スマイルプリキュア!~新たなるプリキュア、その名はキュアアギト!?~ (ユウキ003)
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作品内オリジナル人物解説

やってしまった。
またしても衝動書きしてしまった。
他にも書く作品あるのに……。
でも、楽しんでいただければ幸いです!


スマイルプリキュア!~新たなるプリキュア、その名はキュアアギト!?~

 

オリジナル人物

津神(つがみ) 黄金(こがね) 14歳 CV. ランダム 

※読者様各自にお任せします。

生まれも育ちも七色ヶ丘市の少女。

髪の色は茶髪でポニーテールにしている。

転校初日のみゆきと通学路でばったりと出会った事が彼女の

運命を加速させていった

性格は温厚で特技は料理。父親がレストランを経営しているのも

影響している。将来はその店を継ぐ気があり、それが今の所の目標。

普段は温厚なのは確かだが、本気でブチ切れた時や

感情が不安定な時は性格が変化し好戦的になる。

みゆきやあかねのボケに対するツッコミ役に回る事が多い。

観察力もれいか並み。怒らせると怖い。

私服は、黒い短パンに黄色い半袖シャツ。更に上着

として、袖なしの白いパーカーを来ていて、パーカーの

背中には一対の翼が描かれている。

 

変身能力:キュアアギト

・みゆき達とは異なり、その力の根源は仮面ライダーアギトの世界の

 『光のエル』『プロメス』の物。プロメスの最後、世界中に放たれた

 光、アギトの力の一つが時空の歪みを飛び越え、生まれて間もない

 黄金の体内に入り、以降彼女の中に潜み続ける事になった。

 但し、異世界へと渡ったせいでその力は変質し、完全なアギトとしての力

 ではなく、不完全なアギトと人の融合形態へと黄金を進化させる力となった。

 また、覚醒にも十年近い期間を要し、黄金の読心能力なども初変身以後に

 覚醒した。

 

キュアアギト

・その姿は人である黄金の体を仮面ライダーアギトをモチーフとした

 服やアクセサリーが覆っていく。

1、頭部のクロスホーンはカチューシャとして頭に被さり、

  必殺技使用時には本家と同じように展開される。

2、服装としては半そで半ズボン程度の長さの黒いライダースーツの

  ようなぴったりスーツとスパッツを上下に身に着け、

  その上にはアギトの金色の胸部装甲を模した袖なし服を羽織る形となる。

  下には金色のスカートがベルトから伸びるようにして、

  脛辺りまでを覆うロングスカートを履いた形になる。

3、両肩、両腕、両膝、両脛には本家アギトと同じ金色や黒のアンクレットや

  ショルダーガードが展開されている。

4、変身中の髪型はポニーテールを保ったまま金髪となり、

  他の5人と違って、変身前後の髪型の変化はない。

5、茶色がかっていた瞳は赤い瞳へと変化する。

 

名乗りには『神が生みし悪を絶つ戦(せん)姫(き)!キュアアギト!』

※ただし黄金は自身がキュアアギトであるとみゆき達5人にバレるまで

 無言のままハッピー達に加勢していていく。

戦闘力自体はハッピー達よりも上である。

なぜならプリキュアが『浄化』を目的とした戦い方をしているのに対し、

アギトは『倒す』事を目的としているため、必殺技も浄化ではなく

打撃や斬撃として相手を切り裂き、打ち倒し、文字通りその存在を

倒すものだからである。ただし、アカンベェを倒す方法が基本的に

浄化であるため、アギトの力だけでも倒すことはできるが、

その場合は核になっているキュアデコルを損傷、ないし

破壊してしまう可能性がある。但し、

青っ鼻はデコルの損傷を気にせず全力で倒せる

 

キュアハッピー達が戦いの中で新技や新フォームを生み出していくように、

キュアアギトも戦いの中で本家と同じフレイム、ストーム、トリニティ、

バーニング、シャイニング、そして数多のオリジナルフォームへと

覚醒していく。

必殺技は基本的に本家と同じ。但しバイクは持たないため、

マシントルネイダーを使用した技は使用不可。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ここから先は本編内のネタバレを含みます。

 閲覧は自己責任でお願いいたします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アギト・オリジナルフォーム

1、アイアンフォーム

  黄金が第6話で発現させた力。打撃戦と防御に優れた

  フォームで、腕部に巨大な鋼鉄の拳、アイアンフィスト

  を装着させている。このアイアンフィストは単なる

  ナックルとしてだけではなく、エネルギーを操る力も

  持っており、シールドや空中に足場を作り出す事が出来る。

  また、そのエネルギーを飛ばす事が出来るため、現状では

  一番遠距離攻撃が可能なフォーム。

  また、フィストにはインパクトを増大するための

  パイルバンカーが装着されており、それによって

  攻撃力を増す。

  イメージモデルは仮面ライダー鎧武、スイカアームズの

  腕を装着した感じ。

 

2、ウィンディフォーム

  黄金が第9話で発現させた力。

  普通だったブーツがメカニカルになり、アギトの

  脛当たりまで覆う巨大な物になり、ロングスカートも

  色が緑色に変化。

  飛行能力を獲得した姿で、ストームフォーム以上に

  スピードも強化されている。

  メカニカルなブーツ、ウィンディレッグの足首外側には

  緑色のエネルギーの小さな羽が左右で合計3対展開

  されており、それを使って空を自由に飛行する。

 

 

ギルス

黄金が第8話の中で覚醒させたアギトとは異なる力。

その時の黄金はイレカワールの影響で肉体と魂が

分離した状態であったが、彼女の戦う意思に共鳴し、

突然変異にも似た形で発現した。見た目はキュアアギトと

似ているが差異がある。

1、上着の色が黄色から緑になり、前を止めていた

  黒いボタンが無くなり、前が常時空いた状態に

  なる。

2、ロングスカートが消える。

3、肩は簡易なショルダーパッドが覆うだけ。

4、手首と足首にクリスタルが備わったリストバンド

  を巻いており、ここからギルスフィーラーや

  ヒールクロウを展開する。

5、額に緑色の鉢巻をし、その中央にクリスタルが

  備わっていて、更にそのクリスタルの辺りから

  緑色の角が生えている。

6、髪はダークグリーンに、瞳の色も真っ赤になっている。

アギトと比べると荒々しい戦い方が特徴で、パワーも

上回っている。しかしそれと引き換えに、変身の度に

相当のダメージを負う事があるなど、アギトと比べると

変身は危険を伴う。

 

 




と、最初はオリキャラの紹介でした。


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第1話 誕生と覚醒

スマプリ第1話です。


この物語で本来語られた戦士の数は5人だけだった。

だが、世界の運命はたった一つの違いで大きく揺れ動く。

本来この世界に存在しなかった戦士が『彼女たち』と共に

戦う事などなかっただろう。それでも、運命とは変わる物だ。

今、6番目にして『彼女たち』とは全く異なる戦士が誕生しようとしていた。

その6番目の『少女』の名は、≪津神黄金≫。またの名を、

―――キュアアギト―――

 

 

SIDE 黄金

はじめまして。私の名前は津神黄金。この七色ヶ丘で生まれ育った中学2年生、

14歳の女の子です。

この春から2年生になったばかりの私は今、桜が咲き誇る道の脇を

自転車で走っていた。今日は出るのが少し遅くなっちゃったから、急がないと。

と思って私が自転車を走らせていると、角を曲がった先で女の子が道端に

座り込んでいた。

黄金「あわわわ!」

唐突にブレーキをかけて、自転車を急停止させる私。

『キキーーッ』と言う金属音が響いてから、止まった自転車。

私は息をついてから、座り込んでいた女の子の方へと視線を向けた

  「そこの人、大丈夫だった?」

座り込んでいた女の子、マゼンタ色の髪の毛を持つ女の子が、未だに

びっくりした顔をしていた。

???「は、はい!大丈夫です!あ、あの、ごめんなさい!」

黄金「あ、ううん。気にしないで。別に責めてるわけじゃないの」

女の子に手を振って、怒ってることを否定してから自転車を降りてスタンドを立てた。

そして、私は落ちていたピンク色の本を拾い上げた

  「はい、これはあなたのでしょ?」

???「え!?あ、はい!あ、ありがとうございます!」

と、何やらおかしな表情をしてからその子は本を受け取った。

しかし、その疑問はすぐに消えた。なぜなら……

黄金「?……。って、その制服、ひょっとして七色ヶ丘中の?」

???「え?…あ~~!そういうあなたも私と同じ制服の!」

どうやら、この子は私と同じ学校の生徒みたい。でも……

黄金「あなたって、ひょっとして転校生か何か?」

???「は、はい!そうですけど、なんでわかったんですか?」

黄金「この道は私も通学に毎日使ってるからね。あなたみたいな髪の色の

   人は見たことないから、そう思ったんだけど……。 

   あ、私は2年の津神黄金。あなたは?」

みゆき「私は2年生の星空みゆきっていうの!初めまして、津神ちゃん!」

黄金「あ、私の事は黄金で良いよ。同い年みたいだし。初めまして、

   みゆきちゃん」

みゆき「うん!黄金ちゃん!」

黄金「うん。…って、そうだ、急がないと学校に遅れちゃうよ」

みゆき「あ~~!?そうだった~~!!!」

そう言って走り出したみゆきと、それに自転車で続く黄金だった。

 

無事、遅刻する事なく学校に到着した二人は校門の前で別れ、

みゆきは一足先に校舎へ。黄金は駐輪場に自転車を止めてから

教室に向かった。

 

黄金「ふぅ。間に合った~」

鞄を片手に教室に入った黄金。と、それに気づいた生徒が居た。

???「あ、黄金。おはよう」

黄金「おはよう、なおちゃん」

その相手、というのは緑色の髪の色に黄色のリボンが特徴の生徒。

小学校時代からの付き合いのある友人の『緑川なお』ちゃんと……

???「おはようございます、黄金さん」

もう一人の相手は、紺色ストレートヘアーが特徴の私たちのクラスの

学級委員長、兼生徒会副会長の『青木れいか』ちゃん。

私たち3人は小学校からの幼馴染なのだ。

黄金「れいかちゃんもおはよう。は~~。今日はギリギリ

   だったよ~」

なお「いつもは早めに来る黄金が珍しいね」

黄金「愛用の目覚まし時計が電池切れちゃっててさ~。起きるのが遅く

   なっちゃって。あ。後は通学路の途中で転校生の子と話をしててさ」

れいか「転校生、ですか?」

黄金「うん。同じ学年だったみたいでね。名前は……」

と言っていた所で先生が入ってきたので私は会話を中断して自分の席に

戻った。

 

と、私は佐々木先生に続いて入ってきた生徒を見て驚いた。それは、

みゆきちゃんだった!

佐々木「それでは、転校生を紹介します。さぁ、星空さん。

    自己紹介してください」

そう言って先生がみゆきちゃんに促すけど……

みゆき「あ!はい!」

あ~みゆきちゃんガチガチに緊張してるよ~

数秒経っても動かない。あちゃ~。ダメだこりゃ。

と、私が思っていると……

???「まだ~?」

みゆき「え?」

唐突に私の近くの席から声がした。その声の主と言うのが……

   「自己紹介~」

みゆき「は、はい!え、えっと!ほ、星空みゆきです!

    あ、あの!私、あ、えっと、その!と、とにかく!

    よろしくお願いしますっ!」

そう言って頭を下げるみゆきちゃん。

   「え!?それで終わり!?アカン、オチ無いやん」

そう言って立ち上がったのが、私たちのクラスのムードメーカー。

赤い髪が特徴の『日野あかね』ちゃん。

あかね「よっしゃ、ウチが変わりに自己紹介を―――」

黄金「って、あかねちゃんが自己紹介してどうすんの!」

近くに座っていた私が流れるように立ち上がって漫才のように

ペシッと突っ込んだ。

次の瞬間、クラスのみんなが笑い出した。

みゆき「え、あ、あ!ひょっとして、黄金ちゃん!?」

黄金「ハロー、みゆきちゃん」

佐々木「あら?津神さん知り合いだったの?」

黄金「はい。今朝通学路で会って、それで知り合いに」

あかね「なんやそれ!一人だけ転校生と仲ようなってんの!?

    どんなラッキーなんやねん!」

と言っているあかねちゃん。すると……

なお「あかね。星空さん困ってるよ」

れいか「そうですよ。それに、挨拶は自分でしないと」

あかね「はいはい。あ、丁度ええからあの二人を紹介しよか!」

そう言って前のみゆきちゃんに近づくあかねちゃん。

   「あっちが緑川なお。スポーツ万能でおまけに義理堅くて

    情に脆い。女番長って感じやな」

なお「ば、番長?」

黄金「こらあかねちゃん!間違った情報吹き込まないの!」

と、私が声を上げるが……

あかね「固い事気にすんなっちゅ~に。ほんで、こっちのお嬢様が青木れいか。

    クラス委員で生徒会副会長。勉強もできておまけに男子にモッテモテ」

れいか「モテモテって……」

あかね「ほんで、ウチが日野あかね。去年大阪から引っ越してきたから

    転校生の気持ちはようわかんねん」

と言っているあかねちゃん。

佐々木「はい、それまで。ありがとう日野さん。さぁ、

    席に戻って」

あかね「えへへ、お後がよろしいようで」

と言うと、自分の席に戻るあかねちゃん。と、その時、

ちょうどみゆきちゃんの目の前に当たる席に座っていた黄色い髪の女の子、

『黄瀬やよい』ちゃんが話し出した。

やよい「気にしないでくださいね」

みゆき「え?」

やよい「あかねちゃんは星空さんの緊張をほぐそうとしてふざけただけだから」

しかし、この声はあかねちゃんにもばっちり聞こえていたようで……

あかね「その子は黄瀬やよい。めっちゃ泣き虫でちょっと突っ込んだだけで

    すぐに泣いてまうね~ん」

と言うと、弥生ちゃんが立ち上がって抗議した。

やよい「よ、余計な事言わないでよ!泣いたのは、たったの3回

    だけだもん」

そう言ってすでに瞳に涙をためているやよいちゃん。

黄金「はいはい。あかねちゃんはとりあえず席に座りましょうね。

   このままだと話が進まないから」

と言って私があかねちゃんを強引に席に座らせた。

それを見て笑い出すクラスメートたち。そして……

みゆき「みんなありがとう。皆さんのおかげで緊張が解けました。

    改めまして、星空みゆきです。私は絵本が大好きで、

    小さいころからたくさん読んでいます。

    絵本のお話って、必ずハッピーエンドになるのが素敵だなって

    思ってて、私も毎日そんなハッピーを探しています!」

あかね「それってどんな~ん?」

みゆき「え?」

あかね「星空さんにとってのハッピーってどんなんかな~って」

みゆき「え~っと。口では説明しにくいんですけど、ハッピーってなんかこう

    この辺がキラキラして、胸がわくわくして、う~ん。

    とにかく、ウルトラハッピーって感じの事なんです!」

と、自分のついてのハッピーを力説するみゆきちゃんだけど……

う~ん。いまいち私にはわからない。

 

こうして、新しいクラスメートがやってきた。

 

星空さんの席はあかねちゃんの後ろ。窓際の席の一番後ろで、

その右斜め前の席が私の席。

そして、自分の席に座ったみゆきちゃんだけど、何やら外を見て騒いでいた。

何だろ?

 

この時の私は、この事をあまり気にしていなかった。でも、

今日と言う日から、私の≪戦い≫が始まった。

 

 

放課後、私は一人で自転車をこぎながら帰路に着いていた。

やがて、今朝みゆきちゃんと出会った桜の生えた角にたどり着き、私は

そこで一度自転車を止め、今朝の事を思い出しながら湖をみていた。

 

と、その時……

 

   ≪キィィィン≫

―――……めの時だ―――

黄金「っぐ!?」

唐突に、頭の中に金属音と誰かのノイズまみれの声が響いた。

  『何、これ、頭、割れそう!?』

そう言って誰もいない道路に頭を押さえながら倒れる黄金

―――その力を…覚めさせな…い。闘いの時は、来た―――

段々とはっきりしてくる声。それに合わせて段々と黄金の意識は朦朧としていき、

数秒後には、完全に意識を失ったのだった。

 

 

一方そのころ、みゆきの周囲では事態が急変していた。

彼女は学校の中を歩き回っている内に、不思議な本棚によって

摩訶不思議な緑あふれる空間へと繋がるトンネルを開いてしまった。

そして、再び戻った七色ヶ丘で、みゆきは今朝、黄金と出会う数秒前まで

出会っていた妖精のような存在『キャンディ』を見つけたのだった。

あの時、黄金が拾いみゆきに渡したピンクの本も、もとはと言えば

キャンディと共にみゆきの前に現れた物だったのだ。

 

そして今、みゆきとキャンディは突如として現れた狼男と

いう風体の怪人によって形成された空間、『バッドエンド空間』に

取り込まれてしまった。

そして、狼男、バッドエンド空間を作り出し、人々から

バッドエンドエナジーと言うものを集めている怪人、『ウルフルン』は

キャンディを殺そうとするが、それを庇い、抱えて逃げ出したみゆき

 

だが、地面に躓き倒れた二人めがけて、ウルフルンの爪が迫った、その時……

みゆきの周囲を光が包み、同時に何者かがウルフルンの攻撃を防いだ。

   『ガシッ!』

ウルフルンの前に立ち、その手を掴んでみゆきとキャンディを

護る者の姿があった。

ウルフルン「なっ!?誰だてめぇ!」

その言葉を聞いて、ゆっくりと振り返ったみゆきとキャンディが見たのは……

 

―――黒いライダースーツを身に纏い、その上に黒と銀に彩られた袖なし上着を

   羽織った胴体―――

―――腰元から脛辺りまで伸びる金色のスカート―――

―――肘や膝、肩を守る黒や金のアンクレットやショルダーガード―――

そして何より二人の目を引くのが、金色の髪色と、頭から生えるように見える角

―――クロスホーン―――だった。

 

加えて、今のみゆき達からは見えないが、その瞳は赤く輝き、上着の

前面は金色に装飾され、中央にはそれを止める黒い宝石で出来たボタンのような物が

存在していた。

 

ウルフルン「っ!この!」

その相手に対して、ウルフルンは残っている左手を相手の顔めがけて

突き出すが、相手はそれを首だけを動かして避け、空いている右手を

ウルフルンの腹部に叩き込んだ

     「ぐふっ!」

それを喰らって吹っ飛ぶウルフルン。そして、その相手をしていた

金髪の人物がゆっくりと振り返り、赤い瞳で未だに光に包まれているみゆきと

キャンディを見つめた。だが、そんな中でもみゆきが一番驚いたのが………

みゆき『ひょっとして…この子って、女の子なの!?』

そして、その金髪の少女はゆっくりと、手を上げ、みゆきの方を指さした。

みゆき「わ、私!?」

???「……覚醒の、時」

みゆき「え?」

と言った次の瞬間、みゆきの前に小さな丸いアイテムが現れた。

   「何これ!?」

キャンディ「スマイルパクトクル!」

みゆき「え?」

キャンディ「ちみは伝説の戦士プリキュアなんだクル!」

みゆき「何それ!?」

キャンディ「キュアデコルをスマイルパクトにセットして、

      プリキュアスマイルチャージって叫ぶクル!」

みゆき「な、なんだかよくわかんないけど……やってみる!」

そう意気込んだみゆき

 

そして、彼女は現れたアイテム、『スマイルパクト』を開き、

その中央部分にピンク色のリボンの形をした『キュアデコル』をはめ込んだ。

   『レディ!』

すると、パクトからまるで質問するかのような電子音が響いた。

みゆき「プリキュア!スマイルチャージ!」

周囲に彼女の声が響いた。

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー、ハッピー!』

すると、パクトの中から電子音と共に光が溢れ出し、そこからパフの

ような物が現れた。それをキャッチしたみゆきは、それを体の各部に

当てて行った。すると、彼女の体が光りに包まれ、その姿を変えて行った。

 

そして、その変身の推移を、金髪の少女は無言のまま、見つめていた。

やがて、みゆきの変身が終わりを迎えた。同時に、彼女は新たなる存在へと

姿を変えた。それは……

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

伝説の戦士へと変化し、名乗りを上げるみゆき、もといキュアハッピー

だが……

 

ハッピー「な、なにこれ~!?……か、可愛い~~~!」

と、自分の変わりように驚き、はしゃぎだしてしまった。

キャンディ「落ち着くクル!今ちみは伝説の戦士プリキュアになったんだクル!」

ハッピー「伝説の戦士、プリキュア?」

キャンディ「そうクル!」

ハッピー「戦士って事はまさか、あの狼さんと……」

キャンディ「戦うクル!」

と、言われ、ハッピーは……

ハッピー「え?……えぇぇぇぇっ!?!?無理無理!だって怖いもん!」

キャンディ「えぇぇぇぇっ!?プリキュアなのにクル~!?」

ハッピー「プリキュアってなんなの~」

と、その時……

 

ウルフルン「プリキュアだかなんだか知らんが、返り討ちにしてやるぜ!」

そう言ってウルフルンが飛びかかってきた。

ハ・キャ「「なあぁぁぁぁぁぁっ!!」」

咄嗟に悲鳴を上げるハッピーとキャンディ。だが、その二人の前に立ち、

ウルフルンと相対する者が居た。先ほどからずっと無言のままハッピー達の

傍に居た、金髪の少女である。

その少女が、ウルフルンの拳を受け止め、背負い投げの要領で

投げ飛ばした。

民家の壁に激突するウルフルン

ハッピー「す、すご~~い!かっこいい~!」

そんな少女の横で、キラキラした目ではしゃぐハッピー

キャンディ「ひょっとして、ちみもプリキュアなのクル!?」

???「………」

しかし、少女はキャンディの質問には答えず、視線を前方のウルフルンの方へと

向けた。

ウルフルン「この~!邪魔しやがって!もう許さねえからな!」

そう言うと、赤い球のような物を取り出すウルフルン。

     「出でよ!アカンベェ!」

すると、上に掲げた球から赤黒いエネルギーが溢れ出し、近くにあった

レンガの壁にしみ込んだ。そして、そのレンガが元となって

レンガの胴体にピエロの顔と手足が生えた怪物、『アカンベェ』が生まれた。

ハッピー「れ、レンガのお化け~!」

ウルフルン「こいつの名はアカンベェ。ピエーロ様の力でキュアデコルの力を

      バッドエンドに変えて生み出した怪物だ!」

キャンディ「キュアデコル……!」

ハッピー「何、言ってるの?」

キュアデコルと言う単語に反応するキャンディとウルフルンの言う事が

理解できないハッピー。

ウルフルン「行けぇ!アカンベェ!」

   『アカンベェ!』

すると、ウルフルンの命令に合わせてアカンベェが突進してきた。だが……

その突進を左手一つで受け止めた金髪の少女

『ア、 アカンベェ!?』

???「はっ!」

さらに、動けないアカンベェを右手で殴り飛ばした。

壁に激突し、倒れるアカンベェ。

ハッピー「つ、強~い!超強いよあの子!ねぇねぇキャンディ!

     あの子もそのプリキュアなのかな~!」

キャンディ「わ、わかんないけど、でも強いクル!」

と、謎の少女の戦いぶりに関心するハッピーとキャンディ

 

そして、その間にも、再び向かってくるアカンベェをステップとジャンプで

回避し、側面から蹴りを入れた吹き飛ばした。

ハッピー「すごいよキャンディ!あの子強いね!」

キャンディ「って、驚いてないでちみも戦うクル!」

ハッピー「え~~!?私も!?」

キャンディ「そうクル!ハッピーシャワーを使うクル!」

ハッピー「何、それ?」

キャンディ「プリキュアの癒しの力クル!それでアカンベェを浄化するクル!」

ハッピー「それかっこいい!わかった!やってみる!」

そう言って構えるハッピー。

 

そして、ハッピーは金髪の少女がアカンベェをクロスカウンターで殴り飛ばした

瞬間を狙た。

    「今だ!覚悟しなさい!ハッピーハッピー、ハッピーシャワー!」

そういって両手を前に突き出すハッピー。だが……

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

何もでなかった。

 

ハッピー「ちょ、ちょっとキャンディ!これどうなってるの!?」

と、自分の肩に居るキャンディに抗議するハッピー。

そして、金髪の少女はそれを無表情で見つめてから、アカンベェの方に

向き直った。

 

と、その時、彼女の頭にカチューシャとして付けられていた二本の黄金の角、

≪クロスホーン≫が展開されて3対6本の角となった。

キャンディ「クル~!角が増えたクル~!」

左足を前に一歩突き出し、右手の平を上に。左手の平を下に向けたまま

前に突き出した。

すると、少女の足元の金色の紋章が浮かび上がった。

それに合わせて左足を後ろに引き戻し、少しばかり腰を落としながら

左手を腰に。右手を胸の前に運んだ。

地面に描かれた紋章が少女の靴、足裏に集まっていった。

   『アカンベェ!』

そんな少女に向かって、アカンベェが突進してきた

???「はっ!」

気合と共に飛び上がり、空中で蹴りの体勢を取る少女。

少女の蹴りは、アカンベェの顔面に命中し、吹き飛ばした。

余りの勢いに地面を滑ったアカンベェは三度壁に激突し、止まった。

どうやら少女の技を喰らってもうまともに動けないのか、ピクピクと

震えているだけだった。

 

一方、ハッピーは……

ハッピー「私じゃ、何もできないの?」

技一つまともに放てず、唯々金髪の少女に守られてばかりの自分が

情けないハッピー

    「折角変身までできたのに………。

     ううん。逃げちゃ、諦めちゃダメなんだ!そんな事したら、

     ハッピーが逃げちゃうもん!それに…それに……

     悪い狼さんなんかに、絶対負けたくない!!」

彼女の叫びが響いた次の瞬間、彼女の腰にあったスマイルパクトが

光りだした。

キャンディ「あ!スマイルパクトクル!スマイルパクトに気合を籠めるクル!」

ハッピー「え?そっか!う~~!気合いだ!気合いだ!気合いだ~~!」

彼女の声に合わせるように、スマイルパクトが彼女自身の力を吸収しだした。

    「力が、吸い込まれていく。なにこれ!?力が抜ける!?」

キャンディ「休まずに力を籠めるクル!」

そう言われ、再び力をパクトに注ぐハッピー。

そして、それに気づいた金髪の少女も振り返った。

 

ハッピー「気合いだ!気合いだ!気合いだ~~~!」

そして、その力が臨界に達した時、ハッピーの周囲から光が溢れ出した。

キャンディ「今クル!」

キャンディの声に合わせて、ハッピーは溜めに溜めた力を解放した

 

両手でハートを描き、さらに両手を組み合わせてハートマークを形作った。

ハッピー「プリキュア!ハッピー……」

そして、組み合わせた両手を前に突き出した

    「シャワー!!!」

ハッピーから放たれた桃色の光が一直線にアカンベェへと向かっていき、

その闇の力を浄化した。

そして、アカンベェの鼻になっていた赤黒い球体の中から小さい何かが

解放された。

 

一方、技を放ったハッピーは……

ハッピー「何これ。物すっごい疲れた」

キャンディ「ハッピーシャワーはものすごく力を使うクル!」

ハッピー「さきに言ってよ~!」

と言って肩で息をしていた。そして、倒れそうになるハッピーを

後ろから支える者が居た。一緒に戦った金髪の少女だ。

    「あ、ありがとうございます」

と、お礼はいう物の、どうやらまともに動けそうにないハッピー

それを見た金髪の少女は……

    「えっ!?あ、ちょっ!」

有無を言わさずにハッピーを『お姫様抱っこ』した。

ハッピー『はわわわわ!わ、私!人生初のお姫様抱っこされてる!?

     でも相手は女の子って!あ、でもちょっとかっこいいかも……

     ってぇ!何考えてるの私!』

と、内心ドキドキ、オロオロしながら顔を赤くするハッピー。と、その時、上から何かが

落ちて来た。それを咄嗟にキャッチするハッピー。

    「何これ?」

キャンディ「キュアデコルクル!」

ハッピー「何?…あれ?そう言えばあの狼さんは?」

そう言って周囲を見回すハッピーと金髪の少女。

だが、近くにはすでにウルフルンの姿はなかった。

 

それを確認した金髪の少女は周囲を見回し、公園を見つけ

ハッピーをお姫様抱っこのまま公園の中に入っていき、一つのベンチに

彼女を座らせた。

    「あ、ありがとうございます」

お礼を言われた金髪の少女だが、ハッピーを座らせると、少女は

コツコツと歩き出して路地の陰に消えて行った。

 

その後、変身を解除したみゆきが元に戻った現状を見ていたその一方で…

 

黄金「…う、あ。…わ、私、どうし、て」

道端に倒れていた『はずの』黄金がゆっくりと体を起こした。

  「さっきの声は、一体……うぅ、頭も、体も、痛い」

そう言いながらなんとか倒れている自転車を起こしてから、

重い足取りで黄金は自分の家へと戻っていった。

 

 

出会いと戦いの始まり。一人の少女の新たなる力の発現と、

もう一人の少女の覚醒。

戦いの始まりを告げる鐘が鳴り響くとき、新たなる魂が目覚める。

目覚めよ、その魂。

 

 

     第1話 END

   

 




駄作かもしれませんが、楽しんでいただければ幸いです。


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第2話 炎の少女と青の風

今回はスマプリ第2話のお話です。



~~前回までのあらすじ~~

七色ヶ丘市に転校してきた中学2年生の『星空みゆき』

そこで彼女は七色ヶ丘育ちの同い年の『津神黄金』と出会った。

そして、みゆきは転校初日に偶然出会った妖精『キャンディ』と

再会し、キャンディを追ってやってきた謎の狼男、『ウルフルン』から

キャンディを守りたいと言う意思から伝説の戦士、

『プリキュア』へと変身できるようになってしまった。

同時に、金色の髪と角を持った謎の少女も現れ、みゆきの変身した

プリキュア、『キュアハッピー』と金色の少女は協力してウルフルンの

召喚した怪物『アカンベェ』を撃退したのだった。

 

 

アカンベェとの戦闘から数時間後。夜、星空宅、みゆきの部屋にて。

 

あの後みゆきはキャンディを自分の家に連れて帰り、キャンディから

改めてキュアデコルの回収をお願いされたことと、自分以外にも

プリキュアが居る事を知った。

 

しかし、その後消灯してベッドの潜ったみゆきだが、今の彼女の頭の中には、

一人の少女の事が浮かんでいた。

 

そう、先ほど一緒に戦った金髪の謎の少女である。

みゆき『プリキュアは全部で5人って言ってたから、私とあの子が

    居るから後3人か~』

そう思いながら天井を見つめるみゆき。

   『早く、他のプリキュアにも会ってみたいな~!』

と、新たなる出会いを想像しながら、笑みを浮かべつつ、眠りについたのだった。

 

一方。数時間前・津神宅、黄金の部屋。

フラフラになりながらもなんとか帰宅した黄金は、自分の部屋にたどり着くと、

すぐに自分のベッドの上に倒れ込んでしまったのだった。

 

頭、まだ痛い。ガンガンする。体中も痛い。まるで、マラソンでもしたみたいに、

体中が痛い。私が目を覚ましたのは、気絶してから大体40分後だった。

でも、気絶する前と後じゃ、体が全然違った。何だか、全てを出し切ったみたいに

疲れていた。何があったのか、知りたい。でも、今の私には考える力もない。

やがて、私の意識は遠のいていき、すぐに眠りについてしまったのだった。

 

翌朝。何とか登校しようとした黄金だが、朝から頭痛がひどかったため、

今日は母に学校の近くまで送ってもらったのだ。

 

私は、重い足取りで時折襲ってくる頭痛に耐えながらなんとか

教室に入った。

黄金「お、おはよ~~」

なお「あ、おはよう黄金。…って、どうしたの?元気ないみたいだけど?」

黄金「何か、昨日からずっと頭痛がひどくてさ~。今も痛くて……」

れいか「風邪ですか?」

黄金「ううん。咳とかくしゃみはでないから風邪じゃないと思うんだ。

   朝も頭痛薬飲んだんだけど、全然効かなくて……」

なお「なら、二時間目の体育は休んだ方が良いんじゃない?」

黄金「うん。悪いけどそうさせてもらうね」

れいか「それにしても。黄金さん、何か頭痛の元になる事に思い当たりは

    ありませんか?」

黄金「ない、訳じゃないんだけど……」

なお「どんな?」

黄金「…聞いても、信じないかもしれないけどね。昨日の帰り道で自転車を止めて

   湖を眺めてたの」

なお「それって、桜並木のすぐ横の?」

黄金「うん。昨日も丁度そこでみゆきちゃんと出会ったからなんだけど、ちょっと

   そこで考え事をしてたんだけど……。声がね、聞こえてきたの」

れいか「声、ですか?」

黄金「うん。でも、頭の中に直接響くような声でね。後は金属同士が擦れるみたいな

   嫌な音がしたりして、頭が割れそうに痛くなったの。それで、私その場で

   倒れちゃって……」

なお「だ、大丈夫だったの!?」

黄金「うん。大体40分後くらいに目を覚ましたんだけど……。

   なんか、色々あり過ぎて私、変になっちゃったのかな?」

そう言って、私は悲しい笑みを浮かべる事しかできなかった。

れいか「そんな事ありませんよ。黄金さんは黄金さんのままですよ」

なお「そうだよ。黄金は黄金。料理が好きな私たちの幼馴染、

   津神黄金だよ」

黄金「なおちゃん。れいかちゃん。……。うん、ありがとう」

私は、いつもこの二人に助けられてきた。私は料理をするのが好きだけど、

小学校のころは失敗も多かった。そのたびに私は落ち込んで、二人に

励ましてもらった事がある。いつか、私も二人の役に立ちたいな~。

密かにそんな思いを募らせる黄金だった。

 

そして、午前中の授業が終わった昼休み。私達はみゆきちゃんに呼び出されて

中庭の屋根付きベンチに来たんだけど……。

あかねちゃんとやよいちゃん、それに私の3人を前にして、みゆきちゃんが……。

 

みゆき「一緒にプリキュアやってほしいの!」

と、私達はいきなりその『プリキュア』と言うのに勧誘されたんだけど……。

あかね「プリ…」

やよい「キュア?」

キャンディ「プリキュア!」

あれ?今どこかから別の声が聞こえてきたような?

と、私が周囲を見回している横で、あかねちゃんに抱き着いて

必死に勧誘するみゆきちゃん。

…私的にはそのプリキュアって言うのがわかんないからな~。

 

   ≪ズキンッ!≫

黄金「っ!」

と、その時、私の頭の中にあるビジョンが頭痛と共に写り込んできた。

 

キャンディ≪ちみは伝説の戦士プリキュアなんだクル!≫

ハッピー≪プリキュア!ハッピーシャワー!≫

と、私の頭の中に不思議な妖精の姿とピンク色の女の子の

映像がノイズまみれで一瞬だけだが、確かに映し出された。

 

  『何、今の。…また、頭痛が酷くなって』

そう思って私が頭を押さえた時だった。

何かがみゆきちゃんに向かって突進してきて、みゆきちゃんもろ共

ゴロゴロと転がって行ってしまった。

 

やよい「一体、何が…。あ、津神さん、大丈夫ですか?」

そう言って、私の事を気遣ってそっと手を握ってくれたやよいちゃん。

黄金「う、うん。大丈夫」

そう言って私が苦笑いした時だった。

やよい≪津神さん、苦しそう。保健室に連れて行ってあげた方が良いのかな?≫

黄金「え?」

やよい「?どうかしたんですか?」

黄金「う、ううん!なんでもない!」

…何、今の。…今、やよいちゃんはしゃべってなかった。じゃあ今聞こえた声は?

……私の体、本当にどうなっちゃったの。

と、思いながら私はあかねちゃん達と一緒に転がっていったみゆきちゃんを追った。

 

みゆき「知らないの!でも、ドジでおっちょこちょいの私でも

    なれたしな~」

キャンディ「確かにそうクル~」

私達がみゆきちゃんを探しに行くと、どこからかみゆきちゃんと

もう一人、別の人の声が聞こえてきた。

 

そしてあかねちゃんがみゆきちゃんにプリキュアの勧誘の事を

断ったりしていたけど……

 

さっき、みゆきちゃんと話をしていたもう一人の声。あれって……

キャンディ≪ちみは伝説の戦士プリキュアなんだクル!≫

     ≪確かにそうクル~≫

同じ声?……まさかね。

私は、そう思って自分を納得させたのだった。

 

その後、私はお母さんに迎えに来てもらって家に帰った。

でも、私の悩みは尽きることはなかった。

 

昨日から続くこの頭痛。何もしていないはずなのに、疲れ切った体。

さっき見えたビジョンとしゃべっていないはずのやよいちゃんの声が

聞こえた事。まるで……私の知らない何かが私の体に起こったような、

そんな感じ。……考えるのはやめて、今日も早く寝よう。

 

その後、私はすぐにお風呂に入って、ごはんを食べてすぐにベッドで眠り始めた。

 

翌日、私は何とか頭痛が収まったので、普通に自転車で登校した。

昨日の痛みが噓のよう。とまではいかないが回復しているみたいで明日には

痛みも消えるかもしれない。

 

そして、今日は特に問題もなく普通に授業を受けられた。

その日の放課後だった。

 

黄金「あかねちゃんの応援?」

帰り際、みゆきちゃんにバレー部のあかねちゃんの応援をしようって誘われた。

みゆき「うん!私ね、昨日日野さんと一緒に特訓してたんだ~!

    今日は試合があるからそれを見に行こうと思うんだ!

    黄金ちゃんもどうかな!」

黄金「う~ん。…わかった。私も行く」

みゆき「じゃあそうと決まれば早速しゅっぱ~つ!」

 

と言う事で私はみゆきちゃんと一緒に学校の外にある野外バレーボール場に

向かった。そこでは私やみゆきちゃんと同じように他の生徒も

バレー部の模擬試合を見ようと集まっていた。

聞いた話だと、みゆきちゃんは昨日の夕方、河川敷で練習をしていた

あかねちゃんを手伝ったんだって言ってた。

そして、試合が開始されたんだけど……。

 

みゆき「うわ~~!日野さんすご~~い!」

あかねちゃんが得点を決めたのを自分のように喜んでいるみゆきちゃん。

私もつられて笑っていた、その時……。

   ≪ズキンッ!≫

黄金「ッ!!」

  『ま、また、頭痛が』

みゆき「良いぞ~!日野さ~ん!……って、あれ?黄金ちゃん?

    どうしたの?大丈夫?」

黄金「う、うん。ちょっと、頭が痛いだけ。…ごめん、やっぱり私帰るね」

みゆき「そ、そっか。あ、じゃあ気を付けて帰ってね」

黄金「う、うん。ごめん」

私はゆっくりと立ち上がってフラフラと歩き出した。

 

何で?今日の朝は何ともなかったのに、いきなりまた頭が痛くなるなんて。

私は、校舎の日陰に入ると、壁に手をついてその場に倒れ込みそうになるのを

必死に抑えた。

頭痛はどんどんひどくなってきている。何、これ。これじゃ、一昨日と、

また、同じ、に……。

 

そうして、再び『津神黄金』と言う人格は眠りに付きかけていた。

 

一方、バレーボール場では事態が急変していた。

 

再び現れた狼男の怪人ウルフルンが『黒の絵本』と『闇の黒い絵の具』を

使ってバッドエンド空間を作り出してみゆきとキャンディ以外の

生徒や教師たち全員を絶望と無気力に落とし込んでしまったのだった。

 

みゆきが再び変身する事をためらい、ウルフルンが絶望に沈む人間を

侮辱していた、その時……

 

   ≪カツーン……カツーン……カツーン……≫

バッドエンド空間となった世界にゆっくりと足音が響いた。

その音を聞いて周囲を見回すみゆきとキャンディ、そしてウルフルン。

 

そして、校舎の陰からその足音の主が現れた。だが、3人には

その相手の顔が分からなかった。

何故なら相手の腹部から強い光が放たれており、その光源のせいで

相手の顔が見えないからだ。

 

ウルフルン「誰だてめぇ!なんでこのバッドエンド空間で普通に動けるんだよ!」

???「………」

   ≪QUOON……QUOON……QUOON……≫

問い詰めるウルフルンだが、相手は何も答えようとはせず、

ただ心臓のように鼓動を鳴らす光のベルトの音だけが響いていて、

ベルトの人物は無言のままウルフルンの方に視線を向けているだけだった。

ウルフルン「っの野郎!」

と、謎の人物めがけて襲い掛かるウルフルン。

キャンディ「危ないクル!」

みゆき「逃げて!」

咄嗟にその人物に向かって叫ぶみゆきとキャンディ。

 

だが、光の人物は逃げもせずに、逆にウルフルンの攻撃をクロスカウンターで

回避しつつ、その顔面を殴り飛ばした。

ウルフルン「ぐぁぁぁっ!」

殴り飛ばされたウルフルンは近くにあったベンチに突っ込んで倒れた。

 

殴り飛ばされたウルフルンを見てから、謎の人物の方に視線を向ける

みゆきとキャンディ。と、その時……

   ≪VUUUUUUUN!≫

腰の光源となって居たベルトがバイクのエンジンのような音を発すると

謎の人物の姿が変化した。そして、みゆき達の方に視線を向けた人物

と言うのが……

 

みゆき「あ!あなたはあの時の!」

キャンディ「謎の戦士クル!」

 

金色の髪と服、赤い瞳と金色の角を持った謎の少女だったのだ。

ウルフルン「てめぇはあの時の奴か!面白れぇ!そこの妖精たち

      と一緒に俺が倒してやるぜ!」

そう言うと、殴りかかって来るウルフルン。だが、少女はその攻撃を

姿勢を屈ませて回避すると足をばねのようにしてウルフルンの

顎にカウンターのアッパーカットを繰り出した。

     「うごっ!?」

アッパーを喰らって再び吹っ飛ぶが、今度は空中で体勢を立て直して

着地した。

     「ちっ!人間風情が!所詮貴様らの言う努力だの夢だの

      希望だのとぬかすのはただの無駄でバカな行為なんだよ!」

そう言われても、少女は顔色一つ変えずにウルフルンと戦っていた。

と、その時。

 

みゆき「無駄なんかじゃない!」

そう叫びながら絶望しているあかねを庇うように立つみゆき

   「目標に向かってがんばってる日野さんを!

    私の友達をバカにするなんて、絶対許さないんだから!」

キャンディ「みゆき……!その意気クル!プリキュアに変身するクル!」

みゆき「うん!」

 

冷や汗を流しながらも頷いたみゆきは、スマイルパクトを取り出し、

つい一昨日と同じように変身プロセスを行っていった。

パクトにリボンの変身用デコルをセットするみゆき

   『レディ!』

   「プリキュア!スマイルチャージ!」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー、ハッピー!』

現れた光のパフを使って変身したみゆき

   『キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!』

そして、変身したハッピーは金色の少女の元に歩みを進めた。

 

ハッピー「ねぇ!あなたもプリキュアなんだよね!私と

     一緒に戦おうよ!」

そう言って笑顔で共闘を持ち掛けるハッピー。だが……。

???「………」

金色の少女は何も言わずに視線だけをハッピーに送ってから自分は

拳を構えた。

 

ウルフルン「ちっ!現れたなプリキュア!一昨日の屈辱、ここで晴らしてやるぜ!

      出でよ!アカンベェ!」

すると、ウルフルンは赤黒い球体『赤っ鼻』を使ってバレーボール型

『アカンベェ』を作り出した。

   『アカンベェ!』

その登場にビビるハッピーと無言のままアカンベェを睨みつける金色の少女。

???「………」

ハッピー「や、やっぱり怖いかも」

キャンディ「頑張るクル~!みんなに希望のスマイルを取り戻すクル~!」

と、後ろからハッピーを激励するキャンディ

ハッピー「希望のスマイル?…うん。怖いけど、頑張る!」

そう言って金色の少女と同じように構えるハッピー。

 

それに対して、アカンベェは口から大量の空気を吸い込み、

口から無数のバレーボールを連射してきた。

それを見て、冷静に右にジャンプする金色の少女と左に慌てて走り出すハッピー

それに対して、アカンベェはハッピーの方に狙いを定めた。

口からバレーボールをマシンガンのように連射するアカンベェの攻撃から

逃げるハッピー

    「無理!無理!!絶対無理ィ!うわぁっ!」

必死に逃げていたハッピーだが、その足元に着弾したため、バランスを崩して

倒れてしまった。

そして、そのハッピーを狙ってアカンベェからボールが発射された。

   『ズドォォォンッ!』

命中と同時に大量の土煙と轟音が響いた。

キャンディ「キュアハッピー!」

ウルフルン「ウルッフッフ、何がプリキュアだ。この程度か」

そう言って、一人勝利を確信するウルフルン。

だが、この時、彼は失念していた。

 

――この場に居る戦士が『一人』ではない事を――

 

煙が晴れた時、ハッピーとアカンベェの間に金色の少女が右手を前に

突き出すようにして立っていた。

金色の少女は片手でアカンベェの攻撃を受け止め、一瞬でボールを

握りつぶしていたのだ。

そして、少女の右手からは微かに煙が上がっていた。

     「なっ?!アカンベェの攻撃で無傷だと!?」

キャンディ「すごい!すごいクル~!」

驚くウルフルンとはしゃぐキャンディ。

 

金色の少女は、後ろに居るハッピーに視線を送ってから、前方に向かって走りだした。

ウルフルン「ちっ!アカンベェ何してる!奴を倒せ!」

『ア、 アカンベェ!』

ウルフルンからの命令で驚いていたアカンベェも我に返り、改めて

金色の少女に狙いをつけてボールを連射した。

 

アカンベェから発射されたボールが少女の顔面に迫った。

ハッピー「危ない!」

少女の危機を見て叫ぶハッピー。だが、彼女の心配は杞憂に終わった。

 

何故なら、ボールが少女の顔に命中する瞬間、少女がボールの前から

『消えた』のだ。空を裂いて飛び、地面に激突するボール。

ウルフルン「なっ!消えた!?」

 

余りに一瞬の出来事で金色の少女が消えたと錯覚したウルフルン。だが、

それは間違いだった。少女は消えたのではなく、ぶつかる直前に

姿勢を落とし、地面の上をスライディングで滑っていたのだった。

 

アカンベェの真下に現れる金色の少女。

その少女とアカンベェの視線が一瞬交差し、アカンベェはその炎の如く紅い

瞳に射抜かれて、すぐには動けなくなってしまった。

 

???「はぁっ!!」

そして、金髪の少女は地面に手を付き、右足を使ってアカンベェを

真下から蹴り上げた。

『ア、 アカンベェ~~~~!』

と、数メートル上まで打ち上げられてから落下し、『ズズン』と言う音と

共に落着するアカンベェ。

ハッピー「す、すごい。やっぱり、あの子私よりも……」

と、以前と同じように金色の少女の強さに舌を巻くハッピー

キャンディ「ハッピー!今クル!ハッピーシャワーで浄化するクル!」

ハッピー「わかった!……って、どうするんだっけ?」

と、使い方を忘れていたハッピー

キャンディ「スマイルパクトクル~!」

ハッピー「そうでした!」

と、キャンディの話を聞いて思い出したハッピー

    「う~!気合いだ気合い!気合いだ~~~!」

あの時と同じように力を込めてエネルギーをチャージしていく。そして……。

    「プリキュア!ハッピーシャワー!」

あの時と同じ動作でハートマークを作り、そこから桃色の

エネルギーを発射した。

そして、それは倒れているアカンベェの元に向かって飛んで行った。だが…。

 

その光はアカンベェの横を逸れて不規則な軌道を描きながら空の彼方へと

飛んで行ってしまった。

 

    「嘘!?外しちゃった~」

さらに、技の発動で一気に体力を消費したため、ハッピーはその場に

膝を落としてしまった。

キャンディ「頑張るクル!もう一回クル!」

ハッピー「もう一回!?しょうがないな~!」

と、何とか立ち上がったハッピーは再び技を放つが……

 

今度は小さなハートマークが現れてはシャボン玉のように消えるだけだった。

 

ハ・キャ「「えぇぇぇぇぇぇぇっ!?!!」」

キャンディ「もしかして変身一回につき一回しか出せないクル!?」

ハッピー「そんなの聞いてないよ~!」

と、慌てるハッピーとキャンディ。

 

その時、アカンベェのナックルがハッピーに迫った。

だが、その拳を咄嗟に受け止めようとしたハッピーをお姫様抱っこで

抱えて飛んだ者がいた。金色の少女だ。

 

ハッピー『あわわわ!わ、私またお姫様抱っこされちゃってるよ~!』

と、金色の少女の腕の中で顔を真っ赤にするハッピー。だが……

 

ウルフルン「はっ。何がプリキュアだ。そっちのピンクは何も出来ねえただの

      木偶の坊じゃねえか」

そう言われ、ハッピーの表情がハッとなった。

     「それに、今まさに泣きそうな顔しやがって。バカな奴だぜ。

      諦めて泣いて喚けば良いのによ。ウルッフッフ」

それに対して、ハッピーは……

ハッピー「泣かないもん!だって、だってそんな事したら、ハッピーが

逃げちゃうもん!だから、スマイルスマイル!」

ウルフルン「はぁ?女に抱っこされながら何言ってんだか?」

と、あからさまにハッピーをバカにするウルフルン

 

だが、この言葉は第3の少女に届いていた。

 

そして、彼女、『日野あかね』にも、覚醒の時が訪れようとしていた。

 

ゆっくりと、だが確実にその瞳の色を取り戻していくあかね。

 

あかね「星空、さん?……え、あ!な、なんやこれ!?」

ついに、バッドエンド空間でも自我を取り戻すことに成功したあかね

   「なんやあのでっかいバレーボールの化けもんは!?」

ハッピー「日野さん!大丈夫!?」

と、そこに、金色の少女から降りたハッピーが駆け寄ってきた。

あかね「あぁ、何とか。…って、その声!ひょっとして星空さんなん!?」

ハッピー「え!?あ!はい!……って、返事しちゃった!

     それは秘密なの~!」

あかね「なんやのんこれ~!一体何がどうなってんの~!?」

と、驚くあかね。その時、彼女の横にウルフルンが瞬間移動で

近づいてきた。

   「え?うわっ!?」

余りの近さに驚いて数歩後ろに下がるあかね

ハッピー「日野さん!」

   『アカンベェ!』

あかねを助けようとハッピーが近づこうとするが、それをアカンベェが

阻止した。

ウルフルン「お前、こいつの事を友達だとか言ってたよな?」

あかね「え?」

ウルフルン「友情?努力?一生懸命?下らねえ。そんなのはバッドエンドの

      世界に必要ねえんだよ」

ハッピー「友達は、下らなくなんかないよ!

     うれしい時、楽しい時、友達が居れば2倍にも3倍にもハッピーに

     なれるし、悲しい時、辛い時は傍に居てくれる……

     とっても大切なものなのぉ!」

心の声を、口に出して叫ぶハッピー。その声は、あかねにも届いていた。

 

彼女は、あかねは思い出す。昨日、自分の練習に付き合ってくれたみゆきの事を。

今日、応援に来てくれたみゆきの事を。

 

ウルフルン「はっ。下らねえ。アカンベェ!」

   『アカンベェ!』

その時、アカンベェの腕がハッピーに向かって伸びて、その体を

捕まえてしまった。

     「そのままトドメだ!握りつぶせ!」

   『アカンベェ!!』

ハッピー「くぅぅぅぅぅっ!」

アカンベェの圧力に苦悶の声を上げるハッピー。

あかね「星空さん!」

ハッピーの事を心配し、駆け寄ろうとするあかね。だが、その肩に手を置き、

あかねを止める者がいた。金色の少女だ。

   「何するんや!このままだと星空さんが――」

と、抗議しようとしたその時……。

???≪あなたに、戦う覚悟がありますか?≫

あかねの頭の中に声が響いた。

   「なんやこれ。頭の中に、直接声が……」

   ≪あなたに、友のために戦う覚悟がありますか?≫

その言葉に、ハッとなるあかね。そして……

   「星空さんは……ウチを励ましてくれて応援してくれたんや!

    次は、ウチが助ける番や!」

ハッピー「日野、さん」

その声を聴き、金色の少女はゆっくりと手を放した。

   ≪目覚めの時です。≪二番目≫の≪戦士≫よ≫

 

その声があかねの中に響いた瞬間、あかね自身の体が光りに包まれた。

ウルフルン「何ッ!?」

ハッピー「この光って、もしかして!」

 

その時、あかねはオレンジ色の光の空間に浮いていた。

あかね「えぇぇっ?えぇぇぇぇぇっ!?」

驚きのあまり悲鳴に似た声を上げる彼女の前に、みゆきのと同じ形に

スマイルパクトが現れた。

それを咄嗟にキャッチするあかね

   「なんやこれ!?」

と、その時……。

キャンディ「クル~!!」

あかねの元にキャンディが飛んできた

     「ちみが≪三人目≫のプリキュアだったクル~!」

あかね「うわっ!?ぬいぐるみが喋った!?てかなんや、その

キュラプリって!?星空さんがゆうとった奴か!」

キャンディ「プリキュアは世界を悪から守る伝説の戦士クル!」

あかね「伝説の戦士クルぅ!?」

と、何が何だかわからないあかね。

キャンディ「さぁ!変身するクル!」

あかね「へ、変身!?」

キャンディ「キュアデコルをスマイルパクトにセットして、

      プリキュアスマイルチャージって叫ぶクル!」

あかね「何やようわからんけど…やってみるわ!」

 

そして、あかねはスマイルパクトを開き、その中央にみゆきの桃色のとは

違う、薄い赤のリボン型デコルをセットした

   『レディ!』

   「プリキュア!スマイルチャージ!」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー、サニー!』

と、ハッピーと一部仕様が違う音声が流れ、光のパフが現れた。

 

それを使って変身していくあかね。

但し、その力にはハッピーとは明確な差異が見受けられた。

ハッピーが変身する際に掛かる効果、エフェクトが光とするなら、

サニーは『炎』を纏うように変身していった。

 

サニー「太陽サンサン!熱血パワー!キュアサニー!」

降り立ったあかねは、オレンジ色を基調とした新たなるプリキュア、

『キュアサニー』へと変身していた。

 

ハッピー「日野さんすごい!ホントに変身できちゃった!」

ウルフルン「何っ?!こいつも変身できたのか?!」

サニー「変身?…って、なんやこれ!ホンマに変身してる!

    しかも、≪太陽サンサンキュアサニー≫って、めっちゃ

    恥ずかしいや~~ん!」

と、あまりの事に驚きっぱなしのあかね、もといキュアサニー

ウルフルン「ちっ!また増えやがって!アカンベェ!先にそっちの

      を始末しろ!」

   『アカンベェ!』

そう言って、さらに腕に力を籠めるアカンベェ。

 

サニー「あ!星空さん!」

叫び、駆け寄ろうとするサニー。だが、彼女を追い越して

アカンベェに突進する者がいた。金色の少女だ。

 

そして、新たなる覚醒はサニーだけではなかった。

 

金色の少女は自身の腹部に巻かれたベルトの左側のスイッチを叩いた。

すると、ベルトの中央から金と青に彩られたこん棒のような物が

現れた。それを片手でベルトの中から抜き出し、跳躍した。

???「はっ!」

金色の少女は、棒の先端、金色の部分はアカンベェの肩に叩きつけた。

『ア、 アカンベェ!』

痛みによって、ハッピーを握っていた手を放してしまうアカンベェ

 

ハッピーはその隙に離脱し、サニーと合流した

ハッピー「日野さ~ん!」

名を呼びながら走ってきたハッピーはそのまま、サニーに抱き着いた

サニー「星空さん!」

ハッピー「キュアサニーすっごくかっこいいよ!太陽サンサンも

     情熱たっぷりの日野さんにぴったり!」

と、サニーの事をほめるハッピー。

サニー「え!?ホンマ!」

そう言われてしまい、サニーは……。

   「せやな!確かに太陽が似合うんはこのキュアサニーか

スーパーヒーローくらいのもんや!」

と、調子に乗ってしまった。しかし……

 

ウルフルン「何なんだテメエらは!?」

と、怒り心頭の様子で狼のように威嚇してくるウルフルン

サニー「うわあっ!なんやねんあの狼!」

キャンディ「世界をバッドエンドにしようとしている悪い狼さんクル!」

サニー「悪い狼さん?」

ウルフルン「悪い狼さんで結構。行けぇアカンベェ!」

と、命令すると、近くで悶えていたアカンベェの目が赤く光った。

 

そして、アカンベェは一旦距離を取ると、何と跳躍して

サニーとハッピー、金色の少女をまとめて押しつぶすべき、

プレス攻撃を仕掛けてきた。

サ・ハ「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」

驚きのあまり悲鳴を上げるハッピーとサニー。そして、アカンベェの巨体が

3人に向かってのしかかってきた。

ウルフルン「ウルッフッフ。他愛もないぜ」

と、一人勝った気でいるウルフルン。しかしこれも、先ほどと同じ

ように勘違いでしかなかった。

 

煙が晴れた時、そこには……。

――アカンベェの顔面をこん棒一つで支えている金色の少女の姿があった――

     「なっ!?バカな!?」

驚くウルフルン。

そして、金色の少女のすぐ隣ではハッピーが縮こまっていて、

サニーが驚きながら金色の少女とアカンベェを支えているこん棒に

視線を向けていた。

 

???「……ふんっ」

そして、金色の少女はこん棒を振って、アカンベェを近くに落とした。

 

サニー「な、なんやねんこの子!この子もプリキュアなんか!?」

ハッピー「そうだよ!私達3人でプリキュアなんだよ!ね!」

???「………」

そう言って金色の少女に同意を求めるハッピーだが、

金色の少女は無言でハッピーに視線を送っただけだった。

そして、少女は右手に持っていたこん棒を胸の前に運んだ。

 

そして、それは姿を変えた。

 

唐突に左右の金色のパーツが開き、刃が姿を現した。

こん棒だと思っていた物はそうではなく、それは……

 

――暴風を纏いし蒼の槍斧、≪ストームハルバード≫――

 

そして、その変化は武器だけではなかった。

 

次の瞬間、ベルトから青い光が発せられ、金色の少女はその姿を変えた。

 

   ≪QUIIIN!≫

金色だった上着は黒い宝石型のボタンを残して濃い青一色となり、

左腕を金と黒が彩っていた肩のショルダーガードや肘のアンクレット。

腕のライダースーツの生地が胴体と同じ濃い青色へと変化してしまった。

そして何より、ベルトの中央、金色の光を放っていた部分が

青く変色したのだ。

ハッピー「す、姿が、変わっちゃった~~~!すご~~い!」

サニー「なんか、めっちゃ強そうやな~!」

と、驚き興奮するハッピーとサニー。

 

ウルフルン「ちっ!姿が変わったからって何になるってんだ!

      アカンベェ!奴らにボールの嵐をぶつけてやれ!」

   『アカンベェ!』

ウルフルンの掛け声に合わせ、アカンベェは序盤の戦闘の時と

同じように口からバレーボールを連射するために、口に大量の

空気を吸い込み始めた。

 

だが、それに合わせ、青い体へと変化した少女は、自分の前で

ブンブンとストームハルバードを回し始めた。

『ブォン…ブォン』と風の切る音が周囲に響いて行く。

 

   『アカン……ベェ!』

そして、チャージを終えたアカンベェのバレーボールの嵐が3人の方に

向かってきた。

サニー「うわあぁぁぁっ!バレーボールが襲ってくるぅ!」

と、咄嗟にガードの体勢を取るサニーとハッピー。

だが、ボールは彼女たちに当たる事はなかった。なぜなら………

 

ウルフルン「バカな!?何がどうなってやがる!」

サニー「なんや、これ」

ハッピー「ボールが、弾かれてる」

 

そう、風を纏うハルバードの力によって形成された風の盾が

ボールの進路を少しだけ左右に逸らし、後ろへと飛ばしているのだ。

 

そして、ずっとボールを吐き続けていたアカンベェの顔が酸欠なのか、

見る間に青くなっていき、とうとうボールがはけなくなってしまった。

 

それを見過ごす少女ではなかった。

次の瞬間、少女の頭のクロスホーンが左右に開いた。

サニー「うわっ!角!?角が増えた!」

 

クロスホーンの展開が意味するのは、全力全開の証。

少女はハルバードを握る手に力を籠め、次の瞬間、

目にも止まらぬ速さでアカンベェに肉薄。

   『アカ――』

アカンベェが応戦する前にその足をすれ違いざまに風の槍斧で切り裂き、

その後ろでさらにターンし、逆の足を後ろからさらに切り裂いた。

『ア、 アカンベェ』

痛みと関節を狙われたことで、その場に崩れ落ちるアカンベェ

 

一瞬の接近、すれ違いざまの一撃と離脱。ターンしての二撃目と

移動。その速さ、僅か数秒の出来事だった。青色の少女は

たった二撃でアカンベェを行動不能に追いやり、サニーとハッピーの

近くへと下がった。

 

サニー「う、嘘やろ!何て速さや!」

ハッピー「すご~い!速~~い!!」

その速さに驚嘆するハッピーとサニー。しかし、次の瞬間、

青色の少女が頭を押さえて地面に跪いてしまった。

    「えぇ!?どうしたの!?大丈夫!?」

キャンディ「きっとその娘はまだ力に慣れてないのかもしれないクル!   

      後はハッピーとサニーで悪いアカンベェを倒すしかないクル!」

サニー「えぇぇっ!?どうやって倒すんやあんな化けもん!」

キャンディ「スマイルパクトに気合を籠めるクル!それで

      プリキュアの癒しの力、サニーファイヤーでアカンベェを

      浄化するクル~!」

サニー「何やようわからんけど、やったるで!

    うぉっしゃぁぁぁぁぁっ!!」

足を開き、裂ぱくの気合と溜め始めるサニー。

そして、ハッピーと同じように気合いのエネルギーがオレンジ色の

粒子となってスマイルパクトに吸収され始めた。

   「あれ?力吸い取られてんで?」

ハッピー「サニー!続けて続けて!」

サニー「え!?何や知らんけど、わかった!」

再び、スマイルパクトに力を籠めるサニー

   「うぅぅぅぅっ!だあぁぁぁぁぁっ!」

ハッピーと同じように、そのエネルギーが臨界に達したその時、

サニーの頭上に火の弾が現れた。

   「何か火の玉出たけど、これどおせえっちゅうの!?」

と、混乱するサニー。しかし、それを見てある事を思いつくハッピー

 

ハッピー「あ!一緒にやった秘密の特訓だよ!」

サニー「え?あぁ!それや!」

昨日の夕方、共に特訓したことを思い出したサニーは、

火球に向けて助走をつけてから飛び上がった。

   「プリキュア!」

そして、右手をばねのように鞭のようにしならせて、

バレーのサーブのようにして、打ち出した

   「サニーファイヤー!」

 

一直線にアカンベェに向かって行ったサニーファイヤーは、

見事にアカンベェに命中し、その存在を浄化の炎で消し去った。

 

   「な、なんやこれ、めっちゃバテる」

初めての必殺技で、初変身、初必殺技の時のハッピーと同じように肩で

息をしてから、その場に崩れ落ちるようにへたり込むサニー。

   「サニー!」

サニー「ぶへっ!」

と、そこにハッピーがのしかかるように突っ込んできた。

ハッピー「日野さんがプリキュアになれてホントに良かった!」

サニー「ハハ、まだ全然わからんけど」

と、その時、サニーは上から何か落ちて来るのに気付いて、キャッチした。

   「何やこれ?」

キャンディ「キュアデコルクル!」

ハッピー「やったね!これも私達≪3人≫のおかげだね!」

と言うと、ハッピー、サニー、キャンディの視線は

頭を押さえながらも金色の姿に戻って立っていた少女に向けられた。

    「そうだ!ねぇねぇ!あなたの名前、私達に教えてよ!」

と、言って詰め寄るハッピー。

 

しかし、この時の金色の少女は≪戦士≫と≪人≫の境界線を

曖昧に彷徨っており、この時の彼女は質問に答えたわけではなかった。

だが……

 

???「……ア……ト」

ハッピー「え?何々?何て言ったの?」

???「≪ア・ギ・ト≫」

ハッピー「アギト……キュアアギト!それがあなたの名前なんだ!

     うわ~!なんかカッコイイ名前だね!」

と、今度はアギトと名乗った少女に抱き着くハッピー。

 

しかし、この時、初めて少女、アギトは、自分の中に眠る人としての

人格が、≪覚醒≫したのだった。

 

頭を押さえていたアギトは、唐突にハッとした表情となり、

辺りに、目の前にいるハッピーに、そして、何より自分自身の手に

視線を向けた。

 

ワナワナと震えだすアギト。そして、ハッピーもそれに気づいた。

    「?どうかしたの?大丈夫?」

そう言ってアギトの顔を覗き込むハッピー。

 

と、次の瞬間、アギトがハッピーを突き飛ばした

ハッピー「きゃっ!?」

サニー「星空さん!?あんた、いきなり何するんや!」

咄嗟に倒れたハッピーを支え、アギトに向かって抗議するサニー。

 

だが、今のアギトは自分の両腕を見つめて、震えていた。そして……

アギト「あぁ……あぁぁ……うわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

アギトは、悲鳴を上げながら二人に背を向け、走り出した

ハッピー「あ!待って!」

咄嗟にハッピーが止めようとするが、アギトはすぐに二人の視界から、

消えてしまった。

サニー「なんやのん、アイツ。味方ちゃうんか?」

ハッピー「キュア、アギト」

余りの事についていけないサニーと、静かに、彼女の名前を

口にするハッピーだった。

 

 

一方、学校の中を闇雲に走って居たアギトは、校舎裏にたどり着いて、

そこで石に躓いてこけてしまった。何とか、体を起こしたアギトの横。

学校の廊下の窓ガラスに、彼女の姿が映った。

 

それを見て、咄嗟に数歩後ずさるアギト。

だが、彼女はそれが自分である事に気づくのに、数秒を要した。

そして、次には、まるで信じられない、と言う顔をして

自分のあちこちを触り始めた。

 

と、次の瞬間、アギトの体から光が発せられ、そこから

一人の少女の姿があらわになった。それは………

 

何で。……なんで私、あんな姿になったの。私、私……

私は……私は………化け物に、なっちゃった。

 

その少女こそ、≪津神 黄金≫。その人だった。

 

 

新たなる少女の誕生と、戦う少女の覚醒。

目覚めた魂は何を思い、どうなっていくのか?

絶望の始まりか、希望の始まりか。それは誰にもわからない。

 

     第2話 END

 

 

 




如何でしたか?一応、アギト本編と同じように
黄金は2回目の戦闘後に初めて自分の事に気づいた風に
してみました。
楽しんでいただければ幸いです。


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第3話 3人目と歪んだ決意

今回はスマプリ第3話です。


~~前回までのあらすじ~~

プリキュアとなったみゆきは、キュアハッピーとして戦いに

身を投じて行くこととなった。一方、黄金は身に覚えのない

肉体の疲労や謎の頭痛に悩まされていた上、ある日喋ってもいない

友人、やよいの声が聞こえたりと、自分自身の体に恐怖にも似た

感情を持っていた。

そんな矢先、再び現れたウルフルンとそれを追うように現れた

金色の謎の少女。やがて戦いの中で≪日野あかね≫が新たなるプリキュア、

≪キュアサニー≫へと覚醒。自らの口で、≪アギト≫と名乗った少女

との協力で事なきを得た。

しかし、戦いの終了後、アギトは自分自身に恐怖するそぶりを見せて

ハッピーとサニーの前から逃走。校舎の陰で変身を解き現れたのは、

津神黄金だった。

 

 

サニーが覚醒した翌日。その昼休み。

みゆきとあかね、キャンディが学校の屋上のベンチで集まって

食事やら昨日回収したデコルの能力を確かめている一方。

黄金は一人、学校の隅の誰も使わないようなトイレの中で、

顔を洗っていた。

 

あの後、またフラフラになりながら帰った私はベッドに飛び込むようにして

眠った。

そして見た。全てを。

私が湖の前で気絶したあの後、何が起こっていたのかも。

 

あの時、40分ほど気絶していた私は、私じゃない、あの力に

≪動かされていた≫んだ。まるで、ロボットみたいに操られて……。

そして、星空さんが変身した、確かキュアハッピーと言ってたあの姿

と一緒に戦って、レンガの化け物を倒して。

昨日もそう。頭が割れそうな頭痛に襲われて、私の中の力が起きて、

敵と戦った。そして、その後、私が目覚めた。

 

今ならわかる。頭痛は私自身の力に対する副作用か抵抗なんだと思う。

体があちこち痛いのは、知らないうちに私が戦っていたから。

あの時、ノイズまみれのビジョンが見えたのは、私自身が

その光景を見ていたから。私の人格ではなくても、私が見ていたから

その記憶が頭の中に残っていたんだ。

そして、あの時やよいちゃんの声が聞こえたのも、多分この力のせい。

 

……。私の体、どんどん人じゃなくなっていく。

そう思いながら、私が顔を上げた時、目の前に鏡に紅い目と金髪の、

あの時の私が写ったように見えた

黄金「ひっ!」

 

咄嗟に悲鳴を上げて視線を逸らし、再び視線を戻す黄金。

鏡には、ちゃんと黄金自身の姿が映っていた。

それを確認すると、黄金は壁に寄りかかって、静かに、

そして一人で涙を流し始めたのだった。

 

その後、私は気分をすっきりさせるために、屋上に向かった。

あの事をこれ以上考えてもしかたない。と言うより考えたくない。

だから、別の事を考えるために私は屋上に向かった。

 

と、その時、階段の上からやよいちゃんが降りてきて私とすれ違った。

何だろうと思いつつ、階段を上がっていくが、屋上ではなぜか

みゆきちゃんとあかねちゃん。そして、あの謎の妖精みたいなのが

一緒に居て話をしていた。

 

それを見て、昨日の戦いの事を思い出してしまった私は踵を返して

下に戻っていった。

あの二人には悪いけど、みゆきちゃんやあかねちゃんと顔を合わせるたびに、

変身した時の顔と今の二人の顔がダブって見える。

それが、私の中の恐怖と不快感を煽ってしまうんだ。

 

……私は、普通の人間で居たかったよ。

 

そう思う彼女の頬を、また一つ、涙が伝った。

 

その翌日、私達の学校では今、美化週間と言う事でクラス別に

ポスターを作る事になった。しかし、その作る、もとい描く人が

また決まって居なくて、今はその人を決める話し合いになっていた。

そんな時、私の近くに居たみゆきちゃんやあかねちゃんがやよいちゃんを

推薦して、見事にそれが通っちゃった。

 

そして、どうやらみゆきちゃんとあかねちゃんがやよいちゃんに協力して

ポスターを描くことになった。そして私は、影からそれを見ていた。

 

そして、数日後。

私は張り出されたポスターを見ていた。しかし、やよいちゃんの

ポスターは努力賞となってしまった。でも、この数日間

こっそりとだけど、やよいちゃんやみゆきちゃん達が頑張っているのを

私は見ていた。だけど……

 

唐突に現れた男子たちがやよいちゃんの努力賞。そして、

3人の努力を≪負け惜しみ≫とけなし始めた。

 

もしこの時、黄金の心が平常を保っていたなら、彼女が怒りに身を任せる事は

なかったかもしれない。だが、今の彼女は自分自身の事で

情緒不安定となっていたのだ。その不安定さが、彼女の怒りを

爆発させてしまったのだ。

 

―――許せない―――

 

その時、私の中で、箍が外れた。

 

次の瞬間、私は美術部の部長、蘇我の取り巻きに近寄り、その顔面を

思い切り殴り飛ばした。

余りの事にみゆきちゃん達3人と周囲の生徒が呆然となった。

  「な、なにすんだ!」

唐突な事で非難の声を上げながら突っ込んでくるもう一人の男子。

だが、次の瞬間、その男子の側頭部に黄金の回し蹴りが炸裂し、倒れた。

 

倒れた男子生徒の背を踏みつける黄金

黄金「負け惜しみ?芸術?笑える。そういうあなた達ポスターこそ、

ただの醜い化け物じゃない。環境美化と化け物がどうつながるのか、

ぜひ教えてほしいですね」

そう言って、色を失いかけている瞳で蘇我を睨みつける黄金

  「私に言わせれば、才能やらなんやらに物を言わせてそうやって

   他人の努力をバカにする奴らが一番大っ嫌いなのよ!」

そう言って眼下の男子生徒を足蹴にする黄金。

  「自分の力でやよいちゃんに勝ったわけでもないのに、

   偉そうにほざくなぁぁぁっ!!」

そう言って、倒れている男子生徒を立たせて再び殴り飛ばすを

繰り返す黄金。

仕舞には男子が泣きだそうが喚こうが殴り蹴る事をやめない黄金。

 

みゆき「こ、黄金ちゃん?」

あかね「アカン、始まってしもうた」

みゆき「どういう事なの、あかねちゃん」

あかね「…あれは、ウチが転校してきたばかりの頃の事や。

    ある女子生徒が男子に告白したんやけど、男子はそれを

    面白がって女子生徒を笑いもんにしてしもうたんや。

    それで、それを知ったその女子の友達だった黄金が……」

みゆき「黄金ちゃんが、どうしたの?」

あかね「…その男子生徒をボコボコにのしてしまったんや」

みゆき「え?」

あかね「黄金は普段はめっちゃ優しいんやけど、怒ると誰も手が付けられない

    くらい狂暴になってしまうんや。最近はその『スイッチ』が

    入った姿は見た事なかったんやけど……」

 

その後、話を聞いてやってきた先生たちによって、黄金は別室に

連れていかれてしまった。その去り際、黄金は……

 

   『ビリリリリッ!』

 

蘇我の作品をびりびりに破いてしまった。

 

 

その後、黄金は応接室で佐々木と話をしていた。

佐々木「津神さん。あなたは何をしたか分かっているんですか?」

黄金「……やよいちゃん達の努力を笑った男子をぶっ飛ばしました」

佐々木「暴力を振るったんですよ!わかってるんですか!」

黄金「……あんな奴ら、殴りでもしなきゃすっきりしないんです。

   ろくな絵も描けないくせに他人を上から目線で語る奴らなんて。

   芸術家気取りの馬鹿にはいい薬です」

アギトの件で情緒不安定な事もあり、未だにスイッチが『入った』状態から

戻らない黄金。

佐々木「……津神さん、最近おかしいですよ?授業中もぼーっとしたり。

    何かあるなら、先生に相談してください。ね?」

 

相談?……そんな事できるわけない!どうせ、話したって私の事を

化け物呼ばわりするだけだ!何が先生だ!どうせ上辺だけのくせに!

 

ギリギリと奥歯を噛みしめ、怒りが収まらない黄金。

今の彼女は怒りと猜疑心が全面に出た状態になってしまっていたのだ。

 

と、その時、黄金の脳裏に『敵』の存在を感知する波動が伝わってきた。

それと同時に周囲をバッドエンド空間が包み、黄金の目の前の

佐々木を無力化してしまった。

 

それを見た黄金は、応接室を出て、一人『敵』に向かって歩き出した。

そんな中で、彼女は考えていた。自分自身の事を。

 

……あぁ、そうか。やっとわかった。

 

ただ一人、ゆっくりと『敵』の居る方へと歩みを進め、無気力な生徒達

であふれる廊下を歩いて行く黄金

 

私の力は、『敵を倒す』ための物なんだ。

 

やがてたどり着いた昇降口から外を見ると、そこではあかねちゃんと

みゆきちゃんが赤い鬼みたいな怪人と向かい合っていた。その傍には、

無気力化したやよいちゃんの姿もあった。

 

あれが……私の敵。

 

そう思い、自分の『殺すべき』相手を、赤い鬼『アカオーニ』だと

判断する黄金。

 

私のやるべきこと。それは………

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して

殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して

……殺し続けて、最後に私が死ぬ。きっとそうなんだ。

 

そう、自分に言い聞かせながら私は両手を左腰の所で交差させてから、

右手を戻して縦に構えた。

   ≪QUUUUUN!≫

すると、私のお腹に光を放ちながら金色のベルト≪オルタリング≫が現れた。

黄金「………変、身」

静かに呟きながら、ベルトの両サイドのスイッチを叩く黄金

   ≪QUOON……QUOON……QUOON≫

 

スイッチを押すと、ベルトの中央から強烈な光が放たれ始めた。

   ≪カツーン……カツーン……カツーン……≫

ゆっくりと歩みを進めながら校舎の外に出た黄金。

 

そして、その音に気づいて変身しようとしていたみゆきとあかねが振り返り、

アカオーニもそちらに視線を向けた。

みゆき「あの光!もしかして!」

アカオーニ「オニ?お前は誰オニ!」

 

あれを、殺せばいいんだ。

   ≪VUUUUUUUN!≫

そう思った時、私の体を光が包み、私はアギトの力を呼び出した。

 

みゆき「やっぱり!キュアアギト!」

あかね「って、あれがホンマにあの時のプリキュアなん!?ウチらと

    全然違うやん!」

と、私を見て驚くあかねちゃんと私をキュアアギトと言うみゆきちゃん。

でも、私はなんだっていい。どうせ、やる事は変わらないのだから。

あの鬼モドキを、叩き潰す!

 

私はみゆきちゃん達に一度だけ視線を送ってから、赤い鬼に向かって歩き出した。

アカオーニ「そうか。お前がウルフルンの言ってた一番強いプリキュアオニか!」

アギト「………」

アカオーニ「だったらちょうどいいオニ!オレさまのアカンベェで――」

と言って、赤い球体、赤っ鼻を取り出そうとするアカオーニ。だが、次の瞬間、

アギトがアカオーニの眼前に急接近していた。

     「オニッ!?」

一瞬の事で驚いて数歩後ずさるアカオーニ。

だが、次の瞬間、アカオーニの顔面にアギトの飛び膝蹴りが命中した。

     「オニ~~~!」

吹っ飛ばされて背後の壁に激突するアカオーニ。

と、今度はそこにアギトが突っ込んできて、ショルダータックルの要領で

アカオーニをさらに壁の中に押し込んだ。

 

壁に激突した衝撃で出来た砂煙の中から、アギトがジャンプして出て来て、

みゆき達の前に着地した。

 

他愛ない。これが私の敵なんだ。……後一撃、頭に入れれば倒せるだろう。

 

そう言ってアカオーニの居る場所に歩みを進めたアギト。

と、その時、彼女めがけて煙の中から瓦礫が飛んできた。

しかし、それを無表情のままの裏拳の一撃で粉砕するアギト。

 

煙の中から、お腹を押さえつつアカオーニがゆっくりと出て来た。

アカオーニ「よくもやりやがったオニ!もう許さないオニ!」

すると、アカオーニは再びアカンベェを呼び出そうとした。

 

みゆき「っ!あかねちゃん!」

あかね「合点!行くで、みゆき!」

みゆきの言葉の意味を理解したあかね。二人は、スマイルパクトを取り出し、

プリキュアへの変身を始めた

 

   『レディ!』

み・あ「「プリキュア!スマイルチャージ!!」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

パクトから光と共に飛び出したパフを使って変身するみゆきとあかね

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン!熱血パワー!キュアサニー!」

名乗りを上げる二人。そして……

 

アカオーニ「出たオニね、忌々しいプリキュア!オレさまのアカンベェで

      捻りつぶしてくれるオニ!出でよ!アカンベェ!」

すると、アカオーニの持っていた赤っ鼻から溢れたエネルギーが

アカオーニがくしゃくしゃにしたやよいの絵と融合して、

やよいが描いていたヒーロー、クリーンピースマンとピエロが

融合したようなアカンベェが誕生してしまった。

     「行け!アカンベェ!」

   『アカンベェ!』

アカオーニの命令に合わせて、塵取りと箒を武器にしたアカンベェが

襲い掛かってきた。

ハッピーとサニーはその箒による攻撃を回避し、ダブルキックを

叩き込もうとするが、塵取りに弾かれてしまった。

 

今度はアギトがアカンベェに向かって走り出した。

     「アカンベェ!そいつを突き飛ばすオニ!」

   『アカン、ベェ!』

命令に合わせ、左手に持っていた箒を槍のように突き出してくるアカンベェ。

だが、アギトはそれをジャンプで回避し、箒の柄の部分に着地し、

もう一度跳躍。アカンベェの顔面にキックを喰らわせて体勢を崩させた。

 

ハッピー「あ!サニー!今だよ!」

サニー「成程!よっしゃ!一緒に行くで!」

今が必殺技の好機と判断したハッピーとサニー。

ハッピー「う~~!気合いだ気合いだ~~!」

サニー「よっしゃぁぁぁぁぁぁ!」

 

スマイルパクトにエネルギーをチャージした二人。そして……

ハッピー「プリキュア!ハッピーシャワー!」

浄化の力を使うハッピー。だが、それは起き上がったアカンベェによって

回避されてしまった。……もっとも、回避以前のその眼前で

消滅していたため、技としては命中したとしても不発だった可能性が高いが…。

サニー「外れた!?こうなったらウチが!」

今度はサニーが浄化の技を繰り出した。

   「プリキュア!サニーファイヤー!」

 

先日の戦闘の時と同じようにバレーの要領で火球をアカンベェに向けて

レシーブするサニー。

しかし、彼女の技もアカンベェの眼前で消滅してしまい、不発となった。

   「な、なんでや~」

キャンディ「ちゃんと力を込めてないからクル~!」

そして、パワー切れでハッピーとサニーはその場にへたり込んでしまった。

 

その様子を見て、アギト…黄金は……。

 

やっぱり。…みゆきちゃん達は戦いには向いていない。それに、

あの技は一発が限界。これ以上は使えない。しかも、あの技は使う人の

体力を力に変えている技だから、一度使えば体力がなくなって動けなくなる。

……となると、浄化は無理。だったら、私が倒す。

 

   『アカンベェ!』

アカンベェが二人めがけてビームを発射してきた。

キャンディ「ハッピー!サニー!逃げるクル~!」

と、その時、ビームと二人の間にアギトが割って入り、

そのビームを右手一つで受け止めた。

 

ビームの照射が終わると、アギトに庇われ、無傷の二人と右手から

煙を上げるアギトの姿があった。

     「キュアアギト!すごいクル~~!」

アカオーニ「はっ!プリキュアが何だオニ!所詮その金ぴか以外は

      ただの役立たずオニ!そんな役立たずが頑張っても

      無駄オニ!」

 

その言葉に、ハッピーとサニーは手を握りしめながら立ち上がった。

ハッピー「無駄かどうか……」

アカオーニ「ん?」

ハッピー「私にはまだわかんないけど……一生懸命描いた黄瀬さんの努力を

     バカにするのは、許せないっ!」

その叫びが周囲に木霊した時、絶望から抜け出した者の姿があった。

 

―――やよいだった―――

 

 

やよい「え?なに、これ?一体何が……」

ハッピー「あ!黄瀬さん!」

やよい「え?その声、もしかして、星空さん?」

ハッピー「あ、うわあああっ!ごめ~ん!それは秘密なの~!」

サニー「だからそんなんゆうたらバレバレやろ!」

ハッピー「あ、そっか!」

やよい「えぇぇ?」

 

余りの事に混乱するやよい。と、その時、アカンベェが目標を

やよいに変更して突進してきた。

   『アカンベェ!』

ハッピー「黄瀬さん!危ない!」

やよい「うわあぁぁぁぁっ!!!」

 

咄嗟に両腕で頭を庇うやよい。だが、この時、アカンベェを追い越し、

やよいを抱き上げて飛び、近くのオブジェクトの上に着地した者がいた。

アギトだった。

   「う、う~~~。…あ、あれ?私、どこも、怪我してない?」

と、その時、やよいが周囲を見回して、アギトと視線が交差した。

   「え、あ。あ、あなたは?」

アギト「………」

無言でやよいを見つめるアギト。そして、やよいはその目を見て………

 

やよい『うわ~この人の目、赤くてキレ~~。

    ……って、私、今、お姫様抱っこされてるの!』

初めて自分がアギトにお姫様抱っこされている事に気づいたやよいは

顔を真っ赤にしてしまった。

 

一方で………。

 

……。傷つくには、化け物の私一人で十分。どうせ、戦いが終われば死ぬんだ。

だからせめて、一人でも多くの人を助けて、戦って、死のう。

それが、きっと化け物になった私の運命なんだから。

 

そう思いながらアギトはハッピー達の近くに着地し、やよいを下した。

アギト「……ハッピー、サニー」

ハッピー「は、はい!って、今喋ったの!?」

サニー「初めて喋ったんとちゃうん!?」

アギト「………この子を、お願い」

そう言うと、アギトはアカンベェの方に視線を向け、歩き出した。

そして、そのまま流れで自身のベルトの左側のスイッチを叩いた。

 

すると、ベルトの中心から現れたストームハルバードを掴んで引き抜き、

刀身の展開と共に風の能力を備えた『ストームフォーム』へと

姿を変えるアギト。

 

アカオーニ「姿を変えたからってなんだオニ!アカンベェ!まずは

      そいつから倒すオニ!」

   『アカンベェ!』

命令に従ってアギトに襲い掛かるアカンベェ。

まずは、箒の先端で突き攻撃を繰り出してきた。

アギト「はっ!」

それをハルバードの切っ先で逸らして、最小限の動きで回避したアギト

続けて繰り出された塵取りの振り下ろし攻撃はサイドステップで

回避し、二度目の突きはハルバードの柄部分で受け止め、それを

上に逸らし、その腹部を蹴って吹き飛ばした。

 

ハッピー「すごい!やっぱり強いよキュアアギト!」

サニー「ウチらだって、負けへんで!」

アギトの戦いぶりに触発されて力が回復してきたハッピーとサニー。

 

だがこの時、その背後にアカオーニが迫っていて、凶悪な笑みを浮かべながら

こん棒をハッピーめがけて振りかざしていた。

アギト「ッ!危ない!」

真っ先にアカオーニの存在に気づいたアギトが警告を発し…

ハッピー「え?」

呆けた声を上げながら振り返るハッピー。

アカオーニ「死ねぇ!プリキュアァ!」

ハッピー眼前にはすでにアカオーニのこん棒が迫っていた。

アギト「ッ!はあぁぁぁぁぁっ!」

 

その時、アギトの頭部のクロスホーンが展開し、その肉体の力を

限界まで引き上げた。本来、この展開は必殺技の際だけなのだが、

進化するその力の可能性は無限大なのだ。

 

そして、いま必要なのは、『速さ』だ。

 

フォームの中でも一番速度に特化したストームの俊敏性を限界まで

引き上げたアギトの速度はマッハ1。或いは、それ以上の速度で

走り、彼女はハッピーを抱きかかえ、飛んだ。

 

次の瞬間、アギトの後頭部にアカオーニのこん棒が振り下ろされた。

アギト「っあ!」

アカオーニ「やったオニ!」

ハッピー「キュアアギト!!」

サニー「こんのぉ!どりゃあ!」

   『ドガッ!』

アカオーニ「オニィ!」

ハッピーを抱えたまま吹き飛ぶアギト。そしてサニーはアカオーニを

後ろから蹴っ飛ばした。

 

ゴロゴロと地面を転がってからハッピーを放すアギト。

同時に、ストームフォームへの変身も解除され、金色の

グランドフォームへと戻ってしまった。

ハッピー「キュアアギト!しっかりして!」

アギト「っ。……」

頭を押さえながらも立ち上がったアギト。

 

頭を打たれた事でフラフラになりながらも立ち上がったが、

すぐに体勢を崩してしまったアギト。

ハッピー「アギト!」

サニー「うわああっ!」

と、そこにアカンベェの攻撃でサニーがハッピーとアギトの近くに

飛ばされてきた。

 

アカオーニ「はっはっは!これで終わりオニプリキュア!

      アカンベェ!トドメオニ!」

命令に合わせ、アカンベェは箒と塵取りの柄を接続して薙刀形態へと

変化させ、それを回転させながら倒れているハッピー達の方に向かってきた。

 

しかし、3人とアカンベェの間に立ちふさがる者がいた。やよいだった。

 

ハッピー「黄瀬さん!?」

アカオーニ「何だお前は?弱虫はひっこんでろオニ」

やよい「私は泣き虫だけど、すぐ泣いちゃうけど、二人は私が勇気を出す

    きっかけをくれた大切な友達だもん!」

ハッピー「黄瀬さん!」

サニー「やよい!」

やよい「二人を傷つけるのだけは……絶対許さないんだからぁっ!」

 

周囲のやよいの言葉が響いた次の瞬間、黄色い光がやよいを包んだ。

ハッピー「嘘!?これって……」

アギト「…目覚めの、時」

 

やよい「ふぇぇっ!?!」

黄色い光の空間に浮かぶやよい。と、その時、彼女の前に

第3のスマイルパクトが現れた。

   「何これ!」

と、その時、やよいの頭の上にキャンディが現れた。

キャンディ「スマイルパクトクル!」

やよい「あ、キャンディ!って、おもちゃじゃなかったの!?」

キャンディ「そんな事はいいクル!早くスマイルパクトにキュアデコルを

      セットして、プリキュアスマイルチャージって叫ぶクル!」

やよい「よくわかんないけど、やってみる!」

 

スマイルパクトを開き、みゆきのピンク、あかねのオレンジのように、

イエローカラーの専用デコルをセットするやよい

   『レディ!』

   「プリキュア!スマイルチャージ!」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー、ピース!』

飛び出したパクトをタンバリンのように叩いて変身していくやよい。

そして、≪第3≫のプリキュア、≪キュアピース≫が覚醒した。

ピース「ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪キュアピース!」

と、ピースサインを決めながら名乗りを上げるキュアピース。

 

ハッピー「キュアピースかわいい~~!」

サニー「『じゃんけんポン♪』?なんやそれ?」

アカオーニ「≪4人目≫のプリキュアだとっ!?」

ピース「これが、私?……すご~い!本物のスーパーヒーローみたい!」

と、自分の体を見回してはしゃいでいるピース。

 

   『アカンベェ!』

と、その時、ピースの目の前にいたアカンベェが薙刀状の武器を

ヘリのローターのように回転させ始めた。

 

アカンベェと睨みあい、咄嗟に構えるピース。

ハッピーとサニーはそれを心強そうに見つめるが……。

 

ピース「…………。うぅ、いやあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

アカンベェに恐れをなして泣きながら逃げ出してしまったピースと

それを追うハッピー、サニー。

キャンディ「逃げちゃダメ~クル!プリキュアは、伝説の戦士クル!」

逃げようとするピースにそういうキャンディだが……。

 

ピース「そんな事言われたって、怖いんだも~ん!」

そう言って、涙を浮かべながら逃げるキュアピース。

 

しかし、運悪く地面の段差に足を取られてこけてしまった。

そこに、武器を振り回しながらアカンベェが追いかけてきた。

アカンベェを見て、今にも泣きだしそうなキュアピース。

 

と、その時……。

アギト「はあぁぁぁぁぁっ!!」

アカンベェの後頭部を後ろから思い切り蹴りつけ、その後頭部を蹴って

ハッピー達の前に着地するアギト。

 

ピース「え、あ。あなたは……」

その時、キュアアギトの額から一筋の血が流れた。

ハッピー「血が!!」

サニー「ひょっとして、あの時の!」

だが、それを気にするアギトではなかった。

 

アギト「……私には、戦う事しか、できない」

ピース「え?」

ただ一言、それだけ言うとアギトはクロスホーンを展開しながら両手を

左右に開き、左足を後ろに引いた。

すると、彼女の足元に金色の紋章が現れた。

そして、手の動きと足の動きに合わせて、紋章がアギトの

靴裏に吸収されていった。

 

アカオーニ「立つオニアカンベェ!先のその金ぴかを倒すオニ!」

   『アカンベェ!』

命令に従って起き上がったアカンベェは武器を振り上げた。

だが、逆にその隙を狙っていたアギトが駆けだした。

そして、でかい図体の真下をスライディングで通過したアギトは

すぐに体勢を立て直してジャンプした。

アカンベェが振り返る頃にはアギトはアカンベェに向けて足先を伸ばしていた。

アギト「はあぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

彼女の放つ必殺技、『ライダーキック』がアカンベェの胴体に炸裂した。

 

しかし、頭部への打撃を受けた事で狙いが若干逸れてしまい、撃破までには

至らなかった。ゴロゴロと転がってから壁に激突するアカンベェと、

着地してから地面に膝をつき、頭を押さえるアギト。

 

ハッピー「アギト!」

サニー「アカン。あの傷のせいでもうまともに戦えないんや」

ハッピー「でも、私達はもう技が使えないし……」

ピース「技?って何?」

キャンディ「そうクル!キュアピースの力を使うクル!」

ピース「え、あ、わ、私?」

キャンディ「そうクル!キュアピースの雷の浄化の力で、アカンベェを

      倒すクル!」

ピース「で、でも、どうやって?」

キャンディ「スマイルパクトに力を籠めるクル!」

ピース「それって、これの事?」

そう言われ、腰に下げていたスマイルパクトを手に取りハッピー達に見せるピース

ハッピー「うん!そう、それ!」

ピース「わ、わかった。やってみる!」

そう言うと、スマイルパクトをもって前に掲げるピース

 

   「はあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

気合いのエネルギーを充填していくピース。そして、それが臨界となり、

プリキュアの必殺技が発動した。

   「プリキュア!」

右手でピースサインを作り、上に掲げるピース。

すると、その指に落雷が落ちた。

   「うわぁっ!?……ピースサンダー!」

雷に驚き、涙目になりながらも、技を発動させるピース。

 

発射された雷は一直線にアカンベェに向かい、直撃。

その闇の力を浄化させることに成功した。同時に、アカンベェの元に

なっていたやよいの絵も、くしゃくしゃな状態ながら戻ってきた。

 

キャンディ「やったクル~!!」

アカオーニ「むぅ、プリキュア!次は容赦しないオニ!」

そう言うと、撤退していくアカオーニ。

 

それを見て、変身を解除するみゆき、あかね、やよい。

だが、アギトだけは姿を保ったまま、3人を見つめてから、

遠ざかるように歩き出した。

みゆき「あ!待って!」

咄嗟にアギトを呼び止めるみゆき

   「私たち、同じプリキュアなんだよね!」

 

しかし、この言葉はアギトの、黄金の心を抉る結果となってしまった。

 

同じ?私が、みゆきちゃん達と?……違う!私は人間じゃない!

プリキュアなんかじゃない!

 

   「だから、一緒に戦おうよ!」

アギト「………私は…」

みゆき「?」

アギト「私は、あなた達とは違うの」

みゆき「?」

アギト「だから一緒には戦えない」

みゆき「あ!待って!」

そう言うと、アギトは制止を聞かずに3人に背を向け、どこかへと行ってしまった。

 

その後、仲を深めていたみゆき、あかね、やよい。一方で黄金は

応接室に戻り、佐々木の復活を待っている間、ずっと考え事を

していた。

 

そう、私はもう人間じゃない。みゆきちゃん達のようなプリキュアでもない。

ただ、戦い続けるだけの化け物、アギト。

相手を浄化するのではなく、倒す、殺すための力。私はもう、

戻れない。戦って戦って、誰にも知られることなく死ぬ。

きっと、それが私の運命。

だったら私は戦い続ける。人の皮を被った怪物として。

 

そう、静かに、だが、歪んだ決意を持ってしまった黄金。

 

新たなる戦士の覚醒と、壊れ始める少女の心。

アギトとなった少女は、このまま暗い運命の中を進むしかないのか?

 

     第3話 END

 

 

 




作中の中で黄金は精神的に追い込まれました。
しばらくはこんな状態が続きます。
自分的には年頃の女の子がアギトに、異形になったら
流石に翔一や凉みたいに居られるはずがないと
想い、こうしました。
自分ではビューティ加入後にオリジナルの第6話、
つまり6.5話を作って投稿するつもりです。


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第4話 緑の風と紅の炎

今回はスマプリ第4話です。


~~前回までのあらすじ~~

アギトのとしての力を自覚してしまった黄金は自分が

化け物になってしまったと思い、情緒不安定な状態になってしまった。

そんな中で、ウルフルンに変わる新しい怪人『アカオーニ』が

現れ、苦戦してしまうハッピーとサニー。

しかし、そんな中でみゆき、あかねと絆を結んでいたやよいが

3人目のプリキュア、『キュアピース』として覚醒。

彼女の力で、アカンベェを撃退する事が出来た。

だが、一方で黄金は自分自身がプリキュアとも人とも違う、

ただ敵を倒す、いずれ死にゆく化け物だと、歪んだ決意を

宿してしまった。

 

 

やよいちゃんの覚醒からすでに数日が経ったある日。

あの日以降、私は人間と怪物の両方を演じることにした。

普段はいつもの優しいって思われてる私。でも、戦いになれば、

私は敵を倒すだけの怪物。

お昼休みの今だって、私はみゆきちゃん達と一緒に中庭のベンチで

一緒にお昼を食べていた。そんな時だった。

 

みゆき「へ~!やよいちゃんのお弁当って、キャンディ!」

やよい「えへへ、作ってみたくって」

黄金「あ、私知ってるよ。そういうの、キャラ弁とかって言うんでしょ?」

あかね「ほえ~。んじゃ、味見味見っと。ん!うま~!」

と、和気あいあいとしていた時、4人の前に3年の生徒が近づいてきた。

 

A「ちょっとあなた達。悪いけど、移動してくれない?」

B「ここは私たちの場所なの」

 

あぁ、屑が来た。

偉そうに、何が私たちの場所よ。そんなに言うなら張り紙とか

張っておきなさいっての。

 

心の中で先輩に向かって悪態をつく黄金。

 

みゆき「え?」

A「私たち、いつもここで食べてるの!」

あかね「そんなん、早い者勝ち違うんですか?」

立ち上がって抗議するあかねちゃん。

 

そうだ。一体いつここがこんな奴らの物になったのか、教えてほしいくらいだ。

A「ここはいつも私たちが使ってるの!」

B「あなた達2年でしょ!」

年齢が何よ。

あかね「な、なんですかそれ。そんなんに2年も3年も関係ないと違います?」

B「良いから退きなさいよ!」

あぁ、うるさい。うるさい。

 

黄金「偉そうに。ただ一年生まれた年が早いからって」

 

今まで黙っていた黄金が声を上げ、注目を集めた。

A「何よ、先輩に口答えする気!?」

黄金「私たちは正しい事を主張しただけです。

   公共の場所を専用の場所と勘違いして偉そうに

   先輩面してる先輩の何処が正しいって言うんですか!」

B「何ですって!?」

先輩の片方が掴みかかって来ようとしたその時……。

 

なお「先輩方。それまでです」

みゆき「緑川さん!」

なお「黄金も言い過ぎなのはありますが、後から来て

   場所を横取りするなんて、おかしいと思います!」

B「横取りだなんて!」

なお「中庭はみんなの場所です。先輩達の言う事は、

   少し筋が通っていないと思います!」

 

流石に、これには反論できない二人。

みゆき『ほわ~!勇気ある~!かっこいい~!』

黄金『一直線なのは、相変わらず、か』

それぞれ、なおについての事を心の中で漏らすみゆきと黄金

 

と、片方が反論しようとした時。

???「アッハッハ。確かにその通りだね」

唐突に、先輩達の後ろから声がした。そこに居たのは……

A・B「「入江生徒会長!」」

入江「確かに、君の言うとおりだ。ここは学校のみんなの場所だもんね。

   ね?」

会長が先輩方に同意を求めると、先輩達は顔を赤くして同意した。

 

うざい。白々しい。イライラする。

さっきとは打って変わって、女子に人気のある会長に嫌われたくないとか、

良い目で見られたいばかりに、体裁を繕い、上辺だけの謝罪を述べる。

こんなのが人間かと思うと、イライラする。

……。闘いになっても、あんな奴らなら、護る価値もない、か。

 

と、去って行く先輩を私は睨みつけていた。

 

その一方で、みゆき達と話をしていたなおちゃんだけど……

 

なお「それより黄金。あれは言い過ぎだよ?黄金が怒ると止まらないの

   は知ってるけど、最近特に怒りっぽくなってない?」

あかね「そういや、最近黄金の笑った顔、あんまり見てへんな」

やよい「何か、あったんですか?」

黄金「………」

なお「私に相談できることがあれば相談に乗るからさ。だから――」

黄金「…話したって、どうにもならないよ」

 

そう言うと、私は食べかけのお弁当をもって、中庭の屋根付きベンチから

離れて行った。

 

数日後、私は屋上でお弁当を食べようと一人で向かっていたけど、

先客がいた。みゆきちゃん達3人が屋上のベンチに座ってお弁当を

食べていたんだ。私は、開きかけたドアの陰に隠れた。

 

あかね「それにしても、気になるな~」

みゆき「何が?」

あかね「ほら、やよいが初めて変身した時あのアギトがゆうてたやろ?

    ≪私は、あなた達とは違うの≫って。あれがどうも気になってな~」

やよい「違う、と言えば、確かに私たちとは違うよね」

みゆき「え~っと、どこが?」

やよい「まずは、あの人、アギトはスマイルパクトを持ってない事と、

    私たちみたいに名乗りを上げない事と、後は……。

    あ、技を使うのにパクトを使わずに、こう、角を開く事とか?」

あかね「後はベルトのスイッチを押して姿を変える事もそうやな。

    今は金色になったり青になったり。青の時はベルトから武器を

    取り出してたな」

やよい「そもそも、私たちが変身するにはこのスマイルパクトを使うわけだけど、

    キュアアギトがそれを持ってないなら、どうやって変身してるんだろう?」

キャンディ「確かにそうクル」

あかね「う~~ん。謎は深まるばかりやな~」

 

謎、か。

それでいい。私は謎だらけの化け物。ただ戦うだけの戦闘マシーン。

それが私の運命なんだ。

 

そう思いながら、黄金は静かにその場を離れた。

しかし、もし黄金がこの後のみゆき達の話を聞いていたら、

その心は少しは癒えたかもしれない。なぜなら……。

 

あかね「そういや、あのアギトが最初に現れたのは何時なんや?」

みゆき「えっとね。一番最初に私があの子を見たのは私が初めて変身した時

    なんだ」

やよい「それって、転校していた日の事だよね?」

みゆき「うん。…帰り道、キャンディを追いかけてきた悪い狼さんから

    襲われた時、助けてくれたのが最初だった」

やよい「狼、さん?」

あかね「昨日のは赤鬼やったけど、あれとは別に狼男みたいなのが

    おるんや」

みゆき「それで、私とキャンディの事を守ってくれて、一緒に戦って。

    後は、技を使った後ってすっごく疲れるでしょ?私も

    初めてハッピーシャワーをしたとき、バテバテになっちゃって。

    アハハ。それで、倒れそうになった私をお姫様抱っこして

    近くの公園のベンチまで運んでくれたの。

    あの時はカッコよかったんだよ~!私をお姫様抱っこして、

    顔はキリッとしてて~~。王子様みたいでかっこよかったんだよ!」

やよい「あ、それ。私の何となくわかる。私のあの時お姫様抱っこされたから」

と、顔を赤くしてみゆきに同意するやよい。

あかね「なんや、まるで恋するお姫様やな~二人とも」

と、みゆき達の事を茶化すあかね。それに対して、みゆきは……。

みゆき「そそ、そんな恋だなんて!そこまでじゃないよ~!」

やよい「そうだよ~!ただ感謝してるとか、そういうので、ベベ、

    別に恋だなんて~」

と、二人して顔を赤くしながらパタパタと手を振って否定していたのだった。

あかね「お?なんや、脈あり、って感じやな~」

と、話しながら3人は心を閉ざし始めた黄金と対象的に、笑っていたのだった。

みゆき『でも、本当にキュアアギトって、誰が変身してるんだろ?』

そう思いながら、青い空を見上げるみゆきだった。

 

数日後の休日。

 

その日、私はローラーシューズを履いて町中を散歩していた。

これは私の趣味の一つで、よくこうやってローラーシューズを履いて

町中を滑っている。自転車とも違う風を切って進むのが好きなんだよね。

 

もっとも、今はただ、アギトの事を忘れたいから滑っているだけなんだけど……。

 

そして、私がスーパーの近くを通りかかった時だった。

なお「あ、黄金!」

黄金「え?」

なおちゃんの声が聞こえたので、私は足を止め、振り返った。

そこでは大荷物を持ったなおちゃんが私服姿で立っていた。

  「ど、どうしたのその大荷物!?」

なお「え?あぁこれ?実はお父さん達が町内会の集まりで出かけててさ。

   私が妹たちのごはん作らないといけないんだ。それで、悪いんだけど……」

黄金「何?」

なお「黄金、手伝ってくれないかな~?ほら、料理得意でしょ?お願い!」

と言って手を合わせるなおちゃん。仕方ないな~

 

黄金「良いよ。手伝ってあげる。ほら、荷物持つから」

私はなおちゃんのビニール袋をもって一緒に歩き出した。

 

それから数分後。なおちゃんの家に向かっていたんだけど……。

 

なお「あれ?あれって……星空さん?」

 

―――ゾクッ!―――

 

その名前を聞いて、私はみゆきちゃんに関する記憶。つまり

戦いの記憶を思い出してしまった。

 

―――戦え!―――

 

なおがみゆきに駆け寄って話をしている近くで、黄金は頭痛と

ノイズまみれの不可解な声に襲われていた。

不安定な彼女の精神が彼女自身の歪な決意のせいでさらに不安定に

なってしまったのだ。

 

なお「あ、そうだ。黄金、行くよ、って!黄金!大丈夫!?」

後ろに振り返ったなおが黄金が頭を押さえているのに気付いて駆け寄った。

黄金「う、うん。大丈夫。ちょっと立ちくらみがしただけだから。

   それより、早くなおちゃんの家に戻らないと。

   私がお昼作ってあげるからさ」

なお「う、うん」

 

何とか納得したなおちゃんに案内されて、私とみゆきちゃんは

なおちゃんの家に向かい、数分後には到着した。

 

みゆき「ここが、緑川さんのお家?」

なお「そうだよ」

みゆき「へ~。って、あ!そうだった!私ね、緑川さんに話が合って

    会いに来たの!」

なお「話?」

 

まさか。……もしかして、なおちゃんもプリキュアに?

と、思っていた時、そのみゆきちゃんの話は中から飛び出してきた

大勢のなおちゃんの妹ちゃんや弟君によって阻止された。

なお「ただいま。それじゃ、お姉ちゃんの友達に紹介するから、

   はい、整列」

というと、横一列に並ぶなおの妹と弟たち

  「上から、けいた、はる、ひな、ゆうた、こうた。」

5人「「「「「こんにちは~~!」」」」」

みゆき「わぁ!あ、こ、こんにちは!」

なお「お姉ちゃんの友達の星空みゆきちゃんだよ。

   黄金はよく世話を手伝ってもらってるから知ってるでしょ?」

みゆき「え?黄金ちゃん、お世話って?」

黄金「私となおちゃんは小学校からの幼馴染なの。なおちゃんの家は

   ごらんのとおりの大家族だし、私は料理は得意だから。

   よくなおちゃんのご両親が忙しい時とかにこの子達の

   お世話の手伝いをしているの。さぁ、今日はこの黄金お姉ちゃんが

   ごはんを作ってあげるからね~」

5人「「「「「は~~い!」」」」」

 

と、言う事で黄金はなおと協力してお昼ご飯を作ったのだった。

 

ちなみに、その間にみゆきは5人に遊ばれ、玩具と思われたキャンディは

遊ばれ、フラフラになりながらもあかねとやよいを呼びに行ったのだった。

 

お昼の後、近くの河川敷でサッカーをするけいた達5人を土手の上から

見つめるなお、みゆき、黄金。

 

しかし、なおとみゆきが話をしている横で黄金はボーっと河川敷から見える

川を見つめていた。

 

あぁ、落ち着く。何も考えないで、このまま、時間が過ぎて行けばいいのに。

 

そう思いながら体育座りの姿勢でゆっくりと瞳を閉じて行く黄金。だが……

 

あかね「お~~い!」

キャンディが呼んできたあかねとやよいが合流してきた。

 

私は、その声で現実世界に呼び戻されてしまった。

なお「あかね!やよいちゃん!」

みゆき「えへへ、私が呼んだんだ。みんなで遊んだほうが良いかなって…」

なお「そうだったんだ」

あかね「お?なんや、黄金もおるんか。…って、黄金、大丈夫か?顔、真っ青やで?」

みゆき「え?」

その言葉を聞いて、自分の後ろに居る黄金に振り返るみゆき。

 

確かに、今の黄金の顔は真っ青な状態になっていた。

なお「黄金、大丈夫?」

黄金「う、うん。大丈夫。ごめん、私、ちょっと帰るね。体の、調子が

   いまいちだから」

やよい「そうなんですか。気を付けて帰ってね」

黄金「う、うん。それじゃ……」

 

私は、やよいちゃん達が来た道をとぼとぼと歩き出した。

 

みゆきちゃんや、やよいちゃん、あかねちゃんが傍に居ることが、

私自身に戦いを思い出させて、その度に頭痛や声が聞こえる。

あぁ、これが、私の、運命なんだ。

 

もはや、PTSD、或いは砲弾神経症、シェルショックのような、

戦闘によるストレスが彼女の体を蝕んでいるのだった。

そのストレスが、彼女に特定の相手を認識、或いは記憶を思い出すだけで

苦痛となるのだ。

 

歩く事をやめ、立ち止まり、空を仰ぐ黄金。

 

と、その時、周囲一帯にバッドエンド空間が広がり、黄金は敵が

現れた事を『感知』した。感じる方へと走り、ローラーシューズで

急ぐ黄金。

 

数秒もすれば、元居た河川敷に戻った。

 

そこでは、アカオーニが黒い闇の絵本と絵の具を使ってバッドエンド空間を

作り出し、なおと家族のけいた達がそれに巻き込まれていた。

 

 

見つけた。…あの時、『殺し損ねた』私の敵!

 

アカオーニを確認した黄金は、両手を左腰の部分でクロスさせてから、

右手を右側にスライドさせた。

   ≪QUUUUUN!≫

光りと共に、腹部にオルタリングが出現した。

黄金「…変身」

リングの両方のスイッチを叩き、歩き出す黄金

   ≪QUOON……QUOON……QUOON……≫

 

いつもと同じように、鼓動を繰り返すベルトから大量の光を発し、

相手から素顔を隠しながらゆっくりと階段を下りて、近づいて行く黄金。

 

そして、その光にみゆき達3人。そして、アカオーニが気付いた。

みゆき「あ!あれは!」

あかね「ひょっとしてアギトなんか!?」

やよい「あれが、アギト」

アカオーニ「出たオニね!キュアアギト!」

黄金「………」

 

その言葉を無視しながら、ゆっくりと歩く黄金。そして……

   ≪VUUUUUUUN!≫

ベルトからより一層強い光が発せられ、その姿がアギトへと変化した。

 

アギト「はっ!」

階段の上からジャンプし、アカオーニとみゆき達の間に着地するアギト。

みゆき「キュアアギト!来てくれたんだ!」

アギト「………」

喜び声を上げるみゆき。だが、アギトはその声を無視して前方のアカオーニを

睨みつけていた。

キャンディ「って、喜んでる場合じゃないクル!みゆき達も変身するクル!」

みゆき「わかった!あかねちゃん!やよいちゃん!私たち4人で、

    みんなの笑顔を守ろう!」

あかね「よっしゃぁ!」

やよい「やっぱり、怖いけど…うん!わかった!」

 

戦う決意を固めた3人は、スマイルパクトを取り出した。

 

パクトの中にデコルをセットする3人

   『レディ!』

み・あ・や「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

3人は光のパフを使ってそれぞれ変身をしていった。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン!熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪キュアピース!」

着地と同時にそれぞれの名乗りを上げるハッピー、サニー、ピース。

 

で……。

 

ピースは名乗りの際に手をパーで出していたのだが……

 

アカオーニ「ぴかぴかぴかりん、じゃんけんぽん?

      前はチョキだったのに今回はパーオニ!?

      じゃんけん負けたオニ!!」

と、ピースのじゃんけんに付き合って負けたアカオーニ。

そして、キャンディはチョキで勝ったと言うが、どこがチョキなのか

突っ込むサニー。だが………。

 

アギト『遊びで戦いをしてるなら、退いてよ。邪魔だから。

    あっちも無駄に付き合ってるんじゃないわよ。

    さっさとあのピエロを呼び出しなさいよ』

心の中でピースやアカオーニに対して悪態をついていた。

 

優しいはずの黄金の心が、戦いの中でどんどんと荒んでいくのだった。

 

アカオーニ「面白くないオニ!出でよ!アカンベェ!」

赤っ鼻を使って、ゴールポストと闇の力を融合させたアカンベェを

作り出すアカオーニ。

 

作り出されたアカンベェは柱を基点として、左右の腕の部分に

ゴールネットの翼を持った蝙蝠のような姿となって、飛び立った。

そして、空中で旋回してから頭の部分が開き、そこから無数のサッカー

ボールを撃ち出してきた。

 

だが、そのボールは、ハッピー達の後ろに居る動けないなおやけいた達の

方へと向かって行った。

ハッピー「っ!危ない!」

だが、この時、ハッピー達よりも早く動く者がいた。アギトだ。

 

アギトは無言でなお達を背に立つと、今度は左ではなく、右側のスイッチを

叩いた。

 

無数のボールが迫りくる中で、ベルトの中から剣の持ち手部分が現れ、

それを引き抜くアギト。

現れたその紅い剣こそ、アギトの第3の力を象徴する物。

風の槍斧、ストームハルバードと対を成す物。

 

―――灼熱の炎を纏いし刀剣、≪フレイムセイバー≫―――

 

そしてさらに、ベルトから赤い光が発せられ、ストームフォーム

とは対照的な赤い体と赤い右腕を持つ、フレイムフォームへと

進化したアギト。

 

ハッピー「姿が、変わった!」

サニー「でも、青やない。今度は赤や!」

 

そして、フレイムフォームとなったアギトはフレイムセイバーを居合いの

ように左腰に構えて、持ち手を握りしめた。そして……

アギト「はぁっ!!」

裂ぱくの気合と共に振りぬかれたセイバーから赤い炎の

斬撃波が繰り出され、向かっていたボールを全て切り裂き、爆発させた。

 

   『アカンベェ!』

と、爆発で出来た煙を突き破って、アカンベェが突進してきた。

その腕の下のあるネットがアギトを絡めとろうとするアカンベェ。だが……。

   「ふんっ!!」

炎を纏ったフレイムセイバーの斬撃がアカンベェの左部分の

ネットをすれ違いざまに切り裂き、ボロボロにしてしまった。

バランスを失ったアカンベェがフラフラになりながら近くの橋の

欄干に突っ込んだ。

 

それを肩越しに振り返って確認するアギト。

 

……他愛ない。この程度か。

心の中でアカンベェの弱さを確認するアギト。と、その時……。

 

アカオーニ「ふん!なかなかやるオニ!なら、アカンベェ!

      そっちのピンクとオレンジとイエローの弱そうな

      奴らを狙うオニ!」

 

その命令を聞いて立ち上がったアカンベェは橋の上に移動し、ハッピー達

3人の方に頭を向けてボールを連射した。

ボールがいくつも彼女たちの足元で炸裂するが、アギトは助けようと

しなかった。

 

この程度でやられるなら、あの子達はただの役立たず。

さぁ、あなた達は本当に戦えるのか、見せてもらうよ。

 

そう思いながらアカンベェにだけ視線を送るアギト

 

そして、ボールの嵐が止むころには、ボロボロとまではいかないが、

傷ついたプリキュアが現れた。

 

アカオーニ「ウハハ!間抜けオニ!弱いんだから他人なんか放っておいて

      逃げればいいオニ!」

サニー「うるさいわ!うち等の絆は、そんなに、強くないけど……

    で、でも!だからってそう簡単に逃げるほど弱い絆じゃないんや!」

前半は頼りなさげだが、後半は確かに言い切るサニー

 

そして、また、目覚めた者がいた。

 

なお「……絆。……あ」

ハッピー「緑川さん!」

絶望のオーラから解き放たれたなおと、それに気づく3人

 

そして、こんな状況だが、正体やらなんやらの事で話をして

笑っているいるハッピー達。しかし……

 

なおちゃんも絶望を乗り越えた。なら、4人目は、なおちゃんで

決まり、か。

 

と、冷静に状況を見ていたアギト。その時……。

 

アカオーニ「下らんオニ!絆?仲間?家族?そんなもん!最期は全部

      バラバラになるオニ!だからこそ、ここでオレさまが

      バラバラにしてやるオニ!行け、アカンベェ!」

   『アカンベェ!』

すると、頭のてっぺんをハッピー達に向け、再びボールを

連射し、ハッピー達を足止めした。

そして、橋の上から動けないけいた達5人めがけてダイブした。

 

ハッピー「あぁ!……やめてぇぇぇぇぇぇっ!!!」

彼女の声が木霊し、サニーとピースが駆けだそうとするが、

間に合いそうにない。

寸での所でアギトが5人の前に立ち、フレイムセイバーを構える。

 

その時、アギトの後ろから蹴りだされたサッカーボールがアカンベェの

額に命中した。

 

バランスを崩したアカンベェが地面に激突する中、振り返るアギトと

ボールを蹴ったなおに視線を向けるハッピー達。

そして、なおは未だ動けないけいた達の前に立ち、アカンベェの

前に立ちふさがった。

なお「家族はバラバラになんかならない!

   私たち家族の絆は、永遠に消えない!」

と、力説するなおの横でフレイムセイバーを下ろすアギト。

 

 

それは、人間だけの話。私はもう、人間じゃない。

こんなのが私だって知ったら、みんなきっと離れて行く。

私、何やってるんだろ。……人間じゃないのに、人間を

護るなんて……。

 

奇しくも、なおの語る絆、家族と言う単語に懐疑的な考えを持つアギト。

 

と、その時。

  「あんた達がどこの誰だかは知らないけど。それでも私たち家族の

   断ち切ろうって言うのなら、あたしが戦う!!」

彼女が叫びをあげた次の瞬間、なおを緑色の光が包んだ。

 

ハッピー「緑川さん!もしかして!」

アギト「……≪第4≫の、目覚め」

 

緑色の空間を漂うなお

なお「え、えぇ?」

キャンディ「君が≪5番目≫の、最後のプリキュアクル!」

宙を漂い戸惑うなおの元にキャンディが現れた。

なお「プリキュア?って、タヌキのぬいぐるみが喋ってる!?」

キャンディ「何でタヌキクル!?」

と、その時、なおの元に4つめのスマイルパクトが現れた。

なお「うわっ!なにこれ!?」

キャンディ「スマイルパクトクル!キュアデコルをセットして、

      プリキュアスマイルチャージって叫ぶクル!」

なお「えぇ?何だかよくわかんないけど……やってみるよ!」

 

決意を固めたなおは、パクトを開き、彼女専用のライトグリーンの

キュアデコルをセットした。

   『レディ!』

なお「プリキュア!スマイルチャージ!」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー、マーチ!』

彼女の叫びに呼応して現れた光のパフを使い、変身していくなお。

そして……。

 

マーチ「勇気リンリン!直球勝負!キュアマーチ!」

変身を終え、新たなる存在となったなお、もといマーチが名乗り上げた。

 

   「…って、なにこれ?どうなってるの?それに、

キュアマーチって」

ハッピー「キュアマーチ!やっぱり最後の一人は緑川さんだったんだ~!」

キャンディ「これで全員そろったクル~!」

 

 

……。あの二人は、何時になったら私がプリキュアじゃないと

気づくのだろう。プリキュアは5人。つまり、なおちゃんの他に

あと一人、メンバーが居る事になる。

 

アカオーニ「また新しいプリキュアが出て来たオニ!

      アカンベェ!そいつらを倒すオニ!」

   『アカンベェ!』

すると、近くにあったもう一個のゴールポストのネットを

使って、自分のネットを補修したアカンベェが飛び立ち、

こちらに向かってきた。

 

マーチ「家族の絆、護って見せる!」

そう言うと、走り出したマーチ。

彼女はアギトも、ハッピー達も追い越して、突風を起こすほどの

速度で走った。だが……

マーチ「なにこれ!こんなに早く走れるなんて!…うわっ!!」

 

自分でも制御できないほどの脚力で走ってしまい、アカンベェも

すれ違いざまの突風で吹き飛ばしてしまった。

   「ちょっと待って~~!」

地面を足で削りながら止まろうとするが、その速度は落ちずに……。

   「え?うわあぁぁぁぁぁぁっ!!」

   『ズドォォォォォン!』

勢いあまって橋の欄干に激突してしまった。

 

さらに、その衝撃で橋の手すりの上に立っていたアカオーニが後ろに倒れた。

 

しかし、激突で出来た砂煙の中からは傷一つないマーチが姿を現した。

   「ふぅ。びっくりした~」

サニー「は~。タフやな~」

驚き関心するハッピー達。と、その時、マーチめがけて上空から

アカンベェがボール攻撃を仕掛けてきた。

 

マーチはそれを走りながら回避し、ある程度の距離でUターンし、

橋の欄干を垂直に駆け上がった。

そして、アカンベェの頭上に接近し、その頭を真上から地面に

向かって蹴りつけた。

 

地面に激突するアカンベェと、自分自身に驚くマーチ。

キャンディ「最後にマーチシュート!アカンベェを浄化するクル!」

マーチ「マーチシュート?」

と、彼女が疑問に思っていると、アカンベェが立ち上がってきた。

   「うわわ!来た!」

と、驚く彼女の横にフレイムフォームのアギトが現れた。

   「え、あ、あなたは?」

アギト「……私があいつの足を止める。トドメはよろしく」

 

とだけ伝えると、フレイムセイバーを持ちながら走り出すアギト。

   『アカン、ベェ!』

そのアギトめがけて、アカンベェから三度、ボールの

嵐が襲い掛かってきた。だが……

   「ふ!は!てゃ!」

そのボールの全てを避けたり、セイバーで切り裂くアギト。

 

そして、その距離が縮まったその時、セイバーの鍔部分の、

アギトのクロスホーンに似た部分が展開され、その刀身が

炎を帯びた。

 

ハッピー「すごい!キュアアギトって風だけじゃなくて炎も  

     使えるんだ!」

サニー「ってぇ!それじゃウチと被ってるやん!」

驚くハッピー達を無視して、アギトはアカンベェの懐に

飛び込み、その四肢を一瞬で切り裂いた。

 

『ア、 アカンベェ』

痛みに負け、地面に伏すアカンベェ。

キャンディ「今クル!スマイルパクトに力を籠めるクル!」

マーチ「なんだかわかんないけど、やってみる!」

 

そして、スマイルパクトに込められた力が臨界を迎えた。

 

   「プリキュア!」

マーチの眼前に、彼女の風の力を濃縮した緑色の球体が現れた。

   「マーチシュート!」

それをサッカーボールのように蹴りだすマーチ。

 

繰り出された球体は、一直線にアカンベェへと向かっていき、命中。

その闇の力を浄化したのだった。

 

 

ハ・サ・ピ「「「「やったぁ!」」」」

マーチ「ハァ…ハァ…ハァ…。なにこれ、パワー、全部使い果たしちゃった感じ?」

喜ぶハッピー達と、肩で息をしているマーチ。

アギトは、次なる目標としてアカオーニを倒そうと視線を巡らせたが、

アカオーニはすぐに退散してしまった。

 

それを見たアギトはフレイムフォームをやめ、グランドフォームへと

戻り、一人歩き出した。

 

ハッピー「あ、あの!」

そんなアギトを呼び止めるハッピー

アギト「……何?」

ハッピー「この前は断られちゃったけど、やっぱり一緒に戦おうよ!

     同じプリキュアとして、私たち5人で!」

マーチ「えっと、どういう事?」

キャンディ「プリキュアは全部で5人いるクル!つまり、今日マーチが

      生まれて全員が揃った事になるクル!」

しかし……。

 

アギト「……以前、ピースが目覚めた時、私は言ったはずだよ。

    私は、あなた達とは違うって」

ハッピー「え?」

アギト「何を勘違いしているか知らないけど、私はプリキュアじゃない。

    だからそのマーチが最後の一人じゃない。最後のメンバーは、

    まだあなた達の近くに居るはずよ」

それだけ言うと、アギトは踵を返して、ハッピー達の元から離れて行った。

 

それに……。

と、去り際、彼女たちに思いをはせるアギト。

 

彼女たちの言う、護りたい絆と言うのは、私には関係ない。

私はただ、戦うだけ。彼女たちは結果的に私と同じ敵の相手を

しているだけ。彼女たちは、仲間なんかじゃない。

 

 

第4の少女、キュアマーチの覚醒と仲間入り、そして護るだけの戦いに

疑問を感じ、プリキュアの存在をただ目的が同じだけだと、

思ってしまうアギト。

 

アギトが、本当の意味でプリキュアの仲間に、≪キュアアギト≫に

なれる日は、来るのだろうか?

 

     第4話 END

 

 




アギトがみゆき達のちゃんとした仲間になるのは
5話の後に投稿する5.5話後です。


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第5話 最後の覚醒と澱みゆく心

スマプリ5話のお話です。


~~前回までのあらすじ~~

第3の戦士、キュアピースの覚醒に続き、

家族の絆を守るために覚醒したキュアマーチ。これで、

4人のプリキュアが揃った。しかし、アギトである黄金は

情緒不安定な事が追い風となって自身の戦う意味。

化け物の自分が人間のために戦うと言う構図に疑問を

抱いてしまったのだった。

 

 

キュアマーチとして、なおちゃんが目覚めた数日後。

みゆきちゃん達4人とあの妖精は中庭の屋根付きベンチに

集まって食事をしていて、私は屋上からその様子を見ていた。

本当なら、声が聞き取れる距離じゃないけど、今の私の力なら、

この程度の距離なら、相手の声を聴くことなんて造作もない。

 

何か、最後の五人目について話をしているみたいだけど……。

 

 

なお「水の妖精ね~。…それにしても……」

あかね「何や、何か気になる事でもあるんかいな?」

なお「ちょっとね。キャンディ、プリキュアは5人で全部

   何だよね?」

キャンディ「そうクル!」

なお「なら……あの金色の、確か、アギトだっけ?

   そのアギトって、一体何者なんだろう?」

やよい「なら、私たちの、プリキュアの先輩、とか?」

なお「それも違うと思う。本人が自分でプリキュアじゃないって、

   否定していたからね」

あかね「でも、あのアギトがプリキュアじゃないって言うなら、

    アギトってそもそも何なん?」

なお「…正体不明、としか言いようがないかな?

   プリキュアとも違う、力の持ち主、としか言えないよ。

   そもそも、誰がアギトなのかも、私たちは知らないわけだし……」

やよい「そう、だよね。……そう言えば、あの時、確かアギトって

    最後のメンバーが私たちの近くに居るって言ってたよね」

みゆき「あ!そう言えば確かに!」

あかね「ウチらの身近な人間でプリキュアになれそうな友達か~?

    なおややよいは誰か思い当たる人おるん?」

なお「う~~ん。強いていうなら、黄金、かな?黄金は

   結構優しいし、面倒見も良いから。って、思ったんだけど……」

あかね「わらかんでもないけど……。けど、最近の黄金、なんか少し

    変とちゃう?今日だってお昼一緒に食べようゆうても断ってたし」

なお「確かに。ここ数日、ずっと様子がおかしいけど……」

 

みゆき「じゃあさ!私がプリキュアだって思う人と黄金ちゃんの

    両方に聞いてみようよ!」

 

 

どうやら、みゆきちゃん達は最後の一人のプリキュアの候補に

私ともう一人の子を選んだみたい。

けど、私はプリキュアになれない。適当にあしらうしかないか。

 

そう思った私は、速足で教室に戻った。

 

放課後。帰り支度をしている私の所に案の定みゆきちゃん達4人が

集まってきた。

 

黄金「あれ?みんなして、どうかしたの?私に用?」

みゆき「そうなの!それで、悪いんだけどここじゃ話せないから、

    屋上に来てくれないかな?」

黄金「何?良いけど、恋の相談とかは、受け付けてないからね♪」

と、言って私は笑った。

みゆき「べべべ、別にそんなんじゃないよ~!」

黄金「アハハ♪冗談だってば。それじゃ、行こっか」

 

私は鞄をもって、みゆきちゃん達と一緒に屋上に向かった。

そこで、私はプリキュアの事を聞き、――全部知ってたけど――さらに

キャンディを見せてもらった。

 

みゆき「私たちはプリキュアって言う戦士でね!『これ』を集めて

    キャンディの世界を救うの!」

と言って、イチゴデコルを見せるみゆき。

黄金「伝説の戦士、プリキュア、か~。…それで、私がそのプリキュアの

   5番目の戦士かもしれないって事?」

みゆき「うん!そうなの!」

 

それを聞いて、私は……。

黄金「あのね、みゆきちゃん」

みゆき「うん!」

黄金「――病院、行こっか」

みゆき「へ?」

黄金「だってさ~。狼男に鬼が出てきてピエロのお化けを使って

   襲ってくるなんて。漫画の世界じゃないんだから。

   そんな事、あるわけないでしょ?」

やよい「本当なんだよ!お願い信じて!」

黄金「う~~ん。…そもそも、私がそのプリキュアに

   なれるかもわからないし、見た事もない敵と戦えって、

   言われてもね~。そもそも、≪キュアデコル≫ってのを

   見せられてもね~。ただのアクセサリーにしか見ないし」

そう言って、私は立ち上がった。

  「悪いけど、その話、私はパスで」

みゆき「そっか~。仕方ないか~。あ、そう言えば黄金ちゃん。

    青木さんが今どこにいるか知ってる?」

黄金「あぁ、れいかちゃん?れいかちゃんなら今頃……」

 

 

と、言うわけで私はみんなと一緒にれいかちゃんが所属する

弓道部の練習場に来ていた。

みゆき「へ~。青木さんって弓道部だったんだ~」

黄金「うん。今は練習の時間だから、多分弓道場に……。

   あ、居た」

みゆき「あ、青木さんだ!」

黄金「それじゃ、私はこれで失礼するね」

みゆき「あ、ま、待って!どうせだから、一緒に説得、

    お願いできないかな?」

黄金「私が?…まぁ、別に良いけど……」

 

というわけで、私も話し合いに参加する事になってしまった。

しかし、れいかちゃんの答えはNOだった。

 

理由を知るために、私たちは生徒会室に向かった。

何でも、生徒会は毎年、隣の小学校で童話の読み聞かせをしている

のだと言うれいかちゃん。

そして、生徒会会長である入江先輩が風邪をこじらせて参加できないらしい。

用はそっちが忙しいと言う事だよね。

まぁ、この方が私もアギトを忘れられるんだけどね。

 

何て思っていると、みゆきちゃんがそれを手伝うと言い出し、

結果的に私もそれに巻き込まれてしまったのだった。

まぁ、たまにはこういうのも楽しいし。これはこれでありかな。

って、思いながら、私はみんなを手伝った。

 

翌日。私たちは小学校へとやって来ていた。

読み聞かせの元は『白雪姫』で、みゆきちゃん達のアイデアで

紙人形や背景までもを作り、その規模は小さな劇クラスにもなっていた。

 

そして、私も劇を手伝う予定だったのだが……。

 

―――キィィィィン!―――

 

……。敵が、来た。

 

黄金「みゆきちゃん」

みゆき「え?何?どうしたの黄金ちゃん」

黄金「私、ちょっと体の調子が悪いみたい。ごめん、後を任せて良いかな?」

みゆき「そうなの?わかった。じゃあ、舞台袖で休んでてよ」

黄金「うん。ごめんね」

―――私は、友達に嘘をついているんだ―――

 

結局、私は人の皮を被った怪物でしかない。戦うしか、もう私には

残っていないんだ。だから、友達も、仲間もいらない。ただ、戦うだけ。

 

私はその後、舞台袖のカーテンの陰から敵…魔女みたい恰好の

ババアが入って来るのを監視していた。

 

そして、そのババアがあの狼男や赤鬼みたいに黒い絵の具と本を

使ってバッドエンド空間を作り、読み聞かせを聞いていた子供たちや

れいかちゃん達生徒会の3人を絶望に染めてしまった。

 

 

さて、そろそろ、戦いの時間だ。

 

私はカーテンの陰から出て、ポーズを取って構えた。

   ≪QUUUUUN!≫

黄金の腹部に、オルタリングが出現した。

  「……変身」

右手をスライドさせながら、私はベルトのスイッチを叩いた

   ≪QUOON……QUOON……QUOON……≫

そして、私はいつものように光を放ちながら、ステージの上に

姿を現した。

 

そして、その光に気づくみゆき達4人と『バッドエンド王国』の魔女

『マジョリーナ』

 

マジョリーナ「お前、何者だわさ」

黄金「………」

いつものように、ただ黙ったまま、敵を見つめる黄金。そして……。

   ≪VUUUUUUUN!≫

ベルトからより一層強い光が放たれ、黄金はアギトへと変身した。

 

みゆき「キュアアギト!」

なお「これが、アギトの変身」

マジョリーナ「そうか。お前がウルフルン達が言っていた一番強い

       プリキュア。キュアアギトかだわさ!」

アギト「…………」

マジョリーナ「無視するなだわさ!こうなったら、あたしのアカンベェ

       で捻る潰してやるだわさ!」

そう言って赤っ鼻を取り出すマジョリーナ

 

キャンディ「皆!変身クル!」

みゆき「うん!みんな、行こう!」

 

みゆきの声に合わせ、スマイルパクトを取り出す4人。

そして、それぞれがそれぞれのデコルをスマイルパクトにセットした。

   『レディ!』

み・あ・や・な「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

 

それぞれが光りのパフを使い、変身をしていった。そして……。

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン!熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん!じゃんけんポン!キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン!直球勝負!キュアマーチ!」

着地し、それぞれの名乗りを上げる4人。

 

マジョリーナ「現れたなプリキュア!しかし、あたしは他の二人のようには

       行かないだわさ!出でよ!アカンベェ!」

 

赤っ鼻から放たれた闇の力がみゆき達が作った鏡の絵と

融合して鏡型アカンベェとなった。

      「アカンベェ!鏡の力を見せてやるだわさ!」

   『アカンベェ!』 

すると、アカンベェの体が無数に分裂した。

 

ハッピー「うわぁ!分身した!?」

マジョリーナ「どうだい?本物のアカンベェは一体だけ。お前達に

       それが見破れるかだわさ!」

キャンディ「プリキュアの力で浄化するクル!」

 

ハッピー「そうか!よ~し!」

アギト「……待ちなさい」

気合いを溜めようとする4人を止めるアギト。

サニー「何や!?何で止めるんや!?」

アギト「……この状況での一発しか出せない技を使うのは、

    自殺行為。もっとよく相手を見てから使いなさい」

マーチ「でも、このままじゃ……」

アギト「………」

それを聞くと、アギトは右腰のスイッチを叩いた。

 

数歩前に出ながら、オルタリングから出現したフレイムセイバーの柄を掴んで

引き抜き、赤い、フレイムフォームへ進化するアギト。

 

そして、アギトはフレイムセイバーを構え、クロスホーンを

展開しながら目をつぶった。

 

相手が影なら、重さも、力もないただの投影された影。

本当の敵は、重さを持った本体。そして、物が動くとき、風の流れが

変化する。

 

フレイムフォームにおいては、感覚を強化することができるのだ。

だからこそ、剣の達人でしかなしえないような居合や瞬間的な見切り。

そして、目をつぶり、五感を研ぎ澄ますことができるのだ。

 

マジョリーナ「ふん!目を瞑った所で何になるだわさ!

       やるだわさ!アカンベェ!」

   『『『『『アカンベェ!』』』』』

 

アギトの周囲のアカンベェが、一斉に襲い掛かってきた。

 

ハッピー「危ない!」

 

ハッピーが警告を発するが、アギトは動こうとしない。そして……。

 

見えた。そこ!

 

アギトはセイバーを背後に回し、その刃でアカンベェの拳を受け止めた。

そして、それ以外の陰の攻撃はアギトの体をすり抜けた。

肩越しに後ろのアカンベェを睨みつけるアギト。

『ア、 アカンベェ!?』

マジョリーナ「バカな!?本物を見切れるなんて…。

       こんなことありえないだわさ!」

 

サニー「す、すごいで!本物を見切ってる」

ピース「すごいすご~~い!」

 

驚く彼女たちの声を聴きながら、アギトはフレイムセイバーの

刃に炎を纏わせ、鍔部分のホーンを展開した。

アギト「はぁっ!」

そして、アカンベェの腕を振り払い、振り向きざまにその胴体を

逆袈裟切りで切り裂いた。

 

   『アカンベェ~~~』

攻撃を喰らってよろめき膝をつくアカンベェ。

「……他愛もない」

マジョリーナ「おのれ~キュアアギト!……ん?」

 

その時、攻撃で発生した突風で劇で使われていた白雪姫の

紙人形がマジョリーナの足元に落ちて行った。

      「何が白雪姫だわさ!下らんだわさ!」

アカンベェがやられた八つ当たりで、その紙人形を踏みつけるマジョリーナ。

 

と、その時だった。

 

れいか「え、あ、あれ?」

舞台の上で絶望に染まっていたれいかが戻ってきた。

 

ハッピー「あ!青木さん!」

アギト「ん?」

 

……まさか。…成程、みゆきちゃんが目を付けただけの事はある、という事ね。

 

プリキュアになる者は、まず最初にこのバッドエンド空間で自我を保てる

ようになる。つまり、今まさに自我を保てるようになったれいかちゃんには、

プリキュアに慣れる素質があると言う事ね。

 

そう考えながら、アカンベェにセイバーを向けながら肩越しに振り返るアギト。

 

れいか「な、何?あなた達は……」

ピース「え、えぇっと。通りすがりのスーパーヒーローです」

サニー「合ってんねんけど何かちゃう!」

れいか「スーパーヒーローって、昨日黄瀬さんが言っていた。

……まさか、星空さん達なんですか!?」

ハッピー「ごめん。それは秘密なの~」

サニー「昨日自分でバラしたや~~ん」

 

マジョリーナ「お前かだわさ。こんな下らない読み聞かせ会を考えたのは」

れいか「え?」

マジョリーナ「何が読み聞かせだわさ。こんなちんけな人形まで作って。

       ちゃんちゃらおかしいだわさ!」

そう言って、踏んづけていた紙人形を蹴飛ばし、ステージに居る

れいかの横まで飛ばすマジョリーナ

 

それを見て、アギトは笑っていた。

 

      「お前の努力なんて、ただの無駄だわさ!」

アギト「……それはどうかな?」

そう言いながらマジョリーナにセイバーを向けるアギト

マジョリーナ「なっ!どういう意味だわさ!」

アギト「私は今まで、プリキュアの覚醒を見てきた。

    それは、彼女たちの感情の爆発が引き金になると言っても

    良いくらいの物。サニーやピースは友情を引き金に。

    マーチは家族への想いを引き金にプリキュアとなった。

    そして、彼女たちは覚醒前、必ず最初にこのバッドエンド

    空間で自我を保てるようになった。

    ……ここまで言えば、わかるかな?」

その言葉を聞いて、ハッとなるマジョリーナとハッピー達。

 

そして、剣を構えるアギトの横に、れいかが現れ、アギトはセイバーを下した。

 

れいか「あなた達がどこのどなたか知りませんが、これ以上の校内での

    狼藉を認めるわけには行きません。お引き取り願います」

マジョリーナ「な、何なんだわさ!お前は!」

れいか「私は、この七色ヶ丘中学校生徒会副会長、青木れいか。

    あなた方の校内での乱暴なふるまい。生徒会副会長として

    見過ごせません。…いいえ、私、青木れいかが、許しませんっ!!」

毅然とした姿勢で言い放つれいか。と、次の瞬間、彼女を青い光が包み込んだ。

 

ハッピー「これって、もしかして」

アギト「……第5の、最後の目覚めの時」

 

れいか「な、なんですか!?」

青い空間を漂いながら、あまりの事に驚くれいか。

と、その彼女の元にスマイルパクトと、パクトに続いてキャンディが

現れた。

キャンディ「ちみが最後のプリキュアだったクル~!」

れいか「へ?」

キャンディ「スマイルパクトにキュアデコルをセットして、

      プリキュアスマイルチャージって叫ぶクル!」

れいか「全く意味がわかりませんけど、わかりました!」

 

そして、れいかは決意を固め、第五のデコル、ライトブルーの

専用デコルをパクトにセットした

   『レディ!』

   「プリキュア!スマイルチャージ!」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!ビューティ!』

 

ハッピー達と同じように、現れた光のパフを使い、その身を

変化させていくれいか、もといビューティ。そして……。

 

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

新たなる存在として、名乗りを上げるビューティ。

 

キャンディ「やったクル!これでホントに5人全員そろったクル!」

ビューティ「え?えぇ!?何ですか、これ?!」

マジョリーナ「くっ!?まだプリキュアが居たとは……。

       だが、あのアギトではないなら、分身したアカンベェには

       対応できないはずだわさ!行け!アカンベェ!」

   『アカンベェ!』

何とか動けるようになったアカンベェが立ち上がってビューティに

襲い掛かった。

アギト「来るよ!避けて!」

ビューティ「は、はい!」

アギトの指示で咄嗟に真上にジャンプするビューティ。

 

そして、彼女自身がその跳躍っぷりに驚嘆しつつも、冷静に分析していた。

 

と、空中のビューティを分身、本体を含めた4体のアカンベェが包囲した。

マジョリーナ「ふっふっふ!アカンベェ!鏡の力を見せてやるだわさ!」

ビューティ「鏡?」

その単語を聞いて、冷静に4体を観察するビューティ。そして……。

 

     「本物は、あなたですねっ!!」

4体のうちの1体に向かって回転しながら接近し、回転蹴りを叩き込んだ。

それは見事に本体であったアカンベェに命中し、その巨体を床に

叩きつけ、同時に無数の分身を消滅させた。

 

ハッピー「すごいけど、なんで本物が分かったの!?」

ビューティ「鏡は姿を左右反対に移します。つまり、この中で一つだけ

      リボンの位置が違う方が本物です!」

マジョリーナ「ちっ!中々やるみたいだわさ。でも、まだ終わりじゃないだわさ!

       立つだわさ!アカンベェ!」

すると、マジョリーナの命令通り、起き上がるアカンベェ

 

ビューティ「ッ!どうすれば!」

キャンディ「スマイルパクトに力を籠めるクル!それで、

      ビューティブリザード、プリキュアの癒しの力で

      アカンベェを浄化できるクル!」

ビューティ「わかりました。……うぅぅん。はぁっ!」

パクトを胸に抱き、力を籠め、その力が臨界となった。

キャンディ「今クル!」

 

キャンディの声に合わせ、技を発動するビューティ

 

ビューティ「プリキュア!」

最初に右手に氷のエネルギーを球体状に変化させて集め、

そこから左手で空中の三本の線を描き、それを氷の結晶へと

変化させ、二つを混ぜ合わせた。

     「ビューティブリザード!」

それを光波状にして打ち出した。

 

撃ち出された青白い光、ビューティブリザードはアカンベェに命中し、

その闇の力を見事浄化させたのだった。

 

そして、アギトはマジョリーナを倒そうとセイバーを構えるが、

既に撤退された後だった。

 

逃げられた、か。

 

周囲を見回してそれを確認したアギトはグランドフォームへと戻り、

歩き出したのだが……。

 

ハッピー「あ!ありがとうアギト!今日も助けてくれて!

     それと、やっぱり一緒に戦おうよ!私たち6人で

     みんなの笑顔を守るの!」

 

その言葉に、アギトは足を止めた。そして……。

 

アギト「何度も言ったはずよ。私はあなた達プリキュアとは違うの。

    だから一緒には戦えない」

ハッピー「違くたって良いじゃない!私たち、もう仲間でしょ!ね!」

 

諦めてよ。いい加減。……私はもう、人間じゃないんだから!

そっちには、もういけないんだからぁ!

 

カタカタと震えだすアギトは、掠れる声を絞り出した

アギト「私を…勝手に、仲間呼ばわりしないで」

ハッピー「え?」

アギト「私は私のやり方で戦う。化け物として」

 

それだけ言い残すと、アギトは去って行った。

 

その後、読み聞かせ会は無事終了し、れいかは改めてみゆき達4人の

仲間となった。これで、5人全員が揃ったプリキュア。

 

だが、夕暮れに笑い合う5人を、陰から見つめていた黄金は

唇を噛みしめ、握りこぶしを作ってその場を後にした。

そして、黄金が立っていた地面は、数滴の涙が落ちていたのだった。

 

     第5話 END

 

 




と、こんな感じです。
次はオリジナルの5.5話を投稿しますが、
話自体は駆け足気味です。


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第5.5話 6人目

今回は自分が作った完全なオリジナルの話です。


~~前回までのあらすじ~~

キュアマーチが覚醒し、それに続いて第5のプリキュア、

『キュアビューティ』として青木れいかが覚醒。

こうして5人全員のプリキュアが揃った。

しかし一方で、アギトとして戦う黄金は孤独感と

自分自身の立場を強引に自分に言い聞かせ、壊れ行く

心と体を押して戦うのだった。

 

ビューティの覚醒から数日後の昼休み。

あかね「は~。やっと午前中の授業は終わったわ~」

なお「あかねは相変らずだね。…この後はいつもの場所で

   みんなでお昼でしょ?」

みゆき「うん!あ、そうだ。黄金ちゃんも一緒にどう?みんなでお昼!」

黄金「私は……。ごめん、今日はちょっと無理。それじゃ」

とだけ言うと、黄金は自分のお弁当を持つと足早に教室を出て行ってしまった。

あかね「何か最近、付き合い悪いな~黄金」

なお「そうだね。…前はむしろ自分から人を誘ってたのに。今は……」

れいか「確かに、最近の黄金さんと以前の黄金さんでは、

    随分印象が変わってきましたね。なんというか、

    暗いと言うか、何かを抱えているような……」

みゆき「……黄金ちゃん」

みゆき達5人は、黄金の去って行ったドアを見つめ、彼女の変わりようを

心配するのだった。

 

 

私はもう、人間じゃないんだ。だから友達もいらない。家族もいらない。

どうせ、私が化け物だって知れば私を怖がって離れて行くんだ。

だからいらない。話したくもない。私は、一人で良いんだ。

 

屋上で、フェンスの金網に縋るようにして、自分にそう言い聞かせながら、

必死に孤独に耐え、声を上げて泣きそうになるのを必死に

堪えながら、それでも涙を流す黄金だった。

 

その後、みゆき、あかね、やよい、なお、れいかとキャンディが

集まっていつもの中庭の屋根付きベンチでお昼を食べていた。

やがて、その話はプリキュアの事になったのだが……。

 

れいか「それにしても、不思議な方ですね」

あかね「何や、あのアギトの事かいな?」

れいか「はい。キャンディの話の通りなら、プリキュアは本来5人のはず。

    ですが、あの方はまるでプリキュアのように姿を変え、

    私たちと一緒に戦いました。皆さんのお話を聞く分には、今まで

    何度も現れているそうですね」

みゆき「うん。私が初めて変身した日からずっとね。何度も私たちを

    助けてくれたんだ」

なお「それって、みゆきちゃんが転校してきた日でしょ?」

みゆき「うん。帰り道にちょっと色々あって、そしたらプリキュアに  

    なっちゃってね。アハハ」

やよい「でも、一体誰なんだろうね。アギトの正体って」

れいか「皆さんの話を総合すると……。

1、 変身にはベルトを使う。

2、 姿を変える事ができる。

3、 本人が私はプリキュアではないと言った事。

くらいでしょうか?」

あかね「プリキュアやないけど、それ以上に強い謎の女の子か~。

    変身してるんやから元は人なんやろうけど……。

    けど一体誰なんや~!あ~わからん!」

れいか「今まで現れた場所は、商店街と河川敷が1回ずつと学校が

私の時を入れて3回。ここまで来ると、おそらくそのアギトなる

人物も私たちと同じようにこの七色ヶ丘中学校の女子生徒、と

考えるべきでしょう」

なお「でも、先輩後輩を入れても数百人は居るんだよ?そんな中から

   一人を特定するのは難しいじゃないかな~?」

れいか「いえ。こうなって来るとおそらくアギトに変身する方も

    プリキュアのように私たちに近しい、同い年の女の子。

    という可能性もあります」

あかね「せやけど、それをゆうたら後は黄金くらいしか残って

ないんとちゃう?」

なお「……そう言えば」

みゆき「なおちゃんどうかしたの?」

なお「いや、これはみゆきちゃんが転校してきた次の日に黄金から

   聞いた話なんだけど、黄金、前の日。つまりみゆきちゃんが

   転校してきた日の帰り道で倒れたらしんだ」

あかね「ちょっ!?初耳やでそんなん話!?」

なお「その時、黄金が言ってたんだ。声が聞こえたって」

やよい「声?」

なお「うん。ただ、私もそれについて詳しく聞かなかったからよくは

知らないんだけど……」

れいか「そう言えば、私となおがその話を聞いてからじゃないかしら?

    ほら、最近黄金さん頭痛がひどい時が多くなって」

やよい「そう言えば、最近よく頭を押さえている事が多くなったような」

あかね「それに、何かそのあたりから雰囲気も少しずつ変わって来てたな」

なお「そうだね。何て言うか、笑わなくなったようにも見えるし、

   笑っていても、なんだか無理に笑ってるみたいだし…」

キャンディ「でも、その黄金って子がアギトなら、なんで隠してるクル?」

やよい「やっぱり、みゆきちゃんみたいにすぐ自分でバラしたり

    しないからかな?」

あかね「まぁ、みゆきは自分ですぐバラしてたしな~」

みゆき「うぅ、言い返せない」

なお「でも、アギトはあかねややよいちゃん。私やれいかが

   プリキュアだって知ってるんでしょ?だったら、れいかと黄金

   にこの前話をしに行った時に何で知らないふりをしたの?」

あかね「それは、う~~ん。わからん」

なお『でも、確かに何か引っかかる。何だっけ…』

と、一人頭を悩ませるなお。その時だった。

みゆき「スマイルパクトやキュアデコルを見せてもダメだったしね~。

    やっぱり黄金ちゃんじゃないのかな~?」

それを聞いて、ある事を思い出すなお

なお『待った。あの時、みゆきちゃんはデコルの事を『これ』としか

   言ってなかった。なのに、黄金は確かにキュアデコルって……。

   その単語を知ってるのは、私たちと一緒に戦える……。まさか!』

  「……繋がった」

れいか「?なお?どうかしたの?」

なお「皆、放課後、黄金に会いに行こう」

みゆき「え?どうして?」

なお「わかったんだ。黄金がアギトだっていう証拠が」

み・や・あ「「「……えぇぇぇぇぇっ!?!?」」」

 

 

その日の私は、普通に授業を受けて、普通に帰れる、はずだった。

 

私が授業が終わった後、教室で帰り支度をしていた時だった。

 

なお「黄金」

声がしたので振り返ると、そこにはみゆきちゃん達5人が揃っていた。

黄金「あ、なおちゃん。それにみんなも。どうかしたの?私に用?」

なお「うん。ちょっと黄金と話したい事があるんだ。屋上に来てくれないかな?」

黄金「今から?…わかった。行くよ」

 

数分後、鞄を片手に私はみゆきちゃん達と一緒に屋上に来ていた。

  「それで、話って何?」

なお「単刀直入に聞くよ。黄金、あなたはプリキュアの事、ほとんど

   知ってたんじゃないの?この前、私たちがれいかと同じように、

   説明したあの日よりもずっと前から」

あかね「ちょっ!?どういう事やなお!」

黄金「そうだよ。どうして私がプリキュアを知ってる事になるの?

   私はあの時4人の話を聞くまで―――」

なお「嘘」

黄金「ッ」

黄金の言い分をバッサリと切り捨てたなおはポケットからイチゴデコルを

取り出して黄金の方へ向けた。

なお「黄金にプリキュアの話をしたとき、みゆきちゃんはキュアデコルの

   事を、これとしか言っていなかった。なのに黄金は

   『キュアデコル』って名前を知って居た。自分で言ってたじゃない。

   ≪キュアデコルはアクセサリーにしか見えない≫って」

あかね「そういや、確かにそんな事をゆうてたな」

なお「あの時、私たち4人とキャンディ以外でキュアデコルって名前を

   知って居る可能性があるのは、一緒に戦っていたアギトただ一人。

   つまり……黄金!あなたがアギトなんでしょ!」

黄金「………」

なお「それに、黄金なら河川敷の時の事もわかる。

   あの時間、あの場所に私たち以外に居たのは黄金だけだった。

   すぐ近くに居たから、敵が現れた時、すぐに駆け付ける事が出来た。

   れいかの時もそう。私たちのすぐそばにいたから、すぐに変身して

   戦う事ができた。違うの!黄金!」

黄金「………」

 

黄金はうつむいたまま、無言を貫いた。

 

迂闊だった。まさか、ポロっと口から出たあの一言に気づかれるなんて。

それをなおちゃんに気づかれるなんて……。

 

でも、だからなんだって言うの。私は、結局化け物。

…化け物だって、バレたらどうなるの?私は……私はどうなるの?

嫌われる?恐れられる?5人が周りに言いふらす?

そうなったらどうなる?私は……私は……。

 

気づかれた失敗した不味い言い訳?考えなきゃ何を?どう言い訳する?

わからない。分からない分からない!どうすればいい?

目の前の5人を殺す?口封じ?何で?どうしてこうなった?

私が化け物だから?何で私が化けものなの?何で?

 

何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で何で。

 

 

―――何で、私なの?―――

 

壊れ始めて行く黄金の心。自分自身の歪んだ決意と不安定な心の

不安定なバランスが、今、崩れ始めた。

 

と、その時。

 

突風が巻き起こってなおの持っていたイチゴデコルが空へと

舞い上がってしまった。

キャンディ「あぁ!デコルが飛んでっちゃったクル!」

慌てるキャンディ。と、その時、何者かが空中のイチゴデコルを

キャッチした。それは……

 

マジョリーナ「ひぇ~っひぇっひぇ!デコルをゲットしただわさ!」

なお「ッ!?マジョリーナ!?」

つい先日、れいかの覚醒の際に戦った敵の幹部、マジョリーナだった。

あかね「こらぁ!返せ!それはウチらのもんやで!」

マジョリーナ「ふん!これはもうあたしの物だわさ!」

 

そう言いながら、黒い本を取り出すマジョリーナ

      「世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まるだわさ!

       白紙の未来を黒く塗りつぶすだわさ!」

黒い絵の具を握りつぶし、闇の絵本を使ってバッドエンド空間を

作り出すマジョリーナ

      「人間どもの発したバッドエナジーが悪の皇帝

       ピエーロ様を蘇ら―――」

と、その時、マジョリーナの手元に小石が命中し、闇の本が地面に向かって

落下した。

 

その本の軌道を目で追っていたみゆき達5人。と、その闇の絵本を

キャッチした人物がいた。黄金だった。

 

みゆき「こ、黄金ちゃん」

黄金「………」

声をかけるみゆき。だが、今の黄金の表情は彼女が視線を下に落としている

のと前髪に隠れているせいで、みゆき達からは分からなかった。

そして彼女は無言のまま手に持っている闇の絵本を見つめると……。

   ≪ビリッ!ビリリリッ!≫

中学生とは思えない握力でその本を背表紙ごとバラバラに破いて、

フェンスの方へと歩み寄り、屋上から学校の校庭の方へと投げ捨ててしまった。

これによって、バッドエンドエナジーの収集は中途半端な状態で

中断されてしまった。

マジョリーナ「お前ッ!何てことするだわさ!というか、何で

       プリキュアでもないお前がこの空間でそんな風に

       動けるだわさ!」

驚き、黄金を問い詰めるマジョリーナ。だが……。

 

黄金「御託は良いからさっさとあんたの手下のアカンベェを出しなよ」

そう言って、振り返りながら、今までみゆき達が見た事もないような

絶対零度の瞳でマジョリーナを睨みつける黄金。

みゆき「こ、黄金、ちゃん?」

  「……。聞こえなかったの?倒してやるからさっさとアカンベェを出せ  

   って言ってるのよ」

マジョリーナ「ッ!」

黄金「………来ないなら……」

体をマジョリーナの方に向けた黄金。

  「こっちから行くよ」

 

そう言った黄金は両手を左腰でクロスさせてから右手を右側に

戻した。

   ≪QUUUUUN!≫

すると、光と共に黄金のお腹にオルタリングが出現した。

 

あかね「この光、もしかして!」

れいか「あのベルト!まさか、本当に黄金さんが!?」

   ≪QUOON……QUOON……QUOON……≫

二人の疑問に答えるように、静かに鳴動するオルタリング。そして……。

黄金「……変、身」

ベルトの左右のスイッチを叩く黄金

   ≪VUUUUUUUN!≫

光の波動が黄金を包み込み、彼女は初めて、みゆき達の前で

素顔をさらしながら変身した。

 

みゆき「じゃあ、黄金ちゃんが……キュアアギトで、最初から、

    私たちと一緒に、戦ってたんだ」

余りの事に驚くみゆき達。

 

だが、アギトは彼女たちに一瞬視線を向けただけで、すぐに

相手をマジョリーナに変更した。

そして、飛び上がってベルトの左側のスイッチを叩いた。

ストームハルバードを取り出し、ストームフォームとなりながら

変形したハルバードの切っ先をマジョリーナめがけて縦に振り下ろす黄金。

 

だが、切っ先はマジョリーナのローブの裾を掠っただけだった。

滞空できないアギトは、みゆき達の前に着地した。

アギト「ちっ。外したか。……でも……今度は逃がさない。

    確実に息の根を止める」

余りにも物騒な言葉に、彼女の以前の優しさを知る5人は

表情が蒼白になった。

なお「何、言ってるの。黄金」

そう言ってアギトの肩に手を置こうとするなお。

 

だが、アギトはその手を振り払った。

アギト「……戦うのも逃げるのも好きにしていいけど……」

そう言いながら振り返ったアギトは……。

   「邪魔だけはしないで」

マジョリーナと同じように絶対零度の瞳でみゆき達を睨みつけた。

 

その視線に背筋が凍るみゆき達

   「私の戦いを邪魔したら、誰でも倒す」

なお「黄金。……あんた自分が何言ってるかわかってるの!?

   友達にそんな―――」

アギト「私に友達なんてもういない」

その言葉に5人は絶句した。

   「私に残ったのは、このアギトの力だけ。友達なんて

    いらない。…だから、邪魔をするならなおちゃん達も敵だから。

    敵は、倒す」

 

と、その時……。

マジョリーナ「ひぇ~っひぇっひぇ!仲間割れとは良い事を聞いただわさ!」

そう言って笑い声を上げるマジョリーナ。だが……。

 

アギト「バカな魔女だね」

マジョリーナ「何だと!?あたしをバカにするのかだわさ!?」

アギト「私はプリキュアじゃない。ただ姿が似てるだけ。

    だから、みゆきちゃん達とも仲間なんかじゃない。ただ

    同じ敵、あなたたちの相手をしているだけ。

    そして、私は………相手を浄化するんじゃなく、

    ≪殺して≫倒す」

その言葉に、再びみゆき達の背筋が凍り付いた。

 

   「だからこそ、今この場所で私があなたを殺す」

その殺意に怯むマジョリーナ。しかし……。

 

マジョリーナ「ふ、ふん!そんなの見掛け倒しに決まってるだわさ!」

そう言って、彼女は手元にスペアの赤っ鼻に先ほど奪った

イチゴデコルを入れ、赤っ鼻を完成させてしまった。

キャンディ「イチゴデコルが~!」

マジョリーナ「これでまた新たなアカンベェを作れるだわさ!  

       出でよ!アカンベェ!」

すると、近くにあったバレーボールとネットを使って

バレーボールの体にネットで出来た翼を持ったアカンベェが

生まれた。

 

キャンディ「みゆき達も変身するクル!」

みゆき「うん!デコルを取り戻そう!」

それぞれがデコルを取り出し、パクトにセットした

   『レディ!』

み・あ・や・な・れ「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン!熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん!じゃんけんポン!キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン!直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積る清き心!キュアビューティ!」

 

変身し、名乗りを上げる5人。

 

マジョリーナ「現れたねプリキュア!アカンベェ!    

       そいつらを空から狙い撃ちにするだわさ!」

   『アカンベェ!』

 

すると、アカンベェは背中の翼を使って上空に陣取り、口から

無数のバレーボールを発射してきた。

狭い屋上に所せましと降り注ぐボールの嵐。

 

ハッピー「うわっ!?ととっ!あいた~!」

それを危なげに避けていたハッピーの背に一発が命中した

サニー「ハッピー!うわっ!?」

マーチ「サニー!きゃぁっ!?」

それぞれがそれぞれを気にしている隙に、さらに命中弾や至近弾に

よってダメージを喰らうプリキュア達。

 

アギト「…………」

   『ズパッ!シュバッ!』

 

一方のアギトはストームハルバードで飛来するすべてのボールを切り裂いていた。

しかし、彼女はハッピー達が被弾しようが眉一つ動かさず寡黙なまま

ボールをさばき続けていた。

 

アギト『今のアギトには、あれを撃ち落とすだけの銃のような武器は

    ない。だったら、何かを投げるしかない、か』

そう言いながらアギトは周囲を見回し、飛来するボールを

見つめていた。と、その時……。

 

ハッピー「こうなったら!」

攻撃を受けて地面に倒れていたハッピーは立ち上がって……。

    「う~~!気合いだ気合いだ~~~!」

アギト「ッ!?」

いきなりスマイルパクトに気合をチャージした。そして……。

ハッピー「プリキュア!ハッピーシャワー!」

必殺技を発動してアカンベェに向けて発射した。

 

しかし、その攻撃をひらりと回避するアカンベェ。

    「えぇぇぇっ!?よ、避けられちゃった~」

と、ヘロヘロになりながら床にへたり込むハッピー。

サニー「だったら今度はウチや!」

   「プリキュア!サニーファイヤー!」

今度はハッピーに続いてサニーが必殺技を放つが、それもまた

回避されてしまった。

   「あ、アカン。もうダメや。力が……」

ピース「じゃ、じゃあ私が!」

マーチ「私も!」

ビューティ「待ってください!無暗に技を使っては!」

しかし、そんなビューティの制止の声も届かず、技を使う二人

ピース「プリキュア!ピースサンダー!」

マーチ「プリキュア!マーチシュート」

 

連続で繰り出される必殺技。しかし、アカンベェは大きく旋回

する事でその二つを回避した。

ピース「そ、そんな~~~」

マーチ「ち、力が、入らない」

 

その姿勢にアギトはため息をつき、彼女たちの前に立った。

 

アギト「戦えないのなら、そこで見ていない。闘いという物を

    見せてあげる」

そう言いながら、アギトはストームハルバードを構え、それを

手元で回転させ始めた。

次第に、アギトの周囲に風が集まり始めた。

 

ブォン、ブォンと風を集めるハルバード。

 

マジョリーナ「そんな事をして何になるだわさ!アカンベェ!

       そいつを捻り潰すだわさ!」

   『アカンベェ!』

すると、翼を羽ばたかせたアカンベェが一直線にアギトに

突っ込んできた。

 

でも、こちらのリーチに突進してくれるのなら、返って好都合。

そう思いながらアギトは密かに笑みを浮かべた。

 

そして、アカンベェの拳がぶつかりそうになった次の瞬間、

   『ズバシャァッ!』

まるで瞬間移動のような素早さでアギトのストームハルバードが

アカンベェの背中の羽を両断した。

   『アカ、アカンベェ~~~~!』

ハッピー「うわわわっ!!」

翼を切られてコントロールを失ったアカンベェがハッピー達の

頭上をギリギリで通過し、フェンスに激突して、さらにそれを

突き破って校庭の方へと落下していった。

 

破れたフェンスの前に立ち、校庭で倒れているアカンベェを見下ろすアギト。

そして彼女は無言のままそこから一歩前に踏み出し、重力に任せて

下へと降りて行った。

 

まるで映画のワンシーンのように、風を操り、地面の直前でスピードを

殺して、ふわりと着地するアギト。

と、その時……。

 

ハッピー「ま、待って~~!あわわわわ~!」

校舎のでっぱりを伝って降りて来ようとしたハッピーが手を滑らせて

校庭に落っこちてきた。

 

サニー「は、ハッピー!大丈夫かいな!?」

と、そこに、他の4人が上か降りてきて着地し倒れている

ハッピーに駆け寄った。

ハッピー「あ、アハハ、力が抜けちゃって、手が滑っちゃった」

そう言って気恥ずかしそうに後頭部を掻いているハッピー。

 

アギト「……」

そんな彼女たちを一瞥してから、アギトは視線を目の前で

起き上がったアカンベェへと向けた。

どうやら、翼を失っても戦う意思は残っているようだった。

 

これで、このアカンベェに残っている攻撃はバレーボールの

ブレス攻撃と肉弾戦だけ、か。

 

そう思ったアギトはハルバードを戻してストームフォームから

グランドフォームへと戻り、逆に右側のスイッチを叩いて

フレイムセイバーを引き抜くのと同時にフレイムフォームへと

進化した。

 

マジョリーナ「姿を変えたところで何になるだわさ!   

       行くだわさアカンベェ!」

   『アカンベェ!』

アカンベェの横に箒に跨った状態で現れ、命令を飛ばすマジョリーナ。

そして、アカンベェは猛然と走りだし、アギトに向かって

右ストレートパンチを叩き込んできた。だが……。

   『ガキィィィィンッ!』 

『ア、 アカン!?』

その攻撃はアギトの、片手で保持したフレイムセイバーに

簡単に防がれてしまった。

 

アギト「私を、素人のハッピー達と一緒にしてもらっちゃ、

    困るわね」

そう言いながらアカンベェの拳を、セイバーを振って払うアギト。

   「浄化ができない分、私のアギトはプリキュア以上に

    『戦う事』だけに特化している。だからこそ……」

そう言って、セイバーを左腰に持っていき、抜刀寸前の武士の

用に構えるアギト

   『アカンベェ!』

 

再び殴りかかってきたアカンベェ。だが、次の瞬間。

   『ギンッ!』

一瞬だった。拳があわやアギトの届く寸前でセイバーの

ホーンが展開され、灼熱の熱波を纏ったセイバーが

迫りくるアカンベェの腕を一瞬の元、肘から先を

断ち切ったのだった。

   『ズズンッ!』

次の瞬間、アカンベェのピエロ然とした右腕が地面に音を立てて

落下した。

『ア、 アカン!アカン!アカンベェ~~~~!』

余りの事に平静を失い、怯えだすアカンベェ。だが、

これで終わりではなかった。

 

次の瞬間、アギトのセイバーの切っ先がアカンベェの左ひざを真正面から

貫通した

   『アカンベェ~~~~~~!』

痛みに耐えかね、その瞳に涙を浮かべるアカンベェ。

 

だが、アギトはそこからさらにセイバーを捻ってアカンベェの

膝を徹底的に破壊し、セイバーを抜いてアカンベェを空いている

左手で殴り飛ばした。

 

ズズン、と音を立てながら倒れたアカンベェは痛みによって

呻きながら地面の上でジタバタと暴れていた。

 

そしてアギトは、アカンベェを突き刺した時にセイバーに

突いた赤黒い液体……。

――血液ではなく、アカンベェ召喚の際に発生するエネルギー――

それをセイバーを振って払った。

   「この程度、造作もない」

 

ビシャッ、という音と共に地面に振り払われた赤黒い闇のエネルギーは

シュウシュウと煙を出しながら消滅していった。

 

 

そして、その戦い方にプリキュア達5人は怯えていた。

 

アギトの戦い方におびえていたのだ。

冷徹なまでに相手の体を破壊し、まるで血に濡れた刃のような

セイバーを見ても顔色一つ変えないアギトに恐怖していた。

サニー「何が、どうなってるんや。あれが、あれが本当に、

    あの優しかった黄金なんか」

ビューティ「一体、何が黄金さんをここまでさせるのでしょうか」

マーチ「黄金!どうしちゃったんだよ!?

    戻ってよ!元の優しい黄金に戻ってよ!」

口々に目の前で起きた事が信じられず、声を荒らげるマーチたち。

 

そして、その声はアギトの耳にも届いていた。

 

 

私だって、好きで戦ってるわけじゃない!

でももうこれしか私には残っていないんだよ!これしか!

戦って戦って!戦って死ぬしか、もう私には残ってないんだ!

だから邪魔しないで!私に関わらないで!

 

心の中で、戦う事しかできないと言い張る自分と、それでも

かつてのようになおやれいか、あかねややよい。そして、

みゆき達と笑っていたいと言う自分の板挟みになっていた黄金。

 

異形となった恐怖が彼女の心に傷を作り、孤独がその傷を

深く抉り、その傷は彼女の心をバラバラにしていくのだった。

 

アギト「私は、戦う事しかできない。

    癒しの力なんてない。浄化なんてできない。

    あるのは、『殺戮』と『破壊』の力だけ」

ピース「そんな……!」

アギト「だから、私は倒すことしかできない。

    言ったはずよ。私はプリキュアとは違うって」

そう言いながら、アギトはグランドフォームへと姿を戻した。

 

そして再び、頭部のクロスホーンが展開された。

左足を前に出し、両手を胸の前で開く。すると、彼女の足元に

アギトの紋章が現れ、手を動かす動作に合わせて、足裏に吸収されていった。

そして、アギトはチャージを終えると前方の、僅かに

立ち上がったアカンベェを見つめ、走り出した。

 

そして、その数メートル手前で飛び上がり、必殺の『ライダーキック』

をその顔面に叩き込んだ。

   『アカンベェ~~~~~!』

 

キックを喰らい、吹っ飛ばされたアカンベェは校庭に生えた木に

衝突して……。

   『ズドォォォォォン!』

爆音を上げながら爆発した。

轟々と燃え上がる炎を見つめてから、マジョリーナを睨むアギト。

 

マジョリーナ「まさか、アギトただ一人に負けるなんて……!  

       覚えてるだわさ!」

そう言うと、瞬間移動で撤退していくマジョリーナだった。

 

と、その時、アギトは上から降ってきたイチゴデコルをキャッチした。

 

だが、そのデコルは煤こけ、何と各部に小さなヒビが入ってきた。

それでもアギトはそれを別段気にする事もなく、イチゴデコルを

ビューティに向かって放った。それをキャッチしたビューティと

彼女の手元を覗き込むキャンディ

キャンディ「クル~!デコルが戻ってきたクル~!って、

      こりは~!?何でデコルがボロボロになってるクル~!?」

ハッピー「えぇぇぇっ!?どうして!?」

アギト「……浄化ではない私の技は、全てを破壊する。

    アカンベェの核のデコルも同じようにね。

    もっとも、壊れたところで私に損な事なんて、

    ありはしないのだけどね」

その言葉に、怒った者がいた。サニーだ。

 

サニー「黄金!いやアギト!今の言葉は聞き捨てならんで!

    ウチらが頑張って集めたもんをそんな―――」

アギト「頑張った?笑わせないでよ」

サニーの主張をそう言って一蹴するアギト。

   「この戦い。変身した挙句、技を連発してへばって

    すぐ戦えない状態になったのは一体どこの誰よ」

サニー「そ、それは……」

アギト「ビューティ、れいかちゃんは冷静だから戦士としては

    及第点。でも、他のみんなは何も変わってない!

    この前のビューティの戦いだってそう!焦って技を

    連発してすぐに戦えなくなりかけた!今日だってそう!

    何が伝説の戦士よ!所詮はビギナーズラックで勝っている

    だけ!マーチの時もそう!戦いになってもじゃんけんが

    どうのこうのだの!」

そう言ってハッピー達を指さすアギト

   「みんなは戦いが分かってない!そんなみんなが

    戦場に立つこと自体自殺行為!わかる!?

    お遊びでやってるんじゃないんだよ!?

    一歩間違えれば死ぬかもしれないんだよ!

    何でそんな風に笑ってられるの!」

と、声を荒らげ、ここに来て、心が決壊しだすアギト。

 

彼女はハッピー達に背を向け、カタカタとセイバーと自分の肩を

震わせた。

数秒後、ハッピー達が人の姿に戻り、黄金も5人に背を向けたまま

変身を解除した。だが……。

 

黄金「戦いもわからない素人が、戦場に立たないで。

   『邪魔』なだけだから」

その言葉に、なおが切れた。

 

なお「黄金!今の言葉はいくら何でも聞き捨てできないよ!」

そう言ってなおは黄金の肩を掴んで強引に振り向かせた。

 

 

そして、黄金自身は、その瞳に大粒の涙を浮かべていた。

 

  「ッ。こ、黄金」

黄金「……みんなは良いよね。…そうやって、人間に

   ≪戻れる≫んだから」

なお「何、言ってるんだよ、黄金」

その言葉に、黄金は唇を噛みしめ、そして……。

 

黄金「何度も言わせないでよ!私はプリキュアとは違うの!」

そう叫んだ次の瞬間、黄金の体に、アギトとしての彼女が

まるで蜃気楼のように重なり、現れては消えを繰り返しだした。

  「皆はそうやって戦いが終われば人間でもいられる。

   なのに、私は……」

そう言いながらアギト化している自分の右手を見つめる黄金

  「私は……私はもう≪化け物(アギト)≫なんだよ!」

そう言いながら、今まで溜め込んでいた物をみゆき達に向かって

吐きだす黄金。

  「私だって好きでアギトになって、好きで戦ってるわけじゃない!

   でももうこれしか私には残ってないんだよ!!

   もう、戦う力しか、私の中に残ってないんだよ!!!」

みゆき「そ、そんな」

黄金「皆にわかるの!?毎日、少しずつ私の体が私の体じゃなくなっていく

   恐怖が!私ね!誰かに触る事で相手の考えてる事がわかるんだよ!」

もはや自暴自棄になってハイライトを失いかけている瞳で

叫ぶ黄金。

  「戦う度に私の体は戦うためだけに強くなっていくんだよ!

   化け物としてね!」

やよい「ば、化け物って」

そう言って涙目になるやよい。

 

これだよ。わかってた。だから……。

黄金「そうだよ。あの時なおちゃんが覚醒した後、私にデコルを

   見せる前から全部知ってたんだよ!みゆきちゃんもあかねちゃんも

   やよいちゃんも、3人ともプリキュアだってこと!」

泣きわめくように全てを語っていく黄金。

  「だけど私は誰にも知られたくなかった。化け物だって誰にも

   知られたくなったんだよ!だから隠してきたのに!」

なお「そ、そんな」

黄金「私だって最初は……。最初は誰かを守るために戦おうって思ったよ!

   でも、なおちゃんが目覚めた時、なおちゃんの言う絆が

   理解できなかった!人間でもない私が人間のために戦う理由って

   何!?私にはもう、戦う事しかできないんだよ!理由もなく、

   正義もなく、ただ戦って戦って、戦い続けることしかできない!」

れいか「黄金さん」

黄金「私だって……私だって普通の女の子で居たかったよ!

   みんなと一緒に仲良くなって一緒に笑って居たかったよ!

   でも……私、もう」

なお「ッ!黄金!」

そう言って地面に崩れ落ちそうになる黄金をなおが咄嗟に支えた。

 

黄金「私は、もう、何を信じていいのかわからない。

   自分自身が化け物に変わっていくのが怖くて。誰かに否定されるのが

   怖くて。私の毎日が壊れて行くのが怖くて。ただ、戦う事しか、

   できなくなっていく自分が怖くて……何もかもが怖くて。

   でも…。でも、誰にも、言えなくて……。

   うぅ、うあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

みゆき達に向かっていた怒りはやがて悲しみと孤独に押しつぶされそうに

なっていた少女の苦痛となって溢れ出した。

対して、みゆき達はみな、悲痛な表情を浮かべていた。

 

今まで、助けてもらった友人がこんなにも苦痛を抱えていたのに

それに気づけなかった自分たちを心の中で責めていたのだ。

 

なお「ッ!黄金!」

ついに感極まったなおは、黄金と同じように瞳に涙を浮かべながら

黄金を抱きしめた。

 

黄金「離して!離してよぉ!」

抱き着くなおを振り払おうと暴れる黄金。だが、

アギトではなく、心が傷を負った状態の今の黄金では、

なおを振り払うほどの力を発揮できなかった。

 

  「私は……私には、もう、何も、何も…残ってない」

大粒の涙を浮かべ、きつく瞳を閉じたままの黄金。

振り払おうとするたびに何度も黄金を抱きしめるなお。

なお「ごめんね。ごめんね。黄金の苦しみに、気づいてあげられなくて。

   本当にごめんね」

黄金「私は……私は……。もう、いっそ、楽になりたい。

   死にたい」

そう言った瞬間、声を荒らげる者がいた。

 

みゆき「そんなのだめだよ!!死にたいとか、そんな事言っちゃ

    ダメだよ!!」

黄金「だって……だって私にはもう戦う力しかないんだよ!?

   それでどうやって生きていけるの!?」

そう言って全てを打ち明けるように叫ぶ黄金。

その時、なおと同じようにみゆきが黄金を抱きしめた。

みゆき「そんな事無いよ。黄金ちゃんには、私たちが居るよ」

そんな彼女の言葉に続くようにあかねややよいまでもが、黄金を

抱きしめた。

あかね「そや。…黄金は今までウチらを守ってくれたんや。

    否定なんてせえへん。黄金はウチらの大切な友達や」

やよい「そうだよ。私を助けてくれた時の黄金ちゃん、すっごく

    かっこよくて、王子様みたいだったよ」

れいか「黄金さんは、一人ではありません。そして、その痛みに

    いつもそばにいた私たちが気付けなかったのも事実」

なお「黄金は、ずっと辛い心を押さえこんで、私たちを助けてくれてた。

   でも、その辛さに、気づいてあげられなくてごめんね。でも、

   黄金はもう一人じゃない。その辛さが重すぎるなら、私も一緒に

   背負うよ。だって…。だって私たちは……」

み・あ・や・な・れ「「「「「友達だから」」」」」

 

黄金「なおちゃん。みんな……。私は、私は……。

   うああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

アギトになってから、久しく忘れていた人肌のぬくもりを感じながら、

黄金は大粒の涙を流した。

 

 

数分後、ようやくの事で落ち着いた黄金。

  「……ごめんなさい」

あかね「い、いきなりどないしたんや?」

黄金「さっき、みんなに酷い事、言っちゃったから」

やよい「気にしないで。私たちは怒ってないから。

それに、黄金ちゃんは追い込まれたみたいだし」

黄金「それでも、だよ。私は―――」

そう言おうとした黄金の口をれいかが人差し指でふさいだ。

れいか「謙遜は美徳ですが、行き過ぎてもだめですよ。

    ましてや、自分を貶めるのは尚更です。それに、

    人はみな誰しも一人では生きていけません。

    だからこそ、私たちを頼ってください。私たちだって、

    守られてばかりではありません」

黄金「……私は……。ありがとう、れいかちゃん」

あかね「ほな、色々一件落着したことやし、そろそろ帰るか」

みゆき「うん、そうだね。…ってあぁ!鞄屋上に置きっぱなしだよ~!」

やよい「そうだった~!」

慌てて、鞄を取りに戻る6人。

 

その後、屋上に着いたのだが……。

黄金「みんな!」

みゆき「ん?黄金ちゃんどうかしたの?」

 

 

私はここに来るまでに決めた事を今ここでみんなに話そう。

私は、みゆきちゃん達5人と向かい合い、深呼吸した。

黄金「私、決めた」

なお「決めたって、何を?」

黄金「……。私には、戦う事しかできない。みんなみたいに相手を

   浄化する器用な技もない。でも……」

 

これは決めた事だ。もう迷わない。

  「私は、みんなの≪剣≫と≪盾≫になる」

みゆき「え?」

黄金「私はアギトとして戦う。でも、それはみんなを。

   私を友達と言ってくれた、みんなを守りたいから。私は、

   この力の全てを≪友達≫のために使う。そう決めたんだ。

   私の力は、みゆきちゃん。あかねちゃん。やよいちゃん。

なおちゃん。れいかちゃん。みんなのために」

と、言って、黄金はみゆき達5人の剣となり盾となる事を決意し、

それを告白した。しかし……。

 

 

夕日に照らされながらまるで王子様の告白のようなセリフに

5人は赤面していた。

みゆき『ほあ~~~。黄金ちゃんかっこいい~~。って、私ってば

    また何を考えて!?』

あかね『あ、アカン。今、ウチ心臓がキュンッってなってもうた』

やよい『い、今のって、なんだか告白みたい。ちょっと、うれしいかも』

なお『黄金って、無自覚でそう言う事あるし、私はさっき思いっきり

   抱き着いた事を思い出して恥ずかしいし!わぁぁぁん!」

れいか『こ、黄金さんは卑怯です。こんなシチュエーションで

    そんな事を言うなんて////』

 

そして、返事がない事が気になった黄金。

黄金「みんな?どうかしたの?」

みゆき「え!?あ!なんでもないよ!そうだね!私たち6人で

    頑張ろう!そして今日はもう帰ろっか~!」

あかね「せ、せやな~!」

そう言うと、5人は足早に屋上を出て行こうとした。

黄金「あぁ!みんな待ってよ~~!」

黄金は、笑みを浮かべ、本当の戦う意味を見出し、

夕暮れの中を走りだしたのだった。

 

 

アギトの真なる覚醒。光は、太陽があってこそ存在する。

黄金は、友人と言う太陽を見つけ、彼女たちを守るために、

剣となる決意を固めたのだった。

 

     第5.5話 END

 

 




もうちょっと話が進んだらオールスターズニューステージ、
みらいのともだちも書こうかと思ってます。
個人的にはフーちゃんの死亡フラグを全力でへし折る気満々です。


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第6話 結成と出会い

今回は第6話です。
劇中でアギトのオリジナルフォームが覚醒します。


~~前回までのあらすじ~~

ビューティの覚醒によって全メンバーが揃ったプリキュア。

しかし、次なる疑問としてアギトについての事が浮上し、

なおはある事をきっかけに黄金がアギトであると知ってしまう。

そして、5人は黄金にその事を聞こうとするが、その時再び

マジョリーナが襲来し、イチゴデコルを奪いアカンベェへと作り替えて

しまった。

だが、5人の前でアギトに変身した黄金はアカンベェを圧倒。

一方的に倒してしまった。

その後、黄金はみゆき達との話し合いの中で怒りや憎しみ、悲しみ

と言った感情を5人にぶつけるも、みゆき達に受けられた黄金は、

アギトである自分がみゆき達の剣となる決意をしたのだった。

 

 

アギトである黄金が仲間になって数日後。

ある日の星空家にみゆき達6人が集まっていた。

みゆき「祝!」

み・あ・や・な・れ「「「「「全員集合~~!」」」」」

 

みゆきちゃん達5人が見事にはもり、天井に下がっていたくす玉が

割れてその中からキャンディと勢ぞろいと書かれた垂れ幕が降りてきた。

黄金「お、お~~?」

と、私はそこまで喜ぶ事なのだろうかと疑問に思いながらパチパチと

拍手をしてしまった。

キャンディ「プリキュアが全員そろって新しい仲間もできたクル~!

      うれしいクル~!」

と、喜ぶキャンディ。

れいか「そうですね。では、改めて聞きたい事があるのですが」

キャンディ「クル?」

れいか「プリキュアとは何なのですか?」

キャンディ「伝説の戦士クル!」

なお「何であんな凄い力があるの?」

キャンディ「伝説の戦士だからクル!」

 

って、質問しだしたは良いけど、どうやらみんなが欲しい答えが

帰ってこないみたい。

あかね「それ、答えになってないやん」

やよい「じゃあ、あの怖い人たちは何なの?」

キャンディ「クル?」

みゆき「目的は何なのかな?」

キャンディ「ク、ル」

あかね「ウチらは何したらいいの?」

キャンディ「で、伝説の、戦士、クル」

 

と、段々冷や汗をかくキャンディ。そして、キャンディは

自分をぶら下げているくす玉の中に戻って行ってしまった。

やよい「こ、これってつまり……」

黄金「キャンディ、プリキュアが伝説の戦士って事以外、知らないのね」

キャンディ「そうクル~」

 

みゆき「ええぇぇぇぇぇぇっ!?」

と、手を交差させて驚いているみゆきちゃん。って、何その手。

と思って私が苦笑していた時だった。

   「え?何あれ?」

黄金「あれ?」

 

今の私はみゆきちゃんの反対側に座っていて、窓が開いたままの

ベランダに背を向けている状態だった。で、みゆきちゃんの言うあれ

ってのが気になって後ろを向くと、何かがこっちに飛んできていた。

みゆき「本?」

 

やがて、その本と思われる物が窓から一直線に入ってきた。

黄金「ほいっ!」

   ≪パシッ!≫

危うく顔面に当たりそうだったので、私はそれを両手で

受け止めた。

  「うん。間違いなく本だね」

そう言って私はテーブルの方に向き直って飛んできた本をテーブルの上に

置いた。と、その時。

???「ふ~。ようやく着いたでござる」

黄金「へ?」

 

本から声が聞こえたかと思うと、勝手にページが開いて、見開き状態の

本から何かが飛び出してきて着地した。

あかね「何か出た!」

みゆき「あ、あなたは?」

黄金「ひょっとして……妖精?」

???「左様。申し遅れたでござる。拙者は―――」

と、その時。

キャンディ「お兄ちゃ~~~~ん!」

くす玉の表面を突き破って飛び出してきたキャンディがその倍のサイズは

ある妖精にダイブして思いっきり頭突きした。

うわ~、痛そ~~。

 

で、他のみんなが驚いたのが……。

あかね「え?」

れいか「キャンディの……」

み・あ・や・な・れ「「「「「お兄ちゃん!?」」」」」

そこに驚いていた。

 

 

キャンディ「お兄ちゃん!会いたかったクル~!」

???「キャンディ、相変わらず泣き虫でござるな~」

と、突然現れた妖精、だと思う子はキャンディをあやしている。

キャンディの態度を見る分には兄妹だと思うけど……。

うん、似てない。

 

みゆき「あ、あの~」

気まずそうにみゆきちゃんが話しかけるとようやく私たちに気づいた

キャンディのお兄ちゃん

???「失礼いたした。拙者はポップと申す。妹が世話になっているで

    ござる」

みゆき「こ、こちらこそ」

と、キャンディのお兄ちゃん妖精、≪ポップ≫が頭を下げたので、

つられて私たちもお辞儀した。

 

その後、キャンディの頭がターバンみたいになったり、ポップが

可愛いって言われるのが嫌いだったり、かっこいいと言われて

舞い上がってこけたりするのを見てから、改めてキャンディ

ではなく、このポップに話を聞くことになった。

 

ポップ「うむ。プリキュアについての話なら、拙者が引き受けるで

    ござるが、一つ。聞いても良いでござるか?」

黄金「ん?何?」

ポップ「なぜ、6人もいるのでござるか?伝説ではプリキュアは5人の

    はずなのでござるが……」

黄金「あぁ、それは私がプリキュアじゃないからだね」

ポップ「何と!それがし、プリキュアではないと申すのか!?」

黄金「うん。と言っても、正確にはプリキュアに似た戦士って、

   言うべきかな。私以外の5人みんながプリキュアで、私は

   みんなを助ける助っ人戦士って所だよ」

キャンディ「でも黄金は今まで何度も一緒に戦ってきたから

      お話しても大丈夫クル!」

ポップ「そうだったでござるか。では、キャンディ、伝説のプリキュア

    の絵本をここに」

キャンディ「クル?あれ?どこ行ったクル?」

というと、顔が真っ青になっちゃうポップ。

 

ポップ「まさか、無くしたのでござるか」

キャンディ「ち、ちょっと待ってクル!

      え~っと、みゆきとぶつかるまでは、あったクル」

それを聞いて、ポンと手を叩くみゆきちゃん。

みゆき「思い出した!あの本、不思議図書館に置いたままだ!」

黄金「不思議、図書館?…そんな名前の図書館あったっけ?」

れいか「無い、と思いましたけど」

みゆき「あ、ううん。違くて、図書館って言うかね、不思議な場所に  

    あるからそう呼んでるだけなの。大きな木の中に

    本がたくさんあるの!」

ポップ「何と!もしや、人があの図書館に迷い込むとは……」

黄金「?ポップは何か知ってるの?」

ポップ「はい。…これから、皆をそこへ案内するでござる」

 

その後、ポップがみゆきちゃんの部屋の本棚を操作して

光輝く入口を作って、私たち6人はそれに吸い込まれていった。

 

私とやよいちゃん以外が着地に失敗して、みゆきちゃんの上に落っこちた。

黄金「み、みゆきちゃん、大丈夫?」

みゆき「へ、ヘルプ~~」

 

その後、私たちはホップの言う≪伝説のプリキュアの絵本≫を見つけ、

そこに書かれているお話を聞いた。

 

それを簡潔に説明するなら、キャンディたちと彼らに似た妖精が住まう国、

≪ロイヤルクイーン≫という女性が治める≪メルヘンランド≫が

あの狼男や鬼、魔女が所属する≪バッドエンド王国≫、その皇帝、

≪ピエーロ≫に侵略され、元々クイーンの力の元だったデコルは

ピエーロに奪われアカンベェの核として使われ、クイーンは

戦いを相打ちに持ち込む形でピエーロを封印し、あの3人は

ピエーロを復活させるためにバッドエンドエナジーを集める事にした。

そして、バッドエンドを止めるためにクイーン様がこの世界に

放った5つの光がみゆきちゃん達の力の元となったみたいだけど……。

 

ちなみに、イチゴデコルは今日改めて見て見ると、傷が治っていた。

ポップ曰く、デコルの力の核が無事であるなら、勝手に治ったのも頷ける

との事。まぁ、なんにせよ元通りなのはありがたい。ただ……。

 

黄金「私はそのクイーン様の物じゃない、別に力で変身してるって

   事だね」

みゆき「黄金ちゃん」

黄金「私の力の事、少しはわかるかと思ったけど……。ま、良いや。

   気にしても始まらないし。それより、絵本のページが

   キャンディが来たところで止まってるけど、続きは?」

ポップ「それは、こうでござる」

 

ページがめくられ、現れたのはハッピーに変身した状態の

みゆきちゃんだった。

みゆき「私っ!?」

と、驚いているみゆきちゃん。って、何で咄嗟に変身時のポーズを…。

さらにページがめくられ、サニー、ピース、マーチ、ビューティ

と連続で決めポーズが映し出された。

 

って、いつの間にかみんな変身時のポーズを取ってるし……。

 

れいか「で、では、次のページはひょっとして……」

めくられた次のページ。そこには何と……。

 

――ハッピー達5人と向かい合い、笑顔で中央のハッピーと

  握手をするアギトが描かれていた――

黄金「あ、私だ」

ポップ「どうやら、伝説の絵本もそなたを認めたようでござる」

そして、次のページまでめくられたのだが、そこから先は白紙だった。

 

でも、これから私たちがこの本の物語を描いて行くんだ。

 

その後、なぜかみゆきちゃんが決め台詞を決めようとして、

あかねちゃんとなおちゃんがどうでも良いと言い出したが……。

黄金「それって、私から言わせればみんな最初に決め台詞言ってるじゃん」

と、笑いながら指摘する私。

みゆき「それじゃなくて~!もっとこ~。チームとしての決め台詞を~!」

 

と、言うわけで賛成5(みゆき、やよい、れいか、あかね、なお)

棄権1(私)といった具合になってしまった。

 

黄金「じゃ、じゃあ私はプリキュアじゃないって事で、決め台詞は

   なしの方向で……」

と言って後ずさりしようとしたのだけど……。

なお「ちょ~っと待った」

あかね「一人だけ逃げようたって、そうは行かへんで~黄金」

黄金「え、え~~?」

れいか「折角ですから、私たちで黄金さんの決め台詞を考えてあげては

    どうでしょうか?」

みゆき「おぉぉぉ!良いねそれ!」

やよい「だったら、イメージは光なんてどうかな?黄金ちゃんって

    変身するときお腹が光るから」

なお「後は、何となく神々しいイメージもあるから、そうだな~」

あかね「後は武器で相手をズバズバと切り裂いていくさまもありやな」

れいか「そうですね。今の物を総合すると、こんな感じのキャッチフレーズ

    になりました」

そう言って、取り出したメモ帳にそれを書き、黄金に渡すれいか

 

………。え?

黄金「あ、え、あっと、れ、れいかちゃん?これ、読むの?」

れいか「はい。それが黄金さんの新しい名乗りです」

そう言われたけど、私の顔は自分でもわかるくらい真っ赤になっていった。

 

そして……。

  「こ、こんなセリフ私には無理だよ~!」

 

そう言って黄金は顔を両手で覆って、その場に蹲ってしまった。

みゆき「え~~?黄金ちゃんにぴったりだと思うよ?何がダメなの?」

黄金「うぅ、だ、だって、こんなセリフ人前でいうなんて……。

   は、恥ずかしいんだもん」

そう言って涙目の黄金。

 

しかし、これはこれで……。

みゆき『あれ?今、私の心がゾクッてなったような……』

あかね『何か、無性に黄金をいじりたい気分になってしもうた』

やよい『か、かわいい~!も、もっとこんな感じの黄金ちゃんを~!』 

なお『黄金の、いつもとのギャップが……////』

れいか『……黄金さん、天然ジゴロですわね』

と、5人のSの心を刺激する結果となってしまった。

 

 

で、その後改めてチーム名を考える事になったのだけど……。

 

おかしい、みゆきちゃんの考えたのは変だし普通に名乗りを上げるより

恥ずかしい。しかも何か被ってる気がするし……。

 

一方そのころ、現実世界ではマジョリーナが現れ、バッドエンド空間を

発生させた。

 

 

黄金「う~ん。チームの名乗りって言ってもね~」

と、悩んでいたその時だった。

   ≪キィィン!≫

 

私の頭の中にいつもの波動が響いてきた。

  「ッ!みんな!敵が来たよ!」

なお「え?黄金、どうしてそんな事がわかるの?」

黄金「アギトの力だと思う」

ポップ「黄金殿の言う事は間違いないでござる。拙者もバッドエンド

    空間の発生を感じたでござる」

黄金「急がないと。このまま放っておいたら、ピエーロ復活の

   バッドエンドエナジーが他の人たちから吸われ続けちゃうよ」

ポップ「うむ。では、本の扉を使うでござる」

 

その後、私たちはポップに教えてもらったように本棚を操作して、

彼の言う本の扉を使ってバッドエンド空間発生源の一番近い場所にある

本棚に扉を開き、現実世界に戻った。

けど……。

 

やよい「あれ?みゆきちゃんは?」

黄金「え?ほんとだ。いない」

キャンディ「大変クル~!」

そこに、扉を潜って私たちに続いてキャンディが出て来たのだけど……。

     「みゆきは間違って南極行ったクル~!」

あ・や・な・れ「「「「南極ぅ~~!?」」」」

黄金「あちゃ~~。……ポップは?」

キャンディ「お兄ちゃんはみゆきを迎えに行ったクル~!」

黄金「そう。…だったら私たちだけで戦うしかないね。

   相手は待ってくれない。行こう」

私の言葉にあかねちゃん達は頷き、私の直感を頼りに

公園に居る敵の元に走った。

 

  「ッ!居た!」

私たちが公園に飛び込むと、人々が絶望しているすぐそばに

あの魔女の幹部が立っていた。

マジョリーナ「ん~?ほぉ。プリキュア待ってただわさ!」

そう言うと、あの魔女は赤い球体を取り出した。そして…。

      「出でよ!アカンベェ!」

近くに落ちていた空き缶を元にアカンベェを作り出した。

 

 

ポップがみゆきを迎えに行っている間、公園では戦闘が始まっていた。

   『ア~~カン、カン、カン、ベェ!』

頭部の飲み口から缶型ミサイルを飛ばしてくるアカンベェ。

あかね「うわ~~!来たぁぁぁっ!!」

 

不味いっ!私は咄嗟にみんなの前に出て、右手をかざした

黄金「ん!はあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

まるで見えない手でミサイルを掴むように頭の中でイメージすると、

文字通りミサイルが空中で『静止』した。

マジョリーナ「何っ!?何が起こってるだわさ!?」

 

れいか「黄金さん」

黄金「あ、アハハ、アギトになってから、超能力が色々目覚めちゃってさ。

   こんなことも、できるんだよね!」

そう言って私はアカンベェの方に手を振り下ろした。すると、空中で止まっていた

ミサイルがアカンベェの方に飛んでいき爆発した。

 

マジョリーナ「まさか、変身前でも力が使えたとは計算外だわさ。

       しかし!変身もしていないお前達なんて、アカンベェで

       人捻りだわ――」

と、その時、どこからともなく雪玉が飛んできてマジョリーナにぶつかった。

 

私たちが雪玉が飛んできた方を向くと……。

みゆき「みんな遅れてごめ~ん!」

と、雪まみれで震えるみゆきちゃんとポップが合流したんだけど……。

キャ・あ・や・な・れ「「「「「凍ってる」」」」」

黄金「ま、まぁ無事に合流できてよかったよ!」

 

なぜみゆきちゃんが氷漬け一歩手前なのかはさておき、今は

何とか合流できただけでも良しとしよう。

で、いつの間にか私たちは円陣を組んで話し合っていたのだけど……。

みゆき「皆、あのね。―――――」

マジョリーナ「何話してるだわさ!?」

と、目の前の敵をほっぽって確かに私たちは何してるんだろう?

自分でも知りたいよ。

 

あかね「ええやんそのセリフ」

やよい「かっこいい!」

黄金「ね、ねぇ。それってやっぱり私も強制的に……」

れいか「参加です♪」

黄金「うわ~~~ん!!」

 

嫌だ~!あんな恥ずかしいセリフ嫌だ~!

でも、みんなの視線が『やって』と無言の圧力をかけて来る

  「あ~もう!わかったよ!やります!言います!言わせていただきます!」

みゆき「そうこなくっちゃ!」

あ~~もう!あんなセリフを言わなくちゃいけないなんて~~~!

この怒りと恥ずかしさ!アカンベェにぶつけてやる~~!

 

私は、左腰部分で両手を交差させてから、右手を一度前に突き出し、

すぐに肩の前まで引き戻した。すると、腹部に光と共に

オルタリングが現れた。

黄金「はぁぁぁぁぁぁ」

息を吐きだしながら右手を再び、ゆっくりと前に突き出していく。

そして……。

  「変身!」

気合いと共に叫びながら私は両手で両サイドのスイッチを叩いた。

光りが黄金を包み込み、黄金はアギトへと変身した。

 

みゆき「みんな!私たちも!」

その声に頷き、それぞれのパクトとデコルを取り出してセットする

5人。

   『レディ!』

み・あ・や・な・れ「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

現れた光のパフを使って変身する5人。

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン!熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ぴかぴかピカリン!じゃんけんポン!キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン!直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積る清き心!キュアビューティ!」

 

って、みんなが名乗りを上げると、私の方にみんなの視線が集まった。

 

……………。

 

うぅ、視線が痛い。……あ~もう!毒を食らわば皿まで、だよ!

アギト「か、神が生みし悪を絶つ戦姫!キュアアギト!」

 

って、名乗りを上げたは良いけど………。

   『ボッ!』

私今顔から火が出そうなほど恥ずかしいよ~~~~~!

と、顔を真っ赤にするアギトであった。さらに……。

 

ハ・サ・ピ・マ・ビュ「「「「「6つの光が導く未来!輝け!

             スマイルプリキュア!」」」」」

と、アギトを入れて6人なので6つの光と定義して、チームでの

名乗りを上げるハッピー達。

 

で、私たちは名乗りを上げ終えたベストタイミングでアカンベェが

放ったミサイルで吹き飛ばされてしまった。

 

ハッピー「ふ、不意打ちなんてずるい」

アギト「そりゃ、アニメじゃないんだから相手は待ってくれないって」

サニー「これで死んだら、死んでも死に切れんやろ」

アギト「むしろ今の私は恥ずかしさで死にそうだよ」

 

あれだけ堂々と名乗っておいて流石にこれは無様過ぎるし

さっきの思い出して私はもっと恥ずかしくなって死にたくなってくるよ。

 

マジョリーナ「ひぇっひぇっひぇ!アカンベェ!プリキュア共もまとめて

       踏みつぶすだわさ!」

   『アカンベェ!』

すると、ドスドスとこちらに向かってきて、足を振り上げるアカンベェ。

 

不味い!

アギト「間に合え!」

   『ズズンッ!』

私は咄嗟にアカンベェの足元に滑り込み、それを受け止めた。

 

ハッピー「アギト!」

アギト「大丈夫!」

……って、言っても、今じゃ支えてるのが限界。何か、何か……。

 

と、その時、アギトのベルト、オルタリングが紅でも蒼でもない、

黄色い光を放ち始めた。

 

こんな時に必殺技!?……違う。それならクロウホーンが開いて……。

と、その時、私の中に靄がかかった状態だけど、確かにビジョンが見えた。

そうか!!わかった!

   「ハッピー!或いは誰か!誰でも良いから私のベルトの、

    左側のスイッチを2回たたいて!」

ビューティ「わ、私が!」

と、近くに居たビューティがアギトの腰元に近づき、スイッチを

2回叩いた。

 

すると、突如としてアギトの肘から先の両腕が光り輝きだした。

アギト「力が…溢れて来る……!はああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

私は、両腕に漲る力を使ってアカンベェの巨体を押し返した。

『ア、 アカン!?』

「でやぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

私は、限界まで出し切った力でアカンベェを投げ飛ばした。

 

ズズンと音を立てて倒れるアカンベェ。

   「ハァ……ハァ…」

マジョリーナ「そんな馬鹿な!?こんなこと、ありえないだわさ!?」

 

と、その時、アギトの両腕を覆っていた光が実体となって現れた。

それは、手の部分を覆いつくす巨大なパワーフィストのような

器具だった。

アギトの両腕を機械で出来た巨大なグローブのような物が

肘の少し手前までを覆っていた。

これこそ、アギトの新たなる力、

 

―――全てを打ち壊す剛腕、≪アイアンフィスト≫―――

 

そして、両腕がアイアンフィストに覆われると黒い下地だった

両袖が黄色く染まりあがり、アギトは防御と打撃戦に特化した形態、

≪アイアンフォーム≫へと進化した。

 

アギト「これって……アギトの新しい力?」

マジョリーナ「えぇい!また新しい姿になりおって!

       アカンベェ!忌々しいアギトとプリキュアもろ共

ミサイル攻撃で吹き飛ばすだわさ!」

   『ア~~カン、カン、カン、ベェ!』

 

再び私たちめがけて数発のミサイルを飛ばしてくるアカンベェ。

ビューティ「危ない!」

アギト「大丈夫!はぁっ!」

不敵な笑みを浮かべたアギトが両手を前にかざすと、アイアンフィスト

が光りを放ちだし、アギトの数歩手前で黄色に輝くエネルギーシールド

が展開され、ミサイルはその壁に激突、爆発する形で消滅した。

マジョリーナ「そんなバカな!?あれだけのミサイルを喰らっても  

       傷一つつかないなんて、そんなの卑怯だわさ!」

 

アギト「生憎、このアイアンフォームは鉄壁の守りが自慢みたいでね!

    そして、このエネルギーは、こうも使えるの!」

そう言って右手に力を籠める。すると、黄色いエネルギーが

右手のアイアンフィストを覆いつくし、それが形となって

巨大な拳となった。

   「喰らえ!私の新技!エネルギー!ロケットパ~~ンチ!」

 

アギトが右手を前に突き出すと、その手を覆っていたエネルギーが

巨大な拳として発射され、アカンベェ並みの巨大な拳が

アカンベェに襲い掛かり、右ストレートパンチを叩き込んだ。

   『ア、カ、ン、ベ、ェ』

それを顔面に喰らったアカンベェは、スローモーションのように

吹っ飛ばされた。

 

アギト「やった!」

ハッピー「す、すご~い!アギトすご~~い!」

ピース「かっこいい!ねぇねぇ!そして必殺技は王道の

    ロケットパ~ンチ!あぁ、私、生きててよかった」

サニー「いやいや!喜びすぎやろ!?」

ピース「何言ってるのサニー!ロケットパンチと言えば

    必殺技の王道中の王道なんだよ!?」

と、熱く必殺技について語るピースだった。

 

マジョリーナ「クッ!何やってるだわさアカンベェ!早く立つだわさ!」

倒れているアカンベェを蹴って、何とか立たせるマジョリーナ。

アギト「来る!…ハッピー!私がアカンベェを倒すから、決め技はよろしく!」

ハッピー「うん!任せて!」

 

私は、地面を蹴ってアカンベェの跳躍し、空中で右手を引いて拳を構えた。

すると、頭部のクロスホーンが展開され、さらにグローブの上に

備え付けられていたボルトのような物が限界まで後ろに引かれた。

アギト「うおぉぉぉぉぉぉっ!!!」

その状態のままアギトはアカンベェに向かって急降下し、その腹部に

拳が命中した瞬間、限界まで引き絞られていたボルトが一気に前進した。

 

そう、それはまさに、パイルバンカーだった。

 

接触の瞬間、インパクトが増大するタイプのパイルバンカーである

アイアンフィストだが、アギトの持つ従来の腕力を上乗せされた結果。

   『バギャッ!』

その一撃はアカンベェの体を貫通し、前後に風穴を開けた。

そこから中身の赤黒い闇のエネルギーがダダ漏れ状態になるアカンベェ。

   「今だよ!」

ハッピー「うん!気合いだ気合いだ!気合いだ~~!」

パクトに気合を込めるハッピー。そして……。

 

    「プリキュア!ハッピーシャワー!」

浄化の技を放ち、アカンベェに命中させた。

それを見て撤退するマジョリーナと、上から解放されたデコルが

降ってきて、ハッピーがそれをキャッチした。

 

その後、無事に新しいデコル、『星デコル』をポップが持っていた

デコルを収める器、『デコルデコール』にセットして、無事に今日の

戦いに勝ったは良いんだけど……。

 

キャンディ「お兄ちゃん!帰っちゃうクル!?」

あの後、ポップがメルヘンランドに帰る事となり、それをキャンディが

嫌がって駄々をこねているのだった。

その後、何とかポップの説得によって、最後は笑いながら別れた

ポップとキャンディ。

 

キャンディは、ポップが見えなくなるまで、ずっと笑って居たが、

すぐに泣きだしてしまった。

そのキャンディをなだめる私たち。

 

黄金「すぐにまた会えるよ。…この世界と、メルヘンランドが

   あり続ける限り。何度でも」

キャンディ「みんな、ありがとうクル」

 

 

こうして、私たちはまた新たに絆を深めたのだった。

 

     第6話 END

 




劇中では新しいフォームが生まれましたが、
あともう一つオリジナルを追加予定です。
で、その追加にはそれ以外にもちゃんと目的があります。
お楽しみに。
アイアンフィストのモデルはスイカアームズの
腕部分です。


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第7話 見つけたい物

え~、完全に凍結状態なこの作品でしたが、最近になって
自分の作品に対する責任のような感情が芽生えまして、
また地道に執筆していこうと思います。


~~前回までのあらすじ~~

プリキュア5人がそろい、更なる仲間としてアギト、黄金を迎え入れた

みゆき達5人。そんな彼女たち6人の元にキャンディの兄である

『ポップ』がやってきたのだった。そして、彼からプリキュアの事や

敵、バッドエンド王国の事を聞いたみゆき達。

そんな中襲い来るマジョリーナとの戦いの中で6人は

『スマイルプリキュア』を結成するのだった。

 

それから数日後のお昼休む・校庭の屋根付きベンチにて。

 

私とみゆきちゃん達は集まってこの前ポップに教えてもらった

連絡方法を試していた。

みゆき「えっと、電話デコルをデコルデコールにセットして……」

自分の膝の上に置いたデコールをみゆきちゃんが操作すると、

無事にポップと通信ができるようになった。

 

良かった。これでポップとはちゃんと連絡できるね。

 

と、そう思いながら私やみゆきちゃん達が安堵していた時。

女子「何々?何してるの?」

うぅっ!?何てタイミングで!

不意に、他の女子の子達が来てしまった!

ど、どうする!?一か八か殴って気絶させるか!?

と、私が半ば錯乱して、後々思い出すとヤバい事を考えていた時。

あかね「あ~~~!UFO!!」

咄嗟にあかねちゃんが空を指さして叫んだ!

周りの視線が上に向いているその隙にキャンディとデコールを

隠す私達!

あかねちゃんナイス!

み・や・な・れ・黄「「「「「ふ~~~」」」」」

そして、私達はバレなかった事に安堵しつつため息を漏らすのだった。

 

 

その後、私達は場所を移しつつ人気のない場所を探して、やがて

屋上のタンクの影に集まっていた。

みつき「誰にも見つからない所って意外とないよね~」

黄金「うちの学校は、生徒数も結構多いからね~」

れいか「学校ではプリキュアの話は出来ませんね」

と、タンクの影に集まって談笑する私達。

確かに、ここじゃ人目も多いし誰が聞き耳を立ててるか

分からない。人気のない場所かぁ。

あかね「ほんなら、家に集まったらえぇよ」

そう提案するあかねちゃん。でも確か……。

れいか「でも、あかねさんのお宅はお店でしょ?」

黄金「そうなると、私の家も除外かな~。家もレストランだし」

みゆき「え?黄金ちゃんのお家ってレストランなの!?」

黄金「うん。両親が経営してる個人経営のレストランなの。

   けどまぁ、そんなんだからみんなが集まる場所には

   不向きかな~」

なお「それに、みんなの家だって家族が居るから秘密の話

   何て出来ないよね?」

黄金「そうだね。……せめて、私達だけの場所があればな~」

そう私が呟いた時。

みゆき「あ、そっか!私達だけの秘密の場所があれば良いんだよね?」

やよい「それって、プリキュアの秘密基地、みたいな?」

みゆき「そう!私達の秘密の場所を探しに行こうよ!」

 

こうして、みゆきちゃんの掛け声の元、私達6人の秘密の場所

探しが始まった。

 

 

数日後の休日。私達6人はそれぞれ何かを持ち寄る事になっていた

ので、チョコチップクッキーを作ってタッパーに入れた後、

私の部屋にある本棚を操作して本の扉を開き、ふしぎ図書館へと

向かった。

光のトンネルを越えた先で着地すると、丁度みゆきちゃん以外の

みんなも同じタイミングでやってきて着地した。

 

キャンディ「全員集合クル~!」

先に来ていたみゆきちゃんと、その腕に抱かれているキャンディ。

みゆき「みんなちゃんと来られたね!」

やよい「迷子にならなくて良かった~」

なお「自分の家から来るの初めてだもんね~」

と、そんな話をしている傍で私はふしぎ図書館を見回していた。

 

黄金「それにしても、ホントすごい数の本だよね~」

そう思いつつ、私は本棚の方に近づき一冊手に取ったんだけど……。

う!?英語。これは読めない。じゃあこっちは……。

ろ、ロシア語!?じゃあこっちは!!

ヘブライ語!?もっと読めない!

  「こ、これはまた…」

と言いつつ、私がみんなの傍に戻った時、みんなは

何故か図書館の中を見上げていた。

私がその様子に首を傾げていた時。

 

あかね「あ、秘密基地、ここでええんちゃうか?便利やん」

と、あかねちゃんが提案する。

みゆき「そっか!」

黄金「確かに、本棚がある場所からならどこからでも来られるのは

   便利だよね」

やよい「うん!良いかも!」

と言うと、一人やよいちゃんが走り出した。

キャンディ「やよい、どこ行くクル?」

やよい「探検してくる~」

黄金「足元には気を付けてね~」

やよい「は~い」

私の注意に返事をしたやよいちゃんだったけど……。

 

   『ガッ!』

   「きゃっ!」

木の根に躓いてコケて、窪地に落ちてしまうやよいちゃん。

黄金「やよいちゃん!」

咄嗟に駆け寄る私とみゆきちゃん。

しかし……。

みゆき「大丈夫やよいちゃ、ぐわぁっ!」

黄金「みゆきちゃん!?」

隣を走っていたはずのみゆきちゃんが木の枝に攫われた!

みゆき「助けて~!」

黄金「待ってて!今下ろすから!」

咄嗟にみゆきちゃんの元に向かった。けど、そのままさらに

あかねちゃん達3人がコケて汚れたりした結果……。

 

あかね「無いわ!やっぱ秘密基地ここちゃうわぁ!」

 

というあかねちゃんの言葉でふしぎ図書館、秘密基地案は

撤回された。

 

黄金「で、結局どうするの?基地探し」

みゆきちゃんを木の枝から降ろしつつ、みんなの方を向く私。

れいか「それならば私、プリキュアに相応しい、素晴らしい場所

    の心当たりがあります」

と言うれいかちゃん。

そして、私達はれいかちゃんに続く形で本の扉を使い、

どこかの倉庫のような場所へとやってきた。

 

黄金「ここが、プリキュアに相応しい場所?」

薄暗い室内を見回す私。周囲には何やらよく分からない機材や

ファイルが置かれていた。

れいか「いえ。ここではありません。皆さん、こちらへ」

そう言って足早にどこかへと向かうれいかちゃんについて行くと、

扉があって外に出ようとした。

 

のだけど荒れ狂う突風に押されて建物の外に出られなかった。

って、そもそもここどこなの!?

みゆき「れいかちゃん!ここって!?」

そして、ここがどこなのか分からないみゆきちゃんが叫んで

少し離れた場所に立つれいかちゃんに聞いた。

れいか「富士山です!」

そして帰ってきた答えは、まさかの富士山。

 

ほうほう成程。確かに霊峰富士と呼ばれる富士山ならプリキュアに

ぴったりって違~~~~う!!

黄金「確かにすごいけど微妙にズレてないれいかちゃん!?

   私達は私達だけの秘密の場所を探してるんだし、日本の顔を

   秘密基地にしたら不味いでしょ~!」

と叫びつつ、寒いし風邪をひく、とみゆきちゃん達が言ってれいかちゃんを

説得し、ふしぎ図書館に戻った。

 

そして次、2番手はやよいちゃん。

普段からアニメやなんやらが大好きなやよいちゃんらしく、秘密基地

という事には相当思い入れがあるみたいで、何やら自身あり気に

扉を開いた。

 

たどり着いた先は、SFの軍隊が使ってそうな場所だった。

はしゃぎ出すみんなだけど、不意に私は思った。

ここ、どこ?日本なのかな?どう見たって普通の軍隊の基地って

訳でもないし、何か設備もアニメとか特撮っぽい。

いや、それ以前にこの場所、どっかで見た事あったような~。

黄金「う~ん」

と、私が唸りながら他の皆を見ていたその時。

スタッフ「ちょっとちょっと!」

あかね「え?」

黄金「あ」

疑問符を浮かべるあかねちゃんと、ある事に気付いた私。

私達の左側には大多数の、テレビ局のスタッフさんやら

何やらコスチューム姿の人が居た。

そう、つまりここは……。

 

テレビ局の中の撮影用のセット!?

スタッフ「見学者は勝手に入っちゃダメだよ!」

6人「「「「「「ご、ごめんなさ~~い!」」」」」」

そう叫びながら退散したのだった。

 

 

戻って不思議図書館。

じ~っとやよいちゃんを見つめる私達5人。

黄金「それで?当事者のやよいちゃんからは?」

やよい「だって、一度でいいから行ってみたかったんだもん」

あかね「だもん、や無いやろ」

なお「まぁまぁ。全く二人ともしょうがないなぁ」

と、どこか得意げにあかねちゃんの肩を叩き本棚の前に

立つなおちゃん。

どうやらなおちゃんが3番手らしい。

 

で、なおちゃんに任せてたどり着いた先は、ピンク色を

基調としたいかにも『女の子らしい』部屋だった。

皆は結構はしゃいでいるけど、私は相変わらずここが何処

なのかを考えた。

まるで女の子の部屋をまんま再現したみたいな。

 

そしてそれ以上に……。

な~~~んか嫌な予感が。

 

そう思って隅っこで私が顎に手を当てて考えていた時、

なおちゃん達はお茶をするとか言い出していたその時。

店員「あの~お客様。店内でのご飲食は、ご遠慮いただきたいの

   ですが」

そう、そこは唯のぬいぐるみショップだった。

その後もキャンディが買われそうになったり慌ててお店を

飛び出したりと、散々だった。

 

しかも4番手のあかねちゃんなんか、何と動物園のゴリラの

居場所にまで飛んじゃって。これには流石の私も思考停止。

図書館に戻るのだって大変だったんだよ。

 

 

黄金「それで?あれだけ息巻いたなおちゃんとあかねちゃん?

   何か言い分があれば聞いておくけど?」

と、背後にゴゴゴゴゴッと擬音を浮かべながらも笑みを浮かべる

私の前に正座しているなおちゃんとあかねちゃん。

あ・な「「何もありません」」

そう言って頭を下げる二人。そんな姿を見ると、怒る気にも

なれなくて私はため息をついた。

黄金「ハァ。イメージするだけで勝手に繋がるんだしなお

   ちゃんは仕方ないとしても、何だって動物園のゴリラの

   飼育場所なの?」

あかね「い、いや。そりゃやっぱ可愛いしな」

黄金「あかねちゃんはゴリラと一緒に私達まで見世物に

   する気?」

あかね「ゔっ!?……すんません、そこまで考えてませんでした」

黄金「まぁ戻って来られたから良いけど」

なんて言っていると……。

れいか「そう言えば、黄金さんはどうなのですか?基地探し」

黄金「私?私はここで良いって思ってるけど」

そう言いつつ天井を見上げる黄金。

  「ここなら外と隔離されたも同然だから、外に情報が

   漏れる心配も無いし、万が一にも誰かが入ってくる

   心配も無い。確かに完璧、とは言えないけど

   贅沢は言えないよ。私達以外人が居ないって

   意味ではちゃんと秘密なんだし」

なお「そうは言うけど、折角だから黄金も扉でイメージして

   見たら?」

あかね「せやせや!黄金もやってみい!」

黄金「え、え~?」

 

という皆の押しに負け、本の扉の前に立つ私。

 

イメージ。イメージかぁ。

まず、人が居ない事。それと同じくらい、簡単に人が

来られない場所。

そう、例えば、無人島みたいな……。

 

そう思って扉を開く私。

 

そして、光を潜り抜けた先は……。

 

廃墟みたいな所だった。

  「え?」

周りを見回し、私は呆けた声を出してしまった。

みゆき「ど、どこ?ここ」

私の後ろから現れたみゆきちゃん達も疑問符を浮かべながら

恐る恐るやってきた。

今、私達の居る場所はどこかの室内のようだ。しかし部屋の壁は

既にあちこちひび割れ、外が見える、窓が無くなった窓枠からは

植物の蔦が侵入していた。

光源もその壊れた窓枠から入る日の光だけ。

扉の元になったのは、色あせ雨風でボロボロになったファイルが

収められた、これまたぼろっちい本棚だった。

あかね「こ、黄金?あんた一体何をイメージしたん?」

震える声で私に問いかけるあかねちゃん。

黄金「私としては、まず誰も人が居ない、無人島みたいな場所を

   イメージしたんだけど……」

やよい「で、でもここ建物じゃ……」

れいか「ですが、この劣化具合から考えればこの建物自体、

    放棄されてからかなり時間が経っているようです」

なお「人はいないって事?」

れいか「恐らくは」

黄金「ん?」

 

その時私は、部屋の隅に置かれた大きな鉄製の箱を見つけ、

歩み寄った。

そこにはでっかく赤い色で『火気厳禁』と書かれていて、

蓋には立派な錠前までついていた。

何だろうと思いつつ、興味に駆られた私は……。

   『カチンッカチンッ』

その錠前を念力で開けた。

 

みゆき「黄金ちゃん、どうしたの?」

黄金「うん、ちょっと気になる箱があって」

そう言って箱を開け、中を見た瞬間私の頬を汗が伝った。

  「うわ~。……何ともキツイ冗談だこと」

余りの衝撃にそんな事を言っていると、部屋を見回していた

みんなが集まってきた。

なお「黄金、どうしたの?」

黄金「あ~えっとねみんな。『こんなもの』、見つけちゃいました」

そう言って私が取り出してみんなに見せたのは……。

 

み・あ・や・な・れ「「「「「け、拳銃!?!?」」」」」

 

そう。見紛う事もないそれは、拳銃だった。

で、そんなもんがあるって事はここってもしかして……。

れいか「もしや、ここは……」

黄金「は、廃棄された、軍事施設みたい」

という私の言葉に、みんなの表情が蒼白になって行くのが

分かった。

そうなれば、言う事は一つだけだ。

 

  「よし!帰ろう!」

み・あ・や・な・れ「「「「「うんっ!」」」」」

そう言って全員一致ですぐさまふしぎ図書館に戻ったのだった。

 

その後、あかねちゃんやなおちゃん、やよいちゃんは諦めモードに

なりつつあった。そして私としては、ここで納得している事もあり

同じく諦めモードになりかけていた時。

 

みゆき「見つかるよ!」

 

と、未だに秘密の場所探しに意欲を示すみゆきちゃん。それを

気にしてれいかちゃんが尋ねると、みゆきちゃんは持っていた

肩掛けバックの中から一冊の本、赤毛のアンを取り出して

話してくれた。

 

みゆきちゃんが子供の頃から赤毛のアンが大好きな事。

そんなアンの話の中で、アンと友達のダイアナが二人だけの秘密の

場所で永遠の友情を誓う場面が憧れである事。

昔住んでいた街の近くの森に素敵な場所を探しに行った事などなど。

 

童話の場面に憧れ、か。何ともみゆきちゃんらしいな。

 

そう私が思う中で、あかねちゃん達の提案で私達6人はその

みゆきちゃんの『素敵な場所』に行ってみる事になった。

 

 

その後、本の扉を使ってみゆきちゃんが以前生活していた街に

やってきた私達6人。

みゆきちゃんの言う素敵な場所、森は市街から離れた郊外にあって

私達は先頭を歩くみゆきちゃんに続いていた。

 

一人走り出すみゆきちゃんに、私はその隣を並走しながらついて行った。

黄金「……良いところだね、ここ」

みゆき「うん!」

笑みを浮かべながらの私の言葉に、みゆきちゃんもまた、笑みを

浮かべながら頷いてくれた。

 

その後、更に鬱蒼とした森林を抜けていく私達。

先頭を走るみゆきちゃんと並走していたその時だった。

女の子「まぁとっても美味しいお茶ですわ奥様」

どこから、というか私達の進もうとしている方向から女の子、

それも私達よりも年齢が下な小さい子達の声が聞こえて来た。

 

黄金「声?」

疑問符を漏らしながら歩いて行くと、草木の影から先を覗く

私とみゆきちゃん。見ると巨木の真下で二人組の女の子達が

おままごとみたいな事をして遊んでいた。

 

それで結局、みゆきちゃんはそこを諦め、引き返した。

  「残念、だったね」

みゆき「そうでもないよ。だって、また新しい秘密の場所を

    探せばそれでいいんだもん」

黄金「そっか。……じゃあ、もうちょっと頑張ってみよっか。

   秘密の場所探し」

あかね「せやな」

 

そう言いつつ、私達が引き返していたその時。

 

   『キィィィンッ!』

私の中で、アギトの感知能力が働きすぐに周囲を見回した。

近い!すぐそば!?

 

そして、私が険しい表情で周囲を見回し始めた事で

みゆきちゃん達も驚き戸惑っている様子だった。

と、その時。

なお「あ!見てあそこ!」

そう言ってなおちゃんが指さしたのは、さっきの巨木の枝付近。

慌てて私も視線をそちらに向けると、そこにはあの狼男、

ウルフルンが立っていた。

キャンディ「ウルフルンクル!」

 

そして、奴はいつものようにあの本を取り出した。

ウル「世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まれ!白紙の未来を

   黒く塗りつぶすのだ!」

くっ!?あいつまたバッドエンド空間を!!

ウルフルンによってあの空間が生成され、さっきの女の子達が

無気力化してしまった。

バッドエンドエナジーがあの本に吸収されていく!止めないと!

キャンディ「みんな!変身クル!」

 

キャンディの声に答え、スマイルパクトを取り出すみんなの隣で、

私もいつもの動作で、オルタリングを召喚する。

黄金「はぁぁぁぁ」

ゆっくりと右手を前に突き出し、そして……。

  「変身!!」

気合と共に両腰のスイッチを叩く。

光が私を包み、私はキュアアギトへと姿を変えた。

 

そして、その隣でスマイルパクトを取り出すみんな。

み・あ・や・な・み「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

     『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

それぞれの体を光が包んで行き、みんなも変身する。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「か、神が生みし悪を立つ戦姫!キュアアギト!」

うぅ、やっぱりこの名乗りまだ慣れない!

 

6人「「「「「6つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!」」」」」」

 

ウル「現れたなプリキュア!今日という今日こそ俺様の怖さを

   思い知らせてやる!」

そう言うと、奴はアカンベェを召喚するための玉を取り出した。

  「いでよ!アカンベェ!!」

 

奴が叫ぶと、赤黒いエネルギーが周囲に放出され、そして……。

   『アカンベェ!』

あの巨木と合体したアカンベェが生まれた。

 

ハッピー「ここはあの子達の素敵な場所なんだから!

     私達が絶対守る!!」

ウル「はっ!何が素敵な場所だ。ただの森じゃねえか。

   行け、アカンベェ!」

   『アカ~~ン!』

奴の命令に従ってアカンベェが右手を引き絞る。

   『ベェッ!』

私達目掛けて拳を繰り出すアカンベェ。

それを見て、私は後ろへとバックステップで回避しみんなは

真上に跳躍した。

ハッピー「あ、相変わらずすごいじゃんぷ!」

驚くみんな。けど……。

アギト「まだだよ!」

   『アカンッ!』

私が叫んだ時、アカンベェが両手を組み合わせ、振り上げていた。

   「くっ!!!」

 

飛べないみんなじゃ、今は良い的になってる!

そう思った私は、右手を皆の背中に向かって伸ばし、その肩を

掴むイメージをしてから真後ろに全力で引っ張った。

   『ベェッ!』

ハッピー「うわっ!」

そして、アカンベェが拳を振り下ろすよりも先に私の

サイコキネシスで5人を引いたから、何とか攻撃を

避ける事が出来た。

 

後ろに引かれつつも、何とか着地する5人。

アギト「大丈夫!?」

ピース「お、おかげ様で」

ウル「ちぃっ、避けやがったか」

 

腕が木なら、ぶった切れば!

そう思いながら私はベルトの右側のスイッチを叩き、

ベルトからフレイムセイバーを取り出した。それと同時に

私の右手が炎に包まれ、上着と右手が赤く変化する。

 

アギト「私が突っ込むから、援護をお願い!」

ビューティ「はい!」

後ろに向かって叫ぶと、私は駆け出した。

ウル「来やがったな。アカンベェ!まずはあの赤いのを

   叩き潰せ!」

   『アカ~~ン!』

再び腕を振り上げるアカンベェ。

来る!

   『ベェッ!』

 

私は立ち止まり、セイバーを構える。

そして………。

   『ドォォォォンッ!』

アギト「ぐ、うぅぅっ!」

重い!受け止めたけど、この一撃はかなり重い。

だけど!

   「まだ、まだぁっ!」

私は叫びながら、セイバーに力を籠める。

フレイムフォームには炎を操る力があるんだ!

炎を、セイバーの刀身に纏わせる!

次の瞬間、赤熱化したセイバーの刀身に触れていた

アカンベェの腕が着火した。

   『あ、アカンベェッ!?』

それによって怯むアカンベェ!未だ!

   「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

セイバーの炎を纏った刀身で、アカンベェの右腕を切り裂いた。

   『ズズンッ!』

奴の腕、肘から先が音を叩て地面に落ちる。

 

マーチ「やった!」

サニー「アギト~!そのままいったれ~!」

言われずとも!

後ろからみんなの声が聞こえ、このまま奴の顔目掛けてジャンプ

しようと膝を曲げた時、

   『アカンベェッ!』

 

奴のいくつもの足が突如として刺突の用に襲い掛かってきた!。

しまっ!?

咄嗟にフレイムセイバーで防ぐけど……。

   『ガガガガガッ!』

アギト「きゃあぁぁぁっ!」

ハッピー「アギト!」

態勢が不安定だったこと、いきなりで対応が遅れたこと、

それらもあり、私は悲鳴を上げながら吹き飛ばされて

しまった。

   「く、うぅぅっ!」

何度か地面を転がってから、セイバーをアンカーのように

地面に突き刺して何とか態勢を立て直した。

 

ビューティ「アギト!大丈夫ですか!?」

咄嗟に駆け寄ってくるビューティ。

アギト「だ、大丈夫」

何とか立ち上がり、セイバーを地面から引き抜く私。

 

ハッピー「今度は私達が!」

そう言ってハッピー、サニー、ピース、マーチ、ビューティが正面から

突進するが……。

   『アカンベェ!』

   『ドガガガッ!』

5人「「「「「きゃぁぁぁぁっ!!」」」」」

あの足の攻撃の前に弾き飛ばされてしまった。

アギト「みんな!!」

 

ウル「ウルッフッフ!他愛もない奴らだ!大体、こんな森を守って

   何になる?」

ハッピー「くっ。…あなたには唯の森かもしれないけど、大好きな

     友達と遊んだり、おしゃべりしたりする場所は!」

そういながらも、倒れていた体を起こすハッピー。

 

    「とってもキラキラした素敵な場所なんだから!」

その言葉に、ハッピーの言葉に4人が聞き入っていた。

 

ウル「ウダウダうっせえんだよ!だったら、守って見せろ!」

 

キャンディ「ハッピー!アカンベェを浄化するクル!」

ハッピー「うん!気合だ気合だ気合だ~~~!」

スマイルパクトに力を籠めるハッピー。だけどその瞬間は

隙だらけだ!

ウル「何が気合だ。アカンベェ!」

   『アカンッ!』

ハッピー「あ!」

   『ベェッ!』

そう言った次の瞬間、アカンベェが残っていた左手を振り上げ、

皆目掛けて振り下ろした。

 

盛大に土埃が舞う。

ウル「ウルッフッフ。終わったなプリキュア」

一人勝ちを確信し、ほくそ笑むウルフルン。

だが……。

 

アギト「犬っころがよくもまぁ吠えるじゃない」

 

ウル「何ッ!?」

その時、ウルフルンから見てアカンベェの手の下から声がした。

 

ハッピーもまた、その声を聞いて閉じていた目を開き、見た。

彼女の前には、アイアンフォームへと変化しシールドを展開。

5人を守るアギトの姿があった。

 

アギト「良い?よく聞きなさいこの駄犬!誰も、そっちの勝手な

    価値観なんか望んじゃいないのよ!そうやって吠えるのが

    好きなら!」

そう言いつつ、アイアンフォームの両手を更に光らせ、

シールドでアカンベェの腕を押し返していく。

   「アフリカにでも!」

そう言って次の瞬間ジャンプし、アカンベェの左手首を

殴って弾き、更にシールドを足元に展開。足場にして跳躍し、

右手のバンカーを引き絞る。

   「ぶっ飛べぇぇぇぇぇぇっ!!!」

   『ドゴォォォォォォンッ!!』

私の右こぶしがアカンベェのどてっぱらに命中し、

その衝撃で多数の木片が周囲に飛び散った。

   「ハッピー!今だよ!」

 

ハッピー「うん!」

 

私の声に答え、技を発動するハッピー。

    「プリキュア!ハッピーシャワー!」

桃色の光がアカンベェへと向かって良き、命中。アカンベェが

浄化されるところを上から見ながら、私はみんなの傍に着地。

赤っ鼻の元にされていたデコル、指輪デコルを回収して

終わった。

 

その後、さっきの女の子達が元気に遊ぶ姿を見てから、私達は

図書館へと戻った。

そんな中、みゆきちゃんのアイデアで『本棚自体に場所を選んで

もらう』という案が出され、早速試したのだけど……。

 

キャンディ「ふしぎ図書館に戻ってきたクル」

みゆきちゃんに抱えられたキャンディの言う通り、戻って

来てしまった私達。

あかね「本の扉壊れたんか?」

黄金「或いは、イメージが曖昧だったからうまく扉が

   繋がらずに、戻された、とか?」

れいか「その可能性もありますね」

と言っていた時だった。

 

あかね「え~?折角、『ウチらだけのすっごい楽しい秘密の

    場所』って念じてんけどな~」

そう言いつつ腕を組むあかねちゃん。すると私を含めたみんなが

疑問符を浮かべた。

みんな、似たような事を考えていたみたいだ。

実際、私も『私達6人で楽しく過ごせる秘密の場所』って

考えてた。

 

そしてそれが、みゆきちゃんを。そしてみゆきちゃんの場所に

拘らなくて良かったんだ、という言葉が私達を納得させ、

このふしぎ図書館が私達の秘密の場所になった。

 

 

しかしまぁ不便な事も多く。

イスになりそうなキノコは背が高かったり距離が離れたり。

かといって私達みんなで座れる程大きなキノコも無く……。

 

いっその事、工具でも持ち込んで小さなログハウスでも

作ろうかな?3人寄れば文殊の知恵って言うし、最悪

アギトの力も使えば……。

 

なんて私が思っていた時、キャンディのアイデアで

星デコルを使ってデコレーションをしてみた。

すると図書館の中央にあった巨大な切り株が何と

家に変化してしまった。

すぐに中に入って行く私達。

そして、私は窓を開けたみゆきちゃんの隣に立ち、外の

景色を見つめた。

 

黄金「見つかったね。新しい、私達7人だけの、秘密の

   場所」

みゆき「うん!」

 

こうして私達は、私達だけの秘密の場所を見つけたのだった。

 

     第7話 END

 




後、みらいの友達編も書いています。
出来れば10話以降に同じ場所に上げるか、別の作品として
上げるかもしれません。


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第8話 交差する思い

今回は第8話ベースですが、流れの大半がオリジナルです。
また、ラストの方でちょっとした百合展開があるため、
それが苦手、原作改変が苦手と言う方はブラウザバックを
お勧めします。


~~前回までのあらすじ~~

デコルデコールを使ってポップと連絡できるようになった

みゆき達。しかし学校では人目も多く、6人だけの秘密の場所を

探す事になった。

皆が皆、それぞれイメージした所を巡り、ウルフルンとの戦闘が

ありながらも最終的にふしぎ図書館が6人の秘密基地になるの

だった。

 

 

ふしぎ図書館が私達の秘密基地になってから数日後。

その日私は徒歩で通学していた。理由は昨日の帰り道で

自転車がパンクしちゃったから。元々歩いていける距離

でもあったし、たまにはと言う事で歩いていた。

その時。

みゆき「黄金ちゃ~~ん」

不意に後ろからみゆきちゃんの声が聞こえたから足を止めて

振り返ると、小走りでみゆきちゃんが駆け寄ってきた。

   「おはよう黄金ちゃん」

黄金「おはようみゆきちゃん」

みゆき「今日はどうしたの?自転車じゃないの?」

黄金「あ、アハハ。それが昨日の帰り道でパンクしちゃって。

   今修理に出してる所なの」

みゆき「成程~。それは災難だったね~」

と、歩きながら談笑していた時。

キャンディ「クル?流れ星クル!」

み・黄「「え??」」

キャンディ「あっちに落ちたクル!」

み・黄「「落ちたの?」」

 

と、私達は異口同音を口にしつつも、キャンディが指さした方向

へと向かった。

そして、私達は『それ』を見つけた。

キャンディ「そりが流れ星クル?」

私達の見つけたそれは、銀色のリングが二つ。同じ形をした、

所謂ペアリングだった。

みゆき「星って言うか指輪だね。それもペアリング」

キャンディ「ペアリングって、何クル?」

黄金「ペア、つまり二人一組の人が身に着けるアクセサリーの事で

   お揃いのアクセサリーの一つだよ。……でも」

みゆき「そうだよね~。何処から落ちて来たんだろ?」

そうだよね~。まさか飛行機から投げられた、何てことは…。

あ、そうだ。

黄金「みゆきちゃん、ちょっと見せて。もしかしたらどこかに

   名前とか書いてあるかも」

みゆき「成程。流石黄金ちゃん。はい、どうぞ」

と、みゆきちゃんが持っていた一つを受け取ったその時。

   『ピカッ』

なっ!?

 

いきなり指輪が光ってゴムのように形を変えたかと思うと

勝手に私の左手中指に嵌ってしまった。

みゆき「うぇっ!?」

同時に、みゆきちゃんが持っていた物もみゆきちゃん自身の

指に嵌ってしまった。

   「な、なにこれ!?」

黄金「これ、唯の指輪じゃ!?」

と、その時。

 

   『『ドクンッ!』』

み・黄「「ッ!?」」

 

その時、不意に私の体を違和感が襲った。まるで、強制的に

魂を肉体から引きはがさるような、そんな錯覚に。

 

キャンディ「み、みゆき!黄金!大丈夫クル!?」

不意に、キャンディの声が聞こえて来て私はパチパチと目を

瞬かせてから周囲を見回した。

そして、気づいた時にはいつの間にか私の視界に私が居た。

言葉として変かもしれないが、いつの間にかみゆきちゃんと

向かい合っていたはずの私が、次の瞬間には

自分自身を見つめていた。

 

いや、でも、何となくわかる。記憶、感情、思考。それが

全部自分だけど、『体』が違う。そう、つまりこれは……。

み(黄)「な、何で私が居るの!?」

目の前の私、の中に居るみゆきちゃんが私を指さす。

そしてみゆきちゃんはポニーテールにしていた私の髪を

肩の前に動かし、その毛先を見る事で大体事情を

把握したみたい。

   「あ、あぁ。嘘。どうなってるのこれ」

ワナワナと体を震わせるみゆき(黄金)。

と、そこに偶々通りかかったあかねが合流してきた。

 

あかね「何しとんねん二人とも。早く行かんと遅刻

    するで」

欠伸をしながらも歩み寄ってくるあかねちゃん。

それを見て、みゆきちゃんが……。

 

み(黄)「わ、私と黄金ちゃんが、入れ替わっちゃった~~~~!」

 

 

こうして、はたまたトラブルが始まったのだった。

 

 

その後、学校で合流した私達7人は外のベンチで

集まっていた。

み(黄)「みゆきです」

黄(み)「黄金です」

と、私の顔で落ち込み気味のみゆきちゃんと、

逆にみゆきちゃんの顔でどこか冷静な私。

れいか「不思議ですね」

やよい「すご~~い」

なお「と言うか、正直ちょっと信じられないね」

あかね「いや~、うちも最初そう思ってんけど、ど~も

    ホンマっぽいねんなぁこれが」

というあかねちゃんもかなり困り気味。

って、やよいちゃんお願いだから目を輝かせるのやめて。

しかし、入れ替わりを完全に証明できないが故にみんな

所々疑っている。

何か、入れ替わった証明を……。

そう思いつつ、足を組んで私が顎に手を当てていた時。

  『『『『じ~~』』』』

黄(み)「ん?みんなどうかしたの?」

あかね「え!?え~っと、いやその、何ちゅうか、

    みゆきの姿でそんなポーズされると普段との

    ギャップのせいか、その」

やよい「何て言うか、凛々しいって言うか」

れいか「でも、みゆきさんは普段こんな仕草はしませんし、

    やっぱり入れ替わりは本当なのではないでしょうか?」

なお「何と言うか、普段のみゆきちゃんとイメージが違い

   過ぎるもんね」

み(黄)「な、なおちゃんヒドイッ!?」

ガ~ンと擬音が聞こえてきそうな感じで落ち込むみゆきちゃん。

 

ともかく、これで私達が入れ替わってるって事は証明された。

その後、原因の指輪を見せて、強引に引っこ抜こうとしたり、

秘密基地の戦いの時に手に入れた指輪デコルを試してみたけど

全部ダメだった。

なお「あ、そうだ。黄金の念力で何とかならない?この前

   無人島で鍵を開けたりしてたじゃない」

み(黄)「……。なおちゃん、私みゆきだよ?」

なお「えっ!?あぁそうだったゴメン黄金!」

と、そう言って私、みゆきちゃんの体の方に視線を移す

なおちゃん。

とはいっても……。

黄(み)「ごめん、多分それは出来ない」

やよい「え?どうして?」

黄(み)「……アギトの能力も、超能力も、それは私の

    魂と体に刻まれた物。だから能力そのものが

    あるのは今も私の体の中。そしてそれを使い

    こなせるのは多分私だけ」

れいか「超能力を使うために必要な事が揃っていない、

    というわけですね」

その言葉を聞きながら、私は今の自分の体、みゆきちゃんの

手を見つめた。

細い。指も、何もかも。それでもわかる。ちゃんとした

『普通の手』。

そう、私がアギトに覚醒する前の手も、こんな感じだったんだ。

 

私がそんな事を考えている一方で……。

なお「けどどうするの?もうすぐ授業始まっちゃうよ?」

れいか「ここはやはり、黄金さんがみゆきさんとして。逆に

    みゆきさんが黄金さんとして授業を受けるしか

    ありませんね。みゆ、黄金さんもそれで

    良いですか?」

みゆきの方を向き、みゆきと言いかけて訂正するれいか。

しかし……。

   「黄金さん?」

黄(み)「え?あぁうん。わかった。私がみゆきちゃんの代わりを  

    すればいいんだね?」

 

考え込んでいた私は、れいかちゃんの言葉に反応するが少し

送れてしまい、何とか思考を戻して返事をした。

 

その後、何とか授業を受け、放課後の最後の授業になった

んだけど、ふとみゆきちゃんを見た時、みゆきちゃんが

頭を押さえているのに気づいた。

黄(み)「み、黄金ちゃん?どうしたの?」

いきなりの事で、危うく呼びかける言葉を飲み込み声を

掛ける私。

み(黄)「ご、ごめん。ちょっと、頭が……」

そう言って玉のような汗を浮かべるみゆきを見て、ある事に

勘付いた黄金は行動を起こした。

黄(み)「先生すみませ~ん。黄金ちゃんが何だか体調

    悪そうなので、保健室に連れて行ってあげても

    良いですか?」

先生「え?」

と言うと、黒板に向かい合っていた佐々木先生が振り返って

みゆきちゃん、つまり私の体の様子を見た。

  「あら、確かに津神さん体調悪そうね。わかりました。

   星空さん、津神さんを保健室まで連れて行って

   上げなさい」

黄(み)「はい」

短く返事をすると、頭を押さえるみゆきちゃんの手を取り、

ゆっくりとした足取りで教室を出て保健室に向かった。

 

その後、保健室に辿り着いた私はそこに居た保健医の先生に

訳を話してみゆきちゃん、私の体をベッドに横たえ

布団をかけてあげた。

 

そして、みゆきちゃんの寝顔を見てから私は教室に戻った。

それから数十分後、授業が終わり、更に帰りのHRも

終わった後、私はみんなより少し早く掃除を終えると

みゆきちゃんの、つまりは自分の荷物を鞄に纏めて、

やよいちゃん達に、『保健室に鞄を届けてくる』とだけ言って

教室を出た。

 

保険室に行くと、扉の前に会議に出席中と書かれた掛札が

してあり、保健室の中にはベッドで眠るみゆきちゃんだけが

居た。

み(黄)「う、う~~ん」

そして、肝心のみゆきちゃんはどこかうなされていた。そんな

みゆきちゃんの様子を見た私は、その傍に鞄を置くと

静かに保健室を後にした。

 

私の背を、薄っすらと開いた眼で見つめるみゆきちゃんを

残して。

 

 

それから更に約10分後。

み(黄)「あれ?ここって」

目が覚めたみゆきは体を起こし、額に手を当てた。

   『そっか。私、『あれ』が聞こえて頭が痛くなって』

そう思っていた時。

 

   『クソッ!なんで俺がこんな!』

     『あいつ、掃除サボりやがって!』

    『何あいつ、ちょーウザい』

 

みゆきの頭の中に、無数のノイズと共に流れ込んでくる

不快な声。

聞こえる声にまたしても頭痛を覚え、頭を押さえるみゆき。

と、そこへ。

れいか「失礼します」

あかね「みゆき~。起きたか~?」

保健室のドアを開け、あかね達4人とキャンディが入ってきた。

 

み(黄)「みんな」

なお「うわっ!汗びっしょりじゃない!大丈夫?」

み(黄)「う、うん」

と、その時。

    『クソッ!何であんな奴が俺より成績良いんだよ!』

     『あの先生マジウザい。早く≪死なない≫かな~』

   「やめてっ!!!」

また聞こえた単語に頭を両手で押さえ、その場に蹲るみゆき。

そんな彼女の体はガクガクと震えていた。

あかね「み、みゆき?どないしたん?」

キャンディ「みゆき、大丈夫クル?」

余りの怯えように驚き困惑する4人とキャンディ。

 

み(黄)「声、声が聞こえるの」

ガクガクと震え、目を見開き、顔を真っ青にしながらも

その事を伝えるみゆき。

なお「声?どういう事?」

と、聞いたあかね、やよい、なおの3人はすぐには理解

出来なかったが、れいかだけはそれだけで一つの事を

思い出していた。

 

「私ね!誰かに触れる事で相手の考えている事が

 わかるんだよ!」

 

それは、黄金がみゆき達の友達として受け入れられた時、

心がボロボロになっていた時の彼女の言葉だった。

 

れいか『もしや、テレパシー?アギトに覚醒した黄金さんが

    超能力を使え、尚且つそれをあの時コントロール

    出来ていなかったとしたら……』

   「みゆきさん、落ち着いてください」

そう言うと、震えるみゆきの両手を自分の両手で優しく包み、

同じくらい優しい声色で語り掛けるれいか。

   「聞こえる声に乱されないで。心を落ち着けて。

    深呼吸です。吸って、はいて」

み(黄)「う、うん」

 

彼女の言葉に従い、深呼吸をしてから心を落ち着けるみゆき。

 

やよい「みゆきちゃん、大丈夫?」

み(黄)「う、うん。何とか。ありがとうれいかちゃん」

れいか「いえ。助けになれたのなら何よりです」

なお「それにしてもれいか、よくあんな風に的確にアドバイス

   出来たね?」

あかね「と言うか、みゆきはどうしてああなったん?やめてって

    いきなり叫ぶからびっくりしたで」

み(黄)「そ、それは……」

と、どこか言いづらそうなみゆき。

れいか「恐らく、先ほどまでみゆきさんは声に晒されていたのです」

やよい「声?」

れいか「はい。皆さんは覚えていますか?黄金さんが初めて私達の

    前で変身した時、誰かに触れる事で相手の考えが判る、と

    仰っていた時の事」

なお「あぁ、そう言えば確かに」

れいか「そして恐らく、あの時の黄金さんはアギトの力に慣れて

    居なかったせいもあり、今のみゆきさんの様に

    完全に超能力を使いこなしている訳ではなかったのだと

    思います。そして、そのテレパシーの力が大きく、

    制御できないが故に、この学校に居る生徒達の心の声を

    無差別に拾ってしまったのだと思います」

あかね「あ、じゃあまさか、あの時よく黄金が頭を押さえて

    苦しそうにしていたのって」

れいか「恐らく、今のみゆきさんと同じです。聞きたくもない

    ような人の心の声がストレスとなり、頭痛や体調不良の

    原因となっていたのでしょう。そして、人の心の声が

    必ずしも美しい物とは限りません。嫉妬、後悔、

    怒り、憎しみ。そんな人間の負の感情があの時の

    黄金さんを。そして今のみゆきさんを苦しめているの

    だと思います」

み(黄)「………」

れいかから聞かされる事の推察をただ黙って、シーツに視線を

落としながら聞いているみゆき。

 

それを見ていたあかね達。やがて……。

あかね「あんなみゆき。別に落ち込む事無いねん。人なんて

    腹ん中に何溜め込んでるか分からんし、その、な?」

み(黄)「ううん。違うの」

やよい「え?」

否定された事に、てっきりみゆきが人の負の感情を前に

落ち込んでいるのだと思ったやよいは疑問符を浮かべ、

同じく当てが外れたあかねとなおは首を傾げた。

 

み(黄)「最初は、本当に軽い気持ちだった。授業中に

    黄金ちゃんみたいに超能力使えたらな~って

    気分で試して、周りのみんなの心が読めたからって、

上手く行ったからって舞い上がって」

次第に肩を震わせるみゆき。そして……。

   「私は、私が許せない」

その目から大粒の涙を流し始めた。彼女の頬を伝った涙が、

シーツへと落ちる。

   「黄金ちゃんは、自分からアギトになった訳じゃないのに、

    なのに、私はこの力を面白半分に使って」

制服の袖で、ゴシゴシと目元を拭うみゆき。

   「今日、こうなって初めて分かった。あの時の黄金ちゃんが

    どれだけ苦しんでたのか。どれだけ辛い思いをしてたのか。

    そんな事も考えないで、こんな風に力を使った私は……」

両手で顔を覆い、嗚咽を漏らすみゆき。

やよい「みゆきちゃん」

そんな彼女の肩に、やよいや逆方向に回り込んだあかねが

手を置く。

あかね「みゆき、間違いは誰にでもある。自分がした事が

    許せへんなら、その気持ち全部込めて、黄金に

    謝ったらええ。それで良いんよ」

み(黄)「あかねちゃん。……うん、ありがとう」

涙で顔をグチャグチャにしながらも、みゆきはもう一度涙を

拭い、笑みを浮かべるのだった。

 

それから、数分をかけて落ち着きを取り戻すみゆき。

なお「みゆきちゃん、大丈夫?もう立てる?」

み(黄)「うん。大丈夫。……私、ちゃんと黄金ちゃんに

    謝らなきゃ」

そう思っていた時だった。

 

やよい「って、あれ?そう言えば黄金ちゃんは?」

と、ここに来て黄金がどこにいるか、分からなくなる5人。

なお「確か、みゆきちゃんに鞄届けてくるって言って教室を

   出た切り見てないね」

あかね「もしかして、校内に居るんちゃうか?手分けして

    探してみよ」

れいか「そうですわね。みゆきさんはここでキャンディと

待っていてください。

    もしかしたら黄金さんが戻ってくるかもしれませんから」

み(黄)「う、うん」

キャンディ「みゆきは任せるクル!」

 

その後、手分けしてみゆきの体を持つ黄金を捜索したが、見つかりは

しなかった。

あかね「黄金、見つかったか?」

ある程度探し終え、保健室に戻ってくるあかね。先に戻ってきて

居たのはれいかとやよいだった。

れいか「ダメです。あちこち探しましたが」

あかね「そっか。黄金、一体どこに」

と言っていると……。

なお「あ、みんないる!丁度良かった」

最後になおが戻ってきた。

れいか「なお、どうしたのそんなに慌てて」

なお「実は、戻り際に下駄箱が目に入って、もしかしたらって

   みゆきちゃんの下駄箱を覗いたんだけど、靴が

   無くなってたんだ」

あかね「っちゅうことは黄金はもう下校しているって事かいな」

やよい「で、でもそこまで遠くに行くとは思えないし」

なお「そうだね。学校の周りや黄金の家までの道の辺りを

   探してみよう」

そう言うと、5人とキャンディは下校し、その足でみゆきの体を

持つ黄金を探し始めたのだった。

 

 

一方、黄金は一人公園へと来ていた。そこで遊ぶ子供たちを

離れたベンチに座りながら見つめる黄金。

 

多分、あの時みゆきちゃんが苦しんでいたのは、私の能力の

せいだ。あれは、私がまだ十分に能力をコントロール

できなかった時と同じ。

周りから聞こえる誰とも分からない汚い心の声を否応なしに

聞かされて。

……あんなことを経験したみゆきちゃんが、私の事をまだ

友達だと言ってくれるだろうか。

そもそも、私がアギトに覚醒しなければ、こんな事には……。

 

後悔の念が黄金の中で燻る。だが、その時彼女の脳裏に

みゆき達5人と笑い合う自分の記憶が蘇った。

 

もし仮に、この事でみゆきちゃん達から避けられたとしても、

ほんの少しの時間でも、私の事を友達と言ってくれた

みゆきちゃん達を守れるのなら。

 

私の大切な人を守れるのなら。

そう思いながら、私はギュッと拳を握りしめた。

 

今更、この命を惜しいなどとは思ってない。覚悟、なんて

立派な物じゃないけど、私自身今のみゆきちゃん達がしてくれる

みたいに普通に接してくれる人が現れるなんて、アギトになって

死ぬまで戦う決意をした時は思ってもみなかった。

 

死ぬまで周りから疎まれ、蔑まれ、排斥される。

そうなっていても可笑しくなかった私をみゆきちゃん達が

救ってくれた。

 

だから、今ここにある命は、みゆきちゃん達のために使う。

 

 

今一度、己が覚悟を認識する黄金。

それは≪友≫のために戦う決意。守りたい友たちのために、

大切な人を守るために全てを賭けて戦う覚悟。

自らを盾にしてでも仲間を守る覚悟。

少女達の剣であり続ける覚悟。

 

例え、己が光と認めた少女達に拒絶されても、一時でも

自分に笑顔をくれた彼女たちを守り切る覚悟。

それを、黄金は決意した。

 

 

やがて、私が一人そんな事を考えていると周囲は既に

夕方の時間帯だった。

最後に残っていた子供も母親に手を引かれ帰路に着いた。

それを見送った黄金もまた鞄を片手にその場を後に

しようとしたが……。

 

不意に、自分の影を見て髪型がいつもと違う事から、すっかり

忘れていた自分が今みゆきの体に居る事を思い出す黄金。

 

しまった。そうだった。まだ入れ替わったまま戻って

無いんだった。みゆきちゃん達、まだ学校かな。それとも

もう家に戻ったかな。う~ん。どうしよう。

 

と、黄金が悩んでいたその時。

 

なお「お~~い!」

やよい「黄金ちゃ~~ん!」

そこへ私、つまりみゆきちゃんやみんなが現れ駆け寄ってきた。

黄(み)「ッ。みんな」

驚き、僅かに息をのむ私の前に集まるみんな。

れいか「学校にも通学路にも居ないので探しました」

あかね「いや~。ホンマに探したで~」

と言いつつ、口々に笑みを浮かべるみんな。

私もつられて笑みを浮かべようとしたけど、その時私は

皆の後ろに居たみゆきちゃんがどこか戸惑っているような

姿を目にして、何となく理解してしまった。

 

そうだよね。気持ち悪いよね。他人の考えが読めるなんて。

何時何処で自分の事、聞かれるかもわからないのに。

……分かってた事だ。私も覚悟を決めよう。

 

そう思っていた時、みゆきちゃんが一歩前に踏み出し、私も

同じように一歩前に踏み出した。

み・黄「「あ、あの」」

と、その時私達の言葉が被ってしまった。

黄(み)「あ、えっと。みゆきちゃんからどうぞ?」

み(黄)「う、うん。えっとね、黄金ちゃん、私——」

 

と、その時。

 

マジョ「見つけただわさ!」

 

不意に声が聞こえて私達はその声がした方に視線を向けた。

見ると近くの遊具の天辺にマジョリーナが立っていた!

あかね「あいつは!?」

れいか「マジョリーナ!」

マジョ「まさかお前達がその指輪を持っていたとは……。

    しかしこれは怪我の功名だわさ」

 

『その指輪』って、まさか!?

黄(み)「まさか、この指輪はあなたが!?」

マジョ「その通りだわさ!装着した者の中身を入れ替える

    ペアリング!その名も『イレカワール』!」

………。

 

黄(み)「……あんたネーミングセンス壊滅的ね」

マジョ「うるっさいだわさ!こうなったら!」

そう言うと、あいつはあの本を取り出した。

   「世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まるだわさ!

    白紙の未来を黒く塗りつぶすだわさ!」

バッドエンド空間が展開され、周囲の人々からバッドエンド

エナジーが吸収されていく。

 

み(黄)「このままじゃ!」

黄(み)「だったらこっちも!みゆきちゃん!」

そう言ってスマイルパクトを取り出し黄金(体はみゆき)は

自分の体、みゆきの方へとパクトを投げ渡した。

そして、改めて前を向きオルタリング召喚の、黄金にとっての

変身スイッチでもあるポーズを行うが……。

 

み(黄)「そ、そんな!スマイルパクトが開かない!?」

黄(み)「お、オルタリングが……」

黄金の体を持っているみゆきは、スマイルパクトが開かずに

変身の為のキュアデコルをセットする事さえできず、

逆にみゆきの体を持つ黄金はオルタリングを召喚する

事すらできなかった。

 

やよい「そ、そんな!?どうして!?」

れいか「恐らく、みゆきさんがハッピーに変身するためには。

    そして黄金さんがアギトに変身するためには。

    肉体と魂が一つで無ければならないのでしょう」

マジョ「ひぇ~ひぇっひぇ!それは良い事を聞いただわさ!

    つまりキュアハッピーとキュアアギトは変身できない

    って事だわさ!」

黄(み)「そんなっ!?」

こんな時に戦えないなんて……。

 

あかね「こうなったらウチらだけでやるで!」

突き付けられた現実に私が俯く中、残りのみんなが

パクトを構える。

 

あ・や・な・れ「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

みゆきちゃんを除いたみんなが同時に変身していく。

 

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりんじゃんけんポン♪キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

 

そして、それを見るとマジョリーナはスプリング式の遊具を

使って、アカンベェを作り出した。

それはマジョリーナの身長程度しかないアカンベェだった。

だけど、それは逆に機敏さと言う意味で有利に働き、これまで

巨大なアカンベェとばかり戦っていたみんなはその素早い

動きに翻弄され、アカンベェの足から放たれたバネに捕らえられて

しまった。

 

み(黄)「みんなっ!」

キャンディ「そんな~」

黄(み)「このままじゃ不味い」

皆動けない。でも私とみゆきちゃん、キャンディは戦えない。

 

マジョ「ひぇ~ひぇっひぇ!これで残ったのは変身できない

    お前達と、ひ弱な妖精だけだわさ!さぁアカンベェ!

    そいつらを捻り潰すだわさ!」

   『アカンベェ!』

遊具型アカンベェが一つ足でピョンピョンと跳ねながら

にじり寄って来る。

マーチ「黄金!みゆきちゃん!キャンディを連れて逃げて!」

それを見てマーチ、なおちゃんが叫ぶ。

 

逃げる?私に、大切な友達を置いて逃げろと?

……出来るもんか。そんな事。

 

一歩前に踏み出し、みゆきちゃんとキャンディを庇う。

み(黄)「こ、黄金ちゃん?」

黄(み)「みゆきちゃん。キャンディを連れて下がってて。

    後、もしこの体に傷を作っちゃったら、ごめん」

キャンディ「黄金!何する気クル!?」

マジョ「ひぇ~ひぇっひぇ!まさか生身でアカンベェに

    立ち向かう気かだわさ!身の程知らずめ!

    よ~しアカンベェ!遊んでやれだわさ!」

   『アカンベェ!』

マジョリーナの命令に従い、向かって来るアカンベェに

対して私は構える。

 

今の私の体はアギトでも、変化した私自身の体でもない。

 

それでも、それを理由に諦める訳には行かない!

 

   『アカンッ!』

 

今だ!

 

アカンベェが私の眼前に着地しようとしたその瞬間を狙って

奴の顔に飛びかかった。

   『ベェッ!?』

そのまま体全体でアカンベェの体にしがみつき、そして……。

 

黄(み)「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

   『ガブッ!!!!!!!』

アカンベェの耳みたいな、縞模様の左の棒に、思いっきり

噛みついた。

   『ア、アカンベェ~~~~~!?!?』

サニー「噛みついたっ!?」

 

そうだ!今の私じゃ剣も拳も盾も必殺技も無い!

それでも!!

 

黄(み)「ぐぎぎぎぎぎぎぎぎっ!!!!」

暴れるアカンベェにしがみつきながらも首を動かして

棒を曲げて行く。そして……。

   『バギッ!!!!!』

   『アカンベェ~~~~~~!』

盛大な音と共に片方の棒をへし折った。けど、その反動で……。

   『ドサッ!』

   「んぐっ!」

へし折った棒の先を銜えたままアカンベェから振り落とされて

しまった。

立ち上がりながらも、食い千切った棒をペッと吐き出す。

行ける!私の、みゆきちゃんの歯でも食い千切れる。

だったら、次は首をやれば……!

 

マジョ「ちっ!よくもやってくれただわさ!

    アカンベェ!まずそいつから始末するだわさ!」

   『アカンベェ!』

 

言われずとも、と言わんばかりに向かって来るアカンベェ。

黄(み)「うあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

倒して抱き着ければこっちの物。そう考えて殴りかかる私。

   『ブォンッ!』

それでもその拳は空しく空を切り……。

   『ドガッ!』

   「あぐっ!?」

私の横をすり抜けたアカンベェの蹴りが背中に命中する。

   「かはっ!」

息を吐き出し、地面に、膝に手を突きながらも立ち上がる。

 

   『アカンベェッ!』

   『ドゴッ!』

   「がはっ!!」

だがその直後。今度はお腹に突進され、みゆきちゃん達の

前まで吹き飛ばされる。

 

み(黄)「黄金ちゃん!!」

マジョ「ひぇ~ひぇっひぇ!バカな人間だわさ!まともに

    戦えもしないのに粋がるからそうなるだわさ!

    さぁアカンベェ!そのまま残りの二人を!」

黄(み)「何、勝手に、終わりに、してんの、よ」

 

マジョリーナの言葉を遮るように、私は苦痛と衝撃で

ぼやける視界のまま、地面に手を突きながら、フラフラに

なりながらも立ち上がる。

   「私は、まだ、終わって、無い」

そう言うと、頬の土を拭う黄金。

 

マーチ「無茶だよ!逃げて黄金!」

サニー「せや!今の黄金は変身できんのやで!早く

    逃げな!」

ビューティ「せめてみゆきさん達だけでも!」

ピース「二人を連れて逃げて黄金ちゃん!」

 

黄(み)「嫌だ!!!!!」

 

皆の言葉をかき消すように、私は叫ぶ。

 

   「みんなを置いて、逃げる?そんな事、そんな事

    出来る訳ないじゃない!こんな私を、化け物な

    私を友達だって言ってくれるみんなを置いて、

    ただ一人逃げられる訳無いじゃない!」

 

私は叫ぶ。それが、本心だから。

失いたくないから。化け物の私を、友達だと

言ってくれたみんなを、守りたいから。

 

   「例え、アギトに変身できなくたって、剣も、盾も、

    槍も、何一つ武器が無くたって。どれだけ惨め

    だって、それでも私は、私は……」

 

   「私は、私を友達だと言ってくれるみんなを

    守りたいんだっ!!!」

 

拒絶されるのは確かに怖い。でも、みんなを

助けられない事の方が、もっと怖い。

だから……。

   「だから私は戦うっ!!!」

 

その時、正しく魂の叫びを上げていた黄金は

気づかなかった。

 

自分の体が、次第に緑色の光に包まれ始めている事に。

 

   「どれだけボロボロになっても、痛くても、

    辛くても!」

その時、緑の光の余波が黄金の、みゆきの左手中指に

された方のイレカワールにヒビを入れ始めた。

   「私は、私が護りたいと思ったみんなのために、

    戦うんだぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

その叫びと共に駆け出す黄金。そして、緑の光に

気おされ動けなかったアカンベェの頬に、

光に包まれた黄金の左拳がめり込み、殴り飛ばした。

そして……。

   『バリィィィィィィンッ!』

その攻撃で、黄金の、みゆきの体に装着されていた方の

イレカワールが完全に破壊された。

そして同時に……。

   『バリィィィィィィンッ!』

み(黄)「あ!こっちの指輪も!」

片方が壊れたためにか、もう片方も効力を失い自壊した。

 

と、次の瞬間。

   『『ドクンッ!』』

 

みゆきと黄金の魂が本来あるべき所へ、自らの肉体へと戻った。

 

そして、みゆきの方はと言うと……。

 

みゆき「ッッ!!!!」

全身を走る激痛にその場に膝をついた。

マジョ「まさかイレカワールが壊れるなんて!アカンベェ!

    まずはそっちのキュアハッピーを倒すだわさ!」

   『アカンベェッ!』

マジョリーナの命令に従い、跳躍しバネの足からキックを

繰り出すアカンベェ。

 

4人「「「「みゆき!(ちゃん!)(さん!)」」」」

 

咄嗟に叫ぶサニー達。

 

だが、その足先がみゆきに届く事は無かった。

 

   『ガシッ!』

   『ベェッ!?』

 

みゆきの前に、黄金が現れた。そして今の彼女は

先ほどイレカワールを破壊した時のような緑色の

オーラの様な物で体を包んでいた。

 

アカンベェの足先を、みゆきちゃんの前に立った私の手が

受け止めた。

黄金「これ以上、やらせない!みゆきちゃんも、

   あかねちゃん達も!私が守る!」

 

と、次の瞬間、僅かに視線を上げたみゆきやサニー達は

驚いた。

なぜなら、黄金の横に、アギトとも異なる服装の少女が

現れたからだ。

そして、その少女が次第に黄金と重なるようなり、黄金の

姿がその少女と同じになった。

 

その少女は、黄金であるがアギトでは無かった。

 

アギトと似た、半袖半ズボンの黒いスパッツ。上着も

羽織っているが、その色は緑色。

そしてそれを前で止める黒いボタンも無く、前は開いていた。

足元を覆うロングスカートも消え、肩には簡易な

緑のショルダーパッド。手足を覆う緑色のグローブとブーツ。

手首と足首を覆う、クリスタルのようなパーツが付属した

リストバンド。

口元は灰色のスカーフの様な物で覆われていた。

額には緑色の鉢巻の様な物を巻き、額の中央にもクリスタル

の様な物が埋め込まれ、アギトのクロスホーンのような緑の角が

展開されていた。

腰元に展開されたベルトも、アギトのオルタリングとは異なる物、

『メタファクター』となっていた。

そして、黄金の髪色もまた、ダークグリーンに変化。瞳も

真っ赤に染まっていた。

 

 

それは、肉体と魂が分離した不完全な状態に置かれたアギトの

力が、黄金の心と共鳴し、ある意味暴走し、生み出してしまった力。

 

——ギルス——

 

不完全なアギトの姿だ。そして、今の黄金の感情が爆発

しているように、不完全故にその力はアギトを凌ぐ。

 

ギルス「ウゥゥ、ガァァァァァァァッ!!!」

獣のような咆哮にスカーフがめくれギルスの口元が

見える中、ギルスは両手でアカンベェの足を掴むと

地面に叩きつけた。

   「ウアァァァァァァァァァァッ!」

 

そのまま私は雄叫びを上げながらアカンベェを何度も地面に

叩きつけた。

   『あ、アカンベェッ!』

しかし、私の拘束を振り切り逃げたアカンベェはその舌で

ラッシュを繰り出して来た。

   『ドドドドッ!』

そのラッシュを両手をクロスさせて防ぐ。そして、

奴が着地した瞬間を狙って回し蹴りを繰り出すが奴はジャンプ

で私の後ろにすり抜けた。それでも……。

   『ギュルルッ!ガシッ!』

   『アカンベェッ!?』

次の瞬間、私の右手の手首のクリスタルから現れた触手、

ギルスフィーラーが奴の体に巻き付けた。

   「ウォォォォォォォォォォッ!」

そしてギルスフィーラーを力いっぱいに引き寄せ、動けない奴の

後ろからその首にフィーラーを回して暗殺者のように首を

締め上げる。

更に………。

   「ウガァァァァァッ!」

酸欠で動きが鈍ったアカンベェを地面に倒しマウントを取ると

フィーラーを右手で締めあげつつ左手で何発も奴の顔面を

殴る。殴り続ける。

 

ゴッ、ガッ、ガンッ。

 

鈍い打撃音が嫌に静かな公園に響く。

 

その様子を、みゆきやキャンディ、サニー達が唖然とした

様子で見守り、ヒーローなどとは言えない、

ある意味単純な『殺し合い』のような戦い方に

マジョリーナでさえ声が出なかった。

 

だけど、それだけじゃない。

 

   「ウワァァァァァァッ!!!」

   『ガブッ!!!』

咆哮と共にスカーフをめくりあげ、アカンベェの頭に噛みつき、

歯に思いっきり力を籠める。

 

ルールなんて無い。今は唯、私を動かすのはみんなを、

みゆきちゃん達を守れと言う単純な認識だけ。

 

そのために、こイツを、タオス。

 

   「ウォォォォォォォォォッ!!!」

   『ブォン!ドガッ!ガッ!ガガガガッ!』

フィーラーを握ってアカンベェを地面に叩きつけ、

そのまま奴の頭を持って地面の上を引きずる。

 

   『ア、アカン、ベェ……』

その時、アカンベェは既にボロボロ。あちこちを傷だらけに

しながら、血のような赤黒いエネルギーを浮かばせていた。

だが、それだけではなくギルスは立ち上がるとアカンベェの

体を踏みつけ、蹴とばし、馬乗り状態でまたマウントを取ると

今度は両手で殴り続けた。

 

既にアカンベェの顔は原型を留めないほどボロボロ。

マウントを取られつつも、舌で反撃を試みるが……。

   『シャッ!スッ!』

放たれた一撃を躱したギルス。

   『ガシッ!』

だがそれだけではなく、ギルスはその舌を右手で掴むと……。

「ウワゥッ!」

   『ザシュッ!』

左手首のクリスタルから展開した爪、ギルスクロウで舌を

切断した。

そして最後は………。

   「ウォォォォォォォォォォッ!!!!」

雄叫びと共に、ギルスがアカンベェの口の中に両手を

突っ込み、上あごと下あごを掴んで……。

  

   『バキバキバキッ!!!』

 

上下に、文字通り体を引き裂いた。

それによって、肉体を維持できない程のダメージを

受けたアカンベェは消滅。アカンベェの核となっていた

鼻が霧散し、その中からデコルがポトリとギルスの

足元に落ちた。

 

そして、アカンベェが倒された事でサニー達を拘束していた

バネも消失した。

ビューティ「バネが!」

驚きつつも立ち上がるサニー達。

サニー「みゆき!大丈夫か!」

そしてサニーとマーチが地面にへたり込んで動けない

みゆきの元へと駆け寄った。

マジョ「ちっ!?まさかこんなの、計算外だわ——」

その時……。

ギルス「ウガァァァァァァッ!」

 

今度はマジョリーナを敵と判断したギルスが雄叫びを上げ

襲い掛かった。

咄嗟に避けるマジョリーナ。そして彼女が立っていた遊具に

ギルスの拳がめり込む。

   「ウオォォォォォッ!」

マジョ「ま、マジで危ないだわさ!逃げるださわ!」

空中に逃げたマジョリーナ目掛けてギルスフィーラーが

襲い掛かるが、寸での所でマジョリーナはそれを回避して

姿を消した。

それを見たギルスは……。

 

ギルス「ウァァァァァァァァァァッ!!!」

 

勝利した歓喜か、それとも敵を逃がした悔しさか。

或いはその両方か。どちらかは分からないが、最後に

一声、天に向かって咆哮するのだった。

 

それから数秒後、変身を解除するあかね達と、普段の

姿に戻った黄金。

だが、次の瞬間。

   『ドサッ』

あかね「ッ!?黄金!」

遊具の上に立っていた黄金が突如として倒れてしまった。

慌てて駆け寄るあかねとなお。

なお「黄金!大丈夫!?しっかりして!」

黄金「あ、ぐっ」

 

彼女の息がある事に安堵した二人だが、どうやら

黄金は動けそうになった。

そんな時。

れいか「皆さん、ここは目立ちます。とにかくまずは、

    黄金さんを連れてふしぎ図書館へ」

というれいかの発案に従い、あかねが黄金をおんぶしつつ

近くの本屋からふしぎ図書館へと向かったみゆき達とキャンディ。

 

 

そして、黄金をふしぎ図書館内のハウスにあるソファに寝かせ、

みゆき達は下の椅子に座った。

そして、5人ともしばらく沈黙してからの事だった。

なお「何か、凄かったね。あの時の黄金」

れいか「まるで、野獣のようでした。粗々しく、狂暴で、

    戦うと言うより、その……」

『殺すために戦っていた』ように見えた。

その言葉を飲み込むれいか。

ギルスの戦いぶりは、プリキュアから見れば異質その物

と言ってもいいだろう。

 

プリキュアの戦いは技による『浄化』を前提としている。

しかしアギト、ギルスにとっての前提とはつまり

『相手を倒す事』。アギトの場合はそれをまだ理性が

成り立った上での戦いだ。しかしギルスの場合、あれは理性

ではなく『本能』で戦っていたようなものだ。

本能故に、倒すのではなく、『殺す』。

あの時のサニー達の目に映った物は、その殺意を感じさせる

程、凄まじい物だったのだ。

 

だが、それでも……。

みゆき「私は正直、嬉しかったな」

れいか「え?」

みゆき「あの時、ボロボロになっても立ち上がって、

    私達を守るって言ってくれた黄金ちゃんはまるで

    王子様みたいで。カッコいいな~って、私

    思ってたんだ」

その言葉に、4人の脳裏にボロボロになっても戦い続け、

魂の叫びを響かせる黄金の姿が蘇った。

 

その姿を思い起こし、彼女たちもまた笑みを漏らした。

あかね「確かにまぁ、あの時の黄金はかっこええかったな~」

やよい「本当のヒーローみたいだったね」

なお「うんうん」

れいか「黄金さん、実は熱血漢な所があるんですね」

 

そう言って5人で笑っていた時だった。

黄金「う、う~ん。ここ、は」

 

その時、上に寝かせていたソファから黄金の声が

聞こえ、5人は上に駆け上がった。

みゆき「こ、黄金ちゃん!」

黄金「みゆき、ちゃん?ここは……」

なお「ふしぎ図書館だよ。戦いの後、黄金倒れたんだよ。

   覚えてない?」

黄金「……あぁ、そっか。ごめん、みんなに迷惑かけて」

あかね「何言うとんねん。黄金が今日一番頑張ったやん。

    これくらいお安い御用や」

黄金「そ、っか」

 

そう言いつつ、私は体を起こした。

れいか「あ。まだ無理をされない方が……」

黄金「平気平気、怪我した訳じゃないんだし。

   新しい力にちょっと戸惑っただけだよ」

そう言って苦笑を浮かべた時、みゆきちゃんと

話そうと思っていたあの時の事を思いだした。

 

  「ね、ねぇみゆきちゃん。あの時の話の

   続き、しても良いかな?」

僅かに俯きながらそう告げるとみゆきもハッとした

表情を浮かべた。

 

そう言うと、数秒互いに沈黙する二人。やがて……。

 

み・黄「「ごめんなさいっ!……え?」」

と、いきなり互いに謝ってから疑問符を浮かべる私と

みゆきちゃん。

黄金「な、何でみゆきちゃんが謝るの!?」

みゆき「こ、黄金ちゃんだって!」

 

そう言われると、私はまた俯いた。

黄金「そもそも、あの時みゆきちゃんが苦しんだのは

   私が超能力なんて物持ってたから。私のせいで…」

みゆき「それは違うよ!いけないのは、黄金ちゃんの力を

    面白半分に使った私で、黄金ちゃんがあの時、

    苦しんでるのを知ってたのに、私が……」

黄金「みゆきちゃん」

そう言って涙目のみゆきちゃんを見て、何処か私は

満たされる物を感じていた。

 

  「私ね、怖かったんだ」

みゆき「え?」

黄金「今日、こうしてみゆきちゃんが改めて私の力を知って、

   私が本当の化け物として、みんなに嫌われるんじゃ

   無いかって。怖かった。保健室までみゆきちゃんを

   運んだ時、私のせいでみゆきちゃんが苦しんでるん

   じゃないか、そのせいで嫌われるんじゃないかって、

   ずっとそんな事を考えてた」

みゆき「じゃあ、どうして、公園の時」

黄金「みんなに、みゆきちゃん達に化け物って言われるのは  

   確かに怖い。それでも、みゆきちゃん達だけは……。

   あの日、私を友達って言ってくれたから」

 

あの日、私を照らしてくれたみんなの事を思い出しながら

私は涙を流した。

  「だから、守りたかった。どれだけ、私が弱くても、

   あの日私に手を伸ばしてくれたみんなを、

   守りたかったから」

その言葉を聞いた時。

 

みゆき「私こそ、本当にごめん。黄金ちゃんがあの時、

    たくさん苦しんでたの、知ってたはずなのに。

    超能力が使えるからって舞い上がって。それで

    黄金ちゃんにまで迷惑かけて……。

    本当にごめんなさい!」

そう言って、全力で頭を下げるみゆきちゃん。

でも、その言葉を聞けただけで私は正直嬉しい。

私みたいな化け物を、そう思っていてくれるだけでも

嬉しい。

 

黄金「ねぇみゆきちゃん。みんな、私はまだ、ここに

   居て良いかな?みんなの隣に」

あかね「黄金、今更何言うてんねん。まだもこれからも

    あらへん。黄金は今も昔もウチらの、

    スマイルプリキュアの仲間や!」

やよい「その通りだよ!」

なお「今更そんな事、気にしなくて良いんだよ」

れいか「私達は何時までも、黄金さんのお友達です」

 

みゆき「黄金ちゃん、私は、私達はいつまでも、ずっと、

    友達だよ」

 

私は、その言葉に心が満ちるのを感じる。

 

もし、みゆきちゃん達との出会いが運命なのだとしたら、

私は、とっても幸せ者なのかもしれない。

 

だって、こんな私を受け入れてくれる、みんなに

出会えたのだから。

 

黄金「ありがとう、みんな」

 

私は、そう呟きながらうれし涙を流した。

 

 

 

その後、ある程度落ち着いて、時間も時間なので

皆ここで解散して帰ろうとした時。

みゆき「おわっ!?」

不意に、椅子の足の角に躓いて倒れそうになるみゆきちゃん!

黄金「あ!危なっ!!」

 

咄嗟に受け止めようとした私だったけど、戦いの疲労も

あり受け止めて支える事までは出来ず、そのまま

みゆきちゃん諸共倒れてしまった。

 

いっつ。あ、頭打った。

頭の痛みに目を閉じていた時。しかし不意に、私の

唇に何か柔らかい物が触れている、そんな感じがして、

気になって目を開けると……。

 

目の前にみゆきちゃんの顔があった。

 

 

そう、つまり私達は今、『キス』をしてしまったのだった。

周りのみんなも驚いている中、数秒して慌てて体を起こす

みゆきちゃん。

 

みゆき「ごごごご、ごめん黄金ちゃん!大丈夫だった!?」

黄金「う、うん。大丈夫」

顔を赤くしてテンパっているみゆきちゃんと、同じく顔を

赤くしている私。

く、唇ってあんなに柔らかいんだ。ちょっとプニプニしていた。

 

   『ズキンッ!』

ッ!

その時、鈍い痛みが私の体を襲った。

みゆき「え~っと、あのそのその!これは事故であって

    アクシデントであってえっとだからその!」

黄金「大丈夫だよみゆきちゃん。こういうのはノーカン。

   ノーカウントだよ。さ、それより早く戻ろう。

   もう時間も時間だし、早く帰らないとみんな

   お家の人に怒られちゃうよ」

あかね「あ、あぁせやったな~!」

やよい「そ、そうだね!」

 

と、みんな顔を赤くしつつも、それぞれが本棚を使って自分の

家や部屋へと戻って行った。

そして私もまた、鈍い痛みを耐えながら自分の部屋まで

一気に移動した。

 

れいかちゃんが、何処か私を気にする様子に気付かないまま。

 

そして、部屋に辿り着くなり……。

黄金「かはぁっ!!」

思いっきり息を吸い込んだ。

  「ハァ、ハァ、ハァ……!」

ベッドの上に制服のまま倒れこみ、激しい息遣いで

呼吸をする。

そして、掌を何とか動かしてみると、まるで老人の

手みたいに皺くちゃになっていた。

  「う、ぐっ」

けど、その時はすぐに老化現象と痛みがすぐに引いて、

数十分もすれば動けるようになった。

 

 

それが、ギルスの代償。

ギルスは胸に力をコントロールする機関、ワイズマンモノリスを

持たないが故に、常に全力全開。しかしそのため、変身による

負荷がダイレクトに黄金に伝えられるのだ。

 

そして、一方のみゆきはと言うと……。

 

帰宅後、普通に食事をしてお風呂に入り、その後

ベッドに入るみゆき。

しかし……。

 

みゆき『黄金ちゃんの唇、柔らかかったな~』

ベッドに入り、顔を赤くしながらもあのアクシデントの

事を考えずにはいられないみゆき。

   『って、私は何を!黄金ちゃんと私は女の子同士

    なんだよ!そ、それを……』

 

と、その時みゆきの脳裏に、勇ましい黄金やアギトの

姿が浮かぶ。

   『そ、そうだよ。女の子同士なんだもん。

    これは、ただ、驚いているだけ。うん、

    きっとそう』

自分に言い聞かせるように、頭の中でそう呟くみゆき。

しかし、彼女の頬の火照りが、簡単に引く事は無かった。

 

 

果たして、黄金のギルス覚醒は何をもたらすのか?

みゆきと黄金のこれからはどうなって行くのか?

この先、戦いはどうなっていくのか?

 

今、時の流れが速まって行く。

 

     第8話 END

 




というわけで、ギルス覚醒。
まぁただ、アギトとギルスの一人二役なんで出番が
多いかは微妙です。


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第9話 嘘と想い

今回は第9話、転校の嘘の話です。
内容はほぼ、やよいと黄金の絡みです。
タグにもある通り、百合展開のための布石、みたいな感じです。



~~前回までのあらすじ~~

マジョリーナが作り出した、身に着けた人物の魂を入れ替える

指輪、イレカワールによって魂が入れ替わってしまった

みゆきと黄金。そんな中でみゆきは黄金の苦しみを知り、黄金は

自らが怪物であると認識してしまう。イレカワールを取り戻しに

襲って来たマジョリーナ。しかし肉体と魂が離れてしまったが

故にみゆきと黄金は変身不能になってしまった。それでも大切な

仲間を守る為に戦う黄金。そして彼女は新たなる力、ギルスを

発動させるが、その代償は決して小さい物ではなかった。

 

 

イレカワールの騒動から数日後。朝の津神宅。

その黄金の私室で時計のアラームが鳴り、布団の中から伸びた

手が時計を叩くようにしてアラームを止めた。

しばらくして、モソモソと布団が動いて中から黄金が姿を現した。

一度大きな欠伸をしてから目元を擦る黄金。しかし、次の瞬間

彼女は何かに気付いたような素振りをするとマジマジと

自信の右手を見つめるのだった。

彼女の気づいた懸念、それはギルスの事だった。

 

 

あの日、私の中にアギトとも違う、もう一つの力が覚醒した。

ギルス。それが多分あの姿の名前。そのギルスを使ってみて

分かった事がある。まず第1に、ギルスは今の私が変身できる

アギトのどのフォームよりも、パワーに優れている事。

純粋な腕力だけなら、フレイムフォームやアイアンフォーム

をも超えていると思う。

第2に、ギルスには闘争心?の様な物を刺激する作用がある。

あの時の私は、唯々敵を倒す事しか考えていなかった。

だからかもしれないけど、あんな風に苛烈な戦い方をしたんだと思う。

 

そして、第3に。これが1番の問題なんだ。

ギルスの力を使ったあの日、私は極度に疲れた。ううん。

疲れたなんて物じゃなかった。まるで、体力を全部抜き取られて

体がボロボロになったみたいだった。

部屋に戻ってしばらくはまともに動けなかったし、皮膚もまるで

おばあちゃんみたいに皺だらけになって……。

ギルスは確かに強い。けど、その代償として大きなダメージを負う。

それが1番の問題。

 

……今後、出来ればギルスは使わないようにしないと。

なんて思っていた時。

幸子(さちこ)「黄金~。ごはんよ~」

黄金「は~~い」

部屋の外からお母さんの声が聞こえて来て、私は咄嗟に返事をした。

とにかく、ギルスは危険だと言う事を再確認した私は、制服に着替えてから

部屋を出て2階のリビングに向かった。

 

ちなみに私の家は3階建てで、1階がお店。2階がキッチンやお風呂、

リビングがある。3階が私やお母さんたちの寝室。

  「おはよう、お父さんお母さん」

忠(ただし)「あぁ、おはよう黄金」

私がリビングに入ると、お父さん達がテーブルに料理を並べていた。

 

その後、テーブルに着いた私はお母さんたちと一緒に軽めの朝食を

取ってから少しして家を出て自転車で学校に向かった。

駐輪場に自転車を止め、一人教室に向かっていた時だった。

 

み・あ「「黄金(黄金~~~!)ちゃ~~~ん!」」

黄金「ん?」

不意に声がしたので振り返ると、何やら慌てた様子の

みゆきちゃんとあかねちゃんが走って来た。

  「二人とも、どうしたのそんなに慌てて。

   後、廊下走ると先生に怒られるよ?」

あかね「それどころや無いねん!ちょっとこっち来てや!」

黄金「あ!ちょっ?!」

と、あかねちゃんは私を引っ張って人通りの少ない廊下の角に

私を連れて行った。

  「な、何々?一体どうしたって言うの?」

あかね「ええか黄金!落ち着いて聞くんや!やよいが、やよいが、

    転校するんやて!!」

 

 

………。え?転、校?やよいちゃんが?

 

一瞬の事で、黄金は頭が追い付かずにいた。

あかね「ウチもさっきみゆきから聞いたんやけどな、

    急とは思うんよ。そんで黄金、って黄金?」

語り掛けていたあかねだが、不意に黄金が無反応な事に気付いた。

   「お~い、黄金~?どないした~?」

と、黄金の眼前で手を上下させるあかね。しかし黄金は

反応せず……。

黄金「………。あぁぁぁ」

   『フラッ』

あかね「ちょっ!?ちょちょちょっ!?」

不意に後ろに倒れそうになる黄金を支えるあかね。

   「黄金~!大丈夫か~!しっかりしいや~~!」

黄金「はっ!?私は……」

 

一瞬の事で私は頭が追い付かなくて、気づくとあかねちゃんに

支えられていた。今起きた事を説明してくれるみゆきちゃん達。

あかね「大丈夫か黄金?保健室行っとくか?」

黄金「あぁ、うん、大丈夫。流石にそこまでじゃないから。

   私、ちょっと先に教室行ってるね」

みゆき「気を付けてね」

黄金「う、うん」

そう言うと、私は先に教室へと向かった。

 

歩いて行く黄金を見送るみゆきとあかね。

みゆき「黄金ちゃん、すっごい戸惑ってる感じだったね」

あかね「しゃあないっちゃあしゃあないんやろうな~。

    黄金は特に、その、な。……アギトの事があるんやし」

そういって、不意に周囲を見回してから小さくアギトの単語を

漏らすあかね。その単語に、少しばかり驚くみゆき。

   「アギトの事を知っとんのはウチらとキャンディ、ポップだけや。

    ましてやこの前までの黄金の事を思い出すと、なぁ?」

みゆき「そっか」

   『黄金ちゃんは、自分がアギトだって知られるのを

    怖がってる。それを知ってでも黄金ちゃんを友達だって

    言った私達の誰か一人とでも別れるのが、それだけ

    辛い事なんだ』

そう思いながら、みゆきは黄金の歩いて行った廊下を見つめるの

だった。

 

ちなみに、その後やよいはみゆきに嘘の事を言おうとしたが

(主にあかねが)無意識の言葉の圧力によって真実を妨げて

しまった。

その後さらに、あかねとみゆきを通して、やよいの預かり知らぬ

所でなおとれいかにその情報が広まってしまった。

その後、色々質問するなおやれいかだったが、主にあかねの

発言によってやよいは本当の事が言えないままだった。

そして音楽の授業後も、周り、みゆき達の結構な思い過ごし

によって真実が言えないままのやよい。

 

そして、そんな中で一人意気消沈としていた黄金。

 

やよいちゃんが、転校。

その時、私は音楽室の隅で呆然としながらみゆきちゃん達のやり取りを

見ていた。

けど、その言葉の殆どは私の頭の中に入ってこなかった。

プリキュアを続けられないとか、責任とか。分からなくでもないけど、

それ以上に怖いのは、友達が減ってしまう事。私を受け入れて

くれる友達なんて、多分みゆきちゃん達くらいだと思う。そんな

友達が一人減ってしまうなんて、私には悲しくて仕方が無かった。

守ると誓った約束も、ちゃんと守れるかどうか心配でもある。

……けど、それはやよいちゃんや私達みたいな子供にどうこう

出来る訳無いし。

せめて、最後くらいはしっかり送り出してあげよう。

 

その時の私は、静かにそう決意していたけど、今にして思えば

転校の事で少しでも心のバランスを崩していたのかもしれない。

   『はぁ、日直メンドイな~』

   『あれ、教科書が無い?』

不意にいくつかの声が聞こえて来た。

恐らく、ショックのせいで少しだけ能力を制御できなくなったみたい。

すぐに意識を集中しないと。

そう、今の私でも精神的にショックを受けるたりすると

超能力が制御できなくなることがあるんだ。

さっさと嫌な声が聞こえる前に戻さないと。

 

そう思って深呼吸した時だった。ちょうどみんながやよいちゃんを

抱きしめていた時。

   『どうしよ~~~』

 

え?今の、やよいちゃんの声?

不意に、私の中に困惑したみたいなやよいちゃんの声が聞こえて来た。

何でと思い、少し躊躇ったけど能力をやよいちゃんの方向に

集中させた。

   『これじゃ嘘って言い出せないよ~!』

するとやよいちゃんの心の声が聞こえて来た。

……って、嘘?

どういう、事?嘘って?まさか、転校するって話は

やよいちゃんの作り話?でも、なんで……。

 

と、思っていた時、どうやら私はまた取り乱して

しまったみたいで……。

   『なぁなぁ、お前この前のテストの点数悪かった

    みたいだぜ?先生言ってたぞ』

    『え~!?嘘!?』

   『ウッソ~!エイプリルフールだよ~!』

エイプリール、フール?

……あぁ!そっか今日は四月一日!

と、私は頭の中で手を叩いた。あ~~。私達すっかり

騙されてた訳、か。

なんて思っていると一瞬私の中に過去の事が思い起こされた。

 

 

そして、お昼休み。みゆき達4人は中庭の屋根付きベンチに

集まっていたのだが……。

なお「あれ?やよいちゃんと黄金は?」

遅れて来たなおが、二人が居ない事を指摘する。

みゆき「やよいちゃんは何か用事があるんだって。

    黄金ちゃんもそうって……」

あかね「……黄金はアギトの事もあってウチ等よりも

    複雑やからな~。何や思う所でもあるんと

    ちゃうか?」

と、深読みしてしまうあかね。

そして、そんな中れいかがある提案をしてしまうのだが……。

 

そうとは知らずに、一人屋上に居るやよい。

彼女は得意な絵を使って他の面々に嘘の事を話そうとした

のだが……。

完成し喜んだのもつかの間。風に乗って絵が飛ばされてしまった。

咄嗟に腕を伸ばすやよいだが、絵はすでに天高く舞い上がって

しまっていた。

 

がっくりと肩を落とすやよい。

と、そこへ……。

黄金「やよいちゃん」

やよい「ふぁい!?」

唐突に後ろから声を掛けられた事で驚き素っ頓狂な返事と共に

振り返るやよい。

そこには微笑みを浮かべた黄金が立っていた。

 

 

   「な、何黄金ちゃん?何か用?」

黄金「うん、ちょっとね。隣、良い?」

やよい「あ、うん」

私が聞くと、やよいちゃんが座って、私もその隣に腰を下ろした。

数秒だけ黙っていると、やよいちゃんがしきりにこっちを

チラ見している。……この動揺っぷり、やっぱり……。

黄金「ねぇやよいちゃん」

やよい「な、何?」

私が声をかけると、少し上ずった声で返事をするやよいちゃん。

それがますます、私の中の予想を確証に変えていった。

黄金「単刀直入に聞くけど、転校の件、嘘、なんでしょ?」

やよい「ど、どうしてそれを!?はっ!?」

驚き立ち上がったやよいちゃんは、すぐにハッとなって口を

両手で覆った。

それから、恐る恐ると言った感じで両手を離すやよいちゃん。

けど、まだ少し躊躇っているようだったから、それに気づいた

私が先に喋りだした。

 

黄金「エイプリルフールの嘘、って所で合ってるのかな?」

   『コクコク』

無言で頷くやよいちゃん。

  「それで、他の皆が色々言ったりするから、嘘だって

   教えるのが遅れて、話が大きくなっちゃった。

   そんな所で合ってる?」

   『コクコクコクッ!』

更に勢いよく、と言うかもうブンブンと頭を縦に振っている

やよいちゃん。

その後……。

 

やよい「あ、あの、黄金ちゃんは、どうして、その、嘘を?」

少しして恐る恐るって感じで聞いてくるやよいちゃん。

黄金「……私の超能力、忘れた?」

やよい「あ」

そう言って右手でこめかみを指さす私とそれを見て少し

呆けた声を漏らしちゃうやよいちゃん。

黄金「勝手なのは分かっていたんだけど、知りたかったから。

   ……ごめんね」

やよい「う、ううん。元はと言えば私のせいだし……。

    ……あの、あのね黄金ちゃん。黄金ちゃんは、

    その、怒ってる?」

恐る恐る、と言った感じの質問に、私は視線を落とした。

 

黄金「怒ってるとかそれ以前に、私は嘘って分かってホッとした。

   それに……。私にはやよいちゃんを怒る資格なんて

   無いよ」

やよい「え?」

黄金「私も、嘘つきだったから。みんなに嘘をついて、

   だまして、酷い事言って。……私には、やよいちゃんを

   責める資格なんて無いよ」

私は、そう言いながら苦笑を浮かべた。

やよい「で、でも、それはアギトの事で、その……」

黄金「ありがと。そう言ってくれると嬉しいよ。  

   けど、だからこそ私にはやよいちゃんにどうこう言う

   事なんて出来ないよ」

やよい「黄金、ちゃん」

 

黄金「大丈夫。嘘の事、私も色々フォローするから」

やよい「黄金ちゃん。……うん、ありがとう。

    でも、どうして、その、そこまでしてくれるの?」

黄金「……どうして、か~。ただ、アギトである事を受け入れて

   くれた友達を失いたくないから、かな。みんなが、

   私にとって大切な存在だから」

そう言って、黄金は笑みを浮かべながらやよいを見つめた。

   『ドキッ!』

対して、その笑みに心臓を高鳴らせるやよい。

やよい『わ、私ってば今、心臓がドキッてなって……。

    ってぇ!何考えてるの私ィ!今はそれどころじゃぁ!』

と、一瞬の胸の高鳴りに疑問を覚えつつも、意識を現在の

最大の問題に向けるやよい。

そんな時だった。

 

みゆき「あ!居た居た!やよいちゃん、黄金ちゃん」

黄金「あ、みゆきちゃん」

屋上のドアを潜ってみゆきがやって来た。

みゆき「も~探したよ~。こんな所で何してるの?」

やよい「え!?え~っと、それは、その……」

と、悩んでいるみたいなやよいちゃん。仕方ない。ここは

私が……。

そう思っていたんだけど……。

みゆき「ま良いや。行こう二人とも。実は二人に見せたいものが

    あるんだ」

黄・や「「見せたい物?」」

と、私とやよいちゃんは揃って疑問符を浮かべたんだけど……。

何だろう。すっごいヤな予感が……。

 

そして私の予想は的中し、何とみゆきちゃん達がお別れ会まで

開いていた。しかもクラスのみんなまで巻き込んで!?

嘘でしょ~!何でここまで話が大きく……。

 

私がぽか~んと呆けていると、更に花束やみんなのお別れの言葉を

綴った色紙まで贈呈されちゃって。

あ~もう!事態がどんどん言い出しずらい方向にシフトして

行ってる~~!

心の中で、頭を抱える私。不味いってこのままじゃ。

 

そして何と、そうこうしている内にやよいちゃんが泣きだして

しまった。

しかもそれを転校するから、と勘違いしているみゆきちゃん達。

実際は、嘘だとバレた際の恐怖故の涙なんだけど……。

と、その時、とうとうやよいちゃんは泣きながら教室を

飛び出してしまった。

黄金「やよいちゃん!」

それを咄嗟に追う私。

 

そして、私は校庭の隅にある小屋の影で泣いているやよいちゃんを

見つけると、その隣にそっと近づき、腰を下ろした。

今、私の隣でやよいちゃんが両手で顔を覆ったまま泣いていた。

そんなやよいちゃんを見て、私はそっとやよいちゃんの肩に

手を置いた。

やよい「この、ままじゃ、私、みんなに、嫌われて、うぅ」

黄金「……例え、そうだとしても、私は最後までやよいちゃんの

   味方だから。だから、大丈夫。いざって時は、

   私が助けるから」

やよい「え?」

私の言葉に、涙を流しながらもやよいちゃんがこっちを

向いてくれた。

   「どう、して」

黄金「さっき、言ったじゃない。みゆきちゃん達の事が、

   やよいちゃんの事が、好きだから。大切な、友達

   だから。だから……」

そう言って、私は指先でやよいちゃんの涙を拭った。

  「大切な人には、笑顔で居て欲しいから」

そして、私はやよいちゃんを安心させようと精一杯笑みを

浮かべた。

 

 

逆にやよいはと言うと……。

 

  「笑顔で居て欲しいから」

   『ドキッ!』

黄金ちゃんのその言葉で、私の心臓がドキッてなった。

さっきと同じくらい?ううん、それ以上かも。良く分からないけど、

触れられた所も、ほっぺも熱い。

今は、そんな事考えてる場合じゃないのに……。

でも、なんだか黄金ちゃんから目が離せない。

そう思っていた時。

 

 

みゆき「やよいちゃん」

不意に声がして、私とやよいちゃんが振り返った。そこには

みゆきちゃん達とキャンディの姿があった。

れいか「ごめんなさい、私のお節介のせいで……」

なお「余計に悲しい思いをさせてしまったみたいだね……」

あかね「ごめんな」

やよい「ううん、違うの。違うの」

そう言って涙声のやよいちゃん。仕方ない。ここは……。

 

黄金「あのねみんな、聞いてほしい事があるの。転校の

   件なんだけど……」

最悪、私がやよいちゃんを守る盾になればいい。あの時は

一人でも戦うって決めてたんだ。だから、私がみんなに

話をしておこう。最悪、私に矛先が向くように嘘を

つけばいい。

 

そう考えていた時、不意に空が暗くなった。

  「ッ!?これって……」

れいか「まさか敵が!?」

みゆき「早くみんなを助けないと!」

そう思っていた時。

   『ガシャンッ!』

アカ「うっはっはっはっは!」

なお「ッ!?あんたは!」

近くのバックネットの上に敵、アカオーニが高笑いを上げながら

降りて来た。

キャンディ「みんな急いで変身クル!」

みゆき「やよいちゃん大丈夫?!」

黄金「こんな時だけど、やれる?」

やよい「う、うん」

私とみゆきちゃんの声に、涙を拭って頷くやよいちゃん。

 

そして、私達はそれぞれのアイテムを取り出す。

いつもの手の動きで、オルタリングを召喚する私。

黄金「はぁぁぁぁぁ」

息を吐き出しながら、右手を前に伸ばす。そして……。

  「変身!!」

   『VUUUUUUN!!!!』

スイッチを叩くのに合わせてエンジン音にも似た音が響く。

 

   『レディー!』

みんなもパクトを取り出して変身用のデコルをセットする。

5人「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

光のパフを使って、変身していくみゆきちゃん達。

私の体も、光が包み込んで瞬く間にアギトになっていく。

アギトの、私の右隣りに立つみゆきちゃん、ハッピーと

その周囲に立つあかねちゃん、サニー達。

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん!じゃんけんポン♪キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を立つ戦姫!キュアアギト!」

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!」」」」」」

うぅ、一応今ではポーカーフェイスでこのセリフ言えるけど、

内心まだ恥ずい!!

 

アカ「出たなプリキュア。今日こそは、倒してやるオニ!」

その言葉に構える私達6人。そして……。

  「出でよ!アカンベェ!」

奴は近くにあったグラウンドを整地するローラーを使って

アカンベェを作り出した。

  「行け!アカンベェ!」

   『アカンベェ!』

ローラーアカンベェは、下半身にあるローラーを使ってこちらに

急接近してくる。

アギト「来るよ!」

アカ「アカンベェ!パンチオニ!」

後ろから奴の命令が飛んでくる。私達の眼前で停止したアカンベェが

右手を振りかぶる。

   『アカン……!』

咄嗟に私達はアカンベェを見上げる形で防御の態勢を取ったが……。

 

  「ウッソ~~!」

   『ベェッ!』

5人「きゃあぁぁぁぁぁっ!!」

アギト「ぐっ!?このっ!」

言葉とは裏腹に右足の蹴りが私達を薙ぎ払った。

吹き飛ばされ、倒れるみんな。私は地面に手をついて体を

浮かせて何とか態勢を立て直す。

アカ「次はローラー攻撃オニ!」

   『アカンベェ!』

そこに、倒れたみんなを狙ってローラーを使ったアカンベェが

突進してきた。

咄嗟にジャンプするみんな。

アギト「ッ!?違う!それは罠だ!」

私は咄嗟に叫びながら左腰のスイッチを2度叩きつつ、

皆の前に跳躍した。

アカ「ウッソ~~~!」

   『ベェッ!』

今度は右ストレートがみんなに襲い掛かるが……。

アギト「させるかぁぁぁぁぁっ!」

   『バゴォォォォンッ!』

拳とみんなの間に割り込んだ私の右ストレートがぶつかり合う。

その隙に着地するみんな。

しかし咄嗟だったので空中に足場を生成せずにいた私は……。

   『ベェッ!』

アギト「ぐがっ!?」

   『ドゴォォォンッ!』

踏ん張りが聞くアカンベェに地面に叩きつけられた。

   「げほっ!がはっ!」

ハッピー「アギト!大丈夫!?」

倒れた私に駆け寄るみんな。

アギト「大丈夫、まだ、やれる」

そう言いながら頬に着いた汚れを拭う私。その時。

 

アカ「騙されたオニ!間抜けオニ!」

そう言って奴が腹を抱えて笑っている。

くっ!あんの赤ダルマぁ!

そう私が思っていた時……。

 

ハッピー「さっきから嘘ばっかりついて!」

不意に、ハッピー達がアカオーニを糾弾し始める。けど、

それを聞くたびに私の隣に居たピースの表情が曇って行く。

……そうか。転校の嘘の件、まだみんなに言えてないんだ。

それなのに、みんなが嘘についてを糾弾している。こんなんじゃ

仮に戦いが終わったって、言い出しずらいし……。

と、私がそう思っていた時。

 

アカ「バ~カめ!嘘は最高オニ!そうだよなぁ?

   キュアピース」

4人「「「「え?」」」」

ッ!?なんでそこでピースに話題を振るんだあいつ!?

嘘の事を知ってる?いや、そんなはず!

と、私が頭の中で否定しようとしていた時。

 

アカ「これを読んだオニ!」

そう言ってあいつが取り出したのは、キュアピースが

他のみんなに嘘の事を打ち明けている絵だった。

あれって!?私が屋上でやよいちゃんと話す直前に

書いていた絵!?まさかあいつが拾っていたなんて!

ピース「あ!私の描いた漫画!」

4人「「「「え?」」」」

その言葉に、絵を見ていたハッピー達4人がピースの

方に振り返る。その感じからして嘘の事をまだ理解出来て

無いみたい。

アカ「何でお前嘘をついた事を謝るオニ?嘘はどんどん  

   ついて良いオニ!騙された方が悪いオニ!」

ピース「やめて!」

あいつの言葉に、耳を塞ぐピース。

サニー「ピース?嘘って何の事や?」

 

アカ「お前の嘘に騙された仲間を笑ってやるオニ!

   うっはっはっはっはっは!」

ピース「ッ!私の大切な友達を笑わないで!」

ビューティ「アカオーニは何を言っているんですか?」

マーチ「ピース、何かあるなら正直に言って?」

その言葉に、ピースが俯く。多分、今のピースの中で

色々な不安が渦巻いているんだ。

 

そう思った私は、ピースの左手を握った。

ピース「アギ、ト?」

アギト「大丈夫、私は、ピースの味方だから」

そう言って、私は笑みを浮かべた。同じように、ハッピーが

自分の事を、転校初日に声を掛けてくれた事を話して、

ピースの背中を押した。

そして、ピースは私の手を離すと静かに頭を下げた。

 

ピース「ごめんなさい、私、みんなに嘘をついていたんです」

そう言ってみんなに真相を打ち明けたピース。その言葉に、

4人が納得したりしている。そして、正直に言ってくれた事を

受け入れ、怒っていない事をハッピー達は口にした。

そして、泣き出すピース。

アギト「良かったね、ピース」

ピース「う、うん!良かったよ~~~!」

内心、ホッとしていた時。

 

アカ「お~い、終わったオニか?高が嘘でうるさい奴らオニ!」

 

そう言って伸びをしているアカオーニとアカンベェ。

あいつの言葉にピースが怒ったような表情を浮かべた時、私は

ピースの肩に手を置いた。

ピース「あ、アギト?」

アギト「……大丈夫」

 

そう言うと、みんなより一歩前に出る私。

   「人間界には、こんな諺があるわ」

アカ「オニ?」

アギト「『嘘も方便』。必ずしも嘘が悪い訳ではない、とする

    意味の言葉よ。……けど、じゃああんたの嘘は

    何だって言うのよ」

アカ「オニ~?嘘が何だって?そんなの決まってるオニ!

   騙して慌ててる奴を見て、笑うオニ!それの何処が

   いけないオニ!」

アギト「……あっそ。……かつて私も、嘘をついたわ」

 

その言葉に、ピースがハッとなる。

その意味を知っているからだ。

 

   「自らの正体を隠し、みんなに嘘をついた。

    ……方便などと言い訳をするのには、程遠い嘘をね。

    けど、あんたの他人を傷つけるだけを楽しむ嘘と、

    それを謝りたい気持ちを持つやよいちゃんの嘘を

    一緒にするな!」

アカ「お、オニ!?」

私の裂帛の叫びにあいつが一瞬怯む。

アギト「嘘は嘘でも、あんたのとは違うのよ!」

ピース「アギト……」

アギト「そして、私は戦う!かつての嘘の贖罪!かつて嘘で

    隠したこの肉体で!アギトの力で!友達を

    守る為に!」

私が叫んだ、次の瞬間。

 

   『カァァァァァァッ!』

オルタリングの中央で緑色の光が溢れ出した。

これって、また新しい力が?

……良いわよ!やってやるわ!

そう思った私は、右腰のスイッチを2回、叩いた。

 

すると、私の足が緑色の光に包まれた。

そして、その光が止んだとき、私の足は、正確にはその足に

履いたブーツとロングスカートが変化していた。

 

見た目は普通だったブーツが、今はメカニカルになって

私の脛を全体的に、膝の僅か下辺りまでを覆っていた。

そして、そのメカニカルなブーツの上を緑色のエネルギーラインが

走っていた。ロングスカートも変化に合わせ、金色だった色合いが

緑色に変化している。

 

それこそ、アギト第4の覚醒。これまでのフォームよりも、

速度と、もう一つの事に特化したフォームだ。

 

アギト「これって……」

ハッピー「もしかして、アギトの新しい力?」

後ろで見ていたみんなを代表するようにハッピーが呟く。

アカ「一体何なんだオニ!アカンベェ!まずはアギトから

   踏みつぶすオニ!」

   『アカンベェ!』

そこに、ローラーを使ってアカンベェが突進してきた。

アギト「ッ!」

   『バッ!』

咄嗟に上に跳躍する私。

アカ「逃がすなアカンベェ!」

   『アカン……!』

そこに、急停止したアカンベェが私の真ん前で拳を振りかぶる。

やられる!!

そう思った時、私は後ろに飛ぶことをイメージした。

そして、次の瞬間不思議な動きを感じた。と、次の瞬間。

   『ブォォンッ!』

私の目の前をアカンベェの拳が空ぶった。

なっ?どうして?

疑問符が頭をよぎる。と、その時私は自分の足首が

光っているのに気づいて視線を下に向けた。そして、気づいた。

メカニカルなブーツの足首外側に、小さな緑色のエネルギーで

出来た翼が左右合わせて3対展開されていた。

これって、エネルギーで出来た翼?

 

その時、私は初めて滞空している事に、宙に浮いている事に

気づいた。

ハッピー「あ、アギトが……」

ピース「飛んでる」

そうか。このフォームは、空中を移動するためのフォーム。

だったら!!

 

そう思った私は一度大きく旋回してから加速してアカンベェに

突撃した。

アカ「アカンベェ!迎え撃つオニ!」

   『アカン……!』

再び奴が右腕を振りかぶる。あのアカンベェの体つきなら、

上に攻撃出来るのは両手だけ!だったら!

   『ベェ!』

拳が繰り出される。けど私は攻撃に対し体を捻って回避。

そのまま更に前へと進んで……。

アギト「はぁっ!」

   『ドゴォッ!』

アカンベェの顔面に、思いっきり両足飛び蹴りを叩き込んだ。

   『アカンベェ~!』

ズズンと音を立てながら倒れるアカンベェ。

これが、私の新しい力。

 

 

それこそ、アギトの新たな力だ。

速度ならば、ストームフォームと言う存在がある。しかし

その力は更なる速度と力を持って、アギトを重力の縛りから

解放する。それこそ、アギト第4の力。

 

―――天を駆ける風の俊足、≪ウィンディレッグ≫―――

 

それを備えた、ウィンディフォームだ。

 

私はウィンディレッグを見つめながらも、すぐにピースの方に

視線を向けた。

アギト「ピース!私にピースサンダーを!」

ピース「え!?」

驚くピース。けど、私は真剣だ。そして、その事が伝わったのか

ピースは力強く頷いてくれた。

 

   「私、みんなからいっぱい優しさを貰った!その優しさが、

    私に本当の事を言う勇気をくれた!だからこそ、私

    わかった!みんなを悲しませる嘘なんて、

    絶対ついちゃダメなんだって!」

そう叫び、スマイルパクトを取り出し構えるやよい。

   「はぁぁぁぁぁっ!」

そして、気合が集まり技が発動する。

   「プリキュア!うわぁっ!ピースサンダー!」

 

キュアピースの放った技が空を飛ぶ私に向かって来る。そして、

それが私の体に命中する。

アギト「あぐっ!!!ぐ、うぅぅぅぅぅぅぅぅっ!」

アカ「はっ!味方の攻撃を喰らうなんて馬鹿な奴オニ!」

アギト「バカか、どうか!それを試してやるさぁぁぁぁぁっ!」

 

咆哮と共に、私は天高く舞い上がると、今度はアカンベェに

錐揉み回転を加えながら加速していった。

   「喰らえぇぇぇぇぇぇっ!!!ユニゾン、

    インパクトォォォォォォォッ!!!!!」

アカ「ッ!?アカンベェ!避けるオニ!」

回転し、雷撃を纏ったままの私はそのままアカンベェに

突進した。そして……。

あいつの言葉が命令が届くよりも先に、私の蹴りが

アカンベェに届いた。そして……。

   『ボォォォォォォンッ!』

   『アカンベェ………』

 

無事に中心核を浄化する事が出来たのだった。

 

   『シュタッ。ガクンッ』

ピース「アギト!」

アカオーニが撤退するのを見ながら着地した私は、

地面に膝をついた。そんな私に駆け寄るピース。

その時、私は……。

アギト「やったよ、ピース」

そう言って息を切らせながらもサムズアップをして見せた。

対して、ピースは……。

ピース「うん!……ありがとう、アギト」

そう言ってほほ笑んでくれるのだった。

 

ちなみに、今回手に入ったのはプリンデコルだった。

 

 

その後、クラスに戻ってみんなに嘘の事を説明する

やよいちゃん。結局、エイプリルフールの事を説明すると

みんな納得してくれたみたいで、一安心だった。

ちなみにその後、みゆきちゃん達からやよいちゃんに反撃があって、

私は苦笑する事しか出来ないのだった。

 

 

そんな帰り道。私はやよいちゃんと一緒に歩いていた。

今は自転車を押して歩いている。

やよい「あの、ね。黄金ちゃん。今日はありがとう。

    色々後押ししてくれて」

黄金「ううん。良いんだよ気にしなくて。それが私の

   やりたい事だったから」

やよい「そっか。……あ、所で黄金ちゃん。最後のあれって

    何?ユニゾン・インパクトって?」

黄金「あ、あ~あれ?いや~、それがその、急に思いついた

   合わせ技だったから、適当な事口走っただけだったん

   だけど……。迷惑、だったかな?」

やよい「ううん。そんな事無いよ。とってもかっこよかったよ」

黄金「そっか。……ありがとうやよいちゃん」

 

その後、T字路に差し掛かった私達。

  「それじゃあ、私こっちだから」

やよい「うん」

そう言って、私は自転車に跨った時だった。

   「あ、あの。黄金ちゃん」

黄金「うん?何?」

後ろから声を掛けられ、振り返る私。みるとやよいちゃんが

何やらモジモジしていた。

やよい「えっと、その。また、明日!学校でね!」

その言葉に、私は。

黄金「うん!そうだね!また明日!学校でね!」

そう言って特に理由も無いので、笑みを浮かべながら返事をして、

バイバイ、とだけ言って自転車を漕ぎ出した。

 

 

その時の黄金は、頬を僅かに赤くしながらも自らを見送る

やよいに、気づいていないのだった。

 

     第9話 END

 




ここで、読者の皆さんにお願いなのですが……。
『みらいのともだい』の戦いを第10話の後に投稿しようと
考えています。
しかし、最終局面でキュアライダー化されていない
仮面ライダーアギト本編の『ギルス(エクシードギルス)』か『アナザーアギト』の
どちらを出すか予定です。しかし私はギルス、アナザーアギトの
双方が好きすぎて悩んでいます。こっちが良いと言う意見が
ありましたら、コメントの程、よろしくお願いいたします。


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第10話 料理とは

今回はアニメ第10話がベースです。
また、次回は劇場版、みらいのともだち編を投稿したいと思います。
加えて、最初はG3が参加しない方向だったのですが、読者様からの
アドバイスを頂き、この度G3とG4の両方を参加させる形に
なりました。
早くとも13、4話辺りではチラッとでも出したいと思っています。



~~前回までのあらすじ~~

新たな力、ギルスの力に不安を覚えつつも日常を

過ごす黄金。そんな彼女の耳に、やよいの

転校の話が入って来た。驚き放心する黄金。しかし逆に

それがきっかけで、やよいの転校がエイプリルフールの

嘘である事に気付いたのだった。

その事を知り、やよいと話をしつつも彼女の味方であろうと

する黄金。その後もアカオーニが襲来したり、アギト第4の

力が覚醒したりしつつも嘘をみゆき達に、クラスメイト達にも

打ち明け事無きを得たやよい。そして彼女はそんな中で

黄金に対する気持ちを募らせるのだった。

 

 

やよいちゃんの転校騒動から少ししたある日。

みゆき「あかね!」

やよい「ちゃんが!」

な・れ「「店長ぉっ!?」」

黄金「ほえ~~~」

と、登校して朝のHRが始まるまでの間に、あかねちゃんから

そんな話を聞かされた私達。

何でも数日前、あかねちゃんのお店で店の片づけをしていた

お父さんがギックリ腰を患って病院に搬送されてしまったらしく、

週末に町内会の会長さんがお店のお好み焼きを食べにくるん

だとか。それで一時はキャンセルって話になったみたいなん

だけど、何でもあかねちゃんがやるって言い出したんだとか。

 

あかね「でぃひひひ♪まぁ店長ってゆうても父ちゃんが

    良くなるまでの手伝いやねんけどな」

と、言っているあかねちゃんの傍で目を輝かせるみゆきちゃん。

すると……。

みゆき「あかねちゃん!偉い!」

やよい「あかねちゃんすご~い!」

あかね「え?いやぁそれ程でも、あるでぇ!」

   『ズコッ!』

まさかのそっち!?思わずずっこける私。

黄金「いやいや、あかねちゃん」

なお「それを言うなら、それほどでもない、でしょ?」

れいか「うふふ」

と、そんなやり取りをする私達6人。

なのだけど……。

 

あかね「タダな、最大の難関は日曜日やねん」

黄金「日曜日?」

みゆき「どうかしたの?」

と、疑問符を浮かべる私とみゆきちゃん。

あかね「町内会長さんらが、ウチで食事会する事に

    なってんねん」

れいか「あ、確か町内会長さんは美食家だと伺った

    事があります」

みゆき「び、美しょ……」

なお「グルメって事だよね」

みゆき「あぁ!」

なおちゃんの説明にポンと手を叩くみゆきちゃん。

しかしグルメな人となると……。

黄金「生半可な物は出せないよね。料理人としては」

あかね「そや。黄金の言う通りやねん」

やよい「どういう事?」

あかね「実はその町内会長さん、ウチでお好み焼き食べるの

    初めてや無いねん。前に来た時は、今まで食べた中で

    一番美味いって父ちゃんのお好み焼き褒めてくれたんや。

    だから今度もがっかりさせへんようにやるっきゃないねん」

やよい「あかねちゃんちのお好み焼き、ホント美味しいもんね~。

    家で食べるのとは一味も二味も違うね、ってママと

    話してたんだ~」

黄金「私も何度か行った事あるけど、やっぱり市販の物とは

   違うかな~。あれ食べちゃうとスーパーのとかじゃ

   もう満足できないよね」

やよい「そうそう!」

と、語る私達を見て、何やらみゆきちゃんが食べたそうな

表情を……。ってみゆきちゃん涎垂れてるよ。

 

みゆき「へ~!聞いてたらお腹空いてきちゃった~!」

キャンディ「キャンディも食べたいクル!」

と、二人そろってそんな事を言うもんだから……。

あかね「よっしゃぁっ!じゃあみんな一回家に帰って、

    それからウチのお店に集合や!」

みゆき「やった~~!」

 

と、言う事で私達は放課後、あかねちゃんのお店に

お邪魔する事になった。

 

そして放課後、私達は私服に着替えてあかねちゃんの家に

集まった。

私達5人の前で調理をするあかねちゃん。

今、鉄板の上でお好み焼きを焼いてる所。みゆきちゃん達は

それに興味津々。そんな時。

れいか「あら?」

黄金「ん?れいかちゃんどうかしたの?」

何かに気付いたのか、明後日の方を向いているれいかちゃん。

私もそっちに視線を向けると、そこにはお店の暖簾が

掛かっていた。あれ?でもあれって……。

れいか「あかねさん」

あかね「ん?」

れいか「お店の名前、もしかして」

と、呟きながらみんながれいかちゃんの視線を追ってお店の中に

ある暖簾に目を向けた。そこには、こっちから見ると逆さま

だけど、ちゃんと「あかね」って書いてある事が分かった。

あかね「あぁうん。ウチの名前から取ったんやて。

    ウチが生まれた年に店ぇ始めたらしくって、

    娘のように大事にしようって意味なんやてぇ」

と、恥ずかしそうに語るあかねちゃん。

れいか「素晴らしい由来ですね」

黄金「うん、私もそう思う」

あかね「え、えへへ、おおきに」

私とれいかちゃんが褒めると、あかねちゃんは顔を赤く

しながらそう言った。

 

そんな中、お好み焼きの良い匂いが立ち込めて来た。

みゆき「うわ~~♪待ちきれな~~い♪」

と、そう言っているみゆきちゃんと、同じように表情を

ほころばせているキャンディ。

そんな二人に私が苦笑したりしていると、あかねちゃんが

手にしたてこを使って器用に6枚のお好み焼きをひっくり返した。

5人「「「「「お~~~!」」」」」

その手際に私達5人は驚いた。

 

その後、みんなしてお好み焼きを食べ始めた。

黄金「う~ん、美味しい~。やっぱり一度ここのを

   食べちゃうと、他のじゃ満足できないよ~」

みんなも私も、笑みを浮かべながらお好み焼きを

食べていた。そこへ。

???「ただいま~」

何処からか男の子の声がした。

あかね「げんき」

げんき「なに~?」

何やら男の子が一人返ってきたけど、あれって私達の学校の

制服じゃ……。

 

なんて思っていると、厨房の方に男の子を連れてくるあかねちゃん。

あかね「弟のげんき」

げんき「ど~も」

あかね「ん?ちゃんと挨拶しぃ」

って、いやいやあかねちゃん。さっきの『弟のげんき』って

紹介も結構雑なんじゃ……。

そう思いつつ私は苦笑していた。で……。

 

げんき「いや~お調子者の姉がいつも迷惑かけてすんません」

め、迷惑って。

私やみゆきちゃん達はげんき君の言葉に苦笑を浮かべた。

そんな中、げんき君は残っていたお好み焼きの食べたの

だけど……。

 

   「まぁまぁ美味いやん。父ちゃんのとはちょっと味

    ちゃうけど」

え?味が、違う?

そう聞いた私は、自分のお好み焼きに視線を落としてから、

もう一度あかねちゃんのお好み焼きを食べた。

ゆっくり、しっかり咀嚼してから飲み込む。

 

…………。あ、確かに。

自惚れる訳じゃないけど、私だって一家でレストランを

営むシェフの娘。舌には自信があるし、知識だってそこそこある。

だからかもしれないけど、分かる。確かに私が両親と来た時に

食べているいつものお好み焼きと、『何か』が違う。

 

そして私がその事を考えている間に、あかねちゃんは

日曜日の食事会に向けて、げんき君の言っていた隠し味を

見つけるって言い出していた。

みゆき「私も手伝うよ!」

と、みゆきちゃん達4人が頷く。で、当然私も……。

黄金「洋食の知識くらいしか無いけど、手伝うよ。

   私に出来る事があったら何でも言って」

と、参加する事にした。

あかね「みんな、ありがとう!」

 

そして、その後、あかねちゃんから渡された三角巾で

頭を覆い、エプロンをかけた私達は早速隠し味探しを

始めた。

私とあかねちゃん、れいかちゃん、なおちゃんが厨房で。

みゆきちゃん、やよいちゃん、キャンディはテーブル席で、

それぞれ集まっていた。

   「いつもの材料はこんな感じや」

私達4人の前に、材料一そろいが置かれている。

なお「う~ん、黄金はどう思う?」

と、私に話題を振るなおちゃん。

黄金「ウチは洋食屋だし、和食に関しては素人の域を出ないから

言える事は少ないけど……。隠し味、かぁ。付け加える

としたら、生地かソースのどっちか、或いは何かの

調味料を少々、或いはここにはない食材がある、って

   所かな~」

なお「って、言ってもねぇ」

う~ん、と唸りながら食材を見る私となおちゃん。

れいか「隠し味ですから、スイカに塩をかける要領でしょうか?」

あかね「スイカに塩ぉ?」

れいか「えぇ。甘い物には辛い物、辛い物には甘い物などを

    程よく加えると味が引き立つとおじい様が」

なお「ウチじゃぁ、カレーにすりおろしたリンゴを入れるよ」

黄金「他にも、カレーにならコーヒーの粉末やチョコなんかも

   あるね。私も料理で何度か試した事があるんだ。

   アイスに醤油を一滴、何てのもあるよ」

あかね「ほえ~。そんなんあるんか~」

黄金「これは、全く違う味を同時に舌で味わう事で、逆に

   一つの味をより引き立てる事、対比効果って

言うらしいよ。まぁ、お父さんからの受け売り

なんだけどね」

あかね「ほうほう。しかし、お好み焼きに合う甘いもんか~」

黄金「いや、そこは塩味の方じゃないかな?お好み焼きの

   ソース、ウスターソースはどちらかと言うと

   甘い方だから、塩味を追加している可能性もあるよ。

   唯……」

あかね「ただ?なんや?」

黄金「仮に手を加えるにしても、ソースと生地のどちらかに

   手を加えたのかも分からないし……。ごめん、

   言っておいてあれだけど、私には隠し味の方は

   ちょっと……」

なお「そっか。あ、ゴマ油は?ちょっと入れると風味が出て

   香ばしくなるよ」

と、私達で話をしていると……。

 

   『ジュゥゥゥゥゥゥッ!』

み・や・キャ「「「わぁぁぁぁぁぁっ!」」」

何やら盛大な音と悲鳴が聞こえて来て、そっちを見ると……。

あかね「何してんの?」

巨大プリンを鉄板の上で焼いているみゆきちゃん達。

みゆき「これがホントの焼きプリン!」

そんなプリンを見ながら苦笑する私とあかねちゃん達。

 

その後、私達は各々アイデアを出したりあかねちゃんから

アドバイスを貰ったりしながらお好み焼きを作り、みんなで

味見したのだけど……。

 

あかね「あむっ」

残っていた最後の一切れを食べるあかねちゃん。

黄金「どう?」

と、私が聞くと、あかねちゃんは目を瞑って静かに首を横に振った。

あかね「これじゃアカン」

みゆき「そっか~。十分美味しいけどな~」

れいか「やっぱり、秘伝の隠し味ですから」

なお「そう簡単には見つけられない、か」

みんな、そう呟きながらあかねちゃんの方を見る。

すると、あかねちゃんが少しだけ俯いてから……。

 

あかね「やっぱ父ちゃんはすごいなぁ!」

不意に笑みを浮かべながら呟いた。

黄金「え?」

あかね「照れくさくってゆうた事無いけど、ウチな、父ちゃんの事

    尊敬してんねん」

そう言って、あかねちゃんはお父さんの事を語りだした。

 

尊敬できるお父さん、か。

その時の私は、あかねちゃんの言葉の意味が分かる気がした。

 

その後、あかねちゃん曰く『意地張ってもしゃあない』って事で

病院に入院しているあかねちゃんのお父さんの元へと

向かった。

ロビーであかねちゃんを待っている私達。

そんな時だった。

みゆき「あ、そう言えば」

黄金「ん?どしたの?」

みゆき「今思い出したんだけど、黄金ちゃんのお家も

    お店やってるんだよね?」

黄金「うん、洋食レストラン『TUGAMI』。苗字の

   津神をローマ字で表してるんだ」

みゆき「へ~。どんな料理なの?」

黄金「料理としては、パスタやサラダ、ハンバーグに

   リゾットなんかを扱ってるよ。お店としては、

   私が生まれる少し前から始めてるみたいだから、

   もう15年はやってるのかな?」

みゆき「へ~!すご~~い!」

黄金「えっと、この中だと、なおちゃん達は来た事あったっけ?

   前あかねちゃんが家族の人と一緒に来た事

   あったけど、やよいちゃんもこの前お母さんと

   来てたよね?」

やよい「うん。私はあそこのカルボナーラが大好き

    なんだ~。お母さんはボロネーゼがお気に入りだよ」

みゆき「へ~!」

なお「私とれいかは、中学に上がる前とかちょくちょく

   行ってたよね」

れいか「はい。二人してよくお昼を頂きました」

みゆき「みんな良いな~。お話聞いてたら私お腹

    空いてきちゃったよ~!」

キャンディ「キャンディもクル!」

黄金「ふふ。それじゃあ、ご来店お待ちしております。なんて」

と、そんなやり取りをしていると……。

 

  「あ。あかねちゃんが戻って、って、あれ?」

その時、私が一番にあかねちゃんに気付いたんだけど、肝心の

あかねちゃんは何やら沈んだ表情をしていた。

何でも話を聞くと、隠し味を教えてもらえなかった上に

色々と言われてしまったらしい。

で、更に啖呵切ってしまったらしく、引くに引けない

状態になってしまったあかねちゃん。

 

食事会までは後3日。それまでにやるしかない。

黄金「ともかく、まずは隠し味になりそうなものの

   調達。後はそれを使って作ってみるしかないね」

あかね「そやな。さて、そうと決まれば、まずは

    買い出しや!」

み・や・キャ「「「おお~~~!」」」

 

こうして、再び私達のチャレンジが始まった。

スーパーで香辛料や調味料、野菜を買った私達は、早速

お店に戻って試作と味見を繰り返した。

 

学校の図書館でも使えそうな本を探し、学校が終われば

みんなでお店に集まって試作、弟のげんき君にも

試食してもらってはいるけど、一向に完成の目途は

立たなかった。

 

そんなある日。

   『キュッ、キュッ』

その日の夕方、私はあかねちゃんと二人で皿洗いをしていた。

他の皆は用事があるとかで先に帰っちゃったけど、せめて

後片付けくらい、と思って手伝っていた。

そんな時だった。

 

あかね「なぁ黄金」

黄金「ん?」

あかね「ウチ、出来るやろか。父ちゃんの味の再現」

皿を洗っていた時、不意にあかねちゃんの手が止まって、

俯いたまま話しかけて来た。

その表情と声色に不安が混じっているのは、超能力を

使わなくても分かった。

お店の看板をしょって立つ。

そのプレッシャーがのしかかっているんだと思う。

それは多分、私の想像を絶するくらい、中学生のあかねちゃんには

重い重圧なのかもしれない。

だったら、私は私に出来る事、言える事を言うだけ。

 

黄金「それは……。私には分からないかな」

あかね「え?」

黄金「それに、多分その疑問には誰だって答えられないよ。

   未来なんて、誰にも分からない。だから、成功

   するか失敗するか。それは誰にも分からない。

   私はそう考えてる」

あかね「黄金」

黄金「けど、それは可能性の話。きっと、あかねちゃんが

   頑張った分だけ、可能性は少しずつでも上がって行く。

   最初からあきらめるのは簡単だと思う。私も最初は

   アギトの事で、みんなと友達になんてなれない、

   正体がバレたらそれまで。最初っからそう思って、

   みんなの事を頭から否定してた。そんな事、必要

   無かったのに」

あかね「……」

黄金「……だから思うの。諦めるのは簡単だけど、そこで

   立ち止まったら、本当にそれまで。だから自分に

   出来る事で立ち向かう事が大切なんだ。って、私はそう思う」

あかね「そっか。……そやな!やれるやれないや無い!

    ここまで来たら、やらなアカンねん!ウチが

    父ちゃんのお好み焼き作って、町内会長さんを

    幸せにしたる!」

私の言葉に、吹っ切れたのかガッツポーズをするあかねちゃん。

それを見ていた私はクスッと笑みを漏らした。

黄金「ふふっ」

あかね「な、なんや黄金、笑わんといて。恥ずいって」

黄金「あ、あぁごめんごめん。ちょっと昔にあった事を

   思い出しちゃって」

あかね「昔にあった事?」

と、聞き返しながら食器洗いに戻るあかねちゃんの隣で、

私は少しだけ昔話をしようと思った。

 

黄金「あれは、私がまだ幼稚園生の頃の話なんだ。

   ある日の朝、私は玩具片手に調理場に走って行ったの。

   お母さんの止める声も聴かずに。そしたら走って来た

   私を見た途端、お父さんが『何やってんだっ!』って

   スゴイ剣幕で怒り出してさ。それが凄い怖くて、

   それからしばらくはお父さんを避けるようになったんだ」

あかね「そんな事があったんやな」

黄金「うん。普段は優しいお父さんがどうしてあそこまで

   怒るのか、あの時の私には殆ど分からなかった。

   でも、中学に上がる少し前から、分かるように

   なったんだ。厨房に立つお父さんの表情は真剣

   その物。お母さんだってそう。その時初めて、私を

   あの時怒ったのが家族としての父じゃない。

   一人の料理人の父なんだって、思い知った。

   そしてそれを知った時、お父さん達が仕事に、

   レストランの事にどれだけ真剣なのかが分かって、

   二人の背中がとても大きく見えるようになった」

あかね「大きな背中、かぁ」

黄金「うん。……この前のあかねちゃんの、お父さんをスゴイ

   褒めてる姿を思い出して、私もきっと、お父さん達の

   背中が大きく見えるようになったあの日は、きっと

   あの時のあかねちゃんみたいなキラキラした目で、

   二人を見てたんだろうな~って思ってさ」

そう言って話を振ると、あかねちゃんは顔を赤くした。

あかね「そ、そんな事言わんといて。めっちゃ恥ずいやん」

黄金「ふふ、ごめんごめん」

そう笑みを浮かべつつ私は食器洗いに戻った。

 

そんな時。

あかね「ありがとうな、黄金」

恥ずかしいのか少しだけ顔を赤くしたあかねちゃんの言葉が

聞こえた。それを聞いた私は……。

黄金「友達だもん。当然だよ」

そう言って笑みを浮かべるのだった。

 

 

その後、私達は街の地域振興のイベントでお好み焼きの

屋台を出店。

みゆきちゃん、やよいちゃんがげんき君、あかねちゃんの

お母さんと一緒に屋台の当番を。私となおちゃん、れいかちゃん

はあかねちゃんと一緒にお店で会食用のお好み焼きを

試作していた。

 

その後、私達は試食用のお好み焼きを手にイベント会場へと

向かった。でも……。

   『ブワッ!』

突如として空が夜になり、私達の傍を歩いていた人たちが

項垂れ黒いオーラに包まれた。

 

まさかこれって!

   『キィィィィンッ!』

その時、私の頭の中で金切音が成り響き、奴らの出現を

伝える。

黄金「こっち!付いて来て!」

慌てて気配がする方へと走る私達。

そして、たどり着いたのはイベントが行われている広場

だった。

そこでは……。

 

ウル「バットエナジーとお好み焼き、両方いっただきま~す!」

あの狼男、ウルフルンが居た。

黄金「ッ!あいつ!」

キャンディ「ウルフルンクル!みんな!変身クル!」

 

 

その声と共に、私はお好み焼きの入ったビニール袋を置くと、

いつものポーズでオルタリングを召喚する。

みんなも、スマイルパクトを取り出している。

   『レディ!』

黄金「はぁぁぁぁ………!」

息を吐きながら、私は右手を前に突き出す。

み・あ・や・な・れ「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

黄金「変身!」

   『カチッ!』

   『VUUUUUN!!!』

 

みんなが光のパフで変身する中、私の体をオルタリングの光が

包み込んで、アギトへと変身する。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりじゃんけんポン♪キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を絶つ戦姫!キュアアギト!」

 

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!

スマイルプリキュア!」」」」」」

 

ウル「出やがったなプリキュア。俺の食事の邪魔はさせねぇぜ!」

そう言うと、奴はいつもの赤い球体を取り出した。

  「出でよアカンベェ!」

 

すると、ソースのカップとハケに融合したアカンベェが

誕生してしまった。

   『アカンベェ!』

こちらにプレス攻撃を仕掛けてくるアカンベェ。私達は

咄嗟に周囲へと散って攻撃を回避する。

そして、アカンベェは狙いをサニーに定めるとそのハケを

振るった。

アギト「サニー!」

動けなかったサニーをお姫様抱っこで抱えて飛ぶ私。次の瞬間、

私の背中のあちこちに謎の液体が付着する。

 

何とかサニーを守りつつ着地したんだけど、私の背中や

サニーがガードでクロスした腕にくっついた

液体が見る間に変色していき……。

   「なにこれ!?体にくっついて……はがれない!」

サニー「ソースやない!これは、接着剤!?」

ビューティ「ッ!皆さん気を付けて!」

 

   『アカンベェ!』

ハッピー「うわわわわっ!?」

今度は、ハッピーとピースを狙って接着剤を飛ばすアカンベェ。

驚き動けない二人の前に、パラソルを盾にしたビューティが

飛び込んで攻撃を防いだ。

 

私の方は、動けるけど体が普段より重い。どうすれば……。

そう思っていると、ウルフルンは私達が持って来たお好み焼きを

がっつくように食い始めた。

サニー「あぁ!ウチの焼いたお好み焼き!」

止める暇もなく、奴の胃袋の中に消えていくお好み焼き。

 

と、その時、アカンベェからの攻撃が止んだ。

不審に思いパラソルから顔を出すハッピーとピース。

すると……。

ハッピー「あれ?うわぁぁぁぁぁっ!」

顔を出し、すぐさま驚くハッピーとピース。なぜなら、

アカンベェの肉体が徐々に大きくなっていっているから。

 

明らかに、奴の体が太くなっている。

パワーアップ?!でも何でこのタイミングで!

キャンディ「きっとウルフルンがお好み焼きを食べた

      せいクル!」

ハッピー「そうなの!?」

くっ!?そんな情報初耳なんですけど!

でもやるしかない。

そう思った時。

 

   『アカンベェッ!』

アカンベェが3人の近くにハケを叩きつけ、爆風で吹き飛ばされた

3人に接着剤が付着。そのまま3人をビルの壁にくっつけてしまった。

アギト「ハッピー!ピース!マーチ!」

ビューティ「皆さんっ!」

これでまともに戦えるのは、私とサニーとビューティだけ。

その時。

 

ウル「ウルッフッフ。人間の喰いもんも中々だったぜ」

サニー「え?!ホンマ!おおきに!」

敵の言葉を誉め言葉と受け取り、感謝するサニーに私は

一瞬だけずっこけた。

 

アギト「サ~ニ~?」

サニー「はっ!?おおきにちゃうわ!」

ウル「あぁ?何でお前が礼を言うんだよ?」

 

サニー「それ作ったん、ウチやからな」

ウル「は~。ま、こんなもん誰が作っても同じだけどな」

サニー「同じちゃう!どんなに頑張っても、父ちゃんと同じ

    味にならへんから悩んでんのに!」

ウル「そんなしょ~も無い事で悩むなんざ、下らねえなぁ」

 

何だと?!

マーチ「下らない!?」

ピース「あかねちゃんの一生懸命さをバカにしないで!」

ウル「一生懸命とかどうでも良いんだよ。腹ん中に入ったら

   全部一緒じゃねえか。大体これ、失敗作なんだろ?」

サニー「クッ!?」

 

ウル「偉そうな事言ってんじゃねえよ」

その言葉に、サニーが泣きそうになる。その時。

 

アギト「失敗?いいえ違うわね」

私はサニーの肩に手を置き、彼女の前に出る。

   「ある人が言っていたわ。失敗は成功の母。

    何事にも完璧などありはしない。料理もそう。

    人によって、スパイスの量、焼き加減、一工夫。

    全てが異なる。……ウルフルン、一つ教えて

    上げるわ」

そして、私はゆっくりとウルフルンを指さす。

   「確かに食事は腹を満たすための物。だけど、

    舌で料理を味わうのもまた食事!

    あなたにはそれが分かってない!」

ウル「何だと?」

アギト「何度失敗しても、常に上を目指す事。それは

    誰にだって出来る事じゃない。頭の中で囁く、

    諦めと言う名の悪魔。苦しいから、これくらいなら、

    ここまで来れば。そうやって囁きに負けて

    諦めることは簡単。でも、人は常にその先を

    目指す事だって出来る!あかねちゃんのように!

    ……料理も心も、諦めなければそれこそが進歩の証!

    誰かをお好み焼きで幸せにしたいって言うあかねちゃんの

    思いが詰まった料理。料理のりの字も知らないお前に、

笑う資格なんて無い!」

サニー「ッ!」

 

その時、サニーは頭の中で思い出す。父の言葉、そして、

母の言葉を。

   「そうか。……そうか!そうかぁっ!!

    分かったで~~!父ちゃんの隠し味~!」

その時、天を仰ぐサニーの声に、私達5人とウルフルンが呆けた

声を漏らす。

   「食べた人に元気になってもらいたい。その気持ちを

    ギュウギュウ詰めに籠める!それが父ちゃんの、

    お好み焼き『あかね』の隠し味や!」

 

その言葉に、私は一瞬呆けた表情をしてから、笑みを浮かべた。

アギト「……料理は愛情、か」

そして、私も両親の姿を思い起こした。

 

ウル「何言ってんだ。アカンベェ!さっさと片付けろ!」

その言葉に、構えるビューティ。だけど……。

 

   『カチッ!』

私は右側のスイッチを叩き瞬く間にフレイムフォームへと

姿を変えた。だけど、それだけじゃない。

アギト「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

   『ゴォォォォォォォッ!』

変身と同時に、私を基点に炎の火柱が上がった。

ウル「あっつ!?テメェ!何してやがる!」

 

アギト「ふっ!簡単よ!接着剤が取れないのなら、

    ボロボロになるまで熱波で乾燥させるだけよ!」

   『ボォォォォォォォォォッ!』

更に火力を上げる。更に……。

サニー「よっしゃぁ!ウチも、やったるで~~~~!」

隣に居たサニーも体から炎を噴出させる。

ア・サ「「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」

 

私とサニーの炎が一つになり、それは極大な炎の渦となって

舞い上がる。

炎の柱と化した私達に、流石のアカンベェも手出しができない。

そして……。

   『ピシッ!ピシピシッ!』

私達の体に付着していた接着剤が見る間に乾燥し、固まり、

更に罅割れて行く。最後には……。

   『ビシシッ!バリィィィィンッ!』

音を立てながら接着剤だった物は砕け散った。

 

   『ア、アカン!?』

ウル「そ、そんな馬鹿な!?」

驚く奴らを後目に、私とサニーは視線を合わせ……。

アギト「行きますか」

サニー「おう!」

 

互いに笑みを浮かべながら言葉を交わした私達は飛び出した。

地面を、炎を吹き出しながら滑るサニー。

そして……。

   「はぁっ!」

炎を纏ったアッパーがアカンベェを天に打ち上げる。

 

そして、私は……。

アギト「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

気合と共に、グランドフォームの時と同じキックの型を

描く。すると足元に、真っ赤に燃えた炎のアギトの紋章が

現れ、それが私の足先に集中する。そして……。

   「だぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

飛び上がって更に体全体を炎で覆い、さしづめ炎の弾丸と

なってアカンベェを真下から更に蹴り上げた。

   『ドゴォォォォォッ!』

体全体を焦がしながら、アカンベェは更に上へと打ち上げられた。

その時。

サニー「アギト!」

下からサニーが大きくジャンプし、私に向かって来た。サニーの

表情を見た私は、大きく手を伸ばす。

サニーも私に向かって手を伸ばした。

そして、私がサニーの手を掴んだ次の瞬間。

 

アギト「行っけ~~~~~~!」

   『ブォォォンッ!』

アギトの腕力を持ってサニーをアカンベェの居る場所まで

投げた。

アカンベェの眼前に相対するサニー。そして……。

サニー「プリキュア!サニーファイヤー!」

炎のボールをアカンベェに叩きつけた。

それによって、アカンベェは無事浄化されたんだけど……。

 

デコルはキャンディがキャッチしたけど……。

あわわわ!サニーが落っこちてくる~~~!

アギト「ととととっ!」

慌ててキャッチの姿勢を作り、私は何とかサニーを

お姫様抱っこでキャッチした。

   「だ、大丈夫サニー?」

サニー「平気や平気。……その、ありがとな」

アギト「え?」

サニー「さっき、ウルフルンにビシッて言うてくれたやん。

    だからその、ありがとう」

顔を赤くしながら呟くサニー。そんな彼女を

その腕に抱きながら、私は……。

 

アギト「どういたしまして」

笑みを浮かべながら呟くのだった。

 

 

その後、会食の日がやってきた。

結果は……。

 

会長「これは……。美味しい!」

 

文句なしのハナマル。町内会長さんからも褒められた。

 

みんなと喜んでいるあかねちゃん。

黄金「あかねちゃん」

私は声を掛けながら手を上げる。それに気づいてあかねちゃんが。

あかね「へへ、おおきに!」

   『パァンッ』

 

そう言って私とハイタッチをするのだった。

 

 

     第10話 END

 




次回は劇場版です。お楽しみに!


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みらいのともだち編 前編

本当は一気に全部書き上げるつもりだったのですが、序盤の時点で
一万五千字に届く勢いだったので、分割しました。
もしかしたら中編、後編と3話に分けるかもしれません。


——異世界から持たされた力は、その世界において異質な力となる——

 

——だが同時に、その異質な力は時に不条理な未来をぶち壊す——

 

 

そして、その異質な力を持った少女がこの世界にいた。

 

その日、一人の少女が趣味のローラースケートで町中を滑っていた。

と、その時。

   『キィィィィィィン!』

唐突に少女、『津神黄金』の頭の中に金属音が響いてきた。

 

ッ!この感覚は……。

彼女は、訳あって力を手にしていたのだ。そして、その力は

敵の存在をキャッチするレーダーのようにもなっていた。

が、彼女は今、普段とは異なるその波動に驚きつつ、

困惑していた。

 

この感じ、マジョリーナやウルフルンじゃない。

でも嫌な感じがする。

  「………。行かなきゃ」

静かに呟いた私は、足早に近くにあった図書館の中に移動した。

そして、図書館の奥の方の本棚を使って『本の扉』を開き、

自分の第六感が指し示す方向へと向かった。

やがて私は本の扉を通ってどこかの書店の中に飛び出した。

すぐに周囲を見回すけど、暗い書店内に人影がない。

 

よかった。誰にも見られてない。ん?でもまって、

今は確か昼間。なんでここ、こんなに暗いの?

 

それによって、見られていない事を安堵する黄金だったが、

すぐに書店の中が暗い事に疑問を抱いた。

 

どうして?今は昼間なのに。……人もいない。

と、その時だった。

   『ドォォォンッ!』

  「なっ!?爆発!?」

建物の外で爆発音が聞こえ、書店の中もグラグラと揺れて

無数の本が本棚から落ちた。

慌ててドアを探して外に出た私は、そのまま爆発音の

した方に目を向け、驚いた。

今、私の視界に、巨大な某怪獣王みたいな姿をした怪物が居たから。

黄金「何、あれ?」

アカンベェ?って、そんなわけない。あんな大きいのは

見たことないしピエロっぽくない。

と、その時私はその怪物が何かと戦っている事に気付いて、

私の力、アギトの力で強化された視覚で戦っている相手に

注視した。そして……。

なっ!?あれって……。

  「プリ、キュア?」

 

彼女はその目に映った者たちを見て驚き、呟いた。

それもそうだろう。何故ならその者達、というのが黄金が

共に戦っている仲間、スマイルプリキュアと同じように

様々な色を基調とした服装と人間離れした力で怪物と

戦っているからだ。

 

まさか、みゆきちゃん達以外にもプリキュアが?

と、私が考えていたその時。

ブラック「ハァっ!」

視界の中で、戦っていたプリキュアと思う女の子が

怪物の放った赤黒いエネルギーの塊を避けた。

でも、その先には……。

 

市民「きゃぁぁぁぁぁっ!」

  「に、逃げろぉぉぉぉぉっ!」

 

突如として怪物が出現したために理解が追い付かず逃げ遅れた

横浜の市民が居た。

ブラック「ッ!しまった!」

それに気づいたプリキュアの一人、『キュアブラック』を

始め数人のプリキュアが向かうが、間に合うか微妙な所だ。

女の子「うぅぅっ!」

迫りくる光に怯え、傍にいる母にしがみつく女の子。

と、その時。

   『ダダダッ!』

不意に誰かが彼女の傍を駆け抜けた。

   「え?」

視線を駆け抜けた人物に向ける少女。それは着ていたパーカーの

フードを目深にかぶった黄金だった。そして……。

 

黄金「変身っ!!」

   『VUUUUUNN!!』

バイクのエンジン音のような音と共に瞬く間にアギトの力を

解放し変身する黄金。

  「はっ!!」

そして走る速度を緩めずに、足元にアギトの紋章を出現させ

それを足裏の一点に集めつつ跳躍。そして……。

  「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

必殺のライダーキックをエネルギーの玉にぶつけ、更に……。

  「こんのぉぉぉぉぉぉっ!!!」

アギトの力を混ぜ合わせ、威力その物を増した上でエネルギー弾を

『蹴り返した』。

そして、彼女のキックで蹴り返された塊は、一直線に怪物、

フュージョンの顔面に向かって良き……。

   『ドォォォォォンッ!』

盛大に爆発した。

フュー「グォォォォッ!」

同時にフュージョンが呻きながら倒れた。

   『シュタッ!』

エネルギーを蹴った反動で女の子や逃げ遅れた市民の前に

着地するアギト。

女の子「プリ、キュア?」

 

 

私の後ろに居た女の子が呟く。……私はプリキュアじゃないん

だけどな~。

そう思っていると私の前に、他のプリキュア達もやってきた。

ブラック「もしかして、あなたは新しいプリキュアなの?」

 

やはり、この人たちから見ても私はプリキュアに似てるらしい。

アギト「私はプリキュアに似てるだけです。勘違いしないで

    下さい」

私は少しばかりそっけない態度でそう言い放った。

その言葉にそのプリキュアだと思う人たちが戸惑っていた、その時。

後ろから無数の細いレーザーが向かってきていた。

   「はっ!!」

私はプリキュアの人たちを飛び越えその後ろに着地するとすぐさま

ベルト左のスイッチを叩き、風を纏いながらストームフォームに

変身。ストームハルバードを取り出して盾のように高速回転させ

風の力もプラス。巨大な風の盾を作り出してレーザーの軌道を逸らした。

そして、どうやらみゆきちゃん達の先輩らしき皆さんは私の

姿を見るなり驚いている。

ホワイト「姿が、変わった」

 

どうやら、金色から青くなった上着と左腕に驚いているみたいだ。

その時。

フュー「小癪なぁぁぁぁぁぁっ!!」

あの化け物の体から触手みたいなものが現れ突進してくる。

それを見た私はハルバードに風を纏わせ、砲弾か投げ槍の

ように投擲した。けど、ハルバードはいくつかの触手を破壊

しただけで弾かれてしまった。

最も、それくらい分かってた。

ドリーム「危ないっ!」

後ろで叫ぶ人たちを無視しながら、私は右のスイッチを叩き、

体を炎に包みながらフレイムフォームに姿を変え、

ベルトからフレイムセイバーを引き抜く。

ルミナス「っ!?また姿が!」

 

そして……。

アギト「ハァっ!」

超感覚で触手の動きを捉え、気合と共に迫りくる触手を次々と切り裂く。

けどキリがない。

そう思った私は前に出て触手を交わし、セイバーに炎を纏わせ、

フレイムフォームの研ぎ澄まされた感覚を使って、

一瞬の隙を突き……。

   「ふんっ!!」

さっきのハルバードのように、弾丸のように怪物の額目掛けて

セイバーを投げつけた。

投げられたセイバーは一直線に飛んでいき、奴の額に突き刺さり

その皮下に炎を流し込んだ。

フュー「ぐぉぉぉぉぉぉっ!!!」

体の中に7000℃の炎を流し込まれ、悶える化け物。

倒し切れてはいないけど、時間稼ぎには十分だ。

 

そう思うと私は再びグランドフォームへと変化し、一歩足を

前に出すのと同時に、もう一度足元にアギトの紋章を描く。

更に、頭部の角、クロスホーンを展開。

メロディ「あ、あれって角?!」

アギト「はぁぁぁぁぁぁ……」

それをポーズと共に、足裏へと吸収し、駆け出す。そして…。

   「はっ!!」

勢いよく跳躍。念力の力で自分自身を砲弾のように打ち出す。

   「だぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

   『ドゴォォォォォッ!』

フュー「ぬぉぉぉぉぉぉぉっ!?!?」

奴の腹に必殺の蹴りが命中し、奴は盛大に倒れたけど倒し切るまで

には行かなかった。

奴の体を蹴って先輩プリキュアの近くに戻る私。正直、奴は

アカンベェ以上に固い。

今の私の力じゃ、あいつを完全に消滅させる事は出来ない。

しかし、ここにはみゆきちゃん達の先輩もいる。

私の物理攻撃は無理でも、この先輩たちならもしかしたら……。

その事を思った私は少し無責任かもしれないけど、

踵を返して先輩たちの隣を通り過ぎようとした時。

アギト「すみませんが、あれの後始末、お任せしても良いですか?」

ブラック「え?」

アギト「言いましたよね。私、プリキュアじゃないって。だから私

    浄化技使えないんです。なので、あれ、任せても良いですか?」

ブラック「う、うん」

私は黒いプリキュアの人が頷くのを確認すると一人プリキュアや

フュージョンに背を向け歩き去った。

 

そして、遠くからフュージョンが浄化されるのを目にしつつ、私は

本の扉を使って七色ヶ丘へと戻ったのだった。

黄金「ふぅ」

変身を解除しつつ、人気のない図書館の中に着地する私。

それにしても、まさかみゆきちゃん達以外にプリキュアが居た

なんて。ちょっと驚いたな~。

 

と、一人そう思いながら黄金は図書館を後にした。

それが、始まりの一戦に過ぎないと知らないまま。

 

 

その翌日。その日は休日だったので私は家でのんびりしていた

のだけど、突然みゆきちゃんから電話が来てすぐにふしぎ図書館に

来て欲しいと言われた私は、すぐに図書館に向かった。

そこで……。

 

みゆき「黄金ちゃん!これってどういう事!?」

たどり着いて早々、切り株のログハウスに入ると私に新聞を

突き付けるみゆきちゃん。

私は驚きつつもその新聞を受け取り、一面に描かれている事を

声に出して読み始めた。

 

黄金「え~っと?『昨日正午過ぎ、横浜みなとみらいに謎の巨大

   生物が出現。フュージョンと名乗った生物は周囲に対し

   攻撃を開始するも、突如として出現した戦士、プリキュアの

   活躍により怪物は討伐。奇跡的に死傷者は無かった』、か。

   あ、この写真私だ」

と、文章を読んでいた時、私の目が新聞の端に載せられていた

私自身、つまりアギトの写真を見つけた。

でのんきにも呟いていると……。

 

れいか「黄金さん。これは一体どういう事でしょうか?」

にっこりと、(怖い)笑みを浮かべるれいかちゃん。

怖い怖い!ホントそれは怖いよれいかちゃん!何!?私

怒られるようなことしたかな!?

黄金「え、えっと。アギトの力でヤバそうな気配を感じたから

   追ってって、それで横浜に」

みゆき「ど~して私達を呼ばなかったの~?」

ぷく~っと頬を膨らませているみゆきちゃん。うんごめん。

みゆきちゃんのそれ、全然怖くない。むしろ可愛いよ。

って、そうじゃなくて……。

 

黄金「あ、あの時は偶々外に居たし、携帯とか電話が近くに

   無かったから」

と、咄嗟に言い訳というか、理由を説明する私。

あかね「そうやったんか。けどな黄金。今度からは

    一人で無理したらアカンよ」

黄金「うん。分かってる。……と言っても、向こうじゃ

   みゆきちゃん達の先輩と一緒に戦ったんだけどね」

そう言うと、私はテーブルの上に新聞を置き、みんなは

新聞の一面に載せられたプリキュアの写真を覗き込んだ。

 

やよい「まさか他にもプリキュアが居たなんてね」

なお「今朝テレビで姿を見た時は驚いたよ。黄金は

   先輩たちと会って話したの?」

黄金「ううん。そんなには。アギトの姿の時に2、3言葉を

   交わしただけだよ」

それにしても、まさか先輩が居たなんてね~。って、あれ?

な~んか誰かを忘れてるような。……あ。

  「ねぇねぇ、そう言えばキャンディは?見かけないけど……」

周りを見回した私はキャンディが居ない事に気付いてみんなの方に

声を掛けた。

みゆき「あ、そうそう。言い忘れてたけど、キャンディは

    妖精の集まりがあるとかで居ないよ」

黄金「え?妖精の、集まり?」

と、私は首を傾げながら言葉を繰り返すのだった。

 

 

場所は変わってとある場所。

そこではプリキュアのパートナー妖精たちが集まって

戦勝会、まぁつまりはパーティーをしていた。

そして、集合していない他の妖精メンバーを待っていた時だった。

タルト「しっかし、あの金ぴかのプリキュアにはホンマに

    驚いたな~」

と、みんなに紅茶を配りながらもそう呟いたのは

フレッシュプリキュアのパートナー妖精の『タルト』。

シプレ「姿を色々変えててびっくりしたですぅ」

コフレ「剣や槍、いろんな武器を使ってたですっ」

と、相槌を打つのはハートキャッチプリキュアの

パートナー妖精である『シプレ』と『コフレ』。

キャンディ「クル?みんな、何の話をしてるクル?」

しかし、唯一あの現場に居なかったキャンディは疑問符を

浮かべる。

 

タルト「あぁ実はな。横浜の戦いんときに正体不明の

    プリキュアが現れたんや」

キャンディ「正体不明のプリキュア?どんなプリキュアクル?」

シプレ「え~っと。髪は金色で~、ポニーテールにしてたですぅ」

ポプリ「後は金色の上着を着てたでしゅ」

と、付け加えたのはシプレ達と同じハートキャッチプリキュアの

パートナー妖精でシプレ達から見て後輩とも言える『ポプリ』だった。

   「それにベルトみたいなので変身したり、姿を変えたり

    してたでしゅ」

キャンディ「ベルト、姿を変える、金色の、ポニーテール。

      ……あ」

と、教えられた事をイメージしていくと、キャンディの脳内で

アギトの、黄金の変身シーンが再生された。

     「もしかして、そのプリキュアって赤くなったり

      青くなったりしたクル?」

タルト「え?そういやぁ、確かにベルト叩いて姿を変えてたな」

ハミィ「キャンディは何でそんな事知ってるニャ?」

と、問い返したのはスイートプリキュアのパートナー妖精

である『ハミィ』だった。

 

キャンディ「その子の名前はキュアアギト!キャンディたち

      スマイルプリキュアと一緒に戦う、プリキュアじゃ

無いけどとっても強い仲間クル!」

タルト「プリキュアやない、ってどういうこっちゃ?その

    キュアアギトはんはプリキュアとちゃうん?」

キャンディ「キャンディもよく知らないけど、アギトに変身する

      黄金が自分でそう言ってるクル。似てるけど

      違うって」

ハミィ「そう言えば、あの時もそんな事言ってたニャ」

顎に手を当て、あの戦いの時のアギトのプリキュアじゃない発言を

思い出すハミィ達。

 

ちなみにその後、パーティー会場に実は撃破されていなかった

フュージョンの欠片が現れひと悶着あったのだった。

 

 

一方、ふしぎ図書館のログハウスに居るみゆきと黄金たち。

みゆき「ねぇねぇ黄金ちゃん。黄金ちゃんは私達の先輩と

    会ったんだよね。どんな感じだった?」

黄金「え?う~ん、どんなって言われても……。私が

   駆けつけた時はもう変身してたし、数は全員で……。

   2、30人くらい、だったかな?後はまぁ、モチーフの

   色がやっぱりみゆきちゃん達と似てた」

れいか「似ていた、とは?」

黄金「何て言うのかな。服の色?それが大体ピンクだったり

   黄色、白や黒にオレンジ、青。スカートを穿いてたり

   髪の色がどこか特徴的だったり、まぁ雰囲気、って

   言えば良いのかな。そこがみんなに似てた感じ」

と、少しあやふやではあるけど、とりあえず説明する私。

やよい「へ~」

あかね「まぁ確かに似てるっちゃぁ似てるな」

新聞の写真を覗き込み、頷くあかねちゃん。

そしてそのまま、6人で談笑していた時だった。

 

   『バンッ!』

キャンディ「クル~~!」

不意にハウスの扉が開いてキャンディが飛び込んできた。

     「大変クル~~~!」

そう言いながら机の上に飛び乗りアワアワと慌てるキャンディ。

え?何々?どうしたの?

黄金「お、落ち着いてキャンディ。どうしたの?」

未だに慌てるキャンディを抱き上げ、落ち着かせる私。

キャンディ「そりが、実はバラバラになったフュージョンが

      まだ生きてて横浜のあちこちに居るクル~!」

みゆき「えっ!?」

あかね「フュージョンってこの化け物の事かいな!?」

驚くみゆきちゃんと、新聞の写真をキャンディに見せる

あかねちゃん。

キャンディ「そうクル~!また集まる前に倒さないと大変な

      事になるクル~!」

そう言って慌てているキャンディを見てから、私達6人は

互いの顔を見て頷いた。

 

みゆき「行こう!横浜へ!」

5人「「「「「うんっ!」」」」」

 

こうして、私達はフュージョンが残っているとされる横浜へと

急いで向かった。

 

 

一方、そのころ、横浜に引っ越して来たばかりの一人の少女が

居た。彼女の名は『坂上あゆみ』。

彼女はつい最近横浜に越して来たばかりで、学校でも

友人が出来ずにいた。そのため、ここ最近はどこか

憂鬱な日々を過ごしていた。

 

そんな学校の帰り道。

 

あゆみ『やだ。毛虫?』

ふと、帰り道を歩いていたあゆみは、道端で小枝についた

葉っぱの裏で何かが動いている事に気付いた。

最初はそれを避けて通るあゆみだったが、振り返ると

驚きながらもそれが毛虫で無い事に気付き、モゾモゾと

動く『何か』の方へ近づき、恐る恐ると言った感じで

枝を退かした。

 

すると、葉っぱの下から現れたのは黄色いスライムの

ような不定形の生物だった。

そしてあゆみは、その生物が自分に懐いた事から

「ふーちゃん」と名前を付けて家に連れ帰るのだった。

 

 

それが、壮絶な戦いの始まりの一幕である事など、

露知らず。

 

一方、本の扉の力で横浜へとやってきたみゆき達6人と

キャンディ。

そして今、7人は赤レンガ倉庫の辺りに集まっていたのだが……。

 

みゆき「お~~~い!フュ――」

黄金「ストォォォォォォォップ!!!!!」

私は、咄嗟の事だったけどバカ丸出しとも取れる恰好で

叫ぼうとしていたみゆきちゃんを止めて、姿勢を正させる。

みゆき「も~!なんで止めるの黄金ちゃん!」

黄金「ダメ!あれはダメ!女の子としても人としても

   アウトッ!」

加えて、そんなみゆきちゃんの傍に居る所を見られでも

したら……!

完全に私の羞恥心がデッドヒートしちゃうから!

とにかく、みゆきちゃんを落ち着ける私。

  「ハァ。あのねみゆきちゃん。私達はフュージョン

   ってのを探してる訳だけど、仮に呼んだとしても

   は~いなんて言って出てくるわけないでしょ?」

キャンディ「黄金の言う通りクル!」

あかね「けど、じゃあどうやって探すん?」

黄金「う~ん。……この前の時は私のアギトレーダーが

   反応したから、それを試してみるしか

無いかな~?ただ……」

なお「ただ?どうしたの?」

黄金「分裂して小さくなってるって事は向こうの力も

   落ちてるだろうから、レーダーにもキャッチ

   出来ない程小さくなってるかもしれない。

   そこはまぁ、探してみないと分からないんだけど」

れいか「そうですか。……それでは皆さん、別れて探す

    というのはどうでしょう?」

やよい「別れてって、どんな風に?」

れいか「私達は丁度6人いる訳ですから、私となお。

    やよいさんとあかねさん。みゆきさんと

黄金さんの、3組に分かれて辺りを探して

見ましょう」

黄金「わかった。じゃあ集合はどうする?」

 

れいか「それでしたら、2時間後にこの赤レンガ倉庫前に

    集合と言う事で」

黄金「うん。……あ、じゃあ迷ってみんなと合流出来ない

   時は、仕方ないから5時に、図書館のログハウスで

   落ち合おう」

なお「そうだね。じゃあ2時間後に出来ればここで。

   それでも合流出来なかったら、5時にログハウスで」

やよい「わ、わかった!」

あかね「おっしゃぁ!探すで~!」

 

と、言うわけで私達は3組のチームに分かれ、フュージョン

探しに出発した。

 

私はみゆきちゃんと一緒になって歩きつつ、出来るだけ

アギトレーダーを広範囲に広げる。

何とかレーダーの力を操作して、弱い力でも感知できる

ようにしたのだけど……。

黄金「……。ハァ。ダメだぁ」

私は大きくため息をついた。

レーダーの感知できる設定は出来たけど、そしたら今度は

街に居る人たちの存在まで感知しちゃって……。

例えるのなら、レーダー画面が赤い光点で真っ赤に埋め尽くされて

いるような感じ。これじゃ感知できても人か

フュージョンか判別できないよ~。

……ハァ。ここは地道に足で探すしか、って、あれ?

不意に私は近くにみゆきちゃんが居ない事に気付いて

周囲を見回した。

そしてすぐに屈んだ姿勢のまま歩くみゆきちゃんを

見つけたんだけど、って!!

  「みゆきちゃん!前前!」

みゆき「ぶっ!」

???「わぁっ!?」

私の警告も遅く、みゆきちゃんが学生服姿の女の子の

背中にぶつかった。

あ~も~。何やってるのみゆきちゃん。

 

慌てて私が駆け寄ろうとしていると、制服姿の女の子が

謝ってすぐに行ってしまった。

って、そこは悪いのみゆきちゃんじゃ……。

そう私が思っていた時。

 

みゆき「待って~~~~!」

ちょぉっ!?みゆきちゃん急に駆け出した!?しかも

何かすんごい形相でさっきの子追いかけ始めたし!

   「待って~~~~~!」

黄金「いやそれ以前にみゆきちゃんが止まりなさ~~い!」

慌てて私もみゆきちゃんの後を追った。

 

途中、制服の子が誰かにぶつかってしまったみたいだけど、

構わずに逃げてる。

みゆき「待って~~~~!」

黄金「だからまずみゆきちゃんが止まりなさ~~い!!」

ぶつかった人たちの集団を躱して走るみゆきちゃんと

それを追う私。そして、更になぜか……。

  

???「待って~~~!」

黄金「えぇぇぇっ!?あなた誰?!」

あゆみ『ふ、増えてる!何で~~!?』

その事態に黄金とあゆみは困惑するのだった。

 

女子中学生を追う二人の女子。その一方を追う女子。

……もはやある種のカオスである。

そして、とうとう4人は海辺からどこかの市街地まで

走っていた。

泣きながら走るあゆみ。それを追うみゆきともう一人の

少女。更に二人を追う黄金。

 

あ~もう!

何だかんだでカオスだよ状況!何これ!?

理解不能な状況に困惑と苛立ちを覚える黄金。

???「ちょっと待った~~~~!」

その時、みゆきちゃんじゃない、もう一人の人が

制服の子を追い越して通せんぼをした。それに

驚いて制服の子と私はブレーキをかけたけど……。

みゆき「あ~~~!止めて~~~~!」

 

あ~!みゆきちゃんの方は止まれずに……。

   『ドタ~~~~ンッ!!』

盛大にもう一人の人に突っ込んで倒れてしまった。

黄金「お、お~いみゆきちゃ~ん?

   大丈夫ですか~?」

恐る恐ると言う感じで砂埃の方に近づくと……。

 

み・?「「だぁぁぁぁぁぁぁっ!」」

うわぁっ!?何か砂埃吹き飛ばして二人が出て来た!

しかも私の隣の制服の子、今悲鳴上げてたよ!?

大丈夫!私もちょっと怖かったから!

 

そして、みゆきちゃん達が怯える制服の子の方に

歩み寄るんだけど、そこは私が……。

 

   『ゴンッ!』

みゆき「はうっ!?」

   『ガンッ!』

???「えぇっ!?」

まず私が制服の子の前に立って、二人をぶっ叩いて止めた。そして……。

 

みゆき「な、何するの!黄金、ちゃ、ん?」

視線を上げるみゆきちゃん。だけど私を見るなり段々

言葉が尻すぼみになって行く。

それはそうかもしれない。だって……。

黄金「何をしているのかは、私が聞きたいな~?

   二人とも、町中で女の子をあんなに追いかけ

   回すなんて、ちゃんとした理由があるんだよね?

   無いなら、もう一発、だよ?」

そう、今の私は怒りモードに入っていました。

キッと二人には私の背中に『ゴゴゴゴゴッ』と言う

擬音と炎、鬼の面が見えているはず。

み・??「「ひぃぃぃぃぃぃっ!?」」

ガクガクと震える二人を見つつ、私は息をついて怒りを

収めてから後ろの制服の子の方に振り返った。

黄金「ごめんね、友達が迷惑かけちゃったみたいで」

あゆみ「あ、えっと、その……」

黄金「とりあえず、話だけでも聞いてあげて。流石に

   変な理由であなたを追いかける程バ、変な子

   じゃないから」

あ、危ない。危うくバカと言いかけてしまった。

あゆみ「う、うん」

で、相手の子が頷いてくれたので私は二人の方に

振り返った。

黄金「それで、二人は何でこの人を追いかけたの?」

みゆき「あ、えっと。私、ちょっとよそ見してて。

    さっきはぶつかちゃってごめんなさい」

???「私の方も、さっきぶつかった時手があなたの

    ブレスレットに当たっちゃって。

    壊れなかった?」

あぁ、何だそう言う事か。

あゆみ「だ、大丈夫!」

???「ホント?」

みゆき「痛くなかった?」

と、私が制服の子の隣で息をついている間に色々

聞いたりしているみゆきちゃんともう一人の人。

あゆみ「全然。私もブレスレットもホントに大丈夫だから」

その事を聞くと、二人は……。

み・?「「良かった~~~」」

と、揃って安堵した様子だった。そんな姿に笑みを浮かべる

私と、何やらキョトンとしてる制服の子。

あゆみ「それを言う為にわざわざ追いかけて来たの?」

うん、そうだよね~。そんな予想普通は出来ないよね~。

……しかも真顔で追って来るんだもん。そりゃぁ、

怖いよね~。

み・?「「うん」」

私が色々考えてる中、制服の子の言葉に二人が頷く。

 

その後、私達3人は制服の子を見送った。

のだけど……。

みゆき「あの~、ちょっと聞きたい事があるんだけど……」

???「あ、私も」

 

み・?「「ここ、どこ?」」

黄金「ハァ」

二人の言葉に私はため息をついた。

一難去ってまた一難。問題が解決すると、また新たな問題が

発生しました。

 

 

その後、私達は互いの友達を探したけど、見つからずに今は

公園のベンチに座っていた。

 

ベンチに座るみゆきともう一人の少女、『北条響』。

響「どうみゆきちゃん?」

みゆき「う~んいない」

と、響の言葉に、半ば落ち込み気味に答えるみゆき。

黄金「結局、殆ど周囲なんて見ないまま走ってたからね~」

そこへ近くの自販機で飲み物を買った黄金が戻って来た。

 

  「はい。みゆきちゃん。響さんも」

響「あ。ありがとう」

自販機で買って来た飲み物を二人に渡した後、私はベンチの

手を置くところに腰を預けるようにして立つ。

 

黄金「手がかりはなし、みたいだね」

みゆき「うん。ハァ~~。どうしよ~」

パタパタと足を振るみゆきちゃん。

まぁ、合流出来なかったら5時にログハウス集合って

言ってあるし、大丈夫だとは思うけど……。

そう思いながら、缶のプルタブを開けてジュースを飲む私。

響「どうする?他の場所も探してみる?」

みゆき「どうしよっかな~。……でも、響ちゃんも友達と

    一緒に来たんでしょ?探さなくて良いの?」

響「う~ん。多分会えるから」

黄金「多分って」

その言い分に、私は苦笑を浮かべた。何とも根拠のない

事を……。

みゆき「どうして?」

響「あ~。それは~……」

 

と、話をしていた時。

ハミィ「お一つどうぞニャ。奏のカップケーキニャ」

キャンディ「そりはどうもクル」

あ、何かキャンディが響さんの鞄の喋る猫から

カップケーキ貰ってる。

……良いなぁ。……ん?あれ、何か違う?喋る猫。

喋る、猫?……猫ぉっ!?!?

 

   『ッ~~~~!!!!』

黄金「げほっ!げほっ!げはっ!!!!」

突然の事で、私は飲もうとしていたジュースが気管支に

入って盛大にむせてしまった。

そして私が驚いている脇で……。

 

みゆき「猫がっ!?」

響「子豚が!?」

み・響「「喋ったぁぁっ!?」」

 

ちょ、これ、ホントにどうなって……。

何とか咳を収めつつ、涙目でみゆきちゃん達の方を

向く私。

キャンディ「キャンディは子豚じゃないクル!」

ハミィ「ハミィとキャンディはお友達ニャ!」

と、友達?妖精仲間とか、そう言う事?

ん?待ってよ。って事はまさか……。

 

友達、という単語に勘付いたのか、みゆきちゃんと向き合う

響さん。二人の顔を交互に見ていた私。

と、その時。

 

   『シャッ!!!』

不意に私達の眼前に緑色のスライムの様な物が通り過ぎて行った。

みゆき「今のは!?」

キャ・ハ「「フュージョンクル!(ニャ!)」」

ッ!?あれが!?

みゆき「あれが!?ど、どうしよ~!」

慌てだすみゆきちゃん。その時。

響「ハミィ!行くよ!」

ハミィ「合点ニャ!」

響さんが相棒(?)のハミィを連れて駆け出した。それを見た

私は……。

 

黄金「私もっ!」

みゆき「えぇっ!?待ってよ~!」

咄嗟に駆け出し、それに遅れてみゆきちゃんがキャンディを

抱えてついてきた。

 

緑スライムみたいなフュージョンは横浜中華街へと移動し、

それを追う響さんとハミィ。それをさらに追う私達3人。

そこへ、更に街のあちこちから緑色のスライム、

フュージョンの欠片たちが集まってくる。

みゆき「ふ、増えた!?」

黄金「ッ!?」

  『まさか、融合合体して元に戻る気じゃ』

と、そんな事を考えていた時、私とみゆきちゃんの横を

3人の人影が追い越す。

 

って、今の人たち、どこかで見たような……。

一瞬、その3人に既視感を覚えた私だったけど、3人は響さんに

追いつくと何やら会話をし出した。

響さんの知り合い?それも、会話からしてかなりの仲のように

思える。まさか……。

 

と、私が考えていると響さん達4人は路地裏に入って行って

しまった。それを路地の方から見る私とみゆきちゃん。

そこで見たのは……。

 

響・奏・エ・ア「「「「レッツプレイ!プリキュア!

          モジュレーション!」」」」

 

みゆきちゃん達以外の、プリキュアの変身する姿だった。

そして、その時になって私はさっきの既視感の意味を

理解した。

そっか。さっきの3人に響さん。この前の戦いのとき

チラッとでも姿を見ていたから。

なんて思っていると、皆さん変身を終えて名乗りに入ろうと

していた。

 

メロディ「爪弾くは荒ぶる調べ!キュアメロディ!」

リズム「爪弾くはたおやかな調べ!キュアリズム!」

ビート「爪弾くは魂の調べ!キュアビート!」

ミューズ「爪弾くは女神の調べ!キュアミューズ!」

4人「「「「届け!4人の組曲!スイートプリキュア!」」」」

 

スイート、プリキュア。みゆきちゃん達スマイルプリキュア

とも違う、別のプリキュア。

って、そんな事を考えているとみゆきちゃんが……。

みゆき「うぉぉぉぉっ!プリキュアだぁぁぁっ!」

リズム「ッ!?見られちゃった!?」

あ、そっか。先輩たちは私やみゆきちゃんの事知る訳無いか。

と、私が先輩たちの驚きの理由に納得していると……。

メロディ「大丈夫だよ」

みゆき「よ~し!私も!」

そう言ってパクトを取り出すみゆきちゃん。

 

   『レディ!』

   「プリキュア!スマイルチャージ!」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴーハッピー!』

瞬く間にプリキュアに変身するみゆきちゃん。

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

 

こうして、みゆきちゃんは先輩たちの前で変身した。

リズム「う、嘘!?プリキュアだったの!?」

ハッピー「はい!キュアハッピーって言います!

     って、黄金ちゃん!黄金ちゃんも早く~!」

と、私をせかすみゆきちゃん。それによって先輩たちの

視線が私に集まる。

っと、そうだった。それじゃ次は私も。

 

   『バッ!ババッ!』

左腰元で両手首をクロスさせてから、右手を一度前に突き出し

肩の辺りまで引き戻す。

   『KYUUUUN!!』

すると、光と共に私の腹部にベルト、オルタリングが現れる。

ミューズ「ッ!?あのベルト、まさか!」

   『QUOON……QUOON……』

黄金「はぁぁぁぁ……」

息を吐き出しながら右手を前に押し出すのに合わせ、オルタリングが

胎動する。

そして……。

  「変身ッ!!」

   『カチッ!』

   『VUUUUUN!!!』 

気合と共に叫び、ベルトの両スイッチを叩く。そして

エンジン音のような音と共に私の体が一瞬歪み、

私はキュアアギトへと変身した。

 

メロディ「あ~~~~!!あなたは!」

そして、私の姿を見るなり私を指さして驚くメロディ先輩。

アギト「昨日ぶり、というのは変ですかね?」

そう言って私はお辞儀をした。

   「それより、早くフュージョンを追いましょう。

    あいつら、港の倉庫街の方へ向かってます」

メロディ「っと、そうだった!」

 

そして、私達は建物の上を跳躍する形でフュージョンの

後を追った。

ビート「あなたもプリキュアで、そっちのあなたはこの前の

    子だったのね」

アギト「あの時はすみません、この前は任せるような形に

    なっちゃって。けど、今回は最後まで手伝いますから。

    っと、まだ名乗ってませんでしたけど、私は

    アギトです。よろしく」

ミューズ「えぇ。よろしくアギト」

    『見た所プリキュアに似てるけど……。ううん、

     でもやっぱり、何かが違う』

 

密にそう考えるミューズ。しかし彼女は頭を振って意識を

フュージョンに戻し、深くは考えなかった。

そして、6人は埠頭のコンテナ置き場までフュージョンを

追いかけた。

 

   『ケケケッ!』

そして、緑色の火の玉みたいになったフュージョンが私達

に向かって襲い掛かって来た。

4人「「「「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」」

それを先輩たちが迎え撃ち、吹き飛ばす。そこに吹き飛ばされた

後ろから一回り大きい個体が出て来た。でも……。

 

アギト「おぉぉぉぉぉぉっ!」

先輩たちを飛び越えた私の飛び蹴りがそいつを吹っ飛ばす。

再び敵とぶつかり合った先輩たちは四方に散っていく。

 

その時ハッピーは戸惑いつつもコンテナの上から戦いを

見守っていたけど、メロディ先輩の相手していた個体が

真っ直ぐハッピーに向かって行った。

危ないっ!

そう思った私はすぐさま右腰のスイッチを二回たたく。

 

緑色のスカートとメカニカルなブーツ、ウィンディレッグ

が展開され、私はレッグの力で飛翔した。そして……。

   「させないっ!」

ハッピー「アギト!」

驚き動けないハッピーの前に滑り込んだ私は、右足に力を

籠める。そして……。

アギト「はぁっ!」

体を捻り、向かって来るフュージョンに回し蹴りを

叩き込んだ。

   『キンッキンッ!ガゴォォォォンッ!』

吹っ飛ばされ、ピンポン玉みたいに跳ねてからコンテナに

めり込むフュージョン。

   「ハッピー!フィニッシュ!」

ハッピー「あ、うん!」

私の叫びを聞いて、ハッピーが技を放つ。

 

    「プリキュア!ハッピーシャワー!」

桃色のエネルギーを放ち、浄化消滅させるハッピー。

そこに、今度は私が相手していた個体が背後から向かって来た。

アギト「ッ!ハァッ!」

   『ドゴッ!』

でもそれに気づいた私が振り返って殴り飛ばす。

そして、グランドフォームに姿を戻してキックの態勢を

作る。

角が6本に開き、足元にアギトの紋章が現れる。

   「はぁぁぁぁぁ……!」

開いた手を動かしながら、突き出した左足を引き、

力を溜める。そして……。

   「はぁっ!」

一気に飛び上がり、空中でキックの態勢を作る。

   「だぁぁぁぁぁぁっ!」

   『ドゴォッ!バゴォォォンッ!』

キックが決まり、吹っ飛ばされたフュージョンの欠片は

コンテナに突っ込むのと同時に爆散した。

 

   「ふぅ」

それを見て、息をつく私。と、そこへ先輩たちが

集まって来た。

リズム「二人とも大丈夫?」

ハッピー「は、はい。何とか」

アギト「……ッ!来ます!」

不意に、残っていた3体が近づいてきたのに気づいて私が

叫ぶ。すると、残っていた3体が融合して紫色の

巨体へと変化してしまった!

 

ハッピー「が、合体して大きくなった!?」

アギト「くっ!?」

   『あのサイズ、私のキックで消滅させられるかな!?

    いや、やるしか!』

ファイティングポーズを取る私。けど、そんな私の前に

メロディ先輩が手を出して制止した。

メロディ「ここは私達に任せて。みんな、一気に決めよう!」

リ・ビ・ミュ「「「うん!」」」

 

そう言うと、先輩たちは必殺技の構えを作った。

メ・リ・ビ「「「駆け巡れ!トーンのリング!」」」

ミューズ「シの音符のシャイニングメロディ!」

 

メロディ「プリキュア!ミュージックロンド!」

リズム「プリキュア!ミュージックロンド!」

ビート「プリキュア!ハートフルビートロック!」

ミューズ「プリキュア!スパークリングシャワー!」

 

先輩たちの放った技は、三つのリング、音符型のエネルギーの

群れとなって紫フュージョンに向かって行く。

そして、大きなエネルギーの球体がフュージョンを覆い、更に

その上から3つのリングが覆いかぶさる。そして……。

 

メ・リ・ビ・ミュ「「「「三拍子!1、2、3!

           フィナーレ!」」」」

 

先輩たちが持っていた武器を振って三角形を描き、

そして掛け声とともに、爆発と共にフュージョンを消滅

させてしまった。

 

すごい。これが先輩たちの力、か。

隣にいるハッピーと同じように、私も声こそ出していないけど、

先輩たちの力に驚いていた。

ビート「フュージョンが、あれだけとは限らないわ」

アギト「ッ。……そうですね。奴らはまだこの街に、

    横浜に散っているだけ」

ミューズ「えぇ。あれは文字通り氷山の一角。

     早く残りを見つけて倒さないと」

と、そんな話をしていた時。

 

れいか「何だったのかしら?今の爆発」

ん?この声ってもしかして。

私やハッピー、先輩たちは声がする方に振り返った。

やよい「こっちの方から聞こえて来たよ」

すると、コンテナの影からあかねちゃん達4人が

現れた。

なお「あ!居た!」

あかね「何やっとんねん!こんな所で!」

ハッピー「あかねちゃん!みんな!」

まさか合流できたなんて。まぁ、フュージョンの欠片処理も

出来たし、一石二鳥かな?って、あれ?先輩たちが……。

 

隣にいた先輩プリキュア達が居ない事に気付いて、私と

ハッピーは周囲を見回す。そして、気づいた時には先輩達は

少し離れたコンテナの上に居た。

ハッピー「あれ!?行っちゃうの!?」

リズム「私達、他のフュージョンを探してくる!」

メロディ「ハッピー!アギト!まったね~!」

 

そう言うと、先輩達はどこかへと行ってしまった。

ハッピー「かっこいい~♪」

それを、どこかキラキラした目で見送るハッピー。

私はそんなハッピーを横目に少しだけ笑みを漏らした。

 

 

だが、少女達は、プリキュア達はまだ知らない。

 

この局地的ともいえる戦いは、単なる前哨戦の一つ

でしかない事を。

 

本当の戦いは、これからだった。

 

   みらいのともだち編 前編 END

 




描き上げられたら、次回で最後まで行きたいと思います。


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みたいのともだち編 後編

今回は超長いです。前編の更に1.5倍くらい行ってます。
そして最後の方ではプリキュアらしさから離れて色々
シリアスぶっ込んでます。



~~前編のあらすじ~~

ある日、プリキュアと似て非なる戦士に変身する力を

持った少女、津神黄金は邪な力を感じて横浜へと向かう。

そこで黄金は自らの力、アギトの力を使って敵、

『フュージョン』と戦いつつも共に戦うプリキュアの、

更に先輩達に当たるプリキュアの存在を知る。何とか

フュージョンを退けたプリキュア達。しかしフュージョンは

肉体がバラバラになっただけでまだ生きている事を知る黄金と、

彼女と一緒に戦うスマイルプリキュアの面々。

黄金やスマプリの面々も横浜に向かい、先輩プリキュアの

一チームであるスイートプリキュアと出会い共闘する。

しかし一方で、横浜に越して来たばかりの少女は道端で

出会ったフュージョンの欠片をフーちゃんと名付け、

親しくなっていくのだった。

 

 

埠頭での戦いの翌日。

あの後私はやよいちゃんやあかねちゃん達と無事合流し、

事情を説明してからもう一度フュージョン探しをしたけど、

結局見つける事は出来なかった。

そして一度はふしぎ図書館経由でそれぞれ帰宅。

翌日も休日だったので、今日も私達はフュージョンを探す

ために横浜を訪れていた。

そんな中で、私達は5人でまとまって歩いていた。その道中、

昨日の事をみんなに話す私。

なお「それで、先輩たちと一緒に戦ったんだね」

黄金「うん、偶々だったけど、一緒だったし。成り行き

   みたいなものでね」

やよい「へ~」

と、そんな事を話しつつ歩いていると、私達はどこかの

公園みたいな所に到着した。

 

あかね「公園?黄金、なんでこないな所に来たん?」

そう言って、振り返って私の方を向くあかねちゃん。

黄金「昨日の戦いで、フュージョンの波形って言うのかな?

   固有のパターン?みたいなものが大体わかったの。

   で、この公園から微弱だけどフュージョンの力を

   感じたんだけど……」

みゆき「つまり、この辺にフュージョンが居るってわけ

    だね!よ~し!探すぞ~!」

そう言って、一人駆け出すみゆきちゃんってちょっと~~!

黄金「またはぐれちゃうでしょうが~!」

そう叫んで私やあかねちゃん達は全速力で走るみゆきちゃんの

後を追った。

 

そして、追いついた時、みゆきちゃんは誰かと一緒に居た。

ん?あの子ってもしかして……。

 

あゆみ「あ、あなたは……」

黄金「昨日ぶり、で良いのかな?」

あゆみ「は、はい。えっと……」

って、そう言えば名前名乗ってなかったか。

黄金「私は津神黄金。改めてよろしく」

そう言って、私は右手を差し出す。

あゆみ「あ、えっと、坂上あゆみ、です」

対する女の子、あゆみちゃんもゆっくりとした動きで右手を

差し出し私と握手をする。

 

その近くでは、みゆきちゃんが何やらあかねちゃん達に注意

されていた。それに苦笑している私。

 

だけど……。

   「何でかな?」

黄金「ん?あゆみちゃん何か――」

フー「あゆみ、悲しませた」

不意に、私の耳に憎悪を募らせたような声が聞こえてくる。

そして、その声を聞いた瞬間私の中のセンサーが

アラートを発する。

   『キィィィィィィィンッ』

私の頭の中にあの金属音が響く。この感じ。近い。

そう思ってみゆきちゃん達に声をかけようとしたとき、

私のそばにいたあゆみちゃんが駆け出した。

黄金「待って!今私たちから離れるのは危な、ッ!!」

その時、私はあゆみちゃんが背中に濁った金色の何かを

背負っているのに気づいた。そして、それを見た瞬間

頭の中のアラームがさらに強く鳴り響く。

まさかっ!?

5人「「「「「あぁっ!?」」」」

更にみゆきちゃん達があゆみちゃんの後ろのそれに、

フュージョンに気づいた。

その時。

   『ドバァッ!』

フー「あゆみ悲しませた」

不意に、フュージョンがあゆみちゃんから離れ、触手状に体を

変えた。

  「敵ッ!」

あゆみ「フーちゃん!?」

フー「敵ィィィィィィィッ!!」

その時、触手が一直線にみゆきちゃんに向かっていく。

黄金「させるかぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

でも、咄嗟に触手とみゆきちゃんの間に滑り込んだ私が

超能力の一つ、念力で受け止める。でも、そのパワーで

念力ごと私やみゆきちゃん目がけてそれを押し込んでくる。

  「ぐっ!?あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

   『ドガァァァァンッ!』

それでも何とか触手を逸らせた。それによって、触手が私たちの

近くの地面に突き刺さる。

 

  「ハァ、ハァ、ふ、防いだ」

肩で息をしつつ、後退する触手を睨み付ける私。

やよい「な、何あれ!?」

黄金「みんな気をつけて!そいつの波動、間違いなく

   フュージョンの欠片だよ!」

なお「何だって!?」

れいか「ではこれが!?」

驚くなお達。そんな中で、黄金の声はあゆみにも

届いていた。

あゆみ「フーちゃんが、フュージョン……?」

 

突然の事で理解が追いつかないあゆみ。

みゆき「みんな!変身だよ!」

5人「「「「「うん!」」」」」

そしてそんな彼女を尻目に、黄金やみゆき達は変身を始める。

   『バッ!ババッ!』

ポーズを決め、オルタリングを召喚する黄金。

   『レディ!』

5人「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

   『QUOON……QUOON』

黄金「はぁぁぁぁ……。変身!」

   『カチッ!』

   『VUUUUUN!』

 

私の体を光が包み、みんなは光のパフで変身していく。

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりじゃんけんポン♪キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を絶つ戦姫!キュアアギト!」

 

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!

スマイルプリキュア!」」」」」」

 

私たちは変身し、名乗りを上げる。

そして、私たちは驚くあゆみちゃんを後目に逃げていく

フュージョンの欠片を追った。

攻撃してくるフュージョンを防いだサニー。そして。

サニー「プリキュア!サニーファイヤー!」

必殺技を放つサニー。だけど……

   『ゴクンッ!』

フュージョンの欠片は、それを飲み込んでしまった。

アギト「必殺技を、食べた!?」

更に、技のエネルギーを吸収したからか、奴は

色を濁った金からオレンジに変え、姿を細身の人型に

変化させた。

ビューティ「パワーを吸収したっ!?」

アギト「くっ!こうなったら……!みんな!

    あいつに下手に技を使うとエネルギーを

    吸われて不利になる!何とか打撃で

    弱らせるよ!」

5人「「「「「うん!」」」」」

そう叫びながら、私はベルトの左側のスイッチを

叩き、ストームフォームへと変身。オルタリングから

ストームハルバードを取り出す。

 

   『バッ!』

こちらへと向かってくるフュージョン。サニー以外が

回避し、攻撃を受け取るサニー。

サニー「ぐっ!」

アギト「おぉぉぉぉぉっ!!!」

   『ボボボボボッ!』

サニーが攻撃を受け止めた瞬間を狙って、私が

ハルバードを使って槍のように連続で突きを繰り出す。

しかしフュージョンは瞬時に刀のようになった腕でそれを

全て弾いた。

再び腕を普通に戻したフュージョンに、全員で、連続で

攻撃を仕掛ける。

マーチ「ハァッ!」

そして一瞬の隙を突いたマーチの蹴りがフュージョンを

大きく弾き飛ばした。

アギト「はぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

倒れた所に飛びかかり、ハルバードを振り下ろすが、

フュージョンはそれを、腕をクロスさせて防いだ。

   「おぉぉぉぉっ!」

私は防御の上からたたき切ろうと思った。けど……。

   『ガッ!』

   「ぐくっ!?」

強烈な蹴りが腹部に決まり、一瞬意識が揺らぐ。

   『ドガッ!』

   「ぐぅぅっ!」

更に側頭部を殴り飛ばされ、吹っ飛ばされてしまう。

何とか地面に手をついて体勢を戻す。

   「気をつけて!昨日私とハッピーが

    戦った個体とは、別物みたいに強く

    なってる!技を吸収されるともっと強く

    なるから、そこも気をつけて!」

ビューティ「了解っ!!」

私の叫びに応じるように、駆け出すビューティ。

     「はぁぁぁぁぁぁッ!」

そしてそのままラッシュに突入するが……。

マーチ「隙有り!」

側面から突進したマーチがフュージョンの脇腹を

蹴り飛ばす。

 

奴が完全に倒れた!今なら!

アギト「ピース!」

ピース「うん!」

私の叫びを聞いて、咄嗟に頷いたピースが技を

発動させる。

   『プリキュア!うぁっ!ピースサンダー!』

発射された雷状のエネルギーが倒れたフュージョンに

向かっていく。だけど……。

   『バッ!』

   『スゥゥゥゥゥッ!』

命中するよりも先に奴が起き上がって、技を吸ってしまった。

そして、細身だった体が黄色く色づくのと同時に、体が

よりマッシブになるフュージョン。

 

これでもダメなの!?だったら!

アギト「私が奴の動きを止める!」

そう叫びながら、私は右腰のスイッチを二回叩いて

ウィンディフォームへと変化する。

   「はぁぁぁぁぁぁっ!!」

飛行能力を生かして突進する。そこに奴の拳が飛んでくる。

でも……。

   『ゴォォォッ!』

凄まじい拳圧が、ギリギリで体を右にひねって回避した私の

そばを掠める。でも!

   「おりゃぁぁぁぁっ!!」

   『ガッ!』

体を回転させた勢いのまま、側面からの蹴りが奴の側頭部に

決まる。

   『グラッ!』

そして一瞬だけ奴の意識が飛んだ。今だ!

そう考えた私は奴の頭部に飛びつき……。

   「これでぇぇぇぇぇっ!」

奴の首元に両手を回して思いっきり首を締め上げる。

   「今よ!私ごとこいつにプリキュアの技を!

    私に浄化技は効かないから!早く!」

マーチ「ッ!……行くよ!」

 

私の言葉に従い、フュージョンの背面に回ったマーチが

技を発動させる。

   「プリキュア!マーチシュート!」

これで決まる!そう私が考えた時。

   『ニュルンッ!』

アギト「ッ!?」

私の腕に拘束されていた頭部がスライムのように変化、

柔らかくなって拘束を抜け出した!

更に……。

   『スゥゥゥゥゥッ!』

マーチ「なっ!?」

あと少しで命中する、と言う所でフュージョンの背中に

顔が洗われ、技を吸収してしまった。

アギト「そんなっ!?」

驚く私。その時。

   『ボンッ!』

   「ぐあっ!?」

私は奴の体が大きくなる反動で弾かれた。

 

体色が緑になり、もはや巨人とさえ呼べるような体躯へと

巨大化するフュージョン。

それを前に私たち6人が集まるけど……。

   「まさか、あの体勢から技を吸収するなんて」

マーチ「完全に決まったと思ったんだけど……」

 

これじゃ、昨日の比なんて物じゃない。

みんな、技は一回の変身で一発が限界。後技を

使えるのは、ビューティとハッピーだけ。

私のキックだって、通用する保証は……。

……いや、もしかしたら、ギルスなら……。

ギルスの切断系の武器と攻撃なら、もしかしたら

行けるかもしれない。

……でも、ギルスへの変身は体にかかる負荷が

半端じゃない。

しばらくは戦えなくなるかもだけど、背に腹は

変えられない!こいつは、危険過ぎる!

 

私たちがフュージョンとにらみ合い、そんな考えが

頭をよぎる。そして、私がギルスの力を覚醒させようと

目を閉じたその時。

 

メロディ「ハッピー!アギト!お待たせ!」

どこからか声が聞こえてきた。そして、その

聞き覚えのある声に、私は目を開いた。

アギト「ッ!この声、まさか!」

そしてその言葉に応えるように私たちの前に

4人の人影、メロディ先輩達が現れた。

ハッピー「メロディ!」

マーチ「じゃあ、この方達が……!」

アギト「そう。ハッピー達の大先輩だよ」

ピース「あ、あの初めまして!私たちこの間――」

ミューズ「挨拶は後!」

メロディ「力を合わせて、こいつを倒すよ!」

6人「「「「「「はいっ!」」」」」」

 

メロディ先輩達が来てくれたのは、こっちとしては

ありがたい。戦力的にも、士気的にも。

よし、このまま……。

そして全員で攻撃しようとしたその時。

 

あゆみ「やめてっ!!」

 

ッ!

不意に声が聞こえたからか、私たちは想わず足を

止めてしまった。

ハッピー「うわわっ!」

   『ドンッ!』

メロディ「おわっ!?」

そして止まりきれなかったハッピーがメロディ先輩の

背中にぶつかってしまった、が……。

   『パシッパシッ』

咄嗟に二人の腕を掴んで止める。

アギト「ふ、二人とも大丈夫?」

ハ・メ「「な、何とかぁ」」

そこから更に手を引っ張って二人を立たせた時、

あのフュージョンの前にあゆみちゃんが走ってきた。

 

あゆみ「もうやめて!フーちゃんをいじめないで!お願い!」

そう叫ぶあゆみちゃん。これには後ろのフュージョンも

戸惑っているように見える。

その様子に戸惑う周囲のみんなや先輩達。その時。

 

アギト「あなた、自分の後ろに居る存在が何か

    分かっているの?それが普通じゃない  

    ってのは、分かってるんだよね?」

私が一歩前に出て呟く。

あゆみ「確かにフーちゃんは普通じゃない!

そ、それでも、私の大切な友達を、これ以上

傷つけないで!」

そう言うと、あゆみちゃんは縮んで最初の小さなに

戻ったフュージョンを抱きしめる。

アギト「……そいつが、数日前横浜の町中で

    大量破壊をしでかそうとした、フュージョンの

    欠片だとしても?」

あゆみ「っ!!」

 

彼女の言葉に目を見開き、あゆみは静かにフーちゃんを

見つめる。

ミューズ「それはとても危険な存在なの。だから

     こっちに渡して」

何とかミューズが説得しようとするが……。

あゆみ「フーちゃんは私の友達なの!絶対に

    渡さない!」

そう言って駆け出すあゆみ。

ハッピー「待って!」

咄嗟に追いかけ、肩を掴もうとするが、ハッピーは

フーちゃんの打撃で弾き飛ばされ、そしてあゆみ達を

見失ってしまった。

 

ビューティ「……逃げられて、しまったと言うべき

      なのでしょうか?」

周囲を見回していたビューティ、れいかちゃんが

呟くと、みんな互いの顔を見合わせ、頷いてから

変身を解除した。

そんな中で……。

黄金「友達、か」

みゆき「黄金ちゃん?どうかしたの?」

不意に私が呟いて、みんなの視線が私に集まった。

 

黄金「うん、ちょっとね。……あゆみちゃんの友達を

   守りたいって言う考え、共感出来る部分も

   あるから。……私だって、このアギトの力

   だって、フュージョンと同じ、本質は『力』」

そう言いながら私は右手を見つめ、ギュッと握りこぶしを

作る。

  「使い方次第で、悪魔にも正義の味方にもなれる。

   ……私はみゆきちゃん達と出会えたから、

   こうしてプリキュアの助っ人として戦えている。

   でも、もしそうで無かったら……。

   そう考えると、あのフーって言う欠片が

   あの巨大なフュージョンと同じなのかなって

   思っちゃって」

あかね「えっと、どういうこっちゃ?」

黄金「最初、あれは何らかの形で私たちがあゆみちゃんを

   悲しませた。だから敵だと判断し、そう叫んで

   襲いかかってきた。あれがフュージョンだという

   のなら、あゆみちゃんを守る理由は何?」

アコ「た、確かに」

エレン「最初あいつは、世界を闇に染めるって言ってた」

黄金「もしそうなら、あゆみちゃんも例外じゃない。

   でもあの個体は彼女を守ろうと戦って、

   更にあゆみちゃんが割り込んできた途端戦闘を

   止めた。……これは私の推測だけど、今の

   あの個体、フーちゃんにフュージョンと違う

   意識、言うなれば自我みたいなものが

   あるんじゃないかな?」

そうして、私は遠回しに、あの欠片、フーちゃんが

決して悪い奴では無いと主張してみた。

 

でも……。

アコ「それでも、フュージョンは危険よ。

   あれはプリキュア一チームでどうにか出来る

   相手じゃない。私たちが力を合わせて立ち向か

   わなきゃ行けない程の強敵なの」

それも、確かにそうだ。奴は強い。少なくとも、

私が今まで戦ってきたアカンベェやあの幹部達

なんかよりも、ずっと……。

 

だったら……。

黄金「もしもの時は、私がフーちゃんを倒します」

みゆき「黄金ちゃん」

私の言葉に、みゆきちゃんや他のみんなが心配そうに

こちらを見ている。でも大丈夫。

黄金「アギトの力は、破壊の力。だから大丈夫だよ。

   奴は、私が倒す」

そうだ。みゆきちゃん達に十字架は背負わせない。

例え、あゆみちゃんからどれだけ恨まれたとしても。

その役目は、私一人で十分なのだから。

 

その後、私たちはもう一度変身してすぐに街の

中心地へと向かった。

みゆきちゃんの話では、あゆみちゃんは横浜に

引っ越してきたばかりらしいけど……。

とにかくまずはあゆみちゃんとフーちゃんを

探す事になった。

 

だけど、私たちが建物の屋上の一つに着地した時。

   『リセット』

不意にどこからか、あのフュージョンと似た声が

響いてきた。かと思うと、街のあちこちから銀色の

ドロドロした物が溢れ出した。

ハッピー「何これ!?」

アギト「まさか、これが全部フュージョン!?」

驚く私たち。そして、フュージョンがタワーの

ような建物に集合したかと思った次の瞬間、

再び街のあちこちへと散らばっていった。

そして……。

 

   「ッ!建物がッ!」

飛来した欠片に触れた街の建物が、次の瞬間には

消滅して行く。

ミューズ「このままじゃ街が!」

メロディ「戦おう!とにかく今は、街のみんなが

     逃げられるように私たちでフュージョンの

     相手を!」

アギト「了解っ!」

そして、私たちはそれぞれのチームに分かれて

フュージョンと戦う事にした。

 

アギト「はぁぁぁぁぁっ!!!」

   『ドゴォッ!!!』

跳び蹴りがフュージョンを弾き飛ばす。けれど吹き飛ばされた

個体はすぐに体制を戻し、不気味にうごめきながら増殖

していく。

   「くっ!?」

   『やっぱりダメ!?こうなったら、

    ギルスで行くしか!倒しきれるまで

    私の体が保つかは、分からないけど!』

その時。

サニー「あ~!あんたフュージョンと一緒に居た子

    やんか!」

不意にサニーの叫びが聞こえたのでそちらに視線を

移すと、いつの間にかあゆみちゃんが居て、そのそばに

ハッピー達が集まっていた。

 

とりあえず私は周囲の個体と戦いながら、ハッピー達と

あゆみちゃんの会話に耳を傾けていた。

 

何やら聞いていると、あゆみちゃんの何気ない一言と

そこから生まれた誤解がこの状況を引き起こしている

みたい。

そして、ハッピー達の提案でフーちゃんの所まで

行こうと言う話になったけど、肝心のあゆみちゃんが

どこか否定的だった。

でもメロディ先輩達の言葉を聞いて、あゆみちゃんは

吹っ切れた様子だった。

 

アギト「だったら、急いで行かないと」

頃合いかな?と思い、相手にしていた個体を大きく

殴り飛ばした私は、ハッピーやメロディ先輩、

あゆみちゃんのそばに着地する。

   「急がないと、街が大変な事になる」

ハッピー「うん!行こう!フーちゃんのところへ!」

 

フーちゃんがいると思われるタワーに向かって

移動する私たち。

   『ワァァァァァァッ!』

しかし、そこにフュージョンが現れ立ち塞がる。

何とか現れた個体を先輩達が相手するが……。

焼け石に水で、どんどん出てくる!

更に前から一匹向かってくる!

 

アギト「おぉぉぉぉぉっ!!」

   『ドゴォォォッ!』

それを私が蹴りで粉砕する。何とか後ろに

着地した時。

 

あゆみ「フーちゃん。もう私の事忘れちゃったのかなぁ」

そう言って、あゆみちゃんが泣いている。

ハッピー「そんな事ないよ!」

ビューティ「まだ離れているから、あなたの姿が見えて

      居ないだけだと思います。近くまで行けば、

      きっとあなただって分かるはずです!」

あゆみ「私、行けるかな?」

ピース「不安になる気持ち、すごく分かるな。

    私も怖くてよく泣いちゃうし」

 

と言いつつ触手にさらわれるピースッてぇぇっ!

アギト「こらぁぁぁぁっ!ピース返せぇぇぇっ!

    おりゃぁぁぁぁぁぁっ!!」

ピースで遊んでるフュージョンを殴って蹴っ飛ばして、

何とか助けた。ちなみにその時、サニーとマーチが

女の子やオカンがどうのと言い合っていた。

 

……みんなお願いだからもう少し緊張感持ってよも~。

何て事を考える私。

 

その後、私たちはメロディ先輩たちと別れて、

スマイルプリキュアの6人だけであゆみちゃんを

護衛しながら、タワーを目指す。

そこに再び、フュージョンが襲いかかってきた。

ハッピー「ここは私たちが!アギトはあゆみちゃんを!」

アギト「わかった!」

みんながあの個体と戦う中、私があゆみちゃんを

守っていた。

   『ゾクッ!』

不意に背後から近づく何かの気配を感じて振り返ると、

そこには犬の姿をしたフュージョンが二頭居た。

   「くっ!?おぉぉぉぉぉっ!!」

咄嗟に駆け出した私は、一頭目の頭を掴んで止め、

もう一頭に向かって手を伸ばした、が……。

   『ガブッ!』

   「ぐっ!!?」

思いっきりかみつかれてしまった。そこに……。

   『グォォォォッ!』

更にもう1体の犬型フュージョンが

向かってきた。

まずい!このままじゃ!

あゆみ「アギト!」

 

後ろであゆみちゃんが叫んでる。どうする!

私がそう思った時。

   『スッ!』

何かが私の眼前に突然現れ、黄色いドーム状の

エネルギーシールドを張って三頭目を弾き飛ばした。

すごいっ!って、見とれてる場合じゃなかった!

 

アギト「うぉぉぉぉぉぉぉっ!」

一頭目を海の方へ投げ飛ばし……。

   「るぁぁぁぁぁぁぁっ!」

もう一頭を地面に倒し、その首元に肘を押し当てながら、

喉元を押しつぶす。

 

それで何とかあいつらは消えた。けど……。

   『ズキンッ!』

   「ぐ、うぅ」

二頭目に噛まれた右腕の傷跡から僅かに血が

溢れ出している。

 

あゆみ「アギト、大丈夫!?」

アギト「大丈夫。って、それより……」

痛みから地面に膝をついた私の所に、咄嗟に駆け寄って

くれるあゆみちゃんにそう言いながら、

さっきの何かに目を向けようとした時……。

 

えりか「お待たせっ!真打ち登場でしゅっ!」

そう言って、林の中から4人の人影が現れた。

そして再び、その4人の面影に私は既視感を

覚えた。

アギト「あ、あなたたちってまさか!?」

???「遅くなってごめんなさい。でもここからは

    私たちも協力するわ!変身よ!」

私の言葉に、めがねの人が答え、叫び、残りの

3人もそれに答えて何かを取り出した。

 

そして……。

 

4人「「「「プリキュア!オープン・マイハート!」」」」

 

4人が異口同音の叫びと共に、光に包まれ変身する。

 

ブロッサム「大地に咲く一輪の花!キュアブロッサム!」

マリン「海風に揺れる一輪の花!キュアマリン!」

サンシャイン「陽の光浴びる一輪の花!キュアサンシャイン!」

ムーン「月光に冴える一輪の花!キュアムーンライト!」

 

4人「「「「ハートキャッチプリキュア!」」」」

 

アギト「新しい、プリキュアの先輩」

これで新しく4人が来てくれた。そう思った時。

タルト「それだけじゃあらへんで!」

不意にどこからか声が聞こえてきた時、森林の中から

更に4人の人影が現れた。そして……。

 

4人「「「「チェインジプリキュア!ビートアップ!」」」」

彼女たちも異口同音を口にしながら体を光りに包んでいく。

そして……。

 

ピーチ「ピンクのハートは愛あるしるし!もぎたてフレッシュ、

    キュアピーチ!」

ベリー「ブルーのハートは希望のしるし!つみたてフレッシュ、

    キュアベリー!」

パイン「イエローハートは祈りのしるし!とれたてフレッシュ、

    キュアパイン!」

パッション「真っ赤なハートは幸せの証!熟れたてフレッシュ、

      キュアパッション!」

 

ピーチ「レッツ!」

4人「「「「プリキュア!」」」」

 

こうして、私たちの前に更に4人の先輩が

現れた。けどなんだかこの人達も緊張感が薄い。

正直、心配になるが……。

私は傷の方に視線を向けた。アギトの力のおかげか、

治癒能力が上がっている。おかげで出血だけは

止まった。

 

良し、これなら……。

そう考えながら腕の感触を確かめていた時、

先輩達が敢えて技を発動し、フュージョンの注意を

引いてくれた。

 

このまま……!

 

私たちは先輩達と別れて再び駆け出した。

 

けど、しばらく走っていた時、不意にフュージョン達が

港にあった船を持ち上げ、更に町中に道路のような物を

自分たちの体で作ってしまった。

ビューティ「まさか!?」

アギト「船を市街地に!?そんなことしたら!」

そうこうしている内に、ロックが外れて道の上を滑走

し始める船。

   「止めないと!」

ハッピー「ピースはここであゆみちゃんを守ってて!」

 

私たちはすぐさま動き出し、道の上に立つメロディ先輩

達と合流する。

メロディ「ハッピー!アギト!」

ハッピー「私たちも手伝います!」

アギト「パワーと防御力なら!」

そう叫びながら、左腰のスイッチを二回叩いて、

アイアンフォームに変身する私。そのまま幾重もの

シールドを道の上に連ねるけど……

   『バリバリバリィィィンッ!』

全て悉く破壊されてしまう。

 

アギト「ダメだ!質量が大きすぎて、あの程度の

    シールドじゃ足止めにもならない!」

ハッピー「来るよ!」

   『ドォォォォォンッ!!!』

船体が突進してきた所を何とか受け止める私たち

9人。

ハッピー「うぅぅぅっ!」

メロディ「ぐ、うぅぅぅぅっ!」

アギト「うぅぅぅ、止まれぇぇぇぇぇぇっ!!」

 

必死に力を込めた私たち。それで何とか船を止める

事が出来たけど、今は船を止めるだけで精一杯だった。

その時。

   『ズキンッ!!!』

   「うぐっ!?」

   『き、傷が。さっき噛まれた傷が、開いて……』

アイアンフィストの中で、血が溢れ出しているのが

分かる。このままじゃ不味い!

なんか遠くで光ってる物が見えるけど、それを気にしてる

時間は無い!

と、その時、道になっていたフュージョンがこちらに

体を伸ばして突進してきた。

アギト「しまっ!!」

   『ドォォォォォンッ!!!』

   「うわぁっ!」 「キャァッ!」

動くことも反撃する事も出来ない私たちは全員一斉に

弾き飛ばされてしまった。

すぐに動き出す船。まずい!このままじゃ!

 

咄嗟に建物の上に着地した私たち。そして私が

一人ででも止めようとした時、何かの気配を感じた。

そして船があと少しで落ちるという所で……。

   『ドォォォォォンッ!!!』

誰かが船を受け止めた。

メロディ「ブラック!ホワイト!ルミナス!」

アギト「あ、あれは。まさか、あの人達も」

 

そう思いながら、いつものグランドフォームに

戻りつつ、私は密かに痛む右腕を押さえていた。

そこへ更に、二人、6人と残りのプリキュアの人たちが

駆けつける。

これで、あの時みたいにプリキュアが全員

そろった事になる。

そして私たちは先輩達にフュージョンを任せつつ、

メロディ先輩達と一緒にあゆみちゃんをつれて

タワーへと向かった。

 

あゆみ「あの、アギト。あなた腕の傷が……」

走っていた時、横に居たあゆみちゃんが私の右腕を

見ながら呟く。さっきの犬型に噛まれた数個の傷跡

からは、今も少しずつ、けれど絶えず血が溢れている。

アギト「大丈夫。これくらいの傷どうって事無いよ。

    ……友達を失い痛みに比べたら、これくらい。

    ただのかすり傷だから心配しないで」

あゆみ「アギト」

そう伝えながら走っていた。

ハッピー「もう少しだから、頑張ってねあゆみちゃん!」

 

と、その時。

   『バァッ!』

あゆみ「っ!?」

走っていた時、前からフュージョンが濁流のようになって

襲いかかってきた。

それに飲まれそうになるハッピー。

   『ドンッ!』

しかしそれをあゆみちゃんが突き飛ばして、逆に

あゆみちゃんが飲み込まれてしまった!

アギト「あゆみちゃん!」

 

 

叫ぶアギト。しかし、その中では………。

 

あゆみ「私、ずっとひとりぼっちだと思ってた。

    私の気持ちなんて、誰も分かってくれないって。

    でも違った。私は一人じゃない。

    ちゃんと言えば、気持ちは伝わる!必ず!

    フーちゃん!私の本当の想いを知ってほしい!

    絶対、絶対伝えるんだ!」

それは覚悟。決意。そして、戦う理由になる。

 

そして、奇跡は生まれる。

 

   「フーちゃんのところに、行きたい!」

 

そう決意した次の瞬間。彼女の体が光に包まれた。

その光が、彼女を覆っていたフュージョンを弾き飛ばす。

誰もが、その光の方を向いていた。

そして、その光の中から現れたのが………。

 

エコー「思いよ届け!『キュアエコー』!」

 

白い服を身に纏った彼女こそ、29人目のプリキュア、

キュアエコーだった。

 

静かに私たちの前に降り立つあゆみちゃん改めキュアエコー。

エコー「私、どうしてプリキュアに?」

ビート「あなたにも、私たちと同じ熱いハートが

    あるからよ」

ミューズ「友達を守りたい。そんな優しい心があれば、

     女の子は誰だってプリキュアになれるのよ」

その言葉に、表情をほころばせるエコー。

 

そして私が……。

アギト「行こう。この戦いを、終わらせるために」

ハッピー「うん!あそこへ、フーちゃんの所へ!」

ハッピーの言葉に頷きながら、11人がフーちゃんの

居るタワーを見る。

 

そして、駆け出したは良い物の、私たちを闇の波動が

押し返そうと、嵐のように吹き荒れていた。

 

そんな中で私は……。

 

一人走り続けていたエコー。しかし彼女は他の面々と

はぐれてしまい、自分がどこに居るかも分からなく

なってしまった。

エコー『ダメ、何も見えない。どうすれば……』

アギト「大丈夫」

エコー「え?」

不意に後ろから声がしたので、振り返るエコー。

そこにはアギトが一人立っていた。

アギト「私たちがそばに居るから」

 

そう言って、私は微笑む。

エコー「アギト」

そうエコーが呟いた時。

不意に、闇の中に光が生まれ始めた。光が闇を払っていく。

やがて、光が虹の道となる。そして、その道の先に……。

アギト「エコー。行ってあげて」

エコー「ッ、うん!みんな、ありがとう!」

私の言葉に頷くと、エコーは虹の道を進んでいき、フーちゃんの

前までたどり着いた。

 

フーちゃんとエコーの話を、私はただ、黙ってみていた。

そして、エコーがフーちゃんを抱きしめた時。

   『パァァァァァッ!』

二人を中心に光の柱が産まれ、それが横浜の街を

覆っていた闇を払う。

 

そして、完全に街を覆っていた闇は除去された。

 

終わった。私は一人そう思っていた。

 

 

 

 

でも、違った。

   『リセット、リセットォ』

なっ!?まだ居たの!?

残っていたと思われるフュージョンが狂ったように

リセットと呟いている。

そして……。

   『リセットォォォ!』

フュージョンが変身の解除されたあゆみちゃんと

フーちゃん目がけて突進する!

 

咄嗟にジャンプしようとした私だけど、一瞬の

立ちくらみのせいで反応が遅れてしまう。

危ないっ!そう思った時、ハッピー達が何とか

二人の前に立ち塞がり、フュージョンを防ぐ。

 

その時、私は一瞬だけ、未来が見えた。

 

それは、あゆみちゃんの前から消滅する、フーちゃんの

姿だった。

それを見た次の瞬間、私は全てを理解して上に飛んだ。

そしてタワーの屋上が見えた時、フーちゃんは何かを

決心したかのような表情をしていた。

それを見た瞬間。

 

アギト「フーちゃん!君が『それ』をやる必要は無い!」

フー「アギト……」

アギト「あなたたちの間に生まれた友情は、私たちが

    守る!だから、あなたは自分の命を!

    生きることを諦めないで!!」

そう叫んだ次の瞬間、私はグランドフォームに変身し、

空中で一回転すると、キックの体勢を取る。

   「ぜやぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

そして、足にエネルギーを集め、クロスホーンを

開いき、フュージョンの横合いからキックを繰り出して

奴を横へと弾き飛ばした。

 

屋上に着地する私。だけど……。

   『ガクンッ!』

アギト「ハァ、ハァ、ハァ!」

既に息も絶え絶えで、他の5人も息を荒らげながら床に

座り込んでいる。

 

でも……。

   『リセット、リセットォ』

残存フュージョンが、私たちの前に人型となって現れた。

ハッピー「く、うぅ」

何とか立ち上がろうとするが、みんな既に限界だ。

 

いや、それでも、やるしかない。

アギト「ハッピー、みんなも。みんなはあゆみちゃんと、

フーちゃんを守って、それから、体力を、回復、

させて」

ハッピー「あ、アギト。何を」

アギト「ハハ、大丈夫だよ。先輩達が来るまでなら、

    持たせて、見せる!」

 

そう叫んだ次の瞬間、私は震える体に鞭打ちながら

駆け出した。

   「おぉぉぉぉぉっ!!」

限界を超えた体で、できる限りのラッシュを繰り出す。

しかし、フュージョンはそれを体をくねらせて避ける。

   「まだまだぁぁぁぁぁっ!」

ラッシュを止め、足技に切り替える。上段蹴り、

回し蹴りの連続。コマのように回転しながら連続で

蹴りを繰り出すが、それを悉く防ぐフュージョン。

 

まだだ!まだ倒れる訳には!

そう思い出しながら足を繰り出す。でも………。

   『ガシッ!!!』

   「ッ!しまっ!」

   『ブォォォンッ!ドガァァァァンッ!』

足を掴まれた次の瞬間、私はタワーの屋上の屋根に

叩き付けられた。

   「かはっ!!」

その衝撃で、肺から空気が逃げる。それでも!

   「くっ!おぉぉぉぉぉっ!!」

その体勢から、腕の力だけで奴の腹部に蹴りを入れ、

更に奴の体を蹴って後ろへ飛び、何とか体勢を

立て直す。

 

   「まだ、まだ倒れる訳には行かない!

    二人は、まだ友達になったばかりなんだ!

    それをこんな所で終わらせるかぁぁぁぁっ!」

私は震える体と、若干かすむ視界のまま立ち上がって

フュージョンへと突撃した。

 

だから、気づかなかった。奴が腕を、刀剣のように

鋭くしていることに。

   「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

ビューティ「ッ!!!ダメですアギト!今無謀に突進

      しては!」

アギト「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

私はビューティの声も殆ど無視する形で突撃した。

そして、私の拳が届くと思った、次の瞬間。

   『ザシュッ!』『ドガッ!』

 

何かが切り裂く音と、打撃音が聞こえた次の瞬間。

私はお腹を蹴られて吹き飛ばされた。

ズザザッと床の上を滑った私は、違和感を

覚えた。右手の感覚が無い。

 

そして、そちらに目を向け、気づいた。

 

『右腕の、二の腕から先が無くなっている』事と、

そこから、ドバドバと『赤い粘度のある液体』が

溢れている事に。

 

 

アギト「え、な」

最初、彼女は理解が追いつかなかった。

そして、初めて右腕を失ったと、理解したその時。

 

   「ッ!!!!!!!!!!!!!

    あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

激痛が彼女の体の中を駆け巡った。

 

痛い!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!

腕が、腕がぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!! 

   「あぁぁぁっ!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

彼女は右腕の残った部分を左手で押さえながら、

のたうち回る事しか出来なかった。

そして、ハッピー達はそれを唯、呆然と見ている

事しか出来なかった。

中学2年の女子に、それはあまりにも残酷な

状況だったのだ。

そして、真っ先に我に返ったビューティが何とか

アギトの元におぼつかない足取りで駆け寄る。

ビューティ「黄金さん!黄金さん!!!!」

彼女の元にたどり着いたビューティは、アギトを

抱き起こす。しかしアギトは痛みと恐怖で

パニックを起こし、彼女の腕の中で

暴れている。腕の切断面から溢れ出した血が

二人の服を濡らす。

    

そこへ。

  『リセットォ、リセットォ』

おぼつかない足取りでフュージョンが近づいてくる。

と、その時。

メロディ「てやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

遅れて到着したメロディ達がフュージョンを

蹴り飛ばした。

 

更に、ワンテンポ遅れて残りのプリキュア達も

集まってきた。

その時、それに気づいたビューティが……。

ビューティ「誰か!誰か傷を治せる人は居ませんか!

      誰か黄金さんの腕を!!」

メロディ「え!?アギトがどうしたってアギト!?」

ビート「そ、そんな!?腕が……!?」

半分パニック状態のビューティが叫び、アギトの

現状に気づいた他のプリキュア達も各々驚愕の

表情を浮かべる。

 

如何に先輩プリキュアとはいえ、彼女たちもこれほど

血なまぐさい経験は無いのだ。

その時。

ムーン「急いで脇の下を押さえて!血流を止めて血が

    これ以上あふれ出るのを防いで!出ないと

    出血多量で死ぬわよ!!それと誰か布を!

    急いで!!!」

流石に最年長だけあって的確梨地を飛ばすムーンライト。

そこに。

   『リセットォッ!』

再びフュージョンが向かってきた。だが……。

   『ドゴォッ!!!』

ドリーム「ここは私たちに任せて!」

ブラック「みんなはアギトの治療を!」

そう言って、ブラック達やブルーム達、ドリーム達が

フュージョンと戦い始めた。

 

さらにタワーの中からカーテンか何かの布を

大量に持ってくるマリンやブロッサム。

マリン「布取ってきたぞ~!」

ムーン「こっちへ!アギト、まずはこれを噛んで!」

そう言って、ムーンライトが布きれを彼女に噛ませた。

   「これから力一杯、腕を締めるわよ!

    痛いだろうけど我慢してね!行くわよ!」

   『ギュッ!!!』

アギト「んんんんんんんっ!!!」

彼女の悲痛な悲鳴が周囲に響く。

そして、それによって衝撃から何とか抜け出して

ハッとなったハッピー達やあゆみ、フーちゃんが

アギトの所へ駆け寄る。

 

ハッピー「黄金ちゃん!黄金ちゃん!」

駆け寄り、彼女のそばに膝をついて必死に呼びかける

ハッピー。そのすぐそばで彼女をのぞき込むサニーや

あゆみ達。

アギトはギュッと目を閉じ、鼻息も荒い。そして

何より、今も右腕の切断面から僅かに血が流れ出し

続けている。

ムーン「このままだと危険よ!急いで病院に運ばないと!」

その時。

 

   『ドガガガッ!!!』

ブラック「あぐっ!?」

フュージョンと戦っていたブラック達が弾き飛ばされてきた。

   『リセットォ!!』

こちらに向かってくるフュージョン。

ムーン「くっ!?あなた達は彼女を!行くわよ!」

ブロッサム「はいっ!」

向かってくるフュージョンを迎撃するためにかけ出す

ハートキャッチの4人。

 

 

プリキュア達が戦う中、黄金、アギトは……。

 

 

うぅ、痛い。腕、が……。

痛みに馴れたのか?それともアドレナリンのせいか、痛みが

少しずつ和らいで、体が冷えていく。

そんな感覚のまま、私はもうグラグラに揺れる視界の中で、

戦いが続く方に目を向ける。

 

先輩達が、戦ってる。でも、押されてる。

もう殆ど働かない頭でも、それだけは分かった。

 

寒い。体が冷えていく。手足の感覚が、遠くなっていく

ように感じる。

………そうか、これが、死の恐怖なんだ。

いやだ、死にたくない。それに、私は、みんなを

守るって、決めたんだ。友達を、みゆきちゃん達を。

それに、あの、二人を……。

 

そうだ。私は、友達を、友達を守るために……!

 

次第に、私の視界がはっきりしてくる。ベルトの

賢者の石が光を増していく。

どうしてか、分からないけど痛みが引いていく。

体がしびれていて、感覚も朧気だけど、動く。

右腕の切断面は、いつの間にか僅かに光が包み込んでいて

出血が完全に止まっている。

 

アギト「ぐ、ぅぅっ!」

そして、私は左手で口に噛んでいた布を投げ捨てると、

左腕に力を込めて立ち上がろうとする。

ハッピー「ッ!?アギト!動いちゃダメ!ダメだよ!」

そう言って、私を抑えようとするハッピー。でも、逆に

私がその腕を掴む。

 

アギト「ハァ、ハァ。大丈夫。出血は、止まった。

    ベルトの、賢者の石が、私、を。生かそうと

    してるから」

そう言って、立ち上がろうとする。その時。

あゆみ「ダメだよ!無理しないで!」

そばに居てくれたあゆみちゃんの声が聞こえる。

   「どうして、そこまでして戦うの!?

    そんな大けがまでして!」

 

アギト「……嫌なんだ」

あゆみ「え?」

アギト「私ね、望んでアギトになった訳じゃないんだ。

    ある日、突然力が覚醒して。……私はプリキュア

    じゃない。似てるだけ。だから違う。この体

    そのものがアギト。つまり、私はもう人間じゃ

    無い」

あゆみ「そ、そんな……!?」

アギト「だから、怖かった。周囲に怪物と呼ばれるのが、

    だから、最初みゆきちゃん達を拒絶して、

    ひとりぼっちになって……。寂しかった。

    怖かった。辛かった。それでも私を私として、

    みゆきちゃん達は迎え入れてくれた。

    ……。だから、分かるんだよ。友達が

    居ない事が、どれだけ、辛い、事なのか!」

自らの経験を語りながらも、左腕に力を込めて

立ち上がるアギト。

   「それを失う悲しみ、痛み、苦しみ!

    その痛みに比べたら、これ位ぃぃぃぃぃっ!!

    うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

アギトは左手で右腕を押さえながら立ち上がり、

天に向かって大きく吠える。

 

その咆哮にフュージョンやプリキュア達が動きを止め、

彼女の方を向く。

そして、アギトはギンッとフュージョンを睨み付ける。

 

   「友達を失う痛みが私には分かる!痛いほどに!

    だから、同じ過ちが繰り返されようとしている

    今を、見過ごせないから!」

 

叫んだアギト。その時、彼女は無いはずの右手がそこに

あるかのような感覚、幻肢痛、ファントムペインを覚える。

 

だが、彼女の内に宿る決意の炎と力は、幻影などでは無い。

 

   「例え、この腕が千切れようとも、足が砕けようと、

    この命燃え尽きる、その時までっ!!!」

ゆっくりとした動きで歩き出し、徐々に加速するアギト。

 

   「私は私の大切な人たちの!誰かの笑顔を守るっ!」

 

己が覚悟を叫びながら、彼女は無いはずの右腕を

振りかぶる。

   「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」

そして、それを突き出した次の瞬間。

   『ボシュッ!!!』

   『ドゴォォッ!』

傷口を覆っていたはずの光が消えた次の瞬間、傷口から

新たな腕が、『生えた』。

そして、その腕がフュージョンの顔面を捉え、殴り飛ばした。

 

ムーン「ち、千切れたはずの腕が、再生、した?」

そのことに、ムーンライトを初めとした大勢のプリキュア

達が驚愕していた。

だが、それだけではなかった。

 

アギト「ハァ、ハァ、ハァ。……ッ!」

息を荒らげながらも自分の右腕を見るアギト。

しかし次の瞬間、彼女は息をのみ、そして他の面々も

更に驚愕した。

 

なぜなら、アギトの、いや、黄金の腕が人間のそれでは

無くなっていたからだ。

メロディ「ア、アギト。それ……」

驚き指さすメロディ達。

 

爪のように鋭利な指先。

手首部分を覆う、生物的な緑の皮膚。

それ以外の皮膚も、人間とはかけ離れた黒い、

生物感の溢れる皮膚に変貌していたのだ。

 

まさしく、異形の右腕だった。

 

ワナワナと右手を震わせるアギト。だが……。

   「上等よ……」

やがて静かに呟くアギト。

   「私は、アギト。プリキュアでも人間でも無い、

    人間の皮を被った怪物。……それでも!」

異形と化した右腕で拳を構えるアギト。

   「この腕で!拳で!二人の友情を!友達を  

    守れるのならぁぁぁぁぁぁっ!

    うぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

猛然とフュージョン目がけて駆け出すアギト。

そして、そんな風に駆け出すアギトの背中を、

あゆみは熱をこもった目で見つめるのだった。

 

それこそまさに、ヒーローの背中に憧れる子供のように。

 

   「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

フラフラと立ち上がりつつあったフュージョンに突進し、

右と左の両方からラッシュを繰り出すアギト。

フュージョンもそれに応戦するかのようにラッシュを

繰り出す。二人のラッシュが互いにぶつかり合い、互いの

体を掠め、せめぎ合う。

競り合いにかったのは……。

   『ドゴォッ!』

 

アギト「ぐっ!」

フュージョンだった。顔面に一撃を貰うアギト。だが……。

   「こんのぉぉぉぉぉぉぉっ!」

   『シャッ!ズバァァッ!』

次の瞬間、右腕の手首部分から黄金の爪、ギルスクロウが

展開されてフュージョンの腹部を斬り付けた。

しかし、反撃のキックを繰り出すフュージョン。

   『ドゴッ!』

アギト「ぐっ!?ごふっ!!」

   『ビシャッ』

 

蹴られ、吹っ飛ばされたアギトが口から血反吐を

吐き出し、血が床を汚す。

しかし、それでもクロウを杖代わりにして立ち上がる

アギト。

   「まだ、だ。まだ、足りない」

   『こんなんじゃ、奴には勝てない!まだ、

    まだ足りない!足りないんだ力が!』

 

   『ドクンッ』

 

叫ぶ彼女の中で、何かが脈動する。

   『奴を倒すためには、もっと、もっと!』

 

   『ドクンッ、ドクンッ……』

 

次第に早くなる鼓動。

 

   『奴を倒すために、この町を、守るために!

    二人の、二人の未来を守るために!』

 

   『ドクンッ、ドクンッ……!』

 

   『まだ、倒れる訳には、行かないんだ!

    だから!!』

   「目覚めろ!私の、アギトの力ぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

   『ドクンッドクンッドクンッ!!!』

 

彼女の叫びに応じるように鼓動が大きくなる。

 

そして、次の瞬間。

 

   『カァァァァァァァッ!』

賢者の石から緑色の光が溢れ出す。

   「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

天を仰ぎ、咆哮を上げるアギト。そして、緑色の光に

包まれたベルトが、オルタリングからメタファクターへ

と変化する。

 

そして……。

   『スゥゥゥ………』

不意に、アギトの隣に異形の姿が現れた。

 

リズム「あ、あれは、何?」

その姿を目にしたプリキュア達が、瞼をこする。

やがて、二人の体が朧気になる。

そしてアギトが消えるようにして、異形がアギトの

立っていた場所に立つ。

 

いや、そう見えるようにアギトが異形に変わったのだった。

 

その異形の体は、上半身と肩の部分が緑。それ以外が

黒色である事。足首などには金色のリングをはめていた。

顔は、真っ赤な虫を思わせる複眼。額からは緑色の角が

生え、角の中央には黄色いクリスタルがはめ込まれていた。

 

今、黄金は、ある意味本来の姿を取り戻していた。

 

アギトの力は、元をたどれば異世界の力。異世界転移に

よって異質に変性していたそれが、今この場で戻ったのだ。

 

その緑色の姿こそ、アギトの力が不完全な進化を果たした存在。

 

『仮面ライダーギルス』だった。

 

ギルス「ウゥゥゥ……ウォォォォォォォォォォォォォッ!!!」

 

次の瞬間、口元のパーツ、デモンズファングクラッシャーを

開きながら、大地を揺るがす程の咆哮が周囲に響き渡る。

そして、天を仰いでいたギルスの視線が下がり、フュージョンを

捉える。と、次の瞬間。

 

   「オォォォォォォォォォォッ!!!」

獣のような野太い声と共にギルスが駆け出す。

それを見たフュージョンが体から幾重もの触手を伸ばすが……。

   『ザシュザシュッ!!!』

ギルスは両腕から展開したギルスクロウでそれを切り裂き

更に突進する。そして……。

   「ウワゥ!!」

フュージョン目がけて跳躍し、そのまま取り付いた。

ゴロゴロと転がるギルスとフュージョン。

そして、ある程度転がると、ギルスはフュージョンを

またぐようにしてマウントを取った。

   「ウワァァァァァァァァ!!!」

そして、咆哮を上げるのと同時に……。

   『ドガッ!ドガッ!!』

何発も拳をフュージョンの顔面目がけて振り下ろす。

そのたびにギルスの豪腕が空を切る音が響き、拳が当たる度に

フュージョンの体の輪郭がゆがむ。

衝撃がタワーの天井に伝わり、拳を打ち込む度に地面にひび割れが走る。

だが……。

   『ドゴォッ!』

   「ガァァァァッ!?」

フュージョンの腹部が隆起したかと思うと、丸太のように

変形しギルスを弾き飛ばした。

 

ハッピー「アギト!?」

それを見ていたハッピーが叫ぶが……。

   『ガリガリガリッ!』

展開したクロウをアンカーのように床に突き刺して衝撃を

殺し体を止めるギルス。

ギルス「ウゥゥゥゥ……!ガァァァァァァァッ!!」

 

そして、彼女は、いや、ギルスは再び咆哮を上げると、

右腕をフュージョンに向けた。刹那……。

   『ギャリリリリリッ!!』

右腕のクロウが変化し、ギルスフィーラーが

鞭のように、蛇のようにしなりながらフュージョンに

向かっていき、その首元に巻き付いた。

そして……。

   「ウォォォォォォォッ!!」

   『ブォォンッ!ドガァァンッ!』

身動きの取れないフュージョンを床にたたきつける

ギルス。何度も何度も。

 

そして、その様子を先ほどから呆然と眺めていた

プリキュアやあゆみ、フーちゃん。更に遠くから

もそれを見ているキャンディやタルトと言った

妖精達。

皆、言葉など出なかった。

 

それくらい、ギルスの戦いに見入り、そして戦慄を

覚えていたのだ。

 

今の彼女、仮面ライダーギルスの戦い方は、良く言えば

ワイルド。悪く言えば暴力的だった。

まるで野生の獣のように襲いかかるギルス。

その戦い方は、まるで狩りをする動物のようだった。

獰猛で、執拗で、残忍で、そして、冷酷なまでに

相手をズタズタに引き裂く、野獣のような戦い方だった。

そして、更に……。

 

   「ウワゥッ!」

   『ドゴォォンッ!!!』

床にたたきつけ、伸ばした触手、ギルスフィーラーを

回収するとギルスは倒れているフュージョンに飛びかかった。

そして……。

   「ウゥゥッ!ワァァァァァァァッ!」

   『ガブッ!!!』

咆哮と共にファングクラッシャーが開き、フュージョンの

肩に『噛みついた』。

マリン「か、噛みついた!!!??」

これに驚くマリン。他の面々も、プリキュアの戦いとは

無縁になりつつギルスのラフファイトに驚き、唯見ていた。

そして、そのまま……。

   『ブチブチッ!!!』

マリン「そして食いちぎった!?!?!?」

体を起こし、灰色の体表を食いちぎるギルス。

だが、それだけでは無かった。

   『ゴクンッ』

マリン「んでもって飲み込んだぁぁぁぁぁっ!?!?!」

なんと、ギルスがフュージョンの欠片を飲み込んで

しまったのだ。

ギルス「グ、ガァァ……!」

僅かにもだえ苦しむギルス。

ムーン「吐き出しなさい!今すぐ!」

 

これには流石に驚くプリキュア達。

ギルス「ウゥ……」

その体から黒いオーラのような物が放出される。だが……。

   「ウォォォォォォッ!!!」

咆哮と共にオーラを霧散、いや、逆に体内に取り込んで

しまうギルス。

メロディ「や、闇の力を……」

ビート「逆に取り込んだ!?」

 

本来なら相反する光と闇。しかし今のギルスは、それすらも

凌駕して闇さえも取り込んだのだ。

ギルス「ウォォォォォォォォォッ!!!」

その体から、圧倒的なパワーと殺気を放出するギルス。

そして……。

   『ドガッ!ドガッ!』

再びマウントを取ったフュージョンを殴り続ける。

しかし、今度は首元を掴まれ投げ飛ばされてしまった。

 

すぐに体勢を立て直すギルスと、同じく立ち上がった

フュージョンが睨み合う。

   『グチャグチャッ』

そして、ギルスに食いちぎられた肩の部分が再生しようと

したかに見えたが……。

   『ボロッ』

再生した部分が、黒い炭のようになって崩れ落ちた。

 

ギルス「?!」

これには、声こそ出していないが驚いているギルス。

そして、それを見ていたミューズが……。

 

ミューズ「ッ!?そうか!」

メロディ「え?何がそうかなのミューズ?」

ミューズ「アギト!みんなも聞いて!フュージョンと

     いえど、活動にはエネルギーが必要なの!

     そして、エネルギーが無くなればフュージョンは

     自分の体さえ維持出来なくなるはず!」

と、推論を述べるミューズ。

それを聞いたギルスは……。

 

ギルス「ウォォォォォォォォォォォッ!!!」

まるで、決着を付けると言わんばかりにクラッシャーを

開きながら咆哮を上げ、突進していった。

両腕からクロウを展開し、斬りかかるギルス。

   『ズバッ!ズシャァッ!』

クロウが煌めく度に、フュージョンの体を。

何度も何度も何度も。

 

ギルス「ウオォォォォォォォォォォォッ!!!」

   『倒せ!倒せ!倒せ倒セ!倒セ!倒セ!

    タオセ!タオセ!タオセ!

    コイツヲォォォォォォォォォッ!!!』

明確な殺意を持って、フュージョンを切り刻むギルス。

そして……。

 

   「ウガァァァァァァァァッ!」

   『ズシャァァァァッ!』

一撃がフュージョンの胴体を横薙ぎになぎ払い、

胴体が上下に分かれる。

何とかそれをくっつけて再生するフュージョンだが、

もはや誰の目にも、人型を維持するのがやっただと

言うことが分かった。

 

そして……。

   「ウォォォォォォォォォォォッ!」

咆哮を上げるギルス。と、その時、彼女の踵部分にあった

パーツが伸張する。そして……。

   「ウォォォォォォォォォォッ!!」

再び咆えたギルスが上空へとジャンプし、右足を大きく

振り上げる。

   『ドガァァァァァッ!』

そして、踵落としの要領でフュージョンの左肩部分に

必殺技、ギルスヒールクロウを見舞った。

踵部分から生えた刃が、フュージョンの肉体を貫き

背中側から、人間で言う心臓のある辺りをぶち抜く。

 

   「ウワァァァァァァァァッ!!!!」

そして、ギルスは咆哮を上げると左足でフュージョンの

肉体を蹴ってその場から離れた。

   『シュタッ』 

   「ウゥゥ……」

離脱し、距離を取ってからうめき声を上げつつ、ヨロヨロと

前に歩き出そうとするフュージョンを睨み付けるギルス。

だが……。

   『リ、セッ、トォ、ォ……』

 

そう言い残すと、フュージョンだった物は、ドロドロに

溶けて消滅してしまった。

ハッピー「フュ、フュージョンが、消えた?」

ミューズ「きっと、生命維持に必要なエネルギーさえ、

     使い果たしてしまったのね」

この光景に、内心驚きながらも、ギルスの方へと歩み寄る

プリキュア達。

 

と、その時。

   「ウゥ、ウォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!!」

突然の咆哮にびっくりするプリキュア達。

ギルスは、勝利の歓喜から今日最大の咆哮を

上げるのだった。

 

数秒後。

叫び終えたギルスが、ゆっくりと腕の力を抜き、ダランと

腕を垂らす。

そして……。

   『パァァァァァッ』

ギルスの体が緑色の光に包まれ、黄金のそれに戻った。

それを見たハッピー達も、互いを見てうなずき合い、

変身を解除した。

 

と、その時。

   『フラッ』

不意に、黄金の体がグラつく。そしてそのまま……。

   『バタァァンッ!』

みゆき「ッ!?黄金ちゃん!?」

床に倒れてしまった。咄嗟に黄金の元に歩み寄る

プリキュア達。

そして、ゆりが黄金の現状を確認すると……。

 

ゆり「大丈夫よ。眠っているだけみたい」

その言葉に安堵するプリキュア(特にみゆき達)と

あゆみ、フーちゃん。

みゆき「良かった~。でも、これでウルトラハッピー

    エンドだね!」

響「そうだね。みんなが助かった訳だし」

そう言って、戦いが終わった事で気が抜けたのか、

互いに談笑するプリキュア達、なのだが……。

 

ゆり『それにしても。彼女の持つ力。確かにプリキュア

   とは別物だわ。一体、彼女の力はどこから?

   それに、さっきのフュージョンを吸収した事と

   良い。……彼女の身に何も起こらないと良いけど』

そう、一人彼女は眠っている黄金を見ながらそう考えるの

だった。

 

 

一方、横浜のタワーから少し離れたビルの屋上。

 

そこに、道化師のような格好をした男(?)が立っていた。

???「どうやらあの怪物は、無事処理されたよう

    ですねぇ」

タワーの方を見つめながら、薄気味悪い笑みを浮かべる

道化師。

   「世界を闇に染めるだなんて、大層な事を

    言っていましたが、この程度ですか。

    まぁ、邪魔者を消してくれたプリキュアには、

    今回ばかりは感謝しておきましょう。

    素敵な『お土産』も手に入った事ですし」

そう呟く道化師の手には、あの戦いで切断された

黄金の右腕があった。

   「それでは、スマイルプリキュアの皆さん。

    近いうちに会えることを、楽しみにして

    居ますよぉ?」

そう言うと、道化師はタワーの方に背を向け、一瞬で

どこかへと消えてしまった。

 

 

そして、それから数時間後。

 

黄金「ん、んん。……ここ、は?」

ようやくの事で黄金が目を覚ました。

周囲に目を向ける黄金。

みゆき「あ、黄金ちゃん。目が覚めたんだね」

あかね「心配したで~黄金」

そして、黄金の視界にみゆき達の顔が映り込んだ。

黄金「みゆきちゃん。ここ、は?」

みゆき「タワーの近くの公園のベンチだよ。黄金ちゃん、

    フュージョンを倒してすぐ自分も

    倒れちゃったんだよ?覚えてる?」

 

そう言われ、私は手首を額の上に乗せ思い出す。

黄金「……。あぁ、うん。うっすらとだけど、

   覚えてる。力が足りないって思って、叫んで、

   ベルトが変わって、ギルスになって……」

やよい「ぎ、ギルス?それって、あの姿の事?」

黄金「うん。……アギトの、不完全な力の姿。

   そして多分、私の本当の姿」

そう。アレこそが、おそらくギルス本来の姿なんだと思う。

だったら、多分アギトも同じような姿をしていて、そっちが

アギト本来の姿なんだ。きっと。

 

やがて、私はゆっくりと体を起こした。

なお「もう起きても大丈夫なの?」

黄金「平気だよ。戦って疲れただけだから」

そう言いながら、私は右手を振ったが……。

不意に、その右手を注視してしまう。

れいか「黄金さん?」

黄金「……私の右腕、一回は千切れたんだよね」

プリキュア「「「「「………」」」」」

私の言葉に、みんな黙ってしまう。そして私は、右手を

太陽へとかざす。

 

黄金「はは、千切れた腕が、元通りか~。ホント、

   私って化け物だな~。……まぁ、今更だけど」

つぼみ「そ、それはどういう……」

自虐的な笑みを浮かべる私に、先輩の一人が問う。

黄金「私、プリキュアでも無ければ人間でも無い

   んですよ。ある日、アギトの力が覚醒して。

   後はもう人外です。超能力使えるわ、身体能力も

   上がるわ。……私は、アギトの力が覚醒した

   あの日から、一匹の化け物なんですよ。

   先輩達も見たはずですよ。あの異形の姿に

   なった私を」

プリキュア「「「「「………」」」」」

 

黄金の言葉に、あの時の、ギルスの姿を思い浮かべる各々。

黄金「今の私は、人間の道から外れた化け物。

   この、第二の右腕は、その証」

 

今、彼女はナイーブになっていたのだ。

改めて自分が異形である事を、否が応でも突き付け

られる結果となったからだ。

  「あの日、理解したはずだったんだけどな~。

   もう、人間じゃないって」

そう言い、うつむきながらも右手に力を込める黄金。

 

しかし……。

あゆみ「そんな事ないよ」

不意に、私の右手を両手で握ってくれるあゆみちゃん。

   「黄金ちゃんのこの腕は、私とフーちゃんの

   未来を守るために、きっと神様がくれたんだよ。

   だから、私は感謝してる。黄金ちゃんに。  

   アギトの力に」

そう言って、あゆみちゃんは私に笑みを向けてくれた。

響「そうだよ!例え、黄金ちゃんが人間じゃないとしても、

  黄金ちゃんは黄金ちゃんだよ!その腕は、誰かを

  守るためにあるんだよ!だからもっと、自分を

  信じて!」

その言葉に、私は一瞬目を見開き、すぐに笑みを

浮かべた。

 

黄金「ありがとう二人とも。正直、救われるよ。

   おかげで、また立ち上がれそうだよ」

そう言って、私は笑みを浮かべながら足腰に力を

入れて、立ち上がった。

 

そうだ。私は戦う。みゆきちゃん達を、みんなを、

友達を守るために。

 

 

その後、時間は過ぎて夕暮れ時。

私達はみんなと別れた。そして、夕暮れの公園で

私とみゆきちゃん達の6人が、あゆみちゃんとフーちゃんの

二人と向かい合っていた。

みゆき「それじゃあ、私達はそろそろ帰るね」

あゆみ「うん。みんな、ありがとう」

フー「プリキュア、ありがとう」

みゆき「うん。これで良いんだよ!これこそ正に

    ウルトラハッピーエンドだよ!」

黄金「また、何かが力が必要な時は、呼んでね。

   私は、友達を守るために戦う」

そう言って、私は右手を差し出す。

あゆみ「うん。でも、それは同じ。私に出来る事が

    あったら連絡して」

黄金「ありがとう」

あゆみも右手を差し出し、二人は握手を交わした。

 

そして、私達は夕暮れの公園で別れた。楽しそうに

フーちゃんと談笑しながら帰って行くあゆみちゃんを

見送った私達も、ふしぎ図書館経由で帰る事にした。

 

んだけど……。

   『ズキンッ』

うっ!?

唐突に、胸の辺りが痛み出した。それに、何かが

こみ上げて来る。ここじゃ、不味い。

黄金「あ、ごめんみんな。私ちょっとトイレ」

みゆき「うん。分かった。じゃあここで待ってるよ」

そう言って、足早にみんなの所から離れる私。

 

そして、私は人の居ないトイレに駆け込むと……。

黄金「うっ!?げほっ、がふっ!!」

   『ビシャッ!』

こみ上げて来るそれを抑えきれず、入り口近くの

洗面台にもたれかかるようにして、口の中に

溢れたそれを、『血』を吐き出した。

 

  「ハァ、ハァ、ハァ。うっ!?げほっげほっ!!」

更に咳がこみ上げ来て、手で口元を覆う。そして、手元を

見ると、そこにも血が付いていた。

やっぱり、ギルスの力は、反動が強すぎる。ましてや

今回の変身は、プリキュアに似ている普段のアギトや

ギルスからかけ離れた変身。ダメージも、かなりの物。

そしてうっすらとだけど覚えてる。私は、フュージョンを

喰った。それがどんな風に体に作用するか、分からない。

 

正直、この戦いで寿命が縮まったかもしれない。

けれど、それでも良い。

私は洗面台に吐き出した血と、手のひらの血を

水で洗い流す。

  「みゆきちゃん達は、私が守る。

   この、命に代えても」

そう言って、私は鏡越しに自分自身を見つめるのだった。

 

 

でも、このとき私はまだ、知らなかった。

 

れいか「……黄金さん」

トイレの入り口近くで、れいかちゃんが私の言う事を、

聞いていたなんて。

 

 

戦いはまだまだ終わらない。私達の戦いはまだ、

始まったばかりなのだから。

 

   みらいのともだち編 後編 END

 




と言うわけで次回からまた本編に戻ります。
感想や評価、お待ちしています!


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第11話 ミクロアドベンチャー

今回からまた本編に戻ります。


~~前回までのあらすじ~~

横浜で復活をもくろむフュージョン。それを

阻止するためにみゆき達6人は横浜へと向かい、

そこで一人の少女と出会う。彼女、あゆみは

フュージョンの欠片の一つであるフーちゃんと

親交を深めていた。そして、二人の不一致から

始まった決戦の中で、アギトは右腕を切断される

程の重傷を負ってしまうが、一時的に覚醒した

仮面ライダーギルスの力でこれを退け、勝利を

納めるのだった。

 

 

横浜での戦いから数日。私は何とかギルスへの

変身によるダメージを何とか回復させた。

リアルなギルスへの変身は、キュアアギトと

同じ中途半端な変身と違ってダメージも大きかった。

まぁそれも何とか回復したから、今はこうして

自転車通学してるわけだけど……。

 

放課後。

黄金「よ、っと」

   『ガシャンッ』

駐輪場に止めていた自転車のスタンドを外し、自転車を

押しながらみんなが待っている方へと向かう。 

  「みんなお待たせ~って、あれ?」

私が合流した時、丁度花壇の所でやよいちゃんが屈み込んでいた。

これでみんなと合流できたんだけど、やよいちゃん

何やってるんだろう?

あかね「何してんねんやよい」

なお「帰るよ~?」

やよい「ねぇ見てみて」

そう言ってこちらに向けられた両手のお椀の

中には、丸くなっているダンゴムシの姿が。

お~。ちっちゃいな~。

 

と、私達が見つめているとダンゴムシが

丸めていた体を元に戻す。すると………。

なお「ひやぁぁぁぁぁぁぁっ!うわぁっ!」

急になおちゃんが後退ったかと思うと何か

に足を滑らせてこけてしまった。

れいか「なお!大丈夫!?」

あかね「どないしたん!?」

 

自転車のスタンドを立て、慌ててなおちゃんの方

に駆け寄る私やれいかちゃん。

黄金「なおちゃん大丈夫?」

なお「イッテッテ。今何か踏んだような……」

私が手を差し出すと、それを握りながら立ち上がる

なおちゃん。

ん?何これ?

その時私はなおちゃんの足下に何かがある事に

気づいて拾い上げた。

黄金「これって……」

 

拾い上げたそれは、赤のカラーに金の装飾が施され、

変なマークが描かれている小さい木槌だった。

あかね「何か、打ち出の小槌っぽいな」

キャンディ「な~にそり?」

みゆき「昔話の一寸法師に出てくる不思議なアイテムだよ」

と、キャンディにみゆきちゃんが説明する。

黄金「けど、仮にそうだとしても何でこんな物が

   外に、それもこんな所に」

れいか「劇などに使われる小道具でしょうか?」

黄金「う~ん、職員室にでも届ける?」

とか私が言っていると……。

 

キャンディ「黄金~!キャンディ大きくなりたいクル~!」

そう言って小槌に手を伸ばしているキャンディ。

黄金「アハハ、まぁおもちゃだと思うけど。はい」

キャンディ「ありがとうクル~!」

最初、私はそれをおもちゃだろうと思ってそれを

キャンディに渡した。

……でも、それが不味かったのかもしれない。

     「大きくな~れ!」

みゆき「イダッ!!」

振りかぶった小槌がみゆきちゃんの顔に

クリーンヒット!?

黄金「ちょっ!大丈夫みゆきちゃ――」

私が声を掛けようとした時。

   『ピカァァァァァァッ!』

小槌からまばゆい光が溢れ出した!

これ、おもちゃじゃないの!?

そう思いながら、私達は驚き目をつむって

しまった。

 

 

そして、目を開けたその時。

黄金「な、なな、何じゃこりゃぁぁぁぁぁぁっ!」

私は驚きのあまり女子らしくない声で絶叫してしまった。

 

だ、だって!目の前の巨大な木槌を持った巨大な

キャンディが居るんだよ!?キャンディ怪獣に

なっちゃった!?

と、私達6人驚き呆然としていた時。

 

あかね「ん!?ちゃうっ!これって、ウチらが

    小っさくなったんや~~!」

周囲を見回し気づいたあかねちゃん。私達の右側には、

巨大な花壇があり、それを証明していた。

6人「「「「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?!?」」」」」」

 

こうして、私達6人の世にも不思議な、

いやまぁプリキュアとかに関わってる時点で

不思議だけど、おかしな珍道中が始まってしまった。

 

 

やよい「私達、一寸法師になっちゃった♪」

黄金「いやいややよいちゃん?この状況は喜んでる

   場合じゃ無くない!?」

驚く私達。原因は言わずもがな、あの小槌。

必死に声を張り上げる私達。でもキャンディは一向に

気づかない。

しかも……。

 

  「うわぁぁぁっ!こっち来た~~!」

今の私達から見れば巨大なキャンディの足に

踏み潰されそうになり、慌てて避ける私達。

キャンディ「ど~こ~ク~ル~!」

(私達から見れば)巨大なキャンディの声がエコー

混じりに聞こえてくる中、私達は走り回るキャンディ

に潰されないように走り回る。

もう~!お願いだから大人しくしてよ~。

とか私が思っていた時。

なお「い~~や~~~~~~!」

どこからかなおちゃんの悲鳴が!

黄金「なおちゃん!?」

慌ててそちらを向くと、みゆきちゃんに走りより

カックンカックンとみゆきちゃんの肩を掴んで振る

なおちゃん。

なお「バババババ、バッタバッタババババッタが!!」

そう言って花壇の方を指さすなおちゃん。しかし……。

そこには何も居なかった。

黄金「お、落ち着いてなおちゃん。バッタはもう

   居ないよ?」

慌てて近づいて私がなおちゃんをなだめる。

なお「あ、あれ?」

あかね「バッタ?」

なお「ッ!!え、えっと、これはその!!」

疑問符を浮かべるあかねちゃんに、なおちゃんは

顔を赤くしていた。

 

しかし……。

やよい「あぁっ!キャンディが行っちゃう!」

そう言ってやよいちゃんが指さす方向に、例の木槌を

抱えたままのキャンディが走って行ってしまう。

れいか「追いかけましょう!あの小槌を調べれば、

    元に戻る方法が分かるかもしれません!」

なお「おほんっ!張り切って追っかけるよみんな!」

あ、誤魔化した。

 

とか思いながら、気を取り直してキャンディを追う私達。

 

そして私達は第1関門にさしかかった。

みゆき「こ、これは……」

呆然と驚く私達の前に広がるのは、今の私達から見たら

湖と見まがう大きさの水たまり。

   「湖だ!」

あかね「水たまりや」

と、ツッコみを入れるあかねちゃん。

黄金「にしても。どうする?このサイズじゃ迂回

   するだけでもかなり時間をくっちゃうよ?」

みゆき「う~~ん。……あ!そうだ!」

何かを閃いたみゆきちゃん。

 

で、結果……。

   「葉っぱの船!」

落ち葉を船にして水たまりを渡る私達。

黄金「なおちゃん、船頭みたいだね」

なお「そ、そうかな」

とか話をしていると……。

やよい「あ。アメンボ」

なお「ひっ!?」

 

続く第2の関門は……。

みゆき「おぉぉぉっ!何て高い山!」

黄金「いや階段だからね?うん、階段だから」

あかね「よっしゃぁっ!こうなったら肩車大作戦で!」

黄金「あ、待ってみんな」

何やら始めそうだったあかねちゃんを止める私。

  「みんなで横一列になって私と手を繋いで」

あかね「は?手を繋ぐ?」

黄金「うん。ここは私に任せて。多分行けると

   思うから……」

そう言って、私の左隣にあかねちゃん、やよいちゃん。

右隣にみゆきちゃん、なおちゃん、れいかちゃんと

並んでみんなが手を繋ぐ。

 

  「はぁ、ふぅ」

イメージだ。イメージ。私の力で、みんなを包み込む。

そのまま静かに私は目をつむる。

 

そう私がイメージを浮かべた時、淡い金色のオーラが

私達6人を包み込む。

みゆき「うわっ!黄金ちゃんこれって!?」

黄金「ごめん今話しかけないで。集中力が

   途切れるから」

思考を乱さず、考えろ。私達は今、無重力の宇宙に

居る。

 

 

黄金がそう考えた瞬間、6人が一斉に浮かび上がる。

れいか「これは!?」

なお「浮いた!!」

やよい「お~!すご~い!」

彼女たちが驚く中、黄金はその額に汗を浮かべ、唇を

かみしめながら力をコントロールする。

そして、おおよそ一分の時間を掛けて階段の上まで

飛んでいく6人。

 

そして、着地した時。

   『ガクンッ!』

黄金「ハァ、ハァ、ハァ!」

着地した瞬間、私は地面に膝と手をつき、荒い呼吸を繰り返した。

れいか「黄金さん、大丈夫ですか?」

黄金「ハァ、ハァ。……ふぅ。ごめん。もう大丈夫。

   まだ細かい操作に慣れて無くて、いつも

   以上に力を使っちゃった」

みゆき「だ、大丈夫なの?」

黄金「平気だよ。普段から超能力は、練習は

   してるし」

と言っていた時、私は危うく、戦いに役立ちそうだから、

と口を滑らせてしまう所だった。

  「それより早くキャンディを追わないと。行こう」

みゆき「うん!行こう!」

急いでキャンディの後を追う私達。

 

私は、横浜の戦いの一件以降、何というか急速に

変化、違う、進化が進んでいるのを自覚していた。

超能力のパワーも、身体能力も上がっている。

……あの日、無理矢理ギルスの力を発動した結果

なのか、フュージョンを喰ったからか、なのかは

分からなかった。

 

けど、今はそんなことより……。

私は考えていた事を中断してみんなに続いた。

 

でもその時、れいかちゃんが私の背中を心配そうに

見つめていた事に、私自身は気づかなかった。

 

その後、教室までキャンディを追って行った私達は、

机の隣に掛けてあった袋の糸を伝って机の上に上り、

キャンディを見つけて駆け寄ろうとしたけど、机と

机の間は正に断崖絶壁だった。

その問題はやよいちゃんの定規を橋にする案で

解決したけど……。

 

あかね「下見たらアカン。下見たらアカン」

なおちゃんとあかねちゃんが結構怯えていた。

黄金「大丈夫だよ二人とも、いざとなったら

   私がウィンディフォームで助けるから」

と、フォローになってるか分からないけど

そう言って二人を落ち着けながら何とか定規の橋を

渡りきる私達6人。

 

でも渡りきった先にキャンディの姿はなかった。

窓枠に飛び乗って下を見ると、教室の下の草地に

キャンディが降りていた。

どうしよう?もう一度私の超能力で飛ぶか……。

と私が思っていた時。

れいか「あ!そうだ!良い考えがあります!」

良い考え?

首をかしげる私達をよそに、れいかちゃんはスマイルパクト

と傘デコルを使って、黄色、オレンジ、ピンク、青、緑、

黒の傘を作り出した。

私達はそれを使って、アニメのワンシーンのように

窓枠から飛び降りる。

 

ちなみに……。

あかね「下見たらアカンで!下見たらアカンで!」

傘を二つ使って居るあかねちゃんとそれにがっちり

抱きついているなおちゃん。

二人とも、高所恐怖症なんだな~。

とか思いながら、私も黒い傘を片手に降りていく。

 

みゆき「お~~い!キャンディ~~!」

そしてキャンディに向かって叫ぶみゆきちゃん。

でも、それが不味かったのかもしれない。

キャンディ「ど~こ~ク~ル~~!」

   『ブワァァァァァァッ!!』

5人「「「「「うわぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」」

振り返ったキャンディが生み出すそよ風が、

私達にとっての暴風となり私達を弾き飛ばしてしまう。

 

黄金「くっ!?こんなのぉぉっ!」

空中で体勢を立て直した私は、足下に壁を

イメージしてそれを蹴る。

   『バッ!』

  「まずはっ!」

   『ガシッ!』

蹴った先に居るみゆきちゃんの腕を掴む。

  「一人!次!」

みゆきちゃんを掴んだまま、跳躍してあかねちゃんを

左手で掴む。

  「二人!」

更になおちゃんとれいかちゃんには足に捕まって貰って。

  「三人!四人!ラスト!」

やよいちゃんは背中にしがみついて貰う。

 

けどもうすぐそこまで地面が迫っていた。

間に合え!

そう考えながら私は、私達6人を囲む球体を

イメージする。

そして……。

   『ドガァァァァンッ!』

 

6人を包んだ光球が地面に落ちて、小さな

クレーターを作る。

やがて、6人を覆っていた光が霧散する。

 

そんな中で私は、軽いめまいを覚えていた。

う、くっ。ここ最近、力が上がってきた

超能力を調子に乗って使いすぎたかな?

頭痛い。

私は頭痛を振り払うかのように頭を振る。

と、そこへ……。

   『カサカサッ』

みゆき「あ!トノサマバッタ!」

なお「い~~~や~~~~~~~!」

え~~!?なおちゃん!?

いきなり逃げ出すなおちゃん。でも……。

てぇっ!?なおちゃんそっちダメ!

叫ぼうとした私だけど、時既に遅し。

  「わぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

芋虫に激突し慌てて逃走するなおちゃん。

しかしその後も蟻の行列に遭遇したり蝶々を

見て逃げたり、蜘蛛に捕まりそうになったり……。

 

そして、今私達の前でぜぇぜぇと荒い呼吸を

繰り返しているなおちゃん。

みゆき「なおちゃんどうしたの?」

なお「だって!ん?」

がばっと顔を上げたなおちゃんの視線の先、

みゆきちゃんややよいちゃんの後方には

テントウムシが居た。

 

  「テントウムシィィィィッ!

   来ないで~~!」

なおちゃんは絶叫してそばにいたれいかちゃん

の背中に隠れる。

あ~~。そう言えばすっかり忘れてたけど……。

黄金「なおちゃん、虫嫌い克服してなかった

   んだね」

苦笑気味に、昔のことを思い出してしまう私。

み・あ「「えぇぇぇっ!?」」

なお「虫だけはダメなの。絶対ダメなの」

と、涙目のなおちゃん。やっぱりなおちゃんの虫嫌いは

重症のままか~。

とか思って居ると、なおちゃんがテントウムシに

追っかけられ始めた!何で!?

とか思いつつ追いかけると、なおちゃんは植物の茎を

上っていく。と、その時。

   『ツルッ!』

 「え?」

 

なおちゃんの体が、宙に投げ出される。

4人「「「「なお!(ちゃん!)」」」」

くっ!?間に合え!

みんなが叫ぶ中、私は超能力の力で自分の

体を軽くし、地面を蹴って飛ぶ。

黄金「おぉぉぉぉぉっ!!!」

 

そして、空中でなおちゃんをキャッチし、そのまま

なおちゃんの頭と体を抱く。

左手でなおちゃんの頭を守り、右手でなおちゃんの

体を抱きしめる。そして……。

   『ドッ!!!』

私の体が背中から地面に叩き付けられた。その時。

   『ゴッ!!!』

  「うっ!?」

何か固い物、多分、石か何かに左腕が当たって、

やっと止まった。

 

みゆき「なおちゃ~~ん!黄金ちゃ~~ん!」

あかね「二人とも無事か~~!」

遠くからみんなが走ってくる。それに気づいた私が

左腕で体を起こそうとした時。

   『ズキンッ!』

うっ!?

左腕に、鈍い痛みが走る。でも、私は一瞬表情を

歪めながらもなおちゃんの顔をのぞき込む。

そこへ、みんなが駆け寄ってくる。

れいか「二人とも、大丈夫ですか?」

黄金「私は何とか。けど、なおちゃんは気絶してる」

そう呟く私の腕の中でなおちゃんが眠っている。

 

あかね「しゃあない。しばらくあっちで休もか」

みゆき「そうだね」

 

その後、私達は葉っぱの布団を作ってそこになおちゃんを

寝かせた。

その時。

   『ズキンッ』

うっ。

   『ギュッ』

まだ痛む左腕をそっと右手で掴む私。

黄金「あの、ごめんみんな。私ちょっと向こうの

   陰で休んでくる。超能力使って少し疲れちゃった」

みゆき「あ、うん。わかった。なおちゃんは私達が

    看てるから」

そう言って、私はみんなから少し離れた草の陰に座り込み、

超能力の応用で左腕の様子を『観る』。

骨は、大丈夫。軽い打撲で済んだみたい。

ダメージは小さい。これなら、大丈夫か。

そう思った私は、草に背中を預ける。

 

最近、私の回復能力もまた、増している。

右腕を切断されても再生させたギルスの恩恵なのか、

或いはフュージョンが原因なのか。さっぱり分からない。

……戦いを重ねるごとに、特に大きな戦いを重ねれば、

それだけ私は人という存在からかけ離れていく。

 

そう考えながら、私はギュッと右手で握りこぶしを作る。

いや、それでも良い。この力は、友達を守るために

あるのだから。

 

そう考え、ある程度体力が戻った私は立ち上がって

なおちゃん達の所ヘと戻った。

見ると、何やらみんなの元から小さい、子供の

ダンゴムシが去って行きみゆきちゃん達が

手を振っている。

  「どうかしたの?」

あかね「あぁ、あの子供ダンゴムシがなおを心配して

    葉っぱを届けてくれたんよ」

黄金「へ~~」

関心しながらもダンゴムシを見ている私。

 

やがて、私達は近くに居る虫たちを見つめている。

 

  「ここは、生命が集まる場所なんだね」

なお「生命?」

黄金「うん。生命って、生きてる命って書くでしょ。

   命に、人間も虫もない。私達にも生きていく

   場所があるように、れいかちゃんがここを

   虫たちの街と言ったように、ここは虫

   達が暮らす、生命に満ちた場所なんだよ」

なお「……生命の、満ちた場所」

 

そして、私は風の音と虫たちの奏でる音に安らぎを

感じ、地面に腰を下ろしていた。

と、その時。

   『ドォォォォンッ!!』

……やば~い。最悪だ~。私達の前にマジョリーナ

が現れた~。

しかもこいつの言うとおりなら、あの小槌は

『チイサクナール』という物らしい。

相っ変わらずのネーミングセンスでろくでもない物

作りやがって。

 

とか思って居ると……。

マジョ「世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まるだわさ!

    白紙の未来を黒く塗りつぶすだわさ!」

いつものようにバッドエンド空間が形成され、虫たちから

バッドエンドエナジーを吸収している!

虫からもあれ取れるの!?

 

みゆき「みんな!行くよ!」

5人「「「「「うん!」」」」」

 

そして、私達は変身のプロセスを発動する。

   『レディー!』

5人「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

 

   『バッ!ババッ!』

   『QUOON……QUOON……』

黄金「はぁぁぁぁ…………!変身っ!」

   『カチッ!』

みんなが光のパフで。私がオルタリングの力で

変身する。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪

    キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を断つ戦姫!キュアアギト!」

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!

     スマイルプリキュア!」」」」」」

と、名乗りを上げたは良いものの……。

 

   『ドシンッ!』

5人「「「「「うわわっ!!」」」」」

マジョ「へっへっへっ!ちっちゃいちっちゃい!

    まるで豆粒だわさ!」

今の私達から見れば、普段は小さいこいつも巨人サイズ。

   「出でよ!アカンベェ!」

そして、奴がタンポポをベースに作り出したアカンベェは!

 

 

 

……………。なぜか私達とあんまり変わらないサイズ

だった。

しかもこの魔女、それに一切気づいていない。

やはりこいつらは馬鹿なのだろうか?

 

とか考えている内に……。

   「行け!アカンベェ!」

   『アカン、ベ、ベェッ!』

タンポポ型アカンベェが、花の頭部から種型ミサイルを

発射してくる!

咄嗟に周囲に散開して攻撃を避ける私達。

そして、ビューティとピースが左右から攻撃し、サニーが

真下からアカンベェを上に吹き飛ばす。そしてマーチが

追撃するけど、弾かれてしまう。

 

更にアカンベェが種型ミサイルを飛ばしてくるが……。

アギト「舐めるなぁっ!」

   『カチカチッ!』

ベルトの左スイッチを二回叩いて私はアイアンフォーム

へと変身し、シールドを展開する。

   『ドドォォォンッ!』

ミサイルがシールドに命中し爆発する。でも……。

   『ドォォンッ!』

シールドで受け止めきれなかったミサイルが

周囲の草花を散らしていく。

ピース「やめて!ここは虫さん達の大事なお家

    なんだよ!」

マジョ「虫ぃ~?はっ!虫けらなんざどうでも良い

    だわさ!アカンベェ!まとめて始末して

    やるだわさ!」

   『アカンベェ!』

 

種型ミサイルを発射してくるアカンベェ。

だけど!

アギト「何度もっ!」

私はアイアンフィストの出力を最大にして

サイコキネシスのパワーを上乗せし発動、ミサイルを

掴む。

   「同じ手が、通じると!」

回転させ、勢いを増したミサイルを私は……。

   「思うなぁぁぁぁっ!!」

アカンベェ目がけて投げ返した。

   『ドドドォォォォォンッ!』

   『アカンベェッ!?!?』

 

アカンベェが爆発で吹っ飛び、マジョリーナの顔面に

命中する。

マジョ「痛いだわさっ!?何するだわさ!」

アギト「……そう、それが痛みだ」

マジョ「なんだわさ!?頭の中に声が聞こえる

    だわさ!?」

どうせこの姿じゃ声は聞こえないだろうから、

喋りながらテレパスを飛ばす私。

   「私達は人。でもそれ以前にたった一つの命を

    持つ生命体だ。人間も、キャンディも、虫も、

    そして、お前さえも!」

ビシッと私はマジョリーナに握った右拳を突き付ける。

   「私達にも、この虫たちにも、生きる場所がある!

    それを壊そうとする奴は、私が許さない!

    生命の満ちたこの場所を、お前達の好きには

    させない!」

その言葉が響いた時、マーチの脳裏に自分を心配して

来てくれた、あの子供のダンゴムシの事がよぎった。

マジョ「何を訳の分からん事を!アカンベェ!

    まとめて吹き飛ばすだわさ!」

   『アカンベェ!』

そこへ、アカンベェがミサイルを発射してくる。

咄嗟に私はシールドを展開する。でも……。

 

マーチ「はぁっ!だぁっ!」

私の横を通り抜けたマーチが蹴りでミサイルの

軌道を反転させ、アカンベェに命中させる。

アギト「マーチ!」

マーチ「……確かに、私は虫が苦手。だけど!

    命を踏みにじる奴は、許せない!

    行くよ!アギト!」

アギト「ッ!了解っ!」

   『ガァァンッ!』

頷き、私はアイアンフィストを打ち付け合う。

 

マジョ「アカンベェ何してるだわさ!早くそいつらを

    吹き飛ばすだわさ!」

   『アカンベェ!』

再び奴がミサイルを発射してくる。でも、同じ事。

マーチ「何度も何度も同じ手ばかり!」

アギト「芸が無いね!」

左右に分かれて飛ぶ私とマーチ。そして、周囲に被害の

出そうなミサイルはビューティとピースが破壊

してくれる。そこへ。

サニー「ハッピー!パァァァスッ!」

 

近くに落ちていた空き缶をサニーが上空に投げる。

ハッピー「はぁぁぁぁぁぁっ!」

それを殴り、アカンベェにぶつけるハッピー。

そして、それが勝利へと繋がる隙を作る。

 

キャンディ「今クル!」

マーチ「うん!アギト!」

アギト「任せて!合わせるよ!」

そう言うと、私はベルトの右スイッチを二回叩き、

体を風が包んでウィンディフォームへと変身する。

 

そして、マーチがスマイルパクトに気合いを込めると、

空中に緑色のエネルギーの球が出現した。

更に……。

   「はぁぁぁぁ……!」

グランドフォームと同じ型で、私の足下に出現した

緑色のアギトの紋章を左足に取り込む。

ア・マ「「はぁっ!!」」

私達二人が空中の球体目がけて跳躍する。

そして……。

   「「ユニゾンッ!シュートォォォッ!!」」

私達二人は、同じタイミングでボレーシュートの

ポーズを決め、マーチが生み出したエネルギーを

蹴る。当然、その時に私のエネルギーを球に

上乗せしたから……。

 

   『ドォォォォォォンッ!』

いつもより5割増しくらいには大きくなった球が

アカンベェに命中して爆発、浄化した。

 

よしっ!勝った!

着地して、私はそんな事を思って居たら……。

   『ドシンドシンッ!』

マジョリーナが地団駄踏んで、それだけでこっちは

大地震だよ!?

そうだった~!抜本的問題が解決してなかった~!

 

マジョ「あぁ!ちっちゃいんだからアカンベェ

    出さなくても倒せるだわさ!」

今更かよ!?

とか内心思っていると、あいつは近くに居た

キャンディから木槌を奪ってこちらに

振り下ろしてきた。

アギト「危ないっ!」

私は咄嗟にみんなを抱えて飛ぶ。

直後、私達の居た場所に木槌が叩き付けられる。

くっ!?あんなの、食らったら一発で紙みたいに

ペラペラにされる!

と思って居た時。

   『ピカァァァァァァッ!』

木槌から光が!

 

そう思った次の瞬間……。

 

   「ッ!戻った!」

気づいた時、私達は元の大きさに戻っていた。

ハッピー「やったね!戻れたよ!」

マジョ「しまった!」

ビューティ「あの光を浴びると、もう一度元に戻る

      と言う事ですね!」

マジョ「むぅっ!今日はこの辺で勘弁してやるだわさ!」

そう吐き捨てると、マジョリーナは撤退していった。

 

その後、元に戻った草地をみていると、口紅の形を

したデコルを入手して、今回の戦いは終わりを

迎えた。

 

しかし……。

   『ピトッ』

あ!なおちゃんの鼻先にテントウムシが……!

なお「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!!!

テントウムシィィィィィッ!!!」

れいか「やはり、ダメな物はダメみたいですね」

あちゃ~~。これは、まだまだだな~。

 

その後。

なお「えぐっ、ぐすっ!黄金~~!」

黄金「はいはい。じっとしててね~なおちゃん」

そう言いながら私は指先をなおちゃんの鼻先へと

近づける。すると、テントウムシが私の指先に

上る。

「ほら、お行き」

そう言って指先を空に向けると、テントウムシは

飛んでいった。そして私の側では……。

なお「えぐっ、うぅ、くすん、怖かったよ~」

私の腰元に抱きついて涙目のなおちゃんが……。

黄金「お~よしよし。もう大丈夫だからね~」

とか言って頭を撫でながら、私はなおちゃんの虫嫌い

克服の道が遠いことを実感していたのだった。

 

     第11話 END

 




みらいのともだち編での黄金の右腕がどう言う結果を
生むのかは、もう少しお待ちを。
感想や評価、お待ちしています!


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第12話 虹と闇の覚醒

今回はアニメ12話をベースにしつつ、今後に向けた
伏線を色々仕込んでおきました。


~~前回までのあらすじ~~

フュージョンとの戦いを終えたスマプリの

メンバー達だったが、ある日学校の敷地で拾った

ヘンテコな小槌のせいで一寸法師サイズにまで

縮んでしまったみゆきや黄金の6人。

普段とは全く異なる環境に四苦八苦したり、

なおが虫嫌い故に苦労したりする中、小槌、

チイサクナールを取り返そうとやってきた

マジョリーナと戦い、これを撃退。6人は

何とか無事に元のサイズに戻るのだった。

 

 

ある日。私達6人は屋上に集まって、

やよいちゃんが書いた絵を見ていた。

今やよいちゃんが書いていた絵は、私達が

使うしおりの表紙。

そう。私達はもうすぐ修学旅行で京都と大阪へ、

それも2泊3日。

ちなみに私はみゆきちゃん達と同じ班。

人数の関係で私達の所だけ6人班なんだよね。

まぁそっちの方が嬉しいんだけど……。

黄金「しおりの表紙はこれで良さそうだね。

   さっすがやよいちゃん」

やよい「えへへ、ありがとう」

と、話をしていると近くにおいてあった鞄の

中からキャンディが顔を出した。

キャンディ「やよい何書いてるクル?」

やよい「修学旅行のしおりよ」

キャンディ「修学?何そりクル?」

そっか、キャンディが修学旅行知ってる訳

無いか。

 

とか私が思っていると、みんなが修学旅行の事を

キャンディに説明する。

     「キャンディも楽しみクル~!」

するとキャンディが目をキラキラさせるけど……。

みゆき「キャンディ!お留守番よろしくね!」

キャンディ「え?……えぇぇぇぇぇぇっ!?」

そして屋上にキャンディの絶叫が響き渡ったのだった。

 

     「な、なんでダメクル!?」

黄金「いや、その、なんでって言われても。キャンディ、

   ウチの学校の生徒じゃ無いでしょ?」

と、私が言うと……。

   『ガァァァァァァンッ!』

キャンディ「そ、そんな~~~~!」

目に見えてキャンディが落ち込んでしまった。

あちゃ~。これ、後で何かフォロー入れた方が

良いのかな?

 

けど、私もその時は修学旅行の話題で浮かれていて

結局キャンディをフォローして上げられなかった。

 

一方その頃、ウルフルン達3幹部がババ抜きで

遊んでいると、そこに道化師の格好をした

皇帝ピエーロの部下、『ジョーカー』が

現れ、3人に新たなアカンベェ、『青っ鼻』を

与えた。

ジョー「あぁそうそう。皆さんに一つだけご忠告を」

ウル「あぁ?何だよ」

ジョー「青っ鼻は今申した通りプリキュアの技を

    無効化します。しかし、キュアアギトの技

    は青っ鼻に有効だと考えます。そこは

    ご注意を」

マジョ「うぅん?どうしてアギトの技だけ

    効くのだわさ?」

ジョー「それは……」

アカ「そんなのどうだって良いオニ!

   俺様がこの青っ鼻でプリキュアを

   叩き潰してやるオニ!」

何かを言おうとしたジョーカーを遮るアカオーニ。

ウル「はぁ!?待てよ!最初は俺だろうが!」

マジョ「何言ってるだわさ!あたしが最初

    だわさ!」

と、ジョーカーを忘れて誰が一番に戦うか、

と言う話題で喧嘩になる3人。それをみた

ジョーカーは静かにその場を後にした。

 

そして、ジョーカーはどこかの暗い場所

へと転移でやってきた。

真っ直ぐな通路を歩くジョーカー。

ジョー「あの人達はかれこれプリキュアに

    敗れる事数回。あれでプリキュアが

    倒せれば御の字。しかし……」

やがて立ち止まるジョーカー。

今、彼の前には二つの水滴型ポッドが

淡い青色に光りに包まれたまま並んで鎮座していた。

そして……。

 

その中に、二人の少女の体が浮いていた。

   「プリキュアと似て非なる力を

    持つ存在、キュアアギト。その

    腕の細胞から得られたデータを

    元に作り上げた、対プリキュア用

    人型兵器。もし、あの3人がダメなら……」

そう言いながら、彼はポッドの表面を

指先で撫でる。

   「あなた達の出番ですよ」

ポッドの中の二人を見つめ、ジョーカーは

歪んだ笑みを浮かべる。

やがて、笑みを浮かべたままジョーカーは

そこを後にする。

残されたポッドの上部には、それぞれ

名称らしき物が書かれたプレートがあった。

 

 

そこには、こう書かれていた。

 

『G3』、『G4』と。

 

 

ジョーカー達が新たな敵を用意している頃、

みゆき達は当然そんなこと知らずに修学旅行へと

向けた話し合いを行っていた。

 

 

今の話題は3日目の自由行動の時間について

なのだけど……。

しかし、教室はすぐにザワザワとざわめき出した。

皆、行きたい場所があるのかれいかちゃんの声も

むなしくみんなそれぞれで語り合っていた。

アハハ、もはやある種のカオスだこれ。

とか私が思って苦笑していると……。

   『ピョンッ!』

 

ッ!!!いつの間にか教卓の前にキャンディがっ!!!?

そしてキャンディが大きく息を吸い込んだっ!?

不味いっ!!

私は咄嗟に超能力を発動させた!

キャンディ「みっんんっ!?」

1、 私の超能力でキャンディの口を塞ぐ。

2、 目にもとまらぬ速さでキャンディを

私の手元に引き寄せる

3、 すぐさま机の影に屈み込んだ。

 

キャンディ「ん!!ん~~!」

黄金「何してるのキャンディ!みんなに

   見つかったらどうするの!?」

影に隠れ、出来るだけ小声で語りかける私。

キャンディ「ぷはっ!みんなれいかの話を

聞いてないクル!だから注意

しようとしたクル!」

何だかキャンディが胸を張っている気がするけど、

気づかれたらヤバいし。

黄金「き、気持ちは嬉しいけどキャンディは

   静かにしててね?良い?」

キャンディ「え?」

私はそう言って念押しするとキャンディを

みゆきちゃんの鞄に入れて立ち上がった。

 

   『パンパンッ』

黄金「はいはいみんな。このままじゃ埒があかないよ。

   夕方まで議論する気?」

そして、私は手を叩きみんなに注意を

促す。

その時の私は、キャンディがしょんぼりと

した表情をしていた事に気づかなかった。

 

その後、今度は各班の班長を決める事に

なった。

あかね「班長はれいかがえぇんちゃう?」

早速のあかねちゃんの提案。

うん、確かに賛せ――。

キャンディ「キャンディも賛成クル~!」

待ってぇぇぇぇぇぇぇっ!?いつのまにか

キャンディが机の上に!

しかも今の声でクラスのみんながこっち見てる!!

咄嗟にみんなでキャンディの口を塞ぎ、

苦笑いで誤魔化す!

れいか「わ、私はクラス委員なので、誰か他の方の

    方が……」

みゆき「じゃあ私なおちゃんが良い」

そ、そうだね~。次にリーダーシップが

あるのはなおちゃんくら――

キャンディ「キャンディもなおが良いクル~!」

あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!もぉぉぉぉぉぉっ!

 

   『ガシッ!』

私はとっさにキャンディを掴んで……。

黄金「私ちょっとお腹の調子が悪いんで

   トイレ行ってきま~~~す!!」

全力疾走で教室を飛び出した。

 

そして私は女子トイレに駆け込んで、

誰も居ない事を確認してから奥の方の個室

に入る。

  「だっは~~~っ!危なかった~!」

キャンディ「黄金!何するクル!」

黄金「何って、それはこっちの台詞だよ

   キャンディ~」

私は大きく息をつきながら便座に寄りかかる。

  「周りにみんな居るんだから大人しく

   しててよ~。バレたらどうするの?」

キャンディ「それでもキャンディみんなと

      一緒に何かやりたいクル!」

黄金「そうは言ってもね~。とにかく、学校に

   居る間だけは静かにしてて。

   みんなにプリキュアの事バレない

   ようにって言ったのはキャンディでしょ?」

キャンディ「そりは……。分かったクル」

再びしょんぼりするキャンディ。けれどこの時の

私はキャンディになんと言って良いのか

分からなかった。だから、特に何も言わずに、

キャンディを隠し持ったまま教室へと

戻り、皆に見られないようにキャンディを

鞄に入れた。

 

 

放課後。みゆき達6人はしおりを作るために

ふしぎ図書館の切り株のログハウスへと

集まっていた。

中で私達は自分たちようのしおりを作っていた。

れいか「もうすぐ完成ですね。後は糊が乾くのを

    待って、名前を書いたらおしまいです」

黄金「そっか。じゃあ、乾くまでただ待ってる

   のもあれだし、先にお菓子買いに

   行く?」

なお「良いね」

やよい「賛成~♪」

と言う事になったんだけど……。

 

キャンディ「あっ!キャンディも何か手伝うク、

うわっ!」

   『ドンッ!ビシャッ!』

テーブルの上に置かれていたカップにキャンディが

ぶつかって中身が広がり、しおりをぬらしてしまった。

6人「「「「「「あ~~~!?」」」」」」

みゆき「ちょっとキャンディ!」

し、しおりが~!

黄金「あ~も~。グチャグチャのよれよれ~」

なお「しょうが無いって。もう一回作ろう」

私達は濡れたテーブルを片付け始めた。

だから私は、出て行くキャンディに気づかなかった。

 

やがて……。

れいか「あの、みなさん。私ちょっと失礼します」

黄金「え?あ、うん」

そう言ってハウスを出て行くれいかちゃんを

見送る私。そしてその時、私はようやくキャンディが

周囲に居ない事に気づいた。

 

そして私も、みゆきちゃん達に断りを入れてハウスを

出て行った。

 

れいかちゃんとキャンディを探してたどり着いたのは、

夕暮れの公園、その噴水の近くだった。

木々の影から二人を見つけた私は、密かに二人の

会話に耳を傾けた。

 

やがて、キャンディは自分をダメな妖精と叫ぶと、

どこかへと行ってしまった。

そして、私はそれをただ、黙って見送る事しか

出来なかった。

 

 

その後、私達は駄菓子屋へと行き、お菓子を

買うことにした。

けど、私の頭の中ではキャンディの事で

一杯だった。

なお「?黄金?どうかした?」

黄金「あ、え?な、何?」

なお「いや、黄金がぼ~っとしてたから」

黄金「あぁ、うん。ちょっとね」

私がなおちゃんに心配されている傍らでは、

みゆきちゃんがキャンディが居ない事に

気づいた。

 

れいかちゃんがそのことをみゆきちゃんに

言おうとしたその時。

 

 

ウル「見つけたぜプリキュア」

ッ!?その時、外からウルフルンの声が

聞こえて来た!

みゆき「まさかっ!?」

私達6人が慌ててお店から出ると、外には  

ウルフルンが立っていた。

   「あなたはっ!?」

ウル「今日の俺はひと味違うぜ」

そう言って奴が取り出したのは、

青い、球?

黄金「いつもの赤いの、じゃないっ?」

戸惑いながらも警戒する私達。

 

ウル「出でよ!アカンベェッ!」

あいつが青い球を掲げると、近くのガチャガチャと

合体したアカンベェが誕生した

   『アッカンベェ!』

そして、それは私達の知るアカンベェとは違った。

みゆき「青い鼻のアカンベェ!?」

あかね「なんやあのシャンプーハット!?」

普段とは違う敵に私達は更に警戒心を

強めるが……。

 

ウル「世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まれ!

   白紙の未来を黒く塗りつぶすのだ!」

いつものようにバッドエンド空間が発動されて

しまう。

 

黄金「不味い!このままじゃ!」

みゆき「世界をバッドエンドになんてさせない!

    みんな!」

5人「「「「「うんっ!」」」」」

 

私達は、各々の力を取り出す。

   『バッ!ババッ!』

   『QUUUUUN!』

   『QUOON……QUOON……』

黄金「はぁぁぁ……」

ベルトを召喚し、脈動する中で息を吐き出し

ながら静かに前を見据える。

 

   『レディー!』

5人「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

黄金「変身ッ!」

   『カチッ!』

   『VUUUUUN!!!』

私達全員の体を光が包んでいき、変身する。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪

    キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を断つ戦姫!キュアアギト!」

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!

     スマイルプリキュア!」」」」」」

 

   『アッカンベェ!』

6人「「「「「「ハァァァァァァァッ!」」」」」」

開始早々、真っ正面からかち合う私達と

アカンベェ。しかし奴の方がパワー負けし、

私達はアカンベェを公園の方へと押し込んだ。

だけど、私には懸念があった。

アギト「こいつ、いつもより、弱い?」

パワーで言えば、普段のアカンベェの方があった

気がした。

   『ムクッ!』

しかし倒れていたアカンベェがすぐに

起き上がって来た。

ピース「わぁっ!?効いてないの!?」

ハッピー「こうなったら!気合いだ気合いだ

     気合いだ気合いだ~~!」

5人の中でハッピーが一気に必殺技で

撃破を狙う。

    「プリキュア!ハッピーシャワー!」

ピンク色のエネルギーの奔流がアカンベェに

命中し爆発する。

    「やったぁ!……え!?」

ッ!?いや、やってない!

その時、煙が晴れて無傷のアカンベェが現れた。

アギト「ハッピーの技が効かない!?」

ハッピー「うぇぇぇぇっ!?どうして~~!?」

 

技が効かない。この状況は不味い。だけどっ!

私は右側のスイッチを叩き、フレイムフォーム

へとチェンジする。

アギト「技で倒せないのなら!肉体を物理的に

    破壊する!」

私はベルトからフレイムセイバーを引き抜き

地面を蹴って駆け出した。

   『アッカンベェ!』

降り出される拳を、スライディングで回避し、

すれ違いざまにアカンベェの左足のすね辺りを

切り裂く。

   『ベェッ!?』

切り裂いた傷口から闇のエネルギーが僅かに

漏れ出してる!行ける!

   「このまま、こいつを破壊するっ!」

体勢を戻し、私はもう一度アカンベェに斬りかかった。

 

 

その頃、近くの建物の屋上で、青っ鼻のアカンベェ

とアギトの戦いを見ている物がいた。ジョーカーだ。

ジョーカー「やはり、プリキュアではないアギトの

      攻撃は効きますか。では……」

ジョーカーは右手で拳銃のような形を作り、

アギトに狙いを定める。

     「あなたの中の闇、活性化させて

      あげますよ」

獰猛な笑みを浮かべたジョーカーが、その力を

アギトに向け、打ち出した。

そして……。

 

    『ドクンッ!!』

アギト「ッ!?」

 

不意に、アギトの体がグラついて倒れた。

更に、フレイムフォームから基本形態の

グランドフォームまで戻ってしまった。

ハッピー「ッ!アギト!?」

ウル「ん?何だ?」

唐突な事態にハッピー達は驚き、ウルフルンと

アカンベェも怪訝な表情を浮かべる。

次の瞬間。

 

アギト「あ、あぁ。ぁ……。うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

突然、彼女が地面にうずくまり叫びを上げる。同時に……。

 

彼女の体から黒い闇のオーラが溢れ出した。

   「ぐ、あぁぁぁぁぁ!が、あぁ、うわぁぁぁぁっ!」

まるで、何かが彼女の体を内側から食い破ろうと

しているかのように、闇のオーラが周囲に漏れ出している。

 

 

――殺せ。破壊だ。全てを無に。立ちはだかる者、

  挑む者、逃げる者、全てを消し去れ――

   「あ、がぁぁっ!!ぐあぁぁぁぁぁっ!」

な、何、これ!?わ、私の中で、何かが、

叫んで、暴れて、ぐぅっ!?

――破壊、殺戮、消滅、撃破、抹殺、消去。

  全てを無に――

こ、これは、まさか……。あの時、私が

喰った、フュー、ジョン、の……。

   「ぐあぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

 

今、黄金は自らの内に潜む、いや、取り込んで

しまった闇を、アギトの力が無意識に押さえ込もう

としている事で、耐えがたい苦痛に晒されていた。

ウル「何だぁありゃ?まぁ良い!アカンベェ!まずは

   アギトを踏み潰せ!」

   『アッカンベェ!』

足を振り上げるアカンベェ。

マーチ「アギト!」

咄嗟にマーチが駆け出すが、間に合いそうにない。

と、その時。

   『ギンッ!』

アギトの瞳が、アカンベェを睨み付ける。

   『ベェッ!?』 

そして、その瞳に映る殺意が、破壊衝動が、

獲物を前にした時の肉食動物のような瞳が、

アカンベェにプレッシャーを与える。

今のアギトの表情は、正しく捕食者のようだった。

その表情から読み取れるのは、敵意だけだ。

アカンベェがその敵意に押され、一歩後退る。

ウル「何やってるアカンベェ!さっさとそいつを

   潰せ!」

   『べっ!?べ、ベェッ!?』

ウルフルンの言葉で我に返ったアカンベェが

再び足を振り上げるが……。

マーチ「うぉぉぉぉっ!」

すんでの所でマーチがアギトのお姫様抱っこで

抱え、後ろへ飛んだ。

 

   「アギト!アギト!しっかりして!」

後ろへ下がったマーチが呼びかけるが、

アギトはうめき声を上げるだけでまともに

動けそうにない。

サニー「これじゃアカン。アギトは戦えへん」

と、その時。

   『アッカンベェ!』

再び青っ鼻アカンベェが向かってくる。

   「こうなったら!みんな一気に

    行くで!」

ピ・マ「「うん!」」

ビューティ「皆さん!冷静に!」

技を撃ちだそうとする3人を止めようと

するビューティが咄嗟に叫ぶが、

叶わなかった。サニー、ピース、マーチの

3人が技を放つが、同時攻撃さえも無力だった。

 

アギト「な、なんで。プリキュアの、技、が」

未だ黒いオーラを放出しながらも、何とか

腕だけで上半身を起こし、呟くアギト。

ウル「ウルッフッフッ!良いことを教えて

   やるぜ。お前達の技は、キュアデコルを

   浄化するための物。だが、こいつには

   デコルなんざ入ってねぇ!だから

   お前達の技は効かねえんだよ!」

 

くっ!?だったら……。

アギト「私の、パワー、で、こいつ、をぉっ!」

   『ドクンッ!!』

   「ぐ、ぐがっ!あぁ!」

立ち上がろうとした。なのに、内側から

溢れ出す闇の力が、まるでそれを拒むかの

ように、私の中で暴れ回る。

ウル「はっ!テメェが戦えねぇなら

   好都合だぜ!行けアカンベェッ!」

   『アッカンベェッ!』

 

ウルフルンの命令に従い、口からカプセルを

連射するアカンベェ。それを、咄嗟に

ジャンプして避ける5人。しかし、追尾する

かのような動きの前に、ビューティ以外の

4人が捕まってしまう。

ビューティ「あっ!?みなさん!」

アギト「み、皆ぁっ」

捕らえられた4人の元に駆け寄るビューティと、

殆ど動かない体を引きずりながらも

近づくアギト。

ハッピー「出られないよ~!」

サニー「何なんこのカプセル!?」

彼女たちは何とか脱出しようとするが、

カプセルは壊れない。

 

私は、腕を振り上げ、カプセルに叩き付けるが、

その程度ではビクともしない。

アギト「く、そぉ……!」

今の私じゃ、まともに体を動かす事も

出来ない。

更にアカンベェがカプセルを連射して

くる中で、ビューティだけが戦っている。

動け。私の体……!

――殺戮、破壊、抹殺、消滅――

動け……!動け…!動け!

――絞殺、撲殺、刺殺、毒殺、射殺、殴殺、轢殺、

 燃焼、爆殺――

体を動かそうとする度に、果てしない闇が、

私の中で膨れ上がる。明確な『死』のイメージが、

溢れ出している。

 

その時、私が動けなくなっている間にビューティが

技を使ってアカンベェの動きを止めていた。

でもそれのせいでビューティはもう殆ど戦えない。

と、そこへどこからかキャンディがやってきた。

キャンディはアカンベェの事を伝えるが、

それは私達が既に知っていた事。どうすれば

良いかなんて、当然キャンディは知らない。

 

ウル「お前に何が出来る!何の役に立ってる!

   お前は何の役にも立たない出来損ない

   なんだよ!このへっぽこ妖精が!」

あ、あいつ!言わせて、おけば!

私は、ウルフルンに怒りを覚える。でも……。

   『ドグンッ!!!!!』

アギト「うぐっ!?ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

私の怒りが、この体の中の闇に増幅される。

怒りや憎悪が、私の中で膨れ上がる。

私の体を、破裂させんほどに。

体を、動かしたいのに……。

一瞬でも気を緩めたら、殺意のままに

暴れ出しそうで、怖い。

その時。

ビューティ「お黙りなさい!」

不意に、ビューティの怒号が聞こえてきた。

 

ビューティは、役立たずと罵られたキャンディが、

私達を思って行動していることを叫ぶ。

そう、か。あの時、みんなが、うるさかった時、

れいかちゃんを助ける為に、キャンディ、は。

私は、かすかに動く手を、ギュッと握りしめる。

そして、みんながキャンディに対する思いを口に

していく。そして……。

 

5人「「「「「許さないっ!」」」」」

みんなが、カプセルを破壊する。

でも、それだけじゃなかった。

キャンディ「キャンディも、キャンディも……。

      プリキュアの力になりたいクル~!」

キャンディの叫びが聞こえるのと同時に、キャンディ

から光が生まれた。

それは、5つの新たなデコルとなり、ハッピー達

5人の手の中に収まる。

アギト「新しい、デコル……」

それを、私は地べたに這いつくばりながら、見ていた。

 

そうだ。キャンディだって、私達と、一緒に、

戦ってるんだ……!

動け……!動け!動けっ!!

こんな所で、私一人、寝ている訳には、行かない。

   「動、け。……動け。動け……!」

自らの体に言い聞かせるようにして、私は立ち上がる。

ウル「ちっ!?何だか分からんが、叩き潰せ

   アカンベェ!」

   『アッカンベェ!』

そこに、カプセルを破壊した衝撃で氷が

壊され自由になったアカンベェが突進

してくる。

 

だけどっ!

アギト「動けぇぇぇぇぇぇっ!!!」

黒いオーラを全身から発しつつも、彼女は

駆け出した。

ウル「何っ!?」

ハッピー「アギト!?」

アギト「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

 

突然の行動に、敵味方双方が驚く中、アギトは

アカンベェの顔に飛び膝蹴りを繰り出した。

その衝撃で仰向けに、地面に倒れ伏すアカンベェ。

   『ドグンッ!!!』

   「ぐくっ!?」

アギトはアカンベェに馬乗りになり、腕を振り上げる。

が、直後により強く、闇のオーラが彼女の体から

吹き出す。しかし……。震える手を、彼女は

グッと拳を握りしめ抑える。

   「これ、くらいでぇぇぇぇっ!」

   『ドゴォッ!ドゴォッ!』

アギトの豪腕が、アカンベェの体に

繰り出される。

 

私がアカンベェを殴る度に、私の中の闇が

溢れ出しそうになる。でも、それでも……!

   「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

   『ドドドドドドッ!!!』

この体は動く!拳は出る!

だから、殴る!

殴って殴って殴って殴って殴って殴って

殴って殴って殴って殴って殴って殴って

殴って殴って殴って殴って殴って殴って。

殴り続けた。

   『ドゴォッ!』

   「ぐっ!?ハァ!ハァ!ハァ!

    プリキュアァァァッ!今だぁっ!」

そして、最後の一撃を放った私は、叫ぶ。

   「私には技が効かない!

    私ごと、こいつを撃てぇぇぇぇぇっ!!」

 

アギトの言葉に、5人は一瞬躊躇う。だが……。

   「皆の力で、こいつを倒せぇぇぇぇっ!」

闇のオーラを押さえ込み戦うアギトの言葉に、

5人はハッとなり、新たなデコルをパクトに

セットする。

 

すると、ハッピー達5人の白い髪飾りが

黄金のティアラへと変化する。

5人「「「「「プリキュア!レインボーヒーリング!」」」」」

全員が手を重ね、そして片手を天にかざすと、

浄化の光がアカンベェとアギトを飲み込んだ。

そんな中で……。

アギト「ぐ、が、ぎっ」

彼女は自らの肉体を引きちぎられんばかりの

『痛み』に耐えていた。

 

 

そして、青っ鼻のアカンベェは倒され、ウルフルンも

撤退した時、キャンディとハッピー達5人が

笑みを浮かべあっている。

一方で、それを一歩下がった場所から見ている

アギト。今、彼女は静かに震える手を、握りしめていた。

 

戦いの帰り道、みゆき達は帰路についた。そんな中で

みゆきは、キャンディを含めた7人がスマイルプリキュア

である事を語る。

そして、7人全員で修学旅行に行くこととなった。

 

 

しかし……。

黄金「じゃあみんな。私こっちだから」

みゆき「うん、またね~黄金ちゃん」

十字路で、みゆき達と別れる黄金。

そして、他の面々が通路の角に消えた途端。

 

黄金「うっ!?」

突然、呻き、近くの電柱に寄りかかる黄金。

   『ゴホッ!ゴホッ!ゴボッ!』

   『ビシャッ』

黄金は、吐血してしまう。電柱の影に、赤い池が

出来てしまう。息を荒らげながらそれを見下ろす黄金。

 

私には、プリキュアの、浄化技は、効かない。

はずだった。でも、あの時の事を考えれば……。

私の中に、『フュージョン』が居る。あの時、

聞こえた怨嗟の声は間違い無く奴の声だった。

 

まさか、この体はもう、フュージョンに、

蝕まれて……!

 

嫌な予感に、私は愕然となる。

悪寒に体が震え、汗が噴き出る。

もし、このまま戦えば、最悪、私の体を

依り代にしてフュージョンが復活する可能性

だって。……そして、そうなった時、私という

存在が『消える可能性』だって……。

……。でも、それでも……。

私は、フラつく足で電柱から離れると、ハンカチで

口元の血を拭い、フラフラと歩き出した。

 

この命が、既に風前の灯火だったとしても、

私は戦う。みゆきちゃん達を守ると誓った、

あの日の自分の意思を糧にして。

そのために、私はここに居る。

 

そして、黄金はオレンジ色に染まった道を

歩いて行く。

まるで、死へと進んでいく幽鬼のように、

フラフラと。

 

 

だが……。

   『スッ』

黄金が吐血した電柱の前に、人影が現れた。それは……。

れいか「黄金さん」

別れたはずのれいかだった。彼女は、電柱の影の

血だまりに目を向けてから、歩き去って行く黄金の

背中を見つめる。

 

夕暮れの、陽炎の向こうへと消えていく黄金の

背中を、彼女はただ見送る事しか出来なかったの

だった。

 

物語の加速は、止まらない。

 

内なる闇、フュージョンの覚醒とそれに対するアギトの

運命は?

ジョーカーの切り札がもたらす未来は?

それは今も、闇の中である。

今、時の流れが速まっていく。

 

     第12話 END

 




以前までは全くノーダメージだったプリキュアの技が、
以降は内部にフュージョンを抱えている事から、
アギトにまで通用するように……。
更にチラッと登場したG3とG4。
色々ぶっ込みましたが、楽しんで頂ければ
幸いです。
感想や評価、お待ちしています。


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第13話 不幸と内に潜む物

今回は京都修学旅行の第13話をベースにしながら
色々変えてみました。


~~前回までのあらすじ~~

修学旅行を目前に控えたみゆき達6人。そんな

中でキャンディは彼女たちの輪に入れない事を

気にしていた。自己嫌悪に陥るキャンディ。

しかし、そこへプリキュアの技が効かない

新種のアカンベェ、青っ鼻を持ったウルフルンが

襲来。アギトだけが有利に戦うが、横浜での

戦いで体内に取り込んでいたフュージョンの力が

発動し、彼女は動けなくなってしまう。

しかし、そこに合流したキャンディの力で

ハッピー達は青っ鼻を撃退する。

一方で、黄金は自らの体に変化を感じながらも

戦う決意を固めていた。

 

 

あの戦いから数日後。

今、私達は修学旅行の目的地、京都を

目指す新幹線に揺られている。

私の席はあかねちゃんの隣、車窓側。

異様にテンションの高いみゆきちゃんに

横目に、あの時の事を考えていた。

あの日、私の中でフュージョンの物と

思われる波動や意識が覚醒した。

理由は分からなくても、その事実に

変わりは無い。

……もし、万が一にも私がフュージョンに

取り込まれるような事になったら……。

その時は、私の手で、私自身を……。

 

 

一人静かに、未来のことを考えていた黄金。

そしてそれ故に、彼女はみゆきが先生に

怒られていた事にさえ、気づかなかった。

 

 

電車に揺られる事数時間。

無事電車は京都駅に到着した。

 

私達の最初の目的地、金閣寺へ向かう道中、私は

ずっと自分の事を考えていた。

けど今日は折角の修学旅行なんだ。

この事を考えるのは、後にしよう。

 

とか考えている内に、私達は金閣寺へと

到着した。

ちなみにれいかちゃん、その時の色々と

雑学を教えてくれた。

れいかちゃん、随分予習してたみたい。

まぁ、らしいと言えばらしいけど。

みゆき「あっ!鯉が居る!」

そう言って、すぐ目の前の池をのぞき込む

みゆきちゃん。

キャンディ「ホントクル?」

同じく池をのぞき込むキャンディ。……ってぇ!?

何で鞄から出て来てるのキャンディ!いつの間にか、

みゆきちゃんの頭の上に居たキャンディ!

周囲には人がたくさん居るのに!?

 

慌ててキャンディを捕まえようとするみゆきちゃん。

しかし……。

   『ズルッ!』

その時、みゆきちゃんが砂利道で足を滑らせてしまった。

皆が驚く中、みゆきちゃんは柵を越えて、池に

頭から真っ逆さまに落ちていく。

 

黄金「みゆきちゃんっ!!」

間に合えっ!

私は咄嗟にテレキネシスでみゆきちゃんの落下を

一瞬だけ遅らせた。

その一瞬の隙をついて、みゆきちゃんの制服の襟を

掴んで落下を止める。

  「止めたっ!みんな手を貸して!」

あかね「お、おぉ!任せとき!」

やよい「みゆきちゃん大丈夫!?」

私達は慌ててみゆきちゃんの体を掴み、柵の

こっち側に引っ張り込んだ。

 

佐々木「だ、大丈夫星空さん!」

そこに先生が駆け寄ってくる。

みゆき「は、はい~。何とか~」

私達6人とも尻餅をついて、荒い呼吸を繰り返している。

あ、危なかったぁ。

 

『ズキンッ!』

黄金「うっ」

安堵していたのも束の間、不意に頭痛に襲われる。

私は咄嗟にこめかみに右手を当てる。

佐々木「あっ。津神さんも、大丈夫?」

黄金「あ、えっと。はい。大丈夫です。ちょっと

   こけただけですから」

咄嗟に作り笑いを浮かべる私。

 

その後、私達は集合写真を撮って移動になった。

その道中で……。

みゆき「黄金ちゃん。さっきはありがとう。えっと、

    超能力、使ってくれたんだよね。何だか

    体が少しだけ浮いた気がしたから」

と、周囲に聞こえないように後半は小声で呟く

みゆきちゃん。

黄金「うん。ギリギリで間に合って良かったよ」

と、会話をしながら歩いているとおみくじを見つけた。

 

私達6人でおみくじを引く。

やよいちゃん、れいかちゃんは大吉。なおちゃんは

中吉。あかねちゃんは末吉。

 

そして、みゆきちゃんは大凶だった。

戸惑うみゆきちゃんをあかねちゃん達が

フォローしている間、私はずっと自分の

おみくじを見つめていた。

あかね「そ、そや!黄金!黄金はどうなん!」

不意に、話題を私に振るあかねちゃん。その言葉に

ハッとなった私はおみくじを乱暴にポケットに

突っ込んだ。

 

黄金「私は小吉だったよ。普通、よりちょっと下かな?

   アハハッ」

私は作り笑いを浮かべる。その時。

   『ザッ、ザザザッ』

ノイズ混じりに私は数秒先の未来を予知した。

   『バッ』

そして私は咄嗟に手を伸ばし、能力でみゆきちゃんの

頭に落ちるはずだった『それ』を別の場所に

弾き飛ばした。

  「ふぅ」

私は、安堵から再び息をつく。

あかね「な、なんや今の。黄金、何したん?」

黄金「あ、いや。その……」

どうやらあかねちゃん達は状況が理解出来てない

のか、疑問符を浮かべている。

 

そこで私はみんなにヒソヒソと耳打ちをした。すると……。

みゆき「あ、ありがとう黄金ちゃ~ん!」

半ば涙目のみゆきちゃんにすっごい感謝された私だった。

 

その後は自由行動になり、歩いていたのだけど……。

   『ズキズキッ』

呻く、程ではないけどさっきから、と言うより

能力を使ってから頭痛が少しする。

 

けど、折角の修学旅行を私のせいで台無しにする

訳にも行かない。

幸い、我慢出来ない痛みじゃないから、みんなには

黙っていよう。

そう考えながら、私達は次の場所に向かって移動する。

 

そしてやってきたのは、れいかちゃん曰く、

『嵐山のシンボル、渡月橋』。

そこで写真撮影をすることになったんだけど……。

1枚目はみゆきちゃんがフレームに入りきらず、

2枚目は写真がブレてしまっていた。

しょうが無い。

黄金「カメラ貸して。私が撮るよ」

みゆき「え?でもそれじゃ黄金ちゃんが……」

黄金「私は良いよ。1枚目に写ってるから。

   ほら」

みゆき「う、うん」

 

私はみゆきちゃんからカメラを受け取り、

構える。

黄金「はい、撮るよ~。1+1は~」

5人「「「「「2~!」」」」」

   『カシャッ』

そして、私が撮った写真は無事に5人が写っていた。

 

……念のために周囲から干渉されないように

不可視のシールド張っておいて良かった。

だって写真撮ろうとしたら新聞紙が飛んできて

シールドにぶつかったんだもん。

あれ、もしシールド張ってなかったら絶対

みゆきちゃんに直撃してたよな~。

 

『ズキッ』

黄金「うっ……!」

しかし、考えていたのも束の間、また頭痛が……。

みゆき「黄金ちゃん?大丈夫?」

それに気づいて声を掛けてくれるみゆきちゃん。

けど、心配させる訳には……。

黄金「う、うん大丈夫。ちょっとこけそうに

   なっただけだから心配しないで」

みゆき「そ、そう」

そう言って私は色々取り繕った。

 

けど、その後も大変だった。

お土産屋さんででっかいこけしがみゆきちゃん

目がけて落ちてきて、私が慌ててそれを受け止めたり。

抹茶アイスを食べてたら子供達がみゆきちゃんに

ぶつかりそうになったからみゆきちゃんの

手を引いてそれをフォローしたり。

ぶん投げられたみゆきちゃんのお土産を

私が超能力でキャッチしたり。

 

はっきり言って、みゆきちゃんの周りに

悪いことが起きまくり。そしてそれを

フォローしている私。

そして、能力を使う度に私は頭痛に襲われた。

 

頭痛の原因は、恐らく能力を使う事。

理由は分からないけど、今後は出来たら

能力を使うのを避けた方が良いかも知れないなぁ。

 

その後、私達は旅館に戻った。ちなみに、

人数の都合上私はみゆきちゃん達と同じ部屋で、

他のみんなの部屋より少し大きめの部屋を

6人部屋として使わせて貰っている。

 

そして夜、旅館の部屋の片隅で私は能力と

頭痛の事を考えていた。

けど、何やら唐突に始まる枕投げ。

私も苦笑しながら参加すると、みゆきちゃんの

投げた枕がお茶の入ったポッドに命中して

しまった。

黄金「危ないっ!」

   『バッ!』

咄嗟に私は超能力でそれを受け止めって、元の位置に

戻した。

   『ズキンッ!!』

  「うっ!あぐっ!」

そして、ポッドを戻した所で私は昼間以上の

頭痛に襲われ、その場に膝をついた。

なお「黄金っ!?どうしたの!?大丈夫!?」

そんな私の周りにみんなが集まる。

黄金「う、うん。大丈夫。ちょっと、超能力を

   使いすぎたみたい。普段、ここまで使った

   事無かったから。馴れて無くて」

みゆき「ご、ごめんね黄金ちゃん。私の大凶パワーの

    せいで」

思うところがあったのか、みゆきちゃんが悲しそうな

表情を浮かべる。

黄金「良いんだよみゆきちゃんが気にしなくて。

   折角の修学旅行だもん。水浸しとのか、

   写真が撮れないとかは悲しいし。

   それに、私が勝手にやった事だから。

   だから気にしないで」

そう言って、私は笑みを浮かべるのだった。

みゆき「黄金ちゃん」

れいか「……それではみなさん。そろそろ

    休みましょう。明日もまだあること

    ですし」

やよい「そうだね。早く寝ないと先生にも

    怒られちゃうよ」

あかね「ほな、寝よか」

 

と言う事で、みんな各々の布団に入り、電気を

消して眠りについた。

 

 

~~~

闇。そこは闇だった。

真っ暗で、何もない。何も見えない。

そんな場所に黄金が立っていた。

なぜここに自分が居るのか、黄金は理解

出来なかった。考えようとした彼女だが、

次の瞬間、真っ黒な大地から影が伸びてきて

彼女の体を縛り上げた。

黄金「な、何これ!ぐ、あぁ!」

振り払おうとする黄金。しかし体全体を

駆け巡る激痛に彼女は表情を歪ませる。

 

と、その時、彼女の前に何かが集まり、

人型を成した。それは、横浜の戦いで

消滅したはずのフュージョンだった。

  「お、お前は、フュー、ジョン」

フュー『そうだ。そして……』

だが、次の瞬間。フュージョンは姿形を

変えて、真っ赤な瞳の『黄金』となった。

   「私はお前だ。お前は私だ」

黄金「なっ!ち、違う!私は私だけだ!

   私はフュージョンなんかじゃない!」

フュー『ふふふっ。そう思って居られるのは

    今だけだ』

そう、呟きながら薄気味悪い笑みを浮かべる

もう一人の黄金。そして、彼女の手が

黄金の頬に触れたとき、その手が銀色の液体金属

のようになりじわじわと黄金を飲み込もうと

する。

黄金「い、いやっ!!」

 

逃れようとする黄金。しかし、体は動かない。

それどころか、四肢を縛っていた影からも

銀色の液体金属が彼女を蝕む。

フュー『そうだ。お前と私が一つになるときは

    近い。お前が力を使えば使う程、私達は

馴染んでいく。ほら、こんな風に私がお前を

飲み込んで行くぞ?』

ジワジワと黄金の体を闇の力が浸食していく。

 

黄金「いや、いやっ!いやっ!

   いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 

~~~

  「ッ!?はっ!!!」

現実世界で目を覚ました黄金は、ガバッと体を

起こすと周囲を見回した。

そこは、旅館の一室だった。

  「ハァ、ハァ、ハァ!」

荒い呼吸と共に周囲をキョロキョロと見回す黄金。

  「ハァ、ハァ……。ゆ、夢?」

黄金は、しばらくして呼吸を整えながら

そう呟くと、自分の顔をペタペタと触り、

近くの自分の鞄に入っていた手鏡を取り出した。

そこに写っていたのは、まごうことなく自分の顔。

その顔を見たことで、やっと安堵する黄金。

 

しかし、彼女の体は冷や汗でびっしょりだった。

「汗、気持ち悪い」

そう呟いた黄金は、鞄の中から中くらいのタオルを

取り出すと、パジャマ代わりにしていた体操服の

上を一旦脱ぎ、背中などの汗を拭いていった。

そして、汗を拭いたタオルをしまうと、黄金は

あの時引いたおみくじを取り出した。

 

そこには、『大凶』の文字が刻まれていた。

そして……。

  「大凶。争い事、極めて多し。覚悟を持って

   日々を過ごすべし、か」

小さく、書かれていた事を呟くと黄金は

静かにおみくじをしまい、再び眠りについた。

れいか「……」

そのつぶやきを、隣で寝ていたれいかに

聞かれていたとは、想いもしないまま。

 

そして翌朝。

幸い晴天という天気に恵まれ、二日目の京都

修学旅行が始まった。

 

私達は二日目の自由行動。まずは清水寺に向かった。

そんな中で、何やら屈み込んでいるあかねちゃんと

なおちゃんが。

黄金「あれ?二人ともどうしたの?」

あかね「あ。黄金。いやな、よ~く見ると

    ここの床傾いてるんやな~と

    思ったんよ」

え?

言われて、二人と同じ場所を注視すると

確かに私達から見て右から左へ坂になっている。

黄金「あ、ホントだ。水平じゃないんだ」

あかね「転けたら転げ落ちそうやな」

とか言ってると、後ろで転ける音が。

まさかと思い咄嗟に振り返ると、崖の方

目がけて転がっていくみゆきちゃんが!

みゆき「うわぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 

黄金「みゆきちゃん!」

 

私は咄嗟に超能力を行使しようとした。

 

フュー『お前が力を使えば使う程、私達は

    馴染んでいく』

 

黄金「ッ!!」

 

あの夢に現れたフュージョンの言葉で、一瞬

能力を使うことを躊躇ってしまう黄金。

なお「たぁっ!」

そして、その一瞬の躊躇いの間になおが

みゆきの前に飛び込んで、彼女を止めた。

黄金「ッ!なおちゃん、みゆきちゃん!」

 

私は、ハッとなって二人の元に駆け寄った。

  「二人とも大丈夫!?」

なお「あ、アハハッ。何とか……」

れいか「もしやみゆきさん」

あかね「まだ大凶が続いてるんかぁ?」

……だとしたら、この先も……。

 

あかねちゃんの言葉にもしもを考えてしまう

私。

 

そして、その予想は当たってしまった。

みゆき「うわわっ!」

黄金「みゆきちゃん!」

水路に落ちそうになるみゆきちゃんの腕を

引いて私が助けたり……。

 

   『ワンワンワンッ!』

黄金「ちょっ!ストップ!お座り!」

なぜか散歩中の犬が襲いかかってきて私が

みゆきちゃんを後ろに庇ったり。

 

   『ドサドサドサッ』

みゆき「ひやぁぁぁぁぁっ!」

黄金「このぉっ!」

倒れてきたお土産を私が念力で、周囲に

怪しまれないように弾いたり……。

 

正直、不運の連続も良いところだった。

 

みゆき「うぅ、ごめんね黄金ちゃん。私、

    さっきから黄金ちゃんに助けて

    貰ってばかりで……」

黄金「ううん、気にしないで。私は好きで

   みゆきちゃんのフォローをしている

   だけだから。……折角の修学旅行だし、

   悪い思い出だけってのも、悲しいだけだし。

   折角なら楽しい思い出にしたいじゃん」

そう言って私は精一杯の笑みを浮かべる。

 

この頭を締め付けるような痛みを隠すように。

 

みゆき「黄金ちゃん。……うん、そうだね。

    悩んでても仕方ない!次行こう次!」

どうやら、みゆきちゃんも悩みを払拭した

ようで、私達は改めて次の目的地、祇園へと

向かった。

 

たどり着いて早々、舞妓さんとの写真を撮るの。

とはしゃぎ気味のやよいちゃん。

けど、周りに舞子さんの姿は無いみたい。

するとなぜか口紅デコルを使うように

促すキャンディ。

 

すると、キャンディが舞妓さんの姿に。

キャンディ「さぁ好きなだけ撮るどすクル」

黄金「いや、あのね。気持ちは嬉しいんだけど

   本場に来た以上は本物の舞妓さんと

   写真を撮りたいな~って言うか」

と、出来るだけキャンディを傷付けない

ようにオブラートに包んで断る私。

 

だから、この時みゆきちゃんが落ち込んだような

表情をしている事に気づかなかった。

 

 

その時。

 

   『キィィィィィンッ』

不意に、奴らの出現を告げる金切り音が聞こえてきた。

そして次の瞬間には、バッドエンド空間が周囲に

広がる。

れいか「これは……!」

黄金「この感じ、彼奴らは……。こっちだよ!」

周囲を見回して駆け出した私にみんなが続く。

そしてすぐに、私達はアカオーニを見つけた。

 

れいか「おやめなさい!」

アカ「んん?プリキュア、なんでここに居るオニ?!」

あかね「それはこっちの台詞や!」

アカ「俺様は京都でこそ輝く男オニ!

   お前等運が悪かったオニ!」

黄金「何をごちゃごちゃと!こっちだって

   折角の修学旅行、アンタ等の顔なんて

   見たくなかったっつ~の!みんな!」

あ・や・な・れ「「「「うんっ!」」」」

みゆき「あっえっと!」

私の言葉に頷きながらスマイルパクトを

取り出す4人。けどみゆきちゃんだけが

遅れてしまい、昨日引いたおみくじが

ひらひらと舞ってアカオーニの所まで

飛んでいってしまった。

 

アカ「ぷっ!ぶっはっはっはっは!大凶オニ!

   プリキュアが大凶オニ!」

途端にお腹を抱えて笑い転げるアカオーニ。

 

何か、その姿見てると苛つく。

 

黄金「うるせぇ!大凶で悪いかぁぁぁっ!」

   『ズドムッ!』

アカ「ぐえぇぇぇぇぇっ!」

私は加速してジャンプし、奴の土手っ腹に

飛び膝蹴りをたたき込んだ。

あかね「な、なんで黄金がキレとんねん」

後ろからあかねちゃんの突っ込みが聞こえるけど、

とりあえず無視する。

アカ「こ、こいつ~~!もう怒ったオニ!

   出でよ!アカンベェ!」

 

奴がアカンベェを召喚する。すると、みゆきちゃんの

大凶おみくじと合体した、青い鼻のアカンベェが

生まれた。

 

れいか「大凶がアカンベェに……!」

やよい「何か嫌だ」

黄金「言ってても始まらないよ!行くよ!」

 

私が発破を掛けるとみんな、スマイルパクトを

取り出す。

私も、いつものポーズの動作でオルタリングを

召喚する。

  「はぁぁぁぁぁ……」

息を吐き出しながら、静かに右手を前に出す。

 

   『レディー!』

5人「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

黄金「変身っ!」

   『カチッ!』

   『VUUUUUN!!』

光が私達を包み、変身する。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪

    キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を断つ戦姫!キュアアギト!」

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!」」」」」」

 

   『アッカンベェ!』

名乗りを上げた直後、みくじ筒となっていたアカンベェの

右腕からミサイルが発射された。

マーチ「くっ!」

咄嗟にジャンプで避けるマーチ。

   『カァァンッ!』

けど、避けた棒形おみくじのミサイルが電柱に

ぶつかってハッピーの方へ!

アギト「ハッピー!!」

   『ドォォォォンッ!』

   「ぐっ!?」

ハッピー「アギト!?」

アギト「大丈夫!」

命中し、爆発した衝撃で少し腕がしびれてるけど、

問題ない。

 

そこに、今度はみくじ筒から棒形おみくじを

引き抜いて、棍棒のように振り上げた。

   「ピース前!」

ピース「あっ!」

振り下ろされたおみくじ棒を腕をクロスさせて

防ぐピース。

   『ベキッ』

けど、振り下ろされたおみくじの先端が

ぶつかった衝撃で折れてハッピーの方へと

飛んだ。

アギト「ハッピー!」

私は咄嗟にハッピーを庇うように抱きしめる。

   『ドォォォォンッ!』

   「ぐっ!うぅ!」

爆発の熱風が私の背中を焼く。

 

サニー「ハッピー!アギト!こんのぉ!」

アギト「ま、待って!」

必殺技を発動しようとするサニーを咄嗟に

止める私。

   「そいつは恐らくこの前戦ったのと

    同じタイプ!あの技以外は効かないと

    思う!」

サニー「そ、そうなんか!?あ~も~!物は試しや!」

そう叫ぶと、技を発動するサニー。

   「プリキュア!サニーファイヤー!」

 

火球が放たれ、命中する。

しかしそれでも無傷のアカンベェ。

   「や、やっぱりダメかぁ~」

ガクッと膝をつくサニー。

やっぱり、あのレインボーヒーリングって言う

技じゃないと……。

キャンディ「みんな!プリキュアレインボー

      ヒーリングクル!」

そこにキャンディが現れ、あの技を使う事を

促す。

 

みんながパクトを構えた、その時。

   『ズズンッ』

ハッピー「うわっ!」

   『コロコロ、ボチャンッ』

何とハッピーのパクトが近くを流れる川に

落ちてしまった。慌てて川に飛び込むハッピー。

 

不味いっ!

これは向こう側にとってチャンス。

アカ「一気に決めるオニ!」

そして、奴もそれを逃さず命令を下す。

青っ鼻のアカンベェが右腕の筒に闇色の

エネルギーを収束させていく。

 

   『ビィィィィィッ!』

アギト「ッ!させるかぁぁぁぁぁっ!」

 

私は、咄嗟に皆の前に出て自分を盾にする。

   『ドォォォォォンッ!』

   「ぐっ!!」

爆発と熱風、衝撃波が私の体に叩き付けられる。

それで、一瞬意識が揺らぐ。でも!

   「くっ!」

倒れそうになる体で、足で。私は踏みとどまる。

   「まだ、だ」

アカ「ちっ!しぶといオニ!アカンベェ!まずは

   アギトをやっつけるオニ!」

   『アッカンベェ!』

   『ドドドドドッ!!!』

アギト「ぐぅっ!!!?」

私の体に、今度はエネルギー弾が無数に叩き付けられる。

足が、後ろに下がる。

体が吹き飛ばされそうになる。

 

それでも、倒れる訳には行かない。後ろには、

みんなが居るんだ!

 

 

   『ドォォォォォンッ』

そして、最後の一発が命中したとき、黄金は

ボロボロだった。

体のあちこちから血を滲ませ、ロングスカートも

上着もボロボロになっていた。

口元からも血が流れ、地面にしたたり落ちる。

サニー「アギト!」

彼女の姿を見て叫ぶサニー。

アカ「うっはっはっはっ!良い様オニ!

   それにしても、キュアハッピーが大凶で

   良かったオニ!おかげで俺様は超ラッキーオニ!」

 

その言葉は、川底でパクトを探すハッピーの耳にも

聞こえていた。

ハッピー『私の、私のせいで、みんなが……』

自らを責めるハッピー。アカオーニは更に

言葉を続ける。

アカ「特にお前オニ!キュアアギト!

   そんな風にボロボロになったのも、全部

   キュアハッピーの大凶のせいオニ!」

 

ハッピー「ッ!私の、私の、せいで……」

驚き、呆然としながらも上に戻るハッピー。

彼女の目に、ボロボロのアギトの姿が映る。

 

彼女の目に、涙が浮かぶ。

 

しかし……。

 

アギト「ハッピーの大凶とか、そんなの、

    関係無い」

静かに、攻撃を耐えるために構えていた

クロスさせた腕の構えを解き、下げるアギト。

そして、彼女は口元から流れる血を手の甲で

拭った。

 

   「私は、自分の意思で、みんなを、

    みゆきちゃんを守ろうと思った。

    それだけよ」

アカ「ふんっ!そんなの嘘オニ!だってお前は

   そんなに傷ついたオニ!だったらその原因の

キュアハッピーを恨むはずオニ!」

アギト「私がハッピーを恨む?ははっ。そんなの、

    考えた事も思った事も無かったわ」

こんな状況で、傷だらけだと言うのに笑みを浮かべる

アギト。

 

   「アギトになって、人間止めて、怪物になって。

    怯え、恐怖し、荒れていた私を助けてくれたのは、

    みゆきちゃん達だった。だから……」

 

次の瞬間、アギトはキッとアカンベェとアカオーニを

睨み付ける。

   「私は、みんなとの出会いに感謝している。

    みんなと一緒に居られる時間が好き。

    みんなと笑っていられる時間が好き。

    そして、こんな私を仲間として迎えてくれた

    みんなを、愛している。だから……。

    私はこの手で、力で戦う!みんなを

    傷付けようとするお前達から、守り通す

    為に!」

 

正しく、威風堂々。その意思は鋼の如き硬度を持ち、

何者も砕くことは出来ない。

 

アカ「何言ってるオニ!アカンベェ!」

   『アッカンベェ!』

 

次の瞬間、右手のおみくじ棒を構えたアカンベェが

アギト目がけて突進する。

 

今この時、アギトの、黄金の中に、夢に現れた

フュージョンの言葉が思い起こされる。

 

   『お前が力を使えば使う程、私達は

    馴染んでいく』

しかし……。

アギト「それが、どうしたぁっ!」

 

   『カチッ!』

   『ギィィィィィンッ』

振り下ろされる棒。しかし、アギトは右側の

スイッチを叩き、瞬く間にフレイムフォームへと

変身するとフレイムセイバーをベルトから

抜き取り、それを受け止める。

「はぁっ!!」

   『ザザザンッ!』

そして、瞬く間に棒をバラバラに切り裂く

アギト。

   『あ、アッカンベェ!?』

驚き、後退る青っ鼻のアカンベェ。

 

でも、私はそれを逃がさない。

   「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

踏み込み、後ろに逃げるアカンベェを

追いながらその体を滅多斬りにする。

   「はぁっ!」

更に跳び蹴りで、吹き飛ばす。

吹っ飛ばされたアカンベェが建物の外壁に

ぶち当たり、砂埃が周囲を覆う。

 

   『アッカンベェ!』

その時、砂埃の中から放たれたビームがアギトの

側に命中し、爆音と共に煙が彼女を覆い隠す。

ハッピー「アギト!!」

それを見たハッピーが叫ぶ。

 

アカ「うははははっ!やったオニ!」

対照的に、笑みを浮かべるアカオーニ。

 

だが……。

アギト「まだだっ!」

   『ボッ!』

煙の中から、ウィンディフォームとなった

アギトが飛び出してきた。

アカ「な、何ぃ!?アカンベェ!アギトを

   撃ち落とすオニ!」

   『アッカンベェ!』

   『ドドドドドッ!』

アカンベェの右腕から無数の闇色の光弾が

連射される。しかしアギトはそれらを

巧みに避ける。

 

そして、一瞬の隙を突き、アカンベェに

肉薄する。

アギト「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

そして、アカンベェに突進したアギトは

アカンベェに両足のキックを、何十発と

撃ち込み、最後の一撃で吹き飛ばす。

 

アカンベェと距離を取り、サニーや

ハッピー達の前に着地するアギト。

アカ「ぬぅ!こうなったら、アカンベェ!

   最大出力オニ!」

   『アッカンベェ!』

しかし、再び土埃の中から現れたアカンベェは

最初の砲撃の倍以上のエネルギーを右腕に

溜める。

 

アギト「ッ!」

それを見たアギトは、考えるよりも先に

左腰のスイッチを2回叩く。

 

アカ「発射オニ~!」

   『アッカンベェ!』

   『カッ!ドォォォォォォンッ!!』

次の瞬間、エネルギーの奔流が彼女たちに向かっていき、

命中する。

  「うっはっはっはっ!今度こそ終わりオニ!」

今度こそ、と豪語するアカオーニ。

 

だが……。

アギト「誰が、終わりだって?」

アカ「オニィッ!?」

煙の中からアギトの声が聞こえてくる。そして、煙が

晴れると、そこにはアイアンフォームとなり

円形のシールドを展開してハッピーたちを守り抜いた

アギトの姿があった。

 

  「お、己オニ!アカンベェ!もう一発オニ!」

   『ア、アッカン、ベェ』

  「何してるオニ!早く撃つオニ!」

しかし、今のアカンベェはフルパワーのビームを

撃った反動でエネルギーが不足していた。

 

今だ!この好機、逃さない!

   『カチッ!』

アギト「一気に仕留める!」

左側のスイッチを叩き、アギトはストームフォームと

なりアカンベェとの距離を一気に詰める。

   「はぁぁぁぁぁぁっ!!!」

   『ズブリ』

突き出されたストームハルバードの切っ先が

アカンベェの腹部に深々と突き刺さる。

   「おぉぉぉぉぉぉっ!!!」

 

そして、アギトはハルバードを降り、アカンベェを

天高く放り投げた。

 

そして、アギトはグランドフォームとなり

クロスホーンを展開する。

   「はぁぁぁぁぁ………!」

ポーズを決め、大地に展開した紋章の力を

足に吸収し、真っ直ぐ空中のアカンベェを

見据える。

 

そして……。

   「はっ!」

足腰に力を入れ、アギトは天高く飛び上がる。

   「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!」

 

そして、砲弾のように真下からアカンベェ

目がけて突き進む。

   『ドゴォォォッ!』

その腹部に彼女のキックが命中する。

   「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

しかしそれでも彼女の勢いは止まらない。

 

上へ上へと打ち上げられるアカンベェ。

そしてついに……。

   『アッ、カン、ベ、ェ』

   『ドゴォォォォォォンッ!』

空中で盛大に爆発するアカンベェ。

そして……。

 

   『ヒュォォォォォッ!ドゴォォッ!』

青っ鼻のアカンベェを撃破したアギトが落下してきて、

ハッピー達の前に爆音と共に着陸する。

アギト「さぁ。ご自慢のアカンベェは倒したわよ?」

アカ「ぬぅ!青っ鼻は役に立たないオニ!」

そう吐き捨てると撤退していくアカオーニ。

 

アギト「……ふぅ」

撤退していくアカオーニを見て、アギトは

息をつくと変身を解除した。

同じく変身を解除するハッピー達。

 

黄金「終わったね」

そう言って、黄金はみゆき達の方を向きながら

笑みを浮かべるのだった。

 

 

その後、川に落ちたみゆきのパクトは

黄金が超能力で発見し回収した。

  「はい、みゆきちゃん」

既に夕暮れ時。みゆきにパクトを返す黄金。

みゆき「あ、ありがとう黄金ちゃん」

戸惑いながらも受け取るみゆき。

   「……。あ、あのね黄金ちゃん。

    ごめんね。今日は私のせいで――」

黄金「気にしないで」

謝るみゆきの言葉を、黄金が遮る。

そして彼女は静かに夕焼けの方に視線を

向ける。

  「前に言ったよね。私はみんなの

   剣であり、盾だって。私はそれを

   有言実行しているだけだよ。

   私を、私と言ってくれたみんなを

   守る為に私は戦う。だから、

   謝らなくて良いの」

みゆき「黄金ちゃん……」

黄金「それに、折角の修学旅行なんだもん。

   悪いこともあるけど、そう言うのは

   ちゃっちゃと忘れるに限るよ。

   そうでしょ?」

そう言って、笑みを浮かべる黄金。

 

みゆき「うん。そうだね」

と、彼女が頷いたとき。

やよい「あ!あれ!」

彼女の視線の先に、舞妓さんが居た。

 

黄金「お!舞妓さんだ!最後の最後で

   良いことあったじゃん!」

みゆき「うん!そうだね!」

 

こうして、彼女たちは無事舞妓さんと

記念写真を撮ることが出来たのだった。

 

 

その日の夜。ホテルにて。

 

あかね「いや~。にしても昨日と今日は大変

    やったな~」

なお「そうだね~。みゆきちゃんのフォローで

   色々あったもんね~」

就寝時間の間際、駄弁っている5人。

黄金は今、部屋に居なかった。夜風に当たってくる

と言って、外に出ているのだ。

みゆき「う、うぅ。その節は大変ご迷惑を

    おかけしました」

やよい「大丈夫だよみゆきちゃん。気にして

    無いから」

と、フォローするやよい。しかしそれを聞いた

あかねが何やら意地悪な笑みを浮かべる。

 

あかね「ほんなら、罰として告白ターイム!

    みゆき君、好きな人を述べよ!」

みゆき「え?すすす、好きな人!?」

あかねの言葉に、顔を真っ赤にするみゆき。

しかしそれはどう見ても、気になる人が

『居る』という風に見えるわけで……。

 

4人「「「「えぇ!?」」」」

れいか「みゆきさん、好きな人が居るんですか!?」

みゆき「え、えぇっと。それは……」

戸惑うみゆき。

この時、みゆきは好きな人、と言う言葉に

『ピーターパン』を思い浮かべていた。

 

しかし……。

 

黄金「みゆきちゃん」

 

彼女の頭の中で、そのピーターパンのイメージが、

徐々に黄金へと変わっていく。そして、彼女に

笑みを浮かべながら名前を呼ばれた事を

想像するだけで、より赤く、彼女の頬は火照る。

 

みゆき『どどど、どうして黄金ちゃんが!?

    私達は女の子同士だし!いやでも

    黄金ちゃんは綺麗だし優しいし、

    頼りになるし、今日だって守って

    貰ったし王子様みたいでカッコいいし

    私も黄金ちゃんにお姫様抱っこされた

    けど……。

    黄金ちゃん、あの時、私達を愛してるって。

    うぅ、これって、もしかして……』

と、考え込むみゆき。

 

なお「だだだ、誰!?私達の知っている人!?」

みゆき「……。うん」

そしてみゆきは、考え込んでしまっていたが故に、

なおの質問に頷いてしまった。

 

周囲では皆、男子の名前を挙げていく。

 

やよい「みゆきちゃん、ヒントヒント!」

みゆき「う、うん。……その人は、とても、強くて」

な・れ「「うんうん!」」

みゆき「かっこ良くて……」

あ・や「「うんうん!」」

 

語りながら、みゆきは黄金と出会ってからの

事を思い出す。アギトに覚醒した日、みゆきは

彼女に守られた。そして、真実を知り、黄金が

彼女たち5人の仲間になったあの日からの

戦いを。

何時だって、彼女はみゆき達を守る為に本気で

戦っていた。

 

みゆき「どんな時も私を守ってくれるの」

 

れいか「そ、それは正しく王子様のような

    男性ですね!」

なお「え?でも、いつも守ってくれるって……」

やよい「プリキュアとして一緒に戦ってるって事?」

あかね「え~?けどそれを言うたら、一番  

    当てはまりそうなんは、黄金くらいで……」

 

と、あかねがそういった瞬間。4人が

ハッとなった。

あかね「ちょちょちょ、ちょい待ち!

    みゆき、もしかして、好きな人って、

    男、やないん?」

みゆき「……」

   『コクンッ』

無言で頷くみゆき。

 

それが確証になった。次の瞬間……。

4人「「「「えぇぇぇぇぇぇっ!?」」」」

思いっきり叫んだ4人。

 

あかね「え?えぇ!?みゆきが好きなんは

    黄金って!?」

やよい「いや、でも、分かるような~」

れいか「た、確かに黄金さんの言動は時折、

    その、男性的というか。王子様の

    ようと言うか」

なお「うん。……で、でも、女の子同士だし。

   そもそもどうしてみゆきちゃんは、その、

   黄金が気になるの?」

 

みゆき「うん。自分でも、変だとは思うんだ。

    でも、黄金ちゃんは私達と一緒に戦うように

    なってから、何度も私達を守ってくれた。

    私と黄金ちゃんの体が入れ替わった時も、

    今日だって、ボロボロになるまで戦って、

    守ってくれた」

あかね「そや。ウチも父ちゃんのお好み焼きの時、

    黄金に励まして貰ったんや」

やよい「私も、嘘の時、黄金ちゃんに色々

    助けて貰った」

なお「私も、小さくなったとき、植物の茎から

   落っこちそうになって、黄金が体を張って

   助けてくれた」

れいか「……それが、黄金さんの覚悟を

    表しているのかもしれませんね」

みゆき「覚悟?

 

れいか「はい。……黄金さんは、望まずしてアギトへと

    なってしまいました。故に一度は傷つき、悩み、

    そして私達ともう一度友達になりました。

    皆さんも覚えていますか?あの日、黄金さんは、

    自分を私達の『剣』と『盾』だと言った事を」

やよい「う、うん。よく覚えてる。かっこ良かったから」

れいか「……その言葉の意味はつまり、自分の

    全てを賭けて。黄金さんは私達に害を

    なす敵と戦い、同時に私達を護る。

    と言う事です」

なお「だから、黄金はその、ボロボロになってまで

   私達を?」

れいか「はい。恐らく、黄金さんにとって、

    私達はそれほどまでに大切な存在

    なのでしょう」

 

みゆき「大切」

そう呟くみゆきの頭に、今日の戦いの黄金の言葉が

思い起こされた。

 

アギト『そして、こんな私を仲間として迎えて

    くれたみんなを、愛している』

 

みゆき「黄金ちゃん。あの時、今日の戦いの時、

    言ってた。私達を、愛してるって」

 

その言葉を思い返し、口に出し、頭の中で

繰り返すだけで、みゆきの頬は赤く染まる。

やよいも、あの嘘の一件の時に芽生えた想いを

回想し、頬を朱色に染める。他の3人も、

大なり小なり頬を染めている。

 

   「私、私は、黄金ちゃんが……」

 

その言葉の続きを呟きかけたみゆき。

 

しかし……。

 

黄金「私がどうかしたの?」

 

5人「「「「「ッ!?!?!?!」」」」」

 

不意に黄金の声が聞こえ、振り返ると

そこには黄金が立っていた。

 

みゆき「あああ、あれ!?黄金ちゃん

    戻ってたんだ!」

黄金「う、うん。それより、私がどうかしたの?」

あかね「え、えぇ!?それはその……!」

なお「あ!いやただね!黄金の帰りが

   遅いな~ってみんなで話してただけだよ!

   ね!?」

れいか「そ、そうです!それだけです!」

やよい「うんうん!」

 

と、咄嗟に言い訳を思いついたなおに、みんなが

便乗する。

 

黄金「そ、そうなんだ。まぁ別に良いけど」

 

5人『『『『『た、助かったぁ』』』』』

 

そして黄金も深く突っ込まなかったので、

彼女たちは内心安堵するのだった。

 

 

一方で……。

 

少し前、屋上にて。

黄金「……」

夜のホテルの屋上に、一人だけ黄金が

立っていた。彼女は無言のまま夜空を見上げていた。

そして、彼女はその視線を、自分の右手に

向ける。

 

フュー「お前が力を使えば使う程、私達は

    馴染んでいく」

 

彼女の脳裏に、三度あの言葉がリピートされる。

だが……。

 

黄金「それでもいい。私のやることは

   変わらない。みんなを、護る!

   この手で、必ず!」

 

空に浮かぶ星空に手を伸ばしながら、黄金は

決意を新たに屋上を後にした。

 

黄金の中で活動を再開したフュージョン。

 

果たして、それが何をもたらすのか、

それはまだ誰にも分からない。

 

黄金自身にも。

 

     第13話 END

 




って事で、フュージョンを内在させている黄金。
それがどんな戦いをもたらすのかは今後に
ご期待下さい。
それと、以前登場したG3とG4ですが、早くとも
登場は修学旅行の話が終わる14話以降です。
もしかしたら、14.5話を作るかも知れませんので、
そこら辺をご期待下さい!
感想や評価、お待ちしています!


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第14話 二人の想い

今回は大阪編ですが、メインは殆ど黄金とれいかです。
展開も殆どオリジナルです。



~~前回までのあらすじ~~

修学旅行で京都へとやってきたみゆき達7人。

しかしみゆきの運勢は大凶であり、それを

表すかのように様々な厄介事が彼女に襲いかかった。

一方で、横浜での戦いで喰らったフュージョンが

黄金の中で覚醒し、その体を蝕み始めていた。

しかしそれでも、黄金は守ると誓ったみゆき達

の為に戦う決意を新たにしていた。

そして、そんな中でみゆきは黄金を強く意識

するようになっていったのだった。

 

京都を楽しんだ私達6人。今は京都から

バスを使って、大阪へとやってきました。

なおちゃん、ご飯3杯で少なめとかサラッと

スゴい事言ったり、れいかちゃんがたこ焼きを

食べたことが無いって言ったり、あかねちゃんが

やよいちゃんにツッコまれたりしながらも、

私達の大阪旅行が始まった。

 

その後、大阪城の前までやってきた私達。

今回は班ごとに分かれての自由行動。

 

黄金「って事で、早速班行動開始だね」

れいか「はい。ではスケジュールを確認しましょう。

    大阪城、中之島、天王寺動物園。

    あっ!もう天守閣に登ってないと

    いけない時間です!急ぎましょう!」

って、れいかちゃんスケジュール細かすぎ~!

分刻みって!

とか思いながら、れいかちゃんに押されつつ私達

は大阪城の中へ。

 

やよい「大阪城、おっきいね~」

れいか「この大阪城は1583年、豊臣秀吉によって

    築城されました」

そして始まるれいかちゃんの蘊蓄(うんちく)。

   「たくさんのお金が使われ、とても豪華な

    お城だったそうです」

その後も私、あかねちゃん、なおちゃんは

れいかちゃんの蘊蓄を聞きながら天守閣へと登った。

 

   「現在の天守閣は三代目で、昭和6年に

    新しくなりました」

黄金「れいかちゃん、ほんっと良く調べてる

   よね~」

あかね「けどそこまで知ってるって、

    れいかは流石やな~。なぁみゆき。

    あれ?」

ん?ってちょっと待って!

黄金「あ、あれ!?みゆきちゃんとやよいちゃんは?

   って言うかキャンディも居ない!」

その時になって私達4人は初めて、みゆきちゃん

とやよいちゃん、キャンディとはぐれてしまった

事を理解した。

 

あかね「ど、どないしよ~、はぐれてもうた~」

なお「と、とにかく中を探してみよう!」

と、慌てる二人。でも大丈夫。

黄金「待って二人とも」

今にも駆け出しそうな二人を私が静止した。

  「闇雲に探し回っても入れ違いになっちゃう

   かもしれないし。ここは私に任せて」

あかね「え?けど黄金、一体どうするん?」

黄金「まぁ見てて」

 

そう言うと、私は天守閣の柵に手を置き、目を

瞑ると深呼吸をしてから、内なる力を呼び覚ます。

  「ふぅんっ」

そして、私は周囲の気配を探る。

この大阪城内に、どれだけの人がどこに居るか、

気配を感じ取る。

そんな中で、慣れ親しんだ気配。つまり、

みゆきちゃん達の気配を探る。

 

下の方、には居ない。外にも。じゃあ上の方。

って、あっ!

  「見つけた!」

私は目を見開き、叫んだ。

あかね「えっ!?ほんまに!?」

黄金「うん!すぐ近く!こっち!」

私は順路とは逆の方に向かって走り、

すぐ側の角を曲がった。すると……。

  「みゆきちゃん!やよいちゃん!

   キャンディ!」

そこには3人の姿があった。

みゆき「あっ!黄金ちゃん!」

黄金「も~~!心配したよ~!」

小走りにみゆきちゃん達の方へ歩み寄る私達。

みゆき「ごめ~ん!キャンディの髪型

    変えるのに集中しちゃってて」

なお「まぁ合流出来て良かったよ。

   流石黄金の超能力。頼りになるね!」

そう言って、サムズアップするなおちゃん。

黄金「いや~、まぁこれくらいならね。

   あははは~」

と、私は笑みを浮かべていた。

 

……けど、一昨日や昨日のように超能力を

使う事によって起きる頭痛は、今日は無い。

あれはフュージョンが覚醒した事による一時的

な事だったのかは分からないけど……。

まぁ折角の旅行だし、そう言うのは気にしても

仕方ない。

 

そう考えながら、なにやら話しているみゆきちゃん

やあかねちゃん達の方を向いている私。

 

けど私はその時、れいかちゃんがどこか悲しそうな目で

私を見ている事に気づかなかった。

 

その後、何やらドギツイおばさん3人に出会って

アメを貰った私達は何枚か写真を撮ってから、

大阪城を後にした。

私達はそのまま中之島を目指して移動していた。

のだけど……。

 

なお「うわ~~!美味しそうなきつねうどん!」

何やらお食事処の食品サンプルを見て目を

輝かせているなおちゃん。

それを見て私はスマホの時計に目を向けた。

黄金「もうすぐ12時、か。折角だからこの辺で

   何か食べていかない?私もちょっと

   お腹空いちゃった」

あかね「賛成~!」

みゆき「私もお腹空いた~!」

などと話をしていると……。

 

おばさんA「あ~!アンタ等もしかして!」

みゆき「あっ。さっきのアメの……」

おばさんA「アンタ達もここでお昼かい?何だったら

      一緒しても良いかいな?」

黄金「え?は、はい。大丈夫ですけど」

 

って事で、おばさん達と一緒にうどん屋さんで

早めの昼食を取ることに。

おばさん達におすすめを教えて貰って私達は

それを食べた。

黄金「あっ、私ちょっとお手洗いに」

 

そう言って私は席を立ち、トイレに向かった。

 

用を済ませ、手を洗っていたとき、不意に私は

眼前の鏡を見て、右手を目元にやった。

 

……。私の中に現れた、赤い瞳の私。

あれはフュージョン?でも、気配が僅かに

違ったような。……フュージョンがアギトの

力を取り込みつつある、とか?

それともフュージョンの方がアギトに

取り込まれている。

あ~も~!ダメだ!全然分かんない。

 

とか考えていると……。

れいか「黄金さん?」

不意にれいかちゃんの声が聞こえ、肩越しに

振り返るとれいかちゃんが入り口に

立っていた。

   「大丈夫ですか?何か

    考え込んでいたように

    見えましたが……?」

黄金「あっ、う、うんうん大丈夫!

   ちょっとこの後の事を考えてた

   だけだよ!」

 

流石に、自分の内側にフュージョンが居る

なんて言えない。

れいかちゃんやみゆきちゃん達に余計な

心配はさせたくないから。

 

れいか「……本当、ですか?」

 

黄金「え?」

 

れいか「黄金さん、無茶をしていませんか?

    横浜での戦いだって、その、腕を

    失ってまで戦って。結果的に右腕が

    再生したから良い物の、もしそうじゃ

    なかったら……」

 

黄金「大丈夫だよれいかちゃん。だって私、

   怪物だから。……だから私はみんなを、

   私の大切な人達を守れるのなら、

   どんな痛みだって、戦いだって、

   乗り越えてみせるよ。私は、アギトだから」

 

 

そう言って、黄金は笑った。

しかしその笑みと言葉が、れいかの胸に刺さる。

 

なお「お~い!黄金~!れいか~!

   そろそろ行くよ~!」

するとそこに外からなおの声が聞こえてきた。

黄金「あっ、は~い!それじゃれいかちゃん、

   先に出てるね!」

そう言ってトイレを出る黄金。

 

しかし、れいかは……。

 

れいか「怪物だ、なんて……。

    そんな、そんな悲しい事。

    言わないで下さい」

 

黄金の事を想い、密かに涙を流すのだった。

 

 

その後、うどん屋さんを食べた後私達は

おばさん達からのアドバイスで船を使って

中之島へ。ちなみのその船の中でもアメを

貰ったりした。

中之島を観光した後、私達は動物園へと

向かう。その道中で、お好み焼きを食べ、

更に近くにたこ焼きのお店があったので、

れいかちゃんのたこ焼き初体験、

と言う事になったのだけど……。

 

あかね「そや!ここでれいかのたこ焼き初体験や!

    なっ、れいか!」

れいか「……」

あかねちゃんの言葉に上の空だったれいかちゃん

は答えなかった。

黄金「ちょっと、れいかちゃん?」

側に居た私がポンッと肩に手を当てる。

れいか「はっ、ご、ごめんなさい。何ですか?」

そこでようやく戻ってきたれいかちゃん。

 

あかね「も~!何って、れいかの初たこ焼きやん!」

れいか「あ、そ、そうでしたね。では行きましょう」

何やらうどん屋さんからずっと上の空な

れいかちゃん。

私、何か不味い事を言ったかな?

 

とか思いつつ、私達はたこ焼きを食べた。

 

そして、二度あることは三度ある。

再びあのおばちゃん達3人にあった私達は、

天王寺動物園の近くまで案内して貰った。

ちなみにその時、納豆餃子アメという謎なアメを

たくさん貰ってしまった。

……こんなアメを進んで舐める人間が居るのだろうか?

と、私は内心そんなことを思って居たのだった。

 

すると……。

キャンディ「あり何クル?」

不意にキャンディが何かに興味を持ったみたい。

私達が目を向けると、それは通天閣タワーだった。

黄金「あぁ。あれは通天閣だよ。確か、

   展望塔のはず」

やよい「ねぇねぇ!折角だから登ってみない?

    通天閣!」

なお「えぇ?でも、時間大丈夫?」

黄金「え~っと。スケジュールによれば……。

   う~ん。思ったより早く回ってるし、

   動物園を回る時間を少し短縮すれば何とか

   なるんじゃないかな?」

あかね「そやな!ほな行ってみよか!良いよな

    れいか?」

れいか「え、えぇ。そうですね。行きましょう」

 

相変わらず、どこか元気の無いれいかちゃん。

しかし私にはその理由が分からなかった。

 

ともかく私達7人は通天閣タワーに向かった。

 

のだけど……。

 

   「あの、みなさん。ちょっと良いですか?」

みゆき「ん?どうかしたの?」

れいか「ちょっと、黄金さんと話がしたくて」

え?

黄金「私?」

れいか「はい。なので、皆さんは先に上に上がって

    いてください。後から追いかけます。

    黄金さんも、良いですか?」

黄金「う、うん。別に良いけど。じゃあみんな、

   後でね」

あかね「ほな、先行ってるで~」

そう言うと、私とれいかちゃん以外が上に

上がっていってしまった。

 

そして私とれいかちゃんは通天閣の敷地の外、

人気の無い場所へ向かった。

黄金「それで、話って?」

れいか「……黄金さん」

れいかちゃんは私の方に背を向けながら私の

名前を呼ぶ。けど……。

 

   「もう、無理をしないで下さい」

次の瞬間振り返ったれいかちゃんは泣きそうに

なって、瞳に涙まで溜めていた。

 

黄金「っ、れいかちゃん?」

 

れいか「黄金さんは、これまでたくさん傷ついて

    来ました。アギトになって、横浜でも、

    昨日の戦いだって」

 

黄金「……」

 

れいか「私、見たんです。横浜での戦いの後、

    黄金さんはお手洗いで、吐血、されていました

    よね?」

 

黄金「……見てたんだ」

 

れいか「あんな事があった後で、不安だったのも

    あって黄金さんの様子を見に行ったんです。

    そしたら、そこで……。でも!それだけじゃ

    ありません!初めて青い鼻のアカンベェと

    戦った後だって!私見ました!道ばたで黄金さん

    が血を吐くのを!」

 

黄金「そっか、あれも……」

 

静かに呟く私の前で、れいかちゃんは泣いていた。

 

れいか「お願いです。無理は、しないで下さい。

    黄金さんが傷つくのを見ているだけ

    なんて、私……」

 

黄金「そっか。……心配してくれて、ありがとう

   れいかちゃん。……でも、多分、ううん。

   確実に戦いは激しくなっていくと思うの。

   あの青い鼻のアカンベェが良い例だよ。

   ……だから、私はこれからも全力で

   戦う。傷つく事を、恐れたりなんか 

   しない」

 

れいか「怖くは、怖くは無いんですか!?」

 

その時、れいかちゃんの叫びが私の鼓膜を

震わせた。

 

   「戦うと言う事は、死ぬかもしれない

    んですよ!?この前のフュージョンの

    時だって、一歩間違えていれば黄金さんは!」

 

黄金「……。私だって、死ぬのは怖いよ。あの時、

   死にかけて、それは分かった」

私は俯くれいかちゃんに静かに歩み寄る。

 

れいか「だったら!」

 

黄金「でもね」    

 

   『ギュッ』

 

れいかちゃんの言葉を遮りながら、私はれいかちゃんを

抱きしめた。

 

  「例え自分がどんなに傷ついても、どんなに

   怖くても、守りたい人が居るから」

 

れいか「黄金、さん」

 

黄金「私は、私を友達と行ってくれた、大好きな

   皆を守る為に戦いたい」

 

れいか「で、でも……。私は、黄金さんに

    傷ついて欲しくありません」

 

黄金「ありがと、れいかちゃん。でも大丈夫だよ。

   私はアギト。プリキュアを守る盾であり、

   プリキュアの敵を切り裂く剣。

   皆が、れいかちゃん達が側に居てくれる限り、

   どんな敵とだって、戦い、勝つから。

   みんなが居てくれるから、私は戦える。

   だから心配しないで」

 

れいか「黄金、さん」

 

 

今、れいかは頬を赤く染めていた。同性とは言え、

ハグされていることに戸惑いを覚えていたからだ。

しかし頬の火照りの原因はそれだけでは無い。

それは、黄金の意思。

 

プリキュアを守る為に、アギトとして戦う決意。

それを黄金は持っていた。いや、既にと言うべきだろう。

黄金はその意思を糧にこれまで戦ってきたのだから。

 

そして黄金の想いは、童話の王子様のような物だ。

故にれいかは心臓を高鳴らせていた。

やがて……。

 

   「なら、私も、黄金さんを守ります。

    だから、黄金さんも、私を、私達を、

    守って下さい」

 

黄金「うん。絶対、守り切るよ」

 

そう呟いて、抱擁の腕を緩めた黄金は、れいか

の瞳を至近距離から真っ直ぐのぞき込み、笑みを

浮かべる。

 

れいか「ッ」

   『カァァァァッ』

しかしれいかは、その笑みを見ると再び顔を赤く染め、

そっぽを向いてしまった。

黄金「ん?れいかちゃんどうかした?」

 

れいか「あっ!い、いえ!何でも無いです!」

 

黄金「?そう?なら良いんだけど」

 

そう言って抱擁を解いた私はれいかちゃんに

右手を差し出した。

 

  「じゃあ行こっか。皆上で待ってるよ?」

れいか「は、はい」

 

そして、れいかちゃんが右手で私の手を

取った時。

   『ブワッ!』

黄・れ「「ッ!?」」

不意に、周囲にバッドエンド空間が広がった。

 

れいか「これは!?」

黄金「バッドエンド空間!?まさか昨日に

   続いて二連続とか!」

と、その時。

   『カッ!』

  「ッ!?れいかちゃんごめん!」

れいか「え?きゃぁっ!」

 

通天閣タワーに闇の気配が宿るのを感じた

私はれいかちゃんをお姫様抱っこで

抱え、超能力を活かして跳躍。

タワーから離れた。直後。

   『アッカンベェ!』

 

通天閣タワーが巨大な青い鼻のアカンベェに

変化してしまった。

黄金「通天閣がアカンベェに……!」

れいか「あっ!黄金さんあそこ!」

そう言ってれいかちゃんが指さす場所を

見ると……。

 

あれって!?

黄金「みゆきちゃん達!?」

そうだった!タワーの中には私とれいかちゃん

以外の皆がいるんだった!

れいか「ど、どうしましょう。黄金さん」

黄金「……青い鼻のアカンベェは、5人の合体技

   か私のキックじゃないと倒せない。けど、

   あの巨体を私で倒しきれるかどうか。

   ……とにかく、変身だよれいかちゃん!」

れいか「はいっ!」

 

一方、みゆき達も……。

みゆき「も~~!なんでタワーがアカンベェに

    なるの~!?」

やよい「私達って、つまりアカンベェに食べられてる

    って事?」

あかね「え~!?そんなん最悪や~ん!」

なお「あっ!見てあそこ!外に黄金とれいかが

   居る!」

展望階まで上がっていたみゆき達。そんな中で

アカンベェ化に巻き込まれてしまったのだ。

 

あかね「ほんまや!ってか変身しようとしてんと

    ちゃうか!?」

なお「なら、私達も!」

みゆき「うん!」

と、彼女達4人も変身を始めた。

 

 

   『バッ!ババッ!』

ベルトを召喚する黄金。

黄金「はぁぁぁぁ………」

 

   『レディー!』

5人「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

黄金「変身!」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

   『カチッ!』

   『VUUUUUN!』

 

彼女達を光が包み、姿が変わっていく。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪

    キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を断つ戦姫!キュアアギト!」

 

変身したアギトとビューティは、建物の合間から

アカンベェを観察していた。

今のアカンベェは巨体故、小さい二人を

見つけるのに四苦八苦していた。

 

ビューティ「どうしましょうアギト。まずは皆さんと

      合流しない事には、レインボー

      ヒーリングは使えません」

アギト「……。一か八か、突っ込むか」

ビューティ「えぇ!?」

アギト「あいつの中から皆を出させる

    くらいなら、私の力でビューティを

    中まで送り込んだ方が早いよ」

ビューティ「し、しかしどうやって!?」

 

アギト「……。奴の頭をぶち抜いて、中に入る

    には……。速度と質量を持って、高速で

    突撃……。ッ!そうだっ!」

ビューティ「何か思いついたんですか!?」

アギト「うん。はっきり言って一か八かだけど、

    上手くいけば例え内部に入れなくても

    奴の中から皆を助けられるかも。

    ……でも、事前に言っておくね。

    はっきり言って危険。もっと良い方法が

    あるかもしれない。私もビューティも

    危険に晒されるかもしれない。

    ……それでも、やる?」

ビューティ「……はい」

 

ビューティは、私の言葉に殆ど迷い無く頷いた。

     「私は、あなたを信じます。

      そして、あなたを守ります。

      だから……」

アギト「私も、ビューティを必ず守る」

 

その言葉を聞き、互いにうなずき合う二人。

 

そしてアカンベェがアギト達の方を向いていない、

その隙に、アギトはウィンディフォームとなって

ビューティを抱えたまま空へ空へと上っていった。

 

そのまま、私は空へ空へと上っていく。

ウィンディフォームの限界まで。そして……。

 

アギト「高度、50キロメートル。成層圏。

    ……ビューティ、ここから一気に

    奴まで突っ込むから。私がシールドを

周囲に張るから、その上に『あれ』、お願い」

ビューティ「分かりました。……はぁっ!」

 

ビューティの力、氷を操る能力で、私とビューティを

覆うシールドの上を、更に氷が覆いつくす。

そして、私達はさながら、巨大な氷の銛になった。

 

アギト「よし、これでいけるっ!」

 

宙に浮いていた銛が、動き出した。

 

私が考えついたアイデアは、私とビューティを

砲弾そのものにする事。アカンベェと言えど、

この世界の物理法則には逆らえない。

だからできうる限り重い質量を、高速で

ぶつける事が出来れば……。

 

どれだけ離れていても、アギトの超能力で

居場所は分かってる。微妙な軌道修正を

私の能力で行いながら、氷の銛は加速していく。

そして雲を突き抜けた時。

 

アギト「見えた!」

ビューティ「行きましょう!」

 

私達は、アカンベェ目がけて突き進む。

 

 

一方、その頃。ハッピー達は……。

サニー「このっ、このっ!」

ガンガンッと内壁を殴るサニー。しかし

彼女のパンチ力だけでは破壊出来なかった。

   「クッソ~!この壁固すぎるで~!」

拳をさすりながら後ずさりするサニー。

マーチ「どうにかして、こいつの外にでて

    ビューティたちと合流しないと。  

    じゃなきゃヒーリングが使えない」

キャンディ「何か良い方法無いクル?」

皆が悩んでいた。その時。

 

ピース「あれ?ねぇみんな。何か近づいてくるよ?」

周囲を見回していたピースが何かに気づいて、

空を指さした。

ハッピー「え?何々?」

それに気づいて、ハッピー達がピースの

方へと近づく。

そして目をこらすと……。

    「えぇぇぇっ!?何アレ!?」

それが、ビューティとアギトを内包した

巨大な氷の銛である事に気づいた。

サニー「ん?ちょい待ち。あれ、もしかして……」

 

サニーが呟いたとき、彼女達は気づいた。

4人「「「「こっちに来る~~!?!?!?」」」」

キャンディ「何で~~クル~~!」

 

一方、黄金達は……。

 

アギト「行くよビューティ!これが、私達の

    合体技!」

ビューティ「はいっ!これが私達の!」

 

ア・ビュ「「ユニゾン、メテオォォォォォッ!」」

 

叫びながら突撃する二人。

   『ベェッ!?』

アカンベェはそれに

気づいて上を見上げるが、もう遅い。

   『ドゴォォォォォォォォンッ!!!』

音を立てながら、氷の巨大銛がアカンベェの

顔の反対側の天井部に突き刺さった。

 

ハッピー「けほっ!けほっ!な、何が

     どうなってるの~!」

展望室内部に煙が充満し、皆がむせる。

すると……。

ビューティ「皆さん!ご無事ですか!?」

煙の中からビューティとアギトが現れた。

サニー「だ、大丈夫て。ウチらは今正に

    二人に殺され掛けてるって~」

アギト「ご、ごめん!アカンベェの装甲を

    ぶち破って中にビューティを

    送り込むために私が考えたの!

    で、でも一応皆がいないところに

    当てるために狙ったんだけど……」

サニー「でももヘチマもあるかい!えぇか!

    今後あの技は禁止や禁止!えぇな!?」

アギト「は、はい、ごめんなさい」

と、サニーに怒られ頭を下げるアギト。すると……。

   『グララッ!』

6人「「「「「「うわわっ!」」」」」」

突如としてアカンベェが暴れ始めた。

 

アギト「っと、そうだった。怒られる前に

    こいつを何とかしないと!くっ!?」

ハッピー「で、でもどうやって!?

     うわわ~~~!」

アギト「出口は作ったから、後は!」

私は再びウィンディレッグを起動し、エネルギー

の翼を展開して宙に浮かび上がる。

   「みんな、私の手足に捕まって!」

そう言うと、皆が私に掴まる。

サニーとマーチが腕。ハッピーとピースが足。

キャンディはハッピーが抱いてる。

そしてビューティは私の首元に腕を回している。

 

ビューティ「あっ。ッ~~~!」

その時、私は気づいてなかったけど、ビューティと

私の顔はキスが出来そうなくらい近くて、

なぜかビューティは顔を赤くしていた。

 

私はさっきのユニゾン・メテオで開いた穴から

アカンベェの外に脱出する事に成功した。

 

そして私は街の大通りに着地する。

その時。

   『アッカンベェ!』

ドタドタとこちらに走ってくるアカンベェ。

アギト「来る。みんな、お願い」

ハッピー「うん!私達の力で、大阪を守ろう!」

 

キャンディ「皆の力を、合わせるクル~!」

 

5人「「「「「プリキュア!レインボーヒーリング!」」」」」

 

虹色の波動が放たれ、それがアカンベェを飲み込んで行く。

その時。

   『ドクンッ!』

ッ!?

今、私の中で何か、鼓動が……。

一瞬だけ、心臓が高鳴った。でも青い鼻のアカンベェの

時とは違う。

痛みを感じている訳でも無いのに、なぜ……。

 

そうこうしている内に、アカンベェは浄化され、

バッドエンド空間も消滅。

これで終わった、のだけど……。

 

れいか「あの、皆さん。ちょっと良いですか?」

みゆき「ん?どうかしたの?」

れいか「あ、いえ。実は私、たこ焼きを食べていた時、

    ずっと上の空だったので、もう一度

    食べてみたいな~、なんて」

恥ずかしいのか、顔を赤くしながら呟くれいかに……。

 

あかね「しゃぁないなぁれいかは!んじゃ、

    もう一回たこ焼き、食べに行くでぇ!」

み・や・な「「「お~~!」」」

と言う事で、もう一度たこ焼きを食べる事に

なった私達でした。

 

そんなこんなで、大凶だったり、襲われたり、迷子に

なりかけたりと、私達のドタバタな修学旅行は

終わりを迎えた。

 

……けど、さっきの胸の高鳴りは一体。

今の私は、フュージョンという闇の部分を

抱えている。でもあれは……。

むしろ、プリキュアと言う光の属性への

共鳴のような……。

でも、どうして?

 

 

黄金の胸の内に芽生えた新たな謎。

 

彼女がその意味を知るのはまだ先の事。

 

光と闇を持つに至ってしまったアギト。

 

果たして、相反する二つの力を持つ彼女に

待っている未来は?

希望か?それとも絶望か?

 

それはまだ、誰にも分からない。彼女自身にも。

 

そして、もう一つ、新たな運命の歯車が

かみ合おうとしているのを、彼女達は

知らない。

 

     第14話 END

 




次回はオリジナルの14.5話をやるつもりです。
お楽しみに!


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第14.5話 新たな出会い

今回は全てオリジナルです!新キャラが登場します!


~~前回までのあらすじ~~

京都に引き続き、修学旅行で大阪へとやってきた

みゆき達。序盤にて危うくはぐれる所だったが

黄金の力ですぐさま合流する事が出来た。

一方で、れいかは黄金が戦いの中で何度も

ボロボロになる事を危惧しており、彼女は

その想いを黄金に打ち明ける。それでも、黄金は

れいか達5人を守る為に戦い続ける決意を

示し、二人は互いを守る意思を示した。

その直後、マジョリーナのアカンベェが出現

するが、アギトとビューティの合体技、

5人のヒーリングの力で無事撃退されるのだった。

 

 

~~ウルフルン達の基地にて~~

ウル「どういう事だジョーカー!テメェに貰った

   青っ鼻、全然役に立たねぇじゃねぇか!」

ウルフルン達幹部3人が、ジョーカーを責めていた。

ジョー「申し訳ありません皆様。私としても、

    少々プリキュアを見誤っていた

    ようです」

マジョ「んん?どう言う意味だわさ?」

マジョリーナが疑問符を浮かべると、ジョーカーは

右手で2本、指を立てた。

ジョー「一つは、ウルフルンさんとの最初の戦いで

    生まれたレインボーヒーリングなる技。

    無効化出来るはずだった、これまでの技

    を超える新たな技を土壇場で生み出した事。

    もう一つは、アギトのしぶとさです。

    アギトはプリキュア以上にしぶとかった、

    と言う事です」

アカ「けどどうするオニ。青っ鼻が使えない

   んじゃ意味ないオニ」

ウル「そうだっ!何かねぇのか、もっとこう、

   簡単にプリキュアをぶっ飛ばせそうなの!」

ジョー「無い、訳ではありませんが……」

と、ジョーカーが言うと……。

 

アカ「あるオニ!?」

マジョ「あるなら見せるだわさ!」

と、幹部達がそう迫った。

ジョー「分かりました。ではこちらへ……」

そう言うと、ジョーカーは3人を伴って

どこかへと歩き出した。

 

   「実は以前、横浜で一つの戦いがありました」

と、歩きながら3人に対して語り出すジョーカー。

   「その戦いの中で、キュアアギトは右腕が

    切断されるほどの重症を負いました。

    幸か不幸か、アギトは右腕を再生させ、

    今も普通に生活しています。

    しかし、その時私はそこに居ました。

    そして、回収したのですよ。その

千切れた右腕を」

マジョ「で、それが何だって言うんだわさ?」

そうマジョリーナが問いかけた時、ジョーカー

があの部屋の前で止まり、扉を開いた。

 

ジョー「その右腕の細胞からクローニングを

    行い、クローン、つまり人造人間を

創り出しました。それが、こいつら

です」

そう言って、ジョーカーが示したのは、

あのポッドだった。

ウル「何だぁ?こいつら人間か?」

ジョー「はい。今回は、敢えて人間を模倣

して創りました」

アカ「何でわざわざ人間なんかにした

オニ?」

ジョー「理由としましては、人である事です。

    プリキュアがこれまで戦ってきた敵、

    即ちアカンベェとは人間離れした

存在です。しかし、そんなプリキュアの

前に人間の姿をした敵が現れれば、彼女

達はどう想うでしょう?守るべき人間と

そっくりな敵を果たして倒せる

でしょうか?」

ウル「成程。人間らしくして攻撃するのを

   躊躇わせる訳だな」

アカ「なら、俺様が使わせて貰うオニ!」

ウル「あぁ!?待てよ!こいつらは俺様が

   使うぜ!」

マジョ「違うだわさ!私だわさ!」

と、誰がG3とG4を使うかを揉め始める3人。

 

しかし……。

ジョー「何か勘違いされていますが、こいつら

    は皆さんの指揮を受けませんよ?」

と、ジョーカーが呟いた。

ウル「あぁ!?そいつはどう言う事だ

   ジョーカー!」

ジョー「この二体は独自に考え行動します。

    皆さんの命令を聞く必要も

    ありません。ですので、皆さんの

    お手を煩わせる事はありません

    ので、ご安心下さい」

と、言っているジョーカー。

 

しかし、その表現を悪い意味でとれば、

ウルフルン達3人は必要無い、と言われて

居るような物だ。

ジョー「最終的なチェックは終えています。

    後は私の命令に背かない洗脳を

    施せば、プリキュアと戦わせる事が

    可能です」

そう言うと、ジョーカーは3人の側を

通り過ぎる。

   「後数日もあれば、二人を実戦で

    使える事になるでしょう」

とだけ言い残して、ジョーカーは

部屋を後にした。

 

残されたウルフルン達。

ウル「俺たちがいらねぇだと?

   ふざけやがってジョーカーの奴!」

アカ「こんな奴より、俺様の方が強いオニ!」

ジョーカーが居なくなってから、悪態をつく

二人。

マジョ「けど不味いだわさ」

ウル「あぁ?何が不味いんだよ」

マジョ「考えてもみるだわさ。もし仮にこいつら

    がプリキュアを倒したら、あたし達の

    面目丸つぶれだわさ!」

その言葉を聞くと、ウルフルンがG3のポッド

へと歩み寄る。

ウル「けっ。ふざけやがって」

すると……。

   『バンッ!』

  「俺様がこんなちっこいガキより

   弱いってか!?あぁ!?」

マジョリーナの方を睨みながらG3の

ポッドを何度も叩くウルフルン。

 

すると……。

   『ビーッ!ビーッ!』

突然部屋の中に赤い光とアラームが鳴り響く。

アカ「な、何事オニ!?」

マジョ「なんなんだわさ!五月蠅いだわさ!」

耳を塞ぐ3人。その時。

 

   『緊急事態発生!緊急事態発生!

    ポッド1にダメージを確認!

    緊急離脱シークエンスを執行!

    ポッド1、転送を開始します!』

ウル「はぁっ!?ちょ、ま、待て!」

転送、と言う言葉に慌てて更にポッドを

叩くウルフルン。

しかし、それは逆効果だった。

 

『転送座標確認、人間界、

 七色ヶ丘市。転送開始、5秒前。

 4、3、2、1。転送』

電子音声と共に、G3を内蔵したポッドが

光に包まれどこかへと消えてしまった。

 

アカ「な、何やってるオニ!?片方

   どっか行っちゃったオニ!?」

マジョ「ま、不味いだわさ!これがもし、

    ジョーカーに知られたら……!」

ウル「い、急いで探せ!おらお前等も来い!」

アカ「何でお前が威張ってるオニ!?」

ウル「っるせぇ行くぞ!ジョーカーに

   バレる前にあいつを回収するんだよ!」

と、慌てた様子で3人は人間界へと向かった。

 

一方その頃、人間界では……。

 

黄金「はぁ~。今日は平和だね~」

平日の昼下がり、私服姿で黄金たち7人が

街を歩いていた。

 

平日なのに黄金たちが街に居る理由は、

数日前の修学旅行が理由だ。土日を

挟んでの旅行だった為、代休としての

休みがあったのだった。

 

なお「この後どうしよっか?どっか寄ってく?」

みゆき「あっ。それなら私本屋さんとか

    覗いてみたい」

やよい「あっ。私も」

と、彼女達がそれぞれどこに行くか

話していた時。

   『キランッ!』

キャンディ「クル?みんな、今何か光ったクル」

あかね「へ?」

キャンディ「何か、あっちの方に落ちたクル」

黄金「落ちたって……」

私は話していたとき、以前のマジョリーナの

イレカワールの一件を思い出した。

  「またマジョリーナのヘンテコアイテム

   じゃないでしょうね~」

れいか「念のため、確認しましょう」

 

私達は、キャンディの言う何かを探して

その方向に向かった。場所は、私達の

いた場所から歩いて数分、林の方だった。

草木をかき分け進む私達。

 

やよい「ん、しょっ。ん?

    あぁ!みんなあれ!」

林の中を歩いていると、後ろに居た

やよいちゃんが何かに気づいた。

みゆき「え?何々?」

やよい「ほら見て!あそこ!」

そう言ってやよいちゃんが指さす先では、

木々の合間に、何か銀色のような物体を

見つけた。

 

しかもその物体からは僅かに煙が上がっていた。

黄金「あれかな?行ってみよう」

私の言葉に頷き、みんなでゆっくり、

前例があるから警戒しながら近づいていく。

木々の後ろに隠れながらそれ、ポッドの

ような物まで近づく。

 

あかね「な、なんやあれ?鉄の棺桶か?」

やよい「何だか、SF映画とかに出てくる 

    脱出ポッドみたい」

目の前に現れた、丸みを帯びた銀色の

ポッドに戸惑うあかねと、似ている物の例を

上げるやよい。

なお「まさか、エイリアンが入ってるとか!?」

みゆき「えぇ~!?」

驚き、まさか?!と言う表情のなおとその言葉に

戸惑い驚くみゆき。

 

れいか「そんなまさか。漫画じゃあるまいし」

黄金「まぁ、プリキュアの存在自体漫画みたい

   だけどね」

と、私はため息交じりのれいかちゃんの言葉に

苦笑を浮かべつつ、静かにポッドに

近づいた。

 

ポッドは、やよいちゃんの言うとおりSF映画

の脱出艇のようだった。

慎重に近づき、そ~っとガラスの中をのぞき

込む私達。すると……。

  「って!?女の子!?」

 

ポッドの中に入っていたのは、エイリアンでも

宇宙服を着た人でもない、裸で青い髪を腰の

辺りまで伸ばした女の子だった。

 

  「どうして女の子がこんな物に、

   それも裸で……」

あかね「な、なぁ。これって開けて出してやった

    方が良いんとちゃうか?」

なお「でも、開けるたってどうやって?」

と、首をかしげる二人。

 

やよい「あっ。ねぇみんな。これ」

その時、ポッドの周りを見ていたやよいが

何かに気づいた。黄金が近づくと、ポッドの

側面に赤いレバーがあった。

黄金「これって……。緊急時にポッドを

   開くレバー、的な?」

やよい「多分そうじゃないかな?」

黄金「……。みんなは下がってて。私が

   やってみる」

みんなを下がらせた私は、ゆっくりとポッドの

レバーを動かした。

   『ガチャンッ』

すると……。

   『プシュゥゥゥゥッ!』

ガラスが開いて中から煙が溢れ出したかと

想うと、ゆっくりガラスのカバーがせり

上がった。

 

私は中をのぞき込み、女の子の首元に手を

当てた。

脈は……。ある。鼻先に指を近づけても、

呼吸している。胸も僅かに動いてるし、

気絶しているだけみたい。

れいか「黄金さん。どうですか?」

黄金「体に傷とかは無いみたい。呼吸も

してるから、気を失ってるだけ

みたいだけど……」

なお「けど、どうするのこの子?まさか

ここにこのままって訳にも

行かないし」

みゆき「やっぱり、交番とか警察の人の

ところに連れて行った方が

良いのかな?」

黄金「……でも、信じて貰えなさそう

だよね。これ」

そう言って、私はポッドの表面を撫でる。

確かに、と言わんばかりにあかねちゃんが

頷く。

 

れいか「ですが、このままと言うわけ

にも行きません」

黄金「そうだね。……じゃあ、とりあえず

   この子を連れてふしぎ図書館に

行こう。あそこなら大丈夫だろうし」

なお「そうだね。あっ、でも、その前に

   服とか着せた方が良いんじゃ」

っと、そうだった。

 

その後、私が一旦家に戻って服を取ってきた。

女の子に服を着せ、私がおんぶすると

街の本屋さんへ行き、そこからふしぎ図書館

へと向かった。

 

黄金「よっ、っと」

図書館のログハウスに入った私達は、女の子を

2階のソファに寝かしつけ、毛布を掛けると

1階でテーブルを囲むように座った。

 

  「ふぅ。これでとりあえず一安心、

   なんだけど……」

なお「何者なんだろうね?あの子」

みゆき「宇宙人でも無いし、宇宙飛行士とか?」

れいか「あんな、私達と同い年くらいの宇宙飛行士

    なんて聞いたこともありませんよ、

    みゆきさん」

みゆき「だよね~」

あかね「ハァ。けど、どないするん?目ぇ

    覚めたら話聞いて、警察に送り届けるん?」

黄金「それしか無いと思うよ。こう言うのは、

   流石にそっちの人達の仕事だと思うし」

れいか「そうですね。私も黄金さんの意見に

    賛成です。……しかし」

と、呟きながら二階の方を見つめるれいかちゃん。

 

   「本当に、あの子は一体どこからやってきた

    のでしょうか?」

と、私達では答えられない疑問符を浮かべ、

みんな同意するように静かに頷くのだった。

黄金「……。もしかして……」

あいつらの刺客?

私はそうつぶやき掛けて、口をつぐむ。

 

それを確定する証拠も無い。

考えすぎだ。

私は自分にそう言い聞かせた。

 

と、その時。

 

???「ん、んっ」

二階から、あの女の子の声が聞こえた。

私達は、席を立って二階へと上がった。

 

 

~~~

う、うぅん。

 

ここは、どこ?

 

あれ?『私』って、誰だっけ?

 

分からない。何も、分からない。

 

私は、『誰』?

 

分からない。分からない。過去も

記憶も、何も無い。

 

その時。

 

みゆき「あなた、大丈夫?」

不意に、誰かが私の顔をのぞき込んだ。

数は6人。

皆女の子だった。

 

でも、私は……。

 

???「あっ」

 

なぜだか分からないけど、『彼女』を

見たとき、私は無意識に、そう呟いた。

 

   「マ、マ」

 

そして、私はもう一度意識を手放した。

 

 

~~~

ん?んん??

今、この子は何と言った?

ママ?私が?

 

目が覚めたのかと思って集まって

みゆきちゃんが声を掛けると、

女の子は赤い瞳で私達全員を見回し、

そして私を見ながらママって言った。

うん、はっきり聞こえた。

ママって。

女の子は再び眠っちゃって、

逆に皆の視線が私に集まる。

 

やよい「い、今この子、黄金ちゃんの

    事をママ、って」

あかね「いやいや!きっとあれや!

    勘違いや勘違い!だって私らと

    この子、見た目殆ど変わらないやん!」

黄金「そ、そうだよ!大体、私は子供を産んだ

   記憶なんてこれっぽっちも無いからね!」

と、私はあかねちゃんに続くようにママ疑惑を

否定する。

 

……。けれど……。

  「……」

何故だろう。私とこの子は赤の他人なのに、

なんて言うんだろう?既視感?初対面の

はずなのに、そうは思えない。

そんな、不思議な感覚に私は苛まれていた。

 

それから30分くらいして……。

 

???「う、うぅん」

再びあの子が目を覚ました。

そして、体を起こそうとしたから

みゆきちゃんが背中に手を回して

それを手伝った。

 

   「ここ、は……」

女の子は、戸惑った様子のまま周囲を、

そして私達を見回した。

   「あなた、達は……」

みゆき「私?私は星空みゆきだよ!

    初めまして!」

あかね「ウチは日野あかねや!よろしゅうな!」

やよい「私は、黄瀬やよいだよ。  

    よろしくね」

なお「緑川なお。はじめまして」

れいか「青木れいかです。はじめまして」

黄金「私は津神黄金。よろしくね」

キャンディ「キャンディはキャンディクル!」

と、私達は順番に自己紹介をした。

 

  「所で、あなた名前は?」

???「私は……。……私は……」

私が質問すると、女の子は何かを言いかけた

かと思うと、俯いてしまった。

 

何で?と思って居ると……。

   「分からない、です」

みゆき「え?それってどういう……」

???「思い出せないん、です。名前も、

    どうして自分がここに居るのかも」

やよい「それって……」

れいか「記憶喪失、ですね」

キャンディ「それって何クル?」

れいか「記憶喪失、と言うのは事故などで

    頭に衝撃を受けた時など、ショックが

    原因で自分や、自分のこれまでの事を

    忘れてしまう障害の事です」

 

あかね「何か少しでも覚えてないん?

    なんかこう、名前とか何か」

 

???「名前。私の……。ッう!」

その時、女の子がこめかみに手を当てて

うめき声を上げた。

黄金「だ、大丈夫っ!?」

慌てて心配する私達。しかし数秒すると、

女の子は静かに手を下ろした。

そして……。

 

???「G、3」

黄金「え?」

何かを呟く女の子。G3?

G3「『G3』。誰かに、そう呼ばれていた

   気がする、です」

黄金「それが、名前?」

 

私の言葉に、G3ちゃん(?)はコクンと首

を縦に振る。

それに、みんな困ったような表情を

浮かべる。

あかね「なんか、その、なぁ?」

なお「うん。軍隊のコードネームみたい」

れいか「それは、その、失礼かと思いますが

    本名なのですか?」

G3「……分からない、です。誰かが、

   私をそう呼んでいた。それしか、

   覚えてない、です」

そう、G3ちゃんは悲しそうに呟いた。

 

その時。

みゆき「じゃあさ、私達で名前をつけて

    あげようよ!」

G3「え?」

みゆき「だって、G3って言うのより、もっと

    可愛い名前が良いんじゃないかな?

    女の子なんだし!」

G3「私の、名前を?」

戸惑うG3ちゃん。

なお「良いね!折角だから可愛いのを

   考えてあげようよ!」

やよい「賛成!」

と、皆戸惑ってるG3ちゃんを完全に

無視してそんな事を言ってる始末。

 

まぁ私も賛成だけど……。

黄金「けど、名前かぁ」

……青い髪と赤い瞳。青い髪は深い青、正しく『蒼』。

その瞳は赤くまるで兎のよう。

蒼い、宝石。と言えば……。

 

  「サファイヤ」

みゆき「え?何々?黄金ちゃんなんて言ったの?」

黄金「あ、えっと。……この子の髪、深い

   青色で綺麗だな~って思って。

   蒼い宝石って考えたらサファイヤ

   なんて名前、どうかな?」

あかね「サファイヤ。うん!えぇやん!」

れいか「では、これからG3さん改め、

    サファイヤちゃんですね」

 

サファイヤ「サファイヤ。それが、私の名前?」

 

こうして、G3ちゃんの新たな名前が、

『サファイヤ』ちゃんで決定した。 

 

で、その後。

みゆき「これでサファイヤちゃんの名前が決まった

    訳だけど、どうしようっか?」

やよい「やっぱり警察に連れて行くべきかな?」

れいか「普通に考えれば、そうですよね」

と、皆で話し合っていると……。

 

サファイヤ「……」

相変わらず、サファイヤちゃんが暗い顔を

していた。それを見たあかねちゃんが……。

あかね「そや!折角やからサファイヤ、ウチで

    お好み焼き食うてき!」

サファイヤ「え?お好み、焼き?何それ?」

あかね「え~~!?サファイヤお好み焼き

    知らんの!?それはもったいないで!

    って事ですぐにウチの店行くで!」

そう言うと、あかねちゃんがサファイヤ

ちゃんの腕を引いて歩き出した。

サファイヤ「え?いや、あの……」

戸惑うサファイヤちゃん。

あかね「大丈夫やて!ごっつ美味いもん

    やから!」

サファイヤ「う、うん」

 

って事で、私は戸惑うサファイヤちゃんを

連れてあかねちゃんのお店へ。

あかね「ほいっ!ほいほいっと!」

私達が見ている前でお好み焼きを焼いている

あかねちゃん。

サファイヤちゃんは、その様子を驚いた

様子で見つめていた。

今も、「お~~」と驚嘆の声を漏らし

初めて見るそれに目を輝かせている。

 

その後、出来やがったお好み焼きは

8人分。

7人「「「「「「「いただきます!(クル!)」」」」」」」

サファイヤ「い、いただきます」

私達が手を合わせると、サファイヤちゃんも

手を合わせてから箸を持ち、お好み焼きを

切り取り食べ始めた。

 

う~ん、記憶は無くても箸とか普通に

使えてるな~。

とか思っていた時。

サファイヤちゃんはフーフーする事なく

お好み焼きを口に!

しかし……。

「んぐっ、んぐっ」

『ゴクンッ』

     「……美味しい」

普通に噛んで飲み込んでしまう

サファイヤちゃん。

後ろから聞こえる皆の声に耳を

傾ければ、6人とも『熱ッ』とか『あちち!』

とか言いながら、フーフーして食べてる。

 

     「ん?どうかしました?」

黄金「あっ!えっと、サファイヤちゃん、

   お好み焼き、熱くない?大丈夫?」

サファイヤ「?大丈夫です、けど……」

と、彼女は特に熱がる様子も無くお好み焼きを

食べていく。

 

……そんなに熱さに強いの?と、内心私は

そう思っていた。

まぁ、とりあえずそんな事は良い。

黄金「美味しい?お好み焼き」

サファイヤ「うん、美味しい、です。こんな

      美味しい物、初めて食べました」

黄金「そっか、良かった」

 

しかし、少し食べ進めるとサファイヤちゃんは

箸を置いた。

  「あれ?どうかしたの?」

サファイヤ「……少し、考えてるんです。こんな

      美味しい物、普通に生活していたら、

      絶対食べてるはず。なのに私は、

      お好み焼きの名前すら知らなかった」

……。その言葉には、サファイヤちゃんの

悲しみの色が浮かんで居た。

     「記憶が無いのは何故なんだろう?

      家族は居るのか?友達は?

      以前の私は、どんな子だった

      んだろう」

 

     「私は、誰なんだろう。って」

 

考えても考えても、自分が何者なのか、

思い出せない。

考えただけでも身震いする私。その恐怖と

不安を、今のサファイヤちゃんは抱えているんだ。

 

だから……。

 

黄金「例え、思い出せないとしても……

   サファイヤちゃんはサファイヤちゃんだよ。

   それは私達が保障するし、覚えている

事だから」

サファイヤ「覚え、て?」

黄金「うん。少なくとも、今のサファイヤちゃん

   には私達が居る。……私には、記憶喪失の

   不安感とか分からないけど、側に居る

   事は出来るから」

 

そう言って、私の左手を、サファイヤちゃんの

右手に重ねる私。

 

  「あんな風に出会ったのも、もしかして

   運命なのかもね」

そう言って、私は笑みを浮かべた。

サファイヤ「黄金、さん」

 

すると、サファイヤちゃんは何故か顔を赤くして

私を見ている。

ん?何故?

 

気になって反対側を向くと……。

 

『『『ニヤニヤ』』』

何故かあかねちゃん、なおちゃん、みゆきちゃん

が笑みを浮かべ……。

『『……………』』

やよいちゃんとれいかちゃんが笑ってるけど

笑ってなかった!

怖いよ二人とも!?私はどこで地雷を踏んだの

ですかぁ!?

 

と、私は若干涙目になるのだった。

 

~~~

一方、その頃。

 

ウル「だ~~!全然見つからねぇ!」

アカ「そもそもお前がバンバン叩くから

   こうなったオニ!」

ウル「うるせぇ文句言ってる暇があったら

   とっとと探せ!」

3幹部が町の上空を浮遊しながらG3が入っていた

ポッドを探していた。

しかし、一行に見つからないポッドに、

苛立ちが募っていた。

その時。

 

マジョ「あ~もう!しょうが無いだわさ!

    こうなったらこれを使うだわさ!」

そう言って取り出したのは、青っ鼻だった。

   「お前達もこれを使うだわさ!

    手は多い方が良いだわさ!」

ウル「成程。それに、人間どもの

   バッドエンドエナジーが集まって

   一石二鳥だな」

そう言うと、ウルフルンは闇の絵本と絵の具を

取り出した。

 

  「世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まれ!

   白紙の未来を黒く塗りつぶすのだ!」

ウルフルンが叫び、闇の絵本に絵の具を

叩き付けると、バッドエンド空間が町に

広がる。

 

  「さ~て、んじゃいっちょやるか」

 

3人「「「出でよ!アカンベェ!」」」

 

3人が一斉に青っ鼻のアカンベェを召喚する。

現れたのは、

バレーボールのアカンベェ。

ローラーのアカンベェ。

遊具のアカンベェ。

その3体だった。

 

ウル「ウルッフッフッフッ!これであいつを

   見つけ出してやるぜ」

 

 

~~~

ッ!!!この感覚は!?

あかねちゃんのお好み焼きを食べ終えて、

食器を洗っていたとき、私達7人は

バッドエンド空間の発生を肌で感じた。

その時。けど、驚く事があった。

 

サファイヤ「なに、これ……」

ッ!?バッドエンド空間の中なのに、

サファイヤちゃんは普通に動いて、驚いた

様子で周囲を見回す。

黄金「さ、サファイヤちゃん大丈夫

   なの!?バッドエンド空間が

   発生してるのに!」

サファイヤ「バッド、エンド?……ッ!?」

私が問いかけると、サファイヤちゃんは

頭を押さえてその場に膝を突いた!

 

黄金「サファイヤちゃん!?どうしたの!?

   大丈夫?!」

サファイヤ「……。知ってる」

黄金「え?」

サファイヤ「その言葉を、私は、知ってる」

 

知ってる?サファイヤちゃんが?バッドエンド

と言う単語自体は、難しい言葉じゃない。

ゲームとかでも良く出るし、知っている

事自体は大して珍しい事じゃない。

……でも、私達7人から見たら、スルー

出来ない物がある。

 

『奴ら』に通ずる物があるから。

 

やっぱり、サファイヤちゃんは奴らの……。

 

そう思っていた時。

 

あかね「何してんねん黄金!はよ行くで!」

黄金「ッ!うん!」

私はあかねちゃんの声を聞いて我に返ると

すぐに皆の後を追いかけて駆け出した。

 

 

その時、私は忘れていた。サファイヤちゃん

に何も言わずに、彼女を一人にして

しまった事を。

 

 

~~~

みんな、どこかへ行っちゃう。

 

待って。

 

そう言おうとした。けど、何故か声が

出なかった。

 

怖い、一人は怖い。

 

自分が誰かも分からない。ヤだ。

一人に、一人に、しないで……。

 

私は、震える足で立ち上がりながら

皆の後を追っていった。

 

 

~~~

私達が闇の気配を追って走っていると、街

の広場へたどり着いた。そこには、ウルフルン、

アカオーニ、マジョリーナが浮かび、その

すぐ下には3体の青い鼻のアカンベェが

居た。

 

黄金「ッ!アカンベェが3体も!」

アカ「んん?あぁ!プリキュアオニ!」

3人の内、アカオーニが叫び私達の方を

指さした。

 

ウル「何ッ!?ちぃっ!こんな時に!」

あかね「お前等!また性懲りも無く

    現れおって!」

れいか「3人で来れば、負けないとでも

    お思いですか!」

マジョ「ふんっ!今日はお前達の相手を

    してる暇なんて無いだわさ!」

 

ッ。あの3人、何か焦っている?

……。いや、そこを考えても仕方ない。

このままだと、バッドエンドエナジーが

周囲の人達から吸収され続ける。

そしたら……。

 

黄金「そっちに用がなくても、こっちには

   バッドエンドエナジーを集めさせない

   って言う理由があるのよ!皆!」

みゆき「うん!バッドエンドなんて、絶対に

    させない!」

 

 

そして、黄金達は変身する。

『バッ!ババッ!』

黄金「はぁぁぁぁぁ……!」

いつもの動きでオルタリングを出現させる黄金。

 

   『レディ?』

5人「「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」」

   『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

5人が光を纏い変身していく。

 

黄金「変身ッ!」

   『カチッ!』

   『VUUUUUN!!』

黄金もまた、光を纏いアギトへと変身する。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪

    キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を断つ戦姫!キュアアギト!」

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!」」」」」」

 

 

私達は変身を終え、アカンベェ達と相対する。

ウル「ちっ!?こんな時に……!こうなったら、

   先にお前らの相手をしてやるぜ!

   行け!アカンベェ!」

   『『『アッカンベェ!』』』

3体のアカンベェが向かってきた!

 

ハッピー「来るよ!」

アギト「みんなはローラーと遊具の相手を

    お願い!私は、あのバレーボールの

    奴を倒す!」

ビューティ「大丈夫なのですか!?」

アギト「私の技は奴らにも効く!それに

    デコルが入ってないから、それを

    壊す心配も無く、本気でやれるから!

    はぁっ!」

私は、最初のローラーと遊具のアカンベェ

を飛び越え、バレーボールアカンベェに

殴りかかった。

   「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

   『ドゴォォォォォォツ!』

拳が奴の顔面を捕え、そのまま後ろへと

飛ばす。私も一緒になって飛び、とにかく

皆から引き剥がした。

   「お前の相手は、私だっ!」

 

 

アギトがバレーボールのアカンベェと戦っている時、

ハッピー、サニー、ピースが遊具のアカンベェと。

ビューティ、マーチがローラーのアカンベェと。

それぞれ戦っていた。

 

   『アッカンベェ!』

遊具のアカンベェが、バネの形の拘束具を放つ。

サニー「おっと!そうなんども同じ手は

    食わへんで!」

ピース「もうあの日みたいに油断なんて

    しないんだから!」

一方、ローラーアカンベェの突進を

避けるビューティとマーチ。

ビューティ「とは言え、このアカンベェを倒す

      には5人の合体技、レインボー

      ヒーリングでないと……!」

マーチ「何とか隙があれば……!」

 

ハッピー達5人は別れて戦っていた。しかし、

青っ鼻のアカンベェを倒すには5人の合体技

であるレインボーヒーリングしかない。

しかしそれはアカンベェ達も知ってのことか、

5人が合流しようとすると遊具アカンベェが

バネを連射し、ローラーアカンベェが5人を

分断するように突進してくる。

 

ハッピー「ダメ!これじゃレインボーヒーリング

     が使えない!」

叫ぶハッピー。そして彼女は、チラリと

離れた場所で戦うアギトへと目を向けるの

だった。

 

アギト「おぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」

   『ベべべべべベェッ!!!』

そして、そのアギトはウィンディフォーム

となり、アカンベェが繰り出すバレーボール

の雨を蹴りの嵐で相殺していた。

   「はぁっ!!」

ボールの一つを蹴飛ばし、距離を取るアギト。

そして彼女はアカンベェと向き合い構える。

 

 

今、こいつは私が押さえている。でも、こいつ

だけじゃない。まだ他に2体居る。

そして、こいつらを倒せるのはアギトである

私か、レインボーヒーリングだけ。そして、

あの5人技が連発出来るかも分からない。

だから、私がやるべき事は……!

 

   「こいつをぶっ倒して!もう一匹

    倒す事!はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

私は、もう一度バレーボール型アカンベェに

殴りかかった。

 

 

その頃、G3ことサファイヤは暗い街の中を

彷徨っていた。

サファイヤ「みんな……。どこ?」

周囲の人々は皆全て地面に膝を突き、項垂れて

いる。彼女はそんな状況に戸惑いながらも、

みゆきや黄金達に会う為、足を進めた。

 

   『ドォォォンッ』

     「っ!?な、何?」

突如聞こえてきた爆音にビクッと肩をふるわせ、

音のした方へ視線を向けるサファイヤ。

見れば、彼女からそう離れていない場所で

砂煙が上がっていた。

 

そして……。

アギト「はぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

彼女の耳に届いた声。それは聞き覚えのある物

だった。

あっちに、みんなが、黄金さんが居る!

あそこに行けば、皆に会える!

 

 

その感情に突き動かされ、G3、サファイヤは

駆け出した。

 

 

アギト「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!!はぁっ!」

   『アッカンベェ~~~~!』

   『ドォォォォォォォンッ!!』

私はウィンディフォームで何百とバレーボール

アカンベェの体を蹴りつけ、ようやく1体を

撃破した。

   「ハァ、ハァ、ハァ!あと、2匹!」

私は、すぐに視線を巡らせ、5人の方へと

跳躍。

   「うおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

   『ドゴォォッ!』

   『ベェッ!?』

ローラーアカンベェの後頭部に蹴りを入れ

皆の前に着地した。

 

ハッピー「アギト!」

アギト「ごめん、お待たせ!バレーボールのは

    倒したから安心して!」

サニー「よっしゃぁ!これで残りはあいつら

    だけや!」

私の言葉にサニーが叫び、他の4人も笑みを

浮かべながら頷く。

 

と、その時。

 

サファイヤ「み、みんな!!」

後ろから声が聞こえた。慌てて振り返ると、

そこには息を切らしたサファイヤちゃんの

姿があった。

 

アギト「さ、サファイヤちゃん!?」

ハッピー「えぇ!?どうしてここに!?」

驚きで、私達は一瞬動きを止めてしまった。

 

ウル「ん?あっ!おいあの女!」

アカ「あぁ!間違い無いオニ!あいつオニ!」

マジョ「見つけただわさ!アカンベェ!

    あの青い髪の女を捕まえるだわさ!」

   『アッカンベェ!』

 

その時、遊具型アカンベェが何故かサファイヤちゃん

に向けてバネを放ってきた。

 

サファイヤ「あぁっ!」

驚き、動けないサファイヤちゃん。

ハッピー「危ないっ!」

そんな彼女の前に皆が飛び込み、バネを

弾き飛ばす。

でも……。

 

   『アッカンベェ!』

そこにローラー型アカンベェが突進

してきた。

ビューティ「ッ!?危ない!!」

   『ドガガッ!』

ハッピー「うわぁぁっ!」

サニー「くあぁぁっ!」

ピース「きゃぁぁぁっ!」

その攻撃を避けきれなかったハッピー、サニー、

ピースが弾き飛ばされる。

 

アギト「ハッピー!サニー!ピース!

    クッソォッ!」

私はすぐさま飛び出し、ウィンディレッグの

飛翔能力で遊具型アカンベェに迫る。

   「おぉぉぉぉぉぉっ!」

   『ベェッ!?』

   「はぁぁぁぁぁぁぁッ!」

   『ドゴォォッ!』

私の蹴りが遊具型アカンベェを弾き飛ばす。

 

にしても……。

 

   「お前ら!なぜサファイヤちゃんを

    狙った!?」

アカ「あぁん?何でそんなこと知りたがるオニ!

   まぁでも、あの子供がキュアアギトの右腕から

   作られた~なんて教えてやらないオニ!」

ウル「あっ!?おいバカっ!」

 

ッ!?何、て?今、奴は、私の右腕から、サファイヤ

ちゃんが作られた?そう、言ったの?

アギト「ッ!!!どういうことだ!サファイヤ

    ちゃんが、私の右腕から作られたって。

    答えろ!どういうことだ!」

ウル「ちっ!?このバカ!余計な事まで

   喋りやがって!」

そうアカオーニを罵倒するウルフルン。

 

 

しかし、彼はアギトを見ると何かを思いついた

かのようにニンマリと嫌な笑みを浮かべた。

  「あぁ良いだろう。冥土の土産に教えて

   やろう。キュアアギト、お前俺たち以外

   の敵と戦って、右腕ぶった切られた事が

   あるらしいな?」

 

 

ッ!まさか、横浜での戦い!?

  「俺等の仲間がそん時近くに居たのさ。

   んで、千切れたお前の腕を回収したん

   だとよ」

ビューティ「アギトの右腕を!?一体なんの

      為に!」

ウル「そんなの俺等が知るかよ。けど、あいつは

   拾った右腕からくろーにんぐ?ってので

   クローンって奴を作ったらしい。それが、

   そこに居る青い髪の女なんだとよ!」

 

サファイヤ「ッ!!!」

ウルフルンの言葉に、サファイヤちゃんは

肩をふるわせ目を見開いている。

 

アギト「くっ!?なんで、何で私のDNAから

    サファイヤちゃんを作った!?」

ウル「そりゃ、もちろんテメェ等プリキュア

   と戦わせるために決まってんだろうが!」

ッ!!!

 

サファイヤちゃんが、奴らの作り出した刺客

って事。

その事実に、私や皆が愕然となる。

 

そして……。

ウル「さ~って、つ~わけだG3。テメェの

   力でプリキュアを倒せ!」

サファイヤ「ッ!?……え?」

ウル「おらどうしたぁ!テメェはプリキュアと

   戦う為に生み出された、人の形をした

   兵器なんだよ!さっさと戦え!」

 

ウルフルンが叫ぶ。サファイヤちゃんは、

震えながら自分の両手を見ている。

 

サファイヤ「私が、兵器?皆を、倒す為に……。

      作られた?」

ウル「そうさ!オメェは戦う為に、そのためだけ

   に作られたんだよ!分かったらさっさと

   戦え!プリキュアを倒すんだよ!」

 

しかし、サファイヤちゃんはその命令を聞いて

も震えているだけだった。

  「ちっ。ジョーカーめ、あんなガキなんか

   作りやがって。……役立たずに用はねぇ。

   やれ!アカンベェ!」

マジョ「ってっ!人のアカンベェに勝手に

    命令するなだわさ!」

 

   『アッカンベェ!』

何やらマジョリーナが叫んだかと思うと、

遊具型アカンベェがサファイヤちゃん目がけて

無数のバネを乱射してきた。

 

不味いっ!!!

そう、考えた時には私自身、体が勝手に

動いていた。

ベルト左側のスイッチを叩き、ストーム

フォームに変身した私は、ストームハルバード

を取り出し、高速回転させる。

 

音を立てて弾かれるバネ。しかしその数は

かなりの物で、防ぐのが精一杯だった。

 

サファイヤ「やめて……」

 

その時、後ろからサファイヤちゃんの掠れた

声が聞こえた。

見れば、サファイヤちゃんは地面に膝と手を

突き俯いている。

     「やめて、ください。どうして、

      私を守るの?私は、黄金さんや、

      みゆきさん達を、倒すために、

      作られた兵器なんですよ?」

 

アギト「ッ!関係、無い!」

 

サファイヤ「どうして!?私は、あなた達の

      敵なんですよ!?みんなを倒す。

      その為に生まれた、兵器

      なんですよ!?」

 

彼女は、自らを兵器と呼ぶ。

 

それはまるで過去の私のようだった。

 

自らが化け物だと思い込んで、それで

他人を拒絶して。人とはわかり合えない。

そう思っていた。近づいても傷付けられる。

だから、傷つかないように、離れなければ。

そう思っていた。

 

でも、心のどこかでは救われる事を

願っていた。

誰かに手を差し伸べて欲しかった。

 

だから……!!

 

アギト「違う!」

 

私は彼女の言葉を『否定』する。

 

   「あいつらの言ってる事が本当だと

    しても、私達の前に居るのは、

    プリキュアの敵なんかじゃない!

    サファイヤちゃんなんだ!」

 

サファイヤ「ッ!!」

 

アギト「私も、似たような経験をした!

    ある日突然アギトになって、自分が

    怪物になった事に恐怖した。

    色々怖かった!だから人から離れた!

    友達から、周囲から、全てから!

    でも、そんな私を友達として

    受け入れ、救ってくれた人が居る!

    それがみゆきちゃん達なんだ!」

 

ハッピー「アギト……」

 

アギト「そして思い知った事がある!力は、

    所詮力でしかない!その使い方を

    決めるのは、全部自分!彼奴ら

    みたいに悪い奴にもなるし、プリキュア

    みたいな正義の味方にだってなれる!

    そして……!私はプリキュアの味方である

    道を選んだ!!」

 

サファイヤ「道を、選ぶ?」

 

アギト「そう!!自分がどうしたいのか、何が

    したいのか!それを決めるのは全部

    自分だ!自分の思いに、私はもう

    嘘をつきたくない!ハッピー達を  

    守ると決めた!!そして、サファイヤ

    ちゃん!貴方の側に居るって、私は

    あの時貴方と約束した!」

 

サファイヤ「ッ!!!」

 

 

その時、防御を突破して飛来したバネの一つが

アギトの左腕を掠める。

 

アギト「うっ!?」

 

サファイヤ「黄金さん!もうやめて!

      このままじゃあなたが!」

 

アギト「嫌だ!!!」

 

サファイヤ「黄金さん……」

 

アギト「私は、サファイヤちゃんの側に居る

    って約束した!」

 

そう叫ぶと、アギトは静かに、肩越しに

振り返りこれまでとは違う、優しい表情を

浮かべた。

 

   「それに、サファイヤちゃんが私から

    作られたって言うのなら、

サファイヤちゃんは私にとって、

妹とか、娘みたいなものだから」

 

サファイヤ「ッ!!……黄金、さん」

 

その言葉に、サファイヤは涙を流す。

 

アギト「家族を守るのは、姉として、お母さん

    として、当たり前だからねっ!!」

 

そう叫ぶと、一瞬の隙を突いてアギトが

ストームハルバードを投げた。

   『ベェッ!?』

その攻撃に驚く遊具型アカンベェ。しかし

避ける事も敵わず、撃ち落とされた。

 

   「さぁ!人の家族に手を出そうって

    言うなら、私が相手よ!」

 

そう叫ぶ私。

 

サニー「な、なんや。アギトがマーチに

    なってる」

って、誰がオカンよ。ってツッコもうと

したけどやめて、私は飛び出した。

 

そんな中で、サファイヤは……。

 

 

~~~

あの人は、黄金さんは、言ってくれた。

私のことを家族だと。兵器として生まれた

と聞いたときは、驚き、絶望しかけた。

それでも、あの人の言葉が、私を、

サファイヤとしての私をつなぎ止めて

くれた。

 

今、私の目の前で、黄金さんが……。

お母さんが戦っている。

 

アカ「行くオニ!アカンベェ!」

   『アッカンベェ!』

アギト「しまっ!?くぅぅぅっ!!」

お母さんが、ローラーみたいな怪物に

弾き飛ばされ、近くのお店に激突して

しまう。

 

   「くっ!?まだまだぁっ!」

けれど、お母さんは諦めずに戦っている。

 

お母さんは、私を守ってくれている。

私も、守りたい。お母さんを。

 

欲しい。戦う為の力が。お母さんの

隣で、一緒に、『戦いたい』!!

 

 

彼女の、サファイヤの思いが荒ぶる時、

彼女の中に埋め込まれていた力が

覚醒した。

 

 

   『パァァァァッ!』

突如として、彼女の足下に青白い

魔法陣が現れた。

ハッピー「ッ!?あれって!」

驚き声を荒らげるハッピー。

 

そして……。

 

サファイヤ「お母さん、私も、戦う。お母さん

      やお母さんの友達を、守る」

魔法陣の中でサファイヤが立ち上がる。

     「その為に、戦う!!」

 

彼女が叫んだ次の瞬間、彼女の体が

青白い光に包まれた。

 

彼女の纏っていた服が消えたかと思うと、

次の瞬間には黒いライダースーツが

彼女の体を覆う。

 

更に、青白い粒子が彼女の腕や足、胴体

へ吸い寄せられるように集まり、それが

形を成していく。

 

脚部を覆う、青い鋼鉄のアーマー。胴体部を

覆う、銀色のチェストアーマー。更に肩や腕

も青い装甲が覆っていく。腹部にはベルトが

巻かれ、ベルト中央にはエネルギーゲージの

ような物が装備され、ゲージは満タンだった。

 

そして、最後に彼女の頭上にヘルメットが

現れ、ゆっくりと落下しサファイヤの頭部を

すっぽりと覆った。

ヘルメットは額の辺りまでを完全に隠し、

その部分にはアギトのクロスホーンにも

似た、中央の一本が短い、3本のメカニカル

な、アンテナのような角が生えていた。

かと思うと、ヘルメットの上部、額の

辺りからサファイヤ、いや、G3となった

彼女の目元を守る赤いバイザーが降りてきて、

保護した。

 

 

それが、サファイヤの本来の姿。

『G3』だった

 

ハッピー「あれが、サファイヤちゃんの

     本当の姿」

 

G3「G3です」

 

サニー「え?」

G3「この姿の時は、そう呼んで下さい。

   それが、私のもう一つの名前です」

ピース「G、3」

 

G3は、ハッピー達に向かってそう微笑むと、

前方の3人とアカンベェを睨み付ける。

 

ウル「テメェ!どういうつもりだ!」

G3「どうもこうもないです。私は、貴方達

   の所へは戻らない。私を私として、

   サファイヤの名を与えてくれたお母さん

   やその友達を守る為に戦う。

   そう決めたんです」

アカ「むぅっ!生意気オニ!アカンベェ!」

   『アッカンベェ!』

 

アカオーニの命令でローラー型アカンベェ

が彼女に向かって突進してきた。

ビューティ「危ない!」

咄嗟に叫ぶビューティ。

 

だが……。

 

G3「標的確認。アーマメントモジュール、

展開」

彼女がそう呟き右手を前に翳すと、彼女

の前に青白い魔法陣が浮かび上がり、その

中から銀色の、長方形のボックスが

現れた。その右隣に移動するG3。

  「GM―01、アクティブ」

更に彼女が呟くと、ボックスの一面の、

さらに一部が稼働し、中から、拳銃と

言うには大きく、しかしアサルトライフルと

言うには小さい、そんな銃、

『GM―01スコーピオン』が現れた。即座

にそれを片手で握るG3。そして……。

   『ドキュンドキュンッ!!』

それをローラーアカンベェ目がけて

ぶっ放した。それが、寸分違わず

アカンベェの両目を貫いた。

   『アカッ!?アッカンベェッ!?』

視力を失ったアカンベェはフラフラと揺れ、

近くの建物の壁に衝突した。

 

それを見たアギトやハッピー達が、皆

驚いていた。

ハッピー「す、凄い!」

ピース「何だか、SF映画の主人公

    みたい!」

サニー「おっしゃぁ!行ったれG3!」

マーチ「負けるなぁ!G3!」

と、口々に叫ぶサニーやマーチ。

 

ビューティ「って!皆さん!私達も

      行きますよ!」

ハッピー「っと、そうだった!行こう

     みんな!」

ハッピー達5人はうなずき合い、駆け出す。

 

アギト「ハァッ!」

彼女は、遊具型アカンベェを蹴飛ばすと

後ろに下がった。その時、彼女の隣に

G3が現れた。

 

G3「……。お母、さん」

アギト「……うん。一緒に、行こう」

そう言って、彼女が右手を差し出す。

 

G3「うん、お母さん」

そして、G3も左手で彼女の右手を取り、

握り返す。

 

そして、そんな二人の周囲に着地する

ハッピー達。

アギトは、ハッピーに目配せをする。

 

アギト「あっちのちっこいには私と

    G3で倒すから。皆はあっちの

    ローラーアカンベェをお願い」

ハッピー「うん!任せて!みんな、行くよ!」

彼女のかけ声に従い、目を潰されて

遮二無二に暴れるローラー型アカンベェに

向かっていくハッピー達。

 

マジョ「えぇい!アカンベェ!そいつら

    を倒すだわさ!」

   『アッカンベェ!』

マジョリーナの指示に従い、バネを連射

するアカンベェ。

   『ドキュンドキュン!』

アギト「はぁっ!」

しかし、その全てがG3の正確無比な射撃

とアギト・ストームフォームの拳と蹴りの

前にたたき落とされる。

 

G3「お母さん。私があいつの動きを

   止めます」

アギト「うん!任せる!」

G3「はいっ!」

彼女は、アギトの言葉に頷くと後ろへと

飛んだ。

 

そして、アーマメントモジュールの側に着地

するG3

  「GA―04!アクティブ!」

モジュールが開き、中から現れた

アンカーランチャー、『アンタレス』に

右手を差し込み装着した。

 

そして、彼女はアギトと戦っている遊具型

アカンベェに気づかれないように、近くの

建物の上に飛び乗った。そして、静かに

右腕をアカンベェに向け……。

 

  『今だッ!』

   『ボシュッ!』

音と共に発射されたアンカーが、アカンベェ

の体に向かって言った。

   『ベェッ!?』

アカンベェが気づいた時には、もう遅い。

アンカーがその体にグルグルと巻き付く。

   『ベェッ!ベェッ!』

咄嗟に逃れようとするアカンベェ。

しかし、鋼鉄のワイヤーの拘束から逃れる

事は出来なかった。

 

  「お母さん!今のうちに!」

アギト「うん!」

 

アギトは、ストームフォームからグランド

フォームとなると、クロスホーンを展開し、

ポーズを取り、足下に出現した紋章の力を

取り込んでいく。

 

ハッピー「それぇっ!」

そんな中で、ハッピーの跳び蹴りが暴れていた

ローラー型アカンベェを倒した。

    「キャンディ!」

 

キャンディ「皆の力を、合わせるクル~!」

 

5人「「「「「プリキュア!レインボーヒーリング!」」」」」

 

5人の放つレインボーヒーリングの波動が、

ローラー型アカンベェを浄化する。

 

アギト「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

更に、高く飛び上がったアギトの

ライダーキックが動けない遊具型アカンベェ

に命中。

大きく弾き飛ばされ、爆発、消滅した。

 

蹴った反動で着地するアギトとその元に

駆け寄るハッピー達とG3。

 

アカ「あぁぁぁぁっ!俺様のアカンベェまで

   やられたオニ!」

マジョ「くっ!?こうなったら逃げる

だわさ!」

ウル「なっ!?おい待てよ!」

そして、アカンベェが3体ともやられたのを

見ると、幹部3人は撤退していった。

 

 

そして、それを静かに見送ったアギト、

ハッピー達だった。

 

バッドエンド空間が消滅した後。夕方の

公園にて。

 

みゆき達5人と向かい合うサファイヤと黄金。

 

あかね「それで、黄金。どうするん?

    サファイヤの事」

黄金「……警察には届けない。

   私が何とかする」

彼女がそう言うと、俯いていたサファイヤが

僅かに視線を上げた。

 

黄金「サファイヤは、私の右腕のDNA

   から作られた、言わば私の妹とか、

   娘みたいな存在だから。だから、

   見捨てない。私が何とかする」

 

 

私は、そう言って皆を見つめる。そして、

皆は……。

 

みゆき「分かった。じゃあ私達も協力

    するよ!」

あかね「せやな!サファイヤは新しい

    仲間や!」

やよい「困った事があったら、何でも

    言ってね!」

なお「私達が力になるからさ!」

れいか「いつでも相談に乗りますよ」

 

黄金「みんな。……ありがとう」

そう言って、皆サファイヤの事を

受け入れてくれた。

 

サファイヤ「お母さん」

その声に、顔を彼女の方に向ければ、

どこか戸惑っている表情を浮かべる彼女が。

 

それを見た私は……。

 

黄金「大丈夫だよ。これからは、私が

   サファイヤの家族で、友達で、

   友人だから」

 

そう言って、優しくサファイヤを抱きしめた。

 

そして、彼女も……。

 

サファイヤ「うん……!お母さん……!」

 

涙ながらに私を抱き返すのだった。

 

 

そうして、スマイルプリキュアの元に

新たな戦士が仲間となって加わったのだった。

 

 

 

ちなみに、あの後サファイヤに確認した所

食事は出来るけど必要、と言う訳ではなかった

みたい。そのため、話し合いの結果普段は

ふしぎ図書館のログハウスに居て貰う事に。

 

でも、その日の夜だけは……。

 

   『パァァァッ』

サファイヤ「お母さん」

 

ふしぎ図書館から、本棚を通ってサファイヤが

パジャマ姿で私の部屋にやってきた。

あのパジャマは私のお下がりだ。

 

黄金「うん、こっちおいで」

私はベッドの淵をポンポンと叩き彼女を

招く。

 

サファイヤがベッドに潜り込むと、私は

部屋の電気を消し、自分もベッドに入る。

互いに顔が見えるように体を向かい合わせに

する。

 

サファイヤ「お母さん」

 

黄金「うん、おいで」

 

私はベッドの中で、サファイヤを抱きしめ、

そのまま二人で眠りについた。

 

 

新しい仲間は、とても頼もしい、

私の妹であり娘。

 

そしてこの日、私には新たに守りたい存在が

出来たのだった。

 

     第14.5話 END

 




最初、G3ことサファイヤの立ち位置を妹か娘のどっちに
するか迷ったんですけど、娘って事にしてみました。

感想や評価、お待ちしています!


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第15話 母の日

今回は第15話がベースですが、G3ことサファイヤと黄金にもスポットを当てたオリジナルな部分もあります。


~~~前回までのあらすじ~~~

修学旅行を終えて戻ってきたみゆき達7人は、

代休という事で集まっていた。そんな中、

彼女達は森林に落下したポッドを見つけ、その

中で眠っていた青い髪の少女を保護した。

ふしぎ図書館のログハウスに少女を運び込んだ

みゆき達。しばらくして少女は目を覚ましたが、

彼女は自分が、誰かに『G3』と呼ばれていた

事以外、何も覚えては居なかった。新たな

名前として、サファイヤの名前をみゆき達から

貰った少女。しかし、そんな中で街中に

現れた3幹部。そして更に、少女、サファイヤ

は、かつて横浜の戦いで切断された黄金、

アギトの右腕の細胞から得られたデータを元に

造られたクローンだった事が分かってしまう。

戸惑い、絶望するサファイヤ。しかし、

姉であり母でもある黄金の言葉を聞き、彼女は

プリキュアを倒す為に生み出された力で、

アカンベェ達を退け、黄金達に迎え入れられる

のだった。

 

 

~~ふしぎ図書館・ログハウスにて~~

 

『キュッ、キュッ』

今、私は手作りのクッキーを入れた袋を綺麗に

ラッピングしていた。

サファイヤ「……。お母さん、何してるの?」

その時、それを側で見ていたサファイヤが

不思議そうな顔をして私を見ている。

黄金「これはね、プレゼントを創ってんだよ」

サファイヤ「プレゼント?誰にあげるの?」

黄金「私のお母さんにあげるんだよ。今日は

   母の日だから」

サファイヤ「母の、日?」

と、首をかしげるサファイヤ。

そっか。元々戦う為に生み出された

サファイヤが、そんな事知ってる訳無い

よね。

 

黄金「えっとね。母の日って言うのは、お母さん

   にありがとうって気持ちを込めて、贈り物

   をしたり、何かを手伝ってあげたりする

   んだよ?」

サファイヤ「そう、なんだ。……じゃあ、私も

      お母さんに、何か贈り物をした方が

      良いの?」

黄金「え?」

そ、そうだった。サファイヤにとっては私が

お母さんなんだ。

  「ううん。大丈夫だよサファイヤ。まだ

   サファイヤはこっちの事に慣れてない

   んだし、気持ちだけでも十分だから」

サファイヤ「……うん、分かった」

そう言ってどこか悲しげな表情を浮かべながら

頷くサファイヤ。

う~ん、間違ったかな?

 

とか考えていると、上で本を読んでいたみゆき

ちゃんの声が聞こえてきた。

みゆき「ねぇ皆!見て見て~!」

あかね「お~。ちょっと後でな~」

そう答えたあかねちゃんは、何やら難しい顔で

裁縫を続けている。なおちゃんも同じく裁縫で

何かを作って居るみたい。やよいちゃんは

絵を描いているようで、れいかちゃんは……。

あれって陶器でも作ってるのかな?

う~ん、れいかちゃんだけ私達とレベルが

違うな~。とか思いながら私は内心苦笑を

浮かべていた。

 

みゆき「みんな何してるの?芸術の秋?

    ってまだ夏にもなってないし……」

れいか「お母様へのプレゼントですよ」

みゆき「プレゼント?」

と首をかしげるみゆきちゃん。

なお「ほら、母の日だし」

みゆき「母の日?何時?」

その言葉に、みゆきちゃんは何やら

戸惑っているみたい。

 

あかね「今日やん今日!」

みゆき「今日……!?」

あっ。みゆきちゃんの顔が強ばった。

これってもしかして……。

黄金「もしかしてみゆきちゃん、今日が

   母の日だって事……」

と、私が聞くと……。

 

みゆき「わ、忘れてた~~~!!」

4人「「「「え?……え~~~!?!?」」」」

黄金「あちゃ~~」

戸惑い絶叫するみゆきちゃん。更に驚くあかね

ちゃん達。私は額に手を当てながら苦笑を

浮かべるのだった。

 

 

一方、ウルフルン達の基地では……。

ジョーカー「これは一体、どういうことですか?」

静かながらも、怒気を孕んだ声で空っぽの、

ポッドが置かれていた場所を見つめる

ジョーカー。そんな彼の後ろでは、ウルフルン、

アカオーニ、マジョリーナが立たされていた。

 

     「G3が転送され、しかもプリキュア

      の味方になった、と?」

普段は敬語を使うジョーカーだが、今日ばかりは

高圧的だ。

アカ「あ、あれはウルフルンが悪いオニ!

   何度もポッドを叩くからオニ!」

ウル「あっ!?テメェ何チクってんだよ!」

マジョ「あれは100%ウルフルンのせい

    だわさ!」

ウル「んだとぉ!?」

と、3人が内輪もめをしている声を聞きながら、

ジョーカーは静かに舌打ちした。そして、

3人の方に振り返った。それだけで3人は

ピタリと止まる。

しかし……。

 

ジョーカー「もう良いです。過ぎたことを

      気にしても始まりません」 

そう言って、ジョーカーは3人の傍を通り過ぎる。

     「こうなったら、残ったG4に

      より強力な洗脳を施します。

      しかしその分、実戦で使えるように

      なるのには時間が掛かりますので、

      それまでは皆さんでプリキュアの

      相手をして下さい。ではこれで」

とだけ言い残して、ジョーカーは部屋を後に

した。しかしジョーカーは廊下を歩きながら……。

     「……役立たず共め」

侮蔑と軽蔑、嘲りを込めてそう呟くのだった。

 

 

戻って地球。みゆき達はと言うと……。

 

 

あの後、みゆきちゃんは急いで帰宅。私も

出来上がったクッキーを手に本棚の扉から

帰宅。下の階のレストランへと向かう。

しかしどうやらお店には結構な数の

お客さんが居て、何だかお母さんも

お父さんも大変そう。

う~む。これ、今行くと色々大変そう。

これはお店を閉める夜まで待った方が

良いかも。

そう考えた私は、自分の部屋へと戻った。

 

でもそこには……。

黄金「あれ?サファイヤ?どうしたの?」

本棚の扉を使ってきたのか、サファイヤが居た。

サファイヤ「うん。私、やっぱりお母さんに

      何かしたくて。今日、母の日、

      なんでしょ?」

どこか不安そうな表情で居るサファイヤ。

黄金「そうなんだけど……」

正直、私には母というものがまだよく

分からない。どちらかと言えば、私自身が

お母さんにありがとうを言う側だからね。

いきなりそれを言われる側になったって

戸惑っちゃう。

 

  「ごめんねサファイヤ。私はまだ、

   お母さんって言うのがよく分かんない

   んだ」

サファイヤ「え?」

私は、首をかしげるサファイヤをベッドに座らせ、

自分もその隣に腰を下ろした。

 

黄金「確かに私は今、サファイヤの姉でありママ

   かもしれない。でも、私はまだ子供なんだ。

   だから、私はまだちゃんとしたママじゃ

   無いかもしれない」

サファイヤ「……そんな事ないよ。ママは、立派な

      ママだよ?」

黄金「そう?」

サファイヤ「うん。だって、私を、娘として、妹

      として、迎え入れてくれたんだもん。

      ……こんな、兵器の、私を」

……兵器、か。

サファイヤは、そう呟くや否やどこか暗い顔

をしている。

だから、こんな時こそ私の出番だ。

   『ギュッ』

黄金「何言ってるのサファイヤ。サファイヤは

   兵器なんかじゃない。私達の、

スマイルプリキュアの大切な仲間で、

私の妹であり、娘なんだから」

私はサファイヤを抱き寄せ、頭を優しく

撫でながら教えるように優しく語りかける。

すると……。

 

サファイヤ「やっぱりだ」

黄金「え?」

サファイヤ「そうやって、優しく私を守って

      くれる。だから、黄金が私のママ

      なんだよ」

そう言って、サファイヤは紅い瞳で私を

見上げる。

その瞳に、私は苦笑する事しか出来なかった。

黄金「そ、そうかな~?」

サファイヤ「うん。そうだよ。そして、だからこそ

      私はママに、ありがとうって気持ちを

      伝えたい」

そう言って、サファイヤは逆に、私の腕を抱き、

体をすり寄せてくる。

黄金「う~~ん」

とは言え、どうしたもんかと唸る私。

 

やがて、思いついた。

  「あ、そうだ。ねぇサファイヤ。じゃあ

   母の日のプレゼント、って事で私のお願い

   を一つ聞いてくれないかな?」

サファイヤ「お願い?何?」

 

黄金「それはね。私とデートしよ」

 

その後、私達はふしぎ図書館を経由して家を

出た後、商店街へ向かった。

さっきはデートとか言ったけど、まぁ実際

には町のことをまだよく知らないサファイヤ

に色々案内してあげようと思っただけ

なんだよね。

 

私達はいろんな場所を歩き回った。本屋や

ペットショップをウィンドウショッピングしたり、

アイスクリーム屋さんで二人してアイスを

食べたりしていた。

そして、ある程度町を回り終わった時、私達は

公園のベンチに並んで座っていた。

 

「ん~~。は~~。いや~歩いた歩いた~」

私は伸びをして、隣に座るサファイヤの方を

向く。

  「どうだったサファイヤ?町を歩いてみて」

サファイヤ「うん。凄く、色んな物があった。

      色んな人がいた。だから、びっくり

      してる」

サファイヤは、目をキラキラさせながら静か

だけど、それでも熱く語っている。

……彼女は、兵器として奴らに創られた存在。

でも、初めて見る物に驚き、心奪われている

姿は、人間と同じ。そうだ。この子は人間と

何ら変わらない。私の妹で、娘だ。

 

今なら、母性というものがどういうものか、

ちょっと分かる気がした。

 

     「でも、お母さんはその、良かったの?」

黄金「ん?何が?」

サファイヤ「これってプレゼントになるの?だって、

      お母さんのお金使っちゃったし、

      私、お母さんに何もあげられてない

      気がする。やっぱり何か……」

黄金「良いの。そう言うのは」

そう言って、私はサファイヤの言葉を遮る。

 

  「母の日はね、お母さんに『いつも

ありがとう』って言う思いを届ける日

なの。何かをプレゼントする事は、

その思いを伝える方法であって、目的

じゃない。だから私、思うんだ。

母の日は、プレゼントを贈る日じゃない。

思いを贈る日なんだって」

サファイヤ「思いを、贈る」

彼女は、私の言った言葉を理解しようとしている

のか、同じ言葉を繰り返す。

 

その様子を見ていたけど、流石にもう私の

お財布の中身がギリギリだし……。

黄金「そろそろ行こっか」

サファイヤ「あ、うん」

私が立ち上がり、手を差し出すとサファイヤは

その手を取って立ち上がった。

 

   『プルルルルッ!』

と、その時、私のポーチに入っていたケータイ

から着信音が鳴り響いた。

黄金「あれ?電話?」

私はポーチからケータイを取り出して通話

ボタンを押す。

  「はい?もしもし?」

みゆき「黄金ちゃ~~ん!ヘルプ~~!」

電話に出た途端、向こうから聞こえるのは

みゆきちゃんの声だった。

黄金「ど、どうしたのみゆきちゃん?

   何か悩み事?」

みゆき「うん!そうなの~!お願い私の

    特技を教えて~~!」

黄金「……………。えぇ?」

は、話が全然見えてこない。

 

 

電話ではしょうが無いので、私とサファイヤは

すぐにふしぎ図書館のログハウスに向かった。

で、そこで話を聞く私達。

 

  「成程。事情は分かったよ。つまり、お金が

   無くて一旦はプレゼント諦めたけど、

   家事が色々ヤバくて、皆が何かを創って

   いるのを見て、プレゼントを自作しよう、

   って事で良いのかな?」

みゆき「うん!それでね、自分の特技を生かした

    物を作ろうと思ったんだけど……」

黄金「みんながそれについて答えられなかった、と」

みゆき「そうなの~!私でも分かんないし~!

    黄金ちゃん、私に特技ってあるの~!?」

 

そう聞かれ、私は頭を悩ませる。

特技、みゆきちゃんの特技か~。

家事全般はさっき失敗したとか言ってたし、

う~ん。みゆきちゃんがよく知ってるのは……。

 

黄金「童話。……あ、絵本」

みゆき「え?何々?何か思いついたの黄金ちゃん!」

黄金「あ~。うん、思いついたって言えば

   思いついたんだけど……」

みゆき「何々!?お願い聞かせて!」

黄金「あぁうん。みゆきちゃんってさ、童話とか

   が好きだよね?もっと言えば絵本とか」

みゆき「うんうん!」

黄金「ふと思ったんだけど、そんな感謝の気持ちを

   絵本にして書いて、お母さんにプレゼント、

   って言うのも悪く無いかな~と思った、

   んだけど……」

みゆき「だけど!?」

黄金「その、ね?時間が足りないかな~って」

みゆき「はっ!?」

 

私の言葉に、みゆきちゃんは息を呑みしばらく

固まったあと、がっくりと項垂れてしまった。

れいか「確かに、今からですと絵本を創る時間

    はとても……」

なお「無い、よねぇ?」

私の言葉に、皆がう~んと唸りながらも頷く。

黄金「ごめんねみゆきちゃん。今はそれくらい

   しか思いつかないや」

みゆき「う、ううん。ありがとう黄金ちゃん。

    でも、どうしよ~」

悩み、机に突っ伏すみゆき。ふと、彼女が横を

向くとキャンディがいた。

   「あっ」

その時、みゆきの目にキャンディが首に下げた

お手製のネックレスが映った。

   「それだぁっ!」

ガバッと起き上がり、キャンディを、正確には

その首のネックレスを指さすみゆき。

 

 

その後、みゆきちゃんはネックレスを創る事に

して、なおちゃんからのアドバイスでチャームは

自作する事に。

粘度からチャームを成形し、絵の具で着色して

いく。

しかし、みゆきちゃんは出来上がったネックレス

のチャームの部分が思ったように出来なかった

事から若干落ち込み気味。

一度は渡すのを止めようか、とか言ってたけど、

周りの皆のアドバイスでメッセージカードを

添える事に。

早速私達7人とキャンディはメッセージカード

のあるお店に向かった。

 

そして、皆してメッセージカードの棚を見ていた

時。

 

『キィィィィィンッ!』

黄金「ッ!?この感覚っ!?」

頭の中に響くいつもの警告音。

サファイヤ「お姉ちゃんっ!」

更にサファイヤもG3としての力で気づいた

のか、険しい表情を浮かべる。

キャンディ「ウルフルンクル~!」

更にキャンディも気づいたのか慌て出す。

 

黄金「あっちっ!」

お店を飛び出し、駆けつけた先では、ウルフルン

がバッドエンドエナジーを集めていた。

そしてその傍の花屋さんでは、母の日を

カーネーションを買いに来た人達が皆

無気力になってしまっている。

 

みゆき「酷い……!皆、行くよ!」

 

みゆきちゃんのかけ声で皆がスマイルパクト

を取り出す。

サファイヤ「ママッ!私も!」

黄金「ッ!?」

変身しようとする私。そこに飛んでくる

サファイヤの言葉に、一瞬迷う。

 

サファイヤ「私、自分で決めた!私はママや

      みゆきちゃん達を守りたい!

      だから!」

……余計な心配だったな。と私は思う。

黄金「行こう!サファイヤ!」

サファイヤ「ッ!うんっ!」

 

皆がスマイルパクトを取り出し、プリキュア

へと変身していく横で私もオルタリングを

召喚し、叫ぶ。

黄金「変身っ!!」

サファイヤ「G3システム、解放!」

 

私がオルタリングを叩いてアギトに変身する

横で、サファイヤもまた魔法陣を展開し、鋼鉄

の装甲を纏って行く。

 

ハッピー「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

サニー「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

ピース「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪

    キュアピース!」

マーチ「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

ビューティ「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

アギト「神が生みし悪を断つ戦姫!キュアアギト!」

6人「「「「「「6つの光が導く未来!輝け!スマイルプリキュア!」」」」」」

 

G3「G3システム、起動完了。戦闘態勢に移行します」

 

私達の名乗り。更にG3が独特な言い回しで

準備完了である事を告げる。

 

ウル「ちっ!現れやがったなプリキュアと

   裏切り者のG3!今日の俺は

   苛ついてだ!赤っ鼻でやってやる!

   出でよ!アカンベェ!」

 

ウルフルンが手にした赤っ鼻を使うと、

カーネーションをベースにしたアカンベェが

現れた。

 

ハッピー「私の創ったネックレス、お願いね!」

キャンディ「クルッ!」

ハッピーは創ったネックレスをキャンディに

託して下がらせる。

 

ウル「やっちまえぇ!」

   『アカン、ベェ!』

奴の命令に従い、アカンベェは体の一部、

鋭くなった葉っぱをカッターのように

打ち出してくる。

それを避け、まずはマーチがキックを

放つが、蔦の触手に弾かれ、サニーは

花の部分で掴まれ投げ返されてしまう。

左右から攻撃するビューティとピース。

しかし、花の部分から放たれた花粉でくしゃみ

が止まらなくなり、攻撃どころじゃなくなる。

そこにアカンベェが葉っぱカッターを放とう

としてくる。

 

G3「させない!アーマメントモジュール

   展開!」

彼女が右手を横に向けると、魔法陣が現れ

武器を収めた箱、アーマメントモジュール

が現れた。

  「GM-01!アクティブ!」

彼女が叫ぶとボックスが稼働し、中から

拳銃型武装、スコーピオンが現れた。

 

   『ベェッ!』

G3「撃ち落とす!」

放たれた葉っぱカッターをG3のスコーピオン

の銃弾が撃ち落とす。

ハッピー「はぁぁぁぁぁぁっ!」

そこに飛びかかったハッピーは、2本の蔦を

まとめて抱くようにして一度は押さえ込むが、

怒ったアカンベェが蔦を振ってハッピーを

弾き飛ばしてしまった。

 

 

アギト「ハッピー!」

私は咄嗟に着地したハッピーのフォローに

入る。

   「大丈夫?」

ハッピー「へーきへーき!」

キャンディ「ハッピー!頑張るクル!」

ハッピー「うん!任せて!」

キャンディの応援に笑みを浮かべながら応える

ハッピー。しかし、キャンディのその姿を

気に入らないウルフルンは、キャンディごと

プリキュアを攻撃するようにアカンベェに

命令する。

   『アカンベェッ!』

アカンベェの蔦の触手が伸びてくる!

 

アギト「逃げてっ!」

私が叫ぶと、ハッピーがキャンディを抱えて

跳躍する。

 

しかし、その拍子にキャンディが抱えていた

ネックレスが地面に落ちてしまう。

   「しまったっ!?ネックレスが!」

建物の上に着地した私が、反転して

取りに戻ろうとする。けどそれより早く、

ウルフルンがネックレスを拾い上げる。

 

ウル「何だぁこりゃぁ?」

ハッピー「あぁ!お母さんへのプレゼントが!

     返して!」

咄嗟に飛びかかるハッピー。が、ウルフルンは

それを軽く避け、アカンベェの元へ飛ぶ。

ウル「プレゼントだぁ?テメェもそんな

   下らねぇ事してんのか?」

マーチ「何だって!?」

ピース「ハッピーが一生懸命創ったのに!」

奴の言い分に抗議するマーチやピース。

しかし、奴はそんな言葉などどこ吹く風と

言わんばかりに笑う。

 

ウル「テメェが創ったのかよ!どうりで

   やたら下手くそだと思ったぜ!」

ッ!あいつっ!ウルフルンの言い分に

私の中で血が沸き立つ。

  「こんなもん、貰って喜ぶ奴が

   いるのかよ?」

ウルフルンの言葉がハッピーの心を抉る。

 

 

そして、その場で一番早く動いたのは、

ウルフルンの言葉を否定しようとしたピースでも。

奴の言葉に納得しそうになったハッピーでも。

激高しそうになっていたアギトでも無い。

 

   『ダァァンッ!!』

突如、一発の銃声が響き渡った。

ウル「ぐあっ!?」

空を割いて飛んだ銃弾はウルフルンの手を弾く。

その拍子にネックレスが宙を舞う。

 

そして、それをキャッチしたのは……。

G3「ハッピー」

ハッピー「じ、G3ちゃん」

銃声の主、G3だった。

 

G3「私ね。さっきお母さんに教えて貰った

   んだ」

G3は、ネックレスをハッピーに差し出しながら

静かに話し始める。

  「今の私はお母さんの娘。だから、何かを

   プレゼントしなきゃって思った。

   でも、私にはまだ、何も無かった。

   そんなとき、お母さんが言ってくれた。

   母の日のプレゼントは、お母さんに

   感謝の気持ちを伝える為の方法の一つ

   に過ぎないって。母の日は、プレゼント

   を贈るためにあるんじゃない。

   思いを贈るためにあるんだって」

ハッピー「思いを、贈る」

 

G3「だから、これは、ハッピーの思いが

   籠もった、大事なプレゼントだから」

そう言って、G3はスコーピオンを足にあった

ホルスターに収めると、左手でハッピーの

右手を持ち上げ、彼女の手に右手に持った

ネックレスを置いた。

 

  「どれだけ不器用でも良いと、私は

   思う。だって、重要なのは形じゃない。

   どれだけ、ハッピーの心が、想いが

   籠もっているかが重要なんだよ」

ハッピー「想い」

G3「そうだよ。これには、ハッピーの想いが

   詰まってる。ガラクタなんかじゃない。

   だから……」

G3の言葉に、ハッピーは自分の右手の

ネックレスに視線を送る。

 

ウル「何をごちゃごちゃと訳の分かんねぇ

   事を!アカンベェ!」

しかし、そこにアカンベェが蔦の触手を

伸ばしてきた。

アギト「不味いっ!」

咄嗟に私がフォローしようとした時。

 

G3「GS-03」

ポツリとG3が呟いた。

 

次の瞬間、アーマメントモジュールから

何かの武器が出てきて、射出された。

 

G3「ふんっ!」

射出されたそれが、G3の右腕に合体する。

武器が相当重かったのか、合体した衝撃で

G3の右腕が僅かに後ろに下がる。

 

そこまで触手が迫る。でも……。

  「アクティブ」

右手を振って、武器の折りたたまれていた

刃を起立させるG3。

  『ギュィィィィィィィィンッ!』

そして、大型振動ブレード、デストロイヤー

の一撃が迫っていた蔦の触手を真っ正面から

真っ二つに切り裂いた。

花弁と花粉、蔦だった植物片が周囲に飛び散る。

 

  「私は、本気で戦う」

G3が、目元を覆うバイザー越しにアカンベェ

を睨み付ける。

そんな彼女を見て、私は小さく笑みを浮かべた。

アギト『全く。頼もしい娘だことで』

そして、私は心の中でそんな事を考えていた。

 

   『さて、と。私も見てるだけって訳には

    行かないよね!』

   『カチッ!!』

私はベルトのスイッチを叩き、フレイムフォーム

となってベルトからフレイムセイバーを

引き抜く。

 

ウル「ちっ!?アカンベェ!さっさと奴らを

   やっちまえ!」

   『アカンベェ!』

奴の命令に従い、葉っぱカッターを放ってくる

アカンベェ。

 

アギト「そんな、のっ!」

しかし、それを私が切り捨てる。

   「何度も通じると想わないでよね!」

そして、私はそのまま迫り来る攻撃を

切り払い続ける。

そして、僅かに後ろに目をやれば、そこでは

ハッピーが決意に満ちた表情でネックレスを

見つめていた。

 

 

ハッピー「大切なのは、形じゃない。想いなんだ」

彼女は、静かにネックレスを見つめると、次に

傍に立つG3へと視線を向ける。

    「ありがとうG3ちゃん。おかげで

     私、大事な事が分かった気がする」

G3「ううん。お礼なんていらないよ。だって、

   私はもう皆の仲間だから。私もお母さん

   と同じ。大切な人を守りたい。だから、

   私も皆の力になりたいって想った。

   それだけだよ」

ハッピー「そっか。ありがとう、G3ちゃん」

G3「うん。どういたしまして!」

 

 

G3は、ハッピーと笑みを浮かべ合う。

   『アカンベェッ!』

アギト「ッ!?しまっ!ぐっ!?」

しかし、そちらに一瞬気を取られた私は

アカンベェの残った一本の蔦の触手に

弾き飛ばされ、皆の傍に強制的に下げられた。

 

その時。

ハッピー「アギト!」

不意に後ろから声を掛けられた。振り返ると、

そこには決意の表情を浮かべたハッピーの

姿があった。

その姿に、私はフレイムセイバーを振って

気合いを入れ直す。

 

アギト「露払いは任せて。トドメはお願い」

ハッピー「うん!」

G3「お母さん」

頷くハッピー。そこに近づいてくるG3。

  「私も行くよ」

アギト「えぇ。そうだね。……行くよっ!」

G3「うんっ!」

 

私達は縦に並んで駆け出す。

ウル「ちぃっ!?アカンベェ!まずはそいつらを

   やれ!」

   『アカンベェ!』

残された蔦の触手が向かってくる。でも!

アギト「はぁっ!」

   『ガキィィィンッ!』

フレイムセイバーの一刀で蔦を逸らす!

   「G3!」

G3「任せて!」

次の瞬間、私を飛び越えたG3のデストロイヤー

が振り下ろされ、蔦をぶった切る。

ウル「何っ!?」

 

   『アカンベェ!』

そこに葉っぱカッターが飛んでくる。

しかし今度は私がG3と入れ替わり、炎を

纏ったフレイムセイバーで全部切り払う。

  「く、クソッ!」

明らかな劣勢に狼狽するウルフルン。

 

そして……。

ハッピー「私、分かったんだ。母の日はお母さん

     にありがとうって気持ちを伝える日。

     だから、プレゼントのできが悪いとか

     じゃない。私は、お母さんにこの

     気持ちを伝えるんだ!」

アギト「行けッ!ハッピー!」

 

私の声を合図として、ハッピーが大きく飛び上がる。

ウル「バカが!空中じゃ良い的だぜ!アカンベェ!」

   『アカンベェ!』

奴らはハッピー目がけて葉っぱカッターを放つ。

   『ドキュンドキュン!』

アギト「はぁ!」

ウル「何ぃ!?」

しかしそのカッターを、G3のスコーピオンの

射撃と、フレイムセイバーを振って放った炎の

斬撃派が撃ち落とす。

 

アギト「やらせるわけ、無いでしょ!」

笑みを浮かべる私。そして、それだけで十分

だった。

 

ハッピーが大技を放つには……。

 

ハッピー「プリキュア!ハッピーシャワー!!」

空中から降り注ぐように放たれた桃色の光。

その光はアカンベェを浄化した。

それを確認した私達は息をつき、あの狼も

撤退したのか、バッドエンド空間が消滅した。

 

 

戦いが終わった後、私達は商店街のベンチに

座っていた。みゆきちゃんは、所々欠けて

ボロボロになったチャームのネックレスを

前に苦笑していたが、そこに現れたみゆきちゃん

のお母さんに、無事ネックレスを渡す事が

出来た。

ネックレスを嬉しそうに受け取るみゆきちゃん

のお母さんに、私達も自然と笑みがこぼれる。

 

そして、私達はお母さんと一緒に帰っていく

みゆきちゃんを見送った後、解散となった。

そんな帰り道。私はサファイヤと家に向かっていた。

サファイヤは、私の家から本棚でふしぎ図書館

に帰そうと思って居たからだ。

 

サファイヤ「お母さん」

黄金「ん?なぁに?」

サファイヤ「私、来年はお母さんに何かプレゼント

      する。私もお母さんにありがとうって

      想いを伝えたいから」

黄金「そっか。じゃあ、期待して待ってるよ」

サファイヤ「うん!任せて!」

笑みを浮かべるサファイヤ。そして私も笑みを

浮かべる。私達は夕暮れの道を、手を繋いで

歩く。

 

私はその日、母というものがどういう存在

なのか、少しだけ分かった気がしたのだった。

 

     第15話 END

 




相変わらずの亀更新ですが、楽しんで頂ければ幸いです。


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第16話 悩み

大変遅くなりましたが、第16話です。


~~~前回までのあらすじ~~~

新たにG3ことサファイヤという仲間を

迎えたスマプリ。そんなある日、彼女達は

母の日を迎え、各々がプレゼントを作って

いた。母の日の事を忘れていたみゆきと、

黄金の娘という認識からサファイヤの

二人は焦りを覚える。

そんな中で黄金は、サファイヤに母の日

に対する自分なりの考えを教え、

サファイヤもまた戦いの中でその言葉を

ハッピーへと教えるのだった。

 

 

母の日から数日が経過。私達の学校では

中間テストが行われていた。

そして、テストが終わった後。

 

「「「「はぁ~~~」」」」

 

屋上で私とれいかちゃん以外の4人が

深~~いため息をついている。

どうやら皆、それぞれヤバい科目が

あったみたい。

と言うか、聞いてるとみゆきちゃんなんか

全科目ヤバいらしい。

 

そのことに私は内心苦笑していた。

「元気を出して下さい」

「そ~そ~。終わった事を後悔しても仕方無いって」

と、れいかちゃんと私がフォローするが……。

 

「れいかは学年トップだったんでしょ~?」

「え?えぇ」

「それに、黄金も殆ど平均点超えてたやん」

「あ、あぁまぁね」

ジト目で私達を見つめるみゆきちゃん達4人。

「二人とも凄いよね~。と言うかれいかちゃん

って入学してからずっとじゃない?」

「きちんと勉強すれば、皆さんも次は良い成績が

取れますよ」

「それが出来たら苦労しないって」

れいかちゃんの言葉に、なおちゃんを始め他の3人も苦笑気味だ。

 

「でもさ~、どうして勉強しないといけないのかな~?」

何やら根本的な問題を定義し始めるみゆきちゃん。

「将来困るからです」

うん。何という模範的回答。流石れいかちゃん。

 

「ほんま?学校の勉強ができひんくても

 そんなに困らん気がするけど……」

「そうよねぇ。数学とか科学とか何の

 役に立つかイマイチ分からないし」

あかねちゃんに同意するやよいちゃん。

「「「うんうん」」」

 

やよいちゃんの言葉に頷くみゆきちゃん達。

まぁ、実際問題、そこは私も思うところは

あるけど、言っちゃったらおしまいな気が。

とか考えてると……。

 

「れいかちゃんは、どうしてそんなに勉強するの?」

「え?」

 

みゆきちゃん聞かれ、でも答えられないれいかちゃん。

彼女はそのまま、俯き困ったような表情を

浮かべてしまうのだった。

 

その日の放課後。

私は自転車を押し、れいかちゃんと並んで

歩いていた。偶然にもあった生徒会の仕事

を手伝った結果、だけどね。

 

「あの」

「ん?」

その時、ふいにれいかちゃんの方から

私に声を掛けてきた。

「黄金さんは、どうして勉強をするん

 ですか?」

「え?う~ん。……やっぱり、将来の為、

 かな」

「将来のため、ですか?」

「うん。私としては、将来的にはお父さん

 たちの店を継ぐか、或いは2号店でも

 出そうかな~なんて考えてるんだ。

 ……でも、お店をやるってなったら

 食材の仕入れやら、料理の研究。更に

 利益を出すためにどんな料理をどんな

 値段で出すのとか、考えなきゃいけない

 でしょ?だから、かな」

 

お父さん達を傍で見ているからこそ、お店

を切り盛りするのは簡単じゃない事は、

私にも分かる。料理人はただ料理をすれば

良いだけじゃ無い。お店を切り盛りするって

事の大変さは、多分今の私には想像も出来ない

くらいなのかもしれない。

 

「将来、お父さんたちのお店を継ぐなり、

 2号店を出すなり。そんな時2人に

 迷惑掛けたくないから、かな?私が

 勉強するのって」

「そうですか。……黄金さんには、ちゃんと

 勉強する理由があるのですね」

「え?」

 

ふと聞こえた、れいかちゃんの言う

勉強する理由。今の言い方だと、れいか

ちゃんにはそれが無いみたいに聞こえた。

「では、私はこれで」

「あ、うん。また明日」

そしていつもの分かれ道で別れた私とれいか

ちゃん。そんな中で私はどこか悩んだ表情のまま

帰って行くれいかちゃんの背中を見つめていたの

だった。

 

 

翌日。学校に行くと何やら人だかりが。そこには

みゆきちゃん達や生徒会のメンバー達。それに

れいかちゃんと同じ弓道部の人達も集まっていた。

そしてれいかちゃんが言うには、勉強も生徒会

副会長も弓道部も辞めたいと言う。

 

理由は、本当にやりたい事が分からないから、

だそうだ。もちろん最初は皆戸惑って止めた。

でもなおちゃんの説得もあって、しばらくれいか

ちゃんに休んで貰おうって事になった。

 

でも、数日経ってもれいかちゃんのやりたい事、

って言う答えは出なかった。そしてお昼時、

よく集まる中庭のテラスで皆してお弁当を

食べていた時だった。

 

「放課後、私達と一緒に?」

れいかちゃんの言葉になおちゃんが首をかしげる。

「はい。皆さんがどのように過ごしているのか

 知りたいのです」

 

ふむふむ。成程。って事で私達は、放課後に

れいかちゃんに自分達の事を見せる事にした。

 

みゆきちゃん、あかねちゃん、やよいちゃん、

なおちゃんと巡って最後は私だった。

 

で、私はと言うと……。

放課後、帰宅して自分の家のキッチンで

創った料理を片手に、れいかちゃんを連れて

ふしぎ図書館に向かった。

 

「あっ、お母さん。それにれいかちゃんも」

そこには当然、サファイヤちゃんもいた。

サファイヤちゃんは、ログハウスの中で机の

上に私のお古の教材とノート、それに筆記用具

を広げて勉強をしていた。

 

「え?サファイヤさん、勉強をなさってるん

 ですか?」

その事に驚いているれいかちゃん。

「はい。……私には、人間としての戸籍は

 ありませんから。お母さん達と同じ学校に

 通う事は出来ません。でも、お母さんが

 言ってくれたんです。多すぎる知識なんて

 無いって。だからお母さんの使っていた物

 を借りて、こうして勉強してるんです」

そう言って笑みを浮かべるサファイヤちゃん。

 

「もしかして、黄金さんがサファイヤさんに

 勉強を勧めたんですか?」

「うん。サファイヤちゃんはほら、諸事情で

 あんまり外に出られないでしょ?ふしぎ図書館

 には色々本があるけど、だからってそれを

 読んでるだけってのもあれだから。何も

 しないで居るくらいなら、勉強でもどう?

 って言って勧めたのが始まり」

「そう、ですか」

れいかちゃんは、私の言葉に戸惑うとサファイヤ

ちゃんの傍に歩み寄った。

 

「あの、サファイヤさん。どうしてあなたは、

 勉強をしようと思ったんですか?」

「え?理由、ですか?そうですね。やっぱり、

 お母さんの言葉ですかね」

「お母さん、黄金さんのですか?」

「はい。『無駄な知識なんて無い』ってお母さんが

 教えてくれたんです」

と、その話を聞くと私の方を向くれいかちゃん。

 

「あぁまぁ、私も私のお母さんからの受け売り

 なんだけどね」

「そう、でしたか」

 

れいかちゃんは私の言葉を聞くと、やっぱりまだ

何かを悩んでいる様子だった。

 

その後、れいかちゃんはキャンディと遊んでいる

サファイヤちゃんを見守っていた。

「はい」

そんなれいかちゃんに私は一度外に出て持って

来た飲み物を差し出す。

「あっ、ありがとうございます」

私は飲み物を受け取ったれいかちゃんの隣に腰を

下ろした。

 

「どう?私達5人の事、色々見てみた訳だけど、

 何かヒントとかにはなったかな?」

「……いいえ。皆さんがそれぞれ何かに一生懸命

 な事は分かりました。ですが、それに比べて

 私は……」

 

う~~ん。どうやらこれはまだまだみたいだな~。

 

「私としては、れいかちゃんは十分凄いと思う

 けどな~」

「え?」

「生徒会とか弓道部とか。勉強とかも。私から

 すればれいかちゃんは十分それらに打ち込んで

 いるように見えたし。なんて言うか、楽しそう

 だったな」

と、私は私なりに今までのれいかちゃんを観て

思った事を口にしてみた。

 

でも、それでもれいかちゃんはまだまだ悩んだ

ままな様子だった。

 

 

それから数日後の休日。今もれいかちゃんは何か

を悩んでいる様子。私とサファイヤちゃんは、

私服で同じく私服のみゆきちゃん達4人と一緒

に外で会っていた。

 

れいかちゃんは大丈夫かな~?と皆して頭を

悩ませていた時。

 

『ブワッ!』

 

ッ!?突如としてバッドエンド空間が広がった。

「もしかして、彼奴ら!?」

「あっ!みんなあそこっ!」

不意にどこかを指さすなおちゃん。見ると空中

に浮かんで居たアカオーニ!

 

奴のバッドエンド空間のせいで、バッドエンド

エナジーが吸収されていく!

「プリキュア!今日こそ倒してやるオニ!」

「そうはさせないっ!みんな、行くよっ!」

 

「「「「うんっ!」」」」

 

みゆきちゃん達はスマイルパクトを取り出し、私

はいつもの動きでベルトを召喚する。

「変身っ!」

「G3システム、解放っ!」

 

『レディ?』

 

「「「「プリキュア!スマイルチャージ!」」」」

『ゴー!ゴーゴー!レッツゴー!』

 

それぞれの変身パターンで、私達は変身していく。

 

「キラキラ輝く未来の光!キュアハッピー!」

「太陽サンサン熱血パワー!キュアサニー!」

「ピカピカぴかりん♪じゃんけんポン♪キュアピース!」

「勇気リンリン直球勝負!キュアマーチ!」

「神が生みし悪を断つ戦姫!キュアアギト!」

 

と、5人で名乗りを上げると……。

「ん!?もう1人はどうしたオニ!」

アカオーニが、ビューティが居ない事に気づいた。

 

「あ、アンタなんか5人だけで十分やっ!」

と、咄嗟にそう啖呵を切るキュアサニー。

「何ぃっ!?生意気オニ!赤っ鼻でコテンパンに

 してやるオニ!いでよアカンベェ!」

 

すると、近くに居た子供達の教科書をベースにして

アカンベェが作られた。

私達6人、アカンベェを前に身構えていると……。

 

『キュアサニー!』

な、何?アカンベェが急にサニーを指名してきた?!

 

「お、おうなんやタイマンか!?やったるでっ!」

そう言って数歩前に出るサニー。すると……。

『問題っ!』

はいぃっ!?何あのアカンベェ!?まさか、教科書

で作られたアカンベェだからこう言う感じなの!?

 

と、私が戸惑ってる間に、英語の問題に答えられ

なかったサニーはアカンベェが撃ち出してきた

×のマークに体を閉じ込められてしまった。

 

更にピース、マーチ、ハッピーと続いてアカンベェ

の×マークの餌食にっ!?

 

『次っ!キュアアギト!』

って私に来たぁっ!?

 

『問題っ!二酸化炭素の化学式を答えよ!』

「それなら分かる!CO₂!」

私が答えると、何やら正解音が響いた直後、どこ

からともなく○が現れてアカンベェに命中すると

爆発してしまった。

 

「な、なになに?」

「もしかして、正解するとアカンベェにダメージが

 入るんじゃない?」

私が戸惑っていると、ピースがそう教えてくれた。

「そうなのオニ!?」

「お前も知らないんかいっ!」

更に驚くアカオーニにキュアサニーがツッコむ。

 

「とにかくっ!アギト頑張れ~!」

って、ハッピー達が応援してくれるのは嬉しい

けど、いつまで持ちこたえられるか。

 

『も、問題っ!漢数字の入った四字熟語を1つ

 上げよっ!』

所々煤こけたアカンベェが問題を出してくる。

え~っとえ~っと、漢数字の入った四字熟語は、

え~っと。あっ!

 

「四面楚歌っ!」

と答えると正解で、再びアカンベェにダメージが。

 

『も、問題っ!黒船来航で当時の日本にやって

 きた偉人の名前は?フルネームで答えよっ!』

えぇっ!?フルネーム!?

 

「え~、え~っとフルネーム、フルネームは~!?」

必死に頭を抱え悩んでいた。でもやっぱり名前は

出てこなくて……。

 

『時間切れっ!正解は、マシュー・カルブレイス・ペリー!アカンベェ!』

 

時間切れになってアカンベェがバッテンマークを放ってきた。

「お母さんっ!」

と、その時G3が咄嗟に私を突き飛ばして、代わり

に×マークを受けて拘束されてしまったっ!?

「G3!」

 

「うはははっ!これで後はキュアアギトだけオニ!」

そう言って、既に勝った気で高笑いをしている

アカオーニ。不味い。もう一問、分からない問題を

出されたら終わりだっ!

 

そう、考えていた時。

 

「おまちなさいっ!」

そこに現れたのは、キャンディを連れたれいか

ちゃんだった。

 

「れいかちゃんっ!?どうして!?」

「遅刻オニ!お前道にでも迷ってたオニ?」

 

「確かに私は迷いました。私の本当にやりたい

 事は何なのか、と。でも、私は私の意思で

 ここに来ましたっ!人々を嘆き悲しませる

 悪事っ!私には見過ごせませんっ!」

 

「お前ひとりでこのアカンベェに敵うものか!」

「れいかっ!変身クルッ!」

「はいっ!」

 

れいかちゃんはスマイルパクトを取り出す。

 

『レディ?』

 

「プリキュア!スマイルチャージ!」

 

『ゴー!ゴーゴー!レッツゴービューティ!』

 

光のパフを使って、ビューティに変身する

れいかちゃん。

 

「しんしんと降り積もる清き心!キュアビューティ!」

 

そしてれいかちゃん、キュアビューティが

戻ってきた事で7人全員がそろった。

 

とは言え、油断はできない。ビューティがあの

アカンベェの問題に答えられないとそれだけで

私達は詰む。

 

でも、そんな私の不安を払拭するように、

ビューティはサニー達が間違えた問題を簡単

に正解してアカンベェにダメージを与えた。

 

「な、何で全部わかるオニ!?」

「私にだって、分からない事はあります」

 

そう言うと、れいかちゃんは後ろで動けない

皆に目を向け、静かに語った。あかねちゃん、

やよいちゃん、なおちゃん、みゆきちゃん。

皆から何を見て何を学んだのかを。

 

と、その時、背を向けている事をチャンスと

考えたのかアカンベェが突っ込んでくる。

 

「させるか、ってのっ!」

私は咄嗟にベルトのスイッチを叩いてストーム

フォームになると、ハルバードの刃でアカンベェ

の攻撃を受け止めた。

 

「おぉぉぉぉぉぉっ!」

『アカンベェェェェェッ!』

私のハルバードの連撃とアカンベェのラッシュ

がぶつかり合う。

 

「自分のやりたい事が、何なのかまだ分かり

 ませんっ。でも、皆さんを見ていて思った

 のですっ!」

と、その時、ビューティが私の隣に並んで攻撃を

始めたっ!だったらフォローするよっ!

 

私達のコンビネーションから繰り出される攻撃が、

次第にアカンベェを防戦一方に押し込んでいく。

 

「学校の勉強も大切ですが、それだけじゃないっ!」

私達の攻撃の前に、アカンベェがじりじりと後ろに

下がっていく。

 

「もっといろんな事を見たい、知りたい、聞きたいと……!」

そして放たれたビューティのキックがアカンベェ

を弾き飛ばす。

 

「そして、自分のやりたい事を見つけたいっ!」

 

「ビューティ」

どうやら、れいかちゃんも悩み自体は

吹っ切れた様子。

 

でも、直後にアカンベェがすごい難しい問題を

出してきたっ!

 

いや誰!?詩人の高村光太郎さんって誰!?

絶対中学生が知らないレベルだよっ!

こうなったら、アカンベェが放ってきた×マーク

を私が体で受け止めてっ!

 

なんて考えていたけど……。

 

「『僕の前に道は無い』」

 

ビューティが静かに答え始めた!?

 

「『僕の後ろに道は出来る』ッ!」

 

まさかの正解っ!ここでアカンベェに追加の

ダメージが入ったっ!

「「「「やったぁっ!」」」」

「すごいですビューティ!」

動けないながらも喜んでいる4人とG3ちゃん。

 

「やりたい事を見つけるために、私はこれからも

 色々な事を学び続けますっ!それが、私の『道』です!」

 

毅然とした態度で宣言するビューティ。でも、未だ

にアカンベェは健在で、アカオーニの指示を受けた

アカンベェが突進してくる。

 

と、その時、私の手にしていたストームハルバードが

青色の光に包まれた。どうして?と考えたのも

一瞬。

 

「ビューティ!これをっ!」

 

私はストームハルバードをビューティに投げ渡した。

 

直後、ビューティの手にしたストームハルバード

がより一層強い光を放つ。

 

「これって!?」

「これは……。お母さんと、アギトとビューティの

 力が共鳴してる」

戸惑うハッピーの横で、G3ちゃんが分析しながら

教えてくれる。

 

そして、ビューティは何かを察したように

ハルバードを体の周囲でブンブンと振りまわした。

直後、腰のスマイルパクトから青い光が溢れ、

それがストームハルバードの刃に纏わりつき、

更に巨大な氷の刃となった。

 

そして、それを手にしたビューティが大きく

跳躍する。

 

「プリキュアッ!」

 

アギトの武器を借りてビューティは新たな技を

放つ。

 

「アイスハルバードッ!!!」

 

振り下ろされた巨大な氷の刃が、アカンベェを

真っ二つに切り裂いた。

 

『アカンベェ~~~!』

 

そして、真っ二つに切り裂かれたアカンベェは

消滅し、核になっていたバナナデコルを私が

キャッチした。

 

そうして、無事アカオーニとアカンベェを退けた

私達。

 

その後、れいかちゃんはあかねちゃん達にそれぞれ

アドバイスをした。

 

時間もすっかり夕暮れ時。なので今は私とれいか

ちゃんが並んで歩いている。サファイヤちゃんは

先に本棚からふしぎ図書館に戻って貰った。

 

「それにしても、れいかちゃんの疑問がひとまずは

 解決してよかったよ。まぁ、まだ根本的な解決

 って訳じゃないみたいだけど」

「そうですね。まだ、やりたい事が分かった訳では

 ありません。でも、うっすらとだけ、方向性が

 見えてきたような気がします」

「そっか」

私達は並んで歩く。

 

「ありがとうございます、黄金さん」

「ん~?」

「あの日、サファイヤさんと一緒に居た時に

 教えていただいた言葉、無駄な知識なんて無い。

 そのおかげで『学ぶ事』が大切なんだと理解

 する事が出来ました」

「あぁそっか。でもあれ、私もお母さんの受け売り

 だから。気にしないで。……それより、れいかちゃん

 さっき方向性がうっすらとだけど見えてきた、

 って言ってたけどどんな感じなの?教えてよ」

 

「ふふっ、それはですね」

と言うと、れいかちゃんは不意に立ち止まった。

何だろうと私も足を止めると、不意にれいかちゃん

が私の手を取った。

 

「私の大切な人を、傍で支えるという事です」

「ふぇっ!?」

 

突然、手を取られ眼前に迫ったれいかちゃんの顔

に私は顔を赤くしながら戸惑った。

 

「黄金さんはこれまで、何度も血を吐きながら

 戦ってきました。横浜でも、京都でだって。

 誰かのために。時には私達のために。

 黄金さんは自分を、プリキュアを守る剣であり

 盾だと言ってくれました。でも、それでも

 私は黄金さんが無理をして傷つくのを、

 見たくありません」

「れいかちゃん」

 

「だからこそ、私は黄金さんを傍で支えたいんです。 

 ……おかしい、ですか?」

 

そう言って、私の顔を覗き込むれいかちゃん。

れいかちゃん、本当に私の事心配してくれてる

んだなぁって分かる。だからこそ……。

 

「じゃあ、これからお互いに支えてこうよ」

「え?」

「私はこれからもみんなを、みゆきちゃんや

 れいかちゃん達を支える。それが私の決意

 だから。でも、そんな私をれいかちゃんに

 支えてほしい。……っていうのはダメかな?」

「いいえ。時に支えあうのが友達です。だから、

 もしもの時は私を頼ってください」

「うん。よろしくね、れいかちゃん」

 

その後、私はれいかちゃんと手をつないで

帰った。

 

でも、夜ベッドで眠る時。

 

『そう言えば、今日の戦いでアギトの力と

 プリキュアの力が共鳴した、ってサファイヤ

 ちゃんが言ってたけど、他のみんなにも

 あぁいうのが起こるのかな?』

 

そんな不安とも期待ともつかない思いのまま、

私は眠りについた。

 

     第16話 END

 




って事でオリジナル技ありの第16話でした。今後も亀更新ですが、感想や評価、お待ちしてます。


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