無意識少女は海を漂う (恋し石)
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第一章〝雨の心〟
大海に漂う無意識


こいしちゃんの作品がもっとふえますように…


 

 ザァー…ザァー…

 

 波の音がこだまする。見渡す限りに広がるのは青。一面が青の海であり、地平線まで広がっている。雲のスキマスキマから顔を出す太陽が海を照り輝かせ、少し眩しい。見慣れたものではあれど、その美しさはなにか惹かれるようなものをもっている…そんな気がする。

 

 凉しさを感じる海風に黄緑色の、肩程の長さの髪をなびかせながら、両腕、両手を広げて全身に風を感じさせる。その姿、まさに鷹の如し…。

 

「んん〜今日もいい天気だね!」

 

 同時に、少女の服に取りつけられた紺色の管、その管が集結している目玉のような丸い物も揺れている。しかし、その目は閉じており、瞳を見ることはない。

 

1人の少女が甲板で思ったことをつぶやく。

 

「今日はなにしよっかな〜?………………う〜〜ん……………………………………………………よし!部屋の模様替えしよ!おしゃれは女の子の嗜み?だっけ?……ま、いっか!」

 

 ぶつぶつ呟きながら少女は船室へと向かっていく。ドアノブを回しつつ部屋に入るが、しだいに気持ちが萎えてきた。

 実は、見渡して、——さあやろう!——と、思ったけど、アイデアが全然浮かばないのだ。

 

 ——というか、1回やったことあるよね、って案ばかり出て来るんだけど。

 

 ——う~ん…なんか昨日も同じようにやってたような…

 

 ——そう言えばいつから此処にいるのだろう…

 

 人差し指を顎に置きながら首をかしげる。ぶっちゃけ頭の上にハテナマークが出てもおかしくない。否、もう出ている…

 

 そして、数分思考にふけってひとつ…

 

 ——うん!思い出せないね!ま、いいけど♪

 

 少女はそれなりにカラッとしていたようだ。

 

 

 

 

 

「ここも飽きたなぁ〜。」

 

 船の端に座りながら足をぶらぶらさせている。時折吹く海風が体を少しヒンヤリさせるも気にするまでもない。

 

 特になにかを考えているわけではないが、おもいつきは突然。きっかけなどない。それが少女の生き方である。これまでも、これからも。

 

「また無意識旅行と洒落こもっか♪」

 

 頭の上に電球のようなものが現れ、ピカっと光ってそのままふっと消える。本人にも仕組みは分からない。最も、本人にとって気にするようなことでもないことは言うまでもない。

 

 自身の思いつきに従って船室へと荷物を取りに行く。荷物、と言っても基本的に軽装だから常備がほとんど。だから、取りに行くものは1つしかない。

 軽い足取りで壁に立てかけているものに手をかける。自身がこの世界に来た時から一緒にいる黒い帽子。少しよれているけど、それは今までずっとかぶってきた証。長年使用してきたけれど、傷はほとんどない。大事にしてきたことが、その帽子を右手でポンッとかぶる少女の笑みからも感じられる。

 

「今日吹く風に流されて、カラッポの私を満たすものに会えるかなぁ?会えたらいいなぁ〜」

 

 1人ごちる少女はまさに夢見る少女。晴れ晴れとした笑顔でドアを再度開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ギィー…ギィー…

 

 少女がいなくなった船は、全体が軋むような音をひとりでに響かせる。それは船が泣いているようにも聞こえる。

 甲板にはところどころに血のあとがある。帆にはドクロのマークがあり、海賊船であることが分かる。しかし、端々はボロボロであり、ところどころには大小様々な穴が空いている。嵐の中でも畳まずにそのままであったことがその様を見る限りでも分かる。

 船室は甲板よりも血痕がひどい。拷問部屋と称されても過言ではない。壁一面には全長1m70cmから80cmぐらいの十字架が順番にかけられている。上下左右の端々には木の杭のようなものがささっており、実際はそれで壁に縫い付けていることが分かる。根本からはドス黒く赤い液体が流れた跡あり、壁にも重力に従って伝った跡がある。無論、すでに乾ききっている。また、少女の帽子を立てかけるための杭がドアのすぐ横に1つ刺さっている。

 部屋は元々船員が食事をしたり集まったりする部屋だったはずだが、机や椅子はなく、以前の様子は微塵も感じることができない。よくよく見ると、木の杭に机や椅子の足のなごりがあると分かる。

 全体の空気が重く、明かりの部屋の暗さが相まって怨念が漂っているようにも思わせるふしがある。

 そして最後に、机や椅子がなくなった床には血で大きく文字が書かれている。縦書きで、幼さが感じさせるように、

 

——きゅうけつきがはいったらはっきょうするへや――

 

 ………いろいろ台無しである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少女は大空を飛んでいる。

 

 顔は正面を向いているけれど、表情はない。まさに人形のようであり、感情を感じることはない。

 速度はあまりない。帽子が飛んでいくことがないように、無意識に調節しているようである。

 行き先などない。示すは、己の無意識のみ。

 

 並走するニュースクーはその姿に気がつかない。人が飛ぶという奇怪な現象を前にしているにもかかわらず、驚くこともない。見えていない、それが答えである。

 

 そして、近くに船が見えたので、進路を変えてそちらに向かおうとするとき、体にかけているカバンが通りかかる何かに流されて、その中から新聞が1つ落ちた。驚いて、回収しようと首を振り向かせるが、時すでに遅し。風に流され、バラバラになってしまった。——あ~あ、今日もお駄賃が減っていく……——少しがっかりしたニュースクーは諦めて再び船の方へと羽ばたいた。

 

 

 

 

 

 ヒラヒラと舞う新聞。その中から手配書が1つ、外れて飛んでいく。

 

 

 無幻の狂人 コイシ

 懸賞金︰4億1000万ベリー

 




始めはこの位の量で。展開が増えたら文字数もふえるはず!


追記

手配書の金額を2.7億から4.1億に変更しました。
それに伴って第三話を修正しました。


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妖怪○○○○○

かっこよさなら深秘録
かわいさなら心綺楼
そう思うんは自分だけ?


——海賊は滅ぶべし

 

 ガムウト中佐はガキの頃両親を海賊に殺された。家は少し裕福で、両親は自分を深く愛してくれた。そのため自身も温厚な性格で、この上なく幸せだったと、今なら思える。そう、運命は残酷だったのだ。

 

 ある日、海賊が町を襲ってきた。阿鼻叫喚の騒ぎとなった。自衛団をやられ、人々は逃げ惑うばかり。そして、逃げる人々を容赦なく殺し、金品を強奪していく海賊。自身は両親が命がけで隠してくれたので助かったが、両親は時間稼ぎをするため、銃に撃たれた。自分は銃声を聞き、両親の悲鳴を聞いていることしか出来なかった。海賊共の狂ったような声が聞こえなくなるまで手が、足が、全身が震えていたことは今でも覚えている。自分が無力だと、果てしなく思えた。

 

 自分が保護されたのは襲撃から丸一日後。生存者は自分を残して1人もいなかった。襲撃後もしばらく海賊共が居座っていたが、近くを偶々通り掛かった海軍が追い払ってくれたのだ。自分は海賊に気づかれないよう息を潜めていた。何も食べていないにも関わらず、空腹は自然と感じなかった。事態の収拾をしていた海軍が自分を見つけたとき、大変驚かれた、らしい。

 

 保護された自分は海軍に入隊することを志願した。海賊が憎かったのだ。自分から家族を、全てを奪った海賊が。

 

 2つ返事で承諾された。下っ端時代は決して楽なものでは無かったが、全ては憎き海賊を滅ぼす一心で乗り越え、中佐の地位まで昇り詰めた。温厚だった性格はほとんど鳴りを潜め、狡猾で残忍さを身につけた。多くのことを学んできたが、特に大将赤犬が掲げる正義には共感する。今の海軍はぬるい。その通りだ。七武海という制度で海軍が海賊を雇うなど言語道断である。大航海時代となって海賊が跳梁跋扈するのが増え、捕らえる海賊も増えつつも海賊の被害はなおも起こる。容赦など必要ないのだ。

 

 

 

 そして今、海軍本部大佐ヒナの部隊に合流するため、船を進ませる途中であったが、途中で海賊船を発見し、制圧した次第である。司令塔として部下を指揮したが、トロいし、弱い。あの程度に時間がかかるなど、意識が足りないに他ならない。海賊は滅ぼせ。その意識が低いのだ。イライラしながらも制圧が終わったのち、自分は甲板で一息ついた。

 

 電伝虫から部下の報告を聞く限り、バロックワークスだがどうたらとか、曖昧なものであった。海賊に容赦する必要はない。拷問でも何でもすればいい。そう返して海を眺めた。中佐となって部下を持って初めて思ったが、無能なやつが多い。たかが海賊の命1つ奪うのに何故戸惑う必要があるのか。海賊は常に有害。生きる価値なし。

 

 

 

「プルプルプルプルプル…プルプルプルプルプル…」

 

——ふん、やっと聞き出せたか。これで進展がないと報告するような無能なやつには体罰を与えなければならないな。

 

 呆れつつも受話器を取る。

 

「おい、やっと何か聞き出せt」

 

『もしも〜し、わたしメリーさん。今海の上にいるの。』

 

…………………………??少なくとも部下の声ではない。間の抜けたような声に聞き覚えはない。海を見渡してみるが、特に何かいるようには見えない。もう一度話聞こうと電伝虫を見るがすでに切れていた。

 

 いたずら電話、にしてはありえない。海軍支給の電伝虫であるから、海軍以外のものが回線を知ることはまずない。気味が悪すぎる。

 

 不思議そうに部下がこっちを見る。急にキョロキョロ見渡すからだろう。こっち見んな、はやく仕事しろ。

 

 軽く睨みつけて追い返す。オドオドしてそそくさと立ち去った。たっく…この程度でびびるな。さっさと済ませやがれ。

 

 

 

「プルプルプルプルプル…プルプルプルプルプル…」

 

 悪態ついているとまたかかってきた。部下からかもしれないので今度はまず何も喋らずに出る。

 

『もしも〜し、わたしメリーさん。今あなたの船にいるの。』

 

「おい、どういうk」

 

 ……また切られた。今度は船にいるだと…?!すると考えられるのは生き残った海賊が電伝虫を奪って船に乗り込んだ、ぐらいだろう。みすみす備品を奪われ、侵入を許すなど愚の骨頂。部下共には教育を施してやらないとな。フッフッフ…。

 

 残っていた部下に侵入者を探すよう、声を上げて命令する。急な命令に驚きつつも、中佐の怒りを買わないよう迅速に船を捜索を始める。日々怒りを買うことが多かったのだろう。はやくしなければ…っと焦りが見える。

 

 部下共がせっせと捜索するなか、1人思考する。生き残った海賊がするにしても意味がわからない。普通海兵に攻撃を仕掛けるだろう。隠密で潜んで暗殺するようなやつが、あの船を見た限りいるとも思えない。それが電伝虫を盗んでいたずら電話?少なくとも利があるようにも思えない。司令塔を混乱させるにしても、1人では無意味だ。ということは複数人いるということだろうか? 

 まあ、これで終いだ。すぐに見つかるだろう。さっさと降参すればいいものを。

 

……………メリーさんって…普通自分でさんづけするか?

 

 

 

「プルプルプルプルプル…プルプルプルプルプル…」

 

 またかかってきた。部下からの報告であるならそれでよし。同じようなら部下はノロマだ。罰を与えなければならぬ。先ほどと同じように相手が先に喋るのを待とう。

 

 少々苛つきながら受話器を取る。

 

『もしも〜し、わたしメリーさん。()()()()()()()()()()()。』

 

 !!!!!!

 驚愕して後ろを振り向いた瞬間、

 

 ゴトッ

 

 視界が変わった。右目の視界には甲板の床の木目がめいいっぱいに間近に見える。左目の視界の下部には自分の左足が見える。そして上部には………

 

 

 

 右手に包丁を持ち、包丁についた血を舐める、黒い帽子をかぶった少女が見えた。獰猛な笑みを…う……か…………………t………………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん………おい、海軍船と海賊船が接触してるぞ!」

 

 海軍船のマストの上、見張りをする1人の海兵は味方の軍船と敵船らしき船を発見した。その声を聞いてもう一人の当番の海兵が近づいてきた。

 

「なんだなんだ、戦闘中か?加勢が必要な状況なのか?」

 

「いや、特に戦闘しているわけではなさそうなんだ。」

 

「じゃあもう終わったってことじゃねーの?」

 

「それにしては静かすぎる気がするんだ。どっちの船にも人影が見えないし…。それに…」

 

「それに?」

 

「帆になんか大きく書いてあるんだ。よく見えないけど。」

 

「??ちょっと貸してみ。」

 

「あ、ああ。」

 

 うまくピントが合わないのか四苦八苦するのを見てもう一人の海兵はバトンタッチした。慣れた手つきでピントを合わせると、帆に書いてあるものを注視した。

 

「どれどれ…………………………………………ありゃ文字か?」

 

「文字?」

 

「ああ。なになに…………………………………………よ・う・か・い・く・び・お・い・て・け・さ・ん・じ・よ・う?」

 

………………。

 

「「妖怪首置いてけ参上?」」

 

 

 

 

 



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〝無幻の狂人〟

第一話の時点で、お気に入りが二桁………感動

こいしちゃんはかわいい。


「生存者はナシです。スモーカー大佐。」

 

 紺のショートヘアー、自身の足ほどの長さの刃をもつ刀を携えた、海軍本部曹長たしぎはそう報告した。ビシッとした敬礼、透き通った声、上司に従順の姿はそのAPPの高さも相まって好感をもたれるだろう。

 

 ………まったく別の海兵に向かって言わなければ…

 

「どこ向かって言っているんだバカ!!!」

 

「はいっっっっっすみません!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 胸ポケットに入れっぱなしにしていてかけ忘れていたメガネをかけ、コホンと咳払いを1つ。ちょっぴり恥ずかしいが、すぐに気持ちを切り替えて報告を続ける。

 

「海賊、海兵全員頭部を切り落とされて即死。頭部は船内のどこにも見つからないため、おそらく海に捨てられたか持ち去られたかのいずれかだと。海賊がまとめて集められていたこと、海兵たちが尋問をしている最中と思わしき状況であったことから、ガムウト中佐が海賊を制圧した後に襲撃されたと考えられます。そして、金品、食料など一切強奪された跡がないこと、帆に血で[ようかいくびおいてけさんじよう]と書かれていることから、殺すことを目的として襲撃を行ったと推測できます。」

 

 そう言いながら帆に書いてある文字に目をやる。字の太さが頭部のなくなった首の直径に近い。甲板にはところどころ放りすてられたと思わしき死体がいくつかあったから、どうやってかは分からないが、死体を筆のようにして書いたのだろう。垂れた血のあとが不気味さを思わせる。ぶっちゃけ怖いです。はい。

 

 報告を聞いたスモーカー大佐は2本の葉巻を吹かしながら、少し考えたあと話しだした。

 

「たぶん海に捨てたんだろう。」

 

「?心あたりがあるのですか、スモーカー大佐。」

 

「心臓を抜き取ったり、骨をくり抜いたり、四肢を切り落として造形物をつくったり、胸糞悪いことをやりやがる。毎回ではないが血で何か文字を書き残す。最近だと、半年以上前に見つかった1億8000万ベリーの海賊が船内で十字架のように貼り付けにされていたのが見つかったって話もこの類だろうって見解だ。この話ぐらいは聞いたことあるんじゃないか?」

 

 そうだ、まだわたしたちがローグタウンにいたころ新聞でみたことがあった。枠が小さく、あまり大きくは取り上げられてはいなかったけど、自然系の能力で力を見せつけ、海軍にも牙をむけるほどのし上がってきた海賊が突如航海中に殺られたということで驚いていたのは覚えている。

 

「はい、最近名が上がってきていた〝自然系〟能力者の大物ルーキーが突然壊滅したという話ですね。新聞で見ました。たしか船に意味不明な言葉が残されていたと。そして、犯人として挙げられていたのが…

 

〝無幻の狂人〟コイシ。」

 

「そうだ。こんなことをしでかすのは奴しかいない。」

 

「しかし、発見されたのは〝偉大なる航路〟の後半、とてもこのような場所にいるとは思えませんが。」

 

 そう、そのことが起こったのは〝偉大なる航路〟の後半で、もうすぐ半周するというところだったのだ。こんな前半部にいるとは思えない。

 

「場所など関係ない。〝偉大なる航路〟、〝北の海〟、〝東の海〟、〝西の海〟、〝南の海〟そして、〝新世界〟、縦横無尽で起こっている。さらに同様なことは40年前から起こっている。海賊、海軍問わず、チンピラのようなやつから億超え、下っ端から少ないながら中将クラスまで幅広く襲撃する。頻度もまちまちで、数年に1回のときもあれば、月に4回ほどのペースのとき、さらには10年ぐらい音沙汰無しのときもあったそうだ。基本的には航海中の船の場合が多いが、中には海軍基地そのものを薔薇園にしたり、ただの町を火の海にしたこともあった。メディアでも細かいところまでは報道しないし、明らかに海軍の失態となるようなことは揉み消しているからな。メディアで報道されたのは久々だったな。」

 

「よ、40年も前から!?それにそれ程のことをやっているならばもっと話題になるのでは?この懸賞金ならば海軍だってもっと危険視するはずです。」

 

 そんな前から、そしてありとあらゆる海で引き起こすなんて…。まさに〝天災〟、常識が全く通用しない。でも新聞ではあまり大きくは取り上げられていないのは何でだろう…

 

 ……薔薇園ってなんかちょっとかわいいかもと思ったのはヒミツ。

 

「…奴に懸賞金がかかったのは18年ほど前。20年前、〝悪魔の子〟ニコ・ロビンがわずか8歳にして7900万ベリーも懸賞金がかけられてから数年しか経っていなかった頃だった。再び幼気そうな少女に、しかも当時は2億7000万ベリーという億超えの懸賞金がかけられたからメディアでも大きく取り上げられた。巷でも噂になった。しかし、それだけだった。一切目撃情報がなかったんだ。」

 

 目撃情報がない?そもそも度々襲撃を行うならひとりぐらい目撃してもいいのでは?

 言いたいことが分かっていたのか、そのまま話を続けた。

 

「奴は基本的に襲撃をおこしたと思われる場所ではほとんど生存者を残さない。全員殺しているケースばかりだ。それ故、起こった跡の現場しかわからない。目撃者がいないならってことで模倣犯まで出てきた。まあ、そういうバカどもは皆捕まってインペルダウンに放り込まれたが、模倣犯と本人がやったものの判別があまりつかないから、模倣犯が全てなくなったかどうかもわからない。それに、何十年も前から発生していた襲撃事件が全てその少女が起こしたということも世間にとって到底信じられることではなかったし、海軍内でも真実かどうか意見が分かれている。特に、過激派とそりが合わない穏健派ではでまかせと見ているものも少なくない。どうやら過激派で被害が大きいと思われているそうだ。世論も、悪行の多い海賊を懲らしめるダークヒーロー的な見方をあった。今では、海軍の謎の襲撃事件の責任を全て押し付けるためのスケープゴートじゃないかと言われる始末だ。まあ、事実奴が起こしたものじゃないと思われていたものも含めてしまったものがあるから、あながち的を外しているわけではないがな。」

 

「そんな…。」

 

 生存者を残さないって…。ということは億超えの海賊も、中将クラスの海兵も殺られているということ。ありえる。半年以上前の襲撃が事実ならば不可能とはいえない。

 でもそんなことをたった一人の少女が起こしたなんて、信じられることでもないというのも事実である。

 

「だが、海軍上層部の一部はそう捉えてはいないらしい。なぜなら、奴の情報を報告したのが、当時は海軍本部中将であり大将に近いとまで言われる程の力を持ち、現在大将の地位まで得た〝赤犬〟だからだ。それも、奴に一撃も与えられないまま重傷を負った状態でだ。戦うだけバカだとまであの赤犬に言わせるほどの強さだったという。」

 

「大将〝赤犬〟が…。信じられない…。」

 

「奴自身が襲撃事件を起こしたと証言したと赤犬が言ったんだ。当時は上層部もそれを信じざる得なかったんだろう。」

 

 当時は中将とはいえ大将を無傷で退けるほどの強さとは…とてもじゃないが敵う気がしない。〝赤犬〟は海賊に対して一切容赦しない正義を掲げる。マグマグの実を食べたマグマ人間で、海軍トップクラスの実力者。実際発言力は大きいし、過激派のなかでは人望もある。そんな人がそう報告したのならば頷かざるをえなかったのだろう。たとえ信じられないことであっても。でもそれなら何で〝一部〟と言ったのだろう。

 

 

 

 他にひとつ気になったことがあったので聞いてみた。

 

「…手配書がまわったのは20年前、襲撃が起こったのは40年も前。それなら〝無幻の狂人〟はもっと幼いときから襲撃を起こしているということですか?」

 

「どうやらそれは少し違うらしい。」

 

「どういうことですか?」

 

「赤犬が奴のことを報告したとき、他にもそいつを見たことがあると証言したのがいた。それが、〝仏のセンゴク〟、〝英雄ガープ〟、〝おつる〟…海軍のトップクラスの連中で大航海時代以前からいる古株共だ。撮った写真を見て、会ったときとほとんど姿が変わっていないと、言うもんだ。しかも、その写真を見るまで全く思い出せなかったうえ、不思議と記憶の細部が霧がかっているようだと言う。これにはさすがの海軍も大慌てだったそうだ。だが、少し会話したぐらいで、とてもそんなことするような子とは思えないと擁護しだした。何かが憑依しているのか、それとも別の誰かが模しているのではないか、全く姿が変わらないのはおかしいからこれは二代目で、もっと前のは別の誰かがやっているのではないかと、話がこんがらかって収拾つかなかったそうだ。今じゃ2代目、もしくは3代目という話もあがっている。新聞に載っていたやつだってそうだ。もう死んでいるかもしれないんだから奴の名は出す必要はないという声も少なからずあったそうだ。」

 

「そんなことがあったのですか…。」

 

 ボケたというわけでは…………………無いですね。そうじゃないと現役で活躍出来ませんから。手配書の写真を見る限り、羨ましいくらい可愛い感じですから自分の子のように思えてしまったのかな?

 それにしても、目撃情報がなさすぎるが故に真実がうやむやになってしまうなんて。生死すら分からないほど情報がない、でも結果だけある。まるで本当に幻を追っているみたい…

 

 ………睨まないでください。何も変なことは考えていませんから。はい。

 

 もうどうでもよくなったのか、続きを言った。

 

「そして、世界政府はこれを重く見て、赤犬の一件によって確認された強さ、何十年も前から理解不能なことを起こしているという得体のしれなさ、幻のように存在が掴めないことを踏まえ、“無幻の狂人〟の二つ名がつけられ、最終的に4億1000万ベリーという高額の懸賞金になった。」

 

 

 

 40年も前から活動している謎の相手。もしかしたら近くにいるのかもしれない。出会った場合には勝てるだろうか。不安になって聞いてみた。

 

「もし、……もし〝無幻の狂人〟と相対したら…」

 

「相対したら相対したらだ。奴は懸賞金のかけられた犯罪者、俺の正義に従って動くまでだ。」

 

 はっきりと答えた。確かにそうだ。相手は犯罪者、私達は海軍。得体のしれない奴だとしても臆する必要などないのだ。刀を強く握りしめ、自身を奮い立たせた。

 

「もっとも、今も本人が生きていればな。」

 

 そう締めくくって、この話は終わった。

 

 

 

 

 調査の片付けも終わったのか海兵たちが続々と戻ってきた。私達も話を終え、次の行動に移した。

 

「ヒナの部隊に連絡しておけ。引き渡したら、俺達も予定通りアラバスタへ向かう。いつでも出航できるように準備しておけ。」

 

 そう、私達の今の標的は〝麦わらのルフィ〟である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それにしてはスモーカー大佐。」

 

「なんだ。」

 

「ずいぶんと〝無幻の狂人〟について詳しかったですね。」

 

「………………………………昔愚痴の愚痴、そのまた愚痴に付き合わされただけだ。」

 

「???」

 

 

 

 

 




修正

ご指摘があり、
初期の手配書の金額を1.6億から2.7億、最終金額を4.1億に変更。

それに伴って会話の内容を少し修正。


他の海賊の手配書の金額を踏まえると少し低いかと思われますが、個人的にあまり高すぎないようにしたいので、低くなるようにフォロー。

こいしちゃんの能力的にもっとやばいだろう、と思うかもしれませんが、情報のなさというわけでこの金額に落ち着いているということで。






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無意識少女は食事する

懸賞金を上方修正しました。
それに伴い、1話と3話を修正。

あと、タグとあらすじの追加もしました。


誤字報告、情報ミス等のご指摘この場を借りて再度お礼申し上げます。


 ポートガス・D・エースは町のはずれに舟を停めた。舟といっても一般的な舟でなく、自身が食べたメラメラの実の能力を動力として動くワンオフのものである。おかげで風がなくても高速で海を移動できるので、自由に動くのに全く支障がない。これを作るのにいろいろお金を出してくれた仲間たちに感謝を。

 

 舟がどっかに行かないようにロープをはり、近くの岩場にロープの先を縛り付けた。簡単に外れないか確認したら、町の方へと歩き出した。

 

 彼がいるのはアラバスタ。〝偉大なる航路〟の前半に位置する夏島であり、砂漠の国である。砂漠の国ということだけあって日中気温はかなり高いものであり、肌をちりちり焼くような暑さがその身を襲う。だが、自身がメラメラの実を食べた炎人間であるから砂漠の暑さは気にならず、肌を焼くような痛みも味わうことはない。

 

 エースがこの国にいる理由はとある任務と、待ち合わせである。任務のほうの情報はすでに別のところで手に入れた。もうその場所へと向かってもいいのだが…

 

「ルフィに伝言届いているといいんだけどな。」

 

 そう、ここアラバスタに来る前に途中で立ち寄った冬島でやってくるであろう弟に伝言を残していたのだ。なにせ数年ぶりだ。ふつう数年差で航海を始めた者たちが海の途中で出会える機会などほとんどない。久々に会えると考えたら自然と笑みがこぼれる。楽しみでならないのだ。

 

 弟の活躍は手配書と新聞で知った。そのときは無事に出航していたことを知って安堵もした。仲間を持ち、ちゃんとした海賊船をこしらえていることも確認したときは本当に胸をなでおろした。小舟で〝偉大なる航路〟…実際やりかねない。だからこそ、兄として弟のことは心配になるのだ。

 

 もっともその伝言が確実に伝わるとは限らないから、ちゃんとやってくるという保証はないのだが、そのことには気がついていない。会えるということに気持ちが先走っているのだ。

 

 そうこうしている内にナノハナの町についた。伝言をしてからの時間を逆算すれば、もう町に入ってもおかしくはない。幸い、顔写真はこの手配書でこと足りる。ということで通り行く町の人に聞き込みをしはじめた。町の人は突然手配書片手に聞き込みをする男を不審に思えども、男の質問に応じる。もっとも誰もが見たことないので、知らないと答えるしかないが。

 

 1時間ほどだろうか。全く情報が集まらないまま時間だけすぎ、しだいにお腹がすいてきた。左手でお腹を抑え、トボトボと歩く。町の人はどうしたのだろうか、と怪訝な視線を向ける。傍から見たら腹痛のように思えるが、ただの空腹である。

 

「まあ、まず飯屋だな。」

 

 聞き込みを終え、飯のにおいを辿って食事どころを探す。そうすると一軒の店〝Spice Bean〟が見えた。空腹も相まって、そのまま店の中へ。

 

 店内にはそれなりに客がおり、家族ぐるみでテーブル席を取っている箇所を多く散見できた。いっぱいだったらどうしようと心配したが、カウンター席はあいているっぽかったのでホッと息をつく。自分は両隣があいている正面カウンターに座り、鞄を足元に下ろしたところ、カウンターの反対側に男が一人近づいてきた。

 

「いらっしゃい。何をご注文で?」

 

 店の店主だろうか。カウンターに座ったエースに聞いてきた。

 

「おやっさん、ありったけで。」

 

「は、はぁ…。」

 

 店主は困った顔をしながらも料理の指示を出してつくりはじめていく。空腹でつらい上、あたりから漂う料理の匂いが余計に刺激して待ち切れない。ヨダレがちょっとずつ出てきた。他の客を見ると談笑しながらおいしそうに料理を頬張るのがみて取れる。横から掻っ攫って食いたい衝動に駆られるがそこはぐっとガマン。店先ではさすがにそういうことはしない。逆を言えば店先以外ではありえるということだが。

 

「へい、おまち。」

 

 そうしている内にまず最初の1品目が運ばれてきた。パスタだ。料理の匂いが鼻の鼻腔を通過し、脳を刺激して早く食べろと指示する。欲望が抑えられないままに食べはじめた。味なんて感じているのか、そもそも噛んでいるのか、と言わんばかりの食いっぷりである。そして、ものの数分で完食すると、

 

「おやっさん、おかわり!」

 

 次を催促した。店主は分かっているというふうな顔をして次々と料理を運んでいく。エースは待ってましたという感じ喜びを表し、ちょっとヨダレもたれている。そして料理が出された瞬間、がっついて食べはじめた。あまりの勢いで食べるものだから、食べ物のカスがまわりに飛んでいく。店主も苦笑いだ。元より食欲はかなり大きいほう。エースにとって空腹のときはいつもこのような食べ方であった。エースをよく知るものにとっては見慣れたものであったであろう。

 

こうなったら基本的に止まることはない。己の胃袋が満足するまで食べ物がドンドン胃袋へ押し込まれていくだろう。

 

 だが、不意に隣から呼ばれたとき、食べるのを止めざるを得なかった。

 

「も〜もうちょっと静かに食べてよ、そばかす君。」

 

「うん?」

 

 隣に顔を向けるとそこには1人の少女がふくれ顔で文句を言いつつ袖をハンカチで拭いていた。黒い帽子をかぶり、黄色がかった鮮やかな緑色の髪がのぞいており、服は黄色がベースでいかにも女の子らしい服装。明らかにこの国の者ではない。それよりも気になるのが左胸にある藍色の瞳のようなもの。閉じているようで、なかはどうなっているか分からない。そして、その丸いものから伸びる管。腹に二周ほど巻きつき、足にまで伸びている。左肩の後ろの方ではハートの型をとっている。オシャレにしては周囲の目を引くほど派手なようにも見えるが、不思議とその少女に目を向けるものはいない。

 

少女の前には食べかけのパスタとチキンがあり、食事中だったことがわかる。どうやら、食べ物の破片が飛んできて袖についたから怒っているようだ。早く謝れと緑色をした目で訴えている。

 

「ああ、悪いな。気を付けるよ。」

 

「そーしてね。」

 

食事になると夢中になって目の前しか見えないエースにも最低限の礼儀ぐらいある。軽く詫びをいれると、少女は軽く怒っていれど、さほどは気にしていなかったようにすぐに謝罪を受け入れ、そのままパスタを食べはじめた。

 

面倒ごとにならなくてよかったとホッとする。他の飯屋でもだいだいこんな感じになるからこのように文句を言われることも一度や二度ではない。中には怒鳴ってくるものもいた。大物海賊とは言えど同じ飯屋で飯を食べるもの同士。逆ギレするなどもってのほかである。争いごとになってしまってはせっかく食べる飯が不味くなってしまう。

 

だからこそ、基本的に席がいっぱいでない限り、余裕のある席をとっているのだが…

 

「おめぇ、いつからいた?」

 

「ん〜はじめっからだよ、そばかす君。」

 

さも当然なことのように言った。しかし、考えてみてほしい。はじめ席を座るときは両隣があいていることは確認済みだ。少なくとも少女が座っているようには見えなかった。お手洗いで席をはずしていたということも考えられるがそれはない。はじめ言った通り席はあいていたのだ、カウンターも含めて。カウンターに出ている料理に気がつかないなど空腹中の自分がありえない。

 

では自身が座ったのちに席についてから注文をとったのか。いや、それもない。なんにせ、自分の料理が運ばれるまで店主の動きには注目していたし、まして自分の隣に料理が来ようものなら目がいかないはずがないのだ。

 

ということは少女の言った通り、自分が来る前から料理を食べていたというのか。仮にも白ひげ二番隊隊長、空腹時とはいえ気配をよむことには長けているし、隣に座っている人に気がつかないほど気を抜いている訳ではない。だが、この少女はどうだろうか。全く気配が掴めない。存在そのものが希薄すぎるのだ。

 

不気味な少女を警戒しつつも、先ほどの少女との会話を思い返す。見た感じで分からない。会話から口調などで判断すればいい。エースの頭の回転は速かった。へたしたら自分の首につながることもある。生きるためには敵の情報をなんとしても手に入れる必要だってあるのだ。掴めないようなふわふわした感じを思い出しつつ、自分の呼び名にさしかかったあたりで思考が止まった。

 

「ちょっとまて、さっき俺のことなんて言った!?」

 

「えっ、そばかす君でしょ?」

 

え、何言ってんのって感じで逆に聞き返された。これまでいろんな人から呼ばれてきたがここまで不名誉な呼ばれ方をされたことはない。小僧とかガキとかそういうのはまだ許せる。俺がまだ子どもだからって話だ。もっと大きくなって見返してやればいい。だが、そばかす君はさすがにないだろう。全世界のそばかすの人に謝れ!

 

「俺をそんな名前で呼ぶんじゃねぇ!!」

 

「えぇ〜いいじゃん。」

 

「なんか馬鹿にしているみたいに聞こえるんだよ!」

 

「だいたいあなたの名前知らないしー。」

 

少女は少年のことなど相手にするまでにないと言わんばかりに食べながら返す。

 

そりゃそうだ。名乗ってないのだから名前も知らなくて当然だ。確かに自分は札付きだが、俺のような海賊がまさか“偉大なる航路”の前半にいるとは思いもしないだろう。ここは馬鹿正直に名乗ってもよかったのだがここは飯処。自身の名に驚いて騒ぎになる可能性もある。そうなってしまっては飯どころではない。それは避けなければならない。ならば名前だけを名乗ればいい。ファミリーネームや肩書きまで話す必要はない。もっともこのお気楽そうな少女がビビるかといわれたら分からないが…

 

面倒だと思いつつも名前だけ名乗った。

 

「…エースだよ。」

 

「ふんふん、エースだね。そばかす君。」

 

ズルッ。変わってないし…

 

「まあまあいいじゃん♪ちなみに私の名前はこいしだよ。」

「あっ、それとも暑がり君って呼んでほしいの?上半身裸だし。あ~それなら変態さんの方がいいのかな?」

 

「……はぁ〜〜。もうそばかす君でいいよ。」

 

大きくため息をつきながら諦めた。どうやら訂正する気はないらしい。むしろ逆にもっと悪化しそうだった。というかさらっと名乗ってるし。

 

さっきからこの少女、こいしにペースを取られまくりだ。ここまで会話で相手のペースに巻き込まれたことはない。仲間たちがこの光景を見ていたら笑い者にされる様が目に浮かぶ。

 

まあ、先ほど無礼を働いた手前あまり強くは言えない。軽く怒られた罰がその程度なら安いものだろう、と自分のなかで納得してそのまま食事を続けた。

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

 

エースの台の両脇には皿の山が積みかさなっている。少なくとも子ども二人分の身長な山が二つ。常識を超える量がその一つの胃袋に入ったということだ。胃の中から食べ物が突き破って、その中身をぶちまけても別におかしくない。なのにその中央では少年が一人、未だに食べ続けている。はじめのときのようなペースではないけれど、一般人からみたらその量を食べてなおそのスピードはおかしい。周りの客も化け物を見るような目でみる。

 

店主もその光景には驚いてはいれど、店の収益だ。顔は少し引きつっているが内心はホクホク顔だ。

 

こいしも感心したような目をときどきこちらに向ける。しかし、彼女はいまメイン料理が終わってデザート中である。この国では珍しく、そして高いアイスクリームを堪能している。暑い中でのアイスクリームこそおいしいものはない。上機嫌にその口の中を冷やしていく。どこまで積み上がるかは興味があるが、それよりもアイスクリームにお熱いようだ。

 

それなりに腹いっぱいになったのか、エースは食べるのを片手に会話を始めた。まず今もっとも気になるこいしにだ。

 

「そういやおめぇは何でここにいるんだ?」

 

この町の人間ではないなら町の人よりもっと情報を持っているはずだ。こんなところで一人で食べているんだ。なにかしら得られるかもしれない。さりげなく会話をはじめたつもりだったが…

 

「?何か食べたいと思ったから。」

 

「いやま、そうなんだけど、この町にって意味で。」

 

スプーンを加えながら顔だけをこっちにむけて返した。相変わらずなにかずれている。

 

「ん〜〜〜〜さぁ?」

 

「さぁ?」

 

「無意識にしたがってきただけだからねー。私はただおもしろいものを探しているだけだからなんでこの町にって言われてもね〜。強いていうならおもしろいことが起こるかもしれないから、かな?」

 

ますます分からん。おもしろいものも探している?結局海賊か否かも分からん。旅人と言われてもおかしくない。もう深く考えるのはよそう…。これ以上この路線で話しても無駄だと悟り、本題へと切りだした。

 

「じゃあ黒ひげってやつ知っているか?」

 

「知らな〜い。私にとっておもしろいものしか興味ないもーん。」

 

「けっ、つまらねーやつ…」

 

黒ひげ。俺が今任務として追っているやつだ。情報はすでにあり、わざわざ彼女に聞く絶対性はない。だが複数人から同じような情報が集まればより正確なものになる。それにいろんなおもしろいことを探しているということだから少し情報を持っているかもしれないと思ったが…無駄だったようだ。しかも眼中にないときた。これにはどうしようもない。諦めて残りを食べきってしまおうかと思ったとき。

 

「——んでも、その黒ひげってやつ追っているならここでのんびり食べててもいいの?」

 

心臓がつかまったような気がした。先ほどまでののんびりした声よりもすこし鋭い感じ。俺は黒ひげの情報しか聞いていない。追っているとは一言も言ってないのだ。よく考えているのかいないのか分からなかったが、なにも考えていないという方向に踏もうとした矢先だったものだから急な少女の発言に驚いてしまった。その実、彼女はよく考えているほうで、情報を取ろうとして逆にとられていたということなのだろうか。

 

件の少女はこちらの動揺など全く知らないかのように残り少しのアイスを楽しんでいる。少女の顔はアイスのようにとろけた表情である一方で、こちらの内心はヒヤヒヤものだ。

 

「あ、ああ。すでにだいたいの場所に目星はついているんだ。やつはしばらくは一つの場所に固まっているだろうからまだ大丈夫だと踏んでんだ。それに、今弟を待っているんだ。見たことあるか、こんな麦わら帽子をかぶったやつなんだけど…」

 

こちらの動揺が悟られてはならないと表情を繕う。とはいえ、エース自身、嘘はあまり得意ではない。絶対バレてる。

 

ここで思う。別にバレてもいいと。すでにいろんな人に聞き回っているんだ。向こうに入ったとしても関係ない。少女の態度が急に変わったことで驚いてしまっただけだ。落ち着け、落ち着け…

 

もういいやと思って鞄の中から手配書を取り出して弟のことを聞いてみる。この時点でまともな思考は残っていない。頭はオーバーヒート中。炎人間だけに。元よりこういう頭脳労働は得意ではない。慣れないものは慣れない、そういうことだ。

 

自分が思った通りに動けばいい。今までだってそうしてきたはずだ。偶々この少女が不意に言っただけかもしれない。いちいち気にする必要はないのだ。

 

「ん〜〜〜麦わらをかぶった知り合いはいたけど、この顔は知らないなぁー。」

 

返ってきたのは少し違う回答。知らなかったことには違いないが、他にもいたんだ…麦わら帽子をかぶっているようなやつなんて。弟だけが変なのではないと妙に安心した。

 

「そうか…じゃあおやっさん、この顔しらn」

 

ボフッ

残りのピラフを口に咥え、今度は店主に聞こうとした矢先、エースの顔はピラフの中に突っ込んだ。右手には肉を掴んだフォークをつかんだまま微動だにしない。

 

「おい、あんた大丈夫か!」

 

店主が勢いよく駆け込んでいる。周りの客も店主のあげた声に驚き、顔を向けている。何事かと騒ぎ始めた。

 

こいしも目をパチパチさせながら固まっている。ちなみにアイスはもうない。

 

 

 

#####

 

 

 

店主が男の様子を観察し、なにかに行き当たったのか叫びだした。

 

「これは、砂漠のイチゴだ!!」

 

「砂漠のイチゴ?」

 

こいしがハテナマークを浮かべながら聞き返す一方で、店内の客は驚愕であふれた。客は我先にと男から離れる。店の騒ぎを聞きつけ、なんだなんだと野次馬が集まってきた。砂漠のイチゴだということが伝言ゲームのように広がっていく。

 

店主も厨房付近まで逃げてきた。店で砂漠のイチゴが出たということで自身の身も危ないのだ。命が、というだけでない。これから出る風評被害、損失…。頭が痛くなる。

 

「ねぇねぇ、砂漠のイチゴってなあに?」

 

声が聞こえてきたほうに顔を向けると先ほどまで男の隣で食べていた少女がいた。いきなりカウンター席に座って注文してきていて対応していたのだが、さっきのゴタゴタで忘れていた。

 

「砂漠のイチゴっていうのは赤いイチゴの実のような毒グモなんだ。間違えて口に入れてしまうと突然死に、その死体には数時間感染型のウイルスがめぐると言われる。だから嬢ちゃんも早く離れたほうがいい。」

 

少女に注意を促しこれ以上被害を出さないようにしようとした。さらに被害者が増えるような頭の痛いことは増やしたくはない。もっともすでにいっぱいいっぱいではあるが。

 

「ふ〜ん………あっ、マスター!アイスおかわり!」

 

「えっ!?」

 

しかし少女が返したのはアイスの追加。空気読めてんのこいつ…?

 

「いや、だってそばかす君生きてるし。」

 

「はぁ?」

 

店主が聞き返した直後、

 

ガバッ

男が急に起きあがった

 

〈〈はぁ!!??〉〉

 

客の全員がツッコんだ。

 

男の目はどこか焦点が合っていないように思える。

そんな状態なのを心配して、一人の町娘が声をかけた。

 

「あ、あの、大丈夫ですか。」

 

声が聞こえたほうに男は顔を向ける。ピラフにそのまま顔を突っ込んだからだろう、顔のいたるところにご飯粒が付いている。その様子は焦点の合ってないような目とあわさってホラーじみている。

 

その状態をみて、ヒィっと女は怯えだし、少し後ずさった。襲われるのではないかとヒヤヒヤしている。周りの客も息をのんで行く末を見守っている。

 

そして、男は突然あろうことかその町娘のスカートで顔をふきはじめた。あまりの光景に女はなすすべもなく、されるがままにされるしかない。誰が予想できようか。失礼の域を越えている。

 

拭き終わった途端女を悲鳴をあげて逃げていった。哀れ、女。この恐怖は一生忘れられないであろう。

 

そして、皆がその行く末を見守るなか男は話し出す。

 

「ふぅ〜〜いやーまいった、寝てた。」

 

〈〈寝てた!!??〉〉

 

「ありえねぇ」

「食事と会話の真っ最中だというのに」

「しかもそのまま噛み始めた…」

 

町の客全員がツッコんだ。そりゃそうだ。死んだと思っていたら実は寝てました?寝言は寝て言え。

 

口々に人々が言っているなか男、エースは周りを見て言う。

 

「何の騒ぎだ?」

 

〈〈おめぇの心配してたんだよ!!!〉〉

 

皆の心が一致した瞬間だった。空気読め。

 

「ここはコント集団でもやっているのか?」

 

「いや、そうじゃないんだけど…」

 

この空気読めないやつに店主は引きつり顔で答える。

そして、

 

ゴトン

 

〈〈おい!!また寝るんか!!〉〉

 

エースは再び頭を沈め、今度はいびきが発してきた。珍事件だったと人々も散会していく。客はもとの席へ行き、野次馬も帰り始めた。店主も大事にならなくてよかったと安堵する。

 

 

 

少女がひとり、終始クスクスと笑っていたのを知る人は誰もいない。

 

 

 

 

 






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衆目に現れる無意識

可愛いは正義

つまり

こいしちゃんは正義

いいかな?


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食べながら寝るという珍事を起こしつつも、エースは山のような食事を終え、フォークを皿の上に放り投げてカランカランと音を立てる。そして改めてルフィのことを店主に聞こうとした時だった。

 

「よくもぬけぬけと大衆の面前で飯が食えるものだな。白ひげ二番隊隊長ポートガス・D・エース。」

 

「し、白ひげ海賊団!?」

 

「あ、あの白ひげ海賊団の一味が何でこの町に!?」

「見ろ、あの背中!白ひげ海賊団のマークだ!」

 

店の入り口のほうから聞こえてきた声に店主は驚き、店内は再び騒然となった。エースはあえて振り返らず、背中を向けたままニヤリと口角をあげる。

 

自分の名を知らないやつには知らないなりに対応する。知っているやつにはそれなりの対応する。それに自分の名を知ってなおわざわざ声をかけてくるようなやつは興味本位、腕が立つやつが多い。

 

ここしばらく名を知って声をかけてくるものがいなかったこともあって、エースのテンションはたぎってくる。

 

「名の知れた大物海賊がこの国にいったいなんのようだ。」

 

「探してんだ、弟をよ。」

 

「弟?」

 

質問を答えると同時に振り向き、相手を確認する。そこにいたのは二本の葉巻をふかし、背中に十手をさした白髪の海兵、スモーカーだった。

 

両者とも何も発さずにただただお互いを見やる。周囲の人々も固唾をのんで見守っている。

 

沈黙を破ったのはエースのほうだった。

 

「んで、俺はどうすればいい?」

 

「おとなしく捕まるんだな。」

 

「却下。それはごめんだ。」

 

「まぁ、そうだろうな。」

 

スモーカーは一息つき、そのまま続ける。

 

「俺は今別の海賊を探しているところだ。正直お前の首なんかに興味はない。」

 

「じゃあ見逃してくれよ。」

 

「そうもいかない。」

 

会話の応酬。交渉の決裂と同時に右腕を白い煙にさせ、いつでも発射できるように構える。モクモクの実のケムリ人間。自然系だとわかる。

 

「俺が海兵で、お前が海賊である限りな!」

 

「つまらねぇ。楽しくいこうぜ。」

 

二人の間に緊張が走る。一秒一秒が長く感じる。ここ最近まともな戦闘はしてこなかった。そりゃそうだ。必要外な戦闘はしない。それに見る限り自然系。まして自然系の能力者との戦いはもっと久々だ。男として戦いには血がたぎる。

 

周囲も今か今かとヒヤヒヤする。海賊と海兵の戦いはほとんど見たことがないうえ、まして相手は大物海賊。どんな戦いが見れるのか。心の奥底では楽しみにしている。

 

 

 

「いや、私海賊じゃないんだけど。」

 

しかし、二人の緊張を破ったのは場違いな少女の声だった。

 

「「んん?」」

 

突然声が聞こえてきたほうに顔が向く。ちょうどエースの隣の席。いつの間にか座りなおしていた少女、こいしがいた。その手にはスプーンとアイスクリーム。どうやらおかわりをしていたらしい。

 

「なんだ、まだいたのか。」

 

「うん♪」

 

アイスを食べながら嬉しそうにかえす。

 

っと、集中を切らしてしまった。

 

再びスモーカーに顔を向けたとき、意外にも硬直してしまった。なぜなら、葉巻を床に落とし、口を半開きにして目を見開いたまま少女を見るスモーカーの姿がそこにあったからだ。

 

明らかな動揺が見て取れる。先ほどまで自分に臨戦態勢をとっていたとは思えないほどに。この海兵があんなに驚くとは…。この少女はいったい何者なんだ。

少女に対する疑問ばかりが募っていく。

 

「て、てめぇは…“無幻の狂人“コイシ…!」

 

「無幻の狂人?誰だそれ?」

「ほらあれ、ずいぶん前に海賊船を襲撃したあの…」

「ああ、あれか」

「実在したんだ」

 

エースのときほどではないが周囲で声があがる。知名度は白ひげの方が上だった。

 

“無幻の狂人”。確かにそう言った。新聞で見たことがある。あらゆる海にて海賊、海兵の船を襲い、そこにいた全ての人間を殺す狂人。にもかかわらず目撃情報が一切ないため幻とも言われる。俺も眉唾ものだと思っていたが…。

 

目線の先にはおいしそうにアイスを口にする少女。これっぽちも虐殺を繰り返すような狂人には見えない。つまり、実は性格を偽っていて油断した隙に狩るタイプなのだろうか。

 

いや、そうじゃないだろう。きっと馬鹿の類だ。なんにせ俺と奴の間でしか会話してなかったのに自分も言われてると思って口をはさむようなやつだ。そんなのがこんな狡猾な真似ができるとは思えない。

 

じゃあ素でこれなのか?なんかルフィみたいだな。もっとも経歴は全く似つかないが…。

 

「まさかこの目でお目にかかれるとはな。てめぇが本当にあの無幻の狂人か?」

 

「無幻の狂人…?そういえば昔見た手配書にそんな二つ名があったような…?ああ、それ私か。かわいく撮れてるなぁ〜としか思ってなかったわ。」

 

だめだ。あまりに無頓着すぎる。というか自分の手配書をみた感想がそれかよ!

 

「とても40年前から活動しているようには思えねぇが?」

 

40年前!?おいおい、明らかに俺よりも年上じゃないか!こんな呑気にアイス食っているやつが?無理だ。ぜんっぜん年上に見えない。絶対年下だ。この容姿で年上はありえない。

 

「む〜ひどいなぁ〜。今も昔も私は私だよ。」

 

ちょっとむすっとしながらスプーンを相手に向けて抗議する。しかし、その様子は威嚇ですらなく子供が親に文句を言っているようにしか思えない。

 

本当にこいつが噂の狂人か?エースも疑いだした。

 

スモーカーはしばしこいしを見つめ、考え事をした後、再度右腕をケムリにさせる。おしゃべりは終わりのようだ。

 

「ふん、少々予想外なことがあったが変わらねぇ。火拳のエース、無幻の狂人、貴様らはここでおれが捕まえる!」

 

緊張が再びはしる。エースも気持ちを切り替えていつでも火銃が放てるよう準備しておく。

 

「む、これからなにかおもしろいことが起きそうよかんがする!」

 

そしてキュピーンとこいしが再び変なことを言って水を差す。いい加減空気読め。おめぇも狙われてるんだぞ。口にしようとした瞬間だった。

 

「—————のロケット!!!!!」

 

「ぐああああああああぁぁぁぁぁぁーーーー」

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおーーーー」

 

逆海老反りの状態のままこちらに突っ込んでくるスモーカー。予想外からの攻撃だったのか、自然系も発動できなかったようだ。

 

あまりの事態にエース驚愕した。目玉も飛び出す。自然系?無理だ。この事態に冷静に能力を使えるほど鋼の心は持ってない。

 

叫ぶことしかできないエース。自分に向かって飛んでくる様子がスローモーションで見える。

 

ズドォーーーーン

ガシャーーーーーーン

 

ついに二人は衝突。カウンターを突き破り、店の壁を突き破り、隣の家の壁を突き破り…。

 

「あははははははは。すごいすごーい!人間ビリヤードだ!!」

 

二人の耳には人の心配など毛ほどもしない少女の笑い声が遠くから聞こえてきた。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

「ふざけやがって…」

 

スモーカーは埋もれた瓦礫から起き上がり、ぼやいた。もうすでにエースやコイシのことは頭から抜け落ちている。今あるのはいきなり背中にアタックしてきたどこのだれとも知らない常識知らずへの怒り。

 

葉巻に火をつけ、気分を落ち着かせる。何かにあたりたくなるほどイライラしているのだ。まあ、それはもっともだが。どこの世界に背中に頭突きされて怒らないやつがいるのだ。

 

立ち上がって服についた汚れを払いおとす。葉巻で少し落ち着いたようだ。払い終わったら店の方へとぶちあけた穴を通ってむかった。火拳も同様に歩き出していたことが正面をみればわかる。同じように突っ込んできた人物に対して憤りを隠せないでいる。途中食事中の夫妻が目を点にしてこっちを見ているので軽く詫びるという事件もあったが…まあ穏便に済んでよかった。

 

「あなたおもしろいね。」

 

「んん、誰だおめぇ?」

 

「ふふ、私はこいしっていうの。よろしくね麦わら君。」

 

「おれはルフィ。海賊王になる男だ」

 

食べながら言う犯人。少なくとも言葉と格好が似合わない。人様を突き飛ばしたことはどこへやら、呑気に飯を食べる。しかも全て手でつかんで口に放り込むという原始的な食べ方。周りもあんぐりだ。

そしてそれと談笑するこいし。あ、アイスは完食しました。おいしかったです。まる。

 

二人が店の中に戻る寸前、周囲の人々は一斉に逃げ出した。当たり前だ。だれも大物海賊と強面海兵の逆鱗に巻き込まれたくはない。面前の二人、いや一人のことよりも我が身が大事なのだ。

 

店の中でガツガツ食っているやつの正体を見つけ叱責してやろうと思った寸前、それが自分の探し人だと気づいたのはほぼ同時だった。

 

「おいルh」

「麦わらーー!!」

 

目の前にいたエースを真横に吹き飛ばし、エースは厨房に突っ込む。ドンガラガッシャーンと音をたて、再びエースは瓦礫に埋まる。

 

「探したぞ麦わら!やっぱり来たなアラバスタに!」

 

イニシアチブをむしり取ったスモーカー。声をあげて再会を口にする。なんにせ麦わらを追いかけて“東の海”、ローグタウンから“偉大なる航路”までやって来ていたのだ。通信傍受などあらゆる手段を使って麦わらの情報を集め、こうして待ち伏せにまで至っている。これで会えなかったら何しに来ていたのか。

 

一方、ルフィはスモーカーをじっと見つめる。エースは一瞬でしか見えなかったので全く気づいていない。こいしは横で口元を抑え、笑い噴き出すのを我慢している。その間ルフィは食べるのはやめない。肉が魚が、掃除機のように胃袋へ押し込まれる。何も発さずただただ時間だけが過ぎる。

 

「食うのを止めろ!!」

 

そう言われてもルフィは止まらない。変わらず両手でばくばくと。

 

なにせ今ルフィは……こいつだれだっけ?って思っているのだから。

 

そして少し記憶を思い返す。ローグタウン出航前に襲われ、自然系の能力に手も足も出なかったことを思い出し…

 

「ぶはぁぁぁーーー」

 

口に含んでいたものを相手の顔面に吹き付けながら喋り出す。顔はもうよごれよごれ。汚い。

 

「あん時のケムリ!何でこんなところにいやがる!」

 

「んのヤロー…」

 

怒りはもうど頂点。

傍ではこいしは腹をかかえて笑っている。人の不幸は蜜の味、そう捉えられてもおかしくはない。もっともそれにツッコむひとはいないが。

 

もう我慢できない。今にも襲いかかろうとした瞬間、

 

「ちょっと待て!」

 

ルフィは片手で静止させる。不意に言われたものだから何となく止まってしまった。

 

そして、目の前の食べ物を一気に口に含む。明らかに人の口の大きさを超えた要領だが、そこはゴム人間。口もゴムで伸びていく。あっという間に料理の皿は空になった。風船の口を抑えるかのように両手で口を閉じてひとつ…

 

「どぉも、ごっちょさまぁでした。」

 

礼儀は忘れない。そして回れ右してダッシュ!

 

「待て!!」

 

数秒前の信じがたい光景に硬直してしまったが、すぐに硬直を解いて走って追いかける。先程止まってしまった自分が憎い。顔は走りながら拭いて汚れはとった。

 

走りながらルフィは口の中のものを消化する。それはもうゴックンと。食べものを飲み物のように飲み込む。噛んですらない。

 

二人の追いかけっこが始まり、人びとは道をあけていく。進路はいまだ直線。ただただまっすぐに二人は駆ける。

 

途中俺は麦わらが走るさきにいるものを見つけ、叫ぶ。

 

「たしぎーー!!」

 

進行上にいたのは自分の部下である曹長たしぎ。上司の声に反応してすぐさま対応を…

 

「はい、スモーカー大佐。タオルですか。暑いですねーこの国はー」

 

してくれなかった…。相変わらず呑気なやつである。もっともそれを口にする間も惜しい。

 

「そいつを捕まえろ!!麦わらだ!!」

 

「麦わら!捕まえます!!」

 

事態の緊張性に気づき、近づいてくる麦わらに向かって刀を一閃。ルフィはひょいと跳んで躱す。そのまま建物の出っ張りを蹴り、壁キックの要領であっという間に屋上へと登った。

 

軽く舌打ちをして、

 

「たしぎ!海兵どもを緊急招集!町を隈なく囲って麦わらの一味を探し出せ!!」

「はい!!」

 

麦わらの一味を捕まえるべく指示をだす。自分は足を煙にすぐさま屋上まで上昇、麦わらを追いかけた。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

見失った。当たる寸前に建物の隙間に落ちたり遮蔽物をうまく使ったりと、ちょこまかと逃げられた。だが、緊急招集をかけてからそれなりに時間が立っている。もうじき見つかるだろう。その時にそこへむかえばいい。

 

それにしても…と煙で進みながら先ほどの麦わらとの会話を思い浮かべる。クロコダイルをぶっとばすだと?麦わらとクロコダイルに何のつながりがあるというのか。

 

サー・クロコダイル。アラバスタを根城にする王下七武海の一角。たかだか一海賊が七武海に喧嘩を仕掛けるなどどうかしている。

 

火拳のエース、無幻の狂人、そしてクロコダイルを追う麦わら…この国でいったい何が起きているのか。何かとんでもないことが起きそうな気がする。

 

「麦わらー」

「逃すなー」

「追えー」

「うわわああーー」

 

遠くから海兵たちの声が聞こえる。思考を中断させ、麦わらを捕まえるべく現場に急行する。

 

「いたぞー」

「麦わらの一味だー」

「待て!逃がすなー」

 

追いかける海兵たちと逃げる麦わら。みつけた!

見えないがどうやら麦わらの一味も同時に見つかったらしい。

 

「お前ら道を開けろー!麦わらは俺が仕留める。」

 

器用にも走りながら上司の通る道をあける海兵。海兵たちがあけた道のさきでは逃げる麦わらの一味が見える。その最後尾には船長、麦わらのルフィを捉えた。狙いをさだめ、煙となった拳を構える。

 

「逃がすか!ホワイトブロー!!」

 

げげぇぇーーっと悲鳴をあげてルフィはさらに全速力で駆け出す。しかし、煙の拳の方が幾分速い。道中に遮蔽となるものは何もない。このままでは煙に捕まってしまうだろう。彼らに現状煙をどうにかできる手段はない。つかまってしまえばおそらく一貫の終わり。彼らの冒険は幕を閉じることになる。

 

そう、このままだったなら…

 

 

 

 

 

「スティンギングマインド」

 

何処からともなく聞こえてくる声。それに合わせてちょうどルフィと拳の間、オレンジのバラが一瞬円を囲うように咲いたと思うと、すぐさま爆発し花びらが勢いよく舞う。それに巻き込まれた煙の拳はあっという間に打ち消され、スモーカーも慌てて能力を解除する。打ち出した右手の拳を見ると、グローブの上から無数の切り傷があり血も少し滴り落ちる。

 

双方が足を止めた。麦わらの一味も振り返り、目線の先にはいくつもの花びらが太陽の光に照らされ、キラキラと光っている光景が映っている。あまりに幻想的な様子に見惚れてしまったのだ。中には感嘆の声もあがっている。

 

誰がやったのか?あたりを見渡してみるが誰もいない。双方は何が起こっているかわからず、どうしてよいのかわからないのだ。

 

だが白猟のスモーカーは一人、ある一点を見つめる。それは、ちょうど花びらが舞う中心。彼だけには見えていたのだ。

 

右手で帽子をおさえつつ静かにこちらを見据える、“無幻の狂人”が…

 

 

 

 

 




オリ技でもなければ別の作品のわざでもないです。

多少の改変はしてますが正式に存在するこいしちゃん専用の技です。


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白猟に牙を剥く無意識

誤字の多さにちょっとがっくし…

誤字報告本当にありがとうございます!

もっとちゃんと見直ししよう…


時は少々遡る。

 

「このヤロー…」

 

額に青筋を浮かべエースは瓦礫から立ち上がる。二度も吹き飛ばされてエースの怒りも高まっていた。

すでに店内にルフィとスモーカーはいない。ちょうどその前に出ていったようだった。やっとルフィを見つけた…!その思いが怒りを抑え、再会への願望を募らせる。

 

「待て、ルフィ!俺だー!」

 

エースも勢いよく店から飛び出し、ルフィを追いかける。

 

残された店の客は呆然とその様子を見ることしか出来なかった。そして店主が一言。

 

「食い逃げ…」

 

大量に食っていったにもかかわらず、一銭も払わず。さらに店の壁はぶち壊し、厨房も使い物にならない。隣の家々の壁も弁償しなければならないため店の損失は数知れず。新たに店を立て直すほど資金に余裕はない。赤字、それも大赤字だ。もう店を続けることも出来ない。

 

店主はがっくりとうなだれ、床に手をついた。損失だけでも借金もの。これからの人生がお先真っ暗なのはいうまでもない。客はそんな店主を哀れな目で見るしかなかった。

 

 

 

 

 

一方エースはルフィを探して町の中を走り回っていた。そう、こっちも見失っていたのだ。

 

「たく、どこにいったんだ?ルフィのやつは?」

「さあねぇー?」

 

一人走りながらぼやくエース。せっかく会えたと思ったのにいろいろと妨害にあって認識されなかったのだ。近くて遠い、このもどかしさ。ぼやかずにはいられなかった。

 

「どうすりゃ見つかると思う?」

「海兵が集まったり騒ぎが起きていたりするところに向かえばいいんじゃないのー?」

「そうか…」

 

言われた通りに探していこうか、と考えだしてふと気づく。今誰と会話してた?

声が聞こえていたほうを探すが見つからない。気のせいか…と思ったが、背中に何か違和感を感じて首だけ振り向くとそこには、

 

 

背中に乗っているこいしがいた。

振り向いたとエースと乗っかるこいしと目が合い、

 

「また会ったね!そばかす君!」

 

無邪気に挨拶し、背中からとび降りた。天真爛漫な笑顔がなんか腹たつ。

 

「おめぇ、いつから乗ってたんだ?」

 

「?はじめっからだよ。」

 

また同じように何いってんの?って感じで言ってくる。もうわけが分からん。というかこいつをどうしたものか。

 

困ったように頭をかいていると、向こうから話しかけてきた。

 

「ねぇ、麦わら君探してるんでしょ?」

「あ、ああそうだが…」

「私も手伝ってあげる♪」

「はあ?」

 

手伝うってなんで?おめぇ関係ないだろう?

 

「さっきはおもしろいもの見せてくれたからね。そのお礼だよ。それにあの麦わら君もおもしろそうだったし♪」

 

エースが疑問を募らせる一方で勝手に答えていくこいし。確かに人を探すなら人手は多いに越したことはない。

 

だが、こいつはただの女の子ではなく、“無幻の狂人”。へたしたらルフィに危害を加える可能性だってある。しかもルフィのことをおもしろそうと言っている。危害を加える訳ではなくても、何かしらの懸念が残ることは否めない。

 

いやでも店でのあの感じなら大丈夫なのかな…?

 

「てことで行くね。バイバーイ♪」

 

「って、おい!!」

 

しばし考えていたエースをよそにこいしは行こうとする。振り返ったときにはもうこいしの姿はなかった。

 

ため息が出る。一抹の不安を覚えながらもルフィを探すため、再びエースは駆け出した。

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

最悪だ…

 

こちらを見やるコイシを一瞥し、スモーカーは傷ついた右手を再度見やる。自然系である俺にダメージが通っているということを認識し、コイシに対して警戒心を最大にまで引き上げる。

 

自然系というのは悪魔の実の中でトップクラスで強い。それは、体を自然物に変化させて相手のほとんどの攻撃を受け付けないからだ。銃弾だろうと、剣だろうとほとんどの攻撃がすり抜ける。それは他の悪魔の実の能力だって例外ではない。

 

絶対的な防御力と広範囲に強力な攻撃力を併せ持つ故、自然系の悪魔の実は希少であり最強種と位置づけられる。しかし、自然系だって無敵ではない。事実、自然系の相手に攻撃を与える手段は主に2つある。海楼石や海水による弱体化は能力者全員に当てはまるので例外として、1つは能力の弱点をつく方法である。もっともこれは能力ごとに違うので、それを一々つくのは現実的ではない。そしてもう1つは“武装色の覇気”である。

 

“武装色の覇気”は体の周囲に鎧のようなものを纏う覇気であり、自然系の流動する体も実体として捉え、ダメージを与えることができる。主に対自然系能力者としてはこの方法が主な対抗策とされ、本部海兵のトップクラスは全員この力を使える。

 

だからこそ分からない。本部で覇気の使い手は見たことあるから覇気を纏っていれば分かる。だが、自分の手を切り裂いたあの花びらは覇気ではない。しかしただの花びらでもないということは言わなくても分かる。弱点をついた…とは考えられない。もっと別の何か、ということだろう。

 

理解できないものに対しての恐怖が己を襲う。まして、相手は虐殺を行う狂人。後ろで待機する部下達をみやる。奴の場合嬉々としてこいつらを襲うこともありえる。ここでみすみす命を散らせていいものではない。

 

どうしようかと考えていたとき、別方向から知った声が聞こえてきた。

 

「麦わらの一味!捕まえます!」

 

別の方向から部隊をそろえたたしぎがやって来た。ちょうど角度が悪かったのかスモーカー大佐が足止めをくらっているところが見えていない。相手の動きが止まっているのがチャンスだと思ったのだろう。

 

危険だと思い、止めようとした。こいつの前では隙を見せたくはないが、麦わらの援護に来たと考えられる以上奴にとっては敵に違いない。へたに刺激を与えて奴の気に触れさせたくはなかった。

 

しかし突撃するたしぎ一行に気づいた麦わらの一味が慌てて逃げようとしたところに再度、援護が入る。

 

「【陽炎(かげろう)】!!」

 

燃え盛る炎が道を遮る。進行していた部隊は急な妨害に足を止める。そして炎が弱まったとき、その中央に体が燃える一人の男が現れた。

 

「エース…」

 

ルフィは助けてくれたのが見知った顔であることに驚き、半信半疑ながらも声をあげる。そして本人だと確信し、声をあげた。

 

「エース!お前悪魔の実食ったのか!?」

「ああ、メラメラの実をな。」

 

海兵たちは突然大物海賊が現れたことに腰をぬかし、後ずさる。無理もない。その中で一人、たしぎは刀を構え、屈せずエースを睨みつける。

 

「火拳のエース…」

 

だが、圧倒的な強者を前にしてその気迫に気圧される。絶対に勝てないということが嫌でも伝わっているのか、刀を握る手が僅かに震えているのがわかる。

 

「とりあえずこれじゃ話もできねぇ。後で追うからこいつらは俺がとめておく!」

 

「わかった!!」

 

ルフィはエースの言葉を疑いもなく信じ、背中を預けて走り出す。麦わらの一味もルフィが絶対の信頼を置く男に疑問をもちつつも船長についていった。だんだんとその姿が小さくなり、点になっていく。

 

 

 

 

残ったのはコイシとエース、そして海兵たち。誰も何も発さず、時間だけが過ぎていく。

 

なぜ二人が援護に入ったのか、頭のなかで考えをめぐらせるが答えは出てこない。そして、結論が出ないまま二人に尋ねた。

 

「わからねぇ。なぜ麦わらを助ける?」

 

コイシは答えようとはしない。

エースだけはこちらを向き答えてきた。

 

「出来の悪い弟を持つと、兄は心配なんでな。」

 

「麦わらが…!?」

 

火拳のエースが麦わらのルフィの兄だと…!?これが事実なら麦わらはただの海賊ではない。衝撃の事実に驚きを覚えているさなか、

 

「おもしろそうだから。」

 

もう一人が口を開いた。

さっきまで火拳と麦わらの関係を考えていた頭が思考停止させられた。 おもしろそうだからで妨害されるとは思いもしなかった。

彼女の発言に固まっていると、コイシはエースの方を見やって言う。

 

「別に行っても良かったのよ、そばかす君?ここは私が受け持っておくから。」

「お前に任せても不安なんだよ。それに、お前がどんな戦いをするか興味があってな。」

「ふ〜ん…もの好きな人ね〜」

 

たわいもない会話が続く。会話が進むにつれ、コイシを認識する人が増えていく。コイシを知らないものは誰だこいつ?と思い、知っているものは驚愕の表情を浮かべる。たしぎは後者だ。エースが現れたときよりも動揺は大きい。

 

「あなたがやる?」

「いや、譲るよ。海軍のねーちゃんはこっちが止めとくよ。」

「そっ」

 

会話を終えてコイシはこちらに向き直る。立ち姿は登場時と全く変わっていなかった。

 

「足止めなんていつぶりかなー。そもそも足止めなんてしたことあったけ?ああ、そういえばこういう時にぴったりな言葉があったなー。何だっけ、それ?えーとね、うーとね…あ、そうだそうだあれあれ!」

 

とても戦闘前とは思えないほどの雰囲気。少し笑っているようにも思える。今のうち部下達を下げようと指示を出そうとして…

 

 

「……別に倒してしまってもかまわんのだろう…!」

 

 

彼女から突如放たれる重圧に言葉が止まる。さっきまでの陽気な感じはなくなり、刃物のような雰囲気を纏う。部下達はすでに怯え、後ずさっている。二人の間に走る緊張が周りをピリピリと襲う。

 

これが数多の人間を殺してきた“無幻の狂人”。雰囲気だけでその噂は嘘ではないと分かる。

 

「いつでもいいよ」

 

どうやら先手は譲るようだ。完全に油断している。海兵をなめやがって…

 

先ほどまで舞っていた花びらはすでに消えているからいつでも攻撃できる。あれがもう一度来ないよう気をつければいい。

 

それなら、っと右手で十手を構え、勢いよく襲いかかる。相手はこちらに攻撃を与える手段を持っている。覇気の使い手と戦う際、へたに体を煙にして面積を増やすことは悪手だと教わった。この状況はそれと同じ。何の能力だが知らないが、この十手の先には海楼石がついている。これで能力を封じてしまえば何とかなるかもしれない。

 

だが、飛び込んだのも束の間、目を見開く事態に陥る。気づいたときには先程と同じ薔薇が咲いていた。それも目と鼻の先の()()()。間近で見るとその薔薇の異常性がわかる。1つの花の大きさは大人の人間の頭程度、草や葉はほとんど花に埋もれ、その色さえ見る事が叶わない。そんな薔薇が少女を中心とした周り、だいたい半径2メートルほどの円を描くように咲きほこり、数秒かからずともそこに突っ込むだろう。

 

おかしい。さっき一度見たはずだ。同じわざを喰らわないよう注意していたし、何か予備動作があればすぐさま対応できる自信はあった。だがこれはどうだ。まるで初めからそこにあったかのようじゃないか。

 

まずい、と思うがその勢いはもう止まらない。ならばとジャンプしかかったとき、

 

「【スティンギングマインド】」

 

少女の声と同時に爆発して花びらが舞いその身を切りつける。爆風で飛ばされるも先程少し飛んでいたのが幸いし、コイシの右斜め上方、あまり遠くない位置に飛ばされた。だがすでに受けたダメージは大きい。ほとんど受け身が取れなかったのだ。体中に切り傷ができ、血があたりに散る。

 

下の方では部下達が悲鳴をあげているのが聞こえる。見る限りすでに負けたと思われてもおかしくはないだろう。

 

だから相手はもうすでに勝ったと思っているはずだ。負けられないというプライドが己を奮い立たせて意識が飛びそうになるのをこらえ、十手を強く握る。そのまま空中で足を煙にさせターン、急降下。再度攻撃を仕掛ける。

 

少し驚くコイシ。だがあたる寸前に両手で帽子を抑え、ひょいとしゃがんで前方に回避された。こちらに背を向けている。先程よりも距離は短い。チャンスだ!この機会を逃すまいと追撃に入る。幸い相手はまだこちらに振り向いてすらいない。避けたままの体勢だろうか、まだ両手は頭、まるで耳を塞いでいるような姿、で前屈みに近い状態だ。そのまま突きを放とうとして、

 

 

「【リフレクスレーダー】」

 

 

十手を握る右腕に激痛が走る。突然受けた攻撃に追撃は中断、十手を落としてしまった。ジャケットを着ているので外傷がどうなっているかは正確には分からないが、ジャケットの上からでも赤くドス黒く血が滲んでいるのがわかる。どうやら右腕の内部そのものに攻撃を仕掛けられたらしい。まるで腕が破裂したような感じだ。この血痕から考えられるのは血管そのものを破裂させられた…ということぐらいだろう。破裂の際に周囲の神経やら筋肉やらも損傷したのだろう、手がうまく握れない。

 

そしてその硬直が命取りだった。前屈みの状態から急回転、まわし蹴りが一発鳩尾にはいる。とても可愛らしい少女から放たれるとは思えないほどの重い蹴り。自然系の体を実体として捉えたその蹴りは鍛えたはずの体に悲鳴をあげさせる。ミシミシと骨は音を立て、何本かは逝った。口からも血が飛び出す。

 

蹴られた勢いのまま後方へと吹き飛ばされる。建物の壁を何軒も突き破り、勢いがなくなってどこかの壁にぶつかって止まったときには満身創痍。指の一本も動かせなかった。荒い息をしながら空を仰ぐ。

 

本当にどんなふうに攻撃を仕掛けてきているのか分からなかった。攻撃らしい攻撃の隙が見当たらない。いいように攻撃されてばかりで全くダメージを与えられず、この様だ。

 

悔しさで胸がいっぱいになると同時にだんだんと意識がかすれていった。

 

 

 

 

 

#####

 

 

 

 

誰もが絶句していた。

上司の部下達も、たしぎも、そしてあのエースでさえも戦慄せざるを得なかった。

 

たった三、四手。自然系の能力を持ち、大佐のなかでもそれなりの力をもつはずのスモーカーがなすすべもなくやられたのだ。

 

まわし蹴りを放ったこいしは緑のスカートを揺らしながらそのまま綺麗に着地。だが余裕の勝利を収めたこいしの顔はどうも険しい。どこか虚空を見ているようだ。

 

「誰なの?こんなに泣いてるのは?」

「誰なの?こんなに悲しんでいるのは?」

 

こいしが何かぶつぶつ言っているように思えるが、その内容までは聞き取れない。幾ばくか逡巡したのち、

 

「なんか気が削がれちゃったな〜…。もういいや、飽きちゃった。てことでバイバーイ♪」

 

ぶちあけた穴に向かって笑顔で大きく手を振り、ふっと消える。

どこに行ったのか、気配をたどってもエースでさえ分からない。

 

誰もが固まって動けないなか、エースはたしぎに呼びかける。

 

「おい、海軍のねーちゃん。早くあの海兵を助けたほうがいい。へたしたら手遅れになるぞ。」

 

はっと我に帰り、エースに鋭い目線をむける。ここで海賊を捕まえられないこと、敵に注意されることなど、いろいろと己の未熟さが恨めしく思えるがエースの言葉はもっともだった。急いで他の海兵に指示を出し、スモーカーの救助へと向かう。

 

 

 

 

一人残されたエースは顎に手を置き、先ほどの戦いを思い返した。

 

自身も全力を出しても勝てるかどうか…。何よりあの少女は全く本気を出していなかったように見えた。多少威圧はしていたが、ただ遊んでいる感じというのが否めないのだ。

 

世界にはまだまだあんな強者がいるのだと、感慨に耽りながらルフィのもとへと向かった。

 

 

 

 

 





あまり強すぎないようにって調整していたつもりだったんだけどかなり強いと感じてしまうこいしちゃん。
でも実際これくらいはないとこの海では生きていけませんものね。

まあ上手く調整しますよ。



次回投稿は少し遅れると思います。






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