おや、いらっしゃい。
ウチに人が来るなんて珍しい……ことはないか。それで? 君は今日、どんな物語を求めてここに来たんだい?
『シンデレラ』? それはまたポピュラーな童話を……いや、どうやらその『シンデレラ』ではないようだ。君が求めている『シンデレラ』にはシンデレラが複数いるね。
少し、待っていてくれ。
ふむ…………では、この作品はどうだい? ……自分が知っている物語と違う?
そりゃそうだ。ここは元の物語から広がったifの世界。パラレルワールドと呼ばれるモノを集めた館だ。
勿論、1から産み出された世界もあるけどね。まさか知らないでここに来たのかい? まあ、知らないからといってとやかく言うつもりは無いけどね。
君の知っている物語……シンデレラガールズはこうだろう?
一人の無愛想な
だが、読んでみて分かっただろうけど、その物語は少し違う。その物語は君の良く知っている『シンデレラ』……アイドルマスターシンデレラガールズを元にして、別の作者が描いた物語だよ。
作者が変われば登場人物も変わる。
登場人物が変われば、それに応じて人間関係も変化してまた違うものになる。
人間関係が変わればかけられる言葉も変わり、反応が変わる。
それが積み重なった結果、表面は同じでも中身は別のものになる。
大筋の物語は君が知っているモノと同じ、シンデレラの舞踏会を無事に終えるところまで……だったかな。しかし、そこに到るまでの経緯が違う。
その物語と元の物語との最も大きく重要な相違点を挙げるならば、シンデレラプロジェクトにプロデューサーがもう一人いることだろう。
もしあの時、武内P以外にもプロデューサーがいたら。支えの無い彼に、頼れる友がいたら。そういった考えの元に作られた物語。
彼の存在によって救われる展開があるだろう。しかし、逆に彼という身代わりがいることで新たな困難が産まれる。なかなかなかった組み合わせのアイドルの掛け合い。原作では描かれなかった、アイドルたちの違った一面を見ることが出来るのはこの作品だけに限らずここにある多くの作品の醍醐味だよ。
あまり私が話しすぎても、作品を読む楽しさが減ってしまうからね。ここら辺で自重しておくよ。ここからは自分の目で確かめてくれ。彼、『浅葱遼哉』がどんな影響を与えているのかを。
さて、これから集中してじっくりと読むといい。他に何かあるかい?
ん? 私が何者なのかずっと気になってたけど訊けなかった?
うーん、特に珍しいとかそういう訳でもなんでもないよ。私は物語が好きなただの笛吹きさ。童話に描かれただけのただの笛吹き。
私のことはもういいだろう。さあ、ページを開いて。物語は表紙をまず開かないとね。
どうも、「346の〜」の作者黒いファラオです。ずっと書きたかったアニメ準拠のストーリー。頑張ります。
今回出てきた彼はただの案内人なのでストーリーとは一切関係ないです。おそらくもう出てきません。少なくともストーリーには絶対出ません。
良かったら346の〜も見てください。オリP、浅葱遼哉の人となりがよく分かると思います。交友関係とかもね。
ところで、ニコニコでまだ浅利七海合作を見ていないP諸君は見ることをお勧めします。
では、感想よろしくお願いしますとか言おうと思ったけどこれにどんな感想言えばいいんだよって自分で思いました
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1段目
「ねえねえ、浅葱プロデューサー!」
「ん? どうした赤城」
控室でスマホを弄りながら暇を潰していると、赤城みりあが声を掛けてきた。何か不具合でも合っただろうか。
赤城の方に顔を向けてみれば、何やら目をキラキラとさせている。
「新しい人達って、何時になったら来るの!?」
「あっ、あたしもそれ知りたーい!」
赤城と仲が良く、いつもつるんでいる城ヶ崎莉嘉もノってくる。
「えーっと、確か20分前くらいに武内が今から連れていくって連絡が来たからそろそろだと……」
「申し訳ありません、遅れました」
「……ほらな?」
入ってきたのは4人。それぞれ違う制服を着た3人と、パッと見そっちの筋の人間かと疑ってしまうような固い表情をしたスーツ姿の男性だ。
「遅かったな、武内」
「すみません。色々と……滞ってしまって」
その言葉に3人が少し申し訳なさそうな顔をする。これはあれか、初めての場所ではしゃぎすぎて遅刻したとかだろうか。まあ、気持ちは分からんでもない。こんな巨大な建物、探険してみたいと思うのは普通だ。
「いや、問題ない。大方予想はつくからな。それで、後ろの3人が
「はい。彼女達が最後のシンデレラ候補です」
目を向けられた3人がピクリと反応する。
「皆さん、自己紹介を」
黒く長い綺麗な髪の少女は冷静に。
「渋谷凛です。よろしく」
短い髪の活発そうな少女は情熱を感じる挨拶を
「本田未央! 高校一年、未央って呼んでね!」
茶色の長い髪の少女は可愛らしい笑顔で。
「島村卯月です! えっと、頑張ります!」
「この3人に皆さんを加えた、14名がシンデレラプロジェクトのメンバーとなります」
「それじゃあプロデューサーさん、これで?」
独特のエロ……色気を持った現役女子大生、新田美波が訊いてくる。
「ああ、そういうことだよ。なぁ、武内?」
「はい。これで全員揃いました。シンデレラプロジェクト始動です
そこにいた少女達は「やったー!」と手を取り合い、喜び合った。まあ、初期メンバーには本当に長々と待たせちまったからな。
「なになに、何の騒ぎ~?」
一通りメンバーの自己紹介が終わった頃に、やけに露出多めな衣装を着たピンク髪の少女が顔を覗かせた。その彼女を見て本田が驚きの声を上げる。
「カリスマJKモデルの城ヶ崎美嘉!?」
「は~い♪」
「お姉ちゃ~ん!」
シュッ、といつものギャルピースを決めた城ヶ崎の元に、城ヶ崎が駆けていく。
「おっと……。莉嘉~? ちゃんとやってる?」
「もっちろん! 大丈夫だよ!」
城ヶ崎莉嘉……あぁ、そういえば城ヶ崎は城ヶ崎の
「莉嘉ちゃんって、城ヶ崎美嘉の妹なの!?」
「そうでーす!」
ピースの仕方は姉の真似か。うん、やっぱり目元とか雰囲気が確かに似ているな。など、うむうむと1人で納得していると、城ヶ崎(姉)の目がキラリン♪と光った……ような気がした。
「おっ、遼哉さんじゃん! 久しぶり~!」
自分に抱きついていた城ヶ崎(妹)をわざわざ離してからこちらに駆けてきて抱きついてきた。そういう所もそっくりなのかよ!
「だぁ~! その衣装で抱きつくな城ヶ崎! お前は妹とは違ってもう身体が出来上がってんだから! 色々と当たってるっつの!」
「当ててるんじゃん♪ てか城ヶ崎は姉妹で2人いるんだから、いつもみたいに『美嘉』って呼べばいいじゃん。仕事の時の名字呼びは相変わらずなんだね」
「メリハリが大事だって言っただろ。ただ、紛らわしいってのはその通りだな」
「でしょ? だ~か~らぁ~?」
「……ったく、分かったよ美嘉。これでいいだろ?」
「うんうん!」
こうやって話しているとあの頃を思い出す。お互いにちっとも変わっちゃいなかった。
「Pくんがお姉ちゃんと話してる時の顔、私たちと全然違う!」
「莉嘉それはね? アタシと遼哉さんはただのアイドルとプロデューサーの関係じゃないからね~」
「そ、それって……」
「お姉ちゃんってば、だいたーん!」
「ダァホ」
「あいたっ」
調子にノッている美嘉の頭に軽くチョップを入れてお灸を据える
「妹と後輩が可愛いからって、あんまり調子に乗るな」
「えぇ~」
「そんなに後輩のためになりたいのならば仕方がない。新人がやりがちな失敗を誰かさんの体験談を借りて俺がこいつらに懇切丁寧にジックリと語ってやろう」
俺が、「あれはとあるカリスマJKモデルがアイドルとしてデビューしたての頃……」と始めると、美嘉が「うわーっ、うわーっ!」と俺の口を塞いだ。
「そ、それだけはやめて!」
「ったく……」
『美嘉さーん! そろそろ撮影はいりまーす!』
「あっ、はーい! じゃあ、私行ってくるから」
不満ですっ!といった美嘉の目がさっきまでのものとは違う、仕事をこなすプロのモノになっている。
「後輩のためだ。きちんとお手本になってこい」
「うん、任せてプロデューサー」
「今は担当じゃねぇよ」
「あはは、そうだったね。いつも通り送り出してくれたからさ。行ってくる」
「おう」
スタジオに向かう美嘉の背中を見送ってから、後ろで俺達のやり取りをボーッと見ていたプロジェクトメンバーたちに伝える。
「さて、聴いてたな? 今から本物のアイドル『城ヶ崎美嘉』のジャケットの撮影が始まる。しっかりと見せてもらえ。んで、お前達が目指す"アイドル"っていうのがどういうモノかを肌で実感してこい。分かったな?」
『はいっ!』
ぞろぞろと控え室から出ていく13人。寝ていた双葉は仲のいい諸星によって連行されていった。
全員が出ていった後で、武内が横に並んだ。
「ありがとうございます」
「いいよ。本当はもっとキツいのを言おうとも思ってたんだがな」
「どう言おうと?」
「『お前らはまだスタートラインにすら立っていないのを自覚しろ』とかだな。まあ、思い止まったけどな」
「いきなりやる気を削ぐというのは……」
「分かってるよ。だからやめたんだろ」
「浅葱さん、浅葱さんはあの3人を直接ご覧になって……どう、思われましたか?」
「どう……と言われても。俺はお前みたいな慧眼の持ち主じゃないからあんまり参考にならないと思うんだが?」
「そんな謙遜しなくても……長所を見抜くのは浅葱さんの十八番でしょう。私は浅葱の意見を聞いてみたいんです」
「そこまで言うんなら。そうだな……。やっぱり武内の目は確かだ。3人のどれもが逸材。レッスンとか実際の所をまだ見てないからはっきりとは言えないが、光るものがある。それこそ、楓や美穂達に並ぶくらいにはな」
「そうですか……安心しました」
「なんだ、まさか自信がなかったのか」
「ええ。私は一度失敗していますから……」
武内の顔が翳りを帯びた。イラッと来たのでその頭をドつく。
「浅葱さん?」
「お前の気持ちは分かってる。痛いぐらいにな。だが、それをあいつらに重ねるな。あいつはあいつ。あの3人はあの3人の物語があるさ」
「そう、ですね……。ありがとうございます」
「ただ……」
「ただ?」
「あの3人に出来なかった分のプロデュースをあいつらにしてやろうぜ」
「……はい、そうですね」
ジャケット撮影の方をチラリと見てみると、美嘉が様々なポーズを次々と決めて順調に撮影が進んでいる。
「にしても、随分と撮影も手慣れたもんだな」
「そういえば、そんなこと言ってましたね……」
「ああ。『モデルの時と勝手がちがーう!』って泣き言言われたりな」
そら職種が違うんだから撮られ方も変わるだろ。モデルはあくまでも『服を着こなしている』のを見せる。簡単に言えば服のコーデを如何によく見せるか。
それに対してアー写やこういうジャケット撮影は、『城ヶ崎美嘉』を見せる。城ヶ崎美嘉というアイドルが如何に魅力であるかを伝えなければいけない。
目的と結果が違えば、勿論そこまでの過程も変わる。そう伝えたのだが、美嘉はあまり良く伝わらなかった。
「説明しても伝わらなかったクセに慣れたらあっという間にコツを掴みやがった。まあ、いいんだけどさ」
「島村さーん! スタンバイお願いします!」
「ん? そろそろみたいだな」
「ですね」
後から合流した島村、渋谷、本田がスタンバイしている間に他のプロジェクトメンバーの撮影が順調に進んでいく。
……しかし、
「上手く行かないねぇ……」
後から合流組の島村、渋谷、本田の撮影がダメだった。
「流石に緊張してるか」
「そうですね……」
「他のメンバーはある程度アイドルになるためのレッスンや準備をしてきたが、あの3人はぶっつけ本番もいいところだからなぁ……」
「もっと自然な笑顔を……」
突然言葉が聞こえなくなった武内の顔を見てみれば、傍目からは何も変わっていないように見えるが長年の付き合いだからこそ理解出来る微妙な表情の変化があった。
「なんか思いついたって顔だな」
「はい。それよりも、良く分かりましたね」
「わからいでか。何年来の付き合いだと思ってんだよ。ほれ、解決策が浮かんだんならとっとと行ってこい」
「……分かりました」
少し失礼します。と俺に一言律儀に残してから武内はカメラマンさんの元に向かった。
武内の話を聞いたカメラマンさんはなるほどといった様子で頷いている。どうやら武内の案に賛成らしい。
カメラマンさんは3人を同時に呼んだ。時間がかかりそうだから一気に撮ってしまおうとかそういうことか? いや、それはないか。
「今度は3人一緒に撮ってみるから、普段通りにわいわいやってみてよ」
「は、はいっ!」
「普段通り……?」
困惑する本田の元にボールが投げられる。……あっ、なるほど。そういうことか。
「ボール?」
「自由に動いていいよ!」
「ええっと……とりあえず、しまむーパス!」
「えっ? ……ほむぎゅ!?」
「おっと」
本田からのパスに反応出来なかった島村の頭にボールが激突。あおれを渋谷がキャッチした。
「……しまむー?」
「しぶりーん、パス、パース!」
「……しぶりん? まあ、いいけど!」
『しまむー』『しぶりん』ってのは2人のニックネームか。特徴を捉えてるというか安直というか。『しぶりん』って『しぶやりん』から『や』が抜けただけじゃねぇか。……まあ、異様に語呂はいいけど。耳にも残るし。
渋谷が投げたボールを本田は綺麗なアンダーで島村へ。これはバレーの流れか。
「しまむー、トス!」
「は、は、はうっ!?」
まさかの二連続での顔面受け。でも綺麗に上がったな。さっきも上に上がってたし、運動神経がいいのか悪いのか……反射が悪いのか。
「しぶりん、スパイク!」
「……ふっ!」
パスッと渋谷から放たれたスパイクは本田の懐へ。助走なしであそこまで跳べるとは素晴らしい跳躍力だ。バレー部だったら即戦力になりそうだ。思わず拍手しそうになったが我慢。
「おおっ、ナイススパイク!」
「……ふふっ」
渋谷から笑顔が零れたのを皮切りに3人が笑顔を見せる。これがあいつらの自然な笑顔。これに武内は魅せられたってわけだ。
「いいねぇ……その笑顔だよ!」
「あはっ! 流石、合格理由が笑顔のわ・た・し!」
「えへへっ、私もです! 合格理由『笑顔』!」
「……それしか言わないから」
「え?」
『あははははっ!』
「みんな一緒かぁ!」
笑い合う3人を横目に見ながら武内の横腹を肘でつつく。
「まぁたお前は『笑顔』で口説き落としたのかよ」
「口説き落としたと言うと語弊がありますが……まあ」
「本気でそう思ってるのは分かるんだがな……」
「アタシを読モからスカウトした時もそれだったよね〜」
「美嘉、撮影は終わったのか?」
「バッチリ! ちゃんとOK貰ってきたよ! それにしても、初めてにしてはいい感じじゃ〜ん……あっ」
美嘉は3人の様子を見ると、何かを思いついたのか
「ねえあの子たち、今後のスケジュール決まってる?」
「……いえ」
「今日からの新人だからな。やらせることと言えば正直レッスンしかないが。それがどうかしたのか?」
「はい、終了! お疲れ様!」
「ねえねえ、みんなで撮ろうよ!」
全員での集合写真そ撮ろうとメンバーがワラワラと集まっていく。
「元気なこった」
「……そうですね」
「プロデューサーさん! プロデューサーさんたちも一緒に撮りませんか?」
「いえ……みなさんでどうぞ」
島村の提案を武内は断った。ええーっ、と不満そうなメンバーを納得させるためにそれらしいことを言っておく。
「その集合写真をプロジェクト全体としての宣材写真にするつもりだからな。アイドルじゃないプロデューサーがそこに入ってたらマズいだろ」
「それはそうですけど……」
「撮るよ〜! 笑って!」
カシャッとシャッターの音。撮られた写真には全員が笑顔の花を咲かせていた。
知らない人も多いと思いますので、基本的に更新は『346の〜』と同じく日曜日です。時間は設定していませんが、目標は0:00です。更新されていなかったら、間に合わなかったんだな……と察してください。
更新を休む場合は活動報告で報告します。
ですが、作者は受験生ですので2月頃までは更新が安定しません。ご理解のほどお願いします。待ってる間は『346の〜』を読むといいよ!(ダイマ)
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2段目
なお、合格発表が終わったとは言っていない。
ごちゃごちゃ言うのはやめましょう。それではどうぞ
「私たちが……ライブに?」
「そう! アタシのバックで、ちょうどこんな感じの子たちを探してたんだ★」
「島村、渋谷、本田か。でもいいのか? そんな簡単に決めて」
「美嘉ちゃんの担当からはOKを貰いましたけど……どうしますか?」
「うーん……個人的には早すぎるとおもうんだがなぁ……」
「遼哉さん、そこをなんとか!」
「武内、お前はどう思う?」
「……自分としては」
「うん、いんじゃないかな」
プロデューサールームの応対スペースから、賛成の声が上がった。
「今西さん」
「遅かれ早かれ、この子たちもステージに立つわけだ。こういう始まり方も……また有りなんじゃないかな」
今西さんがそういうこと言うなんて珍しいな……。そんな彼を見て本田が声を漏らす。
「……誰?」
「見覚えはあるんですけど……」
「ねえ、部長もああ言ってることだし!」
「「「部長!?」」」
3人が驚きの声を上げる。
「あれ、お前ら知らなかったのか?」
「知らないよ!」
「いや、今西さんからエレベーターでちょうど会ったって聞いたんだが?」
俺がそう言うと、島村が気づいたのか
「あっ、そうです! エレベーターでボタンを押してくれた……」
「ああ……」
「そういえば!」
今西さんはしてやったりと言った顔で頷いている。満足そうな顔しやがって……
隣の武内を見て肩を竦める。武内も一つ頷く。
「では、ライブの資料をお願いします」
「はい。早急に」
「え……OKってこと?」
ポカンとした顔で訊く美嘉に、千川がにっこりと笑って答える。
「はい」
「やった!」
「その代わり、ちゃんと面倒見ろよ?」
「もちろん、まっかせて! 3人とも、ライブ楽しもうね!」
本田と島村は状況を掴めなかったのか、最初はボーッとしていたが
「「は、はい!」」
「よろしくお願いします!」
嬉しそうに返事をした。だが、
(……ん?)
渋谷だけが終始不安そうな顔をしていることが気にかかった。
島村達や、美嘉、今西さんが部屋から出ていき、部屋に俺と武内しかいない状況になってから、隣の武内に訊く。
「武内。渋谷の様子……気づいてたか?」
「はい」
「気にかけておけよ。あの3人の中でムードメーカーは間違いなく本田だろうが、一番の鍵になるかもしれない」
「いいか悪いかはともかくとして……ですよね?」
的確に俺が続けようとしていた言葉を武内に言われた。
「良く分かったな」
「浅葱さんの仕事上での口癖ですからね。良く覚えています」
「俺、そんなに言ってるか? まあいいや。俺も考えてはおくけど、あの3人はお前がしっかり見ておけよ」
「分かっています。お気遣いありがとうございます」
「俺もシンデレラプロジェクトのプロデューサーだからな。……千川もそれでいいか?」
声をかけると、驚いた顔をしながら千川が入ってくる。
「うわ、本当にいた」
「え、あれ、私に気づいてたんじゃないんですか!?」
「いや、いるんじゃないかと思ってカマかけてみただけだ。お前が出てこなければ俺は誰もいない所にドヤ顔で声をかけた可哀想な奴だった。サンキューチッヒ」
からかわれたことに気づいた千川は顔を赤くしながらボードで肩を叩いてくる。痛い痛い。地味に骨に響いて痛いから。
「ともかく、聞いてた通りだからそれとなくでいいから気にしておいてやってくれ。孵化前どころか、アイドル候補生という卵として生まれたばかりの状態でいきなりバックダンサー抜擢だ。不安になるのも頷ける」
渋谷はそれだけじゃ無さそうだが。
「分かりました。私で良ければ」
「おう。んじゃ頼むわ」
ふぅ、と一息ついてコーヒーを飲む。そこでふと沸いた疑問を武内に投げる。
「そういやお前、千川が入ってくる時大して驚いてなかったよな?」
「……なんとなくいらっしゃるような気はしていましたので」
「お前、そんなに気配に敏感な奴だったか? その顔で気配に敏感とか暗殺者みたいだぞ。八極拳でも使う気か?」
「いえ……分かるのは千川さんぐらいですね。辛いのが苦手なのは浅葱も知ってるでしょう」
千川が少し頬を赤く染める。いや、お前の気持ちは知ってるし分かるけど……
「なんなの、お前らの間にテレパシーか何か繋がってるわけ? 武内大人しく受けとけば良かったじゃん」
「…………」
「…………」
俺以外2人が顔を赤くしてお互いに顔を合わせようとしない。なんとも言えない面白い雰囲気中、俺はまたコーヒーを口に含んだ。
心做しか、さっき飲んだ時よりも甘い気がする。
固唾を飲んで見守る。
「後から遅れてきた新人が先にステージに立つなんて納得いかないにゃ! どっちがステージに相応しいかみくと勝負にゃ!」
『……勝負?』
卯月、凛、未央の3人がレッスンルームに入るや否や、プロジェクトメンバーである前川みくに謎の勝負を仕掛けられた。その結果は
「辛く苦しい戦いだった……」
周りに散らばる激闘の跡。
「ちょ、ちょっと欲張りすぎただけにゃ! みくは負けてない! フシャー!」
本物の猫であれば毛を逆立てて威嚇しているような声を出すみくだったが
「これって……アイドルに関係あるのかなぁ?」
「ふにゃぁ!? 〜〜〜〜」
卯月の何気ない疑問によってトドメ刺された。や島畜。天然であるというのがなおタチが悪い。
「みくちゃん大丈夫?」
智絵里がトドメを刺されたみくを心配する一方で、3人はかな子から焼いてきたというお菓子を貰っていた。美味しいと言ってくれた3人に笑顔を返しながらかな子も自分で食べようとするが
「三村ァ!」
「ひゅくっ!?」
レッスンルームに入ってきたベテラントレーナーである青木聖、通称ベテトレさんに止められた。
「お前もアイドルなんだから体型のことも少しは気にしろ。今は標準体型だからいいかもしれんが、遠慮無しに食べていれば……分かるな?」
「は、はいぃ……」
「分かればいい。ところで城ヶ崎はどうした?」
「おっはよー!」
そのタイミングで美嘉がレッスンルームに入ってくる。
「ごめんごめん、取材が押しちゃってさぁ」
「いいから。さっさと着替えてこい。全員お前待ちだぞ」
「はぁい」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┄┄
自分のトレーニングウェアに着替えた美嘉に聖が声をかける。
「まずはお前が指導しろ。ある程度揃ったら見てやる」
「はい」
ダンス前の柔軟をしながら美嘉が3人に問いかける。
「アンタたち、ダンスの経験は?」
「良く学校の友達と踊ってました!」
「わ、私は養成所で……」
「ほとんど無いかな……今回のダンスはDVD見て覚えてきたけど……」
まあ、五十歩百歩と言ったところだろう。いや、卯月は養成所上がりという境遇から基礎の部分は出来ているだろうし2人よりは上か。
「ふーん……まあ、やってみないと分かんないよね! ここはババーンとアタシにまっかせて!」
「「………………!」」
「今日から、美嘉ねぇと呼ばせて貰います!」
「み、美嘉ねぇ……」
美嘉はその呼び名に面食らってはいたが、嫌がっているようではなかった。元来の面倒見の良さからか。それとも『姉』と呼ばれることになれているからだろうか。今回の場合はどちらかというと『姐』な気がするが。
そんな先程までの和気藹々とした和やかな雰囲気からは一転、レッスン始まると
「ワン、ツー、スリー、フォー、ファイブ、シックス、セブン、エイト!
この時、キチッと止まってるとカッコイイよ!」
「き、キツイ……」
自分たち事務所に入ったばかりでデビューもしていないひよっこアイドルと、売れっ子アイドル『城ヶ崎美嘉』との実力差をまざまざと見せつけられていた。凛と未央はバテバテ。卯月も2人までとはいかないまでも、養成所で行っていたレッスンとはケタ違いのハードさにぐったりと疲労の色を隠せないでいた。
それもそのはずだ。美嘉のソロ曲『TOKIMEKIエスカレート』はダンスの激しいことで有名であり、そのハードさは同じ346のアイドルである日野茜らからも一目置かれるほどである。
そのダンスの難しさと短い練習時間、そして何よりも本人達の未熟さ。これらがあったからこそ、遼哉は3人の美嘉のバックダンサーとしての参加に難色を示したのだ。
「彼女達はどうですか」
「現段階ではかなり厳しいだろうな」
途中からレッスンを見に来た武内の質問に聖は肩を竦めながら苦笑いで答えた。しかし、『現段階』と付け加えた聖の隠された意図を武内はしっかりと読み取っていた。
「あの……少し分からないところがあるんだけど」
「どこ?」
「えっと……」
美嘉に該当部分を訊かれ、凛はそのパートを口ずさむ。その歌声は現役のアイドルである美嘉さえも感心するほどのモノだった。
「〜〜♪ ってところなんだけど」
「へぇ〜! アンタ歌もイケるじゃん!」
「しぶりんやるぅ〜!」
「凛ちゃんカッコイイです!」
「~〜〜〜! そこはいいから!」
綺麗な凛の歌声に3人が絶賛する中、武内と聖も驚いていた。
武内は数々のアイドルを見出してきた経験から。聖はダンス担当ではあるが、ボーカルが苦手という訳でもない。今までアイドルを指導してきた経験から。少し口ずさんだ歌からでも、凛の歌唱力の高さが良く分かった。
褒められ慣れていない凛が照れてほんわかしている雰囲気に割って入る猫娘が。
「ちょっ〜と待つにゃぁ! さっきはちょっと失敗しただけにゃ! これでもう一度みくとしょう、ぶっ」
ルービックキューブを持って突き出した腕と頭がガッシリと掴まれ、声が2つの方向から聞こえてくる。
まずは腕を掴んだ聖。
「お前はお前で別にやることがある!」
「ふにゃぁ〜…………」
そして、みくの頭を片手でわしづかみ────いわゆるアイアンクローの状態────にしている誰か。
「前川……レッスンサボってふらふら出歩くなんていい度胸してんじゃねぇか……」
「痛い痛い! みくが悪かったからアイアンクローはやめてほしいにゃ!」
「……仕方がない」
「ひどいにゃ! 女の子の頭をいきなりアイアンクローしてくるだなんて一体だ……れ……」
『アイドルに……興味はありませんか』
「武内プロデューサー……はみくの隣にいるのにゃ!」
「浅葱さん……。というよりも、相変わらずやけに私の物真似上手いですよね……」
後ろからみくの頭を掴んでいたのは遼哉だった。
「本物目の前にいるし、誰かも分かってたのに本物かと思った……」
「私もビックリしちゃいました……」
「私あのセリフで誘われた」
「あの物真似、遼哉さんのお気に入りなんだよねぇ」
「そうなの? 美嘉ねぇ」
「そうそう。昔から良くやってたよ。最近またクオリティ上がったかな」
思いの外、別の所で反響を呼んでいた。
「頭が割れるかと思ったにゃ……」
「流石に女の子相手にあれ以上の力は入れねえよ。それに、レッスンをサボって3人の代わりになる方法なんぞ探してるお前の方が悪いだろうよ」
「それは……確かににゃ」
すると、責めるような顔から少し申し訳なさそうな物になる。
「まあ、お前の気持ちもわからんでもない。あの3人がいきなりステージに立てることが納得いかないんだろ?」
「……うん」
「確かに前川は初期のメンバーで、ずっと一生懸命レッスンしてたのは俺も武内も知ってるし、待たせてたのは申し訳ないと思ってる」
「あ、いや……みくはプロデューサーたちを責めたいわけじゃ……」
「大丈夫、それは分かってる。俺達も早くお前たちをステージに立たせたいと思ってる。でも、今回美嘉が求めた……『オファー』をしたのはあの3人だ。誰でもいい中から
遼哉が美嘉に目を向けてみると、美嘉は笑顔で頷いた。
「前川みく」
「はっ、はい!」
「お前はあの3人の代わりにはなれない。あの3人にはあの3人の持ち味があって、お前はそれを持っている訳じゃない
。逆にお前にもあの3人にはない自分の個性があるだろ?」
「猫キャラ……」
「そうだ。前川、お前は無数に輝く星空の一部になりたいのか? それとも、誰も自分の代わりが務まらないような星空の中でも輝く星になりたいか?」
「みくは……誰より目立つ一番星になりたい!」
「それでいい」
堂々と宣言したみくの頭を撫でる。そして、周りを見渡す。
「あ〜、すみません。全然周りのこと考えてませんでした。まったく……歳を取ると説教くさくなってダメですね」
「私の一つ下で何を言っている。こっちのことは気にするな」
「すみません。島村、渋谷、本田」
『は、はい!?』
「さっきのは別にお前らを責めたかったとか、お前らには代わりがいるとかそういうつもりで言ったわけじゃないからな。ちょうどいい例だったんだ。さっきのを別に気に病まないでくれ」
「はい、大丈夫です」
「嘘つけ。顔が暗くなってただろ。なあ、武内」
「……はい」
みくと話しながらも、遼哉は自分たちも話が出た所で卯月たちが少し暗い顔になっているのを見逃していなかった。
「そう思うんだったら、シンデレラプロジェクトの初デビューだ。私たちはこんなにやれます!ってのを他のファンに見せつけてやれ」
『はい!』
「いい返事だ」
「ほんっと、遼哉さんは相変わらず不器用だよねぇ」
「静かに、城ヶ崎。プロジェクトメンバーにお前のデビュー当時の失敗談を面白おかしく語ってもいいんだぞ」
「やめて!?」
美嘉を弄って遊ぶ遼哉に武内がずっと気になっていたことを質問する。
「ところで浅葱さんは何故レッスンルームに?」
「ああ、そうだった。3人のレッスンの様子を見に来たってのも確かにあるが、1番の目的はお前を呼びに来たんだよ」
「私を……ですか?」
何か予定が入っていただろうか、と自分のスケジュールを頭に浮かべながらクエスチョンマークを浮かべる武内。
「ああ、最初の予定にはなかったんだがな。シンデレラプロジェクトのメンバーが出るんだから段取りの会議にお前も参加して欲しいって河合がさ。それでなくとも、お前の意見を聞きたい人がいるらしい」
「……今西部長ですよね」
「ご明察。わざわざ千川に書類の手配までさせてやがった。準備のいいこった」
呑気に微笑む昼行灯の顔を思い浮かべた2人は揃ってため息を吐く。
「分かりました。確か―――からの会議ですよね」
「ああ」
「そういうことですので、トレーナーさん後はよろしくお願いします」
「分かった」
「では、失礼します」
「色々とお騒がせしました。じゃあレッスン頑張れよ」
そうしてシンデレラプロジェクトの2人のプロデューサーはレッスンルームから退室した。
約2ヶ月ですか。お待たせしました。忙しい時期にスランプが重なりここまで遅くなってしまいました。
女難に至っては2ヶ月半ですか……あっちも中々いいプロットが書けないんですよね……
まあ、近いうちにあちらも更新しますので読んでいない方はあちらを読むと色々分かりますよ。(彰が何者かとか)
ただあちらはアニメ終了後の世界なのでネタバレ注意ですよ。
そして、アイマスと小説垢を作りました。こっちでは、小説の自論とかアイマス関連の戯言とブチブチ漏らしてます。フォローして絡んでくれると嬉しいです。
IDは@kuroifarao となっておりますので。
さて、一体俺は来週も更新出来るのか!それでは感想などお待ちしております
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