GATE モリアーティ教授(犬) 彼の地にて 頑張って戦えり (BroBro)
しおりを挟む

番外編
伝説のモリアーティ


今日が4月1日と気づき、30分足らずで書き終えた駄作です。本編とはまっっったく関係ありません。見なくてもいいです、はい。

もし見る上での注意

一、教授崩壊
二、原作読みながら書いてないから色々とおかしい
三、本編とは一切関わり御座いません
四、プテラノドン可愛いよプテラノドン
五、ミスして二つ同じ文を乗っけちゃっいました。ちょっとドーバー海峡に沈められてきます


特地のとある上空で、教授はプテラノドンに乗っていた。

 

向かうはイタリカ。教授が身を隠すにはもってこいの場所だと判断した、ただ今絶賛ギスギス中の国である。

 

空路は間違っていなく、方角は合っている。

 

筈なのだが、何処まで進んでもイタリカが見えない。もうとっくにイタリカに着いている筈なのに、何故かイタリカが見えない。国が移動した何て馬鹿な話がある訳がなく、教授の何かしらのミスで空路を外れたとしか思えない。

 

 

「どこで間違ったかなあ?」

 

 

う〜ん、と首を傾ける教授。方角はレレイに聞いたし、その方向から機首を外していない筈なのだ。

 

もし別方向に行っていたのなら、このまま進んではどこに行くのか分からない。会話が出来る生き物がいない地で迷う事が一番恐ろしい。

 

何とか方向を修正しようと色々と考えていると、小さな道が見えてきた。

 

どうやら近くに街がある様だ。

 

 

「とにかく、この道を真っ直ぐ進むか」

 

 

そこで情報収集でもしようと教授は決め、道を沿って飛び続ける。

 

飛行すること約二分、飛躍的大きめな街が見えてきた。

 

 

「おぉ!」

 

 

なかなかに大きい都市。レレイがいた村とは何倍も大きそうなその街を見て、教授は少し高揚した。

 

色々な物を見れるかもしれないワクワク感が教授の心を埋める。子供みたいな目で街を見続け、慌てて草原の中でプテラノドンを止めた。

 

 

「よぉし、情報収集開始だ!」

 

 

そう言って意気揚々と街へと繰り出す。

 

新しいステッキがあるかもしれないし、もしかしたら面白い文明の利器も見れるかもしれない。加え、レレイ達が使う魔法を学ぶ機会があるかもしれないのだ。ワクワクせずにはいられない。

 

 

実はここ、レレイが行きたがっている魔法都市であり、レレイの姉が居る街である。魔法学校の様な場所もあるし、自分の研究成果を発表する場もある。特地の中でもそれなりに大きな街だ。この街のことは、レレイにも話を聞いていて教授は知っている筈である。話を聞いた時は、とてもワクワクしながら聞いたものだ。

 

そうとも知らずに教授は街へと入り、有り合わせの金でいい感じの杖を買ったり、酔っ払いに絡まれて酒を飲まされたり、いい感じに酔いが回って来てふらふらと良く分からずに歩き回ったりと、フリーダムに過していた。

 

いつの間にか夜になってしまったがそんな事はどーでもいいとばかりに酔っ払いの獣人と意気揚々と歩き回って、教授はいつの間にか学会と呼ばれる場所についた。

 

 

「んあ……?んじゃぁここは?」

 

 

呂律があまり回っていない声で、肩を組んで共に歩く獣人に聞く。

 

 

「こかぁ学会っつってな?自分の研究成果とかぁ体脂肪率とか発表する場所なんだとよ!」

 

「なんじゃぁそりゃ?変人の巣窟かい?」

 

「そ〜んなとこさ。俺達にゃ縁のねぇ場所せぇ」

 

 

その獣人の説明を聞いた教授は、数秒考える様に顎に手をやる。そして、ピコーンと頭上に電球を光らせた。

 

 

「おぉ、んじゃぁここわワシが発表して度肝抜かせてやるよ!」

 

「おめぇがぁー?無理無理無駄なこったぁ!俺達獣人は頭は悪いからよ!」

 

「なぁに、お前もビックリするさ。ちょっと待っとれよ!」

 

 

そう言って教授は街の外へ向かって走り出した。その姿を見て「早めに帰って来いよ〜!」と獣人は促し、猛ダッシュで駆ける教授は律儀に手を振る。

 

そして数分後、教授はプテラノドンに乗って空から学会へと飛び込んだ。

 

 

「おぅい!!これがワシのプテラノドンじゃあ!!」

 

 

天井を突き破って入ってきた教授が言った最初の一言がこれである。

 

泡を吹いて倒れる老人が何人かいて、腰を抜かしてぎっくり腰になっている老人が半数を占めていて、と老人泣かせな風景が広がる中、教授は聞かれてもいないのにプテラノドンに付いて説明した。

 

30分にも渡る説明。それを今までの行いに怒るわけでもなく、本当に度肝抜かせて聞き入っている老人達。そして、プテラノドンが『グエェェェ!!』と鳴くと、周りからは拍手喝采の嵐が巻き起こった。

 

 

「見たかぁ!これがモリアーティの技術力よ!ふはははははははは!!」

 

 

高笑いする教授。とても満足そうに笑う教授に、数々の賞賛の声が飛ばされた。

 

 

 

後に、その街ではこの話が『伝説のモリアーティ』として、銅像となって語り継がれている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……酷い夢を見た……」

 

 

そうプテラノドンの上で寝落ちしてしまった教授が呟いたのは、イタリカから上る黒煙が見え始める時と同時刻だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 








happy エイプリルフール


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一章:悪の天才!モリアーティ教授異世界に行く!
プロローグ


実家に帰ったら劇場版のビデオがあったので久し振りに見てパッと思いつきで書いてみました。まず、名探偵ホームズを知っている人も少ないと思います。それと、モリアーティ教授押しの人も少ないと思います。完璧に趣味ssですので、物好きな方はご覧下さい。モンタナネタも何時か出てきます。


ベーカー街のとある公園。一つの小島を囲む形で作られた大きな池があるその公園の真下には、秘密基地が作られている。

 

内部は少し複雑になっている。まず、入口は大木の表面にカモフラージュされた扉。その扉を抜けると直ぐに数十m下まで降りる梯子を下り、そこから更に数十mの一本道を進み、ようやく生活空間に辿り着く。買い物帰りはとても不自由する設計であるが、これのおかげでこの秘密基地を知るものはいない。

 

いや、持ち主である3人を除いて知るものはいないと訂正しておこう。その持ち主は、ベーカー街でも悪名高い天才悪党、モリアーティ教授。そしてその部下のトッドとスマイリーである。

 

そのトッドとスマイリーは、今日もいつもと同じように公園の川魚を入れてびしょびしょになり、所々に穴が空いている紙袋を持って基地内へと帰ってきた。地下とは思えない程綺麗な内装をした基地の中のリビングに当たる部屋、そこの中央にある机に彼は川魚が入った紙袋を乱雑に置いた。

 

 

「おい!そこに食料を乗せるなと何度言えば分かるんだよお前達は!」

 

 

そこへ、奥のキッチンからコック帽を被ってやってきた紫色の毛並みの男、モリアーティ教授がやって来た。何時もの白いマントだが、右手にお玉、左手にフライパンと完璧にクッキングが出来る体制を整えている。それらをブンブンと上下に振り回し、顔を真っ赤にして怒っている。モリアーティ教授は、先日誘拐したハドソン婦人が残して行った綺麗な机を出来るだけ汚さない様にしている為、トッドとスマイリーに怒号を発しているのである。

 

 

「だって荷物持ったままでそっちに行くのダルイんですもん〜」

 

 

そう言って、やる気無さそうにモリアーティ教授が出てきた扉を指さす長身で細身の男はスマイリーである。

 

 

「そうそう、それにもうお腹空いちゃってこれ以上動けませんよ〜」

 

 

スマイリーの言葉に同意の言葉を付け足し、床に座り込んだ小柄の体型の男はトッドだ。彼らは約4時間程公園の池で釣りをしていた為、体にはそれ相応の疲労が溜まっている。それはモリアーティも勿論分かっている。

 

 

「全くお前達はッ!明日は大事な作戦だと言うのに!全くもう・・・」

 

 

ボスッとお玉で2人の頭を叩きながらも、モリアーティは川魚を調理場へと運んだ。普段なら2人にやらせただろうが、明日は宿敵であるホームズと決着をつける(予定)大事な日である。作戦には2人の協力が不可欠だし、2人には頑張って貰わなくてはならない。その為、彼は2人を休ませて自分が川魚を運ぶことを選択したのだ。それ程、彼は明日の作戦に力を注いでいるのだ。

 

 

(プテラノドンを動かすこと然り、スチームカーを動かす事然り、奴らが居なければ何も出来んからな)

 

「いつこんなに落ちぶれたかなぁ〜」

 

 

深く溜め息をつきながらも、モリアーティ教授は手早く川魚を三枚におろし、火にかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悪の天才、モリアーティ教授。『シャーロック・ホームズ』に出てくるモリアーティ教授の外道さと悪のカリスマっぷりは、この【犬が直立二足歩行する世界】にいるモリアーティ教授には無いものだ。

 

本人曰く、「私の殺人は一度も成功した試しがない」

 

誰か曰く、「知能的ではあるが、頭が良いとは言えない」

 

そんな彼の暮らしは貧乏である。なぜかと言えば、彼は生活費の殆どを兵器開発に費しているからだ。兵器開発と言っても現代の戦闘機や、戦車の様なものでは無い。プテラノドン型飛行機には拡声器しかなく、スチームカーの攻撃方法は存在しない(無理矢理踏み潰す以外)。唯一、奪って改造した潜水艦には魚雷がある。それも、生身のホームズとワトソンを追う原理の分からない追尾型魚雷である。しかし不発ばかりで、大事な時に爆発しない。潜水艦本体が脆いし狭い為、魚雷を上手く扱えない事も多い。

 

発明や発想に関しては天才ではあるが、何時も詰めが甘い為に予期せぬ出来事が起き、計画が一瞬でダメになる。このモリアーティ教授は、毎回失敗する憎めない男なのだ。

 

 

モリアーティ教授が考える次の計画では、その詰めの甘さを消す事を前提とした作戦だ。ダイヤを奪い、ホームズに勝つ。その為に彼は、明日の作戦に使うプテラノドンとスチームカーを整備していた。

 

プテラノドンの腹部に新たに付けた武装、ネットガン。2連装砲になっているこれは、対象を一定時間拘束する効果を持つ。装弾数は2発。プテラノドンのコックピット部に積んである予備弾を含めれば6発である。ホームズとワトソンを捕縛するために作られた武装だ。

 

スチームカーには同型のネットガンが両サイドに2つずつ備わっており、更に催眠ガスミサイルを2発用意している。予備としてネットガンと催涙ミサイルを車内に大量に詰め込んだ。保身は完璧である。

 

それらを全て取り付け終わり、モリアーティは一息ついた。そして近くにあった木製の椅子に座り、改めてプテラノドンとスチームカーを見る。それらの体には、黒光りした武装が輝いていた。

 

 

(武装に不満はあるが、仕方ない。これを使えばホームズに勝てる。そしてダイヤも無事に盗み、生活にゆとりを・・・!)

 

 

今まで失敗しては破壊されてきた馬車やこの兵器たちの修理費によって、既にモリアーティ一味は火の車である。だが、次に盗み出すダイヤさえ手に入れれば、この不景気も回復するだろう。それさえ出来れば、川魚を食べる必要も無くなる。ステーキ、耳以外のパン、それにシャンパン・・・ああ、夢が広がる。

 

それもこれも、ホームズに勝たないと話にならない。明日こそ、最後の決戦と決めたのだ。

 

 

「明日こそ・・・最後の戦いを・・・」

 

 

椅子の背もたれに両手を置き、そしてその手に顔を乗せてゆっくりと眠りに落ちる。一抹の不安と、明日への緊迫感を高めながらも、彼はこっくりこっくりと夢の中へと消えて行った。

 

発光機能のない筈のプテラノドンの目に当たる部分が光っていたことを、モリアーティはまだ知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃別世界の銀座では。

 

突如として現れた巨大なゲートに進行する自衛隊の姿があった。

 

幾人もの陸上自衛隊が銀座からゲートの向こうへと消えて行き、銀座とは違う世界へ行き着く。

 

地球の銀座へと繋がったゲートは、間違いなくその地球にいる者を異世界へと誘っていた。

 

しかし、そのゲートは銀座とは無関係の黒い渦を作り、別の世界の者を誘う。

 

渦は次第に大きくなり、数秒後に消えた。

 

 

「ん?」

 

「どうした、伊丹?」

 

「いえ、何か妙な音が聞こえた気がしたんですけど・・・気のせいだった見たいですね、すみません」

 

 

この時、自衛隊以外の者がこの世界に侵入して来ている事を、誰も気づかなかった。




プテラノドンとスチームカーの改造は後々厳しくなるので仕方のない処置です。え、潜水艦?知らない子ですね。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教授は混乱している

教授の口調分かんなくなったよ(真顔)


椅子で眠っているモリアーティ教授が周囲の異変に気がついたのは、教授が寝てから4時間後の事だった。モリアーティ教授の基地は地下であるにも関わらず、どういう訳か教授の体に風が当たる。木の葉の擦れる音が聞こえる。地下にいるなら有り得ない事だ。

 

不思議に思い、細く瞼を開ける。

 

 

「んなっ・・・!?」

 

 

そして捉えた風景は小ざっぱりした地下などでは無く、緑色に大地が塗られた草原であった。その草原を囲むように木々が生い茂り、この草原を隠しているようにも思える。たまに吹く一陣の風が、モリアーティ教授の純白のマントをはためかせた。とても清々しい所である。

 

そんな広い草原の真ん中に、木製の椅子に座ったモリアーティ教授が一人。そして愛機であるプテラノドンとスチームカーがポツンと置かれている。

 

なぜ、自分はこんな所に居るのだろう?と、声も出せずに考えるモリアーティ教授。誘拐の可能性が浮上するが、モリアーティ教授の基地に生物が侵入した瞬間に警報がなる為それは無いだろう。

 

寝ぼけていた訳ではないだろうし、自分から動いた訳でもない。全く理解出来ない事が起きている。

 

現実の光景に理解が追いつかなく、教授はしばらく椅子に座って呆然としていた。

 

数十秒程たち、このままでは何も始まらない事を感じた教授は椅子から立ち上がる。そひて、教授の唯一の移動手段とも取れる二つの機械を点検した。

 

 

「どこも異常は無さそうだな」

 

 

エンジン部等を見てみたが、これと言って異常は無かった。プテラノドンにはガソリンが入っているし、スチームカーにはしっかりと石炭が積んである。動作テストをしても問題は見受けられなかった。教授が地下基地で点検した時のままのようだ。

 

 

(スチームカーやプテラノドンで運ばれた訳では無いのか?だとしたら誰がわしをこんな所に・・・)

 

 

犯人探しも大切だが、この状況を打開する事の方が重要である。場所もわからない所に放り出されたのだ。誰が人を見つけて色々と聞かなければならない。

 

幸いにもプテラノドンにはランディングギアが付いたままだ。スチームカーに積んであるロープでプテラノドンを引っ張って移動すればプテラノドンを奪われる心配はない。

 

サッサッと慣れた手つきでスチームカーとプテラノドンを繋ぎ、スチームカーを起動させる。しかし、スチームカーは最低でも2人で乗ることを想定されて作られている。一人でも動かす事は出来るが、逐一ハンドルと燃料室を行き来しなければならない。そうなれば、一旦ハンドルを疎かにしてしまえば、どんな事故が起きるか分からない。

 

現状も把握できなく、さらにスチームカーすら動かせない今の状況に、教授は歯噛みした。

 

 

「ぐぬぬぅ〜!トッドォォ!スマイリィィ!何処だあぁぁ!!」

 

 

自担馬を踏んで大声で助手達の名前を呼ぶが、勿論、最初から返信が帰ってくると思っていたわけでは無いのだが、叫ばずにはいられなかった。

 

しかし、彼の叫びに応えた者がいた。

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッ!!」

 

 

 

とても人の言葉とは思えない咆哮が木々を揺らした。それと共に、男女の悲鳴が響く。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

焦げ臭い臭いが草原を支配する。辺りを見回すと、森の一部から黒煙が見えた。爆発音が鳴り響き、男達の怒号と女子供の悲鳴が絶え間なく教授の脳に響く。

 

 

(これはまずい・・・!)

 

 

その絶望に染まった悲鳴を聞いたモリアーティ教授は戦慄し、とてつもない恐怖感を体の底から感じた。

 

今すぐここから離れなければならない、そう教授の野生の勘が告げている。

 

兎に角遠くに逃げるためにコストの安いスチームカーは置いておく。一先ず一人でも充分動かせるプテラノドンのエンジンをかけた。解体所のトラックから盗んできたエンジンは正常に作動した。

 

プテラノドンはエンジン音による雄叫びを上げ、ゆっくりと地面を滑走する。全体的に素材が紙で出来ていて軽いプテラノドンの滑走距離は短く、数秒で離陸を開始した。直ぐに高度500m辺りにまで達したプテラノドンを操る教授は、確認の為にプテラノドンの前方に位置する黒煙を見た。

 

 

「なんじゃありゃ・・・?」

 

 

そこには、血のように赤い10m以上の巨大な生物が小さな集落を襲っていた。

 

その巨体の背には真っ赤な翼が生えており、神話等に登場するドラゴンの様だ。そんなドラゴンは大きく開けた口から炎を吐いて村人を焼殺し、鋭利な牙で黒く焦げた村人を噛みちぎっている。

 

抵抗する村人もいるが、一昔前の主兵装であった弓でドラゴンを攻撃している。放たれた矢はドラゴンの鱗によって弾かれ、矢を放った村人は焼き尽くされた。

 

 

「あれは本当にまずいぞ!」

 

 

何故ドラゴンがいる等といった疑問を浮かべる余裕は教授には無い。

 

幸いにも、ドラゴンは教授に背を向ける形で炎を吐いていて教授には気付いていない。少し心苦しくはあるが、あんな化け物に戦いを挑む程教授は愚かではない。一人でも多く生き延びて居てくれと願い、教授はプテラノドンの機首を傾け、旋回しようとする。

 

しかしその瞬間、村人が苦し紛れに放った矢が教授の眉間目掛けて飛んできた。

 

 

「んなああぁぁぁ!?」

 

 

緊張感の無い悲鳴を上げながらも、超人的な反射神経で首を曲げ、矢を回避する。

 

危機を間一髪で回避した教授は一安心したが、今度は唯一信頼を置ける兵器であるプテラノドンが教授の敵に回った。

 

 

『ンナアアアァァァ!!』

 

 

プテラノドンに備え付けられていた拡声器がいつの間にか作動しており、教授の悲鳴を少し低くして大音量で流してしまったのだ。教授の悲鳴はプテラノドンの雄叫びとなって、辺り一帯に響き渡る。

 

これによって、真っ赤なドラゴンの目が教授の目と重なり合ったのは、言うまでも無いだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大きく見開いたドラゴンの目が教授を捉えた。炎龍と呼ばれているこのドラゴンは、井戸へと逃げ込んだ金髪の少女から目を離し、教授のプテラノドンへと羽ばたいた。

 

辺りに疾風が巻き起こり、家屋の炎を一瞬で消した。巨体に似合わず猛スピードでプテラノドンへとドラゴンが向かう。

 

その姿を見て、 教授のプテラノドンは挙動不審に小さくグルグル回りながらも逃走のために大きく急旋回する・・・ことは無く、どういう訳かドラゴンに向かって急降下した。

 

好機と見たのか、ドラゴンは口を開き火炎を口内に踊らせる。すぐにでも火炎を放てる体制である。

 

ドラゴンと教授との距離が残り200mにまで縮まる。そして、炎龍が火炎を放とうと更に大きく口を開いた。

 

次の瞬間、教授のプテラノドンの両サイドに装備されているネットガンが爆音を上げた。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教授の受難

教授は第三偵察隊が行動を開始する前日にやって来たと言う設定です。書いてたら矛盾が生じる場面が有りましたのでこう言う設定にしました。見切り発車はなかなか大変です。


蓄音機の一部をもぎ取って作った拡声器によって放たれたモリアーティ教授の叫び。慌てて拡声器の電源を落としたが既に遅い。やってしまったと声も上げずに顔を右手で覆う教授は、中指と人指し指の間から静かに炎龍を見た。

 

指の間という狭い視界から見えた光景は、大きく羽を広げて迫ってくる炎龍の姿だった。

 

 

「ぐぅ〜!何でこうなるんだよ!」

 

 

誰に聞かせる訳でもなく叫んだ教授は、その場でグルグルと回る。逃げる事は決まっているが、何処に逃げるかを決めてなかったからだ。逃げる方向によっては炎龍の巣に向かって逃げてしまうかも知れないし、ベーカー街の位置も分からない。北へ行こうか南に行こうかとぐるぐると回る。その間にも炎龍は迫ってきていた。

 

2、3回転した後、教授は何かを決意した様に大きく深呼吸をし、キッと真下から向かってくる炎龍を睨んだ。

 

 

「こうなりゃ知能犯は止めた!」

 

 

モノクル(片眼鏡)を輝かせ、教授は操縦桿を力強く下に下げた。それと共に、狂ったように空中でダンスをしていたプテラノドンは生気を取り戻し、大きな口を向けてくる炎龍へと降下した。

 

帽子が飛ばされない様に支えながら、猛スピードでプテラノドンは炎龍へと向かう。その炎龍の口には炎が宿っていた。いつ吐き出されてもおかしくない火炎。あれを受ければ、紙製のプテラノドンは教授と共に燃え尽き、地上へと落下するだろう。他人が見ればこれ程の自殺行為は無い。

 

獲物を射程距離に捉えたのか、炎龍は一際大きく口を開いた。口の中の炎がオレンジ色に染まっているのが遠くにいても確認できる。炎龍は炎を吐き出し、プテラノドンを焦がそうと力を入れた。

 

しかし、射程距離に入っているのは、炎龍とて同じ事である。

 

 

「発射!」

 

 

ドゴンッ!と大きな音を立てて、ネットガンの蓋が爆発し、内部から束ねられた網が現れた。空中で拘束を解いた網の先には鉄の重りが付いており、重力と火薬による爆発によって網は真っ直ぐ炎龍へと向かう。不意打ちの如きタイミングによるネットガン射出と重力を味方につけた網の猛スピードによって炎龍は躱すことが出来ず、巨大な右羽の付け根にネットガンが直撃した。

 

 

「ゴアガァァァァァァァ!!」

 

 

炎を吐いた炎龍は右の羽が動かなくなった事によって浮力を失い、回転しながら地面へと落下して行く。吐き出された炎は的外れな方向へと向かい、プテラノドンに当たる事は無かった。

 

教授は炎龍の撃墜を確認すると、急降下爆撃機の様に急上昇して高い上空へと戻る。そして土煙を上げながら倒れている炎龍を見て、拡声器のスイッチを入れた。

 

 

「さらばだドラゴン!ふははははははは!!」

『フハハハハハハハ!!』

 

 

笑い声だけを周囲に撒き散らした教授は、木々の向こうへと姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一発のネットガンを犠牲にして炎龍を撃墜した事によって、暫くは安全を確保したと教授は安堵した。けたたましいエンジン音とプロペラが風を切る音は、まだ自分がこの世に居ることを示している。あんなにも五月蝿かった音が、こうも恋しくなるものなのかと自分で不思議に思ったが、偶には良いかと適当に考えを区切った。

 

一先ず安全な場所に行きたいので、上空から街か何か無いものかと地上を見る。しかし何処までも草原か森が広がるばかりで、待ちどころか人工物すら見当たらなかった。

 

 

(こうも何もないものなのか?ロンドンならもっと街があるはずなのだが・・・)

 

 

余りにも街も家も無い為、教授はこの場所の事について考えた。先ほどのドラゴンは機械にしては余りにも動きが生物的だったし、逃げ惑う村人達も教授とは顔が違った。教授は世界各国の知識をそれなりに身につけているが、あんな生き物は見たことが無い。全てが本当に生物だとすれば、教授がいた世界とは別の世界だと言う可能性が出てくる。

 

ポケットを探り、金色の装飾が入った時計を見る。時刻は8時過ぎである。もし誰かが教授を誘拐したのならば、教授が寝た時間が2時近くである為約6時間で教授を起こさず、律儀に椅子ごと見知らぬ所まで誰かが運んできた事になる。いくら何でも、そんな芸当を出来る者は居ないだろう。

 

プテラノドンとスチームカーの位置、教授が座っていた椅子、それら全てが地下基地の配置と同じであった。まるで、地下基地の一角がそのままあの草原に現れたかのようだったのだ。

 

 

「もし本当に地下基地ごとあの場に現れたのなら、わしはどうやって帰ればいいんだ・・・」

 

 

教授は世界の全てを知っている訳ではない。天才を自称してはいるが、知らない事も多々ある。有り得ない話だが、異世界が存在する可能性も否定は出来ないのだ。異世界に来てしまったという状況も考えて、今のこの状況を打破する方法を考えねばならない。

 

帰りたい気持ちを抑えきれないが、兎に角今は情報収集をする事が大事だ。一応、断片的だが大体の国の言語は聴けば分かる。例えば日本語ならば「あなた モリアーティ?」などの単純な単語だけ理解している。残念ながら四字熟語や難しい外国語は分からない。

 

 

「まあ、簡単に分かればいいか」

 

 

一先ず、分かる言葉だけ聞き取れれば良いかと適当に考え、集落探しを再開した。

 

 

 

その後約30分間飛び続けたが、集落のしの字も見つからなかった。しかし舗装されていないが道は見つけたので、その道を沿って飛んでいる。重量が軽く、燃費がいいプテラノドンは長時間飛行が可能であったので、彼はそこまで燃料を気にせず集落を探していた。実際、ガソリンの容量を示すモーターは満たんの印からまるで動いていない。ここまで燃費がよく、よく動くプロペラ飛行機は珍しいだろう。このプテラノドンはモリアーティ教授の技量の高さを物語っている。

 

操縦桿を片手で操り、片手でポケットに入っていた菓子を食べながら丘を超えると、明らかに自然で発生したものではない煙が上がっていた。

 

 

「ッ! 見つけた!」

 

 

ギラっと目を輝かせて教授は叫んだ。速力を上げて煙へと向かう。そこにはなかなかの大きさの村があった。一角が森に覆われている為、もしかしたら見た目より大きいのかもしれない。煙の正体は木か何かを外で燃やして生み出された煙の様で、一先ずは安全と思われた。

 

もしもの時を考えてプテラノドンを村の少し手前で止め、木と気の間に隠すように置いておく。そして、そのまま歩いて村へと向かった。

 

村は現代風とは言い難い木造建築が多く、地震か台風が来たら直ぐに崩壊してしまいそうな建物が多かった。それらの窓から教授を見てくる人々。因みに窓には硝子は無く、木の蓋がしてあるだけである。

 

しかし、彼はそんな細かい事を気にしてはいなかった。教授は窓から出ている人の顔を見て、大きな疑問符を浮かべた。

 

 

(皆顔が変だ・・・)

 

 

教授の様に顔が長く耳が大きい訳でもなく、猿の様な顔をしていた。勿論普通の人間なのだが、教授にとっては見たことのない生物である。教授がいた世界の"人"と言えば教授と似たような顔をした者の事を指す。しかしこの世界の人間は教授の様な二足歩行の獣人は見慣れているのでさほど驚かない。ただ人の住む村に来ることは余り無いと言うだけなので、少し珍しい程度にしか思っていないのだろう。

 

対して教授は目を点にして周りを観察する。終いには立ち止まって「どうなってるんだ・・・」と呟く始末。道行く人が教授を不思議な目で見る。

 

その内に、白髭を貯えた老人がやって来て教授に話しかけた。

 

 

「旅の方かな?こんな何も無い村に何しに来なさった?」

 

 

老人からしたら普通に話しかけただけだ。しかし、モリアーティ教授からは全く意味のわからない言語で聞こえた。日本語でも、アメリカ語でも無い。「□△%―∀▼☆?」と言う様な訳の分からない様に聞こえている。

 

更に疑問符を大きくし、ズレたモノクルを直す事すらも忘れるモリアーティ教授。それを見て老人も不思議に思い、更にこの世界の言葉を放つ。周りの人間も少しづつ集まってきて、ちょっとした人盛りになっていた。

 

周りから投げかけられる様々な質問に対して、教授は涙目になった。

 

 

「誰か助けくれぇ・・・トッドぉ、スマイリィ・・・」

 

 

その救援要請は少数の人間の耳に届いたが、誰も言葉の意味を分かる人間はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◆◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、何処とも名の付いていない道で1人の男がトボトボと歩いていた。

 

薄青い帽子に同じ色の作業着を着たその男の顔はどう見たって犬である。150cm位の小さな体は広大な道を歩き続けた。

 

彼の名前はトッド。ベッドで寝てたらよく分からない所で寝てて、宛もなく歩き続けた人物である。もう5時間も歩き続けているドットは大きく溜め息を吐き、近くにある岩に座った。

 

 

「腹減ったなぁ〜・・・」

 

 

小さく呟き、更に深い溜め息を吐く。もう何回同じ動作を繰り返しただろうか。何度も同じ事をしても状況は変わらず、しかし同じ事をやらずにはいられなかった。胸に溜まった憂鬱感を溜め息と共に吐き出すが、またすぐに体の中から憂鬱感が湧き上がってくる。永遠に続くような動作に思えた。

 

 

「・・・動くか」

 

 

観念して動き出すトッド。相棒のスマイリーも居なければ上司であるモリアーティもいない今、彼に宛は何も無い。

 

既に身体が弱り、足の筋肉が悲鳴をあげている。それでも歩き続けなければ生きられる気がしないし、何も進展しない。仕方なく、何処まで続くか分からない道をひたすらに歩き続けた。

 

 

「うッ・・・!」

 

 

足が上がらなくなったのが原因で、小石に躓いて転んでしまった。精神的に弱っている彼は立ち上がる気力が出なく、そのまま地に伏した。

 

 

(このまま寝ちゃおうかなぁ)

 

 

なんて考えもしたが、いつ車か馬車が来るかも分からないのでこんな道のど真ん中で寝られない。しかし、少し位ならいいかなと妥協して、トッドは浅い眠りに入った。

 

 

「あらぁ、あれは一体どう言う状況なのかしらねぇ」

 

 

そんな彼を、道の向こうからやって来た黒色ゴスロリの少女が面白そうに見ていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教授の歩くでこぼこ道

評価真っ赤になってて焦った

こんな粗末なもんに評価して下さりありがとうございます。これからも名探偵ホームズファンの恥にならない程度にひっそりと頑張っていきます。

では、続きです


 

全く言語の通じない人達と頑張って対話すること約一時間、教授は何とかこちらの意思を伝える事に成功した。この間、一際大きな家に招かれたり、よく分からない根っこ見たいな味の飲み物を飲まされたり等して、教授は幾分かげっそりしていた。

 

それだけやっただけあって、村人達は教授が道に迷ったことだけは分かってくれた。実際は道に迷った訳じゃなくて道が何なのかすら分からなくなったのだが、それを訂正する程の気力は教授には残されていなかった。

 

ぐた〜っと机に突っ伏すモリアーティ教授に、村の人達はどれ程の苦労をしたのだろうと同情の目を向ける。実際、教授をここまで疲労させたのは村人達な訳だが、そんな事教授は気にしない。気にしている余裕はない。もう何でもいいから休ませてくれと頭で願う。口には出さない。出しても意味が無いと分かっているからだ。

 

 

『にしても面白い格好だな・・・』

 

『ああ、ここらじゃ見ないよな』

 

『獣人だろ?お洒落と言えばいいのか奇抜と言えばいいのか分からんな・・・』

 

『言葉も理解できんし、田舎者か?』

 

『田舎者があんな高そうな格好するか?』

 

『・・・しないな』

 

 

ここの村人達にとって獣人と言うのはなかなか見ない存在である。しかも随分と高価そうな衣類を身につけた獣人となれば、噂が流れるのは早い。たった数分で教授の噂は村全体に行き渡り、奇妙な来訪者を一目見ようと集まり始めた。家の外がガヤガヤと騒がしくなったのは、もう何十分前だろうか。そんな事態でも教授は机から顔を上げず、ただ机に身を任せている。

 

この場所の事を考えて疲れて、体全身で村人に意思表示をしたせいで身体的にも疲れた。

 

眠気と戦いながらゆっくりと席を立ち、今の自分の状況について思案しながら外へと向かう。

 

村人の反応から察するに、この世界の生物の大半があの様な猿っぽい者であると推測される。そしてこの世界の言葉は自分のいた世界の言葉と全く違い、恐らくこの世界の共通語がここの村人が使っていた言葉なのだろう。

 

情報収集とは何よりも先に行うべき事であり、情報と言う物は無くてはならない物である。情報を得る為には幾つか方法があるが、主な方法と言えば"聞き込み"だろう。何よりお手軽であり、現地民の話を聞けば確実性がある。しかし聞き込みをする為には当然言葉を交わすことが必要であり、言葉が分からない等という事は問題としては論外である。

 

一先ず急を要する事は言語を覚えることである。言葉を理解しなければ炎龍の事も分からないし、元の場所への帰り方も分からない。しかし言葉を覚えるにも言葉を介せる者もいないため、困難が予想される。だがこの問題は避けては通れない物だろう。

 

木製で引き戸式の扉を開けて外に出る。まずは周りを観察する事にした。言葉を覚えるには単語を覚える事が必要である。接続詞は二の次だ。

 

周りにいる人間の動きを観察し、何を意味している言葉を発しているか考察する。頭にハチマキを巻いた筋肉隆々の男は薩摩芋らしき紫色の植物を指差し、目の前にいる男と話している。その男は少し悩んだ素振りを見せ、硬貨らしき物を数枚渡した。この時点で教授は男が商人だと理解する。そして指さしていたこの世界の物の名前を理解し、硬貨の名前、そしてその薩摩芋らしき物一つの値段を理解した。

 

 

(芋の名前は余計だったかな?)

 

 

天才の片鱗を見せながらも、重要度の少なそうな芋の名前を頭の片隅に置く。しかし少なくとも知識を得ると言う嬉しさを抱え、上気分で右腕のステッキを肩にかけた。

 

しかし

 

 

(ああ、そう言えばワシのステッキは無いんだったか・・・)

 

 

何時もの癖で振り上げた右腕には寂しくもステッキは握られていない。少なくともトッドとスマイリーよりも確実に長く共に過ごしてきたステッキが無いことに、教授は寂しさを感じた。

 

あのステッキは教授の特別製であり、様々な隠し装備が格納可能であった。ライト、ナイフ等など嵩張りそうな物を収容でき、即座に取り出せる優れ物である。(教授の主な殺傷武器は斧かリボルバーなため、ナイフは殆ど使わない)

 

無いならないで仕方無しとは思っているが、どうしても右手が寂しい。右足を前に出す度にステッキを前に出す癖があり、右膝を曲げてステッキを振るう仕草をしてしまう。何処かで適当な大きさの棒でも見つけてステッキの代わりにしようと考えながら、教授は村の探索を続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

約2、3間探索していた教授は落ち着く為にプテラノドンへと戻った。村人に一言挨拶して来たので心配される事は無い。

 

段々と村人達にも見慣れて来て、少量ながら単語も覚えた。色々と見た情報を整理しながら教授はプテラノドンの操縦席に座る。

 

一番の成果と言えば、この世界の文明レベルが明確化された事だろう。この世界には自動車や飛行機等の概念は無く、代わりに不可思議な謎の技術が根ずいている様だ。見たのは一回だけだが、とある村人が見せたデモンストレーションで、教授の目の前で金貨が一瞬にして銅貨に変わっていた。最初は有り得ないと頭を悩ませたが、異世界なら何でも有りなのではないかと割り切った。一応、教授はこの様な事象を魔法と呼ぶことにしている。

 

今回の調査で文明レベルが分かった事はラッキーだった。今の教授の技術ならば宝石等を盗む事が出来るからである。彼等は主に馬による移動方法しか知らず、それ以上に速い乗り物は今の所見つかっていない。もし本当にこの世界の乗り物として馬が最速ならば、スチームカーで簡単に逃げる事も出来るはずだ。仮にゴリ押しで物を盗んでも逃げられる可能性は高い。

 

しかし問題なのはここの村の情報しか無いこと。そして教授の考えはただの予想でしかなく、情報不足により確実性に欠ける事だ。もし魔法による盗難が多発していて、魔法の盗難を基準とした防犯設備が作られているのなら、教授がそれを掻い潜れるかが分からなくなってくる。魔法がどのような物なのかが掴めていない今、下手に動く事は控えるべきだと考えられた。泥棒企業を再開するのは、当分先になるだろう。

 

今後の方針としては、継続して言語の完全取得を最優先とし、現実に及ぼす魔法による事象の限界値を調べ、世界情勢を確認する。そして現状の技術力で泥棒可能と判断したらこの世界でも泥棒に専念する。長い道のりになるだろうが、やると決めたら即決行がモリアーティ教授の信念だ。

 

彼は部下達に『犯罪者に明日は無い』と告げた。今部下は居ないが、現在部下の大切さを身を持って知っている。有言実行しない者が、悪の天才を語る資格はない。

 

例え命の危機に瀕したとて、例え誰からも見捨てられたとて、泥棒として生きると決めたからにはどこに居ようと突き通す。

 

天才の名を汚さぬ為にも、彼は一人、異世界で一日一日に全力を持って挑む。

 

 

「やってやる・・・ワシはやってやるぞ!」

 

 

一人決意を頑とし、闘士を燃やす。バッと立ち上がって両手でガッツポーズらしき動きをする様子は、誰が見ても本気だと感じるだろう。

 

モリアーティ教授は冒険好きであるため、少し気持ちが高揚していた。不安を消して気持ちを新たにしたお陰なのか、周りに見える景色が綺麗に見えた。よく地面を見れば見知らぬ植物もあり、教授の探究心をくすぐる。いずれは魔法を覚えて夢にまで見た完全犯罪を完遂してやろうと密かに心に決めた。

 

気持ち新たに村に向かう教授の足取りは軽い。既に日は陰っており、道をゆく教授の影は長く伸びている。

 

 

(どこでも夕陽は美しいものだな)

 

 

改めてそう思い、教授は村の敷地内へと入った。

 

今日は休むとして、宿の確保が必要となる。金は一応持ってはいるが、とても一泊出来るほどではないし、この世界ではポンドは使えないだろう。

 

最悪プテラノドンの翼の裏で寝る事を考えながら、教授は人間行き来が少なくなった舗装されていない道を歩く。ザッザッと砂利を踏む音は異文化にやって来た事を思い知らせてくれる。

 

 

「長い道のりになりそうだな・・・」

 

 

これからの事を思い、一人呟いた。そして自分の言葉に苦笑し、また前を見る。やはりシリアスは似合わんかなと更に独りごち、改めて宿探しに意識を集中した。

 

 

『お困りかな?』

 

 

突然、教授に声がかかった。

 

なんと言っているのかは分からなかったが、周りに話しかける対象が居ないため自分への言葉だと教授は察し、声の方に振り向いた。

 

 

「あんたは・・・」

 

 

そこには教授に最初に話しかけてくれた白髭の老人が立っていた。軽く右手をあげて挨拶の仕草をしている。

 

声をかけてくれた恩があるため、教授は少ない誠意を持って言葉を発する。

 

 

「これはこれはご老人、先ほどは助かりましたぞ」

 

 

言葉は通じないだろうと分かっていても礼をせずにはいられず、小さく頭を下げる。老人はそんな教授に対して『礼の必要は無い』と手を横に数回振る。

 

そして本題に入る為に教授の目を見る。

 

 

『どうやら宿屋に苦労しているようじゃが、ワシの家に来てみる気は無いかの?』

 

 

少し前に疑問詞を覚えた教授は何かを訴えかけている事に気付き、その言葉の中に『家』の単語がある事にも気づいた。簡単に推測して、家に困っているのか聴いているのかと聞いてきていると思ったが、指を森の中に見える一軒の民家に向けて指しているため、あの家なら大丈夫だがどうだ?と聞いてきていると予想した。

 

 

「・・・いいのなら、有り難く使わせて頂く」

 

 

了承の意味を込めてコクっと首を縦に振る。それをみた老人はうんうんと頷き、こっちだと先導してくれた。

 

一応教授は人を見る目があり、誰が危険な人物かは見て分かる。この老人に関しては安全な人物だと感じたため付いていく事にしたが、念の為腰に付けた2丁のリボルバーを常に抜ける状態にして置く。

 

 

『いや〜、ワシの弟子がお前さんの事を気にしてしまってのぉ。ああなったら止まらないからどうしたもんかと思っておったんじゃよ』

 

 

老人は話すが、その言葉は教授には通らない。しかしとても嬉しそうに話している事は分かるため、教授は警戒する気が無くなってしまった。

 

 

(まあ何かあっても何とかなるかな?)

 

 

老人のペースに押されて教授は構えていたリボルバーから手を離し、家へと招待された。









そう言えば、この題名を見ただけで名探偵ホームズだと気づいた人はどれ位いるのでしょうか?ちょっと気になってしまった今日このごろ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2人の天才

なんとか年内に間に合った。来年も忙しくなりそうなんですが、頑張って更新を続けていきたいと思います。
短い間でしたが、今年もありがとうございました。良いお年を!


 

 

老人の家は村の家と同じく木製でこじんまりしていた。薪割りをしていたのか、玄関の脇側に縦に割れた木が散乱している。ベーカー街の家々より何倍も小さい家だが、とても生活感が出ていた。

 

 

『さあ、こっちじゃ』

 

 

手招きする老人の後ろから続くモリアーティ教授。ガラガラと玄関の扉を開けて老人が家の中に入るので、教授も開けっ放しにされた玄関の扉から家の中に入った。一応玄関の扉を閉める。その工程の中でマントが扉に挟まると言う小さなアクシデントが発生したが、冷静に少し扉を開けて対処した。

 

 

『おーい、連れてきたぞ〜!』

 

 

家の中に入ったのを確認した老人が家の中で大きく叫ぶ。そうすると、廊下の奥からトタトタと足音が聞こえた。

 

そして廊下の先から少女が現れた。

 

 

『噂の獣人?』

 

『そうじゃ。連れてくる口実としてこの家に一晩泊める事になったが、いいかの?』

 

『大丈夫。むしろ、一晩では足りないかもしれない』

 

 

なんの話をしているのだろうと教授は訝しげに少女と老人を見る。銀色でショートカットの髪の少女は無口なのか、老人と少しだけ言葉を交わしてから教授の方をみた。

 

 

『言葉は分かる?』

 

「・・・言葉?」

 

『そう、言葉』

 

「少しだけなら分かるが・・・」

 

 

言葉と言う単語のみを理解し、少女が何を言おうとしているのかを瞬時に理解した教授は、親指と人差し指の間をすぼめて「少しだけ」とジェスチャーする。

 

それの真意を読み取り、自分達の常識的な言葉が理解出来ない事が分かった少女は、一先ず自分の名を名乗った。

 

 

『私はレレイ・ラ・レレーナ』

 

 

言葉が分からないのなら余計な言葉は必要ないと思い、レレイは端的に名前だけを伝えた。それと同時に、自分の右手を胸に当てる。

 

どうやら自己紹介時の行動はこの世界でも同じらしく、教授は少女の動きを見て自分の名を示した事を理解し、教授も名を名乗る。

 

 

「私はモリアーティ。モリアーティ教授だ」

 

『モリアーティ・キョウジュ?』

 

 

教授はいらなかったかと即座に感じたモリアーティ・キョウジュであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの後話に流されるがままに飯を食べ、薪で沸かした湯で体を流した。時刻は夜の9時過ぎである。パジャマが無いため教授はマントだけを外した服装で一夜を過ごすことにした。少し寝にくい服装だが、毎日過酷な生活を送ってきたおかげでさほど気にならなかった。

 

風呂上がり、リビングと思われる部屋の中央に設置された机、それのお供に置かれている三つの椅子の一つに腰掛け、深く溜め息を吐いた。

 

 

(久々にまともな夕食を食った・・・)

 

 

毎日川魚、もしくは雑草を食べていた教授は、この家で出てきたパンの様な物とシチューと思われる食べ物を綺麗に平らげていた。別世界の食べ物で少し戸惑ったが食べてみるととても美味しく、シチューに至っては皿から汁気が無くなるまで綺麗に食べた。

 

風呂も同様である。元の世界だったらとても沸かしたとは思えない様な温度のお湯で体を流していた。しかも体を流すこと自体珍しい事で、シャワー室を使わない日が大概である。しかしここでは気持ちのいい温度のお湯が入った湯船から桶ですくい、体にかけると言う粗末ながら幸せな時間を過ごせた。

 

正直、この世界の方が有意義に過ごせている気がする。

 

心の中で部下2人に謝りながら、教授は机の上に出されたお茶を飲んだ。温かくも味わい深い液体が喉を通り、体に染み渡るのを感じる。ついついぼけ〜っと心地よさそうな顔をしてしまった。

 

そんな時に、レレイが教授の机を挟んで前の椅子に腰掛けた。手には分厚い本が抱えられており、それを大きな音を上げながら机の上に置く。

 

 

『では、早々に始めたい』

 

 

そう言ってレレイは教授の目を真っ向から覗く。仕方ないと教授はお茶を机の端に置いて、レレイに向き合った。

 

 

『あなたの言葉、国、技術。それぞれを教えてもらう』

 

 

レレイはそう言って大きな本を広げた。

 

実は教授がこの家に泊まるにはある条件があった。それはレレイに自分の言葉やら何やらを教えてやる事である。

 

このレレイと言う少女、実は教授がプテラノドンに乗って村にやってきた事を知っていた。その技術が気になり、教授に接触したのだ。そして、どうせなら他国の言葉も覚えてしまおうと考えているのである。それと平行して、教授もここの言葉を覚えられると言う利点もあった。

 

断る理由もなく、教授は嬉嬉としてその申し出を受け入れた。教授としてはいち早くこの世界の言葉を覚えたい訳だし、この世界についても色々と調べたい事がある。巨大なドラゴン然り、世界情勢然り、今日食べた夕食の作り方然り。

 

 

『と言う訳で、まずは私たちの言葉を知って欲しい』

 

 

そう前置きを入れ、レレイと教授による言語講座が開始された。

 

 

 

ここからはダイジェストで2人の成長をご覧頂こう。

 

 

 

二三 〇〇時。レレイはクイーン・イングリッシュを、教授は特地の言葉の共通語を会話出来るまでに取得。

 

 

〇一 四三時。しっかりとした接続詞や専門的(主に魔法分野)な言葉を完全取得。

 

 

〇三 五四時。各々の言語に慣れるため、使用言語を入れ替えて会話を続行。

 

 

〇六 〇一時。各々の詳細について語り合う。

 

 

 

 

〇六 一〇時。

 

 

『なるほど、帝都と言う所には様々な場所から奪った物が多くあると・・・』

 

「本当に行くのなら、地下から攻める方がいい。帝都は空中の戦力はあるけれど、地下にまで目を向けてはいないはず。それに地に穴を開ける道具ならこの世界にもある」

 

『地下か・・・昔作った穴掘り機でも造ってみるかな』

 

「教授の称号を持つその技術力、私にも見せて欲しい」

 

『ふ、帝都の宝を盗んだ後にな』

 

「相当な自信。楽しみにしている」

 

『任せろ、犯罪界のナポレオンの名は伊達ではないわ!』

 

「その自称はどうかと思う」

 

 

ふははははは!と大声で笑うモリアーティ教授。彼は終始得地の言葉で喋り続け、無表情ながらもどこか楽しそうに話すレレイはイギリスの言葉を流暢に使っている。

 

つい数時間前まで2人は大きく広げた本の絵を指さして、単語などを記憶していた2人の姿は無く、紅茶の様な紅いお茶を飲みながら2人は話し合っている。教授もレレイも、既に言葉をマスターしたようだ。

 

簾の様な物の隙間から差し込んでくる朝の光に2人は全く気付かない。有意義な会話を楽しんでいる2人の体感時間は、まだ2時間ほどしか経っていない。鳥の囀りさえも聞こえないほど、会話に熱中している様だ。

 

 

「ではこれからはその配下を探し、帝都侵入の準備をする。と言うこと?」

 

『まあ、そうだな。悔しいがワシひとりでは限界がある。トッドとスマイリーがいなければ出来ない仕事だ。・・・はぁ、つくづくワシも落ちぶれた物だよ・・・』

 

「集団の行動を得意とすることは恥じることではない。自身を持つといい」

 

『そうかなぁ・・・』

 

 

今後の方針について話すモリアーティ教授を、興味深そうにレレイは見つめ、適切にアドバイスを入れる。そんなことを繰り返している内に、ガチャッとリビングの扉が開いた。

 

 

『ふあぁ・・・徹夜ご苦労さん』

 

 

扉の向こうから出てきたのはカトー老師であった。大きく欠伸をして、眠気眼を擦りながら2人に話しかける。この時、初めて2人は今の時間に気がついた。

 

 

『あら、もう朝だったのか。それじゃあワシは行くとしよう』

 

 

そう言って教授は椅子から立ち上がる。9時間近くも座って、しかも徹夜で話し続けたにも関わらずにその動きは軽快であった。計画の準備の時には大体不眠不休だったため、教授は徹夜に慣れている。なにせ、時間に追われる泥棒には休む暇は少ない。ただ座って話しているだけならば、教授にとっては苦にもなりはしないのだ。

 

 

「もう行くの?」

 

『噂の異世界の軍勢も気になる。トッドとスマイリーが来ている可能性がある以上、ワシには時間が無い。レレイは例の奴のこと、しっかりと伝えておけよ』

 

「分かってる」

 

 

カトー老師に得地語でお礼の言葉を述べた教授は、いつものマントとシルクハットを身に付けて足早に家を去った。カトー老師はその様子を怪しげに見て、静かに椅子から立ち上がったレレイに聞いた。

 

 

『どうしたんじゃあれ?』

 

『またいずれお礼に来ると言っていた。それよりも、今は大事な事がある』

 

『大事なこと?』

 

 

机に立てかけてあった杖を力強く掴んだレレイは、しっかりとカトー老師の目を見て言い放った。

 

 

『炎龍が近くにいる。逃げる準備をしなければならない』

 

 

その言葉を聞いたカトー老師は、暫く口を開けたまま立っていた。







(前書きの挨拶後書きに書けば良かった・・・)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

赤色より桃色

長らくお待たせしました。なかなか続きが思いつかず、指が進まない日々が続き、そして今回も進んだかと言えば進んでいません!はいすいません。
ですが悩んでいる内に適当な構想だけは作れたので、これからは仕事の合間に書いて何とかして更新速度を上げたいと思います。


では、続きです。


レレイとカトーが炎龍の脅威が迫っている事を村人達に伝えている中、モリアーティ教授は誰にも見られる事なくプテラノドンへと向かった。しっかりと挨拶したかった所だが、避難活動の邪魔をする訳にもいかない。住民の中で教授が村を既に出ている事に気付いているのはレレイとカトーのみである。

 

 

「いやぁ、予想はしていたけど、面倒だなぁ……」

 

 

森に隠してあるプテラノドンには少ないながら木の葉や枝が被さっていた。殆どが紙で出来ているプテラノドンは繊細である。無造作に払い除けると翼を傷付けてしまう恐れがある為、一つずつ丁寧に手で取りながら、教授は大きく溜め息を吐いた。

 

大体目に付く木の葉や枝を払い除け、漸く教授は操縦席に向かう。そしてエンジンに火を入れ、プテラノドンのプロペラがゆっくりと回り始めた。

 

 

「…それが教授の翼竜?」

 

 

不意に後方から声がかかった。激しいローター音の中においても良く通る声。その声を良く知っている教授は振り返り、その場にいるレレイに目を向けた。

 

 

「いい造形だろう?なんてったってワシが生み出したのだからな」

 

「とても造られた物とは思えない。こんな技術を持つ教授はやはり凄い」

 

 

胸を張る教授にレレイは素直に賞賛する。プテラノドンの口をパクパクさせたり、変声機を使って見せたりとデモンストレーションをする教授の目は、どこか生き生きとしている。

 

この世界において、教授の技術力と発想の右に出る者はいない。レレイもそれを理解して、率直に凄いと感想を零した。

 

 

「約束通り、また会えたらこの翼竜の構造を教えて欲しい」

 

「ワシは約束は破らん。心配するな」

 

 

そう告げて、教授はプテラノドンを発進させた。ほんの少しの滑走の後、遥か上空へと飛び立つ桃色の翼竜を、レレイは見えなくなるまで見送った。

 

翼竜が頭を向けている方向にはイタリカと言う国がある。大きな国ではあるが、最近では賊がよく現れ、イタリカの平和を脅かしていると言う。無事に生きてどこが出会える事を静かにレレイは祈る。

 

そして教授が向かっている方向がイタリカで合っている事を確認したレレイは、静かに村の中へと戻って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇遡って教授が現れる少し前。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この特地にはエルフと言う種族がいる。

 

長寿としても知られるエルフの特徴は、耳が長く、主に深い森の中で生活していると言う所だろう。エルフは他種族との関わりを持つ事を嫌う。そのため、彼等は結界を貼った森の中で日々を過ごしている。

 

エルフの種類も色々あり、エルフ、ダークエルフ、精霊種エルフなどが存在する。上記の特徴はこの全てのエルフに当てはまるもので、各種エルフにはそれぞれに細かい特徴がある。

 

中でも、精霊種エルフは多種エルフより優れていると言う優越意識を持っている。そのため、精霊種エルフは他のエルフと干渉する事もあまりしない。

 

自らを隔離しているため、精霊エルフ達はエルフの中でも安全な種族と言えよう。しかし見方を変えれば、壊滅の危険が迫っても誰も助けには来ないと言うことになる。

 

エルフの結界すらも易々と乗り越え、堅牢な鱗であらゆる攻撃も弾き返し、抗う事すらも億劫になるその存在を、この特地の者達は"炎龍"と呼んだ。

 

 

飛ぶ災害は、深い森の中へと舞い降りた。

 

 

 

様々な形の家が並ぶ小さい村落の中心に降り立った炎龍は一つ、翼を動かす。それだけで台風の様な突風が巻き起こり、家々の屋根の一部を吹き飛ばした。

 

そして家の中から出てくるエルフ達をゆっくりと品定めする様に目を向け、人一人入る位な巨大な口を大きく開けた。

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!」

 

 

強烈な咆哮を一つ放ち、炎龍は木製の家の一つに向けて火炎を向けた。

 

一瞬で燃え上がるその家から悲鳴が聞こえた。しかしそれも一瞬の事、吹き続けられる火炎を受け続けたその民家からは悲鳴が消え、家すらも主と共に消えようとしていた。

 

炎龍が一つの家を焼却した時には全ての精霊エルフが弓矢を片手に家から出ており、炎龍に向かって矢を放つ。しかし炎龍の鱗は装甲車の機関銃すらも受け付けないほど強固な代物。鏃は石、威力は機関銃に比べれば何倍も劣っている武器では、炎龍の鱗を貫通できる訳がなく、矢を放ち続けた者達は火炎に飲まれるか、その鋭い牙によって噛みちぎられた。

 

女子供も容赦なく、燃やし、喰らい、踏み潰す。

 

阿鼻叫喚の地獄絵図。熱く、苦しく、痛い。地獄とは、まさにこの様な所なのだろうと思うほど、平和に過ごしていた精霊エルフの村は壊滅していく。まるで流れ作業をするかの如く、炎龍はエルフ達を焼いていた。

 

抗う術を持つエルフが少なくなり、炎龍は周りのことを気にせずに逃げ惑うエルフ達を食らう。

 

抗えば焼き、逃げれば食らう。そんな事をただの繰り返す。

 

 

しかしその作業は、村の殆どを焼き切った所で終わりを迎えた。

 

突如、炎龍の右目に矢が突き刺さり、悲鳴じみた大声を上げた。それと共に吐き続ける火炎を止め、炎龍は自らの目を潰した犯人へと顔を向ける。

 

残された左目が捉えたのは、一人の金髪の少女を庇うように立つ男の姿だった。

 

 

「逃げろテュカ!」

 

 

男は背後の少女、テュカと呼んだ少女に大声で叫ぶ。倒壊や炎上による轟音に負け無いように声を張ってテュカに叫ぶが、テュカは地面に座り、光の消えた瞳で炎龍を見ながら固まっている。声は届いている。しかし、目の前で親友を失った少女の脳が男の声をシャットアウトしていた。

 

まずいと、男は心の中で舌打ちをした。炎龍のダメージを見て勢いを取り戻したエルフ達が炎龍に再度矢を放っているが、男は魔法を使って命中精度を高めて漸く目を射抜いたに過ぎない。勢いのままに突っ込み、狂ったように矢を放ちまくる今のエルフ達では、そう長くは持たない。

 

現に勢いそのままに炎龍の足元まで向かい、顔面に向かって矢を放ち続けた男達は炎龍から放たれた火炎によって火に巻かれ、数秒間叫び続け、直ぐに動かなくなった。

 

このままでは一分とたたない内に全滅し、テュカは間違いなく殺される。

 

そう思った男は、味方を焼いていく炎龍を見つめ続けるテュカを抱いて、村の井戸へと向歩を進めた。

 

ガクッと乱暴に体を引っ張られ、そこら中から伝わる熱とは違う体温がテュカに伝わり、テュカは自分の置かれている状況を再確認する。そして父であるそのその男の険しい顔を見て、少女は出てこない言葉を必死に探し、口を開いた瞬間

 

 

ボチャン

 

 

体から熱が消えた。突然の浮遊感の後に襲ってきた、今までとは真逆の温度。背から水に落ちたせいで体全身が濡れ、上がっていた体温を徐々に下げていく。テュカは父の手によって井戸に落とされたのだ。

 

井戸に人を許可なく落とすという行為は、どう考えても殺人に該当する。しかし時と場によっては落ちた者を守る城塞となり、落下者を炎等から守ってくれる。

 

 

「お父さん!!」

 

 

それを知っているからこそ、テュカは自分の父の行動の意味を即座に理解した。

 

テュカの頭の上には何十mもの井戸が続き、丸い穴が空いている。そこから見えるのは、炎龍によって焦がされた真っ黒な空と、笑顔で自分を見る父の姿だった。

 

呼びかけても、父が降りてくる気配はない。それどころか、井戸の中に居るテュカを安心させる様に見守っている。

 

 

「お父さんッ!!」

 

 

涙を流し、必死にテュカは叫んだ。既に父の姿が良く見えない位に目に涙を溜めている。喉が痛くなるほど、喉の奥から血の味がするほど少女は父を呼びかける。しかし、父は降りてこない。

 

そして遂に、父の頭上に血のように紅い炎龍の頭部が現れる。涙の向こうからでも炎龍の紅さは良く分かった。

 

大きく開かれた口の中で、大きく炎が踊る。父の姿はまだ見えた。

 

そして、地獄の業火が放たれた。

 

それと共に、ギュッとテュカは目を瞑る。少し熱が顔に伝わり、少し熱かった。

 

そして目を開けると、男の姿は無くなっていた。

 

 

「と……お………さん……」

 

 

絞り出す様に出された声。目の前にその父はいない。それが信じられなくて、少女は井戸の口を凝視し続けた。もしかしたら生きていて、また笑顔を見せてくれるかもしれないと信じながら。

 

しかし現れたのは父でもなく、勿論エルフでもなく、炎龍。

 

爬虫類に似たその巨大な目左は、しっかりと井戸の中のテュカを捉えていた。

 

父を殺されま恨み、憎しみ、怒り。全てが体の中にあるはずなのに、出てこない。ただただ抗えないその脅威に目を向け、絶望した。

 

 

(もう……だめ……)

 

 

向けられたその目から、テュカも目が離せず、そんな事を思った。このまま焼き殺されると、何度も思った。頭にあったのは絶望のみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ンナアァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その咆哮が、天空から轟くまでは。

 

 

その咆哮を響かせた翼竜が、炎龍を地に沈めるまでは。

 

 

その翼竜が、爆笑にも似た声を上げながら去っていくまでは。

 

 

 

 

その優雅に空中を舞い、去っていく桃色の翼竜はテュカに大きな衝撃を与え、当の翼竜本人であるモリアーティ教授にも、小さいながらも衝撃を与える事になる。

 

少女の頭からプテラノドンが離れる事は無い。

 

例え水汲み用の桶が落下してきて頭部にクリーンヒットし、訳も分からぬまま意識を失う事になっても、少女の脳裏にはプテラノドンの咆哮が響き続けている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後にテュカから述べられたその響きは、自衛隊にも伝達する様に響く事になる。

 





モンタナのDVD化はよ(20年程待ち続けている人)





目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陸自と宿敵とあんにゃろめ

遅 れ た

この時期って忙しいから困る


 

 

何処までも広がる青空の下。桃色の目立つ色のプテラノドンは、イタリカの少し手前で小さく旋回を繰り返していた。

 

 

「ぬうぅ……何とかなるかと思っていたけど、そう簡単にはいかないよなぁ」

 

 

グルグルと回るプテラノドンの上でイタリカから上る黒煙を見つめながら、教授は小さく溜め息を漏らした。

 

レレイから聞いたように、最近イタリカでは盗賊団の襲撃が多発しており、緊張状態にあると言う。実際、目下には数体の騎馬隊がイタリカへと向かっている。騎馬隊はイタリカを向いていて教授には気づいていないらしく、大声を上げながらイタリカへと向かっていた。

 

 

「迷惑だねぇ」

 

 

教授がイタリカに来た理由は、帝都と繋がりが深いイタリカを根城とする為である。そして準備が整い次第帝都へと向かい、犯罪家業を再開させようと言う魂胆だ。

 

何故帝都へ侵入するのに、帝都の足元であるイタリカに根を張るのかと言うと、一番狙われにくいからである。

 

"灯台下暗し"と言う様に、誰しも最初から足元を見るわけでは無い。敵が逃げたと知れば近いところから探すにしても、自分の懐の中にいるとは思わないだろう。

 

幸いな事に、この世界では悪名高いモリアーティと言う名を知るものはレレイとカトー以外にはいない。要所要所で名前さえ変えれば発見される確率を抑えられるし、情報を頼りに追ってくる捜索者を撹乱する事すら出来る。

 

そのため、帝都の懐の中であるイタリカへと向かい、盗賊に荒らされ終わった街に颯爽と駆けつけ、各所の街の復興を手伝い、印象を良くし、何とか宿を手に入れる予定を作っていた。

 

 

「しかしまぁ……」

 

 

こうもドカドカと荒らし行為が行われていると、数が多くて面倒臭い。まあ教授の計画に盗賊団の存在が不可欠なのだが、イタリカの軍が手間取る程の多さだ。

 

盗賊団と言っても、元軍人の人間が多い。一人一人の技量もそれなりにあるし、統率力も"それなりに"ある。勿論イタリカの軍の方が軍事力や連携でも勝るものの、それでも手こずるものである。

 

何よりも今のイタリカは防戦一方。イタリカの領主が所有する騎兵団が居れば戦況も覆るのだろうが、残念ながら騎兵団はまだ到着していない。上空から見ても近くにいるのは盗賊団だらけ。騎兵団らしき姿は無かった。

 

イタリカ側の負傷者も増えて来ている。作戦上、これ以上傍観している暇は無いだろう。

 

 

大きく深呼吸する。

 

吸って……

 

吐いて……

 

ネットガンの銃筒に手を掛け……

 

 

「よ〜し、行くぞぉ!!」

 

 

大きくプテラノドンの機首を傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって数時間前、教授がいた村に異様な風景が広がっていた。

 

周りの家や道に合わない物体が数個、高気動車と呼ばれるソレは、小さい村にはあまりにも違和感のある見た目だった。車を見た事の無い村人達は驚きながらも、荷車に荷物を詰め込んでいく。

 

村人達が荷造りをする理由、それは炎龍が近くのエルフの村を襲ったという報を聞いたからである。エルフ村とこの村との距離は、近くと言ってもそれなりに離れている。それでも炎龍は数十キロを瞬時に移動し、獲物を探している。そそくさと早めに退散するに越したことは無い。

 

慌ただしい村の中、一足先に荷造りを終えたレレイとカトーが高機動型から出てきた人間達を見ていた。

 

標準的な迷彩服を着たその人達は、村長と数分間ほど話し、村人達の作業を手伝っている。交通網の整理をしたり、或いは村人の荷物を荷車に入れるのを手伝ったり。

 

それを荷車の上から見物していたレレイが思ったことが一つだけあった。

 

 

「不思議な人達」

 

 

利益を求める訳でもなく、ただふらっと急に現れた者達が村人達を手伝っている姿を見て、レレイはそう呟いた。

 

話している言葉も違う。教授の言葉であるクイーンイングリッシュでも無いようだ。服装も見たこと無い。と言う事は教授と別の世界から来た者らか。どちらにしても、見返りを要求しない者達に少し興味を持った。

 

興味を持った瞬間、行動を起こすのがレレイと言う少女である。

 

カトーに荷車を託し、そそくさと自衛隊の方へと向かう。言葉が通じる自信は無いが、取り敢えずやってみよう。教授に頼まれた一件もある。

 

一先ず、長と思われる男に接触してみる。

 

 

「ん?」

 

 

つんつんと服をつついた。予想通り、男は反応してレレイの方へと顔を向ける。男の顔は村の男と変わった部分はあまり無く、普通の人種である事がわかる。何処か違う所は……と、レレイは無表情で男の顔を見続けた。それによって、数秒間沈黙が訪れる。

 

 

「え〜と……」

 

 

マジマジと見つめられて堪りかねた男が先に口を開く。迷彩模様のヘルメットを少し上にあげて、後頭部をポリポリと掻く。どうしたらいいのか分からない様だ。

 

そこで、あらかた観察し終えたレレイが、言葉を発した。

 

 

『トッドとスマイリーと言う獣人を探している』

 

 

教授から頼まれた伝言を先に伝えた。避難中に誰か見つけたら聞いて欲しいと言われていたが、外部からの人物だから聞いて損は無いだろうとの判断だ。

 

 

「隊長、いまこの娘……」

 

「ああ、使ったね。英語っぽいの。しかも随分と流暢に……倉田、特地に英語があるって話あったっけ?」

 

「聞いた事ありませんね。捕虜にした人物からは特地語しか発しなかったらしいですし。しかも何処かで聞いた事あるような単語が出てましたし」

 

「なんて言ってたか分かる?」

 

「えぇと、多分ですけど、誰か探している様です」

 

 

男達が使っている言葉は日本語である。今の所レレイはクイーンイングリッシュと特地語しか分からない。だから男達が話している内容も分からないが、良好な反応である事は分かった。

 

だから、もう一回言ってみた。

 

 

『トッドとスマイリーをモリアーティ教授が探している』

 

 

今度はモリアーティと言う名を出して。教授の名はあまり出すなと言われたが、レレイの判断は大当たりを引いた。

 

 

「おい今間違いなくモリアーティって……」

 

「言いましたよね今、何で小説の人物をこの娘が……そう言えばシャーロックホームズの舞台ってロンドン、言葉はクイーンイングリッシュで、この娘が喋っている言葉と同じ……」

 

「もし本当に"あの"モリアーティなら、さっき保護したあの獣人の発言も合点がいく。もしかしたらこの特地、俺達が思っている以上にややこしいかもしれん……」

 

 

2人の男達がおどおどしながら話し合う。その反応を見て、レレイは当たりを引いたと確信した。

 

 

『詳しい話を聞かせて欲しい』

 

 

そう片言で言った倉田の顔は、真剣そのものであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ロンドン、ベーカー街のとある家。

 

ハドソン宅と表札があるその家は文字通りハドソン夫人と言う人物が所有しているのだが、そこには2人の男達がいる。

 

玄関から直ぐに見える階段を上がり、少し続く廊下の一番奥の扉。そこを開けると、毎回煙たい臭いが鼻を刺激して来る。

 

勿論、火事が起きているとかそういう訳ではなく、とある人物が暇そうに椅子の背もたれにもたれ掛かり、探偵帽を目元まで深く被り、これまた退屈そうにパイプをふかしているからである。

 

窓際の席にももう1人同居人がいるのだが、その人物はこの臭いに既に馴れている。よく分からない香水を研究している時の臭いに比べればずっとマシだからかもしれないが。

 

その人物も、暇そうに新聞紙を広げて並べられている文字を読み進めていた。そして一つ欠伸をしたかと思うと、もう1人の人物に話しかけた。

 

 

「なあ、ホームズ。今週はモリアーティが動かないね」

 

「いい事じゃないですか。奴が動かないと言う事は、それだけ平和と言う事ですよ、ワトソン君」

 

 

"ホームズ"と呼ばれたその人物は、姿勢を崩さずに返事をした。

 

 

「妙じゃないかい?アイツが一週間経っても一向に何もしてこないなんて、何か悪巧みでもしてるのかも」

 

「………」

 

 

どこか面白そうに笑を作りながら、ワトソンは言った。

 

それに対し、ホームズは数秒間考える様に腕を組み、静かに帽子を右手の人差し指で上げ、右目だけが見える状態にし、ワトソンを見た。

 

 

「調べて見ますか?」

 

「調べて見ようじゃないか」

 

 

2人が一斉に立ち上がる。ホームズは帽子を被り直し、ワトソンは腰のホルスターにしっかり手入れされたリボルバーを入れた。

 

クッと、二人同時に服の皺を伸ばす。

 

 

「まずはレストレード警部の元へと行ってみましょうか」

 

 

茶色のコートをハンガーから取り、ホームズはその部屋を出る。ワトソンもその後に続いた。

 

 

 

 

モリアーティ教授の最大の敵、"名探偵ホームズ"が動き出した。

 

 










文字数少なくてすみません


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

教授の計画ミス

『待たせたな!』

どうも皆さん、お久しぶりです。約半年ぶりにぬけぬけと帰ってまいりました。こんなにも長く、時間がかかってしまった…
しかも再開1発目で文字が多いという状態。何か前のページと雰囲気が違うかも知れませんが、ご了承下さい。


イタリカと言う街がある。

 

人口約五千人、街を囲う様に砦が設けられ、東西南北の4箇所に大型の門が存在するこの大きな街では、ある噂が流れていた。

 

『緑の人』と呼ばれる存在。それは災害とさえ言われる炎龍を凌ぎ、更にはその腕を吹き飛ばしたとされる者達である。異世界の軍隊だと言う話もあるが、それでも盗賊団による攻撃で危機に瀕しているイタリカにとって、戦力になって欲しいと願ってしまう人々が多い。人口が多いからといっても、イタリカの戦力はお世辞にも強いとは言いがたく、民兵が半数を占める程だ。遠い土地の話だとしても、突拍子の無い噂に希望を持ってしまうのも仕方ないと言える。

 

そんな全体的に非常に状態の悪いイタリカだが、この街を中心にも一つの噂が周囲の街や村に響いていた。その噂はアルヌスと呼ばれる場所にも届き、アルヌスに駐屯地を築いている自衛隊の一人がその噂を呟いた。

 

 

「イタリカの街が強力な『桃色の翼竜』で盗賊団を幾度と無く退けている」

 

 

その噂が広がるのは以外にも早く、第三偵察隊がその噂の正体を色々な理由のついでに調べて来る事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撤退!撤退だ!」

 

 

鉄兜を被った男が叫ぶ。それと同時に様々な武器を手に持った男達がイタリカの砦から引いて行った。

 

一声からの反応は速く、一斉に引いていく。盗賊団と言えども元軍隊が多数。統率力はそれなりにあると言う事か。

 

 

「やっと引いたよ…」

 

 

そううんざりしたように呟いたのは、プテラノドンに乗るモリアーティ教授だ。戦場と化した砦前で旋回を繰り返し、時に急降下して拾って来た100kg近い石の数々を落として嫌がらせしたりしていた教授は、今日は妙に時間かかったなと砦を見た。砦にはハシゴがかけられており、砦が攻め込まれるギリギリまで迫っていたことが伺える。

 

 

「今回は危なかったぁ…」

 

 

冷や汗を流しながら、教授はプテラノドンの両翼を見る。右翼には2〜3本の矢が突き刺さっている。よく墜落しなかったものだと我ながら感心するが、そろそろプテラノドンの飛行も厳しくなってきた。

 

プテラノドンの両翼には所々に補修跡が見え、今回の戦闘の前に何戦も戦いが起きたことが見て取れる。大体が紙で出来ているおかげで、補修はとても楽であった。しかし紙は紙でもちょっと特殊な紙で、実は少し水に強かったり、画用紙よりは固い紙を使ってたりとそれなりにいい物を素材としている。イタリカで売っている紙は画用紙より出来の悪いレベルの紙があるが、それでは心許ない。しかし使うしかないため、仕方なく補修に使っている。

 

きちんとした工具も使わない応急処置だったためムラが多い。それが原因か揚力の低下によって高度が落ちてしまい、矢の射程圏外まで飛ぶことが出来ず、この有様である。数発の命中弾で済んだのは、ひとえに教授の操縦テクニックのお陰だろう。

 

被害状況を上空から確認し、北門に向かってプテラノドンを飛ばす。ゆっくりと速度と高度を落とし、少し広い道に着陸する。数十メートルの距離を進んだ後に少しづつ減速していき、危なげなく停止した。プロペラを止め、プテラノドンから降りる。そして右翼に突き刺さった矢を中心から折り、丁寧に抜いて行った。

 

全て取り終え、一息つく。そしてプテラノドンのコックピットに腰を下ろし、ゲンナリした表情で大きく溜め息を吐いた。

 

 

「いつまでこんな事してるんだろうなぁ…」

 

 

教授が初めてイタリカに来てから数日が経った。既に教授とプテラノドンの存在はイタリカ全体に認知されており、所によっては『救世主』だとか言われている。教授の本業とは真逆とも言える名にうんざりしていた。

 

別に悪く思っているわけじゃない。教授の目的はただイタリカに手早く居住する事であり、防衛戦に長期に渡って参加するとは思ってなかった。まさかこんなに盗賊団が多く、粘ると考えていなかったのだ。まるで何処かの警部の様なしつこさである。まあお陰で住民の信頼を勝ち取る事は出来たが、プテラノドンを犠牲にするかもしれないこの状況では、これで良かったのかと疑問に思う。

 

こんな時にトッドとスマイリーがいれば、何か美味い話でも探させるのだが…

 

 

「アイツらの話してもしょうがないか…」

 

 

もう一息大きく息を吐いて教授は、重い腰を上げて街の中心にある宮殿の方へと向かって行った。

 

北門側の住宅街には大通りが幾つかある。その中の一つを滑走路として使用する許可を出してくれたのが、現在街に駐留して軍を率いているピニャ・コ・ラーダと言う女性だった。戦闘後に教授はピニャの元へ行くのが決まりになっている。

 

移動中に何人もの人々に挨拶を交わし、その度に礼を言われたり等してもみくちゃにされ、何とかピニャの元へ辿り着いた時にはもうヘトヘトになっていた。ピニャを発見したのは宮殿の入り口であったため、立ち話をする事になった。

 

 

「此度の戦もご苦労だった。また助けられたぞ」

 

「いえいえ、部屋を貸して頂いた恩を報いてるためにしたまでの事。当然の事をした迄でございます」

 

 

そう言って「にひひ」と笑う。腹の中に何か隠している様な笑い方だと毎回ピニャは思う。

 

ピニャは翼竜を操る獣人であるモリアーティ教授を信用している訳では無い。最初はただの善意でイタリカ防衛戦に加わったと言っていたが、そんな生き物がいるわけが無い事は良く分かっている。何か裏があると思って手元に置いて探っているのだが、なかなか尻尾を出さず、防衛戦には必ず参戦して来る。お陰で民衆は教授に心を許し、何の証拠も根拠も無く怪しいからと言う理由だけで追い出す事も難しくなった。

 

怪しい動きをしたら即対応出来る様にここのメイド達に殺害も許可している。それ程ピニャは教授を警戒しているのだ。

 

一先ず建前だけでも信用している様に見せなければならない。警戒している素振りを見せれば、相手も更に警戒する。ピニャには長期戦をしている時間はない。

 

 

「それで、今日は翼竜は無事なのか?」

 

「いえ、数発の矢を受けてしまいましてな。出来れば、今回も同じように手配をお願いしたい」

 

「分かっている。にしても紙であの翼竜の傷が治るものなのか?」

 

「御存知の通り、わしの翼竜は特殊でしてな。傷の治療も、普通じゃない訳です」

 

 

確かに弓矢に貫かれる翼竜なんて聴いたことがない。普通じゃないと言える事は多々ある。装甲の貧弱さ。そして恐るべきはその速度だろう。帝国の翼竜の倍以上の速さで飛び、旋回速度も速く、対空兵器からの攻撃も楽々躱す事が出来る。

 

教授のプテラノドンのエンジンは教授お手製の直列エンジンと呼ばれるものである。高性能にする為に軽量化をする必要があるプテラノドンだが、少なくとも3人プラス財宝を載せて運ぶ運用を前提とした設計思想だった。その為、モリアーティ脅威の技術で馬力はそのままに直列エンジンを小型化、冷却用の液体とガソリン用のタンクを全て胴体に押し込め、骨組みは木製、外膜は紙と徹底した軽量化を実現している。そのため、装甲は文字通り紙、長距離飛行は厳しいながらも燃費が良く、未だにガソリンも半分近く残っている。しかしエンジンの部品が細かく、メンテナンスに資金が多くかかるため、教授の万年金欠の原因の多くはこのプテラノドンにあるとされる。

 

そんな事がわかる訳もなく、未だにプテラノドンが生物であると思っているイタリカの人々とピニャは、「紙の成分かなにかを食べてるんだろうな」と補修用の紙を教授に提供している。

 

 

「それじゃあ、わしはコレで部屋の方に戻らせてもらいますよ」

 

「あぁ、ゆっくり休んでくれ。紙の方はいつも通り部屋に送るように手配する」

 

「お願いしますぞ。それでは」

 

 

白生地のマントを翻し、廊下の向こうへと歩いて行く教授。白いマントに白いシルクハットと全身的にホワイトな後ろ姿は、薄暗い廊下の中でも非常によく目立つ。

 

廊下の奥へと消えていく教授を鋭い眼差しで見送ったピニャは、ふぅっと息を吐いて緊張の糸を緩めた。

 

 

「全く…表にも敵裏にも敵とは、妾の安眠できる所は何処なのだろうな」

 

「モリアーティ様が敵とは限らないのではないですかな?」

 

 

いつの間にかそこに居たのか、ピニャの独り言に初老の男性が応えた。

 

 

「敵と決めつけるには早いか?だが奴の目は何か隠しているぞ」

 

「確かに、何か我々に話していない事があるのでしょう。しかし他者に聞かれたくない話というのは、誰しも一つや二つ持っているものでしょう。人種も獣人も、そう変わらないと思いますが」

 

「確かに…胸に秘めている事が、こちらに害を成す事とも限らないな。だが警戒しておいて損は無いはずだ。奴の監視は続ける」

 

「かしこまりました」

 

 

丁寧に礼を一つし、男性は本来の目的である街の被害状況や兵の消耗等の話を始めた。

 

 

 

 

勿論、教授は見張られている事に気付いている。しかし気づいていない振りをしている訳では無く、ただ別に行動に移られる行動をしていないため、コソコソと動く必要はないと判断していただけだ。

 

様々な種族のメイドがここにはいる。ウサミミだったりネコミミだったり、髪の毛が蛇だったりと様々な娘達がいる。個別で得手不得手があるのだろう。聴力に優れていたりとか運動力に優れていたりとか。それぞれの能力を駆使して教授に張り付いている。

 

何故そんな事が分かるのか。何故かなんて、部屋を出ればすぐに分かる。

 

ガチャっと自室から出て、街に行こうとすると必ずやってくるイベントが一つ。

 

 

「今日も復旧のお手伝い、ですか?」

 

 

扉を開けた直後、目の前に現れたのは廊下に佇む女性である。頭に兎の様な大きな耳。この娘はウォールバニーと呼ばれる兎類の獣人で、名をマミーナと言う。見た目の通り、聴力が発達しており、音に敏感である。教授の部屋の中での作業の音は全てマミーナには筒抜けだ。

 

予想通り、マミーナは教授が扉に向かう音を敏感に察知した。まあ予想通りと言うより、殆ど毎日の日課と化している。

 

紳士っぽく礼をし、教授は内心面倒くさがりながらもマミーナと向かい合った。

 

 

「これはこれはマミーナさん。最近"偶然"にも良く顔を合わせますな」

 

「そうですね。お客様であるモリアーティ様と"偶然"にも出会えるなんて、嬉しい限りです」

 

「こうも毎日同じ場所で"偶然"会うのも、なにかの縁ですかな?」

 

「そうかも知れません」

 

 

二人して偶然を妙に強調し合っているが、両者とも分かっている。教授がマミーナの尾行に気付いている事に。マミーナが教授を尾行している事に。二人共今日漸く確信したと言ってもいい。

 

お互い腹の中が読めている。ならば、態々遠回りに隠す必要も無い。マミーナは笑みを作った。しかし眼は笑っていない。

 

 

「気付いているにも関わらずに対策をしないと言う事は、隠すような事は無いと言うことですか?」

 

「そう捉えていい。元々わしは隠すものなどコレっぽっちも屋敷に持ち込んではおらんわい」

 

「屋敷に、ですか」

 

「全く、疑り深い娘だねぇ」

 

「疑う事が今の私の務めですから」

 

「はぁ…仕事熱心な事で」

 

 

やっぱり面倒な奴だと溜め息を一つ付いて、教授は移動を開始した。

 

 

「わしはいつも通り街の復旧作業に向かう」

 

「なら私もいつも通り、同行させて頂きます」

 

「なんで?」

 

「見張りです」

 

「なんもしない事は分かってるでしょうが」

 

「今日は分からないですから」

 

「あぁそう…」

 

 

もう正直かなり面倒臭い。隣で女が、しかも別の種族の女が街を歩いている時もずっと隣で付いて歩いてくる。クジラ等にひっついてくる魚みたいな存在だと最初は気にしてなかったが、日が経つにつれて流石に気になってくる。

 

教授の隣は常に両サイドに二人。それも男と来ている。教授は女性経験が無に等しい。つまり色々な面で素人だ。あたふたするのは仕方ないと言える。

 

再度言おう、かなり面倒臭い。やはりこう、良く調べもしてない女性が近くにいると戸惑うというか。コチラが不利な気がする。常に優位な位置にいたいのがモリアーティ教授だ。

 

勘弁してくれと心の中で呟く。しかし言っても聞かないメイドだと言うことは、ここのメイド全体に言えることだ。付いてくることを拒む事は出来ても、それに応える事はしない。しょうがないと腹を決めるしか無いのだ。

 

 

「…わかったよ、それじゃあ行くぞ」

 

「話が早くて私も助かります」

 

「わしは助からん…」

 

 

ズレたモノクルを直そうともせず、ダルそうに肩を落としながら歩く教授と、その3歩程後ろを歩く薄く笑みを浮かべたマミーナ。教授の格好とマミーナのメイド姿によって、主人と従者の様な関係に見える。実際はそんな事は全く無いのだが、街の住人はその二人の様子に妙に納得した。

 

教授のイメージ作りも、なかなか前途多難である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

草原に響く高機動車のエンジン音。

 

舗装されていない道を走るグリーンのその車は、黒煙が立ち上る街へと向かう。

 

商人に竜の鱗を売るためにイタリカへと向かう訳だが、保護した原住民の精霊エルフの強い希望で、噂の正体を探る事になった。

 

桃色の翼竜。最初は聞いた時は色んな色の竜がいるんだなと第三偵察隊隊長の『伊丹 耀司』は思った。危険でない所まで行って、精霊エルフのテュカに見せて帰ろうと軽く考えていた。

 

 

「たいちょー、俺達が桃色の翼竜の噂の正体なんて暴く必要あるんですか?」

 

「テュカが気になるって言ってるんだ。しょうがないでしょーよ」

 

「けど、危険じゃないですか?噂によれば、相当強い奴なんでしょ?敵対して来ないとも限りませんし」

 

「俺もそこら辺は考えてるさ。一先ず現場を見て、翼竜を飼ってる人に話してからだな。イタリカの中さえ入れば、向こうもこっちに手出しはして来ないと思うんだよ」

 

「…分かりました。じゃあ、早々に終わらせて帰りましょうか」

 

「そうだな。速く戻ってアプリのダウンロードとアップデートしなきゃだし…」

 

 

他愛ない話を倉田と伊丹が操縦席と助手席で繰り広げる中、高機動車の後方、つまり人員輸送用のスペースに座る金髪ロングのエルフであるテュカが、空を眺めていた。

 

約60キロで走る高機動車からは景色が猛スピードで後方に流れるが、何処までも広がる青空だけはそれほど変化を感じない。

 

 

「………」

 

 

無言。周囲の人間が会話する中、テュカはずっと空に魅入られていた。

 

 

 

 

『ンナアァァァァ!!』

 

『フハハハハハハ!!』

 

 

 

 

空を仰ぎ見る度に、あの声を思い出す。当時の記憶が少し曖昧だが、あの姿と声だけは鮮明に覚えている。あの人ともドラゴンとも取れない声が耳の中から離れない。

 

桃色の竜というのは今まで見たことない。十中八九あの翼竜だろうと思った。そう思ったらいてもたってもいられなくなり、伊丹達に頼んでみた。予想以上に呆気なく許可されてビックリしたが。

 

どちらにしても、丁度いい機会を得た。是が非でも桃色の翼竜を見つけたい。

 

決意を胸に、テュカは黒煙が上がっているイタリカへとめを移す。まだまだ街は小さい。しかしこの高機動車なら、数十分で到着するだろう。

 

 

「会ってなに言うか考えなきゃ…」

 

 

例え言葉を解さないとしても、何か一言言いたかった。

 

 

「テュカは桃色の翼竜の事を何処で知った?」

 

 

突如としてテュカに声がかかった。ローブに身を包んだレレイが、テュカの方を向いていた。

 

質問してきたのはレレイだ。聞かれたからには返さなくてはならない。

 

 

「自衛隊の所でよ。なんで?」

 

「違う。本当はもっと前に知っていたはず」

 

「なんでそう思うのよ?」

 

「桃色の翼竜の噂を聞いた時、明らかに動揺していた。恐怖や高揚感から来るものではない。なにか別の理由があったと思う」

 

「…流石ね」

 

 

別に隠すつもりは無かったのだが、記憶を探ろうとすると頭痛が起こるので、あまり少し前の事を話すのは好きではなかった。

 

それを感じ取ったレレイは、地雷を踏みかけていることを直感的に理解した。

 

 

「話したくない事なら話さなくてもいい」

 

「ううん、話したくないとかじゃないの。ただちょっと頭が痛くて…」

 

 

そう言ってテュカは右手で頭を軽く押さえる。

 

 

「クロカワを呼んだ方がいい?」

 

「いえ、大丈夫よ。大丈夫…」

 

 

自分に言い聞かせる様にそう呟く。レレイは頭痛が収まるまでそれを見守った。

 

 

イタリカは、もう数キロメートルまで迫っていた。

 

 




恐らくこの小説にシリアスな教授は欠片ぐらいしか出ないと思います。
逆に言えば欠片が出しゃばってくる様にしたいと思います


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

卿の痕跡

結局こんな形であの方を出してしまった…


 

 

夕刻。

 

プテラノドンの修復作業を何事も無く終え、プテラノドンが格納されている車庫を出た。元々馬車用の車庫なので、プテラノドンが入るには少し小さい。プテラノドンの翼を折り畳んで漸く収まるので、翼を修復するには少し時間がかかった。

 

まあプテラノドンも教授も無事に作業を終えたという事で、街の街道の道端に転々とある銅像の一つの足元に腰を下ろし、一息付いた。

 

途中住人が騒がしくなった気がしたが、気にしている暇は無かったためスルーしていた。周りに人はいなく、それなりに人通りが多かった街は人っ子一人いない。あの喧騒は気のせいではなかった様だ。

 

 

「何かあったのかな?」

 

 

疑問に思うも、別に自分には関係ない事だろうと意識を別の所に向ける。

 

日は沈みかけており、辺りの草原が赤く染まっていた。この銅像の下からは周りがよく見渡せる。美しい眺めだ。

 

昔なら、こんなに落ち着いて景色を見る事なんて無かっただろう。恐らく、これからまたこんな景色を見る事も無いかもしれない。今の内に見れるものは見ておいて損はないだろう。

 

体勢を変えてまた別の方向を見る。するとその方向も夕日で赤く染まった草原が広がっていた。周りをよく見ようと、ゆっくり首を動かす。

 

 

「ん?」

 

 

すると、視界の端に何かが光った。光るものなんてここら辺に無いはずだが、旅人か商人かが金でも落としたのかと思い、近づいて見てみる事にした。

 

 

「ほう、これは…」

 

 

そこにあったのは杖であった。取っ手の部分に金色のカンガルーの様な生物の装飾が施されており、高級感を漂わせている。泥や土に塗れているが、洗えば美しいものになるだろう。

 

いいものを手に入れたと言わんばかりに瞳を輝かせる。持ってみれば丁度カンガルーの背中が手にフィットして持ちやすい。

 

それと、気になる部分がもう一つ。

 

 

「なんだこれ?」

 

 

カンガルーの足元に動きそうな隙間が開いている事を発見した。何かの仕掛けで動くのかもしれないと色々と探ってみた所、カンガルーの尻尾を下に引っ張るとカンガルーの足の部分が持ち上がり、斜めになった。斜めになった事で、足と土台に間が開く。その中に、銃口と思われる小さい筒がしまわれていた。

 

普通に生活していれば、こんな手の込んだ物は作らない。間違いなく、教授と似た人種が生み出したマジックステッキだ。

 

銃口があるなら引き金がある筈だと探してみる。そしてカンガルーの尻尾をもう一度下げてみると、プシュッと紫色っぽいガスを噴射した。催眠ガスの類だろう。杖の胴の太さから見て、まだいくつかのギミックが隠されている様だ。

 

 

「これは天才のわしにとってピッタリの業物だ!まあすぐにポッキリいきそうだが、壊れない様に使ってやるか」

 

 

両手に力こぶを作ってガッツポーズをし、ルンルン気分で倉庫の方に戻っていく教授。右手に杖を持ったその姿は、とても様になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自室に戻ろうと廊下を歩いていると、マミーナとすれ違った。まだ監視してたのかとも思ったが、どうやら今回は本当にただすれ違っただけの様だ。

 

双方軽く会釈をして挨拶を交わす。そして何事も無くすれ違うと思ったらマミーナが呼び止めてきた。今まで聞いたことのない物凄い剣幕でだ。

 

何かまずい事でもしたかなと自問するが、別に今のところ何も盗ってないし、何がマミーナの気を触ったか分かるわけもない。

 

それもそうだ。別にマミーナは教授に落ち度があって怒鳴った訳ではない。唯一教授にあった落ち度とすれば、拾い物をおおっぴらに出して歩いていた事だろうか。

 

 

「…それ、何処で見つけたんですか?」

 

 

何とも恐ろしい声音で聞いてくる。女性が、しかもメイドがこんな低い声で話していいのだろうか?目も怖い。返答次第では食っちまうぞと目が語っている。

 

膨れ上がった恐怖心を抱きながらも、教授は質問に答えた。

 

 

「そこの銅像の下で拾ったんだよ」

 

 

精一杯の見栄を張っていつもの口調で答えた。噛まずに言えた事は自分で誇ってもいいだろう。実際、このマミーナの風格に当てられたメイドは泡を吹いて倒れる者がいる程なのだから。

 

教授の返答を聞いたマミーナは暫く顎に手を当てて考える素振りを見せると、なにかに納得した様に小さく頷いた。

 

もしかしたらこの杖について何か知っているのかもしれない。開発者か、それとも元所持者か。知っているなら何でも答えてほしいと言う気持ちで、教授はマミーナに質問を返した。

 

 

「マミーナさん、コレの事を知ってるのか?」

 

「…えぇ、知ってます。それを持ってたのは私ですから」

 

「…は?」

 

 

予想にもしてなかった言葉にさすがの教授も変な声が出た。教授の中で、これは教授と同じ世界か別の世界、少なくともこの世界の住人の技術ではないと思っていたからだ。

 

マミーナはヴォーリアバニーと言う種族だ。種族間で常に戦争を繰り返す野蛮で残忍な種族で知られている。戦闘方法は古典的で、主にマチェーテ型のナイフなどでの近接戦で戦う。そのせいか、ヴォーリアバニーの技術力は高くなかったはずだ。それに、ヴォーリアバニーの本拠地は約3年前に帝国軍に攻め滅ぼされている。因みにこのイタリカに人以外の他種族が多いのは、イタリカの元当主の趣味である。

 

まあそんな事はどうでもいいとして、問題は技術力の無かったヴォーリアバニーがどうやってこの杖を作り上げたのかだ。イタリカで手に入れたにしても、今のイタリカの技術では催眠ガスも作れないはず。

 

色々考えても答えは出てこない。と言うのも事で、ちょっと怖いが聞いてみる事にした。

 

 

「これを作ったのは?」

 

「私じゃないですよ。それは昔頂いた預かり物です」

 

「預かり物?誰からの?」

 

「それは…」

 

 

何故頬を染めるのか。何故目を伏せるのか。

 

色々と残念な教授は理由は皆目見当もつかないが、その人物に対して何かしらの好印象を抱いている事は分かった。

 

何でもいいから早く話してほしいと言う本音を隠し、マミーナが落ち着くまでジト目で待つ。

 

数十秒もの間もじもじとして、気持ちを落ち着かせる様に一息ついて口を開いた。

 

 

「…ゼロ卿と言う方です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

イタリカの夜は、街の大きさに反比例して暗く、明かりもまばらになっていた。特に襲撃が多い西、東、南門に近い民家や店には薄明かりも無く、まるで廃墟の様な風景が広がっていた。中でも、南門付近の破損具合は凄まじく、屋根に矢が刺さっていたり、砦の一部が崩れていたりと激戦の跡が良く分かる。

 

その南門砦の上で、迷彩服に身を包んだ自衛隊、テュカとレレイ、黒ゴスロリ服のロウリィ・マーキュリー、そして青色の作業着服の様な服装を着込んだ犬の獣人2人、トッドとスマイリーがいた。

 

 

「兄貴ぃ…知らない内に戦争に巻き込まれちゃったけど、どうしよう?」

 

「どうするもこうするもなぁ。教授もいない今じゃあ、俺たちにはコレしか無いからなぁ…」

 

 

しゃがみこんでいる2人。トッドが腰のホルスターからリボルバーを取り出した。中折式回転式拳銃である合計四丁の2人のリボルバーは、予備弾も無く、一丁に6発しかない。2人合わせて24発と言う数字は、自衛用にしたって相手が悪く心許ない。

 

こんな時にモリアーティ教授がいたら、上手い逃げ方とか何かを利用した対処法とか考えるのかもしれないのだが。教授のいない今、自衛隊達について行くしか無い。自衛隊は戦う準備を進めているし、戦うしか無いように思えてきた。

 

 

『嫌だなぁ…』

 

 

2人同時に呟き、大きく息を吐く。そして、テュカの隣にいるレレイを見てトッドが聞いた。

 

 

「なぁ、本当に教授はこの街に来てるのか?」

 

「教授はイタリカに向かうと言っていた」

 

「あ〜、教授が行くって言ったら是が非でも行きますからね〜」

 

 

スマイリーが苦笑いで応え、トッドが困り顔でまた溜め息を吐いた。やると言ったら必ずやると言う事を分かっているからこその溜め息である。あのコダ村から動かなければすぐにでも再開出来たと言うのに。

 

しかし、ここにいるのは間違いないだろう。桃色の翼竜と言うのは、彼等がよく知るプテラノドンと同じ色だ。聞いた話によれば、翼竜の色は景色に溶け込む様な色が多い。そのため、桃色の翼竜は今まで発見されたことが無かった。

 

それだけでも十分な理由になるのだが、もう一つ確信を得たのは、イタリアの住民が言っていた「轟音」と「雄叫び」だった。胸を断続的に叩く様に身体に響く音を纏い、さらに気味の悪い声を上げる。まず間違いなくプロペラが空気を叩く音と、教授自作の拡声器兼変声機の声だろう。

 

タバサの証言と合わせて、まず間違いなく教授はこの街にいる。

 

会いたいような会いたくない様な、そんな気持ちが2人の中で渦巻いていた。

 

 

「ホントに教授のトコに行くのかぁ…」

 

「俺も、自衛隊の所にいた方が安寧だと思うよ…」

 

 

2人は現状にそれなりに満足している。少しの間だが、自衛隊と共に保護された仲間達と飛竜の鱗を回収し、少なからず楽しかった。久しぶりに生活に充実感を獲た気がする。

 

だが心のどこかで、かつての生活を求めている気がした。散々扱き使われたし、本気で嫌になった事も多々あったし、報われる事も決して多かったとは言えなかった。

 

正直、自衛隊の元にいた方がいいのかもしれない。けど、しかし。

 

 

「教授が心配なんだよなぁ」

 

 

またもや同時に呟き、項垂れた。願うならば、このまま戦いが起きずに教授の元へと辿り着きたい。

 

しかし、現実は非情であった。

 

 

「ねぇ兄貴、なんか遠くが騒がしいね」

 

「そうだな」

 

「…始まったのかな?」

 

「…そうだろうな」

 

 

遠くから聞こえる怒号と、暗闇を燃やす炎の色が、トッドとスマイリーの気力を失わせて行った。

 

どうやらどこの世界に行っても、不運は付きまとうようだ。

 

 

 

 

 




名前だけでした


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

名探偵ホームズを知る者達

正直、名探偵ホームズを知っているのか、名探偵ホームズを知っているのかどちらにすればいいか悩みました


 

 

けたたましいローター音が夜の街を支配した。舗装されていない砂利道。プロペラの回転によって発生した風がプテラノドンの後方へ吹き荒れ、砂埃の渦を生み出す。プテラノドンの手すりと小屋とを繋ぐロープを解き、ゆっくりと前進し始めた。

 

破損によって滑走距離が長くなってしまったプテラノドン。ランディングギアの摩耗を少しでも軽減させる為に新たに作った外付け車輪が、プテラノドンの胴体下部でゆっくりと回り出し、少しづつ回転速度を上げていく。

 

少しづつプテラノドンの機首が上がり、車輪が地を這わなくなる。それと同時に、ぐっと機首を大きく上に上げた。闇夜に明るい色の翼竜が舞う。

 

 

「全く時間をわきまえない連中だ!」

 

 

夜中に襲撃してきた盗賊団にモリアーティ教授は毒づいた。せっかく色々と作業が終わって、ようやく眠れると思ってたのに。

 

 

「とにかく、早く済ませて帰る!」

 

 

硬い決意を胸に、教授は拡声器のスイッチをオンにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

既に朱に染められた東門の砦。既に砦は盗賊団に占領され、東門を開け放っていた。

 

門を越え、様々な装備を身につけた男達がイタリカの街へと侵入する。砦の内側には門を囲む様に木製の柵が設置されており、ここが最終防衛ラインとなる。心許ない柵を挟み、両陣営が睨み合った。

 

既にイタリカ側には何人もの死者が出ている。それは盗賊団側も同様である。しかし盗賊側の勢いは衰える様子を見せず、反してイタリカ側の兵達の士気は低下していた。イタリカの兵士たちは、殆どが農夫や商人などの一般人である。特殊な訓練も受けていなければ、全員逞しいという訳でもない。今までは砦によって何とか補っていた力量差が、互いに対面する事によって明白になっていた。

 

 

「対空警戒を怠るな、奴がいつ来るかわからん!砦の対空兵器を使え!」

 

 

砦を占領している一団が叫ぶ。何名かがバリスタに巨大な矢をつがえ、プテラノドンの迎撃準備を整えていた。

 

砦の内側では既に一触即発の雰囲気だ。イタリカは動くと負ける。盗賊団はイタリカの兵を動かす事が優先と見て、彼らを挑発していた。

 

砦での戦闘で出たイタリカ側の死者の首を切り、柵の向こうへと投げる。所々で悲鳴があがり、盗賊団がイタリカ住民へ罵声を浴びせる。

 

 

「この野郎!」

 

 

幾つもの死体が乱雑に扱われる中、遂に一人の青年が柵から飛び出した。そしてその青年を先頭に、イタリカの住民達がダムが決壊したかのような勢いで柵を超え出す。待て!とピニャが叫ぶが、怒号に塗れた戦場でそんな声が届く訳が無く、次から次へと人がなだれ込んでいく。

 

もう既にどうすることも出来ない。何もかも手遅れだ。元正規兵である盗賊団にただの住民の集まりが勝てる訳がなく、死体はイタリカの住民の分が次々に増えていった。

 

ピニャには敗北の足音が徐々に大きくなっているのが理解したくないほど分かった。必死に策を巡らす。しかし出てくるのは兵の士気を上げると言う基本的な戦略。それが出来ていればどれだけ楽かと自問自答する。今朝迎え入れた緑の人を呼ぶにしても、南門から東門までは相当な距離がある。とてもではないが間に合わない。

 

遂には頭が真っ白になり、ただ眼下で起きている惨状を見る事しか出来なくなってしまった。敗北は目に見えている。コレを覆す事は、今のピニャ達には不可能だった。

 

そう、ピニャ達には。

 

 

『ぎえぇぇぇぇええ!!』

 

 

 

突如、闇の中から不気味な声が響いた。柵の中で戦っている者達には聴こえなかったが、砦の盗賊団、そして柵の外にいたイタリカの兵達の耳には届いていた。

 

徐々に大きくなってくるその叫び声。それはバタバタと言う大きな音と共に夜の空を駆け抜け、東門の上空に姿を現した。

 

 

『ぐえぇぇぇええ!』

 

「て、敵だあぁぁぁ!」

 

 

盗賊の一人が叫ぶ。東門の上空で旋回を繰り返し始めたプテラノドンの二本の脚部にあたる部分には、大きな袋がぶら下げられていた。

 

 

「うわぁ.、随分攻め込まれちゃって…」

 

 

下の様子を観察していた教授が呆然とした様子で呟いた。あの赤いのが全部血液なのだと思うと吐き気を催してくるが、そんな事でダウンする教授ではない。

 

 

「まずは砦の連中から片付ける!」

 

 

ぐいっと操縦桿を倒す。首を大きく下に向けたプテラノドンは、嘴を一つのバリスタへと向けた。

 

狙いを定めたプテラノドンは、なんの躊躇も無く急降下する。

 

 

「おい来たぞ!撃て!」

 

「分かってる!…くそっ、射角が足りない!」

 

「こんなので真上なんか狙えるかよ!」

 

 

バリスタの死角は真下と真上である。教授はバリスタの真上から急降下を仕掛けていたため、狙っているバリスタに狙われる心配はない。しかし別のバリスタはそうはいかず、プテラノドンへ向けて射撃を開始した。

 

当たれば一撃で落ちるサイズのバリスタ弾だが、闇の中で高速に動く目標に当たるわけがない。プテラノドンが目標としているバリスタからは既に人の姿が無くなっていた。バリスタに付いていた盗賊達が大慌てで砦を走る姿が視界の端に映る。

 

ぐんぐんとバリスタとの距離を縮めていく。そして、教授がコックピットにあるレバーを引いた。

 

すると、ぶら下がっていた袋が傾き、幾つかの巨大な岩がバリスタに降り注いだ。バリスタは矢を射出する衝撃に耐えるため頑丈に作られているが、数百メートルから落とされる約30kg程の岩の数々に耐えられる訳ではない。吸い込まれる様にバリスタに落下して行った岩は、一つも外すこと無くバリスタに直撃し、バリスタは音を立てて崩れ去った。

 

その間に教授は機首を上にあげる。軽くなったプテラノドンはグンッと一瞬だけ上に引っ張られるような動作を見せると、猛スピードで上昇して行った。

 

軽さに反した馬力を生かし、一瞬でバリスタの射程圏外まで到達する。そして次の目標を決めると、教授は再度急降下を仕掛けた。

 

東門のバリスタは全部で4つ。それら全てを破壊する事など、教授と愛機プテラノドンにとっては造作もない事だ。

 

 

「無理矢理でも早く終わらせてやる!」

 

 

知能的な攻略方法を諦め、開き直って覚醒した教授。それとは逆に、砦は混乱に陥っていた。

 

 

 

 

またもや巨大な音を立てて2つ目のバリスタが破壊される。その音は砦内部で戦闘をしていた者達にも届き、砦内に一瞬の静寂が訪れた。

 

 

『フッハッハッハッハッ!』

 

 

低い笑い声が木霊する。今度はそれ全員がその声を聴いていた。

 

 

「翼竜!桃色の翼竜が来てくれたぞ!」

 

 

誰かが叫び、それに呼応する様にイタリカ兵が歓声を上げた。イタリカ兵の士気は一気に高まり、戦場はこれまでにない程の熱気に包まれた。

 

 

「もう負けることは無い!我々には空が味方している!」

 

 

今まで無敗、更に余裕な声で飛び続ける教授のプテラノドンは、イタリカ住民にはまさに救世主と呼ぶべき存在である。勝利を確信し始めたイタリカ兵達は、ナタや農具を握り直し、本日最高の怒号を発し、再度盗賊団に激突した。

 

着々と破壊されていくバリスタ砲。その破壊音すらも聞こえなくなるほど、砦内の声量は大きかった。

 

全ての対空兵器を破壊し終えたプテラノドンは盗賊団へと目標を変更する。当たったらタダではすまない重さの岩の数々が砦の上にいる残存兵に降り注ぐ。砦の上の戦力の注目は全てプテラノドンに注がれ、柵内の戦いに意識を向ける余裕もない。

 

既にプテラノドンに岩は残されていないが、少し小さ目の石が幾つも残されている。これは人を絶命させるほどの破壊力は無いが、気絶させるだけの威力は持ち合わせている。一人の負傷兵は二人の兵を足止めすると言う。気絶した仲間を少しでも安全な場所に移動させるため、何人かの盗賊が気絶した仲間を引きずって移動する。こうして少しずつ戦力が削がれて行った。

 

プテラノドンと教授のノーキル戦闘で数は減って来たが、それでも盗賊達の戦意は高いままだ。プテラノドンを撃ち落とそうと弓を取る者達と、イタリアの軍勢と戦う者達に分かれている。戦場はさらに混沌に包まれた。

 

しかし突如、黒ゴスの少女が戦場の只中に舞い降り、嵐のように盗賊をなぎ倒し、戦場に一時の静寂が生まれた。

 

黒ゴスの少女、ローリィ・マーキュリーが小柄な体に似合わない獲物の肩に担ぐ。それと同時に、砦の門が爆破された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「第三偵察隊の伊丹二尉より連絡。門上空を飛行する機体はイタリカ側の戦力の模様」

 

 

自衛隊の援軍である攻撃ヘリがイタリカに到着した。部隊を指揮している健軍一佐に情報が入り、健軍は窓からイタリカの空の拝む。攻撃ヘリよりも上空で、桃色の飛行物が旋回を繰り返しているのが確認できた。

 

 

「機体?あのピンクのドラゴンか?」

 

「プロペラが付いています。恐らくレシプロ機の一種かと」

 

「特地にレシプロ機だと?」

 

 

特地は基本、古代ローマと似たか寄ったかの文明が栄えており、技術力では車も開発されて無いほどの世界だ。プロペラを付けた物体は、この特地では自衛隊しか所持していない。

 

特地産のレシプロ機と言うのは有り得ない。だとしたら、アレはなんだ?

 

等と考えるが、コチラにとって無害だと言うのならば今は気にする事ではない。後で考えれば良いだけの話だ。

 

 

「全機攻撃開始!」

 

 

健軍の一声と共に、AH-1Sが対戦車ミサイルを放った。吸い込まれる様に城門へと向かっていき、城門を破壊する。これで砦の外にいた盗賊達は砦内に入ることはできないし、内部の盗賊も逃げる事は出来ない。

 

開戦の爆音が響くと、数多いる戦闘ヘリが盗賊団へと攻撃を開始した。上空からの射撃に盗賊団はなす術なく、一方的な攻撃を受けるのみだった。

 

既に一方的な殺戮と化した戦いを、健軍はコーヒーを飲みながら見る。砦の対空兵器は破壊されていて、ヘリを落とす可能性のある兵器は見当たらない。そう思い、ふと上空を見た。

 

 

「にしても、不格好な機体だな」

 

 

未だ旋回を続けるプテラノドンの両翼から点の様な光が漏れている。何発かの被弾を受けたのだろう。

 

 

「アレでよく飛べるものだ」

 

 

そう言えばあんな見た目の物をテレビで昔見たような気がする。と一瞬思ったが、気のせいかと適当に思考を区切った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘリによる攻撃が始まる少し前、南門から東門までの道のりを猛スピードで駆けるものがあった。

 

 

「ここにゃ道路交通法なんては無いんだ!飛ばせ倉田!」

 

「言われなくても分かってますよ!」

 

 

誰もいなくなったイタリカの街中を高機動車が爆走する。雄叫びにも似た音を発しながら、街を縫うように移動するその中で、伊丹と倉田が興奮した声で叫んでいた。

 

 

「間違いない、アレはプテラノドンだ!やっぱりあの獣人達はトッドとスマイリーだった!」

 

「てことはですよ、あれに乗ってるのは…」

 

『モリアーティ教授!』

 

 

二人同時に一際大きく叫ぶ。心なしか高機動車の速度が上がった気がした。

 

彼らはプテラノドンの正体もモリアーティ教授と言う獣人も、何もかも知っている。

 

上下左右に揺れる高機動車。後部座席に乗るレレイやらテュカやらは自分が倒れない様に必死に手すりに捕まっているが、助手席と運転席にいる二人の熱は収まることを知らず、寧ろ現在進行形で興奮度が上がっている。

 

伊丹もそうだが、倉田は伊丹よりも興奮していた。なんせ倉田は重度のケモナーだが、そうさせたのは幼い頃によく見ていた『名探偵ホームズ』と言うアニメと『モンタナ・ジョーンズ』の影響が大きい。

 

問題は、モリアーティ教授が『名探偵ホームズ』の登場キャラクターである事と、そのモリアーティ教授がどういう訳か現実に存在している事だ。

 

 

「まくれ倉田ぁ!」

 

 

伊丹に応える様に既にググッとアクセルを踏み込んだ。更にけたたましい音を上げて高機動車が急速にスピードを上げる。入り組んでいる道も多いイタリカだが、倉田は凄まじい運転テクニックで細道だろうが何だろうが乗り越えて行った。

 

それなりに距離のある道をあっという間に東門まで走行し、高機動車から飛び出した戦闘狂の栗林よりも速く駆け出した二人は、プテラノドンの背に白いマントがはためいている様を見て、大いに感動した。




少し時間が出来たので、少しずつコメント返信を再開しようと思ってます。あ、ご意見等などお待ちしております


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

モリアーティ一味

こんなにも長く、時間がかかってしまった…
お待たせしました、リアルで色々忙しかったりストーリー的に難所だったりして全然書けてませんでしたが、なんとか越えられました。
山場を無理やり越えた形になるので短いですが、これからはトントンで行ければいいなぁと思っています…






 

イタリカでの戦闘を終え、ボロボロになったプテラノドンを車庫に納めたモリアーティは、自分の部屋で一息ついた。

 

先の戦いによってプテラノドンは半壊状態になってしまっている。帰還出来ただけでも奇跡と呼べる状態だ。補修出来ないこともないが、プテラノドンを覆う厚紙はこの世界に出回っている紙で補うには厚すぎる。このままこの世界の紙で装甲を覆い続ければ、空気の抵抗を受けるだけで破壊される恐れもある。今のままでこれ以上プテラノドンを飛行させることは危険過ぎる。

 

さて、ここからどう動こうかと思考を巡らせる。すると、玄関の扉からノック音が響いた。メイドのノックにしては力が強い。近くの住人も街の修復に駆り出されていて誰もいない筈だ。

 

念のためにと腰のリボルバーに手をかけ、ゆっくりとドアノブを回し、扉を開ける。

 

開いた扉の先にいたのは、長身の男と短身の男。色違いの形の同じ帽子を被った彼らは、教授の顔を確かめ、教授も彼らの顔を見て、驚き目を開かせた。

 

 

「教授〜!」

 

「な、お前達!?」

 

 

扉の先にいた者たちは、かつてモリアーティと共に「モリアーティ一味」として活動していたモリアーティの唯一の部下であり仲間、トッドとスマイリーの二人であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝日がイタリカの街を照らす。既に日は上りきり、街の住人は改めて晒された街の状況を確認し、復興作業に入っていた。イタリカの外では自衛隊の人員輸送用大型ヘリである「チヌーク」が今回の襲撃に参加した者達を、基地へと護送する為に待機していた。

 

今回の攻撃隊を指揮し、イタリカ救援の作戦を立案した健軍は、既に伊丹ら第二偵察隊と共に会談の為にピニャの元へと向かっている。妙にソワソワする伊丹とその他数名を健軍は気にしたが、帝国皇女との会談は大した問題もなく順調に進み、予定よりも早く終わることとなった。

 

必要な書類を全てピニャへと渡し、会談を終える。張り詰めていた緊張の糸がほぐれ、伊丹やピニャ側の側近らがため息を一つ吐いた。それと同時に、一人のメイドがピニャの秘書的な立場であるハルミトンへと何かを告げる。

 

そしてハルミトンが健軍へと向き直り、一つ注意して貰いたいと告げた。

 

 

「先程お話した『桃色の翼竜』ですが、今からイタリカ外へと向かうとの事ですので、迎撃等の攻撃は加えないようお願いします」

 

 

交渉の中でも話題となった「桃色の翼竜」。健軍は特地の技術的な例外としてそのレシプロ機への情報提供を求めたが、当のイタリカ側もその実態は掴めておらず、謎のままだと言う。現在はイタリカの戦力として運用されているため、自衛隊があの機体について深く関わることはできない。友軍であると言うのなら警戒する必要は無いだろうが、特地の近代的な兵器は異例中の異例であり、特地での防衛水準を変えかねない存在である。

 

出来ることならその存在の詳細を確認したかったところだが、交渉を終えて直ぐにこちらから手を出すことは難しい。ここは黙って見送るのしかない。

 

 

「承知しました。部下には手を出すなと伝えて起きます」

 

 

情報は得られない事に健軍は少々気落ちした。しかしそんな健軍よりも更に気落ちした者が彼の後方に控えていた。

 

 

「えぇぇ!?」

 

 

広い応接間に、伊丹と倉田の素っ頓狂な声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

会談を終える数分前、マミーナは教授のいるであろう車庫の扉を叩いていた。

 

数回のノック。いつもならそれで出てくるのだが、今回は返事の一つも帰ってこない。聞き耳を立てても、中で物音は聞こえなかった。

 

扉に手をかけ、開く。扉は施錠されておらず、すんなりと開いた。普段ならば翼竜がいたであろうスペースには何も無く、鋏や木片等が散乱していた。傍らにある一室は休憩スペースとなっており、室内はベッドと机、椅子がそれぞれ一つづつと飾り気の無い部屋だった。

 

何気なく、マミーナは机へと向かう。机には広げられた地図と一冊の赤い背表紙の本が乱雑に置かれていた。

 

イタリカ周辺の地形が描かれた地図には「Fire doragon territory」と大きく赤マルで囲われた地域。そしてその上に乗っている本には「plan」と大きく書かれていた。どれもマミーナは始めて見る文字である。

 

少し気になったマミーナは、その本を開いてみた。中には丁寧に描かれたプテラノドンの全体図や修理費の計算式、乱雑に書きなぐられた単語の数々等、どれもマミーナが見ても意味のわからないようなものばかりだ。しかし、幾つかの空白のページを跨いだ最後のページに、マミーナが唯一理解出来た特地語が、一文だけ載せられていた。

 

あまりのページにも書かず、最終ページに書かれた一言。

 

 

「プロローグは終わった」

 

 

それは、特地で本格的に活動を始める「モリアーティ一味」の犯行声明だった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。