと楽な方法だと?」

 

「…雷山隊長は僕の能力(ちから)が何か知ってます?」

 

「……お前、まさか…!!」

 

その時雷山は雨明が何をしようとしているのかを察した

 

「…どうやら気付いたようですね」

 

「雨明!!それを使ったら狐蝶寺さんが狐蝶寺さんじゃなくなっちゃう!!」

 

雷山が動こうとした瞬間雨入が割って入って来た

 

「邪魔をしないで!!」

 

雨明は止めに入った雨入を振り払った

 

「大丈夫だよ姉さん。狐蝶寺隊長は僕と共に生きていくのだから…」

 

「かはっ!!」

 

次の瞬間、雨明は狐蝶寺の身体を斬魄刀で貫いた

 

(ぼく)身体(からだ)()(わた)せ”卍解”『夢病遊戯(むびょうゆうぎ)』!!」

 

その瞬間雨明と狐蝶寺の身体を凄まじい光が包み込んだ

 

雨明がやろうとしていることを防げなかった悔しさと怒りから雷山は叫んだ

 

「雨明ぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




”破道の九十三”『猛蛇蝶形花(もうじゃちょうけいか)』

効果:蛇を模した風で相手を捕らえ、身体の至る所から蝶形花を咲かせ、蝶形花事相手を散らせる技

詠唱:毒牙(どくが)(へび)吸血(きゅうけつ)(ちょう)蛇蝎(だかつ)(はな) 忘却(ぼうきゃく)(のぞ)(くろ)鬱金花(うこんか) (わか)れを()げる友禅菊(ゆうぜんぎく) 暴蛇(ぼうじゃ)舞蝶(ぶちょう)(くろ)(あめ)()たれる(はな) 戦慄(せんりつ)(おぼ)える意識(いしき)(そこ) (ちょう)(にら)まれる落魄(らくはく)(みこと) ()(ころ)され・(うしな)い 無惨(むざん)()()せよ


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第十三話(第四十九話)

「『雨入ちゃんは私が何とかするので』ですか。椿咲副隊長、それは本気で言っているのですか?」

 

「雨入ちゃんは私が嘘で言っているように見えるんだ」

 

「…なるほど。確かに嘘ではなさそうですね。私にとってみれば誰が何を言おうと勝手ではありますが、私を倒せるなんて思われるのは心外です」

 

雨入は切先を椿咲に向けるように斬魄刀を構えた

 

「言っておきますが、あなたでは私に勝てませんよ」

 

「そんなのやってみないと分からないよ?”卍解”『陽華幻想月(ようかげんそうが)』」

 

「”卍解”をしても無駄です。私の”御触書”の前では何人も…」

 

その瞬間雨入の目に映る椿咲の姿がノイズが走ったように歪んだように見えた

 

(今のは一体…)

 

「…どうしたの?私をそんなに見つめて」

 

「何でもありません。そんなことよりもやるなら早くしましょう。何せ私は、あなたをさっさと倒して雨明を助けに行かないといけないんですから」

 

「…へぇ、私をさっさと倒すねぇ…」

 

椿咲は不愉快そうに眉を細めた

 

「まずは厄介なあなたの卍解を封じましょうか…」

 

その瞬間雨入は何者かの気配を背後に感じ取り飛び退いた

 

「…バカな」

 

自身のいた場所を見た雨入がただ一言呟いた。何者かの気配を感じ飛び退いた雨入だったがそこには誰もいなかった

 

(私が読み間違えた…?)

 

「さっきからどうしたの?急に飛び退いたり、ぼーっとしたりして、そんなに落ち着きがないなら――――――――」

 

 

 

 

 

”―――――――――――死ぬよ・・・?”

 

 

 

 

 

それは一瞬の出来事だった。雨入の眼にはコンマ一秒前まで自身の数メートル前に立っていたはずの椿咲が瞬歩を使ったわけでもなく急に背後に現れたように見えていた

 

「はぁ…はぁ…」

 

「へぇ…今のを躱すんだ…」

 

完璧に不意を突かれた形だったが、雨入は二の腕に切り傷を負いながらも椿咲の斬撃を避けていた

 

「さすがに白さんに勝っただけはあるよ。だけどショックだなぁ…今のは上手くいったと思ったのに…」

 

「今のは…幻覚…?」

 

「…まあ、五番隊に属していたんだから私の斬魄刀の能力を知っていてもおかしくない話だよね」

 

「当然知っていますよ。故に解せません。あなたの斬魄刀は”相手に幻覚を見せる能力”のはずです。幻覚とはありもしない出来事を見てしまう事を意味します。ありもしない出来事、すなわち実体のない存在が私に傷をつけることは不可能なはずです。一体どんな小細工をしたのですか?」

 

「それくらい自分で考えなよ。それに今や”敵”になった雨入ちゃんに教えるわけないじゃない。まあ、言うなら気を抜かないことだね」

 

「…確かめるしかないですか”縛道の五十六”『雷鳴光』」

 

「ただの目暗ましかな…」

 

落雷による光が収まった時も雨入は変わらずその場に立っていた

 

「……」

 

その行為は椿咲に警戒させるには十分だった

 

(わざわざ『雷鳴光』を使ってまで姿を隠そうとしたのにその場に留まるのは私を誘っているとしか考えられない…仕方ない、念のためまたあれで攻撃しよう)

 

椿咲は一瞬にして雨入の背後に立っていた。雨入はそれを予想しており振り向きざまに刀を横一閃に振り抜いたが、椿咲はすでに雨入の頭上におりそのまま刀を雨入の脳天から突き刺した。

 

「…なるほど。そういうことだったんですね」

 

そう一言言うと雨入は陽炎のように歪み始め消えてしまった

 

「…そうか。だからこその『雷鳴光』ってわけね…」

 

雨入が呟いた一言で椿咲は雨入の一連の奇妙な行動の目的を察した様子だった。一方の雨入は椿咲から離れた場所に陽炎の如く姿を現した

 

「ええ、おかげでカラクリが見えましたよ。一言で言ってしまえば、”実体のある幻覚”ですよね、それ」

 

「…つい最近完成させたのに、もう見抜かれちゃった」

 

そう言うと椿咲は雨入に見せつけるように二人目の幻覚を作り出して見せた

 

「見抜かれちゃたものは仕方ない。教えてあげるよ。これが私が新しく完成させたの技の一つ”有幻影”」

 

「有幻影…?」

 

「限りなく本物に近い幻覚ってことだよ。現世だとドッペルゲンガーって呼ばれているかな。この有幻影の最大の特徴は普通の幻覚と違って相手に触れることができるんだ―――」

 

「―――そして私が卍解を使っている間は―――」

 

「―――どこにでも出現させたり消したりすることが出来るんだよ」

 

雨入の周りには何人もの椿咲が現れたり消えたりを繰り返していた

 

「…改めて思いますが、反則みたいな能力ですね」

 

「他人の能力を無効化出来る子がよく言うよ。ところでさなんで私の”有幻影”を封じようとしないの?」

 

椿咲はその言葉を口にした瞬間雨入の眉がピクッと動いたのを見逃さなかった

 

「…封じようと思えばいつでも”御触書”で封じることは出来ますよ。ですが、せっかくなら本気のあなたを打倒したいと思いまして」

 

「へぇ…」

 

その瞬間雨入の身体に地面から飛び出てきた鎖が巻き付いた。それは椿咲の”有幻影”を一目見て違和感を感じるほど勘が鋭い雨入にしてみれば避けるのは簡単と言える程度のものだった

 

「ッ!!」

 

「その割には動揺しているね。こんな簡単に捕まっちゃうなんてさっきまでの雨入ちゃんとは大違いだよ」

 

「こんなものすぐに解除できる…!!」

 

椿咲は深く息を吸い込み、そして吐き、集中するように目を閉じて一言一句をはっきりと言うように詠唱をし始めた

 

「……”滲みだす混濁の紋章 不遜なる狂気の器――――――――――

 

 

「ッ!!くっ…!!こんなもの…!!」

 

椿咲が鬼道の詠唱をし始めたことを察した雨入は何とか逃れようともがき始めた

 

 

―――――――結合せよ 反発せよ 地に満ち己の無力を知れ」

 

椿咲は詠唱を終えるとゆっくりと目を開けた。目の前には抜け出せずにいる雨入の姿があった

 

「”破道の九十”『黒棺』」

 

椿咲は腕を前に伸ばしただ一言呟いた。その瞬間、雨入を囲うように足元から漆黒の直方体が出現し始めた。それは雨入の囲い込んだ後、一秒も持たずにヒビが入り崩壊してしまった

 

「はぁ…はぁ…」

 

椿咲が放った『黒棺』は威力にしてみれば微々たるものだったが、通常の威力ならば致命傷は避けられなかった事実と恐怖が雨入の脳裏にトラウマを植え付けた

 

「…やっぱり九十番台の鬼道は完全詠唱してもまだ威力が維持できないや。あれ、どうしたの?すごい汗だよ?」

 

「な、なんでもないっ!!」

 

雨入は動揺と焦りから無策の状態で椿咲に真正面から攻撃を仕掛けた。当然それは隙だらけの攻撃であり愚行とも言える行為だった

 

「余程鬼道での攻撃が堪えたみたいだね。さっきまであった精練された動きがなくなってるよ!!」

 

椿咲には雨入の攻撃を躱しながら会話をしている余裕さえある様子だった

 

「ぐっ…!!うるさいうるさいうるさいうるさい!!」

 

雨入の攻撃を余裕を持って躱していた椿咲だったが、水面に着地した際に足を滑らせる隙を作り出してしまった

 

「しまっ――――」

 

「もらった!!」

 

雨入は刀を椿咲の腹部に突き刺した。しかし椿咲はダメージを負った様子はなく笑っていた

 

「言ったじゃないの。『卍解を使っている間はどこにでも出現させたり消したりできる』ってね」

 

「ッ!!」

 

目の前にいる椿咲が笑みを浮かべながら消えると同時に雨入の背後に刀を構えた椿咲が現れた

 

「さあ、どこから偽物だったでしょう?」

 

「そんなの…関係ない…!!」

 

雨入は椿咲に斬り捨てられる覚悟で振り向きざまに椿咲を斬ろうとした。しかしその刹那椿咲の身体が自身をすり抜けたことで幻覚であると気付いた

 

「残念だけど、私は有幻影ですらないただの幻覚だよ。本物はあっち」

 

指さす方向へ目を向けると椿咲が手を振ってこっちを見ていた

 

「私を愚弄して…!!」

 

頭に血が昇っていた雨入だったが、深呼吸をし冷静さを取り戻した

 

「…私があなたを倒せなくてもいいんですよ。雨明と狐蝶寺さんが雷山隊長を倒せばそれで私たちの勝ちに…」

 

「……?」

 

椿咲は解せなかった。雨入が雨明と狐蝶寺の二人を見た瞬間に驚愕の表情を浮かべそのまま固まってしまったためである

 

「雨明…!?まさか…!!」

 

雨明がやろうとしていることを察した雨入は自身でも驚くほどの速度で二人の元へ急いだ

 

「雨明!!それを使ったら狐蝶寺さんが狐蝶寺さんじゃなくなっちゃう!!」

 

雨入は雷山と雨明の間に割って入った

 

「邪魔をしないで!!」

 

雨明は止めに入った雨入を振り払った

 

「きゃっ!!」

 

「大丈夫だよ姉さん。狐蝶寺隊長は僕と共に生きていくのだから…」

 

「かはっ!!」

 

次の瞬間、雨明は狐蝶寺の身体を斬魄刀で貫いた

 

(ぼく)身体(からだ)()(わた)せ”卍解”『無病遊戯(むびょうゆうぎ)』!!」

 

その瞬間雨明と狐蝶寺の身体を凄まじい光が包み込んだ

 

雨明がやろうとしていることを防げなかった悔しさと怒りから雷山は叫んだ

 

「雨明ぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




椿咲南美の持つ斬魄刀:『月華(げっか)』

解放をしても斬魄刀は変化せず未解放状態のままの形状となる。また、解放と同時に「天相従臨」が発動し辺りを一切曇る事のない満月の夜に一変させる。その月明りを用いて相手に幻覚を見せる能力を持つが

『自身より霊圧、実力共に上の者には一切通用しない』

『あくまで姿のみを別人に見せるため霊圧を正確に読める者には通用しない場合がある』

という2つのデメリットがある(姿を見えなくすると言うことは始解状態でも使うことが出来る)。解号は”月夜(つきよ)(まぎ)れよ”


【卍解】の名は『陽華幻想月(ようかげんそうが)』

卍解をしても斬魄刀の形状が変化することがないが、始解時に強制的に満月の夜にする「天相従臨」を椿咲の加減で太陽が真上に昇る昼と満月の夜のどちらかを決めることが出来るようになり、夜なら”月明り”昼なら”陽炎”で相手に幻覚を見せる能力を持つ。また、卍解発動後は始解状態における2つのデメリットの内

『自身より霊圧、実力共に上の者には一切通用しない』

のデメリットがなくなる。しかし残るもう一つのデメリットだけは払拭することが出来ない。このデメリットの事は護廷十三隊総隊長・山本元柳斎重國すら知らず椿咲自身を除くと雷山、銀華零、狐蝶寺の3人しか知らない。

残像幻影(ざんぞうげんえい):卍解の弱点である『霊圧を正確に読める者には通用しない』を逆手に取った技。自身の霊圧と殺気を相手の背後に作り出し本体を幻覚と認識させると同時に相手の隙を作る技

有幻影(ゆうげんえい):実体を持つ幻覚を作り出す技。この幻覚は本体とあらゆる感覚や傷の有無が連動する代わりに、ただの幻覚では成すことの出来ない相手に直に触れることが出来るようになるのが最大の特徴


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第十四話(第五十話)

この話からしばらく”狐蝶寺”と書いて”あけ”と読みます。


雨明が卍解と呟いたと同時に狐蝶寺と雨明の二人を凄まじい光が包み込んだ

 

「くそっ…!!やられた…!!」

 

(今まで幾度となく見てきたのになぜ防げなかった…!!雨明の卍解の能力…それは”相手の身体を乗っ取る能力”と分かっていたのに…!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光が収まった直後、狐蝶寺と雨明が力なくその場に倒れこんだ。警戒していた雷山だったが、狐蝶寺が倒れこんだことにより反射的に雷山は狐蝶寺に駆け寄ってしまった

 

「春麗!!起きろ春麗!!起きてくれ!!」

 

「うっ…雷山…君…?」

 

「春麗…良かった…」

 

雷山が安堵した次の瞬間だった。突如雷山は腹部に激痛を感じた。見ると一本の斬魄刀が腹部を貫いていた。そしてその刀の柄は狐蝶寺自身が握っていた

 

「春麗…?いや、お前は雨明か…!!」

 

「ふふふ…」

 

笑みを浮かべる狐蝶寺は雷山に刺さっている斬魄刀を引き抜くとそのまま雷山を蹴り飛ばした

 

「かはっ!!」

 

刀を引き抜かれたことと蹴り飛ばされ水面に幾度も叩きつけられたことで雷山は吐血した

 

「雷山隊長!!」

 

雷山の元に駆け寄ろうとした椿咲だったが、狐蝶寺がその行く手を阻んだ

 

「…春麗さん…じゃないね。あなた誰…?」

 

少しの沈黙の後狐蝶寺は口を開いた。

 

「…南美ちゃん、何を言っているの?私は狐蝶寺春麗だよ」

 

「気安く南美ちゃんなんて呼ばないでくれない?」

 

椿咲は先程の行動もあって目の前にいるのが自身の知る狐蝶寺ではないことを見抜いていた

 

「そんなに冷たくしないでよ。みんなで一緒に瀞霊廷に帰ろうよ」

 

「気やすく春麗さんの真似をしないで!!」

 

椿咲は有幻影を用いて三人に分身をして狐蝶寺に斬りかかった

 

「…狐蝶寺隊長の真似を気やすくするわけないでしょ…」

 

3人別々に攻撃してくる椿咲の動きを狐蝶寺は完全に見切って躱していた

 

「椿咲副隊長、いくらあなたが本気を出したとしても僕には勝てませんよ!!」

 

狐蝶寺は刀を振るい椿咲を飛び退けさせた

 

「…勝てない?私の事を甘く見過ぎだよ」

 

「実力差のことを言っているのじゃありませんよ。聞きますが、あなたが今相対しているのは誰ですか?」

 

「そ、それは…」

 

「そうです。狐蝶寺隊長です。いくら目の前にいるのが本当の狐蝶寺隊長ではないと頭では分かっていても慣れ親しんだ恩人とも呼べる人を本気で斬り殺すことが出来ますか?」

 

そう言うと同時に今度は狐蝶寺が仕掛けてきた

 

ガンッ!!

 

椿咲は狐蝶寺の刀をかろうじて受け止めた

 

「ぐっ…!!」

 

「出来るんですか!?」

 

その刹那、狐蝶寺は背後から強烈な殺気を感じ取った。咄嗟に雷山だと察した狐蝶寺は防御の為に背後に目を向けたが、そこには誰もいなかった

 

「誰も…いない…!?」

 

残像虚影(ざんぞうきょえい)!!」

 

「しまった…!!」

 

椿咲が叫んだことで狐蝶寺は椿咲が仕掛けた幻覚の類であることに気が付いた

 

「”破道の八十八”『飛竜撃賊震天雷砲』!!」

 

「ぐっ…!!うわっ!!」

 

反応が遅れた狐蝶寺は椿咲が放った鬼道を御し切ることが出来ずにそのまま弾き飛ばされていった

 

「はぁ…はぁ…」

 

吹き飛ばされ横たわっていた狐蝶寺だが、ふらつきながらもゆっくりと立ち上がろうしそして再び倒れた

 

「至近距離から八十番台の鬼道を受けてるのに、春麗さんもタフすぎるでしょ…」

 

「うっ…南美…ちゃん…」

 

狐蝶寺が一言呟いたその言葉は椿咲に衝撃を与えた

 

「春麗さん…!?……いや、あれは演技…迂闊に近寄っては…」

 

「南美…ちゃん…」

 

椿咲の事を呼ぶ狐蝶寺の声は椿咲にほんの少しの迷いを生じさせていた。もしかしたら本当に自我を取り戻したのではないか、本当に帰ってきてくれたのではないかと。頭では罠である可能性があると分かっていても少しの迷いは容易に椿咲の足を狐蝶寺の元へ向かわせた

 

「…本当に春麗さんですか…?」

 

「…雷山君…白ちゃん…南美ちゃん…ごめんね…本当にごめんね…」

 

椿咲が警戒しながら近寄ると狐蝶寺の眼からは大粒の涙が零れ落ちていた。それを見た瞬間椿咲は自分の知る狐蝶寺が帰って来たと感じた

 

「春麗さん…!!良かった…!!本当に良かった…!!」

 

椿咲は狐蝶寺を抱き起すと眼から涙を零した

 

「南美ちゃん…ごめんね…そしてありがとう――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

”―――――――――さようなら”

 

 

 

 

 

「え…?」

 

一瞬の間の後、激しい轟音と猛烈な風が椿咲を飲み込んだ

 

「きゃあぁぁ……!!」

 

その音と風圧が凄まじく椿咲が発した悲鳴を一秒足らずで聞こえなくしてしまうほどだった

 

「椿咲…?椿咲!!…なっ!?」

 

雷山は自身の目を疑っていた。ゆっくりと立ち上がる狐蝶寺の背後にはまるで巨大な蛇が通り過ぎていったように水面と家屋が半円形に抉られていた

 

「これは一体…」

 

「はぁ…はぁ…あとはあなただけですよ。雷山隊長」

 

「お前…椿咲を…!!」

 

「すぐに後を追わせてあげますよ。さあ、あなたが言っていた決戦と行きましょう。尸魂界(せかい)との繋がりを葬らんがために…”卍解”『雷嵐雲風芽(らいらんうんふうが)』!!」

 

卍解した瞬間狐蝶寺が持っていた斬魄刀が手に持つことの出来る程度の大きさの2つの扇子に変わった。一方の雷山は静かに狐蝶寺を見据えていた

 

(思い返せば、春麗は俺たち三人の中で最も手のかかる奴だった。斬術も鬼道も瞬歩でさえも覚えるのに相当の時間がかかった。だが、それでも滅却師との戦いや六道たちとの戦いでも生き残り現在まで隊長を務めてきた猛者だ。実力で言えばあの藍染惣右介すら楽に倒せるほどだろう。そんなやつが身体を乗っ取られて本気で殺しに来るとなると…)

 

「はぁ…」

 

雷山は深くため息を吐き、そして覚悟を決めるように目を開けた

 

「これはこっちも本気でやらないと春麗を助けるなんて夢物語になりそうだな。”卍解”」

 

その瞬間雷山の刀に吸い寄せられるかの如く辺りの静電気が集まりだすと同時に雷山に雷が落ちその閃光と轟音が雷山の姿を覆い隠した。

 

「”卍解”『雷刃(らいじん)摩槍(まそう)』!!」

 

雷山の姿が現れるとさっきまで刀が握られていた手に2mはあろう槍が握られていた

 

「これが”雷電系最強”と謳われる雷山隊長の卍解か…」

 

「よく知っているな。春麗の記憶でも覗いたのか?」

 

「まあ、そんなところです。狐蝶寺隊長の記憶にもありますよ。過去にその卍解を甘く見て痛い目を見た…ってね!!」

 

狐蝶寺は瞬歩を用いて雷山に一気に接近して横一線に刀を振るった。雷山はその攻撃を防ごうとした際に強風が腕の動きを阻害していることに気が付き咄嗟にその場から飛び退いた

 

「仕損じたか…!!」

 

「”一発雷(いっぱつらい)”!!」

 

狐蝶寺との距離を取った雷山は刀の切先から一閃状の雷を放った。計10発は放たれた雷だが、狐蝶寺はその全てを躱しきった

 

「今度はこっちの番だよ。”鎌鼬(かまいたち)”!!」

 

狐蝶寺は両手に持った扇を振るい建物が切れる程の威力の風を生み出した。それを見た雷山は槍を自身の前に持っていき回し始めた

 

「”破道の五十八”『闐嵐(てんらん)』!!」

 

雷山が回すのをやめたと同時に前方に竜巻が放たれ狐蝶寺が放った風を相殺した

 

「腹部に傷を負っているのによくやるよ」

 

「お前もな…」

 

(もしやとは思っていたが、こいつ春麗以上に『雷嵐雲風芽』を使いこなしていやがる…)

 

「いくら雷山隊長でもこれには驚くんじゃないかな?”竜巻(たつまき)”!!」

 

狐蝶寺は身体を捻りその反動で腕を回転させ巨大な竜巻を発生させた

 

「ただの『竜巻』など今までいくらでも…」

 

その時雷山は自身の目を疑った。それはかつて狐蝶寺が自分の力だけでは絶対に発動できないと言っていた技が目の前で生成されつつあったからである

 

(まさかこれは…!!)

 

「”竜巻(たつまき)火災旋風(かさいせんぷう)”!!」

 

狐蝶寺が叫ぶと同時に炎を纏った竜巻が通常の倍以上の大きさへと変貌した

 

「”百降雷壁陣”!!」

 

雷山が槍を振り上げると同時に”火災旋風”を取り囲むように降り注ぐ雷の陣が生成された。降り注いだ雷と火災旋風はぶつかり合い膠着状態になったが、次第に降り注ぐ雷の方の勢いが落ちて行った

 

「やはり『百降雷壁陣』では歯が立たないか…!!」

 

(仕方がない…怪我をしている分、体に負担がかかるがこれしかあるまい…!!)

 

「『雷刃(らいじん)摩槍(まそう)』”(せん)”『一閃刃(いっせんじん)』」

 

雷山が槍を振るうと巨大な刃状の雷が放たれ”火災旋風”とぶつかり合い爆発霧散し互いに消滅した

 

(『一閃刃』と互角の威力か…)

 

「驚いたよ。まさかあの”火災旋風”がかき消されちゃうなんてね…」

 

狐蝶寺は切り札とも呼べる技”竜巻・火災旋風”が雷山の技の前に打ち負けてもなお不自然なほどに落ち着きを見せていた

 

(…こいつ何を企んでいる…何かのタイミングを狙っているのか…?)

 

「そんなに警戒しないでください。せっかくですから狐蝶寺隊長に会わせてあげようと思っただけですよ」

 

「春麗に…だと…!?」

 

雨明のその一言は雷山に衝撃を与えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名前 雨露 雨明(あまつゆあけ)
所属 護廷十三隊三番隊隊士
身長160㎝ 体重50㎏
容姿 顔は姉の雨入と瓜二つで髪型は男としては少し長めの髪型をしている
性格 人前では無口で物静かだが一人になると騒ぎ出す性格
斬魄刀 夢遊(むゆう) 解号:無意識に動き回れ
能力 対象一人を自在に操れるようになる。また、操られた者はその間のことを一切覚えていない。また、雨明の裁量で記憶を少しだけ改竄することが出来る。(例:藪崎と始めて話した記憶を、久しぶりに再会し話した記憶に改竄)
卍解 夢病遊戯(むびょうゆうぎ)
能力 操っている者に自分自身の精神と身体を乗っ取ることが出来る。ただし一度でも気絶すると強制的に能力が解除されてしまう
備考 雨入の双子の弟でいつも引っ付いてくる姉を鬱陶しく思っている。過去に狐蝶寺に助けられ狐蝶寺と共に姉の卍解の能力で造り出した空間に住もうと計画をしている。


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第十五話(第五十一話)

 

「せっかくですから狐蝶寺隊長に会わせてあげようと思っただけですよ」

 

「春麗にだと…!?」

 

雨明のその言葉は雷山に衝撃を与えた

 

「何故このタイミングでそれをする。いい加減お前たちの目的を話してみたらどうだ」

 

「…意外ですね。雷山隊長ならもう分かっているものだと思ったんですけど…」

 

「なんだと?」

 

「ひとまず、狐蝶寺隊長再会を楽しんでみてはどうですかね」

 

そう言うと雨明は一瞬意識を無くしたようにその場に立ち尽くした。その後1秒もしないうちに狐蝶寺は飛び起きるように意識を覚醒させた

 

「あれ…?ここはどこ…?」

 

「春麗!!」

 

「雷山君…?」

 

「春麗…!!」

 

「来ないで!!」

 

狐蝶寺に駆け寄ろうとした雷山はその声で立ち止まった

 

「雷山君…ごめんね。私はもう尸魂界(そっち)には戻れないや…」

 

「それはどういう…」

 

「はっきりと思い出したんだよ…虚圏で私を止めに入った白ちゃんや雷山君、南美ちゃんたちを本気で殺そうとしていたことや白ちゃんをこの手で殺しちゃった事…その他大暴れしたことも全部…」

 

「白はまだ死んでいない!!それに…それは全部雨入と雨明がやったことだ!!お前には関係のない話だろ!!」

 

「関係無い訳ないじゃない!!いくら操られていたと言っても実際に手を下したのは私なんだよ!?周りの人が私のせいじゃないと言ってもその事実は一生消えることがないんだよ!?そんな事実を背負って行くくらいなら…!!」

 

そう言うと狐蝶寺は手に持つ扇子を構えた。一見すると雷山へ攻撃をしようとしているように見えるが、雷山は攻撃対象は自分ではなく狐蝶寺自身であることに気づいた

 

「ッ!!待て春麗!!やめろ!!」

 

「”切風”『断頭』!!」

 

狐蝶寺は自分の首に向けて風を放った。その風が狐蝶寺の首に当たる直前、突如霧散して消えた

 

「……」

 

狐蝶寺の表情が険しくなったのを雷山は見逃がさなかった

 

「ッ!!」

 

(春麗の目付きが変わった…。雨明が出てきたな…)

 

「はぁ…はぁ…驚いたよ。まさか狐蝶寺隊長が自ら死を選ぼうとするなんてね…」

 

(雷山隊長をこの場から去らせるために説得させようとしたんどな…あの精神状態じゃしばらくは“夢遊”を解除出来そうにないね…)

 

「自ら死を選ぼうとしただと…?…じゃねぇよ…!!」

 

「もう少し大きな声で言ってくださいよ。この距離じゃ聞き取れな…」

 

「ふざけるんじゃねぇよ!!」

 

その瞬間雷山の霊圧が跳ね上がったのを雨明は感じた

 

「春麗が自ら死を選ぼうとしただと!?お前が春麗のためなどと自惚れてやったこと全てが結果的に春麗を苦しめているんだぞ!!何故それが分からないんだ!!」

 

「狐蝶寺隊長を苦しめているのはこの尸魂界(せかい)そのものだ!!」

 

「その尸魂界(せかい)に立ち向かおうとせずただ逃げた腰抜けが尸魂界(せかい)の責任にするな!!」

 

「黙れ!!」

 

その瞬間狐蝶寺がただ走るだけでは不可能なほどの猛スピードで突っ込んできた

 

(こいつ…追い風で初速を上げたのか…!!)

 

雷山は槍を両手に持ち、扇の山/谷の位置にある刃を受け止める形で狐蝶寺の攻撃を防いだ

 

「僕たちは好きで逃げたんじゃない!!そうせざるを得なかったんだ!!隊長として尸魂界(せかい)中に慕われてきたあなたに迫害され続けてきた僕たちの気持ちが分かってたまるか!!」

 

「生憎だが、分かりたくねぇな…!!他人を不幸にしてまで幸せを掴み取ろうとする奴の考えなんかな!!」

 

雷山は槍を手放すと素早く懐に入り込み背負い投げの要領で狐蝶寺を投げた。一方の投げられた狐蝶寺は空中でバランスを整え足から着地した

 

「この程度で僕にダメージを与えることなんか…」

 

「お前にダメージを与えるのが目的じゃない。お前をそこに()()()()()()()が目的だったんだよ」

 

「着地させること…?しまった!!」

 

狐蝶寺は咄嗟に自身の足元を見た。そこには稲妻の印が刻まれていて小さな放電が繰り返されていた

 

「”地雷”!!」

 

その瞬間地面から放出された雷が狐蝶寺の左足の甲を貫通した

 

「うぐっ…!!」

 

それは激痛であり狐蝶寺も立っていることが出来ずに左足を地面に着けた

 

「ようやく膝をついたな…!!雨露雨明!!」

 

決着をつける好機と見た雷山は素早く狐蝶寺に追撃を加えんとするために距離を一気に詰めた

 

「ぐっ…!!”暴風”!!」

 

狐蝶寺が雷山に向け手を伸ばすとそこに風の層が生まれ雷山の槍による攻撃を阻んだ

 

「やはりこの程度では破れないか…!!」

 

雷山は狐蝶寺の作り出した”暴風”を利用して地面を強く蹴り上空へと飛んだ

 

「『雷刃(らいじん)摩槍(まそう)』”(らく)”『落炎十槍雷陣(らくえんじっそうらいじん)』!!」

 

雷山は静電気と霊圧を合わせ圧縮して『雷刃の摩槍』を模して作った十本の槍を全て狐蝶寺に向け投げた

 

「何をしようが僕のこの”暴風”ですべて弾いてやる!!」

 

狐蝶寺は最大威力の”暴風”で雷山の『落炎十槍雷陣』を迎え撃つ態勢に入った。事実、雷山が放った十本の内、九本は風により弾かれた。しかし雷山が最後に放った一本の槍は暴風の壁をものともせず狐蝶寺の右足を正確に射抜いた

 

「うぐっ…!!」

 

左足に続き右足にダメージを負った狐蝶寺はその場に崩れ落ちた

 

「これなら動けまい…!!」

 

「くっ!!”蝶々(ちょうちょう)(まい)痛分(いたみわけ)(かぜ)”!!」

 

叫んだ狐蝶寺は扇を何回もあおぎ風の渦を作り出し、それを自分自身にぶつけ無数の切り傷を負った。狐蝶寺が傷を負ったと同時に雷山にも同様の傷が現れた

 

「っ…!!やめろ、その技は多用すればお前が共に過ごそうとしている春麗も死ぬことになるぞ!!」

 

「奪われるくらいなら共に死することを選ぶ!!」

 

傷口を押さえ痛みに顔をしかめる雷山とは裏腹に狐蝶寺は笑みを浮かべていた。しかし狐蝶寺の方もふらついていた

 

「ほらほらほらほら!!どんどん立てないようにして行ってあげるよ!!五番隊隊長・雷山悟!!」

 

「くっ…!!俺をなめるな!!」

 

雷山は詠唱も鬼道の名前も口にすることなく”縛道の六十三”『鎖条鎖縛』を発動させ、雨明を捕らえた

 

「またこんな…!!」

 

 

(くれない)()まる(いかづち)弾丸(だんがん) (もみじ)(かた)業火(ごうか)紋様(もんよう) 雷撃(らいげき)鎮静(ちんせい)栄枯(えいこ)燃焼(ねんしょう)雷神狼(じんろう)()まれる(にえ) 咆哮(ほうこう)(おび)える非力(ひりき)生者(せいじゃ) 蹂躙(じゅうりん)()きる亡者(もうじゃ)(むれ) 轟雷(ごうらい)獄炎(ごくえん) 灰燼(かいじん)()し 雷陣(らいじん)(つらぬ)かれよ」

 

 

雷山が詠唱を終えるとその背後にはモミジの葉を模った雷の陣が出現していた

 

 

「”破道の九十五”『雷弾狼炎椛(らいだんろうえんか)』!!」

 

雷山が叫ぶと同時にその陣から雷を纏った狼が出現した。狼は遠吠えをした後、雨明を身体ごと丸呑みにして爆発した

 

煙が晴れると地面に倒れこむ雨明の姿が露わになった。雨明は腕を振るわせながらもなんとか身体を起こした

 

「はぁ…はぁ…僕は…まだここでは……ッ!!」

 

雨明は目の前に立つ雷山の気配を感じ取った

 

「雨露雨明、春麗を返してもらうぞ…!!」

 

「やめろ…!!僕に……狐蝶寺隊長に触るなぁぁ!!!」

 

雷山は狐蝶寺を宥めるように優しく抱きしめ静かにただ一言呟いた

 

「なっ…!?」

 

「悪いな春麗…”静電気(せいでんき)”…」

 

その瞬間狐蝶寺の身体に電流が走った

 

「がはっ…!?」

 

電流を浴びた雨明は後ろにバランスを崩しそのまま倒れた

 

「くっ…そ…!!こんなはずじゃ…!!」

 

狐蝶寺の身体を乗っ取っていた雨明はそのまま意識を失った。それと同時に雨明本来の身体がピクリと動いたのを雷山は目の端で捉えた

 

「…あくまで雨明自身の精神を狐蝶寺の精神に上乗せしていたっていうだけか」

 

雷山ががそう言ったとき、雨明はゆっくりと立ち上がっている最中だった

 

「良かったよ。霊体融合していたらどうしようかと思っていたところだったんだ」

 

「……」

 

静かに立ち上がった雨明は周りに目を向けこの後の対応を考えている様子だった

 

「その様子だと大人しく降参してくれと言ってもいい答えは聞けなさそうだな」

 

「ええ、ここで僕が負けを認めるのは簡単ですが、それをしたらこれまでやって来たことの全てが無駄になる」

 

「そんなくだらない理由(ワケ)で死を選ぶのか?」

 

「僕にとっては大事なことだ!!」

 

雨明は声を荒げた

 

「…いい加減話してくれないか?お前が春麗を連れて行こうとした理由を、そこまでしてまでお前が春麗と3人で過ごして行くと言ったあの言葉の意味を」

 

「……」

 

何も言わず雷山を見据えている雨明

 

「これでも、春麗とは昔から苦楽を共にしているんだ。あいつが俺のことをよく知っているように俺もあいつのことはよく知っているつもりだ。だが、お前らの顔は初めて会った時より前には一度も見たことがないし雨露雨入も雨露雨明という名前すら聞いたことがない。お前ら……春麗とはどういう関係なんだ?」

 

しばらく黙っていた雨明だったが

 

「狐蝶寺隊長の事をよく知っている…?…ぷっ!はっはっはっは!!!」

 

雨明は腹を抱えて大笑いをし始めた

 

「…何が可笑しいんだ?」

 

「雷山隊長、あなたは自分の事を買い被りすぎですよ。意図せずですが、狐蝶寺隊長の記憶を覗いた僕から言わせれば、狐蝶寺隊長があなたに黙っていることはいくらでもあります。まあ、狐蝶寺隊長が黙っていることを僕がペラペラ話すのは失礼に当たるのでしませんが、僕と姉さんと狐蝶寺隊長の関係は話してもいいでしょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「遥か昔の話ですが、僕と姉さんは狐蝶寺隊長に助けられたことがあるんですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





”破道の九十五”『雷弾狼炎椛(らいだんろうえんか)

効果:背後にモミジの形をした雷の陣を出現させる。その陣から雷を纏った狼を出現させ、対象のもの全てを飲み込む技

詠唱:(くれない)()まる(いかづち)弾丸(だんがん) (もみじ)(かた)業火(ごうか)紋様(もんよう) 雷撃(らいげき)鎮静(ちんせい)栄枯(えいこ)燃焼(ねんしょう)雷神狼(じんろう)()まれる(にえ) 咆哮(ほうこう)(おび)える非力(ひりき)生者(せいじゃ) 蹂躙(じゅうりん)()きる亡者(もうじゃ)(むれ) 轟雷(ごうらい)獄炎(ごくえん) 灰燼(かいじん)()し 雷陣(らいじん)(つらぬ)かれよ


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第十六話(第五十二話)

「僕らは昔、狐蝶寺隊長に助けられたことがあるんですよ」

 

「春麗に助けられただと?」

 

「ええ、僕らにとってはつい先日のことように感じますよ」

 

 

 

 

 

~400年前・現世~

 

 

『雷山隊長も察しているかもしれませんが、僕も姉さんも幽霊が見える触れる話せるという体質でした』

 

 

「姉さん。あの人は何をやっているの?」

 

雨明が壁に頭を垂れている人を見て言った

 

「雨明、見ちゃダメだよ?あれは…そう、修行をしているのよ」

 

雨入は雨明の目を手で覆い隠した

 

「へ~、そうなんだ」

 

 

『僕は周りの人間から気味悪がられてました。当然ですよね。普通の人には見えない、見えるはずのない幽霊相手に話しかけていたのですから』

 

 

「お姉さん。肩に何で人を乗せているの?」

 

「え…あなた…何を言っているの…?」

 

雨明に話しかけられた20代くらいの女性が引きつった顔をした

 

「こら雨明!すいません、弟が…」

 

雨入は雨明の頭を叩き頭を上げて女性に誤った

 

「い、いえ…では私はこれで…!!」

 

女性は逃げるように足早に立ち去って行った

 

「…姉さん。どうしてみんな嫌そうな顔をするの?」

 

「…そんな顔してた?私にはそうは見えなかったけどなぁ」

 

 

『今でこそ分かりますよ。姉さんは僕に周りの人間が僕らを気味悪がって近づいてこないと言えなかったのだと、そうした日々を送っていたある日のことです。狐蝶寺隊長と会ったのは』

 

 

「う~ん…困ったなぁ」

 

当時の狐蝶寺が頭を抱えて悩んでいた

 

「…何をしているの?」

 

雨明は狐蝶寺の顔を覗き込むようにして尋ねた

 

「うわっ!?」

 

狐蝶寺は驚き尻もちをついた

 

 

『狐蝶寺隊長にしてみればとても驚いたでしょう。何しろ自分が見えるわけがないと思って現世に来ていたわけですから』

 

 

「君、私が見えるの?」

 

「……?見えるよ?」

 

雨明はなぜそんなことを聞くんだろうと思い不思議そうな顔をして答えた

 

「そう…まさか私が見える人がいるなんて思わなかったなぁ」

 

「あなたも幽霊なの?」

 

「私は幽霊じゃなくて死神っていうの」

 

「死神…?」

 

「ありゃ、聞いたことない?死神って」

 

「知らなーい」

 

 

『当時の僕はまだ幽霊という存在を知って間もないころでした。当然死神なんて知っているわけもなく狐蝶寺隊長を始めて見た時は変わった服装の幽霊だなくらいにしか思ってませんでした』

 

 

「雨明-?」

 

その頃雨入は雨明を探し回っていた。しばらく歩き雨明が黒い着物の上に白い羽織を身に着けている自分と同じくらいの年の女の人と話しているのを見つけた。無論見た瞬間からその人は生きている人間ではないことに気づいた

 

「雨明!?何やってるの!?あなた一体雨明に何をしたのですか!?」

 

雨入は雨明と狐蝶寺の間に入り狐蝶寺を睨みつけた

 

「何もしてないよ?」

 

「…雨明、行くよ」

 

雨入は半ば強引に雨明を連れて去って行った

 

「本当に何もしてないんだけどなぁ…」

 

それを見た狐蝶寺は困ったように呟いた

 

 

『姉さんにしてみれば得体のしれない人物が僕に近づいていたわけだからそういった行動をとるのも無理はない。だけど僕はその後も狐蝶寺隊長と密かに会っていたんですよ。そしてその日も狐蝶寺隊長に会いに行こうとしていた時でした』

 

 

その時雨明は慌てていた

 

(まずい…このままじゃ遅れちゃう…!!)

 

雨明は近道をしようと思い角を曲がった

 

「痛て!」

 

雨明は何かにぶつかりふっ飛ばされた

 

「痛ッ!す、すいませ…」

 

雨明は顔を上げた時絶句した

 

 

『その時何にぶつかったと思います?虚ですよ。僕は狐蝶寺隊長に会いに行く途中虚にぶつかったんです』

 

 

「グルルルル…」

 

雨明がぶつかった衝撃を受けた虚は振り向いた

 

「あ…あ…」

 

雨明は恐怖のあまり言葉が出ずにいた。その時

 

「もうっ!雨明ったらどこに行ったの?え…!?」

 

雨入が通りかかり虚に襲われている雨明を見つけた

 

「雨明!!」

 

慌てて雨明を助けに向かう雨入だったが、虚は雨入を薙ぎ払った

 

「きゃあ!!」

 

「姉さん!!」

 

 

『あの時はもうダメだと思いましたよ。だけど…』

 

 

虚が雨明に手を伸ばそうとしたその時

 

「グラアアァァ!!」

 

虚の腕が胴体から斬り落とされ、虚は叫び声をあげた

 

「ありゃりゃ、雨明君遅いなと思って見に来たら大変なことになってた」

 

「グラァ!!」

 

怒った虚は狐蝶寺に攻撃しようと腕を振り上げた

 

「うるさいよ…」

 

そう言い狐蝶寺は虚を斬り捨てた。その時の狐蝶寺は現在からは想像もできない程冷たく冷酷な目をしていた

 

「ほら、もう大丈夫だよ」

 

 

『目を開けると狐蝶寺隊長が虚を倒した後でした』

 

 

「ふぅ…雨明君が無事でよかったよ。あっ!お姉さんも大丈夫!?」

 

「は、はい…」

 

狐蝶寺の手を取り立ち上がる雨入

 

「良かった良かった。みんな無事で」

 

「あの、なぜ私たちを…?」

 

「へ?なんでそんなことを聞くの?」

 

狐蝶寺は首を傾げてそう言った

 

「なぜって…あなたは私たちのこと気味悪く思わないの…?幽霊が見える私たちを」

 

「全然思わないよ。まあ、私が死神っていうのもあるけどね…」

 

「死神…なんですか?何て言うかその…」

 

「あぁ~、それよく言われるよ。なんで鎌を持っていないのとか骸骨じゃないとか。あれはただのイメージなのにねぇ…」

 

「は、はぁ…」

 

「そうだ、こんな所で話しているのも難だし落ち着いたところで話そうよ」

 

未だ状況が飲み込めそうにない雨入を見た狐蝶寺はニコッと笑って見せて言った

 

 

『その時に狐蝶寺隊長から色々聞きましたよ。現世に来た目的や尸魂界の存在。銀華麗隊長や雷山隊長のことも少しですが聞きました。それはまるで夢のような日々でした』

 

 

「雨明くん、ごめんね。帰還命令が来てすぐにでも尸魂界に帰らないといけないんだ」

 

「えっ…」

 

「そんなに悲しそうな顔をしないでよ。大丈夫、雨明くんが尸魂界に来たら私がいろいろ紹介してあげるよ。だからそれまでの我慢だよ」

 

「うん!」

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

「これが僕たちと狐蝶寺隊長の関係です。お分かりいただけましたか?」

 

「…ああ、お前たち二人がここまで春麗にこだわっている理由は良く分かった。だが、何故こんなことをする。護廷十三隊に入隊したした今、春麗と共に過ごしていけるだろ」

 

「いえいえ、それではダメなんですよ。僕たちはこの尸魂界(せかい)が嫌いなんです。だから姉さんの作った空間で狐蝶寺隊長と共に過ごしていくと決めたんですよ」

 

「…お前はどうしてそこまで尸魂界(せかい)を憎んでいるんだ?」

 

「……」

 

「春麗を乗っ取っていた時も”世界との繋がりを葬らんがために”と言っていたな。あれはどういう意味だ。何を隠している」

 

「……」

 

雨明は黙って雷山をの話を聞いていた。その表情は終始変わらずにいたが、雷山が「何を隠している」と問うた瞬間眉をピクリと動かし一瞬険しい表情を見せた

 

「…本来なら話す(いわ)れはないんですけどね。まあ、いいでしょう」

 

「答えは簡単です。この尸魂界(せかい)が僕たちの恩人である狐蝶寺隊長に牙を剝けたからです」

 

「牙を剝けただと?どういうことだ」

 

「僕たちが現世で死した後尸魂界に来た時の話です」

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

「いたかっ!?」

 

「いや、まだ見つからない」

 

「くそっ!!どこに行きやがった…!!」

 

 

『尸魂界に導かれて数か月後の事です。何を勘違いしたのかここの死神連中は僕たちを旅禍と思い込み攻撃してきました』

 

 

「いたぞ!!捕まえろ!!」

 

「待ってよ!!」

 

逃げる雨露姉弟と追いかける平隊士の間に狐蝶寺が割って入った

 

「狐蝶寺隊長退いてください!!そこにいるのは旅禍です!!」

 

「この子達は旅禍じゃないよ!!ちゃんと現世で魂葬されて尸魂界に来てるんだよ!!そもそも誰の命令でこんなことしているの!!」

 

「そ、それは…」

 

狐蝶寺に問いただされた一般隊士は黙り込んでしまった。その様子から狐蝶寺は命令しているのは自身よりも上の立場の人物だと察した

 

「…やっぱり言えないんだね。でもこんなの間違っているよ!!」

 

 

『狐蝶寺隊長のおかげで、その場にいた死神たちは矛を収めたように見えました。しかし、次に現れた”全ての元凶”で状況は一転したんです』

 

 

「これは何の騒ぎです?私は一刻も早く瀞霊廷に迷い込んでしまった旅禍を始末せよと命じたはずなのですが…」

 

動けずにいる一般隊士の後ろから”中央四十六室(ちゅうおうしじゅうろくしつ)裁判官(さいばんかん)上柘植御代(かみつげみだい)が歩いてきた。上柘植は立ち塞がる狐蝶寺を見て言った

 

「護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗。何をやっているのです?そこを退きなさい」

 

「やっぱりあなたの命令だったんだね…!!どうしてこんな真似をするの!!この子達は旅禍じゃない」

 

「あなたが何と言おうとも、そこの二人が旅禍であることは変わりはありません。これが最後の忠告です。そこを退きなさい。十三番隊隊長・狐蝶寺春麗」

 

狐蝶寺は上柘植をにらんだままその場から動こうとはしなかった

 

「…よろしい。”中央四十六室・裁判官”として命じます。護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗を反逆の疑いで拘束しなさい。抵抗を示すようならば、この場で処刑しても構いません!!」

 

 

『信じられますか?尸魂界を実質的に仕切っていると言っても過言ではない護廷十三隊隊長である狐蝶寺隊長をその場で処刑しようとしたんですよ』

 

『…そんな話聞いたことないぞ。嘘とは言わないが、何故お前がそれを知っていて俺たちがそのことを知らない』

 

『それは今から話すことで分かりますよ』

 

 

「処刑…?ダメ…それは…!!」

 

上柘植の指示で意を決した一般隊士たちは狐蝶寺に斬りかかった。隊士たちの刃と狐蝶寺の刃がぶつかり合うその瞬間雨明の声が響いた

 

「ダメェェェ!!!」

 

雨明の叫び声が響き渡ると同時に雨明を除くその場にいた全員が一瞬の間、時が止まったような感覚に陥っていた

 

「これは…いったい…?」

 

 

 

 

 

  *  *  * 

 

 

 

 

 

「何故そうなったのかは定かではありませんが、結果として狐蝶寺隊長を救うことが出来ました。狐蝶寺隊長を始め、その場にいた全員から僕たちに関する記憶が消えることと引き換えにね」

 

「…なるほど。お前たちがやけにこの尸魂界(せかい)を憎んでいる理由はよく分かった。お前たちが春麗をとても大切に思っていることもな」

 

「ならば狐蝶寺隊長のためにも、どこかで気絶しているはずの椿咲副隊長を連れてここから出て行ってください」

 

「だがな、”大切な者”がいなくなる悲しみを知っているお前たちが俺たちの”大切な者”を奪おうとするのは言語道断だ!!」

 

雷山は雨明の背後に回り込み拘束した。狐蝶寺と死闘を繰り広げた際に負った傷があってもなお雷山と雨明の力の差は歴然としていた

 

「もう一度問うぞ。大人しく投降しろ」

 

「くっ…」

 

(霊圧もあまりなく切り札も使い果たしてしまった…”詰み”だね…)

 

「ふっ、冗談を言わないでください。投降したところで僕たちの死罪は免れない。それに、そんなことをするぐらいなら僕は自らの死を選ぶ…!!」

 

雨明は雷山の一瞬の隙を突いて拘束から抜け出した

 

「ッ!!しまっ―――――」

 

「さようなら、雷山隊長。狐蝶寺隊長の事はあなたに任せますよ…」

 

そう言うと雨明は斬魄刀を自身の腹部に突き刺した。そのまま切腹をするように無理やり斬魄刀を脇腹辺りから引き抜いた

 

「あぁ…本当に残念です。世界のしがらみを気にせずに…狐蝶寺隊長と…過ごしたかった…な…」

 

雨明は狐蝶寺と過ごしていた時を思い出すように笑みを浮かべながら前のめりに倒れそのまま息を引き取った

 

「雨明…?雨明!!」

 

その様子は雨入も目撃していた。雨入は雨明が倒れた場所に駆け寄り動くことの無い身体を抱きかかえた

 

「…雷山隊長。あなたには椿咲副隊長や狐蝶寺隊長と一緒にこの空間から出て行ってもらいます」

 

「…逃げるつもりか」

 

雷山が聞くと雨入は静かに首を横に振った

 

「逃げるつもりはありません。いえ、逃げるという行いと等しいのだと思いますが、私は『梅雨染櫓』を崩壊させ、その中で運命を共にします」

 

「…そうか。覚悟を決めたやつに無粋な真似はするつもりはない。さらばだ」

 

「…雷山隊長。1つだけ約束してください。狐蝶寺さんを絶対守ってください。死神たちがどう思おうが、その人は私たちの大恩人なのです」

 

「ああ、その約束は必ず守ると誓おう。俺の命に懸けてな」

 

「よろしくお願いします。さあ、出口はその渦です」

 

その瞬間雷山の背後に渦が出来た。その渦に吸い寄せられるように雷山の身体が徐々に動き始めた。それにつられるように気絶して倒れている狐蝶寺、椿咲の二人も吸い寄せられていた

 

「…さようなら、世界で唯一私たちを守ってくれた人…」

 

雷山は渦に飲み込まれる直前に雨入の目から涙が零れ落ちたように見えた

 

 

 

 

 

  *  *  *

 

 

 

 

 

「…ここはどこだ…?」

 

雷山が目を開けると湖ではなく森が広がっていた。それは少なくとも『梅雨染櫓』の中ではないことを意味していた

 

(『梅雨染櫓』に飛び込む前にいた森と考えるのが妥当か…)

 

隣に目をやると椿咲と狐蝶寺の二人が気絶するように眠っていた。二人とも全身傷だらけだったが息はしていた

 

「…ん?」

 

雷山が空を見上げると先ほどまで自分たちがいた空間への入り口である渦が渦巻いていた

 

「…せめて、最期だけでも看取っていくか」

 

「うぅ…痛てて…」

 

その時椿咲が目を覚ました

 

「目を覚ましたか、椿咲。大丈夫…ってわけではなさそうだな」

 

「全くですよ…今度こそ本当に死ぬかと思いましたよぉ…」

 

「…無理に立たなくていいからな。だが、お前も雨入と雨明の最期を看取ってやれ」

 

その瞬間渦が一気に膨張しその反動で今度は一気に収縮した。そしてそのまま消えてしまった

 

「雨入ちゃん…」

 

「雨露雨入、雨露雨明、お前らのしたことはとてもじゃないが許されるものではない。だが、かつて春麗が守ろうとしたお前たちのことは一生覚えておこう。さらばだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




名前 上柘植御代(かみつげ みだい)
役職 中央四十六室・裁判官
身長156㎝ 体重49㎏
容姿 三十代半ばに見える女性。肩まで伸びる髪を後ろで一つ縛りにしている
性格 尸魂界のためと言い平気で他人を踏み躙る質の悪い性格を持つ
備考 上流貴族・上柘植家の現当主。後の藍染離反の際に藍染に殺害される。


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第十七話(第五十三話)

「うっ…」

 

雷山は雨露姉弟の最期を見届けたと同時にその場に倒れこんだ。今まで気力と精神力だけで立っていたがとうとう限界が来たからだった

 

「雷山隊長、大丈夫ですか!?」

 

「ああ、なんとかな……椿咲、少し休んだら瀞霊廷に帰還するぞ」

 

「…えっ!?」

 

雷山のその一言は至極当たり前のことであったが、今の雷山の状況が状況だけに椿咲を驚かせた

 

「いくらなんでも無理ですよ!!雷山隊長立ってるのもやっとの状態じゃないですか!!」

 

「山本との約束があるんだ。そんなことを言っている暇なんかない…」

 

「それはそうですけど…」

 

椿咲は口にこそしかなったが、雷山が狐蝶寺を連れて瀞霊廷に戻るのは無理だと思っていた。雷山は今、意識を保っているのが不思議なくらいの重傷を負っており、とても狐蝶寺を背負って瀞霊廷に戻るほどの体力が残っているようには見えなかった

 

「…分かりました。しかし春麗さんは私が背負っていきます。雷山隊長はゆっくりと先を歩いて行ってください」

 

「ダメだ。春麗は俺が背負っていく、この命に替えてでも春麗を守っていくと誓ったんだ」

 

「春麗さんを守る前に自分を守ってください!!」

 

「…分かった。春麗はお前に任せる。とにかく早く瀞霊廷に戻るぞ」

 

「…瀞霊廷に戻る前にどういう状況なのか説明してもらおうか」

 

その一言を皮切りに雷山と椿咲を取り囲むように隊長格数人と幾人もの隠密機動の死神が瞬歩で現れた

 

「…成程、山本が言っていた始末特務部隊と言う奴か…」

 

「その通りだ。この場で何があったのかを説明してもらおうか」

 

隠密機動の死神の奥から部隊をを率いてきた二番隊隊長・四楓院朝八が歩いてきた

 

「…思ったよりも酷い有り様だな。薬師寺副隊長、雷山、狐蝶寺、椿咲の三名の応急処置を開始してくれ。平然としているようだが、かなりの重傷を負っている」

 

「はい!!」

 

薬師寺の返事と共に四番隊の隊士たちが雷山の治療を始めた

 

「さて、それでは状況を説明してもらおう。この場で何があった?」

 

「…状況を説明する前に一つ聞きたい。俺が隊首会を飛び出してどれほどの時間が経った?」

 

「我々がこの場に来ていることがその答えとなっているだろう。およそ一日経っている」

 

「…あの空間にいる間にそんな時間が経っていたのか」

 

「…ッ!!待て、話を聞く前に対処しなければならぬことがあるようだ」

 

朝八はそう言いかけるとともに斬魄刀に手をかけ近くの木陰を睨みつけそして呟いた

 

「こそこそ隠れて何をしている。この私を誤魔化せると思うな」

 

少しの間の後近くの木陰から初代護廷十三隊十二番隊隊長・六道死生が歩いて来た

 

「ッ!!おまえは…」

 

「六道か…」

 

六道の登場は雷山と椿咲以外のその場にいた全員を警戒させるには十分だった

 

「…思いもしなかった。まさか雷山悟ともあろうものがそこまでやられるとはな」

 

「貴様、ここで何をしている。まさかとは思うが、此度の事件もお前が仕組んでいたということはないだろうな?」

 

朝八は斬魄刀を構えたまま六道に問うた

 

「俺がここで何をしていたか、今回の件に関係していたかどうかを語ったとして、果たしてお前はそれを信じるのか?」

 

「…いいだろう。今、この場に限ってお前の言うことの一切を嘘偽りと断ぜずに聞くとしよう」

 

「まあ、大したことは話せないがな。俺がここに居るのは単純明快、雷山の加勢をしていたからだ」

 

六道は朝八の眼を見てはっきりと答えた。それは嘘偽りがないことを六道なりに示していた

 

「…なるほど。確かに筋は通っているな」

 

六道の言葉にその場にいた死神たちの間には動揺が広がっていたが、朝八は状況的に六道が雷山に加勢をしていたというのは十分考えられることと判断しており特別驚くほどの事でもなかった。

 

「こんな嘘を吐いても俺に一切の利がないだろう」

 

「…それもそうか」

 

「ふん…」

 

朝八から目線を外した六道はボロボロの雷山を見下ろした

 

「雷山、お前が敗けたら狐蝶寺春麗をそっちに連れて行ってやろうと思っていたが、そんな面倒なことをしなくてもよくなったな。せっかく勝ち得たものだ。精々、狐蝶寺春麗と楽しく過ごすんだな。では、もう互いに会わないことを祈ろう」

 

そう言い残すと六道は瞬歩でその場を去って行った

 

「…さて、一先ずは雷山と椿咲副隊長を瀞霊廷に帰還させねばならないが、その前に1つだけ質問をしよう」

 

「なんだ?」

 

「先程から辺りの霊圧を探っているが、雨露姉弟の霊圧が一切感じられない。雷山、お前が始末したと捉えていいんだな」

 

「…いや、雨明は俺の目の前で自害した。雨入も卍解の空間事消滅することを選んだが、それを確認する術はないというのが答えられることだ」

 

雷山がそう言ったとき隣から呻き声が聞こえてきた

 

「ううっ…あれ…ここは…?」

 

「春麗…!!良かった…」

 

狐蝶寺が目を覚ましたことは雷山と椿咲を安堵させたが、隠密機動の死神たちには緊張感を走らせた

 

「護廷十三隊十三番隊隊長・狐蝶寺春麗。貴女には現在謀反の疑いがかけられている。無実を証明するために我々と共に来てもらおうか」

 

「うん…そうだ!!白ちゃんは!?白ちゃんはどうなったの!?」

 

「…そうだな。お前たちにも伝えておいてもいいだろう。我々が出立する少し前の話だ。卯ノ花隊長より銀華零隊長が目を覚ましたと伝令が入った。以前重傷なのは変わらないが、もう命に別状はないとのことだ」

 

「良かった…本当に良かったよ…」

 

銀華零が無事だったことに狐蝶寺は涙を流して心の底から喜んでいた

 

「…大澄夜隊長、雷山隊長たちの護送を任せても良いか?私はこの場に残り詳しい調査を開始する」

 

「ああ、了解した。雷山隊長たちの護衛は任せておいてくれ」

 

「では、各々解散とする」

 

その後、雷山と狐蝶寺はフラフラしつつも自分の足で、椿咲は自分で歩くことが出来ず、十一番隊副隊長・旭屋順におぶさり瀞霊廷へと帰還した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~四番隊・総合救護詰所~

 

 

「五番隊隊長・雷山悟、此度の事件の収拾ご苦労であった。さっそくじゃが、あの場で何があったかを簡潔に説明してもらおうかの」

 

瀞霊廷に帰還した雷山、狐蝶寺、椿咲の三人はあまりの重傷のためすぐさま『四番隊・総合救護詰所』に収容された。そして収容されて数時間後、雷山たちの見舞と事態の報告受けるために元柳斎がやって来ていた

 

「…簡潔に話すのは良いが、それでいいのか?」

 

「勿論、詳細は後日改めて報告してもらう。おぬしにしてもらうのは現状の第一報としての報告じゃ」

 

「…まず、雨露姉弟の目的だが、春麗を護廷十三隊から奪取することだった。そしてその手段は雨露雨明、雨露雨入の二人の卍解を使ってのものだった」

 

「…成程、名前が挙がってこなかったのは当然じゃな。護廷十三隊発足以来、入隊して一年も満たぬうちに卍解を所持しておる者など未だ存在してはおらぬからの」

 

「ああ、俺も相対するまで思いもしなかった」

 

「…一先ず、第一報としてそのことを全隊長に伝達しよう。おぬしはもうしばらく休息を取ると良い」

 

そう言うと元柳斎は去って行った

 

「さすがの山本も『総合救護詰所』では怒鳴りはしないか」

 

「ええ、私の方からもそこだけは守っていただきたいと申しましたからね」

 

元柳斎と行き違いで入ってきた卯ノ花が言った

 

「悪いな、卯ノ花。世話をかける」

 

「あなたが無茶をするのは昔から承知しているので問題はないです。それよりも雷山隊長たちに面会を求めている方がいますが、通しても良いですか?」

 

「ああ、通してくれ」

 

雷山の返答と共に一人の人物が病室内に入って来た。その姿を見た狐蝶寺と椿咲は目に涙を浮かべていた

 

「また元気な姿を見れて本当に良かったよ…白」

 

「私にとっては雷山さんたちが無事で帰って来てくれた方が喜ばしいことですよ」

 

「ああ、そうだな…」

 

いつもと変わらぬ日々、いつもと変わらぬ日常、いつもと変わらぬ顔ぶれ、その全てが元に戻りつつあることに雷山は自然と笑みを浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雨露姉弟の事件からひと月と幾日、それまで梅雨の如く降り続いていた雨が上がり、瀞霊廷では以前のような日常を取り戻しつつあった。そして隊首会議場では空席となっている八番隊、九番隊を除く11人の隊長全員が久方ぶりに集結し雷山の報告を聞いていた

 

 

「―――――以上が、報告の全てだ」

 

「…うむ、相分かった。豊生愁哉、狐蝶寺春麗が何者かに操られた可能性、突如として現れたという志波空山の霊圧と姿、それがおぬしの報告ですべて合点がゆく。よって先の約束通り、十三番隊隊長・狐蝶寺春麗の処遇は不問とする!」

 

元柳斎は杖状に封印した斬魄刀を突きその音が議場に響いた

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

整列していた狐蝶寺も一歩前に出て元柳斎に頭を下げた

 

「…悪いな、山本。恩に着る」

 

狐蝶寺が列に戻ったのを確認し雷山も礼儀として元柳斎に一礼した

 

「時に、この報告書には雨露姉弟に襲撃を受けた者、目的とその手段が書いてあるが、その他書き漏らしはないと考えても良いのじゃな?」

 

元柳斎にそう問われたとき、雷山は頭の中に”中央四十六室(ちゅうおうしじゅうろくしつ)裁判官(さいばんかん)上柘植御代(かみつげみだい)の姿を思い浮かべていた

 

「…ああ、報告するべきことはそれで全てだ。一切の漏れはない。…あとはこちらの問題だからな…」

 

雷山の妙な言い回しと最後にボソッと何かを呟いたことに元柳斎は気付いていたが、それ以上の詮索はしなかった

 

「…うむ、では以上を以て解散とする!」

 

 

隊首会の帰り道、雷山は一人で五番隊隊舎へ向かっていた。雷山は考え事をしており、俯き、地面を見つめて歩いていた

 

 

(あの時は流してしまったが、雨明が言っていた春麗に処刑命令を出そうとした人物には心当たりがある…)

 

雷山は雨露雨明が今回の事件を起こすきっかけとなった”中央四十六室・裁判官”と名乗る人物とすぐに狐蝶寺に処刑命令を出そうとしたという点の二つの条件に当てはまる人物に一人だけ心当たりがあった

 

(…上柘植御代だろうな、まず間違いなく。”中央四十六室・裁判官”とわざわざ名乗るのと春麗の事を目の敵にしている二つの条件に当てはまるのはあいつだけだしな…)

 

「…おや、このような処で会うとは奇遇ですね。五番隊隊長・雷山悟」

 

前方から声をかけられた雷山が顔を上げるとそこには今まさに考えていた上柘植御代が歩いて来ていた

 

「…”中央四十六室・裁判官”が俺に何の用だ?」

 

「大した用ではありません。ただ、一つ忠告に来たまで」

 

その瞬間、上柘植の顔から笑みが消えると同時にその場の雰囲気がガラッと変わった

 

「…狐蝶寺春麗の件、些か甘すぎませんか?」

 

「甘すぎないかだと?詰まるところあんたは春麗の事を厳罰にしろと言いたいのか?」

 

「そうとも言えますが、そうではありません。私が言いたいのは、筋の通らぬ事を看過して他のものが納得するのかと言っているのです」

 

「筋の通らぬこと?春麗は雨露雨明に操られた被害者の一人だ。被害者を罰することの方が筋違いじゃないのか?」

 

「筋が通らぬと言っているのは、狐蝶寺春麗の処遇ではありません。雷山悟、あなたの対応の方です」

 

「…どういうことだ」

 

「今回の件は我々”中央四十六室”内でも狐蝶寺春麗は不問にすべきとの声が多数を占めていました。それはまた別の理由があり伏せますが、一点ある疑いが生まれました。それは雷山悟が意図的に狐蝶寺春麗の厳罰を避けたのではないかと言う疑いです」

 

「俺が意図的に厳罰を避けさせた?…残念だが、その可能性は全くないと言い切れる。俺は春麗が操られていると分かったから助けたんだ。もし春麗が自分の意志で事件を起こしていたら最悪、手を下していたかもしれないな」

 

雷山のその言葉は上柘植を驚かせた。上柘植の見立てでは雷山は銀華零、狐蝶寺、椿咲の三人に対しては何があろうとも甘い対応を取るであろうと予想していたためである

 

「…そう言い切れる根拠は何ですか?」

 

「俺たちは三人はな、護廷十三隊の隊長になった時にある誓いを立てた。それは”三人の内誰かが自らの意志で道を違えたならば、たとえ殺すことになろうとも全力で止める”と言う誓いだ。今回、春麗は雨露雨明に操られていただけだ。それが分かったから俺も白も助ける方向で動いたんだ」

 

「…つまり幼馴染でもその時が来れば始末する…と?」

 

「そんなときが来ないことを望んでいるが覚悟は出来ている。それはあの二人も同じことだ」

 

「…たとえ幼馴染でも容赦はしないともとれるその言葉、忘れたとは言わせませんよ」

 

上柘植は一言呟くと雷山の横を通り抜けて行った。数歩行ったところで上柘植は振り返り雷山に念押しをするように言った

 

「我々はあなた方3人を甘く見過ぎていたようです。しかし、たとえあなた方初代護廷十三隊の面々が何を言おうとも我々は尸魂界の司法そのものである”中央四十六室”。あなた方の運命は常に我々の掌の上にあることをお忘れなく」

 

言い終わり去って行く上柘植の背中を見て雷山の一言呟いた

 

「…食えない奴め」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~十三番隊隊舎・隊長執務室~

 

「…やっと梅雨の時期が終わりますね。ようやくジメジメした空気から解放されます」

 

執務室内で一人狐蝶寺の帰りを待つ山吹は窓の外を眺めていた

 

「山吹ちゃん、戻ったよ」

 

「狐蝶寺隊長、お帰りなさいませ。その…どうでしたか…?」

 

山吹は心配そうに狐蝶寺に尋ねた。雷山が元柳斎とある約束をしていたことを知らない山吹は今日まで平静を装ってはいたが、内心では狐蝶寺が処刑されてしまうのではないかと心配で仕方がなかったのだ

 

「雷山君のおかげで大目に見てくれることになったよ。本当に迷惑をかけっぱなしだなぁ…」

 

それを聞いた山吹は心から安心して笑みを溢していた。しかしすぐに顔をキリッとさせた

 

「私は雷山隊長ではないので何も言うことは出来ませんが、少なくとも隊長といる時の雷山隊長は呆れていることはあろうとも嫌な顔一つしていたことはありませんよ」

 

「ありがとうね、山吹ちゃん。話は変わるけど、なんで窓際に立っているの?」

 

「…雨が上がったので窓でも開けようかなと思いまして」

 

そう言うと山吹は窓を開け気伸びをした。その最中、山吹は狐蝶寺から受けたとある質問の事を思い出した

 

「そう言えば、隊長1つよろしいですか?」

 

「いいけど、どうしたの?」

 

「少し前に隊長に聞いた昔会ったことのある子の話です」

 

「…ああ、その話ね」

 

狐蝶寺は山吹の問いにすぐに答えず窓の外を眺め始めた。そのことに山吹は狐蝶寺の心に踏み込み過ぎてしまったと思った

 

「あ、あの…すいません。好奇心が過ぎました…」

 

「ううん、大丈夫だよ。山吹ちゃん、私ね、思い出せたんだ。今のこの空と同じだよ。私の記憶の底を覆っていた雲が晴れたようにね。せっかくだからさ、話を聞いてほしいんだ。雨露姉弟(あのふたり)とのとても楽しく、とても大切な日々の話をね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 彼岸の梅雨篇 FIN ~

 

 




―― 2019/8/27 追記 ――
文章を一部分付け加えました。


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エピローグ
最終話


雨露姉弟との戦いから100年の月日が流れた。銀華零と狐蝶寺は護廷十三隊隊長を浮葉と山吹の2人にを譲る形で退き、北流魂街13地区【旭日焼(あさひやけ)】で隠居生活を謳歌していた。唯一護廷十三隊に残っている雷山は業務の合間を縫って2人の様子を見るために【旭日焼】に訪れていた

 

 

「…これで100年前に立て続けに起きた大きな出来事の話は終わりなんだが、今更こんな話をしてどうするんだ?」

 

雷山たちは囲炉裏を取り囲んでお互い向かい合う形で思い出話に耽っていた

 

「どうもしませんよ。ただ、こうやって思い出話をするのも良いかと思いまして」

 

「南美ちゃんが攫われたのって言うのも懐かしい話だよね。確か私たち3人で助けに行ったんだっけ」

 

「ああ、今ではそれを首謀した奴が隊長をやっているものだからな。本当に何が起きるか分かったものじゃない」

 

「…浮葉さん、元気にやっているでしょうか。真面目なんですけど不器用なところがあるので少し心配なんですよね」

 

「浮葉くんなら大丈夫だと思うよ。私と違って器用だし十三隊内でも人気があったし、それよりも私は山吹ちゃんの方が心配だよ。ちょっと頑固すぎるところがあるからなー」

 

「…まあ、あの2人なら大丈夫だろ。しばらく気にかけていたが、白と春麗の背中を間近で見ていた分のみこみが早かったからな。さて…」

 

そう言うと雷山は立ち上がり簾の垂れる入口へと向かった

 

「…もう戻るのですか?」

 

「ああ、今日はこれから新しい隊長の就任式がある。五番隊隊長である俺が出席しないわけにはいかないだろ」

 

銀華零は雷山の言った”新しい隊長の就任式”と言う言葉に引っかかった

 

「…雷山さん。一つだけ聞きますが、隊長を辞めるつもり…なんですか?」

 

「え…?白ちゃんそれってどういう…」

 

「あくまで私の予想ですが、雷山さんは五番隊隊長の座を南美ちゃんに譲る形で護廷十三隊を去ることにしたのでしょう。そしてその就任式があるのが今日この後…こんなところでしょうか」

 

少しの沈黙の後雷山は口を開いた

 

「やはり白には隠し事は出来ないな。まさに白の予想その通りだ」

 

銀華零は「やはりですか…」と呟き、狐蝶寺は驚愕の表情を浮かべていた

 

「…もう良いのですか?」

 

「ああ、いつまでも護廷十三隊に過去の存在がのさばっても仕方がないだろう。これからの瀞霊廷はこれからの死神が護っていくべきだと思うんだ」

 

「はぁ…本当に雷山さんは相変わらずですね。私たちにそのことを黙っているなんて」

 

「別に隠していた訳ではない。余計な心配をお前たちにさせたくなかっただけだ。これからの事はまた今度話すから少し待っていてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間の後、新隊長着任の義を執り行うために一番隊隊舎に護廷十三隊全隊長が集められた

 

 

「…全員揃ったようじゃの。此れより護廷十三隊新隊長着任の義を執り行う!新隊長は中へ!」

 

元柳斎の言葉と共に隊首会議場の扉が開かれ、背中に”五”の文字が刻まれた隊長羽織を着た椿咲が立っていた

 

「五番隊隊長・椿咲南美!」

 

「は、はい!」

 

椿咲は緊張からぎこちない動きで隊首会議場内へと歩みを進めた

 

「そして新五番隊隊長・椿咲南美の就任を以て現五番隊隊長・雷山悟を護廷十三隊から除籍とすることとする!」

 

「…椿咲副隊長が五番隊隊長に昇進すると聞いた時に予想はしていたが、本当に護廷十三隊を去るとは…」

 

十一番隊隊長・大澄夜剣八が呟いた

 

「”過去の護廷十三隊”がいつまでも”現在の護廷十三隊”にのさばっていてどうする。遅かれ早かれ時代は変わるものだ。これからの尸魂界はこれからの死神が護っていくものだ。偉そうなことを言える立場ではないが、あとは任せるからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後新隊長着任の義は何事もなく執り行われ終わりを迎えた。雷山は椿咲を連れて共に五番隊隊舎に向かい歩いて居た

 

 

「隊長としての仕事は教えた通りだ。あとは緊急の場合に臨機応変に対応できるかに尽きる」

 

「……」

 

「この一年俺はお前を隊長代理に任命して、いろいろさせて来た訳だが、センスは悪くない、むしろいい方だ。あとは経験を如何にして積めるかだな」

 

「……」

 

「…さっきからずっと黙っているが、ちゃんと聞いているのか?」

 

雷山は椿咲の顔を見たときに初めて椿咲が泣くのを必死に堪えているのに気が付いた

 

「…晴れて五番隊隊長に昇進すると言うのになんて顔してるんだ」

 

「雷山隊長…」

 

「なんだ?」

 

椿咲は駆け出し雷山と向かい会うで立ち止まった

 

「雷山隊長、私は必ず雷山隊長を超える隊長になって見せます!なので、安心して春麗さんたちと過ごしてください」

 

椿咲の言葉を受けた雷山は初めはきょとんとした顔をしていたが、すぐに嬉しそうに笑みを浮かべた

 

「ああ、お前の活躍を聞くのを楽しみにしているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~ 未来から帰ってきた死神 FIN ~

 

 




『未来から帰ってきた死神』は今回の”最終話”を以て終わりとなります。
拙い文章でしたが、今まで読んでいただきありがとうございました!


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