もう一つの東方鬼狂郷 (albtraum)
しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 プロローグ

東方projectの原作とは全く関係がありません。

前作の東方鬼狂郷とも関係はありません。でも、設定などは大体同じです。なので前作を見てないと分からない部分があるかもしれないので、その時にはお手数をおかけしますが前作をご覧ください。きちんと説明は入れると思うので大丈夫だと思います。

今回もこの能力ならこんなこともできるんじゃないかという原作にはない無理な設定や戦闘があります。

駄文です。けっこう好き放題やります。

今回だけはプロローグなのでかなり短いです。

それでもよろしい方は、もう一つの東方鬼狂郷 プロローグをお楽しみください。


 例えば君は、占いをすれば百発百中の占い師にあなたは絶対に死にます。と言われたら、君はどう思うだろうか。

 しかもそれが寿命や病気などではなく、殺されるとなれば絶望せずにはいられないだろう。

 私は、それに似たようなことを言われた。

 

 私は柔らかいソファーに座り、真剣な顔をして私とは机を挟んで反対側のソファーに腰かけてこちらを見ている少女を眺めて、彼女が何を話しだすのかを待った。

 少女は決心したようにため息に似た深呼吸をして、話を切り出してきた。

「…あんたは……死ぬわ」

 見た目は幼女だが、私よりも二十倍近くも長生きをしていて、運命を操る程度の能力を持つ吸血鬼が私に死刑を宣告するように言い放った。

「…これを伝えてあんたの運命が変わるかわからない……でも、一応伝えておくわ」

 紅魔館と呼ばれる館の当主にそう言われた私は、彼女に言われたことを少しずつかみ砕き、聞き返した。

「…い…いつ?」

 私がそう聞くと、レミリア・スカーレットと呼ばれる少女は顔を横に振りながら言う。

「……わからないわ……でも……一年以内に死ぬ」

 レミリアの隣に立つメイド服を着た十六夜咲夜が驚き、私を見た後に自分の主人の方向を見た。

 ここでレミリアが冗談だと言って笑ってくれるんじゃないかと、私は現実逃避をしていた。しかし、レミリアは真剣な表情のまま私を見つめ、咲夜の驚く反応から私はこれは冗談ではないのかと悟った。

「……どうやって死ぬ…?」

 私は聞いた。レミリアはしばらく黙っていたが、重い口を開いて呟いた。

「…わからないわ、でも……寿命や病気、事故の類ではないわ…」

 レミリアが少し落ち込んでいる表情を見せる。

 寿命や病気、事故。それら以外と言ったら、もう人為的に殺される以外にはないのではないだろうか。

「……忠告…ありがとう…」

 私はレミリアにお礼を言い、ソファーに座っていたが、立ち上がって咲夜の呼びかけにも答えずにレミリアがいる部屋から出た。

 入ってくるときに歩いた廊下を戻り、紅魔館から出る。

 美鈴が呆然と歩く私に声をかけてきた気がしたが、ボーっとしていた私は無視してしまったかもしれない。

 でも、いつ殺されるかわからない死刑を宣告されたようなものなのだ、仕方がないだろう。

「……」

 レミリアには誰にも言うなと伝えてある。

 伝えるなら自分で伝えたかったのだ。

「………」

 でも、

 私は彼女に言えるだろうか。私は殺されますと。

 むかつくぐらい綺麗に晴れる空を見上げ、私はそう思った。




第一話は来週のうちに投稿します。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第一話 異変の始まり

この作品は原作とは一切関係がございません。

この能力を持っているならばこんなことも出るんじゃないかという感じで割と無理な設定などが存在します。

駄文です。

それでも良い方は第一話をお楽しみください。


 前後、上下左右がコンクリートの壁で覆われている高さと奥行き、幅が共に約四メートルずつの狭い空間。出入り口は正面の階段を上がり、上方向に開く天窓のような鉄の扉を開く必要があり、鍵がなければこの部屋から出ることはまず不可能だろう。

 裸電球がチカチカと瞬き、私を照らす。

 ブゥゥゥン…。

 古くて小さな換気扇が部屋の端で部屋の空気を入れ替えようと働いている。しかし、このねばりつくような血の匂いは一向に晴れることはない。

 私の周りにとどまらず酸化して茶色くなった血や新しく流れる動脈血の明るい赤色の血。それが部屋中の床にまき散らされているのだ、小さな換気扇でどうにかなるようなものでもない。それに、元を絶たなければ電気代の無駄にしかなっていないだろう。

 だが、床に散らばっている血だけが匂っているわけではない。私の血ではないが、返り血が胸のあたりにこびりついていて更に鉄臭い。

 私はなぜ逃げずにこんな場所にいるか。

 否、逃げられない。

 私の両手は太い針金で縛られていて背中側に回されている。背中と縛られた手の間の空間に私の腰と同じぐらいの太さの鉄の棒があり、その鉄の棒が天井と床に溶接されている。

 四六時中裸電球が付いていて、始めは正しかったはずの体内時計は既に狂っている。何日この場所にいて現在何時かもわからない。

 時々彼女たちが飲ませる薬のせいだろうか。ここしばらく用を足したという覚えがない。垂れ流すよりはましだが、得体のしれない物など飲みたくないというのが正直な感想であり、体内時計がさらに狂っていく要因でもある。

 現実逃避をしていた私は現実に目を向ける。

 前回からどれだけ時間が経ったかわからない。終わった後にすぐに気を失ってしまったからだ。

 でも、今はただその時が来ないことをただひたすら願い続ける。

 もう、あんな地獄は味わいたくない。

 私はそう思いながらある少女を思い浮かべる。

 笑顔が素敵な彼女を心の弱い私は、狂ってしまわぬように心の支えにしてきた。

 彼女の笑顔、声、香り、昨日のことのように思い出せる。

 早く彼女に会いたい。会ってお喋りをしたい。会って手をつなぎたい。会って抱きしめたい。自分の好きだという気持ちをあって伝えたい。

 投げ出された足の太ももの上に私の涙の雫がこぼれ落ちた。涙なんて、枯れたと思っていた。でも、生命の体は不思議なもので、どんなに泣いた後でも悲しければ涙が出る。

 でも、こうやって涙を流して感情を吐き出さなければ、いくら彼女のことを心の支えにしていても、私は壊れていたかもしれない。

「………早く……………会…いたい」

 私は掠れた声で呟く。

 呟いた際の反響した私の声がゆっくりと小さくなって消えて行く。その合間に、コツコツとコンクリートを歩む音が聞こえてきた。あいつらが来た。

 隣に倒れている血まみれの女性を見た。体はほとんど再生して治っている。

 嗚呼、彼女にとっても私にとっても地獄の時間がやってきたようだ。

 ガチャッと鍵をカギ穴に差し込んで回した音がした。

 ギィィィィィィィッ…

 まるでホラー映画の古い家の建てつけの悪い扉のような音を出しながらドアが開かれ、いつものようにあいつらが姿を見せた。

「さあ、続きをしましょうか」

 私は、どうなってしまうんだろう。

 頬を伝う涙を拭うこともできずに私は見上げた。

 

 私は閉じていた目を開けた。六方向すべてをコンクリートの壁で覆われている地下室。

「……」

 いつのまにかうたた寝してしまっていたらしい。

 ブオーンとやかましい換気扇の音が耳に響く。

 前かがみになっていた体を起こして、頭を振って眠気を吹き飛ばす。

 透明な液体が入っているビーカーを持ち上げ、スポイトで少量だけ取り出し、別の液体を取り出してスポイトの中身をそこに入れた。

「…変化なし…か」

 振ったりしてみても変化はない。ジャバジャバと振っていたせいで白い気泡がたくさんできている。

 しばらく放置しても温度の上昇、低下。もしくは気体の発生もない。色の変化もなし。それらを全てノートに書き記して私はスポイトを机の上に置いた。

「……」

 私、霧雨魔理沙は変化のない液体を憎たらしく見つめながら嘆息を漏らす。

 新しいマジックアイテムを作り出そうとしたわけだが、三日ほど時間が立っていた。私は調理のいらない携帯食料をかじりながら壁に立てかけてある時計を見た。現在はちょうど十二時。

 博麗神社にも顔を出していない。それどころか外に出ていない。だから、気分転換にそろそろ外に出たかった。

「はぁ…」

 体の節々が痛くてストレッチをして体をほぐした。

 実験道具が散らかる机から離れ、上の階に行くための梯子を上る。

 この三日間、この地下室で缶詰め状態で研究していたため、霊夢と弾幕ごっこがしたい。いろいろと道具を持っていくことにした。

 新しく作り出したものもあるため、霊夢にそれをお見舞いしてやろう。

「今回は勝てる自信しかないな」

 私は独り言で冗談を言いながら歯を磨き、髪なども櫛で解かしていつも通りに片方だけ髪の毛を結んだ。

 出かける直前にポーチを肩にかけ、そのなかに様々な瓶やミニ八卦炉、マジックアイテムを突っ込む。

 ドアを開けて外に出て鍵を閉めた。

「……」

 薄暗い。私は上を見上げる。

 いつも薄暗い魔法の森がいつにもまして暗いのは、天気が良くないのとこのねっとりと纏わりつくような濃霧だろう。魔法の森ではよく見る光景だ。

 視界がほとんど塞がれていて、飛びなれた森でも気を付けた方がいいだろう。

 重くなったポーチを肩にかけなおし、私は箒を手に取った。

「……歩いて行くか…」

 久しぶりの外だしフルスピードで飛んでいきたいが、霧の中は危ないから霧が晴れるまでは歩いて行こう。

 それに、たまにはこういうのもいいもんだ。私は箒を肩に担いで歩く。

 ザリッ…ザリッ…

 私が歩く音が響き、周りの木々に反響して人が何人も歩いているように聞こえる。

 まあ、いつものことだが。

 しかし、研究は疲れた。ずっと座りっぱなしだったせいで腰が痛い。

「……ん?」

 なんだか、嗅いだことのある臭いがする。

「なんだ?」

 匂いがうっすらすぎてわからない。まあ、たいしたものでもないだろうし、別にいいか。

 そう思っていると、村で飼われているであろう豚が私の前を走っていく。

「…豚…?…なんでこんなところに?」

 柵が壊れたとかだろうか、柵が壊れた家は散々だろう。

「…ん?…あれは…」

 しばらく歩くと、地面に何かが倒れているのが見えた。

 近づいてわかった。豚が死んでいる。

 狼にやれたのかと思ったが違う。溶けて小さくなり始めた氷の刃に貫かれて死んでいるのだ。

 首がないと思ったが、近くに半分食いちぎられている豚の頭部が転がっている。

 内臓も引きずり出され、食い散らかされている。

「……ひでぇ……」

 殺してからしばらくたっているのだろうか、少し血液の色が変色してきている。

「……いくらイタズラ好きといっても、ここまでのことはしないよな」

 青色の小さく、イタズラ好きの妖精、チルノのことが思い浮かぶが、ここまで酷いイタズラと呼べないようなことはしたことがない。たぶん、別の妖怪だろう。

 妖怪が人間や動物を襲うことは別に珍しいことじゃない。割と頻繁に聞く。

 でも、ここまで食い散らかす現場は見たことがない。

 豚の死体にはいくつか違和感を感じる。

 妖怪は豚や牛などの動物を襲うことはほとんどない。なぜならば、人間の逃げ惑い絶望する表情などを楽しむためだという。そんな話を聞いた。

 それに、妖怪は人間の骨まで食い尽くす。あまり妖怪が人間を襲いすぎると博麗の巫女が動き、消されてしまう。だから妖怪は時々しか人間を襲わず、食える時に食うと言わんばかりに骨まで食い尽くすのだ。

「……」

 家からだいぶ離れているとはいえ、このまま死体があるのは気分が悪い。近いうちに処理をしなければいけないだろう。

 私はこの場から離れた。

 魔法の森の奥地にわざわざくるもの好きなんていない。だから、今まで放置されていたのだろう。

 ようやく魔法の森を抜けるころ、霧が晴れ始めて周りが見えるようになってきた。

「…え…!?」

 さっきとは違う変な匂いが風に交じってくる。私は歩を早めて霧を抜けたとき、無意識のうちに声を出していた。

 数百メートル先にある村のあちこちから煙が上がっている。

 まるで戦争でもしているのかと思ってしまうぐらいに遠くにある家などが燃えていたり倒壊している。

「…どうなってるっていうんだ!?」

 私はすぐに箒にまたがり、空を飛ぼうとした。

 その時、横から何かが飛んでくる。人型をしているそれは、空を飛び始めようとしていた私にぶつかる。空中で浮いていた私は、バランスを大きく崩すと地面に倒れこんだ。

 押し倒すようにして、飛んで来た奴が私を地面に押さえつけた。意味が分からず、されるがままになっていたせいで後頭部を地面に打ち付けて頭が痛みでジンジンする。

「…なに…すんだよ…!ルーミア!」

 私は自分の上にいる金髪の少女に怒鳴りつけていた。

 




第二話は、明後日に投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二話 襲って来る者たち

この物語は原作とは一切関係はございません。

もう一つの東方鬼狂郷ですが、前作ともあまり関係はありません。

駄文です。

割と無理な設定などが存在します。

それでも良い方は第二話をお楽しみください。


 私を押したルーミアは、助けてくれたというわけでもなさそうである。ルーミアをどかそうとしたが、ルーミアは押さえ付けたまま私を見下ろす。

「どけよ…ルーミア…!」

 私はルーミアを突き飛ばそうと手を伸ばした。だが、ルーミアはそれを受け止めて私の右手を捻り上げた。

「いづっ…!?」

 右手に激痛が走り、私は魔力を操作して握りつぶされる直前に体を強化して手を振りほどく。

「どけって言ってんだろ!」

 私は左手をルーミアにかざし、レーザーを放つ。

 胸にかざした手から放たれたレーザーはルーミアを貫く。ルーミアの体にぽっかりと穴が開く。

 ルーミアは弱い部類の妖怪だ。だから、妖精たちのように簡単に倒せるはずだ。だが、すでにルーミアの胸の穴が再生を始めている。

「なっ…!?」

 私は驚きながらも狙いを変えてルーミアの頭を吹き飛ばそうとしたとき、ルーミアが私の左手を殴って軌道をそらし、右手と右肩を掴まれて押さえつけられた。

「ルーミア…何を…!?」

 私が振りほどこうとしながら叫ぶが、ルーミアはそれを無視して私の二の腕に顔を寄せた。

「………」

 ルーミアは無言で口を開け、私の二の腕に食いついた。

「……っ!?」

 ルーミアの歯が皮膚に食い込み、すさまじい咬筋力で魔力で強化した皮膚が引き裂かれる。筋肉の繊維をも切断し、ルーミアは私の肉を食いちぎった。

 あまりの激痛に目の前に星がちらつき、私は悲鳴を上げる。

 嚙み切れなかった肉の繊維がルーミアが顔を離したことにより、ブチブチと千切られる。またしてもその痛みに私は絶叫していた。

「ふぅ…」

 ルーミアが口から私の血を流しながら私の一部を咀嚼し、飲み込むと嬉しそうに吐息を漏らした。

「あぁぁぁぁぁっ………!!」

 私は雄叫びを上げながらルーミアの頬を殴った。

「!?」

 私の反撃にルーミアは対処できずに当たり、横に倒れた。そのすきに私はルーミアから転がって離れる。

 ルーミアが食いちぎった二の腕から血が絶えず流れ、服を紅く濡らした。

 わずかに白い骨が食いちぎられた肉の間から見えた気がしたが、考えないようにした。

 傷より上の部分を強く押さえ、できるだけ出血を抑える。

「…何すんだよ…ルーミア…!」

 私はゆったりと起き上がりルーミアに言いながらポーチから布を取り出して、左手と口を使って傷を強く結んだ。

 ルーミアが残念そうな顔をしながらこちらを見た。

 いつもと様子が違う。なんだか、目が変だ。目の動きに赤い光が尾を引いているように見えるのだ。

「……ルーミア…!」

 私はそう呟きながら、ルーミアに手のひらを向けた。

「…魔理沙ぁ」

 ルーミアが楽しそうに笑いながら呟き、左右にゆらゆらと揺れながら私に近づいてくる。

「…お腹すいたの…だから、私に…食べさせてよ…!」

 ルーミアが血で汚れた口元を血で汚れた袖で拭った。

 ドンッ!

 ルーミアが地面に土をまき散らして私に向かって跳躍してくる。

「くらえ!!」

 私はこちらに向かってくるルーミアにレーザーを放って撃ち落とそうとした。

 だが、ルーミアは空中で体を捻ると私のレーザーをすり抜ける。

「なっ…!?」

 かわすと思っていなかった私はルーミアの接近を簡単に許してしまう。ルーミアが私がかざした右手に噛みついた。

 ガリッ!!

 ルーミアが噛みつくと、その部分から鮮血が流れ出す。

「くっそ…!」

 私はもう片方の手でポーチから一つの瓶を取り出してそれに魔力を込めながら、噛みつくルーミアを身体を強化して振り払った。

「わっ…!」

 ルーミアが私に振り払われたことにより、隙が生まれる。ルーミアに瓶を押し付け、それを蹴り壊しながらルーミアを吹っ飛ばす。

 私はその場に伏せた。

 ルーミアに押し付け、蹴り壊した瓶の中身が空気に触れることで化学反応を起こし、青白い光を放ちながら大爆発を起こす。

 魔力を込めたため、普段の数倍の爆発に私も吹っ飛ばされることとなる。

 爆発の炎に少し焼かれ、爆風に煽られて地面を転がった。

 爆発の衝撃と爆風で地面の土が舞い上がっていて視界が悪いが、ルーミアは周りにいる様子はない。あの爆発をまともに食らったんだ。少なくともしばらくは動けなくなるだろう。

「……。いてぇ…」

 ポーチから瓶を出した方の左手を見ると、ルーミアに噛みつかれて牙で引き裂かれた裂傷ができている。

「………!!」

 私が蹴り飛ばして爆発するまでの間に私の手に噛みついたのだ。

「…なんてやつだよ…」

 私は魔力で応急処置をしばらくした。ある程度血が止まったところで移動を開始することにした。

「……」

 ルーミアなら、放っておいても大丈夫だろう。血が足りなくてクラクラするため、私は魔力で血を少し生産して貧血を治す。

 箒にまたがり、今度こそ空を飛んだ。

「……とりあえず…いくか……」

 こんなことが起きているんだ。霊夢は既に動いているだろう。私はそう考えながら情報収集のために村に向かった。

 

 町の半分は既に火事で燃えていたり家が倒壊して壊れている。

「……いったい…なんなんだ…?」

 私はそう呟いた。しばらく飛ぶと、森のあたりで嗅いだ匂いが強くなってくる。すぐに村につき、私は降下を始める。

 火の少ない地域に私は降り立つ。

 本当に戦争でもあったのか。村に降りた私の最初の印象がそれだ。遠くで見ても思ったが、かなり村の損壊が激しそうだ。

「……」

 周りの景色とは違ってこの辺りは物凄く静かだ。人間の死体がごろごろ転がっている。

 妖怪の仕業なのか、全員が食い殺されている。肉片や内臓が周りに散らばっていて、五体満足な死体などほとんど存在しない。

「…う……っ」

 気分が悪くなるような光景に口を押えた。

 これ以上みていたら吐きそうになるため、私は死体から視線を外した。

「……」

 この場所に誰かがいる感じがしない。場所を移動することにしよう。私は下をできるだけ見ないようにしながら移動を開始した。

 少し歩くと、通りの向こう側に人がしゃがんでいるのが見えた。

「…助かった人間がいるのか…?」

 私はそのしゃがんでいる人の方向に向かった。

「…なあ、あんた…いったい何があったのかわかるか?」

 私が言いながらしゃがんでいる女性に近づいた。

「……?………っ!!」

 私が近づいても反応しない女性が何をしているのかのぞき込む。

 私は驚き、声も出なかった。その女性はさっきのルーミアのように人間を食っているのだ。

「あんた…何してんだ!?」

 私は女性の肩を掴むと、今まで一心不乱に男か女かわからないほど損傷の激しい死体をむさぼっていたが、女性は私に気が付いたようだ。

「……」

 女性が咥えていた血で真っ赤に染まる臓器を落とし、赤黒く染まる口をゆがめてこちらを向いた。

「ひっ……!」

 私は女性から飛びのいて離れ、構えを取った。

「…きゃあああああああああああああああああああああああああっ!!」

 十メートル以上も離れたのに、鼓膜が破れるのではないかと思うほどの声に私は耳を塞いだ。

「ぐっ…!?」

 こいつは何でこんなことをするんだ。

 そう思った直後、私は周りに今までにない気配を感じた。

 倒壊した家の木々の下から、残っている家の中から女性と同じように人間とは思えない血まみれの格好で出てきた。

 十数人の人間が私に向かって歩いてくる。

 どんなに頭の悪いやつでもわかるだろう。この場所にいたらやばい。

 私が箒に乗って逃げようとしたとき一番初めに話しかけた女性に飛びつかれた。

「うわっ…!?」

 背中を地面に打ち付けてしまい、その衝撃で箒を手放してしまう。少し離れた地面に箒が転がった。

 私の顔の上にある女性が口を開けると、血生臭い息が私に吹きかかる。

「っひ!」

 背中につららでも突っ込まれたように寒気が生じ、私は魔力で体を強化して女性を殴り飛ばした。

 普通の人間と大差ないため、私から引きはがしたりするのは簡単だろう。と思っていたが、私は女性を引きはがすことができなかった。

 脳のリミッターが外れているのか、普通の人間が魔力で強化した私が痛いと思うほどに握力が強い。

 だが、体の耐久性がない女性の手の骨が折れて肉と皮膚を突き破って出てくる。

「くそっ!」

 私は罵りながら女性を押し出すようにして蹴り飛ばした。

「がぁぁぁあぁぁっ!!」

 男性が後ろから私に叫びながら突っ込んでくる。

 私はギリギリまで細くしたレーザーで男性の足を撃ち抜き、動きに制限を加えて簡単には飛びつけないようにした。

「このっ!」

 そのうちに腕に噛みついてきたほかの女性を引きはがし、ぶん投げた。

「…せい!」

 ポーチに入っている閃光手榴弾の瓶を人間たちがギリギリ集まるまで待ち、地面に向かって叩きつけた。

 私はすぐさま耳と目を塞ぎ、視覚と聴覚を遮断した。

 空気と化学反応を起こした瓶の中身は、目や耳を塞いでいても何も見えなく聞こえなくなるほどの光と音をまき散らしながら爆発した。

 光と音にまぎれて私はその場から離れる。

 だれがどの方向から来ていたかなんとなくわかっていたため、私は誰も来ていなかった方向に駆け出した。

 私も閃光瓶の影響で視界が絵具で塗りつぶしたようになり、耳は耳鳴りがして何も聞こえなくなっている。

 何度も実験で閃光瓶の光や音を自分で受けたことがあるが、見えなくなったり聞こえなくなった時間は平均して約二十秒。それと同じだけの時間奴らの動きを封じることができれば、十分だ。

 普通、閃光手榴弾をまじかで受ければ動けなくなってしまうが、何度も受けているうちに多少ならば動くことができるようになっていたのだ。でも訓練していない者であれば動くことはまず不可能だろう。

 今のうちに走り、私は考えていた通りのルートを走った。

「…」

 視界が真っ白で手探りで走っていたため家の壁に鼻先をぶつけてしまい、ヨタヨタと後ろに下がりそうになるが時間は無駄にはできない。私は少し迂回することにした。

 家の陰に隠れて閃光瓶の効果が切れるまでじっと待つ、しばらくしてからさっきまで私がいたところを見た。

「……」

 奴らは私を見失ったらしく、見回すことで私のことを探している。奴らの足元に箒が落ちていて、取りに行くには奴らを遠くに行かせるか戦わなくてはならないだろう。

 しかし、どっちにしろやるなら早くやった方がよさそうだ。私が一番初めに近づいた女性が上げた叫び声。あれにつられて続々と村人たちが集まってきている。

 この場所にいれば、時期に見つかってしまう。

 そう思っていたが、奴らを見ていて私は考え込む。ルーミアに引き続きこいつらは何なんだろうか。ゾンビのような奴らとはちょっと違う。

 情報が少なすぎて結論を出すことはできない。どの仮説も仮設の域を出ることができない。

「……」

 ポーチの中を確認した。

 ルーミアに使った爆弾が二つ。閃光瓶が三つ。特殊爆発瓶が二つ。それとその他のマジックアイテムなどが適当に投げ込まれている。

 どうする。箒を諦めるという手もある。しかしそれは私の移動はすべて徒歩となることを意味する。

 私の家から霊夢の家まで軽く二キロと少しある。箒がなければ移動がしんどくもなるし、時間もかかる。それに、常に私の二歩先を行く霊夢に会うことなどできないだろう。

 機動力を失えばいくら魔力を扱えるとはいえ数で押されれば私など簡単にひねりつぶされてしまう。

 今回の異変はいつもとは違う。大規模でかなり異常だ。だから、霊夢も今回の異変を解決するのに時間がかかっているのだろう。死体などから死んでからどれだけ時間が経っているか、ある程度はわかる。軽く一日は時間が経っているだろう。

 こんな異変。霊夢一人じゃあ心配だ。霊夢は私などがいなくても一人で異変など解決できるだろう。でも、どんなに強くても純粋に心配なのだ。こんな異変を起こした奴らと霊夢は現在進行形で戦っているのだから。

 早く霊夢のところに行かなければならない。そうと決まればさっさと箒を回収しよう。

 ところで、皆思ったことだろう。私がなぜこんなに箒に執着するのか。

 私は霊夢たちのように補助無しで飛ぶことが苦手なのだ。苦手なだけで飛べないことはない。でも、長い間箒で飛んできたことで箒がなければ飛べなくなってしまったのだ。

 私はポーチのファスナーを閉め、地面に転がっている木の棒を一本拾った。

自分とは正反対の方向を向かせるため、思いっきり投擲して向こう側に気の棒を落とした。

 カランと木と木がぶつかった乾いた音がし、おかしくなった人間たちの視線を集める。

 今のうちだ。

 足音を立てないように私は魔力を使って飛行した。

 箒がないため、私は空中をふらふらと飛んだ。その安定しない跳び方のせいで地面との距離が短くなり、地面に散らばっている民家の残骸に足を躓かせてしまった。

 木が折れる音が響き渡る。人間たちのぎょろぎょろと見開かれた目がこちらを見た。

「っ…!」

 そして私は走り、奴らも走って向かってくる。

 私は近くに落ちているできるだけまっすぐな木の棒を拾い、魔力で強化した。

 筋力なども同時に強化して、私は普通の人間では到底あり得ない跳躍力を見せた男性を弾き飛ばした。

 接近戦は不得手だが、相手も素人ならいけるかもしれない。このまま押し切る。

 二人目も叩き落とし、三人目は胸ぐらを掴み遠くに投げ飛ばした。

 しかし、一つ一つの動作で私に遅れが生じ、迎撃が追い付かずに男性に頭を殴られた。

 殴った本人の腕が半ばから折れるほどの衝撃に、私の意識が朦朧として霧がかったようにぼやけたものとなる。

 私は倒れそうになったが、歯を食いしばって耐えた。

 私を殴った男を他の人間たちの方向に殴り飛ばして道を開かせる。

 開いた道を進もうとしたとき、後ろから近付いていたやつがいたらしく、後ろから蹴りを受けて私は転んでしまう。

 足場が悪く、簡単に起き上がることができない。

「うぐっ!?」

 奴らが私をとらえるようにして一斉に上にのしかかってくる。

 十数人の重量は魔力で強化している私でさえ、押しつぶす重さとなっていた。

 肺が膨らまず、呼吸することができなくなって息が苦しい。でも、気を抜けば一気に押しつぶされてしまう。

「あ……がっ……!!」

 私は悲鳴さえ上げられずに悶絶した。

 人間が自分が押し潰れるのも構わずに次々と私にのしかかってくるなか、上から何か降ってくるのが人の合間から見えた。

 その人型の人物は、私の近くに落ちると魔力で浮力を得て減速しなかったのか、地面に放射状にひびが入り、衝撃で周りの物が浮き上がる。

 その衝撃で人の山が崩れ、私を押しつぶそうとしていた重量が消え、私はせき込んだ。

 着地した人物がゆっくりと立ち上がった。

 彼女が何かをしたのか、すさまじい突風が起こる。私と私の上に乗っていたやつらもまとめて吹き飛ばされた。

「うっ!?」

 竜巻に巻き込まれたのか、私の体は円を描くようにしてずいぶんと高い場所にまで舞い上げられている。いい景色だ、なんてきれいな景色を楽しんでいる暇はない。

竜巻がいきなり消失し、私の体はすでに弧を描いて落ち始めているのだ。

「これは……やばい!!」

 丘の上にある博麗神社よりも高い位置にいて、落ちたら確実に即死。

 落ちる際に、魔力を使って階段のように減速しながら落ちる。何度かそれを繰り返し、足で着地とはいかなかったが地面に着地することはできた。

「…ぐっ……!」

 私が着地の際に強く打った肩を押さえながら立ち上がろうとしたとき、上からさっき私にのしかかってきた人間が雨のように落ちてくるのが見えた。

 数十メートルもの高さ。落とされれば否応なしに人間は死ぬ。

 バギャッ!

 一人、また一人と地面に血肉をまき散らして赤い花を咲かせる。

 私は動くことができなかった。私が動けば何人かの人間は助けることができたのかもしれない。でも、この現実味の無い地獄のような光景に、私は足がすくんで動けなかった。

 最後の一人が頭を地面に叩きつけて爆発させたとき、すでに私の周りは血の海だった。私にも少なからず返り血が飛び散り、黒い服がわずかに赤く染まる。

「……ふふっ」

 私はこの惨劇を作り出した人物をゆっくりと見た。

 相手も私を見つめていた。私一人だけ生き残っているということに興味を示したらしく、こちらを眺めている。

「何なんだよ…!……何してるんだよ…文…!」

 クスクスと笑っている彼女に私はか細い声で怒鳴った。

 




たぶん明日は投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三話 襲って来る者たち その②

第二話をお楽しみください。

誤字脱字や言葉足らずなどはできるだけ治していこうと思います。

私の想像が先走った作品です。


 文は私を助けるためでなく、殺すために竜巻に巻き込んだ。こんな状況だ。考えられるのはこいつもおかしくなってるということがわかる。

 文の戦闘能力は未知数。やられる前に先手を打たなければならない。

 文が動き出す前に、文に向けてレーザーを放つ。

 だが、文には当たるどころかかすりもしない。気が付けば文は私のすぐ隣に立って笑っている。

 まるで咲夜の能力でも使われたんじゃないかと錯覚した。文の瞳が怪しく光るのが視界の端に映る。

 でも、それが単純な文の速さだと気が付いたのは、文に蹴りを腹に入れられた時だ。

「がっ…!?」

 早すぎる文の動きに反応できなかった私は宙を舞い、血の海を越えてまだ無事だった家屋の壁を破壊して家の中に転がり込んだ。

「ふふっ…」

 倒れた私の目の前に既に文がしゃがんでおり、笑いながら私の頭を掴んだ。

 頭が握りつぶされるような握力で握られた。

「ああああああああああああっ!!」

 私は文の手から逃れようともがくが、振りほどくことができない。目の前に星がちらつき始めた時、

「魔理沙さん……覚悟してくださいね」

 文が楽しそうに言いながら、私を壁に投げつけた。

「ぐうっ…!?」

 背中を強く壁に打ち付け、私は壁にもたれかかる。

 覚悟しろとはいったい何のことかわからず、私はズキズキと痛む頭を押さえながら壁を支えにして立ち上がった。

 文が台所の方向から光に反射して鈍く光る大きな包丁を持ってきた。

 ゾッと血の気が引く感覚がわかる。

 普通の人間にナイフを向けられても同じ感覚になるだろう。でも、人間ならば全力で逃げれば私は助かる可能性もゼロではない。しかし、現在私がナイフを向けられている相手は瞬間移動ではないかと疑うほどの速度を持つ天狗だ。逃げ切れる確率は絶望的、背を見せて逃げても逃げなくても私はここで殺されてしまう。

「くふふ…」

 文の嗤う声がいつの間にか横から聞こえている。

「!?」

 私はレーザーを横に狙いなどつけずに時間稼ぎ程度でぶっ放す。

 だが、大きく狙いがそれ、的外れな場所にレーザーが命中し、床を焦がした。文に向けた右腕を文に掴まれ背中側に回される。

「いっ…!?」

 文が私の腕を折れる寸前の場所で押さえた。

「…文……なんで…こんな意味のないことをするんだよ…!」

 私が言うと文は笑い、呟く。

「私は見たいんですよ…本当のあなたを」

「…本当の…私……?」

 私が呟いた時、文の右手に握られるナイフが後ろから回されてきて腹部の位置に添えられた。

「さてと」

 文はそのままの体勢で呟き、私にナイフをゆっくりと突き立てる。

 皮膚をナイフの先が切り裂き、チクリとした刃先の痛みが脳に伝わり、私が苦悶の表情を浮かべたところで、文は動きを止めた。

「文……お願いだ……止めてくれ…!」

 血がにじんできた腹部が見える。いつナイフが根元まで突き刺されるかわからない恐怖に、うまく舌が回らないが聞こえるようにはっきりと呟いた。

「いやですよ……私はあなたの本心が見たいんですから…」

 文が興奮気味に言った。

「…そんなくだらないことはやめろ…異変に加担すれば霊夢だって黙っちゃいない……消されちまうぞ…」

 私がそう言ったとき、ナイフが一センチほど私の中に潜り込んだ。

「あが………っ!!」

 今まで味わったことのない激痛に私は絶叫することもできない。呼吸の仕方も忘れてしまい、私は酸欠になりかけている。

「ほらほら、命乞いをしないと死んじゃいますよ…?」

 私を刺して興奮しているのか、文が顔を高揚させて耳元で囁いた。

「…や…め……!」

 私がようやく絞り出したような声を出した時、文がさらにナイフを私の中に押し込む。

 刺された部分の周りの服が血で濡れて皮膚に張り付く感覚が気持ちが悪い。

 こんな激痛。耐え切れない。

 既に私の意識は遠のき始めている。

「………」

「魔理沙さん……人間に限らず妖怪、妖精たちはみんな常に嘘をついています」

 文がぐったりとしている私の顔を持ち上げて耳元に唇を這わせ、呟いた。

「…?」

「周りに合わせ、面白くもないのに笑い、悲しくもないのに泣く。長年記事などを書くために様々な人間と妖怪とあってきましたが、全員仮面を被って偽りの自分を周りに見せているというのが私にはわかりました」

「そして、私は思いました。誰もが死の瞬間になれば仮面を外して自らの自分をさらけ出すのではないかと…試してみて、大成功でしたよ。とても勇敢な男が恥を捨てて命乞いをし、とても優しくおしとやかな女性が鬼のような形相で罵倒を吐きかけ、とても仲の良い夫婦がどちらかが助かるためにどちらかを切り捨てようとし、滑稽な男が死を受け入れたり。周りに見せている物とは全く違う一面を見せてくれました」

「だから……なんだよ……」

「だから、私は魔理沙さんの本心も見てみたいと思ったんですよ」

 私の顔の横にある文の目が赤く光る。

「さあ、あなたも偽りの仮面を外して、本心をさらけ出してくださいよ」

 そう言いながら文は私にナイフをさらにずぶりと差し込んだ。

「っ……あああああああああっ!!」

 飛びかけた意識をなんとか繋ぎ止めるが、胃から上がって来た血を吐き出し、足元の地面を紅く濡らした。ナイフは内臓を傷つけていたらしい。

「ほら早く仮面を外して命乞いの一つでもしてみたらどうですか?…私を楽しませてくださいよ、魔理沙さん」

 文が笑いながら私に刺さったナイフをゆっくりと押し込む。

「~~~~っ!!」

 私は歯をくいしばって耐える。アドレナリンが分泌されて痛覚が麻痺して痛みが和らぎ始める。

「ごぼっ……」

 私は再度真っ赤な液体を吐き出した。下に顔が傾き、文のナイフが腹部に根元まで刺さっているのが見えた。

「魔理沙さん。わかりますか…?ちゃんと根元まで刺さっていますよ?いくら魔力を扱えても、そのうち出血多量で死にますよ」

 文が楽しそうに笑みを浮かべながらささやく。

「か……あ……」

 私は喋ることもできず、後ろの文にもたれる状態で辛うじて立つことができていた。

「……魔理沙さんは頑固でつまらないですね。…じゃあご協力感謝します。死んでください」

 文が言いながらナイフを引き抜こうとしたが、私は文のナイフを掴む手を上から掴んだ。

「…?今更何のつもりですか?あなたにもうようはありません」

 文が苛立ったような声を私に浴びせた。

「…そんな、酷いことを言うなよ」

 私は自由な方の手でポーチから取り出していたマジックアイテムを耳元でささやく文の口にねじ込んだ。

「んぐっ!?」

 文は目を白黒させて吐き出そうとしたが、私は文の口を押えたまま言った。

「爆発しろ」

 文の口の中で小さな爆発が起こり、文は私から手を放して後ろにヨタヨタと下がる。

「あがっああああああああああっ!?」

 文の悲痛な絶叫が響き渡った。

「悪いな、文」

 私は息を止めて謝罪しながら文から遠ざかる。こちらに一歩か二歩転びそうな歩み方で歩いていたが、文はすぐに倒れた。

 私は文から一定の距離を開けてから息を吸い込む。

 文に使ったのは毒だ。

 普通は煙を出すわけだが、その煙が毒であってそれを吸うと体が痺れたりする。本来は煙として空気に混じる分効果は薄い。

 だが、今の文はそれが口の中にあり、さらに大量に発生した煙を吸い込んだ。人間用で作ったため効果はあまりないだろうが、直接あれだけ吸い込めばいくら天狗であろうとも効果の一つはあるだろう。

 私は念のため、解読罪が練りこんである飴を口に含んだ。

「…かはっ……!!?いぎゃあああああああああああああああああっ!!」

 文が地面で砂やほこりにまみれてのたうち回る。

「…ぐっ…!」

 私は足から力が抜けて膝から崩れ落ちた。

 まずい…。

 私は自作の傷の修復を促進する回復薬を取り出し、傷に振りかけた。強い睡眠作用があって使えば眠ってしまい、殺してくれと言っているとしか思えない状況になってしまうが、四の五の言っている暇はない。本当に死んでしまう。

 傷が煙を上げながら修復を始めた。

 ナイフを抜かないとそのまま刺さったまま再生してしまうため、ナイフを引き抜き、血がこびりつきナイフを投げ捨てた。

 人間の血や油などがこびりついたあの刃物は早く洗わなけれ錆びて使い物にならなくなるだろう。

 液体の回復薬を布にしみこませて止血の代わりに傷を押さえた。

 背中を壁に預けて座り込む。早く文から離れないといけないのに、体が動かない。回復薬の副作用のせいだ。

 できるだけ離れることができないかと動こうとしているとき、毒に苦しみ、青白い顔をした文がこちらに体を引きずりながらこちらに来るのが見える。

「…まだ…やる…き…なの…かよ……」

 私が捨てた赤いナイフを持った文が笑いながら私の足に触れた。

「く……くるな…!」

 私は足に触れた文を蹴飛ばすと、脳を揺らしたのか力尽きたように突っ伏して動かなくなる。

「く……そ…」

 立ち上がろうとしても足が言うことを聞かない。

 血を流しすぎたのと、回復薬の副作用で意識が遠のいていた。

「……」

 私はいつの間にか眠るように気を失っていた。

 

「………うっ……」

 かすれた声が自分の物だと気が付くのに約二十秒はかかった。その秒数も合っているか定かではないが、わかっていることは私はまだ生きているということだ。

「………」

 私は目を開けると、文はまだ青い顔をして私の目の前に倒れている。

 手で押さえていた布が乾いて皮膚に張り付いているのを剥がすと、べっとりと血がこびりついて茶色く変色を始めている。

 腹の傷は回復薬の作用できれいさっぱりとは言わないが、応急処置程度にはなったらしく、塞がってはいる。

「……」

 薬の副作用でまだ重い体を持ち上げて文の首に手を当てた。少し弱いが鼓動は感じる。生きてはいるらしい。

 とりあえず安心して周りを見た。あたりは暗くなっていて、かなり時間が経っているのがわかる。

「……」

 まだよろける体を引きずるようにして私は箒があった場所に歩く。村人は文の風で全員死んでしまったらしく、人ひとりっ子いない。

 文の起こした風を直接的に受けなかったらしく、箒は昼と同じ場所に落ちている。

 箒を拾い上げ、この場所からは暗くて見えないが遠くにある博麗神社に向かうために箒にまたがった。

 この異変、単独で動こうかと思ったが無理だ。私には手に負えない。

 死人が出ている時点で単独行動などはしない方がよかったわけだが、前の自分のことを批判しても意味はない。

 箒に魔力を流して推進力を得て浮き上がり、博麗神社に向けて飛び立った。

 今回の異変、天狗が大きくかかわっているのだろうか。とりあえずそれを霊夢に伝えよう。異変が起こってからしばらくたっているため、霊夢はもう知っているだろう。なら私が知らないことを聞き、状況が理解できるだけの情報を得よう。

 私は闇にまぎれて空を飛んだ。黒い服を着ていてよかったと今更だが思った。

「……」

 人間があんなに狂っているとしか言いようのない状況、何があった。

 能力を使えばできないことはないやつは何人かは知っている。

 人と人が争っているのならば、パルスィの能力ではないかと思うが嫉妬心でああはならないだろう。

 奏こころもできないことはないかもしれないが、そもそもあいつはそんなやつじゃない。自分が起こしてしまった異変をどうにかしようとする奴だ。

 能力がかかった状態から一番当てはまるのが鈴仙であるため疑ったが、あいつの能力は個人に対してだけだ。まとまっていれば複数人もいけるが時間がかかるし、その間に霊夢が動くだろう。現実的ではない。

 ここまで考えて私は思った。そもそも、異変を起こした連中の動機が分からない。

 昼に幻想郷を見回した際、さっき私がいた村がかなりの被害を受けていること以外変わらないように見えた。

 紅魔郷の時などは目に見えて変化があり、わかりやすかった。

 しかし、わかりにくい異変だとしても最低でも一週間前程度から異変なのでは?という変化がある。

 私が地下にこもったのは三日前、地下にこもる前日も一週間前も異変の前兆のようなものは感じられなかった。

 だとすれば、幻想郷入りした新参者が異変を起こしたということだろうか。

 その新しく入って来た奴の能力だとすれば、この不可解な現象もある程度は納得がいくだろう。

「……」

 だとしたら、ずいぶんと交戦的な奴だ。

 考えていた時、胃の筋肉の収縮を感じた。胃にまだ残っていた血があったらしく、それを胃から押し出そうと筋肉が収縮した。

「…うっ…!」

 私は顔をそらして自分にかからないようにして血を吐き出した。

 口元が血で汚れ、私は手の甲で拭う。

 今まで正面しか見ておらず、わきを見ていなかったせいでそいつらの接近に気が付くことができなった。

 リグルとミスティアだ。私が二人に気が付いたことをミスティアが感づいたらしく、口を開いた。

「…?」

 お前たちは大丈夫かと私が声をかけようとしたとき、ミスティアが聞き入ってしまうような美しい歌声で私を惑わし、狂わせようとする。

「うあっ…!?」

 音が波となって空気を振動して伝わり、私の鼓膜を揺らして脳に音としてその情報を伝える。

 ガクンと私がまたがっている箒の角度が傾き、誰かが箒に乗ったということがわかる。だが、それすらも分析することができない。

 ドン!

 背中を誰かが蹴った。

「がっ…!?」

 耳を押さえようとした私をリグルは箒から蹴り落す。

 私は加速しながら地面に向かう、文に風邪で吹き飛ばされた時のように風の雑音で何も聞こえなくなる。

 そのころになって私はようやく自分の状況を理解する。

 真っ暗な地面が凶器となって私に迫ってきていた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四話 博麗霊夢

前回に引き続き、第四話をお楽しみください。

今回は微妙に百合成分が含まれます。

それでも良い方は第四話をお楽しみください。


 かなりの高度を飛行していたため、何もせずに落ちれば死ぬのは確定の速度が出ている。

 だが、幸いなことに下はうっそうとした森だ。体を強化すれば木の枝とかに当たってスピードが落ちてもしかしたら助かるかもしれない。

 私は体を魔力で強化した。

 顔の前で手を交差させて目などを傷つけないようにして森の中に猛スピードで突っ込む。

 バキバキバキ!!

 木の枝がぶつかった私の体重と運動エネルギーに耐えきれずに歪んで折れていく、そのたびにエネルギーを置いていき、速度が段々と遅くなるがまだまだ早い。

「くっ…」

 本気で死を覚悟しかけた時、太い木の幹並みの太さの枝にがら空きの腹を強打した。

「かっ…!?」

 肺から空気が抜けて短い悲鳴のようなものが口から洩れた。

 大きくゆがんだ枝がぶつかった私の勢いを耐えきってくれた。枝が半ばからへし折れ、私は地面に落ちた。

「……いてぇ…」

 だが、この際そんなことはどうでもいい、命があっただけでましと言える。

 私はあの二人が来る前に移動をしよう。

 今回の異変、あいつのせいなのか?ミスティアの歌は人の判断能力を奪い、狂わせることがある。魔力を持つ人間は惑わされたりするぐらいだが、魔力を扱わない者が長時間聞けば狂ったりするのかもしれない。

 そう思ったが、その考えは的外れにも程があるだろう。

 ミスティアにそんな度胸があるわけがない。それに、魔力が扱えるルーミアや文もおかしくなっていた。この異変にミスティアは直接的には関与していないはず、文達とどうように操られているだけだろう。

 まったく、たった三日間地下にこもっていただけで外ががらりと変わっている。まるで浦島太郎にでもなってしまったような気分だ。

 博麗神社に走って向かっていたが、私の正面に上の木の枝を折って降りてきたリグルが着地した。

「っち…」

 追い付かれるとわかってはいたが、この先どうするか。

 私が引き返そうとしたとき、後ろにミスティアが立っている気配がした。

 どうするか…。強い妖精程度のこいつら二人なら余裕で相手できる。だが、それは弾幕戦での話だ。

 弾幕は殺さないための攻撃手段だ。私みたいな弾幕でしか攻撃できないやつは弾幕で戦うしかないが、こいつらは弾幕で戦うよりも接近戦で戦った方が強いだろう。

「……」

 高出力で放てば弾幕でも殺すことはできるだろう。最悪、殺せなくても痛手は負わせられるはずだ。

 しかし、まだ私にも勝機はある。現在は秋に近い気温で、リグルの能力がいかせる時期ではない。

 レーザーの幅を大きくすると速度が遅いため、後ろを振り返りながら威力を保ったまま、ギリギリまで細くしたレーザーを放つ。

「あがっ…!?」

 ミスティアの喉笛を撃ち抜くことには成功した。だが、後ろからリグルの蹴りを食らうこととなる。

「がはっ…!?」

 文ほどの強烈な攻撃力を持っていないとしても、体を強化していなければ私を殺すには十分な威力と言えるだろう。

「っ!?」

 体の強化が甘かったらしく痛みに動けなくなってしまい、地面に倒れた。

 倒れた私はすぐに起き上がろうとしたが、リグルとミスティアの二人がかりに押さえつけられた。

 押さえ付けられるのを抵抗しようとしたとき、背中と腹に鋭い痛みが走る。

 グギッ!

 じんわりとした痛みは、時間が経つごとにはっきりとした激痛に変わっていく。

 蹴られた私は体をくの字に曲げてもだえ苦しむ。

「か……はっ……!?」

 またリグルに蹴られそうになった時、見様見真似のぎこちない動作でリグルの足を払った。

 反撃されるとは思ってもいなかったのだろう。リグルがバランスを崩して後頭部を地面に打つ。

 そのうちに私を押さえていたミスティアの手から、体をねじって抜け出した。

 ミスティアはまだ喉が治っていないため、歌うことができていない。

 またあれを食らったら、今度こそ二人になぶり殺しにされる。やるなら今だろう。私はミスティアに掴みかかり、霊夢が私にかけたことのある投げ技をミスティアに食らわせた。

 腕と胸ぐらを掴み、自分の足でミスティアの足を払って転ばせるようにして投げ飛ばす。

 霊夢ほどの切れはないとしても、ミスティアのような体術の素人ならば簡単に投げ飛ばすことができた。

 リグルが私に飛びかかってくるが、ミスティアとリグルの二方向にレーザーを放ち、綺麗に撃ち抜いた。

 リグルとミスティアが同時にゆっくりと地面に横たわる。少しの間抵抗していたようだが、すぐに気を失った。

「……ふぅ…」

 私はため息をつきながら二人を見た。

 こいつらが体術の素人で助かった。もし、少しでもその心得があれば今倒れているのは私だったはずだ。

 接近戦がここまで酷いとは思わなかった。少しでも霊夢から教わっておけばよかったと後悔しながらもこの場から離れた。

 弾幕などの光で少々目立ってしまった。他の連中が来てしまうのも時間の問題だからだ。

 しかし、この二人をこのまま放置すれば、すぐに目を覚まして他の奴を襲うだろう。だが、私は霊夢のように封印したりすることができない。だから、こうやって放置するしかないだろう。

 走り始めてすぐ、私の後ろを低俗な妖精や妖怪が追ってくる気配がする。何が追ってくるかなんて見たくもない。

 それに、交戦するよりもこのまま博麗神社に逃げ込んだ方が早いだろう。段々と神社の明かりが見えてくると、奴らは本能的に霊夢がやばいと感じ取ったのか、すぐに追ってこなくなった。

 つまり、霊夢は神社にいるということだ。

「…霊夢!」

 私は庭を横切り、明かりがついている寝室に向かった。ノックもせずにがらりと障子をあけ放つ。

 だが、お布団が敷いてあるだけで霊夢の姿はない。

 霊夢は本当に大丈夫なのかという不安で、心臓の鼓動が早くなる。

「魔理沙…?…私はこっちよ?」

 霊夢の声が後ろから聞こえてくる。後ろを振り拭くと寝室の電球の光に照らされた霊夢が庭の方で縁側に上がっている私を見上げている。

「霊夢!」

 少し、巫女服がボロボロではあるが、霊夢が正気でいるということに私は心から安心した。

 縁側を降りて私は霊夢に近づく。

「大丈夫か!?霊夢!おかしくなってないよな!?」

 私は霊夢をがくがくと揺らす。

「えぇ…それよりも魔理沙、あんた今までどこ行ってたの!?すごく心配したんだからね!?」

 今度は私が霊夢にがくがくと揺らされる。

「すまん…」

「大丈夫よ……それよりも、怪我してるの?手当てしないとね」

 霊夢が私に言った。

「いや、これはだいたいがもう治ってるから心配ない」

 私が言うと霊夢はほっとしたように息を吐いた。

「そう、それならいいんだけど」

「…それと、早く異変を解決しないと…手伝うぜ霊夢」

「ありがと、でも…待って魔理沙」

 霊夢に両肩を掴まれ、霊夢の方向を向かせられた。

「何だよ、霊夢」

 じっとのぞき込む霊夢に私は赤面した。

「魔理沙、結構血まみれだし…少しきれいにしましょう。タオルで拭くぐらいでもいいから」

「……まあ、確かにそうだが…」

「魔理沙も女の子なんだから、血まみれだったらせっかくの美人が台無しよ?」

 霊夢がいたずらっぽい笑みを浮かべながら私に言う。

「そんなこと言われてもうれしくないんだぜ」

「顔赤くしながら言われても説得力ないわよ」

 

「一応、予備の服も持ってきておいてよかった」

 私は体中にこびりついていた血を濡れたタオルで拭きとり、新しい洋服をきながら言った。

「そうね」

 霊夢が私の帽子についてる血を綺麗にふき取り、座っている私にかぶせてくれた。

「それじゃあ、行くか」

 私が立ち上がろうとしたとき、霊夢に両肩を掴まれて抑え込まれる。

「…?どうしたんだ?」

「魔理沙は、三日間もどこに行ってたの?」

 霊夢が呟いた。

「…地下でマジックアイテムなんかを作ってたんだぜ」

「……すごく、寂しかったんだからね?」

 霊夢が上目遣いで私に言った。

「…っ!?」

 こいつ、こんな顔もするのか。見たこともない霊夢の表情に私がドギマギしているとき、霊夢が両手で私の頬に触れ、霊夢の方向に引き寄せられた。霊夢の柔らかくてしっとりと温かい唇が私の口を塞いだ。

「んっ…!?」

 いきなりのことで私は反応ができず、十秒ほどそのままになっていた。

 だが、すぐに霊夢から離れる。

「れ、霊夢!?いきなりどうしたんだよ!?」

 恥ずかしくて霊夢の顔を見れないせいで、私はうつむきながら叫ぶ。

「…魔理沙は私のこと嫌い?」

 霊夢が寂しそうにつぶやいた。

「そ……そういうことじゃなくて……!…なんでこんな時に!?」

 私が言いかけた時、霊夢が私を押し倒した。

「…へ?」

 力強く押し倒されたため、後頭部を床に打ち付けそうになる。

「……れ、霊夢…??」

 意味が分からず、困惑する私に霊夢が私の上にのしかかってくる。

「魔理沙は……私のこと嫌い?」

 真正面から霊夢が私が顔を背けられないように頬を両手で包みながらまた言った。

「…………」

 さっきのこともあり、死ぬほど恥ずかしい。

「魔理沙?」

 霊夢は言うまで逃がしてくれそうにない。

「…わ…私も、好きだ……でも、なんで今言うんだよ」

「…別にいいじゃない…」

 霊夢の様子がおかしい。

 霊夢が顔を下げると、さっきと同じようにキスをした。

 霊夢の下が私の唇の間に滑り込み私の舌に絡ませ、霊夢が私の口の中をかき混ぜる。それが凄く暖かくて気持ちがよくて頭がくらくらする。呼吸をするのも忘れて私は霊夢とキスをし続けた。頭の奥が痺れて何も考えられない。

「……」

 五分ほどそうしていただろうか。私はようやく霊夢の肩を掴んで引き離した。

 私の唇から霊夢の唇が離れる。霊夢の体温を感じられなくなったことに少しさびしさを感じる。

「…霊夢……今は…こんなことをしている場合じゃない……」

 私は回らない頭を使ってようやく呟いた。

「…………」

 霊夢は答えない。何か言ったかもしれないが、思考が追い付かない私には聞こえなかった。

 私はまるで全力疾走したかのように肩で息をしながら立ち上がろうとしたとき、霊夢はまた私のことを床に押し付けた。

「…霊夢…?」

 上にいる霊夢を見上げた時、私は凍り付いた。

 霊夢の目から光が失せて濁り、ルーミアたちと同じ目をしている。

 瞳がわずかに赤く光る。それはまるで炎のように揺らめき、霊夢の動きに合わせて尾を引いている。

「やっぱり……魔理沙は………私が嫌いなのね」

 霊夢が凍えるような冷たい声で私に語り掛ける。

「ち……違っ………私は…!!」

 霊夢を掴もうとしたとき、さっきまでの霊夢の柔らかい雰囲気から一転、私の手を跳ねのける。

「霊……夢………?」

 霊夢が私の胸に乗ったまま、右手を握って拳を作った。

「……何を…?」

 霊夢が右手を大きく振りかぶり、霊力を込めた拳を私の顔に振り下ろした。私がとっさに顔を傾けたことで側頭部を殴られる。

「~~~っ!!?」

 私は叫ぶことものたうち回ることもできなかった。

 ドゴッ!!

 霊夢が拳を振り上げて再び私の頭に拳を叩きこむ。拳と床に挟まれてさらに激痛が走った。

「あああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」

 止めてくれと叫びたかったが、口を開けば悲鳴しか出すことができない。

 ガツッ!!

 霊夢に三度目となる拳が振り下ろされた時、顔を上げた私の目に当たった。

 グギャッ!!

 その瞬間、右目で見ていた視界が真っ黒に染まり何も見えなくなる。

「あ……がっ……!?」

 生暖かい液体が私の右目から流れた。それが涙でないことぐらいすぐに分かった。

「うぐぁ………ああ…がっ……!!」

 右目を押さえると手のひらにヌルリとした液体がへばりつく。

「や……め……!」

 私のかすれた声を霊夢は無視して拳を私の顔に振り下ろす。

 ゴキッ!

 また、霊夢の拳が私にめり込んだ。

「あぁっ!!」

 私は叫び声をあげた。

 ドゴッ!!

 また霊夢が私の頭に拳を振り下ろした。

「……あ……ぐ…っ!!」

 私は意識が朦朧とするが、何とか右手を上げて霊夢が今まさに殴ろうとしていた腕の裾を掴んだ。

「…や……め…て……く………れ……!」

 私が呟くが霊夢は私の手を振り払い、また私を殴った。

「………うっ……!」

 体から力が抜け、私は手をもとの高さに保つことができずに床に落ちた。

 ガッ!!…ゴッ!…バギッ!

 殴られるごとに私の意識は遠のく。寒気を感じる。死に向かって意識という海を沈んでいく。

 朦朧とした意識の中、霊夢の怪しく赤く光る瞳と目が合った気がした。霊夢はニコリと笑うと、私の血がこびりつく拳を振り下ろした。

「………!!」

 

 そうして、私は意識を失った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

お気に入りなどをしてくれた方、ありがとうございます。楽しんでいただけるように頑張ろうと思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五話 彼

今回だけオリジナルキャラクターが出てきます。

そういったのが嫌いな方は申し訳ございません。

私の話の魔理沙は原作とはかけ離れた性格をしています。

それでもよろしい方は第五話をお楽しみください。


 なんだか、体が軽い。質量が無くなってしまったかのようにふわふわとした感覚がする。

「…………?」

 私が目を開けると、薄暗くて幽霊が出ると言われたらうなづけるような一本道に立っていた。道の左右には木がいくつも生えていて、それの作り出す影のせいでより暗く感じる。

 私は博麗神社にいたはずだ。移動した覚えもなく、さらにこの実体のない感覚。当てはまるのは一つしかない。

「……。あいつがいるってことは……」

 私の視線の先には、映姫が悔悟棒を持ってたたずんでいる。

 やっぱり私は殺されたのか。

 死んだといまだに信じられないが、プライベート以外で映姫の姿を見るということはそれはイコール死ということ、嫌でも死んだということを受け入れるしかない。

「…こんにちは、……いや…今はこんばんはですね」

 近づいた私に悔悟棒から視線を外した映姫がいつも通りの口調で言った。

「……」

 死んで裁かれるというのに、おかしくなっていないやつがちゃんといたということに私は少しほっとしていた。

「……私は、殺されたんだな……?」

 私は少ししてから映姫に話しかけた。

「…ええ、そのようですね」

「………霊夢は今どうしているんだ?」

「私が知っているわけないじゃないですか」

 映姫が言いながら悔悟棒をちらつかせる。

「…私を裁くのか?」

「…もちろん。この場所に来たんですから、当たり前じゃないですか」

 映姫が言いながら手鏡を取り出した。

「……だよな…」

 私が呟いた時、映姫は私に手に持った手鏡を見せた。

 手鏡を覗き込むといつも通りの自分が鏡に映っているが、少しすると私の今までの人生が流れ始める。

「……」

 幼少期、霊夢との出会い、異変の解決、友人との喧嘩、紅魔館に魔導書を借りに行ったこと、人には言えない恥ずかしいことまでが映し出されていく。

 プライバシーもあったもんじゃない。

 数分して映像が霊夢が私を殴り殺したところで終わり、手鏡をのぞき込んでいる私の顔が映し出された。

「…まあ、そういうことなので白か黒か決めましょうか」

 映姫が悔悟棒で私をシバくためにずいっと前に出た。

「……」

 今までの人生を振り返って、私が黒にならない要素がない気がする。

「……。…………」

 悔悟棒に私の罪を書き込んでいた映姫の手が止まった。

「…」

 罪を書き終えて私を殴るのだろう。映姫がちらりと私を見る。

 悔悟棒というのがどれほど痛いのかわからないが、とりあえず歯を食いしばろう。目をギュッと閉じて裁きの時を待つが、一向に映姫が悔悟棒を振り下ろす気配がしない。

「……?」

 私がおそるおそる目を開けて映姫を見た。

「……。私の中では完璧にあなたは黒です」

 映姫がそう言った。

「…」

「でも、私の白黒はっきりつける程度の能力が違うと言っています」

「…どういうことだ?つまり白ってことか?」

 黒で違うということは白だろうかと思い、私が聞くと映姫が顔を横に振り、言った。

「…白黒はっきりつけられないということです」

「…え?……そんなことあるのか?」

 たしか、だいぶ前に鈴仙に映姫のことを聞いたことがあるが映姫は特殊な波長をもっていて、周りの意見や感情に流されることがないため他人を裁くことができる。そう聞いていたがそんな映姫でもどちらかわからないなんてことがあるのだろうか。そもそも、今までの私の行いは決して白とは言えない行ないもあったはずだ。

「……私の能力で決められないということは……」

 私の質問に答えずに映姫は自分で結論を出そうとしている。

「…何かわかったのか?」

 再度、私は映姫に聞いた。

「…彼に呼ばれているようですね」

「…?彼?」

 私が聞くと映姫はうーんと考えてから言う。

「まあ、あとは彼に話を聞いてください」

「だから、その彼っていうのは誰なんだよ」

 答えになっていない答えに私が聞き返そうとしたとき、映姫が道を奥に進むように促した。

「説明は全て彼に聞いてください。死んだ人間が多くて忙しいんです」

 映姫が言ったとき、私の後ろに行列ができているのに気が付いた。

「うわっ!?」

 私は驚き、飛びのく。

 目の前にいた女性が失礼な、と言わんばかりに私を睨む。

「…す、すみません」

 私はとりあえず謝りながら道の奥に進むことにした。

 奥に進むごとに霧が段々と濃くなっていく。今朝の魔法の森の時よりも霧が濃くなって一寸先すらも見えなくなっていたころ、私は地面の土を無味占める音が聞こえなくなっているのに気が付いた。

 いきなり強い光が私を照らし、私は手で目を覆いながら目を閉じる。それでも視界が白く塗りつぶされるほどに光が強い。

 光がようやく収まったころ、私は自分の目を疑った。

「…なんだ……ここ…」

 私は道に立っていた。道と行っても三メートルほどの幅を開けて左右に一定の間隔で配置されたドアがずらりと並んでいるため、そう思ったのだ。

 後ろを見ると、私の身長よりも四十センチも高い上の方が丸みがかかっている木のドアがあるだけだ。このドアから出てきたのだろうか。

 足元にはドライアイスを水に突っ込んだ時のように煙が地面を這うように充満していて本当に地面の上に立っているのかわからない。

 正面を見ると、私の身長の十倍はありそうな強大な扉があるのが見える。さっきまで開いていたのか、ガコォォォンと大きな音を立てて扉が閉まった。

 私は進みながら周りを見回すと、ドアが一定の間隔に並んでいてそれが地平線まで続いている。いったいどれだけの量のドアがあるのだろうか。

 巨大なドアに近づいているときによく見ると、私に背を向けて私の腰ぐらいの高さのドアに腰を掛けている人がいるのがわかった。さっきまでは巨大な扉の迫力に圧倒されて気が付かなかった。

「…あ…あの……」

 この人がおそらく映姫のいう彼なのだろう。私はそう判断して近づいた。

「…さっきの扉と…アトモス君の扉が閉じたってことは、君は幻想郷の人間で間違いないかな?」

 私に背を向けたまま彼は私に言う。私ぐらいの長髪で首のあたりで髪の毛を束ねていて白髪。背を向けているためその表情は読み取れない。

 しかし、彼の声を聴いたとたんに全身の毛が逆立ち、頭の中で警報が鳴り響く。こいつは絶対に敵に回してはいけないやつだ。ほんの数秒間喋っただけで彼という存在がやばいものだと第六感がそう言っている。

「…は…はい…」

 彼に圧倒されていた私は自分らしくない返事を返す。

「ははは、いつも通りでいいよ。…それと映姫からどこまで話を聞いたのかな?」

 彼、と呼ばれた男は座ったままこちらに向き直る。

「……っ!!」

 彼は何の汚れもない純白の仮面を被っていて、目と口の部分が笑っているように彫られており、ちょっと怖い。

 仮面を被っているとは思ってもいなかったため、少し驚いた。

 なぜか彫られている目と口が真っ黒で彼の目が見えないのは突っ込まないでおくことにした。

「あ、別にこれが素顔とかそう言うんじゃないからね?」

 彼はそう言いながら仮面をずらした。仮面を額の位置にまで持っていき彼の素顔がさらされる。

 普通だ。彼の素顔はとにかく普通の人間の顔をしていた。どこにでもいるのではないかと思うぐらい普通の顔。

「……さてと、君はどこまで知っているのかな?映姫から説明は受けたかい?」

 何も言わなかった私に彼は再度聞き返した。

「えっと……何も聞いてない」

「そうか…まあ、君たちのところは異変があってちょっとドタバタしてるみたいだから仕方ないか」

 彼はそう言いながら背中を伸ばし、足を組んだ。

「……いくつか、質問したいことがある」

 私が彼に言うと、彼は私の方向に手のひらを向けた。ちょっと待てということなのだろう。

「何でも聞いて、と言いたいところだけど…初めに僕から質問」

 彼は声色を変えて私に言った。雰囲気に真剣そうなものが少し加わり、私は訳も分からず緊張する。

 彼が座っていたドアから立ち上がると、私よりも20センチ以上も身長が高く、私は見上げる形となる。

「…質問って?」

「…質問というよりも、選択かな……君の選択肢はまずは二つある。必ずどちらかの扉をくぐってもらうことになるから」

 人差し指と中指を立てて彼が言い、ゆっくりとした動きでこちらに一歩近づき、さらに私に言った。

「一つ目は、君がいた世界の扉」

 彼がそう言い、私の後ろの方向に指を指した。私が始めに立っていた辺りの場所の方向で私が出てきたと思われるドアがある。

「…もう一つは…?」

 私が言うと、彼は少し笑いながら言う。

「アトモス君にあの世に引きずり込まれる」

 さっきも聞いたアトモス君という単語に私は自然と巨大な扉の方向を見ていた。

 ギィィィッ…。

 重い鉄の扉でも開いているような音がしながら巨大な扉がわずかに開く。扉の奥は黒一色で何も見えないが、アトモス君と呼ばれた存在がいるという巨大な狼を連想するような目が浮かんでいるのが見えた。

「ひっ……!!」

 彼の声を聴いた時と同様にこいつもやばいと私の感が言っている。

 私が硬直していると、私のことなど一握りでつぶせそうなアトモス君の獣のような手が見えた。握りこぶしを作っていて、何かを持っているのか?と思ったとき、その手を握りこぶしから開いた状態にしながらこちらに何かを抛った。

「…?」

 高速で蛇のように動くそれは、金属がこすれあうジャラジャラという音を発する。私に向かってきているのは三つの鎖だ。

 三つの鎖の先には枷のようなものが付いており、首と両手に綺麗にはまった。

「十秒以内に選んでくれ」

 いつの間にか私の横に立っていた彼がアトモス君を眺めながら言う。

 じょじょに鎖が引っ張られ始める。このままいけば十秒程度で門の中に引きずり込まれる。

 門の奥は墨でもばらまいてあるかのように真っ暗で何も無いように見えるが、その奥には本当にあの世があるのだろう。

「どうする?地獄のような元の世界に戻って戦うか。このままあの世へ行くか」

 彼はそう言いながら意地悪な笑みを浮かべた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六話 彼 その②

今回だけオリジナルキャラクターが出てきます。ご了承ください。

私がかく魔理沙は原作と性格はかけ離れています。

それでも良い方は第六話をお楽しみください。


 アトモス君と呼ばれた奴は容赦なくグイグイと鎖で繋がれている私のことを引っ張って扉の中に引きずり込もうとする。助けを呼ぼうにも意地悪く笑っているアトラスしかいない。

「わかったから!元の世界に戻りたいから!こいつを止めてくれ!!」

 私が叫び、彼がアトモス君になにか命令をしてようやくアトモス君の動きが止まった。鎖の枷が自然とはずれてアトモス君の手に戻っていき、扉の中に消えてゆく。

 アトモス君がわずかに開いた扉の間から巨大で鋭い目つきで私を見下ろした。

「……」

 一番イメージが付きやすいのは蛇に睨まれた蛙だろう。恐怖したとき、人は本当に動けなくなるのだと私は知った。

 アトモス君を見たまま固まってしまった私を見て彼は笑いながら言う。

「ちょっとやりすぎちゃったね…アトモス君はこの後仕事があるし、少しの間休んでくれてても構わないよ」

 彼が言うと、アトモス君の巨大な目が扉の奥に消え、扉がゆっくりと閉じた。

「……………」

 ズルいだろ。こんな状況ならだれでも本能的に助けを求めてしまう。

「いや、君が凄く驚く反応が面白くて少しからかっちゃったよ」

 私がジト目で睨むと彼は苦笑いをしながらいった。

「…それで、君は僕に何が聞きたいのかな?」

 彼が始めに会ったときのように腰ぐらいの高さの扉に腰を掛ける。

「……おまえの名前は?」

 私が聞くと彼は少しの間、間を開けて言った。

「僕の名前はアトラス」

 変わった名前だなと思いながらも私は二つ目の質問をした。

「……ここはなんだ?」

「…うーん。なんて言ったらいいのかな…役割はたくさんあるんだ。この世の世界で言うならば三途の川ともいえるし、様々な世界を管理する場所ともいえるんだよねぇ」

 三途の川、あの世とこの世の境ということだろう。アトモス君がいる扉の向こうがあの世ならばたくさんのドアがあるこちら側がこの世であるため、間違いではない。

「……さまざまな……世界?」

 気になった部分をアトラスに聞き返した。

「…そ、……それは君たちの世界の言葉を借りるなら、パラレルワールドって呼ばれるものだよ。並行世界とも呼ばれるね」

 アトラスが周りを見回しながら言った。

「まさか……この場所にあるドアすべてがパラレルワールド?」

 私はこの場所に来た時、ドアから出ていた。私がいた世界もパラレルワールドの一つだったということだ。

「…パラレルワールドは木みたいなものでね、始めは一つの世界しかなかった。しばらくすると世界はいくつかに分岐して分かれた。…分かれたという表現はあまり正しくはないけど…まあ、その分岐した世界はまるで木の枝のようにさらに分岐していく、触れ合いそうなほど近くても絶対に交わることのない世界がいくつもある。…例えば、今僕が座っているドア、この世界は僕の出来損ないがいる世界」

 アトラスがドアを指さしながら言った。

「出来損ない……?」

「ああ、つまらない世界だよ……あとは、世界を破壊できてしまうような力を持った連中といわゆる正義の味方が戦う世界なんてものもある。……当然、他の君がいる世界もあるよ」

「…やっぱり、他の私もいるのか」

「うん。僕に直接コンタクトを取ったのは君が初めてだけど、映姫を通してコンタクトを取ろうそしていた世界もあるよ。……これだけ聞くと戦ってばかりだと思われるけど、普通の世界もちゃんとあるからね?」

 アトラスの話が脱線を始めた。

「まあ、この世にはたくさんの世界があって絶えず増え続けてる。でも、映姫とかの例外を除いて普通の人間も能力を持って人間もこの場所を知覚することはできない。この場所に立っていてもね……そこで、なぜ君がこの場所を知覚できるかという疑問が浮上する」

 アトラスが言ったとき、アトモス君に巨大な扉の内側に引きずり込まれかけた時にアトラスが私に言った言葉を思い出す。

「……私を生き返らせるため?」

「…そう、他の世界にも影響が出るほどの問題が君の世界で起きた」

 アトラスが私に指を指しながら言った。

「………異変か…?」

「うん、君たちの世界で起こった今回の異変。いつもと違くなかったかい?」

「ああ……よくわからないが、皆の様子がおかしかった……」

 私が言うとアトラスが顔を横に振る。

「違う違う、当たりと言えばあたりだけど…もっと重要な人物がいただろう?」

「……霊夢か?」

「そう、彼女の力は凄いだろう?」

 確かに、霊夢は純粋な戦闘力も高く、さらに強力なスペルカードを持っている。

「…無想天生のことか?」

「うん。その技だけを見ればトップレベルだ」

「…確かに」

 あの技を食らえば、どんな妖怪や神でも人間レベルにまで力は弱まる。

「そんな人間が敵の手に落ちたんだ。幻想郷どころか世界が破壊されかねない……しかも本気を出せば別の世界にも行けないことはないだろうしね」

 アトラスが言う。

「それを…私に止めてほしいってことか?」

「まあ、そんなところかな」

 アトラスがずいぶんと気楽な様子で言った。

「無理だ。私じゃあ…霊夢に勝てるわけがない」

「そうだね、今の状態では君が何人束になろうとも勝てるわけがない」

 アトラスの言葉に少しイラっと来るが、真実であるため私は受け流した。

「だから、僕が勝てるようにしてあげよう」

 アトラスが組んでいた足を解いて、ドアから立ち上がった。

「どうやって?」

「僕が君に力を上げるんだ。……まあそれを生かすも殺すも君次第だけどね」

 アトラスが言いながら私に手のひらを向ける。すると、アトラスの手が淡く光った。

「……?」

 それと同時に私の体も淡く光る。

「…………何か……変わったか?」

 体に特に変化があったわけでもないため、私はペタペタと体を触りながら言う。

「変ったよ。……へぇ、僕は選んだつもりはなかったけど…"彼女"と同じ能力か」

 アトラスが一人で少し楽しそうにつぶやいた。

「"彼女"と同じ能力?誰かが使ってたのか?」

「…そうだね。僕の古い友人かな……優しく教えてあげるんだよ」

 アトラスは私のことを見ながら言うが、私に語り掛けてはいないように見える。

「……?……まあ、いいや…どうやってその力とやらを使うんだ?」

「うーん。そうだねぇ…能力の使い方は"彼女"に聞いてくれ」

「いやいや、今教えてほしいんだが…」

 少し待ってもその"彼女"とやらはどこにも現れない。

「そのうち出てくるだろうから、その時に聞いて」

 アトラスが投げやりに言った。

「ちょっと待てよ!こんないつもと変わらない状態で霊夢に出くわしたら、リスキルかまされるのが落ちじゃないか」

「大丈夫大丈夫」

 アトラスが適当に言っていて心配になるが、確かに体の奥に意識を向けると何かを感じる。今まで感じたことのないものを感じるのだ。

「……じゃあ、自分の世界に戻るなら…そこのドアに入ってくれ」

 アトラスが私が出てきた時の扉を指さしながら言う。

「…わかった……でも……」

「……?どうしたのかな?やっぱり死にたくなったかな?」

 アトラスが言うと、アトラスの後ろの巨大な扉がわずかに開き、アトモス君の鋭い目がこちらを見た。

「い……いや…!違う!」

 私はじりっと下がりながら叫んだ。

「……じゃあ、どうしたんだい?」

「…いや、死んだ人間を生き返らせることのできるアトラスなら、誰が異変を起こしたか知ってるんじゃないかと思ってな……知ってるなら教えろ」

「…この僕にその頼み方……君の図々しさには舌を巻かされるよ……まあ、さすがの僕でもずっと見てたわけじゃないから知らないかな……これからは見ると思うけど」

 アトラスが仮面をもとの位置に戻しながら言う。

「神様なんだろう?…だったらわかるだろ?」

「さすがに僕でも知らないことはあるよ」

 アトラスがくぐもった声で言った。

「…そうか、残念だ」

「……使えないなこいつみたいな顔をしないでくんない?」

 アトラスが私のことをじろりと見ながら言うが私は次の質問をアトラスに言った。

「…でも、お前ほどの奴なら……問題が起きても簡単にどうにかできるんじゃないのか?」

 私の質問にアトラスがうんとうなずいた。

「できるよ。ぶっちゃけ…君たちが負けた時点でその世界をもとから無かったということにすることもできる。僕からしたら世界を消すことは造作もない」

 アトラスがくぐもった声で見えているのか見えていないのかわからない仮面で私を見ながら言った。

「……じゃあ、なんでしないんだ?」

 私が言うと、アトラスは周りを見回してからこう言った。

「そうだねぇ。見ての通り…この世界は物凄く暇なんだ。やる事と言えばいろいろな世界を覗くぐらいしかやる事がないんだ」

「…つまり、自分の暇つぶしのために私を助けたということか?」

「まあ、そうなるかな」

 こっちは命懸けなのにこいつからすれば暇つぶしのための遊びに近い。こっちは遊んでいるわけではない。でも、アトラスが気が向いたから私は助かるのであって、霊夢を助けることができる唯一のチャンスだ。こいつの機嫌を損ねて存在を消されたくはない。

「…まあ、いいや……こっちはこっちで頑張るよ」

「うん、ここから君を見てるから……僕を楽しませてくれよ?」

 アトラスがドアに座ったまま足を組んでいった。

 アトラスも神みたいな存在だ。私が思っている以上に長生きしているのだろう。こんな場所に何百年もいたらそりゃあ暇にもなるだろう。

「じゃあ、せいぜい死なないよう頑張ってね」

 アトラスがドアノブを握った私に後ろから言葉を投げかけた。

「ああ、せいぜい頑張るさ」

 私はドアをくぐる。また眩しい光が私を照らし、視界を遮った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

できない場合は明後日になりますが気長に待っていただければ幸いです。

次から戦闘をきちんと入れます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七話 紅魔館へ

注意

駄文です。

魔理沙の性格は原作からかけ離れています。

今回ではないですが、原作無視の強さを持っていたりする奴もいます。

それでも良い方は第七話をお楽しみください。


 ドアをくぐると、アトラスがいた世界に入った時のように、真っ白な光で自分の手すらも見えなくなるほどに眩しくなる。

 気が付くと私は寝かせられているのが分かった。さっきまでのように実体がないような感覚ではなく。体重を感じて私は生き返ったんだとわかった。

 私の体は寝かせられているといった。しかし、寝かせられていると言っても霊夢に殺された時のように四肢を投げだしているわけではなく、きっちりと手足をそろえているのだ。

 周りでは、誰かが話して泣いているような声が聞こえた。でも、顔に布がかぶせてあって誰がしゃべっているのかわからない。

 もともと呼吸していなかったのが、生き返ったことにより、ものすごく苦しくなってくる。

「……っはあああああっ!!」

 私は顔にかけられた布を取り、息を大きく吸い込みながら起き上がった。

「きゃあああああああああああああああああっ!!!?」

 甲高い早苗の絶叫が聞こえ、早苗が握りしめたお祓い棒で私の顔をぶん殴った。

「ぶふぅっ!?」

 顔が跳ね上がり、後ろに倒れこんだ。床に後頭部を打ち付けてしまい、頭がすごく痛い。

 痛み、私が生きていると実感させてくれるものだ。

 だが、今の状況ではそんなことを言って喜んでもいられない。手加減なく本気でお祓い棒を振るう早苗に生きていると証明しなければならないのだ。

「さ……早苗…!!…止めろ…!!」

 私が力いっぱい叫ぶと、早苗のお祓い棒が私の顔を叩く寸前で止まった。

 私は一日に何回泣かせかけられればいいのだろうか。

「…魔理沙、あなたは大丈夫なの?」

 咲夜が私を警戒してナイフを構えながら言った。

「……ああ…。私は正気だぜ」

「……」

 私が言うと、咲夜が私の目をのぞき込んできた。おそらく、ルーミアたちのように赤いオーラがないか見ているのだろう。

「……一応大丈夫みたいです……しかし、魔理沙…あなたその髪と目どうしたんですか?」

 咲夜が私から視線を外して後ろにいる早苗に伝え、私に言った。

「…え?……髪と目…?」

「髪は金髪だった髪が白く色が抜けてて、瞳の色も真っ赤ですよ?」

 今いる場所は変わらず博麗神社で、早苗は壁にいつもたてかけられている鏡を取って私に見せてくれた。

 鏡を見ると、確かに私の髪の毛の色が白髪になっていて、目の色も真っ赤に染まっている。アトラスのやろうが説明を忘れていたのだろう。

 起き上がった時、私の右目が治っているのに気が付いた。潰れたはずの目が治っているということは、アトラスが治してくれたのだろう。

「……霊夢は…?」

 私は近くに立っている早苗に聞いた。

「…わかりません。……霊夢さんがどこまで異変の解決に向けて進んでいるか聞きたかったんですけど、いなくてかわりに魔理沙さんの死体があったんです」

 早苗が言いながら私が倒れていた場所を見下ろした。

「…」

 私もつられて見ると、頭があった位置の床にはこすった程度では落ちなさそうに血がべっとりと付着している。

「…魔理沙、あなたに聞きたいことが2,3あります」

 咲夜が言った。

「…その前に……この場所を離れないと…」

 私が言うと二人は首を傾げた。

「なぜですか?」

 早苗が言いながら私を見る。

「…信じられないかもしれないが、私は……霊夢に殺されたんだ」

「……っ!!?」

 咲夜と早苗が驚き、目を見開く。

「……霊夢さんが異変を起こした側だということですか!?」

「いや、違う。……そこら中にいる妖怪たちと同じだ。何かに操られてる」

 私は言いながら霊夢がいつも掃除に使う壁に立てかけられている箒を取り、外に出た。

「とにかく咲夜が聞きたいことは後で説明するから、とにかくこの場所を離れないと」

「……わかりました。じゃあ、紅魔館に行きましょう」

 私に咲夜が言い、縁側から空を飛んだ。私と早苗もそれに続いて空を飛ぶ。

「……二人とも、どうしても聞きたいことがあるからちょっといいか?」

 私が呟くと、二人が周りを警戒しながらも私を見た。

「何ですか?」

 早苗が言った。

「……いったい……何があったんだ?」

 私が言うと、咲夜がはあ?といった表情をしてこちらを向く。

「……いや、私は三日間ぐらい地下にこもっていたから……外で何があったのかわからないんだ」

 私はそういながら咲夜の横を飛んだ。

「……そうなの?……私たちもわかっていることは少ないけど、わかっていることは…異変が始まったのは、一日前からです」

「…一日前か……」

「ええ、もうすぐ日付が変わるから二日前になるけど、昼頃にいきなり太陽よりも明るい光が発生しました」

 咲夜が何があったのかを説明をし始めた。

「光?」

「ええ、それが起こった後…こんな状態になりました……付近の妖怪や妖精の大部分はその光を直視したらしく、おかしくなってるみたいです」

 直視ということは、直視しなければ大丈夫というわけか。ライトの光源を直接見るのと、ライトの光源から発せられた光を見る。そう言った違いなのだろう。

 おそらく、咲夜や早苗は後者は見たが、前者を見たわけではないのだ。

「…なるほど…それで…二人は誰かと戦ったのか?」

 私が聞くと、早苗が私の横に来て言った。

「はい、私は諏訪子様と加奈子様と戦いました」

「諏訪子と加奈子……あいつらもおかしくなってんのか?」

 私が聞くと、早苗が少し暗い顔をしながらうなづく。すこし無神経すぎる質問だった。

 でも、あいつらも神の一種だ。よく生き残れたものだと私は感心した。

「…咲夜は何かと戦ったのか?」

 反対側を飛ぶ咲夜に私はそっちの方向を見ながら聞いた。

「…紅魔館に働いているメイドの妖精たちと戦いました。……約三分の一が光にやられてたみたいでした」

 紅魔館で働いている妖精のメイドは結構いる。それの三分の一とは言えかなり大変だっただろう。

 二人の服装などを見ると目立った外傷はあまり見られないが、かなりの激戦だったのだろう。かすり傷や擦り傷がたくさんある。

「そういう魔理沙はどうなんです?」

 咲夜が私の方向を見ながら言った。

「私か?…私は…ルーミアと文……リグルとミスティア…とかかな…あと人間」

 ほぼすべての戦いで死にかけたのは言わないが。

「…文さんもおかしくなってるんですか…?」

 早苗が驚いたように少し大きな声でいう。

「ああ、いきなり襲われてな…驚いたなんてもんじゃあないぜ」

 私は文との戦いを思い出しながら呟いた。あんな命綱なしの綱渡りをしているような戦いは二度とごめんだ。

「よくあの素早い文さん相手に生き残れましたね」

 早苗が目を丸くしていった。

「まあ、…相手が油断…?してくれたおかげで助かったんだ」

 私は文にナイフで刺されたことを思い出し、ブルりと身震いする。

「…?……それより私からも一つ聞いていいですか?魔理沙」

 咲夜が身を震わせる私に疑問そうな顔をしながら聞いてくる。

「…なんだぜ?」

「…私があなたを見つけた時、あなたは完璧に死んでいました……しかし、魔理沙は生き返ったばかりでなく、負っていた全ての傷が塞がっていました……何があったらそうなるんです?」

 咲夜が私の方を真剣な表情をしてみてくる。私の説明が悪ければ、最悪この場所で咲夜にばらされて殺されかねない。しかし、どう説明していいかわからないのだ。正直に話して信じてもらえるかわからないし、はぐらかせば異変の関係者じゃないかと疑われる。

「……なんていえばいいんだろう……なんか、死んだときによくわからないやつにあって来たんだ」

「…よくわからないやつ…ですか?」

 咲夜が小難しいことを考えている顔をしながら呟く。

「……そいつに…なんかこの世界を救え的なことを言われたんだぜ」

 アトラスのことを思い出しながら私は二人に簡潔に伝える。

「……魔理沙さん。私たちのことをからかってるんですか?」

 早苗がじろりと私を睨みつける。

「からかってはいない…真実だぜ、信じられないのはわかるけどな…」

「……」

 早苗が疑いの眼差しを私に向けたまま進む。

「……なんで、その人は魔理沙のことを助けたんですか?」

「さあ、……結構気まぐれな奴っぽかったからなぁ……たまたまじゃないか?」

「……魔理沙さん……私からも一ついいですか?」

 早苗がこちらに向き直った。

「別にいいぜ?」

「…何というか、魔理沙さんから…何か違和感を感じるんです」

 早苗が言うと、咲夜も私の魔力を探ったらしい。

「……確かに…感じますね」

 おそらく、二人はアトラスが私に授けたと言っていた力のことを言っているのだろう。

「…死んだときになんかあったやつに力を授けるとか言われたんだが……私にもいまいちわかっていないんだぜ」

 私は自分の手のひらを眺めながら言う。

「…まあ、それについては後ででもいいでしょう」

 咲夜が言ったとき、林をようやく抜けて湖に出た。

 前方には紅魔館という名の通り紅いレンガで作られた巨大な西洋の館が見えた。

 紅魔館の周りにはパチュリーが張った結界があるらしく、入るためにそれを破ろうとしてあまたの妖怪や妖精たちが群がっている。

 あの中を強引に移動するのは骨が折れるだろう。

「…吹き飛ばすか」

 私は手のひらを前に突き出して構えた。

「……たくさん敵がいるところはあなたたちに任せます。数が少なくなったら私がやりましょう」

 咲夜が言うと、時を止めて移動したのか消え失せた。

 タイミングは私たちに任せるということらしい。

「早苗やるぞ」

 私が手のひらに魔力を集中させながら言うと早苗も弾幕を撃つ準備を完了させる。

 私の手のひらに集まる魔力が収縮して強い光を放ち始め、最大までそれが明るくなった時に、レーザーをぶっ放す。

 早苗がタイミングを合わせてくれて、札や球体の弾幕を一気にばらまきながらある程度近い連中をお祓い棒で殴り倒す。

 レーザーを薙ぎ払い、結界に群がっていた妖精たちの約半数を吹き飛ばした。

 それを開戦の合図にしたように、妖精たちが私に向かって前進しようとするが、お祓い棒を持った早苗と時を止めてナイフを投げる咲夜に残りの大部分も地面に倒れた。

 遠くの残党を私が撃ち抜き、ようやくほぼ片付く。

「片付いたな……二人ともけがはないな?」

 少し離れた位置にいる二人の元に行きながら私は話しかけた。

「……大丈夫です」

 早苗が言い。

「私も大丈夫です」

 一呼吸間をあけて咲夜が言った。

「……倒れてるこいつらはどうするんだ?」

 周りを見回し、倒れている妖精と妖怪たちを見る。

「私たちじゃあどうしようもないので、放っておくしかないですね」

 咲夜が言いながら足元の地面に深々と刺さった銀ナイフを引き抜いた。

「……こいつら、今は気絶してるが……起きても元に戻るってわけでもなさそうだな」

 私たちがやっていない傷が地面や壁に刻まれているため、もしやと思って私が言うと、咲夜はうなづく。

「はい、残念ながらそうなんです。気絶させても、一回休みで生き返っても変わりません」

 咲夜が言いながら門を開けて門をくぐった。

 

 




戦闘を入れたかったですが、入れることができませんでした。

今更ですが、前作と似たような戦闘シーンがあったら申し訳ございません。私が忘れて書いてしまっています。

たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第八話 紅魔館

原作とキャラの性格が違くても見逃してください。

キャラクターが原作無視の強さを持っていることもあります。

それでもいい方は第八話をお楽しみください。


 早苗も紅魔館をぐるりと囲んでいる城壁の唯一の入り口のこの門をくぐり、私も早苗の後を追う。私も中に入ると咲夜が門を押して閉じた。

 庭を見回すと武器を持ってそれをこちらに向けて構えたメイド姿の妖精が私を囲んでいる。

 得体のしれないやつはまず疑うということだろう。その判断は間違いないわけだが、間隔が狭くて刃先がちょっと刺さりそう。私はそう思いながら一応両手を上げることにした。

「……魔理沙は大丈夫ですので……引き続き巡回をお願いします」

 咲夜が命令を下すと妖精たちは武器を下げて数人ずつに分かれて巡回を開始した。

「行きましょう」

 咲夜は館に向かって歩き始める。

「…さすがはメイド長だぜ」

 私はそう言いながら咲夜についていく。館に入り、しばらく咲夜についていくとおなじみのレミリアの部屋についた。

 コンコンと咲夜が扉を手の甲でノックする。

「…入っていいわ」

 レミリアの声がドア越しに小さく聞こえた。

「失礼します」

 咲夜が言い、ドアを開いて頭を深々と下げて中に入る。

「…咲夜、霊夢はいた?」

 見た目は幼女だが背中から黒い蝙蝠の羽を生やし、見た目の数十倍は長生きをしている紅魔館の当主。レミリアが持っていた紅茶が入った白いコップを置き、椅子から立ち上がった。

「……いいえ、霊夢に会うことはできませんでした」

 咲夜はいつも通りの冷静な声でレミリアに結果を伝える。

「……そう……一日以上も異変が続いたことがなかったから、現在どこまでわかっているか聞きたかったんだけどね…」

 レミリアがため息交じりに言いながら席に座りなおして、客人の私たちを好きなところに座ってと言った。

 私と早苗は言われたとおりに近くのソファーに座った。

 部屋の奥、レミリアの座っている机の反対側にはパチュリーが紅茶を飲んでおり、パチュリーの傍らには小悪魔が立っている。

「……ですが、魔理沙から情報を得ることができました」

 咲夜が言いながら私が座っている方向をちらりと見た。

「…魔理沙……話を聞かせてもらってもいいかしら?」

 レミリアが言いながら持っていたカップを皿に置いた。

「…ああ」

 私は言いながら机の上に置いてあるお菓子に手を伸ばしてクッキーをつかみ取って口に運んだ。サクサクしていて甘みも控えめでとてもおいしいクッキーだ。

「……」

 私がクッキーを咀嚼して飲み込み、話し始めるとした。

「…咲夜…お客さんに紅茶をお願い。……それで、魔理沙…あんたは何を知ってるの?」

 レミリアが私に情報を話せと質問を投げかけてきた。

 咲夜が消え、パチュリーや小悪魔の視線が集まる。

「…霊夢も例の光を見ておかしくなった」

 私はレミリアたちの方向を見て、話す内容を一言にまとめて話した。

「…それは、本当なの?」

 レミリアが驚きを隠せない様子で私に聞き返してくる。

「ああ、実際におかしくなった霊夢に襲われたしな」

 霊夢が馬乗りになって私を殴り殺したことを思い出した。

「……でも、霊夢から死なずによく逃げられたわね……少し見直したわ」

 霊夢の実力を知っているレミリアは少し感心した様子で私に言う。

「いや…死んだぜ」

 私が普通に答えると、レミリアたち三人の動きが止まる。

「それは、あんたから変な物を感じるけど、それと関係があるの?」

「……まあ、そうだな……生き返るまでの説明が少しややこしいんだが……した方がいいのか?」

 私が言ったとき、私の後ろに歩いてきた小悪魔が私にまるで銃でも突きつけるように人差し指を私の後頭部に押し付ける。

 ゴリッと強く押し付けられ、私の顔が少々下向きに傾く。小悪魔から少し殺気を感じる。主人のGOの一声があれば私の頭を吹き飛ばせる準備を完了している。

「こいつ、怪しくありませんか?」

 小悪魔が言いながらさらに強く私に銃口と同様の指を私に押し付ける。

 残念ながら私はこれをつかみ取ったり、手で払いのけたりする技術を持ち合わせていない。だから、頭に銃口を突き付けられたような状態のまま話すしかなさそうだ。

「い…今から……なぜ生き返ったのかを説明するぜ…」

 後ろから小悪魔の殺気をビシビシと感じて、くそ怖い。

「小悪魔、あまり魔理沙を脅かさないようにしなさい」

 パチュリーが珍しく私に助け舟を出してくれた。

「しかし、パチュリー様……こいつは危険です」

「魔理沙はこう見えても弱虫なのよ?泣かれでもしたら話が進まなくて困るわ」

 パチュリーが一言も二言も余計だが、小悪魔に言った。

「……」

 小悪魔は渋々と言ったように殺気を抑える。

 指は突き付けられたままだが、さっきよりは幾分かはましだろう。

「……私が死んだとき、映姫に裁かれたんだが……映姫が白黒つけられないって言ったんだ」

「……あの映姫が…?」

 レミリアが呟き、映姫の性格や能力を知っているため、おかしいと思ったのだろう。

「その先で、変な奴にあったんだ……そいつが言うには霊夢の力はかなりチートに近い。だから、それが敵に渡ったということはすなわちこちら側の敗北を意味する。……だから、それを止めろって生き返らせられた」

「まあ、確かに霊夢のあの技は使いようによっては神を殺せる技……霊夢がおかしくなってしまって、私たちを殺そうと思えばいつでも殺せるでしょうね」

 パチュリーが言ったとき、黙っていた小悪魔が口を開く。

「…信じられないですね」

 小悪魔がまた私に殺気を向ける。

「…待てよ、これは本当の話だぜ!?」

「その話自体がウソという可能性は捨てきれません。語り手がウソをつけばたとえそれが作り話でも、それが真実となります」

「いや、だから待てって!本当なんだよ!映姫に聞いてみればわかるぜ!」

 私が必死に弁解しようとするが、小悪魔は頑として受け付けない。

「そこまでにしてあげてください。小悪魔」

 ふっと現れた咲夜が私の早苗の前に置かれたカップに紅茶を注いだ。

「……どうしてです?信憑性は全くありませんが…」

 小悪魔が言いながら魔力を指先に集中させたらしく、後方から光が漏れ始める。

「……っ!?」

 私は凍り付いて動けなくなるが、咲夜がゆっくりと話し始める。

「…私が博麗神社に早苗とついたとき、既に魔理沙は死んでいました。……右目を潰されて」

 咲夜が言ったとき、小悪魔が私の肩を掴んで立ち上がらせ、後ろを向かせた。鋭い目つきで私の右目を眺める。

「……魔理沙の言う人物の仕業なら納得がいきます」

 私たち人間には再生しない器官というものが存在し、眼球の中身などがそれらに該当する。永琳が治せるように薬を開発しようとしていた時期もあったらしいが、結局完成はしなかったらしいが、目などの器官は自力で再生させることは不可能であるため、アトラスの話を信じてもらえる可能性はある。

 咲夜が私と早苗のカップに紅茶を注ぎ終え、レミリアの方向に行ってレミリアのカップにも紅茶を注いだ。

「…咲夜さんがそう言うなら信用しないわけにはいかなさそうですね」

 小悪魔が言うと、殺気と指先に集めた魔力を抑え込んだ。

 寿命が縮んだ。五年は縮んだ。

 私は緊張から解かれてようやくソファーに座り込む。

 小悪魔がパチュリーの隣に移動し、二人の会話がわずかに聞こえてくる。

「どうしたの?小悪魔、今日はなんだか攻撃的に見えるんだけど…」

 パチュリーが小悪魔に言った。小悪魔もおそらく今までにない異常な異変にかなり警戒しているのだろうと私はそう思いながら紅茶に手を伸ばす。

「……いえ…何と言いますか……魔理沙さんを見ていると、嗜虐心がくすぐられると言いますか…」

 小悪魔が私の想像の斜め上の回答した。

「……………へ?」

 私は手に持ったカップを落としそうになる。

「その気持ちは凄くわかるけど、いじめるのはほどほどにしなさいよ」

 パチュリーが小悪魔に言った。

「…おまえ!…まさか必要ないことをしたのか!?」

 私は立ち上がり、掴みかかるような勢いで小悪魔に叫んだ。

「すみませんね…でも必要なことだったと思いますけどね」

 小悪魔は謝る気はあるのかと言いたくなる言い方で言った。

「…おま…っ!」

「まあ、別にいいじゃないですか……一応信じてもらえたわけですし」

 早苗が私をなだめるように言った。

 私は煮え切れない思いで渋々ソファーに座る。

「……それより、この場所にいるやつ以外で……ほかに頭がおかしくなっていないやつはいないのか?」

 私の質問に答えられるものはいない。

「……わからないわね……自分たちのことで手いっぱいだったから」

 パチュリーが紅茶を飲みながら言った。

「まあ、そうだろうな……それとフランはどうしたんだ?」

 私は一応レミリアたちに聞いた。

「……美鈴と一緒にいたフランは一緒にどこかに行ってしまったわ」

 レミリアがカップを皿にのせながら言った。

 美鈴はさきほど門にはいなかったため、おそらく光を見て奴らの仲間入りをしたのだろう。と思っていたがやはりそうだったようだ。

「……まじかよ…」

 それに加えてフラン。あいつが敵に回るとしたら、想像以上にやばいな……あいつの能力はかなり厄介だ。

 私は一枚のクッキーを頬張り、かみ砕いて飲み込んだ。

「…よし」

 私は立ち上がる。

「……どうしたんですか?」

 早苗が立ち上がった私に言った。

「霊夢を探すにきまってんだろ?」

 私は言いながらドアから廊下に出ようとする。

「……もう十二時を回っている。出るなら朝にしなさい」

 レミリアが空になった紅茶のカップを置いた。

「いや、今行く……あいつがほかの連中を殺しちまう前に見つけて正気に戻してやらないといけない」

「だめよ」

「……なんでだよ」

 私は早く出ていって霊夢を探したいというのに。

「…夜は妖怪の時間帯。人間が一人で妖怪と戦いに出るなんて自殺行為だっていうことよ……あんたもわかってるでしょう?…今までの異変とはわけが違う」

「そんなのわかってるぜ」

 私は箒を持ち、外に出ようとした。

「……魔理沙、あなたは直接的な体術戦が苦手よね?」

 パチュリーが私に言い、こちらを向いた。

「…ああ」

「今回の異変はそれが物を言うわ……あなたひとりだけじゃあ死ぬだけよ」

「わからんだろう?」

「いや、わかりきってるわ」

「…うるさいな」

 パチュリーの言っていることは真実である。しかし、私は霊夢を助けに行きたいという気持ちの方が大きく、苛立ちを感じる。

「じゃあ、あなたが小悪魔に体術で勝てるなら行きなさい……いいわよね?小悪魔」

 パチュリーがいうと、小悪魔はうんとうなづいた。

「…パチュリー、勝手に決めるんじゃぁねえよ」

 私はドアノブを掴んだまま肩越しに振り返りながら言う。

「……なら、…朝まで出ないことね」

「……」

 パチュリーが言い、私は苦虫を噛み潰したような顔をする。

「…無言は、了解ということでいいのかしら?」

 パチュリーが言いながらカップを置き、こちらを見た。

「……私が体術で小悪魔にかなうわけがないぜ」

「じゃあ、今はこの場所から出ないことね」

 パチュリーがカップに紅茶を注いでもらい、魔導書を開いた。

「わかったよ。朝になるまで大人しくしてるぜ」

 私はあきらめたようにパチュリーに言った。

 パチュリーが見ていないところで紅魔館から出ることにしよう。そう思っていたが、パチュリーが私に言った。

「言っておくけど、私たちが見ていないところで出ようとするのも許さないからね」

 私の考えはお見通しらしい。

 今すぐに飛び出して霊夢を探すことができないのがもどかしい。

「……くそ」

「…霊夢を探したい気持ちはわかるけど、夜は危ないわ」

「……うるさい…」

 パチュリーが言ったとき私がため息交じりに吐き捨てる。すると、小悪魔が私の肩を後ろから掴んだ。

「…なんだよ」

 私が小悪魔に言ったとき、小悪魔が素手で作った拳に顔を殴られた。

「あがっ……!?」

 私は後ろに倒れ、背中をドアにぶつけてしまう。

 頬が熱くなり、ジンジンと痛む。

「何…すんだよ…!」

「……誰かが心配というのは…パチュリー様たちも同じです……あなただけが特別というわけではありません」

「……」

 頭に血が上っていて忘れていた。早苗は諏訪子と加奈子。紅魔館の連中はフランと美鈴。皆、誰かしら大切な人がおかしくなってしまっている。私だけじゃあない。

「…まあ、私が殴ったのはもう一つあるんですけどね」

「…?」

「パチュリー様の優しさを無碍にするおつもりですか?」

 小悪魔が言いながら私の胸倉を掴んだ。

「……」

 環境や現在の頭に血が上った状態では、私は正常な判断などできやしないだろう。

「わかったら黙って朝まで大人しくしててください」

 小悪魔が言いながら私から手を放し、パチュリーの横に戻った。

「……っ…」

 私は口元を拭う。急速に頭から熱が引き、冷静になる。

「次は気絶させますからね」

 小悪魔が私に一応釘をさすように言う。

「ああ…、わかってるよ」

 私は立ち上がりながら体についている埃を払い落とす。

「……大丈夫ですか?」

 早苗が私に呟きかけてくる。

「…ああ、みっともないところを見せちまってすまない」

 私は言いながらさっきと同じ場所に座り込む。

「…魔理沙さん。…私も異変の解決を手伝わせてもらってもいいですか?」

 早苗が私に言いながら真剣なまなざしで私を見る。

 数秒間の間を開けてから私は早苗にはっきりと伝えた。

「……早苗…すまないが……私は今回の異変は単独で動くぜ」

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第九話 アリス・マーガトロイド

注意

もう一つの東方鬼狂郷と書かれていますが、前作とは関係がありません。

魔理沙や小悪魔の性格が原作とは違います。

それでもいい方は第九話をお楽しみください。



 早苗の提案を断りながら、私は咲夜に分けてもらっていた紅茶を一口すすった。

「…何でですか?…二人ならばある程度の敵なら倒せるじゃないですか…!」

 早苗が提案を断った私に食って掛かる。

「……主に二つ、断る理由がある」

 私は言いながら紅茶が入ったカップを受け皿に置き、机の上に置いた。

「…なんですか?」

「……一つは目的の違い。私は霊夢を助けたい。お前は諏訪子と加奈子を助けたい。情報が入ればすぐに分かれることになるだろう。今回、私は霊夢を助けるために寄り道をするつもりはないからな……どうせ分かれるなら初めから一人で行動していた方がいい」

 もう手遅れかもしれないが、私は霊夢が人を殺す前に助け出したい。だから、周りに構っていられない。自分勝手かもしれないがこれが本心だ。

「じゃあ、情報が何か見つかるまでは一緒に行動しましょうよ!」

「…だめだ」

「なぜですか…!?…こんな状態の幻想郷を一人で出歩いていたら命がいくつあっても足りないですよ!」

「……二つ目の断る理由は一つ目の続きだ。それは、時間がない」

「…時間…?」

 早苗ではなく、それにはレミリアやパチュリーも反応した。

「どういうこと?魔理沙」

 パチュリーが読んでいた魔導書を机に置いて私に言う。

「簡単なことだ…この異変が起きてから、この中で誰か首謀者を見たやつはいるか?聞いたでも構わん」

 私に質問に、その場にいる全員が押し黙る。

「一日たっているのに、まだこの段階……異変の目的、理由、動機、そして誰が……それを現時点でどれもわかっていない……私たちは異変を起こした奴らに一日分の遅れをとっているんだ」

「……つまり、いつ異変が完了してもおかしくないから…手分けして探した方が効率的だと…そう言うことで間違いないですか?」

 小悪魔が私に言った。

「ああ」

「…っ…わかりました…」

 早苗は渋々といった様子で引き下がる。

「…あんたが急いでいる理由はわかったわ。…でも、今日ぐらいは休みなさいよ」

 レミリアが言った。

「…ああ、そうさせてもらう」

 私はそう言いながら、渋々と言った表情の早苗をちらりと見た。

 しばらくして、咲夜に個室に案内された。

「………」

 常に気を抜けなかった。いや、気を抜くことが許されなかった状態から解放されて私は気を休める。

 咲夜から寝間着を借りて、それに着替えてベットに横になった。

 精神的に疲れていたのだろう。眠気が襲い、目を閉じるとすぐに眠りに落ちてしまった。

 

「……予想以上に狂っていないやつが多いな」

 作戦会議のように円形の机の椅子に何人か座っている。中の一人がそう呟いた。

「まあ、地霊殿の連中はもともと残る予定だったわけだから、少し増えたぐらいだろう……支障はないんじゃないか?」

 そう言いながらそいつは机に肘をついてだらける。

「…何人か集まっていないようだが何をしてるんだ?」

「さあね、出たくないとか、めんどうくさいとかじゃないの?……もともと接点もあんまりなくて、気ままな連中も多い……一枚岩でないのは覚悟の上でしょう?」

「……そうだな…まあ、邪魔になるようなら消すだけだ……おまえたちも例外じゃないからな……そこのところよく理解しておけ」

 そう彼女が言うと、今までだらけていたり、ふざけていたやつらに緊張が走る。

「……そう言うなら、お前も邪魔になったら消される覚悟があるんだな?」

 さっきの発言が気にくわなかったのだろう。一人がそう言った。

「私抜きでこの作戦は成功しない」

「…博麗の巫女はこっちにいる……あいつよりも強い奴なんてこの幻想郷中探してもいない…つまり、お前の役目はもうないってことだ」

 反論した女性が言った。

「……本当にそうか…?……じゃあ聞こう。もし、その考えが間違っていたとしたら?」

「……どういうことだ?」

「…さあ、なんだか嫌な予感がするんでね」

 彼女がそう言うと、反論をした女性は腑に落ちないようだ。まあ、感などという根拠も何もないのが理由であればそうだろう。

「まあ、お前らがかかってきても私は一人を処理するのに一秒もかからないだろう……襲ってくるならそこのところをよく覚えておくといい」

「……。わかったよ……でも、なんでさっさと始めないんだ?だいぶ時間もたってて準備も終わっただろう?」

 一人が言った。

「…念のためだよ。用心のし過ぎはわるいことじゃあないだろう?」

 

 朝日が昇り始めたころ、私の顔に日差しがあたってその明るさによって脳が覚醒して、私は夢から逃げるように叫びながらソファーから転げ落ちる。

「……はぁ…はぁ……!」

 胸を押さえて動機を鎮めようとする。冷や汗が止まらず、手が震える。

 脳裏にべったりと張り付く霊夢の狂気の笑顔を振り払おうと震える頭を抱えた。

 視界が歪み、みっともなく涙を流してしまう。

「…う……くっ……」

 誰かとの相部屋でなくてよかった。こんなみっともない姿見られたくはない。

「…はぁ……はぁ……」

 まるで全力疾走でもしたかのように息が切れる。こういうことを見越して咲夜は私を個室に案内してくれたのだろうか。

 私はいつの間にか机の上に置いてある。タオルをつかみ取り、汗を拭いた。

 咲夜から借りた寝間着を畳んで机の上に置き、いつもの服を着て支度を済ませた。

 窓から見える外の景色、またあの地獄のような世界に身を投じなければいけない。私は目を閉じて腹をくくる。

「…」

 私は気の抜けた頭の中を切り替え、部屋を出た。

 入口に向かって歩いている途中、レミリアが壁に寄りかかって立っている。

「……世話になったな」

 私がレミリアに礼を言いながら目の前を通り過ぎた。

「…魔理沙、何かあったら戻ってきなさい……たぶん私は紅魔館にいるわ」

 黙って歩き続ける私にレミリアが静かな声で呟く。

「………その時は、頼む」

 私はそれだけを言い残して館を出る扉の方に向かった。ドアを開けて外に出ると、大きな門が前方に見ええる。そっちの方向に歩いて行くと、誰かが立っているのが見えた。

「………」

「…おまえはいつから門番になったんだ?」

 門の近くの壁に寄りかかった小悪魔に私は言う。

「……メイドの妖精たちだけの見回りではちょっと不安なので、私も見回りをしていただけです……門が破壊されれば止めるすべがないですからね」

 小悪魔が私を殴った手の赤い腫れをポリポリと搔きながら呟く。

「……そうか」

 私はその横を通り過ぎ、門を開けようとした。

「…どうするつもりですか?」

「…?…何がだ?」

 私は一度門から手を放し、反対側の左手に持っていた箒を肩で担いで小悪魔を見る。

「わかりきってることですけど…相手はあなたに合わせてくれるほどやさしくないですよ?」

 小悪魔が寄りかかっていた壁から離れて、私の隣にまで歩いてきて言った。

「…そうだな…この状況でわざわざ弾幕で挑んでくるもの好きもいないだろうしな…」

「…まあ、せいぜい頑張ってください」

「…私に超期待しているんだろう?このツンデレめ!」

 私が冗談を言うと小悪魔が鼻で笑い飛ばしていった。

「そうですね……期待度的には…本気の天狗と子供が競争して子供が勝つぐらいには期待してますよ」

 つまり、全然期待していないと。

「…酷い言われようだな」

 私は手で門の扉を押し、ゆっくりと開く。おふざけはここで最後だ。

「…門を閉じるのはよろしく頼むぜ」

 私が門を開けたことによりその音に反応して狂った妖怪、妖精たちが私の方向を向く。

 即座に箒にまたがり、妖怪たちが私の元にたどり着く前に全速力で引き離し、森の中に逃げ込んだ。鬱蒼と覆い茂る木々が妖怪たちから私への視線を切ってくる。と思い突っ込んだが、うまくいってくれたようだ。無理に追いかけてくる奴はいないようだ。

 今はとにかくなんかしらの情報を集めなければならない。

 \\そう思ったとき、一人の女性が思い浮かんだ。

 魔法の森には魔法使いの住人がもう一人いる。もしかしたらアリスも助かっているかもしれない。

 私は魔法の森の方向に方向転換し、高度を上げた。できるだけ上空からの奇襲を防ぐためだ。

 その高さともなると幻想郷中を見渡せる。周りを見合わすと、博麗神社や半分以上が倒壊した家屋がある村が下に見える。

 そういえば、慧音はどうしたのだろうか。一番大きな村つまり、今私が見下ろしている村にいたはずだが、このありさまだ。奴らの仲間入りしていると考えるのがふつうである。

 村から目を放し、博麗神社を見た。

 神社に人は見えない。前日、咲夜たちが神社で死んでいる私のところに来て無事だったということは、霊夢はいなかったということだ。

「……」

 昨日のことを思い出してしまい、箒を握りしめる私の手がわずかに震えた。ズキリと右目が痛む。これ以上昨日のことを思い出すと、殺されるという恐怖にきっと動けなくなってしまう。そのため私は記憶を脳の隅に追いやり、目先のことを考えることにした。

 もうすぐ魔法の森につく位置にまで安全に移動することができた。

 半日前まであった霧はすっかりと晴れていて、アリスの家の屋根が木々の間から見える。

 私はゆっくりとアリスの家の庭に着地した。

「……」

 警戒しながら窓に近づき、私は家の中を覗き込んだ。

 中にアリスの姿はない。寝室にいるのだろうか。

 がらりと窓を開けていつものようにアリスの家の中にお邪魔した。

「アリス、いるか?」

 私がアリスの名を呼ぶも何の反応もない。でも、いつも通りの部屋に見える。

「……っ」

 だが、そう思っていたのもつかの間、部屋の中を見回すと机の上に食事をしていたのか皿や食べたものが残っている。潔癖症並みの綺麗好きで常に部屋が片付いているアリスが洗い物を残して放っておくはずがなく、嫌な予感というものを感じた。

 そう思ってから今まで見ていた景色の捉え方が変わり、陰になっていて見えなかったが、よく見てみると机の下の床に敷いてあるカーペットの上に陶器製のコップが割れていて、その破片があちこちに散乱している。

「……」

 痕跡から見るに、アリスは食事中に襲われたのだろう。机の上に並べられた食べ物や食器などに触れると、冷たくなっていて、やはりだいぶ時間が経っているのがわかる。

 私は机に箒を立てかけ、アリスの寝室に続くドアに向かった。

 勝手に人の部屋に入るのは気が引ける。だがこの部屋の状態を見るに、緊急事態だ。

「…アリス…いるか?」

 私はドアノブをまわしてドアを押し開けて寝室に入った。

 この時まだ私は現実逃避をするようにアリスは無事なんじゃないかと甘い考えを持っていた。しかし、

 カーテンが締まりきり、薄暗い部屋。鉄と血の独特な匂い。アリスの人形を操るためのワイヤーが切れて部屋中に広がっている。中身のワタがまき散らされているアリス人形がたくさん床に落ちていて、乾いた茶色い血がこびりついている。

 それを見てしまった私は、自分の考えの甘さを思い知る。

「…………………嘘だろ…」

 私はいつの間にか床に崩れ落ちていた。私の視線の先には頭の無いアリスの死体が壁に寄りかかっている。

 首の断面から勢いよく血が噴き出したのだろう。血液が壁や服、床にこびりつき、色が変色している。

 何かと戦い、敗れて殺された。自殺ではない。アリスの人形は全て破壊されているからだ。

 首の切断面は綺麗に切断されていて、力技で千切られたり、レーザーのような熱線で蒸発させたりしたのではない。鋭い包丁や剣などの刃物で切り裂かれているのだ。

 しかも、切断面から察するに、一撃でアリスの首を掻っ切ったのだ。相当な熟練者でなければできない芸当だろう。

「嘘だと言ってくれよ……アリス」

 私はか細く震えて声でアリスに近づいていた。

「アリス…!」

 私は大切な友人の冷たく、死後硬直で固くなっている死体に触れた。

「……」

 視界が歪み、私は涙を流す。つまらないことで笑い、一緒に戦って中を深めた。それでも当然喧嘩だってした。しかし、喧嘩をした後に私を許してくれる時に見せる微笑みも、笑ったときの表情も、もう見ることも見せてくれることもない。

「…くそ……!…くそっ!!」

 私は床を叩く。手が痛くて痺れても関係なく床を殴る。

 ビギッ!!

 そんな時、私の耳に何かが壊れるような、そんな音がアリスの死体の方向から聞こえてきた。

「……え…?」

 ドォッ!!

 私が俯いていた顔を上げるとアリスが背中を預けている茶色と白の壁を中心にヒビが広がり、こちら側に向かって壁が盛り上がり、爆発した。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですが、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十話 比那名居天子

今回、原作にはないオリジナルの設定が存在します。

それでも良い方は第十話をお楽しみください。


 盛り上がって爆発した壁の破片が大量にこちらに向かって飛んでくる。その中でいくつかは私にもあたった。

「あぁっ…!?」

 爆発の衝撃と爆風に煽られて私の体は浮き上がり、後ろに吹き飛んだ。

 後ろの締まっていなかったドアを飛び越え、机の上を転がって床のに落ちてようやく止まった。

「…なんだっていうんだ……!?」

 私は頬を伝う涙を拭い、アリスの寝室の方向を見た。

「…ふふふっ」

 そう笑う女性はアリスの死体を乗り越えて私の方向に歩いてくる。

「…おまえもかよ……ちくしょうが…!!」

 私は吐き捨てるようにつぶやいて横に飛びのき、爆発の衝撃で倒れていた箒を乱暴に掴みとって窓を体で突き破りながら箒の上に立ち、空を飛んだ。

「…っち…」

 私は舌打ちしながらポーチの中に手を突っ込む。

 ポーチの中に入っている爆発瓶やミニ八卦炉などのマジックアイテムをどかし、ポーチの奥から瓶を取り出した。瓶の表面には私しか読むことのできない小さな閃光瓶だと表すラベルが張られている。

「……」

 私はアリスの家を見下ろし、ドアを蹴り破って出てきた人物を眺めた。

「…比那名居天子……!」

 緋想の剣を片手に天子は私を見上げる。

 赤い瞳の周りを紅い炎のようなオーラが揺らめいているのが遠目で見ていてもわかる。

 あの天人すらも狂っているとは思ってもいなかったが、よくよく考えれば霊夢すらも狂ってしまっているのだ。可能性はあっただろう。

「…」

 天子の体は咲夜のナイフすらも跳ね返すほどの頑丈さを誇るのだ。私のレーザーが通るかわからないな。

 こいつは相手にしない方が利口だろう。私は閃光瓶に魔力を注いで閃光瓶を強化し、投げようと瓶を握りしめた時、

 ドォッ!!

 投げるモーションに入っていた私に向かって天子が跳躍した。

「はやっ…!?」

 私は予想以上の速さに驚くが、何とか反応することができた。

 緋想の剣が私に向かって振りきられる。だが、当たる寸前に私は後ろに体重移動をして体をずらす。炎の剣が鼻先を掠め、かすった部分がチクリと痛む。炎の形をした剣なのに不思議と熱を感じない。

 私は目と鼻の先にある天子に目を閉じて瓶を叩きつけた。

 瞼の上からでもわかるほどの真っ白な光が視界を埋め尽くし、鼓膜を爆発音が刺激してそれ以外の音が全く聞こえなくなる。

 天子から急いで離れようとしたとき、天子に胸倉を掴まれて私は移動することができなくなっていた。

「なっ……!」

 光が収まり始めた時、白色で埋め尽くされる視界の中に私を掴む天子の姿が薄っすらと見えた。

「ふふっ…!!」

 天子が笑いながら緋想の剣の剣先を私に向ける。

「っ!!」

 見た目は柔らかそうな剣なのに、炎の剣は私の胸を切り進み、背中まで貫通した。

「…かはぁっ……!?」

 異物が自分の皮膚を筋肉を骨を内臓を貫く不快感に耐えがたい激痛。筋肉が硬直して私は叫ぶこともできない。

 そんな私から天子は緋想の剣を引き抜き、薙ぎ払うようにして回し蹴りをしてきた。

 剣を引き抜く激痛にも硬直していた私は避けることなどできるわけもなく、蹴りをわき腹に食らう。

 ミシッ!

 と肋骨が嫌な音を立て、始めの爆風の時よりも私の体は地面と平行に進み、木に突っ込んだ。

 枝をへし折りながら私は地面に転がり落ちる。

「…うぅ……くぅ…」

 胸の激痛にうずくまる。だが、私は自分の手のひらを眺めて驚いた。血が全く出ていないのだ。それどころか服も切られていない。

 ずいぶんと長いこと天子と戦っていなくて忘れていた。天子の緋想の剣は肉体にダメージは与えない。イメージで言うならば、魂を斬ると言ったところらしい。

 死ぬことはないらしいが、普通の剣と変わらない攻撃力を持っている。

「ぐ……くそ…!」

 私は胸を押えながら立ち上がった時、空気の流れを感じた。いつもならば感ずくことのない僅かな違和感。私は上を見上げる。

 天子が私に向かって緋想の剣を振り下ろした。

 ザシュッ!!

 私の右肩から左わき腹まで緋想の剣は簡単に切り裂いた。

 私に突き刺した時と同様に緋想の剣は私の体に物理的なダメージを与えずに通り過ぎ、魂にダメージを与えた。

「あああぁぁぁあぁぁぁっ!!?」

 全身に激痛が走り、私は倒れそうになる。だが、天子が私の頭を掴んで後方の木に押し付けた。

「ぐぅ…!?」

「…くくっ」

 天子の指の隙間から天子が笑うのが見え、私は天子の腹を蹴った。しかし、岩を蹴ったような硬い感触に足が痺れる。

「…くそが……!」

 私は天子の顔手のひらを向けて、威力重視のレーザーをぶっ放す。

 白色のレーザーが天子の顔を包み込むが、私の頭を掴む手の力が抜ける様子は全くない。

「ぐっ…」

 ギチッ

 私の頭を握る天子の手にさらに力が込められた。

「クスクス……ほら…もっと本気で来なさいよ…私を楽しませて」

 そう天子が呟いているうちに私はポーチから爆発瓶を取り出し、魔力で強化しながら天子の後ろの地面に投げつけた。

 瓶が砕け散って真っ青な光が炸裂し、大爆発を起こす。

 爆発の炎と炎の高温で膨張した空気が広がり、爆風となって私と天子を吹き飛ばしていた。

「ぐうっ…!」

 天子の体で爆風や瓶の破片などが私の体に直接あたるのを避ける。投げ割った瓶が右側だったため、私と天子は左方向へと投げ出された。

 天子は前転をするようにして転がって受け身を取り、すぐに立ち上がる。

 私も地面に着地し、天子に手のひらを向けてレーザーを放つ。レーザーは天子の体を貫くことができず、天子の体に当たると、川にある大岩に当たる水のように天子を避けていく。

「っち…!!」

 このようすではマスタースパークでもきちんとした効果は望めないだろう。

そう思った直後、白い光の中にオレンジ色の光が見えた。

 オレンジ色のレーザーは私のレーザをかき分けて進み、かっ消した。

 私はすんでのところで横に転がってかわし、緋想の剣から出ているオレンジ色のレーザーを避けた。

「っ!」

 私が立っていた場所のさらに奥に生えていた木にレーザーが木に当たり、木の幹を貫いた。ギギギと嫌な音を立てながら木がゆっくりと地面に倒れた。

「…なんて威力だ……!!」

 私が顔を上げると目の前に天子が走ってきている。

「ふふっ…」

 天子が緋想の剣を振りかぶり、私の頭をたたっ切ろうとする。

「くっ…!」

 とっさに私は地面に手をつき、地面の中にあるマジックアイテムを埋め込んだ。

 それに魔力を注ぎ、私はすぐに手をどかす。すると、地面に埋め込まれた種が瞬間的に成長。種が根を下ろし、幹が太くなる。

 私が改造を施した種が巨大な針のような木へと成長した。

 ドゴォッ!!

 天子の体がくの字に折れ、私に向けて振っていた緋想の剣の軌道がそれて私の髪の毛を掠る。

 それと同時に木の衝突の衝撃で天子の体が後ろに吹っ飛ぶ。天子が無抵抗に飛んでいき、地面を転がる。

 ダメージが少なからずあったのかと期待したが、すぐに笑みを浮かべると、天子は上体をそらして立ち上がりはじめる。

「…!」

 私はさかさず立ち上がろうとしている天子に向けてレーザーを放ち、バランスを崩させた。

 私はアリスの家の方向に向かって走る。箒に乗ってとんずらするのだ。今の私に天子を撃破するだけの火力などあるわけがない。

 体を強化して走るスピードを上げ、上を見上げながら私は箒を探す。

 何かが空気を切り裂く音、霊夢がお祓い棒を振った時のブオンという音に似ている。私がとっさにしゃがむと、その頭の上を回転しながら緋想の剣が飛んでいく。

 私は冷や汗をかく。

 あぶない。もししゃがんでいなければ胴体をぶった切られていたかもしれない。

 私は後ろを向きながらポーチの中からマジックアイテムの煙玉を取り出して、魔力で強化してから地面に投げつける。

 ボフッと地面から大量の白色の煙が噴き出し、私の周りを覆って天子から見える視界を遮る。

 私はジグザグに走りながら木々の合間を抜けてアリスの家にようやくつく。

 箒はアリスの家の屋根に絶妙なバランスでひっかがっていて、私がジャンプして届くか届かないかぐらいの高さに箒が傾いている。

「くそっ」

 私は罵りながら手を伸ばしてジャンプした。しかし、あと数センチというところで指が届かない。

 何度かジャンプしてみるが、同様に届かない。私は魔力で体を数秒間だけ浮き上がらせて屋根から箒を取った。

 急いで箒に乗って逃げようとしたとき、横からさっき天子が投げた緋想の剣が回転し、唸る音を上げながら私の腹のあたりを切り裂いた。

 電撃が体を駆け巡るように切断面から痛みが発生する。

「かあっ…!?」

 鋼でできた普通の剣であれば、私の上半身と下半身がわかれるように切断されていただろう。

 私は腹のあたりを押えながらうずくまった時、緋想の剣が飛んで行った方向から緋想の剣をキャッチする音が聞こえる。

「ぐっ……!」

 脳ではわかってる。動かないといけないことぐらいわかってる。でも、激痛がそれを邪魔して私の足は動かない。

「ははっ…!」

 ブーメランのように飛んで私を切り裂いた方向とは逆方向から走って来た天子が私の胸のあたりを切り付けてくる。

 血は出ない。出るのは喉が張り裂けそうになるほどの絞り出したような絶叫だけだ。

 肉体的なダメージはない。だが本当の鉄の剣で切り付けられたような激痛が私を蝕み、動くこともできずに私は地面に座り込む。

「これで、終わりね…」

 天子がつまらなさそうに呟き、緋想の剣を私に向けて構えた。

 緋想の剣がいくら肉体を傷つけなくても、頭を斬られればそりゃあ死ぬ。

 私は勝ち誇って油断している天子が振る緋想の剣に向けてレーザーを放ち、振る速度をできるだけ減速させて私は力いっぱいジャンプして緋想の剣をかわした。目の前に立つ隙だらけの天子に目がけて力いっぱい拳を叩きつける。

 魔力で強化した私の体は常人の数倍の攻撃力を誇る凶器となるが、普段から近接戦闘などをして戦っている物からしたら、人間と大差ないだろう。だが、いくら防御力が高くても強い衝撃に地面に踏ん張ることのできなかった天子は後ろに飛んでいき、木に背中をぶつけた。

「いっつ……」

 人を殴れば自分も痛いのは当たり前だ。しかし、岩でも殴ったようなこの感触にダメージはほとんどないと思った方がいいだろう。

 赤くはれてきた右手の握りこぶしを見てそう思い、傍らに落ちている箒に足をのせて空を飛んだ。

「……」

 空中で箒に座り、全速力でアリスの家から離れる途中、肩越しに後ろを振り返ると小さく見える天子がオレンジ色に輝いた。

 マスタースパークとは言わないが、私を包み込むには大きいぐらいの炎のようなレーザーが私に向かって放たれた。

 弾幕戦ならば私の得意分野だ。方向転換して天子に向き直る。

 天子のレーザーが私の真下で薙ぎ払われて木々をなぎ倒す。私はすれすれでそのレーザーをかわしながら四つの光の球体を生成。左右に展開してそれぞれからレーザーを撃つ。

 レーザーを撃つために止まっている天子に向けてありったけ撃ちこむ。

 天子は上下左右に巨大なレーザーを動かすが、私にはかすりもしない。そのため、天子は私にレーザーを撃つのを諦めてこちらに向かって跳躍する。

 飛んでくる天子の姿を見て私は違和感を感じた。天子の手には緋想の剣が握られていないのだ。

「…!?……いったいどこに!?」

 私は周りを見回した時、先ほどのようにうなりながら緋想の剣が後方から私に目がけて突っ込んできた。

「………っ!!」

 たてに回転しており、このまま何もしなければ頭を両断されて私は死ぬ。左右どちらかにかわそうとしても移動している間に死んでしまう。

 距離を取っていて完全に油断していた。緋想の剣がここまで届くとは思ってもいなかった。

「…!」

 動けない。

 でも、バランスよくほうきにまたがっていたわけだが、体が自然に動いてバランスの重心を大きく前に移した。

 空と地面が交互に視界に映し出され、グルンと私の体が一回転したのだと分かった。

 そのうちに私の上を緋想の剣が通り過ぎたらしく、正面方向を緋想の剣が天子に向けて飛んでいくのが見えた。

「…な……なんだ?」

 奇跡、にしてはできすぎている。

 思い当たるものと言えば一つしかない。アトラスが言っていたことを思い出す。アトラスはやり方なら彼女に聞いてくれと言っていた。もしかしたら、アトラスの言う彼女という人物が私に影響しているのだろうか。

 私は考えながら天子にレーザーを放ち、距離を取る。わざわざ相手の得意分野の領域に行くことなどない。

 私はポーチからマジックアイテムを取り出し、手の上で転がした。大きめのビー玉ぐらいの大きさの黒い球体に小さな黒い球体が無数に埋め込まれている。

 見た目は気持ち悪いというのが、実際のところだ。

「……」

 魔力でそのマジックアイテムを強化し、地上を走る天子に向けて私は投げつけた。

 天子がそれに気がついて撃ち落とそうとするが、目標が小さくて手こずっているようだ。

 だが、いつ撃ち落とすかわからないため、私は早急に命令を下した。

「爆発しろ」

 私がそう命令を下すと、中心の一番大きな爆弾が爆発。小さな球状の球体が四方八方にまき散らされる。私は念のため急いでそのマジックアイテムから距離をとる。

 私が使ったマジックアイテムは外の世界で言うところのクラスター爆弾というものと似ている。模倣してみたが、かなりの威力だ。

 本来はたくさんいる標的に使うものだが、確実に当てたかったため天子に使うことにしたのだ。

 地上が見えなくなるほどの大量の爆発が起こっていく。木の表面や地面が爆破され、砂煙が上がる。

 少なくとも、一発以上は天子に当たったはずだ。

 私は全速力でその場を離れた。

 あのようすじゃあ、天子からは情報を得ることはできないだろう。天子から私の姿が見えないように私は低空で空を飛んだ。

 

 怖い。怖いよ。

 こんなに怖い体験をしたのは生れて始めてだ。

 私は暗い洞窟の中で震えていた。ガタガタと手が震えて、その震えが止まってくれない。

 いままでにも敵意を向けられたことは何度もあった。同種から、妖怪から、人間から、でもどれも敵意であって殺意ではなかった。

 そう思いながら震えを抑えようと華奢な手を押さえるが余計に震えてしまう。

 カランッ……

「っ……!!」

 石が転がる音に私はビクリと大きく体を震わせ、洞窟の入り口の方向を見た。

 この洞窟はL字がたになっていて、私がいる奥は曲がっていて見られていない限りわからないはず。なのに、なんでチルノちゃんがこの場所にいるの?

 顔を出すと、すぐ目の前にいたチルノちゃんが私の二の腕を強くつかんだ。

「ひっ…!!」

 チルノちゃんの青い瞳が赤色に光る。

「…チ……チルノちゃん…!」

 私は掴んだチルノちゃんの手をとっさに振り払おうとした。でも、チルノちゃんの握りつぶすような握力に私は振り払おうこともできない。

「いぎっ…!!」

「……大ちゃん」

 恍惚とした表情のチルノちゃんが抵抗することのできない私にのしかかってきた。

「チルノちゃん……やめ…!」

 私がチルノちゃんを引きはがそうとしたとき、チルノちゃんが私のことを動けないように固定した。

「…大ちゃんは……なんでアタイから逃げるの?」

 チルノちゃんがまっすぐに私を見つめて呟く。

「…チルノ…ちゃん……!…だって…!」

 私が怯えたような表情を見せると、チルノちゃんが怒った顔になり、口を開けて私に近づいてくる。

 ズグッ!

 チルノちゃんの白い歯が私の首筋に触れ、食らいつく。

「あああああああああああああああっ!!」

 生暖かい血が切り裂かれた血管からあふれ出て、私の体とチルノちゃんの口元を汚していく。

 チルノちゃんの歯が私の骨を嚙み砕き、肉を引き裂く。

「…くあ…………あ…ぐ……っ!」

 私は耐え切れずに痙攣する手でチルノちゃんの頭を掴んで無理矢理に自分から引き離した。

「……お願いだから………止めて……チルノちゃん……!!」

 口元を血で汚すチルノちゃんは頬に触れる私の手に手を伸ばして掴んだ。チルノちゃんが食いちぎった肉を咀嚼もせずに飲み込み、私の伸ばした右手に今度は食らいついた。

「~~~~~~っ!!?」

 私の腕をチルノちゃんが食らい始める。

 またこうなるのか。びくびくと痙攣する体、私の体の一部を一心不乱に食べ続けるチルノちゃん。私はまた食い殺され、そのあと一回休みで私は生き返り、また食い殺される。

 何回目だろうか。

 ビシャッ!

 手を丸ごと食い尽くされた。その断面から骨が飛び出している手から私の血液が漏れて、顔にかかった。視界の半分以上が血によって赤く染まる。

 どうしようもないぐらい体のあちこちが痛んでいて、私は絶叫していた。こんな痛みには耐えられない。とにかくこの場所から逃げたい。私はとっさに能力を使おうとした。

 瞬間移動は私に触れている物と物を同時に運んでしまう。でも、逃げ切れるきっかけになるかもしれない。

 しかし、瞬間移動は見えている範囲でないと地面や壁に埋まってしまう。

 そう思っていたが、どうせ死んでまた食われる運命だ。最後に悪あがきといくことにした。

 私は瞬間移動を使った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十一話 授けられた能力の使い方

今回だけオリジナルキャラクターが出てきます。

それでも良い方は第十一話をお楽しみください。


 ボッ!

 何かが小さく爆発するような音が薄っすらと聞こえた。意識が瞬きする間だけ消え、気が付くと私と私に食らいついていたチルノちゃんは空中に投げ出されていた。

 見えない場所に瞬間移動するのに壁の中でないだけましだろう。

「なぁっ!?」

 私でもチルノちゃんの声でもない。子供のような声ではなく、もう少し大人っぽい声がする。

 声の方向に顔を傾けると、箒に乗った魔理沙さんが止まることができずに全速力で私たちに迫ってきていた。

 

 ボッ!

 炎が点火したときのような音がして、何もない私の進行方向の空間にいきなりチルノと大妖精が現れた。大妖精の能力で間違いはないだろう。

 よく見えなかったが、二人とも血まみれで襲われていたのだろうか。二人に当たらないように減速をしようとしたが、飛んでいる魔女は急には止まれない。

 ガツン!!

 二人に正面衝突し、バランスを崩した二人を巻き込んで私も地面に転げ落ちることとなる。

 かなりのスピードを出していたため、少し長い距離を転がった。

「ぐっ…!」

 地面に転がり落ちた時、体中いろいろなところを打ち付けたのかズキズキと痛む。痛みが引かない肩を左手で押さえ私は立ち上がる。

「……おい…大妖精に…チルノ…大丈夫か?」

 私は足を引きずりながら倒れている二人に近づいた。

 チルノと大妖精がもみ合いになっていて、私は二人が喧嘩しでもしているのかとのんきに思っていた。

 だが、地面に押さえつけられている大妖精の悲鳴に私は戦闘態勢に入る。

 大妖精に覆いかぶさるチルノの背中をレーザーで撃ち抜いた。

「あがっ!?」

 正面しか見ていないチルノがそれをかわせるはずもなく、心臓を撃ち抜かれたチルノしばらく苦しんだ後に力が抜け、ぐったりと地面に横たわった。

「大妖精!…大丈夫か!?」

 私は倒れたチルノを大妖精の上からどかした。

「ま……魔理沙…さん……すみません……」

 初めはいつもと違う私の姿に怯えを見せたが、おかしくなっていないとわかると少し安心したようにつぶやいた。

 大妖精の怪我はチルノ以上にひどく、体の一部を損傷している。

「…大丈夫…じゃないな…」

 私は治療を促進させるマジックアイテムを取り出し、ふたを開けて中身の液体を大妖精にかけようとしたとき、チルノの体がビクンと震える。

 胸に当てたレーザーは対した威力ではない。チルノの再生がすでに始まったのもうなずける。

 今頭を吹き飛ばせば多少なら時間が稼げるかと思ったが、魔力の無駄だ。死んで回復しているときに追加でダメージを負わせてもあまり効果がなかったのを思い出したのだ。

 ビギギッ!!

 チルノの胸に空いた穴が再生を始める。

「……予想以上に早いな……」

 治療を一度中断し、私は大妖精を背負った。

「…大妖精!…揺れるぞ!……しっかり掴まっておけ!」

 私はチルノから逃げるように走り出す。もともとあまり体力のない私はすぐに息が上がって速度が落ちるが魔力で体を強化して走る。

 大妖精が振り落とされないように私の肩をできるだけ強く握りしめる。

 大妖精の血が地面について追跡されるようなヘマはできるだけ犯してはいない。だが、大妖精の出血量が多く、徐々に地面に血痕を残し始める。

 近くに川があればそれを利用してどこに行ったかわからなくさせることができるが、近くに川など流れてはいない。

「…はぁ……はぁ……大妖精……大丈夫か?」

 私は走りながら背負っている大妖精に話しかけた。

「…………」

 大妖精は答えない。

「……大妖精?」

 私は振り返ろうとしたときに気が付いた。さっきまで赤子のような握力で私の肩を掴んでいた大妖精の手から力が抜け、さらにその手は肩から離れて重力に従ってゆれている。

 ぐったりとした人形のような大妖精の体がゆっくりと冷たくなっていく感覚が服越しに伝わり始めた。

「………」

 こいつが妖精でよかった。死んでよかったというのは大妖精に悪いが、それでもこいつは一回休みで生き返ることができる。そうでなければ私は泣き叫んでいたかもしれない。

 友人が殺され、死んでも生き返るとはいえ知り合いが無残に殺されたのだ。悲しくないはずがない。

 しばらくすると大妖精の無くなった右手が再生をはじめ、冷たくなっていた体から熱が発生し始める。

 もうじき大妖精も目を覚ますだろう。その前に誰にも見つからない安全な場所に逃げ込みたい。そうして一度体勢を立て直したい。

 だが、そう簡単に事は進まないだろう。周りにこちらに殺意を向けている奴がいる気配を強く感じる。

 二人分の足音、長く森で生活していたためどれだけの人数で動いているなどは反響していてもある程度はわかる。

 一人一人で別々に行動している、仲間ではないだろう。一人は私が向かっている方向からくる。

 あと三十秒もすれば奴らの姿を視認できるだろう。

 もし、昨日のような濃霧が発生していれば、やり過ごすことも可能だったかもしれないが、それはそれでデメリットもある。

 私から見て後ろ、今来た方向からくる奴の方が早い。おそらくチルノだ。

 背負っていた大妖精を下ろして木に背を預けるようにして寝かせた。

 小さな鏡をポーチから取り出し、木の幹から少し出して反射を利用してチルノの姿を確認した。

 こちらに向かって一直線で進んできている。

 私はすぐさま手のひらにレーザーを撃つために魔力を集中させ、目線に重なるようにできるだけ配慮して鏡の中のチルノに向けてレーザーをぶっ放す。

 レーザーは鏡で反射し、こちらにまっすぐ進んでいたチルノに命中した。だが、持っていた手がズレていたのか、目線と同じように撃てなかったのか、定かではないがチルノを戦闘不能にするほどのダメージは与えられなかった。

「っち…!」

 私は舌打ちしながらチルノが来ている方向とは逆方向を向き、太い木の幹を蹴り折りながら突っ込んでくる天子に鏡を分投げた。

 天子の額に当たった鏡は弾かれて回転しながら地面に落ちて転がる。

 足止めにもならない。

 私は身体を力で強化し、脳を活性化させ一つでも多くの情報を視覚から収集する。

 チルノも氷の剣を作り、天子と挟み撃ちになるように剣を振る。

 同時に振られた二つの剣のうち天子の緋想の剣を避けることはできた。しかし、チルノの氷の剣が私の肩に突き刺さった。

「ぐっ……!!」

 体を捻って耐久性のない氷の剣を壊し、天子の二撃目を食らわないように大妖精のそばに下がった。

 大妖精を守れる位置に陣取り、天子とチルノにレーザーを放つ。チルノが横にさけ、天子がレーザーを食らいながら突っ込んでくる。

 地面を這うように低い位置から緋想の剣が私の頭めがけて下から振りあげられる。

「……っ!!」

 剣が帽子を掠め、冷や汗を掻く。持っていた箒を振りかぶって天子の頭に叩きつける。

 箒を強化していても折れるのではないかと思うほどに弓のように箒が曲がった。

 チルノにレーザーで牽制をしながら天子から少しだけ距離を取る。天子の狙いは私であって大妖精ではない。チルノにさえ気を付ければ大妖精は天子に襲われることはないはずだ。

 鋼のように固く、ダメージの通りにくい天人とは戦いにくいことこの上ない。私がやりあいたくないやつの一人だ。それに、天子だけでもやばいというのに、大妖精を守りながら戦わなければいけない。そんな状態でこいつらに勝てるのか。

 初めから敗色濃厚のこの戦い。逃げたいところだが大妖精も連れて行かなければならない。逃げ切れる可能性はかなり低いし、他の連中とも会ってさらに数が増えるのも困る。こいつらはこの場所で倒さなければならない。

 私はそれらの負の感情を振り切り、右手の手のひらに魔力を集中してどちらが先に来るか睨みつけた。

 レーザーを撃つ寸前にして淡く光らせ、天子たちをわずかに警戒させる。

 チルノがじれったくなったらしく迂回するようにして私に接近し、氷のつぶてを私に浴びせかける。

私は集中してそれらを必要最低限の動きで避け、チルノの胸に光る右手で掌底突きを食らわせた。

 それ自体にダメージがあるわけではない。右手にためた魔力を一気に放出。しかしそれはレーザーとしてではなく、爆発のように放出させた。

 爆発的に体積を増やした魔力の粒子の衝撃にチルノの姿が消え失せる。

 爆弾と同じだ。体積が一気に増えればその分衝撃波もすさまじい。近くにいればいるほど。でも、私にダメージはない。魔力操作で正面だけに出したり、バックブラストの要領で衝撃を逃がした。

 チルノがどこまで吹き飛んだかわからないが、二対一の状況から一対一の状況に持ってこれたのは大きい。

 そう思ったとき、回り込んできていた天子が私の胸に緋想の剣を突き刺した。

「な…っ……!?」

 後ろにある木に体を縫い付けられてしまった。

 地面に座っている大妖精には当たっていないようで安心したが、緋想の剣に当たっている私が大丈夫ではない。

 根元まで突き刺さっている緋想の剣を掴んで引き抜こうとしてもピクリとも動かない。緋想の剣は天人にしか扱えない。私がこうやって抜こうとしても一切動かなくなってしまうのだ。

 まるで物語に出てくる選ばれし者しか扱うことのできない剣にこうやって縫い付けられてしまっては、全く身動きがとることができないというか物凄く痛い。

 痛みで失神してしまいそうだ。

「うぐぅ……っ!!」

 接近している天子に苦し紛れにレーザーを撃とうとしたが天子に跳ねのけられた。

 天子が掴んだ緋想の剣を上に動かし始める。そのまま行けば私の頭を両断して私は殺される。

 だが、腹を切られる激痛に私は苦しむことしかできない。

 ここまでなのか。私が意識を失いかけた時、私の体が自然に動いた。天子の腹を強化した体で思いっきり蹴飛ばしたのだ。

 天子の体が後ろによろけ、それと同時に天子が握ったままの緋想の剣が私から引き抜かれた。

「……せっかく私が来たというのに、能力を使う前に死ぬことは許さん」

 話したのは私ではない。しかし、いつもの聞きなれた声が頭の中に響く。

 何が起こっているのかわからず、私は困惑する。私が声を出そうとしても声が出せないのだ。

「…安心しろ。アトラスに能力の使い方を教えてやれと言われているのだ。教えたらすぐに帰る」

 いつもの私とは違う凛とした話しかた。周りから見たら私が独り言を話しているようにしか見えないだろう。しかし、私はそんなことに気が回らない。

「…貴様は思うだけでいい。それで伝わる」

 なるほど。とりあえず、あんたは何者なんだ。

「貴様が持った能力を元々使っていた。いわゆる前任者だ」

 口調が男らしい。男性なのだろうか。男の人でも自分のことは私というし、でも、アトラスは”彼女”と言っていた。女の人なのか。

「…私は女であっているぞ」

 本当に考えただけで伝わるようだ。しかし、変な感覚だ、視覚や聴覚、痛覚はいつも通りなのに体が動かない。

「……さてと、あのゴミクズ野郎をぶちのめせばいいのか?」

 コキコキと首を鳴らしながら彼女がいった。

 意外と口が悪い。

 ああ、殺さない程度に頼む。

「初めに、この能力は血を使うことによって使用することができる」

 そう言いながら”彼女”は手を口の位置にまで持っていき、親指に噛みついた。犬歯が皮膚を切り裂き、痺れるような痛みが広がる。

 傷口から溢れてきた血をなめとり、血液を嚥下した。

 魔力で親指の傷を治して今まさに緋想の剣を振り下ろそうとしている天子に向き直る。

 ドックンと心臓の鼓動が高鳴り、体の奥底から何かが湧き出てくる感覚がした。

 私ではかわせないだろうというほどの速度で振られた緋想の剣を”彼女”はしゃがむことによってかわした。

 パァン!!

 何かを蹴ったような鋭い音がする。しゃがんだ状態のまま彼女は天子の足を払ったのだ。天子の体が宙を舞う。その隙だらけな天子に拳を振りぬく。

 拳が当たった天子の顔が苦悶に歪み、吹き飛んだ。ダメージがあったということだろうか。

  十数メートル浮いた状態で進んでいた天子の体は木にぶつかることでようやく止まった。

「ふむ。かたいな」

 魔力で強化した手が赤く腫れている。

「…ははは……あははははははははははははっ」

 天子が楽しそうに笑い始める。

「…あと、この能力は時間制限付きだ……量によって使える時間などが変わる」

 そうか。でもそもそも、この能力はどんな効果があるんだ?

「力を倍増する能力だ……魔力量だったり、力だったり防御力だったり…いろいろなものに使える」

 なるほど。

 私がうなづいた時、天子が緋想の剣を上段にかまえて私に切りかかってくる。

 体が横にズレ、緋想の剣は私を切り裂くことなく地面に突き刺さった。私の手が握りこぶしを作り、天子に殴りかかる。

 ドゴォッ!!

 しかし、天子の能力で地形が変形。私がいる位置が陥没し、天子がいる位置が上がって私の手が地面にめり込んだ。

「っち…」

 手を引き抜こうとしたとき、天子が緋想の剣をこちらに向けた。緋想の剣の炎が増幅し、火炎放射器のようなレーザーが放たれた。

 この場所では袋の鼠だ。オレンジ色以外何も見えなくなった。

 魔力で強化した体がレーザーで焼かれたと感じたのはつかの間、オレンジ色の炎がかっ消えた。

 ドンッ

 視界が凄いスピードで動き、跳躍したのだと場所が変わってようやくわかった。

 天子の横に着地すると同時に天子に殴りかかる。

 天子がこちらに緋想の剣を振り、私の拳と当たらずにすり抜けるようにして私の手を切り裂いた。

 剣で切り裂かれた右手に激痛が走り、ズキズキと痛む。

「…おい、あの剣はなんだ?すり抜けたぞ?」

 聞かれた私は緋想の剣について知っていることを”彼女”に伝えた。

「…なるほど、あいつらしか使えない剣と来たか」

 ”彼女”はそう呟き、切りかかってきた天子の緋想の剣を避けた。

 がッ!!

 膝を後ろから蹴り、天子の膝を地面に打ち付けさせた。そのうちに緋想の剣を持っている天子の手を掴み、捻って緋想の剣で天子自身に自分を切り付けさせた。

「がっ………あぁぁっ!?」

 天子が叫び声をあげ、倒れそうになった時に”彼女”が天子を蹴飛ばした。

 天子が地面を転がり、しばらく痙攣していたがそのまま動かなくなる。

「能力の時間は量によって変わる。時間に気を付けろ……それとこの体になったということは生命力が上がったということだ。ちょっとやそっとのことでは死ななくなるから、あとは頑張れ」

 そう言うとこちらの了解も聞かずに彼女の存在が私の中から消えた。すると、体が自由に動くようになる。

「………おい、あんた……まだ聞きたいことが山ほどあるんだが……」

 私が話しかけても返事は帰ってこない。本当にいないようだ。

「……はぁ……」

 ため息をつきながら私は大妖精の方向を見ると、もう傷が治っている。そのうち目が覚めるだろう。

 私は周りを見回して魔法の森のどの場所にいるか割り出した。この場所から自宅まではそう遠くはない。箒を拾い上げて大妖精の方向に向かった。

 まだ眠っているため、大妖精を背負って私は箒に乗り、空を飛んだ。

「……」

 大妖精のさっきまでぐったりとしていて重かった体が軽く感じる。大妖精が体重移動をしているらしい。

「……起きていたのか?大妖精」

「…今起きたんです……すみません魔理沙さん…」

 大妖精の小さなつぶやきが聞こえた。

「…大丈夫だよ……」

 私は見えてきた自分の家の庭に着地し、大妖精のことをその場で下した。

「…一度、私の家で休むことにしようか」

 大妖精を家に招き入れた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十二話 幽谷響子

原作ではあまり頭の良くないキャラクターが頭良かったりするかもしれませんがご了承ください。

それでも良い方は第十二話をお楽しみください。


 鍵を開けて中に入り、大妖精が入ったのを確認してドアを閉めて鍵をかける。カーテンを締めて外からこの家の中が見えないようにした。

 ようやく一息つくことができて、私は椅子に座り込んで嘆息を漏らす。

「……適当に座ってくれ…大妖精」

 あまり家などには入ったことがないのだろう。おどおどしている大妖精に言うと、大妖精はとりあえず机を挟んだ向こう側の椅子に座る。

「……大妖精……何かこの異変について知っていることはないか?」

 席から立ち上がり、棚から無くなった爆発瓶やマジックアイテムを取り出してポーチの中に適当に放り込んでいく。

「……私が知っていることなんて何もないですよ?…ぴかっと光ったと思ったら、その光を見たチルノちゃんに襲われたんです」

 大妖精が私にそう呟いた。

「……そうか…」

 大妖精の血まみれの格好から見るに、チルノにかなり手ひどくやられたらしい。

「……そう言えば…。光が見えたって言ったよな?」

「う、うん」

「……それを誰がやったのか…わかるか?」

 私が聞くが大妖精は顔を横に振る。

「すみません。わからないです……でも、…何かにつながるかわかりませんが……一昨日は村に命蓮寺の人が向かって言っているのを見かけたんですよ……」

 大妖精が思い出したことを私に伝えた。

「命蓮寺の連中が村に…?めずらしいな……それ、誰がいたかわかるか?」

「……えーと…たしか聖さんだったと思います…」

「聖が…?……一人だったか?」

「……はい、一人でした」

 なぜ、村なんかに聖がいたんだろうか。自分たちの宗教を広めるためだったとしたらタイミングが良すぎる。もし、そうだったとしても、あの村の状況から見て聖たちもおかしくなっているのは間違いない。

「……また厄介な奴が……」

 私は呟き、深いため息をついた。

「…魔理沙さんはこれからどうするんですか?」

 大妖精が私に言いながらこちらを見た。

「……異変の解決をするために動くぜ…霊夢もおかしくなって奴らの側にいるんだ。なんとか霊夢を元に戻すまでは残った私たちが異変を解決するために動くしかない」

 私は言いながら机の上に散乱しているマジックアイテムなどに目を落とした。普段客人なんて来ないから散らかってしまっている。片づけておけばよかった。

「……私も…異変解決を手伝わせてもらってもいいですか?」

 大妖精が霊夢が光でおかしくなってしまっているということに驚きながらも、それでも私に言った。

「……大妖精?」

 大妖精は温厚で、あまり戦闘などを好まない。だがらその提案に少しだけ驚いた。

「足手まといになると思いますが、…どうしても手伝いたいんです…願いします…!」

 大妖精もさっき見た通り、チルノに襲われていた。そのチルノを元に戻したいのだろう。

「……いいぜ、こちらこそよろしく頼むぜ、お前の能力はかなり便利だ……おまえが使いこなせればかなりの戦力になるだろうしな…」

「ありがとうございます…!…できるだけ足手まといにならないように頑張ります」

 大妖精が力強く意気込みを見せてくれた。

「ああ、頼りにしてるぜ」

 私が言うと、会話が途切れて沈黙が訪れる。

「………。魔理沙さん……聞いてもいいですか?」

 ボーっとしてしまい、さっきのアリスのことを思い出してしまい、涙が溢れそうになっていたのを大妖精が声をかけてきたことによりなんとか涙をこらえて大妖精の方を見た。

「…どうしたんだ?」

「……魔理沙さんの髪の毛とか…どうしたんですか?」

「あー……話せば長くなるぜ……それに、信じられないようなことだから話しても、時間の無駄だと思うぜ」

 壁に立てかけてある鏡の方を見ると、見慣れぬ自分が私を見返している。

 白髪に赤い瞳、それだけ見ればアルビノと呼ばれる遺伝子の病気のようにも見えた。

 しかし、私の肌の色は以前変わらず黄色人種特有の色だ。まあ、私はもともと白っぽくてますますアルビノっぽく見えるわけだが。

「……そう、ですか…」

 大妖精が呟く。あんなこの世とあの世の境にいるアトモス君とアトラスの話なんかしても、どうせ誰も信じてくれないだろう。私だって信じない自信がある。

「…それと、あの天人の方はどうしたんですか?」

「……あいつは…」

「まさか、魔理沙さんが倒したんですか…!?」

 大妖精は目をキラキラと輝かせながら私に言った。

「いや…私は何も……」

 名前も教えてもらえる暇もなかった”彼女”の存在をどう伝えるか、どう表現したらいいかわからないから、とても困る。

「な……なんだか、よくわからないやつが現れて倒していったぜ」

 私はだいたいあっている説明をした。

「…天人を倒せる人ってことは、かなり強い人ですよね?そんな人がいるなら、私たちにもまだ勝機はあるってことですよね?」

 大妖精が真剣に考え始める。

「そう…だな……。とりあえず…命蓮寺に向かおう。大妖精が村に向かう聖を見たってんなら何かつながりがあるかもしれないぜ」

 私はそう呟いた。

「はい、わかりました」

 そう意気込む大妖精に向けて私は家から出る前に忠告した。

「初めに言っておく、私が異変を起こした連中に勝てない可能性の方が高い……だから、私が負けたら私に構わず逃げろ…いいな?」

「…えっ……でも…」

「でもじゃない…絶対にそうすると約束しろ……私について行かないといけないわけじゃない。その時は逃げてチャンスを待つんだ」

 私がそういうふうに大妖精に伝えると、大妖精が覚悟を決めた目でこちらを見た。

「……わかりました。じゃあ……魔理沙さんも約束してください…私は死んでも生き返るので…私が死んでも無理をして死体を回収しようとしないでください」

 大妖精がそう言って私を見上げてくる。

「………わかった」

 仲間を切り捨てえるという覚悟は今回の異変には必要なことだろう。戦いでは死の可能性というものは常に付きまとう。片方が倒れ、もう片方が助けに行けば下手をしたら共倒れになってしまうこともあるだろう。

 こいつを絶対に守り切れる保証はどこにもない。だからこれは必要なことだ。

 私はそう自分の考えをいいように正当化して椅子から立ち上がった。

「…命蓮寺に行くとしようぜ、大妖精」

「…はい!」

 私と大妖精はドアをあけ放ち、外に飛び出した。

 

 木製の天井や壁、カーペットなどが敷いてある床を炎が這う。

 炎がついていた乾いた木がパチッとはじけ、火の粉が散らばってそれらが火種となって炎が燃え広がっていく。

「…ぐっ……!」

 力が入らず震える手足に鞭を打って自分の胴体を持ち上げた。

 呼吸をするとむせ返すような熱気にせき込んでしまう。

「げほっ…!!」

 私はせき込みながらも、口元を押さえて熱気を吸い込んで肺や器官を火傷しないように体を持ち上げて歩いた。

 炎で焼けて炭化した棚の土台が棚自体の重量とぎゅうぎゅうに詰め込まれた本の重量に耐え切れずに砕け、勢い良く倒れた。

 燃えていた本も燃えていなかった本も投げ出されて炎で燃え盛る床に散らばり、炎の薪となる。

 棚が倒壊したことによる衝撃で発生した温風に私は顔をしかめた。

 ゴォォ……。

 その風に乗って飛んできた火の粉が私の服に着き、燃え移る。

「…うっ……!?」

 私は手で燃え移った炎をはたき消した。

「………くそ……」

 私はそう呟きながら服が燃え移った時に少し火傷した手首を少ない魔力で回復させながら歩く。

 住み慣れた家が焼けていく。長い間住んでいるうちにできていたたくさんの思い出が消えて行く。

「…おまえは弱すぎる……いらないねぇ」

 私の後方の低い位置から声をかけられた。

「……っ!」

 弱すぎる。その言葉に私は歯噛みする。

 大切な人のために全力で戦った。でも、彼女には手も足も出ずに蹂躙された。

 その圧倒的な力の差に私は絶望するしかない。

「恨むんなら、お前の聞き分けの悪い主人を恨むことだな」

 そいつはそう言いながらいつものように酒を煽る。

「…そもそも、……お前たちがこんなことを始めなければ…こんなことにはならなかった

……!私の主人が悪いだと…!?……悪いのはお前の方だろう…!!」

 至近距離であれば、近接戦闘術の方が弾幕よりもはるかに速い。私は振り向きながら彼女に殴りかかる。

「…本当にそうかな…?」

 私の全力の拳をまるでキャッチボールでもしているかのように奴は受け止める。

「……っ!!」

「お前がもっと強く、私を倒せることができていたなら…こんなことにはならなかっただろうなぁ……すべてを守ることのできなかったお前が悪い……つまり、恨むんなら自分を恨めってことだ」

 彼女は私を掴んでいた方とは逆の手を突き出し、私を吹き飛ばす。

 ただ押した。そんな簡単な動作なのに私の体は浮き上がり耐久力の無くなった棚を砕いていき、最後は壁に背中を打ち付けてようやく止まった。

「ぐあっ……!?」

 私は叫び声をあげながらまだ燃えてはいない床に倒れこんだ。

「そこで大人しくくたばんな」

 奴はそう言いながら私の主人や上司を連れて歩いて行く。

「…ま……て………!!」

 私は地面をはいずって奴を追う。

 ぶつかった時に頭を切ったのかドロリと血が流れてくる。右目にそれが入り、オレンジ色だった視界を赤く染める。

 私が壁にぶつかった衝撃で建物がその形を維持することができなくなってしまったのだろう。

 私に向かって炎に包まれた大量の建材が降り注ぐ。

 怒りや憎悪で包まれる私は、それを血で赤く染まる視界で見ていることしかできなった。

 

 黒い黒煙があちこちから立ち上っている。

「けほっ…」

 周りに漂うその火事の匂いに私はせき込んでしまう。

「…大丈夫ですか…?魔理沙さん」

 大妖精が周りを不安そうに見まわしながら私に言った。

「……大丈夫だ…」

 私は口元を押さえながら呟く。

 でもその行為は煙を吸わないようにするためではない。

「………」

 私と大妖精はきっと真っ青な顔でこの光景を眺めていることだろう。

「……遠くからみえていたから……多少は予想していたが……」

 どこを見ても死体だらけの命蓮寺を私は歩く。

「……これは……酷いですね…」

 大妖精もこれ以上ないぐらい真っ青な顔で私についてくる。

「……くそ…」

 私は吐き気を無理やり抑え込み、知り合いがいないかを確かめながら歩く。

「……大妖精、きついなら外で待っててくれても構わないぞ」

 私は後ろを無理やりについて来ようとする大妖精に言った。

「……す…すみま…せ………」

 大妖精が不自然なところで言葉を切り、ふっとその姿が消え失せた。

 限界だったらしい。大妖精を馬鹿にはできない。私もいつまで我慢できるかわからない。

「……」

 どの死体もバラバラのぐちゃぐちゃで損傷が激しい。

 潰れて千切れた手足、潰れた胴体、砕かれた頭から飛び出した視神経が付いたままの眼球。

 真正面から見れたもんじゃない物がたくさん転がっており、私は吐きそうになって地面に崩れ落ちる。

 だが、なんとか吐き気を抑え込み、マラソン直後のように肩で息をして息切れしながら立ち上がる。

 頭をたたきつぶされた寅丸星、ズタボロの村紗水蜜、腕と下半身を吹き飛ばされている雲居一輪、壁に叩きつけられてぐちゃぐちゃに弾けているナーズリン。

 どいつも顔なじみの奴だ。ほかにも、命蓮寺に通っている人間もまるで体内で爆弾が爆発したように弾けていたり、潰れていたりしている人間の死体がたくさん転がっている。

 大量の血がさまざまなところに飛び散っていて、どこにいても血の匂いがねっとりと纏わりついて気分がさらに悪くなる。

「……」

 縁側に上がり、私は命蓮寺の中に入った。

 私が一歩進むごとに床に使われている古い木の板がきしむ。

 黒い煙が命蓮寺の中から出ている。出火元は恐らく台所だろう。煮物にでも火をかけているときに光を見たか襲われてそのまま放置され、中身の水が蒸発してしばらくしてから出火したため今頃になって火事になっているのだろう。

 火はかなり広がっているが、生きている奴を探せないほどではない。今のうちに探して助け出さなければならない。

 障子や天井に赤黒く変色した肉や脳漿がこびりつき、異臭を放っている。

 私は急いで周りを見ながら走っていると血だまりに足を突っ込んでしまい、血が大きく跳ねた。

 もう、だれも生きている人間もしくは妖怪はいないのだろうか。

 ここで諦めたらもし生きている奴がいた時に助け出せず、聞けることも聞けなくなってしまう。私はあきらめずに生存者を探す。

 しかし、それをあざ笑うかのようにあるのは死体、死体、死体。

 庭にいなかったため生きているのではないだろうかと思った奴の死体を廊下の端で見つけた。

 両手と両足を叩きつぶされているぬえの死体だ。下半身がつぶされていて血反吐を吐いた跡が口元についていた。

 庭にいた寅丸たちもそうだが、人間は別としても魔力操作をできる妖怪なんかを一方的に叩き潰すことのできる奴なんてそうそういない。いても限られてくる。

 鬼、もしくは花の妖怪、風見幽香。可能性として聖だ。

 大妖精は二日前の異変が起こった日に村に聖が来ていたと言っていた。そこで例の光を見ておかしくなった聖が命蓮寺の連中を殺したとも考えられる。

 人間や妖怪も例外なくおかしくなるこの現象。わからないことが多くて正解なのか間違っているのかわからないが、おかしくなった霊夢や文を見ていて思ったことがある。

 本人たちの感情が影響しているのだろうか。

 だが、リグルやミスティアはそういう感情に左右されている感じではなかった。

「……」

 もう少しそういう連中と戦って様子を見るしかなさそうだ。

 食堂は既に炎で埋め尽くされており、広間を歩くがやはり潰れた死体しかない。

 あらかた見回って命蓮寺の中には生きている奴はいないということが分かった。

 私は燃える命蓮寺の障子を蹴り破り、そこから庭に出て避難した。

 私が命蓮寺に入っていた数分間の間、たったそれだけの時間でかなりの範囲を炎が燃え広がっている。火事とは恐ろしいものだ。

 私は命蓮寺の庭を見回して違和感を感じた。どの死体も体のどこかの部分が欠損もしくは潰れているのに、水蜜だけが体を切り裂かれたり殴られて死んでいるのだ。体が潰されていたり、欠損はない。

 水蜜の体に触れて起こすが、既に死んでいて冷たくなっている。

「……」

 開いたままの目と視線があう。彼女のよどんだ瞳から目をそらして私は瞼を閉じさせて地面に寝かせた。

 さっきまでたっていて気が付かなかったが、水蜜を起こすためにしゃがんだため、命蓮寺の床下が見えた。

「お前………響子……だよな…?」

 床下で箒を抱えて震えている少女に私は語り掛けた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十三話 茨木華扇



もう一つの東方鬼狂郷 第十三話をお楽しみください。


「……響子……だよな…?」

 背を向けて頭を抱えガタガタと震えて座っている響子にそう語りかけた。

「…ひっ…!?」

 びくりと響子の体が震え、おそるおそるこちらを赤く腫れた目で見た。

「……大丈夫か?」

 響子の精神状態はあまりよさそうには見えない。できるだけ刺激をしないように私は優しく語り掛ける。

「……っ!!」

 しかし、響子が私と目が合うと怯えたような顔になり、床下の奥に逃げていてしまう。

「響子待て!そっちに行ったら命蓮寺が崩れた時に巻き込まれる!」

 私の言葉が聞こえていないのか一心不乱に響子は私から逃げていく。

「…くそ……」

 おそらくというか百パーセント私の赤く変色した目を見ておかしくなった連中と同じだと勘違いしてしまったのだろう。

 今私が追っても逆効果だ。

「大妖精!聞こえるか!?」

 私が大声で叫ぶと、少しの間だけ間をあけて大妖精が瞬間移動をして私の元にやってくる。

「魔理沙さん、どうしたんですか?」

「大妖精…縁の下に響子が逃げちまったんだ…私の目が赤くなってるから、奴らと勘違いしたらしい……今私が行っても逆効果だ…説得してきてくれないか?」

 私がそう伝えると、大妖精がうなづいて縁の下に入っていく。

「命蓮寺が崩れる前にできるだけ早く頼む…!……無理そうなら諦めてくれても構わん」

「……わかりました」

 大妖精が返事をしながら影の中に消えて行き、明るいこちら側からは見えなくなった。

「……」

 そわそわと大妖精が早く出てこないかと待つ。

 ギギギっ!!

 命蓮寺の骨格となる骨組みなどが燃焼による炭化で耐久性が衰え、命蓮寺全体の重量に耐えられなくなってきているのか、今にも崩れそうな嫌な音が響く。

「大妖精!やばいぞ!早く!」

 私はいつまでたっても出てこない縁の下に潜ったままの大妖精に叫ぶ。

 せっかくの生き証人が死んでしまえば得られる情報も得られない。しかし、それで大妖精に死なれても困る。

 命蓮寺の火を消そうかとも思ったが、火はかなり燃え広がっていて木をだいぶ炭化させているように見える。そこに大量の水を召喚したらその衝撃や重量でバキッと行きかねない。

 そう思って歯噛みしているとき、私は気が付いた。誰かが後ろからゆっくりと近づいてきている。気配を消して忍び寄る感じ、仲間とは言えないだろう。

「……っ…」

 体を魔力で強化し、私は攻撃をするため手をかざしながら後方に振り返る。

 すると目の前には真っ白な拳があり、頬にそれが当たると頭が千切れると思うほどの衝撃に私の体は浮き上がり、後方に私の体は流されていく。

 炎でオレンジ色に光る命蓮寺の中に転がり込んだ。

 さっき入ったときとは比べ物にならないほどの強い熱気を感じ、私は体を魔力で強化した。

「……華扇…!」

 背が高く、いつもは見上げている華扇のことを今回は見下ろして私は言った。

「……」

 華扇が包帯で作られた手を下げて私を見上げる。

 炎が生み出す熱気のせいで陽炎のように大気が揺らめき、華扇の表情や目が見えない。

 しかし、どうするか。歌仙は仙人でもあり、天人並みとは言わないがそれぐらいの体の頑丈さはある。

 それに加えて天子の場合は緋想の剣を持ていたのと彼女がいたのが大きい。私は一人でこいつに勝てるのだろうか。逃げるという手もあるが、大妖精が下にいる。私だけ逃げるわけにはいかない。

 私は立ち上がる前にこっそりとポーチの中に手を突っ込み、その手さ触りや形などからビー玉程度の大きさの煙玉を割り出してつかみ取った。

 魔力を煙玉にこめ、いつでも投げられるようにして立ち上がる。

「……」

 立ち上がったことにより、陽炎の揺らめきが少し収まり、華扇が無言で赤く光る眼を私に向けているのがよく見えた。

「…まさかとは思ったが…やっぱりか……」

 私は独り言をつぶやき、床に向けて煙玉を投げつける。真っ白な煙が煙玉を中心に私と離れてた位置に立っていた歌仙までも包み込む。

 これで時間稼ぎにはなるだろう。

 こちらから見えなければあちらからも見えない。この状況ならば近づかれなければ見えはしないだろう。

 そう思っていたからこそ、攻撃を受けた私は心底驚いた。

 すでに移動していた私を真っ白で何も見えない煙越しに華扇は弾幕を放ってきた。完璧な球形の赤っぽく光る魔力で形成されたエネルギー体が私の背中に命中し、弾ける。

 魔力で体を強化して覆っていても防御できないほどの威力に、念力で浮かされているような浮遊感の後に赤く燃え盛る骨組みだけとなった障子を破壊し、大広間に転がり込んだ。

「う……ぐ……っ…!!」

 今来た方向を振り返ると、煙玉の煙が炎の熱による上昇気流でほとんどが上に飛んでいき、こちらにゆったりと歩いてくる華扇の姿が見えた。上昇気流で煙が上に行ったことにより、私を視認できたから弾幕を当てることができたのか。

 オレンジ色で埋め尽くされているこの場所でも瞳が赤く揺らめいているのがはっきりとわかる。

 ほとんど酸素が無くなってきているのか、入ってきても片っ端から使われて行っているのかわからないが、ものすごく苦しい。今までの人生でたぶん一番苦しい。

「…くっそ……」

 頑丈さや生命力がいつもよりも高いと言っても、精神力はいつもと同じであり、このやばい状態にすでにどうしていいかわからなくなっている。

「………っ……」

 私に近づいてくる華扇が何かぶつぶつ呟いているのが聞こえる。

「……?」

 私はズリズリと下がりながら聞き耳を立てた。炎が揺らめく音や乾いた木がはじける音、炭化した木が重量に耐えて歪む音にまぎれてそれははっきりと聞こえた。

「……あなたの右手を返せ…!!」

 ピンク色の鮮やかな髪の毛の奥で赤く揺らめく瞳の炎が揺らめき、寒気すらする憤怒の表情を私に向けた。

「……っ…!!」

 血の気が引く、とはこのことだろう。血管が収縮し、血行が悪くなって顔色が悪くなる。

 そんな私のことなど関係なく華扇は純白ともいえる真っ白な包帯の手を私に向けて伸ばしてくる。

 魔力で体を強化し、近づいてきた華扇の足を思いっきり蹴飛ばした。

 その衝撃で私の背が床を滑り、華扇から少しの距離だけを離れて体勢を立て直す。

 右腕をよこせ、華扇はそう言った。華扇のない右腕に関係していることは間違いがない。そこで私は考えるのお一度止め、魔力でさらに体を強化していつでも飛び出せるようにした。

 何にせよ、この場所で戦える時間などそう長くはない。炎によって活動範囲がどんどんなくなっているのと屋根がいつ落ちてくるのかがわからないという意味でだ。

 炎の熱で私は汗を流すが、すぐにその熱気で蒸発して無くなる。

「……」

 華扇の能力がどういったものなのかは私は知らない。以前に何度か仙術というものを体験したことはあるが、どれも対人でも戦闘向きの物ではない。

 人に対してどのようなことができるかわからないが、天子並かそれ以上に不味い状態だ。時間制限もある。

「……右手を……返してもらうわ………」

 華扇の姿が周りの炎の生み出す陽炎にまぎれて消えて行く。

 今まで、幻影という奴を見ていたのか。

「……っ!?」

 私が周りを見回そうとしたとき、後ろの壁を突き破って現れた華扇に私は殴り倒された。

「がっ………ああ……!!」

 ずきずきと殴られた頭が痛む。だが、痛みに悶えている暇はない。

「……」

 黙って私を見下ろす歌仙を持っていた箒を強化して、素早く立ち上がりながら頭をぶん殴った。地面を掃くためにまきつけられた木の枝などが折れて散らばる。

 箒で殴った衝撃で華扇の顔が少し傾くが、それだけだ。

「……」

 箒で殴った私の手の方が痺れるとはどういうことだろうか。箒を床に落としそうにあるが、何とか握りしめて華扇から逃れようとしたとき、華扇が床の木の板を踏み砕きながら私に接近した。

「…っ…!!」

 強く肩を掴まれた。歌仙が私の胸に掌底を食らわせる。

「あ……かぁ…っ……!?」

 掌底の衝撃が体を突き抜ける。

 確かに掌底打ちされた時はその衝撃に息が詰まった。でも、私にダメージを与えたのは別の物だ。

 体の中にある内臓がかき回される。そんな表現しかできないような気分の悪くなる不快な感覚に私は叫び声をあげた。

 華扇の技で体内をめぐる魔力が大きく乱され、私は乱された魔力が元に戻るまで一時的に行動が不能になっていた。

 足から力が抜け、倒れそうになるが、もう一度私の胸に華扇が掌底を食らわせた。

 ドンッ!!

 さっきよりも強くて重い一撃により、私の体はくの字に折れて後ろにゆっくりと倒れていた。

「く……ぁぁ……っ!?」

 体中のあらゆる筋肉が変に緊張して体の自由が利かず、起き上がることも悲鳴を上げることもできない。

 投げ出された私の右手が動かないように華扇が右手を左足で踏みつけた。

「…う……ぁっ……!!」

 指一本すら動かすことのできないような状態で華扇が右足で私の二の腕のあたりを踏みつける。

「……な……に…を……」

 私が呟いた時、華扇が右足を上げて私の二の腕を強く踏みつけた。

 ゴギッ…!!

 魔力で強化された華扇の踏み付けは、私の途中半端に強化された腕を簡単にふみ潰し、砕いた。

 メキメキ……ベギッ!!

 右腕から異音が鳴り響き、腕とひじの間の二の腕が砕かれる。歌仙に押さえられていなければ変な方向に折れ曲がっていることだろう。

「ああああああああああああああああっ…!!」

 筋肉が変に緊張している今、本当に叫んでいるかもわからないが、私は神経を伝って伝わって来た激痛に叫んでいた。

 ドン

 ドンッ!

 ドンッ!!

 回数を増やすごとに強くなっていく華扇の踏み付けは、二の腕の骨が砕けて肉が潰れても続き、踏みつける音に少しずつ水気が含まれ始めている。

「………あ……ぐ……!?」

 そのころになるとすでに右手先の感覚など無くなっていて、指を曲げるどころか腕の全ての感覚が死んでいる。感覚がマヒしているのか痛みをあまり感じない。アドレナリンのせいだろうか。

「……」

 華扇がしゃがむと私の右腕を掴んだ。掴まれた感覚がないため、私は右腕の方向に顔を傾けた。

「…っ…!?……う…腕が……!!」

 辛うじて動くようになっていた左手を華扇に延ばすが、華扇はそれを手で払いのける。

 血でまみれ、華扇の足で拭きつぶされて千切り取られた私の右手を華扇はじっくりと眺める。

 腕にしか興味はないのか、私のことを抑え込まなくなった華扇から私はやっと動くようになってきた体で逃げる。

 這って逃げていたが、ある程度離れたところで私は立ち上がった。

 千切り取られた右腕を見ると、やはり二の腕が潰されてなくなっている。右腕を失ったという現実に、私は強いショックを受けていた。

「……っ…!」

 ぐちゃぐちゃにつぶされた傷口から絶えず血が漏れているため、失血死しないように私は傷口を強く押さえて止血する。

 バキッ!!

 そんなときに私のちょうど真上の木が折れて私に向かって炎で包まれる木材が落下してくる。

「うあっ…!?」

 飛びのくことで間一髪で私は避けることができた。

 そろそろ命蓮寺は時間切れのようだ。私は左手を床について体を持ち上げて立ち上がり、炎の熱気に顔を歪ませながら外に出ようとしたとき、また何かが折れる音がした。

「…っ…」

 また自分の上の木が折れたという可能性もあるため上を見上げるが、天井が倒壊する様子はない。それどころか木が落下して何かが落ちたという音自体がしない。

「…?」

 視線を下げた時、音の正体が分かった。

 華扇が物凄く怒った剣幕で私のことを睨みつけ、千切り取った私の右腕を握りつぶしているのだ。

「……私の……私の腕を返せ……!!」

 華扇が私を睨みつけてそう呟く。

「待てよ…華扇……おまえの腕のことなんて知らないぜ……」

 無駄だと分かっていても私は歌仙の濡れ衣に言い返した。

「かえせぇぇぇぇっ!!」

 華扇が私の折れた腕を投げ捨ててこちらに向かって飛び込んでくる。

「知らないって言ってんだろうが!!」

 私は歌仙に向けて左手を向け、最大出力でレーザーをぶっ放す。

 だが、華扇にレーザーがあたると華扇のすがたが徐々に薄くなり、消え失せる。

「またかよ……!!」

 そう呟いて私が周りを見回そうとしたとき、隣に立っていた華扇にわき腹に拳を叩きこまれた。

「~~~~~~っ!!」

 私の体が浮き上がり、天井に背中を打ち付け、床が炎に包まれる場所に落ちてしまう。

「あああああっ……!!」

 炎に焼かれるという痛みは今までに体験したこともないもので、生きたまま焼かれるというのは、恐ろしいものだということを私は身をもって知った。

 私は苦手は水の魔法を使い、自分の頭から水を大量にぶっかける。

 じゅぅぅぅぅぅぅっ!

 高温の炎が低温の水によって消火されてさっきの煙玉のように白い水蒸気の煙を上げた。

 熱い水蒸気の熱に私はせき込む。

 体中が炎に焼かれたのと舞い上がる煤によってところどころ煤だらけで黒くなっている。

 ギッ…ギッ…!

 華扇が床に座り込む私に向かって歩み寄り、私の髪の毛をむしり取る勢いで掴んだ。

「うっ……」

 私の頭皮を掻きむしるようにして華扇が持ち上げた。

 華扇が、拳を握りしめて私に振り下ろした。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十四話 茨木華扇その②

第十四話をお楽しみください。

投降が遅れて申し訳ございません。


 ドゴッ!

 華扇に拳を顔に叩き込まれ、私は床を転がる。

「ごほっ…」

 蹴られた衝撃は華扇が蹴った部分を中心にして、空気が音を振動させて伝えるように体の中を衝撃が伝わっていく。

 流石、仙人の蹴り、手足が全く動かせなくなるような威力だ。

 だが、それ以前に倒れている私の胸を華扇が踏んでいるため、立ち上がろうとしても立ち上がることができない。

「死ね…」

 氷点下のような冷たい声で華扇が私に死刑宣告し、拳を私に向かって振り下ろした。

 初めは音はなかった。

 皮膚に触れた華扇の拳が肺や心臓を囲っている肋骨を歪めてめり込み、胸骨に続いて肋骨が折れて肺に刺さる。肋骨が耐え切れずに折れたことで肺が押しつぶされて口から空気が漏れる。

「……っっっっ!!?」

 華扇がもう一度私を殴ろうとしたとき、私はせき込んで喀血してしまう。皮膚を突き破ってしまった骨もあったらしく、胸のあたりが血で赤く染まり始める。

 それを見た華扇が嬉しそうに笑い、頬に飛び散った私の血を拭って私のことを見下ろした。

「…けほっ…!」

 ゴボッと肺の奥から絞り出すようにして血を吐き出した。

「……うぐっ………!」

 左手でポーチから爆発瓶を取り出し、砕けた胸骨と肋骨の痛みを耐えながら魔力で最大まで強化して華扇の頭にうまくコントロールして投げつける。

 かなりの至近距離で投げつけた爆発瓶はうまいこと華扇の額に当たり、ガラスのように砕ける。中身がほんの少しの間だけ宙を舞う。

 空気に触れた瓶の中の物質が空気と反応して燃焼を起こして大爆発を起こす。真っ青な光が閃光瓶のように視界を焼け焦がす。

 小さな物質が数百倍に膨れ上がり、爆風を発生させる。爆風に巻き込まれてもみくちゃになりながらも私は命蓮寺の奥に飛ばされてしまう。

「……う…ぐ………く…そ……!!」

 私が呟いた時、さっきの爆発で耐え切れなくなってきていた木々の柱が限界点を超えて歪み始める。

 修復をはじめた骨のあたりを押さえながら私は落ちてこようとする天井を見上げて毒づいた。

 バキバキバキッ!!

 肋骨や胸骨が折れた時と似たような音を発しながら天井や壁を支えている木々の柱が折れていく。

 炎で包まれる天井がゆっくりと私の方向に落ちてき始めた。

「……くそっ…!」

 箒は持っている。だが、もう間に合わないだろう。炎に焼かれて死んでしまう。

 だが、天井が床に寝ている私に到達する前に華扇が瞬間的に現れ、拳を握って立っている。

 いつの間に、それがとても似合う状況だろう。こいつはどうしても自分の手で私を殺してやりたいらしい。

「…っ…」

 華扇が私を殴りかかろうと拳を振り下ろした。

 しかし、華扇は一歩遅かったらしく、拳が私に到達する前に炎が揺らめく天井が華扇の頭部に到達した。

 必然的に私にも数百キロにもなる重量の木々が私に降り注いだ。

 私はゆっくりと目を閉じた。

 ドォォッ!!

 耳障りな気が打ち合う音も炎が揺らめく音がしない。炎に焼かれて木々に潰されるような感覚もしない。

「……?…」

 私が目を開けると、いつの間にか庭に座り込んでいた。

「…魔理沙さん?…大丈夫ですか?」

 大妖精が座っている私の手から掴んでいる手を放して肩を掴みながら呟く。

「……大…妖精……」

 絞り出したような私でも聞き取りずらい小さな私の声が響く。

「すみません……説得に時間がかかってしまって遅くなってしまいました」

 大妖精が言いながら後ろを見ると、視線の先には響子が少しおびえた様子で私を見ている。

 まだ私をおかしくなっているのではないかと疑っているのだろう。

「……」

 いくつかの肋骨が折れ、胸骨も完全に砕けている。右腕はくっつけようにも右腕は崩れた命蓮寺の中だ。魔力で治そうにも傷を塞ぐのが精いっぱいだろう。私はため息をついて右腕を見る。

「…あ…れ…っ…!?」

 実にゆっくりだが、私の体が再生を始めている。既に右腕が肘のあたりまで再生を完了させている。彼女が言っていることを思い出す。生命力なんかが上がっていると言っていた。 

 なくなった器官の再生。これも彼女が言っていたことの部分に該当するのだろう。

 胸の痛みもほんの少しずつ引き始める。骨も再生を始めていて、胸の血も止まって服の上からでも折れた骨によって歪んで見えた私の胸の骨格が元に戻っている。

「……華扇は…?」

 私は私を倒れないように支えていてくれた大妖精に話しかけながら大妖精から離れた。

「……脱出できたというところは見てません……なのであの中でつぶされているんじゃないでしょうか…」

 大妖精が燃えている命蓮寺を指さした。

 あいつは仙人だ。あの程度で簡単にくたばるとは思えない。折れた肋骨と胸骨は完璧に再生したらしく、痛みが無くなったので再生途中の右腕をかばうようにして立ち上がる。

 少し体のバランスが悪い。通常は人間の体は左右対称でできていて、バランスが良く作られている。しかし、一つしかない胃や肝臓などは右や左にズレていて重量分それでバランスがとられている。

 だが、右腕を失ったことによりなくなった右腕の重量分左に重心がズレる。

 でも、それもすぐに治るだろう。

「……逃げるか…立ち向かうか……どうする?」

 私が大妖精に聞くと、私に聞くんですか!?と驚きおどおどしながらもきちんと聞き返してくれた。

「……おかしくなっている華扇さんから情報を貰えるとは思えません。……それに、倒して押さえつけることもできるかわからないです」

「……戦っても、割に合わないか……じゃあ、今のうちに逃げんぞ」

 私は左手で持っていた。箒に乗り、命蓮寺を囲う塀よりも高く飛び、巨大な焚火のように燃え盛る命蓮寺から離れる。

 その後ろを少し遅れて大妖精と響子が付いてくる。

「響子…少し話を聞かせてもらいたいんだが……いいか?」

 私が聞くと、響子は口ごもりながらうなづいた。

「……命蓮寺で……何があった?」

 私が言うと、響子は少し下に顔を傾けてうつむいた。

「……なんだか……ピカッと光が見えたんですよ……」

 響子が今まで聞いてきたとき同じような出だしでゆっくりと語り始める。だが、命蓮寺の方向から小さな破壊音がして響子の言葉を遮った。

「…話を振っておいて悪いが、話はあとだ……来るぞ…!」

 私がそう呟くと、後方の崩れて燃える命蓮寺が爆発したように見えた。小さな木片から大きな木片がまでもがあらゆる方向へまき散らされ、業火の炎で揺れる炎の中からピンク色の髪をなびかせ、特にけがを負った様子もない服に少し煤のついた歌仙が立ち上がり、私たちの方向を見た。

「……くそ…!全速力だ!!」

 私は言いながらさらに加速し、それに続いて二人も遅れてスピードを上げる。

 肩越しに後ろを振り返り、華扇の方向を見ると辛うじて壊れていない屋根に魔力を流し、強化して持ち上げたところだった。

「……っ!!」

 華扇が持っている巨大な屋根をこちらに向けて投擲した。

 ずいぶんとゆっくりと飛んできていると思った矢先、何十メートルも離れていたはずなのにまばたきするあいだにすでに私たちの元に到達している。

 いますぐに行動を起こさなければ弾丸と化した巨大な屋根に押しつぶされ、ひき肉にされた挙句炎で焼かれるだろう。原型すら残るかもわからない。

 私が大きく減速すると、後ろを全速力で飛んでいた大妖精と響子が私に向かって進んでくる。場所をうまく調節して横に並んでいる響子と大妖精の間に体を滑り込ませ、響子を左手で掴み、大妖精をまだ手首のあたりまでしか再生していない右腕で肩を組むようにして掴み、無理やり九十度方向転換させた。

 無理矢理に横を向かせてそちらに行くための推進力を発生させたが、今まで進んでいた方向にはまだ運動エネルギーがあり、正面に向けて十数メートル進んでしまい、木に肩をぶつけながらも雑木林の中に入ることができた。

 飛びなれていないというのと、木々の間隔が狭いあげく、速度は全速力であったため木の枝にひっかがってしまって地面に落ちた。

 抱えた二人がけがをしないように体の位置を変え、木の幹に背中をぶつけた。

「…がっ……!!」

 私が地面にゆっくりと落ちたころ、華扇が仙術で体を加速させて十数メートル先に現れたのが見える。

 ここまで移動速度を加速することができるとは思わなかった。

「くそっ……!!」

 抱えた二人を左右に投げ捨てた。それと同時に華扇の掌底が私の胸にめり込んだ。

「か………っ!?」

 まじかで見る華扇の姿は私の爆発瓶が食らったのと、命蓮寺の倒壊に巻き込まれたため、服などにかなり焼けた跡などがある。

 ドッグン…!!

 また、私の体の奥に波のようにゆっくりと衝撃が届き、呼吸が止まりかける。筋肉が硬直または弛緩し、体が痙攣して動くことができなくなる。

「あっ………ぐ……!!」

 魔力の流れが元に戻るまであと数秒はかかるだろう。だが、何度か食らってさっきよりも動けなくなる時間は短い。

 苦しくて胸を掻きむしるようにして押さえた時、華扇が第二撃を私に繰り出そうとしている。

 華扇が拳で私の頭を勝ち割ろうと拳を握り、剣や銃以上の危険な凶器となった拳が私の頭に向かって振り下ろされる。

「っ…!!」

 多少なりと頭を動かせるようになっていて、私は頭を何とか傾けてギリギリで華扇の二撃目を何とかやり過ごした。

 だが、それはあまり意味がなかったようだ。歌仙がわきから私の頭を岩のように固い拳で殴る。

「が…あっ…!!」

 華扇の拳で側頭部寄りの額の皮膚が裂けて血が流れ始める。

「う……あっ……!!?」

 そのすさまじい衝撃に、くらくらして私の意識は飛びかけた。だが、私は強化していた体を最大まで強化して華扇の肩を掴み、腹を殴って脛を蹴りつける。

 本当に当たったのかと言いたくなるほどに華扇の体は微動だにせず、逆に私が華扇の拳で沈められた。

「……っ!!」

 相変わらず体の芯に響く容赦のない攻撃に私が倒れ、華扇が倒れた私に向けて追撃をしようとするが、大妖精が瞬間移動で私の目の前に現れて横から歌仙に触れた。

 華扇の姿が小さな破裂音のようなものが発せられると同時に消え失せる。少し離れた位置の地面に華扇の両足がうまった状態で現れた。

 水が含まれる粘土に近い粘着質の土が圧縮されて硬くなり、華扇が抜け出しずらくなる。でも、何十秒も時間を稼げるものでもない。数秒と考えるべきだ。

 大妖精が私の手を掴み、肩を貸すようにして私を立ちあがらせてくれた。響子が大妖精に触れると大妖精が瞬間移動を使い、場所が漫画でも見ているように切り替わった。

 意識が無くなって運ばれたような感覚に不快感を感じながら連続的に大妖精が瞬間移動を使う。

「響子、華扇の居る位置をお前の能力でかく乱してくれ……闘争の時間稼ぎをする」

「わかりました…やってみます」

 響子が音を反響させる程度の能力を応用して様々な方向から反響させて私たちがどの位置にいるかを攪乱する。

 響子は山彦などをしていたときの御経を呟き始めた。

 気休め程度であまり効果はないだろう。そう思っていたがいつまでたっても追ってくる気配はなく、意外にも逃げ切ることができた。

 




この頃忙しいので、二日か三日に一度のペースになると思われます。

ご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十五話 永遠亭へ

忙しくて投稿することができませんでした申し訳ございません。

第十五話をお楽しみください。


「……はぁ…」

 華扇から逃げることができたことで私はため息交じりの安堵の息を漏らした。

「大妖精。瞬間移動はもういいだろう」

 私がそう大妖精に呟くと瞬間移動でかなりの魔力を消費したのか、少し汗をかいた大妖精が瞬間移動をするのをやめた。

「……おつかれ……助かったぜ…」

 私はそう言いながら大妖精の頭をポンポンと撫でると少し嬉しそうに、恥ずかしそうにして大妖精は撫でられた。

「…響子もありがとよ……」

 私は言いながら大妖精から手をどかし、横にいる響子の方向を見る。

「……いいえ…こちらこそありがとうございました…」

 響子は戸惑いながらも私と大妖精にお礼を言った。

「……一度…どこかで休もう…」

 私は言いながら地面に降りて周りの景色や古い記憶を探りながらある物を探す。

「…どうしたんですか?」

 大妖精はそう言いながら地面に降りて小走りで私についてくる。

「……ちょっと待ってくれ…記憶が正しければこの辺りにあったはずなんだが……」

 何をしているんだと言いたげな大妖精と響子にあいまいに答えながらしばらく探すと、目的の大樹が見つかった。大樹の根元にある隙間に体を押し込んで中に入ると、木の根で回りからは視線が通らない空間があり、薄暗い。

 中には誰もおらず、安全そうだ。

「……入っても大丈夫そうだ」

 私は言いながら二人を招き入れた。

「ここはなんですか?魔理沙さん」

 大妖精が薄暗い木の隙間に入りながら呟くように言った。

「…物を集めてるときにこの辺りまで来ることがあったんだ……でも、拾ったと言ってもたくさん拾ったものがあるときは全ての物を持ち帰るのは面倒だ……だから、この中継地点に一時的に置いておいて、あとでほしいものだけを選別して持ち帰る場所だぜ」

 私はそう言って周りを見回すと、周りには私が持ち帰らなかったガラクタがたくさん転がっている。

「見られない限りたぶんこの中にいるのはばれないだろう」

 私はそう言いながら座り込み、一息ついた。

「ふう……」

 緊張から解かれた大妖精も脱力して地面に座り込む。

「……」

 響子も私たちと同じように地面に座って安堵の息をついた。

「……響子、異変の解決の手掛かりになるかもしれない。話を聞かせてもらえるか?」

 私が言うと響子がうなずき、ゆっくりと話し始めた。

「…詳細に話すと、部屋で水蜜さんと話をしていたんです。でも、いきなり光が見えたと思って外に出たら、なんだかみんなの様子がおかしくて…」

 その時のことを思い出したのだろう。響子は少し体を震わせた。

「……水蜜さんが私のことを助けようとして頑張ってくれた。でも、多い数には勝てなくて追い詰められちゃって……戦えない私を床下に逃がして水蜜さんは庭で戦ってました…」

 そのあと、水蜜は殺されたのだろう。

 だが、水蜜が寅丸やナーズリンを殺った訳でないなら、いったい誰がやったというのだろうか。

「……誰が…寅丸たちを殺したっていうんだ?」

 私は疑問を響子に投げつけた。

「…それが……わからないんです…水蜜さんの…悲鳴を聞いていられなくて……耳を塞いで目を閉じてしまっていたら……いつの間にか…みんな死んでて……」

 響子が俯きながら呟く。

「……なるほどな……じゃあ…もう一つ聞いていいか?」

 私が聞くと響子が顔を上げた。

「……?」

「…一昨日、聖はどうだった…?何か…おかしなところはなかったか?」

「…おかしな…ところですか?……特になかった気がします……でも、珍しく村に用事があるって言ってました」

 響子がそう言う。

「……目的はわかるか…?」

「…さあ……。…でも…床下に隠れているとき……そう言えば…誰かの声を聴いた気がします…」

「…声…ですか?」

 響子が言うと大妖精がいうと、響子がうなづきながら続きを話した。

「……誰が何について話しているか、まではわからなかったんですが……でも途中で…確か、永琳…そう言ってました…」

 その名前に私の眉がピクリと動いて反応した。

「…えいりん…?…永琳って言ったら永遠亭の…?…むしろそいつしかないか……」

 普通の薬から傷がたちまち治る薬品から人を秒殺できる薬まで作れる医者(?)だ。私が作る回復薬などとは比べ物にならないぐらいいいものだ。

 副作用などはなく、直接混ぜなければ基本的に安全である。

 永琳か、あいつも嫌でもこの異変にかかわっていることだろう。起こした側か、もしくは起こされた側か、どちらになるかはわからんが。

 どちらでもいいが、近いうちに永遠亭に行くことにしよう。それでわかることだ。

 私はそう思いながら響子にとあることを聞いた。

「…聖の話に戻ろうが、村に行くとき……何か変わった様子はなかったか?」

「…どうでしょうか……いつもよりも少し、落ち込んでいるような……そんな印象を受けました…」

 響子が考え込みながらいう。

「…そうか、ありがとよ、響子………とりあえず、永遠亭に行ってみることにしよう…何かわかるかもしれない」

 私が言うと大妖精がうなづいた。私は響子の方を見て、一応聞いてみることにした。

「…響子はどうする?私たちと一緒に来るか?」

 私が聞くと響子はぶんぶんと顔を横に振った。

「…いいえ、私は異変が終わるまで森の中で隠れていることにします…」

 響子の反応はいたって普通だ。それだけ怖い目にあえば当然の反応と言えるだろう。

「…わかった。……でも、敵に合わないように気を付けろ。誰が異変の首謀者で、誰が手を貸しているか、まだ見当もついていないからな」

「は…はい……!」

 響子の顔が緊張で強張った。

「…じゃあ、気を付けろよ」

 私と大妖精は一足先にこの場所から出ることにすることにした。

 

「響子さん……大丈夫でしょうか…」

 大妖精が何度も後ろを確認してもう見えなくなっている大樹の方向を見て、私に言った。

「…さあな…あいつ次第だろ」

 私はそのまままっすぐに進み、村方面に出た。そこから永遠亭の方向に進むことにして、方向を変えた。

 遠くに迷いの竹林が見える。あの竹林はいくら森や竹林に慣れている者でも必ず迷うと言われている竹林だ。

 まぁ、空を飛べばだから何だという話だ。

「…魔理沙さん……」

「…ん?…なんだ?」

 私が聞くと大妖精が呟く。

「……地霊殿なら…光を見ておかしなってしまったっていう被害はないんじゃあないですか?」

「私もそれは考えたんだが……。今回の異変の始まり方は…地霊殿に何の被害もない……」「…だから、もしかしたら地霊殿の人たちが異変を起こしたかもしれない…ということですか?」

 大妖精が言いながら後ろを見るのをやめて正面を見て飛び始めた。

「…ああ、でも…一つ解せないのは……地霊殿が異変を起こしたとしても、どうやって人間や妖怪をおかしくしている方法だ」

「…そう…ですね…」

 私の疑問に大妖精も唸りながら考え始めた。

「…でもまあ、精神を犯すタイプの能力を持っている奴は大抵本体を叩いて戦闘不能にすれば元に戻る。…それが誰かということを情報から推測するためには、信憑性がある情報を得るしかないな」

 響子が聞いた永琳という名前。それに鈴仙の能力は回数や時間などを考えても現実的ではない。そう結論を出したが地霊殿に次いで異変を起こした連中である可能性は捨てきれない。

「魔理沙さん…もし、永遠亭が異変をおこしたのなら、あの大人数に二人ではこちらはかなり不利になるんじゃあないですか…?」

 大妖精がいいながら迷いの竹林の入り口辺りに転がる人間や妖怪の死体から顔を背けて言った。

「…ああ、わかってる」

 私はそう言いながら少しだけ魔法を発動した。

 ぱっと見れば迷いの竹林はいつも通りで変化はない。だが、すでに私たちは捕捉されていてあらゆる方向から狙われている。ときおり風で木の葉などが揺れてこちらを狙っていたり、包囲して攻撃するために移動しているウサギなどがちらりと見えた。

 とりあえず、今は気が付いていないことにしよう。現在は昼で明るく、私たちは空を飛んでいてウサギたちは薄暗い地面を走っていたりしている。だから、体を強化した際に見られる淡い光は逆光で見えないはずだ。

 永遠亭までは約1キロメートルを切っている。ウサギたちはいつ攻めてくるつもりだろうか。どういう攻撃方法で、どの方向からどれだけの速度でいくつ飛んでくるかでそれらにたいしての対策は大きく異なる。

「……魔理沙さん」

 ウサギたちが放つ殺気にようやく気が付いた大妖精が顔を引きつらせながら私に話しかけてきた。

「大丈夫だ。自然にふるまうんだ……心配すんな」

 私は言いながら取り乱さずにいつものように進み、大妖精も私の隣をいつも通りの姿勢で飛ぶが、殺気を向けられたことによって動作などが少しぎこちない。

「……。すこし表情がぎこちないぞ、大妖精」

 私が言いながらバックの中を確認した。

「…なっ……何か対策はあるんですか…?」

 大妖精が締まりの悪いネジのような動きでこちらを見てくる、大妖精の目が何か作戦があると言ってくださいと目線で訴えかけてくる。

「……大丈夫だぜ…心配すんなって」

 私はそう言いながら周りに意識を張り巡らせた。

 周りからビシビシと感じる殺気はあらゆる方向からである。それ故に全てのウサギの位置を把握することは不可能に近い。

 だから、今回は攻撃的な方法ではない方法で行くことにしよう。

 周りから感じる殺気は今にでも攻撃が飛んできそうであり、銃で言うならば常にトリガーに指がかかっている状態だろう。

「まあ、あれだ…大船に乗ったつもりでいてくれよ」

 私が言うと、大妖精がコクコクと顔を振ってうなづいた。

 その時、十数だと思っていたウサギたちの数は間違いであり、数十人単位で私たちを囲んでいたらしく、木や竹が入り混じる竹林のあらゆる場所から弾幕の光が発せられた。

 昼でもわかりやすいほどのレーザーが光を放ちながら私たちの方向に向けて360度あらゆる方向から迫って来た。

「…この数は…想像以上だぜ…」

 目の前に迫るレーザーを呆然と眺めながら私はそう呟いていた。

 あたりがレーザーの放つ光により輝き、光以外何も見えなくなった。

 




二日か三日後に投稿すると思います。

駄文ですがよろしくお願いします。

今年最後なので、よいお年を


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十六話 永遠亭のウサギ

第十六話をお楽しみください。

注意事項については一話を参照にしてください。


「……うまくいったな…大妖精」

 私はそう言いながら庭などに生えている草をたくさんつける小さな木に身を隠し、弾幕で光り輝く空を見上げて呟いた。

「……ですね……ひやひやしましたよ……魔理沙さんが想像以上なんて呟くから…」

 緊張していた大妖精が落ち着いたようでため息をつくようにして息を吐いた。

「…しっ…」

 私は大妖精の口を押えて自分も獰猛な獣から姿を隠す獣のように息と気配を殺した。

 永遠亭にいるウサギたちが数人でまとまり、私たちが撃たれて落ちているであろう場所に警戒しながら歩いて行く。

 ウサギが目の前を通り過ぎるとさすがに緊張するが、気が付いていないと分かると少し安心できた。

 なぜ、隙間もないぐらいに埋め尽くされた弾幕をかわすことができたのか。それは私の魔法によるものだ。

 私は、光や熱の魔法が得意な方だ。それらを利用して自分の姿を錯覚や反射、屈折を利用して相手から見ている私の本当の位置をずらしたのだ。

 だが、この魔法は万能ではないため使いどころはかなり限られてしまうが、こういった状況ではかなり使える魔法の一つだ。

「……」

 目を閉じて意識を聴覚に集中させた。目を閉じるといつもよりもより鮮明に音が聞こえ、耳を澄ますと遠くの方にいるウサギたちのどこに行った?とか、いないぞ?と言った声が空気を伝わってくる。

 この辺りをくまなく捜索されてしまえばいずれは見つかってしまう。行動を起こすなら早い方がいいだろう。だが迷いの竹林は広くて死角も多く、ウサギがどこに隠れているのかわからないこともあるだろう。周りには気を付けなければならない。

 それに今回は、迷いの竹林を進む際に大切なことがある。

 迷いの竹林は本当に迷う。でなければそうは呼ばれないだろう。てゐなどこの竹林に昔から住んでいて竹林に詳しい者でないと迷ってしまう。

 だが、てゐは永遠亭の者で話を聞くはではわからないが、現在は敵対関係と言える。だからてゐに頼ることはできないだろう。

 魔力を消費して自分の姿を見えないようにしてもいいが、あれはそう長くはもたない。さっきはウサギたちが早く自分に向けて攻撃を加えてくると分かっていたため使ったに過ぎない。

 戦いにおいて重要なのは対峙している相手の呼吸を読み取ることだ。だから、ウサギが攻撃しやすいようにわざと呼吸をずらした。まじかで対峙しているわけでないため探り合いは必要ない。ウサギたちは案の定かかってくれたため私たちは時間を稼ぐことができた。

 しかし、それをうまく使えるかどうかは私たち次第だが。

 だが、最終手段として取っておくのもいいかもしれない。見えなくなると言っても、本体(私)の方は影だけが残るため、音にさえ気を付ければこの薄暗い迷いの竹林は絶好の場所だ。

 周りの警戒を大妖精に任せて、私はできるだけ足音を立てないように移動して永遠亭に向かう。

 整備されていない竹林の中は草木が影を作り、私の服の保護色となって発見しずらくなるだろう。

「…大妖精……来い…」

 私が小声で伝えると瞬間移動で大妖精が現れ、私の服の裾を掴んだ。

「……今のところは問題ないです………たぶん」

「……たぶんかよ」

 まあ、戦いにおいて自分で直接見ている情報以外で正確なものなどそうそう存在しないだろう。

 背の高い草が先に続いており、草の後ろや歩く音などに気を付けながら進む。

「……大妖精、止まれ」

 しばらく歩いた私はそう言いながら動きを止める。

「…どうしたんですか?魔理沙さん」

 大妖精が周りに響かないように小声で私に言った。

「……ウサギがいないし、捜索してる割には静かだと思わないか…?」

 私はわざと少し大きな声で大妖精に語り掛ける。

 すると、私が行ったときに周りの草が大きく揺れて球体上の弾幕が大量に私たちに向かって飛んでくる。

 一発や二発はかわせるかもしれないが、ショットガンの散弾のような隙間の無い密度の高い弾幕に私は退くことしかできない。

 円形に囲んでくれていればウサギたちの撃った弾幕で自分の仲間に当てさせて数を減らせるかと思ったが、ウサギたちの立ち位置は扇形で仲間に弾幕が当たらないようにしている。

「大妖精!!」

 私が言いながら大妖精に手を伸ばし、大妖精はその私に向かって飛びつき瞬間移動を発動させる。

 意識が途切れるような感覚がした後、別の場所にさっきと同じ体勢で立っていて、前方に弾幕の光が見える。

 私が見ている方向は前方で見ている方向と同じ方向にウサギたちが放った弾幕が飛んでいくため、私たちがいる場所はウサギたちの後方にいるということだ。

 うまくいけば裏を取ることができるはずだ。

 草に隠れて弾幕を放ち続けるウサギたちが後ろから丸見えである。

 さっき空中でバックをいじっていた時に取り出していた閃光瓶を振りかぶって前方のウサギたちの視線の先、私たちが立っていた辺りに向けて全力で投球した。

 回転しながら飛んでいく閃光瓶はウサギたちがそれを瓶だと脳で知覚する前に地面に落ちて砕け散る。

 バァァァンッ!!

 魔力が込められた閃光瓶は火花を散らしながらいつものように光をまき散らす。

 そのうちに目を閉じた状態で手に持っている箒に足をかけて空を飛ぶ。二十メートル以上は離れているため、走るよりも箒で飛んだ方が早い距離だ。

 前かがみになり加速する箒に振り落とされないように足や腰の筋肉に力を込め、ほぼ全速力でウサギの元に向かっていく。

 光が収まるころに目を開くとウサギとの距離はちょうどいいぐらいになっており、一番近くに立っているウサギの近くに着地して肩を掴み、魔力を手先に巡らせてレーザーをいつでも撃てるようにしてウサギたちの視覚や聴覚が回復するのを待つ。

「……私たちを攻撃するのをやめろ」

 しばらくして光と音で視覚と聴覚が機能していなかったのが回復し始めたころに私は全員に聞こえるように言った。ウサギたちは人質がとられているということを理解したのか、とりあえず攻撃の手がやんだ。

「…魔理沙さん!!」

 私から視覚の位置にいて、私のことを狙っていたウサギの腕に大妖精が放った弾幕が直撃して向けていた手の方向を変えさせた。

 大妖精に撃たれたウサギの弾幕はあらぬ方向に飛んでいき、当たった木の皮を少し削り取った。

「ぐあっ…!?」

 魔力の強化が不十分だったのか、服が焼け焦げて蒸発して魔力で防御しきれなかった分の熱などが皮膚を焼け焦がす。

「…ナイスだ、大妖精」

 私は言いながら後ろから肩を掴んでいるウサギの頭に手をかざし、いつでも撃てるんだぞと威圧をかける。

 すると、私が掴んでいるウサギが手を上げて降伏を示す。

「私は、お前たちと争うために来たんじゃあない……永琳に会わせてくれ…聞きたいことがある」

 私がそう伝えると、少し緊張気味の声で掴んでいるウサギが呟く。

「…敵じゃないという保証がないじゃないか…」

 ほかのウサギたちが畏怖の感情で包まれる目を私に向けてくる。

「…敵じゃない理由…?…こいつやお前たちが生きているっていうことかな……ベタだがな」

 私はそう言いながらウサギたちが私の見えないところで変な行動を起こさないように睨みつける。

「……もう一つは、始めの理由につながる……おまえたちを殺したり無理やり従わせてはいない。お互いに争わないようにするために提案を出している……それじゃあ…理由としては不十分だが…私としてはどちらでもいい……おまえたちが私とやるつもりなら相手になってやる……後ろの奴も含めてな」

 私がちらりと肩越しに視線を後ろに向けると隠れているウサギの影がいくつか見えた。

「……たしかにおかしくなったやつらとはこうやって話している時点で別だけど、異変を起こした奴らの一人かもしれないでしょ」

 一人のウサギが私に疑いの眼差しを向けて呟く。

「…異変が始まったから二日が経過しているんだ…今更こんなところに用があるわけないだろうが……大事な場所ならとっくに攻めてるよ」

 私が言うと、周りのウサギたちがこそこそと話し合いを始めた。少ししてこのグループのリーダーのようなウサギが私に向けて言葉を発した。

「……本当に味方なら、とりあえず手を下ろしてくれない…?」

 他のウサギと変わらないぐらいの低い身長のウサギが私に呟く。

「……いいだろう。私の条件も飲んでもらうがな…」

 私はそう言いながらウサギの肩から手をゆっくりと放し、かざしていた手のひらで光っていた魔力を消滅させた。

 私が手を放したことによって自由になったウサギが走って仲間の元に戻る。

「……私は条件を飲んだ……お前たちも約束は守ってくれるよな…?無駄な争いは避けたいのはお互い様だろ?」

 私がそう言うとウサギたちがまたコソコソと会議を始める。

 周りから走る音などが聞こえ始め、私たちはじょじょに包囲され始めた。

「ま……魔理沙さん…」

 大妖精が周りを不安げに見まわしながら呟く。

「…大丈夫だよ……たぶん」

 正面以外のウサギたちのチームが手を出してこないのは正面のウサギたちが結論を出すのを待っているのだろう。

「……こっちは時間がないんだ……決めるなら早くしてくれ」

 私が答えを促すと結論は出たらしく、リーダーのウサギが私に向かって前に出て言った。

「とりあえず信じましょう。でも、妙な動きをしたら殺します」

 うさ耳が頭から垂れている愛らしい少女に似つかわしくない、言葉が私に向かって放たれる。

「…善処するぜ」

 私は肩をすくめ、ふてぶてしく言った。

 




三日から四日後に次を投稿します。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十七話 八意永琳

意外と早く投稿することができました。

わりと好き勝手な物語なのでそれでもよい方は第十七話をお楽しみください。


 小石と水気の多い土、他にも落ちた落ち葉や生き物の死骸が長い年月をかけて土に返ってごちゃごちゃに混ざった地面の土を踏みしめて私たちは歩く。

 私と大妖精を囲み、案内のために先導するウサギたちは迷いの竹林をすいすいと歩いて行く。このウサギたちの統率を取る地上にいるウサギのボス的なポジションにいるてゐや銀髪で真っ赤なモンペのズボンをはいた藤原妹紅などでないと迷ってしまうと聞く、でも先導するウサギたちが迷っている気配はない。おそらくウサギたちにしかわからない印のようなものが迷いの竹林内にたくさん設置してあるのだろう。

 私は黙って正面を歩く二人のウサギを見つめた。

「……私たちを監視するのにこんなに人員を割いてよかったのか?」

 私が聞くと、後ろを歩いていたウサギが正面のウサギの代わりに質問に答えた。

「大丈夫、この場所にいるのは一部だから十数人がいなくなってもカバーしあえるからね…」

「…ふーん、そうか……それで、異変が始まってからも永琳は元気にしてるか?」

「…うん」

 ウサギがうなずいて少しだけ歩を早めた。

「……そうか」

 私は呟き前方を見ると少しずつ道や竹林の中が手入れされたものが多くなってきて歩きやすくなってくる。竹などに視界をある程度遮られるが、永遠亭を囲う壁が見え始める。永遠亭の庭に入るための唯一の入り口の門の前には、竹やりを持ったウサギが永遠亭の入り口付近や屋根の上に立っていて、周りを警戒している。

「……ずいぶんと厳重のようだな………まあ、当たり前か」

 二日にわたってこんなことが続いていて、警備をしているウサギたちや見回りなどをしているウサギたちに色濃い疲れが見える。

 門の警備をしているウサギの横を通って永遠亭を囲う高い壁の唯一の出入り口である門をくぐった。

「…ここで待ってて、あなたに会うかどうかは永琳様が決めるので…」

 永遠亭に入るための扉の前でウサギは立ち止まり、そのウサギがそう私に告げて扉を開けて自分だけ永遠亭の中に体を滑り込ませると、早々に扉を閉めて永遠亭の奥に歩いて行く音が聞こえた。

「信用されてないなあ。まあいつもの生活態度なら当たり前か」

 私が独り言を言ったとき、大妖精が私に語り掛けてきた。

「……私たちに会ってくれると思いますか?…魔理沙さん」

 大妖精が横や後ろに立つ武器を持ったウサギにビビりながら呟いた。

「…こんな状況だ……素直に会ってくれると嬉しいぜ………わざわざ忍び込まなくても済むからな…」

 そうやって話していると、さっき永遠亭に入っていったウサギが玄関のスライド式の扉を開けて出てきた。

「永琳様はお会いになるそうです……護衛は常につきますがよろしいですね?」

「構わないぜ、永琳の居る場所に早く案内してくれ」

 私がそう伝えると永遠亭から出てきたウサギが案内をするために後ろを向き、ついてきてとだけ言って永遠亭の中にまた入っていた。

 私と大妖精が中に入ると、武器を持った三人ほどのウサギがまだ警戒した状態で後ろからついてくる。

 しばらく廊下を歩くと、いつも人や妖怪が診断を待っていた広い待合室が右手に見えた。今は人ひとりっ子おらず、病室に収まらなかったケガをしたウサギが部屋の半分ほどを占領しているのが見える。強い消毒液の匂いや強烈なアルコールの匂いでも消えることのない強い鉄の、血の香りが漂っている。

「……失礼します」

 更にしばらく進むと私も何度かお世話になったことがある永琳の診察室のドアが見え始め、そこのドアをウサギが軽く二回ノックした。

「……入っていいわよ」

 永琳の静かだが、切羽詰まったような声が鉄製のドア越しに聞こえる。

 ガラリとスライド式の鉄の扉をウサギが開けると、診察台の上に血まみれのウサギが寝かせられて、治療を施されている最中だ。

「……何の用?今は凄く忙しいのだけど…」

 永琳が片手で机に置かれたカルテに何かを書き込みながら、時間の経過とともに血の気が失せて少しずつ青白くなっていくウサギに薬を塗り、私たちにちらりと視線を向けて言った。

 その治療を受けているウサギは全身ボロボロで生きているのが不思議だと言える。それほどの重体の怪我を負っている。切り裂かれた腹からこぼれ出る出血で赤く染まる小腸を助手のウサギが数人がかりでひきつった顔で治療中のウサギの体の中に戻している。

「…か……ぁ……っ!」

 痛みで意識を失いかけているウサギの潰されて引き裂かれて空洞となってしまっている右目から目の組織と一緒に赤黒い血液がドロリととどまることができずに流れ出てきている。

「…う……っ…!」

 流石に直視することのできないウサギの怪我に、私は目を背けた。

「……聞きたいことがあるから、後で聞かせてもらう……外で待ってるから治療が終わったら来てくれ」

 一刻を争う治療の状況で、永琳が治療に集中できないような質問をしてしまい、ウサギが死んでしまっても私は責任を取ることはできない。だから、質問は後にしよう。

「…わかったわ」

 永琳はそう言いながら包帯を取り出し、薬を塗った傷口に止血と癒着をサポートするために包帯を少し強めに巻き付ける。

 つぶされて引き裂かれているウサギの眼球の治療に移ろうとしたところで、私は診察室から廊下に出て扉を閉めた。

「……」

 もっとショッキングなものを見てきて多少なら耐性が付いてると思っていいたが、やはりああいったものは何回見ても慣れることはない。

「……」

 口元を押さえて真っ青な顔になっていく大妖精の肩をポンと叩き、待合室の空いている席に二人で座って私も大妖精と一緒に気分を落ち着かせた。

「…大丈夫か?」

 私が大妖精の背中をさすりながら聞くと、大妖精がぽつりと話し始める。

「……命蓮寺とかで、原形をとどめていないような死体なんかも見てきましたけど……やっぱりこういうのは、慣れる物じゃあないですね……」

 こみあげてくる吐き気を何とか噛み砕いて押し殺しているのか、実にゆっくりと大妖精が呟いた。

「……だな……でも、それでいいんだ…大妖精が正しいよ……こんな異常な状態でも、死体やそれらに近いものに見慣れちゃあいけないぜ?」

 私がそう言うと大妖精が顔を少し上げてこちらを見上げながら不思議そうにつぶやく。

「……なぜですか?早く慣れた方が楽じゃあないですか…?」

「…確かにな…この状況に早く慣れればそれだけ楽にもなれるだろう。…でも、誰かが死んでも悲しくなれないということはそれだけ心を失ってしまったということだ…。……。まあ、死んでも生き返ったり…人間を食いもんにしてたり仲間同士で殺し合いをすることもある妖怪とかにはぴんと来ないかもしれないけどな…」

「そんなことないですよ…それに私は妖精です……私にだってわかることだってありますよ」

 私が言ったことについて反論もあったらしいが、大妖精は確かにそうですねととりあえずうなづいた。

「……まあ、合計で言えばお前の方が長生きしてるわけだしな」

「そうですよ!年上は敬わないとだめですからね!!」

 私はそう言って冗談ぽく笑う大妖精を見ていて、急に思いついた疑問を投げかけることにした。

「…なあ、ちょっと聞きたいことがあるんだが……いいか?」

「…ん?……どうしたんですか?」

 伝えることを一度整理して私は大妖精に聞きたいことを聞いた。

「…おまえたち妖精は……なんで死んでも生き返ることができるんだ?」

「……。私たちが死んでも生き返れる理由……ですか…」

 妖精は生き返れるというのが普通だと考えていたため、今まで気にも留めていないようなことだった。

 しかし、彼と呼ばれる神、アトラスやまるで地獄の番犬ケロベロスのようなアトモス君の存在というものを知り、妖精の生き返れるというシステムに疑問が浮上した。彼らという存在がいて、死んだ存在を適当に扱うわけがない。そのため、私たちが知らないなにかカラクリがあるのだろう。

「……言いにくいんですけど……実のところを言うと…私も知らないんですよね…」

 大妖精が申し訳なさそうな表情で頬をポリポリと人差し指でかいた。

「…え?…知らないのか…?」

「…はい……いつからそうなっていたか、初めからそうだったのか……全く覚えていないんですよね……たぶん…昔のことで忘れてしまったんだと思います」

 大妖精が何かを思い出したいのか、人差し指を額に押し付けながら考え込む。

「…まあ、いくら重要なことだとしても数百年も前のことなら、忘れちまっても仕方ねぇよな」

 私は言い、首をコキコキと鳴らした。

「…力になることができなくてすみません……」

 なんだか大妖精が落ち込んだようにつぶやく。

「…大丈夫だよ、別にたいしたようじゃない」

「……私には、たいしたようなのかしら?」

 いつの間にか診察室から出てきていた永琳がそう私に呟いた。

 




たぶん、三日から五日後に投稿します。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十八話 永琳の話

注意事項は、お手数おかけしますがプロローグを参照にしてください。

注意事項をみてそれでも良い方は第十八話をお楽しみください。


 

「…いろいろと話を聞きたいんだが…いいか?」

 私が言うと消毒してあったが今は血まみれのゴム製の手袋を外してゴミ箱に叩き込み、私の近くの椅子に座りこちらに目線を向ける。

「…それで、聞きたいことっていうのは何かしら?…まあ、異変のこと以外はないでしょうけど」

 いつもの紫と赤色が対照的になっているデザインで、独特な服を着ている永琳がカルテにさっきの患者のことでも書いているのか、鉛筆で何かを書き始める。

「…まあ、知ってることをしゃべってもらうだけだぜ」

 私がそう永琳に告げると、永琳はカルテに何かを書き込みながら言い返してきた。

「…たぶん、あなたたちと知っていることは変わらないわ……霊夢が敵になったんでしょう?」

 カルテに書くことは全て書き込んだのか、カルテを座っている膝の上に置いて私の方を見た。

「……。」

「…あら?適当に言ってみたんだけど図星かしら?……異変が始まってから二日が立ってる…今頃情報収取で走り回ってるなんて、どんな異変も動き出せば一日以内に解決していたあの霊夢がいまだにこの段階なんてありえないからね」

 永琳が足を組み、近くにいた一緒に治療をしていたウサギに診察室にいるウサギについていてほしいと伝えてから私に言った。

「…まあ、そうだよな……」

 私はため息交じりの息を吐き、そこで言葉を切るがすぐに話を始める。

「…。命蓮寺でお前の名前を聞いたやつがいるらしい…」

「心外ねぇ、私を疑っているわけ?」

 じろりと永琳が私を睨みつけた。

「…ちげえよ…別にお前だけを疑ってるわけじゃないぜ……名前が出たってことは何かに関係してるかもしれないっていう安易な考えだよ……もしくは、永遠亭が次の標的じゃないかと思ってな…」

 ぶらぶらと組んでいた足が揺れていたが、私がそう言うと永琳の足の動きがぴたりと止まる。

「……なるほどね…あんたがついさっき聞いてきた情報っていうんなら…信用しないわけにはいかないわね……」

 永琳がそう呟いてから言葉を切るが、何かを思い出したのかすぐにまた話し出した。

「……もう遅いかもしれないけど、もし助けに行くのならば…聞いてほしいんだけど……紅魔館がやられたらしいわよ」

「……え…?」

 永琳の言葉に私は少しの間、驚きのあまり頭が真っ白で全く働かなかった。

「…あ、あの紅魔館がですか?」

 大妖精が驚き、椅子から立ち上がって永琳に聞き返す。

「ええ……うちのウサギの一人が見回りの時にはぐれてしまったらしくてね。そしたら火事で崩れる紅魔館を見たらしいのよね」

 永琳がため息をつき、周りにいる護衛に下がらせ、見回りに行かせた。私の情報を聞き今は少しでも見回りなどを強化したいのだろう。

「…まじかよ……レミリアたちが…?…あいつら、大丈夫なのかよ……」

「…さあ……わからないわね…」

 私の独り言に永琳が一呼吸間をあけてから静かに答える。

「……魔理沙さん…顔色が凄く悪いですよ…?……大丈夫ですか…?」

 大妖精が心配そうな表情で私を見つめてきた。

「…あ……ああ…。…大丈夫だ……それよりも…すまない。地霊殿に行く予定だったが、私は今すぐに紅魔館に行かないといけない…」

 私が箒を握りしめて立ち上がると、わかりましたとうなづいた大妖精も私に続いて立ち上がる。

「…永琳、教えてくれてありがとう…私らはすぐに行かないといけない……勝手ですまないがもう行くぜ」

「…そうね……」

 私が言うと、永琳がうなづいてカルテを診察室から治療されて頭に包帯を巻かれて眠っているウサギを担架で連れ出してきたウサギに手渡し、立ち上がった。

「…私も、手伝わせてもらうわね……少し待っててちょうだい」

 永琳がよっこいしょ、とゆったりとした動作で立ち上がる。

「……それは、てゐ…それと鈴仙がいないことと関係しているのか…?……永琳…」

 私が永琳に聞くと、永琳は少し驚いたような表情を見せた。

「…あら、魔理沙のわりには鋭いわね」

「…私の割にはっていうのは余計だぜ」

 じろりと永琳を睨むとハイハイと軽く流されて苛立つが、言い返しても疲れるだけであるため、早く用意して来いと手振りで伝えた。

「…はいはい」

 永琳が言いながら診察室に向かって歩いて行く。

 鈴仙のいつもの扱いを見てると大切ではなさそうにも見えるが、身内が巻き込まれたんだ。永琳が動かないわけにはいかないだろう。

「……」

 しばらくして永琳が薬などを詰めたポーチを肩から下げ、右手に弓を持って診察室から出てきた。

「…輝夜はウサギたちに任せてきたわ…いきましょう」

「…そうか……じゃあ、行くぞ」

 私は廊下を戻り、ドアを開けて外に出て箒に乗って空を飛んだ。

「…魔理沙、急ぐ気持ちはわかるけど、ちゃんと周りには気を付けないとだめよ」

 空を飛んでついてくる永琳が大妖精を追い抜いて私の隣に並び、言った。

「……わかってるよ」

 永琳がやっとついてこれるようなスピードを出していて、大妖精が付いてこれていない。少し熱くなりすぎていたようだ。一刻を争う時こそ冷静でいなければならないだろう。

 永遠亭から紅魔館までは直線で進めば数キロ先だ。全速力で進めば数分で着くが、そうできないのがもどかしい。

「…もしかしたら敵がいるかもしれないからな…戦う心構えはしておいてくれ」

 私は言いながら数キロ先の赤い館がくずれ、そこから小さく上がっている紅蓮の炎と、炎の数百倍の大きさの黒煙を見て歯噛みした。

「……くそっ…」

 レミリアたちがやられている。そんな現実味の無いことに聞いた時は何かの冗談だと思いたかった。だが、私の視線の先には炎で燃える紅魔館がある。嫌でも現実を受け入れなければならなかった。

 




たぶん。二日から三日後に出すと思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第十九話 治療

いろいろと好き放題やってます。

それでもいい方は第十九話をお楽しみください。


「…落ち着きなさい……あんたが取り乱したら私たちが困るわ…」

 冷静な声で私を落ち着かせようと永琳が私にそう語りかける。

「……わかってるよ…!」

 段々と近づいてくる紅魔館がどのような状態となっているか詳しくわかってきた。真っ赤なレンガでできていた壁や屋根が火災の際に発生した煤が表面にこびりつき、館のほとんどが真っ黒に染まってしまっている。

 かなり勢いが強い火災だったらしく、他は崩れてしまったが屋根の一部の骨組みだけが残っている。

 庭に降り立つといまだに炎が収まらないのか、館だった物に近づくと炎の熱を少し感じた。

「…っち……咲夜!…レミリア!!……パチュリー!!………誰かいないか!?」

 私が叫ぶが崩れてそれが火種となって燃え続ける音以外返事として帰ってくる音はない。レミリアたちどころか生きている者が存在していない。

 崩れた紅魔館や庭の端や噴水の近くには、紅魔館で働いていた妖精たちが真っ黒に焼けていたり、命蓮寺の人間や妖怪たちのように原型が無くなるまで潰されている。

「……っ……くそ…!」

 私は呟き、それでも生きている妖精がいないか周りを見回した。

「…魔理沙さん!あそこに妖精がたくさんいます!」

 大妖精が私からは死角の位置を指す。大妖精の居る位置にまで移動し、示す方向を見ると紅魔館の図書館があったあたりに妖精がたくさん群がっているのが見えた。

 服装が紅魔館で妖精に配られているメイド服でなかったため、紅魔館にいる妖精でないことは一目で見分けることができた。

 パチュリーの結界で紅魔館内に入ることができずにいた妖怪や妖精たちだろうか。

 普段なら無視して交戦はしないが、生きている人間、妖精、妖怪がいれば群がり襲い掛かってくる奴らが意味も無くあそこに群がるわけがいない。

 奴らが群がっている場所にもしかしたら紅魔館に勤めていた妖精で生き残りがいるのかもしれない。

「大妖精!永琳!…奴らを倒すぞ!」

 私が言いながら数人の妖精の頭を撃ち抜き、撃ち抜いた連中を貫通したレーザーが後ろにいたほかの妖精たちのことも数人戦闘不能や行動が制限されるぐらいにまでけがを負わせる。

 永琳が持っていた弓に魔力で作り出した矢をつがえ、頭の上の位置に弓矢を持ってくると、矢を引き絞りながら弓矢を胸の位置にまで持ってくる。弓が湾曲してキリキリと音を立てる。

 永琳が狙いを定めて手を矢から放すと、弓が元の形に戻ろうとする物理的なエネルギーが糸を伝わって力が矢に加えられ、初速六十メートルという驚異のスピードで空を切る甲高い音を立てながら矢が射出された。

 永琳の独自の技術や魔力が影響しているのか、矢はまっすぐに飛んでいたが三つに分裂し、妖精の肩や胸に当たるとそのすさまじい威力に煤と炎による炭化によって真っ黒になった壁に三人の妖精が縫い付けられた。

 大妖精が瞬間移動で妖精たちに後ろから接近し、妖精たちに触れると瞬間移動をさせ、次々に瞬間移動で妖精たちが消えて行く。行先は庭の噴水に瞬間移動させたらしく、噴水の中や周りに現れた妖精たちを私と永琳で撃ち抜き、あらかた妖精たちを片付けることができた。

 周りの確認は二人に任せ、私は周りの確認をろくにせずに妖精たちが集まっていた場所に近づいた。すると妖精たちが群がっていて気が付かなかったが、私の良く知る人物が倒れていて、私は何をしたらいいのか何を話したらいいのかわからなくなっていた。

「……小悪魔…っ…!」

 妖精たちに襲われていたのはパチュリーの司書、小悪魔だった。

 体のあちこちにひどいやけどの跡があり、かなり重量のある物が上から落ちてきて下敷きにされたのだろう。小悪魔の右腕を潰した大きな瓦礫の下で、右腕がまるで獣に踏まれたような小動物のように潰れてぐちゃぐちゃになっている。

 小悪魔の二の腕から伸びている剝き出しとなった筋肉の繊維が小悪魔の腕を潰した瓦礫の下で床にこびりついている肉片につながっている。

「…う…っ…!」

 私は吐き気をこらえながら手が小悪魔の血で汚れるのも構わずに小悪魔の腕につながる直径1.5センチはある赤色の筋肉の繊維を掴み、千切った。

 ブチッ!

 焼かれた肉などとは違い、生の肉というものはちぎれにくくて刃物がほしいものだが、あいにく私は刃物なんて気の利いたものなんか持ち合わせてはいない。力技で行くしかないだろう。

「…治療するのにこの場所じゃあ、集中できない。場所を変えましょう」

 永琳がそう言いながら、今は息絶えている妖精たちを見た。

「…わかったぜ」

 上向けになっている小悪魔を抱き上げていつ復活するかわからない妖精たちから一度身を隠そうとした。だが、小悪魔の背中には砕けて鋭くなった岩や折れて刺さりやすくなっていた木片がいくつも刺さっていて、一瞬だが運ぶのを躊躇してしまうほど背中の傷は酷かった。

「…何してるの?早くしないと手遅れになるわ」

 永琳が手を貸してくれたおかげで二人がかりで意識がなく、ぐったりとしている小悪魔を運ぶことができた。

 一度、崩れて外とつながっている外壁から外に出て、茂みの中に小悪魔を寝かせた。

 永琳はすぐに右腕の傷口よりも上を手でできるだけ強く押さえ、小悪魔の出血をできるだけ抑えさせる。

 私は小悪魔が生きているのかを首の頸動脈に指をあてて脈拍を確認した。

 初めは拍動を感じることができず、肝を冷やしたが微弱だが心臓の拍動を感じることができた。次に呼吸をしてるか確認するために胸が上下に動くか確認すると、一応はきちんと動いていることが分かった。

 しかし、油断は許されない。永遠亭で見たウサギとまではいわないが、肩やわき腹、足、腹を木片が背中側から貫通しているのだ。

 永琳が右腕の二の腕をタオルできつく縛ると、いくつかの薬を取り出しながら初めに肩の怪我から治療をすることに決めたらしい。

「魔理沙、まず服を脱がしてちょうだい」

 永琳が薬と薬を調合しながら私に言った。

「わ…わかったぜ」

 何かをすることはないかとオロオロしている大妖精に周りを警戒してくれと頼み、私は小悪魔の煤で黒く染まり、炎の熱で一部融解している黒色と白色が混じるブラウスのボタンに手をかけ、ボタンを外した。

 三つ目のボタンを外したところで不意に小悪魔に手を掴まれた。

「…へ…?」

 気絶していて意識がないと思っていて驚いたが、永琳が投与した薬でも効いたのだろうとすぐにわかった。でも、もっと驚いたのは私の手を掴んでいた左手を移動させて私の首の位置にまで持ってきて、声帯が潰れるのではないかと思うほどの握力で握りつぶしてこようとする。

 おそらく、私の赤い瞳を見て勘違いをしているのだろう。

「こ……小悪魔…!!…」

 喉笛が潰されそうになった私は小悪魔の服から手を放し、私の首を絞める小悪魔の手に触れた。

「…小…悪魔……!……私…だ…っ…!」

 私が呟くと、ようやく私がおかしくなっていない者だと気が付くとゆっくりと手から力を抜き、手を放してくれた。

「げほっ…!」

 私はせきこむが、今ので力尽きて糸の切れた人形のようにぐったりとしている小悪魔の治療に戻ることにした。

「……まずいわね……小悪魔の傷が深すぎる…!」

 永遠亭で私たちが見たウサギの治療すらできた永琳の薬でも治らない怪我というと、相当重症な怪我だということだろう。

「…おい……何とかならないのか!?」

 私が永琳に掴みかかるが、永琳は歯噛みして悔しそうに死人のように真っ青な顔色の小悪魔を見下ろして呟く。

「……こればっかりはどうしようもない……再生能力を促進させても…もう小悪魔の体がもたないのよ……もう少し早ければ…わからなかったけど……もう…」

 永琳が悔しそうに薬が入ってる瓶をギュッと握りしめて呟いた。

「…嘘だろ……」

 私は体から力が抜けるのを感じた。知り合い一人助けることができなかった。こんな私に異変を解決して霊夢を助けることなんてできやしない。自分の無力さに腹が立つ。

「……残念だけど……私たちにできることと言ったら…小悪魔をこれ以上苦しませないことぐらいしかない…」

 永琳の言葉が意味すること、説明しなくてもわかる。大妖精がそんなと呟き声を漏らした。

「…う……ぐっ…」

 永琳が飲ませた薬が多少効いて体が少し治ったのか、小悪魔がうめき声を上げた。

 助けるための薬が小悪魔の命を繋ぎ、それが逆に最終的には死んでしまう小悪魔を最後まで苦しめてしまうものとなるとは、皮肉なものだ。

「…魔理沙、大妖精を連れて行ってあげて……あなたはこれを見なくてもいい」

 永琳が薬と薬を調合しながら呟く。

「……いや…永琳が大妖精を連れていけ…」

 私は立ち上がり、小悪魔に震える手を向けて唇を動かして呟いた。

「……私がやる」

 魔力を手先に集めようとしたとき、私は自分の手が目に入った。

 私は何をしているんだ。助ける方法なら……あるじゃあないか。

 この血の能力が他人にも効くかはわからないが、このまま何もせずに小悪魔を見殺しにするなら試す価値はあるはずだ。

 しかし、自分の指をかみ切るという自傷行為は下手をすれば他人に攻撃されるよりも痛いものだろう。だが、私に選択の余地はない。

 さっきも言ったが、私は刃物なんて気の利いた物なんて持っていない。だから自分の小悪魔にかざしていた右手の親指を口元に運んだ。あの”彼女”がしていたように私は右手の親指に噛みついた。

「…ま…魔理沙っ!?」

 事情を知らない永琳と大妖精が驚きやめろと私の行為をやめさせようとした。

「~~~~っ!!」

 きちんと噛み切れなかった私はさらに力を入れて指をかんだ。

 ガリッ!!

 咬筋にどれだけ力を込めていいかわからず、思いっきり噛むと歯が皮膚とその下にある皮下組織も引き裂いた。

「…っ……!!」

 手が痛くて、痺れて激痛に涙が出そうになるが、口元から指を出すとちょうど皮膚の下から血が滲んできているのが見えた。

「魔理沙!?あなたいったい何をしているの!?そんな意味のないことをして何になるっていうの!?」

 私の自傷行為が自分を責めて自暴自棄になっているように見えているのだろう。永琳が私の肩を掴むが、私はそれを振り払った。

「…小悪魔を…助けるためだ」

 上向けで寝ている小悪魔の口に親指をねじ込んだ。

「…………っ…!!」

 小悪魔がさっきとは違い、弱々しすぎる抵抗を私に見せる。本当に死んでしまいそうだというのが何となく伝わってくる。早くしなければならないだろう。

「止めなさい魔理沙!…小悪魔を殺す気…!?」

 永琳が私の腕を掴んでくるが、私は唾液と吐血でヌルッと湿っている小悪魔の舌に血を塗り付ける。

「……二人とも、今回だけは……私を信じてくれ…」

 私がそう呟くと永琳は何かを言いたげだったが、自分には手に負えないというのを理解しているため引き下がり、さっきの会話を聞いていたのだろう。わずかな望みをかけて小悪魔が弱々しくうなづくと私の血液を嚥下した。

「…っ……」

 液状のものを少量飲み込むのすらつらいのか、小悪魔は眉間にしわを寄せやっとのことで飲み込んだ。

「…魔理沙……あなたが意味のないことをするとは思えない……だから説明してほしいの、いったい何をしたの?」

 永琳がそう呟く。

「…小悪魔を見てりゃあわかるぜ」

 私が言いながら小悪魔を見下ろすと、既に変化が見え始めていた。

「…え…?」

 永琳も大妖精も驚きのあまり呟く。

 それもそうだろう。小悪魔が見たこともないような速度で腕の再生が始まったのだ。

 小悪魔を仰向けに寝かせて、肩に深々と突き刺さっている木片を力任せに引き抜くと、すぐに再生が始まり、体内に残された木片が体外に押し出されて完全に肩の傷は完治する。

「……全部引き抜くぞ」

 私は言いながら腰に刺さっている岩の破片を引き抜いた。

 全ての木片などを取り除いたころになると小悪魔の潰された右腕は完璧に再生しており、永琳はその光景に絶句している。

「魔理沙……あなたいったい何をしたの……?」

 永琳が何が起こったかわからないらしく、説明を求めた。

「…話すと長くなるぜ」

 私がそう伝えると、永琳は何か言いたげだったが後で聞くということだろう。今はすんなりと引き下がる。

「……小悪魔…大丈夫か?」

 地面に倒れた小悪魔に聞くとうっすらと目を開けて囁くようにして小悪魔が言った。

「…大丈夫……です……」

 顔色がよくなり、呼吸や脈拍も安定してきた小悪魔を見て私たちは安堵の息を漏らした。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十話 香霖堂

わりと好き勝手にやってます。
それでも良いという方は第二十話をお楽しみください。


顔色がよくなってきた小悪魔が呟く。

「…それより、私に……いったい何を……?」

 小悪魔は潰れたはずの右手や背中から木片が貫通していた体を見つめている。

「…何というか……話せば長くなるぜ……まあ、無事でよかった」

 私が言うともう怪我は完治しているため、小悪魔が体を起こした。普通なら止めるところだが軽快な動きにそれは必要ないということが分かった。

「……すみません。お手数おかけしました」

「…気にすることはないぜ」

 見た目はいつも通りの小悪魔だが、傷は完治しても体にダメージは残っているのか、やせ我慢をしているということが見て取れた。

「……それで、異変についてどれだけのことがわかりましたか?」

 私が治療をするために外したボタンを自分で付け直しながら小悪魔が私たちに言ってきた。

「…まだ、何もわかってないな……しいて言うならば…怪しいのは地霊殿、と言ったところだぜ」

 私は言いながら立ち上がり、まだ体を起こした段階の小悪魔に手を貸して立ち上がらせた。

「……レミリアたちはどうしたんだ?」

 私がおそるおそる聞くと小悪魔の表情に憤怒がわずかに含まれる。

「……敵に……さらわれました…」

 レミリアたちの姿が見えなかったことで何となく予想はしていたが、一方的にやられたとは思えない。相手はレミリアたちを生け捕りにするために手加減をしなければならないため、そう簡単にレミリアや咲夜、パチュリーがやられていたとは思えない。だが、それも相手次第だろう。

「……そうか…誰にやられたかわかるか?」

 私が聞くと小悪魔がうなづいた。

「……一人は伊吹萃香…もう一人は星熊勇儀…あの二人に私たちは全員やられました」

「……あの二人が敵に回っているのかぁ…」

 この幻想郷でこの二人の鬼を知らない者はいないだろう。鬼は幻想郷の中では最強クラスの妖怪であり、伊吹萃香と星熊勇儀はトップクラスで強い妖怪であり、私ではかなうかわからない相手でもある。

「…鬼も敵になっているんですか…!?」

 大妖精が現在私たちがどれだけ不利な状況なのかを悟ったのか、青ざめながら呟いた。

「……そのようなだ…」

 その時になって私はとあることに気が付いた。大勢の人間ではなく、空を飛ぶことができる妖怪か妖精が移動する気配がしたのだ。

「…伏せろ…!」

 私が小悪魔の頭を掴み無理やり地面に伏せさせた。永琳も何かを感じ取っていたのか、私と同様にすぐに反応して大妖精を地面に伏せさせた。

 急いだため、地面に小悪魔の顔を押し付けてしまい、顔に土をつけた小悪魔が顔を上げて私をぎろりと睨みつける。

「…何するんですか…!!」

「…しっ……」

 私が紅魔館の方向に視線を向けると、メイド服を着た妖精たちが数十人単位で飛び立っていくのが見えた。

「…なんだあれ……多いな…」

 さっきまでどこにもいなかったはずの妖精がいきなり現れたのだ。私が驚きながら呟くと小悪魔が驚きで目を見開いている。

「…あれは、おかしくなってしまった妖精たち…?…地下に閉じ込めていたのにどうして外に……!?」

「…中から壊されたとしか言えねぇだろ……ここは相手にしない方がいいな…」

 木陰に隠れていた私たちを発見することができなった妖精たちは、私たちがいる方には目もくれずにどこかへと飛んで行った。

 妖精たちが見えなくなってからしばらくして、私たちはようやく立ち上がることができた。

「…とりあえず、見つからなくてよかったぜ…あの数を相手にするのはいくら何でもきついものがあるからな」

 私が小悪魔の頭から手を放して立ち上がると、小悪魔は土だらけになった顔で立ち上がり、払い落としながら私のことを軽くど突いてくる。

「…これからどうします?……地霊殿に向かいますか?」

 大妖精がさっき飛んで行った妖精が周りにいないかを確認して立ち上がり、スカートについた土をはたきおとした。

「…いや、地霊殿はもうちょい後だ…今は少し休息と小悪魔の服が必要だ」

 私が言って初めて気が付いたのか、小悪魔が物が刺さって穴が開いていたり、熱で溶けたり煤で汚れている服装を見下ろした。

「……確かに……そうですね……」

 右腕に至っては二の腕のあたりだけではなく、肩ぐらいまで血で染まっていて、服はそこから先はない。

「……司書の服がありそうな場所……じゃあ、香霖堂にでも行ってみようぜ」

 私が言うと小悪魔がちらりとこちらを見た。

「……霖之助さん……ですよね?…その、彼は大丈夫なんですか?」

「……さあな、でもあいつはいつも店にこもってるんだぜ?大丈夫だよ」

 私は心配で仕方がないが、そう茶化してごまかした。

「…そうだといいわね」

 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、永琳はそう呟き森の中を低空飛行で飛んで香霖堂に向かっていく。

「……。ああ」

 私は呟きながら箒にまたがり、永琳や飛んでいく小悪魔に続いて空を飛んだ。

 さっき飛んでいった妖精たちがどこに潜んでいるかわからないため、できるだけ周りを警戒しながら飛んでいたが、とあることを小悪魔に聞くことにした。

「…なあ、小悪魔」

 私が聞くと、前方正面を飛んでいた小悪魔が減速して私の隣にやってくる。

「…なんですか?」

「…早苗はどうしたんだ?…もしかしてやられたのか?」

 私が聞くと、小悪魔が自分がやられる前のことを思い出しながら言う。

「…早苗さんは、あなたが出て行ったあと…しばらくしてから出て行ったので、鬼の襲撃には巻き込まれていないはずですよ。…それ以降は知りませんが何もなければ無事だと思いますよ?……どうしたんですか?」

 小悪魔が私に逆に質問を返してくる。

「…あいつの姿が見られなかったし、無事なのかと思ってね」

「…たぶん早苗さんなら大丈夫でしょう……異変を解決するために動いているなら、そのうち会うこともあると思いますよ」

「…まあ、そうだな」

 私が言ったころ、森を抜けて大きく視界が開けた。そこから香霖堂の方向に方向転換してすぐに進みだした。

 さっきまで昼だと思っていたのに、すでに太陽が傾いていっている。空を見上げると夕焼けで空がオレンジ色となっているのだ。

「もうすぐで動きづらくなる時間帯がやってくるな…」

 空を見上げながら私は呟く。

「じゃあ、香霖堂に行ってた後に…夜になっても関係がない場所に行きませんか?」

 大妖精が後ろからそう言ってきた。

「…そうね。それもいいかもしれないわね」

 永琳ももうすぐよるとなり、暗くなり始める一歩手前の空を見上げる。

 そうやってしばらく森や林を抜けながら進み、香霖堂の庭に出ることができた。

「…見た感じ、問題はなさそうですね」

 香霖堂の庭に初めに降りた小悪魔が呟いた。

 庭は荒れておらず、香霖堂の壁や庭には血痕などの争った跡は全く見られない。

「…見た感じはな」

 香霖堂のアーチ状の木でできたドアを見ると、オープンと書かれた木の板がつりさげられている。

 異変が起こったのは聞くところによると昼、発生した光を見ておかしくなりそのままどこかに行ってしまったとも、光は見なかったためそのまま生活しているともとれる。

 ドアに近づきドアノブを捻ってドアを押すと簡単にドアが開き、ドアが開いた際に鈴が鳴るように設置されている鈴がチリンチリンと小さな金属音が香霖堂の狭い店の中に響き渡る。

「…香霖…いるか?」

 店の中に入ると、前回来た時と同じ並び順の商品が並んだ棚が始めに見え、いつも香霖が座っているデスクが見えた。

 ブオーン……

 と中古を通り越して、古くて小汚くなってしまっている扇風機が、開きっぱなしになっている台所に続く扉の方向に向かって風を送り出している。それにより店と台所を仕切っているカーテンが風に吹かれて揺れている。

「…香霖…?」

 香霖も駄目だったのではないかという不安に私の心拍数がどんどん上がっていき、ずっとバクバクなりっぱなしだ。

「…」

 バラバラに分解されたままの時計がデスクの上に転がっているのを眺めた時、店の奥から誰かが歩いてくるのが見えた。

「やあ、いつ来るのかと待ってたよ」

 いつもの物静かな香霖の声が聞こえ、私は安堵の息を漏らす。

「…異変が始まってから約二日…ここまで異変が長続きしたことはない。ただ単にてこずってるだけか……霊夢は何か大怪我でもしたのかい?」

 香霖が言いながら机の上に転がっている時計の部品を個別に袋に入れながら片づける。

「…いや、光を見て奴らの仲間入りだぜ」

 私が言うと、予想の斜め上の回答だったのか、いつも眠そうな香霖の瞼が少し見開かれた。

「…それと、君はその髪の毛と目はどうしたんだい?一瞬誰かわからなかったよ」

 香霖が言いながらデスクに座った。

「……私にもいろいろとあるんだぜ」

 適当に答えると香霖は私にも何かがあったということを察した香霖は、うなづくだけで質問を終える。

「…そうか、まあ……僕にできることなんてバックアップぐらいだ。何しに来たんだい?……君が僕に何か頼みごとをするごとに付けている分の支払いをしに来たわけではないだろう?」

「……耳が痛いな…まあ、その通りなわけだが…小悪魔が来ているような服はこの店に置いてないか?」

 私が聞くと一部がビリビリに破れていたりする小悪魔の服をちらりと眺め、視線を私に戻した。

「……たしか、倉庫の奥のタンスにそんな服がしまってあった気がするよ」

 香霖がそう言いながら立ち上がる。

「…香霖よ、それを譲ってくれ……お代はもちろんつけておいてくれ」

 私がそう言うと香霖はあきれたような表情をして、私に呟く。

「…君はその付けを支払ったことはないだろう?……まあ、待っててくれ」

 そう言いながら立ち上がり、店の奥に歩いて行くが曲がり角を曲がろうとしたとき、こちらを振り返って私たちに言った。

「…それと、台所には入らない方がいい」

「…?どうしたんだ?」

「さっき、魚をさばいていたんだが、血を洗うのに水をためたボウルをこぼしてしまってね。酷い匂いが台所を充満してるから今は入らない方がいい」

「…わかったぜ」

 私が言うと香霖は店の奥に歩いて行く。

 私たちはしばらくじっと待っていたが、すぐに商品などを眺め始める。

 しばらくいつもと代わり映えしない商品を眺めて時間を潰していたが、すぐに飽きてしまう。

「……遅いわね」

 永琳が壁に掛けられているアナログの時計を見ながら呟いた。約十分が経過している。

「…前にあいつの倉庫の中を覗いてみたんだが、かなりの物(非売品)が置いてあったからな……探すのに手間取ってるんだろ」

 香霖が倉庫の中を歩き回り、物を探す様子を頭の中で思い描きながら私は言った。

「…それならいいんだけど」

 永琳が言いながら時計を眺めて呟く。

「すみません……喉が渇いてしまって…水を飲みたいんですが……いいでしょうか?」

 大妖精がそう私に言ってくる。

「…いいぜ?でも酷い匂いだって言ってたけど大丈夫か?」

「はい、我慢するので大丈夫です!」

 大妖精がそう言いながら台所に入っていく。

「…しかし、本当に遅いな」

 私はそう呟きながら永琳と同様に時計を眺めた。

 




たぶん、明日も投稿すると思います。

最近、サブタイトルをつけるのが大変になってきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十一話 本性

もう一つとか言っていて前作とは関係がありません。

割と好き勝手やっています。今回だけオリジナルキャラクターが出ます。

それでも良いという方は第二十一話をお楽しみください。


 私は席に座りながら、さっき私が一時的にいた世界を眺める。

「…君が他人に興味を持つなんて、珍しいこともあるんだね」

 相変わらずくそムカつく言い方でそいつらからは”彼”と呼ばれるこの優男は私に言った。

「やかましい、呼び出されるだけ呼び出されて用が済んだら帰ってもいいなんて、虫が良すぎるだろうが……まあ、下にいるあいつが何をするのか…気になってな」

 アトラスが出してくれた椅子と机でチェスをやりながら、下の状況を見る。

「…やっぱり?僕もあの子がどうなるのか、気になってね」

「…おまえと一緒にするなよ…高みの見物してるっていうところは同じだけどな…」

 座ってチェスをやっていると奥の方に手が届かないため、私は仕方なく椅子から立ち上がりながら言った。

「酷いね。僕だってしたくて高みの見物してるんじゃないんだよ?」

「…よく言うよ」

 そこから少しの間、無言が続く。

「………。君は魔理沙が吞み込まれると思う?」

「あの子、魔理沙っていうのか…いい名じゃないか」

「…そうだね」

 アトラスは私の返事を待っているのか、くそ気持ち悪い仮面を外してこちらをふふっと少し笑いながら見た。

「……さあな、何とも言えない」

「…それが心配でこの場所に来たんじゃないのかい?」

 考えを読まれた、ムカつく。

「…かもな」

 私はそれだけ言うと、キングの前にナイトを置いた。

「……チェックメイトだな」

「いつのまに……」

 唖然としている神を見て私は思う。神と言ってもチェスは弱い。

 

 カーテンを手でどかしながら私は台所の中に入った。

「……すぅ…」

 匂いを嗅いでみても霖之助さんが言っていたような魚の生臭さは感じられない。

 台所の中にもう一台の扇風機が置かれており、それが開けられた窓から外に向けて台所内の空気を送り出しているからだろう。

 台所は横に長くて一番奥には扉はないが、そのぐらいの大きさの枠の奥に物置部屋に続いていて暗い。なにか低い温度で保存しないといけない者でもあるのだろう。

 棚から透明のガラス製のコップを取り、扇風機の奥にある水道の蛇口の下にコップを持ってきた。水道のハンドルを捻ると水が蛇口から流れ出す。

 コップに七割ほどの水を汲み、ハンドルを反対に回して流れ出す水を止めてコップを口元に運んだ。

 コップに分けた水を半分ほど飲んだ。

「…ぷはっ」

 しばらく飲み食いできなかったため、水を飲むという行為が久しく感じた。

「……」

 窓から見える森の景色を楽しんでいたが、あまり遅いと霖之助さんも戻ってきてしまうだろうし、私は残りの水を飲み干してコップを洗おうとしたが、不意に何かの匂いを感じた。

「……?」

 何か、嗅いだことのある臭いだ。

 くんくんと匂いを嗅いでみるも、そのにおいの元が特定することができない。でも、この部屋に匂いの元はないということが分かった。

「…」

 魔理沙さんたちがいる場所とは反対方向の物置部屋、あそこからだろうか。

 私はそちらの方向に向かって歩を進めると段々と匂いは強くなるが元々が微々たるものであまり感じない。

 魔理沙さんたちに一声かけた方がいいのだろうが、自分の勘違いのせいで騒ぎを起こさせて霖之助さんに疑いをかけさせてしまわないように十分な情報を集めるべきだろう。

「……」

 奥の物置部屋に入ると、洞窟にでも入ったのではないかと思うほどに真っ暗で、目を凝らしてみても見える物はなく、今来たところ付近に置いてある大きな瓶しか見えない。

 しかし、しゃがんでみてもそこからは私がさっき嗅いだ臭いを感じ取ることができない。木の板で蓋がしてあり、開けて中身を見ると中身は梅干しが漬けてある。

 その隣の大きな瓶を見るために立ち上がり、瓶の蓋を開けようとしたが上に大きくて重量のある石が乗っていて開くことができない。

 蓋の上に乗っている漬物石にしては大きい石に私は触れて瞬間移動を使って自分の足元の地面に移動させると、十分の一程度地面に埋まった状態の石が現れる。が、私はそれには全く目を向けずに瓶の蓋を開けようと蓋に触れた。

 霖之助さんに許可もなく勝手に見ているという背徳感はあったが、においの元を知りたいという好奇心に勝つことができずに私はふたを開けた。

「……っ…」

 強烈な鉄が含まれる血の匂いを思いっきり吸い込んでしまい、私は呼吸が止まりそうになる。

 これがもし匂いの元であるならば、魚をさばいていた時に洗うために使っていた水をこぼしたでは言い訳にもならないだろう。

 光の加減でうっすらと、瓶の中に詰め込まれている物がどんなものなのかその輪郭が見えた。

 それは人間の頭だったり、腕だったり、胴体だったり、目だったり、臓器だったり、脳だったり。

 悲鳴を上げたかった。でも口を開けば今しがた飲んだ水を吐き出してしまう。瓶の中身から目を背けて、私は口を手で押さえて胃の中身を吐き出さないように我慢した。

 以前ならば口を押える間もなく吐いていたかもしれない。魔理沙さんと行動をしてさまざまなものを見てきたおかげでもあるのだろう。

 しばらくして、何とか吐き出さずに耐えきった私は中身を見ないように瓶の蓋を閉める。

 証拠はこれで十分だ。霖之助さんは黒だ。

 私はそう思って魔理沙さんたちを呼ぼうとしたとき、後ろから肩を掴まれた。

「ヒッ………!?」

 私は大きく肩をビクリと震わせる。

「…まったく、せっかくうまくいっていたっていうのに…まさか、君にばれてしまうとはね」

 この物置は霖之助さんが探しにいてくると言っていた倉庫ともつながっているのか、もしくはここが倉庫なのかはわからないが、そんなことは些細な問題でしかない。

 瞬間移動で逃げようとしても掴まれているため、瞬間移動をしても意味がない。助けを呼ぼうにも、声の出し方を忘れてしまったと思うほどに声が出ない。

「…僕のために死んでくれよ、大妖精」

 私が自分よりも背の高い霖之助さんを見上げた時、霖之助さんの目が赤いオーラで淡く光っているのが見えた。

「…っ………!」

 私が目を見開いて何でもいいから大声を出そうとしたとき、霖之助さんは慣れた手つきで左手を私の口元に、右手で持っていたナイフで私の声帯を切り裂く。

「~~~~~~っ!!!」

 悲鳴を上げることができず、手を放されて突き放された私は、倒れて喉を押さえてのたうち回る。

 いつものように話そうとしてもナイフで切り裂かれた喉から空気が漏れて声が出せない。

 しかも、動脈などの大きな血管を避けて切ったため、出血は少なくて霖之助さんに血などはかかっていない。

「さてと」

 霖之助さんが喉を押さえて血まみれになっている私の両手を背中側に回させて交差させ、交差した手首の部分に新品の剣を突き刺した。刀は私の両手と体を容易く貫くと地面に縫い付けた。

「~~~~~っ!!」

「…少しの間、そこで大人しくしていてくれ」

 霖之助さんがそう私にささやき、物置部屋の奥に歩いて行った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十二話 本性その②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

わりといろいろと好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第二十二話をお楽しみください。


 更に五分ほどして、ようやく香霖がいくつか服を抱えて店にやってくる。

「…てこずったけど、見つけてきたよ……これでいいかな?」

 香霖が小悪魔が着ている司書の服とだいたい同じものを持ってきて、デスクにいくつか置いた。

「…サイズがわからないから、あった司書の服を全部持って来てみたよ…着替えるなら、奥の部屋を使ってもらっていい。案内するから来てくれ」

 香霖が小悪魔を店の奥に案内するために歩いてゆく。

「…じゃあ、お願いします」

 小悪魔が香霖の後について行って、廊下のかどを曲がると見えなくなった。

「…さてと、待ってる間どうするよ」

 頑丈な商品に腰かけながら私が言うと永琳が近くに置いてある椅子に座り、言った。

「そうね……着替えには時間がかかるだろうし……昼寝でもしてたら?」

 永琳がそう提案してくる。

「…確かに寝れるときに寝ておいた方がいいかもしれないが、一ついいか?」

 少しして、私は時間を確認しながら永琳にとあることを聞いてみることにした。

「…?…どうしたの?」

「…大妖精。水を飲みに行ってから戻ってくるのが遅すぎないか?」

「「……」」

 私がそう呟くと、今までくつろいでいて気が向けていた私たちに緊張が走る。

 すぐさま立ち上がり、私は魔力を手先に集中させて大妖精が歩いて行った台所に向き直り、永琳が弓に魔力で作り出した矢をつがえて香霖と小悪魔が歩いて行った方向を見た。

 お互いにじりっと下がると永琳の背中が私の背中に当たった。

 いくら弱い香霖が相手でも、この狭い店の中では永琳の弓矢は私以上に不利になる。

「…永琳、大妖精の方を任せられるか?」

 私が聞くと、永琳がうなづいて肩越しに私をちらりと見た。

「…わかったわ。じゃああなたに霖之助は任せたわ」

 自分と永琳の位置を入れ替え、店の奥に進んだ。スライド式の開けられたドアをくぐって小悪魔と香霖が歩いて行った廊下に出た。

 廊下は奥に五メートルほど進むと90度曲がっていて、そこから奥はこちらからは見えない。

 窓は全て木の板で塞がれており、現在は裸電球の光だけが廊下を照らしていて、それだけが頼りだ。

 廊下にはたくさんの物が置いてあり、死角が多い。

 おいてあるものなどに注意して五メートルほど進んだ時に、廊下が続いている方向の壁に背中をつけて顔だけ左側に曲がっている廊下を確認するためにだした。廊下を眺めると、ぱっと見は誰も待ち構えていないのが分かった。

 確認が終了してから廊下の曲がり角からでて奥に十メートルほど続く廊下に自分の身をさらした。

 いつでも迎撃できる体勢で用心深く一歩前に進んだ時、建てつけの悪い床の板がわずかに歪んでギィッと音を立てる。

 静かな状況では隠れている側も探している側も音というのは視覚から得られる情報よりも、もっとも重要な情報と言えるだろう。

 音の情報はかなり重要で、霊夢やそこらのレベルになれば、発信源から場所、個数で人数、声色から質量と質感がとっさにわかるらしい。

 今ので私の位置と人数はバレたと思っていいだろう。だが、きちんと固定されている物の上で鳴らした音でないため、質量と質感はバレてはいないはずであるため、誰が来ているのかはわからないだろう。

 一つ一つのおいてある物の死角を潰して十メートルはある廊下の半分を進んだころ、電気を消されたらだいぶやばいなと思ったとき、廊下にあるすべての電球がパチッと消された。

「…っ……くそが………さとりでもきてんのかよ……」

 私は呟きながら耳に意識を集中させる。

「……」

 人間の息遣いや歩く音はまったく聞こえてこない。

「……」

 目が暗闇になれるまで待つ時間はない。

 球状の弾幕を手のひらに作り出すと小さな豆電球ぐらいには光を放ち始める。しかし、光を放っても焼け石に水で全く意味をなしていない。一メートルでも照らしていればいい方である。

 だが、その弾幕にも使い道はある。飛ばして廊下を照らせばよいのだ。弾幕は形を作り出してしまうと撃たなければ否応なしに消えてしまうため、私は超低速で弾幕を飛ばした。

 蛍が飛ぶようなノロノロのスピードで飛んでいく弾幕が廊下の途中でいつから立っていたと言いたくなるほど、歩いてくる気配がしなかった香霖が立っていた。

「……っ…!!」

 お化け屋敷だったら驚いて悲鳴を上げていた自信がある。

「…魔理沙、こんなところでどうしたんだい?こんな暗いところにいたら歩くときに危険だよ」

 香霖がこちらに向かって歩み寄ろ追うとしたとき、私は手のひらを向けて香霖を威嚇する。

「…そばに寄るんじゃあねえ」

 私が始めに放った弾幕が壁に当たって込めた魔力分のエネルギーを使い果たすと、供給される電気というエネルギーが無くなった懐中電灯のように光が収まっていき、また暗闇があたりを支配するが、私が香霖に向けている手に魔力を込めて迎撃態勢をとると手の平が光を帯び始め、私と私に近づいていた香霖を照らすことができるぐらいには光った。

「…冗談はやめてくれ、僕が敵だと思ってるのかい?」

 香霖がそう言ってくる。

「…ああ、電球の光を消したのはお前だろう?」

「…なんで電球が消えているのかは僕にもわからないんだ……敵が来たと考えるのが普通だろう?」

 香霖が誤解だと訴えてくるが、私は聞く耳を持たない。

「…電気をつけるスイッチはこの廊下の奥にある部屋に出たところにもあるだろう?なぜ電球をつけない……だから、もうくそ下手な芝居はいらないぜ…香霖」

 疑っているだけで根拠はどこにもない。廊下を歩いてくる途中で電気が切れた可能性だってある。だが、こうやってかまをかければ尻尾を出すのではないかと思ったが、大成功のようだ。

「…うまく騙せてると思ったんだけど……駄目みたいだね」

 さっきまで正常だった香霖の瞳が赤いオーラで光はじめ、オーラの光が香霖の頭の動きに合わせてユラユラと尾を引く。

「…いや、わからなかったぜ。…でも、たった今お前がへまをしてくれたおかげでわかった……誰かに会ったらまずはそいつを疑え、異変の基本だぜ」

 私が言うと香霖の目が細まり、私のことを睨みつけた。

 普段の温厚な光琳とは無縁の殺気。百獣の王と呼ばれるライオンですら服従のポーズをとってしまうだろう。

「…っ…」

 私は香霖があまり強くないことを知っている。でも、それを感じさせないほどの押しつぶされるのではないかと思うほどの殺気の重圧。手の震えを押さえるのがやっとだ。

 でも、やらなければやられる。レーザーを絞って威力を落とし、香霖を殺してしまわぬようにしてレーザーを放つ。

 香霖は飛んできたレーザを軽く横に動いて射線上からいなくなり、青白く輝くレーザーが空を切る。

「っち…!」

 私は舌打ちしながらもう一度レーザーを撃とうとするが、いつもは見せない俊敏な動きで暗闇に隠れられて、すぐに香霖の姿を見失ってしまった。

「…くそっ…!」

 私は小さく罵りながら暗闇に消えて行った香霖を追おうとするが、自分の役割である小悪魔の安否を確認するため、小悪魔がいるであろう。今私の居る廊下の奥の壁にある部屋のドアに手をかけた。

 一人で着替えることができる部屋など、香霖堂にはここしかない。

「小悪魔っ!!…大丈夫か!?」

 この部屋の電球の光は消されていないのか、ドアを開けると眩しい光で回りが見えなくなる。

 小悪魔の無事を願い、叫びながら部屋に飛び込んだ瞬間、私は困惑する。

 何者かの手で光を遮られたことにより、目の前いっぱいに肌色の拳が見えたのだ。この部屋に来るのだろうと香霖に先読みされたのだろうか。

 そう考える間もなく、拳が私の顔を直撃した。




今回はいつも以上に低クオリティですすみません。

たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十三話 負けられない戦い

注意

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

今回はシリアスではありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第二十三話をお楽しみください。


 部屋に入ったとたん、目の前いっぱいに見える肌色の拳。それと少し遅れて甲高い悲鳴。

 ガツン!!

 私の眉間に拳が正確に打ち込まれた。

「…ごばぁっ…!?」

 口から変な悲鳴が漏れて私は顔を押さえながらよろける。

「何……勝手に入ってきてるんですかぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 小悪魔が手に持っている司書の服を胸元に持ってきて胸を隠しながら左手で私を容赦なく殴打する。

「…ちょ……ちょっと…話を…聞いてくれよ…っ!!」

「黙ってください!!…もともとそっちのけがあるとは聞いていましたが、ここまで節操がないとは思いませんでしたよ!!見損ないましたよ!!」

 誤解だと言いたいところだが、小悪魔のパンチが痛すぎてそっちにまで頭が回らない。

 上半身が裸の小悪魔が顔を真っ赤にして殴ってくるが、普通の人間であれば微笑ましくかわいいなと思うかもしれないが、魔力が扱える者の場合はその姿に似合わないほどの威力の拳を叩きこまれることになる。

 何か棍棒で殴られてるんじゃないかと思うほどのパンチの威力に、魔力で体を強化した私でも頭がくらくらしてくる。

「ちょ……待って……くれ!……香霖……が……!!」

「なにを訳の分からないことを言ってるんですか!!…人に自分のしたことを擦り付けようとするなんて、最低……です…よ……?」

 私を殴っているうちに自分たちに向けられている悪意に気が付いたのか、とりあえず私に攻撃することはやめてくれた。

「…うぅ……」

 私が床に倒れていると小悪魔が冷ややかな言葉を投げかけてくる。

「…何のんきに寝ているんですか…早く起きてください」

「…誰のせいで倒れてると思ってんだよ」

 私は殴られた頬などを手で押さえながらヨロヨロと立ち上がった。

「…きちんと訳を話してくれればよかったのに……」

「その訳を話す時間すらくれなかっただろうが!!」

 私が小悪魔をじろりと睨みながら怒鳴ると、小悪魔は視線を明後日の方向に向ける。

 …こいつ。

「…まあいい。それより早く着替えてくれ…その、目のやり場に困る」

「…なんでですか?女の子同士なんですからいいじゃないですか」

 小悪魔がそう言いながら着替えを始めようとする。

「ちょ…ま…待てって!…お前には恥じらいというものはないのか…!」

 私が慌てて顔を背けると、それを見た小悪魔が私に言った。

「…あれあれ?もしかして魔理沙さんは女性を恋愛対象としてみてるから、そういうふうになるんじゃあないですか?」

 小悪魔が意地悪な表情を向けてくる。

「うるさい…!そ…そんなことはないから早く着替えろ…!」

 私が悪あがきで叫ぶが小悪魔はニヤニヤと笑って私をいじり倒そうとするが私が言ったことで、いちおう着替えは始めようとする。

「…はいはい」

 小悪魔が軽く私を煽りながら返事をして着替えを始めるが、私にとあることを聞いてきた。

「…それで、もう霊夢さんとはキスまでは言ったんですか?」

 目を向けていなくても小悪魔のニヤニヤと笑う顔が想像できる。

「キ…キス!?…そ…そんなこと……する…わけが………な…」

 神社での出来事を思い出してしまい。口ごもりながら私は答えてしまう。

「……。そう、したんですか……いやー。魔理沙さんはわかりやすいですねぇ……ってどうしたんですかぁ?顔が赤いですよ?」

 小悪魔がそう笑いながら真っ赤に染まる私の顔をプニプニと後ろから触れてくる。

「……っ…。…死にたい」

 顔から火が出るくらい恥ずかしい。

「……ってそれどころじゃないだろ!!…早く着替えてくれ、香霖が…正気じゃない連中と同じだったんだ」

 それを聞くと、小悪魔が驚いたような顔をした後、すぐに頭を切り替えてさっきまでのふざけた雰囲気を緊張させた。

「霖之助さんはどこに?」

「…さあ、わからん……さっき攻撃したんだが…逃がしちまった」

 私はドアの方向を警戒し、その後ろで小悪魔がゴソゴソと着替えを済ませる。

「…服のサイズは大丈夫か?」

 私が聞くと小悪魔が体を動かして、どこかがきつくないか体の動きを制限されることがないか確認し始める。

「…大丈夫みたいです。……ただ…」

 小悪魔が言葉を中断させる。どこかサイズが合わないところがあるのだろう。今交換しなければ、このまま香霖と交戦することになるため、着替える時間は今しかないだろう。

「どうした?…どこかサイズが合わないのか?」

 私が小悪魔の方を振り返ると、小悪魔が胸元に手を置いて呟いた。

「…少し胸元が苦しいですが…まあ、大丈夫です」

「……」

 小悪魔の言葉にイラっとくるがこのような状況ということで、許してやることにした。

「どうしました?…なんでそんなに私を睨みつけてくるんですか?」

 小悪魔は理由をわかっていないのか、それともわかっていてからかっているのかわからないがそう言ってくる。

「…っち」

 自然と舌打ちが口から洩れていて、会話の流れから小悪魔はなぜ私が舌打ちしたのかを察したらしく、慌てて言ってくる。

「いやいや、あっても邪魔なだけですよ?…肩とかこっちゃいますし、戦闘中だって動きが制限されることだってあるんですよ?」

 ギリィィ…

 歯噛みする私の歯が擦れて嫌な音を立てる。

 これまでに、ここまで他人を呪いたいと思ったことはないだろう。

「うるせぇ!…ユタンユタンなお前には小さい私に気持なんかわかりやしねぇんだ!!」

 小悪魔の胸を横から何の前触れもなく平手打ちをすると物凄く柔らかい胸が大きくゆがみながら跳ねる。

 それがさらに私の神経を逆なでする。

 更に止まることなく右から左から、小悪魔の胸に平手打ちを食らわせた。

「ちょっと!?そういうことは霊夢さんとしてくださいよ!!」

 小悪魔が連続してガードをすり抜けて胸に平手打ちをする私に向かって叫ぶ。

「こんなこと霊夢にできるわけがないだろ!!…嫌われたらどうすんだ!!……そうなったら責任とれんのかこのやろー!!」

 私も小悪魔も歯止めが利かなくなっているのか、こんな状況なのに言い争いを続ける。

「なんですか!?その程度で嫌われると思っているんですか!?…あなたは霊夢さんを信用していないようですね!」

「うるせー!!お前に何がわかるっていうんだこんちくしょー!!」

 私と小悪魔は恥ずかしさなどの精神的なもののせいで涙目でこの不毛な言い争いを続ける。

「わかるわけがないでしょう!?あなたの恋事情なんて知りませんよ!!」

 少し発達の良い胸を隠そうと小悪魔が胸を押さえるが隠しきれていない胸を見て、私の怒りが頂点に達する。

「てめぇ!!やがらせかこらぁぁぁぁぁっ!!」

 顔を赤くして涙目の小悪魔の両肩を掴んでがくがくと手加減なしで揺らすと、胸を平手打ちされてバランスを崩していたため、小悪魔はあっけなく後ろに倒れてしまう。

 小悪魔を掴んで揺らしていた私も引っ張られて必然的に小悪魔の上に倒れるわけで、

「きゃぁっ…!?」

 小悪魔が背中を床に打ち付けて倒れ、私は手を床に着こうと手を伸ばすが、とっさのことで無我夢中でどこかを掴む。

 まるでマシュマロのように柔らかく暖かい胸を私はわしづかみしてしまっていた。

「「……」」

「……誰かぁ!!助けてください!!同性愛者の変態に犯されるぅぅっ!!」

 小悪魔は割と本気で泣き目になりながら私からに逃げようとする。

「お前ぇ!!何勘違いしてんだぁ!!それに誤解されるようなこと言うなぁ!!」

 逃げようとする小悪魔の胸倉を掴みがくがくと小悪魔を揺らす。

「……あんたたち……なに乳繰り合ってんの?」

 永琳が呆れ、冷ややかな目線を私たちに向けて言ってくる。

「「誤解だから!!お願いだから言い訳をさせて!!」」

 




息抜きがてらに作りましたのでそう言った内容になってしまいました。

私にはわかる。こんな内容なのにこんなサブタイトルをつけるなと思われているのが私にはわかる。だが、後悔はしていない。

たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十四話 長年の経験

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第二十四話をお楽しみください。


 永琳が抱える血まみれの大妖精を見て、私たちは息をのんだ。

「…大妖精!」

 私と小悪魔は起き上がって大妖精の元に駆け寄った。

「…大妖精は大丈夫なのか?永琳?」

 大妖精を床にゆっくりと下した永琳に向けて私は問いかける。

「…あんたらが遊んでいるうちに治療は終わらせてあるわ」

 永琳が言いながら包帯がまかれた大妖精の状態を確認しながら言った。

「…よかった」

 聞き捨てならない言葉が聞こえてきたが、今はそんなことに構っていられないためスルーするが、大妖精が無事ではないがきちんと生きていて安心した。

「…治療で出血は治まってるわ。だから安静にしていれば大丈夫よ……でも、あちらがそうさせてくれるかは別の問題だけどね」

 永琳が言ったとき、私たちは気が付いた。

 ギィ……ギィ……。

 廊下の方向からこちらに向かってゆっくりと歩く音が私に耳に入ってくる。

「……」

 足音が、永琳が入って来た時に閉めたドアの前で止まると同時に、私がドアを貫通する貫通力のあるレーザーをぶっ放す。

 レーザーが触れたドアを焼却及び蒸発させ、ソフトボール台の穴を穿つ。

 だが、その先に香霖はいない。かわたしたわけではない、初めからそこにはいなかったのだ。

「…!?」

 私が驚き、初めから香霖はその場所にはいなかったと頭で処理する前に、私がいる場所の近くの正面の天井が破壊され、そこからいつ渡したかはわからないが、ミニ八卦炉をヒヒイロカネで修理してもらったときにいくつかの鉄くずと一緒に渡した、香霖が霧雨の剣となずけた剣を持った香霖が出現した。

「なっ…!?」

私が目で香霖が現れたことを確認し、香霖が何かをしようとしているのかを脳が処理して、自分が再度攻撃するよりも香霖の方が早いと分かり、脳から逃げろと指令が下されて体が動くよりも早くに香霖は私の頭をかち割るために霧雨の剣を振り下ろす。

「危ない!!」

 一番近くにいた小悪魔が私に肩を掴んで引っ張ってくれたおかげで、私は服と肩の皮膚を霧雨の剣で少し切り裂かれる程度で済んだ。

「…そいつは非売品で、店の品じゃあなかったのかよ…香霖…」

 私が皮肉を吐くが、香霖は無視したのか奴らと同じくなってしまったのかは知らないが、無言でこちらを向いた。

「……サンキュー、小悪魔」

 肩の傷がどれだけの深さの傷なのかを確認しながら、私は呟いた。

「いいえ」

 小悪魔が言いながら拳を握りしめる。

 ズズッ…と私の肩にある切り傷が塞がり、元に戻った。

「……」

 香霖が霧雨の剣を上段に構える。

 しかし、妖夢のように手馴れて様になっている構えとは違う。まだ手探りのぎこちない動作だ。

 私も手先に魔力を込め、いつでもレーザを放つことができる状態で構え、小悪魔もファイティングポーズを構えたまま、香霖が次にどのような動きをするかじっと待つ。

 そうして静寂が訪れたのはほんの一瞬だった。

 一秒にも満たない静寂の中で、香霖が先に動く。

 香霖の右上、私たちから見て左上から振り下ろされた霧雨の剣は小悪魔の頭を切断し、私の左肩から右わき腹を切り裂く軌道を切り進む。

 棒状の物を振れば唸るような音を発するが、剣は空気の抵抗などはほとんどないのだろう。全くの無音。

 光に反射する霧雨の剣が気が付くと目の前にあり、とっさにしゃがんだ。帽子に霧雨の剣の刃がかする感触が帽子越しでも伝わってくる。

 危なかった。身長が低くなかったら、胴体を切断されていたところだった。

「…魔理沙さんさがって」

 私とは違い、刃の射程圏外ギリギリに下がってかわしていた小悪魔が言いながら突き進み、香霖剣を振ったばかりで隙だらけのに詰め寄る。

 小悪魔は次に、私たちから見て右から左に薙ぎ払われえるように振られた霧雨の剣の剣ではなく、香霖の霧雨の剣が握られた右腕を手の甲で軽く弾き飛ばす。

 香霖が体勢を崩し、立て直す前に間髪入れずに右手で右側から香霖の腕を勢い良く掴み、左手で香霖が握る霧雨の剣を奪い取った。

 あっけなく武器を奪い取られた香霖が一度退こうとしたとき、香霖の足を小悪魔が蹴り飛ばすと、かなりの威力だったのか香霖が膝を床につく。

 膝を床についた香霖の胸倉を掴み、小悪魔は香霖に背負い投げを食らわせた。

 小悪魔が香霖に霧雨の剣を使わせないように適当に投げ捨て、背負い投げで倒れている香霖が起き上がる前に両手を背中側に回らせて動けないようにした。

「…驚いたな………お前こんなに強かったのか?」

 抵抗する香霖を私も押さえ付けながら私は小悪魔に言った。

「…相手が霖之助さんで助かりました……武術の心得がある人ならこうもうまくはいかなかったでしょう」

 小悪魔が香霖の顔の顎を強く殴ると、脳を揺らされた香霖の抵抗が脳震盪を起こしたことにより弱まった。

「…小悪魔、気絶させられるか?」

 私が聞くと小悪魔がうなづき、私と小悪魔で香霖の腕を押さえる役割を交換して、小悪魔が香霖の首元に手を持っていく。

 首を絞めるのかと思ってヒヤッとしたが、首を絞めるのには非効率な格好で香霖の首を小悪魔が触れる。

 動脈を押さえているのだ。脳に血がいかなければ、いくら半分妖怪とは言えこれには弱いはずだ。

 脳震盪を起こしたときよりも香霖の抵抗が段々と弱まっていく。

 しばらくすると、香霖の体から完全に力が抜けた。

「……失神させました。…これで大丈夫でしょう」

 小悪魔が手短にあった頑丈そうなロープで香霖の背中側に回させた両手をきつく縛った。

 そのまま香霖の重たい体を部屋の隅に寝かせ、私たちは永琳に抱えられている大妖精の元に集まった。

「…皆さん……すみません……」

 だいぶさっきよりも回復したのか、大妖精が呟く。

「…大丈夫だ…謝る事じゃないぜ……それより、無事でよかったよ」

 大妖精の頭に手をのせて、サラサラな緑色の髪の毛をワッシャワッシャと撫でながら私は言った。

「…そうですね……特に何もなくてよかったです」

 小悪魔も永琳もそう呟き、安心したように言う。

「……すまなかったな……こんな目に合わせちまって……」

「…魔理沙さん……?」

 そう呟いた私に大妖精が不思議そうな顔をする。

「……とにかく、今は休め……時期に休む時間も無くなる」

 私が言うと、大妖精はうなづいて目を閉じて眠りについた。

「…香霖は私が見張っておく、二人とも休んでていいぜ」

「…魔理沙さんはどうするんですか?」

 小悪魔が大妖精を抱えて、部屋を出て行く永琳を見送りながら私に言った。永琳はウサギたちの治療をした後に続いてこれだ。何気につかれているのだろう。

「……。見張りながら休むから大丈夫だよ」

 私が香霖をみはれる位置に陣取って座り込みながらこちらを心配そうに見てくる小悪魔に伝えた。

「……お言葉に甘えて、休ませてもらいます…けど……魔理沙さんはそれじゃあ休めないでしょう?」

「…私よりも、お前の方が休むべきだ…紅魔館で襲われたのを忘れたか?……それに大妖精にも言ったが、休め……休めるうちにな」

 私が言うと、小悪魔がわかりましたとうなづき、永琳の後を追って廊下を歩いて行く。

「……」

 二人分の足音が消えたと同時に私は詠唱を済ませ、物理的な結界と防音の結界の魔法を発動させた。

 私から淡い光が放たれ、私と香霖を囲うように二重の光の線が床をなぞる。

「umringen(囲め)」

 仕上げに魔法のスペルを唱えると結界が完璧に発動し、私と香霖を二つの結界が囲った。これで外にいる三人には物音ひとつ聞こえないはずだ。

「……甘いんだよ…香霖……寝込みを襲おうとしたのか、後ろから刺そうとしたのかは知らないが、あいつらに手出しはさせやしねぇぜ」

 何かがひっかがる。あっさりとしすぎているのだ。こういうときには大抵何かがある。そう思った私の霊夢と一緒に異変を解決してきた長年の感は当たっていたようだ。

 私が倒れている香霖を睨みつけながら立ち上がると、失神していたはずの香霖が赤いオーラが尾を引く瞳を見開いた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十五話 信用

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第二十五話をお楽しみください。


 破壊された天井から数年分の天井裏に積もっていた埃が舞い落ちてきて、床にゆっくろと落ちると周りに煙のように舞い上がって埃が広がっていく。

 私のレーザーによって焼かれた壁や床から水蒸気のような煙が上がっていて、かなり暴れたと分かるぐらい、タンスや置物が倒れている。

 そのうちの一つに霧雨の剣で切断された私の左足が転がっている。締め切られた障子には足と同じく切り飛ばされた私の右腕が突き破ってひっかがっていて、切断面からは巡っていた血の残りかすがチタチタと床に垂れている。

「……泣けるぜ…」

 私はそう呟くとせき込み、後ろに尻もちをついて壁にもたれる。さっき失神したふりをしていた香霖は前方で体のところどころから煙を上げて倒れている。

 口の中にたまった少量の血を嚥下すると、切断されてなくなった右足と左腕が再生を始めた。

 右側の視界が赤に染まっていてそちらから入ってくる情報が遮断され、どうなっているかわからない。だが、潰されているわけではない。右側の額を霧雨の剣で切り裂かれて流れ出てきた血が目に入っているのだ。

 ズグッ…!!

 肩から切断された右腕と膝から先の無い左足が急速に再生を始める。

 そうして足と腕が再生しているうちに左目で香霖を睨みつけた。

 ピクリと動いた香霖の腕を私はレーザーで撃ち抜く。

「ぐあっ…!?」

 香霖が撃ち抜かれた腕をかばいながら立ち上がって逃げようとしたとき、私は手短にあった重たい棍棒のような棒状のものを左手で持ち、それで香霖の頭をひっぱたいた。

 ガンッ!!

 人間だったら死んでしまうのではないだろうかと思う威力で殴ると、金属製だった棒状の物から重たい音がして、殴られた香霖は今度こそ気絶したらしく、受け身などを取らずに床に崩れ落ちた。

「…ようやくか……」

 真っ赤に染まる視界を右目を閉じて遮り、周りを見回しながら棍棒を捨てる。

 香霖と戦っているうちにいろいろなものを破壊して、中身の物が出てしまったのだろう。近くに転がっている棒付きの飴を拾い、周りを覆っているプラスチックのビニールを左手でうまく剥ぎ取り、中身の飴を取り出して口に放り込んだ。

 外の世界で作られた飴だということは、外装でわかったが思った以上に甘く。口の中が甘ったるくなる。

 少しして手がほとんど治りかけてきた時、物理的な結界の方に外からの刺激がある。

 小悪魔たちがようやく私が一人で何かをしていると結界でわかったらしく、結界を破ろうとドンドンと叩く音が聞こえる。

「……befreiung(解除)」

 私が結界の魔法を解除するスペルを唱えると、結界が解けて軽快に走る音が聞こえてくる。

「…どうしたんですか!?…魔理沙さん!!」

 部屋がボロボロになっているのが外から見てもわかったのだろう。小悪魔が心配そうな顔でドアを蹴り破る勢いで現れた。

「……大丈夫、…こっちの問題は解決したところだぜ」

 私が治りかけの右手で握りこぶしを作り、親指をぐっと立てながら言うと、小悪魔の表情に段々と怒りが含まれていく。

「…え?……なんだよ…?…どうしたっていうんだ?」

 小悪魔がなぜ起こっているのかが全く分からず、私は困惑する。

「…どうしたんだ?…じゃあないですよ!!」

 こちらに歩いてきた小悪魔に私はなぜか頬をひっぱたかれた。

「…何すんだよ」

 私は叩かれた頬を押さえながら、手にこびりついた血を舐めて足の再生を促進させる。

「……魔理沙さんは……なんで私たちを呼ばなかったんですか?」

 小悪魔が私の近くでしゃがみながら語り掛けてくる。

「………」

「…答えてください」

 無言を貫こうとした私に小悪魔が訳を話せと、回答を催促した。

「……香霖が起きて襲ってきてな……小悪魔たちの方向に行こうとしたからとっさに結界の魔法で閉じ込めたんだ」

 私は嘘をついた。

「…嘘をつかないでください」

 そっこうで小悪魔に見破られた。

「…とっさだったはずなのに……なんで防音の結界まで貼られているんですか?…そうやってかなり準備がいいということは、霖之助さんが失神してないことがわかってたんですね?」

 下手に嘘をつけばこうやって見破られる。どうしたものか。

「…」

 どう言い訳をするか考えていると、いつまでたっても答えない私に小悪魔が呟いた。

「…すみません…私のせいで…怪我をさせてしまって」

「…大丈夫だよ…それよりも…お前たちに怪我がなくてよかった」

 私はそう呟きながら、口の中で飴を転がした。

「……魔理沙さんは……私たちのことを…信用していないんですか…?」

 小悪魔が私に呟く。

「……いや、違う……別にそう言うわけじゃ……」

 私が呟くと、小悪魔が私の言葉を遮って言った。

「…違くないですよ……げんにこうやって一人で解決しようとしてるじゃあないですか」

 小悪魔は言いながら倒れている香霖に視線を向けて呟く。

「…そう感じていたなら……すまないな」

 私は曖昧な答えを返しながら舐めていた飴を噛み砕き、棒を口から取り出してゴミ箱に投げ捨てて言った。

「……はぁ……私たちもいるんですから…次がないことを願いますが、次は私たちだって頼ってください」

 小悪魔は何か私にも考えがあった。そう言うことにしてくれたのか今は許してくれたようだ。

「…善処するぜ」

「………それと、あまり自分のせいにしないでください」

 小悪魔の言葉に私はドキリとする。

「…」

「…大妖精さんが怪我を負ったのは何も魔理沙さん一人のせいじゃありません。私たちのせいでもあるんです」

 小悪魔はそう言いながら香霖に近づき、さっきよりも数倍厳重に香霖を縛り上げた。

「……ああ」

「だから、あまり一人で抱え込まないでください」

 小悪魔が言いながら香霖から視線を外して私を見る。

「……そう言ってくれるとありがたいぜ」

 私はそう言いながら自分の切断された足を拾い上げて、切断された足から靴下を取った。

「…それより、一人で霖之助さんと戦ったんですよね?…大丈夫なんですか?」

 小悪魔がそう聞いてくる。

「…ああ、大丈夫だぜ?」

「…切断された足を持っていうセリフじゃあないでしょうが!…腕と足を切り落とされたのに大丈夫なわけがないでしょう!?…霖之助さんの見張りは私がやりますから、魔理沙さんは休んでください!」

 小悪魔が早くこの部屋から出て行けと扉を指さして言った。

「…へいへい」

 私は下を見て、服に着いたほこりを払って部屋から歩いて出た。

「……」

 永琳たちがいる場所にゆっくりと歩いて向かいながら私は小悪魔との会話を思い出す。

「……」

 私は、自分はどうなってもいい。でも仲間が敵に襲われて傷つけられ、殺されるのを見るのは耐えられない。この先もしかしたら、私は小悪魔との約束は果たせないかもしれない。

 私はそう思いながら電気の供給がされずに、光らない電球が並ぶ真っ暗な廊下を歩いた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十六話 合流

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

自分の嫁が敵でも文句は無しです。

それでも良いという方は第二十六話をお楽しみください。


「…永琳、大妖精の様子は?」

 香霖堂の茶の間に勝手にお邪魔している永琳に、私は大妖精の容体を聞いた。

「…まあ、大丈夫よ……傷もほとんど塞がったし…2,30分ぐらいで目が覚めると思うわ」

 永琳が大妖精の怪我がどれだけ治っているか確認をしながら、私に言ってくれた。

「…わかった……大妖精が起きるまで私も少し寝る……大妖精が起きたら私も起こしてくれ」

 永琳がうなづくのを確認し、私は壁に背を預けて眠りにつくために目を閉じた。

 常に気を周りに張り巡らせ、何かがあればすぐに起きれるような状態の浅い睡眠で大妖精が起きるのを待つ。

「……」

 寝ようと思ったが、緊張で眠られるはずもなくただただ時間が経過していく。しばらく時間が経過したとき、寝ている大妖精が体をもぞもぞと動かして起き上がった。

「……んあ…?…」

 かなり深く眠っていたのか、半目で眠たそうに眼をこすった後にこちらを見る。

「……?……。…あっ!」

 頭が回っていなかった大妖精が私たちのことを待たせているということが分かったのか。慌てて頭を下げて謝罪する。

「…ま…待たせてしまってすみません!」

「こっちは大丈夫よ…魔理沙も寝てたみたいだからね」

 永琳が言いながら大妖精のお腹、手首、首の切り傷を順々に確認しながら大妖精に告げた。

「…そうですか……」

 大妖精が呟いてからしばらくして、怪我を見終わった永琳が大丈夫そうよと呟くと、大妖精はうなづいた。

「次は足を引っ張らないように頑張ります!」

 大妖精が気合を入れて意気込みを表す。

「…おう、頼りにしてるぜ」

 私が言ったとき、大妖精が起きた声を聞きつけたのか、小悪魔が茶の間に入ってくる。

「…あ、大妖精さん…大丈夫そうですね」

 大妖精の様子を見た小悪魔がよかったと安堵した。

「……なあ、そろそろ出るか?」

 私がそう切り出すとだれも異論はないようで全員がすぐに支度をはじめ、私たちは香霖堂を後にした。

 香霖堂に入るときは少しだけ空がオレンジがかって来ただけだと思っていたが、今は既にオレンジ色から夜の薄暗い色に変わってきていて、当たりも暗くなってきている。

「……すぐに暗くなるし、さっさと行こう。幸い……地霊殿に行くための洞窟はそう遠くない」

 私は箒にまたがりながら空を飛び、安定した速度になってきてから言った。

「…魔理沙」

 私の後ろから永琳の呼ぶ声がして、私は前に向かって飛びながら肩越しに後ろを振り返る。

「なんだ?永琳」

「……あなたは、いわば主戦力なんだからあまり無理はしないで頂戴……あなたを失えば著しい戦力不足で状況がひっくり返ることはなくなるわ」

 香霖を倒した時、一人で戦うという無理な状況で戦った。それについて永琳は言いたいのだろう。

「…ああ、わかってるよ……善処するぜ」

 私が言うと、永琳がすぐに後ろに下がった。

 しばらく地霊殿に続く洞窟に向かって飛ぶと、後ろから大妖精の声が聞こえてくる。

「…右から誰かが来ます!」

 視線を大妖精が言っていた右方向に向けると、彼女が言った通りに妖怪か人間かわからないが、二人分の人影がこちらに一直線に向かってくるのが見えた。

「……あれは…」

 私は目を凝らしてその人物を眺めると、誰なのかというのが段々とわかって来た。

 緑の髪に白色を基本とした巫女の服、それにお祓い棒を持った人物など早苗以外いないだろう。

 もう一人は黒い髪を主としているが、ところどころ白と赤色のメッシュが入っている髪の毛で、小さな角が二本頭から生えていて、ワンピースのような服を着た人物など、鬼人正邪以外ないだろう。

「…あれは、早苗さんと正邪さんですか…?」

 近づいて来る早苗を見て小悪魔は言った。

 早苗と正邪が一緒にいるのは珍しい。が、あいつも生き残りの一人なのだろう。

「…だな」

 私たちに気が付いていたのか、こちらに向けてまっすぐに進んでくる二人を見て、私は地霊殿に進むのをやめてその場で動きを止めた。

「…早苗さん!大丈夫でしたか?」

 ある程度近づいた早苗が速度を緩めてこちらにやってくる。その早苗に小悪魔が始めに声をかけた。

「…はい。何とか!」

 話し始めた早苗はあまり目立った外傷はないようだ。

「…魔理沙さんも、大丈夫ですか?」

 そう言って話しかけてきた早苗の言葉を聞き終わってから私は言った。

「…正邪はどうしたんだ?…お前が人と一緒にいるなんて珍しいな」

 私が聞くと、正邪は答えるのが面倒くさそうな表情をしてから、言う。

「…まあ、今回の異変は私もだいぶ被害を受けてるからな…人手が足りないらしいから手伝ってやろうと思ってな」

「…なるほどね」

 私は曖昧に返事をしながら早苗に近づこうとした永琳の肩を掴み、行かせないように止めさせる。

「…大妖精さんも大丈夫ですか?」

 普段、あまり面識のない早苗に声をかけられたことにより、大妖精が少しおどおどして噛み噛みになりながらも大丈夫ですと言った。

「……」

 私はまた早苗と話し始めた小悪魔の手を掴んで自分の方に引き寄せた。

「…全員、二人から離れてくれ」

 私が言うと早苗と正邪だけでなく、永琳、大妖精、小悪魔全員が呆気にとられて動きを止める。

「い…いきなりどうしたっていうんですか?」

 小悪魔が困惑したように私から離れた。

「…それは、そのまんまの意味だぜ……」

 私が言っても小悪魔は納得がいっていないようだ。何の説明もないのだから当たり前か。

「…いくら早苗さんでも、そんな態度をされたら傷つきますよ、魔理沙さん」

 小悪魔が私に言ってくるがそれを遮って私は呟く。

「…胡散臭すぎるんだよ。お前ら二人とも…」

 私が言いながら、警告もせずに手のひらを早苗に向けると同時に、高出力でレーザーをぶっ放す。

 青白い光が小悪魔のギリギリ真横を突き進み、射線上の早苗の腹に向けて直進した。

 だが、当たる直前で火花に似た魔力のかけらが飛び散り始める。早苗が張った結界を私の放ったレーザが削っているのだ。

 だが、その鍔迫り合いも私がレーザーを途切れさせたことにより収束する。

「…とっさでそんなことができるわけがない……ということは、やっぱりお前もやる気満々だった。そう言うことだろ?早苗」

 私が言うと、早苗は鋭い目つきで結界に使った札を捨てた。

「ど…どういうことですか…!?」

 状況がよく理解できていない大妖精が私に聞いてくる。

「それについては……あちらさんの質問と一緒に答えようかな」

 私が言うと、早苗は自分を裏切り者だとなぜばれたか腑に落ちないらしく、私に言って来た。

「…聞いておきたいんですが……魔理沙さんはなぜ私が敵だと分かったんですか」

 早苗が持っているお祓い棒を握りしめ、それをこちらに向けて呟く。

「……怪しいと思い始めていたのは、異変が始まってから初めて会ったときからだ」

 私がそう伝えると、早苗は驚きを隠せないらしく目を見開いた。

「…まあ、初めからって言っても何度か会話をしてからだけどな……早苗…お前は紅魔館に行く途中で諏訪子と加奈子と戦ったって言ってたよな」

「…ええ……確かに言いました」

 早苗がうなづいてからわたしはゆっくりと言った。

「…半分神が混じっていて巫女とはいえ、お前が二人の神とそれに近い存在を相手にできるわけがないぜ……霊夢でもあるまいし、もっとましな嘘をつくんだったな早苗」

 私はそう言いながらさらに口を開いた。

「…それに、お前はあの二人をだいぶ好いていた。それなのに少し落ち込むだけっていうのも違和感の一つだった」

 私は言いながら次に正邪を見る。

「それと、正邪を連れてきたのは間違いだったな……さっきの異変の解決を手伝うという正邪の回答は…あまりにも正邪らしくない……他人の嫌がることを好き好んでする奴が解決のために動くわけがないだろう。むしろ逆だ」

「…っち」

 図星をつかれて面白くないのか、騙せなくて楽しくないかは知らないが、正邪が舌打ちを漏らす。

「それと、きっかけは早苗と小悪魔の会話だ」

 私が言うと、小悪魔と早苗がクエッションマークを頭の上に浮かべている。

「…早苗、レミリアのことは聞かないんだな」

 私が言うと、早苗ははっとした表情になる。

「……お前は時々調子に乗ったことを言うこともあるが、お世話になった人やそう言ったことに関してはキチンと挨拶する。そう言う奴だ。…いつものお前なら小悪魔に対して…レミリアさんは大丈夫ですか?…そう聞くだろうな………でも、なぜ聞かなかったか……お前は知ってたんだろう?レミリアたちが連れていかれたってことを」

 私が言うと、早苗は驚いた表情で私に言った。

「…驚きました。あなたは、意外と周りのことをちゃんと見てるんですね」

「…意外とは余計だ。異変中に起きたことならそれぐらい記憶できないならやっていけない。表情。話した会話。会話の流れ。それらから矛盾を拾い上げて敵を割り出すことだってできる。誰が異変を起こしたのかわからないなら、今回のように一つ一つの会話から求めるしかない。霊夢なら紅魔館に着くまでにお前はぶちのめされてたよ」

 私が言うと、早苗が何かを言おうとしたが正邪が割り込んできて言う。

「面倒くさい、バレたんだったら…サクッと殺っちゃうか……それで不安分子は消える」

 正邪がさっきのしずかな雰囲気とは一変して、攻撃的な表情をして私たちに向き直った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十七話 鬼人正邪

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第二十七話をお楽しみください。


 

「殺すか……お前にそんなことできるのか?ちょっと能力に恵まれただけの天邪鬼がよ」

 私は言いながら正邪を睨みつける。

「…早苗さん。一つよろしいですか?」

 小悪魔はうつむいているため表情は読み取れないが、早苗に一つ質問をした。

「…なんですか?」

 早苗が短く受け答えをする。

「……紅魔館に伊吹萃香と星熊勇儀を呼んだのはあなたですか?」

 小悪魔は怒りをじっと抑えているのか、隠しきれていない殺気をひしひしと私にまで伝わってくる。

「……。少し前から襲おうという計画はされていたようですが、引き金となったのは私で間違いないです」

 小悪魔のさっきまでの優しい雰囲気などどこにもない。あるのは圧倒的な、怒り。

「……正邪は私がやろう」

 私が小悪魔に言うと、まだ怒りに飲み込まれてはいないのか、ゆっくりとうなづいて早苗の方に向かっていく。

「…二人は状況に応じて援護を頼む」

 私が後ろの二人にそう告げながら正邪と対峙する。

「……っち」

 正邪は面倒くさそうに首をコキコキと鳴らしながら舌打ちをした。

「……今、私も頭に来てるんだ。さっさとおまえを倒して、小悪魔の加勢に行かせてもらう」

 私がそう言うと、正邪はクスクスと笑い始める。

「…?」

「…私が起こした異変。覚えてるかい?」

 唐突に正邪が質問を私に投げかけてくる。

「…ああ、覚えてる……強いものが弱く、弱いものが強くそうやって幻想郷のバランスを崩そうとしたんだろう?」

「そう、それでだ…私が起こした異変。なぜ失敗したんだと思う?」

 また私にしつこく質問を投げかけてきた。

「霊夢と戦ったからだ」

 私が即座に言うと、正邪は求めていた答えと違うなと呟きながら自分の問いかけの答えを語りだした。

「…私は自分の能力で現在の力関係をひっくり返そうとした」

 細かい内容まではよく覚えていないが、少名針妙丸を利用して幻想郷のバランスを崩そうとしたということがあった気がする。

「…敗因はそれだ」

 正邪が言わんとしようとしていることが、ようやく私にもわかって来た。もっとよくわかるように説明できないのかこいつは、

「つまり、そもそも異変を起こさなければよかったと」

「幻想郷全体のバランスを崩そうとしていたのが、そもそも間違いなんだよ!!」

 私の言葉を遮って正邪が怒鳴り散らす。

「お前、本当に同一人物かよ…さっきまでの感の良さはどうしたんだよ」

 十秒程度で言い切れる言葉なのに、正邪は息切れを起こしそうな勢いで呼吸を乱す。

「感じゃない、ひらめきだ」

 私が言うと、正邪はまあいいと話をつづけた。

「私は力の弱い妖怪だからな、幻想郷全体のバランスを崩すとなると小人なんかに頼らなければならなかったわけだ。でも、そんなことはしなくてもいいことが分かった」

 正邪が言いながら、正邪が持つ能力の何でもひっくり返す程度の能力を使ったのか、力が倍増した。

「…おっと」

 私を取り巻く重圧が増す。

「…何のためにこんなに長ったらしく話しているのかと思えば、そう言うことか……自分ひとりの力関係だけをひっくり返すことは、わけないと」

「そう……。あの異変であの時は負けた、だが今ならこの力でお前を殺すことができる。霧雨魔理沙!お前はここで死ね!!」

 力が増幅して私を圧倒している正邪が私に突っ込んでくる。

「…っ!」

 私が体術が苦手というのを前回の異変の戦いでわかっているのだろう。私に接近戦を持ちかけてくる。

 私から見ても素人のものだとわかる回し蹴りだ。だが、私はそれを綺麗によけたり、受け流したり、はたき落として反撃する技術を持ち合わせていないため、右側からくる回し蹴りを私はガードをするしかない。

 重い蹴りに、私は箒から投げ飛ばされそうになり、後ろに箒で飛んで慌てて体勢を立て直しながら手先に魔力を込め、箒にまたがっていた状態から箒の上に足をかけて立ち上がり、スケートボードをするようにして私は箒に乗る。

 迎撃しようとしていた正邪にレーザーをぶっ放し、肩に風穴を開けたつもりだったが、正邪は腕を私のレーザーに当たるように振ると、レーザーは呆気なく掻き消される。

 生半可なものではこうやって打ち消されてしまう。最大出力で撃たなければダメージが入ることはないだろう。

 私に攻撃しようと接近してくる正邪の目の前をものすごいスピードで矢が通り過ぎた。

「っ…!?」

 正邪は住んでのところで静止すると、飛んできた矢を見送る。

「…永琳か……」

 正邪が矢を放ち、弾丸を中に込めるように矢を再装填する永琳を眺める。

「止まってると当たるわよ」

 永琳が矢をつがえた弓を弾き絞り、再度正邪に向けて放つが正邪はそれを手で簡単につかみ取ると魔力で形成されている矢を握りつぶすと、魔力の粒子となって矢は消え去ってしまう。

「…永琳ばっかり見てると怪我するぜ!」

 私は正邪の後ろに回り込んでレーザーを最大出力でぶっ放したが、正邪がさっきのように腕を振ると、レーザーは掻き消されてしまう。

「…おまえ、どんだけ弱かったんだよ」

 弱ければ弱いほど、ひっくり返した時の力の強さは反比例する。

「まあ、その分この能力に恵まれていたわけだがな」

 正邪が言いながら私に急速に接近してきた。

「っち…!」

 私は右手を突き出し、魔力を手先から爆発的に放出し、チルノに使ったときのように正邪を吹き飛ばそうとした。

 だが、その右腕から魔力が放出される寸前に正邪が掴むと、そのまま握りつぶされてしまう。

「かっ…ああああっ!?」

 正邪は私の右手に左手を絡ませるようにして掴み、右手の中手骨、手首と指の骨の間の骨を砕き、爪で皮膚と肉を切り裂くと容赦なく力任せに手をちぎり取る。

「…がっ…!?……ぁぁっ…!?」

 魔力をうまく放出することができず、魔力が右手の皮膚のところどころを突き破って噴き出してきた。

「…が…ぁっ……!?」

 激痛に動けなくなっていた私の箒の上に正邪がトンっと軽く乗ってくる。

「さっき、お前は私のことを弱いと言ったな?なあ、教えてくれよ。この状況で弱いのはどっちだ?人間」

 正邪が私の手を切断したことにより、血でまみれている左手を私の顔の方向に延ばしてくる。

 ヌルッとした血で覆われている正邪の手が私の右目辺りに触れた。

「や……やめ……!」

 正邪がしようとしていることを私は何となく感じ取り、正邪の左手を掴んで抵抗しようとしたが、正邪が右手の拳を振るった。

「あぐ…!?」

 頬を殴られたことにより、私がよろけているうちに正邪は何かに気が付き、私の箒から飛びのいた。

「……っ?」

 なぜ、私を殺せたのに殺さなかったのだ。と意味の分からなかった正邪の行為の意味をすぐに私は理解した。

 私を助けようと放った永琳の矢が秒速60メートルという速度で突き進んできた矢が、私の胸に突き刺さる。

 皮膚を肉を貫き、胸骨を鏃が削り砕き、肋骨で囲われて保護されている心臓を貫かれてしまう。

「かっ……はっ……!?」

 ずるりと私は箒からずり落ち、百十数メートルはしたにある地面に向けて私は落ちた。

 ぼんやりとした意識の中、大妖精と永琳の絶叫が私の耳に届いた気がした。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十八話 鬼人正邪 ②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第二十八話をお楽しみください。


「…………」

 落ちてからわかる。人間は頭部が結構重いため、私は頭から地面に向かって落ちていく。

 加速していくごとに空気が私の頬を叩く強さも強くなる。空気をかき分けながら落ちる現在の私の耳には雑音以外の音は何も聞こえない。

 心臓に矢が刺さり、それによって心臓にある心筋の一定のリズムをとっていた活動がおかしくなるが、辛うじて動いてはいる。血の力を使わなくても生命力やその他諸々も上がっているためだ。

 だが、この高さで地面に叩きつけられればさすがに死んでしまうだろう。

 強い台風の強風に匹敵するような風を手でかき分けて地面に向けて左手をかざす。

 地面に落ちる寸前。正邪にやろうとしていたように、私は手から爆発的に魔力を放出した。バックブラストを後方に出さずに前方にだけ出した魔力のロケットのような推進力で私の体は浮き上がる。

 だが、その代償に私の左肩が前方に出した魔力の衝撃をもろに受けて肩と接合している骨が砕けた。ちぎれ飛ばなかっただけマシともいえるが、絶叫するほどに痛い。

「あああああああああああああっ!!」

 歯を食いしばって激痛に耐える。

 浮き上がった体はすぐに地面に向かって降下をはじめ、数秒後には地面に落ちた。落ちた時にうまく受け身をとれず、胸に刺さった矢がさらに深くに突き刺さり、背中側の肋骨を砕いて背中の皮膚を突き破って鏃のついた矢が飛び出した。

「~~~~~~~~~っ!!」

 気絶しそうな意識の中、頭を地面に叩きつけて目を覚まさせる。私は少しの間だけ間をおいて体を起こした。

「ぐっ……くそ……!」

 私は殴られて、地面に叩きつけたせいでクラクラする頭を押さえながら起き上がり、近くの木に背中を預けて上を見上げた。

 木の枝や葉っぱの隙間から小悪魔と早苗が上空で戦闘を続けているのが見える。そこに正邪が入れば状況はよろしくない方向に向かっていく。

「……」

 しかし、加勢しようにも私が血の力で体を再生させようとしてもこの胸にぶっ刺さった矢を抜かなければならない。

 しかも、生命力が上がっていると言ってもそろそろやばい。

 だが、勝つにはやるしかない。やらないで時間を無駄にすればその分だけ私の生き残れる可能性は低くなってしまう。

 腹をくくれ。自分にそう言い聞かせて私は胸に刺さった矢の羽が付いている部分を両手で握った。

 深呼吸して引き抜こうとしたとき、木の枝をへし折りながら正邪が降りてくる。さっきの魔力の放出を見ていたのだろう。私が生きていると判断してこちらに来たのだ。

「……しつこいぜ……正邪…」

 私が吐き捨てるように言うと近づいてくる正邪が私の近くでしゃがみ込みながら言う。

「…ははっ……胸に矢が刺さってるやつが何言ってるんだ?…お前がさっさと死ねばいいだけだろう?」

 正邪が言いながら箒の上でしたように私の右目付近に触れた。

 私は右手で掴もうとしたがつかめず、魔力で回復させていた左手で正邪の手を掴んだ。

「…お前……!いったい何をするつもりだ……!」

 そう言ったとき、正邪の爪が私の瞼などの皮膚にめり込み、切り裂いた。

「……ぐっ……やめ…ろ……!」

 目に血が入って赤く染まる視界から意識を外して正邪の手を押し返そうとしたが、それ以上の力で押し返され、頬骨と呼ばれる頬の一部の骨と額の目に近い前頭骨の一部を砕かれた。

「止め……!!……ああああああああああぁぁぁぁぁっ!!!?」

 右目の視界が赤色以外の色が無くなる。

 大量の血が目から流れ出ているのが頬を伝わって流れる液体でわかった。

「ほらほら!初めの威勢はどうしたんだ?…頭に来てるんだろう?さっさと私を倒してみろよ!」

 左目から見える視界から、正邪の指が第二関節まで私の中に入っているのが分かる。

「~~~~~っ!」

 痛みで頭がおかしくなりそうだ。

 少しずつ治り始めている手や足で正邪を蹴るが、正邪のいやらしく笑う顔は離れてくれない。

「…や……め……!」

 私がようやく呟くことができた時、正邪が言った。

「おう、お前のお望み通りに止めてやるよ」

 正邪が言うと、私の目から手を引き抜いた。

 ブチッ!!

 正邪がそれと同時に掴んでいた私の眼球を引き抜く。

「うああああああああああああああっ!!?」

「へえ、人間の目ってこうなってんのか……見た目は妖怪とあんまり変わらないんだな」

 正邪が言いながら、右目を押さえて悶えている私にそこに入っていた真っ赤な眼球を見せびらかせた。

「…っ……おま……え……!!」

 血で赤く染まる眼球と瞳がある方向とは逆方向から出ている視神経が地面に向かってだらしなく垂れている。

「そう怒るなよ。…せっかく今殺してやろうとしてるのに」

 笑う正邪がそう言いながら、私の右目を押さえている手を無理やり引きはがさせ、空洞となり血を垂れ流す私の目に真っ赤に染まる手を滑り込ませた。

「いっ…!?……止めろ…!!」

 私は再度正邪の手を掴んで目から指を引き出させようとするが、正邪の私の脳を引き裂こうとする指は止まらない。

「…抵抗しさんな。抵抗すると余計な痛みを感じることになる」

 私が出そうとする正邪の指がズブッ脳に向かってまた進む。

「…く……」

 手に力が入らない。私はここまでなのか。そんなのは嫌だ。でも、もう血を飲んでいる暇もない。

「……っ!」

 もうだめだ。

 私がそう思ったとき私の正面、正邪の後方に大妖精が小さな破裂音を発しながら出現する。

 ボッ!

「魔理沙さん!!」

 大妖精が叫びながら正邪に向かって飛び掛かる。

「!!」

 正邪が瞬きする程度のほんの少しの時間で大妖精の声に反応し、私の目から指を引き抜きながら後ろの大妖精に向けて拳を薙ぎ払う。

 大妖精に拳が当たる寸前に大妖精がもう一度瞬間移動でほんの少しの白色の煙を残して消え去る。

 大妖精の居なくなった空間を正邪の腕が通った。

 その隙に大妖精が私の隣に現れて私に触れると瞬間移動をすぐさま使い、意識が一瞬だけ途切れると場所が切り替わっていた。

 周りが木で覆われているせいで正邪がどこにいるのか全く分からない。

「…魔理沙さん。胸の矢を抜くので押さえてもらえますか?」

 大妖精が私から手を放し、矢に手を触れた。

「すまないが……頼む…」

 私は言いながら矢が刺さっているあたりに手を添える。

「いきますよ」

 大妖精が言うと、私の胸から矢が消え失せた。

 大妖精の頭の隣に矢が出現し、地面に木の乾いた音を出しながら落ちる。

「っ…!」

 私はすぐに胸の傷を押さえるが、背中側の傷からも血が流れ出し、大妖精がそちらを押さえた。

「う…っ…!」

 まだ再生が終わっていない手にこびりついている血を舐めて飲み込むと、すぐに傷が再生して血が止まった。

「……ふう……」

 ようやく息をつくことができて私は息を吐く。

「……助かったよ……本当に…」

 私は言いながら物凄い速さで再生を始めた右手を見てからゆっくりと周りに左目だけの視線を移した。

「……魔理沙さん。正邪さんはあっちの方向にいます」

 大妖精が正面の方向に向けて指を指す。

「了解だぜ」

 私はそちらを警戒しながらバックの中に手を突っ込んだ。爆発を意味するラベルが張られている瓶を取り出した。

「…大妖精。これを正邪の体内とかには送れないのか?」

「……えーと。無理です。私の能力は生物を移動させることはできるんですが、生きている生物や生物ではない無機物を生物の体内に送ることはできないんです」

「…そうか……わかった」

 私は言いながらとりあえず進みだした。

「…魔理沙さん。それよりも目の治療をしないと…」

 大妖精が心配そうに私のことを見つめてくる。血の効果時間内に目を治すことはできなかったのだ。

「今は私のことはいい、早く正邪を倒さなきゃならん……小悪魔も早苗に勝てるかどうかわからないからな」

 私が上を見上げながら言うと、大妖精も上を見上げる。小悪魔と早苗の戦いは小悪魔が押され気味になっているのが見て取れた。

「…。わかりました……一緒に倒しましょう!」

 大妖精が言いながら正邪がいる方向に目を向けると、矢を落とした時の音を聞きつけた正邪がこちらにゆっくりと歩いてきているのが分かった。

 正邪は楽しそうに笑いながらこちらにやってくる。

「ほんとう。お前は性格悪いな」

 私はそう吐き捨てた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第二十九話 東風谷早苗

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第二十九話をお楽しみください。


「へえ、…本当になくなった部位が再生するんだな」

 正邪が面白そうに笑いながら私に言った。

「見せもんじゃあないぜ」

 私はそう言いながら持っていた瓶をありったけの力を込めて正邪に向かって投げる。

 正邪は油断していたのか、能力を使って余裕があったのか、よけようともせずに私の瓶を拳で砕いた。

「…大妖精!伏せろ!」

 私は言いながら自分が伏せると同時に大妖精も伏せさせると、正邪が砕いた瓶の中身が外気と接触するとなんかしらの化学反応が促進され、青白い炎をまき散らしながら大爆発を起こした。

「うお……!」

 爆風と爆発音をまじかで受けて頭がクラクラする。

 でも、爆心地にいる正邪に比べれば、このぐらいで済めば万倍もいい方だろう。

 私は体を持ち上げて立ち上がると、正邪がいた位置は爆風と衝撃波で砂が舞い上がり、ほぼ視界はゼロだ。

「……」

 得意ではない風の魔法の詠唱をして発動させた。

 強い風が吹き始め、舞い上がった砂埃を吹き飛ばすと、さっきいた位置よりもだいぶ横にズレた位置の地面に正邪が倒れていた。

「……ぐっ……くそっ…!」

 油断していて体の強化を怠っていたのか、正邪の右手が熱で焼け焦げて、さらに爆発で吹き飛ばされたのか骨がむき出しとなっている。

 瓶の破片が正邪の服や皮膚、皮下組織に加えて筋肉にまで達しており、傷口から血が出ている。

 瓶を叩き割った位置がだいぶ耳よりの位置だったため、右耳の鼓膜も破れているらしく、耳から血が流れている。

「…不用心だな、魔法使いがバックから出したものを投げつけたんだぜ?危ないものに決まってるだろう?」

 私は再度バックから瓶を取り出して魔力を込める。

「調子に乗りやがって…!」

 正邪は耳をやられたことにより、平衡感覚が一時的におかしくなってしまい。立つことができずにいる。

「ほらよ!」

 正邪が無理矢理に立とうとするとき、私は正邪の居る方向に向けて瓶を投擲した。

「またか!そう何度も同じ手を食らうか!」

 正邪が体を魔力で強化して焼け焦げた右手ではなく左手の拳で瓶を砕く。

「…大妖精。目を閉じとけ」

 私がそう呟いた時、さっきとは違う真っ白な光がまき散らされ、前に投げた爆発瓶の爆発音よりも桁違いな爆発音と光が、砕かれた瓶を中心に発生する。

「…ひゃぁっ!?」

 隣に立っていた大妖精があまりの爆音にびくついた。

 光が収まった時にようやく目を開くことができた。

「…あ……か…っ…」

 正邪が白目をむき、起き上がろうとしていた体勢から地面に崩れ落ちる。

「…へ…?…魔理沙さん……正邪さんにいったい何をしたんですか?」

 攻撃的なものでなかった物の攻撃で正邪が失神しているのだ。こう質問してくるのもわかる。

「…失神してる……いや、失神させた」

「…さっき投げた瓶で、っていうのはわかるんですけど、あれは何なんですか?特殊な薬でも入ってるんですか?」

「あれはただの閃光瓶だ……別に特殊なことはしてない。人間はある一定基準以上の光と大きな音を近くで聞くと失神することがあるんだが、それは妖怪でも変わらなかったみたいだな……それを利用したんだ」

 初めに使った瓶は攻撃的なもので外の世界の手榴弾みたいなものだ。それを正邪に一回目に使うことで二つ目も同じものだと思い込ませた。正邪は体の防御にしか魔力を集中しなくなるだろう。だからそれで爆発瓶じゃなくて閃光瓶を使った。

 私は言いながら正邪に近寄った。

 完璧に失神しているか確認する。

「…大丈夫そうだな。……確かに力やその他のいろいろな部分でお前は私を大きく上回っていた。だが、自分よりも強いものと戦うといった経験は私の方が多い、それが勝敗を分けたな…正邪」

 私は失神している正邪に向けて語りかけ、バックから縄を出して正邪を縛った。縄に魔力を込めて簡単にはほどけない様にするが、正邪が能力を使えばすぐにほどけてしまうだろう。

 正邪みたいなタイプは嫌われてはいるが、自分よりも強いやつとの戦いになると、三枚舌でのらりくらりと戦いを避けてきていたタイプだろう。正邪の敗因はそれだ。

「…よし、これですぐに起きても攻撃されることはないと思うぜ」

 私が立ち上がると、どこかに言っていた大妖精が瞬間移動で私の近くに現れた。

「……加勢に行きたいが……箒がないんじゃ私は飛べんぞ……大妖精…私のこと抱えて飛べるか?」

 私が聞くと、大妖精は無理です!と言いながら持っていたものを私に見せた。

「魔理沙さん、持ってきましたよ」

 大妖精が私に落としていた箒を差し出してくる。

「…おお、サンキューだぜ」

 私は言いながら大妖精から箒を受け取った。

 

 メキッ!!

「…か……はっ…!?」

 早苗さんが私の脇腹にお祓い棒を叩きこんだ。

「動きが悪いですね…小悪魔さん」

 早苗さんが言いながら私に向かっていくつかの札を投げ飛ばしてくる。

「…くっ!」

 私は身をひるがえして飛んできた札の間をギリギリですり抜けた。

「…確か、あなたはパチュリーさんに召喚された身でしたよね……ああ、全力を出せない理由はそう言うことですか」

 早苗さんが動きの悪い私の状況を理解したのか、一人で納得したようにつぶやく。

「…っ……だから何だっていうんですか……!……全力を出せばあなたを倒すことは恐らく可能ですが、試してみますか?」

 私が言うと、早苗さんはすぐに言って来た。

「…止めてください。無駄死にするだけです」

 早苗さんはそう言いながら下をみた。何か爆発音が響いて光が見えた。

「…どちらが勝っているか知りませんが、魔理沙さんはあんな怪我を負っていました。正邪さんがまくることはまずないでしょう」

 早苗さんが言いながら私に弾幕を放ってくる。

「っ…!」

 傷を負った私は動きが悪く、いくつかの弾幕を捌くことはできたがそのうち体が追い付かなくなり、当たる弾幕が増え始めてきた。

「…私にもやらなければならないことがあります……ここで、死んでください……小悪魔」

 早苗さんが魔力でプログラムが書かれた紙を取り出し、魔力を流して砕くと魔力の粒子となって紙が消え去る。

 スペルカードを発動したのだ。

 私も早く何かをしなければならないのに、私の体は言うことを聞いてくれない。

 永琳さんが早苗さんに向けて矢を放つが、奇跡の能力でも使っているのだろう。矢はスレスレで早苗さんには当たらずにどこかに飛んでいく。

 早苗さんが五芒星を描くためにお祓い棒を空に向けて突き上げた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十話 東風谷早苗 ②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第三十話をお楽しみください。


 

 動かないといけない、戦わないといけない、やめさせないといけない。でも、もう早苗さんは五芒星を書き終えそうになり間に合わないだろう。

 動こうとした私は、五芒星を描き終えた早苗さんの周りが白く輝きだしたのが見えた。

「…っ…!?」

「…私を恨んでも憎んでもかまいません。でも、それでも、私は助けなければならない人がいるんです……せめて、苦しまずに死んでくださ…」

 早苗さんが私に向けて何かをしようとしたとき、下方から何かが突き進んでくる。攻撃態勢に入っている早苗さんはそれをよけることはできなかったらしく、

「なっ…!?」

 驚きの声を上げると、森の茂みの合間から魔理沙さんのレーザーが早苗さんの左半身を包み込む。

「うぐああああぁぁぁっ!?」

 早苗さんの絶叫が響き、発動しかけていたスペルカードがキャンセルされて、輝き始めていた早苗さんの周りの光が徐々に光を失い。すぐに薄暗い空間に戻った。

「…う……っぐ……!」

 早苗さんが怯んだことで私が使づくための時間は十分にある。

「…くっ…!…まだ…っ!」

 私に向かって早苗さんがお祓い棒を振るう。

 だが、早苗さんのお祓い棒を持つ右手の手首を左手で掴むと同時に手首を捻りあげ、右手の手根、手首のあたりを早苗さんの胸部に叩き込んだ。

「…あ……がっ…!?」

 早苗さんの呼吸が乱れて動きが止まる。そのうちにお祓い棒を叩き落とさせ、霖之助さんの時と同じように腕を背中側に回させた。

「ぐう……っ!?」

 関節が脱臼する寸前まで腕を回らせ、動けないようにして早苗さんの肩を掴んで押さえつけた。

「…形勢…逆転ですね……大人しくしてもらいますよ…早苗さん」

 だが、強い衝撃を腹部に食らい、私は早苗さんから手を放してしまう。脳が理解した。私の方向に向いていた手のひらから弾幕を撃ったのだと。

「うぐぁっ…!?」

 私が怯んだすきに早苗さんが私の胸倉を掴み、ゼロ距離から私の腹に向けて連続的に弾幕を撃ちこんでくる。

「…うくっ…あがっ…!?」

 魔力の強化が足りなかったわけでない。連続的に弾幕を撃ち込まれたことにより魔力がはがれてしまい、ダメージを余計に食らってしまう。私はせき込みながら後ろに下がろうとする。

 魔力で効率よく防御することのできなかった私の肩を早苗さんが掴むと、早苗さんは自分の方向に私を引き寄せながら私の腹に持ち上げてきた膝を叩きこんでくる。

「…かぁっ………!?」

 私は呼吸ができなくなるほどの痛みに、息ができなくなるが早苗さんはそんなのは関係なく、今度は私の胸に向けて私よりも魔力を調整して高い位置を飛び、膝蹴りを叩きこんできた。

 ゴギッ!!

 胸骨と肋骨が砕ける嫌な音が体の中から響き、すさまじい激痛が電流のように体の中をめぐる。

「早苗ぇ!!」

 大妖精さんに瞬間移動をしてもらったのだろう。魔理沙さんがいきなりすぐ近くに現れ、早苗さんに至近距離からレーザーを浴びせた。

 早苗さんが魔力を手先に集中させてレーザーを魔理沙さんのように放つが、魔理沙さんのような鍛えられた貫通力など持っているわけもなく。早苗さんのレーザーはすぐに押し返され、早苗さんの手を焼け焦がした。

「くうっ…!」

 早苗さんが私から離れ、魔理沙さんから大きく距離を取って私たちを警戒する。

 私はずるっと地面に向けて落ちそうになるが、魔理沙さんが私に近づいて支えてくれた。

「あ…ありがとうございます…」

 現在、早苗さんは私がお祓い棒を叩き落としたことにより丸腰だ。

 攻めるなら今だろう。

 私も魔理沙さんに加勢をしようと体を持ち上げた時、私の思考回路が停止した。

「…どうしたんですか……それ…」

 私は早苗さんがいるのにそちらを全く目も向けずに魔理沙さんの右目を凝視したまま語り掛けていた。

「……ちょっとな」

 私の質問に魔理沙さんは短く答えるとすぐに私に言ってくる。

 早苗さんが動き出し、私を抱える魔理沙さんに向けて強化した拳を振りかぶる。

「…小悪魔、お前の方が大丈夫か…?」

 右目を失った魔理沙さんは襲い掛かってくる早苗さんのことなど気にしていない様子で私の労をねぎらった。

 魔理沙さんに当たる直前で、停止する。いや、止まったわけではない、弾かれたのだ。魔理沙さんの張った結界の魔法によって。

「…はい…何とか…」

 私は数本の肋骨が折れたことにより、呼吸するのも苦しく胸元を押さえながら呟いた。

「…あいつは私が何とかする、小悪魔は休んでいてくれ」

 近くにいた大妖精さんに私を預けて魔理沙さんは早苗さんの方向に進んだ。

「…ま…待ってください……!…早苗さんは……私が……!」

 何か言いたげな私に魔理沙さんは言った。

「………。殺すのか?」

 魔理沙さんの言葉に私は少しドキリとする。もし、私が早苗さんを圧倒できるだけの力があれば、殺してしまっていたかもしれないからだ。周りの人から見てもわかるほどに、私は早苗さんを殺そうとする勢いが雰囲気があったのだろう。

「……いや…そんな……ことは…」

 きちんと言い返すことができず、私は口ごもる。

「…私は、仲間が殺されたり…殺したりするのは見たくない」

 私に優しくそう語りかけた魔理沙さんの話を結界越しで聞いていた早苗さんが口をはさんでくる。

「…ずいぶんと甘いことを言うんですね……魔理沙さん」

「……かもな…」

 魔理沙さんは言いながら結界越しにいる早苗さんに向き直った。

「……殺さないってことは、私を捕まえて何か情報を吐かせようとでもするんですか…?……それで私が吐かなければ死なない程度に拷問でもするんですか?」

 早苗が私にそう言ってくる。

「……こんな異変を起こした連中なら、それぐらいのことはするだろうな……でも、お前たちと一緒にするんじゃあないぜ……そんなことするわけがないだろう…」

 魔理沙さんは早苗さんを睨みながら言い終わると口元に手を運び、親指に噛みついた。

「……?」

 早苗さんがその行動の意味が分からず、困惑している。

 だが、魔理沙さんが何かをしようとしているのは感じたのだろう。魔理沙さんに向かって早苗さんは突っ込む。

 途中に魔理沙さんの結界があるが魔力を大量につぎ込み、結界の防御力以上の威力でたたき壊した。

 魔理沙さんが血を飲むまでに早苗さんは間に合う。私が大妖精さんの手から無理やり離れて魔理沙さんの方向に向かおうとしたとき、私たちの後方から高速で飛来してきた矢を早苗さんはとっさにかわし、魔理沙さんが血を舐めて飲み込むまでの時間稼ぎができた。

 魔理沙さんが血を飲み込み、何らかの力が倍増する。

「…なんですか……それ…!」

 魔理沙さんの力がばぞうしたことにより早苗さんが驚き、目を見開いて後ずさりする。

「…早苗……歯を食いしばるんだな……意味があるとは思えんがな」

 魔理沙さんはそう言うと、魔理沙さんの周りに大量の魔力で書かれた小さな直径20センチ程度の魔法陣が形成される。

 10や20じゃない。40はある。

 パチュリー様でも十五個程度を作り出すのがやっとだと聞いたことがある。なのに、それをこれだけの数作り出すとは思いもしていなかった。

「……放て」

 魔理沙さんがそう呟くと魔法陣が輝き、圧倒的な光景に立ち尽くしてしまっている早苗さんに向けて、一斉にレーザーのようなものが発射される。

「……っ…!」

 早苗さんが今頃になって動き出そうとするが、既にレーザーは目の前に迫っていて、あれは誰がどうしようが手遅れだと私は思った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

投降しなかったら明後日に投稿します。しかし、近いうちにテストがあるのでしばらく投稿できない期間が続くかもしれません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十一話 降りる

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第三十一話をお楽しみください。


 

 魔法でこの辺り一帯だけが昼間のような明るさとなり、その原因となっている光源の魔法に私から送る魔力供給が無くなったことで光や熱を失って魔法陣が消え去った。

「……これは…驚いた」

 あれだけの魔法を浴びせたのに、まだ早苗はその場を飛んでいる。

 かなり手加減したとはいえ、まだ飛ぶことができているとは思わなかった。

 だが、今にも倒れてしまうのではないかというほど弱っている。少し押したりしたらそのまま後ろに倒れてしまうだろう。

「早苗…終わりだ……大人しくしてくれ」

 私が早苗に近づき、ゆっくりと語りかけると下を向き、息を切らしていた早苗がギリッと歯を食いしばると、顔を上げて私を睨みつけながら早苗は言った。

「…負けるわけには…いかないんですよ………私には……やらないといけないことがあるんですよ!!」

 早苗が感情をむき出しにして私に襲い掛かってくる。

 そんな早苗に私は冷静に言い返した。

「…そうか。…お前の置かれてる状況なんか容易に想像できる……だがな、早苗…お前はそれの解決方法を間違ったんだよ」

 私は言いながら、早苗の振りぬこうとする拳を対処するのではなく、手先に魔力を集める。

 早苗の拳は私の顔にめり込む、そう思われた。だが、私のわきをすり抜けてきた永琳の矢が今まさに振り切ろうとした早苗の拳を正面から貫いた。

「…なっ……!?」

 早苗が右手を押さえながらよろめき、後ろに下がろうとしたところで私は早苗の胸倉を掴むのではなく、手のひらをその場所に触れさせた。

 ドンッ!

 魔力を放出し、早苗に衝撃を与える。

 地面に激突する寸前にやっていたものをかなり弱くしたものだ。

 普段なら軽くあしらわれて終わりだが、今の早苗には効果は絶大であり、何とか意識を保とうとするがすぐに目を閉じて眠るようにして気絶した。

「……」

 魔力で空を飛んでいたため、それの供給が無くなったことにより早苗の体が地面に向かって落ち始めるが、私は早苗の体が落ちる前に受け止める。

「……一度、下に降りよう」

 私はそう提案すると永琳たちがうなづき、下に向かった。

 そのころになると、私の目も自然治癒で完全にとは言わないが治ってきている。だが、眼球は他の組織と比べても再生が遅いらしく、まだ目は見えない。

 血の力を使うほどのではない。しばらく瞼を閉じた状態で過ごせばそのうち私の目は治ってくれるだろう。

「……魔理沙さん…早苗さんからは話を聞くんですか?」

 遅れてやってきた大妖精が私に聞いてきた。

「…いや…話は聞かない……聞いてみてもいいが、意味はないだろうからな」

 私は早苗を抱えたまま地面に降りた。

「…なんでですか?何か聞けることもあるかもしれないですよ?」

「……こいつは、自分の大事な人を人質に取られてるんだ……おそらくしゃべらん」

 早苗を木にもたれるようにして寝かせ、私は後ろを振り返る。

「……そうですか…。…それなら仕方ないですね……でも、正邪さんはどうですか?」

 残念そうに大妖精が呟き、気絶している早苗と正邪を見下ろした。

「起きて、あの能力をまたつかわれたら面倒だ……できればこいつが起きる前に異変を解決したいぜ」

 私は言いながら箒を持ち直す。

「……三人とも……地霊殿に向かうぜ」

 私が言うと、永琳たちは倒れている二人から視線を外し、地霊殿及び旧都に続く洞窟に向かった。

 

「…で、どうするよ?」

 真っ暗な穴が続く洞窟を見下ろしながら私は呟く。

 旧都に続く洞窟はかなり急な九十度に近い坂道が下に続いていてかなり広く、洞窟の表面は大きな岩が露出してたり、崩れてへこんでいたり、洞窟自体が曲がっていて死角がかなり多い。

「…これ、待ち伏せるんならこんなに好条件な場所はないですよね……」

 小悪魔がシンクホールのような洞窟を覗き込みながら呟く。

「相手の奇襲のタイミング……初手を外させるのが目的なら、私の光の魔法があればできないことはない……屈折なんかを利用して敵の私を認識している位置をずらせることができる……ただし、音は聞こえると範囲外に出れば敵に本当の位置がバレてしまう……それだけは気を付けてくれ……まあ、私が魔法を解除しない限りは安全だ」

 私が言うと、大妖精が目を輝かせる。

「でも、それがあれば敵に攻撃されてもこちらの居る位置はわかりませんね!」

 大妖精が言った。

「…でも、裏を返せば見つかってしまうことが前提になりますよね……それに、魔理沙さんの魔力の量も心配ですし」

 小悪魔がこちらに視線を向けてくるようなしぐさをするが、右方向にいる小悪魔の表情はわからない。

 魔法は使うには継続して魔力を供給しなければならない。それによって私の魔力が尽きないのかが心配なのだろう。

「…大丈夫だよ……とりあえず……私からあまり離れすぎなきゃいいってことだよ」

 私は説明を終え、私が使おうとしている魔法の呪文を詠唱して魔法を発動させた。

「……魔理沙が魔力を使い切る前にさっさと行きましょ」

 永琳がそう言いながら先導を始める。

「…だな、私が干からびる前に行こうぜ」

「え?…魔力って使い切ると私たち干からびちゃうんですか!?」

 大妖精が私の言葉を聞き、驚きの声を上げる。

「…いや、比喩だよ…比喩」

 私が言うと、大妖精は少し恥ずかしそうにうつむく。

「……小悪魔、周りはどうよ」

 しばらく進み、三分の一ほど洞窟を進んだ時に私が聞くと小悪魔が呟く。

「……そろそろ気を付けた方がいいかもしれませんね……まだまだ続く洞窟から、私たちに向けてのかはわかりませんが…何か悪意を感じます」

 小悪魔が洞窟の下の方を注意深く見降ろしていった。

「……永琳……敵が来た時には頼むぜ」

 私が頼むと、永琳は矢を弓につがえた。

 永琳に頼んだのは私たちのような光で周りを照らす弾幕はあまりにも目立つが、永琳の光を出したりしない弓矢ならば見つかりにくいのではないかと考えたのだ。

「……敵はまだ見えないわね…」

 永琳が小さな声で呟き、さらに下に降りる。洞窟を半分程度過ぎたところで大妖精が呟いた。

「……なんだか……順調に行き過ぎて気味が悪いですね」

 大妖精が残り半分程度になっている洞窟を見下ろして言った。

「…いやなこと言うなよ…大妖精」

 私が呟くと小悪魔が周りを警戒し始め、私も感じ始める。

「……感じるなぁ」

 私が呟くと、小悪魔がうなづきながら呟く。

「…はい……完璧な…悪意…」

 すると、大量の弾幕が発射されて照らされて辺りがかなり明るく光り始める。初めは私が魔法で屈折させて別の場所に作っていた偽物に向かって撃ちこんでいたが、私が魔法を解いたわけではないのにすぐにこちらに向けて弾幕の角度が変わる。

「なっ…!?」

 私たちは上下左右にばらけて弾幕を避けた。

「…魔理沙さん!?…これどうなってるんですか…!?……思いっきりこっちを狙ってきてますけど……魔法は解いたんですか!?」

 小悪魔は大量に飛んでくる弾幕の合間を縫ってかわしながら言ってくる。

「……いや、解いてないぜ!?…なんでやつらが私たちのことが見え………あ……」

 私は重要なことを思い出し、無意識のうちに声を漏らしていた。

「…あ?……いま、あって言いました!?」

 大妖精が少しひきつった顔で私に叫ぶ。

「……忘れてた……強い光を当てられるとこの魔法は解けるんだった…」

 私が呟くと、小悪魔の怒鳴り声が聞こえてくる。

「そういう事は、きちんと覚えておいてください!!」

 こちらに向かってくる弾幕を眺め、私は小悪魔に叱咤されながら戦闘を開始した。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十二話 鬼たちとの戦い

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第三十二話をお楽しみください。


 攻撃用ではない光の魔法は強い光を当てられると解除してしまう。現在の時刻は夕方をとっくに過ぎて暗くなっている。

 それにより、私が使う光の強さも夜の時間帯の物であり、必然的に光の強さも弱くなる。したがって鬼たちの弾幕の光よりも弱い光の魔法が解けてしまったのだ。

「…その事すっかり忘れてたぜ」

 こちらに近づいてくる鬼に狙いを定め、腹を魔力の防御力以上の威力で撃ち抜いた。

「……」

 一人傷つけばそれを助けるためにほかの鬼が助けに入る。その鬼を私は撃ち抜く。

「……数が多いな…」

 カードに魔力でプログラムが書かれたスペルカードを取り出した。

 コンピューターに電気を流して電源を入れるように、カードのプログラムに大量の魔力をながしてスペルカードの発動準備をさせる。

 魔力を流されたことにより淡く光るカードを私が握りつぶすと、プログラムに沿った通りに私の周りに五つの光輝く球体が現れる。

 大量に流した魔力に耐え切れなかった紙を握りつぶしたことにより、紙が粒子となって握った手のひらの中から消えて行く。

「…恋符『インディクレショナルレーザー』」

 五つのレーザーが一定の速度で私の周りで回転を始め、一つ一つが分裂して二つになると、私の周りを囲う光の球体は十個となり、分裂する前に出していた五つの光の球からそれぞれが別の色のレーザーが放たれた。

 それを追うように残りの五つの球から星形の弾幕が連続的に発射される。小悪魔たちには当たらないようにしていて、動きが制限されるというのもあるがきりがない。次から次へと洞窟の奥から鬼たちが湧き水のように湧き出てくる。

 レーザーで撃ち抜かれる鬼、星形の弾幕に撃ち抜かれる鬼もいるが、それは少数でしかない。

 十数秒もすると、スペルカードの効果が切れ、私の周りをクルクル回りながら浮遊していた光の球に込めた魔力が無くなり、消滅する。

「……まだこんなにいんのか…」

 私はげんなりしながら呟く。

「…魔理沙さーん!…何かいい案はないですか!?」

 大妖精が一生懸命に弾幕を避けながら、正邪を気絶させたときのようなアイデアはないですかと期待の眼差しを私に向けてくる。

「……ねぇよ…!」

 私は言いながら弾幕を避け、棍棒を振りかぶって来た鬼に向けてレーザーをぶっ放す。

 私の攻撃に気が付き、中途半端に避けたせいで鬼は棍棒を持っていた方とは逆の腕をレーザーに焼かれて切断された。

「…よし……」

 ドゴッ!!

 油断をしていた私は、レーザーで腕を撃ち抜いた鬼が棍棒を私の見えない右方向から振るった。私の体は二十メートル以上離れていた洞窟の壁に叩きつけられてしまう。

「……ぐっ…!?」

 殴られた頭の中で鐘が何度も鳴り響いているように激痛がズキズキと何度も押し寄せ、私を苦しめる。

 殴られた側頭部が真っ赤に染まっていて、触ると水の質感を指先に感じ、血が流れているのがすぐに分かった。

「う……ぐ……あぁぁ…っ…!」

 いつまでも引くことのない偏頭痛のような痛みに、私は頭を抱える。

 鬼たちがもがいている私を完全に包囲していて、助けようと動く小悪魔たちもこの鬼たちの壁を突破することができない。

「…死にな、魔法使いの小娘!」

 一番手前にいた鬼が全長が私ぐらいもある棍棒を振りかぶり、私に向かって振り下ろした。

 棍棒が私の頭に当たると、私をさらに壁にめり込ませる。

 爆発でもしたような轟音に耳が痛い。でも、始めに殴られた時の痛みが長続きするせいで今はあまり気にならない痛みだ。

「……!?」

 私を殴った鬼がよろけながらも砕けた岩石の中から起き上がった私を見ていきをのんでいる。砂煙が私がいる位置から舞い上がり、小石や岩が洞窟の奥に向かて転がっていく。

「…こいつ、魔力を扱えるとは言え……本当に人間なのかよ…」

 どの鬼かはわからないが、そう呟く声が私には聞こえた。私を殴った鬼が持つ棍棒には私の血液がべったりと付着している。鬼たちがそう思うのも無理はないだろう。

 壁の中にめり込んで埋もれている腕を引き抜くと同時に、鬼たちにはばれないように手先に魔力を集中させていた。振り向きざまに私を殴った鬼にレーザーを至近距離から浴びせた。

 下半身を吹き飛ばされた鬼の絶叫が洞窟内に響き渡る、それの影響で辺りがしんと静まり私の静かな声だけが響く。

「……鬼は頑丈で…この程度じゃあ死なないだろう?」

 下半身を吹き飛ばしてやった鬼の髪の毛をむしり取る勢いで頭を掴み、注目が集まっているのを利用して私はさらに言葉を並べる。

「……死なない程度で済ませてやるからさっさと私にかかってこい」

 私は言うと同時に魔力で作り出した球体をいくつか作り出し、小悪魔や大妖精、永琳の周りに群がっている鬼を全て撃ち抜いた。

 死にはしないが、一時的に再起不能に至るほどの威力に、鬼たちが糸の切れた人形のように重力に従って落ち始める。

 仲間をやられたことにより、逆上して鬼たちの狙いが私に集中した。

「……」

 私が後ろに下がりながらバックに手を突っ込んだ時、こちらに急速に接近してきた三体の鬼がそれぞれがもつ棍棒を振るった。

 野球でもやるようにして振るった棍棒の一つは私の脇腹にめり込んだ。

「…がっ……あ……!?

 体をくの字に折り、再度壁に叩きつけられてしまう。いくら頑丈とは言え、人間を今まで一撃粉砕してきた鬼たちは確かな手ごたえを感じたのだろう。油断している。そのときに私は上にとあるものをぶん投げた。

 天子の時に使ったクラスター爆弾を模した爆弾だ。

「爆発しろ」

 私がそう唱えると耳をつんざく爆音が響く、小悪魔たちとはある程度離れた位置にいるからこれを食らうことはないだろう。

 爆発の衝撃で四方八方に散らばった小型の爆弾が鬼に当たり、爆発を起こす。

 魔力をたくさん込めたため、その大きさに会わない爆発の威力と大きさに鬼もかなりのダメージを負い、ほとんどの鬼が脱落していく。

 爆発の真下にいれば100%の確率で私にも小型の爆弾は降り注ぐが、一番近くにいた呆気に取られている鬼を盾にして私は難を逃れた。

「…みんなは……大丈夫か…?」

 私が言いながら周りを見回した時、小悪魔たちが何かを言っているのが見えた。

「…………!!」

 血相を変えてしきりに何かを私に訴えかけてくるが、どういう意味か分からない。

 近づこうとした私はようやく気が付いた。私は気が付かないうちに後ろから予想外の不意打ちを食らっていたのだ。

 




たぶん明日も投稿します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十三話 新たな強者

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

駄文です。

それでも良いという方は第三十三話をお楽しみください。


 メギッ!!

 衝撃が私の頭を駆け抜ける。

「…っ……ぁぁ……!!?」

 ブシュッ!

 と頭部から大量の血が滲みだし、私の白い髪の毛が赤く染まっていく。

「…くそ!…人間のくせに!」

 犬歯をむき出しにして女性の鬼が私の胸倉を乱暴に掴んでくる。私を棍棒で殴る気らしく、反対の手には棍棒が握られている。

 手に持っている棍棒を私の頭に向けて振り下ろすが、その鬼の頭に後方から飛んできた小悪魔が拳を叩きこんだ。

 それにより鬼の手元が狂い、振り下ろした棍棒のずれと私を掴んでいた手から私を放したことにより、振るった棍棒は掠りもしない。

「…くらえ……っ!」

 私はゼロ距離から鬼に向けてレーザーをぶっ放す。

 強い光が手から放たれ、鬼の体を包み込むと魔力で防御力が足りなかったのか、鬼の腹には大穴が開いている。

「がっ…!?」

 鬼が怯みながらも棍棒を振るおうとするが、小悪魔に後頭部を蹴り飛ばされて今度こそ気絶したらしく、白目をむいて地面に向けて落下していく。他の奴らは永琳たちが倒してくれたらしく、こいつで最後だ。

「……。サンキュー…だぜ。小悪魔」

 殴られすぎて頭がくらくらするが、私は頭を押さえながら小悪魔に礼をいう。

「…魔理沙さん!…なんでこんな無茶をしたんですか…!?」

 頭が血まみれで、血が流れてきている。傷の状態以上に重症に見える怪我だ。

「私は大丈夫だ……見た目が派手に怪我しているように見えるだけで、たいしたことはない」

「…心配するな…って……心配しないはずがないでしょう!?…魔力を扱えるとは言え武器を持った鬼に何回殴られたと思ってるんですか…!?」

 小悪魔が眉を吊り上げて怒っている。勝ったのだからいいじゃないかと思いながら私は言った。

「…だとしても……体調を気にしている暇はないんだ。罠か、敵の本拠地なのか…それはわからないがこんだけ厳重に守られてる。…異変の首謀者だっているかもしれない。早くレミリアやパチュリー、咲夜たちを助けたいなら、さっさと行くぞ」

 私はそう言いながら地面に向かって降り始める。

 今のは少しズルかったかもしれない。小悪魔にレミリアやパチュリーの名前を出せばそれ以上は何も言えなくなってしまう。でも、大丈夫か大丈夫ではないか。それをここで抗議している暇はないのだ。

「……」

 指先にこびりついている血の一部を舌でなめとり、それを飲み込んだ。

 この血のシステムについて実験を重ねて細かいところまでだいたいわかって来た。

 まず、力の重複はできない。魔法の威力を上げたとしてさらに血を飲んで追加で攻撃力を上げることはできないのだ。血の力を使っている最中にもう一度血を飲むと、一回目に飲んでいた分の力はリセットされる。

 それが意味することは防御と攻撃を一緒にすることはできないということにもつながることになる。

 その場に応じてステータスを上げなければならないのだ。

 血の能力は万能の力とかそういう事ではないらしい。使い始めは便利な能力だと思っていたが、使い始めるとそうでもない。使い勝手が悪いのだ。

 頭部の傷を見えなかった眼球の傷も一緒に完治させた。

 半分しか見えていなかった視界がいつも通りの広さに戻り、私は安心する。周りの情報のほとんどを視覚から得ている人間が約半分の視界を見るとこができなかっただけでこのざまだ。戦闘能力の減少もうなづける。

 数百人はくだらない数の鬼を相手にして倒した。あれで全部だと嬉しいが、その可能性はなくはない。鬼は他の種と比べてなぜかあまり数は多くはないからだ。

 洞窟の下側の地面にはたくさんの鬼が気絶していて、たくさん転がっているのが見えた。

 ようやく洞窟が終わり、旧都に出た。

「……ついたか」

地面に着地して旧都を見回すと、いつもと変わらないようにも見えるが、鬼がいないこと以外にいつもと変わらない。

「…さっき、罠かもしれないって魔理沙さんは言いましたよね?」

 小悪魔が遠くに見える地霊殿を見ながら呟く。

「……ああ、言ったが…それがどうかしたのか?」

「…もし罠なら…その確率はどのぐらいでしょうかね…」

 無人で誰もいない旧都の大通りを周りを警戒しながら小悪魔は私に言った。

「…さあな……でも、私が思うに雑魚ばかりで意味のない罠に…これだけの人員を割くとは思えないぜ…別の何かかな?」

 後方の洞窟の急な斜面に転がっている鬼たちを思い出しながら言う。

「…でも、もし罠なら信憑性を増させるためとも取れるわ」

 永琳がとりあえず弓に矢をつがえながら言った。

「…確かにな…でも、どれも可能性という域をでない所詮は予測の範囲でしかない…なら自分の目で見て確かめるしかない」

 私は紅魔館並みに大きくて薄暗い屋敷に向かってさらに歩を進める。

 旧都には人は住んでない。しかし、それ以外の鬼に始まり、ろくでもない妖怪なんかも数多く住んでいるはずだ。

 なのに今は見渡す私の視界にはどれも映らない。

「……」

 でもなんなんだ。この旧都全体を埋め尽くす異質と言える殺気は、誰かが出していなければ私たちは感じることはないわけで、それが地霊殿から出ているのかそうでないのかがいまいちわからない。

 だが、一つ言えるのは例の光を見ておかしくなった連中だという事だけだ。鬼たちの殺気はもっとまともに感じた。

 光を見たやつがこの場所にいるとしたらかなりやばい事態だ。今私たちは相手に捕捉されている。でも、私たちは全く相手の位置が特定できていない。

「…っち…」

 私は舌打ちを漏らしながら目を凝らして周りを見回す。

 あれだけの騒ぎだ、見つからないわけがない。

 どこから来るのかわからないため、私はいつも以上に周りを警戒してゆっくりと歩く。

「……近くにはいないわ…この殺気は…地霊殿の方向からしないかしら?」

 永琳が遠くに見える地霊殿の屋上の方向に向けて引き絞った矢を放った。

 私にもうっすらと見えた人物に向けて放たれた矢は山なりに飛んでいく。

「……。当たったのか?永琳」

 私が聞いてみるが、遠すぎて小さな人とそれよりも一回りも二回りもそれ以上に小さい矢が当たったかは誰にも見えない。

 だが、次の瞬間にオレンジ色の光が揺らめいたことで当たっていないのか、当たっているのかわからないがこちらに向けて何か攻撃を仕掛けてこようとしているのがわかる。

 私たちが構えた時、大きく光りが揺らめいて、こちらに向かって何かが飛んできた。

 しかし、飛んでくる何かのスピードが速すぎて私には炎のような物にしか見えなかった。それに加えて、永琳が私の真横から消えている。

「……永琳…!?」

 私が後ろに吹き飛ばされてしまった永琳を見た時、ようやく飛んできたものの正体が分かった。

「……炎の……剣…」

 小悪魔がゆっくりと消えてゆく小型のレーヴァテインを見つめながら呟く。

 遅かれ早かれこうなることはわかっていたが、

「…やっぱり……こうなっちまうか……」

 私は永琳の元に行き、大丈夫かどうかを確認しながら呟く。

 レーヴァテインは永琳の腹部を貫いているようだが、炎の熱ですでに塞がっている。この程度で死ぬ永琳ではないが、かなりきつそうだ。

「…大丈夫か!?…永琳!」

 私が倒れている永琳を起こそうとしたとき、大妖精の叫び声が聞こえてくる。

「魔理沙さん!!」

 私が振り返ると赤く光る瞳が目の前にあった。

「…っ…!?」

 炎で揺らめくレーヴァテインがこちらに向けて突き出された。

 自分に刃物が入る瞬間を見るときほどの苦痛は他にはないだろう。私は、喉を震わせて絶叫していた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十四話 小さな強者

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

駄文です。

それでも良いという方は第三十四話をお楽しみください。


 金色の髪の毛、赤色の瞳、赤い洋服、背中から生えた吸血鬼の持つ羽とは似ても似つかない羽の骨組みに、ひし形の様々な色のクリスタルが釣り下がられているように宙に浮いている。

 そして、身の丈は私の四分の三ほどの見た目は幼女のフランドール・スカーレットは私に向けてレーヴァテインを突き出した。

 揺らめく炎の中に何か固形物があるのではないかと思うほどに、私の体はレーヴァテインに容易く貫かれる。

「っ……あ……!!」

 天子と違い、数百度か数千度かは知らないが熱を感じ、私のレーヴァテインと接している部分が焼かれ始め、喉を震わせて叫んでいた。

「魔理沙さん!!」

 大妖精が先に動いた。

 瞬間移動で急接近した大妖精はフランドールに向けて大量の弾幕を放つ。

 だが、天狗に匹敵する速度で縦横無尽に動かれてしまい、大妖精の弾幕は一つも当たることもなく飛んでいく。それでもフランドールを引き離すことには成功して、フランドールは一度私たちから距離を取った。

「魔理沙さん!永琳さん!」

 大妖精がすでにボロボロの私たちに向けて走ってくる。

「私は大丈夫だ……それよりも永琳を見てやってくれ」

 私は腹に刺さったレーヴァテインを手が焼けるのも構わずに掴み、魔力を流して安定してレーヴァテインの形を維持していたフランドールの魔力の流れを乱し、消滅させる。

 一息つき、貫かれた腹を押さえながら立ち上がると、フランドールに牽制を与えてこちらに近寄らせないようにしていた小悪魔の方向にできるだけ早く走り寄る。

「…魔理沙さん、これは身内の問題です……妹様とは私が戦います……皆さんは先に進んでください」

 小悪魔はフランドールに向けて連続的に弾幕を放ちながら呟く。

「……なあ、小悪魔…あれが見えないわけじゃあないだろ?」

 私は言いながらフランドールを見ると、弾幕よりも圧倒的に速く動きながら余裕で遅く動く弾幕を避けている。

「…遊んでやがる……大人数でやった方が確実だ」

「…しかし…」

 小悪魔が渋ってくる。身内の問題は身内で解決したいのだろう。気持ちはわかる。

「堅いこと言うなよ…接近戦はお前しかできん…私は援護に徹する……そこは譲れないぜ」

 私が言いながら弾幕を放ち、近寄ろうとしたフランドールを遠ざける。

「……」

「…お前も私たちの主戦力なんだ……壊されたら困るんだよ」

 私が言いながらレーザーを放つと、フランドールはそれをレーヴァテインで消し飛ばした。

「…私が負ける前提ですか……」

 小悪魔がこちらをじろりと睨む。

「…無い話じゃあないぜ」

 私が呟きながら肩をすくめたとき、フランドールがレーヴァテインをこちらにむけてぶん投げた。

「あぶな…!」

 私が横に避けると、さっきまで心臓があった位置をレーヴァテインが紙一重で通り過ぎる。

「魔理沙さん!…来ますよ…!」

 小悪魔が身構え、私は箒に乗って二人から距離を稼ぐ。いつでも援護できていつでも助けに入れる位置に私は陣取る。

 相手は武器を持っているとは言え、素人同然の相手に小悪魔が負けることはないだろう。何もなければ、

「……」

 私は手先に魔力を込めながら永琳たちの方を見ると、永琳は自分の治療を始めている。

 あっちは問題はなさそうだ。問題があるとすればこっちだ。

 すでに戦闘が始まり、フランドールの横に振り回したレーヴァテインを小悪魔がしゃがんでかわした。

 一気に距離を詰めようと小悪魔は走るが、素早いフランドールは小悪魔の手が届かず自分のレーヴァテインだけが当たる間合いを保っている。

 残像を残す速度でフランドールが自分を追う小悪魔に向けてレーヴァテインを振る。

 私はすぐさま手に集めていた魔力を使ってレーザーで精密射撃をするために、集中して狙い撃ちだした。

 それがフランドールのレーヴァテインにちょうど良く当たり、レーザーを構成している魔力の粒子や一緒に飛ばしている光の魔法を受けて、剣を振る速度が劇的に遅くなって小悪魔が避けれて、さらに近づくだけの時間稼ぎができた。

 小悪魔がフランドールのレーヴァテインを持つ右手を右手で掴み、捻りながら空いたもう片方の左手でレーヴァテインを叩き落とした。

 右手で掴んでいた手を左手に持ち替え、右手でフランドールの胸ぐらをつかんでフランドールに足をかけて後ろに転ばせた。

 小悪魔はフランドールを拘束することで戦闘不能不能にさせるつもりなのか、掴んでいたままのフランドールの手を背中側に回させようとした。

「よし!」

 私はガッツポーズをしながら小悪魔に近づこうとしたとき、何かがおかしいことに気が付いた。

 押さえつけているはずの小悪魔が血を口から吐き出しながらゆっくりと地面に倒れたのだ。

「小悪魔っ!?」

 倒れた小悪魔に近づこうとしたとき、起き上がったフランドールがこちらに向かって小悪魔を蹴り飛ばしてくる。

「か……はっ……!!?」

 小悪魔が腹を抱えてうずくまる。

「…っ!」

 私は、フランドールがこちらに来る前に親指に噛みついて指から出血させた。

 すぐさま小悪魔に血を飲ませようとすると、素早い動きで接近してきたフランドールの蹴りが私の左肩に直撃する。

「ぐっ…!?」

 右肩の骨が鎖骨ごと砕け、私は吹っ飛ばされて近くに建てられていた小屋の壁に背中を打ち付けてしまう。

「ねぇ……もっと遊んでよ……楽しませてくれないなら…壊しちゃうよ?」

 怪しく目を赤く光らせながら倒れている小悪魔の喉元にフランドールが足をのせ踏みつける。

「くふ…っ…!」

 小悪魔が血を吐き出し、苦しそうに呻く。

「…やめろ…ぉっ…!」

 私がそう叫んだ時、大妖精が瞬間移動をしてフランドールに飛びついた。

「やめて!!」

 全体重を乗せた大妖精の飛びつきにフランドールがよろけて小悪魔に乗せていた足がどかされ、さらに小悪魔に足をのせて片足で立っていた状態に近かったため、バランスを崩したフランドールが背中を地面に打ち付けられる。後先考えずに飛び掛かったのか、大妖精もフランドールの上に転ぶ。

 大妖精はすぐにフランドールから手を放して逃げようとしたが、フランドールの腰回りから放した手を掴まれてしまう。

 弾幕で攻撃する間もない。

 大妖精の顔が凍り付き、フランドールが笑みをこぼす。

「やめろ!」

 私の静止の言葉を無視してフランドールはレーヴァテインを使い、大妖精の胸ぐら辺りから左足の太ももまでを切り裂く。

 ある程度は炎の熱で焼かれたが、焼かれなかった部分から真っ赤な血が滲め初めて、青色の服が対照的な赤色に染まる。

「ああああああぁぁっ!!?」

 大妖精がゆっくりと地面に膝をついてしまう。

 あれでは逃げることができない。

「あはははっ!!」

 フランドールが楽しそうに笑いながら今度は首を切り落そうと、大妖精の首元にレーヴァテインを添えた。

 大妖精がレーヴァテインの熱気に顔を背ける。

「止めろって言ってんだろうがぁぁっ!!」

 箒に乗らずに魔力だけを流して、前に進む推進力だけを得てフランドールに向けて突き進む。

 全速前進で突き進む私は箒から振り落とされそうになるが、筋力を強化して箒の柄をしっかりと握りしめる。

 フランドールがすぐに接近を開始した私に気が付き、こちらに向けてレーヴァテインを振るが、私の箒を持っている左手の二の腕にレーヴァテインは刺さってしまい、振ることができなくなる。

 だが、全力で進む私はそう簡単には止まれない。超高温の炎に焼かれる痛み、レーヴァテインの根元に近づくほど大きくなる炎の剣に切り裂かれる痛み、切り裂かれた断面をレーヴァテインが触れて動くことで生み出される痛み、それらの激痛が一度に襲い掛かってきて、私は叫びながらフランドールの頭部に手を伸ばして右手で掴み、そのまま前方に進む。

 全速力で進んでいるため、ほぼ一瞬で三十メートル後方にある小屋にたどり着いた。異様なほど早く過ぎていく視界に私は恐怖するが、今はそっちよりも仲間を失ってしまうという恐怖が私の中で渦巻き、他の恐怖を打ち消す。

「ああああああああああああっ!!」

 私は雄叫びを上げながらフランを前方の小屋の壁に叩き込んだ。

 壁はあっさりと壊れてしまい、辺りに大小さまざまな木片などがまき散らされる。

 そのまま進み続けて大きな木の柱、柱の直径が三十センチを超える大きさの柱に、私は掴んだままのフランドールの頭をぶち込んだ。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。

そろそろ、中盤の後半に差し掛かってきました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十五話 小さな強者 ②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

駄文です

それでも良いという方は第三十五話をお楽しみください。


 フランドールの頭部を掴んだまま太い柱に叩き込むと、私の全速力で進んだ時の運動エネルギーと腕を押し出すエネルギーがフランドールの頭部から柱に伝わり、柱の一部が砕けて折れて、くの字に大きく折れた。

 私の二の腕に根元まで突き刺さったレーヴァテインが鎮火してなくなると、痛みはズキズキと感じるが、刺された時よりは幾分かましである。

 それもより、今さっき叩き折った柱はこの壊れかけの小屋を支えていたものだったらしく、小屋が倒壊を開始し始める。

「…やべぇ…!」

 フランドールから手を放すと、手で覆っていて見えなかったフランドールの素顔が見えた。

 楽しそうに笑いながら私に向かって手を伸ばし、逃げられないように私の服を掴んでくる。

「…っ!」

 完全に油断していた。レーヴァテインが鎮火したから気絶したのかと思ってしまっていたのだ。

「逃がさない。…せっかく楽しくなって来たんだから」

 フランがにこっと笑顔を私に向ける。

「くっそ…」

 私はフランが掴んでいる手を振り払って屋外に出ようとしたが、掴まれたことにより出遅れた私は倒壊する小屋に巻き込まれるしかなさそうであり、体を魔力で最大まで強化して落ちてくる天井に備えた。

 ドォッ!

 天井に使われていた木材の重量に耐えることができず、私は倒れる。大量の折れたり曲がったりして落ちてきた木材が私の上に覆いかぶさっていき、外が全く見えなくなってしまう。

 だが、フランドールも一緒に埋もれてしまったのは確実であり、皆のところに戻って体勢を立て直すなら今が絶好のチャンスなわけだが、落ちてきた木材が刺さったり重たくてどかせない。そのせいで全く身動きが取れない。

 後方にいるはずのフランドールがいる位置から木材の擦れたり折れたりする音が漏れ始める。

「…っ…くそ…!」

 私は罵りながら手からレーザーを撃ち出すと、いくつかの木材を吹き飛ばすことができた。

 前方に外まで出れるトンネルができた。それはギリギリで崩れずに保っているため、移動は迅速にしなければならない。

 レーザーであぶられた部分が焦げたりして蒸気を上げているが、正面にできた小さな空間に私は魔力で体を強化して無理やり滑り込ませた。

 高温の木材に皮膚が当たって焼かれて飛びのきそうになるが、私は我慢しながら外に向かってはい出る。

「魔理沙!」

「魔理沙さん!」

 見るからに大丈夫そうではない永琳と小悪魔が私がレーザーで開けた穴から出した手を掴んでくれた。

「魔理沙!引っ張り出すわよ!」

 永琳が言うと、小悪魔と掴んだ私の手を引っ張り始める。

 二人がかりで引っ張ってくれたおかげで私の体が胸のあたりまで出た時、私の体が外に出ようとする動きが止まる。

「…フラン…!!」

 肩越しに振り返ると、フランドールの小さな手が私の足を掴んでいるのが見えた。

「…くそっ…!」

 私も自分の力で抜け出そうとするが、首の位置まで倒壊した家の中に引きずりこまれてしまう。

 負傷した小悪魔と永琳ではフランドール相手に私を引っ張り出せないらしい。

 刺された永琳の傷口が早くも開いて出血し始める。

「…魔理沙!…あなたも……早く出て頂戴…!」

「…やってるよ…!」

 私が言うと、今度は顎のあたりまで木材の瓦礫の中に引きずり込まれた。

 その間にも後ろからフランドールのクスクスと笑う声がわずかに聞こえてくる。

 こっちは命懸けだというのにフランドールは遊んでいる。そんなやばいとしか言えない感覚なのだろう。

「ごほっ!!?」

 小悪魔が口から血を吐血し、私を掴む手が緩んでしまい。私は木材の瓦礫の中に一気に引きずり込まれかける。

「魔理沙…!」

 永琳が掴んだ手を放さないように握りしめてくれるが、このままでは二人まとめて引きずり込まれてしまうため私は手を放した。

 永琳の表情が驚きを示したと思ったときにはすでに木材で作られた私が作ったトンネルを通ってフランのいる位置に連れてこられた。

 フランがいた位置は、私が叩き折った柱が一部機能していたらしく少し広めの空間が確保されているがいつ崩れるかわからない。

 仰向けの私の首根っこをフランドールに掴まれ、辛うじて潰れていない一部の屋根を支えている柱に私を叩きつけた。

「ぐっ…う…」

 私が押さえつけられている柱が歪むいやな音がこの狭い空間に響き渡る。

 私を引きずり込んだ場所から小悪魔たちが来ないようにフランはありとあらゆるものを破壊する程度の能力で破壊し、入り口を閉ざしてしまう。

 それに影響されて10メートルほどの空間があったのが天井が崩れて半分ほどになってしまう。こうなってしまったら天井か壁を破壊して以外に外に出る方法が無くなってしまう。

「…ぐっ…」

 私は周りに影響を与えない程度にまでレーザーの大きさを絞り、フランドールに向けてレーザーを撃つ。

 しかし、フランが掴んでいるのは私の首根っこなわけであるため、私の後方にフランドールがいるわけだ。後ろ向きにレーザーを撃ったことなどそうそうないため、狙いが大きくそれてあらぬ方向にレーザーは飛んでいく。

 フランがそんな私に後ろから膝蹴りを食らわせて柱から剥ぎ取り、地面に転ばせられる。

「あっ……ぐっ…!?」

 腰のあたりに当たったフランドールの蹴りは私の座骨を簡単に砕いた。

 仰向けに倒れ、骨を砕かれた私はそう簡単には立ち上がれない。

 ビリビリと電流を流されているように足腰が言うことを聞いてくれない。

「うふふっ……クスクス…」

 フランドールが笑いながら立ち上がれずに這いずって距離を取ろうとした私の背中に覆いかぶさってくる。

 両手首を上から掴まれて床に動かせないように押し付けられた。

 私のさらに拘束するように腰の位置にフランドールが座り、砕かれた座骨の痛みに私は呻いた。

「ぐ……っ…!」

 フランドールが顔を下げて私の首筋近くで吐息を漏らした。生暖かいフランドールの吐息が私の首筋にかかり、私は何をされるのか何となく察してしまい、ゾクリと寒気が走る。

 フランドールが私の首筋を舌でペロッと舐めた。

「…っ…!」

 抜け出そうとしても万力で絞められているように私の掴まれている手が動いてくれない。そうやって時間を無駄にしているうちに、フランドールが口を開け、鋭い犬歯を私の首筋に突き立てた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 三十六話 小さな強者 ③

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第三十六話をお楽しみください。


フランドールが私に覆いかぶさり、

「……あああああぁぁぁぁっ!!?」

 フランドールの歯が私の強化した私の皮膚を簡単に食い破り、あふれ出てきた血を飲み始める。

 私よりも軽いはずのフランドールに両手を拘束され、振り払うこともできない。

「う……あ……!」

 私の腰の少し上のあたりに座っているフランドールの柔らかい唇が私の首筋を這う。

 フランドールが私の血を吸い上げ、大量の血を飲み込んだ。

「…あぁぁぁっ…!」

 やばい、何のステータスを上げたにしろ、フランドールが強くなったのは変わらない。

「……はぁぁぁっ…………!」

 フランドールが嬉しそうに首筋から口を放して吐息を漏らす。

 フランドールの力ではないが生命力、そう言った物が増幅したのを感じる。

 血の能力は私が何のステータスを上げるかを決めることができて、今回、フランドールに血を飲まれた時に私が何のステータスを選択したか。

 それは再生能力。

 ただでさえ生命力が高い吸血鬼に再生能力が上がってしまえば私たちには手に負えないかもしれない。

 血の能力の効果時間が切れるまで私は、私は逃げなければならないだろう。

「ふふっ……」

 再度フランドールが私の首筋に唾液や血で湿った舌を這わせ、噛みついた。

 ズキッ!!

 と首筋に痛みが走り、すぐにフランドールが私の血を舐めて飲み始める。

 何度も逃げようと試してみるが、食いちぎられるのではないかと思うほどの力で首筋に噛みつかれてしまう。

「うぐっ…!!」

 だが、後ろから血を飲むために噛みつくのは噛みつきづらいらしく、フランドールは私の仰向けに押さえつけていた状態から上向けにすると、さっきのように私を押さえ付け、首筋に噛みついてくる。

 だが、さっきよりは状況は良い。私は手首を曲げてフランドールに右手のひらを向けた。大量の血を飲まれたせいで少し貧血が出てきているのか、くらくらするが我慢して私は短い魔法のスペルをフランドールに聞こえないように口内詠唱を済ませ、いつものように弾幕に魔法をのせてぶっ放す。

 フランドールの華奢な左腕を弾幕が切断した。

 したはずだった。

 その光景を見て私の思考回路が停止しかける。

 一秒にも満たない短い時間でフランドールの腕が再生してしまったのだ。

「…………へ…?」

 驚き、唖然としてしまっている私の血をフランドールが首筋から急激に吸い上げ始めた。

「…うあ………あぁぁっ…!!」

 急な速度で体の血が無くなっていく、頭に血が回らなくて脳が酸欠状態となって失神してしまいそうだ。

 ゴクンッ…

 フランドールが血を飲み込み、私の首筋から口を放し、血生臭い吐息を漏らして私に視線を向ける。

 ゆったりとした動きで倒れっている私を拘束していた両手をフランドールが手を放し、レーヴァテインを作り出す。

 強い熱を発するレーヴァテインが私に向けられた。

「……っ…!」

 レーヴァテインの放射する熱が熱くて、私はじっとりと嫌な汗をかいてしまう。

 いつ刺されるかわからない恐怖が上乗せされて、冷や汗が止まらない。

 だが、その時すでに私は口内詠唱を終わらせ、魔法を発動しながらレーザーをフランドールに向けてぶっ放した。

 手に魔力を込めた段階でフランドールにレーヴァテインを腹に突き刺されたが、私は関係なくレーザーを撃つ。

 光というものにもエネルギーが存在し、地球に毎日降り注いでいる光のエネルギーは、一年間でビル一つを吹き飛ばすぐらいのエネルギーにはなると聞いたことがある。

 つまり、それに匹敵する光エネルギーをフランドールに放出すれば、おのずとフランドールは上に向かって吹き飛ぶわけだ。

 私の撃った弾幕にフランドールの体が浮き上がり、天井にその小さな体を強く叩きつけられる。その衝撃により、辛うじて支えることのできていたこの狭い空間が一気に崩れ始める。

 私は起き上がりながら弾幕を消し、宙にいるフランドールに向けてバックから取り出した爆発瓶を握りしめ、魔力で最大まで強化してフランドールに叩きつけた。

 瓶が砕けると同時に青白い閃光が視界を塗りつぶす。

 ドォォッ!

 すさまじい爆発に崩れかけていた小屋は内側から膨れ上がって爆発した。

 爆発によって私も吹き飛ばされるが、屋根や壁の瓦礫によって埋もれていた箒を見つけることができた私は箒に乗って逃げることができた。

「魔理沙!大丈夫!?」

 永琳の声が聞こえる。

「ああ!でも、相当やばいぞ!」

 私は言いながら永琳と小悪魔の元に降りた。

 二人はかなり負傷していて、かなりきつそうだ。

「これ以上にやばいことって…どうしたんですか!?」

「…フランが私の血を大量に飲んだんだ……再生能力が上がって腕がほぼ一瞬で再生したんだ」

 私が言うと二人は絶句して目を見開く。

 その時、後方からフランドールの歩く足音が聞こえてきた。

「…っ…!」

 私は即座に後ろを振り向き、レーザーをぶっ放す。

 多少狙いが外れてしまい、フランドールの足を撃ち抜くが、レーザーが消えるころにはすぐにフランドールの傷は完全に消えていた。

「…なんですかこれ……もう、反則じゃないですか……!!」

 小悪魔が言いながら小悪魔がいつでも襲ってきても対処できるように構える。

「…小悪魔、見たところお前が一番重症だ……一度永琳と退いて体勢を立て直してくれ」

「…治療なら永琳さんに受けました……私は大丈夫です」

 私が言うが小悪魔は一歩も引かない。

「…今は私の血を飲ませてる暇もないんだぞ」

「私は大丈夫です……それよりも妹様を倒さないといけません」

「こっちも手伝ってほしいのは山々だが、負傷者がいても…」

 私が話している最中にフランドールが走って飛び掛かって来た。

「っち…!!」

 私は舌打ちしながらレーザーを放とうとしたが、視界には伸ばしたはずの左手が不自然な方向から伸びていて、宙を舞っているように見えた。

 いつの間にか、私の二の腕から先の腕がレーヴァテインで切断されたのだ。

「ぐっ…!!?」

 左腕を押さえようとしたとき、右方向からレーヴァテインが振られる。

 頭の高さをフランドールがレーヴァテインを横に振ってくるが、当たる寸前に肩を掴まれて後ろに下がらせられた。

 レーヴァテインの熱が喉を炙る。

「…負傷者がいてもなんですか…?魔理沙さん」

 小悪魔が言い私を抱き寄せながらフランドールに向けて連続的に弾幕を放つが、レーヴァテインで弾幕を両断されて消えて行くが、時間稼ぎにはなった。

「…わかったよ……やってやろうぜ…小悪魔」

 私は切断された左腕を押さえながら言った。

「……はい」

 小悪魔が言い、私はフランドールに向き直った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十七話 作戦開始

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

駄文です。

それでも良いという方は第三十七話をお楽しみください。


 永琳がフランからは死角の位置に移動して矢を放つ。

 だが、フランドールが空を飛ぶには非効率的過ぎる翼を広げて上昇したことにより矢は空を切る。

 私はそのうちに右手の親指をかみ切り、溢れてきた血を舐めて飲み込んだ。血を飲み込むとすぐに腕が修復され始める。

「小悪魔も早く回復しないと!」

 私が再度血の力で治った指をかみ切ろうとしたとき、フランドールが血の匂いにでも反応したのか、ものすごい勢いでこちらに向かってくる。

 私は口から手を放し、バックに手を突っ込んでとあるものを取り出して上に投げた。

 それは鏡、しかし、鏡と言ってもただの鏡ではない。特殊加工をしてあるもので小さな何枚もの鏡を少しずつ違う角度で接合してある特殊な鏡だ。

 私はそれに向けて最大出力でレーザーを放った。

 いつものように光の魔法が載せてあるレーザーは光の性質を強く受け継いでいて、太いレーザーがそれぞれの小さな鏡に反射して大量の小さなレーザーが鏡からフランドールの方向に向けて発射される。

 フランドールがいた場所は大量の小さな小石を投げつけたように隙間などがないほどにレーザーで埋め尽くされている。

 さらに、投げたことにより常にゆっくりと回転する鏡によってレーザーは不規則に撃ち抜き、焼け焦がす位置を変える。

 これに当たらないやつはそうそういないだろう。紅白巫女が一人いるが、

 私はレーザーを撃つのをやめ、落ちてきた鏡をキャッチせずに地面に落とした。これをやった後は鏡はレーザーに乗せた光の魔法の光エネルギーで熱せられて熱を持つからだ。

 フランがいた位置に視線を向けると、あまりの高温に陽炎が出ていて見つけづらい。

「……!」

 だが、すぐに見つけた。傷を全く負っていないフランドールが揺らめく陽炎の中、立ち上がる。

「…やはり一撃一撃が軽いと話にならないか」

 わかってはいたが、こうも全く効果がないとなると、本当にお手上げだ。

「…どうするよ……圧倒的火力不足だぜ」

 私は言いながらバックの中を確認する。私の視線の先にはミニ八卦炉が鞄の一番そこでほかのマジックアイテムに埋もれている。

「……実際のところ、火力がないわけじゃない…」

 私は言いながらフランドールに向けてレーザーを撃ち出す。

「…じゃあ…それをやるしかないじゃないですか」

 小悪魔が言いながら弾幕を避けるフランドールに向けて弾幕を撃ち、少し下がる。

「…それがな、いくつか問題が浮上する…」

 私は言いながらフランドールが投げたレーヴァテインを身を投げ出して転がってかわした。

「…魔理沙さん!問題って何ですか!?」

 小悪魔は少し横に動いてかわしていたらしく、私とは違いすぐに攻撃に転じて私が体勢を立て直す時間稼ぎをしてくれる。

「…一つは今のフランドールに効果が望めるのかわからない。こればっかりはやってみないと分からないが、再生能力の方が高い可能性がある」

 私も矢を放つ永琳や小悪魔に続いてレーザーを出力を最大で放った。

「…もう一つは、これをやれば私の魔力をほぼすべて使い切る……もし外したり、当たっても効果がなければ、その時点で私は終わりだ………どうする?」

 私が聞くと、小悪魔はこちらをちらりと見てから言った。

「……。やるのは魔理沙さんです……魔理沙さんが作戦をやるかやらないかを決めてください!」

 小悪魔が言いながら接近してきたフランドールを迎え撃つ。

 フランドールのレーヴァテインを受け流し、すぐに反撃に転じる。

 だが、目に見えて小悪魔の動きが悪くなっていくのがわかる。さっきフランドールにありとあらゆるものを破壊する程度の能力で何かを壊された。臓器系の物を壊されたのだろうか。

 私はすぐに小悪魔の方に走り出すが、フランドールの膝蹴りが小悪魔の腹にめり込むと、小悪魔は顔を苦痛にゆがめてそれだけで地面に崩れ落ちてしまう。

「小悪魔!」

 それ以上の追撃をされないように私はフランドールに飛び蹴りをかました。

 全体重を乗せてさらに魔力で強化した私の蹴りを受けてそのまま吹っ飛んでいくと思ったが、空中で宙返りをして空中でフランドールは静止する。

「…大丈夫か!?」

 私は起き上がろうとした小悪魔に手を貸そうと手を掴んだ。だが、掴んだ小悪魔の手を放してそれどころか突き飛ばした。

「なっ…!?」

 小悪魔が驚いた表情をして後ろに尻もちを着くが、その位置ならフランドールからは家の壁で死角になっていて安全だろう。

「ギュッとして」

 フランドールが私が思った通り、ゆっくりとこちらに向けた手を握りしめた。

「どっかーん」

 フランドールが私に笑顔を向けながら手を完全に握ると、私の右腕が大量の血液、筋肉片、砕けた骨片、皮を四散して周りにまき散らした。

「ああああああああっ…!!?……ぐぅ……ぁぁっ!!」

 右腕の傷口を押さえながら私は膝を地面についてしまう。逃げなければさらに追撃を受けてしまうというのに、フランドールにわざわざその身をさらしてしまう。

「…魔理沙さん!!」

 私が突き飛ばした時の腹部の鈍痛が酷いのか小悪魔がうずくまりながらも、手をこちらに延ばしてくる。

 私はその手に向けて無意識のうちに血まみれの左手を伸ばしていた。

 永琳は援護できる位置を探していて今は援護できない。

 流石に今のうちに攻撃を仕掛けてくるかと思ったが、フランドールは私と小悪魔のやりとりを楽しそうに眺めている。

 小悪魔の手が指に触れ、小悪魔が私の手を血をつくのも構わずに力強く握ってくれた。

 小悪魔が私のことをフランドールの視線から外れるように家の陰に引き寄せられた。

 フランドールが放った弾幕がいくつかの壁に当たって木の表面を削り、木片が散る。

「…くっ…!」

 小悪魔が一度弾幕で応戦した後、フランドールから放たれて壁に当たる辺りから体を引きずりながら移動した。

「…魔理沙さん。今のうちに早く回復してください」

「…ああ……わかった」

 私は血が足りなくなって回らない頭をフル活動して、左手の指にこびりついている血を舐め取って飲み込んだ。

「……小悪魔も……早く」

 私の伸ばす左手の指についた血を小悪魔は少し躊躇しながら咥えて舐めた。血を飲み込むと、小悪魔の傷が治り始めているのか、顔色はだいぶ良くなってきた。

 私の右腕も既に出血が止まり、骨や筋肉などの組織が再生を始めている。

「……小悪魔、マスタースパークでフランドールをぶっ飛ばす……誘い出しと誘導を永琳と協力してくれ、私はいる入り口の付近まで戻る。あの辺りは少しこの場所よりも天井が低いし、幅も狭い……当てられる確率がグンと上がる。

「…わかりました……魔理沙さんはとりあえず身を隠して退いてください。永琳さんには作戦の詳細を私から伝えます」

「…わかった…頼んだぜ…」

 私が入り口に向けて、小悪魔が援護のために移動している永琳の元に行こうと走り出そうとしたとき、フランの笑い声が上から聞こえる。

「…!!?」

 私が見上げた時、永琳の飛んできた矢を普通にキャッチして握ってへし折ったところのフランドールが屋根の上にいた。

 ふわりと緩やかな動作で屋根から降りてきたフランドールがレーヴァテインを使わずに私に向けて鋭い爪をちらつかせた。

「くそっ…!」

 右手を向けるが、それを手で掴めるほどに接近していたフランに私の手が掴まれてしまう。

「…!」

 まだ左腕は治っていない。

 殴ろうにももうすでに私はフランドールの手に生えている鋭い爪で喉を掻っ捌かれていた。

「あっ……!?……ごぼっ…!」

 喉の切り裂かれた部分から血が気道に入り込み、私はせき込んでしまう。

 喉から逆流してきた血が口から吐き出され、地面に弧を描いて落ちる。さらに喉元からも血が溢れ、服を血で濡らす。

「……!!」

「魔理沙さん!」

 すぐ近くでフランドールに私がやられたことを察知した小悪魔が弾幕をフランドールに撃ち始める。

「……ふふ……ひひひ」

 早くも崩れ始めた私よりも小悪魔の方が楽しそうと判断したのか、フランドールは私の掴んでいる手を放して小悪魔の方に向かっていく。

「……」

 喉から溢れてくる血を飲み込む、するとすぐに常識ではありえないほどの速度で喉の切り傷が回復した。

「…小悪魔…すまん……」

 すでに見えなくなってる小悪魔に向けて私は呟きながら、入って来た洞窟の方向に向かって走り出した。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十八話 うまくいかないのが作戦

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第三十八話をお楽しみください。


「はぁ…はぁ……!」

 私は肩で息をしながら走り回る。草が一本も生えていない地面がむき出しだったり舗装されている地面を踏みしめて走る。

 口を閉じる間もなく息を吸ったり吐いたりしているせいで口の中が嫌に乾く。でも、乾く理由はそれだけではないかもしれない。

 走ったことにより、筋肉内でブドウ糖の代謝が盛んにおこなわれているが、その残りカスの乳酸が足の疲れの原因となり、もつれそうになるが必死に足を動かす。

 オレンジ色の光が私の皮膚を焼く強い熱を背後から来ているのを察知し、私は頭を抱えて地面に伏せた。

「…っ…!!」

 真後ろにいる妹様に投げられたレーヴァテインが私の真上を通過して当たらなくなると同時に、私は妹様から余計な追撃を食らわないように飛びのき、家の陰に隠れた。

 私の隠れた家の壁に弾幕やレーヴァテインが撃ち込まれ、木製の壁が早くも炎が広がり始めている。

「はぁ…はぁ…!」

 息を切らしながら私はまた走り出す。裏路地をジグザグに曲がりながら走る私の真横の壁が破壊され、そこから妹様が現れる。

「なっ……!!?」

 砕けた木片や木材が私に降りかかってくるがそれは大した問題ではない。勢いよく飛んできた木片が目に当たる軌道を描いていたため、顔の前で交差させた私の腕に木材が突き刺さる。

 魔力強化が足りなかったようだ。

「…ぐっ…!」

 腕を伸ばしてきた妹様に胸倉を掴まれ、妹様がいる家の中に引きずり込まれると同時に後方に投げ飛ばされてしまう。

「…うっ…!?」

 魔力的なものではない。自分の意思とは関係なのない物理的に飛ばされた速度が速すぎて制御できない。

 ドゴォッ!!

 部屋の反対側を始めに破壊し、外に再度出た。

 投げ飛ばされた勢いはその程度では死なず、通りの反対側の家の窓を突き破ったところでようやく魔力でのブレーキがかかり、ガラスと木片が散らばっている地面に転がり込んだ。

「……くっ…!」

 魔理沙さんとの待ち合わせの場所とは反対方向に飛ばされてしまった。

 私が魔理沙さんの元に言って妹様を誘導しなければ、この作戦は成り立たない。

 受け身を取ってすぐさま起き上がり、逃げようとするがレーヴァテインが回転しながら私が入って来た窓から投げ込まれる。

「へ…?」

 投げ込まれたレーヴァテインはさっきまでとは違い、ずいぶんと遅いスピードで床に突き刺さると、魔力で圧縮されていたレーヴァテインの炎が数百倍に膨れ上がり、爆発して四方八方に炎をまき散らす。

 一の面積の物が一瞬で100になれば、空気は押し出されて爆風となる。ダイナマイトや魔理沙さんの使う爆発瓶のようなものだ。

 爆風に足元をすくわれて体が宙に舞い、もみくちゃになりながら私は広がってくる炎に包まれる。

「う……あぁぁっ!!?」

 呼吸をすれば口腔内や粘膜、気管支、肺を熱と炎でやれる。

 体を魔力で覆って、さらに強化しても防御できないほどの炎の威力に私はされるがままになってしまい、家の壁を突き破って何十メートルも吹き飛んだ。

 服と皮膚が一部焼け焦げ、ヒリヒリとした痛みを伴うが妹様を相手にいまだ五体満足で済んでいるだけでましと言えるだろう。

 一部分の服が溶けて蒸発し、私の体から蒸気が上がる。

「……くっ…」

 妹様から私が見えないように走り出すが、私は木片が刺さって出血してしまった。おそらくそれらの血の匂いをかぎ分けているのだろう。見えない位置にいるはずの私の位置を正確に見つけてくるのはそのためだ。

 このままではいつまでたっても魔理沙さんの場所に行けない。

 そう思ったところで、私は気が付く。私が魔理沙さんの元に行けないのではない。行かせてもらえないのだ。妹様がそういうふうに立ち回っているのだ。私たちの作戦に気が付いている。

 それを楽しんでいるのだろう。私が魔理沙さんの元に行ったら負け、行くことができなかったら勝ちそんな風に、

「…っ!」

 私は走り出し、高く飛んで屋根の上に飛び乗る。

 家の屋根をジャンプして一直線に魔理沙さんの方に向かう。今の妹様なら絶対にこっちに来る。その方が楽しいから。

 三つめか四つ目の屋根に飛び乗った時、私の足元の屋根を破壊して妹様が飛び掛かってくる。

「なっ…!!?」

 妹様は私のことを腕の上から抱きついて拘束すると空に向かって浮き上がり始めた。

 それと比例するように妹様が私を拘束する腕の力が段々と上がっていく。

「うっ……あがっ………!!……妹……様……!!」

 胸の高さの位置を妹様が締め付けるため、肋骨がいびつに歪んで嫌な音を上げ始めた。早く抜け出さなければ折れる骨もなくなってしまう。

 砕けた肋骨が皮膚を突き破り、司書の服が赤く染まっていく。

「~~~~~~~~っ!!」

 反対側の体内では肺を外側から突き破ってきた肋骨の骨の影響で、肺に血が溜まって苦しくなってくる。

 妹様に締め付けられているせいで血を吐き出すこともできない。このままでは肺に血が溜まり、窒息死する。この状況では溺死と変わらない。

「……あ……ぁ……が……っ…!!」

 絶叫すらも出なくなってきた。目の前に、周りに空気があるのに息が吸えない恐怖。背筋が凍りそうだ。

「小悪魔!!」

 永琳さんが私を掴んでいる妹様に向かって矢を放つ。

 横から飛んできた永琳さんの矢は、妹様の首を串刺しにした。細い妹様の首を矢が貫通し、真っ赤な血が鏃や首にくっついている木の部分にも血が付着している。

 妹様が右手を私から放し、矢を引き抜いた。出血する間もなく妹様の矢の傷口が綺麗に再生した。

 私はそのすきに解放された左手を妹様の私を掴んでいる手を放させ、突き飛ばした。

 肋骨が折れて肺を収縮できない。それは肺の中にたまっている血を吐き出すことができないことを意味している。

 魔理沙さんの手を掴んだ時にこびりついた手のひらの血が目に入り、乾いた血を舐めて嚥下した。

 効果はあったようで、いびつに歪んでいた私の胸部が少し経つと正常に戻り、肺の奥からすべての異物を吐き出すように咳き込むと、大量の血が吐き出された。

「げほっ…!!……ごほっ…!!」

 押さえた手に余るほどの喀血した血がこびりつく。

「う……はぐっ…」

 ようやく収まり始めた咳をしながら、私が下がると突き飛ばした妹様がさらに私に接近してくる。

 妹様に弾幕を浴びせようとしたが、動きの速い妹様に私はついていくことができない。

「……っく…!」

 魔力で空を飛ぶのを解除すると、魔力で浮遊力を得ていた私の体はすぐに落ちた。

 私は首を跳ねようとしていた妹様のレーヴァテインが私の頭上を通りすぎる。

「っ……!」

 私の体は地面に向けて降下していく、いつの間にか下にいる永琳さんが上にいる妹様に向けて矢を放った。

 落ちていく私の真横を矢が通り過ぎ、上の妹様に直撃する。

 永琳さんは落ちてきた私のことをキャッチしてくれたおかげで、地面に落ちずに済んだ。

「…永琳さん……」

「…大丈夫かしら?……へばった?」

「…い……いいえ…!…大丈夫です…まだいけます」

 私は魔力で魔理沙さんの血の力で治せなかった部分の傷を少しだけ治し、自分の力で空を飛んだ。

 魔理沙さんの方向に向かおうとしたとき、妹様が目に入った。厳密には持っている物にだ。

 妹様が笑いながら一枚のカードを取り出した。

 魔力を回路に流し込み、淡く光り出したカードを妹様は爪で切り裂く。

 キラキラと魔力が空気中で輝き、粒子となって消えて行く。それを妹様は眺めながら呟いた。

「禁忌『レーヴァテイン』」

 上に向けてかざされた手のひらに炎が発生し、柱のように燃え盛る。

 長さが数十メートル、幅は一メートルと少しある炎の柱はそのまま妹様の獲物となった。

「…うそでしょ…」

 あまりの大きさのレーヴァテインに永琳が絶句する声が聞こえた。私も動きを止めてしまうほどに妹様のスペルカードのスケールが違いすぎる。

「ふふ…」

 妹様はそう私たちに死神が死の宣告をするように、微笑んだ。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

忙しくなるため、投稿ペースが落ちます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第三十九話 無意識の少女

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

駄文です

それでも良いという方は第三十九話をお楽しみください。


「…………」

 軽く妹様からは二十メートルは離れているはずなのに、妹様が手に持つレーヴァテインの熱をひしひしと感じる。

 とんでもないほどの熱に私たちは顔をゆがめた。

 レーヴァテインの炎が天井に達していて、天井の岩石が熱で赤く染まり溶解を始める。

「せぇの!!」

 妹様はそのレーヴァテインを私たちに向かって振り下ろす。

「……っ!」

 私たちはとっくに移動を開始していたが、妹様のスペルカードの広すぎる射程距離に、私の体がレーヴァテインに包み込まれる。

「ああああああああああああっ!!?」

 魔力を使い全力で体を防御したが、需要と供給が間に合わず簡単に体を覆った魔力がはがされ、私は撃ち落とされた。ほぼ一瞬でレーヴァテインの中を通り抜けたというのにこの威力だ、私たちとはわけが違う。

 撃ち落とされた私は地面とたいした距離が離れていなくても、受け身を取ることができずに私は強い衝撃と共に地面に落ちた。

 通りの多少整備されている道のタイルを砕きながら私は地面を転がり、しばらくしてようやく止まる。

 燃え移った炎は落ちて地面を転がっていた時にある程度消えてくれたおかげで、私は残り火を手ではたき消すだけで済んだ。

「…げほっ……」

 少し気管が炎の熱で開けただれている。レーヴァテインを食らた時に息を少しだけ吸ってしまったのだ。

「……っ」

 土で汚れている体を持ち上げようとしたとき、後ろから弾幕などとは比べ物にならないほどのオレンジ色の光が私を照らす。

「くっ…!!?」

 私が振り向いた時、永琳さんの矢が妹様に当たるが妹様は気にも留めていない。

 このままでは殺される。

「…っ…!」

 私は妹様の方向を見て後ずさった時、妹様は巨大なレーヴァテインを振り上げた。

 反射的に目をギュッと閉じた時に、声が聞こえた。

「小悪魔!避けろ!」

 空中で箒を乗り捨てて魔理沙さんが現れる。

「マスタースパーク」

 魔理沙さんの持つミニ八卦炉が起動し、中央の白と黒色のマガ玉を合わせたような模様の上に光り輝く球が現れる。

 魔理沙さんは妹様のスペルカードを見てこっちに駆けつけてくれたのだ。

 私は魔理沙さんの言う通りにマスタースパークの射線上から逃れるように走り出す。

 魔理沙さんが持つこちらに向けているミニ八卦炉の前で球体が輝いていたが、こちらに向かって膨れ上がり、巨大なレーザーとなってこちらに突き進んでくる。

 この場所に到達するのにタイミングとしては私が射線上から出るか出られないかのギリギリのタイミングだ。

「くっ…!」

 ボロボロの体では全力で走るのはかなりきつい。だが、あと一歩で射線上から逃れることができるというところで、妹様が私の髪の毛を掴んだ。

 道ずれにするつもりなのか、妹様は私を掴んでい向かってくるマスタースパークの方向に私を盾にする形で向けた。

「なっ…!?」

 魔理沙さんの驚愕する声が聞こえてくる。

 私は掴まれている妹様の手を放させようとするが、妹様の手から逃れることができる気が全くしない。

 でも、私は護身術で妹様の手を人間の姿をしている以上は絶対に手を放してしまう技を使い、ようやく手を放させることができた。しかし、

 逃げようとしたが、すでにマスタースパークは目の前、まぶしい光に耐え切れずに私は目を閉じた。

 

 二人がマスタースパークに包まれてから数十秒後。

 ようやく私がつぎ込んだ魔力分の働きをしたミニ八卦炉が高温の気体を出しながら、自身の冷却を開始する。

「…こ……小悪魔……!」

 ほとんどの魔力を使い果たした私は足から力が抜け、倒れ込んでしまう。

 だが、小悪魔とフランドールがいた場所に這いずって向かうと、マスタースパークの影響で一部の地面が融解していて触れると手がかなりの高温に焼けた。

「っ…!」

 マスタースパークで焼けて溶けている地面が一直線に旧都の端まで続いているが、すぐ近くに人型の黒く炭化した物体が立っているのが見えた。

 その身長からフランドールだと特定できた。魔力の防御が足りなかったのだろう。

 周りに小悪魔の姿は見えない。私がフランドールと一緒に小悪魔を消し飛ばしてしまったのかと血の気が引いてくる。

「…嘘だろ……」

 私が呟いた時、

「……魔理沙さん…私はこっちですよ…」

 小悪魔の声が私からは死角の位置からして、大妖精と一緒に現れた。

「………無事でよかった……」

 私は安堵で体から力が抜けてしまい、ペタリと地面に座り込む。

「…かなりギリギリでしたよ……大妖精さんがいなければ……私は消し飛ばされてましたよ」

 小悪魔が言いながら私に近づいてくる。

 あの瞬間、大妖精が小悪魔を瞬間移動で助けてくれたのか、見た目以上に勇気のあるやつだ。

「…魔理沙さん……それと、あんまり喜んでいる暇はなさそうですよ…」

 小悪魔が私に肩を貸して立たせてくれながら私に言った。

「……え…?」

 私が視線をフランドールの方向に向けると、もうすでにほとんどの傷が再生を完了している姿が目に入る。

「…くっそ……これでもダメなのかよ…!」

 私は歯を食いしばり、残り少ない魔力を使いフランドールにレーザーを撃とうとすると、小悪魔が手を掴んできて下げさせられる。

「…小悪魔…!?…何するんだ…!?」

 私が小悪魔の方向に顔を向けた後、フランドールの方向に顔を向けると違和感に気が付く。

 いつもならばもうすでに襲ってきていてもおかしくはない。だが、フランドールは襲ってこずにずっと立ち尽くしている。

「……?」

 大妖精がずっとボーっと立ち尽くしたままのフランドールのもとに警戒して用心深く近づくと、フランドールの目の前で手を振った。

 しかし、フランドールの瞳は手の動きに影響されずに、ずっと虚空を見つめている。さらに霊夢達と同じように怪しく光っていた目のオーラがフランドールの瞳から消えていた。つまり、気絶しているのだ。

 フランドールの体から力が抜け、地面に崩れ落ちる。

 大妖精は慌てて倒れそうになったフランドールのことを手で掴んで支えた。

「……フランさん……気絶してるみたいです…」

 眠るようにして気絶しているフランドールを覗き込みながら大妖精が言う。

「……マスタースパークではありませんでしたよね…?」

 小悪魔が私に話しかけてきた。

「…ああ……でも、いったい誰がやったんだ?」

「……わかりません。切り傷などの外傷は特にありませんよ?」

 大妖精がそう言いながら気絶してるフランドールをこちらに連れてきた。

「…魔理沙さんは…妹様が攻撃されたのを見ましたか?」

 小悪魔が肩を貸している私に語り掛けてきた。

 あのとき、私は特におかしい人影も攻撃も見てはいない。フランドールが何者かの攻撃を受けたという事だけが確かではある。

 うーん。と私が唸っていると近くに永琳が着地して近づいてきた。

「…どうやら、作戦はうまくいったみたいね」

 永琳がそう言いながら気絶しているフランドールを覗き込んだ。本当に気絶しているのか確認しているのだろう。

「…まあ、マスタースパークを当たる作戦までは成功した。だが、今は別の問題が浮上してな……第三者から攻撃を受けたところだ……周りを警戒した方がいいかもしれないぜ」

 私が言うと、素早い動きでお互いに背中を向けあうようして周りに注意を向けた。

「……その人は敵なんでしょうか……」

「…わからんな……正気なら味方かもしれないが、異変を起こした連中が邪魔になったから攻撃したのかもしれない」

 目の前で見ていた私たちや感の鋭いフランドールが全く気付かなかった。だから、私の予想ではこうやって周りを警戒しても無駄だろう。

 私がそう思っていると私の視線の先にいつの間にか少女が立っていた。

 歩いてきたところを見たわけでも、隠れていたところから出てきたわけでもない。いきなりそこに現れたのだ。

「……こいし…」

 黄色い服に黄色のリボンのついた黒い帽子をかぶり、胸の前には瞳を閉じたサードアイが浮遊している。

 銀髪の髪の間から見える瞳の色は緑色で、赤いオーラは見えない。

 こいしは自分の名前が呼ばれると、ニコッとはにかんで私に笑顔を見せた。

 




明日は投稿できると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十話 休息

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十話をお楽しみください。


「……っ…」

 敵か味方かわからないこいしに私たちは少しだけ後ずさった。

 こいしの能力は無意識を操る程度の能力だ。こいしがその気になれば私たちが彼女を認識する前に、こいしは私たちを殺すことなど容易だろう。

「…私に……警戒してるわね…?」

 私たちに笑顔を見せていたこいしはいつもの表情に戻り、話し出す。

「…ああ、地霊殿も今回の異変にかかわってるんじゃないかと思っててな…」

「…ひどい、せっかく助けてあげたのに!」

 こいしが私の言葉を聞いて、怒ったと手をぶんぶんと振って表した。

「…そこのところは感謝するが……正直…まだお前が敵なのか味方なのかがわからないんだ」

 私がそう伝えるとこいしはうーんと唸ってから言った。

「お姉ちゃんに連れてきてって頼まれたから、私は来てほしいんだけどなぁ…どうする?」

 困ったなー。とこいしは呟きながら私たちの返答を待っている。

「…どうする?」

 これは私一人が決められることではない。後ろや横にいる三人の意見を聞いてみることにした。

「…どうすると言われても……ついていくしかないんじゃないですか…?」

 小悪魔はそう言いながらこいしをちらりと眺める。

「…まあ、そうよね……敵でも味方でも…いくことには変わりないわけだし」

 永琳がそう言いながらこいしと地霊殿に向かうことに賛成する。

「…大妖精もそれでいいか?」

 私が聞くと、大妖精はうなづく。

「よし………こいし…とりあえず地霊殿についていくぜ」

 私が言うと来てくれてよかったー。とこいしが言いながら私たちの先導を始めた。

「…ああ……それと、フランちゃんは置いて行ってもらうわ……地霊殿に招いて中から壊されたら私たちも困るからね」

「……しかし…妹様は…」

 そう呟いた小悪魔にこいしが振り返って近づきながら言う。

「…あなたの気持ちはわからないでもないわ。…私だってお友達だもん。でも、それで何かがあれば傷つくのは私の家族。こっちの事情も考えてほしいわ」

 こいしがフランドールを抱える小悪魔に近づき、気絶しているフランドールの頬に触れて言った。

「……。…すみません……わかりました」

 小悪魔が言いながら手短な家に入る。ベットなどは置かれていない質素な部屋で誰も住んではいない空き家。その部屋の壁にフランドールを壁にもたれるようにして寝かせた。

「…すみません…妹様…」

 小悪魔はフランドールにそう呟くと部屋から出てくる。

「…お待たせしました…ではいきましょう」

 小悪魔がこいしにいうと、こいしはさっきのように先導を始めた。

「……すまん……小悪魔、肩を貸してもらえると助かる…」

 私が言うと小悪魔が私に肩を貸してくれ、私は動きが遅くてもつれる足を一生懸命に動かして引きずるように歩き出す。

 こいしの案内に従って旧都の大通りを通って地霊殿に歩いて向かう。

 しばらく歩くと、鉄で作られた柵のような門が現れる。

「……」

 こいしの姿が見えると、門番を言い渡されたペットたちが門を押しあけた。鉄の擦れるむず痒い嫌な音を響かせながら扉を開く。

「…お姉ちゃんが早く会いたがってたから、早くいかないとね」

 こいしが言いながら歩き出し、私たちも中に入るとペットが門を閉めた。

 屋敷の本館の扉を開き、広い玄関に赤いカーペットが引かれている廊下にでた。

 そこから、別の廊下にでてカーペットの上をこいしの後を追って二人三脚のようにしてしばらくの間ついて行くと、こいしがノックもせずに豪華そうに表面が滑らかに仕上げられていて装飾がある木製の扉を勢いよく開ける。

「お姉ちゃーん!つれてきたよ!」

 こいしに続いて案内された部屋に入ると、一番奥にデスクがあってそれの椅子に腰かけているさとりが何かを書いていたのか、机の上に置かれていた紙から顔を上げた。

 いつものように少し癖のある薄紫色の髪の毛にハートの形をした飾りのつけられたヘアバンドをし、フリルのついた水色の洋服を着ている。胸の前にはこいしと同じように赤色のサードアイが漂っている。

「……!」

 私の容姿を見た霊烏路空やパルスィなんかが警戒を始めた。

「…あんた、本当に霧雨魔理沙か?」

 パルスィが私を睨みつけながら言う。

「ああ、まあ……この異変でいろいろと私にもあったんだよ。………で、さとりは私が聞きたいことはわかってるよな?」

 私が聞くとさとりは真紅のサードアイの開けられた瞳を閉じて、自身の目を開いた。

「ええ」

 さとりが呟きながら椅子から立ち上がるとさらに言った。

「……とりあえず、魔理沙も魔力不足で動けないようだし、食事を用意してくれるかしら?」

 外の廊下にいるペットの一人にそうさとりが伝えると、そのペットは食堂に向けて小走りで向かった。

「…私だけじゃなくて、全員分を頼む」

 私がさとりが無表情のまま呟く。

「……もちろん。…ちょうど夕食の時間だからね」

 さとりが言い、私たちは食堂に向かうことにした。

 私の家の数倍も広い食道に案内されると、十メートルはある白いテーブルクロスのかかった楕円形の机に、たくさんの食べ物がさらに盛り付けられて並べられている。

「わあっ…すごい!」

 大妖精が目を輝かせながら机に並べられている食べ物を眺めている。

「……」

 一人一人の食事ではなく、バイキングのように大きな皿にあらかじめ食べ物が盛り付けられていて、自分で取って食べる形式ということは、食べ物に毒は入っていないということなのだろう。

「……適当に座っていいわ」

 さとりに言われ、私たちは椅子に座った。続けてさとりのペットたちも椅子に座って食事の準備が完了し、私は帽子を脱いで椅子にひっかけて食事を開始することにした。

 




明日は投稿できるかわからないです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十一話 最後の休息

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十一話をお楽しみください。




「…いただきます」

 私は手を合わせて呟き、近くの皿に盛り付けられてあるパンを手に取って齧った。

 十数回咀嚼して飲み込むが、著しい魔力不足で食べ物は全て魔力回復に当てられ、空腹感が収まることはない。

「……」

 様々な食べ物を味などを味わうこともなく皿にとって口の中に放り込む。

 少しの間、夢中になって食べていると正面に座っているさとりに声をかけられた。

「……魔理沙……ちょっといいかしら?」

「…ん?ああ…なんだ?」

 私が言いながら顔を上げると、さとりがスープを飲みながらこちらに視線を向けている。

「……魔理沙はどこまで異変についてわかって来たの?」

 さとりが始めに言った。

「……あんまりわかってないな…鬼がかかわってるということはわかってるんだが……」

 私は言いながらさとりに質問を投げかけてみることにする。

「…さとり、外にあんだけ鬼がいたのはなぜだ?」

 私はそう質問し、肉や野菜を頬張る。

「……私たちを見張るためよ」

「……。たしかに、それならつじつまが合う」

「…え?なんでですか?」

 大妖精が隣で口に含んでいたパンを飲み込み、私に言ってくる。

「…。さとりの能力だよ…例えば、さとりたちの中から誰かを人質に取って脅したとしよう。ひとまずはさとりたちはしたがっていたとしても、絶対服従とはいかない……絶対にここぞというところで裏切られる。…それでも異変の計画の内容が流出するのを恐れたんだろう……なんせ、さとりは考えていることが読めちまう」

 私が言うと大妖精はなるほどとうなづき、大妖精とは反対側の私の隣に座っている小悪魔が質問をさとりに投げかけた。

「…確かに、それならこの場所に異変、それとその首謀者に深くかかわっていた人物がいないという説明が付きますが……一つ解せないのは、これだけの実力者と人数がいて、妹様を早くに倒さなかったのはなぜですか?…さとりさん」

 小悪魔が出された料理には手を付けずにさとりに質問をした。

「……小悪魔…だったわね?」

 視線を持っているコップに落としているさとりが視線を小悪魔に向けて呟く。

「はい…そうです」

「……私は一応地霊殿の主としているわ。だから、自分のペットの安全を守るのも私の仕事なのよ……いざという時には戦ったもらうけどね」

 さとりが言うと、小悪魔は少し驚いたような顔をする。

「……そんなに意外だったかしら?」

「…いいえ、思っていた以上に…イメージ通りの方だったので…」

「それは嬉しいわね」

 さとりが少し笑いながら言った。

「…そうりゃあそうだぜ。小悪魔……さとりにとってペットたちは大切な存在だからな…」

 私は口に料理を運び、さらに言った。

「…食える時に食っておいた方がいいぜ……いざってときに力が出ない」

 私は言いながら器に分けたスープを飲み干す。

「…ええ、わかってます」

 そう言いながら小悪魔はこちらをちらりと見た。

「それよりも、魔理沙さん…食べすぎじゃあないですか?」

 自分の前に置いてある食べ物をほとんど食べつくして、大妖精や小悪魔の方の皿にも手を出し始めた私に小悪魔は言う。

「…食ったもん全部魔力に変換してるんだ。まだまだ食い足りないんだぜ」

 私はそう言いながら皿にわけた野菜を食べ始めた。

 小悪魔は司書という立場上、主人と一緒に食事をとるということはないのだろう。だから、こういうふうに食事をするのに慣れていないのだ。

「…。…紅魔館じゃあ、司書だが…こっちでは客人だ。遠慮は逆に失礼だぜ」

「…そうですよね…」

 小悪魔がそう呟くと食事を皿に分けて食べ始める。

「……それで、魔理沙は私から何を聞きたいの?」

 さとりが言いながら食べ終えた皿をほかのペットに下げてもらう。

「…異変を起こした奴らの中でも下っ端じゃなくて中枢に食い込んでいる奴を知りたかったんだが、この状況じゃあ無理だよな……」

「……割と、そうでもないらしいわよ」

 私が言うと、さとりはそれを否定した。

「……誰かはわからない。でも、裏で手を引いている奴がいるわ」

 さとりが言う。

「…裏で手を引いているやつ?」

「……ええ、鬼たちに私たちが外に出ないようにと命令したのは伊吹萃香と星熊勇儀……でも、そこらの鬼たちは詳しい人物かは知らないみたいだけど、たしか、あと二人は手を貸している者がいて、その他にこの異変を計画した奴が一人いるみたい」

「…異変を計画した奴が黒幕なのは明らかだとして、萃香と勇儀以外の奴で誰が手を貸してるんだ?……おそらく、そのうちの一人が正邪だと思うんだが……どうだ?」

 私が聞くとさとりは少し驚いたようだ。

「……戦ったの?」

「ああ、旧都に降りてくる少し前にな」

 私は言いながらさらに分けた肉を一口齧った。

「……となると、黒幕以外の残りの一人が不明というわけね」

「…今のところ、可能性があるのは聖じゃないかとにらんでる」

 私は肉を咀嚼して飲み込んでからさとりに言う。

「…聖って…命蓮寺のよね?……一度会ったことあるけど、こんなことに手を貸す人物とは思えないわ……」

「…それはわからんぞ、元人間で今は魔法使いで何年も生きているとは言え…聖の精神は人間が基本だろう……何かにショックを受けたり、何かからの影響を受けることで考え方が変わるなんてこともある……精神が不安定な時なんか特にな……これはないと思うが、宗教がらみは、間違った方向に行くこともなくはない……可能性の一つではあるがな」

 私は言い終わり、ガラスのコップに注がれた水を飲み干した。

「…この中で異変の首謀者たちに直接的に会って戦ったことがある奴は、小悪魔以外にいない……。小悪魔は何か私たちに話していないこととか、思い出したことはないか?」

 私が聞くと、いきなり話を振られた小悪魔が口に運びかけていたスプーンを器に戻しながら話し始める。

「…気になることと言ったら……鬼は凄く強いと聞いたことがあるのですが……お嬢様やパチュリー様がまったく歯が立たないほど強いとは知りませんでした」

 小悪魔が言うと、さとりが思い出したように話を始めた。あの二人が歯もたたないとなると相当強い。もしかしたら霊夢並みに強いのではないだろうか。

「……鬼の一人から情報を抜き出したのだけど……どうやら、伊吹萃香や星熊勇儀は自分の魔力の魔力力を上げてる…とある方法をやっているらしいわ」

 そうさとりがいうと全員の視線がさとりに移る。

 魔力力とは、いわゆる魔力の質だ。膨大な魔力を保持していたとしても、それが戦闘力にイコールではつながらない。

 魔力力はイメージで言うならば、車のエンジンなどに近いかもしれない。重さなどの関係は考えないものとして、馬力の強いエンジンほど速く走る。馬力が弱ければいくらガソリンを積んでも遅いままだ。

 それと同じで、馬力の強い魔力力ほど力関係にイコールでつながるのだ。

 だが、それ故に魔力力を上げるのは相当困難なことなのだ。

「…もしかして……それって…」

 魔法の研究や魔力の研究をしている者ならば、魔力力を効率的に上げる方法はないかと誰もが模索し始める。魔法は弾幕や物に魔力を流して強化するのとはわけが違う。大量の魔力を消費しなければならないのだ。だから、できるだけ強い魔法を撃つには高い魔力力が不可欠というわけだ。

 そして、そのうち誰もがたどり着く答えがある。

「……さえてるわね…魔理沙」

 さとりは言うと、一呼吸間をあけて呟いた。

「……それは、同種喰らいよ」

 さとりの言葉にそれを予測できた私でさえも息をのんでいた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十二話 襲撃と目覚め

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十二話をお楽しみください。


「…同種ぐらいというと……萃香は同じ鬼を食ってるってことだよな?」

 私が確認のためもう一度聞くと、さとりはうなづいた。

「でも、あの魔力力の上がり具合から察するに……一体や二体を食った程度ではあれほど強くはならないと思います」

 数百、数千の鬼を萃香は食って来たということだろう。

 そうなると、異変をしようと決めたのは十年、二十年前ではないのだけは確かだ。

 さとりのような奴もいたのに、よくもここまで隠してこれたものだ。

 私は感心しながらさとりをチラリと見ると、さとりは肩をすくめる。

 星熊勇儀は旧都にいたわけだが、いつも一緒にいるわけでもいつも考えを呼んでいるわけでもない。わからなかったのも無理はない。

 それに、奴らは常に酒を飲んで酔っ払っている。酔っぱらえば気分がよくなり、暗いことも多少ならば忘れることもできるだろう。

「…同じ鬼を食ったのは魔力の波長が似ていて、自分のものにしやすかったからだろうな」

 私はさらに多くの食べ物を口に運び、よく噛んで飲み込む。

 鬼の数が他の種よりも異常に少ないのはそのためだったのか。

「……そこまで考えても、奴らの目的が見えない……なぜそこまでするのか、なぜそこまでしなければならないのか……その理由がわからない……霊夢を殺すことならばこんな回りくどいことはしいないだろう……この異変は幻想郷の博麗大結界とは無関係の物ではあるのだけは確かだ」

 私が言うと、机を囲む全員が考えを始めるがおそらく今考えても答えは出ないだろうから、私は食事に専念することにした。

 机に置かれた器に盛りつけられた食べ物を食いつくして、器を空にしていく。

「……魔理沙、あなた私の家の備蓄してある食べ物を全部食いつくす気かしら?」

 さとりが飲んでいた水を飲み干してモグモグと口を動かす私に言った。

「…寝て魔力を回復させる暇はないんでな……今のうちにできるだけ回復したいからよ」

 私は口の中で噛み砕いた食べ物を嚥下してから、こちらを見ているさとりにそう伝えた。

「……あなたは魔法でも、弾幕でも…使う時にはもう少し効率をよくしたものを使いなさいよ」

「効率を考えていたら火力が落ちちまうぜ」

 私がそう言いながら上に何も載っていない皿を近くにいた皿を運搬する係のペットに手渡した。

「……まったく」

 さとりが呆れたようにつぶやく。

「…そう言うな、食い終わったらすぐに出て行くよ」

 私はそう言いながら次のさらに手を付けた。

 

「ふいー。食った食った……まあ、腹三分目ってところか」

 私が言いながら持っていたフォークを机の上に置いた。

「……」

 周りで皿を運んでいたペットの顔が少しひきつっている。たぶん備蓄してた食材を使い切ったとかだろう。

「……それで、その姿のことはいつ話してくれるのかしら…?」

 さとりが言うとそれについては気になっている奴が多かったのか、私に注目が集まる。

「小悪魔は知ってるが、他の奴は知らないから大まかな流れは教えるよ」

 話すのにちょうどいい機会だ。

「…そうだなぁ。とりあえず初めから放すとして……私は、光を見ておかしくなった霊夢に殺された」

 私が簡潔にまとめてそう言うと、さとりがすっと片目を閉じる。

 信用ねぇな。

「……当り前でしょう?」

 私がそう思っているとさとりに即答されてしまう。

「……一応、嘘はついていないわ」

 さとりが言うと、私から疑いの視線が一時的に消えた。

 人間は他人を嘘で欺き、騙せたとしても本質的に自分に嘘をつくことができない。さとりがいれば嘘か本当か信じてもらえないような話だとしても、そうやって分かるから話が進む。

「…死んだとき、こっちで言うところの三途の川に私は行ったわけだが…」

 その辺からすでに疑いの眼差しに視線が変わってくる。

 私も信じない自信があるが、いくらなんでも信用されなさすぎではないだろうか。

「…そこで、ある男に会って来たんだが、いろいろと話して、この異変を止めたいって言ったらこうなってたぜ」

 私が半ばやけくそで話すと、疑いの眼差しから可哀そうな子を見る目に周りがなっていくのがわかって、なんだか惨めな気持ちになってくる。隣に座っている紅魔館で話した小悪魔や私の能力などを知っている大妖精がポンポンと私の肩を叩く。

「……でも、だいたい省いているとはいえ、嘘は言ってないのよね……」

 さとりの呟きだけが唯一の救いだった。

「……ある程度はわかったからいいとするわ。それより魔理沙、あなたはこれからどうするの?」

 食事を食べ終えてそろそろ地霊殿や旧都から出ようと準部を始めようとしていた私をさとりが呼び止める。

「…そうだなぁ……白玉桜か天狗の屋敷にでも行ってくることにするぜ」

 椅子にかけられている帽子を取り、頭にかぶりながら言ったとき、さとりのペットの一人が慌てた様子で食堂に転がり込んできた。

「…?」

 息を切らしていて私だけでなく全員が嫌な予感がよぎる。

「…奴らが、奴らが来ます!」

 私たちはそれを聞くと同時に、誰が来たのかということも聞かずに走って出口に向かっていた。

 敷いてある赤いカーペットの上を全力で走り、息を切らしながら玄関を過ぎて扉を蹴り開ける。

 私たちが来た方向、洞口のあたりの方向から数えきれないほどの妖怪や妖精がこちらに向かってきているのが見える。

 一人一人は大したことがなくても百も二百も三百も集まれば、力を持っている妖怪も殺すことは可能だろう。

 波のようになってこちらに向かって押し寄せてくる妖怪たちに私たちは呆然としてしまっていた。

「……っ…撃ち落とすぞ!」

 だが、それもつかの間。

 その光景に呆然として思考が停止してしまうが、私が発破をかけることでさとりたちも動き出し、それぞれが弾幕を撃ち始める。

 紅く光る瞳を持つ妖怪や妖精の波に向けて撃ちだされる無数の弾幕に、何人も地面に向かって落ちていく。

 だが、被害はあちらだけではない。足の速い妖怪もしくは妖精がすでにこちらに到達していて、反撃を受けて撃ち抜かれたり、手足をもがれるペットたちが複数いた。

 さっきの鬼の集団がかわいく見える軍勢相手にこっちはたったの数十人。戦力の差はすさまじく絶望的で、数の暴力とうのを初めて体験した。

 それを察して逃げ始めようとするペットもいるが、地霊殿を落とされれば一巻の終わりだ。逃げ切るためにはこの妖精と妖怪の大群の間をすり抜けていかねばならない。

 完全に周りを包囲され、レーザーを何度も撃っても減っている気がしない。

 そうしているうちに、逃げようとして孤立している私たちを助けようとしたさとりのペットが順々に殺されていく。

 妖怪、妖精がペットたちに群がり、食らいつき、引き裂き、千切り、潰す。こちらにまで痛みが伝わってくるような絶叫に、こちらにいる戦闘慣れしていないペットたちにも恐怖が伝染している。

「…落ち着くんだ!」

 さとりや空が落ち着かせようとするが、錯乱したペットたちは私たちから離れて行ってしまい。殺された。

「…私の…………せいだ………」

 そんな状況で私は攻撃するのも忘れて、呆然として呟いていた。

「…魔理沙さん!?…どうしたんですか!?」

 隣で周りに向かって弾幕を撃って牽制を与えていた小悪魔が私に言うが、私にはその声は全く届いていない。

 比那名居天子に始まり、華扇やチルノ、リグル、ミスティア、紅魔館のメイドたち。

 さとりのペットたちを殺して回っているのは私が殺さずに逃がした妖怪、妖精たちばかりだ。

「…私の……せいで……」

 足から力が抜けて、私は地面に膝をついてしまっていた。

「…魔理沙さん…!?…しっかりしてください!…魔理沙さんが戦わないとみんな死にます!」

 小悪魔がそう言いながら私のことをがくがくと揺らす。

 その時、横からこちらに向かって来た何かが側頭部に当たり、鈍い痛みを感じた。

 呆然としている私に小悪魔がショック療法で平手打ちを食らわせたわけではない。

 十数メートルに渡って宙を舞い、地面に転がり落ちる。

「……っ…!」

 私を包帯で作られた偽の腕で殴った華扇が、跳躍してさらに私に襲い掛かってこようとするが、小悪魔が後ろから華扇に殴りかかる。しかし、華扇は跳躍をしようとしていたのを中断して小悪魔の拳を受け流し、掌底を小悪魔の胸に食らわせた。

「が……は……っ…!!?」

 胸を押さえて崩れ落ちるが、それでも攻撃しようとする小悪魔に華扇は頭と腹に更に掌底を食らわせる。

「………っ!!」

 完璧に打ちのめされ、小悪魔は今度こそ地面に倒れ込んでしまう。

 さとりも空も、お燐も数で圧倒されて天子に切り伏せられ、次々に倒されていく。

「…く……そ……!」

 

 すべて私のせいだ。

 

 あって戦ったときに、殺さずに逃がしてしまった私のせいだ。それが足を引っ張り、今戦わなかった私のせいだ。

 殺したくはない。今までの異変のように倒すだけ、霊夢に殺された時に絶望、恐怖、孤独、そう言ったものを感じ、私は一層強く命は奪いたくはないと思った。

 だが、その信念を貫いた結果がこれだ。

「…ま……さ……!」

 誰かが呼ぶ声がする。

「魔理沙さん!!」

 瞬間移動をして何とか難を逃れていた大妖精が私の傍らに現れる。

「…大…妖精……」

 私が顔を上げると大妖精が私を掴み、瞬間移動を使ったことにより私と大妖精の居る位置が変わり、妖怪たちからは死角のどこかの家の中に場所が変わる。

「…今は逃げましょう……魔理沙さん…」

 窓から外をそっと確認しながら大妖精は呟いた。

「……すまない……大妖精……私のせいでこんなことになって……」

「…魔理沙さんのせいじゃありません…だからそんなに一人で背負い込まないでください…!」

 大妖精が華扇に殴られたことで血管が切れて出血している私の顔に触れ、座り込んでいる私よりも立っている大妖精の方が背が高いため、私の顔を上に向かせて呟く。

「……でも、私があの時……」

 私はいつの間にかボロボロと涙を流していて、しずくが頬を伝って下に落ちていく。

「……魔理沙さん…!しっかりしてください!……こんなふうになるなんて…誰に予想できたっていうんですか…!」

 大妖精が私に平手打ちを食らわせた。

「………」

「…魔理沙さん……あなたがいなくなって……誰がこの異変を解決するっていうんですか……」

 大妖精が私を抱き寄せながら言った。

「………。……ああ……すまない…大妖精……取り乱しちまって」

 私が呟くと、

「…もう大丈夫みたいですね」

 大妖精が私ににっこりと笑顔を見せた。

「…ありがとう……大妖……せ…………い」

 私が瞬きするとさっきまでそこに在った大妖精の顔が無くなっていた。

「……………え………?」

 私の呟きがむなしく周りに響く。

 頭が首や胸ごとと消し飛ばされた大妖精の体がぐらつき、私に触れていた両腕が力なく地面に転がり落ちた。

 大妖精の心臓の拍動に合わせて心臓につながっている動脈から大量の血液が吹き出し、私に飛び散った。

「……あ………あああああああああああああああっ!!」

 私は力なく地面に倒れ込む大量の血をまき散らす大妖精だった物の体を無意識のうちに抱きしめて支えていた。

「………うそ………だろ……」

 目を見開き、私は呆然と大妖精の死体を抱え続ける。

 そんな私に大妖精の頭を吹き飛ばした華扇が私の頭を掴み、包帯で形成されている腕の拳を振り下ろした。

 だが、私は無理やり掴んでいた手を放させ、華扇を吹き飛ばす。

「よくも……よくよおぉっ!!」

 私が走り出すと、吹っ飛ばした華扇がふわりと床に着地してそのまま私に向かって走り出す。

 ピンク色の髪をなびかせながら華扇が包帯の右腕で私を殴り、私は歌仙に向かって左手で拳を作り、殴りかかる。

 私の拳と華扇の拳が合わさると、私の拳がぐしゃりと潰れ、押し返されて逆に吹き飛ばされた。

 ひしゃげて砕けた骨が皮膚を突き破り、衝撃に耐えられなかった皮膚が引き裂けて血が流れ出す。

「……ちく……しょ…………う…」

 私は薄れる意識の中、呟きながら地面に落ちた。記憶はそこで途絶えた。

 

 もう、やめだ。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十三話 兆候 ①

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十三話をお楽しみください。


 適当に削られてデコボコの岩で作られた洞窟に、少々頼りない電球が一定の感覚で薄暗い廊下を照らしている。私は首根っこを掴まれてズルズルと引きずられて運ばれているらしい。

「…………」

 意識がはっきりとせず、まるで眠っているかのように頭の中に霧がかかっていて、頭が働かない。いつもならば飛び起きていたかもしれないが今は起きるどころかまた眠りにつくように気絶してしまいそうだ。睡眠に近い方に意識が傾いてきたらしく、うっすらと開けていた目から入ってきていた視界の景色が外側から黒く染まっていく。

 ゆっくと、でも確実に私の体の機能が停止していき、完璧に意識が途切れた。

 

 どれだけの時間が経ったかはわからない。でも、運んでいた状況から大して時間は立ってはいないのだろう。

 体がまるで空を飛んでいる。そんな感覚がしたような直後、私は後頭部を強打した。

 岩に頭をぶつけたことで頭痛がするが意識がまた揺らぎ、ズキズキした痛みすらも麻痺させられているかのように和らいでいき、意識がなくなってしまう。

 

 また周りからの刺激を受けて意識がわずかに戻り、うっすらと目を開けると私は牢屋の中にいて、小悪魔が私のいる牢屋に投げ込まれたところだった。

 意識の無い小悪魔が私の上に転がり落ち、強い衝撃を受ける。

 何か行動を起こさないといけない。そう思うがまるで二日も三日も寝ていないような睡魔に襲われ、三度意識を失ってしまう。

「……」

 そのあとも何度か小悪魔に揺り起こされた気がしたが、だいぶ疲れていたのか機能停止に近いレベルで眠り続けた。

 十数回目、目が覚めた時に私はようやく意識をはっきりと保つことができるようになっていた。

「……魔理沙さん…起きましたか…」

 小悪魔が私に膝枕をしてくれていたのか、小悪魔に触れている後頭部に柔らかくて暖かい感覚を感じる。

「……ありがとう…小悪魔……」

 私は小悪魔の足から頭を上げて体を起こした。

「…私は…どのぐらい寝てたんだ…?」

 私が聞くと小悪魔はすぐに返答を返してくる。

「私の体内時計が狂っていなければ……だいたい一日ぐらいですね」

「…そうか……」

 私が呟くと、少しの間だけ間が開いた。

「…小悪魔……その、すまなかった…」

「…別に魔理沙さんが謝る事ではないですよ。あの数を相手にできる人物なんてそういません」

 小悪魔が言ったとき鉄の擦れるような、打ち合うような音をわずかに響かせながら鉄でできた柵の前に星熊勇儀が現れた。

 黄色い髪に腰まである長髪、手首には手枷に鎖がつながったものをつけており、大きな胸の胸元が露出した着物を着ている。ちょっと何かが当たっただけでボロンといきそうである。手には星熊盃は持っていないようすだ。

「…お前か…星熊勇儀」

 私が呟くとそれには答えず、牢屋の扉の鍵を開けて牢屋の中に入って来る。

「…よう。まだくたばってなかったみたいだな…」

 勇儀が狭い牢屋内で隅にだけは行かないようにして警戒をする小悪魔に言った。

「…ええ……」

 小悪魔が目元を鋭く細めて勇儀を睨みつけた。

「…そう怒るなよ…せっかくの楽しい楽しい異変なんだから洒落込もうじゃないか」

 勇儀が言い、嗤いながら自分を睨みつける小悪魔に近づく。

「……」

 小悪魔が警告もせずに射程圏内に歩いてきた勇儀に殴りかかった。

 ドガッ!!

 岩も粉砕しそうな打撃音を響かせるが、勇儀は特にダメージを負った様子はない。

 当たり前だろう。勇儀の魔力力は私は倍以上ある。もしかしたら霊夢かそれぐらい多いかもしれない。

 例外はあるが、魔力力は生まれつき持つというのがだいたい普通だ。

 それを上げるのは至難の業で、相当困難なことであるのは地霊殿で言った。

 しかし、逆に言えば魔力力さえ上げてしまえば力関係は簡単にひっくり返ってしまうということが言えてしまう。

 魔力力が自分よりも少し多いぐらいなら状況や立ち回り、経験や相性でどうにかなる。

 しかし、自分の二倍以上の差があるとすれば、二つの意味で勝負にならないはずだ。

「……っ…!」

 小悪魔が再度、自分と勇儀の力の差に驚愕を示す。

 そのうちに勇儀が小悪魔を掴み、持ち上げた。

「…っう……ぐぁ…っ……!!?」

 まるで赤子のように持ち上げられた小悪魔は勇儀に動けないように壁に押し付けられてなぶられ始める。

 殴られて小さく悲鳴を上げる小悪魔を見ていていてもたってもいられず、私は魔力を手先に集める。

「…小悪魔を放せ、勇儀!」

 私はレーザーの直径だけを極限まで細くして、光の魔法をそこに乗せてレーザーを放つ。

 レーザーに触れた小悪魔を掴む勇儀の腕に二センチ程度の穴が開く。

 骨を貫通して焼き切ったことにより、腕が折れ曲がって持ち上げられていた小悪魔が地面に落とされた。

 せっかく気分が乗っていたのに邪魔をされた勇儀がつまらないものを見るような目つきで私の方向を見る。

 たった数発で虫の息となっている小悪魔が壁に押し付けられていたため、ズルズルと壁にもたれるように倒れた。

 体を最大まで強化して私は勇儀を迎え撃つ。

 私がレーザーを放つとほぼ同時といえる時間差で勇儀が同時に動き出す。

 私のレーザーを紙一重できれいに避けてこちらに向かって接近してくる。

 持ち物は没収されているわけではなかったため、何かアイテムを使おうと思ったが、両腕を勇儀に掴まれ、壁に押し付けられた。

「…邪魔するならお前から先に片づけるぞ、魔理沙……お前も少しは長生きしたいだろう?」

 勇儀の額から生えている赤色で黄色の星のマークがあるツノが刺さりそうになり、顔を傾けながら私は呟く。

「…お前に私を殺すことはできやしない…」

 私が言うと、勇儀がニヤリと嗤う。

「…聞いたけど、なんだかお前…頑丈になったらしいじゃないか……私が耐久テストしてやるよ!」

 勇儀が足を上げ、私の腹に膝蹴りを叩きこんだ。

 腹が潰れたのではないかと錯覚するほどの衝撃に、私が押さえつけられていた壁に放射状のひびが入った。

「…かっ……あ……っ…!!」

 呼吸ができなくなり、痛みでずるりと力が抜けてしまう。体の中に異常な感覚がする。小腸が千切れたか潰されたのだろう。

「…魔理沙、この程度でへこたれてるなら…先にあっちから片付けることにするぞ」

 肩越しに後方で気絶している小悪魔を見ながら勇儀が言った。

「…やめ……ろ……小悪魔に……手を…出す……な…!」

 私は勇儀が掴んでいる勇儀に至近距離からレーザーを放つ。眩しい光を放ちながら勇儀に当たったレーザーは小さな穴をあけた。

「やらせない……小悪魔には……手は出させないぜ………勇儀…!」

 私はもう一度レーザーを放つが簡単に弾かれてしまい、勇儀は私の顔を横から殴る。

「あ……ぐっ……!」

 口の中から悲鳴にならに悲鳴が漏れ、勢いを逃がすことのできなかった私は床に倒れてしまう。

 殴られたことで口内で出血がおきてしまい、口の中でうっすらと鉄の味がする。その血を飲み込むと腹の鈍痛が収まっていく。

「…休んでる暇はないぞ?…もっと私を楽しませろ」

 勇儀が倒れている私を掴んで持ち上げた。

「ぐっ……!!」

 私は呻きながら胸倉を掴む勇儀の手を掴んで放させようとした。

「…さあ、楽しませてくれよ!魔理沙ぁ!」

 

 それから先のことはあまり覚えていない。でも、覚えていない方がよかったのかもしれない。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十四話 兆候 ②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十四話をお楽しみください。


 顔を殴られた、腹を蹴られた、肉を引き裂かれた、腕をねじ切られた。

 目が見えなくなっていたり、腕や足が無くなっている記憶も、穴が開いた腹から内臓が床にこぼれている記憶も朧げににあった。

「う…………くっ……」

 しかし、朧気であってもそれは真実であったらしく、治ってるはずなのにズキズキと古傷が痛むように、なくなった腕が無くなった足が目が内臓が痛み続ける。

 目が覚めた私は身動きが取れないのに気が付いた。

「魔理沙さん!気が付きましたか…!?」

 小悪魔の声がすぐ近くから聞こえる。

 何だろうか、ものすごく……温かい。

 人肌に温かい感覚が私を包んでいて、石鹸のとても良い香りが漂っている。

 目を開くと、小悪魔が心配そうな表情を私に向けていた。私を小悪魔は抱きしめていたため、身動きが取れなったのだ。

「……ああ…」

 私が呟くと小悪魔が安堵して、胸をなでおろして息を吐く。

「…小悪魔は大丈夫なのか…?」

「…私なんかよりも、魔理沙さんは大丈夫なんですか…!?」

 小悪魔が言った。

「…私はもう何でもない。治ってるよ」

 私が言うと小悪魔が呟く。

「…何でもないわけないですよ……なんでこんなに無茶なことばかりするんですか…?」

 小悪魔が私のことを抱きしめながら呟く。

「……私にも、わかんないぜ」

 私がそう呟くと、小悪魔が言った。

「…魔理沙さん……あなたは、なんだか死について過剰に敏感になってませんか?確かに怖いものですが、誰かが傷ついたりすることに異常に敏感になっている気がします」

 そう言う小悪魔から私は離れながら話に耳を傾ける。

「……小悪魔、お前は…死んだことがあるか?」

 私の質問にそこに生きて存在する小悪魔は当然首を横に振った。

「……まあ、当然だよな……死の予感や死にそう……死んだらこうなるんじゃないか……そういうことは体験したことはあっても、本当の死は体験したことはないだろう?」

「…はい……」

 私が一度死んでいることを知っている小悪魔は消え入りそうな声で呟いた。

「…あの……恐怖、孤独、絶望、悲しみ……あんなのはできるならば体験しないことに越したことはない。どんなくそ野郎でもな…」

 私はそう呟く。

「…だから……魔理沙さんはどんな相手も殺したりすることはないんですね…」

「………ああ、……だが、もうやめだ」

 私がそう呟くと、その言葉に小悪魔が聞き返してきた。

「…え…?……止めってどういうことですか……?」

 私に小悪魔が聞き返そうとしたとき、勇儀が歩いてくる下駄の音が薄暗い通路や牢屋に響き渡ってくる。

「……楽しい楽しい時間が来たぜ、魔理沙」

 勇儀が牢屋の扉の鍵を解除して扉を開けて牢屋の中に入ってきながら言った。

どれだけ壊そうとしても壊れない私をなぶるので味を占めたらしく、早く始めたそうだ。

「…早苗から聞いたぞ、私たちのことを殺さずに異変を解決したいらしいな。でも、この状況から私を殺さずにどうやって脱出するんだ?やって見せてくれよ、魔理沙」

 今の私たちの会話を聞いていたのか、そう言いながら勇儀が拳を握り、襲い掛かってくる。

 小悪魔がこちらに来ようとするが、私が目線で来るなと伝えると小悪魔は歩みを止めた。

「……」

 バギッ!!

 顔を殴られてしまうが、私は身じろぎ一つしない。

 唇をかんで毛細血管を切れさせて出血させ、その血を飲み込んだ。

「…………………………めだ」

 身じろぎしないで呟く私に勇儀が聞き返してくる。

「…ん?…なんだって?」

「そんなくだらない信念を貫くのは、もうやめだって…そう言ったんだよ!!」

 私は叫びながら目の前にいる勇儀に殴りかかった。

 接近戦慣れしていないぎこちなく突き出された拳に脅威はないと判断した勇儀はかわしも手で受け止めもせず、私の攻撃を受けた。

 ベギャッ!!

 私の拳の当たった勇儀の左肩がはじけ飛ぶ、弾けた左肩から切り離された左腕が地面に落ち、肺の一部や肋骨の骨片、筋肉や脂肪などの血肉を後方にまき散らしながら勇儀が牢屋の柵に背中を打ち付ける。

「……な……んだ……この………力は…!?」

 死んでいてもおかしくはない状況で、勇儀が驚愕して私に震える声で途切れ途切れに言った。

「……お前は知らなくてもいいことだよ」

 私が冷ややかに言い放つと、勇儀が笑い始める。

「…私にはわかるぞ…!私は死ぬ!……でも、私を殺した時点でお前は私たちと何も変わらないただの殺人鬼に成り下がる!」

 勇儀が喀血と吐血を混じらせて血反吐を吐きながら叫び散らす。

「…で?…だからなんだ」

 私が勇儀に近づきながら言い放つと、勇儀の顔が硬直した。

「…確かに、お前を殺せば私は異変を起こしたお前らとは何も変わらないだろう……でもな、そんなのはどうでもいいんだよ……異変を解決するため、霊夢を助けるために私は手段を選ばないことにした」

 私はそう言ってから一呼吸間をあけてから再度話を始めた。

「…精神攻撃を狙いたいなら言わせてもらうが、今の私には意味はない。なんでゴミ掃除をしたのにゴチャゴチャと余計なことを考えないといけないんだ?」

 勇儀の飛び散った血がかかった手で勇儀の顔を掴む。

「…なんだと…!?」

 息絶えそうな勇儀が言うが、私はそれを遮って言った。

「…楽に死ねると思うなよ」

 私が言いながら勇儀がいる場所の周囲に魔法をかけるために、とある魔法のスペルを素早く詠唱し、その魔法をかけた。

 大量の熱を発生させて勇儀に流し込む。

「が……あああああああああああああああああっ!!!?」

 大量の熱を流された勇儀が叫び始める。肉が焼け、血液が沸騰するため血管を破ってところどころから沸騰した血が噴き出し、肉が焼けて勇儀の体の色が変色していく。

「…魔理沙さん…!?いったい何をしてるんですか!!?」

 勇儀の頭を掴んでいた私の手を小悪魔が掴んで、勇儀から放させた。

 それにより、勇儀にかけていた熱の魔法が解除されてしまい、勇儀の絶叫が止まる。

「…何って、殺すんだよ……生かしておいても何になる……回復したらまた襲ってくるのは確実だ……だったら生かしておく必要もないだろう……無駄な犠牲を生みたくはない」

 体から蒸気を上げる勇儀を見下ろしながら私は呟く。

「…魔理沙さん!……あなた…!」

「……なんでこんなことするんだって?そう言いたいんだろう?…お前も見たはずだ…さとりのペットたちが殺されてた。……殺していたやつらは全員、私が殺さずに逃がしていたやつらだった……小悪魔たちが怪我をしたのも、掴まったのも、全部私のせいなんだよ」

「…そんなことないです…!…魔理沙さん!なんで全て自分のせいにするんですか!」

「……例えば、戦争していて…負傷兵を見つけたとしよう。でももう死ぬだろうと放っておいたら仲間が殺された。放っておいた奴に同じことを言えんのか?……私が片付けていれば生きることができたかもしれない…、私がさとりのペットたちの人生を奪ったんだ……私が殺したのと何ら変わらない」

 私がそう呟いた時、勇儀の悲鳴を聞きつけた下っ端の鬼たちが私たちの方向に走ってくる音が聞こえる。

 効果が切れてしまった血の能力を指をかじることによって出血させ、血を飲み込んで発動させる。

 魔力力を強化したため、比例して様々なステータスが上昇する。

 手先に魔力を集中、牢屋の中から鬼たちを視認できると同時に頭を撃ち抜く。

 魔法を混ぜたレーザーを複数放ったことにより走って来た鬼たちは全員頭部が丸ごと蒸発して首なし死体となる。

「……いくぞ小悪魔、レミリアやさとりたちを見つけるために情報収取するぞ」

 私が言うと、小悪魔は私に畏怖の念を抱いた目線をこちらに向けた。

 こうなることはわかっていた。だから別にショックでもない。

「…。私が言ってることが綺麗ごとだというのは、自覚しています……でも、霊夢さんがいるあなたは……それ以上はやってはいけません!…だから…」

 小悪魔が私に必死に懇願してくる。

「……。もう、遅いぜ…一人殺した時点でただの人殺し、それをやめてもやめなくてもそれだけは変わらない。……いくら罪を償ってもな……こっち側からは抜け出すことはできない」

 牢屋から出た私はそう言った。

「…あなたは……!」

 小悪魔が何かを言おうとした。だが、

「霧雨魔理沙ぁぁっぁぁっ!!」

 私は後方から飛び掛かって来た何かに突き飛ばされて何十メートルも宙を舞い、おうとつがあってごつごつする岩の床を転がった。

 私は床を転がるスピードが落ちて、止まってからゆっくりと起き上がった。

「……」

「こんなに早く再戦できるとは思わなかったよ…」

 爆発瓶などの傷は既に治っている正邪が私に向けて言葉を発する。

 小悪魔が牢屋から飛び出して正邪の後ろに立ち、ちょうど私と小悪魔で挟み撃ちの形となる。

「……魔理沙!早く続きをやろうじゃないか…今回は、あんな爆弾なんかで私を倒せると思うなよ!」

 ごちゃごちゃとやかましい正邪の言葉を遮って私は言った。

「…口の減らない雑魚臭のする三流だな……遊んであるから早く来い」

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十五話 吉とでるか凶と出るか

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十五話をお楽しみください。


 

 正邪に挑発すると、顔に青筋を立てた正邪が私に向かって跳躍してくる。

 能力を使っているのか、正邪の力を強く感じる。

「…馬鹿は、扱いやすくて助かる」

 私は指を強く噛み、出血させた。

 小悪魔は私に何かを叫ぶ声が聞こえてくる。その声を意識から除外していたため、何を言ってるかは聞こえなかったが、私は向かってくる正邪に攻撃を開始した。

 私が放ったレーザーを正邪は地霊殿に行く前に戦ったときのように、掻き消そうとするがレーザーに触れるとその腕や一部の胸部が魔力で強化されているのにもかかわらず、蒸発した。

「ぎぁ……あああぁぁぁっ!!?」

 正邪の酷くやかましく耳障りな絶叫が、少し広いこの廊下に響き渡る。

「…うるさいな」

 私は歩きながら床に倒れている正邪の元に歩み寄る。

「……なあ、正邪」

 泣き叫ぶ正邪の元に歩み寄った私はしゃがみながら正邪に問いかける。

「…な……なんだよ…!!」

 胸に穴が開いて苦しそうに胸を押さえながら正邪は叫ぶ。

「…情報をよこせ」

「…誰…が……お前……に…!?」

 聞くと、正邪が返答してくるため、返答中に私は正邪の首を握りつぶす勢いで握る。

「がっ……!?」

「…イエスか、ノーで答えろ……返答次第では助けてやらないこともない」

 私がそう伝えると、正邪が息をのむ。

「…!」

「…自分の命と…作戦の遂行……どちらを天秤にかけるか……せいぜい考えろ…五秒以内だ」

 私が目を細めると、正邪は顔をひきつらせた。

「………五秒」

 私が言い始めると、正邪が悩みだす。どちらがいいか葛藤しているのだろう。

「………本当に……私を…助けてくれるのか…?」

 程なくして正邪が言った。

「…ああ、助けてやるよ……情報をくれるならな」

 私がそう言うと正邪はわかったと呟く。

「…じゃあ、とりあえず…この場所はどこなんだ?」

 私が言うと正邪が咳き込みながら小さな声で話し始める。

「ここは天狗の屋敷だ………今は地下の監獄にいるんだ……」

「…ふむ。…次はレミリアやさとりたちの居場所だ……指定した場所にお前もつれていく、嘘だったらその場で殺す」

 正邪の首から手を放し胸ぐらをつかんで持ち上げた。

「…う……ぐっ…!」

 正邪が痛みに呻いた。

「…道案内しろ」

 私が言うと正邪が呟く。

「………紅魔館の奴らはこの広い地下の監獄のどこかにいるはずだ……でも、どこかはわからない……地下に監禁してあるとしか聞いてない……それに、さとりたちはこの場所にはいない…」

「…早く治療してほしくて嘘をついてるんじゃあないだろうな…?」

 壁に正邪を押しつけて私は呟いた。

「…本当だよ…!嘘じゃない!」

 正邪が涙目で訴えてくる。

「……じゃあ、どこにいるんだ」

 私が目を細めて睨みつけると、怯え切った正邪が震えた声で話始める。

「…あ……あいつらは……地霊殿に引き続き監禁されてる…!」

「……。じゃあ、この異変の黒幕は誰だ……いるだろう?…そこに転がってる勇儀と酒呑童子の伊吹萃香…それとお前にあと一人……」

「…そ……それは…」

 正邪が口ごもるが私が魔力を込めた手のひらを向けると話始める。

「…わ……わからないんだ!」

 正邪が叫んだ。

 私は正邪の言葉を聞きながら唇を歯で噛みつき、出血させた。

「…お前、状況わかってんのか?……そんなウソが通じると思ってんのか?」

 私は言いながら勇儀が歩いてきていた方向の奥の曲がり角から数人の鬼がまとまって走ってくるのが見えた。巨大なレーザーで薙ぎ払い、一人残らず蒸発させる。

 悲鳴を上げる暇もなく、鬼たちはその生涯に幕と閉じた。

「…嘘じゃない!!…本当だよ!……酒吞童子を通して最低限なものしか伝えられてなかったんだ!……それに、私たちだって一枚岩ってわけじゃない!異変が始まった時に何度か集まったこともあるけど……来なかった奴もいる…!…だから知らないんだ!」

 精一杯に叫ぶ正邪に少し間をあけてから質問を投げかける。

「…そうか、じゃあ……とりあえずお前の言うことを信じよう」

 私が正邪から手を放すと、正邪はせき込みながら座り込む。

「…だがな、お前には死んでもらう」

「……なっ…!?…約束が違うぞ!」

 叫ぶ正邪に手のひらを向け、レーザーを問答無用で放つ。

 閃光瓶のような眩しい光が発生し、正邪にレーザーが突き進む。

「うああああああああああああああっ!!」

 正邪が絶叫した。

「………。…どういうつもりだ…?…小悪魔」

 隣に立つ小悪魔は私の手を掴んで正邪に向けていた手のひらを別の方向に変えている。

「…魔理沙さんこそどういうつもりですか、話したら生かしてやるって約束したくせに殺そうとするなんて!」

「…いや、あるね……なぜなら…こいつは自分のためなら仲間も売るような奴だ。そんな奴が殺すと言われてぺらぺら話し出さないはずがないだろ……何かを隠している」

 私は怯えている正邪に目を向けた。

「でも、もう一度聞けばいいだけでしょう!?」

「…だめだ、これは一度のチャンスなんだよ…嘘をついていると分かった時点でこいつから得られた情報の信用性はゼロだ……ということは、こいつは私たちに嘘をついてこの場を乗り切り、あとでやり返そう、そういう事にもつながるんだよ」

「………!」

 小悪魔は怒っているのか、私を睨んだ。

「…危険分子は早めに排除しておきたいところなんだがな…」

 怯え切っている正邪を見下ろしながら私は呟き、それから視線を小悪魔に向けた。

「……こいつはまあいいや、これが吉と出るか凶と出るか」

 手を下げて私は言う。

「……」

「…とりあえず、私達以外につかまってるやつがいるかもしれないからな…探してみることにするか」

 私は言いながら薄暗い廊下を奥に向けて歩き出した。

「……」

 




明日は投稿できると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十六話 切られた火ぶた

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十六話をお楽しみください。

最近サブタイトルに困ってます。


「……」

 これまでにない気まずい雰囲気が私たちの間に流れている。

 上の方向に意識を向けると私たちが暴れたことにより、鬼たちが何だか忙しそうに走り回っているのが聞こえてきている。

「……」

 いちいち相手にするのも面倒くさい。急ぐか。

 少し早歩きで歩き出し、しばらくの間一つ一つの牢屋を確認しながら私たちは進むが、レミリアの姿は見られない。

「…」

 それどころか永琳の姿も見当たらない。

「…小悪魔、永琳の居場所は知らないか?」

 私が聞くと、小悪魔が少しの間をあけて呟いた。

「…わかりません。私も気を失っているときにこの場所に連れこまれたので……」

 小悪魔が周りを見回した。

「だよな……そう簡単にわかるわけがないか…」

 私はそう言いながら次の牢屋を確認すると、聖が倒れているのが見えた。

「……聖…?」

 私が足を止めると、小悪魔が私の後ろに立ち止まり、牢屋の中を覗き込んだ。

「…聖さん!」

 牢屋の中にいる聖に小悪魔が声をかけるが、反応する様子はない。

 でも、特に外傷はなさそうだ。

 頭頂部やその辺りは紫色で段々と茶色と黄色が混じったような色の髪が臀部の位置まであり、白と黒と腕には白いなわのようなものが巻き付いている服だ。

「…魔理沙さんは外で周りを見張っててもらってもいいですか…?」

 小悪魔が言いながら牢屋の扉を押した。

 聖が敵だった時、私は近いと役立たずに成り下がるため、離れた位置にいろということだろう。

「…おう」

 私が言い、前方と後方にも意識を向けながら私は壁に背を預けて牢屋の中に入っていく小悪魔を眺めた。

 倒れている聖に近づいてしゃがみ、小悪魔は上向けて倒れている聖の肩を掴み、軽く揺らしながら声をかける。

「…聖さん、大丈夫ですか…?聖さん?」

 聖が揺らされると眉間にしわを作り、目を少し開けた。

 その瞳の色は正常な色を示しているが、霊夢や霖之助の件がある。何かスイッチが入ると正体を現すタイプもいるのだろう。だから油断はできない。

「……小悪魔…気を付けろ」

 私が言うと、手振りで了解と伝えてくる。

「…頭が……痛い…ここは……?」

 頭を押さえながら聖は体を起こし、近くにいる小悪魔に聞いた。

「…天狗の屋敷の中です……正確にはそれの地下ですが……」

「…そう……ありがとう」

 聖がそう言いながらゆっくりと立ち上がる。

「…聖……お前は何か覚えていないか…?」

 私が言うと、聖が牢屋の外にいる私を見た。

「…あら……魔理沙……ずいぶんと様子が変わったわね…容姿も、雰囲気も…」

「ああ、そうかよ」

 私は言いながら周りの音の確認をした。誰も接近していないことを確認する。

「…荒んだ顔をしてるわよ」

「…聖、質問に答えろ」

 聖の言い方から、私はずいぶんと酷い顔をしているらしい。

「…さあね……私は確か村に向かったはずなんだけど……思い出せないのよ…」

 思い出すようなしぐさをしながら聖は呟く。

「……それが通じるとでも…?……いつもは普通なのに何かがスイッチとなり、おかしくなる奴もいるからな……何も覚えていない…そういうタイプもいるのかもしれない」

「…大丈夫…私は光を見ていないことは確かよ」

 聖がそこは譲れないと胸を張りながら言った。

「………そうか…じゃあ、何のために村に向かったんだ?」

「そうねぇ。村の周辺から光が発生したのはわかるわよね?」

「…ああ、聞いた限りでは」

「萃香が村にいて、何かやばいことをすると聞いたから止めに行ったのよ」

「…なるほどね。もう一ついいか?」

 私はもう一つ聞きたいことがあり、聖に質問をすることにした。

「なに?」

「…お前は異変があるってわかっていたのはなぜだ?」

 私の質問に聖はすぐに返答を返してくる。

「…うちの寺にいる子が教えてくれたのよ」

「…ちなみにそれは誰だ?」

「ぬえよ、森のなかでコソコソ話す正邪と勇儀をの姿を見たそうよ、気になって話を聞いてみたら大規模で幻想郷全体を巻き込むレベルの異変をするっていうのを聞いたらしくてね、萃香が村にいて準備を始めてるらしいって聞いたから急いで向かったのよね」

 聖が言いながら小悪魔と一緒に牢屋から出てきた。

 その話を聞いてなぜ霊夢に言わなかったんだという言葉が喉まで出かけたが、結果だけを聞いてみれば間違いだった。でも、その時の選択が正しいと思って行動した。結果が間違っていたからと言って攻める気にはならない。

「村に…萃香はいたのか?」

「ええ、いたわ」

 私が聞くと聖はうなづきながら体をほぐした。

「…そうか、じゃあ……聖は村に行き、光が発生して……そこから先が記憶がなくて…何もわからない…そういう事だな?」

 私が聞くと、聖がうなづく。

「…そうなのよ、そのあとどこに行ったのか全く分からないのよね……こう、モヤがかかった感じで…」

「…でも、それなら説明がつく……。…聖…ショックかもしれないが、命蓮寺は潰された……今はわからんが生きている奴は一人しかないかった」

 私が言うと聖は目を見開き、ふらふらと私の方向に歩み寄ってきて呟く。

「………本当なの…!?…あの子たちが……死んだって……本当なの!?」

 当たり前だが相当ショックだったのだろう。聖がすごい剣幕で私に迫り、両肩を掴んで私を覗き込んでくる。

「…ああ、生きていたのは……響子だけだったよ」

 私が言うと、聖が目に涙を溜めて呟いた。

「…そう……でも…響子だけでも生きていてくれてよかった……」

 私はそれを聞きながら考え込む、異変がおこることを知ったぬえが聖に話し、聖は村に向かった。

 村に行ってからの聖の記憶はない。記憶がない部分で萃香に何かをされ、ぬえが異変の内容を知ってしまったことがばれてしまい。萃香が命蓮寺に向かった。

 細かい部分まで異変の内容場流出すると困るため、萃香がたとえ広まっていても情報が命蓮寺にしかないと考えて、皆殺しにしたと考えられる。

 響子の話ではほとんどの命蓮寺の奴らは光を見てしまったと言っていた。それでも殺したのは不安分子を排除したかったからだろう。

 ほかの可能性としては、聖がウソをついているか、響子がウソをついているか。のどちらしかない。限りなくゼロに近い可能性ではあるが、

「……。まあいい……聖はこれからどうするんだ…?」

 私が聞くと、目の座った聖は静かに言った。

「…巻物も取り上げられてしまったみたいだから、それを探してから萃香を探しましょうかしら」

 聖が言いながら周りを見回した。

「…地下からの出口はたぶん向こうの方向だ」

 私は今来た道を指さして言うと、聖はそっちに向けて歩き始める。

「…聖」

 私が十メートルほど離れた聖に声をかけた。

「…?…なに?」

 聖が振り返り、私を見る。

「…気を付けていけ」

 私が言うと、聖がクスッと笑った。

「それを私に言うのかしら」

 聖は幻想郷でも屈指の実力者だ。笑ってしまうのもわかる。だが、この異変はいつもとは違う。

「…いつでも危険な場所にいるならば、用心に越したことはないぜ」

 私が言うと聖はそれもそうね。と微笑み、歩いて行った。

「……」

 私たちも歩き出してしばらくすると、牢屋が並ぶ廊下の一番奥についた。階段があり、さらに奥に降りることができるようになっている。

 今来たところとは違い、作られてまだ新しい通路となっている。

 風化で少し丸みを帯びていたさっきの岩とは違う。ゴツゴツした質感。

 一定の間隔を置いて吊り下げられた電球が頼りなく暗い階段を照らしている。

「…行ってみるか?」

 私が後ろにいる小悪魔に聞くと、小悪魔はうなづく。

 私が始めに階段を降り始めると、すぐに暗くなり頼りない電球の光だけが頼りとなる。暗くて狭くて息苦しささえも感じるほどの密閉された空間。早くこの場所から出たいものだ。だが、地下を出るのは全て探索してからだ。

 誰がいるかもわからない。できるだけ音を立てないように歩く。

 しばらく降りると、

 カン……カン……

 岩と乾いた木が合わさる音が響いてくる。

「…!!」

 この場所は一本道で隠れることのできる場所ややり過ごすことのできる場所などない。絶対に見つかってしまう。

「くそっ…!」

 私が呟くと、階段の曲がりかどから萃香が顔を見せた。

 




諸事情により明後日に投稿します。申し訳ございません。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十七話 酒吞童子との戦い

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十七話をお楽しみください。

先日は諸事情により投稿できずにすみません。


「なっ……!?牢から出たのか!?」

 姿を見せた萃香が驚きの声を上げてすぐさま戦闘態勢へと移行する。

「…なぜこの場所にいる!」

 萃香が私たちに向けて至近距離から拳を振りぬく。

「…が……あぐっ……!?」

 誰かが来ていて、戦う準備はできていたが萃香のパンチの威力は想像を絶する威力を持っていて、私は小悪魔ごと後方に吹っ飛ばされることとなる。

 階段のでっぱりに背中を打ち付けてしまい、背中に鈍い痛みが走った。

「…驚いた……聞いてはいたが、本当に生きているなんてな」

 そう言いながら萃香は私に歩み寄り、胸倉を掴んでくる。

「…う……っ」

「……あたしに会いに来たってわけじゃあないだろう?…何しに来たんだ?」

 萃香が胸倉を掴んだ私をゆっくりと持ち上げる。

「…くっ……」

 小悪魔の話からだいたいは予想できる程度に強い。だが、予想はできてもうまくいかないのが世の常である。

「まあ、どっちにしろ…遅かれ早かれ死ぬことには変わらないんだ……苦しむか、苦しまないか…それだけだ……せっかくだから選ばせてやる」

 スカがずいぶんと余裕の笑みを浮かべて私に語り掛ける。

「…死に方か……私の答えは………お前を殺すだ…」

 私がそう言いながらニヤリと笑うと、上に上がった口角から血がタラリと垂れた。

「……?」

 萃香が疑問符を上げる。喀血もしくは吐血するような怪我はしていないからだ。私から何かを感じ取ったのか、萃香は私の顔を吹き飛ばそうと拳を握ってこちらに繰り出そうとする。

 だが、それができないことに気が付くのは萃香が吹っ飛ばされて天井に背中を打ち付けてからだ。

 私が蹴り飛ばしたことにより、斜めになっている天井に以前の私だったらできないほどに飛んで行った萃香が天井に背中をぶつけた。

「…お前……この力はいったいなんだ……!?」

 床に落ちた萃香が特にダメージを負ったわけでもない様子で体を起こして立ち上がりながら私に言った。

「…教えると思ってんのか?」

「まあ、普通はそうだな」

 私がそう答えると萃香は言いながら笑う。

「…」

 私は手先に魔力を集中して構える。

「…小悪魔、退路の確保を頼む…後ろから敵が来てる」

 萃香を警戒したまま私が言うと後方の階段に入る前の廊下から声が聞こえてきているため、小悪魔はうなづくと今降りてきた階段を駆け上がっていく。

「……くく…匂うなぁ…お前から匂う。殺しをやったやつの匂いがする」

 私に言いながら萃香は嗤う。

「…」

「どうだ?人とは言わないが…殺しをした気分は」

 萃香の口が三日月のように裂け、嗤いながら私に近づいてくる。

「…そうだなあ」

 私はそこで一度言葉を切り、こちらに歩み寄ってくる萃香に向かってこちらこらも歩み寄る。

「…ゴミ掃除をした気分だよ」

 私は言うと同時にレーザーを放つ。放ったレーザーは萃香の左肩を貫通し、お返しとばかりに私の胸に拳を叩きこんでくる。

「…がっ……!!?」

 再度後方に吹っ飛ばされ、階段の上に倒れると、倒れた私の胸の上に萃香が足を乗せた。

 至近距離で萃香に挑もうとしていたのはさすがに無謀だったと少し反省する。

「ゴミ掃除か…そいつは結構なことだ…」

「…お前も…そのごみの一人になるんだよ……萃香…」

 私が言うと、萃香ははっと鼻を鳴らした。

「…何もなくてつまらなかったんだ。少しでも私を楽しませてくれよ」

 萃香はそう言いながらカードを取り出し、魔力を回路に流すとカードが淡く光り輝く。

「四天王奥義『三歩壊廃』」

 萃香がカードを握りつぶすとぐしゃりと潰されたカードが魔力の粒子となって消えて行く。

「…それをここでやるのかよ……しかも、いきなり…」

 萃香の私の上に乗せいている足をレーザーで消し飛ばし、起き上がりながら私は言った。

「こっちは戦争ができなくて暇なんだ……簡単に死んでくれるなよ?」

 消し飛ばされた足を早々に再生させた萃香はいいながら拳を握る。

「……」

私が黙って身構えた時、

 ドンッ!!

 萃香の踏み込みで強い衝撃が発生、私のいるところの階段までひびが入る。

 ひびが入るのと同じぐらいのスピードで萃香が飛び掛かってきて、人間を一撃で粉砕することのできる拳を私に振りぬいた。

「…っ…!」

 私は魔力で体を強化すると足に魔力を込め、上に跳躍する。

 紙一重で拳には当たらなかったが、こちらに飛び込んできた萃香に足がひっかがってしまい、バランスを少々崩してしまう。

 バランスを崩しながら無理な体の体勢で下にいる萃香に向けてレーザーを放つ。

 放ったレーザーを萃香はもろに浴びるが、少し怯む様子が見られた。だがそれだけだ。

 血を少量しか飲んでいないとはいえ、私の最高出力は萃香にとって少し怯む程度の物でしかないというわけだ。

 魔力を足から放出して、その場で硬化させて固定させ、足場にして階段の小悪魔が向かっていた方と同じ方向にジャンプして下がった。

「あ?…何逃げてんだ?」

 萃香が苛立ったように自分の拳でボロボロになった床の上に着地した私に言う。

「…真正面から鬼に立ち向かうほど、馬鹿じゃないんでね……」

 私は言いながら階段を一歩後ろに下がった。

 後方からは何か騒がしい声が聞こえる。私たちを捕まえに鬼が来たのだろう。小悪魔がそれらと交戦する音がわずかに聞こえる。

「…まあいいや…」

 小悪魔が奴らに後れを取るとは思えない。私はごちゃごちゃと考えるのをやめた。

 萃香に意識を向けると魔力力が星熊勇儀の比ではないぐらいの質があるということがわかった。

 三歩壊廃の作用により、萃香の低い身長が三倍程度の大きさになって見上げるのが萃香から私に変わった。

 天井スレスレの萃香の身長。その分腕が伸びて射程が二倍以上も伸びたことになる。こいつはとにかく強いということは聞いているため、これ以上こいつの攻撃を食らうわけにはいかないだろう。

「……」

 歩幅も伸びて、現在は数メートルの距離が萃香とあるが、こんな距離は一歩で詰められてしまうだろう。

「…そら、二回目だ!」

 萃香が一歩歩み出すと同時にそれ以上の距離を私は後ろに下がる。

 だが、私は歩幅や腕の長さが伸びていたことを甘く見ていたらしい、萃香の腕が余裕で届く距離しか下がることができず、私の手のひらよりも大きな大砲のような拳が私の体を容易く吹き飛ばした。

「…ぎっ……ぁがっ……!!?」

 下から振りあげるような一撃に私の体が浮き上がり、一直線に小悪魔がいる通路まで吹き飛んだ。

 何十メートルもあった通路に瞬きする時間よりも早くに到達していた。

 私は吐血して血を吐き出してしまう。

 口から出てしまったのは無理だったが、口の中に残った少量の血を飲み込んで魔力力をさらに強化した。

 ドォォォォォォッ!!

 通路の壁に背中が当たる。防御を強化した私の体は岩の壁を砕いて粉砕した。壁が陥没して二メートルほど押し込まれるがそこで何とか耐えきった。魔力で防御力を上げていなければ、おそらく私は壁にへばりついてシミになっていただろう。

 魔力を使って吹っ飛ばされた方向とは逆方向に推進力を働かせていたのも大きい、被害がそれだけで済んだのはこれのおかげでもある。

 一撃の痛みが始めに殴られた時の二倍や三倍の比じゃない。

「ぐっ……!!」

 殴られた腹を押さえながら横にいる鬼たちと戦っている小悪魔と目が合った。

 私が突っ込んできたことによって唖然としているうちに、何も言わずに小悪魔に走り寄って抱き上げて出口に向けて今来た道を戻り始めた。

「ちょっ…!?魔理沙さん!?」

「逃げるぞ!!」

 小悪魔の意見を聞いている暇もないため、鬼の横をすり抜けて全速力で走り出す。

「ま…魔理沙さん!なにをするんですか!?」

「…すまないが、手段を選んでい暇がなかったんでな!」

 私は言いながら肩越しに後ろを振り返ると、さらに巨大化した萃香が狭い通路の天井を破壊しながら現れる。

「…ちっくしょう!……もうきやがった…!」

 この牢屋の並ぶ通路は縦にも横にも広い、萃香が走るのにも支障はない広さだ。

「魔理沙ぁ!…逃げるなぁ!」

 萃香はそう叫びながら小悪魔と戦っていた鬼たちを薙ぎ払ってこちらに向かって走ってくる。

「…魔理沙さん!私を下ろしてください、これではスピードが出ません」

 小悪魔が言い、私が走りながら小悪魔を下ろすと地面につくと同時に走り始め、私は小悪魔を下したことにより、わずかに走るスピードが上がった。

 小悪魔が私に並走する。

「…小悪魔、私に合わせなくてもいい…先に行け」

 私が走りながら途切れ途切れに言うと、小悪魔が私にすみませんと呟いて足の回転を速めて走っていく。

 全力で走る私を小悪魔はぐんぐん引き離していく。

「…あとで合流するから…先にレミリアたちを探していてくれ」

 私は言うと小悪魔は正面に向かって走りながらわかりましたと返事をして、約六十メートルは先にある階段を駆け上がっていく。

 私が振り返ると、五メートルほど後方にいる萃香が拳を振り上げて私に殴りかかってくる。

 想像以上に近く、射程や速さが今までの攻撃を凌駕するほど速い、つまり、ただでさえ接近戦が不得手の私には手に負えないということだ。

 悲鳴を上げる暇もなかった。

 




たぶん明日も投稿すると思います。その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十八話 アリスを殺した人物

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十八話をお楽しみください。


 

 萃香に殴られた、そう気が付いた時に私はすさまじい激痛と共に後方にある壁にめり込んでいた。魔力で逆方向に推進力を生み出す暇もなかった。

 数十メートルは後方に続く岩石の中を削岩機のように砕きながら私の体が進んでいく。

「ああああああああああああああっ!!」

 私は叫びながら全力で魔力を体を防御するのに回した。一瞬でも気を抜けばひき肉になってしまう。

 周りの岩の質感が土の質感に変わる。外に近いということだ。

 ドォッ!!

 地面が盛り上がり、大量の土と岩をまき散らしながら地面の中から外に投げ出された。私の体が地面で一度バウンドして、衝撃で木を根元から千切り取って倒れてしまう。

「…か………ぁ……ぁ…っ…!!」

 肋骨が砕けていて、息を吐いた私はさらに激痛を味わうことになる。

 すぐに魔力で砕けた全ての肋骨を修復させ、毒づく。

「………っ……くそ……!」

 かぶっていた帽子は奇跡的にどこかに飛ばされたわけではなく、ズレて上向けに倒れている私の顔の上に乗っている。

 帽子が顔の上に乗っていて周りが見えないため、帽子を手に取って持ち上げて胸の上に乗せた。殴られた激痛でまだ動くことはできず、木の上に寝転がったまま顔を上に傾けると、よく知るとある人物が視線の先に見えた。

「………………」

 その人物はおかしくなってしまった妖精たちを滑らかで月明かりに照らされて輝く刀で次々に切り捨てている。

 妖精たちは切られた断面から血を溢れ出させて切られた順番に倒れていき、動けなくなっていく。

 私は全身の痛みも忘れ、体を回転させて寝そべっていた状態から起き上がった。

「……」

 ザシュッ!

 この辺りにいる最後の妖精を切り捨てるとその女の剣士、魂魄妖夢は顔に飛び散った血を手の甲で拭う。

 手の甲で拭いきれなかった血が広がって妖夢の顔を汚した。

「……ふう…」

 専用の布で長い方の太刀、桜観剣にこびりついている妖精たちの血と油を綺麗にふき取って布を投げ捨てると月明かりに照らされた桜観剣が怪しく光った。

「………」

 桜観剣の棟を手元の鍔のあたりをさやの入り口に合わせ、剣先まで鞘の入り口に滑らせると、手首を曲げて剣の向きを変えて鞘に桜観剣を収めた。

「…妖夢……!」

 アリスの家での光景が私の頭の中にフラッシュバックして、記憶が掘り起こされる。

 アリスの頭部は首から切断されていた。その切断面から察するに、かなりの剣の熟練者だと分かった。小野塚小町のように鎌を使うものもいるが、形がいびつで切断面も安定はしないだろう。

 アリスに状況次第では勝つことができて剣術を使う奴など、この幻想郷には一人しかいない。

 親指に噛みつきながら私は走り出す。溢れてきた鉄臭い血液を舐めて嚥下して飲み込むと、魔力力を強化する。

「妖夢ぅぅぅっ!!」

 私は跳躍して妖夢に飛び掛かる。頭に血が上っている私は拳を握って妖夢に殴りかかった。先ほどまで戦っていた萃香のことなど、すでに頭の中にはない。

 妖夢は剣を抜いている暇はなかったのか、鞘に納められている桜観剣で私の拳をガードする。

「ま…魔理沙…!?」

 いきなり殴りかかって来た私に妖夢は驚いた様子で殴りかかった私を眺めた。

「…っち…」

 舌打ちした私は一度妖夢から距離を取った。

「…魔理沙、…これはいったいどういうつもりなのかしら?」

 妖夢がそう言いながら鞘からゆっくりと桜観剣を引き抜き、慣れた様子で構えを取る。

「…どういうつもりだって?……そんなこと、自分で考えやがれ……わからないなら…思い出させてやるよ…!」

 私はそう言いながら妖夢を睨みつけると、妖夢はやれやれと息を吐いて桜観剣を握りしめた。

「……」

 私のような血で赤く染まって一部ほんのりピンク色の白髪とは違い、手入れが行き届いたサラサラで純白の髪や少し返り血のついた緑色の服が風に揺られた。

「……」

 遅れて私の方にも風が吹き、帽子やスカートのリボンを揺らす。

「……」

 数十秒経つが、お互いに動く気配はない。血の能力が解除されてしまい、少々もったいない気がしたが戦っている最中に切れるのよりはいいだろう。

「……一つ質問良い?……魔理沙はおかしくなっているの?」

 妖夢がいまさらになって私に質問を投げかけてきた。

「……おかしくなってたら、こんなにまったりはしない…」

 私の容姿が変わっていて目も赤くなっているため、一応聞いたのだろう。

「……」

 これ以上、このままではらちが明かない。早くシバキ殺したくてたまらない。

「…ここでお前を殺してやるぜ…妖夢」

 この血の能力があればある程度の奴とは戦えるだろう。

「誤解があるようなのであなたをねじ伏せてからゆっくりと誤解を解くことにするわ」

 妖夢がそう言ったとき、私は動き出した。

 バックに手を突っ込むと同時に前方に向けてレーザーを放つ。

 妖夢はそれをギリギリでかわす、だが無駄のない動きであり、ギリギリというよりは必然的によけたとように見える。

 妖夢は姿勢を低くして地面を這うように走ってきた。

「さすがに…早いな…」

 私は呟きながら後方に向けて口の開いた瓶を妖夢に見えないように放り投げた。

「せぇい!」

 妖夢は最小限の動きで下から上に桜観剣を振り上げる。

 予想よりも来るのが早い妖夢に対して私は一歩下がるが、妖夢はその開いた間を走って埋めて桜観剣の刃先で私を切り裂こうとした。

 直後、真っ白な光と炸裂音が私の少し後方の真下から出現した。

 一歩下がったことにより予定していたよりも大きな音で鼓膜が破れてしまい、耳から出血する感覚がする。

 だが、それだけ。

 妖夢は光をほぼ直視したに等しい。これで少しの間、妖夢の視覚情報は遮断されたに等しい。

 もう一歩下がった私に桜観剣は掠ることもなく振り上げられた。

「くらえ!」

 魔力を手先に込めて私は妖夢に向けてレーザーを撃ちだした。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第四十九話 仇

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでも良いという方は第四十九話をお楽しみください。


 感、というのは本当にすごいものだ。霊夢もそうだが、いつも私の予想の斜め上を行く。

 閃光瓶の影響で目と耳が見えず、聞こえない。そんな状態で私が放ったレーザーをものの見事にかわして見せた。

 今撃ったレーザーは撃つための動作があったため、タイミングはつかめないがとりあえず何となくで横に飛べばかわすことはできるだろう。だから妖夢も私が爆弾を使うとは思わないだろう。

 爆発瓶をバックから取り出し、瓶の蓋を緩めて飛んで行っているときに蓋が取れるように私は投げた。

 私が爆発瓶を投げると同時にそれの爆発範囲から逃れるために後方に下がる。私の予測通りに目が見えない妖夢の顔に向けて蓋が取れながら瓶が飛んでいく。

 妖夢はあたりの空気の流れから瓶の位置を特定したのか、桜観剣を振り上げて爆発瓶を叩き切る。

 剣で砕けると思っていたガラス製の瓶が綺麗に切断され、中身の特殊な加工をした物質が空気と触れ合うことで燃焼し、青白い炎を四方にまき散らしながら拡散させて大爆発を起こさせた。

「あ…ぐっ……!?」

 爆発の爆風を顔のすぐ近くで受けたため、意識がはっきりとしないのだろう。片膝を地面につけて頭を振って意識をはっきりさせた妖夢は、爆発瓶と閃光瓶の影響から回復した闘志に燃える目で私を見る。

 閃光瓶を続いて投げようとしたが、正邪の時のようにうまくいかないだろう。妖夢は感もいい方だし、なにより用心深い。

 爆発瓶の焼けた物質の燃えカスの煤が少し頬についていて、妖夢は頬を拭う。

「…すこし、手荒に行くことにするわ……魔理沙…」

 わずかに殺気の含まれる闘志を感じる。異変が起きていろいろな体験をしなかったらここでビビッて私は逃げ出していただろう。

 妖夢はカードを取り出し、魔力を流したカードを妖夢が桜観剣で切り裂いた。光り輝いたスペルカードの紙の部分が形状を維持できずに塵となって消え去り、腰を低くして妖夢が戦闘態勢に入る。

「……」

 何のスペルカードかはわからない。だが、妖夢のスペルカードはほとんどが剣でぶった切るようなものだったはずだ。当たり所が悪ければいくら私でも血で回復させる前に絶命するだろう。

「断命剣『瞑想剣』」

「…このスペルカードは……!」

 私が呟くと、妖夢の持つ桜観剣の周りを覆うように緑色のオーラが纏い、鍔から剣先に向けてオーラが流れている。

 以前このスペルカードを遠目から見た時は、岩石を豆腐のようにやすやすと切り裂いていて、真っ二つにしていた光景を思い出す。

 ただし、あれの効果は一撃だけだ。

 一撃さえ外してしまえば、あとは普通の桜観剣に戻るため何とかして何かを切らせなければならない。だが、私は退く気もない。

 桜観剣を構えた妖夢が素早いスピードで一直線に私に走り寄り、桜観剣を振りかぶる。

 それと同時期に私の妖夢に向かって動き出す。

 妖夢よりも圧倒的に足が遅いが、頑張って足を回転させて走る。走りながら親指に噛みついて出血させて血を飲み込み、魔力力を強化させる。

「りゃあっ!!」

 ゆったりと桜観剣を纏っていたオーラが妖夢の斬るタイミングに合わせてジェットのようにオーラが噴き出し、それが剣の形を成して射程が倍以上に伸びる。

「…っ!?」

 まっすぐ直覚に振り下ろされた桜観剣のオーラが私の右腕の肘を右足ごと切断し、地面すれすれで刃を止めた。

「…が…っ…ああああっ!!?」

 右腕と右足を同時に失ったことにより体を支えることができなくなり、走っていた体勢もあって体を投げ出すように妖夢の前に倒れ込んだ。

「勝負ありよ……私に接近戦を挑むなんて……無謀にも程があるわ、魔理沙」

 そう言って不用心に妖夢は桜観剣を鞘に納めて私に近づいてくる。

「…めでたいな、妖夢」

 魔力を腕と足にそそぐとほんの数秒で手足が治り、私は素早く立ち上がる。

「…え…?……なんで……腕が……?」

 妖夢が今起こったことの処理ができないのだろう。私の切断したはずの右腕を眺める。

「…腕だけじゃないぜ」

 私はそう言いながら目の前に立っている妖夢に手が届く距離まで移動する。

「ま…魔理沙は……本当にただの魔法使いなの……!?」

 妖夢が目を見開き、後ずさりながら私に言った。

「…ああ、ただの魔法使いだ……いや、だった…だな……正確に言えば」

 私が言うと、はっと我に返った妖夢頭を切り替えてすぐ近くにいる私に向けて剣を鞘から抜きながら切り付ける、いわゆる抜刀術で私に横から薙ぎ払う形で左から右に振りぬいた。

 だが、

「…もう遅いぜ」

 近づいた私は足に魔力を集中させ、妖夢の持つ桜観剣よりも内側。つまり、腕の位置にまで走り寄る。

 これで今回の斬撃での桜観剣の脅威はほとんどない。

 ほぼ密着しているに近いほど妖夢に近寄り、私は妖夢が下がってさらに斬撃をこちらに食らわせる前に妖夢の顔に右手を伸ばしながら呟いた。

「…おっと、手が滑った」

 妖夢の桜観剣が振り切られる前に私は妖夢が剣を振っている方向とは逆の右側からすり抜けるようにして離れる。

「あ…っ………っ…!!!!?」

 妖夢は初めは何をされたのか全く理解できなかった。もしかしたら、理解することを脳が無意識のうちに拒んでいたのかは知らないが、一泊の間をあけて妖夢はようやく状況を理解し始める。

「あ…っ……ああああああああああああああっ!!!」

 右目を押さえながら妖夢が叫び声をあげた。

「…片目を潰されたぐらいでピーピーわめくな…妖夢……これからまだまだ苦しんでもらう予定なんだからなぁ」

 後ろから近づいて目を押さえてうずくまっている妖夢の白髪を掴み、近くの木に顔を押し付けさせる。

「う……あ……っ…!?」

 右目から出血している血が妖夢を押さえ付けている木の幹にへばりついた。

「……妖夢、お前が殺したアリスと同じように殺してやるよ」

 私が木に押し付けて妖夢にささやくと、妖夢が右目を押さえながら叫んだ。

「アリス……?……私は…殺してない…!アリスのことは……殺してない!」

「…そんなウソ誰が信じると思ってんだぁ!?」

 髪の毛を見ちあげながら妖夢の胸倉に手を伸ばして掴み、後方に向かって妖夢を投げつける。

 なかなか大きい木の幹が大きく湾曲する勢いで木に突っ込んだ妖夢は、宙がえりをしていて木の幹に着地すると湾曲した木が形を治そうとする力を利用してこちらに高速で突っ込んでくる。

「…妖夢…こうやって私に立ち向かってくるがな……お前は私に勝てやしない」

 私が言うと同時に親指に噛みついた。

「させない!!」

 この親指をかむ行為が何かの引き金になっている、と妖夢は感じたのだろう。私に切りかかってくる。

 妖夢が桜観剣を振り下ろす。私よりも一歩だけ妖夢の方が早かった。

 斬られた部分から鮮血がにじみ出る。

「……」

 妖夢の桜観剣は私の肩を少し切る程度であとは地面を切り裂いただけで終わった。

「な……んで……!?」

 自分が私に向かって振り下ろした桜観剣が、ちゃんと当たらなかったのが信じられないのだろう。目を見開いて呟く。

 妖夢の右目は私が潰した。それにより私の自分の距離感を見誤り、桜観剣を掠る程度で外してしまったのだ。

「…くらえ」

 私がレーザーを放つと同時に妖夢の姿が縮まり、真っ白な球体型の尾を引く妖夢の半霊になって私のレーザーを避ける。

 流石にこれは驚いた。いつも妖夢の周りとをんでいたが、こんなこともできるとは思わなかった。

「魔理沙、少し大人しくしてもらうわよ…!」

 右目がきちんと潰れている妖夢が私の首筋に桜観剣を構える。木に着地したときに入れ替わっていて、本物が後ろに回って来たということだろう。

「…ふん。…それで私の動きを封じたつもりか?」

 私がそう呟くと妖夢は油断なく桜観剣を私に向けていたが、私は既に詠唱を終了させておいた。

「…妖夢、大人しくするのはお前だよ」

 大量の魔法陣が空中に形成されて妖夢の周りを覆っていき、簡単な檻を作り出す。

 魔法陣の向いている方向を調節して妖夢にだけ当たるようにした。私を撃ち抜くように配置するほど私は間抜けではない。

「…っ……これは…!?」

 妖夢が驚きの声を上げるのが大量の魔法陣の中から聞こえた。私は動くこともなく口を開いた。

「…私を切ればそれと同時にレーザーを発射させる。…私を一瞬で殺すことができても私から魔法陣への魔力供給が途絶えても爆発するように設定してある」

 私がそう伝えると妖夢が歯を食いしばる気配がする。

「なら、これをすべて破壊するまで!」

 妖夢が桜観剣を振りあげて数十個もあるうちの一つの魔法陣に向かい、ぶった切る。

「…それも対策済みだ…umringen(囲め)」

 私が呟くと私を囲わないように地面の下に這わせていた結界の線に魔力を送り、物理結界を完成させた。

 全ての魔法陣と妖夢だけを囲うようにして結界が形成され、妖夢が桜観剣で切り裂いて損傷させて白く光っていた魔法陣の色が切り替わり、黄色く光りながら膨れ上がって大爆発を起こす。

 魔法陣に手段は問わないが危害が咥えられたら溜めて置いた魔力分の爆発をしろと命令しておいた。

 そうなれば、一つ爆発すればその周辺にある魔法陣にも爆発が伝わり、連鎖的に爆発するのは目に見えてる。

「なっ……!?」

 物理的な結界だけだったため、妖夢の声が聞こえた。だが、すぐに数十個の魔法陣の爆発音に妖夢の声は聞こえなくなった。

 

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十話 斬り合い

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十話をお楽しみください。

記念すべき五十話目ですので、そのうち気が向いたら何かを投稿しようかなとか考えていますw


 

 ドオッ!!

 結界の壁の壁が内側からの圧力により膨れ上がり、パンパンの風船のように耐え切れずに破裂するかと思ったが、結界はすぐに小さくなっていって私が結界を張った時と同じ大きさに戻った。

「……befreiung(解除)」

 私が呟くと、よく見ないと分からないぐらい薄い色のついたガラスのような結界が消え去り、結界の中で起きた爆発で舞い上がった砂煙がゆっくりと風に吹かれて飛んでいく。

「…っ……かはっ…!」

 立っていた妖夢が地面に膝をつき、桜観剣を地面に突き立てて自分が倒れないように体を支えている。

「……」

 私は妖夢を睨みつけながら桜観剣の完全射程距離外から彼女に手を向けた。

「くっ……酷い勘違いね……私は、アリスのことは殺してなんかない…!」

 妖夢が叫んでくるが、私はそれに対して苛立ちしか感じられない。やったならやったでさっさと白状しろよ、と。

「…まず一つに、この幻想郷で剣なんかを使う奴はそうそういない、持っている奴はいるだろうが、魔法使いと戦ってさらに首を綺麗に切り落すほどの腕前と技術を持っているとなればさらに選択肢は狭まる」

 私はそう言いながら手先に魔力を集中させた。魔力が集まる手のひらが淡く光り出す。

「…言い逃れができると思うなよ!妖夢!」

 私が叫びながらレーザーを放とうとしたが、妖夢も何かをするつもりらしく私は足を止めて警戒した。

「…私は、嘘はついていない!!」

 妖夢がこちらに向かって桜観剣を構え、本当に地面の上を走っているのかと思うほどに滑るように素早い動きでこちらに向かって来た。

 妖夢がカードを取り出し、魔力を流すと淡く光り、段々と輝き始めたそれを私に向かって投げつけた。

 レーザーで撃ち落とそうとするが、スペルカードを破壊すれば妖夢のスペルカードが発動してしまう。

 私に撃ち落とさせてそのままスペルカードで私を倒す気なのだろう。

 私は後ろに下がって距離を開けようとするが、妖夢がさらに踏み込んでカードごと振り下ろした桜観剣で私をぶった切る。

「…ぐっ…!?……あぐっ……!!」

 とっさにガードに使った右腕が桜観剣に中途半端に骨まで切られ、支えの無くなった私の手がプラプラと揺れる。

「人符『現世斬』」

 妖夢が使ったスペルカードが分かった。

 確かこのスペルカードは、切る人物の横を一瞬で走り抜けながら切り裂くというものであったはずだ。

 妖夢の姿がブレて消え失せた。

「…なっ……!?」

 以前戦ったときは、辛うじて目で追える速度だった。しかし、今は全く見えなかったというのが本音である。

 妖夢達が異変を起こして以来私は戦ってはいなかったため、ここまで妖夢が強くなっているとは思わなかった。

 いつの間にか走り抜けていた妖夢に切られていた腹部の切り傷から血が流れ出し、服を赤く染める。

「…はぁ…はぁ……」

 かなり神経や体の機能を無理に使うらしく、妖夢が後ろで息を荒くしているのが聞こえる。

「…魔理沙……」

 後ろから近付いてきた妖夢が私の肩を掴んで呟いた。

「妖夢、まだ戦いは終わってないぞ」

 妖夢に切断されかけていた腕は既に治癒が終わっている。その手で拳を握り、後ろにいる妖夢に向けて拳を繰り出した。

「ぐ…ぇ……ぁ……っ!?」

 妖夢は理解できないだろう。なぜ傷がこんな異常なスピードで治癒するのかが。

 不意打ちに近いというのに妖夢は後ろに飛ぶことで、私のパンチの衝撃を逃した。だが、やはり不意打ちであったため、こちらにも手ごたえはあった。逃がせた衝撃は2~3割と言ったところだ。

 腹を押さえて動きの鈍くなった妖夢の腕を掴み、私は少し遠くにある気に向けて妖夢を投げ飛ばした。

 その場にしゃがみ、手ごろなまっすぐな棒を手に取り魔力を流す。

 霊夢の代々継がれてきているお祓い棒のような特殊な加工をしているわけではないが、魔力力が上がった私の魔力を流せばその分このただの棒きれもお祓い棒のように堅くなり、そう簡単には折れなくなるだろう。

 私が投げ飛ばした妖夢は前回と同じように木の幹に着地し、私に向かって跳躍する。

「らぁっ!!」

 こちらに飛んできた妖夢に、上から下に向けて魔力を流したただの棒切れを全力で振り下ろす。

 普通に考えて妖夢の得意分野は得物を使った斬り合い、殴り合いだ。正直私には分が悪すぎる。毎日鍛錬してきた妖夢と私とでは勝負にならないだろう。だが、それはいままでならばだ。

 ガギィィィッ!!

 私が振り下ろしたただの棒きれと妖夢が振り下ろした桜観剣が合わさると、火花を散らして鍔迫り合いとなる。

「…なっ…!?」

 霊夢が持っているお祓い棒でもない、魔力を流しただけのただの棒きれを切断することができず、妖夢は驚いて目を見開く。

 妖夢が剣に力を込め、火花を散らしながら私を押し返した。

 私は棒切れを振って妖夢が近寄れないように牽制をするが、妖夢は軽く顔を傾けて攻撃をかわす。

 わずかに焦りが生じ、大ぶりの一撃を妖夢に食らわせるが、剣の棟をうまく使われて受け流され、私が振り切るまでに妖夢は私を二回ほど腹と腕を切り付けた。

「ぐっ…!?」

 私は歯を食いしばりながら見様見真似で妖夢に棒切れを振り下ろす。

 ギギギ!

 火花と魔力の塵をまき散らしながら再度妖夢と鍔迫り合いとなり、まじかで妖夢とにらみ合いとなる。

 力を込め、押し返すと同時に私は棒切れで殴りかかった。

 妖夢の肩に棒を当てることができたが、私が殴ると同時に体勢を変えて受け流されてしまう。

「…くそっ…!」

 私は毒づきながらもう一度棒を振り回すが、妖夢は簡単に私の棒を弾き飛ばす。だが、私はあきらめずに何度も妖夢に攻撃を仕掛ける。

 何十回も何百回も見てきて目に焼き付いている霊夢の太刀筋を思い出しながら妖夢に棒切れを叩きこむ。

 霊夢ならどうするか、次どうやってどの角度から、どれだけ踏み込み、どのような軌道を描くかを私は想像しながら殴りかかる。

「うおおおおっ!!」

 無我夢中で棒を振るう。

「霊夢さんの見よう見まねでこれだけとは、あなたもなかなか筋は良いみたいね……でも、魔理沙が私にこれで挑んできたのは間違いよ」

 私は棒を持っていない方の腕で妖夢の斬撃をガードすると、難なく切断された腕が重力に従い、地面に落ちた。

 妖夢が振った桜観剣の軌道上、私の頬を少し切って傷口から血が流れ出す。

 だが、ようやく妖夢に一撃をおみますることができた。肉を切らせて骨を断つとはよく言ったものだ。

 私が振った棒がわき腹にめり込み、妖夢の体がくの字に折れ曲がって後方に吹っ飛んでいく。

「…はぁ……はぁ…ようやく…一撃……!」

 私が言いながら腹を押さえて近くの木を支えにして、起き上がろうとしている妖夢に向けて私は走りだそうとしたとき、何かが後方から叫び声をあげながら現れる。

「てめぇ魔理沙ぁぁっ!…あそこでずっと待ってた私を置いて何してやがるう!!」

 萃香が後方から私に飛び掛かって来た。

「……やかましい」

 私は冷ややかに呟き、振り返りながら魔力で強化した棒を萃香の顔に叩き込んで吹き飛ばした。

 木の枝や草に隠れて萃香の姿が見えなくなったころ、肩から妖夢に切断された切断面に触れると大量の血が流れていて血が手にこびりついた。

 手にこびりついた血を口に含み、唾液と一緒に飲み込んだ。

 そのころになると妖夢も腹部を押さえながら起き上がってしまった。

 私は舌打ちをしながら息を整えて妖夢に向かって歩き出し。妖夢は私に向かって小走りで近づいてくる。

「「くらぇ!」」

 同時に桜観剣と棒を振り、それらが合わさった瞬間火花と魔力の塵があたりにまき散らされた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十一話 間違い

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十一話をお楽しみください。


 

 木の棒と桜観剣が高速で触れあい、それぞれの物質同士を打ちあわせたとは思えないほどの鋭い金属音に似た打撃音が響く。

 火花が散らなければ血しぶきが舞い、火花が舞い散れば血しぶきは飛ぶことはない。

 妖夢と戦っている中で私はいつの間にか、防御ばかりで攻めに転じることができなくなていた。

 初めのうちは私の見よう見まねの攻撃に妖夢も少し驚き、私が有利な状態にはなった。だが、なんてことはない、ただの付け焼刃の太刀筋など剣術を日ごろから鍛錬している妖夢はすぐに私の攻撃は慣れてしまったらしい。

 今はかろうじて何とか攻撃を捌いてはいてはいるが、これもいつまで持つかはわからないぐらいのギリギリの攻防だ。

 ガギィィッ!

 妖夢の切込みが浅く、私がはじき返すと妖夢はほんの少しだけ隙を見せた。私はその隙を見逃さずに魔力で強化した棒切れを叩きこむが、妖夢が簡単にその攻撃を弾いたことで隙が罠だったと思い知る。

「っち…!」

 妖夢が私の持つ棒切れをからめとるようにして桜観剣を動かし、棒切れを上に弾き飛ばした。

「…あっ…!?」

 魔力で強化した棒切れが私の手を離れて回転しながら上に飛んでいく。

 だが、これも利用させてもらうとしよう。

 元々接近戦は大の苦手なんだ。あんなの私には必要ない。

 妖夢が私に向かって桜観剣を振り下ろす。私はよけようと体をずらした。避けるにはすでに遅く、妖夢が振った桜観剣は私を逃がすことなく、肩から胸の位置までを切り裂いた。

 だが、桜観剣は私の体の近くに接近するとグニャリとその軌道や桜観剣の形を歪に変えて捻じ曲がる。

「えっ…!?」

 驚きの声を上げる妖夢の見えない視界、右側からわき腹に向けてレーザーを食らわせる。

 腹側から放ったレーザーは一部の臓器を貫通して、背中側から飛び出して後方の地面を焼け焦がした。

「が……はがっ……!?」

 理解できないだろう。なぜ自分が切ったはずの私が横にいて、自分がレーザーで撃たれているか。

 単純に私は光の魔法で自分の位置を錯覚させ、よける動作をしているうちに妖夢から切られない位置に移動したのだ。

 桜観剣の形がいびつになったり、軌道がグニャリと曲がったのも屈折の影響だ。

 妖夢がレーザーを撃たれたことにより硬直しているうちに、後ろに回り込んで膝を後ろから蹴飛ばして地面に膝をつかせた。

「…先を急がないといけないが……遺言を聞いてやらないことはないぜ…?妖夢…」

 妖夢の後頭部に向けて手のひらをかざす。

「……」

今までの戦いから私が本当に殺すと感じ取ったのか。妖夢は体を震わせる。

「…私は…私は……アリスを殺してなんかない……!」

 妖夢が呟く。

「そうか、死ね」

 私が手先に込めた魔力をレーザーとして妖夢に向けて最大出力で放出する。

「…待ちなさい」

 妖夢の後頭部を貫く予定だったレーザーは、どこからかの攻撃によって打ち消されてしまう。

「…この声、幽々子か」

 私が呟くと上から幽々子がゆっくりと降りてくる。基本が青い服装にピンク色の肩に着くかつかないかぐらいの長さの髪に、被った帽子には三角巾のようなものが付いていて、渦巻きの模様が見られる。

 扇子を持っていて、広げた扇子でパタパタと自分を扇いでいる。

「…次から次へと……」

 私が言うと、幽々子が位置調整をしながら私の隣に降り立った。

「…妖夢にこんなことするなんて……酷いわね…」

 幽々子が扇子で口元を隠しながら、いつもと変わらない調子で私に言ってくる。

「…うるせぇな……黙ってろ…庇うなら同罪としてお前も殺すぞ」

「あらあら、ずいぶんと様子が違うと思ったら…怖い怖い」

 幽々子は私は見ながらくすくすと笑い、黙って私は幽々子にレーザーをぶっ放そうとしたが、幽々子が私に言った。

「魔理沙、あなたは勘違いしてるわ…」

 閉じた扇子で私の手を叩き、手のひらを別の方向に向けさせてレーザーを外させたのだ。

「それを攻撃と思わないでね、叩いた理由は…うちの大事な庭師を殺させるはずがないでしょう?っていうのと…妖夢はあなたの知り合いを殺してはいないわだって…妖夢は白玉桜から地上に降りてきたのはついさっきよ」

 幽々子が言いながら膝をついていたボロボロの妖夢を立たせた。

「…証拠がないぜ、幽々子」

 私が言いながらこちらの警戒を始めた妖夢と何を考えているのかわからない幽々子を睨みつけた。

「…証拠ならあるわよ」

 そう言いながら幽々子は来ている着物の帯を取って服をはだけさせる。

「……?」

「なぜ地上に今まで下りてくることができなかったか、それは私の治療をしていたのよ」

 包帯で隠れてはいるが、腹に大きな穴が開いているのが一目でわかった。

「……これは…誰にやられたんだ?」

 幽々子がここまでやられる奴と言ったら、あいつしかないだろう。

「…萃香にやられたのよ」

 私が思っていた通りの答えが返って来た。幽々子は言いながらはだけさせた着物を着なおして帯を締める。

「……」

「あなたが何か勘違いをしていて、私たちはまったく関与していないっていう事はわかってくれたかしら?」

 妖夢が桜観剣を鞘にしまい、幽々子の服装を整える。

「…そうだなぁ……でも、解せないのはアリスは剣で斬り殺されてるってことだ…幻想郷で剣術を使い、それが能力である人物は妖夢しかいない。だから疑ったわけだが……」

 私が呟いた時妖夢は鞘から桜観剣を抜き、幽々子に言った。

「幽々子様……!…魔理沙はいつもの魔理沙ではありません…行きましょう」

 妖夢が私に敵意と桜観剣を向けて睨みつけてくる。

「…心配ないわ妖夢……魔理沙、あなたももうわかってるでしょう?…妖夢が違うってことぐらい」

 幽々子が言い、私はうなづいた。

「…ああ……。…妖夢が人を殺したのなら、こんな普通の精神ではいられないだろうからな…こいつの性格上は特にな……」

 魔力を怪我の治癒の方に回して怪我を治癒させた。

「……そう……」

 幽々子が何か言いたげである様子で呟きながら、体をわずかに浮き上がらせる。

「…なんだ?」

「…別に……私としては早く妖夢の治療をしたいから、移動させてもらうわ」

 たしかに、妖夢は私の魔法陣の爆発などに巻き込まれてボロボロだ。血の能力で回復させてやりたいが、進みだそうとしただけで、

「近づかないで…魔理沙」

 妖夢がこちらに向けて桜観剣を油断なく構えた。もう一歩前に出たら容赦なく斬りかかってくるだろう。

「…謝って済む問題ではないが、妖夢……すまなかったな」

 私が刀を構えている妖夢に謝罪をするが、妖夢は素早く私に返答をする。

「私に、初めに攻撃をしてきたことを差し引いても、今の魔理沙は信用できません」

「……。まあ、だよな」

 私が呟くと少しずつ妖夢達は私を警戒したまま離れ始める。

「ごめんなさいね、でも、そう言われても仕方がいなことだけは理解してほしいわ、魔理沙」

 幽々子が開いた扇子を閉じながら私に呟く。

「…そりゃあ、そうだろ…………。……妖夢に幽々子、始めに言っておく…小悪魔や大妖精たちは私たちの味方だ。攻撃しないようによろしく頼む……それと、小悪魔がレミリアたちを探しているはずだから、もしレミリアたちを見たなら小悪魔たちに教えてやってほしい」

「……わかったわ」

 こちらを警戒したまま桜観剣を構えた妖夢の代わりに、幽々子が一泊だけ間をおいて返答した。

「…魔理沙」

 私から離れる前に幽々子が私に話しかけた。

「……なんだ?」

「…少し休んだら……?酷い顔してるわ」

「…もともと綺麗な顔でもない……放っておけ」

 聖にも言われたが、この異変が始まってから自分の顔など見ていないため、どれだけ返り血を浴びているかなどはわからない。

「…私が言いたいことはそういう事じゃあないんだけどね……」

「……?」

「まあ、あなたのことだし自分で何とかしなさい……」

「…何のことだかよくわからんが……わかった……」

 私が呟くと幽々子と妖夢は離れていく。

 

 この時、私は言われたことをもっとよく考えておくべきだった。と今になって思う。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十二話 聖と萃香

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十二話をお楽しみください。


 幽々子は離れながら振り返り、私を見た。

「魔理沙、それとそっちの鬼はあなたに任せるわ」

 幽々子はそう言うと妖夢と一緒に林の中に消えて行く。

「…ん?……あっちの鬼…?」

 私が振り返ると、地面から露出した巨大な岩の上に萃香が座っている。

「……茶番は終わったのか…?」

 顔に殴られた跡がある萃香が私を睨みつけながら言った。

「お前か…」

 睨みつけてくる萃香を見上げながら私は呟く。

「千数百年生きているこのあたしを軽くあしらうとは、やってくれるね」

 萃香は手枷についた鎖が打ち合う音を出しながら巨大な岩から飛び降りた。

「…はあ……。…めんどうくさいな…」

「そういうな、私たちは何もできなくて暇なんでな……。暇つぶしに付き合ってくれよ…最終的にくたばることになるがな!」

 萃香が言いながら握りこぶしを作り、私に向かって走り出す。

「……くたばる…そうなるのはお前だよ、萃香」

 唇を噛んで唇から出血させ、それを私は飲み込みながら言った。

 妖夢に上に弾き飛ばされていた棒切れがようやく上から落ちてきて、それををキャッチしながらこちらに向かって突っ走ってくる萃香に向けて全力で振り下ろす。

 私が殴った衝撃で、地面と接している萃香の足元から地面が割れて陥没した。

「ほう、ただの魔法使いのお前にこんな攻撃力があるとは、驚いた」

 萃香が攻撃をした私をつき飛ばそうとするが、更に私が力を込めると萃香の体が落ち込み、ちょうど真下にあった天狗の屋敷にある地下の監獄の通路に私たちは転がり込んでしまう。

「…魔理沙!…お前面白いな!…今までは博麗霊夢のおまけだと思っていたが、私と対等に戦えるようになっていたとはな!」

 転がり込んでバランスを崩していた私の足を萃香が掴みながら持ち上げ、壁に叩きつけた。

「がっ…!?」

 頭部の皮膚が擦り切れて血が流れ出した私を、萃香は掴んだまま通路の奥に投げ飛ばした。

「…っ…!…こいつはまずいな…」

 何十メートルもある通路の中央を体がゆっくりと回転しながら突っ切り、曲がりかどの壁に背中を思いっきり打ち付けてしまい、強い衝撃に肺から一気に空気が抜ける。

「けほっ…!」

 でも、私は萃香にただ投げられただけではないのだ。

 私はところどころに置いてきた魔力に命令を与えた。

「inbetriebsetzung(発動)」

 私が呟くと、ところどころに置いてきた魔力が文字通り発動し、十数個の魔法陣が私と萃香の間に現れた。

「…なんだ?これ」

 萃香が嗤いながら呟き、魔法陣を無視して私の方向に走り出す。

「不用心だぜ!萃香!魔法使いが魔法陣を出したんだから警戒しないとなぁ!」

 魔法を乗せた最大出力のレーザーを何十個も並ぶ魔法陣に向けてぶっ放した。

 私から発射されたレーザーは魔法陣を通過するごとに大きさと威力が倍々となっていき、普段なら使用する魔力量が多すぎて二つか三つ程度の魔法陣しか作ることはできないが、魔力力が強力になったことにより、必要な魔力量が少なく済んでいるためこれだけの量を作ることができたのだ。

「今なら、こんなこともできる。…いつまでも私を舐めてると足元を救われるぜ、萃香」

 私が叫ぶと、太陽よりも眩しい光が通路を埋め尽くし、マスタースパーク並の大きさのレーザーが萃香を飲み込んだ。

 ゴォォォォォッ!!

 レーザーが消えるというよりは掻き消されたと言えるだろう。レーザーがいきなりそう言う消え方をした。

 光が消えた通路の天井、壁、床の岩石が赤く融解して溶け始めている。

「まだまだ、私を殺すには弱ずぎるぞ!」

 萃香が私に向かって溶けた岩石の上から跳躍してくる。

 溶けていない岩石を踏み砕き、数十メートルの距離を一瞬で詰めてきた。

「…!?」

 萃香がタックルを私に食らわせた。

 何とかそれに反応することができ、受け止めることはできたが私の後方にある支えにしていた壁が耐えることができなかったのかひびが入って砕けてしまい、その奥にある通路に私は吹っ飛ばされてしまう。

 削られた岩石の上を転がって勢いを殺し、立ち上がろうとしたところで萃香にさらに追撃を食らいそうになるが、萃香の腹を蹴って後方に飛び、体を縦に反時計回りに回転させ、萃香がいる方向に向けてレーザーは薙ぎ払う。

 萃香の皮膚をレーザーが焼け焦がす。威力が不十分すぎた。

 萃香はそれを無視して私に向かって走り、私が地面に着地する前に下から上に向けて萃香のアッパーが私の腹に突き刺さる。

「が……っ…ぁ……!!?」

 息を吸うことも吐くこともできなくなってしまい、上に向けて私は吹っ飛ばされた。

 天井の岩石を体が叩き、その衝撃で天井を破壊しても萃香に殴られた際に発生した運動エネルギーは衰えることなく天狗の屋敷を破壊して空中に放り出されてしまった。

「……くそ…」

 ようやく呼吸することができるようになった私は、呼吸を整えながら囁き、手先に大量の魔力を込めて三十センチ程度の大きさの球体を作り出す。

 私が出てきた大きな穴に作り出した球体を投げ込んだ。

「……」

 真下にいるはずの萃香に向けた攻撃だ。直接的に当たらなくても地面と接触したと同時に、球体が大爆発を起こした。

 強力な爆発が発生し、私が出てきた穴から爆発の炎が火山の噴火のように噴き出してくる。

「……」

 それを横目に魔力の足場を作り、段階的に着地して屋根の上に着地した。

 爆発の炎や熱により自然発火でもしたのか、天狗の屋敷に火が付き始める。

 この場所まで燃え広がるにはだいぶ時間がかかるだろうが、大火事になるのも時間の問題か、私はそう思いながらこの場所から少し離れることにした。

 走り出してからすぐに頭から出血しているのに気が付いた。萃香に壁に向かって叩きつけられた時に切ったのだろう。

「……」

 一度血の補給をするため、手にこびりついていた血を舌で舐め取って飲み込み、いつものように魔力力を強化した。

 頭の傷を治すついでにその他の打撲や切り傷、裂傷などを治した。

「…私を倒したいなら、回復する力や防御力以上の力を食らわせることだな!」

 特にダメージを負っていない萃香が、私が出てきた穴から飛び出して私に向かって走ってくる。

「そのつもりだ」

 私は言いながら屋根に使われている瓦を砕きながら萃香がいる方向の反対方向に私は走り出す。

 逃げて時間稼ぎをして手先に魔力を集中させ、光の魔法やレーザーを一点に集中させるようにして細いレーザーをこちらに向かって走ってくる萃香に放った。

 だが、萃香に当たった瞬間に彼女は塵となって消え失せ、私の後ろに三倍も四倍も巨大化して再生成した。

「なっ…!?」

 私は反撃する間もなく萃香が上げた足にふみ潰されてしまう。

 屋根の瓦や木材が萃香の踏み付けに耐えられるはずもなく、瓦が砕け木材をへし折り、地下の岩石を粉砕し、小悪魔と一緒に歩いた通路に砕けた岩石と木材に埋もれるようにして倒れて動きを停止させた。

「……死んだか」

 全身の骨がほとんど砕けてしまって動けなくなっている私に、上から降りてきた萃香はそう呟く。

「…いや、生きてるな……鬼か……それ以上に生命力が強いやつだ」

 萃香が足を上げてもう一度私を踏みつけようとしたが、何かを感じ取ったのか上げた足を下げて後ろを振り向いた。

「…聖か」

 萃香や私みたいなどす黒い人殺しのような殺気ではなく、強い意志をもった殺気を感じる。

「萃香、あなたか…あなたたちかは知らないけど……村に行ってからの記憶がないのよ……だから、あなたから直接聞こうと思って出向いたわけだけなんだけど……あなたに拒否権はないわ」

 聖の目が据わっている。いつも温厚で優しい聖がこうなっているということは、彼女は相当怒っているということだ。

 聖が巻物を取り出して展開すると、紙に文字が書かれているわけではなく魔力やそう言ったものの類で書かれているものが空中に浮いている。原理的にはスペルカードに似た読む必要のない巻物だ。自分のほしい魔法を巻物に記し、使いたいときに魔力を流して使えるようにする便利な巻物なのだ。

「…そう言えば、消したんだっけなぁ……お前が勝ったら何があったか教えてやってもいいぞ」

「何百年も周りを欺き、騙して来た奴の言うことを信用しろと?……記憶を元に戻しなさい」

 聖が身体強化の魔法を使いながら、凛とした声で萃香に言い放つ。

「…消したのは私じゃないからなぁ……元に戻せるかは知らないね……でも、お前は私に勝てない……絶対にな」

 萃香が私から離れて聖と対峙し始めた隙に全身の砕けた骨を修復させ、瓦礫の山の中に埋もれた状態から、瓦礫を蹴り飛ばして抜け出して二人の戦いが始まる前に出口に向けて一目散に走り出す。

「…」

 萃香は何か言いたげだったが、聖に隙を見せればやられると判断したのだろう。逃げる私を見逃した。

 幻想郷でもトップクラスの実力を持つ聖と萃香。あの二人の戦いに巻き込まれるんはごめんだ。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十三話 異常

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十三話をお楽しみください。


「ぎゃぁぁぁぁぁっ!!?」

 悪者の叫び声と断末魔を聞くのは気分が良い。

 私は嗤いながらたった今、逃げることができないように足を切断した鬼の両手を掴むと足を鬼の胸に添え、腕を思いっきり引っ張り、それと同時に蹴飛ばして腕を千切り取った。

 やはり、血での強化は凄い。魔力なんか比較できないほどの威力を発揮する。

 すでに部屋の中は私の血ではなく、私がへし折ったり、千切ったりした鬼たちの死体から漏れ出した血で赤く染まっている。殴り殺したり、首を切断していたせいか天井や壁にまで血が飛び散っている。

 ぎゃあぎゃあと喚き散らす鬼の両目に近くに落ちていた五寸釘を突き刺し、踏みつけると長さ約十五センチの釘が脳を貫通して後頭部の方の頭蓋骨に当たって突き刺さった感覚がした。そのころになると鬼は既に息絶えていて、さっきまで叫んでいた鬼はもう叫ぶこともなくなる。

 そいつの片足に頑丈なフックを深く突き刺し、他の連中と同じように天井からつるした。

「…ずいぶんといい眺めだな」

 つるしたばかりの鬼の死体が左右に揺れて縄がきしむ音が聞こえてくる。

 私はそれを見てクスリと笑い、次の獲物を求めて歩き出した。

 歩いていると鬼が襲い掛かってきてとても面倒くさい。だから私は戦法を変えることにしてみた。

「そろそろ、効果があってもいいころだよな…」

 私は軽く歌を口づさみながらつるされている死体の中を歩く。

 

「……」

 魔理沙さんと離れてからだいぶ時間が過ぎた。だいぶ前に大きな爆発音が聞こえてきて、それからずっと戦っている音が聞こえてきて、魔理沙さんが萃香と戦っているのだと分かった。

 そのうちにできるだけお嬢様やパチュリー様、咲夜さんを見つけたいが、どこにいるかわからない。

 地下は魔理沙さんと歩いていた時にほとんど探していたため、地上にある屋敷以外にはもう探す場所はない。

 地上に閉じ込められる個室のような場所があり、部屋の扉を開けてみるが狭い部屋の中には怯え切った鬼が数人膝を抱えて震えて座り込んでいるだけだ。

「…また…?」

 こうして戦意喪失している鬼が段々と増えてきているのだ。何かを訪ねてもその鬼たちは震えるばかりで何も話そうとはしない。

「…いったい……なんだっていうんですか……これは………」

 この異様と言える状態に訳が分からず、私は状況を整理し始めるが自分が考えている以上の何かが、何かをしているとしか考えられない。あの鬼たちがここまでなるということは私の脳では答えを導き出せるレベルではないと判断し、パチュリー様たちの救出を最重要事項として私は走り出す。

 鬼を攻撃しているということは、私たちの味方ということだろうか、もしかしたらどちらにも属さないということもあり得るかもしれないが、それはないだろう。

 でも、これだけの鬼が戦意を喪失させてしまうほどの人物に思い当たる者はいない。

 くまなく一階を探し回っていると、誰かの話す声が聞こえてきた。

「……?」

 鬼たちのような荒々しい話し方ではない。

 私が息をひそめようとすると、あちらもこちらの存在に気が付いたのか、気配を消した。

 この戦い方、今までの鬼とは戦い方も雰囲気も全く違う。でも、お嬢様やパチュリー様ではないことだけはわかる。

「そこにいるのは…誰ですか…?」

 私が呟くと、曲がり角から剣を構えたおかっぱの髪形をしている魂魄妖夢さんが現れた。

「…たしか、妖夢さん…ですよね?」

 私が呟くと鞘から抜いていた桜観剣を鞘に納めた妖夢さんは少し怪我をしているように見える。片目を閉じていて、ふき取ってはいるが血が流れていた跡はそう簡単に消えないものだ。

「…あなたは、紅魔館の小悪魔ね?」

 妖夢さんが私に近づきながら言う。

「…はい、妖夢さん…いきなりで悪いんですが……パチュリー様やお嬢様を見ませんでしたか?…」

 私が聞くと、妖夢さんは少しの間をあけて私に返答を返す。

「申し訳ないけど…見てないわ……。こちらからも質問をいいかしら?」

「…はい、私に答えられる範囲でもよろしいなら」

 私が聞くと妖夢さんは少し考えるそぶりを見せてから私に質問をしてくる。

「…魔理沙のことで聞きたいことがあるの」

「…魔理沙さんがどうかしたんですか?」

 私が聞くと妖夢さんは片目を閉じたまま話始める。

「……異変が始まる前に会ったときと、今では全然雰囲気が違っていて……あれじゃあ……まるで…」

「…伊吹萃香さんたちと変わらない……ですか?」

 私が聞くと妖夢さんはうなづく。

「…なにがあったらあんな風に変わってしまうの…?」

 妖夢さんが言ったとき、妖夢さんが曲がって来た廊下から幽々子さんが曲がってこちらに歩いてくる。

「…幽々子さん、こんにちは」

 私が頭を下げると幽々子さんはニッコリとわらってこちらに近づいてくる。

「妖夢、何を話していたの?」

「…幽々子様、魔理沙のことですよ」

 妖夢さんが言うと、幽々子さんは私を見ながら言った。

「確かに気になるわね…何かきっかけは知らないかしら?」

 幽々子さんは私に向かって言う。

「…きっかけ……ですか…それが、私にもよくわからないんです……地霊殿で襲撃されてこの場所の地下に連れてこられてから、様子がおかしくて……私が気絶している間に何かがあったらしいんです…」

 私が言うと、幽々子さんは少しだけ間をあけてから言った。

「…たぶん…地霊殿と天狗の屋敷のどちらかであった出来事は、引き金に過ぎないわ……こんな異常な状況だもの、精神に異常をきたさないわけがないわ……そう言った外環境がストレスとなって積み重なり爆薬になっていったわけね……少し前から様子がおかしかったと感じたことはないかしら?」

 幽々子さんが言ったとき遠くから大きな地響きが響いてくる。

「…っと……様子がおかしい…ですか……なんだか…一緒にいる私たちのことばかり気にかけて、自分のことがおろそかになっているように感じました……何というか、不安定に回るコマみたいに、時々見ていられない時がありました…」

 私が言うと幽々子さんがなるほどねと呟いた。

「……そう言えば、妖夢さんは目は大丈夫なんですか?」

 私が言うと妖夢さんは少し力なく大丈夫とと呟いく。

「…魔理沙さんと会ってそのままということは……魔理沙さんと戦ったんですか?」

 私が聞くと二人は顔を見合わせてうなづいた。

「…なんだか、私たちを他の誰かと勘違いしてたみたいで、うちの庭師が頑張ってくれたわ」

「幽々子様になんとか誤解を解いていただいたんですが……戦っているときに魔理沙の腕とかを切断したら、すぐに再生していた……それについては何か知っている?」

 妖夢さんに聞かれ、血の能力のことを言っていると分かり、私はそのことについて話すことにした。

「…本当のことは知りませんが、魔理沙さんは一度殺されているらしいです…。そこで誰かに会ってきて……そしたら、よくわからないけどそういうことができるようになっていたそうです」

 私が説明するとかなり疑わしい目を向けられると思っていたが、妖夢さんたちは少し合点が言った様子だ。

「かなり疑わしい内容だけど、あんなの見せられたあとじゃあ、信じるしかないわよね…」

 幽々子さんが扇子を開いて自分を扇ぎながら呟く。

「…そうですね……私も初めは半信半疑でしたし……」

 でも、あんな血の能力は聞いたことも見たこともない、あんな強力な能力、否応なしに信じるしかないだろう。

 私が呟いた時、鬼の絶叫が廊下にいる私たちの耳に届いた。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああっ!!」

 聞こえてきた方向は、妖夢さんが曲がってきた方向を曲がらずにさらに進んだ奥の通路からだ。

 一人の叫び声ではない。複数人の叫び声が重なって訳が分からないことになっている。

「…!?」

 即座に反応した妖夢さんが桜観剣を鞘から抜き放ち、私が追い付けないほどの速さで走っていき、幽々子さんは浮き上がって走っていく妖夢さんにぴたりと付いて行っていった。

「…早い…」

 私はあの速さに追いつくことはできなさそうだ。そっちはあの二人に任せることにしよう。

「…」

 妖夢さんが来た方向はまだ探していないため、パチュリー様を探すためにそちらに向かた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十四話 狂気の鱗片

もう一つとか言って前作とは関係がありません

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十四話をお楽しみください。


私と幽々子様が向かう先、三十メートルほど先の部屋から、返り血まみれの鬼が腰を抜かした様子で這いずりながら顔をのぞかせた。逃げたいらしいがうまく進むことができていない様子だ。

「…だ…誰か…!助け…!」

 その鬼が叫んでいる最中に足でも掴まれたのか、部屋の中に引きずり込まれるとさっき廊下で聞いたような叫び声が聞こえてきて、肉が引き裂かれて血が飛び散る音がその部屋の中から聞こえてくる。

 途中から叫んでいた鬼の声が途絶え、それが止まって少ししてから今度は肉を潰すような音と、わずかな衝撃を感じる。

 だが、その音もすぐに収まって消えた。

「…ゆ……幽々子様…」

 私が呟くと幽々子様はしっと口に人差し指を持ってきて呟き、その部屋の方向に向かっう。

 鬼たちを攻撃しているということは、私たちの味方である可能性は高い。鬼をこれだけ一方的に倒せるなら戦力的には申し分ないだろう。しかし、こんなふうに殺して回るようなやつとは仲間にはなりたくはない。でも、誰なのかを確認するぐらいならいいだろう。

 ドアの位置まで足とを立てずに近づき、壁に背中を付けた。

 鬼がいたころとは打って変わって全くの無音。生命の呼吸音や動いた時に生じる服が擦れるような音や足音すらも聞こえない。

 不気味、一言で表すならそれがぴったりだろう。

 見たくないという考えが頭をよぎるが、その邪念を頭から振り払って剣を握りなおして、隣にいる幽々子様に行きますとジェスチャーで伝え、私は部屋の中に突撃した。

「…うっ……!!?」

 どんな光景が広がっていても大丈夫、そういう意志を持て突撃したはずなのに、足を止めてしまうほどに虐殺された鬼たちの死体は酷すぎる物だった。

「…うっ……!!」

 体内の胃が動いて少し前に食べた食べ物、それを食堂に押し出そうとする感覚が体の中で起こる。

 口を押えて何とか押さえ込むが、これ以上直視していいたら本当に吐いてしまう。

 目を閉じて後ずさりして廊下に飛び出した私は、さっき背中をつけていた位置に戻り視線を遮った。

「…中に……生きている者はいません……幽々子様…」

 私が吐き気をこらえながら言うと、その様子に幽々子様がだらしないと呟きながら、体を浮き上がらせて部屋の中に移動していく。

「…これは、確かに酷いわね」

 幽々子様はそう言いながら平然とした顔で部屋の中に入っていってしまう。

「幽々子様……すみません…」

「…さすがのあなたにもこの光景はきついでしょう?…少し休んでなさい」

 私が言うと幽々子様は休めと言ってくれた。正直なところ、次その部屋に入ったら吐く自信しかなかったため助かった。

 あの光景、思い出しただけでも吐き気がこみあげてくる。

 一度あの光景を見たら、そう簡単には忘れることはできないだろう。

 自分の臓器を体から出されて口の中に押し込まれている鬼、両手の橈骨が腕から引き抜かれ、左右から側頭部に突っ込まれている鬼、顔のパーツが一つも残っていない鬼、強い力でねじ切られたのか上半身と下半身が分かれている鬼、上半身が強い力でつぶされている鬼、自らの内臓で首をつるされている鬼、頭が上からの衝撃で胴体に埋まってしまっている鬼、背骨を肋骨ごと引き抜かれている鬼。

 どれも無残にできるだけ残虐に殺されている。

「これをやったやつは…反対側にある扉、そこから出て行ったようね」

 幽々子様はそう言いながらこちら側に戻ってくる。

「…幽々子様、この鬼たちを殺した人を追うんですか?」

 私の質問に幽々子様は横に首を振った。

「追わないわ…いや、追いたくないっていうのが本音かしらね」

 幽々子様はそう言いながら今来た方向を戻り始め、私もそれに続く。

「…わかりました……それではこれからどこに向かいますか?…幽々子様」

「…そうねぇ……聖と萃香の戦いに巻き込まれたくはないし……天狗の屋敷から一度出ようかしら」

「…では、白玉桜に戻られるのですか?」

 私が聞くと幽々子様は再度顔を横に振る。

「せっかく地上に来たわけだから、もう少し地上にいるわ……聖があれだけ怒ってるってことは、命蓮寺は潰されはずよ。紅魔館は降りてくるときに破壊されているのは見た……天狗の屋敷はこの通りだから……地霊殿に行こうかしら……小悪魔の話から、襲撃をうけたみたいだけど、たぶん引き続き地霊殿に監禁されてるはずだから」

「…理由はわかりましたけど、なんでまた地霊殿に?」

 私が聞くと出口に向けて移動を始めた幽々子様が私に説明を始めた。

「…地霊殿に行けばとりあえず、なんで魔理沙がああなっているかわかるんじゃないかと思ってね…さとりは心が読めるはずだし」

「…わかりました」

 私は持っている桜観剣を持ち直して、幽々子様と進み始めた。

「…でも、あんな風になるなんて……どれだけショックなことがあったんですね…?」

「さあ、たぶん行ってみればわかるわ」

 

「……はぁ…はぁ…」

 屋敷中を走り回ったが、お嬢様やパチュリー様の姿は見えない。正邪さんの情報は嘘だったのだろうかと思い始めたころ、正邪さんはパチュリー様たちが地下に監禁されていると言っていたのを思い出した。ずいぶんと無駄な時間を過ごしてしまていたのを思い知り、私は一度呼吸を整えるために立ち止まった。

「…小悪魔!」

 息を切らしていた私に後ろから誰かが声をかけてくる。赤と青色の特徴的な服装は永琳さん以外いないだろう。

「永琳さん!無事でしたか!」

「ええ、何とかこっちは抜け出すことはできたわ……魔理沙と大妖精はどうしたの?もしかして掴まているのかしら?」

 永琳さんが言いながら助けるための算段を考え始めるが、私は遮って言った。

「魔理沙さんとは別行動中です……大妖精さんは…ちょっとわからないです……永琳さんと一緒だと思いましたけど、違うようですね」

「…そうね、でも大妖精の能力ならすぐに抜け出せるでしょうし、放っておいても大丈夫だと思うわ」

 永琳さんがそう言いながら弓をつがえ、弓矢を自分が来た方向とは逆の向かって行く方向に向けた。

 戦意喪失していない鬼たちがこちらに向かって来ようとしている。

「…小悪魔、やるわよ……手伝ってちょうだい」

 永琳さんはそう言いながら矢を放つ。

 矢が空気を切り裂き、鬼の足に命中して床に鬼を縫い付けた。

 私も永琳さんに続いて弾幕を放とうとしたとき、強い地震のような揺れを私たちやこちらに向かって来ようとする鬼たちを襲う。

 それにより、大きくバランスを崩した私は倒れそうになってしまう。

 だが、すぐにわかった。これは地震ではない。この屋敷で現在進行形で暴れている誰かが近くを戦闘しながら通り過ぎていたらしく、その余波を食らって鬼たちがバラバラになって吹き飛んだ。

「…っ!?」

 反射的に魔力を全力で防御に回した直後、距離が離れていることにより鬼が食らった余波の威力が半減している物を食らった。しかし、それでもただの人間や力の弱い妖怪や妖精が食らえば同様にバラバラになって破裂してしまうだろう。

「ごふっ…!?」

 通った萃香さんたちとの距離は五十メートルは離れていたはずなのに、私の体はまるで小石のように持ち上がり、何十メートルも後方にある壁に背中を打ち付けた。

 衝撃で肋骨にひびが入ったらしい。肺が潰れなかっただけマシとするが、それでも予想以上の威力を持っていた。

 ほんの一瞬だけ見えたが、伊吹萃香さんと戦っているのは命蓮寺の聖さんだったように見えた。魔理沙さんはどこかで聖さんと入れ替わったのだろう。

 あの二人の戦いは次元が違いすぎる。力のないものが近寄ろうとすると、余波で吹き飛んでしまう。

 起き上がろうとしたが、意識が揺らいでしまう。体から力が抜けてしまう。

 あの衝撃波を食らっただけで脳震盪でも起こしたのか体が脱力してしまい、私は意識が途切れた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

今回、最高に駄文で申し訳ございません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十五話 レミリアたちの居場所

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十五話をお楽しみください。


「…小……魔……小悪……!!」

 耳鳴りと共に私の名前を呼ぶ声が聞こえてくる。

「…?」

 肩に圧迫感があり、誰かが触れているのがわかった。はっきりとしない意識の中でも体が左右に揺れていて、誰かに意図的に揺らされているのがわかる。

「…っ……」

 目を開けると、少し怪我を負った永琳さんが私の顔を覗き込んでいた。

「…永琳さん……?」

 ズキズキと痛む背中はじょじょに痛みが引き始めてきていて、私は背中を押さえながら周りを見ると、周りが天狗の屋敷なのかと思うほどに荒れ果てている。

「……起きたようね…。いきなりだけど…戦ってくれると嬉しいわ…!」

 永琳さんが言いながら立ち上がり、魔力で作り出した矢を弓にはつがえずに、持ったまま鬼の胸に突き刺した。

「…わかりました…!」

 ようやくはっきりしてきた頭で立ち上がると、周りは炎の海となっている。聖さんのさっき見た戦いでは、魔法を放ちながら戦っている様子だった。はずれた魔法が屋敷に当たってこうなってしまっているのだろう。

 私に狙いを定めた鬼に向かって私は走り、拳を受け流しながら顔面に至近距離から弾幕を食らわせた。

 頭を揺らす程度の威力ではあるが、脳震盪ぐらいなら起こさせることができる。頭への衝撃で足元がおぼつかなくなった鬼の腕を掴み、背負い投げをして床に鬼を叩きつける。

「小悪魔、今はいったん退きましょう!」

 永琳さんが言いながら進行方向にいる鬼のことを矢で貫いて活路を開き、走り出す。

 私もそれに続こうとしたとき、火事で耐久性の無くなった柱が倒壊して私と永琳さんを分断するように木材が落ちてくる。

「…くっ…!」

 木材が落ちたことにより強い熱風が発生して体をなでる。その熱に顔を歪めながら私は後ずさった。

「小悪魔、大丈夫!?」

 永琳さんがこちらを見て、木材で私が潰れていないかを確認する。

 落ちた木材を境に、私側にいた鬼がこちらに向けて棍棒を薙ぎ払った。それを私はしゃがんでかわし、相手の棍棒を持ってる方の手首を捻って持っている棍棒を手放せさせた。

 それと同時にもう片方の手で落ちる棍棒を途中でつかみ取り、鬼の頭に振り下ろす。

 強化した棍棒が砕けて使い物にならなくなるが気絶させるのには十分だったらしく、私が殴った鬼が白目をむいて床に倒れ込んだ。

 こちら側にまだまだいる鬼に柄だけとなった棍棒を投げつけながら、私は後ろに回り込まれぬように壁よりに警戒をする。

「…小悪魔!こっちにも鬼がいてそっちに行けそうにないわ…あとで外で落ち合いましょう!」

 永琳さんがそう言いながら近くの鬼を矢で射抜き、走っていく。

「…わかりました!」

 私も対峙している鬼に弾幕を放ち、近寄れないようにして逃げるために全力で走り出した。

「まて!」

 複数の鬼が棍棒を振り上げて追ってくるが、妖夢さん程とは言わないがスピードは出しているため、足の遅い鬼たちをグングン引き離す。

 通路を右へ左へぐにゃぐにゃに曲がって走っていると私をすぐに見失い。追ってこなくなった。

「…さてと」

 私は呟きながらがパチュリー様を探すために走り出す。

 私はパチュリー様に召喚されて契約しているため、常にパチュリー様と魔力の線でつながっている。

 しかし、今はそれを感じられない。意識がないのだろう。気絶していたり、眠っていたりすると目が覚めるまでつながらないことがある。それに、携帯の電波のようなものであるため、離れすぎていたり地下にいたりしてもつながらないこともある。

 天狗の屋敷にある地下監獄の奥、萃香さんが来た方向。あそこだったらパチュリー様と私を繋ぐ魔力は途切れてしまうだろう。

 そうなれば調べないわけにはいかない。

 天狗の屋敷に来たのは初めてで現在地がわからないため、自分の方向感覚だけを頼りに私は走り出した。

 しかし、本当に鬼の数が少ない。いるにはいるが戦意喪失していてこちらを襲って来ようとしてくる気配がない。さっきの鬼たちが珍しいぐらいだ。

 こんなことをする人物、思い当たるのは一人しかいない。監獄にいたころから様子がおかしい魔理沙さんの仕業だろう。

 魔理沙さんがどんな方法を使っているかは不明だが、その辺は考えないでおくことにした。むしろ、考えたくない。

「……」

 

 私が放った長さが一メートルもある矢が無音で飛んでいき、鬼の喉を貫いて壁に縫い付けた。

 こいつで最後だ。

「……ふぅ…」

 私は息を吐きながらこの場を離れようとするが、すぐに新手が現れる。

「いたぞ!」

 数人の鬼が私を発見し、こちらに向かって走り出してきている。距離は約二十メートル。五秒もすれば自分のいる場所に到達してしまう。早々に迎撃するのが良いだろう。

「……」

 私がさっきと同じサイズの大きな矢を魔力で作り出そうとしたとき、鬼たちに立ちはだかるようにして誰かが現れる。

 こんな状況でこちらに加勢する人物など想像もつかなかない。だが、その人物は私もよく知る人物だった。

 私よりも敵の鬼の近くに現れた大妖精は勇敢とも無謀ともいえるが、鬼に立ち向かっていく。

「大妖精!退きなさい!」

 私が叫びながら矢をつがえて援護しようとするが、それが必要ないことがすぐに分かった。

 振られて大妖精に当たるはずだった棍棒が消え失せたのだ。殴りかかって来た鬼の姿も、放った弾幕すらも消え去っていく。そのたびに小さな破裂音だけを残す。

「…え…?」

 だが、存在そのものを消されたわけではなく、瞬間移動で次々と地面の中や壁の中に埋め込んでいるのだ。

 動ける全ての鬼たちが壁や地面に埋め込まれたため、しばらくは時間稼ぎができるだろう。

「大妖精…あなた凄いわね……いったいどうしたの?」

 私は大妖精が一人で五人はいた鬼たちを全員戦闘続行が不可能な状態にした。それが信じられず聞いた。

「今まで短期間でこんなに能力を使ったことはないので、少し力の使い方がわかって来たんだと思います」

「…そう……それはいいことね……でも、それより…とにかく行きましょう……次が来られても困るわ」

 私が言いながら歩き始めると、大妖精も私の横を歩き始める。

「…わかりました……」

 大妖精が言いながら後ろを振り返るが、壁や床にはまったままの鬼たちは抜け出すことができないでいる。

「…そうそう、紅魔館のレミリアたちのことを見てないかしら?大妖精」

 私が聞くと、大妖精は考え込み、唸る。

「…うーん。見てないですね……もしかしてこの場所につかまっているんですか?」

「…ええ、この場所につかまっているっていう情報を小悪魔が掴んだらしいわ……外で待ち合わせしようって言ったはいいけど、たぶん探すのに時間がかかるだろうし、外で少し休むことにしましょう……さすがに疲れてきたわ」

 私は身長が低く歩幅の短い大妖精のために、少し歩く速度を緩めながら言った。

「…そうですね……ずっと戦いっぱなしではいざって時につかれてしまいますからね」

 大妖精は私の提案に賛成を示す。

「…とりあえず、外に出ましょう……いちいち鬼たちを相手にするのも疲れてきたし…」

 また鬼たちと思われる足音が聞こえてきたため、私と大妖精は戦闘態勢に入りながら言った。

 

 ドゴォッ!!

 聖の拳が萃香の額に当たり、萃香の体が大砲で発射された弾丸のように飛んでいく。

 ダンッ!!

 萃香は木の床を壊しながら着地し、地面との摩擦で殴られた際に発生した運動エネルギーを殺してゆっくりと止まる。

 萃香の体が止まるころにはすでに萃香の目の前にいた聖が、追撃して拳を萃香に叩きつけるが、その小さな体に当たると萃香は塵となって霧散する。

「…っ」

 だが聖はそのことを読んでいたのか、すぐに身をひるがえし離れて巻物を展開した。

 効果の切れた身体強化の魔法を発動して萃香が現れるのを待つ。

 ドゴォォッ!!

 真上と真後ろの床を破壊して二人の萃香が同時に聖に襲い掛かる。

 聖はそれを冷静に対処して、しゃがむことにより上からくる萃香との接触の時間を稼ぎつつ、後ろを向いて下から現れた萃香の胸倉を掴んで持ち上げ、上からくる萃香に力いっぱい叩きつけた。

 吹き飛ぶかに思われた萃香は予想とは違い、二人とも塵となって消えて身体へのダメージは期待できないだろう。

 すぐに萃香の体が生成されて実体化して目の前に現れる。

 聖が目の前に現れた萃香に向けて走り出そうとしたとき、背中から何かが体の中に侵入した。

「……が……っ……ぁぁ…っ…!!?」

 身体強化しているはずである聖の体を萃香のとがっている爪が切り裂いて左肩を貫いたのだ。

「…ダミーだよ」

 聖が左肩からのぞいている萃香の腕を掴もうとしたが、それよりも先に萃香に背中を蹴られ、その小さくて華奢な体で蹴られたには似合わないほどの威力で聖の体は吹っ飛んでいく。

「お前じゃあ、あたしには勝てない……殺す覚悟がないやつにはな」

 地面を転がって肩を押さえる聖が歯を食いしばり、体に鞭を打って立ち上がろうとしている。勝負は決まった負傷した聖の負けだ。萃香がとどめを刺そうと聖に歩み寄り始めた。

 ご苦労なことだ。

「……じゃあ、私なら勝てるか?萃香」

 傍観していた私は言いながら萃香の後頭部めがけてレーザーを放った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十六話 最悪の敵

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十六話をお楽しみください。


「……じゃあ、私なら勝てるか?萃香」

 私が言いながら放った光線が当たる寸前に萃香の体が塵となり、攻撃をよけて同じ場所に再生成した。

「…まあ、一番可能性があるのはお前だな…霧雨魔理沙」

 萃香が聖から目線を外して後ろにいる私の方を向いた。

「…」

 私は全身に魔力を巡らせて戦闘準備を完了させて、あとは戦うだけとなる。

「…実に残念だよ……今はお前とは戦えないんでね」

 萃香がくたびれたように息を吐く。

「…?」

「少しくたびれた……少し休んでからまたあとで遊んでやる」

 萃香が言いながら後ろに下がろうとするが、私は大きく前に出る。

「…お前が疲れているなら逃がす理由もない……萃香、お前をこの場所で殺す」

 私は言いながら自分の親指を噛んで出血させ、鉄の味がする血を飲み込んだ。

「…確かに、今のお前なら私を殺すことはできなくはないだろうな……」

 萃香は言いながら匂いを嗅ぎ、私に仲間たちの血の匂いがべっとりと付いているのをかぎ分け、そこから導いた答えを言った。

「…逃げるつもりかよ、萃香」

 私が睨みつけると萃香は、はあっとため息をつきながら言った。

「戦いたいのは山々だが、私は楽しく戦いたい。だから万全の状態でお前と戦いたいわけだ……だから、今はこいつらと遊んでてくれよ」

 萃香が言ったとき、萃香や鬼たちとは違う異質で気分が悪くなるような殺気が四方八方から私に向けられた。この殺気は何度も感じてきたからすぐに分かった。光を見ておかしくなった連中の殺気だ。

「…」

「もし、というかほぼ確実に生き残れるだろうし、そのうち決着をつけられる機会が来るだろう。そのときにやろうじゃないか」

 萃香はそう言いながら塵となって消え、壁の隙間や床下からどこかへと飛んで行く。

「…っち…」

 私は舌打ちしながらスペルを唱え始めた。対して長くもない詠唱は五秒ほどで終わり、私は座標を設定して魔法を発動させる。

「…umringen(囲め)」

 魔法のスペルを詠唱し、倒れている聖を覆った。

 これで聖が襲われる心配はなくなった。いくら実力があっても重症の傷を負ったままではさすがに分が悪いだろう。だから、傷が治るまではそこで大人しくしていてもらおう。

 私がいる場所の真横の壁が破壊され、リグルが破壊した壁の木片と共に私に襲い掛かってくる。

 瞳が赤いオーラで光っているのが確認できる。

「…」

 こちらに向けて手を伸ばしているが私の手の方がわずかに長く、リグルの頭を掴むと同時に床に叩きつけた。

 床の木が割れてリグルの頭が床にめり込み、床下の地面に頭をめり込むほどの威力で打ち付けさせた

「ぎぁっ……!?」

 リグルが小さな悲鳴を上げ、すぐに動かなくなる。

 近くまで走って来たミスティアに気絶しているリグルを投げつけ、リグルの対処をしているうちにミスティアの足をレーザーで撃ち抜いた。

 足を撃ち抜かれたことによりガクッと移動速度が低下したミスティアの胸倉を掴み、背負い投げをするようにして後方にぶん投げる。

 次にこちらに飛び込んできた妖怪の足を腕で薙ぎ払い、薙ぎ払われた妖怪の体が宙を舞う。そのうちに妖怪の腹に蹴りを叩きこんで他の妖怪や妖精に向けてぶっ飛ばす。

 後ろから掴みかかってきた妖精が私の肩に食らいついてくる。だが、身体強化をした私の体を食いちぎることができないらしく、噛みついた体勢で硬直している妖精の足にレーザーを放ち、怯んでい噛む力が顎から抜けたのを見計らって妖精の膝を前を向いたまま私は後ろに足を向けて蹴り折り、座り込んだ妖精の足を掴んで襲い掛かって来たほかの妖精に叩きつける。

 何度か掴んだ妖精で妖怪たちを薙ぎ払っていたが、ぐったりとして動かなくなってきたため、適当に妖怪たちがまとまっている場所に投げつけた。

 ドゴォォッ!!

 私が投げた妖精の体が破裂し、臓器や血肉がばらまかれた。

「……?」

 そんな破裂するような威力ではなかったはずだと、思いながらそちらを見ると、妖精を破裂させた人物がこちらに向かって跳躍し、殴りかかって来る。

「……なるほど、華扇か」

 私は呟きながら拳を握る手に自然と力が籠められる。

 華扇が地霊殿のあの時のようにピンク色の髪の毛をなびかせ、赤いオーラが揺れる瞳で私をとらえ、包帯で形成された腕をこちらに飛び掛かりながら突き出す。

「……あの時のように、そう何度もうまくいくと思ってんのか?」

 私はそう呟き、迎撃態勢をとるか取らないかと考える余裕すらあった。

 私もあの時と同様に華扇に向けて拳を送り出す。

 二つの拳が合わさった時、ぐしゃりと潰れてひしゃげたのは華扇の腕だった。

 潰れた腕は包帯で形成されているため実体はない。本物の腕を潰すわけでもないため構うことはない。バランスを崩した華扇が地面に着地する前に、私は華扇がしたように手のひらを華扇の腹に叩き込む。

「かはっ…!?」

 華扇の目が見開かれて後方に飛んでゆく。

 すさまじい衝撃が発生したのだと華扇を殴ったときにできた衝撃波が腹から背中へ移り、空気中に衝撃が逃げた。その衝撃が空振となって空間をゆがめているのでわかった。

 吹っ飛んでいく華扇に向けて私は跳躍する。

 殴った華扇に追いついた私は、さらに華扇のことを後方に蹴り飛ばした。

 私が蹴ったことにより殴った時よりも加速した華扇の体が、屋敷の壁を突き破って外に飛んでいく。

 華扇を蹴った私は一度着地しながら近くにいた妖精と妖怪を殴って沈め、華扇の後を追って屋敷から出た。

 庭の中心で倒れた華扇が実体のある方の腕で体を起こそうとしている。立ち上がられて襲い掛かってこられても困るため、私が彼女の胸の上に足を置いて体重をかけて地面に押さえ付けた。

「…華扇、少しの間だけ眠っててもらうぜ」

 私は言いながらかがんで、強化した拳で華扇の顔を殴る。

 私が殴った衝撃で意識を飛ばされた華扇がぐったりとして動かなくなった。

「…ふぅ……」

 私は息を吐きながらその場から飛びのき、正面から襲い掛かって来た妖怪の攻撃を避ける。

 こちらに来る前にレーザーをその妖怪の足に撃ち、動けないようにさせた。

 いつもよりも感覚がさえているのか、後ろから何かが来ているのがすぐにわかる。

 妖怪が何体かまとめてこちらに向かって走ってくるが、襲い掛かってきているのはそいつらだけではない。振り返って妖怪たちを見た私の後方から鬼が二体、こちらに走ってきているのだ。

「…っち」

 どちらを先に片づけるか距離や速度から順位を決めようとしたが、すでに私の近くにいた鬼の一匹が私に向かって棍棒を振り下ろそうとしているため、移動を余儀なくされる。

 棍棒の射程範囲から飛びのいて出て、バックに手を突っ込んで私がマジックアイテムとして開発した。とある種を三つ取り出した。

 魔力を込めて後方から来ている妖精たちの方向の地面に一つを投げつける。

 魔力で成長を促進させた種が急速に成長して妖怪たちがこちらに来るのを妨げる壁を作り出す。

 これで妖怪たちが来るまでの時間を大幅に確保することができた。左右から走ってくるうちの右側の鬼が先に上から棍棒を振り下ろす。

 私は体を横にずらしてそれをかわして二つのうち一つの種を手に取り、右側の鬼の体内に種を埋め込んだ。

 左にいる鬼が私だけを叩き落とすように器用に棍棒を振るうが、私がレーザーを照射したことにより私に当たるはずだった棍棒の一部分が蒸発して、鬼の攻撃は空振りで終わってしまう。

 上から振って地面に叩きつけられた一部が蒸発している棍棒に足を乗せ、右側にいた鬼と同様に左側にいる鬼に近づいて体内に種をぶち込んだ。

 魔力をあらかじめ送っておいた種が発芽し、鬼の体内に根を下ろす。

 本来はこういう使い方ではないが、うまくいってよかった。

 鬼の体内で木の根が膨れ上がり、体の内から成長した木の根が突き破る。

「「ぎゃぁっぁぁぁぁっぁあああああああああああああああっ」」

 鬼が叫び、地面に倒れ込む。

 その間にも植物は成長を続け、足りなくなった分の養分を鬼から吸収し始めている。すぐに宿主であった鬼に巻き付いていた根が鬼を絞め殺し、養分を求めて地面に根を張って大きな木へと成長した。

「……」

 完全に鬼が死んだことを確認し、私が周りを見ると進行を妨害していた妖精や妖怪に限らず、ここらへんにいる妖精や妖怪たちがこの場所に集まっているのが見える。

 さすがに全方位をカバーすることはできないため、マジックアイテムでも使おうとしたとき、妖精たちの動きが急に止まった。

「…?」

 私も周りを警戒して動きを止めると、今まで私を殺そうと襲い掛かって来た妖怪たちが飛びのき逃げていく。

「……?」

 だが、逃げると表現すると少し違和感がある。まるで、誰かのために道を開けた。そんな気がしたのだ。

 そう思った矢先、目の前に立っている木が二本とも丸ごと蒸発した。

「…は……?」

 私がそう呟いた時、強化した私の右腕が強力な攻撃に丸ごと吹き飛んでしまう。

 ドチャッ!

 血を吹き出しながら腕が地面に転がり落ち、私の体が後方に吹っ飛んでしまう。私が作り出した木の壁に背中を打ち付けるが、それでも体は止まることを知らないように貫通して天狗の屋敷の壁に背中を衝突させた。

「がはっ……!!」

 肺から空気が抜け、私は壁に背中を打ち付けた状態でようやく体が静止した。

「…くっ……!」

 私が何が起こったか確認するために顔を上げると、私が生やした木どころか天狗の屋敷を囲う城壁の一部も蒸発しているのが見える。

「……っ……これは…?」

 私が呟いた時、上空から誰かが勢いよく降りてきた。

 地面に一定間隔で埋め込まれている岩のタイルを着地と同時に踏み砕き、その衝撃は少し離れた位置にいる私にまで届いている。

「…泣けるぜ……お前もかよ……」

 私が呟きながら、降りてきた人物を見た。聖や紫に並ぶ幻想郷でも五本指に入るほどの実力者。

 太陽の畑に住んでいる妖怪。

 風見幽香。

 弾幕を防ぐことすらできる傘を手に持ち、白色のブラウスに赤いチェックの上着とスカートを着ていて、襟元に黄色いリボンが結ばれている。

 風見幽香は着地でしゃがんでいた状態から立ち上がり、赤いオーラが尾を引いて光る瞳を私に向け、ニコリと寒気すような笑顔で笑った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十七話 最悪の敵②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十七話をお楽しみください。


「……」

 私はめり込んでいる壁からゆっくりと立ち上がりながら親指を噛み、流れ出た血を舌ですくって嚥下した。

「…クスクス……」

 さしている弾幕すら弾くことができる特徴的な傘を閉じ、こちらにゆっくりと得物をもって歩み寄ってくる。

 一歩幽香が前に進むごとに私に向けられている殺気が掛け算のように増していき、私は圧倒されて動くことができなくなる。

 幽香の実力は霊夢並みに計り知れない。それに加えて狂ってると来たものだ。弱い妖怪などを圧倒的力でねじ伏せるのが好きだと聞いたことがあり、今のターゲットは完全に私だろう。

 私は幽香の手を抜いている手加減した実力しか知らない私は、こいつに勝てるか勝てないか、それ以前に勝負になるのかもわからない。

 魔力力を強化した私は震える足に力を込め、幽香に向けて前へ前へと歩み出す。

 腹をくくり、いつでも最大出力でレーザーを放つことができるように、私は手先に魔力を集中させた。

「……」

 周りの奴らは手出ししないというよりは、手出しできない様子で私と幽香を見ている。あの狂った連中がこれということは、幽香は相当やばいというのが伺える。

「…」

 十メートル、九メートル、八メートル、七メートルと段々と幽香と私の距離が近づいて行く。

「……」

 だが、お互いにまだ手は出さない。

 根気比べのように手を出さずに歩いていると、いつの間にか、私と幽香の距離は手が届くほどに近くとなっていた。

 頭が二つ分以上も背が高い幽香を私は見上げると同時に、右手にためていた魔力を最大出力ででレーザーをぶっ放し、強力な魔法をのせる。

 マスタースパークとまではいかないが、子供であれば丸々包み込む程度には巨大なレーザーが幽香を包み込む。

 だが、そう見えただけだ。包み込もうとした瞬間、すでにレーザーは幽香の攻撃によって内側から爆発四散して掻き消された。

「……っ!?」

 もう片方の手でレーザーを撃って迎撃しようとしたとき、ゾクリと悪寒が体を走る。何かやばい気がするがそれを証明できる根拠はない。しかし、それに従わなければならない気がして、私は後先のことを考えずに頭を抱えて体を低くした。

 空気のうねり、見てはいないが棒状の何かがしゃがんだ私の体を掠る。

 ただそれだけなのに、私は幽香が振った傘と同じ方向に引っ張られ、宙を舞っていた。

 屋敷を囲っている木製の壁を簡単に突き破っても動くスピードは衰えることがなく、私の体は上空に投げ出される。

「…あっぶねぇっ…!」

 空中で立て直した私は呟く。

 さっきの攻撃をかわせたのは奇跡に近い。あのままもう一発レーザーを放っていたら今頃は、上半身と下半身にわかれて地面をはいつくばっていることになっていだろう。

 進んでいる方向とは逆方向に魔力で推進力を働かせ、空中で静止する。

「……」

 いまだに箒無しで飛ぶのが苦手であるため、魔力で足場を作ってそこに着地した。

「……かすっただけでこれか……勝てる気がしないぜ…」

 だが、私が力を溜めていたのと同様に幽香も力を溜めていたはずだ。だからここまで高い威力を出せたのだと私は推測する。

 なら、毎回この威力の攻撃が来るわけではないため、ほんの少し安心した。

 しかし、あのまま幽香の攻撃が直撃していたらと思うと背筋が凍りそうになる。生きるか死ぬかの戦いではあるが、狂った幽香にとっては遊びと変わらないらしい。

「……」

 ニヤリと笑っている幽香がこちらに向かってゆっくりと飛んできているのが見える。

 さっきの妖怪たちや今までの奴らとは次元が違う。幽香を倒すならばそのレベルまで行き、さらに越えなければならない。

 私は肘から手首にかけての前腕に噛みついた。

「~~~~~~~~~~っ!!」

 歯が皮膚を突き破り、肉を引き裂いて血管を千切り、嚙み切った私は腕から肉を食いちぎる。

「……っあああああああああああ……!」

 私の絶叫が周りに響き渡り、腕の噛みちぎった部分から大量の血が血管から流れ出してくる。大きい血管を食いちぎってしまったのか、予想以上に血が流れ出すが食いちぎった肉から溢れてきた血を飲み込んで肉を吐き捨てた。

 血で魔力力を強化し、傷を回復させながら私は大きく息を吸いこみ、体を低くした。

 強化された魔力で体を浮き上がらせ、出せる最大の速度で後方に下がる。あまり幽香に近いとさっきのように攻撃されかねない。

 幽香は瞬間的な火力は恐ろしいほど高いが、その分だけとぶスピードだったり走るスピードが遅い。

 ただの人間でもがんばれば勝てるぐらいには足が遅いだろう。

 私が後ろ、こちらに向かって飛んできている幽香に向けてレーザーを放った。

 すると、幽香はたたんでいた傘をこちらから自分の身を隠すように展開すると、幽香の傘に当たったレーザーが川にある岩を避ける水のように軌道を変えて飛んで行ってしまう。

「…っち…」

 私と幽香、私から見れば相性は最悪だろう。弾幕をやすやすとはじいてしまう傘を持ってるため、攻撃が通ることはそうそうないだろう。

 傘の先端が光り、私が撃つレーザーよりも威力が高くてさらに大きいレーザーがこちらに向かって発射される。

 このまま動かなければ頭どころか体まで蒸発させられてしまうだろう。だが、そうなるつもりは毛頭ないため、私は魔力で体を回転させながら上に浮き上がらせた。

 視界にはいつもと違う風景が映し出される。足元に空が映り、頭上には地面が見える。上下さかさまの状態となる。

 頭上ではレーザーが何もない場所を薙ぎ払い、私がレーザーを撃った本人を見るとわずかな時間だけ目が合った。

 最大までレーザーを凝縮させ、幽香に向けて薙ぎ払うようにレーザーを放った。

 細い糸のようなレーザーを開かれて幽香の身を守っている傘に浴びせる。

 私のレーザーをまるで雨のしずくのように簡単に受け止めていた傘をまるで、水圧カッターにでもかけたようにレーザーが切り裂いた。

 幽香の目が見開かれているのが切れた傘の合間から見えた。どうやら傘どころか幽香の体も切断してしまったらしい。

 レーザーが幽香の両腕と腹を切断し、重力に従って切断した体が落ちていく。

 だが、落ちて行ったのは切られた部分よりも下の肉体だけで、幽香の頭や胸などの重要器官はそのままの場所にとどまっている。

 胃や小腸が焼けただれた肉体の断面から自らの重量で零れだし、血を垂れ流す。

「……」

 グジュッ…

 私がレーザーで切断した幽香の肉体の断面が膨れ上がって幽香の体が再生した。

「……まじかよ…」

 服が無くなっていて出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる幽香の体の目のやり場に困るが、無くなった服は魔力の作用により作り出されて元通りに戻った。

 圧倒的火力で致命傷を負わせても駄目となると、幽香を倒す方法は本当に限られたものになってくるだろう。

 悪い知らせばかりだが、いい知らせもある。体を落としたため持っていた傘は下に落ちた。これで私のレーザーを避けるには自ら動くか掻き消すしかないわけだ。

「…っち」

 それでも不利というのには変わらないため、自然と舌打ちが口から洩れた。

 死なないと分かっていても、体の半分以上を失った状態から再生するのなんかを見せられたら、絶望以外何も感じない。

「……ふふっ…」

 体の再生が終わった幽香は嗤い、魔力で足場を作って跳躍した。

 足元の魔力を粉々に砕き、弾丸のようにこちらに直進してくる幽香に私はさっきと同じ凝縮されたレーザーを放つ。だが、幽香はそれをあろうことか手で掻き消す。

「…なぁっ…!!?」

 蒸発以前に手にやけどすらも負っていない幽香の手のひらから察するに、同じ手は二度も通用しないというわけだ。

 自分の浅はかな行動に苛立ちながらも私は星の弾幕を幽香に向けて大量にばらまく、ショットガンの散弾ように弾幕を散らすのではなく、できるだけ数多くの弾幕が幽香に当たるように撃つ。しかし、

 少しでも足止めになればと思ったが、こちらに向かってくる幽香には全く効果がなく、むしろやらない方がましだろう。

 星の弾幕を撃つのをやめて魔力で後方に逃げる速度を落としながら、魔法の詠唱をして幽香がこちらに追いつくのを待ち構える。

 対した魔法ではないため、短い詠唱で済んだ私は目の前に迫った幽香に魔法をお見舞いした。

「leuchten(光り輝け)!!」

 私がよく使う閃光瓶、あれよりも強い光が私の幽香に向けている手のひらから発生し、目を閉じていても強い光を感じる。

 いくら強い妖怪でも、これには弱いはずだ。至近距離で直視すれば下手をすれば失明し、失神するレベルの光だ。

 そう思った直後、幽香の拳が私の胸を直撃した。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十八話 違い

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十八話をお楽しみください。


 

「は……!?……が…っ……!?」

 今起こったことの訳が分からず、私は幽香を凝視する。

 詳しくいうのならば、幽香から生えている腕を凝視した。

 幽香の体を背中側から貫いている腕はまぎれもなく、幽香の腕だ。

 幽香ほどの妖怪にもなれば、自分を分裂させることも可能であるということを忘れていた。

 それを使い、自分の体で私が発した閃光を直視することを避けたのだ。

 幽香に殴られた胸骨が粉砕し、衝撃で肺に散らばった骨が散弾銃の散弾のように体の中を引き裂く。

「…かはっ…!…ごほっ…!!」

 水気の混じった咳が出て、血と一緒に肺の中に散らばった骨片が手にこびりついた。

「…っ…!!」

 一刻も早くこの場から離れ無ければならないのに、私は動けなかった。

 重症の怪我を負ったというのがあるが、今の一撃で感じた圧倒的な力の差を体が感じ取ってすくんでしまっていたというのがだいたいの理由である。戦っても結果は同じだろうというのが考えなくてもわかった。

「…ふふっ…」

 幽香が残虐的な表情で胸を押さえて苦しんでいる私に近づいてくる。

「…っ…!」

 後ろに下がろうとした私の胸倉を左手で掴み、右手を私の頭部に向けて振り下ろす。

 ゴギリッ!!

 嫌な音が頭部に響き渡る。

 それを私の頭が処理をしたとき、地上まで百十数メートルあったはずだが、気が付くと私は地上にクレーターを作り、その中心に倒れていた。

「………ごほっ…!」

 肺の中の物を奥から絞り出すような咳が出て、口の中に血が上がってくる。

 両足は折れて、みているだけでも気分が悪くなってくるような角度に曲がっていて、左肩の関節も外れてしまっている。地面に叩きつけられた際に、無意識のうちに右手で受け身を取ろうとしたのか、右腕がひしゃげて潰れてしまっている。

 こんな大怪我を負っているのに、なぜか痛くない。それはわき腹から臓器がこぼれ出ているのが原因だろうか。

「……」

 口の中が血の味しかしない。口の中にある血を飲み込んで私は再生能力を上げ、地面に落ちた時にへし折れた両足や全身の骨に入っているヒビを修復する作業に入る。

 だが、幽香は待ってくれないらしく、見えていた空から私のすぐ横に着地して土や石を巻き上げる。

「…く……そ……っ…!」

 私が呟きながら、体が治りかけて痛みを感じ始めた体を引きずって離れようとするが、幽香に肩を掴まれ無理矢理に彼女の方向を向かせられる。

「…私を楽しませなさいよ……魔理沙」

 紅く光る瞳で私を覗き込んだ幽香は言う。

「……」

 ある程度まで動けるようになるまでまだまだ時間が足りない。時間稼ぎをしなければ、戦えなくてつまらなくなった幽香は間違いなく私を殺す。

「…幽香……」

 話が通じるとは思えないが、私はその場を繋ぐために幽香の名前を呼んだ。しかし、幽香は返事を返さずに私の完璧に再生した右手を握る。

 直後、尋常ではないほどの握力が手首にかけられ、手首の手根骨が潰れた。

 パキャッ

 と木の枝でも折ってるような音と共に手首が潰れて、グニャリと地面に向かって手が垂れ下がる。

「ああああー!!?」

 幽香が私の手を放し、私は左手で右手を抱えた。

「……くっ……うぐっ……!」

 痛みに耐えた私がすぐ近くにいる幽香に向けてレーザーを撃とうとしたが、私の左腕は逆にレーザーで消し飛ばされる。

「……っ……!?」

 左腕は骨などの残骸するも残らずに蒸発し、撃たれた肩回りの肉はレーザーの高温に焼けただれて出血も起こさない。

 私が傷の損傷具合を確認しそうとしたとき、幽香が私の掴んだ右腕を肘から千切り取る。

「~~~~~~~~~っ!!!」

 歯が砕けてしまうのではないかと思うほどに歯を食いしばり、激痛に耐えるが幽香は私を掴むと座っていた状態から立ち上がらせた。

「……っ…なに…を……っ!?」

 私が呟いた時、幽香が私の顔面を殴り飛ばす。

「…がはっ…!?……あああああっ!!」

 森の中を木をなぎ倒し、途中にある岩を砕きながら進んでいた私の体は、幽香から数百メートルという距離が離れた時に、動くスピードがようやく衰え始めた。

 地面を約五十メートルほど転がり、木に背中を打ち付けてようやく体は停止する。

「ごぼっ……!」

 胃から上がって来た血を吐き出し、その四分の三ほどを地面にまき散らしてしまうが、血を飲み込むことができた。

 飛ばされてきた方向を見ると米粒よりも小さい幽香の姿が確認できる。私のいる方向に向かっていているのがここからでもわかる。

「……っ……くそ…っ」

 私は毒づきながら移動を始めようとした。だが、中途半端に治した体は言うことを聞いてくれない。

「…畜生……っ!」

 指に噛みつき、血を流してそれを飲み込んで傷を修復させようとした。

 その時、近くの草むらがガサリと揺れる。

「…っ!!?」

 右手を音の方向に向けるがまだ草むらを進むような音は止まらない。それどころかこちらに向かっていているようだ。

「……っ…誰だ…!」

 私がか細い声で叫ぶと、音が少しの間だけ止まるが、すぐにこちらに向かって進みだし、草むらをかき分けて小悪魔が現れる。

「…魔理沙さん…大丈夫ですか!?」

 小悪魔が驚き、叫びながら私に近寄って来る。

「……。小悪魔か…すまないが体が動かないんだ……幽香がこっちに来てるから早く逃げないと…」

 幽香の方向を見ると、楽しそうに笑っているのが見えるぐらいには近づいてきている。

「…わかりました……」

 小悪魔が私をおぶり、走り始めた。

「……レミリアたちは…見つかったのか?」

 走り始めた小悪魔に私が聞くと、小悪魔は一拍の間をおいて首を横に振る。

「…そうか……」

 私が呟くとそこで会話が途切れ、小悪魔が黙って走る。私も特に話すことがなくてしばらくの間小悪魔に揺られた。

「……永琳とは会ったか?」

 私が聞くと、小悪魔は一拍の間をおいて話し出す。

「…ええ、会いましたよ……途中で分かれて今は別行動中です」

「…大妖精にはあったか?」

 私が再度聞くと、小悪魔はおんぶしている私のことを持ち直しながら答える。

「大妖精とは会ってません……でも、大妖精なら大丈夫だと思います」

「…まあ、そうだな……大妖精は、見た目以上に肝が据わってるからな」

 私は言いながら幽香の歩く速度と大妖精の走る速度から、話した距離をおおよそで出した。

「…小悪魔、この辺りでいいだろう。傷を治療するから一度おろしてくれ」

 私が言うと、少しずつ減速した小悪魔は私のことゆっくりとおろして地面に立たせてくれた。

 私はバックから瓶を取り出し、小悪魔に手渡した。

「これは何ですか?」

「…回復薬だ……手に力が入らないから、すまないが蓋を開けてくれ」

 私は頼みながら、他の物も出すためにバックに手を突っ込む。

「わかりました」

 小悪魔が言いながら瓶の蓋を開けると、瓶の中身の物質が空気と触れ合うことで化学反応を起こし、青白い光を放ちながら大爆発を起こした。

 

 爆発音とその衝撃で頭がクラクラする。

 爆風で砂煙が舞い上がってしまい、かなり視界が悪いが十数メートル先にいる小悪魔の姿はある程度は見える。

「ぐ……あがっ……!!」

 近くで右手と左手の一部が消し飛んだ小悪魔が地面にうずくまって倒れている。

「…ふぅ…あぶねぇ…私まで巻き込まれるところだったぜ」

 私は言いながら爆風で少し吹っ飛ばされ、転んでいた状態から立ち上がった。

「魔理沙さん……!?…何を…!?」

 痛みに耐える小悪魔が傷口を押さえながら叫ぶ。

「…もう姿を変えなくてもいいぜ……ぬえ…」

 私が語り掛けると小悪魔の体が揺らいで消え、腕を押さえて痛みに耐えているぬえが現れる。

「なんで、わかったんだ!?完璧に似せていたのに…!」

 ぬえが冷や汗を流しながら私に叫ぶ。

「いつもの癖が出たな、ぬえ…いつも馬鹿にしてる妖精に…さん付けをするのを忘れてるぜ……小悪魔は大妖精のこともさんづけで呼ぶからな」

「………くそ……そんなことで…!」

 歯ぎしりしながらぬえが悔しそうに呟く。

「…さてと、お前をどうしてくれようか…」

 私は言いながらぬえの足をレーザーで撃ち抜いた。

「ぎあっ…!?」

「…さっきの言い方から、お前は異変に加担してるんだろう?…だったら生かす意味はないよなぁ?」

 私は言いながらぬえに歩み寄る。

「…く……来るな!」

 ぬえがズリズリと足を引きずって逃げようとするが、私はぬえに近づいて頭を掴んでこっちを向かせた。

「…異変の黒幕、それを言ったら逃がしてやらないことはないぜ」

 私がいうとぬえは首を横に振る。

「言えない……言ったら…私は死ぬ…!」

 言わなくても私が殺すけどな。

 私はそう思いながらため息をつき、ぬえを睨みつける。

「…こっちは時間がないんだ、さっさと言え」

「言えないんだよ……誰かを伝えようとすると呪詛が働いて私は死ぬ…」

 ぬえが言いながら口を開くと、黒い紋章が舌に書かれているのが見えた。

「…っち、まじかよ」

 私は舌打ちしながら紋章を覗き込む、解除できないことはないが、変なトラップが仕掛けられてて、怪我をするのは困る。

「そうか、じゃあ…死んでもらうとしようか」

 私は言いながらぬえの頭を撃ち抜こうと手のひらをぬえに向けてレーザーを撃とうとしたとき、横から飛んできた木が私に当たり、狙いが大きくずれてぬえの片足と片腕をレーザーで切断してしまった。

「…っち」

 後になって襲ってこられても困るため、完璧に始末したかったが仕方がない。どうせあれでは戦いなどはできないということで良しとしよう。

 魔力で体を強化して木を弾き飛ばし、木が飛んできた方向を見ると幽香がこちらに走ってきているのが見えた。

「……ここで、お前を倒す…!」

 私は指に噛みつきながら走り出し、魔力力を強化して幽香に殴りかかった。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

駆け足気味になってしまいました。すみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第五十九話 引き金

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第五十九話をお楽しみください。


 頭を殴られたせいで意識がはっきりとしない。

どれだけ時間が経ったかわからないが、今しがた私の右腕が幽香の拳で折られた挙句に千切り取られて投げ捨てられてしまった。

 左手でレーザーを撃とうとしても潰れて、原型がわからないぐらいぐちゃぐちゃになっているため攻撃することができない。

「……………あ…っ…」

 気が付くと、私は膝を地面につき、幽香に無防備な姿をさらしている。

 早く立ち上がって動こうとしたが、右足の膝から下が無くなっていて立つことができない。

 そうしてモタモタいるうちに幽香が私のことを掴んで持ち上げた。

「…っ」

 私が肘から先を千切られた腕で抵抗しようとしたが、それよりも早く幽香の腕が私の胸を貫いた。

「…か……っ………!?」

 声も出なかった。

 幽香が腕を引き抜くと血まみれの手の中には、拍動して動脈から血を吹き出している私の心臓が握られている。

「…わた……しの……っ………し…ん……ぞ……」

 力が抜け、私は地面に倒れ込んでしまう。

 心臓が体内から出されたことによるショックで運動が不規則となり、一定の間隔だった拍動が弱まっていっている心臓が私の顔の横に落とされた。

 土まみれになって汚れた心臓がぼやけていく視界の中、血を吐き出しながら止まっていくのが見える。

 胸の傷口から大量の赤黒い血が流れ出て、地面を赤く染めていく。

「…フン」

 動けなくなった私を見て幽香はつまらないと言いたげに鼻を鳴らした。

 ザッ…ザッ…

 踵を返して土を踏みしめて幽香が私から離れていく、その歩く音が空気中を波となって伝わり、私の耳の奥にある鼓膜を揺らして聞こえてくる。

「……」

 脳や体中に血が回らなくなり、動くことができない。それどころか話したり息を吸うことすらもできなくなっていき、私は急速に死に向かって行く。

 私は、ここまでなのか。

 そう考えながら私はゆっくりと目を閉じた。

 幽香が離れて行っているのか、私の耳が聞こえなくなっているのかはわからない。でも、おそらく両者だが幽香の足音ももう聞こえなくなっている。

 幽香は私が壊れてしまったため、次の獲物を探しに行くのだろう。

 私は自分が出した考えにひっかがる部分があり、それを再度確認した。

 次の獲物?

 次の獲物と言えば、萃香たちと対峙している者たちのことだろう。

 萃香たちと敵対している人物と言えば、小悪魔や大妖精、永琳たちだ。

 このまま幽香を野放しにすれば、小悪魔たちがこいつの餌食になる。

 圧倒的な火力で押し切られ、私のように、脆い人形のごとく壊されてしまう。

 それはだめだ。

 あいつらに、私の仲間に、手出しは絶対にさせない。

 

 風見幽香は小さな音を聞いた。

 いつもならば絶対に聞き流して無視していただろう。だが、聞こえてきたのは自分が片付けた一匹の人間が転がっているはずの方向からであるため、気になったのだ。

 方向転換して今来た方を見ると、心臓を抜き取ったはずの人間があろうことか起き上がっているのだ。

 風見幽香は困惑した。

 心臓を取ってあんなに長く生きている生物にあったのは、自分を含めずに初めてだからだ。

 しかし、それと同時に興奮した。今までにない血沸き肉躍る戦いを繰り広げることができる気がしたからだ。

 その人間はうつむいて何かをしている。

 つぶした左腕、千切り取ったはずの右腕はいつのまにか元通りに再生していて、何かを握って口元に運んでいる。

 近づくと、それは風見幽香が殺したと思っていた人間の雌、そいつ自身の臓器を自分の体内から引きずり出して食っているのだ。

 その行動の意味が分からず、風見幽香は立ち止まる。

 臓器に食いつき、歯で噛み切って食いちぎる。口元を血で濡らしながら人間は臓器を口の中で咀嚼し、飲み込んだ。

 そうして少し経つと彼女の力がこれまでにないほど増幅して、胸や腕、自分で引き裂いて臓器を出した傷口が再生をはじめ、ほんの数秒で完璧に再生した。

「……」

 こちらを睨みながら立ち上がるただの魔法使いに興味を持った風見幽香は、ゴギリっと首を捻って骨を鳴らす。

「ふふ……くくっ……あーはははっ!!…面白いわ…あなた…!」

 風見幽香はそう言いながら口を裂いて笑い、下を向いてうつむいた霧雨魔理沙に容赦なく襲い掛かった。

 

 だめだ。こいつを小悪魔たちの場所に行かせちゃならない。

 私がどうなろうとも構わない。それであいつらが助かるのなら安いものだ。

 でも、幽香を止めようにも現在の血の再生能力では損傷し、抜き取られた心臓を再生させることは不可能だ。

 だったら、大量の血を飲むしかない。

 潰された左腕と千切られた右腕を元に戻し、私の血で赤く染まっている地面に手をついて体を起こした。

 胸の空洞から大量の血と肉片が零れ落ちて、私を中心に広がっている血の池に波紋を作る。

 すでに死んでいてもおかしくはないが、生命力が上がっているおかげでまだ生きていられるため、急いでことに当たらなければならない。

「……」

 私は自分の血で赤く染まっている手で服をめくり、腹部を露出させた。

 人体のどの場所にどの臓器が配置されていたかを少し前に読んだ。人体に関する本の絵を記憶をたどって思いだす。

「……」

 腹部に手を添え、魔力で強化した手を使って爪を突き立てる。

「………っ!」

 物凄い激痛で体が動かなくなってしまうかと思ったが、感覚がマヒしているのかさほど痛みは感じられない。

 グチ…!

 皮膚の中に自分の指が潜り込み、私の指と開いた穴の隙間から血がにじみ出てくる。

「……」

 肉を爪で引き裂き、目的の臓器を引きずり出した。

 それは肝臓。この臓器は大量の血を含む臓器であり、この中の血を大量に飲めば心臓も修復させることは可能だろう。

 口を開き、真っ赤なっかな肝臓を口に運んだ。

 歯を突き立て、光の加減でテラテラと光る肝臓は、予想していた感触と味がする。

 できるだけ多くの肝臓を口に押し込み、咀嚼して飲み込んだ。

 ドックン…。

 体の奥底から拍動に似た衝撃のようなもの、それを一度だけ強く感じた。

 私は魔力力を強化して心臓や自分が引きずり出した肝臓を再生させる。それ以外にも私の体にある傷が今までにないぐらい速い速度で再生し、その痕すらなくなっていく。

 幽香が嗤いながら私に向かって襲い掛かってくるのが見える。

 自分の臓器を食い、戦闘準備をする前に幽香に襲われそうになってしまう。状況は最悪、気分は最低だ。

 バギャッ!!

 私の腕が幽香の強力な威力を持つ拳によって、肩ごと持っていかれた。

 なのに私の幽香に消された腕が一秒にも満たない、短い時間で再生を完了させた。

 体の奥から今までにない、変な感覚が溢れてきているのを何となく感じる。よくわからないが、放っておくことにした。

 今はそれどころではない。

「…本当、気分は最低だよ」

 私は自然と呟いていた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十話 地下の奥

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十話をお楽しみください。


「これは……!」

 私はこの光景を見てようやく納得がいった。どうしてあの鬼たちが戦意喪失していたのか。

 強い敵がいれば喜んで戦いに行くはずだが、さすがにこの仲間がこれ以上にないぐらいむごたらしく殺された光景を見たら、戦う意志もそがれてしまうのも無理はないだろう。

 私がいる廊下の先の一部分、そこはまさに地獄と言える。

 返り血がそこら中に飛び散っていて、血が付いていない場所を探す方が大変なぐらい血で溢れている。

 それに比例して血の匂いもすごい。

 むせ返るほどの血の匂いに加えて、人間ではないが鬼の肉が焼けていると思うと気分が悪くなるような肉の焼ける香り、引きずり出されて引きちぎられている臓物から垂れ流されている糞尿の匂いが混じり合って、息をするのもつらいぐらいだ。

「……っ」

 できるだけ見ないようにしているのにもかかわらず、激しい吐き気に襲われる。

 しかし、この廊下の先が地下の牢獄に続く階段がある場所であり、行くための道がこれ一つしかないため、我慢していくしかない。

「……」

 目を閉じてゆっくりと進むと死体から流れ出した血が水たまりを作っていて、それに足を踏み込んでいしまい、ピチャリと音を立てる。

 もう一歩踏み出すと、考えたくもないが柔らかい何かを踏んでしまった感覚が靴越しに私は感じた。

 飛び散った肉変か、臓器かは知らないが私は全身に鳥肌がゾワリと立つ。

「…っ……!」

 引き返して逃げたい気持ちを何とか押さえ込み、私は一歩ずつ確実に進んでいく、鬼たちの死体が転がっている場所はたったの数メートルの範囲だけであるのに、その数メートルの距離が絶望的に長く感じる。

 私が踏み出すと肉が潰れる嫌な感触と身の毛もよだつ音が神経に情報として伝えられ、脳がそれを処理をする。

「…うっ……」

 吐き気が限界に達しそうになったところで、ようやく死体が放置されているエリアから抜けることができた。

 血などの感覚も足に感じず、靴で床を叩くが血が跳ねるような音もしない。なにより歩くごとに血の匂いが少しずつ薄れて行っているのが匂いを嗅いでみてわかった。

 目を開くと、私が向いている方向には死体や血はなく、普通の道が続いている。

「ふう…」

 私は振り返らずに走り、監獄に続く階段を降り始めた。

「……」

 石を踏みしめる小さな音が靴から発せられ、それがこの狭い階段内を反響した。辛うじて電気は通っているのか薄暗い階段の中を光が照らしている。

 誰にも邪魔されることなく階段を降りると、階段を下りた場所がさっきと同じ場所なのかと思うほどに壁や床が破壊されている。

「これは、魔理沙さんが戦った痕…?」

 壁に大きな穴が開いて、それが外まで続いている。何か物体が壁に強く叩きつけられたのか、ひびが入って外に向けて大きくゆがんでいる。

「…」

 萃香さんと鉢合わせした階段に向けて走り出すと、途中である程度の距離まで廊下の岩石が融解している場所に着く。今は冷えて固まっているが、岩石が溶けていることからかなりの高温だったことが伺える。

 私たちが入ってた牢屋には勇儀さんの姿はなく、廊下にも正邪さんの姿はない。

 さらに数分かけて進むと、萃香さんが上がって来た階段が見えてくる。その周辺も大きく損傷しているが、他よりはだいぶましな程度だ。

「……っ」

 階段の入り口は壊れていて、私が応戦していた鬼たちは萃香さんに吹っ飛ばされたり踏みつけられて死んでしまっている。

 潰れた死体や壁のシミとなっている死体のわきを通りすぎ、電球が壊れてさらに暗くなる廊下を警戒しながら進み始める。

 コッコッと靴が岩と触れ合う音が広い通路に響く。ところどころ壊れていて歩きずらいが、すぐに階段に行きついた。

 階段を降り始めてすぐ、魔理沙さんと萃香さんの戦闘があったのか、かなり階段がボロボロになっているが、それを過ぎると損傷していない普通の階段になり、安定した速度で私は地下に降り始める。

 だいぶ長い距離を歩き、ようやく長かった階段が終わるとまた長い廊下が奥に続いていて、私が今降りてきていた階段にはない古い感じがする。

 この場所まで作っておき、そのあと天狗の屋敷までこの通路を繋げた。そんなところだろうか。

「…」

 この通路はいったいどこにつながっているのだろうか。天狗の屋敷の地下とこの場所ではあまりにも年代が違いすぎる。

 今降りてきた階段をこの頃に掘ったとしても、この場所をあらかじめ掘っていないとこんなふうに見た目が違くはならないだろう。

 一本道を歩きながら考えていると、鉄の扉が左右に二つ現れた。

「……」

 何となく左側に行くことにした私は黙って鉄の扉を蹴り開けて中をのぞくと、部屋の中には何もない。

 廊下と同じように巨大な岩石を削り出した壁に四方を囲われている。

「……扉…?」

 部屋の中央には、鉄でできた床下扉が付いていて、下に行くことができるようになっているようだ。

 部屋の中央にある鉄の床下扉に近づくと、わずかだが血の匂いが漂ってきているのが感じられる。

 よく観察すると鉄の扉の周りには、酸素によって茶色く変色した乾いた血が少しついているのが見えた。だが、この血の匂いは床についている分だけではなさそうだ。

「……」

 なんだか嫌な予感がして、この場所に入るのが嫌になるが、この場所にパチュリー様がいる可能性も捨てられないため、調べないわけにはいかない。

 鍵のかかっている床下扉の鍵を破壊しようとしたが、かなり頑丈にできていて私に破壊することは無理そうだ。

 だったら、周りの岩を破壊する方が効率がいいだろう。

 魔力を瞬間的に消費して岩石を殴る。

 拳が当たった場所を中心にヒビが入っていき、それがどんどん広がっていく。

 下の階までひびが貫通したらしく、私のいる場所までひびが広がっていた岩が私の重量を支えることができなくなり、下の部屋に私は滑り落ちてしまう。

「わあっ…!?」

 私は数メートル下の床に何とか受け身を取ることができて、きれいに着地することができた。

 落ち着いて周りを見てみると、部屋の外から感じていた血の匂いはやはりこの部屋から上がってきている物だったらしく、強い鉄の匂いがこの部屋を充満していた。

「……」

 換気扇の唸り声が部屋の中を反響して蠅のように小うるさく響いている。

「…これは……」

 壁際にはぐったりとした様子の優曇華さんが鉄の柱のようなものに、腕を後ろに回されて括りつけられているのが見えた。

 いつも着ている紺色のブラウスを着ていて、明るい薄紫色の長髪にウサギのつけ耳が頭から力なく垂れさがっている。

 表情は見えない。鈴仙さん顔は下を向いていて、生きているのかすらもわからない。 でも、死人のような青白い顔ではなく、まだ血の通っている血色のいい肌の色が見えて、生きているのだけはわかった。

「……鈴仙さん…?」

 私が鈴仙さんに近づき、肩を掴んで軽く揺すってみることにした。

 「……っ……う…」

 鈴仙さんが唸り声をあげ、意識を覚醒させた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十一話 死者

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十一話をお楽しみください。


 鈴仙さんが生きていることに安堵しながら、私は鈴仙さんの肩から手を放す。

「…こ……小……悪…魔……?」

 鈴仙さんはまだ意識がはっきりしていないのか、途切れ途切れに言った。

「大丈夫そうではないですが……大丈夫ですか?」

 私が聞くと鈴仙さんは虚ろで光の無い赤い瞳で私を見つめがながら呟く。

「あなたも……そっち側なの…?」

「…え?…そっち側?…何のことを言ってるんですか?」

 私が聞き返すと鈴仙さんは掠れた声で話し始める。

「萃香たちと同じ、異変を起こした側なの…?」

 虚ろな瞳のまま、鈴仙さんは少しおびえたように呟いた。

「…いいえ、私は違います」

 私ははっきりとそう鈴仙さんに伝えながら、腕を何重にも拘束している針金を千切って鈴仙さんを解放した。

「…小悪魔は……なぜ…この場所に?」

 呟きながら後ろ向きに拘束されている手を前に持ってきて、きちんと動くか手を閉じたり開いたりしながら鈴仙さんは呟く。

「…私は……パチュリー様やお嬢様をさらわれてしまって……探しに来ました」

「……そう…」

 鈴仙さんが呟きながら自分の血まみれの姿を見直し、思い出したように横を見る。

 私はそれにつられて横を見ると、鈴仙さん以上に茶色く変色した血にまみれている妹紅さんが倒れているのが見えた。鈴仙さんに目が行っていて気が付かなかった。

 気絶しているようすの妹紅さんは仰向けに倒れていて、ずっとうごかずにぐったりとしている。

 妹紅さんに近づき、仰向けに倒れている妹紅さんを上向けに寝かせた。

 そのまま少しだけ彼女を観察すると、胸が上下に動いていてだいぶゆっくりだが呼吸はちゃんとしているのがわかる。

「…生きてますね……」

 不死といえど、あれだけ血まみれであれば死んでしまったのではないかと思ってしまう。

 一度、私は鈴仙さんのところに歩いて戻り、聞きたいことを聞くことにした。

「鈴仙さん…異変について何か知っていますか?……例えば、異変の首謀者とか…」

 私が聞くと鈴仙さんは呟き声を漏らした。

「……たぶん全員知っていると思う……でも、私には言えない」

「…なぜですか…?………もしかしてなにか、話せないことがあるんですか?人質がいるとか」

 私が鈴仙さんに詰め寄るとゆっくりと話し出す。

「理由は二つ……私が話したら………私は死ぬ」

 鈴仙さんはそう言いながら口を開き、ベロッと舌を出した。

「…これって……」

 舌には黒い紋章がかかれていて、それが意味するのを私は知っている。

「…ええ、呪詛です……私があの人のことを話したり、どうにかして伝えようとすると、この呪詛が働いて私は死ぬことになるので……あまり聞かないでいただけると嬉しい…」

 鈴仙さんが舌を口の中に戻しながら呟く。

「…理由のもう一つは何ですか…?」

 私が聞くと鈴仙さんが一拍の間をあけてから話し出した。

「…さっき小悪魔が言っていたように…人質を取られて…ね……私が命をなげうってでも伝えようとしたときのために、あの人は妖夢を人質に取って…話した時に妖夢を殺すって………私のせいで妖夢は……」

 鈴仙さんがボロボロと涙を流しながら呟く。

「…え?…妖夢さんを人質に取られたんですか…?」

 私は鈴仙さんの話に違和感があり、少し聞いてみることにした。

「…ええ、妖夢をこの場所に連れてきて…誰かに話そうとしたら殺すって…」

「…それじゃあ、おかしいですよ……私は…今さっき妖夢さんとあって来たんですけど……白玉桜から出てきたのはほんの数時間前だって言ってましたよ?」

 私が言うと、鈴仙さんは驚いた顔で私を見上げる。

「…本当なの…?」

「…はい、幽々子さんも一緒だったので、間違いないかと思います……たぶん、何かしら方法を使って鈴仙さんをだましていたんだと思います」

 私が言うと、鈴仙さんは驚いたような顔をした後、安心したように息をつく。

「…よかった……」

「…鈴仙さん……すみませんが一つ聞きたいことがあります、妖怪や妖精たちが狂っているのはあなたの能力の影響だからですか?」

「…そうよ……私の能力の影響…」

 鈴仙さんはそう言いながら私を見る。

「…鈴仙さんの能力は数人の人、もしくは妖怪などをまとめてできる程度の範囲しかないと聞いていますが…どうやって幻想郷中の人物を狂わせたのですか?」

 私が聞くと鈴仙さんは、横で倒れている妹紅さんの方向を見ながら説明を始めた。

「……小悪魔は萃香が同種の鬼を食うことで、魔力力を少しずつ底上げをしていたのはもう知ってるわよね?」

「…はい……聞きました」

 私が返事をすると、鈴仙さんは続いて説明を続ける。

「…詳しいことは知らないけど、私の能力を強化することによって今まで以上の広範囲に私の能力の影響がいくようにしたかったみたい……でも、能力を強化するにも鍛錬なんかしている時間はない。そもそも私が手を貸すわけがない……そう思った彼女たちは、私に能力の暴走をさせることを思いついた」

 そこまで言ったとき、なぜこの場所に妹紅さんがいたのかがつながった。

「…もうわかるわよね?……妹紅の…老いることも死ぬこともない程度の能力を利用することに彼女たちは決めた。……魔力力の強い者の肉体を摂取すればその分だけ魔力力が強化されやすい……萃香は何百年もかけて少しずつ魔力力を強化したから大した影響なんかないけど……私はたった数日で何十倍にも力を増幅させられたから、当然暴走を起こして……あなたもわかるように光が発生した」

 鈴仙さんはだいぶ疲れているのか、弱々しい声でようやく話し終えた。

「……なるほど…」

 うなづいた私に鈴仙さんは言った。

「…狂気の能力は解除した……でも、一度気絶させないと元には戻らないそこのところはよろしく…」

 妖夢さんが人質でないと分かって安心して気が抜けてしまったのか、ゆっくりと目を閉じて鈴仙さんは眠りについてしまう。

「……」

 もう少し聞きたいことがあったが、こんな場所にずっといたんだ。休ませてあげないと可哀そうだろう。

 私は鈴仙さんと妹紅さんを抱えて外に出ることにした。

 鈴仙さんと妹紅さんをこの血生臭い部屋から連れ出して外の部屋に寝かせた。

 私は続いて鈴仙さんたちがいた方とは反対側の鉄の扉を開け、圧迫感のある部屋の中央にある床下扉に近づいた。

 扉の隙間からは鈴仙さんたちがいた部屋と同じように、ここからも血の匂いがわずかに漂ってきているのを感じることができる。

 今度の鉄製の床下扉は凄くボロボロで、なんだか殴っただけで壊れたしまいそうだ。

 中にいる人物たちが抵抗したことにより、床下扉が損傷したいるのだろう。

 鉄の扉を魔力で強化した拳で殴りつけると、鉄の扉が下の方向に向けて大きくひしゃげ、扉を支えている鍵と蝶番を破壊する。

 見事に扉を破壊することができた私は、下の階に歪んだ床下扉ごと落ちてしまう。

 落ちた先で私が見たものは、

「……っ!!」

 ドォッ

 砕けた鉄の扉が落ちるスピードが嫌に長く感じる。しかし、そんな中でも私は動くことができなかった。

 床に落ちる衝撃が足から膝、腰、腹、胸、頭と上へ上へと伝わっていく。

 血の匂い、もう嗅ぎなれた血の匂いが充満するこの部屋の中に、よく知っている人物たちがいた。

 充満している血の匂いは、ずいぶんと昔に一度だけ嗅いだことのある匂いだった。

「……うそ…」

 誰かが私の名前を呼んだ気がした。でも、私には全く届いていない。

「…うそ………です……よ……」

 私はゆっくりとヨタヨタとおぼつかない足取りで歩き出す。

「…こんなの……うそですよ……!」

 自然と瞳から涙がゆっくりと流れ落ちてくる感覚がする。

 少し変色を始めた血だまりに足が使っても、こぼれた臓物に触れても、気にする余裕もなかった。

 さっきの鈴仙さんとは天と地の差があるぐらい。一目でわかった。

 彼女の閉じられた瞳はもう開くことはない。愛しい彼女の唇は二度と開かれることもなくなってしまった。

 額から流れた跡がある乾いた血が、涙のように瞳から流れている。

「…こんなの……何かの…冗談です……よね……?……パチュリー様……!!」

 私はパチュリー様の頬を両手で包むように優しく触れた。

 契約したパチュリ様と離れていたりしたから魔力でつながらなかったわけではない。そもそもつながるわけがなかったのだ。

 彼女はもう冷たくなって死んでいたのだから。

 私が顔に触れたパチュリー様は、糸の切れた操り人形のように力なく血だまりに倒れ込む。

「……」

 胸に空いた穴が、腹からこぼれている臓器が、引き裂かれて辛うじてつながっていた首が倒れた体から千切れて私の手元に残っていることから、彼女はもう死んでいる。と現実は私に真実を突きつける。

「うあああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 私は喉が潰れるのも構わずに絶叫していた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十二話 狂気

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十二話をお楽しみください。


 

「……っ…ぐぁ……っ…!」

 悲鳴が彼女の口から洩れた。いや、私の口から洩れた声かもしれない。

 でも、目の前にいる人物が血が滴る胸を押さえて血を吐いていることから、悲鳴を上げていたのは私が戦闘中の相手だと分かった。

「……」

 そしてなぜ悲鳴を上げていたか。私が戦っている相手は風見幽香であり、そう簡単に悲鳴を上げるような奴ではない。

 しかし、私の手には血と筋肉がこびりついている肺のようなものが収まっている。

「…くくっ……」

 自然と口角が上がっていて私は笑い声をあげた。

「……(おれ)は……」

 声が二重になっていて、変な声が重なっていた気がするが気のせいだろう。

 それよりも頭が痛い、私の脳に知らない記憶が大量にドンドン流れ込んできて、脳がパンクしてしまいそうだ。

 訳が分からないぐらい頭が痛く、映し出される映像が止まることがない中でも私にはわかった。この記憶は、この能力を使っていた前任者たちの記憶なのだと。

「あは……あははははははははははははははははっ」

 乾いた声が響き、私は自分が笑っていると気が付くのに数秒もかかった。

 その間にもドンドン流れ込んでくる記憶は、どれもこの能力に酔いしれて使いすぎておかしくなっていくものばかりだった。

 大筋は大体同じで、争い、戦争、殺し合いだ。

 誰かと戦い、この能力を使いすぎたことにより精神を犯され、狂って行く。最後はみんな決まって誰が体を動かしているかわからないぐらい訳が分からなくなり、死んでいった。

 そう思っている私も、すでにそいつらと同様になってしまう第一歩を踏み出している。

 どうやら、この血の能力はプラスにも働くし、マイナスにも働くようだ。副作用のようなものだ。

 そこで私は気が付いた。

 聖に始まり、幽々子が私にひどい顔をしていると言っていたのは、こういう事だったのだと。

 今思えば、前兆はあったじゃないか。小悪魔と牢屋にぶち込まれた時なんかがそうだ。

 それ以前にも、なぜ気が付くことができなかったんだ。自分がどんどん変わっていっていることに。

 だが今更後悔しても、もう遅い。私は前任者たちの仲間入りをするらしい。強い精神力をもってしても抗うことができないほどの快楽に、私は飲み込まれた。

「ああああああああああああああっ!!」

 狂ったように叫んだ。

 私は叫びながら前方にいる幽香に向けて飛び掛かった。

 幽香は応戦するために魔力を周りにばらまき、周りの花を急速に成長させて強化し、こちらに向かわせて来る。

 体に巻き付こうとする花の茎を素手で千切り、レーザーで蒸発させ、爪で切り裂く。

 だが、こんな無理な戦い方をしていればすぐに幽香から反撃を食らう。

 幽香が放ったソフトボール台の強力な弾幕が私の左目に直撃した。血が飛び散って目が潰れ、血管が断裂し、筋肉が引き裂かれる。

 内側から爆発するような衝撃に目の周辺にある頭蓋骨が砕け、骨肉がぐちゃぐちゃになってまき散らされる。

 だが、私は死なない。

 魔力で傷をほぼ一秒で治し、幽香に向かって突っ走る。

 それを迎え撃つ幽香が拳を握り、走ってくる私に向けて拳を振りぬいた。

 防御力に一切魔力を回していなかった私の心臓がある位置を正確に幽香の拳が貫き、肘までめり込んだ。

 私は貫かれることなど気にも留めず、拳を作って幽香を殴る。

 ベギャッ!!

 私が殴った衝撃で幽香の脇腹の一部がはじけ飛び、大量の血と抉られた小腸と大腸が地面に漏れだした。

 楽しい。

 自分の体が壊れるのなんか、どうでもいい。もっと相手を壊したい。

 私が殴ったことにより、私から離れた幽香の腕が私の胸から引き抜かれ、胸に大きな穴が開いた。

 千切れている静脈と思われる血管から赤黒い血がダラダラと流れだすが、私が魔力を送り込むと心臓や肋骨、その他の筋肉もまとめて再生が完了する。

「クスクス………あははははははははははっ!!」

 こみ上げてきた感情を表に出したら、私は大声で笑い始める。

 わき腹を修復し終えた幽香が立ち上がったころ、ようやく私も笑い終わった。私は上体を下げて幽香に向かって跳躍、拳を握ってさっきのように再度殴り掛かる。

 だが、幽香もそう簡単に攻撃させてくれるわけがない。口を裂いて嗤った幽香の拳が私の首を背骨ごと抉るように拳を振るう。

 首をわずかに傾けて体も移動させていたため、幽香の拳は首を半分ほどえぐり取るだけとなり、私が幽香の胸に掌底を叩きこむと幽香の肋骨が折れ、胸骨が砕ける気味のいい音と感触がして私はそれを気分よく味わう。

 楽しい。

 体が壊れる多少の痛みなど快楽に変換し、私は幽香を傷つけ、傷つけられる。

 こんなに楽しいのは、生まれて初めてだ。殺したい。こいつを殺したい。もっといっぱい殺したい。

 腕を千切りたい。足をもぎ取りたい。首をへし折りたい。その豊満な胸の奥で活発に動いている心臓を抉りだして握りつぶしたい。首れている腰よりも上に位置する腹に入っている臓器を引っ張り出したい。それらを食いちぎりたい。それらを地面に叩きつけてふみ潰したい。

 様々な要求が体の奥から沸き上がり、ぐちゃぐちゃに混ざり合い。それができていないことから巨大な欲求不満が生まれる。

 感じたこともないほどの欲求不満に、私の体はそれを満たすために幽香に向かって走り出す。

 走り出した私に向かって幽香は強力な球状の弾幕をぶっ放す。私はかわすことなく突っ込むと、顔の半分を吹き飛ばされて右側半分の視界が見えなくなり、さらに幽香から追撃を食らうことになった。

 足が幽香の手刀で切り落とされ、バランスを崩したところで腹を貫かれる。

 指をまっすぐに伸ばしたただの手刀なのに体を貫く威力があるのは、魔力を扱うものがその技をしているからだろう。幽香がやれば物が切断できるのもうなづける。

 吐血してしまい、血を吐き出すが私はその血を無理やり飲み下して、切れかかっていた能力を持続させた。

 右手を幽香の蹴りで完璧に破壊されるが、魔力を送って修復している最中に治している腕で幽香をぶん殴る。

「ひひっ…!!」

 もうすでに私が体を動かしているのかわからない。私が動かしているようにも、他の今までの前任者が体を動かしているようにも感じる。

 斜め上から飛び込んだ私は、幽香に拳を叩きこむと幽香は体を魔力で強化したらしいが、地面は耐えることができなかったらしく、地面が陥没し、バランスを崩した幽香と殴りかかった私はそのまま地面の中へと潜り込む。

 地面の中でもう一度私は幽香に拳を叩きこむと幽香の体がくの字に曲がり、今度こそ幽香の体は耐えることができなかったのか、私の拳が腹を貫く。

 沸き上がる欲求を満たすのは凄く気持ちがよくて、楽しくて、私は嗤う。

 幽香が吐血しながら私に拳を振りぬく、しかし、私は顔を傾けてかわしてお返しに幽香の顔に握った拳を送り込む。

 その衝撃でさらに地面の奥深くにいた私たちの体が地面の奥に潜り込むが、不意に強い摩擦を働いて勢いを殺す役割を持っていた土が周りから無くなった。

 巨大な空洞の天井を破壊して私たちは空中に投げ出されたのだ。

 私たちが破壊してきたことにより、岩石や土が雨のように降ってきていて、その中の一つである私たちの戦いはまだ続いている。降っている岩や土の塊を足場にしてお互いに近づく。

「おおおおおおおおおっ!!」

 幽香が嗤いながら雄たけびを上げ、私もそれに応えるようにお互いに拳を打ち合った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十三話 さとる

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十三話をお楽しみください。


 拳が交差し、幽香が私の左腕を掴むと左腕を肩ごと千切りながら上げた足で腹に穴が開くほどの威力で私を蹴り飛ばす。

 私は吹き飛ぶ寸前に幽香の蹴った足を右手で掴み、一緒に吹き飛ばさせた。

 掴んだ足を振り回して高速で移動しているその速度と、私が振った勢いを合わせて幽香を壁に叩きつける。

 幽香を中心に凹凸のある壁に亀裂が発生していき、荷重に耐えられなくなった箇所から雪崩のように壁が崩壊を始める。

 幽香が体をコンパスのように回転させ、私が掴んでいる足を軸にしてもう片方の足で私の顔を蹴り飛ばす。

 メキッ!

 頭蓋骨の半分が砕け、砕けた骨が散らばって顔の肉を引き裂く感覚がしたのはつかの間、魔力ですぐに回復させようとしたが、幽香の蹴りで吹っ飛ばされた私は壁にめり込み、さっき壁に叩きつけた幽香のように岩石の倒壊に巻き込まれてしまう。

 何百キロ、何十トンもあるような巨石や土の塊が私に降り注ぎ始める。

「…」

 右手の平を後方斜め下に向けて爆発的に魔力を放出、噴き出した魔力の推進力で上から振ってくる岩石をどうにかかわすことができた。あの重量のものはさすがに破壊するのは骨が折れる。

 右肩が脱臼するが私は強化した魔力を送り込み、瞬時に回復させて壁際にまだいる幽香に向けてレーザーをぶっ放す。

 幽香は大量の花を私に向かわせ、そのうちのいくつかの花を使って私のレーザーを相殺し、こちらに向かって跳躍した。

「……くくっ…」

 私は長いスペルを詠唱しながらこちらに向かって来た幽香に殴りかかる。

 幽香の左肩が私が殴ったことにより腕ごと後方にすっ飛んでいき、肩と一緒に一部分の肉が飛んで行ったことにより、肋骨や肺の一部が露出し、私は肋骨を砕きながら肺を千切り取る。

 左肩をなくした幽香が肋骨を砕かれ、肺の一部を千切られたことで顔を歪めながら私に向かって渾身の蹴りを放つ。

 バチュッ…!

 変な音がし、幽香の足が通った後に気が付くと私の視界が反転していて、視界の中にいる幽香が上下さかさまに立っている。

 どちゃっ

 ゆっくり一回転しながら水気が含まれる音を立てて私の体は地面に転がり落ちてしまう。

 体の強化が不十分だった私の体は上半身と下半身が綺麗に分かれて、私の顔のすぐ横に切断された下半身が転がっている。

 そのころになって体を切断された激痛が体を襲うが、幽香との戦いに歓喜し、快楽に飲み込まれている私が目を覚ますには不十分すぎた。

 魔力を切断された部分に大量に送り、再生を促進させた。

 ズグッ!

 私の無くなった臓器や器官が治り始め、すぐに立ち上がろうとしたときに、いきなり地面から生えてきた花が私の両腕に巻き付き、立たせないように地面に縫い付けられてしまう。

「はぁ!」

 幽香が嗤いながら動けなくなっている私に殴りかかって来た。幽香に殴られるごとに頭部の皮膚が切れて血が滲みだし、流れ始める。

 その間に花の茎を千切れるかためしたが、花の強化された繊維が複雑に絡み合って強度がありえないことになっている。

 花を千切ることができないなら、自分の腕を切断するしかないじゃないか。

 多少動かすことができた両手の平に魔力を集中させ、花が巻き付いていない二の腕あたりをレーザーを当てて焼き切り、花の拘束から解放された私は幽香に飛び掛かる。

 切断した両腕の再生を待っている時間はないため、私は口を開いて幽香の首筋に噛みついた。

「ぐ…っ!?」

 幽香が目を見開いて怯み、攻撃の手が止まる。

 私は幽香の首の肉を食いちぎりながら膝蹴りを腹に叩き込み、幽香を後ろに転ばせた。

 そのうちに私は、食いちぎった肉を咀嚼して嚥下して魔力の足しとする。

 私はさっきスペルを唱えて保留させていた魔法を発動させた。

「erschlagen(潰せ)」

 ブゥン!

 発動した魔法の効果により、幽香の周りだけが十数倍の重力がかかるようになる。

 幽香の体が地面に大きくめり込み、動けないように拘束した状態となる。

「ひひっ…」

 私は舌で幽香に殴られた時に流れてきた血をペロッと舐めて笑った。

 切れた血の力を再度発動させて私は魔力力を強化する。

「ぐっ……!」

 幽香が十数倍の重力がかかっている状態でも起き上がろうとしているため、私は魔力を大量につぎ込み、さらに十数倍の重力を幽香にかけていく。

「ぎぁ……ぁっ!!」

 流石の幽香の体も骨が砕けて肉が潰れ、臓器がズタズタに引き裂かれて血反吐を吐いた。

「ははっ…あはははははっ!!」

 私は嗤いながら魔法の効果が及ばないギリギリまで幽香に近づき、幽香を見下ろす。

 私が段々と強くする重力で目が潰れて幽香は私を視認することはできていない。

 魔法を解除すると幽香にかかっていた重力が消え去り、潰されるごとに響いていた幽香の悲鳴が途切れてしまう。

 私は倒れている幽香を見て感心する。通常の百倍以上の重力をかけたのに、まだ死んでいないようだ。

 でも、こうではなくては面白くない。

 私は倒れている幽香に手を伸ばして掴み、前方にぶん投げた。

 回転しながら飛んでいく幽香は半分枯れている木をなぎ倒して地面に倒れ込んだ。だが、倒れた幽香は嗤いながら傷を修復させて立ち上がる。

 私に食いちぎられた傷からは依然として血が流れ出ていて、首元を押さえてはいるがそう簡単に出血が収まらないらしい。

 立ち上がった幽香の足取りがおぼつかない。

 私はそれを見てニヤリと口を裂いて嗤う。

 そろそろ殺せそうだ。体の半分以上を吹き飛ばしたのにケロッとしていた幽香の傷の治りが遅いということは、魔力が切れそうということだ。

 口から血生臭い吐息を漏らしながら私は、ゆっくりとよろけている幽香に向けて歩き出す。

 だが、それを遮るように誰かが私の前に立ちはだかる。

「…あ……?」

 自分の欲求を満たそうとする行動を邪魔されたことにより、苛立ちが沸き上がって来た私は威嚇するような声を出した。

「……やりすぎよ、魔理沙…幽香を殺す気?」

 私よりも頭が一つ分低いさとりが私の前に立ちはだかっている。

 さとりの後方では空やお燐たちが幽香のことを足止めしているのが見えた。

 幽香の方向に向かおうとするのを邪魔するこの小娘を引き裂いて殺したい。

 そんな感情が脳を犯されている私の中で生まれる。

 “殺せ!”

 “殺せ!!”

 前任者たちの声だろうか。頭の中でまるで鐘のようにその言葉が鳴り響いて反響し、さとりを殺したいという欲求が頭から神経を伝って全身へと伝わっていき、欲求が体を埋め尽くす。

 幽香の血か自分の血かわからないほどに血がこびりついている右手をさとりに延ばしてさとりの胸倉を掴んだ。

「……そう、私を殺したいのね…。……あなたずいぶんと変わっちゃったみたいね」

 さとりの呟きを無視して私はさとりの頭を潰そうと、拳を握った左手を振り下ろした。

 シュフッ!

 だが、私の振ったはずの左腕はいつの間にか宙を舞っていた。

「…あぐ……!?」

 私の腕がさとりの柔らかそうな肌を潰して骨を砕き、脳を自らの手でかき混ぜる寸前に、何かが私の目の前を高速で通った。純白の白髪に緑色の服、手入れの行き届いた長い刀。

 切断したのは魂魄妖夢だ。

 片腕を切断されてバランスを崩してよろけた私に、さとりはさらに静かに語りかけてくる。

「……魔理沙、あなたがおかしくなっているのは何となく薄々気が付いてた。あなたが変わってしまった理由は、あんたの頭の中で響いている声を差し引いても、わからないでもないわ。二十代の女の子がこんな異常な状態でまともでいろっていう方が難しいわ……でも、今のあなたは、狂った奴らよりも狂ってる。……このままでは必死に守ろうとした小悪魔や大妖精、永琳でさえ自分の手にかけてしまうわ…。魔理沙は…それでもいいの?」

 さとりの言葉に、短いが一緒に行動した三人の仲間の顔が鮮明に思い浮かび、さとりを殺害したいという欲求が急に冷めていく。

 それに伴ってズキズキと頭が頭痛で痛み出してくる。

(ぼく)は……!!…(おれ)は……!!」

 頭痛が信じられないぐらい痛み出し、たまらずに私は頭を抱えて座り込んでしまう。

「うぐ……あああああああああああああっ!!」

 久しぶりに感じる痛みに、私は絶叫する。

 私の絶叫には、しわがれた老人のような声や幼い子供の声が重なって聞こえ、私の中から逃げることを抵抗しているようだ。

「ああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 激痛や嵐のように頭を埋め尽くそうとするさとりや幽香に対する殺害欲求を掻き消そうとするように、私は叫ぶ。

 しばらく時間が経ち、私はいつの間にか叫ぶのをやめていた。喉が潰れているかと思ったが、そうではないらしい。

「……大丈夫かしら?魔理沙」

 さとりの物静かな声が私に投げかけられる。頭痛が引いている私にはその声がよく聞こえた。

「…………………。…ああ」

 頭痛と殺害の快楽を何とか今は振り切ることができた私は、十数秒間かけてようやく一声と言葉を返した。

 前任者たちから解放された。そう思ったが、前任者たちの声や殺害に対する欲求は消えたわけではなく、体の奥底でくすぶっている状態だ。何かあればまた出てきそうだ。

「……本来なら、ここで止めるべきなんだけど…魔理沙がいなければこの異変を解決することはできない」

 私の心を読んださとりが幽香と交戦している空やお燐を眺めながら静かに語りだす。

「…」

「……だから、短期決戦よ…霊夢を叩いて」

 さとりが私に言った。

「…でも、霊夢と戦って気絶させることができたとしても、起きても狂ったままだからじり貧になるのは私たちだぞ?」

 私が伝えると、さとりが呟く。

「……敵は恐らく霊夢を使って何かをするつもりだと思う。だから霊夢の場所に行って戦い、倒せそうになればおのずと魔理沙が探してる黒幕も現れるはずよ」

「…なるほどな」

「……魔理沙が疲弊させてくれたから、幽香はこっちで何とかするわ」

 さとりが言いながら戦闘態勢に入る。

「…わかった……。この異変を終わらせよう……死ぬなよ、さとり」

「……魔理沙もね」

 私はさとりの返答を聞きながら走り出し、刀を抜いて幽香と戦おうとしている妖夢と目が合い、視線でお礼を伝える。

 魔力で体を浮き上がらせて空を飛び、幽香と一緒にはって来た穴に向かった。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十四話 逢うと遇う

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十四話をお楽しみください。


 調子よく旧都から出てきたは良いが、すでに既に殺害したいという欲求が膨れ上がり、それを押さえつけているのがやっとの状態になっていた。私は動きを止めてうずくまって心を静める。

 誰がいるかわからず警戒して歩いていたわけだが、その緊張が生存本能や戦闘本能をくすぐられてしまい。また、前任者たちが顔をのぞかせ始めた。

「……く……そ…っ…!」

 殺戮や破壊の快楽、それはまるで麻薬のように強力に脳に作用し、頭ではわかっていても体が快楽を求めてうずいているのがわかる。

 あの快楽に身を任せろと体が理性に訴えかけてくる。

「…っ…!!」

 近くの木に頭を叩きつけ、押し寄せてくる快楽を紛らわせようとしたがそれだけでは不十分だったらしく、体の疼きは止まらないどころか疼きは大きくなり、前任者たちの声も大きくなっていく。

「…はぁ……はぁ……!」

 十数分かけて私は何とか快楽と前任者たちを鎮め、体を浮かせて低空飛行した。

 霊夢のいる場所、おそらく博麗神社だろう。あそこだけは探していない。

 しかし、場所がわかって博麗神社に行ったとして、霊夢に勝てるのだろうか。騒ぎを聞きつけてきた小悪魔たちの足を引っ張るか、前任者たちに支配された私がまとめて屠ってしまうだろう。

 どうやったて一度目覚めてしまった前任者たちを抑え込めるのかわからず、私は考えながらゆっくりと進んでいた時、不注意で隙だらけになっていた顔に横から強い衝撃を食らった。

「よう、また会ったな」

 誰かの声が聞こえる。

「が……っ……ぁ…!!?」

 小さな悲鳴が口から出た時、すでに私の体は高速で移動していて木に衝突していた。

「…っはぐ…っ……が…はっ…!!」

 奇襲されて殴られてしまったことにより、前任者たちを押さえ付けている枷が緩んでしまい。前任者たちを押さえることができないぐらいにまで膨れ上がってしまう。

 まずい、このままではさっきのように乗っ取られてしまう。

 すでに意識と体の半分を乗っ取られている私は嗤い始めていた。

「…あ?」

 笑われた萃香が苛立ちの声を上げて、倒れ込んでいる私に近づいてい来る。

「…お願い…だ…!…いまは……だめ……だ……やめ………ろ…!!」

 なんとか前任者たちを押さえ込めて力を振り絞って懇願するが、萃香は大笑いをして私に近づいてくる。

「駄目だ…だって?…これは戦闘だぞ?…はい、そうですかって引き下がると思ってんのか?……ずいぶんとお疲れのようだが……簡単に死んじまったらつまらんが、まあ、いいだろう」

 萃香が嗤いながら私に殺気を向け、ゆっくりと歩み寄ってくる。

「…そ……ういう……こと…じゃ…な……い……早く……に……げ………」

 四つん這いになって立ち上がろうとした私の足を萃香が踏んだ。

 骨が砕け、肉を突き破って白い骨が外部に露出し、筋肉が潰れて組織が破壊され、傷口から血が漏れだした。

「……っ!!」

 初めのうちは激しい激痛を感じた。だが、次第にそれが快楽へと変更されていき、私の頭の中で前任者たちの声がノイズのようで、鐘のように反響していき、頭の中を笑い声で埋め尽くしていく。

 私が笑っているのか、前任者たちが笑っているのか、それすらも私には判断ができないが、一つだけわかっていることがある。

 何かない限り、私にはもう前任者たちを押さえ付けることはできそうにない。ということだ。

 萃香が私を見て眉をひそめて何かおかしなものを見るような目をした後、ニヤリと笑い戦闘体制に移行していく。

 その時、脳を犯されてわけがわからなくなっている私が話し出した。

「次の一撃、一撃でお前を殺す」

 私の老若男女の声が入り混じっている声が響く。

「やれるもんなら、やってみな!」

 萃香が走り出し、私は食いちぎる勢いで指にかぶりついた。

 走り出した萃香が地面をわずかに陥没させながら一歩を踏み出し、同様にさらにもう一歩踏み出そうとした。しかし、足を踏み込むどころか前に出すことができなかった。なぜなら、その時にはすでに体の半分が吹き飛んでいた。

「…………は……?」

 状況が理解できないのか、萃香は受け身取ることもできずに地面に倒れ込み、自分の体が半分吹き飛んでいるのを眺めてようやく脳が理解したらしく、悲痛な絶叫をする。

「あぐああああああああああああああああっ!!?」

 萃香の絶叫が鼓膜を強く揺らし、破壊衝動を満たすことができた私は気分が良い。

 左半身が無くなった萃香に近づき、右腕を掴んで力任せにもいだ。

 グギッ!!

 と肩関節の骨が脱臼し、肉が伸びて限界に達すると皮膚が裂けて腕が千切れた。

 筋肉の繊維や千切れた血管が外部に露出して大量の血がそこから漏れ出し始める。

「あああああああああああああっ!!」

 萃香が抵抗しようとするが、すでに五体のうち頭と右足しかない萃香にはどうすることもできそうにはない。まあ、その右足も幽香に使った重力の魔法でひき肉になっているが。

 叫び散らしている萃香の口を掴んで黙らせ、グイッと持ち上げて無理やり口から魔力の吸収を始めた。

 食べ物は口から入れて胃から魔力として吸収されるため、口から口に魔力を移す方が効率がいいが、そんなのはどうでもいいため、私は構わずに萃香からの魔力の吸収を進める。

「んー!んーー!!!」

 口をさえられている萃香がどうにかしようと腹や背中の筋肉を使って体を揺らすが、それで私の拘束が解けるわけもなく、萃香は無駄にもがいている。

「や……やめ……!!」

 わずかにあいた隙間から萃香が叫ぶが、私はお構いなしに魔力を吸い続けた。

 魔力が尽きれば生命エネルギー、すなわち寿命を魔力に変換させて魔力を吸い続ける。

「私が……悪か……った……!!……やめ……て……く……」

 萃香の懇願がさらに私の気分を高揚させ、懇願を無視して私は萃香の寿命を魔力で返還させ続けた。

 傷を回復させるための魔力も私に吸い取られてしまったため、萃香はなすすべがなくなりってしまう。

「あはは……あはははははははははははははっ!!!」

 私は嗤いながら、ぐったりと動くことができなくなってきた萃香を眺める。

「…魔……理沙………!!……こ……れ以…上……吸わ……れ…たら……本…当に……死……!!」

 萃香の呟き声を聞きながら殺すためのラストスパートに入ろうとしたとき、萃香の口元から手が離れた。

「……?」

 ドサッと掴んでいた萃香が地面に落ちてしまう。

 魔力がなく、さらに手足もない萃香は逃げることもできずにその場に横たわっているため、何も考えずに萃香を掴もうとしたときに私の手首を誰かが掴んでいるのが見え、そこで萃香を放してしまったのではなく、放させられたということに気が付く。

 私が顔を上げると、複雑な表情をした小悪魔が私の手を掴んでいた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十五話 正気に

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十五話をお楽しみください。


「小…小悪魔……!」

 私は萃香に向けて伸ばそうとしていた手を無意識のうちに引っ込めて小悪魔から距離を取っていた。だが、その足取りは今まで戦ってきていたような鋭い動きではなく、ヨタヨタとおぼつかない足取りで私は後ろに下がっていた。

 前任者たちの声が鐘のように鳴り響き、私に語り掛けてくる。

 小悪魔をなぶれ、潰せ、引き裂けと頭の中にささやいてくる。だが、まるで血の気が引くように前任者たちの声が小さくなっていき、最後は完璧にその存在が消えていく。

「…魔理沙さん……」

 つい数時間前に別れたばかりだというのに、ずいぶんと久しく感じる小悪魔の声は少し疲れているように感じた。

 その声が私の頭や体を埋め尽くしていた前任者たちの声と、破壊と殺戮への欲求と快楽を打ち消していってくれる。

「…わた……し…は……」

 段々と正気に戻って来た私は、今まで自分がしてきたことの重さをようやく知った。

「…私………は……!」

 大妖精や永琳が木陰から出てきて小悪魔の近くに歩み寄り、それに続いてレミリアたちも現れる。

 鬼たちを殺した。殺して殺しまくった。あらんかぎり残虐な方法で殺した。鬼たちの戦意をそぎ落し、戦意喪失させた鬼たちも関係なくむごたらしく殺してしまった。

 それがたとえ異変を起こして手を貸した連中だとしても、その罪の重さは計り知れないものだった。

 血で汚れている手が震え、膝が嗤い、足から力が抜け、私は地面に座り込んでしまう。

「…ごめんなさい…ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……!!」

 頭を抱えて掻きむしりながら、私は呪文のように謝罪の言葉を繰り返す。

「……魔理沙さん」

 大妖精が私に言ったのか、小悪魔が私に言ったのかわからないぐらいに私は錯乱していた。

 罪の重さで押しつぶされてしまいそうだ。

「……魔理沙さん…鈴仙さんに皆を狂わせていた能力を解いていただきました。あとは気絶させるか眠らせるかすれば元に戻るそうです…」

 小悪魔が私に呟き、こちらにむかって歩み寄ってくる。

「…魔理沙さん…すみませんでした………あとは、私たちが終わらせます…」

 私の肩に小悪魔が軽く触れながら呟くと、方向転換をして博麗神社の方向に向かって歩いて行った。

「……」

 複数人の足音が段々と遠ざかっていき、すぐに土を踏む足音は聞こえなくなる。

 どうしていいのかわからず、ずっと考えるが答えなどが出るはずがない。ちょっとやそっと考えただけでは、答えなどは出ないだろう。

「……魔理沙さん」

 まだこの場所に誰かが残っていたようで、私に静かに話しかけてきた。

「…」

 声からして恐らく大妖精だろう。俯いていて顔は見ていないが、声が子供っぽくて高い音だったため、わかった。

「…私は、魔理沙さんの気持ちはわからないでもないですよ?」

「………。お前に……なんがわかるっていうんだ?」

 私が呟くと、大妖精は私の傍らでしゃがみ込む。

「…魔理沙さん程でなくても、死への恐怖は知っていますよ…」

 私は大妖精が何が言いたいのかがわからずに見上げた。

「…魔理沙さんがそれを私たちに味合わせないようにと頑張っていてくれたのも知っています……魔理沙さんの……スイッチが入ってしまったのは、私が原因ですよね…?」

 顔を上げた私の目線がちょうど大妖精と同じ高さとなり、目が合う。

「…そんなことは……」

 ない、と私が言おうとしたところで、大妖精が片手で私の頬に触れた。

「なんで、魔理沙さんは自分で抱え込んでしまうんですか?……私たちだっているじゃあないですか……」

「………」

 大妖精が言い、私が何も言えないでいると大妖精が悲しそうな表情で言った。

「私たち、そんなに信用がないんですか?」

「…ち……違う……そういうわけじゃ…」

 私が言ったとき、大妖精は私に言った。

「魔理沙さん…いい悪いの問題ではないですが……私たちにだって責任はあります……魔理沙さんの様子が以前とは全く違くなっていくのは…私も感じていました……でも、それを指摘してどうにかしようとしなかったのは、弱くて一人では戦えなかった私が魔理沙さんの力を利用していたからです……私が……私たちがもっと魔理沙さんを気にかけていれば少なくともこうはなっていなかったはずです……すみません…」

 大妖精がゆっくりと私に言ってくる。私はそこで、小悪魔がさっきなぜ誤ったのかを悟った。小悪魔は私を利用して戦っていたせいで、私がこうなってしまったと思っているのだろう。そのしりぬぐいをするために霊夢に挑みに行ったのだろう。

「…それでも……私は………前任者たちの影響を受けたと言っても、殺しを楽しんでた……私は……楽しんでたんだよ……殺しを…」

 胸が引き裂かれるぐらい悲しくて苦しいのに、私は涙の一滴すら零していない。私は改めて知った。自分が変わってしまったことを知った。

 前任者と言われても大妖精には何のことかはわからないだろう。でも、それでも大妖精は静かに私の話を聞いている。

「…私はもう………生きていたくはないよ……」

 私は震える声でか細く呟く。

 頭を掻きむしっていた手を頭から放すと、血管でも切ったのか小さな組織片と血、それと白髪の髪の毛が数本手に絡まっている。

「……死にたい………」

 呟いた私の話を聞いていた大妖精は、少しの間をあけてから私に言った。

「魔理沙さんは、逃げるんですか?」

 大妖精は静かに、力強く私に語り掛ける。

「…!」

「私は、魔理沙さんが感じる罪の意識というものはどういったもので、どのように感じるかは知りません。でも、知らないからこそ言えることもあります……罪の意識を本当に感じているのなら、魔理沙さんは自らの命を絶つ、それだけはしてはいけません…」

「……」

「…あなたがここで自分の命を絶ってしまっては、それこそ魔理沙さんが殺してきた鬼たちが報われません……」

 確かにそうだ。これだけの異変で、異変に参加していた鬼も多少の覚悟はしていただろうが数十体の鬼が私に殺された。

 たのしそうだったり、戦いたいだったりと異変を手伝った理由はいろいろだろう。だが、それでも鬼としてのプライドや信念はあっただろう。それを私は虫けらのようにふみ潰し、引き裂いてしまった。

 私がここで自らの手で命を絶ったら、今まで殺してきた鬼たちに対する冒とくだろう。

「…ああ……そうだな……」

 私は顔を上げながら呟く。

 私は殺してきた鬼たちのためにも自害だけはしてはならない。

「…大妖精、すまなかったな……お前には助けられっぱなしだぜ」

 私が言うと、大妖精は首を横に振って呟いた。

「いいえ…魔理沙さん……私はずっと魔理沙さんに助けられっぱなしで、利用までしていました……謝らないといけないのは、私の方なんですよ……」

 大妖精が呟く。

「……いや、お前は…お前たちは謝らなくてもいいぜ」

 私が言うと、大妖精は驚いたような顔をして立ち上がった私を見つめた。

「なぜですか!?…私たちのせいで鬼たちを殺してしまったんですよ!?」

「…生き物は何かを利用し、利用され合って生きている……だから、利用していたことについては、お前たちはなにも間違ってはいないぜ、私だってそうだ……お前がもし便利な能力を持っていなければ、助けたりなんかはしなかったはずだ……だから、お互い様……ってやつだ」

 私が言うと、大妖精は少しだけ間をあけてからうなづいた。

「…大妖精、小悪魔たちは博麗神社に向かったんだよな?」

 私が大妖精に聞くと大妖精は博麗神社の方向を見ながら言った。

「はい、…小悪魔さんは……」

 大妖精が言おうとしていたのを遮って私は呟く。

「…私のために行ってくれたんだろう?そのぐらいはわかる」

 あいつの表情などから小悪魔も大妖精と同じく、私を利用してその私がこうなってしまったことで少なからず罪の意識を感じてるということだろう。

 遠くに見える博麗神社ではすでに、小悪魔たちと霊夢の戦闘が始まっているのか、弾幕の光や爆発の炎がちらほらと見える。

「…大妖精…行くぜ」

 私が言って博麗神社に向かって走り出そうとしたとき、何かに気が付いた大妖精が私の手を掴んで引っ張った。

「魔理沙さん!!」

「大妖精?」

 私が驚き、後ろを振り返った時に何かが高速で頭の横を通り、頭の片方だけに結ばれている三つ編みが地面に落下する。

「…!?」

 空気を切り裂く音がしたと思ったら、髪の毛が切られていた。

 大妖精が私を止めてくれていなかったら、今頃地面に落ちていたのは三つ編みではなく、私の首だっただろう。

「…大妖精……ナイスだ」

 私は呟きながら周りを見て、アリスを殺した人物をようやく知ることができた。

 本当に妖夢ではなかったということだ。ようやく合点が言った。

「…お前だったか、椛」

 私が睨みつけると椛は赤く光るオーラをまとった瞳をこちらに向け、巨大な大剣と堅そうな盾を構えて笑う。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十六話 本当の仇

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十六話をお楽しみください。

今回は短いです


 ザシュッ!!

 大妖精を突き飛ばした私の右腕が、椛の大剣に切り跳ばされて回転しながら後方に飛んでいく。

「…っ!!」

 左手で切られた傷口付近を強く抑え、出血を押さえさせる。

 近くに立っている椛に傷口を押さえていた左手をそこから放して、手の平を向けてレーザーを放つ。

「ははっ」

 椛が笑いながら大剣をふるって私が放ったレーザーを打ち消す。

 さっきまでの前任者たちの声や殺戮への快楽や欲求は小悪魔たちにあってからというもの、全く感じない。

 これなら使いすぎない範囲であれば、前任者たちが現れてそいつらに飲まれることはないはずだ。

 血のこびりついている親指を口に含み、血を飲み込む。

「…っ」

 魔力力を強化した私は、体の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。

 大きく息を吸い込んで呼吸をしながら強化された魔力を全身に送り込む、何だか別の生物になっていくような感覚がする。五感が研ぎ澄まされていき、私は右腕を再生させながらゆっくりと瞳を閉じる。

 椛が踏み込む土の音で距離を、服のこすれる音で格好を、口から吐き出されるわずかな吐息で椛のリズムを聞き取る。

「…はぁっ!」

 椛が大きく振った大剣の空気を切り裂く音から切り付ける角度を、空気の流れからどれだけの距離が離れていて、どれだけ踏み込んで大剣のどの部分で切る気なのかを割り出した。

 私は目を閉じたまましゃがむと私の頭上を大剣が通り過ぎ、後ろに生えている木を両断する。

「……」

 大振りの一撃であったため、あと一秒の半分程度の時間は隙があるはずだ。

 私はゆっくりと目を開けながら立ち上がり、椛の顔を掴んで私の真後ろにある椛が両断した木の幹に叩き付けた。

「…大妖精、目を閉じてろ」

 私が言いながら短いスペルを唱えて、叩き付けた椛のことをこちらを向かせ、手をかざす。

「…leuchten(光り輝け)!」

 私が光の魔法を発動させると強い光、人間や妖怪も失神するレベルの光が発生する。

 光を直視した椛の体からすぐに力が抜けてぐったりとして動かなくなった。

 おかしくなっていたとはいえ、私は萃香や幽香を相手にしていたのだ。今更椛に負けるわけもない。

「…すごい、手慣れてますね魔理沙さん」

 突き飛ばされた大妖精が光を見ないように目を手で覆っていたが、その手を放して土を服から払いながら立ち上がり、私に言った。

「…これだけ戦ってれば……さすがにな」

 私は言いながら博麗神社を見上げると、すでに戦いは始まっていて、グングニルが爆発する炎が遠目にも見える。

「……」

 私は一度博麗神社から目線を外し、椛を見た。

「…魔理沙さん?」

 大妖精が心配そうに私に声をかける。

「…私の友人が、こいつに殺された」

 私がゆっくりと話し出すと、大妖精は少し落ち込んだように目線を下げた。

「…」

「…初めは…アリスを殺した奴を殺したくて殺したくて仕方がなかった…」

 私が呟くと、大妖精は心配そうに私のことを見上げる。

「…でも、やめだ……負の連鎖を…ここで断ち切るんだ…」

 私は言いながら再度、博麗神社を見上げながらそっちの方向に向けて空を飛んだ。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十七話 優しくて強い人

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十七話をお楽しみください。


時々、タイトルに困る。


 強い土の臭いが鼻をつく。

 それは、別に私がかがんで土の匂いを嗅いでいるわけではない。土を手に取ってその香りをかいでいるわけではない。

 爆発で土煙が私の身長を余裕で越えている高さまで舞い上がっているため、否応なしに土のにおいをかぐしかないわけだ。厳密には焼けた土の匂いだが、

「こほっ……」

 咳が漏れてしまって周りを漂っている土煙が咳の影響を受け、空気の流れを大きく変えて土煙の軌道が不自然に変わる。

「…っ」

 紅いオーラをまとっている目を持つ霊夢さんに、お嬢様が手に持っている炎が燃え盛るグングニルを土煙をかき分けて投げつけた。

 至近距離ならばどんなに動体視力が高くても、人間ならば目で追う事すら困難な速度で投擲されたグングニルを霊夢は、手に掴んでいるお祓い棒で打ち消してしまう。

「…くっ……」

 戦いが始まって十数分。たったそれだけの時間ですでに色濃い疲労がお嬢様や咲夜さん、私も例外なく見え始めている。

 魔力強化で身体を強化した私は、高速で霊夢さんに近づいて横から殴りかかった。

 人間が受けたのならば簡単に吹っ飛ばすことのできる威力のはずだ。しかし、霊夢さんは真正面から受け止めたどころか殴りかかったはずの私を逆に押し返す。

「くっ…!」

 ひるんだ私の顎、わき腹を抉るようにして霊夢さんがお祓い棒を振るう。

 わずかに視認できるほどの速さで打ちだされた攻撃は、私を動けなくさせるほどの威力を持っていて、むしろ過剰火力ともいえるだろう。

「…か……っ………は…っ……!!?」

 わき腹を殴られたことにより、呼吸ができなくなって体が硬直した私を霊夢さんはさらにお祓い棒で殴打する。

 手や腕、足から肩、胴体に存在するすべての弱点に霊夢さんのお祓い棒が叩き込まれていく。

「…っ……!!」

 悲鳴を上げることもできずにゆっくりと倒れた私をつまらないものを見るような目つきで、霊夢さんは私を見下ろした。

「小悪魔!!」

 咲夜さんの声がする。

 私が追撃を受けないように銀ナイフを取り出し、霊夢さんの方向に向けて走り出しているのがわかる。

 霊夢さんは位置を変えて倒れている私の脇腹を蹴り飛ばし、走ってくる咲夜さんの方向に吹っ飛ばした。

「あぐっ!!?」

 飛んできた私を咲夜さんはうまくキャッチすることができた。だが、その直後に私にある物が投げつけられる。

 博麗の特徴的な赤い文字で記された札だ。これ一枚で様々なことがすることができると聞く。

 それらの札に嫌な予感を感じた私は目を動かして霊夢さんを見ると、霊夢さんはちょうどその時に私たちに投げつけた札に命令を与えていたところだ。

「爆」

 その一言を引き金にして紙に込められた魔力分の爆発が巻き起こる。

 紅い炎と数百度に達する熱が私たちを囲っている札の一枚一枚から発生し、それが皮膚を焼き、膨れ上がった空気が衝撃波となって私と咲夜さんをなぎ倒す。

 だが、辛うじて札が張られていた位置が咲夜さんから離れていたおかげで、咲夜さんに爆発のダメージはほとんどなさそうだ。

「……ぐ……う…っ」

 爆発の衝撃で頭を揺らされたらしく頭がくらくらして、爆発音で耳鳴りも酷いこととなっている。

 すぐ目の前に倒れている咲夜さんが私に向かって何かを叫んでいる気がするが、爆発音のおかげで何を言っているか全くわからず、耳鳴りで聞こえない。

 でも、後ろから何かが来ているのだけは感覚でわかった。

 霊夢さんではない。もっと小さくて複数存在し、高速で移動しているのだ。

 咲夜さんを掴んでわきに投げ、私は後ろを振り返りながら札が体に当たる直前に、魔力で体の筋力を強化し、思いっきり飛び上がった。

 多少ホーミング性能のある札が私を追おうと上に進行方向を変えようとするが、私についてくることができずにそのまま後方に飛んで行き、飛び去った。

 空中で無理やり体をねじって方向転換し、つまらなさそうな表情のままの霊夢さんに向き直りながら魔力で足場を作って霊夢に向けて跳躍する。

 跳躍して霊夢さんに到達するまでに魔力で体を強化し、全力で拳をったきつけた。

 無表情の霊夢さんが私の拳を受け止めると、霊夢さんを中心に地面が陥没する。それでも霊夢さんは涼しい顔で私のことを振り払う。

 まだ力が足りない。今は魔力を温存している場合ではない。ここで使わず、どこで使うというのだ。

「ああああああああああああああああっ!!!」

 私は雄叫びを上げながら霊夢さんに拳を振り続ける。

 お祓い棒と拳が打ち合うごとに強い衝撃を発生させ、私と霊夢さんが踏み込むごとに衝撃で地面が小さく割れた。

 拳とお祓い棒をぶつけあっているはずなのに、鉄に鉄が強い力で叩きつけられているように火花が舞い散り、役目を終えた魔力は塵となって消えて行く。

「ぜぇ…ぜぇ…!」

 無呼吸運動をするように、体を動かしているせいで私は既に肩で息をするほどに疲弊している。そのとき注意力が散漫になっていたのか、私はバランスを崩してしまう。

 永琳さんが私を援護するために見えない位置から霊夢さんに向けて矢を放つ。だが、後頭部に目が付いているのかと思うほどに霊夢さんは自分に矢が刺さる寸前につかみ取る。

「…!?」

 私の作ってしまった隙を埋めるために永琳さんが時間稼ぎのために援護をしたわけだが、永琳さんの援護をやすやすとやり過ごした霊夢さんは私が作ってしまった隙をついて私の脇腹にお祓い棒を叩きこんできた。

「…んぐぅ…!!?」

 喉から絞り出された悲鳴だけではない。体中が霊夢さんのお祓い棒の打撃攻撃で悲鳴を上げている。

 これまでに食らって来た深刻なダメージが体に蓄積していて、その影響が体に出始めているのか膝がガクガクと笑い、手に力がこもらず、呼吸も大きく乱れてしまっている。

 弾幕を放ちながら霊夢さんから無理やり離れようとしたとき、霊夢さんがこちらに高速で接近してきた。

 途中にあるはずの私が放った弾幕が、まるで存在していないかのように霊夢さんはすり抜けてくる。

「…っ!?」

 どうやら、霊夢さんは逃がす気はないらしい。

 両肩を掴まれ、近い霊夢さんの顔がさらに近くなり、霊夢さんの唇が私の耳元で小さな声で囁く。

「どうして、あなたから…魔理沙の匂いがするのかしら?」

「…え?」

 私は霊夢さんの言っていることの意味が分からず、素っ頓狂な声を上げると同時に、ゾッとした。

 霊夢さんの目つきがわずか、本当にわずかではあるが、鋭くなったのだ。

 霊夢さんに掴まれている手を放させようとしたところで、霊夢さんの膝蹴りが私の腹にねじ込まれた。

「…は…ぐっ……!!?」

 抉りこむような下からの攻撃、その衝撃で私の体が十センチほど浮き上がる。

「うぐっ…!?」

 胃や腸がかき混ぜられるようにして揺らされ、足から力が抜けてしまう。

「…ねぇ、なんでかしら?」

 霊夢さんが光の無い目で私に言いながら髪の毛を掴み、引きちぎる勢いで左右に強く揺らす。

「いっ…!!」

 髪の毛を掴まれていた私の後方から銀ナイフが高速で飛来し、霊夢さんはそれを避けるために私から一時的に離れる。

「咲夜!合わせなさい!」

 お嬢様の命令がこちらまで聞こえてきた。

「はい」

 咲夜さんの冷静な声と共に二人が魔力を流したスペルカードを銀ナイフで切り裂き、爪で粉々に裂く。

「運命『ミゼラブルフェイト』」

「幻葬『夜霧の幻影殺人鬼』」

 お嬢様の魔力で形成された鎖とその先についている鏃が何十個も形成され、じゃらじゃらと鎖同士がぶつかり合って金属音を放っている。

 鎖の先についている鏃の方向が私から離れた霊夢さんの方向を向き、狙いを定めて飛んで行く。

 咲夜さんが何十本という数のナイフを空中に放り投げると、回転しながら空中に投げ出されたナイフは魔力の命令により、いきなり不自然な軌道を描いてどこかへと飛んで行き、あらゆる方向から霊夢さんを銀ナイフが襲う。

 二人の攻撃に人間が通れる隙間など存在しない。それほどまでに鏃と銀ナイフは霊夢さんのことを囲っている。

 過剰なほどの火力ではないかと思った直後、私はその考えの甘さを思い知り、目を見開く。

「…うそ……!!?」

 霊夢さんは武器も使わずにお嬢様と咲夜さんのスペルカードをすり抜けて見せたのだ。

 幽霊ではないか。本当にそこに存在するのかと疑うほどに、霊夢さんがやって見せた行為は神がかっている物だった。

 その霊夢さんは咲夜さんとお嬢様に札を投げつけ、爆破させながら私に向かって走り出した。二人を爆破したことにより、二人からの援護が一時的になくなってしまう。

「…っ!!」

 立ち上がって迎え撃とうとした私の顔に霊夢さんの鋭い蹴りが命中する。

「うぐっ……!!」

 口の中が切れて、口内に鉄の味が広がった。

 霊夢さんは振り上げたお祓い棒を蹴りを食らって怯んでいる私の頭に向けて振り下ろした。

 殴られた部分の皮膚が打撃で引きちぎられて出血したらしく、とっさに額を押さえた私の手には血がべったりとこびりついている。

「く…う……」

 流れてきた血が右目に入り、右側の視界が赤く染まっていく。

 霊夢さんは私に休む暇を与えず、霊夢さんに胸倉を掴まれて腹に蹴りを食らってしまう。

 想像を絶する霊夢さんの蹴りの威力に胃が変形し、上半身と下半身が分かれてしまうのではないかと思うほどの引き裂かれるような激痛を腹に感じた。

 蹴りの威力を踏ん張ることができず、後方に吹っ飛んだ私の体は地面を転がってようやく止まり、胃から上がって来た血を地面に吐きだした。

 以前、紅魔館で私は霊夢さんと戦った。その時も私は霊夢さんの圧倒的な力により、なすすべもなくやられてしまった。

 あの時も霊夢さんとの戦いは勝負と言えるものではなかった。だが、今回の戦いはそれ以上に勝負と言えないものとなっている。

「…このままじゃあ……」

 やられてしまう。私はそう思い、倒れている状態で土を巻き込みながら拳を握り、霊夢さんの方向を見た。

「……面倒ね」

 霊夢さんは私や立ち上がろうとしている咲夜さんやお嬢様、私を見渡してから小さな声でそう呟く。

 そうした後、ゆっくりと一枚のスペルカードを取り出し、それに記されている回路に魔力を流してスペルカードを起動した。

「霊符『夢想封印』」

 パキぃぃぃぃッ!!

 甲高いガラスが砕けるような音がし、カードが魔力の粒子となって消えて行く。

「くっ…!!」

 どうすることもできなかったし、今からではどうすることもできない。霊夢さん相手にスペルカードを発動されてしまってはもう遅い、スペルカードを砕く前なら使用者の体にダメージを与えて魔力の調節を狂わせて強すぎる魔力を流させてスペルカードを消滅させることもできたかもしれない。

 しかし、この距離ではたとえ咲夜さんがナイフを投げたとしても間に合わないだろう。

 霊夢さんが生成した七色に輝く球が辺りを昼間のように照らす。

「……」

 終わった。あれを迎撃できる時間はもうない。時間があったとしても、焼け石に水程度だろう。

 私が諦めかけてこちらに飛ばされた七色に輝く球を眺めていた。

 だが、私は神に見捨てられなかったらしい。七色に輝く球と同じぐらい強い光を放つ、いくつものレーザが光る球を次々に貫いていく。

 私がいる位置から見て後方から発射されたレーザーに貫かれた魔力の球は、撃ち抜かれた順に魔力の塵となって消え去っていく。

「……!?」

 紅いオーラの瞳が初めて動揺を示す。それは私も同様であったが、彼女ならやってくれると思っていた。

 全ての七色の球体が塵となって消えた時、声が聞こえた。

「…これが、本当の危機一髪ってやつかな?」

 後方から現れたのは、おかしくなっていく前に近い、少しだけ優しい表情をした魔理沙さんが私の真横に立ちながら呟いた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

その時はよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十八話 狂人

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十八話をお楽しみください。


 

「……魔理沙………さん」

 小悪魔がか細い声で呟き、私を見て嬉しそうに涙ぐむ。

「…すまなかったな…心配かけて……」

 私は言いながら霊夢を警戒した。霊夢は驚いた顔をしたいるが、私が夢想封印を消したことについて驚いているわけではないようだ。

 なぜ、私が生きている、と驚いているのだろう。

 そりゃあそうか、殺したはずの人間があろうことか動いて話しているんだ。驚かない方が不思議だ。

 私はそう思いながら小悪魔の横に立ち、小さな声で話しかけた。

「…小悪魔、霊夢を倒すために力を貸してくれ」

 私が小悪魔の方に視線をわずかに傾けると、小悪魔は無言でうなづいて体を強化しながら攻撃に備える。

「…それと…小悪魔、パチュリーの姿が見えないが…何かあったのか?」

 ヨロヨロと立ち上がる咲夜とレミリア、それと矢を放つタイミングをうかがっている永琳と私と一緒に来た大妖精、それと敵対して対峙している霊夢。その6人以外に人の姿が見えないのだ。

 紫色の長髪に紫色の瞳を持ち、薄いピンク色のフリル付きの帽子をかぶっていて、いつも本を読んでいた物静かな少女の姿が博麗神社のどこにも見当たらない。

「…どこかけがでもしているのか?…だったら、私が治すが…」

 私がそう言いながら小悪魔を見た時、その悲しそうな瞳からパチュリーがなぜこの場所にいないのかを悟った。

「……そうか…」

 私が呟くと、小悪魔は思い出してしまったのか顔を下げて涙ぐんだ目を手で拭って涙をふき取る。

「今は悲しんでいる場合ではありません……戦いに集中しましょう」

 小悪魔が無理やり頭を切り替えて霊夢に向き直る。

「…ああ……」

 同意はしたが、やはり私の涙腺からは涙の一滴すら出てくれない。胸が張り裂けてしまいそうになるぐらい悲しくて苦しいのに、その感情を涙として吐き出すことを体が忘れてしまったのか、もしくは涙を流すという機能すらなくなってしまったかのように私の目は乾いていた。

 それでも、実感がわかない。あのパチュリーが死んだなんて思いもよらなかった。

 しかし、いつまでも現実逃避をしている暇はない。頭を切り替えて霊夢の方向を見て魔力で体を強化し、いつでも攻撃でも防御でもできる状態にした。でないと、悲しむことすらできなくなってしまう。

「ふふふ……あはははっ!……あははははははははははははははははははっ!!」

 霊夢がとても嬉しそうに、かつ狂ったように笑い始め、霊夢の笑い声が辺りに響き渡る。

「…?」

 私たちが身構えていると笑い終えた霊夢がゆっくりと口を開いた。

「…あんたにまた会えてうれしいわ……好きな人を…二回も殺すことができるなんて…!」

 ぞくっと体に悪寒が走り、味わったことのない恐怖に私の闘志が揺らぐ。霊夢はその隙に十数メートルあった私との距離を一緒んで詰めてくる。

「!?」

 私の代わりに素早く反応した小悪魔が霊夢の前に立ちはだかり、霊夢に攻撃を仕掛けるがカウンターのように裏拳を顔に打ち込まれた小悪魔の体がわきにズレながら倒れ込んでしまう。

 そのうちに私は気を引き締め直して霊夢に挑む、いつものように唇を噛んで血を出させ、それを飲み込んだ。

「…そら!!」

 魔力力を強化し、強化した魔力で手先に力を溜めてレーザーを霊夢に向けて放った。

 霊夢がお祓い棒でレーザーを水でも弾いているように簡単に掻き消し、私に向かって全速力で突っ込んでくる。

 目的はあくまでも私というわけだ。

 私はバックの中に隠し持っていた棒切れを取り出し、霊夢が振ったお祓い棒に全力で打ち付ける。

 私と霊夢の二人分の打ち合わされてはじけた魔力が火花のように飛び散り、鋭い轟音を発する。

 妖夢の時のようにはうまくはいかないだろうが、素手と弾幕で戦うよりはこの棒切れ一本あるだけマシにはなるだろう。

 私の戦闘スタイルに少し驚いた顔を霊夢はするが、すぐに嬉しそうに笑って私に向かって何度もお祓い棒を振るう。

 木の棒同士を打ちあっているとは思えないほどの耳が痛くなるほどの打撃音が鼓膜を叩き、魔力同士のぶつかり合いによって火花に似た魔力の粒子が散り、私たちの周りを明るく照らす。

「…っ!!」

 ガンガンガン!!

 お祓い棒と棒を打ち合わせるたびに段々とお互いの得物を振るう速度が加速していく。

 霊夢の速度に劣る私を援護するために起き上がった小悪魔が霊夢の気を私が引いているうちに後ろから霊夢に向けて殴りかかるが、当たる寸前で霊夢は身をかがめて攻撃を避けながらお祓い棒で小悪魔の脇腹を強打した。

「があっ…!?」

 小悪魔の攻撃をかわす動作と殴る動作、それらを霊夢は小悪魔を見ずにやるのだから恐ろしいものだ。

「…っ!」

 私が魔力で強化した棒を霊夢に振り下ろすが簡単に受け止められた挙句、腹に拳を叩きこまれてしまって体がくの字に折れた。

 前かがみになった私の頭にお祓い棒が振り上げられ、顔が跳ね上がる。

「…っか…ぁ……!!?」

 これ以上の追撃を受けないように咲夜が銀ナイフを私に当たらないように投擲するが、霊夢はそれを見ずに飛んできた銀ナイフのうち一本を自分の横を通り過ぎているわずかな時間の間につかみ取り、他の銀ナイフは必要最低限の動きでかわし、紙一重でやって来た小悪魔の拳をお祓い棒で叩き落とす。

「…!」

 やるとは思っていたが、目の前で見せつけられると圧倒的な実力の差というのを突き付けられてしまう。

「…くっそ……」

 私は呟きながら一度小悪魔と一緒に霊夢から距離を取る。さすがは博麗の巫女、こいつを倒すには発想を一ひねりも二捻りもしなければならないだろう。

 そう私が思っていた時、咲夜のキャッチした銀ナイフを霊夢は眺めると、そのナイフを誰に投げつけたり切ったりするのではなく、霊夢は真上に銀ナイフを投擲した。

「…!?」

 その行動の意味は分からないが、霊夢は何かをする気なのだろう。

「…小悪魔!」

 私が言いながら体と棒を強化して霊夢に向かって棒を振り下ろし、小悪魔は体と拳を強化して霊夢に後方から殴りかかる。

 前からは私と後ろから小悪魔、同時に霊夢に向けて殴りかかっている。さらに永琳が私から見て右側から、殴るのとほぼ同じちょうどいいタイミングで霊夢に矢が当たるように放っていた。

 左からは攻撃はないが逃げるとしたらこちらしかないだろう。だが、永琳は高速で矢を再装填し、二発目を射出しているため一発目をかわしながら私たちを相手にしたとしても、二発目の矢とその反対側から飛んできている咲夜の銀ナイフを同時に相手にしなければならない。

 時間が経てばたつほど人数が多い私たちが有利になる。

 即興の割にはなかなかいい作戦だろう。

 上にも逃げることはできない。逃げるとしたら目の前に私たちがいるためもう遅すぎるからだ。

 私と小悪魔が霊夢に殴りかかり、永琳の放った矢が霊夢に到達するのは同時であった。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第六十九話 最強災厄の敵

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第六十九話をお楽しみください。


 霊夢は凄いやつだ。昔からわかっていることではある。

 しかし、私たちはまた霊夢に驚かせられることとなった。

 私が正面から、小悪魔が後方から、右側からは永琳が放った矢が同時に霊夢に襲い掛かる。三方向からの同時攻撃はいくら霊夢でも一撃ぐらいは攻撃を食らうだろう。そう思った直後に、上から落ちてきた銀ナイフが永琳が放った一発目の矢を弾き飛ばした。

 カキィッ!

 甲高い金属音が私たちの間をすり抜けて放射状に広がっていく。

「「「「!!?」」」」

 この場にいる霊夢以外の全員が目を見張った。

 永琳が放った矢に当たった銀ナイフは、先ほど霊夢が上に投げた銀ナイフだ。

 矢が放たれてから投げたのならば、まだ驚かなかっただろう。でも、霊夢が銀ナイフを投げたのは私たちが動き出す前だ。どうやってその位置に永琳の矢が来るのかを予測したのかが全く分からない。霊夢は少し知能が高いとか、そういう次元ではないのだ。

 以前、さとりから聞いたことがある。霊夢と戦ったときに考えを読んで先読みをしようとした。しかし、霊夢が考えていることがわからなかったそうだ。それは考えていることを読むことができなかったとかそう言うものではない。頭が良すぎて考えていることがわからなかった。そう言っていたのだ。

 さとりも本を読んでいたりするため、決して無知ではないはずだ。それなのに考えが読めなかったということは、霊夢の頭の中は一歩も二歩もそれ以上も先に行っているということだろう。

 ほとんどが勘に頼っていると霊夢は言っていたが、おそらくその感ですらも計算によって導き出された答えなのだろう。

 一般的な感は何となくとかそう言ったものであり、とある答えが偶然、もしくはたまたまあっていた。その程度だろう。

 だが、霊夢の場合は感ではあるが理論的な計算を無意識のうちにしていて、出された答えは偶然とかたまたまではなく、必然的にあっている物なのだろう。

 例えば、千や二千一万や百という桁が複数存在し、ぐちゃぐちゃな数字を桁に当てはめて足していったとしても、ある程度はどのぐらいの数字になるかは何となくでわかるだろう。

 霊夢の場合は、それらの数字を足して、引いて、かけて、割って、を複雑に組み合わせたものでも感覚で正確な数字を無意識の計算で当てることができるのだ。

 敵に回したらこれ以上にないぐらい厄介で、史上最強災厄な強敵と言えるだろう。

 矢は叩き落とされてしまったが、私と小悪魔は止まれない。いや、止まることはできない。中途半端にやめてしまえば確実に霊夢にやられる。

 銀ナイフが永琳の放った矢を弾いたのはかなり驚いたが、霊夢がやってのけたのなら納得できる。私は頭を切り替えて霊夢に当たるまで残り数センチの幅を腕を伸ばして詰めた。

「「おおおおおおおおっ!」」

 私と小悪魔場雄たけびを上げて霊夢に攻撃をする。

 棒と拳は直撃した。だが、私が振った棒の当たった先は小悪魔の豊満な胸で、小悪魔の鉄板すら容易く粉砕する拳は私の腹にめり込んでいた。

「…ごほっ…!!?」

 せき込んだ私と胸を押さえて崩れ落ちそうになった小悪魔に左右から飛んできた、霊夢に当たるはずだった銀ナイフと矢が突き刺さってしまう。

「ぐ……っあぐ…っ…!?」

 矢が小悪魔の胸元を貫き、私に刺さった銀ナイフは背中に三本、腕に一本、太ももに一本、深々と突き刺さる。

「…く……そ……っ…!」

「小悪魔!魔理沙!」

 咲夜が私たちを呼ぶ声がするが私は親指に噛みつき、血が溢れてきたことを確認しながら親指を目の前にいる小悪魔の口に即座にねじ込んだ。

「んむっ!?」

 いきなりのことで小悪魔が目を白黒させるが、すぐに私の指をペロッと舐めて血を嚥下する。

 それを確認して小悪魔に殴られた腹の激痛を抑えさせるために傷を修復させながら立ち上がろうとしたとき、霊夢の蹴りが私の腹にめり込んだ。

「…っう…!?」

 体が持ち上がり、ゆっくりと回転しながら私の体が吹っ飛んで博麗神社の庭の端にある木に背中を強く打ち付け、広い庭に木の乾いた音を響かせた。

「~~~~~~っ…!!」

 木に体が当たったが、歪んだ木が形を元に戻そうとする働きによって私は地面に投げ出され、内臓を潰すような一撃に私は身動き一つできずに腹を押さえてうずくまる。

 まるで鈍器に殴られたのではないかと思うほどに、霊夢の一撃は鈍くて骨の髄まで届いている。

「………っ……く………あ、ぐ……っ」

 力関係的には、霊夢の魔力で強化したときの強さは萃香や幽香のパワーよりも低いだろう。なのに萃香や幽香に攻撃を受けた時よりも比較にならないほどの激痛が全身を電流のように駆け巡っている。

 その理由は萃香たちとは違い、霊夢は持て余している力の使い方がわかっているのだ。強大な力をただ単純に振り回している連中とは一味違う。

「…ごふ…っ…!!」

 胃が筋肉の運動で胃の中にある血を外に押し出そうとしたことにより、私は大量の血を吐血してしまい、口から血を吐き出した。

 何かを飲み込むことを胃が拒否しているが、口の中に残っている血を無理やり飲み込んだ。

 魔力力を強化し、傷ついた体の中の内臓を修復し、数秒かけてある程度は体を動かせるようになった私は霊夢を見た。

 霊夢はグングニルを持っているレミリアと二本の銀ナイフを持っている咲夜を一人で相手にしている。

 いや違う、霊夢は私の方向に来たがっているのをレミリアと咲夜が必死に阻止していて、霊夢は仕方なく二人の相手をしているに過ぎない。

「…く……そ……っ…!!」

 魔力で体を強化して腕や足に刺さった銀ナイフを引き抜き、背中にある銀ナイフも何とか手を伸ばして抜き取った。

 小悪魔も傷を回復させたらしく、胸に刺さっている矢を引き抜いて立ち上がっているのが見える。

 そっちの方向に視線を向けていると小悪魔もこっちに気が付いて目が合った。うなづきあって私たちは同時に走り出す。

「お嬢様!咲夜さん!一度退いてください!」

 十数秒の攻防ですでにボロボロになっている二人が逃げられるように霊夢とレミリアたちの間に体をねじ込み、霊夢のお祓い棒を棒で受け止めながら霊夢に向かってレーザーを薙ぎ払う。

 霊夢はしゃがむことによってレーザーを速攻でかわし、こっちに向かって札を投げつける。

 もう片方の手でレーザーを放ち、札を撃ち落とすのと霊夢に向けた攻撃を一括で仕掛けるが、霊夢は手に持った札をレーザーの軌道上に差し出す。

「反」

 私が放った直撃コースのレーザーが札に直撃すると同時に全く同じ軌道を跳ね返ってくるため、相殺されたレーザーは消え失せた。

「っち…」

 私が舌打ちをしたとき、大きな声が聞こえる。

「魔理沙さん逃げてください!」

 大妖精の高い声が聞こえてきた時にはすでに、札同士がが輪っかとなって鎖のようにつながっていき、それが腕に巻き付いているのだ。

「…へ?」

 口から自然の声が漏れ、腕に巻き付いていた鎖が霊夢が引っ張って振り回すと、私の体は簡単に引っ張られて勢いよく木に叩きつけられてしまった。

「がはっ!?」

 木が半ばからへし折れるほどの威力に背骨と肋骨がひしゃげて砕け散る。

「…う…ぐっ……!!」

 背骨が砕けたことにより、下半身に痺れるような感じで神経が切断されて折れた背骨から下の身体が動かすことができなくなっていく。

 すぐさま魔力を背骨に大量に送り込み、砕け散った骨を瞬時に再生させた。足も動かすことができるようになった私が立ち上がろうとしたとき、霊夢の手を離れた札の鎖が私に蛇のような動作で巻き付いていく。

「!?」

 蛇のように私の体を覆うようにグルグルと巻き付いてくるがどういうことかわからず、私が困惑している私に咲夜が近づいてくる。

「魔理沙!」

 咲夜が銀ナイフで霊夢の札を切り裂こうとするが、札が鉄のように固くて銀ナイフが刃こぼれするほどの強度を見せた。

「なっ!?」

 咲夜が目を見開き、もう一度銀ナイフを振り下ろそうとしたとき、私は近くにいる大妖精の名前を叫んだ。

「大妖精!!」

 私が叫ぶと、すぐさま小さな破裂音をさせながら大妖精が瞬間移動で現れ、私に手を伸ばして小さな手を触れさせる。

「わかってるな!?」

 私が大妖精に言うと、大妖精は小さくうなづき、瞬間移動を発動させる。

 瞬間移動を使う寸前に霊夢が嗤いながら札に命令を与えた。

「爆」

 札が膨れ上がり、高熱を発した瞬間に瞬間移動が発動し、私の意識がほんの百分の一秒程度の時間だけ途切れる。

 瞬間移動の目的地は霊夢のすぐ真横。

 このまま抱き着いて自爆しようとしたが、霊夢はそんな私の浅知恵などお見通しだったらしく、私に巻き付いている札の爆破をさせないために走り出して霊夢に殴りかかっていた小悪魔をお祓い棒で殴って一時的に行動不能にさせ、私の特攻を防御するための盾代わりにしたのだ。

 魔力で体を浮き上がらせて小悪魔か離れようとしたが、霊夢に小悪魔を押し付けられると同時に数十枚にもなる大量の札が同時に爆破された。

 轟音と同時にオレンジ寄りの白色で視界を塗りつぶされ、周りの音を聞くことも状況を見ることもできなくなってしまう。

 手や足には感覚がまだある。辛うじて五体満足であり、再生させる必要はなさそうだ。

 私に巻き付くなどの動作に魔力を使ったらしく、爆発自体に威力はさほどではなかった。

 閃光瓶を食らったように見ることのできなかった視界がようやく回復をはじめ、私が周りを見回すと近くに小悪魔が倒れているのが見えた。爆発の炎に焼かれたのか煤がこびりついているのかはわからないが、皮膚が黒ずんでいる部分が体のところどころ見受けられる。

 爆発の衝撃で砂煙が舞って、視界が非常に悪いが霊夢は近くにはいないのがわかり、私は体を起こして倒れている小悪魔に歩み寄った。

「…小悪魔、大丈夫か?」

 私が小悪魔を揺らすと小悪魔は小さな声で唸り、うっすらと目を開けて私を見る。

「…大丈夫か?」

 私が聞くと小悪魔は体を起こして、爆発の影響ではっきりとしない意識を頭を振ってはっきりさせてから、こちらをみてコクリとうなづく。

 私たちが倒れている間、大妖精やレミリアが霊夢と戦っているため、私たちは殺されずに済んだらしい。

 だが、短くて十数秒、長くて数分間意識を失っていて何があったかはわからないが、比較的軽症だった大妖精が全身に打撲のような傷を負いながらも懸命に戦っている。

「…小悪魔、いけるか?」

 私が言いながら小悪魔を見ると、小悪魔の体がほんのりと明るい色で光っているのが見えた。

 小悪魔も気が付いたらしく、自分の両手を見つめている。

「…小悪魔…?お前、いったいどうしたんだ?」

 私が聞くと、小悪魔は顔を上げて小さな声で私に呟いた。

「……魔力が、無くなりました」

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十話 契約

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

今回は少し百合成分が含まれます。

それでもいいという方は第七十話をお楽しみください。


 

「…もう少し…持つかと思ったんですが……持ちそうにないですね…」

 段々と光る強さがまし、少しずつ半透明になっていく小悪魔が申し訳なさそうに私に言った。

「小悪魔、私が魔力をお前に分ける…それなら大丈夫だろう!?」

 確か、小悪魔などの低級の悪魔は誰からか魔力などのエネルギーを貰っていないと生きていけないと聞いたことがある。小悪魔の魔力が無くなった。それが意味するのは小悪魔の死だ。

 私が小悪魔に魔力を分けようとしたが、彼女は首を横に振って駄目だと呟く。

「…どういうことだ?」

 私が聞くと小悪魔が訳の説明を始めた。

「私は…パチュリー様と契約してこの世界に居続けることができています……ですので私の体での魔力の仕組みは他人とは少し異なります……契約した人…パチュリー様の魔力でしか生きることができません……だから、魔理沙さんに魔力を貰っても私はそれを魔力として使うことができないのです」

 パチュリーが小悪魔と何かしらの契約をしているのは知っていたが、あまり興味がなかったため、小悪魔の契約についてはあまり知らない。

「…私のような低級の悪魔がここまで強くなれ、生きてこられたのは全てパチュリー様が私と契約してくれたおかげなんです……でなければ私はとうの昔に魔力切れを起こして死んでいたでしょう。……この異変が始まった時にパチュリー様が私に大量の魔力を注いでくれていたので、今まで活動することができていたんですが…もう限界のようですね…」

「…なら、私と契約しろ!そうじゃないとお前は消えちまう!」

 私が半透明になっていく小悪魔の肩を掴みながら言うが、かたくなに小悪魔は首を縦には振らない。

「私は……契約してくれたパチュリー様の従者として最後までいたいんです……」

 自分の透けていく体を見つめながら、小悪魔は静かに呟く。

「……。…お前のその気持ちはわからんでもない。……放っておいたら死んでいた自分を助けてくれたパチュリーに尽くしたいっていう気持ちは素敵なものだし、私のそれを尊重したい……でも、せっかく今までパチュリーが繋いでいてくれていた命をこんなところで終わらせちまうのか?」

 これは私の勝手な解釈だが、数日にわたって小悪魔と一緒に戦って来た。それができるほどということは、おそらくパチュリーは自分の持つ魔力を全て小悪魔につぎ込んだとみていいだろう。自分の死を悟ったパチュリーが小悪魔が新しい契約者を探すことができるように、持っていた全ての魔力を渡したのではないだろうか。

 パチュリーが死んでいる今、あいつが何を思って小悪魔に魔力を託したのかはわからない。だが、パチュリーならそうするだろう。そう言う奴だ。

「…」

「パチュリーのためを思うなら…生き抜け、小悪魔」

 私が言うと、小悪魔が顔を上げて力強くうなづいた。

「…それで、契約しろって言ったはいいが……どうやったら契約できるんだ?…命を半分とかか?」

 私が聞くと小悪魔は違いますよ、と言って私が持つ契約の間違った認識を解いてくれた。

「…悪魔との契約は、魔理沙さんが思っているようなものではなく……契約して自分の従者とするのです……と言っても、それは低級の悪魔だけですがね」

「へえ、じゃあ…上級なら寿命の半分だってあり得るのか?」

「はい、強い悪魔なら前金的な感じですね」

 小悪魔は低級の悪魔であるため、自分で魔力を生産することができない。そのため、誰かに取り付いて契約してもらって、魔力を分け与えてもらうのだ。

「契約自体はすぐにできますが……そのとき、私と契約して何を使うのかを選ばなければなりません。たとえばパチュリー様のように魔力で契約するのならば、出せる力は限られますが魔力は回復してしまえばほぼ無限にあるに等しいので、それで契約した方がいいでしょう」

 小悪魔の話を聞いていた私は、一呼吸間をあけてから言った。

「…お前が自分の持つ最大限の力を引き出せるようになるには、なにで契約をすればいい?」

 私が聞くと、小悪魔は少し悩んでから呟く。

「……寿命です」

「…ならそれで契約する」

 私がそういうと小悪魔はやっぱりという顔をした後に、やはり止めに入る。

「ちょっと待ってください!」

 私が早く契約を済ませようとするが、小悪魔が私のことを掴んできた。

「なんだよ」

「なんだよ…じゃあないですよ!寿命ですよ!?わかってるんですか!?」

 肩を掴んできた小悪魔は軽く私を揺すりながら叫ぶ。

「ああ、わかってる……お前も十分理解してるはずだろ?…霊夢を相手にして、全力を出さずに倒せるわけがない……霊夢はいつも私たちの一歩も二歩も先を行く、だから全力で行かなければ勝てるわけがない…だから、私は寿命を使う」

 私が言うと、小悪魔も霊夢相手に全力を出さなければ負けると分かっているのだろう。渋々と言った感じでうなづいた。

「…っ……わかりました……」

「…それで、どうやって契約するんだ?」

 私が聞くと小悪魔が私の手を取って説明を始める。

「…とりあえず、時間がないので説明しながら契約をします」

 小悪魔が応戦しているレミリアたちを見ながら呟く。

「あっちもそうだが…こっちも早くした方がいいかもな」

 小悪魔自身も向こう側の景色が見えるぐらいには色が薄くなってきている。

「…わかりました」

 うなづいた私の手を掴んだ小悪魔が少し私の指を眺めてから呟く。

「……失礼します」

 小悪魔は私の人差し指を口に咥えて、鋭い犬歯でがぶりと噛みついた。

 ズキッとした鋭い痛みが人差し指に走り、肉に小悪魔の歯が食い込む感触が指から神経を伝わってくる。

 小悪魔が溢れてきた血を唾液でぬるっと湿っている舌で舐め取ってから飲み込み、口から私の指を出した。

「…魔理沙さんも同じようにお願いします」

 私は小悪魔が差し出したサラサラと肌触りのよい手を掴み、同じように人差し指を咥えて歯を突き立てると、小悪魔はぐっと痛みをこらえているのか眉がピクリと動く。

「…」

 噛んだ傷口から血が滲みだし、私はその血を自分の血を飲み込むのと同じように嚥下した。

「…飲みましたね…?これで契約の第一段階が終わりました……次に…………」

 小悪魔が途中で口ごもってしまう。

「…?…次に何をすればいいんだ?」

「…えっと、これは契約するうえで必要なことであって…私に流すための流れを効率よくするための行為なので……」

 薄暗くてよくわからないが小悪魔の顔が少し赤らんで見えるのは気のせいだろう。

「ああ、わかった…それでどうすればいいんだ?」

 私が聞くと顔を赤くした小悪魔が小さな声で呟いた。

「き……キスをしないとだめなんです…!」

 私が外に出て神社に行き、霊夢に告白された時も驚いたが、これもそれぐらい驚いた自信がある。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十一話 契約 ②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

今回も少しだけ百合成分が含まれます。

それでもいいという方は第七十一話をお楽しみください。


 

「…へ?キス?」

 私が聞き返すと小悪魔がうなづいて説明を始める。

「はい……さっき言った通り…血を飲んでからキスをして直接的に寿命のエネルギー……つまり生命エネルギーを私に直接流し込むことで、私に流す際にエネルギーの消費をできるだけ抑えて比較的に高効率で私に生命エネルギーを送ることができます…」

「…な、なるほどな」

 イメージ的には道を作ったという感じだろう。初めに血を飲ますことで何もない場所に砂利道を作り、キスをして生命エネルギーを注ぐことでアスファルトの道にするようなものだ。

 私が呟くと小悪魔が私に少しだけ歩み寄った。

「…じゃあ……」

 私に触れた小悪魔がか細い声で呟く。

「…お、おう……」

 小悪魔が私の頬に優しく触れ、恥ずかしそうに言った。

「……ま、魔理沙さんがしてくださいよ……こういうの…魔理沙さんの方が慣れているでしょう…?」

 顔を真っ赤にした小悪魔が叫ぶようにして言う。

「わ…私だってキスなんて…一度しかしたことがないぜ…!」

 ぎくしゃくしながらも私が小悪魔に顔を寄せると石鹸のいい香りがわずかに漂ってきて、私の鼻腔を刺激する。

 私は気分が高揚しているのか息が自然と荒くなり、わけがわからなくなるぐらい緊張してしまう。

 小悪魔は真っ赤な顔をしていて、そんなに顔を赤くされるとこっちまで緊張してしまうではないか。

 お互いの吐息がかかるぐらいには顔が近くなり、形のいい唇はふんわりと柔らかく、瑞々しくて艶めかしく見える小悪魔の唇はその見た目通りの感触で気持ちがいい。

 小悪魔の唇に私の唇が軽く触れるだけで彼女の温かさを感じ、私の気持ちは最高潮に達する。

「…っ」

 顔を寄せることで小悪魔の口をふさぎ、自分の生命エネルギーを惜しみなく大量に流し込むと、彼女はビクッと体を震わせる。これほどの力を預けられたことがなく、私がいきなり大量のエネルギーをつぎ込んだからだろう。

 生命エネルギーは魔力とは比較できないほどに強いエネルギーを持っているため、これまでにないほどの力を発揮できるだろう。

「…ふ…あ…っ…!!」

 息をつくのも忘れてしまうぐらい私は小悪魔の唇をむさぼり、その間に生命エネルギーを与え続ける。

 時折、小悪魔の口から洩れる吐息のような小さな声が私の頭の中を反響して、脳を痺れさせる。

 しばらくして、小悪魔が私の肩を掴んで無理矢理に引き離した。

「ま…魔理沙さん…!今はこれで十分です…!」

 息を荒くした小悪魔が呟く。

「あ…?ああ…」

 私は触れていた小悪魔の頬から手を放して小悪魔から離れる。指や唇から彼女のぬくもりが消え、少しさびしさのようなものを感じた気がした。

 大量の生命エネルギーを小悪魔に移したため、強い虚脱感に襲われて体がだるい感じがする。

「「……」」

 だが、それもすぐに消えて私が顔を上げると小悪魔と目が合う。なんだか気恥ずかしさがあって私たちはお互いに目をそらして沈黙していると、そこに声がかかる。

「あんたたち、いつまでイチャイチャしてるの!?こっちも手伝ってほしいんだけど!?」

 レミリアの声だ。

「お、おう!!」

「…はい…!」

 誤解だと言いたかったが、そこまで気が回らなかった私と小悪魔は咲夜とレミリアの手助けに向かった。

 永琳が援護のために矢を放つ。霊夢の顔に向けて真横から飛んで行った矢を霊夢はいともたやすくつかみ取る。

「…」

 霊夢は邪魔をするなと言わんばかりの目つきで永琳を睨んだ後、矢をへし折りながら視線を私に向けた。

 霊夢がさっきの私と小悪魔のキスを見ていたのか、私に向けて明らかな敵意をこちらに向ける。

「…」

 霊夢の紅いオーラを纏っていて、濁っている瞳と目が合った瞬間。霊夢の姿が消えた。

 そう思うほどの速度で加速した霊夢は、姿を視認できていない私にお祓い棒を振り下ろす。

「…!」

 だが、その寸前に小悪魔が横から私の前に立ちはだかっていた霊夢のお祓い棒を左手で受け止める。

「…魔理沙さん、やりましょう」

 そう呟きながら小悪魔は私と霊夢の体の間に自分の体を滑り込ませ、右手を握りしめて拳を作った。

「…ああ」

 私は言いながら目の前にいる小悪魔の後頭部に手のひらを向ける。

 それと同時に小悪魔が上体を屈め、レーザーの射線上から体をどかす。

 霊夢に向けて私の手のひらからレーザーが照射されるが、霊夢はレーザーをひらりとかわしながら小悪魔に掴まれていたお祓い棒をもぎ取り、二枚の札を私と小悪魔に投げつける。

 小悪魔は弾幕で札を消し飛ばし、私は棒で札を叩き落として霊夢に向けてさらに踏み込む。

 契約の際に飲んだ血による強化と生命エネルギーで強化された小悪魔が、幻想郷最強の霊夢と互角に戦っている。

 私も負けていられずに、小悪魔が応戦している間に自分の腕に噛みついた。

 流れ出した血を口に含み、一気に嚥下して飲み下す。

 一度に多くの血を摂取したことにより、幽香と戦っていた時のようにおかしくなってしまうのではないかという不安はあったが、大丈夫そうだ。

 魔力力を強化した私は、全身を魔力で強化して吸血鬼並の速さで霊夢に向かって走り出し、小悪魔の邪魔にならない位置に陣取り、タイミングを見計らって棒を霊夢に叩き込む。

 とにかく短期決戦だ。

 私の寿命が尽きる前に霊夢を倒さなければならない。

 ガガガガガガガガガッ!!

 高速で棒と拳が霊夢に向かって繰り出され、霊夢はそれをお祓い棒一本で捌いていて、ギリギリで互角と言ったところだ。

 少し明るくなってきたとはいえ夜だというのに、魔力の塵によってこの辺りだけ昼間のように明るく照らされている。

 霊夢がお祓い棒を振り、それが私の頬を掠った。

 互角だと思っていたが、二人がかりでも私たちの方がまだ劣っているらしい。

「…っ」

 でも、現在ここにいるのは私たちだけではない。

 レミリアは手の平にグングニルを作り出し、私たちに当たらないように霊夢に向けて投擲する。

 弾丸の様に高速で投げられたグングニルが軌道上にいる霊夢を貫く。

 直撃だ。そう思ったが、霊夢がポツリと呟き声を漏らす。

「反」

 いつの間にか札を持った手をグングニルの射線上に持ってきていたらしく、レミリアが投げたグングニルはそのままの速度と威力で跳ね返って投擲者に直撃した。

 凝縮された炎が四方八方に拡散し、爆発のように膨れ上がってレミリアの小さな体を炎が包み込む。

「…っくそ…!」

 私は爆発したグングニルを視界の端から外に出し、目の前の敵に集中する。

 だが、今までにないほどに力強く、かつ高速に腕を動かしていたため、私の体は無呼吸運動をしているのと変わらず、全身が酸欠のような状態になり始めていた。

 腕や足の筋肉に乳酸が溜まり、疲労で動きが劇的に悪くなっていく。

 魔力で乳酸を高速で分解していくが、乳酸が作られる方が早く、効果はあまりない。

「魔理沙さん、無理しないでください!」

 小悪魔が横から霊夢に殴り込み、私が逃げられるようにカバーをする。

「…わかった」

 私は一歩下がって回復を優先し、援護は咲夜たちに任せることにした。

 強化した魔力力により体の疲労感はすぐに消え、問題なく戦闘を続けられそうである。

 だが、問題があるのはこれからだ。

 今は小悪魔に余分に生命エネルギーを渡しているため、小悪魔は自分が持っている生命エネルギーだけでやりくりしてくれているおかげで今は普通に動けるが、小悪魔に生命エネルギーを送り出した時が問題なのだ。

 魔力を誰かにあげるだけでもかなりの脱力感や虚脱感が体を襲う。その状態のまま霊夢に接近戦を挑むのはいささか無謀ではある。

 だが、小悪魔が戦っているのに私が戦わないわけにはいかない。

 咲夜とレミリアは私が来る前の戦いで既にボロボロ、私の血の能力で回復させたとしても、魔力もすでに少なくなっている二人は霊夢と互角に戦うことなどできるはずがないだろう。

 息が上がり、汗を滝のように流している小悪魔の後ろから私は接近し、攻撃を開始した。

 私の接近を肌で感じた小悪魔はこちらを見ずに体をずらし、道ができた私は持っている棒を強化して霊夢に殴りかかる。

 霊夢が持つお祓い棒と私が持つ棒の間にある魔力がぶつかり合い、弾けて空気中にまき散らされてまるで雪のようにキラキラと光りながら消えて行く。

「せぇぇいっ!!」

 棒を無我夢中で振って霊夢に向かって何度も打ち付けるが、霊夢は簡単に受け止めてはじき返してくる。

 少し休んで息を整えた小悪魔が拳を握り、私の攻撃に合わせて霊夢に攻撃を仕掛けるが、霊夢は器用に二人分の攻撃をはじき返していく。

「…っ」

 魔力で筋力をさらに強化し、霊夢が持つお祓い棒に向けて棒を大ぶりで下から振り上げる。

 バガッ!

 ビリビリと手が痺れるほどの強さで殴ったことにより、耳元でクラッカーでも鳴らされたのではないのかというほどの爆音が鳴り響く。

 お祓い棒を強く殴ったことで、霊夢の体の体勢が大きく変わる。

 いくら霊夢と言えどもいつもの戦闘態勢に戻るのには、わずかだが時間がかかるはずだ。

 わずかで少ない時間ではあるが、目の前にいる私にとっては霊夢に攻撃するのには十分だ。大きく踏み出し、隙ができた霊夢に急接近して振り上げた棒を振り下ろそうとした。

 私が霊夢を殴ろうとしたその時、小悪魔の切羽詰まった声が私に届く。

「魔理沙さん!罠です!」

 私がその言葉の意味を理解したころ、霊夢が嗜虐的な笑みを私に向けて浮かべた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十二話 死合い

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十二話をお楽しみください。


 

「罠です!魔理沙さん!」

 小悪魔の叫び声が聞こえ、私が振り下ろしたお祓い棒が嫌に緩慢な動きで動いているように見えるほどに、霊夢の体の動きが高速で動いて私の腹にお祓い棒を叩きこんでくる。

「はぐ…っ!?…うぐぁ…っ!?」

 腹を殴られてガクッと膝が曲がり、胸の高さが下がった私の胸倉を素早く手を伸ばして掴んだ霊夢が小悪魔の攻撃をお祓い棒ではじき、掴んだ胸ぐらを放しながらお祓い棒で私の胸を殴りつけた。

「があっ…!!」

 倒れそうになった私を霊夢は小悪魔の方向に向けて蹴り飛ばしたせいで、私に追撃をさせないいように霊夢を攻撃しようとしていた小悪魔を巻き込んでしまう。

「ちょっ…!?…わぁっ…!?」

 一緒に倒れた私と小悪魔に霊夢が歩み寄ろうとするが、時を止めた咲夜が霊夢の目の前に現れて両手に持った銀ナイフで斬りかかる。

 霊夢は片方をお祓い棒で受け止めると、もう片方の手は咲夜の手首を掴んで銀ナイフの動きを封じた。

 その隙にレミリアが真上から串刺しにしようとグングニルを霊夢に向けて振り下ろすが、霊夢が片手を掴み、鍔迫り合いに似た状況になっていて咲夜の頭が近くにあるため咲夜に頭突きをかまし、怯んだ咲夜の胸倉を掴んで持ち上げてグングニルの盾にする。

 レミリアが翼を羽ばたかせ、グングニルが咲夜を貫く寸前になんとか急停止させることができた。

 空中では地上と違って思うように動けないため、レミリアは一度距離を取ろうとするが、霊夢がグングニルをひっこめたレミリアに向けて咲夜を蹴り飛ばす。

 わき腹に霊夢の蹴りが当たった時、骨にひびが入ったのか折れたのかはわからないが木の枝が折れるような音が小さく聞こえ、咲夜の体がボールのようにレミリアの方向に吹っ飛ばされた。

 レミリアが蹴り飛ばされた咲夜を身をひるがえして掴む。それと同時に霊夢があざ笑いながら呟く。

「爆」

 咲夜の胸倉を掴んでいるときに服の中に忍ばされていた札が霊夢の命令と同時に起爆し、発生した爆発の炎が二人を覆い隠した。

 普段の二人ならばこんな失態は犯さないだろう。だが、負傷のせいで二人の動きがやたらと遅く見える。私にこう見えているのだから霊夢から見たら止まっているように見えていることだろう。

「お嬢様!咲夜さん!」

 小悪魔の悲鳴に似た叫び声が私の耳に届くが、爆発の爆音があまりにも大きくて声が打ち消されている。

 爆発の炎が収まったころ、煙の中からレミリアと咲夜が力なく地面に落ち、動かなくなった。

「……っ!!」

 小悪魔が二人に走り寄ろうとするが、私が小悪魔の腕を掴んでその場に押さえつける。

「何をするんですか!?魔理沙さん!二人を助けないと!!」

 小悪魔が私に叫び、掴んでいる手を振りほどこうともがく。

「…落ち着け小悪魔……レミリアたちは死んだわけじゃないぜ…取り乱せば霊夢の思うつぼだ…冷静になれ」

 焦りと怒りで頭に血が上って息を荒くして、瞳孔が開いている小悪魔に淡々と告げると、私が言ったことにより少しずつ冷静さを取り戻していく。

「二人は大妖精に任せよう」

 私が大妖精の方を見ると、大妖精が瞬間移動を使ってレミリアと咲夜の元に現れて二人に触れた。

 霊夢が大妖精や私のしようとしていることを察していたらしく、大妖精に攻撃を仕掛けようとしたが、霊夢の攻撃を食らう寸前に再度瞬間移動を使って大妖精は私たちのすぐ近くに現れた。

「…ナイスだ、大妖精」

 私は大妖精に呟きながらこちらを見て、私たちにターゲットを変えた霊夢に向かって走り出す。

 小悪魔には走り出す寸前に来なくていいとジェスチャーで伝え、私は一人で走りながら霊夢からは見えないようにバックの中に右手を突っ込んだ。

 あらかじめ左手に棒を持ち替えておいたため、左手に持った棒を霊夢に向けて叩きつけると、霊夢は棒を軽く受け流しながら私の腹に向けて握った拳をお見舞いする。

「…ふ…ぅ…ぐぁ…!!」

 私の喉から絞り出したような悲痛な悲鳴が漏れ、後ろに跳躍しながら霊夢に向けて爆発瓶を投げつけると、霊夢は自分に当たる寸前に、持っていた札で私の爆発瓶をそのままの軌道で跳ね返す。

 ここまでは予定通り。

 私も棒切れを使って器用に爆発瓶を受け流し、後ろにいる小悪魔たちの方向に瓶が飛んで行かないように真横に瓶を飛ばして霊夢に再び攻撃を仕掛ける。

 霊夢はさっきと同じ場所で私を迎え討とうとしているのか、お祓い棒を油断なく構えている。

 私は霊夢に手のひらを向け、一発のレーザーを放つ。

 強い光を放ちながら光の魔法をのせているレーザーを霊夢に向けて放つが、霊夢は掻き消すどころか動きすらしない。なぜならレーザーは霊夢に当たるにはだいぶ下の位置に向けて放たれたからだ。

 レーザーが地面を焦がし、融解させて一部蒸発させていく。

 私の手元が狂ったことにより、撃つ方向を間違ったわけではない。さっき殴られた際に爆発瓶と一緒に置いてきて、霊夢の足元に転がっている手のひらに乗る程度の大きさのボールをレーザーで撃ち抜く。

 レーザーで撃ち抜いたことでスイッチが入ったボールから白い煙が大量に吐き出され始める。

 ブシュゥゥゥッ!!

 勢いよくまき散らされた白い煙は霊夢の周りを覆っていく。

「…?」

 霊夢は自分の周りに漂っている白い煙を眺めながら首をかしげる。そりゃあそうだ。煙幕にしては色も薄く、煙の量も少ない。

「……っ!?」

 霊夢は無害と思っていた煙が実はそうではなかったと気が付いたらしく、煙の中から息を止めて飛び出した。

「…気が付いたか……まあ、当たりまえか」

 私は漂っている白い煙を吸わないように風上に移動しながら、目元を押さえている霊夢に言う。

「魔理沙さん…あれは何なんですか?…ただの煙幕ではないようですが…」

 小悪魔が後ろから近づきながら言い、隣に立った彼女に霊夢を見るように促す。

「…?」

「あれはただの煙じゃあない…あの煙の中には強力な睡眠薬が含まれてる」

 私が言いながら霊夢を観察すると強い眠気を感じているのか、霊夢は歯を食いしばって眠らないようになんとか持ちこたえている。

「…これで多少は霊夢の頭がおかしいとしか言えない、計算された感も鈍るだろう」

 私は呟いてから走り出し、今度こそ霊夢に向けて魔力で強化された棒を振り下ろす。

 私を睨んでいた霊夢は振り下ろされた棒をお祓い棒で受け止め、小悪魔が振り出した拳を蹴りではじき返す。

 霊夢の動きがさっきまでの、刃物のような鋭くて研ぎ澄まされた正確性の高い攻撃とは言えないぐらい、体術の切れが鈍くて荒い。

「小悪魔!」

 私が叫びながら棒を振り下ろし、もう片方の手で霊夢に向けてレーザーを放つ。

 案の定、霊夢はそれを身をひるがえしてかわすわけだが、回り込んでいた小悪魔の攻撃を辛うじてお祓い棒で受け止めた。

 霊夢の動きがこれ以上に無いぐらい悪い。これならいける。

 私が小悪魔に目線を向けると小悪魔と一瞬だけ目が合い、小悪魔は私が言わんとしていることを悟ったのか、自分に向けて振り下ろされた霊夢のお祓い棒を受け流し、両手を伸ばして霊夢の手を掴んで押さえつける。

 いきなりのことで判断が追い付かない霊夢は、小悪魔に両手を拘束されてしまって動きが封じられる。

 私がそのうちに霊夢に接近し、がら空きとなったわき腹に強化した棒を叩きこもうとしたとき、

 ドックン…!!

 体の奥底が脈打ち、小悪魔にキスをした時よりも強い虚脱感にいきなり襲われ、私は体を制御することができなくなり、私は足をくじいて転倒してしまう。

 初めに小悪魔に渡していた生命エネルギーが尽きたのだろう。そのため、小悪魔に生命エネルギーが送られ始めているのだ。

「…くっ…!?」

 脱力している体に鞭を打って起こそうとしたとき、倒れた私に気を取られた小悪魔は掴んでいた霊夢に手を振り払われてしまい、逆に掴まれた小悪魔は倒れている私の背中に背負い投げで叩きつけられてしまう。

「うぐあぁっ!!」

 小悪魔が私に背中を打ち付け、悲鳴を上げる。

「…く……そっ……!!」

 強い虚脱感が段々と弱まり、一定の強さとなる。

「魔理沙さん…」

 小悪魔が私の上からどき、私を起こしてくれた。

「…絶好のチャンスを…すまない…逃しちまった」

 私がそう小悪魔に言うと、小悪魔は大丈夫ですと呟き急いでこの場から離れようとしたとき、霊夢が小悪魔にお祓い棒を振り下ろそうとしているのが、下を向いている私にもなんとなく分かった。

 私が小悪魔の前に躍り出ると、霊夢は目の前の地面の土を踏みしめながら大きく踏み込み、私の頭をお祓い棒で殴る。

「あぐっ!!?」

 私の真後ろにいた小悪魔もろとも後方に飛ばされてしまい、地面を転がった。

「う…ぐっ……!」

 額から血が滲み、血が流れる感覚が皮膚から伝わってくる。

 私は少しだるい体を持ち上げて低い姿勢で構えた。

 霊夢との距離は約三十メートル。魔力で強化した身体ならば一瞬の距離である。

 こちらが体勢を立て直すまでに時間稼ぎをしようとしたが、それは無理そうだ。眠たそうではある霊夢は余裕の笑みを浮かべ、わずかにその身を低くして走る体勢となる。

 小悪魔が起き上がろうとしたとき、霊夢が動いた。

 ドゴォッ!!

 轟音を響かせながら地面を土を踏み砕いて私に向けて飛び出す。

 残像を残すほどのスピードで霊夢と私が持つ二つの得物が触れあい、魔力の塵を大量にまき散らす。

 ここで終わりだと言いたげな霊夢はニヤリと笑った。




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十三話 霊夢の切り札

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十三話をお楽しみください。


 霊夢の振り下ろしたお祓い棒を私は真正面から受け止めた。

 来ると分かってたため、私は霊夢の大ぶりで威力のある振るわれたお祓い棒を何とか押さえ込み、鍔迫り合いの状態となる。

 私は魔力で体を強化し、瞬間的に霊夢以上の力を発揮してお祓い棒を弾き飛ばした。

 霊夢がわずかに体勢を崩し、私はそこに畳みかけることにする。

 しかし、おそらく今回も霊夢の罠だろう。弾いた時の押し返してくるはずだったお祓い棒が軽すぎた。でも、あえてその罠にかかってやることにした。

 私が大きく踏み込むと霊夢の口が三日月のように左右に裂け、私に向けてお祓い棒を薙ぎ払う。

 だが、私がお祓い棒の軌道上に棒を移動させたことにより、霊夢のお祓い棒と棒が打ち合わさる。

 霊夢はお祓い棒を凪いでいるという攻撃方法で、かつ、私の棒に当たった時にお祓い棒の角度をかなり浅くしたらしく、私は完全には止めることができずにお祓い棒が滑り、棒と面しているお祓い棒が縁まで行くと棒をすり抜けて私に向けてまた直進し始める。

「…くっ!」

 顔を傾けようとした私の右目に霊夢のお祓い棒がめり込み、瞼を引き裂いて眼球をミンチのようにかき混ぜる。

「いづ……あああああああああああああああああっ!!」

 私は絶叫しながら潰された右目の全身が痙攣するような激痛を無視して、霊夢に向けて魔力で強化した棒を振りあげた。

 霊夢はお祓い棒を振ってしまっているため、丸腰に近い。

 どんな生物でも共通の弱点である顔をガードしようとした霊夢の私よりも多少発達の良い胸に、私はお祓い棒を食らわせるのではなく。歌仙が私にやったように掌底を思いっきり食らわせた。

 ドォォッ!!

 鈍く、腹に来るような重い音が私が掌底で触れた霊夢の胸からする。それは見た目通りの威力を発揮したらしく、霊夢が目を見開いて表情を苦悶に歪める。

 霊夢の体が浮き上がり、後方五メートル程度の場所に生えている木に背中を打ち付けさせた。

「が…はぁ……うぐ……っ……ぁあ…っ…!!?」

 霊夢が胸を押さえてもだえ苦しむ。

「…ようやく……一撃……!!」

 私は呟きながら霊夢を見る。

 霊夢の弱点、それは生まれた時から圧倒的力を持ったことにより、防御をしたことがないということだ。

 萃香たちのおかげで私は何人かいれば、霊夢と互角に接近戦で戦えるようになっていた。このようにこの異変が始まってからは接近戦がある程度できるようになっていたというのは、慣れたということだ。

 それと同じで霊夢は防御をしたことがないため、どうやったら体を効率よく守れるのかは知らないだろう。

 だが、いつもの霊夢ならばなんとなくでできなくはないだろうが、今は私の睡眠薬で勘が鈍っている。途中半端な防御では強力な攻撃は防ぐことができないだろう。

 私は血の力で目の傷を塞ぎながら、後方にいる小悪魔を見た。

 小悪魔は起き上がり、私に近寄って来る。

 レミリアや咲夜もそこまで重症ではなかったのか、何かに掴まって立ち上がり、腹を押さえてうずくまっている霊夢を警戒する。

「…ようやく一撃入れてやったぜ……でも、気は抜いてられない……ここからが本番だからな」

 私は言いながら霊夢を見ると、咳き込んでうずくまっていた霊夢がゆっくりと木を支えにしてゆっくりと立ち上がって私たちに呟く。

「……しゃらくさいわね」

 霊夢がそう言いながら、懐の内ポケットから一枚のスペルカードを取り出した。

「!!?」

 私はそのカードを見た時、ゾッとして思考が停止しかけてしまう。

「そのスペルカードを使わせるな!!」

 私が叫んだ時、レミリアがグングニルを投擲し、咲夜が時を止めて霊夢の周りにナイフを敷き詰め、永琳が矢を放つ。

 全方向からの同時攻撃は霊夢を中心に発生したまばゆい光に照らされると、魔力で形成されているグングニルや永琳の矢が消え去り、一部の魔力で作り出していた銀ナイフも消え去ってしまう。

 本物の銀ナイフも合たはずだが、光を受けた瞬間に不自然に前方に飛ぶ力をなくし、地面に十数本のナイフが突き刺さり、異様な光景となる。

 霊夢の腰のあたりの高さを、白と黒が混ざり合ったような形をしている陰陽玉が十個ほど規則的な速度で円を描く。

「………これは、やべぇ…!」

 私が呟くと永琳やレミリア、小悪魔の表情に焦りなどが生じているのが伺える。

 霊夢の周りを漂っている十個の陰陽玉がそれぞれ光を放ち、それぞれが様々な方向に回転しながら公転運動をして上昇を始めた。

 霊夢の身長を超え、高さ数メートルの位置で陰陽玉たちはピタリと止まり、高速になったり低速になったり、円の回転方向を逆方向に変えたりと不規則で規則性などかけらもない動きで陰陽玉たちは絶えず形を変えていく。

 霊夢が上で回転している陰陽玉に向けて手を掲げ、手のひらを上に向ける。

 私はレーザーを撃とうとしたが、霊夢がスペルカードを使用したときに発生した余波を受けたことで、すでに私たちは魔力を使うことができなくなっていることに今頃気が付いた。

「…これで、あんたたちは終わりよ」

 霊夢は言いながら上を見上げ、私たちに死刑を宣告するようにそのスペルカードを発動してしまう。

「『夢想天生』」

 霊夢のその言葉を引き金にし、上で円運動を行っていた陰陽玉の円の回転速度が目に見えて上昇してゆく。

 バラバラの十個の陰陽玉が高速で同じ場所を回転しているため、陰陽玉たちは一つの線となる。

 キィィィィィィィィィィィッ……!!

 それと同時にわずかだが、陰陽玉の放つ光も強くなっている気がする。

 陰陽玉が回転する円の大きさが狭くなっていき、少しずつ陰陽玉が重なっていく。

 最終的には一つの球体となった陰陽玉が私が使う閃光瓶のような、目を覆わないと何も見えなくなるぐらいに強烈な光を発する。

 その光を受けると同時に、私の体の中にある魔力の流れが停止した。

 目を閉じると、白色の強い光のせいで一時的に視覚情報が遮断されてしまう。だが、数秒後に私の視界はすぐに回復をはじめる。その間にも霊夢は私たちには危害を加えようとする様子は、今はないようだ。

 こんな状態だというのに、私はずいぶんと落ち着いていた。。

 横にいる小悪魔も私と同じように霊夢を睨んで一歩も引かない。霊夢は魔力の流れが停止している私たちに、最大まで強化して青白く光るお祓い棒をこちらに向けた。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十四話 刻む その①

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十四話をお楽しみください。


 霊夢は恐らく生まれて初めての出来事に遭遇していることだろう。

 だが、初めての出来事に遭遇しているのは霊夢だけじゃない。私たちどころか、幻想郷ができて数百年という月日が流れているが、それでもこんなことは初めてだろう。

 他の世界は知らないが、夢想転生は陰陽玉を授けられた博麗の巫女だけが使うことができる奥の手である。これ以上戦えばこちらがやられるか、倒せたとしても大怪我を負ってしまう。そう言う時に使われる博麗の巫女の切り札である夢想転生はあらゆる魔力の流れを停止させる。

 魔力の流れが停止するというのは、使った本人。博麗の巫女以外の人間、妖怪、妖精。全員が対象であり、体を強化することも、回復させることも、能力を使うことさえもできなくなる。

 どんなに強い妖怪でも、どんなに力を持っている妖精でも、人間でも、全員が魔力を扱うことのできないただの人間程度になってしまう。

 だから、その技を使われたのにもかかわらず、博麗の巫女と素手で互角に戦った人間と悪魔がいたというのはこれまでも、これからも初めてのこととなるだろう。

「魔理沙ぁ!!」

 霊夢が私に叫びながら飛びつき、お祓い棒を振り下ろしてくる。

 小悪魔が私の前に出て拳でお祓い棒をはじき返し、霊夢が下がってしまう前に何度か反撃をした。

 霊夢がこれ以上にないぐらい焦っているのがわかる。

 夢想転生は魔力の流れを止めて敵を無力化するスペルカードのはずなのに、私たちはまるで魔力を使えているかのように動き、自分と互角に戦っているからだ。

 確かに、魔力は霊夢に封じられてしまった。だが、小悪魔が使っているのは魔力ではなく、生命エネルギーだ。

 契約の際に、生命エネルギーで契約したため、生命エネルギーを魔力に変換する必要がなく、生命エネルギーと魔力は全くの別物であることから、夢想天生の影響を受けなかったのだろう。

 私も使っているのは血の力、これも魔力を使っているわけではないため、私は普通の人間よりは攻撃力が断然高く、小悪魔には劣るが何とかついていくことはできている。

 小悪魔が霊夢と攻防をかわしているうちに回り込んで攻撃しようとするが、霊夢の蹴りが私の腹にめり込み、後方に蹴り飛ばされてしまった。

「がはっ…!?」

 残り9秒。

 口の中にある血を飲み込み、蹴りでぐちゃぐちゃに破壊された臓器を修復し、起き上がりながら私は霊夢に殴りかかる。

 霊夢がお祓い棒で小悪魔の頭を殴り、私が踏み出していた右足の膝を霊夢は足場として左足をかけ、右足の膝で私の脇腹に蹴りをかます。

「…はぐ…ぁ…!!?」

 私のパンチが空振りに終わり、カウンターのようになった霊夢の蹴りで私の肋骨が何本か砕けてしまう。

 砕けた肋骨の痛みを無視してすぐ目の前にいる。私に膝蹴りを食らわせることができるほどの至近距離にいる霊夢に掴みかかる。

 残り八秒。

 霊夢のお祓い棒が一瞬のうちに、私の手の骨を肘のあたりまで粉砕して掴んでいた手を放させ、霊夢は私の腹に強力な打撃を食らわせた。

「ごはっ…!?」

 吐血した私の膝を蹴って霊夢は宙がえりをし、私から離れて地面に綺麗に着地する。

 立て直した小悪魔が、背後から霊夢が着地をすると同時に奇襲をかけた。着地と同時に霊夢は目を見張るほどの速さで動いて小悪魔の拳を何とかかわすが、頬を掠ったらしく。それだけで霊夢の顔が衝撃で跳ね飛ばされた。

「…っ!」

 それでも相当な痛みを頬から感じているのか、霊夢は歯を食いしばりながらお祓い棒を握りしめ、殴った体勢で防御することができない状態の小悪魔にお返しとばかりにお祓い棒で殴り返した。

 ドゴォッ!!

 妖怪が何か堅い物でも殴っているかのような、鼓膜を震わせるほどの大きな音が小悪魔から響いてくる。

 残り七秒。

 私は吐血した血を一気に呑み込むのではなく、分割して飲み込むことにした。そうすることにより状況によって血の力を使い分けることが可能となる。

 口の中にある血を少しだけ飲んで再生能力を高めて砕かれた肋骨を治し、再生が終わると同時に再度少量の血を飲み込み、体を強化した。

「おおおおおおおおおおおおっ!!」

 私は叫びながら小悪魔を殴って私を見ようとしていた霊夢を殴ると、私たちの相手をしていて息が上がってきている霊夢は反応が遅れ、わき腹に拳がめり込んだ。

「…ぐっ…!!?」

 霊夢が苦しそうに顔を歪めてわき腹を押さえて後ろに下がろうとしたが、小悪魔が一気に接近して霊夢の腕や肩に数回に渡って攻撃を与えることができた。

「…うぐっ…!!」

 霊夢が札を小悪魔に投げつけると同時に爆発させる。

「爆!」

 膨れ上がり、紅蓮の炎をまき散らしながら札が大爆発を起こし、その爆風に煽られた小悪魔が空中で宙返りをして立て直し、私のすぐ横に着地した。

「…大丈夫か?」

「ええ」

 短く受け答えをして霊夢に再度攻撃を仕掛けようとしたとき、霊夢が肩で息をして全身がズキズキと痛むのにも耐えながら、スペルカードに魔力を流してお祓い棒でカードを砕く。

 残り六秒。

「…霊符『夢想封印』」

 十数個の七色に光り輝く光の球が霊夢の周りに出現し、神々しく光を放ってまるで私たちに威嚇をしているようにユラユラと揺れている。

「小悪魔!やるぞ!!」

 私は急いで言いながら走り出そうとしたとき、体に何か異変が起き始めたのをすぐに感じた。

「っあ…?」

 体から力が抜け、私は受け身すらもとることができずに勢いよく地面に倒れ込んでしまう。

「……へ…?」

 小悪魔に寿命を渡しているときとは比較にならないほど、完全に体が脱力していて立ち上がるどころか指の一本すらも動かせなくなっている。

「魔理沙さん!?どうしたんですか!?…まさか!」

 すぐに察してくれた小悪魔が、倒れて立ち上がることも動くこともできない私に走り寄り、抱き起してくれる。

「…こんな……時に……!!」

 私が持っている全ての寿命を使い果たしたらしい。

「……っ」

 小悪魔の体にも影響が出始め、体が半透明になって薄く光り出す。

「…二人とも!!逃げて!」

 レミリアが叫び、私たちの方向に来ようとしているのを咲夜が必死に止めているのが視界の端で見えた。

 霊夢は大量の魔力を夢想封印に込めているらしく、今のところは動きはない。

 残り五秒。

 徹底的に私と小悪魔を殺したいのだろう。これ以上にないぐらい魔力を込めた光の球がいつもの二倍以上の大きさとなっている。

 霊夢の赤くオーラが尾を引いている瞳が私を眺め、口元をゆがめて笑っているのが夢想封印の球体の間から見えた。

「…く……!」

 小悪魔も私の生命エネルギーが尽きたことで、私を運ぶ余力もないのだろう。霊夢を見た後に視線を下げて私を見る。

「すみません、魔理沙さん……使いすぎました……」

「…なんで謝るんだよ……こうでもしなけりゃあ霊夢をここまで追い込むことはできなかった……それと…」

 私はそこまで呟いてから、視線を小悪魔から霊夢に向ける。

「魔理沙さん?」

 小悪魔はここで終わりと思っているのか悔しそうな表情のまま、私に言った。

「…小悪魔、まだあきらめるには早いぜ」

 私は呟いてから、大きく息を吸いこんで力を振り絞って大声で叫んだ。

「アトラス!!面白いものが見たいとか言ってたな!?…見たいなら、私の寿命を延ばせ!!」

 アトラスは別れ際に私のことを見ていると言っていた。だから、今もおそらく私のことを見ていることだろう。

 私はこの場にいない。“彼”と呼ばれている存在に向けて叫ぶ。それと同時に霊夢が夢想封印の光の球を全弾私たちに向けて発射した。

 これは成功するかわからないが、賭けだ。あいつは気分で私のことを生き返らせた。だから今の気分次第では、私の寿命を延ばすかもしれないし、私の寿命を伸ばさずにこのまま霊夢に消し飛ばされるのを眺めるだろう。

 だが、私には根拠はないが絶対に寿命を延ばすという自信があった。なぜなら、アトラスは自分がいる場所はかなり暇だと言っていた。できるだけ暇になりたくないあいつは、絶対に私の寿命を延ばすだろう。

 だが、まだ動くことができていない私たちの元に、光り輝く夢想封印の球体が押し寄せ、光で何も見えなくなってしまった。

「……遅かったか…っ!」

 私はあまりの眩しさに目を閉じながら呟いた。

 無想天生が解除されるまで、残り四秒。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十五話 刻む その②

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十五話をおたのしみください。


「……魔理沙ぁ!小悪魔ぁ!」

 レミリアの叫び声が聞こえた。それに混じって大妖精の絶叫も聞こえてくる。

 夢想封印の球体が爆発した影響で私の腕が一片の肉片も残さずに消し飛んでしまっている。さらに舞い上がった砂煙で視界も悪い。

 それでも、賭けは私が勝ったようだ。

 私の思いが届いたのか、あいつが単純に気分でそうしたのかはわからないが、寿命が延ばされた私と小悪魔の体は動くことができるようになった。

 手足が動くようになった私が小悪魔を見ると、私と契約でつながっている小悪魔の半透明だった体が生命エネルギーが送られたことによりいつもと同じに戻った。

「…魔理沙さん……これは……」

 小悪魔が困惑している。

 使い切った寿命がどこからか湧いて出てきたんだ。驚くのも無理はない。

 でも、私から聞いていた“彼”のことを思い出したのか、思ったよりもあまり混乱はしていないようだ。

「…小悪魔、霊夢も疲弊してる……押し切るぞ…」

 私がそう伝えると、小悪魔がうなづいて私と一緒に砂煙の中から飛び出した。

「霊夢ぅ!」

 レミリアたちも私たちと同じように始末しようとしていた霊夢に飛び掛かり、全力で私の拳を突き出して殴りつける。

 残り三秒。

「!?」

 私たちを始末したと思っていたのだろう。霊夢は油断していて、私のパンチを背中にもろに受けた。

「あぐっ…!?」

 突き飛ばされるようにして霊夢が前方に吹っ飛ばされ、前方に回り込んでいた小悪魔の拳を受け止めることができず、腹に食らっている。

 霊夢の体がくの字に曲がり、小悪魔が横から殴っていたため、右方向に霊夢の体は飛ばされ、地面を転がった。

「ぐ……あ……っ…!!」

 霊夢も人間であり、夢想天生と夢想封印を連続的に使ったことにより、かなり疲れている。疲れれば動きが悪くなるのは当たり前である。

 残り二秒。

 霊夢が転がりながら起き上がり、こちらを向こうとしたが、すでに走り出した私と小悪魔に札を投げつける。

「…!?」

 私たちに向かって投げられた数枚の札は、何枚かは叩き落とすことには成功したが、完璧にすべてを落とすことができなかった私と小悪魔の体の所々にまるでノリでつけられているように吸着した。

「爆」

 霊夢の淡々とした命令と共に、赤い炎を吹き出しながら何百倍もの体積に膨れ上がった衝撃をまじかで受けてしまう。

「うぐぁっ!?」

 後方にぶっ飛んだ私は地面に背中を打ち付けた後、地面と空を交互に何度も見てからようやく止まることができた。

 皮膚が焼け焦げる激しい痛みを感じたと思った直後、私は上空に霊夢の姿が見えたことに気が付く。

「…っ!」

 霊夢は魔力で足場を作り、私に向かって跳躍してくる。

 血を呑み込んで体を防御させようとしたが、素早い動きの霊夢のお祓い棒が私の顔に叩き込まれる。

「あぁぁっ!!…がはっ…!!」

 私は血反吐を吐き、何百トンという力で殴られたかのように体が地面にめり込んだ。霊夢が私を殴って地面にめり込ませた衝撃で、私を中心に地面に放射状にひびが入っていき、爆発でもあったのではないかと思うほどの砂煙が舞い上がる。

 私に当てたお祓い棒を持ち上げ、霊夢がしゃがみながら私の顔を左手で掴み、地面に後頭部を何度も打ち付けさせた。

「…っあぁぁぁぁっ!!」

 指の隙間から見える霊夢の赤い瞳が、あの時のように笑っているのが見えた。まるで、私が霊夢に殺された時のような状況だ。

 だがあの時とは違うところがあり、私にまだ反撃する力が残っているということだけが違うだろう。

 私は右手で拳を握り、霊夢に向かって振りぬいた。

 それを予期していたのか、霊夢は上体を下げて私の拳をすり抜け、それと同時に顔を掴んでいる手をどけて、上体を下げる力を利用して私に頭突きをかます。

「うぐっ!」

 お祓い棒を私に振り下ろそうとした霊夢に向けて、小悪魔が普通の人間ならば上半身と下半身が分かれるほどの威力で回し蹴りを放つ。

 残り一秒。

 その蹴りは霊夢の顔に直撃し、霊夢は十数メートルは距離はある木に衝突して倒れ込む。

 だが、霊夢はただ蹴られただけではなかったようだ。

 蹴られた瞬間、大量の札を私たちのいる場所にばらまいていたらしいが、今までとは比べ物にならないほどの量が私に押し付けられている。

「「っ!!?」」

 札を払い捨ててこの場所から逃げ出そうとしたとき、木を支えにして立ち上がっていた霊夢は嗤いながら呟く。

「爆」

 発生した炎、炎が発する超高温の熱、爆発による衝撃波、それらが同時に私と小悪魔に襲い掛かってくる。

 爆発の炎であるオレンジ色が視界を覆い、その爆発音に鼓膜が破れそうになりながら爆風に吹っ飛ばされてしまう。

 小悪魔よりも爆心地に近かった私の腕が進行方向に吹っ飛んでいくのは見えた。足の骨は爆発の衝撃波で粉砕してタコの足のようにグニャリと曲がったのが何となくわかり、爆風で体が浮き上がり、ものすごい勢いで地面と衝突してバウンドし、何度か地面にぶつかった。

 ようやく木の幹に背中がぶつかって止まることができても、腰椎と胸椎がすべて粉砕し、体が胸から下が動かすことができなくなってしまう。

「……っ…はぐ……ぁ……っ!!」

 倒れそうになった私は手を地面について立ち上がろうとしたが、そのまま大きくバランスを崩して倒れ込んでしまった。

「……あれっ…?」

 そこで思い出す。手はさっきの爆発で吹き飛んでしまったではないかと、両足の骨も砕けてねじれて地面に伸びている。

 霊夢の顔も体も半分しか見えていない視界に違和感を覚えた私は、触れることなくすぐに察した。顔の半分が吹き飛んでいるのだ。

 ゴボッ…

 と口だった器官から血を吐き出す。顎が顎関節ごと無くなっていて、それがちょうど足元に転がっているのがうつむいた私のちょうど視線の先にあった。

 舌も千切れていて、血を飲むことができない。ついている方の手で血をすくって呑み込もうとしたが、指が一本も残っておらず、喉に血を流し込むことはできない。

 そんな状態だというのに、私の血の能力が解けてしまう。

 このままでは、死ぬ。

 私の意識が揺らぎ、倒れそうになった私を瞬間移動でこっちに移動してきた大妖精が支えてくれた。

「魔理沙さん…!」

 大妖精の顔が引きつっていて、相当私の体はやばいことになっているのだと表情から私は悟った。

 

 残りゼロ秒。無想天生解除。

 

 私の意識が途切れそうになっていた時、大妖精が私の血液を手ですくって喉に流し込んでくれた。

 それのおかげで、私の意識がなくなる直前に血の能力によって魔力力が強化され、さらに夢想天生が解除されたことにより、魔力を使うことができるようになった私はすぐに腕や足、顔などをすぐに修復させる。

「…っはぁっ!!」

 霊夢が立ち上がろうとした私にすでに飛び掛かっていて私は殴られてしまうが、それと同時に私は霊夢を殴り返す。

「…か…はっ……っ!!」

 お互いによろけた私たちは地面に膝をつくか、木に背中を預けて体が倒れないようにして支える。

「…霊夢…っ!!」

 顔をお祓い棒で殴られたせいで砕けた顎と頬骨の一部が砕けた感覚がするが、私は治療をしながら霊夢に飛び掛かって再度攻撃を仕掛けた。

 まだ地面に膝をついて立つことができていなかった霊夢は私の攻撃を、いつものように避けることができない。

「終わりだぁぁぁぁ!!」

 私は叫びながら、避けることができない霊夢に拳を伸ばした。その瞬間に、伸ばしたはずの右腕の感覚が丸ごとなくなっていることに気が付いた。視界に見えるはずの腕がいきなり消失したことで、腕が一瞬のうちにもがれてしまったときが付くのに数秒の時間を要した。

「…なっ…!?」

 だが、それは霊夢の攻撃ではないことに私は気が付く、なぜなら霊夢は今頃立ち上がって攻撃を私にぶち当ててきたからだ。

 後方にぶっ飛んだ私は途中で後ろに現れた大妖精に瞬間移動で運ばて助けられ、レミリアたちの近くに連れてこられる。

「…大丈夫かしら?」

 レミリアがグングニルを構えながら私に言う。

「…何とかな……」

 私は呟きながら腕を再生させて霊夢の方向を見ると、私の腕を切断した人物が霊夢の近くにいるのが見えた。

「…ルーミア…ちゃん……?」

 森を出てすぐに襲って来た妖怪が霊夢の近くに立っており、それを見て驚いて言葉が出ないと言った様子の大妖精のかすれた声が小さく響く。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

少ししつこくてすみません。入れたいシーンをぶっコんでいたら長くなってしまいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十六話 闇

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。語彙力が欲しい。

それでもいいという方は第七十六話をおたのしみください。


 いきなり現れたルーミアに腕をひき肉のように潰されてしまった。でも、それが気にならないと言ったら嘘になるが、そのルーミアの姿を見て私は違和感を覚える。

 仲が良く、見慣れているはずの大妖精がルーミアを見て疑問符を浮かべているのは、私と同じ違和感がある、そのせいであるだろう。

 理由の一つとしては彼女のトレードマークと言える赤いリボンが無くなっていて、それのせいで彼女が別の誰かに見えたともいえる。

 そして、なぜ私たちがルーミアの姿に大きな違和感を覚えたかというと、身長の高さが私以上に高く、子供っぽい幼児体型でもなく手のひらで余るぐらいに大きい胸、それにくびれもあって、出てるどころは出て引っ込んでいるところは引っ込んでいて大人っぽく見えているからだろう。

「……」

 そして、霊夢の横に佇んでこちらの方向を紅いオーラを纏っている瞳で見つめている目からは何かやばそうな雰囲気を醸し出している。

「…魔理沙さん」

 ルーミアのことを見つめたまま、大妖精が私に小さな声で話しかけてきながら近くに歩み寄ってきた。

「…どうした?」

「ルーミアちゃんとは私が戦います……だから、私に魔理沙さんの血を少し分けてください」

 大妖精は静かに私に言った。

「…お前に倒せるのか?今のルーミアはそこらの妖精たちとはわけが違うと思うぞ…?もしかしたら、レミリアや咲夜並に強いかもしれない」

 いまだ攻撃を仕掛けてこないうちに話を済ませておきたかった私は、早口に大妖精に言った。

「大丈夫です」

 そう力強く答えた大妖精の方に私は視線を向ける。

「…わかった」

 大妖精は覚悟を決めたような表情をしていて、ダメと言っても引き下がらなさそうだ。理由はそれ以外にもあるが、私は大妖精にルーミアを任せることにした。

 いつ霊夢たちが動き出してもいいように、二人のことを注意深く睨みつけながら自分の親指に噛みつき、横に立っている大妖精にしゃがんで指を咥えさせた。

 大妖精の唾液で湿った舌が私の傷口とそこからあふれ出した血を舐め取っていき、彼女は慣れない血の味に顔をしかめながら飲み込んだ。

 血をゆっくりと嚥下した大妖精の力が増加し、こっちにまでそれが伝わってくる。

 大妖精の体が震え、体から異音を発しながら目を見開き、地面に膝が崩れ落ちて体を硬直させた。

「大妖精!?」

 膝を地面につき、体を抱えるようにして体を硬直させている大妖精に触れようとしたとき、大妖精の体に変化が起き始める。

「うぐ……うぁぁぁっ…!!?」

 大妖精が苦しそうな悲鳴を上げた。

 ビギッ……!

 大妖精の体に起こった変化は、霊夢の近くに立っているルーミアと同じように体が大きくなっていく。

 しばらく経つと大妖精の体の成長が止まり、彼女はさっきまで苦しんでいたのがウソのように軽快な動きで立ち上がった。

 立ち上がった大妖精の身長は私よりも高く、大きくなっているルーミアとどっこいどっこいぐらいの高さにまで高くなっている。

 私の顔の前に小悪魔とは言わないがそれなりに大きい胸があり、大妖精がかなり大きくなっていることを実感する。

「…魔理沙さん……血をくれたことに感謝します」

 今までの子供っぽい声ではなく、見た目通りの凛としていて大人の色っぽい声で大妖精が私に告げる。

「お…おう」

 いつもとは違う落ち着いる大妖精の様子に私はどぎまぎしながらも、返事をした。

「では……ルーミアちゃんは私が倒します…皆さんは霊夢さんをお願いします」

 大妖精がいいながらルーミアに攻撃を仕掛けようとしたとき、先に行動を起こしていたルーミアが私に能力を使った。

 私の視界からいきなり光が消え、何もかもが見えなくなってしまう。

「…は?」

 違ってはいるがルーミアの能力だろうという結論にはすぐにたどり着いた。しかし、ルーミアが能力を使った際の闇の広がりのタイムラグなどが確認できず、とりあえずルーミアから離れようとしたときに私は気が付いた。

 目が見えなくなっているのに気を取られていたせいで気が付くのが遅れたが、目が見えないだけではない。音が聞こえない。匂いを嗅いでも匂いを感じない。肌に触れている服の感覚や持っている棒の感触が無くなっている。そもそも、体が立っているのか倒れているのか、どの方向を見ているのか、いまどんな格好をしているのかすらもわからなくなっていた。

 ルーミアの能力は自分を中心に数メートルの範囲内で闇を操ることができる能力だったはずだ。なのになぜ能力が変化しているのか、どう変化しているのかわからず私の理解を超えている。

 全ての感覚がマヒしていて、平衡感覚が消え、レーザーを撃とうにも腕を動かすための感覚が消えているため、私にはどうすることもできない。

 唯一できることと言えば考えることぐらいだが、これでは攻撃を受けていても痛覚がないため攻撃を受けたか受けていないのかすらもわからず、ルーミアに食われていてもわからないのではないか。そう思うと、ぞっとして私はさらに混乱をしてしまう。

 

 

 魔理沙たちは知らないことだが、約二百年前。とある妖怪が幻想郷に生まれた。

 その妖怪は生まれつき高い魔力力と戦闘能力を備えており、さらに強力な能力にも恵まれていた。

 闇で覆う能力。

 普段私たちは光が物に当たり、その光が反射して色や物の輪郭などをとらえている。その光が無くなってしまえば、私たちは物を見ることができなくなってしまう。

 ルーミアの能力はそれを応用したものでる。

 自分の手で目を覆うと、手という物体に物理的に目を塞がれていて見えないということもあるが、完璧に光が手の隙間から入ってこないようにそれをすれば、完全な闇となり、塞いでいる手すらも見ることができなくなるだろう。

 ルーミアの能力はそれと似たようなものだ。

 目を闇で覆えば目が見えなくなる。それと同様のことがほかの器官や五感にできるとすれば、やられた相手はどうなるか。

 やられた相手はあらゆる感覚が闇で覆われ、立っているのかいないのか。座っているのかいないのか。倒れているのかいないのか。右を見ているのか左を向いているのか。息を吐いているのか吸っているのかすらもわからなくなり、ルーミアが能力を解除するしか抜け出すことができる方法はないだろう。

 そんな二百年前のルーミアは、少し前に魔理沙たちの前に現れた時と同じ格好をしていて、背が小さかったころとは似ても似つかない。それに漂わせている雰囲気も全然違う。

 なぜ、幻想郷のバランスが崩れるレベルの能力を持ったルーミアが力をなくし、低級の妖怪のようになってしまったのか。

 それは二百年前、初代博麗の巫女がルーミアを退治したとき、今までの妖怪とは違うと感じた巫女はルーミアにとある契約をさせた。

 存在を消し飛ばしてやらない代わりに、自分の後を継いだ博麗の巫女がもし妖怪に負けるようなことがあったら助けるように、と。

 ルーミアは、狂っていてもそのことだけは本能が覚えていたらしい。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十七話 相性

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十七話をお楽しみください。


 ルーミアに能力を使われ、あらゆる感覚がマヒした私の意識が途切れたと思ったとき、視界や聴覚、触覚などが元に戻っていた。

「…あれ…?」

 さっきの意識の途切れる感覚、あれは大妖精の瞬間移動の感覚だろう。私が大妖精のことを見ると、大妖精は私に触れるためにあげていた手を下げて言う。

「…皆さん…それでは霊夢さんをお願いします」

 大妖精はそう私に言うと、瞬間移動で姿を消した。

 ボッ!

 小さな破裂音を出しながらルーミアの目の前に大妖精が出現する。大妖精の握った拳がルーミアの胸に叩き込まれ、ルーミアを後方に吹き飛ばす。

 すぐさま大妖精の出現に反応した霊夢が、現れた大妖精に向かってお祓い棒を振り下ろした。お祓い棒の軌道が一本の線に見えるほどの速度で振るわれるが、大妖精は当たる寸前に瞬間移動をして消え去り、霊夢の攻撃をギリギリで避けた。

 上から下へ薙ぎ払われたお祓い棒は地面に触れていないというのに、発生した剣圧が地面にひびを入れ、爆発が起こったのと引けを取らないほどに砂を舞い上げる。

 十数メートル離れているこちらにまで砂煙が届き、それを少し吸い込んでしまった私は顔をしかめながら呟いた。

「皆、霊夢も疲弊してる……でも…もう少しだけ、頑張ってくれ」

 私は小悪魔たちに伝えると小悪魔たちは力強くうなづき、それぞれが得物を構える。

 大妖精は私たちの邪魔にならないように、ルーミアをこの場から連れ出してくれた。大妖精がルーミアを倒せようが、倒せまいが、これで終わらせるほかない。

 息切れを起こし、疲れ切っている私たちは最後の戦いにその身を投じた。

 

「…ルーミアちゃん……」

 私がルーミアちゃんに話しかけるとルーミアちゃんはそれに応えるように、お得意の闇で覆う程度の能力を私に使ってきた。

 ルーミアちゃんの能力はチート級の能力であり、全ての感覚を闇で覆うことができる。でも、どんなに強い能力でも弱点はある。

 ルーミアちゃんの場合は、自分が合わせている目の焦点部分に能力を使いたい人物を合わせなければならないなどだろう。

 目の焦点部分は、視界全体からしたら二十パーセント以下とかなり狭い範囲だが、それでも能力にかかってしまう時にはかかってしまう。

 だとしても私が瞬間移動という能力が使えるいじょう、ルーミアちゃんに勝ちはないだろう。

 ルーミアちゃんに攻撃をしようとした私は、彼女の闇で覆う程度の能力がかけられ、あらゆる感覚が使い物にならなくなってしまう。

 でも、それでも私は落ち着いていた。感覚を殺すことはできても私の思考を止めることはできない。

 私は頭の中で瞬間移動先の座標を計算して出し、自分の体をその位置に瞬間移動させた。

 一瞬の間だけ意識が無くなったような感覚がするが、瞬間移動が終了すると浮遊感を感じ、計算通りに私の体は上空に出現していて、ルーミアちゃんの能力が解除されていた。

「…」

 私は、私のことを探してるルーミアちゃんの真後ろに瞬間移動し、体がそこに出現すると同時にルーミアちゃんに向けて至近距離から弾幕を浴びせる。

 魔理沙さんの血の能力で強化されたため、いつもの自分からは考えられないぐらいの威力が弾幕で出てしまい、少し驚いてしまった。

 ルーミアちゃんの腕が私の弾幕で吹き飛ばされ、彼女もその衝撃で大きくバランスを崩して後ろに尻もちをついてしまう。

 ビジャッ!!

 鈴仙さんの狂気の能力が働いているせいで痛みなど感じていないのか、ルーミアちゃんは吹き飛ばされた腕のことなど見ず、立ち上がって私の方向に殴るかかってくる。

「ルーミアちゃん…ごめんね……少しの間だけ……我慢してね」

 魔理沙さんたちの戦闘で壊れてしまっていて足元に転がっている木材。それにしゃがみながら私は言い、触れた。

 ボッ…!!

 巨大な木材が消え、ルーミアちゃんの片足の中に出現し、彼女の足を根元から切断した。

 小さかった私の能力は生物を瞬間移動することはできるが、生物の中に何かを送り込むことはできなかった。それはとある理由で弱体化したせいであるため、それが一時的に解除されている今であれば、瞬間移動をうまく使えばこういう事もできる。

 ルーミアちゃんは片足で自重を支えることができず、受け身を取る事さえせずに体を地面に打ち付けた。

 木材に足を切断され、弾幕で腕を吹き飛ばされたことにより、ルーミアちゃんの体から大量の血がどくどくと流れ出始めている。

「ぎ…あ……あぐっ……!?」

 仰向けに倒れているルーミアちゃんは自分の手足を見て目を白黒させ、ある方の手足でもがいているが、近づいた私はルーミアちゃんの後頭部に拳を叩きこみ、気絶させた。

 ルーミアちゃんの体から力が抜けて地面に突っ伏していると、彼女の体が縮みはじめ、本当に気絶しているのだと分かった。

 そうしてルーミアちゃんの体が完全に縮むのを待っていると、私の目線の高さが下がってきているのに気が付いた。

 自分の手や体を見ると、手が徐々に小さくなり膨らんでいた胸もなくなっていき、視線がいつも見ていた高さと同じぐらいの高さとなる。

 時間はギリギリで、もう少し遅ければ負けていた可能性が高く、完全勝利とまではいかなかったが、私はルーミアちゃんの攻撃をほとんど受けていない。勝ち方としてはよくもなく悪くもないと言ったところだろう。

 でも、鬼にすら対抗できる能力を持ったルーミアちゃん相手にこれで済んだんだ。良しとしよう。私はそう思いながらため息をつき、気絶しているルーミアちゃんのことを見下ろした。

 

「…げほっ…!」

 咳と同時に肺から絞り出された血が口の中に吐き出され、口内に血の味が広がる。

 霊夢は以前、自分の切り札である夢想天生を使うとほとんどの魔力を使い果たしてしまうと言っていた。それは嘘ではないだろう。その時、霊夢に嘘をつく理由はない。

 なのに、この強さはなんだ。ボロボロで呼吸も大きく乱れていて、いつもの鋭さなどないはずの霊夢は立ち、地面に膝をついているのは私だ。

「…ばけもんかよ……!!……くそが…!!」

 私は毒づきながら、喀血で口元が血で濡れているため、手の甲でぬぐい取った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十八話 仲間の力

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十八話をお楽しみください。


「ぜぇ…ぜぇ…!」

 私をお祓い棒で殴った霊夢も殴られて地面に膝をついている私も、肩で呼吸をしながらできるだけ空気中にある酸素を肺に送り込み、相手よりもできるだけ早く回復を図ろうとするが、お互いにそれをさせないように走り出して打ち合いを始めて回復などままならない。

 以前の私なら、あの霊夢をここまで追い込めば晩飯に自分で赤飯をたくぐらいの功績ではあるが、今は霊夢に追いつくだけではだめだ。越えなければならないのだ。

「……」

 ドォッ!!

 私の持っている棒と霊夢の持っているお祓い棒が打ち合わさり、まるで花火が炸裂しているように辺りに綺麗に輝く魔力の塵をまき散らす。

 バギャッ!!

 いや、違う。まき散らされたのは魔力の塵だけではない。私が得物として使っていた棒の耐久性がついに限界に達したらしく、半ばからへし折れた。

「…っ!?」

 私は弾幕をばらまきながら霊夢から距離を取り、手に残っていた棒の一部を投げ捨てて状況の確認をする。

 私の中に感じるアトラスに増やしてもらった生命エネルギーもかなり消費している。この調子でいけばあと十分も戦えないだろう。

 魔力はとうの昔に尽きた。体力も底をつき始めており、走るのが厳しいと感じるほどに足が重く、鉛のようだ。その体を突き動かしているのは気力と信念のみ。

 しかし、その二つもダラダラと長引けば次期に底をつく。そうなれば勝利に近づくのは霊夢だ。

「……片を付ける……小悪魔ぁ!!」

 私は叫びながら走り出すと、小悪魔は別方向からレミリアや咲夜の援護の邪魔とならないように霊夢に向けて走り出す。

 霊夢もこれが私の最後の攻めだと察しているらしく目つきが変わり、持っている残りの札をすべて私に向けて投げつける。

 札が私に触れる寸前、上から飛んできたナイフがほぼすべての札に正確に突き刺さり、私に向かうはずだった札を咲夜が退けた。

 私はそのうちに一歩を踏み出して大きく進み、霊夢に近づいた。

 そこで魔力が底をつきてしまうが、私の本意ではないが非効率でありながらも私は生命エネルギーを魔力に変換して体を強化し、ボロボロの体に鞭を打つ。

 ほんの数メートルという距離が、何十メートルも何百メートルも距離があるかのように感じる。

 霊夢まで、三歩。

 私が大きく踏み出したことで霊夢との距離がぐっと縮まり、それと比例するようにして彼女から攻撃を浴びてしまう確率が上昇する。

 霊夢が私に向けて大量の弾幕を放ち、私は弾幕が自分に到達する前に口の中にある血を飲み込んで、脳の処理能力を強化した。

 脳が活性化し、見えている視界のあらゆるものの動きがスローモーションのように遅くなり始める。

「……」

 どの弾幕がどの方向からどの角度で、一つ一つの弾幕がどれだけのスピードでこちらに近づいているか、また直線と曲線では軌道の問題でわずかに生じる時間差。霊夢のホーミング付きの弾幕がどれだけ私を追跡する能力を持っているか。それらを全てたたき出し、計算上は弾幕を全て避けられる安全地帯に体を滑り込ませ、血を再度呑み込むことによって脳の活性化をリセットして魔力力を強化した。

 脳の活性化を解くと同時に弾幕の進行スピードが速くなって私に向かって飛ばされてくるが、計算をした通りに私には一発も当たることなく弾幕は通り過ぎていく。

 その隙に私はもう一歩大きく踏み出した。

 残り二歩。

 得物を持っている霊夢の方が射程が長く、私に向かってお祓い棒を薙ぎ払う。

 だが、そのお祓い棒は途中で静止することとなる。なぜなら咲夜とは別行動していたレミリアが真上から霊夢に接近しており、私を殴るはずだったお祓い棒をグングニルで受け止めてくれたからだ。

「…っ!!?」

 レミリアの接近に気が付くことができなかった霊夢は驚愕しながらもすぐに対応し、レミリアのグングニルをお祓い棒で殴り消し、それと同時にレミリアの胸にお祓い棒を一瞬のうちに二度も叩き込む。

「あぐぁ…っ!?」

 レミリアが悲鳴を上げ、私の視界から消え失せた。

 だが、私はそちらには目もくれずに押しを大きく前に出して霊夢に近づく。

 残り一歩。

 レミリアへの攻撃が終了した霊夢が魔力で赤く光っているお祓い棒を全力で私の頭部に向けて横から薙ぎ払う。頭蓋を容易に砕くことのできるその棒はまたしても私に当たることもなく、何かに防がれる。

 霊夢のお祓い棒は地面に埋め込まれる形でいきなり出現した鉄の棒により、それにあたったお祓い棒の動きが静止した。

 小さな破裂音を出しながら現れたその棒は大妖精の瞬間移動によるものだ。ルーミアとの戦いでこちらに加勢するほどの余裕はないと思われるため、大妖精はルーミアに勝ったようだ。

 私はそう思いながら地面を踏みしめ、もう一歩足を突き出そうとした。

 しかし、そのとき霊夢は私とはまだ一歩分の距離が開いているため、時間差的に多少近くにいる別の方向から接近していた小悪魔の方向に向かって魔力の弾丸を大量にばらまいた。

 その弾幕一つ一つは爆弾だったらしく、まばゆい光を放ちながら大爆発を起こす。数百倍に膨れ上がった空気の爆風に煽られ、疲れ切っている私の体は後ろに倒れそうになるが、皆が霊夢の攻撃を防いだりしてくれたおかげでここまで近づくことができたのだ。だから、この程度で後ろに下がるわけにはいかない。

 私は歯を櫛張りながら、また大きく一歩を踏み出す。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第七十九話 最後の敵

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第七十九話をお楽しみください。


「おおおおおおおおおおおおっ!!」

 私は雄叫びを上げて小悪魔を爆破した霊夢に向かって、残りの距離を詰めながら魔力と血で強化された拳を彼女に突き出した。

 まるで映画のワンシーンのようにスローモーションで進む私の拳は、彼女が振り下ろしてはじき返そうとするお祓い棒をミリ単位の誤差ですり抜ける。

 私の拳にお祓い棒を当てることができなかった霊夢の表情が驚愕を示し、見開いた眼で霊夢は自分に向かってくる拳を見た。お祓い棒は振り切っていて戻ってくるまでには時間がかかり、左手も私の拳を受け止めるには遠すぎる。

 攻撃を弾くことはできないと分かった霊夢は、私の腕の長さ以上の距離を放すことで拳をかわそうとする。だが、それを見越して吐息が当たる程度の距離にまで私は霊夢に接近し、拳を振り切った。

 霊夢の胸に向かって私の拳が吸い込まれていく。

 ドゴォォッ!!

 手ごたえありの霊夢を行動不能にするには十分すぎる一撃だ。

「…あ……ぐ……ぁ……っ!!?」

 私の拳が胸に当たったことで呼吸がままならないのか、霊夢は後ろにヨタヨタと二、三歩程度下がっり、口をパクパクと開いたり閉じたりしていたが、私に反撃するために使おうと持っていたお祓い棒をポロリと地面に落とした。

 カラン……

 霊夢の手元を離れたお祓い棒は重力に従って地面に向かって落ち、それが地面に触れると乾いた木の音が嫌に大きく響いた。

 霊夢が落としたお祓い棒の乾いた音が段々と小さくなりながら反響し、お祓い棒が落ちた音はすぐに聞こえなくなる。

 霊夢はそれでもまだあきらめていないのか、震える手で足元に落ちているお祓い棒を拾おうとした。

「いっけぇ!魔理沙ぁ!!」

 誰かの絶叫に近い叫び声が私の背中を押し、殴った衝撃と後ろに下がったことにより後退した霊夢に向かって私は飛び掛かる。自分がお祓い棒を拾うよりも私の到達の方が早いと判断したのか、霊夢はお祓い棒に向けて伸ばしていた右手を止めて握りこぶしを作る。

「「あああああああああああああああああああああああああっ!!」」

 私も霊夢も雄たけびを上げて右手で拳を握り私たちは、お互いに真正面から突っ込んだ。

 魔力で強化された拳が交差する。私の拳は霊夢の頬に直撃し、その影響で霊夢の狙いがわずかにズレて彼女の拳は私の頬を掠るだけとなった。

「………っ!!?……うぐ……っ……」

 霊夢の顔が殴ったことにより跳ね上がって上を見上げる。ほんの少しの間、彼女の体はその場で静止していたがすぐに体から力が抜け、私が殴った衝撃で後ろに傾きながら重力に従って霊夢の体が後ろに倒れそうになる。私は霊夢の体を倒れる前に掴んで倒れないように支えた。

「…………ようやく、助けることができたよ……」

 私は静かに呟きながら周りを見るとまるで時が止まっているかのように静寂に包まれている。

 その静寂を破るように、私の血の能力が切れて体の縮んだ大妖精がすぐ目の前に瞬間移動で現れ、私に全体重を乗せて飛びついてきたのをきっかけに、ボロボロのはずの小悪魔やレミリアまでもが私に飛びついてきた。

「うおぁ!!?」

 小悪魔と大妖精、レミリアと抱えている霊夢の重量に耐えられなかった私は、後ろに倒れてしまい。合わせて四人分の重量がのしかかってくる。でも四人のうち二人が子供ほどの重量で、残りの二人も女性ということであまり体重もなく、重さはあまり感じられない。

「やりましたね!!魔理沙さん!!」

 小悪魔が涙ぐみながら私に言った。霊夢を元に戻すのはこの異変を解決しようと動き出していたころからの目標だった。それを知ってた小悪魔は、私がようやくそれを成し遂げることができたと気持ちが高ぶっているのだ。

「…ああ……」

 夜明けが近くなり、明るくなり始まった空を見上げながら私は呟いた。視界の端で咲夜と永琳がふふっと微笑みながらこちらを見ているのが見える。

 私の腕の中にいる霊夢は寝ているときのように一定のリズムで呼吸をしていて、気絶しているのがわかる。彼女が目を覚ますのは早くても数時間後だろう。

「…三人とも、ちょっといいか」

 私は飛びついてきた三人に避けてもらい、霊夢を抱えて立ち上がりながら一言だけ呟いた。

「……解せん」

「…え?」

 嬉しそうにしていた大妖精が驚いた表情となり、私に聞いてくる。

「どういうことですか?」

 私は霊夢と繰り広げた戦いで荒れ果てた神社の庭を横切って神社の縁側、私が殺された位置とは少し離れた位置に霊夢を寝かせた。

 眠っている彼女の寝顔はとても愛しく、汚れた手でもうしなく思うが、頬を軽くなでて私は大妖精のさっきの質問に答えることにした。

「…あいつら……萃香たちはおかしくなった霊夢たちを使って何かに利用しようとしていたはずだ……なのに、霊夢がこうして負けたのにもかかわらず、まだ私たちが把握してない…黒幕が出てきていない……おかしくないか?」

 私はみんながいる方向に歩いて戻りながら私は話し出す。

「……確かに、萃香さんたちが異変を起こした理由もまだわかっていないですし……魔理沙さんの言う通り、鈴仙さんに呪詛をかけて自分のことをばらさせないようにした人物がまだ残っています」

 小悪魔がそう言ったとき、私はとあることを思い出した。

「…そういや、幽香と戦ってて軽く流していたんだが……ぬえと会ったんだ」

 私が言うと、その話を聞いた大妖精がこちらを見る。

「え…?でも、命蓮寺の方々は響子さん以外全員が死んだって、魔理沙さん言ってましたよね?」

 大妖精がそう言ったとき、様々な疑問が一つの線でつながっていく。聖たちの話などから、その黒幕の人物を私は割り出した。

「……もしかしたらというか、私たちは大きな間違いをしていたようだな…」

 私はこの場にいる全員を見回しながら呟き、ある一人の人物を見る。

「…だよな?永琳」

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第八十話 裏切り者

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第八十話をお楽しみください。


「…お前が異変を起こした首謀者なんだよな?永琳」

 私はそう言い永琳に最大出力でレーザーを放つと、それを見越していた永琳は素早い動きでレーザーの軌道上から逃げながら私に向かって矢を放つ。

 フヒュッと風を切る小さな音を巨大な矢が放ちながら、ほぼ一瞬で私の左肩の骨と肉を砕いて引き裂きながら深々と突き刺さった。

 永琳は私がレーザーを放つと分かっていても、弾丸とは言わないがそれぐらいの速度で撃ちだされるレーザーを完璧にかわすことはできなかったらしく、腹部に穴が開いている。だが、そうとは思えないほど素早く動く永琳は呆気に取られている小悪魔に掴みかかると小悪魔を私の方向を向かせ、自分は私のレーザーの餌食にならないように小悪魔の後ろに回り、彼女を拘束する。

「…っ……永琳さん……!」

 いつの間にか拾っていた咲夜の銀ナイフを小悪魔の首に添え、動いたら殺すと永琳は私たちに無言の圧力をかけてきた。

「……」

 私は永琳が銀ナイフを小悪魔に向ける寸前に、レーザーを撃っていた手を永琳の方向に向け、いつでも撃てるように準備を完了させる。

「…どうして私だと分かったのかしら?魔理沙……自分で言うのもなんだけど、完璧にあなたたちを欺いてたと思うんだけど?」

 永琳が言いながら、もがいて拘束を解こうとする小悪魔の後ろに回させた腕を捻りあげて小悪魔を黙らせた。

「…小悪魔、魔理沙と話しているのが見えないかしら?少し大人しくしてくれない?」

 永琳は捻り上げて動けなくなった小悪魔の耳元でそう囁きながら銀ナイフを小悪魔の首に這わせると、彼女の首にわずかに血がにじむ程度の傷がつく。

「…っ」

 わずかに痛みを感じたのか、銀ナイフが予想以上にひんやりとしていたのか、肩をビクリと震わせる。

「…お前が異変の首謀者だと気が付いたのはたった今だ……私が霊夢のところに来ないようにするために時間稼ぎでぬえと戦わせたつもりだろうが、間違いだったな……私が命蓮寺に行ったとき、ぬえは殺されて死んでいるはずだった……でも、ぬえはお前らの味方だった…そこから考えられるのは……ぬえが持ってきた情報自体がウソなわけだであるから、聖を異変の解決のために村に向かわせたんじゃあない…お前らに誘い出されたんだ」

 私は手の平を同じ高さに保ったまま、永琳が異変の首謀者だと気が付いた理由を話し始める。

「そこから、どうやって私につなげたのかしら?」

「…おそらく、聖の記憶はないが…萃香とは戦闘になったことだろう。…そのあと、聖が萃香に負け、ぬえが情報を持っているということを何らかの方法を使って聞き出した萃香に命蓮寺の連中は皆殺しにされたって読みだったが……違う。……命蓮寺の連中を殺したのは聖だ」

 光が発生してから聖は記憶がないと言っていたが、それは本当だろう。異変を解決しようとしているのに聖がウソをつくメリットがない。

 戦闘中かもしくは戦闘後に萃香に何かを言われ、命蓮寺に聖は向かった。

 たぶん、光を見ておかしくなってしまった奴らから正常な人間、妖精や妖怪を助けるために大急ぎで聖は戻ったのだろう。そこでぬえに教えられた情報がウソだったとわかった聖は本気でキレてぬえを殺そうとした。頭に血が上ると周りが見えなくなるあいつの性格から、聖は自分の教え子を全員皆殺しにしてしまったのだろう。

 聖を村に呼び出した理由は光を見させて仲間にしたかったとかだろう。でも運よく光を見なかったため、命蓮寺の連中の大部分が光を見なかった時のためにぬえがウソをついていたとバラして聖を怒らせて戦わせて、まとめて不安分子を消させた。

「…小悪魔たちはまだいなかったから知らないことだろうけど、私たちが命蓮寺に行ったときに聞いた話だが、唯一の生き残りの響子が床下で永琳の名前を呼ぶ声を聴いたと言っていた。それが聖だろう」

 聖は記憶を消されていた。なんかしらの薬品を使って記憶障害を起こさせることなど、永琳ならば赤子の手をひねるよりも簡単なことだろう。

「…聖は命蓮寺から出て、光を見る辺りまでしか記憶がないらしいが…命蓮寺に戻ってきて、永琳の名前を言って永琳に挑みに行き何らかの薬で記憶障害を起こさせられたのなら、つじつまが合う」

 私がそう言うと、永琳は納得がいっていないようだ。

「響子が萃香が命蓮寺の人たちを皆殺しにして、次の獲物を私に決めてたまたま呟いたのを聞いただけかもしれないじゃない」

 永琳の意見に私は即座に反論する。

「いや、そもそも萃香が命蓮寺の奴らを皆殺しにする理由はない。ぬえは仲間なわけだから、自分たちが不利になったりするような情報は流さないはずだからな……命蓮寺はぬえに任せて自分はいかないだろうな」

「…」

「…でだ、命蓮寺で暴れた聖が我に返った時、永琳の名前を言った。そのつながりは、異変の首謀者の名前じゃあないのか?」

 そう呟き、さらに私は永琳に向けてひとこと言った。

「……それに、お前さ…霊夢を相手にしてるのに…無傷はありえねぇだろ…」

 私が言うと、永琳は瞳だけを動かしてレミリアや私、大妖精の服などの様子を見る。違いは一目瞭然だったらしく、永琳はしまったという表情をする。

 土の土埃や爆発の煤、血で汚れている私たちの服装を見た後、永琳の服を見るとずいぶんと綺麗に見えた。

「…ぬかったわね……」

 永琳が歯噛みし、小悪魔の首に銀ナイフを構えたまま小さくため息をつく。

 これは、永琳が援護射撃しかしないからかもしれないが、それでも霊夢相手に無傷はあり得ない。それはあまり戦線に出ていなかった大妖精ですら怪我をしているからだ。

「…永琳、霊夢が倒れ、萃香や勇儀もいない……もう、諦めろ」

 私がいうと永琳は、私のことを鋭い目つきで睨みつけて小悪魔の首筋にナイフを少し這わせ、生命エネルギーで回復していた傷の上にさらに傷がつけさせる。

「…まあ、だよな…諦めるわけがないか」

 いよいよ永琳に向けてレーザーを撃つために正確に狙いを定める準備を始めるが、この状況ではレーザーを撃つために手のひらで魔力を溜めれば溜めるほど、手先から放たれる光が強くなる。そのため、永琳が頃合いを見て私がレーザーを撃つ前にナイフを振る方が圧倒的に速いだろう。

「……」

 咲夜の持っている本物の銀ナイフは手入れがきちんと行き届いているためかなり切れ味が高く、人の腕や足を切り落とすのは多少の力はいる物のできないことはないという。首を切り落とすことなどわけないというわけだ。

 レミリアもグングニルを出していなかったため、出して投擲もしくは斬りかかっているころには小悪魔の首は地面に転がている。咲夜も時を止めるのにはすさまじいほどの集中力と魔力が不可欠であり、小悪魔が人質に取られていつ殺されるかわからない状態でいつもの通りに時間の停止ができるかわからないし、そもそも魔力の量が足りずに時間を静止させることは不可能だろう。

 この中で小悪魔を助けることができる確率が一番高いのは、大妖精の瞬間移動しかない。小悪魔は片手をねじられて背中側に回されているため、自力で抜け出すことはほぼ不可能だろう。だが、抜け出す機会を伺っている。どうにかして永琳の小悪魔を掴んでいる手を放させるか緩めさせれば、あとは彼女自身でどうにかしてくれるはずだ。

 小悪魔のナイフに触れている首筋の治ったそばから銀ナイフで傷がつけられている部分から血が滲んで、銀ナイフを紅く濡らす。

 このまま手入れもせずに銀ナイフを放置すれば、血や脂で刃の酸化が促進されて使い物にならなくなるだろうが、そこまで待っている時間はない。さとりたちだって幽香を抑え込むのがやっとという状況だった。時間をかければさとりたちも危ない。

 ここは大妖精の瞬間移動に頼るしかなさそうだ。

「…」

 大妖精もそれを察してくれたわけだが、こんな状況では誰が攻撃を仕掛けてくるかは永琳ならとっくの昔に割り出すことができているだろう。

 小悪魔の命がかかっているため、一か八かの作戦はできるだけ取りたくはないが永琳がこの後どう動くか私には予測がつかない。人質に取っている小悪魔をいきなり殺してしまうかもしれない。そなってしまう前に永琳をどうにかして倒さなければならない。

 私が思った直後、動き出そうとしていた私たちの気配を察知した永琳がゆっくりと言葉を口にした。

「…私に攻撃を仕掛けるつもりなんでしょうが、止めておきなさい。私に攻撃してくる奴の本命なんてすぐに想像がつく、そいつが少しでも動けば小悪魔の命はないわよ?」

「…っち」

 咲夜が何もできない自分に苛立っているのか、持っている銀ナイフを握りしめて舌打ちを漏らす。

「……おい、永琳」

 私が呟くと、永琳は全体を見渡しながら私の方向を見る。

「…お前にも引けない理由があるのはわかる…私が自害できないのと同じでな……お前も戦わずに異変を諦めるわけにはいかない…だよな?」

 私が聞くと、永琳は私を睨みつける。

「…ええ…私は最後の一人になっても、この異変を完遂させなければならない…そのためにはあなたたちを全員殺す」

 永琳がそう言って小悪魔の首を切断しようと、右手に持っている銀ナイフを握り直し、小悪魔に押し込もうとした。

「…!?」

 小悪魔がもう片方の手で抵抗をするが、体力を消耗している小悪魔とほとんど怪我をしていない永琳では力の差は歴然である。それに加え、小悪魔が掴んでいるのは銀ナイフの刃の部分だ。強く握れば指が落ち、弱く握れば喉を掻っ捌かれてしまう。

 小悪魔が何とか銀ナイフを掴んでいられているうちに助けようとするが、距離が遠すぎる。

「やめろぉぉっ!!」

 私たちが走り出し、小悪魔が永琳の手から逃れようと抵抗を見せるが、今更もがいたところで意味はない。ナイフを掴んでいる左手から血を溢れさせながら押し返そうとするが、血でナイフの刃が滑って小悪魔の首に銀ナイフが突き刺さった。

「………っ!!」

 小悪魔が驚愕して恐怖で顔をゆがめ、両目をギュッと閉じた。

「やめろぉぉぉぉぉぉっ!!」

 私の絶叫を無視した永琳が銀ナイフを小悪魔の首筋に突き立てて皮膚を切り裂き、肉を切断し、背骨ごと小悪魔の首を両断しようとした。彼女が腕を振り切り、切断されたものが地面に落ちた。

「…っ」

 だが、落ちた時に地面と接したその落ちた物は金属音を鳴らしながら転がる。

「…え?」

 何が起きたかわからない。永琳や小悪魔がそんな呟き声をもらし、私たちも訳が分からない状態である。

 誰だってそうなるだろう。地面に落ちたのは小悪魔の首なんかではなく、銀ナイフを握っている永琳の手首が転がっているのだから。

「…な…っ!?」

 切断された永琳の手首から吹き出した大量の血が、拘束していた小悪魔の肩にこびりつく。

 永琳は自分の手首が無くなったことに動揺して小悪魔の拘束を緩めたらしく、そのチャンスを見逃す小悪魔ではない。ナイフを掴んで自らの血で染まっている左腕を曲げ、後ろにいる永琳の脇腹に向けて肘を振りぬいた。

「あぐっ…!!?」

 永琳に掴まれている手が離された隙に小悪魔がすぐに掴みかかってこないように振り払い、振り向きざまに握った拳を永琳に叩き込んだ。

 小悪魔に殴られたことでのけぞった永琳が後ろに倒れ、そのうちに小悪魔が血が流れ出ている首の傷を押さえながら永琳から距離を取る。

「ぐ…ぅ……」

 殴られた永琳が唸りながら鈍痛に耐え、起き上がりながら自分の足元に転がっている手首を拾い上げた。

「……まさか……あなたが人助けをするなんてね…とんだ誤算だわ」

 永琳は小悪魔を窮地から救った女性を恨めしそうに睨みつける。

 私たちも予想の斜め上をいく人物が小悪魔を助けたということに、驚きを隠すことができない。

「…せ……正邪…さん……!?」

 赤色と白色のメッシュが黒色の髪の毛に混じっていて、ワンピースのような服を着ている少女のことを見間違えるわけがない。小悪魔を助けたのは正邪だ。

 正邪に助けられた小悪魔が驚きの声を上げながら彼女の名前を言った。

 




たぶん明日も投稿すると思います。

長かったので二つに分割しようとしたけどできませんでした。申し訳ございません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第八十一話 決まった運命

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第八十一話をお楽しみください。


「正邪……さん…?」

 小悪魔や咲夜など、正邪の性格を知っている者は驚き、もしくは困惑している。人助けなんかとは一番無縁の人物だからだ。

「お前……本当に正邪か?」

 私が永琳の腕を吹き飛ばした正邪に言うと、天の邪鬼はこちらをちらりと見てから首を押さえて出血を生命エネルギーで止めさせた小悪魔に視線を向けた。

「…あたしはあの地下道で小悪魔に、お前から助けられた借りがある……それを返しに来ただけだ」

 その正邪の言葉に、こいつが本当に正邪なのかがさらにわからなくなってくる。

「…私の知る正邪は人の嫌がることを好き好んでやり、恩を受けたとしても絶対に恩を仇で返す様な奴だ……何の気の迷いだよ…正邪」

 私がそうきっぱりと正邪に告げると、彼女は苛立ったように頭をガリガリと掻きながら言う。

「うるせぇ、あたしだってらしくないことをしたって思っているよ。人助けなんて、これが最初で最後だ」

 正邪はそう吐き捨てて博麗神社から飛び去った。

 あいつは今まで命を救われた。そんなことされたこともなかったのだろう。初めからひねくれたやつで、そんな彼女を受け止めてくれるものなどいなかった。本当は誰かと仲良くしたい。でも、自分のひねくれた性格のせいで本心が言えない。そうやって友人をなくし、誰からも拒絶され、正邪も友人をなくしたときの孤独感から自らを守るためにあえて周りを拒絶した。

 素直になれなかった正邪にも悪いところはあるが、誰も彼女を理解しようとしなかった。その結果が今の正邪を作り出しているのかもしれない。もしかしたら、根は良いやつなのかもしれない。

 私がそんなことを飛び去る正邪の後ろ姿を見ながら思っていると、その正邪を罵る声が聞こえてきた。

「……正邪め…最後の最後で裏切りか……所詮あいつはひねくれた天の邪鬼ね…」

 永琳がバックから取り出した瓶の蓋を開け、片手で器用にちぎれた手の切断面と腕の切断面をくっつけて、取り出していた薬を振りかける。

「自分が人のこと裏切ってるんだ。自分が裏切られたぐらいで喚くな」

 私は言いながら注意深く永琳を観察すると私の血の能力よりは遅いが、少し時間が経つと永琳の手は握ったり開いたりすることができるぐらいには動かすことができるようになっていた。

「…この人数が相手じゃあ、さすがに分が悪いし…退かせてもらうわ」

 永琳がそう言いながら私たちに背を向けて逃走を始める。

「待て!」

 永琳を追うとレミリアが走り出そうとしたが、私はレミリアが永琳を追わせないように彼女の前に立ちはだかった。別に永琳を助けたわけじゃあない。

 数十秒追いかければ捕まえることができたであろう永琳がどんどん離れて行く。

「魔理沙!あなた何のつもり!?」

 レミリアが森の中に消えて行く永琳を見た後、私を睨みつける。

「今は深追いはしない方がいい。それに、魔力があんまり残っていないお前が行ってもすぐに魔力を切らして足手まといのお荷物になるだけだぜ…お前はここで休んでろ…」

 私は言って何か焦っているようにも見えるレミリアをとりあえず冷静にさせようとなだめるように言う。

「なら、魔力が切れる前にあいつを倒すまでよ」

 レミリアがぎろりと私を睨む。レミリアは冷静な判断ができていない。パチュリーを殺されてその元凶である永琳を倒したいのはわかるが、このまま冷静さを欠いて戦えば永琳の手のひらで踊ってしまう。

「…何をそんなに焦っているのかは知らないが……、そう焦るな…そう言うときほど急がば回れだぜ?」

 私が言うと、レミリアは重苦しいような顔で私を見上げて呟き始める。

「…落ち着いてなんていられないわ…!」

 いつも冷静でいることの多いレミリアがここまで動揺して取り乱しているため、何事だと小悪魔や咲夜がレミリアに注目した。

「お嬢様、どうなさったのですか?」

 そう問いかけた咲夜の方向を見てから私に視線を戻し、一呼吸間をあけてからレミリアははっきりと私に言い放った。

「…魔理沙………あんたは…死ぬ」

 年端も行かない少女に見える吸血鬼は、医師が患者に死を宣告するように重々しく告げる。

 あんたは死ぬというレミリアが言った言葉の意味を理解するのに、私は十数秒という長い時間を要した

「…え?…嘘……ですよね…?……お嬢様……」

 小悪魔が死の宣告をされた私以上にショックを受けた様子で、震えた声でレミリアに聞き返す。

「詳しく言うなら殺される。だけど、誰かは私にもわからなかった…でも、この状況なら永琳に殺されるんでしょうね……だから、あんたは永琳のいるところに行っちゃいけないわ」

 背の低いレミリアが見上げて、鋭い爪が生えている小さな手の人差し指で私を指さしながら言う。

「…そう言うわけにもいかないぜ……永琳が異変をやめることのできない理由の半分は私のせいでもあるからな」

「…魔理沙……あんたは馬鹿ではないでしょう…!?…私が言っている意味が分からないわけじゃないでしょう!?運命が変わったのよ!?」

 レミリアが私の胸倉を掴んで訳の分からないことを怒鳴ってくる。

「…運命が変わった…?……それは何のことだ?」

 私が言うと、レミリアは少し驚いたような顔をして呟く。

「…霊夢に何も聞いてないの?」

 レミリアの言っていることの意味が分からず、私がうなづくとレミリアが順を追って説明を始めた。

「始まりは三か月前、私はあるヴィジョンを見た……それは、霊夢が死んでいるっていう映像だった……でも、さっき魔理沙が爆破された時に飛んできた血が少しだけ口の中に入ってきて、飲み込んだと思ったらいきなり力が増幅して、新しいヴィジョンが見えた」

「…新しいヴィジョン……」

 その話の結末を何となく察した私は、そうではなくなってくれと心の中で思いながらレミリアの話に耳を傾ける。

「…霊夢が死ぬはずだった運命が変わって、魔理沙が死ぬ運命になった」

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第八十二話 お別れ

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第八十二話をお楽しみください。


 お嬢様が手に持ったグングニルを振り上げて、数メートル先に立っている戦闘態勢へとなっていく魔理沙さんに切りかかる。

 少し離れた位置にいる私にさえグングニルの熱気が伝わってきて、私は顔をしかめるが魔理沙さんは眉一つ動かさずにそれに対応した。そして。

 お嬢様と魔理沙さんの戦いは物の数秒で決着がついた。

「く…ぁ……っ…!!」

 魔力が付きかけていたお嬢様の負けだ。

 直接的な戦闘で二人がかりで霊夢さんと戦っていた魔理沙さんは、お嬢様のグングニルを持っている手を拳で殴り、まったく別方向に弾き飛ばし、もう片方の手で握りこぶしを握って魔理沙さんはお嬢様の胸に拳を叩きこむ。

「…く……っ!!」

 お嬢様が胸を押さえて地面に倒れるのを魔理沙さんは一瞥してから、私たちの方向を見ながら手のひらをこちらに向ける。

「…!?」

 レーザーでも撃たれるのかではないかと思った私と、すぐ横にいた大妖精さんが肩をビクリと震わせた。

 だが、魔理沙さんはレーザーを撃たずに、私にはわからない言語を一言だけ呟く。

「umringen(囲め)」

 魔理沙さんがそう呟くと私たちと魔理沙さんの間を白く輝く線が地面をなぞり、物理的な防御力を持つ結界が見上げるほどの高さで形成される。

「…え……?…なんですか…これ…」

 私が呟いた時、結界の近くにいた大妖精さんがこの結界をドアをノックするようにして叩く。

 すると、鉄の頑丈な扉でも叩いているような硬い音が聞こえてくる。

「見た通り、これは結界だぜ…森にいる永琳ごとこの辺りの地形を全部囲った」

 私の質問に答えた魔理沙さんはそう言うと、永琳さんが走っていった方向に歩いて行こうとする。

「どういうつもりなんですか!?魔理沙さん!!…なんでこんなことをする必要があるんですか!?」

 大妖精さんが固くてびくともしない結界を、拳で何度も叩きながら魔理沙さんに大声で叫んだ。

「…そりゃあ、お前らに来てもらっちゃあ困るからだぜ……レミリアと咲夜は魔力切れで戦力になりやしない。小悪魔は私と寿命を共有して使っているから、残りの生命エネルギーからして二分…下手したら一分もまともに戦えないかもしれない。…全力を出そうとしたらもっと短くなっちまうから二人で戦うことはできない…」

 魔理沙さんが言うと大妖精さんは、引かずに魔理沙さんに噛みつく。

「…なら私が一緒に戦います!!…魔理沙さんの邪魔にはならないはずです!」

 大妖精さんがそう言うが、魔理沙さんは首を縦には振ってくれない。

「…霊夢だって気絶してるし、私たちが永琳所に行ってるときに狂った連中が来たらどうするんだよ。……だから、レミリアたちはお前が守ってくれ、大妖精」

 魔理沙さんが大妖精さんに優しく言った後、私の方を見た。その彼女の瞳を見て、私はある人を思い出す。

「だめ…駄目ですよ……行っちゃだめです…!魔理沙さん…あなた…死ぬ前に見たパチュリー様と同じ目をしています…!!」

 私も大妖精さんのように結界に近づき、魔理沙さんに叫んだ。彼女は、死ぬ気なのだ。

「…」

 しかし、魔理沙さんは私たちがどんなに叫んでも、一向に考えを変えてくれない。

「行かないで下さい!もし、永琳さんを倒すことができたとしても…あなたは生きるつもりなんてないんじゃあないんですか!?」

 私は無駄だと分かっていても、結界を何度も殴りながら魔理沙さんに言うと、魔理沙さんは小さくうなづきながら言った。

「…かもな……」

 そう呟いた魔理沙さんの言葉に大妖精が感情をむき出しにして怒鳴る。

「魔理沙さん!私言いましたよね!?あなたは殺してきた人たちのためにも生きなきゃいけないって…!魔理沙さんは……どんなに残りの人生が短くても…あなたは自分の命を無駄にしちゃだめです!!」

「…ああ……でも、一方的で悪いが…その約束は守れそうにはないな……」

 目の前にいる魔理沙さんを殴って目を覚まさせてやりたいのに、結界のせいで魔理沙さんのところに行くことができず、苛立ちだけが募ってゆく。

「ふざけないでください!!少しでも罪の意識を感じてるなら…一人で行こうとなんてしないでください…!!」

 大妖精さんが瞳に溜まった涙をボロボロと流しながら更に言った。

「…こんなのって無いですよ…!今まで一緒に戦って来たのに……最後の最後でこんなふうに自分だけを犠牲にするつもりだなんて……格好つけるのもいい加減にしてくださいよ…!!」

 大妖精さんは泣き叫びながら結界をこれでもかというぐらい殴り、皮膚が赤く腫れている。

「…大妖精…さっきも言ったが永琳が異変をやめられないのは半分は私のせいだ……私が鬼を十数人殺したことで、死んだ鬼たちのためにも永琳は異変を続けている。…そうさせちまってる私がそれを終わらせないといけない……何というか……けじめ、みたいなもんだ」

 魔理沙さんがそう言うが、大妖精さんは納得していないようで、涙を流して眉を吊り上げ、弱々しくいった。

「……幻想郷を救った魔理沙さんがいなきゃ……意味ないじゃないですか…!!」

 大妖精さんはさっきとは違い、静かに震える声でひゃっくり交じりに呟く。

「…すまねぇ」

 魔理沙さんが申し訳なさそうに呟きながら私たちに背を向け、永琳さんが言った方向に歩いて行こうとする。

「…ぁ………っ」

 私は結界があるのも忘れて、歩み去ろうとしていた魔理沙さんに向けて手を伸ばすが、すぐに結界に当たって止まってしまう。

「…私を……」

 魔理沙さんの死に向かって歩いて行く姿が、私を置いて行ってしまったパチュリー様の姿に重なった。

「…私を……置いて行かないで……」

 私の見ている視界が歪み、いつの間にか涙を流していた。小さく蠟燭の消えかけの火のようにか細く、震えた声で呟いた私の懇願が聞こえた魔理沙さんは、足を止めてこちらに振り返って言った。

「…二人とも、すまない……こんなふうなやり方しか…私はできないんだ………最後の最後ですまない…」

 魔理沙さんの最後を感じさせる言い回しに、私は涙が止まらなくなってしまう。

「酷い……酷いですよ………」

 そう呟いて結界に触れていた私の手のひらに、魔理沙さんは自分の手のひらをゆっくりと重ねた。

 結界越しで感じるはずのない魔理沙さんの肌のぬくもり、それをわずかに感じた気がして私は結界に強く手のひらを押し付けて彼女のぬくもりを強く感じようとするが。

「……こんなやり方しか知らなくてすまない」

 魔理沙さんはそう言いながら結界から手を放して離れてしまう。魔理沙さんが離れたことにより、今まで感じていたぬくもりが消えてしまい。もっと触れていたい、もっと彼女のぬくもりを感じたいという欲求が膨れ上がると同時に、寂しい。といった心情も大きくなり、それらを抑え込もうと結界に触れていた手を握りしめようとし、指先に生えている爪が結界を軽くひっかいた。

「…レミリア、小悪魔をよろしく頼む……あとで契約をしてくれ」

 魔理沙さんは一方的にお嬢様にそう伝えると、返答を待たずに走りだす。

 誰かに何かをしてあげることが不器用で優しい魔理沙さんのその後ろ姿は、私が見た生きている彼女の最後の姿だった。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第八十三話 一騎打ち

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第八十三話をお楽しみください。


 

「…ずいぶんと遅かったわね」

 腕を正邪に切断されて、血液を流しすぎたのだろう。貧血気味で青い顔をした永琳が走って森を向けてきた私に言った。

「…ああ、お前と違って別れを言わないといけなかったんでな…」

 私はそう呟きながら、何をされても対応できるように一定の距離を放し、警戒しながら永琳に気になっていたことを聞いてみることにする。

「…一つ気になったんだが、なぜさっさと自分のしたかったことをしなかったんだ?…期間は十分にあったはずだ。私が出てくるまでの一日、それに私と小悪魔が牢屋に入っていた一日の間に自分のしたいことをできたはずだ……なのになぜしなかったんだ?」

 私が言うと、永琳はつがえて構えていた弓矢を収めてから答えた。

「…魔理沙、あんたもなんとなくわかってると思うけど……鈴仙の狂気の能力は感情やその人の思いに強く影響されて左右される……まさかそんな風になるなんてね、誤算だったわ…」

「…なるほどな……狂気の能力で皆を支配して何かをさせようとしてた…でも、全く言うことを聞かなくて計画が大きく狂って頓挫したっていう事か…」

「…ええ」

 永琳がうなづき、私はもう一つの質問を投げかける。

「…それと、お前がそこまでしてやろうとしている計画……目的やその理由がわからないな…」

 勇儀や萃香も異変の理由は知らなかった。だから、気になったのだ。

「……目的と理由…ね……この際だから教えてあげるわ……どうせもう終わりだしね……魔理沙は私がもともと月の都にいたことは知ってるわね…?」

「…ああ」

 やっぱり月が関係している異変だったか。私はそう思いながら永琳の話に耳を傾ける。

「私は輝夜に不老不死になれる薬を作ってと頼まれた。……でも、その薬を使うことは月の都では重罪になる…」

 こっちにはない月の法律のようなものもあるらしく、いろいろと面倒くさそうだ。

「それを輝夜は飲んで月から追放された。本来は不死の薬を使った人物は死罪であったけど…身分もあって、輝夜は何とか殺されずに済んだ……でも、月にいる頭の固い連中が変えて輝夜を何時か殺しに来るかもしれない……そんな不安がずっと付きまとってた……輝夜は不老不死だから、殺されても死なない…だから、死なない輝夜に死ぬよりもつらい罰を与えられるかもしれない…そう思うと不安で仕方がなかった…」

 永琳は聞くところによると数百年も前から、迷いの竹林の永遠亭でひっそりと住んできた。

 その長い間、ずっと不安を抱えたまま過ごしてきた永琳のストレスは私には想像もできないほどの物だろう。

「今から何百年前……月を支配しようとした萃香たちが月に攻め込んだと聞いた。……でも、月の兵士たちとの圧倒的な戦力の差に…撤退を余儀なくされた。……ここまで言えば、なぜ私が萃香たちと手を組んだのかわかるわね?」

 永琳の話を聞きいた私は、全ての情報をまとめてから話した。

「ああ、お前はいつ輝夜を殺しに来るかわからない月の兵や住民を殺してほしい。萃香たちは月の都を支配したい……目的は違くても敵は同じだったわけだ……お前はそれに付け込んで萃香たちを利用した」

 私がそう言うと永琳はだいたいあっているな、と小さくうなづきながら、少しの間を開けてから言った。

「…まあ、あれだけ緻密な作戦を立てて、こんな小娘に計画を潰されるとは思わなかったけどね……」

 永琳はそう言いながら、私のことを恨めしそうに睨みつけてきた。

「…」

 その言葉で、霊夢が死ぬはずの運命がなぜ変わったのか、何となくわかった。

 本当は、私の運命は神社で霊夢に殺されるというものだったのだろう。しかし、アトラスと言うイレギュラーな存在が介入したことにより生き返った私は、霊夢が歩むはずだった永琳たちが月に攻撃を仕掛け、いわゆる戦争に巻き込まれて殺されれるはずだった運命を変えた。

「…」

 霊夢を助けるために戦ってきたというのに、自分がそれで死んでしまっては笑い話にもなりやしない。私はそう思いながら一枚のスペルカードを取り出す。

「……。……永琳、お前が引く気がないことはわかっていることだ……だから、私と最後の勝負といこうじゃないか……お互いに攻撃をし合って、先に倒れた方の負け、そう言う勝負をしないか?……私はもう長時間戦える余裕はない」

 私がそうやって永琳に提案を持ちかけると、彼女はフンっと鼻で笑って呟く。

「自分が長いことを戦えないことを打ち明けるなんて、とんだおバカさんね。一対一なら私の方が有利だというのに、わざわざ不利にもなる状況になるわけがないでしょう?」

 永琳が弓矢を構え、キリキリと矢を引き絞る。

「…そう言うって知ってた」

 私はそう言いながら、永琳にはわからないように口内詠唱で魔法のスペルを唱えて保留にしていた魔法を発動させた。

 だがそれは魔法と言えるが、魔法ではない。呪いの一種、いわゆる呪詛というやつだ。

「なっ!?」

 永琳の胸の心臓がある辺りに私の手のひらから発生した黒い霧が、高速で移動して吸い込まれていく。

「その呪詛には、ある命令をした。私がお前よりも先に倒れたら呪詛は解除されるっていうな。永琳が先に倒れれば、呪詛は解除されずに保留されてこれから先、異変を起こしたらまた呪詛が発動するようになっている。もし、私と戦うことを拒否したりしたら死ぬよりもつらい目に合うことになるぜ」

 私が説明をすると、永琳は苦虫でも嚙み潰したような表情をして私に呟く。

「…わかったわ……すぐにお前を殺して、死んでいった鬼たちの仇を取ってやるわ」

「…」

 私は生命エネルギーを魔力に変換し、魔力を流したスペルカードを動かない体を無理やり動かして握りつぶした。ガラスのように割れ、風船のように弾けたスペルカードを横目に、永琳を見た。

 永琳はつがえていた矢に大量の魔力を流し込み、限界まで強化された矢を私に向けてぶっ放した。

 




たぶん明日も投稿すると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 第八十四話(終) 最後のマスタースパーク

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は第八十四話(終)をお楽しみください。


 これが、最後の戦いだ。

 私は残りの生命エネルギーをもったいぶることなく消費して魔力を生成し、カバンから取り出したミニ八卦炉に全身から集めた魔力を送り込む。

 だが、生命エネルギーを魔力に変換しなければならないという、無駄な手順を踏んで魔力を生成しているため、永琳の攻撃に一歩出遅れてしまう。

 私に向かって放たれた矢は空中で分裂し、一本が二本に、二本が四本にと倍々に増えていき、数百本にも増えた矢が雨のように私に降り注ぐ。

 しかも、分かれた一本一本の矢の威力が分裂したせいで衰えていると思ったが、撃った時と変わらない威力を持っているのか。ギリギリ私に当たらない軌道を飛んできた矢が後方の木に突き刺さると、木を半ばからへし折り消し飛ばした。

「ぐっ……!!」

 右手に持ったミニ八卦炉を永琳の方向に向けようとしたとき、すさまじい威力を持つ巨大な一メートルはある矢が、始めに私の左腕の前腕に突き刺さる。

 魔力で体を多少は防御していたおかげで、後方に生えている木のようにはならずに済んだが、左腕の内部組織が少々破壊されてしまい。矢で負った傷とは思えないほどの大量の血が矢が刺さっている傷口から洩れてきた。

 大量の矢が地面などに刺さっていき、そのたびに地面が爆発して辺りの地形がめちゃくちゃになっていく。

 続いて左肩、右わき腹、左ひじ、太ももや股関節、腹や足、首などに大量に飛んできた矢の一部が私に突き刺さる。

「う…ぐっ……あああああああっ!!!」

 私は叫んで痛みをごまかして、永琳に向けてマスタースパークを放とうとした。だが、撃とうとしたその瞬間にミニ八卦炉を持っていた右手の手首と手の甲に分裂した最後の矢が突き刺さり、魔力の防御が追い付かなくなっていたことが原因で、右手がはじけ飛んだ。

 体の内から爆発し、周りに肉片と骨片をまき散らし、真っ赤な血がしぶきとなって広範囲に広がった。爆破され、千切れたようになくなっている右手の断面にある動脈から大量の血がドバドバと流れ出し、地面を紅く濡らしていく。

 手が爆破された影響でミニ八卦炉が前方に飛んで行き、地面に転がり落ちる。

 地面に落ちたミニ八卦炉はさらに地面を転がり、土に刺さっている矢の一本にこつんと当たると動きを静止させ、陰陽玉のような模様が描いてある面が上に向くように地面に倒れた。

「…全快時ならば、私は確実に負けてた。でも、疲労しているあなたならば、私は絶対に負けないわ……まさか卑怯だなんて言わないわよね?いつの時代も戦いでは負けた方が悪いって、なって来たんだから」

 永琳は、全身を矢で貫かれている箇所から血を滴らせながらも、倒れまいと残った気力だけで立ち続けている私に言い放った。

「…う……く……っ……」

「早く倒れて楽になりなさい。もうあなたに打つ手はないでしょう?……すでに遅いと思うけど、消費して少なくなった残りの人生はせめてゆっくりと過ごしなさい」

 私にそう言いながら永琳は油断なく矢でいつでも私の額を撃ち抜けるように、狙いながら私に早く倒れろと促してくる。自分の提案に賛成しなかったその瞬間に撃ち抜くつもりなのだろう。

「……私は…諦めるわけにはいかないんだよ……お前が殺された奴らのために諦めないのと同じでな…」

 私は前方に転がっているミニ八卦炉を拾いに行こうと、感覚の無い足を引きずりながら進もうとする。

 だが、数メートル先に転がっているミニ八卦炉を永琳が踏みつけ、私に拾わせないように地面に押さえつけた。

「……」

 私が顔を上げると永琳が矢を限界まで引き絞り、目で追うことなど不可能な速さで私の胸を矢が貫いた。

「…っ……は……っ……!!」

 体から力が抜けて私は崩れ落ちそうになる、だが、貫かれた胸を押さえながらなんとか踏みとどまる。

「…永琳……」

 血反吐を吐き、体を再生させることすらできなくなって出血が激しく、血の量が足りなくて意識が朦朧とし始めていた私は、彼女の名を呼んだ。

「…何かしら?…遺言でも言うつもり?」

 永琳は言いながら再度、魔力で矢を作り出して矢に装填した。

「…お前もわかるだろう?……放出した魔力っていうものは何かしらの形で消費しなけりゃ、魔力として意外と長くその場にとどまる…」

「…そうだけど、それがどうかしたのかしら?」

 永琳がそう言いながら二発目の矢を私に放とうとした。

「……私は、魔力を込めた……あとは唱えるだけでいい…」

 私がそう言ったとき、

「……!?」

 その言葉で永琳は私が何を言いたいかを察したらしく、目を見開いて左足で踏んづけているミニ八卦炉から飛びのこうとした。

「ちょうど一発分だったんだ……これが、最後のマスタースパークだぜ」

 私はさっき発動させ、今まで機能停止して保留にしていたスペルカードを再起動させて、私の全魔力を注いだミニ八卦炉に命令を下す。

「恋符『マスタースパーク』」

 私の呟き声と共に、上を向いて落ちていたミニ八卦炉から超極太のレーザーが放たれ、微妙に飛びのいていた永琳の左半身をマスタースパークが呑み込んだ。

「い…ぎっ…ああああああああああああっ!!?」

 永琳の左足と左腕を根元から蒸発して消し飛ばし、マスタースパークが放つ数百、数千度にもなる熱線が彼女の全身に重度の火傷を負わせた。

 極太レーザーのマスタースパークが段々と細くなっていき、完璧に消え去ると永琳は自分の体を片足で支えることができなくなったため、ゆっくりと地面に倒れ込んだ。

「…ごほっ……永琳…私の勝だ…ぜ」

 私は喀血して血を吐き出しながらも、弱々しく呟いた。

「……く………」

 全身にやけどを負った永琳が小さな声を漏らし、動かすことのできない体を唯一動かすことのできる瞳で見つめた。

「…さすがのお前でも、全身を吹き飛ばせば…生きることはできなくなるんじゃあないか?……でも、お前には生きてもらうぜ……こんなところでくたばらせない………。お前が生きることで、周りからは冷たく接せられるかもしれない……いつ月の兵が来るかわからない恐怖におびえることになるかもしれない…それでも、お前はここで静かに暮らせ」

 私はそう言いながら自分の指を噛みついていつものように血を流させ、永琳の口の中に指を無理やりねじ込んだ。

「…うぐ……っ」

 永琳がかすれた声を漏らす。

 血を飲み込む力もないのか、私は永琳の喉の奥に血の付いた指を無理に押し込み、血を流し込む。

 永琳の再生能力を上げると、一部肉が焦げていたり焼けただれていた皮膚が元の透き通るような白い肌に戻っていく。しかし、無くなった左腕や左足を再生させるほどの血は飲ませていないため、永琳の傷は火傷しか再生しなかった。

「……呪詛があるし、……私はそれに従うしかなさそうね…………魔理沙、あなたはこれからどうするつもりなの?」

「…」

 私は黙ったまま、倒れている永琳のすぐ横に座り込んだ。

 もうすぐそこまで近づいてきている死を感じながら、私は掠れた声で永琳にゆっくりと話し出した。

「…私には……これからなんてないんだぜ……ここで終わりだ……」

 魔力と生命エネルギーが底をつき、結界を維持することができなくなったことで、この辺り一帯にはられていた結界が解除されていくのが空を見上げたことでわかった。

「……私のためにそんなことをするなんて…馬鹿ね…」

 永琳が小さな声で呟く。

「……ああ…でも、マイナスなことばかりじゃなかった」

 私はそう呟きながらさっきのやり取りを思い出す。

 永琳は私がミニ八卦炉を落とした時、諦めろと言って残りの人生を静かに暮らせと言っていたが、死んでいった鬼たちのために私を殺すと言っていた彼女の言葉とは、この行動は矛盾する。

 それに私がミニ八卦炉を撃とうとしたとき、矢を胸に放った。あの至近距離なら私の額に当てることなんて、容易なことだろう。しかし、永琳は私の胸を撃ってきた。額ならば(一部の妖怪を除いて)どんな生物だって即死するのにだ。

「…永琳。やっぱり…お前は悪人には向いてないぜ…」

 私が言うと、永琳はフンっと小さく笑い。しばらくしてから話し出した。

「……幻想郷を救ったっていうのに、あんたが死んでどうするのよ…」

「…仕方ないだろ?たくさん強いやつと戦って来たんだ……そもそも、私が死ぬのは半分はお前のせいでもあるんだぜ?」

「……そうだったわね」

 永琳はそう呟いて、私の方向をちらりと見た。

「…」

 眠気に似た死に飲み込まれ始めた私の体は、器官の運動が次々に機能を停止していき、身動き一つとれなくなっていく。

 怖い。一度死んでいても絶対零度のように寒く、容赦のない死の恐怖というものは慣れる物ではない。

 私の死期を感じ取ったのか、永琳は静かに私のことを見守っている。

「……」

 ゆっくりと目を閉じて私は彼女たちのことを思う。

 私のために泣いてくれた。あんな奴がいてくれるだけで私は幸せ者だろう。

 だんだんと呼吸が浅くなり、息苦しさを感じ始めるが、眠気の方が強く。私は何も考えることができない無意識の世界にその身を投じる。

 その時、誰かが私の名前を呼んだ気がした。ほとんどの機能を停止している私の耳には誰が私に声をかけたのかはわからない。でも、すぐ横にいる永琳ではないことが分かった。

 後方から誰かが走ってきているのを感じ、私は最後の力を振り絞って後ろを振り向こうとした。だが、体を支えることができないぐらいに弱っていた私は、ゆっくりと地面に倒れてしまった。

 しかし、地面に私が倒れたころ、すでに私は死んでいた。

 





 もう一つの東方鬼狂郷の本編はここまでとさせて頂きます。東方鬼狂郷よりも短くなる予定だったのに、ここまで長くなってしまいました。
 誤字や脱字があり、そもそも私が書くものが駄文であるため、読みずらかったと思います。
その辺は大変申し訳ございません。

評価などをしてくださった方や、読んでくださった方々。お付き合いくださりありがとうございました。

明日ぐらいに番外編も出すつもりなので、気が向いたらそっちも見てやってください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

もう一つの東方鬼狂郷 番外編 その後

もう一つとか言って前作とは関係がありません。

割と好き勝手にやっています。

それでもいいという方は番外編をお楽しみください。




 体の質量が無くなった。そんなふっと軽くなるような感覚がして、私は目を開くとおなじみのあの場所に出た。

「……この場所に来るのも、二度目だな」

 匂いもなく、意図的に発生させなければ音もない不思議な空間。静かにしていれば自分の呼吸音どころか、服の擦れる音までよく聞こえるぐらいにまでに静かな場所。

 それに加えて地平線の先まで大量に並んでいる扉があり、道の先には前回に会ったときと同じようにアトラスは小さな扉の上に腰を掛けている。

 その奥には私の身長の数倍はある巨大な扉の隙間に誰かが歩いて行くのが見えた気がしたが、気のせいだろう。その上にアトモス君の三十センチはある巨大な瞳が真っ暗闇の中に浮かんでいるのが見えた。

「…アトラス、私がお前を知覚できるってことは……私を呼んだってことでいいんだよな?」

 私が彼に近づきながら話しかけると、お面をつけて表情が読めないアトラスが顔をこちらに向けた。

「やあ、また会ったね……それよりも、なかなか楽しませてもらったよ…まさか、八意永琳……彼女が黒幕とは思わなかったよ…予想外だ」

 仮面を被っているせいでアトラスの声がくぐもっていて聞きづらいが、上機嫌の彼は少しだけ興奮した様子で話し出す。

「…楽しんでもらえて何よりだよ……それより、私はどうしたらいいんだ?死人なんだしアトモス君の扉をくぐった方がいいのか?」

 私が聞くと、アトラスはうーんと考える仕草をしてから私に提案をしてきた。

「そっちの彼女らにお別れを言って来た方が後腐れがないんじゃないのかい?」

「……いや、いい」

 私は短くそう答えると、扉の隙間から私とアトラスを見下ろしているアトモス君に歩み寄った。

 だが、アトモス君は私を見下ろすばかりで扉の中に引きずり込もうとはしてこない。

「…アトモス君?…どうしたんだ?」

 私が言うとアトラスは仮面を外し、霧がかかっていて見えない地面に投げ捨て、扉に歩み寄っていた私のいる方向に顔を向けてきた。

「…魔理沙、君にはほんの一時間程度だけど寿命が残っている……一時的に地上に戻ってもいいんだよ?」

 私が死んだ理由は生命エネルギーを使いつくしたことによる衰弱死だったはずだ。つまり、私には寿命なんか残されていえるはずがないのだ。

 こいつは、私に後腐れの無いように霊夢たちにお別れを言わせたいのだろうか。気分で生き返らせたりといろいろと突っ込みたいところはあるが、もしかしたらいいやつかもしれない。

「…いいや……私はいかない…戻ったら死にたくなくなるし、また死ぬのが怖くなる」

 だが、私はアトラスの提案を断るとアトラスは少しうっすらと笑い、静かに言った。

「二回も死んでていまさら何を言っているのさ、少し行ってお別れを言ってから寿命で死ねばいいだけだろう?」

「…お前に死の恐怖なんかわかるのか?…また死ぬことになるなんてごめんだ。…それに私は何回死ねばいいんだよ」

 私はあきれた声をアトラスに聞かせるが、アトラスは肩をすくめてからはっきりと言い放つ。

「…だから?僕は行ってくれってお願いをしているわけじゃあないんだ…行けって言っているんだよ…君の死に対する恐怖なんて知ったことじゃあないのさ」

「お前がいいやつだと思った私の感動を返せ……私にもう一度死ねだなんて……酷いやつだぜ」

 私がそう言うとアトラスはニヤッと笑いながらこちらを見る。

「…言っておかなくても…僕は良いやつじゃあないよ?」

 アトラスがこちらに手を向けると、私の真後ろから開いた扉が突っ込んできて私を扉の中に収めた。

「…この場所と君のいた世界とでは時間の流れは全然違う。だから数日たっているから、そこのところはよろしくね」

 憎たらしいアトラスの笑い顔が最後に見えた。

 

 永琳が起こした異変が魔理沙の手によって解決されてから、数日が立った。

 何も覚えていない私は、本当に異変が起きたのかが実感はなかったが、異変を解決した小悪魔や大妖精たちにどのようなことがあり、どんな異変だったのか詳しく説明を受けてだいたいのことは理解した。

 永琳たちが異変を起こし、私たちは鈴仙の狂気を操る程度の能力の暴走によって、狂気を植え付けられた。なんとか狂気を植え付けられなかった小悪魔たちは、私と戦闘になったそうだ。

 そして、私を何とか倒して永琳が黒幕だと見破った魔理沙は、彼女との戦闘の末に死亡した。

 永琳と魔理沙の倒れた位置と倒れ方、周りの状況から永琳と魔理沙がどうやって戦い、どうやって戦闘を終えたのか推測することができた。

 私は、片手と片足を消し飛ばされた永琳を封印せずに今までと同じ生活をさせることに決めた。なぜなら魔理沙は永琳を殺さなかった。その意志を尊重するために私はそうすることにしたのだ。

 そのことについて、反対の意見がかなり多かったが、いろいろと無理を通したことで永琳を封印しないという方向で話は進んでいる。

「……」

 そうして異変について考えていると、魔理沙のことを思い出してしまい。目から涙がころぼれそうになった。

 私は沈んだ気分を入れ替えるために買い物に出かけることにし、ちゃぶ台の上に置いてある飲み干した湯飲み椀を持ち上げて立ち上がる。

 茶の間から寝室に移動し、タンスから財布を取り出して巫女服の内ポケットに入れ、普及が始まって河童たちが立て直し、おおよそ半分が立て直しが完了された村に向かうことにした。

 靴を玄関で履き、玄関からまっすぐ神社に来るためにある階段まで続いている岩のタイルの上を歩く。赤い塗装がされ、木で組まれた大きな鳥居まで歩いて私は空に飛び立とうとしたとき、鳥居の後ろに誰かが据わっているのが影で見えた。

「……っ…!」

 私は目を見開き、言葉を失った。この目で死体を見たはずの魔理沙が、生きてそこに座っているのだ。

「……」

 死体を見た時の魔理沙は色が抜けた白髪で、真っ赤な赤色の瞳をしていた。だが、今は異変が起こる前のように鮮やかで手入れが行き届いていてサラサラの金髪だ。瞳も赤色ではなく、日本人特有の黒色である。

 座って柱に寄りかかっている魔理沙は疲れ切った表情をしていて、私の顔を見ると嬉しそうに微笑んだ。

「…よう、霊夢」

 もう聞くことがでいないと思っていた魔理沙の声を聴くことができ、感情が高ぶった私はさっきは我慢することができていたが、今度はこらえることができず涙をあふれさせてしまう。

 流れ落ちた涙は頬を伝い、顎から水滴となって落ちて地面に水のシミを作り出す。

「魔理…沙……!」

 伝えたいことや話したいことがたくさんあるのに、感情が高ぶってひゃっくりがこみあげ、言葉が出てきてくれない。

「…魔理沙ぁ……!!」

 言葉で伝えることができなくても、私は自分の気持ちを行動で伝えるため、鳥居の柱に寄りかかって座っている魔理沙に飛びついた。

「れ……霊夢……!?」

 疲れ切り、かすれた声で魔理沙は驚いたような声を出すが、私はそんなことは関係なく彼女に抱き着く。

「魔理沙……ごめんなさい…私は、何もできなかった……」

 いつも温かいはずの彼女の体温はとても低く、ひんやりと冷たい。

「……霊夢、お前は悪くないぜ……あんな状態じゃあ……どうしようもないぜ」

 魔理沙は抱き着いた私の耳元でそう囁きながら、細くて華奢な腕を私の背中側に回して抱きしめてくれた。

「…魔理沙……」

 私は彼女の名前を呼び、苦しいぐらいになるまでお互いの存在を確かめ合うように、力強く抱きしめ合う。

 しばらくそうしていたが、魔理沙が私から離れるようにして私の肩を押して、私から離れて呟く。

「……すまない霊夢……私はもう行かないといけない…」

「…どこに行くの?」

 私が聞くと、魔理沙は少ししてから小さな声で呟く。

「私はもうすぐ死ぬ……友人が死ぬところなんて……見たくはないだろう?」

 そう言って私から離れようとする魔理沙の瞳からは、死に対する恐怖を私は読み取ることができ、無意識のうちに私は離れそうになった魔理沙の手を掴んで握った。

 私が歩いて行こうとする魔理沙の手を掴んだことで、死が近くなって弱り始めている彼女はそれだけで前に進むことができなくなり、私がさらに軽く引っ張っただけで後ろに倒れてしまう。

「………もう、立ち上がる力もないっていうのに…なに…するんだよ……」

 魔理沙のかすれた声にはいつものような覇気はなく、弱々しくて末期の病人のようだ。

 私は地面に座り、魔理沙に膝枕をした。

「…魔理沙……大妖精とか小悪魔には会って来たの?」

 私は関係はないが、魔理沙に話を振る。

「……。いや、あってはいない……また泣かせちまうからな……今日は異変を解決するのに手伝ってくれた……さとりとかに会って来た…あとは、永琳に会って来たぜ……」

「…私で最後かしら?」

 私が聞くと、魔理沙は注意してみないと分からないぐらい小さくうなづく。

「……」

 しばらくの間、静寂が私たちに訪れた。

 ヒュウゥ…と生ぬるい風が私たちの肌を撫でて、髪の毛をなびかせる。

 彼女の透き通るような肌の色が死人のように青白くなってきていて、本当に死んでしまいそうなのだと私にはわかった。

「…霊夢」

 悲しくて、私はまた泣いてしまい。目から流れ落ちた滴が魔理沙の頬に落ち、少ししてから私の膝の上に横たわっている魔理沙はうっすらと目を開けて私の名前を呼んだ。

「……なに?」

「…霊夢……私は…死ぬ……だから、私のことは忘れて……きちんとした恋愛を……恋をしてくれ…」

 私が魔理沙のことが好きだという気持ちは、彼女には見抜かれていたらしく、魔理沙はそんなことを口走る。

「…そうね……私はそのうち…どこの誰かもわからないやつと結婚しないといけなくなる…それでも、私のこの気持ちは一生変わらない……だから、今言っておきたい。…魔理沙、私はあんたのことが大好きよ」

 私が魔理沙にそう言うと、魔理沙は嬉しそうにも悲しそうにも見える表情でわらい。静かに息を引き取った。

 




これで、もう一つの東方鬼狂郷は本当に完結とさせていただきます。

私の説明足らずでどういう意味だか分からないとかがあったら、いつでも聞いてください。覚えている範囲でお答えします。

新しいシリーズがもし始まったら、気が向いたら見てやってください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。