魔法科高校の逸般人 (羽月)
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入学編Ⅰ

 ハーメルンを使うのは初めてなのでお見苦しいところがあるかもしれませんが、よろしくお願いします。


 魔法。

 それが御伽話や伝説の産物から、技術として体系化した世界。

 

 時は西暦2095年。これは、魔法を使うことのできる人が魔法を学ぶ学校、魔法技能師養成のための学校の一つ『国立魔法大学付属第一高校』に入学したイレギュラーな兄妹の巻き起こす物語。

 

 

 

 

 …ではなく、

 

「…入学できるとは思わなかった」

 

「なーに言ってるんすか!お嬢が受験に失敗するわけないでしょう?」

 

 自称・一般人の二人が巻き起こす、愛と成長の物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 国立魔法大学付属第一高校の入学式。そこに彼らはいた。

 

「いやー、ぎりぎりになったっすけど、入学式に遅刻しなくてよかったっすね!お嬢!」

「…譲(ゆずる)が寝坊しなければよかっただけでしょう!だからあれだけ夜中までゲームするのはダメって言ってたのに!」

 譲と呼ばれたへらへらと笑う男子生徒は、肩より少し上で切りそろえられた鈍色の髪の毛と灰色の瞳を持った中世的な顔立ちをした美男子である。白みがかった肌は日本人離れしており、彼の蠱惑的な魅力を醸し出している。…黙っていればが頭につくが。

 お嬢と呼ばれた女子生徒の方は、ボブにした青紫がかった黒髪に紫の瞳を持った大人びた印象を持つ少女である。よく見ると美人かな、と思われるくらいの顔立ちで、隣の美男子と並ぶとやや見劣りしてしまう。

 

 どうやらこの二人は旧知の仲のようで、軽口をたたきあっているらしい。

 

「まあまあ。取り敢えず、会場に行こうじゃありませんか」

「もう、調子いいんだから…」

 そういいながら二人は入学式の会場に向かって行った。…男子生徒の制服にはエンブレムがあり、女子生徒の制服にはそれがない。そのことがトラブルの種になるだなんて、この時の二人は思ってもみなかったのだ。

 

 

 

 

 

「うわー、やっぱりほとんどの席が埋まっているわね…」

「あー…。あっ、お嬢!あそこ空いてるっすよ!」

 そう言って男子生徒が指差した先には、確かに二人分の席が空いていた。後ろの方だったが、この際気にしていられない。

「あ、本当。じゃあ、あそこにしましょうか」

 二人がその席に近づくと、その席の隣に先に座っている女子生徒に話しかけた。

 

「すんません。ここ、座ってもいいっすか?」

「え?…うん、いいけど」

「お邪魔しまーす」

「すみません」

 男子生徒が軽いノリで話しかけた女子生徒は、スレンダーなスタイルをしたかなりの美少女だったが、そんな事はお構いなしにさっさと席に着く。その後に続いた女子生徒が申し訳なさそうにその隣に座る。その時、二人は注視していなかったが、さらに奥のメガネをかけた女子生徒とクールな印象を抱かせる男子生徒が二人を驚いた様子で見ていた。

「ねぇ、貴方一科生でしょ?ここにいていいの?」

「?」

「え、ここに座ったらいけなかったってこと?でも、自由席よね?」

 美少女が訝し気に男子生徒に話しかけるが、当の本人はなぜそんなことを聞かれるか分からないという表情をし、女子生徒は困惑気味にその話を聞き返した。美少女は何かを言おうとしていたが、入学式開始の放送が流れたためその言葉は発せられることがなかった。

 

 

 

 入学式が終わった後、さっさと外に出た二人は諸々の手続きを終わらせていた。

「すごかったね。今年の首席さん。凄い美人だった!」

「えー…。あんま覚えてないっす。なんか美人ってみんな同じに見えないっすか?」

「…相変わらずね。聞いた私が馬鹿だった。…それよりクラスは?」

 歩きながら女子生徒が入学式の感想を言うが、男子生徒の方は全く興味を示していなかった。それに呆れつつ、女子生徒は次の話題に移った。ちなみに、そんな二人が一緒に行動するたびに周りからじろじろ見られているが、理由が分からないためスルーを決め込んだ。

「あー、俺はB組っすね」

「私はF組。相当離れちゃったね」

 そんな会話をしながら、二人は帰路についた。

 

 

 

 

 

 翌日。今日から始まる新生活に期待に胸を膨らませる…なんてことはなく、ごくごく普通に二人は登校し、昇降口が別ということでそこで分かれた。

(さて、ここね)

 F組と書かれたプレートのあるクラスに彼女は入っていく。自分の席に着こうとすると、周りからじろじろと不躾な視線を感じた。

 

(な、なんなの?)

 

 理由が分からず内心たじろいでいたが、そんな様子はおくびにも出さず着席する。ポーカーフェイスは彼女にとって呼吸をすることと同じことだ。

 机の端末に学生IDを挿入し、カリキュラムの確認をしようとすると一人の女子生徒に声をかけられた。

 

「おはようございます!」

「え…。お、おはよう?」

「私、船頭桜桃(せんとうゆすら)!ユスラでいーよ!あなたの名前は?」

「宵宮華夜(よいみやかよ)。好きに呼んでもらって構わないわ」

「じゃあ、かよりんね!」

(…名前より字数増えてるけど、いいのかしら?)

 困惑は表に出さず表面上の笑顔で答える『お嬢』もとい華夜は、船頭桜桃という少女を失礼にならない程度にじっと見た。

 顔は美少女というよりは愛らしいという感じ。やや童顔なのも相まって、可愛らしい笑顔が魅力的だ。身長も女子の平均よりやや高い自分と違い、逆にやや低い。スタイルもほどほどということもあり、それがますます彼女の愛らしさを引き立てている。胸元まで伸びているオレンジめいた茶髪とくりくりとした大きな珊瑚色の瞳が魅力的だ。

 

(ああ、小動物的な感じね)

 

 そんな風に一人納得していると、ユスラはじっと真剣な表情でこちらを見て、

 

「かよりんって、一科生の弱みでも握ってるの?」

 

「はぁ!?」

 

 思わず華夜から変な声がでた。

 

 

「へぇー。差別、ねぇ」

「…本当に知らなかったんだね。道理で一科生相手にあんな風に接していたわけだよ」

「いや、受かると思ってなくて。記念受験のつもりだったから。受かった後は後でバタバタしてたから、そんな非公式的な事、調べてなかったのよ」

 ユスラから話を聞いた華夜は正直呆れかえっていた。

 

 一科と二科。花冠(ブルーム)と雑草(ウィード)。

 

 一科は二科を見下し、二科は一科に萎縮する。そんな差別があると聞いて華夜は呆れを隠すことなく話を続けた。

「だって、成績上位から百人が一科生で百一番目から二科生ってことでしょ?そんなすごい身勝手な理屈だと、上から百番目と百一番目には越えられない壁があるってことになるよね?」

「まあー、確かに」

「百番目と百一番目って、恐らく、たった数点の違いじゃないの?それで鬼の首を取った気になってるなんて、有頂天にも程がある。まさにアホ丸出しって感じ」

「…でも、成績上位者と二科生じゃ、やっぱり差はあると思うよ?」

 華夜のざっくばらんな発言に戦々恐々とユスラは呟く。

「うーん。そうね。まあ、どんな分野でも成績優秀者って優秀な人も多いもんね。確かに、正面から馬鹿正直にぶつかったら勝てないよ。でもさ、」

 そこでいったん発言を止めてユスラをじっと見る。ユスラは華夜の様子を窺っているようだ。

 

「実戦で馬鹿正直に正面からぶつかるなんてアホ、いるの?」

 

「…え?」

 

 ユスラがぽかんと口を開け、聞き耳を立てていたクラスメイト達も唖然とした表情を浮かべていた。

 

「だって、実戦では情報を手に入れて、策をめぐらして、それから戦いに備えでしょ?不意打ちが来たとしても、周りの状況を見て地の利を生かして戦うなり逃げるなりするでしょ?その前提を忘れちゃダメだと思うの。もしもそれでどうしようもなくなったとしたら、それは運が悪かったってこと。そこに成績の良し悪しなんて存在しない。…違う?」

 

 それを聞いたユスラは、びっくりした顔から徐々に笑い出し、ついに大笑いをしだした。

「あはは!そうだよね!…入学式の時、一科の人から『補欠のくせに』『ウィードのくせに』…なんて言われていたから、一科の人と仲良くしているかよりんを見て驚いちゃってさ。皆もそんな感じだと思うよ」

 ユスラが皆のところでちらりとクラスメイト達を見やる。するとばつが悪そうに彼らは視線を逸らしていった。

「そんなのいちいち気にしちゃダメよ。社会人になったら上下関係なんてこんなもんじゃないんだし」

「うん。今、私もそう思った。二科生だからってびくびくしてちゃだめだよね!さっすがかよりん!」

「まあ、それを差し引いても譲についてはもともと家族みたいなものだし、遠慮なんてしたって始まらないわよ」

 

 そんな話をしていると、カリキュラムの履修登録の為の説明をしに教師が入ってきたため、取り敢えず話はここで打ち切りとなった。

 

 

 

 

 

「お嬢ー!一緒に昼飯食いましょー!」

 昼休み、少し早めに食堂に来た華夜とユスラは混雑することもなく席に着くことが出来た。そこに忠犬よろしく走りこんでくる美男子がいた。

「…譲。あんた、クラスに友達とかできなかったの?」

 あまりのことに呆気に取られているユスラと違い、こんな状況に慣れている華夜は冷静に対応していた。

「うーん、出来たには出来たんすけど、お嬢と昼飯を食いたかったんでおいてきちゃいました!」

「コラッ!」

 あまりにもフリーダムな発言に思わず華夜はチョップをかます。

「ひ、ひどいっすよお嬢…」

 

「ひどいのはどっちだよ、譲!昼休みになったと思ったら急に突っ走っていくなんてさ!」

 

 そういいながら現れたのは小柄な男子生徒だ。

「えっと…?」

「あ、僕は十三束鋼。譲のクラスメイトだ。…もしかしてあなたが噂の『お嬢』?」

 そう自己紹介すると、鋼は華夜の方を見て何とも言えない表情を浮かべた。

「はっ?噂?」

 困惑したように華夜が聞くと、鋼の方も歯切れ悪く答えてくれた。

「いや、昨日君と…『お嬢』と譲が仲良くしていたのを良く思わない人たちがいてね。特に女子に多かったんだけど、君のことを馬鹿にした瞬間、譲の奴、文字通り男女関係なく殺気を込めて睨みつけたんだよ。いやぁ、部屋の気温が五度くらい下がった気がしたよ…。それでうちのクラスでは『お嬢』には触れるなっていう暗黙の了解が出来たんだ」

 そう言って遠い目をする鋼と違い、「当たり前っすよ!」と言わんばかりに胸を張る譲。それで色々察した華夜は、関係ない人間まで巻き込んだことについて流石に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

「…なんか、すみませんでした。それと『お嬢』は勘弁して。私は宵宮華夜よ。好きに呼んで」

「あっ、ついでに私は船頭桜桃。二人とも、ユスラって呼んで」

「わかったよ、宵宮さん、船頭さん」

 二人が自己紹介をすると鋼がそれに答え(ユスラは名前呼びでなかったため不満そうだった)、思い出したように、

「あ、ユスラは俺の名前知らないっすよね。俺は守谷譲(もりやゆずる)。譲でいいっすよ」

 と今更ながらに自己紹介をした。

 

 

 

 気を取り直し、華夜・譲・ユスラ・鋼の四人で食事をしていると食堂の一角が騒がしいことに気が付いた。

「なんすかね、あれ?」

「何かもめてるみたいだけど…」

「うーん、かよりん、見に行く?」

「やめときなよ。面倒ごとに自分から首を突っ込む必要なんてないんだから」

「それもそうっすよね」

 そういうと(鋼は少し気にしていたようだが)、四人は食事を続けることを選んだ。

 

 

 

 

 

 この時の彼らは知ることはなかったが、この食堂でもめる元凶となっていた『司波兄妹』が『宵宮華夜』と『守谷譲』の運命を大きく変えていくこととなる。

 




 次は原作の主人公が出ます!…たぶん。

 追記
 ヴィードをウィードに直しました。誤字の指摘ありがとうございました。


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入学編Ⅱ

 話が中々進まない。


 授業が終わった後の放課後。

 華夜、譲、ユスラ、鋼の四人は下校をしようとしていた際、校門前でとあるもめ事を目撃した。

 

「…何してんすかね?」

「あ、あの子司波深雪さんだよね?今年の新入生総代」

「司波さんが二科の人と一緒にいる事で一科ともめてるって事みたいだね」

「後は下校するだけだっていうのに、よくそんなことでもめることが出来るわね。てゆーか、完全に見世物になってるし…」

 上から譲、ユスラ、鋼、華夜の順で、四人は遠巻きに様子を窺っている生徒たちの群れの中で好き放題に言っていた。しかし表情は皆違っており、華夜は呆れを隠さず、譲は変なものを見るように、ユスラは興味ありげに、鋼はハラハラしている。彼らはちょうど校門のど真ん前…帰り道のど真ん中でもめており、帰ろうにも帰れない生徒たちが野次馬化していた。ついでに付け加えると、そろそろ司波深雪の怒りが爆発しそうになっていることに華夜は気が付いた。

「まあいいわ。帰りましょう」

「そうっすね」

「え、ちょっと待って二人とも!」

 さっさと帰ろうとしていた華夜と譲を鋼が慌てて止めようとしたが、時すでに遅し。二人は『校門』に向かって歩いていく。…そう、一科生と二科生がもめているど真ん中に突っ込んでいく形になる。ユスラもマイペースな二人の様子にどうしていいか分からなくなっていた。

 

 そんな中、ついに事態は動いた。

 

「いい加減に諦めたらどうなんですか?深雪さんはお兄さんと一緒に帰ると言っているんです。他人が口をはさむことじゃないでしょう!」

 

 おとなしそうに見えていたメガネをかけた女子生徒が司波深雪より先に爆発した。女子生徒はさらに言い募る。

「別に深雪さんはあなた達を邪魔者扱いなんてしてないじゃないですか。一緒に帰りたかったらついて来ればいいんです。何の権利があって二人の仲を引き裂こうとするんですか!」

 若干微妙な言い回しもあるが、彼女の言っていることはまさに正論である。しかし、一科生の方も引かない。

「僕たちは彼女に相談することがあるんだ!」

「そうよ司波さんには悪いけど、少し時間を貸してもらうだけなんだから!」

 

「悪いと思うならやらなきゃいいのに」

「そうっすね。しかも時間を貸してじゃなくて取らせてが正しい日本語なんすけどね」

 

 少し離れたところで彼らのやり取りを横目に見ながら華夜と譲はそんな会話をしていた。ちなみに二人の距離は校門に…もめている集団に徐々に近づいている。そんなことは騒ぎの中心はいざ知らず、彼らの意見に二科も反論する。

「ハッ!そういうのは自活中にやれよ。ちゃんと時間取ってあるだろうが」

「相談だってあらかじめ本人の同意を取ってからにしたら?そんなことも分からないの?天下の一科生様が笑えるものね?」

 男気あふれていそうな男子生徒と美少女と言っても差し支えない女子生徒がやはり正論を言う。それを聞いて一科生の生徒が怒りをあらわにしながら彼らに怒鳴り返す。

 

「うるさい!他のクラス、ましてやウィードごときが僕たちブルームに口出しするな!」

 

「支離滅裂ね。あいつら良識に欠けてる上に、困った時には伝家の宝刀と言わんばかりに『ブルーム』て、言ってて恥ずかしくならないの。というか、ブルームであること以外に誇れるものはないのかしら」

「うわー、俺、あんな奴らとこれから同類にされるんすか。マジ恥ずかしいっす。勘弁っす。…今からでも二科に転科できないっすかね」

 

 その瞬間、空気が凍った。

 

 二人はついに彼らに自分たちの会話が聞きとれるくらいの距離に来ていたのだ。しかし二人は自分たちにとって関係ないもめ事に首を突っ込む気などなく、好き勝手に感想をいいながら校門に向かって行く。

「いや、転科は流石に無理でしょ。諦めなさい」

「えー、でも俺、教師がいなくてもそれなりに頑張れるし、な・に・よ・り、お嬢の近くで授業してないとマジモチベーション上がんないっすよ」

「まあ、一科と二科の違いなんて教師の指導を受けることが出来るかどうかだけだし、一科と二科でそれ以外の違いはないっちゃないけど…。あ、生徒会に所属出来るのは一科だけだっけ?」

「いやいや、お嬢。生徒会に入れるのは成績上位者だけっすよ?もうそこまで来るともはや一科と二科なんていう下らねーもんに現を抜かす暇なんてないんじゃないっすか?」

「あー、意識高い人は下らない差別意識なんかで自己陶酔はしなさそうだものね。そんな事してるのは名ばかりエリート…三流ってとこかしら」

 そんな会話をしていると、ついに自分たちへの侮辱(だと思っている)に我慢できなくなった一科生たちが二人に対して怒りの形相で怒鳴った。

「おい、何だお前たちは!」

「ケンカ売ってんの?」

「おい、なんでブルームがウィードとつるんでるんだよ!」

 いきなり声をかけられた二人はきょとんとして互いを見合い、そのまま後ろを向いた。

「いや、お前らだから!俺たちが声かけたのはお前ら!お前らの後ろに人はいないから!」

「あ、私たちなの。で、何か用ですか?」

 華夜が自分と譲に声をかけられたと理解したとたん、彼女からは周りの人間が息をのむくらいの平坦な声が発せられた。顔は笑っているがその目は何の感情も映しておらず、今の彼女から感じられるものは周りに対する『無関心』だけである。華夜がこんな対応をしたのは半ば意識的で、こうすることによって相手が引いてくれれば面倒ごとにならずさっさと帰れるだろうという理由だった。

 しかし怒りに身を任せていた一人の男子生徒は、彼女の反応などお構いなく怒鳴り散らした。

「さっきから聞いていれば、見ず知らずの人間にしたいして『恥ずかしい』だの『あんなのと同類にされたくない』だの失礼じゃないのか!?」

「え…。放課後の下校時間に校門の目の前で騒ぎを起こして、周りの人が下校できなくなっている事にも気が付かない、配慮のできない・良識のない人間にそんなこと言われたくない」

「なっ…!」

「しかも話を聞いているとあなたたちは当の本人の意思をガン無視して、自分たちの言い分が正しいみたいな一方的な価値観を他人に押し付けてるだけじゃない。価値観の違う人間なんてほっとけばいいのにぞろぞろと付きまとって、見てる方もうっとおしい」

「うっとおしい…!?」

「さらに口を開けば『ブルーム』と『ウィード』って…それしかないの?もっと語彙力ってものを身に着けた方がいいんじゃない?」

 絶句している男子生徒を無視して踵を返し帰ろうとした華夜だが、残念なことに男子生徒の復活が一瞬早かった。彼は憎悪すら向けて華夜に呪詛を吐くように言い放つ。

「…お前はウィードだろ?なんでウィードのくせにブルームに盾突くんだい?いいか、この魔法科高校は実力主義なんだ。実力において君たちはブルームに劣っているんだ。つまり存在自体が劣っていることになる。自分の身の程をわきまえたらどうだ?」

 

「おい、こいつお嬢の言った事一ミリも理解してないっすよ?こんなにお嬢の時間を取らせておきながら…シめましょうか?」

「やめなさい。どうやら彼は頭を使うことを放棄したようね」

 

 にべもなかった。二人の反応は冷ややか…華夜はすでに呆れを通り越している。彼女は譲が臨戦態勢を取りそうだったのを諫めるのも忘れない。

 しかし、この言葉に反応したものが別にいた。

 

「同じ新入生じゃないですか!今の時点で一体どれだけあなたたちが優れているというんですか!」

 

 メガネをかけた二科生の女子生徒が真っ向から彼の言葉に噛みついた。そしてそれを聞いて華夜と譲、二人同時に感じたことは『やばい』である。今の彼は怒りで我を忘れている状態だ。二人は何があっても対処できる…少なくとも一般高校生(魔法師)に後れを取るようなことはない。しかしメガネの女子生徒はそうでなさそうだ。さっきまでさんざん一科生を煽った自覚のある華夜は慌ててメガネの女子生徒めがけて走り出す。それに譲も続く。

 そしてついに一科生の男子生徒はCADを取り出し、二科生の彼らに向けた。

「どれだけ優れているかだって?だったら教えてやるよ!」

「面白れぇ。是非とも教えてもらおうじゃねぇか!」

 その挑発に二科生の男子生徒が乗り、素手でCADを掴もうとする。それと同時にもう一人の女子生徒が伸縮警棒を引き抜く。そして、

 

「これが、才能の差だ!」

 

 一科生の男子生徒は魔法を発動『しようとした』。

 

 

 

 

 

「駄目!」

 

 その瞬間、魔法が『なかったことになった』。魔法を使った本人は一瞬の違和感を感じたが、何が起きたのかはっきりとは分からない。そのことに正しく気が付いたのは『二人』だけであった。

 

 それと同時に女子生徒が一科生の男子生徒のCADを叩き落とす。その痛みと恐怖で男子生徒から先ほどの違和感はすっぽ抜けた。

「ひっ!?」

「この間合いなら体を動かした方が早いのよね。ね、一科生さん?」

「それは同感だが、てめえ、俺の手までぶっ叩くつもりだったろ?」

「あーら、そんなことしないわよ」

 おほほ、と芝居がかった口調で笑う手にした警棒でCADを叩き落した女子生徒と、素手で魔法の展開中だったCADを掴むという危険行為をしようとしていた男子生徒が軽い口論を始める。

「ふざけるな!」

「なめないで!」

「やめて!!」

 それを見ていた他の一科生たちが各々CADを取り出し魔法を展開しようとする。その時、司波深雪が隣にいるクールそうな男子生徒に何かを呟いたのが華夜と譲には見て取れたが、今はそんなことにかまっていられない。二人は恐らく一番弱いと思われるメガネの女子生徒をかばうように前に立ち、華夜は彼らを『無力化』しようとし、譲は華夜の邪魔をさせないようにしようとした。しかしそれは魔法の起動式が壊されたことにより、不発に終わった。

 

 

 

 

 

「やめなさい!自衛目的以外の魔法による対人攻撃は、校則違反である以前に、犯罪行為ですよ!」

 

 そこに立っていたのは、CADでいつでも魔法を発動できる状態で身構えている二人の女子生徒であった。




 原作主人公、いまだ名前出ず。


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入学編Ⅲ

 のんびりと投稿していきます。


 やや小柄な女子生徒と凛々しい立ち姿の女子生徒、二人の女子生徒はそれぞれ厳しい顔つきでもめ事を起こした彼らを見ていた。

 

「風紀委員長の渡辺摩利だ!君たちは1-Aと1-Eの生徒だな?事情を聴くのでついてきなさい!」

 

 凛々しい立ち姿の女子生徒は風紀委員長らしい。風紀委員長の言葉を聞いたほとんどの生徒が顔を蒼白にしておびえたように立ち尽くしていた。そんな中、

 

「あ、やっと来たのね。取締役」

「こんだけ揉めている割には遅いんすね」

「まあ、魔法を使わない殴り合いとかなら別に止めないんじゃない?ほらここ魔法科高校だし魔法の不正使用の取り締まりはするみたいだけど、きっと物理だけなら出張ることもないんじゃないかしら」

「あー、魔法を使用する現行犯で逮捕ってとこっすかね?」

「たぶんね。まあ、私たち一般人には縁もゆかりもないものよ」

「了解っす!……じゃ、帰りましょうか!」

 

 彼らは通常運転であった。周りの空気も気にせず(あえて無視ともいう)、さっさと校門に向かおうと歩き出す。

「ちょっと待て!」

 風紀委員長の制止がかかるが、無視して歩き続ける二人。

「そこの校門に向かって歩いているお前たち!止まりなさい!」

 続けてそう言われ初めて華夜と譲は足を止め、二人の女子生徒の方を見る。…至極不思議そうな顔で。

 

「何でお前たち、自分が呼び止められている意味が分からないみたいな顔してるんだ!」

「え、だって、私たちは1-Aの生徒でも1-Eの生徒でもありませんから」

「どっちかっつーと、一方的に因縁を吹っ掛けられただけっすよ。魔法も使ってないっす。だから無関係っす。帰らせてもらうっす」

「自由か!!言わせてもらうが、校則違反なら物理的なことでも風紀委員会は取り締まるぞ!」

「そうなんですか…」

「でも、俺たち暴力を振るったわけでもなければ1-Aの生徒でも1-Eの生徒でもないっすから!」

「じゃあ言い換える!ここにいる一年生全員に事情を聴く。ついてきなさい!」

「……横暴じゃないっすか?」

 二人が風紀委員長とそんなやり取りをしていると別の人物の声がかかった。

 

「申し訳ありませんでした。少々悪ふざけが過ぎました」

 

 クールな印象の男子生徒が一礼し、無表情で淡々と言ってのけた。

「悪ふざけ?」

「はい。森崎一門のクイックドロウは有名でしたので後学の為に見せてもらうつもりだったのですが、あまりに真に迫っていたもので、つい手が出てしまいました」

 その発言に周囲の人間は驚きを隠せない様子でいる。

 

「……そんな話だったすかね?」

「黙ってなさい。丸く収まりそうなんだから」

 訂正。二名は通常運転であった。

 

「ほう。では、そこの女子がその後攻撃性の魔法を発動しようとしたのはなぜだ?」

「攻撃と言っても、彼女が発動しようとしたのは閃光魔法でした。それに威力も規模も抑えられていて、障害が残るようなものではありませんでした」

「……展開された起動式を読み取ることが出来るらしいな」

「実技は苦手ですが、分析は得意です」

「ごまかすのも得意なようだな」

 風紀委員長の答えに淀みなく男子生徒は答えていく。そうしているうちに、風紀委員長は男子生徒に興味ありげな視線を送っていた。そんな中、司波深雪が男子生徒の前に立った。

「兄の申した通り、本当にちょっとした行き違いだったんです。先輩方の手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした」

 そう言って彼女は深々と頭を下げた。

「まあまあ、いいじゃない摩利。達也君、本当にただの見学だったのね?」

 そう言って生徒会長が親し気に男子生徒――達也という名前なのだろう――に話しかけて、彼も「その通りです」と短く返事をした。……周りの気温がやや下がったような気がするが、気のせいだろうか。

「生徒同士で教えあうことは禁止されているわけではありませんが、魔法の行使には様々な制約が掛けられています。それはこれから学ぶことですが、それまでは魔法の発動を伴う自習活動は控えた方がいいでしょうね」

「……会長もこう仰られていることもあるし、今回は不問とする。以後このようなことがないように」

 それを聞いた生徒たちは(自称無関係を除き)皆、頭を下げた。そのまま二人は立ち去ろうとしていたが、何かを思い出したように再び顔だけ振り返る。そして、

「君の名前は?」

「一年E組、司波達也です」

「覚えておこう」

 そう言って今度こそ立ち去った。

 

 

 

「貸しだなんて思わないからな」

 二人が去った後、おもむろに男子生徒が司波達也に声をかける。

「安心しろ。貸しだなんて思っていない」

「…僕は森崎駿。お前の言った通り、森崎家に連なるものだ。俺はお前を認めない――」

「…森崎、ね」

 華夜は森崎の発言をぶった切って彼に声をかけた。

「……何だ、一体?」

「……あー。先ほどの様子から見て、今の森崎の教育方針は魔法師のランク至上主義を絶対として、自分より低ランクの人間、または非魔法師を見下す……というものだということでいいのかしら?」

「……何が言いたい?」

「いい?名前を背負うというのならば、自分の発言には気をつけた方がいいわよ。少なくとも今の発言からはそういう偏った思想が見えた。……今の魔法師の判断基準がランク主義なのはそういう風潮だし仕方がないこと。魔法師として見込みのある一科の生徒を優先して教育する魔法科高校のシステムも、魔法師の人材不足から見たら当たり前のこと。そこを否定する気はさらさらないわ。」

 周りの生徒たちの呆気にとられた様子を気にすることなく、華夜は語り続ける。

「でも、あなたの今の発言はそのあたりのことを理解せずに、感情的になっていた発言ように見られるわ。それは非常に危険なこと。あなたの家業も考えると、そのすぐに熱しやすい性格はある程度コントロールするようにしないといけないわね。後……相手が自分より強いのか弱いのかは見極めるようにならないと、護衛対象をむやみに危険にさらすだけよ」

「……!」

 先ほどの女子生徒に『速さ』で負けていたことを暗に指摘する華夜の発言に、羞恥か怒りか――あるいはその両方か――により、森崎は顔を真っ赤にして震えていた。そのまま華夜と司波達也をにらみつけて言う。

「俺はお前たちを認めない……!」

 それだけ言うと彼はその場から走り去っていった。

 

 

 

「じゃあ、帰りましょうか。譲」

「……あいつ、反省の様子が全くなかったすね」

「……報告、するの?」

「当たり前っす!お嬢のことを悪く言うだけなら、お嬢が気にしないというなら……むかつきますが、俺からは何もしないっす。でも、お嬢が危険にさらされる可能性が万に一つもあるのならば、当主様に報告するのは俺の義務っす!」

「うーん。あんなこと言った手前あれだけど、この魔法科高校に一科生として入学できたから舞い上がっているだけな気もするけどね、彼……」

「それでもっす!自分の実力を見せるために安易に攻撃魔法を放とうとするという方法を選んだのはやっぱ最悪っす。…せめて攻撃以外の方法で魔法を使った何らかの工夫を見せるとかなら、お嬢の望むようにフォローを入れられたんすけど」

「……仕方ないわね」

 華夜と譲がそんな話をしていると、二人分の走ってくる足音が聞こえてきた。

「かよりーん!ゆずるっちー!」

「譲!宵宮さん!大丈夫なのか!?」

 言うまでもなく、ユスラと鋼だ。二人は慌てた様子で華夜たちに駆け寄ってきた。

「どうしたの?そんなに慌てて……」

「ええー、慌てもするよ!かよりんたち、よりによって七草先輩と渡辺先輩に真っ向からケンカ売ろうとしてるんだもの!はー君と二人でどうしようかと思っていたんだから!」

「見てるこっちがひやひやしたよ……」

「まー、いいじゃないっすか。結果丸く収まったわけっすから」

「彼のおかげだろ!」

 そう言って鋼は彼――司波達也を指差した。よく見ると司波達也ご一行も華夜たちの方を見ていた。指差しされたことによりそのことに気が付いた華夜は、彼に謝罪と感謝を口にした。

「えっと、司波君……だったよね?私は1年F組の宵宮華夜です。先ほどはごめんなさい。ああすればすぐに引いてくれると思ったんだけど、彼らのプライドの高さを見誤った私のミスでさらにややこしくしてしまったわ。……大事にならないように場を収めてくれてありがとう」

「こっちの方こそ全く関係ないお前たちを巻き込んでしまい、すまなかった。……まあ、遅かれ早かれ彼らとはこうなっていただろうから、そこはあまり気にしなくていい」

「そう言ってもらえると助かるわ。それでは……」

 そう言って譲たちに声をかけて帰ろうとした華夜だったが、そこで司波達也からまさかのストップがかかった。

「…少し、いいか?」

「ふぇ?」

 まさか自分に声をかけられるとは思っていなかったらしいユスラは変な声を出した。

「先ほど、森崎の魔法が発動する前に制止の言葉をかけたのはお前か?」

「……だとしたら?友達が危険な目に遭っていたら思わず叫びもすると思うんだけど」

「…そうだな。変なことを聞いて悪かった」

「はぁ……」

 何を言っているのか理解できないという顔で困惑するユスラ――とその周り――を置いて、彼は「帰ろう」と周りの友人たち(と思われる生徒たち――いつの間にか一科生の女子生徒が二人ほど増えている)に声をかけた。しかし、彼の問いかけを聞いて一人だけ…譲だけは黙って司波達也とユスラを交互に見ていた。

 

「ねぇ、せっかくだしここであったのも何かの縁!あなたたちも一緒に帰らない?」

 

 困惑した中でも帰ろうと動き出した華夜たち一行に、先ほど見事なCADさばきを見せた美少女が声をかけてきた。

 

 その後、彼ら――司波達也・司波深雪・千葉エリカ・柴田美月・西城レオンハルト・光井ほのか・北山雫と共に帰ることになり、軽い自己紹介やユスラの自由に名付けたニックネームに突っ込みを入れたり、達也がCADの調整が出来るという話やエリカが只者ではない発言をしたり、魔法科高校に普通の人はいないという発言が落ちになったりと四人は彼らと親睦を深めながら帰路についた。

 

 

 

 

 

「だだいま」

「ただいまっすー」

「おかえりなさいませお嬢様、ついでに譲さん」

「俺はついでっすか、椿(つばき)…」

 最寄駅から歩くこと十分。華夜と譲は二人の家に帰宅した。町の中心地からやや離れているとはいえ、豪邸一歩手前の洋館という一般家庭とは思えない建物。そこが彼らの住んでいる家である。そこで二人を出迎えたのは、朱色で切れ長の目をした華夜よりやや年下と思われる少女であった。椿と呼ばれた彼女は腰ほどまである黒髪を姫カットにし、控えめにだが華夜に優しく微笑み彼女の帰りを喜ぶ。

「遅くなってごめんなさい。今日の食事当番私なのに…」

「そんな!お気になさらないでください!本来であればお嬢様にこんな使用人のようなことをさせること自体が申し訳ないくらいです」

「そればかりはおばあさまの教育方針だからね…。それに私は気にしていないよ?家事とか結構楽しいし」

「お嬢!お荷物、部屋にもっていっとくっす!」

「あ、ずるい!お嬢様、お部屋に新しいルームウエアを持っていきます。先にお部屋に戻られて下さい」

「ちょ、ちょっと二人とも…!」

 荷物(とはいっても教科書なんか持ち歩かないこのご時世だ、CADを含めた身の回りの物しか入っていないささやかなカバンである)をさっと華夜から受け取り(奪い取ったともいう)、譲はそれを部屋にもっていくようだ。それに反応して椿も負けじとどこかへ(恐らく洗濯場だろう)華夜の服を取りにに駆けていった。

「全くもう……どっちも自分で出来るわよ」

「おかえりなさい、お嬢様。もうあの二人のあれはあきらめた方がいいですよ」

「…久遠(くおん)。見てたなら止めてよ。何度も言うけど、あなたも含めた『書生』は『私たち』の使用人じゃないのよ」

「仕方ないでしょう。僕がどうこう言って止まる二人ではありませんから」

 久遠と呼ばれた黄土色に近い茶髪の髪を短めに整え、海のような青い瞳で三白眼の目つきの悪い小柄な少年――さらに呆れているためか目が死んでいる――はいつものことだと言わんばかりにそのまま華夜の前を通り過ぎた。

 

 少女の名前は不知火(しらぬい)椿、少年の名前は八月一日(ほづみ)久遠。そしてそこに守谷譲を加えた彼らは、宵宮家において『書生』と呼ばれる立場の者である。

 

 『書生』と言えばかつての日本にそう呼ばれていた人々を思い浮かべるだろう。おおよそ、その認識で間違いはない。色々あり家族がいない彼らはちょっとした縁により宵宮に引き取られた。彼らは一流の魔法師になり宵宮に恩を返すという条件で、生活の場を提供をしてもらいさらに学費の援助も受けている。ちなみに彼らが初めての『書生』というわけではなく、過去に何人もこの家には『書生』が存在していた。

 

 さて、ここで少し華夜の家についてについて説明しよう。

 

 宵宮家…ビジネスネーム『篠宮(しのみや)家』は、この国…いやこの世界屈指の資産家である。

 

 全ての始まりは篠宮の現当主…つまり華夜の祖母に当たる人がある時あぶく銭を手に入れたことだ。それをある会社に投資した結果、その会社が成功を収め、筆頭株主たる彼女は巨額の富を手に入れた。しかし彼女はそこで止まることはなく、次々と新たな投資を続け、結果が今に至る。

 世界屈指の資産家になったが、彼女は質実剛健を掲げており、家でも使用人等は雇わずに機械で出来ることは機械で行い、孫娘にも立場に甘える事がないようにと自分でできることは自分でする教育方針を行っていた。当然跡継ぎたる華夜には令嬢としての教育だけでなく、投資家としてのノウハウや家事の一通り、護身術も兼ねた体術、さらには勉学についても問答無用で叩きこんでいた。…しかし華夜はオンオフの切り替えが激しいのと、まだまだ未熟であるために今日のようなトラブルもしばしば起こしている。

 そして譲は現在『書生』としてだけでなく、華夜のボディーガードとしての仕事も(当主に頼み込んで)兼任している。将来はそのまま華夜の側近になる予定である。

 

 そんな成り上がりであるが、生粋のお嬢様である華夜は今日も今日とてにぎやかすぎる『書生』たちにため息をついた。

 




 矛盾とかあるかもしれませんが、そこはフィーリングで流していただければ幸いです。


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入学編Ⅳ

 先に宣言します。このお話しから原作にない要素が入ってきます。この作品はあくまでも『オリ主』視点で進みます。ご了承下さい。


 翌日。

 

 昨夜もゲームのし過ぎで寝坊しそうになっていた譲を華夜が引きずるようにして登校。クラスにつくとユスラと挨拶とたわいのない話をする。ここまではどこにでもある普通の朝の光景である。

 

(えっと、反魔法国際政治団体がブランシュ、その下部組織がエガリテ…だっけ?)

 

 授業が始まると華夜は座学の課題を速攻で終わらせ、祖母から出された課題と向き合っていた(学生の中で俗に言われる内職という奴だ)。近頃の祖母の出す課題は、非常にデリケートな問題である魔法師の観点から見た国際情勢の変遷についてや反魔法師団体の組織名から概要についてなどといった、華夜のあまり得意ではない分野に当たる魔法社会関連のものが多い。

 『篠宮』は近頃、魔法による『兵器』としてではなく『経済』への働きを見据えた投資を始めている。そのこともあり華夜は、もし受かるのなら魔法について学べる魔法科高校に行けと祖母に勧められていた(ちなみに譲は魔法科高校に入るのは決定事項であった。ただし魔法科高校のことを調べよう等の魔法に対する前向きさややる気はない)。

 

(こんなことは言いたくないけど、二科生って担任という名の監督教師がいないから結構内職したい放題よね……)

 

 華夜はそんなことを思いながら祖母の課題と向き合っていた。…学校の名誉のために追記しておくが、学校の課題は普通の生徒ならば授業開始早々に速攻で終わるような内容のものではない。祖母の英才教育の賜物ととある『特技』により、華夜は筆記だけならこの学校(学年ではない)において五指に入る成績を誇っている(ただし悪目立ちしないように、筆記テストは大体学年10位から20位くらいをめどにしていこうと考えている)。

 

 そんな普通とは違う授業をしていた華夜も昼休みを迎えていた。

 

「少し、いいか?」

 華夜・譲・ユスラ・鋼の四人が食事を終えた後、そのまま食堂で雑談をしていると華夜に声をかけてくる男子生徒がいた。

 

「……こんにちは、森崎君」

 

 華夜が含みを持たせた笑みで彼――森崎に返事を返す。

「何のよう?言っとくけど私たちが先に座っているんだから、席を譲れとか馬鹿なことは言わないでよ?」

 ユスラは昨日の食堂での一件(命名・二科生は一科生に席譲れ事件)をエリカ達から聞いていた為、嫌悪感を隠すことなく森崎に噛みつく。鋼も怪訝な表情で友人も連れず一人でやってきた彼を見ていた。

「お話かしら?」

「……その、」

「いいわよ」

「かよりん!?何考えてるの!彼に何かされたら……!」

 煮え切らない態度の森崎に対して華夜は笑みを崩さず本題に切り込んだ。ユスラは華夜に何かされるのではないかと声を荒げるが、華夜は気にするそぶりを見せない。

「大丈夫、時間はかけないしすぐに戻るから。……行きましょうか」

 そういうと優雅に席を立ち、森崎についてくるように促がした。譲も席を立ち、華夜の半歩後ろを歩いてついていく。周りの人間を困惑させながらも三人が食堂を後にしたことにより、徐々に食堂にいつもの空気が戻っていった。

 

 

 

「譲はここで待っていて」

「お嬢!?ですが…!」

「今、彼はCADを持っていないわ。過剰になりすぎ。…言いたくはないけど、命令よ」

「……わかりました」

 屋上の扉の前で華夜は譲に待っていてもらうように命じ、そのまま森崎を伴い屋上へ入っていった。

 

「ごめんなさいね。譲やユスラは完全にあなたを危険人物扱いしているみたい。随分と針の筵みたいな気分を味合わせてしまって」

 華夜は屋上のフェンスの近くに立ち、森崎を振り返った。彼は食堂にいたころから…いや、さらに思いつめた顔になっている。顔色も悪い。

「……『篠宮』からの、有事の際に森崎から護衛人員を派遣するという提携話が、白紙に戻された」

「えっ。『篠宮』ってあのすっごいお金持ちのこと?…で、その話、私に関係ある?」

 華夜はあえてとぼけた発言をして森崎の反応を窺う。しばし沈黙していたが、森崎は意を決して華夜と真っ向から対峙する。

 

「貴女は『篠宮』の跡取りですよね?もう一度、森崎にチャンスを頂けませんか!?」

 

 あまりにもストレートすぎる森崎の発言に華夜は面食らい…大笑いし始めた。

「あはははは!嘘!思った以上にストレート!もっと、なんか、こう、なかったの?」

「な、人が真面目に…!」

 華夜の笑いっぷりに森崎は憤慨して顔を真っ赤にしている。少しすると華夜の笑いが収まり、真面目な顔をして森崎に向かい合う。森崎も憤慨した様子から真面目な空気へと変わった。

「…さて、まず質問させて。私が『篠宮』だということは表向きにはまだ発表されていない。どこで知ったの?」

「父親から、提携話を切られたという話を聞かされた。その時理由を聞いたら、篠宮曰く『森崎の人間の軽率な行動でうちの跡取りが危険にさらされたと聞いた。その話が本当ならば篠宮を危険な目に遭わせるわけにはいかない』とのことだ。それが理由だったと」

「…それで?」

「俺なりに考えた。篠宮の言う危険とは何かと。考えた結果、俺が感情に任せて魔法を使ったことを見られたことが原因じゃないか、と。そしてそのことに言及した人間がいたことを思い出した。…後は勘だ」

「…うーん、まあ、私が跡取りなのは正解だったわけだけど……危ないわね。もし違ったらどうする気だったの?」

「え、そ、それは…!」

 目に見えて慌てふためく森崎を笑いながら見ていた華夜だったが、再び表情を引き締める。

「まあいいわ。さて、結論から言うと基本的に私からは『篠宮』の当主の決定を覆すことはできません」

「…そんな!」

「森崎にとってこの提携が非常に大きかったことは知っているわ。基本的に篠宮は個人で使用人を雇ったりしないから、必要な時に必要な人材を外から雇い入れる。だからこそ有事の際の提携…言うならば専属契約を行うということは、森崎にとって定期的な収入になるということと『篠宮』の名前を箔押しに出来るというメリットになるのよね」

「その通りだ」

「でもね、だからこそ『篠宮』はしっかりと信頼できる人間に仕事を任せるの。自分たちでできないことを代わりにしてもらうのならば、それなりの水準をクリアしてもらわないといけないと考えているから」

「……」

 華夜の話に森崎は悔しそうに唇を噛んだ。自分の不用意な行動で、森崎一門のメリットを得られるどころか『篠宮』に見捨てられたという悪評が経ちかねない状況に陥ってしまったのだから。

「ねえ、二科生は補欠だなんていうけど、努力をすればちゃんと魔法師としての道を切り開けるの」

「…え?」

 急に華夜の言い出した話が理解できず、森崎は目を丸くした。

「勿論、生まれ持った才能が大きく幅を利かせるのも事実だけど。それでも、魔法事故で魔法を失った生徒の後釜というだけが二科生の価値ってわけじゃないわ。考えてみて。…一科生全員が卒業して魔法大学へ進学するわけじゃない。防衛大学に進学する生徒もいれば、一科生でも魔法に関係ない職業に就く人間もいる。…その上で卒業生の『65%』が魔法大学に進学しているのよ?…後は小学校レベルの算数のお話し。むしろ、ろくに教員に教わらずに魔法大学に進学しているってすごくない?」

「…あ」

 言われたら当たり前のことだが、そのことをうっかり失念している人間が多すぎる。華夜は第一高校について真面目に調べた結果、この事実に本気で頭を抱えそうになっていた。というか、リアルに抱えた。森崎もそのことに気が付かずアホみたいな顔をしていた。

「まあ、気持ちはわかるけどね。エリート高校に入れて一科生なんて言われて舞い上がっちゃうんだよね。そんで後々理想と現実とのギャップに苦しみ、結果二科生を貶めるくらいしか自分の自意識を保てなくなると」

「そ、そんなことはない!」

 森崎がムキになって否定するが、華夜は生ぬるい微笑みを浮かべたままだ。

「とにかく、そんな努力している二科生もまとめて平然と馬鹿にするような人間、ひいてはそんな人間を抱えている組織に仕事は任せられない…というのが『篠宮』の判断」

「…っ」

「なんだけど」

「へ?」

 不意に華夜の淡々としていた声色が少し高くなった。

「森崎との提携を白紙に戻したとたん、あなたたちの同業者のあちこちから声がかかってね。それでうっとおしくなった当主が今日、警護・護衛・警備系の企業に向けて発表する声明があるの。それが『一年をかけて、篠宮と提携できるほどの力があるか見極める』ってものなの。…もちろん、この声明は森崎にも行くわ。」

「!」

「この一年で、貴方の成長を見せてちょうだい?そうすれば、森崎に少し援護をしてあげられるかもしれないし」

「…上等だ!今に見ていろ!」

「あ、私のことは一応秘密にしていてね。まだ発表されてないから」

「わかっている!」

 そういうと森崎は勝気な笑顔で華夜を見て、そのまま踵を返し屋上から去っていった。

 

 

 

「お嬢、良かったんすか?」

「譲?」

 森崎が去っていったタイミングと入れ違いに譲は屋上にやってきた。その顔は非常に複雑なものである。

「俺が昨日の一件を報告した後、わざわざ森崎にチャンスを与えてやるように当主様に進言されたでしょう?」

「あ、知ってたの」

 譲の言葉に華夜は軽くおどけたように答える。

「わざわざチャンスなんて与えて…社会に出たらこんなもんじゃないっすよ?」

「だからこそよ」

「?」

 意味が分からないという表情を浮かべる譲に華夜は笑いながら続ける。

「譲はさ、一歩間違えたらこの世にはいないなんて生活を昔は送っていたって言ってたでしょ?」

「ええ、まあ、そうっすけど……」

「まあ、詳しいことは聞かないけどね。でもさ、ここはティーンエイジャーの最後の砦、高校よ。少なくともここにいる間は間違えてもいい、間違えたらやり直せる。…少なくとも私はそう思ている」

「……」

「今だけよ。間違えても許してもらえるのは。だからこそ、ここで学んで立派な人間にならなきゃ。失敗をして人は学び成長していくんだから」

「……生意気言ってすみませんっす」

「いいのよ!じゃ、私たちも戻ろうか。ユスラたちが待ってる」

「了解っす!」

 華夜と譲はお互いを見合った後、静かに屋上から立ち去った。

 

 その後ユスラと鋼に色々と聞かれて慌ててしまったのは、また別の話。

 




 別名、森崎救済話。いや、原作での扱いがあまりにもあれなんで…。


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入学編Ⅴ

この話から、捏造設定・独自解釈が入ります。苦手な方は気を付けて下さい。


 華夜が森崎と話した翌日。登校した華夜たちの耳に飛び込んできた話題は、二科生である司波達也の風紀委員会入りの噂一色であった。

 

「何か凄いことになっているみたいね」

「そうっすね」

 相変わらずの四人は食堂で食事をしながら本日最大の話題について話していた。

「でもそれが本当ならさ、これで二科生が不当に貶められなくなる切っ掛けになるといいよね」

「確かに!二科生にとってもいい影響になると思う!」

 鋼やユスラは楽しそうに笑っているが、華夜は複雑そうな表情をしている。

「どうしたんすか、お嬢?」

「うーん、もし事実ならさ、これは差別がなくなるよりも先に反発の方が大きくなると思うのよね……」

「何で?」

 不思議そうな反応を返したユスラに対して、華夜は難しい表情のまま話しを続ける。

「思った以上に差別意識がヤバいってこと。正直私は今までの、この学校の差別意識を舐めきっていたって反省するレベルでね。私の方で一科生と二科生についていろいろ調べて、わかったことがいくつかあるんだけど……」

 華夜は他の三人に説明をした。

「まず、一科生と二科生の大きな違いは指導教員の有無。だけど、思ったよりこれがすっごく厄介だったの。ぶっちゃけ言うと、入学時点であんまり一科生と二科生の差がないのは事実。でも指導教員の個別指導の有無は魔法力の開発に大きな影響を持っているみたいで、二年になる頃には一科生と二科生の実力差は明確になるらしいの。例外でもない限り、二科生のトップでも一科生の底辺に勝てないらしいわ」

「えっ!?でもかよりん、二科生でも魔法大学に進学してる生徒もいるって言っていたでしょ?」

「ええ。ものすごい努力を重ねた上でそれでもボーダーラインギリギリでの、が頭につくけど。もちろん凄いことではあるし、それを一科が馬鹿にするのは間違っていると思うけどね。でも一校の一科生が上位独占での合格ってのを考えるとね……」

「……一科生には耳の痛い話だね」

「はー君が悪い訳じゃないよ!」

「……なんかそれを聞くと、入試試験の順位が百一位の生徒が哀れっすね。それが事実ならたった一位の順位差で、二科であることを甘んじなければならないんすよね?」

 華夜の説明にユスラは驚き、鋼は申し訳なさそうにし、流石の譲もわずかな憐憫を含んだ口調で呟いた。その上で華夜の話は続く。

「それを踏まえて私の考えを言うと、二科生は一科生の補欠としては実のところ、あんまり機能してないと思うのよね」

「……まー、一科の底辺にも勝てないんじゃ仮に二科が転科できたとしても、馬鹿にされたり下手したら授業についていけない可能性もあるっすね」

「そういうこと。後、視覚的な差別として、制服のエンブレムの有無もあげられるわね。もともと国のお偉いさんが二科を創設する際に、制服の刺繍の入れ忘れたなんて発注ミスが原因らしくて、はっきり言わせてもらうと、これがなければ差別はここまで悪化しなかったと思う。それだけ制服って特別なものだから」

「制服ってそんな理由で二つもあったんすか!?」

「確かに。軍服でも記章の違いで地位がはっきりするくらいだし……」

 驚きの声を上げる譲と何かを考えるように同意する鋼。華夜は二人を軽く見やると自分の意見を述べる。

「ぶっちゃけ、変な見栄を張らずにミスが判明した時点でワッペンでも貼り付けときゃよかったのよ。制服を無駄に増やして予算を無駄にして……。国立ってことは国民の税金を大なり小なり使ってんのよ。ふざけるなって感じよね」

「確かにそうかも」

「教員も足りないのに教える生徒を増やそうとするから、結局、追加で入れた二科の生徒が意味のないものになっちゃうのよ。全く、国のお偉いさんってポンコツだらけなのかしら」

「ハハハ……」

 ユスラが納得の声をあげ、華夜の言いたい放題っぷりに鋼は乾いた笑みを浮かべる。

「もともと二科制度に無理があったのよ。一科生には見ての通り必要以上の自尊心を植え付ける事しかできず、二科生には全くいらない劣等感を押し付けられるなんて、生徒にとって百害あって一利なし。失策としか言えないわね。極論を言わせてもらうと、差別を撤廃したきゃ二科を廃止すればいいと思う」

「本当に極論!」

 華夜がユスラからの突っ込みを受けつつ、国策を問答無用で貶しながらも一通りの差別について話し切ると、譲が何かに気が付いたように話を切り出した。

「そういえばお嬢、それと二科生の風紀委員入りの反発ってどう関係するんすか?」

「これだけ基本的な制度から根深い差別意識が蔓延しているこの学校で、何の根回しもなく強いからなんて理由でぽっと出の二科生を採用した名誉職に近い風紀委員会。しかも生徒会推薦枠でだなんて。端から見たら、今の学校の運営組織がお気に入りの生徒を側に置くために制度の穴をついたように思うでしょうね」

「あっ!」

「うーん、みゆきちに対するご機嫌とりなんて邪推する人も出そう……」

 華夜の指摘に声を上げる鋼と、華夜の意見を踏まえて自分の意見を言うユスラ(ちなみにみゆきちはユスラがつけた深雪のあだ名である)。二人の反応を見た後、ダメ押しとばかりに華夜は告げる。

「しかも二年次には一科と二科のどうしようもない差が出るというのは先輩方は身を持って知ってる。そんな中で反発が出ないって本気で思う?なまじ制度に裏付けされた自尊心を、自分の意思も何も関係なく人形のように培養されたと言ってもいい一科生が、運営の言い分に納得できると思う?」

『……』

 三人とも華夜の言い分について何も反論することができなかった。その反応を気にすることもなく、軽くため息をつきながら華夜はこの話の締めに入った。

「もうこれを黙らせるには彼が実績を上げるしかないわね。しかも『個人』ではなく『二科生』としての、ね」

「お嬢、それただの無理ゲーっす」

「まあ、彼の実力が本物なら『司波達也』個人は認められるだろうけど。正直、穿った見方をして申し訳ないとは思うけど、二科生の差別意識の撤廃に対してあんまり効果はないんじゃないかなって……」

「…ただの上っ面のキャンペーンで終わりそうな気がするっすね」

「ま、まだそうなると決まった訳じゃないから!」

「そ、そうだよ!何かがプラスに働くこともあるかも知れないし!」

 華夜と譲が『ダメじゃん』と言わんばかりの呆れ交じりの空気を醸し出すが、鋼とユスラは前向きな希望を捨てず二人を励ました。

「…ま、私たちが学校運営に携われるわけではないし、なるようにしかならないか」

 華夜がそう言って話を締めくくると、ちょうどいいタイミングで昼休みを終えるチャイムが鳴り響いた。四人は慌てて、別れの挨拶もほどほどに自分たちのクラスに戻っていった。

 

 余談であるが、周りで聞いていた生徒は一科も二科も関係なく、差別意識の原因が制度上のしわ寄せや制服の発注ミスだというような、大人たちの下らない事情に振り回されたと結果だということを初めて知った生徒も多い。しかもその制度の根幹を一年生にバッサリと切り捨てられたということに(特に人形扱いされてしまった一科生は)、華夜に対する反発よりもぐうの音も出ない正論に納得した方が先だったため、内心落ち込んでいたものも多かった。

 何より、その話を妖しい目をして聞いていた人間もわずかながらいたということを、華夜たちは最後まで気が付くことが出来なかった。

 

 

 

 

 

「新入部員勧誘期間…すか?」

「そうよ」

「ゆずるっち、なんか驚いてるみたいだけど…」

「もしかして譲、知らなかったのかい?」

 放課後、学校中の部活動がテントを出して大騒ぎになっている状況を見ながら、譲は不思議そうな様子で見ていた。

「何でも期限を定めないと優秀な生徒を求めて、授業中だろうが何だろうが特攻をかけてくる部活とかもあるみたいなのよ」

「それを防ぐために勧誘期間を決めて、その期間のみに部活の勧誘を行うようにするのが決まりらしいんだ」

「へぇー。知らなかったっす」

 華夜と鋼から説明を受けて気の抜けたような返事をする譲。どうやら本当に知らなかったらしい。

「ゆずるっち、何のクラブに入るか決めてるの?」

「お嬢と一緒か、無所属と決めてるっす!」

「歪みなさすぎる…」

 ユスラの質問に即答で答えた譲を見て、鋼がこめかみに手を当てて呻いた。そんな空気を換えようと華夜が明るくユスラと鋼に声をかける。

「二人は決めてるの?」

「うん。僕はマジックマーシャルアーツ部に入るつもりだよ」

「うーん。私はまだ考え中」

「そっか。二人とも、後、譲。みんな気をつけてね」

「…何に気をつけるんすかお嬢?」

 譲が怪訝そうな表情で華夜を見ると、その視線に応えるように軽く肩を竦めた。

「実は、今年の新入生の成績が生徒に流れているみたいでね。例年、各クラブは優秀な生徒を取り合い文字通り熾烈な争いをするらしいのよ。因みにこれは暗黙の了解で、知ってる生徒は皆知ってる話しよ」

「……本当、宵宮さんの情報網は恐ろしいね。何処から仕入れてくるの?」

 鋼のひきつった笑顔をスルーして華夜は続ける。

「まあ、細かいことは気にしない!……あっそうそう、客寄せパンダとして顔のいい生徒も狙われるからそこも気をつけてね!」

『……』

 オマケとばかりにさらっと言われた言葉に、それなりに自分の容姿を自覚していた三人はかけるコメントがなかった。

 

 

「本当にいろんなクラブがあるのね……」

「うーん、目移りしそう」

 目的のクラブがある鋼と別れ、華夜とユスラが楽しそうにクラブを見ていた。しかし譲はあまりの人混みにグロッキー寸前である。

「お嬢、俺、もう疲れたっす……」

「ファイト!」

 譲の悲痛な嘆きを軽い応援でいなした華夜はそのまま歩き続けている。

「……ねぇ、かよりん、あれ……」

「ん?」

 そんな中、ユスラが足を止めてあるテントを指した。華夜はその指の先を見て眉をひそめた。

 

「……私、ルールは守っているんですけどー?」

「うるさい早乙女!お前は二科生の上に非魔法クラブだろう!いいか?この学校では俺たち一科生の多く所属する魔法クラブの方が何倍も重要に決まってるだろう!」

「うーん……。だからといって、ルールを破っていいってことにはならないよねー?あなた達はこのスペースの使用許可をとってなかったんでしょー?だから私に譲れなんて、さすがに横暴じゃあなーい?」

「うるさい!ウィードの癖に!」

 どうやら数人の魔法クラブの男子生徒が非魔法クラブの女子生徒に場所を譲るように脅しをかけているようだった。

「流石にあれはないよ」

「横暴にも程があるわね」

「あのクラブにだけは入らないってことでいいっすか、お嬢?」

 三人はその様子を冷たい視線で見ていた。見ながらも華夜は、絡まれている先輩と思われる女子生徒にこのままこの場を任せるべきか、それとも風紀委員会を呼ぶべきか逡巡していた。そうこうしていると魔法クラブの生徒がこちらに気が付き、譲に声をかけてきた。

「君は確か、守谷譲だろう?是非、我々のクラブに…」

「お嬢が入らないんで嫌っす」

「……え?」

 バッサリと譲に切り捨てられた男子生徒は暫し目を瞬かせて譲を見る。そして譲の褒めてと言わないばかりに幸せそうな視線を向けている先にいる華夜を見て、男子生徒は分かりやすく嫌悪感を示した。華夜が二科生であると理解したからだ。そして譲に同情と優しさを込めた視線を向けながら諭すように声をかけた。

「君にどんな事情があるかは知らないけれど、ウィードなんかと一緒にいてはいけないよ。君のような優秀な魔法師は優秀な者と一緒にいないと腐ってしまうよ。……もしかして、既にそこのウィードに毒されてしまったんじゃないか?」

「あぁん?」

「譲!」

 後半部分の明らかに華夜に向けた侮蔑の言葉に譲はすぐに過剰なまでの反応を見せた。譲の剣幕に一瞬怯えた男子生徒だったが、華夜の制止で譲は渋々と引き下がる。しかし譲のような優秀な生徒――今年の入試実技試験の第二位が二科生の言いなりである(ように見えた)、それが一科生の琴線に触れた。

「なんだお前、ウィードの癖に!」

「調子に乗るな!」

 そう言って男子生徒達は、華夜にCADを向けて攻撃魔法と思われる魔法を使おうとする。それを見たユスラから悲鳴が上がる。そして怒り心頭に達した譲が男子生徒達を制圧しようと一歩足を踏み出した時、魔法が別の魔法に相殺された。

 

『!』

 

 急に何が起きたのか分からず、全員が魔法が放たれた方を見る。そこには、

 

「風紀委員会だ!魔法の不適切な使用及び禁止用語の使用の為、摘発する!」

 

「森崎君?」

 

 華夜がすっとんきょうな声で魔法を放った彼――森崎の名前を呼んだ。

 




パソコンの調子が悪いので、携帯との平行使用になります。その為、すみませんが投稿はスローペースになりそうです。


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入学編Ⅵ

 みなさん、お久しぶりです。お元気ですか?暑い日が続きますが、みなさんは私のように体調を崩して倒れたりしないように気を付けてください。
 今回はリハビリも兼ねた復帰作なので短めです。

 原作がなんだか不穏な方向に向かっていますね…。あまりの原作の流れに、もともとのプロットからこのお話も修正しました。そんな行き当たりばったりなところもありますが、この物語では原作とはまた違う世界観を書いていきたいと思います。


 森崎が現れたことで事態はすぐに収束した。偉そうにしていたとしても所詮はただの学校の一生徒に過ぎない。規則を破ると罰を受けるという分かりやすい理屈の元、騒ぎを起こした一科生は風紀委員の手によって連行された。

「助かったわ。ありがとう、森崎君」

「……仕事をしただけだ。俺はまだ見回りがあるから、もう行く。気をつけろよ」

 華夜の感謝の言葉にそっけなく応えた森崎は、その場から立ち去って行った。

「……なんすかね、あの態度?」

「森崎君って確か教職員推薦枠で風紀委員になったんだよね。何かあったのかな?」

 譲とユスラはそんな森崎の態度に首をひねるが、華夜はそんなに驚いていなかった。

 

(……やっとこの学校の歪な差別に気が付いたのね)

 

 傲慢な一科生(ブルーム)のままでは気が付かなかったゆがんだ差別意識。部活の勧誘にまで及んでいたそれを見て、はたして彼は何を感じたのだろう。そしてこれからどうなっていくのだろうか。

 

 そんなことを華夜がつらつらと考えていたら、後ろから間延びした声がかけられた。

 

「いやー助かったよー。ありがとねー!」

 

 三人が声の方を振り向くと、そこには先ほど一科生に絡まれていた上級生と思われる女子生徒がいた。彼女は背中くらいまであるダークブラウンの髪の毛にアンバーの瞳を持った人であった。髪の毛は緩い一本の三つ編みにしており、彼女が歩くたびにひょこひょこと髪の毛が跳ねていた。

「いえ、私たちは何もしていませんし。お礼なら先ほどの風紀委員の生徒に言ってあげてください」

「もちろん。彼にも機会があればお礼はいうよー!でも周りの人間があの一科生に同調してた中で、あなたたちだけは私の立場に立ってくれたでしょー?それがすっごくうれしかったからー」

「…そうですか」

 にこにこと人好きのする笑顔を浮かべる先輩を見て、華夜もつられて自然と笑顔になった。

「あ、そういえば名前を名乗ってなかったねー。私は早乙女琥珀。よろしくねー!」

「宵宮華夜です」

「私は船頭桜桃です!」

「守谷譲っす」

 互いが自己紹介し合った後、ユスラが今更といわんばかりに琥珀に聞いた。

「そういえば、先輩って何のクラブの人なんですか?」

「んー?言ってなかったっけー?」

 顎に人差し指を当てて首を傾げる琥珀は、あざとい割にわざとらしさがないポーズをとり、こう言った。

 

「ファッションハンドメイドクラブ、略してショハンだよ」

 

『ファッションハンドメイドクラブ?』

 

 聞きなれない単語に三人は同時に疑問の声を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが部室だよー!」

 不思議な名前のクラブに惹かれ、三人はショハンなるクラブを案内されることになった。三人が部室として通されたのは、オートメーションロボットの普及に伴い使われることのなくなった家庭科室と呼ばれる教室であった。調理実習室と被服実習室が内側の扉により一続きになっているその部屋で、三人は思わず感嘆の声を上げた。

 

「すっごーい!この服、全部先輩が作られたんですか!?」

「見事なものですね……!」

「このご時世に、服を自分で作る人なんて初めて見たっす」

 

 ユスラ、華夜、譲は三者三様の反応を返したが、三人ともそこにある服やアクセサリの完成度に驚きを示した。教室のトルソーにかけてある服は素人目に見ても完成度が高く、そのまま店に並べられていても不思議ではないほどのものであった。スーツにジャケットにワンピースと男性もの・女性ものにかかわらず、さらにカジュアルやフォーマルなどその種類や性質に関わらずいろいろな服が作られていた。特にユスラはこれらを見て女の子らしく目を輝かせている。

「まあねー。『作りたいものを作り、着たいものを縫う』。それがこのクラブの基本理念だからねー。ちなみに先輩が卒業されてしまって、今部員は私一人なんだよねー。おかげさまで二年生なのに部長なんだー」

「なんかいろいろとすごいですね……ん?」

 華夜がふとアクセサリーに視線を向けると、文字通り目を真ん丸に見開いて『それ』を凝視した。

「……どうしたんすか、お嬢?」

 譲が不思議そうな、それに心配を混ぜた表情で華夜を見ると、華夜は大きな声を上げた。

 

「このアクセサリ、全部CADじゃない!!」

 

 そう、普通のアクセサリのように置かれていたネックレス、ブレスレット、バングル、リング、イヤリングなどであったが、よくよく見るとそれはすべてCADであったのだ。

「嘘!こんなおしゃれなCAD見たことない!」

「え、ていうかこの部活CADまで作ってんすか!?」

 さすがのユスラや譲も驚いたようで、琥珀の方を凝視している。そんな視線に驚くことなく、むしろ至極当然といった様子で琥珀は言い放つ。

「うん。ていうか、全部私が作ったんだけどねー。だって、市販のCADってダサいじゃないー?ファッションは小物にまでこだわって何ぼでしょー?……とはいうものの、見た目にこだわってハードの容量を小さくしちゃったから凡庸性のCADのくせして格納できる魔法式は十しかないんだけどねー。しかも操作用のボタンもダサいからカットしちゃったから、そこにあるのは全部古臭い音声認識で作ってるのー。音声認識に頼らないようにするためにそこの作品はまだまだ改良の余地ありなんだけどねー」

 目標は思考型CADだねー!と笑顔で続ける琥珀に三人とも何も言えなくなった。さらりととんでもないことを言っている自覚がこの先輩にあるのだろうか。

 

「早乙女先輩って、もしかして天才なんじゃない?」

 

 ポツリと小さくつぶやかれた華夜の言葉に譲は無言で頷いた。そしてそんな二人とは違い、ユスラは何かを考えるようなそぶりを見せた。

 

 

 

 

 

「あの、私、この部活に入りたい!」

 しばらく呆然としていた三人であったが、突然気を取り戻したユスラが全員の前で宣言した。

「えー!本当にー!」

「はい!私にいろいろ教えてください、師匠!」

「んー?師匠ー?」

 ユスラの『師匠』発言に琥珀は面食らったような表情をし、華夜と譲も信じられないようなものを見るような目で驚いた。しかし、そんな周りの様子など目に入らないとばかりにユスラは続ける。

「私、今まで何も考えずに服を着てCADを使ってきた。けれどこんな風に自分で考えて、作って、しかもそれがファッションとして調和のとれたものとして見せられると、今まで与えられたものを与えられたように使っていただけの私も、自分で何かを作りたいと思ったの!」

「ユスラちゃん……!」

 ユスラの熱意に琥珀は感銘を受けたようで、文字通り彼女がユスラの手を握るとそのまま熱い口調で話しかけた。

「あなたのその熱意、確かに受け取ったわー!船頭桜桃!ショハンに歓迎するわー!私についてきなさい!」

「はい!」

 いきなり熱血部活もののように成立してしまった入部に、そんな状況から置いてけぼりにされた華夜と譲は呆然としていた。そんな中でユスラは突然の展開に呆然としている二人を見て何を勘違いしたのか、笑顔でとんでもないことを言い出した。

「あ、もしかして二人も師匠の考えに共感したの?」

「え」

「本当ー!二人もショハンに来てくれるのー?すっごくうれしー!」

「ま、待って…ちが」

「そうと決まれば今日は歓迎会だねー!いやー新入部員が三人も入ってくれるなんて嬉しいなー!」

 ユスラと琥珀は華夜の言葉を遮るようにして言葉を重ねた。二人とも無邪気な満面の笑みを浮かべており、特に琥珀の方は今にも踊りだしそうな雰囲気だ。

 

「お嬢、どうするんすか?」

「……こんな空気で今更、入部しませんなんて言えないわよ。まあでも、これはこれで悪くないかもね。早乙女先輩とは仲良くしていきたいし」

「了解っす。じゃあ、俺もここに入部するっす!」

「……別に私に合わせなくてもいいのよ。譲は魔法系のクラブでも十分やっていける――」

「お嬢と同じクラブが俺の意思っす!!」

「…わかったわ。好きにしなさい」

「はいっす!!」

 華夜は嬉々として笑う譲に小さくため息をついた。

 

(譲には、もっと自由に生きて欲しいのに……)

 

 鉛のように重たい思いを華夜は苦みとともに飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 こうして、華夜、譲、ユスラの三人のクラブ生活がスタートを切ったのだった。

 

 



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入学編Ⅶ

 すみません。生きています。
 リアル生活でいろいろありすぎて全く小説を執筆できない状況にありましたが、これからは二か月に一度くらいは更新……したい……です。
 本当に申し訳ありませんでした。
 相変わらずのオリキャラ無双です。原作主人公は今回もほぼ出ません。というか、原作主人公とよく会話を交わすようになるのは九校戦以降になるので、少々お待ちください(待っていただければ)。


 怒涛の部活勧誘期間が終り、魔法科高校は再び落ち着きを取り戻していた。……表面上は。

「なんか、最近空気がやや不穏だよね」

「ユスラもやっぱりそう思う?」

 ある日の授業の休み時間中に華夜とユスラが世間話をしていた。内容は――司波達也とその周囲について。部活勧誘期間中に彼も怒涛の活躍をしていたらしいが、どうもそれが気に食わない連中がいるらしく、見るからにそういう空気が一部の一科生から出ているという話を鋼から聞いた。ユスラの心配しているところはそこらしいが、華夜は違った。

「一部の二科生がなんか水面下で動いてるみたいって話」

「え、二科生!?……どういうこと?」

 ユスラの不思議そうな言葉に華夜は説明をする。

「差別を撤廃しようって運動があるみたい。どうやら一部の生徒を無理やり差別反対運動に参加させているみたい」

「そうなの?」

「うん。噂好きの蜜柑の情報だからほぼ百パー間違えないと思う」

 早乙女蜜柑。早乙女琥珀の妹で実は華夜たちとクラスメイトだと判明した女子生徒である。姉でありショハンの先輩の琥珀から紹介されて、今では良い友人として付き合っている。ちなみに彼女は記者を志しており、彼女の情報収集能力はかなりのものである。休み時間も常に学校中を走り回り、情報獲得に動いている。姉とよく似た色彩と顔立ちの持ち主であるが、姉と違って髪の毛はベリーショートにしており、話し方もせかせかしている。閑話休題。

「まあ、最近の話だと剣道部の壬生先輩……だったかな?が司波君に接触したって話を聞いた。彼女、ううん、違うな。彼女の所属している剣道部が差別撤廃運動の中心っぽいって蜜柑が予測してた」

「……みかちーって、なんでそんなに情報チートなの?」

 みかちーとは、ユスラのつけた蜜柑のあだ名だ。

 

「別に情報チートってわけじゃないよ!」

 

「「ぎゃあ!!」」

 突然、話し込んでいた二人の死角から現れた早乙女蜜柑はあっけらかんとした様子で話を続けた。

「ただ、人のうわさ話を聞いて、それからテキトーに情報を取捨選択して組み立ててるだけだよ!」

「蜜柑、突然出てこないでよ……。あなたの『死角探知』って相当強力なんだから」

「しかも、みかちーの勘の良さもすごいじゃん。もう『異能』って言っていいレベルじゃない?」

「どーだろ?別に魔法を使っているわけじゃないから、勘の良さについては何とも言えないけど?」

 華夜が言うように蜜柑には『死角探知』と呼ばれる、ありとあらゆるものの『死角』を見抜くという『異能』を持っている。しかし彼女曰く「だからと言って魔法が得意なわけじゃないから二科生なんだよ!」とのこと。そして人並み外れた勘の良さ――本人いわく『野生の勘?』――を持ち合わせており、その二つを組み合わせて手に入れることのできる彼女の情報は、非常に精度が高い。まさに情報チートである。本人は認めていないが。

「あ、そうそう、二人とも。多分、そろそろ事態が動きそう」

「え?」

「早ければ今日の放課後にでも何かやらかすんじゃないかな?」

 蜜柑は華夜にそういいながらいたずらっ子のような顔で笑った。

 

 

 

 

 

「全校生徒のみなさん!!」

 その日の放課後、蜜柑の予測は当たり『差別撤廃を求める有志同盟』なる生徒たちが放送室占領事件を起こし、その解決に風紀委員の司波達也が一枚噛んだということが、後に蜜柑から伝えられることとなる。

 

 

 

 

 

「ねえ、聞いた?差別撤廃同盟との討論会を七草会長が受けるんだって!」

「耳早すぎじゃない?」

 放送室占領事件の翌日。朝一番にその情報をもたらした蜜柑を呆れと少しの賞賛を含んだ声色で華夜は正門にて迎えた。

「なーに、些細なことでも情報は新鮮さが命!だからね。さっそく新聞部の号外が飛び回るわー!はい!華夜ちゃんにさっそく号外第一号をプレゼントしちゃう!」

「新聞部って、確か先輩が卒業されて廃部になったって話じゃ……」

「今は私が復活させて部員二名で動いているよ!それじゃ、もう一人と号外配りに行ってくるね!」

「ちょっと!」

 そういって華夜に号外を押し付けると、引き絞った弓から放たれた矢のように蜜柑はその場から走り去っていった。

「……なんで私の周りってこんなにキャラが濃すぎるのかしら?」

「ていうか、俺のことは完全無視っすか」

 首を傾げる華夜の隣で完全スルーを決め込まれた譲が複雑そうな表情を浮かべていた。

「でも、これってどうなんすかね?」

「ん?」

「いや、この号外からすると、七草会長が一人で討論を受けるみたいっすけど」

「ただの茶番でしょ?」

 号外を読んでから首を傾げた譲の疑問に華夜は冷たく切り捨てた。

「仮にも十師族のナンバーツーのお嬢様よ。烏合の衆に討論会ごときで負けるとは思えない。一人で受けることにしたのも調整だなんだに余計な労力を割かないため。明日という日付は相手に準備の時間を与えないため。完全に七草会長の演説会になる予感しかしないわ。」

「うわー。えぐいっすね」

「まあ、部活の予算案には私から言わせたら穴があるから、そこを突くことができれば多少は同盟にも勝ち目があるんじゃない?まあ、無理っぽいけど。でもこの学校の差別解消について学生ができることなんて限られてるし、落としどころとしては差別、ダメ、絶対!の精神論か、もしかしたら生徒会役員に二科生と所属できるように訴えるってとこでしょ?会長は達也を生徒会に入れたかったみたいだし」

「ああー……。ん?なんか予算案に変なところってあったっすか?」

「ああ、この学校では大会の結果と部員の数で予算を割り振ってるでしょ?確かに学校としても弱い部活にお金をかけられないのは分かる。けど、その大会結果が魔法クラブと非魔法クラブともに一律って所が穴と言えば穴かな?例えば剣術部が全国大会に出るのに必要となる試合の勝ち数が5だとすれば、剣道部が全国大会に勝ち上がるのに必要な試合は20。なのに同じくらいの全国大会での戦績と部員数がほぼ同じだからと言って同じ予算が配られるとなると、どうしても剣道部の予算の方は圧迫されて遠征費用が生徒の持ち出しになるって感じ。これを平等かと言われたらちょっと苦しいよね。まあこの学校の方針やかけられる部費の費用、考え方の違いがあるから何とも言えないんだけど」

「おおー。そういえば競技人口が魔法競技とそれ以外じゃ違いすぎるっすもんね!さすがお嬢っす!」

「大したことじゃないけど……。それよりも、私としては差別撤廃同盟がこんなに活発に動いているのにちょっと引っ掛かりを覚えるのよね」

「ん?どういうことっすか?」

「なんというか。学生だけでこんなことができるのかなって……。まっ、気にしてもしょうがないか。それじゃ、私、もう教室に行くね」

「はいっす!また昼に!」

 そんな会話をして譲と別れた後、少しだけ感じた嫌な予感を華夜は胸の内に押し込めた。




 読んでいただき、ありがとうございます。リハビリもかねていますので文章量は少なめです。


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