プリキュアR (k-suke)
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第一部 復讐の業火
第1話「地獄から来たR」


 

 

日本 某県 オーエエドー市

 

 

 

この町は県内でも有数の大都市であり、交通網や商業施設等はかなり発達しており、市民もそれ相応に多い。

 

そんな町に住む道行く人々は笑みを浮かべつつ、昨日と変わらない、退屈でそれでいて平穏な日々を送っていた。

 

そして今日もまたそんな一日が暮れようとしていた。

 

 

しかし悲しいかな、それでは物語にならないのである。

 

 

実は数ヶ月前から、この町ではある異変が頻発していたのであった。

 

 

そして今、突如地響きとともに巨大なクマのようなロボットがこの平和な町中に出現した。

 

そのロボットのコクピットの中では、三人の男女がおり会話を交わしていた。

 

 

「いいかい、お前たち。これは私たちの復讐の第一歩なんだからね。今日こそしくじるんじゃないよ」

 

そう促したのは、どこか小悪魔的な性格で色気にあふれたリーダー格の紅一点。

 

「ハイ、クジャク様。このアカンコウ、我々をないがしろにしたこの世界への復讐必ず成し遂げてみせます。そのために私が作ったこのメカ、ベースアニマルなんですから。なあ、ゴロリン」

 

そう返事をしたのは、大きな逆三角形型の顔の輪郭に人参のような赤っ鼻と大きな出っ歯が特徴の細身の男性。

 

「そうです。わてらが味わったあの屈辱、この世の中にも味わわせてやるでまんねん」

 

そう力強く頷いたのは、筋骨隆々の体格に剃刀負けした頬をした大男。

 

クジャク「よ〜し、お前たち!! や〜っておしまい!!」

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

その返事と共に、巨大クマ型メカは進撃を開始した。

 

 

車を踏みつぶし、電柱をへし折っては振り回し、巨大クマ型メカは我が物顔で暴れていた。

 

そんな惨状に、人々は悲鳴をあげて逃げ惑っていた。

 

「うわー!! 助けてくれー!!」

 

「警察、いや自衛隊来てくれー!!」

 

 

 

クジャク「いいぞいいぞ。いい調子じゃないかい。これでブラックエナジーもたまってきてるんじゃないかい」

 

巨大クマ型メカの暴れっぷりに、クジャクは満足そうに言った。

 

アカンコウ「ハイ、この調子なら大神獣様もお力を蓄えられると思いますよ」

 

ゴロリン「はいな、そのためのわいら三獣士でもありまんねん」

 

アカンコウとゴロリンも満足そうに笑みを浮かべて頷いた。

 

 

 

そんな時、空に光るものが現れた。

 

クジャク「ん? あれは?」

 

ゴロリン「鳥だ!!」

 

アカンコウ「飛行機だ!!」

 

二人はそれを指差して叫んだ。

 

クジャク「いや、違うあれは!! やっぱり!!」

 

 

 

その上空から降り立った赤い火の玉は近くのマンションの屋上に着地し、それとともに少女の姿に変わった。

 

その少女は、赤を基調にしたゴシックロリータ風の衣装を身にまとい、赤いロングヘアをなびかせ、深紅のドミノマスクで素顔を隠していた。

 

そしてその少女は怒気を含んだ声で言い放った。

 

「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

逃げ惑っていた市民たちはその少女を見ると口々に叫んだ。

 

「あ、あれは…!!」

 

「もう来たんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「早く逃げろー!!」

 

「殺されるぞー!!」

 

人々はその少女の姿を見ると、巨大ロボットを見たときよりもはるかに慌てふためき、逃げ惑った。

 

 

 

 

クジャク「く〜毎度毎度邪魔をしに!! お前たち!! や〜っておしまい!!」

 

アカンコウ「そうですとも。今日こそあの仮面、ひっぺがしてやるんだから。ミサイル発射。ポチッとな」

 

アカンコウがそう言ってボタンを押すと、巨大クマ型メカは大きく口を開け、ミサイルを発射した。

 

しかし、キュア・インフェルノと名乗った少女は大ジャンプでそのミサイルをかわした。

 

すると当然、そのミサイルはマンションに着弾し大爆発を起こし、マンションは半壊した。

 

 

そんなものなど気にも止めず、キュア・インフェルノは巨大クマ型メカに殴りかかった。

 

インフェルノ「ハァアアア!!」

 

彼女の繰り出したパンチは強烈で、クマ型メカは大きく吹き飛ばされ近くの民家を押しつぶした。

 

 

アカンコウ「くう、まだまだ!!」

 

アカンコウはクマ型メカを操縦し、なんとか起き上がらせると、今度は爪で彼女を切り裂きにかかった。

 

しかし、彼女はその爪を見切り紙一重でひらりひらりと交わし、懐に飛び込むとクマ型メカの足を掴むとジャイアントスイングで投げ飛ばした。

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「わっわっわーっ!!」」」

 

そして投げ飛ばされた先では止まっていたトラックがあり、クマ型メカは潰されたトラックとともに大爆発を起こした。

 

その結果、クマ型メカは爆発に巻き込まれた大ダメージを受けていた。

 

 

 

クジャク「なにやってる!! 早く起き上がるんだよ!!」

 

クマ型メカのコックピットではクジャクがアカンコウを怒鳴りつけていた。

 

 

アカンコウ「ダメです!! バランサーが故障で上手く立てません!!」

 

アカンコウは必死に計器を操作していたが、故障の度合いはかなりのものであり、どうしても上手く動かなかった。

 

 

クマ型メカが立ち上がってこないのを見ると、インフェルノは隙ありとばかりに両手を大きく振りかぶった。

 

すると彼女の手が赤い炎で包まれた。

 

インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

そう叫ぶと両手の炎の塊を、叩きつけるように投げつけた。

 

するとその炎の塊はクマ型メカに直撃し、凄まじい火柱を上げて大爆発し一面を火の海にした。

 

 

 

クジャク「くっそ〜覚えといで!!」

 

クジャクたちはボロボロになりながらも、かろうじて脱出には成功し、小さな脱出ポッドの中で捨て台詞を吐いていた。

 

 

 

そうして戦いに勝利し、一息ついていた彼女キュア・インフェルノに、突然石が投げつけられた。

 

石の飛んできた方を睨むように振り返ると、そこには怒りの形相をした市民たちがいた。

 

彼らからはいつもの言葉が投げかけられた。

 

 

 

市民「なにしてくれてんだテメエ!!」

 

市民「俺たちの町が無茶苦茶だ!!」

 

市民「どうしてくれるんだ俺のトラック!! 荷物もパァだし、俺はクビじゃねえか」

 

市民「私たちの家は爆発で燃えてしまいました。この寒い時期に子供と野たれ死ねというつもりですか!!」

 

市民「え〜ん!! 私のおうちが〜!!」

 

 

 

そう、彼女キュア・インフェルノは謎の巨大メカと戦う存在として世間に認知されてはいるが、その評判は恐ろしく悪かった。

 

事実今の戦いにおいても、クマ型メカに破壊された被害より彼女が戦ったことにより発生した二次被害の方がはるかに大きかった。

 

 

そしてキュア・インフェルノもまた、罵声を浴びせたり泣き叫んでいる市民に対して、いつもの通りのセリフを言い放った。

 

 

インフェルノ「ふん、だからなんなの。あなたたちがどうなろうとも私には関係のない話だわ。クビになる? 野たれ死ぬ? だから何? 私の目的にしてみれば些細なことよ」

 

 

 

 

そう冷たく言い放つ彼女に、市民たちはさらに激高した。

 

市民「ふざけるなー!!」

 

市民「厄病神め!!」

 

市民「あなたは鬼よ!! 悪魔よ!!」

 

しかしそんな罵声にも彼女は顔色ひとつ変えず言い放った。

 

 

インフェルノ「なにを今更。私にとってあなたたちの命なんて知ったこっちゃない。あいつらさえ倒せればそれでいいわ」

 

吐き捨てるようにそう言うと、キュア・インフェルノは赤い火の玉になって、市民たちの罵声に見送られながら飛び立った。

 

 

 

 

以上が、ここしばらくこの町で起こっていることのテンプレ展開である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外

 

 

ここ、オーエエドー市はかなり開けているが、自然もかなり豊かな町である。

 

郊外には鬱蒼と茂る雑木林がある。

 

そして、その中には不気味な雰囲気漂う洋館がひっそりと佇んでいた。

 

 

この洋館こそが先の三獣士と名乗った三人の拠点兼隠れ家である。

 

クジャク「いたた。もうちょっと優しくおしよ」

 

アカンコウ「どっかのメガネかけたドジな小学生みたいな声で、気軽に言ってくれますけどね。あたしらだって怪我してんですよ、もう」

 

ゴロリン「そうでまんねん。お〜火傷がヒリヒリする!!」

 

クジャク「体だけが取り柄のやつが何言ってんだい。どっかの音痴のガキ大将みたいな声で情けないこというんじゃないよ」

 

アカンコウ「そうだよ、お前さんは頭が資本のあたしと違って体が資本なんだから、それぐらい大丈夫でしょ」

 

ゴロリン「何ゆうてまんねん。アカやんこそ力だけが頼りのどっかの三体合体するロボットの三号機のパイロットみたいな声のくせに」

 

アカンコウ「なによ、あたしはね、どっかの研究所の所長みたいな声だって言われてんだからね」

 

 

三人はここになんとか逃げ帰った後、実に訳のわからないことを言いながら怪我の手当てをしていた。

 

 

 

 

 

そんな時、急にあたりが暗くなったかと思うと不気味な声が響いた。

 

「三獣士よ」

 

それを聞いた三人は慌てて跪いた。

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ははーっ!!」」」

 

 

すると、三人の前に不気味なモヤのようなものが現れた。

 

 

「我こそは大神獣。この世界を恨み憎むものなり」

 

クジャク「ははーっ、大神獣様。申し訳ありません、またもや敗れてしまいました」

 

クジャクは実にかしこまった声で申し訳なさそうにそう言った。

 

大神獣「構わぬ。少量とはいえ、ブラックエナジーも採集できた。この調子で続けて行くがよい」

 

クジャク「ははーっ。ありがたきお言葉」

 

大神獣「我の復活の時は近い。我の力があれば、世界を意のままに作り変えることもできる。お前たちはその栄誉を与えるぞ」

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ははーっ、ありがたき幸せ」」」

 

大神獣「では傷が癒え次第、我の闇の力を宿したベースアニマルで再び出撃し破壊を行うのだ。そうすることでブラックエナジーは蓄積していく」

 

クジャク「ははーっ。是非ともご覧あれ」

 

その言葉にモヤのようなものは満足したように晴れていった。

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃

 

 

 

オーエエドー市の住宅地にあるマンション。そこに一人の女子中学生が帰宅した。

 

「たっだいまー♪ ねえねえ、聞いてよお母さん。今日もわるーいヤツらをやっつけたんだよ」

 

実に晴れ晴れとした顔で嬉しそうに語る、茶髪のロングヘアの少女はこの物語の主人公 (なぎさ) 美里(みさと)

 

 

そしてご察しの通り、またの名をキュア・インフェルノという。

 

美里「この調子で戦ってけばさ、あーんな奴らすぐに皆殺しにできるよ。楽しみにしててね」

 

非常に物騒なことを嬉々として語る彼女だったが、そのことに対する返事は家のどこからもなかった。

 

 

美里「これでさ、亮太のやつも少しは姉を尊敬すると思うんだ。あの生意気な奴もさ」

 

「美里、もうやめるメル」

 

そんな美里に対して、諌めるような口調で話しかける者がいた。

 

美里の通学鞄の中から顔を出したそれは、一見するとぬいぐるみのように見えるが、れっきとした妖精であり、名をメルといった。

 

しかし美里はメルをギロリと睨みつけると、低い声で言った。

 

美里「なによ。なんか文句でもあんの」

 

その目つきにメルは怯えながらも続けた。

 

メル「こ、こんなことしてもなんにもならないメル。誰も望んでないことメル」

 

美里「私は望んでるわ。それに、父さんや母さん亮太もね」

 

美里はメルの忠告など聞く耳持たないというように続けた。

 

メル「でもでも!!」

 

美里「うっさい!! 私はお腹空いてんの!! 支度しなきゃいけないんだから黙ってて!!」

 

 

 

そして30分ほどして冷凍食品やインスタントといった簡単な食事を用意した美里は、食卓にて一人で食事を始めた。

 

美里「う〜ん、美味しい♪ 何やかんやでさっすが私だよ。料理がうまいね〜。なんか面白そうなテレビやってないかなぁ」

 

テレビをザッピングしていると、先の戦いのことがニュースで報道されていた。

 

 

ニュースキャスター「本日、夕方五時頃市内で巨大なクマ型のロボットとキュア・インフェルノと名乗る少女の戦闘がありました。その結果マンションが一棟半壊。住宅が計4軒全焼。自動車やトラック等が計7台大破。その他重軽傷者を合わせて50名近くに及び、市民からは激しい怒りと悲しみの声が…」

 

そこまで聞いた美里は無表情にチャンネルを変えた。

 

そこではバラエティ番組を放送しており、彼女はそれに夢中になりケラケラと笑っていた。

 

美里「アッハッハおっもしろい。このくっだらないダジャレ、お父さんといい勝負」

 

 

一人とはいえ実に楽しそうに食事をする美里に、メルは足元からおずおずと話しかけた。

 

メル「あ、あの、メルもお腹空いたメル」

 

美里「アハハ、なによ。おととい食べたばっかりでしょ」

 

美里は一瞥もせず笑いながらそう告げた。

 

メル「だから、昨日は何も食べてないから、その…」

 

すると美里はその言葉にイラついたように立ち上がると、近くの棚から猫缶を取り出してメルに思い切り投げつけた。

 

メル「ま、またこれメル…?」

 

ついポロっとつぶやいた瞬間、メルはしまったというような顔になった。

 

 

 

次の瞬間、メルは美里に思い切り踏みつけられた。

 

美里「調子に乗ってんじゃないわよ、穀潰しが!! いい!? あんたなんかあたしを変身させる力があるから、かろうじて飼ってやってるだけよ。それがなけりゃとっくにミンチにしてやってるわ。誰のせいでこんなことになったと思ってんの!! え!?」

 

メルを何度も踏みつけながら、美里はそう怒鳴った。

 

メル「ご、ごめんなさいメル。ごめんなさいメル」

 

美里「ふん、わかってりゃいいのよ」

 

必死に謝るメルを見て少しは気が晴れたか、美里は吐き捨てるようにそう言うとさっさと食事を終え部屋に戻っていった。

 

 

美里は部屋に戻りドアを閉め、先の戦いで石をぶつけられたところを押さえると、そのままへたり込んだ。

 

美里「…なさい、ごめんなさい」

 

すると突然美里は謝りながら涙を流し始めた。

 

美里「ごめんなさい家を壊して…。ごめんなさい私のせいでクビになって…。ごめんなさいいっぱい傷つけて…。ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

 

美里の泣き声をメルは扉越しに聞いていた。

 

メル「美里…ごめんなさいメル…」

 

メルもまた大粒の涙を流していた。

 

 

 

悲しみに満ちたそんな家の中には小さな仏壇があり、そこに飾られていた遺影は紛れもなく、美里の両親と弟のものだった…

 

 

プリキュアR(リベンジャー) 第2話に続く。

 



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第2話「Rが生まれた日」

 

10年前

 

 

オーエエドー市郊外

 

 

このオーエエドー市の郊外にある雑木林。

 

 

ここで二人の少女が遊んでいたのだが、木の実を拾ったりしているうちにかなり奥の方に来たため道に迷ってしまい、30分近くウロウロしていた。

 

 

「ねえ、どっちから来たか覚えてる?」

 

「もうわかんない、ずっと歩き続けて疲れちゃった」

 

「そうだね。お腹も空いたし、もうくたくた」

 

そう言って、二人の少女は座り込んでしまった。

 

 

そんな時、彼女たちは林の奥で何が光っているのを見つけた。

 

「あれ? 何だろう」

 

「きっと、パパやママが探しに来てくれたんだと思うわ」

 

 

薄暗い林の中で、光るものを見つけた二人は嬉しくなりその光の方へ走って行った。

 

しかしその先では彼女たちが期待したかのような大人たちはおらず、ただ大きな洞のある木があった。

 

光はその洞から溢れ出すようにしており、暖かくそしてどこか神秘的な輝きを放っていた。

 

 

「何だろうこれ」

 

「きれ〜い」

 

二人の少女は疲れも時の経つのも忘れ、その光に見入っていた。

 

 

やがて、その光の包み込むような暖かさに、疲れ切っていた二人はウトウトと眠り込んでしまい、気がついたときには病院のベッドの上で大人たちが心配そうに覗き込んでいた。

 

 

 

そして時は流れ、今をさかのぼること数ヶ月前…

 

 

 

 

 

「美里、今日こそはこの因縁にケリをつけてあげます。あなたを倒すことで私は前に進みます!!」

 

毅然とした態度で私に宣戦布告してきたのは、私こと渚 美里の親友にして幼馴染の(かのう) 雪菜(ゆきな)

 

私と同じ、ネローべ中学校の二年生でクラスメイト。

 

音楽の世界では天才といわれる父と世界的なヴァイオリニストの母の間に生まれたサラブレッドで本人もピアニスト志望。

 

もちろん、それにふさわしいだけの実力も兼ね添えている。

 

しかし、そんな彼女は私のせいで前に進めなくなってしまった。

 

事実、私を前に完全に戦闘態勢に入ってしまっている。

 

 

その姿をみて、私は心が痛かった。

 

が、逃げるわけには行かない。

 

彼女を巻き込んだ張本人として、何よりも私自身の為にも。

 

美里「わかってる。私は逃げない。でも手加減はしない。全力で相手をする。それが、あなたに対する償いでもあるから」

 

私も堂々たる態度でそう返し、臨戦態勢に入った私は、ポケットからコインを取り出し機械にセットした。

 

『Are you Ready? Battle Start!!』

 

特徴的な電子音が鳴り響くとともに、私と雪菜の戦いが始まった。

 

 

雪菜「このこのこの!!」

 

雪菜の戦い方は、トリッキーな小手先の技を駆使してテクニックを重視するタイプである。

 

小さな攻撃でこちらを怯ませ、私の行動のテンポを崩していく。

 

初めての頃ならまだしも、今となってはおそらく生半可な腕では相手にもならないだろう。

 

しかし、彼女の戦い方には一つ欠点がある。

 

一発一発の攻撃が軽いのだ。

 

事実、何発かクリーンヒットを食らってはいるが、私の体力にはまだまだ余裕があった。

 

とはいえ、チリも積もれば山となる。

 

こちらも隙を見て何発か攻撃を当てているが、だんだん限界に近づいてきた。

 

美里「くううう」

 

 

私はこんな中でも、少しずつ力を溜めていた。

 

そして雪菜の攻撃が一瞬途切れた隙を狙って必殺の大技を浴びせた。

 

私の戦い方は、一撃の威力の大きい技を利用するタイプ。

 

小回りが効かず使い勝手はあまり良くないが、一撃の威力で押し切るタイプだ。

 

美里「やああああ!!」

 

私の一撃が決まり、雪菜は大ダメージを受けて大きく吹き飛び、気絶状態になり目を回した。

 

そこを狙って私は怒涛のラッシュを浴びせ、ついには必殺の一撃を食らわせ、とうとう雪菜をノックアウトした。

 

 

『You Win!!』

 

美里「よっしゃー!!」

 

 

その表示が私の目の前の画面に出ると、私は雄叫びと共に思わずガッツポーズをしていた。

 

 

雪菜「くやしーい!! また負けたー!!」

 

台の向こうでは、雪菜が本気で悔しがっていた。

 

 

 

説明が不十分だったが、ここはオーエエドー市内のとあるゲームセンターである。

 

今私達がやっていたのは、人気の格闘ゲーム「バーチャルストリートIX」である。

 

私達はこのゲームにはまっており、ランキングでもかなり上位につけている。

 

 

雪菜もはじめは興味がなかったが、私がなんとなしに対戦を勧めた結果、何度やっても私に勝てないという悔しさから、私以上にはまってしまった。

 

最近ではピアノの練習そっちのけの時もあるぐらいである。

 

 

 

美里「へっへっへっー。悔しがることないって、雪菜だって十分強いよ。ただ私の方が強かっただけ」

 

雪菜「見てなさい、次こそ絶対勝つんだから!!」

 

 

そんな経緯だからして、私としては挑戦を受けないわけにはいかないし、手加減して負けるといった失礼なこともできない。

 

 

というのが現状である。

 

 

とまあ、そういったやり取りの後、ゲーセンを出て別れた私達は各々の帰路に着いた。

 

 

 

 

美里「う〜ん今日も平和に一日が終わった。明日も天気にな〜れ」

 

のんきにそんなことを言いながら、背伸びをしつつ私は帰り道を歩いていた。

 

すると

 

 

美里「ん? なんだろあれ」

 

自宅のマンションのゴミ捨て場に何か捨ててあるのが目に入った。

 

美里「今日はゴミの日じゃないし。なんだろ」

 

家のゴミ出し係は私なので、今日がゴミの日でないことはよく知っている。

 

おかしいなと思いつつ近づいてみると、そのゴミの正体がわかった。

 

美里「なんだぬいぐるみか。誰か遊んでて忘れて行ったのかな」

 

そう、そこにあったのは薄汚れたぬいぐるみだった。

 

アニメか何かのキャラクターらしく、どんな動物にも当てはまらない愛嬌のある姿をしていた。

 

美里「仕方ない、預かっといてあげるか」

 

そう呟き、私はそのぬいぐるみを持ち帰った。

 

 

 

 

渚家

 

 

美里「たっだいまー」

 

 

亮太「あっ、姉ちゃんおかえり」

 

そう言って私を出迎えたのは、今年小学校に上がったばかりの弟、亮太。

 

亮太「あれ? なにそのぬいぐるみ。きったねーの。でも姉ちゃんにはお似合いだぜ」

 

美里「やっかましい、ただの忘れ物よ」

 

帰宅早々、クソ生意気な憎まれ口を叩いてきた馬鹿の頭にゲンコツを落としながら私は部屋に向かった。

 

美里「まったく、あの馬鹿。もう少し姉に対する口の聞き方を教育してやらないとダメね」

 

悪態をつきながら、普段着に着替えると例のぬいぐるみが目に入った。

 

美里「うーん。でもまあ確かに汚いのは汚いのよね。しょーがない、洗っとくか」

 

そうして、そのぬいぐるみを持ち上げて洗面所に向かった。

 

 

 

美里「さーて、とりあえず汚れを落とすか」

 

私はそう呟きながら蛇口をひねり、ぬいぐるみに水をかけた。

 

 

「ピギャー、冷たいメル!!」

 

 

すると突如ぬいぐるみが悲鳴をあげた。

 

 

美里「えっなになに? ぬいぐるみが喋った!?」

 

私は目の前の出来事に目を丸くしていた。

 

ぬいぐるみはブルッブルッと身震いして水しぶきを飛ばすと、私に話しかけてきた。

 

「ぬいぐるみじゃないメル。メルは妖精のメルメル」

 

 

美里「えーっと、メルメル言ってんじゃないわよ。混乱するでしょう!!」

 

 

 

亮太「どうしたんだよ姉ちゃん?」

 

美里母「美里、何騒いでるの?」

 

騒いでいたのがお母さん達に聞こえたらしく、慌てて駆けつけてきた。

 

 

美里「ほら、見てよ!! ぬいぐるみがしゃべってるのよ!!」

 

美里母「なにが? ただのぬいぐるみじゃない」

 

するとお母さんが何を当たり前のことを言わんばかりに告げた。

 

 

美里「えっ、何言ってんのこんなに動いてるじゃない」

 

その態度に私も慌てて続けた。

 

亮太「姉ちゃんこそ何言ってんだよ。ぬいぐるみが動いたりしゃべったりなんて、そんなことあるわけないだろ。何メルヘンちっくな女みたいなこと言ってんだよ」

 

美里「そ、そうだよね。ちょっとふざけてみただけ」

 

私は亮太を思いっきり殴ると、そう言ってごまかした。

 

 

 

私は、メルと名乗ったぬいぐるみを連れて部屋に戻り、話を聞いた。

 

美里「あんた一体なんなの? ただのぬいぐるみじゃなさそうだけど。それに私にしか声が聞こえないみたいだし」

 

 

 

メル「メルも驚いたメル。メルの声が聞こえるメル? メルの声を聞ける人が今の世界にいるとは思わなかったメル」

 

美里「えっ、どういうことよ」

 

メル「もう千年以上も前のことメル。その頃人類とメル達妖精の先祖は仲良く暮らしていたメル」

 

美里「そんなこと聞いたこともないよ」

 

メル「先祖の妖精たちのことは色々話に残ってるメル。あちこちに妖精の伝承があるはずメル」

 

美里「確かにいろんな話があるけど…」

 

私は子供の頃に何度も聞いた、妖精が出てくる色々な話を思い出した。

 

美里「じゃあなんで今は一緒に暮らしてないのよ」

 

メル「人と妖精はとても仲良く暮らしてたメル。でもそれを破壊しようとした奴がいたメル。それが大神獣メル」

 

メルはどこか遠い目をして言った。

 

メル「そいつは妖精の一人でありながら、生まれながらにとてつもない力を持っていたメル。その力で世界を、すべての人や妖精を支配しようとしたメル。だから、人と妖精は力を合わせて戦って、なんとか大神獣を封じ込めることはできたメル。そして、それ以来妖精たちは責任を感じて人の前から姿を消して封印を守り続けていたメル…」

 

美里「それなのに、なんでアンタがここにいるのよ?」

 

メル「大神獣の封印が解けてしまったからメル…」

 

美里「えっ、なんでよ!?」

 

私は驚いて尋ねた。

 

すると、メルは言いにくそうに言った。

 

メル「…人間が自然を破壊したからメル…」

 

美里「何ですって!?」

 

メル「人間の文明が進みすぎて、空気や水を汚したメル…。そのために、妖精たちは生きていけなくなってしまったメル…。元々少なかった仲間もほとんどいなくなって、密かに守り続けていた封印をもう守れなくなってしまったメル。だから、もう一度一緒に戦ってくれそうな人を探しに来たメル」

 

美里「そんなことが…。じゃあさ、明日警察まで連れてったげるから、そこで話しなよ」

 

メル「それは…難しいと思うメル」

 

美里「なんでよ?」

 

メル「今の人間たちは妖精のことをほとんど知らないメル。そんな人とは会話することもできないメル」

 

その言葉に疑問が湧いた。

 

美里「確かにお母さんも亮太も聞こえてなかったみたいだけど…。でも私には聞こえるじゃない」

 

メル「多分、妖精の光を見たことがあるんだと思うメル。だから、妖精であるメルと話ができるんだメル」

 

美里「妖精の光…? そんなもの見たことなんて…」

 

そう言いかけてふと思い出した。

 

子供の頃森で迷った時に、不思議な光を見たことがあったことを。

 

美里「まさかあれが…。あれ夢じゃなかったのかな」

 

メル「やっぱりメル。美里…だっけメル。メルと一緒に戦って欲しいメル」

 

 

メルは私に頼んできたが、とんでもない話だった。

 

美里「冗談言わないでよ!! 私14歳の中学生だよ。戦うなんてできるわけないじゃない!!」

 

 

すると、メルは不思議そうに尋ねた。

 

メル「メル? 14歳なら立派な大人じゃないかメル?」

 

美里「どういう論理よ、それ」

 

 

実は美里もメルも気がついていないが、メルは千年以上前の頃の感覚で話しており、その頃の平均寿命は30代。14、5歳ならば立派な成人なのである。

 

 

美里「まあ、とにかく。そんな訳のわかんないやつと戦うなんて私には無理。悪いけど他当たってよ」

 

 

 

 

 

 

その夜

 

 

 

美里父「なんだい、おつまみはイカしかないのか。まあいいか、なんちゃって」

 

美里「お父さんたら、またくだらないギャグを…」

 

美里母「あなた、それは私の料理を褒めてるのかしら…」

 

亮太「恥ずかしいよもう…」

 

私たち家族は、いつものように父さんのくだらないギャグを交えつつ夕飯を食べ終えるとテレビを見たりして平穏な団欒を楽しんでいた。

 

美里「ちょっとトイレっと」

 

私はテレビがコマーシャルになったのを見届けると、トイレに立った。

 

用足しを終え、洗面所で手を洗っている時だった。

 

急に電気が消えて真っ暗になってしまった。

 

美里「あれ? 停電かな。困ったなぁ」

 

何度かスイッチを入り切りしたが電気がつかず、困ったような声を出すと

 

メル「み、美里!!」

 

美里「なによ、あんたまだいたの!? それより、あんまり家の中うろつかないでよ」

 

足元から急に声をかけてきたメルに私は驚き、嗜めるようにそう言ったが、メルはそんなこと気にも留めないように慌てた声で続けた。

 

メル「あいつが、あいつがくるメル!!」

 

美里「あいつって…?」

 

メル「大神獣メル!!」

 

 

 

その頃ダイニングルームでは急な停電に家族が慌てていた。

 

美里父「おい、懐中電灯は?」

 

美里母「待って、確かこの戸棚に…」

 

亮太「なんかうちだけみたいだよ。ほら、外は電気ついてるし」

 

 

 

そんな中…奇妙な足音が響いた。

 

美里母「あら、何かしら…あの音は?」

 

美里父「蹄の音…?」

 

 

 

次の瞬間、突如として窓から槍のようなものが突き出した。

 

そしてそのまま窓ガラスをぶち破り、伝説の生き物、麒麟を醜悪な外見にしたような怪物が出現した。

 

この怪物こそが大神獣である。

 

 

大神獣「感じるぞ…我を封じ込めた憎いものの気配を…」

 

 

美里父「こ、この化け物が!!」

 

父はとっさに家の中の物を手当たり次第に投げつけるが、まるで通用しなかった。

 

そのまま大神獣は、父の方を見ると目障りだとでも言うように角で胴体を刺し貫いた。

 

 

 

美里母「あなた!!」

 

亮太「お父さん!!」

 

目の前のあまりの光景に二人は絶叫した。

 

 

 

大神獣「ただの人間の分際で…我に逆らうとは、な」

 

首を振り、父をゴミでも払うように角で投げ飛ばすと、見下したようにそう告げた。

 

 

美里父「逃げろ…みんな…」

 

その言葉を最後に父は息絶えた。

 

亮太「お父さん!!」

 

亮太は思わず父親の亡骸に駆け寄ろうとしたが、母がそれを制した。

 

美里母「ダメ!! 逃げるのよ」

 

自らもそうしたい感情を必死に抑えて、母は亮太とともに逃げ出そうとしたが、ものすごいスピードで移動してきた大神獣に回り込まれ、退路をふさがれてしまった。

 

 

 

大神獣「我の復讐を阻む可能性は、すべて摘ませてもらう!」

 

そう告げるとともに、大神獣の爪が母と亮太の体を引き裂いた。

 

美里母「あぁ…」

 

亮太「うぁ…」

 

うめき声とともに、二人は血まみれの肉塊と化した。

 

 

 

美里「あ…あ…」

 

私は洗面所からこの様子を隠れて見ていたが、あまりの現実感のなさに呆然として、棒立ちになっていた。

 

メル「や、やっぱり大神獣メル。きっとメルを探して…」

 

 

すると大神獣とかいう怪物はこちらに向き直った。

 

大神獣「そこにいるか、愚かな妖精め」

 

そのドスの効いた声と立ち込める血の匂いに、私の奥歯はガチガチとなっていた。

 

 

メル「こ、こうなったら!!」

 

 

そう叫ぶと、メルは私に飛びついてきた。

 

次の瞬間、私は赤い光に包まれた。

 

 

大神獣「むっ、この光まさか!!」

 

 

私は突然の光に目がくらみ、よろめきながら廊下に出た。

 

そこで、例の怪物を間近に見てしまい悲鳴をあげた。

 

美里「ヒィッ!!」

 

 

大神獣「その姿、まさかプリキュアに変身できる人間が未だに存在していようとはな!!」

 

美里「プリ…キュア…?」

 

大神獣のその言葉に、私は戸惑いながら自分の姿を見て驚いた。

 

部屋着だったはずの私の服は、フリルのついた深紅のドレスといった感じの衣装に変わっていた。

 

美里「な、何これ?」

 

大神獣「おのれ、死ねプリキュア!!」

 

その叫びとともに、大神獣は突進攻撃を仕掛けてきた。

 

美里「う、うわー!!」

 

私はとっさに両手を前に突き出した。

 

するとその一撃はカウンターになり、大神獣は大きく吹き飛んだ。

 

しかし、その吹き飛んだ先を見ると、お父さんたち「だった」ものが目に入った。

 

事態を把握しきれず混乱した頭で、それを見た私の頭には凄まじい怒りが湧いてきた。

 

そして怒りのままに大神獣に殴りかかると、私の拳は炎に包まれた。

 

 

そうして繰り出した炎のパンチは大神獣に直撃し、ものすごい勢いで窓から飛び出していった。

 

 

 

その勢いのまま地面に激突した大神獣は、真っ赤な炎で全身が燃え上がった。

 

大神獣「おのれ、封印が解けたばかりではまだ力が不十分か。なんらかの手段で力を集めねば…」

 

そう言い残すと黒い霧のようになって消滅した。

 

 

 

 

美里「はあはあ…」

 

私は肩で息をしながら、床にへたり込んでいた。

 

しばらくして、呼吸が整うと混乱も収まってきた

 

とりあえず、目の前にいた怪物は追い払ったのだとようやく理解できた瞬間にはたと気がついた。

 

美里「父さん!! 母さん!! 亮太!!」

 

大声で叫んだものの、どこからも返事はなかった…

 

 

 

 

数日後、家族のお葬式が終わった後、遠くに住んでいた親戚からうちに引っ越して来ないかと私は誘われたが、私はそれを断った。

 

 

美里「確かにここに住むのは辛いけど、楽しかった思い出もあるし、友達とも別れたくないから」

 

 

その後も何度か説得されたが私は頑としてそれを断り続け、結局定期的な仕送りをしてもらうこと、中学を卒業するまでという条件で私は一人暮らしをすることになった。

 

私がそこまでしてここに残ることにこだわったのには、もちろん別の理由がある。

 

 

あの後、メルにいろいろ事情を聞いたのである。

 

 

美里「つまりさ、あんたは人をこんな風に変身させる力があって、それが唯一あの大神獣とかいうのと戦う手段だってこと?」

 

私の低い声で絞り出すようにいったその言葉にメルは頷いた。

 

美里「それで、おそらくあいつはまだ生きてるんだよね?」

 

メル「そ、そうメル…」

 

美里「じゃあ、力貸してもらうわよ。あいつをぶっ殺してやるためにね!!」

 

メル「み、美里落ち着くメル」

 

私の目つきや口調に怯えたようにメルは私を諌めた。

 

しかし、それは私には逆効果だった。

 

美里「ふっざけんじゃないわよ!! あんたがいつまでもこんなとこウロウロしてたからあいつが来たんでしょうが!! あんたさえさっさとどこか行っていればこんなことにならなかったのよ!! いい!? 嫌とは言わせないからね」

 

私はメルを思い切り掴むとそう怒鳴りつけた。

 

メル「わ、わかったメル…」

 

その言葉にメルは力なく頷いた。

 

美里「それでいいのよ。見てなさい大神獣、必ず家族の仇を討ってやる!!」

 

 

 

 

そして現在

 

 

雪菜『美里、いろいろ大変でしょうから困ったことがあったらいつでも言ってね。できる限り協力するから』

 

 

美里「雪菜、色々心配してくれてありがとう。じゃあたし洗濯があるから。まったね」

 

そう言って電話を切ると、私は洗濯かごを抱えてベランダに出た。

 

 

私はあれ以来、当たり前だが家事一切をしている。

 

掃除や洗濯等いろいろお母さんの手伝いはしていたけれど、全部やるとなるとなかなか大変である。

 

美里「ふう、お母さん毎日こんなことしてたんだ。ありがとう」

 

私は洗濯物を干し終えると心からお母さんに感謝した。

 

洗濯物を干し終えて、ひと息つこうと空の洗濯カゴをもってベランダから家に入るとメルの様子がどこかおかしかった。

 

美里「メールちゃん、どうしたの? なんか様子が変だよ♪」

 

私はわざとらしく明るい声でそう尋ねた。

 

メル「美里、な、なんでもないメル」

 

美里「まーたまた。アイツなんでしょ、ん?」

 

私はメルの鼻を可愛く突っつききながらそう言った。

 

するとメルは観念したように頷いた。

 

 

それを確認すると、私はメルを睨みつけ、怒鳴りつけた。

 

美里「ならさっさとする!! ほら行くよ!!」

 

メル「わかってるメル…」

 

 

メルは渋々といった感じにスマホのようなものに変身した。

 

私はそれをひったくるように掴むと鍵の形のアプリをタッチして起動し叫んだ。

 

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包んでいた。

 

そして、赤い仮面を装着して変身を完了した。

 

 

 

 

オーエードー市内 某所

 

 

 

今この市内では、巨大なネズミのようなロボットがビルをかじったりして暴れていた。

 

 

クジャク「しっかしなんでよりによって、こんなネズミをモチーフにするかねぇ」

 

アカンコウ「ネズミじゃないです。ハムスター型ロボットのスターマンですよ。ほらそれが証拠に顔も肉球も星型です。ゆるキャラみたいでかわいいでしょ」

 

ゴロリン「そうですな、つい最近までお星さまに飼われてたみたいでまんねん」

 

 

クジャク「なんの話をしてんだか。とにかくや〜っておしまい!!」

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

そうして、ネズミ型メカもといハムスター型メカはビルや電柱をかじり、街を破壊し始めた。

 

 

そんな時、空に光るものが現れた。

 

クジャク「ん? 空を見ろ!!」

 

ゴロリン「鳥だ!!」

 

アカンコウ「飛行機だ!!」

 

 

 

 

クジャク「ホームランボールだー!!」

 

 

アカンコウ・ゴロリン「「ダー!!」」

 

二人は思いっきりずっこけた。

 

 

 

 

 

私は赤い火の玉となりロボットの暴れている所に飛んできた。

 

そして私は赤い仮面越しに奴らを睨みつけた。

 

この仮面は、戦うことを決意した時につけることを決めたものだ。

 

 

大神獣とその一派と戦う時の顔。

 

 

復讐のためにかぶると決めた仮面。

 

 

これがあるからこそ、私は全てを押し殺して戦える。

 

 

この仮面、そして名前はそのためのもの。

 

 

 

そしてその名を奴らに向けて私は名乗った。

 

 

「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー) 第3話に続く。

 

 



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第3話「女のR」

クジャクはハムスター型メカのコックピットで、歯ぎしりしながらキュア・インフェルノを睨みつけていた。

 

 

クジャク「くう〜。毎度毎度盛り上がり始めると出てくんだから、あの娘っ子!!」

 

アカンコウ「そうですね。一体あたしらになんの恨みがあるんでしょうね〜」

 

ゴロリン「で、まんねん」

 

 

クジャク「え〜い、今日という今日は叩きのめしておやり!!」

 

アカンコウ「お任せくださいクジャク様。今回は一味違いますよ」

 

その返事と共に、ハムスター型メカはキュア・インフェルノに向かっていった。

 

 

 

クジャク(まったく、世の中のことな〜んにも知らないガキンチョが地獄だなんだとぬかすんじゃないよ)

 

コックピットの中、クジャクはキュア・インフェルノに対し心の中で悪態をついていた。

 

クジャク(地獄っていうのはね、今のこの世界のことをいうのさ。だからぶっ壊してやるんだよ)

 

 

 

 

 

 

 

クジャク。これは彼女の本名ではない。

 

彼女は極めて普通の女性だった。いや、決して普通とは言い難いか。

 

 

彼女は物心ついた時から施設で暮らしていた。

 

自分の本当の両親の顔も名前も知らない。

 

自分が、所謂「かわいそうな人間」なのだと気づくのにそう時間はかからなかった。

 

彼女自身は特になんの問題を起こしたことはないのに、周りの人々がことあるごとに「施設育ち」「親無し」などと言っては彼女を敬遠したからだ。

 

 

小学校に入った頃には、特にそれが顕著となり露骨な嫌がらせも多くなってきた。

 

幸か不幸か彼女は人並みはずれた美貌の持ち主だったためか、男子からは割と好意的に見られていたのだが、女子からは尚更やっかみを含んだいじめを受けた。

 

そして彼女は同性に対して希望を持つことを止めた。

 

だからと言って男に依存したり、媚を売ったりした訳ではない。

 

 

彼らが、自分の顔や体にしか興味のないであろうことはなんとなく感じ取っており、そんな生き物に依存するなど吐き気がするほど嫌だった。

 

 

そうして、彼女は学園の中で孤立していった。

 

陰口や非難中傷は当たり前のように行われる日々。

 

男と遊んでいるや、裏ではとんでもない悪事をしているなど根拠のない噂話を流されたこともあった。

 

はっきり言って人生ハードモードと言っていいぐらいだった。

 

 

だが、彼女自身人に顔向けできないことをしたことはなく、精一杯くじけずに前向きに生きてきた。

 

周りに何も言わせまいと人一倍努力して一流大学に入り、アルバイトに追われながらも必死に学び主席で卒業し一流企業にも入社した。

 

そこでも鋼鉄の女と罵られながらも懸命に働き、30歳にもならないうちに一つの営業所を任されるまでになった。

 

 

しかし、そこまで登りつめてみたものの、そこに残ったのは虚無だった。

 

趣味はおろか遊びも知らない。

 

仕事上の付き合いや部下は大勢できたが、気軽に話せる友人もいない。

 

 

この先もこうして生きて、どこか空っぽのまま消えていくのか。

 

そう思いうすら寒く感じたこともあった。

 

 

 

そんなある日だった。

 

駅のホームでどこかぼんやりと歩いていると、足を踏み外して線路に転落した。

 

おまけにそこを狙って特急列車が通過しようとしてきた。

 

その時はこれで人生が終わるのかとどこか他人事のように感じたものだった。

 

 

しかし、彼女はすんでのところで男性がホームに引き上げてくれた。

 

「大丈夫ですか? お怪我は?」

 

 

その瞬間、虚無だった彼女の人生に初めての色が灯った。

 

 

 

その後、その男性との交際は順調に進み、性格も明るくなったとの評判で仕事もより一層順風満帆。

 

彼女は初めて人生を楽しいと感じていた。

 

 

 

 

が、その幸福もわずかな時間で終わりを告げた。

 

 

その男性は相当なたらしであり、女に貢がせては捨てていたのだ。

 

恋は盲目とはよく言ったもので、彼女もまたコツコツと貯めていたなけなしの財産をすべて奪われてしまった。

 

おまけに彼を信頼して幾つかの会社の機密も話してしまい、その男はそれをライバル社にリーク。

 

気づいた時にはすでに遅く、彼女は機密漏洩ということで犯罪者となり会社もクビ。

 

当然その時には例の男とは音信不通になっていた。

 

彼女はわずか数ヶ月で、死に物狂いで築き上げたものをなにもかも無くしてしまった。

 

 

今や、彼女は虚無どころか絶望で覆い尽くされていた。

 

 

「私の人生なんなんだろうね。なんでこんな目にあわなきゃならないんだろう。誰のせいなんだろうね」

 

身投げでもしてやろうかと思い、一人寂しく街中をさすらっていた彼女の前に黒いモヤのような物が現れ、話しかけてきた。

 

 

「なぜ、自分が消えようなどと考える。悪いのはお前を否定したこの世界だ」

 

 

どこか虚ろな目をしていた彼女は、どこからか聞こえてきた声にもなんとなく受け答えをした。

 

 

「そうかもね。でもどうしようもないさ。どんなに狂っててもこれがルール。私にどうこうできるもんじゃないよ」

 

 

「諦めることはない。ルールを正しいものにするための力をくれてやる。そして我を蘇らせるのだ」

 

 

ここに至って、彼女はようやく周りに誰もいないことに気がついた。

 

 

「誰だい? どこから話しかけてるんだい?」

 

 

その疑問に答えるように、彼女の周りの黒いモヤはなんとなく動物を思わせる形になった。

 

 

「我は大神獣。この世界のルールを恨み憎むもの」

 

 

 

 

クジャク(あれが大神獣様との出会いだったねぇ。そしてこうして私はこの世界に復讐できるようになった…)

 

 

クジャクはしみじみと過去を思い返していた。

 

 

 

 

 

クジャク「などと回想シーンに入っている間にやられかけてるじゃないかい!!」

 

 

横倒しになったコックピットの中で、ひっくり返りながら彼女は怒鳴りつけた。

 

ゴロリン「は〜い。すでにボコボコにされちゃってますでまんねん」

 

クジャク「一味違うとか言わなかったっけ、アカンコウ?」

 

クジャクは嫌味ったらしく尋ねた。

 

アカンコウ「はい、こんなにゆるキャラっぽくしてれば攻撃の手も緩むかな〜って思ったんですけどね」

 

 

クジャク「つまり、強力な武器や作戦があったってわけじゃないんだね?」

 

アカンコウ「いえいえ、この可愛らしさはまさに女の子には必殺級ですよ。きっと通用すると思ったんですけどね」

 

クジャク「なんの根拠があるんだい!!」

 

 

 

そんな漫才を三獣士がやらかしている間、キュア・インフェルノは凄まじい憎悪の目でボロボロになってひっくり返っているハムスター型メカを睨みつけていた。

 

 

インフェルノ「あんな姿をして可愛いつもりなの!? ふざけんじゃないわよ!!」

 

ゆるキャラみたいなふわふわしたデザインのロボットは、何も知らずに見れば私もかわいいと声を上げただろうが、今の私には神経を逆撫でするだけだった。

 

インフェルノ「ぶっ殺す!! 絶対に!!」

 

 

「熱いよー!! おかーさーん!!」

 

「誰かー!! 助けてー!!」

 

 

その時突然悲鳴が私の耳に聞こえてきた。

 

変身している間は身体能力が爆発的に上がるが、同時に目や耳まで良くなりすぎるのは考えものだ。

 

聞きたくないものまで聞こえて、見たくないものまで見えてしまう。

 

 

反射的に振り返った先には、炎に包まれた家の中から悲鳴を上げている女の子と家の前で叫んでいる母親らしき女性の姿が見えた。

 

 

すると、その母親らしき女性は私の姿を見ると藁にもすがるようにしがみついてきた。

 

 

母親「助けてください!! 娘が火の中にいるんです!! お願いします、助けてください!!」

 

 

母親は凄い力で私にしがみついてきて、私は動きが止められた。

 

すると、その隙にハムスター型メカは起き上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

アカンコウはキュア・インフェルノからの攻撃の手が緩んだのを見てチャンスと判断したのだ。

 

アカンコウ「しめた!! 今のうちに態勢を立て直して最後の切り札を使いましょう!! 幸い無事に起動しそうです」

 

クジャク「おお! 最後の切り札!! さすがだねぇ。で、どんなのだい?」

 

自信たっぷりなアカンコウの言葉にクジャクは期待を込めて尋ねた。が、

 

 

アカンコウ「はい、脱出装置です。さっさと逃げましょう」

 

その言葉にクジャクは盛大にこけた。

 

 

 

インフェルノ「!! 邪魔よ、離して!! アイツが逃げちゃうじゃない!!」

 

ハムスター型メカが逃げ出そうとしているような空気を敏感に感じた私は、その母親を引き剥がそうとしたが、母親はなおもすがりつくように懇願してきた。

 

 

母親「お願いします!! 娘は今年小学校に上がったばかりなんです。いろんなことをこれからやりたがってて、やらせてあげたいんです!! お願いします、娘を助けてください!!」

 

 

その言葉に、私の脳裏には亮太の事が蘇った。

 

今年小学生になったばかり、楽しみにしていた小学校にもほとんど通えず、楽しみにしていた運動会や遠足も参加できず終いになってしまった私の弟。

 

そして、それを奪った奴らへの憎しみが私の中で再燃した。

 

 

インフェルノ「うるさい!! どけ!!」

 

私は力任せに母親を振り解くと、両手を大きく振りかぶった。

 

すると私の手が赤い炎で包まれた。

 

インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

そう叫ぶと、私は両手の炎の塊を、憎しみを叩きつけるかのように投げつけた。

 

 

そして、炎の塊の直撃したハムスター型メカは大爆発とともに木っ端微塵になった。

 

 

 

アカンコウ「いやあ、ギリギリのところで脱出できましたね。どうですか、この私の判断力は?」

 

クジャク「エバれることか、このスカ!!」

 

 

うまく脱出できた三人は、小さな脱出ポッドの中でなおも漫才を続けていた。

 

 

 

戦いを終えた私は視線を感じて振り返ると、そこにはさっきの女性が憎悪に満ちた目で私を睨んでいた。

 

見ると、先ほど燃えていた家は全焼していた。

 

当然その中にいた女の子がどうなったかは推して知るべしである。

 

 

母親「人殺し!! どうして助けてくれなかったんですか!? あなたが殺したようなものよ!!」

 

その女性は凄まじい形相でそう怒鳴った。

 

 

インフェルノ「知らないわ。いちいち目の前のことに拘っていられないもの。運がなかったと思いなさい」

 

 

母親「うるさい!! あなたがどんな目的があって戦ってるのか知らないけど、そのために他人を犠牲にしていいことにならないわ!! あなたには、無関係に巻き込まれて犠牲になった人の悲しみなんかわからないんでしょうね!!」

 

 

その言葉は私の胸に突き刺さったが、私は無視して赤い火の玉になって飛び立った。

 

ただ、飛んでいる最中、妙に景色がゆがんだことははっきりと記憶に残っている。

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

クジャク「ま〜ったく、何が自信作だい。お前みたいなのをね、ノータリンって言うんだよ。もうちょっと頭を使え、頭を!! 普段自慢してんだからマシなことを考えろ!!」

 

 

クジャクがアカンコウをボロカスに叱責していた。

 

 

アカンコウ「くう〜言いたい放題言ってくれちゃって!! あれだけのメカ作れる男が他にいるかってんですよ!!」

 

 

クジャク「口ごたえはいい!! とやかく言うなら結果を出してからお言い!!」

 

こうして言葉だけだと口げんかのように思えるが、クジャクはどこか楽しそうだった。

 

 

クジャクは、営業所長時代にも同じように遥かに年配の部下に同じような叱責をしていたことがある。

 

 

ただし、その時は今より遥かに高圧的であったし、部下の反論も「女のくせに」や「何も知らない若造が」みたいな感じのことだった。

 

 

そのため、口調こそ厳しいが彼女は本気で討論をしあえる相手ができたことが嬉しいのかもしれない。

 

 

クジャク(こんなやつらでも、結構一緒にいて悪くはないんだよね。これも大神獣様のおかげってやつかね)

 

 

 

 

 

 

数日後 ネローべ中学校 講堂

 

 

校長先生「皆様にお知らせがあります。3年の藤田先生が本日をもって退職されることになりました。先日、娘さんを亡くされたことで遠い街へ引っ越されるということです。では最後のご挨拶をどうぞ」

 

校長先生の言葉に従って藤田先生が講壇に上がった。

 

藤田「藤田です。みなさんとお別れするのは寂しいですが、皆様のことは忘れません。皆さん、くれぐれも人の悲しみがわからないような人にならないでください。どんなことがあろうとも人を傷つけるようなことがあればその痛みのわかるような人になってください」

 

 

雪菜「ねえ、聞いた美里? なんでも藤田先生、こないだのキュア・インフェルノとロボットの戦いに巻き込まれて、家と娘さんをなくしたんだって」

 

藤田先生のお話の最中、雪菜がひそひそと私に話しかけてきた。

 

すると、同じくクラスメイトの保田 久美と高見 理香が便乗するように話しかけてきた。

 

久美「聞いた聞いた、なんでもその子に助けてくれって頼んだのに見殺しにされたんだって」

 

理香「ひっどいよね、人でなしもいいところだよ。一体どこの誰なんだろう」

 

 

雪菜「きっと、悪魔みたいな子よ。美里もそう思わない?」

 

美里「えっ、うっうん。そうだね、きっと鬼みたいな子だよ」

 

 

私は2年生だから、3年の先生とはほとんど面識がない。

 

だからあの時の人が、うちの学校の先生だとはわからなかった。

 

 

とはいえ、それは言い訳にはならないだろう。事実見捨てたことは確かだから。

 

私は当たり障りのない会話をしながらも、自分が本当に鬼や悪魔になるんじゃないかと思い不安になった。

 

あの時何もなければ、私だって助けに行きたかった。

 

無関係に巻き込まれ、犠牲になった人の悲しみや無念さは嫌という程知っている。

 

 

しかし、それでも私は自分の感情を抑えることはできなかった。

 

 

目の前で家族を殺されたこと。あの理不尽さと怒りは今でも私の中で渦巻いている。

 

この恨みの炎は、あいつらを倒すまで消えないであろうことはなんとなくだが想像が付いている。

 

 

それまでは、どれほど罪を重ねようとも復讐を止めない。絶対に。

 

私は必死に自分にそう言い聞かせた。

 

自分の重ねた罪の重さを実感しながら…

 

 

 

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー) 第4話に続く。

 

 



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第4話「Rとなりし科学者」

 

美里「さーってと、今日は豪華な夕飯ね」

 

 

私はテーブルの上にズラーっと並べたお皿を見て満足そうに言った。

 

 

美里「お茶は最高級の玉露…のお茶っ葉なし」(ようするにただのお湯)

 

 

美里「そんでもって私の好物、ヨード卵をきっちり1分半茹でた半熟卵…の殻」

 

 

美里「それと贅沢に厚切りにした世界チーズ(地図)と日本チーズ(地図)

 

 

美里「メインディッシュはアッツアツのメザシのフィレ(ひれ)ステーキ」

 

 

美里「デザートはオーブンでふっくらと焼いた(台所の)スポンジケーキ」

 

 

 

美里「うーん、美味しそう♪ いっただっきまーす♪」

 

 

 

私は明るい声を出して食事をしようとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

メル「…やってて虚しくないメル?」

 

 

そのメルの冷静な突っ込みに私はテーブルに頭から突っ伏した。

 

 

美里「うるさいなぁ。次の仕送りまであと五日間、15円で生活しないといけないんだから仕方ないの」

 

 

こんなことになったのはある深い事情がある。

 

 

ここんとこ色々あったせいで、ゲームともすっかりごぶさただった。

 

そこで気分転換にと「バーチャルストリートIX」をやりに行ったら、いつの間にかランキングがかなり落ちていた。

 

 

その事実にむかっ腹が立ったのでランキングを奪い返そうとやり始めたのだが、かなり勘が鈍ってしまっておりなかなか思うような結果が出なかった。

 

かなり熱くなった私は、ひたすら連コイン。

 

苦闘数時間の末ランキングは奪い返せたものの、生活費が吹っ飛んでしまったという深〜い事情があるのだ。

 

 

そのことを我が親友に打ち明け相談したものの、久美と理香はおろか雪菜さえもなぜか同情してくれず、1円も貸してくれなかった。

 

かくて、私は昨日から水だけの強制ダイエット中なのである。

 

 

 

美里「う〜ダメだ〜やっぱりひもじい〜。なんとか雪菜たちに泣きつこう」

 

 

メル「一日や二日ぐらいでよく言うメル。メルなんかしょっちゅうメル」

 

 

ポツリとそう言ったメルに向かって、コップが飛んで行ったのは言うまでもない。

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

アカンコウ「フッフッフッ。対プリキュア用の装備を搭載したメカがついに九分九厘完成したぞ。あとは…」

 

 

この洋館の地下室で新型ベースアニマルを開発していたアカンコウは、どこか危ない声と表情でメカの開発を行っていた。

 

 

クジャク「ちょっと、アカンコウ。愉快な顔をますます愉快にしてないでさ、夕食の買い出しに行っといでよ。今週はお前の当番だろ」

 

ゴロリン「そうでまんねん。もう腹と背中がくっつきそうでおま」

 

 

そんな時、空気に水を差すようにクジャクたちが地下室に降りてきた。

 

 

アカンコウ「んもう。いいところなんですから後にしてくださいよ。また今度当番はやりますから」

 

アカンコウは不満そうにそう言ったが

 

クジャク「ダメだよ。お前こないだからずっとそんなこと言って当番すっぽかしてるだろ。今日という今日は許さないかんね。ほら買い出し行っといで」

 

そう言ってクジャクは財布を投げ渡した。

 

アカンコウ「はいはい。わかりましたよもう」

 

アカンコウはしぶしぶと言ったように準備を始めた。

 

 

クジャク「あ、それと余計なもん買うんじゃないよ。大神獣様からもらってる予算ってもんがあるんだからね」

 

アカンコウ「買いませんよ、子供じゃないんですから」

 

するとクジャクはジロリとアカンコウを睨みつけた。

 

クジャク「先月食費を使い込んだ結果のメカがあれだろうが。偉そうなこと言えるかっての」

 

 

アカンコウはその言葉にぐうの音も出なかった。

 

 

 

 

 

 

翌日 

 

 

オーエードー市内 某スーパー

 

 

 

久美「じゃあ美里。歴史のレポート代わりにやってね」

 

理香「私は数学の宿題。よろしくね」

 

美里「う〜わかったよ〜」

 

私は情けない声を出しながら、二人からノートを受け取った。

 

雪菜「自業自得よ、美里。 あ、私は英語ね」

 

 

結局必死に泣きついた結果、私はみんなの宿題を代わりにやることを条件にいくらか買い物のお金を立て替えてもらった。

 

なんとか五日間は生きられそうだが、代償はかなり大きかった。

 

無駄遣いは二度とすまいと、私は心に誓った。

 

 

 

 

そんなこんなでようやく食料を仕入れた私は、みんなと一緒に帰路に着いた。

 

 

雪菜「美里。一人暮らしで大変なのはわかるけど、ちゃんとやることはやってね。同情するにも限度があるから」

 

美里「はい、反省してます」

 

クギを刺すような雪菜の言葉に私は何も言い返せなかった。

 

 

久美「雪菜、無駄だって。美里のことだもん、どうせまた同じようなことになるって」

 

理香「そうそう、今度は何を頼もっかな〜」

 

美里「あんたらね〜」

 

 

 

そんなことを言い合いながら歩いていると、一人の女性が通りすがりの人にひたすら声をかけているのが見えた。

 

だが、その女性は声をかけても無視されることを繰り返していた。

 

 

美里「何してんだろあの人?」

 

理香「ちょっと挙動不審だよね」

 

雪菜「ダメよ、そんなこと言っちゃ。セールスかなんかなんだわ」

 

久美「まっなんにせよ関係ない。相手しないが吉よ」

 

 

そうして私たちは通り過ぎようとしたが、その人は私たちにまで声をかけてきた。

 

「あのすいません。ちょっといいですか」

 

久美「えっすいません。急いでますから」

 

いきなり声をかけられた私たちは戸惑ったが、久美がそういってくれたおかげでやり過ごせそうだった。

 

 

しかし、その人はなおも食いついてきた。

 

 

「お願いします。人を探してるんです、どうか話を」

 

 

それを聞いて、私は足が止まった。

 

美里「えっまさか迷子ですか?」

 

さすがにそうなら無視はできない。

 

せめて話だけでもと思ったのだが

 

「はい、音信不通になってしまって…」

 

 

そう言うとその人はふらつき、そのまま倒れてしまった。

 

 

雪菜「ちょっちょっと。どうしたんですか!?」

 

美里「た、大変だよ。救急車!!」

 

 

私たちは大慌てで119番をした。

 

 

 

 

 

 

 

オーエードー市 市民病院

 

 

美里「じゃあこの人は…」

 

雪菜「今時そんなことって…」

 

医者「はい、はっきり言わせて貰えば…」

 

 

 

 

 

医者「ただの貧血です。食事をほとんど取っていなかったんでしょう」

 

 

「すみません。ご迷惑をおかけしました」

 

そう言って謝る女性に、私たちは尋ねた。

 

 

理香「でも、一体どうしたんですか? 人を探してるって聞いてましたけど…」

 

 

「はい、大きくなったら結婚しようって約束してた人なんです。でもこの街に行くと言ってもう何年も連絡がないんです。誰か知らないかと思って尋ねて回ったんです。 だけどどうしてみなさん、答えてくれなかったんでしょうか? こんなに時間がかかるとは思わなくって、とうとう所持金も帰りの電車賃ぐらいしかなくなって…」

 

本当に不思議そうにその人は言った。

 

久美「そりゃ、道行く人に聞いて回るなんかで探してる人を見つけるなんて無理だよ。みんな怪しむだろうしさ。」

 

「そうなんですか? 私の田舎ではみなさんいろいろ親身になってくれるんですが」

 

 

雪菜「都会では見知らぬ人に声をかけられても返事をしませんよ。それにこういうのもなんですが、おそらくその男性は他の女性とお付き合いされている可能性があるのではないかと…」

 

「そんなことはありませんよ。ヒロ君とは五歳の時からずっと仲が良かったんですから」

 

 

雪菜が申し訳なさそうに告げるも、その人は不安の全くない顔でそう言った。

 

 

美里「今時珍しいぐらいいい人なんですね、あなたは…」

 

私は呆れながらも、この女性の純朴さを眩しく感じていた。

 

 

久美「そうよねー、食費がなくなった理由がどっかの誰かとはえらい違い」

 

 

美里「ぐう、痛いところを…」

 

 

 

 

 

 

オーエードー市内 商店街

 

 

アカンコウ「まーったく。しばらく買い出し当番やれって、あの女横暴なんだから。私がメカ作んなかったら何にもできないくせに、もう」

 

アカンコウはブツブツ言いながら買い物袋をぶら下げて商店街を歩いていた。

 

 

アカンコウ(私の才能は世界一なんだよ。それを素直に認めてくれてるのは大神獣様だけ。非常にありがたいことなんだよね)

 

 

 

 

アカンコウ、これも彼の本名ではない。

 

彼は子供の頃から極めて優秀な人間だった。

 

片田舎で生まれ育った少年であり、学業には決して恵まれた環境でなかったにも関わらずである。

 

 

そして、その才能をもっと伸ばそうと一大決心をして都会に出てきた。

 

こういった場合、都会で自分が井の中の蛙だったと知って挫折する、なんてことがお決まりのパターンだが、彼はそうではなかった。

 

 

彼の才能は本物であり、大学の研究室でも本物の天才と言われ、若き青年科学者への道を歩み始めた。

 

しかし、世の中とはそうそううまくいかないのである。

 

彼の才能は確かに本物だったが、同時に周りの妬みも買った。

 

教授に自分の研究成果を奪われたのを皮切りに、やりもしない研究費の私的流用の濡れ衣を着せられたり、わざと実験結果を改竄されたりして、だんだんと居場所がなくなっていった。

 

元々、田舎育ちでどちらかといえば純朴な男だった彼は、そんな醜い世界にすっかり嫌気がさしてしまった。

 

 

 

「どうして、人の足を引っ張る事しかあいつらは考えないんだろうね。そんなことが正しいなら世の中は前に進まないじゃないかい。科学者ってのは未来に進むもんじゃないのかね」

 

 

一人愚痴りながら街中を歩いていると黒いモヤのような物が現れ、彼に話しかけてきた。

 

 

「その通りだ。この世界は狂っている、力無き者が力あるものを妬み停滞し続ける。 なればこそ変化を起こすための力が必要なのだ」

 

 

「な、な、なんだ!? どっから話しかけてるんだ?」

 

科学者である彼は、目の前の非科学的な現象に戸惑っていた。

 

 

その疑問に答えるように、彼の周りの黒いモヤはなんとなく動物を思わせる形になった。

 

 

「我は大神獣。この世界のルールを恨み憎むもの」

 

 

アカンコウ(私はあの日誓った。私の才能を正当に認めようとしないこの世界に復讐してやるってな!! そして私のことを認めさせてやる!!)

 

 

 

そんな彼を誰かが呼び止めた。

 

 

 

「? ヒロ君?」

 

 

 

 

 

 

私達は、先ほどの女性おハナさんと商店街の先にある警察署に向かっていた。

 

 

美里「行方不明になった人を探すなら、初めから警察に行くのが一番早いですって」

 

おハナ「すみません。何から何まで」

 

美里「気にしないでいいですよ。見つかるといいですね、その男の人」

 

おハナ「はい、きっと何かに一生懸命になって連絡できないだけだと思いますから」

 

 

雪菜「そうだといいんですけど…」

 

そんなことを言いながら歩いていると、おハナさんが突然何かを見つけたように走って行った。

 

 

美里「えっ、どっどうしたんですか?」

 

 

 

 

 

おハナ「ヒロ君? ヒロ君だよね!?」

 

 

アカンコウ「お、おハナ!?」

 

突然のことにアカンコウは戸惑っていた。

 

都会に出てきてからも忘れることのなかった、大切な幼馴染。

 

だが…

 

おハナ「ずっと探してたんだよ。一体どうしてるの? 大学もやめたっていうし、心配で心配で…」

 

 

その純粋に自分を思い心配してくれる幼馴染に、アカンコウの心は揺れた。

 

理香「おハナさん、この人があなたの探してた人ですか?」

 

久美「よかったじゃないですか!! こうして会うことができて」

 

喜んでいる理香たちだったが、私は何か変な空気を感じていた。

 

 

美里「あの、嬉しくないんですか…?」

 

雪菜「やっぱり…」

 

 

そんな時、なにか巨大なものが空を割いて飛んでくる音が聞こえた。

 

 

 

理香「な、なによあれ!?」

 

空を見上げた先にいたものは、太ったようなツバメを思わせる姿をした巨大なメカだった。

 

そしてそのメカは驚く私達をよそに、商店街に着陸して破壊活動を開始した。

 

 

その様子に驚いた私はみんなに言った。

 

美里「逃げよう。早く!!」

 

 

私も一刻も早く変身して戦いたかったが、下手をしなくてもみんなを巻き込んでしまう。

 

いちいち周りのことを気にするつもりはないが、積極的に巻き込みたいわけではないからだ。

 

 

雪菜「美里の言うとおりよ。こんなところにいたら命がいくつあっても足りないわ。あんなのとの戦いに巻き困るなんてごめんよ。あなたたちも早く」

 

そう言って雪菜がおハナさんたちに避難するように促したが、男性は動こうとせず、ツバメ型メカを見つめていた。

 

 

美里「ど、どうしたんですか?」

 

気になった私がそう尋ねると

 

 

アカンコウ「おハナ…すまねぇ!! 俺はどうしてもやらなきゃいけないことがある。俺のことを世界に認めさせるためにな!!」

 

その男性は思いつめたような表情で何かを振り払うように、ツバメ型メカの方へ走っていき、そのメカに乗り込んだ。

 

 

美里「まさか、あの人が!!」

 

私は目の前の光景に驚いたが、次の瞬間に発射されたツバメ型メカのミサイル攻撃にそれどころではないと思い返した。

 

 

雪菜「美里!! おハナさん!! 大丈夫!?」

 

今の攻撃に私たちは分断されてしまい、もうもうと立ち込める砂煙にお互いの様子が確認できなくなった。

 

 

 

美里「大丈夫よ。私たちは南の方に逃げるから雪菜たちは北の方へ行って」

 

雪菜「わかったわ、後で会いましょう」

 

 

そのやりとりのあと、私は呆然としているおハナさんの手を引いて走り出した。

 

そしてある程度離れたところで

 

 

美里「ここなら大丈夫ですよ。しばらくじっとしててください。私は周りを見てきます」

 

適当なところでおハナさんに身を隠すように告げると、私は走り出した。

 

 

そして走りながら私はカバンの中のメルに告げた。

 

 

美里「メル!! 準備はいいわね」

 

メル「メル!!」

 

 

メルはスマホのようなものに変身し、私はそれをひったくるように掴むと鍵のアプリをタッチして起動し叫んだ。

 

 

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包んでいた。

 

そして、赤い仮面を装着して変身を完了した。

 

 

 

 

 

アカンコウ「行きますよ。このツバメ型メカのツバメクロウの力を思い知らせてやります!!」

 

クジャク「アカンコウの奴、いつもより気合い入ってるね〜」

 

ゴロリン「で、まんねん」

 

 

コックピットの中では、いつもより気合いの入っているアカンコウにクジャクたちが何かを感じていた。

 

そんな時だった。

 

 

上空から赤い玉が飛来した。

 

 

アカンコウ「あっ、鳥だ!!」

 

ゴロリン「飛行機だ!!」

 

 

クジャク「薄い本によく出る女の子だー!!」

 

 

 

 

 

私は着地するとともに、ツバメ型メカを睨みつけた。

 

 

あのメカに乗っている人は、おハナさんの気持ちを踏みにじった。あんな純粋な人を。

 

それが許せなかった。

 

その怒りをぶつけるように私は名乗った。

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

コックピットの中では、アカンコウが不敵に笑っていた。

 

アカンコウ「フッフッフッ。来たなプリキュア、今日は一味違うぜ、今日こそはな」

 

その言葉とともに操縦桿を倒すと、ツバメ型メカは飛び上がりものすごいスピードで上空を飛び回り、何度も何度もインフェルノに体当たり攻撃を仕掛けてきた。

 

 

 

インフェルノ「なっ、こ、これは!?」

 

ツバメ型メカはその体格に似合わずものすごいスピードで飛び回り、ほとんど姿を捉えることもできず、私はギリギリでかわすのがやっとで攻撃もろくにできなかった。

 

おまけにその翼は鋭利な刃物になっているらしく、飛び回るだけで周辺の建物や電柱を切り刻んでいた。

 

インフェルノ「くっ、ならこれで」

 

私はいったん動きを止めると、向かってきたメカを下から蹴り上げるようにしてダメージを与えるとともに無理やり方向を変えた。

 

むろんその先にはビルがあり、正面から激突させようとしたのだが、ツバメ型メカはくちばしも丈夫になっていたらしくあっさりそのビルをぶち抜いた。

 

 

 

 

苦戦しているキュア・インフェルノを見て、コックピットの中でアカンコウは満足そうに笑っていた。

 

アカンコウ「ハッハッハッ。どうだ、この天才アカンコウ様の作り上げたメカは!!」

 

クジャク「すごいね、やっぱりお前は天才だよ」

 

クジャクの言葉にさらにアカンコウは気を良くした。

 

アカンコウ「いえいえ、クジャク様達だってすごいですよ。このメカをきちんと完成させてくれたんですから」

 

 

その言葉にクジャクは怪訝そうな顔をした。

 

クジャク「へっ、なんだいそれは?」

 

その返事にアカンコウも怪訝そうな声をあげた。

 

アカンコウ「えっ、まだ未完成だったメカを完成させて出撃したんじゃないんですか?」

 

クジャク「知らないよ。地下のメカをそのまま発進させただけだから」

 

ゴロリン「ということは…」

 

 

次の瞬間、彼らの危惧した通り超高速で飛び交っていたツバメ型メカの翼が鈍い音とともに突然外れ、落下し始めた。

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「わーっ!!」」」

 

 

 

 

私は突然落下し始めたツバメ型メカを見てチャンスと判断した。

 

 

インフェルノ「えーい、なんだか知らないけどチャンス。これでもくらえ。プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

 

私は炎の塊をツバメ型メカに投げつけ、見事直撃させた。

 

 

すると上空で大爆発が起きた。

 

むろん三獣士は、落下し始めた瞬間にはすでに脱出していた。

 

 

クジャク「なんでもっとしっかり作らないんだい。お前は天才なんかじゃないよただの間抜けだよ」

 

クジャクがアカンコウの頭をボカボカと殴っていたが

 

アカンコウ「何言ってんですか。買い出し当番やらなんやらで時間がなかったんですよ!! そもそも完成してるかどうかもわかんないもんを勝手にいじりますか!?」

 

アカンコウにも相応の言い分があり、くだらない口論が続いていた。

 

そんな口論の中アカンコウはしみじみと感じていた。

 

アカンコウ(まったく、味方が足引っ張るんだもんなぁ。まあおんなじようでもあの頃よりは充実してんですよね、これでも)

 

 

 

 

 

私は戦いを終えて一息付いていたが、気配を感じて振り返った。

 

するとそこにいたのはおハナさんだった。

 

インフェルノ「なんですか?」

 

おハナ「あのメカには私の大切な人が乗っていました」

 

インフェルノ「そうですか…」

 

また恨み言を言われるのかと私は覚悟を決めたが、言われた言葉はそれとは正反対の言葉だった。

 

 

 

おハナ「私はあなたのことを恨みません。きっとあの人は幸せだったでしょうから。自分の信じるもの、望んでいる未来の為にああしたんですから。あなただって何か叶えたい未来があって戦っているのでしょう」

 

 

その言葉に私は何も言えず飛び立った。

 

私の戦う理由は復讐。それを終えた先の事なんか私は知らない…。

 

 

インフェルノ「未来…か…。一体どうなるんだろう」

 

 

 

この後、私たちは田舎に帰ることにしたおハナさんを見送り、それぞれの帰路に着いたのだが、肝心なことを忘れてしまっていた。

 

 

 

 

 

 

翌日 ネローべ中学校

 

 

 

美里「えーっ、海よりもお心の広い大親友の皆様方。宿題はやります。靴も舐めます。三べん回ってワンといえとおっしゃるならやります。ですからどうかお恵みをください」

 

 

私は教室で必死に土下座していた。

 

あの騒ぎで、私はようやく手に入れた食料をどこかに置き忘れてしまった。

 

必死に駆けずり回ったのだが見つからず今に至る、というわけである。

 

 

久美「知らない」

 

理香「ばーか」

 

雪菜「いい加減にしなさい。もう面倒見切れないわよ」

 

 

美里「ふえ〜ん。なんとか助けてよ〜!! お腹すいたよ〜!!」

 

親友のけんもほろろな返事に私は自分でもわかるぐらい情けない声で泣きついた。

 

 

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第5話に続く。

 

 



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第5話「忘れられたR」

 

 

世間は連休に入り、帰省やら旅行やらをする人々でいっぱいの新幹線のなかに、私こと渚 美里はいた。

 

 

こないだ形の上で保護者になっている親戚から連絡が来たのだ。

 

なんでも、連休なんだから一度ぐらいは近況報告も兼ねて顔を見せに来いというのである。

 

だから今月は仕送りをしない、というのである。

 

結局親友たちに借金を断られたため、あれ以来近所のパン屋でもらったパンの耳と水だけでなんとか生き延びた私に選択の余地はなく、連休に入るや否や列車に乗ったというわけである。(ご丁寧に切符だけは送られてきた)

 

美里「仕方ないか。ここで一人暮らし禁止なんて言われたら、あいつらに復讐できなくなるしね」

 

正直あまり行く気はないが、きちんと一人暮らしができているということを見せておかないと、いつ強制的に親戚の元に引き取られることになるかわからない。

 

ここは我慢だと自分に言い聞かせた。

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

クジャク「おーい、なーんかいい案思いついたかい?」

 

タバコを吹かしながらどこか色気のある声でクジャクが尋ねたが

 

 

アカンコウ「いーえ、ダメです。全然ダメ。悔しいけどあいつ強いんですよね」

 

アカンコウはため息とともにそう告げた。

 

 

三獣士達は対プリキュアの作戦を練っていた。

 

毎回毎回キュア・インフェルノにやられているとはいえ、大神獣の闇の力を宿したベースアニマルで出撃して破壊活動を行っていることで、大神獣の復活に必要なブラックエナジー自体は多かれ少なかれ収集できている。

 

つまり戦術的に負けてはいるが戦略的には勝っていることになるわけだが、それでもやはり諸手を挙げて喜べない。

 

プリキュアを倒してさえしまえば、もっと効率的にブラックエナジーを集められるのは確かなのである。

 

そのためにどうすればいいかを三人で思案していたが、どうにもいい案が浮かばなかった。

 

そんな暗い空気の中ゴロリンが口を挟んできた。

 

ゴロリン「あの〜わてが思うにはですね…、そもそも戦って勝とうとすることが間違っているのではと…」

 

するとその言葉にアカンコウは反応した。

 

アカンコウ「あーもう。それを認めちゃったら話が進まないでしょ。あんたは頭じゃなくて体使ってりゃいいのよ」

 

 

クジャク「まあまあ、どうせいい考えも浮かばないんだ。一応聞いてやろうじゃないの」

 

クジャクはそう言ってアカンコウを諌め、ゴロリンに続きを促した。

 

 

ゴロリン「あの〜おそらくあいつもこの周辺に拠点があると思います。せやから、わざわざあいつがすぐ来るようなところで戦おうとせず、この街からもっと遠く離れたところでブラックエナジーを収集すればいいのではと…」

 

ゴロリンはおずおずと自分の考えを述べた。すると

 

 

クジャク「何!!」

 

クジャクは声を張り上げ、アカンコウも声を荒げた。

 

アカンコウ「あのね、あんたはスカか! プライドってもんがないのか! ねえクジャク様」

 

 

そう言ってクジャクに同意を求めたアカンコウだったが

 

 

クジャク「スカはお前だ、アカンコウ」

 

アカンコウ「そう、スカは私よ。え?」

 

クジャクの返事に驚いた。

 

 

クジャク「その手があった。何も毎回毎回馬鹿正直にこの近くで暴れる必要はないんだ。プリキュアがそう簡単に来られないどっか遠く離れたところで大暴れすればいい。そうすればブラックエナジーを簡単に大量に収集できる」

 

クジャクは力強く宣言した。

 

アカンコウ「しかし、それは逃げるということになりませんか」

 

クジャク「名を捨てて実を取るとお言い。よーし、そうと決まれば早速行動開始だ!!」

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

 

 

 

私は新幹線で三時間ほど揺られ、親戚のいるキノウトキョウト市に着いた。

 

 

美里「えーっと。迎えに来てくれてるとは聞いたけど…」

 

 

「美里、こっちだ」

 

その声に振り返るとおじさんがいた。

 

美里「あっおじさん」

 

このおじさんは、父さんの弟で名前を雄三さんという。

 

格闘技が好きでプロレスやボクシングの観戦が趣味なんだそうだ。

 

それだけに、男の子ができなかったことが残念だったらしい。

 

 

 

雄三「どうだ美里。よかったら明日プロレスでも見に行かんか?」

 

家に向かう途中、車を運転しながら雄三さんはそう言った。

 

美里「またそれ? 会うたびにそれだもん。やれプロレスだボクシングだって」

 

雄三「まあいいじゃないか、お前だって嫌いじゃないだろう」

 

まあそうだ。格闘技に一切興味がなかったら格ゲーなんかやらない。

 

 

美里「しょーがないな。あかねちゃんやおばさんについていくの断られたんでしょ」

 

私は軽くため息をつきながらそう言った。

 

あかねちゃんというのは、今年小学五年生になる私のいとこだ。

 

おとなしい子でありアイドルやタレントには興味のある子だが、格闘技なんかには興味はない。

 

むろん、おばさんもである。

 

雄三「ははは、実はそうだ」

 

 

美里「んもう、そこまでして前に言ってたお気に入りのレスラーを見たいの?」

 

 

雄三「いや、その人は怪我で引退しちゃってな。今は別のレスラーのファンなんだ」

 

美里「ふーん、あっさりしてるね。でもまあそんなもんか」

 

よく話題にのぼるアイドルやタレントだって大体そんなもんである。

 

人気がある時は我も我もと噂もするが、すぐに熱も冷める。

 

むろん根強いファンも多いのは知っているが、一般的な世の中の反応なんてそんなもんだろうと私も思っている。

 

だからこそ、次々に新しいブームやら何やらが起こるのだろうとも。

 

 

美里(でも、そんな風に忘れられた人って今どうしてるのかなぁ)

 

私は、ふとそんなことを考えた。

 

 

 

 

そんな会話をしながら10分ほどして、私たちはおじさんの家に着いた。

 

 

雄三「ただいま」

 

美里「お邪魔します」

 

 

おばさん「美里ちゃん。久しぶり、よく来たわね」

 

あかね「お姉ちゃん、いらっしゃい」

 

久しぶりの出迎えは私にも嬉しいものだった。

 

だから自然と笑みがこぼれた。

 

美里「お久しぶりです、おばさん。あかねちゃんも元気だった?」

 

あかね「うん、元気だったよ」

 

おばさん「あんなことになったけど、思ったより元気そうでよかったわ」

 

世間一般では、私の家族は突然押し入った強盗に殺されたことになっている。

 

まあ、あんな怪物が出たなんて当時は誰も信じてはくれないだろう。

 

 

美里「心配してくれてありがとう。でも元気でやってますから」

 

雄三「まあ、よかったよかった。今日はご馳走を用意してあるから、ゆっくりしなさい。いつもは食事の支度も大変だろう」

 

その後私は、久しぶりに心のこもった手料理を味わった。

 

テーブルを囲む食卓の暖かさに少し涙ぐんだのは内緒だ。

 

 

その夜、私はあかねちゃんの部屋で布団を並べて寝た。

 

 

美里(おじさんたちの優しさが身にしみるなぁ。あったかいよ、ここ)

 

メル「美里、起きてるメル?」

 

夜も更け、あかねちゃんが可愛い寝息を立てたころを見計らって、カバンの中からメルが話しかけてきた。

 

どうせ私にしか声は聞こえないが、私が変な独り言を言っているように見えないように、この時間以外話しかけるなと言っておいたのだ。

(注:美里主観で少々きつめに メル主観で半ば虐待)

 

 

 

美里「なによ。私も眠いんだけど」

 

メル「美里はいつも無理してるメル。ここで暮らしたほうがいいんじゃないかメル」

 

 

その言葉に私は自分でもわかるほど不快感丸出しな声で返事をした。

 

美里「冗談じゃないわ。確かにおじさんたちの優しさはわかるしありがたいわ。でもあいつらへの、大神獣への復讐をやめるつもりはない。絶対に家族の仇は討つんだから」

 

メル「でも…このままじゃ美里がボロボロになっちゃうメル…」

 

メルの言いたいことはわかる。私が戦うことで私みたいな人が増えている。戦うたびに罵倒されていることも含めて、その事実には心が痛む。

 

美里「ボロボロになる? あんたのせいで私の人生はもうボロボロよ。これ以上無くすものなんてないわ。私はこの先どうなろうとも戦い続ける」

 

私は自分を奮い立たせるようにそう言った。

 

メルはそんな私を悲しそうに見つめながらも、それ以上何も言ってこなかった。

 

 

 

 

 

翌日

 

 

私は雄三さんと一緒にプロレス会館に来ていた。

 

一頻り試合が終わった後、雄三さんは興奮冷めやらぬ声で話しかけてきた。

 

雄三「いやあ、いい試合だったなぁ。美里、お前の感想は?」

 

美里「うん。久しぶりに楽しめたわ」

 

それは本心だった。

 

私は久しぶりに何もかも忘れて、純粋に楽しむことができた。

 

 

雄三「そうか。それはよかった。で、だ」

 

 

雄三さんは真剣な顔つきになって言った。

 

雄三「美里、こっちに引っ越してこないか」

 

美里「え?」

 

雄三「友達と別れたくないという気持ちはわかる。だがな、なんとなく無理をしてるような気がしてな。お前はまだ中学生なんだ。大人にもう少し甘えてみろ。それに、あの街は最近物騒じゃないか。わざわざそんな危ないところで一人で暮らす必要もあるまい。なにかあったら大変だぞ」

 

私はやっぱりそういう話が来たかと思った。

 

別に雄三さんたちと暮らすのが嫌なわけではないし、私のことを本気で心配してくれているのはわかる。

 

でも、私にはやるべきことがある。だからこそあの街を離れることはできない。

 

のだが、本当のことは言えない。

 

だから私は昨夜考えたそれっぽい理由を口にした。

 

美里「ありがとうおじさん。でも、私あの街を離れられないよ。おじさんたちと暮らすのは楽しいだろうけど、そんなことしてると父さんや母さんや亮太のこと忘れちゃいそうでそれが怖いの。辛いことは忘れろって言うけど、忘れちゃいけないものもあると思うの。だから…」

 

かなり苦しい言い訳とは思うが、この説明におじさんはひっかかるところはあるようだが納得してくれた。

 

 

 

その頃

 

 

クジャク「やれやれやっと着いたかい。ここまで来ればそうそうあいつも来れないだろうね」

 

アカンコウ「はい、途中で追いつかれないようにわざわざ新幹線使いましたからね。早速ベースアニマルの準備をしますよ。おいゴロリン」

 

そう言ってアカンコウはゴロリンを呼んだが返事がなかった。

 

 

不審に思い見てみると、ゴロリンは何かを睨むように見つめていた。

 

アカンコウ「おい、返事ぐらいしろっての。何見てんのよ一体? ん?」

 

みると視線の先にあったのはプロレスの宣伝ポスターだった。

 

アカンコウ「何アンタこんなんに興味あるの?」

 

クジャク「まあ、気持ちはわかるけどね。まずはやることやってからだよ。そもそも作戦の発案者はお前なんだから」

 

 

するとゴロリンはすさまじい怒声をあげた。

 

 

ゴロリン「冗談じゃないでまんねん!! こんなもんに興味は微塵もないでまんねん!!」

 

その怒声に二人は驚いた。

 

クジャク「わ、わかったってば」

 

アカンコウ「何もそんなに怒んなくてもいいでしょう」

 

ゴロリン「わかってくれればいいでまんねん。さあベースアニマルの準備でおま」

 

 

アカンコウ「はいはい、ポチッとな」

 

そう言ってアカンコウがリモコンを操作すると、巨大なメカが闇の力で目の前に転送されてきた。

 

 

そのメカに乗り込みながら、ゴロリンは思った。

 

ゴロリン(ふん。あんなもんにもう興味はない。たった一瞬の為になんもかんも犠牲にするなんてくだらんでおま。それはわてが嫌というほど知ってるでまんねん)

 

 

 

 

 

ゴロリン、当たり前のようにこれも彼の本名ではない。

 

彼は子供の頃から力の強い少年だった。

 

勉強は苦手だったが、体育の時間などではヒーローであり、彼の自慢でもあった。

 

長じて彼はプロレスラーになった。

 

体力が自慢だったからという安直な理由だったが、その強さから一躍人気レスラーの道を歩みはじめた。

 

雑誌のインタビューやCMの出演なども行い、彼は得意の絶頂であり、熱狂的なファンも数多くいた。

 

美里のおじ、雄三もまたそんなファンの一人だった。

 

 

 

そんな時、彼の人生は大きく狂うことになった。

 

ある時道を歩いていると、たまたま車に轢かれそうになっている少年を見つけ、とっさに飛び込んでその少年を助けた。

 

結果、その少年は助かったものの彼の代償は大きかった。

 

その時に代わりに車にひっかけられ、膝に大きなダメージを負ってしまった。

 

リハビリの結果、日常生活は支障なく行えるようになったものの、レスラーとしては再起不能になり引退を余儀なくされた。

 

すると、今までちやほやしていた連中は手のひらを返したように冷たくなり、すぐに次の話題へと飛びついた。

 

あれほどいたファンもたちまちいなくなり、通っていたジムでコーチをやろうとしたが、人に物を教えるのは不向きだということで解雇された。

 

 

一時の名誉とともに彼は人生の全てを失ったのだ。

 

その後新たな仕事を探そうにも、まともに働いたこともなかった彼は事務職につくこともできず、体をつかう仕事もどこかプライドが邪魔をしてしまう。

 

ついには住む家もなくし、その日の糊口をしのぐこともままならなくなってしまった。

 

(なんでこんなことになりまんねん。わてはなんも悪いことはしてへん。それやのに、この世界はわてのことなんか忘れてもうたみたいになってる。わてが助けたあの少年もお礼の手紙を一度よこしただけ。わてがこんなことになってるなんて知りもせんのやろ。この世界の理不尽さと身勝手さは我慢ならん)

 

冷たい風の吹く中、ガード下で小さくなりながら彼はこの世界を恨んでいた。

 

 

そんなどん底の中、黒いモヤのような物が現れ、彼に話しかけてきた。

 

 

「そうだ、この世界は身勝手なものだ。今こうして存在しているのがなぜなのかを知りもせず、身勝手に暮らすもので溢れているのだ」

 

 

彼はその言葉に返事をした。

 

「そうやこの世界は勝手すぎる。いっそめちゃくちゃにしてやろうかもう。ん?だれでおま?」

 

 

その疑問に答えるように、彼の周りの黒いモヤはなんとなく動物を思わせる形になった。

 

 

「我は大神獣。かつて理不尽な仕打ちを受け、存在さえ忘れ去られたもの」

 

 

ゴロリン(あの日わては誓った。こんな理不尽な世界に復讐してやると!!)

 

 

 

 

 

キノウトキョウト駅前

 

 

 

あかね「じゃあねお姉ちゃん。また来てね」

 

美里「またねあかねちゃん。おじさんたちもありがとうございました」

 

私はお礼を言うと、駅のホームへと向かっていった。

 

みんなの暖かさには心から感謝している。でも、今の私にはそれよりも優先することがある。

 

美里(とても暖かかった。でも、今の私はこれに甘えられない…)

 

 

そんなことを考えていた時、アナウンスが聞こえてきた。

 

「お客様に申し上げます。沿線で巨大なロボットが暴れております。そのため列車のダイヤが大幅に乱れておりますことをお詫び申し上げます」

 

 

そのアナウンスを聞いた私は、頭に血が昇るのを感じた。

 

美里「あいつら…なんでこんなところにまで…!!」

 

こんなところで暴れればおじさんたちに危害が及ぶかもしれない。

 

そんなことは絶対にゴメンだ。

 

 

 

 

私は人気のないところに行くと、バッグの中でぐうぐう寝ていたメルを引きずり出して叩き起こした。

 

 

美里「何をぐーすか寝てるの!! 早くしなさい!!」

 

 

メル「わかったメル…」

 

メルは目をこすりながらスマホに変身した。

 

その態度に地面にこいつを叩き付けてやりたくなったが、ぐっとこらえて鍵の形のアプリをタッチした。

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包んでいた。

 

そして、赤い仮面を装着して変身を完了した。

 

 

 

 

 

一方、新幹線の沿線ではウサギを人型にしたような巨大ロボットが暴れていた。

 

ピョンピョンと飛び跳ねては、家や車を踏み潰していた。

 

 

アカンコウ「いやあ、このウサギ型メカのジャンビットはいい調子ですよ。これだと一気に大神獣様も復活させられるんじゃないでしょうか」

 

クジャク「うーん。邪魔者がいないとここまで効率的にことが運ぶとはねぇ。ゴロリン、お前のアイディアはなかなかじゃないか」

 

アカンコウ「そうそう、体力だけかと思ってたけど、結構頭も回るじゃない」

 

 

ゴロリン「うへへ、ありがとうございます」

 

珍しく褒められたゴロリンはいい気分だった。

 

 

そうして、ニヤつきながらふと前を見ると何か空に光るものが見えた。

 

ゴロリン「ん? なんか光りませんでしたか?」

 

クジャク「あのね、なんのためにはるばるキノウトキョウトまできたと思つてんだい。いいんだよそれは」

 

アカンコウ「そうよ。ワンパターンはいい加減にしないと飽きられるのよ」

 

ゴロリン「でもほら、あれは鳥やおまへんか」

 

ゴロリンの指差した先は、確かに何か光るものがあった。

 

 

するとアカンコウはため息まじりに言った。

 

アカンコウ「んもう。どうしてもやりたいの? そんじゃ飛行機だ…」

 

クジャク「プリキュアだー!! な〜んてそんなわけないだろ。来るにしてもこんな早くさ」

 

アカンコウ「そうそう」

 

そんな会話をしている間も、光はだんだん大きくなってき、その正体に気がついたときはすでに遅かった。

 

 

 

アカンコウ「でー!! 本当にプリキュアだー!!」

 

クジャク「なんて憎ったらしい!! わざわざこんなところまで、しかもこんなに早く!!」

 

 

 

 

インフェルノ「本当にいた。なんて憎らしい奴らよ!! わざわざこんなところまで来て!!」

 

私は街中で暴れている巨大ウサギ型メカを確認すると舌打ちまじりにそう呟いて着地した。

 

そしてそのロボットを、憎しみを込めた目で一睨みすると名乗りを上げた。

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

コックピットの中でアカンコウは慌てていた。

 

アカンコウ「うわーまずいなー!!」

 

その口調にクジャクも慌てて尋ねた。

 

クジャク「ど、どうしたんだい? え?」

 

アカンコウ「プリキュアがこんなとこまで来ないと思ったから、対プリキュア用の武器を用意してないんですよ」

 

クジャク「何!?」

 

 

 

インフェルノ「ハァァァァ!!」

 

私は名乗りをあげると同時に、目の前のウサギ型メカに向かっていき、強烈なパンチで殴り倒した。

 

そしてそのまま一方的にラッシュを浴びせた。

 

インフェルノ「何? 図体がでかいだけなのかしら?」

 

まるで抵抗してこない目の前のメカに私はいささか拍子抜けしていた。

 

 

インフェルノ「まあいいわ、このまま一気にとどめよ!!」

 

 

 

必死に起き上がろうとしているウサギ型メカジャンビットのコックピットではアカンコウがヤケクソ気味に叫んだ。

 

アカンコウ「えーい! もうこうなりゃ破れかぶれよ!!」

 

 

アカンコウのその叫びとともに起き上がったジャンビットは、なりふり構わずキュア・インフェルノに突撃した。

 

 

しかし、そのあまりにも直線的な突撃はあっさりかわされた挙句、足を攻撃され倒されてしまった。

 

インフェルノ「こんのー!!」

 

そしてインフェルノは倒れこんだジャンビットを重量上げの要領で持ち上げると大きく投げ飛ばそうとした。

 

 

 

そんな時、アカンコウたちはコックピットの中で逆さまになりながらもチャンスと判断した。

 

アカンコウ「しめた! この体勢のまま自爆装置の安全スイッチを解除すれば勝てるよ。ポチッとな」

 

アカンコウがスイッチを押すと、ジャンビットは突然赤く光りだした。

 

 

当然そのことに最も異変を感じたのはキュア・インフェルノだった。

 

 

インフェルノ「!! なんか危ない!! プリキュア・ヘル・バックファイア!!!」

 

 

そう叫ぶと、私は全身から強烈な高熱を放射した。

 

 

すると、自爆寸前だったジャンビットはその高熱で誘爆し跡形もなく吹き飛んだ。

 

もちろん、この爆発で半径数百メートル近くが焼け野原になったことはいうまでもない。

 

 

そして、爆発の中心部にいた私だが、自分の発した高熱がバリヤー代わりとなり無傷で済んだ。

 

 

 

 

 

 

あの戦いの後、私は三時間遅れで発車した新幹線の中にいた。

 

 

美里(さっきの戦いで起きた爆発に巻き込まれて、また何台かの車も壊したし家も燃えた…。そのせいで列車もさらに遅れて、多くの人の迷惑になっている…。こんな私に誰かと一緒にいるなんて許されるわけない…)

 

私は自分の復讐に多くの人を巻き込んでしまっていることを悔やみながらも、自分の生き方を変えられないことに悩んでいた。

 

すると、車両の前の方で口論する声が聞こえてきた。

 

喧嘩かと思ったが、どこかその口調は楽しそうであり今の私には羨ましく思えた。

 

美里(いいなあ。あんな風に楽しそうに喧嘩ができるって。きっといい人達なんだろうなぁ)

 

そんな人たちを傷つけることしかできないのかと思うと、私はなおさら心が痛んだ。

 

 

 

一方、その車両の前方では

 

 

 

クジャク「解説のゴロリンさん。今回の敗北の原因はどういうわけか解説を願えませんか?」

 

ゴロリン「はい、実況のクジャクさん。理由は極めて明確でまんねん。わてらが弱かった、ただそれだけでおま」

 

クジャク「なるほど、では同じく解説のアカンコウさん。一体これからどうなると思われますかね」

 

アカンコウ「そうですね、おそらく今あなたは怒りのぶつけどころを探していて、とりあえず私らを殴る。まあそんなところでしょうよ」

 

クジャク「大正解!!」

 

そのセリフとともにクジャクは二人を殴った。

 

 

 

ゴロリン「くう、痛いでまんねん。傷口を殴るから」

 

アカンコウ「何よ。そもそもあんたがくだらない作戦立てたからでしょ。こんなところにいてもすぐにあいつが来るなら、結局どこにいても同じじゃない。体だけ使ってりゃいいのにたまに頭使うからこんなことになるのよ」

 

ゴロリン「何を言うてまんねん。メカに武装も付けなかったアカやんのせいでもありま。ウサギ型メカってなんですねん。大体あんなクソみたいなチームのもんをモチーフにするから!!」

 

クジャク「えーい! 訳のわからん討論をすんな!! どんぐりの背比べ、五十歩百歩、目くそ鼻くそだっての」

 

ゴロリン「なんですか、わての考えに乗り気だったのはクジャク様です」

 

アカンコウ「そうよ、私は反対したのに無理やり賛成したんでしょ」

 

クジャク「なんだって私のせいだっていうのかい!?」

 

かくして、ボロボロになった三獣士の不毛な水掛け論が続いていた。

 

そんな中でも、ゴロリンは心の中では嬉しかった。

 

ゴロリン(全く、あんなどん底に落ちたわいがこんな風に喧嘩できる仲間に会えたのも大神獣様のおかげでおま。感謝しとります)

 

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第6話に続く。

 

 

 

 



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第6話「R達の夢」

 

オーエエドー市内 某所

 

 

車が行き交う大通り。クラクションの音が鳴り響き道行く人の喧騒が聞こえてくる。

 

ここに、一軒のラーメン屋があった。

 

こんなご時世にもかかわらずそこそこ繁盛している店で、リピーターも多い。

 

そこの従業員の休憩室にアカンコウとゴロリンがいた。

 

 

アカンコウ「なんだろうねぇ。こうして平和な町並みを見ていると何もかもが遠のいていくような気がしてくる。復讐か。考えてみれば実にくだらんよ」

 

アカンコウは吐き捨てるようにそう言った。

 

 

アカンコウ「私はね、最近思うのだよ。メカの開発資金の足しにと思って始めたラーメン屋のアルバイトだがね。このままここで働き続けようかと…」

 

ゴロリンはその言葉に驚いた。

 

ゴロリン「アカやん! 何を!?」

 

 

しかし、アカンコウはそれを遮るように続けた。

 

アカンコウ「まあ聞け。確かに俺たちはこの世界の理不尽さに全てを失い、復讐を誓った身だ。でもな…現実はどうなんだよ!!」

 

 

その言葉に二人の脳裏には、復讐者として戦いを始めてからこっちのことが思い浮かんだ。

 

それは同時にキュア・インフェルノとの戦い、すなわち連戦連敗の記憶でもあった。

 

それを思い返したゴロリンの気持ちも沈んでいき、アカンコウも悔しそうに続けた。

 

アカンコウ「惨めな敗北に次ぐ敗北。それも、この世界の辛さも、頭を押さえつけられて泣いてるやつの涙の味も知らんような小娘相手にだぜ」

 

 

そう言うとアカンコウは椅子から立ち上がり、シャツをめくった。

 

するとそこには包帯が巻いてあった。

 

 

アカンコウ「それに見ろ。こないだキノウトキョウト市で戦った時の怪我がまだ治らんのよ。もう若くはないんだ。やったやられたの生活はほとほと疲れ果てたよ」

 

そうため息まじりに言うと、どこかしみじみと続けた。

 

アカンコウ「俺の未来。偉大な科学者として、この空に燦然と輝く星のようになると夢見たこともある。だがな、都会の片隅にひっそりと咲き、道行く人々の心をふと和ませる。そんな小さな花のような生き方もありなんじゃないかと思わんか」

 

その時休憩時間終了を告げるタイマーが鳴った。

 

 

アカンコウ「真面目に頑張れば、小さな店ぐらいは持てるかもしれねぇよ。まあ、ちょっと考えてみてくれ」

 

そうゴロリンに告げるとアカンコウは厨房へと向かっていった。

 

そんなアカンコウにゴロリンは何も言えなかった。

 

 

 

アカンコウ「遅くなりました」

 

そう言いながらアカンコウが厨房に戻り、皿洗いを始めようとすると

 

 

店長「あ、もういい。バイト代は出すから今日はもう上がれ」

 

突然のことにアカンコウは驚いた。

 

アカンコウ「えっなんでですか!?」

 

店長「奥さんが迎えに来てるぞ、家出はいかん家出は」

 

その言葉に振り向くと、そこには険しい顔をしたクジャクがいた。

 

クジャク「見つけたぞ。二人とも戻ってこい!!」

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

クジャク「ったくもう。突然帰ってこなくなったと思ったら、あんなところでバイトだなんて、ハタから見ても情けないと思わないのかい、え?」

 

クジャクが二人相手に怒鳴り散らしていた。

 

クジャク「全く、進歩というものがお前にはないのか!! 現実逃避している暇があるなら、どうすればプリキュアを倒せるかに頭を使え!! ほら!!」

 

一方的に怒鳴られる中、アカンコウの目には涙が浮かび始めていた。

 

 

ゴロリン「クジャク様、ちょっとそれは言い過ぎでは…」

 

クジャク「お前は黙ってろ!!」

 

見かねたゴロリンが口を挟むもクジャクは一蹴した。

 

 

 

アカンコウ「クジャク様」

 

アカンコウは意を決したように言った。

 

クジャク「ん? なんだい?」

 

アカンコウ「よっくわかりました。全ては私の不徳の致すところです。今までお世話になりました」

 

そう告げるとアカンコウは深くお辞儀をした。

クジャク「何言ってんだい?」

 

アカンコウ「今日限りで私はカタギに戻ります」

 

 

クジャク「え゛?」

 

 

一瞬の沈黙の後

 

 

 

クジャク「ばっかもーん!!」

 

 

洋館が揺れるほどの大声に、アカンコウはひっくり返った。

 

 

クジャク「お前というやつはお前というやつは、バカだとは思ってたけどここまでバカだったとは。親の心子知らずならぬボスの心部下知らずというかもう」

 

 

クジャクは、そうして息が切れるほどひとしきり怒鳴ると少しは落ち着いた。

 

 

クジャク「はあはあ。もういい、とりあえず今回のことは許してやるから、大至急出撃準備だ」

 

 

しかし、アカンコウはあくまで自分を曲げなかった。

 

 

アカンコウ「お断りします。例え連載打ち切りになろうとも私は断固としてカタギに戻りラーメン屋となります!!」

 

そう言ってそっぽを向いてしまった。

 

 

その態度にクジャクの怒りが再燃し、肩をブルブルと震わせた。

 

その空気を察したゴロリンが二人の間に割って入った。

 

 

ゴロリン「クジャク様、わてが言って聞かせるでありますから。アカやんも意地を張らずに、ね、ね」

 

 

しかし、クジャクの怒りは収まらなかった。

 

 

クジャク「えーい情けないにもほどがある!! あの時の復讐の誓いはどこへ行った!!!」

 

アカンコウ「うるせー!! こんなに連敗続きで復讐もくそもあるか!! まともな生活しようと考えて何が悪い!! そもそもお前のせいだろうがこのヘボリーダー!!!」

 

 

クジャク「黙れ!! 負け続きなのはお前のメカのせいだろうが!! 責任転嫁するんじゃないよ!!」

 

アカンコウ「だからもうやめてやるって言ってんだよ!! もうほっといてくれよほっといて!!」

 

 

ゴロリン「ちょっと二人とも落ち着くでまんねん!!」

 

口論はヒートアップし、今にも取っ組み合いが始まりそうな中、ゴロリンが必死に割って入ったが焼け石に水だった。

 

 

クジャク・アカンコウ「「邪魔だ!! すっこんでろー!!」」

 

 

その怒鳴り声とともにゴロリンは二人から突き飛ばされた。

 

 

 

 

クジャクのリーダーシップとアカンコウの意地をかけた激しい対立。

 

かくして、この三獣士結成以来の最大の危機を前に、ゴロリンの必死の説得工作が行われたのであった。

 

 

 

 

 

ネローべ中学校

 

 

私は放課後の教室で一枚の紙を前にして、暗い気持ちで席についていた。

 

 

美里(進路調査か…、今の私に何を書けっていうのよ…)

 

 

私はそう呟きながら、数時間前のことを思い出していた。

 

 

理香「ねえ、進路ってどこにするの? 私はブナンナ高校にするつもりだけど。あそこ結構部活に力入れてるから楽しそうだし」

 

久美「私はイイトコ学園かな。あそこカッコイイ男子が多いっていうし。偏差値高いけどまあ努力すれば圏内かなって」

 

理香「ったくミーハーなんだから。雪菜は音大の付属高校だったっけ」

 

雪菜「うん。やっぱりピアニストになりたいから。それがダメでも音楽に関わる仕事がしたいなって。それならやっぱりね」

 

 

久美「ふーん。ねえ美里は…ってゴメン」

 

そこで急に空気が暗くなったので、私は取り繕うように明るい声を出した。

 

美里「いいっていいって。こっちにいるのは中学卒業するまでって約束だし。それまででもみんなと一緒にいられてよかったよ、ホント」

 

 

でも、正直私はみんなが羨ましくて仕方なかった。

 

みんなは大なり小なり目標というものを持っている。

 

私だってないわけではないが、それは…

 

 

美里(あいつらを皆殺しにして…家族の仇を討って……それから……どうするんだろう……)

 

 

童話の猿蟹合戦なら、蟹の子は猿を退治してめでたしめでたしだった。

 

あの後蟹の子がどうなったか知らないけど、蜂や栗や臼と仲良く暮らせたかもしれない。

 

でもそれは、蟹の子が一人で仕返しをしなかったからだ。

 

でも私は違う。

 

渚 美里としては、家族を殺された女の子としてみんなからある程度の同情はしてもらえるし、友達や親戚と仲良く暮らせたかもしれない。

 

 

でも私はただ一人で仮面をかぶることにした。

 

復讐者という仮面を。

 

復讐ができればそれでいいと、なりふり構わず戦った。

 

 

結果、その仮面の戦士は世間からは疫病神呼ばわりされている。

 

駅前でキュア・インフェルノ被害者の会による排斥街頭演説なんかも時々行われているぐらいである。

 

仮面を身につけたことに後悔はないが、どうしても、復讐を終えましためでたしめでたし、まる、といったことが自分でも想像できないのだ。

 

 

美里(私には…どんな未来を、夢を見ることができるんだろう…)

 

こうして思うと私は孤独なんだということが、いや、孤独になってしまったということが嫌でも身にしみた。

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

この洋館の地下室で、アカンコウが鼻歌交じりにベースアニマルの最終調整を行っていた。

 

そんなアカンコウにゴロリンが近寄った。

 

アカンコウ「おう、ゴロリン。そのケーブルはそこに繋いどいてくれ」

 

ゴロリン「わかったでまんねん」

 

そうして一緒に作業をしていると、アカンコウが尋ねた。

 

アカンコウ「おい、今度の出撃でプリキュアを倒せたら、大神獣様からもらってる資金の一部をラーメン屋の開店資金に回してくれるっていうクジャク様の話、本当なんだろうな?」

 

 

その質問にゴロリンは胸を叩いてにこやかに、そして力強く言った。

 

ゴロリン「もちろんでまんねん」

 

 

アカンコウ「そーかそーか♪」

 

ゴロリンのその返事に気を良くしたアカンコウはさらに張り切ってメカの調整を続けた。

 

 

 

 

 

一方ゴロリンは、ため息まじりにクジャクのところへと行った。

 

 

 

ゴロリン「クジャク様。出撃準備が整ったでおます」

 

 

その言葉にソファーに座っていたクジャクも気合を入れて立ち上がった。

 

クジャク「よし、行くかい」

 

 

そしてクジャクはゴロリンに尋ねた。

 

クジャク「で、だ。今度の出撃でプリキュアを倒せたら、バカな妄想をきっぱり吹っ切るっていうアカンコウの決心、本当なんだろうね?」

 

 

その質問にゴロリンは胸を叩いてにこやかに、そして力強く言った。

 

ゴロリン「もちろんでまんねん」

 

クジャク「そーかそーか♪」

 

 

ゴロリンのその返事に気を良くしたクジャクは弾む足取りで地下室へ向かった。

 

 

 

一人残されたゴロリンは、肩を落とすとため息とともに呟いた。

 

ゴロリン「あーあ。どうなっちゃうんだろうなぁ…」

 

 

 

 

 

通学路

 

 

 

私は一人トボトボと街中を歩いていた。

 

元々、私はやりたいことというものが特になかった。

 

ただ、家族や友達と毎日を楽しく過ごせればそれでよかった。

 

だから、それを奪われた時に目の前には憎しみしか残らなかった。

 

そして、この憎しみは私の中から消えなくなってしまった。

 

 

 

 

例えば今、実に楽しそうに笑いながら歩いている家族連れが目に入った。

 

お母さんと小さな子供であり、夕食の買い出しにでも行っていたのだろう。

 

そして、今夜は家族で暖かい夕飯を、楽しく食べるのだろう。

 

 

それを想像しただけで、私の中からそれを奪ったやつへの憎しみが燃え上がったぐらいである。

 

 

 

そして同時に、どこか虚しさを感じ始めている自分にも気づいていた。

 

 

この先も私は復讐を続ける。でもその先は…。

 

結局振り出しに戻ってしまう自分がだんだんわからなくなってきた。

 

 

その時カバンの中でメルが震えだしたのがわかった。

 

途端に、今まで悩みでいっぱいだった頭が急にクリアになるのを感じた。

 

美里「メル!! あいつでしょ行くわよ!!」

 

私はメルを鞄から引きずり出すと怒鳴りつけた。

 

 

 

 

美里「ほら!! 早くしなさい!!」

 

 

メル「美里、もうこんなことは…」

 

メルは何か言いかけたが、私はそれを無視してメルを締め上げた。

 

 

美里「は・や・く・しろっての! 聞こえた!?」

 

 

その態度にメルは何も言わず、スマホに変身した。

 

 

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市内 某所

 

 

今ここでは、阿鼻叫喚の地獄絵図が展開されていた。

 

巨大なライオンを思わせる真っ白なロボットが、その爪で片っ端から建物を引き裂いて、体当たりで破壊していた。

 

その瓦礫から人々は逃げ惑うことで手いっぱいになっていた。

 

 

 

クジャク「うーん。アカンコウ、いい調子じゃないかい。今日は気合い入ってるね〜」

 

なかなかの調子にクジャクがアカンコウを褒めていた。

 

アカンコウ「もちろんですよクジャク様。このライオン型メカのレオライナーの力を見ていてくださいね」

 

その言葉にアカンコウも気を良くして、ほくそ笑んていた。

 

アカンコウ(くくく、これで店が持てるよ。やったね〜)

 

 

クジャク(やれやれ、これで脱落者を出さずに済むわ)

 

 

そんな二人の笑顔の裏の危うさを知っているゴロリンは、不安丸出しといった顔をしていた。

 

 

クジャク「アカンコウ、これからも仲良くやっていこうね」

 

アカンコウ「はい、クジャク様。店のオープンの時は是非来てくださいね。腕振るいますからね〜」

 

クジャク「ん? なんだって」

 

 

その会話にゴロリンは冷や汗が噴き出していた。

 

 

 

その時、ゴロリンは天の助けというようなものを感じた。

 

空に何かが光ったのだ。

 

ゴロリン「あっ鳥だ!!」

 

ゴロリンはそれを指差して叫んだ。

 

 

アカンコウ「飛行機だ!!」

 

アカンコウもお決まりのフレーズとともに叫んだ。

 

そしてクジャクも続けようとしたが、

 

 

アカンコウ「ねぇ、このフレーズもう古いと思いません? 原作コミックスの初版が1939年だから、もう80年ぐらい前のやつなんだよ」

 

ゴロリン「そうですな。大体今はもちろん当時も鳥や飛行機なんて驚くもんやおまへんしな」

 

 

その言葉に調子を崩した。

 

 

クジャク「古くたってなんだって、いいものはいいの!! もう!!」

 

 

アカンコウ「じゃ、せめて少し今風にアレンジしましょう。あっスカイフィッシュだ!!」

 

ゴロリン「北の国から飛んできたテポドンだ!!」

 

 

 

クジャク「いや、スーパーマンだー!!」

 

 

 

その言葉にアカンコウたちは盛大にこけた。

 

 

アカンコウ「やってられっかっての。早くラーメン屋さんになろう」

 

 

 

 

 

 

私は目の前で暴れているライオン型メカを見て、あの日のことがフラッシュバックした。

 

大神獣という何よりも憎い仇。それによく似た姿をしているメカを見て、私はそれ以外何も目に入らなくなった。

 

そして着地するや否や、憎しみを込めて名乗りを上げた。

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

 

 

インフェルノの姿を見ると、クジャク達は真剣な顔になり、気合を込めた声を出した。

 

クジャク「来たなプリキュア。戦闘開始だ!!」

 

アカンコウ「ラジャー!!」

 

 

クジャク(負けられない! 今回だけは負けられない!)

 

アカンコウ(勝つぞ! 勝って俺の店を持つんだ)

 

 

アカンコウ「行くぞプリキュア!! 男アカンコウの夢をかけた一戦だ!! 何が何でも貴様を倒す!!」

 

クジャク「仲間を貴様の為に失うことがあってたまるか!!」

方向性にはかなりズレがあるものの、三獣士の士気はかなりのものだった。

 

 

街中に響くかと思われる遠吠えと共に、ライオン型メカのレオライナーはインフェルノに向かっていった。

 

 

 

ライオン型メカは、鋭い爪を振りかざし向かってきたが、怒りで頭の中がいっぱいだった私には恐怖も何もなかった。

 

インフェルノ「ハアアア!! プリキュア・ヒート・カッター!!」

 

 

右手を上げて手刀を振り下ろすと、私の右手から半月状の炎の刃が飛んでいき、ライオン型メカの前足を爪ごと焼き切った。

 

 

 

 

アカンコウ「なんの!! たてがみミサイル発射!!」

 

アカンコウの叫びとともに、ライオンメカのたてがみがミサイルとなって雨あられとインフェルノに襲い掛かった。

 

 

 

インフェルノ「ふん、こんなもの!!」

 

私は次々襲いかかるミサイルを全てかわして、一気にライオンメカの懐に入り込んだ。

 

ミサイルの流れ弾があちこちに着弾したようだったが、なりふり構わずパンチを浴びせた。

 

そうして、体勢が大きく崩れたのを見計らって渾身の回し蹴りを放った。

 

 

その一撃にライオンメカは大きく吹き飛んだ。

 

 

 

アカンコウ「くそうくそう。負けてたまるか!!」

 

クジャク「そうだ!! 行けアカンコウ!!」

 

 

アカンコウは操縦桿を必死に動かし、ライオンメカでインフェルノに突撃していった。

 

 

インフェルノ「何!? 妙にやる気ね。まあいいわ、こっちだってね!!」

 

私は両手を大きく振りかぶると、イライラをぶつけるかのように炎の塊を叩きつけた。

 

インフェルノ「くたばれ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

そうして、直撃を受けたライオンメカは真っ赤に燃え上がった。

 

 

 

ゴロリン「もうあきまへん。脱出を!!」

 

ゴロリンのその叫びに、クジャクとアカンコウは悔しそうに脱出した。

 

アカンコウ「チクショー!!」

 

クジャク「こんなことになるなんて…!!」

 

それと同時に、ライオンメカは大爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

インフェルノ「はあはあ…」

 

私は興奮状態のまま、肩で大きく息をしていた。

 

すると突然

 

 

「このやろう!!」

 

後ろから何かで頭を殴られて倒された。

 

倒れたまま、頭を押さえながら振り返るとそこには凄まじい形相の人たちがいた。

 

 

 

「今日という今日は許さねえぞ!!」

 

「いつもいつも街中で暴れやがって!!」

 

「ここは、私たちの夢が詰まった場所なの!! それを壊すことがそんなに嬉しいの!? 一体いつまでこんなことを続けるんですか!!」

 

 

今となってはいつものことではあるが、今日の私は特に機嫌が悪かった。

 

夢などという単語を聞いてしまったから…。

 

 

インフェルノ「うるさい!! あいつらが出てくるからそれを倒してるだけよ!! 何も知らないあんたたちにうだうだ言われる筋合いはないわ!!」

 

そう怒鳴りつけると、私の体は真っ赤に燃え上がった。

 

「うわっ」

 

「アチチッ!!」

 

私を取り囲んでいた人たちは、その熱に驚いて後ずさった。

 

それと同時に私は、怒りを必死に抑えるかのように火の玉になって飛び立った。

 

 

「卑怯者!!」

 

「また逃げるのか!!」

 

そういった数々の罵声に見送られながら。

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

アカンコウ「くそう、くそう。俺の夢が…」

 

アカンコウが悔し涙を流しながらそう呟いていた。

 

クジャク「まあ、まだ次がある。頑張ろうね」

 

クジャクはそう言ってアカンコウを慰めた。

 

クジャク(やれやれ、また負けたけどこれでなんとかアカンコウのやつは抜けたりしないだろう。まずは良かった)

 

アカンコウ「クジャク様…」

 

アカンコウ(くう、暖かいじゃないか。変な意地を張った俺がバカだった…)

 

 

 

そんな二人を見ながら、ゴロリンはホッとしていた。

 

ゴロリン(ふう、なんとか丸く収まったでまんねん。またみんなで仲良くやれそうで何よりでおま)

 

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン(復讐をやめる気はないけれど、こうやって三人でいるのもいいもんだなぁ。三人でいい夢を見よう)

 

三人はしみじみとそう思っていた。

 

 

 

 

 

渚家

 

 

 

私は、家の中でめちゃくちゃに荒れていた。

 

漫画や食器を片っ端から投げつけ叩きつけ、家の中はめちゃめちゃだった。

 

 

美里「はあはあ、くそくそくそ!! 夢が何よ!! 未来が何よ!! そうよそんなものはどうだっていい!! 私の目的は復讐!! そのためなら、一人ぼっちになろうが未来なんかなくなろうが、もうどうだって構うもんか!!」

 

 

私は自分を奮い立たせるようにそう叫んだ。

 

 

メル「美里…本当にそれでいいメル…?」

 

 

そんな私を今にも泣きそうな目で見ているメルに気づくこともなく…

 

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第7話に続く。

 

 



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第7話「R達の夜」

久美「最近美里どうしたんだろ、学校が終わるとすぐ帰っちゃうし」

 

理香「また、ゲームにハマってんじゃないの? 美里のことだし。そのうちまたお腹減らして泣きついてくるかもね」

 

雪菜「まさか。美里だって、幾ら何でもそうそう何度も同じことはしないわよ、多分…」

 

 

帰り道に三人がそんなことを話していた。

 

 

ここしばらく美里は三人と距離を置いていて、放課後になるとすぐに帰宅していた。

 

雪菜「まあ、美里は一人暮らしだし色々やることが多いのよ。きっと…」

 

久美「そうだよね。今度おすそ分けでも持って行ったげようか」

 

理香「掃除や洗濯なんかも手伝ってあげましょうか。美里結構ずぼらだしたまってるんじゃないかな」

 

彼女たちもなんやかや言いながら、美里の友達である。

 

きちんと心配しているし、力になってやりたいと思っている。

 

だが…

 

 

 

 

 

 

 

インフェルノ「3丁目までは、これで確認終了。未だに手がかりはなし。どこよ、どこにいるのよ!! 大神獣、出てきなさいよ!!」

 

私は、ここしばらくあちこちを飛び回って大神獣を探していた。

 

なんでこんな非効率なことをしているかというと、この役立たずの所為である。

 

 

そもそも、あいつをぶっ殺すに当たってこっちから殴りこみを仕掛けた方が早いという結論に達したのだ。

 

それでメルにあいつのいきそうな場所を聞いてみたのだが

 

 

メル「ごめんなさいメル。大神獣のことは細かいことを何も知らないメル。だから今どこにいるのかも…」

 

おずおずとそう言ったメルを少し(注:美里の主観で)キツ目に怒りをぶつけたあと、痛みでうずくまっていたメルをよそに、強引に変身するとしらみつぶしに市内を探すことにしたのだ。

 

学校に行っている時間も惜しいのだが、欠席が続くと何かの形で保護者に連絡が行くだろうから、それを避けるため学校だけは行っている。

 

 

食事時間や睡眠時間を極限まで削り探索を続けているが全く進展がなく、寝不足や空腹も手伝ってイライラも頂点に達し始めていた。

 

 

美里「くそ!! 一体どこにいるのよ!!」

 

草木も眠る丑三つ時、ようやく帰宅した美里は、悔しそうにテーブルに拳を叩きつけた。

 

 

異常にギラついた目でそう怒鳴る美里にメルは複雑な思いでいた。

 

メル(美里…このままじゃ駄目メル。誰か美里を支えてくれる人がいないと…)

 

 

メルも美里のことを心配しており何度も忠告しているが、この状況になってしまった原因の一つであるメルのいうことに美里はほとんど耳を傾けない。

 

それどころか、却って美里を苛立たせ頑なにしてしまっている。

 

何もできない現状にメルもまた追い詰められていた。

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

アカンコウ「フッフッフッ…、怖い、私は自分の才能が怖い。 プリキュアを確実に抹殺できるメカを、消費税込み僅か十四万飛んで三十九円という低予算で完成させることができるとは…。しかし現実に私はやった、やったんだよー!!」

 

 

 

洋館の地下でベースアニマルを開発していたアカンコウは、歓喜の声をあげていた。

 

すると突然後ろから思い切り枕をぶつけられた。

 

 

クジャク「今何時だと思ってんだお前は!! わあわあ危ない口調で騒ぐんじゃないよ、もう」

 

ゴロリン「そうでまんねん。ただでさえここ数日やかましくて寝られないんでおま」

 

その声に振り返ると、そこには眠そうな目をしたクジャクとゴロリンがいた。

 

 

アカンコウ「あらごめんなさい。もうこんな時間なのね。でもそんなにやかましくないでしょ、ねえ」

 

クジャク「あのね。この洋館は大神獣様の特殊な結界で守られてて、私たち以外は感知できないし、場所が場所だから静かな分お前の声やらなんやらがメチャクチャ響くんだよ。お前だって知ってるだろ」

 

いかにも機嫌が悪そうにクジャクがそう告げた。

 

 

アカンコウ「あ、そうでした。でも喜んでください。次こそ確実にプリキュアを抹殺できますよ」

 

クジャク「わかったわかった。ったく、毎晩毎晩遅くまで。流れ星にでも祈ったのかい。もういい、明日聞いてやるから、もう寝な」

 

ゴロリン「で、まんねん。おやすみ」

 

眠そうな声でそう言うと、二人は寝室へと戻っていった。

 

 

アカンコウ「あらら、もう。まあいいや。しかし笑いがとまらん、見ていろプリキュア。次こそお前の最期だ!! アーッハッハッハッ!!」

 

静かな洋館に、アカンコウのかなり危ない声が一晩中響き渡った。

 

 

翌朝、寝不足のクジャクとゴロリンにアカンコウがボコボコにされたのは言うまでもない。

 

 

 

 

ネローべ学園

 

 

 

教師「えーっ、では85ページから渚、読みなさい」

 

授業中に教師が教科書を読むように促したが、まるで返事がなかった。

 

 

教師「渚、85ページから読みなさい!」

 

少し口調がきつくなったが、未だに返事がなかった。

 

 

久美「ちょっと、起きなって。美里!!」

 

後ろの席から久美が小さな、それでいて焦ったような感じの声とともに美里の体を揺すっていたが、美里は一向に目覚める気配がなかった。

 

 

そうこうしている間に教科書を丸めた教師が美里の席の前に来た。

 

そして、実に景気のいい音が教室内に響いた。

 

 

美里「な、なになに? えっ!!まさかあいつが!?」

 

突然のことに私は戸惑ったが、すぐに状況が把握できた。

 

 

今自分が教室の中にいること。

 

クラス中から笑い声が響いていたこと。

 

目の前に怖い顔をした先生がいること。

 

 

以上のことから次に何が起きるかは嫌でもわかった。

 

 

教師「立ってなさい!!」

 

美里「はい…」

 

私は力なくそう返事をした。

 

 

 

 

昼休み

 

 

理香「まったく、あの先生の授業でよくグースカ寝るよね。怖くてできないよあたしゃ」

 

久美「うつらうつらしてたのが後ろからでもわかったから、やばいと思ったけど全然起きないんだもん。夜更かしでもしたの、美里」

 

私たちは中庭で食事をしながらそんなことを話していた。

 

美里「う、うんちょっとね。最近夜が遅くて寝不足なんだ」

 

私はわざとらしく笑いながらそう答えた。

 

雪菜「何? 何か新しいゲームでも出たの? ダメよ、あんまり夜更かししちゃ」

 

雪菜が諌めるようにそう言った。

 

美里「ま、まあね。気をつけるよ」

 

 

久美「何、美里またゲーム買ったの? そんなの買うお金あったら、こないだ貸したお金返してよ」

 

美里「えっ? あれは宿題で帳消しじゃ…」

 

理香「何言ってるの。それはそれ、借りたものはちゃんと返してね」

 

 

美里「理不尽だ!! 横暴だ!! そんなことが許されるものか!! ねえ雪菜」

 

 

雪菜「あの宿題間違いだらけだったのよね。それでもやったうちに入るのかしら?」

 

美里「うっ」

 

ジロリという効果音が聞こえてきそうに雪菜のにらみに私は何も言い返せなかった。

 

 

久美・理香「「じゃそういうことでよろしく〜♪」」

 

美里「なによ!! みんなひどい、親友だと思っていたのに」

 

 

こんな会話をしながらも、本当にみんなを友達と思っていないのはどちらなのかと考えていた。

 

 

なんとなく、私はみんなとは違うんだという思いが私にはあった。

 

みんなは、プリキュアのことは知っていてもどこか他人事のように思っているのだろう。

 

だから、こうして呑気に笑っている。

 

 

でも私は違う。こんな平穏こそが今の私には非日常だ。

 

この三人は私のことを何も知らない。

 

そう思うと、こうやってみんなと会話していることに違和感を覚えた。

 

 

美里(私…どうなっちゃうのかなぁ…)

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

クジャク「で、私たちの安眠と引き換えに開発したプリキュア抹殺用のベースアニマルがこれかい?」

 

地下室でクジャクが目の前のベースアニマルを指差して、呆れ返ったようにそう尋ねた。

 

 

アカンコウ「はい、そうですよクジャク様。これがプリキュアキラーとも言うべきベースアニマル、その名も…」

 

ゴロリン「まさか、コイキングとか言うんじゃおまへんやろな。あの最弱という噂の」

 

 

その言い様にアカンコウは感情的になって反論した。

 

アカンコウ「バカを言うな!! これこそプリキュアキラー、カープエンペラーだ。これが完成した今、もはや我々の勝利は確実だ!!」

 

 

もっとも、今目の前にあるのはどう見ても手足の生えた鯉のぼりでしかなく、お世辞にも強そうには見えなかったから二人の言い分も無理ないのだが。

 

 

 

クジャク「ネーミングセンスは変わんないっての。ああもういいもういい。とりあえず出撃。ちょっとぐらいはダークエナジーも集められるだろ」

 

すでに諦めが入っているのか、いかにも投げやりといった感じにクジャクが出撃を促した。

 

 

アカンコウ「クジャク様。今回の出撃にあたり出撃場所を指定させていただきます」

 

しかし、そんなクジャクの態度にもめげず、アカンコウは進言した。

 

クジャク「何? どこか攻撃目標があるのかい?」

 

アカンコウ「はい、オーエエドー海水浴場。そこがプリキュアの墓場となるのです」

 

 

ゴロリン「そんなとこ行っても、まだ海水浴のシーズンやないから人もほとんどおりまへんで」

 

アカンコウ「フッフッフッ、構わんさ。今回はダークエナジーの収集は二の次。真の目的はプリキュア抹殺なのだ!! アーハッハッハッ!!」

 

妙に気合の入っているアカンコウだが

 

 

クジャク「完っ全に自分に酔ってるね」

 

ゴロリン「ほんまに大丈夫なんでっしゃろか」

 

二人は懐疑的だった。

 

 

 

 

ネローべ学園 放課後

 

 

 

私は授業が終わるやいなや、早々に荷物をまとめて駆け出そうとした。

 

 

すると、雪菜が私の前に立ちふさがった。

 

 

雪菜「美里、今日は掃除当番でしょ。サボるつもりなの?」

 

そう言いながら、箒を手渡してきた。

 

 

美里「うっ、ご、ごめん。今日は用事が。次またやるから、ね」

 

私はそう言ってやり過ごそうとしたが

 

 

雪菜「ダーメ。こないだもそう言ってサボったでしょ。今日はちゃんとやりなさい」

 

有無を言わせぬその口調に私は押し黙るしかなかった。

 

 

 

そうして掃除をしながらも、私はかなり焦っていた。

 

美里(早くあいつらを見つけて、家族の仇を討つ。あーもうこんなことしてられないのに)

 

そのため、かなり掃除をする手も乱雑になっていた。

 

 

そんな私に雪菜が見かねたように声をかけてきた。

 

雪菜「美里。いったい何をそんなに焦ってるの? 毎日毎日すぐに帰っちゃうし、電話も出ないしLINEの既読スルーは当たり前。本当のこと教えてくれないかしら、最近どこで何してるの?」

 

 

その口調から、雪菜は私が変な友達ができたのではと疑っているようだった。

 

ピントはずれているが、私のことを心配してくれているのは痛いほどわかった。

 

でも、だからこそ私は本当のことが言えなかった。

 

 

美里「なんでもないよ。ほら、タイムセールがあるから早く行きたいだけ。大変なのよ色々と」

 

私は誤魔化すようにそう言った。が

 

 

雪菜「嘘言いなさい。そんなことに気を配るようなタイプじゃないでしょ、あなたは。何? 私にも言えないようなことなの?」

 

雪菜には通じなかった。さすがは幼馴染というところか。

 

 

美里「本当になんでもないってば。さっ掃除掃除」

 

私はそう言って振り返り、無理やり話を切り上げようとしたが

 

 

雪菜「何言ってるの? お願い教えて。悩んでるなら一人で抱え込まないでよ。私たち友達じゃない」

 

なおも雪菜は私の肩を掴んで食らい付いてきた。

 

美里「うるさい!! なんでもないって言ってるでしょ!! 友達だからって何でもかんでも話すもんでもないじゃない!! 私のことなんだから放っといてよ!!」

 

どこかイラつき始めていた私は、ついにそう怒鳴ってしまった。

 

そして、ショックを受けたような雪菜の顔を見て激しく後悔した。

 

 

美里「あっ、ゴメン…」

 

雪菜「ううん、いいの。私こそゴメン、言いたくないこともあるわよね…」

 

 

こうして実に気まずい空気の流れる中、私たちは一言も会話を交わさず掃除を続けた。

 

 

 

 

そうして掃除を終えて帰ろうとした私に、雪菜は勇気を振り絞ったかのように話しかけてきた。

 

雪菜「美里! 来月私ピアノの発表会があるの。よかったら聞きに来てね!!」

 

 

そんな雪菜に私もまた笑顔で答えた。

 

美里「うん!! 絶対行く!! 私は雪菜のピアノの大ファンなんだから!! 応援してる、頑張って!!」

 

 

 

 

そんな会話をしたこともあって少しは後悔の念も薄れたのだが、校門を出た時に、そんなものは頭から吹っ飛んだ。

 

 

カバンの中のメルが震えだしたのだ。

 

私はそんなメルを引き摺り出して、怒鳴りつけた。

 

 

美里「ブルブル震えてんじゃないわよ!! ほら早く!!」

 

俯いたメルは何も言わずスマホに変身した。

 

そのまま、ひったくるようにそれを掴むと鍵の形のアプリをタッチした。

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包んでいた。

 

そして、赤い仮面を装着して変身を完了して、赤い火の玉になって飛び立った。

 

 

 

 

オーエエドー海水浴場

 

 

 

ここは都心に近い海水浴場で、シーズンとなれば多くの海水浴客で込み合い、足の踏み場も無くなる。

 

ただし、それはシーズンになればの話であり、まだ肌寒さの残るこの時期では海水浴客どころか人もほとんどいない。だから

 

 

アカンコウ「プリキュアー!! 鯉だけに早くこーい!!」

 

 

件の鯉のぼり型ロボット、カープエンペラーが海岸付近の家を破壊したりしてはいるが、普段に比べると被害は大幅に小規模だった。

 

クジャク「あのさぁ。そんなこと言って、プリキュアが本当に来る前に逃げる準備しといたほうがいいんじゃない? こんなウドの大木、まともに戦う事なんかできっこないんだからさ」

 

ゴロリン「そうでおま、怪我するだけ損でまんねん」

 

すでに諦めモードに入ってる二人に、アカンコウはかなり苛立っていた。

 

とはいえ、歩いたほうが早いんじゃないかと思えるような速度でしか移動できないメカに乗っていればそんな感想も至極当然だろうが…。

 

 

アカンコウ「えーい、どこまでも人をコケにして。その時になればこのメカの真価がわかる!!」

 

そうやってアカンコウが怒鳴ると、空の彼方で何かが光った。

 

アカンコウ「むっ、鳥だ!!」

 

ゴロリン「飛行機だ!!」

 

 

 

 

クジャク「Yesフレッシュハートスイートスマイルドキドキハピネスプリンセス魔法つかいプリキュアMAX Starアラモードだー!!」

 

 

 

クジャク「はぁ、長いね」

 

アカンコウ「もう10年以上やってますからね」

 

 

 

 

 

私は海水浴場で暴れている鯉のぼり型メカを見つけて、急降下していった。

 

インフェルノ「わざわざこんなところでどういうつもりか知らないけど、焼き魚にしてやるわ!!」

 

そんな私に、スマホに変身して腰の部分のケースに入っていたメルがうるさいことを言ってきた。

 

メル「美里、きっとあいつはなにか企んでるメル。気をつけたほうが…」

 

しかし、私はそんなメルを一喝した。

 

インフェルノ「うるさい!! あんたは私を変身させてりゃそれでいいのよ!! 余計なことを喋るな!! 耳障りよ!!」

 

 

そうして、メカの前に着地すると今の分の怒りを込めて名乗った。

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

アカンコウ「フッフッフッ、やっと来たなプリキュア。今日こそ決着をつけてやるぜ!!」

 

アカンコウは不敵に笑うと、カープエンペラーをプリキュアに突撃させた。

 

しかしあまりにも鈍重なその動きは、あっさりとかわされ背後をとられ、キックとともに吹き飛ばされ、その時にいくつかパーツも飛び散った。

 

 

 

インフェルノ「ふん、こんなノロマに何ができるのよ!!」

 

私は目の前のメカのあまりのノロさを、バカにするようにそう評した。

 

 

 

その評価はクジャクも同じだった。

 

クジャク「アカンコウ! こんな奴に何ができるんだよ。早く逃げるんだってば!!」

 

アカンコウ「まだまだ、本番はこれからですよ」

 

そう言ってアカンコウは操縦桿を握り、カープエンペラーを起き上がらせた。

 

 

 

インフェルノ「ふん、くだらないやつ。一気にとどめよ」

 

私はそう吐き捨てると、一気にメカの懐に飛び込んでパンチを繰り出した。

 

 

 

 

 

しかし、それを見たアカンコウの目が光った。

 

アカンコウ「それを待っていたんだ。強力粘着液をくらえ!! ポチッとな」

 

 

次の瞬間、カープエンペラーの体から流れ出した粘液でインフェルノのパンチはボディに張り付いて取れなくなった。

 

 

 

インフェルノ「な、なによこれ!?」

 

繰り出したパンチが突然メカのボディにへばりついて取れなくなったことに私は戸惑っていた。

 

なんとか引きはがそうとするも、メカから染み出してくる粘液でだんだんと私の体に絡みついて自由は奪われていき、やがてメカに全身が張り付いてしまった。

 

そうして身動きの取れなくなった私に鯉のぼりメカは抱きついてきた。

 

 

その結果、私は完全に動けなくなった。

 

 

インフェルノ「くっこうなったら」

 

私は全身から炎を発して逃げようとしたが、その前に鯉のぼりメカは海に飛び込んでしまった。

 

そうして、私を抱えたままどんどん沖へ、そして海中深く潜り始めた。

 

 

インフェルノ(くっまずい。水中じゃ炎が出せない。動けないし、このままだと窒息しちゃう!!)

 

 

 

身動きの取れないまま水中に引きずり込まれ、目に見えて焦り出したインフェルノをモニター越しに見て、アカンコウは満足そうな笑みを浮かべていた。

 

 

アカンコウ「フッフッフッ。私はこれまでの戦闘データから、プリキュアの攻撃パターンを分析した。その結果、奴の攻撃は徒手空拳と炎を利用したものに限られるということに私は気がついたのだ。つまり、動きを封じた上で水中戦に持ち込めば奴の戦法を完全に封じることができる。しかもいかにプリキュアといえども呼吸が必要な以上、水中では長時間居られない。このまま溺れ死んでしまえ!!」

 

 

クジャク「すごいね〜。やっぱりお前は天才だよ!!」

 

アカンコウ「いやあ、ちょろいもんですよ。自動操縦でひたすら潜るようにしてありますから、あとは何もすることはない。ただプリキュアが溺れるのを待つだけです」

 

 

 

インフェルノ(ダメ…苦しい…息が…それに水圧で…鼓膜が破れそう…)

 

私は必死に息を止めていたが、だんだんと限界が近づいていた。おまけに深く潜るに連れて水圧で体がつぶれそうになっていき、必死にもがくも完全に体が敵メカに張り付いてしまい、ピクリとも動けなかった。

 

 

 

 

アカンコウ「深度三千メートルか…。プリキュアめ流石にしぶといがもう時間の問題だな」

 

 

クジャク「おい、アカンコウ。なんかこっちも息苦しくないかい。空気が薄くなってきてるような…」

 

ゴロリン「わては何も感じまへんで」

 

アカンコウ「そうですよ。こいつはもともと水中専用メカ。人工エラのおかげでいつまででも潜れます。心配無用ですよ」

 

 

 

 

深く潜るに連れて、あたりは真っ暗になっていき、だんだんと私も限界が近くなってきた。

 

インフェルノ(も…もうダメ…げ、限界…空気…空気を…)

 

 

 

モニターの前で苦しそうにゴボゴボと悶え始めたインフェルノを見て、アカンコウは興奮していた。

 

アカンコウ「よし、もう少し。プリキュアめ苦しいか? 日頃の恨みだ、苦しみ抜いて死んでいけ!!」

 

 

 

クジャク「おい、アカンコウ。これ、やっぱりおかしいよ」

 

しかし、そんなアカンコウにクジャクが息苦しそうに尋ねた。

 

 

ゴロリン「うん、確かになんか空気が淀んでるような…」

 

 

アカンコウ「んもう、大丈夫ですってば」

 

ゴロリンまでもが同調し始めたため、アカンコウは機械を操作して安全を証明しようとした。

 

 

アカンコウ「ほらこうして人工のエラがあるから空気の心配は…げっ!!」

 

そこまで言いかけて、アカンコウは目を見開いた。

 

 

クジャク「どどどどうしたんだい? え?」

 

アカンコウ「いえ、あの、地上でプリキュアと戦った時にですね、少しパーツを壊されましてね。で、そのパーツってのが空気の循環に必要なもので、だからその…」

 

 

事情を察したクジャクたちは真っ青になった。

 

クジャク「浮上だ!! 浮上するんだよ!! こっちまで窒息しちゃう!!」

 

アカンコウ「もう無理ですよ。こいつはプリキュア抹殺用メカと言ったでしょ。一度潜るとプリキュアが死ぬまで浮上しないようプログラムしてあります。そのための人工のエラだったんです」

 

 

クジャク「それじゃどうすんだよ!? このままじゃ共倒れじゃないかい!!」

 

ゴロリン「なんとかプログラムを書き換えることはできまへんのか!?」

 

その言葉に大慌てでクジャクたちが叫んだ。

 

 

アカンコウ「えーいやかましい!! 騒ぐなうろたえるな!! 見ろ、こちらの苦しみ以上に敵も苦しい。このままだと間もなくプリキュアは死ぬ。それまで耐えるんだ。空気がなんだ、窒息がなんだ、そんなものは根性でカバーしろ!!」

 

開き直ったかのようにアカンコウもそう怒鳴った。

 

 

クジャク「この男、本当に科学者なのかねぇ?」

 

 

 

 

インフェルノ(も…だ…め…。これで…死ぬ…の…?)

 

 

もはや完全に息がつまり、肺の中の空気を大きく吐き出してしまった私は意識が遠のくのを感じていた。

 

 

そしてそんな私の脳裏に、いろんなことが浮かんできた。

 

子供の頃の思い出。雪菜と初めて出会ったときのこと。雪菜のピアノを聴いた時の衝撃。様々なゲームで遊んだこと。そして、最後に浮かんだのはあの日のことだった。

 

目の前で串刺しにされたお父さん

 

爪で引き裂かれ血まみれになって死んでいったお母さんと亮太

 

 

その光景がまぶたの裏に蘇った。

 

 

その瞬間、私の頭の中は激しい怒りでいっぱいになった。

 

目の前で家族を理不尽に殺された。

 

その怒りで急に意識がはっきりとした。

 

インフェルノ(父…さん…母…さん…亮太…。こ…んな…ところで…死んで…たまるかー!!)

 

私は怒りのままに最後の力を振り絞り、全身から超高熱放射を行った。

 

 

 

アカンコウ「ん、なんだなんだ?」

 

ゴロリン「すごい熱でまんねん」

 

 

 

 

その高熱で鯉のぼりメカにダメージを与えることには成功し、粘着液も一部溶け私はなんとか動けるようになった。

 

インフェルノ(しめた!! 早く浮上して空気を!!)

 

 

私は全力で海面へ向けて泳いでいった。

 

 

 

 

クジャク「ちょっと、逃げられちゃったよ!!」

 

アカンコウ「まずい、今の高熱でこっちので電気系統も一部イカれた!!」

 

 

あと一歩というところでプリキュアを取り逃がしてしまい、おまけにその高熱の影響でカープエンペラーも機能がおかしくなっていた。

 

ゴロリン「うわー!! 浸水してきたでまんねん!!」

 

アカンコウ「何!? 装甲に亀裂でも入ったか? いかん、このままじゃ水圧で潰される!!」

 

クジャク「ちょっとどうすんだよ!! なんとか浮上できないのかい!!」

 

パニック状態になり始めたクジャクたちを前に、アカンコウは冷静に状況を判断し一つの結論を出した。

 

 

アカンコウ「やむを得ません。自爆してその爆発力を利用して一気に浮上しましょう」

 

その言葉にクジャクは驚愕した。

 

クジャク「何!? 自爆!? っかー、お前ってば人間離れした顔してると思ってたけど、それだけに発想力も思いっきり人間離れしてるね〜」

 

その言い様にアカンコウはずっこけた。

 

アカンコウ「なんて、ずっこけてる場合じゃないんだよ。いいか二人とも、俺にしっかり掴まってろよ」

 

 

立ち直ったアカンコウは渋くそう決めた。

 

クジャク「アカンコウ」

 

ゴロリン「アカやん」

 

クジャク「なーんてさ、お前にしがみつくぐらいなら、椅子にしがみつくよ私は」

 

ゴロリン「わては自分の方がよっぽど安心できるでまんねん」

 

 

その言葉にアカンコウはもう一回ずっこけた。

 

 

アカンコウ「あーもう。此の期に及んで人をコケにしやがって。じゃあド派手に行こうか!! ポチッとな」

 

その言葉とともに押された自爆スイッチにより、カープエンペラーは大爆発を起こし、排出されたコックピットはその爆発に吹き飛ばされるように一気に浮上していった。

 

 

一方

 

 

インフェルノ(何!? うわーっ!!)

 

残された力を振り絞って必死に浮上していた私は、突然起きた大爆発に巻き込まれて大きく流されていき、そのまま気を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

メル(美里、しっかりするメル!! 美里!!)

 

 

誰かが私を呼ぶ声に目を開けてみると、そこにはメルがいた。

 

美里「ゲホゲホ。ここは…」

 

咳き込みながら辺りを見回すと、日は完全に沈み真っ暗になってはいたものの間違いなくオーエエドー海水浴場であり、私は海岸に打ち上げられていた。

 

美里「そっか、助かったんだ私。ハッ、ハックショーン!!」

 

 

どうにか助かったことを確認したものの、ずぶ濡れになっていた私は盛大にくしゃみをした。

 

 

美里「うー寒い。ほら、帰るのにもう一回変身するから、早くしなさい!!」

 

私がそう促したが、

 

メル「そんなに疲れてたら変身してもろくに動けないメル」

 

美里「ちっ、使えないわね」

 

私は舌打ちをして、吐き捨てるようにそう言った。

 

 

このままここで夜を明かそうにも、まだ野宿には早すぎる。

 

なんとかして家まで帰らないといけなかった。

 

美里「携帯も水没して使えないからタクシーも呼べない。近くの駅まで歩くしかないか」

 

私は水を吸って重くなった服を適当に絞ると、よろよろと歩き始めた。

 

正直もうクタクタだったし、多少熱っぽかった。

 

はっきり言ってもうボロボロであり、帰り着けるかどうか不安でもあった。

 

 

メル「美里…やっぱりこのままじゃ…」

 

メルが心配そうに私に声をかけてきたが

 

 

美里「うるさい役立たず!! 耳障りだから黙っててよね!!」

 

私はそう怒鳴ると駅の方へと体をひきずるように歩き出した。

 

 

メル(このままじゃ美里がもたないメル。せめてあと一人プリキュアがいないと…。ミプが誰か見つけててくれればいいけどメル…)

 

 

 

 

 

クジャク「ごらん、カシオペア座だよ。綺麗だね。都会じゃなかなか見れないよ」

 

クジャクが夜空を指差してそう言った。

 

 

ゴロリン「初めて見たでまんねん。するとあれが北斗七星でおますな。満天の星空、いいもんでおますな」

 

アカンコウ「えーっとするとあれが北極星だから、北はあっち。すると陸はこっちの方だな」

 

アカンコウがそう言うと、現実に帰った三人は力なくオールを動かし始めた。

 

 

 

自爆したことでなんとか海面まで浮上できたものの、海流に大きく流されてしまい、浮上したところには見渡す限りの水平線しかなかったのだ。

 

 

クジャク「まったく、生きて帰りつけるんだろうね」

 

アカンコウ「一応緊急用の発煙筒は用意してありますから、明日に希望を持ちましょう」

 

クジャク「はあ〜情けない」

 

 

そんな時流星が夜空を切り裂いた。

 

ゴロリン「あっ流星でまんねん」

 

アカンコウ「よし、お祈りしましょう。生きて帰れるように」

 

クジャク「黙れ、このスカ!!」

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第8話に続く

 



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第8話「Rである意義」

子供の頃に憧れていた、フリフリのかわいい服を身につけた魔法少女。

 

いや今でも憧れている。

 

そんな人が本当にいたら、と。

 

わたしもそんな風になれたら、と。

 

 

 

だから、あの人のことを聞いた時には初めはすごく興奮した。

 

夢の一部が叶ったと。

 

 

でもその人は私の憧れとは正反対の人だった。

 

それが許せなかった。

 

もし私なら…。

 

 

 

 

 

 

 

美里「う〜、八度七分か。なかなか下がらないな」

 

 

私は赤い顔をしながら、体温計の数字を見てそう呟いた。

 

 

あの夜、結局近くの駅までようやくたどり着いた時にはすでに終電は出た後であった。

 

やむなくタクシーに乗ろうとしたものの、スブ濡れでボロボロの私の姿を見て乗車拒否された。

 

 

仕方なく夜通し歩き続けて、どうにか日が昇るころに生きて帰り着いたがそのままダウン。

 

それから十日間、ずっと寝込んでいるのである。

 

 

美里「う〜昨日から何も食べてないな。せめてインスタントのおかゆだけでも食べよう」

 

 

こうして病気になると、家族のありがたさというものが改めてよくわかる。

 

昔風邪を引いた時には、お母さんが看病をしてくれていた。

 

りんごを剥いてくれたり、氷嚢を用意してくれたりした。

 

お父さんはもちろん、亮太だって悪態をつきながらも気遣ってくれた。

 

 

でも今は全て一人でそれをやらなければならない。

 

(一応同居している存在はいるが、何の役にも立たない穀潰しである。口をきける変身アイテムだと思っておくぐらいでいい)

 

美里「くそ! こんなことになったのも全部あいつのせいだ!!」

 

こんなことになった元凶に対する怒りはなおさらつのり、嫌が応に復讐の怨念は増していった。

 

(こうやってカッカカッカしてるから熱が下がらないのかもしれない)

 

 

 

電子レンジでおかゆを温めて、テレビをBGMにぼんやりと食べているとチャイムが鳴った。

 

 

美里「誰かな、一体?」

 

ぼんやりした頭でインターホンを確認すると雪菜たちがいた。

 

 

 

 

雪菜「美里、大丈夫?」

 

理香「今日で十日でしょ、死んでんじゃないかと思ってさ」

 

久美「はいこれ、溜まってるプリント。でも思ってたよりは元気そうね」

 

 

 

美里「うん、みんなありがと」

 

こうして心配して来てくれる友達がいてくれるのは実にありがたい事である。

 

こんな私を心配してくれている、それだけで涙が出そうになった。

 

 

雪菜「でも一体何してこんな風邪ひいたのよ。美里らしくないわよ」

 

久美「そうそう、体の丈夫さが取り柄じゃない」

 

 

美里「う、うん。ちょっとした湯冷めかな。お風呂上がりにバスタオル一枚でいたから」

 

私は苦笑しながらそう言った。

 

理香「まったく、ダメよ。ちゃんとしないと。らしいっちゃらしいけど」

 

そうしてみんなで笑いあったのが、私には嬉しかった。

 

 

久美「ほら、氷嚢作ってきてあげるから。横になってなさいな」

 

そう言って久美は台所に向かった。

 

 

美里「ありがとう。じゃあお言葉に甘えて…、おっとっと」

 

私は部屋に向かおうとしたが、足元がおぼつかず躓いて倒れそうになった。が

 

 

雪菜「おっと。大丈夫? ほら肩貸したげる」

 

そう言って雪菜がとっさに支えてくれた。

 

 

メル(みんな優しい人たちなんだメル。こんな人たちが美里を支えてくれれば…)

 

そんな光景を見て、メルはポツリとつぶやいていた。

 

 

 

こうして友達といると、少しは頭も冷えてきたらしく、夕方になりみんなが帰る頃にはだいぶ具合もよくなった。

 

 

雪菜「じゃあね美里。早くよくなって学校に来てね」

 

美里「うん。雪菜の発表会もあるし、絶対に治すよ。じゃあ学校でね」

 

理香「バイバイ、美里。学校で会おうね」

 

 

 

雪菜と理香が挨拶をする中、久美がポツリと聞いてきた。

 

久美「ねえ、美里って一人暮らしだよね」

 

美里「? そうだよ。それがどうしたの?」

 

久美「ううん。なんでもない。じゃあお大事に」

 

 

 

 

 

美里の家からの帰り道、雪菜が尋ねた。

 

雪菜「ねえ久美。さっきのどういうこと? 美里が一人なのは…その…」

 

 

久美「…うんわかってるけどさ。なんか美里ん家の中で変な声が聞こえたのよね」

 

理香「空耳じゃない? 私は聞こえなかったよ」

 

雪菜「私はずっと美里と話してたから」

 

 

 

久美「そうかなぁ。それにさ、ペット飼ってるなんて聞いてないよね」

 

理香「? うん、それがどうかした?」

 

 

久美「いやね、台所に猫缶があったのよ。それも食べた後の空き缶が」

 

 

雪菜「缶詰と間違えて買っちゃったんじゃない? 美里ってそそっかしいから」

 

久美「でもさ、幾ら何でも美里が食べると思う?」

 

 

理香「前に飢えてた時に止むを得ず…ってさすがにないか」

 

久美「そうよね。最近変だし美里、何か隠しごとがあるんじゃ…」

 

 

雪菜「やめようよ!! 変なこと言うの!!」

 

そこまで話が進んだところで雪菜が叫んだ。

 

 

雪菜「美里に限ってそんなこと絶対ないわ!!」

 

久美「そ、そうだよね。私が悪かった、ゴメン」

 

 

雪菜(そうよ。そんなわけないわよね、美里)

 

そう言いながらも、雪菜もそうであって欲しいと祈っていた。

 

 

 

そんな会話をしながら帰る三人を物陰から見ている存在があった。

 

???「見つけたミプ。きっとあの人なら…」

 

 

 

 

 

 

久美「あーあ、疲れた。美里があんなんだからなんかこっちも調子出ないのよね。早く元気になってくれるといいけど…」

 

家に帰った久美は部屋の中で着替えながらそう呟いた。

 

 

久美「あっいけない。魔法少女マミ⭐まぎ始まっちゃう」

 

美里たちも知らないことだが、実はこの久美という少女、魔法少女というものに子供の頃から憧れていた。

 

 

テレビで箒に乗って飛ぶ姿を見て、あんな風になれたらなぁと空想し、それが今に至っているのである。

 

そうしてテレビをつけた久美だったが、肝心の番組は特別番組で休止になっていた。

 

 

久美「えーっ!! なんでなんで!?」

 

思わずブーたれた久美だったがその番組に目が止まった。

 

その番組は、キュア・インフェルノに対しての特別報道であり、様々なコメンテーターが彼女について語っていた。

 

 

 

コメンテーターA「彼女はただのテロリストです!! ただ暴れているだけとしか思えません!!」

 

コメンテーターB「それは言い過ぎではないでしょうか。むろん看過することはできませんが、結果的に被害が食い止められているという見方もできます」

 

コメンテーターC「実際に被害にあった人に対して同じことが言えますか? いっそのこと指名手配すべきです」

 

コメンテーターD「素顔も本名も知らないあんな怪物をですか? 猛獣の類と見て捕獲もしくは射殺をすべきです」

 

 

みんな色々言い合っていたが、否定的な意見の方が大勢を占めていた。

 

 

久美「うんうん。そうだよね、私もこうして間接的に被害は受けてるわけだし。それに私の憧れってもんが崩れちゃうわよ」

 

久美もそこまで過激ではないがどちらかといえば否定的な意見の持ち主であった。

 

初めてキュア・インフェルノのことを聞いた時、夢が現実になったと彼女は密かに喜んだものだ。

 

しかし、それはすぐに裏切られた。

 

キュア・インフェルノはどう見ても心優しく皆が憧れるヒロインとはかけ離れた存在だった。

 

 

彼女の目的は今もって不明だが、少なくとも世のため人のためと言った理由で戦っているのではないことだけは容易に想像がつく。

 

久美「あ〜あ。もしも私があんな風になれたらなぁ。みんなが幸せになれるように悪いやつと戦ってさ…」

 

???「じゃあ、やってみるミプ?」

 

 

そんな独り言を言っていると、突然変な口調で話しかけられた。

 

 

久美「えっ? だ、誰?」

 

 

慌てて部屋を見渡すと、そこにいたのはぬいぐるみのような生き物だった。

 

 

???「初めましてミプ。妖精のミプというミプ」

 

久美「ぬ、ぬいぐるみがしゃべったー!!??」

 

 

 

 

 

 

 

ミプ「少し落ち着いたミプ?」

 

久美「大きく息を吸って吐いて。吸って吐いて。う、うんなんとかね」

 

大声で驚きの声をあげた久美の部屋には、当然家族が心配して飛び込んできた。

 

それをなんとかごまかした久美は、深呼吸をして目の前の現実を理解しようとした。

 

 

ミプ「じゃあ、順を追って説明するミプ。ミプは…」

 

 

そうして、ミプは事情を説明した。

 

 

自分が妖精であること。

 

かつて、妖精と人間は仲良く暮らしていたこと。

 

そんな妖精の一人である大神獣が、自分の力に溺れて全てを支配しようとしたこと。

 

妖精と人が力を合わせて戦い、大神獣を封印することに成功したこと。

 

それ以来、妖精たちは責任を感じて人の前から姿を消して封印を守り続けていたこと。

 

 

そのため、だんだんと妖精のことは人々の中から忘れられてしまったこと。

 

やがて人間の文明が進みすぎて空気や水を汚したため、妖精たちは生きていけなくなってしまったこと。

 

その結果、元々少なかった仲間もほとんどいなくなって、密かに守り続けていた封印をもう守れなくなり、大神獣が復活してしまったこと。

 

 

一部始終を話した後、久美は一つ尋ねた。

 

久美「ねえ、さっきママもパパもあなたの声が聞こえなかったみたいだけど、それはなんで?」

 

 

ミプ「多分、妖精の光を見たことがあるんだと思うミプ。だから、妖精であるミプのことがわかって、こうして話ができるんだミプ」

 

久美「妖精の光…? ひょっとすると…」

 

久美は子どもの頃に家族でハイキングに出かけた時、森の奥で不思議な光を見たことがあった。

 

あまりにも綺麗だったので両親にも見せようとしたものの、両親の手を引っ張ってその場所に来た時にはもう光はなかった。

 

 

ミプ「心当たりがあるミプ? もしそうならプリキュアになって、大神獣と戦って欲しいミプ」

 

その言葉に、久美は心が震えるのを感じていた。

 

久美「つまり、私は運命に選ばれたということか。ついに…、ついに私の時代がきたんだー!!」

 

久美は歓喜の叫びをあげた。

 

子供の頃からの夢だった魔法少女になれると思うと、嬉しくて仕方がなかった。

 

久美「フッフッフッ。私に任せなさい。選ばれたものとしてその責任は果たすわ。みんなの夢と希望のために私は戦う。それにあのキュア・インフェルノって子にも正しい魔法少女のあり方を教えて、そんでもってそんでもって…」

 

もはや周りの声など聞こえないというように、彼女は自分の未来を夢想していた。

 

 

ミプ「別に選ばれたってわけじゃないんだけどミプ。妖精の光を見たことのある人なら誰でも変身できるんだからミプ。ただ戦ってくれるかどうかの問題だけミプ…」

 

そんな久美を見て、ミプはぽつりと呟いた。

 

 

そんな中、映しっぱなしになっていたテレビから臨時ニュースが流れてきた。

 

ニュースキャスター「臨時ニュースを申し上げます。オーエエドー市内にある銀行が、巨大なワシのようなロボットに次々と襲撃され、多額の現金を強奪されています。被害額はすでに数億円に上っている模様で…」

 

 

その報道に久美は現実に帰った。

 

久美「まただ。最近こういうのが多いけど、まさかこれが…」

 

ミプ「そ、そうだミプ。大神獣の手先ミプ。あなたは戦ってくれるミプ?」

 

久美「もっちろん。私のデビュー戦だよ!!」

 

久美は力強く、そして嬉しそうに胸を叩いてそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

数時間前 オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

クジャク「よーし、出撃準備はいいかい。今回の第一目的は市内各所にある銀行だ。 くれぐれも忘れるんじゃないよ」

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

 

プリキュアに水中戦を仕掛けた後、僅差で敗北し、漂流する羽目になった彼らだったが、漂流二日目にして偶然通りかかった漁船に救助されたのである。

 

 

奇跡に感謝しつつ生きて帰り着いた後に、現状の反省を行った結果、資金不足に伴う戦力不足が敗北の要因の一つにあると判断したのである。

 

 

 

クジャク「一応、大神獣様から予算はもらってるけどさ。限界があるんだよね」

 

アカンコウ「そうですよね。エネルギーでもある大神獣様の闇の力はストックに余裕はありますけど、入れ物でもあるベースアニマルを作るのには、材料代やら武器弾薬やらで金がかかりますからね」

 

アカンコウはため息まじりに続けた。

 

 

アカンコウ「おまけにこんな生活してるわけだから健康保険もくそもないわけで、プリキュアにやられた怪我の治療代は全額自己負担。さらには日々の食費から日用雑費、電気代に水道代。その他エトセトラ、et cetera、etc……これぜーんぶその予算から出してんですもんね。そりゃ資金不足にもなりますよ」

 

 

ゴロリン「なんかわてらの方でも資金を調達する必要がありますな」

 

 

クジャク「それもかなり効率よく大量に調達しないといけないねぇ。何かいい手は…」

 

 

かくして相談の結果、ベースアニマルで暴れるついでに銀行を襲って資金を調達してやろう、という結論に達したのである。

 

 

 

アカンコウ「ワシ型ベースアニマル、スーパークラッチ。スタンバイオーケーです!!」

 

クジャク「よし、発進!!」

 

と、勇ましくクジャクが出撃を指示したが

 

 

ゴロリン「な〜んやカッコ良さげですけど、実際のところ、生活に困った悪人が強盗に行くだけでおますな」

 

ぽつりとゴロリンがそうこぼした。

 

 

 

 

 

 

 

現在  オーエエドー市 某所

 

 

 

ワシ型ベースアニマルが銀行を上空から爆撃し、大パニックを引き起こしていた。

 

そして、その隙に急降下して大量の現金を持ち去るといった行為を繰り返していた。

 

 

クジャク「う〜ん、いいねいいね。資金は大量に集まる、ブラックエナジーは収集できる。まさに一石二鳥だね〜」

 

 

アカンコウ「はい、これだけ資金があればもっと強力なベースアニマルも作れますよ」

 

クジャクとアカンコウは作戦がうまくいっていることに上機嫌だった。

 

 

ゴロリン「でも、このパターンだと、もうすぐあいつが出てくるんやおまへんやろか」

 

 

そんな二人をよそに、ゴロリンはかなり不安そうな顔をしていた。

 

クジャク「いいんだよ。出てきたなら出てきたで。最初に言っただろ、今回の目的は資金調達だって」

 

 

アカンコウ「そうそう。戦う必要なんてないのよ。あいつがきたら現ナマもって逃げればいいの。じゃあ次は5丁目にいきましょうか」

 

 

コックピット内で三獣士がそんなこと言いながら、ワシ型メカは次の獲物を求めるかのように上空を飛行していた。

 

 

 

 

 

久美「はあはあ。見つけた。よーし、やつらが攻撃しようとしたら颯爽と現れて変身よ」

 

久美は、ミプの変身して現場に行ったほうがいいという忠告にも関わらず、現場で変身することにこだわり走ってきたのだ。

 

ミプ「なんでこんな非効率なことをするミプ?」

 

久美「わかってないなぁ。こういう変身シーンが一番の見せ場なんじゃない」

 

 

そうしているとワシ型メカが上空で爆撃体制に入った。

 

それを見届けた久美は今がチャンスとばかりに、息を大きく吸い込んだ。

 

 

久美「もうやめなさい!! これ以上は絶対にさせない…」

 

そう叫んだのだが、ワシ型メカは久美のことなど気にもとめず爆撃を行った。

 

 

その結果、いきなり近くで起きた大爆発とそれが起こした爆音と爆風に、久美は吹き飛ばされ尻餅をついてしまった。

 

 

 

そうして、目の前に降りてきた巨大なワシ型メカを見て、久美は腰が抜けたまま立ち上がることもできなかった。

 

 

久美「あ…、ああ…」

 

ミプ「どうしたミプ? 戦うんじゃないのかメプ?」

 

 

久美「む、無理よ…。あんなのと戦うなんて…」

 

 

ミプはそう尋ねたが、さっきまでの勢いは何処へやら、久美は尻餅をついたまま、奥歯をガチガチと鳴らし震えていた。

 

 

 

久美は自分の目の前で起きた爆発に、初めて気がついたのだ。

 

 

これはアニメではない、現実だということに。

 

自分がやろうとしていたのは、命をかけた本物の殺し合いだということに。

 

 

それを理解してしまった今、彼女は死に怯えるただの中学生でしかなかった。

 

 

 

ミプ「そ、そんな…。ん? あ、あれは…」

 

その時、上空から火の玉が飛来してきた。

 

 

その火の玉はワシ型メカに体当たりして地面に叩き落すと、そのまま自分も着地し、赤い仮面を身につけた女の子に姿を変えて名乗りを上げた。

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

久美「あ、あの子は!? 冗談じゃない、早く逃げないと」

 

インフェルノの姿を見て、久美はこのままでは戦いに巻き込まれてただではすまないことになると理解した。

 

その恐怖からか、なんとか立ち上がり、文字通り死に物狂いで逃げ出した。

 

 

ミプ「ま、待ってくれミプ」

 

置いてけぼりにされたミプも慌てて久美を追いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

ゴロリン「きましたで、きましたで。プリキュアでおます」

 

 

自分の予想していた通りのことが起こり、ゴロリンは慌てていた。

 

しかし、クジャクは想定通りと言わんばかりに落ち着いていた。

 

 

クジャク「慌てるな。あいつが来るなんていつものこと。今回は戦う必要はなし。三十六計逃げるにしかず。さ、撤退だ」

 

アカンコウ「はいな」

 

 

アカンコウは返事をするや否や、ワシ型メカを上昇させようと翼を大きく広げた。

 

 

 

 

インフェルノ「!! 逃がすもんか!!」

 

なんとなくつけていたニュースであいつらが暴れていることを知った私は、無理をするなとやかましかったメルを力任せに黙らせて変身した。

 

 

そうして現場に飛んできた私だが、いきなり逃げようとする相手を見て、そうはさせじと飛びついた。

 

 

つもりだったが

 

 

インフェルノ「あ…う…」

 

まだ熱が完全に下がりきっていなかったため、足元がふらつき、まともにジャンプもできず、そのまま地面に倒れこんでしまった。

 

 

インフェルノ「く、くそ…。こんなことくらいで…」

 

 

私は目の前の敵を文字通り親の仇のように睨んだが、万全でない体調は如何ともし難く、立ち上がるだけでもやっとだった。

 

 

 

 

そんなインフェルノの様子は三獣士たちにも疑問を抱かせた。

 

 

クジャク「ん? なんだい、プリキュアのやつ随分ふらついてるね」

 

ゴロリン「そうでおま、いつもならもっとがむしゃらに飛びかかってくるでまんねん」

 

 

アカンコウ「そうですね。ちょっと試してみましょうか」

 

そう言うとアカンコウはボタンを操作して、ミサイルを発射した。

 

 

 

 

 

インフェルノ「うあーっ」

 

私は発射されたミサイルをいつものように躱そうとしたが、思うように体が動かず、直撃を喰らい大きく吹き飛ばされた。

 

 

インフェルノ「く、体が…」

 

私は思うように動かない体にもどかしさと悔しさを感じていた。

 

 

 

クジャク「こりゃ、相当調子が悪いみたいだね。チャンスだよ」

 

アカンコウ「はい、このままあいつも倒してしまいましょう」

 

インフェルノの調子が明らかに悪いと気づいたクジャクは、作戦を変更して襲いかからせた。

 

 

飛び立とうとしていたワシ型メカは、翼を納めるとクチバシでインフェルノを突き刺した。

 

 

インフェルノ「ギャアァァァア!!」

 

 

鋭いクチバシでお腹を突き刺された私は絶叫した。

 

 

そのままお腹を抑えてうずくまっていると、鋭い爪のついた足で何度も踏みつけられ、あげくに大きく蹴り飛ばされた。

 

 

 

インフェルノ「はあはあ、熱さえなければ…」

 

動き回ったせいか、熱はさらに上昇しており、私は頭がぼーっとして、目も霞んできていた。

 

 

受けたダメージもあって、すでに立ち上がることも困難になっていた。

 

 

 

 

 

アカンコウ「クックックッ。調子も良くないのに出しゃばるからだ。死ね!!」

 

 

倒れ伏してしまい立ち上がることもままならなくなったインフェルノに対して、アカンコウはメカを操作して、インフェルノを爪で鷲掴みにして、そのまま翼を広げて飛び立った。

 

 

アカンコウ「このまま、引きずり回して八つ裂きにしてやる」

 

 

 

インフェルノ「ぐうう」

 

私は全身に食い込む爪の痛みに悶えていた。

 

さらにその状態で上空を振り回され、熱に浮かされた頭も相まってどっちが上か下かもわからなくなってしまった。

 

インフェルノ(これじゃ…負ける!? そんなことになったら…)

 

私の生きる目的、戦う理由。復讐。

 

それができないまま死んでしまう。

 

 

そんなことはごめんだった。

 

 

インフェルノ「負けて…たまるかー!!」

 

私は怒りのままに全身に力を込めた。

 

その結果、爪をへし折ることに成功し、メカから逃ることができた。

 

 

しかし、当然私は上空で突然放り出された格好になってしまい、それを狙ってワシ型メカが旋回してクチバシで突き刺そうとしてきた。

 

 

 

 

クジャク「ちょっと、また逃げられたよ」

 

アカンコウ「ご心配なく。このまま串刺しにしてやります」

 

 

 

インフェルノ「向こうから来てくれるなら、かえってありがたいわ。プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

そう叫ぶと両手を大きく振りかぶり、炎の塊を力を振り絞るように投げつけた。

 

 

そのまま炎の塊を真正面から受けたワシ型メカは、火の鳥のようになって飛んでいき、遠くの方に墜落して爆発した。

 

 

 

もっとも、私の方も力を使い果たしてしまい、そのまま地面に墜落し全身を強打したが。

 

 

 

 

 

 

一連の流れを久美はこっそり物陰で見ていた。

 

そんな久美にミプは話しかけた。

 

ミプ「あの…あなたは戦ってくれるミプ?」

 

 

その問いに久美は自分を恥じるかのように答えた。

 

久美「ごめんなさい。私には無理。これは現実。あんな戦いなんて私にはできないわ。あの子、キュア・インフェルノだっけ。あんなになっても戦えるなんて、はっきり言って相当イカれてるよ」

 

 

その言葉に、ミプはこれ以上無理強いできないと悟った。

 

 

ミプ「わかったミプ。あなたと一緒に戦うのは諦めるミプ」

 

 

久美「ありがとう。でもさ、正直言うと他の子を探すのもやめて欲しいんだ。あんな事しなきゃならない子が増えるなんて、やっぱり、ねぇ」

 

そういうと、久美は一人家路へとついた。

 

 

そんな久美を見送りながらミプはつぶやいた。

 

ミプ「わかってるミプ…でも…」

 

 

 

 

余談だが、この後久美は魔法少女への憧れなどというものは完全になくなった。

 

あんなものは憧れるものじゃないということが身に染みてしまったからである。

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

 

クジャク「ちゅう・ちゅう・たこ・かい・な。ちゅう・ちゅう・たこ・かい・な。ハァー情けない。あれだけ派手なことしといてたったこれだけとは。怪我の治療代等を加味すると完っ全に赤字だね」

 

 

手に入れた戦利品とでもいうべき一万円札をボロボロになったクジャクが数えていたが、何度数えてもせいぜい二十数万円といったところでしかなかった。

 

 

 

アカンコウ「はい。な〜んせ墜落したところが、よりにもよって警察署のど真ん前でしたからね。もう取るものもとりあえず逃げ出してきた次第で」

 

ゴロリン「で、まんねん」

 

同じくボロボロになった二人もため息とともにそう漏らした。

 

クジャク「しっかしこれじゃ結局今回の作戦は失敗か。二兎追うものは一兎も得ずとはよくぞ言った」

 

 

アカンコウ「しかし、そうすると今後の資金はどうします」

 

アカンコウは、答えはわかっているとでもいうように尋ねた。

 

 

クジャク「どうもこうもないだろう。節約に加えて、せめて生活費分ぐらいはバイトしよっか」

 

 

その言葉に、一同は大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

二日後 渚家

 

 

 

 

雪菜「美里。まだ良くならないの?」

 

理香「そんなに酷いの? あんまり酷いんじゃお医者さん呼んだ方がいいよ」

 

 

美里「うん。そんなに酷くはないけど、なかなか熱が下がらなくてね。イタタ」

 

ベットで寝ていた私は、お見舞いに来てくれたみんなのために上体を起こそうとしたが、体の痛みに顔をしかめた。

 

 

久美「? どうしたの? どこか痛むの?」

 

 

美里「あ、うん。頭がぼーっとしたままトイレに行ったりして何度も転んだからあちこちぶつけちゃってね」

 

 

全身をぶつけたのは本当だが、私はそう言うしかなかった。

 

 

久美「へーそうなんだ」

 

 

久美はこの間来た時の猫缶や、自分だけに聞こえたおかしな声のことを思い出していた。

 

 

久美(まさか…ね。美里がなんて、そんなことないよね)

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第9話に続く

 

 



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第二部 絶対零度の絶望
第9話「Rの連鎖」


 

オーエエドー市内 市民ホール

 

 

 

雪菜「はぁー緊張する。まさか、パパとママまで来るなんて思わなかったもの」

 

 

雪菜は控え室の椅子に座って深呼吸をしていた。

 

 

美里「落ち着いてやれば大丈夫だよ。雪菜のピアノは最高なんだから。自信持っていいよ」

 

 

今日は雪菜のピアノの発表会なのである。私も今日初めて知ったが、その審査員には雪菜の両親が選ばれていたのだ。

 

 

音楽の世界では天才といわれる雪菜のお父さんと世界的なヴァイオリニストの雪菜のお母さんは世界中を飛び回っており、雪菜は普段はおばあちゃんと暮らしている。

 

それだけに、久しぶりの再会には雪菜も嬉しかったようだが、まさかこの大舞台になるとは思わなかったらしい。

 

 

 

雪菜「すーはーすーはー。ありがとう美里。美里がいてくれるから私も頑張れるんだよ」

 

何度も深呼吸をして少しは落ち着いたか、雪菜はにっこりと笑ってそう言った。

 

この大一番で私のことを持ち上げてくれるのはうれしいが、少し照れ臭かった。

 

 

美里「そんなことないって。雪菜なら私なんかいなくても大丈夫だよ。じゃ、頑張って応援してるから」

 

雪菜「ありがとう。発表会が終わったら、また対戦してね。今度こそ絶対勝つんだから」

 

美里「OKOK! いつでも受けてあげるよ」

 

 

 

そう言って私は控え室をでて、客席の方へ向かった。

 

 

 

そんな美里を見送った雪菜は、ポツリと言った。

 

雪菜「ホントだよ、美里。私がスランプで落ち込んでたから、ゲームに誘ってくれたんだよね。それに昔、雑木林で迷子になった時だって美里がいてくれたから、安心できたんだよ」

 

 

雪菜は子どもの頃、雑木林で美里と遊んでいた時のことを思い出していた。

 

そして、その頃から何があっても美里が自分を励まし続けてくれていたことを思い出した。

 

 

 

あの頃には、もう既に両親は世界中を飛び回っており日々寂しい思いをしていた。

 

そんな中、本当に久しぶりに帰国した両親と一緒に町の外れにある雑木林にピクニックに行ったのである。

 

もっと遠出をするには両親のスケジュール上無理があり、近場でのことになってしまったが、それでも雪菜には嬉しい時間だった。

 

そんな時、たまたま同じように遊びに来ていた少女と木の実を拾ったりして遊んでいるうちに雑木林の奥の方へ行ってしまい道に迷ってしまったのだ。

 

それから30分近くも林の中を出口を求めて歩いたが、一向に帰り道はわからなかった。

 

雪菜は薄暗い林の中不安で仕方なかった。

 

しかし、一緒にいた少女が雪菜を勇気付けていた。

 

 

「大丈夫。きっと帰れるよ。諦めちゃダメ」

 

今にして思えば、いかにも子供らしい実に根拠のない励ましだが、それでも雪菜にはそばに人がいてくれるというだけで、勇気付けられたものだった。

 

 

その後、雪菜たちは林の中で眠っていたところを救助された。

 

 

かくして、その時の少女、渚 美里との親交は今なお続いているのである。

 

 

 

それだけに、最近美里が何かに悩んでいるにも関わらず、何の力にもなってやれないことには苛立ちと無力さを感じていた。

 

 

雪菜「私にも、もっと力があれば…。美里を支えてあげられる力が…」

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

 

クジャク「さてと、お前たちの方はどんな塩梅だい?」

 

 

クジャクがアカンコウとゴロリンに現状を報告させていた。

 

アカンコウ「はい。時給三千円で中高生の家庭教師をやってます。これでも元々有名大学の研究室にいましたからね。結構ブランド志向の親からの需要があるんですよね」

 

ゴロリン「わては引越しのバイトでまんねん。腕力のある奴は重宝されるみたいで日当二万円近くになりま。クジャク様は?」

 

 

 

クジャク「うん。スーパーのレジ打ちやってるけどさ。これはこれで結構面白いもんだね。惣菜の売れ残りとかもらえたりしてさ」

 

どこか楽しそうに報告した二人にクジャクもまたどこか充実したような顔でそう答えた。

 

 

 

 

アカンコウ「な〜んかさぁ。こうやってバイトして生活費稼いでさ、ここで暮らしていくのも悪くないかもね」

 

ゴロリン「そうでんな。ここにいれば住むところにも困りまへんし」

 

 

クジャク「お前ら、なにをやる気のないことを言ってんだい!! 目的を見失うな!! と、いつもなら言うのだけれど…」

 

どこか晴れ晴れした口調でそういったアカンコウとゴロリンに対して、クジャクが諌めるように怒鳴ったが

 

 

クジャク「私もさ、ちょうどそんなこと考え始めてたとこ。このままこうやって生活してこっか」

 

クジャクも笑いながらそう答えた。

 

 

もともとベースアニマルの開発に使う資金稼ぎのアルバイトを始めた三獣士だったが、どこかそっちにやりがいを感じ始めていたのだ。

 

 

そんな時だった。

 

 

 

急にあたりが暗くなったかと思うと不気味な声が響いた。

 

大神獣「三獣士よ」

 

それを聞いた三人は慌てて跪いた。

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ははーっ!!」」」

 

すると、三人の前に不気味なモヤのようなものが現れた。

 

 

大神獣「我こそは大神獣。この世界を恨み憎むものなり」

 

 

するとどこか怒気をはらんだような声で大神獣は続けた。

 

 

大神獣「三獣士よ。このところブラックエナジーの収集が滞っているがどういうことだ」

 

 

 

クジャク「ははーっ、大神獣様。申し訳ありません。現在資金を集め、強力なベースアニマルを開発中です。次の出撃では必ずや」

 

その言葉に冷や汗をかいたクジャクは、かしこまって必死にそう告げた。

 

 

大神獣「うむ、期待しているぞ」

 

その言葉に一応満足したか、モヤのようだった大神獣は姿を消した。

 

 

 

三獣士は恐る恐る顔を上げ、大神獣が姿を消したのを確認すると大きく息を吐き出すと愚痴り始めた。

 

 

アカンコウ「ちょっと、なんであんな口から出任せ言ったんですか、クジャク様。確かに開発途中でほったらかしてあるベースアニマルはありますけど」

 

クジャク「仕方ないだろ、あの場合ああでも言わないとさ」

 

そして、ため息混じりにクジャクは続けた。

 

 

クジャク「でも大神獣様を復活させるってのも、今更っていうかねぇ」

 

アカンコウ「そうですねぇ。私たちにあれこれ指示されるのも、もう却っていい迷惑ですし。何様だって感じですよね」

 

アカンコウも迷惑そうにそう続けた。

 

 

ゴロリン「でもまぁ。拾ってもらった恩もありま。せめて復活ぐらいは手伝ってもええんじゃおまへんか」

 

 

 

クジャク「はぁ〜まあ仕方ない。とりあえず出撃準備」

 

ゴロリンの言葉に、いかにもしぶしぶといった感じにクジャクがそう指示した。

 

 

アカンコウ「いいですけどどこに行きます?」

 

クジャク「あ〜もうどこでもいいよ。どっか適当なとこで。暴れさえすりゃそれでいいんだから」

 

やる気のなさそうなアカンコウの質問にクジャクもまた投げやりに答えた。

 

 

ゴロリン「じゃあここなんてどうでおま? こないだの運送のバイト中にもらったチラシでおます」

 

ふと思いついたように、ゴロリンがボロボロのチラシを出した。

 

クジャク「ん、なになに? 中学生のピアノ発表会? 有名な音楽家が審査員か。あ〜もうここでいいや。 はい準備して」

 

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー」」

 

 

 

 

 

オーエエドー市民ホール

 

 

 

 

私はホールの客席で雪菜の出番を待っていた。

 

 

すでに何人かの演奏も終わっていたが、やはり私の中ではイマイチだった。

 

 

美里「他の人はどう思ってるか知らないけど、やっぱり雪菜よりうまい人はいないな。早く聞きたいなぁ、雪菜のピアノ」

 

 

私は雪菜の演奏を心待ちにしていた。

 

血の匂いの染み付いてしまっているこの心だが、雪菜の演奏を聴いている間だけはそれを忘れられる。

 

そんな気がしていた。

 

 

そんなことを考えていると、場内アナウンスが流れた。

 

アナウンス「次はエントリーナンバー9番。叶 雪菜さんです」

 

 

拍手とともにドレスに身を包んだ雪菜が緊張の面持ちで舞台の袖から出てきた。

 

 

 

美里(雪菜。頑張ってね)

 

 

私は心の底からそう思った。

 

 

その次の瞬間だった。

 

 

持ってきたバッグが震えだしたのだ。

 

 

それに私はこれ以上ない不快感を覚えた。

 

 

美里(アンタ何考えんのよ、こんな時に!!)

 

 

私が小声で怒鳴りつけると、バッグは怯えたような声を出した。

 

メル(ご、ごめんなさいメル。でもいつもはすぐに知らせろって…)

 

 

美里(時と場合にもよるわよ!! ホンットに役立たずなんだから!! で、どこに来たのよ!?)

 

 

メル(そ、それが…)

 

美里(それが何よ!! 早く言いなさい!!)

 

 

私ははっきりしないバッグにイライラしながら尋ねた。

 

メル(こっちに向かってきてるメル…)

 

 

美里「はぁ!?」

 

私はふざけたことを言うバッグに対して素っ頓狂な声を上げた。

 

 

次の瞬間、ホールの壁をぶち破って、大きな二本のツノを生やした巨大なバッファローのようなロボットが出現した。

 

 

 

 

 

 

アカンコウ「これが新型ベースアニマル、周りをブルブル震わせるという意味を込めたバッファロー型メカのブルブルバッファローです」

 

 

クジャク「あ〜解説はいいから。適当に暴れて、ブラックエナジーを適当に収集したら、適当にやられてさっさと帰ろう」

 

いかにもやる気のなさそうに手をひらひらさせながらクジャクがそう告げた。

 

 

ゴロリン「そうでおま。怪我したらまた無駄な金が出て行くでまんねん。バイト代がパァになりま」

 

 

アカンコウ「心配しなくても私だって嫌ですって。直にプリキュアがくるでしょうから奴が来たら今回こそさっさと逃げましょう」

 

 

ゴロリンとアカンコウも異論はなく、すでに逃げる気は満々であった。

 

 

 

しかし、そんなこととは露知らず突然巨大なメカが乱入してきたホール内は大パニックになっていた。

 

 

 

「いつものやつだぞー!!」

 

「うわーっ助けてくれー!!」

 

「早く逃げろー!! またあいつが来て巻き込まれるぞー!!」

 

 

アナウンス「ご来場の皆様。落ち着いて避難してください。落ち着いて係員の指示に従って避難してください」

 

 

避難誘導アナウンスの流れる中、私は人の波をかき分けてなんとか廊下に出た。

 

そしてそのままトイレに駆け込むと、バッグを逆さに振って役立たずを床に叩き出した。

 

美里「なにやってんのよグズが!! 準備ぐらいしときなさいよ!!」

 

こうしている間にも、もしかしたら雪菜が傷ついているかもしれない。

 

そう思うと気が気でなかった。

 

 

メル「痛いメル。もう少し丁寧に…」

 

次の瞬間、私は床にどこかぶつけたのか痛がっていたぶつくさと空気の読めないことを言う役立たずを蹴り飛ばしていた。

 

 

美里「あんたの都合なんか知らないわよ!! 早くしろ!!」

 

 

すると観念したように役立たずはスマホに変身した。

 

 

美里「ったくグズが!! プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包んでいた。

 

 

 

このドレスの色を見ると最近思うようになったことがある。

 

 

初めの頃は、復讐という決意と怒りの赤のように見えた。

 

しかし今では血の赤に見えて仕方ない。

 

自分が巻き込んでしまった多くの人の血の色、怨みの色。

 

復讐のためと言いながら、自分と同じような人を増やしている。

 

 

この仮面もまた、それから逃げるためのものではないか。

 

そんな風に感じてきていた。

 

 

 

 

 

雪菜「あ…あ…」

 

突然出現した巨大なバッファロー型メカに、雪菜は舞台の上で腰を抜かしていた。

 

 

「何してるんだ!! 早くこっちに来るんだ!!」

 

 

安全のためにすでに緞帳は下ろしてあり、メカの姿はもう見えなくなっていたが、間近で巨大なメカを見てしまった恐怖は残り、舞台の袖でのスタッフの必死に呼びかけにもかかわらず、足がどうしても動かなかったのだ。

 

 

 

 

クジャク「おい、まーだあいつは来ないのかい? なんなら場所変えようか」

 

クジャクがバッファロー型メカのコックピットで退屈そうにそう尋ねた。

 

 

アカンコウ「まだみたいです。まったく来なくていい時には来て、来て欲しい時に来ないんだから」

 

アカンコウもなかなか来ないプリキュアに愚痴っていた。

 

そして事実バッファロー型メカは最初に乱入した時を除いて、表立った破壊や殺戮をしていないのであり、それが三獣士のやる気のなさを物語っていた。

 

 

そんな時に火の玉がバッファロー型メカに体当たりして、大きく体勢を崩させた。

 

 

 

私は火の玉になって、バッファローメカに体当たりして吹き飛ばすと、雪菜の発表会の邪魔をしたやつに憎しみを込めて言い放った。

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

インフェルノ(今の私の数少ない癒しを邪魔して、絶対に許さない!!)

 

私は、自分の唯一の支えを奪おうとしたやつに凄まじい怒りを燃やしていた。

 

 

 

 

 

一方、大きく揺れたコックピットの中で、三獣士はひっくり返りながらも待ちに待った奴がきたと安堵していた。

 

 

クジャク「イタタ。しかしやっときたみたいだね。それじゃまぁ、煙幕でも張って脱出だ」

 

アカンコウ「ハイな。ポチッとな」

 

そう言ってアカンコウはボタンを押したが、何も起こらなかった。

 

 

アカンコウ「あれ、おかしいな。どうしたのかな」

 

何度もボタンを連打したもののうんともすんとも言わなかった。

 

 

クジャク「何してる? 早く逃げるんだよ!!」

 

目の前では、キュア・インフェルノが完全な臨戦態勢に入っている。

 

焦りながらクジャクはアカンコウを急かした。

 

 

 

アカンコウ「あの、大変言いづらいのですが、どうやらさっきの体当たりで脱出装置が故障したみたいです」

 

 

ゴロリン「と、すると、残された道は…」

 

クジャク「戦うしかないってこと?」

 

アカンコウ「はい…一応武器はありますけど…」

 

 

三人の顔は血の気が引いていた。

 

 

 

インフェルノ「ハァアアア!!」

 

私は目の前のバッファロー型メカに怒りを込めて殴りかかった。

 

 

すると炎をまとった拳は、敵メカを大きく殴り飛ばし、ボディを大きく凹ませた。

 

 

インフェルノ「このまま一気に仕留めてやる!!」

 

ダメージを受けたバッファロー型メカに対して、私はいけると思った。

 

今回は私も体調がいいし、周りに水もない。

 

このまま押し切ってやると気合を込めた。

 

 

すると、敵メカはなんとか起き上がり、二本の角を振りかざして突進してきた。

 

 

インフェルノ「そんなものに!!」

 

私はその突進をジャンプしてかわすと、空中で一回転しながらキックを食らわせた。

 

 

すると突進を躱された敵メカは、勢いそのままに客席に突っ込んだ。

 

 

 

 

アカンコウ「くう。やっぱりこいつ強いですね」

 

クジャク「感心してる場合かい。なんとか無事に帰る方法を考えるんだよ!!」

 

 

アカンコウは客席に突っ込んだブルブルバッファローを必死に起き上がらせようとしたが、なかなか起き上がらなかった。

 

 

アカンコウ「ええい。角が何かに引っかかったな。なかなか動けん。くそ、この」

 

しばらく操縦桿をガチャガチャとがむしゃらに動かすと、角に客席の椅子がいくつか突き刺さったままではあるがなんとかブルブルバッファローは起き上がった。

 

 

 

 

 

私は起き上がってきたバッファロー型メカを見て、体が強張るのを感じた。

 

角に赤い椅子が突き刺さったのを見て、あの日のことを思い出してしまったのだ。

 

ただそこにいたという理不尽な理由で突き殺されたお父さん。

 

目の前で起きた何よりも理不尽な現実が私の脳裏にフラッシュバックした。

 

 

インフェルノ「お父…さん…。う、うわー!!」

 

 

私はどこか混乱した頭で、獣のような雄叫びと共にバッファロー型メカに飛びかかった。

 

 

 

 

アカンコウ「なんだなんだ? めちゃくちゃに攻撃してきだしたぞ!?」

 

ゴロリン「なんか危ない感じがするでまんねん」

 

クジャク「あいつ急にどうしちゃったんだろ?」

 

コックピットの揺れに必死に耐えながら三獣士は、急に激しくなったインフェルノの攻撃に疑念を持っていた。

 

 

そうこうしている間にも、がむしゃらに繰り出したインフェルノの炎のパンチはバッファロー型メカの首を叩き折り、続いて繰り出されたラッシュにメカの全体はボコボコになり、立ち上がることは愚かまともに動くこともできなくなっていた。

 

 

クジャク「まずいまずい!! このままじゃやられちゃう。なんとか脱出できないのかい!?」

 

 

クジャクが文字通り必死にそう叫んでいた。

 

 

アカンコウ「あのコードさえ繋ぐことができればなんとか…、くそ手が届かん!!」

 

コックピットの下に潜って必死に脱出装置の修理をしていたアカンコウだが、あと一歩というところで手がコードに届かず、悪戦苦闘していた。

 

 

 

 

 

インフェルノ「アアァァァア!!」

 

私は、もはや自分でも今何をしているかわからないほどになり、動けなくなったバッファロー型メカの足を抱きかかえるようにすると、力任せに振り回して舞台の方へと投げ飛ばした。

 

メル「少し落ち着くメル!! 今悲鳴みたいな物が聞こえたメル!!」

 

腰のスマホケースがなにか言ったような気がしたが、私は気にもとめず両手を大きく振りかぶった。

 

インフェルノ「プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

その叫びともに、私は両手の炎の塊を目の前の悪夢を振り払うかように投げつけた。

 

 

 

 

 

 

一方バッファロー型メカのコックピットでは

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「うわーっ!!」」」

 

 

乗っているメカを力任せに振り回された三獣士が悲鳴をあげていたが、

 

 

アカンコウ「ん? しめた!! 今の弾みで手が届いた。脱出できますよ!!」

 

大きく投げられた弾みでアカンコウの手が奥のコードに届いたのだ。

 

 

クジャク「よし!! 急ぐんだよ!!」

 

そう言ってクジャクが脱出装置のスイッチを入れたのと、インフェルノの必殺技が炸裂したのはほぼ同時だった。

 

 

炎の塊の直撃をまともにくらい、舞台の上でバッファロー型メカは大爆発を起こした。

 

 

 

そしてその爆発に紛れるようにフラフラと脱出ポッドが飛んで行った。

 

 

アカンコウ「ひぃひぃ。なんとか間に合いましたね」

 

クジャク「そうだよ。こんなことで死ぬなんてまっぴらごめんだよ」

 

ゴロリン「で、まんねん。命あっての物種でおま」

 

 

 

 

目の前の爆発にようやく私は少し正気にかえった。

 

インフェルノ「はぁはぁ。あれ、いつの間に倒したんだろ? まぁいいわ、面倒になる前にとりあえず引き上げよう。雪菜も無事ならいいけど…」

 

私は火の海と瓦礫の山と化した舞台を一瞥すると火の玉になって飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…誰か…助けて… う…腕…が… 私の… 腕が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

 

クジャク「ふう、なんとか帰ってこれたけどさ。次から武器より何より脱出装置のほうをもう少し丈夫にしといてくれよ。命がけで逃げるなんて嫌だよもう」

 

 

ゴロリン「そうでおま。特に今回は危なかったでおます」

 

 

アカンコウ「そうですね。メカの設計を根本的に見直しましょう」

 

 

兎にも角にも生還できたことに一息をついていた三獣士は、これからの方向性について話し合っていた。

 

 

 

そんな時、急にあたりが暗くなったかと思うと不気味な声が響いた。

 

大神獣「三獣士よ」

 

それを聞いた三人は慌てて跪いた。

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ははーっ!!」」」

 

 

すると、三人の前に不気味なモヤのようなものが現れた。

 

 

大神獣「我こそは大神獣。この世界を恨み憎むものなり」

 

 

 

大神獣「三獣士よ。敗北した原因はわかっておるのか?」

 

 

クジャク「は、はい。それはもう。資金を投入したメカでしたが、いささか欠陥があったようで」

 

アカンコウ「は、はいそうなんです。いやぁ私としたことがつまらない計算ミスをしちゃいまして」

 

 

ゴロリン「猿も木から落ちるといいまんねん。こんなこともたまにはありま」

 

 

明らかに怒りを含んでいるとわかる低い声で問いかけてきた大神獣に、三獣士は冷や汗を流しながら必死に言い訳をした。

 

 

大神獣「ふん。まあ原因がわかっているならばよい。次こそは間違いなくプリキュアをしとめよ」

 

その言葉を最後にモヤのようなものは晴れていった。

 

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ぷはーっ!!」」」

 

 

大神獣が姿を消したのを確認すると、三獣士は緊張の糸が切れたかのように大きく息を吐き、床にへたりこんだ。

 

 

クジャク「ひいー寿命が縮んだよ。やっぱり適当にやってると後が怖いね」

 

アカンコウ「そうですね。サボるんじゃなくてプリキュアをさっさと倒すことにしましょう。それで義理を果たしたらここをおさらばしましょうか」

 

ゴロリン「賛成でまんねん」

 

クジャク「よーし。今度は真剣にバイト代をベースアニマルにつぎ込むよ」

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市 市民病院

 

 

 

 

私は戦いを終えて一息をついて、雪菜に会いに行こうとしたら、雪菜のパパとママから雪菜が緊急搬送されたとの連絡を受け、転がるように病院に向かっていった。

 

 

美里「雪菜!!」

 

私は大慌てで雪菜の病室に駆け込むと、そこには家族に囲まれベッドの上にいる雪菜がいた。

 

 

雪菜父「ああ、美里くん。来てくれたのか」

 

美里「当たり前ですよ。それで雪菜は?」

 

 

 

私の疑問に雪菜は、ベッドで横になったまま笑顔で答えた。

 

雪菜「大丈夫よ。命に別状はないって。二週間もすれば退院できるって」

 

 

 

その言葉に私は心の底から安堵した。

 

 

美里「そっかよかった。早く元気になってね。それでまたピアノ聞かせてよ」

 

 

私は雪菜を励ますつもりで軽くそう言った。

 

 

しかし、私の言葉に病室は一気に暗くなった。

 

 

 

すると雪菜は突然私から顔を背けた。

 

 

雪菜「ありがとう美里。でも…私…私は…もう…」

 

 

涙声で必死に絞り出すように雪菜が呟くと、雪菜のパパとママは雪菜を残し、私を連れて病室を出た。

 

 

 

 

 

 

雪菜父「舞台に取り残された後、連中の戦いに雪菜は巻き込まれてね。奇跡的に全身の怪我はほとんどかすり傷なんだけど…」

 

雪菜母「右手に何かの破片が深く突き刺さったみたいで、筋が何本か切れてしまったの。リハビリをすれば日常生活は問題なくこなせるそうだけど…もうピアノを弾いたりすることは…」

 

 

雪菜のパパとママも必死に涙をこらえながら私に教えてくれた。

 

 

 

美里「そ…んな…」

 

 

それを聞いた途端、私は膝から崩れ落ちた。

 

 

美里「あの時…雪菜があそこに…私が…私の所為で…」

 

私は焦点の合わない目でそう呟いて、手のひらを見た。

 

 

血塗られた手。

 

復讐のためになりふり構わず戦った結果。

 

私は一番大切な物を自分の手で壊してしまった。

 

 

美里「あ…あ…」

 

 

 

美里「う、うわぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜

 

 

 

雪菜は一人になった病室で枕を濡らしていた。

 

 

雪菜「なんで…こんなことに…私が何をしたの…」

 

 

自分が子供の頃から見ていた夢。

 

幼馴染の親友が応援してくれた夢。

 

 

それが、あまりにも理不尽に奪われた。

 

 

それが悲しくそして悔しくて仕方がなかった。

 

 

 

雪菜「許せない…許せないよ…こんなこと…!!」

 

雪菜の中で何かが燃え上がり始めていた。

 

 

 

 

そんな雪菜の耳におかしな声が聞こえたのは、その直後であった…

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第10話に続く。

 

 



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第10話「もう一人のR」

 

 

 

あの日から二週間がたち、雪菜が退院する日が来た。

 

 

あの後すぐに雪菜のご両親は次のスケジュールで海外に行ってしまった。

 

最後まで雪菜のことを心配しており、そばについてあげられなかったのが残念だと悔しそうにおっしゃっていた。

 

 

久美や理香は毎日のようにお見舞いに行っているらしいが、私はとてもではないが雪菜の顔を見ることができなかった。

 

久美や理香曰く、それなりに元気だということだそうだが、無理をしているのがバレバレだそうであり、そんな雪菜を見るのが辛かったから。

 

いや、ただの言い訳だろう。

 

私自身、どんな顔をしていけばいいのかわからなかったのだ。

 

 

私の、いや雪菜にとっても何よりも大切な物を奪ってしまった。

 

それも、私の勝手な理由で、私自身が。

 

 

復讐と称し、なりふり構わず戦い、多くの人たちを傷つけてきたことに神経がすり減っていたが、さすがにこれは効いた。

 

 

 

美里「雪菜…ごめん…ごめんなさい…」

 

 

私はあれ以来ずっと泣いて過ごしていた。

 

 

雪菜を傷つけて、大切な夢を奪ってしまった罪悪感。

 

そして何より、こんなことになっても、あいつらに対する憎しみを消すことができず、罪を自白することもできない自分の弱さと情けなさに対して。

 

 

 

しかし、いくらなんでも退院の日ぐらいは行かなければならない。

 

せめて、簡単な話と謝罪ぐらいはしなければならない。

 

それが自己満足に過ぎないとわかっていても…

 

 

 

 

 

オーエエドー市 市民病院

 

 

 

私は何回となく顔を洗い泣きはらした目をしゃっきりとさせると、石のように重い足を引きずるようにしながら、病院にたどり着いた。

 

しかし、それでもなかなか敷地内に入る決心がつかず、歩道で立ち尽くしていた。

 

 

美里「ええい、しっかりしろ!! 渚 美里!! 気合だ気合だ!!」

 

私は自分の頬を両手で叩くと意を決して病院に入った。

 

 

すると、ちょうど雪菜がおばあさんと出てくるところであり、ばったりという音が聞こえてくるほどに唐突に出会った。

 

 

雪菜「み、美里!?」

 

美里「ゆ、雪菜!?」

 

 

しばらく振りに顔を合わせた私達だが、なんといっていいか戸惑ってしまった。

 

 

美里「た、退院おめでとう」

 

当たり障りのないことを言ったつもりで、直後に激しく後悔した。

 

 

全然おめでたくなんかないというのに…。

 

 

雪菜「ありがとう美里。やっと来てくれたね。会えないとやっぱり寂しかったよ」

 

右腕を吊ったままニッコリと笑ってそういう雪菜は、とても眩しくそして痛々しかった。

 

夢を失ってしまった雪菜が一番辛いというのに…

 

 

 

美里「雪菜。本当にごめん。何もしてあげられなくて。私のせいなのに…。あなたを助けられなかった…ごめんなさい」

 

 

私は腰が直角になるほどに必死に頭を下げた。

 

 

こんなことがどうなるとは思っていない。

 

でも、そうするしか私にはなかった。

 

 

雪菜「ちょっ、ちょっと頭あげてよ。美里がどうこうしたってわけじゃないんだから。こっちが恥ずかしいって」

 

 

そんな私を見て、雪菜が恥ずかしそうにそう言った。

 

 

そんなことを言う雪菜に対して私は顔を上げることができなかった。

 

 

 

 

 

叶家

 

 

私は片腕が不自由な雪菜の荷物を持って家まで付き添った。

 

雪菜「美里、本当にありがとう。あなただって毎日大変なのに…」

 

 

美里「いいっていいって。私にはこれぐらいしかできないし…」

 

私は自分の卑怯さっぷりに歯噛みをしながらそう言うしかなかった。

 

 

美里「雪菜。いつも手伝ってもらってたし、できることがあったらなんでも言ってね」

 

私はすこしでも雪菜の力になりたくてそう言った。

 

雪菜「大丈夫よ。元気元気!! とりあえずの目標だってあるし、リハビリも頑張れるよ。ありがとうね、美里」

 

 

雪菜は明るく笑ってそう言った。

 

 

私は、そんな雪菜を見るのが辛く

 

美里「そっか、じゃあ頑張って。私応援してるから」

 

そうお茶を濁して帰ることにした。

 

 

 

 

 

雪菜祖母「美里ちゃん。ありがとうね、いつもいつも。雪菜はいいお友達を持ったね」

 

手を振って帰っていく美里を見ながら、雪菜の祖母はそう言った。

 

雪菜「本当にいい人。あいつとは大違いだわ」

 

 

そう呟いた雪菜の目には暗い光が灯っていた…

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

クジャク「アカンコウ、ベースアニマルの開発状況はどんな具合だい?」

 

 

 

洋館の地下室でアカンコウが今までよりもひと回りほど大きいベースアニマルを製作していた。

 

 

 

アカンコウ「はい、これまでのプリキュアとの戦闘データから完璧とも言えるほどに対プリキュアに特化したベースアニマルが完成しつつあります。ご覧ください!!」

 

と自信満々にアカンコウが完成間近のベースアニマルの解説を始めた。

 

 

クジャク「う〜ん、いいねいいね。見るからに強そうじゃないかい」

 

ゴロリン「やっぱりこういうのは見た目も大事でおますな」

 

 

そこにあったのは巨大な龍の姿を模したベースアニマルであり、その見た目の力強さと格好よさにクジャクたちは上機嫌だった。

 

 

褒められたアカンコウもさらに得意になって説明を続けた。

 

 

アカンコウ「そうです。ここ二週間の我々三獣士のバイト代を全てつぎ込んで開発した最高傑作、トレジャードラゴンです。全身を耐熱ラバーで三重に覆っているため、摂氏三千度の炎にもびくともせず、ミサイルの直撃をも弾力ではじき返してしまえる構造です。さらには速乾性耐火型の液体硬化弾を発射して相手の動きを封じてしまうことが可能。もちろん武装も充実しており、牙と爪はダイヤモンド並みの硬度を誇りあらゆるものを引き裂きます。今度こそプリキュアも最期ですよ!!」

 

 

その説明にクジャクは満足そうな笑みを浮かべた。

 

クジャク「よ〜し、これでプリキュアを倒してさえしまえば、大神獣様への義理もたつ。そうすれば私たちもこんな生活から解放されるんだ!!」

 

ゴロリン「そうでまんねん。わてらの未来は明るいでまんねん」

 

 

アカンコウ「心配はいらん。こいつなら勝利は確実、我々の夜明けの時は近いのだ」

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「アーッハッハッハ!!!」」」

 

 

 

かくして、三獣士たちの希望と喜びに満ちた高笑いは、洋館の中に響き渡ったのだった。

 

 

 

 

 

放課後、私は家への道を一人うつむきながら歩いていた。

 

風邪をひいて長期欠席する前は、放課後になるとがむしゃらに大神獣を探して飛び回っていたが、今はとてもではないがそんな気分になれなかった。

 

 

復讐のためと割り切りそんなことをし続けた結果が、一番大切なものを失うという皮肉すぎるものとなってしまった。

 

 

これまで、私が傷つけてきた人たちの怒りと悲しみは一応理解していたつもりだった。

 

私自身理不尽に大切なものを奪われた身の上だったからだ。

 

しかし、こういうことになると改めて私の重ねてきた罪の重さと虚しさがよくわかった。

 

 

美里「私…どうしたらいいんだろう…」

 

そんなことを考えながらも一番情けないと思うことが、あいつらに対する憎しみを消せない自分だった。

 

 

美里(雪菜をあんな目にあわせておきながら、まだ復讐のことを忘れられない…。あいつらも憎いけど、こんな自分が何より嫌!!)

 

 

私は突然、何かから逃げ出すように全力で走り出した。

 

このまま考え続けていると、気が狂いそうだったからだ。

 

いや、とっくにおかしくなっているのかもしれない。

 

あの夜、日常を目の前で一瞬にして失った時に…。

 

 

そうやって目をつぶりなから、がむしゃらに走っている最中に、頭の中に声がした。

 

 

『そんな風に逃げてどこに行くつもり?』

 

『あなたはもうどこにも逃げられない。 血塗られた世界に生きるしかない』

 

『誰とも寄り添うことのできない孤独な世界。夢を持つことも叶わない闇の世界で』

 

 

美里「違う!! 違う違う違う!! 私が本当に望んだことはこんなことじゃない!!」

 

 

『違わない。あなたはいつも言っていた、復讐ができればそれでいいと。誰が傷ついても些細なことだと。それがあなたの望みでしょう』

 

 

美里「うるさい!!」

 

私はそう叫んで、声が聞こえてきた方を睨みつけるように顔を上げた。

 

そしてその瞬間絶句し、一瞬心臓が比喩でなしに止まった。

 

 

そこにいたのは、赤を基調にしたゴシックロリータ風の衣装を身にまとい、赤いロングヘアに深紅のドミノマスクをつけた少女。

 

まぎれもない私自身の姿。

 

 

美里「キュア・インフェルノ…」

 

そう呟いた瞬間、目の前には誰もいなくなっていた。

 

 

美里「幻…じゃ、ないのかもな…」

 

 

 

額の嫌な汗をぬぐったのと、カバンが震えだしたのはほぼ同時だった。

 

 

 

 

 

オーエエドー市内 市街地

 

 

 

市民はパニックになっていた。

 

 

先ほどから上空に巨大な龍が我が物顔で悠々と旋回していたのだ。

 

 

市民たちはこれまでの経験則からあれがなんなのか、そしてこの後何が起きるかを察していた。

 

 

 

 

「何してるの!! あの子が来たら大変なんだから!! ほら早く逃げるのよ!!」

 

母親は子供を抱きかかえて必死に逃げていた。

 

 

「早くしないと殺されちまうぞ!! 全くよそでやってくれよ!!」

 

ある男性は悪態をつきながら必死に避難していた。

 

 

その他逃げ惑う人は多数に及び、様々な感情が入り乱れていたが、ただ一つキュア・インフェルノへの嫌悪感は敵のメカより大きいことだけは一致していた。

 

 

 

 

一方上空を旋回している龍型メカのコックピットでは

 

 

 

クジャク「早く来いプリキュア。 早くしないとスーパーのタイムセールが終わっちまう。そうなったら今夜のおかずが貧相になっちまう」

 

 

アカンコウ「そうですよ。こっちだって家庭教師の時間があるんだからくるなせ早く来いってんだ。いっつもすぐ来るくせに」

 

ゴロリン「そうでおま、わてかてこのまま真面目に働いたら正社員も夢やないんでまんねん。遅刻したくないでおま」

 

 

とまあ、ベクトルこそ違えどこちらはこちらで現実的な会話をしていた。

 

 

三獣士がそんな会話をしていると、空に何かが光った。

 

 

 

クジャク「ん? 来た! 来た来た来た!! やるよいつもの」

 

ゴロリン「はい鳥だ!!」

 

アカンコウ「よし飛行機だ!!」

 

二人はそれを指差して叫んだ。

 

クジャク「待ちに待ってた奴だ。 さあ来いプリキュアー!!」

 

 

 

 

 

 

私は自己嫌悪と罪悪感に押しつぶされそうになりながらも、心の中で消えることのない憎しみの炎に突き動かされるように、カバンの中で震えている喋るぬいぐるみもどきを引きずり出した。

 

 

美里「早くしなさい!! このノロマ!!」

 

 

メル「美里…こんなことになってしまったんだからもう…」

 

 

私の怒声に、ぬいぐるみもどきは悲しそうな目でそう告げた。

 

 

 

普通の目で見れば、その目つきや口ぶりに心を痛めただろう。

 

普通の少女ならば、涙ながらにこれを抱きしめたかもしれない

 

 

しかし、今の私は「普通」ではなかった。

 

 

自分を無理やり追い込もうとしているのか、辛い現実から逃避しようとしているのか、それとも憎しみという狂気にとらわれてしまっているのか。

 

実際のところ、そんなことを考えるほどまともな頭がないというのが正しいのかもしれないが、私はぬいぐるみもどきの首らしきものを締め上げた。

 

 

美里「ぐちゃぐちゃうるさい。変身するから早くしろっての!!」

 

 

この場に鏡があれば、今の私の顔を悪魔の顔よりも醜く映していただろう。

 

 

私は早く変身したかった。

 

変身すればこんな醜い顔も、仮面で隠すことができる。

 

 

世間では恐怖の象徴とも言われるような仮面だが、私にはいろんな意味で大切なものだった。

 

 

そんな私の顔に恐怖したのか、拙い抵抗は無意味と悟ったか、ぬいぐるみもどきはスマホもどきに姿を変えた。

 

 

それを握りつぶさんばかりに力を込めて掴むと、アプリのようなものをタッチした。

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包み、仮面を装着していた。

 

 

変身完了したこの瞬間、私はどこか安堵した。

 

 

少なくとも変身している間だけは、余計なことを考えなくて済む。

 

復讐者として、憎しみだけに身も心も委ねられる。

 

 

我ながら情けない自己逃避だと感じていても…

 

 

 

 

 

私は市街地の上空を悠然と舞っている龍型メカをみて、無性に腹が立った。

 

 

私がこれほどに苦しんでいるのに、どこか落ち着き払った態度をしているそれに。

 

 

私は、怒りのままに八つ当たりのように急降下してキックを食らわせた。

 

 

 

 

 

インフェルノ「え? 効いてない!? うわー!!」

 

龍型メカの装甲の弾力にキックの衝撃は吸収され、私は体ごと跳ね返されビルの壁に体をめり込ませた。

 

 

そしてそんな私に対して、龍型メカはミサイルのようなものを発射してきた。

 

 

 

インフェルノ「ぶわっ!? 何よこれ!?」

 

ミサイルの爆発に耐えようと歯を食いしばった私だが、そのミサイルは私にぶつかると破裂して液体を全身に浴びせてきた。

 

 

私は何か引っかかるものを感じながらも、とりあえずダメージがないのを確認し、ビルから体を剥がし地面に降り立った。

 

 

そして上空の龍型メカを睨みつけると、両手を大きく振りかぶった。

 

 

インフェルノ「キックが効かないなら焼き尽くしてやるわ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

その叫びともに、私は両手の炎の塊を投げつけ、龍型メカを火だるまにした。

 

 

 

 

いつもなら間違いなく敵を焼き尽くす私の必殺技を受けても龍型メカはビクともせず、雄叫びのようなものを一つあげると、その炎を消し飛ばしてしまった。

 

 

 

インフェルノ「そんな!?」

 

私は目の前の現実に驚いていると、続いて自分の異変に気がついた。

 

 

インフェルノ「な、なに? 体が動かなくなってきた。まさかさっきの液体!」

 

 

私は全身に浴びせられた液体を焼きはらおうと、超高熱放射を行ったが、一向に体の自由は戻らなかった。

 

 

インフェルノ「くっまずい。どんどん硬くなってきてる。動けない!!」

 

 

 

 

一方、龍型メカのコックピットの中では三獣士たちが上機嫌でキュア・インフェルノの慌てる様を見ていた。

 

アカンコウ「いいぞいいぞ。プリキュアめ、かなり焦りだしてるな」

 

クジャク「そうそう毎回毎回やられるもんじゃないんだよ。アカンコウ、一気に止めだよ!!」

 

アカンコウ「ハイな!!」

 

その返事と共にアカンコウは龍型メカを操作した。

 

 

 

 

 

インフェルノ「ギャアアアア!!」

 

私はあられもない悲鳴をあげて、地面の上で悶え苦しんでいた。

 

 

体の自由が効かなくなってきていたところに、龍型メカが爪を振り下ろしてきたのである。

 

 

変身していたおかげで出血もなく済んだが、もし生身で受けていたらズタズタにされ、一瞬で血だらけの肉塊になっていただろう。

 

お母さんや亮太のように…。

 

 

しかし、それでもやはりダメージは深刻で痛みのあまり私は立ち上がることもできなかった。

 

インフェルノ「く、くそ…」

 

いつものように怒りのままに立ち上がろうとしたが、ダメージが深刻な上、体が固まり始めていたため、いつものようにはいかなかった

 

目の前の敵に対して、何もできない苛立ち。

 

復讐を遂げられなくなる怒りと焦り。

 

 

その想いだけは変わらないが、いかんせん体がまるで動かなかった。

 

 

 

 

アカンコウ「チィッしぶといな。今ので仕留めきれないとは」

 

 

この龍型メカ、トレジャードラゴンはアカンコウの設計である。

 

 

その武装の威力は彼自身が一番よく知っており、その爪による攻撃は鉄塔すら軽く引き裂くことができる威力なのだが、それをまともに食らいながらも死ななかったインフェルノに、若干驚いていた。

 

 

クジャク「あいつのことだ。これぐらいは想定範囲。だが甘く見るな今のうちに今度こそ止めだ」

 

 

アカンコウ「はい。油断はしませんよ。最後まで徹底的にやってやる!!」

 

クジャクの指示にアカンコウは、今度はトレジャードラゴンの牙を振りかざしてインフェルノに向かわせた。

 

 

アカンコウ「このビルをも噛み砕く牙で、噛みちぎってくれる!! プリキュアお前の最期だ!!」

 

 

 

 

牙を剥いて襲いかかってくる龍型メカを目の当たりにして、私はどこか他人事のように今の状態を冷静に理解していた。

 

 

インフェルノ(これで終わりか…。因果応報ってやつかな…)

 

 

そんな時だった。

 

 

 

 

 

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

 

 

 

何処からか笛の音が聞こえてきた。

 

 

するとなぜか龍型メカの動きが止まってしまった。

 

 

インフェルノ「何? この笛の音は? 一体どこで誰が?」

 

 

 

 

クジャク「なんだいなんだい? どうして止まっちゃうんだよ!?」

 

アカンコウ「わかりません。なんかこの笛の音で急に動きが変になっちゃって」

 

 

コックピットの中では突然変調をきたしたトレジャードラゴンに三獣士が戸惑っていた。

 

するとゴロリンが笛の音の発信源を見つけていた。

 

 

ゴロリン「あ、あのマンションの屋上に誰かがいるでまんねん。そいつがこの笛を!!」

 

 

 

 

ゴロリンの指さした先には、一人の少女がいた。

 

 

だが、それはただの少女ではなかった。

 

 

白を基調にして水色で縁取りした寒々しさを感じるドレスに身を包み、氷と言われても信じられるような色の髪。

 

極め付けは恐怖を感じるような冷たい目を、同じく冷たさしか感じないドミノマスクの奥に光らせていた。

 

 

その少女は笛を吹くのをやめると、氷のように冷たい声で静かに名乗った。

 

「私の名はキュア・コキュートス。絶望の果てより来たりしもの」

 

 

 

 

インフェルノ「あれは…プリキュア…」

 

私は突然の出来事に混乱していた。

 

確かに、あのぬいぐるみもどきの話からするに、他に変身できる人間がいてもおかしくはない。

 

 

インフェルノ「一体誰が…なんの目的で…」

 

 

 

混乱していたのはこちらも同じであった。

 

 

ゴロリン「プ、プリキュアがもう一人!?」

 

クジャク「ちょっ、それは反則だろう!!」

 

アカンコウ「えーい、ご都合主義にもほどがある!!」

 

 

そう怒鳴りつつも、アカンコウはトレジャードラゴンを必死に操作してした。

 

 

アカンコウ「よし! なんとか動くようになったぞ!!」

 

クジャク「なら、あいつもまとめて片付けちゃいな!!」

 

アカンコウ「言われなくとも!!」

 

 

 

 

 

コキュートス「なるほど、この笛の音は闇の力の機能を一時的に麻痺させるというのは本当ね。じゃあ他にも色々試させてもらおうかしら」

 

雄叫びとともに自分に向かってきた龍型メカを冷たい目で見ながら、コキュートスは吹いていた笛をしまいながら冷たくそう言った。

 

 

コキュートス「…アイス・エッジ」

 

全く抑揚のない声でそう呟くと、コキュートスの右腕は大きな氷の刃になった。

 

 

そしてその右腕を構えてマンションの屋上からジャンプし、龍型メカをすれ違いざまに切りつけた。

 

 

するとインフェルノのキックや炎にもビクともしなかった装甲は、あっさりと切り裂かれた。

 

それもただ切り裂かれただけでなく、その傷口が凍りついていた。

 

 

 

 

クジャク「な、なんで!? さっきはビクともしなかったのに」

 

アカンコウ「こいつの攻撃は低温らしいです。極度に冷やされた物質はもろくなっちゃいますからね」

 

クジャクの驚きにアカンコウは冷静な状況判断を行った。

 

 

クジャク「解説してる場合か? なんとかおし!!」

 

アカンコウ「わかってますって、ポチッとな」

 

 

そう言うと、アカンコウはインフェルノの動きを止めた液体硬化弾を発射した。

 

 

 

 

コキュートス「ふん、そんなもの。アイス・ガトリング」

 

龍型メカをバカにしたようにそう呟くと、今度は右手をガトリングガンのような形に変え、氷の礫とでもいうような弾丸を、見た目の通り連射して液体硬化弾を命中する前に全弾撃ち落とした。

 

 

 

 

クジャク「くぅなんてやつだい!!」

 

アカンコウ「いえこれでわかりましたよ。あいつインフェルノより動きは早いし、技も小回りが効く。でも威力が低い」

 

このわずかの攻防でコキュートスの能力を分析できたのはさすがというところである。

 

 

ゴロリン「えっじゃあどうするでおま?」

 

アカンコウ「決まっている!! 力任せに押し切るだけだ!!」

 

 

すると龍型メカ トレジャードラゴンは大きな雄叫びをあげて爪を振りかざした。

 

 

 

しかし、コキュートスは冷静にその動きを見極めると攻撃をひらりひらりとかわした。

 

そうしながらも彼女はさらに右腕を、鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させた。

 

コキュートス「…この程度なのね。肩慣らしにはなったわ。クリスタル・ビュート」

 

そう呟くと鉤爪を龍型メカに向けて打ち出した。

 

その鉤爪には右手のひょうたん型の中に収納でもされていたのか、ロープがつながっており、龍型メカを絡め取ってしまった。

 

 

そして、ロープに絡まれた龍型メカは絡め取られたところから凍りつき始めた。

 

 

 

クジャク「さ、寒い寒い寒い寒い!!」

 

ゴロリン「ど、ど、どないなってまんねん!!」

 

アカンコウ「ど、ど、どうやら全体が凍りつき始めているようでございますよ」

 

 

コックピットの中では三獣士たちが歯をガチガチいわせながら、全身を抱きしめるようにして、震えていた。

 

 

 

それを確認するやコキュートスは、左手で右手を支えるようにしてロープを振り回し、上空から引き摺り下ろすかのように地面に叩きつけた。

 

 

ほぼ全身が凍りついていた龍型メカは、かなり脆くなってしまっておりそのまま粉々に砕け散り大爆発を起こした。

 

 

 

インフェルノ「す、すごい…」

 

 

私は目の前の光景に素直に驚いていた。

 

自分の他のプリキュアがいたことよりも、その強さに。

 

 

インフェルノ(私と同じ…いやもしかするとそれ以上)

 

 

 

するとコキュートスは私の方に振り返るとにっこりと微笑みかけてきた。

 

 

コキュートス「…キュア・インフェルノ大丈夫そうね」

 

インフェルノ「えっ? ええ」

 

私は戸惑いながらも返事をしたが、何か違和感を感じた。

 

 

コキュートス「よかったわ、あいつらに倒される前に間に合って。だって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コキュートス「あなたは私が殺すんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言うや否や、コキュートスは右手を刃に変えて切りかかってきた。

 

 

インフェルノ「えっ!? くっ!!」

 

私は突然のことに混乱しつつも、なんとかその刃をかわした。

 

 

コキュートス「よく避けたわね。さすがと言っておくわ」

 

そう言いながらも、コキュートスは今にも舌打ちをしそうな口調だった。

 

 

 

インフェルノ「いきなり何を!?」

 

私は思わず尋ねていたが、なんとなく想像はついていた。

 

 

コキュートス「黙りなさい!! あなたに質問をする資格はないわ!! 私はあなたのせいで夢も未来も失った。許さない、あなただけは!!」

 

 

先ほどまでの静かな口調とは打って変わって、突然激高した口調になったコキュートスだったが、私にはやっぱりかという思いの方が強かった。

 

傷つけてしまった市民から罵声を浴びせられたり、石をぶつけられたりするのは日常茶飯事であり、彼女もそう言うことの延長線上なのだと理解した。

 

 

インフェルノ「だから何よ。あなたがどんな目に会おうともわたしには関係のないことよ」

 

だから私もついいつものように応対してしまったのがまずかった。

 

 

普段なら、石をぶつけられようが棒で殴られようが大したことはないのだが、今回は相手が相手であった。

 

 

私の言葉に肩を震わせながら、コキュートスはガトリングガンに変化した右腕を私に向けてきた。

 

 

コキュートス「関係ない? 私がどんな思いをしたと…。それを…それを!!」

 

そう叫ぶや否や、氷の弾丸を連射してきた。

 

 

 

私のダメージはそこそこ回復していたが、浴びせられた液体のせいで体の自由が未だに効かなかった。

 

 

そのため、いつもならなんとかかわすことのできたであろう弾丸だが、歯を食いしばって正面から受けるしかなかった。

 

 

インフェルノ「ぐうぅぅうう」

 

この弾丸、一発一発は大した威力はなかったのが幸いだが、こうも連続して受ければダメージも蓄積していく。

 

 

私の動きが鈍ったことを確認すると、右腕をさらに変化させロープで私の体を絡め取ってきた。

 

 

 

コキュートス「ヤァアアア!!」

 

インフェルノ「うわーっ!!」

 

そのまま私を大きく投げ飛ばして、地面に叩きつけてきた。

 

かと思うと、それを何度も何度も繰り返して、私は幾度となく全身を地面に打ち付ける羽目になった。

 

 

インフェルノ「あ…ぐ…」

 

私が呻き声をあげながら地面に倒れ伏しているのを確認すると、コキュートスは再び右手を刃に変えてゆっくりと近づいてきた。

 

 

コキュートス「これで止めよ!! 地獄から来たならもう一度地獄に落ちなさい!!」

 

 

私の前までくるとコキュートスは大きく刃を振りかぶった。

 

 

それを狙って、私は全身から高熱を放射した。

 

インフェルノ「プリキュア・ヘル・バックファイア!!!」

 

 

 

コキュートス「あーっ!!」

 

目の前で突然私が燃え上がったため、コキュートスは悲鳴とともに大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

そしてその隙に私は火の玉になってこの場から離脱した。

 

 

 

 

 

 

美里「はあはあ。な、なんとか助かったけど…」

 

私は、ほうぼうの体でなんとか家まで帰り着いていた。

 

 

そして水を一杯飲み一息つくと、どこか怯えた表情をしているぬいぐるみもどきを問い詰めた。

 

 

美里「あいつは誰よ。知ってること洗いざらい白状しなさい!!」

 

 

メル「あ、あの子はたぶんミプっていうメルの友達が変身させたプリキュアメル。きっと美里みたいに妖精の光を浴びたことのある子を…」

 

 

美里「じゃあ、そいつはどこの誰よ? それぐらい知らないとは言わせないわよ!!」

 

 

メル「し、知らないメル…」

 

 

そうふざけたことを言った瞬間、私はぬいぐるみもどきを思いっきり蹴り飛ばしていた。

 

 

美里「ふざけんな!! 知らないわけないでしょ!! 下手に隠し立てすると…」

 

 

私の形相に怯え、咳き込みながらもぬいぐるみもどきは必死に言い訳をした。

 

 

メル「ケホケホ。ほ、本当に知らないメル。ミプとは何十年も会ってないメル。きっと大神獣の封印が解けたから、プリキュアになれる人を探してるだろうとは思ってたけど…」

 

 

その言葉にこいつは何も知らないであろうことがわかり、私は舌打ちまじりに吐き捨てるように言った。

 

 

美里「ちっ、まぁいいわ。私の戦いの邪魔をするなら、あいつらもろとも戦ってやる!!」

 

 

 

 

一方

 

 

 

ミプ「なんであんなことしたミプ。プリキュアの力でプリキュアを倒そうとするなんて…。 この力は悪い奴らと戦うためのものミプ」

 

 

ミプもまた、キュア・コキュートスに変身していた少女を説得していた。

 

 

「悪い奴らとは戦ったじゃない。あのメカを操ってるやつ、大神獣だっけ。でもそれより何より悪いやつよ。 私の夢を奪ったあいつは!!」

 

 

ミプ「そ、そんなはずはないミプ。メルが選んだ人が誰かは知らないけど、悪い人のはずがないミプ!!」

 

 

「そんなの関係ないわ。あいつだけは絶対に私が殺す。この右腕を奪ったあいつ、キュア・インフェルノを」

 

 

右腕を左手で握りしめながら、暗い光の宿った目で呟く少女。

 

彼女の名は、叶 雪菜。

 

 

キュア・インフェルノこと渚 美里の親友である…

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第11話に続く

 

 

 

 



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第11話「R 対 R」

 

 

ネローベ学園 中庭

 

 

 

理香「いや〜なんか久しぶりだね。四人でお昼食べるのって」

 

 

 

理香がさもワザとらしく、場を明るくしようと言った。

 

確かに私が風邪を引いて二週間以上欠席したと思ったら、今度は雪菜が入院していたのだから、こうして四人で一緒に食事をするのも一ヶ月ぶりぐらいになる。

 

雪菜「そうね。ごめんね心配かけちゃって」

 

久美「元気そうでよかったよ、ねぇ美里」

 

久美もその場を取り繕うようにそう言い

 

 

美里「う、うんそうだね」

 

私は目を泳がせながらそう返事をした。

 

 

雪菜「みんなありがとう。気遣ってくれて…。でも私なら大丈夫。きちんと今やるべきことがあるから。落ち込んでなんていられないよ」

 

雪菜はそう言ったが、どこかその笑顔は張り付いたようなものだった。

 

 

雪菜がこうなってしまったのは完全に私の所為である。

 

未だに右手には包帯を巻き、手づかみでたどたどしくサンドイッチを食べる雪菜を見て(さすがにまだお箸が使えない)私はいたたまれない思いだった。

 

 

美里(私は雪菜の夢を奪った…。今更もう引き返せない…。この地獄を果ての果てまで歩いていくしかない…)

 

 

私は自分が踏み込んでしまった復讐という名の泥沼に溺れていっているように感じていた。

 

 

 

 

雪菜もまた、一緒に食事をする友達を見ながら思っていた。

 

雪菜(みんなに気を使わせてしまって…。それもこれも全部あいつのせいだわ。キュア・インフェルノ、この人たちの爪の垢でも煎じて飲めばいいのに)

 

 

誰も知らないことだが、雪菜の心のうちにもまた暗い炎が宿っていた。

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

アカンコウ「チクショー、バッキャロー。な〜にがプリキュアだってんだ、くそったれ〜」

 

 

クジャク「あんなタイミングでもう一人プリキュアが出てくるなんて卑怯だよ、反則だよ」

 

 

ゴロリン「そうでまんねん。ど〜んな悪役レスラーでもいきなり二人掛かりになるなんてしないでまんねん」

 

 

三獣士はあの敗北からこっち四六時中自棄酒を煽っていた。

 

 

洋館の中は大量のビールや酎ハイの空き缶で溢れかえっており、酒の匂いが充満していた。

 

 

ゴロリン「あんなに苦労してバイトして、食事まで切り詰めて、やっとの思いでギリギリまで追い詰めたのにまた敗北するなんて、なんてみじめなトリオなんでしょう。お〜いおいおいおい」

 

ゴロリンが涙ながらにそう言った。

 

 

アカンコウ「あんた泣き上戸だったのね。でも泣くな、一番悪いのはそもそもなんのサポートもせず無茶な命令下す大神獣なんだ。あのバカヤローのせいなんだよ〜」

 

 

クジャク「そうだよ。現場の苦労も知らないでえっらそうに命令だけしてさ。あ〜んな上司ってのはいっちばん嫌われるんだよ〜だ」

 

 

完全に出来上がっているアカンコウとクジャクもずっとクダを巻いていた。

 

 

 

そんな時、急にあたりが暗くなったかと思うと不気味な声が響き、不気味なモヤのようなものが現れた。

 

大神獣「三獣士よ。何をしている」

 

 

低い声で大神獣がそう尋ねてきたが、完全に泥酔状態である三獣士は膝まずこうとはしなかった。

 

 

クジャク「はれ〜大神獣ら。ろ〜ひたろ〜」

 

 

大神獣「二人目のプリキュアが出現したという。もはや猶予はない。至急ブラックエナジーを収集せよ」

 

目の前の三獣士の状態を無視して、大神獣は指令を下した。

 

 

アカンコウ「そ〜んなの簡単にできるわりゃないれひょ〜。大体何? いつも一人のあんたが三人もいるりゃない。余計にぶらっくえなり〜がひつよ〜になるでひょ〜」

 

 

大神獣「何を言っている。我は唯一無二にして至高の存在大神獣である! 複数の我が存在するとは何事!!」

 

アカンコウの言葉に大神獣は敏感に反応しどなりつけた。

 

 

 

ゴロリン「アカやんてば、か〜んぜんに酔っ払っとりますな〜。ほら大神獣はあっちに一人だけれすよ〜」

 

と言いながらもゴロリンは、アカンコウの頭のつもりなのかクッションを抱きかかえて、見当違いの方向を向いていた。

 

 

 

大神獣「貴様たち。我の話を聞いておるのか。至急ブラックエナジーを収集せよ」

 

 

クジャク「うるひゃいな〜も〜。わ〜ったわ〜った。確か予備のべーすアニマルがあったよね〜」

 

 

アカンコウ「は〜い。前に作ったやつの改良版が」

 

 

大神獣「よし、至急出撃せよ!!」

 

 

そう言い残し、モヤのような大神獣は姿を消した。

 

 

 

 

クジャク「らってさ〜しゅっぱ〜つしんこ〜!!」

 

 

アカンコウ・ゴロリン「「いえっさ〜!!」」

 

 

その言葉を最後に全員酔いつぶれて、寝込んでしまった。

 

 

 

 

 

 

ネローベ学園 放課後

 

 

 

 

私たちは、四人で通学路を歩いていた。

 

 

美里「雪菜、荷物持つのに疲れたらいつでも言ってね」

 

雪菜「ありがとう美里。でもあんまり気を使わなくてもいいわよ。こういうのもリハビリの一環なんだから」

 

 

私は利き腕が不自由になってしまった雪菜を気遣い、いろいろなことを申し出ている。

 

 

美里「でも無理しないでね。授業のノートだって取り辛そうだったじゃない。

なんなら、私のノートのコピーでも…」

 

 

すると

 

 

雪菜「それこそ遠慮するわ。成績下がりそう」

 

雪菜はオーバーに肩をすくめてそう言った。

 

 

久美「同感」

 

理香「右に同じ」

 

 

美里「あのね…」

 

 

 

はっきり言って、自分でもおせっかいがすぎると思う。でも、こうでもしないと私自身がやりきれなかった。

 

 

久美や理香はおろか、雪菜さえもこうして笑って私と一緒にいてくれている。

 

でも、雪菜を傷つけて夢を奪ったのは他ならぬ私だ。

 

もし、そのことを知られたら私はこうして一緒にはいられない。

 

いや、本来はとっくの昔に私にはみんなといる資格はなかった。

 

自分勝手に戦い、多くの人を理不尽に傷つけた。

 

 

こんな私に、誰かと笑い合い穏やかな時を過ごすなんてことが許されるはずがない。

 

 

美里(私は…これからどうするべきか…。もうわかってるよね…)

 

 

 

 

そんなこんなで、いつの間にか雪菜と別れる十字路にたどり着いていた。

 

 

美里「じゃあね。なにか手伝えることがあったらいつでも言ってね」

 

雪菜「ありがとう。いろいろ心配してくれて」

 

 

美里「な〜に。私の時もいっぱい助けてくれたじゃない。そのお礼だよ。困った時はお互い様」

 

 

久美「そうそう私たちは友達だよ」

 

理香「遠慮しないでいいって」

 

 

久美や理香の言葉に雪菜は少し涙ぐんでいた。

 

 

雪菜「ありがとうみんな。私は幸せよ、こんないい友達がいて。これからも友達でいてね」

 

 

久美「もっちろん!!」

 

理香「ずっと友達だよ!! ねぇ美里」

 

美里「えっ? う、うん。そうだよ」

 

 

みんなには内緒にしていることだが、ピアノが弾けなくなってからこっち雪菜はいろいろ追い詰められていた。

 

 

もちろん夢を壊されてしまったことも大きいが、それよりもこれまで音楽家のサラブレットとして期待をされていた分、その筋の人間が手のひらを返したように冷たくなったことがショックだったのだ。

 

その中には彼女がずっと教えを受けてきた先生も含まれており、正直参っていたのだ。

 

 

雪菜(みんなは私個人と一緒にいてくれている。ピアノを弾ける私じゃなくて…)

 

 

雪菜にとって、友人の存在は非常にありがたいものであった。

 

 

 

雪菜(それでも許せない!! あいつだけは!!)

 

雪菜の中の怒りは絶えず研ぎ澄まされていた。

 

 

 

 

 

 

私は雪菜たちと別れて一人になったのを確認した後、カバンに話しかけた。

 

美里「ねぇ、あのキュア・コキュートスって子もプリキュアなんだよね」

 

 

メル「そ、そうだメル。一体どうしたメル?」

 

ここ最近、必ず怒鳴りつけられていたメルは、急に丁寧に話しかけられたことに困惑していたようだったが、お構いなしに話を続けた。

 

 

美里「私が恨まれる心当たりなんてもう数え切れないし、あの子の言う通り地獄に落ちることは決まってるだろうからさ。全部終わったらあの子に殺されてもいいかもね」

 

私は何かを悟ったように空を見上げてそう呟いた。

 

この間はコキュートスも一緒に倒してやるなんて考えていたが、少し時間を置いて冷静になると私に彼女を倒す理由はないことに気がついたのだ。

 

 

メル「な、なんてこと言うメル!? そんなこと冗談でも言っちゃいけないメル!!」

 

突然のことに驚きの声をメルは出した。

 

 

美里「冗談を言ってるつもりはないわ。あいつらへの復讐を終えたら私は空っぽだもの。今更、私だけが幸せで平和な時間を過ごせるなんて思ってないしね」

 

 

メル「美里…。違うメル…コキュートスはインフェルノと一緒に戦った正義のプリキュアメル。コキュートスに殺されるなんてあっちゃいけないことメル…」

 

 

私の言葉にメルは涙まじりにそう言った。

 

 

美里「ならなおさらよ。私は自分が正義の味方だなんて思ってない。コキュートスが正義の味方なら、私は倒される敵役よ」

 

 

メル「美里…。 !!!」

 

 

メルが何かに気がついたような表情をしたので、私も何があったかを理解した。

 

しかし、いつもなら血がのぼる頭が今日は妙に冷静だった。

 

 

美里「あいつらか…。じゃ行きましょう。準備して」

 

 

メル「ダメメル…死にに行くなんてそんなこと…」

 

 

美里「大丈夫。全部終わったらってこと。まだまだ死ぬわけにはいかないから」

 

 

私はおそらく初めてであろう笑顔をメルに対し向けてそう言った。

 

 

その笑顔に何も言えなくなったか、メルはスマホに姿を変えて私の手の中に飛んできた。

 

それを掴むと私は大きく深呼吸をした。

 

美里「よし。プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包み、仮面を装着していた。

 

 

 

インフェルノ「この赤いドレス都合がいいわね。私が死ぬとき血まみれの体を誤魔化せるから…」

 

 

私は自分の深紅のドレスを見てそう呟いた。

 

 

もっとも、今の私に赤い血が流れていればだが…。

 

 

 

 

 

 

数十分前 オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

クジャク「う〜頭痛い。じゃあ取りあえず行こうか」

 

頭痛に顔をしかめながらも、クジャクは出撃を促した。

 

 

アカンコウ「は〜い。以前銀行強盗に使ったときのベースアニマルの改良版タカ型メカのホーク2号くんです…」

 

額に冷えピタを貼りつけながら、いかにも気持ち悪そうにアカンコウがそう解説した。

 

ゴロリン「う〜気持ち悪いでまんねん。完全に二日酔いでおま。もうちょっと時間置いてからにしまへんか」

 

 

いつもの元気は何処へやら、今にも吐き出しそうな感じでゴロリンがそう提案した。

 

 

クジャク「でもね。早く行かないと何されるかわかんないかんね。出撃さえすりゃ気分良くなるんだから、おだててりゃいいの」

 

 

アカンコウ「そうそう。私たちがいないと何にもできないくせに偉そうなんだら。適当に太鼓持ちやって機嫌とってりゃいいのよ。それでプリキュアを倒せりゃ目一杯恩を売ってやりゃそれでいいの」

 

 

 

そんなことを言いながら、兎にも角にも三獣士は出撃した。

 

 

 

 

 

オーエエドー市内 市街地

 

 

 

ビルの屋上にて、タカ型メカが甲高い声をあげていた。

 

 

特に何をしているわけではないが、その巨体に市民たちは恐れおののき避難していた。

 

 

 

 

一方タカ型メカのコックピットでは

 

 

 

クジャク「おぇ〜気持ち悪い。もう少し静かに動かせないのかい…」

 

ゴロリン「この揺れはちょっと…」

 

 

アカンコウ「もうしばらくの辛抱ですよ。こうしてれば直にあいつらが来ますから…」

 

 

最悪の体調の中、三獣士がプリキュアの到着を待っていた。

 

 

そんな時、ようやく空に光るものが現れた。

 

 

ゴロリン「あっ来ましたで」

 

クジャク「よ〜し戦闘開始!!」

 

アカンコウ「負けてもよし。勝てればなおよし。ほんじゃ行きましょうか」

 

 

 

 

 

私が火の玉になって市街地に着くと、そこにはビルの屋上で甲高い声を上げているタカ型メカがいた。

 

 

いつもなら怒りの感情で頭がいっぱいになるのだが、今日は妙に頭が冷めていた。

 

 

インフェルノ「暴れてないなら傷つく人は増えないし。都合もいいか」

 

 

そんなことを呟きながら近くのマンションの屋上に私は着地し、いつもの名乗りをあげた。

 

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

 

 

インフェルノ「ヤァアアア!!」

 

私は向かいのビルの屋上にいるタカ型メカに向かって大ジャンプして殴りかかった。

 

 

そして鈍い音とともに、タカ型メカは姿勢を崩してビルの屋上から転落していった。

 

 

 

しかし、さすが鳥型というべきか、地面に激突する前に体勢を立て直して再び舞い上がってきた。

 

そしてそのまま、私の頭上を取りミサイルを発射してきた。

 

 

インフェルノ「くそ!!」

 

私は大ジャンプしてミサイルをかわし(当然流れ弾は屋上に着弾し、ビルは半壊した)そのままタカ型メカの高さまで行き、攻撃を加えようとした。

 

 

 

 

インフェルノ「!! 何!?」

 

 

 

急に足が冷たくなったと思ったら、何かに足を引っ張られるような感覚があった。

 

と思う間もなく、私はそのまま空中から引き摺り下ろされ地面に叩きつけられた。

 

インフェルノ「イタタ。何なのよ?」

 

 

痛みに顔をしかめながら足を見ると、私の足には氷でできた鉤爪とロープが絡まっていた。

 

そして、そのロープの先にいたのは彼女だった。

 

 

コキュートス「絶望の果てより来りしもの キュア・コキュートス」

 

 

インフェルノ「キュア・コキュートス…」

 

 

 

 

遡ること十数分前

 

 

 

ミプ「雪菜。大神獣の闇の力を感じたミプ!!」

 

 

典型的な日本家屋とでもいうべき自宅に帰り着いて、一息ついていた雪菜にポケットの中からミプが話しかけてきた。

 

一緒に連れ歩くには不便だということから、普段外出している時にはスマホの姿になってくれるように、雪菜が頼んだのだ。

 

ミプの方も多少疲れるが、利き腕が不自由になっている雪菜の事情も考慮してそれを了承したのだ。

 

 

雪菜「なんですって!? じゃああいつも間違いなく来るわね…」

 

雪菜は暗い光を目に宿しながら静かな声でそう言った。

 

 

ミプ「雪菜…間違えちゃダメミプ。戦うのは大神獣の方ミプ」

 

雪菜「いいじゃない別に。このプリキュアの力が本来何に使うものだろうと、今現在は私の力なんだから。どう使うかは私が決める!! それに大神獣とかいうのともちゃんと戦うわよ。 インフェルノを殺されてたまるもんですか!!」

 

 

ミプ「雪菜…」

 

 

ミプは悩んでいた。

 

先に見つけた少女は、戦いの恐怖からプリキュアになることを拒んだ。

 

だから雪菜を見つけて、戦ってくれることを了承してくれた時はすごく嬉しかったのだ。

 

 

しかし、現実はこれである。

 

確かに戦ってくれてはいるが、ミプが描いていた理想とはかけ離れてしまっている。

 

千年以上前コキュートスとインフェルノは、最初の頃こそなんの接点もないもの同士だったが共に戦い続けるうちに絆を深め、無二の親友となっていった。

 

 

そのため、今現在この二人が戦うのを見るのは心苦しいものがあった。

 

 

雪菜「どうしたの? 行くわよ」

 

ミプ「わかったミプ…」

 

 

ただ、どう理屈をこねくり回そうとも、大神獣が復活しかかっている以上プリキュアは必要であり、経緯や方向性はどうであれ戦ってくれる以上雪菜を止める理由も感情論以外思いつかない。

 

 

ミプは力なく頷くしかなかった。

 

雪菜は、まだ不自由な右手でスマホになったミプを掴むと、左手でたどたどしく鍵の形のアプリをタッチした。

 

 

雪菜「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

次の瞬間、一気に周辺温度が何十度も下がったかと思うような寒々しく冷たい光が雪菜を包んだ。

 

 

それが収まった時には、青い仮面を装着し、白を基調にして水色で縁取りした寒々しさを感じるドレスに身を包んだ少女だった。

 

 

そのまま、青白い玉に変化するとコキュートスは窓から飛び立った。

 

 

 

 

 

そして現在

 

 

 

コキュートス「インフェルノ。今度こそ決着をつけてあげるわ!!」

 

 

私は足に絡まったロープを熱で焼き切るように解くと、憎悪のこもった冷たい目で私を見つめ、ゆっくりと歩いてくるコキュートスに対して叫んだ。

 

 

インフェルノ「待って!!」

 

コキュートス「何? 命乞いなら無駄よ」

 

 

 

インフェルノ「違う!! 別に私はあなたになら殺されてもいいって思っている」

 

コキュートス「なんですって?」

 

 

私の言葉にコキュートスは戸惑い動きが止まった。

 

 

 

インフェルノ「あなたがどこの誰なのかは知らない。でも私が傷つけた人の一人だってことはわかる。でも必ず償いはする。あいつらさえ倒せば私の目的は達せられる。そのあと煮るなり焼くなり好きにして」

 

 

私は精いっぱいの自戒の念を込めてそう訴えた。

 

 

しかし、コキュートスは肩を震わせながら叫んだ。

 

コキュートス「ふざけないで!! あなたは私の未来を、夢を奪っておきながら自分だけはのうのうと目的を達成しようとしている!! そんなこと許さない!! 今この場であなたを殺してやる!! 目的も何もかも叶えられないまま無念さを抱えて死になさい!!」

 

その叫びとともにコキュートスは右手を刃に変えて斬りかかってきた。

 

 

 

コキュートス「な!?」

 

しかし、私はその一撃を必死に受け止めていた。

 

 

インフェルノ「…冗談じゃないわ。死んでもいいとは言ったけど、あいらを倒す前に殺されてたまるもんか。あいつらへの復讐を邪魔するなら、あんたから先に倒してやる!!」

 

 

私は怒りとともに刃をへし折り、コキュートスに殴りかかった。

 

 

しかし、コキュートスは私のパンチを紙一重でかわすと勢い余って前のめり気味になった私の背中を上から殴りつけた。

 

 

インフェルノ「げはっ!!」

 

背中からちょうど肺の上を殴られた私は、おかしな声を出しながら地面に叩きつけられた。

 

 

コキュートス「死ね!!」

 

コキュートスは、私のへし折った右手の刃をもう一度作り出すと、倒れ込んだ私に向けて突き刺してきた。

 

 

 

インフェルノ「だぁりゃあ!!」

 

しかし私はすんでのところで横に転がってそれをかわし、同時にコキュートスのボディにキックを食らわした。

 

 

 

コキュートス「ぐう…」

 

コキュートスが呻き声とともにお腹を抑えている間に、私は少し距離をとって体勢を立て直した。

 

 

しかし、それがいけなかった。

 

 

距離ができたことで時間を稼げたのはお互い様であったから。

 

 

私が距離をとった隙に、コキュートスは右腕を大きな瓢箪のような形に変化させた。

 

さっきはその先が鉤爪だったが、今回は先端が棘の付いた氷の球いわゆるモーニングスターというものになっていた。

 

コキュートス「受けなさい。クリスタル・スター」

 

 

彼女は右腕を振りかぶり、その氷球につながったロープを振り回すようにして私にぶつけてきた。

 

 

インフェルノ「くっ!!」

 

私はすんでのところでそれをかわしたが、氷球のぶつかった地面は一瞬で凍りつき、しかも大きく陥没していた。

 

 

コキュートス「まだまだー!!」

 

 

私に攻撃がヒットしないことにイラつき出したか、コキュートスはめちゃくちゃに氷球を振り回してきた。

 

 

攻撃をかわしながら、私は勝機を感じた。

 

 

インフェルノ(この子さっきからただ力任せに振り回してるだけ…。おまけに足元がふらついてる…。振り回すのを支えるだけの力がないんだ。いける!!)

 

事実、コキュートスは球を振り回すというより、球に振り回されるように攻撃していた。

 

私はバックステップでもう少し距離を取り、攻撃を誘った。

 

すると案の定、距離をとった私に向けて大きく氷球を振り回してきたが、その勢いを支えきれずコキュートスは体勢を崩した。

 

 

私はその隙を見逃さず、攻撃をかわした後、一気に距離を詰めて懐に入り込み右腕をとった。

 

 

インフェルノ「これさえ抑えちゃえば、あんたなんか怖くないのよ!!」

 

 

私はコキュートスの右腕を左脇に抱えながら、何度となく膝蹴りをコキュートスのボディに食らわせた。

 

 

 

コキュートス「ぐぅっ、調子に…乗るなぁ!!」

 

ダメージを受けたコキュートスは気合一発私を振りほどき、今度は右腕の先を鉤爪に変えてきた。

 

コキュートス「クリスタル・ビュート!!」

 

その言葉とともに打ち出されたロープ付き鉤爪は私の右腕を絡め取った。

 

 

インフェルノ「なんの!!」

 

私たちは綱引きの格好になったが、地力は私の方が上であるらしく、私がロープを引っ張るとコキュートスはそれに引きずられるような格好になった。

 

 

インフェルノ「こないだのお返しよ!! まともに動ければあんたなんかに!!」

 

私は先の戦いで何度も地面に叩きつけられたお返しとばかりに、ロープを引っ張ってコキュートスを何度も投げ飛ばし、地面に叩きつけた。

 

 

コキュートス「くっそ、舐めるなぁ!!」

 

しかしコキュートスも負けてはおらず、投げ飛ばされた後タイミングを見計らって同じように私を投げ飛ばしてきた。

 

 

インフェルノ「こんのー!!」

 

 

 

 

 

 

一方

 

 

 

 

クジャク「なんだいあいつら? 一体何しに来たんだい、仲間割れか?」

 

 

自分たちそっちのけで争い合う二人のプリキュアを見てクジャクが呆れたようにそう疑問をぶつけた。

 

 

アカンコウ「よし! なんか知らんがチャンスだ。あいつらを一気に片付けてやる!!」

 

そう言うとアカンコウはタカ型メカ ホーク2号の翼を広げさせ、一気に上昇させた。

 

 

 

 

クジャク「おいおいおい。勇ましいこと言っといてさ、ただ逃げてるだけじゃないのかい!?」

 

アカンコウ「ご心配なく。超高空から急降下し、あいつらが争いあっている中、一気に奇襲をかけるのです。まさに漁夫の利作戦です!!」

 

 

クジャク「えばれるほどかっこいい作戦かい。むしろ情けないよ、あたしゃ」

 

 

そうこうしている間に、タカ型メカ ホーク2号は上空10,000メートルにまで上昇していた。

 

 

ゴロリン「高度10,000メートル準備OKでおま」

 

アカンコウ「よし、急降下体当たりだ!!」

 

その叫びとともに、タカ型メカ ホーク2号は地上のプリキュアを目掛けて一気に急降下していった。

 

 

 

ゴロリン「距離9,000メートル…8,000メートル…7,000…5,500…」

 

 

ゴロリンのカウントダウンを聞きながら、アカンコウは勝利を確信していた。

 

 

アカンコウ「勝てる!! 今日こそは勝てるぞ!! ウップ」

 

 

突然変な声を出したアカンコウにクジャクは慌てて尋ねた。

 

クジャク「ど、ど、どうしたんだい? え?」

 

 

アカンコウ「い、いえ。な、なんでもありません」

 

アカンコウは脂汗を流し、口を押さえながらそう返事をしたが

 

 

アカンコウ(ま、まずいな。ここにきて二日酔いが悪化してきたぞ。乗り物酔いも合わさって…うおーっ気持ち悪い!! 目が回る!!)

 

 

 

そしてそんな最悪の体調の中、アカンコウの目は焦点が合わなくなり、目の前の景色が何重にもダブって見え始めていた。

 

 

アカンコウ(ありゃ、なんだこれ? ふたりはプリキュアがプリキュア5になった。うわー!? こりゃ一体、どれが本体だ? え?)

 

 

 

ゴロリン「距離3,000…1,800…1,400…」

 

しかし、そんなこととはつゆ知らずゴロリンのカウントは刻一刻と進んで行った。

 

 

アカンコウ(上か? 下か? 右か? 左か? えぇいままよ、ど真ん中だ!!)

 

腹を決めたアカンコウは、自分の直感を信じホーク2号を突っ込ませた。

 

 

ゴロリン「1,000…500…100…ゼロ!!」

 

 

アカンコウ「あら〜下の二人が本物だったのね!!」

 

 

しかし時すでに遅く、盛大に的を外したホーク2号は凄まじい轟音と砂煙を上げて頭から地面に突っ込んだ。

 

 

 

そしてコックピットの中では激突の衝撃で椅子から放り出されたクジャクが、タンコブを作りながら愚痴っていた。

 

クジャク「なんだいなんだいこのメカは? え?」

 

 

ゴロリン「メカのせいじゃなさそうでまんねん…」

 

クジャク「は?」

 

同じく座席から放り出され引っくり返っていたゴロリンがアカンコウを指差して返事をした。

 

指差したほうを見てみると、アカンコウが下を向いて苦しそうに吐いていた。

 

 

アカンコウ「おぇ〜。自棄酒は体によくないようで…」

 

 

クジャク「バカー!!!!」

 

 

 

 

 

インフェルノ「え? 何々? あっ、メカのこと忘れてた」

 

 

突然地面に突っ込んできたタカ型メカの起こした轟音と砂煙りを見て、私はあいつらのことを思い出した。

 

 

右腕に絡まっていたロープを、燃え上がらせた左手のチョップで焼き切ると、両手を大きく振りかぶり炎の塊を投げつけた。

 

インフェルノ「プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

 

 

 

コキュートス「うっとおしい!! 邪魔よ!! プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」

 

コキュートスもまた、目の前のメカに苛立ちをぶつけるかのように大型ガトリングガンに変化した右腕から、猛烈な勢いで氷の弾丸を連射した。

 

 

 

私とコキュートスの必殺技を同時に食らったタカ型メカは地面に激突した時のダメージと相まって、大爆発を起こして木っ端微塵に吹っ飛んだ。

 

 

 

それを見届けると、コキュートスはこちらに向き直ってきた。

 

コキュートス「これで邪魔者はいなくなったわ。今度こそあなたを殺す!! この右腕の仇を取ってやる!!」

 

しかし、凄まじい殺気をむき出しにするコキュートスとは裏腹に私は冷めたものだった。

 

 

インフェルノ「ふん、勝手にしなさいな。私にはあいつを倒した以上もうここにいる理由はないわ」

 

コキュートス「ふざけるな!!」

 

 

私のその態度にコキュートスは凄まじい勢いで襲いかかってきたが、私はその直線的な突進を軽くいなすと火の玉になって飛び去った。

 

 

 

コキュートス「逃げるな!! 戻ってこい!! インフェルノー!! ちくしょう!! ちくしょう!!」

 

 

私に対する憎悪をむき出しにするコキュートスを見て、私は複雑な思いに駆られた。

 

 

インフェルノ(復讐しか頭にないって、あんなにみっともないものなんだな…。でも…それでも私は…)

 

 

 

 

 

翌日 ネローベ学園

 

 

 

美里「雪菜どう? インターネットで調べたんだけど、リハビリにはこういうマッサージもいいんだって」

 

 

私は雪菜の右腕を軽く揉みながらそう尋ねた。

 

 

 

雪菜「ありがとう美里。あなたが友達で本当によかったわ」

 

雪菜は、美里が友達であることに心から感謝していた。

 

もし彼女がいなかったら、空元気すら出なかったとは自分でも思っている。

 

雪菜(美里…あなたには本当のことを言いたい…。でも私が復讐をするなんて言ったら、きっとあなたは私の力になろうとする…。あなたをそんなことには付き合わせられない…)

 

 

 

美里「な〜に。私だって雪菜が友達でよかったよ。辛かった時支えになる人がいるって本当にありがたいからね」

 

美里(でも私は雪菜の夢を、自分の支えを自分で壊した…。せめて雪菜とは生きてる間はずっと友達でいたい…)

 

 

 

久美「やっぱり仲いいわよね。あの二人」

 

理香「本当。気のおけない親友の典型って感じ。ちょっと妬いちゃうなぁ」

 

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第12話に続く。

 

 

 



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第12話「R達の絆」

 

 

オーエエドー市近郊 タテハマ港埠頭

 

 

ここは、海外からの貨物も多く入ってくる国内最大級の港であり、船客ターミナルとしても最大級の日本有数の港である。

 

 

ここに大きな荷物を持った三獣士が決意を固めた表情でいた。

 

 

クジャク「こうして海を眺めているだけだというのに、昨日とはまるで景色が違って見えるねぇ」

 

アカンコウ「ええ。今日からは全てが違いますからね、今日からは」

 

 

その呟きとともにアカンコウは胸ポケットから一枚のチケットを取り出した。

 

 

アカンコウ「本土をはるか148キロ海上にあるというイカスダンダル島。そこの名物あらゆる疲れを癒すというコス・モクリン温泉宿泊及び旅行チケット。ティッシュペーパーでももらえればいいやと思って引いた商店街の福引で、特賞のこのチケットを当てた幸運に、俺たちはこれからの人生を賭けた!!」

 

魂の叫びととともにアカンコウはそのチケットを大切そうに握りしめた。

 

 

アカンコウ「プリキュアと初めて戦って以来、連戦連敗を重ね続け、やっとギリギリまで追い詰めたと思ったら、あろうことか二人になったプリキュアに二人掛かりでボコボコにされて連敗記録を更新するんだもんな、おい」

 

クジャク達もまた今にも泣き出しそうな顔をして、うつむいていた。

 

 

アカンコウ「もう限界だ。ゆっくりと温泉につかり、赤茶けてボロボロになった心を癒し、再び元の青く清い心を取り戻し、これからいかに生きていくべきかを見つめ直し再出発だ」

 

 

そんな時、港にアナウンスが響いた。

 

 

『イカスダンダル島行きフェリー、ヤマモト号は間もなく出航いたします。ご乗船のお客様はお急ぎください』

 

 

クジャク「さぁ、急ぎましょう」

 

ゴロリン「おう」

 

 

三人は急いで乗船場に行き、フェリーに飛び乗った。

 

 

汽笛の音とともにフェリーヤマモト号は出航し、甲板でアカンコウは遠ざかる陸地を見てしみじみと感じていた。

 

 

アカンコウ「さらばオーエエドー市。さらばプリキュア。さらば戦いの日々よ」

 

 

アカンコウ「さらば…さらば青春!!」

 

 

三獣士を乗せたフェリーはそのまま水平線の彼方へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市 ゲームセンター

 

 

『You Lose』

 

 

私の目の前の画面には、敗北を示す表示がデカデカと出ていた。

 

 

美里「はぁ…」

 

何かの気分転換にと思って久しぶりにやった「バーチャルストリートIX」だが、全然身が入らなかった。

 

 

 

 

美里「私…一体どうしたらいいのかな…」

 

 

雪菜に対する償い、一番いい方法は自分のことを正直に話して謝罪することである。

 

でもそれをしてしまえば、私は雪菜との友情は失うし復讐を続けることだってできなくなる。

 

 

なんやかんやで結局自分のことしか頭にない自分が情けなく、恥ずかしかった。

 

 

美里(死んでお詫びをって言うのも、ただの自己満足なら…私にできることは…)

 

 

この前の戦いでコキュートスに言われたことは、さらに私を悩ませていた。

 

 

あの時はかなりカッとなったが、落ち着いてよくよく考えてみれば彼女が怒るのは無理もない。

 

私が死んだって、何も元どおりにならない以上は結局ただの自己満足でしかないのである。

 

 

美里(このままのうのうと生き続けることも死ぬこともできないなら…)

 

 

一体どこに向かえばいいのか、私はどうなっていってしまうのか。答えの出ない問いかけを自分の中で続けていた。

 

 

店員「あの…終わったならどいてください」

 

 

私は話しかけられた声にはっとしてあたりを見回すと、私の後ろには列ができていた。

 

美里「えっ? あっ、すいません!!」

 

 

私は慌てて席を立つと、ゲームセンター内で楽しそうに遊んでいる人たちが目に入った。

 

 

美里(みんな楽しそう…あれを私は奪っていた…)

 

 

私は雪菜の夢や未来を奪ったが、それまでにも多くの人たちの大切な物を壊していた。

 

 

そのうちの一人がおそらくあの子、キュア・コキュートスなのだろう。

 

 

因果応報とはこういうことかと私は痛感していた。

 

 

美里(でも、きっと大神獣は私の家族を殺したことに心なんて痛めていない。絶対に倒す!! あいつだけは!!)

 

 

それでも、大神獣に対する復讐の炎は燻ることもなく燃え続けていた。

 

メル(メルはどうしたらいいメル…美里…)

 

 

こんなことに巻き込んでしまったことはメルも自覚しており、一体どうしたらいいかをずっと悩み続けていた。

 

 

 

 

叶家

 

 

雪菜「…29…30っと。ふうっだいぶ動かせるようになったわ」

 

 

ハンドグリップを使ったリハビリを雪菜は部屋で行っていた。

 

 

今使っている物は子供用の非常に軽いやつであり、利き腕でない左手でも簡単に動かせる物であるが、まだまだ右手では難儀するレベルである。

 

 

ミプ「そうやってリハビリを繰り返していれば、いつかは元どおりに動くミプ?」

 

懸命にリハビリに励む雪菜を見て、ミプがそう尋ねた。

 

 

雪菜「…普通に生活するぐらいには回復するって言われてるけどね。前みたいにピアノを引くのは無理。指を細かく動かせないから…」

 

雪菜は暗い声で悲しそうに告げた。

 

 

今でも右手で物をつかむ際は、かなり神経を集中させねばならず、物を持っている感触もかなり鈍い。

 

そこそこ回復してきているとはいえ、やはり限界はあるらしい。

 

 

雪菜「でもリハビリのいい目標はあるから大丈夫。右手が少しでも動くようになれば、あいつとも戦いやすいし。体の方ももう少し鍛えないとね」

 

 

雪菜(インフェルノを倒しても、私の腕は戻らない…そんなことはわかってる…でも、だからと言ってあいつが許せるわけじゃない…)

 

 

暗い瞳で、明るく語られたその言葉にミプは涙が出そうだった。

 

 

プリキュア同士で争い合うなど、本来は起きてはならないことである。

 

一体どうしてこんなことになったのかと、ミプも悩んでいた。

 

 

ミプ(この子をプリキュアに選んだのが間違いだったミプ? インフェルノやメルと話ができる機会があれば…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

 

 

(殺せー!! あいつは化け物だ!!)

 

 

(何をしてくるかわからんぞ!!)

 

 

(これだけの数でかかれば、いくらあいつでも)

 

 

 

 

 

待って、私が何をしたの? 私はみんなの為に、みんなの為を思って

 

 

 

 

(お前は危険すぎる。みんな怖いんだよ、お前が)

 

 

 

 

やめて!! 私は何もしない。誰も傷つけないから!!

 

 

 

 

(信用できるか!!)

 

 

(そうでなくてもお前の機嫌を取りながら暮らすなんてごめんだ!!)

 

 

 

そんな!? 私は、私はそんなことを望まない!!

 

 

(黙れ!! 死ね!!)

 

 

ああーっ!!!!!!

 

 

 

 

「ふっ夢か… 忌々しい頃を思い出させる」

 

 

 

 

 

 

 

 

ネローベ学園

 

 

 

美里・雪菜「「はぁ〜」」

 

昼休みに中庭で食事をしている最中、私と雪菜は大きなため息をついていた。

 

 

理香「どうしたの美里? 大きなため息なんかついちゃって」

 

久美「そうよ。雪菜はともかく美里が悩むなんて珍しいわね」

 

 

美里「あんたらね…」

 

 

雪菜「まあまあ。それよりどうしたの? 悩みがあるなら話してよ」

 

 

雪菜が心配そうにそう尋ねてきたが

 

 

美里「いいわ。話せるようなことじゃないし、話しても仕方ないから…。雪菜は何を悩んでるの?」

 

話せるはずもなく、逆に雪菜に質問した。

 

 

雪菜「…私もよ。話せるようなことじゃないし、話しても仕方ないわ…」

 

 

どこか遠い目をしながら雪菜もそう返事をした。

 

 

 

美里(ごめん雪菜。どんなに元気があるように見えても、何もかも無くしちゃったんだもん。辛いに決まってるよね…。全部私のせいなのに…ごめん…)

 

 

 

雪菜(私には家族がいる…無くしたのは自分の夢だけ…確かにショックは大きいけど、美里はもっと辛かったんだろうな…。私のことでこれ以上心配はさせられない…。やっぱり言えないよね…)

 

 

美里・雪菜「「はぁ〜…」」

 

 

私たちは揃って大きなため息をもう一度ついた。

 

 

 

 

 

 

同時刻  イカスダンダル島 コス・モクリン温泉

 

 

 

 

アカンコウ「すったもんだ、あんなもんだ、どんなもんだ〜♪と。俺たちゃ天才だ〜♪」

 

アカンコウが上機嫌でアカペラで歌を歌っていた。

 

 

クジャク「よっいいよ〜アカンコウ」

 

ゴロリン「ささっクジャク様。もう一杯」

 

そんなアカンコウにクジャクは拍手を送り、ゴロリンはお酌をしていた。

 

 

温泉につかり、地元の名物に舌鼓をうち、酒も入った三人は極楽気分であった。

 

 

クジャク「いや〜昔社員旅行でこんなことしてた時はくだらない時間だなんて思ってたけど、楽しいもんだね〜」

 

ゴロリン「そうでおま。周りの目を気にして羽目を外せなかったけど、気兼ねなく楽しめるのはいいもんでんなぁ。ガハガハ」

 

 

アカンコウ「ほんとほんと。こうやって仲間内で楽しく食事したり酒飲んだりってこんなに楽しかったのね。もう少し前からやってりゃよかった」

 

 

三人は、一度どん底まで落ちた時のことを思い出していた。

 

 

あの頃は、名声や社会的な地位こそそれなりにあったが、どこか孤独だった。

 

 

今にして思えば、一人でもこうして笑いあえる仲間がいればあんなことにならなかったのではと思い始めていた。

 

 

クジャク「まぁいいさ。過去は過去、これからはこれからだ。人生を明るく楽しくいっちゃおう〜」

 

 

アカンコウ・ゴロリン「「さんせ〜い!!」」

 

 

過去は過去。今こうして笑いあえる仲間がいる。そのことが三人の支えになっていた。

 

 

 

そんな時、まだ昼間だというのに部屋が真っ暗になった。

 

 

クジャク「ん? なんだいこれは?」

 

アカンコウ「まさか…」

 

 

冷や汗を流し始めた三人の前にモヤのようなものが現れ、不気味な声が響いたのはその直後だった。

 

大神獣「三獣士よ。こんなところで何をしている?」

 

 

明らかに怒りを込められた声を聞いた三人は慌てて跪いた。

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「は、ははーっ!!」」」

 

 

大神獣「三獣士よ。まさかとは思うが、我を見限る気ではないな?」

 

 

図星をさされた三獣士は、生きる心地がしなかった。

 

 

クジャク「い、いえ…決してそのようなことは…」

 

クジャクは見苦しいと思いつつも、なんとか言い訳を探していた。

 

 

 

 

次の瞬間、モヤの中で何かが光ったかと思うと、机の上に並べられた皿が次々と爆発するかのように割れた。

 

 

アカンコウ「ひいっ!!」

 

 

 

大神獣「覚えておけ。我に逆らえばどうなるか。そうなりたくなければブラックエナジーを収集せよ」

 

 

その言葉とともにモヤは晴れ、部屋も明るくなった。

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「はぁ〜っ!!」」」

 

それを確認すると、三人は顔を見合わせ盛大にため息をついた。

 

 

クジャク「な〜んでこんなことになっちゃったんだろうね〜」

 

アカンコウ「ホントですね〜」

 

ゴロリン「もう今更戦う気もなくなってきたでまんねん」

 

 

はっきり言って、こうして三人で過ごしてきた結果、復讐の思いはかなり薄れてきてしまっていた。

 

 

どん底まで落ちたことで世界に対する恨み言はあったが、同じ境遇の仲間を得て、それなりのラインまで浮上できたこともあり、もう今更という気持ちの方が強くなってきていた。

 

 

 

アカンコウ「はぁ〜。でも、逆らったら後が怖いですよ」

 

 

先ほど大神獣が見せた力の一端に、アカンコウはかなり怯えていた。

 

ベースアニマルを作成している上、科学者でもある彼は、そのエネルギーである闇の力が既存のどんなエネルギーよりも強大で危険な代物であるかを誰よりも理解していた。

 

ゴロリン「しゃあけど、この調子だと復活させた後もこき使われそうでまんねん。いやそれどころか、そのまま切り捨てられそうでおます…」

 

 

ゴロリンの言っていることは憶測だが、そうとも言い切れない予感が三人にはしていた。

 

 

どん底に落ちた境遇だったからこそ、世界を変えられるなどという甘い言葉についすがってしまったが、冷静に考えればそんな上手い話がないことぐらいはわかる。

 

 

完全に行き詰ってしまった感があり、三獣士はかなり落ち込んでいた。

 

 

 

クジャク「じゃあさ。こういうのはどうだい。お前たち耳をお貸し」

 

しばらく考えた後、クジャクが何か思いついたようにそう言うと、ひそひそと話し始めた。

 

アカンコウ・ゴロリン「「ふんふん。ふん」」

 

 

クジャクの話に耳を傾けていた二人も、話を聞くうちに目に希望の灯が灯り始めた。

 

 

クジャク「で、どうだい?」

 

 

アカンコウ「クジャク様、ナイスアイディア!!」

 

ゴロリン「それで行こうでまんねん!!」

 

 

 

クジャク「よ〜し、直ちに引き返して出撃準備」

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市 市民病院

 

 

 

今日は雪菜の定期検診の日であり、私も付き合っていた。

 

いろいろリハビリで手伝えることがないかお医者さんに聞こうと思ってきたのだ。

 

 

医者「うん。握力も少しずつだけど戻ってきてるね。だけどあまり無理しちゃダメだよ」

 

 

雪菜「はい、ありがとうございます」

 

 

医者「お友達のおかげもあるかな。マッサージをするっていうのはなかなかいいことなんだよ」

 

 

美里「いえそんな…。こんなことしかできないなんて私は全然…」

 

 

雪菜「謙遜しないでよ。ありがとう美里」

 

笑顔でそう言う雪菜の顔が私には眩しすぎた。

 

 

全部私のせいだ、私はあなたの友達なんて名乗れない。そう大声で叫びたかった。

 

それをしないことがどれだけ卑怯かわかっていながら…

 

 

 

 

 

雪菜(美里にまでこんなに迷惑をかけて…キュア・インフェルノ、絶対に許さない!!)

 

俯いている美里を見ながら、雪菜は一人さらに決意を新たにしていた。

 

 

インフェルノが多くの人を傷つけていたことは知っていたが、こうして自分が当事者になるとそれがどういうことかよくわかった。

 

 

プリキュアになって以来すでに二度戦っているが、彼女自身はできるだけ周りを傷つけないように気を使っていた。

 

 

幸いにして、コキュートスの武装は小回りがきく分威力が低いため周辺への影響が出にくいのは雪菜にとってもありがたかった。

 

 

雪菜(でも、私自身がもう少し強くならないとインフェルノには勝てない…。あいつがどこの誰かさえわかれば…)

 

 

 

 

 

そんなこんなで混雑していた病院の検診が終わった頃には、すでに日が沈みかけていた。

 

 

美里「じゃあね雪菜。また明日ね」

 

雪菜「今日はありがとう美里。じゃあね」

 

 

私は雪菜の家の前まで鞄を持っていった。雪菜は遠慮したが、無理はしないようにとのお医者さんの言葉を盾に半ば強引にそうしたのだ。

 

 

雪菜と別れた後の帰り道、私はぽつりと呟いた。

 

美里「また明日…か…。いつまでこんなことが言えるんだろう…」

 

 

メル「…あの…美里。思い切って本当のことをいってみたらどうメル?」

 

 

鞄の中からメルがおずおずと見るに見かねたようにそう提案してきた。

 

 

美里「うるさいなぁ…わかってるわよ。わかってるけど…」

 

 

本当はわかっている。

 

本当のことを言い、謝罪する。実に簡単で当たり前のことである。

 

でもそれをしてしまえば、私は完全に何もかも無くしてしまう。

 

いや、ただ一つ残るものがある。

 

 

復讐者、キュア・インフェルノとしての顔。あの赤い仮面が私の素顔になってしまうだけのことだ。

 

 

初めのころはそれでもいいと思っていた。何もかもなくしたと思っていたからだ。

 

でも私には友達がいた。

 

私を支えて力になってくれる友人が。

 

 

それに気づかず仮面を被り続けた結果、私はその大切なものの一つを壊してしまった。

 

あの仮面を被り続けることでどこに近づき、次にどんなものを失うのかと思うと今は怖くて仕方がなくなってきた。

 

ただ、その仮面を自分の意思で外せなくなってきているとも感じていた。

 

家族を目の前で殺されたことは今でも時々夢に見るぐらいであり、当然復讐心も消えることがない。

 

結局どっちに転んでも今の状態から抜け出せなくなっているのだ。

 

 

そうやって足りない頭で悩みながら歩いていると鞄の中のメルが震えだした。

 

必死に震えを抑えようとしていたようだったが、私には無理をしているのがバレバレだった。

 

 

美里「メル、無理しなくていいよ。さっ行こう」

 

メル「美里…これ以上美里に無理はさせられないメル…」

 

 

こいつはこいつで私のことを気遣ってくれているのはわかる。でも…

 

 

美里「無理はしてないわ。でも、戦ってる間だけは頭の中がスッキリするから」

 

 

そんな私を見て、無言のままメルはスマホに姿を変えた。

 

美里「…プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包み、仮面を装着していた。

 

 

 

 

 

一方

 

 

 

 

ミプ「闇の力を感じたミプ…でも…」

 

 

スマホから変身解除したミプが雪菜に言いにくそうにそう告げた。

 

雪菜「どうしたの? 行くわよ」

 

帰宅して制服のまま夕食を終えた後、入浴をしようか宿題をしようかと考えていたところに、最優先事項が飛び込んできた雪菜はミプを急かした。

 

 

ミプ「約束してほしいミプ。インフェルノとは戦わないって。でないとミプは雪菜を変身させないミプ」

 

 

雪菜「それでいいのかしら? 私が戦わなかったらプリキュアはインフェルノだけになる。あいつの力はかなり研究されてるみたいだし、一人だけだとやられるのも時間の問題じゃないかしら? そうなったらあなただって困るんじゃないの?」

 

ミプ「う…」

 

ミプはインフェルノの戦いを陰ながら見ており、最近苦戦が多くなっているのを感じていた。

 

だからこそ、プリキュアになれる少女を探していたのだから、雪菜の言い分に反論できなかった。

 

今雪菜に戦いを完全にやめられたら、またプリキュアになってくれる少女を探さなければならない。

 

はっきり言って、先の少女に断られた後すぐに雪菜に出会えたことは奇跡に近かった。

 

そのため、何も言い返すことができないままもう一度スマホに変身した。

 

 

それを見届けると、雪菜は満足そうな笑みを浮かべ、たどたどしく鍵の形のアプリをタッチした。

 

その笑顔は、中学生の少女が浮かべるにふさわしくない、かなり醜悪なものであったが。

 

 

雪菜「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

 

青い仮面を装着して変身完了すると、そのまま青白い玉に変化しコキュートスは窓から飛び立った。

 

 

 

その光景を悲しそうな目で見上げる人物が一人いた。同居している雪菜の祖母である。

 

 

雪菜祖母「雪菜…あまり馬鹿なことをするんじゃないよ…」

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市内某所

 

 

 

巨大なカモメ型メカが市街地を悠々と飛翔し、爆撃を行っていた。

 

もっとも、できる限り人が少ないところを狙っているため人的被害は最小限に抑えられていたが。

 

 

クジャク「よ〜し、張り切っていくよ。大量にブラックエナジーを収集して大神獣を復活させるんだよ」

 

アカンコウ「お任せください。このカモメ型ベースアニマル、マーマーくんで一気にブラックエナジーを集めてみせましょう」

 

ゴロリン「そうでおま、今回で最後の出撃にする覚悟でまんねん」

 

三獣士の士気は、先だっての気分は何処へやら相当なものだった。

 

 

 

クジャク「そうさ。あんなモヤみたいに実体のないやつだからどうすることもできないけど、復活さえさせちゃえば正面切って戦うことだってできる」

 

アカンコウ「それにあいつ、私たちに頼らなきゃ復活のエネルギーもまともに集められないような奴です。復活したって神様みたいになんでもできるような奴じゃないですよ」

 

ゴロリン「それに、かなりプリキュアを恐れてるでまんねん。きっとあいつらとまともに戦うと勝てない可能性が高いでおます」

 

 

三人の考えはこうだった。

 

大神獣の力がどの程度かはわからないが、少なくとも現状では大神獣がどこにいるかもわからないから手出しすることができない。だからとりあえずブラックエナジーを収集して大神獣を復活させる。

 

ただし、そのまま傘下に加わるつもりはない。そのまま裏切るつもりなのだ。

 

大神獣と敵対しているプリキュアに自分たちが味方すれば大神獣には味方がいなくなる。

 

そのままプリキュアと一緒になって、大神獣を倒してしまえば万々歳というわけである。

 

 

クジャク「幸い、私たちのことは世間に知られてないしプリキュアも私達のことを知らない。予算さえ残しておけば後でどさくさ紛れに普通の生活に戻れるはずだ」

 

アカンコウ「その通り、人生は平凡が一番!!」

 

ゴロリン「そうでおま、わてが言うんやから間違いおまへん」

 

 

そうして、爆撃を続けていると空に光るものが見えた。

 

 

クジャク「来たぞプリキュアだ。いいかい、いつものように大神獣の機嫌を損なわないよう本気で戦いつつ、あいつをやっつけてしまわないように手加減して、こっちが怪我しないように適当にやられて無事に逃げるんだよ」

 

 

アカンコウ「考えてみれば無茶苦茶ですね、もう」

 

 

愚痴りつつも、そうせざるを得ないとアカンコウは感じていた。

 

ここで自分たちが死ぬことはもちろん、プリキュアにやられてもらっても困る。

 

いつもの通りのこととはいえ、狙ってやるとなると案外難しそうであった。

 

 

 

 

インフェルノ「あんなことして、また多くの人を傷つけてる…絶対許さない!!」

 

自分のことを棚に上げてよく言うとは自分でも思うが、連中が許せないのは本当である。

 

私はいつものように近くのビルに着地すると、いつものように憎悪を込めた目で連中をにらみつけた。

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェル…」

 

そしていつものように名乗りを上げようとした瞬間、異変が起きた。

 

 

上空で飛翔しながら爆撃をしていたカモメ型メカの動きが突然止まり、落下し始めたのだ。

 

 

インフェルノ「え? 何々?」

 

予想外のことに少し戸惑ったが、爆撃が止んだことで聞こえなかった音が聞こえて疑問は氷解した。

 

 

〜♪〜♫〜♪〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

インフェルノ「この笛の音は…そういうことか…」

 

 

背筋が凍るかと思うほどゾッとするような笛の音が聞こえてきた方に目をやると、案の定横笛を吹いている少女がいたのだった。

 

 

その青い仮面の少女はカモメ型メカが地面に墜落したのを見届けると、笛を吹くのをやめ、氷のように冷たい声で静かに名乗った。

 

 

コキュートス「絶望の果てより来りしもの キュア・コキュートス」

 

 

 

そしてコキュートスは、墜落したメカにはもう興味がないとでも言わんばかりに一瞥もせず、右腕をガトリングガンに変え、氷の弾丸を私に向けて乱射してきた。

 

 

インフェルノ「くっ!!」

 

私はとっさにビルの屋上から飛び降りて弾丸を回避し、そのままコキュートスに飛びかかった。

 

 

インフェルノ「どういうつもりよ、いきなり!!」

 

私はガトリングガンに変化したコキュートスの右腕を押さえながら詰め寄った。

 

 

コキュートス「物覚えが悪いみたいね。言ったはずよ、あなたを殺してやると!!」

 

そう叫ぶとコキュートスは私が押さえていた右腕を力任せに振り回して、私を振り払った。

 

 

 

コキュートス「アイス・エッジ!!」

 

そして、右腕を刃に変えて私に斬りかかってきた。

 

 

インフェルノ「当たるか!!」

 

コキュートスの刃は、彼女の地力不足もあるのかただ単調に振り回してきているだけであるため、かわすのは比較的容易だった。

 

しかし気は抜けない。

 

事実今彼女の振り回した右手の刃は、電柱を軽く切り倒したからだ。

 

まともに食らっていればどうなるかは推して知るべしである。

 

 

インフェルノ「ちょっとアンタ! あのメカはどうでもいいわけ!? こないだもそうだったけど放ったらかしじゃない!!」

 

私はコキュートスの攻撃をかわしながら、私に対してのみ執拗に攻撃を仕掛けてくる彼女に詰問した。

 

 

コキュートス「何度言わせるつもりよ!! 私の目的はあなたを殺すことよ。あんな奴は二の次三の次よ!!」

 

そう叫ぶと今度は右手を、棘の付いた巨大な氷の球がある瓢箪型に変えて、ロープのつながったそれを力任せに振り回してきた。

 

コキュートス「砕け散れ!! クリスタル・スター!!」

 

 

 

 

インフェルノ「ぐぅっ!!」

 

コキュートス「なんですって!!」

 

私は自分に向けて飛んできた氷球を大ダメージ覚悟で真正面から受け止めた。

 

予想よりダメージは大きかったが、自慢の氷球を受け止められたコキュートスの動揺も相当なものだったようだ。

 

 

インフェルノ「よ〜くわかったわよ。アンタはいい奴かと思ったけど、私と一緒よ。自分のことしか考えてない最低な奴よ!!」

 

私は吐き捨てるように彼女をそう評し、受け止めていた氷球を高熱で溶かし粉々に砕いた。すると

 

 

コキュートス「どの口が言う!!」

 

コキュートスは凄まじい怒声とともに飛びかかり、左手で私を殴りつけてきた。

 

 

コキュートス「あんたみたいな奴に最低なんて言われる筋合いはないわ!! このクソ女!!」

 

コキュートスに殴り倒された私はマウントポジションを取られた。

 

そのままコキュートスは怒りのままに私に拳を振り下ろしてきた。

 

 

インフェルノ「ぐはっ…!!」

 

馬乗りになられて何発も殴られた私は口の中を切ったらしく、血反吐を生まれて初めて吐いた。

 

 

それを見たコキュートスは、とどめとばかりに大きく拳を振りかぶった。

 

コキュートス「死ね!! クソ女!!」

 

 

私はその拳をなんとかかわすと、逆にコキュートスを押し倒した。

 

インフェルノ「クソで結構!! あんただって似たようなもんでしょうが!! もう迷わない、あんたは敵よ!! ぶっ殺してやる!!」

 

私は怒りのままにコキュートスを胸ぐらを掴み上げ、そう吐き捨てた。

 

 

 

コキュートス「ふざけるな!! こっちのセリフよ!!」

 

インフェルノ「それ以上しゃべるな!! 耳障りよ!!」

 

 

私たちは取っ組み合いながら地面に転がり、互いの胸ぐらを掴みあい罵り合い、殴り合っていた。

 

 

 

 

 

クジャク「おいおいおいおい。あいつら仲が悪いにもほどがあるだろう」

 

自分たちそっちのけで醜く争い合う二人のプリキュアを見て、クジャクは呆れたような声を出しつつも、内心かなり焦っていた。

 

クジャク「おい! 早く割り込むんだよ。あいつらが一人でも欠けちゃったら大神獣とやりあう時の戦力が減っちゃう!!」

 

 

アカンコウ「わかってますよ。よ〜く狙いを外して、ポチッとな」

 

 

そうしてアカンコウがスイッチを入れると、カモメ型メカのマーマーくんは口から巨大な爆弾を発射した。

 

プリキュアに当てないように狙いを外したつもりだったが、目の前で争いあっている二人は逆に当たりにくる形になってしまった。

 

 

クジャク「バカ!! なんで当てちゃうんだよ!!」

 

アカンコウ「あいつらが動き回るからですよ。こっちはちゃんと狙い外したってのにもう」

 

プリキュアに直撃した爆弾はもうもうと煙を巻き上げ、完全に視界を奪っていた。

 

ゴロリン「あきまへん。煙で前が完全に見えまへん。プリキュアを見失いました」

 

 

クジャク「え〜い。こんな程度でやられるような奴らじゃないだろうけど、怪我でもされてたら厄介だよ」

 

アカンコウ「しかし、予想外に煙が多いな。大神獣が復活しかかってるから闇のエネルギーも増大してるのかなぁ」

 

 

クジャク「いいから。早くこの煙をなんとかしな」

 

アカンコウ「わかってますって」

 

そうして、アカンコウはメカを操作して翼を大きく拡げさせ、羽ばたかせることで煙を払おうとした。

 

 

 

 

 

インフェルノ・コキュートス「「キャアアアア!!」」

 

 

キャットファイトを繰り広げていた私たちは、墜落したカモメ型メカの事など完全に頭から飛んでいた。

 

だから予想外の方向からのミサイル攻撃に全く対応できず、まともに直撃を受けて吹き飛ばされた。

 

 

 

美里「ぐうっ!!」

 

私は吹き飛ばされた先で地面に思い切り叩きつけられた。

 

美里「イタタ…って変身が解けてる!!」

 

私は慌てて周りを見渡したが、一面が爆煙で包まれており、メルの姿どころか一寸先もまともに見えなかった。

 

 

美里「ケホケホ。メル、どこにいるのよ?」

 

煙に咳き込みながらも、メルを呼ぶと

 

 

メル「ケホケホ、ここメル〜」

 

同じく咳き込むようにメルの声が聞こえた。

 

 

 

美里「そこね。動くんじゃないわよ」

 

 

私は声のした方に手探りで向かい、足元をまさぐるとぬいぐるみみたいな感触がした。

 

美里「見つけた。さっ、もう一度変身よ」

 

そう言って手を引き上げた。

 

ミプ「ミプ? あなたがキュア・インフェルノミプ?」

 

 

しかし、そこにいたのはメルとは違う妖精だった。

 

 

美里「何よアンタは? まさかコキュートスの?」

 

驚いていると、目の前の煙が少し晴れた。

 

 

そして、目の前でメルを抱えていた存在に私は絶句した。

 

 

 

 

美里「雪菜…」

 

雪菜「えっ? 美里…」

 

 

 

 

今ここにいる理由。そしてお互いの手の中にあるもの。

 

 

それらから、すべてを理解した私たちは固まってしまった。

 

 

美里「あ…あぁ…」

 

雪菜「う…あ…あ…」

 

 

 

次の瞬間、猛烈な風が巻き起こり、辺りを包んでいた煙ごと私たちは大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

美里・雪菜「「キャアアアア!!」」

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第13話に続く

 

 



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第13話「R達の苦悩」

 

 

美里・雪菜「「キャアアアア!!」」

 

 

目の前の現実に無言のまま固まっていた私達は、猛烈な突風に大きく吹き飛ばされた。

 

 

美里「メル!!」

 

雪菜「ミプ!!」

 

私達の声に相手の腕の中にいた妖精たちはスマホに変身して、それぞれの所に飛んできた。

 

 

美里・雪菜「「プリキュアマスクチェンジ!!」」

 

 

その叫びとともに赤と青の光が発生し、私達はドレスを身にまとい、その光の色を基調にした仮面を装着していた。

 

 

そしてそのまま空中で姿勢を立て直し無事に着地した。

 

 

すると、先ほどの風を引き起こした張本人の姿が目に入った。

 

 

インフェルノ「あのメカ。よくもやってくれたわね!!  プリキュア・ヒート・カッター!!」

 

右手を上げて手刀を振り下ろすと、私の右手から半月状の炎の刃が飛んでいき、カモメ型メカの羽を根元からバッサリと焼き切った。

 

 

 

 

コキュートス「よくも邪魔を!! 絶対に許さない!!」

 

コキュートスもまた右腕を鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させ、ロープを打ち出した。

 

コキュートス「クリスタル・ビュート!!」

 

 

そのロープに絡め取られたカモメ型メカは、絡みついた所から凍りつき始めていた。

 

 

コキュートス「ヤァアアア!!」

 

 

それを確認したコキュートスは左腕で右腕を掴んで振り回すようにして、カモメ型メカを大きく投げ飛ばした。

 

 

凍りかけた状態で地面に思い切り叩きつけられたカモメ型メカは全体がヒビだらけになっていたが、まだかろうじてではあるが動いていた。

 

しかし、羽を切られた上絡め取られたロープの問題もあり、逃げることはできないようだった。

 

 

その姿を見た私はチャンスとばかりに大きく両腕を振りかぶり燃え上がらせた。

 

 

インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

 

その叫びとともに投げつけられた炎の塊が直撃すると、カモメ型メカは全身を炎に包まれ大爆発を起こした。

 

 

 

 

その爆発にまぎれて、三獣士はなんとか脱出していた。

 

 

アカンコウ「ふう〜。炎だけじゃなく低温にも強いようにメカの装甲や脱出装置を改造しといて正解でしたね」

 

ゴロリン「全くでまんねん」

 

クジャク「そうだね。それよりさ、あいつらの姿見たかい?」

 

 

アカンコウ「はい。一瞬でしたがモニターに映ってました。画像データは保存してありますから帰ったら補正してみましょう」

 

 

 

 

 

インフェルノ「はあはあ…」

 

コキュートス「ふう〜…」

 

 

私達は目の前の爆炎を見ながら、一息ついていた。

 

 

そしてゆっくりと仮面を身につけたお互いの顔を見合った。

 

 

 

インフェルノ「…」

 

コキュートス「…」

 

 

私達は見つめ合いながらも無言だった。

 

 

今さっきまで罵り合い、本気で殺そうとしていた相手。

 

それは、私達が誰よりも知っている人間だった。

 

 

 

インフェルノ(雪菜…)

 

コキュートス(美里…)

 

 

しばらく見つめあった後、私達は何も言わないままに踵を返し、別々の方向へと飛び立っていった。

 

 

 

ネローベ学園

 

 

 

理香「ねぇ、美里。雪菜とケンカでもしたの? ここんとこ話するどころか挨拶もしなけりゃ目も合わせないじゃない」

 

理香の言う通りだった。

 

あれから一週間、私と雪菜は挨拶をかわすこともせず、お互いに近寄ろうともしない。

 

美里「う、うん。ちょっとね…」

 

 

本当はケンカどころの騒ぎではないのだが、それを言うわけにはいかなかった。

 

 

理香「そっか…早く仲直りしなよ。私や久美も寂しいからさ」

 

美里「うん、ありがと」

 

 

そんな理香に、私は愛想笑いをするしかなかった。

 

美里(仲直りなんてもうできない…。雪菜とは絶交しちゃったもんな…)

 

 

実際に何を言った言われたというわけではないが、雪菜とは友達でなくなってしまったことだけは自分が一番よくわかっていた。

 

 

 

 

 

久美「雪菜。美里と一体何があったの? 相談に乗るよ」

 

雪菜「ありがとう…。でもこれは私達の問題だから…」

 

雪菜(本当は初めから薄々分かっていた。それを無意識のうちに考えないようにしていた…)

 

 

ミプからプリキュアになってくれるように頼まれた日、なぜ自分なのかという理由を訪ねた時に、もしかしたらという思いはあった。

 

自分が変身できるなら、あの時一緒に雑木林で迷い、同じように不思議な光を見た人間である美里もプリキュアになれるはずだからである。

 

雪菜(ずっと考えないようにしていた…。ううん違う、必死に思い込もうとしていた。美里があんなことする人じゃないって…)

 

雪菜は自分の右腕を左手でぎゅっと握りしめた。

 

 

雪菜(わかってる、美里にそんなつもりがなかったことは…。それにあの後もずっと私を気遣ってくれた…。でも…)

 

暗い顔でうつむきながら、雪菜は美里に対する思いを巡らせた。

 

 

雪菜(幼馴染…ゲーム友達…親友…支えてあげたい人…夢を奪った人…そんな私を支えてくれた人…殺したいと思った人…。一体どれが本当の美里なんだろう…)

 

 

 

 

 

 

ネローベ学園 屋上

 

 

 

美里「ふう…」

 

放課後、私は屋上から町並みを見下ろしながら、一人ため息をついていた。

 

ここから見える町並みはここ数ヶ月で随分変わった。

 

 

かなりの数の建物が倒壊し、あちこちが更地になっている。

 

この学校の生徒だって、疎開と称してポツポツ転校しており空席が増えていっている。

 

しかも、その原因の大半は私である。

 

復讐と称してなりふり構わず怒りのままに戦った結果、私はあれほど大切にしていた平穏な日常の全てを無くしてしまった。

 

 

美里(私が傷つけた人は雪菜だけじゃない…。もっと多くの人を傷つけて平和な日常を奪い悲しませた…。雪菜一人にも償いができないのに、一体どうすれば…)

 

 

 

久美「わっ!」

 

暗い顔で町を見ていた私に背中から久美が脅かしてきた。

 

 

美里「ひゃっ!! 何よいきなり!!」

 

 

久美「ごめんごめん。でもらしくないよ、ため息ついちゃうなんてさ。そんなに雪菜と仲直りしにくいの?」

 

美里「えっ? う、うん」

 

私は曖昧な返事をするしかなかったが次の質問に一瞬心臓が止まった。

 

 

 

久美「ねぇ、もしかして悩んでるのって、美里がプリキュアやってて雪菜を傷つけたから?」

 

 

美里「な、なによ一体!? なんのこと言ってるのよ!」

 

あまりにも予想外すぎる久美の言葉に、私は動揺しまくった。

 

 

久美「ああ。別に誰にも言ってないし言うつもりもないからから心配しないでいいわよ。それより、美里の悩みってのは、やっぱりそれみたいね」

 

 

私は金魚のように口をパクパクさせながら、必死に声をひねり出した。

 

美里「な、な、なんで、そ、そ、そのことを! いやそれより、あれ、その」

 

 

久美「なんで知ってるかって? 私もさ、プリキュアやらないかって妖精に誘われたんだ」

 

 

久美は、私の横に来て屋上の安全柵にもたれるようにして話し出した。

 

 

久美「美里が風邪ひいた時あったじゃない。あの時に変だなって思ったのよ。ペットも飼ってないのに猫缶の空き缶捨ててたでしょ」

 

美里「あ…」

 

 

久美「そのすぐ後だったかな。妖精だって言う変な生き物が、プリキュアになってくれないかって頼みに来たのよ。子供の頃に妖精の光を見たことのある私ならプリキュアになれるって」

 

美里「そ、それで…」

 

私は息を飲んで久美の話を聞いていた。

 

 

久美「はじめはさ、私も特別な人間なんだって喜んだわ。でも、やるのは殺し合いでしょ。いざって時になって怖くなってやめちゃった。あんなことできるなんてどっかおかしい子だと思っちゃったよ」

 

美里「…」

 

 

 

久美「でもね、特別じゃないってわかったのが却って嬉しかった。友達と笑ってられる平凡な日常、それが大切なことなんだって。美里もわかってるんじゃない? 本当はなにが一番大切なのか」

 

そう言うと、久美は私を一人残し屋上から去っていった。

 

 

美里「私の、一番大切な物…」

 

 

 

 

雪菜「ふう…」

 

雪菜は放課後の教室で一人悩んでいた。

 

 

昨夜、祖母に言われたことを思い返していたのだ。

 

 

 

 

回想 昨夜 叶家

 

 

戦いを終えて家に帰った後、雪菜は部屋で一人机に向かって悩んでいた。

 

雪菜(私の夢を奪った人、多くの人を傷つけていた人。それが美里…。私はどうすれば…)

 

そうしているとふと右腕がズキリと傷んだ。

 

 

その痛みがキュア・インフェルノの仮面を思い出させ、憎しみを思い起こさせたが、すぐに美里の顔が浮かんだ。

 

 

雪菜(キュア・インフェルノが憎い…殺してやりたい…でも美里を憎みきれない…)

 

事情を察した今、美里の戦っている理由もおぼろげながら想像がついていた。

 

だからこそ尚更、一方的に美里を憎みきれなかった。

 

 

雪菜「あーもう」

 

雪菜は左手で頭をかきむしると立ち上がりピアノの前に座った。

 

 

そこではたと気がついた。

 

 

雪菜「あっ…そうだった…習慣になってるから…」

 

 

 

何か悩んだりしていることがあると、雪菜はよく好き勝手にピアノをかき鳴らしていた。

 

そうしている間だけは余計なことを考えずに済んだからだ。

 

しかし、今ではそれもできずそれを奪った物への憎しみが再燃し、そして…。

 

 

 

雪菜の思考は完全な堂々巡りに陥っていた。

 

 

 

雪菜祖母「雪菜、入るよ」

 

そんな時、部屋のドアが開き祖母がお茶を持って入ってきた。

 

 

 

 

雪菜「ありがとう、おばあちゃん。それよりどうしたの?」

 

日本茶を飲んで少し気分が落ち着いたところで、雪菜は尋ねた。

 

 

雪菜祖母「雪菜、プリキュアをやることに悩んでるのかい?」

 

突然のことに雪菜は、口にしていたお茶を吹き出した。

 

 

雪菜「ゲホゲホ。な、なにをいきなり!?」

 

 

雪菜祖母「これでもあなたのおばあちゃんですからね。大抵のことはわかりますよ」

 

この祖母はのんびりしているようで、子供の頃からなんでもお見通しだった。

 

にっこりと笑っていう祖母に雪菜は改めて敵わないと思い、全てを話した。

 

 

 

雪菜祖母「…そう、美里ちゃんがね。それであなたはどっちが大事なのかしら?」

 

雪菜「えっ?」

 

 

雪菜祖母「そのままの意味よ。あなたがずっと努力していた夢とずっと一緒だった美里ちゃん、あなたにとってはどっちの方が大切だったのかしら?」

 

雪菜「それは…」

 

 

黙りこくってしまった雪菜に、祖母はにっこりと優しい笑みを浮かべて続けた。

 

雪菜祖母「すぐに答えなくてもいいわ。ただ、絶対に後悔しないようにしなさい」

 

 

回想終わり

 

 

雪菜「私の大切な物…それは…」

 

 

 

 

 

 

ネローベ学園 校門前

 

 

 

ここに、校門から中をうかがっている三人がいた。

 

クジャクたち三獣士である。

 

 

アカンコウ「画像データの補正と解析に時間がかかりましたが、プリキュアに変身していた二人は、間違いなくここの制服を着てました」

 

そう言って、アカンコウは懐から二枚の写真を取り出した。

 

それは、先の戦いでの画像データから解析・補正した美里と雪菜の顔写真だった。

 

 

アカンコウ「そんでもってプリキュアはこの二人で間違いないと思いますけど肝心の名前がわかりませんし、どうやって接触します?」

 

クジャク「幸いここの校門はここ一つだけみたいだからさ。ここで張り込んで出てきたところを捕まえるか」

 

ゴロリン「でも、効率が悪すぎるでまんねん。二三人に聞いてみた方がええんやおまへんか?」

 

クジャクの提案にゴロリンがそう進言した。

 

 

 

クジャク「う〜ん。じゃあ今出てきたあの子に聞いてみようか」

 

 

アカンコウ「よし、じゃあ私が」

 

そう言ってアカンコウは前に出たが

 

 

クジャク「ばかだねぇ。ただでさえこのご時世、中学生に話しかけるのはまずいのに、人外のものが話しかけたら一発で通報されるよ。私に任せな」

 

アカンコウ「コケ!!」

 

その言いようにアカンコウはこけた。

 

 

 

 

理香「はあ〜。美里と雪菜はケンカ中、久美もなんか用事があるみたいだし。一人はやっぱり寂しいな」

 

 

友人たちといつもつるんでいる理香だったが、珍しく一人であり寂しさの入り混じったため息をついて、一人下校しようとしていたら

 

 

クジャク「あのお嬢ちゃん」

 

理香「はい?」

 

校門のところで突然呼び止められた。

 

 

クジャク「ちょっとお聞きしたいんだけど、この子たち見たことないかしら?」

 

そう言って、理香は二枚の写真を見せられた。

 

 

理香「いえ、知りませんけど。この学校の人達ですか?」

 

クジャク「ああ、いえね。ちょっとお世話になったからお話がしたくて探してるんだけど」

 

理香「そうですか。でもこの辺じゃ見かけない人達ですよ」

 

 

クジャク「あらそうですか。では失礼」

 

 

 

 

そう言って引き上げたクジャクは、校門から離れたところでアカンコウにひそひそ声で詰め寄った。

 

クジャク「ちょっとどういうことだい? この学校の生徒じゃないのか?」

 

 

 

するとアカンコウ達もひそひそと返事をした。

 

アカンコウ「調べましたよ。この制服はこの辺じゃここだけです」

 

ゴロリン「この二人あんまり知名度が高くないんかもしれまへんな。そうすると探すのは苦労しそうでおます」

 

 

クジャク「それじゃ困るんだよ。早いとこ連中と接触して、なんとか事情を説明して大神獣と一緒に戦ってもらわないと」

 

 

 

 

そんなひそひそ話をしているところへ理香が歩いてきた。

 

 

クジャク「あっまずい。ちょっとそこに隠れろ」

 

見つかると怪しまれてまずいと、三獣士はこそこそと物陰に隠れてやり過ごそうとした。

 

 

 

久美「理香〜」

 

理香「あっ久美、もう用事はいいの?」

 

久美「うん、とりあえずは大丈夫だと思う」

 

 

理香「そっか。それよりさ、さっき変な人達に美里と雪菜のこと聞かれたのよ」

 

久美「変な人?」

 

二人の事情を知っている久美は怪訝そうな顔をした。

 

 

理香「そっ。原始人が進化し損ねたみたいな人と、カッパが化け損なったような人と、昔美人だったことにしがみついてるみたいなおばさんよ。怪しさ満点だったから、知らないって答えたけど」

 

久美「ふ〜ん。まぁその方がいいよね。最近物騒だし」

 

 

 

 

 

その会話にクジャクは怒り心頭に達していた。

 

 

クジャク「あんのクソガキャ! 言うに事欠いて昔美人だったことにしがみついてるとはなによ! え!? 大人に対する口の聞き方というものを知らんのか最近のガキは!!」

 

アカンコウ「落ち着いてください、クジャク様。私達だって腹立つんですから」

 

ゴロリン「全くや!! 人をなんやと思てんねん!!」

 

 

今にも殴りかからんとするクジャクを、アカンコウとゴロリンも怒りを抑えながら必死に抑えていた。

 

 

アカンコウ「でも、これではっきりしましたよ。やっぱりあの二人はあの学校の生徒なんです」

 

 

クジャク「はあはあ。まあ確かにそうだね。じゃあ、近くで張り込んであいつらが出てくるのを待ってみようか」

 

二人に取り押さえられ、アカンコウの調査が正しかったことを理解し、少し興奮が冷めたクジャクは、二人にそう促した。

 

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

 

 

 

美里「私の大切な物…。そんな物はわかってる、だから…」

 

 

下校時刻になり、校内に下校を促す放送が流れる中、私は決意の表情で廊下を歩いていた。

 

 

すると、同じく決意の表情をして教室から出てきた雪菜と鉢合わせた。

 

 

雪菜(!! 美里…)

 

美里(雪菜…)

 

 

私達はそのまま廊下を並んで歩き、一緒に校舎を出た。

 

 

しかしその間、私達は一言も会話をせず、お互いの顔を見もしないままだった。

 

 

校舎を出た後も、ずっと無言のまま並んで歩き続け、交差点で挨拶もないままに別れた。

 

 

私達の間の緊張感に耐えられないのか、カバンの中のメルもまた一言も発しないまま始終震えっぱなしだったが、そんなことはどうでもいい余談である。

 

 

 

 

一方

 

 

 

ゴロリン「あっ出てきました! あいつらでまんねん」

 

怪しまれないよう少し離れたところから、校門を見張っていた三獣士はようやく出てきた美里と雪菜に歓喜した。

 

クジャク「よし。早くとっ捕まえて、事情を説明するんだよ!!」

 

アカンコウ「ハイな!!」

 

 

なんとかプリキュアに味方になってもらいたい。

 

自分たちの平穏のためにも、三獣士は必死だった。

 

 

バタバタと走りより、二人に声をかけようとした時だった。

 

突然黒いモヤのような物が三人を包み込んだ。

 

 

 

アカンコウ「げっ!!」

 

クジャク「これは…!!」

 

 

 

三人の嫌な予感は見事的中し、今一番聞きたくない声がモヤの中から響いてきた。

 

 

大神獣「三獣士よこんなところで何をしている?」

 

 

ゴロリン「い、いえ。プリキュアがどこの誰か探そうとしてたところで…」

 

クジャク・アカンコウ((ばっ、馬鹿っ!!))

 

 

ゴロリンのうかつな発言にクジャクたちは慌ててその口を塞いだ。

 

 

大神獣「何? プリキュアの正体? それで収穫は?」

 

 

アカンコウ「いえ、それがこの近くのやつらだろうとは思うんですけど、やつらもなかなか尻尾を出さなくて」

 

クジャク「そ、そうなんです。連中といえどもそこまで馬鹿ではないようで」

 

 

大神獣「ふん、そんなところだろう。ならば時間の無駄だ。至急ベースアニマルを出動させろ。われが完全復活するためのブラックエナジーはもうすぐで集まる。良いな、急ぐのだ」

 

 

クジャクたちの言い訳に、大神獣は見下したようにそう言い放ち、モヤは晴れていった。

 

 

それを確認すると、緊張の糸が切れたように三人は大きな安堵のため息をついた。

 

しかし、三人の心の中はまるで晴れなかった。

 

 

アカンコウ「まったく、いらんこと言うから寿命が縮んだじゃない。プリキュアの変身前を襲って殺せなんて言われたらどうするつもりだったのよ?」

 

クジャク「そうだよ。そんなことになったら私達一生あいつの奴隷だよ!!」

 

 

ゴロリン「すんまへん。つい口が滑って…」

 

 

クジャク「まぁなんとかごまかせたからいいけど、あいつら見失っちゃったね」

 

アカンコウ「仕方ありません。それより、大神獣ももうすぐ復活するみたいです」

 

 

クジャク「そうだね、問題はそれだ。よし、出撃してブラックエナジーを集めたら即座にあんな奴とはおさらばだ」

 

 

その言葉に、アカンコウとゴロリンは力強く頷いた。

 

アカンコウ「はい、この時のために完璧な設計を施した最強最後のベースアニマルをお目にかけますよ」

 

ゴロリン「目指すは明るい未来でまんねん」

 

 

クジャク「ふっ、頼もしいねぇ。よーし、これが最後の戦いだ。気合い入れていくよ!!」

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第14話に続く

 

 

 



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第14話「Rの真実」

この作品に登場している敵メカ ベースアニマルですが、モチーフはセパ両リーグのチームマスコットです。

そして最後のモチーフは… ちょっとひねってあります


???

 

 

これでもう大丈夫。みんな幸せに暮らすことができます。

 

 

(やった、ありがとう)

 

(おかげで助かったよ)

 

 

 

 

私に任せてください。こんな時のための力です。

 

 

(やっぱりすごいな。あいつって)

 

(でもなんか怖いな。俺たちが束になってもできないことを一人でやってのけるんだぜ)

 

 

 

 

私はみんなの役に立ちたくてこうしているだけです。

 

 

(いや、もういいよ。なんか俺たちが惨めになってくる)

 

(あんたに頼りすぎるのもちょっとな)

 

 

 

なぜですか、私は別に何も!!

 

 

(もう話しかけてくんな!! 俺たちまで化け物と思われるだろ!!)

 

(みんなお前が怖いんだよ。なんでも出来ちまうから)

 

 

 

やめて!! 私にそんなつもりはない!! みんなと幸せに!!

 

 

(じゃあ消えろ!! 俺たちが幸せになるために!!)

 

 

 

なんで? なんでなのよ!?

 

 

 

 

「…許さん、絶対に!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

アカンコウ「ご覧ください。これが21世紀最高の天才である私がその持ちうる才能の全てを駆使して作り上げた最強最後のベースアニマル、満を持して登場した虎型メカのトラッキーです」

 

 

ゴロリン「…来るとこまで来たっていう感じの、そのまんまなネーミングでんな」

 

クジャク「しかしさぁ、これは虎っていうよりも…」

 

 

今目の前にいるベースアニマルは黄色い体に黒い縞模様をしており、確かに虎柄ではあるが、二本足で立っている上、どこか起き上がり小法師のような丸っこい体型と手足をしていた。

 

おまけにヒゲこそあるものの爪も牙もないため、虎のスマートな勇猛さは微塵も感じられなかった。

 

 

アカンコウ「何をおっしゃいますか!! この丸っこい体型からは確かに想像しにくいでしょうが、軽々とバク宙をこなし自分の身長ぐらいの高さまでジャンプしてドロップキックを行えるほどの素晴らしい身体機能を有しています!!」

 

ゴロリン「しゃあけど、それだけやと不安でおま。なんか武器みたいなもんはありまへんのか?」

 

ただ力があるだけでは勝てそうもない、ゴロリンが不安げに尋ねた。

 

 

 

アカンコウ「フッフッフッ、心配するな。このアカンコウ、そのぐらいのことはきちんと考えてある。この見た目は伊達じゃねぇんだ」

 

アカンコウは不敵に笑い自信満々に続けた。

 

 

アカンコウ「見よ!! 頭には小さなプロペラが付いているだろう。だがこれは実は超小型反重力発生装置。このメカを包み込むように反重力場を発生させて空を自由に飛ぶことができます。さらにはショック型電撃銃や空気の衝撃波を発射する特殊なハンドガン、それ突撃とばかりに大量に出てくるミニ兵隊などといった特徴的な武器をおなかの半月状のポケットからいくらでも…」

 

 

クジャク「出さんでいい!!」

 

解説を続けるアカンコウの声を遮ってクジャクが怒鳴った。

 

 

クジャク「気にはしてたんだよ!! こいつは虎じゃなくてトラ猫だろうが!!」

 

 

アカンコウ「あら、さすがによく知ってますね。実は名前も悩んだんですよ。この見た目だしいっそのこと虎エモ…」

 

クジャク「その名前を言うんじゃない!! これ以上変なこと言う前に出撃!!」

 

クジャクのその号令に、アカンコウとゴロリンも決意の表情で答えた。

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

 

アカンコウ「では行きましょう。早速ポケットから特殊ワープマシン、どこにでもドアを…」

 

クジャク「だからそれ以上は言うな!! 出すな!!」

 

 

 

 

 

渚家

 

 

 

美里「ふうっ、これでよしっと」

 

 

私は家を徹底的に掃除していた。

 

一人暮らしだということもあり、必要最低限の掃除しかしていなかったうえ、家にいることもあまりなかったので、かなり埃がたまっていた。

 

そのため、この土日を丸々潰し、へとへとになってしまった。

 

 

美里「思ったより時間かかっちゃったな。もっとマメに掃除しとくんだった」

 

普段の生活を後悔したが後の祭りである。

 

 

メル「なんで今更掃除なんてするメル?」

 

汗びっしょりになっている私にメルがそう尋ねてきた。

 

 

美里「ん? 立つ鳥後を濁さずというか、身辺整理だけはしとこうかなって」

 

メル「ど、どういうことメル?」

 

 

私の言葉にメルもまた汗でびっしょりになっていた。

 

 

美里「そんなに気にしなくていいわ。さてと、もうすぐ洗濯も終わるかな♪」

 

 

 

私は鼻歌交じりにスキップして洗濯機のほうへと向かった。

 

 

メル(美里…どういうつもりメル…?)

 

 

キュア・コキュートスの正体を知って以来、美里は全く笑わなくなっていた。

 

 

それどころか、友人たちと過ごすこともなくなり誰も寄せ付けなくなってしまった。

 

 

 

それが突然この笑顔である。

 

メルでなくとも驚くというものである。

 

 

 

メル「!!」

 

 

そんな時メルは何かの気配を感じて飛び上がった。

 

いつもなら震えがくるぐらいなのだが、それ以上に強大な気配を感じたのだ。

 

 

美里「メル? どうしたの?」

 

いつも以上に慌てている様子のメルを見た私は、慌てて尋ねた。

 

 

メル「いつもよりはるかに巨大な闇の力を感じたメル。もしかして大神獣が復活しかかってるのかも…」

 

 

そのメルの言葉が言い終わるか終わらないかのうちに、私は凄まじい形相でメルを締め上げた。

 

 

美里「大神獣!? 本当でしょうね!?」

 

メル「ぐ、ぐるじいメル…。わかんないけどもしかしたら…」

 

美里の突然の変貌に混乱しつつ、首を絞められたメルは必死にそう絞り出した。

 

 

美里「まぁいい。今日こそあいつをぶち殺してやる!! 行くわよ!!」

 

私は吐き捨てるようにそう言うと、メルを促した。

 

 

メル「美里…復讐はやめたんじゃ…大切なもののためにも…」

 

そうふざけたことを尋ねてきたメルを私は蹴り飛ばした。

 

 

美里「ふざけんな!! 私は復讐鬼、キュア・インフェルノよ!! あいつらをぶち殺す以上に大切なことが今の私にあるもんか!!」

 

 

メル「美里…一体どうしてしまったメル…?」

 

ここしばらく、正確にはあの発表会の日以来、こんなに復讐心をむき出しにしたことはなかった。

 

もっとも、最近はそれ以上に不安定になっていたので、それはそれで不安だったのだが。

 

 

 

美里「ぐたぐた言ってんじゃないわよ!! 早くしろ!!」

 

メル「わ、わかったメル」

 

 

凄まじい形相でなおも詰め寄ると、メルは怯えたようにスマホに変身した。

 

 

私はそれをひったくるように掴むと鍵の形のアプリをタッチして起動させ叫んだ。

 

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

次の瞬間、私は赤い光とともに深紅のドレスに身を包んでいた。

 

そして、赤い仮面を装着して変身を完了した。

 

 

 

 

叶家

 

 

 

雪菜「う〜ん、やっぱりここがいいかしら。家からも近いし」

 

ミプ「雪菜、何をさっきから見てるミプ?」

 

 

机の上いっぱいに広げたカタログらしきものをずっと見ている雪菜に、ミプは尋ねた。

 

 

雪菜「ん? 音楽関係の高校の案内よ。どこにしようかなって」

 

 

雪菜のセリフに、ミプは驚いて尋ねた。

 

ミプ「雪菜はまたピアノが弾けるミプ!?」

 

 

雪菜「まさか! どんなにリハビリしても、もうピアノは無理。でも、音楽には関わっていたいから…」

 

雪菜の顔は悲しそうな、それでいてどこか希望があるような複雑な顔だった。

 

 

ミプ「雪菜…。でも前に進もうとするのはいいことミプ」

 

なんの力にもなれないことにミプはずっと悩んでいた。自分が雪菜に与えた力は復讐のための力となってしまった。

 

そのため、ミプとしては精一杯の励ましの言葉だった。

 

 

雪菜「ありがとう。あら?」

 

ふと遠くの方から爆発音のようなものが響いて来るのが聞こえた。

 

 

雪菜「まさか!? ミプ!!」

 

 

振り返るとミプはこれ以上ないほどにガタガタと震えていた。

 

 

ミプ「この気配…まさか大神獣が…」

 

 

雪菜「なんですって!? じゃあ、インフェルノも…」

 

そう呟くと、雪菜の目にくらい光が宿った。

 

 

雪菜「行くわよ!! 準備して!!」

 

ミプ「わかったミプ。インフェルノと一緒に大神獣を倒すミプ!!」

 

ミプは期待を込めてそう言った。

 

 

 

 

雪菜「何言ってるのよ。インフェルノを大神獣に倒されでもしたら困るからよ。私の目的がなくなるじゃない!」

 

その期待は見事に裏切られた。

 

 

ミプ「だって…インフェルノは雪菜の友達で、大切なものじゃ…」

 

恐る恐るそう尋ねると、

 

 

雪菜「ふざけないで!! インフェルノは…美里は友達なんてものじゃない!!」

 

そう一喝された。

 

 

その言葉にミプは悲しそうな顔をしつつも、スマホ形態に変身した。

 

 

 

雪菜は、まだ不自由な右手でスマホになったミプを掴むと、左手でたどたどしく鍵の形のアプリをタッチした。

 

 

雪菜「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

次の瞬間、寒々しく冷たい光が雪菜を包んだ。

 

 

それが収まった時には、青い仮面を装着し、白を基調にして水色で縁取りした寒々しさを感じるドレスに身を包んでいた。

 

 

そのまま、青白い玉に変化するとコキュートスは窓から飛び立った。

 

 

 

 

 

オーエエドー市内 某所

 

 

 

 

巨大虎型…もといトラ猫型メカ、虎エモ…ではなくトラッキーが、頭のプロペラを回し、上空を旋回しつつ右手に大砲の砲口部を模した筒状のハンドガンをはめていた。

 

 

アカンコウ「それそれ、ドッカーン!!」

 

 

アカンコウがそう叫びながらボタンを操作すると、そのハンドガンからは空気の衝撃波が発射され、モニターに映るビルや道路を穴だらけにしていた。

 

 

クジャク「そのセリフさ、いちいち言わなきゃなんないのかい。此の期に及んでさ」

 

 

アカンコウ「まぁ、気分の問題です。それよりゴロリン、ヒゲのレーダーで周囲をよく確認してくれよ。そろそろ連中も来る頃だろうし、何よりブラックエナジーも十分集まってきた頃だ」

 

 

ゴロリン「はいでおま。大神獣が復活したらいつでもそっちと戦う覚悟はできとります」

 

ゴロリンは覚悟を決めた風にキッパリとそう告げた。

 

 

クジャク「その意気だよ。私たちの未来をかけた一戦だ!!」

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

 

 

 

 

私が全速力で飛行して現場に駆けつけると、そこには街中を悠々と飛行し衝撃波のようなものでビルなどを破壊して回っている巨大なメカがいるだけだった。

 

 

インフェルノ「何? あいつだけ? 大神獣はどこにいるのよ!!」

 

私は腰のスマホケースに向かって怒鳴りつけた。

 

大神獣が復活しかけているというから、慌ててやってきたのにどこにもそれらしいものが見えない。

 

 

メル「ごめんなさいメル。でもきっと大神獣の復活は間近メル」

 

 

インフェルノ「本当でしょうね。まぁいいわ、あいつからぶちのめしてやる」

 

 

私はどこかの青い狸によく似たデザインの敵メカを睨み付けると、怒りを込めて名乗った。

 

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

 

 

ゴロリン「来ましたで、プリキュアでおま!!」

 

モニターに映った少女を見てゴロリンがそう叫んだ。

 

 

クジャク「まだ一人だけみたいだね。いいかい、あんまり大きなダメージを与えるんじゃないよ」

 

 

アカンコウ「わかってます。くらえショックピストル!!」

 

 

トラッキーはお腹のポケットから光線銃のようなものを取り出すと、インフェルノに向けて電撃のようなものを発射した。

 

 

 

 

インフェルノ「そんなものに!!」

 

私は発射された電撃を難なくかわした。

 

 

 

インフェルノ「えっ!?」

 

かわしたはずの電撃はUターンして後ろからもう一度襲いかかってきた。

 

 

 

インフェルノ「くそっ!!」

 

私は必死に電撃波をかわしたが、何度かわしてもかわした方へとしつこく向かってきた。

 

 

それだけでなくそうしている間にも、トラ猫型メカ自体も電撃を連射してきたため、そちらの方にも気を配らねばならず、攻撃どころか避けるだけで手いっぱいになってしまった。

 

インフェルノ「くっ、これじゃ攻撃どころか近寄ることも…」

 

 

そうこうしているうちに、だんだんジリ貧に追い込まれていき、ついにはかわしきれず電撃の直撃を何発も浴びた。

 

 

インフェルノ「キャアア!!」

 

 

直撃を受けた私は全身が痺れてしまい、墜落した後まともに指一本動かすこともできないまま、地面に這いつくばっていた。

 

 

インフェルノ「あいつ…どういうつもりよ」

 

 

この程度で動けなくなった自分と、やられてしまったことに対する怒りを込めて思い切りメカを睨んだが、それ以上敵は追撃してくる様子もなく立ち去っていき、それが尚更屈辱とともに腹立たしかった。

 

 

 

 

クジャク「おい、あれ大丈夫なのか?」

 

地面に這い蹲り身動き一つ取れなくなったインフェルノを心配するかのように、クジャクがそう尋ねた。

 

 

アカンコウ「心配いりませんよ。このショックピストルは言うならば強力なスタンガンみたいなものです。一時的に痺れさせるだけで大きなダメージは与えてませんって」

 

 

クジャク「そうかい、ならいいや」

 

アカンコウの説明に、クジャクはほっと胸をなでおろした。

 

 

ゴロリン「それどころやおまへん、もう一人も来たでおます」

 

 

ゴロリンは奇妙な笛の音が集音器にキャッチされたのを確認し、そう告げた。

 

 

 

コキュートス「ふん、ワンパターンに空を飛んでくるなんてね。さっさと撃墜させてやるわ」

 

 

そう冷たく言い放つと、コキュートスは闇の力を麻痺させる力のある横笛を吹き始めた。

 

しかし、しばらく吹いたにも関わらずトラ猫型メカは全くその姿勢を崩さなかった。

 

コキュートス「えっ? 効かない?」

 

目の前の事実に驚愕していると、トラ猫型メカはポケットからくるみ割り人形によく似た小さな兵隊の人形を続々とくりだしてきた。

 

 

 

コキュートス「くっ!!」

 

 

コキュートスは右手を即座にガトリングガンのように変化させると銃剣付自動小銃を手に襲いかかってくる兵隊人形を片っ端から破壊していった。

 

 

コキュートス「この程度で!!」

 

 

コキュートスは自信満々にそう言い放ったが、たえまなく襲い来る兵隊人形に少しずつ押されていった。

 

 

ついには対応しきれなくなり、兵隊人形の一斉砲撃を受け吹き飛ばされた。

 

 

コキュートス「キャアア!!」

 

 

 

 

アカンコウ「フッフッフッ。例の笛の音が動力回路に作用しないよう防音装置を施してある。その笛の音で動きが止まることはないのだ」

 

モニターの前で吹き飛ばされたコキュートスを見て、アカンコウは自信満々にそう言い放った。

 

 

クジャク「おい! だからダメージを与えるなと言っただろうが!!」

 

アカンコウ「大丈夫ですって、爆発は派手ですけど火力は低いですから。軽い火傷ぐらいで済みますよ。 それに煙には麻酔効果がありますからしばらくはまともに動けません」

 

 

ゴロリン「ほなこれでプリキュアは二人ともまともに動けまへんな」

 

アカンコウ「そういうこと。今がチャンスですよ」

 

 

クジャク「よし、今のうちにありったけブラックエナジーを収集しろ!!」

 

 

アカンコウ「ハイな、ポチッとな」

 

クジャクの号令とともにアカンコウがボタンを操作すると、トラッキーはもう一度右手に大砲の砲口部を模した筒状のハンドガンをはめて街に攻撃を開始した。

 

 

 

 

インフェルノ「この…ちゃんと動きなさいよ!」

 

 

私は痺れてしまって歩くこともやっとの体を、怒鳴りつけながら引きずるように体を動かし街を破壊しているトラ猫型メカの後を追った。

 

 

 

コキュートス「く、くそ…力がうまく入らない…」

 

すると、私と同じようにやっとという感じで歩いている存在を見つけた。

 

 

その子は、私が気づいたのと同じように私に気がついたのか、青い仮面越しの目でこちらを見つめてきた。

 

 

 

コキュートス(美里…)

 

インフェルノ(雪菜…)

 

 

しばらく無言のまま見つめ合った私達は、どちらからともなく肩を貸しあった。

 

 

そうして歩いている間も、耳が痛いほどの沈黙だけが私達の間には流れていた。

 

 

するとその空気に耐えられなくなったかのように、腰のスマホケースどもが話し始めた。

 

 

メル「闇の力がどんどん大きくなっていってるのを感じるメル!! なんだか大変なことになりそうメル!!」

 

ミプ「メルも感じたミプ!? もうすぐ大神獣が完全に復活してしまうミプ!!」

 

 

その慌てように私達も事情を察し、二人三脚のように必死に肩を貸しあいながら進んでいった。

 

 

お互いを一瞥もしないままに…

 

 

 

 

 

 

 

一方、市街地ではトラッキーが立ち並ぶビルや乗り捨てられた車を破壊して回っていた。

 

そんな光景をモニター越しに見ながらクジャクはブラックエナジーの収集状況を尋ねた。

 

 

クジャク「よし、今のところは作戦通りだ。過去最高クラスにブラックエナジーも集まってるんじゃないかい?」

 

ゴロリン「はい、ものすごい勢いでエネルギーが集まってるでまんねん」

 

 

アカンコウ「もう少しです。もう少しで大神獣も復活しますし、連中もまともに動けるようになるはずです」

 

そんなことを言い合っていると、トラッキーのボディに異変が起き始めた。

 

 

黒い煙のようなものが体のあちこちから漏れ出したのだ。

 

 

 

クジャク「ん? おい、煙が出てるんじゃないか? オーバーヒートでもしてるのかい」

 

アカンコウ「いえ、計器は特に異常は…」

 

 

そう言おうとした途端、あらゆるメーターが異常な値を示し始めた。

 

 

 

ゴロリン「どないなってまんねん。なんかおかしいでおます」

 

アカンコウ「この程度で調子が狂うはずはない、まさか…」

 

 

アカンコウが何かに気づいた次の瞬間、トラッキーの全身から一気に黒い煙があふれ出し、全身を覆いつくしてしまった。

 

 

 

 

メル「あれは…」

 

ミプ「まさか…」

 

 

ようやく私達は体が自由に動くようになり、トラ猫型メカのところにたどり着いたが、その途端にメカの全身から黒い煙があふれ出し全体を包み込んでしまった。

 

 

そしてその煙は意志を持ったかのように蠢き、みるみるうちに形を変えていった。

 

 

次の瞬間、黒い稲妻が走ったかと思うとそこにいたものに、私は目を剥いた。

 

龍のような顔、金色の鱗に覆われた体は美しくもどこか禍々しく、額から生えた角は鈍く銀に光りあらゆるものを貫く破壊力をそれだけで雄弁に語っていた。

 

 

完全に復活したためか、記憶にあるよりかなり巨大化していたが、あの日以来一瞬たりとも忘れたこともないあいつだった。

 

大神獣「我こそは大神獣。この世界を恨み憎むもの、唯一にして絶対のものなり」

 

 

 

インフェルノ「…大神獣…!!」

 

 

その姿を目に捉えるや否や、私の頭の中は凄まじい怒りでいっぱいになった。

 

私の家族を、日常を奪った存在。

 

八つ裂きにしても飽き足らないほど憎んだ仇。

 

 

次の瞬間、私は声にならない雄叫びとともに炎を纏った拳で殴りかかっていた。

 

 

 

そして私の繰り出したパンチは大神獣にヒットした。

 

 

 

大神獣「ふむ、さすがはプリキュアというところか。だがな!!」

 

 

全くダメージになってないというわけではなかったようだが、大きく払った爪に私はダメージとともに吹き飛ばされた。

 

 

 

インフェルノ「く、くそ…」

 

 

そんな私に向けて大神獣は鋭い牙の生えた口をカッと開くと、どす黒い火炎の塊を吐き出してきた。

 

思わず私は目をつぶったが、火炎の塊は狙いを大きく外したところに着弾した。

 

 

疑問に思い目を恐る恐る開けると、大神獣の首には氷のロープが巻きついており、そのせいで狙いが外れたらしかった。

 

 

コキュートス「インフェルノはやらせないわ、絶対に!!」

 

 

 

そう叫びコキュートスは右手のロープを思い切り引っ張ったようだが、大神獣と力の差は如何ともし難く、逆に引きずられる形となり大きく投げ飛ばされた。

 

コキュートス「くっ、うわーっ!!」

 

 

 

しかし一瞬の隙ができたことを確認した私は、大きく両腕を振りかぶった。

 

インフェルノ「プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

そう叫ぶと炎の塊を、すべての怒りを叩きつけるように投げつけた。

 

 

私の必殺技の直撃を受け、大神獣は火だるまになった。

 

 

ざまあみろと私は勝ち誇ったが、それも一瞬だった。

 

火だるまになった大神獣はそのまま私に向かって突撃してきた。

 

 

インフェルノ「えっ? キャアアアア!!」

 

その突撃をまともに受けた私もまた、大きく吹き飛ばされた。

 

 

 

大神獣「フッ、プリキュアの力は未だ健在だな。哀れな奴らよ、無意味な力を振りかざすとはな」

 

 

インフェルノ「なんですって?」

 

私は瓦礫の中から立ち上がると、怒りを込めて大神獣を睨みつけた。

 

 

コキュートス「無意味なんかであってたまるものですか!!」

 

 

 

大神獣「いや無意味だ。この力は何も生み出すことのできない力なのだからな」

 

 

 

メル「そんなはずはないメル!! プリキュアは昔お前を封印した力メル!!」

 

ミプ「大切なものを守る希望の力、それがこの力ミプ!!」

 

 

大神獣の言葉に私達の腰のスマホケース共が、全力で反論していた。

 

 

 

 

大神獣「そうだ。我もかつてはそう信じ、妖精の力を得た」

 

 

 

インフェルノ「えっ?」

 

大神獣の言葉に私は思わずそう聞き返した。

 

 

コキュートス「どういうことよ? あなたはまさか?」

 

 

 

 

 

私達の疑問に大神獣はどこか遠い目とともに話を始めた。

 

 

大神獣「かつて、我は巨大な力を求めた。大切な家族や仲間達を災厄から守り、より豊かに繁栄していくために。そのため我は人であることさえも捨て、妖精の力を借りこの力を得た」

 

 

インフェルノ「なっ!!」

 

 

大神獣「我はこの力で弱者を守り、恵みを与え、多くのものを支え続けた。初めは誰しもが我の力を歓迎し、褒め称えた。しかしやがて強大すぎる我の力を人間や妖精どもは疎んじ、危険視した」

 

大神獣は怒りとともにそう言い放った。

 

 

大神獣「そしてついには我をこれまでの恩も忘れ、殺しにかかった。 初めは我も無抵抗を貫いたが、執拗な攻撃に止むを得ず防戦した。すると人間や妖精どもは我を悪魔と罵り、ついには我と同じように妖精の力を借りて挑むものに我は封じられたのだ」

 

 

 

メル「そんな…」

 

ミプ「初めて聞いたミプ…」

 

 

 

驚いているスマホケースを軽蔑するかのように大神獣は吐き捨てるように続けた。

 

 

大神獣「自分に都合のいいように全てをとらえ、その場その場だけを取り繕う。それがこの世界、そしてそこに生きる者たちの本質だ。このような世界など不要。守ろうなどと一瞬でも考えた我が愚かだったのだ。せめてもの情け、我の手で消滅させてくれる!!」

 

 

 

 

 

 

インフェルノ「…それがどうしたのよ」

 

 

 

 

 

黙って全てを聞いていた私は、低い声でそう呟き大神獣を睨みつけた。

 

 

大神獣「何…?」

 

 

インフェルノ「あんたがどんな奴で、どんな経験をしたかなんて関係ないわよ。あんたが私の家族を殺した。それだけは私にとって絶対に変わらないことよ!!」

 

 

コキュートス「千年以上も前の人間の夢がどんなものだろうと、この力がなんのためのものだろうと今更関係ないわ。何がどうであれ私の戦う理屈に変わりはない!!」

 

 

 

大神獣「ならば来るがよい。その力を貴様らはどう使う?」

 

 

 

インフェルノ・コキュートス「「決まってるわよ!!」」

 

 

そう叫ぶと、私達は怒りのままに大神獣に飛びかかった。

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第15話に続く。

 

 

 



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第15話「Rの笑い」

 

 

 

インフェルノ「ハァアアア!!」

 

私は雄叫びと共に大ジャンプし、大神獣の背中に飛び乗った。

 

 

 

インフェルノ「コンチクショウ!! コンチクショウ!!」

 

 

私は金の鱗に覆われた大神獣の背中を、炎を纏ったパンチで殴りつけた。

 

 

何度も殴るうちに、拳には血が滲み出していたが怒りのままにひたすら殴り続けた。

 

 

 

にもかかわらず、大神獣にはあまりダメージになっていないようだった。

 

 

大神獣「ふん、無駄だ」

 

そう見下したような言葉と共に大神獣は、大きく身を翻し背中の私を振り落としにかかった。

 

 

 

インフェルノ「くっ、この程度で!!」

 

 

私は振り落とされまいと、手の痛みにも負けず必死に背中にしがみついていた。

 

 

 

 

コキュートス「アイス・エッジ。ヤァアアア!!」

 

 

そんな大神獣に対して、コキュートスは右手を巨大な刃に変えて切りかかった。

 

 

しかし、大神獣の体に斬りつけたその刃は鈍い音と共に跳ね返された。

 

コキュートス「な!?」

 

驚愕したのもつかの間、大神獣の振り回した角に、コキュートスも跳ね飛ばされた。

 

 

 

コキュートス「くそっ、これでどうよ!? プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」

 

跳ね飛ばされながらもなんとか空中で体勢を整えたコキュートスは、右手を大型ガトリングガンに変化させ、猛烈な勢いで氷の弾丸を連射した。

 

猛烈な勢いで無数に乱射された弾丸だったが、大神獣の金色の鱗はその一切を受け付けず全弾をはじき返した。

 

 

 

コキュートス「なんて硬い鱗よ。まるで攻撃が効かないなんて!!」

 

 

インフェルノ「くっ限界…キャアァァァア!!」

 

 

大神獣の背中に必死にしがみついていた私だったが、振り落とそうとする大神獣の動きと血の滲んでいる手の痛みに加え、なりふり構わず連射されたコキュートスの攻撃の流れ弾を受けた結果、ついに振り落とされた。

 

 

そして、振り落とされた先にはコキュートスがおり、私達は思いっきりぶつかった。

 

 

コキュートス「えっ? キャッ!!」

 

 

 

インフェルノ「イタタ…」

 

コキュートス「やってくれるわね…」

 

 

ぶつけたところを押さえながら立ち上がり、余裕綽々といったように私達を見下ろす大神獣を睨み返すも、憎しみだけで本当に殺せるわけもなかった。

 

 

メル「一人一人でかかっても勝ち目はないメル!!」

 

ミプ「二人で一緒に戦うミプ!!」

 

腰のスマホケース共がなにやら騒いでいたが、私達は無視して別々に大神獣に挑んだ。

 

 

 

 

コキュートス「これでどうよ!! クリスタル・スター!!」

 

 

コキュートスは右腕を棘の付いた氷の球を備えた、大きな瓢箪のような形に変化させ、その氷球につながったロープを力一杯振り回し大神獣に叩きつけた。

 

 

 

その氷球の叩きつけられた大神獣の体は大きく陥没し凍りつき始めた。

 

 

コキュートス「どう? このまま凍りつきなさい!!」

 

 

効いている。そう判断したコキュートスはさらにダメージを与えんと、もう一度右腕の氷球を振り回そうとした。

 

 

大神獣「愚かな…身の程を知るがいい」

 

麒麟のような姿をした大神獣は、大地が震えるかのような遠吠えをした。

 

その声の迫力に一瞬怯んだコキュートスは、次の瞬間目をむいた。

 

 

先ほど陥没したはずの大神獣の鱗に覆われた皮膚は何事もなかったかのように

元の金色の輝きを取り戻していた。

 

 

コキュートス「…なんてやつよ…」

 

 

コキュートスの攻撃は決してそこまで火力があるわけではない。それでも攻撃がまるでダメージにならないことにコキュートスは悔しさまじりにそう呟いた。

 

 

 

大神獣「わかったか? 我は唯一にして絶対の存在。同じように妖精の力を借りていようとも、貴様らとは格が違うのだ」

 

 

 

インフェルノ「調子に乗ってんじゃないわよ!! そんなこと言って、一度は封印されたんでしょうが!! ならあんただって完璧ってんじゃないでしょ!!」

 

 

私は大神獣の発言の穴を突いたつもりだった。

 

それほどまでにとてつもない存在ならばかつて封印されるようなこともなかったはずだと。

 

 

しかし、大神獣はあざ笑うかのように告げた。

 

 

 

大神獣「ハッ、どこまでも愚かなものたちだ。確かに我は一度敗北した。だが我が現代まで生き延びられたのも、其奴らのおかげだ。我を封印したものたちの末路も知らずしてよくぞ吠える」

 

 

コキュートス「何よそれ? 一体何があったっていうの?」

 

ミプ「ミプたちと一緒に戦ってくれた人たちはとっても仲のいい友達になれたし、優しい立派な人たちだったミプ!!」

 

メル「そうだメル!! あの二人ならきっと幸せに暮らせたはずミプ!!」

 

 

大神獣「…何も知らずによくぞそんな口が叩ける。貴様らが力を与えた者たち、友のためだと守りたいもののためだと戦った者たちは、初めは自らのなし得たことを誇りとしていた。しかし、その者どもはやがて増長し始めた」

 

 

インフェルノ「えっ?」

 

 

大神獣「この世界があるのは自分のおかげだと。自分達は選ばれた特別な者だと。プリキュアの力を失った後もその思いだけが肥大化した」

 

ミプ「ミプたちがいなくなった後…そんなことに…」

 

 

 

大神獣「そうしていつしか、その者たちは周囲から疎んじられ孤立し、ついにはお互いすら信じられなくなり失意と孤独の中にこの世界への恨みと力を持ったことへの後悔を抱き死んでいった」

 

メル「…そんな、あの二人が…」

 

 

大神獣「其奴らの恨みと憎しみの念は、我のよき滋養となり現在に至るまで力を保持できる礎となったのだ。全ては人の弱き愚かな心、憎しみの心の生み出した結果だ」

 

 

大神獣のそう語る声は満足そうではありながら、どこか虚無のような悲しみを含んでいた。

 

 

大神獣「現代のプリキュアよ、お前たちはどうだ。そんな力を持ち本当に満足か? 人を超えた力の先にどんな未来を求める?」

 

 

 

大神獣の問いかけに私達はしばらく呆然としていた。

 

しかし、少なくとも私の答えは決まっていた。

 

 

インフェルノ「何度も言わせないでよ。私の求めるものはただ一つ!! あんたを殺すことよ!!」

 

 

私はそう叫ぶと右手を高く掲げ、勢い良く手刀を振り下した。

 

 

インフェルノ「ハアアア!! プリキュア・ヒート・カッター!!」

 

私の右手から飛んでいった半月状の炎の刃だったが、大神獣の鋭い爪に軽々と薙ぎ払われた。

 

 

 

大神獣「そのような矮小な力に振り回されるとはな。貴様らの苦しみ悩みそれらを永久に解き放ってやろう」

 

 

そう告げると大神獣の体は黄金色に輝き始めた。

 

しかしそれの眩しい光からは神々しさや美しさを微塵も感じさせず、ただ禍々しさだけが溢れていた。

 

そうして、大神獣は金色の光弾をその鋭い角から発射した。

 

コキュートス「くっ!!」

 

私達はそれをかろうじてかわしたが、光弾は後ろにあったマンションに着弾した。

 

 

すると、凄まじい轟音とともに砂煙を巻き上げマンションは跡形もなく倒壊した。

 

インフェルノ「あ…あ…」

 

 

 

その光景に呆気にとられていると、大神獣は全身から金色の光弾をあたり一面に雨あられと乱射してきた。

 

インフェルノ・コキュートス「「!!!!!!!」」

 

 

あたり一面が爆発に覆われ、視界が真っ白になる中、私達は声にならない叫びとともにボロ雑巾のように吹き飛ばされ、一瞬意識が飛んだ。

 

 

 

次に気がついた時、私達は地面に倒れ伏し全身の痛みで身動き一つ取れなかった。

 

 

必死に周りの状況を把握しようとしたが、もうもうと立ち込める砂煙にほとんど何も見えなかった。

 

 

少しして砂煙が落ち着き目を凝らして周りを見ると、そこにあったものは教科書で見た月面の写真のようだった。

 

 

あたり一面には巨大なクレーターが所狭しと存在しており、市街地だったはずのこの場所には瓦礫の山と化していた。

 

 

 

メル「…なんて…やつメル…」

 

ミプ「信じられないミプ…」

 

 

大神獣のあまりとも言える圧倒的な力に、腰のスマホケース共は弱音を吐き始めていた。

 

 

しかし私は違った。

 

 

インフェルノ「何よ、この程度で。町をぶっ壊した程度で調子に乗るな!! そんなことぐらい飽きるほどやってきたわよ!!」

 

 

私は膝がガクガクながらもなんとか立ち上がってそう言い放った。

 

 

インフェルノ「大神獣!! 私は絶対に負けない!! 何があってもあんたを倒すと誓った。倒す、絶対に! 絶対に!!」

 

 

私は呪詛のようにそう呟きながらふらつく足取りで大神獣へと向かっていった。

 

 

私の顔はこの深紅の仮面がなければ完全に狂気に彩られていただろう。

 

自分でもおかしくなっていることはなんとなく自覚できていた。

 

しかし大神獣への憎しみや恨み。それが今の私の全てだった。

 

 

 

コキュートス「…美里。っ!!」

 

 

そんな私を見てかどうか、コキュートスもなんとか立ち上がった。

 

コキュートス「インフェルノをあんたなんかに殺されてたまるもんか。こいつは私の夢を奪った。こいつを倒すことが今の私の生きる目的よ」

 

 

コキュートスもまた、必死に自分に言い聞かせるようにそう呟き大神獣へとゆっくりと向かっていった。

 

 

 

 

そんな私達を見て大神獣は呟いた。

 

 

大神獣「なるほど…貴様らも我と同じか。怒り…怨念…それが貴様達の全てか…。面白いそれが貴様達の覚悟ならば」

 

 

そう告げた次の瞬間、大神獣は鋭い牙の並んだ口をカッと開いた。

 

そうして開いた口の奥には、凄まじい熱量を感じさせる炎が輝いているのがボロボロの私達の目にも映った。

 

 

今の私達には防ぐ力も避ける力もほとんど残っていない。

 

それでも私達は復讐の怨念に突き動かされるように大神獣へと向かっていった。

 

 

 

「殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…」

 

 

 

「殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺してやる…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す…殺す!…殺す!…殺す!…殺す!…殺す!!…殺す!!…殺す!!!!」

 

 

 

そして今まさに大神獣が口の中に蓄えた炎を吐き出さんとした時だった。

 

大神獣の体から光が漏れた。

 

次の瞬間、大神獣の体は凄まじい大爆発とともに爆煙に覆われた。

 

 

予想だにしなかった状況に、私達はようやく少し正気にかえった。

 

 

 

インフェルノ「えっ? 何?」

 

コキュートス「いったい何が?」

 

戸惑っていると爆煙の中からかなりの大ダメージを負った大神獣が地面に倒れ伏していた。

 

口の中に蓄えていた炎が誘爆でもしたのか下顎は粉々に砕け散っており、全身の至る所からどす黒い血が吹き出していた。

 

 

 

大神獣「なんだと…いうのだ…? これは?」

 

大神獣自身も突然起きた爆発が理解できていないようだった。

 

 

実はこの場の誰もが忘れかけていた理由がこれにはあった。

 

 

 

 

???

 

 

 

クジャク「おい!! あたり一面真っ暗なところじゃどうしようもないよ! なんとかならないのかい?」

 

アカンコウ「どうやら、トラッキーは大神獣の復活の為の媒体にでもされたようです。「ベース」アニマルとはよく言いました」

 

 

クジャク「感心してる場合か。ほらこれ見なよ!!」

 

 

クジャクはそばにあったサブのモニターを指差した。

 

そこには大神獣に苦戦し、一方的になぶられているプリキュアの姿が映っていた。

 

 

 

ゴロリン「まずいでまんねん。プリキュアが倒されたら、わてらはどないなりまんねん。この様子じゃわてらは用済みとして殺されてしまうでまんねん!!」

 

アカンコウ「わかってるって。こんなこともあろうかとこのトラッキーには最終兵器が搭載してあるのだ!!」

 

 

大慌てで心配するゴロリンをよそに、アカンコウは冷静かつ自身たっぷりに言い放った。

 

 

クジャク「おお!! さすがだね、流れ石だね、リュウセキだね〜。で、どうするんだい?」

 

 

アカンコウ「フッフッフッ、解説せねばなるまい。このトラッキーの最終兵器、それは原子核破壊爆弾だ!!」

 

不敵に笑ったアカンコウのセリフにクジャクとゴロリンは感心した。

 

 

ゴロリン「なんかようわからんがすごそうな兵器でおます!!」

 

クジャク「まったくだよ。でどんな武器だい?」

 

 

アカンコウ「はい。このトラッキーのエネルギー炉を最大出力まで上げ一種の暴走状態にします。その上でそのオーバーロード状態のエネルギーを利用して、トラッキーのボディを原子レベルで分解し、そのサイクルに周辺を巻き込んでトラッキーもろともに吹き飛ばすという必殺技です」

 

 

アカンコウの解説をふんふんと頷きながら聞いていた二人だったが、話が進むにつれてだんだんと疑問が膨らんできた。

 

 

クジャク「…ちょっとお待ち。それはさ、ややっこしそうに聞こえるけどさ、極めてシンプルに言い換えられるんじゃないのかい?」

 

ゴロリン「そうでおま。ものすご〜くわかりやすく説明できるんやおまへんか?」

 

 

アカンコウ「ハッハッハッ、ご察しの通りですよ」

 

二人の言葉にアカンコウは開き直ったように高笑いをした。

 

 

 

クジャク「お前ね…」

 

ゴロリン「まぁ今回はかまやしまへんが…」

 

そんなアカンコウにクジャクたちは顔をひくつかせていた。

 

 

アカンコウ「では決意も固まったところで、三人でいきましょうか。せーの」

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「ポチッとな!!」」」

 

 

そのかけ声と共に押されたボタンにより、大神獣の核とされていたトラッキーはエネルギー炉を最大出力まで上げ一種の暴走状態となり、そのエネルギーを利用して、ボディを原子レベルで分解し始め、そのサイクルに周辺を巻き込んでもろともに吹き飛ばす……平たく言えば自爆した。

 

 

ただ、大神獣に取り込まれていた状態で自爆したことにより、彼らの予想を大きく上回る効果を得た。

 

もともと内部で爆発する方が威力は上がるものだが、今回はそれだけではなかった。

 

プリキュアの攻撃にもビクともしなかった大神獣の鱗は、体内で起きた爆発を外に放出することなく全てを内側に向けてしまい、結果相乗的に威力が増した。

 

強靭な鱗に覆われていた大神獣も内部からの爆発によるダメージは防ぐことができなかったのだ。

 

 

そのためこの自爆は大神獣にさえも致命傷とでもいうべきダメージを与えてしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

インフェルノ「なんだかわからないけど、チャンスだ!!」

 

ボロボロになった大神獣を見て私は最後の力を振り絞って突撃した。

 

 

傷口を目掛けて、溜りたまった憎しみを全てぶつけるかのように拳を打ち下ろした。

 

 

 

大神獣「がぁぁぁあああ!!」

 

さすがにこの攻撃はかなり効いたらしく、大神獣は苦しそうな呻き声をあげていた。

 

 

その声を聞いて、私はざまあみろと言わんばかりに口元を歪めた。

 

私は傷口を目掛けて何発も何発も拳を振り下ろし、その度に大神獣はうめき声をあげた。

 

 

インフェルノ「ハハッ、いい声ね大神獣。ざまあみなさい、私の苦しみはまだまだこんなもんじゃなかったわよ。もっとよ、もっと苦しめ!!」

 

 

 

私は久しぶりに心からの喜びを感じていた。

 

今私の手で大神獣が苦しみの声を上げている、その事実が私に麻薬にも近い快感を味わわせていた。

 

インフェルノ「アッハッハ!! ざまあみろ!! アッハッハ!! アーッハッハッハ!!!」

 

 

 

 

 

コキュートス「……美里……」

 

コキュートスはそんなインフェルノを呆然と見つめていた。

 

 

目の前に映る光景はあまりにも悲しく、そして醜いものでありながら、目をそらすことができなかった。

 

コキュートス「…あれは私の姿でもあった…このままじゃ…」

 

そう呟くとコキュートスは意を決したように鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させた。

 

 

コキュートス「…クリスタル・ビュート!!」

 

そうして発射されたロープつきの鉤爪はボロボロの大神獣の体を絡め取り、全身を凍りつかせ始めた。

 

それを確認したコキュートスは力任せにロープを引っ張り、大きくバランスを崩させた。

 

 

それにより背中で狂気の笑みとともに大神獣を殴り続けていたインフェルノも大きく投げ出された。

 

 

そうしてコキュートスは右手をガトリングガンに変化させた。

 

コキュートス「大神獣!! これ以上あなたのためにインフェルノを、美里を狂わせない!!  プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」」

 

 

コキュートスのその叫びとともに、猛烈な勢いで氷の弾丸が発射され大神獣に全弾直撃した。

 

その勢いもまたいつにも増して凄まじく、すでに瀕死状態だったとはいえ大神獣を蜂の巣にしてしまった。

 

 

 

 

インフェルノ「っ!! させないわよ!! 大神獣は私が倒すんだから!!」

 

 

コキュートスによって地面に投げ出された私の目には、今まさに大神獣にトドメを刺そうとしているコキュートスが映った。

 

 

今の私の生きる意味、大神獣が他人の手で倒される。

 

そう思うと一瞬で頭に血が上った。

 

 

インフェルノ「邪魔するな!! そこをどきなさい!!」

 

私はコキュートスを突き飛ばすと、両腕を大きく振りかぶった。

 

 

インフェルノ「これで…終わりよ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

 

私はすべての怒りをぶつけるかのように全ての力を両腕に込めて、最大級の火炎の塊を投げつけた。

 

 

その直撃を受けた大神獣は一瞬で火だるまになった。

 

 

その業火の中、大神獣の高笑いが響いた。

 

 

大神獣「ハッハッハッ!! 我が滅びぬ!! 人間どもに憎しみの心がある限り!! その種は今ここにある!! ハッハッハッ!! 我は不滅の存在大神獣だ!!」

 

 

その高笑いとともに大神獣はどす黒い煙を撒き散らし、炎の中に消えていった。

 

 

インフェルノ「…勝っ…た?」

 

私は肩で息をしながら、目の前の光景を確認するかのように呟いた。

 

 

そして、ほっぺたを軽くつねりこれが夢ではなかったことに確信が持てると、心の底からの歓喜の雄叫びをあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かったのだが、

 

 

 

喜びの声を上げようとした瞬間、ついさっき突き飛ばしたコキュートスの、雪菜の姿が目に入った。

 

雪菜は私に突き飛ばされた拍子に腕を何かで切ったらしく、右腕から血を流していた。

 

その瞬間私の中の喜びが急速に薄れていった。

 

 

あれほどまでに待ち望んでいた瞬間、ようやく達成できた目標だというのに。

 

 

私は復讐を遂げることができた。しかし、雪菜は…。

 

それに私は今また自分勝手に雪菜を傷つけてしまった。

 

 

そう思うと後悔の念と虚しさだけが心に広がってきた。

 

 

それでも私は雪菜から目を背けることだけはしなかった。雪菜もまた私をじっと見つめていたからである。

 

青い仮面の奥の目には何の感情も感じられなかったことがかえって不気味だったが、決してその目から逃げる事はしたくなかったのだ。

 

 

しばらく無言のまま見つめ合っていた私達は、そのまま歩き出した。

 

しかし、口を開く事もなければお互いに触れる事もないまますれ違い、別々の方向へと飛び立った。

 

 

 

 

その頃

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

クジャク・アカンコウ・ゴロリン「「「バンザーイ!!」」」

 

 

この洋館で三獣士が歓喜の雄叫びをあげていた。

 

 

 

 

ゴロリン「やったでまんねん!! プリキュアが大神獣を倒してくれたでおます」

 

アカンコウ「思えば辛い忍耐の日々であった。しかし、我々は恐怖と屈辱の日々から解放されたんだ!!」

 

 

クジャク「いやぁ、にしてもベースアニマルを遠隔操作にしておくなんて頭脳プレーだったねぇ!!」

 

 

そう、あのトラ猫型メカのトラッキーはこれまでのメカと違って遠隔操縦であり、この洋館の地下室からリモートコントロールされていたのだ。

 

 

アカンコウ「ハッハッハッ! なにもわざわざ危険なところに出向く必要はないんですって!! やっぱり私は頭がいいなぁ」

 

ゴロリン「全くでまんねん。さっすが天才!!」

 

 

クジャク「うんうん。よくやったよくやった。よ〜し、今夜は飲むぞー!!」

 

アカンコウ・ゴロリン「「イエッサー!!」」

 

 

 

ついに悲願を達成した三獣士。

 

その歓喜に満ち溢れた大騒ぎは洋館の周辺にまで響き、夜の吹けるのも忘れいつまでも続きそうな勢いであった。

 

 

 

 

渚家

 

 

灯りもつけないまま、夜の吹けていくのも忘れ、一人膝に顔を埋めて私は座り込んでいた。

 

美里「……大神獣は倒した。でもなにも戻ってこない…わかってたのにな…」

 

私は今更ながら無くしてしまったものの多さを感じていた。

 

 

美里「……私にはもう何にもない。父さんも、母さんも、亮太も、友達も、勝ったことの喜びさえも…」

 

 

私は妙にほっぺたが冷たくなっていくのを感じていた。

 

 

美里「…もう無くしたものは戻らない…私には存在する価値もない…だったら…」

 

 

私はそう呟くと意を決したように顔をあげた。

 

 

 

 

 

叶家

 

 

灯りもつけないまま、夜の吹けていくのも忘れ、雪菜は勉強机に顔を埋めていた。

 

 

雪菜「美里は家族の仇を討てた…。でも私の右腕は…夢は…」

 

 

そうしていると、大神獣との決戦において、インフェルノに突き飛ばされた時の傷がズキリと痛んだ。

 

 

雪菜「…美里はこれから何をするにしても、前へ進んで行くはず。あの子は弱い子じゃない」

 

 

雪菜はそう呟くと意を決したように顔をあげた。

 

 

雪菜「私も前に進みたい…でも、そのためには…」

 

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第16話に続く

 

 

 

 



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第16話「Rの最終決戦」

この作品で一番描いて見たかったシーンです。

戦闘シーンの推奨BGM「乱舞Escalation」でどうぞ


 

 

ネローベ学園

 

 

 

担任「みなさん。世の中もだいぶ落ち着いてきましたが、皆さんにもまだまだやることはあります。やらなければいけないことから目を背けないように。今日は午前で終わりますがもうすぐ定期試験ですからね。それに皆さんももうすぐ受験生です。 気を抜かないように」

 

 

生徒「は〜い」

 

 

 

 

美里「試験か…まぁもう私には関係ないけど」

 

私は上の空で先生の話を聞き、ぼんやりと窓の外を眺めていた。

 

 

 

 

大神獣を倒してから早一ヶ月が過ぎた。

 

 

あの戦いは望遠で撮影され報道されていたらしく、人々は戦いが終わったらしいということを感じ取っていた。

 

 

そのため、こうして眺めている街も以前のような平穏が戻り、疎開していた人もちらほらと帰ってきており、かなり活気が戻ってきていた。

 

 

しかし街の活気とは裏腹に、私の心には喜びなど欠片もなかった。

 

 

 

 

 

私は大神獣を倒せればそれでいいとずっと考えていた。だからその後、どうするかを真剣に考えたことがなかった。

 

 

まぁ最近はぼんやりと考えていたことがあったが、それをやるためにはどうしても一つやらなければいけないことがあった。

 

 

もっとも、それをしたからといって、その考えていたというやりたいことが確実にできるわけではない。

 

ただ一つ確実に言えることは、今の私にとって学校などどうでもいいということでしかなかった。

 

 

 

美里「…やらなきゃいけないこと…ケジメだけはきちんとつけないとね…」

 

 

 

 

 

雪菜も担任の話を聞きながら一人考えていた。

 

 

雪菜(確かに世の中はだいぶ落ち着いてきた。元どおりの生活を始められている人達もいる。…でも私は)

 

 

大神獣との最終決戦で負った怪我は以前のものに比べれば大したことはなかったが、傷口が化膿したりしたこともありようやく完治したのが数日前のことであった。

 

 

その間も無理のないレベルで右腕のリハビリを重ね、箸を使ったりなど日常生活はやっとのことでなんとかこなせるようにはなったが、やはり以前のようにピアノを弾くことはできなくなってしまった。

 

 

雪菜(私の腕は、夢はもう戻らない…それに関しては諦めもついている…。でもだからと言って、やっぱりこの感情だけは私の中から消せない。前に進もうにもこのままじゃどこにもいけない…)

 

 

 

 

放課後

 

 

 

私は午前だけの授業を終えた後、職員室にいた。

 

放課後に来るようにと担任に言われたからだ。

 

なんだろうと思って行ってみると進路の話だった。

 

 

担任「渚さん。あなたがこの間提出したこの進路だけど…」

 

美里「はい、それに何か問題が?」

 

 

担任「何かじゃないでしょ。ふざけているの?」

 

担任は声を荒げてそう言ったが、それこそふざけたことを言わないで欲しかった。

 

 

美里「ふざけてなんかいません。これは私が真剣に考えて決めたことです。では」

 

担任「待ちなさい。まだ話は…」

 

 

呼び止める担任を無視して、私は一礼とともに職員室を出て行った。

 

 

 

そして職員室を出たところには真剣な顔をした雪菜がいた。

 

 

美里「…雪菜、怪我は治ったみたいね」

 

雪菜「…まあおかげさまでね。それよりちょっといいかしら。一緒に来てもらいたいところがあるの」

 

 

こうやって言葉をかわすのもしばらくぶりだったが、そのことに対する感情はほとんど何も湧いてこなかった。

 

 

美里「…いいわ。来るだろうとは思ってたから」

 

私もまた真剣な顔でそう答えた。

 

 

 

私達はバスにしばらく揺られた後、またしばらく歩いて、ある場所にたどり着いた。

 

その間カバンの中の妖精たちはポツポツと話しかけてきていたが、私達は終始真剣な顔のまま、一切の言葉をかわすこともしなかった。

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

大神獣がプリキュアに倒された後も、三獣士達はここに住んでいた。

 

大神獣の力が無くなったことで、外見は完全に廃屋になっており、認知不能の結界も無くなってしまったが、もともとかなり市街地から離れていることもあって、近寄る人間もほとんどおらず隠れ家にはもってこいなのだ。

 

 

クジャク「どうだい。今日の稼ぎは」

 

アカンコウ「まあまあといったところですね。しかし、ちゃんとした住所がないと正社員としては雇ってもらえないとは、世知辛いもんですねぇ」

 

 

ゴロリン「まったく、一向に改善しない行政には腹がたつでおます」

 

 

クジャク「まぁね。私だって機密漏えいをしたってことで前科一犯。パートとかバイトならまだなんとかなるけど、なかなか正式に雇ってくれるところって見つからなくてね」

 

 

新しい人生を頑張っていた三人だが、なかなか社会の枠組みには戻れず苦労していた。

 

まぁバイトはなんとかできるし、大神獣がベースアニマルの作成費用として用意していた予算もまだかなりの余裕がある。

そのため当面の生活費の問題はないし、雨露を凌ぐことはできるので以前ほど悲惨と言うわけではないのだが、うまくいかないことも相まって世の中に対する憤りを再び感じ始めていた。

 

 

そんな時、アカンコウの設置したセンサーに誰かが来たことを知らせるブザーが鳴った。

 

ここは廃屋とはいえ、一応不法侵入していることになるため用心のためにセットいておいたのである。

 

 

 

アカンコウ「あら、誰かこの辺に近づいて来たみたいですよ」

 

クジャク「何? 警察とか面倒な奴らじゃないだろうね」

 

 

アカンコウ「ちょっと待ってください。監視カメラの映像をっと。出た」

 

 

そうしてカメラに映った人間を見て三人は驚いた。

 

 

 

ゴロリン「プリキュア!? なんであいつらが今更来るでまんねん!!」

 

アカンコウ「冗談じゃないよ。私達はもう足洗ったってのに」

 

クジャク「白旗を振れ!! 事情を説明して帰ってもらうんだ!! 早く!!」

 

 

もう今更戦う気もなど微塵もない。

 

面倒ごとなど御免とばかりに三人は大慌てで飛び出していった。

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林

 

 

 

私と雪菜は雑木林の中をしばらく歩き、かなり奥の方まで来た。

 

 

まだ日は高かった時間のはずが、鬱蒼と茂る木々のせいですでに夕暮れのように薄暗かった。

 

 

 

雪菜「…懐かしいわよね。あなたと初めて会ったのはここだったわ」

 

 

雪菜が周りの木々を見回しながら懐かしそうにそう言った。

 

 

美里「…そうよね。幼稚園に入る前だったからもう10年ぐらい前になるのか…。あなたとも長い付き合いよね」

 

私も雪菜と過ごした日々を懐かしむようにそう言った。

 

 

雪菜「…そうね。何もかもはここから始まったのよね。あなたとの思い出も、私たちがプリキュアになったことも…」

 

 

美里「…そうなるのか。もしここで道に迷わなかったら…あの時不思議な光を見なかったら…一体どうなってたんだろうね?」

 

 

雪菜「わからないわ。世の中がどんな風になってしまったかも…。でもきっとどんな世の中でも、私達は普通の友達としてずっと過ごせたんじゃないかしら…」

 

 

美里「…かもね。私は家族と毎日楽しく暮らして…」

 

雪菜「私はピアニストになる夢に向かって…」

 

 

ポツリポツリと会話をした後、私達の間にはまた沈黙が流れた。

 

 

思えば雪菜とこんなに話をしたのは久しぶりだった。

 

もっとも、全然嬉しくも楽しくもないのだが…

 

 

 

雪菜「…ねえ、先生に何を言われていたの? 進路のことみたいだったけど」

 

 

美里「…あぁ、あれ? 私高校には進学しないつもり。ボランティア活動でもしながら世界中を旅して回るって言ったら、もっと真剣に考えなさいってさ。こっちは十分真剣なのにね」

 

 

雪菜「そりゃ、そんなこと言えばふざけてるって思われるわよ。どうしてそんなこと考えたの?」

 

 

雪菜の呆れたような声での質問に、私は自分自身確かめるようにゆっくりと話した。

 

美里「…プリキュアやってさ、自分勝手に多くの人を傷つけて。いっぱいいっぱい傷つけて。もう誰に謝ったらいいのかわかんなくなっちゃたんだ。だったら世界中の人のために生きてみようって思ったの。一生かけてそんなことすれば、少しは償いになるかなって」

 

 

 

雪菜「…何考えてるのよ。そんなことしても何にもならないでしょう!! 償いたいなら自分の人生を一生懸命に生きなさいよ!!」

 

私の答えに雪菜はそう怒鳴りつけた。

 

 

美里「一生懸命に生きるわよ!! 私がいい加減な気持ちで言ってるとでも思ってるの!?」

 

私もこれだけは譲れないとばかりに声を荒げた。

 

 

雪菜「思ってるわよ!! あなたはいつもそうじゃない。その場の感情に流されて。そもそも、それでこんなことになったんでしょ!! だいたいそんな生き方が長続きするわけないじゃない!!」

 

 

美里「勝手に人の限界を決めないでよ!! 私はこの生き方をまっとうしてみせる!!」

 

雪菜の言い様にはさすがに腹が立ったが、私は毅然とした態度でそう言い切った。

 

 

雪菜「…そんな生き方、ただの自己満足じゃない!! 許さない、そんな生き方をするなんて!!」

 

 

美里「どう許せないっていうのよ!!」

 

 

雪菜「わかってるくせに!! 私はあなたのせいで夢を無くした。その絶望の中で感じた怒りはまだ消えてない!! あなたはそうやって勝手にどこにでも進めても、私はどこにも進めなくなった!!」

 

 

そうだ、そんなことはわかっている。

 

雪菜は、音楽の世界では天才といわれる父と世界的なヴァイオリニストの母の間に生まれたサラブレッドで子供の頃からピアニストを志望していた。

 

もちろん、それにふさわしいだけの実力も兼ね添えていた。

 

しかし、そんな彼女は私のせいで目標を無くし、前に進めなくなった。

 

だから…

 

 

雪菜「…美里。あの発表会の前に約束したよね。また対戦してねって」

 

美里「…うん。したよね」

 

 

 

 

雪菜「美里、今日こそはこの因縁にケリをつけてあげます。あなたを倒すことで私は前に進みます!!」

 

雪菜の凛とした宣言に、私も正面から堂々とした態度で答えた。

 

 

美里「わかってる。私は逃げない。でも手加減はしない。全力で相手をする。それが、あなたに対する償いでもあるから」

 

 

いつだったか、雪菜とこんな会話をした様な感じがした。

 

 

ほんのちょっと前だったような…それでいてずっとずっと昔のことだったような気がした。

 

 

 

 

メル「ちょっ、ちょっと待つメル!! まさか…」

 

ミプ「だめミプ!! もう戦う理由なんかないミプ!!」

 

 

私達の妖精が足元でやかましくわめいていたが、聞く耳は一切なかった。

 

 

美里「…まだ終わってなんかないのよ。ううん、これが始まり。私の償いの第一歩よ」

 

雪菜「違うわ、これで本当に何もかも終わるの。だからあと一度だけ力を貸して」

 

 

私達の真剣な口調に説得は無駄と感じたか、妖精達はスマホもどきに変身した。

 

 

そしてそれを掴むと、私達は力の限り叫んだ。

 

 

 

 

 

美里・雪菜「「プリキュアマスクチェンジ!!!!」」

 

 

 

 

 

 

その叫びとともに赤と青の光が発生し、私達はその光の色を基調にしたドレスを身にまとい、仮面を装着していた。

 

 

しかしいつもならば変身完了とともにあげる名乗りをすることもなく、私達は雄叫びと共に一直線に相手に向かって駆け出していた。

 

 

 

 

インフェルノ「ヤアッ!!」

 

コキュートス「ハァッ!!」

 

 

私たちはお互いにパンチの応酬をしあった。

 

お互いに一発殴れば殴り返され、パンチを捌けば繰り出した拳も避けられた。

 

 

 

インフェルノ「くっ、この!!」

 

そんな中、私がパンチをフェイントにして繰り出した後ろ回し蹴りに、コキュートスは蹴り飛ばされ大きく体勢を崩した。

 

コキュートス「ぐっ!!」

 

 

地面に倒れこんだコキュートスに対して、私はチャンスとばかりに右手に炎を纏わせ殴りかかったが、

 

 

 

コキュートス「なんの!!」

 

コキュートスも負けてはおらず、咄嗟に右腕を氷の刃に変えて切りかかってきた。

 

 

ギリギリのところでその一撃をかわしたものの、今度は私の勢いが殺され、体勢が崩れた。

 

 

 

コキュートス「ハァァァァ!!」

 

すると今度は、コキュートスが右手の刃を振り回して切りかかってきた。

 

 

 

インフェルノ「ふん!!」

 

私は右に左にと振り回される巨大な刃をギリギリでなんとかかわして懐に飛び込むと、その刃を右腕ごと受け止めた。

 

 

コキュートス「なっ!?」

 

インフェルノ「ヤアッ!!」

 

 

コキュートスの驚いた隙を狙い、私はその腕を抱えて大きく投げ飛ばした。

 

 

コキュートス「ウワァァァ!!」

 

これはかなり驚いたらしく、コキュートスは悲鳴と共に転がっていった。

 

 

 

 

インフェルノ「ハアアア!! プリキュア・ヒート・カッター!!」

 

さっきのお返しとばかりに、右手を上げて手刀を振り下ろすと、私の右手から半月状の炎の刃が飛んでいった。

 

 

だがしかし、炎の刃を飛ばす寸前に足を鉤爪付きのロープに絡め取られてしまい、それを引っ張られたため私は後ろにひっくり返り、炎の刃は的外れの方へと飛んでいった。

 

 

コキュートス「ヤァアアア!!」

 

インフェルノ「うわーっ!!」

 

かと思うと、そのロープを発射してきたコキュートスは思い切り右腕を振り回して、お返しと言わんばかりに私を大きく投げ飛ばした。

 

 

 

投げ飛ばされた私だったが、なんとか空中で姿勢を立て直し、投げられた先にあった木を蹴ってうまく反転した。

 

 

インフェルノ「ダァアアアア!!」

 

そうしてその勢いのまま、空中から膝蹴りをコキュートスにお見舞いした。

 

 

コキュートス「くぅっ!! だっ!!」

 

 

私の膝蹴りをまともに受けたコキュートスだったが、倒れかけながらもその勢いを利用して私に回し蹴りを放ってきた。

 

 

カウンターでそれを受けた私は、大ダメージを受けて転がっていった。

 

 

インフェルノ「がっ、はっ」

 

 

コキュートス「受けなさい!! クリスタル・スター!!」

 

今コキュートスに蹴られた横腹を押さえながら、なんとか立ち上がると、そこを狙って巨大なトゲ付きの氷の玉が飛んできた。

 

 

インフェルノ「!!! くっ!!」

 

痛みに顔をしかめながら必死に転がってそれをかわすも、それを狙って何度となくコキュートスは氷の玉を振り回してきた。

 

 

このままではかわしきれないと判断した私は、氷の玉が飛んできたのを見計らって、全身から高熱を発した。

 

 

インフェルノ「プリキュア・ヘル・バックファイア!!!」

 

 

その高熱に、飛んできた氷の玉は一瞬で蒸発し、私は体勢を立て直すことができた。

 

 

 

 

コキュートス「美里!! あなたは自分がどんなことをしようとしてるかわかってるの!? なんの保証も可能性もない未来、そんな世界にたった一人で行くつもりなの!?」

 

 

インフェルノ「わかってるわよ!! でも私は多くの人の可能性を、未来を奪ってきた。だからこそ、私は未来に光なんて求めちゃいけない。たった一人になろうとも闇の中で償い続けなくちゃいけないの!!」

 

 

コキュートス「いい加減にしなさい!! なんでもそうだった。プリキュアのことだって何の相談もせず、一人で抱え込んで悩んで苦しんで。その挙句がこれでしょ!! たった一人で何をやっていけるつもりなの!?」

 

 

インフェルノ「一人なのは慣れっこよ!! どうせ私にはこれ以上無くすものもないから!!」

 

 

コキュートス「勝手を言わないで!! どうして何も言わないのよ!! 何か言ってくれれば、私はいつでもあなたを支える覚悟はある!! それを!!」

 

 

インフェルノ「言えるわけないでしょう!! 私が勝手に始めたことにあなたを巻き込めない!! 雪菜を大切にしたかったから!!」

 

 

コキュートス「あなたがボロボロになっていくのを見てて、どれだけ辛かったと思ってるの!? これから先もっとボロボロになるかもしれない世界にあなたを行かせない!! 絶対に!!」

 

 

インフェルノ「ありがとう!! そう言ってくれる人がまだ一人でもいるってわかれば私はもう何も怖くない。どんな闇の中だって歩いていけるよ。私は自分の決めたこの未来を生きる!!」

 

 

コキュートス「させないって言ったでしょ!!」

 

 

 

私達は一進一退の攻防を続けながらも、お互いの胸の内をそうやって叫び続けた。

 

 

 

 

 

コキュートス(…美里、あなたはすごい。何の希望もない世界に進んでいくなんて私はできない。夢を失っても音楽の世界から離れられない私には…。でも、必ず私は前へ進んで見せる!! あなたが私の思いを受け止めてくれるならば!!)

 

 

コキュートス「プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」

 

コキュートスは大型ガトリングガンに変化した右腕から、猛烈な勢いで氷の弾丸を連射した。

 

 

 

 

インフェルノ(…雪菜、あなたはすごい。私は全てを奪った相手を憎むことしかできなかった。それなのにあなたの夢を奪った私のことをあなたは考えてくれている。そんなことは私にはできない。でも、おかげで前に進むことができる。どんな闇の中だろうとも、かすかでも光が残っていると信じられたから!!)

 

 

インフェルノ「プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

私は両手を大きく振りかぶり、炎の塊を投げつけた。

 

 

 

同時に放たれた私達の渾身の必殺技は、空中でぶつかり合い大爆発を起こした。

 

 

 

インフェルノ・コキュートス「「キャアアアア!!」」

 

 

その大爆発に私達は悲鳴と共に大きく吹き飛ばされ、地面に体を激しく打ち付けた。

 

 

 

 

そんなプリキュア達の戦いの一部始終を元三獣士達は物陰から見ていた。

 

 

クジャク「…あの二人とんでもなく仲が悪いんだと思ってたけど、もともとは友達だったんだね」

 

アカンコウ「…そうですね。一体どこでどう間違ってあんなになっちゃったんでしょう」

 

ゴロリン「…何かを誰かを憎むっちゅうのは、大切な仲間を失うだけで何にもならんのでおますな」

 

 

 

元三獣士達は、目の前で繰り広げられる戦いが果てしなく無意味なものに見えて仕方がなく、途方もない虚しさを感じていた。

 

 

 

 

 

爆発に吹き飛ばされた私は、全身を強く打ち付け痛みに顔をしかめたが、気合一発立ち上がった。

 

見ると雪菜もまた、立ち上がりこちらに向かって駆け出していた。

 

 

私たちの周りは、炎が燃え広がり、地面はところどころが凍りついた針の山のようになり、その名の通り地獄という形容がぴったりくるような場所になっていた。

 

 

 

コキュートス「美里ーっ!!!!」

 

インフェルノ「雪菜ーっ!!!!」

 

 

 

 

そんな地獄ででも、私達は相手のいる場所に目指すべき大切なものがあるかのようにお互いの名前を力の限り叫びながら、全力で突っ込んでいった。

 

 

 

インフェルノ・コキュートス「「うわぁぁぁぁあああ!!!!!」」

 

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)第17話に続く

 

 

 



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第17話「R達の明日」

 

 

某オフィス

 

 

 

「ふぅ」

 

すっかり日も沈んだ頃、小さな会社で女性社長がデスクに座ってため息をついていた。

 

この会社はつい最近できたばかりの小さな会社であり、従業員も彼女の他は雑用のアルバイトが一人だけ。そのため目の回る忙しさだが、新会社の船出としては割と順調な方であった。

 

 

(どうせ私は生まれた時から何にもなかった人間だ。だったらもう一度ゼロからやり直してやるさ)

 

 

その女性社長は、そう小さく呟きデスクの書類を片付けていると、ふと半年ほど前のことを思い出した。

 

(やれやれ、あいつらの方は元気でやってるのかねぇ)

 

 

 

 

 

あの日、元三獣士たちはプリキュア達の戦いの決着を見届けると、いろいろ考えた末に洋館を出て行くことにした。

 

 

三人でしばらく歩いているとちょうど十字路に差し掛かった。

 

 

クジャク「ちょうどいいね。ここで別れよう」

 

アカンコウ「はい。長い間お世話になりました」

 

ゴロリン「こちらこそ、いろいろありがとうでおました」

 

 

 

三人は互いに心から感謝を込めて頭を下げた。

 

 

クジャク「お前達さぁ、これからどうするつもりだい?」

 

何気なくクジャクはそう尋ねたが

 

 

アカンコウ「いえ、クジャク様。それは聞きっこなしってやつですよ」

 

ゴロリン「で、まんねん」

 

アカンコウとゴロリンは顔を伏せたままそう返事をした。

 

 

クジャク「ああ、そうだったね」

 

クジャクも納得したようにそう言った。

 

 

 

クジャク「でもさ、一つだけ約束しよう。もう、誰かを何かを恨んで生きるのはおしまいにしよう。残った金を山分けしたらそこそこにはなったし、これを元手に真面目に生きること。頑張ろうね」

 

クジャクはにっこりと笑って言った。

 

 

アカンコウ・ゴロリン「「はい! 頑張ります!!」」

 

二人も笑顔で力強く答えた。

 

 

 

クジャク「じゃあね」

 

アカンコウ「さようなら」

 

ゴロリン「風邪ひかんでな」

 

 

三人は最後の挨拶をかわすと、それぞれ別々の方向へと歩いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

とあるガード下

 

 

 

列車の音が響く中、ここに最近小さなラーメンの屋台が出ていた。

 

割と評判はよく、知る人ぞ知る名店といった感じで常連客もつき始めていた。

 

 

 

客「よっ、大将。いつもの頼むよ。しかしなんでまたラーメン屋なんて始めたんだい? なんか昔どっかの研究室にいたって言ってたじゃないかい」

 

 

「深い理由はありませんよ。バイトしてたこともあったし、もともと何かを作るのが好きでね」

 

(もう、人の才能を妬んだり足を引っ張ったりする世界に戻るのはごめんだ。こうやって人に喜んでもらえるものを作るのがこんなに楽しいとはねぇ)

 

目の前で自分の作ったラーメンを美味そうにすする客を見ながら、大将はしみじみと考えていた。

 

 

(はぁあ。ああやって別れたけれど、今頃は…)

 

 

 

 

 

 

とある高速道路

 

 

ある運送会社のトラックが荷物を乗せて走っていた。

 

 

このドライバーは半年ほど前に入った新入社員ではあるが、かなり体力があり社内では重宝されていた。

 

 

そのドライバーは運転中にふと考え事をしていた。

 

 

(まさか、人生を狂わせたトラックの運転手をやることになるとは思わなかったでまんねん。しゃあけど、妙なこだわりを捨てると人生は楽しいもんでんなぁ。アカやんもクジャク様も、どないしとるんやろうなぁ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、この半年ほど前に設立したばかりの小さな会社と、ラーメンの屋台の出ているガード下と、ある運送会社は、500メートル圏内にあったりするのはここだけの話である。

 

 

 

 

 

 

オーエエドー市 叶家

 

 

 

この叶家では、久しぶりに明るい雰囲気が漂っていた。

 

雪菜が志望していた音大の付属高校に見事合格することができ、ささやかながらお祝いをしていたのだ。

 

 

雪菜祖母「合格おめでとう雪菜。でも本当にこれでよかったのかい?」

 

雪菜「いいの。ピアノを引くだけが音楽じゃないもの。作詞や作曲に編曲。指揮者だってあるもの。何になるかはこれから決めるけど私は全力で頑張る。未来の見えない闇の中で頑張ってる人がいるもの、私だって負けられないわ」

 

 

雪菜祖母「そうかい。お友達が頑張ってるなら、雪菜も頑張らないとね」

 

 

 

雪菜「違うよ」

 

雪菜のその返事に祖母は戸惑った。

 

 

雪菜祖母「えっ? 違うのかい?」

 

雪菜「うん違うよ。あの子は…友達なんて言葉じゃ言い表せない人だもの」

 

 

あの戦いの後、雪菜と美里は、メルやミプの妖精達と別れプリキュアの力を失った。

 

妖精の力を借りたものの末路を知っているだけに、そうした方が良いとメルやミプ達も語り、彼女達も特に未練はなかった。

 

 

ミプ「雪菜さよならミプ。色々迷惑かけてごめんミプ」

 

雪菜「いいのよ、ごめんね最後まで変なことにつき合わせちゃって」

 

 

美里「…その色々悪かったわね。踏みつけたり蹴飛ばしたり…」

 

メル「ううん、謝るのはメルの方メル。こんなことになってしまって本当にごめんなさいメル」

 

 

そうやって最後の挨拶をかわすと、妖精達は光の中へと消えていった。

 

 

雪菜「…行っちゃったね。ねぇ美里」

 

妖精達を見送った雪菜は美里に話しかけようと振り向くも、そこに美里の姿はなかった。

 

 

雪菜「美里!! どこ行ったのよ!! んもう勝手なんだから。まぁいいわ明日学校でとっちめてやる」

 

 

 

 

しかしそれ以降美里は学校にも来なくなり、久美や理香達と一緒に家を訪ねてみると、チリ一つなく綺麗に掃除された後に、幸せそうな家族写真だけがポツリと残されていた。

 

 

当然美里本人とは音信不通。

 

なんでも保護者となっている親戚の家に、もう迷惑はかけないからとの連絡が一言あっただけだと雪菜は聞いていた。

 

久美や理香は、突然いなくなった美里のことを心配するやら憤るやらでしばらく大変だったが、雪菜はかなり落ち着いたものだった。

 

 

どうせそんなことだろうとは、あの日にわかっていたからだ。

 

 

雪菜(きっと私達は、もう二度と会うことはない。言葉をかわすこともない。でもだからこそ、私はあなたを友達より大切な人だと胸を張って言える。あなたがどこかで自分の人生と向き合っているように、私も生きていく。ありがとう美里、さようなら)

 

 

 

 

 

某所

 

 

 

「なんだよ!! お前が悪いんだろ!!」

 

「何言ってんだそっちのせいじゃんか!!」

 

 

「何を!!」

 

「やるか!!」

 

 

小学生ぐらいの男の子が何が原因か言い争い、今にも取っ組み合いの喧嘩が始まりそうな空気だった。

 

 

「こらこら待った待った!!」

 

だがそこに自転車乗った中学生ぐらいの女の子が通りがかり、割って入った。

 

 

「なんだよ!?」

 

「関係ないでしょ!! 引っ込んでてよ!!」

 

 

「悪いけど、そうはいかないわ。ダメよ友達同士で喧嘩なんかしちゃ。人を憎んだりしてるとさ取り返しのつかないことになっちゃうよ。私もそうだったから」

 

 

 

美里(人が人を憎む気持ちがある限り、大神獣はまたいつか蘇るかもしれない。人はそんなものじゃないって証明してやる。私と同じ過ちを他の人たちに繰り返させない!!)

 

 

私は喧嘩の仲裁をした後、決意も新たに自転車をこぎ出した。

 

 

この先に待ち受けるものがなんなのかは知らない。

 

でも、一つだけ決めたことがある。

 

 

もう二度と人を恨むことはしない。

 

 

それが何も産まないこと、どれだけ虚しいことか私は誰よりも知っているから。

 

それを一人でも多くの人に伝えていく。

 

 

それがやっと見つけた私の明日だから。

 





一度この話はここで完結を迎えていますが、この先の話も執筆済みです。

どうするかは悩みましたが、やはりそちらもこのまま掲載するつもりです。

版権プリキュアとのクロスオーバーになる続編、そちらもお楽しみください。


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第三部 幸福の注入
第18話「Hとの接触」


プリキュアRシリーズのラストステージにして、版権プリキュアとのクロスオーバーです。

前話からこの話を書くまでに他のプリキュアの話を書いたりして、リアルに一年近く時間が空いてますので文章も主観視点から俯瞰視点に変わってます。

読みにくいかもしれませんがご了承ください。



 

 

 

おのれ人間ども!!

 

 

 

おのれ妖精ども!!

 

 

 

 

おのれプリキュアどもよ!!

 

 

 

 

我は滅びぬ!! 人間どもに憎しみの心がある限り!!

 

 

 

 

我は不滅の存在。いずれよみがえり世界の全てを憎しみの業火で焼き尽くす!!

 

 

 

その日を楽しみにしておくがいい!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「んも〜!! どうして起こしてくれなかったの〜!! めぐみ達が迎えに来ちゃうじゃん〜」

 

 

早朝からバタバタと大慌てで支度を始めたのが、このぴかりが丘にあるブルースカイ王国大使館の住人の一人、ヒメルダ・ウインドウ・キュアクイーン・オブ・ザ・ブルースカイ 通称白雪ひめ。

 

言動からそんな気品は微塵も感じられないが、これでも正真正銘ブルースカイ王国のれっきとしたお姫様なのである。

 

そして今一つの名をキュア・プリンセス。

 

この世界でもトップクラスの実力を持つチームハピネスチャージプリキュアのメンバーである。

 

 

「ひめったら私がどれだけ声をかけたと思ってるんですの!?」

 

そう言ってトーストをかじったひめを怒鳴りつけたのは、ぬいぐるみとも動物ともつかない不思議な生き物。

 

彼女の名はリボン。

 

 

れっきとしたプリキュアの妖精であるが、どちらかといえばお目付役お世話がかりとといった方が正しいか。

 

 

そんな中、テレビでは世界中のプリキュアの活躍を報道する番組、プリキュアウィークリーが始まっていた。

 

 

『みんなに伝えたい! 私が伝えたい! ご存知プリキュアウィークリーの看板キャスター、増子〜美代です!! 続けて読めばマスコミよ!!』

 

 

『今世界中でプリキュアが絶好調!! 世界を侵略してきた幻影帝国の力は確実に弱まっています。我々が望んできていた未来はすぐそこまで来ているのです!!』

 

 

ひめ・リボン「「おお〜!!」」

 

その報道にひめとリボンは目を輝かせた。

 

 

 

すると大使館の呼び鈴が鳴った。

 

 

ひめ「げっ、まずい!!」

 

リボン「みんなが迎えに来てしまいましたわ!!」

 

 

その言葉通り、大使館の外では三人の少女が中から聞こえてくる喧騒に呆れたような顔をしていた。

 

 

「今日もひめの家は元気だね」

 

「ふふっ。でもひめちゃんらしい」

 

「全く、毎日こうなんだから」

 

この三人は、上から愛乃めぐみことキュア・ラブリー、大森ゆうこことキュア・ハニー、氷川いおなことキュア・フォーチュン。

 

この三名にひめを加えた四名がハピネスチャージプリキュアである。

 

 

そうこうしている間に、大使館の扉が勢いよく開き、ひめとリボンが飛び出してきた。

 

ひめ「ごめーん!!」

 

リボン「お待たせですわ!!」

 

 

そんなひめに対して、めぐみはいつもの口癖とともににこやかに挨拶した。

 

めぐみ「おっはようひめ。今日も一緒に幸せハピネスな1日にしようね!!」

 

 

そうして目の前に広がる三つの笑顔を見て、ひめもまた微笑みながら力強く頷いた。

 

 

ひめ「うん!!」

 

 

 

 

 

そうして四人で登校中、ひめは今朝のプリキュアウィークリーの事について話し始めた。

 

ひめ「ねえねえ。今朝テレビで世界中の幻影帝国の勢力が弱まってるって言ってたけど、あれってやっぱりまりあさんが頑張ってるからだよね」

 

 

まりあ。

 

本名氷川まりあといい、いおなの実の姉。

 

そしてまたの名をキュア・テンダー

 

 

幻影帝国のプリキュアハンターのファントムに敗れ、一度は洗脳されたこともあったが、めぐみ達の助力によって解放されたのだ。

 

そののち世界中のプリキュアを支援すべく世界中を飛び回っていた。

 

 

ぐらさん「当然だぜ!! なんたってテンダーは最強のプリキュアの一人だからな」

 

そう言って自慢げに話すのが、元テンダーの妖精でもあったぐらさん。

 

現在はフォーチュンの妖精であり、ひいてはハピネスチャージプリキュアの妖精でもある。

 

 

 

いおな「そうね。でも嬉しい反面やっぱり少し寂しいわ…」

 

いおなにとってはたった一人の姉であり、やっと再会できたというのに離れ離れになってしまっている。

 

ファントムに倒されてプリキュア墓場に封印されていた時よりはマシとはいえ、やはりどこか穴の開いたような気持ちがしていた。

 

 

めぐみ「いおなちゃん… でもこうやっていいニュースが流れてくるってことはまりあさんが元気だって証拠だよ」

 

ゆうこ「そうそう。めぐみちゃんいいこと言う」

 

 

いおなもそんな二人に元気付けられたか、笑顔が戻った。

 

 

いおな「…それもそうか。ありがとうめぐみ。ゆうこも」

 

 

 

だがそんな会話を聞きながら、ひめはどこか浮かない顔をしていた。

 

 

めぐみ「ん? どうしたのひめ?」

 

 

ひめ「な、なんでもないよ。今日古典の授業あるじゃん、あれ苦手でさぁ〜」

 

ゆうこ「確かにひめちゃんには厳しいよね〜」

 

めぐみ「心配することないよ。私なんて全部苦手なんだから」

 

いおな「自慢にならないわよ」

 

 

 

どこにでも転がっているような平和な日常会話。

 

本来ならばどこにでも当たり前のようにあったはずのもの。

 

 

だが、幻影帝国の侵攻によりそれは脅かされている。

 

そしてその原因は…

 

 

ひめ(私がアクシアの箱を開けちゃったから、幻影帝国が復活して世界中に迷惑かけちゃってる。いおなは許してくれたけど、このままでいいのかなぁ…)

 

 

いつも明るくはしゃいでいるひめだが、心の底にはモヤモヤしたものが立ち込めていた。

 

 

 

 

 

 

ブルースカイ王国

 

 

かつてのひめの故郷。

 

現在は幻影帝国の拠点となってしまっているブルースカイ城。

 

 

そこの玉座に座っている女王、クイーンミラージュは苦虫を噛み潰したような顔をしていた。

 

 

ミラージュ「プリキュアのせいでまた世界から不幸が消えていく。これはどういうことなのか?」

 

 

その前にひざまづいている三人の幹部、ナマケルダ、ホッシーワ、オレスキーはそんなミラージュに対して顔を上げることもできないでいた。

 

 

 

そんな中、ミラージュの後ろに飾られたディープミラーが怪しく輝き、語りかけた。

 

ディープミラー『いかがでしょうミラージュ。他の世界からより憎しみに満ち溢れたものを呼び寄せてみては』

 

 

ミラージュ「他の世界? それはどういうことか? ディープミラー?」

 

 

 

ディープミラー『この世界は一つのように思えるけど、本当は一つではなく、いくつもの次元が薄い膜のように重なってできております。この世界とよく似た世界もあれば、全然違う世界もあり本来は交わることもないのですが…』

 

ミラージュ「だがなんだ?」

 

 

ディープミラー『ここに近い世界において、プリキュアや世界に対する大きな憎しみの力を感じております。そやつを呼び寄せることができれば…』

 

 

ミラージュ「面白い。してどうすればいいのだ?」

 

ディープミラー『一時的にこの世界とその世界を融合させます。その上で大量の負のエネルギーを与えることができれば… しかしチャンスは一度だけでしょう』

 

 

ミラージュ「構わぬ。直ちに実行せよ」

 

 

そして、目の前の三幹部に対して檄を飛ばした。

 

ミラージュ「聞いてのとおりだ。直ちに出撃し、負のエネルギーを充満させてくるのだ!!」

 

 

ナマケルダ、ホッシーワ、オレスキー「「「はっ!!!」」」

 

 

 

その言葉とともに三幹部は出撃していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ディープミラーの示していたよく似た世界。

 

この町の名前はピッカリヶ丘である。

 

 

 

この町にある有名な音大の附属高校から一人の女生徒が帰宅しようとしていたのをクラスメイトが呼び止めた。

 

 

「雪菜ー!! ちょっとお茶して帰らなーい?」

 

「ごめんなさい。今日はちょっと病院に行かないと… 定期検診があって…」

 

 

「あっ、そうなんだ。じゃあまた今度ね」

 

「はい、さようなら」

 

 

 

そう言って足早に下校していった少女を見てクラスメイトは頭の下がる思いだった。

 

 

「すっごいよね雪菜って。 真面目で頑張っててさ、成績トップだもんねー。あんな体で…」

 

「さっすが昔は天才ピアニストって言われてただけのことあるよね〜」

 

「うん。事故で右手の指が動かなくなってもうピアノが弾けないのにさ。音楽はピアノだけじゃないって言ってさ。本当にほとんどなんでもこなしちゃうんだもんねー」

 

 

 

こう言ってクラスメイトが褒め称えている少女の名は 叶 雪菜。

 

音楽の世界では天才といわれる父と世界的なヴァイオリニストの母の間に生まれたサラブレッドであり、本人も幼い頃からピアニストを志望していた。

 

 

しかし、とある事情から日常生活をこなすだけで手一杯になるような怪我を右手に負ってしまった。

 

その後紆余曲折の果てに、新しい夢を探すためにこうして音大の附属高校に進学しているのである。

 

 

 

「でも、なんであんなに一生懸命なんだろうねー?」

 

「聞いたことあるよ。なんでも頑張って生きるってことで負けたくない人がいるんだって」

 

 

 

 

ピッカリヶ丘駅

 

 

 

この駅のホームで電車を待っていると、ふと雪菜の目に仲のよさそうな二人の少女が入った。

 

これから塾にでも行くのだろう二人はカバンをガサゴソとあさっていた。

 

テキストでも取り出すのかと思っていたら、カバンから携帯ゲーム機を取り出して遊び始めていた。

 

雪菜「あらあら」

 

そんな光景を微笑ましく見た雪菜は、昔のことを思い出していた。

 

雪菜(あれから、もう一年近くになるのか… もうあんな風に笑ってゲームができることなんてないんだろうなぁ…)

 

 

中学生だった頃、雪菜は一時格闘ゲームにはまっていたことがあった。

 

何度も対戦を繰り返すも一度も勝てなかった相手のことを思い出し、遠い目をして空を見上げた。

 

 

雪菜「やれやれ。今頃どこで何をしてるのやら…」

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃、ピッカリヶ丘市内にて、大きな荷物を載せた自転車を押して、よろよろと歩いている少女がいた。

 

 

「あ〜… お腹すいた〜 もう三日は水だけだもんね〜」

 

そんな悲惨なことを言いながら、少しは水でお腹を満たそうとペットボトルを鞄から取り出してぐい飲みした。

 

「何か食べようにも、私の全所持金は五円玉が一枚きり。この最後の履歴書で何としてでもバイトにありつかないと…」

 

 

 

そんなことを言ってる間にペットボトルの水を飲み干してしまった少女は、大きくため息をついた。

 

「それより先に公園でも探すか、水の汲み置きしとかないと… まったく、旅して回るのも楽じゃないよ。 実際はホームレスみたいなもんだしね」

 

自虐的な言葉とともにもう一つ大きなため息をついた。

 

 

「…でも、あれからもう一年か。よく続いてるよね我ながら」

 

 

とある事情により、中学校もろくに卒業しないまま日本中を身一つで旅して回っているこの少女の名は、渚 美里。

 

 

美里は、ふとこの一年のことを回想していた。

 

 

被災地やその他のボランティアやアルバイトをしながら各地を旅して回っている生活を送っており、そこで助け合うことの大切さと憎むことの虚しさをできる限り説いて回っていた。

 

 

美里「私の言葉じゃ説得力ゼロかもしれないけどさ。まっ、ないよりはマシよね。一生続ければ少しは見れたものになるかな」

 

 

そんなことをつぶやいていると、美里の目の前の景色が一瞬歪んだ。

 

 

美里「むっ、イカンイカン。目まいまでしてきた。真っ剣にお金をなんとかして稼がないと…」

 

 

美里はブルブルと首を振ると、自転車を押してゆっくりと歩き始めた。

 

 

 

 

 

妖精界

 

 

ここ妖精界では愛嬌のあるぬいぐるみのような二匹の妖精が、異変を感じ取っていた。

 

ミプ「メル、今何か変な感じがしなかったかミプ?」

 

メル「ミプも感じたメル? これはひょっとすると…」

 

 

ミプ「どうするミプ? またプリキュアを探すミプ?」

 

メル「でも、そんな簡単にはいかないメル。前の時もそうだったメル」

 

その言葉にミプは反応した。

 

ミプ「前の時… そうミプまた… あっ…」

 

俯いてしまったミプに対して、メルもまた力無く首を横に振った。

 

 

メル「ミプ… あの二人はもうプリキュアと関係ない人生を歩むべきメル。メルたちのせいであの二人は何もかもなくしたメル。だから…」

 

 

 

その言葉にしばらく考え込んでしまったミプだが、決意の表情とともに顔を上げた。

 

ミプ「…でも、何かあったらそれこそ大変ミプ。行くだけ行ってみるミプ」

 

そう言い残して、ミプは人間界に行ってしまった。

 

 

 

メル「…やっぱりだめメル。もうあの二人に迷惑をかけられないメル。 待つメル、ミプー!!」

 

 

第19話に続く

 



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第19話「Hへの苦言」

 

 

雪菜「なっ何? 今何か景色が歪んだような…」

 

 

ホームで電車を待っていた雪菜だったが、突然陽炎のように景色が歪んだことに首をかしげていた。

 

 

雪菜「あれ、何かしら? 何か違和感が…」

 

 

そしてすぐにその違和感の正体に気がついた。

 

 

雪菜「えっ? 駅名が変わってる? ぴかりが丘? ピッカリヶ丘だったはず…」

 

 

よく似ているとはいえ、町の名前を冠した駅名である。

 

変わっていればもっと大騒ぎになっていいはずであるのに、誰も騒ぎ出さないことに雪菜の疑惑は高まっていった。

 

 

雪菜「? どうして? 誰も騒ぎ出さない… まるであれで当たり前みたいに…」

 

 

そんな中、学生らしき二人が気になることを話しているのが雪菜の耳に入った。

 

 

「ようよう。知ってるか? キュア・テンダーの事」

 

「知ってる知ってる。世界中で幻影帝国倒して回ってるんだろ。プリキュアがこのまま連中を倒してくれれば…」

 

「ああ、世の中平和になるってもんだ」

 

 

 

雪菜「!! プリキュア!?」

 

その単語は雪菜にとって生涯忘れられないものであった。

 

 

雪菜「…でも、どういうこと? プリキュアが世界を平和にする? それに幻影帝国って?」

 

 

自分の理解を超える言葉が次々と現れることに、雪菜の思考はパニックに陥り始めていた。

 

 

しかしそれも長くは続かなかった。

 

 

突如として駅前の広場の方から爆発音が聞こえてきたからである。

 

雪菜「っ!! 今度は何!?」

 

 

いい加減に驚くのにも疲れた雪菜がホームから広場の方を覗くようにすると、身長数メートルはあろうかという、黒づくめの巨人といった怪物が大量に暴れまくっていた。

 

 

雪菜「な、なんなのあれ? まさか大神獣の手先!?」

 

 

驚く雪菜をよそに怪物は暴れまくり、人々もパニックになりながらも必死に逃げ惑っていた。

 

しかし、怪物は巨大であり、そんなものが突如大量に出現して暴れまくっている中、人々が完全に避難することは不可能であり、怪物に襲われて怪我をしている人や、崩れたビルの瓦礫の下敷きになる人も少なからずいた。

 

雪菜「あ… そんな…」

 

もうありえないと思っていた非日常的な光景が、再び目前で繰り広げられている。

 

そのことに雪菜は愕然としていたが、人々の悲痛な叫びを聞いて我に返った。

 

 

雪菜「い、いけない!! 私も逃げないと!!」

 

こんなところで呆然としていたら、中学生の時のように巻き込まれかねず、下手をすれば今度は腕だけで済まない。

 

 

そのことに気がつくと、雪菜もまた大勢の人とともに避難を始めた。

 

 

 

そんな中、小さな女の子が人混みに押されて転けてしまった。

 

「うえ〜ん!! 痛いよ〜!! おかあさ〜ん!!」

 

 

それを見た雪菜は仕方ないというようにその子を助けに行った。

 

 

雪菜「しっかりしなさい!! 泣いても何にも変わらないの!! 少し擦りむいただけじゃないの。逃げなさい、早く!!」

 

「でも、私のぬいぐるみ」

 

雪菜「そんなことより自分を大事にしなさい!! 逃げるのよ!!」

 

 

泣き叫んでいた女の子を叱咤激励して、とりあえず逃した雪菜だったが、そのせいで今度は自分が逃げ遅れてしまった。

 

 

気がついた時には、背後に巨大な怪物が迫ってきていた。

 

 

雪菜「!!!」

 

 

一瞬覚悟を決めた雪菜だったが、何かがその怪物に体当たりして大きく吹き飛ばした。

 

 

雪菜「えっ!?」

 

 

恐る恐る目を開けた雪菜の目には、ドレスのような衣装に身を包んだ四人の少女達の姿が飛びこんできた。

 

雪菜「プリ…キュア…?」

 

 

 

 

 

ラブリー「大丈夫ですか?」

 

ハニー「早く逃げてください!!」

 

 

雪菜「えっ? あっ? はい」

 

 

自分を気遣うような言葉に戸惑いながらも雪菜は避難した。

 

雪菜(あの子達、本当にプリキュアなの? 人を気遣って避難まで促すなんて…)

 

 

自分の知っているプリキュア像からかけ離れた態度をとる少女達に、雪菜は戸惑っていた。

 

 

 

 

プリンセス「ちょっとなんなのよ!! こんなにサイアークがいるなんて!! いつものチョイアークと同じぐらいいるじゃない」

 

フォーチュン「文句を言っても始まらないわ。行くわよ!!」

 

 

四人のプリキュアはサイアークの大群を一睨みすると一斉に立ち向かっていった。

 

 

 

 

その光景に、アリのような触角のついたシルクハットを被り緑色のフロックコートを着てステッキを持った紳士風の男が、近くのビルの屋上で横になりながら面倒臭そうにあくびをした。

 

ナマケルダ「やれやれ。面倒なのが来ましたぞ」

 

 

 

 

 

 

プリンセス「プリンセス弾丸マシンガン!!」

 

 

プリンセスが小さなボールのようなものを連続で投げると、それは次々に命中してサイアークにダメージを与えていった。

 

 

しかし敵の数は多く、与えたダメージもそれほど大きくはなかったようで、サイアークはひるむことなくプリンセスに突撃していった。

 

プリンセス「うわ〜!! やばいやばいやばい!!」

 

焦り始めたプリンセスだが、目の前のサイアークは黄色いリボンに絡め取られて前進が止まった。

 

 

ハニー「大丈夫!?」

 

プリンセス「サンキューハニー!!」

 

 

 

フォーチュン「ラブリー、行くわよ!!」

 

ラブリー「オッケーフォーチュン!!」

 

 

フォーチュンの呼びかけに頷いたラブリーは、一緒にサイアークに突撃していき、強烈なダブルパンチを浴びせた。

 

 

 

 

雪菜「あの子達… 四人でチームとして戦ってるの…?」

 

お互いに支え合い連携攻撃を仕掛け、ピンチに陥ればお互いに助けに入る。

 

 

想像したこともなかった光景に、物陰に隠れた雪菜は目を丸くしていた。

 

 

「雪菜、雪菜」

 

 

そんな雪菜の足元から小さい声が聞こえてきた。

 

 

聞き覚えのある声に驚いて目をやると、愛嬌のあるぬいぐるみのような生き物がいた。

 

 

雪菜「ミプ!? あなたどうしてこんなところに!?」

 

 

ミプ「おかしな闇の力の気配を感じたからミプ。まさかと思って調べに来たミプ」

 

雪菜「闇の力? やっぱりあいつら大神獣と何か関係が?」

 

 

そんなことを話していると、プリキュアの悲鳴が聞こえてきた。

 

 

巨大な怪物の群れと戦っていた四人のプリキュアだが、数の暴力の前に苦戦を強いられているらしく、全員肩で息をし始めていた。

 

 

 

 

ミプ「雪菜… その… お願いしにくいけど… 他の人を探してる時間がなくて… だから…」

 

 

とても言いにくそうにうつむきながら途切れ途切れに呟くミプと苦戦をしている四人のプリキュアを交互に見て、雪菜も舌打ちをしそうな顔をした。

 

 

雪菜「し、仕方ないわね。とりあえずあれを放っておけそうもないし…」

 

 

その言葉にミプは申し訳なさそうにスマホのような姿になった。

 

 

そんなミプを雪菜は左手で掴み、右手でたどたどしく鍵の形のアプリをタッチした。

 

 

雪菜「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

次の瞬間、一気に周辺温度が何十度も下がったかと思うような寒々しく冷たい光が雪菜を包んだ。

 

 

 

 

 

ラブリー「チェリーフラメンコ!! プリキュア・パッションダイナマイト!!」

 

プリンセス「シャーベットバレエ!! プリキュア・アラベスクシャワー!!」

 

ハニー「ポップコーンチア!! リボンハートエクスプロージョン!!」

 

フォーチュン「パインアラビアン!! プリキュアオリエンタルドリーム!!」

 

 

ハピネスチャージプリキュアはフォームチェンジを駆使してサイアークの大群と戦っていたが、一向に減る気配のないサイアークにさすがに疲弊していた。

 

 

フォーチュン「くっ!! 倒しても倒しても…」

 

ラブリー「がんばろう。確実に数は減ってきてるんだから…」

 

 

そう言って皆を鼓舞したラブリーだったが、彼女もかなり疲労がたまっていた。

 

こうして戦っている間にも、ハニーに体力を回復してもらってはいるのだが、正直焼け石に水といった感じが強かった。

 

 

プリンセス「キャアアア!!」

 

そうこうしている間に、プリンセスがサイアークに殴り飛ばされていた。

 

 

プリンセスのダメージはかなりのものであるらしく、なかなか起き上がることができず、しかもそんな彼女にとどめをささんとサイアークの群れが向かっていった。

 

 

ラブリー「プリンセス!!」

 

慌てて助けに入ろうとしたラブリーだったが、サイアークに阻まれてしまい身動きが取れなくなってしまった。

 

 

 

プリンセス「!!!」

 

 

プリンセスは目の前に迫り来るサイアークが拳を振り上げたのを見て思わず目をつぶってしまった。

 

 

そんな時だった。

 

 

〜♪〜♫〜♪〜〜♪〜♫〜♪〜♫〜♫〜♪〜♪〜♪〜

 

 

何処からか笛の音が聞こえてきた。

 

ナマケルダ「ん? なんですかな? この気分の悪くなる音は」

 

 

 

 

 

 

するとサイアークの動きは麻痺したように止まってしまった。

 

 

プリンセス「…えっ?」

 

フォーチュン「何この音?」

 

ハニー「笛の音?」

 

 

 

 

ラブリー「あっ、プリンセス!!」

 

サイアークの動きが止まったため、ラブリーは難なくプリンセスの救助に入ることができた。

 

 

ラブリー「しっかりして」

 

プリンセス「あ、ありがとう。でもこの音なんなの?」

 

 

フォーチュン「見て!! 駅舎の上よ。誰かいるわ!!」

 

フォーチュンの指差した駅舎の上では誰かが横笛を吹いていた。

 

 

ハニー「で、でも… あ、あれって…」

 

 

 

その誰かは一人の少女であったが、どう見ても普通ではなかった。

 

 

白を基調にして水色で縁取りした寒々しさを感じるドレスに身を包み、氷と言われても信じられるような色の髪。

 

極め付けは恐怖を感じるような冷たい目を、同じく冷たさしか感じないドミノマスクの奥に光らせていた。

 

 

その少女は吹いていた横笛をブーツにしまうと、氷のように冷たい声で静かに名乗った。

 

「絶望の果てより来たりしもの キュア・コキュートス」

 

 

 

 

 

 

ラブリー「プ、プリキュア!?」

 

フォーチュン「コキュートスって… 地獄のことじゃない!! えらく物騒な名前を…」

 

 

 

突然出現した新しいプリキュアに戸惑っていたハピネスチャージプリキュアだったが、そんなことはお構いなしにコキュートスは右腕を大きな氷の刃に変えた。

 

 

コキュートス「…アイス・エッジ。 はああああ!!」

 

そしてその右腕を構えてビルの屋上からジャンプしてサイアークの中に飛び込むと、片っ端から切りつけていった。

 

 

するとサイアークは簡単に真っ二つになっていった。

 

ラブリー「す、すごい!! 私のより切れ味がいいかも」

 

ハニー「切っただけじゃないわ。切り口が凍りついてる!!」

 

 

 

コキュートス「思ったより数が多い。だったら…」

 

予想外に数の多いサイアークに囲まれてしまったコキュートスは、右手を大きな刃から大きな瓢箪のような形に変化させた。

 

 

そしてその先端には、棘の付いた氷の球いわゆるモーニングスターというものが付いていた。

 

 

コキュートス「受けなさい。クリスタル・スター」

 

その叫びとともに右腕を振りかぶり、その氷球につながったロープを振り回すようにして周辺のサイアークに球をぶつけ回った。

 

それをぶつけられたサイアークは次々と凍りつき、しかも体がえぐり取られたようになっていた。

 

 

プリンセス「ワォ!! ワイルド〜」

 

フォーチュン「ぼんやりしてられないわ。私達も行くわよ!!」

 

 

 

コキュートスの戦いぶりに感心していたが、我を取り戻したフォーチュンの言葉に、皆改めてサイアークと戦い始めた。

 

 

戦力が一人増えたこともあって、サイアークの数は目に見えて減り始め、ついに五体を残すのみになった。

 

 

 

 

ラブリー「いっくよみんな!! プリキュア・ピンキーラブシュート!!」

 

ラブリーの呼びかけに皆もそれぞれ必殺技を放った。

 

 

プリンセス「プリキュア・ブルーハッピーシュート!!」

 

ハニー「プリキュア・スパークリングバトンアタック!!」

 

フォーチュン「プリキュア・スターライトアセンション!!」

 

 

 

ラブリー「愛よ!!」

 

プリンセス「勇気よ!!」

 

ハニー「命よ!!」

 

フォーチュン「星よ!!」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「天に還れ!!」」」」

 

 

 

コキュートス「受けなさい!! プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」

 

コキュートスもまた、大型ガトリングガンに変化させた右腕から、猛烈な勢いで氷の弾丸を連射して、サイアークを蜂の巣にした。

 

 

ナマケルダ「チッ!! あんなプリキュアのことは聞いてないですぞ」

 

そう言い残してナマケルダは気付かれないように姿を消した。

 

 

 

 

 

 

戦いが終わって一息ついた後、コキュートスはハピネスチャージプリキュアに向き合って尋ねた。

 

 

コキュートス「あなたたち、本当にプリキュアなの?」

 

プリンセス「って、それこっちのセリフなんですけど!!」

 

 

フォーチュン「とりあえず、私達の敵じゃない… でいいのかしら?」

 

コキュートス「…まぁ、今のところはね。戦う理由もないし」

 

 

 

その会話を最後にしばらく沈黙が流れ、変な緊張感に耐えられなかったらしく、ラブリーが妙に明るく提案をした。

 

ラブリー「え〜っと、じゃあさ。とりあえず、一緒に来てくれませんか? ちょっとお話をしたいし」

 

 

コキュートス「…いいわ。私も色々と聞きたいことがあるし」

 

 

 

 

 

 

ブルースカイ王国大使館

 

 

 

光の翼を広げたハピネスチャージプリキュアと、青白い光の玉に変化したコキュートスはここまで直線コースで飛んできた。

 

 

突然光の玉になって空を飛んだコキュートスに、ラブリー達はかなり困惑していたが、大使館の中に入っても一向に変身を解除しようとしないことにはさらに困惑していた。

 

 

ひめ「…あのう。そろそろ変身を解除してくれませんか? うっ!!」

 

恐る恐るというように話しかけてきたひめだったが、ドミノマスク越しでもわかる厳しい目つきに怯えたような声を出した。

 

 

そんなひめを見て、コキュートスは周りをしばらく見渡すとようやく変身を解除した。

 

 

雪菜「ふぅ〜久しぶりに戦ったからさすがに堪えるわね」

 

ミプ「雪菜、大丈夫ミプ?」

 

雪菜「なんとかね」

 

 

一息つきながら右手の動きを確認するように、開いたり握りしめたりをしていた雪菜を見て、めぐみが話しかけた。

 

めぐみ「あなたさっきサイアークに襲われてた!!」

 

 

雪菜「ええ、おかげで助かったわ。ありがとう」

 

 

めぐみ「え〜っと、改めまして自己紹介しまーす。私は愛乃めぐみです」

 

ゆうこ「あっ、大森ゆうこと言います。実家はおおもりご飯って言うお弁当屋さんです」

 

いおな「氷川いおなです。空手道場が実家です」

 

ひめ「う〜んと、ヒメルダ・ウインドウ・キュアクイーン・オブ・ザ・ブルースカイって言います。白雪ひめって呼んでくれて結構です」

 

 

雪菜「叶 雪菜と言います。ピッカリヶ丘音楽大学附属高校の一年生です。 どうぞよろしく」

 

 

リボン「リボンと申します、こちらこそよろしく。先ほどはひめを助けてもらったみたいでありがとうですわ」

 

 

丁寧にお礼を返したリボンを見て、雪菜は驚いていた。

 

雪菜「あらあら、他にまだ妖精がいたなんてね。よかったわねミプ」

 

 

ミプ「う、うん。でもなんか違う気がするミプ」

 

ぐらさん「俺もだ。どっか変な感じだぜ」

 

 

いおな「変な感じ?」

 

雪菜「それって、千年以上も経ってるからじゃないの? それだけ会ってなければ違和感もあるでしょうに」

 

 

ひめ「せ、千年!?」

 

リボン「いくらなんでもそんなに生きてられませんわ!!」

 

 

あまりに桁外れの時間単位にひめ達がぶっ飛んでいると、部屋の扉が開いて一人の男性が入ってきた。

 

 

ブルー「そういうことか。おそらく今この世界は別の世界とつながっているんだ」

 

めぐみ「あっ、ブルー」

 

いおな「どういうことですか? 別の世界って…」

 

 

 

ブルー「この世界は一つのように思えるけど、本当はひとつじゃない。いくつもの次元が薄い膜のように重なってできているんだ。この世界とよく似た世界もあれば、全然違う世界もある」

 

ぐらさん「なるほど。パラレルワールドってやつか」

 

 

ブルー「そうだ。そんな世界の一つでこことよく似た違う世界。その世界とこの世界がつながっているんだろう」

 

 

ひめ「ふんふん。なるほどなるほど」

 

したり顔でウンウンと頷いていたひめだったが、

 

 

リボン「ひめ、本当に分かってるんですの?」

 

リボンのツッコミに冷や汗とともに動きが止まった。

 

 

 

 

 

雪菜「え〜っと、失礼ですけどあなたは?」

 

 

めぐみ「ああ紹介するね。この人はブルーって言って…」

 

ぐらさん「この世界の神様なんだぜ」

 

 

自慢げに話したぐらさんだったが、雪菜はそれを一笑に付した。

 

雪菜「神様? 冗談きついわよ。 そんなことあるわけないじゃない」

 

 

ひめ「ちょっと、なんてこと言うのよ」

 

リボン「この人は凄いお方なんですのよ」

 

ゆうこ「私たちをプリキュアにしてくれたんですよ」

 

雪菜の言葉に憤慨したひめ達だったが

 

 

雪菜「だったらどうしてあの怪物、幻影帝国だっけ? それをなんとかしないのよ。 だいたい自分でやらずに中学生の普通の女の子に戦わせるってのがおかしいじゃない。そうでなくても警察やら自衛隊やらがあるでしょうに」

 

 

その痛いところをつく返しに何も言えなくなってしまった。

 

 

 

 

めぐみ「そ、それは… ブルーは幻影帝国とは…」

 

雪菜「何? まさかマッチポンプやらかしてるんじゃ…」

 

 

めぐみ「違う違う違う!! そうじゃなくてその…」

 

 

ブルー「いや、僕から話そう。実は幻影帝国のクイーンミラージュは…」

 

ブルーはこの世界の事情を事細から説明した。

 

 

幻影帝国の首領クイーンミラージュ。

 

かつて自分の恋人だった彼女の思いを踏みにじるような形になってしまったこと。

 

その恨みから世界を不幸に陥れようとしていることを。

 

 

そして、その話が終わった後、ひめもまた話を始めた。

 

幻影帝国が封印されていたアクシアの箱を開いてしまったことを。

 

 

 

 

黙って聞いていた雪菜だったが、話が終わるとおもむろに席を立ち上がった。

 

雪菜「帰ります。お邪魔しました」

 

 

ぐらさん「お、おいおい。なんだよいきなり…」

 

めぐみ「まだ会ったばっかりじゃないですか。何か用事でも?」

 

 

雪菜「ええ、病院に行かないといけないので。それじゃ」

 

ゆうこ「待ってください。それにしたって…」

 

いおな「ええ、突然すぎますよ」

 

 

 

戸惑いながらも自分を引きとめようとするめぐみ達に対して、雪菜は大きくため息をついた。

 

 

雪菜「じゃあ、はっきり言わせてもらいます。あなた達みたいな無責任な人と一緒にいたくありません」

 

 

めぐみ「む、無責任って… ブルーはちゃんともう一度ミラージュと話し合おうと…」

 

いおな「そうです!! ひめもきちんとプリキュアになって償いを…」

 

 

 

 

雪菜「…それで終わりなんですか?」

 

ゆうこ「えっ?」

 

 

雪菜「贖罪のためにとりあえず戦って、敵の首領と和解して、それでめでたしめでたしだと? さっきの駅前でもそうだったけど、あんな風に被害にあってる人が今この瞬間世界中にいるんですよね。その人達のことはどうなるんですか?」

 

 

めぐみ「そっ、それは…」

 

雪菜「実際に被害を受けた人の感情はそんな簡単には収まりがつかないんですよ!! そんなことも考えたことがないんですか!?」

 

 

凄まじい剣幕で語られる正論にめぐみ達は何も言えなくなり、それとともに雪菜はヒートアップしていき、机を何度もバンバンと叩きながら怒鳴った。

 

 

雪菜「特にあなた!! この大使館といい、その長い名前といい、このブルースカイ王国の関係者でしょ!! 今の事態をあなたが引き起こしたなら立派な国際問題じゃない!! まさかそれを友達同士の仲良しごっこでごまかして終わりにするつもりじゃないでしょうね!? 責任というものをどう考えてるの!!」

 

 

 

ひめ「!!!!」

 

 

その雪菜の言葉にひめは自分を抱きしめるようにしてガタガタと震えだした。

 

ゆうこ「ひめちゃん。しっかりして」

 

リボン「ひめ、気を確かに持つですわ!!」

 

 

 

雪菜「っ!! イタタ…  その様子じゃ考えたこともなかったみたいね。そっちの男の人も他人事みたいな顔してるけど、神様が聞いてあきれますね。 悪いけど、あなた達みたいな人と仲良くしたくありません」

 

 

右腕を押さえて痛みに顔をしかめながら、雪菜は呆れたように立ち去ろうとしたが、慌ててめぐみが前に出て押しとどめようとした。

 

 

めぐみ「ま、待ってください。確かにあなたの言う通りかもしれない。でも、愛情を持って話し合えば、きっとひめのことも許してもらえると思うし、ミラージュとも理解できると思うんです。私がプリキュアになったのも、世界を愛で包みたいからなんです。だから…」

 

 

雪菜「口ではなんとでも言えるわ。じゃあもしできなかったら?」

 

 

めぐみ「!!!」

 

 

雪菜「それに、あなたはそのミラージュとかいう人のことをどれだけ知ってるの? 十年以上一緒にいたよく知っている幼馴染同士でさえ分かり合えないことがあるのに、知りもしない人と簡単に分かり合えるはずだなんてよく言えるわね」

 

 

めぐみ「あう…あう…」

 

雪菜「あなたの言ってることはずいぶん立派な理想だけど、所詮は机上の空論。話し合いで解決しないことなんてすぐ隣にいくらでもある。理想を並べ立てるだけで叶うほど世の中は甘くはないの。それを覚えておきなさい」

 

 

そう言い捨てると、雪菜は覇気をなくしてしまっためぐみを押しのけて行こうとしたが、めぐみはとっさに雪菜の右腕を掴んだ。

 

 

めぐみ「まっ、待ってください… それでも私は…」

 

雪菜「!!! 離して!!!」

 

 

すると雪菜は凄まじい形相でめぐみを突き飛ばした。

 

いおな「ちょっ、ちょっといくらなんでもそんな乱暴な… えっ?」

 

雪菜「い、痛… 痛い、痛…」

 

 

あまりのことに抗議しようとしたいおなだったが、顔をしかめ右腕を掴んでうずくまってしまった雪菜を見て疑問が湧いた。

 

 

 

いおな「まさか、怪我してるんですか? 見せてください」

 

空手道場が自宅であることもあり、いおなにとって簡単な応急処置や手当ぐらいはお手の物である。

 

駆け寄って雪菜の腕を見たいおなだったが、その傷を見て驚いた。

 

 

 

いおな「古傷… でも相当ひどい傷… これが痛むんですか? 一体なにがあったんですか?」

 

雪菜「関係ないでしょ!! もう私はあなたたちと関わる気はないし」

 

 

そんないおなを突き飛ばすと、雪菜は出口の扉に手をかけた。

 

 

めぐみ「待ってください!! 最後に一つだけ!! じゃああなたはプリキュアになってなにがしたかったんです!? 何か理由があってプリキュアになったんですよね!!」

 

 

ミプ「!! そ、それは!?」

 

 

めぐみの問いかけにミプは真っ青になってしまい、雪菜の動きが止まるとともに空気が異様に重くなった。

 

 

雪菜「…それを聞きます? いいわ、教えてあげる。私がプリキュアになった理由はただ一つ」

 

一呼吸おくと、冷たい目と声で雪菜は言い放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雪菜「プリキュアをぶっ殺してやるためよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉にめぐみは絶句してしまい、そんなめぐみ達を残して雪菜は乱暴に扉を閉めて大使館から立ち去っていった。

 

 

 

ミプ「ゆ、雪菜。さっきのは…」

 

慌てて雪菜の後を追いかけたミプは、必死になって問いかけた。

 

雪菜「嘘はついてないじゃない。それがどうしたの?」

 

ミプ「で、でもあれじゃ…」

 

 

雪菜「心配しなくても、彼女達に攻撃する気はないわ。腹が立つ相手なのは確かだけど、あの時とは違うし私の中であのことはきちんと区切りもついてる。でも…」

 

雪菜は我慢できないというように奥歯を噛み締めた。

 

 

雪菜「やっぱり許せない。自分の罪とも真正面から向き合わず、へらへらと適当に仲間内でごまかしてるようなあの人達が。それが許されるなら、美里が可哀想すぎるじゃない…」

 

 

どんなに仲のいい人間同士でも、許せない時があること。

 

たとえ友人同士でも、本音でぶつかり合わなければいけない時があること。

 

責任というものが、友達という簡単な言葉で誤魔化すことができないこと。

 

 

それらを雪菜は誰よりも知っていた。

 

 

 

 

ゆうこ「はぁ〜…」

 

ゆうこは大きなため息をつきながら自宅への道を歩いていた。

 

 

雪菜が帰ってしまった後、大使館にはしばらく重い空気が漂った。

 

なんとかハニーキャンディを口に放り込んだことで、ひめは正気に戻り、多少なりとも空気は戻ったのだが、全員なんといっていいかわからなかった。

 

 

ゆうこ「理想論か… そう言われてしまえばそれまでだけど…」

 

 

みんなで楽しく美味しくごはん

 

 

シンプルではあるが、ある意味で最も難しいゆうこの理想とも言える。

 

 

ゆうこ「あの人、雪菜さんか… やけに言葉に実感がこもってたけど、何かを経験してるのかなぁ」

 

 

 

ゆうこは雪菜の言葉にこもった重みを思い返していた。

 

あの言葉の重さと説得力は、経験に裏打ちされたものであろうとブルーも推測していた。

 

ブルー「彼女はプリキュアとして大きな経験をしたのだろう。とても簡単に言い表すことのできない深く、重い経験をね」

 

 

 

ゆうこ「はぁ〜 あれ?」

 

そんなこんなで自宅 おおもりご飯にたどり着くと、見慣れぬ自転車が止まっていることに気がついた。

 

 

首をかしげながら店に入ると、聞いたことのない元気な女性の声が響いてきた。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 

ゆうこ「えっ? はぁ?」

 

あい「あっ、おかえりゆうこ」

 

戸惑っているゆうこを、姉である大森あいが出迎えたことで、その女性は自分の間違いに気づいたようだった。

 

 

「あっ妹さんなんですか?」

 

 

ゆうこ「えっと、この人は?」

 

あい「ああ、今日からアルバイトで入ってもらったの。名前は…」

 

 

「渚 美里です。よろしくお願いします」

 

 

第20話に続く



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第20話「Hな時間」

 

 

弁当屋 おおもりご飯

 

 

 

ゆうこ「それじゃあ、渚さんって日本中を旅して回ってるんですか?」

 

美里「そっ。ちょっと思うところがあって、ボランティア活動しながらね。中学校を卒業する前からだからもう一年ぐらいかなぁ」

 

 

大森家で夕飯を一緒に食べながら、美里は自分の素性を簡単に説明していた。

 

美里「北は北海道、南は九州までいろんなところ行ったなぁ。旅の最中は寝袋で寝て、時々アルバイトしてお金を稼いだりしてね」

 

 

あい「で、そんな生活してたらお金がなくなって、うちの前で行き倒れてたってわけね」

 

美里「ははは… お恥ずかしい。なんせ三日は水だけだったもので…」

 

 

顔を真っ赤にした美里を見て、ゆうことあいの父親 大森たけおは優しく笑いかけた。

 

たけお「はっはっはっ。旅をするのも大変だな。しかしうちの前で人が倒れてると聞いた時にはびっくりしたよ」

 

 

それを受けて母親 大森ようこがたしなめるように続けた。

 

 

ようこ「そうよ。あなたにもしものことがあったらご家族だって悲しむでしょうに」

 

 

その言葉に、美里は表情を曇らせた。

 

 

美里「…いえ、大丈夫です。その心配だけはもうありません、から…」

 

 

その言い方に大森家の人々は何かを察したようで、それ以上のことは聞かなかった。

 

 

美里「あっ、すみません。唐突に暗くなっちゃって」

 

ゆうこ「そうですね。ご飯の時は明るく楽しくなくっちゃ」

 

 

 

ゆうこの言葉に、多少ギクシャクしたところは残ったものの、明るい食卓が再び繰り広げられたのだった。

 

 

 

 

 

その夜、美里はゆうこの部屋で一緒に寝ることになり、ゆうこと枕を並べて布団に入っていた。

 

 

美里「う… うう… うああ…」

 

しかし夜も更けた頃、布団に入っていた美里は突然うなされ始めた。

 

その声に、ゆうこも目が覚めてしまった。

 

 

ゆうこ「渚さん…?」

 

起き上がって横を見てみると、美里はうなされながら涙を流し始めていた。

 

 

 

美里「父さん… 母さん… 亮太… う、うわぁあああああ!!!!」

 

 

そして突如叫び声とともに、美里は飛び起きた。

 

美里「ハアハア… あっ、夢か…」

 

ゆうこ「びっ、びっくりした…」

 

美里「あっごめん。起こしちゃった?」

 

 

 

 

美里「フゥ〜… 久しぶりに見たなあの時の夢…」

 

台所でゆうこに水を一杯もらって、美里は一息ついていた。

 

 

 

ゆうこ「あの… 渚さんの家族って…?」

 

聞いてはいけないことだろうとは思っていた。

 

しかしゆうこはどうしても気になってしまったのだ。

 

 

美里「気になる?」

 

ゆうこ「あっ、いえ、言いたくなければ、その…」

 

美里「いいわ、起こしちゃったしね」

 

すると美里はポツリポツリと話し始めた。

 

 

美里「…私の家族はね、みんな殺されたんだ」

 

ゆうこ「えっ?」

 

 

美里「ある日突然押し入ってきた奴がいてね、そいつに殺されたんだ。私の眼の前でね…」

 

 

美里「私は震えてるだけでなんにもできなかった… ほんのちょっと早く手を伸ばしてれば…」

 

 

無念さのにじみ出た表情でうつむきながら語る美里に、ゆうこはうめき声を出すことすらできなかった。

 

 

美里「ねぇ、あなたは自分の家族のこと好き?」

 

ゆうこ「はっはい。好きです」

 

唐突に投げかけられた質問に、ゆうこはどもりながら答えた。

 

 

美里「じゃあ、大切にしてあげてね。あんないい人達なんだもの」

 

ゆうこ「はい!!」

 

 

美里の言葉に、ゆうこは決意も新たに力強く頷いた。

 

 

 

 

 

翌日 ぴかりヶ丘商店街

 

 

 

 

美里は、ゆうことともに町の案内を兼ねてお弁当の配達を行っていた。

 

 

美里「この町の人達、あの店のお弁当がお気に入りみたいね。みんな本当に美味しかったって言ってくれてる」

 

ゆうこ「うん。みんながご飯を食べて仲良くなっていければ、みんな幸せになれる。私の夢なんです」

 

全く迷いなく語られたゆうこの夢に、美里もまた笑顔で答えた。

 

 

美里「そっか、いい夢だね…」

 

ゆうこ「? 美里さんには夢ってないんですか? 何か理由があって旅してたんじゃないんですか?」

 

美里「ああ…まあね」

 

 

どこか影のある表情をした美里のことが気になったゆうこだったが、なんとなく何があったのかが聞きづらかった。

 

 

すると、たまたまゲームセンターの前を通りがかった時、妙にもめているような喧騒が聞こえてきた。

 

 

ゆうこ「ん? 何かあったのかな?」

 

なんとなく中をのぞいてみて、ゆうこは目を見開いた。

 

 

ゆうこ「めぐみちゃん?」

 

中ではめぐみが高校生ぐらいの男子と言い争いをしていたのだ。

 

美里「友達?」

 

ゆうこ「あ、はい。でもどうしたんだろう、めぐみちゃん喧嘩なんて…」

 

やむなくゆうこはゲームセンターに飛び込んでいき、美里も多少の逡巡があったが後を追っていった。

 

 

 

めぐみ「だから、みんなずっと順番で並んでたんですよ。きちんとルールを守って…」

 

「ウルセェな。ルールなんか知るかよ。俺は強いんだからいいんだよ」

 

めぐみ「そんなめちゃくちゃな理屈が通るわけが…」

 

ふてぶてしい態度で格闘ゲームの対戦台に座っていた男子に、めぐみが必死に訴えていたが、その男性はどこ吹く風といったようだった。

 

 

 

 

 

ゆうこ「めぐみちゃん、どうしたの?」

 

めぐみ「あっ、ゆうゆう。あのね、ノート買いに近くにきてたんだけど、この子が泣きながら出てきたからどうしたのかって聞いたら…」

 

そばにいた半泣き状態の小学生の男の子を指差して、めぐみは事情を説明しだした。

 

 

ゆうこ「…つまり、この子が順番を待ってたら突然この人が割り込んできたってこと」

 

めぐみ「そう、ちゃんと順番を守ってって言ったのに…」

 

周りのことなど知ったことかというようにゲームに興じながらその男子は、吐き捨てるように告げた。

 

「けっ、ガキが生意気に対戦台なんかに入ってくるんじゃねぇよ。ここはな、俺みたいに強い奴だけが入れる聖域なんだよ。悔しかったら俺を負かしてからあれこれ言いな」

 

 

その明らかにこちらを見下してくるような態度に、めぐみやゆうこはもちろん、ほかの客も渋い顔をしていたが、誰も彼もが苦虫を噛み潰したような顔をするだけだった。

 

「あいつ、このバーチャルストリートXのランカーだろ」

 

「悔しいけど勝てねぇよなぁ」

 

 

周りがヒソヒソとそんな話をするのを聞いて、その男子はさらに機嫌よく鼻歌交じりにゲームを続けた。

 

めぐみ「く〜っ、こうなったら」

 

そんな男子の姿を見て、めぐみは腹に据えかねたように対戦台に座ろうとしたところ、美里に止められた。

 

美里「あ〜、気持ちはわかるけどちょい待ち。あなたこのゲームの経験あるの?」

 

めぐみ「ありませんけど、やってみなくちゃわからな…」

 

 

美里「わかるの。未経験で勝てるようなゲームじゃないのよ」

 

その言葉に男子は機嫌よく答えた。

 

「へぇ〜 よくわかってんじゃん」

 

 

めぐみ「でもだからって…」

 

美里「わかってる。ねぇあなた、負けたら素直に帰る?」

 

「ああいいぜ、負けたらな」

 

 

美里「はぁ〜… しょうがない…」

 

大きくため息をつきながら、美里は対戦台に座った。

 

 

「おいおい、あんたがやんのか?」

 

美里「悪い?」

 

「いや、好きにしな。 ただしもしあんたが負けたらちょっと付き合えよ」

 

美里「いいわよ」

 

 

目の前であっさりとかわされた会話に、驚いためぐみが不安そうに話しかけた。

 

めぐみ「えっ、だ、大丈夫なんですか?」

 

 

美里「まぁ、さっきから見てたし、なんとかは… それよりめぐみちゃんだっけ。お願いがあるんだけど」

 

めぐみ「は、はい。なんですか?」

 

反射的に返事をしためぐみの前に美里の手が伸びてきた。

 

 

美里「百円貸して。最後の五円玉どっかで落としたみたいでね。正真正銘無一文なんだわ私」

 

その言葉にめぐみを始め周りの不安は一層増した。

 

 

 

 

 

数分後

 

 

 

「う、嘘だろ… あれを捌いて… あんなコンボ繋ぎきって…」

 

当の男子の前のモニターには、PERFECTの文字とともにYOU LOSEの表示が浮かんでおり、それを見つめながら茫然自失の状態に陥っていた。

 

「す、スッゲェ…」

 

「一ラウンドは防戦一方だったけど、第二ラウンドは立場逆転。最後はパーフェクト勝ち…」

 

 

周りも美里の実力に唖然としており、絞り出すようにそうつぶやいていた。

 

美里「ふぅ〜… 一年ぶりだったから勘がだいぶ鈍ってたな。でもまぁなんとかなったか…」

 

肩をぐるぐると回しながら、大きく息を吐き出すと、真っ白になっている男子に美里は元気よく告げた。

 

 

美里「じゃ、自分だけじゃなくて、みんなで楽しく遊んでね。そうやって楽しめるうちが対戦なんて花だよ」

 

その美里の言葉に、ゲームセンター内に大歓声が上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、大注目を浴びてしまったゲームセンターからなんとか逃げ出し、めぐみともにお弁当の配達の続きを終えると、めぐみが改めて美里に話しかけた。

 

 

めぐみ「でもすごかったですね、さっきの。 ほとんどゲームのこと知らない私でもわかりましたよ」

 

美里「まぁ、昔取った杵柄ってやつかな。中学の頃は楽しくゲームができた頃もあったし…」

 

 

暗い影のある顔つきをした美里を見て、その素性を聞いていたゆうこが話題を強引に切り替えた。

 

ゆうこ「あっそうだ美里さん。さっきの話ですけど、美里さんの夢ってなんです?」

 

 

美里「私の夢か… 大したもんじゃないけど、人が誰とも憎みあわないで暮らせる世界ってね…」

 

それを聞いてめぐみは興奮気味に美里の手を握った。

 

 

めぐみ「すごい夢じゃないですか。私も世界を大きな愛で包みたいってずっと子供の頃から思ってるんです。 一緒に頑張りましょう、幸せハピネスですよ!!」

 

 

めぐみのキラキラした目とともに語られた夢に、美里は多少眩しそうに目をそらした。

 

 

美里「…いや、私の場合は… そんな綺麗な動機じゃないんだけどね…」

 

 

ゆうこ「?」

 

 

 

 

そんなこんなで三人で堤防を歩いていると、柔道着を着てランニングをしている少年が声をかけてきた。

 

 

誠司「めぐみ!! 大森も… ん? その人は?」

 

ゆうこ「あっ、相楽君。紹介するね、この人昨日からうちにアルバイトで入った…」

 

美里「渚 美里です。よろしくね」

 

誠司「ああ、俺相楽 誠司って言います。この二人とは昔からの知り合いで…」

 

めぐみ「私のお隣さんなんです」

 

 

めぐみと誠司を見比べた美里は、何気なく尋ねた。

 

美里「ふ〜ん。彼氏?」

 

めぐみ・誠司「「違います!!!」」

 

 

真っ赤になって否定した二人を見て、美里は微笑ましく笑い、ゆうこは美里に耳打ちした。

 

 

ゆうこ(まだまだ仲のいい幼なじみってところですが、この二人はじっくりと見守ってあげたいんです)

 

 

それを聞いて、美里は多少顔が曇り遠い目をして空を見上げた。

 

美里「幼なじみ…か…」

 

 

 

めぐみ「あの…どうかしましたか?」

 

うっすらと光る目頭をこすりながら、美里は無理やりにっこりと笑った。

 

美里「いえ、ね。ちょっと昔のこと思い出しちゃって…」

 

 

 

 

すると、市街地の方で爆発するような音がした。

 

美里「何? 爆発!?」

 

 

 

そして同時にめぐみ達の持っていたキュアラインに連絡が入った。

 

 

いおな『めぐみ! ゆうこ! またサイアークが出たの!! 私とひめは先に行ってるからすぐに来て!!』

 

 

めぐみ「わかった!! …って」

 

美里「ん? どうかしたの?」

 

 

ゆうこ「すいません。私達急用が…」

 

美里「私も行くよ。何か事故なら手伝うからさ」

 

 

めぐみ「そ、それはその… えっと…」

 

どう説明したらいいか目を泳がせながら考えていためぐみだったが、突如起きた地響きでその考えは中断された。

 

 

美里「何? 今度は地震?」

 

誠司「いや、これは!!」

 

 

「サイアーク!!!」

 

 

サイアークの大群が四人の前に降り立ったのはその直後だった。

 

 

 

 

美里「な、なんなのよこいつら!?」

 

誠司「何って… サイアークですよ!!」

 

 

美里「さ、さいあく?」

 

誠司「とにかく逃げて!! めぐみ、大森!!」

 

 

誠司の呼びかけに、めぐみとゆうこも止むを得ないと頷き合った。

 

ゆうこ「めぐみちゃん!!」

 

めぐみ「うん、緊急事態だよ!!」

 

 

そして、変身アイテムプリチェンミラーを取り出し、プリカードをセットした。

 

めぐみ・ゆうこ「「プリキュア!! くるりんミラーチェンジ!!」」

 

 

その掛け声とともにまばゆい光が溢れ出し二人を包み込むと、変身完了していた。

 

 

 

美里「なっ、プリキュア!? どうして!?」

 

 

目の前の光景に絶句している美里をよそに、ラブリーとハニーはサイアークの大群に突っ込んでいった。

 

 

ラブリー・ハニー「「ハァアアア!!!」」

 

 

誠司「危険です。早くこっちに!!」

 

美里「えっ!? うん!!」

 

誠司の言葉に、美里はわかりきっているというように避難した。

 

 

 

堤防の影に隠れて、誠司は美里に事情を説明していた。

 

 

誠司「驚いたかもしれませんけど、あいつらプリキュアなんです。このぴかりが丘を守ってて…」

 

美里「えっ!? この町を守ってるの!? プリキュアが!?」

 

 

誠司「いや、驚くところそこですか? そりゃプリキュアは正義の味方なんだから、そんなことは当たり前じゃ…」

 

美里「正義の味方!?」

 

誠司「は、はい。この町だけじゃなくて、世界中で幻影帝国っていう悪い奴らと戦ってて…」

 

 

美里「な、なにそれ… そんな話聞いたことが…」

 

 

 

 

そんな会話をしている間にも、サイアークは次々とラブリーとハニーに倒されていっていたが、さすがにきついようで二人とも肩で息をしていた。

 

ラブリー「くっ!! プリンセス達のことも気になるのに…」

 

ハニー「焦っちゃダメ。まずは目の前のことに集中しないと…」

 

 

さっき連絡があったプリンセスやフォーチュンの方も気がかりだったが、この状況では助けにも行けない。

 

とりあえず目の前の敵を倒すことに集中しようとした二人だったが、そこに最悪の展開が訪れた。

 

 

 

「キュア・ラブリー、そしてキュア・ハニーか。おとなしくしてもらおうか」

 

 

その言葉に振り向くと、軍人風の服装をした大柄の男が空中に浮かんでいた。

 

ラブリー「オレスキー!!」

 

オレスキー「いかにも。 それよりもこの二人がどうなってもいいのかな」

 

その言葉とともに降り立ったサイアークの両手には、傷だらけになったフォーチュンとプリンセスが握られていた。

 

 

フォーチュン「くっ、離しなさい…」

 

プリンセス「ラブリー、ハニー、ごめん…」

 

 

ラブリー「プリンセス!! フォーチュン!! 二人に何をしたの!?」

 

オレスキー「ハッハッハッ!! 決まっている。イカした俺様のナイスな作戦でこいつらを叩きのめしたのだ。さぁお前たちもおとなしくしてもらおうか」

 

フォーチュン「よくも偉そうに…」

 

プリンセス「あんな卑怯な手を使ってよく言うよ…」

 

 

憎々しげに歯噛みをしながらオレスキーを睨みつけたフォーチュンとプリンセスだったが、当のオレスキーはどこ吹く風といったところだった。

 

 

オレスキー「何を言うか!! ナンバーワンである俺様は、どんな手を使っても勝たねばならない。なぜならばオレ様がナンバーワンでなければならないからだ!!」

 

ハニー「言ってることめちゃくちゃじゃない!!」

 

 

オレスキー「うるさい!! いけサイアーク!!」

 

支離滅裂なことを口走るオレスキーに憤慨したラブリーとハニーだが、プリンセスとフォーチュンが人質になっている状況ではどうすることもできず、一方的に攻撃を受ける羽目になった。

 

 

 

ラブリー・ハニー「「きゃあああ!!!」」

 

 

 

仲間たちをかばって一方的に攻撃を受けるラブリーとハニーを見て、美里は目を丸くしていた。

 

美里「あの子たち… あのプリキュアをかばってるの!?」

 

誠司「当たり前ですって!! プリキュア同士は仲間で、助け合いじゃないですか!!」

 

 

美里「うっそ〜!?」

 

 

その言葉は美里にはあまりにも受け入れがたいものであった。

 

昔の自分自身の蒔いた種とはいえ、プリキュアが正義の味方として認識され、お互いに助け合うということがあまりにも異常な光景に写っていた。

 

 

 

 

 

ぐらさん「や、ヤベェぜ。あのままじゃ…」

 

リボン「どうすればいいんですの?」

 

そんな中飛んできたリボンとぐらさんが、どうしたらいいかわからないといったように、声を上げた。

 

 

誠司「リボン、ぐらさんも!!」

 

美里「えっ? あなたにもこの妖精が見えるの?」

 

美里(妖精が見えるのは子供の頃に妖精の光を浴びたことのある人間だけで、今じゃ数えるほどしかいないはず…)

 

 

 

 

誠司「見えますってば!! それより一体何があったんだ!! フォーチュンとプリンセスがやられるなんて」

 

 

リボン「そ、それが、オレスキーのやつがこのメルって妖精を人質に取っていて…」

 

ぐらさん「そいつはフォーチュンが助けたんだけど、代わりにあの二人が…」

 

そう言って、リボンとぐらさんは背中に背負っている怪我をしたぬいぐるみのような妖精を見せた。

 

美里「!!! メル!!」

 

 

誠司「そいつ気絶してるのか。くそっ、汚い真似を…」

 

舌打ちをしそうな顔とともに、メルの手当をしようと手を伸ばした誠司だったが、それより一瞬早く美里がひったくった。

 

 

美里「ええい!! 起きろこのバカ!!!」

 

なんと美里は罵声とともに往復ビンタを浴びせ、無理やりメルを叩き起こした。

 

メル「い、いたた… み、美里…!?」

 

美里「起きた!? じゃあ早くしなさい、このグズが!!」

 

 

 

誠司「お、おいいくらなんでも乱暴すぎ…」

 

戸惑う誠司をよそに、美里はガクガクとメルを揺すっていた。

 

 

メル「で、でも… 今更美里には頼れな…」

 

美里「この状況で知らんぷりできるわきゃないでしょ!! 早くしろっての!!」

 

ぐらさん「知らんぷりって…」

 

リボン「まさか…」

 

 

 

 

確かに美里の言う通り、ハピネスチャージプリキュアは今サイアークに一方的にやられており、もはや時間の問題といった感じであった。

 

 

その事を理解したメルは観念したようにスマホのような形に姿を変えた。

 

美里はそれを掴むと、大きく深呼吸をひとつして、鍵の形のアプリをタッチした。

 

 

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

 

 

 

 

オレスキー「さぁフィニッシュだ!! ハピネスチャージプリキュアはこの俺様が打ち取るのだ!!」

 

 

ラブリー「くっ…」

 

ハニー「回復が間に合わない…」

 

ボロボロになり、倒れ伏してしまったラブリーとハニーにとどめをささんとサイアークが突撃していった。

 

 

近づいてくる地響きにさしもの二人も覚悟を決めた。

 

 

しかし次の瞬間、猛スピードで飛来した赤い火の玉が体当たりしたことで、サイアーク達はひっくり返ってしまい、同時にサイアークに捕まっていたフォーチュンとプリンセスの姿も火の玉に取り込まれるように消えていた。

 

 

 

ラブリー「えっ?」

 

 

疑問に思う間もなく、その火の玉は少し離れたところにフォーチュンとプリンセスを下ろすと、再びオレスキーに向かって突撃していった。

 

 

そして激突寸前、火の玉は赤いドレスをまとった少女に姿を変えた。

 

 

オレスキー「何!?」

 

「チャアアアアア!!!」

 

驚き固まってしまったオレスキーに対してその少女は、炎を纏った強烈なパンチを打ち下ろして、オレスキーを地面に叩き落とした。

 

 

オレスキー「お…のれ!! 何者だ貴様!!」

 

 

地面に叩きつけられて、かなりのダメージを負ったオレスキーだったが、気合いとともに立ち上がると、目の前の降り立った少女に怒鳴るように尋ねた。

 

 

その赤を基調にしたゴシックロリータ風の衣装を身にまとい、赤いロングヘアをなびかせた少女は、深紅のドミノマスクの奥に目を光らせながら名乗りを上げた。

 

 

 

「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

 

 

プリンセス「な、何よあの人!?」

 

フォーチュン「キュア・インフェルノ…?  まさか昨日の、コキュートスって人の仲間?」

 

ハニー「あの人…」

 

ラブリー「まさか…」

 

 

突然現れたプリキュアに、ハピネスチャージプリキュアの面々が戸惑う中、インフェルノは大きく深呼吸すると、右手を大きく振り上げた。

 

 

インフェルノ「ハアアア!! プリキュア・ヒート・カッター!!」

 

 

そのまま手刀を振り下ろすと半月状の炎の刃が飛んでいき、近くにいたサイアークを数体まとめて真っ二つに焼き切った。

 

 

オレスキー「おのれ!! いけサイアーク!!」

 

 

オレスキーの命令に、大量のサイアークがインフェルノに一斉に飛びかかり押しつぶしてしまった。

 

 

フォーチュン「ああっ!!」

 

ハニー「早く助けないと!!」

 

 

ハニーの力でなんとか回復した四人は、サイアークに押しつぶされたインフェルノを助けようと慌てて駆け寄ったが、

 

 

インフェルノ「プリキュア・ヘル・バックファイア!!!」

 

 

その叫びとともにサイアークの大群の中から、超高熱放射が行われてサイアークの大群は燃え上がるようにはねのけられた。

 

 

 

プリンセス「あぢゃぢゃあぢゃ!! 水水水!!!」

 

ラブリー「プリンセス!!」

 

もっとも、その高熱を至近距離で浴びてしまったプリンセスにも、コスチュームに炎が燃え移り、慌てふためいて川へ飛び込んでいった。

 

 

 

オレスキー「えぇいなんて奴だ!! ん?」

 

 

予想以上の火力に驚いたオレスキーだが、何度も深呼吸をしているインフェルノを見て、勝機を感じ取った。

 

 

オレスキー「もう息切れか? よし、このナンバーワンの俺様が直々に相手をしてくれるわ!!」

 

 

 

 

 

 

一方、インフェルノは胸の部分を抑えて何度も深呼吸を繰り返していた。

 

インフェルノ「お、落ち着け〜 落ち着くんだ私。興奮するなよ〜。吸って〜吐いて、吸って〜吐いて」

 

メル「み、美里。大丈夫メル?」

 

スマホに変身して腰の部分のケースに入っていたメルがそんなインフェルノを気遣うように声をかけた。

 

 

インフェルノ「大丈夫。もうあんなことがないようにしないと… っ!! 来た!!」

 

 

プリキュアに変身したことで昔のことを思い出してしまった美里は、必死に心を落ち着かせようとしていた。

 

かつて感情に流されるままに戦っていたインフェルノは、同じ過ちを繰り返すまいと必死に冷静さを保とうとしていたのだ。

 

 

 

しかし、その隙を狙ってオレスキーが攻撃を仕掛けてきた。

 

その攻撃をなんとかさばいたインフェルノは、両手足に炎を纏わせ、オレスキーと壮絶な格闘戦を繰り広げた。

 

 

ハニー「すごい…オレスキーと互角に戦ってる… って、ああっ!!」

 

インフェルノの戦闘力に感嘆していたハニーだが、起き上がってきたサイアークを見て状況を再度把握した。

 

 

ラブリー「こっちもなんとかしないと。 プリンセス、フォーチュン、いける?」

 

フォーチュン「大丈夫よ!!」

 

プリンセス「まっかせなさい!!」

 

 

ハピネスチャージプリキュアの面々は声を掛け合い、サイアークに戦いを挑んでいった。

 

 

体力も回復し人質もいなくなった今、サイアークが数を揃えようとも敵ではなく、次々と倒されていった。

 

 

 

ある程度数が減ったところで、ラブリーはプリンセスに呼びかけた。

 

ラブリー「プリンセス!! いくよ!!」

 

プリンセス「オッケーラブリー!!」

 

二人は腕のラブプリブレスを発動させて、振り上げた両手にエネルギー弾を発生させた。

 

ラブリー・プリンセス「「あなたにハッピーお届けデリバリー!! プリキュア・ツインミラクルパワーシュート!!」」

 

 

その掛け声とともに、金色のオーラをまとった中心にハートが入った円環形のエネルギー弾を二人で同時に蹴り飛ばし、残ったサイアークを一斉に浄化した。

 

 

一方、インフェルノとオレスキーの戦いも終わりを迎えようとしていた。

 

オレスキー「くそぅ… さしもの俺様でも、この攻撃は受け止められん」

 

両手両足に炎の纏ったインフェルノの攻撃は、オレスキーでも避けるしかなく、どうしても動きに無駄ができる。

 

そのため少しずつだが押されていっていたのだ。

 

 

 

インフェルノ「ダアッ!!」

 

オレスキー「ごはぁっ…!!」

 

一瞬できた隙を狙ってインフェルノの強烈なボディーブローが叩き込まれ、オレスキーはうめき声とともにうずくまってしまった。

 

 

インフェルノ「引きなさい。勝負あったわ!!」

 

そんなオレスキーに対して、引くように促したインフェルノだったが、その言葉は逆効果だった。

 

 

オレスキー「黙れ!! 俺様をなめるなぁ!!」

 

馬鹿にされたように感じたオレスキーは怒りのままにインフェルノに突撃してきた。

 

 

インフェルノ「くっ!!」

 

 

自分の言ったことが理解してもらえなかった悔しさに歯噛みしつつも、インフェルノはオレスキーの突進を押し返すようにキックを放ち、その反動を利用して後方へと飛んだ。

 

オレスキー「何!?」

 

出鼻をくじかれ体勢の崩れたオレスキーに対して、インフェルノは両手を大きく振りかぶり、赤い炎で包み込んだ。

 

インフェルノ「プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

そう叫ぶと両手の炎の塊を、叩きつけるように投げつけた。

 

 

その炎の塊はオレスキーに直撃し、凄まじい火柱を上げて大爆発し一面を火の海にした。

 

 

そしてその爆発に巻き込まれたオレスキーは、吹き飛んだ先で真っ黒焦げになっていた。

 

 

オレスキー「くそっ!! だがもう遅い、貴様らの負けだ」

 

 

本人は渋く決めたつもりだったかもしれないが、往年のコントのオチのような姿では、ギャグにしかならなかった。

 

プリンセス「そんな恰好で何言ってんだか」

 

オレスキー「ふん。すでに必要近くの負のエネルギーは集まっている。間も無くだ、この世界を恨み破滅を望むものが再びよみがえるぞ!!」

 

 

インフェルノ「!! 待ちなさい!! まさかそいつは!!」

 

だが、インフェルノが叫んだときにはすでにオレスキーは撤収していた。

 

 

 

 

 

メル「まっ、まさか… あいつらは… 大神獣を…」

 

インフェルノ「冗談じゃないわ!! そんなこと絶対に許さな… っとと、落ち着け落ち着け、深呼吸深呼吸」

 

大きく何度も深呼吸したインフェルノに対して、おずおずとラブリーが話しかけた。

 

 

ラブリー「あの〜 ちょっと取り込み中申し訳ないんですが、お話をよろしいでしょうか…」

 

インフェルノ「えっ? ああどうぞ」

 

 

ハニー「つかぬ事を尋ねますが、渚 美里さん… ですよね?」

 

インフェルノ「うん。そうだけど…」

 

 

プリンセス「? 誰それ?」

 

フォーチュン「知り合いなの?」

 

きょとんとしているプリンセスとフォーチュンに事情を説明するべくハニーとラブリーは変身を解除し、それを見たインフェルノも変身を解いた。

 

 

 

メル「イタタ… 傷が開いたメル…」

 

美里「それぐらい我慢する。えっと、ゆうこちゃんにめぐみちゃん、この二人は…」

 

痛みに呻いていたメルに冷たくそう言い放つと、美里は尋ねた。

 

 

フォーチュン「えっ? ああ」

 

話を振られたフォーチュンとプリンセスも変身を解除し、とりあえず自己紹介に入った。

 

 

いおな「氷川 いおなって言います」

 

ひめ「白雪 ひめです。初めまして」

 

 

美里「初めまして。渚 美里です。おおもりご飯で昨日からアルバイトしてます」

 

 

めぐみ「でも凄かったですね。キュア・インフェルノ」

 

いおな「かなり戦い慣れされているようですね」

 

ひめ「うん。すっごく強かった!!」

 

 

めぐみ達としては褒めたつもりだったのだが、美里は暗い表情で俯いてしまった。

 

美里「そんなにいいものじゃないけどね…」

 

 

ゆうこ「? それはどういう…」

 

 

疑問を投げかけようとしたゆうこだったが、そこにリボンとぐらさんが慌てて飛び込んできた。

 

 

リボン「大変ですわ!! この近くのオーエエドー市ってところで大量のサイアークが出現したとニュースで言ってますわ!!」

 

ぐらさん「あそこにはプリキュアがいないってブルーも言ってたぜ!! 早くしないと!! オレスキーの最後の言葉も気になるし…」

 

 

美里「オーエエドー市!!」

 

メル「ま、間違いないメル!! あいつらの目的は!!」

 

それを聞いて美里とメルは目を見開いた。

 

 

いおな「何か心当たりが!?」

 

美里「大アリなんだけど…  〜っ!!! メル!!」

 

ギリギリと歯ぎしりをし、苦悶の表情を浮かべていた美里だが覚悟を決めたようにメルを促した。

 

 

メル「ほ、本当に行くメル!?」

 

 

美里「しょうがないでしょ!! あいつがよみがえるかもしれないなら、帰るしかないでしょが!!」

 

 

いかにも苦渋の決断というような感じの美里に、メルもまた仕方がないというようにスマホのようなものに姿を変えた。

 

 

美里「あなたたちはここにいて。ゆうこちゃんもお店の手伝いがあるんでしょ」

 

それを手にした美里は、ゆうこ達に残るように言ったのだが

 

 

 

ゆうこ「い、いえそういうわけにも…」

 

めぐみ「うん!! 放っておけないよ」

 

いおな「私たちも行きます!!」

 

ひめ「大丈夫。まだまだ戦えるよ!!」

 

 

全員やる気満々であった。

 

 

 

美里「あ〜う〜いや、でもね…」

 

 

めぐみ「私たちはあなたより弱いかもしれませんけど、頑張って戦います」

 

いおな「幻影帝国に世界を好きにさせません」

 

ひめ「心配してくれなくても平気だよ」

 

ゆうこ「配達も大切だけど、何か大変なものがよみがえるようなことがあったら、みんなで美味しいご飯が食べられないじゃないですか」

 

 

 

まっすぐな目でそう語る四人に対して、美里は仕方ないというように折れた。

 

 

美里「わ、わかったわ。ただし一つだけ約束して」

 

いおな「はい。何ですか?」

 

 

美里「周りを一切気にしない。心を無にして戦いだけに集中すること。いい?」

 

 

めぐみ「? はぁ… わかりました」

 

美里の言ってることが全員イマイチ理解できないようだったが、とりあえず今はそれどころでないと変身アイテムを取り出した。

 

 

めぐみ・ひめ・ゆうこ「「「プリキュア!! くるりんミラーチェンジ!!」」」

 

いおな「プリキュア!! きらりんスターシンフォニー!!」

 

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

 

眩しいばかりの光とともに、全員変身完了すると、ハピネスチャージプリキュアは背中から光の翼を出して、インフェルノは真っ赤な火の玉になって飛んで行った。

 

 

それを見送った誠司は、一人首をかしげていた。

 

 

誠司「さっきのどういうことなんだ? それにあの渚って人、プリキュアに関して変な感想言ってたな…?」

 

 

 

 

第21話に続く



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第21話「戸惑うH」

日本 某県 オーエエドー市

 

 

 

この町は県内でも有数の大都市であり、交通網や商業施設等はかなり発達しており、市民もそれ相応に多い。

 

そんな町に住む道行く人々は笑みを浮かべつつ、昨日と変わらない、退屈でそれでいて平穏な日々を送っていた。

 

しかし、そんな平穏も唐突に破られることになった。

 

 

巨大なサイアークの大群が出現し、我が物顔で街を蹂躙し始めたのである。

 

車を踏みつぶし、電柱をへし折っては振り回してビルを破壊し、おまけにあたり一面が奇妙な色のカビだらけになっていた。

 

 

ホッシーワ「よ〜し、いいわよいいわよ。このままやっちゃいなさいサイアーク達!!」

 

 

上機嫌でサイアークに命令していたのは自称 高貴な貴婦人ホッシーワであった。

 

 

「うわー!! 助けてくれー!!」

 

「警察、いや自衛隊来てくれー!!」

 

 

 

逃げ惑う人々の悲鳴を聞き、ホッシーワは一人悦に浸っていた。

 

ホッシーワ「人の不幸は蜜の味。堪えられないわね〜」

 

 

そんな時、空に何か光るものが現れた。

 

ホッシーワ「あら? 鳥かしら? それとも飛行機かしら?」

 

 

どこか可愛げにそう呟いたホッシーワだが、すぐに気を取り直した。

 

ホッシーワ「なーんて冗談言ってる場合じゃないか。来たわね!!」

 

 

 

 

 

ようやくオーエエドー市に到着したものの、サイアーク達が暴れている光景を上空から確認したプリンセスは悔しそうに歯嚙みをしていた。

 

 

プリンセス「くっそ〜 やりたい放題やって!!」

 

フォーチュン「間に合わなかった、でも!!」

 

ハニー「助けられる人は助けないと!!」

 

ラブリー「みんな行くよ!!」

 

 

インフェルノ「ちょっ、ちょっと待った。あなた達はせめて顔を隠して…」

 

 

やる気十分になっていたハピネスチャージプリキュアは、インフェルノの呼び止めにもかかわらず、急降下していった。

 

 

 

サイアークの大群の前に降り立った四人は、凛として名乗りを上げた。

 

 

 

ラブリー「世界に広がるビッグな愛!! キュア・ラブリー!!」

 

プリンセス「天空に舞う青き風!! キュア・プリンセス!!」

 

ハニー「大地に実る命の光!! キュア・ハニー!!」

 

フォーチュン「夜空に煌く希望の星!! キュア・フォーチュン!!」

 

 

ラブリー・プリンセス「「ハピネス注入!!」

 

ハニー・フォーチュン「「幸せチャージ!!」」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「ハピネスチャージプリキュア!!」」」」

 

逃げ惑っていた市民はハピネスチャージプリキュアを見ると顔色を変えて口々に叫んだ。

 

「あ、あれは… プリキュア!!」

 

「嘘だろ!!」

 

 

 

 

プリンセス「おっ、みんなこっち見てるよ。 やっぱりこの街でもプリキュアは有名なんだね」

 

フォーチュン「調子に乗らない。何しにきたのよ」

 

ラブリー「みなさん安心してください。もう大丈…」

 

市民が自分たちに注目しているのを見て、安心させるべく呼びかけを行おうとしたラブリーだったが、

 

 

 

 

 

「早く逃げろー!!」

 

「殺されるぞー!!」

 

「何しにきやがった厄病神め!!」

 

「帰れ人殺しめ!!」

 

 

市民は安心するどころか、一層パニック状態になって逃げ惑い、挙句凄まじい罵声の嵐とともに石飛礫が雨霰と飛んできた。

 

 

プリンセス「イタタタ!! なになになに???」

 

ラブリー「お、落ち着いてください。わ、私達はプリキュアで…」

 

フォーチュン「みなさんを助けようと…」

 

 

リボン「なんなんですのこれは?」

 

ぐらさん「なんでプリキュアがこんなことを…」

 

 

 

予想外の反応に皆は混乱していたが、それは敵のはずのホッシーワも同じだった。

 

ホッシーワ「??? 何これ? プリキュアの方が私たちより嫌われてんじゃないの?」

 

 

 

 

そんな中、遅れて降り立ったインフェルノはドミノマスク越しにもわかる苦悶の表情をしていた。

 

インフェルノ「…やっぱしなぁ… こうなるだろうと思ったんだ…」

 

 

ハニー「あ、あの、これは一体どういう…」

 

想定外の状況に、ハニーは当然ともいえる質問をしたが、インフェルノはバッサリと切って捨てた。

 

インフェルノ「約束でしょ。周りを一切気にしない。心を無にして戦いだけに集中する。先に行くわよ!!」

 

 

 

そうして、インフェルノはサイアークと戦い始めたが、それとともに市民の罵声の声はさらに増した。

 

 

「テメェ!! どのツラ下げて帰ってきやがった!!」

 

「こんなところに来るんじゃねぇよ!! どっかに行っちまえ!!」

 

 

インフェルノ「…くっ!!」

 

そんな風に尽きることのない罵声を浴びながらも、インフェルノは迷いを吹っ切るかのように一人サイアークと無心に戦い続けていた。

 

 

とはいえ、やはり多勢に無勢であり、少しずつだがインフェルノはサイアークの大群に押され始めていた。

 

 

 

ラブリー「い、いけない。みんな行くよ!!」

 

その光景を見て、このままではまずいとラブリーはサイアークに立ち向かっていき、仲間たちも顔を見合わせ頷くと戦い始めた。

 

しかし…

 

 

「近寄るんじゃねぇよ!!」

 

「とっとと帰れクソアマども!!」

 

 

 

フォーチュン「くっ!! サイアークもきついけど…」

 

プリンセス「なんでこんなこと言われなきゃなんないの!?」

 

 

サイアーク以上に、周囲の罵声から受ける精神的なダメージの方が大きくハピネスチャージプリキュアはいつもの調子が出ずかなり苦戦を強いられていた。

 

それでもサイアークの攻撃を防ぎつつ投げ飛ばしたり、殴り倒したりと必死に戦っていた。

 

 

そんな中、逃げ遅れたのであろう小さな子供に対してサイアークが襲いかかろうとしている光景が、ラブリーの目に入った。

 

 

ラブリー「!! 危ない!!」

 

とっさに飛び込みサイアークからその子をかばったラブリーだったが、自分自身がサイアークの一撃を喰らってしまいかなりのダメージを負ってしまった。

 

 

ラブリー「うわぁああ!!!」

 

プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「ラブリー!!!」」」

 

 

大きく吹き飛ばされたラブリーにサイアークは追撃を仕掛けようとしたが、それをかばうようにプリンセス達が駆けつけてなんとか攻撃を受け切った。

 

 

プリンセス「こ、この…」

 

ハニー「負けるもんか…」

 

フォーチュン「あなた達の好きにはさせない!!」

 

 

必死に耐えていた三人は、気合一発なんとかサイアークの大群を押し返し、なんとか立ち上がったラブリーが巨大な光のパンチでサイアークを殴り飛ばした。

 

 

ラブリー「ラブリー・パンチングパンチ!!」

 

「サイアーク!!」

 

サイアークが大きく吹き飛ばされ、体勢が崩れたところでラブリーは皆に声をかけた。

 

 

ラブリー「みんな今だよ!!」

 

 

 

 

 

リボン「集まれ、ハピネスな気持ち!」

 

ぐらさん「高まれ、イノセントな想い!」

 

ラブリー「輝け!!」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「シャイニングメイクドレッサー!」」」」

 

皆の叫びに応えて光とともに、パワーアップアイテム、シャイニングメイクドレッサーが召喚された。

 

そして召喚した化粧筆を使って順番に台座のパレットをタッチしていった。

 

 

ラブリー「愛と!!」

 

プリンセス「勇気と!!」

 

ハニー「優しさ!!」

 

フォーチュン「幸運をこめて!!」

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「みんなに届け!! 幸せの大爆発!!」」」

 

 

その掛け声とともに化粧筆を頭上に挙げ、シャイニングメイクドレッサーからハート形の虹色の光を大爆発させた。

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「プリキュア・ハピネスビッグバーン!!」」」

 

 

 

 

ハピネスビッグバーンが炸裂したのとほぼ同時に、インフェルノも両手を大きく振りかぶり、必殺技の体勢に入っていた。

 

インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

その叫びともに両手の炎の塊を、叩きつけるように投げつけると、巨大な火柱とともに大爆発を起こした。

 

 

二つの必殺技から巻き起こされた大爆発は、サイアークの大群を根こそぎ吹っ飛ばすことに成功し、跡形もなく消滅していた。

 

 

 

 

ホッシーワ「えぇい、まぁ闇のエネルギーは集まったし。とりあえず良しとしましょうか」

 

とはいえ、言ってることとは裏腹に、悔しさに歯噛みをしながらホッシーワは撤収していった。

 

 

 

 

 

 

 

ラブリー「ふぅ〜… あっ、さっきの子は…」

 

戦いを終えて一息ついたラブリーが辺りを見回すと、さきほどの子は母親らしき女性に抱きしめられていた。

 

その光景に嬉しくなってラブリーは駆け寄って行き声をかけた。

 

 

ラブリー「大丈夫だった? 怪我はない?」

 

にっこりと微笑んだラブリーだったが、その子供は怯えたように泣き叫び始めた。

 

ラブリー「どうしたの? どこか痛むの?」

 

慌てたラブリーは咄嗟に手を差し出したが、母親にはねのけられた。

 

 

「触らないでください!! 化け物のくせに!!」

 

ラブリー「えっ? ええっ!?」

 

 

普段ならありえない言葉にラブリーは戸惑い、それを聞いたプリンセスが我慢の限界というように叫んだ。

 

 

プリンセス「ちょっと!! いいかげんにしてよ!! 助けてもらってなんでそんなこと言うのよ!!」

 

 

しかし、そんなプリンセスに対して周囲から怒声が浴びせられた。

 

 

「ふざけんなー!!」

 

「何が助けただ、偉そうに!!」

 

「周りをよく見てみろ!!」

 

 

 

その言葉に慌てて周りを見回すと、そこにあったものは投げ飛ばしたサイアークに押しつぶされた自動車や、倒壊した家やビル。

 

そして何より、ハピネスビッグバーンの大爆発に巻き込まれて瓦礫の山と化した街の一区画があった。

 

 

「なにしてくれてんだテメエら!!」

 

「俺たちの町が無茶苦茶だ!!」

 

「どうしてくれるんだ俺の車!!」

 

「私たちの家は爆発で燃えてしまいました。この肌寒い時期に子供と野たれ死ねというつもりですか!!」

 

「え〜ん!! 私のおうちが〜!!」

 

 

プリンセス「うあ…あ…」

 

自分が意図せずしてしまった破壊。

 

そのことがアクシアの箱を開けたことに対する罪悪感や、昨日コキュートスに言われたことと重なり、プリンセスの奥歯はガチガチとなっていた。

 

 

フォーチュン「な、なんで…? いつもなら…」

 

普段ならプリキュアの浄化の力で、破壊されたりした建物は元に戻る。

 

にもかかわらず一向にそんな気配のないことにフォーチュンは真っ青になり始めていた。

 

 

ぐらさん「こ、この街、傍目にはわからなかったけど闇の力が異様に立ち込めてるぜ… だ、だから街を元に戻す分まで浄化の力が足りなかったんだ…」

 

 

ラブリー「そ、そんな…」

 

皆があまりのことにガタガタと震える中、インフェルノが一歩前に出た。

 

 

ハニー「イ、インフェルノ!?」

 

 

するとインフェルノは覚悟を決めたように地面に手をついて土下座した。

 

 

 

インフェルノ「ごめんなさい家を壊して…。ごめんなさいいっぱい傷つけて…。ごめんなさい、ごめんなさい…」

 

 

 

しかし、そんなインフェルノの態度に市民たちはますますヒートアップしていった。

 

 

「いい加減にしろー!!」

 

「謝って済むか!!」

 

「やっちまえ!!」

 

 

そして殺気立った市民はパイプや棒を手に、土下座を続けるインフェルノに殴りかかっていった。

 

 

散々に袋叩きにされたインフェルノだったが、一切の抵抗をせずなされるがままに殴られ続けていた。

 

 

ラブリー「ああ!!   〜っ!!!」

 

そんな光景を見るに見かねたようにラブリーが群衆の中に割って入り、インフェルノを地面から引き剥がすようにして飛び上がった。

 

 

フォーチュン「し、仕方ない!! 私達も!!」

 

ハニー「プリンセス。しっかり!!」

 

 

やむを得ないというようにフォーチュンも光の翼を出して飛び立ち、ハニーもプリンセスを支えて飛び立っていった。

 

 

 

「卑怯者!!」

 

「逃げるのか!!」

 

そういった数々の罵声に見送られながら。

 

 

 

 

 

オーエエドー市郊外

 

 

 

ここ、オーエエドー市はかなり開けているが、自然もかなり豊かな町である。

 

郊外には鬱蒼と茂る雑木林がある。

 

 

一部が焼き払われたりしたような跡があるこの林の中で、廃墟と化した洋館がひっそりと佇んでいた。

 

 

そしてそんな洋館に一同は緊急的に避難していた。

 

 

 

ゆうこ「はい、ひめちゃん、ハニーキャンディ。少しは落ち着いた?」

 

ひめ「うん、ありがとうゆうこ」

 

ハニーキャンディを口の中で転がしたことで、ひめは少しずつだが落ち着き始めていた。

 

 

 

いおな「うまい具合にいいところがあったわね。市街地からも離れてるし…」

 

ぐらさん「でも、なんだろうな。こんな廃墟なのに、少し前まで人が住んでたような形跡があるぜ。 ほら、新しい薬とか包帯がこんなにあった」

 

リボン「まぁなんにせよ、とにかく助かりましたわ」

 

 

ぐらさんが見つけてきた薬や包帯で、めぐみから怪我の手当てを受けていた美里がすまなさそうに言った。

 

 

美里「ごめんね。嫌な思いさせちゃって」

 

めぐみ「い、いえ。私たちのせいでもありますし…」

 

 

美里「ううん、私が悪いの。何もかもね…」

 

 

暗い顔で俯きながら、美里は遠い目をしていた。

 

 

いおな「あの… 一体さっきのはどういうことなんでしょうか? 何かあんなことを言われるような心当たりは…」

 

 

今現在、自分たちの住んでいる世界とは違う次元の世界と混在していることはいおなも承知しているが、いくら何でもあそこまで罵倒されるとは理解の範疇を超えていた。

 

そのためどうしても疑問が拭えなかったのである。

 

 

 

美里「心当たりもへったくれも、私が戦ってた頃よりは多少マシかなぁ。一年近く経ってるしね」

 

 

 

ひめ「い!?」

 

 

リボン「一体何があったんですの!?」

 

 

 

その言葉に美里は大きく息を吐き出すと、ゆっくりと話し始めた。

 

 

美里「…昔々あるところに、平凡な家族がいました。寒いギャグが好きなお父さんと優しいお母さん、ゲームが好きな女の子とクソ生意気な弟。一家四人で楽しく暮らしていました」

 

リボン「はぁ…」

 

突然始まった昔話風の話に、リボンは気の抜けたような返事をした。

 

 

美里「そんなある日、突然押し入ってきた怪物にその家族は女の子の目の前で皆殺しにされました」

 

 

いおな「!!!!」

 

姉を一度とはいえ目の前で失ったいおなには、彼女の受けた衝撃が容易に想像できた。

 

 

美里「女の子の頭は怪物に対する怒りと憎しみでいっぱいになり、たまたま手に入れたプリキュアの力で復讐のために戦いました」

 

 

ぐらさん「お前…」

 

復讐に燃えて戦ったいおなのことを知っているぐらさんには、美里のことが他人事に思えなかった。

 

 

 

 

美里「周りで誰が傷つこうとも何を壊そうとも、そのことでどんなに責められようともお構いなしに戦った女の子は、やがてたった一つ残った大切なものも全部自分で壊してしまいました」

 

ゆうこ「美里さん…」

 

家族を殺されたことは聞いていたゆうこだが、想像を超える美里の過去に何も言えなくなってしまった。

 

 

美里「それでもなんとか仇を討てましたが、結局その女の子にはな〜んにも残りませんでしたとさ、まる」

 

 

 

めぐみ「そんな… じゃあ…」

 

 

美里「でもね、だから新しいもの見つけたんだ。 自分勝手に多くの人を傷つけて、もう誰に謝ったらいいのかもわかんなくなっちゃたんけど、だったら世界中の人のために生きてみようって」

 

 

ゆっくりと立ち上がった美里は、崩れた壁の隙間から空を見上げてつぶやいた。

 

 

美里「たとえ許されることがなくっても、一生かけて精一杯そんな生き方すれば、少しは償いになるだろうし、地獄で言い訳ぐらいできるかなってね」

 

ひめ「償い…」

 

 

 

ひめには美里があまりにも眩しかった。

 

めぐみやゆうこに嫌われるかもしれないからといって、自分がアクシアの箱を開けたことを黙っていたこと。

 

 

いおなが許してくれただけで、プリキュアとして戦っているだけで、もう償いが済んだと思っていた自分がひどく小さく醜いものに思えた。

 

特に先ほど町の人々から罵倒されたことに不満を持ってしまったことは、自分が反省していない証だと思えてしまい、顔を上げることができなかった。

 

 

ひめ「雪菜さんが怒ったことわかるなぁ…」

 

 

 

 

美里「ああ、雪菜にも会ったんだ」

 

ひめがポツリとつぶやいた言葉に、美里は反応した。

 

 

めぐみ「お知り合い…なんですか?」

 

 

美里「…私の幼馴染でね。私が夢を奪った人…」

 

めぐみ「!!!!」

 

 

美里「雪菜はピアニストになりたがっててね。才能も人一倍あったんだけど、私が馬鹿な戦いしたせいで、右手が動かなくなっちゃったんだ…」

 

いおな「!! あの怪我…」

 

 

 

 

雪菜(私がプリキュアになった理由はただ一つ。プリキュアを殺すためよ)

 

大使館での去り際での雪菜のセリフが蘇り、めぐみは凍りついてしまった。

 

 

めぐみ「じゃあ、まさか友達同士で…」

 

その絞り出すような言葉に、美里は力なく微笑んだ。

 

 

 

 

ゆうこ「あ、あの… 一ついいですか? 美里さんプリキュアじゃなくなってたんですよね。どうしてですか? プリキュアの力があれば、償いをするにしたってもっと…」

 

沈黙が続く中、ゆうこはおずおずと質問した。

 

 

美里「プリキュアの力、か。そんなものろくなもんじゃないよ。 できればもう使いたくなかった」

 

ぐらさん「ど、どういう意味だよ?」

 

美里の言葉にぐらさんが噛みついた。

 

 

 

美里「あなたたち、時々怖くならない? プリキュアとして戦ってることがさ」

 

いおな「えっ?」

 

 

美里「あんな怪物と簡単に戦える力。すっごく怖いものだと思わない? 戦い続けるうちに自分がどんどん人じゃなくなっていくような気になったことない?」

 

 

めぐみ「それは… でも人のために使えば…、きっとみんな受け入れて…」

 

 

そのめぐみの反論に、美里はゆっくりと首を横に振った。

 

美里「同じこと考えた奴がいるの。昔々に大切な家族や仲間を守るために、人であることさえも捨てて妖精の力を借りた奴が」

 

 

メル「美里…」

 

 

美里「でもね。そいつはいつの間にか周りから危険な奴だって思われるようになった。そいつが大神獣、私の家族を殺した奴…」

 

いおな「なっ!?」

 

ぐらさん「あいつらが復活させようとしてる奴かよ!!」

 

 

コクリと頷いた美里は続けた。

 

美里「あいつは、何百年も世界を、人を恨んでる。まぁだからって許せるかっていうと別問題だけど」

 

 

一つため息をついて美里は続けた。

 

 

美里「で、昔話はここまでにして。次はあなた達の今のこと話してくれる? 事態がいまいち飲み込めてないんだよね」

 

めぐみ「あっ、は、はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

一方

 

 

典型的な日本家屋とでもいうべき自宅に、定期検診を終えた雪菜は帰り着いていた。

 

一年近く経ったこともあり、普通に生活を送るぐらいは特に支障はないが、それでも雨が降ったりすると右腕が痛むことはあり、一生この怪我と付き合っていかないといけないと言われていた。

 

 

雪菜「ふう〜。やっぱり落ち込むわね。ああいうこと言われちゃうと…」

 

ミプ「雪菜… その…」

 

 

少し表情を曇らせた雪菜に、おずおずと話しかけたミプだったが、満面の笑みが返ってきた。

 

 

雪菜「大丈夫よ。怪我をしてる人は世の中には大勢いるんだし。もっと辛い思いをした子だっている。こんなことで落ち込んでたらあの子に失礼だもの」

 

 

多少苦労しつつも部屋着に着替えて居間に降りていき、なんとなくテレビをつけるとそこではプリキュアが現れて戦ったというニュースが流れていた。

 

ニュースキャスター『本日、午後三時頃市内で巨大な怪物とプリキュアと名乗る少女の戦闘がありました。その結果市街地の一区画が廃墟と化しました。その他重軽傷者を合わせて50名近くに及び、市民からは激しい怒りと悲しみの声が…』

 

 

 

雪菜「これ、あの子たちよね。気の毒だとは思うし、イマイチ気乗りはしないけど、大神獣と関係があるのならひとまず協力した方がいいかしら…」

 

ハピネスチャージプリキュアと名乗ったチームと共に戦うのは、かなり気が進まない雪菜だが、状況が状況ならばやむをえないかもしれないと思い始めていた。

 

 

 

しかし、プリキュアが戦っていた映像が流れた時顔色が変わった。

 

そこに映っていた「五人目」のプリキュア

 

赤を基調にしたゴシックロリータ風の衣装を身にまとい、赤いロングヘアをなびかせ、深紅のドミノマスクを着用した少女

 

 

雪菜「キュア… インフェルノ… まさか… 美里!?」

 

 

目を見開いてニュース映像を見ていると、ミプがブルブルと震え始めていた。

 

 

ミプ「す、すごく嫌な感じがするミプ… もしかしてあいつが…」

 

雪菜「!!! なんですって!!!」

 

 

 

 

オーエエドー市郊外 雑木林の洋館

 

 

 

美里にこの世界の事情をある程度話した後、一息ついていた一同だが、メルをはじめとする妖精達は何か強大な気配を感じて飛び上がった。

 

 

メル「!! 美里!!」

 

 

美里「メル? どうしたの?」

 

いつも以上に慌てている様子のメルを見た美里は、慌てて尋ねた。

 

 

メル「いつもよりはるかに巨大な闇の力を感じたメル。もしかして大神獣が復活しかかってるのかも…」

 

ぐらさん「それだけじゃねぇぜ。この気配は…」

 

リボン「クイーンミラージュかもしれませんわ!!」

 

 

いおな「何ですって!?」

 

美里「くっ!! 世界が憎いからって、わざわざよその世界まで来て大神獣を復活させようなんてする!?」

 

 

以前戦っていた時のような怒りの形相になった美里だが、すぐにそれに気がつき何度も深呼吸を繰り返した。

 

 

美里「いけないいけない。落ち着け〜 落ち着くんだ私。吸って〜吐いて、吸って〜吐いて」

 

 

どうにか落ち着いた美里は、メルに呼びかけてスマホのような姿に変身させるとそれを手に取り、めぐみ達の方に向かってやさしく言い放った。

 

 

美里「あなた達は帰りなさい。ここから先は私の世界の問題だし」

 

いおな「!! そんなわけにはいきません!! これは私達の問題でもあるんです!!」

 

ゆうこ「そうですよ!! 一緒に戦いましょう!!」

 

 

 

しかし、美里はゆっくりと首を横に振った。

 

 

美里「さっきも言ったでしょう。プリキュアとして戦い続ければ、いつか戻れないところに行ってしまう。クイーンミラージュってのもそうなんでしょう?」

 

 

ひめ「だからって放っとけるわけないじゃん!!」

 

めぐみ「それに一人でなんて無茶です。 何かあったら…」

 

必死に食らいついたひめとめぐみだが、美里は承知しなかった。

 

 

美里「だから私が戦うの。私にはもう失くすものもない。それに、私はこんなところでどうこうならないよ」

 

 

リボン「えっ?」

 

 

美里「私は絶対に死なない。この世界に償わなきゃいけない人がたった一人でもいる限り、死ぬことは許されない。 だから大丈夫」

 

にっこりと笑った美里だったが、その笑顔を見ても気分は全く良くならなかった。

 

 

 

笑顔を見れば自分も元気になれる。

 

そう思ってきためぐみだったが、その悟りきったような笑顔を前には、悲しみしか湧き上がってこなかった。

 

 

めぐみ「そんな考え方… 悲しすぎますよ!!」

 

 

美里「仕方ないよ。これが私の選んだ運命。力を求めて、絆をないがしろにした人間のね」

 

ゆうこ「美里さん…」

 

 

美里「めぐみちゃん。あの男の子、誠司くんだっけ? 大切なことだと思うよ。プリキュアっていう力とは無関係に繋がれる絆があるのは…」

 

めぐみ「絆…」

 

 

一つため息をついて美里は続けた。

 

美里「私もあいつも、もう戻れないし止まれないけど。あなたたちは平凡な日常に帰ることができる。それを忘れないで」

 

 

優しい笑みを浮かべた美里だったが、みんなは愛想笑いすらまともにできなかった。

 

 

 

美里「じゃあね」

 

 

美里は挨拶とともに洋館から飛び出し、鍵の形のアプリをタッチした。

 

 

 

美里「プリキュアマスクチェンジ!!」

 

 

 

次の瞬間、美里は赤い光とともに深紅のドレスに身を包み、赤い仮面を装着して真っ赤な火の玉になって飛び立っていった。

 

 

 

インフェルノ「見てなさい大神獣!! あなたとのケリは私がつける!!」

 

 

最終話に続く



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最終話「Hのある日常へ」

オーエエドー市

 

 

 

クイーンミラージュ「聞こえる。世界を恨む声が… この憎しみの力があれば、世界を不幸に染め上げることも容易い」

 

 

ひときわ高いビルの屋上から破壊された街並みを見下ろして、充満した闇のエネルギーに満足そうな笑みを浮かべるミラージュに対して、ファントムは納得がいかないようであった。

 

 

ファントム(ミラージュ様… 本当にこれでいいのですか…)

 

 

そんな中、赤い火の玉がどこからともなく飛来し、少女の姿となって彼らの後ろに降り立った。

 

 

インフェルノ「あなたがクイーンミラージュね」

 

クイーンミラージュ「ん? 貴様は… そうか貴様がこの世界のプリキュアか…」

 

 

インフェルノ「まぁね、あなたのことは色々聞いてるわ。 あんまり偉そうなこと言えないけど、あなたも大概くだらないやつよね」

 

 

その言葉にファントムは怒りに目を見開いた。

 

ファントム「貴様!! ミラージュ様を愚弄するか!!」

 

 

インフェルノ「いやいや、客観的に考えてみなさいってば。要するに振られた腹いせに世界滅ぼそうってんでしょ。はた迷惑なやつ以外何者でもないじゃない」

 

 

クイーンミラージュ「黙れ!! 私の味わった絶望も知らずしてよくもほざく!! 幸せなど一瞬、愛など夢幻。ならば私の味わった不幸と絶望で世界を覆い尽くすまで」

 

 

どこか小馬鹿にしたような言葉に激昂したクイーンミラージュだったが、インフェルノは頭を掻きながら大きくため息をついた。

 

 

インフェルノ「目的さえ達成できれば自分のことはどうでもいいってか。どっかにいたなぁ、似たようなこと言ってたバァカが…」

 

ファントム「!! どこまでミラージュ様を…」

 

ファントムはさらに怒りに満ちた目でインフェルノをにらんだが、当のインフェルノは、今更というように受け流して話を続けた。

 

 

 

インフェルノ「まぁ、一応言わせてもらうとね。そんな自分のことも二の次にして、復讐みたいなことしてもね、その行き着いた先にはさ…」

 

 

そこで一呼吸置いたインフェルノは、ドミノマスク越しに真剣な目をしてクイーンミラージュを見据えて告げた。

 

 

インフェルノ「なーんにもないよ、すっからかん。達成感も一瞬、喜びも夢幻ってやつよ」

 

 

その言葉が終わるか終わらないかというところでファントムが怒りの形相で切りかかっていたが、インフェルノはとっさにそれを受け止めていた。

 

ファントム「知った風なことを!! それ以上喋るな!! 耳障りだ!!」

 

 

その叫びに対して、インフェルノも反論した。

 

インフェルノ「知ってるから言ってんのよ!! 見てきた本人が言ってんだから絶対間違いないっての!!」

 

 

その叫びとともにインフェルノの体は真っ赤に燃え上がり、ファントムを跳ね飛ばした。

 

 

クイーンミラージュ「貴様… だから私のやろうとしていることは間違いだというか!!」

 

 

インフェルノ「別に。他人様にそれが正しいからこうしろって偉そうに言えるような身の上じゃないんでね」

 

クイーンミラージュ「何ぃ!?」

 

 

インフェルノ「ただ、自分の幸せなんかどうでもいいって思わないで欲しいだけ。今ならまだ戻れるって言いたいだけよ。 あなたが本当に欲しいのは絶望なの? 本当に!?」

 

その念を押すような言葉にミラージュは一瞬固まってしまった。

 

 

クイーンミラージュ「だ、黙れ… わ、私は…」

 

必死にいつものセリフを絞り出そうとしたクイーンミラージュだが、今の言葉が突き刺さってしまっていた。

 

クイーンミラージュ(私は世界を絶望で覆い尽くす… なぜ… 何のために… 私は、私の望みは…)

 

 

混乱してしまい、頭を押さえてよろめき始めると、クイーンミラージュの耳に不気味な声が響いてきた。

 

 

『惑わされるなミラージュ。お前は世界を絶望で覆いつくせばいいのだ』

 

 

クイーンミラージュ「ち、違う… 私は、ただ…」

 

しかし、クイーンミラージュは必死にその声を振りほどこうと抗っていた。

 

 

 

 

『(チィッ!! とんだ誤算だ!! あんなプリキュアがいたとは…) ミラージュ、お前はブルーが憎いはず。あの時の怒りを憎しみを思い出せ!!』

 

 

 

ファントム「ミラージュ様!! しっかり!!」

 

 

頭を抱えて苦しみ続けるクイーンミラージュにとっさに駆け寄ったファントムだったが、混乱していたためか跳ねのけられた。

 

 

クイーンミラージュ「わ、私に触るな!! 私は、私は…」

 

 

クイーンミラージュの頭の中には、絶望へと誘おうとする不気味な声とインフェルノの言葉と自分の本心がぐるぐると渦巻いており、今にも気が狂いそうになっていた。

 

 

クイーンミラージュ「き、消えろ!! この声!! 私を惑わすなー!!!」

 

 

その怒声とともに、突如として不気味な黒い靄をまとった風がクイーンミラージュを中心に渦を巻き始めた。

 

インフェルノ「うっ!? こ、この感じは!?」

 

メル「た、大変メル!! 闇の力がどんどん集まっていくメル!!」

 

インフェルノの背筋に悪寒が走り、腰元のスマホケースに姿を変えていたメルも震えながら叫んだ。

 

 

ファントム「ミ、ミラージュ様!?」

 

クイーンミラージュ「な、なんだこの黒い煙は!? う、うわーっ!!!」

 

 

異変に気がついたときにはすでに遅く、クイーンミラージュの周囲に渦巻いていた靄は一気に濃くなり全身を包み込んで姿を覆いつくしてしまった。

 

そしてその煙は意志を持ったかのように蠢き、みるみるうちに形を変えていった。

 

 

次の瞬間、黒い稲妻が走り何か巨大なものがビルを押しつぶして大地に地響き立てて降り立った。

 

 

インフェルノ「し、しまった… 今の怒りが引き金になって…」

 

ファントム「な、なんだあれは…!?」

 

 

 

 

龍のような顔、金色の鱗に覆われた体は美しくもどこか禍々しく、神話の動物でいうならば麒麟といった姿をしていた。

 

その額から生えた角は鈍く銀に光りあらゆるものを貫く破壊力をそれだけで雄弁に語っていた。

 

 

大神獣「我こそは大神獣。この世界を恨み憎むもの、唯一にして絶対のものなり」

 

 

 

インフェルノ「くっ…大神獣…!!」

 

ファントム「貴様!! ミラージュ様をどうした!?」

 

 

ファントムの叫びに大神獣は鼻で笑うような声で返した。

 

 

大神獣「ふん。あの女などすでに我の一部として消滅しつつある。くだらん怨念を利用された矮小な存在だったが、復活の触媒程度にはなったわ」

 

 

その言葉にファントムは怒りで肩を震わせ、声にならない叫びとともに飛びかかったが、あっけなく弾き飛ばされた。

 

 

 

大神獣「愚かな…身の程を知るがいい」

 

倒れ伏したファントムを見下したようにそう告げると大神獣の体は黄金色に輝き始めた。

 

しかしそれの眩しい光からは神々しさや美しさを微塵も感じさせず、ただ禍々しさだけが溢れていた。

 

そうして、大神獣は巨大な金色の光弾をその鋭い角から発射した。

 

 

インフェルノ「危ない!!」

 

 

 

とっさに飛び込みファントムを救出したインフェルノだったが、光弾は後ろにあったマンションに着弾した。

 

 

すると、凄まじい轟音とともに砂煙を巻き上げマンションは跡形もなく倒壊した。

 

 

インフェルノ「くっ… さっすが…」

 

以前戦ったときと変わらぬ大神獣の破壊力に悔しそうに顔を歪めたインフェルノだったが、それ以上にファントムは聞きたいことがあった。

 

 

ファントム「なぜ俺を助ける?」

 

インフェルノ「え? もう、人が傷つくのは見たくないのよ。今更なんだって感じだけどね」

 

自嘲気味に返したインフェルノに、ファントムは何かを考え込んでしまった。

 

 

 

大神獣「ほう、うまく避けたか。 だが次はない!!」

 

 

しかしそんな暇もなく、大神獣は全身から金色の光弾をあたり一面に雨あられと乱射してきた。

 

インフェルノ・ファントム「「!!!!!!!」」

 

 

直後あたり一面が轟音とともに爆発に覆われ、しばらくの間砂煙で一寸先も見えなくなっていた。

 

 

それがようやく落ち着き視界が開けていくと、まるで月面のように巨大なクレーターが所狭しと出現しており、市街地だったはずの場所は瓦礫の山と化していた。

 

 

大神獣「ふっ。あっけないものだ」

 

 

その中心にはこの惨劇を引きおこした大神獣が事も無げにその黄金の体を光らせていた。

 

 

 

大神獣「むっ? 気配を感じる。奴らはどこに?」

 

しかし、何かの気配を感じ辺りを見回すと、地面に何かの影があるのが目に入り、上空を睨みつけるように見上げた。

 

そこには四人の少女に助けられたファントムと、インフェルノの姿があった。

 

 

ファントム「ハピネスチャージプリキュア…」

 

インフェルノ「あなたたち… 帰りなさいって言ったでしょ」

 

 

 

フォーチュン「放っておけません。それにこれが私の選んだ力の使い方です」

 

ハニー「手が届くところで誰かが苦しんでるのに、私だけ美味しくご飯を食べられないじゃないですか」

 

 

 

インフェルノ「でも、あなた達まで日常をなくすかもしれないのよ」

 

全くの迷いのない目で自分を主張する二人に、インフェルノはなおも食い下がったが、プリンセスとラブリーがさらに反論した。

 

 

プリンセス「大丈夫ですって。私だって幻影帝国を蘇らせたことを償わなくっちゃいけないんだし。それが終わるまでどうこうならないってば」

 

 

ラブリー「人が誰とも憎みあわないで暮らせるようにしたいって言いましたよね。私だってそうです。過去がどうあれ、今そう思ってるならそれでいいじゃないですか。一緒に頑張りましょう、ファントムもいい?」

 

 

 

 

ファントム「…いいだろう、一時休戦だ。俺もミラージュ様を取り返さないといかんからな」

 

ハニー「ええ!! 頑張りましょう!!」

 

 

 

 

その言葉に、インフェルノは諦めたようにため息をついた。

 

インフェルノ「やれやれ。古今東西プリキュアってのはどっか頭のネジが飛んじゃってるのかしらね。言っとくけど、覚悟決めなさいよ」

 

 

ラブリー「はい!!」

 

 

その力強い返事と共に地面に降り立った六人は、大神獣に対して凛とした声で名乗った。

 

 

 

 

ラブリー「世界に広がるビッグな愛!! キュア・ラブリー!!」

 

プリンセス「天空に舞う青き風!! キュア・プリンセス!!」

 

ハニー「大地に実る命の光!! キュア・ハニー!!」

 

フォーチュン「夜空に煌く希望の星!! キュア・フォーチュン!!」

 

 

ラブリー・プリンセス「「ハピネス注入!!」

 

ハニー・フォーチュン「「幸せチャージ!!」」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「ハピネスチャージプリキュア!!」」」」

 

 

 

インフェルノ「地獄からの使者 キュア・インフェルノ!!」

 

 

ファントム「化け物め!! ミラージュ様は返してもらう!!」

 

 

大神獣「愚かなことを… 身の程を知れ!!」

 

大神獣は全身から金色の光弾をラブリー達に向かって乱射してきた。

 

 

 

フォーチュン「!!! みんな散って!!」

 

そのフォーチュンの叫びとともに全員とっさに避けたため、直撃こそなんとか避けられた。

 

とはいえ、次々と起こる大爆発に巻き込まれ皆ダメージを負ってしまった。

 

 

プリンセス「く、くっそ〜!! プリンセス弾丸マシンガン!!」

 

なんとか立ち上がったプリンセスは腕をぐるぐる回し、得意技を放った。

 

 

 

しかし、大神獣の金色の鱗にはそんなものは蚊に刺されたほどにも感じなかったようで、ダメージにならなかったどころか全弾跳ね返された。

 

 

プリンセス「うえ〜!!??」

 

 

 

 

ラブリー「くっ!! ラブリーライジングソード!!」

 

ならばとばかりに取り出したピンク色の剣を手に、ラブリーは雄叫びをあげて切りかかっていった。

 

 

 

 

ラブリー「おっ、折れた〜!?」

 

切りかかったライジングソードは鈍い音ともにへし折れてしまい、ラブリーは素っ頓狂な声をあげた。

 

 

大神獣「ふん」

 

そしてそんなラブリーをまとわりつく虫でも払うかのように、大神獣は鋭い爪でなぎ払った。

 

 

ラブリー「がはっ!!」

 

 

 

ハニー「しっかりしてラブリー!!」

 

フォーチュン「なんて奴よ… こんなに頑丈なんて…」

 

ラブリー「それだけじゃないよ。すごい力もある。今ので体が真っ二つになるかと思った…」

 

 

 

大神獣「わかったか? 我は唯一にして絶対の存在。同じように妖精の力を借りていようとも、貴様らとは格が違うのだ」

 

 

そう告げた次の瞬間、大神獣は鋭い牙の並んだ口をカッと開いた。

 

そうして開いた口の奥には、凄まじい熱量を感じさせる炎が輝いていたのが全員の目に入った。

 

 

ファントム「まずい!!」

 

インフェルノ「みんな逃げ…」

 

 

言われるまでもなく全員が本能的に危機を察知したが、行動に移るよりも早く大神獣の口から一帯を消し飛ばすことが容易に想像される凄まじい火炎が発射された。

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「!!!!!」」」」

 

 

 

とっさに全員目をつぶり身構えたが、いつまでたっても衝撃が襲ってこなかった。

 

不審に思って恐る恐る顔を上げると、大神獣の首には鉤爪のついたロープのようなものが絡み付いており、それにより発射寸前に首を引っ張られたらしく、火炎は空の彼方へと放たれていた。

 

 

インフェルノ「あ、あれは…」

 

メル「まさか…」

 

 

まさかの思いとともにそのロープの先に目をやったインフェルノは、その先にいた人物に目を見開いた。

 

 

インフェルノ「キュア… コキュートス…」

 

 

大神獣「おのれ!! 雑魚どもが!!」

 

イラついたような言葉とともに放たれた光弾を大ジャンプしてかわしたコキュートスは、そのままインフェルノ達の前に着地した。

 

 

コキュートス「何してるの!? しっかりしなさい!!」

 

インフェルノ「今しっかりするところよ!!」

 

 

その叱咤激励にインフェルノをはじめとしてハピネスチャージプリキュアの面々も必死に立ち上がった。

 

 

 

大神獣「貴様ら… なぜ抗う? そんな力に振り回されておのれに酔っているだけの分際で!!」

 

 

フォーチュン「…そうかもしれない。私も憎しみに囚われて周りが見えなくなった時があった」

 

プリンセス「せっかくできた友達を失うのが怖くて、本当のことが言えなくてごまかし続けてたよ」

 

 

そんな二人の言葉に大神獣は満足そうに口元を歪めた。

 

 

大神獣「そうだ、人など脆きもの。くだらないことで感情に囚われ、自分の都合のみでその場を取り繕う生き物。それがこの世界の本質だ」

 

ハニー「でも、だからこそ、毎日美味しいご飯が食べられるっていうような小さなことでも幸せを感じることだってできる」

 

 

大神獣「何…?」

 

 

ラブリー「ちょっとしたことですれ違うこともあるし、それが理由で大きな間違いを犯すことだってある。それでもやり直すことだってきっとできる。その人を大切に思う愛があれば!!」

 

 

毅然とした態度で反論するラブリー達に、インフェルノとコキュートスはバツの悪そうな顔をしていた。

 

 

インフェルノ「やれやれ、耳が痛いなぁ」

 

コキュートス「いい加減な人たちかと思ってたけど、それなりには真面目みたいね。誰かさんそっくり」

 

 

 

 

大神獣「ほざくな!! この力を得たことで絆を失ったもののことも知らずして!! 力など所詮は破壊のためにしか使えぬものだ!!」

 

 

 

その怒声とともに放たれた火炎弾をなんとかかわわすと、コキュートスが呼びかけた。

 

コキュートス「こいつに外から攻撃しても効果はないわ!! なんとかして内側からダメージを与えないと…」

 

 

それを聞いて、ファントムもまた頼むように呼びかけた。

 

ファントム「そうか!! キュア・ラブリー、その赤いプリキュアとともに、あいつの中に囚われたミラージュ様を助け出せ!! ミラージュ様が奴の核になっているならば、それで奴を弱体化させられるはずだ!! 今はそれ以外突破口が見当たらん!!」

 

 

インフェルノ「えっ? 赤いのって私が!? なんで?」

 

 

突然振られた話に戸惑ったインフェルノだが、ファントムは真剣な表情で頭を下げた。

 

ファントム「ミラージュ様の心に響く言葉を口にしたのは、お前とラブリーだけだ。こんなことを言えた義理ではないが頼む。ミラージュ様を助けてくれ!!」

 

 

ラブリー「…わかった。インフェルノ、お願いします!!」

 

 

インフェルノ「オッケー!! じゃまあ行きますか、誰かさんの未来のためにね」

 

フォーチュン「私たちがサポートします。思いっきりやってください!!」

 

そのフォーチュンの言葉に、ハニーもプリンセスも力強く頷いた。

 

 

大神獣「黙って聞いていれば勝手なことを!!」

 

目の前のプリキュアたちの態度にイラついたように、大神獣がカッと口を大きく開いた。

 

 

 

ハニー「させない!! ハニーリボンスパイラル!!」

 

それを見たハニーは、とっさにトリプルダンスハニーバトンをリボンモードにして、黄色いリボンで大神獣を絡め取って動きを封じた。

 

 

 

コキュートス「こっちも!! クリスタル・ビュート!!」

 

 

続けてコキュートスは、右腕を鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させると、鉤爪を大神獣に向けて打ち出した。

 

その鉤爪には右手のひょうたん型の中に収納でもされていたのか、ロープがつながっており、首を絡め取ってしまった。

 

 

そして、ロープに絡まれた大神獣は口を開いた状態で凍りつき始めた。

 

 

 

 

コキュートス「今よ美里!!」

 

気合の入ったインフェルノを励ますように、コキュートスが発破をかけた。

 

 

 

インフェルノ「おっしゃ!! ラブリー!!  自分で行くって決めた未来、意地でも貫くよ!!」

 

ラブリー「はい!!」

 

 

そしてそのまま二人は大神獣の口の中へと飛び込んでいった。

 

 

 

ハニー「あの、やっぱりあなたたちは友達なんですね」

 

今の言動を見て、ホッとしたようにつぶやいたハニーだったが、コキュートスは冷たい目つきで睨みつけて一括した。

 

 

コキュートス「違うわ」

 

 

プリンセス「えっ?」

 

コキュートス「私たちの関係をそんな軽い言葉で片付けないで!!」

 

 

 

 

 

 

一方、大神獣の口の中へと飛び込んだラブリーとインフェルノだが…

 

 

 

 

 

これでもう大丈夫。みんな幸せに暮らすことができます。

 

 

(やった、ありがとう)

 

(おかげで助かったよ)

 

 

 

 

私に任せてください。こんな時のための力です。

 

 

(やっぱりすごいな。あいつって)

 

(でもなんか怖いな。俺たちが束になってもできないことを一人でやってのけるんだぜ)

 

 

 

 

私はみんなの役に立ちたくてこうしているだけです。

 

 

(いや、もういいよ。なんか俺たちが惨めになってくる)

 

(あんたに頼りすぎるのもちょっとな)

 

 

 

なぜですか、私は別に何も!!

 

 

(もう話しかけてくんな!! 俺たちまで化け物と思われるだろ!!)

 

(みんなお前が怖いんだよ。なんでも出来ちまうから)

 

 

 

やめて!! 私にそんなつもりはない!! みんなと幸せに!!

 

 

(じゃあ消えろ!! 俺たちが幸せになるために!!)

 

 

 

なんで? なんでなのよ!?

 

 

 

(殺せー!! あいつは化け物だ!!)

 

(何をしてくるかわからんぞ!!)

 

(これだけの数でかかれば、いくらあいつでも)

 

 

待って、私が何をしたの? 私はみんなの為に、みんなの為を思って

 

 

 

 

(お前は危険すぎる。みんな怖いんだよ、お前が)

 

 

 

やめて!! 私は何もしない。誰も傷つけないから!!

 

 

 

 

(信用できるか!!)

 

(そうでなくてもお前の機嫌を取りながら暮らすなんてごめんだ!!)

 

 

 

そんな!? 私は、私はそんなことを望まない!!

 

 

(黙れ!! 死ね!!)

 

 

 

…そんな、許さない絶対に!!

 

 

 

光もない真の暗闇の中、凄まじい恨みに満ちた情景だけが延々とラブリーやインフェルノの前に浮かび上がってきた。

 

 

 

ラブリー「うぷっ!! なにこれ? 吐き気がしてくる…」

 

インフェルノ「これがあいつの味わった絶望と恨みの源… 今なお世界を憎み続ける感情…」

 

 

その恨みと憎悪の念は、一度それに身を委ねた経験のあるインフェルノでさえも相当気分の悪くなるものであり、ラブリーに至っては吐き気を催すほどのものであった。

 

インフェルノ「ほらしっかり。あのミラージュってのを探さないと。なんとかブルーって人と仲直りさせてあげたいんでしょ」

 

ラブリー「は、はい。よく平気ですね」

 

 

インフェルノ「…まぁ、こういう感情には慣れてるからね」

 

 

苦笑いをしながら頬をかくと、インフェルノはラブリーとともに恨みに満ち溢れた闇の中を進んでいった。

 

 

 

 

インフェルノ「一ついいかな?」

 

ラブリー「はい」

 

インフェルノ「このミラージュって人を助けて、ブルーってのと仲直りさせたら、あなたは振られることになる。あなたはそれでいいの?」

 

 

ラブリー「えっ? あ、ああ、そうなっちゃうんだ…」

 

今更のように自分の状況に気がついたラブリーに、インフェルノはがっくりと肩を落とした。

 

 

インフェルノ「って、気がついてなかったの?」

 

ラブリー「いや、人助けしようってことで頭がいっぱいで…」

 

頭をぽりぽりと掻きながら答えたラブリーに、インフェルノはため息をついた。

 

インフェルノ「…あなたも一緒か。自分のことを二の次にして感情だけで行動して… やっぱりあなたは帰った方がよかったかもね」

 

 

ラブリー「いや、私は大丈夫ですよ」

 

 

インフェルノ「何の根拠があるのよ。一歩間違えれば、次はあなたがミラージュと同じことになるかもしれない。あなたの戦う理由に自分の幸せってのは入ってないの?」

 

 

ラブリー「私の幸せ…ですか? それはみんなが幸せに…」

 

インフェルノ「いやいやいや。そんな学級会の目標みたいじゃなくてさ、もっと自分の欲を出してもいいんじゃない。ブルーって人と恋人になりたいとか、そのためにミラージュを倒すとか、そんなのの方が私にはまだ理解できるんだけど」

 

 

ラブリー「そんなこと考えてません!!」

 

そのインフェルノの言い様にはさすがのラブリーも少しカチンときて叫んだ。

 

 

インフェルノ「じゃあ、あなたの幸せはどこにあるの? このままで後悔しない?」

 

その問いかけにしばらく目を閉じて考えたラブリーだが、はっきりと言い放った。

 

ラブリー「後悔しません。この先に私の幸せはきっとあるから」

 

インフェルノ「…信じるわよ、その言葉。 進んだ先に自分の幸せがなくなるようなことしないでね、絶対に。 同じ失敗、してほしくないんだ」

 

 

 

 

そんな会話をしながら進んでいくと、渦を巻いていた黒い靄のようなものが流れ込んでいっている中心のようなものが見えてきた。

 

 

インフェルノ「これは… 憎しみのエネルギーが何かに流れ込んでいっている?」

 

ラブリー「まさか…」

 

 

慌てて駆け寄ると、そこにいたものは憎しみの海に飲み込まれ、今にも消えようとしているクイーンミラージュだった。

 

 

ラブリー「ミラージュ!!」

 

その光景に慌てて駆け寄ろうとしたラブリーだったが、渦巻く憎しみの念がバリアのようになり、手を差し出すこともできなかった。

 

ラブリー「くっ!!」

 

インフェルノ「すごい憎しみ… そんなことに意味はないのに…」

 

 

クイーンミラージュ(ブルー、なぜ私を捨てた? なぜだ? なぜだ?)

 

 

ラブリー「うわーっ!!」

 

インフェルノ「こ、これは!?」

 

 

その憎しみの渦は一層増大し、クイーンミラージュの姿はその中に今にも搔き消えんとし、さらにはラブリーとインフェルノさえも飲み込もうとしてきた。

 

 

インフェルノ「くっ!! 負けるもんかぁ!!」

 

ラブリー「こんなものにとらわれちゃダメだよ!!」

 

 

 

その渦を必死に泳ぎ、何度も阻まれようとも二人は必死にクイーンミラージュに向けて手を伸ばした。

 

 

ラブリー「ミラージュ!! ブルーはあなたのことを忘れてなんかいない。今でもあなたに謝りたいって言ってるんだよ。もう一度信じてあげて!! その気持ちを忘れない限り、その胸に愛がある限り大丈夫。だから…」

 

 

インフェルノ「あのファントムってのは、どんなになってもあなたのことを考えていた。絆を断ち切るのは自分なのよ。自分を信じてくれてる人から目を背けない限り、何度でも戻ることができる!! 憎しみだって必ず乗り越えられるはず。だから…」

 

 

 

ラブリー・インフェルノ「「諦めないで!!」」

 

 

 

その言葉に、憎しみの中に今にも消えようとしていたミラージュの意識が蘇った。

 

 

 

 

 

 

 

大神獣と必死に戦い続けていたプリンセス達だったが、その強靭な金色の鱗にはまるで攻撃が通じない上に、常軌を逸した火力の前には防御どころか死に物狂いで回避するだけでやっとといった有様であった。

 

ハニー「すごい憎しみ… 私の歌に耳も貸してもらえないなんて…」

 

フォーチュン「くっ!! これじゃいつまで持ちこたえられるか…」

 

プリンセス「ラブリー… まだなの?」

 

 

コキュートス「美里…」

 

 

 

大神獣「何を期待しようと無駄だ。憎しみこそこの世界で何よりも強く、唯一永遠に続くもの。一度囚われたものは永遠に解き放たれることはない」

 

 

フォーチュン「っ!! そんなこと…」

 

その言葉に咄嗟にフォーチュンは反論できなかったが、続いての言葉に度肝を抜かれた。

 

 

コキュートス「そうね。否定しないわ」

 

 

ハニー「えっ?」

 

プリンセス「ちょっ、何言って…」

 

 

ぎょっとした周りを無視してコキュートスは続けた。

 

 

コキュートス「仮に倒すべき相手、憎しみをぶつける相手を倒しても、また次を求め続ける。一度殺したいほど憎んだ相手を心から許すことは永遠にできない。私もそうだしね」

 

 

大神獣「わかっているようだな。ならばわかるであろう、我に勝てないこともな」

 

コキュートスの言葉に満足そうな笑みを浮かべた大神獣だったが、続けての言葉に目つきが変わった。

 

 

コキュートス「でも、その感情を別の感情で覆うこともできるし、別の形で昇華させることもできる。少なくとも、どこにも進もうとしないあなたにその点だけは勝ってるつもりよ」

 

 

コキュートスの言葉に大神獣は目を血走らせ、怒りで小刻みに震え始めた。

 

大神獣「黙れ… 我の憎しみも知らぬ小娘が!!!」

 

 

プリンセス「ちょっちょっちょっ!! 正論だけど今はやめて欲しかったんだけど!! 火に油じゃん!!」

 

 

 

その言葉通り、大神獣は鋭い牙の並んだ口を開き、火炎を発射し全てを焼き尽くさんとしてきた。

 

 

ファントム「まずい… かわし切れるか…」

 

 

 

 

しかし次の瞬間、大神獣の全身を覆う金色の鱗の隙間から、光が次々と溢れ出した。

 

 

 

 

大神獣「なんだと…いうのだ…? これは? ぐ、グワァーっ!!!」

 

 

突然のことに戸惑い始めた大神獣だが、光は尽きることなく溢れ続け、ついにはその鱗を突き破って光の塊が飛び出した。

 

 

ラブリー「ぷっは〜!!」

 

インフェルノ「脱出できたみたいね、あの憎しみの中から」

 

 

プリンセス「ラブリー!!」

 

コキュートス「美里!! さすがね」

 

憎しみの中から脱出できたラブリーとインフェルノは大きく深呼吸をし、そんな二人を皆はホッとした表情で迎えた。

 

 

 

インフェルノ「まあね。でも私達だけじゃないわよ」

 

 

そしてその言葉とともにもう一つ光の塊が飛び出した。

 

その光の塊は、地面に降り立つと一人の少女の姿となり、凛とした声で名乗りを上げた。

 

 

 

 

「未来を照らす大いなる光!! キュア・ミラージュ!!」

 

 

 

プリンセス「ま、まさか…あれって…」

 

フォーチュン「クイーンミラージュ…」

 

ハニー「嘘…」

 

 

 

ファントム「ミ、ミラージュ様…」

 

皆が驚愕の表情を浮かべる中、ファントムは目頭を熱くしていた。

 

ミラージュ「ファンファン… 心配をかけたわね…」

 

 

そんなファントムにクイーンミラージュいや、キュア・ミラージュはにこりと微笑んだ。

 

 

 

大神獣「ば、バカな… そんな矮小なものが憎しみを解き放っただと…」

 

 

核となっていたミラージュを失い、内部から光に満ちた攻撃を受けた大神獣は、相当のダメージを負っており、体を維持することすら困難になり始めていた。

 

そんな体で今の現実が認められないように、大神獣は絞り出すように叫んだ。

 

 

 

コキュートス「認められなくても、これが現実よ。 それが受け入れられないというならば、あなたは永遠に変わることはできない」

 

 

インフェルノ「なるほどね。変わってないというならば私達に勝てるわけもないか。あの時よりはちょっとぐらい伸びたつもりだしね」

 

 

ラブリー「どんな人でも変わっていけるんだよ。そうしたいという心があれば!!」

 

 

 

ミラージュ「彼女達の言う通りです。何も変えられないと諦めてはいけない。変えられない世界があるのではない。過去に囚われて進めなくなった自分がいるだけなのだと私は知りました」

 

 

 

大神獣「黙れ!! プリキュアどもが!!!」

 

瀕死の状態だった大神獣だが、怒りの感情に突き動かされるように火炎を口から発射したが、威力は激減しており全員余裕を持ってそれをかわした。

 

 

そしてラブリー達は頷きあうとプリカードを取り出してフォームチェンジを行った。

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー「「「プリキュア!! くるりんミラーチェンジ!!」」」

 

フォーチュン「プリキュア!! きらりんスターシンフォニー!!」

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「ハピネスチャージプリキュア イノセントフォーム!!」」」」

 

 

リボン「集まれ、ハピネスな気持ち!」

 

ぐらさん「高まれ、イノセントな想い!」

 

ラブリー「輝け!!」

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「シャイニングメイクドレッサー!」」」」

 

イノセントフォームにチェンジするや否や、間髪入れずパワーアップアイテム、シャイニングメイクドレッサーを召喚した。

 

そしてラブリー達はマイクに形を変えた化粧筆を手に、笑みを浮かべながら歌い始めた。

 

 

ラブリー「形無き愛、求め」

 

ハニー「確かな、その優しさ」

 

フォーチュン「色褪せない、希望」

 

プリンセス「奏でよう、未来へ」

 

 

 

 

そんなラブリー達に対して大神獣は隙ありとばかりに、最後の力を振り絞って突進していった。

 

 

 

コキュートス「くっ!! クリスタル・ビュート!!」

 

コキュートスは、右腕を鉤爪のついた大きなひょうたんのような形に変化させると、鉤爪を大神獣に向けて打ち出して絡め取り、なんとか動きを止めた。

 

 

コキュートス「何考えてるのよ。いきなり無防備に歌い出すなんて」

 

 

ミラージュ「あれで力を蓄えてるんです。フォローしてあげてください…」

 

どこか申し訳なさそうなミラージュにインフェルノも仕方ないというようにため息をついた。

 

インフェルノ「不便なものね。まぁいいわ!!」

 

 

インフェルノは凍り付き始めていた大神獣に向かって強烈な飛び蹴りを食らわせて大きく蹴り飛ばした。

 

大神獣「ぐ…ぬ…」

 

なんとか起き上がろうとした大神獣だが、続けざまにコキュートスが左手で支えるようにして大きく右手を振り回したことで、投げ飛ばされて地面に叩きつけられた。

 

 

それを狙ってコキュートスは右手をガトリングガンに変化させた。

 

コキュートス「大神獣、受けなさい!! プリキュア・コキュートス・ガトリング!!」」

 

 

コキュートスのその叫びとともに、猛烈な勢いで氷の弾丸が発射され大神獣に全弾直撃した。

 

その勢いもまたいつにも増して凄まじく、すでに瀕死状態だったとはいえ大神獣を蜂の巣にしてしまった。

 

 

 

そうして時間を稼いでいる間に、ラブリー達の歌はクライマックスを迎えていた。

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「心を重ねて、響きあうメロディー」」」」

 

 

身を寄せ合うように結集した後、それぞれが自分達のイメージカラーを表す光を身に纏った。

 

 

 

ラブリー・プリンセス・ハニー・フォーチュン「「「「プリキュア!! イノセントプリフィケーション!!」」」」

 

その掛け声とともに、ラブリー達は光の矢となり大神獣に向かって突撃していった。

 

 

 

 

それを見届けるとインフェルノも大きく両手を振りかぶった。

 

インフェルノ「とどめだ!! プリキュア・インフェルノ・バースト!!」

 

その叫びともに両手の炎の塊を、叩きつけるように投げつけ、大神獣を火だるまにした。

 

 

ミラージュ「これで終わりにします。プリキュア・シャイニングミラージュ!!」

 

 

その掛け声とともに、眩しくそして温かな光の玉が大神獣に向けて放たれた。

 

 

一連の一斉攻撃を受けて大神獣はついに体を維持することもできなくなり、全身が薄い靄となり光の中に消え始めた。

 

 

大神獣「この場は貴様らの勝ちとしておこう。だが!!」

 

最後に異常にギラついた目を光らせながら大神獣は叫んだ。

 

 

 

大神獣「忘れるな!! その力はやがて貴様らの心身を食い破る!! 次にプリキュアに滅ぼされるのは貴様らだー!!!」

 

 

その呪詛のような言葉とともに大神獣は光の中へと消えていき、それと同時に街が消し飛ぶかと思うような大爆発を起こした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴかりが丘 ブルースカイ王国大使館

 

 

 

リボン「神様、助かりましたわ」

 

ぐらさん「あの大爆発に巻き込まれかけた時にはもうダメかと思ったぜ」

 

 

大神獣の最後の大爆発は街一つを消し飛ばすのではないかと思えるほど超巨大なものであり、全員それに巻き込まれることを覚悟したが、すんでのところでブルーの手で全員救助されていた。

 

 

オーエエドー市の方もブルーの浄化の力により、以前と変わらぬ町並みを取り戻していた。

 

 

ブルー「いや、間に合ってよかった。僕にできることなんてこれぐらいだしね…」

 

 

そんなことを呟いたブルーに、雪菜は冷たい目を向けていた。

 

 

雪菜「元凶の分際で何を偉そうに。それぐらいして当然でしょまったく…」

 

 

めぐみ「う… まあまあ。それよりブルー、ミラージュさんを…」

 

 

その言葉にブルーはミラージュの前に進み、頭を下げた。

 

 

ブルー「すまないミラージュ。僕のせいで君を苦しめてしま…」

 

そこまで謝罪した時、乾いた音が響いた。

 

 

ファンファン「ミ、ミラージュ…様…」

 

 

リボンやぐらさんと同じように妖精の姿に戻ったファントム ファンファンはミラージュのとった態度に驚いていた。

 

 

ミラージュ「ブルー、あなたは卑怯です。神として全てを見守ると言いながら、特定の個人に思い入れをする。挙句にただ見守るだけで自分自身は最後まで何もしようとしなかった。責任というものに正面から向かいあおうとしないあなたに神を名乗る資格はありません」

 

 

めぐみ「ミ、ミラージュ…」

 

 

毅然とした態度でブルーを非難するミラージュにめぐみも呆然としていた。

 

 

ミラージュ「私は決めました。どんな理由があれ、私は世界中の人々を不幸にしてしまいました。それを償うためにこれから世界中を回るつもりです」

 

 

 

いおな「そんな…」

 

ゆうこ「せっかく神様と話すことができたのに… そこまでしなくても…」

 

 

しかし、ミラージュはゆっくりと首を横に振った。

 

ミラージュ「いいえ、どんな理由があるにしても罪は罪です。永遠に許されない自己満足だとしても出来る限りの事を行いたいのです」

 

 

毅然とした態度でそう言い放ったミラージュを見て、考え込んでいたひめも口を開いた。

 

ひめ「…やっぱりそうだよね。せっかく平和になったんだもん。今度は自分のしたことには向き合わなくっちゃね」

 

リボン「ひめ?」

 

 

ひめ「私、ブルースカイ王国に戻ったら本当のこと全部言う。私がアクシアの箱を開けちゃったせいで、こんな世の中になっちゃったこと。お父様やお母様だけじゃなくて、世界中に向かって」

 

その言葉に大使館はざわついた。

 

 

リボン「な、なんてことを言うんですのひめ!!??」

 

めぐみ「そんなことしちゃったら、大変なことに!!」

 

 

ひめ「わかってる。でも、ずっとモヤモヤしてたんだ。このままじゃいけないって。自分のしたことにはちゃんと責任を取らなきゃいけないって。それがはっきりわかったの」

 

 

ぐらさん「怖くないのかよ。んなことしたら世界中から何言われるか」

 

ひめ「わかってる。でも、もう大丈夫。みんなは必ず友達でいてくれるってわかったから。もうなんにも怖くないんだ」

 

その言葉には日本に来たばかり頃にあった気弱さは微塵も感じられなかった。

 

めぐみ「ひめ… もちろんだよ!!」

 

いおな「わかったわ。私も出来る限りの事はするから、頑張りなさい」

 

 

皆の会話を聞いて、ブルーもどこか覚悟を決めたようだった。

 

ブルー「…どうやら、一番いい加減なのは僕だったようだね。 地球の神として情けない。 見守るだけが神ではない…か」

 

 

ゆうこ「私もうかうかしてられないわね。ただ美味しいご飯を食べられればいいって思うんじゃなくて、私がそれをもっと多くの人に与えられるようにしないと。 理想で終わらせちゃいけないよね」

 

 

めぐみ「うん。みんなで頑張ろう。幸せハピネース!!!」

 

 

「「「「おーっ!!!!」」」」

 

 

 

 

と、一同が盛り上がったところで、雪菜が口を挟んできた。

 

 

雪菜「もしもし。盛り上がったところで悪いんですけど、一つだけお願いがあるんですが…」

 

 

いおな「ん? なんですか?」

 

 

雪菜「いえね。いつのまにかいなくなった人のことで、ちょっと頼みたいことがあるんですけどね」

 

その言葉にゆうことめぐみはキョロキョロと部屋を見回した。

 

 

めぐみ「あれ? そういえば…」

 

ゆうこ「美里さん… あれ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぴかりが丘 郊外

 

 

 

自転車に荷物を載せて、美里は今まさに出発しようとしていた。

 

美里「さてと。とりあえずこの先の角を右に。次に左かな」

 

 

メル「美里、本当にいいメル? このままで…」

 

そんな美里にメルはおずおずと話しかけた。

 

 

 

美里「いいのよ、これが私の選んだ道。私の償いだから」

 

 

悟りきったような表情とともに自転車にまたがった美里だったが、それを呼び止めるように声がかけられた。

 

「待ちなさいな」

 

その声に驚いて振り向いた先には、美里がもう二度と見れないと思った笑顔があった。

 

 

雪菜「また、何も言わずに行くつもり?」

 

美里「雪菜…」

 

 

メル「あ、あなたたちは…」

 

それだけでなくその先には、めぐみ達の姿もあった。

 

 

 

いおな「どうやら、想像以上に自分勝手な人だったみたいですね」

 

めぐみ「そうですよ。さっきの百円、返してもらってないんですから」

 

 

 

咎めるようなことを言いながらも、いおなもめぐみも満面の笑みを浮かべていた。

 

 

 

美里「でも、私は…償いを…」

 

 

ひめ「それは私だって同じだよ。私なんか大変だよ。これから世界中に向かって、全部はじめなきゃいけないんだから」

 

ミラージュ「私だってそうです。でも、あなたが教えてくれたことじゃないですか。絆を断ち切るのは自分自身、自分を信じてくれてる人から目を背けない限り、何度でも戻ることができると」

 

 

美里「うん、そうだよ。だから絆を断ち切った私は…」

 

なおも俯きながら自分を否定するようなことをつぶやく美里に、ゆうこはにっこりと笑った。

 

 

 

ゆうこ「そんなことないですよ。 こうして私達と仲良くなれたじゃないですか。それに、まだ切れてない絆だってありますよ」

 

 

美里「それは…」

 

 

めぐみ「どうしても戻れないなら、進んで行った先でもう一度会ったんだっていうのはどうですか? おかしくないでしょう?」

 

 

その言葉にぐうの音も出なくなった美里に、雪菜が話しかけた。

 

 

美里「あなたの負けよ、美里。あなたの進んでいく道を今更否定しないけど、せめて足場をもう少し固めてからにしなさいな。また行き倒れたらどうするのよ」

 

 

美里「何よ。最後の最後でカッコ悪いこと言わないでよ」

 

 

雪菜の言葉に頬を膨らませながらも、うっすらと涙を浮かべつつ、美里は満面の笑みの中へと引き返していった。

 

 

美里「日常…か。ちょっとだけならもう一度味わえるかな、こんな私でもさ」

 

雪菜「あなた次第よ。少しぐらいなら味わう時間も取れるでしょう。親戚の方には私も口を聞いてあげるから」

 

 

 

笑いあう二人を見て、めぐみはしみじみと思っていた。

 

 

めぐみ(ああして、笑いあえる日常って大切なんだなぁ。美里さんの言ったことよくわかるよ)

 

 

そんなめぐみの中では、先ほどのミラージュのブルーに対する言葉が繰り返していた。

 

 

そしてそれと同時に、何かが急速に冷めていくのを感じていた。

 

 

めぐみ(ブルーのこと、何か感じてたけど… あんまり落ち込まなかったのは、そういうことなのかなぁ)

 

 

小さな女の子が、近所のお兄さんに対して憧れる。

 

 

割とよく聞く話だが、自分のものもそんなものなのかと思い始めた時、めぐみの中に一つの顔が浮かんできた。

 

めぐみ(私の日常は、ブルーのいる世界じゃない。いつも当たり前みたいだったものは…)

 

 

ようやく何かを自覚し始めためぐみだったが、形になるにはまだまだ多少の時間を要したことだけは、ここに記載しておくことにする。

 

 

 

 

プリキュアR(リベンジャー)

 

 

 




怨念エピローグ




ブルースカイ王国 ブルースカイ城。



クイーンミラージュが闇から解き放たれたことで、各地にいた幻影帝国の幹部も浄化されていた。

結果、幻影帝国は事実上消滅しこの城を含むブルースカイ王国を始め、世界中が以前と同じ平穏な姿を取り戻していた。



だが…




クイーンミラージュの玉座にあったディープミラー。


それが粉々に叩き割られ、血だるまの首無し死体が横たわっていた。

そして、ぐちゃぐちゃと何かを咀嚼するような音が響いていた。


大神獣「ふん。あんな女を利用したからにはくだらん存在だとは思っていたが、やつよりも輪をかけてくだらん憎しみだ。自身の力のなさを棚に上げた逆恨みとはな」


地球の神ブルーと双璧をなすもう一人の神、レッド。

その死体をゴミのような目で見下しながらも、傷つき力の大半を失った大神獣は、死体の腹わたをひいては肉や骨を食い漁り続けた。



大神獣「まぁいい。こんな憎しみでも休眠のための腹の足しにはなったか…」


レッドの惨殺死体をあらかた食い散らかし、まあいいというように呟くと、大神獣の体はだんだんと透き通り始めた。


大神獣「我は再び眠りにつく。だが人間よ、プリキュアよ忘れるな。何百年いや何千年を経ようとも我の憎しみは消さぬ。いつか再び蘇り、今度こそ世界の全てを!!」


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