テイルズ・オブ・ザ・レディアントマイソロジー3・闇は破滅か救世か? (にゃはっふー)
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第0章・始まりは最悪

感想に希望が書かれていましたし、やってみたいとも思い、やります。
響達が出られるかは努力します。
それでは、物語を楽しんでください。


 全て最悪な世界だった。

 

「・・・」

 

 俺の名前は剣崎龍。高校行かず、ネカフェを転々として歩く。

 

 正直どーでもいい。

 

「でね、あのバカ店長」「あのハゲ、俺になんでこん」「あー金欲し金」・・・

 

 頭の中で、バカな会話が流れ込む。

 

(あー嫌だ嫌だ・・・だから町中は嫌だ)

 

 面倒なので人がいない場所へ場所へと移動する。

 

 

 

「・・・やっと静か、いや、まだ雑音がひでぇ・・・死なないか?」

 

 もう嫌になる、あーいやだと思いながら横になる。

 また寝る場所どっかにないか? もう廃屋でもどこでもいいやと思う。

 いつからこうなったか分からない。どうでもいいか。

 

『・・・き・・・て』

 

「?」

 

 その時、いままでに聞いたこともない声が聞こえた。

 

「なんだ?」

 

 それに興味を持ち、声がした方へと目指す。

 少しの森林があるだけの町中だが、人気がない場所に来る。

 何もない、いまは夜、静かにまん丸な月を睨む。綺麗なものが嫌になる。

 

「壊れればいい」

 

 そう言いながら満月を見るのを止めて、周りを見ると、

 

『じゃ、来て・・・』

 

 その瞬間、浮遊感に襲われた。

 

 

 

「・・・!??!!?!?!」

 

 さすがに驚く、夜のはずが朝日に照らされた世界、そう思った瞬間、水の中に落ちた。

 

「なん!? なんだっこりゃ!?」

 

 周りを見渡すと河であり、そこから出る。防水加工されたリュックサックから替えの着替えを取り出して着替える中、周りを聞く。

 

(人の声がない? さっきまで町だったんだぞ、山奥でも無い限りあり得ない)

 

 なによりさっきまで満月睨んでいたし、どういうことだとスマホを動かすが、電波は無い。何かがおかしい。

 

「あー漫画とかである異世界? ハッ、んなわ」

 

 その時、悲鳴が聞こえる。悲鳴だけが聞こえた。

 

「ノイズか? いや、警報もないし、なんだ?」

 

 情報が欲しいだけに動き、俺は走り出す。

 ただそれだけだった、それが始まりだったとは知らずに・・・

 

 

 

 大きな大剣を握りしめ、眠る少女を守るのもまた、少女だった。

 桜色の髪に、ポニーで、身体から血を流して、肩で呼吸する。

 その周りには狼のようなものがいるが、狼ではない。

 

「・・・」

 

 それを見ながら、静かにいいかと思う。ただの気まぐれだし、情報が欲しいだけだ。そうだけだ。

 それだけ。

 

「!?」

 

 狼達の背後から、少年が駆けだし、蹴り飛ばす。

 突然の出現者に、狼達はすぐに距離を取るが、

 

「チッ、なんだ? 野犬にしては党争取れているし・・・なんなんだくそっ」

 

 頭痛いと苛々した様子で、狼を睨む。

 向かってくるが、蹴り飛ばす。

 

「アッハハハハ、まあいい、殺しても問題ないなおいッ」

 

 躊躇いもなく狼を殴る。その拳には石が握られ、時には投石する。

 女の子は剣を振るう、その様子に驚きながら見た。

 

(・・・何も聞こえない? マジでなんだいまの状況?)

 

 そして少女が何かを口紡ぐ、それはまるで、

 

(魔法? 魔法!?)

 

「ファイヤーボール」

 

 二度身する。炎が狼を焼く、うおっと驚きながら、殴り、蹴り飛ばす。

 そして息の根を止めておき、こうして初めての魔物との戦闘は終わりを告げた。

 

 

 

「おい平気か?」

「あっ、はい、助かりました。ありがとうございます」

「ん? 別にいい、それより、横になってる奴は?」

「えっと・・・迷子、ですかね?」

「? 知らないのか?」

「空から降ってきたから・・・私にも」

「・・・?」

 

 よく分からないことを言う、血だらけの手でアゴに触れて考え込む。

 血まみれの腕を見て、大変と言うが、そっちもだろと俺は言う。

 

「ともかく、それと共に安全な場所知らないか? 話はそれからだ」

「あっ、はい、分かりました」

「(焦りの感情・・・心配か、苦手な人間だ)ああ、案内頼む」

 

 そう言って、寝たきりの少女を担ぐ、俗に言うお姫様だっこだ。

 そして彼女、カノンノ・グレスバレーの案内の元、山の麓に来る。

 

「おい、ここが安全か?」

「あっ、はい、もうすぐ迎えが来ます」

「?」

 

 そう思っていたら、ああと納得する。

 空飛ぶ船が現れ、それに、

 

「これが私達のギルド『自由の灯火・アドリビトム』の家、バンエルディア号です♪」

「あーはいはい、ともかくこいつ運ぶぞ~」

「あっ、はい」

 

 どんな原理か知らないが、空飛ぶ船に乗り込むことにする。

 どうやら、異世界に来た。どうでもいい。

 

 

 

「少し大人しくしてください」

「へいへい・・・」

 

 椅子がある場所、医務室ではなく、いまはアンジュと言う女性に報告しながら、アニーと言う少女に傷を見てもらい、包帯を巻いていた。

 

「見たこともない衣装だけど、貴方はどこの国の人?」

 

 アンジュの言葉に対して、

 

「知るか、気が居たらあそこにいた。下手したら異世界かもな」

 

 そう他人事のように言う、えっと周りが驚く。ギャラリーが多いし、まだ横になっている少女もいる。

 ロックスと言う、人じゃないもん見ながら、あー異世界か~と思う。

 

「ん~どういうことかしら?」

「気が付いたら異世界にいた、んで、狼? に襲われてたそいつらいた、情報欲しくて殴ってた、以上説明終わり」

 

 そう言って、包帯を巻き終えた腕を振る。

 

「待ってください、まだ安静にしてください」

「ハッ、こんなんツバつけてれば治るっての。いちいちるっせぇな」

 

 そう言いながら、荷物の確認をしている。おろおろしているカノンノや、少し考え込むアンジュ。アニー達は様々な反応をする中で、

 

「貴方、異世界人? ってことは、行く宛なんてないでしょ? そもそも元の世界に帰ること」

「あぁ? 元の世界なんてどーでもいいよ。家族なんてもんいねぇし、適当にこの世界で生きるさ」

「適当って、危ないよっ」

「どーでもいい、死んだらその時はその時だ」

 

 それにアンジュも難しい顔をする。

 

「貴方にはカノンノを助けてもらった恩があるから、その辺にぽいってしたくないんだけど」

「それはテメェらの意見だろ? どーして俺が聞かなきゃいけねぇ? 俺が死のうが生きろうが関係ないだろ」

「関係あるよっ」

 

 カノンノがそう言って、心配そうに見つめるが、気持ち悪い物を見るような目でそれを見る。

 

「ともかく、貴方の名前は?」

「名字は剣崎、名前は龍。孤児の異世界人だ」

「うん、了解。いま登録するから・・・」

「・・・登録?」

「ええ♪ ギルド登録。これで今日から貴方もアドリビトムメンバーよ♪」

「・・・はあ?」

 

 そんなこんなで入れられた。めんどくせぇと思いながら、少女は起きあがる。

 

「ん? 起きた」

「あっ、こんにちは、大丈夫?」

「・・・えっと・・・大丈夫?」

 

 首を傾げながら、そう呟く少女。

 それにカノンノ達は話しかける。彼女はセレナ、そう言って、

 

「えっと、ギルドってなんですか?」

「・・・こいつも俺と同じで異世界人?」

「ん~人手が増えるのは嬉しいけど、訳ありが多いわね~」

「こいつも入れるのかお前」

「お前じゃなくってアンジュよ、リュウ」

 

 それが破滅と救済が同時に現れ、自由の灯火に集った。




口悪いなこの子、そんな感じでスタート。
ともかく、狼モンスター素手で無理矢理殴り倒しました、強引ですね。
それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第1章・良くも悪くも

剣崎龍くんは不良少年ですね、仕方ないですけど。


 セレナと共に、試験を受ける中、セレナは剣を持ち、魔物を斬る中、断ち切るリュウ。静かにしながら、ため息をつく。

 

「面倒だ」

「お疲れさま二人とも」

 

 二人のサポートにカノンノが駆け寄り、セレナはうんと微笑む。

 セレナはすぐにとてとてと俺の側に来る。

 

「ごめんね、足引っ張って」

「気にすんな、適材適所だ」

「てきざい?」

「・・・ウィル辺りに聞け」

 

 そんな感じで、いま日々を過ごす。

 

 

 

「~~~♪」

 

 カノンノは絵を描いている、なにしているんだろうなと思いながら、一人で過ごしたいがために、甲板に出た俺と遭遇する。

 

「あっ、リュウ」

「カノンノ、また絵書いてるのか。好きだな」

「うん、少し・・・白い紙を見ているとね、たまに見えてくるんだ、いろんな風景・・・こんな風景見たことない?」

「ん、いや?」

 

 そう言いながら、そっかと少し微笑む。

 

「作り話でしょうって、笑われちゃうの」

「ん? 作り話なのか?」

 

 そう首を傾げると、えっと驚く。

 なにを言っているか分からない。

 

「お前がそう感じるなら本当なんだろ? お前から嘘感じないしな」

「・・・笑わない?」

「別に」

 

 そう言うとカノンノは少しだけ、優しく微笑む。その様子に、嫌な顔をする。

 

「なんだよ」

「ううん、リュウって優しいね」

「ハッ? 逆だ逆、俺はいい奴じゃねぇっての」

 

 そう言いながら笑い合っていると、セレナが現れ、リュウにひっつく。なぜかセレナはリュウになついていた。

 記憶喪失のセレナ、歌と名前以外、何も覚えていない。

 ともかく、いまは面倒ごとを抱える船に、居候していた。

 

 

 

「ほらよ、鉱石と薬草一式、採取終わったぜ」

「ご苦労様リュウ♪ なんだかんだでちゃんと仕事する人で助かるわ♪」

 

 そう言われながら、不機嫌そうな顔をする。

 

「抜かせ、人の荷物一式取ったうえに、この世界の経済状況説明しない辺りに悪意を感じるぞ」

「うふふ♪」

 

 そう、ノー知識で出歩くのは危険なのはさすがに分かったから、大人しくいるだけだ。長いするのは自分の性に合わない。

 なのにいるのは、そう言った裏がある。この女と言う顔で睨むが、流していた。

 

「けど、窓から見える、あのでけぇ目障りな木ぐらい教えろ、なんか知らんが、気に入らない」

「あっ、それ外の人には言わない方がいいわよ。神聖な木『世界樹』って名前だから」

「へいへい、たいそーな名前だな。世界でも作ったのか?」

「そうだ」

 

 その会話に、クラトスがすっと現れる。気配を消している辺り、ここの奴らからは悪意は感じづらいと思う。

 

「世界を作った、俺の世界じゃ笑い話だぜ」

「事実そう言われてるわ、世界樹、世界が危機に陥ったとき、ディセンダーと言う救世主を使わせる。そう言う伝説があるわ」

「・・・救世主様ね、そりゃ、気にいらねぇな」

 

 そう言いながら、ん、そう?と首を傾げるアンジュ。

 

「他世界の俺から見れば、いままさに陥ってるが、実際自分らの所為だろ? 戦争やらなんやら、えっとなんかの資源だっけか? それの奪い合い。それで呼ばれたら、俺なら人間滅ぼすね」

「・・・手厳しいな」

「事実だろ?」

 

 クラトスは苦笑して去る中、アンジュも耳が痛いわねと言う。

 科学者達を始め、多くの者達が、異世界人である自分を受け入れ、その意見を聞く。この世界はどう見えるか、俺が素直に言うが、それを受け入れている。

 

「はあ、居心地悪い・・・アンジュ、モンスター退治系無いか? 気晴らしに暴れたい」

「ん~と、あっ、これお願い~」

「ん」

 

 受け取った後、そのままさっさと出ていく。それにマルタとエミルは心配そうに見ていた。

 

「大丈夫なの? リュウ、剣術や魔術使えないのに、いつも一人で」

「う、うんっ。僕も心配だよ」

「分かってるわ、だから一人でただ斬るだけでも対処できる依頼しか渡してないわよ。本人もそれくらい分かるわ。変わった子だけど、いいも悪いも引っくるめた感じよね~」

 

 そう言いながら依頼整理し始めるアンジュ、リュウは静かに、森へと向かう。

 

 

 

「おっ、らあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 モンスターを退治し終えても尚、暴れたり無いと理由に、余計にモンスターを斬る。そんなことをしている。

 

「あー苛々する。なんなんだあそこは・・・声が聞こえねぇ・・・気持ち悪い、普段るっせぇのに、いざ聞こえなくなると、ここまで気分が悪いか、慣れすぎだっての」

 

 愚痴を言いながら、モンスターを斬り終えてから、体力を確認。そろそろ戻るかと、ついでに採取もしておく。

 そう言うところがアンジュから高く評価されているのだが、本人は気にしない。

 

「どこの世界でも、人間なんてもん、消え去ればいいってのはかわんねぇよ」

 

 ここからでも見える木を睨みながら、悪態を吐く。

 その時、怒りを感じ取る。強い、強い怒りと、愉悦の声。

 

「なんだ? 森の中で聞くにしても・・・ちっ」

 

 そして彼は駆けだした。

 

 

 

「くっ・・・」

「カノンノ、セレナ下がれ!!」

「遅いよ『ウインド」

 

 その時、妙なサレに向かって石つぶてが投げられ、詠唱の邪魔をする。

 全員が驚き、カノンノとセレナは叫ぶ。

 

「「リュウ!?」」

「増援? うざったいな」

「それはこっちだ、テメェの声は目障りだッ」

 

 サレに向かっていくリュウを見て、ヴェイグとシンクを治癒しているミントが叫ぶ。

 

「ダメですリュウさん、貴方では勝てませんッ」

 

 そんな中、それは静かに獰猛な笑みを浮かべて斬り合いを始めた。

 

「いいねぇその目っ、君はヴェイグくんのお友達なのかい!?」

「俺に友も仲間もいらないッ、だが、テメェは目障りなんだよ!!」

「同意見ッ『ウイングカッター』」

 

 風の刃がリュウを斬るが、気にしない。それにサレも驚愕して剣で突きを放つが、それを素手で掴んだ。

 

「なっ」

「フッ」

 

 そのまま蹴りを顔面に放ち、血が流れ出た拳を固め、その面に追い打ちを放つ。

 

「あっはははははは、同族嫌悪だなお互いッ」

「くっ、そうだねぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「あっははははは、俺だけ注目、危険だぜ?」

「!?」

 

 リュウの背後からシンクとヴェイグが剣を構え迫り、吹き飛ばされた。

 木にぶつかり、深手を負うサレ。

 それにふんと鼻で笑う。

 

「くっ・・・少し油断したよ・・・次は本気で潰してあげるよ」

 

 そう言って静かに去っていく。いまは見逃すかと、切れた手のひらを払う。

 

「「リュウ!!」」

 

 カノンノとセレナが同時に来るが、あまり気にせずに、後ろのピンクの女性を見る。

 

「誰だ、そいつ?」

「さっきの、サレに襲われていた人だよ」

「身なりからして貴族かなんかか? んで、さっきの奴去ってから来て、気配隠してるのと知り合いか?」

 

 その言葉に、静かに二人組が出てくる。長い黒髪の剣士と、魔術師の少女。

 そしてお姫様、エステルを保護する。




まだ術技使えないのにサレに勝つ。詠唱を小石を投げて止めたりする子です。

ではまた、お読みいただきありがとうございます。


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第2章・世界の危機? よう分からん

まだ剣振ったり、打撃など、魔神剣など使えません。当たり前ですよね、ただ剣と天性の獰猛な性格が、魔物と戦える理由です。
それでは続きをどうぞ。


 ガルバンゾ国と言う国の王女、エステリーゼ。

 彼女は自国で隣の国との緊縛状態で、ある鉱石『星晶(ホスチア)』と言う資源の取り合いが行われていた。

 その際、とある発掘地で生体変化が起きた。

 ある学者は星晶(ホスチア)の取りすぎと調査を言い出すが、国を混乱させたと言う罪に問われ、いまだに調査されていない。

 それを知った王女は、その現場を調べに、とあるギルドから、二人の信頼できる者と共に調べに来たら、敵国の騎士に見つかった。

 

「んで、近くの村に物資を届けに出かけていたシンク達が見つけて、交戦か」

「ああ、リュウが来てくれて助かったよっ、ありがと」

「はっ、別にいい。あれの声は気に入らない」

 

 そう言いながら、手のひらの傷をカノンノに癒してもらいながら、その様子にエステリーゼも申し訳なさそうな顔をする。

 

「テメェもめんどいな、気にすんなよ」

「あぁ? なにをあんたっ、口悪いわよっ」

「リタもだろ? 俺はユーリだ、よろしくなリュウ大先生」

 

 そんな話をしつつ、どうもこの三名を戦力にくわえるアンジュ。抜け目がないと言うかなんと言うかだが、

 

「で、アドリビトムはどうすんだ? 念のため俺も行くか?」

「あら? 貴方も出向いてくれるの?」

「えっ、それは」

「来ない奴は船ん中の奴から聞け、俺も少し知識がある。なんか分かるかもな、俺の事情と、別の知識がな」

 

 そしてエステル(本人がそう呼んで欲しいと言うので)と、フィリア、リッドと、なぜかジャンケン大会して勝ったセレナが付いてくる。

 こうして星晶(ホスチア)現場へと出向くのであった。

 

 

 

「・・・この世界でこんな光景は普通か?」

「・・・いえ」

 

 神官のフィリアは首を振り、エステルもリッドも絶句する。

 場所は鉱石のようなものでできた、何かが、近くにある花らしいものも、何もかも、まるで、

 

「異世界、ここに来たときみたいな感覚だ」

「異世界です?」

「ああ、いまエステル達が感じる、普段のここじゃないここにいる感覚。なにより、なんだこりゃ?」

 

 そう言って、境目のように地面を見る。少し掘ったりして見る。

 

「やっぱりおかしい」

「なにか分かりますか?」

「フィリア達の世界の知識基準が分からないが、まだなんとも言えないが、まるでくり抜いたように場所と場所が違うんだ。境目のように、ここからここが違う空間って感じだな」

 

 まるではっきり別れているように見える地層。いくらなんでも自然に地層が違う、なんてことが素人目でも分かるほど、異質な地層である。

 

「おいおい・・・一体どうなってるんだ?」

「知るか、魔法なんてもんがある時点、俺からすれば十分未知だ・・・そこから見てる、獣人みたいなもんもな」

 

 その言葉に、木々の間から、黒い虎の獣人が、緑髪の男と共に現れる。

 剣をすぐに構えるが、リッドが待て待てと止める。

 

「知り合い?」

「ああセレナ、ガジュマのユージーンと、ヒュトレイ。この近くの村の人だ」

「? 確か無理矢理星晶(ホスチア)の発掘させられてるって話だったが?」

「そのことなんだが、彼奴ら、盗るだけ盗って、とっとと出ていきやがったよ」

 

 その話を聞きながら、いまはこの現象についての話し合い。これの所為で獣や草木などの、自給自足が難しくなる始末であり、色々問題が浮上している。

 このことを伝えるため、二人は村からアドリビトムに活動を移すと説明していた。

 

「はあ、こりゃ、アドリビトムで活動してた方が気楽かな?」

 

 そう呟きながら、石化したような景色を見ながら、考え込む。

 

「リュウ?」

「ん? セレナ、どうした」

「ううん、なんでもない。行こ」

「ああ」

 

 

 

 それから数日が経つ中、俺は剣士、戦士などの者達から、セレナと共に訓練していた。

 

「おっらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「ちっ、ウッゼェェェェェェェェェェ」

 

 戦闘時、性格が変わるエミルと剣を交えるリュウ。その猛攻に、クレスなどは難しい顔をする。

 

「リュウ、少しは防御を考えないとっ」

「るっせぇ、こっちは斬撃飛ばしたりまか不思議なことできるかッ」

「ハッ、ならこれで沈めッ」

「沈むのはテメェだ二重人格!!」

 

 だが剣士達は、リュウの天性の腕前に、少しばかり目を見張る。

 応用力も高く、いま剣を振り上げたエミルの剣の柄を蹴飛ばし、剣を手放して、首もとに刃を置く。

 

「ま、参ったよ・・・」

「お前のそれはなんなんだよ・・・」

 

 呆れながら剣をしまい、静かに会議が始まると全員を呼びに、カノンノが来る。

 

 

 

「今後の活動で、新しいメンバーも帰ってきたわよ」

「キール、メルディ♪」

 

 ファラはそう呼ぶ二人は、外で大学などを通じて活動していたギルドのメンバーらしい。話を聞くと、持続可能な社会の研究がテーマらしい。

 星晶(ホスチア)に頼らず、自然を壊さないで、共存して暮らす社会作り。

 いま現在、アドリビトムはいくつかの村でそれを活動している。

 

「異世界人であるリュウからすれば? 貴方の意見も参考になると思うんだけど?」

「ん? 俺んとこもかわんないな。いや、お前らがいるだけまだマシかもな」

 

 こちらの世界も、石油などの自然が長い年月をかけて作り出す資源の枯渇など問題視されている。

 なにより、ノイズと言う自然災厄もあると説明する。

 

「のいず?」

「見た目カラフルのなんかだな、俺は見たことないし、見た奴はたいてい炭化する」

「炭化? 炭になるの?」

「ああ、俺の世界じゃ13年前から実在する災厄として、触れればノイズもろとも炭化する。逃げて向こうが炭化して消えるまで逃げるしか無いって扱いだ。現代兵器じゃ、ノイズは行動を阻むことはできても、倒すことはできないって話だ」

 

 その話にゲッと言う顔になる者達や、青ざめる者達もいる。

 

「まあ、そのうえよく分からないって言う現状の中だな。世界各国何考えてるか分からない。だから憶測や推測、風評程度しか世間は知らないもん。お前らみたいに前考えてる奴がいるだけマシだなこの世界は」

 

 そう投げやりに答える中、それはともかくと、スマホを取り出す。

 タブレットで一応画面に撮して、撮影した光景を見せる。

 

「ともかく、この事態だろ? この世界は?」

「まあそうね・・・結局、この現象について、情報が足りなすぎる」

「そのことだが、情報がある」

 

 

 

 キールが持ち帰った情報では、採掘所など、生物変化現象が起きた場所に、謎の赤い霧の目撃例があり、至急関連性を調べるべきと判断。

 スマホ操作のため、リュウもかり出され、ルビア、ウィル、カノンノで、火山地帯へと歩く。

 

「暑っついぃ・・・」

「ルビア、水分はこまめに取れ、ここじゃ休めそうにないな」

「ん~ありがと、リュウ」

 

 先を歩く中で、考え込むウィルへと向かう。どうも色々と考えているようだ。

 

「どうだウィル?」

「いや、いまのところなにもないな。発掘の際の有毒なガスと考えられることもある、だが」

「火山地帯のここはともかく、他はってことか」

「ああ、全部星晶(ホスチア)の発掘現場と言う関連性。これが何を意味するか」

「俺の世界じゃ、石油って資源は元は長期に渡って変化したもんだ。星晶(ホスチア)ってもんがそれになる段階とかか?」

星晶(ホスチア)の元か? 確かに考えられるかもしれん・・・そもそも俺達は星晶(ホスチア)を資源にしているものの、マナが元と言われているが」

「言われてるだけだろ? 実際実証された訳じゃ」

 

 男性二人が口論、話し合いしている。ウィルはいい刺激のように彼の意見に耳を傾けている様子を、離れてみる二人。

 

「リュウって変よね」

「えっ、そうかな?」

「そうよ、口は悪いし、がさつで乱暴者かな?って思ったけど、クエスト一緒にする時とか、アイテムとか呼び持っててくれたりとか、足場が悪いと手をさしのべたり、カイウスと違って、女性のエスコートできてるもの」

「ああ、優しいよねリュウ」

「ホント、男の人って面倒ね」

 

 こちらも雑談をしている時、辺りが揺れ、その時、側にいるリュウは二人をすぐさま支えた。

 

「っと、二人とも」

「ああいうところがカイウスと違うのよね」

「何の話だ、ともかく平気か?」

「う、うん。いまの」

「火山地帯で地震か・・・近年安定した状態と聞いているが?」

 

 その言葉を聞き、カノンノは少しふさぎ込む。

 星晶(ホスチア)の取りすぎの所為で、自然がいま崩れかけていると思っているのだろうか?

 

「カノンノ、考えても変わらないぞ。動け動け」

「リュウ・・・」

「ともかく動け、それしかないだろ」

「・・・うん」

 

 しばらく歩くと、発掘現場跡地へとたどり着く。周りを見渡してみるが、赤い霧、ガスのようなものは見えないが、

 

「ん? ウィル、虫がいた」

「なんだと!? それはここにしか生息しない『コクヨウ玉虫』か!?」

「虫ィィィィィィィィィィィ!?!?!?!?!!」

 

 ルビアが飛ぶほど離れ、俺は軍手を取り出してそれを取る。カブトムシくらいのそれだが、死にかけている。

 

「この環境で虫がいるんだ・・・」

「!?」

 

 その時、周りから赤いガス、いや霧が現れる。

 すぐに虫を置き、口元を布で隠して、全員が集まった。

 スマホで様子を撮影ながら、全員が静かに周りを見る。

 

 

 

『・・・まっ・・・・・』

 

 

 

「? 誰かいま、なんか言ったか?」

「えっ、なんのこと?」

「・・・いや?」

 

 気のせいかと思い、霧が消えるのを確認する。

 

「なんだこりゃ?」

 

 撮影した霧の動きを見ると、ルビアはうぅ~と言う顔で見る。

 まるで生きているように霧が動いている。そして、

 

「虫が・・・元気になった?」

 

 

 

「だからって連れ帰るのぉぉぉぉぉぉ!!?!??!??」

 

 ルビアの叫びを無視して、学者組は生き生きとサンプルを大切に管理する。

 映像の方もタブレットに移しておき、俺の仕事も終えた。

 

「よお少年、ここはアドリビトムで合ってるかい?」

「ん? そうだが、あんたらは?」

 

 看板に出ると、二人組が現れる。アンジュも現れ、尋ねると、

 

「俺らはユーリ達がいたギルドの者よ、けどまあ、いまお姫様攫ったって疑いかけられててね」

「そう言えばそうだな、国からすれば色々とまずいってことか。めんどくせぇなどの世界も」

「どこの世界も?」

「それはおいおい説明するわ」

 

 

 

 今日の食事当番は自分のため、食事を作る。今日は野菜中心、ヘルシー路線メニューである。

 異世界だが、

 

「だいたい分かった」

 

 と言って、ほぼオリジナルでの料理に、みな満足している。

 

「料理バランスもいいですね、カロリー計算もよくできてます」

 

 医療班のアニーからのほめ言葉に、一部の女子が目を輝かせた。

 それにうんざりするように見ながら、非戦闘員であるクレアと共に料理する。

 

「リュウってなんでもできるよね、前の世界じゃなにしてたの?」

 

 マルタはそう言い、食堂にいる者達が顔を上げる。

 

「別に、生きてただけだな」

 

 世界のことを少しだけ説明する。平和な日本、だが孤児院出身であり、義務教育後は放浪しながら町を転々とバイト生活していた。

 それを聞きながら複雑そうにする。この世界よりマシだと付け加えておく。

 

「料理については料理店の仕事の方がまかないが出るから覚えただけだ。後は普通に生きてたよ」

「そうなんだ・・・」

 

 と、

 

「クイッキー」

「ん? またかクイッキー」

「クイッキー」

 

 エステルが目を輝かせるが、素通りしてリュウの頭に張り付く。エステルが羨ましいと目で訴える中、リュウはスマホを操作して、ツヴァイウィングの曲を流す。

 クイッキーは上機嫌に聞いている。その様子に、向こうは向こうで大変だが、向こうは向こうで平和であると分かる。

 

「帰りたい、って思わないの?」

 

 カノンノが少しだけ心配そうに見つめるが、

 

「ん? ねぇよ、どこもかわんねぇしな」

「ホント?」

「本当だ」

「そう・・・」

 

 小さくよかったと呟くカノンノに、女子が聞く耳を立てていたが、

 

「んじゃ、またクレスらと稽古するか」

 

 そう言って後はクレアに任せて、スマホを渡す。クレアは少しだけだが、クイッキーのために操作を覚えた。エステルとメルディも覚えようとしている。学者班に教えないと言う条件でだ。

 

「そう言えばなんでなの?」

「ルカ、学者に操作なんか教えた日には取られるんだよ。察しろ」

 

 そしてまた剣を振るう中、マルタはそんな看板組を見て思った。

 

「そう言えば、リュウってこういうきらきらした音楽とか、女の人とか興味無いって思うけど、どうしてこうやって持ってるんだろう?」

「? そうね」

 

 クイッキーとメルディが楽しそうに曲を聞く中、彼女らの疑問だけは取り残された。




なんで彼はツヴァイウィングの曲を持ってるんでしょうね。
それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第3章・闇の片燐

そろそろ、オリ主の覚醒し初めてもらわないといけない。


 依頼帰り、セレナとカノンノはふうと疲れたように息を吐く。

 

「どうしたあれくらい? ただの採取だろ」

「ううっ、そうだけど・・・」

「虫いっぱいだったの、もうこの依頼無理・・・」

 

 そう言う、今回は森で採取だったが、女子はその、嫌いな虫ナンバー1が現れた瞬間に、この二人は魔法を乱射した。

 やりすぎだろと思われるが、数が数で、これを聞いた女子組が全員戦慄する。

 結果、余計な手間暇をかけて、採取する。

 

「ご苦労様、カノンノとセレナはしばらく休んでいいわよ」

「はーい」

「うん・・・」

「ったく・・・俺は一眠りするから、手が足りなきゃ起こしてくれリーダー」

「分かったわ♪」

 

 どうも最近、女子組の虫に対する反応が酷い。サンプルの虫が来て以来こうだ。ため息混じりに、その辺のソファで眠っていると・・・

 

 

 

「マルタ、援護魔法。その後トドメ刺す」

「OKっ『フォトン』」

 

 光に包まれた魔物に対して、斬撃で切り伏せる。

 鉱山地帯の洞窟、この先に、現在依頼主が探しているものがあるらしい。

 

「病気を治す存在ね、ともかくファラ。もういいぞ」

「うん、二人ともごめんね、任せっきりで」

「すいません・・・ごほっ」

 

 元の世界では肺か何かの病気か、医者もさじを投げたいま、彼はその存在に全てをかけて、危険な道を進んでいる。

 

「気にするな、ファラは取り逃しの魔物から依頼主守りっての、マルタは魔法援護で倒しっての、俺が前で全部斬る。背後の警戒第一な」

「うん、了解っ♪」

 

 マルタと協力して大分先に進む中、マルタは少しだけ残念がる。

 

「ううっ、リュウがエミルなら嬉しいのに・・・」

「背後っ」

「あっ」

 

 背後からの蝙蝠型の魔物に小石を投げつけ、剣撃で倒す。

 ごめんと申し訳なさそうにするが、

 

「いまのがエミルなら~」

「反省しろ・・・」

 

 そんな様子を見ながら、険しい顔で奧を睨む。

 残念がっていたマルタはその様子に、

 

「ど、どうしたの?」

「・・・先に進むぞ」

 

 

 

 ゴーレムと言う種類や狼型の魔物が、大勢うろうろしている。岩陰に隠れながら、マルタは青ざめ、ファラは心配そうに見る。

 

「これは、きついかな?」

「うん、私やリュウだけじゃ、ジョアンさんを守りながらは」

「で、ですが、この先なんです、このさ・・・あれ?」

「ん? って、リュウ?」

 

 

 

「ちっ」

 

 軽く舌打ちした後、別の場所で息を吸い、大声を出す。一斉に魔物達がそちらを見て、岩陰の二人もびっくりして見る。

 

「いいから先に連れてけっ、依頼主の安全第一にしろっ」

「ちょ、リュウ!?」

 

 マルタの制止も無視して、音などを立てながら、奧へと誘い込む。

 それを見たファラはもうと文句を言うが、依頼主を守れと言うリュウの意志をくみ取り、彼を連れて行く。

 

 

 

「おっら!!」

【キキッ】

 

 蝙蝠を蹴り飛ばし、なるべく地形を把握して、最小の動きで戦う。

 避けるのは得意だ、分かる。

 殺すと言う明確な意志、それは避けやすく、わかりやすい。

 

「ハッ」

 

 狭い道、壁を背にしたのは痛いが、対処しやすくなる。

 数は圧倒的に多い中、それでも、傷を負っても、なお、問題ないと笑みを浮かべる。

 少し思い出す、前の世界、そう、

 

『アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』

 

「・・・ちげぇ」

 

 思い出す記憶が違うと、首を振る。

 思い出すのは、愚かな者達。

 騙して金儲けしている奴を騙したり、人を騙している奴を騙したりを繰り返す。

 手は汚してない、罪も犯してない。誰も俺を裁けない。

 誰も、俺を悪として裁けない世界。

 

「・・・あっはは・・・」

 

 あの時の優越、やっと解放された苛立ちを思い出す。

 途端、顔が歪む。

 

「アッハハハハハハハハッ」

 

 けしてあの子の泣き声を忘れるためではない。

 

 けしてあの子の叫びを思い出したくないわけではない。

 

 俺は、

 

「オッラァァァァァァァァァァァ」

 

 剣から黒い斬撃が放たれる様子を見て、感覚が確信する。

 

 撃てる。

 

「『黒・魔神剣(こく・まじんけん)』!!」

 

 黒い魔神剣がゴーレムを吹き飛ばし、そのまま駆け出す。

 

「『サイクロン』」

 

 風が舞い上がり、敵を一集めする一太刀。まるで風の刃が放たれるが、魔術を使えたことに驚く。

 

 だがいまはいい、

 

「消えろッ『サンダーブレード』ッ!!」

 

 まとまった魔物達に雷の剣が振り下ろされ、一掃する。

 剣を振り回し、鞘にしまい、静かに静寂に身を置く。

 

「・・・静かだ」

 

 だが、

 

『アァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』

 

「・・・違う・・・俺は、俺は」

 

 

 

 しばらくして別れた場所で待つと、元気なジョアンさんがいて、二人は顔を青ざめていた。

 何かあったのかと思いつつ、ともかく一度、拠点、飛行船バンエルティア号へと帰還して、全ての話を聞く。

 

「赤い霧が治した、ね・・・」

 

 難しい顔をするアンジュ。アニーはジョアンさんが健康体であると診断結果も出していて、いまは村に帰っている。

 どうもこれで二人目と、カノンノやセレナから包帯や治癒術を受けながら話し合う。

 

「これはまずくないか? 正直何も分からないのに治るっての、魔法もそうだが、俺は気味が悪いと思うぜ?」

「貴方にとってそうなの?」

「俺は気にも止めないが、常識的一般人は、魔術師が怪物に見えるかもな、俺の世界の奴」

 

 それを聞いて、周りも難しい顔になる。

 アンジュは依頼の束を見て、ため息をつく。

 

「それは?」

「赤い霧に会わせて欲しいって依頼よ、ウチが一番手だから、多く来てるの」

「それはまずいだろ」

「ええ、安全かどうかも分からないのに、会わせられないわ」

 

 そう話し合っていると、ういーすと言う声と共に、双剣士の男が現れる。

 

「アンジュはいるか~?」

「あらスパーダ君、よかった、人手が欲しいところだったの」

「団員か?」

「ええ、他にもいるんだけど」

「リカルドのおっさんなら別件が終わり次第に顔出すとさ、それより、赤い霧の情報だぜ」

 

 どうもスパーダ達が調べた結果、赤い霧は、出会った人によって姿があるようである。それに全員がより困惑する。

 

「花や虫、魚・・・段階は分かるか?」

「あぁ? んなこと知ってどうするんだ?」

「睨むな、別に変化に規則性があれば何か分かると思っただけだ。後で学者組に伝えてくれ」

「あーそれもそうか、それと、赤い霧の話だが、まずいことに『病気が治る』から、『何でも願いが叶う』になってるぜ」

「!」

 

 その場にいた全員が驚愕した時、悲鳴が船内に轟く。

 

「なんだ!?」

「リュウ、研究室っ、ウィルの声!!」

「ウィルさん!?」

 

 全員が研究室に来ると、ガラスかごを持ち、わなわなと震えるウィル。

 それに女子組が引き、リュウは渋々、

 

「まさか」

「ああ、コクヨウ玉虫が、逃げ出したぁぁぁぁぁぁぁ」

『いっやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 セレナとマルタ、ファラも慣れていないため悲鳴を上げ、カノンノも悲鳴こそ出さないが、やはりいやらしく、顔を歪めている。

 だが、

 

「おっ、おいっ、貴重な生物のうえ、赤い霧のサンプルだぞっ。んなもんこの面々のような奴がいる船内にうろついてるのか!?」

「まずいわよっ、急いで探さないと」

 

 平気なリタが叫び、大慌てで船内を探し出す。

 

 

 

「るっせぇぇぇぇぇぇ、女子組るっせぇぇぇぇぇぇぇ」

「き、気持ち分かるけど声に出さない方がいいよ」

 

 リュウの言葉に、ルカが慌てているが、そう言う意味でないので睨む。

 意味もなく誤るルカは無視して、虫を探す。

 本当にアレが出た瞬間、船内が爆発したが、なんとか捕獲した。

 

「船内破壊したの誰だ?」

「オッサンが黒こげだな・・・」

 

 レイヴンの犠牲を無駄にしないため、玉虫はかごに移すのだが、

 

「・・・これは」

 

 それから、感情が消えていた。

 そしてその姿は、鉱石のように姿を変貌させている。

 

「生物としてあるべき部分がかけてるわね・・・」

 

 ハロルドはそう言いながら、学者組はそれを見る。

 しばらく観察する中で、カノンノとセレナは気づく。一番難しい顔をしている、リュウがいるのに、

 

「どうしたの?」

「カノンノ・・・いや、少し、な」

「?」

「心配するなセレナ」

 

 

 

 だが、その以降、リュウは周知機嫌が悪く、いつも難しい顔をしていた。

 カノンノがスケッチの話、セレナが歌などの際は、気を許してくれるのだが、他はダメだと、全員が頭を痛めていた。

 いまもまた、甲板で寝っ転がり、静かにしている。

 

「・・・・・・・・・来たか」

 

 声を聞き、すぐに下りる。

 依頼口、アンジュが難しい顔をして、頭を下げている老人がいた。

 

「アンジュ依頼か?」

「リュウ? ええ、少し」

「・・・魔物をどうとか言う依頼か?」

「!? え、ええ・・・」

 

 依頼内容は、捕獲した魔物を、砂漠のオアシスへ捨てる依頼。それを聞き、老人を見る。

 何故かリュウの目を見て、顔を背け、静かに依頼票を持つ。

 

「アンジュ、この依頼受ける」

「ん~貴方がそう言うのなら・・・」

「・・・ありがとうございます」

「別に、気にするな」

 

 アンジュは少しだけリュウを見る。いつもの変わらず、彼女は見るが、どこか、なにかが、いつもの彼から感じない。

 苛立ち、殺意、そんなものを、少し感じる。

 

(セレナ・・・ううん、クレス君も呼ばないと・・・)

 

 その時、アンジュを見ずに歩き、準備するリュウ。

 

(・・・アンジュは俺を信じていない)

 

 そう感じ取りながら、メンバーの誰が自身に警戒するか、それは話を聞いて、付いてこようとすれば分かる。

 

「ハッ、全く・・・この体質は本当に役に立つ」

 

 歪む顔は、笑っているように見える。

 だが、ある者が見れば、悲しそうに見えたやも知れない、笑みであった・・・




レイヴンは犠牲になった。
お読みいただきありがとうございます。


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第4章・正しいこと

どちらが正しいか、多くが考えることでしょうね。


 砂漠の中、カーゴを押して進む一行。

 クレス、イリア、セレナ。この面々で砂漠の中を進む。

 

「あー暑い~もうその辺に捨てちゃえばいいじゃないのっ。どうして魔物なんか捕まえて倒さないのよっ」

「まあまあ」

「依頼内容を忘れないで、カーゴの中は見ない。オアシスに魔物を捨てる。これが今回の依頼だよ」

 

 クレスの言葉に、がんばろうとセレナが腕を上げ、イリアが暑いと愚痴りながら、リュウだけは静かにカーゴを押す。

 クレスはその様子を見ながら、静かに前へと進む。

 

「・・・」

 

 クレスの視線を感じながら、リュウは静かだった。

 

 

 

 人気のないオアシス、そこにたどり着き、周りを見る。水飲み場があり、日陰も多少ある。そんな場所なだけの場所。

 

「あーやっと終わりねっ、さっさと鍵開けて帰るわよ」

「イリア達は先に帰れ」

「ん? どーしてよリュウ」

「魔物がちゃんと外に出たか、確認しないと。中は覗いてないんだ、いいだろクレス?」

「それは・・・」

 

 少し妙な胸騒ぎに、クレスは首を振るうとしたとき、トカゲ型の魔物達がカーゴの上に振ってきた。

 

『な、なんだ!?』

『た、助けてくれっ』

 

 カーゴからしたのは、

 

「ヒトの声!? 嘘っ!? なんでよ!?」

「いまは詮索は後だっ、いまは魔物を倒すっ」

「ちっ」

 

 軽く舌打ちして、魔物を倒す。これは簡単だった。

 だが、

 

「鍵を開けるよ」

「いいの?」

「僕らが受けたのは魔物を捨てる依頼だ、ヒトを捨てる依頼じゃないよ」

 

 そう言って、カーゴの中を開けると、そこにいた者達は、

 

「ジョアンさん・・・」

 

 二人の人が、身体の一部を鉱石に変えて、苦しみ、そこにいた。

 その一人は、危惧した通りの状態であり、それを見て静かにする。

 

「これは・・・」

 

 彼らの話では、村の中にいると居心地が悪くなり、この世にいること自体が嫌になり、少しずつ自分が分からなくなっていったらしい。

 そして気が付いたときには、カーゴの中と言う話。

 そして分かるのは、自分達は村で暴れてしまったと言うこと・・・

 

「そんな・・・」

「・・・」

 

 セレナがショックを受ける中、難しい顔をするクレス。イリアもまた頭をかく。

 

「もう村には帰れない・・・俺達はもう、ここで死ぬのを待つしか・・・」

「そんなことを言わないでください、まだ手が・・・!?」

 

 突然、背後の剣に気づき、剣を受け止めるクレス。

 それにイリア、セレナは唖然となり、その様子を見る。

 

「・・・リュウ?」

 

 セレナが信じたくないものを見る目で、その光景を見た。

 リュウは、クレスを、いや、ジョアン達を斬ろうとした光景に、

 

「リュウ!? なにをっ」

「そいつらをここで殺す、それだけだ」

「「「!?」」」

 

 その言葉に、反射的にセレナ、イリアは二人を守るように立ち、クレスは静かに剣を握る。

 

「・・・正気かい? 彼らは」

「だからなんだ? 斬ることには変わらない」

 

 そう静かに剣を握り、その目を見る。クレスは本気だと、そして、

 

「君は分かっていたのかい? こんなることを」

「・・・」

 

 静かに黙り込み、踏み込んできたため、戦闘が始まる。

 

 

 

 砂漠の中で響き会う、剣と剣の音、それにイリアは拳銃を構えるが、軽く苛立ちながら、舌打ちをする。

 セレナだけは泣きそうな顔で、その光景を見る。

 

「やめて、二人とも、やめて、やめてッ」

 

 剣の攻撃の中、リュウは純粋な剣士ではない。彼は平然と剣を砂に刺し、顔へと砂を巻き上げ、その隙をついたり、足の先に小石を乗せ、蹴り上げたりと、格闘術も織り交ぜている。

 完全に人を、相手を倒すことのもに特化したスタイル。どのような卑劣なことをしてでも、事をなすための戦法。それがリュウのスタイル。

 なにより、

 

「迷ってるなクレス」

「!?」

「その程度で迷うなら、散れッ」

 

 黒い魔神剣がクレスの鎧をえぐり、それにイリアがキレた。

 火炎の弾丸が迫る中で、魔物の死骸を盾にする。

 平然と、そのようなことをする彼に、苛立ちながら叫ぶ。

 

「リュウ、私も対外だけど、あんたのそれは度が過ぎるわよッ」

「・・・」

「・・・聞く耳無しってわけねッ」

 

 銃口を向けるイリアだが、セレナはそれを交互に見ることしかできない。

 

「セレナ、あんたも剣を」

「・・・できないよ」

「セレナッ」

「・・・お前も迷ってるな、イリア」

 

 それを睨むイリアだが、リュウだけは迷い無い。

 二人は怯え、後ろに下がることしかできない。それをただ、斬る。

 

「ダメだ・・・」

 

 倒れていたクレスが起きあがり、すぐにイリアと二人、相手に出来る配置に移動する。

 クレスは歯を食いしばり、静かに、

 

「そんなこと、仲間にさせられないっ。そんな悲しいこと、させるわけにはいかないッ」

「ちっ、バカか・・・こんなことする時点で、俺はテメェらアドリビトムの仲間じゃない。そもそも俺は」

「異世界だとか、そんなの、もう僕らの中じゃ関係ないッ。君は大切な仲間だ!!」

「・・・俺はそんなこと一度も考えたことはない」

 

 それに静かに黙り込み、クレスは叫ぶ。

 

「『オーバーリミッツ』!!」

 

 光り輝く力が放たれ、それにリュウは驚愕し、セレナやイリアは驚く。

 

「ちょっ、クレスそれ」

「本気じゃないと、君を止められないのなら、本気で止めるッ」

「!?」

 

 クレスの剣撃や威力が上がり、その速さに顔を歪める。

 クレスの様子に、セレナが困惑していた。

 

「そうか、あんたも知らないのね。オーバーリミッツ、一時的に力を増す技よ。いまなら、あのバカを止められるはずよ」

「けど、あれじゃ」

「だーかーら、あんたは治癒術の準備しなさいッ。どうあっても二人とも、ただじゃすまないわ」

「!?」

 

 セレナはその光景を見る。悲しそうに、だが、それを気にも止めない。

 

「くそったれッ!! んな技教わってないぞッ」

「いずれ教えるつみりだったさ・・・こんな形で、見せたくはなかったよッ」

 

 そして剣を静かに構え、

 

「『うおぉぉぉぉぉぉ、冥空斬翔剣』ッ!!」

 

 剣撃の嵐が、彼に迫り、血が舞い上がる。

 吹き飛びながら転がるが、それにクレスは驚く。

 

(バックステップで最大限防いだ!?)

 

 それに驚く中、すぐに立ち上がるリュウ。

 光の粒子が消え、そして静かに、

 

「・・・なんでだい? どうして」

「・・・逆に聞く、この後どうする気なんだ」

「!?」

 

 血を流しながら、剣を構え、その瞳はけして閉じず、剣から殺気を放つ。

 

「こんな魔物しかいない場所に置いていって、助かる方法があるから待ってろって言うのか? 宛はあるのか? 無いだろッ」

「それは調べてみないと」

「ハッ、その間にここでそいつらが魔物みたいに暴れない保証はどこにある!? その間、その人達の安全は? 苦痛は? ここに人が来ないと言う保証は?」

「それは」

「無いよな!? 無いのにテメェは、いや、村の奴らは自分の手が汚れるのが嫌で目の見えない場所で問題が終わるのを待ってるだけだッ」

「違う!! 僕は」

「違わないッ!! 最後まで助けられることも出来ない希望なぞ、俺がここでぶっ壊すッ!!」

 

 剣と共に放たれる光は黒く、それはオーバーリミッツとは違う何かだった。

 

「テメェも変わらないッ、最後まで助けられる保証も無いのに、何も出来ないくせに、奇跡や希望にすがる、愚か者だッ!!」

 

 黒い魔神剣が乱舞する。あり得ない、技がこうも連続で放たれるなんてことは無いはずなのに、彼はそれを成す。

 

「くっ」

「最後まで救えないのなら、ここで俺が斬るッ。邪魔するな正義ッ」

 

 地面に剣を刺すと共に、クレスの足下に魔法陣が、

 

「『ネガティブゲート』!!」

「グアァァァァァァァァァァァァ」

 

 闇に捕らわれたクレスに、そのまま狼の闘気をぶつけ吹き飛ばす。

 そのまま地面へと転がり、倒れるクレス。

 闇を纏いながら、光は消えていく。

 

「・・・イリア、テメェも邪魔だ」

「・・・」

「リュウッ」

 

 前に出るセレナ、だが、

 

「助けられないのに助ける、なんてことはただの偽善ですらない」

「どうして・・・どうしてそんなこと言えるの!? いつものリュウに戻ってよッ」

「いつもの俺? ハッ、違うッ!! これが俺だッ、本当の俺はこっちだ!! そうだ、そうだったんだッ、俺は結局、壊すことしかできないッ」

 

 そう言いながら、剣を構えるが、セレナは両腕を広げる。

 

「どけッ、お前ごと斬るぞセレナッ」

「どかないッ、リュウにひどいことさせられないッ」

「ふざけるなッ、このままで言い訳無いだろ!? いい加減にしろッ、いますぐ救えないのなら、余計なこと言うなッ」

「リュウッ」

 

 二人の言葉に、ジョアン達は考える。

 そして、

 

「私は・・・私、は・・・」

「・・・セレナ?」

 

 その時、セレナから光が放たれる。それに触れた瞬間、身体が焼けるように痛みが走る。

 

「く、アァァァァァァァァァァァァァァァ!!??!?!」

 

 その光に触れるリュウは、明らかに何かに焼かれたように、白い煙が立ち上り、その場から離れる。

 そして、

 

「これは・・・全員ストップッ」

「私達の身体が・・・」

「元に・・・」

「えっ・・・」

 

 セレナが振り返ると、鉱石のような身体だった二人は、元のヒトに戻り、立ち上がるクレスも驚いていた。

 二人の様子に驚き、安堵する三人。そして、

 

「リュウ、やったよっ。二人とも元に・・・リュウ?」

 

 そこに、彼はいなかった・・・

 

 

 

「ごめん、アンジュ・・・こんな事態になって」

「ううん、クレス君の所為じゃないわよ。私のミスかな? 彼がこんな事態想定してたなんて、考えてなかったよ」

 

 その後、ジョアン達はアンジュが通っていた教会に出向き、いまアドリビトムが活動する、自足する社会作りの村に住まう。もう、元の村に戻れない。

 別れる際、二人は、

 

「正直、彼がやろうとしたことは怖かったですけど、理解は出来ます・・・あそこで、自分が自分で無くなっていくと思うと、いまでもぞっと思いますし」

「なにより、その時の自分が、誰かを傷付けるなんて・・・」

「そうですか・・・そう言ってもらい、感謝します」

「では、彼には恨み言も何もないと、伝えて置いてください」

「我々は我々で、今後がんばります」

「はい」

 

 

 

 アンジュが対応する中で、アドリビトムは今後、赤い霧へ人の接触を回避することと、彼を捜すことが加わった。

 

「ったくよう、悩むんだったら、相談しろよな」

「ああっ、俺達だって、考えたのに」

「絶対に捕まえなきゃ気が済まないわッ、リュウの奴ッ」

 

 ティトレイやシンク、イリアなど、多くの者達はそう言い、カノンノも心配そうにしていた。

 彼女の育ての親同然の家族、ロックスは静かに近づく。

 

「お嬢さま、大丈夫ですか?」

「ロックス・・・ううん、少し、ダメかな・・・リュウの様子がおかしいの、分かってたのに、気づかなかったよ・・・」

「カノンノ」

 

 クレアや最近は入ったリリスが近づき、静かに言う。

 

「それはここにいるみんなが思っていることよ、カノンノ」

「そうですよ、リュウさんも水くさいです。私達は仲間なんですから、相談してくれればいいんです」

「そうだね、今度会ったら、蹴り放つよ私」

 

 コハクはそう言い、みんながわいわいと話し合う。

 けして許しはしない、だけど、彼は仲間と言う光景に、セレナと共に微笑むカノンノ。静かに窓の外を見る。

 

「いま、貴方はどこにいる・・・リュウ・・・」

 

 

 

 とある村で、魔物を倒しきり、代金を受け取る男がいる。

 男はコートに、数多の道具を持つ剣士で、黒い髪と瞳であった。

 

「ん、店長、このチラシは?」

「ん、ああそれな。なんでも『暁の使者』って言う奴が張ってった」

 

 そう言い、壁に貼られたチラシを見る。内容は、

 

「ディセンダー・・・救世主の出現を祈ろうか・・・無様だな」

「きっついねぇ兄ちゃん。ま、ここはともかく、他んとこは結構声が挙がってるって話だから、気つけな」

「・・・救世主なんてもん、探してもいねぇよ」

 

 そう言いながら、その店を後にする。店長は髪をかきながら、あーあと思う。

 

「そういう兄ちゃんよお、あんなはした金で魔物討伐する時点で、俺らにとっちゃ救世主なんだがな」

 

 そう思いながら、その少年の姿を見送った。

 

 

 

 必要な情報は知った。あの力も自由に使える。

 黒い光、その力を手にして、静かに歩く。

 

「精霊・・・赤い霧のことが分かればいいが」

 

 苛々しながら歩く。人の悪意、静かに、

 

「はっ、救えない・・・結局俺は・・・」

 

 何も呟かず、静かに歩く。

 剣を腰に下げて、目指すは、

 

「忍びの里か、さあ、鬼か邪か、どちらにしても道を阻めば斬るだけだ」

 

 そう呟き、前へと進む・・・




暴走し、どっか行った問題児。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第5章・剣士の闇

少しもシンフォギア要素が出せないよ。


 あの世界は最悪だ。

 

 知りもせず罵倒し、分かろうとせず避難し、知っているはずなのに去っていく。

 

 分からない、知りたくない、うるさい、うるさい!!

 

 もう聞きたくない、やめろ、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!!

 

 ああ、消えないッ。どの世界でも、異世界でも消えない雑音ッ。

 

 うるさい、うるさい、うるさい、うるさい!!

 

 ああホントに、嫌になる・・・

 

 

 

「・・・人里はこっちか」

 

 雑音を聞きながら、ふらふらと奥へと進む。とある坑道、最近帝国が資源狙いで色々と荒らしに荒らしている中で、ふらふらしている自分。

 よく帝国軍と衝突するが、その際、あの力で暴れに暴れていた。

 うるさいんだ、彼奴らは。ただでさえうるさいのに、余計にうるさくする。

 目障りだった、本当に・・・

 

「精霊か、赤い霧のこと分かればいいが、道ねぇ~」

 

 とか言うが、ただの岩壁に似せて作られた、人工物。

 剣撃で粉砕し、先へと進む。

 しばらく歩いていれば、聞こえる。

 

「・・・三人か、出てこい」

 

 その言葉に、一人の男、赤い服、二刀流の剣士が現れ、後ろに金髪の、光の翼を持つ少女が現れる。手にはチャクラムがある。

 

「ここから先は立ち入り禁止だっ、お前はウリズン帝国の、ってわけじゃないようだけど、何者だ!?」

「ただの荒くれ者だ、精霊に話がある。悪いが先に行かせてもらう」

「それはできません」

 

 静かに、小さな忍者少女が現れ、武器を構える。

 

「ここから先は、信用に値する者だけが進む道です。ですので」

「行かせられない、当然、ならやることは一つ」

「おいおい・・・仕方ない、コレット、すず、行くぞ」

「う、うんっ」

 

 

 

「ほ『ホーリーソング』」

 

 強さが増すが、黒い光を纏い、技を連発するリュウ。

 その勢いのまま、静かに二刀流の、ロイドを押す。

 

「お前、どうして精霊に会いに来たんだ!?」

「ん? 少しるっせぇから、雑音消すためだ」

「雑音!?」

「外じゃいま、赤い霧なんてもんの所為で、雑音がうるさくてな。その正体知ってそうなもん、精霊に賭けてみるってところだ」

「ん? じゃ、お前、里を荒らす気は無いのか!?」

「めんどくせぇなそれ、ま、部外者入る時点で、アウトだろッ」

「ぐっ」

 

 剣の力をより込めて追撃、二本の剣で防ぐロイドだが吹き飛ぶ。コレットはあわあわしている。

 

「そ、それって、あまり悪い人じゃないってことだよね? 戦って良いのかな」

「彼が言うことは最もです、部外者が里に入る時点で問題ですよ」

「そうだけど、つえぇし、なにより、悪いことするためじゃないんだけど」

「まあ、精霊にあってなんか知ってるか聞くだけだし」

「精霊は、いま里にいませんよ」

「・・・おい、俺らの戦う意味をここで問うッ」

 

 これでも数時間かけて戦っていたのだが、それを聞き舌打ちする。

 

「ご、ごめんなさいっ」

「気にするな、ってか、精霊マジでいないのか?」

「ああ、周りが星晶を取る所為か、精霊が姿を見せなくなったんだよ」

「ウリズン帝国・・・いや、確か他にもいたな。ちっ」

 

 内心もう少しボコボコにすればよかったと、金髪と赤い白い騎士や、その他の顔を思い出す。まうあの白いのは渋々行動していたが気にすることではない。

 

「なら帰る、ここのことは言わないから、大人しく帰してくれればもう戦わない」

「本当か!?」

「戦う気なんてねぇよ、めんどくせぇ・・・それに、少し聞きたくない声が聞こえてるしな」

 

 そう言い、奧の方を見る。ロイド達は声?と首を傾げるが、聞こえないだろう。

 

「じゃな、俺はこれで」

「お、おい。あんた、名前は」

 

 

 

 ロイドの制止も聞かず、彼は駆け出す。

 それと共に、近くの軍事勢力、大国の横暴に軍隊の証拠などが民間人などに漏洩かつ、何者かの攻撃を受ける。

 曰く、黒い光を纏う、禍々しい剣士との目撃例があった。

 

 

 

「はあ、リュウったら・・・」

 

 アンジュ達は頭を痛め、シンクはロイドに尋ねる。

 

「それじゃ、ロイド達の時、その、黒い光は」

「ああ、すっげぇ使いやすそうにしてたぜ。もう自分の力にしてたし、話聞く限りじゃ、みんなが知っている時より、強くなってる」

「そりゃ、大国の騎士や軍隊相手にしてれば、嫌でも強くなるわよ」

 

 ハロルドの言葉に、黙り込み、心配するカノンノとセレナ。

 コハクやマルタなどが心配する中、アーチェとチェスターは尋ねる。

 

「俺らが来る前の奴だろ? 異世界から来たって」

「その道具や知識を使ってるわね、きっと。彼の道具も一部持ってけど、娯楽用の機能しか分からないし、下手に分解もさすがに気が引けるしね」

「さらりとひどいこと言わなかったかな・・・」

 

 ルカが顔を引きずる中で、アンジュはぱんぱんと手を叩く。

 

「ともかく収穫はあったわ、彼もまだ、赤い霧について情報を探ったりしてる」

「それって」

「リュウに会うには」

「赤い霧を追ってれば、いずれ会うわ。その時に、お仕置きすればいいの♪」

「あっりゃりゃ、こりゃ少年ピンチじゃないの?」

 

 レイヴンの言葉に、そうねと微笑むジュディス。

 周りの中に殺る気に満ちた者達やら、色々いる中で、カノンノとセレナもまた、がんばろうねとお互いに言い合う。

 その中で、アンジュはうふと微笑む。

 

(ホント、何考えてるんだか)

 

 彼の行動の中に、記憶喪失の少女を捜していたり、景色について詳しく聞いていたり、とある二人組に深く関わる情報も探っていることにも気づく。

 これは内緒にしておいてあげると内心呟き、お仕置き用に隠しておく。

 

 

 

「・・・? これは・・・」

 

 そんな少年は、一つのチラシを壁から外して、睨み、握りつぶす。

 

「急ぐか」

 

 そう呟き、彼は走る。

 赤い霧の目撃例、そのチラシの場所へ、一目さんに・・・




本当に出せないのが申し訳ない。あの子、元の世界のことを言わないですから・・・

ともかく、色々動く彼です。別行動して飛行船の行動よりも早いのは、彼が色々裏技を使用してるからです。

本来忌むべきものすら、利用する。それがこの子です。利用できるならなんでも利用する、ですから剣で砂を巻き上げて目つぶしやら、モンスターを盾にしたり、平然とできます。

・・・この子好かれてますよね? いまのところダーク部分しか出せてない。

それでは、お読みいただきありがとうごさいます。


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第6章・赤い霧

大国にケンカ売ってますね、というわけで、きっとあの人とかあの人とかと顔合わせしてます。


 ティトレイ、メルディとクイッキーと、カノンノやセレナは走る。

 ルバーブ連山へと向かっていると、軽装の一般人が愚痴りながら歩いていた。

 

「あれ? あんたらも盗賊退治の人?」

「ん? あんたらは?」

「あたしら~願いを叶えてくれるって言う存在に会いに行こうとしたら、剣士の人が」

 

『ああ、あの噂はデマだぜ。そう言って、人気のないところに人呼んで、身ぐるみはぐって言う輩の。俺はいまからその調査さ、あんたら、いまのうち帰った方がいいぜ』

 

「それって、黒髪の人ですか?」

 

 セレナの言葉にああと頷く。

 

「あーあ、せっかく来たってのにデマかよくそっ」

 

 そんな事を言いながら、帰る者達を見ながら、四人は頷き、先へと急ぐ。

 

 

 

 山の頂上、黒い光を纏いながら進んでいたが、ふいに時、それを見る。

 

「・・・赤い霧、もう人の姿?」

 

 赤い霧の中にいるのは、人物であり、静からこちらを見る。

 敵意、そんな声が聞こえないが、警戒はしていた。

 こちらを見つめるそれに対して、少しずつ前に出る。

 

「・・・お前は」

 

 静かにしていたそれは、急に触れてきた。

 抱きつくように、それは触れた。

 

「!」

 

 そして記憶を、見られた。

 

「離れろッ」

 

 それを突き飛ばす。見られた? 記憶、いや、あの光景を。

 

「お前、俺の、あの子の記憶を見たな!!」

 

 何も答えず、いや、静かに、

 

『どうして・・・』

「!?」

 

 それは喋った。

 

『どうして君は・・・まだ見捨てないの』

「何を・・・」

『世界は君を傷付ける、世界は君を捨てた、世界は君にとって、敵だ』

「んなもんとっくの昔にからだッ、世界なんてもんに、俺は」

『じゃ、君はなぜ、彼女の記憶を刻み込んでいるんだい? 苦しいのに、痛いのに、辛いのに』

「・・・テメェも雑音か? これ以上、あの光景、あの事件に、あの子に、知らないのに口を出すなッ!!」

 

 剣を掴む時、雑音が増える。

 

「!?」

「「リュウ」」

「チッ、こんな時に頭花畑どもか」

「バイバ、メルディの頭、花畑違うよっ」

「リュウ、お前なにしてるんだよ」

「るっさい、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ」

「・・・リュウ?」

 

 頭をかきむしり、その様子に叫ぶようにわめくリュウ。

 

「うるせいんだよ世界は、人は、命はッ、感情はッ。うるさくて目障りでッ、うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいッ」

「りゅ、リュウっ、落ち着いて」

「うるさいッ、後ろの奴、とっとと出てこいッ」

「!?」

 

 その時、岩から姿を現すのは、見知らぬ者達。

 

「バイバっ、この人達、町でチラシ配ってた」

「『暁の従者』って奴か」

「テメェらが雑音の正体か!!」

 

 目を見開く中、暁の従者達は背後にいる、赤い霧を見つけ、歓喜に満ちる。

 

「おおっ、ディセンダー様、我らの世界に、ついにご光臨されたっ」

「願いを叶え、導き給うお方、我らが救世主様!!」

 

 その雑音に、リュウは頭を抑え、頭を振るう。

 

「くっそ、ここまでひでぇのはそうはねぇぞおいッ」

「お、おい待て、こいつは危険かも知れないんだ、ディセンダーなんてこと」

「なんだ貴様達は邪魔をするなッ」

「そのお方は貧しい者達をお救い、私欲に肥え、駆られ堕落した大国の者達を成敗するために、ご降臨されたディセンダー様だ」

「はっ、なにが私欲だッ。ふざけるな」

 

 剣を構えるリュウに、ティトレイ達は驚く。

 

「テメェらから聞こえる声は、大国に対しての理不尽な恨み言しか聞こえねぇッ。そんな奴に渡せられるかッ」

「貴様、邪魔をする気か」

「邪魔はテメェらだッ」

「ま、待てリュウ」

 

 ティトレイが前に出たとき、暁の従者から声が、

 

「ちっ、目をふさげッ」

 

 その瞬間、辺りが閃光と煙に包まれる。

 四人の悲鳴に、リュウは舌打ちして、地面に打撃を放つ。

 拳撃で煙を吹き飛ばすが、すぐに手を引っ張り連れて行こうとする暁の従者を見るが、視界の端に、目をちかちかさせて、歩いているメルディが、

 

「!?」

 

 剣を地面に刺し、かぎ爪ロープを使う。足を踏み外し、崖から落ちるメルティ。

 

「バイバ!?」

「める」

 

 それよりも先にスライディングして、メルディとクイッキーを捕まえ、共に落ちるリュウ。

 ローブが引っかかるまで落ちるが、すぐにティトレイがローブを捕まえ、途中で止まり、セレナとカノンノも、ローブを固定する。

 

「助かったよ~」

「クイッキー」

「はあ、こんなところ、視界悪いのに動くなよ・・・」

 

 こうし彼らは、接触し、またアドリビトムへと連れ戻される。

 

 

 

「両手に花だなリュウ大先生」

「変われユーリ」

 

 カノンノとセレナが左右からぎゅとだきついていて、舌打ちしながら不満そうにバンエルディア号に戻ったリュウ。

 アンジュは前の事件は不問と言われても尚、気に入らない。

 

「リュウは仲間だよっ、メルディのこと、助けてくれた♪」

「うるさい・・・」

「放さないからね」

「・・・」

 

 二人からそう目で言われながら、奧でため息をつく。

 だが、奧でアンジュらに話さなければいけないことがある。

 

 

 

「色々見て回ったが、国所属関係ギルドはてんてこ舞いだったぜ」

「というと?」

「まず金がねぇ小さな村や集落の依頼はほとんど受理できない。やる奴はたいてい敵国への軍事強化のために差し出せだの、従わなければ活動を制限されるだので、えらいことになってる」

「そんな・・・」

 

 シャーリィを始め、多くの者達が嫌な顔をする中で、それだけでないと伝える。

 

「ウリズンのような強国もそうだが、大国のほとんどは資源の取り合いばかりで、願いを叶える霧については危機感0。あったとしても、利用できるか?と言う考えで個人で動く、貴族様々が多い程度だな。エステルの国が一番ひでぇ、王女不在を気に、民間兵が多いから、突破するのに苦労した」

「って、待ちなさいッ、その言い方」

「ああ、ケンカ売った」

「!」

 

 その言葉にガルバンゾ国関係者は苦い顔と驚きをした。

 だが、

 

「しゃーねぇだろ、でなきゃ、まずかった」

「まずいって・・・」

「赤い霧の存在を知ったどっかのバカが、強行軍で前進してたんだよ、何人かの騎士隊がかばうように動いてたけど、どうあがいてもなにか起きれば死者が出る。うるさかったから、俺が動けないように痛手与えておいた」

「それは・・・確かに、そんな話聞いたわね」

「そん、な・・・」

 

 絶句するエステルだが、その様子に、

 

「無駄だぜエステル、あんたがいても変わらない。貴族の独断って言ったろ、俺の後、騎士団が膨大な被害で咎められる前に、国さん、それを指揮してた貴族さんをどうするかもめてる。実際俺が与えた部隊を立て直すの無視してだがな」

「あんた、エステルを元気つけたいのッ!? 傷付けたいの!?」

 

 リタのクレームを無視しながら、とりあえずと、

 

「問題は赤い霧だ、俺はアレと接触した」

「なんですって!?」

 

 リタが驚く中、リタ達、科学班の話では、あれはこの世界の物ではないらしい。

 

「なぜ分かる?」

「『ドクメント』がこの世界に存在しない、あんたの世界の物みたいに、別の物なのよ」

「どくめんと? 俺の世界の、生物を構成するなんかの名称か?」

「そんなところね」

 

 ドクメントとは物質はまず、このエネルギー体ありきで、姿形が決まるらしい。

 つまり赤い霧はそれに触れていじり、生物変化を引き起こしていると推測された。

 

「んで、異世界人であるリュウに聞くけど、どう思う?」

「ノイズみたいだな、俺の世界の」

「人を炭化、炭にする存在か」

 

 ウィルが腕組みしながら頷く。

 そして他にも、

 

「俺の世界は生物学もそれなりに進んでいる、生き物をそんな粘土のようにいじることできるのか?」

「治癒術とか、一般で言うと呪いも似たようなものよ。個人のドクメントに干渉して、傷を癒したり、病気にしたりってね」

「DNAって言うより、魂みたいだな・・・」

 

 そしてそれを元に、自然界からエネルギーを取りだし、人工的に物質を創り出す技術があり、それにみんなが?であるが、リュウだけが、

 

「ある種、無から有を生み出す技術か」

「さすが異世界人、頭回るわね」

「関係ないだろ、周りはさすがにな」

 

 苦笑する中で、静かに真剣に、

 

「けどそれなら、色々願いが叶うって理由も分かる」

「!? ホントか」

 

 セネルの言葉に静かに頷く。

 

「たとえば、病気を治したいと言うのなら、病気のドクメントを取り外して、何かで補強したり、ましては、健康体と比較すればなおのこと治せるだろうし、金が欲しいなら、金って情報があれば、ドクメントで自然エネルギーから、金属を生成できる」

「そんな、そんなことが可能な存在だなんて・・・」

「だが、理論上、その技術なら、黄金なりなんだり、作り出せるか?」

 

 その言葉に、学者達は静かに頷く。

 

「ならまずいな、下手すれば人体改造人間なんて作りたい放題だな」

「なにそれ?」

 

 ルビアが首を傾げる中で、軽く、異世界の怪物、空想話を聞かせるが、最後に、

 

「それが現実になるってことだ」

「うわっ・・・」

「ロケットパンチは少し嫌だな・・・」

「そこか」

 

 そんな会話の中で、誰かが尋ねてくるため、奧へと引っ込む。

 

「おたくはなんで?」

「レイヴン、俺ここに帰る前になにしたと思う? 王女誘拐よりひでぇで」

「ははっ、笑えねぇ」

「りゅ、リュウさんのも、私がなんとかしますよっ」

 

 そんなことを言っていると、尋ねたものを見てゲッと言う顔になる。

 

「彼奴、ガルバンゾ国の騎士だ」

「アスベル!?」

 

 

 

 その後、王女の言葉を聞いて、アスベルとソフィが入団する中で、ルーティやスタンが尋ねる。

 

「リュウと戦ったんだって? マジなの」

「あっ、ああ・・・彼には、正直複雑ですが、感謝してます」

「それって、リュウが言っていたように、民間の人達を盾に、進行していたと?」

 

 エステルの言葉に、苦しそうに頷くアスベル。

 

「あのまま進軍していれば、必ず大事になっておりました。まさか国の命で無かったとは・・・おかしいことにはフレン隊長達も気づいておいででしたが、彼が騎士団に打撃を与え、言い訳が出来ていなければ、多くの民を犠牲にしてました」

「そうですか・・・リュウには後で、お礼を言わなければいけませんね」

「はい、手段はどうあれ、彼に助けられました。フレン隊長並び、あの場にいた騎士の代理として、後でお礼を言いに行きます」

「はい」

 

 

 

「んで、この国はこういう動きで、この国は」

「以外と国の情報を集めてたのね」

「まあな、情報は基本戦術だぜ。国の内情、特に民衆や、上の思考が分かれば、色々動きやすい。ま、ここみたいに中立ギルドじゃないギルドは、かなりやばいぜ。中には協力関係だったのに、国が敵対してるから敵対って、他国団員なんか、種族も相まってだな」

「うぅ~耳が痛いな~・・・異世界から来た貴方から見たら、さぞ醜いでしょうね」

「聖職者が言うな、それに似たようなもんだっての」

 

 その一瞬を、アンジュは見逃さなかった。

 

「・・・貴方が引っかかるのはそこね」

「・・・」

「何かあったか、前の世界のことは多くは聞かないわ。けどこれだけは信じて、希望はある、だから、諦めない。私達は自由の灯火アドリビトム。貴方はその仲間よ、貴重な人材は逃がしません♪」

 

 そう微笑まれたが、静かに、

 

「愚問だ、くだらない」

 

 そう言われて、しょんぼりするリーダーであり、そして、

 

「すいません、王国に属さない、中立ギルド、アドリビトムはここですか?」

 

 

 

 ライマ国軍大佐、ジェイド、その国の王女ナタリア、ジェイドの部下で護衛のティア。彼らの国はいまクーデターが起きている。

 暁の従者がディセンダーを祭り上げ、それにより、星晶が巡られなかった国の不満が爆発したらしい。

 現在は混乱状態であり、匿う形で、彼らもギルドに入れるアンジュ。

 しかし、

 

「国すらねじ曲げるなんて、マジで改造人間製造中か、笑えねぇ事態だなこの世界」

「どう思うよリュウ先生?」

 

 食堂で集まる暇人は、静かに考え込む。

 中には煙を出す者もいるが、

 

「暁の従者は完全に私欲だ、自分が裕福じゃないのは全て国の所為だって思っている声しか聞こえなかった。そんな奴らに、自在に物を生み出す存在が現れれば、こんな事態になるわな」

「それも調べたのか?」

「ん? ああ・・・」

 

 カイウスにそう言いながら、ん?と首を傾げる。

 

「ちっ、買い忘れがあったから、少し出るわ」

「えっ、本当ですか!? すいません、一緒に行きましょうか?」

「ロックスは生地の発酵見ててくれ、俺は買いに出向くよ。クレア、リリス、火の番頼む」

「わかりました」

「了っ解♪」

 

 そして出ていくリュウを見ながら、静かにロックスは首を傾げた。

 

「えっと、なにを買い忘れたんだろう・・・」

「・・・やっべ」

 

 

 

「・・・ここか、全く、変なところに拠点置きやがって」

「いやいや~優秀な人材がいて、うらやましいですね~」

「ええ、ただ勝手に動くのだけはいただけないですけどね♪」

 

 ジェイドとアンジュがそんなことを背後で言い、セレナ、カノンノはムゥ~と頬をふくらましている。

 肩をすくめ、静かに、

 

「元々テロリスト候補な輩だと思ってたから調べてたんだ、まさか尋ねるとはな」

 

 門番の者達はディセンダーの話で持ちきりである。

 何もないところから金を生み出したりと、やはりまずい話ばかりに、顔を歪めるリュウ。

 うるさくてたまらない。

 

「私欲に肥えた、堕落した大国? 笑わせる・・・」

 

 いままさにそれなのは貴様らだと、歯ぎしりするが、二人がその手を握る。

 

「もう一人で抱え込まないで」

「私達がいるよ」

「青春ですね~」

「ですね~」

「斬るぞ後ろ」

 

 布に石をくるんで振り回し、遠くで物音を立て、門番をどかす。

 

「それでは、サクサク、っと行きましょう」

「へいへいほ~」

 

 こうして先へと急ぐ。アドリビトム達。




・・・あとがきでシンフォギアの子ゲストに呼ぶか?

そんなことを思いながら、次回に続きます。

お読みいただきありがとうございます。


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第7章・出会い

リュウ、苛々度は高くなります、どうなる?


 奥へ進めば進むほど、リュウの顔が険しくなる。

 

 少しずつそれが怖く、少しずつ、彼がいつもの違う彼になっていた。

 

 なのに何も出来ない。私は、彼の力になれないの・・・

 

 

 

 遺跡の奧、強大な力を手に入れた者達が歓喜する。

 その様子を見ながら、静かに奧の部屋と知り、駆け出す中、集団の偉い者達が現れた。

 

「何者お前達は」

「テメェらの後ろにいる奴に用がある、道を空けろ」

「ディセンダー様、ラザリス様の下だと!?」

 

 名前が付いていることに驚くことより、リュウが好戦的に剣を構え、アンジュはやれやれと首を振り、ジェイドはため息をつく。

 

「少し話し合いませんか?」

「無駄だ、こいつらが自分が正しいとしか考えていない。そんな声しか聞こえない」

「? 声」

「ともかく、はっ倒すッ」

 

 そう言って。アンジュ達は顔を険しくする。

 いつもの彼と全く違う、獰猛な笑みを見せながら、黒い輝きを纏う。

 

 

 

「ハッハハハハハハハ!!」

 

 嵐、と一言で片づけられる。ディセンダーと呼ばれる赤い霧、ラザリスの力を手に入れた暁の従者達を蹴散らすその様子は、嵐だった。

 

「『吹き飛べ、サイクロン』『なぎ払えグランドダッシャー』『黒・魔神剣』『爪竜連牙斬』!!」

 

 剣を振るうたびに、リュウの剣から放たれる技術が、黒い嵐のように吹き飛ばす。

 カノンノを始め、メンバーは見ていることしかできない。

 

「異世界人って方は、お強いんでしょうか?」

「いえ、昔の彼は、魔術もなにも使えなかった・・・これって」

「リュウ・・・」

 

 黒い輝きの中、それは獰猛な剣士と成り果てている。

 

「くっ、バカな、救世の力が!?」

「救世主様より授かった力が、こんな」

「ハッ、笑わせる。他人からもらうだけ、助けられるだけ、救われることが当たり前と思う時点で、テメェらは大国と変わらない」

「なんだと!?」

「所詮はディセンダーに全て押しつけて、苦しいことから逃げ出した者どもが、俺に勝てるかッ」

「き、貴様に、何が」

「分かるかってか? 貴様らとて、大国だからと言う理由で、何も知らないディセンダーを利用して私腹を肥やし愚者だろう!? 消えろ、消えろ消えろ消えろキエロッ。全部、コワスッ」

「リュウ!?」

 

 無数の黒が集まり、剣が一斉に振り下ろされる。

 その様子に驚き、敵を無力化した。

 ただ一人、剣士は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 

「そ、そんな・・・ディセンダー様のお力が」

「テメェの力じゃねぇもんに頼ってる時点で、大国と変わらない」

 

 そう言いながら、それでも立ち上がる者達だが、侮蔑の目で睨むリュウ。

 ジェイド達も後ろに控える中、突如、変化が起きる。

 

「うっ、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 光り輝く身体から、少しずつ鉱石へと変わる。

 その様子にアンジュ達は驚愕する。

 

「生物変化!?」

『こ、これは、いったい!?』

『た、助け、助けてくださいっ、ラザリス様っ』

 

 そう呟いた瞬間、赤い霧が現れ、その中から、一人の人が現れる。

 

「君達は欲しがるばかりだね」

『ラザリス様!?』

 

 静かその様子を見ながら、ラザリスはリュウを見て微笑む。

 

「ああよっと出会えた・・・ずっと、ずっと会いたかった」

「・・・何の話・・・いや、待て、お前か!? 俺を呼んだのは!?」

 

 その言葉に全員が驚愕する中、ラザリスは微笑む。

 

「彼らは時期に感情が消えて、望んだ強大な肉体を手に入れられるよ」

「ふざけるな、なんでお前、そんなことを」

「君も感情、心なんてものは不要と、思っているんじゃないか?」

「・・・テメェ」

 

 静かに構える中、ラザリスは言う。

 願いを叶えていたのは自分にも分からないが、この世界を知るには都合が良かったと言い、ようやく動ける身体を手に入れたと言う。

 

「お前・・・なんだ?」

 

 何者、ではなく、なんだと聞くリュウに、静かに微笑む。

 

「僕はこの世界、ルミナシアと同じように、生まれるはずだった世界だ」

「生まれるはずだった、世界・・・」

 

 それにアンジュが驚く中、ラザリスは力を振るう。

 それを黒い輝きが阻み、その後ろ、セレナを睨む。

 

「なぜ君がそれを守るか理解できない・・・いずれまた会おう、リュウ」

「待てッ」

「僕なら必ず、この世界より住みやすい世界を創造する・・・待っててね・・・リュウ」

 

 そう言って消えるラザリス。その様子に全員が困惑する中、セレナがまた輝きを放つ、それがまた触れた肉体を焼くが、気にせずにその様子を見る。

 ともかく、暁の従者達の目は覚めたようであり、全員がその場を後にした。

 

 

 

 暁の従者後、メンバー達は知り合いに声をかけに出向き、戦力を上げるようであり、リュウは看板で静かにしていた。

 

「リュウ」

「カノンノか、なんだ?」

「うん、また絵を描いたんだ。見てもらっても、いいかな?」

「別にいいけが」

「うん、それじゃ、持ってくるね」

 

 そう微笑み、駆け出すカノンノ。しばらくしてロックスがスケッチブックなど持ってやってくる。

 しばらく雑談する中で、時折思う。

 

「そう言えばロックス」

「はい、なんでしょうか?」

 

 それは突然、

 

「・・・お前、なんでいまと昔の姿違うんだ?」

「!」

 

 それにあわわあわわと驚くが、誰にも言わないと言い、しばらく考えた後、

 

「私は、元は軍人で、ですが、いざ戦場が怖くなり、逃げ出した者なんです」

「そうなのか・・・」

「はい、ソウルアルケミーという技術、ドクメントのことはお知りですね? それを使い、いまの姿になったんです」

「その後は、カノンノのもとで?」

「はい・・・」

 

 いまの姿は奇異などの視線があったが、カノンノの両親はそんなことはなく、またカノンノ自身もそんなことは無い。

 だからこそ、彼女を育てると決意して、第二の人生を歩いていると、

 かみ砕きながら説明を聞くリュウ。不意にあることに気づく。

 

「と、どうして貴方は分かったのですか?」

「・・・俺はなロックス、人の心の声が聞こえる」

 

 それにロックスはええ~と驚く中、リュウは気にせずに、

 

「聞こえるっても、人の負ってもんだ。なんでかは知らないが、俺だけが人の心、闇の部分、身勝手な部分が声になって聞こえるんだ」

「だから、うるさそうな顔つきになるときが」

「お前のことは誰にも言わないが、俺のことも言うなよ。うるさいからな」

「それは・・・」

「お互い、繰り返したくないだろ? 俺から言ったことだがな」

 

 それに何も言えず、カノンノが来る中、彼は静かに、その絵の風景を見るのであった。

 

 

 

 しばらくして、色々な人が来る中、うるせぇなと思いながら頭をかいていると、

 

「ようやくか」

 

 ある声が聞こえなくなる。それと共に、船内で暗号化された精霊の居場所が書かれた書物が読み解かれた話が聞こえ出す。

 

「精霊ね、なにか分かればいいんだが」

 

 そう思いながら、静かに立ち上がり、向かう面々に参加するのであった。

 それが、自分が何者かを知る、一歩と知らずに・・・




壊れ始めるリュウくん、それを見てアドリビトムのみんながどう思うか。

お読みいただきありがとうごさいます。


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第8章・銀世界で現れる絶望

ここからオリジナル要素が顔を出し始める・・・はず。


 遺跡巡るのが好きな奴など、色々な人達を補充するアドリビトム。

 そんな中、ついに学者組が精霊の居場所が暗号化されていた文系を解読した。

 

「俺も見に行くか」

「「なら私も行く」」

「はいは~い♪」

 

 こうして霊峰アブソールと言う雪山へ、カイウスとエミルも含め、足を踏み込む。

 

「りゅ、リュウ様」

「ん、ロックスか」

 

 念入りに雪山装備をしている中、ロックスもまたカノンノとセレナの分を支度していた。そんな中だった。

 

「どうかお気を付けくださいね。あと、お嬢さまをお願いします」

「・・・ロックス」

「はい?」

 

 ロックスからすれば険しい顔をしているリュウ。それに疑問に持ちながら、

 

「俺に守ることなんてできない、頼むなら他の奴に頼め」

「えっ、えっと・・・」

 

 少しばかり戸惑うが、ロックスは覚悟を決めて、尋ねた。

 

「どうしてリュウ様はそのように、ご自分を否定するのですか?」

 

 その時、凄まじい、素人でも分かる怒気を纏い、ロックスを睨む。

 だが、それでも、

 

「私にとって、リュウ様はお嬢さまにとって、大切なお方です。そしてなにより、貴方は優しい方です」

「・・・違う」

「・・・それでも」

 

 静かに、リュウを見る。けして気配だけであり、それだけの彼に、

 

「それでも、貴方にお願いしたいのです」

「・・・」

 

 なにも言わず、そのまま去るリュウ。ロックスはそのまま座り込む。

 そんなことがありつつも、雪山へと足を踏み込むのであった。

 

 

 

 雪山の中、軽い吹雪が降る。

 ちゃんと着込んだりしているが、あまり長居できないと判断された。

 

「元々この辺りは、他の大国も狙っている。下手すれば変な輩がいるかも知れないから、奥地に行くことも考えて、早い段階にしたい」

「大国が? どうしてだ」

 

 カイウスが尋ねてくる中、これは放浪中に仕入れた情報と言って、リュウは説明し出す。

 

「元々ここも調べる地域にしてたんだ。俺も精霊との接触を考えていたからな。だがやめた。理由は一人での探索は危険と判断したし、なにより、大国がこの辺りの星晶を狙っている」

「星晶か・・・」

 

 それを聞き、カイウスは苦い顔をする。セレナは首を傾げる中、カノンノが、

 

「色々な国が、星晶を巡って、その土地にいる人を追い出したり、労働力にしたりするんだよね・・・」

「俺からすれば魔法使いも該当するんだが、別種族に対しても酷い格差社会だな。魔法使える時点で、俺の世界じゃ化け物扱いだろうに」

 

 そう、カイウスの人から獣人に変わる、レイモーンの民。コレットの翼を持つ天使。獣人のガジュマ、ユージーン。ジュジィスの、物から情報を読みとるクリティア。

 異世界人である彼からすれば、さらに魔法を使うこの世界の人達は、人外扱いだと言う話に、カイウスを始め、多くの人達が驚いた。

 

「っていうか、リュウの世界の道具もすげぇよな。あんな綺麗な歌声、そのまま機械? に覚えさせるなんて」

「う、うん。マルタも凄いって言ってたよ」

「ま、魔法が無い分。そっちの方向で社会が進化したんだろう? ルーク達みたいな感覚な社会もあるしな」

「へぇ~」

 

 カノンノは色々聞きながら、その中でセレナは鼻歌を歌いながらさくさく進む。

 

「おいセレナ、先行くなおい」

「あっ、ごめんなさい」

「しっかし、リュウの話聞くと、王族とか大国、小国とかホントバカらしくなるな」

「うん、リュウからすれば、僕らの世界って些細なことで争ってるんだね・・・」

 

 そう言うエミルに、リュウは鼻で笑う。

 

「え、ぼ、僕なにか悪いこと言った!?」

「あー一言で言えば・・・俺の世界も変わらないってことだ」

「? それって」

「!? みんなっ」

 

 その時、魔物の群れが現れ、すぐに戦闘態勢に入る。

 

「カイウス、エミルは前衛、俺は中衛でカノンノ、セレナサポートっ。二人とも術援護」

『了解!!』

 

 各々が動く中、魔法と動きを合わせて戦う。

 そんな中、全員が視界に入るほどだが距離を保っているときだ。

 

「!? なんだ、魔物が逃げ出したぞ!?」

「ハッ、おとといきやがれっ」

 

 エミルがそう叫ぶが、何かおかしい。

 

(向こうはまだ戦意があった。なのに、急に引いた?)

 

 その時だった。リュウが思考を巡らした瞬間、辺りが揺れた。

 

「!? 地震!?」

「まずっ、っていうか」

「!!??!?! み、みんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 セレナの叫びに、一斉に見る。それは迫る雪。

 

「ちッ」

 

 そして全員が白いものに視界が覆われた。

 

 

 

「ぶっはっ。み、みんなっ、いる!?」

 

 カノンノの声に、セレナがまず雪の中から出てくると共に、エミルと、獣化したカイウスが雪の中から現れる。

 

「最後、凄い爆音が響いたけど・・・あれって」

「ああ、リュウがなんかしたと思うが・・・リュウは?」

「「リュウ!!?」」

 

 二人が急いで立ち上がるが、すぐにふらつく。

 

「お、落ち着いて二人とも」

「彼奴ならたぶん大丈夫だっ、だけど俺達が問題だ」

 

 目的地は奥地と決めているからそれはいいが、吹雪も強くなっている。

 先に進むか、戻って仲間を呼ぶかしなければいけない。

 

「だけど、さっきので少し流れちゃったから、場所が分からない。地図はリュウが持ってたよね?」

「奥地には行けるぞ、そこからみんなの元に帰る道も分かる。少なくても俺達は奥地に出向いた後じゃないと、なにもできない」

「・・・わかった、セレナ」

「うん、少しペース上げて、急ごう」

 

 頷き合う仲間達は、大急ぎで奥地へと足を運ぶ。

 

 

 

 綺麗な水晶のような氷の結晶があった。

 それにより彩られた氷の聖域、そこにカノンノ達はたどり着いた。

 

「ここって」

「ああ、奥地の奥地っぽいけど・・・たぶん、ここからならみんなの元に帰れる」

「精霊は・・・いまはリュウだよね。カイウス」

「ああ、探している暇は無い。すぐにみんなの元に」

 

 その時、吹雪がいっそ強くなる。みんなが一斉に目を瞑り、目を開けると、

 

「!?」

「貴方は・・・」

 

 カノンノの言葉に、静かにそれは人の姿になる。

 

「私は氷の精霊、セレシウス。あなたたちに会うために、姿を現しました」

「せ、精霊!?」

 

 全員が戸惑うものの、内心いまはそれどころじゃない。

 セレナが前に出て、頭を下げる。

 

「ごめんなさい、私達は貴方に会いに来たものです。ですけど」

「仲間がこの雪山ではぐれてしまっていて、すぐに他の仲間の元に戻りたいんですっ」

 

 カノンノの言葉を聞き、精霊が少し驚く。

 

「そうですか、それは少し間の悪い・・・私と契約した守護者がいます。彼が悪しき者を討ち倒したあとならば、私の力で探し出します」

「「本当ですか!?」」

 

 カノンノとセレナの顔が腫れるが、二人の顔は曇る。

 

「悪しき者って、サレみたいな奴か!?」

「なら僕らも手伝わせてくださいっ、仲間のことも心配ですけど、困ってる人も放っておけないよっ」

「それもそうだね」

「ありがとうございます」

 

 

 

「・・・吹雪が強まってきたな、まあいい・・・」

 

 そう言いながら防寒具を外し投げ捨てる。

 

「テメェは何者だ、そんな殺気立ってれば、嫌でも分かる」

「・・・」

 

 吹雪の中、静かに片手で持つ剣と斧を持つ男が現れ、静かに構える。

 

「まさか貴様のような者まで現れるとはな」

「? なんの話だ」

「しらを切るか、まあいい・・・貴様はこの地で滅するッ」

 

 瞬間、距離を詰めて斬りかかられ、それを剣で防ぐ。

 その一撃で悟り、仕方なく、闇を纏う。

 それに男は睨んでくるが、

 

「遅いッ」

 

 殺気立てば立つほど、攻撃が読みやすくなる。剣と格闘術を織り交ぜながら、吹雪の中で戦う。

 

(向こうはこの寒さが無いのかッ、長期は無しだッ。すぐに潰す!!)

 

 黒い斬撃が白い世界を切り裂く中、男は睨みながら金色の光を纏う。

 

「オーバーリミッツ!? 来るか」

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「図に乗るなァァァァァァァァァァァァ」

 

 黒い闇が身体から吹き出す。白い銀世界を壊すほど、黒い闘気が辺りを弾く。

 

「消えろッ、邪なるモノッ」

「!?」

 

 その言葉に怪訝になりながら、つばぜり合いを始める。

 

「おいッ、邪なるモノってなんのことだ!?」

「その力、闇がその証拠!! 貴様は世界に生まれてはいけない、否、存在してはいけないモノだッ」

「!?」

 

 つばぜり合いを止め、構え合う中、男からの殺気が聞こえる。

 

「貴様がいる限り、世界は救済されぬッ。消え去れ、邪悪なるモノ!!」

「・・・はっ」

 

 それに、

 

「あっははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははっ」

 

 それは壊れたように笑い出す。

 

「なん」

「ああそうだッ、それでいいッ。俺の評価なんてそれでいいッ」

 

 黒い闇が吹雪を吹き飛ばす。暗闇が身体から吹き出しながら、それは嬉しそうに男を見る。

 

「正しいよお前、そうだッ。俺はそんなもんだッ」

「なにを」

「さあ殺ろうぜ、まだ始まったばかりだ』

「!?」

 

 瞳の色が変わる。オットアイ、左右の色が変わり、髪の色が銀、いや、刃のような色、刃その物へと変貌する。

 暗闇を纏いながら迫るそれに、押され出す。

 

「くっ」

『どうした正義? テメェの正義はんなもんか!!?』

「黙れっ」

 

 

 

 ああ心地良い、そうだ、もっとだ。

 

 

『俺を殺したいんだろ? ならもっと俺に向けろ、その負をッ』

 

 

 

 アソコハ俺ノ場所ジャナイ。アアソウダ・・・

 

 ココガ俺ノ居場所ダ・・・

 

 

 

『お父さん・・・お父さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんっ』

 

 

 

『・・・違う』

「!?」

 

 その時、急に動きを止め、虚空を見るリュウ。

 その顔はここを見ていない。

 

『違う俺は、俺はッ』

 

 頭をかく、血が流れ出ようと構わないほどに、頭を、かく。

 

『違うッ、違う違う違う違うッ。俺は、俺は、オレは、オレハ!!』

 

 気が付いた瞬間、剣を構え、突進する男。

 だが、

 

 

 

 アアコレデ・・・

 

 

 

 なにもしないまま、それを見ていた・・・

 

 

 

 モウ、アノ子ヲ思イ出サナイデ済ム・・・

 

 

 

 そして白は黒になり、赤になった・・・

 

『・・・カノンノ』

「えっへへ・・・間に・・・あっ、た・・・」

 

 リュウに倒れるカノンノ、その腹から血が流れ、それに男が戸惑う。

 側からセレナ達の声が響くが、だが、

 

『あっ・・・』

 

 その光景と、

 

『あ・・・』

 

 あの光景が、

 

『キザマアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』

 

 その瞬間、それは黒い獣に成る。

 

「!?」

『消えろ消エロ、キエロッ』

 

 全ての闇が、剣撃へと変わる。

 

『剣ノ世界!!』

 

 男をそれで沈め、すぐにカノンノへと歩み、そして、

 

『アァァァァァァァァァァァァァァァァァァ』

 

 帰り道まで一本道を、作りだした。

 強引、ただ剣の一降りで、地形が変わろうとお構いなしに、切り開いた。

 すぐにそれで戻り、カノンノは一命を取り留めた。

 だが、大きな謎と残される・・・




・・・もう少し長くするべきか?
お読みいただき、ありがとうございます。


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第9章・人外の人間

新年明けましておめでとうございます。

物語の流れ、新年らしからぬスタートですが、これからもよろしくお願いします。

では、どうぞ。


 目の前で彼が斬られそうになる。

 

 精霊セレシウスに言われ、邪悪なるモノへ向かっていたことなんて分からなくなる。

 

 ただ一つ言えるのは・・・

 

 彼は悲しそうに見えた・・・

 

 

 

「それで、これはどういうことですか?」

 

 アンジュを始め、リュウを含め、リヒターと言う精霊と契約を交わした者と共に、精霊セレシウスがアドリビトムに集まった。

 ただ、いつもの雰囲気ではない。

 いまだにカノンノは目を覚まさず、アニーを始めとした医術組が側にいる。

 リヒターはすでに回復したが、周りの様子を無視して、リュウを睨む。

 

「アドリビトムの方に言います、彼はヒトではありません」

「・・・微妙に心当たりがある件」

「あるのかよっ!?」

 

 誰かがそう言う中で、初めてか。人の心、負の感情が聞こえること、自分が五歳くらいかそこらの時、大人の人に見つかって保護されたことを話す。

 

「だから俺自身、親なんてもん知らないし、それらしいもんもいない」

「そう、だったんだ・・・」

「それは当たり前だ、お前は『ゲーテ』なのだから」

 

 精霊セレシウスはそう言うが、フィリアが静かに尋ねる。

 

「セレシウスさん、ゲーテ、と言うのは」

「この世界でありとあらゆる負の感情より、生まれ出て消えるはずのモノだ」

 

 リヒトーはそう言いながら、静かにリュウを見るが、周りの者達がにらみを利かせる。

 だが、それでも言葉を続けた。

 

「お前達も知っているが、こいつが使う力はヒトの負だ。世界に害をなし、命を蝕む、有ってはならない存在。それがゲーテだ」

「アァ? だから殺せってことかおい」

 

 スパーダがそう言ったとき、精霊は静かに、

 

「ああ、ゲーテはこのまま放ってはおけない」

「!?」

 

 その言葉に、神官達は黙り込むが、リュウ自身は気にせずに、

 

「それより、この世界の異変についても聞かないとな」

「っておいっ、お前のことだろ!?」

「そうだよリュウ!? 君のことだろ!?」

 

 スタンを始め、アドリビトムの面々がそう言うが、

 

「どうでもいい」

 

 ばっさり切り捨てた。

 

「精霊セレシウス、貴様に問う。この世界に異変が起き、どうも俺はそれに呼ばれたらしい。その存在に心当たりはあるか?」

「・・・星晶に封印されたモノだろう。だが、世界創造前に起きたが故、私も詳しくは知らない。本能的に危険と判断される、貴様と同じだろう」

「そうかい」

 

 その言葉を聞いて、静かに黙り込む面々。

 そして静かにセレナを見るセレシウス。

 

「星晶が取られ始め、その封印が解け始めたと同時に、それがゲーテを呼び込んだ。二つの異変のために、世界樹は貴方を呼び寄せたのだろう」

「・・・えっ」

 

 セレナに静かに、セレシウスは断言する。

 

「精霊の世界にまで届く、光り輝く者。ディセンダーの輝き、それはけして間違えない。何故貴方はゲーテと共にいる?」

「・・・・・」

 

 立ちつくすセレナに対して、セレシウスの言葉に、全員が驚く。

 

「せ、セレナがディセンダー!? ど、どういうこと!?」

「いや、だからこそ、赤い霧の異変を治すことができたのか!?」

「・・・わた、しが」

 

 それに静かに頷くが、

 

「まあだからどうしたって話だがな」

 

 そうリュウは気にせず、んでと、その場からセレナの手を掴み、立ち去ろうとする。それにリヒターとセレシウスが動こうとするが、

 

「動けば斬り殺すぞ」

 

 その目はゲーテの瞳。いつの間にか髪も変わり、静かに睨む。

 二人は止まり、その変わり様に驚く。

 

「ゲーテだのディセンダーだの俺らには関係ない。どーでもいい」

「ゲーテっ!! 貴様はいるだけで世界に有害な存在だッ。そんな者に、ディセンダーの側に入らせることはできない!!」

「・・・それでもいい」

 

 身体から闇がわき上がり、周りが困惑する中、静かに、

 

「元々慣れてる、だがただで死ぬほど優しくないんでね。殺す気なら殺す、自覚したからか、力がなじむしな・・・」

「貴様・・・」

「だが間違えるなよ、いま目の前の危機よりもテメェはカノンノを傷付けた」

「ッ・・・」

 

 その言葉に押し黙るリヒターに、静かに言う。

 

「殺したければ相手してやる、だがな。所構わずってなら、俺よりタチ悪いってこと自覚しろ。精霊、テメェもだ」

「・・・一つ聞く」

 

 精霊も納得したのか、静かに引いてくれた。

 そして、

 

「何故お前はヒトの姿をしてる?」

「知るか、存在してからこっちも初耳だ」

 

 そんな話をし終え、セレナをカノンノの元に連れて行く。

 その様子を黙り見つめ、何人かため息をつく。

 

「セレシウス、リヒター」

「・・・すまないとは思っている」

「まさかディセンダーとゲーテが仲間とは、思ってもいなかった」

 

 そう言い合う二人に、アンジュは少し黙り込む。そう言うことではないのだが・・・

 

「リュウはゲーテ? っていう、邪悪な存在なのは間違いない・・・のよね」

 

 実際、リュウの力は異質であり、良い印象は無い。

 だが、彼はその力を悪用らしいことに使った試しはない。それを知る者達からすれば、いきなりの話で困惑する中で、セレナが救世主と言われても困るが、

 

「こっちもこっちで、納得がね・・・」

 

 セレナの光で、生物変化が元に戻り、リュウはダメージ、痛みを負う。

 まさに光と闇、水と油な状態だと、納得してしまう。

 

「だからって、リュウを殺すとか、考えないよな!?」

「それはないわよ、言っておくけど、これはセレナ、ディセンダーもそう考えるわよ」

「・・・」

 

 リヒターもセレシウスも黙り込む中、少し頭を痛めながら考える。

 

(これでセレナがリュウに対して、好きって知ったからどうなるのから・・・)

 

 そんなことを考えるリーダーであった。

 

 

 

「アニーカノンノは」

「リュウさん、セレナさん。いえ、まだ目を覚ましません」

「カノンノ・・・」

 

 ロックスが側で看病する中、静かに考え込む。

 

「ったく、なにも考えずに前に出るから」

「!? リュウさんっ、そんな言い方は無いでしょうっ。カノンノは貴方をかばって」

「話によれば俺は世界にとって、消えて無くなった方がいいらしいぜ」

「えっ」

 

 ロックスが驚く中、会議場での話を伝え、二人は驚きながら、セレナは黙り込む。

 静かにしながら、それでもアニーは聞く。

 

「それで、貴方は自分が消えてもいいと思っているんですか?」

「ああ」

 

 即答であり、それにアニーは、

 

「不愉快」

「!?」

「驚愕」

「・・・リュウさん」

「不信感? か・・・言ったろ、そう言う感情が聞こえるってな」

「・・・」

「困惑」

 

 そう言い放ち、静かに席を立つ。

 

「ガキの頃からこんなもん分かるからな、他人からは気味悪がれて孤児院たらい回しだし、俺への印象がどうなのかだってすぐに分かった」

「!」

 

 それはどんな気分だろう。他人の悪い、黒い部分が分かるというのは・・・

 

「くだらねぇ、俺はこの声でそれなりに楽しんだし、おかげで騙そうとする奴を返り討ちにしたり、重宝したんだ。気にしてない」

「・・・」

「だけどまあ・・・命なんて救う価値があるかと言われれば」

 

 その時、セレナは彼を見た。

 

 一瞬だけど、彼の顔は・・・

 

「無いな」

 

 とても悲しそうだった・・・

 

 

 

「だーーーーーくっそ、なんっなんだよリュウの奴!!」

「まったくよっ、自分のことなのに全然考えてないじゃないッ」

 

 激昂するスパーダとイリアに対して、食堂で黙り込む一同。

 コハクがけどと、静かに、

 

「ヒトの悪い部分が聞こえる、か・・・どんな風だったんだろう」

「うん・・・そうだよね」

 

 シャーリィは静かに考え込むと、ジェイドは、

 

「きっとろくなものじゃないですよ、彼が人間不信や他人を嫌う行動等々。正直理解できましたよ」

「そんなものですか大佐?」

 

 ティアの言葉にええと笑顔で返す。

 

「他人を貶めようとする者、自分を見下す者、他人をあざ笑う者。そんな声が聞こえてるのなら、むしろ、彼はよくあの性格で生きてるか不思議なくらいです。私なら自害するか、自暴自棄になってますよ」

「・・・」

 

 その言葉に、全員が黙り込み、クレスは静かに、

 

「そうか、だから彼は気づいたのか。魔物を捨てる依頼が、実際は生物変化した彼らだってことに・・・」

「でしょうね、実際村長の懺悔か何か、聞こえてたんでしょう。そう言った声が聞こえたりする。地獄でしょうね、そんな日常」

 

 言うのは簡単だが、何人かがぞっとしている。

 そんなのが日常なんて、考えつかない。

 だが、

 

「ですが彼にとってそれが日常、ですか・・・」

 

 ジェイドの言葉が心の中で響く中、静まりかえる船であった・・・

 たった一人、抜け出した者がいることにも気づかず・・・

 

 

 

「おーい、ネズミ、いるか」

「ん? 旦那久しいですね~」

 

 とある町、たまたま近くだったから抜けだし、情報屋へと足を運ぶリュウ。

 店は裏路地のさらに奧、顔パスだが、最初は通るだけで金を支払うか、いい情報を持って帰るなどして、友好関係を気づいた情報屋。

 偽名であるが、こちらも偽名だ。まあ向こうはアドリビトム在住なのは知っているだろう。

 ローブを着込み、顔を見せないネズミは、イッヒヒと笑いながら近づく。

 

「実はガルバンゾ国の姫様や、ライマ国の王族関係者が行方不明なんですが・・・ご存じ有りませんか?」

「知らないな」

 

 実際船にいるが、そんなこと知ってるだろと言う顔で、気にも止めない。

 基本、ここの情報を利用するのは、大国嫌いな奴らだが、口止め料はちゃんと払っている。時たまに良い情報と、金を払うのだが、

 

「いえ、今回は良いですよ」

「ん? なんでだ」

「最近は灯火さんがいないと困るんですよ。大国の人達が最近厳しく、中立で力のある組織の方を贔屓してます」

「ほう、なら、俺の欲しい情報を少し融通してくれ」

「はっは、旦那はこれだから・・・抜け目無い」

 

 苦笑するが、彼も抜け目無い。配下が先ほどから毒付きの矢など、目を光らせている。第一、彼が情報屋を取り締まっている保証もない。

 だが、ここで自身の声を聞く能力が十全以上に生きる。

 自身はこれで、前の世界でも荒稼ぎした。自分にとって、他人の隠し事は、金の成る木だ。

 

「それでは、記憶喪失の恋人のですか? それとも風景の恋人」

「殺すぞネズミ、その冗談そろそろやめないと本気で」

「いやはや・・・ではなんです?」

「治療薬、自然治癒力を上げるもん」

「・・・今度は難病の恋人ですかい?」

「おい、マジで配下の前で攻撃するぞ」

「やめてくださいな」

 

 そしてしばらく奧へ引っ込み、数分後良い情報を持ってくる。それと共に、帝国の不正情報を纏めた物を渡す。

 

「おやおや、今回は情報ですか。いいですね~高値で売れます」

「・・・こっちは少しきついが、効力は保証付きか」

「栽培場に住む魔物が手強いですが、その薬草は高値で売買される品物です。まあ、最近はビリビリしてますから、市場には出回ってませんので、採りに行くことをおすすめします」

「了解、またご贔屓に」

「それはこちらですよ。貴方の情報、証拠も何もかもありますから、ご贔屓に」

 

 そしてすぐに出向くリュウの後ろ姿を見ながら、配下の男が尋ねる。

 

「いいんですかい? こんなやりとりで」

「いいんですよ~最近、ほんっと彼らの組織に助けられてますからね。それに彼は嫌いになれないし、手慣れている。敵に回すより、仲間とまで言いませんが、協力者程度の仲がいいんです。ジェイド大佐にも贔屓にされてますからね」

「そのジェイド大佐には」

「無論、彼のやりとりは売りますよ~」

 

 イッヒヒと笑うが、彼はそのことは知っている。だがあえて無視している。

 交渉相手の腹の中すら分かる以上、こういったやりとりで、彼は生きてきたのだ。

 

 

 

 そして薬草を手に持ち、医務室へと置いておく。後は勝手にするだろうと思いながら、静かに看板の外にいた。

 いまは夜、みな寝静まるか、何かしてるかだ。ハロルドを始めとした学者組は起きてたし、リリスなどの裏方は、カノンノの看病してた。

 夜空の下、静かに座り込むリュウ。

 だが、目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませば聞こえ出す。

 人の負、不安、怒り、嘆き。

 それだけならいいが、それにも種類がある。

 声が聞こえなくなることは稀であり、ここのように聞こえないことは少ない。

 

(・・・気持ち悪い)

 

 前の世界は嫌なほど聞こえてきた。頭が痛くなるほど聞こえる雑音が、ここじゃ微か、まあ内容もダイエット、思い人の鈍感さ等々、ホント笑えるものだけだ。

 だけだというのに、ひとたび出れば、結局変わらない。

 

「ああ世界は変わらない・・・消えればいい」

 

 そう呟くと、がたんと音が聞こえる。

 ため息を吐きつつ、静かに立ち上がると、

 

「セレナ」

「・・・リュウ・・・」

 

 ディセンダーと言われ、救世主の少女。セレナ。

 どうでもいいことこの上ないが、静かに見つめてくる。接近に気づかなかった。

 

「貴方にとっって、世界は嫌なの・・・」

「・・・ああ」

 

 星空を仰ぎながら、その目に怒気を混ぜ、拳を握りしめる。

 

「どいつもこいつも勝手勝手勝手勝手っ、やれヒトの所為にする、ヒトを見下す、ヒトを犠牲にするッ。どこもそうだ、世界が変わってもっ、命は、変わらなく醜いッ」

 

 そして頭を抱える。そうだ、いまだって、

 

「聞こえるんだよ、いつもいつもいつもいつもッ。自分のことを棚に上げた、負の声が俺に聞こえるッ。いつだって、世界が変わり、国も価値観が変わってるはずなのにッ、声だけは変わらないッ」

「リュウ・・・」

「俺にはここの連中が気持ち悪い」

 

 それにセレナは驚き、リュウは本当に嫌悪する。

 

「ここの連中は本音で誰かのために、ヒトのために、未来を信じてる。気持ち悪くて吐き気がする」

「どう、して・・・」

「俺の知らない、声ばかりだからだ」

 

 生まれてからずっとそうだった。

 

 聞こえる声は決まっていた。

 

 なのに、

 

「ばかばかしい、ここの連中はヒトを信じて、明日を信じて、他人を信じてる・・・俺にとってそれはそれは、気持ち悪いくらい不愉快だ」

 

 苦笑しながら、これは本音だ。

 だってヒトは、醜い、命なんて、生まれてこなければいい。

 

「いつも他人と争い、見下し、犠牲にする命なんて、生まれなければいい・・・なのに、助ける? なんでだよ・・・なんで平気で助ける?」

「・・・」

 

 セレナにとって、そんな彼は苦しそうで、辛そうで、悲しく思えた。

 

「・・・カノンノもそうだ・・・なんで身を挺する・・・その所為で、あの子を思い出す・・・」

「あの子?」

 

 それに黙り込む彼は、それでも静かに座り込む。

 それは、本当の彼に思えた。

 

「俺はお前も気持ち悪い」

「・・・」

「お前からは声が聞こえない、最初は記憶が無いからと思った。まあ、ここの連中に感染したんだろな」

 

 苦笑しながら、セレナは、

 

「・・・私はディセンダーだからなんじゃ」

「? 関係ないだろ」

 

 それにすぐに答える。

 

「救世主だろうが、命有るモノの負の声は、俺には聞こえる。お前から聞こえないのは、お前の中に負は無いんだろ」

「そうなのかな」

「まあ、眩しいほど光が強いようなもんで聞こえないし、バカだし、だからじゃねえの?」

「褒めてないし、結局ディセンダーだよね、それ? 私、いま怒ってると思うよ」

 

 そう言うセレナは夜空を駆ける船の甲板で、歌を歌う。

 いつもの歌、自然に出てくる、優しい歌。

 

「・・・ばかばかしい」

 

 そう言って、リュウはセレナが歌い終えるまで側にいて、セレナはそれに、少し嬉しいと思う。

 だが・・・

 

(・・・ホント、ばかばかしい)

 

 闇が深まる。薬草を採るとき、苦も無く、魔物を退治した。

 自分がなんなのか、わかり始める。そうか、自分は、

 

(いない方がいい存在・・・だから俺は・・・)

 

 あの子を救えなかったんだ・・・

 

 夜空の歌の中、答えが出たと、彼は心の底から思った・・・




はい、オリジナルキャラクター出しましたが、モブです。気にしないでください。

ジェイド大佐も、独自の情報網くらい持ってますよねあの人なら。

ちなみに彼がしていた稼ぎは、情報屋か探偵のまねごとですね。色々後ろめたいことは聞こえますから、証拠も何も分かりますから、それを記者に匿名で売っている設定です。

生きづらいか、生きやすいかと言えば、人それぞれでしょうねこのスキル。

それではこれで、お読みいただきありがとうございます。ではよいお年を。


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第10章・異空間の遺跡を目指せ

シンフォギア。

すいません、言うしか出せる術が無いので。

裏でクイッキーなどがスマホでツヴァイウィングの歌聴いてます。


 看板で傷が癒えたカノンノは、すぐに彼の元に来る。

 

「リュウ、薬草ありがとう♪」

「・・・」

 

 なにも言わないが、貴重な薬草を持ってきたのは彼だと、だいたいの人間は確証しているし、なにより、ジェイドは何故かにやにやしている。その理由が分かるため、不愉快極まりない。

 そんな雰囲気を無視するように、アンジュに尋ねた。

 

「それで、いまからなにするんだ?」

「貴方がいない時に話し合ったことなんだけど、ラザリス。彼女の存在を調べるために、こっちも色々手を尽くしたの。それでまずは、この世界と共に生まれた精霊に尋ねることにした。これは貴方もそうね」

「だけど、精霊は世界が生まれてからで、精霊が生まれる前。つまり、生まれる前でのラザリスとこの世界の関係は知らないのよ」

 

 リタはハロルドと共に装置を設置しながら、説明し始める。

 

「だけどセレシウスの話じゃ、創世、この世界から色々世界から話を聞いたって言う『ヒトの祖』と言う存在がいるの」

「んで、その存在の情報が眠る遺跡、天空にある宮殿『ヴェラトローパ』って遺跡に出向きたいの」

 

 だけどと付け加えるハロルド。リタは静かに、

 

「ヴェラトローパは非物質の存在なのよ」

「・・・存在しない、てか、有る時空間が違うのか?」

「ほぼ正解。よく分かるわね」

 

 リタはにやと笑い、後ろに控える何人かか?が浮かんだり、理解できない顔をする。それにあーと頭をかく。

 

「つまりヴェラトローパは普段、紙の中にある遺跡ってことだ。紙の中に入れないだろ? 普通」

「おおっ、さすが異世界人。以外とわかりやすい例えね」

「いま私達はしてるのは、その紙の中にあるヴェラトローパを、この世界に取り出すようなものって思って」

 

 なんとなくわかり始めたりし出すメンバーを無視しながら、リタはリュウを呼び、物を運ばせたりし出す。

 そして、

 

「それじゃ、いまからヴェラトローパをこの空間に呼び出すわよ~」

「リュウ、そのレバーを引いて」

「・・・はいはい」

 

 リュウがレバーを引く。

 

 ――――――――――――――――

 

「・・・・・・・・・・・リタ?」

「触媒が足りないのかしら? 手伝ってリュウ」

「へーい」

「ん~それじゃ」

 

 がちゃがちゃとし始める様子に、カノンノもセレナも心配そうにしていると、

 

「ん? 誰か尋ねてくるぞ」

「えっ」

 

 その時、バンエルティア号に一人の影が、それに何名かが驚く。

 

「げっ、フレン」

「フレン!?」

「フレン隊長」

 

 それはガルバンゾ国の騎士、フレンであった。

 

「エステリーゼ様、アスベル、ユーリ」

「ん、待て」

「「「えっ」」」

 

 なにかしらの再会に、リュウが横やりを入れた。

 空を見ながら、静かに、

 

「・・・なんで空から困惑と驚愕の感情が聞こえる?」

『えっ?』

 

 その時、空から飛来する人影を見つける。チェスターなどの弓兵を得意とする者達。それにおいおいと慌て出す。

 

「誰か急いでチャットにッ」

「分かった!!」

「!? いや、ここに落ちるぞ」

「!」

 

 そして四人の人影は、フレンの上に落ちてきた。

 しばらく全員が固まるが、それを無視するリタとハロルドは、装置の調整をしていて、ともかく、

 

「・・・異世界人か?」

「空からだから・・・たぶん」

「あっはは・・・」

 

 

 

 カイル、リアラ、ロニ、ジューダスの四人は、ある凶悪な男と交戦中にこの世界に呼び込んでしまったらしい。

 元の世界に戻すために色々と調べたりするが、いますぐは無理と学者組の意見であり、カイル達本人達も、この世界の異変優先で構わないとのことで、一度保留。

 ただ、カイル達と交戦していた凶人に対して、どうなったか不明なのが気がかりである。

 

「で、リタ次の資料は?」

「ん~んじゃ」

 

 リュウは学者組と共に色々調べ物したり、飯を運んだりしている。

 そこに、カノンノ、セレナ、ユーリ、すずが帰ってきた。

 

「お、お帰り」

「ただいま」

「ただいまリュウ。そっちはどう?」

「リタやハロルドが息詰まってるな。なにぶん、本来は存在しないもんに関わろうとしてるから、手がかり一つ無い。そっちは?」

「ヘーゼル村の方々、ティトレイさん達がいた村の方が、砂漠を越えて移動するするため、危険な魔物を討伐しました」

「そうか・・・サレを始め、帝国は労働力確保で村からヒトを連れて行くって聞いてたから、それがか」

 

 ユーリは胸くそ悪そうにああと言い、リュウはすずの頭を撫でる。恥ずかしそうにするすずに対して、無視する。

 

「資料渡しのついでに、クレアに見てもらってるデザートも持ってくから、お前らも食え。んじゃな」

「「デザートっ♪♪」」

 

 リュウのデザートは元は異世界、しかも異文化が混ざり、色々な発想などで高まった美味しい物ばかりのため、女性達にとって魅惑の一品と言われる物ばかりで、カノンノとセレナは頬をほころばす。

 この世界流にアレンジしているが、それでも、いままで食べたことのない絶品で、みんなが時折頼み込んでいるが、たいてい彼は嫌な顔をする。

 

「なんで、いつも嫌な顔するんだ?」

 

 ユーリが肩に手を回して聞くと、

 

「・・・脂肪が~ぜい肉が~って、真夜中聞こえるんだ・・・」

「あー・・・分かったすまん」

 

 不満の声も聞こえることが分かり、それにもの凄く嫌な顔をするユーリ。

 聞こえなくてもかなり内容が凄まじいことだけは分かるのに、実際聞こえるとなると、ストレスが半端ないのは分かってしまう。

 

 

 

「悪いわね、荷物運び頼んで」

「いやいいさ、俺も用事があるがある」

「そう」

 

 リタの荷物持ちのため、町に下りる二人。とりあえずどうするか考えてから、リタは一人で問題ないと聞いているので、離れて、情報屋へと向かう。

 

「あいよ、なににする?」

「『赤い羽根、風の骨一本』」

「・・・裏に回りな」

 

 合い言葉と共に、裏に回る。しばらく地下室で持つと、情報屋が現れる。

 

「黒剣士さんだね、こうして会うのは始めましてだね」

「黒剣士? ああ」

 

 黒い闘気を纏い、色々やらかしているため、そんな名が付いたのだろうと判断する。そう思いながら、若い女性が静かに向かいの席に座るが、けして座らず、用件だけ聞くことにする。

 

「欲しい情報はいつもの定義の物だけでいい」

「あいよ。風景情報、行方不明少女情報、暁の従者情報、帝国情報だね。暁と帝国は高いよ?」

「問題ない、それと、少女の方は分かったから今後は仕入れなくっていい。これが報奨金、足りない分は言え」

「はいはい」

 

 情報に目を通しながら、しばらく考える。

 

(まずカノンノの風景画の景色は存在する場所はないか。暁の従者は、まあ少しは改め始めてる節があるか、それはいいとして帝国か)

 

 やはり色々と面倒だとしか言えない。いまだに星晶の独占を行い、侵略行為やそれらしい政治行動。頭が痛い。

 一部、それに反発している派閥があるが、

 

「ああそれ、お得意さんで言うけど、反発派は期待できないよ」

「そうなのか?」

「ん~できないとかじゃなくって、うまくチャンスができないってのが正解かな。反発派が祭り上げようとしてる王族、母方が一般人でね」

「・・・王族って嫌い」

「同感。だけど娘さん、騎士として教育受けてるんだけど、やっぱり駆け引きとかがね・・・上に立つ者としての経験が無いんだよ」

「それを祭り上げるって・・・善意じゃねぇな」

「その通り。ただ自分の発言を強くしたい奴しか周りにいないから、本当に国のこと考えてるその騎士のお姫様や、その周りの人がうまく動けない。結果変わらない」

 

 指を鳴らし、さすがお得意さんと言う情報屋。リュウは呆れながら書類を見る。

 

「そう言えば、灯火に、か~な~り怒りの矛先向けてるよ。ラズベリーがね」

「・・・ご忠告どうも」

 

 警告情報としてガルドが入った袋を置いて去る。

 

「まいどあり~大佐にもよろしく言っておいて~♪」

 

 それには振り向かず、手を振るだけにしておく。

 

 

 

 リタに頼まれた資料色々持って帰ると、人手が増えてる。

 そんな船の中で、荷物を運び終えてから、その若手と知り合いが尋ねる。

 

「おおっ♪♪ これは新型の計測器じゃないか♪ 凄いな」

「だろ~」

「ルーク彼は?」

「俺はガイ、ルークの家の使用人だ。こんな物まで仕入れるなんてな」

「それでも前に行くか分からないんだよな」

「そうなのかい?」

 

 もう一人の王族、放浪の騎士として活動していたウッドロウ。その側にチェルシーと言う、弓矢使いがいる。

 

「元々この次元に無い物の情報だ、どう足掻いても難しいし、ほぼ個人の研究だ。まあ、頭と資材はそれなりに高くても難しい」

「うむ、そうだね」

 

 考え込むウッドロウ。チェルシーは挨拶を交わして、胸を張る。

 そしてソフィが現れ、子供の会なるものに引っ張られていく。

 

 

 

 しばらくリタの研究に振り回されたりするリュウ。それでも進展がない。

 

「だぁぁぁぁぁぁぁぁぁもう、ヴェラトローパのドクメントがあれば、進展するのにッ」

「無い物ねだりするな、ヒトの祖が眠る遺跡の欠片なんてもん、それこそ探し出せるかどうかだ」

「分かってるッ、分かってるけどね!!」

「荒れてるわね」

 

 ハロルドはそう言い、リタは書類や計測器などいじる。その様子にやれやれと思いながら、寝間着などリタの世話係になっていた。

 と、

 

「あーそう言えば最近、カノンノの絵やセレナの頼み聞いてねぇな・・・少し外れるわ」

「はーい、ついでに戻るとき、片手で食べられるものとかお願い~」

 

 ハロルドにそう言われ、研究室から着替え類をリリスに渡しながら、セレナ達の居場所聞く。セレナは依頼で外出していて、カノンノがいまいるらしい。

 

「カノンノ」

「あっ、リュウ。お疲れさま、いまのところは」

「やっぱ先に進まない。スケッチの絵最近見てないだろ」

「・・・」

「? どうした」

 

 急に黙り込むカノンノ、そう聞かれてすぐに手を振る。

 

「う、ううん。見てくれるって約束、覚えててくれてたんだな~って驚いて」

「そうかい」

 

 セレナの歌聴く時もこうかなと思いながら、看板でスケッチブックの景色を見る二人に、セレシウスがこちらを見ている。

 

「セレシウスか」

「貴方達、なにしてるの?」

 

 セレシウスとリヒターはけしてリュウに警戒を解かないものの、けして剣を向ける気は無い様子であった。

 

「ああ、カノンノが絵が趣味でな。見てくれる暇人とかが俺くらいだから見てる。カノンノ、セレシウスも見せても良いんじゃないか?」

「あっ、そっか。セレシウス、この世界に、こういった風景あるかな?」

 

 そう言われ、セレシウスもスケッチを見るが、見たことないらしい。

 それを言われ、そうなんだと落ち込むカノンノ。

 カノンノの中では、これはなんとなくだが、実際ある風景として見ているため、それは少し、残念らしい。

 

「やっぱり妄想なのかな・・・」

「そう言うな、それでもお前の中じゃ本物だろ? にして・・・」

 

 その時、リュウの言葉が止まる。

 

「・・・はっ?」

「? どうしたの?」

「どうしたじゃないっ、なん、で・・・」

 

 その絵の中にある、カラフルな物は、

 

「ノイズ!? いや、なんでノイズをこうも精巧に書いてるんだカノンノ!?」

「のいず? えっと、それはたまたま書いた」

「違う!! これは俺の世界のノイズだっ。いや、なんか違う・・・」

 

 ノイズと呼ばれるのは情報でしか伝えていない。スマホなどでもちゃんとした姿は無いため見せていない。

 だが、まだ回線があったネカフェ生活中、リュウはノイズを見たこと有る。まさにそれだが、まるで空間に浮いているそれに、驚いていると、

 

「!? これは」

 

 セレシウスも驚き、一枚の絵を取る。

 

「これはヴェラトローパ!? ヒトの祖が眠る神殿!?」

「!?!!?!?」

 

 

 

 緊急会議が行われ、カノンノの二枚の絵がテーブルに置かれる。

 

 一枚は、空間に漂う、カラフルな物体が浮いている空間の絵。

 

 一枚は、何かの球体のような、不思議な絵。

 

 前者はノイズなる、異世界の謎の厄災。後者はヒトの祖が眠る遺跡、ヴェラトローパである。

 

「ノイズって、間違いないの?」

「ああ、俺の世界の危険物だ。だがいまはそれより」

「ヴェラトローパの方よね・・・」

 

 リタは考え込む中、戸惑うカノンノ。しばらく考え込みながら、

 

「カノンノ、貴方のドクメントを少し見せて」

「えっ、う、うん。いいよ」

 

 リタがドクメント、形有る有を有たるモノの証。リュウからすればDNAのようなものを視覚化する魔術を使うと、学者達は驚く。

 

「? リタ」

「ハロルド、貴方のドクメントと比べるわ」

 

 そう言い、ハロルドが頷くのを確認してから、展開する。

 輪のように囲むそれに、素人でも分かる違いがある。カノンノの頭上のドクメントと、ハロルドのドクメントが違う。

 その時セレシウスが手をかざす。しばらく沈黙してから、

 

「感じる、彼女からヴェラトローパを。どうして彼女の中に?」

「だとしたら、カノンノからヴェラトローパのドクメントを取り出せる・・・いやダメ、これ以上ドクメントの展開は危険だわ」

 

 それを聞くが、カノンノは、

 

「ううん、お願い、リタ」

「・・・」

「ヴェラトローパを出現させるのに必要なんでしょ」

 

 決意するカノンノに、リタは少し考えるが、だが、

 

「待て、もっと簡単に取り出せる」

「えっ」

 

 その時、黒い闇を纏い、目と髪を変化させるリュウ。

 

「カノンノ、ヴェラトローパのドクメントをセレシウスのように感じ取れるか?」

「えっと・・・」

「セレシウス、手伝えないか?」

「・・・分かったわ、いまは貴方に従う。けど、なにする気?」

「カノンノ、ヴェラトローパのドクメントに、何か不満、負を向けろ」

「えっと・・・」

「なんでもいいから、早く」

 

 そう言われ、静かにセレシウスが手を握り、カノンノは目を瞑る。

 そして、

 

「これ・・・いや、これか」

 

 そう言い、闇が腕にとりつく。静かにカノンノのドクメントの側に向け、そこから闇が吹き出し、そこからドクメントを簡単に引き出す。

 

「これは」

「!? リタ、それがヴェラトローパのドクメントよ」

「早くコピーしろ」

「分かったわ」

 

 急いでコピーし終え、可視化を解除する。カノンノは少し疲れたようにふーと息を整え、リタは冷や汗をぬぐう。

 

「あんたいまの」

「俺は負の声を聞く、もしかしたらと思ってな」

「そうか、あんたの能力で、ヴェラトローパのドクメントを声に乗せてあんたに引き寄せた・・・なら、あんたの声を聞く能力ってのは」

 

 リタがぶつぶつ言い始め、ハロルドもピンッとひらめいた。

 

「リュウの声を聞くのは、ドクメントから勝手にコピーか、もしくば引き出した情報を処理した結果なのかもね。それなら生き物、心ある命から全ての負の情報を得ることは可能だわ」

「そうか、リュウの負の声は、見えないドクメントから勝手に読み上げた結果・・・リュウの声の正体は、ドクメントの干渉および解読なのね!!」

 

 それを聞き、学者達が騒ぎ出す。それもそうだ、リュウはドクメントの干渉なぞ、安易に出来るのだから当然だと、リタは言う。

 

「本来、回復、呪いと言った行為は、ドクメントに干渉して起きる現象。だけどそのための準備がある。だけどリュウはそんな肯定を無視してできる。今回はヴェラトローパの情報を乗せた負のドクメントを、リュウが引き出したから、カノンノに負荷がかからなかった」

「結構な荒技だけど、なんでできるって思ったの?」

「負にも種類があるからな、もしかすればヴェラトローパと言う情報を負として捉えれば、引きずり出せるか? って思って」

「そうならそうと早く言いなさい!! それならもっと早くしてたわよ!!」

 

 リタにそう怒られる光景を見ながらも、カノンノは少しだけ複雑そうにしている。

 その様子にハロルドは、

 

「そう言えば、カノンノ。あんたヴェラトローパの負になに混ぜたの?」

「ん? そう言えば、初めて意図的に負を読み込もうとしたからか、分からなかったな」

「え、えっと、なんでもいいでしょっ。リュウのバカっ」

「解せぬッ」

 

 ジュジィスはその光景にくすくすと微笑みながら、レイヴンはおっや~と言う顔をしていた。

 

「これは青春かね」

「そうね、リタばかりにリュウが構ってるから、セレナも含めて、何か不機嫌だったもの・・・もしかしてヴェラトローパの負は」

 

 取り出す際、終始リュウとリタを見ていたカノンノ。何名か気づいてほほえましく見ているのだった。

 

 

 

「後方のジャンケン組無視したい」

「遊びに行くんじゃないんだぞ・・・」

「あらあら」

 

 リタとハロルドは機材整備のために残り、他はジャンケンしていまメンバー参加している最中。

 何故か燃えているのは、カノンノとセレナだった。

 

「勝ったっ」

「ううっ~」

「カノンノ、荒技だからってドクメント視覚化してたんだから大人しく休めよ」

「は~い・・・」

 

 嬉しそうに剣を振るセレナ、準備万端である。

 そしてかなり高い上空に来ると、シンクが驚く。

 

「ヴェラトローパって空にあるの!?」

「だろうな、それに別次元空間にあるから、誰にも知られず、侵入されずってことだ。なにあるか分からないな。キール平気か?」

「考古学分野、それに、物から情報を読みとれるジュジィスが居なきゃいけないからな。足は引っ張らないよ」

「それでも、頼りにしてるわね。リュウ」

「うんっ、お願いねリュウ」

 

 セレナにそう言われて、へいへいほ~と言うリュウ。そして、

 

「ヴェラトローパのドクメントが反応してる、それじゃ、出現させるわよ」

「おう」

「うんっ」

「ああ」

「ええ」

 

 進行組四人の返事と共に、機材は機動。

 空間から現れるヴェラトローパに驚くと共に、天空の宮殿に足を踏み込む。




オリジナル要素、さてと・・・

・・・シンフォギアが出せません。出てきた情報屋とか誰でしょうね。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第11章・天空宮殿

少し投稿スピードが遅めになることを、ここで報告させていただきます。

できればオリジナル展開、レディアント入手編と王族双子問題を割り込ませることを考えておきます。

タイミングはあるだろうか?

それではどうぞ。


 空の上の遺跡、不思議と風や気圧の問題はない。その辺りは調整済みか知らないが、助かるなと思いながら進む。

 遺跡らしく、石版を見つけながら、辺りの警戒を怠らない。

 

「手持ちの資料で読めるか?」

 

 キールがそう言うが、リュウが前に出る。

 

「ん?」

「どうした?」

「読める」

『えっ!?』

 

 一番驚くのはリュウ自身だが、念のためにジュジィスも読みとりながら、文字を解読する。

 

「創造を伝えた者のために、ここに残す?」

「かみ砕いているけど、だいたいそうね」

 

 微笑みながら、内容を聞き、キールやセレナは考え込む。

 

「ここに世界誕生を見た奴がいるのか?」

「そんなのいるのか?」

「俺の世界じゃ・・・あり得るかもな科学的に」

「!? 本当か、それは聞いてみたい」

「まあ落ち着け、奧に行くぞ」

 

 奧に行くと石碑があり、それは世界樹のこと。

 

「世界樹、世界を生み出し、自然の摂理、生命を作りしもの」

「僕らと伝わってる内容と同じだな」

「待って、まだ続きがあるわ」

「世界樹の始まりは種であり、宇宙をただよいながら創造を始める!? 待て待て待てよ、世界の種って、ビックバンと同じ原理か、それ以上のエネルギーがあるのか!?」

「リュウかみ砕きすぎだし、お前だけの情報で解釈するなっ」

 

 リュウは驚いていた。世界樹はいずれ花を付け、種を作り、宇宙に放つ。それはいずれまた世界、星を作り、新たな世界樹になる。

 その話にキールも驚く。ルミナシアは過去、どこかの世界樹から生まれた世界だと言うことに驚く。

 

 

 

 今度の壁画の情報は、大地が生まれたあと、非物質であったヒトの祖は、肉体を作り、大地へと舞い降りた。

 ソウルアルケミーと言う、ドクメントを変化させる技術の根元。それにキールは驚いていた。

 

「だがなんでヒトの祖は大地に降りた? ここにいれば神のように過ごせたのに?」

「世界と共に創造するためのようよ」

 

 創造された世界、自分達と同じ生まれた大地と共に、一から歩むためと書かれている。

 

「進化だと!? それがいまの世なら成長どころか後退してるじゃないか」

「だからってヒトの祖がそのままでも変わらないと思うぞ」

「あら、そう思う?」

「命なんて変わらないさ」

 

 そう呟きながら奥へと進む。

 

 

 

 今度の石碑は、世界樹の側にある、何か。

 

「これは、ラザリスか」

「!? どういうこと」

「ラザリスは芽吹くことができなかった、世界樹の種だ。何故かは知らないが、ルミナシアは芽吹かなかった兄弟を取り込んだ」

「そして、あまりに違う理のため、封印するしか無かったようね。星晶はそのためにあったようよ」

 

 それだけわかり、また次に進む際、小さく、

 

「最後まで助けられなかったのなら、助けるなよ・・・」

 

 そう小さく、世界樹に向かって呟いた。

 

 

 

 今度はディセンダーのことが書かれている。内容は世界が危機に瀕したとき、世界樹が遣わす、無垢なる、純粋なる者。

 光り輝く存在であり、記憶はなく、救い終えた後、世界樹に戻るらしい。

 

「私・・・みんなと別れなきゃいけないの・・・」

「いや、俺いるから無理じゃねぇ? ゲーテって言う害悪だし」

 

 不安になるセレナに、あっけらかんと言うリュウ。それにキールは頭を痛め、ジュジィスはうふふと微笑む。

 なんとなく、自分がいれば問題ないと耳打ちするジュジィスの言葉に、セレナは少し嬉しそうになる。

 

「ん? 周りの武器みたいなのは・・・『レイディアント』?」

「ディセンダーのための武器のようね。ソウルアルケミーで創り出された、ディセンダー専用の武具みたい。どこにあるのかしら?」

「ある一族が守り人として、守ってるらしいが、場所が無いな」

「そうね、その情報もないわ」

 

 

 

 創世を伝えし者と言う存在、それらしいものもいない中、ある場所見つける。

 そこにはヴェラトローパとは違う、異質な機械があった。

 

「これは・・・」

「ヴェラトローパと違うな」

『・・・君は・・・』

 

 その時全員が驚き、リュウを見て話しかける。

 全員が警戒するが、それでも、その存在が話しかけた。

 

『君は・・・ゲーテ、いや、君は人間か? だが気配からして』

「どうも人間になったゲーテかもしれない存在だ」

『そうか・・・不思議なことだ。だが君からは邪悪な気配も何もないが、どういうことだ?』

「あんたは」

『我々はニアタ・モナド。ディセンダーのために、肉体を捨て、ディセンダーの介添人になった、機器に宿った精神集合体』

 

 ニアタの話では、かつて『パスカ』と言う世界があり、そのディセンダーのために、肉体を捨て、パスカの子供である世界を見守ろうと誓いを立てた者達。

 世界を渡り歩き、この世界、ルミナシアもまた創世を見届けた。

 それはパスカの子かどうか知り、それでも危機が訪れた際、ディセンダーに力を貸すため、端末をこうして残し、本体は旅だったらしい。

 

「世界樹の子は、その世界の情報を持ってるから、長く見守ればそうか分かるのか」

『ああ、君のことを知っている。ゲーテ』

「俺はリュウ・ケンザキだ」

『っと、すまない。リュウ』

「・・・精霊と違って、リュウには好意的だな」

『精霊なら仕方ないが、我々はゲーテがどのような存在か知っている』

「なんだと!?」

 

 ゲーテは確かに、世界樹の中で生まれ、消える存在だが、実際は違う。

 負だけが悪い訳ではない。ヒトは負を乗り越えられる真実。

 

『我々は知った、ゲーテ。君達は世界の害悪ではない。我々の本体がある世界のディセンダーがそれを証明した』

「本当ニアタ!?」

『本当だよ、ルミナシアのディセンダー』

「なら、リュウは居て良いんだよね」

『ああ』

 

 セレナはそれを嬉しそうに受け止め、その様子に微笑むニアタ。

 

『君もゲーテとして色々あるようだが、きっと前を向ける』

「・・・」

 

 なにも言わず、静かに見つめる。

 

「ではニアタ、あんたは知ってると思うが、いまこの世界が生まれる前に取り込んだ、もう一つの世界の意志が、なにか行動してるんだ。彼奴、ラザリスはなにをしようとしてる? 俺を呼び込んだり、色々してるんだ」

『なるほど・・・『生命の場』を持たない情報だけの存在が、この世界の生命力を得て、姿を持ったのだな』

 

 世界の樹の種は、生命の場と情報があって、初めて芽吹くもの。

 輝く種と、生命の場、そして情報。ラザリスと言う種は、生命の場が無かったが、この世界の生命体と接触し続けて、それを補ったらしい。

 

「情報、ドクメントだけのラザリスが、この世界の生き物と関わり、活動する肉体を得た・・・待て、ならなんで俺を呼び込めた?」

『? そもそも、呼び込めたと言うのは』

「俺はこのルミナシアの民じゃない、別の世界に生まれたゲーテ人間らしい」

『!!? これは』

「!?」

 

 その時、一閃の光が放たれ、ニアタを貫いた。

 

「ニアタ!?」

「セレナはニアタを、誰だって、言わなくても分かるか・・・」

 

 三人は構え、現れたそれを見る。

 それは、

 

「全く・・・時空が揺れたと思ったら、こんなものがあったなんて」

「ラザリス」

「ああリュウ・・・また会えたね」

 

 嬉しそうに微笑むラザリス。静かに戦意は解かないものの、リュウを見る。

 

「僕の正体が分かったようだね。そう、僕は生まれることができなかった世界の一部・・・本来ならそのまま朽ち果てるはずのものを、ルミナシアが取り込んで封印した。どうしてだい? ディセンダー」

「セレナに聞いても分かる分けないだろ? ディセンダーは記憶なんてもんないんだからな」

「そう、ならいいよ」

 

 静かに空を、大地を見るラザリス。そして静かに微笑む。

 

「ねえリュウ、君にとって、世界はどう映る?」

「どういうことだ」

「君も分かるはずだ、この世界には呆れたよ。できあがったのは、自滅の道を進む世界だなんて・・・だから」

 

 その時、耳障り、違う、逆だ。

 

 耳障りな雑音が消えていく。

 

「な、なんだ!?」

 

 大地から何かが生える。それにキール達が驚く。それは、

 

「鉱物・・・なにをした!?」

「世界樹が生命の場を譲ってくれそうにないからね。じわじわともらうことにしたんだよリュウ」

「なっ」

「この世界は僕がもらう、あれは『ジルディア』の一部だよリュウ」

「おま」

「君も少しはすっきりしたんじゃないのかい!?」

「!」

 

 それに黙り込む、それに微笑むが、すぐにセレナを睨む。

 

「いつか必ず迎えに、ううん、君は必ずこっちに来る・・・それまではディセンダーに預けておくよ・・・リュウ」

 

 そして静かに、

 

「君は、ジルディアのディセンダーとして、僕がこの世界に呼んだ。僕と共に、この世界を壊すためにね・・・」

 

 そう言い残し、消えるラザリス。

 何か凄いことを言っていたが気にせず、ニアタに駆け寄る。

 

「おいニアタ」

『あれは・・・この世界の理を塗り替える、媒体だろう・・・まさか、このようなことが・・・』

「ニアタ、ラザリス、ジルディアは星晶で封印されていた。どうにかそれを止める術は無いか。いま星晶は取り尽くされてほとんど無い。代理品が必要だ」

『分かっ・・・た・・・必要な、ことは・・・このプレートに・・・力、になれば・・・いいの・・・だが』

 

 そして反応が無くなり、いまは帰路につく。

 

 

 

「はあ、キバの所為で、世界は困惑状態だわ。これはゆゆしき事態ね」

「キバか・・・まあそう言えるな、形も、意味合いも」

 

 キバから世界の理を換え、別の世界に換える。まるで食べていくように。

 

「最後には生命の場を食って、ルミナシアからジルディアってのが、ラザリスの考えだろうな」

「でしょうね」

 

 仲間のみんな全員を集め、静かに会議が始まる。

 

「ラザリスの目的は世界そのものだ、もう星晶を巡って戦争している時じゃない。このままじゃ世界そのものが危険なんだ」

「えっと・・・もしこのままならだとどうなるの?」

「ラザリスの世界の住人になるか、適応出来ずに死ぬかのどっちか。だがラザリスの世界は、明らかに生物としての活動ができない世界。ルミナシアの民は最終的には死ぬしか無いだろうな」

 

 リュウの言葉にキールは頷く。セレシウスもまた、静かに口を開く。

 

「生命の場は世界樹の中にあり、本来ならゲーテを閉じこめ消滅させる場所。全てのマナが生まれる源よ」

「・・・」

 

 その時、全身、魂が何か騒ぐ。

 

(本能的な拒否か? ったく面倒だ)

「ともかく、彼から聞いた情報だけど」

 

 キバは封印されている空間から、ジルディアの情報を世界に流すパイプらしい。ジルディアの情報は、星晶により、別の空間に封印されているが、キバによりこの世界に漏れ出ているらしい。

 元に戻すには星晶が必要だが、それは無い以上、代理品で作る、封印次元なるものを作る必要があるらしい。

 

「三つの素材のドクメントを、ソウルアルケミーで、構築できるみたいなんだけど・・・」

 

 一つは舐めると塩辛い、空色の石。

 

 二つは羽があって、飛び回る実。釣鐘に羽がついたもの。

 

 三つは全身から汗を出すパン、ロールパンのようなものらしい。

 

「ちょっとあんたふざけてるの?」

「ふざけてないわ、彼だってこの世界の名称は知らないから、印象しか分からないわ」

「・・・」

 

 それに考え込むリュウがいるのに、セレナは気づく。

 

「リュウ?」

「ああ、一つは『塩水晶』だろう」

「同感ね、けど残りは」

「・・・絶望的な情報でいいなら、あるんだが」

「・・・はぁ?」

 

 リタは詰めより、その襟を掴む。

 

「ちょ、なんで異世界人のあんたが知ってるのよ!?」

「んなこと言われても、むしろ外れて欲しいわ」

「それってどういうことよっ!!」

「リタ止めなさい、リュウが喋れないし・・・嫉妬されてるわよ」

「はぁ? 嫉妬ってなによ」

「ありゃダメだこりゃ」

 

 そんなことを呟きつつ、リタに揺さぶられるリュウ。

 

「実は、絶滅種の中に、それがあった」

「絶滅種・・・」

「マジか・・・」

 

 頭を痛める一同。リタも困惑して、苦い顔になる。

 

「俺がなんでそんなこと知ってるかって言うが・・・カノンノのスケッチ」

「えっ」

「どっちも有ったんだ、スケッチの中にな」

「私の、絵の中に・・・」

 

 それに驚くものの、アンジュはうっふふふと楽しそうに微笑み、ジェイドもにやにやしている。

 

『(つまり風景探しの際に知ったと)』

 

 という顔、もとい声に苛々する。

 

「ともかく、俺からは以上だ。ともかく先に塩水晶取りに出向くぞ」

「えっ、りゅ、リュウが行くの!? 待って、色々準備とか~」

 

 そんな話をしていると、

 

「あっ、セレナはお休み。貴方の歌声聞きたい孤児院の子供がいるから」

「うっ」

「お嬢さま、お嬢さまにもご氏名がおりますから、塩水晶採取は諦めてください」

「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「ともかく誰か来い」

 

 こうしてリュウ、しいな、カイル、コハクと言う珍しい組み合わせで出向く。

 場所は何故かリュウが知っている。

 

「いや、少し前にな」

「それじゃ、行こうか」

「おーーー」

「んじゃ、案内よろしく」

 

 

 

 それからしばらくして、とある男が遠く叫ぶ。

 静かに、彼らに近づいていく・・・




みんな大好きなあの人が登場します。

それではお読みいただきありがとうございます。


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第12章・凶悪と凶人

どっちがどっちだ。


 洞窟の中を進む一行。リュウ、コハク、カイル、しいなの面々。珍しい組み合わせだなと思いながら、先を歩くリュウ。

 リュウが星晶の変わりを勤めるための三品の一つを知っているのは、訳がある。

 

「実はブラウニー坑道で少しやることがあったとき、情報屋と行動してたんだ。そいつから聞いた話なんだよ」

「情報屋? 忍者としては商売敵だね。風の骨じゃないだろうね?」

「ノーコメ」

「風の骨って?」

「あー忍びの世界でもかなり有名でね。情報のやりとりはまあ信頼第一なんだけど、信頼を失うとかなり危険なんだよ」

「それでも悪党だのなんだのだし、暗殺もしない。グレーな人達だ」

「グレーなんだ」

 

 コハクが呆れるが、その情報屋はジェイドも使ってる以上、自分だけ非難されたくない。第一、裏で色々引っかかりそうなことを平気でしていること以外、ギルドと変わらない。場所が悪い。

 

(本部が帝国で、しかも帝国が他国に漏洩されちゃ困る情報ばかり扱うから、帝国からは犯罪組織なんだけどね)

 

 ここの時も帝国の動き知りたいから、腕のいい人として呼ばれたのだ。その時、サービスで教えてくれた。

 あの時は無視したが、その時に一部持っていけば良かったと思う。

 

「コハク、ハロルドからドクメント回収するアイテムは」

「あるよ♪」

「ともかく、そんな強い魔物はいねぇから、問題・・・」

 

 と、奥地まで歩いてきて、妙なことに気づく。

 

「? どうしたんだ?」

「・・・聞こえない」

「?」

 

 全員が首を傾げるが、そう、聞こえない。

 

「魔物の負の声が一切聞こえない!? この先に生き物はいないだと!?」

 

 それに異変に気づく。ここは魔物が住み着いた場所。入り口付近にだっていたのに、奧にいないのはおかしな話だ。

 

「気を付けていくぞ、声が聞こえないからって、油断できない」

「そうなの?」

「当たり前過ぎて負が聞こえない奴もいる、まあそんな奴はそういないがな」

「・・・当たり前すぎて」

 

 カイルが言葉を繰り返すが、それに気づかず先に進む。

 

 

 

 壁の一部、空色の鉱物が生えている場所に来る頃、魔物の死体の山がある。

 全員が息をのみ、男はその上に座る。

 

「んぅん? 今度はヒトか・・・」

「バルバトスっ!!」

 

 その言葉に全員が驚愕する。

 

「カイル達が言っていた奴」

 

 カイル達曰く、強ければ誰でも戦い挑み、殺す危険な男。その男がカイルの父親に目を付けたため、カイル達は戦っていたらしい。

 だが事故の所為で、どうなった不明だったが、

 

「お前もこの世界に来てたのか」

「ほぉおう・・・やはり、この世界は、異世界か・・・ふっふふ、ふっははははははははっ」

 

 男は笑いながら、次にリュウを見る。

 

「いいぞその目、気に入ったっ。貴様を殺す」

「!? 仲間は殺させないっ」

「カイル待てッ」

 

 カイルが陣形など無視して飛び出すが、男、バルバトスは鼻で笑う。

 

「邪魔だ小僧ッ」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 剣と斧がぶつかり合う中、しいなが札を投げたり、コハクは魔術で援護する。

 その一つ一つが当たるのだが、バルバトスは気にも止めない。

 

「うそ!?」

「全然効いてないのかい!?」

「ふっははははは、このてい・・・!?」

 

 その時、自分がこの中で一番楽しめると認識した男がいない。

 その瞬間、腹が貫かれた。音もなく、静かに背中をやられた。

 

「『無音』」

「ぐっは」

 

 カイル達の目まぐるしい攻撃の中、彼だけは静かに気配を消して、そして隙を衝いた。荒れ狂う闘気なんてものが静かすぎるほど無い一撃に驚く。

 

「ぐっははははは、面白い、小僧ッ」

「・・・ゲーテ」

 

 剣を引き抜き、振り下ろされる斧を回避すると共に、闇を纏う。

 

(この男、剣が刺さったままだろうと、振り返って斬りかかりやがったな・・・)

 

 冷酷に見据え、そして静かに闇を纏う。

 カイルも距離を取る中、静かに、

 

「引け、戦うとしても、チャンスを待てよ」

「!! 分かったっ」

 

 そして凶悪と凶人がぶつかり合う。

 

「ぬっおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「・・・・・・・・・」

 

 僅かな動き、闇の闘気で斧の一撃を防いでいるが、バルバトスの予測不能な行動に舌打ちしている。

 

(こいつ、腹貫通してるってのに、無茶苦茶動きやがる・・・チャンス作れるか? そんなん考えてたらこっちが負ける。倒す気で殺るか・・・)

 

 あまりの攻防戦に、三人は何も出来ず、それでも、

 

(待つんだ俺・・・リュウを信じるし、危なくなったら助けるッ)

 

 三人もまたけして戦意を消さない様子に、バルバトスの顔が歪む。

 

「面白い・・・面白いッ!!」

 

 その時、片腕を大きく振り上げた。

 

「もらったぞ小僧ッ!!『灼熱の』」

「!!?」

 

 その時、リュウの背後には仲間達が、

 

「チッ」

「『バァァァァァァァァァァァァァンストッライク』」

 

 爆音、バーンストライク。本来の威力を遙かに越えた一撃が、辺り一面を包み込む。

 だが、バルバトスは笑う。

 

「防いだかッ」

 

 その瞬間、カイルが前に出る。

 

「『うおぉぉぉぉぉぉぉ受け継がれし、英雄の剣ッ。斬空、天翔剣ッ』」

 

 剣の一撃を受けても尚、バルバトスは笑うが、

 

「くっ」

 

 初めて顔を歪めた瞬間、煙の中から、

 

「『アイスニードル』」

 

 それが何者かに放たれた。

 

「ぬっ」

 

 それにより、一手後れた。

 

『アァァァァァァァァァァァァァァァ』

 

 闇が獣のように口開き、剣が迫る。

 

『剣ノ世界』

 

 片腕で全ての攻撃を防ぐが、骨まで到達する一撃に、顔を歪め、一気に距離を取る。

 

「なっ、剣ノ世界食らってそれくらいかよ!?」

 

 一気に離れ、がけの上まで一跳びで離れる。

 悔しそうに、それでも愉快そうにリュウを見た。

 

「覚えたぞ小僧、いや、黒い剣士ッ!! 俺の渇きを癒す男ッ。また殺し合おう」

 

 血を流しながらだというのに、高笑いしながら走り去る。

 コハクとしいなは急いでカイルとリュウに近づく。

 

「二人とも無事!?」

「ああ、闇で火炎弾は全部防いだ・・・つーか、よく出たカイル。さすがにあのままなら一撃まずいの食らってた」

「へっへへ・・・リュウがチャンス作れないなら、俺が作ろうって思っただけだよ」

 

 力無く笑う二人に、女子も微笑むが、

 

「コハクっ」

「って、やっぱり」

 

 先ほどのアイスニードルを煙立つ中で的確に放った男が、コハクに抱きつき、心配そうに叫ぼうとするが、

 

「ハッ」

 

 その前にコハクのかかと落としが決まる。

 

「もう恥ずかしい・・・お兄ちゃん、どうしてここにいるの?」

「コハクの兄貴か?」

「アァ? テメェか、俺のコハクをさらった誘拐犯は!!?」

 

 そう叫び、リュウの襟を掴むが、その腕を掴む者がいた。

 

「お・に・い・ちゃ・ん・・・ちょっと奧に来て」

 

 

 

「で、コハクの兄貴、ヒスイだ。それと塩水晶のドクメントだ」

「えっと、とりあえず医務室に連れて行ってくる?」

 

 未だ気絶しているヒスイは、とりあえずキュッポ達が運び込む。

 コハクは疲れた顔でため息をつき、リュウ達は苦笑する。

 

「とりあえずバルバトスだが、剣ノ世界じゃ、重傷程度しか負わせなかった」

「むしろ彼奴にそこまでできたことに驚くんだが・・・」

 

 ジューダスの感想に、カイルは少し悔しそうに、

 

「けどまずいよ、リュウのこと目の敵にしたんだ。もしかしたら、彼奴は今度からリュウのことを狙う」

「それは心配ね。ともかく、いまはみんな休んで。話はその後」

「ん」

 

 

 

 甲板でキバを長めながら、のんびりしているが・・・

 

「・・・ちっ」

 

 腕のしびれがいまだに取れない。バーンストライクを受け止めた両腕が、いまだに激痛を訴えている。骨の一部は下手したら折れているかも知れない。

 

「いや、あの威力からして、この程度で済んだのはよかった方だ・・・ははっ、化け物にどんどん近づいてるな」

 

 いまさら構わない。声が聞こえる頃から、化け物扱いなんだから、気にも止めない。

 そんなことを考えていると、

 

「ジュジィス? なんかようか?」

「ええ、少し貴方とお話したくってね♪」

 

 そう微笑みながら、静かに何かの欠片、ニアタのパーツを取り出す。

 

「それは」

「彼のパーツなんだけど、読んだみたら、ニアタの故郷とディセンダーが見えたわ」

「ニアタの?」

「世界の名前はパスカ、彼にとって、娘や妹のような存在のディセンダー・・・それがカノンノとうり二つなの」

「・・・?」

 

 その言葉に首を傾げる。それは、

 

「待て、確かニアタは、この世界は自分の世界、パスカの子じゃないから、長居せずに移動したって話だろ? それとも」

「ちなみに名前もカノンノよ」

「・・・」

 

 それに頭に手を置く。静かに、

 

「ニアタの話を聞く限り、世界樹の世界創造は、子供を産む生物のような関係。受け継がれるように世界から世界にバトンが渡されている」

「ええ、それには同意見だわ。彼の話じゃ、この世界にパスカの因子は無いって話だけど・・・どう思う?」

「・・・カノンノ・パスカは、すでに別の因子の子供だった。それと枝分かれしたのがカノンノ・・・」

「そうね・・・」

 

 二人で考え込む間に、カノンノが扉を開けた。

 

「ごめん二人とも、スケッチブック見てない?」

 

 そう言ったとき、さっとリュウの前に立つジュジィス。

 

「それならロックスが持っていったわよ」

 

 そう言ったときだ。欠片が光り輝き、空へと飛んでいった。

 三人は驚きながらも、その場は収まり、去り際に、

 

「あの子達には内緒にしてあげるから、コハクかヒスイ辺りに治癒してもらいなさい。でないとバレるわよ」

 

 そう耳元で言われ、あーあとめんどくさそうにする。

 

 

 

「んで、オッサンに頼む普通? オッサンに」

「別にいいだろ」

「そう言うの、可愛い女の子っ♪とかに頼もうよ若人♪ おたくくらいなら、青春に花咲かせた方が楽しいぜ♪」

「あいにく、学生時代。陰湿ないじめの声や、表と裏側に、相手を見下す12から15くらいの女子見てるから、んな感情ねぇよ」

「ありゃりゃ、そう・・・」

 

 おちゃらけているが、レイヴンは内心引いていた。

 

(そりゃ、性格歪むってもんだね~)

 

 そんなレイヴンを無視しながら歩くと、食堂でロックスが居たのを見る。

 

「ロックス、カノンノがスケッチブック探してたぜ。そろそろ来ると思う」

「あっ、リュウさん。はい、それなんですが・・・」

「・・・浮かない顔だな」

 

 その時、テーブルの絵を見る。優しそうな夫妻の絵であり、それに考え込む。

 

「・・・カノンノの親か」

「・・・分かりますか?」

「お前の顔と・・・母親の顔かな、父親も似てる」

「お二方は医術関係で、国の命で戦場に、軍医として出向きました」

 

 その顔は暗く、静かに黙り込む。

 その後彼らは殉職し、ロックスが親代わりにカノンノを育てたらしい。

 だが、その顔は腫れない。

 

「くだらない負を聞かせるな」

「・・・すいません」

「・・・カノンノはお前が元軍人で、逃げ出したこと知っても気にしない。逃げたって仕方ないだろ」

「そんな者が、旦那様や奥様の大切なお嬢さまの育て親で良いのか、私は考えるのです・・・」

「それでもいいさ、俺なんか育て親すらいない化け物だぜ?」

「そんなこと」

「言われた、影で、孤児院の大人に」

「!」

 

 その言葉に黙り込むロックス。それにリュウはくだらないと連呼する。

 

「お前が気にするなら、持てないくらい彼奴に幸せを持たせればいいだけだ。それだけだ・・・お前は俺と違って、最後まで責任を背負ってるんだ。気にするなアホ」

「えっ、リュウ様?」

「じゃな」

 

 そう言って出ていくリュウ。とっとと部屋に戻り、剣を乱暴に置き、ベットに倒れ、静かにする。

 

「・・・らしくねぇ・・・」

 

 過去の出来事は        (あの子の事以外)どうでもいい。

 

 違う、もう                  (この子の泣き声、父親の懺悔なんて)気にしていない。

 

 やめろ、それは         (どれくらいたっても)忘れ      (られなかっ)た。

 

「くそがッ」

 

 勝手に闇が深まる。

 もうまた嫌になる。

 自分は、

 

「化け物でもなんだっていい・・・もう、なんだっていい・・・」

 

 静かに闇が深まる。

 

 ある者は怪訝な顔をし、ある者は嬉しそうに微笑む。

 

「そうだよリュウ・・・君は、君こそ僕の、ジルディアのディセンダーだよ」

 

 どこかでそう呟き、世界と闇の浸食が進み始める。




彼の苦難、闇はまだ深まります。

オリジナルはどこに差し込めればいいんだろう・・・

それではお読みいただきありがとうございます。


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第13章・キバの影響

そろそろか、オリジナルのぶち込む準備は・・・


 塩水晶確保してしばらく、他の物について話し合いが行われる。

 

「まず残念なお知らせよ、リュウが言った通り、用意するべき品物は全て絶滅種である可能性が有力であると言うことが分かったわ」

 

 リタの言葉に、全てにこの世から無くなっている物と知り、ざわめくがハロルドが静粛にと言い、静かに可能性を話す。

 

「まず、羽があって飛び回るってものは、完全に絶滅したツリガネトンボ草と言うものだけど、これにはまだ望みがあるわ。ルーティを始めとした人達にあるお願いがあるの」

「お願い?」

 

 まず班分けで、遺跡周りが得意であり、かつ鑑定眼がある人達を集めて、

 

「必要なのはツリガネトンボ草のドクメントだ、なら、ちゃんとした状態じゃなくても問題ない。この草木があった時代なら、化石として発掘される。遺跡類を始め、そう言った学術的な価値もあるから、化石発掘で見つけだす」

「なるほどね、分かったわ」

「金品財宝がいいな~わたしは~」

「ノーマ、いまは遊んでいる暇は無いぞ」

「ブーブー、セネセネは冗談が分からない」

 

 それを無視しながら、ウィルが次にと伝え、こちらはもはや人力に頼るしかないと説明する。

 

「次のロールパンのようなものは、ウズマキフスベと言う物だ。これの絶滅は近年で発表されているため、まだ望みがある。これは各自ギルド並び、情報網を持って調べている」

「はいっ」

「はいエミル」

 

 手を挙げたエミルは、おどおどしながらも、疑問を尋ねた。

 

「いま他のギルドの人に協力はできるの? いま他の国のギルドは、制限されてるんじゃないんですか?」

「あーそれならキバのおかげで、休戦体制に入った。どの国もな」

 

 そう言いながら、王族出身者と関係者が頷き、ナタリアは悲しそうに呟く。

 

「キバの出現を目の当たりにして、いま争っている場合ではない、みな思うようになったようですが・・・」

「悲しいです、このような事態にならなければ、ヒトは協力できないのですね・・・」

「ナタリア・・・」

「エステル・・・」

 

 悲しむ姫君に、

 

「そういうもんだ」

 

 命の負を見てきた男は、なにも感じなていない。いまもメンバー構成やらにアンジュに提出する人員を見直している。

 

「しかも、俺の勘じゃ、それもいまだけだ」

「!?」

 

 王族並び、多くの人達が驚く。リュウから書類を受け取るアンジュも驚きながら、

 

「それはホント?」

「『怖いなにあれ』『これから先どうなるんだ?』『あ、あの大地に触れたらどうなる?』『食い物が無い、土地を捨てるしかないのか?』って言う声が大なり小なり聞こえている。近いうちに土地の奪い合いが始まる、押さえ込めるのはいまだけだ」

 

 それにみんなが青ざめる。ナタリアなど、国や民を思う者達は、悲しそうな顔をする。しかし気にしない。

 

「諦めろ、命なんてそんなんだ。むしろその時間の間にどうにかしないといけない」

 

 そう言いながら、現実的ですねとジェイドは言う中で、ジューダス、ロイド、セレナと共に、装備を調えて、

 

「そんじゃ、キバ探索班で、キバの側を調査してくる」

「ええ・・・リュウ」

 

 アンジュは静かに、

 

「貴方の忠告、心に留めて置くわ。焦らず、素早く動きます」

 

 真意にリュウの言葉を受け止める。彼が言う言葉は、心ない言葉としか聞こえないが、最後に彼は、その間にどうにかすると言った。

 

 それを受け止めたリーダーは、静かに聖職者兼リーダーとしてそう言った。

 

 彼はそれでもなにも言わず、その場からさっさと去る。

 

「彼奴、相変わらず面倒ね」

「ここの連中全員だろ?」

「それもそうね♪」

 

 苦笑する中、全員が動く。

 

 

 

 火山地帯、人気のない場所で、モンスターが凶暴化していて、それを蹴散らしながら、静かにモンスター達を見る。

 

「どうしたの?」

 

 セレナが心配そうに話しかけてきて、それに、

 

「モンスターからも負が感じだした」

「なに?」

 

 ジューダスは怪訝な顔になり、ロイドも驚く。

 

「モンスターからの負ってなんだ?」

「恐怖、世界が変えられている恐怖、自分達の命を脅かす恐怖だな」

「魔物から・・・」

 

 セレナは倒したモンスターを静かに撫でる。

 

「モンスターもこの世界で生きる命と言うことか・・・」

「こいつらも生きて、俺達も生きてるんだな」

「そして殺し、殺し合うしかない」

 

 その言葉に、静かにセレナが近づいて、裾を掴む。

 

「リュウ、教えて、この子達の負、世界の負」

「・・・ディセンダーだからか?」

 

 それに首を振り、

 

「私は私だよ、そう、あなたが教えてくれたけど、私はこの力で、命を救いたい。それが私、セレナとしての、願いだから、知りたい」

 

 その言葉に、だからなんだと思う。

 

 そんなことを知ったことで、なにも変わらない。ただ苦しいだけだ。

 

「ただ苦しいだけだ」

 

 そうだ、そうなんだ。

 

「辛くて、悲しくて、苦しくて」

 

 ずっとそうだったのに、

 

「いつからか何も感じなくなる」

 

 いつから分からなくなったんだろう?

 

「そんなものを知らなくていい」

 

 そう静かに言う中、それでも、

 

「それでも知りたい、私は、命を救いたい・・・貴方も、含めてだよ、リュウ」

 

 セレナはそう言いながら、静かに黙り込む。そのまま静かに歩きながら、モンスターが思っている、世界の魔物達、草木が放つ負を口紡ぐ。

 

 それを受け止めるセレナ。側にいる二人も、ルミナシアの住人であるロイドは受け止める。

 

 

 

 キバの世界が広がる風景、水晶か何かのようだが、命を感じない。声が無い空間があった。

 

「・・・リュウはラザリスの世界をどう思う」

「別に何も感じない」

 

 そう言うが、ロイドは静かに考え込む。

 

「俺は少し、綺麗だと思う。だけど」

「ああ、だがこれを放っておくことはできない」

「俺ずっと里にいたから、世界のことなんて知らなかったけど、こんなに学ぶことがあるんだな」

「世界なんて学ぶことが多いってロイド、異世界飛んで見ろ。とんでもねぇからな」

「確かにな、あの、すまほと言う機械なんてものもそうだな」

 

 これからこれからと言いながら、ロイドはドクメントを取りながら、静かに頷く。

 

「できればもっと学ぶよ」

「できればなのか?」

「・・・いいや、俺、もっと勉強するよ。苦手だけどなっ」

 

 苦笑するロイドに、そうかと言うと、

 

「? セレナ」

 

 その時、セレナの身体が光り輝き、辺りの景色が変わる。キバ以外の全てが元に戻り、それにセレナが倒れる。

 

「セレナっ」

「力を使いすぎたのか? すぐに戻るぞ」

「ああっ、ロイド、ジューダス頼むぞ。俺が背負う」

「分かったッ」

 

 セレナを背負い、とっとと走り抜ける。だから呆然となり、聞こう無かった声に気づかなかった。

 

「・・・あの方は・・・」

 

 そう呟く、一人の騎士がいたことに・・・

 

 

 

 バンエルディア号で、セレナを寝かせながら、話を纏めているが、

 

「ロイド達の先生と友達?」

「おう、ジーニアスとリフィル先生って言うんだ。先生はここの先生になるらしいぜ」

「そう言えば、学業受けてそうな奴多いからなこの船」

 

 そう思いながら、マオと言う、ユージーンが面倒を見る子も増えて、ソフィ子供会が増量する。

 そんな話をしながら、リタの方に来ると、

 

「ん、あんたもカノンノの絵を見に来たの?」

「あん? も?」

 

 その話に、ジュディスやリタと共にカノンノを含めて話し合う。

 どうもカノンノは絵以外にも、知らない文字も知っていると、それを見ながら、それに驚いていた。

 

「スペイン語か」

「分かるの!?」

「ああ、こっちは・・・もろ日本語? いや中国語かな? あとは知らないが」

 

 見知らぬ言葉を知り、見知らぬ景色を知る。カノンノはそれを改めて分かりながら、

 

「てい」

「いた」

 

 軽く叩く、

 

「気にするなとは言わないが、別に困ることじゃないだろ? 知らない、世界の言葉や景色がお前の中にあることが」

「リュウ・・・」

 

 不安そうな顔のカノンノにそう言うが。リタは呆れていた。

 

「だけどあんたねぇ・・・」

 

 何も知らないことを知っている。それがどんなことか分からない。ジュディスは絵やメモを見ながら、静かに、

 

「ニアタ・・・彼なら何か分かるかも知れないわね」

「えっ、けど彼はラザリスに」

「いや、あれは末端機関だ。本体は別世界にあるんだ、もしかすればまた交流できるかも知れない」

 

 その言葉に全員が驚き、リュウはカノンノを見る。

 

「お願い・・・私、ニアタに会いたい」

「・・・はあ、リタ、ドクメント解析はどーせキバはジルディアって世界へかえるパイプだろうから、報告はいい」

「報告はいいってあんた」

「セレナには土産にニアタ持ってくるって言ってくれ」

「あ、あんたねぇ!?」

 

 そしてカノンノの手を掴み、そのまま船の操縦室へ連れて行く。

 

「あ、彼奴何を」

「あらあら。ほんっと、素直じゃないわね」

 

 そう言いながら、彼は占拠して、勝手にニアタの元に船を動かし、とっとと船から飛び降りる。

 

「わーーーーーー僕のバンエルディア号がーーーーー」

「リュュウゥゥゥゥゥゥゥゥ」

「そこの二人っ、待ちなさい!!」

「わ、私もっ、私も行く!!」

「セレナ、貴方は待機ですッ。許しませんよ!!!」

 

 そんな後ろから聞こえる声を聞こえながら、その手を握りしめながら、ゲーテへと変貌する。

 

「・・・」

 

 だけど、カノンノが見た彼は、怖くも何もなく、ただ、

 

「ありがとう・・・リュウ」

『・・・ふん』

 

 とても嬉しかった・・・




マルタとルビア「愛の逃避行っ♪」
リアラ「羨ましい・・・」
クロエとシャーリィ「・・・」頬を赤くして想像中
セレナ「わ、私も・・・私も」泣きそう
アニー「ダメです♪」
アンジュ「あらあら♪」お仕置き用の依頼を整理中
この事態が分かる男性達(うわぁぁ・・・)
チャット「僕のバンエルディア号がーーーーー」

リュウ(背後から様々な負が)
カノンノ「・・・」顔が真っ赤

お読みいただきありがとうございます。


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第14章・彼の抱える闇

前回の話では………

一つ、ジルディアのキバにより、世界の戦争は停戦。だがゲーテであるリュウの言葉では一時的と知り、残る事態改善するための品を探し出すアドリビトム。

二つ、キバ調査の際、キバにより変化した地域空間を元に戻し、ディセンダーセレナ倒れてしまう。

三つ、カノンノが持つ、謎の知識に苦しむ。

四つ、リュウとカノンノが愛の逃避行している。

最後の違うな。

ここから少し打ち方を変えさせてもらいます。―の打ち方などを覚え、少しずつ読みやすく、分かりやすくを目指していきます。

それでは、どうぞ。


 天空の宮殿、ヴェラトローパで、ゲーテとしての能力を使用して進む二人。

 

 リュウはその力で、途中で道が無くても、カノンノを抱き上げてから、飛翔するかのように跳ぶため、難なく、ニアタのいる場所に向かう。

 

『? カノンノ、頬が赤いが、平気か?』

「えっ、う、うんっ。大丈夫だよっ」

 

 そんなやりとりの中で、ニアタがいた場所へたどり着く。

 

「これが………」

『まだ直っていないか………」

 

 元に戻りながら、様子を見るが、いやと呟く。

 

「傷が直ってる?」

 

 そう呟くと共に、光り輝き、形が元に戻る。

 

『そなたは………カノンノ、カノンノなのか? まさかまたそなたに会えるとは………』

「えっ………どういう、こと?」

 

 その時、二人に対して説明する。

 

 ニアタはパスカと言う世界のディセンダーのために、肉体を捨て、精神を機械に移した者達のことであり、このニアタは本体から切り離された機関の一つ。壊されても直せばいいと思っていたが、まさか自己再生できるかは、半信半疑だった。

 

 そしてカノンノ、彼女の容姿は、ニアタのディセンダーと全く同じらしい。姿も、名前もだ。

 

「だがニアタ達の判断じゃ、この世界はパスカの子じゃないから、半身のように通信機? を置いて、立ち去ったらしい。ニアタ、少しカノンノの頼みを聞いてくれ」

『頼み?』

「あっ、はい………これを」

 

 そして風景画と、文字を見ると、ニアタの旅の中で見たことある、別世界の文字や風景だと言うことを聞く。

 

「つまり、カノンノの中に、別世界の世界樹の子の情報が受け継がれている?」

『現時点ではそうとしか考えられない』

「私の中に………」

 

 それを聞きながら、静かに、

 

「なら俺の世界は? 俺の世界じゃ、世界樹なんてもん無いぞ」

『それは分からない、だが分かることは一つ。カノンノと言う因子は、私達の世界、パスカが始まりではないと言うことだ』

 

 つまり枝分かれした情報の中で、カノンノと言う情報が、パスカではディセンダーとして芽吹き、こちらではカノンノ・グラスバレーとして芽吹いた。

 

 そう話していると、

 

「み、み、みなさーーんーーーー」

 

「ロックス!?」

 

 大慌てでロックスがナイフ片手にやってきた。なんだなんだと二人が見ると、

 

「バンエルディア号が高度を保てず、いま降下し始めていますっ」

「あっ、そう」

 

 ゲーテ化すればこの高さから落ちても問題ないと、リュウは思いながら、何言ってるんですかと怒られながら、カノンノを持ち上げてでも戻すと言うロックス。

 

「そっちの方が無茶だろ」

『………この世界にバンエルディア号があるのか?』

「? まさか、別の世界にも」

『どうやら、ますます眠ってはいられないようだ。案内してもらっても?』

「頼む」

 

 そう言って、全員連れて、爆走するゲーテ。

 その様子を静かに見つめながら、バンエルティア号へ戻る。

 

 

 

 一度、リュウの所為で壊れたと騒がれたバンエルディア号だが、実際は調整、計算ミスで、たいしたことではなかった。

 

 だが、バンエルディア号は半永久機関で動く、未知の動力機関で動く船であると言う、とんでもない事実が分かった。

 

 エネルギー問題で大変な世界。まさに夢の技術だ。それにチャットは半泣きで、

 

「仕方なかったんですっ、ひいおじいさんの約束で、この船の技術は守らないといけないんですっ!!」

「ですが、この技術あれば、この世界の根本的な問題が解決する糸口………になりますか?」

 

 ジェイドは本来なら、糸口になる。そう断言したいが、何故か、リュウを見た。彼はこういう、人がどうなるかがよく分かる。

 

「………時期によるな、チャットのひいじいさんは正しい。半永久機関なんて、研究が進めば、兵器かして、世界を半永久に壊す兵器が量産される」

「はあ、そう言われると何も言えないですね………」

 

 軍人であるジェイドは肩をすくめ、彼の言葉を肯定する。おそらくその言葉に説得力があると判断したからだ。

 

「だが時期によるな、結局、使う奴が問題かどうかだ。どうするかは、王族関係者の肩だろうよ」

 

 それに黙り込む者達がいる中で、結局この問題は後々にして話し合うことになる。

 

 

 

「くっそ………一週間朝昼晩飯か………ちっ」

 

 甲板で寝っ転がりながら、舌打ちするリュウ。静かに空を見ていると、

 

「リュウ」

「なんだカノンノ?」

 

 半身起きあがりながら、カノンノの方を見る。カノンノは静かに微笑みながら、

 

「ニアタと少しお話ししたの、ニアタは、誓いを立てたらしいんだ」

 

 ニアタ達の誓い、因子を受け継ぐ世界に危機が訪れれば力貸す。

 

 だがこの世界にそれは無い。だが、自分らのディセンダーや、彼女を救ったディセンダーはそのようなことは関係ないと言い、世界を守るために動く者達に、力を貸す。

 

「私は彼らのカノンノに成れないけど、関係ない。私は私で生きて欲しいって」

「ほうかい」

 

 興味ないの話だと思う中、静かに隣に座り込み、

 

「私に、なんで他の世界の情報があるか分からないけど、でも………」

 

 こちらの顔を見ながら、静かに微笑む。

 

「私をヴェラトローパへ連れて行ってくれてありがとう、リュウ」

「………」

 

 なにも言わず、その場から去る。その様子に少しだけ寂しそうに微笑みながら、今度は彼女が空を見る。

 

「………そう、か………私………好き、なんだ………」

 

 

 

『リュウ』

「ニアタか」

 

 ニアタは、彼からも負の声が聞こえないが、それは機械類だからとかでもなく、ここの連中と同じだと解釈していた。

 

 その様子を見ながら、彼は言う。

 

『君のことは聞いた、ゲーテとして、やはり力を持っているようだ』

「そう言えば、知ってるんだったな」

『ああ、我らの本体がいる世界で少しな………彼女、向こうのカノンノや、ディセンダーが知れば、君に会いたいと言うだろう』

「………」

 

 もの凄く嫌な顔をして、ニアタは苦笑する。

 

『君はやはり………ヒトが、命が嫌いか?』

「ああ」

 

 即答し、やはりかとニアタは思う。

 

『君が何故人間に成ったのか分からないが、きっと意味があるだろう。それが良い事か悪い事かは分からない。だがこれだけは言わせてくれ』

「なんだよ」

『あの子を連れてきてくれて、そしてこの世界のために剣を振るってくれてありがとう。これからも頼む』

「………やめろ』

 

 その目はゲーテと言うものの目、それに寂しいと言う負が流れ込む。

 

『君は………』

『俺は何も救えない………』

 

 そう言って負を消して歩く、その様子を見ながら、

 

『彼は………』

 

 

 

 静かに自室で、静かにしていた。

 

「………なんかようか」

 

「気づかれたか」

 

 ヴァンが静かに扉を開けて、中に入る。

 

「君に頼みがある、少しだけな」

「………」

 

 

 

「いいぜ、だが気を付けろよ」

 

 話を終えて、感謝すると頷くヴァン。それに静かに席を立つと、

 

「それと、別件で聞きたいことがある」

「なんだ?」

「君は何を救えなかった?」

 

 その瞬間、ヴァンを殺そうとする凶刃が無数向けられる。

 

 それは髪のように生えている刃、無数の闇を纏う、ゲーテの物だった。

 

『………なんの話だ』

「それで隠しているつもりか? 君は、ヒトを救うこと いや違う………善行を否定しすぎているからね」

 

 刃には殺意が纏われているのが分かっていながら、ヴァンは涼しい顔で続けた。

 

「もう一度問う、君は何を救えなかった?」

『違う、元々誰も救えないんだ俺は』

「それこそ違う、君が救おうとして救えなかった」

『何が分かるッ』

 

 その姿が人で無くなりかけている中で、それでもヴァンは続けた。

 

「君は、本当は救いたいんじゃないのか? 誰かを」

『………ダマレ………』

 

 その様子を見て、ヴァンは確信した。

 

「何を救えなかった、何を守れなかった………君は結局」

『ダマレっ!!』

 

 だが、

 

「悪いが、あんな頼み事をする以上、この程度のことで私を傷付けられないんでは困るな」

『………キサマ』

「………君は」

『カンケイない………』

「なら、全ての結果次第で、話してもらおう。本気でやろう」

 

 そう呟き、そう出ていく中で、座る。

 

 身体が少しずつ変化する中、そんな中で、

 

『………引きずってるのか………違う………違う違う違う違うッ』

 

 そう言いながらも、そう言うも、それでも………

 

『………俺は、あの子を………あの子をッ』

 

 静かに、

 

『苦しめただけだ………』

 

 そう呟くと共に、闇が深く、深く心の中に沈む。

 

 その姿が少しずつ、異形に変わる。それでも気にも止めず、ただ静かに時を過ごす。




次回オリジナル話、そして少し話を変えて進める。

セレナこと、この物語のディセンダー活躍させないとまずい。歌わせるか、歌わせるしかないか!?

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第15章・闇の闇

自己満足とタグにつけるべきかと思うこの物語。

ではどうぞ。


「それじゃ、アンジュ」

「ええ、分かったわ」

 

 そうやりとりを終えて、とある場所に出向き、準備する。

 

 ああ、こういうときは楽しいものである。

 

 

 

「た、大変ですっ、ヴァンさん、アッシュさん、ルークさんっ」

 

 クレアとロックスが大慌てで舞い込み、アンジュがそれに驚きながら、そばに来る。

 

「なんだよったく………」

「どうした?」

 

 双子の兄弟が現れる中、ヴァンだけがあることに気づく。

 

「クレア殿、ナタリア王女はどうしましたか?」

「「!!?」」

 

 赤毛の剣士達は驚き、クレアは申し訳なさそうに、

 

「突然、黒い甲冑の人が現れて………」

「も、申し訳ございませんっ。ナタリア様は私達を守りながらでしたので」

 

 それを聞き、アッシュは舌打ちして急いで出ていこうとするが、

 

「待てアッシュ」

「止めないでください師匠(せんせい)っ」

「まっ、待って。その人はヴァンさんを名指しで呼んでるんですっ」

 

 それにその場にいた全員が驚き、ロックスの話では、ブラヴニー坑道で待つと言う話を聞き、ヴァンは静かに動くが、

 

「待ってください師匠(せんせい)ッ、俺達もっ」

「屑は黙ってろッ、俺と師匠(せんせい)だけで行くッ」

「アッシュ、こんな時にッ」

「黙るんだ二人とも、今回は急ぎだ。我々だけで出向く、アンジュ」

「ええ、分かったわ」

 

 そう言って三人が大急ぎで出向き、クレアとロックスは青ざめ、血の気が引く。

 

 それを落ち着かせながら、

 

「あのね、この」

 

 その時、タイミングが悪かった。

 

 

 

 坑道の奧で、一人の甲冑を纏う、剣士は大剣を地に刺して、その後ろに貼り付けにされているナタリア。

 

 暗闇の中で静かに立ちつくし、足音を聞き、両刃の大剣を担ぐ。

 

「来たか………」

 

 赤毛の王家と、騎士団総長が現れ、それに静かに手を挙げると共に、壁のたいまつに火が灯る。

 

「騎士団総長でありながら、足手まといを連れて来るとは」

 

「ああ? テメェふざけるなよっ」

「こいつと同じ扱いか」

「二人とも、簡単なあおりだ。冷静になれ」

 

 その様子に剣を引きずりながら、ただ前に出る。

 

「まあいい、ヴァン・グランツ。貴様を潰せばライマ国を潰せるからな」

 

 兜の所為で声がくぐもって聞こえるが、そう聞こえ、その言葉に、二人の王族が構えるが、

 

「テメェ、なに言ってるんだ!? それより、ナタリアに何をした!!」

 

 アッシュの叫びに、ただ術で眠っているだけだと答える中で、

 

「ヴァン・グランツ、役立たずの王家の兄弟のお守り役。貴様がいなくなれば、そこの二人が勝手に国を潰す。お前にはここで死んでもらうぞ」

 

「? なに言ってるんだ彼奴」

「お前が無能って言いたいんだろ、行くぞッ」

「あっ、おいッ。ふざけやがっ」

 

 そう言いながらも、三人はほぼ同時に剣を抜く。瞬間、

 

「「「!!?」」」

「遅い」

 

 剣をすでに抜いていたとはいえ、巨大な剣を持つ剣士は、片腕でそれを振るい、吹き飛ばす。

 

 それに二人は体勢を崩すが、一人だけ違う。

 

「「師匠(せんせい)ッ!!?」」

「下がっていろッ」

 

 大剣を振るい、ヴァンの軽い剣を身体ごと吹き飛ばすように振るう。

 

 あまつ、

 

「「!?」」

 

 空いている手の籠手で、剣撃を防いだりと、滅茶苦茶な戦いをする。

 

 そして二人の剣の腕前は、

 

「互角………」

 

 高速のやりとりの中、詠唱の隙を与えず、かつ、ナタリアへ近づけないと言う荒行、いや、偉業を一人でこなしている時点で、慣れている。

 

 その中に割り込めない。

 

「………」

(それにはこいつも分かるか………)

 

 ただ、こいつは何者だ? 片腕で両手剣を振るい、一王国騎士団総長の剣撃を拳一つで弾くような人物に心当たりはない。

 

 しかも、二人とも本気ではないのだ。

 

 お互いがお互いの動きを確認しながら動き、まだ本気を出していない。

 

「お互い戦局が変わらないのは嫌だろう?」

 

 そう言い、瞬間的にヴァンを上回った。闘気を拳に、狼のように放つ中で、その反動で身体が大きく傾き、剣を振り上げる。

 

 その勢いで気の狼を放ち、その瞬間、

 

「『紅蓮狼牙!!』」

 

 その狼を後ろから斬るように、紅蓮剣、炎を舞う剣撃が放たれ、それを防ぎ、剣が折られたヴァン。

 

「!」

「地に伏せよっ」

 

 そのまま連撃を放つ体制、すぐに動こうとするが、

 

「!?」

(狼の爪だとッ!?)

『狼爪闘気』

 

 闘気で出来たその爪が自分らに向かってくるため、それを剣でお互い防ぎ、剣が吹き飛ばされた。だが構っていられない。

 

「せ」

 

 その時、甲冑の剣士を囲む魔法陣が出現した。

 

「チィィィィィ」

 

 ホーリーランス、光の槍が放たれ、バックステップで避けたが、そのまま、

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

 

 ロイドを始め、剣士達が流れ込み、甲冑の剣士の後ろで、アニーとフィリアがナタリアを助け出す。

 

「貴様ら………」

「どこのどいつか知らないがッ」

「仲間を傷付けるのなら」

 

『許さないッ』

 

 

 クレス、カイル、スタン、スパーダ、ヴェイグ、シンクと、周りは弓兵が囲み、形勢が逆転した。

 

「大丈夫ヴァンさん!?」

「セレナ………カノンノ………」

 

 ヴァンは苦虫をかむような顔に、回復魔法を使い始め、クロエとアスベルがアッシュとルークへと近づく。

 

「無事ですか」

「くそがっ、不甲斐ねぇ………」

「ちっくしょうが………師匠(せんせい)の足、引っ張ることしかできないのかよ………」

「ルーク………」

 

 ティアがその様子を見ながら、兄を見る。兄は目を閉じ、静かに、

 

「よし、致し方ない………実「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」!??!!!」

 

 

 

「斬る」

 

 剣士達を、

 

「斬る」

 

 魔法を、

 

「斬る!!」

 

 矢を、

 

「全ては闇へと落ち、沈めッ!!」

 

 剣技と格闘術、それらが嵐のように吹き荒れる。

 

『戦狂・外道ノ嵐ッ!!!』

 

 骨が折られ、地に、壁に、天井に叩き付けられ、吹き飛ばされる仲間達。

 

 それを見たヴァンが深刻な顔になり、静かに剣を構え直す。

 

「まさかここでオーバーリミッツか………」

「貴様のために用意していたが、仕方ない………」

 

 甲冑の剣士はありとあらゆる可能な攻撃方法でアドリビトムの戦士達を地へと叩き付け、なおも立っていた。

 

「ライマ王国騎士団総長ヴァン・グランツッ、貴様の首はここでもらうッ!! 滅びるライマへの礎としてなッ!!!」

「………オーバーリミッツ!!」

 

 光を放ち、弱っている甲冑の剣士へと向かう。

 

『滅びよ!!』

 

 ヴァン・グランツの秘奥義が、放たれる中、甲冑の剣士は、

 

「!? ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 セレナだけは大きく叫ぶ。

 

『星皇蒼破陣!!』

 

 特別な音と共に光の奔流を、

 

『アッハハハハハハハッ』

 

 狂気に高笑いして、剣で受け止める。

 

『全てねじ曲がれッ、希望は絶望、勝機は敗北への兆し!!』

「ッツ、私の秘奥義をッ!!?」

 

 全て受け止め、その反動のままに、全て返す。

 

『カウンター・エンド!!!』

 

 その瞬間、ヴァンの身体から鮮血が舞い上がった。

 

 

 

 仲間達は何が起きたか分からない、ただ分かるのは、

 

「テッメエェェェェェェェェェェェェェェェ」

 

 向かってくる剣士や戦士達を、ことごとく剣でたたき落とし、静かに吹き飛ばす。

 

「邪魔だ雑兵共っ、ヴァン・グランツッ。その首もらうッ」

 

 その中、猛る剣士が二人いた。

 

「「おぉぉぉぉぉまぁぁぁええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」」

 

 無数の剣撃の中で、それを防ぎながら、舌打ちしながら、高笑いする。

 

「邪魔するな無能な王子どもっ、王でありながら資格無き者、そして王の資格を持ちながら、全てを諦めたおろか者よ。そんな中途半端な者は、なにも得られないと知れッ」

「なに、をおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」

「くっそ、テメェ、なにが目的でッ」

「俺達の問題に、他の奴を巻き込んでるんじゃねぇ」

 

 そんな中で、高笑いしながらも、剣をわきで抑え、蹴りがルークの腹を穿つ。

 

「がっ」

「それは貴様達が弱く、己の真意を口にせず、流れのまま、時のまま、ただいるでくの坊であるが故に引き起こされているとわからないか。愚者よ、後悔に苦しみながら消えろッ」

 

 アッシュの剣を折り、それでも尚食いつくアッシュ。

 

「お前ェェェェェェェェェェェェェェェェ」

「よくも師匠を・・・ちくしょ、チクショオォォォォォォォォォォォ」

 

 そして吹き飛ばしながら、血の池を踏み、治療するセレナ、カノンノを見る。

 

「何が救える? 何が守れる? 何を助けられる? 結局だ、結局長途半端な者なぞ何も出来ない道化以下のゴミだッ。いくら王家の血筋が残ろう、貴様等兄弟では、ライマの未来を潰える。貴様のような半端者、王の資格は無い」

 

「だからグランツを?」

 

「ああ、後は騎士団を纏めるそいつが消えれば、ライマの未来を潰せる。いまのいままでおんぶでだっこの王子兄弟の末路なぞ、俺には関係ない。ライマはいままでその男に支えられていたのだからな」

 

 その中で、まだセレナ達に迫るため、アスベルとクロエが向かってくるが、剣で防ぎ、それでもあざ笑う。

 

「何も決められない王子、分かり切っているのに諦めた王子。そんな者だけになれば、勝手に壊れる。それが、ライマの決まった運命だッ」

 

 剣で二人を吹き飛ばしたとき、その剣が飛んだとき、それを掴む者達がいた。

 

「ゴミ屑がッ、まだ抗うか!!」

「うるっせぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

 二人の猛攻を、片腕でさばき、逆に攻撃を加える剣士だが、それでも、

 

「お前になにが分かるッ、俺だって、俺だってアッシュが王にふさわしいのが、ナタリアにはアッシュがいいなのはわかってるッ。けど、どうすればいいんだッ」

「それをなぜいま口にする!! 己の真意を分かっていながら、なぜあらがおうとしないッ。助けを求め、手を伸ばし、悩み、選ぼうとしなかったッ」

 

 剣をはじきながら、ルークを牽制している。そこにアッシュが割り込んでくる。

 

「貴様も貴様だ。王の資格を持ちながら、弟を苦しめている自覚がありながら、なにより、愛する者を苦しめていると知りながら、なぜ行動しない」

「貴様のような者に知る必要はないッ」

「語らぬか、愚か者よ。なら語ってやろう、それは兄の安否を気にしているのだろう」

「黙れッ」

 

 弟であるアッシュの発言が強まれば、ルークの立場が悪くなる。下手をすれば内乱の恐れが起きる。

 

 それがあるため、ルークの影になることを選んだアッシュ。

 

 それを剣士はあざ笑うように砕く。

 

「愚かな兄弟愛だ………なあ、資格無き弟くん?」

「アッシュ………お前」

「愚か、実に愚かだッ。だからこそお前達は何も得られず、全てを失う。ならば、いまここで刈り取るッ」

「黙れッ」

 

 ルークとアッシュの連携に、剣士は静かに叫ぶ。

 

「貴様達は分かっていないッ、その選択、その先にある未来に、希望も、夢も、愛も、優しさも無い。己の自己満足がために、多くの者からそれらを奪うというのならッ」

 

 剣士は剣を強く握りしめ、

 

「いまここで散れッ」

「散らないッ」

「俺達にはまだ」

「「やるべきことがあるんだッ」」

 

 二人の身体が光る、これはオーバーリミッツ。だが、

 

「バカが!? 師の後を追わせてやろう………」

 

 構えるのは、先のカウンターの構え、だが二人はやめない。

 

「二人ともッ」

「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

『レイディアント・ハウル!!!』

『絞牙鳴衝斬ッ!!』

 

『カウンター・エンド!!!』

 

 光の奔流が二つを受け止め、剣で飲み込み、返そうとする剣士。

 

「ただの思いだけでッ、ヒトが、命が、人生が救えられるかァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

「それでもッ」

「止まってられるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 三人の攻防の中で、カノンノとセレナの胸が痛くなる。

 

(なんで………)

(なんでこんなに………)

 

 剣士が受け止めきれないほどの奔流に飲み込まれかけるが、それでも、

 

「………なにができる」

 

「「!!?」」

 

「ただの思いだけで何が出来るッ」

 

 全身の隙間から血が噴き出す中、それでも剣士は叫ぶ。

 

「ただ救いたい?」

 

 それは飲まれかけた剣を止めた。

 

「ただ助けたい?」

 

 それは押し返し始めた。

 

「ただ守りたい?」

 

 それは、叫んだ。

 

「ならなんであの家族は救われなかったッ!!!!!」

 

 それは剣士の………

 

「「………リュウ」」

 

 ディセンダーと、一人の少女が呟く言葉すらかき消すように、奔流は強まる。

 

「認めない………認めないッ、認められるか!!! 思いだけの者に、認められるかアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」

 

「「はあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

 

 

 そして三人の剣が砕け散り………

 

 三人は光の奔流に飲み込まれた………

 

 だけどその時、

 

 私達は見た。

 

 彼が………

 

 とても辛く、苦しんでいる顔を………

 

 ………

 

 それでも彼は………

 

 飲み込まれる一瞬で、二人を吹き飛ばし………

 

 彼だけが全てのダメージを負って、その場に立っている。

 

 目から流れる血は、泣いてるとしか思えないものだった………




なにもできない………

『お父さん………なんで? なんでなの………』

あの子の声が聞こえている。

『ごめん………弱くて、何も出来なくて………』

聞こえてるのに、後悔だって、何もかも聞こえているのに、

『アァァァァァァァァァァァァァァァァァ』

聞こえてるのに、何も出来ない。

そう、それが俺と言う存在。結局傷付けるしかできない………それが、俺だった………


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第16章・嵐の前

出してもいいよね、と言うわけでどうぞ。


「ごめんなさいっ!!」

 

 と、アンジュがヴァンに誤りながら、いやいやと頭をお互いに下げていた。

 

「今回の件は私の所為でもある。皆には私から謝らなければな」

「はあ、全く………みんな仲間思いなのはいいんだけど、説明ぐらい聞いて欲しいわよ………」

「いっや~青春ですし、本来の目的も達成しましたからいいじゃないですか」

 

 そう言うジェイドはにやにやしながら、うっわ~と言う顔をする。一人の女の子がいる。彼女はアニス。ジェイドの部下である。

 

「はわわ………総長と大佐って、以外とですよね………報告聞いて、アニスちゃん、呆れちゃいましたよ」

 

 今回の仲間攫いは色々な面の確認を含め、一部のアドリビトムメンバーしか知らないことであり、まさかの事態に発展した。

 

「アンジュ、仕事終わったぞ」

「はいはい………ああリュウ。貴方もけが人だから無理しないでね」

「あの程度ならもう治った」

「はいはい………」

 

 疲れた顔でため息をつきながら、書類を受け取る。今回はナタリアの協力の下で、リュウが甲冑の剣士に扮して攫う。

 

 クレア達に黙っていたのは、嘘が下手であることと、彼女から聞かされた情報でどれくらい混乱するかと言うテストも兼ねていた。

 

 そして王族兄弟もまた、王族継承権としてのテストであり、結果は不合格。いまはまだ状態維持が続くらしい。

 

「まさか私にまで内密にしていたなんて………」

「ティア、お前は他の者達とも仲が良いからな。話す機会がなかったんだ」

 

 そして情報で仲間、攫われたの二つで、一気に混乱して、一気に押し寄せたと言う事態と言う、これは少し危険な事態になった。

 

 これがもしクレアなどの非戦闘員であり、また助けに出向く際、無策すぎると痛い目に遭うと言う教訓にもなった。ほぼリュウとヴァンが本気でぶつかり合った所為だが………

 

『アンジュ、とはいえ今回は』

「ええ、今回は少し考えることが分かったわ」

 

 それにリュウが去った医務室で、鋭い目になる年長組。それはリュウの反応だった。

 

「思いだけで誰かを救えないと、ならなんであの家族は救われなかったか、ね………彼の過去は教えてくれないけど、あの言葉って」

『遠くから見ていたが、あれはゲーテである彼の本来の力を引き金になっている』

 

 ゲーテを知るニアタは、クラトスとユージーンと共に遠巻きから様子を見ていた。仲間達が狭い場所に大勢で来て、範囲技で吹き飛んだとき、額を抑えたらしい。

 

『………もしかすれば、彼は人の身でありながら、ゲーテに成る可能性がある』

「………そうですか」

 

 ともかく、今回の件を教訓に、今回メンバーは落ち着いて対処することを覚えて欲しいものだと至り、話は纏まる。

 

 

 

「ただいま~あっ、リュウ。もう動いて平気なの?」

「………」

 

 マルタが聞いてくる際、もの凄く嫌な顔をする。それにマルタは?と言う顔をする。

 

「エミル吹き飛ばしたから、なんか言われるかと思った」

「そりゃ、文句言いたいけど、依頼だったんだから、もういいわよ」

 

【もうなに言ってるのよ。そりゃ仲間を傷付けたけど、結局痛み分けなんだから、もういいことなのに………それより、エミルだってあんなに大怪我してたのに、リュウはもう平気なのかしら?】

 

 そんな声を聞きながら、嫌な顔をして、自室に籠もる。

 

(………なんでだ)

 

 どれも痛み分けでいいと言う声に、頭がおかしくなる。理解できない。

 

 もう嫌になる。ここはどこだ? 自分はどこにいる?

 

「………なんなんだ」

 

 

 

 カノンノとセレナはリビングでため息混じりに、考え事をしていた。

 

「あっ、二人とも。どうしたの?」

 

 それに女性達が話しかけてきて、それに二人は戸惑いつつも、

 

「実はね」

 

 あの時、叫んでいたリュウはなるで悲しそうだった。

 

 辛そうだった、苦しそうだった。そんな声だったと二人で思い、話し合って考え込んでいる。

 

「はあ、どうしてリュウはこんなに心配させるんだろうね………」

「うん………私、リュウが心配なのに………」

 

 セレナとカノンノはそう言い、ため息をつく。

 

 その様子に、なんて言うか、

 

「さっき会ったけど、そんなに変わってない様子だったけど………二人とも、そんなにリュウが心配?」

「「心配」」

 

 揃って言う二人に、うずうずし出す女子達。正直不謹慎だが、気になる。

 

「二人って、そう言えばよくリュウと一緒よね」

 

 ルビアの言葉に、二人は揃って頷く。

 

「あ、あの、ふた、二人って」

 

 シャーリィが、

 

「リュウさんのことが好きなんですか!?」

 

 その言葉に、

 

「「………」」

 

 二人は息を止め、思考が止まり、何故か、

 

「「!!!!!!!」」

 

 真っ赤になり、何故か分からないが、何か否定したいがしたくなく、そんな反応をしていると、他の女子も集まりだしてくる。

 

「やっぱり、そうだったのねっ」

「はあ~いいな~………リュウはなにげに乙女心はしっかり分かって、ちゃんとしてるし、料理上手だしね~」

 

 仲良く話し合う女性達、新しく入ったシェリアも加わるが、もう話が入り込んでいない。二人とも、顔が真っ赤になっていた。

 

 

 

「あーリタ、今度のはどうだ」

「無理無理、無理ィィィィィィィィィィ」

 

 研究室で荒れている研究者達、ニアタが通りかかり、その様子に少し驚いている。

 

『どうしたんだい?』

「ニアタか、実は前に聞いた、ジルディアのことでね。触媒のうち二つはすでに絶滅種だということが分かって、現在化石からドクメント発掘を視野に入れてるんだが」

「どれもこれも使えないのよ~」

『そうか、星晶が生まれた頃と、世界の環境は大きく変わっているのか』

 

 その言葉に、ウィルが書類の山からがばっと出てくる。

 

「………環境が、変わっている………」

「………生物の進化論ッ、ウィルッ、ドクメントで過去のデータを遡ることはできるかっ!?」

「進化………混種!! できるわよリュウっ、ツリガネトンボ草は何目何科何種!!?」

「リタ図鑑パスっ」

「OKっ、リュウはアンジュに他ギルドに連絡っ。大がかりになるから準備してッ。あとはあんたらの情報網でも声かけてっ」

「分かったっ」

 

 そう言いリタ達と別れ、アンジュに連絡。

 

「ジェイド丁度いい、情報屋に出向くぞっ」

「おや、進展がありましたか?」

「あった、いまリタ達とで活動再開する」

 

 それに話を聞いていた者達の顔が微笑みながら、静かに説明する。

 

「まずはツリガネトンボ草。これはすでに絶滅して長い月日が経つが、その子孫とも言える進化種からツリガネトンボ草のドクメントを取り出す」

「子孫からツリガネトンボ草のドクメントを取り出すのね、それで具体的には」

「おそらく膨大な植物種のドクメントが、大量に必要になる。もうアドリビトムだけじゃ時間がかかるほどの数のな。だから」

「情報屋や、他のギルドに頼み、集めるしかないと言う訳ですね」

「ああ、っと、リタ」

 

 リタが書類やら何やらを持って、待たせたわねと言って、数と種類を広げる。

 

「これは………凄い量ね」

「資金に関しては悪いが王族貴族メンバーから資金提供してもらうしかない。他に必要ならヴァンに言え」

「ヴァンさんに? なんで」

「俺との依頼で何かそればライマ騎士団総長として、手を貸すって契約だ」

 

 悪い顔で、この前の依頼報酬を早速使うリュウ。リタも悪い顔をするが、アンジュは微笑みながら了承する。

 

「それと資金運営に関してはここをこうしてこうで、あとは」

「分かるわ、相変わらずこういうのも得意わね♪」

「んじゃ、ジェイド」

「はいはい、情報屋に関しては貴重種ですね。アニス、せっかくだから来てください」

 

 そうこうして色々と動き出す中、リュウ、ジェイド、アニスが船から一度下りていった。

 

 

 

「おや大将達か、もう常連で合い言葉もいらないよ」

「それでいいのか?」

「お得意さま大歓迎ってね」

「おやおや、助かりますよ~」

 

 そう言いながら、今回は奧の部屋に入り、ローブを脱ぐ二人。軍服が来る訳にはいかないが、少しばかり今回は違う。時間が惜しい。

 

「交渉はお願いしますねリュウさん」

「はっわ~♪ リュウさんに頼むなんて、大佐ひっど~いっ」

 

 こちらが相手の負の声が聞こえるのを良いことに、交渉を任せる気らしいが、元々そのつもりだ。負では無い感情は読めないので、軽く打ち合わせをすると、相手が現れる。

 

【うわっ、お得意さまとはいえ、厄介者二人が揃うとはね】

「こんにちは、毎度ご利用ありがとうございますってね」

 

 そう言い、営業スマイルする女性に対して、ともかくと、

 

「早速だが、いつものじゃなく、表の、ギルドの仕事で多くの植物種の入手が必要でね。早い交渉がしたい」

「おやそうかい」

【うげっ、それってかなりまずいな。まあいいか、灯火さんは助かってるし、早くするとしてと】

 

 まずキバ関係、大地から生えたあれのことに関して、ジェイドが言える範囲で説明し、それをどうにかする触媒が絶滅種であるため、それを元に進化などしたルーツを遡ることを説明する。

 

「それはまた手間がかかることを………」

「絶滅種探し出すよりかは確実でね、貴重種のこれらのドクメントが欲しいんだ」

「ん~どれどれ」

【話からして足下見るよりか、全部任せた方がいいねこりゃ。出せるのは全部出すか】

 

 少しぼったくりたいと言う感情と共に、仕方ないと思いながら、貴重種のドクメントデータを全部持ってくるように言う。

 

「いいんですか~そんな簡単に」

「ぼったくりたいけど、あれはまずいのはあたしらも分かってるからね。今回は裏も表もないさ」

 

 ついでにと、

 

「他の植物種の情報も表に出すから、欲しい植物の項目言ってくれ」

 

 ジェイドが少し眼鏡を直すフリをすると、リュウが目を閉じてなにも言わないため、それを教える。裏表も無い、彼らの協力姿勢。願っても居なかった。

 

「んじゃ、今回はタダでいいから、あれのこと頼むよ灯火さん」

「ええ、分かりました」

 

 そう言い握手をする時、だだだと走る音がしたため、全員武器を構える。

 

「と、頭領たい、うわっ」

 

 武器を向けられた者は、驚き、しりもちを付く。全員が暗黙のルールを破った者を見るか、こちらを見て、よかっとと叫ぶ。

 

「灯火さんっ、こればかりは表も裏のルールもないっ、急いで船に戻れっ」

「? どういうことだい」

 

 頭領と呼ばれた女性は静かに配下を見ると、

 

「ぐ、軍が、軍が灯火さんを攻撃しようと我策してるっ!!」

 

 

 

 青空の下、セレナは歌を歌うが、少しだけぼーとする。

 

「好き………好き………好き………」

 

 その言葉を続ける際、リュウの顔を思い出し、耳まで真っ赤になりながら、静かに顔を隠す。

 

(あれ、なんだろうこの感情………ふわふわして、そわそわして、だけど嬉しくて、だけど恥ずかしくって………ううっ)

 

 何故かいまリュウに会えない、会いたくない。いやけど会いたいと言う感情で右往左往しているセレナ。

 

 なんだか分からないけど落ち着かない。

 

「いまやっとなんとかできるようになったのに、私どうしたんだろう………カノンノもそうだし………アニーに聞かないと」

 

 そう思っているとき、誰かがバンエルティア号に尋ねてくる。

 

「すまない、ここは自由の灯火、アドリビトムでいいかな?」

「あっ、はい、そうですけど」

「!」

 

 こちらの顔を見たとき、はっとなるその人は、

 

「貴方は………その」

「はい?」

「ディセンダー様ですか?」

 

 その時、セレナは多くの人達から、ディセンダーであることは隠すように言われていたため、ドキマギしながら、

 

「い、いえ、違います、よっ」

 

 そう言って顔を背けたが、すぐにその人は近づいてその手を取る。

 

「そんなことはない、私は見たんだ、あなた様が火山地帯の異変を元に戻したところを」

「!!!」

 

 まずいことしたと思い、あたふたしていると、

 

「ん、セレナーーーなにしてるの?」

「り、リリスーーーー」

 

 困ったような顔をすると、その人は少し困った顔をするが、

 

「すいません、アドリビトムの方ですね。貴方達に願いがあり、ここに来ました」

「お願いですか、それは」

「ディセンダー様のお力を貸してくださいっ」

 

 それに全員がすぐに驚きながら、リリスもクレアも、

 

「な、なんのことですか? よくわかりま」

「私はこのお方が異変を解決したのを見ています」

 

 それにみんなが固まり、その人はここで引くわけには行かないと、前に出て、

 

「どうかディセンダー様の降臨を世界に訴え、いまの異変を」

「そいつはできねぇ相談だな」

 

 そう言い、ユーリがいつの間にか後ろに回り、剣閃を放つ。その人は避け、ユーリの顔を見て、驚いていた。

 

「お前は、王子誘拐犯!!?」

「ま、世間からはそう言う扱いだわな」

「ユーリっ、なんの騒ぎです!?」

 

 その王妃が騎士であるアスベルとフレンと共に現れ、えっ!?と困惑する。

 

「エステリーゼ王女!? それに騎士フレンにアスベル!!? な、なんで誘拐犯と!?」

「あーそれは………」

「待ってくださいっ、彼女はなぜ自分はともかく、アスベルまで? 彼は自分の部下ですが、まだ若く、世間に浸透していませんっ」

「クレアさん、リリスさん下がってくださいっ」

 

 その時、他の王族であるウッドロウやナタリアも姿を見せ、その人は焦る中、静かにアンジュが手を叩きながら、

 

「はーい、みんな落ち着いて。貴方もですよ」

「な、なぜここはこうも人が………これは」

「困惑するのも分かるけど、お話を聞くために一度中に、話はそれからです」

「………分かりました」

 

 

 

 中にあげられた際、静かにローブを外すと、ティアやヴァンが驚き、国関係者が驚いて彼女を見る。

 

「貴方はっ、ウリズン帝国王位継承者、アリーシャ・ディフダ様!!?」

 

 ウリズンの名を聞き、全員が驚き、武器を構えようとするが、それをリタ達が止める。

 

「やめなさいっ、帝国のやり方は気にくわないけど、彼女は穏健派の一派よっ。サレの敵よ敵っ」

「えっ、そうなのか?」

「いえ、彼らの怒りも最もです………私はただの飾りで祭り上げられているだけで、一方に騎士サレのような過激派を押さえ込めていないのですから」

 

 そう言われながら、アンジュも制止させる中で、政治を知る者達が、静かに説明し出す。

 

「確か、キバの出現によって、過激派の発言権が薄まり、穏健派であるアリーシャ様達の言葉が通るようになったと聞いております」

「はい、それに関しては、どう言えばいいのか、分からない事態です………」

 

 いまウリズン帝国は、穏健派が優先になり、しかも彼女を飾りにしていた貴族達は、彼女を真の後継者として見る者達によって、うまく逆転している事態。実際、

 

「実際あなた様は、いまどの派閥からもご自身の命を狙われているはずです」

「えっ!? ウッドロウ様っ、それは」

「本当だよ、穏健派と言っても、名ばかりの貴族達の集まりだったんだ。真の意味で国を思う者達が、あなた様と共に、国の政治開拓をしているはずですが、何故ここに?」

 

 それに関して少し黙り込むが、しばらくして、

 

「その穏健、過激両派閥が手を結び、私の暗殺に躍起になっているからです」

「そんな」

 

 フィリアの言葉に、チェスターやアーチェが苦々しく歯をかみしめる。

 

「おいっ、このお姫様使って自分達はいい思いしようとしていたのに、厄介になったら捨てるのかよっ」

「そうよそうよっ、酷すぎないそれっ」

「政治家ってのはそう言うものですよ」

 

 ジェイがそう呟く、彼女の顔は一層悪くなる。

 

「それで私は師や他の者達に言われ、なんとか国を脱出し、現在は逃亡と共に、あのキバなるものを調べていました」

「それでセレナの力を見たのか」

 

 それに静かに頷き、それに全員がそれは問題だなと言う顔になる中、アリーシャは言う。

 

「ディセンダー様の力があれば、あれは消せるのですよね!? なら、そのお力でどうか」

「あの、実はですね」

 

 アンジュの説明を静かに受け、アリーシャは酷く衝撃を受ける。すでに自国以外、ほとんどの国がこの事態のために働きだしていることに、

 

「私達の国………いや、私もか。私も自分のことしか考えていなかった………」

「落ち込むことは無いよ、王家に連なる以上、国のことを考えるのは仕方ない」

「だが事態はそのようなものではない………」

 

 アリーシャの様子に、カイウス達は驚いていた。ウリズン帝国はサレの所為で悪いイメージしか無かったからだ。

 

「なああんた」

 

 そのカイウスが、言葉を掛けた。

 

「もし本当に世界のために動きたいんなら、エステル達みたいに、アドリビトムに入ればいいんじゃないか?」

「そ、れは………」

「それもそうね、いまさら王族の一人や二人、問題ないわよ♪」

「ですね、私は歓迎です♪」

 

 その様子にいいのだろうかと思うが、ヴァンが静かに、

 

「己の国がしてきたことに負い目を感じるのならば、いま国を含め、世界のために動くことをおすすめする」

「ですわね、いまの状態、国なの王家も何も、関係ありません」

 

 ナタリアの言葉に、アリーシャは静かに、

 

「………最初はディセン………セレナ様のお力にすがった私ですが、もし許されるのなら、みなさん、私も力を貸させて欲しいっ」

 

 そう言う中、みんなが嬉しそうに微笑む。

 

「セレナでいいよアリーシャ♪ これからよろしく」

「セレナ様………ああ、ありがとう、みな」

 

 その時、飛び込んで入る者達が居た。

 

「アンジュッ!! この船にアリーシャ姫殿下はいるっているぅぅぅぅぅ」

「リュウ? それにあなたは」

「私は情報屋ロゼっ、今回はもう出血大サービスだっ。いるなら急いで逃げるよッ」

「私はチャットのいる部屋にっ、ここから急いで移動しますっ」

 

 そう言い、流れ込んできた者達が急いで動く。

 

「えっ、これは………」

「いいかよく聞けっ、あんたはいま暗殺されようとしてるッ。しかもあんたが誘拐された名目でだっ」

 

 それに全員が驚愕した。

 

 

 

 一人の騎士が邪悪な笑みを浮かべ、芝居かかった仕草で言う。

 

「ああ大変だ、大いに大変だ。我らが姫殿下、アリーシャ姫殿下が攫われた」

 

 だが主砲類はすでにそのアリーシャ姫を狙い定めている。

 

「僕ら騎士団はアリーシャ姫殿下を救い出さなければいけない、分かるね、みんな?」

 

 それは助け出すのではなく、その暗殺、しかも軍を動かして、

 

「ほんっと、穏健派だか過激派ももう後無しって感じだね」

 

 最後に本音を呟きながら、静かに、

 

「それじゃ行こうか、狩りね………」

 

 そう言って、嵐が到来する。




アリーシャとロゼ出しちゃった。

それではお読みいただき、ありがとうございます。


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第17章・戦乱

オリジナル要素で始めます。どうぞ


 主砲が雨のように撃たれる中、それを避けるバンエルティア号。チャットが半泣きであり、ほとんどのメンバーは振り落とされたりしないように、その場に捕まったりしている。

 

「おいッ、この船にいる姫を助けに来たって命題だろう!? いくらなんでもこれはッ」

「ここでアリーシャ姫を消せればいいんだよ向こうさんッ、その為ならもう手段もなにも………ってかよく避けれてるねこの船ッ」

 

 ロゼが驚く中で、それは、

 

 

 

「あー次はっと」

 

 それは向こうの心を読んで、チャットに報告して避けている。

 

「すっげぇ読みやすい、向こうさんもう無茶苦茶な思考だ」

「助かりますね、ついでにこっちも主砲準備しておきますか」

 

 そしてそれで相殺やら、主砲の勢いで逃げたりしている中、ロイドが船室へ流れ込む。

 

「お、おいっ。このままどうにかなるのか!?」

「なる訳無いだろバカか」

「ですね、どうにかしないといけませんね~」

「なんで貴方達はこの揺れの中で立っていられるんですかぁぁぁぁ」

 

 操縦するため、舵に身体を結びつけているチャットは泣きながら叫び、そう言われてもと言う二人。

 

「ともあれ、そろそろやばいぞ。向こうさん、一隻突貫させる、自滅戦法する気だぞ。いま無人機が突っ込む準備してるが」

「相手はあの、サレ、ですからね~船員がいようが関係なく、突貫させますか」

「勝機は」

「そこですね」

 

 

 

 サレの命令に、いや、サレ事態、もうこんな暴挙をしてただではすまない。

 

 軍隊はもはや、頭のねじが飛び、船員がいる中で、戦艦がバンエルディア号へと突貫する中で、サレはにやりと笑う。

 

 だが、

 

「………ゲーテ』

 

 ニヤリと笑うリュウは、闇を吹き出しながら、剣を構え、リュウへと向かってくる戦艦をぶつけるように、ジェイドが操作する。

 

 その様子にほとんどのメンバーが驚いている中で、それは涼しげに、

 

「船員ッ、衝撃に備えてくださいッ」

 

『カウンターエンドッ!!!!!!!』

 

 ぶつかって、爆発する自爆を目的にした敵戦艦を、カウンターで吹き飛ばした。

 

「おっいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

「せめてやる前に言ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」

 

「ここはいつもこうなのかああぁぁぁぃいいいぃぃぃぃぃぃ」

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 

 

「………見失った………だって?」

 

 サレにそう報告する兵士は震えていたが、すぐに震えなくなる。サレに斬られたからだった。

 

「探せ………探せッ、なんとしてもだッ。残骸だろうとなんだろうとッ、証拠がなければいけないんだよ証拠がッ」

 

 そう叫ぶ中、その叫びは、

 

 

 

「向こうさん捜索始めたぞアンジュ」

「はあ、そう………貴方の能力、もの凄く助かるけど、いまは雲隠れね」

 

 とある無人島? 少なくとも地図に記されていない島に不時着したバンエルティア号。それに科学者を始め、多くの人材が船の点検に入る。

 

「貴方も、戦艦の突撃をカウンターしたんだから、休んでいいわよ」

「だが、船内状況くらいはと思って」

「報告しに来たよ~」

 

 ジーニアスがくたくたで現れ、ふうとため息を吐きながら、

 

「船内とかは少し直せばいいみたいだけど、学者のみんなが少しキレ気味で、ジェイドさんがなだめてる」

「そうかい、アリーシャ姫さんは」

『それは他の国々の関係者と話しているよ』

 

 ニアタがそう言いながら、リュウはそうかいと呟く。

 

 その時に、誰かが、

 

「待て、大変だって騒ぎが心の声で」

「えっ」

 

 アンジュが驚く中、それは訪れた。

 

「大変よアンジュ、リュウさんは聞こえてると思うけど」

 

 クレアが、静かに、

 

「食材庫に大穴が空いていて、今日のご飯が無いのっ」

「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ」

 

 一番やばいことになったと、リュウは叫んだ。

 

 

 

 アドリビトムは正直言って、食べ盛りが多い。まさに最大のピンチと言っても過言ではない。リュウですらこのピンチに、躍起になって行動する。

 

「というわけで、島探索組、海探索組、サレが来るかもだから待機組、あと船修理組に別れます」

 

「船直すのをついでに言わないでくれませんかッ」

「そうよッ、こっちも大変よッ」

 

「飯があぁぁぁぁぁ、サレの奴、今度会ったらただじゃすまさねぇぇぇぇ」

「ああ、目に物見せてやる………」

 

「はい、海側の女性は、水着着用ですか~」

 

 全員がギロッと睨んだため、ゼロスは黙り込み。ともかくと、

 

「森組は俺がリーダーです。なんかあれば負の声で分かるから~」

 

 そう言ったので、約二名はすぐに参加希望した。

 

 そして、

 

「はーい、それじゃ、森組はリュウ、セレナ、カノンノ、ニアタ。そしてロゼさんとアリーシャさんでお願いします」

「はーい」

「頑張ろう」

「んじゃ、熊か猪狩るか」

 

「くまくまくまくまっ」

「鹿でも良いから肉持ってこい肉っ」

 

 そんな叫びを聞きながら、とっとと森へと向かい歩き出す。

 

「ですがいいのですか? アリーシャ姫を向こうで」

「向こうはあの子を狙ってるからね、リュウがいれば問題ないわよ。それに、ロゼさんも、情報屋とはいえ、少しね。それを考えれば」

 

 相手の闇、嘘に気づく。ゲーテに偽りや嘘は通じない。だからこそ、任せられる。

 

「なにより、森の方もね」

「ええ確かに………」

 

 まだ何かあるか分からない森、だからこそ、悪意を感じ取るリュウが一番。

 

「任せたわよ、リュウ」

 

 

 

「えっと、これは食えない。これ食える」

『ああ、アリーシャ。それは食べられない、まだ熟してないからね』

「そ、そうかっ。すまない、ニアタ殿」

 

 そしてとりあえず、ネズミを見せるリュウだが、ロゼが却下とはたき落とす。

 

「別に食えるぞ」

「マジで言ってるのかい? ま、何もなければそうなるけどね」

「そ、そうなのか………」

 

 アリーシャはともかく、セレナとカノンノも戦慄する中、リュウは

 

「別にこれも食料にしたくてしている国はねぇよ。俺の場合は、サバイバルって言えばって感じでチョイスしただけだし」

「まあね、帝国の連中がね~………」

「………」

 

 静かになるアリーシャに、ごんと鞘で叩く。

 

「な、なにを」

「お前が何かしたいと思うのはいい、だが、何かしたいからと言って、それが+になることにはならない。今回のことのようにな」

「!」

 

 それを言われ、青ざめるアリーシャ。それにカノンノが前に出て、

 

「リュウっ、アリーシャさんだって、こんなこと望んでないよっ」

「ああ、だから、次があるいまを生かせよ」

「!」

 

 それに驚く中、いい加減うんざりと言いながら、

 

「お前から聞こえる懺悔は聞き飽きた」

 

 ロゼは後でリュウが負の声が聞こえることに、やや不満な顔になるが納得して、アリーシャも驚く。

 

 アリーシャはしばらく黙り込みながら、

 

「すまない………」

「………ふん」

 

 

 

 真夜中、船を壁にして火を熾し、調理する。調理室も少し駄目になっていて、海水から塩を作り出すリュウの手慣れた様子に、へえと思う一同。

 

「料理できたぞ~」

 

『いただきま~す~』

 

 全員がそう言い、鍋物で美味しくいただく。全員が食べる中、王族組新人アリーシャは少し回りに驚いていた。ロゼもだ。

 

「おいカイウスっ、それは俺の肉だッ」

「いいだろっ、魚は俺の手柄だっ」

「はいはいケンカしないの、もう男の子は………」

 

「エミル~♪ はい、あーん♪」

「あ、あーん………」

 

「あー暑いわね~」

 

「ホタテだキュ~」

「リュウさんが見つけてくれたキュ~」

「ありがたいキュ~」

「よかったですね、みんな」

 

『…………………………』

 

「む、向こうだけ、無言だ」

「こっちのようにわいわい楽しく食えばいいのになっ」

 

「で、ここの恋愛組って」

「ああ、それはね~」

 

 様々な場所で、輪になり、楽しむ光景に、アリーシャは驚いていた。

 

「ここは様々な種族が入るのに、皆、普通なのだな………」

「………聞いてはいたけど、ここまで何もないってのは、驚きだよね。しかも」

 

 リュウと言う負の象徴ゲーテは静かに食う中、隣にディセンダーであるセレナが座り、カノンノも隣にいる。あまり気にしてないが、実は前々から決まっているようにそうなっていた。

 

 それにアンジュは微笑みながら、

 

「色々な地位や種族がいますが、そんなの、アドリビトムには関係ありません。みんながみんな、手を取り合って、頑張って生きる。自由の灯火として、ね」

「けどさ、黒い剣士は」

 

 ロゼの言葉に、難しい顔をする。それにはジェイドもおやおやと、

 

「痛いところを、言われたましたね~」

「ええ………」

 

 必ず大きな壁、これは本人が作った壁だが、それがある。

 

 この前のあれがとくに、誰も聞かないが、気になる案件だ。

 

「けど、いまは食べなきゃ始まりませんよ」

 

 ロックスが現れ、器の中身を山盛りにする。

 

「ささっ、みなさん食べた食べた。美味しいところ、よりどりみどりですよ♪」

「は~いっ♪」

 

 アンジュは嬉しそうに海草を食べる中、それにアリーシャも微笑み、ロゼも食べ始める。

 

 その様子を横目で見ていたリュウは、疲れた顔でため息をつく。

 

「やっと止んだ」

「? アリーシャさんのこと?」

「るっさいことこのうえないからな」

 

 その様子に、二人は気に掛けてくれたいたことに、顔を合わせて微笑む。

 

 全員が晩飯を食い終えて、身体を伸ばしたり、食器を集める中で、

 

「さてと」

 

 一人だけ、

 

「んで、誰だ」

 

 そう、目の色を変えて睨む。

 

 瞬間、全員が武器を構え、リュウの見る方を見るが、

 

「うおっ、地面かよっ」

 

 そう言って、二人を突き飛ばし、闇を纏い、高く飛ぶ。それを追うように、地面が岩が生えて、槍のように向かってくる。

 

「!?」

 

 暗闇の中、誰かが走り出すのを、

 

「「させるかよっ」」

 

 ルークとアッシュが止め、その男は驚き、剣で受け止められた。

 

「!? もう一人っ」

「オッサンっ」

「あいよっ」

 

 矢を放つと、鎖のようなものが投げられたが、それを撃ち落とされる中で、宙に浮いて様子を見るリュウ。

 

「と、今度は」

 

『スプラッシュ』

 

 水の固まりが放たれる中で、それをフレンが炎纏い、剣で吹き飛ばす中、火の中で、

 

「詠唱っ」

「火よっ」

 

 火の術が放たれる前に、セレシウスが氷の壁を張ったが、その一連の攻撃に、すぐに、

 

「狙いはリュウね? スタンっ」

「あいよっ、カイルッ」

「はいっ」

「僕も行くぞッ」

 

 ジューダスと共に、カイルとスタンが走り、地面に降りるリュウはすぐに、

 

(地面の詠唱者は………)

 

 この目の中で暗闇は意味もない、すぐに暗闇に逆に紛れ、それを、

 

「捕まえたっ」

「!!?」

 

 瞬時に後ろに現れ、後ろを羽交い締めして、胸を掴む。

 

「……………………」

 

 口を押さえたが、その時、あっ、俺死んだと言う顔をするリュウ。暗闇で誰も分からないが、さすがに当事者は分かった。

 

「エドナっ」

「はいはいそこまで、戦いをやめなさいっ。クラトスさん、リカルドさん」

 

 たいまつで辺りを照らし、バンエルティア号でも光で辺りを照らす。終わりを告げる鐘が聞こえる。

 

「「………………………………………………………」」

 

「………………………………………」

 

 無言の負と言うものを初めて知るリュウ。カノンノとセレナから黒いもやが見える気がして、男子達が戦慄する。

 

「………はあ、リュウ、もう離して。でないとリュウが危ないし、彼女達も何もしないわよ」

 

 そう言われ、ばっと離れ、こくこくと頷きながら、滑るように土下座するリュウ。リュウでも誤ることはある。

 

 取り押さえる際、男性と思い掴んだ胸。しかし相手は女性であった。

 

 エドナと言われた子は、静かに詠唱を始める。何かセレナとカノンノからも聞こえる。

 

「あー………アニー準備お願い」

「……………はい」

 

 轟音が響く。そんな中、

 

「俺、ゲーテの暗視能力欲しい」

「オッサンも」

「オッサン、二の舞になるぞ」

 

 ユーリのツッコミむなしく、何名か二の舞になり、戦力が少し減る中で、アンジュはため息をつく羽目になる。

 

 こうして謎の襲撃者との会話は、翌朝になった。




色々やっちまった。

彼らのオリジナルの役割はなにか? そしてリュウは生きているか?

お読みいただき、ありがとうございます。


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第18章・光の子と闇の子

オリジナル展開のあらすじ。

帝国の暗部より命を狙われる姫君、アリーシャがディセンダーの力を借り、世界を救うために訪れたが、アドリビトムのやり方を知り、自分も協力したいと言った矢先、情報屋ロゼより、サレの暴走が聞かされる。

だがすでに遅く、暴走した過激派により、攻撃を食らうが、ゲーテの力にてこれを回避し、無人島へ不時着するバンエルティア号。

そしてそこに襲いかかる謎の集団、その中でゲーテことリュウは一人の少女を取り押さえた際、慎ましい胸を触り、カノンノ、セレナ、本人の手にて重傷の傷を負う。

オマケ、それを羨ましいと言った男性達も制裁を受け、翌日の朝、彼らから詳しい話を聞くことになった。

エドナ「いま、侮辱された気がするわ………」


 翌朝の飯を大人しく作るコックリュウ。セレナとカノンノは無言の圧力を掛ける中で、アンジュははいはいと落ち着かせ、話題を変えるため、彼らを見る。

 

「それでは、私はアンジュ、ギルド・アドリビトムの代表です。あなた方は」

 

「俺の名前はスレイ、この島、と言うより、集落で導師をしてます」

「ミクリオだ、導師であるスレイの補佐をしているよ」

「同じくライラともうします、彼女はエドナ様です………えっと、もうエドナ様」

「私はいいわ、それを殺すとき以外はいまは呼ばないで」

 

 そう言って朝食を食べているエドナに、渋々大人しくなるが、それと言われたのは、

 

「やはり、貴方達は」

「ゲーテ………災厄の化身が島に現れたと思い、それに対応しようと………まさか、人に生まれていたとは、思ってもいませんでした」

 

 それにはセレシウスは少しばかり黙り込む。彼女も最初、リュウを攻撃した者だが、本人は気にせず、別のことが気になる。

 

『君達はゲーテのことを知っているのかい?』

 

「えっと………はい、ご存じです」

 

 ライラが戸惑いながら、ニアタに話しかけ、スレイは代表して、セレナに言う。

 

「この島は光輝の眠る島、ディセンダー様が現れた時、彼の者のための装備が安置された島です」

『なんだと!?』

 

 それにメンバー全員がざわめく中、静かに森の奥から誰かが現れる。それは、

 

「天使………コレットと同じ種族の方?」

「それと」

 

「ザビーダ、遅かったわね」

 

 エドナが不機嫌に言う中、悪い悪いと男は言う。

 

「俺はザビーダ、んで、風で話は聞いてたが………救世の使徒と破滅の使徒がご一緒とは、世の中分からないな」

 

 ニヒルに笑う中、メンバーの何名か挑発に乗りかかるが、そばにいるメンバーに止められ、ニアタが言う。

 

『ゲーテは完全に悪では無いからね、当然だよ』

「そこの機械さんは色々知ってるみてぇだな、ともかく、族長が集落に連れて来いってさ、話はそこでだとよ」

「分かりました、リュウ、セレナ。それでいいわね」

「俺も行くのか?」

「貴方もです、その方が色々便利ですから♪ 後は任せてね~」

 

 そんなこと言われる中、何故かアリーシャとロゼも着いてくる話をする。後はニアタとクラトスとリタ、セレシウスだった。

 

 

 

 天使住まう集落、遠巻きからこちらを見る様子を見ながら、リュウは気にせず、静かに歩く。

 

「ニアタ、ディセンダーの装備って」

『かつてソウルフルケミーで創り出した、ディセンダーのための装備だよ。私はその後は知らないが、創造には立ち会った』

「そうなのね………それで、それはどんなものなの」

 

 リタの言葉に、少し考え込みながら、静かに、

 

『ディセンダーは生まれるたび、世界が違えば戦い方も何も変わるからね。最初は剣の形をしているが、主であるディセンダーの下にあれば、姿を変え、セレナにあった武器の形状に変わるんだ』

「ふーん」

 

 そして一つの剣が安置された石舞台の前に来る。一人の老人がいて、静かに頭を下げる。

 

「みなさん、良くおいでに………氷の精霊、セレシウス様。お久しゅうございます」

「汝であったか………」

「知ってるの? セレシウス」

「昔の話だが、多くの混乱を鎮めた者の一人だ。かつて私に知恵を借りに来たときがあった」

 

 そう言いながら、剣を見ると、だんだん気持ち悪くなる。

 

「ゲーテだからか、やっぱ気持ち悪い剣、ほんもんだな」

「えっと………それでいいのかな?」

「ゲーテだから別に良いんじゃないの? リュウらしいわよ」

「あっははは………」

 

 その様子を静かに見つめる老人。視線がこちらに来る中で、ため息を吐く。

 

「『困惑』か、まあ当然だな」

「!? 心が読めるのか」

「違う、負が分かるんだ俺は」

 

 スレイ達は分からず、首を傾げたが、カノンノの説明で理解し、静かに剣を見る。

 

「その剣は本物だろうが、それでまずどうするかだな」

「いま世界が大変な時なんだろ? あの剣、輝く光器レイディアントがあれば、きっとディセンダーの助けにはなる」

 

 ミクリオがそう言う中、セレナは少しリュウの背に隠れる。それに驚かれる中、リュウは代わりに説明する。

 

「念のために、いまあんたらは世界で起きていることは把握しているのか?」

「………正しくは、世界は大変だ、ってところだけど」

 

 導師スレイの言葉に、静かにリタが説明する。

 

 ニアタもまた説明する。星晶が無くなり、世界が内包したもう一つの世界、そこから生まれたラザリスが、世界を塗り替えようとしている。

 

 それの代理品を集め、ラザリスの暴走を止める話。それを聞き、いま現在、力は不要な点があるが、どうするか考えるのは、

 

「セレナ、お前はどうする? 今後のこと考えれば、あっても問題ないぞ」

 

 その言葉に、セレナは静かに剣を見る。

 

 そして静かに、

 

 

 

「………いらない」

 

 

 

 それに多くの者達は驚くが、セレシウスは少しばかり感じ取っていた。

 

「セレナ、少しいいか」

「セレシウス………」

 

 静かにセレナを見るが、前に出て話すため、リュウより前に出る。

 

「何故、ディセンダーの力を拒むか、教えて欲しい」

「………」

 

 その言葉に少し黙り込むが、だが、

 

「一つだけ教えてください」

 

 スレイ達を見ながら、はっきり顔を上げて、

 

「なぜリュウを、襲ったんですか」

 

 それにスレイは難しい顔して黙り、ライラが代わりに、

 

「彼はゲーテ………この世全ての厄災の化身です」

「それが理由なんですか」

「いや、別に構わないが」

 

 リタにシャイニングウィザードと言う技が放たれ、沈むリュウ。

 

「わ、私は、力は欲しくありません。みんなを、リュウを含めた、アドリビトムのみんなを守るためなら頑張ります。けど」

「りゅ、リュウのことを心配して、レイディアントはいらない。そう言う意味で良いのね………」

 

 セレシウスの言葉に、静かに頷く。

 

 セレナは、力と言うものが分からない。

 

「セレナ、いいのか。俺のことなんて、放ってもいいんだぞ。手に入れても、問題ないし」

「………じゃ、リュウ、答えて」

 

 真っ直ぐな瞳、それを見て嫌な顔をするリュウ。それを見ながら、

 

「リュウはなんで平気なの?」

「………」

「色々な人達から危険だって、世界の災いだって言われて、力を向けられて、なのに、どうして平気なの!? 私、分からないよっ。リュウのことが、なんで平気なのか分からないよッ」

 

 それにどよめく心の波、それは周りの輩。気にせず、その目を見ながら、嫌な顔をする。

 

「チッ、んなもん一つだ………慣れた」

「慣れた………」

「セレナ、俺は生まれたときから人の負が聞こえた」

 

 他者を理不尽に恨む、上から見下し哀れむ、理解もせず怒り、様々な負を感じ、聞き、そして見てきた。

 

「そんな日々の中で、いまさら災厄の使徒? 世界に生まれるべき命じゃねぇ? ああそうだ、いつしか俺も、ゲーテである以前からそんなことは分かっていたッ」

 

 暗い闇が身体から放たれる。それに怯える者達。スレイ達が武器に手を置くが、アドリビトム達は違う。

 

「………そんな力で、私達はごまかされないよ」

 

 カノンノはそう呟いた。

 

「いつもそうだよね、本当のこと言わないで………ううん。少しだけしか、本当のこと言わないで」

「カノンノの言うとおりだよリュウ………私は、私達はもう、貴方の闇は怖くない」

 

 セレナは真っ直ぐにこちらを見る。それどころか近づいてくる。

 

「だってリュウはその力で、誰かを助けてきたもん」

『………違う、俺は誰も助けていない』

「ううん、違う」

『違わないッ』

「違うッ」

 

 光がセレナの身体から放たれ、闇がより吹き出す。

 

 光が闇、闇が光と反応し合い、そして少女は見つめる。

 

「私は知りたい、なんでなの………なんで悪者でいいって言うの!? もしリュウがゲーテであるからだとか、そんな理由で倒さなきゃいけないのなら………私は」

 

 光が、静かに闇を照らす。

 

 

 

「私はそんな力ならいらないッ、私は救世主ディセンダーなら、私は闇だって、ゲーテだって救いたい!!」

 

 

 

 

 それに、

 

 

 

『ふざけるな!!!』

 

 

 

 闇がより強く、光がより強く吹き出す。

 

 

『闇なんて、悪なんてもんは消えていいんだよッ。テメェはそれを滅ぼす者ッ、俺は滅びるべきもんでいいんだよッ。我が儘言うなセレナ!!』

 

「我が儘言ってるのリュウだよッ」

 

『!』

 

「私は、私は………」

 

『………黙れ』

 

 闇が、紅を交え、吹き出す。その姿が代わりかけるほど、セレナを睨む。

 

『俺は、俺は誰も救わないッ。この世界には消えるべきもんだってあるッ』

 

「それは貴方じゃないッ、あったとしても、それはリュウじゃ」

 

『それを決めるのはオレだッ』

 

 吹き荒れる中で、スレイ達は距離を取るが、それを平然と見るのは、アドリビトム。

 

「おいっ、すぐに離れるんだ!!」

「ゲーテの闇に触れれば、どうなるか分からないぞっ」

 

「はっ、問題ないわよ」

 

 リタは鼻で笑い、側にいる。

 

 カノンノも静かに見る。その瞳はセレナと変わらない。

 

 クラトス、セレシウスも変わらず、それを静観する。

 

『………なんでだ』

 

 もはや姿が見えないほど、闇が深く、紅い眼光だけが見える場所。その眼の先にいる、輝きを見る。

 

『なんでテメェらは俺なんてもん、信じる………俺は、信じていない』

 

「………」

 

『………俺は』

 

 

 

 その時、闇と光は上を見た。

 

『プリズムソード』

 

 

 

 光の刃が放たれ、地面に刺さる。

 

 全員がその場から離れ、セレナはリュウと共にそれを見る。

 

「誰!?」

 

「お前は………ユグドラシル!?」

 

 天使の羽根を持つ男に、クラトスは叫ぶ。

 

「知ってるの?」

「天使の種族で、一度コレットを攫いに、ミブナの里を襲った男だ」

「何故そんなことを」

 

「天使と言う種族を守るためだ………」

 

 そう静かに構える男、ユグドラシルはそう告げる。だが、

 

「なるほどね、帝国を始め、大抵の国々は、種族差別は前々からあるからね。カイウスのレイモーンの民を、リカンツって言うほどに」

 

「人間と言う野蛮な世界を捨て、天使が統べる世界を作る。その為に数多の術を探していた。無論ディセンダーの力である、レイディアントのこともな」

 

 そう言い、翼を広げる中、憎々しげに周りを見渡す。

 

「まさか同胞が守っていたとは」

 

「お前、レイディアントをどうする気だ!?」

 

「破壊する」

 

 それに静かに告げ、ディセンダーであるセレナを見る

 

「だがその前に、人間を救う者である、ディセンダーを滅するッ」

 

 無数の剣が放たれるが、その光を砕く闇がいる。

 

「リュウ………」

『………』

 

 その様子にも、静かに、

 

「醜い者だ、ゲーテ………人間が生み出した負の化身」

 

『………ばかばかしい』

 

「なんだと」

 

 そう言う闇は、静かにユグドラシルを睨む。

 

『テメェ、天使が統べる世界を作ると言うがな。俺からすれば変わらない、なにもかもな』

 

「変わる、変えてみせる。野蛮な人間が溢れる世界に安息なぞないッ、天使のみにより、この世界を統べ、この世界に真なる平穏の世を創り出すッ」

 

『………クッハ』

 

 それは大笑いした、ただしたすら、笑い出した。

 

「………なにがおかしい?」

 

『無駄だ無駄、テメェのやることはただの無駄だ』

 

 それは分かる、ただひたすらに、

 

『テメェの言う、野蛮な人間ってのは共感する。だがな、俺からすれば全てそうだよ』

 

「なにを」

 

『天使が統べようが、ガジュマが統べようが、レイモーンの民が、クリティア族だろうが、もはや、どんな種族が世界を統べようと、命ある世界に、永劫に平穏なぞあり得ないッ』

 

 だからおかしいと笑うが、ユグドラシルは不適に笑う。

 

「私なら、天使なら作れる。いまこの島を囲もうとしている、野蛮の人間なんぞよりもな」

 

「!?」

「それはまさか………帝国」

 

 アリーシャが青ざめる中、闇は静かに笑うのをやめ、ユグドラシルを見る。

 

『………そうかい、野蛮な人間に、この島を襲わせるように仕組んだか』

 

「心が読めるのかゲーテ。だが、私は奴らが血なまこになって追う船がある場所を教えたに過ぎぬ」

 

「貴方は」

 

「この島は一部の天使達から聖域として、如何なることがあろうと語ることは禁句とされた場所。ここが人間の手により破壊されれば、我が言葉に賛同する同胞が現れるだろう」

 

「ここの人達はどうする気だっ」

 

「無論、私が救う。我が意志に従うのならな」

 

 それに黙り込む闇、だが、

 

『だから無理なんだよ』

 

 それは、静かに、

 

『んなもん朝っぱらから分かってたっての』

 

 その瞬間、集落の側にバンエルティア号が流れ込み。準備終わったように、ジェイドやロイド達が流れ込む。

 

「リュウ、言われたとおり少し攪乱もしてたから、時間は稼げるぜっ。人数の数も確保できる」

「全く、ヒトの負が聞こえるのは、ほんと役立ちますね~彼らもここのことも、全て把握してますよ」

 

 それに驚くユグドラシルに、くっははははと笑う。

 

「貴様………」

 

『俺は、ゲーテだぜ? この集落に住まう者達から聞こえる負の声は、しっかり聞こえていたし、囲む船員達の恐れからの声も、しっかり聞こえてた』

 

 そう言いながら、静かに剣を構え、闇は疾駆する。

 

『テメェはここで終われッ、エセ救世主!!』

 

 そして闇が迫る中、

 

『!?』

 

 すぐに急ブレーキをかけたが、

 

「遅いッ、時を止まれ!! タイム・ストップッ!!!」

 

 モノクロの空間が現れ、それに一番に止まったのはリュウ。

 

「なんだ!?」

「時の魔術!? 時を止める空間を作る魔術ですっ」

 

 ミントの叫びに、ユグドラシルは叫ぶ。

 

「せめて邪悪なるものである貴様を滅し、私の正しさを証明するッ」

 

「! リュウっ」

 

 セレナとカノンノが駆け出すが、

 

「遅いッ」

 

 腕に光が集まり、それが刃のように闇へと迫るが、

 

『ぬるいッ』

 

 闇はモノクロの世界を壊した。

 

『いい加減にしてもらおうか?』

 

 ユグドラシルを捕まえる腕が、闇から現れる。

 

「………えっ」

 

 その腕は、人の腕ではなかった。

 

『人間も、天使も、獣人も、如何なる生命、命だろうが、世界にそんなものが溢れる限り平穏なんてものは、無いッ!!』

 

 姿を現すのは、ドラゴンのような翼を広げ、鎧のような外装を纏い、刃のような髪を持つ。魔獣のような姿。

 

『俺は、俺はゲーテッ。ゲーテでいいッ、人間なんてもんじゃなく、命なんてもんじゃなく、ただ邪悪でもいい。そんなものであるよりも、俺は化け物の方がマシなんだよ!!!』

 

 ユグドラシルを握りしめ、骨を砕き、それは吼える。

 

 その姿はまさに、破滅の化身であった………

 

『俺は、破壊の存在で、いいんだよ!!』

 

 そう叫び声を上げ、飛翔した。




 リュウ・ゲーテモード。

 鎧を着た魔竜であり、人の形に似た何か。巨大な腕と剣を持ち、左右の色の違う瞳を持つ。

 刃の髪は伸縮自在であり、鎧は胸プレートや、ブーツを着ているようではあるが、肉体と一体化している。衣類は着ているように見えるが、黒く染まっているため、一つに見える。

 飛翔でき、森羅万象を弱らせ、世界の悪意を纏う。

 その姿は、もう人間ではない。

 お読みいただきありがとうございます。


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第19章・魔竜飛翔

 消えない。

 一人の少女の叫び声。

 消えない。

 背を向けた家族への罪悪感や後悔。

 消えない。

 彼らの叫び声、彼女の、あの子の顔が、消えない。

 消えないッ!!

 もういい………

 消えてくれッ!!

 俺はもう………人間じゃない方がいい………


 黒い魔竜はユグドラシルを倒し、輝く光を睨む。

 

『その姿、まさかゲーテになったのか!? あり得ない、人の身でそこまで染まればただですまないはずだ!?』

「リュウ………」

 

 だがそれは安定している。それに手足を見ながら、それは、口を開く。

 

 笑う。

 

 ワラウ。

 

 ただ笑った。

 

『あーーーそうだよっ、なんでヒトなんてもんにならなきゃいけない!? 他人を信じず、他人を疑い続け、ばかばかしい差別で自己満足する命なんてもんに、なんで成ってなきゃいけない!! 俺は始めから命なんてもんじゃないッ、そんな綺麗なもんじゃない。ああいいよっ、別の命へ、憎み、あざ笑い、見下す。んなもんであるのなら、化け物の方がいいじゃないかッ。やっとだ、やっと忘れられるッ。やっと、忘れられるんだッ。あの家族のことが、やっと忘れられる!!!』

 

 そんな事を言いながら、翼を広げ、魔竜は飛翔する。

 

 その先はどこだろう。セレナ達は唖然になりかけたが、

 

「「まさか」」

 

 カノンノとセレナはすぐに気づく。

 

 

 

 帝国軍の船はまた一つ落ちる。

 

 聞こえてくる声は理不尽な嘆き、苦しみ、だが届かない。

 

『落ちろ落ちろ墜ちろッ。略奪される側へとッ、墜ちていけ!!』

 

 炎の中でそれは笑う。無数の魔術を尾で薙ぎ払い、ブレスを吐き、全てを火に包む。ああそうだ、これこそが自分だ。

 

『嘆き、懺悔し、後悔しながら………消えていけッ』

 

 闇が剣のように振るわれる中、竜巻が放たれるが、それを放つ男を見て、笑う。

 

「ふざけるな………フザケルナアァァァァァァァァァァァ」

 

 それにあざ笑うように、

 

 

 

『殺ス殺すコロス殺すッ』

 

 口のない口が開き、刃へと噛みつく。それを引きずるように刃を無理矢理、負の力で研ぐ魔竜。

 

 刃には、邪悪な、禍々しい力が宿る。

 

『魔竜・滅神剣ッ』

 

 

 

 全ては暗闇へと墜ちていく。

 

 

 

 セレナ達は遠くからそれを見る、海に墜ちていく帝国軍を見ながら、魔竜の笑い声を聞く。

 

 だけど、

 

「………」

 

 アドリビトムだけでなく、何故か数名、アリーシャ達は悲しそうにそれを見た。

 

「泣いてるみたい………」

 

 マルタの言葉に、誰もが何も言えず、その光景を見ている。

 

 泣きじゃくる子供のように、剣を振るい、火の粉をはき出し、暴れる魔竜。

 

 それにセレナ達は急ぎ、バンエルティア号を動かそうとするが、

 

「!? 危険だっ。いま彼は闇を吹き出しているんだ!! ただのヒトが近づくだけで倒れるぞ!!」

 

 ミクリオの言葉に、ニアタもまた頷く。だから帝国軍はほとんど動かず、倒されているんだ。

 

 だが、

 

「なら倒れなきゃいいだけだッ」

 

 ロイドの言葉に、アドリビトム達はすぐに動く。

 

「彼奴はバカだけどな、仲間なんだ」

 

「ぶっきらぼうで天の邪鬼で」

 

「だけど料理当番とか、言われたことや任されたことはちゃんとやる」

 

「誰よりも仲間のことを見てくれていて、戦う」

 

「俺達は」

 

『彼奴の仲間だ』

 

 その言葉にアリーシャ達は黙り、そしてセレナは、

 

「………そうだよ」

 

 嘆くように船を壊し、闇を纏う魔竜を見る。

 

「あの人は………私の、私達の大切な、仲間だ!!」

 

 

 

 アアウルサクナイ、ヤットシズカダ………

 

 真っ暗な世界でやっと、やっと忘れられた。

 

 モウイイ、モウイイ、モウ………

 

 その時、輝く光が目に入る。身体を焼く、聖なる輝きだ。

 

 オワレル………ヤット、ヤットオワレル………

 

「終わりじゃない、始まりだよ」

 

 完全に竜と化したそれに、光は話しかけてくる。

 

 ダレダ………オレをオワラシテクレナイノナラ、壊スッ、滅ボス、殺スッ。

 

 巨大な髪の刃が振り下ろされるが、無数の矢や刃が止め、光が近づく。

 

「リュウ、貴方が何に傷付いているか分からないよ………だけど」

 

 輝きが側に来る。その側に、桜のようなピンクの髪が見えた。

 

 ヤメロ………オレハ、俺はッ

 

 闇を纏う剣を振るうが、輝く剣がそれを止めた。身体が、全身が砕け、焼けていく。滅びる。やっと終わる。ああそうだ。

 

【救エナイノナラ、助ケラレナイノナラ、守レナイノナラ】

 

 

 

 俺は滅びたい。

 

 

 

 その言葉が響いた瞬間、

 

「………やっと本音が聞けたな」

 

 ユーリがニヤリと笑い、そして、

 

「だけど、そんな願いは聞き入れないよッ、リュウ!!」

 

 クレスは剣を構え、スタンも叫び声を上げ、カイルも向かう。

 

「やっと聞けた仲間の願い、だけど俺達はッ」

 

 氷の刃を纏い、ヴェイグが迫る。

 

「届けッ、俺のスピリアッ」

 

 誰もが、魔剣を防ぎ、魔竜は吼える。だけど、一人の少女が前に出る。

 

 

 

 その瞬間、魔竜の力が弱まった。

 

 

 

 来ルナ。

 

 

 

 響く声、だけど、少女は首を振る。

 

「届いて、私の、私達の想いッ『ラヴ・ビート』ッ!!!」

 

 光の音色が魔竜の鎧を砕く、砕いた側から闇が吹き出すが、それに続くように、

 

「私達の輝き、私は救う………貴方を………『レイディアント・ブレイカー』ッ!!」

 

 光が連なり、魔竜を飲み込む。

 

 その光の中、魔竜はただ、

 

 

 

 オレハ………俺は………

 

 

 

 ―――――――――――――――――

 

 

 

 孤児院のボランティア、孤児院と病院が関係があり、そこで清掃員のようなことをしている。

 

 多くはサボった者がいる中で、ゲーテは律儀に手伝っていると、流れるように急患が来た。

 

 近くのコンサート会場で、大規模な事故が起きた。

 

 逃げまどう観客、その中には前の人を押しのけたり、踏んででも我先へと逃げ出そうとする者達が多く、悲惨なことになっていた。

 

 だが他人の痛みなぞ、関係ないため、何も思わず、手を貸すだけだ。

 

「血が足りないっ、誰かっ、この中にO型の方はいますかっ!?」

 

 医師か看護士、看護婦? いまではもう分からない。興味もない人が叫ぶ。

 

「あっ、自分O型です」

 

 別に気にせず言うと、すぐに手を取られた。

 

「お願いしますっ、手術のために血が足りないんですっ」

「お願いしますっ、響を、娘をお願いしますっ」

 

 父親らしき人が手を掴み、懇願してくる。訳が分からない、何故そこまで赤の他人、子供に頭をそこまで下げられる?

 

 訳が分からないまま、血を提供した。

 

 

 

 それから、間をおいてはあるが、血を提供し続けた。自分にもわからないが、なんとなくだった。

 

 そして少女は目を覚ました。両親らしき人から涙を流しながら感謝された。心がわからず気持ち悪かったはずだった。

 

 だけど、

 

「よかった………よかった………」

 

 ガラス越しでこちらが見えないだろう。両親と笑い合う少女を見て、不思議と嫌な気にならなかった。

 

 いつも一人がよかった。人気のない場所ならなにも聞こえない。人がいれば聞こえるのだ、人の悪意を。

 

 だから寝るか一人になるかが自分の日常に、血を提供すると言う不思議な行動が増えて、それが終わったことに、少しだけ不思議な気分になる。

 

 初めての感覚だったから鮮明に覚えている。

 

 これはなんだ? これは………

 

 

 

 答えが得られないまま、ある日、少女に対する悪意が頭の中に流れ込む。

 

 助かった者達の中には、莫大な保険金が入ったからだ。だからこそのもの。

 

 だが自分には分かる。これは悲しみなどではない。現実を受け入れられない者達の、間違った認識でもない。

 

 

 

 ただの命の醜い心だ。

 

 

 

 まだ大切な人達を失った人達を心を弄び、理解もせず、考えもせず、当事者全ての人々の思いなぞ考えもしない、ただの醜いものだ。

 

 そんな思いの所為で、彼ら失った者達は、失わなかった者達に憎悪した。

 

 世界はそれを、面白がった。ああそうだ、面白がった。

 

 流れ込むそんな声は、悲しみのあまり彼らに当たる彼らすら飲み込むほどの声が、世界に溢れていった。

 

 だが、俺は分かる。あの子は自分のために、他人を犠牲にしていない。

 

 頭が壊れそうになる、おかしくなる。違う、世界がおかしいのだ。人が、命が、そのもの全てがおかしい。

 

 そう考えていたら、声の中に彼女の住所の言葉があった。

 

 気になって見に行ったら、最悪だった。

 

『ごめんな響………』

 

 あの父親が娘達を置いて出ていった。

 

 はあ? あんたは娘が助かった泣いて喜んでいたじゃねぇかよ。

 

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 

 少女の嘆きが頭を叩く。

 

 本当はこんなことをしたくない、弱い自分を罵る父親。

 

 娘や残された家族の叫びが、俺の中に刻まれた。

 

【これがお前だ】

 

「………」

 

 暗闇の中に、左右の目の色が違う自分が言う。

 

【こうなるのなら見捨てればよかった。助けられないのなら、救えられないのなら、守れないのなら、何もしなければ良かった】

 

「………全くだ………」

 

【もう嫌だ、聞きたくないんだ。死ねよッ、死んでくれよッ。もう嫌だ、もう思い出したくないッ、聞きたくないッ。俺は、俺はもう終わりたい!!】

 

 剣を持つ俺を見ながら、何も思わない。

 

 ゲーテと言われ、災厄だのと言われるが、ヒトが、命が、世界が醜い。

 

 そこで生きるくらいなら、あり続けるぐらいなら、それであると言うのなら、

 

「消えた方が、生まれくることの方が」

 

 そう思ったときだった。

 

 光が横切った。

 

 救世の光でも、桜色の髪の光でも無い。

 

 あの病室で見た光。

 

【終われッ、これで俺は】

 

 振り下ろされた剣は、

 

 甲高い音と共に防がれた。

 

【!?】

 

「………ははっ」

 

【何がおかしい!?】

 

「そうか………俺は………救われたかったのか」

 

 そうかと言いながら、剣を振るい、はじき返す。

 

「………ばかばかしい」

 

 何してるんだろうか? 本当は何がしたい? ああ………

 

「本当は俺は救いたかった、守りたかった、助けたかった………」

 

 あの子を、あの家族を。

 

【俺がそんなことできないッ、だからあの家族は】

 

「………違う」

 

 流れ込むのは、馬鹿馬鹿しいギルドの面々。もしもあの時の彼らがあの場にいれば、きっと、

 

「きっと父親の手を掴んでいた、きっと諦めるなと言って、つなぎ合わそうとした。俺が、俺ができないことを、きっとしていた」

 

 俺にはできない。誰かを救うこと、守ること、助けること。きっと、彼奴らなら、

 

「なあ俺、彼奴と過ごしてて楽しいか?」

 

【そんな訳あるか、彼奴らは、誰かを救う存在だッ】

 

「ああそうだ………俺がいれば、きっと彼奴らをここに引きずり込むだろう」

 

 何もない暗闇、命の醜い声が響く世界。ここが俺のいる世界。

 

「だけど………」

 

 魔竜と化した俺に向かっていったバカ達を思い出して、微かに笑って、目の色を変える。

 

「それを決めるのは彼奴らだろ?」

 

【お前………巻き込む気か!? 彼奴らを、ふざけるなアァァァァァ】

 

 向かってくる俺は、静かに、

 

「ふざけてる? ふざけてるのはテメェだろ。お前は結局、彼奴らを助けたい俺なんだよ」

 

 そう言って突き刺した。闇が膨れあがり、泥のような黒が流れる。

 

【や、やめ………】

「お前は俺だ、いまだに、誰かを救いたいと願う俺だ」

【………】

 

 息を飲む俺に、俺は、

 

「俺は誰も救わない、助けない、守らない………」

 

 だけど、

 

「彼奴らの側にいることぐらい、いいだろ………」

 

 俺なんか救いたい、仲間と言うバカ達だ。

 

「後悔するならさせてやろうぜ………しないだろうがな」

 

 それまで俺は、

 

「………戻れはしない、だけど、今度は………」

 

 泥の中に消える俺を見ながら、ただ静かに、呟いた………

 

 

 

 ――――――――――――――

 

 

「………医務室か」

「「………」」

 

 何故か眠っている二人。カノンノとセレナを見ながら、よく見れば、

 

「………ヒト多い」

 

 そう、医務室だというのに、それ以外もいる。本当に馬鹿馬鹿しいと思いながら、出ていく。

 

 アニーすら眠っていて、静かに出ていく。

 

 夜の甲板、星空の下、キバと世界樹を見る。

 

「………!」

 

 気配がした方を見る。そこにいるのは、

 

「ラザリス」

 

「おはよう、リュウ」

 

 微笑みながら、静かに近づくラザリス。そして、

 

「君が目覚めるのを待っていた、あの力、ヒトが生んだ醜い力………酷いよね、自分達が生んだのに、君を否定して」

 

「………」

 

「ねえリュウ、僕の、ジルディアのディセンダーになって」

 

 そう言って抱きついてくるラザリス。

 

「君なら分かるはずだッ、世界の醜さ、ずっと、ずっとずっと苦しんだ君なら分かるはずだッ。僕の世界ならそんなものは無い!! この世界、どの世界より素晴らしい世界を創り出す!! だから」

 

 離れて手を差し出すラザリス。その様子を見ながら、

 

 

 

「………くだらない」

 

 

 

 そう言い、逆に手を差し出す。

 

「? なにを」

 

「お前の言うとおりだ、ここに来た頃の俺なら迷わず手を取ってたよ。もう疲れた、ヒトの心、命の声なんて………」

 

「ならッ」

 

「けどな………」

 

 僅かに笑い、闇を纏う。それは鎧、魔竜ゲーテの姿。

 

『こんなんでも仲間と言うバカがいるんでね、付いてこられても困るからな。悪いが断る、逆に言おう。テメェがこっちに来いラザリス』

 

 それに酷く狼狽するラザリス。何度も首を振りながら、こちらを見る。

 

「あり得ない。あり得ないッ」

 

『もういいさ、期待せず一緒にいる。後悔するのはこいつらだ、なら、それまでいるだけさ』

 

「君はいいって言うのか!? また傷付くのにッ、なのに」

 

『構わないさ、俺は誰も救わない、守らない、助けない。なら』

 

 

 

 自分も救わない、守らない、助けない。

 

 

 

『このまま永遠を、暗闇の中で狂い笑いながら生きるさ』

 

 壊れてるなと自分で思いながら、ラザリスは黙り込み。

 

「それでも………僕は諦めない、君は、君は僕のディセンダーだッ!!」

 

 叫び声を上げて消えていった。それと共に闇を解き、馬鹿馬鹿しいと空を見る。

 

「俺に救いを求めている時点で、お前は俺と同じ………救われたいんだろ? ラザリス………」

 

 ならやることは分かった。

 

「俺はお前を救わないが、ここの奴らなら、お前を救うさ。腰巾着並みに、俺はいるよ………ここにな」

 

 朝日が昇る。憎々しい光と共に、

 

「「リュウっ」」

 

 憎々しいほど、自分を心配する二人が現れ、呆れる。

 

「………おはよう」

 

 変わらず返答したが、二人は何故か頬を赤くした。

 

「どした」

「「う、ううん、なんでもないっ」」

 

 そう言って、アンジュから迷惑料としてよけい働けと言われ、セレナはレイディアントを手に入れ、世界を救うための仕事が始まり出した………




甲板で一人たたずむ彼がいた。

彼女と共に向かい出向く際、ラザリスが彼を誘う。

だけど彼は笑いながら断った。

彼は笑う、苦しいのに、辛いのに、彼は笑って、彼女に手を差し伸べる。

彼女は消えた。だけど彼は私達を、みんなを信じる。

だけど私達も信じる、そんな彼も、その中にいると信じて、彼の下に出向く。

「………おはよう」

そう微笑んで言ってくれたとき、私………私達の心が弾んだ。

ああそうか………

私は、本当は誰かを助けたいと願い、それでもできないことに苦しんでる。

だけど諦めない、諦めても、まだ可能性を信じる。不器用な彼が………

大好きなんだ………


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第20章・闇と共に

そろそろ終わりに近いです。


 静かに、彼は聞く。

 

「後悔しても知らん」

 

 それに彼らを代表するリーダーは、

 

「いまさらよ」

 

 そう微笑みながら、はっと鼻で笑い、

 

「なら、とっとと材料集めしますか」

 

 こうしてアドリビトムは活動を再開する。

 

 

 

 材料集め、ツリガネトンボ草のドクメント集めに翻弄する日々の中、キバが増えたりとする中、封印のための準備をするが、

 

「スレイ達が入ったおかげでだいぶ早いな」

「ああ、俺達の島に、貴重種があってよかったよ♪」

 

 そう言い、攻撃のカードを切り、四人が攻撃のカードを重ね、最後にリュウがまた攻撃のカードを切り、スレイはうっとうなり、攻撃を受ける。

 

「よく考えたら、カードゲームをリュウとやるのは」

「今頃遅い」

「あんたら研究室で遊ばないで欲しいんだけど」

 

 リタが睨む中、スレイ、リュウ、ユーリ、ゼロスは顔を上げる。

 

「まあまあリタちゃん♪ そんな顔してたら可愛い顔が台無しよ~♪♪」

「帝国の方はアリーシャが入ったうえ、サレは裁判行きで本国。これによりアリーシャ派閥・真が民衆のために一気に動き出したし、後はツリガネトンボの進化種やそれに関係する親戚の草木からドクメント回収だが、帝国が無いんだ。他ギルドの仕事だろ?」

「あんたらねぇ………」

 

 リタは呆れながら頭をかく中、そこにシェリアが入ってくる。

 

「リュウいる~?」

「ん、シェリアか? 何か用か」

「私じゃなく、カノンノがね。依頼よ」

「は?」

 

 そう言いながら、会話しながらゲームしていたが勝ち、また集めて切る。

 

「おい待てリュウ先生、よく見ればシャッフルも手加えてるなっ」

「はっ!! 今頃遅いっ、今晩の肉は俺のもんだ」

「イカサマはいけませんっ」

 

 そう言ってゲームは中断され、連れてかれる。

 

 連れてかれた先に、カノンノ、セレナ、ヴァンがいて、なんだ?と思う。

 

「お疲れさま♪ リュウ依頼よ、世界樹、カノンノのドクメントダイブへの」

 

 

 

 聖地ラングリース、世界中のマナが集まり、マナの高濃度は高く、浴び続けていれば肉体と魂が別れてしまう。

 

 ボルテックスと呼ばれる場所がある場所を歩く。理由は一つ、世界樹がなぜラザリスの世界を取り込んだのかを知るため、カノンノのドクメントへダイブする。

 

 カノンノ、彼女はどうも、他世界の情報を多く持ち、かつニアタの世界『パスカ』のディセンダーと同じ容姿。だがパスカの情報、遺伝子が無いはずのルミナシアにはいないはずだった。

 

 だがもっと根本的な部分で、カノンノと言う情報は、世界に深く関わっている。

 

 それがニアタの予想であり、カノンノもそれで自分が持つ、世界を越えた知識の謎や、もしかすれば世界樹の意志が分かるかも知れないと、ここに来た。

 

 ディセンダーであるセレナ、ゲーテであるリュウがいれば、幾分かマシらしい。

 

「確かに、成り易いな」

「………うん、レイディアントから、不思議と力を感じる………」

 

 そう言いながら歩く二人。カノンノもまた歩いていると、

 

「って、カノンノっ!!」

『えっ?』

 

 セレナは驚き、ヴァンも気づく。

 

「落ち着けカノンノっ、肉体と魂が別れかかってるっ」

『えっ? あっ!?』

 

 カノンノの視界では、普通とは違い、膨大な黒いドクメントを持つリュウ。黄金のドクメントを持つセレナと、他の人のドクメントと、自分が見える。

 

「リュウ、カノンノの意識が見えるの!?」

「いま手を持ってるっ」

『ど、どうしょうっ、戻らなきゃ、戻らなきゃ!!』

「落ち着くように言ってくれ、心が肉体に戻ったら、頭より気を取り込み、腹にため、そのまま足より流せ。心身と自然をひとつにする、武術の基本だ」

「ああ分かった、どうも俺の声以外届いてない。まずは落ち着けカノンノ」

『う、うんっ』

 

 その時、しばらく手を繋がれ、しばらくするとリュウはカノンノへと振り返る。

 

「落ち着いたか」

「う、うん………」

 

 そしてヴァンが言ったことを伝え、落ち着かせ、先に進む。

 

「カノンノ、大丈夫?」

「うん、ありがとうセレナ」

「お前は繋がりを知っているようだな、知らない者は何度しても出来ないことなんだがな」

「はっ、繋がったら最後のような気がするが」

 

 それに頬をふくらましてぽかぽかと叩かれるリュウ。

 

 しかしと、

 

「………繋がり、ね………」

 

 そして歩きながら、ボルテックスと言われる場所へと近づくが、

 

「………負?」

 

 その言葉と共に、誰かがいる。

 

 暗闇の中、一人の少年が立っている。

 

 それに舌打ちをするリュウ。みんな、ニアタもまた驚く。

 

『彼は』

俺だ(・・・)

 

 そう言われ、振り返るのは、リュウを幼くしたような姿。

 

 着ているのはただの上着とズボン、目立つものもなく、ただ違うのは目の色。

 

 紅と金の瞳で、リュウを睨みながら、闇を纏う。

 

【………なんで生きてるんだお前】

 

「ちっ、テメェこそ、いい加減にしろ」

 

【いい加減にするのはお前だッ、なんでいる? なんで生きてる!? お前は消えろッ、死ね!! 欠片も散りも残さずッ、存在自体消えればいい!!】

 

 その言葉と共に、闇が爪のようになり、黒い剣を持つ少年。

 

【なんでいるんだお前はッ、なんで!!】

 

「もう一回、壊すッ」

 

 そう言い構えようとするが、カノンノ、セレナが前に出る。

 

「お前ら」

「お願い」

「話させて」

 

 そう言う二人に、ヴァンも剣を構えようとしていたが、やれやれと首を振り、構えは解かないが、それだけだった。

 

 それを見て、舌打ちして、目を瞑る。

 

「ありがとう」

 

 そう言って、二人が近づく。それに酷く動揺する。

 

【来るなッ】

 

 闇が、負がマナを汚染し、風のように放たれるが、セレナが浄化する。

 

「セレナ」

「大丈夫、私だって、ちゃんと話したいから」

 

 そう言って微笑み、手を握りながら、【彼】に近づく。

 

【来るな………】

 

 それに怯えるように、

 

【来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るなッ】

 

 怯えるように、負の風を放つが、輝く光の前になにもできない。

 

 その様子を見ながら、静かに近づく。

 

【来るな!!】

 

 剣を振るい上げ、斬りかかるが、それを、

 

 

 

 避けなかった。

 

 

 

 それは途中で止まり、剣が、闇が消える。

 

 ただ静かに、頭をかきむしり、信じられないものを見るように睨む。

 

【なんでだ………なんでだよッ!! 世界は、人は、生き物は、命なんて醜いものなのに、なんで受け入れるんだ!!!】

 

 そう叫びながら、リュウを睨む。

 

【なんでだ、なんで平然としていられる!? お前が、お前があの時、あの時、あの時? あの時になにすればよかったんだ………】

 

 虚空を見ながら、ただ叫ぶ。

 

 それにリュウは見ているだけだった。

 

 これは、ただ、

 

【救いたかった………】

 

 そう、

 

【あの時、初めて誰かと関わって良かったと思った………気持ち悪かった………だけど、悪い気はしなかった………】

 

 だけどと………

 

【だけど俺は救えなかったッ、守れなかった助けられなかった!! だけどッ】

 

 泣き叫ぶ、ことすらもうできない。もう枯れた。枯れ尽くした。

 

【俺は壊すことしか、傷付けることしかできないじゃないかッ!! もう嫌だ、聞きたくない、聞きたくないんだ!! もう………もう聞きたくない………】

 

 そう言いながら、頭を抱えてうずくまる。

 

 舌打ちするリュウ。これが本音だと思うと嫌になる。

 

 耳を防ぎながら、泣きそうな顔で、流れ出ない涙を、叫びを言い続けた。

 

【俺は………終わりたい………】

 

 それに二人は、静かに手を繋ぐ。

 

「もう大丈夫だよ」

「私達が側にいる」

 

 それに顔を上げるが、

 

【………嫌だ】

 

 手をふりほどき、頭を振り回しながら距離を取る。

 

【もう嫌だ!! 壊したくない、壊したくないんだ!!】

 

 それに二人は聞きながらも、手を伸ばす。

 

【やめろ、来るな、来ないで、来ないでくれッ】

「もう一人じゃない、貴方は」

「貴方が教えてくれたんだよっ、私が一人じゃないことや、みんなのこと。みんなが教えてくれた」

【違う、俺はいらない!! 繋がりなんていらないッ、絆も仲間も家族もいらないッ!! 壊したくない!!! 一人がいい、もう聞きたくない、壊したくない!!】

 

 だが、二人は抱きしめた。

 

「「壊れない」」

 

 そう言って、闇は大人しくなる。

 

 そして、

 

【あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ】

 

 頭が壊れるような叫び声を上げる、抱きしめられた腕を放そうと、逃げようとする。

 

 殴るように、だけど子供がだだをこねるように、そんな光景。

 

【嫌だ、俺は、俺はッ。俺は!!】

 

 ああそうだよ………

 

 

 

【みんなを壊したくない!!】

 

 

 

 それでも二人は離さなかった。

 

 その光景を見て吐き捨てる。

 

「もう諦めろ」

 

 そう言いながら、剣を持ちながら、静かに迫る。

 

「何度も嫌になった」

 

「だが自分のことはどーでもよくなって、辛くはなかった」

 

「だけど」

 

「あの家族のことだけは辛かった」

 

「苦しかった、頭がおかしくなった。元々おかしかった人生が、その時本当におかしくなった気がした」

 

「ああそうだよ、俺は救いたかった」

 

「誰かを幸せに出来たあの瞬間が、忘れられなかった」

 

「だけど俺はできなかった」

 

「それが俺だと理解した」

 

 そして、目の前に立ち、そして、

 

「だけど、それでもいいって言うバカ達が回りにできちまった」

【諦めろと………言うのか………お前は、俺はッ!?】

 

 それにニヤリと笑い、静かに、

 

「「「それがアドリビトムだ」だよ」なんだよ」

 

 そう言われ、闇の俺は全ての力を抜いた。

 

【………バカだ】

 

 そう言いながら、静かにリュウを見る。

 

【………忘れるな、俺は闇だ】

「忘れるか、俺は絶望だ」

 

 その瞬間、子供は竜へと変わる。全てを壊し、世界に災いを撒く、それでも、誰かを救いたいと叫んだモノ。

 

【道くらいは造る、守れよ】

「できるか」

 

 そう言いながら、

 

「俺がするのは破壊だ、俺以外の災いのな」

【………だな】

 

 闇が霧散し、門のような入り口を造り、リュウの中に入り込む。

 

「は~~めんどくせぇな」

 

 そう言いながら、微笑む二人。後ろにいる男を見る。

 

「ここの守りは任せろ」

 

『ここからはボルテックスに、彼が造ってくれた道を使いはいる。準備はいいかい?』

「問題ねぇーよ」

「うんっ」

「行くよ………私を知るために」

 

 その時、セレナとカノンノは、リュウの手を握る。リュウは呆れながら、

 

「………はあ」

 

 負の翼を生やして、目を変え、髪を変える。

 

『んじゃ、行くか』

「「うんっ♪♪」」

 

 そして彼らは羽ばたいた。




ある意味もう諦めたように、繋がりを受け入れました。

それでは、お読みいただきありがとうございます。


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第21章・生きる意味

スピード上げるぜ。


 それは彼からすれば悪夢だった。

 

『うわ、カノンノいっぱい。やだ………』

「ひどいよっ!!」

 

 そんなこと言いながら、羽ばたく魔竜は、光の中を進む。

 

 共に進むセレナもまた、レイディアントを纏っている。

 

『多くの世界にカノンノ………その情報が。ニアタ』

『ああ、我々の知る世界だけでなく、これほどまで』

「暖かいな………」

 

 セレナがそう言うが、リュウは嫌な顔をする。ゲーデである彼からすれば、光はやはり相容れないモノらしい。

 

 そして、最も暖かく、桜のような輝きへとたどり着く。

 

 それと共に、

 

【………来たか】

 

 一人の黒い何かがいる。

 

『ここは、カノンノの記憶の最果てだ。彼は………』

 

『広い(そら)の中に瞬く光………受け継がれた記憶の、最も先にいる者』

 

 声が響く、女性の声が響く。

 

『ようこそ』

 

「あな、たは………」

 

『私はカノンノ、根元の世界樹』

 

 それに全員が驚き、ニアタが前に出る。

 

『なんと、根元の世界樹とな………そなたから、全て受け継がれてきたのか』

 

【その通りだ、魂のみの者】

 

『じゃ、テメェは』

 

【………気にするな】

 

『おい』

 

 それに根元の世界樹はふふっと嬉しそうに笑う。それにセレナは胸に触れる。

 

(あれ?)

 

『………彼と彼は違うわ、安心して』

 

 そんなことをセレナに言いながら、セレナは?を多く浮かべ、こちらもよく分からない顔をする。

 

『私の世界は地殻の変動で滅びを避けられなかった。だから私の世界の住人達は、全ての生命を一つにして、新しい生命の姿をとったの』

 

「すべてを」

「一つに………」

『………したのか?』

 

【………】

 

 それに苦笑する根元の世界樹。

 

【彼の世界は、全ての生命を一つにし、また新たな世界を生み出す生命になった。世界樹、それが答えとして。カノンノと言う、根元の世界樹は、その器にして種子らなるために選ばれ、成ったんだ】

『命をつなげるために、世界のすべての命を宿して、世界樹という、新しい生命の種子になったのよ』

 

「命を、繋げる………」

 

『そう、それが新しい可能性』

 

 多くの世界が生まれ、多くの可能性を学び、知り、繋げて生きていく。

 

 世界が一つだと寂しいから、助け合い、生きていけるように、ともに創造するために生まれていく家族。

 

「家族………じや、なんでラザリスの世界、ジルディアとルミナシアは」

『おそらく根本は同じでも、別れた道が違いすぎるためだろう』

 

【そうだ、根元は同じであろうと、枝葉は別れすぎた】

 

『理がそもそも違いすぎる所為で、相容れないもんになった、か………』

 

『光と闇、ディセンダーとゲーデである貴方達のように』

 

 そう穏やかな伝えながら、最後に告げる。

 

『さあ戻りなさい。貴方達は戻って『いまを』生きなければ………あなたは私、私の記憶、世界の記録が受け継がれた証』

 

「わたしが………」

 

『世界もあなたも、たくさんの受け継がれた命の上にあるのよ………生きなさい。最後に、ルミナシアの創造を見せてあげる』

 

 

 

 二人が泣きやむのを待って、リュウ達は帰還した。

 

 ロックスが食堂へ案内したりする中、リュウは報告するため、研究室へと出向いていた。

 

星晶(ホスチア)は世界樹、ルミナシアが理が違うジルディアを守る、ゆりかごだった」

 

 ルミナシアはいずれ共に生きられるように、家族を守るため、生み出した空間。それが星晶(ホスチア)であった。

 

 それを聞いた者達は全員黙り込むが、結局いまは変わらない。

 

 封印し、いずれまた共に生きられる日が来るまで、眠ってもらうしかない。

 

 

 

「………」

『気になるのかい?』

「ああニアタ、まあな」

 

 根元の世界樹の側にいた意識、魂がいた。

 

 黒く、濁ったそれは、もはやヒトでも無い何かであった。

 

 それでも根元の世界樹は、そばに置いていた。

 

「………ゲーデでは無いのは分かっている。だが」

『あまりに居続けていた所為で、ほぼ変わらない何かのように、我々は思った』

「………」

 

 正直分からない、ゲーデのようなそれはゲーデで無い。なにより、なぜ根元の世界樹の側にいるか、分からない。

 

「ん? そう言えばヒトが少ないが」

 

「あっ、黒剣士~もとい、リュ~」

 

「ロゼか」

 

 ロゼも最近はもはや派閥云々言ってはいられないため、ロゼとしてアドリビトムに入り、動いている。

 

 ロゼの話では、進行の恐怖の所為で、まだ無事の土地へと侵略行為しかけている国があり、また戦争が始まりそうであること。

 

 キバの進行を止める力、ディセンダーの力が、他の人にもあればいいと言う案が出て、何名かその為の準備に出ているらしい。

 

「ドクメントの技術を使えば、一応は可能らしいんだね。その為に準備が必要だけど」

「ま、俺には無理だな。根本が違いすぎる」

 

 ディセンダーの力なぞ持てない。この身はヒトじゃないと、分かり切ってるため、少しあくびをする。

 

「眠い、用が出来たら起こせ」

『分かったよ、毛布を』

「いらんいらん」

 

 剣を壁に掛け、椅子を合わせて横になり、数秒で寝る。その様子に呆れる。

 

「ここ一応ヒト多く通るんだけど、よく眠れるね」

『疲れているのだろう、彼も彼で、力を使っていたからね』

 

 そう言い、その光景を通りかかって見る者達は呆れながら、彼は休む。

 

 

 

 カノンノはいま、ドクメント。命を見ている。

 

 身体と心が別れた後遺症だろうか、そのおかげで分かった。

 

 ドクメントは命で、自分達は命と繋がり、そしていまを生きている。

 

 大切なことを知り、食堂を後にしたとき、彼を見た。

 

(………あれ………)

 

 黒く、膨大な量のドクメントが彼を囲っている。

 

 ヒトとも命とも違うほど、それは膨大にある。

 

(彼の命………彼のドクメント………)

 

 少しだけ手を伸ばした。その時、

 

 

 

 負が叫び、すぐに手を離した。

 

 

 

 それは悲しみだった。

 

 

 

 それは苦しみ、辛く、泣いていた。

 

 

 

 そして枯れ尽くしていた。

 

 

 

「………リュウ………」

 

 それでも、彼の側から離れる気が起きない。

 

「あっ、カノンノ」

「セレナ」

 

 と、毛布を持ったセレナが近づき、毛布を掛けるセレナ。

 

 側に空いている椅子に座り、少しだけ話して、セレナの歌を聴く。

 

(………あれ)

 

 その時、彼のドクメントは微かに輝く。

 

 まるで安心したように、歌を聴く。

 

 そしてカノンノは胸を押さえる。気のせいか、少しだけ何かを感じて………

 

 

 

「で、いまから転写実験を開始するのに、あのバカはどこ行ったの?」

「リュウなら自分はいらないだろって言って、どっか行ったわよ~」

「ちなみに、私らから戦争しそうな国のリスト持ってね」

 

 ため息を吐くリタとアンジュ。カノンノ、セレナは少しだけ顔を伏せるが、

 

「ところでロニはなんで縄なの?」

「ん、被験者だから」

 

 ハロルドを止めながら、誰が転写実験するか話し合い、そして、

 

「私がするよ」

 

 

 

 一人の男、否、魔竜は戦場を駆ける。

 

 それは恐怖からではなく、戦場と言うもので金儲けをする者達だった。

 

 故に、討つ。

 

 

 

 転写実験は危険がある実験。それでもリスクを恐れてはいけない。

 

 セレナとカノンノは二人並び、転写を始める。

 

 多くのメンバーが見守る中、カノンノが苦しみ出す。

 

「お嬢さまっ」

 

「カノンノっ」

 

 隣のセレナが叫ぶ中、静かに、

 

「わたしね………少し、セレナがうらやましいんだよ………」

「えっ………」

 

 

 

 魔竜はいつの間にか、子供の集団、少年兵にされた者達を守りながら、辺りを切り伏せていた。

 

『チィィィィィィィィィィ』

 

 

 

「セレナの歌は………彼を、リュウに安らぎを与えててね………うらやましいんだ………」

 

 そう言いながら、セレナも静かに、カノンノの手を握りしめながら、

 

「私も………カノンノが羨ましいんだよ。あの人の側で、いつもお話したりして」

 

 そう言いながら、二人は顔を上げる。

 

「………わたし、最も素敵なことを、いまから起こす………みんなと一緒に、未来を創りたい………彼に、その世界を見せたい」

「………うん、私も………みんなと一緒に、彼に見せたい」

 

 

 

『剣ノ世界ッ!!』

 

 魔物を切り払い、町を救う。ガキ預けに着たのに、何故にこうなった!?

 

『チッ、ゲーデってのはほんと、まあいい来いッ』

 

 黒い刃と邪悪な力。だが、

 

「………」

 

 一人の少年は彼を見る。人々を守り、前へと進むモノを………

 

 

 

「彼に伝えたいんだ………」

「うん、伝えるんだ」

 

 

 

「「みんながあなたのように、希望を灯して生きていける未来。輝いて生きていく世界を、見せたいッ!!」」

 

 

 

『邪魔を、するなあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』

 

 どんなことがあろうと引かず、町から町、なぜにこうなった?

 

『あー厄日だ………』

 

 面倒だから、山を切り裂いた。その姿に驚愕はする。おかげで人々は厄災から逃れられた。

 

 彼は厄災の前に立ち、その場に残った。

 

 怯えていたとはいえ、救ってくれた存在。

 

 誰もが礼を言えなかったことを、後から後悔した。

 

 だが彼は気にせず、考えず、ただ戦った。

 

 

 

「転写完了、気分はどう? 平気?」

 

「カノンノ?」

「少し………疲れた、かな?」

 

 そう言って、すぐにアニー達、医療班が出て様子を見るが、念のため一日安静と言い、全員が胸を下ろす。

 

「あっ、今日私が料理」

「それはいいですよ~今日は私達が作りますよっ」

「はい、任せてください♪」

 

 リリスとクレアがそう言い、ロックスもまたお任せよと言う中、カノンノとセレナは微笑む。

 

 みんなが和む中、シェリアが、

 

「だけどいいな~好きな人のために頑張るって………」

 

「「えっ………」」

 

 イリアがにやにやしながら、マルタはエミルで妄想を絶賛口にし、ルビアも二人をうらやむように見る。

 

「………なんの………」

「話かな?」

 

「あら、いまの話、どう見てもリュウが好きだって話に見えるわよ」

「「えっ………えっ!?」」

 

 ハロルドの言葉に、二人は真っ赤になり、普段はそう言う話に乗らないコハクなどの人達もわいわい言い、男達は圧倒される。

 

 年長者もその様子を見たりと、二人は、

 

「「あっ………」」

「ただいま~どうよいま」

「「わあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」」

 

 二人は即座に剣を取りだし、医務室の壁を破壊した。

 

 

 

「おい転写実験になにがあった?」

 

 闇を纏いながら問うが、

 

「あっ、男子言えば酷いからね」

「というわけですまない」

「この船は男女差別が酷い」

 

 その後、彼らはキバの側まで移動することになる。

 

 

 

「ぷは」

 

 シャーリィは何故か水の中で呼吸ができるため、特殊なスイッチなどが水中に隠されたダンジョンで活躍する中、何故か、

 

「「………」」

 

 二人がちらちらとこちらを見るので、リュウはどうしろと?と言う顔でシャーリィを見ると、シャーリィはいいな………と呟きながらこちらを見る。

 

 女の子分からない。気持ち悪い。

 

 

 

 そして転写による、ディセンダー能力の実験は成功し、彼らは帰還した。

 

 とある人達を助けて。

 

「はぁ………」

 

 夜空を見ながら、今日は今日で目まぐるしい成果が多く、少しだけ世界を見る。

 

 暁の従者は、もう一つの絶滅種。その菌糸らしい切り株を持っており、そこから話が盛り上がり、カノンノが、食べ物が生物のドクメントの一部になると言う情報から、それを食べていた生物から取れるのでは?となり、いま調べている。

 

 セレナが暁の従者に、ラザリスを恨まないで欲しいと頼んだとき、彼らも頷いた。

 

 自分達の弱さから多くの間違いをしてしまった。あの後からそれを受け入れて活動していた。

 

 彼女を恨むことは、また間違っていた頃に戻ると言い、それに嘘はない。

 

「命ってのは………なんなんだろうな」

 

 弱さから逃げ、自分と違う、弱い存在を見下ろす存在。それが命であるとそう思っていたのに………

 

 いまさらだ。

 

「………いまさら、間違いに気づいた」

 

 あの家族を、あの瞬間に立ち会っていたのなら、動いていれば、少女の叫び、父親の懺悔。その声は変わっていた。

 

 間違いなんて無い。間違っていたのは、世界だ。

 

 そして自分だ。

 

「ま、俺は救うことも助けることも守ることもできないもんだがな」

 

 いま多くの者達が僅かではあるが手を取り合い動く。

 

 暁の従者が、リタ特性の術式で、簡単ディセンダーの力転移をして、人々に繋げている。

 

 その輪の外にいるが、興味も何も感じない。

 

 だが着々と世界は繋がりだしているのは、声を聞けば分かる。

 

 少しずつ聞こえなくなる声に、それに壊すことで晴らしていた呪いのような黒い感情は消える。

 

 間違えたモノと、間違っても、また進める命。

 

(線引きはんなもんか)

 

 暗闇の中で、輝きを背にして、そう思う。

 

 

 

 ボルテックス、聖地の場所にて、ついに封印次元を使い、ラザリス、ジルディアの封印を始める。

 

 リタとカノンノ、セレナと共に来て、その中心部へとやってきた。

 

「これで一つの災厄は終わりか」

「ええ、ま、一つね。この後まだまだやることが沢山あるわ」

 

 そう言いながら、セレナもまた、救世を終えても残り、そのまだ残る問題を解決すると意気込み、カノンノも頷く。

 

 繋がる命、輝きを見ながら、手を見る。

 

 けして繋がることができない自分は、果たしてこの世界にいるべきか?

 

(………俺は)

 

 リタが術式を使用する。世界のみんなが、繋がった者達が紡いだ思いの結晶を見ながら、その輪から外れたモノとして、考える。

 

 そして、

 

 

 

【消させるものか!!】

 

 

 

 叫びが聞こえた。

 

 

 

 すぐに封印次元、世界樹へと振り返る。

 

「チィッ」

 

 魔竜と成り飛翔して飛び上がる。封印次元は世界樹を囲んだとき、ゆがみが生じ、キバらしいものが、世界樹へと食い込みかけた。

 

 だが、闇が吹き荒れ、壁となり、世界樹に食らいつくのを防いだ。

 

 その様子はバンエルティア号からも見え、急いで動く。

 

 その日、魔竜は地へと墜ちた………




ついに完全自覚する恋心。

だがその前に、魔竜は地へと墜ちてしまう。

お読みいただき、ありがとうございます。


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第22章・灯り

 バンエルティア号が来る前に、カノンノ、セレナ、リタは彼を見つけた。

 

 黒いもやで身体を覆い、身体の一部がキバの浸食を受けていたリュウ。

 

 急いで回収し、その容態を見た。

 

「ニアタ、リュウは!?」

『落ち着いてくれカノンノ。彼はどうやら、世界樹へと向けられたキバを、自分が取り込むと言う方法で、世界樹を守ったようだ』

「そんなこと」

 

 アンジュは話を聞きながら、外を見る。外では世界樹をキバから守る、黒曜石のようなものが、キバを阻んでいるが、それも少しずつ取り込まれている。

 

 それと共に、目を覚まさない彼の身体は、キバの水晶へと変わり始めていた。

 

「ディセンダーの力は!?」

 

 セレナの言葉に、ニアタは首を振る。

 

『それは無理だ。彼の身体はゲーデだ、共に消えてしまう』

 

 彼がディセンダーの輝きを受け、痛みのような反応を見せていることを思い出して、全員が絶句する。

 

 人々を救う、誰かを救うはずの輝きは、彼だけは救わず、むしろ滅ぼす輝きなのだと、セレナは愕然となる。

 

「どうすれば………どうすればいいの」

 

 涙を溜めて座り込むカノンノ。医務室にいる者達、そして外にいる者達が黙り込む。

 

 

 

「くだら………ねぇ………」

 

 

 

 そう言いながら、身体を起こすリュウは、身体が水晶のように変わりながらも、闇を纏い防いでいた。

 

「リュウ!!」

『無茶だ、いまの君は』

「ディセンダーの力で浄化しろッ」

 

 その言葉に全員が驚くが、それだけで止まらず、

 

「この様子じゃ、一人二人じゃ無理だ。アドリビトム全員で浄化の力を使ってくれ」

『!? 分かっているのか!! それは』

「消す気か?」

 

 それに何が言いたいか分からない。

 

「くだらねぇ………ああくだらねぇ」

 

 そう言いながら、水晶になって腕を見る。こっちの方が誰かを救えそうな気がする。

 

 だが、

 

「ニアタ………俺は命を救えない。だが、ディセンダー………アドリビトムは違うだろ………」

 

 そう言いながら、ベットで横になりながら、

 

「信じてるぞ」

 

 そう言い、闇を最大に纏い、眠りにつく魔竜。

 

 周りは分からない顔をするが、ニアタは、

 

『………彼はどうやら、耐える気のようだ。自分が消滅するより先に、浸食が消えることを信じている』

「けどそれは」

『分からない、少なくとも、彼の存在が消えるのが先か、浸食が消えるのが先か分からない』

「そんな無茶、できるはずが無いです」

 

 アニーの言葉を聞き、全員が黙り込む。だが、

 

「………アンジュ、みんなを呼んで」

「カノンノ!?」

 

 カノンノとセレナは頷き合い、手を繋ぐ。

 

「リュウは信じるって言ってくれたんだよっ」

「!」

 

 それにアンジュははっとなる。あの天の邪鬼なリュウが、信じると………

 

「私は応えたい、彼に………リュウに」

「私も………みんなだって」

「………」

 

 そして、

 

「みんなを呼び、全員でリュウを助けます」

 

 彼女達は決意する。

 

 

 

 どこか手頃な場所に下りて、彼を囲む。

 

 全員にディセンダーの転移を終え、後は信じるだけだ。

 

「やるぞみんな」

「ああ」

 

 全員は静かに、そして見る。

 

「………」

 

 セレナは少し震えていた。だけど、

 

「セレナ」

「………カノンノ」

「信じよう」

「………」

 

 真っ直ぐ、そしてはっきり、

 

 

 

「信じてくれた」

 

「彼が、そう、貴方の輝きを、私達が繋いだ輝きを」

 

「私達を信じてくれた」

 

「まだ終わらない、終わらせたくない」

 

「だって」

 

 まだ伝えてないでしょ………

 

 

 

 その言葉に、セレナは静かに、

 

「うんっ」

 

 そしてみんなが手をかざし、輝きが闇を包む………

 

 

 

 削れる音がした。

 

 そして崩れる音もした。

 

 だが、それよりも、

 

【なんで彼奴だけが、くっそがッ】

 

【あの人は助からなかったのにッ、どうして、どうしてあんな子が助かるの!?】

 

【死ね死ね死ね死ね死ね死ね】

 

【キャッハハハハハっ】

 

 それは悲しみから逃げたいが為の、一時の思いだった。

 

 だが何時しか悪意とも言えない、ただ、面白がってそれをあおった人々の声が、それを本物に変えていく。

 

 それだけで無かった。

 

 人を騙す声、見下し、蔑み、醜い、ああ醜い声ばかり聞こえ出す。

 

 男だった。

 

 女だった。

 

 老若男女関係ない、悪意の中で一番酷い声。

 

 他者を思わず、責任すら持たず、人を傷付ける言葉を平気で言う生き物を見てきたモノがいた。

 

 それが………

 

(………ずっと………こんな声を聞いてたんだね………)

 

 それでも、忘れられなかった声があった。

 

 彼が本当におかしくなったのは、

 

『あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――』

 

 一人の少女の声と父親の懺悔だった。

 

 忘れられなかった、忘れるために壊すことで声を消していく彼の人生。

 

 耳を防ぎながら、枯れ果てた人生を歩く。

 

【ああそうだ………】

 

 黒い彼が輝きから現れる。

 

【なんでそんな輝きをお前らは持てる………なんでお前らは輝きを放てる】

 

「貴方は………」

 

【俺は………俺は救いたかった俺だ】

 

 救いたいと願った。

 

 守りたいと願った。

 

 助けたいと願った。

 

 だけど、

 

【俺には無理だった………間違いだった】

 

「違うッ、間違ってなんか」

 

【間違ってたんだよッ!! 俺はこの声から生まれたんだっ】

 

 負の声を聞きながら、それは叫ぶ。

 

【こんなんから生まれた俺が誰かを、輝きを守れるはずがないんだッ。俺はお前らとは違う、繋がりなんか持てない!!】

 

「リュウ………」

 

【俺はなんで人間として生まれた………ゲーデとして、負の表徴として生まれていれば、消されていたのに………なんで】

 

 だが、

 

「るっせぇ」

 

 それは彼だった。

 

「いい加減に諦めろ………」

 

 激痛からか、冷や汗を流しながら、それでも、輝きへ手を伸ばす。それを愚かと思うがために、黒い彼は睨む。

 

【輝きにすがるか。俺達を消す、輝きに………】

「ハッ、もう知るか。俺は俺として生きる」

【………俺ってなんだよ】

 

 それに腕が崩れた。

 

【輝きなんか掴む腕なんて無い………よく見ろ、これがお前だ。これが俺なんだよ………】

「だろうな、だから?」

 

 腕を伸ばす、輝きへ、血を流しながら、それでも、

 

「もういいだろ? もう」

【………お前】

「消える時は消える、消えないときは消えない。もう考えるのはやめだやめ」

【………いまさら】

 

 その時、誰かが下を向く少年の闇を抱きしめた。

 

【!? ディセンダー!!?】

「側にいるよ」

 

 そして腕を伸ばす手を掴む少女がいた。

 

「掴むよ」

 

 輝きの中、闇は静かに笑う。俺は静かに身体にヒビが入る。

 

【………なぜだ】

「………私は」

 

「私は」

 

 目を閉じる。きっと仲間とか言うのだろうと、そう思いながら、もういいと、

 

(疲れた………なら、消えようがどうなろうが、もう………いい)

 

 この輝きの中で消えるのなら、もういいと………それが答えだった。

 

 だが、

 

 

 

「「貴方が好きです………」」

 

 

 

 それは想像していた答えじゃなかった。

 

 闇は静かにそれに驚き、本体は目を閉じびくともしない。

 

【………光が闇を愛する………そんな】

「それでも、私達は好きなんだよ」

【………それが答えなのか】

 

 何も救えなかった、いまさら、いまさら、

 

【いまさら誰かを救うために戦う気はない】

 

 それには、

 

「彼奴何言ってるんだ?」

 

「前々からそう言うことばっかしてるのに、なにいまさら言ってるのか、オッサン分からないよ」

 

「まったくだね」

 

「ああ」

 

 苦笑しながら、その輝きから痛みが消え、そして闇がいつの間にか腕があり、身体があり、そして、

 

【………俺は】

 

「………アドリビトムのリュウ、ゲーデのリュウ、異世界のリュウ。ただそれだけよ………」

 

 アンジュの言葉に、それに、

 

【………そう、か………】

 

 それに、枯れ果てた少年は、やっと、

 

【………もう、耳を塞ぐ必要は、無くなったのか………】

 

 そう言って、彼は黒い竜へと変わり、鎧のようになり、本人へと宿る。

 

 

 

「でだ、途中から気失ってから、なにがどうなったの?」

 

 女子一部が最大テンションで明日、ラザリスがいる空間へと突入作戦だと言うのに、異様なテンションであった。

 

「いえ………ぐすっ」

 

 ロックスは泣きながら、掃除したり、カノンノの親に何か立派に成長しましたと報告するように空へと呟いたりと、おかしい。

 

 男子は一部黙るように脅されていて、もう分からない。

 

 

 

「………言っちゃったね」

「うん………言っちゃった」

 

 セレナとカノンノは頬を赤く染め、世界樹を見つめていた。

 

 明日、全てを終わらす。そして、

 

「ラザリスともこうしてお話しできるかな」

「できるよ、ディセンダーは不可能を知らないもん。それに」

 

 ゲーデと言う、頼もしい灯火もいる。

 

 そう呟きながら、

 

「それからだね、セレナ」

「うん、それからだねカノンノ」

 

 そう言い、少女達は微笑み合いながら、明日に備える。

 

 

 

「闇の壁があるとはいえ、世界樹への進行は止められないか」

【ああ、当たり前だ。俺達は破壊しかできない】

 

 闇の自分へと語りかけ、そして再度問う。

 

「破壊しかできないだろうが、テメェは俺だ」

【ああ、お前が持っていた、負………それが俺だ】

 

 それは黒い竜、闇が揺らめき、それに身体を変化させて手を伸ばす。

 

『なら俺と来てもらおうッ、散るときは派手に、輝きの中でッ!!』

【………ああ】

 

 

 

『【もう間違えないために】』

 

 

 

 そして纏う、いままでよりも禍々しい。だが、やっと全てが一致したように、輝きのゲーデはそこにいた。

 

『………ラザリス待ってろ、説教タイムだ』

 

 そう言いながら、ニヤリと笑いながら、剣を持つ。

 

「………けどあれはどうするか」

 

 聞いてしまった少女の声。

 

 輝きの声に対して、彼は、

 

「………聞かなかったことにしよ」

 

 そう決めて、明日に備えることにした。




 裏で………

「………クイッキィ………」

 シリアスな顔でそのつぶやきを聞いた子がいた………

 お読みいただきありがとうございます。


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第23章・未来へと派手に出向く為に

まだ作品作りの初めで書いたものの物語。その前と言う物語もそろそろ終わりを告げます。

ではどうぞ。


 飛行船であるバンエルティア号、そこの看板でそれを見る。

 

 世界樹の周りの空間、ジルディアが生み出す世界へと変貌した空間へと入り込む。

 

「………静かだが、生き物の気配なんて無いか」

「リュウ」

「………んじゃま」

 

 全員が武器を取るが、それは阻むためではない。

 

 それは、

 

「盛大な兄弟ケンカだ、行くぜ」

「ええ、みんなっ、行きましょう!!」

 

 

 

 リュウ、カノンノ、セレナ、ニアタのメンバーが生命の場へと目指し、他のメンバーはその道を阻む装置へと向かう。

 

 サクサク進む中、生命の場へとたどり着く。

 

 そこに、

 

「………どうして」

 

 そこには困惑したラザリスがいた。

 

 輝きと共にいる、闇を見て、憤り、睨んでくる。

 

「どうして君は創造と共にいる!? 君が一番知っているはずだ!? 創造から、どれほど苦しみ、悲しい日々を送ったか忘れたの………」

 

「ラザリス、んなもん忘れられるか」

 

 それは始まりからずっと、

 

「人は創造の所為で、新たな物、新たな力、新たな何かを求め続け、他から奪うことすらする………お前の後ろにある、その生命の輝きがそれの象徴だ」

 

 輝く入り口のように、それが光り輝く。彼らの光景は、別の場所で戦う仲間も見えていて、仲間達が戦っているのも、こちらも見ている。

 

「ああそうだ、世界はいつだって、欲しがってばかりだッ。終わらない、ずっと滅びるまで奪い合うしか無いじゃないかッ!!」

 

 そう言い、ラザリスは力を纏う、それは負でも輝きでも無い、なにでもない。

 

「だから僕は世界を、ルミナシアを変える。僕が与え続ける、君達はなにもしなくていい。僕の世界では『創造』なんてしなくてもいい」

 

「あなたは………自分の世界から創造を奪うの!?」

 

「そうさ、創造は欲。罪なんだよ。だから僕一人が全てを背負う、この世の終わりまでね………」

 

「無理だ」

 

 そう言って前に出るのは、救世主でも、この世界の住人でも無い存在だった。

 

「欲望は永遠だ、永遠なんだよラザリス」

 

「なにを言っている?」

 

 周りの、アドリビトムを見ながら、静かに告げる。

 

「俺は生まれてから、あまねく命から、欲を聞いた。欲が罪? 違う………」

 

 

 

「存在そのものが罪だ、ラザリス」

 

「何かがあれば、それは罪であり、永遠に生まれ続ける」

 

「お前一人が創造を背負ったところで、世界の欲望は尽きることなく望み、手を伸ばし、いつしか破滅する」

 

「在る限り、居る限り、この世界もいずれルミナシアと同じ、いや、それ以上の破滅の結末しか存在しない」

 

 

 

 負からの発言に、ラザリスは首を振る。

 

「嘘だッ、僕の世界が、住人達がそんな結末な訳」

 

「求める意志が在るのなら、創造から逃れられない。そして………求めるだけの世界では、次は無いんだ」

 

 それに世界樹を見る。ここからでも見える世界樹を、

 

「世界樹もまた、新たな世界へ望みを持ち、生み出すことすらできない世界。それはもはや終わりしかない」

 

「君は、君はずっと苦しんでいたはずだッ!! 創造に、世界に、命に、ずっと」

 

「………ああ」

 

 そして、はっきりと、

 

 

 

「だが俺は創造を否定しない」

 

 

 

 それに目を見開くラザリス。信じられない言葉を聞き、後ろに下がる。

 

「ラザリス………俺が創造が、生命が嫌になったのは………俺自身が誰かを笑顔にすることができたからだ」

 

 そうさ、俺は、あの時、嬉しかったんだ。

 

「人を救うのが、守ることの素晴らしさと、娘を思う愛しさを見て、俺は命の、創造された存在の輝きが忘れられないから、絶望した」

 

 だが、

 

「ラザリス」

 

 そう言って、手を伸ばす。

 

「諦めろ」

 

 創造は止められない、求める罪からは逃れられない。

 

「この世界はジルディア、兄弟と共に生きたいと願っている。なら、共に生きろ、ジルディア」

 

 その言葉に首を振り、セレナを睨む。

 

「彼に何をした………」

 

 その言葉と共に、無数のキバが囲む。

 

「彼はずっと生命に、世界に、創造を呪っていたのにッ、だから僕の、僕らの世界の救世主になると信じられたのにッ、お前が、お前がなにをした!?」

 

 その言葉に、セレナは静かに、

 

「一緒にいただけ………」

 

 その言葉に黙り込むが、セレナは前を向いて言う。

 

「何も知らなかった私に、みんなが教えてくれた。創造が、生み出すことが罪なんかじゃないよっ」

 

『ああそうだッ』

 

 別の場所で戦う仲間が叫ぶ。

 

『創造が生み出すのは罪だけじゃない、喜びだって、生み出すんだ!!』

 

『彼もまたその創造から生まれたっ、罪なんかじゃない表明は彼自身だッ』

 

『リュウは負の表徴ゲーデかも知れない。だけど』

 

『彼奴はこの世界で多くの命を助け、多くを教えた』

 

『それが罪なんかじゃないッ、ラザリスッ』

 

 武器を振るい終え、何名もただ笑顔で手を伸ばす。

 

 受け入れ、共に生きる意志を、見せるように………

 

「………うるさい………」

 

「諦めろ………こいつらはしつこい」

 

「うるさいッ!!」

 

 向かってくる力へ、セレナは輝きを、リュウは闇を纏う。

 

『行くぞ、セレナ、カノンノ!!』

 

「「うんっ!!」」

 

 無数のキバが一点、ただ一つへと向かってくる。

 

 それでも、

 

『俺は………もう間違えるつもりは無いッ』

 

 カノンノの輝きは桜のように、セレナから救世の輝きが白く染まる。

 

「バカな!? 君がいるのに、その輝きは」

 

『………はっ』

 

 それに、闇は、

 

『こいつらの輝きで消えていられるかッ!!』

 

 吹き出す黒を纏い、輝きは真っ直ぐ、全てを壊しながら、ラザリスを吹き飛ばした。

 

 闇は無傷ではないが、それでも五体満足であり、顔の部分を人に戻し、ラザリスを見る。

 

「やべ、やりすぎた」

 

 その程度しか思わず、ラザリスの側に駆け寄った。

 

 

 

 セレナもカノンノも側に駆け寄り、ラザリスを抱き上げるリュウ。

 

 その身体には、ドクメントが囲まれていた。

 

「どう、して………」

「これって」

「ジルディアの民、創造のドクメントだ」

 

 リュウがそう言うと、ラザリスは首を振る。

 

「どうして、君達は創造しなくていい………争う意志なんて、僕だけが」

「争う意志じゃねぇよ」

 

 ラザリスの言葉を遮り、静かに、

 

「お前を守りたいって、気持ちだ。ラザリス」

「ゲーデ………」

 

 それに静かに、全ての力を失い、リュウへ寄りかかる。

 

「創造は止められないのか………生きたいと言う意志がある限り………共にいたいと言う意思がある限り………」

「ああ。どんなに見た目も何もかも綺麗に見えても、光と闇は共にあるんだ。どっちか一つは永遠にない」

「………そう………か………」

 

 そして目を瞑り、そこから涙を流しながら………

 

「ディセンダー………見えないんだ………」

「ラザリス………」

「僕の世界が、見えないんだ………穏やかで、美しいヒトたち………僕の世界の………住人たち………」

「ふんっ」

 

 空いた手で額をデコピンする。

 

「りゅ、リュウ!?」

「諦めるのが早い」

「?」

 

 ラザリスを抱え、生命の場を睨む。

 

「………ま、やってみるか」

『!? リュウまさか』

「セレナとカノンノを頼む」

『待てッ!!』

 

 三人を阻むように、黒い炎が生命の場と別れ、それを見るリュウ。

 

「リュウ!?」

『そなたッ、まさか生命の場に入り、調和を手助けする気か!?』

 

『!? バカなッ、ゲーデが生命の場に入ればッ、そのまま消滅されてしまうぞ』

 

 別の場所のセレシウスの言葉に、全員が絶句するが、一人だけ笑う。

 

「その消滅するエネルギー全部、調和へと返還してみる」

 

 そう言いながら、飛翔し、生命の場を見る。

 

「「リュウッ!!」」

 

 二人の少女を見ながら、ニヤリと笑う。

 

「待ってろ」

 

「「!」」

 

「ちゃんと帰る………報告書書かなきゃな」

 

 そう気楽に言い、その言葉に、光へと向かう闇に、

 

「リュウッ」

「私は、私達はッ」

 

 それにやべっと思いながら、早まる。

 

「「貴方のことが、大好きだからねッ!!!」」

 

 ………言い訳できるかと思いながら、生命の場へと入っていった………

 

 

 

「で、それがあれか」

 

 キャロルと言う、異世界の錬金術師は、宝石のような鉱石と木が融合した大樹を見ながら、話を聞き終える。

 

 アンジュは、異世界。リュウが元々いた世界からスカウトした人達や、セレナの関係者、異世界の客人に、ラザリスの話をしていたところだ。

 

「それからしばらくして帰ってきて、その後貴方達の事件が起きたのよ」

 

 異世界で、リュウこと原初の負のゲーデと純白のディセンダーの物語。

 

 その前を話していたとき、セレナは実は異世界の人間であり、彼女には姉がいる。その姉はもの凄く死んだ目になっていた。

 

 ここにセレナとカノンノがいれば、もの凄く真っ赤になっていただろう。いないからいま話したのだ。

 

「ま、まあなんだ、マリア、気をしっかり」

「持てないわよ翼っ、結局あの子は、あの子はあぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 マリアと言う人は涙目で、クリスと言う子を始め、切歌、調は少し距離を置く。

 

 死んだと思った妹は、特殊な力の持ち主であり、特殊なゲーデが生まれた世界の住人だからと、拾われた。

 

 記憶を失い、ディセンダーとしてこうして生活して生きた結果、彼に恋した。記憶を取り戻してもなお、それは変わらない。

 

 お姉さんは乱心しても仕方ない。

 

「あの~それで結局、龍さんは、お二人のお返事は?」

「それが全然、聞こえてないの一点張りで、周りからすれば聞こえてたって思うんだけどね~」

 

 響が紅茶を飲みながら聞き、アンジュは異世界のお茶菓子をつまみながら答える。マリアは机に倒れている。周りは何も言わずに、それでと、

 

「それで本人達は?」

「世界樹の根本、リュウの話じゃ、そろそろだから」

 

 

 

「………」

 

 黒い巨大な剣を背に、色の付いた水晶の前で待っていた。

 

 側にはテントを張り、キャンプしながらであり、聖地で何してるんだと怒られそうだが、ゲーデだから気にしない。

 

 なにより、いまは会いたくない人達が多く船にいる以上、ここにいたい。

 

「………なにしに来た」

【そう言うなゲーデ】

 

 いつの間にか、剣を通して、根元の世界樹の側にいた魂がいる。

 

 全くと呆れながら、それの正体を知り、呆れていた。

 

「………原初、全ての世界が始まり、下に貯まりできた俺だから分かったが、お前は………」

【………世界樹、一つの命へと変わる彼奴は、子供達、家族に囲まれるだろう………だがそれと同時に、消える子供も見続ける。側にいてやりたかった】

 

 例え魂が原型を留められないほど、屈折し、どうなろうとも、側に永遠に居続ける。それが彼の答えらしい。

 

 ある意味、原初のヒトと言うべきだろうか?

 

「………あんたは」

【………原初のゲーテ】

 

 静かに、それは元の場所に、永遠を共にする彼女の側に戻る際、

 

【お前はお前の愛する者の側にいてやれ………】

 

 そう言ったとき、次元を越えて帰っていき、ため息混じりに、水晶を見る。

 

「………ラザリス、世界ってのはめんどくさいが、まあなんだ………いつでもこ」

 

 その時、水晶にヒビが入った。

 

「いまかい!?」

 

 そう言って、急いで回収するように手を広げると共に、水晶が砕けて、一人の少女が世界に生まれる。

 

 それに苦笑しながら、キャッチしニヤリと笑う。

 

「ハッピーバースデーラザリス」

 

 そう言いながら、少女は………

 

「………ありがとう………」

 

 静かに微笑んだ………




ラザリスを取り戻し、彼は自由の灯火の下へ連れていきます。

お読みいただきありがとうございます。


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最終章・結局どうなんだ?

最終回、カノンノとセレナ。恋物語は………


 自由の灯火アドリビトム、そこには二人の少女がいる。

 

 一人は救世主にして、異世界の少女セレナ・カデンツァヴナ・イブ

 

 そしてカノンノ・グラスバレーと言う二人の少女がいる。

 

 彼女達は、原初にして、最狂のゲーデであるリュウを愛している。

 

「………」

 

 その最狂(笑)はいま吊されていた。

 

 覆面とか付けているけど分かるよ、異世界の客人とアドリビトム女子メンバーなの分かるよ。本人はとりあえず、躊躇いもなく叩かれた後頭部が痛い。

 

「とりあえずこれでよしっと、それじゃ、今回の議題をしましょ」

 

 アンジュ?っぽい声の方がそう言う。それは、

 

「まあ言わなくても分かるけど、彼がさっさとセレナかカノンノがどちらが好きかはっきりさせましょ♪♪」

 

 なにを言っているか分からないため、気絶したフリしていよう。本人はそう思いながら、防人が手を挙げる。

 

「しかし、こういうものは当人達で決めるべきでは?」

「正直いい加減にしろが我々の総意見なので」

 

 ああ分からない、本当に分からない。

 

「下手すれば彼、響さんのことが好きなんじゃないかって話にまでなってますし」

 

 それに反応しかけたが、何故や!? 異世界組が驚いているぞ。

 

「ほら、彼のひねくれた性格って、響さんのご家族に対するバッシングが原因で、彼がヒトらしく、他人に優しくしたのも響さんが切っ掛けですから、もしかすればってと言う話になってるの」

「だからあのバカは外したのか………」

「? 切ちゃんは………やっぱり切ちゃんも」

 

 そう言いながら、黒髪ツインテールが睨んでくるが、私は気絶してます。聞いてません、なにも分からないです。

 

 ん? なにか下に水の気配。ま・ず・い・ッ!!

 

「拷問の準備できたよ~」

「しかし、いいのでしょう? 無理矢理どう思っているのか聞き出すのは」

「いいのいいのっ。こいつの本心なんかこんなんしなきゃ、分からないわよ♪」

 

 イリア貴様、エステル止めて。ロゼ覚えてろ。

 

 いかんせんタイミングはあれだ、水につけられた瞬間、逃げ出すか。

 

「あっ、念のため水は熱湯にしておいて」

 

 なん、だと………

 

 

 

「はあぁぁぁぁ」

「お嬢さま、ため息は幸せが逃げてしまいますよ」

「ロックス………そうなんだけどね」

 

 少し苦笑しながら、カノンノは窓を見る。

 

「少しだけね、聞きたい言葉が長く伸ばされてるから」

「そうだよね………」

 

 セレナがそう言いながら向かい合う。

 

 ラザリスが戻って、色々大変なのだ。

 

 そう………

 

「彼が誰が好きか、ね………」

「お嬢さま」

「………響が好き………なのかなって思ったり、リタやラザリスも。色々なヒトが側に居るんだもん。だから………」

「それにね」

「………」

 

 カノンノとセレナはお互いを見つめ合う。一番の危機感は、目の前の恋敵。

 

 だが、どうにも競い合うなどの感情は無く、だからと言って、このままと言うのも嫌なのだが、嫌なのだが………

 

「「どうしてもいまのままがいいな~って思うんだよね~」」

 

 そう言いながら、机に倒れる。

 

 

 

 逃げた者は、熱湯にぶち込まれた後、必死に逃げだした。

 

 いまは静かに、こそこそしている。世界樹の近くはある意味自分の領域、伊達に長くここでラザリスを待っていたわけではない。

 

 世界樹の側で、世界樹を見上げる。いま、実りの季節。

 

 ニアタが言うには、新たな世界が生まれるらしい。

 

「………」

 

 世界の創造、ジルディアとルミナシアが築く、新たな世界。

 

 果たしてその世界はどのような物語を紡ぐか分からない。

 

「………ま、知らん」

 

 そう、知らない。

 

 なぜならば、自分はゲーデ。災厄であり、災いなのだ。知らない。

 

 ただ、言うべきことはある。

 

「俺を殺す輝きがあることを願うさ」

 

 その時、光が辺りを包む。

 

 急なことに剣を構えるが、すぐに気づく。

 

「根元の世界樹………そして」

 

 長い間、悠久の時を共にした魂がいる。

 

『こんにちは』

【………】

「人をこんな形で呼んで、なにかようか?」

 

 黒い固まり、人のようなそれは静かに近づいてくる。

 

【一つだけ聞きたい、お前は生まれてすぐ、なぜ自分を壊し始めた?】

「疑問はそれか?」

 

 取り戻した己について、彼らは聞きに来たようだ。自分、過去の自分を取り戻したいまの自分なら、断言して言える。

 

 自分こそ、ただ世界から零れ落ちた負より、偶然にも生まれた、自然的に生まれた、原初なる負。原初の負ゲーデであると。

 

【………他の世界から生まれたゲーデは、輝きを、創造を、生命を恨んでいた】

『だけど原初、砂のように零れて集まり、偶然にも世界樹が世界から集めた負のように意志を持った貴方は、自分で自分を壊し始めた』

 

 始まりは自分達が自分を消そうとした。

 

 だがそれは、自分が世界を壊す前に、自身を壊した。壊す前に、時折輝きを見ながら、暗い暗い世界の底へと移動する。

 

『ずっと話したかった………彼に止められながら、私達は貴方を見守った』

【世界を壊すか、否か………こいつは違うがな】

 

 それを言われながらも、根元の世界樹は静かに手を伸ばし、頬に触れる。

 

 愛おしく、子供を見るように………

 

『ずっと貴方を見ていた………一人で、悲しそうに、辛そうに、苦しそうに………世界を見つめて、世界から遠ざかっていた貴方を………』

「………くだらない」

 

 そう告げて手を弾く、それに悲しそうに、それでも微笑む彼女。

 

『貴方は彼と同じ、自分よりも大切なもの、愛したものしか見えていない。それさえ傷付かなければいい、自分の身なんてどうなろうといい』

 

 勝手なことを言われるが、何も言わない。少なくとも、過去の己はそういうものだった。

 

 きれいと思いながら手を上せばどうなるか分かっているが故に、なにもしなかった。

 

 欲しながら、どうなるかわかるが故に、恐れ、逃げ、己を喰らうおかしなモノへと変わり果てていた。

 

【………もう転生なぞできないほど劣化したんだ、このままでいいだろ】

 

 それはそう言う。人の形をまだできていることが奇跡なほど、劣化した魂。ヒトの身ではもう耐えられないほど長い時を、存在し続けたモノ。

 

「俺は負でできてるんだ、気にするな」

 

 その様子にふふっと苦笑して、魂だけの男は、輝きを見る。

 

「テメェはいいのか?」

【………俺にはこいつだけあればいい】

 

 そう言って根元の世界樹を見る。根元の世界樹はそれに嬉しそうに、静かに微笑みながら、こちらを見る。

 

『輝きを守ってくれてありがとう、優しい災厄さん』

【願わくばその輝きが、破滅と絶望を焼き払う輝きであることを祈り続けよう】

「ハッ、勝手に言ってろ」

 

 剣を使い、勝手に帰る様子を見ながら、こちらの会話のために待っていてくれたことに微笑む。

 

『それと………あの子達を待たせないで。私はこれでも、最後の最後で正直にされて、少し怒ってるのよ』

【ぶっ!!】

 

 聞こえない。

 

 

 

「そろそろですよーーーー」

 

 みんながみんな、探すのをやめて、その様子を見るため、料理も用意して、みんなで祝福する準備をする。

 

 ご飯もお酒も、もうすでに手を出したりしている者たちもいるが、今日は無礼講であり、みんな楽しそうだが、

 

「はあ、結局彼はここじゃないところで見るか」

「もう」

「見つけたらあとでお仕置きしなきゃ」

 

 カノンノとセレナもそう言い、マリアはナイフをジーと見つめる。それは止めておかないといけないなと皆思いつつ、フルボッコは決定した。

 

 響は異世界のおいしい料理を見たりして喜ぶ中、少し考え込む。

 

 本当に彼にとってはどうなんだろうかと考えるが、

 

「………よく考えたら、変わらないな」

「………だね」

 

 それでも、渡す気は無い。

 

 二人は笑いあい、せっかくの祝福の日を楽しむことにする。

 

 きっと、どこかで見ているだろう彼を考えながら………

 

 

 

「………そろそろか」

 

 世界樹が見える丘で、一人で見ることにしていた。大樹にある、花のようなつぼみを見る。

 

 結晶のような、草木のような、それと共にある花を見ながら、

 

「………セレナかカノンノか」

 

 誰かを愛する人生じゃなかったし、そんなもの欲しいとも思っていない。

 

 ただ言えるのは、一つだけだ。

 

 自分がいる場所にため息をつく。

 

 どちらの少女と初めて出会った場所で、彼は新たな世界の始まりを見る。

 

「………えらべるか」

 

 新たな世界の創造を見ながら、静かにそう呟き、黒い輝きは、白と桜の輝き、自由の灯火の元へと歩き出す。

 

「始まりにも終わりにも、興味はねぇよ」

 

 創造を背に、見たいものは見たので、帰ることにする。

 

「俺はそんなものより、きれいなものを見つけ出した」

 

 創造の中で、精一杯生きる輝き。それを見つけた、それならもう気にしない。

 

 

 

「翼っ、せっかくだからここでライブすっぞっ」

「ん、ああっ」

 

「おいしいデスっ、これなんて肉デスか?」

「ブウサギって言うのよ」

 

「ククッキー」

「バイバっ、クイッキー♪ クリス好き~って言ってるよっ」

「そ、そうか………」

 

「キュ~」

「ジー」

 

「はい皆々様、どんどん作るので、どんどん食べてください♪」

「またカロリーとの闘いが………」

「いっっっっぱい動けばいいんですよアンジュさんっ」

「響はそれでいいけど、ほかの人はそうじゃないんだよっ」

 

「うるさいなここは」

「そうだね………」

 

 キャロルとラザリスが仲良くしていて、それを見ながら、カノンノとセレナがこっちに気づく。

 

 少しだけ嬉しそうに微笑み、そして駆けだして手をつかまえる。

 

「どこ行ってたのっ、もう」

「みんな料理作ったりしてるの、マリア姉さんも歌うから聞いてねっ♪」

「はいはい」

 

 そして二人に引っ張られて、その輪に入る。

 

 どうやら逃げられない、その輝きの中に入っていく。

 

 その後色々拷問を受けた。酷い………




 一人の少女のために、永遠を共に過ごす選択をした剣士がいた。

 少女の輝き以外いらない。彼はそう願い、彼女の側に居続ける。

 彼女は全ての輝きの母になる。

 もしも、父がいるとすれば………彼女はずっと側にいる剣士を見る。

 そして彼らは輝く世界を見ながら、ずっと側に居続ける………


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