裏切りの隣に愛の手を (冷目)
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キャラ設定(随時更新)

本作に登場するキャラクター設定・容姿についてまとめます
随時更新予定です





オリ主

 

名前:秋雨(あきさめ)彷徨(かなた)

 

身長:170cm

 

体重:62kg

 

血液型:A型

 

一人称:オレ

 

好きなもの:子ども(忌村静子は好きを通り越して大切)

 

嫌いなもの:他者に迷惑をかける人

 

趣味:製作、忌村静子と過ごす

 

所属:希望ヶ峰学園第76期生、未来機関第4支部副支部長

 

才能:元・超高校級の保育士

   言葉にせずとも相手の本心がわかる

 

NG行動:???

 

容姿:『キルラキル』の纏流子の赤メッシュのようになっている前髪。

   黒髪、前髪は纏流子とは逆方向。

   後ろの髪が伸び気味で、黒ゴムでまとめている。

   それ以外は短く、ペタンとしている。

   基本スーツ、学生時代はYシャツの上に青のエプロン。左胸辺りにカエルのイラスト。

 

設定

 

 小学生の時に忌村静子の隣に引っ越してきた秋雨家の一人息子。超高校級の保育士の才能を持っており、相手を見ただけで本心がわかる。隣人ということもあり、忌村静子とすぐに友人となる。時系列としては原作第5話の冒頭から数年後。

 友人として共に過ごしてきたが、希望ヶ峰学園入学時には恋仲となっている。希望ヶ峰学園では共に第76期生として過ごす。

 とある事件に巻き込まれた結果、学園を退学になってから未来機関にスカウトされる。以降は第4支部に所属し、現在では副支部長として、支部長である忌村静子を公私ともにサポートしている。

 人の本心がわかるという、一歩間違えればすぐにでも絶望してしまいそうな才能だったが、本人としては「これがあるから自分は何事も無く生きていける」と希望すら感じている。

 才能としては人の本心がわかることだが、「有事に備えて」との理由で一通りの格闘術を会得しているため戦闘もこなせる。その実力は一般人ならばまず敵わないレベル。同ジャンルの超高校級の才能を持つ相手には敵わないが、仮にその相手が忌村静子を傷つけたりすれば話は別である。

 恋人である忌村静子を何よりも大切に考えており、普段は冷静だが彼女のこととなると突拍子のないことも平気でする。(部下が見ていようが関係なくキスをするなど)また、彼女に迫る時には若干だが性格が変わるとも言われている。

 

 

 

原作キャラ

 

名前:忌村(きむら)静子(せいこ)

 

才能:元・超高校級の薬剤師

   あらゆる薬の生成が可能

 

NG行動:???

 

容姿:灰色のウェーブがかった髪。毛先は反り返っている。感情に合わせて動くことも。

   常にマスクをしている。歯にはブラケット(矯正装置)あり。

   スーツはスカートタイプ。両手に手袋をしている。

 

 

 

名前:天願(てんがん)和夫(かずお)

 

経歴:元・希望ヶ峰学園学園長

 

NG行動:???

 

容姿:白髪のオールバック(らっきょう頭?)。鼻と顎の下にヒゲ。眼鏡使用。

   白シャツにタイ、ベストを着て、その上にコート。

   猫背。

 

 

 

名前:宗方(むなかた)京助(きょうすけ)

 

才能:元・超高校級の生徒会長

   カリスマ、超高レベルの文武両道(←原作設定)

 

NG行動:???

 

容姿:7:3(8:2?)分けの銀髪(白寄り)。

   白を基調としたスーツ。着崩しなし。

 

 

 

名前:黄桜(きざくら)公一(こういち)

 

才能:元・超高校級のスカウトマン

   スカウトする人材に対しての勘が鋭い

 

経歴:元・希望ヶ峰学園スカウトマン

 

NG行動:???

 

容姿:若干ウェーブがかった黄土色の髪。

   白の帽子を常に被っている。

   黒のスーツで、上着のボタンは開きっぱなし。

 

 

 

名前:雪染(ゆきぞめ)ちさ

 

才能:元・超高校級の家政婦

   決定的な場面に居合わせる

 

NG行動:???

 

容姿:茶髪のポニーテールで、ポニーテール部分は腰まで伸びている。

   黒のスカートタイプのスーツだが、その上に白衣を着ている。

 

 

 

名前:逆蔵(さかくら)十三(じゅうぞう)

 

才能:元・超高校級のボクサー

   ボクシング界最強

 

NG行動:???

 

容姿:真ん中分けの黒髪。

   黒コートの下に白のシャツ。

   肌は若干黒め。

 

 

 

名前:月光ヶ原(げっこうがはら)美彩(みあや)

 

才能:元・超高校級のセラピスト

   数多くの新たなセラピーの方法を確立、コンピュータにも精通

 

NG行動:???

 

容姿:藍色のショートヘア。赤のマフラーで口元を隠している。

   スカートタイプのスーツを着ているが、上に着ているコートでほぼ隠れている。

   モニター付きの電動車椅子を使用している。

 

 

 

名前:安藤(あんどう)流流歌(るるか)

 

才能:元・超高校級のお菓子職人

   お菓子作りに特化した料理の腕

 

NG行動:???

 

容姿:桃色の髪のショートヘア。

   ピンクのリボン付きの私服に、首元、両腕に白のファー。

 

 

 

名前:十六夜(いざよい)惣之助(そうのすけ)

 

才能:元・超高校級の鍛冶職人

   あらゆる武器の精製、見極めが可能

 

NG行動:???

 

容姿:少し暗めの黄髪。

   赤色のフード付きの上着で、あらゆるところに自前の武器を隠し持っている。

 

 

 

名前:万代(ばんだい)大作(だいさく)

 

才能:元・超高校級の農家

   作物の状態を的確に見分ける

 

NG行動:???

 

容姿:黒のアフロヘアに口の周りにヒゲ。

   麦わら帽子を首にかけており、肌は黒め。

   黄土色のスーツで、ボタンはしめていない。

 

 

 

名前:グレート・ゴズ

 

才能:元・超高校級のレスラー

   レスラー界最強

 

NG行動:???

 

容姿:牛の覆面を被っており、茶髪の髪が後ろでまとめて外に出ている。

   黒のスーツを着ており、着崩しなし。

 

 

 




原作キャラの才能については自己解釈です
作中で明言されていればそれに準じます(見逃している可能性がありますが……)
ファッション関係に疎いので、用語などが間違っていたり、わかりづらければ申し訳ありません
ですがこれが限界です、はい
本編を読む際の参考になれば幸いです




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To you who love -愛するあなたへ-

他の作品の終わりも見えないというのに、また勢いだけで書いた作品です
短編なので、すぐに終わると思うのでどうかご勘弁を……
そしてタイトルは安定の某アプリの英語通訳
間違ってたとしても「オレは悪くねぇ!」
さて、最初から甘さ全開でお送りします
イマイチ書き方がわからないので甘くない表現かもしれませんが、「未熟なんだな」と鼻で笑ってください
では、どうぞ!





 彼の周囲に対する考え方は、「まるで子ども」だった。

 

 彼が生まれ持った才能は、まだ子どもである彼にそのような考えに至らせた。

 どんな大人でもだ。親でも、教師でも、老人でも。

 

 「は、初め……まして。忌村(きむら)静子(せいこ)……です」

 「秋雨(あきさめ)彷徨(かなた)です。よろしくね、静子ちゃん」

 

 だから、彼は彼女に特別な何かを感じたわけではない。

 彼女も他の者たちと同様、「まるで子ども」な子どもだった。

 

 「希望ヶ峰学園……?」

 「そう、すごい才能を持った人だけが入れる学校なんだって。僕はわからないけど、静子ちゃんは色んな薬を作れるんだ。きっと入れるよ」

 「だ、大丈夫……! 彷徨君だって、すごい才能を持っているってお母さんも言ってたよ? だから彷徨君も……一緒に、希望ヶ峰学園に行こうよ……!」

 

 それでも、彼は周囲に絶望を感じることは無かった。

 むしろ、自分の才能に希望さえ感じるようになっていた。この才能があるからこそ、自分は何事も無く生きていくことができるのだと。

 

 「……え? い、今……なんて」

 「……オレが静子を守る。嬉しい時も、辛い時も……いつだって隣に居続ける。静子が死ぬまで……いや、その死からも守ってみせる。一生をかけて、静子を守るって誓う」

 「彷、徨……! あり、がとう……!」

 

 自分ならば守れると確信に似たものを感じていた。

 この……人の心がわかる才能さえあれば、隣にいる彼女も守ることができると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、秋雨彷徨は超高校級の保育士としての道を歩み始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「人類史上最大最悪の絶望的事件」……そう呼称される全世界を巻き込んでの大事件による被害は、少しずつではあるが治まりつつあった。希望ヶ峰学園のOB・OGを中心に組織された未来機関により、事件の首謀者であり超高校級の絶望の江ノ島(えのしま)循子(じゅんこ)を崇拝する「絶望の残党」は確実に数を減らしていった。

 かつて希望の学園とまで呼ばれた希望ヶ峰学園にて起こり、全世界へと中継された最悪のコロシアイゲームを勝ち抜き、江ノ島を死亡させるに至った超高校級の希望と呼ばれる英雄……苗木(なえぎ)(まこと)たちの加入により、未来機関の勢いはさらに強まっていき、構成員たちも苗木たちを厚く信頼した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼が「絶望の残党」を保護している、という情報が出てくるまでは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「活性剤……あと、筋肉増強剤も一応……。それから……」

 「大荷物だな」

 「ひぃい!」

 

 未来機関第4支部の支部長室に、甲高い悲鳴が響く。その拍子に、ゴソゴソと用意していた大量の薬の一部を女性は落としてしまう。

 コロコロと床を転がっていった薬は声をかけた男性の足に当たり、そこで止まる。男性は薬を拾うと、笑顔で女性に渡す。

 

 「ほら。気を付けろよ、静子」

 「あ、ありがと……彷徨」

 

 元・超高校級の薬剤師、第4支部の支部長である忌村静子。

 元・超高校級の保育士、第4支部副支部長を務める秋雨彷徨。

 秋雨から手渡された薬を、忌村は改めて自分の懐へとしまった。

 

 「大事なことを忘れるな。オレは元・超高校級の保育士で、第4支部副支部長。そして静子の彼氏だ」

 「ちょ!? きゅ、急に何を言いだすのよ!」

 「……旦那って言った方がよかったか?」

 「そういう問題じゃないわよ! というか、誰に向かって言ってるのよ!」

 

 突拍子もないことを真顔で言う秋雨に、忌村は顔を真っ赤にしてツッコミを入れる。そのツッコミをスルーしつつ、秋雨は忌村が用意していた荷物を見て「ふむ」と顎に手を添え、忌村に向き直った。

 

 「ところで静子、なんで査問会議に行くだけでこんなに薬がいるんだ? 特に必要はないと思うが」

 「し、仕方ないでしょ……。今回の査問会議には、ほとんどの支部長が集まる……。『絶望の残党』が狙うとしたら、またとない好機だわ……」

 「確かにな」

 

 用心深いのか、襲撃された際の可能性も考えて用意を進めていた忌村。未来機関にとって、各支部長の存在はとても大きい。逆に言えば、支部長たちを何とかすれば未来機関は瓦解しかねない。

 それは未来機関と敵対する「絶望の残党」も周知の事実であり、その支部長たちが一か所に集まる機会があるというのだから、そこを狙う可能性は確かに十分にある。

 

 しかし、忌村はすぐにそんな自分の言葉を否定する。

 

 「でも……今回の査問会議がある場所は、宗方さんが秘密裏に建設を進めていたトコ……。場所自体が地図にも記されてないから、襲撃の心配は無いって……。今の『絶望の残党』には、その場所を突き止めたり、罠を仕掛ける力も残っていないし……」

 「ふむ。確かに今の奴らは烏合の衆と言ってもいいレベルだ」

 

 自らの行動を杞憂とでも言いたげに安全な要素を挙げ、忌村は秋雨に安全であることを説明する。その説明の内容に納得したように、秋雨は再び顎に手を添えて頷く。その様子に手ごたえを感じ、忌村はさらに説明を続ける。

 

 「だから、薬の準備はあくまで念のため……。襲撃の可能性はなくても、他にも色んな可能性はあるでしょ? 宗方さんも『心配するな』って言ってたけど、クセみたいなものだから……。それに、私って手元に何か薬がないと落ち着かないし……。あ、このこと宗方さんに話したら『職業病みたいなものだろう』って……」

 「…………」

 「……彷徨?」

 

 ふと気付くと、どこか遠くを見るような眼をしている秋雨。忌村はその意図がわからず、首を傾げる。

 秋雨は黙ったまま、ゆっくりと俯いていく。ますます意味がわからない忌村は、変わらず首を傾げている。そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ギュウ

 

 「──え!?」

 

 突然、忌村を抱き寄せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょ、なに!? 急に何を──!」

 「……別に、深い意味は無い」

 「じゃ、じゃあ離して……!」

 「だが断る」

 

 突然のことに戸惑いを隠せず顔を真っ赤にする忌村に対して、秋雨は淡々とした声色で忌村を抱きしめ続ける。「離して」と言われても断り、そればかりかさらに強い力で抱きしめ始めた。

 

 「この秋雨彷徨が最も好きなことの一つは、オレの行動に照れて『やめて』と言う静子に『NO』と断ってやることだ」

 「わ、訳わかんないこと言ってないで、早く離して……!」

 

 抱きしめられているため顔は見れないが、忌村には秋雨がこの上ないほど真剣な表情をしているのが予想できた。台詞としてはふざけているようにも聞こえるが、当の秋雨はいたって真剣である。

 しかし、だからといって忌村が感じる羞恥の大きさは変わらないため、早く離すよう忌村は秋雨に頼み続ける。

 

 「…………」

 

 すると、急に秋雨の力が緩み、その口も閉ざされた。ようやく終わるかと思い、忌村は安堵の表情を浮かべると……

 

 「……嫌なの?」

 「ふえっ!?」

 

 そうして気が緩んだその一瞬。

 忌村の目の前に秋雨の顔が現れる。真っ直ぐと目を合わせられ、まるで心の内まで見透かされるような気分になる。再び顔が紅潮し、すぐにでも視線を外したくなるが緊張からか外すこともできない。

 超近距離で見つめられ、頭がオーバーヒートしそうになる忌村。それに対して、秋雨は何事もないような表情で忌村の目を覗き込み続ける。

 

 「オレの勘が正しければ……本当は離してほしくなんか、ないでしょ?」

 「あ、あぅ……」

 

 囁くように告げられる秋雨の声に、ますます忌村の顔は紅潮していく。口の中が渇いていき、言葉も上手く出てこない。

 それはもちろん、異常なまでに近い秋雨との距離も関係しているが、それ以上に忌村の心を乱しているのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 確かな本心を言い当てられているから(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 これこそ、秋雨が超高校級の保育士と呼ばれた所以。

 相手を見れば、たとえ言葉にせずともその人の本心がわかる……それこそが秋雨が生まれ持った才能である。まだ言葉も上手く話せない子どもでも何を望んでいるのか、秋雨は見ただけでそれを知ることができる。さらに、そうして本心を知ればその人を真に理解することもできる。

 保育士どころか、対人関係においては唯一無二とも言える才能。だから言ってみれば、秋雨の前ではどんな嘘も無意味であり、その心は裸同然なのだ。

 

 「そうでしょ? ……静子」

 「ッ──!」

 

 ──ドンッ!

 

 目を合わせながら、わずかに首を傾げる秋雨。その言葉に我慢の限界を迎えたのか、忌村は勢いよく秋雨を突き飛ばして距離をとる。

 だが、それは“拒否”ではない。その真意は……

 

 「……い、嫌なわけない、でしょ。嬉しすぎて、歯止め効かなくなりそうだったから言ったのに……。ホントに……バカ」

 

 頬を真っ赤に染め、視線を逸らしながら呟く忌村。“拒否”というよりは“避難”に似たその行動。

 だが、秋雨はそれも全てわかっているわけであり、彼にしてみれば忌村が自らそれを認めることを待っていたのだろう。

 現に、彼は非常に満足気な笑みを浮かべている。そして、笑顔のまま優しく忌村の頭を撫でた。

 

 「……悪い。静子が宗方さんの話ばかりしてたから、少し意地悪したくなった」

 「ま、またそんな……。変なところで子どもっぽいんだから……」

 「そうだな、自覚してる」

 「……も、もういいでしょ? 私、そろそろ準備して出発しないと……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「え?」

 「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく続いたやり取りを切り上げようとする忌村に対し、秋雨は意味がわからないとでも言いたげに首を傾げた。その秋雨の姿を見て、忌村も思わず首を傾げる。

 その刹那、秋雨は忌村の顔からそっとマスクを外し、その素顔を露わにする。

 

 「この流れはキスだろ? 常識的に考えて」

 「ちょちょちょちょ!? どどど、どこの常識よ、それ!!」

 「オレと静子の間では常識だろ」

 「わた、私はそんな常識持ってないわよ!!」

 

 もはやタコと見間違えるほど真っ赤に染まる忌村の顔に両手を添えながら、徐々にその距離を縮めていく秋雨。忌村は後ずさっていくが、最終的に壁との距離がなくなって逃げ場を完全に無くしてしまう。

 恥ずかしそうに口元を隠し、目を伏せる忌村。秋雨は顔に添えた手を離し、その手をどかす。さらに、どかしてすぐに再び顔に手を添えて、ゆっくりとその顔を上げさせる。

 

 「やっ、ちょ……! ホントに、もう……!」

 「歯止めが効かなくなりそうだったから逃げようとしたんだろ? でも、その歯止め……本当はもう効かなくなってるんだよな?」

 「ッ~~!」

 「問題ない。……オレも効かなくなってる」

 

 優しく、諭すように甘く語りかけられる秋雨の言葉。何を言ってもダメだという諦めもあってか、忌村はゆっくりと自ら視線を秋雨の瞳へと向ける。

 

 「い、いつも言ってるけど……ブラケット(歯の矯正装置)つけてるから、私とのキスなんて気持ち悪いだけ──」

 「いつも言ってる。静子とのキスで感じるのは……幸せだけだって」

 

 向かい合う二人の瞳。

 微かな吐息すら感じ合うことができるほど近づいた距離。

 その唇は互いを求めるように距離を縮めていき……

 

 「彷徨……」

 「好きだ……静子」

 「わ、私も──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「失礼します! 忌村支部長! 秋雨副支部長! 第2支部から迎えのヘリが…………あ」

 「」

 「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の前の光景に「やってしまった感」を感じまくる部下。

 ショックと、お決まりとも言える展開に固まる忌村。

 同じく固まったまま視線だけ部下に向ける秋雨。

 

 「た、大変失礼いたしました……! あ、あの、その……ですが、もう時間とのことで……」

 「」

 

 もはや言葉すら出ない忌村は、部下からの謝罪の言葉すら届いているかどうか危うい。まさに完全な生殺し状態。こんな状態で査問会議に出向かなくてはならないのかと忌村が考えていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「関係ないな」

 「──んん!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、忌村の顔を引き寄せる秋雨。そして、そのままほぼ強引に唇を重ねる。まさか続けるとは思っておらず、完全に不意を突かれた忌村は大きく目を見開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──さて、じゃあ行くか(・・・)。な、静子」

 「」

 

 再び完全に言葉を失う忌村に対し、秋雨はこの上なく満足気な表情を浮かべて歩き出す。

 どこからか黒い鞄を取り出し、忌村が用意していた薬品類が入ったカバンと一緒に持って用意を済ませる。言葉を失って呆然としていた忌村だったが、その様子を見て細々とした声を上げる。

 

 「ちょ、ちょっと……なんで彷徨が準備してるの……? 行くのは私──」

 「オレも行くからに決まってるだろ。荷物はオレが持つから、早く行くぞ」

 「はああぁぁあぁぁぁああぁ!?」

 

 平然と話す秋雨の言葉に、忌村はキス以上の衝撃を受ける。

 こうして、第4支部の支部長と副支部長は査問会議の場へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで待ち構える、絶望に満ちた狂気の元へと。

 

 

 

 

 

 

 

 




キャラ設定などについては後に投稿する『キャラ設定』をご覧ください
オリ主以外は原作の公式サイトを見ていただければ、よりわかりやすいと思います
相も変わらず表現力は皆無なので……
次回から本編突入!
絶望編の方も書く予定ではいるのでお楽しみに!
勢いのままのダンガンロンパ……次回もよろしくお願いします!




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未来編
A first is a discord


すっかり投稿が遅くなってしまい、申し訳ありません!
忙しかったり体調を崩したりと、書くに書けない日が続いて中々こちらまで手が回りませんでした……!
次回からは少しでも間が空かないよう努めます……(と書いてる今も病み上がりですが……)
では、どうぞ!





 「何度でも言おう……さっさと帰れ」

 「何度でも言う……絶対に断る」

 

 楕円型のテーブルを挟んで睨み合う二人の男。

 十数人の男女が集った空間が異様な殺気に包まれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 なぜこのようなことになってしまったのか……話は数十分前まで遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「未来機関第4支部支部長、忌村静子。同じく未来機関第4支部副支部長、秋雨彷徨。ただいま到着しました」

 「ちょ、ちょっと! さすがにここまで来るのはマズイから……!」

 

 査問会議が開かれる場所として指定されたのは、未来機関副会長で第2支部支部長でもある宗方(むなかた)京助(きょうすけ)が希望ヶ峰学園の海外展開のために建設を進めていた施設の会議室。海外展開のための施設といっても、建設中に「人類史上最大最悪の絶望的事件」が起きたこともあり、今となっては宗方が所有する要塞のような施設となっている。

 地図にも載っておらず、施設自体の情報もほとんど外部に流出していない施設。そこに案内された忌村と秋雨だったが、本来ならこれはイレギュラー。それを知っている忌村は顔を真っ青にして秋雨を止めようとするが、時すでに遅し。

 

 「……オイオイ。なんでここに副支部長がいんだ? 今回の査問会議に来るのは支部長だけだろうが」

 

 未来機関第6支部支部長、逆蔵(さかくら)十三(じゅうぞう)。元・超高校級のボクサーでもある屈強そうな体格の男が、ギロリと鋭い目つきで秋雨たちを睨んだ。

 

 「あー、やっぱり秋雨君来ちゃったんだ。付いてきちゃうかなーって予想はしてたけどね」

 

 第5支部支部長、雪染(ゆきぞめ)ちさ。元・超高校級の家政婦の才能を持つ彼女は微笑ましい光景を見るかのように笑顔を浮かべていた。

 

 「…………」

 

 第7支部支部長、月光ヶ原(げっこうがはら)美彩(みあや)。元・超高校級のセラピストの彼女はチラリと秋雨たちを見たが、特に何も言わず視線を前に戻す。

 

 「いやはや、相変わらず仲がよろしいようで。若い二人を前にすると、オジサンは嫉妬しちゃうなー」

 

 第3支部支部長、黄桜(きざくら)公一(こういち)。元・超高校級のスカウトマンでもあり希望ヶ峰学園のスカウトマン兼教員を務めていた男はニヤニヤと笑みを浮かべる。雪染と比べると、とてもじゃないが微笑ましいものを見ているような笑顔には見えない。

 

 「まさに『大根長いと嬉しいな』だね!」

 

 第11支部支部長、万代(ばんだい)大作(だいさく)。元・超高校級の農家である彼は、男性とは思えぬ声で意味不明な言葉を発して一人で納得している。

 

 「ええと……状況やイントネーションから察するに、『仲良きことは美しきかな』ですか?」

 

 第12支部支部長、グレート・ゴズ。元・超高校級のレスラーの彼は逆蔵に負けず劣らずの体格だったが、その口調や雰囲気は似ても似つかず。万代の言葉をなんとか解釈していた。

 

 「ホッホッホ。相変わらず、忌村君が大事でたまらないようだね、秋雨君」

 

 第1支部支部長にて未来機関会長を務める天願(てんがん)和夫(かずお)。元・希望ヶ峰学園学園長でもある彼は手を組んだ状態で、穏やかな様子で笑ってみせた。

 

 「もちろんです。嫁ですから」

 「だ、だからそういうこと言わなくていいから! す、すみません! 言っても聞かなくて、ここまで付いてきちゃって……!」

 

 相変わらずな秋雨の言葉に顔を赤くしながらも、忌村は天願に頭を下げる。いくらプライベートな関係とはいえ忌村と秋雨は上司と部下の関係だ。部下の管理は上肢の仕事であり、その責任も上司にくる。

 しかし、当の天願はというと穏やかな笑みのまま首を振った。

 

 「ハハハ、構わんよ。まだ会議が始まるまで時間はあるし、宗方君には私からも口添えをしよう。秋雨君は、本当なら支部長を任せてもいいほどの人材だしな。そういう意味では参加資格がある」

 「ありがとうございます、会長」

 「す、すみません……」

 

 会長からの許しが出たことで、さらに堂々とその場に居座ることを決めた秋雨。一方の忌村は、申し訳なさそうに再び頭を下げた。

 話が終わったところで、忌村は人数分用意された椅子に腰かける。秋雨は座るわけにもいかないので、壁に寄りかかる。もちろん忌村の後ろだ。

 

 「……気に入らねぇな。ここに部外者がいるってのは」

 「逆蔵君? 秋雨君だって未来機関の一員なんだから、部外者ではないはずよ」

 「だから、今回は支部長だけを集めてるっつってんだろ。支部長じゃないなら部外者だろうが」

 「でも実力があるっていうのは本当よ? 秋雨君、支部長になる話だってきてたのに忌村さんと離れたくないからーって断ってるわけだし。はい、忌村さん。秋雨君もどうぞ」

 

 会長の許しが出たといっても秋雨がいることを認めたくないらしく、逆蔵は不機嫌そうに呟く。そんな逆蔵に声をかけながら、雪染は忌村と秋雨にお茶を出す。二人は軽く頭を下げてから、それぞれ用意されたお茶に口をつける。

 

 「大分揃ってきたようですね。会長、まだ来ていない参加予定者は誰ですか?」

 「ふむ……本来なら全員に集まってほしかったが、今回は第10支部は不参加。第13支部は支部長代理の者が来るが、到着は苗木君と一緒だそうだ。第14支部支部長も同様だな」

 

 会議室にいる者の顔を一通り眺めて、ゴズが天願に来ていない者について確認する。その中で、今回の会議の中心人物とも言える「苗木」の名を聞き、秋雨はお茶を口にしながら考える。

 

 (第13支部にいる苗木の関係者……というと、朝比奈(あさひな)(あおい)か。そして、第14支部支部長は霧切(きりぎり)響子(きょうこ)……。元・超高校級のスイマーと元・超高校級の探偵、か)

 

 苗木と共に江ノ島循子を斃したメンバーについては、今となっては未来機関に所属するすべての人間が知っている。そのほとんどが第14支部に所属している中、唯一第13支部に所属しているのは朝比奈一人のため、特定も容易だった。

 秋雨と同じように特定はできたのだろう。ゴズは「なるほど」と納得しながら、これから来るであろう者を挙げていく。

 

 「となると、残りは三名ですね。第2支部と……

 

 

 

 

 

 

 

 

 第8支部、第9支部ですか」

 「ッ──!」

 「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 第8支部、第9支部……その言葉を聞いた瞬間、かすかに忌村の身体が硬直する。秋雨も、眉間にしわを寄せて口をつぐんでいる。

 すると、まるでタイミングを見計らったかのように、会議室の扉が勢いよく開かれた。

 

 「失礼しまーっす! 第8支部支部長、安藤(あんどう)流流歌(るるか)! ただいま到着しましたー!」

 「第9支部支部長、十六夜(いざよい)惣之助(そうのすけ)。同じく到着した」

 

 「る、流流歌……!」

 「…………」

 

 その二人の登場に、忌村はキュッと自身の手を握る。そんな忌村を見て、秋雨は静かに彼女の肩に手を置く。その視線は、原因とも言える二人に向けて。

 元・超高校級のお菓子職人の安藤流流歌、そして元・超高校級の鍛冶職人である十六夜惣之助。この二人、そして忌村と秋雨には切っても切れない関係がある。本来なら、すぐにでも切り離したい関係が。

 

 「……なぜ、お前がここに?」

 「あれ~? おかしくない? なんでここに副支部長がいるわけ? もしかして、第4支部にはちゃんと連絡がいってないのかな~?」

 

 忌村と秋雨の姿を見つけた瞬間、真っ先に秋雨がいることにわざとらしく首を傾げる十六夜と安藤。すると、秋雨が一歩前に出て二人と対峙する。忌村を背中で隠し、自身を盾にしながら。

 

 「うるせぇよ、甘党野郎と菓子女。オレがここにいるのはオレの意志だ。連絡ミスを疑うんだったら、集合をかけた上の人間に言うんだな」

 「はあ? 何ムキになってんのよ、意味わかんない。相変わらず短気すぎて嫌になっちゃう。ね、ヨイちゃん。はい、アーン」

 「……おいちい」

 

 その時の秋雨の顔は誰が見ても一目でわかるくらい「苛立っている」と語っていた。そんな秋雨を、嫌悪感を隠さず見せつける安藤。さっさと背中を向けて十六夜にお菓子を与えていた。

 

 「やっぱこういう空気になるよね~……。色々と気を遣っちゃうよ、まったく……」

 「まさに『スイカとサツマイモ』だね!」

 「テメェはその意味わかんねぇ言い回しをやめろ!」

 

 秋雨と安藤たちとの衝突で、一気に不穏な空気と化した会議室。黄桜は被っていた帽子を深く被り直しながら、やれやれと苦笑いを浮かべる。万代は相変わらず独特な自己解釈をしており、部屋の空気に苛立った逆蔵にツッコまれている。

 

 「……ふぅ、やれやれ」

 

 そんな彼らを見守りながら、天願は大きくため息をつく。幸い、お互いにそれ以上関わろうとはしなかったので、少しずつだが嫌な空気は消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……はず、だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「第4支部副支部長、秋雨彷徨。この査問会議にお前の存在は不要だ。さっさと出ていけ」

 「あいにく、帰れと言われて素直に帰るくらいなら最初からここにいない。それくらいわかるだろ? 宗方さん」

 (な、なななな何やってるのよ~……!)

 

 安藤たちが到着し、現時点で到着できる支部長の全員が揃ってから数十分後。今回の査問会議の中心人物である、第2支部支部長の宗方京助が到着する。だが、早々にトラブルが発生している。

 理由はもちろん、副支部長である秋雨の存在である。

 

 「今回の査問会議、第4支部は支部長の忌村がいれば十分だ。お前は戻って自分の仕事をしろ」

 「静子の傍に居るのがオレの仕事だ」

 「未来機関としての仕事をしろ、と言っている」

 「静子が心配で仕事なんて手につかん」

 「貴様……!」

 

 鋭い目つきで睨みつけながら正論を叩きつける宗方に対し、秋雨は堂々と社会人失格とも言える言葉を返し続ける。

 その態度に、より一層表情を険しくした宗方。そのまま秋雨の胸倉を掴みに行きそうな雰囲気を止めるかのように、「コホン」と咳払いが響く。

 

 「落ち着け、宗方君。確かに今の秋雨君は副支部長だが、その実力は支部長に相応しい。この場にいても問題は無いと思うが?」

 「……やはり、変わったな。昔のあなたなら、こんなイレギュラーなど認めなかった。それに、いくら実力があろうと組織では現実の肩書が重要だ。だから、オレは認めない」

 「宗方君……」

 

 会長である天願の諭すような言葉を聞いても、宗方は断固としてその意志を曲げなかった。彼はあくまで副会長。彼の言うように肩書が重要なら、矛盾しているようにも見える。

 だが、今の未来機関の内情を考えるとそうでもない。確かに会長は天願であるが、その実権は宗方が握っている。だからこそ、こうして自分が建設を進めた場所で会議を開き、天願に対しても強気に出ることができるということなのだ。

 

 「何度でも言おう……さっさと帰れ」

 「何度でも言う……絶対に断る」

 

 そして冒頭の場面に至る、ということである。かれこれ数分ほど睨み合いを続ける両者に、周りの支部長も飽きれ始めている。

 そこで、再び天願が間に入って説得を始めた。

 

 「……ならば、秋雨君には会議が終わるまで会議室入口で警備をしてもらってはどうかな? 入口にいるなら会議に口を出すことはできんが、何かあればすぐに対応することもできるぞ。まぁ、この部屋は防音性だが、さすがに騒ぎが起きればわかるだろう。元々警備をしていた宗方君の部下には、手薄な場所の警備を担当してもらうなどしてもらえば、より万全だ」

 「…………」

 「…………」

 

 天願の提案に、宗方と秋雨から緊迫した雰囲気が少しだけ消える。互いに考えをまとめているのか、しばらく沈黙が続く。

 

 ──ドカッ

 

 そして、最初に宗方が動き、自分の椅子に腰かけた。

 

 「……オレとしても警備の手が増えるのは望むところだ。だが、会議の邪魔をしようとしたなら容赦なく帰らせるがな」

 

 その言葉を聞き、秋雨も小さく息を吐く。そして、そのまま背を向けて扉に向かって歩き始めた。

 

 「オレは会議自体に興味はない。ただ、静子に何かあれば干渉する。それだけだ」

 

 ──バタン

 

 こうして、数分に渡って続いた二人の男の睨み合いは終わりを告げたのだった。

 ちなみに、その間に何度も名前を呼ばれた彼女はというと……

 

 「」

 「いやはや、若いっていうのも中々大変だね」

 

 すでに疲労困憊といった様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、会議室から出て入口の警備につくことになった秋雨はというと、すでに警備をしていた宗方の部下に事情を説明し、その場に残った。そして、一人になったその瞬間に内ポケットからイヤホンとトランシーバーのような機械を取り出し、何やら動かし始めた。そして、耳に着けたイヤホンから聞こえる音声に意識を向ける。

 

 『まったく……会議の前からとんだ茶番だ』

 

 それは、会議室にいる宗方の呆れ気味の言葉。ほぼリアルタイムで口にした言葉が、防音性の壁を挟んだ秋雨の耳にまで届いており……

 

 「……よし、来る前こっそり静子に仕掛けた盗聴器、問題は無さそうだな」

 

 問題ありありな行動をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 『……以上が、お前たちに伝えるべき情報だ。この情報を踏まえ、お前たちには──』

 (……ふむ)

 

 盗聴器越しに支部長たちと同じ情報を知る秋雨。そのまま顎に手を添えて、黙々と自らの意見をまとめ始めた。まず求められることは無いだろうが、情報を知った以上は考えずにはいられないのが人間というものだ。

 

 そのため、近づいてくる彼らの存在に気付くのが少しだけ遅れた。

 

 「……ちょっといいかしら?」

 「あ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「すみません、遅くなりました」

 

 扉が開かれて中にいる者たちが一斉に注目する中、彼は一歩前に出て堂々と声を出す。

 

 (……なるほど、アイツが)

 

 彼を先頭に、同行者二名も会議室に入ったことを確認すると秋雨は扉を閉める。その過程で、彼の後ろ姿をしっかりと目にしながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「未来機関第14支部所属……苗木誠です」

 (超高校級の……希望)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更ですが、第一話投稿してすぐの期間限定でしたが、日間ランキングで6位になっていてΣ(゚Д゚)!? となりました、初めてランキングに入れてすぐにスクショしました、ハイ
多くの方に見ていただけてとても嬉しいです!
次回は絶望編……もとい過去編です
今作では未来編=現代編、絶望編=過去編という分け方をしております
では、失礼します!




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Unplanned participant

とんでもなく間が空いてしまって申し訳ありません……
メインだけで手一杯でここまで手が回らなかった所存です……
この連休で一気に仕上げたので、かなり雑な部分はあるかと思いますが……よろしければご覧ください
では、どうぞ!





 「人類史上最大最悪の絶望的事件」によって混沌の中に堕ちた世界を救おうと活動を続ける未来機関。その未来機関に所属し、超高校級の絶望という「人類史上最大最悪の絶望的事件」を引き起こした張本人を斃した苗木誠。

 英雄と称されるはずの彼は、「絶望の残党」を匿っていた。その罪を追求しようと開かれた査問会議には、様々な思いが交錯したまま始まろうとしていた。

 

 「すみません、遅れました。未来機関第14支部所属……苗木誠です」

 「……来たか、苗木誠」

 

 同行者2名と共に現れた苗木を、査問会議に集まった各支部長が一斉に視線を集中させる。その中でも一際鋭い視線で睨みつける宗方は、さも当然のことのように次の段階へと移った。

 

 「拘束しろ、逆蔵」

 「了解だ」

 「ちょ、ちょっと! 話も聞かないで拘束なんて!」

 

 来たことに対する確認だけ済ますと、逆蔵に視線を向けて拘束を指示する。当の逆蔵も反論をしようとしないどころか、むしろ待っていたかのように手錠を用意して立ちあがった。

 そのあまりに理不尽な場の流れに、苗木の同行者である朝比奈葵は苗木を庇うように前に出る。

 

 「待って、朝比奈さん! 大丈夫だから……落ち着いて」

 「苗木……」

 

 そんな朝比奈を落ち着かせようと、苗木は窮地に立たされながらも精一杯の笑顔を見せる。その姿を見て、朝比奈は元の場所まで下がる。もちろん、まだ納得はしていないだろうが。

 

 「悪いな。江ノ島循子を斃した英雄様に手錠なんてかけちまってよ」

 「あ……いえ、そんな。それに、英雄なんて──」

 

 ──ゴッ!!

 

 「ガッ──!?」

 「苗木!」

 

 わずかながら申し訳なさそうな態度を見せる逆蔵に、思わず油断する苗木。だが、その油断も束の間。唐突に放たれた逆蔵の拳に腹を殴られ、少量の血が口から吐き出される。

 

 「話を聞くよりも先に手を出すのが未来機関のやり方なのかしら?』

 「……どうやら、荒れているようだな」

 

 そんな会議室での出来事を、忌村に仕掛けた盗聴器越しに聞く秋雨。彼自身、何かしら起こるであろうことは予想していたらしく、特に動じる様子は無かった。

 そのまま中の会話に耳を澄ませると、ひとまず傷を負った苗木を治療するため会議の開始を遅らせるという流れになっていった。そのすぐ後に、雪染と苗木が会議室から出て別室へと移動していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お疲れ様です、秋雨副支部長!」

 「……宗方の部下が何の用だ?」

 「え……? あの、秋雨副支部長が自分に用があると言われたのですが……」

 「は?」

 

 その後も会議室前の警備を続けていた秋雨だったが、最初に警備をしていた宗方の部下が戻ってきた。だが、どうにも話が噛み合っていない。そこで、秋雨はその話の出所を探った。

 

 「その話、誰から聞いた?」

 「えっと……十六夜支部長ですが」

 「…………」

 

 その名前を聞いた瞬間、秋雨は全てを理解した。

 

 「あの、それで話とは……」

 「悪い。少しの間、警備を頼んだ」

 「え!? 秋雨副支部長!?」

 

 それだけ言って、秋雨は宗方の部下一人を残して足早に移動を始めた。あまりに唐突な展開に、宗方の部下は事態が飲み込めずにいたが、仕方なくそのまま会議室前の警備を始めたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 

 十六夜惣之助は、基本的に安藤流流歌の傍を離れない。それは彼が子どもの頃からそうであり、大人になって未来機関の一員となった今でも同じだ。そんな彼が安藤から離れるのは、離れざるを得ない状況の時のみ。

 その一つは、人間として最低限必要な生活行為の一つである。

 

 「……よくここがわかったな」

 「会議室から出た時に、わざわざ『便所だ』って言ってたのはお前だろう」

 「お前がどこに行くか聞いてきたから答えたまでだ」

 

 会議室から最も近い場所にある男性用トイレの近くで佇む十六夜に、秋雨はゆっくりと近づきながら声をかける。

 そして、2~3mほど離れた位置で向かい合うと、秋雨は鋭く細めた眼を十六夜に向けた。

 

 「それで? こんなわかりにくい方法を使って人を呼び寄せた理由はなんだ?」

 「お前のことだからすぐに把握したはずだ。それをわかりにくい方法と言うのはどうかと思うぞ」

 「一般的には、って話だ」

 

 普通なら、見に覚えもないのに他人から「話があるから来た」と言われれば「間違いだ」と言ってしまうだろう。それか、その人物を警戒して慎重になる。

 だが、秋雨はその奥にある意図を見抜き、その話の出所を探った。そして、その人物がどこにいるかも冷静に判断して、特に迷うことも無くここに辿り着いていた。

 

 「まあ、そんな話はどうでもいい。それで、お前を呼び出した理由だが……」

 

 しかし、それは十六夜にとって想定内……というより、予定通りのことだった。そうして彼は、そのまま次の行動を開始する。

 

 「ただ一つ……単純なことだ」

 

 そう言って彼は服についているフードを被り、静かにポケットに手を入れる。そして──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ビュオ!

 

 「──こういうこと(・・・・・・)だ」

 

 一瞬で秋雨との距離を詰めた十六夜。その彼の手には……ギラリと照明を反射させる鋭いクナイが握られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──シュッ!

 

 クナイを握った秋雨の手が、ちょうど秋雨の頭があった部分を横一文字に振り切る。だが、秋雨は瞬間的に両足の力を抜くことで姿勢を崩し、その攻撃を完全に避ける。

 そして、力を抜いた足が膝を突くよりも前に力を込め、体勢を低くしたまま足を大股に広げて立つ。それと同時に構えをとっており、ほとんど十六夜のクナイが頭上を通過した次の瞬間に動いた。

 

 「ハッ!」

 「ぐ!?」

 

 十六夜がクナイを振り抜いた瞬間に、彼のコートをしっかりと掴む秋雨。襟元と右脇の部分……柔道の組み方だ。そうして掴んだのも束の間、そのまま足を十六夜の足元に滑り込ませ、身体を回転させる。

 そして……

 

 ──ダァン!!

 

 十六夜が突っ込んできた勢いすら利用して、容赦のない背負い投げが決まった。派手な音が廊下に響き渡り、その衝撃の強さが伺える。さすがの十六夜も無傷では済まず……

 

 「……ッ!」

 

 勢いよく床に叩きつけたものを見て、秋雨は思わず目を見開く。それは、十六夜のコートを羽織っていたが、十六夜ではなかった。さらに言うならば……人ですらなかった。

 

 ──ジャキン!

 

 「残念だったな……変わり身だ」

 「……まったく、超高校級の鍛冶職人のくせに、忍者みたいなことしやがって」

 

 十六夜のコートを羽織った……特別性の金属。十六夜が武器を作る時に材料としているものだ。

 それを変わり身として秋雨の背負い投げを躱した十六夜は、そのまま背後に回ってクナイを首筋に突きつける。

 

 「どっちの超高校級か、ハッキリさせてほしいものだ」

 「それを言うなら、お前だってそうだろう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 保育士を名乗るなら、目潰しなんてするべきじゃない」

 

 クナイを秋雨の首筋に突きつける十六夜の眼前……そこには、確実に両の眼を抉ろうと寸前にまで突きつけられた秋雨の指があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………」

 「…………」

 

 首と眼……それぞれ人体の脆い部分に凶器を突きつけ、黙り込む。一寸も動かず、互いに急所を突ける状態を続ける。そんな緊迫感迫る状況が何秒か続き……

 

 「……引き分け、か」

 「そうだな」

 

 そして、唐突に終わった。同時に凶器を引き、互いの身体を解放する。そこには、先ほどまであった張りつめたような緊迫感は欠片も存在していなかった。

 

 「まったく……急に腕試しをするのはやめろっていつも言ってるだろ」

 「本物の襲撃なら急に来るものだ。それに、お前ならいつ始めても大丈夫だからな」

 「誰のせいだよ」

 

 むしろ、そこには友好的(・・・)な雰囲気が漂っていた。

 その証拠に……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ガッ!

 

 「腕は落ちていないようで安心したぞ、彷徨」

 「こっちの台詞だ、惣之助」

 

 二人は右拳を合わせ、親しそうに相手の名前を呼ぶ。その顔に、一点の曇りもない笑顔を浮かべて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「しかし、まさかお前がいるとは思わなかった。さすがに今回ばかりは大人しく残っていると思ったんだが」

 「こんな状況だ。静子一人で行かせられるか。本当なら会議室に居続ける予定だったのに……くそ」

 「相変わらず心配性なことだ」

 

 言葉を交わす二人の間には、会議室で見せたような嫌悪感は欠片も無かった。おそらく今ここに、何も知らない会議室にいた人間が来たら自分の眼を疑うだろう。それだけ二人の中は良さげに見えた。

 

 「心配して当然だ。なにせ、あの女がいるんだからな。ついていくのは当然だ」

 「……お前、それは流流歌のことを言っているのか?」

 「他に誰がいる。静子と溝があるのは、未来機関にアイツだけだろ」

 「あれ(・・)は流流歌に非はない」

 「お前らはそう思ってても、静子はそう思ってない。もちろんオレもだ」

 

 だが、忌村と安藤の仲についての話になると、若干ながら表情に影が差し込んできた。

 会議室でのやり取りを見ていれば察する者もいるだろうが、忌村と安藤は過去に起きたある出来事を機に交流を断っている。それまでは友人として過ごしてきたが、今となっては見る影もない。秋雨と十六夜もその輪に入っていた当人だが、二人は今までと変わらぬ交流を続けていた。もちろん、忌村と安藤には悟られないようにだが。

 

 「言っておくが、流流歌に手を出せば容赦はしない」

 「こっちだって静子に何かあれば本気でやる。それこそ、原形も残さずに殺す」

 「……望むところだ」

 

 真正面から、鋭い眼で睨み合う二人。秋雨は忌村を、十六夜は安藤を大切な女性として接している。その思いの強さは並大抵ではなく、それゆえに二人が放つ殺気も本物だった。

 そうして殺気を放った十六夜は、静かに背を向けて歩き出す。秋雨はそれを追おうとはせず、彼はその場に居続けた。

 

 「──ああ、そうそう」

 「……?」

 

 だが、急に秋雨がわざとらしく声を上げたことで、十六夜の足が止まる。何かと思って振り向くと、秋雨が「当然だ」とでも言いたげな表情で十六夜を見ていた。

 

 「お前、静子についてきたオレに心配性だって言ったけど……逆の立場だったらお前だってそうしただろ? だからオレの行動は“心配”じゃない……“当然”のことだ」

 「……フッ、納得だ。やはりお前は良いことを言う」

 

 それを最後の言葉として、十六夜は会議室へと戻っていった。そして、数分後には秋雨も再び会議室前の警備へと戻ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

 ─────────────

 

 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……ん?」

 

 会議室前へと戻ってきた秋雨は、そこにいるはずの人間の姿が見えないことに気付いた。自分に十六夜からの伝言を伝え、離れている間の警備を任せたはずの……宗方の部下が。

 

 (別の場所の警備に行った……? いや、この会議室より警備を優先する場所なんてあるはずない)

 

 宗方の部下の不在を不審に思いながら、秋雨は扉の前に立って警備を行う。一応、会議室の中の状況も確認しておこうとイヤホンを耳にしようとしたところで……それは起こった。

 

 ──ドガァァァァン!!

 

 「ッ!?」

 

 突然の爆発音と共に、大型地震と同レベルの揺れが秋雨を襲う。さらに、揺れが起きるのとほぼ同時に警報音が施設中に鳴り響いた。

 爆発音と警報……この二つが意味するのは、この揺れが外部から大きな衝撃があったことだった。

 

 「──静子!!」

 

 揺れが弱まり始めたところで、会議室にいるであろう忌村の身を案じて秋雨は扉を開ける。

 揺れの影響か、会議室の中の照明は落ちており、非常灯の赤い光だけで照らされていた。

数多くの人間がいる中で、秋雨は一瞬で目的の人物の姿を見つけた。

 

 「静子! 大丈夫か!」

 「だ、大丈夫……。彷徨は……?」

 「お前が無事ならオレも無事だ」

 

 すぐさま忌村の隣に移動し、彼女の安全を確認する秋雨。どうやら何事も無かったようで、目に見える傷はない。

 忌村の安全を確認すると、秋雨は中にいる人間の数を確認する。ほとんどの人間が揃っており、いないのは傷を負った苗木、苗木を治療している雪染、霧切と朝比奈の4人だった。

 

 「何があったんですか!?」

 

 秋雨が会議室に入ってすぐ、会議室から出ていた雪染と苗木が戻ってきた。これで戻っていない人物は2人のみとなったが、事前に集まっていた幹部は全員揃ったことになる。

 

 「認めたくはないが……襲撃だ。今、状況を確認している。……万代、どうだ?」

 「うん……モニターに表示するよ」

 「襲撃……」

 

 宗方が放った言葉を、秋雨はボソリと繰り返す。あり得ないとされていた可能性が起きており、会議室内は緊張感で張りつめていた。

 そんな中、万代はタブレットを操作してモニター画面に各監視カメラの映像を映し出す。どうやらモニターも非常用電源で動いているようだ。

 

 「これは……!」

 「出入り口が瓦礫で塞がれている……」

 「玄関、非常口……エレベーターも使えなくなってるよ……」

 

 モニターに映された現状に、思わず息を呑む未来機関幹部たち。完全に瓦礫に埋まった出入り口だけでなく、エレベーターも使用不能という万代の言葉に、改めて襲撃の大きさを思い知る。

 

 「どういうことよ! ここって誰も知らないんじゃなかったの!?」

 「……誰かが、敵に知らせた…………」

 「ハァ!?」

 「…………」

 「──チッ!」

 

 襲撃が起きた事実に対し、怒りを露わにする安藤。そんな安藤の言葉を受け、疑惑の目で周囲を見渡しながら忌村が呟く。

 自身にも視線を向けられたことで怒りを強くする安藤だったが、秋雨が忌村を庇うように立ったことですぐに背を向けた。

 

 「……まさか、テメーの仕業か。苗木誠……」

 「ち、違います!」

 「……念のためだ。逆蔵、そいつを拘束しろ」

 

 誰も知らないはずのこの施設について、情報を流せる人間がいるとしたらここにいる人間が怪しい。その中で最も怪しい者がいるとすれば、すでに裏切り者のレッテルを貼られている苗木だった。

 逆蔵が苗木を拘束すると、宗方はすぐさま次の指示を出す。

 

 「全員この部屋から出るな。今、警備員と連絡を──」

 

 ──バン!

 

 だが、その瞬間……会議室の扉が勢いよく開け放たれた。そこに立っていたのは、必死の表情で汗を流し、息を切らした朝比奈葵だった。

 

 「け、警備員さんが……トイレで、死んで……」

 「ッ──!」

 「本部、警備員共に連絡取れません!」

 「……そういうことか」

 

 朝比奈の報告に、宗方は目を見開く。その直後に入った、実際に連絡をとろうとした雪染の報告が朝比奈の言葉を揺るぎない真実であることを知らしめる。

 そこで、秋雨は先ほど自身が感じた違和感の正体を掴んだ。いるはずの宗方の部下がいない理由……それは、彼も他の警備員同様に始末されたということ。皮肉にも、十六夜に呼ばれて彼と行動していたおかげで、秋雨は被害を免れたのだった。

 

 「あ、あの……会長」

 「む……?」

 「すみません……遅れました」

 (……第10支部支部長、御手洗(みたらい)亮太(りょうた)? なぜ、アイツがここに……)

 

 すると、息を切らして跳び込んできた朝比奈の後ろから、遅れて二人の人間が入ってくる。一人は霧切響子。そしてもう一人は、今日の会議には不参加だと知らされていた第10支部支部長だった。一見すると支部をまとめる支部長には見えないほど、身体つきも虚弱で血色が悪いその顔を秋雨は見間違えるはずもなかった。

 

 「御手洗君……!? なぜ君が……?」

 「い、いえ、その……やっぱり、大事な会議には出ておかないとと思って……」

 「……そうか、すまんな」

 

 本来なら不参加の御手洗の登場に、会長も少し驚いているようだった。一方、当の御手洗はこの騒ぎの中で来てしまったことを申し訳なく思っているのか、ずっと目を伏せていた。

 

 「落ち着きましょう、皆さん。考えてもみてください。ここには未来機関の幹部……元・超高校級の人間が数多く揃っています。どんな敵にも負けはしません」

 

 混乱が続く会議室全体に届くよう、ゴズはマスクを被っていながらも大きな声を響かせる。ひとまず落ち着くよう呼びかけるその巨体は、こんな状況では何よりも頼もしい姿に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──コトン

 

 

 

 

 

 

 

 

 「だから────ん?」

 

 だが、現実はその上をいく。

 

 ──ブシュウゥゥゥゥ!!

 

 「なっ!?」

 「ゲホ! ゲホ! ちょっと、なにこれ!?」

 「さ、催眠ガス……! しかも、即効性……の……」

 

 どこからか投げ入れられたゴルフボールくらいの大きさをしたモノクロの球体。それに気付いた時にはすでに遅く、その球体から白いガスが勢いよく噴き出した。

 突然のことに再び混乱する会議室。その中で、忌村はすぐにそのガスの正体が即効性の催眠ガスであることを見抜いた。元・超高校級の薬剤師という才能を活かしてのことだったが、正体がわかっても、それを防ぐ術は持ち合わせていなかった。

 

 「ぐっ……! 静子!」

 「彷徨……」

 「しっかりしろ! 目を──ぐぅ……!?」

 

 ガスが噴き出した瞬間、秋雨は忌村の肩を抱く。しかし、すでに忌村はガスによって意識を失いかけていた。なんとか彼女を起こそうとするが、そんな秋雨にも急激な眠気が襲いかかってきた。

 

 「かな、た……」

 「大、丈夫だ……! オレが、絶対に……守────!」

 

 そうして、彼らの意識は闇へと沈んだ。その中で、誰が予想しただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『──うぷぷぷ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました先にあるのが──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『あ、そうそう。言い忘れてたけど……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 希望の象徴である彼らでさえ、誰かを守ることすら困難な──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ゲームはもう……始まってるんだよね~』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 絶望に染まったコロシアイゲーム(・・・・・・・・)だと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──雪染ェェェェェェェェ!!」

 

 紅い液体で染まった会議室に飾られたシャンデリア。雪染ちさだったもの(・・・・・・・・・)を乗せ、それ(・・)は落下する。

 

 ──ガシャアァァァン!!

 

 ガラスと共に飛び散った紅い鮮血は、彼らに絶望の始まりを告げる。そして、その血の宿主である彼女の胸に刺さったナイフが、嘲笑うかのように鈍い光を反射したように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【残り人数……15人】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




いよいよ始まりました、コロシアイ
秋雨彷徨がいることで運命はどう変わるのか……ご期待ください
ちなみに、なんで秋雨と十六夜の仲がいいのかは絶望編の方で書いていきたいと思っています
まぁ、一言で言うなら男の友情ってやつですね、ハイ
では、失礼します!




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絶望編
僕にとってのあなた


大変お待たせして申し訳ありません……!
早く書こう書こうと思いつつも……先日発売された『V3』にすっかりのめり込んでしまい、書く時間が取れず……
今回のダンガンロンパも、今までとは違う予想外な展開や悲惨な展開があって素晴らしいですね!
だからこそのめり込んでしまったわけですが……
さて、今回は絶望編もとい過去編の第一話
彼らの過去に何があったのか……ぜひご覧ください
では、どうぞ!






 「あら~! お宅の息子さん、賢そうな顔をしてて将来が楽しみですわね~!」

 (生意気そうな顔……。でも、ウチの子のいい引き立て役になりそうね)

 

 

 

 

 

 「皆さんの笑顔のために職務に励んでますから!」

 (んなわけあるかよ。給料高くなけりゃ辞めてるっての)

 

 

 

 

 

 「す、すみません……。グスッ、感動しちゃって……」

 (クッセ~! 今どきこんな話する!? ウソ泣きも疲れるんだから勘弁してよね~!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 (みんな……なんて子どもっぽいんだろうな)

 

 それが、()が感じた周囲への価値観である。

 この価値観が確立した時……彼はまだ片手の指で足りるほどの年齢だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「は、初め……まして。忌村静子……です」

 「秋雨彷徨です。よろしくね、静子ちゃん」

 

 そんな価値観を抱えたまま、彼らは出会った。

 超高校級の薬剤師の才能を持つ少女と超高校級の保育士の才能を持つ少年。

 

 (わ、私……私は────!)

 (……ああ、この子も他の人と同じなんだ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 その出会いは、決して特別ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ─────────────────────────────

 

 ───────────────────────

 

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 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 父親の仕事の都合で転校が決まり、まったく知らない土地で生活をすることになった秋雨。バタバタと行っていた引っ越しも、新たな学校に通う準備も着々と進んだ。今のところ、特に問題は感じられない。

 

 ──ピンポーン

 

 「静子ちゃん、あーそーぼ」

 

 ご近所づきあい(・・・・・・・)に関しても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「薬?」

 「そ、そう。私……色んな薬を作るのが好きなの。う、上手く言えないんだけど……こう作ればこんな効果がある、っていうのがなんとなくわかるっていうか……」

 

 忌村を誘い、近くの公園へとやってきた秋雨は、ベンチに座って何気ない話を始めた。今は「好きなこと」について聞き、忌村が一生懸命に話している最中だった。この年齢にそぐわない薬への知識などは、彼女が持つ超高校級の薬剤師の才能の片鱗なのだろう。

 

 「あ……ゴ、ゴメンね? 急に薬の話なんかしても、つまんないよね……?」

 「ううん、そんなことないよ」

 

 自分だけが必死に喋っていることに気付き、忌村は頭を下げる。だが、秋雨はニッコリと笑って首を振る。

 

 「僕もよく知らないけど……そういうのって、才能って言うんだって。きっと静子ちゃんには、すごい薬を作れる才能があるんだね。羨ましいな」

 「う、羨ましい!?」

 

 突然の褒め言葉に、忌村は全身を大きく跳ね上がらせる。その大袈裟とも言える反応に思わず秋雨も驚いたが、その表情を見て本心を知るまでもなく首を傾げる。

 

 「……なんで照れてるの?」

 「え!? あ、その……男の子からそんなこと言われたの、初めてだったから……」

 「……そうなんだ」

 

 それで照れるものなのか、と秋雨は冷めた反応をする。特に深い意味も無く発した言葉に対して、そこまで過剰に反応されたことで驚いていたが、よく考えれば似たような経験は彼にもある。

 

 (ま、結局感じ方は人それぞれってことだからね……)

 

 子どもらしからぬ結論を付けてから、秋雨は忌村と再び話し始める。何気ない話を、時々本心を知ることでトラブルとならないように気を付けながら。

 

 

 

 

 

 だが、トラブルとは言葉によって起こるものだけではない。

 

 

 

 

 

 「あ──!」

 

 ──ズザッ!

 

 「痛ッ──!」

 「か、彷徨君!」

 

 少し体を動かそうと忌村を誘い、追いかけっこをしていた二人。その途中、秋雨は身体のバランスを崩して転んでしまった。いくら精神が子ども離れしていても、まだ子どもであることに変わりはない。まだ身体も出来上がっていないため、走っている途中で転んでしまうなど普通のことなのだ。

 

 「大丈夫!?」

 「……うん、大丈夫。いっ──!」

 

 心配そうに覗き込む忌村に笑顔を向け、そのまま立ち上がろうと足に力を込める。しかし、その瞬間に激痛が走る。見ると、右足の膝に擦り傷ができていた。かなり勢いよく転んだからか、血も出ていてより痛々しさを感じさせた。

 

 「け、怪我したの……!?」

 「そうみたい……。ちょっと、そこの水道で洗わないと……」

 

 幸いにも、二人が遊んでいたのは公園。公共の水道が近くにあり、傷口を洗うことができそうだった。

 秋雨は無傷な方の足に力を込めながら水道まで自力で移動を始める。さすがに女子である忌村の力を借りるのは難しいと思ったのだろう。一方の忌村も、秋雨の怪我を見て少し震えていた。

 そして、なんとか水道まで辿り着き、砂を洗い流し始めた秋雨。すると、今まで震えていた忌村が何かを決心したかのようにギュッと拳を握った。

 

 「ちょっと待ってて!」

 「え?」

 

 それだけ言って、忌村はその場から離れた。彼女が向かった方向は、公園の中でも遊びに使われるエリアから少し外れた方向……草木が生い茂った方だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「こ、これ……! 使え、ば大丈夫……!」

 

 数分後、忌村はひどく息を切らした状態で戻ってきた。その手に、同じ種類の野草を何本も持って。

 何事かと思っていた秋雨に対し、忌村は息を整えることもせずに野草から葉の部分を取り外し、念入りに洗っていく。そして、一枚一枚を丁寧に傷口に貼っていった。

 

 「……これは?」

 「き、傷口の治りを、早くする野草……! 貼っていれば、痛みもすぐ治まると思う……! 前に傷薬を作った時、使ったから……!」

 

 汗を流しながら、秋雨に野草の説明をする忌村。薬に詳しいからこそ、薬の材料でもある野草にも詳しくなれたのだろう。その視線は野草を貼る傷口へと向けられたままで、その懸命さが伝わってくるようだった。

 秋雨は、ただ静かにその一生懸命な姿を見て、密かな疑問を浮かべていた。

 

 (……なんで、そんなに一生懸命なんだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……友達?」

 「そ、そう……。彷徨君より先に知り合った二人がいて、私の初めての友達なの……」

 

 それから数日後、再び遊ぶことになった忌村と秋雨だったが、その日は秋雨にとって新たな者たちとの顔合わせの日となった。ちょうどその友達からも遊びに誘われたため、せっかくだからと忌村が秋雨も誘ったのだ。

 そして、いつもの公園で話ながら待っていると、一風変わった子どもの男女がやってきた。

 

 「あ! 静子ちゃーん!」

 「る、流流歌ちゃん!」

 

 やってきた子どもの内、女の子の方が手を振りながら忌村の名前を呼ぶ。それに気付くと、忌村も大きく手を振ってから彼女のところへと走り出す。秋雨もそれを追って二人のところへ向かった。

 

 「久しぶりだね! それで、その子が言ってた子?」

 「う、うん! 秋雨彷徨君!」

 「秋雨彷徨です。静子ちゃんとはお隣さんなんだ。よろし──」

 

 と、女の子に握手を求めようとした瞬間。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──流流歌に何をする気だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一緒に来た男の子が細い針金を秋雨に容赦なく向けてきた。子どもでもわかる。その子が秋雨に向けていたのは……間違いなく敵意だった。

 

 「……初めて会ったから握手をしようとしただけだよ。驚かせたならゴメンね」

 「もー! ヨイちゃん!? ビックリさせちゃうから、そういうことしちゃ駄目って言ったでしょ!?」

 「……すまない。勝手に動いてしまった」

 

 少し動揺はしたが、秋雨は一歩下がってから頭を下げた。同じ年齢の普通の子どもなら、恐怖を感じるか怒りを覚えるだろうが、子ども離れした精神を持つ秋雨は驚くだけで済んだ。

 すると、女の子の方が大声を張り上げて男の子を叱り出した。その言葉にハッとして、男の子はすぐに針金をしまって申し訳なさそうに目を伏せていた。それだけで、なんとなくこの二人の力関係が見えてくる。

 

 「えーっと……秋雨君だよね? ゴメンね? 私、安藤流流歌! お菓子作りが得意なんだ! これからよろしくね!」

 「十六夜惣之助だ。流流歌に何かしたら許さないぞ」

 「ヨ~イ~ちゃん? 今日はもうお菓子あげないよ?」

 「ごめんなさい」

 「……うん、よろしくね。安藤さん、十六夜君」

 

 安藤と十六夜……新たに出会った二人に、笑顔を向ける秋雨。その様子に、忌村も笑顔を浮かべる。以降、彼らはよく四人で過ごすようになっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「静子ちゃんって本当にすごいよね~! 色んなお薬を作れて、流流歌のこともたくさん助けてくれたんだ!」

 「そ、そんなこと……」

 「流流歌がこう言っているから、誇っていい」

 「そっか。やっぱりすごいんだね、静子ちゃんは」

 

 

 

 

 

 「ねぇ、静子ちゃん。実は昨日の夜から目が痒くて……」

 「だ、大丈夫!? ちょっと待ってて。確か、少し前に作った眼薬があるから……」

 「用意がいいな。助かる」

 「ホントだね」

 

 

 

 

 

 忌村の最初の友達ということもあり、秋雨も彼らと馴染んでいこうとしていき、安藤と十六夜もそれを認め始めていった。

 特に、十六夜とは男同士ということもあり、彼に認められてからはその仲も急速に縮まっていった。気付けば、いつも安藤から離れない十六夜が秋雨と並んで話すことも珍しくなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ─────

 

 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「惣之助君ってさ、流流歌ちゃんのことが好きなの?」

 「……いきなりどうした?」

 「ちょっと気になって」

 

 この日、最初は四人で集まっていたのだが、安藤が忌村と二人きりで花を摘みに行くと言い出し、それに従って男女で分かれていた。最初は何気ない雑談をしていた秋雨と十六夜だが、突如として秋雨がその疑問を投げかけてきたというところだった。

 

 ──ジャキン!

 

 「彷徨……まさか、流流歌に気があるのか?」

 「流流歌ちゃんは友達だよ。今のところ、それ以上の感情はないかな」

 「本当だな?」

 「うん。確かに流流歌ちゃんは可愛くて人気者だけど、僕には高嶺の花だよ」

 「高嶺の花……ふむ、良いことを言う」

 

 秋雨の問いに危機感を感じたのか、首元に自家製のクナイを向ける十六夜。しかし秋雨は慣れているのか、特に慌てることなく十六夜が感じた危機感を払拭した。そうして安心した十六夜は懐にクナイをしまうと、先ほどの問いに対して腕を組んで考え始めた。

 すぐに答えが返ってくると思っていた秋雨は意外そうな表情を浮かべたが、何も言わずに十六夜の言葉がまとまるのを待つ。そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「好きというよりは……大切だな」

 「……大切?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 首を傾げる秋雨に、十六夜は「ああ」と答えると、少し空を見上げながら言葉を続けた。

 

 「流流歌はオレを必要としてくれるし、いつも傍に居てくれる。一緒にいるだけで幸せになれる。オレはそんな流流歌を護りたいし、ずっと一緒にいてほしいと思う。だから、オレは流流歌が何よりも大切なんだ」

 「…………」

 (本当に……大切に思ってるんだなぁ)

 

 無意識に十六夜の本心を感じ、秋雨は静かに感心する。とてもじゃないが、小学生が語る言葉とは思えない。

 

 「それに、流流歌のお菓子はおいちいからな」

 「……やっぱりそこは外さないんだね」

 「当然だ」

 

 しかし、直後に小学生らしいシンプルな理由も出てくる。だが、それは言ってみれば彼女の才能を素直に認めているということだ。おそらく、十六夜が感じていることは安藤が感じていることでもあるのだろう。

 すると、今度は十六夜が思いもよらぬ問いを投げかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お前はどうなんだ? 忌村のこと……どう思ってるんだ?」

 「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 お返しとばかりの内容の質問に、秋雨は思わず固まってしまう。なんとか頭を整理して、「ちょっと待って」とだけ言うと、秋雨は一人で考え始める。

 

 (静子ちゃんのこと……どう思ってるか?)

 

 正直に言うと、考えたことなど無かった。いや、正確に言えば考える必要がないくらい一緒にいることが自然だった。隣の家というすぐ会いに行ける安心感に、“友達”という繋がり。自然と隣には彼女がいた。

 そこに特別な感情を感じたことは無く、それはすでに日常と化していた。だからこそ、いざ考えてみるとわからなくなる。自分の本心は……彼女をどう思っているのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 (僕……僕は…………)

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいまー!」

 

 と、そこで思考は停止した。底なしの明るい声が鼓膜を震わせ、まさに話題の中心となっていた彼女たちが戻ってきたことに気付く。

 

 「帰ったか、流流歌」

 「うん! ただいま、ヨイちゃん!」

 「ただいま……彷徨君」

 「……うん。おかえり、静子ちゃん」

 

 突然帰ってきたことに驚きもせず、安藤が帰ってきたことに対して表情を和らげる十六夜。そんな十六夜を見て、安藤も満面の笑みを見せていた。

 そんな安藤の陰からひょこりと顔を出した忌村も、笑顔で秋雨に声をかける。先ほどまで十六夜としていた話題が話題なだけに少し反応が遅れたが、特に違和感を感じさせないよう言葉を返す。無意識に綻んだ表情と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 友人として、何気ない日常を共に過ごす四人。その間にある絆は時が経つたびに強くなっていき、いつの間にか彼らは一緒にいるのが当然になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しかし、いつからだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「流流歌ちゃん! コレ、この前言ってた集中力が続くようになる薬!」

 「え? そんなの頼んでたっけ? ……まぁ、いいや。くれるならもらっておくね」

 「流流歌、早く行こう」

 「…………」

 

 

 

 

 

 「あのさ……最近腕の疲れが半端ないんだよね」

 「じゃ、じゃあ……疲労が取れる薬、あるよ?」

 「ふーん。ま、もらっとく」

 「あ……」

 「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女たちの関係が歪んでいったと感じたのは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……流流歌ちゃんの頼みを聞くのを、やめろ?」

 「ああ」

 「ど、どうして……」

 「それがお前のためだろう」

 

 彼らが出会った時代である小学校時代は終わり、新たに中学生としての生活が始まって1年が経とうとしていた。出会った頃と比べると大きく成長した4人だが、その分、新たな問題が発生していた。

 秋雨の忌村に対するその言葉は、まさにその問題への警告だった。

 

 「わ、私のためって……私はなんともないし……」

 「嘘をつくな」

 「嘘なんかじゃ──!」

 「オレの才能……忘れたわけじゃないだろ」

 「──ッ!」

 

 昔と比べると、冷たい印象を受ける秋雨の言葉。しかし、確信を得ているその言葉に、忌村は何も言えなくなった。

 この頃には、すでに彼らは互いの超高校級の才能についてある程度は理解していた。人の本心がわかる秋雨に、嘘は通用しないということも。

 

 「……けど、流流歌ちゃんは友達、だから。少しでも、役に立ちたくて……」

 「お前はそうだとしても、向こうはそうじゃない。それはアイツの態度を見ていればわかるはずだ」

 「…………」

 

 出会った頃から、忌村はある約束(・・・・)のために安藤の役に立とうとした。最初はそれに感謝していた安藤だったが、いつからか、彼女にとってそれは当たり前になっていった。

 そして、当たり前になればなるほど安藤の忌村に対する扱いは雑なものへとなっていった。それは他人に言われるまでもなく、当人である忌村自身が誰よりもわかっている。

 

 「で、でも私は……」

 

 それでも、彼女は安藤との関係を切り離そうとはしなかった。それは、純粋に安藤から責められることへの恐怖もあるが、何よりも大きかったのは……

 

 「友達(・・)だから……私は、それでも……」

 「…………」

 

 忌村にとって安藤は初めてで来た友達であり、何よりも大切な存在だった。そんな彼女の役に立てるのなら、彼女との約束(・・)を果たすためなら……自分は傷ついてもいいと考えていた。

 そう語る忌村のことを、秋雨は黙って見つめる。だが、それは意外すぎる言葉で打ち切られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「じゃあ、オレが友達以上の存在(・・・・・・・)だったら聞いてくれるのか?」

 「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──オレは、静子が好きだ。だから、お前が傷つくのを見たくない」

 

 かつて言えなかった、彼自身の答え(・・)によって。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上、絶望編第一話でした
二人の出会いから彷徨の告白まで、といった流れでした
本当は所々もっと掘り下げようかと思いましたが、ダラダラと長くなりそうだったのでここで区切りました
絶望編での人間関係が未来編ではどのようになっているか、彼らが未来機関に至るまで何があったのか……楽しんでいただけたら幸いです
それでは、程々に『V3』を楽しみつつ、磁界をかけるようにして行きたいと思います(今にも誘惑に負けそうですが)
また次回、よろしくお願いします!





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我思う故に、この身を捧げる

恋愛ってするのも書くのも難しい……





 「オレは静子のことが好きだ。だから、お前が傷つくのを見たくない」

 「好──!? え、な、えぇ!?」

 

 あまりに突然すぎる告白に、忌村は対処しきれず顔を真っ赤にする。何が起こったのか理解することもできず慌てる忌村に対し……秋雨は不思議そうに首を傾げ、頭に浮かんだ疑問を口にした。

 

 「……そんなに驚くことか? 長い付き合いの男女なんだから、可能性としては十分にあることだろ」

 「そそそ、そういう問題じゃないでしょ!? 大体、好きって……! い、いつから──!」

 「自覚したのはつい最近だ。そうだな……去年の終わりくらいか?」

 「な、なななな……!」

 

 あまりに淡々と語られる衝撃の事実に、忌村の頭はオーバーヒートしそうになる。まさに穴があるなら入りたいと考える忌村に対し、秋雨はそんなことなどお構いなしに忌村に一歩近づく。

 

 「それで、返事は?」

 「え!?」

 

 首を傾げ、返事を求める秋雨。しかし、今の忌村はオーバーヒート直前。とてもじゃないが正常な状態であるとは言えない。そもそも、彼女はこの状況の理解すら追いついていないので返事をする余裕がまずなかった。

 しかし、秋雨は一歩ずつ忌村へと近づいていき、その距離を詰めようとする。まるで返事を急くかのように。

 

 「ちょ、ちょっと待って! 返事とか、急に言われても──!」

 「大丈夫。嫌だったら断ってくれればいいし、嫌じゃなければ頷いてくれればいい」

 「そんな簡単なことじゃないでしょ!?」

 

 あたふたと慌てふためく忌村は、近づいてくる秋雨に対して後退ることしかできなかった。しかし、それでも秋雨は近づくのをやめない。一定の距離を保っていく二人だったが……二人がいるのは壁に囲まれた室内である。

 

 ──ドン

 

 「あ──!」

 

 当然、後退っていれば壁にぶつかる。そうなるともう逃げ道はない。一定に保っていたはずの距離はあっという間に詰められ、忌村の目の前に秋雨の身体がある。そんな状態に耐えられるはずもなく、忌村は顔を背けてなんとか秋雨の顔を見ないようにしていた。

 

 「ほ、本当にちょっと待って……。急に言われて、訳がわからなくなってるから……」

 「…………」

 

 顔を真っ赤にして、忌村は声を絞り出す。今にも破裂しそうなほどの鼓動を自身の胸から感じながら、なんとか頭を整理しようとする。そんな忌村を見下ろしながら、秋雨は黙ったままそこから動かない。

 しかし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──ギュ

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょちょちょちょ!? な、なななな何を!?」

 

 突然、何を思ったのか忌村を抱きしめる秋雨。その途端に、整理しようとした忌村の頭が再び大混乱を始める。ドクンドクンと強く脈打つ鼓動と、身体全体を火照らせてる熱のせいで倒れそうになる忌村。まともに話すら聞けないと思われる状況……のはずだった。

 

 「──最初は、なんとも思っていなかった」

 「……?」

 

 しかし、ポツリと耳元で呟かれたその秋雨の言葉だけは、驚くほどスッと忌村の耳に入ってきた。さらに、その声が届いた瞬間、今まで感じていたはずの熱が下がって頭の中がクリアになっていくような感覚を感じた。

 

 「でも、ある時ふと考えた。オレにとって静子はどんな存在なのか、って。それまではまったく考えなかったことだからか、一回考えただけじゃ何も浮かばなかった。その後、何回考えても同じだった」

 

 十六夜に言われて……とは言わなかったが、きっかけはそこだった。彼に問われて、自分にとっての忌村静子という存在が何であるかを幼いながらに考えてみたのが始まりだった。だが、知っての通りそこで答えは出なかった。だから、秋雨はその後も考え続けた。

 ……結果として、その答えが出るのに数年の月日がかかったわけだが。

 

 「だからオレは考え方を変えた。……『もし静子がいなくなったらどうするのか』って。そうしたら…………」

 「……か、彷徨君?」

 

 そこで、秋雨の言葉は一度止まった。突然の沈黙に、忌村も視線を秋雨へと向ける。といっても、さっきから高鳴り続ける自身の心音のせいで視線は揺らいでいるのだが。

 そうして、何秒の沈黙があっただろうか。沈黙の終わりは、直接的な変化によって訪れた。

 

 ──ギュウ……

 

 「オレは、何も考えられなかった。静子がいない世界を……欠片も想像できなかった」

 「ッ……!」

 「そこでやっと気付いた。オレにとって静子は……それだけ大切な存在なんだってことに」

 

 言葉よりも先に、秋雨はより力強く忌村の身体を抱きしめた。強く抱きしめられたことと耳元で囁かれたどこか悲しげなトーンの言葉に、忌村の心音はまた一気に速度を増した。

 これまでの決して長いとは言えない人生の中で、ここまでシンプルに自分の存在を認められたことなど忌村には無かった。かつて安藤と対等な関係でいた頃に受けた彼女からの賞賛よりも、今この瞬間にかけられている言葉の方が圧倒的に大きかった。

 

 「か、かな──」

 「断ってくれても構わない。ただ、それでもオレは勝手に静子を守る。それでお前から嫌われることになっても、オレはお前の悲しむところを見たくない」

 「──ッ!」

 

 だが、そのことに感動を覚えたりしている時間はない。これは告白。受けた告白には、答えなければならない。肯定か否定か……そのどちらかで。

 秋雨は否定されても構わないと言っているが、まったく大丈夫ということはないだろう。幼少の頃から人の本心ばかりを見てきて、実年齢以上に大人びた彼でもまだ少年なのだ。同年代の少年少女と同様に心を痛めるし、その結果不安定になったりするかもしれない。

 それでも否定されることを受け入れようとしているのは、やはり相手である忌村のことを思ってのことなのだろう。仮に否定の結果になっても、彼女が感じる責任が少しでも減るように、と。

 

 「…………」

 

 そこまで言われても、忌村は何も言えずにいた。なんとか言葉をまとめようとするが、まるで耳元で鳴っているかのように響く自身の鼓動の音がそれを邪魔していた。しかし、いつまでも沈黙しているわけにはいかないことは彼女もわかっている。混乱している頭のままでも、一つひとつの言葉を紡ぎ出そうとする。

 そして……ポツリと呟いた。

 

 「私……流流歌ちゃんみたいに、可愛くない。暗いし、スタイルだって……」

 「……それって、何か問題があることなのか?」

 「私みたいなのが彼女だったら……彷徨君が、バカにされちゃうかもしれないし……」

 

 それは、彼女自身ではなく秋雨のことを思っての言葉だった。彼女は、圧倒的に自分に自信がない。常に明るく、誰とでも仲良くなることができる安藤が近くにいたこともあり、彼女自身が無意識のうちに自分と安藤を比べていたのかもしれない。その影響もあって、彼女は自分が持つ何もかもに自信を持つことができなかったのだ。

 つまり、忌村にとっては自分がどうしたいかよりも、周りがどう思うかの方が重要なのだ。だから、秋雨の告白にも安易に答えることなどできなかった。

 

 しかし、そんな忌村の言葉を秋雨は真っ向から否定した。

 

 「くだらない」

 「え……?」

 

 予想していなかった言葉に、忌村はパッと顔を上げる。そうして飛び込んできた秋雨の顔は……まさに真剣そのものだった。嘘をつくようにはとても見えない……真っ直ぐな目をしていた。

 

 「仮にそんな連中がいたとしても、そいつらは静子のことが欠片もわかっていないバカな連中だ。そんな奴らに何を言われようと、オレはなんとも思わない」

 「彷徨、君……」

 「それに、お前は自分を過小評価しすぎだ。お前は暗いんじゃなくて落ち着いているだけだし、身体つきだってまだ中学生なんだから普通な方だ。そして……」

 

 そこで秋雨は、忌村が着けているマスクに手をかける。優しい手つきでそれを外すと、彼はそっと忌村の頬に触れた。

 

 「安藤や他の女子の誰よりも……静子は可愛いとオレは思っている」

 「なっ……!? はっ……バ、バカ!!」

 

 恥ずかしげもなく殺し文句を言う秋雨に、忌村は耳まで真っ赤にして大声を出しながら外されたマスクを奪い返した。顔を逸らしてマスクを着け直す忌村は、ちらりと視線を動かして秋雨の顔を見る。何年も前から、ずっと見続けてきた幼馴染の顔。けど、今の彼の表情は今まで見たどの表情とも違う雰囲気が漂っているような気がした。当然だ。彼が告白をするところなんて始めて見たのだから。そして、おそらく今の自分も今まで見せたことがないような表情をしているのだろうとふと思った。

 

 「──スゥ、ハァ…………」

 

 忌村は落ち着けるように、深く息を吸ってからそれを吐き出した。そのまま、改めて秋雨の方へと身体ごと向き直る。

 そして……

 

 

 

 

 

 「……ありがとう。その、あの……上手く言えないけど…………私も、彷徨……が、好き……。だって……彷徨はずっと、私の傍に居てくれたから……。いつでも……励まして、ぐれだがら……!」

 

 

 

 

 

 言葉を吐きだしていると、忌村の目からは大粒の涙がボロボロとこぼれ始めた。それは喜び。自分が思っていた(・・・・・・・・)相手と結ばれたことによる喜び。抑えようとしても止まることは無い涙と共に、彼女の口からはその喜びを伝える言葉が溢れてきた。

 

 「こんな……ごんな私でも、見捨てないで……ずっと、だがら────!」

 

 そこで、彼女の言葉は途切れた。

 自分を卑下する言葉を述べていた彼女の口は、目の前に秋雨の口により塞がれ、それ以上の言葉を封じられた。まるで時間が止まったような感覚になり、それが何秒続いたかまったくわからない。

 長い……けど短くも感じる時間が過ぎると、彼女の口は自由となった。

 

 「『こんな私』……なんて言うな。少なくとも、オレの中では一番なんだから」

 「…………」

 

 優しく頬を撫でながら、そんな言葉をかけてくる秋雨。しかし、忌村は頬を赤く染めながら呆然としていた。秋雨の言葉を聞いて理解しているかも怪しい状態だが、まぁ幸せから来ているものなので大丈夫だろう。

 

 「…………」

 

 だが、そうした空白の時間もいずれはゆっくりと終わるわけで。

 少しずつ働くようになった頭は、今起こったこと(・・・・・・・)を理解しようと鮮明に脳内でその出来事を再生し……

 

 「」

 「……おーい、静子ー? …………気絶してる」

 

 こうして、彼らの一世一代の告白は忌村の気絶によって終わったのだった。余談だが、気絶した忌村を秋雨は背負って帰ったのだが、ベッドに寝かせようとしたところで目を覚ました忌村と目が合い、色々と勘違いした彼女は再び気絶したという。

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ──

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……そうか、付き合うことにしたのか」

 「随分と薄い反応だな」

 「いずれそうなるとはわかっていたからな」

 「……そうか」

 

 後日の放課後、かつて忌村たちと遊んだ公園で秋雨は十六夜と話していた。といっても、忌村と付き合うことになったことを報告しただけだが。

 そんな秋雨の報告に対し、「わかっていた」と淡泊な返事をする十六夜。安藤以外の人間に興味を示そうとしない彼だったが、秋雨のことは少し気にかけているらしい。

 

 「そういうお前はどうなんだ? 安藤と付き合わないのか?」

 「……わざわざ告白しないと付き合えないのか? オレたちにはそんな面倒なもの必要ない」

 「もう付き合っているようなものってことか……。ま、わかってたけどな」

 「さすが彷徨だな、オレのことをよくわかっている」

 「お前もな」

 

 話が秋雨と忌村のことから十六夜と安藤のことになったが、当の十六夜は告白やら付き合うということに対して特別視はしていないようだった。一般的に付き合っていると言える状態こそがデフォルトとも言えるのが普段の二人のため、秋雨はそこについてはもはや深く追及しようとはしなかった。

 

 「……でも、言わなきゃいけない時が来たらちゃんと言った方がいい。実際に言ったり行動したりしないと相手に伝わらない時もある。……オレの告白みたいにな」

 「頭のどこか片隅にでも入れておこう」

 「そうか」

 

 だが、それでもそれだけは伝えようと思ったのだろう。十六夜のことを思っての言葉をかける秋雨だったが、十六夜からは受け流すような返事が返ってくるだけだった。

 しかし、それでも構わずに秋雨もその返事を受け入れる。どうやら、彼らにとってはこういったやり取りが日常らしい。

 

 「…………」

 「…………」

 

 すると、そこで話は途切れて二人の間に沈黙が流れる。だが、それは決して気まずい沈黙ではなく、二人はその沈黙すら楽しんでいるかのように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……それで、本題はなんだ?」

 

 しかし、その心地よい沈黙は十六夜の鋭い言葉によって唐突に終わり迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「……わかっていたか」

 「お前がわざわざ付き合うことを報告するだけでオレを呼び出したりはしない。何年お前の親友をやっていると思っている」

 「よく恥ずかしげもなくそう言うセリフが言えるな……」

 

 長年の信頼から、秋雨の話にはさらなる本題があることを見抜いた十六夜。見抜かれたことに驚きを見せる秋雨だったが、それも大きな驚きではない。彼も十六夜ならば見抜くだろうとは思っていたのかもしれない。

 二人の友情を垣間見た瞬間ではあったが、二人の顔には笑顔など無かった。そこにあるのは、緊張感を感じさせるような真剣な表情だけだった。そこまでの緊張感を二人の間に漂わせている秋雨が話そうとしていた本題……彼は、覚悟を決めるとハッキリとした口調でそれを言った。

 

 「……これ以上、静子に安藤を近づけるな」

 「なぜだ」

 「静子にとって安藤は害になる」

 「……聞き捨てならないな」

 

 先ほどまでとは一転、穏やかさなど欠片も無い殺伐とした空気が周囲を包み込む。秋雨の言葉に対して十六夜が放つ殺気が原因だろうが……それはどう考えても中学生が放てるようなレベルのものではなかった。少なくとも、相手が大の大人でも思わず身震いしてしまうだろう。

 そんな殺気を真正面から受けながらも、秋雨は目を逸らすことなく言葉を続けた。

 

 「静子は安藤の道具じゃない。アイツの気まぐれや我儘に静子を付き合わせるな」

 「流流歌は忌村を道具として見ているわけじゃない。それに、そもそもそれは忌村の意志なのか? 奴自身の意志なら、とっくの昔に奴自身が流流歌に言うはずだ」

 「静子はそんなこと面と向かって言える性格じゃないし、言ったところで安藤が静子を解放するとは思えない」

 

 互いに一歩も引くことなく続けられる言葉のやり取り。互いが互いのパートナーのため、パートナーの今後のために動いていた。

 

 「もしまた静子を悩ませるようなことがあれば……オレは静子を守るためにそれを止める」

 「止められたら流流歌の頼み事が叶わなくなる。流流歌の邪魔をするなら、オレがお前を止める」

 「…………」

 「…………」

 

 そのまま睨み合いへと移行した二人のやり取りは、完全に平行線だった。引くことも無ければ、どこか妥協することも無い。

 そうして睨み合いながら、刻々と時間は過ぎていった。その間、どちらも目を逸らすどころか瞬き一つせずに睨み続けた。もしその場に第三者がいたら、この二人はずっと睨み合ったままなのではないか……と思ってもおかしくない。それだけの時間が過ぎた……その時だった。

 

 「……これ以上は不毛だな」

 「……そうだな。なら、どうする」

 「簡単だ。その時(・・・)が来たらそれぞれがやりたいように動く……それだけだ」

 「良いことを言う」

 

 これ以上のやり取りは無駄だと思い至ったらしく、彼らはほぼ同時に視線を下げた。そして、「やりたいように動く」というなんともその場しのぎの解決策だけを決めると、彼らはそれぞれ荷物を持って帰路へとついた。

 家は反対方向であるため、背中だけが向かい合う状態で別れる二人。その際に、秋雨はポツリと呟く。

 

 「言っておくが、オレは絶対に退かないからな。静子はオレが守る」

 「オレだって同じだ。流流歌はオレが守る」

 

 対立しているようにも見えるが、彼らの行動理念はよく似ていた。どちらもパートナーのため……どちらも根底にあるのはそれだけだった。

 それを改めて感じてか、二人はほぼ同時にほくそ笑みながらそれぞれの帰るべき場所へと歩き始めた。

 

 

 

 

 




次回はいよいよ希望ヶ峰学園入学……の前のお話
超高校級としてスカウトされた彼らが希望ヶ峰学園入学をどのように決めたのか……書いていきたいと思います




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