アナザー11 (諸々)
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???01

ヴィーネが蘇生してから丸一日が過ぎた日の早朝、ギルド前には大勢の人々であふれていた。

今回の騒動の顛末と事態終息に向けての策が、ギルドから発表されるからだった。

ざわめきが聞こえる中、ギルド長のロイマンが神ガネーシャとベルをひきつれて登場した。

とたんに静まり返る中、ロイマンは語りだした。

今回の防具をまとったモンスターの件は、2つの勢力が引き起こした事。

1つはイケロスファミリアたち、この目的は、かのモンスターたちを外国へ密輸して莫大な金を得る事だ。

もう一つはギルドの極秘ミッションでのガネーシャファミリアとベルたち。こちらの目的は、かのモンスターを調教し調査すること。

ミッション組が不思議なヴィーヴルを捕獲したところで、イケロスファミリアと奪い合いになった。

戦いのさなか、イケロスファミリアが捕獲していたかのモンスター達が、逃げ出しオラリオにあふれたのが真相だと。

ここで一番前に陣取っていた神ロキが思いっきり手を挙げて言った。

「質問や。そのミッションの内容ならガネーシャん所が絡んでんのはわかるんやが、その兎がわからへんわ。」

「その理由は聞いています。一つには彼がなぜかは判らんが、かのヴィーヴルと相性が良いらしい。

少し前より噂に上っていた防具を纏ったモンスター達は、基本的には逃げるのが当たり前だったです。

だが彼にたいしてあのヴィーヴルは、逃げることも攻撃することもなかったらしい。

二つ目は、彼がヘスティアファミリアだからです。結成してから半年足らずだが、戦争遊戯を経て急速に大きくなりました。

だからギルドへの貢献が圧倒的に少ない、王国との戦争にも参加してません。それでこのミッションで穴埋めしようとしたわけです。」

「金じゃアカンかったんか?」「2億の借金のあるところからですか?ギルドはファミリアを潰したい訳では無いですから。」

ロイマンは少し間を置き言葉を続けた。

「今後の事だが、まずオラリオ内に散らばったモンスターだが、神ガネーシャに一任、捕獲調査してもらいたい。」

今度はロキの隣にいたフィンが手を挙げ聞いた。「捕獲?殲滅ではなくて」

「かのモンスターたちは強化種の様に容姿と強さが一致しない。今回のように取り合いになると町への被害が大きすぎる。

またイケロスファミリアの調査から予想以上の数がいるらしい。今後のためにもぜひ調査しなければならないと考えている。

そこでギルドは全ファミリアに、かのモンスターへの手出しを禁止する命令を発する、違反者は都市追放を含む厳罰に処す。」

再びフィンが手を挙げた。「あのモンスターたちはかなりの手傷を負っている、そんな状態で調教可能なのか?」

ここでロイマンに替わりガネーシャが前に出る。

「俺がガネーシャだ。先ほどの話の通り我々が捕獲を任された。ダンジョン内での感触で調教は可能だと思っている。

ただし早く見つけないと灰にになってしまう恐れがあるので、みんなに情報提供をお願いしたい。

有益な情報にはそれなりのお礼を用意している。どしどし巡回しているわが団員に通報してくれ。

それと我々以外でちょっかいを掛けようとするファミリアがいたらそれも知らせてくれ。一番にはお礼に100万だそう。」

再度ロイマンに替わる、ただし今度はベルを連れてだ。

「さてイケロスの調書によると一部はもうすでに出荷されてしまっている。そこで彼にこの調査を命じる。」

「そんなの一人で無理に決まっているだろ」と女声で野次が飛んだ。

「場所はすでに確定している、それに何も一人でとは言っていない。彼の裁量で人を雇うのは自由だ。全ての場所で一定の成果が出れば

ここへ戻り再度協議するものとする。規定通り監視員とその護衛は付ける。明日午後一時に南門に集合だ。」と言って指令書を渡した。

以上だとばかり入口の階段を下りた。目の前にいたロキに小声でささやきいったん家へ帰って行った。

他の冒険者達が帰る中、ロキとフィンはその場にとどまっていた。すると他の冒険者の会話が2つ聞こえってきた。

1つ目はこんな内容だ。

「がはははは、これでインチキルーキも事実上オラリオ追放だ。いい気味だぜ。」「何で?」

「あの借金まみれに人が雇えるわけねえだろう。一人ではギルドが満足する情報を得るまで相当時間がかかる、それまで追放扱いだ。」

2つ目は

「金にがめついリトルルーキーの野郎が。モンスターはみんなのもんだ、独り占めしやがって許せねえよ。」

「でもモンスターの横取りはマナー違反じゃねえか?」「そりゃダンジョンの中だけだろ。ばかばかしい。」

「だがダンジョンの外にもモンスターはいるぜ、よくある討伐クエストでも死体はいる。それを横から魔石を砕かれたらたまったもんじゃないぜ。

それに調教用の依頼なら生きたままじゃないとクエスト未達になってしまうじゃねえか。未達は信用がた落ちだ。」

「モルド、だが今回は町中だぜ、例外だろ。」

「それを言ったら今回は、ギルドの極秘ミッションだ。ペナルティはキツイぜ、おまけに奴は借金まみれだ。」

「借金なんてする方が悪いだろ。」「あれは主神のだって話だぜ、大方戦争遊戯の時の馬鹿げた魔剣野郎の代金じゃないか?」

「………」「結局どっちなんだよ。」

それを聞きロキは軽く舌打ちする。それをフィンは苦笑しながら見つめた。やがて人がほとんどいなくなると二人はギルドに入っていった。

 

その少し前、ミイシャとエイナは上司に声を掛けられた。「二人のうちどちらかをベル・クラネルに付けるつもりだ。」

ミイシャが言った。「エイナは担当だから判りますけど、何で私なんですか?」

「フロット、前回の神会の資料は大々不評だった。彼のレベル3の神会は帰ってからだが、その時までに責任を持って纏めろとの事だ。ちょうどいいだろう。」

「そんなあ…」エイナは何かを考え込んでいる様で終始無言だった。その様子をちらっととみて上司は言った。

「ではフロット、君にしよう、これが指令書だ。ギルド支部等に見せれば便宜を図ってもらえる。今日はもういいから明日の準備をしなさい。」

ミイシャは指令書を自分の机に置いて、あわてて出て行った。

「チュール、彼のランクアップ時の資料を貸してくれ。」エイナはハッとしてあわてて答えた。

「お蔵入りしたあれですか?一応レベル3の時の物もありますが似たり寄ったりですよ。」

「両方だ。」「判りました。ですが何に使うのですか?」「神ロキに今回の件で協力を仰ぐために使う。」「???」

「護衛役のためだ。ベルクラネルはレベル3、よって護衛役はそれ以上が必要。だがこの事態でそれだけのレベルの者を出せるのは神ロキと

神フレイヤぐらいだろう。ロキファミリアはクラネルにかなり興味が有る様だ。ヴァレンシュタイン氏、ディムナ氏がギルドで会っていたからな。

監視役になれば必然的に彼の事が解るだろう。さらに興味を引くためにこれを使う。」『彼の事が解る』のフレーズにエイナはかすかに反応した。

上司は気付かずに資料を持って行ってしまった。エイナはもやもやした気持ちを抱えて受付業務の準備を始めた。

 

「お待たせしました神ロキ」ギルド職員の男が入ってきて言った。「ギルドがうちらになんの用や。」

「職員の護衛に人を出してほしいのです。レベルは4もしくは3の人を。」「何でうちらが出さなあかんねん。」

「そのレベルの人を出せる所は限られています。ぜひお願いしたい。」「それでは理由としては弱いな。フレイヤんとこでええやん。」

「ですが良いんですか。彼の情報を得られるチャンスですよ。」フィンの方を向いて言った。「どういう意味や?」

「彼にはずいぶん関心が有るようですね。ヴァレンシュタイン氏共々何回かお見かけしましたよ。護衛として行動を共にするといろんな情報が得られますよ。」

フィンに資料を差し出しながら言った。

資料をぱらぱらとめくりロキに渡して言った。「知っているつもりだったけど、こうして観ると改めてすごいね。」

ロキはうなっている。「これを見せられれたら嫌とは言えないね。引き受けよう。得られた情報は独占しても構わないかな?」

「こちらもそれでいいのであれば。」

フィンは苦笑して言った。「分かったよ。それじゃあ情報交換といこう。」職員は頭を下げた。

 

ホームへ帰るとリヴェリアとガレスが待ち受けていた。詳しい説明をした後ロキが聞いた。「人を出すんでよかったんか?」

「構わないよ。59階層の激闘はぎりぎりだった。これ以上の階層を調べるには、さらなるパワーアップがどうしても必要だ。

そのためには努力を惜しんではいられないからね。」

ガレスがいった。「具体的には誰にするんじゃ。」「ラウルにしようと思っている。」

「理由は?」とリヴェリア。「彼には色々な経験が必要だ。これでもう少し自信が付けば良いんだがね。」

「52階での罰の件もあるし、ちょうど良いかもしれんな。」とリヴェリア。「あとは…」フィンはため息を吐いた。

「「「「アイズ」」」」「だがどう策を練る、さすがに我々は警戒されるだろうからな。」とリヴェリア。

「なら誰が良いかのう。ベートかあの姉妹、うーんこう言う事には向いてないのう。」

そこへレフィーヤが顔を出した。「あのリヴェリア様、出されていた課題が終わりました。次は何をすれば良いですか?」

ロキと幹部たちは素早く顔を見合わせた。「もう終わったか。一度に詰めても効率は上がらない、今日は終わりにしよう。」とリヴェリア。

フィンが話しかけた。「ちょうど良かったよレフィーヤ、ちょっと意見を聞きたかったんだ。」レフィーヤは居住まいを正した。

フィンは今朝の事を話した。ベルがオラリオ外へ調査に行くこと、ギルドの護衛で家が人を出すこと、ラウルを出そうと思っていること。

レフィーヤの心を読んでいたロキがこっそりOKサインを出した。それを確認したフィンは話を切り出した。

「レフィーヤ、我々が心配しているのはアイズの事なんだ。彼に随分執心している。一緒に付いて行きかねない、君はどう思う?」

レフィーヤはハッとして答えた。「確かにアイズさんなら…、だったらなぜ護衛を引き受けたんですか?」

「他のファミリア、おそらくフレイヤファミリアになるのだろうが、そうするともめ事を起こすだろう、最悪戦争になりかねない。」

ガレスが言った。「ならいっそアイズに任せたらどうじゃ。その方が面倒にならんと思うが?」ロキとレフィーヤがガレスを睨みつけた。

「黒のミノタウロス、あれを取り逃がしている。この状態で第1級冒険者をオラリオ外へ出せない。僕らが彼の強さを調査することで納得させるしかない。」

リヴェリアが言った。「だったらラウルで大丈夫か?調査系の特殊なスキルは持ってないぞ。」

「あのアイズがここまで絡んで解らないんだ、よほどの人材でないと変わらないだろう。入れ込んでるアイズよりも男同士の方分かることも有るとでも言うさ。」

「ずいぶん入れ込んでおる様じゃが、アイズにも春がきたという事かの?」とガレス。

ロキが吼えた。「アイズたんはうちのもんじゃ、だれにもわたさへん。」

「まだそこまででは無いと思うが、アイズは強くなることへの強迫観念があるからな。ただしこのまま彼への関心が続けばそうなるかもしれん。」とリヴェリア。

「しかし問題は今やアイズもレベル6、ワシ等に抑えられるかどうか。」とガレス。

「それには僕に考えが有る。まずラウルにこの偽のギルドの指令書を渡す。これで時間が稼げるはずだ。出発してしまえば目的地は複数、ルートもあるから

アイズ一人では追跡は出来ないだろう。本物はレフィーヤ君に渡しておく、然るべき時にラウルに渡してくれ。」フィンは指令書を渡して下がらせた。

 

リヴェリアが少し考え込んでいる。「彼の成長は、スキルの様な個人的な物に感じるんだが?」

「まさにそれが君に直接調査を依頼しない理由だ。だが彼の存在は、アイズ、ベート、ティオナ達に直接良い影響を与えている。

その点でも繋ぎを作っておくのは悪くない。また可能性は低いと思うが属人的でないことも考えられるからね。

それと彼の無詠唱魔法は、あの食人花には非常に有効だろう。今度の遠征にはラウルたちを守るためぜひ連れて行きたいと考えているんだ。」

「確かにあの無詠唱魔法なら無駄に新型を呼び寄せることも無いだろうしな。ただ連れて行けるのか?」とリヴェリア。

「彼にはいろいろと貸が有る、いやとは言えないはずだ。それにそうせざる負えない状況なるだろうしね。…最後に魔剣だ。」

「魔剣?」とロキ。「そう、アポロンとの戦争遊戯で見たあの魔剣だよ、リヴェリアあれをどう思う?」

「あれは伝説のクロッソだろう。確かにあれが有れば60階層以後敵に対して強い味方になるだろうが、彼とは直接関係なかろう。」

「製作者の事は椿に聞いたんだ。」「なんやあの時に話しに出た奴の事か。すごいメンドクサそうな奴ちゃうんかいな。」

「そう彼は金では動かない様だね。だからベルクラネル彼を通じて1本でもほしい。あの魔剣があれば穢れた精霊の詠唱魔法に対する切り札になる。…

そろそろみんなも待ちかねていることだろう。朝食前に発表といこうか。」

 



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???02

レフィーヤは部屋の前でうろうろしているアイズを見つけた。アイズも、部屋から出てきたレフィーヤに気付き、声をかけてきた。

「レフィーヤ、フィン達は?」「団長たちはお戻りになられましたよ、この後みんなに話が有るそうです。」

「レフィーヤは呼ばれたの?」「いえ私はリヴェリア様の指導を受けに。」「そう、頑張っているんだね。」

そう言って食堂の方へ歩いて行った。

 

ファミリア全員による朝食時に、フィンは早朝のギルドの話をした。

オラリオ内に散らばったモンスターたちはガネーシャ達が担当、他のファミリアは手出し無用になったこと。

ベル・クラネルはギルドの監視役とその護衛を連れてオラリオ外へ出ること。

護衛はロキファミリアが請け負う。前回の遠征でのペナルティも兼ねてラウルに担当させること。

ラウルにはベルに対して2つの事を調べる様に命令した。1つは先の行動の理由、もう1つは彼の成長の秘密。

主要メンバーはさりげなくアイズを観察していた。ただその中でレフィーヤはずっと考えこんでいた。

食事が終わるとレフィーヤはすぐギルドへ行った。アイズが行動を起こすとすれば、必ずここに来る必要があると考えての事。

 

ギルド受付を見渡せる場所でレフィーヤは待ち伏せしていた。昼前の一番受付が空いている時間に、

ダンジョンに行く格好でアイズはハーフエルフの受付嬢と少し話をしてから出て行った。

しばらく待ってアイズが戻ってこないことを確認してそのハーフエルフに声をかけた。

「あのこちらにアイズさんは来ていませんか?」「アイズ・ヴァレンシュタイン氏ですか?先ほど来られましたが。」

ほっとした表情を作ってレフィーヤは言った。「申し遅れましたが、ロキファミリアのレフィーヤ・ウィリディスです。

それでアイズさんは何と?」「クラネル氏の出発を早められないかとのことでした。

午後1時のところ午前10時ぐらいならできるのではないかと返事をしましたが。」

「やっぱり。話の途中で出て行ったから心配して来てみたんです。何とか明日早朝に出来ないでしょうか?」とレフィーヤ。

エイナは時計を見てもうすぐ昼なのを確認して言った。「わかりました。先方と交渉してきます。」

「帰られるまで私ここにいます。なにせ『面倒事は早く終わらせるに限るで』だそうですから。」

エイナは神ロキを思い浮かべて頷くと、近くの同僚に声をかけてギルドを出た。地図を見ながら歩いているとヘルメスを見つけた。

「神ヘルメス、神ヘスティアの館は知っていますか?」「エイナちゃん、俺もそこに用が有るんだ、一緒に行こう。」

知った相手に会ったこともありエイナはベルの事をヘルメスに愚痴った。

曰く、ベル君があんなことするなんて思わなかった。何で頼ってくれないの。etcヘルメスは黙って聞いていた。

館に近づくにつれて人通りが疎らになり、館の前には誰もいなかった。ここでやっとヘルメスが口を開いた。

「エイナちゃん、君はベル君の何を知ってるんだい?俺は君より彼の事を知ってると思うよ、なんせ18階層まで行ってきたし、

あのイレギュラーも真近で見てる。それと知ってるかい、ベル君はああ見えて甘いものが苦手なんだぜ。」

エイナは食の好みも知らなかったんだとショックを受けた。

「それに君は、俺たちファミリアの監視役のギルドの人間だ。ベル君のファミリアでもなければ、恋人でも無いんだろう?」

恋人と聞いてあのボディガードの件を思い出してわずかに頬を染めたが、ヘルメスの言いたいことは理解できた。

その様子を確認したヘルメスは玄関の鉄輪を鳴らした。程なくしてヘスティアが出てきて中庭に通された。

「要件を聞こうじゃないか。」とヘスティア。「出発を早めてほしいんです。」とエイナ。

「難しいね、今ギルドからの資料をあたっているが、思った以上に範囲が広い。ちゃんと計画を立てないと。」

「ちょっといいかい」ヘルメスが割り込んだ。「その調査俺たちが引き受けよう。その代り彼にある仕事を頼みたい。」

「その仕事ってなんだい?」

「ある神の要望に応えてやってくれ。ベル君に興味が有るらしい、前に借りがあって断れないんだよ。」

「ベル君に変なことさせないでくれよ。」

「ギルドの監視員が付くんだろう、あまりむちゃな要求はされないと思うぜ。」

「うーんどうしようかなー」

「俺に任せてくれれば3か月以内に結果を出せるぜ。」

ヘスティアが脱力して言った。

「仕方がない頼むよ。なんせ外国の王族まで対象だ、ベル君一人じゃ何年かかるか分からない。でベル君の相手はどこの神だい。」

「それは言えない。ただオラリオ外とだけは言っておこう。オラリオの残るよりその方がベル君のためにも良いだろう?」

「まさかアレスの馬鹿じゃないだろうな。」「おいおいこれでも俺はベル君を買ってるんだぜ。そんなことはしやしないさ。」

「何かこちらで用意することがあるかい。」「特にはないよ、それとこちらからも連絡役を出すから。」

「準備が不要?それはそれで不安だなー。」「神友の俺を信用してくれよ。それに先にも言ったがギルドの監視も有るんだ。」

「分かった、君を信用するよ。ギルドのええっとエイナ君だったか、聞いての通りだ何時でもいいぜ。」

「助かります。警備の人は早い方が良いと言ってましたから。」

「だったら北門に朝一の午前6時でどうだい、余計なのか付いてこないぜ。」

「ぼくはそれでかまわないよ。」「先方へ連絡しておきます。」

「それじゃあ俺は門番に渡りをつけておくよ。」と言ってヘルメスは出て行った。

ヘスティアはギルドによろしくと言ってエイナを送り出した。

エイナは交渉がとんとん拍子纏まりほっとした。それと共にさっきのヘルメスの言葉が圧し掛かってきた。

ベルの秘密、ステイタスやアビリティを知っているから、私が一番知っている、一番仲が良いと思ってしまっていたと。

だけどギルド職員と冒険者、つまり一定の隔たりが有ったんだと思い知らされた。同時にそれを超えて知りたいとも思った。

ある決意と共にギルドに戻って、レフィーヤに待ち合わせ時間と場所の変更を告げた。

 

ギルドの資料を前にベル達は厳しい顔をしていた。

「一番問題なのは各都市へ着いてからです。誰も土地勘が有りません、これでは方針も立てられません。」とリリ。

そこへヘスティアが駆け込んできた。「喜べみんな、ヘルメスが協力してくれるぞ。」

「信用できるんですか?」水浴びをのぞかれたリリが聞いた。

「そこは気になるが、ベル君一人ではどうにもならない、背に腹は代えられないよ。」

リリはがっくりとうなだれた。そこでヘスティアは詳しい話をした。

「その仕事にベルの装備は何かいるのか?」とヴェルフが聞いた。

「特に必要とは聞いてないが、オラリオ外だからあんまり整備に手間がかからないのが良いだろうね。」

その時玄関から声が聞こえてきた。「おーいヴェル吉いるかー。」

「椿だ、この忙しいのに。」怒りながらヴェルフは玄関に向かった。

ベルとヘスティアがあわてて後を追った。リリ達は今までの緊張が解け、また鍛冶師の事だとその場を動かなかった。

「何しに来た。こっちは今忙しいんだ。」ベルとヘスティアが駆け込むとヴェルフが吼えているところだった。

「なんだヴェル吉、せっかく良いものを持ってきてやったと言うのに。」と椿。「良いもの?頼んだ覚えはないぞ。」

「前に弁償するといったであろう。これだ。」と言って片手剣と大きな盾を差し出した。

それを見たヘスティアがはしゃいで言った。「大きな盾だね。僕ならすっぽり入りそうだよ。」

ヴェルフは胡散臭そうに言った。「剣とのバランスが悪いな、大方失敗作の類だろう。」

「そうだ、だがこれは不壊属性付きだぞ。期限が決まっていない旅にぴったりだろう。」と椿。

「これ少し大き過ぎないですか、持っていくのが大変だと思いますけど。」と盾を指差してベルが言った。

「そこは考えてある。移動の時は背中に背負えるようにしておいた。おまけに裏に荷物も装着できる様にしてある。」と椿。

背負ってみたベルが言った。「ほんとだ、大きいけれど細長いから背負うと意外に邪魔にならないですね。」

背中を覗き込んでヘスティアが言った。「確かにこれなら大きな荷物も入るね。」

ただヘスティアの目がキラッと光ったのをだれも見なかった。

「ベル君、今度の旅の装備はこれにすれば良いじゃないか。僕はこれを勧めるぜ。」とヘスティア。

ヴェルフもしぶしぶ同意した。「しょうがないか、俺には不壊属性はまだ作れないからな。」

それを受けてベルは言った。「ありがとうございます、椿さん。助かります。」

「侘びの品だ、気にするな。それより頑張って早く帰って来い。」そう言って椿は帰っていった。

「ベル君、ぼくはヴェルフ君と打ち合わせが有るから、明日の準備をしてしておいで。」とヘスティア。

「わかりました、神様。」そう言ってベルは自室に向かった。




エイナ、レフィーヤ、ヘスティアの動きが変です。(読者視点ではバレバレ?)
ここでザッピングします。


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アーデ01

ここで少し時間を戻す。

リリルカ・アーデはロキファミリア団長フィンの思いに触れ、ベルへの思いを新たにし、迷いなく進む。はずだった。

その後、お試し小遠征(当初の目的は達成できず)から帰ってきた。今回印象的だったのは巻き込まれたゴライアス戦だった。

他のみんなはそれぞれ持ち味を生かして活躍していた。だけれどリリは端に隠れて見ているだけしかできなかった。

「はーー、困りました。」と思わずつぶやいた。一時の興奮はさめ、未解決の現実が圧し掛かってきたのだった。

すなわちベルの成長に付いて行けない、今回の様にダンジョンでは役立たずになってしまう、そして時間が経てば経つほど悪化する。

彼の異常ともいえるステータスについて考えていると、気づいてしまった。もう時間はあまり無いかも知れない。

あの騒動はこれを知らせる『お告げ』だったのかもしれないと思ってしまった。

 

とは言え一人で考えても、ろくな事にならないのは前回で経験済み。

ステータスロックも知らなかった主神と本人を除いたメンバーに相談することにした。

「なんだあーリリスケ、いきなり呼び出したりして。」雰囲気を察してかヴェルフが、ことさら軽い口調で話を切り出した。

「ベル様の異常なステータスとそれにまつわる件についてです。もうリリはついていけません。いや行かない方がいいかもしれません。」

「おいリリスケ、誰もお前を邪魔者と思っていないぞ。」とヴェルフ。

「そうですリリ殿、貴女は頑張っています。そんな悲しいことをおっしゃらないでください。」と命。春姫も横で頷いている。

「ヴェルフ様は魔剣鍛冶師としての力が、春姫様はレアで凄すぎる魔法があります。命様のスキルも使い勝手がいい、

だけどリリにはベル様の戦いに直接役に立つものが有りません。」

「ですが、」命が言葉を掛けようとするがそれをさえぎっていった。「命様はコンバートの予定ですから。」

重い沈黙が訪れた。その沈黙をどう捉えたかリリが静かな口調できり出した。

「具体的に話しましょうか。このまま行けばベル様がレベル5なられるのはいつごろだと思います?5年後ですか?それとも3年後?」

誰も答えない。「このまま行けば3か月後でも、リリはあり得ると思います。そうなったらダンジョン適正レベルは深層、

レベル1サポータの行ける所ではありません。」

「それならベル殿に少し待ってもらえば良いのでは?」

「それはリリも考えました。ですがスキルになるほど憧れた存在」ここで狐の耳がピクリと動いたが誰も見ていなかった。

「それに追いつきたいと言う願い、その思いをリリの都合で遅らせても良いんでしょうか?

それにベル様は、事件と言うより強くなるための試練の方が正しいのでしょうが、に頻繁に遭遇しています。

待ってもらうと言う話し合いは実質意味がないのでは。」

「それは…」命は言葉を詰まらせたが、他の二人も気持ちは同じだった。

リリはさらに続けた。「この前の週1のステータス更新でのベル様の値を覚えていますか?」

「もちろん覚えてるぜ、トータル50オーバーUPだった。確かに凄いがスキルの影響だろ。」

「敏捷に限って詳しく見てみましょう。前回583が今回594で11UPでしたね。」

「そんな感じだったな。」ヴェルフが言い、命も春姫も同意した。

「ではベル様がレベル3にランクアップしたのはいつですか?」「そろそろ1か月ぐらいか。」とヴェルフ。

「次は簡単ですよ、1か月は何週間でしょうか?それから1週間を引くと何週間になるでしょうか?」

「1か月は4週間だから1引いて3週間だ。」ヴェルフは答えた。命が「あー」と声を上げた。

「ランクアップすると数字は0になります。普通数字のUPに目が行ってしまいますが、前回の数字の方が大問題なんです。

前回の更新までが3週間、と言うことはベル様はなんとその間に583、1週当たり194以上UPしていることになるんです。」

ヴェルフ、命は言葉を失ったように唖然としていた。ただ春姫は何かを考えている様だった。

「もちろんその間イシュタルファミリアとのまさに死闘が有ったわけですから単純にはいきませんが。」

「リリスケ、事態が深刻なのは理解したぜ。ただ俺には急過ぎる、少し時間をくれないか?」とヴェルフ。

「そうです、少し時間を下さい。タケミカズチ様は武の神、何か知っていらっしゃるかもしれません。」と命。

「相談なさるのは構いませんが、くれぐれもベル様のスキルの事は秘密でお願いします。神に嘘はつけません。

特に命様、再コンバートの条件に関わってくると思われるので、注意してくださいね。」

 



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アーデ02

ヴェルフは内心焦っていた。リリスケには事有る毎に『ベルの装備は俺が作る』と言ってきた。

だがベルの成長は凄まじい、半年もすれば確実にレベル5になる。レベル5の冒険者の装備は、第一等級が適正になる。

命の装備として作った、中々の出来の寅弐郎が第三等級だったことを考えると、第一等級の装備を作れるのは当分先の事だろう。

ヴェルフは己の作った武器が深層のモンスターに脆くも壊される姿を幻想した。これでは魔剣と変わりがない。

だが今はリリスケの悩みの方が優先だ。ベルの邪魔にならない様に強くなる方法が解らないこと。

鍛冶師としての経験で言うと、基礎は実家で、手伝いをしながら見て覚えろだった。ただ適時助言は有った。

リリスケはあの運営に興味がなかったソーマファミリア出身、冒険者としての教育は受けていないだろう。

 

何ができるか考えていると、つい自分について疑問が出てきた。ヘファイストスの所でも個別の工房で、孤独に研鑽していた。

今までこの事に疑問を抱かなかったが、これでは個人の才能に依存しすぎている。

これでは結局ソーマファミリアと同じ事で、安定したファミリア運用は難しいのではないか?

考え事をしながら歩いていたせいか、古巣の工房近くに来ていた。そこに椿が元ヴェルフの工房から現れて言った。

「なんじゃ辛気臭い気配を感じて出てきてみればヴェル吉ではないか、どうしたんじゃこんなところで?」

考えが纏まらないヴェルフは椿に相談してみることにした。ひとしきり話を聞いて椿が言った。

「ヴェル吉もようやく気が付いたか、ぬしの頑固な頭ではまだ当分先だと思うておったが。」ヴェルフの頭をワシャワシャと撫でた。

「今『も』と言ったな、何か方法が有るのか?」頭を撫でられうっとおしそうにヴェルフは言った。

「有る、じゃが鍛冶ファミリアの秘術になる、部外者には教えられんな。もう少し早ければ…、もったいない奴じゃ。」と椿。

そういわれては引き下がるほかなく、ヴェルフはリリの事も聞いた。

「知り合いの冒険者が伸び悩んでいる、なんか良い方法は無いか?」

「鍛冶師の領分の事なら、大方その者の武器や防具が合っておらんのではないか?

大方適当に選んだものを使っておるのであろう。種族、性別などにより大まかには判るが個人差が大きい。

ほれフレイヤの所のブリンガル4兄弟が居るじゃろ、じゃがそれぞれ得物は違う。結局すべて試してみるほかない。

だから手前はあらゆる武器を作り、そして試し切りしてきた。」と椿。その答えにヴェルフは唖然とした。

「もう終わりか、次はもっとましな話をきかせよ。」笑いながら椿は工房へ戻っていった。

ヴェルフは恥ずかしくなったか足早にホームへ走って帰った。

もしその場に留まって居ればこんな会話が聞こえたはずだった。

「話の腰を折り申し訳ない。」「いやいや愚孫の事ゆえお気になさらず。」

「では続けて初代の話をお願いする、数百年に渡り打ち続けた男の物語を。」

「祖父の話では、あ奴にどことなく似ているようです。愚直に鉄を打ち続けたと聞いています。

ただ、たかが50年ほどしか生きられない我々には理解できないことも多いです。

がそれでも良ければ身代金の一部としてでも聞いてくだされ。」

「それこそが手前の聞きたいこと、あやつめほんとにもったいない奴じゃ。」

 

風呂から上がり自室に戻って命は、リリの言葉を考えていた。

自分は期間限定のファミリアだ、そのことを悪い意味で忘れていた。

リリ殿に釘を刺されたが、ヘスティアファミリアの秘密に触れることは控えなければならない。

それとコンバージョン時の話、『ベル殿達に借りを返したい、そしてともに助け合う。』と今考えるとある意味大見得を切った。

戦争遊戯で少しは返せた心算だったが、極上の檜風呂で相殺された気がする。

それに同室の春姫をちらっと見て、さらに大きな借りが出来てしまったと思った。

自分や千草では春姫の心を開くことも、助けることも出来なかった。

ベル殿が居てくれたからこそ昔のように笑いあえる様になった事は確かだ。

この先ベル殿とはステータスの差は開く一方、自分の力で恩を返せるチャンスは限られるだろう。

このままでは壮行会まで開いて送り出してくれたみんなに合わす顔が無い。

それにこんな気持ちでは、再コンバージョン後にタケミカズチ様に告白なんて出来ないだろう。

とにかく明日千草に相談してみようと思いながら就寝した。

 

翌日さっそく千草を呼び出しリリの事を相談した。もちろんベルのスキルは話していない。

千草は初めはおとなしく話を聞いていたが、話が進むにつれて身を乗り出してきた。

「アーデさんですよね?サポーターとしては優秀だと思うんだけど、レベル1でも中層なら何とか成るのでは?」

「千草殿も知ってると思いますが、このままだとすぐ中層を突破しそうです、そうなると…。」

「ならタケミカヅチ様にご指導して戴くのが良いんじゃないかな。神様同士も仲がいいんだから。」

「それは私も考えましたが、ベル殿のスピードに付いて行けないでしょう。」

「適正の高い武術なら可能性は有るんじゃないかな?それにサポータなら同じレベルの必要もないし。」

成る程とリリ殿に提案しようと思った。次に自分のことを相談した。今度は千草がみるみる萎んでいった。

いきなり如何したのかとハラハラする命を前に千草はぽつりぽつりと語りだした。

「ベルさん達と知り合うきっかけとなったあの日、ダンジョンから帰って手当を受けてから桜花とタケミカヅチ様と話し合ったんだ。

あの件で命ちゃんが責任を感じる事は無いよ。あの件は私のミス、借りはわたしがなんとかするから。……

話し合いでタケミカヅチ様が言われたの。何もダンジョンだけが役に立つ方法じゃないって、月詠様の元へ帰っても良いって。」

「お、桜花殿は何と?」

「桜花は『俺は何も言えない』って。あの時、ベルさん達を囮にして私たちは助かった訳だけど、

もしあの時ベルさん達に出会わなかったら逃げ切れなかった。…」

それを聞いて命は悟ってしまった。その場合は誰かが囮にならなければならなかったと。桜花の気持ちが理解できた気がした。

「でもお二方に『お前が決めろ』と言われた。だからわたしは桜花と一緒にいることを選んだ。

命ちゃん達の悩みは私なんかよりはるかに深刻、だからファミリア全員で話し合った方がいいと思うよ。」




ここでまたザッピング、旅立ちを描く予定です。ミィシャ、ラウル達は?


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???03

エイナはギルドに戻ると上司にこの様に報告した。

「クラネル氏側の準備が間に合わない様です。それで出発を明後日の朝にしたいとの事です。」

上司は顔を顰めたが、あの資料の内容なら仕方がないかと思い言った。「それでロキファミリアの方には?」

「連絡済です。」エイナはミイシャの机から指令書を取って上司に言った。

「これから2~3日休ませてもらいます。」「それはちょっと困るんだが…」

「こうでもしないとさらに遅れそうなんです。ミイシャには私から伝えておきます。」「…分かった。」

 

レフィーヤはギルドから帰るとリヴェリアに聞いた。

「アイズさんはどちらに?」「ダンジョンに行くと言って出て行った。レフィーヤ明日は頼むぞ。」

「その事でお話が有ります。明日は朝からいろいろ有りそうです、ですから早朝からダンジョンに籠り魔法の特訓をしたいのですが。

ラウルさんには直接届けようと思っています。」

リヴェリアは少し考えてから言った。「その方が良いか、警護の者には言っておこう。」

レフィーヤは心の中で嘘をついたことを謝り、『必ず奴の秘密を暴いてやる』、と心に誓った。

 

豊饒の女主人では、リューが朝からそわそわして、いつもはしない小さなミスを繰り返していた。

他の店員が小声で噂し合う中、ミアは『そのうち戻る』と言って取り合わなかった。

昼前そろそろ忙しくなろうとしている時に、神ヘルメスが入ってきて言った。「ミアさん居るかい。」

「何の用だい、これから忙しくなるんだから面倒事はごめんだよ。」

ヘルメスは声をひそめて言った。「フレイヤ様に渡りをつけてほしいんだが。」

「あんた何かやらかしたろう。取り次ぐなってお達しが有ってね、諦めな。」

「ベル君の事なんだが。」ヘルメスが言いかけると、シルが寄ってきて言った。

「今『ベル』さんって言いましたか?」どこかで皿が割れる音がした。

「やあシルちゃん今日も綺麗だね。」「お世辞は良いですから、いったいベルさんに何するつもりなんですか?」

「心外だなーーシルちゃん」「御託は良いですから何する気なんですか?」ヘルメスは肩を竦めて言った。

「俺はベル君の仕事を引き受けることにしたんだ。」「じゃあ出て行かなくても良くなるんですね。」シルははしゃいで言った。

「それはちょっと違うよ、オラリオは少しの間出てもらう事になる。彼は悪目立ちしたから、いろんな神々に目をつけられているんだ。

悪いことにイシュタルの娼館が壊滅したばかりだ、娯楽に飢えた連中が大勢いる、しばらく離れてほとぼりを冷ます必要がある。」

暗に旧イシュタル派の神々が動くことを示唆する。「どのくらいの間ですか?」シルが勢いよく聞いた。

「噂が収まる3か月ぐらいで考えている。普通にベル君だけなら数年かかるだろう、ほとぼりが冷めた頃こっそり戻すつもりだよ。」

ミアは黙りこんだシルを見て、ため息をつき言った。「そう言う事なら仕方がないね、伝えておくよ。」

ヘルメスはここで後片付けをしているリューをちらっと見て言った。「そうかそれはありがたい、ついでに頼みが有るんだが。」

ミアはヘルメスの視線をたどりさらに盛大にため息をつき言った。「リュー、チョッとこっちにおいで。」

リューはあわてて割れた皿を片付けミアの元に来ていった。「何でしょうミア母さん」

ヘルメスが言った。「リューちゃん、ベル君の事でまた頼みたいんだが。」

「神ヘルメス、前にも言いましたが私は便利屋ではありませんよ。」

「リューお願い」シルが頼み込んできた。「ですが…」ミアをちらっみてリューは言い淀んだ。

それを聞いてヘルメスが言った。「俺の所のメンバーは、本人のたっての希望でアイシャなんだがね。」

「あのバーベラですか…ミア母さん」リューがミアを振り返ってなにかを言いかけた。

ミアは腕を組みリューの言葉を遮って言った。「リューあんた首だよ。」リューは固まった。

「リュー、やりたい事が見つかったんだろう。店の事は気にせず行ってきな。ほら退職金だ。」と言ってミアは重い袋を投げ渡した。

「ミア母さん……」「もしもやる事が無くなったらまたここへ戻ってくればいいさ。美人な店員は歓迎だよ。」

「明日朝午前6時北門集合だ。分かっていると思うけどギルド職員が付くから気を付けて頼むよ。

書類なんかは俺がなんとかするからその点は心配無用だ、詳しいことはアイシャに聞いてくれ。」

「分かりました。これから準備します、ミア母さんそれでは行ってきます。」

ヘルメスはほっと息を吐いた。ミアが言った。「あんたの頼みごとを聞いてやったんだ。私のも聞いてもらうよ。」

 

真夜中、レフィーヤは魔石灯を持って、がらくた部屋もとい武器庫に一人入っていた。

いつもの武器、森のティアードロップは、オラリオ外では整備ができないと気づいたためだった。

「外はそんなに強い敵はいないから魔法石を使っていない杖が有れば良いんだけど、ただ出来れば魔法が掛った物が良いんだけど。」

がさごそと探していると、なんとか条件に合った杖を見つけた。それ程の魔力は感じないが贅沢は言っていられない。

ただその杖には紙が付けてあったが、夜でもありレフィーヤは見過ごした。それには「アマゾネス専用」と書いてあった。

 




ミアの頼みとは……、アスフィーがんばれ、超がんばれ。


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???04

オラリオ北門朝6時少し前、当然ミイシャとラウルの姿はなく代わりにエイナとレフィーヤが居た。

二人はすでに簡単に挨拶を済ませていた。

そこへベルが駆け込んできた。エイナが目ざとく発見し近づいて言った。「おはようベル君、これからよろしく。」

ベルはその勢いにタジタジになったが、後ろにただならぬ雰囲気を持った森の亡霊もとい妖精を見つけて、

思わず後ろに数歩下がると後ろの人に当たった。

後ろから半回転、がばっと抱きしめられ顔を胸に埋められた。「お前さんの方から来てくれるなんて嬉しいね。」

アイシャだ、ベルがじたばたしていると、覆面の人物(リュー)が近寄ってきて言い争いになった。

「前にも言ったが彼にはすでに伴侶の先約がある。」とリュー。

「すでに妹分がよろしくしてるよ、それでそっちはもう手は繋いだのかい?」とアイシャ。

エイナはその言葉に眉を顰め、後で問い詰めようと強く思った、

レフィーヤは、やはり奴は色魔で変態、これ以上アイズさんに近づけさせない様に、何としても秘密を暴こうと決心した。

しばらくして解放されるとベルはオドオドと「レフィーヤさんお久しぶりです。」とレフィーヤに挨拶すると、

「今度は不埒な行いが無いように、しっかり監視しますからそのつもりで。」と冷たく言った。

その横でエイナがアマゾネスに少し怒ったように声をかけた。

「ギルドの者です。お見送りならそろそろ離れてもらえないでしょうか?」

このように少々騒がしく開門を待っていると、リリがものすごい勢いで駆け込んできた。

そしてベルの背中に手を突っ込むと何かを引っぱり出した。なんとそれはヘスティアだった。

リリが怒って言った。「ギルドに睨まれているのに、なんて事をするんですかヘスティア様、さあ帰りますよ。」

リリはヘスティアの首根っこを掴んで引っ張っていった。「ベル君には僕が必要なんだー。」と言う言葉が空しく響く。

後にはベルが持っていくはずだった荷物が、小さなバッグに入って残されていた。

その光景にエイナとレフィーヤはあっけにとられて、毒気を少し抜かれた。

コホンと咳を一つしてアイシャが言った。「ヘルメスファミリアからのアイシャ・ベルガーだ、今回の件の仲介を任されている。

でこっちは案内人だ。ただし仕事については秘密で頼むよ。」この時に門が開いた。

アイシャが言った。「そろそろ行こうか。」みんなはヘルメスが口添えしていたために一番で門を出た。

 

先ずは馬車に乗って昼前に村に着いた。道中は終始無言、エイナとレフィーヤはベルの正面に座りジト目で睨んでいた。

ベルはその視線に終始落ち着きなくそわそわしていて、アイシャとリューはベルの両隣であさっての方向を向いていた。

昼食を終えて周囲を散策、周りに人がいなくなるとベルがアイシャに言った。

「つけられてますね。あんまりレベルは高くなさそうですが、どうしますか。」

アイシャがエイナをちらっと見て言った。「ちょっと不味いね、ヘルメス様からはナイショにしろと言われてるんだが。」

ベルが言った。「エイナさんは僕が運びます。」「どうやって?」とリュー。

「神様の代わりに。」と言ってベルは背中を指差した。アイシャが言った。「それじゃ走って撒くか。」

エイナを背中に乗せベルたちは走りだした。ただヘスティアとの身長差で少々不安定、このためエイナはベルの首にしがみついた。

レベル3でも上位にあたるスピードにエイナはギュッとしがみついた。

首から肩にかけて感じる柔らかな双丘、耳に押し当てられるほっぺたの感触、ベルはその感触に頬を染めながら走り続けた。

 

この夜は山の中で野営になった。食事中に今後の話をした。

「追手はどうやらまいたようだね。」とアイシャ。

「後は目立たなければ大丈夫じゃないでしょうか。」とベル。

「それで目的地までのルートなんだが。」リューを見てアイシャが言う。

「今日のようなスピードで直線踏破すると4日か5日、ただしすべて野宿、間にはろくな町は有りません。」

「そりゃきついね、追手の心配はないんだ街道に沿って行けないかい。金はあるんだふかふかのベットで寝たいもんだ。」

「目的地は街道からはかなり離れているからずいぶん遠回りになる。フカフカを希望するなら10日以上かかるぞ。」

「それに街道を今日のようなスピードで走ると目立つんじゃないですか。」とベル。

「そんなに遠いんですか。目的地はどんなところなんですか、ギルド支部は近くにありますか。」とエイナ。

「山裾の自給自足の小さな村だ。ギルド支部のある町へは私の足で直線ルートなら2日、山道を通ると4日かかる。」

「ヘルメス様から近く、と言っても一般人で2日ほどの所に町が有るって聞いてるんだが。」とアイシャ。

「ある、ただ小さな町だ、最低限の者はそろうが流石にギルド支部は無い。」

「ではなるべく宿を使う方針で最短ルート、ただし最寄りのギルド支部に寄りたいです。最後は直線で構いません。」とエイナ。

他のみんなも頷いた。「ではそのように。」

 

アスフィーはヘルメスに報告した。「彼等は無事出発したようです。」「そうか一安心だな。」

「彼をオラリオ外に出して良かったんですか?」

「構わない、むしろ都合が良いんだ。彼はあのモンスター達に少しのめり込み過ぎているから、距離を取った方が良い。

それにギルドもさすがにオラリオ外では、あのモンスター達と関わらせる事は出来ないだろう。

そして彼は、良きに付け悪しきに付け目立ち過ぎた。今はオラリオ中どこでも彼の話題で持ち切りだよ。

自身で問題を撥ね退けられる第1級になるまで、もう少し大人しくしていた方が他の神にちょっかいを掛けられないよ。」

アスフィーはため息をついて言った。「では彼に関して私は何かする必要が有りますか?」

「ダイダロス通りは調べておいてくれ、後は適切な時期に前に調べた資料をギルドに出せば良い。

仕上げは帰ってくる頃を見計らえば良いだろう。」

 




ここでまたザッピング。アスフィーさんよかったね4完徹は無いよ。


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オラリオ内

ラウルは朝食時に今日の出発を盛大に祝われて上機嫌で自室に向かった。

当然食堂を後にするのはほぼ最後、館の中は人気がなくがらんとしていた。

自室のドアを開けた途端に当身を受けて昏倒、縛り上げられベットの下に押し込められた。

犯人はがさごそと荷物をあさり目的の書類を手に入れると一目散に館を後にした。

とたんに鳴り響く警報、ファミリア総出の追跡劇が始まった。

相手はベートやテイオナ、テイオネを易々と躱して逃げ回る。

ただ守りの堅いと思われる南、南東、南西には近づかなかった。

ただし門番には袖の下を渡して、先に出発するように頼んであった。

 

一方、館ではロキがあまり使われていない部屋を中心に探し回っていた。探し物はラウルである。

「うーんアイズたんどこに隠したんやろ、隠せそうなとこは粗方探したんやけど。

アイズたんは天然やからそんな複雑なところではあらへんはずなんやけど。」ここでロキはピンときた。

ラウルの部屋に直行、直ぐにベット下に発見し、戒めを苦労して解きラウルを起こそうとした。

だがラウルはなかなか起きなかった。ロキは少し考えて邪悪そうな笑みを浮かべた。

ベット下に張り付けてあった彼の日記(自作ポエム)を引っ張り出して大声で読み始めた。

ラウルは飛び起きて言った。「なんて物を読んでるんすか。」

ロキが日記を閉じて言った。「おはようラウル、そろそろ時間やで。」

ラウルは時計を見てあわてて支度をして出て行こうとした。その時ロキが声をかけた。

「リヴェリアからの伝言や『このことも併せて罰だ、しっかり頑張って来い。』だそうや。」

ラウルは脱力して言った。「それなら予め言っておいてほしかったっす。」

途中で昼食を済ませ南門へ向かった。すると北の方で花火(狼煙?)が上がり、程なくして団長と出会った。

フィンはラウルに一声かけて足早に立ち去った。「やあラウル、お勤め頑張ってくれよ。」

門で待っていたが二時になっても三時になってもベルクラネルは来ない。門の警備員にギルドまで行ってもらった。

分かったことは、出発が明日朝に延期された事、ただロキファミリアには連絡済との事。

朝のバタバタで自分に届かなかったんだと思い、ため息をこぼした。

今更戻ったところでばつの悪い思いをするだけと思い館へは戻らず近くの宿で一泊することにした。

 

翌朝南門に行くとチョッとした騒ぎになっていた。話を聞くと、ベルクラネル一行は昨日のうちに出発していることに。

仕方なく館に帰るとそこで大騒動に。憐れ『超凡夫』……

 

オッタルが跪き報告した。「申し訳ありませんフレイヤ様、追跡に失敗したとのことです。」

フレイヤが言った。「構わないわオッタル。手引きした相手は判ってるもの、3か月たっても戻ってこなければ…」

「はっ」「それよりあれは本当なの?」「あれからずっと観察しましたがどうやら間違いないようです。」

「なら保存しておいて。しかるべき時に使いましょう。」「ではその様に。」

 

アステリオスはオラリオの外れの廃墟の地下で一人たたずんでいた。漠然と夢が遠くに行ったと感じたからだ。

その時近くに強大な力を感じ振り向いた。その隙をついて水を大量に掛けられた。驚いたことに傷が少しずつ治っていく。

その水にはポーションが混ざっていた。素早く傷が治るのを確認してから四方から凍結魔法がかけられた。

体中凍りついたアステリオスは、なぜか聞きなれた声に耳を傾けた。

「お前の望みはいずれかなえてやろう、暫し眠れ。」



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アーデ03

攫われてから戻ってきたヘスティアとベルを交えて、前回の会議の続きを行った。

先ず事情を知らないヘスティアとベルに、前回の事を簡単に説明した。

例のスキルを黙っているヘスティアは、腕組みをして考え込み、ベルはその話に呆然としていた。

暫しの沈黙の後、命が言った。「リリ殿、武術を習った事は有りますか?」「いいえ」

「だったら武の神であられるタケミカヅチ様に相談してみてはどうでしょうか?」

「それは考えてみた事が有ります。確かに命様たちのレベル2へのUP期間2年はかなり早い方です。

しかし到底ベル様の成長速度には追いつかないと思いますよ。」

「確かにそうですが、リリ殿に最適な武術が見つかるかもしれません。それにサポータなら同じレベルの必要は無いでしょう。」

「それもそうですね。」とリリは考え込みながら言った。ここでやっとベルが現実復帰し言った。

「武術の訓練ってどんな事をするものなの?それと命さんたちは子供の頃からいたんだよね。

子供の頃からからしないといけない物も有るのかな?」

「基礎的なものはやりますが、本格的には骨格が定まった後ですね。」「何故ですか?」

「先にも言いましたが武術にも適正が有ります。分かりやすい例では、小柄な人が壁役、大柄な人が穏行などは難しい。

無論それだけで適正を決める訳ではないですが、骨格は自由に変えられないですから。

定まらないうちに技を覚えるとそれが癖になり、後々怪我しやすいなどの悪影響が出るそうです。」

 

今度はヴェルフが発言した。「今度は俺からだ。今までに使った武器は何が有る?」

「ギルド支給のナイフですね。ベル様と違い、まったくと言っていいほどモンスターは倒せませんでした。

それでサポーターをしながら、なんとかお金を貯めてリトル・バリスタを購入しましたが射程が短い、また特注の矢は高価

なので使いどころが限られていて有効な経験値にはつながっていませんでした。後は魔剣ですが……」

ここでヘスティアが口をはさんだ。「魔剣使用は本人の経験値に殆どならないからなー」

「それじゃあ鍛冶師としての提案だ、リリスケお前に会った武器が有る筈だ。それを探そうや。」

「ヴェルフ、具体的にはどうするの?」とベル。

「それなんだが、いろいろ試してみる他ないようだ。ちなみにベル、お前は大剣が合ってるようだな。

最初に欲しがったのもそうだし、ダンジョンで見ていても上手く使いこなしてる。」

ヘスティアが首をかしげて言った。「セオロの森で使ってるのを見たけど、かっこ悪くてとてもそうは見えなかったよ。」

リリはあの時を思い出して頷き、ベルは苦笑して言った。

「それでも今は主に大剣を使ってるね。そうすると適正を見極めるのは難しそうだよ。」

「それも含めてタケミカヅチ様に相談してみては、ついでに桜花殿達の適性も調べることにすれば反対されないでしょう。」と命。

「ただそれには問題が有る。俺の武器ストックにそれだけのバラエティは無え。今から作るにしても時間が足りねえ。

リリスケ、方向性だけでも何とかならねえか?打撃系か斬撃系とか、またリーチはどんなもんとか。」

「そんなこと言われても、サポーターとして運んだ事は有っても、殆どの武器は使った事は有りませんよ。」

「そうか…、そうだ種族としてでも適正は有る。ドワーフの斧、エルフの弓みたいに。パルゥムは如何なんだ?」

「リリはソーマファミリア生まれオラリオ育ちです、パルゥムのコミュニティとは無縁でした。ですから分かりません。」

「そうか何か分かれば良かったんだが。」とヴェルフ。

「フィンさん」とベル。「えっ」とリリ。

「ロキファミリアの団長フィンさん。彼はパルゥムの再興を掲げています。何か知ってるかもしれません。」

「そういえばそんな話が有ったな。でもよくそんなこと知ってたな、英雄譚以外あまり知らなさそうなのに。」とヴェルフ。

ここでヘスティアが口を挿んだ。「そうだ、ベル君は一般常識が少し足りない、僕が教えてあげるよ。」

「ヘスティア様がですか。」リリが胡散臭そうに言った。

「これでも僕は神なんだ。ベル君がこれから団長としてやって行くには、いろんなことを学ぶのは必須だ。

現在ダンジョン攻略は順調だ、今後のためにも是非ともやるべきだよ。それに他の団員も他にやる事が有りそうだしね。」

「神様の誘拐の件で今フィンさんはギルドに居るはずです。何とか会えるようにギルドに行ってきます。」とベル。

「私も行きます。」「俺も。」とリリとヴェルフ。

「私はタケミカヅチ様に相談しに行きます。」と命。

ホームにはヘスティアと春姫が残された。

 

ちなみにヘスティアは、真っ先に男女二人で踊るダンスを教えるつもりだ。

神会のリベンジである。(教本はアポロンの置き土産)



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アーデ04

ギルドに着いた三人、早速エイナに会うために受け付けに向かう。

不思議なことにロビーには人がそこそこいるのに、相談受け付けは人がほとんどいない。

おかげでエイナとはすぐに話が出来た。話のはじめに聞いてみた。

「今日、いやここ数日は王国絡みのミッション終了を受けて、各ファミリアの報告で大忙しよ。

それであなたたちの用件は何かしら?」

「ロキファミリアの団長にお会いしたいんです。先日のお礼もしたいですし…」とベル。

「今ギルドに来てるわ、都合を聞いてくるからちょっと待ってて。」

フィンがいる応接室はすぐに分かったが、中の状態が解らないためドア前で躊躇していた。

すると中からリヴェリアが出てきた。「エイナではないか、どうした?」

「ディムナ氏に少しお話が有るんですが。」

「今ならいいぞ、部屋の中にいる。フィンこの娘の話を少し聞いてやってくれ。」と言ってリヴェリアは出て行った。

「失礼します。私の担当のベルクラネルがただ今ギルドに来ていまして、

お会いしたいとのことです。如何致しましょうか?」

フィンは親指を見つめてつぶやいた。「こちらの方だったか。」「何か?」

「いや独り言だ。ギルドに報告は終わっていて、裁定待ちだ。ちょうど時間は空いている、連れてきてくれ。」

エイナは一礼しベルたちを呼びに行った。ノックの後ベルたちは入ってきた。

部屋にはフィンとリヴェリアが居た。

ベルはフィンの前まで来ると「主神を助けていただきありがとうございます。」と言い深々と一礼した。

ヴェルフ達二人もそれに倣言一礼した。

「その件はミッションの一環で行った事だ、気にしなくても良い。話はそれだけかな?」

「いいえちょっとお尋ねしたいことが」

フィンが苦笑して言った。「まんざら知らない間柄ではないし、公式の場でもないよ。ざっくばらんに話をしよう。」

ヴェルフが言った。「それじゃ遠慮なく、単刀直入に聞くぞ、パルゥムに合った武器は何だ?」フィンは首を傾げた。

「それでは話が通じませんよ。順を追って説明しないと、恥ずかしながらリリは冒険者として伸び悩んでいます。

そこで武器を変えて見てはどうかと言うことになりました。」ヴェルフが引き継ぐ。

「本来ならすべての武器を試すんだが時間が足りねえ、そこで『エルフなら弓』みたいなものは無いか。やっぱり槍か?」

「そう言う事か、その答えは『知らない』だヒューマンと同じで特に偏った適正は無いように思う。

僕の槍はガレス、リヴェリアとのパーティで消去法で中衛になり選んだだけだからね。」剣も使えると言い添える。

「僕はこの前ギルドから、レベルUPの過程を聞かれました。なんでもそれを参考にして冒険者の底上げをしたいらしいです。

前にパルゥムの復興を目指していると聞きました。なら効率的な成長方法を知っているんじゃないですか?

それをぜひ教えてください。」とベル。

「僕は一族に旗印として『勇気』を掲げてこれまで活動してきた。個々に対してではなく一族全体を対象にね。

だからパルゥム個人に関する事柄は関心がなかった。だから秘術的なものは知らないな。」

「そうですか……、だったら『勇気』を掲げるフィンさんのこれまでの活動内容を聞かせてもらえないでしょうか?」

「最近の活動は機密扱いのものがほとんどなんだが。」

「最近の者でなくて結構です。むしろレベル1の頃の方が参考になるかと。」

ならいいかとフィンは語りだした。横でリヴェリアが懐かしそうに時折合いの手を入れ話していた。

当初本物の英雄譚が聞けるとワクワクしていた(特にベル)が話が進むにつれて微妙な雰囲気に。

要約すると、危機が訪れる、フィンさんが事前に察知、策をめぐらせ勝利となる。

あらかじめ危機を察知するフィンさんの能力に完全依存の上に、『勇気』とは違うと感じさせるものだったからだ。

三人は顔を見合わせ、代表してベルが言った。「話の腰を折るようですみませんが『勇気』とは違う気が…」

「そうです『勇気』と言えば強い相手に正面型立ち向かう、そうベル様のあのミノタウロス戦の様な。」

リヴェリアが言った。「あの戦いは見事だったが、あの真似は非常に危険だ。現に複数のパーティが奴に全滅させられている。」

黒のゴライアス戦を思い浮かべながらヴェルフが言った。

「だが『勇気』と聞いて思い浮かべるのはそっちだ、パルゥムは違うのか?」

「りりはパルゥムのコミュニティ育ちでは無いので、確かなこと判りませんがたぶん違うと思います。」

ベルが言った。「ハッキリと言えませんがそのまま『勇気』を掲げるのは危険な気がする。そのままだと死人がたくさん出る様な。」

リヴェリアが考え込みながら言った。「つまりこう言う事か。『勇気』に賛同した者たちは少数だけしか生き残れない。

大半が死に、あるいは心を折られるか。このままではどんど人口が減ってしまうな。フィンも嫁さがしに苦労している。」

リリが叫んだ。「じゃあパルゥムが衰退したのって、『勇気』を掲げたから?」

「そんな感じだね。何か欠けているような気がします。」ベルが言った。

リヴェリアが言った。「パルゥムが言っていた『勇気』とは一般的な物とは違う、あるいは付帯条件が付くのかもしれんな。

フィアナ騎士団が全滅したときにそのあたりが失われてしまったのかもしれん。」

「極端だが『逃げるのも勇気』とかか?」とヴェルフ。「さすがにそこまでは…」とベル。

「いや逃げる勇気は大事だ、特に対人では。モンスターは駆け引きしないが人はするからな。」とリヴェリア。

「パーティで逃げる時、『逃げるのも勇気』て叫ぶと人相手だと逆効果なのかな。」とベル。

「そうですね、逃げると判るには不味いです。ですが『勇気』とだけ叫べば敵は混乱してうまくいくかも。」とリリ。

「その後酒場で『今日は勇気で上手くいった。』とか言って盛り上がるのか。」とヴェルフが混ぜっ返す。

「元アポロンファミリアのルアンを考えると、大いにありそうで不愉快です。」と見栄っ張りなルアンを思い浮かべてげんなりするリリ。

 

話を元に戻そうとベルは言った。「フィンさんの偉業は、危機を察知することが肝のようです。リリは事前に危機が解るの?」

「そんな力は持ってません。持ってたらミノタウロスにも会わなかったし、あの中層の決死行も避けられたはずです。」

固まって動かないフィンを見ながらベルは言った。

「そうだよね。フィンさんに聞けば上手くいくと思ったんですが、思い道理には行かない物ですね。

今日はどうもありがとうございました。それでは僕たちはこれで。」ベル達は退室した。

フィンとリヴェリアはしばらく固まったままだった。



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???05

二日目の夜、宿屋で(ベルは個室)エイナは気になっていることを他のメンバーに聞いた。

「私はベル君のアドバイザーを務めている者ですが、みなさんそれぞれベル君の知り合いのようですね。

どの様な知り合いなんでしょうか、またアドバイザーとしてお聞きしたいのですが彼の印象は?」

「18階層へ逃げ込んできたところを私たちが保護しました。ですが水浴びは覗くし、おまけに図々しい。

一言でいうと最低なヒューマンです。」むっとした表情でレフィーヤが言った。

「覗きについては神の悪戯と聞いているが、図々しいかどうかはこの一日で判断できるだろう。

彼は私の恩人の伴侶予定者だ。謙虚で誠実、ヒューマンとしては最高だと思う。」覆面の人。

「あたしの印象はちょっと違うな。まだまだ足りないところが有るがアイツはオスだ。

なんせ初めて会ったのは歓楽街、精力剤を持って一人であたりをキョロキョロしていたね。

その後面白半分に皆で追っかけたんだが逃げられてね、あれは惜しいことしたよ。

それから妹分を取り合い、見事に持っていかれたがね。」アイシャは笑って言った。

レフィーヤはやっぱりドスケベなんだ思い、リューはまた神の悪戯に巻き込まれたのだと思った。

エイナはこの話(男の武勇伝?)を聞いて大いに狼狽えた。

アイシャがエイナを見て言った。「中々楽しかったな、ところであんたの印象も聞いてみたいんだがね。」

その言葉にエイナは少し落ち着きを取り戻して言った。

「夢見がちでお調子者、危なっかしくて見ていてハラハラする存在ですね。実際にはいないけど弟みたいな感じかな。

ただやるときは、ビックリする位の事をやり遂げちゃう所も有るかな。」

アイシャが笑って言った。「確かにそんなところもあるね、中々的確だよ。妹分を連れてったからあたしも姉かね。」

レフィーヤは純朴そうにふるまうこれが奴の手口、アイズさん達もこれに騙されているんだと思った。、

リューは言った。「いろんな見方が有るようだが、私は私の見てきたものを信じる。

もし気になるならこの旅で自分の目で確かめれば良いだろう。」

アイシャはその言葉ににやりと笑った。エイナが言った。「あなたのお名前を教えて戴きたいんですが。」

リューは少し考えて言った。「秘密にしておきたい所だがそれでは不便だろう。仮にリューとでも呼んでくれ。」

「リュー、あの疾風と同じ名前ですね。」とエイナが少し不快そうに言った。レフィーヤは知らない様だった。

「そうだ、私は奴とバトルスタイルが似ていると言われた事が有る。

それに最後には致命傷を負わされ、のたれ死んだはずだ。偽名として使うには丁度いい。」

その言葉にエイナは納得した。「明日もある。そろそろ休んだ方が良いだろう。」

 

ようやくギルド支部前まで来た。「では3時間後に門の所で。」と言い残してリューは去っていった。

「しかし報告やお金の受け取りに往復最短4日も掛るなんてね。」とエイナ。

「だったらヘルメス運輸を利用してはどうだい。郵便、トラベラーズチェックなんかも扱ってるよ。」

「トラベラーズチェックってなんですか?」とベル。

「リヴィラの町の証文を使ったことは無いかい、あれと似た様なもんだよ。近くの町にはヘルメス支店が有る。

そこで自由にお金に変えられる。手数料は掛るが安全だよ。」とアイシャ。

エイナは支店受付に向かいそして帰ってきた。

レフィーヤとベルに袋を渡して言った。「経費と報酬、事情を話して3か月分先渡しで貰ってきたよ。大切に使ってね。」

エイナは大半、ベルは半分トラベラーズチェックに替えた。レフィーヤは替えなかった。

エイナはベル達にこの町の簡単な地図を渡して言った。「各自必要な物を買ってね、集合時間に遅れないように。」

 

旅最後の野宿、見張りは初日と同じ、ベル、アイシャ、リューの順。

翌朝、ベルはリューに一声かけて、少し離れた大きな木の下で日課になっている鍛練をしていた。

しばらくしてレフィーヤが起きた。エイナとアイシャはまだ寝ている。杖を持ちベルの様子を見ようとするも不在。

リュー(仮)さんによると近くの木にいるととの事。そっと覗くと鍛練中、強さの秘密を暴くチャンス。

こっそり近ずく、視線に敏感なベルだが森の中の森の妖精、気づくことは出来なかった。

大きく回って木に上った。ちょうどベルは、小休止とばかりに膝に手を置き腰をかがめ地面を向いて呼吸を整えてた。

レフィーヤは何をしているか確かめるべく、ベルの真上の枝に移動した。



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???06

レフィーヤが丁度真上に来たとき、杖が淡く光った。なぜかレフィーヤは気付かない。

同時にレフィーヤの手から滑り落ちた。あわてて拾おうとしたレフィーヤも結局落ちてしまう。

当然ベルの背中を杖が直撃、今までの疲れと、突然の衝撃に、背中に熱を感じて仰向けに転がった。

そこへレフィーヤが落ちてきた。あまりの事にベルは中途半端に手をかざす事しか出来なかった。

両者しばし呆然、耐久値の高いベルが先に硬直から抜け出す。

感じたのは、歯の痛みと掌の柔らかい感触。確かめようと指を動かしているとその感触が不意に消える。

目の前に両手で胸を隠し顔を真っ赤に染めたレフィーヤがいる。

訳が解らないベルだが、ふと歯の痛みを思い出し指で口にふれた。

それを見たレフィーヤはさらに顔を赤らめて、近くに落ちていた杖を拾いベルに殴り掛かってきた。

それを見はベルは思わず逃げ出した。ただし前回の失敗は身に浸みているので、迷子のならない様に円を描きながら逃げる。

レフィーヤは怒りに任せて滅茶苦茶に杖を振り回す。少なくない回数ベルに当たる、しばらく鬼ごっこが続いた。

殴り疲れてレフィーヤが少し冷静になった時、エイナが声を掛けた。「どうしたんですか?」

「胸を揉まれました。」ビックリしてベルを呼んで皆で事情を聴いた。

事情聴取の結果、レフィーヤの自爆と判明。ベルはノアヒールで治してもらった。

レフィーヤは納得いかなそうだったが、一応ベルに謝ったためこの場は収まった。

アイシャはそんな偶然に笑い転げ、エイナはベルに一応注意をした。

 

夕方前に目的の村に着いた。アイシャが聞いた。「で神様はどこにいるんだい?」

「今の時期なら村長の所だろう。予め言っておく、この村の住人はエルフ程ではないが排他的だ。

先ず私が先に村長に会って話をつけてくる。少しここで待っていてほしい。」と言ってリューは村に入った。

しばらくして村長夫妻を連れて戻ってきた。そして村外れの比較的大きな建物に案内された。

村長が言った。「ここは村の集会場です、神様はここにおわします。今晩はご自由に、明日以降はご相談ください。」

奥さんが言った。「ただし食事は別です、一人朝食50、夕食100ヴァリスで提供しますよ。」

とりあえず全員両方注文することにして村長からカギを受け取った。では後ほどと言って村長たちは引き上げた。

一同は中に入った。集会場と言うことで大部屋を想像していたが、内部にはドアがいくつかあった。

リューが先回りして言った。「ここは、時折訪れる商人たちの為の簡易宿泊所も兼ねている。

先ず私一人でお会いしてくる。」アイシャが手紙を渡した。「ヘルメス様からだよ。」

それを受け取り一番奥のドアをくぐった。神威は部屋の外に居ても感じられるほど強い。

その間、ベル達は他のドアを調べた。言われた通りベット2つだけの簡素な寝室が数部屋。

タンク式のシャワー室とトイレが有った。後気になったのはドアに付けられた刃こぼれした武器だ。

リューが戻ってきて言った。「クラネルさんと一対一で話がしたいそうです。会ってもらえませんか。」

そのためにここまで来たも同然なベルは、緊張した面持ちで部屋に向かう。

アイシャが言った。「粗相をするんじゃないよ、変なお願いをされないようにね。」

部屋に入るなりベルは跪いた。「遠慮は無しで良いよ。」女声で聞こえた。

ベルが顔を上げると、リューと同じ覆面をした神物がいた。おまけにぶかぶかの服装で外見は窺えない。

「こんな格好で失礼するよ。オラリオとは少々有ってね、何も聞かないでくれるとありがたいね。」

「もちろんです。」敬う姿勢を崩そうとしないベルに苦笑して言った。

「お前さんはあの子の言う通りの人物なんだね。早速で悪いんだがオラリオでのあの子の事を聞かせてくれないかい。」

ベルはこれまでの経緯から、あの子とはだれかを察して話をした。神は頷きながら聞いていた。

「よく判ったよ、ところでさっきから気になっているんだがお前さん懐に面白いものを持っているね。

少し見せてくれないかい。」ベルは懐の紫紺に輝く神様のナイフを渡した。

神はそのナイフをじっと見つめ、時々相槌を打つようなしぐさを見せていた。

やがて刀身を指でなぞった。ベルには淡い緑に光って見えた。その光はゆっくり刀身に溶けて行った。

「ありがとう、もういいよ。思いのこもった良い品だ、大切にしておやり。」と言ってナイフを返してくれた。

「もちろんです、へステイア様に貰った大切な物ですから。神さま、それで僕にやってほしいことは。」

「それは明日の朝食後に話そうと思う。その時に村長も呼んでおいてくれないかね。」

「分かりました。」と言ってベルは退出した。

 

部屋に戻ると食事の準備が出来ていた。メニューは近くの川でとれた魚の焼き物、たっぷりの野菜スープ、とパン。

食事は塩のみの味付けで、可もなく不可もなくと言ったところだった。指示通り食器を玄関先においた。

ここでベルが報告した。「明日の朝村長さんを交えてクエストの話が有るそうです。」

エイナが聞いた。「どんな神物ですか?」「覆面で姿ははっきりしませんでした、ただ声の印象は老女神でした。」

ここでベルが大きな欠伸をした。アイシャが笑いながら言った。「もう眠くなったのかい、あたしが添い寝してやろうか。」

当然レフィーヤとリューがその言葉に烈火のごとく怒った。

いろいろ話し合った結果部屋割りは、エイナとレフィーヤ、アイシャとリューでベルは個室、ただしトイレの横。

ちなみにベルの部屋のドアには、山刀(ククリナイフ)が飾ってあった。

翌朝エイナはベルがなかなか起きてこないので起こしに行った。ドアをノックしても返事が無い。

調べるとドアに鍵がかかっていない。ベルはド田舎育ち、その後廃教会の地下室、なのであまり鍵をかける習慣がない。

部屋に入りシーツを盛大にめくった。「朝だよベル君………キャー」叫び声が響き渡った。

 




ここでザッピング、もう一人がいよいよ登場、?が取れる日も近い。


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春姫01

ヘスティアは春姫の事をずっと気にかけていた。故郷を離され一人ぼっちで花街に入った少女。

己の神性(ヘスティアは孤児の神でもある)に触れるので拒むことは出来ない。(アイシャと違って)

己に比べてすらりと伸びた手足、胸だけは勝っているとはいえ抜群のプロポーション。

どこか剣姫を思わせる金髪、そしてベル君に特別な思いを持っている、サポータ君とは比べようがないほど危険。

ヘスティアの結論は、パーティメンバーとして一緒にダンジョンに潜っていた方が100倍マシだ。

 

へステイアと二人残された春姫は、溜っていた思いを相談することにした。

「へステイア様、リリ様の問題は私の問題でもあります。」

「なら同じことをすれば良いんじゃ無いかい、ルナールはタケのやつが知っているだろう。…ホントの事を話しなさい。」

「ベル様は英雄です。破滅の象徴の娼婦だった私が一緒に居て良い者かどうか…」

ヘスティアは自室に招き入れ、一冊の本を広げて見せて言った。

「これは君に会う前、ベル君が歓楽街で一夜を過ごした後に見ていた本だよ。」

春姫はそれを見て言葉を失った、そこにはまさに春姫が言った通りの事が書いてあったからだ。

「『破滅の象徴として娼婦』が描かれてるね。だけどだったらなぜ英雄は娼婦を切って捨てなかったんだい?

外聞が悪いなら山の中へ誘い込んででもすればいいだろう。聞かれたらモンスターに襲われたことにすれば良いしね。」

「それは…」春姫は言い淀んだ。

「ボクの考えだけど、破滅は娼婦に係るんじゃあない。少し前から話を要約すると、英雄に惚れた娼婦が一緒に行きたいと願う。

英雄は危険だからと拒む、だが娼婦は命なんかいらない、ただ一緒に居たいと言う。押し問答の末さっきのページになってる。

破滅はこの娼婦の心、命なんかいらないこの一点なんじゃないかと。そしてこの後娼婦の姦計に嵌り破滅するんだが、

初めから破滅させるのなら、この告白は要らないんじゃないかな。わざわざ正体を明らかにする行為だからね。

そして共に破滅していく。ある意味娼婦の願いは叶ったのかも知れない。そういう意味では破滅の象徴なのかもね。

今度の事で親しいひと(神)に目の前で死なれて、その事をずっと後悔していた人に会ったよ。

目の前で死なれるのは辛いことだよ。ベル君もおじいさんに死に別れたことを気にしている様だった。」

春姫はベルに言った言葉を思い出していた。『死にたくない、助けて』

「それに有名なダンジョンオラトリアの英雄には、アマゾネスがそばに居ただろう。」「女帝ですね。」

「そうだけど、キミの方がアマゾネスの事は詳しいんじゃないかい。女帝だからって清楚だなんてとんでもないと思うよ。

むしろ破天荒な性格の方が合ってる気がするよ。じゃないとあのアマゾネス達が皇帝にしないよ。」

春姫は心の中にずっと有ったもやもやが晴れた気がした。

 

少しの沈黙の後春姫は聞いた。「では私とベル様は何が違うのでしょうか、英雄へのあこがれは同じはずなのに。」

「それはね春姫君、ベル君の願望は英雄になりたいだ、より正確には英雄になるために強くなりたいなんだ。

あのスキルを発動させた日、ベル君は朝までダンジョンに潜ってたんだ。防具も付けずにだよ。

案の定大怪我をして、ぼろぼろになって帰ってきてボクに言ったんだ『強くなりたい』って。

だからボクは借金をしてまであのナイフを贈ったんだ、直接力になれないボクの分身としてね。

それにただスキルの影響だけであんなに強くなった訳じゃない。大変な思いをしているんだ。」遠い目して続ける。

「剣姫に扱かれていたなー。ボクも観た事が有るけどあれは拷問の一種だと思ったね、一方的にボコボコにされていたんだ。

そんな思いをしても強くなりたいと言う思いは消えず、さらに加速した気がするよ。

…英雄に危険は付き物、実際君に会うまでにもベル君は何度も死にかかってるよ。」

春姫にヘスティアの言葉が溶け込む。初めて本当にヘスティアファミリアになった気がした。

「その本は図書室へ帰してくれればいい。」春姫は退出した。

この日から、春姫は新たな視点で英雄譚を読むことになった。

 

次の日、早速春姫はタケミカヅチの所を訪れ武器の適性を聞いた。薙刀と弓を勧められた。

指導はなぜか千草が志願してきたため任せることに。その甲斐もあって順調にうまくなっていった。

ただなぜか、モップがけ等の家事と併用の訓練が多かった。



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春姫02

異端児を追ってダイダロス通りへ行った春姫は、瓦礫の中でハーフエルフの女性にひっぱたかれるベルを見た。

ルナールの聴力はかろうじて2人の会話を聞くことができた。

一切の弁解をせず異端児をかばったベルの姿に、改めて英雄を見た。

異端児に自分を重ね合わせていた春姫は、共に居たい『私の英雄』をついに見つけた。

 

リリがヘスティアを連れ帰るとフェルズが部屋に現れた。今も続いている監視を避けるため姿を隠し付いてきたのだ。

ギルドの布告により追跡が事実上ガネーシャ達に限定されたため、リド達に任せてフェルズは事態打開に動くことになった。

そしてフェルズはヘスティア達に現状を語り救援を求めるために来た。

ヘスティアが言った。「ギルドまたはガネーシャは頼れないのかい。」

「イケロスファミリアに仲間を殺され、彼らの人間不信に拍車がかかった。それとガネーシャ達とは18階層でやりあってる。

この状態で投降を勧めるのは無理がある。私ですら警戒されるほどだよ。」

「リドさんやレイさん達はどうですか。彼らは好意的に感じましたが。」と命。

「リヴィラの冒険者たちに手を出した時点で発言権を失っているようだ。グロス達人間嫌悪派の意見が優勢だよ。

他には現在かろうじて君たちだけが信用されている。それで君たちならと言う事で協力してもらう許可が出たんだ。

さらに問題はウィーネだ。何とか復活させたが今だ目覚めない。これが問題を複雑にしている。」

「何故そんなことに。」とヘスティア。

「魔法による復活だがここまで成功したのが初めてだ。どうなっているのか私にもわからない。」

「ウィーネ様が。」涙目の春姫。

「後はいまだ合流できていない者たちがいる。それでグロス達からダイダロス通りの近くに隠れ家を用意しろと要求が有った。

飲めない場合は、一か八かにかけて騒ぎを起こし仲間を集めダンジョンに逃げ込むと言っている。これはリスクが高すぎる。

だが生憎その辺りに私の拠点はない。借りるにしても、このなりではすぐには不可能だ。何とかならないだろうか?」

「昔ならともかく、広すぎる所に住んでるボク達が別に家を借りるのは不自然すぎる。ミアハ、タケ…だめだ。

……あんまり頼りたくないんだが、ヘルメスを頼ってみるよ。予算も含めて詳しい条件を教えてくれないかい。

それとヘルメスには正直に言った方が良いかい?だだし下手な嘘は通用しないぜ。」

フェルズは考え込んだ。ここでリリが発言した。

「神ヘルメスには何も知らせないでおきましょう。聞かれても教えられないの一点張りで。」

「だがあの抜け目がない神ヘルメスの事だ、必ずばれるだろう。」とフェルズ。

「ですから嘘をつくのではなく教えられない事にします、こうすれば嘘のペナルティも無いですし、表だっていろいろ要求されません。」

「よく判ったよ、だけどそれをヘルメスに納得させられるかな?」とヘスティア。

「そこはヘスティア様の交渉力でと行きたいところですが、『迷惑を掛けられない』で押し通してください。

今回の件でこれ以上はとか、以前の18階層でのことを持ち出しても構いません。後期限を切ってください、ベル様が戻られるまでで。

フェルズ様これで何とかしてください。そしてその間に問題を解決するなり、新たな隠れ家を見つけるなりしてください。」

協力はここまでと告げるリリに、フェルズは「了解した。」と答え詳しい条件を語った。

今にも泣きだしそうな春姫をちらっと見てヘスティアが言った。

「今からボクがヘルメスに会ってくる。そのまま屋台のバイトに行くからサポーター君、後で変身してフェルズ君と一緒に来てくれ。

そこで情報を渡すから2人には隠れ家の調査をしてもらいたい。何か問題が有ればバイト中に知らせてくれれば良いから。

春姫君、君はバイト終わりを見計らってボクを迎えに来てくれ。ダミーとしてミアハの所にでも寄ってきてくれ。

問題なければ一緒にウィーネに会いに行こう。」

フェルズが手を差し出し、いくつかの宝石樹の実を渡し言った。「神ヘスティアこれを、賃貸料として使ってほしい。」

それを受け取りヘスティアは出て行った。

「俺は?」「私は?」ヴェルフと命が尋ねたが、リリが言った。

「ヴェルフ様は武器のバリエーションを増やしてください。命様は春姫様と一緒に留守番を。」

 



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春姫03

ヘルメスに会いに行ったヘスティアは、土下座せんばかりに頼み込みようやく妥協を引き出した。

「そう言う事なら俺も口を滑らそう。歓楽街の外れのダイダロス通り近くに面白い店が有る。

イシュタルに繋がっていた非合法な商人の支店なんだが、地下室がダイダロス通りの下水道に繋がっているんだ。

戻ってくるかと張っていたがその気配はない。一応商店所有の物件だ、半年やそこらはそのままだろう。

他にも幾つか仕掛けが有るようだ。地下室の入り口は二階の煙突からだよ。」と言って詳しい場所を告げた。

聞いた話をメモしヘスティアは出て行った。

ヘルメスはアスフィーとルルネを呼んだ。

「ルルネ、あの店の隣の地下に盗聴器をつけて来てくれ。壁伝いに彼らの会話を聞く。」ルルネは出て行った。

「これで彼らを探し回る必要は無くなったよ。」

「あの賞金のせいで今、ガネーシャファミリア以外の冒険者はダイダロス通りに迂闊に近寄れません。

少なくとも1~2か月は、あのロキファミリアでも調査は難しいかと。」

「被害を受けた貧民街の住人達はあの賞金の額だからね、目の色を変えて探し回るだろう。」

「これでしばらくゆっくりできそうです。」この言葉にヘルメスがにやりと笑った。

 

その日の夜、朝の言葉通りヘスティアは春姫を連れて地下室を訪れた。

リリが報告した。「大方メモの通りですね。この辺の住人達はあの騒動の後、逃げ出したようです。

2人で調べましたが、変なものは有りませんでした。闇商品の取引用と思われる仕掛けも解明しました。」

春姫が言った。「ヴィーネ様は?」

「そこだ。」空き箱を利用した簡易ベッドを指差した。

「刺激に反応はあるが目覚めない。このままでは食べられず衰弱して死んでしまうかもしれない。」

春姫が「ポーション」とつぶやき、ミアハの所でダミーとして買ってきたポーションの匂いをかがせた。

するとヴィーネは鼻を鳴らして口を開けた。春姫がゆっくり流し込むと喉を鳴らして飲んだ。

「ウィーネ様は、以前このポーションの匂いが好きと言ってました。」

ミアハのポーションは、以前のナァーザのゴマカシにより独自の香付けがされている。

全体にほっとした雰囲気が流れた。それを見ていたリドが言った。「俺っちにもくれないか。」

春姫が手渡すと、「これはうまい、こんなの初めてだ。」瞬く間にみんなが欲しがった。

「オイシイ」「うまい」とチョッとした騒ぎになった。

ヘスティアがフェルズに近づいて言った。「そうだ、ここは借りたわけじゃないからこれは返すよ。」

朝に渡されて宝石樹の実を差し出すと、フェルズは首を振り言った。

「それであのポーションを買って届けてほしい。」

「代金としては高すぎるよ、100本単位になるよ。」

「食べ物と違って日持ちがするんだ構わないさ。ここへの搬入方法は彼女が知っている。」とリリを見た。

「なら帰りに寄ってもらう、交渉も含めてサポータ君に任せるよ。それで納品は何時が希望だい。」

ぎゃあぎゃあと取り合っている様を見て言った。

「在庫分は今夜、残りはなるべく早くかな。今後のため送料込の価格表をつけてほしい。」

「おーい、サポーター君、春姫君そろそろ帰ろう。サポータ君にはお願い事が有るんだ。」

「神ヘスティア、御助力感謝します。明後日の夜に報告にうかがいます。」とフェルズ。

 

その夜ミアハファミリア内、ナァーザがダフネ、カサンドラを呼んだ。

カサンドラはそわそわし、ダフネは少し怒っている様だが、ままある事なのでナァーザは気にしなかった。

「大口の注文が入ったわ、二人にはお使いを頼みたいの、一人はバベルへ薬の原料の依頼、もう一人は薬を届けてほしいの。」

「届け先はどこですか?」ダフネが聞いた。

元歓楽街の外れよ、ダイダロス通りの近くね。

「私、そっちへ行きます。」とカサンドラが声を上げた。

「そう、じゃあお願いね。メモに詳しい場所と受け渡し方法が書いてあるから。」と言って荷物とメモを渡した。

「そうそう、これからミアハ様と薬の調合をするんで夕食は外で食べて来てね。」と言って二人にお金を渡した。

その夜カサンドラは、お使いの帰りに何かを拾いホームへ持って帰った。

だが忙しいミアハとナァーザ、調合時の匂いを嫌い遅く帰ったダフネはそれに気付くことは無かった。

 



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???07

……体はもらった。

……心はある。

……だが何をすればいいのかわからない。

 

 

エイナの悲鳴にレフィーヤが駆け込んできた。エイナの無事を確認しほっとするも、視線を辿り硬直。

みるみる顔を真っ赤にして叫ぶ。「貴男って人はーー」その言葉にベルは反射的に飛び起き部屋を飛び出す。

すかさずレフィーヤは追撃する。外から「待ちなさいーー」と言う声が聞こえてきた。

ここで「男の生理現象だ、大目に見てやっては如何だい。」と言いながらアイシャが、リュー(仮)は若干顔を赤らめながら入ってきた。

だがそこに広がる光景は、アイシャの想像外の物であった。

ベルのベットに黒髪の少女が裸で俯せに寝ていた。騒ぎに気が付きゆっくり起き上がる。長い髪がはらりと別れ背中が露わになる。

ゆっくり辺りを見回して叫んだ。「ベル君が居ない。ボクを置いて行かないで。」同時に背中に光る模様が浮かび上がる。

そして突然倒れ込んだ。あまりの事に誰もが動けない中しばらくすると、レフィーヤが気絶したベルを引きずってきた。

無造作にベットの空きスペース放り投げると、そのショックでベルが目を覚ます。女の子にはシーツがかぶせられた。

エイナが冷たい口調で聞いた。「ベル君、その女(ひと)誰?」

ベルはゆっくり辺りを見回して彼女を見つける。顔を見てハッとする、同時に彼女ががばっと起きベルに抱きついいた。

エイナとレフィーヤの氷点下の視線の中、リュー(仮)が聞いた。「クラネルさん、あのナイフはどうしました。」

視線の圧力に冷や汗を流しながら指さした。だがそこには鞘しかなかった。「ベル君よかったよー」と少女が言っている。

皆の視線が逸れたことでベルの硬直が緩み声が出た。「神様」

今度は少女に視線が集まるが、皆はベルが何を言っているか分からない。「ベル君何を…」とエイナが言った。

ベルは少女の髪を指で二つに結わえ、ツインテールにした。

アイシャとリュー(仮)は驚いた顔をした。レフィーヤは依然不明そうだった。そしてエイナは言った。「神ヘスティア。」

少女の顔はヘスティアそっくりだ。ベルの言葉を理解したものの、みんなの混乱は余計にひどくなった。

ちなみに顔が瓜二つなのに直ぐに判らなかったのは、ヘスティア2大特徴がないためだ。

尾文字はAの方ほどではないが慎ましやかだった。(エルフっぽい?)

 

そこへリュー(仮)と同じ覆面をした神が入ってきてベットの少女に言った。

「そんな姿になったのかい。」「うん、ありがとうここの神様。」

「調子はどうだい。」「いきなりベル君が居なくなってて、ビックリしたけど大丈夫だよ。」

神はうんうんと頷いて言った。「彼はどこにも行かないさ。ここでしばらく大人しくしてなさい。」「はい神様。」

神様はみんなに言った。「もうすぐ朝食だよ、昨日言った通りその後村長を交えて話そうかね。」

その言葉に一同納得して朝食を済ませた。ちなみに覆面組とその他で別れて食事を摂った。

 

朝食後、村長を交え神様の御神託が下った。

「さてベル、そなたへのクエストだが、先ずいつも世話になっている村長の話を聞いてほしい。

今村は少々困ったことになっておるんじゃ。」

リュー(仮)が先回りして聞いた。「例年いるはずの商人の姿が無いのと関係あるのですか?」

村長が言った。「その通りです。例年この時期に作られる薬を求めて商人たちが来るのですが、

今年は山にモンスターが現れて薬草を取りに行くことができません。

この村はほぼ自給自足の暮らしで、現金収入は唯一この薬です。その為冒険者を雇うことも出来ません。」

エイナが聞いた。「この村はオラリオに知られていませんね、地図にも載ってない、何故ですか?」

ベルが尋ねた。「何故そんなことを?」

「もし地図に載ってるならオラリオにクエストが出せるわ、そしてクエストが出ていれば少々予算不足でもOKな場合が有るの。

問題が複数の村に関連する場合や、ついでがある場合なんかね。具体的にはベル君が当事者のシュリーム砦の件ね。」

ここでアイシャが口を挿んだ。「ああ、あそこは盗賊の住処になってたんだったね。」

「そうあの砦には、複数の町や村から討伐依頼が有ったわ。それでも予算が足りなくて放置されてたんだけど、

結局ベル君達の戦争遊戯のついでに討伐された。そう言う事もあるから依頼していないのが不思議だったの。」

村長が言った。「あなたはオラリオギルドに詳しい方なのですね。分かりましたお話ししましょう、この村の事を。

この村は、オラリオとたびたび戦争しているラキア王国の難民が作ったんです。」

アイシャが首を傾げて言った。

「ラキアと言えば一国が一ファミリアのとこだろ、それにこの前も攻めてきたばかりだ、難民なんておかしくないかい?」

「今を基準にするとおかしく思われるのでしょうが、以前のラキアは広大な領土を有していました。」

ベルが聞いた。「それは魔剣を使用していた頃の事ですか?」

「お若いのに良くご存じた。その頃のラキアは多くの国を併合し人口も多く、ファルナを受けていない人が大半でした。

その後、いろいろあって他の神々のファルナを受けた冒険者たちによって、王国は解体されてしまいました。」

エイナが言った。「その時に出来た村なんですね。分かりました。」

ベル達はそれを聞いて黙り込んだ。この雰囲気を何とかしようとベルは気になっていたことを聞いた。

「村長さんあのドアの所の壊れた武器は何なんですか?」

「ここに初めて来られる方もおいでのようですね、良い機会ですからお話します。あれは戒めとして置いてあります。」

「戒めですか?」

「そうです。こんな田舎に来る商人たちは、気性の荒い者たちばかりです、それで時々商人同士で刃傷沙汰が起きます。

あれらはその戒めとしてあそこに置いています。ちなみに武器はその時の置き土産です。」

「修理すれば使えそうな物も有りそうなんだが。」とアイシャ。

「おいて行かれた方たちはその後お見かけしませんね。おそらくですが帰り道でモンスターにでも襲われたんでしょう。」

直接答えなかった村長にベルたちは黙りこみ、それぞれに思うところが有るようだった。

「話を元に戻します。クエストは薬草取りの護衛をお願いしたい。何方が担当されるのですか?」

ベルとアイシャが手を挙げた。なぜか村長が明らかにほっとして言った。

「それではこちらの準備もあります。明日の朝からお願いしますね。それとここはしばらく自由に使って構いません。

夕食に関してはは昼までに連絡してください。」




こっちの物語はレフィーヤが追っかけです。原作を読むと欲しくなりますよね。
ヘラのやんデレ追っかけは、どこかで書いてくれるのだろうか?(00章の前)


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???08

……体はもらった。

……心はある。

……デビューは華々しかった。

……その後も良く使ってくれた。

……おかしくなり始めたのは紅の角から。

 

 

村長との話が終わり、みんなは神があの少女の事を話すと思い身構えていた。

が予想に反して何も話そうとせず神は部屋に戻ろうとした。

あわててベルが聞いた。「神様、彼女の事なんですけど。」

「あれとは言葉が通じるだろう。必要なことは聞けばよいではないか。」と言って部屋に戻った。

女性陣は素早くアイコンタクトをして、ベルを置き去りにして部屋に駆け込んだ。

「まず私たちで調べるから。」と言うエイナの言葉を残して。

 

ベルはオロオロしながら待っていたが、初めにエイナ、次にアイシャが出入りした。

アイシャは部屋に入る時言った。「もう少し掛かりそうだがあんまり遠くに行かないでくれ。」

することが無いのでベルは鍛練することにした。

外に出て、問題であるモンスターと戦うイメージトレーニングをする。

だがたびたび手が止まる。戦闘の途中でモンスターがしゃべりだす。

断末魔に遺言する。

倒れた後、他のモンスターが駆け寄って泣く。

さまざまなイメージが湧いてきてろくな鍛練にならない。

それでも無理やり続けていく。

その時ふと視線を感じた。物陰から覗いているようだ。

視線の高さからまだ子供だろうと当たりをつけて気にせず続けた。

 

しばらく続けているとようやくお呼びがかかった。

現れた少女は皮のビキニとへそ当てで、どことなくアマゾネスっぽい格好だった。

そこで分かったことは予想通りの内容であった。

そしてベルを交えていろいろ確かめると次の事が解った。

力はレベル2クラス、足の速さはレフィーヤとほぼ同じである。またベルと離れると眠ってしまい活動不能になる様だ。

それと、好き嫌いがはっきりしていること、と言うより嫌いなものは受け付けない。服装もそれが影響しているらしい。

この事で彼女の物を買いに近くの町に行くことにした。朝食は予約、夕食をキャンセルして向かう事にした。

ベルはエイナを背中に、山の中を突っ切るようにして進んでわずか数時間で着いた。山道を進むと一般人なら3日ほど掛るらしい。

(辺りにはモンスターがいるので、道はあまり出現しない場所で遠回りになっているし、警戒しながら進まなければならない為。)

そこは小さな町だった。ヘルメス支店はそこの一軒だけの旅館兼食堂だった。周りには色々な店が10軒ほど集まっている。

ヘルメス支店でベルとエイナはギルドの報告と換金、その他は少女の買い物に行った。(支払いはベル持ち。)

 

エイナはベルをちらちらと窺う。ベルは今はやるべき事が有る為、普通に振る舞っている様に見える。

ただ時間が空くと何かを深く考えているベルをたびたび見る。

支店を出てベルは店を回り、店員と相談しながらクエストに必要そうなものを購入していく。

この機会にエイナは、ベルに再度問いただしたかった。だが神ヘルメスの言葉がそれを阻む。

何とも言えない気持ちになり、彼の言動に一層注意しようと強く思った。

 

一行は帰りの事もあり、食堂で早めの夕食を摂ることにした。

その為か食堂は他に誰もおらずあっという間に食事が終わる。

ただし少女はなにも食べなかった、ただベルがいつもより多く食べていたが。

レフィーヤが脱力して言った。「薄々判ってましたが着替えさせられませんでした。」

少女が言った。「僕はこれでいい、ううんこれが良いんだ。」

アイシャが言った。「護身用の武器もまったく受け付けなかったね。」

少女が言った。「ボクが自分でできる、むしろボクがやるんだよ。」

レフィーヤが続けた。

「なかなか言う事を聞いてくれなくって参りましたけど、リューさんの言う事は聞いてくれたから助かりましたね。」

アイシャも同意して言った。「そういやーそうだったね、ぶっきらぼうのエルフも子供には関係ないのかね。」

それを聞いて少女はリューの所に行って引っ張ってきた。(覆面の為食事は別に摂っている。)

リューをベルの隣に座らせ、自分はその間に入り二人と腕を組んだ。

レフィーヤはその光景に思わずつぶやいた。「まるで夫婦とその子供みたいですね。」

その言葉にアイシャは大笑いし、ベルとリューはそっぽを向き、エイナはなぜか不機嫌になった。




「ルールブレーカー」コレ来たのか?(ロキと敵対させる?)
次はクリーチャーとなった元仲間との死闘となるのか?

それにしてもレヴィスの元は誰なんでしょうね?
分かっていることは、赤髪の女ヒューマンであること。
白髪鬼の同僚と表現されているから、「27階層の悪夢」の犠牲者のうちの一人だろうこと。
戦闘に関しては白髪鬼より上っぽいから元レベルは4ぐらいか?(当時のリューと同格か?」
白髪鬼が知っている「剣姫」の事を知らないことから、記憶を弄られている様。(闇派閥ではないのか?)
当時も名をはせていたフィンとリヴェリアが知らない相手。(覆面でもかぶっていたのかも?)
まったく見当もつきませんが、次の対決には決着がつきそうなんで明らかになるかも。


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アーデ05

ミアハの所から帰ってきたリリは、みんなを集めてこれからの事を会議にかけた。

「これで厄介者(ゼノス)の件も何とかなりました。後はあちらで何とかしてもらいましょう。

問題はこちらの方です。ベル様がおられない間の事を決めないと。」

「武術の鍛練をするのでしょう。明日、バイト前にタケミカヅチ様をお呼びしているのですが。」と命。

「小型の武器は試作してみた。幾つかは試すことは出来るはずだぜ。ただ大型武器は金が足りねえ。」とヴェルフ。

「ギルド長の話は知っていますね?ベル様へのミッション解除についてはギルドが握っています。

神ヘルメスの話では2~3か月で帰ってくる予定ですが、ギルドが了承しない限り追加のミッションもあり得ます。」

「そんなー」と春姫。

「ギルド長の言う通り、このファミリアはギルドへの貢献が殆どありません。」ヘスティアを睨みながら続ける。

「ギルドの反感を買うことは厳禁、むしろ積極的に貢献する必要が有ります。明日ギルドへ行って聞いてこなくては。」

「そう言う事なら、バベル店舗はまだ閉鎖の筈だからボクも行くよ。」とヘスティア。

「後の方たちは留守番です。それとギルドへの税金の件を考えておいてください、稼ぎ頭のベル様はいませんから。」

団員の浪費癖に、ちゃっかりと釘を刺すことも忘れないリリであった。

 

約束通り翌朝早くに、タケミカヅチがホームへ来た。もちろん武術を教えるためだ。

「お前たちが知りたいのは武器についてだったな。まずは簡単な理論からだ、命、武器の威力は何で決まる?」

「はい威力は武器の重さ、それとスピードです。」と命。

「おしい、あと一つある。それは打点の小ささだ。一点に集中した方がその点での破壊力は大きくなる。

つまり重い武器を素早く動かし相手の弱点を狙えばいい訳だ。ここまでは良いか?」みんな頷く。

「重い武器を使うには『力』が、素早く動かすには『敏捷』が、ピンポイントで狙うには『器用』が重要になる。

武器はこの3点を如何するかで性質が決まる。分かりやすい例は鎚だ、これは『力』特化と言える。

つまり各々のステータスを見れば、おおよそ武器の方向性が見えてくる。」

「次に考えることは自分のポジションだ。冒険者としては基本パーティで行動する、その為自分のポジションは重量な要素だ。

その時考えなければならないのは武器の攻撃範囲だ。前衛は近接、中衛は中距離、後衛は遠距離が最も重要になる。

基本的には距離が長い方が高いステータスが必要になる。ただし攻撃を受けにくい利点はあるが。

ただし前衛だから近接武器だけで良いかと言うとそれも違う。接敵する前に攻撃できるのは有利だからだ。

逆に後衛の場合は、後ろからあるいは壁から奇襲される場合もあるから対策は必要だ。

これ等の事を考慮して武器を決めるんだが、ステータスは向上させることが可能だし、ポジションも不変と言う事はない。

だから最後は個々人の感性で決めるしかないだろう。状況が合ってもフィーリングが合わない武器では良くない。」

あらかじめ聞いている命以外がその言葉に深く肯く。今まで作る側だったヴェルフはとりわけ深く感銘を受けたようだった。

「時間も無い、では実践だ。先ずは基本となる短刀を。」リリが短刀を手にタケミカヅチに向かう。

「短刀は、携帯性に優れサブの武器としても優れている。またツールとしても使いやすい。覚えておいて損は無いはずだ。

先ずは君の実力を測る、かかって来なさい。」ほどほどの殺気を放ってタケミカヅチが言った。

 

リリは、短刀を両手で握りしめタケミカヅチと正対する。

隙を窺って胴体めがけて体ごと突進する。難なく避けられ反撃される。(寸止め)

タケミカヅチが言った。「相打ち覚悟ならそれで良いが、冒険者としては失格だ。」

リリが言った。「ファミリアではこんな風に習いましたが。」

「これは命を捨てて敵を討つ、いわゆる鉄砲玉の戦い方だ。これでは治療費が馬鹿にならんだろう。

ダンジョンで稼ぐと言う意味では良くない。それにこれでは命がいくらあっても足りないぞ。」

リリはうなだれた。ソーマファミリアではそういう扱いだったのを再認識したためだ。

「さっきの話を思い出してくれ。短刀は軽い、だから体重をかけて突き刺すのは有りではある。

しかし攻撃範囲が狭く反撃されやすい、その対策なしに飛び込むのは、威力は上がるが自殺行為だ。

それで短刀での戦いは、敵とは正対せずに敵の攻撃範囲外または死角を突くことが基本だ。

逆に短刀を持つ相手には、常に正面に、そして自身の攻撃範囲に相手を追い込むのだ。

それを踏まえると短刀での攻撃は、フェイントを交えて死角に回り込むか、カウンターを狙う。

そのの場合は武器または周辺、人間でいえば手または小手を狙う。それであれば踏み込まなくても攻撃できる。

さらに相手が攻撃するには武器を一度引く必要が有るので、反撃されず攻撃しやすい。

そうして武器を無効化してとどめを刺す。ただしこれは1対1の場合だ。

次に多数が相手の場合だ。同格以上ならの相手なら逃げる、もしくは逃げる事により敵を分断し1対1を複数回行う。

相手が格下の場合は、さっきダメ出しした方法が有効だ。隙をついて正面から一撃で倒せれば反撃は気にしなくて良い。

相手の懐に入れば、同士討ちを嫌うその他の敵の攻撃を避けられる。また倒した相手を盾や鎚にすることもできる。」

リリはこの言葉にサポーターとしての劣等感が軽くなるのを感じた。今までサポーターとして冒険者への嫉妬があった。

ベル様がキラーアントを瞬殺していく様は、単に『俊敏』が上回っていただけの事だった。

早朝自分が眠りこけていた時間に、一人鍛練していた姿を思い出し、何もせず嫉妬していたことが恥ずかしくなった。

 

ここで時間切れとなった。命が言った。「タケミカヅチ様、これからは千草殿にお願いしても良いでしょうか?」

「おう俺は構わん。桜花と相談して決めてくれ。」そう言い残してバイトに行った。



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アーデ06

ヘスティアと共にギルドへ行った。対応に当たったのは、ある意味当然ながらミイシャであった。

「臨時で担当になりましたミイシャ・フロットです。」

「さっそくですまないが、ギルドでベル君の評判を聞きたい。」とヘスティア。

「ギルドではダイダロス通りに被害が出たことを問題視していますね。住民から苦情が来てますから。

後、歓楽街の復旧もままならない中で起きたことも悪材料です。ただ今度の処置でだいぶ緩和していますね。」

「そうかーー」やっぱりと言う表情でヘスティアがつぶやく。

「ファミリアとしてはどうですか?」とリリ。

「ファミリアとしてですかーー。戦争遊戯で有名になったけど、ベルさんの陰に隠れて印象が薄い、てとこかな。」

「分かっていたことですが、ベル様を守れるだけの力は到底ありませんね。」とリリ。

「むしろ18階層の神災では彼に助けられた感じかな。ヘルメスファミリアと同額の罰金の可能性もあったわけだし。」

やっぱりとリリが睨み、ヘスティアが顔をひきつらせた。

「ではファミリアとしてギルドへ貢献できる方法は有りますか?」とリリ。

「税金を遅延させないは当然として、一般的には活動報告かなー。今まで簡単な物しか出てない様だし。

後はギルドのクエストを成功させるぐらいかなー。これも緊急の物や長く残っている物が良いんじゃないかな。」

「ではその条件のクエストをいくつか紹介してください。」とりり。

ミイシャは奥へ引っ込み大きめの箱を持ってきた。

「このあたりがそんなクエストですね。一癖あるものが多いね、だから成功させればポイントが高いですよ。」

ヘスティアとリリは箱の中のクエストをチェックした。

約8割は下層より深い場所でのものであり、残りは非常に癖のあるものだった。

中には思わず顔を引きつらせる『中層で聞こえる歌声の調査』や偶然の要素が強い『珍しい鉱物(時価)』様な物だ。

唯一出来そうなものは比較的新しい、『アマンダイト鉱石(急募)10K以上優遇』だった。

アマンダイトは上層または中層でも採れる事が有る。現在のパーティーで可能性が有るのはこれぐらいだった。

これを受けることにした。

「フロットさん、ギルドへの報告はどんな物なんですか。それと何を重要視しているんですか?」とリリ。

「ダンジョン探索系だと基本倒したモンスターの数と種類、できれば場所ね。魔石の換金でおおよそ判るんだけどね。

重要視しているのは、モンスターが集まっている場所、未到達な場所。レアモンスターの目撃情報なんかね。」

最後にダンジョンの様子を聞いた。

18階層までは明日にも閉鎖は解除される。ただ19階層以下はまだ不明と言う事だった。

 

ギルドを出てヘスティアはヘファイストスの所へ、リリは町へ情報を集めに向かった。

幾つかの採掘場所をピックアップして夕方にホームに戻る。

クエストの件について話し合う。

「アマンダイト鉱石の採集のクエストを受けます。」とリリ。

「ベル無しで下層へ行くのか?かなり厳しいんじゃないのか?」とヴェルフ。

「桜花殿と連携しても難しいのでは。」と命。

「下層へは行きません。上層、中層で採取する予定です。」とリリ。

「中層でも採れる事は有るがかなり難しいぞ。そもそもなんでそんなもの受けたんだ。」とヴェルフ。

「上層、中層での採取ポイントは調べてあります。受けた理由は、昨日話したギルドへの貢献です。

ギルドへの貢献と言う意味で、私たちに出来そうなのはこれぐらいでした。」とリリ。

みんな黙って頷いた。

次にギルドの報告について各団員に情報を聞く事になった。

へステイアが書記となり、とりあえず前回のダンジョン攻略をモデルとして仮の報告書をまとめる事にする。

「とはいえあんまり覚えていないぞ。」とヴェルフ。

「「私も」」と命と春姫。

「二人はともかく春姫さんまでですか。仕方が有りません、リリが話します。問題が有れば言ってください」とリリ。

リリが話をして他の皆が補足する。ヘスティアがへばったころようやく完成した。

「それにしてもリリスケ、よく覚えてるな。頭の出来が違うのかもな。」とヴェルフ。

ヘスティアと命、春姫がみんな頷く。

「リリは弱くて臆病ですから、このぐらいしか取り柄が有りません。」とリリ。

「そんな事は有りません。クエストの情報も集めてくれましたし、立派に役に立っています。」と命。

「そうです、そんなこと言ったら私の方が何もしてません。」とうなだれる春姫。

「まあサポーター君もダンジョン外では役に立つと言う事で。」とヘスティアが混ぜ返す。

一同は笑いにつつまれた。

 

翌朝みんなでダンジョンへ。だがそこには長蛇の行列が。

しばらく閉鎖していたためファミリア全部が一度に集まったためだ。

ようやく入ることができたが中も混雑している。

モンスターとの遭遇もほとんどなく、夕方まで粘るも結果は散々だった。

ゴライアスは倒されているが、18階層は調査の為ギルドにより閉鎖されている。

(ダイダロス通りで摘発されたファミリアが懲罰として警護をしている。)




クノッソスに使われているアマンダイトなどは売れないんだろうか?
持ち主不明(申し出れないだろう)なんだから。冒険者たちに公開すると
軍隊蟻にたかられたライオンみたいに骨だけになるんじゃ。


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???09

……おかしくなり始めたのは紅の角から。

……握っているのに「彼には武器が無い」。

……その後良い所は大剣に、そして前座扱いに。

……黒の巨人に出番はなかった。

 

 

村へ帰って改めて神に聞く。

神は仰った。「ワシはあれが訴えていたのを聞きそれを叶えただけじゃ。

もちろんできる範囲でだかの。故にただ知恵の芽をさずけただけじゃ。

後はあれに経験させて、芽をはぐくむのが良かろう。」

「僕はどうすれば。」とベル。

「あれとお前は一心同体、共に育っていく。そのように作られておる。

共に在り、共に学び、そして共に成長することを望んでおるぞ。」

「名前は何とかなりませんか?あの姿であれはさすがに呼びにくいです。」とレフィーヤ。

「それは難しいな。神に付けられた名前だ、故に存在そのものを縛ってる。

だからごく近いもの以外は受け付けないだろうよ。」

その言葉にみんなそれぞれ押し黙った。

「そうじゃ、今日有ったことを話してくれんか。内容は神の名に懸けて秘密にするぞ。」

ベルは了承した。神はリューを呼び言いつけた。

「ドア前で見張っておいてくれんか。秘密を守るためによろしく頼む。」

 

ドア前でリューは他のメンバーに睨みを利かす。商人達も使うため防音はしっかりしている。

ドア前はエルフの聴力(レベル4も併せて)でかろうじて中の話が聞こえる。

神は的確に誘導しベルの思いを引き出している。

彼が今日何を考えて行動したのかがよく判った。

 

残された3(+1)人は名前について話し合う。

「女の子っぽい名前を挙げてみましょうか?」とレフィーヤ。

だがすべて受け付けない。エイナ共々途方に暮れているとアイシャがベルの部屋のドアを指差し言った。

「近い物なら良いんだろ。あれなんか如何だい。」

「ククリですかー」微妙に嫌そうなレフィーヤ。

「ナイフよりはよっぽどマシでは?」とエイナ。

「ちょっと違うけどそれなら良いかな。」と否定し続けて少々疲れてきた少女。

「なら決まりだ。よろしくなククリ。」とアイシャ。

丁度その時ベルが神様の部屋から出てきた。名前が決まったことを知らされて言った。

「初めましてになるのかな、ククリさん。これからよろしくね。」明らかにほっとした様子だった。

「ククリで良いよ。ボクの方こそよろしくね。これからいろいろ話をしよう。」ベルに抱きついて言った。

「い、いろいろって。」ベルはうろたえながら聞いた。

「いろいろはいろいろだよ。」にこにこしながらククリ入った。

他の皆はその様子にほっこりした。

ちなみにベルとククリが一緒に寝ることを、だれも反対しなかった。

 

夜、寝室でレフィーヤはエイナに聞いた。

「エイナさん、明日はどうするんですか?」

「ついて行きたいんだけど、山の中じゃ無理だからここで待機かな。」

大都会オラリオ育ちで事務職の一般人では当然無理だ。

名目上レフィーヤはエイナの護衛、あまり離れるのはまずい。

「私がサポートすれば大丈夫ですよ。一緒に見に行きませんか?」

レフィーヤは内心焦っていた、団長の要望である『ベルの強さの秘密』を調べられていない。

アイズの為(レフィーヤ視点)ではあるが団長達を結果的に騙した事になる。

許されるためには、それ相応の結果がどうしても必要になってくるのだ。

エイナはこの際に気になっていることを聞いた。

「レフィーヤさんは、どうしてこの仕事を受けたんですか。?」

「気になるじゃないですか、あの成長速度。何をどうやったら、あんな事になるのか。」

「ファミリアの意向ではないんですか?」

「もちろんそれも有ります、特に首脳部は非常に疑問に思っています。」アイズの名前をあえて避ける。

「ロキファミリアでは、ベル君はどんな評価なんですか?」

「今回我々に攻撃してきたことは、ギルドのミッションと言う事で目を瞑るようです。

ですから今すぐ何かしようと言う事は有りません。ただ原因はそれだけかと疑っていますね。

エイナさんは彼と関係が深いみたいですから、何か知りませんか?」

エイナは頭を振って言った。「私も知りたいの。ベル君は何も言ってくれなかったから。」

「だったら一緒に調べませんか?2人で調べれば何か分かるかも知れませんし。」

エイナは了承して、これからは二人で調べる事にした。

 




ようやく名前が決まりました。これから活躍するのだろうか。

ちなみに、これはオリキャラなのだろうか?


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ククリ10

……黒の巨人に出番はなかった。

……この後、無理やり引き離されて眠りにつく。

……ようやく戻ってみれば、彼は飛躍を遂げていた。

……あの神(ひと)の代わりにボクが助けるはずなのに。

 

 

翌朝、村長の妻と同年齢らしい女性5人と山へ薬草を取りに行く。

先ずは村のそばを流れる川岸を、上流に向かって1時間ほど歩く。

前方に切り立った崖が見えた。川はそこでカーブをしているらしく上流は見えない。

その少し手前から山に入って行く。すると奇妙な景色が広がっていた。

幅数百Mにわたって谷の様に酷く抉れている。谷底は黒く、植物は全く生えていない。

上空から見ると緑のキャンパスに墨で直線を描いたように見えるだろう。

ただ片方、川の方は数十Mの高さの崖の所で止まっている。女性たちは特に気にせず谷を抜けて林に入る。

少し進むと木が疎らに生えている場所に着いた。村長の妻が言った。

「ここら辺で探します。護衛をお願いします。」

アイシャが聞いた。「そういえばどんなモンスターが出るんだい。」

「一角兎と追いつめられると火を吐く犬です。」

「アルミラージとヘルハウンドか、外だから6階層位の強さかね。」

ベルは、アルルとヘルガを思い浮かべて鬱な気分になった。

喋れない彼らはベルに良くじゃれついてきていた。

それを見てアイシャが言った。

「そいつらなら来るのは草原の方だ。あたしがそっちに就くよ。」

ベルはアイシャに礼を言い、木の生えている急な斜面の方に行った。

 

レフィーヤとエイナは距離を置いて追跡していた。

黒い谷には二人とも驚いた、ただレフィーヤは魔力的な何か感じていた。

エイナ達はベルの様子を崖の上から窺う。

以前エイナに漏らした通り、ベルは視線に敏感でなかなかうまく調べられない。

レフィーヤは次第に焦れてきた。ベルが他所を向いたとき思わず身を乗り出してしまう。

ここでまた杖が淡く光る、ただレフィーヤもエイナもなぜか気づかない。

レフィーヤが身を乗り出したとき、杖がエイナに引っ掛かり突き落すことに。

エイナは悲鳴を上げてベルに向かって落ちていく。

悲鳴を聞きベルはエイナを抱き留める。勢いを殺すために半回転。

抱き留めたお蔭でエイナは無傷だ。暫しエイナとベルは見詰め合う。

お互いに顔を赤らめる。「ありがとうベル君。」とエイナ。

 

一方レフィーヤは、エイナを止めようとしたが一緒に落ちてしまう。

ただ止める人もいないのでベルより下数Mの所で、ひっくり返って止まった。

スカートはまくれ上がり下着は丸見えだ。

エイナに気を取られていたベルがそれに気が付いた時レフィーヤが目覚める。

初めはぼんやりしている様だったが、エイナと抱き合っているベルを見てハッとし、

顔を赤らめている事で自分の状況を認識する。

あわてて立ち上がり身だしなみを整えて、怒りの形相で近づいてくる。

ベルは顔を赤から青に変えて逃げ出す。黒い谷で追いかけっこが始まる。

 

薬草捜索メンバーは、エイナの元に集まってきた。

皆はエイナから事情を聴いて脱力する。

その時そばで薬草を発見し、ベル達そっちのけで地下茎を掘り始める。

ずいぶん時間が経ってベルが息も絶え絶えなレフィーヤを背負って戻ってきた。

このタイミングで休憩することにして黒い谷へ向かう。ただしエイナ達は別だ。

村長に妻達は黒い地面を削って袋に詰めていく。

話を聞けばここの土はモンスターが嫌うと言う事。

少量であれば襲ってくるが、大量になると寄ってこなくなるらしい。

 

アイシャが言った。「それにしても不思議な土地だね。何か曰くが有るのかい?」

村長の妻が言った。「エルフではないあなたたちなら話しても良いかもしれないね。

ここはラキアとエルフの対立の始まりの場所、いわば呪われた土地なんです。」

ベルが聞いた。「ラキアは何故エルフと敵対したんですか?住む森を焼き払ったと聞いてますが。」

アイシャが言った。「征服の一環じゃないか?あの当時あちこち侵略していたじゃないか。」

「でもそれなら焼き払う意味が解らないんだ。森を焼いたら使えないし、

そもそもエルフの森が必要なのかな?ヒューマンには不便なところだと思うし。」

「そう言われればそうだね。ラキアの住人だったあんた達なら何か知らないかい?」

村長の妻が言った。「お連れの中にエルフの方達がいらっしゃる。お話しするわけには…」

「あいつ等とは仕事上の関係で仲間じゃないさ。それにこれのパーティにもエルフはいないぞ。」

アイシャがベルを指差して言った。ベルも苦笑して頷く。

「であればお話ししましょう、ラキア側に伝わるこの地の話を。

先ず初めにラキアは、その少年の言う通りにここに来た当時、エルフに敵対する気は有りませんでした。

理由もその通りで意味が有りません。それと魔剣と同じ力を持つ魔法を操るエルフが怖かったのかもしれません。

「それにしてもよく判ったね。」とアイシャ。

「僕の育った村は、こことおんなじ田舎ですが、ラキア王国の事は聞いていませんでした。

おそらく攻めて来なかったからだと思います。それなのにここには攻めてきたのが不思議なんです。」とベル。

「ラキアの兵がここへ来たのは、ある王国を征服する為の遠征で野営する為でした。」

「街道から離れたこんなところで?魔剣の力でゴリ押ししていたんじゃないのかい。」

「魔剣には限りが有ります、それに征服される国も対策をし始めましたから、奇襲をかける予定だったと聞いてます。

そのためこんな田舎を経由する事にしたそうです。

ただこのあたりはエルフの支配する地域でした、使者を立ててエルフの領域を聞き、その外の森で野営をしたそうです。

だがここのエルフは何が気に入らなかったのか、夜襲をかけラキアの兵に大打撃を与えました。

その報復としてラキアはここを徹底的に破壊しました。そう、この谷は魔剣攻撃の跡なんです。

この事が有ってからラキアはエルフに非寛容になり、周囲のエルフに絶対服従を要求し始めました。

それに反発したエルフと全面戦争へ、そして多くの命が失われることになりました。」

「よく判ったよ。しかしエルフ、孤高と言ってもやり過ぎだろう。」と怒るアイシャ。

「みなさんはエルフの方達をどう思っているんですか?あんまりよく思っていないようですが。」とベル。

「私たち夫婦はそれほどではありませんが、怖がっている人は多いです。

突然攻撃してきた事もそうですが、巨大な王国を解体した時に、後始末をして行かなかった事が大きいですね。」

「後始末ですか?魔剣が壊れてから、ほかの神のファルナを受けて攻撃したことは知っていますが。」とベル。

「本当によくご存じだ。その前に我々がその昔、ほかの国の住人だった事は夫が話したと思います。

その変更に当たって当然ながらそれまでの国自体は無くなりました。我々農民が一番変わったのは兵役が無くなったことです。

魔剣のおかげで兵士の損失は殆ど無く、少数で事足りたため我々には要求されなかった為です。

その状態でエルフの方達はラキアを追放した。それは我々を守ってくれる兵士を取り上げることも意味したんです。

その為、盗賊団の格好の獲物になってしまいました。それで我々は故郷を捨てていわば呪われたここに来たんです。

ラキアの兵士に復讐するのはある意味仕方がないのかの知れません。ですが我々には関係ありません。

何の手当てもせず放り出されて、被害を受けた人がこの村には多くいるんです。」

2人は押し黙ってしまった。

重くなった雰囲気を変える様に村長の妻が明るく言った。

「それにしてもうまく薬草が見つかりましたね。いつもは村人総出で3日で一株見つかれば良い方なんですが。」

「そんなに見つからない物なんですか。」ステータスの幸運を思い浮かべてベルが聞いた。

「今回は頼もしい護衛が居るので、今まで行っていない場所を探してるからかも知れないけどね。」笑いながら答えた。



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春姫04

約束通りフェルズがやってきて状況を報告した。

要約すると、グロス達対立派はひとまず矛を収めることを了承したこと。

合流できていない者たちの捜索をガネーシャの助けを借りて始めること。

残してきた仲間たちを再編する為、リド達を一時ダンジョンに返すこと。

 

報告を終えてフェルズは言った。

「ここの監視も無くなった様だ。これであまり気にせず動けると思う。」

リリが言った。「フェルズ様にお願いしたい事が有ります。ギルドを動かして欲しいのです。」

「アーデ、それは難しいぞ。ファミリアへの悪評は消えたが決して良くなってはいない。

この状態で贔屓するような事をしては悪評がぶり返す恐れがある。」

「そんな事は頼もうと思っていません。ダンジョン19階層に行きたいのです。」

「何故そんなところに?」

「ファミリアの評価を上げるためにクエストを受けています。そのため19階層へ行きたいんです。

安全確認のためとして今18階層が閉鎖されてますから。」

「そう言う事ならギルドのクエスト受注者は通れるようにしておこう。一日待ってくれないか。

ただ言うまでもないがダンジョンは自己責任だ。その辺りは大丈夫なのか?」

命が言った。「クエスト受注者だけと言う事は、桜花殿の援助は期待出来ません。大丈夫でしょうか?」

「何とかするしかありません。19階層なら命様のスキルが使えるはず。それに期待しています。」

フェルズはヘスティアの部屋を見回し本棚にそれを発見する。

「神ヘスティア、これは魔道書ですか?」

「そうベル君の魔法を発現させた奴だよ。役に立たなくなったガラクタだけど記念に取って置いたんだ。」

「あの魔法か。そう言えばこの中に魔法の空きスロットが有る人はいるのですか。」

「狐人の春姫君がまだ有ったはずだよ。何故そんなことを。」

「今回のお礼に魔道書を進呈しましよう。余っているものが1冊あるので。」

「魔道書なんてものが余っている事に疑問が有るんだが、くれるんなら大助かりだよ。」

「神ヘスティア、魔道書の使い方は御存じですか?」

「読むだけじゃないのかい?」

「その通りですが、そうではなく発現させる魔法をコントロールする方法の事です。」

「それは知らないな。発現する魔法をコントロールする発想は無かったな。」

「発現させたい魔法のイメージをハッキリ持つ事。魔法は万能では無い事をわきまえ調整する事。

等によりある程度決めることができるのですよ。」と言って詳しい方法を語った。

「では明日夜にでも届けさせましょう。」と言ってフェルズは出て行った。

 

ヘスティアが言った。「魔法があんな風に決められるなんて思わなかったな。『魔法はその者の願望をかなえる』

確かにスキルがそうなんだから魔法も同じで良い訳だ。」他の皆はその言葉に身じろぎした。

(自分が嫌いで変えたい、魔法が嫌い、対象を束縛したい、強く変わりたい)

リリが咳払いをして言った。「春姫様の魔法を決めましょうか。」

ヴェルフが勢いよく言った。「攻撃魔法だ、魔剣を使わなくて済む攻撃魔法だ。」

「リリは回復魔法が良いです。ポーション代が節約出来ます。」

「私はこのファミリアには期間限定なので、他の皆さんで決めてください。」と命。

「みんなの力で戴いた魔道書ですから、みんなで決めましょう。」と春姫。

リリとヴェルフが対立したが、結局リリの『今足りない、ベルが帰ってきても重複しない。』が優勢に。

ただ限定せず、その方向で明日情報を集めることに、具体的には先ず治療を扱うミアハの所に行くことになった。

 



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春姫05

ナァーザに回復魔法について聞いてみる。

「んんん、回復魔法なんて無駄。それよりミアハ印のポーションがおすすめ。」

「それですか」リリが脱力して言った。

「後半は軽いジョーク、ホントはこう。回復魔法は云わばボランティア、当然C/Pは全然良くない。

そんなものにリソースを割くのは勿体無い。そこでこのポーションを。」

「それはもう良いです。…昔なら、勿体無いなら盗めば良いと思ったんでしょうが。」とリリ。

「おいおい物騒だな、発想が悪そのものだぜ。」とワザとらしくヴェルフ。

「いやヴェルフ殿、そうとばかりは言いきれません。義賊と言うものが有ります。」と命。

「鼬小僧の事ですね。お金持ちから盗んで、貧乏人に分ける事をしていましたよ。」と春姫。

「「そんな者がいる、んですね」、んだな」リリとヴェルフ。

ナァーザと別れ更に魔法について調べるが、威力が高いと制約が多い(呪文が長い、マインドを多く消費するなど)

と言う当たり前の事を再確認しただけだった。

ただ付随効果としては相手から奪い取る(ドレイン)魔法は存在することが分かった。

 

ホームに帰り、ヘスティアと春姫の魔法について相談する。

「リリはやっぱり回復魔法を押します。義賊って言うのは良いと思います。」

「攻撃魔法が良かったんだが仕方ねえ、俺もそれでいいぜ。」

「じゃあどんな魔法にするのかイメージは固まったんだね。フェルズ君の話と合わせて

魔道書への想定問答集を作ろう。

問題は最後の言葉だ、『分不相応だ』って言われたらカースになってしまう。条件を見直すんだ。

『欲張りだ』と言われたら少し制約を追加すればいい。これを踏まえて考えよう。」

皆で意見を出し合い、纏めていく。ほぼ決まったところで約束の魔道書が届いた。

「これが魔法書ですか。リリは初めて見ます。」

「俺も近くで見るのは初めてだ。ヘファイストス様は持っていたかもだが。」

「私はこんな高価な物には縁が有りませんでしたから。」

当事者ではない3人は興味津々だ。

「なあヘスティア様、表題、いやせめて1ページだけでも拝ませてもらえねえか?」

「リリも」「私も」

「うーん、フェルズ君の話だと、導入部で魔法の知識を叩き込み、そして発現問答に行く流れらしいから

最初の1ページぐらいは良いんじゃないかな。」

「さすがヘスティア様、話が解るぜ。」と言いながら3人で読み始める。

読み進める内に3人とも微妙な表情になった。

げんなりした表情でリリが本を返しながら言った。「リリ達は明日の準備が有るのでこれで。」

ヘスティアの頭に?が湧きあがる中リリ達は退出した。

ヘスティアは焦りながら春姫に本を渡して言った。

「春姫君、頑張って目的の魔法を発現させてくれ。部屋は客間を使って構わないから。

明日朝ステータスを確認しよう。」

 

次の早朝、早速春姫のステータス更新を行う。

「ぬおー。」ヘスティアが吼えた。

「何かありましたか?」と少し不安そうに春姫が聞いた。

「…いや問題ない、これがそれだ。」と更新用紙を差し出した。

魔法欄にはこう書いてあった。

<<魔法>>

{義賊}

・強制配当

・周囲から強制的に徴収する。

・発動後、一定期間の要間隔。

・詠唱式{***スチール}

***は対象者名、省略時は本人

 

「ヘスティア様、スキル欄が無いのは何故ですか?」とリリ。

「…フェルズ君の言った通りだったんで、ビックリして手元が狂ったんだよ。」

「そうですか、ではこの魔法について考えましょうか」

「確かにそれらしく仕上がっている様だが。」とヴェルフ。

「肝心な効果、範囲、間隔などが具体的に分かりませんね。」と命。

「その辺りは今からダンジョンで調べてくれば良いだろう。」とヘスティア。




鼠ではそのまんまなので鼬に変えました。
春姫の魔法、はたしてどんなチート魔法なんでしょうか。
唱えるだけで一発全快、これでベルも安心だったりして。

狐と言うと、『ごんぎつね』を思い浮かべてしまいます。
盗む、恩返しする、こんなワードが浮かんだので
こんな魔法を考えてみました。
後、同じ獣人のベート君の魔法を参考にしてもいます。


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ククリ11

……あの神(ひと)の代わりにボクが助けるはずなのに。

……その後も扱いは変わらない。

……次のピンチの時、大剣を奪うと見向きもされない。

……前回と同じく壊れたが、今度の決め手は何と素手。

 

レフィーヤはエイナにペコペコ謝っていた。

「ホントにすみません。すみません。すみません。」

「ベル君に助けてもらいましたし、怪我も有りませんでしたからもう良いですよ。」

そうエイナは答えながらベルに対する態度を不思議に思った。

「レフィーヤさん、ベル君に関してもう少し詳しく聞かせてもらえませんか?」

レフィーヤさんもベル君も良い人なのに対立している。何が原因が有るんじゃないかと思った。

「分かりました、みなさんあの男(ひと)の事を良いように誤解してます。…

初めての出会いは、早朝に人を探していた時でした。交差点でぶつかったんです。

その時は普通に見えたのですが、話の途中で突然逃げ出したんです。」

エイナは思った。(うわー、ベル君この人にもやったんだ。あんなことして怒らないのはアイズさん位だよ。

普通は怒るよね。これが初印象なら最悪だわ。)

「その後何度か町やダンジョンで見かけましたが、あちらからは話かけては来ませんでしたね。」

(ベル君、恥ずかしいのは判るけど挨拶ぐらいはしないと駄目だよ。)

「だから次に話したのは、遠征の帰り18階層でパーティが劇毒で苦しんでいる時でした。」

(報告書であった件ね。たしかサポ-ター達の多くが毒にやられたんだったわね。)

「レフィーヤさんのレベルはいくつですか?また毒には犯されなかったんですか?」

「レベルは3です。幸い毒には犯されませんでした。だから18階層では結構大変でした。」

(深層遠征でレベル3ならサポーターだわね。毒にやられなかったならいろいろ仕事をやらないといけなかったはずね。)

「そこへ、ボロボロになって転がり込んできたんです。幹部の人たちは、快く引き受ける事にしてしまいました。

それでこちらの厚意によって治療、テント、食事の提供をしたのに、沐浴を覗いたんです。」

「神の悪戯だったとリューさんは仰ってましたが。」

「たしかにそれもあってアイズさん達は許しました。でなければ戦争になってます。」怒りで拳を握りしめて言った。

(今までの話を総合すると、ベル君の世話係の一人はレフィーヤさんになるわね。だから責任を感じているんだわ。

でもアイズさん達ってなんだろう。レフィーヤさん本人には?)

巨大ファミリアナンバー4のアイズが、弱小ファミリアのベルの世話をしたとは常識的に考えられないだろう。

「その件でレフィーヤさんにベル君は何か言いましたか?」

「近づいたら、『ごめんなさいーー』と叫んで逃げました。」

(……幹部の皆さんが許したので、レフィーヤさんは文句を言えなかったんだわ。

うーん、ベル君、これは対応が悪い。何とか関係を改善できないものかな。)

「よく判りました。ですがこのままでは調査が出来ませんよ。」

(まずはどんな理由であれ近づくことが第一、それから徐々に改善していこう。)

「そうなんですよねー」がっくりとうなだれた。

「私に考えが有ります。明日ベル君と気軽なお茶会をしましょう。探せばお茶になるハーブが有る筈です。」

 

いろいろ話をしようと言われたが、じっさいは話せなかった。

僕と共に成長するみたいだけど、生まれて2か月にもならない相手に話題は無かった。

力になりたいと言う情熱は痛いほど判るけど、具体性が全くない。

何をさせるべきなのか、そして何が出来るのかが全く分からない。

そういえば僕は、神様から詳しい説明を聞いてなかった。

初めは神様のいただき物で(B級品?)、こんな不思議な物だと思わなかった。

その印象が強すぎ、2億は高すぎると言うことに思い至らなかった。

今は傍に居てお互い観察し合っている。何をさせるのが良いのか考えるために。

異端児の事も、まったく如何すればいいのか判らない。

孤児院裏のバーバリアンの事、もしダンジョンで出会ったら…

どうやって見分けるのか?怒り狂っている彼らを如何するのか。

リドさんは『躊躇うな』と言ってくれたけど、あのゴーグルの男の言葉が浮かぶ。

『共にモンスターを糧にしている。お前と俺は何も変わらねえ、ただお前が偽善者なだけだ。』

悩みだけが増えていく、ただ村での生活はのんびりしたものでその点は助かっている。

ククリは僕の傍で黙って常に見て、いや観察している。何が出来るかを見つけるために。

 

今日は、昨日薬草が見つかり新鮮なうちに薬の調合をする為、村で待機となった。

今は畑仕事を手伝っている。大根に似た根菜の収穫を手伝う。

僕の村のそれより2倍以上大きい、それとランクアップによる力の上昇もあって慣れているはずが

上手くいかない。四苦八苦しながら手伝っていった。

 

エイナがレフィーヤに言った。

「そろそろお茶会の準備が出来ます。ベル君を呼んできてくれませんか。」

「はーー、わかりました。」と言って杖を片手にベルを呼びに行く。

ベルに向かって歩き出したレフィーヤだが、何と呼ぼうかと考え込むことに。

それ程親しい関係ではないので、姓のクラネルだが、自分の事は名のレフィーヤ呼びをさせている。

ちぐはぐだし、自分の方が姓呼びだと格下の様で気に入らない。

考えながら歩いているとすぐ近くまで来ていた。ちょうどベルは腰を曲げて野菜を収穫している最中のようだ。

肩でも叩いて呼べば良いかと思い、そのまま後ろから近付いた。なぜか杖は淡く光っていた。

 

ベルは村長の妻に時々指導されながら収穫していく。だがなぜか一本抜けない物が有った。

何回か試すがなかなか抜けない。少し力を入れて引き抜こうとする。

だが今度はあっさり抜けて後ろにひっくり返る。なぜかゴンと硬い音がする。

ベルの目にはカーテン状の布とその奥の桜色が見える。

 

レフィーヤがベルに近づいた時、何かで顔面を強打する。反射的にに足を広げて踏ん張る。

何が起こったのか全く分からない。ふと前を見るとさっきまでいたはずのベルが居ない。

いや視界の下部に足だけが見える。嫌な予感を感じて視線を下に向ける。

足の間にベルの顔が有る。あわててスカートを抑え後ろに飛び退く。

 

ベルはあわてて飛び起きぎこちなく振り返りながら言った。「レフィーーー」

爆風の様な殺気と共にレフィーヤさんがゆっくり近づいてくる、右の拳を握りしめながら。

その剣幕にベルは思わず後ずさる。それを合図に追走劇が始まる。

 

レフィーヤが疲労でダウン、一部始終を見ていた村長の妻とりなしも有り

お茶会は平謝りするベルと看護されるレフィーヤで締まらない物に。

エイナは、先は長そうだと嘆息した。




原索ののベル君は、モンスターを殺して稼ぐのに抵抗が有るみたいでしたが
これからのダンジョン、どうするんでしょうね?
『強くなる』の一点張りで強行突破するんでしょうか。

ステータスからすると、レベル4になるんでしょう、適正階層は下層。
レベル1では、サポーターとしてでも付いて行くのはきつそうなんですが。


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ククリ12

……前回と同じく壊れたが、今度の決め手は何と素手。

……その後はほぼ前座、携行用予備品扱い。

……ボクが、ボクこそが力になるはずなのに。

……ボクの思いは誰も聞いてくれない。

………………。

 

レフィーヤさんはまだ寝ている。昨日一昨日とベル君との追いかけっこでダウンしたらしい。

必然的に今日はベル君の後をついて行くことは出来ない。

レフィーヤさん、彼女の立場なら仕方が無い事かも知れないけど、何とか誤解を解いてあげたいな。

次にアイシャさん、二つ名の通りすごくきれいな人だけど、戦闘娼婦、典型的なアマゾネス、聞きたい事は有る

(妹分とか、妹分とか、妹分とか)んだけど倫理観なんかが違いすぎるからなー。

(ベル君の周りにそれらしいアマゾネスなんて居たかしら?)

それとリュー(仮)さん、もう(仮)は良いや、謎の人、おそらくエルフの女性だと思う。

リヴェリア様や母と似た感じがする。おそらく森育ち(閉鎖的)だと思う。

私に対して壁を感じる。噂に聞くハーフエルフへの嫌悪感なのかもしれない。

それよりベル君、何かを隠し、何かに悩んでいる。ヘルメス様の言うとおり聞く資格が無いのかもしれないけど。

だけど何とかしてあげたいと言う気持ちは嘘じゃない。

これまでの事で、少しだけ違うベル君を見れたことは良かった。

そういえばベル君の育った場所ってこんな所なのかな?

 

レフィーヤはベッドで痛む体を気にしながら考えていた。

(不味い、非常に不味いです。ホントならこっそり後をつけて強くなる秘密を暴き出して、

団長から「レフィーヤ、良くやった、お手柄だ。」アイズさんには、抱きしめられながら

「ありがとうレフィーヤ、これで強くなれる。今度は二人だけで一緒に頑張ろう。」「はい、アイズさん一緒に…」

の筈だったのに。)どうしてこうなった。

(これまで観察して分かったんですが、かなり敏感です。観察だけでは秘密にたどり着くのは難しいかもしれない。

かと言って話術に訴えようにも、あのセクハラ紛い{あくまでレフィーヤ視点です}ではロクに話せません。)

(それにしても腹が立つのは、今では全く追いつけなくなってる事です。迷子にならないように配慮されてるのも。

こうなったら魔法で足止めをするしか無いかも知れませんね。でも村で魔法は無理ですから…

今日の午後に町へ行って何か探してきましょう。)

 

今日は山に入る。ククリは殿のベルの後を適当な距離を開けてついてきている。

なんでも僕がククリを気にしすぎると、観察してる意味が無いんだそう。(自然な状態を見たい?)

午前中は空振りだった。そこで午後は少し山の中に入ることに。

薬草を探しながらしばらく行くと、ベルが小さく言った。

「アイシャさん、います。」「一人で大丈夫かい。」「はい、この程度なら。」

「なら少し先で待機する、なんかあったら呼びな。」村人を連れて先に行く。

 

一人になったのを感じたのか、ジリジリと包囲網を狭めてくる。

焦ったベルは攻撃を仕掛ける。相手は事前の情報通りアルミラージだ。

細い丸太を振りかざしている。攻撃しようとして、アルルを思い出し手が止まる。

その隙を突かれアルミラージの連携攻撃に、何発か攻撃をもらう。

ベルが思わぬ苦戦を強いられていると、ククリが両手を広げて割って入った。{ベル君をいじめるなーー」

アルミラージがククリに集中する。人体を叩いているとは思えない音を出しながらも、ククリは声を出し続ける。

だがアルミラージはそれにお構いなく攻撃を続ける。

その光景を呆気にとられて見ていたベルだが、不意にククリの姿が消える。

姿が消えるのを目撃したベルにスイッチが入る。瞬く間に周囲のモンスターを斬り伏せる。

周囲に居た何匹かのアルミラージはそれを見て逃げ出した。

 



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春姫06

ダンジョンに潜り魔法の効果を確認する。

「おい。」ヴェルフがジト目でリリを睨む。

「唯一の男なんですから文句言わないでください。命様お願いします。」

虎鉄を振るい傷をつける。「痛てぇ」

「命様ゴブリンは?」

「前方左のルームに一匹、動いていません。」

「ではヴェルフ様、攻撃を受けないようにお願いします。当然攻撃するのも駄目です。」

「分かってる。」と言ってヴェルフはルームへ走り込む。

「春姫さん用意してください。命様は念のため待機してください。

ヴェルフがゴブリンと対峙する。リリは春姫の前に立ってタイミングを見計らう。

「今です。」春姫が魔法を発動させる。

「効いてる、だが完治じゃねえ。」

「春姫さん連続で発動してください。ヴェルフ様、完治したら教えてください。終わったら倒してかまいません。」

「「分かりました」った」

 

「3回ですか。春姫さんマインドはどうですか?」とりり。

「ほとんど疲弊していません。何回でも唱えられそうです。」

「間隔はどうですか。?」

「今のがほぼ最速のタイミングです。」

「一分超と言ったところですか。命様、春姫さん体調はどうですか。消耗してませんか?」

「「ありません」」

春姫の位置からヴェルフの位置まで歩数を数えながら歩く。

「詠唱の短さから予想していましたが、ベル様と同じタイプの様ですね。」小声でささやいた。

ヴェルフの傷跡と、ゴブリンの状態を確認してから命を呼んで言った。

「命様、同じことをお願いします、その後もとの位置に戻ってください。春姫さんはそこを動かないで。」

リリはヴェルフと春姫の中間に立ち言った。

「手を挙げたらヴェルフに魔法をかけてください。」

徐々に近づきながら効果を確認する。「範囲は2M弱て所ですか。」

「春姫さん壁際まで下がってください。それから近づきながら同じことを、今度は手を上げたらやめてください。」

 

「射程は10M強手所ですか。」とリリがつぶやく。

ヴェルフと命は難しい顔をしている。それを見てリリが声を上げる。

「春姫さん、マインドの消費はどうですか?」

「消費している感じは全然しません。」

「では積極的に使うようにしてください。練度が上がれば効果も増します。」「はい。」

ヴェルフと命は感心しながらリリを見た。

ヴェルフの傍のゴブリンから魔石を取り出しリリが言った。

「さあ19階層へ行きますよ。これからが本番です、気を引き締めて行きましょう。」

それを見ていたヴェルフはリリに言った。

「おいリリスケ口を開けろ。」リリは何かを言おうとしたが、口に何か突っ込まれてもがもがしか言えない。

「ポーションだ早く飲め。」さらに何か言おうとしたが諦めて飲み干す。

「いきなり何するんですか、ポーション代が勿体無いじゃないですか。」

「リリスケ無理するな。」と言って頭をぽんぽんと軽くたたいた。

「リリはサポータです、多少の怪我は問題ありません。でもなんで気が付いたんですか。」

「お前は魔法の効果を俺に聞かなかったからな。」リリは黙った。

命と春姫はそれをこっそりと眺めて微笑んだ。

 

18階層の検問は、フェルズの手回し通りクエスト依頼書を見せると通ることができた。

ただ人数や行く階層、帰還予定などを書かされたが。

19階層奥、パンドリーにほど近く一つのルームに着いた。

そこは細長い部屋だが、蛇行している為奥から入口は直接見えない。

この奥は、この階層では比較的珍しい岩肌が見えている。

入口監視に命と春姫、奥で採掘にヴェルフとリリの組み分けになった。

 




チート魔法だとう、どこにそんなもんが…
バランスブレーカーだめ、

人生こんなもんです。


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アーデ07

フェルズ様が魔道書を寄贈して下さった。

豪邸一軒と同じ価値が有るものだが、ご自身で作れるので気楽なのだろう。ありがたい事だ。

だがヴェルフ様が空気を読まず中が見たいと言い出した。思わずリリも、と言った。

高価で希少な本、どんなことが書いてあるのか非常に興味が有ります。

ヘスティア様が許可してくださり拝見できることに。……

 

げんなりして3人は部屋を出る。命は言葉が出ない様だ。

「何ですかあれは、胡散臭さ満載です。」

「俺に聞くな、その意見には大いに同意するが。」

「まず題名からしてきわめて怪しいです。

『弱小ファミリアのサポータが、賢者の魔道書を読んだなら』

ピンポイントすぎます。」

「……俺に聞くな、以下同文だ。」

「次のページが読者の声、みんなも先輩に続け、とありましたが

魔道書は、一回読むと効果がなくなるのではなかったですか。」

ヴェルフも、もはや何も言わない。

「一人目、『俺はこれを読んで世界一に。猪人のOさん』これが一番マシなんですよね。」

「二人目、『僕はこれで、仕事は順調、可愛い彼女も出来ました。少人のF.Dさん』あの人に可愛い彼女?」

「三人目、『ワシはこれで長年いがみ合っていたエルフと恋仲に、そして愛に結晶も。ドワーフのG.Lさん』

何から突っ込んで良いのやら。胡散臭さMAXです。」

「……リリスケお前、ほんとに頭が良いんだな。」

「今言われたくは有りませんでしたよ。……明日効果を確認してからクエスト頑張りましょう。」

「そうだな」「そうですね」

 

あんな胡散臭い物でも無事魔法は発動した様です。気になる事は有りますが、テスト結果で考えましょう。

しかしヘスティア様も判りやすい。追加で何らかのスキルが発現した様ですね。

ですがベル様の件を考えると突っ込むのは躊躇しますね。皆さんも同じ意見のようですが。

ある意味危機なこの状況では、有用なスキルであってほしいんですが。

テスト結果はいささか想定外、マインド消費は少ないが効果も少ない。積極的に使いパワーアップするしかないだろう。

この魔法を押した手前、もう少し効果が高い方が良かったですが、今後の成長に期待しましょう。

それより今はクエストです。19階層には、時間はかかるが確実に手に入る場所が有るらしいので。

 

フェルズ様の手配により問題なく19階層へ来た。当然この階層から冒険者が極端に少ない。

慎重に進み目的地に着いた。入口に命と春姫を警護に残し、曲がりくねったルームの奥へ進む。

最奥の岩肌に小型鶴嘴を打ち込み採掘を始めた。黙々とだだ掘り進める。

「確かに確実に手に入るが…」ヴェルフが息を切らしながら言った。

「口を動かすより手を動かしてください、予定量にはまだまだですよ。」

しばらくして崩した岩を選別に入る。

「おっ、これだ」ヴェルフが親指の先ほどの欠片を取り上げた。

「一時間で10個、やはりこの階層ではこの位ですか。」

「しかしよくこんな場所が分かったな。」

「リリの魔法をフル活用しましたから。しょせんリリにはこんな事しか出来ませんから。」

「…なあリリスケ、お前は十分役に立ってるじゃねえか。」

「……ここはパンドリーに近いです、あまり時間はかけられません。さあ始めますよ。」

採掘を再開する、ヴェルフは前より少し早く、乱暴に鶴嘴を動かす。

「ヴェルフ様。もう少し静かにお願いします。」リリは小さく言った。

だがヴェルフは気付かない、何回か注意したが駄目だった。仕方が無く背中をたたく。

「何だ、リリスケ。」手を止めてヴェルフが答えた。

「ちょっとうるさい……」リリは途中で言葉を失った。

それは入口方向から音が聞こえてきたからだ。

「やべえ、命だいじょぶか?」そう叫んでヴェルフは大剣を担いで駆け出した。

リリも慌てて後に続く。すると入り口が見える所にヴェルフが立っていた。

「ヴェルフ様何を…」と言いつつヴェルフの見ている方を見たリリは、その光景に絶句した。

 




余っていた理由が判明しましたね。原作よりひどい?

リリちゃんはダンジョン外で活きるのかな?


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ククリ13

戦闘が終わった気配を感じてアイシャは、近づきながら声をかける。

だが返事が無い。あわてて駆け寄るとベルは十数匹のアルミラージの死体の中で佇んでいた。

「無事でよかったよ、どうしたんだい?」少し明るく大きな声でアイシャは言った。

片手剣ではなくナイフを握りしめてベルは何も言わない。

声を聞きつけて村長の妻たちが駆け寄り、アルミラージの死体たちを見て怯えて言った。

「きょうはこの位にして帰りましょうか。」

アイシャはベルの傍に散らかっていた物を回収して言った。

「だそうだ。一緒に帰ろうか。」ベルは黙ってアイシャ達の後に続いた。

 

村へ帰るなりベルは、リューに神様への拝謁を希望した。

希望は直ぐ叶い、ベルはククリの事を話した。

神様は手にとっていろいろ調べていたが、やがて考えが纏まったのか告げた。

「大丈夫だよ、人で言えばマインドダウンとおんなじじゃ。一晩寝れば元通りになる。」

ベルはほっとして言った。「ありがとうございます。」

「ワタシは何もしてないよ。それにあれも喜んでるみたいだね。」

ベルは判らないと言う様に首を傾げた。

「お前さんの役に立ったのが嬉しいらしい。

あれからどんな事が有ったんじゃ、詳しく聞かせておくれ。リューや。」

「分かっております。」と言って部屋を出て行った。

ベルは請われるまま語った。ただし黒い谷の事は話さなかった。何故だかベルにもわからない。

エルフであるリューに配慮したのかもしれない。

神は興味深そうに聞いていた。ただベルは話すことで、問題が少し整理できることになった。

「お前の話は面白いな。時間が有ったらまた話を聞かせておくれ。」

 

今日レフィーヤさんが町へ行って何か棒状の物を買ってきた。

対ベル君用の物らしいんだけど、これで関係が改善されれば良いんだけどね。

 

次の朝、神様の言う通りククリは復活していた。話を聞くと形態変更は出来るが元に戻るには時間がかかるらしい。

今日は薬草が見つかってほしいが、昨日あんな事が有ったから気を引き締めて行かないと。

昨日の事もあって別の場所を慎重に探索。午前中、アイシャを先頭ベルが殿で周りを警戒しながら探す。

「アイシャさん如何しますか。昨日の半分ぐらいしか調べられていませんが。」

アイシャは少し考えてから言った。「安全第一だ。少し開けたところを探してそこを調べようか。」

午後は打ち合わせ通り開けた場所を探しながら行く。

効率は上がったが薬草は見つからない。しばらく探した後、立ち止まってアイシャが辺りを見回してから言った。

「あっちの方が開けているみたいだね。今度はそこへ行こうか。」

方向を変え慎重に歩き出す。すると突然ベルが鋭く言った。

「アイシャさん、何かいるみたいです。そこの草むらで音が聞こえました。僕が見てきます。」

「わかった、ここらで待機する。」ベルは腰をかがめて草むらに慎重に入っていく。

アイシャ達が固唾をのんで見守っていると、突然ベルがすごい勢いで駆けてくる。

途中不自然な場所であたりを見回し、黒い谷の方へ逃げて行く。

その直後、何かが後を追いかける。しばらくして黒い谷の方で甲高い音が聞こえてきた。

呆気に捕られていたアイシャ達だが、不自然なベルの行動に疑問を感じ、その辺りを調べることに。

程なくして薬草が見つかる。村長の妻が言った。「あの子は持ってるね。」

この間にいつまでたっても戻ってこないレフィーヤを心配してエイナが合流した。

「アイシャさん、レフィーヤさんを知りませんか?」

「ああ、後で回収に行こうか。」エイナは訳が解らず首を傾げた。



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ククリ14

昨日はダウンしたレフィーヤだが、今日はエイナと共にベルの後をつける。

彼らが薬草を探している間は、交代でハーブティ用の草花を探している。

午前中は前回と違い随分慎重に行動している様だ。

探索場所を細かく分けてこまめに移動を繰り返している。

おかげで前回よりも緊張を強いられている。

「レフィーヤさん、前回と動きが違いますが何故か解りますか?」とエイナ。

「分からないです、観察するしかありませんね。彼の動きに注目しましょうか。」

緊張のせいか喉が渇く。こまめに水分補給しながら後を追いかける。

午前中は何事も無く終わる。こまめな移動でハーブの集まりが少し悪い。

山に入る名目は、お茶用の草花の採取なのであまり少ないと怪しまれる。

採取した草花は村長さん達に見てもらっているのでなおさらだ。

午後は気合を入れて臨まないと。

 

午後はまた探索方法が違うようだ。おかげで休憩のタイミングをつかみ損ねる。

突然一行が立ち止まった。レフィーヤがエイナに言った。

「ちょっとお花を摘みに。」

「えっ、良い花が見つかったんですか?私も行きます。」

うまく伝わらなかったようだ。顔を赤らめてモジモジしているとようやく気付いてくれた。

「あっ、すみません、私ここで待ってますから。」

ベル達一行の進行方向とは別の方向に行く。それは期せずしてアイシャの示した方向だった。

背の高い草むらを見つけその中で用を足す。安心した気の緩みか持っていた杖を倒してしまう。

少し大きな音を立てたが特に気にしない。事が終わって前を見るとばっちり目が合う。

暫し硬直の後、急いで後始末を終え憤怒の表情で走り出す。

激怒して追いかけても追いつくことが出来ない。黒い谷に入ってちらちらこちらを窺っている。

その様子を見て更に怒りが増すが、逆に少し頭が冷える。すぐさま牽制に平行詠唱を開始する。

「{解き放つ一条の光、聖木の……}」走ることに集中しているので魔力はそれほど籠められていない。

奴はあわてている、しかしうまく逃げられ掠っただけだ。ただしスピードは落ちて差は縮まった。

その後も魔法を使い、ついに追いつく。そしてついに杖がベルの背中を捕らえ、杖がひときわ輝く。

ベルとレフィーヤは体勢を崩しもつれ合い倒れ込む。互いの頭を相手の股間に突っ込む形で気絶した。(69ぽい?)

 

薬草採取を終えたアイシャとエイナが迎えに来たとき、二人の姿を見てアイシャは大笑いし、エイナは顔を真っ赤にした。

アイシャの説明を聞いてやっと怒りを抑えたレフィーヤだが、まだ完全には納得できていない様だ。

ベルにしても、魔法で黒焦げにされかかったことで少し怯えている。

「その剣なら魔法を斬れるんじゃないのかい。」ベルの片手剣を指差してアイシャが言った。

「アイズさんじゃあるまいし、そんな事出来ませんよ。それにちゃんと死なないように手加減しています。」怒りながらレフィーヤ。

アイズが出来ると聞いて考え込むベル。するとアイシャがレフィーヤに言った。

「なあその杖を見せてくれないかい。」「良いですよ」

アイシャは杖をじっくり観察してから言った。

「面白い杖だね、今度貸してくれないかい?」

「それは構いませんが、壊さないでくださいね。」

「そのわりには以前は遠慮なくベルをバシバシ叩いていたようだが?」レフィーヤが顔を赤くしてそっぽを向く。

エイナは二人の話を聞きながら、『ベル君は女性にもっと慣れないと』と思っていた。

 

これからエイナは、事有る毎にベルを連れ出す事になる。

他に大きな悩みが有るベルはもちろんだが、女性に慣れさせるという目的が有るエイナは気付いていなかったが、

傍から見るとその様子はまるでデートをしている様だった。




エイナとベルに関しては読者の想像にお任せします。(書くと長くなりそうなので)
基本は、お姉さんぶるエイナがベルを引っ張りまわす、となります。
ですが都会育ちのエイナは、田舎暮らしで生来ドジッコぶりっをいかんなく発揮、その度ベルに助けられます。
2か月以上この状態なら、惚れても違和感ないよね。

そろそろみんなは作者の意図に気付くころかな?


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春姫07

ヴェルフ様とリリ様はルームの奥へ採掘へ向かいました。

残った命様と私は入口でモンスターの監視です。

私の耳で音を拾い、命様のスキルで確認です。

少数の敵なら私の薙刀で足止め、命様がとどめを刺す。

幸いに前の通路はそれほど幅が広くなく、多数のモンスターが通りがかることは無いようです。

ただ命様の話だと、パンドリーが近い事も有り周囲にはかなりの数がいるようです。

神経を集中させて索敵する。何回目かの奥からの音がやむ、そのタイミングで外から大きな音がする。

「命様。」鋭く言った。

 

春姫殿が鋭く叫ぶのを聞き、スキルを発動する。数十体のモンスターがパンドリーを目指して進んでいる。

気付かれることなく過ぎ去ってくれと祈りながら監視を続ける。

ようやく命様が息を吐きモンスターが離れたと思われた時、奥から採掘の音が響いてくる。

不味いと思った瞬間、モンスターの声が近づいてくる。

「春姫殿、魔法を。」と言い虎鉄を抜き、入り口前で待機する。

スキルでタイミングを計り入り口前で対峙する。初手で先頭数体を仕留める。

その死体をバリケードにしてレベルブーストの時間を稼ぐ。

かろうじて間に合うが、騒ぎを聞きつけてモンスターが集まってしまう。

奮戦するも多勢に無勢、痛恨の一撃をもらってしまう。

「しまっ…」思わず声が出る。

その時春姫の声が聞こえる。「命、スチール」

不思議なことに、一瞬にして傷が消える。朝には数回唱えないと回復しなかったのに。

その後も魔法をかけるたびに傷が消える。また重症のモンスターが相次いで倒れる。

それを見た命は良い方法を閃く。致命傷のみを避けて攻撃に専念する。

春姫も魔法の合間に薙刀で攻撃している。

その内春姫が魔法を唱えるごとにバタバタとモンスターが倒れていく。

一心不乱に虎鉄を振るう。

そのうち不意にモンスターが途切れる。スキルで確認しても辺りに居なくなっている。

 

その内にこんな声が奥から聞こえてきた。

「おーい、リリっち、ヴェルフっち、無事かー」

リザードマンとセイレーンが近づいてくるのが感じられる。リドとレイだ。春姫がレイに飛びついて言った。

「こちらに戻られていたんですねレイさん。」

この言葉にリリとヴェルフの硬直は解けた。

「リド、どうしてここに?」とヴェルフ。

「ダンジョンに残った仲間の再編に戻ったんだ。ヴェルフっち達の事はフェルズに頼まれていたからな。

だけど新人が多かったんで遅くなっちまった、済まねえ。」

「そうですか、フェルズ様が。ですが後始末が先です、春姫さん。」リリは戦闘の後始末を始めた。

レイは警備に就く。手持無沙汰になったヴェルフは言った。

「命、武器の整備をするぞ、寅弐郎を寄こせ。」

「虎鉄です。」と憮然としながら言いつつ渡す。

幸いそれほど傷んではいなかったのですぐに終わる。

「リド、前から気になっていたんだがお前の武器を見せてくれ。」

「いいぜ、ほらよ。」シミターを渡す。

ロクに整備を受けていないのでひどい有り様になっている。

「これはひでえな、少し待ってろ何とかしてやるから。」

リドはその様子を興味深げに見ている。そのうちリリ達が魔石とドロップアイテムを持って戻ってきた。

「彼ハ何ヲしてイるのデすカ?」とレイ。

「武器の整備をしているんですね、ヴェルフ様は鍛冶師ですから武器を治せるんです。」とリリ。

「そう言えばリリっち達は何でこんな所に居るんだ?」とリド。

「これを取ってました。」採取した鉱石を見せるリリ。

「こレハ、あれデハ無いですカ?」とレイ。

「そうだな、あれだ。」とリド。

「もしかしてこれが有る場所を知っているんですか?」とリリ。

「人間たちが入ってこない場所で、おれっち達が休憩に使っているルームに、こんな岩がごろごろしている所が有るんだ。」

「リド。」「分かってるぜ。おれっち達が取ってきてやるよ。」

「そこには一種類だけしかないんですか?」とリリ。

「いいや、いろんな種類が混ざってるぜ。だからそれらしいのを持ってきてやるよ。」

「じゃあリリが一緒に行きましょうか?」

「無理じゃないか。フェルズの話だと、お前らは水の中に長く居られないんだろう?」

「水の中なんですか。」とリリ。

「おーい出来たぞ、これでかなりマシになるはずだ。」とヴェルフが言った。

「まあそんなところだ、それじゃ行ってくるよ。」

「それでしたらも願いしたい事が有るんですが。」とリリ、そして頷くリド。

「珍しい石が有れば採って来て欲しいです。選択はそちらにお任せしますよ。」

「解ったリリっち、行ってくる。」と言ってリドは出て行った。

ここでレイがヴェルフに言った。

「ヴェルフさんハ、防具モ直せるンですカ?」

「ああ、俺は鍛冶師だ、武器も防具もお手のもんだぜ。」

「でハ、ワタシの防具ヲ見てくレませんカ?」

ヴェルフは快く引き受けレイから不具合箇所を聞き作業に入った。

実力者のレイが居るので、リリは命を誘って採掘場所へ向かった。

春姫とレイは入り口近くで哨戒に就く。

ただ哨戒と言ってもレイの実力はかなりの物だ、比較的気楽だ、そこでレイが春姫に話しかけた。

「春姫さン。初めテお会いしタ時と比べるトずいぶン雰囲気ガ変わりまシたネ。何カあったノですカ?」

「はい、自分の本当にやりたい事、やるべきことが見つかったんです。」嬉しそうに春姫が言った。

「そうデすカ、それハ良かっタですネ。それニ強クなっタようニ感ジますヨ。」

「はい、これは練習してますから。」薙刀を軽く振って言った。

その内、防具の修理が終わり、リドが帰ってきた。

 




チート……


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アーデ08

今度は命様と一緒に採掘を行う。彼が持ってきてくれるものに期待したいが、別物の可能性もある。

そしてさっきの現象も気になるが、おそらく命様も判ってはいないはずだ。

帰ってヘスティア様と相談するしかないだろう。

何個か採取していると彼が帰ってきたようだ、出迎えに行く。

見慣れないゼノス達が鉱石を運んできた。ただ動作がぎこちない。

「ヴェルフっち、すげー切れ味だこの剣。」

「だいぶ酷かったからある意味当たり前だな。」とヴェルフ。

「…随分持って来ましたね。」とリリ。

「あんまり持ってきても持って帰れないだろうから、この辺にしておいた。それよりありがとなヴェルフ。

それとリリっち、ほら。」リリにこぶし大の石を3つ渡した。

「ありがとうございます、私は見た事は無い石ですね。」

「俺もねえな。」とヴェルフ。

「でもきれいな石ですね。」と春姫。

「でも3つしかありませんね。」とリリ。

「私は期間限定ですから、それより仕送りの方が…」と命。

3人は顔を見合わせて頷きあった。

 

リリとヴェルフはアマンダイト鉱石を調べている。

「問題は無いようだな、こっちこそ助かった。明らかにこっちの方が貰い過ぎだな。」とヴェルフ。

「だったらポーションは有るかい。新人がへばっているんだ。」

「リリスケ。」

「はいはい分かっておりますよ。」とリリはポーションセットを渡した。

「おっ、すまねえ、ほら。」と言ってリドはポーションを鉱石を持ってきた仲間に渡した。

だが渡されたゼノス達は飲まない。

リドは黙ってポーションの一つを取り、一気に飲み言った。「うめえーー」

その言葉を受け次々飲みだす。「うまい」「おいしい」……

「すまねえ、奴らは人間たちの捕まっていたせいで不信感が有るんだ。」ヴェルフに言った。

ヴェルフは頷いた、その時リリの様子が目に入った。リリは荷物を前に考え込んでいた。

「如何したんだ?」

「荷物が多くてドロップアイテムを持ち切れないんです。」

この後、換金率か鍛冶に有用かでもめることに。

「前から不思議に思ってたんだがリリっち、それ如何するんだ?」ドロップアイテムを指差してリドが言った。

「その辺りは武器や防具に使うのが多いですね。私のこれにも使われていますよ。」虎鉄を取り出して命が言った。

「と言う事はそれが有れば武器が出来るのか。」とリド。

「作るとなるとそれなりに時間が掛りますよ。」とリリ。

リドとレイは話し合っている。やがてリドが言った。

「なあ、その爪や牙をもって来れば、武器は防具を作ったり直したり出来るのか?」

「さっきも言ったが、時間がかかるぞ。」とヴェルフ。

「ならば換金して買って来れば良いのではないでしょうか。」と命。

それを聞いてリリは考え込んだ。

「あなたたちは爪や牙が残った時は如何しているのですか?」

「使いようが無いんでそのまま捨ててるぜ。」

「なんと、もったいない…ポーションと交換しましょう。」

「…がめついぞ。」とヴェルフ。

「リヴィラの町と変わらないでしょう?」

「いいさ、どうせ捨てちまう物なんだ、逆にそれが必要なものに替わるんならありがたいぜ。」

話し合いの結果3日後に再度取引しようと言う事になった。

 

苦労して持ち帰り、ギルドでクエスト完了手続きを行う。

「御苦労さま、要求量は十分満たしています、追加のボーナスは後からね。これは継続できるけれど如何する?

それにしても早いわね。」とミイシャ。

「今回は幸運でした。継続でお願いします。

それと前回見せて戴いたクエストで、珍しい鉱石をと言う物が有ったと思うのですが、それを再度見せて戴けませんか?」

「そう言えば有ったわね、ちょっと待っててね?」と言ってミイシャは奥に引っ込む。

しばらくしてうなだれて帰ってきてミイシャは言った。

「ちょっと見当たらないの、後で探しておくわ。でもどうして必要なの?」

「いえ、今回珍しい物が手に入ったので合わせて受けようかと思いまして。」

「そう言う事なら依頼主に連絡しておくわ。」

 

 

ちなみに魔道書の件を、ヘスティア様がフェルズ様に聞いた処

あれはプロテクトの一種で、安易に読まれない様にワザとああなっているそうです。

「それなら解ります。魔道書の値段は豪邸に匹敵します。もし誰かに盗み読みされたなら

それは我が家に放火されたと同じこと。リリなら後ろから刺すかもしれませんね。」

と感想を言った所、へステイア様はなぜか硬直していたのが印象的でしたが。

 




魔道書にそんな設定が…(オリジナルの解釈です)


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ククリ15

この村へきてもう2週間以上経った朝、ベルは思わずため息をこぼした。

薬草探しは極めて順調だ。レフィーヤさんとの死のレース、アイシャさんとの模擬戦(左手に杖のハンデあり)さえなければ。

騒動が起こる場所辺りで必ず薬草が見つかるからだ。たぶん幸運のアビリティの所為だと思うけど戦いは余計だ。

特にレフィーヤさんは兎も角、アイシャさんは見られたり触られたりしても気にして無さそうなんだけど。

ハンデ付きで負けたらベットで再戦だ何て言うもんだから、3人のエルフの視線が怖くて絶対に負けられないよ。

最近は村長の奥さんたちは黒い谷で待機、レフィーヤさんと僕が現れるとアイシャさんの所に行って薬草を採取。

ククリは相変わらず時々現れるモンスターに対する僕の盾だ、たださすがに1~2発食らう程度で追い払っている。

ククリの呼びかけに無反応なことから、アルルとヘルガとの違いを感じ始めている所だ。

何とか他にククリが納得できる使い方を考えないと。悩みは増える一方だ。

ちなみに僕が盾を持っていくとククリがすねるので持って行っていない。

 

流石に今日は全力で『俺の所為じゃねえ。』と叫びたい気分だった。

今日の早朝、まだ暗い中ベットの傍でがさごそと音がするので目が覚めた。

何事かとあわてて手元の懐中魔石灯をつけると何やら白い物体が目の前に立っていた。

恐る恐る上を照らす。その光で顔をゆっくりとこちらに向ける。

明らかに寝ぼけている顔をしているが光を浴びてしだいに覚醒する。

ばっちり目が合う。膝までおろしていた下着を引き上げ、たくし上げていたネグリジェを右手で器用に戻して部屋を出て行く。

あわててベルは窓から飛び出した。

不気味に、復活の呪文を唱えない撲殺妖精が、撲殺専用の棒を持って追いかけてくる。

日に日に平行詠唱の精度が上がっていくのが地味に怖い。ファイヤーボルトの連射で威力を弱めて対処しているが。

 

レフィーヤさんの世話をエイナさんにお任せして、ほぼ日課の鍛練を始めようとする。

いつもの視線を感じる。今日は特に誰かに話したい気分だ。と言うのは今日最後の希望が潰えたからだ。

レフィーヤさんを抑えるのにエイナさんではレベルが足りない。アイシャさんは面白がるだけだ。

最後の希望はリューさんだけだった。だけど今日アイシャさんと一緒に出てきたが、言い合の末引っ込んでしまった。

「そこのキミ、いつも見てるね。ちょっと出て来てくれないかな?」

「何か用。」10歳ぐらいの女の子が出てきた。服は村人と同じ様な物だ。

少女の様な老人の様ななんとも不思議な雰囲気を持っているが、神威は感じない。

「チョッと話しがしたいんだ。」ベルは不思議な雰囲気につられて話しかけた。

「…良いよ、で何の話かな?」不思議な雰囲気はさらに強まった気がする。

その雰囲気に押されてレフィーヤさんとの事を話してしまう。

「………もちろん僕が悪かったこともあるんだけど、さすがにあれはね…」話している内に段々愚痴になってしまった。

「かわいそう。」ぽつりと彼女(外見は少女だが雰囲気は違う)は言った。

「…さすがにそこまでは、僕も悪かったんだし。」とベル。

「違う。」と彼女は首を横に振った。

「違う、何が?」

彼女は黙って指差した。エイナに抱えられたレフィーヤを。

「何を?」ベルは首を傾げた。

「かわいそう、思いを聞いてもらえなくて。」言葉を加え繰り返した。

「でも話しかけてもますます怒るだけで…」

「彼女とは話はできないの?モンスターみたいに意思疎通が出来ないの?」

「確かに反応が有るんだから聞いてはいるんだろうけど…」

「でも聞いてあげるしか方法は無いわ。」と言って村の方へ駆けて行った。

ベルは呆気のとられたが、強要出来る訳では無いのでそのまま見送った。

あまり意味のない会話だと思ったが、何故かベルの心に深く残った。

 

流石のエイナも今回はあきれていた。

「レフィーヤさん、大丈夫ですか。」

「大丈夫です。」とひっくり返ってちっとも大丈夫そうに見えない格好で言った。

「レフィーヤさん流石に今日は…」

「分かってます。ですがこのままでは調査が全然です。飴と鞭で揺さぶりをかけることが必要だと思います。」

(こんな相手をアイズさんに絶対近づける訳にはいきません。)

「レフィーヤさん、……」(ワザと悪者になるなんて…その覚悟や良し)

がっちり握手をするエイナとレフィーヤ。

「レフィーヤさん一緒にがんばりましょう。」

「はい、エイナさん。」

 



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ククリ16

オラリオを発って2か月が過ぎた。ここのところは連日雨だ。

かろうじて薬草採取は間に合い、村長からは大変感謝された。

ただ今年は雨が多いらしい、村の傍の川の水位がかなり上昇している。

ただ長く続いた雨だがようやく小降りになってきたようだ。

雨が上がった後のクエストについて村長と話を始める。

その時村人が駆け込んできた。

「村長、川が、川が…」

「落ち着け、川がどうしたんだ。」

「川の水位が急に下がったんだ。10年前と同じだ。すぐに逃げないと。」

「なにーー」と言って村長は川へ走り出した。

皆慌てて付いて行く。川べりで何人かが集まっている。

「如何したんだい。」とアイシャが聞いた。

「川の水位が下がっている。」村長が難しい顔で言った。

川には濁った水がちょろちょろと流れている。

「その様だね、それがどうかしたのかい?」

「洪水が来るかもしれない。それで10年前は大きな被害が出たんだよ。」

「何故そんな事に?」ベルが聞いた。

「判らない、上流になんか在ったんだろうと思う。ただ10年前はこの後一気に増水して村を飲み込んだんだ。」

ベル達は話し合いを始めた。

「今の話どう思う?」とアイシャ。皆首を横に振った。

「上流を調べるしかない。この中で一番早い私が行こう。皆は村長を手伝ってくれ。」とリュー。

ベル達は慌ただしく動き始める。

 

やがてリューが帰ってくる。村長を交えて話し合いを行う。

「状況は大体分かった。上流で土砂崩れが有って川をふさいでいる。

それでそこに水が溜まり出している。不安定なダムだ、このままではいずれ崩れるだろう。」とリュー。

「そうですか。では避難を急がせましょう。」と村長。

「ここら辺の地図は有るかい。」とアイシャ。

「有りますが如何するんですか?」

「ちょっと気になる事が有ってね。」

「では持って来ます。」と言って出て行った。

 

村長が地図を持ってきた。

「皆には避難を指示しておきました。これをどうぞ。」

「土砂崩れはどのあたりだい。」

「川の様子からこのあたりだろう。」とリューが指差した。

それを見たアイシャは考え込んだ。

「あの黒い谷はこのあたりじゃないかい。」

「はいおそらくは。」と村長。リューは怪訝な表情だ。

「なら壁を壊して水をあの谷へ導き時間を稼ぐ。」

「あの壁ですか。かなり固いですよ。」

「こっちの火力は十分だ。」レフィーヤを見ながらアイシャが言った。

 

黒い谷の壁にたどり着く。ベルはエイナには来てほしくなかったが、押し切られた。

念のためククリにエイナの事をお願いしておく。

アイシャは壁を調べている。その内、ほぼ垂直な壁を器用によじ登って反対側も調べてから言った。

「思った通りあの壁の向こうに水が溜まってるね。壁を半分ぐらい壊せば水がこっちに流れ込んで一息つける筈さ。

その間にたまってる土砂を片付けようか。」

{来たれ蛮勇の覇者……ヘル・カイオス}爆炎が壁を包む。だが壁はほぼ無傷だ。

「さすがクロッソに耐えただけの事は有るね、次。」アイシャはレフィーヤを見ながら苦々しげに言った。

{一条の聖木……アルクス・レイ}再び爆炎が壁を包む。だが変わらず壁はほぼ無傷だ。

「こうなったら2人で力を合わせる。タイミングは任せろ。」とアイシャが言った。

{アルクス・レイ}{ヘル・カイオス}派手な爆炎が上がったが状態は変わらない。

「なんて硬さだいこの壁は。」悔しそうにアイシャが言った。

「クラネルさんあの力を。」とリューが思いつめた表情で言った。

「…分かりました。リューさん後はよろしくお願いします。」とベルは不壊属性の剣を構えて言った。

英雄を思い浮かべスキル英雄願望を発動させる。剣に白い光が集まり、どこからかリンリンと音がする。

アイシャとレフィーヤはその音と光にハッとする。エイナは初めて見る光景に唖然としている。

どんどん白い光が集まって来る、そしてベルが言った。

「溜まりました、いきます。」遠くの山を目印に剣を振り下ろす。

質量を感じさせるほどの光を伴って剣戟が放たれる。今度は壁の3分の2ほどが切り裂かれている。

その威力はそれに留まらず、溜まっていた水を蒸発させ遠くの山を削っていった。

ベルの言葉にアイシャとレフィーヤはこのスキルの本質を悟った。

そしてベルは膝から崩れ落ちてその場に倒れた。あわててリューが介抱する。

それを見たアイシャはレフィーヤに行った。

「あっちは任せようかね。今のうちにこっちは土砂の方を何とかしようか。」

 



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春姫08

ギルドから帰りドロップアイテムをヴェルフ様の工房に収納しました。

先ず私のステータスを更新し、その上で私の魔法を検証する。

「うん、先ずは君たちの見てきたことを話してもらおうか。」とヘスティア。

「まず浅い階層でゴブリン相手に確認しました。」と皆を代表してリリが言った。

「搾取する範囲は約2M、射程は10M程度です。この時の効果は3回唱えると回復する程度でした。」

「この時?それじゃあ別の時は違ったのかい?」

「はい、19階層では深い傷でも1回で全快していました。」

「…状況を詳しく教えてくれないかい。」

リリ達は19階層での出来事をヘスティアに話した。

「で、それについて意見を聞きたいと。」

「そうです、魔法で効果がこんなに違うのはおかしいと思いまして。」

「……2回の状況の違いは階層、敵の数、春姫君の心境と言った所か。」とヘスティア。

「私は両方とも真剣でした。」と春姫。

「己の魔法に関して信じているか、あるいは切迫度合なんかだよ。」とヘスティア。

「それなら確かに。」と春姫。

「階層が関係するんですか?」と命。

「周囲から徴収とある。その中にダンジョン自体の力が影響するかもしれない。」

「それなら可能性は有りそうですね。」

「他にもあるかも知れないが、このあたりを調べてみれば良いんじゃないかな。

それより気になる事が有る、命君ステータスの更新をしよう。他の皆はしばらく出て行ってくれ。」

 

ステータス更新を終えて再びみんなが集まる。

「今日一日で経験値がかなり上がっているね、上位の経験値も溜まっている。

確かに大軍と戦った効果が表れているみたいだね。」

「するとなにか、レベルUPが早くなるのか?」とヴェルフ。

「一人で多数の敵を倒す。確かに偉業だからね。」

この言葉に一同は色めき起った。結局リリの悩みは皆の悩みでもあるからだ。

「確かに、これを解明できれば比較的早くレベルUPするかも知れないね。」

皆さんはそれぞれの思いに耽っているようです。私はこの魔法をどう生かすか、考えなければなりませんね。

「ヘスティア様、荷物運搬用のカーゴを借りられる所は御存じないでしょうか?暫くしてリリ。

「何に使うんだい?」

「実は異端児たちと取引する事になりまして…」と訳を話すリリ。

「…持っていそうな相手に心当たりが有る、それなら明日仕事の前に聞いて来るよ。借りれそうなら後で条件を詰めよう。」

皆さんは退出していく。

「あ、春姫君、ちょっと待ってくれないかい。」

リリ、ヴェルフ、命はそのまま出て行った。

「春姫君、英雄とは具体的に誰をイメージしてるんだい?」更新用紙を見ながら言った。

「それはもちろんベル様です。」

「そっか、やっぱりそうだよね。……」

「あのー、それが何か?」

「内緒にしておきたかったんだがそうもいかない様だね。春姫君、君にスキルが発動している。 」更新用紙をわたした。

 

<英雄一途>

 

加速する。

思う英雄により効果変動

想いと供に効果消滅。

 

「敏捷がやたらと伸びていたよ、この表現からすると思っている英雄の特性が効果に反映されるみたいだ。

だから力を使い時は力自慢の英雄をうかべる様にすれば良いんじゃないかな?耐久や器用、魔力なんかもね。

ただこの事はくれぐれも内緒にしてくれよ。ほかの神様たちに追い回されたくは無いだろう?」

「分かりました、これでベル様と一緒に居られる。」祈るように春姫が言った。

「うーん、そこまでの出鱈目な力は無いかなー。だけど上手に使えば君の力になってくれる筈さ。」

「それでも皆さんに比べればはるかにマシです。ありがとうございます。」

 




前にも書きましたが、ベルと春姫(アイズも?)はどこか似ていると感じるんです。
スキルがその人の内情を反映するなら、似た様なスキルでもいいかなと。
レアスキルと言う表現が有るが、原作でレアじゃないスキルが出ていない気が。
(ステータスUP系を総称しているのかな?)

後、同じダンまちの小説
https://novel.syosetu.org/115222/
もよろしく。


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アーデ09

オラトリア7.1(6話で終了)
https://novel.syosetu.org/115222/
もよろしく。短いのですぐ読めると思います。
原作両7巻を読むとより楽しめるかと。



リリは早朝一人でダンジョンに向かった。

神タケミカヅチの指導を受けてから早朝イメージトレーニングを重ねてきた。

そこで学んだことは正に目から鱗だった。今日それを実践すべくダンジョンへ来た。

新たな気持ちでダンジョンに臨む。まずゴブリンと1対1で戦う。

教え通り相手の武器を破壊、死角に回り込みとどめを刺す。

大した時間も掛らず自分は無傷で倒せる。今までの苦労は何だったんだろうと言うぐらいあっさりとだ。

冒険者としては早々に諦めた為殆ど無いが、サポータとしてはモンスターの動きはいやと言うほど見てきた。

サポーターとして、ある意味モンスターの行動を先読みしていた。それを利用すれば倒すのも簡単なことだった。

1時間ほどで10体倒したところで、一度ホームに戻る。

戻ると玄関に誰かいる。近寄ってみるとそれは椿だった。

「椿様、何か御用でしょうか?」

「ほれ、これだ。」と言って紙を差し出した。

それを見るとクエスト依頼書、珍しい石(鉱石)のだ。確かに前回見た時、依頼主は確認していなかった。

とりあえず工房に招き入れ、リドからもらった石を持っていく。

ヴェルフはそこに居た、ちょうど起きたヴェルフが椿を見て顔をしかめている。

「おお、おぬしもついにいろいろ作るようになったか。」工房を見渡し作りかけの武器を見て言った。

「うるせえ、それで何の用だ。」

「これです。」リリがあの石を出した。

「ほう、それか。」と椿。

「ギルドの換金所で確認しましたが判らないようです。」

「あい判った。で報酬の件だがどうする?」

「その価値は椿に判断してもらえ、鍛冶に関しては信用していい。」

「それではそちらで価値を判断してください。」

「ヴェル吉にそう言われるとは、いろんな武器を作っている事と言い一皮剥けたな。

そう言う事なら最上鍛冶師の名に懸けて判断しよう。」

「そうだ、なら報酬は試作品でどうだ。確かいっぱい作っていただろう。」

「それであればこっちとしては大助かりだが。」

「なら少し色を付けてくれ。リリスケ、どうせ必要だし不要になれば売れば良いだろう。」

「そうですね、ではそれでお願いします。」と言ってリリは頭を下げた。

クエスト依頼書に終了のサインをしてリリに渡して椿は去って行った。

 

今日はタケミカヅチファミリアと警護を交代する日だ。

春姫はメイドとしてハウスキーピング、ヴェルフは鍛冶、命はタケミカヅチファミリアへ出張

そしてリリは犬人に変身して鼻を生かして館の警備を行った。

「はあー、それにしてもあっさりしたものでしたね。」と独り言を言った。

神タケミカヅチの指導で思った事、早朝のイメージトレーニングで感じた事、そして今朝体験した事でハッキリした。

私リリは冒険者の才能が無い訳では無い。むしろ逆に才能が有るんじゃないかとさえ思えるぐらいだ。

レベル1は神と契約を結べば誰でもなれる。レベル2も偶然とか優れた仲間とかでなれる可能性が有る。

本当の冒険者の才能とは、ファーストラインを超えられるかが最初の分かれ目ではないか、そう思ってしまう。

ファーストラインで死にかけた身だからこそ余計に強く思う、あれは才能、運、実力すべてが無いと乗り越えるのは難しい。

とは言え時間は戻らない。これで明日春姫さんの魔法の再テストの準備は整った。

場所に関しては索敵スキルの事も有るので命様にお願いしてある。

明日はミアハファミリアに頼む予定だ。お礼も兼ねてポーションを明日大量購入しよう。

へステイア様がカーゴの手配をしてきて下さり、明日朝詳しい打ち合わせを行い予定だ。

命様の話だと件の19階層のルームと似た地形は3階、7階、10階、15階に有るそうだ。

先ずは春姫さんの魔法の再検証だ。うまくいけばかなりの助けになるはず。

 

翌朝、警備に来たダフネ様にポーションの事を話すとナァーザ様に聞いてくれとの事。

何故か厭そうだったのが気になりますが、ダンジョンに行く前に話しておきましょうか。

ヘスティア様に連れて来れられたのは、ガネーシャファミリアの本拠地、アイ・アム・ガネーシャだ。

春姫さんが狼狽えていたのが少し気になった。ある意味見慣れているだろうに。

娼婦の嗜みだろうと思い門番に用件を伝える。話は通してありすぐに部屋に案内される。

部屋には神ガネーシャ、副団長のイルタ、と苦労人ぽい男だった。

「やあガネーシャ、約束通り来たよ。」とヘスティア。

「俺がガネーシャだ!」

「…分かってるよ。」

「すまん。」

「だから分かってるって。」

「いや違う。前にも言ったが改めて皆の前で言わせてくれ。お前の子に大きな負担をかけてすまない。

あの事件はこちらに責任がある。本当にすまなかった。」と言って3人は頭を下げた。

「昨日も言ったけどもう良いって。ベル君にも今度の事は良い経験になると思うよ。それよりカーゴの件だ。」

「ダンジョンから運び出したいんだったか。」とイルタ。

「そうです。明日何台かお貸し願えたらと思いまして。」とリリ。

「そう言う事ならちょうど良い。おいモモンガ何とかしてやれ。」とイルタ。

「自分はモダーカです。今ちょうどリヴィラの再建にカーゴを使っています。帰りは空ですから自由にどうぞ。」

「おい、かんとか。今人手が有るんだから運んでやったらどうだ。」とイルタ。

「人手が有るって?」とヘスティア。

「俺がガネーシャだ!ダイダロス通りの違反者が大量に出た。罰として俺の所の手伝いをさせている。」

「ですから自分はモダーカです。そう言う事なんで遠慮なく。明日は一日リヴィラに居ますから声をかけてください。」

「よろしくお願いします。」と言って館を出た。

ここでヘスティアと別れ、ミアハの所へ。

妙なテンションのナァーザにポーションを頼むと、快く引き受けてくれた。

なにやら”特需”とか”爆買い”とかのフレーズを口ずさんでいたが、よく判らないのでスールした。

 




春姫はスキルと魔法で比較的簡単に強化できそうですが、リリちゃんもだとあまりに御都合主義が過ぎます。
何とか活躍できる場所が有れば良いんですが。
方法を考えているんですが、ベル君に追いつくことは無理そう。(哀)


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ククリ17

ベル君からエルフの女性の事を頼まれた。恩義がある人だ、そばに居て守る。

いろいろあってベル君があの力を使うらしい。

いつも懐で他人事として感じているあの力だ。

力が溜まっていくのが解る。やがて上限に達し剣から放たれた。

ベル君は溜まった力のすべてを放出しているが、武器が受け止めきれないようだ。

そのため力の一部を使って武器自体を壊してしまっている。

そこまで考えた時突然閃いて声を上げた。「ボクなら大丈夫。」

隣にいたエイナがその声に思わずククリを見た。

 

スキルにより壁は破壊したが、不壊属性の剣は消滅こそしなかったがただの金属棒になってしまった。

それと同時に体から力が抜け気を失った。

気が付くとリューさんに膝枕をされていた。

「あっ、気が付きましたか、クラネルさん。」

「…リューさん?」と言って立ち上がろうとした。

「クラネルさんどうかそのままで。」

「「ベル君、起きたんだ。」」とエイナとククリ。

「…アイシャさんたちは?」とベル。

「彼女達は後始末に行っているわ。それよりあれはなに?」とエイナ。

「僕のスキルです。詳細は言えませんが。」とベル。

「はいはい、それボクでも出来るしボクなら耐えられるよ。」とククリ。

「さっき言ってたことね。なにが起きていたの?」とエイナ。

「ベル君の力をそれが受けきれなかったんだよ、それで壊れちゃったんだ。」ベルの剣を指差してククリが言った。

「じゃあベル君が倒れた原因は?」とエイナ。

「溜めた力を全部出しちゃったからだと思うよ。」

「ではそれは何とかならないのか?」とリュー。

「難しいね、どのくらい残せばいいのかがわからないよ。残しすぎても駄目だろうし。」とククリ。

「そうですか……なら破壊する分を戻すのはどうかしら?」とエイナ。

「それなら今回を基準にすればできると思うけど。それで良い?」ベルを見ながらククリが言った。

「……それで良いよ。」とベルは言った。

ようやく役目が一つ見つかったことに安堵すると同時に、ホントに壊れないかどうかはとても不安だった。

 

「それにしてもここは不思議な感じのするところですね。」とリュー。

「リューさんはここに来たことは無いんですか?」とベル。

「用が有ったのは村でしたから、それに村人は排他的で、トラブルの可能性が有る村周辺は触りませんでした。」

「だったらここの事は全く知らないんですか?」

「そうですね。でもそう言う事はクラネルさんは知っているのですね。」

この時、アイシャとレフィーヤが帰ってきた。

「おや起きたのかい。体の調子は如何だい?」とアイシャ。

「はい、もう大丈夫だと思います。」起き上がってベルは言った。

「ベル君、ここのこと知ってるんだよね。聞かせてよ。」とエイナ。

「でも…」とベル。

「聞きたいって言うんだったら聞かせてやれば良いじゃないか。エルフだからって遠慮することは無いだろ?。」とアイシャ。

「……分かりました、間違いが無いか確認していてください。」

アイシャに時々確認しながらベルは語った。

エイナとレフィーヤは言葉が出なかった。ただリューだけは少し首を傾げていた。

「そう言う事だ、敗者側の言い分は伝わらないもんさ。」と自分もファミリアを放り出されて苦労したアイシャが言った。

「クラネルさん、少し調べたい事が有ります。」と言ってリューは黒い谷の奥へ消えた。

重い雰囲気が立ち込めた。

「!何かが見ています。」小さくベルが言った。

「何処だい、それと数は?」とアイシャ。

「このあたりですね、視線は一つです。」地面に付近の地図を描いてベルが言った。

「モンスターかい?」

「同じ場所でただ見ている様です。それに一体だけだし、違うように思います。」

「ならこうしようか。」とアイシャが言った。

 




こちらもようやく一つ目が出ました。
技を出すと動けなくなるって、どこの超電磁な玉かと。
昔のアニメにそんな設定が有り、それは後付けで制御するものを付けていたんでその設定を流用しました。

はたして本当に壊れないのか、それは謎。(失敗すれば2億、大体10~20億円の損失でしょう)


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ククリ18

アイシャとレフィーヤはそれぞれさりげなく別方向に。

ベルはエイナ、ククリと共にゆっくりと所定の位置に移動する。

相手を包囲する配置に、それが完了したら捕獲作戦を実行。

ワザと逃げ道を作りそこへ誘導、ベルが敏捷を生かして捕獲する。

「!!#%’”$&」相手が何か叫んでいる。

捕まえてみるとエルフの子供だった。

「何でこんな所に?」とアイシャ。

「何を言っているか分かりませんね。もしかしてエルフ語ですか?」エイナを見てベルが言った。

「それっぽいけど方言が強くてよく判らないわね。レフィーヤさんは如何ですか?」

「放せと言っているみたいですが知らない方言ですね、私も学区育ちですから他の部族の言葉は判りません。

エルフは部族によっては閉鎖的ですから、方言が多様で数も多いです。」

レフィーヤが知っている言葉で話しかけても相手はきょとんとするばかりだ。

だがエルフのレフィーヤが居ることで少し大人しくなった。

純粋エルフの間ではハーフエルフは大抵差別されている。

そのことを知っているエイナは、ベルの後ろで大人しくしている。

如何すべきか話し合っている間にリューが帰ってきた。

「そちらは?」とリュー。

「ここに隠れていたんですけど方言が強いらしく会話が出来ないんです。」とベル。

それを聞いてリューは会話を試みる。

「:+<。……)&*、…%&#」よく判らないがいろんな方言を試しているらしい。

「’%##”」すると突然喋り出した。

「どうやら会話できそうです。私が通訳します。」とリュー。

「ではお前の名前は?」と少し高圧的にアイシャが聞いた。

『…真名は言いたくないらしい。好きに呼べと言っている。』

「アイシャさん怒らせてどうするんですか。僕が聞きます。」この言葉にアイシャはそっぽを向いた。

「どうしてこんな所に?」

『ここで大きな魔法を感じた。ここ一ヶ月ぐらい前から感じていたが今日は一際大きかったから様子を見に来た。』

「どこに住んでいるの?」

『言いたくないらしい。』

「何人ぐらいで暮らしているの?」

『家族4人だそうだ。』

「村の人は?」

数回やり取りした後、首を傾げながらリューは言った。

『家族だけで暮らしているそうだ。』

『逆に質問だ。私たちについて聞いてきている。何と答える?』

その言葉に一同は考え込む。

「如何しましょうか、本当の事を素直に話しますか?」とベル。

「だけどいろいろ面倒なことになりそうだ、いっそひと思いに。」とアイシャ。

「駄目ですよアイシャさん、まだ子供じゃ無いですか。

それにエルフは理性的で平和を愛する温和な種族なん…」ここで雰囲気が変わったことに気付くレフィーヤ。

何かと思いアイシャを見るとベルを指差している。

ベルは空を仰ぎ何かをつぶやいている。エイナは後ろから抱きしめて頭を撫でている。

「エルフが理性的で平和好きで温和、…そう考えていた時期が僕にもありました…」とつぶやいている。

「お前さんこの一か月間奴に何をしたのか覚えていないのかい?」とからかいを含めアイシャが言った。

考えてみる、セクハラされる>激昂し杖で叩きまくる>疲れて動けなくなるまで追いかけまわす

自分の行動にレフィーヤは顔を真っ赤に染めたがあえて言い切った。

「と・に・か・く、過激な方法は大反対です。」

この事に関心が無いククリは兎も角エイナが発言していない。

それはあの子供が、自分の事を話題にしているらしい。

私を指差しリューさんに話しかけている。方言の為ほとんど解らないが所々の単語は判る。

”混ざってる、混ぜ物”とか”従属している、家畜”、”レベルが低い、下等”

”馴れ馴れしい、ベタベタする”、”豚、太った、多産”などがかろうじて判別できる。

どれもあまり良いイメージの物ではない、やはりハーフエルフへの偏見が有るようだ。

 

取り合えす旅の冒険者と言う事にした。しばらく川沿いの村に居ることも伝えた。

リューさんとレフィーヤさんに近くまで送って行ってもらう事になった。

「それにしてもここにそんな事が有ったなんて。」とエイナ。

「ギルドではどんな風に伝わってんですか?」とベル。

「あの魔剣戦争にはギルドは関わっていないわ。ギルドは基本オラリオ内の管理よ。

下手に外に干渉してダンジョンがら魔物が溢れたなんてことになったら大変だもの。

それとラキアが魔剣の力を背景に上手く各国を分断させたことも大きいわ。

だから末期の掃討戦にもギルドとしては参加していなの。

各ファミリアが勝手に参加したと言う事ね。」

「おいおいそんな事でファミリアが動くはずないだろう、ギルドのペナルティも有るだろうし。」とアイシャ。

「何人ものエルフたちが”ラキアに鉄槌を、それ以外は望まない。”と言って入団したのよ。

そしてギルドは領土的野心をオラリオは持っていない事を示すため、ラキア支配地域への直接干渉は禁止した。

言い換えればそれ以外は黙認した、実際ラキアの侵略は問題だったしね。」

「そう言う事ですか。」短期間に2度のファミリア抗争を経験したベルはしみじみと言った。

「そう言う事かい。」神に翻弄されたアイシャは苦々しく言った。

「それにしてもお前さんよく知っているね。」とアイシャ。

「この前ラキアが攻めて来た時に一通りレクチャーが有ったの。

経緯を知らないと対応を間違うかもしれないってことで。

自分でも気になったからその時追加で詳しい経緯を調べたのよ。」

 

そうこうしている内にリューとレフィーヤが帰ってきた。

レフィーヤは妙にすっきりした表情だった。

「レフィーヤさん、何かありましたか?」とエイナ。

「ようやくコツを掴みました。これで…」と赤黒く変色したあの棒を見せつけて言った。

「途中でアルミラージの大群が襲ってきたんですが、彼女が一人で撃退していました。」とリューが捕捉した。

『チャララーン、レフィーヤは兎バットを極めた。撲殺妖精Act2に進化しました。』

そんな幻聴を聞いた気がしてベルはぶるっと震えた。

 




レフィーヤさん、着実に兎マスター(短編とは違う意味で)への道を歩んでますね。

言うまでのありませんが、ここでのラキアとエルフの物語は独自解釈です。
だけど森に住むエルフを村ごと焼き払うと言う行為に疑問が有った為こんな物語を加えてみました。
現代でもイラク戦争を例に挙げれば、少し解ってもらえるかもしれません。
アメリカも突っ走ったんだからと言われるかもしれませんが、ラキアは軍神、
オラリオの神との戦争遊戯ならともかく子(エルフ)との一方的な殺戮は好みではないでしょう。
神々は6巻でヘルメスが神会で言っている通り一方的なものは面白くないそうですから。


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ヴェルフ01

鍛冶編スタートです



カン、カン、カン

小気味良い鎚の音が響き渡る工房。

瞬く間にナイフが形作られる。

ここでこの工房の主たる椿はようやく手を止め一息はいた。

「ふぅーー」

そしていつから有ったか分からない干し肉をかじり、水をこれでもかと言う勢いで飲む。

それから床にごろりと横になり寝入ってしまった。

ヘスティアファミリアから渡された結晶、あれをつい先ほどまで科学者の様に調べまわした挙句に

粉末を金属に混ぜ込んでから小さなナイフを作ったのだった。

 

暫く微動だにしなかった椿だがやがてむっくりと起きだして大きく伸びをした。

そして先ほど作ったナイフを手に取り調べ始めた。

「良し、早速ギルドに追加発注じゃ。」

そう呟くと椿はサンプルの小片をもってバタバタと駆けだして行った。

だが流石レベル5、すぐに戻ってきて部屋の整理を始めた。

その間も続々と荷物が届く、置き場所に困り押し付け、、もとい貸与していた武器などが詰まったカーゴたちだ。

そう、あの石の対価にヴェルフに渡す試作武器の選定をしているのだった。

そして一対の大戦斧をとりだしてにやりと笑って言った。

「これであ奴に宿題といこうか、果たしてあの半端者に気づくことが出来るか?」

 

荷造りを下の物に任せ椿は暫し物思いにふける。

それは離れてしばらくたったベルクラネルの事、正確には餞別に渡した剣の事だった。

不懐属性の片手剣、それはあの59階層の出来事の記念に仕上げた物だった。

仕上げたというひょうげんなのは以前作ろうとしたが途中で放り出した物を再利用する形だったからだ。

と言うのもオラリオでは兵站が極端に短く不懐属性が生かせないからだ。

価格は1級を超えるのに威力は2級以下、それが不懐属性の剣という物だ。

これまで敵が武器破壊をしてきた事が無いオラリオでは、小さな物なら予備を持てば良いし、大きな物は早々壊れる事は無いから不要だった。

それに不懐属性とは言えども切れ味は徐々に落ちていく、そして現地でのメンテナンスはかなりの技術がいる。(現状は椿のみか?)

現状オラリオでは不懐属性の使い手は武器を破壊しまくったあの娘以外にはほとんど聞かない。

(例えば1級の威力の武器なら1回の攻撃で倒せる敵だとすると、2級の武器では2回以上攻撃する必要がある。

敵を倒すのに時間が掛かるのは敵の数が多くなる深層では大きなデメリットになるのだ。)

言ってみればあの剣はローランシリーズのプロトタイプにあたるのだった。

 

あの娘が持っている剣、あれはどちらかと言うと攻撃寄りの作りになっている。

それはあ奴の現状には合っていないと椿は思っていた。

そこでベルに渡した剣はあの娘に合わせて耐久性を重視して造った。

不懐属性の武器はその耐久性を生かして叩きつける様に使うのは一般的だ、その意味ではあ奴の使い方は有りだと思う。

だからあ奴の剣には耐久寄りの方が合っている、そう椿は考えたのだ。

使っている剣をメンテナンスしたからバランスや握りは分かっているからその点では問題はなかった。

渡しそびれたのはあ奴の使っている剣か神造の剣だったのと、渡す理由が思いつかなかったからだ。

「神ゴブニュは何を考えてあんな剣をあ奴に渡したのやら?」

椿にはあの剣はアイズに合ってはいない、と感じていたからだ。

だが同時に神の深遠なる御心を推し量ることは出来ないとも感じていたのだった。

勢いに任せて作ったはいいが、どこにも持って行きようのない剣になってしまっていた。

だからベルに渡したのはちょうどいい引き取り先が出来たと椿は考えていた。

レベル3程度の力では壊すことなど不可能、神と離れレベルが固定しているなら5年はメンテナンスすら不要だろう。

そんな事を考えながら荷造りが出来るのを椿は待っていた。

 

ヘスティアファミリアから帰って来た椿は上機嫌だった。

「ヴェル吉のヤル気は十分、これからはちょくちょくのぞきに行ってみるか。」

中庭のヴェルフの傍にあったドロップアイテムの山を思いだしながら椿は満足げにそうつぶやいていた。

 




察しの良い方なら分かっていたと思いますが、椿からベルに渡された剣はこんな由来があります。
アイズを想定した剣、なおかつローランシリーズのプロトタイプを流用しているのだった。
(ひじょうにベタですみません。)
アーデ編では盾が重要な働きをしていましたがヴェルフ編では剣になります。
そしてこの剣がこの物語のエンディングへの布石になります。


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春姫09

今日は私の魔法の再検証で再びダンジョンに来ている。

いつも通りリリ様が主導だ。ダンジョンの経験がずば抜けている為だが少し悔しい。

有効なスキルが発現したとはいえ何もかもが足りていない。

3階層の奥のルームであの19階層の再現をする様だ。

今度の被験者はリリ様、何かあった時は命様とヴェルフ様がサポートに入る予定。

今日はいつものゴライアスのローブではなくただのローブを着ている。

「ではここは私が行きます、これで階層の影響を検討できます。

命様、この階層では数が揃えにくいでしょうが、モンスターをなるべく多く連れて来てください。

後何かアドバイスが有ればお願いします。」とリリ。

「分かりました。傷が直ぐ治る様なら、致命傷だけを避けて攻撃に専念してください。その方が早く倒せます。」

「ヴェルフ様、春姫さん後はよろしく。」と言って入口に右手に片手剣、左手に短剣を装備して立った。

 

数時間かけて検証は終了した。階層差ではなく範囲内の対象数の影響が大きいみたいです。

リリ様は肩で息をしている。まだまだやりたそうだが武器の整備が必要なようだ。

そんなリリ様を見て、私もと思い交代をお願いする。

だが入口に立つと急に恐怖がこみあげてくる。前回は必死だったことも有りモンスターをよく見ていなかった。

今回は複数回行ったことも有り、怒りの表情で押し寄せるのがハッキリ見えていた。

思わず体が震える。その時リリ様が声をかけてくださった。

「春姫さん、私たちが後ろに控えています。危ないと感じたら逃げてもかまいませんよ。」

この言葉で震えが止まる、そうリリ様は自分よりも小さいのに見事にやってのけている。

こんな自分の魔法を信じてだ。自分も負けていられない。

思い浮かべる英雄を、エルフの大魔道士からドワーフの大戦士に切り替える。

とたんに体の震えが止まる。武装を短槍に切り替えて待ち受ける。

やがて命様が通り過ぎる。後ろにモンスターを引き連れて。

殺到してくるモンスターに思わず怯む。

その時横から後ろから薙刀、大剣、矢が飛んでくる。

逆にモンスターたちが怯む。後ろに皆が居る、それに勇気づけられて槍で突きまくる。

モンスターの爪や牙が傷を生む。実際かなり痛いし辛い、だけどベル様とお別れするのはもっと辛い。

隙をついて魔法を発動する。検証通り傷が全て消える、それと共になぜか気分が高揚してくる。

しばらく戦ってモンスターを殲滅する。自分の時間では一瞬で終わッた気がした。

「命様次、お願いします。」

「春姫殿、マインドは?」と命。

「…すみません。」ポーションを飲む。

「回復魔法は生命線です。マインド切れには細心の注意を。」と魔石を取り出しながらリリは言った。

「すみません、よく分かりました。」

気合を入れなおし、今度は相手を良く見る。すると相手は連携しておらずそこかしこに隙が有る。

なるべく数多く傷つける様に心がける。すると魔法を唱えるたびにバタバタと倒れる。

繰り返す事約10回、武器を整備したリリ様と交代。

終日これを繰り返した。

 

魔石とドロップアイテムでバックがパンパンだ。

結局ヴェルフ様にも持ってもらいホームへ帰った。

ヘスティア様に今日の事を話し、ステータス更新をしてもらう。

「どうやら範囲内なら複数から奪い取っているみたいだね。うまく使えばかなり君たちの力になるだろう。」

「リリ様はそれ程ではなさそうでしたが、モンスターの群れがとても怖かったです。

今でも思い出すと胸がドキドキします。」胸を抑えながら言った。

「うん、この方法は勇気が必要だ。ただそれだけじゃなく冷静さも重要だがね。

それがこの方法を使うための代償だよ。くれぐれも無茶をしないでおくれ。」

 

あすの異端児達との取引に備えてみんな自分の部屋へ戻る。

「あっ、春姫君ちょっと良いかい?」

「はい、何でしょうか?」春姫だけが部屋に残る。

「…今日は経験値の偏った進捗は無いね。スキルの効果は思った通りだったみたいだ。」

「ありがとうございます。この調子で頑張ります。」

「そうキミは『ダンジョン』でこそ輝く、『ダンジョンで』ベル君を助けてくれたまえ。」ダンジョンを強調して言うヘスティア。

「そ、そうでございますか。…」口調が変になる春姫。

「そうだ、これを使えば日常のトレーニングでも、メイドの仕事中でも経験値を得られるかもしれない。

ベル君において行かれない様に、『余計なこと』は考えずに頑張るんだ。」今度は余計なことを強調。

「はい、がんばります。」と言って退出した。

春姫が出て行ってからヘスティアはガッツポーズをした。

 




この章で春姫は終了となります。
正統的に(?)魔法とスキルで強化してみました。
これでこの物語もようやく終わりが見えてきました。
もともとこの物語は前作が行き詰った(原作者様が…)為やむなく書いたものでした。
お気楽な短編でもっと早くに終わる予定でしたが、作者の力の無さでこんなに長くなってしまいました。
読者の方々、もう少しだけお付き合いください。

前作、影響の少なさそうなところは進めるべきなんだろうか?


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アーデ10

みなさんを説得して入口に立つ。

そして命様の帰ってくるのをじっと待つている。

モンスターが集団で襲ってくる。怪物進呈を一人で受けることになる。

怖い…怖い、怖い、こわいコワイコワイ…

「リリ様、私の魔法は如何しましょうか?」と春姫。

「はい?」思わず聞き返した。

「ですから魔法のタイミングは如何しましょうか?」

「そうですね…レベルブーストは無しで、回復魔法は最短でお願いします。」と頭を下げた。

このやり取りで少し頭が冷えた。

今までのトレーニングを、先日のダンジョンでの経験、それを思い出す。

命様のアドバイスを考えたが初めから攻撃優先で行くことにする。

どうせ問題が有ったなら、ヴェルフ様、命様がなんとかして下さるだろう。

それもあって何とか凌いだ。この階層でも一回で全快する。

階層の影響は感じられない様だ。これで範囲内の数が重要なんだろう事が解った。

後、気になる事はモンスターと対峙している最中は不思議と恐怖を感じない。

これをチャンスとして、出来るだけ繰り返して少しでも経験値を稼ごう。

 

帰りにナァーザ様の所によって注文していたポーションを受け取る。

ホームへ帰ってヘスティア様に報告。

ステータス更新の結果以前の10倍近いUPになっている。

確実に上がっている。思わず笑みを浮かべ明日の予定を考える。

いまだ19階層以下は制限されているため、今回はあまり秘密に気を付ける必要は無い。

ただ今後は何か考える必要が有るだろう。

 

翌日リヴィラの町へ、ガネーシャファミリアの彼に会いに行く。

「モダーカ様、今日はよろしくお願いします。」

すると彼が泣き出した。

「ど、どうしましたか?何か失礼なことを言いましたか。」

「こちらの事です。初めてまともに名前を呼んでもらえたんで。」

「はぁ、なんだか判りませんが御約束していたカーゴはどこですか?」

「すみません、こちらです。」と言ってカーゴ置き場へ案内した。

町の外れにずらっと数十台のカーゴが並んでいる。

「ここにある物どれでも良いですよ。」

「ではこれを。」と言って一番大きなものを指差した。

「1台で良いんですか?」

「本当はもっと必要なんですが階層をまたぐ坂を超えるのが難しいですから。」

「19階層なんですよね、だったらお力になれますよ。」

3連のカーゴを引っ張って中央樹へ、そして門番へ声をかけた。

「おーい、ちょっと頼まれて欲しいんだが。」

「なんですか?」と門番。

「彼女らに力を貸してほしい。カーゴの上げ下ろしを頼む。」

「分かりました、おいみんな集まれ。カーゴを降ろすんだ。…帰りには私に声を掛けてください。」

 

あのルームへ急ぐ。前回と違い19階層内の入り口付近には警備員(ペナルティで動員された)が多数居る。

その為カーゴ有でも比較的楽に到達できた。

約束に時間までまだ有るので今度はヴェルフがやりたがった。

「今度は俺にやらせろ。鍛冶には力も器用も耐久も必要だ。」

命様がスキルを使いモンスターを見つけ、誘導する。

先ずヴェルフにレベルブーストを掛け準備完了。

パンドリーが近いのですぐにモンスターがやってくる。命様が薙刀、私が槍で援護する。

 

数回繰り返したところで異端児達が来た。今度はリドはおらずレイが代表だ。

今回はヴェルフ様は武器の修理用具一式を持ち込んで修理をしている。

異端児達が持ってくるドロップアイテムは膨大ですぐにカーゴがいっぱいになった。

「ううう、カーゴがもう一杯です。」

「そうデすカ、まだマダたクさンあルんですガ。」

「今度はもっと大きなものを持って来ます。ヴェルフ様の方は如何ですか?」

「修理しちゃぁいるが、やっぱり替えた方が良い物がいくつかあるな。」

「そうですか、ではヴェルフ様それをメモしておいてください。」

「では今回は装備品の修理とポーションでどうですか。」ポーションを渡しながらレイに言った。

「あリがトウござイまス、それデおねガ居しマすネ。」

「交換品は今度持って来ますね。他に何か必要なものは有りますか?」

「新人用ノ装備一式、訓練用ノぽーシょンそれトお酒ですネ。」 

「話は終わりましたか、ならあれをやりませんか。」刀に手を掛けて命が言った。

「確かにすることが無いですね、では始めましょうか。レイさん念のため待機していてくれませんか?」

「ワかりマしタ。」

「ヴェルフ様、もう音を抑える必要はありません。」

「応」

命様にレベルブーストを掛けてもらい、私が薙刀で援護する。

レイは興味深げにそれを見ている。

修理の終わったヴェルフと交代しながら時間いっぱい行った。

魔石をレイたちと分け合い(レイは恐縮していた)異端児達に途中まで送ってもらった。

 




よかったねリリ、10年が1年になったかも。
(冒険者の約半数がレベル2に成れずに生涯を終える。)

リリの物語はもう少し続きます。やっぱり外なのか?


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ククリ19

村を救ったと言う事での宴会の次の朝、みんなで朝食。この時ベルは気になったことを聞いた。

「リューさん、昨日何処に行っていたんですか?」

「あっ、それ私も知りたいですね。」とレフィーヤ。

「あの黒い谷の起点を中心に一帯の森を調べていました。」

「何故そんな事を。」とレフィーヤ。

「あの谷の由来で気になることが有ったもので。」

「なんだい、あれはエルフの潔癖症が原因だろう。」とアイシャ。

「気になることですか?」とベル。

「話では、森の中で領域外の場所を聞きそこに軍隊を駐屯したとの事でしたね。」アイシャの混ぜっ返しは無視して言った。

「ラキア側としては一応礼儀にかなっているだろう。」とアイシャ。

「エルフの領域の概念はヒューマンと違います。○○の森の様な言い方が有るように通常森全体を指します。

ヒューマンと比べると大雑把と言えるかもしれません。ですから森の一部だけが領域でない事は普通考えられません。」

「普通じゃない場合?」とベル。

「年月がたって森同士が合体した時なんかですね。ただこの場合は緩衝地帯を作り争いを避けます。」

「何らかの理由で避難してきた時は。また他の人種とはどうなんだい?」とアイシャ。

「避難してきた時は、村で受け入れる。ただ森で養える人数は限りが有るので少人数のみです。

またドワーフ、ヒューマン、小人たちは基本住む世界が異なります。多人数で占拠する事は考えにくい。

獣人は基本家族単位で行動しています。それに常に同じところには住みません。

共存できないと判断すれば村のみんなで追い出します。」

「確かに変ですよね、それで調べて何か分かりましたか?」とベル。

リューは首を横に振った。

「まあこの話もラキア側の物ですから都合のいいように書き換えられているのではないでしょうか。」とレフィーヤ。

アイシャはふんと鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

重たい雰囲気を感じたベルがことさら明るく言った。

「そう言えばリューさん、よくあの子の言う事が解りましたね。エルフ語の方言だったみたいですが。」

「私が村を出るために条件の一つだった。」

「村を出るための条件?ですか。」不思議そうにレフィーヤが聞いた。

「私の育った村はエルフにありがちな閉鎖的な所だった。その事に疑問を感じた私は村を出たいと長老に願い出た。

その時出された条件のうちの一つに、自分たち以外のエルフ語つまり方言を覚えることだった。

おそらく長老はほかのエルフの村に行くことを想定していたんだと思う。」

ベルはその辺りの事情を知っているので少し落ち込んだ。それを見てリューが言った。

「習っていたころは無駄だと思っていたが思わぬところで役に立った。何でも学んでみるものだ。」

エイナとレフィーヤはその言葉に感じ入った。

 

次の日の夜、いつもの様に神様にその日あった事を報告していた。

いつものことだけど神様は聞くだけで自分から何かアドバイスしてくれることは無い。

事実報告の後、その事に何を思い、何を考え、そしてどう行動したかを聞いてくる。

その度に、自分は深く考えずに行動していることを反省する。

そしてこの事は、時間が経ち冷静になって改めて考える機会になっている。

それで胸の奥のもやもやが少しだけ解消している感じだ。

この日もこの後何事もなく終わるはずだったが、突然リューが部屋に入ってきた。

 




予定していた町の鍛冶屋のイベント、ベル君の剣の修行はカットします。
物語的にココのみであるためです。私の力の無さで物語が長くなり過ぎました。
数少ない読者様、申し訳ありません。処女作もそろそろ再開しないと。


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ククリ20

「すみませんクラネルさん、問題が発生しました。」

「こっちはもう良いよ、また今度頼む。」と神様。

「判りました、神様。また今度お願いします。」

部屋を出るとみんな集まっている。なぜかそこにあのエルフの子供がいる。

ベルを見つけると駆け寄ってきてしきりと何かを訴えてくる。

だが相変わらずベルには何を話しているか分からない。困り果ててリューを見る。

「クラネルさん、どうやらこの子の家族がモンスターに襲われているらしいんです。

この子だけようやく逃げ出してきたみたいです。」

「だったらなぜ?すぐに助けに行きましょう。」

「ところがそんなに単純じゃない。どうやらこのエルフたちはラキアの被害者の様でね。

我々に不信感が有るみたいなんだ。それで条件面でもめてるんだよ。」とアイシャ。

それを聞いて、ベルは盾にエルフの子供を乗せて外へ走り出した。ククリがそれに続く。

「あっ、クラネルさん。」 

「…仕方が無い、あの坊やに責任は取ってもらおう。」とアイシャ。

「あの条件では私は手伝えません。」硬い表情でレフィーヤは言った。

エイナはどっちとも付かずになって困り顔だ。

「それじゃあたしは行くぜ。」と言ってアイシャは装備を整えて出て行った。

「仕方ありません、私も行きます。」とリューも後に続いた。

 

勢いで飛び出したがこの子の家を知らなかったことに黒い谷に着いてようやく気が付く。

ここでアイシャとリューが追いつく。

「やっと追いついた、お前さんホントにレベル3かい?」とアイシャ。

「あっ、アイシャさん、リューさんも。」 

「勝手に出て言っちまって、如何するつもりなんだい?」

「すみませんクラネルさん、私の力が足りないばかりに。」と言って頭を下げるリュー。

「そんな、リューさん顔を上げてください。」

「どうやら悠長に構えている場合じゃないみたいだね。」

辺りを確認すると黒い谷の境界付近に数十匹のモンスターがこちらを窺っている。

「では行きます。」と言ってベルは飛び出した。

ベルは姿をさらしモンスターを威嚇する。当然ククリは傍にいる。

背中のあの子ががぶるっと震える。それを合図にモンスターはベル目掛けて殺到する。

ベルは右手を突出し{ファイアボルト}。

この時ククリはベルの右手に左手をからめ右手を突出し{ファイアボルト}と合わせた。

そのときベルの右手からでなく、ククリの右手から炎雷が飛び出す。

ただし規模が大きく違う。瞬く間にモンスターが全滅する。

その光景にククリ以外みんな驚く、ちなみに一番驚いているのはベルだ。

「やっと出来た。いつもは追いつけなかったんだよ。」とククリ。

「今のは?」とリュー。

「そんなこと言ってる場合じゃないんじゃないのかい?」とアイシャ。

「そうでした。前回別れたところまで案内します。そこからはその子に。」と言って走り出した。

 

ようやく着くと、小屋はめちゃめちゃに壊され、そばの大木の周りをモンスターたちが取り囲んでいる。

「何とか間に合ったようだね。」とアイシャ。

ベルの背中が騒がしい。

「一網打尽にするよ。」とアイシャ。

「私がおびき出します、その内にクラネルさんは助け出してください。」

「判りました。」

リューがうまく立ち回り、木からモンスターを引きはがす。

そしてアイシャと挟み撃ちにして殲滅する。

その間に木によじ登る。壮年の男性が体から血を流して気絶している様だ。

その体を2人の少女が必死に支えている。

ベルをおびえた表情で見つめているが、決して男から手を離さない。

背中からあの子が顔を出し声をかける。それからベルはゆっくり近づき男を支える。

そして優しく地面に降ろす。それを見てあの子はベルの背中から飛び出し3人で話し合っている。

だが喜び合っているわけでなく、何か言い争っている様にベルは感じた。

その内、アイシャとリューが帰ってきた。

ノアヒールで傷を治したが男は目覚めない。

3人は男に話しかけたり、頬を叩いたりしていたが一向に目覚める気配がない。

また3人で話し合い、リューを交えて4人で話している。

かなり激しく言い合っていたが、しばらくしてリューがベルの元へ来る。

「すみませんクラネルさん、また説得に失敗しました。」

「彼女たちは何を言ってきているんですか?」

「あの男が目覚めるまで守ってほしいそうです、この後の保護も含めて。」

ため息とともに壊された家をちらっと見ながらリューが言った。

「条件は同じかい?さらに面倒なことになりそうなんだが。」同じく家を見ながらアイシャが言った。

「だったら僕がその条件を呑みます。助けましょう。」

「おっ、欲張りだねー、だが男ってのはそう言うもんだ。」とアイシャ。

「クラネルさん、あのー」リューの言葉をさえぎってベルが言う。

「とりあえず村まで運びましょう。それからの事は後で。」

「お前さんだって判っているだろう。こいつはそう言う奴さ、諦めな。」とアイシャ。

「そうでした。」また溜息を吐いてリューは言った。

 




ここでも微妙に認識に違いが。
原作もベルとアイズの間に有るからそれらしいのかな。


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アーデ11

夜、モダーカ様がこっそり荷物を届けてくれた。

中庭にとりあえず積み上げてカーゴを返却する。

さまざまなドロップアイテムが山になっている。

明日分類して換金するものを分ける事にしよう。

大量のモンスターと戦った事を誤魔化すため、魔石を異端児達に分けたからこっちに期待しよう。

ただ中層より下の物がかなり有るのか、見た事が無い物が多いですね。

ですから明日ヴェルフ様と仕分けをしましょうか。

 

次の日、中庭で仕分けをしていると春姫さんが来て言った。

「椿様が大きな荷物を持っていらっしゃっています。いかか致しましょうか。」

「ではここに案内して下さい。」

しばらくして椿が入ってきた。ただし大型のカーゴを引き連れて。

「約束の報酬だ。何処に置けば良い。」

「とりあえず工房に。」

「とても入りきらんぞ。」

「どれだけ持ってくるつもりだ。」

「ではここに。」とリリは中庭の一画を指差した。

瞬く間に中庭が武器や防具で埋まる。リリとヴェルフはその光景に唖然としている。

「こんな所か。」しばらくして椿が言った。

「そんなに凄かったのかよ。」とヴェルフ。

「まあそうじゃな、あの結晶はなかなか興味深い。おまけに工房もすっきりしたぞ。」

「それがメインか。」

「そんな事は無い、じゃがその言い様なら十分なようだな。ではこれで。」と言って椿は去って行った。

しばらく二人とも固まっていたがやがてヴェルフが言った。

「とりあえずこれは1階の部屋へ仕舞い込もう。リリスケ、この中からお前の訓練用の物を見繕っておく。

明日は千草だったかに稽古をつけてもらえ。こっちは俺がやっとくからドロップアイテムの方は頼む。」

 

翌日朝早く千草様がが訪れた。なぜか大変はりきっている様だ。

ヴェルフ、命、春姫はダンジョンへ行く前に初めの方だけでも見学しようと中庭に集まっている。

その時リリが工房から山の様に武器を背負って現れた。

千草はその光景にビックリして命に問いかけた。

「な、な、何ですかあの量は。」

「ヴェルフ殿が頑張って作っていましたね。」と命。

「今日もリリ様は大変力持ちですね、正直うらやましいです。」と春姫。

その言葉に気を取り直して千草は言った。

「タケミカヅチ様から武器に関する講義を受けたと聞いています。まずは自分に合いそうなものから始めましょう。」

リリはステータス上で最低となる力の数値を思い浮かべ、軽い短槍を選んだ。

その光景に千草はまたビックリして慌てて言った。

「いやいやいや、講義は受けたんですよね、なぜそんな軽い武器を選んだんですか?」

「ええ、私のステータス中で一番低いのが力です。ですからコレを選んだんですが。」とリリ。

「えーーー、あれだけの力を見せつけておいてそれは無いですよ。」3度ビックリする千草。

「ああ、それは私のスキルで荷物を運ぶときに有効な物ですよ。リリの腕力はそれほどではありません。」

「…はぁー、武器、特に大型のものは腕だけで振るう物ではありません。全身を使用して使う物です。

結局、武器は相手にぶつける事で効果を発揮します。それは運ぶことと何ら変わりありませんよ。」

それを聞いて思い出した。黒のゴライアス戦で、ドロップアイテムの大剣をベル様にお渡した時の事を。

短槍に替えて大槌を手に取る。そして振るうが大槌に振り回される。

「さっきも言いましたが大型武器は腕では無く全身で、腕は添える程度に微調整に使うつもりで考えてください。」

リリは武器を持って体を振るう。今度は振り回されずに使いこなせる。

「そうそうその調子です。まずは腕を動かさずに体を振ってください。」

それを見たヴェルフ達は顔を見合わせにっこり笑ってダンジョンへ向かった。

「それを反復して体に覚え込ませてください。それに慣れたら縦横斜めに動かしてください。」

 

皆が帰ってくる頃ようやく訓練が終わった。

リリは中庭で仰向けに寝っころがっている。

「千草殿、どうでしたか?」と命。

「スキル?でしたか、それのおかげで大槌もなんとか使いこなせる様になったと思います。」

「リリスケのあのスキルは、単なる荷物持ちに便利なだけだと言ってた記憶が有るな。

こんな使い方が有るとは、まさに目から鱗だ。」とヴェルフ。

「リリ様。」嬉しそうに春姫は呟いた。

 

 



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アーデ12

次の日、実戦で試すべくダンジョンへ向かう。

3階層、ゴブリンやコボルト相手に大槌を使う。

振るうでは無く運ぶ感覚にするとスキルが働く。そのまま慣性で粉砕。

紙ほどにも抵抗を感じない。モンスターの所まで大槌を最速で運ぶだけでバタバタと倒れる感じだ。

春姫さんの魔法も必要ないぐらいです。今までの苦労は何だったんだろうとまたしても思いました。

ヴェルフ様達はその光景を唖然として見ていた。

あの重い大槌を素早く、まるでナイフかのごとく振り回し、モンスターを文字通り粉砕して行く。

結局モンスターから傷を負う事も無く、それどころか近寄らせることもなかった。

その為魔法で体力の回復が出来なかった。魔石も溜まってきたのでダンジョンを出ることにする。

 

ギルドで魔石を換金し、ポーションを求めてミアハ様の所へ。

何時もいるはずのナァーザ様はおられず、ダフネ様が店番をしていた。

ポーションを買うついでにナァーザ様について聞いてみる。

「ダフネ様、ナァーザ様は如何なさったのですか?」

すると店の奥からこんな声が聞こえてきた。

「ハハハ、ミアハ様ぁ、特需ですよ特需。これで借金を少しは返せますぅ。」

「…わが薬が重宝されるにはうれしい限りだが、さすがにもう限界…」

「何を言っているんですか、まだまだ後2徹は余裕です。」

「お待たせしました、頼まれた薬の原料です。」

「さあミアハ様、まだまだ頑張っていきましょう。」

「…助けてくれ…」

……

「そう言った訳よ、あたしたちそっちのけで調合してるわ。

一カ月分前金で貰ったから最低後一カ月はあの調子でしょうね。」

目が点になりながらも、取引用のポーションを注文して店を出た。

 

その後再びダンジョンに戻り今度は春姫さんが行う。

春姫さんもメキメキ腕を上げている。ベル様を彷彿とさせるほどだ。

器用に立ち回り確実に仕留めている。

ホームに帰って今日の出来事を皆さんと話し合う。

「リリ様凄かったです。」と春姫。

「本当にそうです。ですが申し訳ありませんでした。」と命。

「えっ、何がですか?」とリリ。

「タケミカヅチファミリアで武を学んだのに、リリ殿の悩みに応えてあげられませんでしたから。」

「それを言ったら俺もだ。わりい、鍛冶師として失格だ。」と言って頭を下げた。

「そんなことないです。皆さんこんなリリのために一生懸命になってくれましたよ。」と言い頭を下げた。

しばらく頭を下げあっていたが、やがてヴェルフが聞いてきた。

「で大槌の使い勝手はどうだ。」

「こんな大きな武器は初めてですから、まだよく判りませんね。」

「それもそうか、だけど意外なほど大型武器を使いこなしているな。」、

「リリもこのスキルが荷物運び以外の使い方が有るなんて思いもよりませんでしたから。」

「ですが小さいリリ殿が大きな武器を持つのは違和感が有りますね。」

「わたくしは、リリ様が大きな荷物を運ぶ姿を真近で見ていましたからそれ程でも。」

「そうだな、では今後は大型武器を中心にしていこうか。そういやー椿の武器の中に大戦斧がかなり有ったな。」

「それより腕力をつけるために刀はどうでしょう。それなら私も教えられます。」

「わ、わたくしは、もっと大型な物の方が…」

久ぶりに明るく和気あいあいと話し合った。

「椿様から武器や防具を沢山戴きました。必要なものが有ればどうぞ使ってください。」

「おっ、いつもはがめついリリスケが何の風の吹きまわした。」

「ドロップアイテムが高く売れましたから。それに怪我でもされたらその方が高くつきます。」

「では私は防具を。」と命。

「なら私は武器を。」と春姫。

「ヴェルフ様、異端児達にもお願いします。」

「おぅ、わかった、 なら残りは俺な。」

「さすがにそれは。」と命。

「人の事は言えませんよ。欲張り過ぎです。」

「勘違いするんじゃねえ、俺はあれらを研究したいんだよ。悔しいが椿はオラリオ1の鍛冶師だ。

その椿が試行錯誤した品だ、是非とも調べたいんだよ。」

「そう言う事でしたらどうぞ。ファミリアの為でもありますから。」そこで言葉を切り少し考え込んだ。

「おい、リリスケどうした。」

「いえ、ドロップアイテムの換金の件でチョッと。ギルドの換金所で到達階層を誤魔化していると疑われてしまいました。

今後は少し考えないといけませんね。」

 




良かったねリリちゃん。

でももう少し続きます。

ここでも残念なお知らせが、この後予定していたヘファイストスと椿の話はカットする事にしました。
お気に入りに入れている人も少ないですが、なんとか最後まで頑張るつもりです。
(前作も再開させました。週1ぐらいのペースで考えてます。パッチワークは少々汚いですが。)


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ヴェルフ02

ヴェルフは自分の工房で考え込んでいた。

目の前には二つの大戦斧、大質量を軽々と運べるリリスケの武器の候補だ。

椿が寄こした武器の中にそれは有る、だが不思議な事に他の武器は一つづつしかないのになぜかこれだけ二つある。

試作品らしく余計な装飾は無いので見た目にはほぼ変わりがない。

この二つは形と握りは同じなのだが、その他は鍛冶師にすれば別物と言える出来だった。

一般人ならそれ程違いは感じられないかもしれないが、鍛冶師としては斧としてのバランスが明らかに異なっている。

ヴェルフが試しに二つの斧を振っても違うと言う事しかわからないほんの小さな違い、その事が鍛冶師たるヴェルフには違和感があるのだ。

残すならどちらか一つで良い筈なんだが……

奴(椿)からの挑戦でもあるかのようにペアリングで梱包されていたのだった。

ヴェルフは二つを持って長い間考え込んでいた、リリスケの武器の有力候補なだけに慎重になっているのだった。

 

ヴェルフは暫く工房に籠ってあれこれ試してみたのだがらちが明かなかったのでヴェルフは中庭に出る事にした。

二本を本格的に振り回せば何か分かるかもしれないと考えたのだ。

ただそこには神タケミカヅチと春姫がいた。

オラリオの非常事態宣言は未だ解除されていないのでタケミカヅチは屋台のバイトの仕事が無い。

(へステイアの方が重宝されているのだった。)

そこで神タケミカヅチはここへ来て春姫やリリの武術指導をして金を稼いでいるのだ。

幸いヘスティアファミリアはリド達との取引で比較的裕福になっているのでこんな事が可能なのだった。

ちょうど今は春姫の指導をしている様だったので邪魔にならない所で本格的に大戦斧を振るう。

だがそれでも二つある理由が分からない、一振りしては首を傾げ斧を交換しては同じことを繰り返す。

その内に神タケミカヅチが気になったのだろう、ヴェルフの所に近づいてきて言った。

「やあヴェルフ君、さっきから首をひねっているみたいだがどうしたんだい。」

「あっ、神タケミカヅチ、えーっと」

ヴェルフは鍛冶にまつわる事なので話すことをためらったのだ。

「ヴェルフ君、頼りないかもしれないけど話してくれないかな?

ほら、春姫も気になっていて集中できないみたいなんだよ。」

ヴェルフが春姫を見ると慌てて素振りを始めるのだった。

それを見たヴェルフはため息をついて神タケミカヅチに相談する事にした。

「実は…」

神タケミカヅチはヴェルフの言葉を黙って聞いていた、そしてヴェルフがすべて話し終えると大戦斧を一つ持った。

そしておもむろにそれを振りだした、どうやら武術の型の一つを行っているらしいがまるで舞を舞っているような見事な動きだ。

型を終え綺麗に停止、しばらくそのまま静止していたがゆっくりとした動作で得物を変えた。

そして再び演舞、ヴェルフはもとより春姫も見とれている様に動きを止めていた。

 

そして神タケミカヅチは二つに斧をもってヴェルフの所へ戻って来た。

そして右手に持った斧をヴェルフに差し出して言った。

「ヴェルフ君、こっちは個人向けに調整された斧だね。

相手はかなりの使い手のようだよ。

おそらく種族はドワーフじゃないかな、バランスからはそう感じるね。」

その言葉にヴェルフは驚愕した、いかに神と言えども型を一回しただけだ。

しかもこれは鍛冶にまつわる事、タケミカヅチにとっては畑違い、そう思っていたヴェルフが驚愕したのも無理はないのかも知れなかった。

タケミカヅチはヴェルフが何も言わないのを見て取ると胸を張って言った。

「ヴェルフ君、確かに俺は鍛冶の神じゃない。

だが君の持ってきたものは武器だ、であれば無関係じゃない、俺は武の神だからね。

そもそも武器と武術は一体のところがあるんだよ。

新たな武器が新しい武術を生み出し、武術が極まると新しい武器を必要とする事は往々にしてあるからね。」

 

その言葉にヴェルフは思わず頷いた。

そう、考えてみればその通りだ、武器や防具は武術と密接にかかわっている。

だが今までヴェルフは自分の工房にこもりっきりで鍛冶の腕を磨いていた。

刀を積極的に振るうことは無く、ダンジョンには経験値と金を稼ぎに行く感覚だった。

これはコンバートしても基本的には変わらないヴェルフのスタンスだった。

そしてヴェルフはここで椿の言葉を思い出した。

『あらゆる武器を作り、そして試し切りしてきた。』

今までそれをヴェルフは『酔狂な事』と切り捨ててきたがもしかして…

ここでヴェルフの思考は中断された、タケミカヅチの次の言葉によって。

「そしてこれなんだが、ヴェルフ君には本当にこれが分からないのかな?」

ヴェルフがあれほど悩んでいた事をタケミカヅチは分かって当然のように話している。

「……ああ、今の俺には分からない。」絞り出すようにヴェルフはいった。

タケミカヅチは少し考えてからこう言った。

「ヴェルフ君の得意な得物はなんだい?」

「そうですね、主に大剣を使っています。」ここは神に対して隠す事でもないのはハッキリとヴェルフは答えた。

「なら買って欲しいものが有るんだが良いだろうか?」

この時タケミカヅチはこう言ってニヤリと笑ったのだった。

 



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ヴェルフ03

椿は雑多なお荷物が無くなりさっぱりした自身の工房で、一人鎚をふるっている。

伝え聞いた初代クロッソ言葉に引っかかるものがレベル5、マスタスミスの椿には有ったからだ。

一族の長老でさえ理解できない様だったが、初代の言葉、しかも繰り返し聞かされていたらしく無事その言葉を椿は聞けたのだった。

初代クロッソの言葉に導かれるように椿は鎚をふるう。

そして一つの作品が完成した。

「なるほどなるほど、そう言う事じゃったか!」椿は一人呟き大きく頷いた。

 

実のところ椿は行き詰まりを感じているのだった。

ファミリアに入門した時、神ヘファイストスの作品に魅せられた。

神の力を封印してもなおその作品は素晴らしかった、神ならぬ身に宿る可能性を示しているように感じたのだった。

そしてガムシャラに修練する日々が始まった、先ずはマスタースミスを目指して。

あの頃はそうヴェル吉の様に何も知らなかった、神の領域というそのはるかなる高みを。

例えるなら高い山のふもとに立ち、山とその上に輝く月を見上げる事に似ているだろうか。

すると山頂にかかる月が見える、どちらもふもとからははるかな高みだ。

そしてふもとから見れば山頂も月も高さはほとんど変わらない、山頂に立てば月に手は届く、そう思っていたのだ。

いや山頂に上れは月に手が届く、は言い過ぎだとしても道ぐらいは見えるだろうとふもとにいる時はそう考えていたのだ。

そして大変な思いをして山頂(マスタスミス)に登ってみた、そこにはふもとで見たのと変わらない月(神)があるだけだった。

更には月に続く道なんてものはどこにも無く、それどころかそこより先は踏みしめる物すらなかった。

鳥ならぬ身では月に近づくには、自ら塔を山頂に築きあげるほかないようだった。

 

山頂での建設作業は登頂とは比べ物にならない程の作業量がある、まさに賽の河原の石積みだった。

そんな時、ふもとに飛べる(隔絶した鍛冶の技を持つ)奴が現れたと話題になった。

興味を惹かれ会いに行ってみたが、確かに奴の作る魔剣はマスタスミスである自分を超える物だった。

椿はその技をぜひ習得したいと思ったがそれは不可能、それは体に流れる血によるものだったのだ。

そしてそ奴も椿自身と同じ夢を抱いていた、もっともファミリアに入るものは殆どその夢を抱くのだが。

だが奴はその翼を使わないと言う、その言葉に椿は複雑な思いを抱いた。

椿の目から見て奴の鍛冶の技自体はは大したものではない。

神々の住まうオラリオに集う精鋭たちの中では平凡なのも仕方が無い事ではあるのだが。

(地元の学校一の秀才と呼ばれていたが、東大に入ると下位だった様な物だ。)

特にネーミングセンスは致命的だ、ファミリアの作品として平凡と合わせて全く売れていない様だった。

売れないから金策に手間を取らされる、鍛冶にかける時間が無くなるから伸びない。

同期に入った者たちは殆どレベル2になっているのに、長くレベル1のままだった。

それでもなお奴は神へ至る事をあきらめてはいなかった、しかも飛ばずにだ。

この事に椿は矛盾した思いを抱いたのだった。

己が持つすべてを賭してなお神へ至る事は不可能に近い、それなのに飛ばずにそれを成そうとする、思い上がりだ。

椿は飛ぶことが出来ない、だが奴は飛ぶことを封印してなお神へ至ろうとする。

あえて椿と同じ土俵の上で勝負すると言うのだ、その意味でだけは大した奴だ。

奴がその言葉通り魔剣に頼らずどこまで行けるのか、椿はそれを知りたいとも思っていた。

そう、椿にとってヴェルフとはいろいろな意味で気になる存在なのだった。

 

神タケミカヅチがヴェルフを連れて行ったのはあのバベルの8階だった。

ヴェルフは客として来ることはあんまりなかったからきょろきょろとあたりを見回している。

様々な種類の武器、防具が有りヴェルフの興味を引き付けたのだった。

今までは売る側だった事もありカウンターの店員へ直行、用事だけ済ませて工房へとんぼ返りをしていた。

余談だがこの時リド達に渡すものはここの物でも良いのではないか、とも思っていた。

 

タケミカヅチはそんなヴェルフを気にも留めずに大剣コーナーへ向かう。

少し遅れてヴェルフがタケミカヅチを見つけた時は体験場(試着室の様なものだ)でいくつかの大剣を振っている所だった。

そしてタケミカヅチは一本の剣を選び出し残りをお買い得品の籠に戻してヴェルフに言った。

「これを買ってくれないかい。」

そしてタケミカヅチはそそくさと店を後にした。

ヴェルフは慌てて金を払ってタケミカヅチを追いかける。

この時ヴェルフは店員が良い顔をしなかった事が気にかかった。

 

二人でホームの中庭に戻って来た。

春姫はもうそこにはいない、自主練メニューを終えメイドに戻ったのだろう。

早速ヴェルフは買ってきた剣をふるった。

だが自分向けに調整していない剣では違和感しか感じられない。

ヴェルフは買ってきた剣を見つめる、何の装飾もないまるで初心者向けのお手本のような剣だ。

現物を見てなお首を傾げているヴェルフにタケミカヅチは言った。

「ヴェルフ君、一度本格的に剣術を学んでみないか?」と。

 



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ククリ21

村に戻ったベル達だが、レフィーヤは大層ご立腹の様子。

エイナはベルに困惑の表情を浮かべている。

取敢えず村長にエルフたちの事を話す。

滞在の許可は直ぐに下りたが、現れたモンスター達の事が気になっている様だ。

 

男をベッドに寝がせてから、残り3人にリューが詳しい事情を聴く。

その間ベルはレフィーヤ達に尋問されていた。

「…何故あんな条件のクエストを引き受けたんですか?」怒りを纏ってレフィーヤが言った。

「えっ」とベル。

「どんなつもりなのかは私も聞きたいな。」とエイナ。

「こいつはもう立派な雄なんだから、そんな事は決まっているだろう。」とアイシャ。

その言葉にレフィーヤは顔を真っ赤にしてごにょごにょ言ってる。

「えーっとその条件てなんですか?」と恐る恐る聞くベル。

「「えっ」」エイナとレフィーヤ。

「何だい聞いてなかったのかい。だけどエルフの呪いの条件は満たしたぜ。」とアイシャ。

「呪いではありません。代々エルフ族に伝わる神聖な物なんです。」とレフィーヤ。

「聖木の誓い、ね。今では行う人は殆どいないわ。

だいぶ簡略したものを結婚式でたまにやる事が有るくらいね。」

「そ、それでその条件なんですが。」とびくびくしながらベルは聞く。

「簡単な話さ、家族を助けてくれたら何でも言う事を聞きます、つまりは奴隷になりますってぇ事だよ。」

「そんな事って。」とベル。

「私たちも何とか条件を変えさせようとした所だったの。ベル君覚えてるかな、ラキアの件でのエルフの事。

ファミリアに入る時願いをかなえる為自由を犠牲にした事を。それが変な風に伝わっているみたいなの。」

「変な風じゃないよ、大きな勢力を持ってる神のファミリアに入るってことはそう言う事だ。

神の命令は絶対、脱退は基本認められない。奴隷とどこが違うんだい。」

「厄介なことにあの子儀式を終えちゃってるのよ。よっぽど助けたかったんだと思うんだけど。」とエイナ。

「そう言うこった、諦めてあの子のご主人様になりな。で、もう一人はどっちにするんだい。」とアイシャ。

レフィーヤはそっぽを向いている。

「何とか今から条件を変えることは」とベルは言いかけた。

「聖木の誓いはエルフにとって犯すべからざる神聖な物、それを軽々しく変えるなんて。

あなたはエルフの事を愚弄するのですか。」と怒りながらレフィーヤ。

「エルフは融通が利かないからな。それに条件を変えるとは言うが、何に変えるつもりなんだい?

金かい、あの子の人生分の金とすると、それは売り飛ばすのと同じじゃないかい?」とアイシャ。

「それで困ってベル君を交えて話し合おうと呼んだんだけど、何も聞かずに飛び出しちゃったから。」とエイナ。

ベルは綺麗に固まってしまった。

そこへリューが戻ってきて聞き取った内容を話した。

「あの男は彼女たちの父親ですね。母親はすでに亡くなっています。

そして森のエルフでは大変珍しい事ですが一家族だけで暮らしている様です。

今度の経緯は、突然父親が血だらけになって駆け込んできたそうです。

一緒に逃げようとしたが間に合わず近くの大木に上った。

そして体重の軽いあの子だけが枝を渡り逃げ出すことに成功した。

そしてあの子なりに考えたんでしょう、我々に助けを求めた、と言う経緯の様です。

父親が目を覚まさない事にはこれ以上のことは判りませんね。

肝心の父親の容体ですがかなり失血、おまけにマインドダウンを起こしている様です。

しばらく目を覚ますことは無いと思われます。」

この日はそのまま有耶無耶になった。

 

次の日、あの子がベルのベッドで発見されてお決まりの追いかけっこ。

それが済んで集会場に戻ると、あの子の姉二人に世話を焼かれる。

何かと言うと手伝いたがるのだ。

不思議に思ってリューさんに確認すると2人とも自分を選んでほしいらしい。

自分が選ばれると他の姉妹が残れるからだそう。

理由を聞いて落ち込む。

アイシャさんはご主人様の振舞い方の練習だと言ってからかってきた。

「ご主人様。」と言ってすり寄ってくる。流石にリューさんも対応に困っている。

復活したレフィーヤさんの視線は凍っていたが。

午後はリューさんとアイシャさんが近くの町へ姉妹を連れて行った。

家は壊されているので生活用品の買い出しだ。ちなみにここでの食費を含めてベル持ちだ。

一番下のあの子は僕の傍を離れない。まるでククリの様だ。

表情は非常にうれしそうだ。家族を見る目で判ったが生きて話が出来る、そのことが嬉しいらしい。

お祖父ちゃんが生きていたら僕もそう思うのかな。

 



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ククリ22

投稿ミスしましたすみませんでした。


町へ行ってきた彼女たちが帰ってきたが、残った3人は一応に驚いた。

リューさんは非常にばつが悪そうだ。

「な、な、な」レフィーヤさんはまともにしゃべれない。

ベルは目のやり場に困っている。何故なら彼女たちはまるでアマゾネスのような格好だったからだ。

ただエイナさんは出て行った時と違う事を驚いているだけだ。

「なかなか良いセンスだろう。」アイシャは誇らしげだ。

「リューさん彼女たちはいったいどうしたんですか?」ベルは彼女たちから目をそらしながら言った。

「それが、…彼女たちの強い意思なんです。」

「なんだい、ご主人様に使えるんなら普通だろう。」とアイシャ。

「…まさか今朝の件ですか。」とベル。

「そうです。その女が悪戯していたのを寵愛されていると誤解して真似たいと。」

「寵愛されているのは誤解じゃないだろうが。」ベルにウインクしてアイシャは言った。

アイシャとリューはにらみ合った。

彼女達は家族だけで暮らしていたためイマイチ羞恥心が無い。

今までエルフらしい格好だったのは親から与えられたことと怪我防止の意味だったようだ。

ちなみにハーフエルフのエイナさんがそれほどあわてなかったのは、査察で歓楽街に行っているからだった。

この日の夜、男が一時目を覚ましたが、話を聞ける状況にない。

ポーションを飲ませて再び眠らせる。

 

次の日、お騒がせの姉妹は父親につきっきりだ。

一緒に居ても気が滅入るだけなので、ククリを連れて黒い谷へ行った。

あの子はついて来ようとしたが身体レベルが違うので付いてくることは出来なかった。

ベルは放っておくことは出来ずに仕方なく抱えて連れて行った。

ここへ来たのはククリとの合体?魔法を検証するためだ。

ちなみに今日も遠くからエイナ達が監視している。

あの固い壁でもう一度試してみる。

威力は高いが違和感を覚えた。ククリと話してみるがよく判らない。

2人であれこれ話しているといつの間にかあの子がいない。だが話に夢中でベルは気付かない。

その内草むらの方で大きな声がしてあの子が飛び出してきた。

どうやらモンスターに遭遇したらしく数匹に追い駆けられている。

だが黒い谷に入ったところで地面の状態が変わったためか転んでしまう。

ベルは思わず大声を出すがモンスターは止まらない。

ベルはステータスの敏捷をいかんなく発揮し瞬時に切り伏せる。子供はモンスターの血が降りかかる。

残ったモンスターは散り散りに逃げる。ククリが追いついたのであれを試そうと手を繋ぐ。

{ファイアーボルト}威力は上がっているが全く当たらない。

戦闘中なのでククリとコミュニケーションが取れない。先ほどの違和感がわかった気がした。

結局モンスターに逃げられて戻ってみると子供は血まみれになっていた。

まるであの時の再現の様だ。アイズさんもこんな風に思ったのかと考えながら声をかける。

だが言葉は通じないためかベルのように逃げ出さない。

そうこうしているうちにエイナさん達が来た。

子供の状態を確認して、川へ連れて行って洗わせようとした処騒ぎ出した。

ベルにしきりと話しかけてくる。だがベルには全く分からない。

何とかなだめて洗いに行かせる。

ククリと話をするが戦闘時に精密照準は不可能だと言う結論に。

戻ってきてもベルに頻りに話しかける。

だが相変わらず何を言っているのか解らない。

だが身振りを見ていると出てきた森の方に何かあるらしい。

その内に森が騒がしくなる。現れたのはブラッドサウルスだ。

あの子は素早く後ろに隠れる。

ククリは構わず話しかけているが全く反応しない。

ほかのモンスターと違い黒い谷へ入ってくる。

明らかに我々を狙っている。黒い谷を越えてくると言うことはこのままでは村が危ない。

ベルは仕方なく迎撃する。近づくと小さな傷だらけ、谷を忌避しないのはそれが原因かもしれない。

大きとはいえ所詮は地上種、蹴りの一撃で難なく倒す。

子供はそれを驚きをもって見ている。

薬草を探していた時に比べて明らかにモンスターが多い。

谷の周辺を一通り調べてから村へ帰ることにした。

 



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アーデ13

ベル様とお別れしてから約2か月が過ぎた。

異端児との取引は順調だがそろそろ相手に渡すものが無くなりつつある。

それとリヴィラの連中が気付き始めているらしい。

異端児たちによると18階層から後をつけてくる連中がいるそうだ。

幸いと言っていいのか次回は取引を休む予定になっている。

これを利用してうるさそうなやつらを黙らせる事にしよう。

 

先ずりりとヴェルフがリヴィラに行きボールスにつけて来ている事に文句を言う。

春姫さんはカーゴの中で待機、命様はその護衛だ。

19階層に入ると、案の定ボールス自らつけて来ている。

適当なところで声をかける。

「おい、つけてくるなと言ったはずだが。」とヴェルフ。

「ちぃ、ばれたか。なら物は相談だ。なんか儲け話が有るんだろう、俺も混ぜてくれよ。」

「どうするよ。」

「警告してもダメ、ここまでついてこられたら誤魔化すのも難しいです。

仕方ありません、その代わり目一杯働いてもらいますからね。」

「おう、俺にまかせろや。」

「武器やポーションは大丈夫か。」とヴェルフ。

無言で武器を取り出してみせる。

「ならついて来い。」とヴェルフ。

 

19階層のあのルームに着いた。

「それじゃあ最初は俺からだ、よく見てやり方を覚えろ。」とヴェルフ。

その言葉に命が飛び出す。ヴェルフは入り口で仁王立ちで待ち構える。

「ボールス様、よく見ててくださいね。次はあなたの番ですから。」と試験管を手に持ちリリが言った。

二度も言われて不快そうにリリを見た。

命がヴェルフの横をすり抜ける。ボールスは訳が分からずにきょとんとしている。

一瞬の後、モンスターの大群が現れる。ボールスはその光景に思わず怯む。

ヴェルフは傷を負うのもかまわず戦っている。

「いきます。」大声でリリが言い、持っていた試験管の中身をヴェルフにぶちまける。

それと同時に傷が消える。それを見てボールスが言った。

「その効果、ハイポーションじゃないのか。」

リリはにっこりと微笑むだけで何も言わない。その後タイミングを見て繰り返す。

ますますモンスターの勢いはひどくなる。

「乗ってきたーー」とヴェルフ。

それを聞いて命がボールスに言った。

「次はあなたなんですから、もっとよく見てください。」巧みにヴェルフの2M以内に誘導する。

モンスターの勢いにボールスは震え上がった。

やがて立って居られなくなり尻餅をつくことでスチールの範囲をを外れる。

やがてモンスターがいなくなる。ヴェルフは肩で息をしている。

モンスターの勢いに惑わされて、攻撃を受けていないモンスターが倒れている事にボールスは気づかない。

「次、お前だ準備しろ。」息を整えてヴェルフがボールスに言った。

「へっ」尻餅をついたまま呻く。それを見たリリが軽蔑したように言い放つ。

「怖気づいたんですか?仕方ありません命様次お願いします。ですがその次こそはよろしくお願いしますね。」

ヴェルフはカーゴから予備の武器を取り出す。それを見てボールスが言った。

「一回ごとに武器を交換するのか。それにハイポーションをあんなに使ったら赤字だろうが。」

「私は儲かるとは一言も言ってませんよ。群れてる個体は強いのが多いみたいでドロップアイテム分は儲かりますが。」

後始末をしながらリリが言った。モンスターが強いと聞いてギョッとするボールス。

しばらく休んだからなのかボールスが立ち上がった。

後始末が終わって命がまた飛び出す。今度は入り口で刀を抜き振り返る。

命に代わって同じことの繰り返しだ。ただボールスは完全に及び腰だ。

「乗ってきました。」命の言葉を受けてヴェルフがボールスに言った。

「おい、今度こそ次はお前の番だ。しっかり見とけ。」2M以内に引っ張り出す。

前回より早く尻餅をつく。それと同時に臭いがあたりに充満する。

ボールスの股間に水たまりが出来ている。

モンスターが途切れるとボールスは叫びならら逃げ出す。

「キチガイだー。お前らみんなキチガイだーー」

「春姫さん、もう出て来てもかまいませんよ。」

鼻をつまみながら春姫はカーゴから出てくる。

二人で後始末をしている内に臭いは少し薄れてきた。

「いったん帰りましょうか。カーゴの空きはそこら辺の植物を適当に詰めましょう。」

カーゴを交換して戻ってくる、さすがに臭いはもうしない。

「念のため繰り返しておきましょう。これでリヴィラを黙らせることができると思います。」

「あの水は戦っているとき正直気持ちがいい。時々で良いから掛けてくれ。」とヴェルフ。

「ただの泉の水なんですがそんな効果が有るんですか。」とリリ。

時間いっぱい繰り返して念のためリヴィラに寄ってみる。

リリ達を見るたびギョッとする人達が何人もいる。

何とかうまくいきましたね、とリリは思った。

ちなみに取って来た植物はミアハファミリアにお土産としてあげた。

 



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アーデ14

リヴィラの問題は解決したがまた新たなものが。

武術の修行は順調、その場で回転しても目を回さずに済むようになった。

大戦斧でキラーアントもスパッと切れる。タケミカヅチ様々だ。

ステータスも順調に伸びて平均がCになった。

だがここへきて急に伸びなくなってきた。よく言われる頭打ちという現象の様だ。

通常ならここでじっくり待って偉業の欠片を集めてランクアップを目指すことになる。

だけどリリにはその時間がない。仕方なくヘスティア様にお伺いを立てることに。

神様によると偉業、上位の経験値がリリは全くと言っていいほど溜まっていなかったらしい。

考えてみるとソーマ時代には困難に立ち向かうのではなく人をだましてきた。

これでは偉業どころではない、むしろマイナスだろう。

ヘスティア様の話しだと、後1年ぐらいがんばればなんとかなるかもしれないとの事。

「ベル君を基準に考えてるのかもしれないが、ランクアップはそんな簡単な物じゃないよ。

ボクはベル君しか知らないけど、それでも色々あったよ。決してミノタウロスを倒しただけじゃない。

君を助けた事だって十分に偉業だよ。オークの群れと一人で対等に戦い、キラーアントの大群を全滅させたんだから。」

「そうでした。」あの時を思い出して言った。

今のリリでも誰のサポートも無しにオークの群れを蹴散らす事は難しいだろう。

冒険者の半数がレベル1のまま生涯を終えることを思うと仕方が無いのかも知れないが、その言葉に落胆した。

何気なく部屋を見渡すとしばらく前にはなかった箱の存在に気が付く。

異端児との取引で財政は問題ないが、無駄遣いなら諫めるべきだろう。

「ヘスティア様その箱はどうしたんですか?」

「ああそれかい、フェルズ君が置いて行ったんだよ。不測の事態に対応するためだとか言ってたよ。

何かあったらその箱が開いてその中の物を使って助けてほしいそうだよ。」

「まだそんな事を」

「ヴィーネ君がらみの件だよ。彼女はいまだに目覚めていないんだ。

だから目覚めたとき状況がわからず逃げ出すかもしれないと言っていたよ。

探し物なら人数が多いほうが有利だ。いまだにダイダロス通りには大勢の冒険者がいるよ。

それに時々見に行っている春姫君からのお願いでもあるんだよ。」

「そうですか。では彼等の現状は分かっているんですか?」

「見つかっていないのはアルミラージのアルル、ヘルハウンドのヘルガ、あと最後の黒いやつだね。

今残っているのは大半が飛行ができる物たちだね。後はダンジョンへ帰ったよ。」

「あれから2か月が経っていますが、今でも生きているんですか?」

「ダイダロス通りのごみ箱は荒らされているのが当たり前らしい。

鼻のいいヘルハウンドなら食料には困らない様だよ。

ただあの黒いのはかなりの傷を負ったから彼らでも絶望視しているね。」

「いつまで探す気なんですか?」

「人間に対して否定的な物が今残っているんだが、死体の一部だけでも見つけるまでは、って頑張っているね。」

「フェルズ様は何をしてらっしゃるんですか?」

「ダンジョンに戻った異端児たちと協力してクノッソスを監視しているよ。

密猟者の生き残りを倒して鍵を奪う事を考えているみたいだ。ただ奴らはあれから出てきていないみたいだね。」

「何をしているんでしょうか?」

「あの黒いのが敵のボスを倒したらしいからもう残っていないのかも知れないね。

もうしばらく監視は続けるみたいだ。そういえば異端児との取引はどうだい?」

「順調です。むしろ順調すぎてお互い取引するものが不足しだしています。

ダンジョンも規制が取り払われて秘匿するのが難しくなってきましたし、しばらく取りやめるべきかもしれません。」

「そういう事なら無理してやることは無いんじゃないかい。代わりにギルドのクエストを受けてみてはどうだろう。」

「確かにしばらく受けていませんでしたね。明日ギルドに言って探してみます。」

 




ヘスティア様が異端児を物と表現していますが、神々の創造物を者として区別しています。

Upを間違って申し訳ありませんでした。
お詫びも込めてパスする予定だったフィンさんのエピソードを書くことにします。


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オラリオ内2

「いい加減機嫌を直してくれないかな。」ため息をつきそうなタナトス。

「……」何も言わず迷宮を作り続けるバルカ。

「そっちはどうかな。」振り返りレヴィスを見て言った。

「雄牛型の事を忘れたか?頼み事があるなら今度はそっちが誠意を見せろ。」

「だけどスポンサーも居なくなったし、ダンジョンにも入れないんだよ。」

「知った事か。それも含めてやるのが約束を破った事への詫びだろう。」

頼みの綱だったイケロス達もいなくなったし、しばらく様子を見るしかないですかね。

 

「フィン、調べ物はもう良いのか?」とリヴェリア。

「ああ漸く一段落ついたよ。」とフィン。

「ずいぶん時間が掛かっていたが、ギルドで何を調べていたんだ。」

「ダンジョンでの死亡事故報告と冒険者登録の抹消記録だ。」

「それは彼らとの話が関係しているのか?」

「そうだね、今まで僕はくすぶっている同族たちには目標となる光が必要だと思っていた。

だから僕がその光になろうと決めた。自慢じゃないがその通りになったと思うよ。」

「そうだな、この世界でお前の名を知らぬものはごく少数だろう。」

「だが未だパルゥム全体の名声は高まっていない。僕は時間がまた足りていないんだと考えていたんだ。

人を騙し盗みを働いているのなんかは伝わって来たけどね。」

「で、何か分かったのか?」

「確定的なことは何も。ただいくつかそれらしい事は有るかな。」と少し寂しそうに言った。

「それは私が聞いても構わない事なのか?」

「構わない、というかむしろ誰かに聞いてほしい位だね。

まず、あまりに古いものは統計資料しか残っていなかった。

それを見るとパルゥムの死亡率は冒険者の構成比率を考えると3倍以上他の種族に比べて多い。

冒険者をやめた数にすれば5倍以上だ。これは僕がギルドに登録する時に言われた事だから驚く事じゃあない。

次に事故報告書を調べてみたよ。生き残りがいる事故でパルゥムが殿を務めることが非常に多いんだ。

ドワーフと違い耐久に補正が無いからね、死亡率が高いのも当たり前だ。」

「その位でここまで衰退するとは思えんのだが?」

「これだけでもかなり影響有りそうだけどね。問題は助かってしまった場合だ。

特に他に犠牲が出た場合、冒険者を辞めることが多い。理由を見ると心が折れているみたいだ。」

「辞めると言ってもそう簡単に辞められるのか?」

「当然トラブルになっただろうね。

僕はロキの初めての眷属だから何も言われなかったけど、古参の神なら言いたいことが有るんだろう。」

「とすると入門者は門前払いか。」

「あるいは何か約束させられているかもだね。内容は大体想像できるけれど。」

「なるほどそういう事か。……まだ何かあるのか?」

「分かるのかい、さすがだね。」

「何年の付き合いだと思ってる。…言いたくない事なのか。」

「いや、話しておいたほうが良いんだろう。ここ10年程パルゥムの冒険者登録が激増している。」

「良かったじゃないか。…だが10年も経ったにしては高レベルの者が居ない。…まさか…」

「…想像の通りだ。」しばらく沈黙が続いた。

「フィン、なんというか…」

「今はどうしようもないね。まずは目の前の問題を片付けようか。ダイダロス通りはどうなっている?」

「はぁーー分かった。ダイダロス通りの規制は大分緩和された。ただ出入り口のあったあたりは未だだ。

だが建物の改修工事に参加する名目なら時間はかかるが調査できそうだ。

今まで周辺だけでもマッピングしようとしたが不可能だった。何かしら範囲を絞る必要があるかもしれないぞ。」

「分かった、今までの結果を教えてくれ。何とかしてみようか。」

 




お詫びの意味で書きましたがもしかすると『俺たちの戦いはこれからだ』の方が良かったのかも。

オラトリア7.2を書いてくれる人はいまだ現れない。(悲)


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ククリ24

その夜、ようやくエルフの男が話せるまで回復した。少し驚いたが男は共通語を話せる。

そこで村長を呼んで事情を聴くことにした。

ただ部屋は狭いので、男の家族と村長、神様とリューが話し合いをする。

その他は部屋の外で待機、ただしドアは空いているので声は聞こえる。

「モンスターに襲われたとの事ですが、詳しい事情をお聞かせ願えませんか?」と村長。

「お前たち、信用、できない。」と言葉を区切って男は言った。

「有益な情報ならともかく、モンスターの情報に信用なんて関係ないじゃろ。

同じ土地に住む者同士じゃ、助け合うべきじゃぞ。」と神。

「もう、娘、やれない。」と男。

「…その件は別途話し合いましょう。モンスターの事はこちらの問題でもあります。

ですからこの件であなた方に情報提供以上の事を求める事は有りません。」とリュー。

「その通りですな、この件であなた方にこれ以上の見返りを要求しない事は、村長の私が保証しましょう。」

「わしが見届けよう。」と神。

「…先日、大雨が止んだ、大きな音で高い山、崩れる。

調べに行った。山から、モンスター、沢山出てきた。

戦ったが、数多い、逃げられない。」

「山からモンスターが来たのか?」とリュー。

「分からない、そこに行く前に襲われた。だがあの山、何かいる。」

小声で何か話しているのが聞こえる、娘たちに通訳しているみたいだ。

「何がいるのか判らないのかい?」とアイシャ。

「見たことない、声だけ。今までも時々聞こえた。聞こえた後モンスター増える。最近よく聞く。」

「村長さん、あの山について何か知りませんか?」とベル。

「残念ながら、黒い谷の向こうはモンスターが時々現れましたからめったにそちらへは行きませんでした。

また我々がここへ来たのは誰もいないはずだからですので以前の話も知りません。」

これ以上情報を得られないと判断して、村長たちは部屋を出てきた。

ただ扉は開けてこちらの話を聞けるようにした。こちらに裏が無いことを示すためだ。

「モンスターが大量に現れた事は見過ごすことはできません。冒険者様、何卒調査をお願いします。」

「何とかすることはできませんか?」とベル。

「お前さんも懲りないねー、だけど範囲が広すぎる。あの高い山が原因らしいけど確証はない。

あのあたりに詳しい奴が居ればいいんだが、あの男はしばらく動けそうにないぞ。」

「時々黒い谷付近のモンスターを掃討すれば良いんではないですか?」とレフィーヤ。

「でもどこかはっきりしないから調査中にこっちを狙われたら大変だわ。」とエイナ。

「いつまでやれば良いんだい?いつまでもここに居られ訳じゃないんだよ私たちはね。

ヘルメス様からは3か月ぐらいと言われているから、そろそろ呼び戻されても不思議はないよ。」とアイシャ。

「そうですか。」落ち込みながら村長が言った。

ベルは考え込んだ。

「やっぱりこのまま放って置けません。調べるだけでもしましょう。」

「だけどあたしとあんた、どっちかがここに残らないと不味いね。で、こっちは抜かれるわけにはいかない。

仕方ない、こっちは私が残るよ。調査は最悪逃げ出せばいいんだから。」

その時、あの子が部屋から出てきてリューに話しかけた。

「この子が道案内したいと言っています。」

「危ないんじゃないですか?それに道案内できるんですか?」とエイナ。

リューが通訳すると立てかけてあった盾を持ってきて何かをしゃべった。

「これに乗れば大丈夫だと、それと『あの辺りは遊び場だから良く知ってる』と言ってます。」とリュー。

「どうする?確かにそれに乗ってりゃあ安全だろうが。」盾を指さしてアイシャが言った。

「それでも危険すぎます、私は反対です。」とレフィーヤ。

「だけど何もしないと危険は無くなりませんよ。」とべる。

「だったらこのあたりのモンスターを倒してしまえば良いんですよ。」

「だが範囲が広すぎる。さっきも言ったがあたしとベルはヘルメス様の命令でここに来ている。

ヘルメス様の帰還命令は今は絶対だ。それにベルはギルドのペナルティで来ているんだ。

へそを曲げられて交換条件のミッションを放棄されるとみんな困ってしまうぞ。」

「私が一緒に行こう。どのみち通訳は必要だ。」とリュー。

「…それしかないかもしれませんね。ただし3日位をめどに一度帰ってきてください。」とエイナ。

「ありがとうございますエイナさん。」エイナに飛びついて手を握り顔を近づけてベルは言った。

エイナはいつものように顔を赤らめ、他の3人はムッとした。

 



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ククリ25

捜索隊のメンバーはベル、リュー、ククリ、エルフの子供となった。

初めリューが子供を背負う予定だったが子供が拒否した。

具体的にはベルの背中以外を拒否したのだ、自分はベルのモノだからここだと。

この件で説得は無理なのは十分に分かっているので道案内は方向を指さしてもらうことにした。

まずはエルフの家を目指す。モンスターに注意して向かったが着くまで居なかった。

家は滅茶苦茶に壊れている。修理するより新しくするほうがマシなぐらいだ。

子供はあからさまにガッカリしている。念の為リューはあたりを調べたがモンスターはいなかった。

まずはあの男の証言通りに進んでみる。

逃げる時トラップポイントを経由しながらだったらしいからそれを巡る。

いくつかのポイントは壊されており罠にかかったモンスターが食われている。

さすがのエルフ謹製のトラップといえど5Mのモンスターには効果が薄い。

ただ死体が足止めになっているみたいでブラットサウルスが群がっている。

ベルはそれを見てまた悩む、このまま倒しても良いのかを。

見ているとククリが声をかける。

「お前らは何だ。」だが食べるのに夢中で何の反応もない。

何の反応もないのでククリは近づく。

途端に威嚇の唸り声をあげた。ベルはその様子に相手は言葉を理解できない、と悟った。

ククリはお構いなしに近づき同じことを言った。

「お前らは何だ。」今度は襲ってきた、いや襲い掛かろうとした。

大半のモンスターが吹き飛んだ。3匹は回避に成功したのか距離を開けている。

5匹は中途半端に切れているが、残りの2匹はきれいに切断されている。

残り3匹もベルの敵ではなくきれいに分断される。背中が騒がしい、興奮している様だ。

「クラネルさん、ちょっとその剣を見させてもらっても良いですか?」

リューさんに片手剣を渡す。刃の状態を調べてから感心した様に言った。

「こんな状態の刀でよく切ることが出来ますね。あの鍛錬の賜物ですか?」

「はい、ですがまだまだです。技で切ることが出来れば殺さなくても良いかも知れません。」

「活殺自在、という訳ですか。」考え込みながらリューが言った。

 

いくつかトラップエリアを経由して男が初めに遭遇した場所に着く。

しばらく周囲を捜索していると大きな声?が聞こえてきた。

「これがそうですか。確かにあの山の方から聞こえてくるみたいですが少し変ですね。」

「何がですか?」

「あの山から聞こえたのならエコーが変です。もっと近くかも知れない。」と言って子どもと話し出す。

「これ以上先は分からないそうです。大きなモンスターがいるので近づくなと言われていたそうです。

ただ山の中に洞窟がいくつかあるそうでその辺が怪しいかもとの事です。」

「正確な場所は分からないんですか?」

「父親もモンスターを避けながらだったみたいですね。…とりあえず声のした方向へ行ってみましょう。」

 

暫くしてそれらしい洞窟を見つけた。ただ長雨の影響か一部が崩れている。

地面にぽっかり空いた穴の前で話し合う。

「ここでしょうか?」

「あたりを調べたがここの可能性が高い。入り口でわずかに風を感じるからどこかに繋がっている様だ。

ただ穴はそれほど丈夫じゃない、慎重に行こう。」

穴に小石を入れて深さを調べると、深さ10数Mぐらいで斜面になっている様だ。

リューは近くの森でロープになりそうな蔦を採ってきて加工しはじめる。

こういう事は本職(エルフ)に敵わないのでベルは休憩することに。

片手剣と盾を置き体を休める。子供を抱えてここまで来て少し疲労しているみたいだ。

リューは細い蔦を編んでロープを作っている。子供とククリは珍しそうに穴をのぞき込んでいる。

ベルはそれを少し離れた所で微笑ましく見ている。

子供は長い間ベルの背中であまり動いていない為か少しはしゃいでいる。

突然穴の淵が崩れて子供が穴に落ちる。

ベルは大声を出しとっさに飛び込む、ククリも一緒に。

その声にリューが駆け付ける、ベルは子供をリューに投げ渡す。

必然的にベルたちは穴の中へ、底にぶつかる音がすると同時に穴が崩落する。

「クラネルさん!!」

 




このエピソードで村編は終わりの予定です。
終わりまであと少し、何とか終わらせます。


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ヴェルフ04

ヴェルフはあれからタケミカヅチの指導を受け剣術の稽古を始めた。

タケミカヅチの言葉に思う所があったし、他に疑問を解決する方法が思いつかなかったからなのだが。

ただ本格的に剣術を学ぶわけではない、そんな事をすれば何十年もの時間を使ってしまうからだ。

では何をしているかと言うとそれは武術の型のトレーニングだ、武術の型はその動きのエッセンスが詰まっている。

長い時をかけて完成されたそれは体験するには最適とタケミカヅチは判断した様だった。

但し使っているのはこれまで愛用していた剣ではなく新たに購入した剣を使っている。

これはタケミカヅチからの強制だった、ヴェルフは使いづらく感じたがその言葉に従っていた。

「ウォー、腕が…足がつる~」ヴェルフが吠えている。

「そうなるのは体のバランスが悪いからだ、体の隅々の筋肉の動きを全部意識するんだ。」タケミカヅチはそう答える。

「そんなこと無茶だーーー」

「その為に動きを遅くしているんだ、勢いで押し切るのではなく重心と体幹を常に意識してみてくれ。」

今の所トレーニングの時間の約2/3がスピードを遅くして行っている。

もう二週間近くこれを行い、ヴェルフは得物を変えたぎこちなさが取れてきたようだ。

「そろそろですかね。」タケミカヅチはそう呟きヴェルフに近づいて言った。

「ヴェルフ君調子はどうですか?」

「おぅ、何とかな。

だがスゲーな剣術ってやつは、こんな安物の剣でも前より威力がありやがる。」

ヴェルフはそう言って練習用においてある木の棒を軽々と両断して見せた。

「なるほど、では以前使っていた剣ではどうでしょうか?」

「おっ、漸く解禁か。

これが悪いとは言わねえけどやっぱり自分に合った剣が一番だぜ。」

早速自信作の愛刀を持ち出して振り回し始めた、がすぐに首を傾げて言った。

「あれ?、久しぶりだからか違和感が…

だがこれならどうだ。」

そしてさっき切った木の棒に再び挑んだ。

「えっ。」

ヴェルフは戸惑っていた、自分の剣の方が明らかに切れ味が悪い。

「もう一度だ。」そう言い再び木の棒を切りつけた。

「もう一度」

「もう一度」

「もう一度」

……

「くそっ!」そう言うとヴェルフは愛用していた剣を地面にたたきつけた。

 

荒れているヴェルフが落ち着くのを待ってタケミカヅチは声をかけた。

「理由を知りたいかい?」

「……今度は何をすれば良いんだ。」怒ったようにヴェルフは言った。

それに対してタケミカヅチは微笑んで答えた。

「ヴェルフ君、今回の事は前の事と無関係じゃない、長くなるが聞くかい?」

「おう。」そう言ってヴェルフはその場に胡坐をかいた。

「ではまず基本手にな所からおさらいしようか。

君たちの体は獣人も同じく手は二本足も二本、骨を中心に筋肉が取り囲みそれを動かしている。

へそを中心として腕の間に頭がある、急所と呼ばれるところもほぼ一緒だ、ここまでは良いかい。」

「…ああ」

「だから君たちの動き、特に力ある動作には制限があり決まりがある。

だからみんながある程度習得できる武術があり、それに対応する武器防具がある。」

ここでタケミカヅチは少し間をおきヴェルフの反応を見た。

 

「何故だ!!なぜこの剣の方が切れない。」ヴェルフは呻くように言った。

「それはねヴェルフ君、その剣が君に本当は合っていなかったからだよ。」

「そんなバカな、ちゃんと調整したぜ。

それに今まで違和感なんか感じなかったぜ。」

「その理由は簡単だ、君が最適な動きをしていないからだ。

俺に言わせればいい加減な動き、それをいい加減な武器が助長する。

人というものは慣れるものだ、動きに悪い癖が付きそれに合わせた武器を選んでしまう。

そうやって普通は間違った方向で固定されてしまうものなんだよ。」

「そんな話は聞いた事ねえが…」

「まずこの事は一部の神しか知らないだろうね。

そして知っている神も子が真剣に知ろうとしなければ教えないだろう。

何故ならそれも君たちの可能性だからね、自ら疑問に思いそれなりの努力をしないと教えはしないのさ。

で君はその条件を満たした訳だ、ではその回答を教えよう。

今回君に買ってもらった剣は言わば『平均の剣』とでも言うべき物だ。

おそらく誰もがこれじゃないと思うはずの物だよ、だから売れ残っている訳だね。

君が見せてくれた斧の内の一つはこれと同じものだ。

ヴェルフ君、さっき話した事を思い出して欲しいんだが、本質的には君たちに違いはあまりない事を。

むろん君たちにも個性がある、だけどそれは本来は大きく違うものではないんだ。

正しくない動きの癖に合った装備を使っているとその癖は修正されずに助長されてしまうものだ。

大抵の人に心地いいだけの物は最終的にはその人を殺してしまう、職人ならその事を頭の片隅に置いておくと良い。

君がわざわざ残す必要を感じないと言った物、それこそが本当にその人にあった武器と言える物なんだよ。」

ヴェルフはここで型の訓練を行う、ゆっくりとそして動きの隅々まで神経を尖らせて。

買った剣とこれまで使っていた剣を比べる。

そしてタケミカヅチの言葉を実感する、型の動きをすると今までの剣では良くない事が良く分かる。

その様子を見てタケミカヅチは言った。

「実感してくれた様で何よりだよ、鍛冶師として上を目指すなら知っておくべきだからね。」

「えっ」

「ヴェルフ君、君が打った剣を客に合わせるよね、その時どうする?」

「そりゃあお客に聞いてそれに合わせ…」

「そう、それが正しいとは限らない、その客は動きに悪い癖がついているかもしれない。

いやほとんどの子はそれを持っているだろうね、技を極めるため何万回と振らないと気づかないだろうから。」

ここでヴェルフは椿の口癖をおもいだした。

『ダンジョンへ潜り、数え切れないほど試し切りをしてきた。』

これを聞いた時ヴェルフはバカな事をやっていると思っていたが、実は後輩へのアドバイスでもあったのだろうか?

そう考えたヴェルフだがこの事は誰にでも言っている、そう思いなおしもう一つ気になっていた事を聞いた。

「もう一つ教えてくれ、この剣を買ったとき店員が変だったのは?」

「あぁーそれは」タケミカヅチは少しばつが悪そうに言った。

「今回話した事は武の神なら当然知っている。

だから神がその剣を買う事はマナー違反に当たるんだ。

買ったのは元ファミリアの君だから正確には違反じゃないけれど。」

「そうでしたか、俺なんかの為に有難う御座います。」

「君たちには返しきれない恩がたまっているんだ、気にすることは無いさ。

それにヴェルフ君なら何れ気付いたと思うよ。」

「それでも有難う御座います、俺だけならあと何年も先だったはずだ。

……神タケミカヅチ様、俺に武術を教えてくれ。」

「…冒険者に専念するのかい?」

「いやそう言う事じゃねえ、今貰いもんだがいるんな武器がある。

それの使い方を教えてくれ、もちろんさわりだけで構わねえよ。」

「じゃあ何回か型を見せよう、それなら大した手間じゃないからね。」

「それで構わねえ、よろしくお願します。」最後まで口調が微妙なヴェルフだった。

 



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アーデ15

結局努力したがベル様の成長スピードに付いて行く事は出来ないらしい。

だけれども努力は続けている。もう後悔したくないから。

リリは冒険者になってからかなりの時間が経っている。

正しく努力していたならレベル3になっていても可笑しくは無いぐらいだ。

あのファミリアでも経験値だけは横取りする事が出来ないから。

ただその場合はベル様とは出会うことは無かっただろう。

あの経験があったから今がある。そう思えることは素晴らしい事だ。

 

ただそう思えるのはあのミノタウロスに挑んでからなのだが。

みんなを説得して挑んだが完敗だった。耐久値だけが伸びる結果に。

『当たらなければどうと言うことは無い』を地でいかれた形だ。

改めてベル様の凄さと危うさを実感した。

 

アマンダイトばかりでは問題があるので、他のギルドクエストを受けることに。

「やはり中層ではほとんどありませんね。」

「それはしょうがないです。基本的に長い間残っている物ですから。」とミイシャ。

パラパラとクエストの紙束をめくりながらリリは考える。

「私たちにできるものと言えばこれぐらいですか。」

「どれですか。ああこれ存在がハッキリしていませんが大丈夫ですか?」

「運が良ければ可能です。他はほぼ無理ですから仕方ありません。

困難なギルドのクエストを受けている事実が重要なんです。」

 

「おい、あんなクエストを受けて大丈夫なのか?」とヴェルフ。

「今まで発見されていないんですからあまり冒険者がいかない所に有るんでしょう。

春姫さんの力は見せることは出来ませんから必然的にそんな場所に行く必要があります。

注意深く見ていれば見つかる可能性は高いです。

また異端児たちに聞くのも有りだと思います。

それに存在が確認出来ていないなら一定時間が経過すれば降りても文句を言われないはず。

もっと私たちに合ったクエストが出て来て、それに変更ならば喜んで変更させてくれるはずです。」

その言葉に一同言葉もない。しばらくしてようやくヴェルフが言った。

「…やっぱりお前、頭良いな。」

「流石です!」春姫が感心した顔で言った。

「さあ行きますよ、まずはリヴィラへ。」

「おい情報収集は?」

「必要有りません。」と言ってダンジョンへ歩き出した。

 

リヴィラへ着いてまっすぐあの男のもとへ。

「な、なんだ。おめえらキチガイに用はねえぞ。」

「ボールズ様こちらには有りますよ。中層当たりで人があまりいない場所を教えてくれませんか?」

「なんで俺がそんな事を教えなくちゃならねえんだ。」

「私たちがやってる事は知ってますよね。近くに他のパーティーが居ると効率が悪くなります。

誰かさんの様に無様だとダンジョンが臭くなります。出来ればそれは避けたいので。」

「俺を脅すつもりか?」

「いえいえ、モンスターに会って失禁する様な無様な男にそんな価値はありませんよ。

ばれたら卑怯者としてリヴィラは元よりオラリオにも居られないでしょう。」

「……分かった。人があまり行かない所だな。ちょっと待ってろ。」

奥に引っ込んでしばらくして出てきて紙束を突き出していった。

「ほらよ、塗りつぶしていない所がそれた。用が済んだらもう帰ってくれ。」

「有難う御座います。」と言って立ち去った。

 

19階層に入ってしばらくしてからリリが言った。

「さすがにつけて来てはいない様ですね。良いものが手に入りました。

後で冒険者たちが集まるところを調べましょうか。」

「集まる場所とは?」と命。

「もらった地図の反対の場所です。冒険者はピクニックでダンジョンに来ている訳では有りません。

ですから冒険者が集まるのには訳があります。裏を取る必要がありますがお宝が有る可能性が高いです。」

「さすがです!リリ様」と春姫。ヴェルフはにやりと笑った。

「ですがまずはクエストです。経験値が稼げる場所と合わせて探しますよ。」

 

探し回ること数日、ついにそれらしい場所を探し当てた。

「あそこが怪しいです。」

「ですがあそこは…」と命。

 




このエピソードでリリ編も終了の予定、リリはどうなるのか?


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アーデ16

そこはまさに湖だった。中ほどに島がポツンとある。

よーく見ると木がまばらに生えていて微かに光っているようだ。

依頼品はホワイトリーフの変種、光るホワイトリーフだ。

おそらくあそこに有るんだろうが湖を渡ることが難しい。

湖は深く、水棲モンスターがいっぱいいる。

ヴェルフが服を乾かしながらぼやく。

「少し潜ってみたが底が見えねえ、おまけにモンスターがうじゃうじゃ居やがる。

ポセイドンの連中でも連れてこないと行くのは無理だ。」

「船を使えばどうでしょう。」と春姫。

「この地下へ持ってこれる船では耐久性に問題がある。体当たりで簡単に壊れてしまうぞ。

もし湖の真ん中で襲われたら全滅だ。」とヴェルフ。

「異端児の方たちに頼るしかありませんね。飛んで行けば何とかなるでしょう。」とリリ。

「……リリスケはモンスターに変身できるんだよな?」とヴェルフ。

「ええ、よく知っている物ならば出来ます。逆に知らなければ失敗しますが。」

「なら飛べる奴、ハーピィなんかに変身すれば飛べるのか?」

「分かりません。ですがリリの身体能力以上の事は無理ですよ。」

「だが前の時、鼻は良くなったんじゃないのか?モンスターの特性に引っ張られ部分も有るんだろ。

それに此の所ぐんぐん力をつけて来ているんだ。可能性は有ると思うぜ。」

「そうですね、ベル様が居られなくなってから急速に力を付けられました。

今のリリ様ならきっと出来ます。」と春姫。

その言葉にリリは湖に駆け出して、少し離れた場所に行き服を脱ぎだした。

「おいリリスケ、何を…」目をそらしながらヴェルフが言った。

全裸になりハーピィに変身してから言った。

「変身中には服装は自由になるんです。動きを制限する物は極力避けるべきでしょう。」

その姿は軽装鎧を身にまとっている様に見える。力強く羽ばたきを開始するとふわりと浮き上がった。

ただその羽ばたきが起こす風で、綺麗に畳んであった服は吹き飛ばされる。

浮き上がったは良いが飛ぶには苦労している様で低空をよたよたと飛んでいる。

だが次第にコツをつかんできたのか何とか飛べるようになった。

「では行きます!」と言ってリリは島へ飛んで行った。

他の皆はただ見ているしかできない。春姫は何かに向かって祈っているようだ。

時折リリ目がけてジャンプするので水中のモンスターは明らかに狙っている。

よたよたしながらもなんとか島にたどり着いた。

木が生えている所でしばらく何かをしていたが、慌てて戻ってくる。

モンスターに構わず最短距離で戻ってきて岸に降りると変身を解いて言った。

「やりました。おそらくこれです。」大喜びなリリ。

「ちょ、おま」と言って服を探しに飛び立った地点に走り出すヴェルフ。命がそれに続く。

「リリ様、裸、裸です。」そう言い慌てて春姫が駆け付ける。

リリは気付いてその場にしゃがみ込む。

「変身すれば服は自由なんですよね。でしたらご自分に変身すれば良いんではないでしょうか?」と春姫。

その言葉にリリは詠唱を始める。{あなたの傷は…}

だが変身できなかった。今まで失敗することは一度もなかった。

茫然としていると命が散らばった服を持ってきた。

命と春姫が服を着せている間も一言もしゃべらない。着終わってヴェルフを呼んだ。

「おいリリスケ、どうした?」

「それがリリ様は魔法に失敗したみたいなんです。」

「?どういう事だ。」

「変身する時服装は自由にできるという事でしたので、ご自身に変身していただこうと思ったんです。

ですが変身できず、失敗したみたいなんです。」と春姫。

「…そうです魔法に失敗しました。こんな事は今まで無かったのに。」

「魔法に失敗したという事は…」と命。

茫然としているリリは気付かないが、他の3人は同時にひらめく。

何故を繰り返すリリにヴェルフが代表して答えた。

「失敗したという事は知らないという事だ。

お前は色んな事を知っているが、自分の事は分かっていなかったんだよ。」

リリはその言葉にここ数か月の事を思い起こし言った。

「結局リリはリリの事が分からなかったんですね。そして知らないくせに自分を嫌っていた。

そんな必要は全く無かったのに。」

そしてさめざめと泣いた。

結局リリはダンジョン探索メンバーから外れることになった。

 




指揮者とはいえ30階層以下はレベル1では無理でしょう。
あのレベル3のレフィーヤでも何度も死にかかっている場所ですから。
これでリリも終了。おまけで少しあるかも。


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ククリ26

レフィーヤはアイシャが言った『オラリオに帰る』にショックを受けていた。

奴の秘密は不明なままだ。ただ飛び切りの変態でセクハラの塊だという事だけしか判っていない。

『英雄、色を好む』なのかもしれないが、これをアイズさんに伝えるわけにはいかない。

天真爛漫なアイスさんは奴に騙されてひどい目にあうだろう。(あくまでレフィーヤ目線)

だが奴の力は本物だ。特にあの魔法は変態にふさわしく反則級だ。

それは団長も認めている。確かにあの極彩色のモンスターには有効だろう。

ただ今まで見た限りにおいては特に成長している様には思えない。

セクハラされた時に追いかけまわしているが変わった感じがしない。

結局本来の目的、奴の成長の秘密は未だ分からずじまい。

このままでは不味い。だが現状では打つ手がない。

脳裏に怒っているリヴェリア様の顔が浮かぶ。

対して浮かぶアイズの顔は悲しげだ。

悶々とした気持ちで部屋に引きこもっている。

 

「クラネルさん」何度も何度も呼びかける。

「リ……さん……」かすかに聞こえた。

だが次の瞬間少し崩れる音がする。

「クラネルさんそこから離れてください。

風の流れが有りましたからどこかに繋がっているはずです。

他の出口を探してください。」大声で何度か呼び掛けた。

盾と片手剣を回収してエルフの子供に話しかけた。

「この穴について何か知らないか?」

悲しげに首を振って言った。

「知らない。大きなモンスターが居るから行くなと言われた。

だけど父なら知っているかも。」

それを聞いたリューは村へ戻ることにした。

 

村へ戻って洞窟の事をあの男に聞いた。

「その洞窟なら知っている。途中までなら行ったことが有る。

少し下った後ずっと上りになっている。

おそらく山頂近くに出口が有るんじゃないかと思う。」

「なぜ最後まで行かなかった。」

「途中で崖が有り断念した。だがお前達なら行けると思う。」

ここまで話していると村に残していたメンバーが駆け込んできた。

「ベ、ベル君は?」とエイナ。

「落ち着いてください、クラネルさんは無事です。」と言ってこれまでの経緯を告げる。

「お前さんだけ帰って来たと聞いて肝を冷やしたがそう言う事かい。

で、どうするつもりなんだい?」

「もう少し彼に話を聞いてもう一度あの山へ行こうと思っています。

必ずクラネルさんを探し出します。」

 

エイナはショックを受けていた。オラリオでは世話の焼ける弟と言う印象が依然強かった。

だが村での生活は当然ベルに一日の長以上のものがあった。

村での暮らしでその印象は自分と対等、いや頼もしいとすら思えるものになった。

それで旅に出てから以前のように心配することは無かったが、今回は久しぶりだ。

胸が熱くきゅんとする。そして何も出来ない事で更に心を揺さぶられた。

考えに考え、意を決してレフィーヤさんに会うことに。

「レフィーヤさん、お願いが有ります。」

「エイナさん何でしょうか?」

「ベル君を助けてほしいの。」

「何故ですか。あんな奴、手間をかける必要が有るんですか?」

「言いたい事が有るのは分かっています。ですがそこを曲げてお願いします。」

エイナは深々と頭を下げた。

 




漸く12巻読みました。
アイシャさん、春姫に渡したグリモアってもしかして24階層の…
フェルズさん、いくらクエスト依頼していないからってへスティアファミリアに報酬無しですか…
(リバース・ヴェール、水晶は遠征に持って行っていない。あれば助かっただろうに。)


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ククリ27

ベルは不意に目を覚ました。少しの間気絶していたらしい。

慌ててあたりを見渡すと、すぐ近くにククリが倒れていた。

その時リューさんの声に気が付いた。慌てて大声で叫び返した。

「リューさん、僕は無事です。」

その声に触発されたか洞窟がまた崩落し始めた。

慌ててククリを抱えて奥に逃げ込む。

幸いなことに小規模の崩落にとどまった。

僕は怪我一つしていない、どうやらまたククリに助けられたみたいだ。

ククリには休養も兼ねてナイフ形態に戻ってもらう。

こちら側からの脱出は不可能と判断して洞窟の奥に進む。

流石にダンジョンで慣れているので戸惑いは少ない。

壁にナイフで傷をつけ迷わないように慎重に進む。

少しの間下り坂だったがすぐに上り坂になっている。

しばらく上ると崖にたどり着いた。レベル3なので何とか登れる。

支道はいくつかあるが基本一本道の様だ。(メタ視点だと溶岩洞窟)

その間にさっきの事を考えていた。

ブラットサウルスはこちらの言葉に反応していない。(声には反応している。)

だから言葉に反応しないのは異端児ではない。

だから「うおーー、死にたくない奴は逃げろー」とでも叫べば判別できる事になる。

うおーーで音の反応を引き出して後の言葉の反応と区別する。

ただ問題は叫ぶことが出来るか、例えばモンスターを呼び込む事にならないか?

言葉で逃げてくれれば問題ないが、某エルフの様に激昂する場合はどうするのか?

またリドさんたちの様に引けない事情があった場合は?

また考えることは多い。

 

探索しながら進む。崖を超えたころから支道の長さが長くなった。

そして行き止まりにはモンスターがいた。ただ何かに怯えている様に思えた。

言葉には反応していないので仕方なく倒してしまう。

後ろからやられる訳にはいかないから。

考えながら歩いているといきなり視界が開けた。

どうやらかなりの距離を進んで広い空間にたどり着いたようだ。

入り口付近でその内部を慎重に観察する。

高い天井には穴が有り光が差し込んできている。

あれが外に通じているようだが上るのは骨が折れそうだ。

仕方なく周囲を見渡した。

部分的に光が入っているのでコントラストが大きく、影の部分ははっきりしない。

まずは光が当たっている所を調べる。

慎重に見ていてそれを見つける。

モンスターの爪や牙が所々に有る。何かの巣かもしれないな。

ただ今の所、気配は特に感じない。だが油断せずに慎重に調べる。

よく見ると影になっている所は崩れているようだ。

慎重に影の領域に近づいていく。

だんだん目が闇に慣れていき、ついにそれを見つけた。

 

 




少し短いですがキリがいいのでここまでにします。

原作を読んでいますが、ヴェルフ君はベルのリクエストに応えていませんね。
今までベルが自身で要求したのは、初めて工房を訪れた時の売れ残りの大剣のみ。
魔剣をリクエストされるかもと思っていたのにまさか売れ残りを、非常に強い印象があったはず。
ミノたんも8巻の小太刀も12巻の短剣も、言うなればヴェルフの勝手だ。
初めてのダンジョンからあの18階層への逃避行まで売れ残りの大剣を上手に使いこなしていた。
真直で見ていた黒のゴライアス、アステリオスは出所不明の大剣でやり合っていた。
これらは強烈な印象をヴェルフに与えたはず。ベルは大剣使いとの刷り込みが有っただろうに。
なのに何故か大剣を作らない。不思議ですね。


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ククリ28

何か大きな物が地面にうずくまっている。

こちらが気が付いた事を悟ったかうなり声を上げ威嚇を始めた。

ナイフを構えてにらみ合いになった。

不意にナイフが熱を持ったように感じた。

思わず「お前は何だ。」とククリのように叫んでいた。

すると何かは唸るのを止めた。

「しゃべった。…うなり声には思えん。」こう呟いた。

ベルはその言葉に驚いて問うた。

「もしかしてゼノス(異端児)ですか?」

「本当なのか、…すまない、その言葉は知らない。本当にお前は言葉を理解できるんだな。」

「僕はベルと言います。あなたの名前は?」

「話が通じるみたいだな。だが済まない、名前とは何だ?」

「他と区別するための物です。一人一人別に持つ呼び名です。」

「ずっと一人だった。だからそんな物は無い、必要無かったからな。」

ここでようやくベルの目が慣れ対峙する者が分かった。

ワイバーンの様だ、ただ翼が岩に挟まれて身動きできないでいる。

「どうしたんですかその翼。」

「わからない。目覚めたらこうなっていた。自分で暴れたんだろうか、と思っている。」

「『思っている』って?」

「最近、目覚めると狩った覚えのない獲物が有ったりする事が有る。

長く生きてきたがこんな事は初めてだ。」

「どのくらい長く生きているんですか?」

だが回答は要領を得なかった。どうやら1日の概念では動いていないらしい。

普段は寝ていて腹が減ったら起きて狩りをする、そんな暮らしだそうだ。

「ここで生まれたんですか?」

「いや、少し離れた所の深い深い穴の奥だ。」

様子を聞くとやはりオラリオのダンジョンの様だ。

だけどあそこから出てきたのなら大騒ぎになっているはず。

そう思って聞いてみると、どうやら黒竜が出てきた時らしい。

それを基準とすると50年以上生きている計算に、もしかすると100年かもしれない。

「とりあえず岩をどかしますね。」いきなり襲ってくることは無いだろうと判断して言った。

「済まない、妙な所が挟まったのと、腹が減って力が出なかったんだよ。」

その言葉を聞いて慌てて坑道に引き返し、倒したモンスターを持ってきた。

それらを食べると今度はベルの事を聞いてきた。

だがここでも良く解らない様だった。親と言う概念が無いから祖父は何の事か不明だ。

食べ物も植物を育てる事も何の事だか解らない様だった。

だが熱心に話を聞いていた。ただしダンジョンの事では少し話が盛り上がった。

話を進めるとやはりリドさん達とは会っていない様だ。

 

ひとしきり話をしているとぽつりと一言漏らした

「傷の直りが遅い、治っていればお前を外に運んでやろうと思ったんだが。

そろそろ眠くなってきたよ。今回は本当に楽しかった、次回が有れば良いんだが。」

その一言でベルは当初の目的を思い出した。

別れを告げて壁を見つめる。登攀ルートを見つける為だ。

若干オーバーハング気味だが、チョッカイをかけて来るのがいなければ大丈夫。

レベル3は伊達じゃ無い、するすると壁をよじ登っていく。

その時何かが天井の穴から落ちてきた。

 



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ククリ29

ちょうどワイバーンの真正面に落ちたそれは瞬時に殺気を纏う。

それに呼応してワイバーンも戦闘態勢になる。

丁度オーバーハングに取り付いていたベルはその展開についていけない。

天井からの光が地面に反射してディテールがハッキリしない。

人の様だがすっぽりとフードをかぶっているみたいに見える。

声がする、だが洞窟内の反響が酷く辛うじて内容が分かるだけだ。

「翼が折れてますね、時間が有りません、最速で行きます。」

落ちてきた者はまっすぐに突っ込む。それに対しワイバーンはしっぽの一振りで対抗。

真っ向からの激突、結果は痛み分けに終わった。

「この力、原種が。何故こんな所に。」

ワイバーンは岩陰に隠れる。

上から見ていると両者円を描きながら近づいている様だ。

だがワイバーンの方は相手を捉えているが、もう片方はそうではない様。

地の利が効いている。動いている内にようやく相手が判別する。

リューさんだった。この時ワイバーンはリューを射程に捉えていた。

思わずベルは叫んだ。「リューさん危ないー」

だがそれは逆効果だった。リューは声の主を探し、注意をそらしてしまった。

体当たりをまともに受け、地面を何度もバウンドする。。

噛み千切られなかったのは腹が空いていなかったせいだろう。

慌てて飛び降り、大声を出して注意を引く。チラッとリューを見るが動かない。

「待って、止まって、話を聞いて。」

だがさっきとは違い返事を返さない。近づこうとすると威嚇してくる。

何度も呼びかけるがさっきの様な返事を返してこない。

騙されたのかと思ったが、今の動きはでたらめで狡賢さを感じない。

そこで最後の話を思い出した。おそらく意識を失っているんだろう。

理性を失っているせいか何とか躱せる、ただし躱せるだけた。

傷を負わせて強制的に目覚めさせる事も考えたがナイフではリーチが足りない。

そもそも翼や尾が折れているのに目が覚めないんだから相当大きな衝撃が必要だろう。

実際、隙をついて反撃しているがさしたる反応はない。

リューさんの様子も気になる。ちらっと見ると、その隙をついて頭突きをしてくる。

流石にさっき見た攻撃だ、最小の動きで躱し首に飛びつく。

耳の近くで大声で呼びかける。何度も何度も。

だが五月蠅そうに首を激しく振るだけだ。その時ベルは頭に不自然なこぶが有ることに気が付く。

不意に体を大きく振り回した。流石に対処できずに首から手を放してしまう。

ベルは慌てて何かにしがみつこうとする。幸い背中の突起に手が届いた。

今度は振り落とされないようにしっかりしがみつく。

しばらくでたらめに暴れていたが、ベルを見失ったみたいで体の動きを止める。

そして周囲を見渡していたがある一点を見つめて攻撃態勢をとった。

リューを狙っている。そう感じたベルは苦渋の決断をする。

チャージする暇はない。ヘスティアナイフを背中に刺しマインドをありったけ込め叫んだ。

{ファイアボルトーー}ククリの魔力増幅もあり大爆発の後ゆっくりと倒れる。

慌てて飛び降りリューさんへ駆け寄る。状態を確認すると多少弱いながら呼吸している。

しっぽにやられた左側の傷が酷い、特に腕は折れている様だ。

右手は地面を掴み止めようとしたみたいで擦り傷が酷い。

ただ背中は盾で守られて目立つ傷は無いみたいだ。

盾の中にはポーションときれいな布が有った。

おそらく僕が怪我をしている事を想定していたんだろうと思う。

だけどポーションは1本を除きすべて割れて中身は布に浸み込んでいる。

左腕に添え木をし強く固定、全体に擦り傷の多い右手は布でぐるぐる巻きにする。

ここでリューさんの鳩尾に血が滲んでいる事に気が付く。

ベルはそれを見て悩んだ。残ったポーションを振りかけるかどうかを。

最後の頭突きでできた傷だろう、内臓がやられている可能性が有る。

振りかければ外傷は治るが、内臓は治らない。

だが布で治療するには鎧を脱がす必要がある。

悩んだ末、安全策を取り鎧を脱がし治療することにする。

皮の軽装鎧の下は鎧下代わりの分厚いシャツのみだ。

シャツを上に大きくずらし(分厚いためすぐに落ちてくる)、なるべく胸を見ないようにして布を巻く。

一通り治療を終えると声が聞こえてきた。

 




フィンさん40歳か、という事はゼウスファミリアを追い出した時は15年前で25歳。
おまけにロキの初めてのファミリア。25歳でオラリオNo2に伸し上がるとは凄過ぎます。
このころどのくらいのレベルだったのかな。最速レコードは持っていないみたいだけれど。
レベル2へが2年、レベル3へが3年(レフィーヤが2年で早いとロキに言われていた)
レベル4へは5年ぐらいか?(当然外の世界だとさらに掛かる)
何歳ぐらいで入団したのかな?
この頃すでにガレスやリヴェリアと知り合っているから、それなりに大人のはずなんだけど。
そしてガレス、リヴェリアを差し置いて団長なんだから…
(もしかして鯖……)


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ククリ30

「ん、おーい。おーい。」

ベルが気が付いて駆け寄っていく。

「確かベルと言ったか。久しぶりなのかな?」

「それが…」ベルは涙をこらえて事情を話した。

彼はそれを静かに聞いていた。

「ごめんなさい。謝ってすむ話では無いかもしれないけれど、ごめんなさい。」

「いや、あやまらなければならんのはこっちの方だ。

ベルと話していた時に気づいたが、どうやらこうしていられる時間は実はもうほとんど無いんだろう。

訳が判らない時間が増えて来ていた。おそらく後一回か二回で終わりだったろう。

ベルの話だとするとあの穴倉の連中と同じになったんだろう、それはもはや別の物だ。

だから別れる時、もう会うことは無いと思ったからああ言ったんだ。」

「でも…」ベルは苦渋を滲ませて言った。

「それに攻撃して迷惑をかけたのはこっちだ、それに長年の望みもようやく叶った。」

「あなたの望みとは?」

「言ったはずだが、ずっと一人だったと。だから望みは誰かと語り合うことだ。

今が正にそれだ。最後に望みが叶うとは運が良い、ベル、本当に感謝する。」

それだけ言うと静かに目を閉じた。やがて体は灰となって消えた。

ベルはそれを悲しげに見ていた。泣くのは違うと思ったから。

どのぐらいそうしていたのか分からなかったが、その内にリューが目覚めた。

「こ、ここは?」

「あ、気が付きましたか。ポーションです、飲めますか?」慌てて近づき体を起こしていった。

ベルはリューがポーションを飲み終えるのを確認した後、優しく地面に横たえる。

リューの状態が安定するのを見守った。

やがて状態が安定したのかリューがベルに言った、やや顔を赤らめながら。

「治療してくれてありがとう。で、これからの事なんだが、まず私の服装を整えてくれないか?

今の私は腕が動かせない、さすがにこのままでは少々恥ずかしい。」

鳩尾に布を巻いた所で話しかけられたから、リューの服ははだけたままだった。

慌てて直そうとするがしっかり見れないので時間がかかってしまった。

気まずい雰囲気の中、強引に話題を変えるべくリューが言った。

「この腕ではノアヒールが使えない。早く村へ帰るのが良いだろう。

私が下りてきたロープが有る。まずは外に運んでくれないか?」

リューさんが持ってきた片手剣を装備して、優しくリューさんを盾の中に。

ロープを伝い外に出ると、すでに日は傾いている。

「どうしますか?村へ着く前に夜になってしまいますよ。」

「…仕方ない、あのエルフの家に行こう。」

途中傷薬になる草や食べ物を採取しながら向かう。

比較的マシなベットを借り、シーツやカーテンなどの残骸から新しい包帯を作った。

家は壊れているのでベルはベットの傍らで寝ずの番をした。ただリューが漏らした一言が気になった。

「よく見ると暮らしは森のエルフらしく有りませんね。彼らも町から流れてきたんでしょうか?」

 

次の日の早朝出発し昼前に村にたどり着く。

すぐさまエイナ達にベットに追いやられた。

寝不足の酷い顔をしていたんだろう。

決して包帯を替える時に何度も見たリューさんの裸で眠れずギラギラしていたとは思われてはいないはずだ。

夕方、ようやく起きだして顔を洗いに外へ出る。

入り口のドア前でばったりとレフィーヤさんに会う。

レフィーヤさんは服はボロボロ、相当くたびれているようだ。

だがランランと光るまなざしと西日に発光するあの杖がプレッシャーを与えてくる。

その権幕にベルはドアの前まで後退、すかさずレフィーヤは鼻が触れるほど近づき目線を合わせてくる。

いわゆるガンを付けるというやつだ。ジト目のレフィーヤが正に何か言おうとした時、勢いよくドアが開く。

「おーいベル、起きたんなら話がある。早めに戻ってこーい。」アイシャだ。

言い終わってから気が付く。もつれあう二人を見て、無言でドアを閉める。

その日はいつもより激しく少し長かった。遂にあの杖が壊れるほどに。

 

 



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ククリ31

レフィーヤはあの山のモンスターは粗方退治したと報告してベットで爆睡中だ。

そのことにベルは感心したが、他の人達の思いは一つだった。

「迷ったな。」「迷ったんだろうな。」「迷ったんでしょうね。」

 

村長とエルフの家族を交えて結果を報告する。

「という訳であの山のモンスターが原因だろう。退治したからもう安心のはずだ。」とリュー。

「分かりました、ありがとうございます。」と村長。

「で、どうするのか決めたのかい。」とベルを見ながらアイシャが言った。

エルフの男はそこ言葉に居住まいを正した。

「それなんですが、その前に聞きたいことが有るんですが。」とベル。

「聞きたいこととはなんだ。」

「なんであなたたちはあそこにいたんですか。たった一家族だけで。

なぜあなたは共通語が話せるんですか?あの家は都会暮らしが染みついているみたいですね。」

「……それは話せない。たとえ殺されようとも。」

「それは娘さんと引き換えにしてもですか?僕はその答えを貴男の娘さんと交換に要求します。」

「そういう事かい、ならあたしは出ていくよ。」とアイシャ。

エイナと村長もそれに続く。

「私はここに残ろう。込み入った話になりそうだ、通訳は必要だろう。」とリュー。

「だが…」

「わしが見届けよう。これからの事はここに居る物だけの秘密じゃ。

それともおぬしの抱える秘密とやらは娘より重要なのか?」と神。

「……わかった。だが何から話そうか。」

「だったらなぜこの場所に住んでいるんですか?一家族だけで。」

「ここが俺の故郷だからだ。」

「昔に村を飛び出して、里心が付き舞い戻ったという事ですか。こんな少人数では無茶でしょう。」とリュー。

「違う。初めから話そう。ここの先今は黒い谷に俺の故郷の村は有った。

そこで俺は前族長の孫だった。つまり次期族長候補の一人だった。」

緊張の糸が切れたように男はラキアとエルフの始まりの物語を語りだした。

「あの当時俺は族長候補と言っても主流からは外れていた。叔父が当時族長だったからな。

そしてある時人間が村を訪ねてきた。酷い訛りの通訳を連れて。

奴らの目的は100人規模の人間をここへ滞在させろという事だった。

村の男たちを超える人数、当然断った。だが彼らは力を誇示し脅してきた。

だがそれでも我々は断った。すると不思議なことを聞いてきた。」

ここで男は考え込んだ。リューがエルフ語で話しかける。しばらく話し合っていたがやがてリューが言った。

「分かりましたクラネルさん。ここでラキアと認識の齟齬が出ました。覚えていますか、領域の話を。

ラキア軍はエルフの森の外に夜営をするつもりだったようです。

だけどそんな物は有りません。ただ困ったことに似たものは有りました。

ここのエルフは亡くなると森の外に木を植えます。分かりやすく言うと墓標ですね。

その木が自然に枯れるとその人は村に帰ってくるそのように考えでの様ですね。

その木の生えている場所はエルフの森とは違います。」

「…まさか、ラキアの人達は…」

「その通りです。ラキア軍はそこで夜営をし、おそらく攻城兵器などを作ったのでしょう。」

「我々が気付いたときはすでに手遅れだった。奴らは去った後だった。」男が続けて言った。

「当然我々は怒った。悲しみに暮れていると奴らが同じ場所で宴会を開いていると知らせが有った。

当時の族長は奴らの力を恐れ、話し合おうとしていたが村のみんなは報復を望んだ。

俺が先頭に立ち族長に直談判をし復讐することになった。

だが奴らの力は侮れない。魔法で奇襲をかけて襲い掛かった。」

「神聖な場所で戦ったんですか?」とベル。

「すでに修復不可能なほどだった。奴らの血で贖ってもらうのが総意だった。

俺は先頭に立ち勇敢に戦った。だが奴らは強かった、ついに傷を受け戦えなくなった俺は族長に言われ後方に下がった。

族長の座を狙っていた俺は、戦場に復帰するため薬草を求め妻とともに近くの山へ向かった。

その時だ、大きな力を感じとっさに妻をかばい地に伏せた。次に気が付いたのは何日も後の事だ。」

あまりの事にベルは唖然としている。男の告白は続いた。

「気づいた場所は村から離れた備蓄倉庫だった。妻が運んでくれて看病していたんだ。

動ける様になると、村の生き残りを求め何日もあたりを探し回った。

が、誰もいなかった。逃げ延びた者が帰ってくるかもと、一年ほど留まったが誰も帰らなかった。

それで仕方なく近隣のエルフの村へ行った。驚く事に荒れ果て誰もいなかった。

いくつか回ったが変わらず、途中人間の町にも立ち寄ったが言葉が通じず石を投げられたよ。

当てもなくさまよっていた俺たちはある集団と合流する事になった。」

「その集団とは?」とベル。

またリューと話し合いになり、リューが答えた。

「どうやら反ラキア連合の戦力としてスカウトされたようです。共通語はそこで覚えたみたいですね。

それと同時に自分達のやった事の結果を知ることになりました。」ここでリューは言葉を区切った。

「村での事を教訓としてラキアは近隣のエルフに絶対服従を要求、聞き入れられなければ容赦なく滅ぼしました。

村での戦いで将軍をはじめ上の者はみんな打ち取られました。生き残った兵士たちは魔剣をもって逃亡。

ラキアの面子は丸つぶれです。それを隠すためにも強硬策に出たようです。」

「俺はその事が恐ろしくなった。やがてラキアが崩壊してもしばらくあたりをフラフラとしていた。

負い目が有るせいか一所にはとどまることが出来なかった。それで妻と相談して故郷へ戻ることにした。

その時にはすでにこの村は出来ていた。だから見つからない様にあの場所に住む事にした。」

「良く解りました。辛い事を話していただきありがとうございます。この事は誰にもしゃべりませんから。」

 




12巻と設定が掠っている気がするがこの程度は大丈夫だ、問題ない。
こっちはオリジナルですから。

いよいよ村でのエピソードも終わり、オラリオへ。


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オラリオへ

アイシャの言葉通り数日後、神ヘルメスから帰還命令が出た。

村のみんなにお別れを告げてオラリオへ帰る。

あのエルフたちは今までのお礼に村でしばらく面倒を見てくれるらしい。

行きと同じく背中にエイナを乗せて行く。ベルの背中でエイナは何だかハイテンションだ。

指定の日付に合わせて比較的のんびり旅をする。

最後の行程は街道を使った。門を通過するのに余計なトラブルを避けるためだ。

だだし周囲に旅人の姿はない。

見るからに異様な女だらけの高レベルパーティ、旅人たちからはしっかり距離を取られていた。

漸く遠くにオラリオの門が見えてきた。

このタイミングでアイシャはベルをいきなり抱きしめた。

豊満な胸の感覚にベルは赤面するが、リューが鋭く打ち込んでくる。

アイシャはベルごと飛びすさって言った。

「あたし達はここで暫しのお別れだ。リュー、あんたの通門手続きは別に用意してある。」

アイシャとリューはわき道にそれて行った。

アマゾネスの過激な別れの挨拶が終わり、そしていきなり離されたククリはもう離されまいとベルの左手に腕を絡ませた。

これらを見ていたレフィーヤが近づいてきて耳元で囁く。

「この旅での事はすべて忘れなさい。」と、とびっきりの笑顔で鋭く脅迫してきた。

ベルは硬直し、真顔で何度も頷く。

その後、エイナにほっぺをつつかれたりして一連の事をからかわれていた。

門にたどり着くと2組出迎えがいる。

1組は言うまでもなくヘスティアファミリアだ。

一番最初に気づいたリリがベルのもとへ駆け込んでくる。

それを見てエイナがレフィーヤを連れて緊急離脱する。

「ベル君、私は通門手続きをしてくるわね。」と言い残して。

「ベル様、そのアマゾネスとはどういう関係でしょうか。」

ククリは皮のビキニを着ている。ボリューム不足だが恰好から見るとアマゾネスだ。

春姫と命も頷いている。ヴェルフは少々あきれ顔だ。

女性陣の迫力にタジタジになっているとヘスティアがようやく追いついてきた。

しばらく息を整えていたがククリを指さして言った。

「ベル君、それは何だい。またまた変なものを拾って来たのかい?」

他のみんなは唖然とする中、ベルはマントをかけてククリの体を隠し、指で髪をツインテールにした。

それを見た女性陣は言葉が出ない、しばらくしてヴェルフがようやくつぶやいた。

「ヘスティア様?」

このタイミングを見計らったかの様にエイナが来て言った。

「手続きが終わりました。さあオラリオに入りましょう。」

ちなみにヘスティアは、『僕の認識は胸とツインテールなのかい。』とつぶやいていた。

 

もう一組、それはロキファミリア。具体的にはリヴェリアとアイズだ。

レフィーヤは気が付いていないが共にレベル6、さっきのベルたちのじゃれ合いは、ばっちり目撃されている。

「ほほう。アマゾネスに抱きつかれるとは。

また別のアマゾネスか。子供のくせにやるな。

ん、あれはレフィーヤか?ずいぶん仲良くなったと見える。

これなら彼と繋ぎは出来たと見て良いのかな。最低限は確保したか。」とリヴェリアはつぶやいた。

当然ながら状況が見えるだけで声は聞こえない。

アイズはそれを静かに見ていた。同行する条件に大人しくする事と釘を刺されたからだ。

レフィーヤが無事なのをほっとするも、ベルには次々と女性が絡んでいる。

なんだか心がもやもやする。本来ならあっちに居たはずだからなおさらそう思うんだろう。

レフィーヤはゆっくりと近づいてくる。

「レフィーヤ、話は帰ってからゆっくりと聞こう。まずは良く無事に帰ってきた。」

「お帰り、レフィーヤ。」

「ただいまです、アイズさん。」ばつの悪そうな表情でレフィーヤは言った。

 

一行がオラリオに入るとそこには神ロキがいた。

つかつかとベルに近づいてきた。思わずヘスティア以外はベルを残して距離を取った。

ベルに話しかけるとヘスティアと口論になり、二柱で近くの路地裏へ消えて行った。

「アイズ、ロキの事は頼んだ。我々は先に帰る。」と言ってリヴェリア達はホームへ帰っていった。

そのタイミングを見計らった様に神ヘルメスがベルに近づいた。

「やあ、ベル君元気そうで何よりだ。…どうかしたのかい?」

ロキとの会話でダイダロス通りでの事を思い出したベルは、うつむいて何も答えない。

「じゃあ俺とダイダロス通りへ行ってみないかい。現状を知るのは必要だと思うぜ。」すべてを見透かした様に言う。

「…はい、お願いします。」

「それじゃベル君を借りてくよ。後でホームへ送り届けるから。」ヘルメスはベルを連れて歩き出した。

知らないそして非常に癖のありそうな二柱の神の相次ぐ登場で、エイナの後ろに隠れていたククリはベルについていく。

「ベル様、その子について聞きたい事が…」とリリ。

「ごめんリリ、エイナさんに聞いて。」

「えー、ベル君私を都合のいい女にしないで~。」

実際の所、ずっとベルはアイズの視線を感じていた。

だけど何を話せばいいのか分からなかったし、話しかけても来なかった。

アイシャさんの別れの挨拶も見られているんだろう。

状況を知らないと痴話げんかのように見える内容。

そして『都合のいい女』発言に強まる視線、どうか誤解しませんようにベルは祈った。

 




いよいよアナザー11へ、私の思いは伝わるのか?
それ以前に読者は付いて来ているんだろうか?(爆)


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アナザー11

レフィーヤの無事を確認したアイズはベルを目線で追っていた。

リヴェリアから同行を許可された時の条件がベルに絡まない事だった為だ。

ベルに絡むとトンデモナイ事をすると認識されたんだろう。

だがベルの事はしっかりその目でその耳で追っている。

ベルのこれまでの行動は、ティオネ達の話、いわゆるガールズトークによるとハーレムという状態の様だ。

水浴びを覗いたお騒がせな神ヘルメスと話している、どうやらダイダロス通りへ行くらしい。

『都合のいい女』と言う言葉が聞こえてきた。思わずベルを睨んだ。

話によるとこの言葉を投げかけられた男は不良だそうだ。『ベルって不良なの!』

神ヘルメスと付き合っているせいなのかもしれない。

地味にショックを受けているとロキが路地裏から出て来てホームへ帰ると言った。

ベルについていきたい気持ちもあったが言いつけ通りにロキと帰る。

 

ヘルメスはベルを連れてダイダロス通りへ、所々で解説しながら案内している。

「見ての通り3か月ほども経ったけれど、ほとんど復旧していない。

壊す予定の場所も規制線が張られているままさ。」

「何故です?」

「いろいろ有るが、一番はここの連中に金がない事かな。」

ベルは歩く、時に遠回りするかの様に。神ヘルメスに誘導されているので不思議に思いながらもそのままだ。

視線を感じる、だがそっちを向くと目をそらされる。少なくとも歓迎はされていない。

それでも前を向いて進む。己がやった事だ。さりげなく周囲の状況を観察していく。

その時視界に見知った人影を見つける。

あたりを見回すと丁度近くまで来ていた。ヘルメスにベルは言った。

「あの、僕ちょっと寄りたい所が有るんですが良いですか?」

 

上手くベル君をダイダロス通りへ誘導できた。ここで俺の目的は2つ。

先ずは現状での彼の評判の確認だ、ペナルティを与えて3か月の間を置いた。

どれだけ評価が挽回できているか、目安としては最低でもニュートラルだ。

あのフレイヤ様に直談判してようやく勝ち取った時間だ、それぐらいでないと割に合わない。

だが結果は想定以下だ、もう少し緩和できると見込んでいたんだがな。

もう一つはフレイヤ様への帰還報告だ。顔見せは順調、こちらは上手く行きそうだ。

ただこっちはもうしばらくかかりそうだ。

少し暇になったんで目の前のこれについて検証してみる。

アイシャからは報告を受けている。こっちでも調べた。

3柱の女神の合作、しかも分担が奇跡のバランスを支え結実している。

ただ3柱ともに知っている俺は微弱な神威でそのバランスを崩している。

目の前でぼーっとしているこれはずっと彼の力になるだろう。

おっと考え込んでいる間に厄介な相手が来たみたいだ、ロキの斥候は避けていたんだが。

核心に触れるタイミングを見計らって声をかけ救い出す。

ベル君に現実を理解させてからホームへ帰す。さて今日の夜にでも。

 

「フレイヤ様。」と言ってオッタルが部屋に入って来た。

「何かあったの?」

「例の物に動きが有ります。」

「やっぱり戻ってきたことを感じているのね。もう凍らせておく必要は無いわ。」

「承知しました。」

「あとは任せるわ、オッタル。」一礼して出て行った。

「3か月ぶりに見たあの子、変わらない白い光。いや、少し芯が出来たって感じかしら。

これからの事は私にも見通せない。ふふふ、楽しみだわ。」

 

ホームへ帰ったアイズはロキと共にフィンのもとへ行った。

丁度レフィーヤが部屋から出ていくところだった。

「レフィーヤ。」アイズが声を掛けるが下を向いて足早に立ち去ろうとする。

再度声をかけようとするがリヴェリアから待ったがかかる。

「アイズ、レフィーヤは独房入りで謹慎だ。」レフィーヤは部屋から出ていく。

フィンとリヴェリアはタメ息をつき、やれやれと言った顔をしている。

「アイズ、彼はホームへ帰ったのかい。」とフィン。

「ダイダロス通りへ行くと言っていました。」

「なら彼に会ってくるよ、二人っきりで話してみようと思うんだ。

それと幹部を集めておいてくれないか。」親指を見つめて言った。

 




ベルとフィンの話、気になった方は原作11巻を。(買ってあげてね。)
これでセーフ(何が)。


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アナザー11その2

エイナはククリの事を一通り説明したが、納得させることは出来なかった。

らちが明かないと思い半ば強引に帰る事にした。

家に帰ると、女性の犬人が待っていた。

「あのー、ベル・クラネル氏のアドバイザーに方ですよね。」

「はい、ですがどなたですか?」

「ああ、ヘルメス様の使いです。先ほどクラネル氏のホームに行ったんですが留守だったんですよ。」

「で、何か用なんですか?」

「これを彼に渡してほしいんです。」と言ってブレスレットを渡す。

「???」可愛くエイナは首をかしげる。そのしぐさに犬人は微笑んで再び話し出した。

「ヘルメス様はプレゼントにするって言ってたみたいだよ。」

突然くだけた口調になった。こっちが地なんだろうとエイナは思った。

「そうですか。」

「でもそれ、あんたに似合いそうだね。ちょっと着けてみてよ。」

「え、でも…」

「着けてみるだけだって。ほらほら」

言われて着けてみる。自分の目で見ても似合っている様に思えてきた。

「うん似合ってるね、失くすといけないからそのまま着けておいてよ。」

紫の輝きに魅了されながら何故かエイナはそれを受け入れた。

 

ホームに帰ったベルを有無を言わさず自室に引っ張り込んだ。

「さあベル君、まずはステータス更新といこうじゃないか。」

ベルはシャツを脱ぎベットに横たわる。

ククリは遅れて部屋に入って来てベルとヘスティアのやってる事を見ている。

ヘスティアは更新用紙を見てにやけて言った。

「やあベル君、今回はあんまり伸びてないねー。久々にのんびり出来たみたいだね。

やっぱりオラリオ外だとこんなモンかな。」

ヘスティアは剣姫と離れた効果が出たことに内心ほくそ笑む。

ベルは、ははっと空笑いをしているが、内心色々あった(撲殺妖精にぼこぼこにされた)なーと思っていた。

だけどあれは実戦ではなく、まして訓練でもないから、ステータスに反映されなかったんだと思った。

ククリが聞いて来た。「何してるの?」と。

「ステータス更新だよ。」

「ステータスって?」

「神様からの贈り物だよ。」

「それならククリにも有る。」

ヘスティアはククリの言葉にヘファイストスの言葉を思い出していた。

『ステータスが発生している、生きている、子供たちと同じ、経験値を糧に進化する。』

何かを掴めそうになった時、リリが外から声をかける。

「ヘスティア様、未だでしょうか?」

「今終わったよ。」と言って部屋を出た。

この後ククリについての話になったが、誰も納得せずナイフ形態になることでようやく落ち着いた。

穿いていたビキニを器用に折りたたんで鞘にして収納する。今日は人型に戻るのは無理そうだった。

 

その夜、異端児たちの隠れ家では。

「そろそろ時間だ。」とフェルズ。

ここに居る異端児たちはだいぶ少なくなっていた。

はぐれた仲間の捜索がメインになったため、冒険者の目を誤魔化せる飛行できるものがほとんどだ。

後はリヴィラの再建資材に紛れてダンジョンに帰っている。

鍵はリドがクノッソスに残った仲間を救出するため持って行った。

今残っているのは、グロスとその親派(紅鷲、閃燕、巨大蜂)と抑え役のレイそしてフィアとレットのコンビ。

グロスはここの守り、あとは2班に分かれて交互に仲間の捜索をしている。

今日はレイ、フィア、レットの番だ、あちこちに異端児だけしか判らない印がつけて有りそれを見回っている。

残るはアルルとヘルガ、そしてアステリオスだけだ。アルルとヘルガは小さいから生き延びている可能性はある。

そう言ってグロスは捜索を止めようとはしない。そしてウィーネも自分が守ると言い張っている。

ダイダロス通りへの通路を開けていざ出発という時、赤い何かがグロスの尾に飛んできた。

 




ヘスティアは何に気づきかけたのか。
鍛冶神がナイフとして注文を受け、ナイフと名付けた物、武器としてナイフ以外あり得ないーー。(謎)


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アナザー11その3

紅の何かはグロスの尾に刺さる。その痛みに反射的に尾を振った。

その拍子にその何かは抜けて今度はウィーネ突き刺さった。

するとウィーネがはもがき苦しみ、空いている連絡口から外へ出てしまった。

すぐにフィアとレットが後を追う。続けてレイが追おうとするがフェルズに呼び止められる。

フェルズは何かを手渡し小声で指示を出した。レイはその言葉に頷き、急いで後を追った。

フェルズは紅色の何かが飛んできた、見た目何もない方向を見つめながら言った。

「そろそろ出てきたらどうだね。」だが返事はない。

「この場所を知っているのはごく少数だ。それに神ヘスティア達にはそんな物を作り出すことは出来ない。」

「ご慧眼、恐れ入るね。」アスフィーに守られながら神ヘルメスが姿を現す。

 

ベルの受けたクエストは神ヘルメスからの物だ。

守秘義務がどこまで及ぶのかは不明だ。

激しい議論の後、それを確認するまで細かな話をする事は止めておこうという事になった。

その為、今度はリリ達の状況をベルに報告することにした。

不懐属性の片手剣と盾はメンテの準備のため工房に。

その最中、ヘスティアの部屋からけたたましい音がし始めた。

慌てて駆けつける。するとフェルズの置いて行った箱の一つの蓋が開き音を立てている、

中を覗くと一冊の本と折りたたんだ大きな紙が入っている。

ヘスティアが本を取り出すと音が止んだ。その本を読み終えると別の箱が開いた。

「どうやらウィーネ君が逃げ出したみたいだ。」ヘスティアの言葉に一同騒然とする。

「どういう事ですか?」とリリ。

「フェルズ君はいくつか危機的状況を予測して対策を講じていたんだよ。

この箱はその予想の内、ウィーネが隠れ家から飛び出した時の為の物だね。」

「この上、更に面倒をかけるんですか。」リリはうんざりした口調で言った。

「いやフェルズ君からのお願いは裏方だよ。捜索隊への指示と時間稼ぎだ。

それを踏まえて皆に問おう、彼らを助けるのか?」

「リリスケ諦めろ。ベルの事は分かっているんだろう。」とヴェルフ。

「…リリはそれでも反対です。折角評判が持ち直してきたところなんですから。」

「リリスケ、悪者になる必要はねえ。で、ヘスティア様、俺たちは何をすれば良いんだ。」

リリはぷいっと横を向いた。

「ちょっと待ってくれ。」ヘスティアは箱の中の物を取り出し何か操作をした。

「どうやらウィーネ君はダイダロス通りの地下に居るらしい。ここじゃ遠すぎるからまずは移動しよう。」

ダイダロス通りと聞いてベルが言った。

「あそこにはロキファミリアが陣取っています。彼らはどう動くと思いますか?」

「…一応ある程度は事前に調べて有ります。リリと命様とで現状を確認してきます。」

他の箱に入っていた本を読んでいたヘスティアがマントと水晶を全員に渡して言った。

「これでどこでも連絡できるし、姿を隠して行動できるぜ。」親指を立てて言った。

 

少し前にさかのぼる。ロキファミリアのホームへ招集がかかった、俺は急いで向かう。

フィンを除く幹部が集まっている。レフィーヤは帰ってきたはずだがホームでは見なかった。

俺はアイズの様子をうかがった。安定している様でほっとする。

あの野郎が帰ってきたはずだから心配だった。

リヴェリアからフィンが帰ってくるまで待つようにと話があった。

いよいよ何かが始まるのかとみんな緊張して待つ。

その内にフィンが帰ってきた。

奴の判定は黒、ただ騙されて囮として使われるというのがフィンの見解だ。

アイズが志願して抑えに回ることになった。他の誰かに任せてもアイズは干渉してくるだろう。

だからその事にだれも異論を唱えない。

だから俺はバックアップに回ろうと決めた。

各自指定場所に散っていく。奴が現れて来てからが本番だ。

部隊はリヴェリアとラウルを起点として、俺とアマゾネスたちが遊撃。

ガレスは黒い奴の抑えに待機、フィンはリヴェリアとラウルに指示する為に自由に動く。

「よし、いつでも来い。」俺は気合を入れた。

 

フェルズから受け取ったレイはフィア達を追う。

臭いをたどりようやく追いついた。たがフィア達はウィーネを見失っていた。

飛んで追うことが出来ない穴に入り込んだ様だ。

ウィーネは全速力で逃げているのでレットでは追えないと判断したらしい。

フェルズのアドバイス通り、神ヘスティアに助けを乞う。

「助ケてクださイ。」

「レイさんですか?ベルです。ウィーネはどうしたんですか?」

「分カりマせん。突然暴れダしテ地下水道へ行キましタ。場所ハ分かリませン。」

「少し待ってください。準備ができ次第此方から連絡します。」

 

「お待たせしましたレイさん。今ヘスティア様に替わります。」

「早速の所済まない、地上に出るか下水道の幹線、つまり大きな道に出てくれないかい。」

「分かリマした。」

「…そこで良い。ウィーネ君はそこから北へ3ブロック、東へ8ブロックのあたりに居るらしい。」

「その地図は居場所がわかるんじゃないんですか?」とベル。

「そうなんだが地下水道は復旧工事の真っ最中なんだ。おまけに住人が勝手に穴を開けまくるもんだからカオス状態らしい。

1週間でがらりと様子が変わってるなんてことが有るんで地図に書いてないんだよ。」

「今ノ時間そこヘ行くにハ時間ガかかりまス。時間ヲ稼いデくださイ。」

地図を見るとフィア達は地下を大回りして向かい、レイは地上の路地裏を慎重に進んでいる。

「ロキファミリアに動きが有ります。地下水道入り口に部隊が集結しつつあります。」と命。

「不味いな、ウィーネ君の事がバレたみたいだ。何とか逸らさないと。」

「こっちも動きが有ります。…リリに考えが有ります。ヴェルフ様、規制線の張られた取り壊し予定地で魔剣を使ってください。」

「街中でか?」

「どうせ夜の規制線の中にはろくな人間はいません。構わずやっちゃってください。」

「おう。」と言って走り出した。

「僕は何をすればいい?」とベル。

「フィン様との話でベル様は目を付けられました。囮となっていただくにも時間が足りません。

居場所が確定したら保護してレイさん達に引き渡してください。」

「命様はそちらの部隊の妨害をお願いします。」

程なくして大爆発が起こる。リリからこっちの部隊のかく乱に成功との報告が有った。

 



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アナザー11その4

俺は暴れまわろうとする体を必死になって抑えている。

お蔭で神ヘルメスの話を冷静に聞くことが出来た。

「俺ガアノ小僧ニ打タレレバイインダロウ。」

「グロス。」

「ドノミチ選択肢ハナイ。タダシ少シ待テ、今ハ体ガマトモニ動カン。」

「承知した。グロスと言ったか、君を敬しよう。」

その後アイテムを渡され細かな指示を受けた。

 

地下で不審者の発見の一報が有った。ほぼ同時に爆発音がした。

いよいよ始まったかと感覚を研ぎ澄ませた。

だから気が付いたのかもしれない、上空を何かが横切った。

率いている部隊を放り出してそれを追う。レベル5に匹敵するスピードだ。

アイズも気づいた見てえだが、イマイチ追い切れてねえ。

止まったところを見計らい声をかける。

「出て来い。」

獣人の女が出てきた。ザコだ。再度出て来いと言った。

その女は大声で一人だと言った。

後ろの気配は逃げていく、だがその後をアイズが追って行く。

あっちはアイズに任せとけば良い。

俺はこいつから情報を得る事にするぜ。

幸い弱っちい、まずは脅しをかける。

意外にも脅しに屈しねえ。情報を持ってると踏んだ俺はさらに脅しをかける。

すると女は詠唱を始めやがった。

ザコの魔法なんぞ怖かねえ、まともに受け止めて心を折ってやるぜ。

 

しくじった。ザコと思って舐めていた。裏通りで俺は片膝をつく。

あの魔法でなんと助っ人を呼びやがった。

訳の分からん理屈で俺に襲い掛かってきやがった。

だがあのヒキガエルほどではなかった。

それで俺は助っ人を目の前でぶちのめしてやることにした。

あの女に見せつけるようにじっくりといたぶるつもりだった。

初めに異変に気が付いたのは助っ人が倒れない事だった。

だがそろそろ倒れても良い頃なのに倒れる気配がねえ。

ふとあの女を見ると何かしてやがる。

その時俺は自分の体の異変に気が付く。

一発も攻撃をもらってねえのにごっそり体力が奪われていやがった。

戦いに集中していて気が付かなかった。おそらくカーズの類だ。

速攻でぶちのめして緊急離脱した。

危なかった、あと一歩遅かったら倒されていたかもしれねえ。

あいにく今は月が雲に隠れていやがる。ポーションはサポーターごと置いてきた。

俺は雲を睨みながら空が晴れる時を待った。

 

漸くウィーネと合流することが出来た。

ベルさんが守ってくれたらしい。

更にうれしい事にアルルとヘルガ達も一緒だ。

フィア達の匂いをヘルガが気付いたらしい。

さあ隠れ家へと思ったが、レットがある事を言い出した。

隠れ家が襲撃されたと。

それにグロス達は隠れ家を未だに動いていないらしい。

このまま隠れ家に戻るのは危険、だけどいつまでもここに居るわけにはいかない。

絶対絶命の危機、またもやベルさんの機転で無事クノッソスへ。

かっこいいベルさんに顔を赤くするのは仕方のない事ですよね。

ダンジョンへ帰る道すがら、ウィーネにこれまでの事を聞く。

要約すると、気が付いたらまた追いかけられていたと。

逃げている途中に人間の子供を助けたら、大きな武器を持った人に助けられたみたいだ。

その後ベルさんに会って、金色の怖い人から二人協力して逃げ出してきたらしい。

そこまで話した時、神ヘスティアから入り口まで戻ってくるように指示があった。

 




ここまでくると何故アナザーなのか分かったと思います。
そう、11巻の初めと終わりが同じなんですよ。
(そう言えば撲殺天使に似たような別冊が有りましたね。)
ですからこの話は、僕の考えた最強の…という事になりますね。
とこれだけでは何なんで、この話は原作者が見捨てたキャラの救済をテーマにしています。
ただし所詮RPGにおける初期パーティ、主人公が強くなったら解散が原則、できる事には限界があります。
ですがたとえあきらめざるを得なくても、それを正しく認識してあがいてみる事が重要だと思っています。
パルゥムの落ち込んでる闇は晴れるのだろうか?(フィンさんは気付くことが出来るか?)


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アナザー11その5

漸く月が出た。あの女は気になるが、持ってやがった不気味な力が不明な内は手が出せねぇ。

オッタルでも呼び出されたらシャレにならねえ。

それよりアイズだ。しばらく探してようやく見つけた。

血だまりの前でたたずんでいる。ただし灰や死体は見当たらねえ。

俺には気づいているはずだが抜き身の剣を持ったまま動こうとしない。

思わず「いいのか?」と聞いた。

時間がかかったが返事をしたので少し安心した。

「俺は先に戻るぞ。まだあの黒い奴は出て来てねえ。気が晴れたら戻って来い。」と言ってやった。

何故か感謝されたが俺の部隊へ戻った。

 

ブレスレットを着けたエイナは、旅の荷解きをしていた。

洗濯をし、部屋を粗方掃除して、そろそろベル君に会いに行こうかと家を出ようとした時に爆発音が聞こえた。

ギルド職員としての義務感と、言いしれない不安からエイナは現場へ駆け出した。

有事の際なのでギルド職員の制服に急いで着替えてから。

ダイダロス通りはパニック状態だった。夜間という事もあり矢を十分に持っている冒険者は少ない。

魔法は建物が邪魔で撃つことが難しい。

エイナは必至で誘導しようとしていた。群衆の中に種族も性別も違う3人の子供を見つけた。

思わず駆け寄ろうとした時、それは現れた。石の体、異形の顔、鋭い目だ。

目があったと思った瞬間、モンスターは鋭い雄叫びを上げた。

明らかに自分を狙っている。エイナの体は凍り付く。

ゆっくりと旋回してエイナに飛びかかって来る。エイナはそれをただ見ているしかできない。

もうだめ、と思った瞬間、白い影が横切った。それはモンスターの攻撃からエイナを守った。

ベルだ。そう思った瞬間、エイナの心は弾けて何も考えられなくなった。

 

部隊へ戻った俺はその時を待っていた。遠くで騒動が発生している。

だがあの黒い奴じゃねえ。ここからでも飛んでいるのが見えやがる。

ザコはザコに任せようと思っているとアイズが来た。

てっきりアマゾネスどもの所に行くんだと思っていた俺は少々驚いた。

どこに居ても情報は変わらねえかと思い直し、じっと待つ。

体感的には長かったがおそらくそれほど時間は経っていない時に知らせが来た。

アイズと共に急いで現場に向かった。

だが途中で邪魔が入った。いけすかねえエルフどもだ。

だが奴らの指し示す方向を見てすべてを悟った。

「ちっ……」思わず舌打ちをする。

アイズも同じだったみたいで動きを止めている。

正にあの9階層の再現だ。あの時の様にただ見つめる。

俺はこの時、次は奴を何と呼ぼうかとぼんやりと考えていた。

 

次に気が付いたのは見知らぬ冒険者の腕の中だった。

声をかけられるけれどまともに返事が出来ない。

ベル君が何かと戦っている。今度は黒い何かだ。集まってきた冒険者が一斉に襲い掛かる。

その時黒い何かは咆哮を放つ。たちまち周囲のほぼ全員が停止してしまう。

停止させられた冒険者が木の葉のように宙に舞う。

その中でベルだけが、ベル君だけが一人黒い怪物に立ち向かう。

人々の悲鳴も止んで恐ろしさだけがその場を支配する。

その時、大声がする。ベルにエールを送る声だ。

決してきれいな声ではなかったがそれを機にエールが増えていく。

やがて戦いは場所を替える。先ほどの冒険者に連れて行ってもらう。

ギルドの制服はこういう時にも役に立つ。

恩恵を受けていないエイナには戦いの様子がはっきりと見えるわけではない。

ただベル君の武器に付く血が、防具の傷が、戦いが拮抗している事を教えてくれる。

負けないで、その時強くそう思った。

だけども決着の時は来る。

ベル君は舞い上がり怪物と共にバベルの中へ。

負けた。誰の目にも明らかだった。

私はバベルに駆け込んだ。誰かが何か言っている様だがすべて無視した。

その途中、旅での事が次々とよみがえってくる。

ドジでレフィーヤさんにいつも怒られているベル君、女性に慣れていなくって恥ずかしがりやなベル君、

優しいベル君、田舎暮らしに慣れていない私を助けてくれたベル君、強いベル君、ちょっぴりエッチなベル君。

そのどれもがいとおしく感じてしまう。

居た、見つけた、……生きてる!!!

だけど泣いている、近づいてそっと手を握る。

助けが来るまでずっとそのままに。

 

その後、グロス達と合流できた。

彼らには感謝の言葉もない。

帰還途中でベルさんの事を聞いた。

私たちを助けたことで罰を受けていた事。

あれからかなり時間が経っても悪評は消えていない事。

皆は言葉を失った。

そんな中ウィーネが話し出した、ベルたちから聞いた話を。

『雪精霊の恩返し』という話だ。

助けてくれた人に、ありがとうっていろんなものを返すという話だそうだ。

そして自分の体験(子供を助けたら見逃してもらえた)を話して最後にこう言った。

「だからいつか、ベルたちをいっぱいたすけてあげよう。」と。

皆は元気を取り戻し「そうだ!」の声を上げた。

「ウィーネ、強クなりマしたネ、今度リド達にモ聞かせてアげマしょうネ。」

 

ギルドはようやく地上進出したモンスターたちの討伐を宣言した。

隠れ家を急襲、それを逃れた4体が最後の反撃に出たというシナリオだ。

ただし、黒のモンスターは賞金首になったが。

 

ベルがオラリオの外に出た3か月、変わらない物も有るけれど、確かに変わってしまった物も有る。

そしてヘスティアファミリアはベルを中心にまた走り出す。

 

 




漸く完結しました。最後の方はツンデレさんとクーデレさんメインでの話になってます。
終わりの方は駆け足になってしまって申し訳ありませんでした。
楽しんでいただけた方が一人でもおられたら幸いです。
つぎはこの物語のその後、レフィーヤさんとリリちゃんの話です。
レフィーヤさんの望みは意外な形で叶う。乞うご期待。


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その後

事件が一段落し、暇になったロキは思いついた。

そう言えば、レフィーヤのステータス更新をしていなかったと。

どうせオラリオの外の事、大して経験値が稼げるとは思っていなかったんで忘れていた。

どうせ暇だし、ついでにセクハラの一つでも、と軽い気持ちで独房へ。

主神特権で独房の合鍵は持っている。

レフィーヤもすることが無かったのか気軽に応じてくれる。

いつものように更新、数値が確定しロキがそれを読み取る。

その途端恐ろしい勢いで外に飛び出した。部屋の扉を開けっぱなしで。

この時すれちがった眷属はこう証言した。「ロキの目、初めて見た」と。

レフィーヤはロキの奇行に固まったままだった。

やがて出て行ったのと同じ勢いで戻ってきた。

ただしリヴェリアを連れてだ。

ロックが解除されたレフィーヤの背中を頻りに指さす。

めんどくさそうに背中のヒエログリフに目を通す。

しばらく読んでいたが突然笑いだして言った。

「ロキ、このステータスは何だ。」と。

「やっぱり見間違いやないんやな。」

混乱しているレフィーヤは言った。

「あのー、私のステータスが何か?」

ロキは共通語にした更新用紙をレフィーヤに手渡した。

襲るそそるそれに目を通したレフィーヤは固まった。

「レフィーヤのステータス、ものごっつう伸びとる。

力や耐久なんかはほぼCランク・・・」ここで言葉を切った。

「そして魔力はなんと999越えのランクSS、今まで見たことあらへん数値や。

上限は999やなかったんかいな。ギルドに上手い事騙されたわ。」

「えーー、本当ですか。有難うございます。」と喜ぶレフィーヤ。

「そや、これでレベル4にあげてもええやろ。

だけどその前にちょっと教えて欲しいことが有んねんけど。」

「はい、なんでしょうか。」

「オラリオの外でなにが有ったん。こんなに伸びるような事、あったんか?」リヴェリアも興味津々の様だ。

そう言われてレフィーヤは今度の旅を思い出す。

要因は見当たらない。さらに思い出す。でも見当たらない。

繰り返す内にとうとう心の奥に閉じ込めた黒歴史にたどり着く。

見られなかった所が無い、触られなかった所が無い、

そのセクハラの連続に己の限界を超えてぶったたき、魔法をぶっ放していた。

これだ、これしかない。だけどとても本当のことは言えない。

レフィーヤは血相を変えて言った。

「知りません。私は何も知りません。」

「うそや、なんか隠しとる。ちゃっちゃと吐くんや。」

「知りません。本当に何も知りません。」首を激しく横に振るレフィーヤ。

その時部屋の隅から膨大な気が放たれた。

その気に当てられてレフィーヤは気絶、ロキとリヴェリアは震え上がった。

その何かは「ズルいね、レフィーヤ。ずるい。」と言葉を発したという。

後日ロキはその時の事をこう語った。

「あん時はもうちょっとで昇天するとこやったわ。」と。

 

それからしばらくレフィーヤはアイズに付きまとわれることに。

旅の前には願っていたシチュエーションだ。まるで神が長年の願いをかなえたかのように。

だがアイズの天然プリを良く知るレフィーヤはどんなに乞われても話すことは無かった。

 

 

レベル6とやり合ったこともあり春姫はすぐにレベル2になった。

ちなみにへっぽこと言われている春姫ですが種族は獣人、身体能力は全種族1位だ。

わかりやすく言うと、ビリギャルだけど通っている学校は有力進学校、みたいな感じ。

ちなみにこの基準で言うとリリは底辺校に通っている事になります。

基本の探索ルーティーンからは外れることになったリリ、どうなったんでしょうか。

 

ダンジョン内でベルは額に冷や汗をかいていた。

ヴェルフを前衛、命を後衛に春姫と中衛(ただしベルが春姫の前)で探索している。

冷や汗の原因ははっきりしている。背中への熱い視線と「う、うー」という唸り声だ。

ベルはたまらず声をかけた。

「ねえリリ、このクエスト本当に必要なの。この前も似たような物をやったばかりだよ。」

「当然です、誰もやりたがらないから報酬も多いし、ギルドにも恩を売れます。良い事ずくめです。

目的地に着いたら起こしてください。」

それを聞いていたヴェルフが言った。

「一理あるっちゃあるんだが、確かに多いな。」

「ですがベル殿のおかげでダンジョン探索は順調ですから、良いんではないでしょうか。

それにレアアイテムの捜索は変身したリリ殿の独擅場ですし。」と命。

「だとよ、もうあきらめろ。」とヴェルフ。

「は、春姫さん。」とべる。

「分かっています。ですが羨ましいんです!」と春姫。

そうリリがいるのはベルの背中、あの盾の中にいる。

「春姫さんはいつも一緒じゃないですか。それにここには大きすぎて入りませんよ。」とリリ。

「う、うーーー」羨ましいの『うー』だ。

「ここはリリの特等席、ここに居れば竜が飛び出て来てもへっちゃらです。」ベルの背中で上機嫌に言った。

つまり正規の探索には同行しないが、レアアイテム捜索クエストなどには同行している。

しかもベルの背中という特等席でだ。

 

リリが普段何をしているかというと、午前中はファミリアの事務処理を、午後はソロでダンジョンへ行っています。

身の丈を超える大戦斧を軽々と扱い、キラーアント、オークなどをぶった切っている。

上層でその姿は非常に目立っています。

時が過ぎてリリがレベルUPして二つ名が決まった時、ミア母さんは大笑いしてリリの肩をバンバン叩いた。

 




これがこの物語でのリリの後日談になります。
一応ヴェルフのも用意してありましたが鍛冶イベントを省略したのでこれもパスです。

原作でも12巻で救済したかのように見えていますが、実はそうではありません。
例えばリリ、指揮官に徹していればついていけるみたいに思っていますが、現実は甘くありません。
あれは遠征で、人数に余裕があったのと、出現するモンスターがレベル2でも対処できたからです。
例えば、イグアスやポイズンウェルミスなんかだと即死してしまいます。
一方ベル君は25階層はソロで余裕、言い換えるともっと下の階層が適正です。
ヴェルフ君も薄々分かっているみたいでゴライアスローブの時と違い、素材に全面的に依存した武器を渡してます。

これですべて終了です。ここまで我慢して読んでくださった方々に感謝を。


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おまけ、チュール(エイナ)など

少しだけ感想を覗いてみました。春姫の二つ名はともかくリリルカ・アーデのを聞かれるとは。
やはり書かないと分かってもらえない事も有るんだと思い知りました。
という事で書き漏らした短編を加えて追加します。
分かっている読者様は答え合わせ程度に考えてくださいね。



神会はある種異様な雰囲気になっていた。

二つ名命名はあと二人、最後のごちそうへあと一人。

2大巨頭はあからさまに適当に決めて次へ進めとプレッシャーをかけている。

だが本当に適当に決めれば後々不味い事になるのは分かっているのでなかなか誰も声を上げない。

皆ギルドからの紙を見ているがろくなことが書いてはいない。

恩恵を受けてからだいぶん時間が掛かっている、それで取り立てて能力に特徴も書かれてはいない。

強いてあげれば珍しい狐人という事とイシュタルからのコンバートぐらいだ。

だがフレイヤの前でイシュタルの話題は今はタブーだ。

重苦しい雰囲気の中で誰かがつぶやいた一言がやけにはっきりと聞こえた。

おそらくイシュタルに近しい神で事情をある程度知っていたんだろう。

『傾国(ケイコク)』と。

当事者のヘスティアは周囲に聞いた。

「『ケイコク』って?言葉の意味は分かるけど。」

「傾国とくれば美女と繋がるんだが。」タケミカヅチは渋い顔で答えた。

周囲はその一言で黙ることに、似顔絵は確かに美人だからだ。

これより酷い物はざらにある、下手に口出しするのは憚られた。

ここでロキが口をはさんだ。

「ああもうそれでエエんとちゃう。ガネーシャ次いこ、次や。」

そう言われたガネーシャは皆に確認を採ったがこれと言った意見もなく決まってしまった。

 

リリはもう半ば日課になってしまった12階層に来ていた。

朝にベルたちを送り出してからギルドへの報告書を少し書いてダンジョンへ。

ベルと共にいられないうっ憤を晴らすべくダンジョンへ行っている。

いつも通り他の冒険者は通り過ぎていくリリを遠巻きに見ていた。

椿の試作品の身の丈を超えるグランドアックス、それを軽々と振り回しオークなどを一刀両断する姿に畏怖を覚えている。

漸く今日は有力情報をゲットした。

上手く行けばギルドの目を誤魔化せるかもしれない。

リド達との取引でかなり羽振りが良かったから目を付けられているらしい。

(実際は自意識過剰で、時々エイナやベルが心配して見守りを冒険者に頼んでいる。)

慎重に道を進みそしてそれを見つけた。

幸いにも気づかれた様子はない。

階層地図を頭に浮かべ後ろに回り込む。

その巨体故に後はどうしても死角になるようだ。

後ろ足に一撃、大ダメージを与えるもしっぽの一撃をくらってしまう。

グランドアックスの重量により吹き飛ばされるのは避けられたものの結構ダメージを受けた。

だが相手も突然の攻撃で混乱している隙をついてポーションを飲む。

だがそれは相手にも立て直す機会を与えてしまう。

後ろ足一本が使い物にならなくなった為に移動は難しくなったが首の長さによるブレス攻撃は健在だ。

一進一退の攻防が続くが流石にリリのスタミナが続かない。

リリは覚悟を決めてブレスを受ける。グランドアックスを盾代わりに地面に突き刺す。

盾の陰でブレスをやり過ごし攻撃直後の硬直を利用してバリスタで目を狙う。

目をやられ暴れまわる隙をついて前足を切り落とす。

そして落ちてきた首を攻撃しとどめを刺した。

春姫に遅れる事十数か月、インファントドラゴン単独討伐をもってレベル2になった。

そして二つ名はほぼ満場一致で決まった。

『小巨人三世』

つまりは元フレイヤファミリア団長の豊穣の女主人ミア母さんの後継となる。

ミアはそれに大笑いをし、リリはヘスティアに文句を言いまくった。

 

 

エイナは倒れてしまったレフィーヤを看病しながらため息をついた。

とは言えエイナも最近ようやく村での生活に慣れて筋肉痛から脱したばかりなのだが。

丁度様子を見に来た村長の奥さんに話を聞いてもらう。

レフィーヤさんの事、大半はレフィーヤさんの自爆なんだけどベル君に全く責任が無いとは言えない。

それに結果的とはいえ女性としては大変な事態になっているのでレフィーヤさんに強くは言えないから困ってしまう。

愚痴っぽい話題からだんだんとベルの話題へ。

話題は昨日の事だ。エイナは川で洗濯中に溺れてしまった。

流されてしまった洗濯物を追いかけている時に足を滑らせて本流に投げ出された。

ベル君がすぐに気が付いて助けに来てくれたけど、慌てた私がしがみ付いちゃったせいでだいぶん流されちゃった。

 

ゆっくりと意識が覚醒していく。「ここは?」と思わずつぶやく。

「あ、気が付きましたか?」近くで声がする、ベルだ。

ゆっくりとを明け周囲を確認する。

洞窟と言うよりくぼ地のような場所でたき火のそばで寝かされていたらしい。

ベルの姿を探すとたき火の反対側にいた、だけどなぜか近寄ってこない。

仕方なくフラフラする足取りで近づいていく。

するとベルは慌てて目をそらす、その姿を見て自分の状況に気が付く。

下着姿だ、悲鳴を上げてしゃがみこんだ。

「服が濡れて危険な状態だったんです。乾くのはもう少し時間が掛かります。」

ベルは目をそらしながら慌てて言った。

その言葉ですべてを思い出して、たき火の陰に逃げ込んだ。

よく見ると二人とも下着姿で、着ていた服はたき火のそばで干してあった。

二人はたき火を挟んで無言でちらちらとお互いを見つめ合っている。

そうして漸く服が乾き二人は服を身に着けた。

たき火の始末を終えて念の為ベルがおぶって村へ帰る事に。

その時漸くエイナは言いたかったことが言えるようになった。

「助けてくれてありがとうベル君。」

 

村長の妻はその話をにこにこしながら聞いていた。

エイナは気が付いていないがそれは殆どの人が惚気と思う内容だった。

ちなみに村へ帰って人工呼吸をされたのかが気になったエイナだったが、流された下着をずっと握っていた事に気づき

気恥ずかしさでうやむやになってしまった。

 

 

城壁でベルに渡りをつけたアイズは気合を入れなおした。

ベルに告げたこれからやる事とは、レフィーヤから詳しい話を聞く事だ。

リヴェリアの話だと頑なに自白を拒んだそうだ。

レフィーヤはそろそろ釈放されるらしい、ラウルを縛り上げた私と違いそれほど大きな罪ではない。

ギルドの仕事はきっちりとこなしたし、結局命令を受けずに行動した事だけだ。

それならファミリアのみんなは多かれ少なかれやっている事だ。

ティオナによると私なら話してくれるはずだと言っていた。

気合を入れたアイズだが結局聞き出すことは出来なかった。

実際にレフィーヤの身に何が起こったのか?その解説をしていこうと思う。

その前に読者は覚えているだろうか?追いかけっこを前にアイシャとリューが会話していた事を。

その時の会話を再現してから解説していこう。

 

アイシャは集会場の入り口でベルとレフィーヤの追いかけっこを眺めている。

そこへリューが慌てて出てきた。

「何事ですか?」リューも追いかけっこを眺める。

夜明け前、時々魔法の光がきらめく中、リューの目にはレフィーヤの持つ杖が光っているのがハッキリと映る。

「あの杖は?」

「おっ、気付いたね。あれはカーズアイテムいやジョークグッズさ。」

「ジョークグッズ?」

「ああ、あれは女の子にエッチないたずらを起こす奴さ。おそらくエロイースの杖だろうよ。」

「詳しいんですね。」

「あのシリーズはあたしらアマゾネスの初心者用として人気なんだよ。

餌としてあのシリーズにはステータスアップなんかの効果が必ず付与されているんだ。

普通に買えばかなりの高額になってしまう。だけどあの呪いのせいで安く手に入るからね。

傷つけられる訳じゃ無いんだ、アマゾネスにとっちゃ見られたり触られたりは大した事ないんだよ。」

「ではこの騒動はあの杖を取り上げれば起こらなくなるんですね。」と言ってリューは飛び出そうとする。

「ちょっと待った。その前にお前さんに聞きたいことが有るんだ。」

「何ですか?」足を止めてリューが言った。

「あの坊主がずっと何かに悩んでいるのはお前さんだって気付いているんだろう?」

「ええ、ですが彼が話してくれない以上見守るしかありません。」苦渋を滲ませてリューが言った。

「でだ、これは経験則なんだが3日以上悩んで答えが出せない問題はそのままじゃ解決しない。

往々にして思い詰めて悪い方向に流されちまうんだよ。これは神ヘルメスも同意見だよ。」

「で?」

「神ヘルメスの話だとそんな時は問題から気をそらす時間が必要だ、という事らしいね。

神ヘルメスからの依頼にはもちろんこの件も入っているのさ。

見て見な、逃げ回るのに必死て他の事なんか考える暇なんかないって顔をしてるよ。

杖を取り上げるのは勝手だが、そうすると他の方法を考えなくちゃならないんだよ。」

「他の方法?」つぶやくリューにアイシャは腕を組み豊満な胸を見せつけてから言った。

「戦闘娼婦が男の気をそらす方法に解説が必要なほどネンネなのかい?」

アイシャを睨みつけるリュー。

「最もあの坊主にはもう少し強くなって欲しい所だから、あたしとしては今までの方が良いんだけどね。」

その言葉に部屋に戻っていくリュー、その後を追いかけながらアイシャは思った。

『あのシリーズはこんなに過激だったろうか?精々1か月に一回程度だった筈なんだが。』

 

これを踏まえて解説です。

何故レフィーヤの経験値は短期間に上昇したのか?この謎の答えはこれになります。

この謎を解くに当たって考えなければならない事は、この杖のエネルギー源です。

そしてズバリこの杖のそれはヘスティアナイフと同じく経験値です、ただしラッキースケベを受けた男側ですが。

本来の動作は近しい相手を見定めてゆっくりと経験値を吸収し、一定値に達したらタイミングを見計らう。

バレないようにゆっくりとプロセスは進みます。女性側は杖に対して認識阻害が掛かっています。

今回の事はアビリティ幸運をトリガーとしてリミッターが解除、そしてベルの膨大な経験値を糧としてひき起された訳だったんです。

その余りの経験値がレフィーヤに還元されことにより、レフィーヤの経験値は大幅上昇しベルはほとんど変わらない結果に。

ちなみに見この仕組みはバレた時の言い訳として元々備わっていた物です。

(ひどい目にあったけど経験値が入ったんで許してって事です。)

 




無粋な答え合わせです。読者の方々が
「知ってた。知ってたよ。うん知ってた。」となっていれば作者冥利に尽きるんですが。
(「な、なんだって!!!」が多かったなら凹みます。)

オラトリア7.1(6話で終了)
https://novel.syosetu.org/115222/
もよろしく。

最後にもう一度、清く正しい2次創作者は言います。
ぜひもう一度原作を読んでください。
そうすればこの拙い物語の内容に突っ込みが入れられる事でしょう。
そしてぜひあなたの物語を書いてみてください。
書くことで見える世界が必ずありますから。

PS.本日は衆議院選挙当日です。天気は悪いですが選挙権のある人はぜひ投票へ。


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おまけその2、神ヘルメス

おまけその2です。続きは明日の予定です。
これで鍛冶イベント以外は終了か?



黒の暴虐がオラリオを去りヘルメスはホームへ帰った。

眷属の報告を聞きながらこれまでの事を振り返っていた。

 

騒動の収束に協力する代わりに要求した事は以下の通り。

・当事者のベルをオラリオから離す。

・その方法はミッションで今回の件の調査とする。

・調査方法には制約を付けない。

これだけの仕込みをして怖いフレイヤ様に渡りをつけた。

人の噂は3か月(90日)もあれば消えるだろうと思って。

これまでのやっかみと合わせると、レベル3で悪目立ちすれば潰される可能性が高い。

子飼いの冒険者を使って(ハデスヘッドの修理代をまける事で)今回のミッションがペナルティであると認識させた。

これでベル君が帰って来た時は悪評は収まっているはずだった。

調査自体はすでに終えている。

そして戦争遊戯の時の約束を果たす一石二鳥の作戦だ。

その約束とは眷属の心を解いたベルに会わせる事だった。

ついでに会わせるのはベル君の悩み事にはぴったりだろう。

 

ここまでの計画は完璧なはずだった。

ただ誤算だったのは、異端児がなかなか捕まらずダイダロス通りの混乱が長く残ってしまった事だ。

そしてダンジョンの入場制限解除が遅れた事で冒険者の不満が長く残った。

地上で確認されたすべての異端児が、形式上討伐されていればダイダロス通りも疑心暗鬼にならなかっただろう。

それとこの3か月間目立ったイベントもなく皆の目をそらす事も出来なかった事も大きい。

この件に関してはウラヌスやフェルズに文句をつけて良い筈だ。

隠れ家も世話した、まさかこのさして広くないオラリオ内で3ヵ月以上もかかるとは。

幸いなことにベル君に付けたアイシャからは特に問題があるとの報告は無かった。

そしてなぜかロキやフレイヤファミリアの動きが無かったのも誤算だった。

あの二神が3か月も全く動かないとは…

ロキの所はなぜか団長がギルドの資料室でダンジョンでの事故報告を読み漁っていたらしい。

フレイヤ様の沈黙は不気味だったが、貢献としてはアスフィーの臨時バイトで対応できたはずだ。

俺は精一杯やった。だから予想を裏切られた事に悔しさはあるが結果には満足している。

 

ただ面白い事もあった。

あれだ、あのククリと呼ばれる存在だ。

あれは3柱の女神の正に奇跡の協演の産物だ。

身、心、知3つの要素がぴったりとはまって起きた。

それぞれが女神の本質的な物でありかつ1/3づつという事で、ギリギリ下界での制約に掛かっていない。

これだから下界は面白い。

だから俺はこれに乗っかることにする。

アスフィーにはまた苦労を掛けるがベル君はきっと喜んでくれるだろう。

ベル君、『英雄は色を好む』だよ。

 




これも予想できたと思います、次回詳細が明らかに!


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おまけその3、神ヘルメス2

ヘスティアとその眷属(確かリリだったか)が怒鳴り込んできた。

「ヘルメス!!なんだいあれは!!!!」ヘスティアが会うなりそう怒鳴った。

「おいおい、ずいぶんな挨拶じゃないか。それじゃ何の事だかわからないぜ。」

「とぼけるつもりかい!ククリの事だよ!」

「あああれか、ベル君もさぞや喜んだだろう。」

「!!!!!!」

 

どうしてヘスティア達は怒鳴り込んできたのか?それにはこんなやり取りがあった。

ベルが帰ってきてしばらくたったある日、バイトから帰ってソファーで寝そべっていたヘスティアにリリが言った事だった。

「ヘスティア様、ちょっと気になることが有るのですが。」

「んんん、なんだい」けだるげに答えた。

「あの娘、ククリの事です。胸がなんだか大きくなったような気が。」

「それがどうかしたのかい。」

「あの子はベル様と一緒に寝ています!その胸が大きくなったって事は!!」

その言葉にヘスティアは飛び起きて考え込んだ。

知っての通りククリの体は仮初の物だ。授乳の必要が無いからマネキンのような体。

その体は恩人でベルの助けになっているリューの体を模して造られている。つまりスレンダーだ。

どちらかと言えばリリ寄りだ。その意味で軋轢は無かった。

その為今では寝る前にナイフ形になって整備、朝起きるとベットで一緒に寝ているというパターンだ。

だから最近はみんなと一緒に風呂には入っていない。

確かめるため風呂になだれ込んだ。

そこでヘスティアとリリは悲鳴を上げた。

「!!!どうしたんだいそれは!!!」

「親切な神様に貰ったんだよ。これで僕もみんなと同じだね。」とククリ。

「でもその大きさじゃなくても良かったんでは?」明らかに自分より大きいそれに文句を言うリリ。

「ああこれ」と言って先を引っ張りまわし始める。アナログ時計のリューズの様だ。

それを見ていた二人は口を開いて言葉も出ない。

回すにしたがってみるみる大きくなる。

ヘスティアより大きくなると今度は反対方向に回す。

すると途端にしぼんで小さくなる。

「ぐぬぬ!」とうなるヘスティア。

ククリはリリの先っぽを回そうとする。

「なにをするんですか!!」とリリ。

「小さすぎるから大きくするの。」とククリ。

「リリのは回しても大きくなりません!」

「そうなの?それは残念。」

「何が残念なんですか!!」と絶叫するリリ。

風呂場で大騒ぎになる。

それをくれた神様の姿を聞き出したヘスティアは叫んだ。

「ヘルメスか!!!」

「いい神様だよ、ケチなどこかの神様は何もくれなかったのに。」

ヘスティアとリリはホームを飛び出しヘルメスのもとへ。

 

「何であんな事するんだヘルメス!」

「はて、俺はあれが望んでいたからあげただけだぜ。実に神らしい振る舞いじゃないか。」

「僕に断りもなしにするな!」

「何故だい、あれは君の眷属じゃない、それに我々の子でもないよ。

君にとやかく言われる筋合いはないと思うんだが。

それにベル君にはうれしいんじゃないのかな?」

「何でそこにベル君が出てくるんだい。」

「だって彼はあれのご主人様と言える存在だろう。

それよりベル君の好みの大きさはどんなもんだい?

参考に彼の感想も聞きたいんだが。」

それを聞いた二人はこそこそと相談して挨拶もせず飛び出していく。

それを見てヘルメスはニヤリと素晴らしい笑顔を見せた。

 

いきなり押しかけてきた二人にベルは狼狽えた。

だがその理由を聞いてさらにうろたえる事に。

大きい方、小さい方?とすさまじいプレッシャーを受ける。

嫌な汗をだらだらと掻きながらベルは考える、かんがえる、カンガエル。

そしてついに覚悟を決めてベルはその手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その結果を伝え聞いたヘルメスはそれをアスフィーに言った結果、殴られる事に。

「何だい、ベル君はアスフィーのが良いって事じゃないか。

作る時あんなに揉んでいた甲斐があったってものじゃないかい。」

と言ってさらに殴られる事に。

そうベル君は無難にセンターに設定したのだった。

その無難な設定にヘスティアとリリはため息をついた。

 




これが作者の答えになります。
読者の皆さん、当たっていましたか?
それとももっとふさわしい状況を考えていましたでしょうか。


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