ギルド受付役として生きていく・・・が、ブラックだ (パザー)
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【あぁ、駄女神さま編】このおっかなびっくりな世界に祝福を!
1ー01 この不憫な受付役たちにお酒を!


「えぇ~こちらのクエストはですね・・・」

 

 

冒険者ギルド。

モンスターを狩ったり、一般人から御国の偉い人まで十人十色な方々からの依頼をこなしたり。

そんな荒くれ稼業を生業とする職業・・・それが通称『冒険者』だ。

 

功績を上げた者は英雄として称えられ、様々な高報酬の仕事が流れ込んだり様々な保障も発生し、一躍時の人となって裕福に暮らせる。だがここ駆け出しの街アクセルでは流れ込んでくるのも決して美味しいとは言えない報酬のクエストや高難易度高報酬のクエストはそもそも攻略できる人間がいない・・・そんな現状だ。

 

なのでここでの冒険者は土木作業の日雇い労働とさして変わらない。

だがロマンを追い求めて冒険者を志願する者は中々に絶えず、今日も冒険者ギルドは騒がしい。

 

命をかける冒険者の報酬が日雇い労働とさして変わらない・・・通常の人が聞いたらあまり良くは思わないだろう。ブラックと揶揄する者も現れるかもしれない・・・だが!

そんな冒険者達を支える影の苦労人がいるのだ!

 

日々大量に流れ込んでくる冒険者に適切な仕事を斡旋し、士気を高める酒場の運営、捕獲されてきたモンスターの事後処理に依頼人へのクエスト完了報告、そして依頼集め・・・それら全てをまぁ多いとは言い難い人数でやらされる影の冒険者!そう!ギルド受付係だ!

 

今日も今日とてカウンターへ持ち込まれるクエストの処理をし、酒場の厨房でせっせと手を動かしやって来た冒険者達を大きな声で勢いよく迎える。

そんな急ピッチで進んでいく日常に目を回し翻弄させられる日々・・・全く以てブラックだ。

 

そんな事を張り付けた笑顔の内側で考えている。

接客業なので時々愛想笑いを浮かべ、その度に女性冒険者からは黄色い声が飛び、男性冒険者からは呪怨の視線が刺さってくる。

 

若干気まずい気持ちが胃の底から鉛の様な何かになって競りあがってくる感覚を味わいながらも俺は今日も今日とて全く変わらぬ日常を過ごしていくのだった―――――――――

 

~*~

 

すっかり日は傾き、白銀の月が顔を出そうとしている。

昼間とはうって変わって静寂と暗闇に包まれているギルドの一室、そこで俺はとある女性と話をしていた。

 

 

「ルナさん、今日もお疲れした」

 

 

その声に椅子へ腰掛け黄昏ていた栗色の巻き毛をした女性がこちらに振り向いた。

 

肩から胸元までが大胆にはだけている白の服に青色のショートパンツというひっじょ~にエr・・・卑w・・・そそる格好をしている。

 

白い肌に髪と同じような色をしている丸い真面目そうな印象を受ける目を見つめていたがハッとして本題を切り出す。

 

 

「久し振りに一杯飲んで行きませんか?」

 

「おぉっ!良いわね!行きましょうか!」

 

「それじゃ俺、表で待ってるんで着替えたら来てください」

 

「分かったわ」

 

 

ヒュー!ヤルジャネェカイロオトコー!

ヌケガケナンテズリィゾー!

 

後ろから他のギルド職員が茶化す声が聞こえてきたがまぁ

無視しておくことにしよう。

裏口の扉を勢いよく開けて外の空気を思い切り吸い込む。

 

肺に流れ込んでくる冷たい空気に身震いしつつも満点の星空を眺める。

漆黒のキャンパスの上でキラキラと無数に輝く大小の星に中心で堂々と輝く綺麗な円をした黄金の月。

 

そんな幻想的な風景に心を奪われそうになりそうになる。

が、そんなタイミングで日頃のストレスが噴き出してきて思わず大きな溜め息を吐いてしまう。

 

 

「モノノベ君ごめんね、待った?」

 

「あ・・・いえ、大丈夫っす」

 

 

白い肌の肩が露わになっている黒のワンピースを着たルナさんがドアを勢い良く開けて出てきた。

ギルド内でのみんなのお姉さんといった雰囲気から某エロゲーにでも出てきそうな清楚だが若干幼さが抜け切れていない幼馴染、そんな印象を与える姿だった。

 

そして当たり前だが思春期真っ盛りの童貞には刺激が強いので顔を若干赤くしながら上ずった声で応答してしまった。

 

 

「あれ、どうしたの?顔が赤いけど・・・熱でもあるのかしら?」

 

 

ちょ、ちょ・・・・近い!近すぎるんですけど!

しかも屈んでるからむ、胸が・・・!

それにでこに当てられてる若干ヒンヤリとしていて柔らかい手の感触も・・・!

 

 

「だ、だいじょうびです・・・それより早く行きましょ・・・?」

 

 

呂律が回らないまま俺たちは手頃な酒場を探して歩き出したのだった―――――

 

 

~*~

 

「ま~ったく以て何なのよあいつらは!どいつもこいつも胸ばっかり見やがってさあ!何なのよ!私には胸しか取り柄が無いっていうのかしら!?」

 

 

・・・・・酒癖悪すぎん?

あれ・・・?こんな酒癖悪かったっけこの人・・・

 

すっかり出来上がってしまったルナさん。

ベロベロに酔って真っ赤になってしまったルナさんは派手に酒の入ったグラスを机に叩きつけていた。

 

しかもその度に揺れる豊満な二つの白い果実・・・それから意識を逸らすのに俺もヤケ酒と言わんばかりに呑んだくれていた・・・が、流石にあそこまでは出来上がっていない。

 

 

「大体ねぇ!労働時間がおかしいのよ!何が悲しくて15時間もあんなむさ苦しい冒険者たちに胸を晒してニコニコしてないといけないのよ!こんな労働時間じゃプライベートも何も有りはしないじゃない!!」

 

「そ、そうですね・・・アハハハハ・・・」

 

 

正直・・・うん。まぁギルドの勤務時間は酷いとは思うよ?

それにシフトとかも組んでる訳でもないし勤務時間中はずっと同じ作業の繰り返しだし・・・

 

何か・・・腹立ってきたな・・・俺ももうちょっと呑んでおくか・・・

 

 

「よおしルナさん!一緒に一気飲みでもしますか!」

 

「良いわよ!さあ日頃の鬱憤込めてせーのーで!!」

 

 

その声に合わせて一斉に立ち上がって満杯のビールジョッキを口へ運ぶ。

喉へ、口腔へ、食道へと勢いよく流れ込んでくる黄金の液体。

 

若干クラクラする感覚に襲われるのを必死に堪えながら飲み続けた。

ジョッキが軽くなり姿勢が上へ上へと上がっていきようやくジョッキが空となった。

 

 

「プハアアアァァァ・・・・・!旨い!」

 

「良い飲みっぷりね!モノノベ君!」

 

「そちらこそ!」

 

「「―――――――マスター!ビールありったけ持ってきて!!」」

 

~*~

 

「おっぷ・・・激しい戦いでしたね・・・」

 

「そうね・・・・・」

 

 

店にあるビールの殆どを飲み干した俺とルナさんはすっかり更けてしまった夜の街を歩いていた。

・・・フラフラの体を互いに支えあいながら。

ひとまず、あても無くフラフラと彷徨い迷っていた。

 

 

「そういえばルナさん、これって何処に向かって・・・ルナさん?」

 

「スー・・・スー・・・」

 

 

日頃の苦労や酒が祟ったせいか、俺の肩にもたれながら穏やかな寝息を立てていた。

不用心だなぁ・・・・・幾ら多少付き合いの長い同僚とは言え年頃の女性が寝顔晒すなんて・・・

 

とりあえず俺の宿に運んどくか。

ルナさんの家の場所知らんし・・・・・・

 

・・・・・?

・・・・・・・・・・今時あんな光景見ねえぞ・・・

 

視線の先には数人の男たちに囲まれた少女がいた。

暗闇の中で紅く輝く大きな瞳に左右に分けた黒髪が特徴的だったのだが黒のローブにマントと言うファッションセンスも十分怪しかった。

 

あの見た目じゃ・・・ちょっと夜遊びしてみたくてフラフラしてたら絡まれた・・・そんな感じだろう。

 

 

ヘェイオジョウチャァン、オジサンタチトイイコトシヨウズエ・・・

イイカラダシテンネオジョウチャンチョットニャンニャンシヨウズエ・・・

 

「あ、あの・・・止めて・・・」

 

 

はぁ・・・これは物部さんが助け舟を出すしかないか・・・

懐から羽ペンを取り出しつつルナさんを担ぎながらあの変な一角へと近づく。

何とこの羽ペン・・・俺の転生特典でしてね・・・

 

 

「啼け『紅姫』」 

 

アア!?ンダテメェスッゾコラアァン!?

アア!?ンダテメェスッゾコラアァン!?

 

 

こいつら面白いな・・・

まぁいいや。とっとと済ませよ。

 

いきなり羽ペンが細身の剣になった事に驚く紅目の少女とそんな事はお構いなしに突っ込んでくる馬鹿達。

こいつら剣向けてんのに突っ込んでくるとか・・・ルナさん担いでるから舐められてんのかな・・・

 

 

「ほい1!2!3!」

 

ギャン!

ピン!

チン!

 

 

綺麗に123で倒れていったチンピラを一瞥してから壁にもたれて呆然としていた少女に視線を向ける。

 

 

「あ、ありがとうございました・・・えっと・・・受付の人・・・?」

 

「物部朔だ。別に構わないさ。たまたま通っただけだし。あんたの名前は?」

 

「わ、わわ私のななな・・・名前は・・・ゆ・・・ゆんゆん・・・です・・・」

 

「そうかよろしくな。ゆんゆん」

 

 

どんどんと窄んでいくゆんゆんのか細い声。

名前を名乗るのを恥じらう紅魔族・・・初めて見たな。

あんな馬鹿な種族にもこんな常識人がいたのか。

 

 

「えっ・・・!?」

 

「どした?」

 

「いえ・・・私の名前を聞いて笑わなかったのが・・・」

 

「紅魔の里には一回行った事あるからな。べつに驚いたりしないさ」

 

「そうなんですか・・・」

 

 

まあそろそろ宿に向かうとするか・・・

背を向けてルナさんを担ぎ直す。ていうか・・・あんだけあっても起きないのか・・・

 

 

「ま、待って下さい!」

 

「ん?」

 

「私の宿に来ませんか?何かお礼がしたいし・・・」

 

「う~ん・・・んじゃあお世話になるとするわ」

 

 

こうして俺とゆんゆんでルナさんをかついで彼女の宿に向かったのだった――――――

 

~*~

 

「どうしてこうなった・・・」

 

 

俺、ゆんゆん、ルナさんの3人でシングルベッドに刺さっていた。

 

 




ありがとうございました!

ゆんゆん可愛いんじゃ~


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1ー02 このハーレム男に理性を!

「お、おい・・・ゆんゆん?どうして・・・こんな事になってるんだ?」

 

「すいません・・・案外3人も入られると狭くって・・・」

 

「いやそれは分かるんだよ!?だからって何でシングルベットに団子3兄弟してんの!?」

 

 

暑過ぎる・・・

シングルベッドの若干硬い布地に体を預けながら左からゆんゆん、俺、ルナさんの順で横たわっていた。

ベッドの面積的にやはり3人で寝るのは無理がありかなり・・・というよりこれまで俺が体験してきた中で断トツの至近距離に女性の顔があった。

 

それも・・・美女で・・・左右両サイドに・・・・・・これだけで全国非リア充から呪殺されそう・・・

15cm定規も挟む隙間が無いので女の子特有の良い匂いやスースーとか細い吐息まですべて聞こえてくる。

しかも・・・この子達、俺の腕枕にしてんのよ。

 

ルナさんはワンピースを着ているのだが布団の中で恐らくはだけまくっているのだろう。直にふとももや髪の毛や手の感触が伝わってくる・・・が!

男に棒有り、女に球有り・・・・・・こんな事言ったら往復ビンタ確定なのだが・・・思想だけなら自由・・・2人の豊満なメロンが当たるんだ・・・しかも2人とも胸元が開けているので素肌が・・・素おっぱいがプニプニと形を変えながら当てられてるんだ。

 

ルナさんは寝相のせいなのだが・・・ゆんゆんはこれ・・・明らかに当てに来てない?顔真っ赤だし・・・俺もだけどさ・・・さ、酒が入ってるのに寝れない・・・あれ?酒じゃなかったの?カフェインバリバリのブラックコーヒーだったの?俺が飲んでたのって・・・お願ぁい!誰かラリホーマ掛けて!!ブライのジッさん!ごめんね、昔ドラクエやってて

 

 

『お前つっかえねwwwお前なんか馬車行きやwwwトルネコにライアンというむさ苦しい馬車生活を送りながら勇者様の覇権を見てるがいいわwwwwカジノ行っとこwww』

 

『カwwwwwwwwwwジwwwwwwwwwwノwwwwwwwwww』

 

『アカンwwwwww魔窟や魔窟wwwwww勇者全裸で魔王討伐するよwwwwwwwwwww天空どころかぜwwwww全裸の勇者wwwwwただの変質者wwwwwwww』

 

『『『wwwwwwwwwwwwwwwwwwww』』』

 

 

とか言う会話してたの謝るから!!

アリーナとかマーニャにミネアとかとパフパフさせてあげるから!パルプンテ掛けてあげるから!!

勇者様は黙って壺漁ってるから!!恥ずかしすぎる!!

 

 

「あ、あのぉ・・・」

 

「はいっ!何でしょう!?60分コースですか?しっかりねっとりマーラ様(魔王)討伐コースですかっ!?」

 

「ね、ねっとり・・・じゃなくてですね!・・・」

 

 

俺の腕の中で両手をブンブンと振り顔を真っ赤にしながら狼狽えるゆんゆん・・・天使過ぎん?

手で顔を隠しながらその指の隙間から紅い瞳でこちらを見つめてくる。

 

 

「も、もう少しその・・・ち、ちちち・・・近づいても良いですか?その・・・毛布から背中がはみ出てて寒いんです・・・」

 

「そ、そそそそういう事なら仕方ないな!ほらお兄さんの胸に飛び込んできなさい!」

 

「胸には飛び込みませんが・・・し、失礼します・・・」

 

 

ガサガサと布擦れの音をを立てながら10cm程近づいてくるゆんゆん。

体は密着し呼吸の際に微かに揺れる体の動きまで把握できた。

近すぎん!?大丈夫?口臭とか体臭とか気になんない!?大丈夫だよね!?

 

 

「その・・・モノノベさんって温かいんですね・・・普段は見てるだけであまり接する事は無かったので・・・実は憧れてたんです。いつも人の輪の中心にいて明るく振舞ってるモノノベさんが」

 

「へ?・・・それってどういう・・・いやそうじゃなくて・・・ゆんゆんって冒険者だったのか?知らなかった・・・」

 

「うっ・・・そうです・・・よね・・・いつも端っこでご飯食べてるだけでしたし・・・」

 

「まぁ・・・こうやって知り合えて良かったさ」

 

 

なるべく平静を装いながら会話を進める。

そしてちょっとは良い所を見せようと真面目顔をつくりキザなセリフを吐いてみる。

すると赤色だった顔は茹ダコ位に紅潮させて顔を覆い尽くし、伏せてしまった。

 

可愛いなぁ・・・俺に向けてキャーキャー言ってくる女冒険者達とは違って純粋そうだな・・・いや。あっちはあっちでそそられる物があるんだが・・・

 

 

「し、知り合えて良かったってどういう・・・意味で・・・」

 

「うん?そりゃこうして友人が出来て嬉しいって事さ」

 

「ですよね~・・・何か分かってました・・・」

 

 

某はたらく魔王様の事が好きな女子高生みたいな事を言いながら残念がるゆんゆん。

安心してください。貴方もバッチリ守備範囲っすよ。

 

 

「ふあぁ・・・何だか眠くなっちゃいました・・・お休みなさあい・・・」

 

「あぁ。お休み、ゆんゆん」

 

 

こうして彼女は眠りに落ちてしまった。

案外精神図太いのね・・・あれ?

俺の両腕は彼女たちの枕にされ、ゆんゆんに至っては俺の体を全身抱き枕にしている。

 

う、動けねぇ・・・かと言って寝ちまうと寝相で何かしかねないし・・・

あれ?これって僕寝れない?もしかしてこのまま動いちゃいけない・・・?

 

これ何て拷問なの・・・?馬鹿なの?死ぬの?主に俺。

 

ちょっと・・・姿勢が苦しい・・・痺れてきた。

姿勢変え・・・・・ぼべえぇっ!?

 

何これ!?摘ままれてる!?両サイドから爪立てられてる!?

俺の体はペテルギ〇スの顔面じゃないんですけど!?

 

そ、それよりも痺れてていい加減辛い・・・ここは無理にでも姿勢を・・・!

 

 

「じんばぶえっ!?!?」(小声

 

 

ちょっとぉ!?拳飛んできたぞ!?

何で俺の体重の移動に反応して拳飛んできてんの!?この人達の腕加重センサーか何か!?

・・・動くなと。さいでございますか・・・良いだろう!元は冒険者の端くれ!!動かずに朝を迎えるなんて朝飯前・・・早く朝来てえええええええええええええっっっ!!

 

~*~

 

朝日が昇った。

俺の魂も昇りかけた。

 

ばくだん岩さながらの顔面を引きずりながら冒険者ギルドへの道を歩いていた。

何故だか二日酔いの1つもしていないルナさんと共に。

 

 

「いや~ビックリしたわよ。朝起きたら目の前にモノノベ君・・・というかばくだん岩の顔があったんだもの。というか不思議ね・・・二日酔いも全く起こってないし・・・何かしら?スッキリ飲めると後にも引き摺らないのかしらね」

 

「あふぁふぁ・・・そうへふね・・・」

 

 

どうしよこの顔面・・・紅姫の卍解でどうにかなるかな・・・

そういやゆんゆん何処行ったのかな。冒険者ギルド行けば会えるかな・・・

 

何やかんやあって今日もブラック勤務が始まった。

一気に活気づいた冒険者ギルド。

騒がしい冒険者ギルドに負けないよう俺も声を張り上げて受付の波を裁く。

 

・・・・・まぁ一向に減ってないんだけどさ・・・・

・・・ん?あの服って・・・ジャージ?

 

緑色の全身ジャージを着込んだ茶髪に黒目をした地味~なTHE日本人といった15、6位の少年だ。

それに・・・あの青目青髪・・・青を基調とした服に極ミニスカート。それに紫の羽衣に白色の棒に先端に蓮のレリーフの様な物が付いている杖を持っている。

後で事情でも聞いてみるか。

 

 

「次の方どうぞ!・・・えぇ~こちらのクエストは・・・3日間でジャイアントトード5匹の討伐ですね。報酬は10万エリス。受諾料は1500エリスになります」

 

「え・・・・・受諾料・・・?」

 

「はい。事前に受け取る手数料の様な物です。もちろんクエストが完了されれば返済されますが」

 

「そ、そうなの・・・?」

 

「そうです」

 

 

いきなり引き攣った顔を見せた少年。

そして顔を伏せて後ろの少女の方へと向き直った。すると・・・・・

 

 

「おらっ!こんな杖とっとと質屋に入れに行くぞ!おい!はよ寄越せ!!」

 

「あぁっ!止めて!止めてよ!!私の『まじかる☆アクアちゃんステッキ』を売りに行こうとしないでよ!!それ間違いなく取り返せないじゃない!!」

 

「お、お客さん・・・」

 

「安心しろTRUST ME!!絶対買い返したるから!!」

 

「あのぉ・・・お客さん?」

 

「信用ならないわよあんたみたいなヒキニート!!何を信じろってのよ!?どうせゲームしか取り柄が無いくせに!!」

 

「あぁっ!!言ったなこの駄女神!!表でろ!ボッコボコにしてやるよ!!じゃんけんで!!」

 

「お客様!!・・・お静かに・・・というか表に出ましょう?」

 

 

俺の怒声に全ての視線がこちらに向けられる。

若干気まずいのでとっとと出よう・・・

 

 

「ルナさん!ちょっと穴埋めお願いします!」

 

「わ、分かったわ!!」

 

「お騒がせしてすいませんでした~・・・じゃあね!」

 

 

すっかりビビりきっている冒険者達や職員を和ませてから冷や汗全開の馬鹿2人を連れて出て行ったのだった。

 

~*~

 

「さあてお前ら・・・」

 

「すんません!このバカなんです!!このバカが悪いんです!!」

 

「ああっ!ちょっと!何言ってんのよこのクズマ!!職員さん!こいつです!全ての元凶はこいつなんです!!」

 

 

・・・・・こいつら酷いな。

まあ叱る気は無いんだけどももうちょっと反応を楽しもっかな・・・いや、ルナさんに悪いな。

とっとと済ませよう。

 

 

「とまぁ、冗談は置いといて・・・」

 

「「・・・へ?」」

 

 

冷や汗が全て引っ込むのと同時に希望の色が彼らの顔に現れた。

ホント面白いなこいつら・・・

 

 

「日本からの転生者だろ?俺は物部朔。まぁ転生者同士上手くやってこうや」

 

「そ、そうだったのか。ヒヤヒヤした・・・俺は佐藤和真。こちらこそよろしく。こっちの駄女神は・・・」

 

「駄女神じゃないって言ってんでしょ!アクアよアクア!!」

 

「和真・・・お前の転生特典ってまさか・・・」

 

 

・・・うん。

女神じゃあ無いよね。まさか女神連れてくる何て事は・・・

 

 

「この駄女神だ」

 

「・・・まじ?」

 

 

こいつら・・・馬鹿過ぎん?

普通はさ、金になるような物を選ぶ物でしょ?俺だって紅姫使って金稼いでたのに・・・

しかも、受諾料が無いって・・・無一文なのかよ。

しゃあない。ここはお兄さんが一肌脱ぐか!

 

 

「1500エリス位はこっちが工面するさ。だからとっととクエスト行って来い」

 

「「ありがとうございます物部様ぁ!!」」

 

 

二人は綺麗にお辞儀をして土煙を撒き散らしながら突っ走っていった―――――――

 

 

 

 




お気に入りや投票して下さった方々、本当にありがとうございました!


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1ー03 このボッチ魔法使いに救済を!

「ふぃ~・・・・・・とっとと職場戻るか」

 

 

和真にアクア、あの凸凹コンビをクエストに行かせ俺は冒険者ギルドに戻る。

春の麗らかな陽気とは違いギルドの入口を潜った途端とんでもない熱気に襲われる。

 

・・・人が放つ熱気っていうのは恐ろしい物だなぁ・・・松o・・・じゃ無かった炎の妖精でもいるのかな。

カウンターへと目を向けるとせっせと汗を垂らし胸を揺らしながら応対に追われ忙しくしているルナさんが居た。

 

 

「速く!戻ってきて!モノノベ君!」(ALLジェスチャー)

 

「はいはい、今行きますよっと」

 

 

ジェスチャーのせいで余計に激しく揺れる胸に赤い顔をしている次に順番が回ってきたモブ冒険者。

俺がカウンターに入って応対を変わると露骨に嫌な顔をされた。

・・・こんなに人を殴りたいと思ったのは久しぶりだ。よし、一芝居うつか。

 

 

「はい!こちらのクエストですね~!達成条件は世界樹の葉10kgですね~。報酬は15万エリス。受諾料は・・・」

 

「えっ!?世界樹の葉じゃなくてただの薬草集めだったと思うんですけど・・・というか何を蘇生させようとしてるんですか?10kg何て相当な量ですよね?魔王蘇生させようとでもしてるんですか?」

 

「黙りやがって下さいお客様。それでですね、受諾料はですね・・・てめぇの進化の秘宝寄越しやがれ」

 

「ヒ・・・・・ヒイイイィィィィ!!」

 

 

一目散に股間を抑えて逃げて行ったモブ野郎。

あああああぁぁぁ・・・・・いい気味だ。

 

 

「何やってるのよモノノベ君・・・」

 

「いや~すいません。まぁ素行の悪い客を注意するのも仕事ですし?」

 

「そ、それもそうね・・・あぁ!危ない危ない。忘れそうだったわ!えっとねさっきクエストに行った2人組が居たじゃない?」

 

「ええ、居ましたね。それが何かしたんで?」

 

「どうも・・・彼らが向かった先にグリフォンが確認されたらしいのよ」

 

「なるほど、警告してこいと・・・俺が選ばれた理由も何となく分かりますし」

 

「ありがとうね!助かるわ~!」

 

「いえいえ」

 

 

去っていく彼女の背中を見つめていたが自分の仕事を思い出し正面に向き直った。

少しだけ客足の途絶えた隙に何となく辺りを見回してみる。

 

するととある一角。

数人の男冒険者の足に縋る少女がいた。

どこかで見た気がする黒のローブに紅い瞳。俺の記憶にある黒いローブの少女とは違い肩辺りで切り揃えられたしっとりとした黒髪に眼帯と杖、更には大きなトンガリ帽を持っていた。

 

 

「あぁっ!置いて行こうとしないでください!そろそろクエストを完了しないと餓死してしまいます!」

 

「うるせぇっ!ダンジョンに行くってのにお前みたいな大砲使えるかってんだ!!」

 

 

・・・・・まぁよく見る光景ではあるな。

駆け出しの冒険者たちはああして中級冒険者達のパーティーにくっ付いてお零れにあやかろうとする。

その方が安全で確実だ。賢い策なんだが、当然足手まといであるひよっこを連れて行くお人好しは中々居ない。

 

こうして生まれる冒険者と同じように消えていく冒険者もいる。

ロマンを求める奴らに突き付けられる厳しい現実・・・が、それに負けなかった者たちが集っている。案外ヘラヘラとしている奴らだが1本筋が通った屈強な奴らだ。

 

ああ!そういえばー・・・・・(棒

 

 

「ルナさーん!さっき言ってた仕事行ってきますね~!ああ~でも1人じゃ不安だなぁ・・・誰か連いて来てくれないかなぁ~!出来るなら黒色の服着た紅目の魔法使いが二人ほど欲しいなぁ~!」

 

「今!私を呼びましたね!?私の力を欲しているのですね!!しょ~がないですねぇ~!」

 

「あ!あの!黒色の魔法使いって私ですよね!?そうですよね!?そうだと言って下さい!」

 

 

あ~はっはっは・・・食いつくの早すぎん?

こういう時ってあれでしょ?『え?私!?』みたいなリアクションを取って周りの奴らに背中を押されてからこっちに若干恥じらいながら『お・・・お願い・・・します・・・///』

 

みたいな事になるもんじゃないの!?

それなのにこいつらと~っても嬉しそうな顔で・・・入れ食い状態じゃねえか・・・ドクターフィッシュじゃねえか・・・いやそんなに角質とか付いてない・・・筈・・・もっとちゃんと体洗うようにしよ・・・

 

 

「んじゃ行くか!おやつは300円まで!くれぐれも暴れないよーに!出発進行だあああああああいっ!!」

 

「「エイヤッサー!・・・めぐみん(ゆんゆん)!?」」

 

「へ?知り合い?」

 

~*~

 

「は~い!それじゃ自己紹介どうぞ~!んじゃ俺から!みんな大好きギルド職員!モノノベサクさんです!」

 

「なんでめぐみんと・・・・」

 

「なんでゆんゆんと・・・・」

 

 

平原へと向かう道すがら、ふざけて俺は修学旅行のノリで歩いていた。

どうやらゆんゆんともう一人の少女・・・・・めぐみんは知り合いらしく・・・それもレッドとグリーンみたいな関係らしくてずっと互いの顔も見合わせずブツブツぼやいていた。

 

 

「「職員(サク)さん!」」

 

「・・・何なのですか!?嫌がらせなのですか!?わざとやってるのですか!?」

 

「めぐみんこそ!!そっちが合わせてるんじゃないの!?」

 

「「何を~・・・!!」」

 

「・・・仲が良いこって」

 

「「良くありませんっ!!」」

 

 

どうやら同い年らしいのだがまぁ・・・差が在るものだな・・・残酷・・・

昨日俺が身を以て体験した通りゆんゆんの少し幼い顔に似合わないたわわに実った果実。

・・・がめぐみんの胸部装甲は・・・非常に薄い・・・何でこんなにもATフィールドに差が出来てしまったんだろう・・・・・まぁそれはそれで需要があるんだが。

 

 

「ふふん!まぁグリフォンなど我が爆裂魔法に掛かれば一撃で葬り去ってあげまっしょう・・・!」

 

「え?爆裂魔法何て使えんの?」

 

「ちょっとめぐみん!ホントに爆裂魔法何て習得しちゃったの!?馬鹿なの!?」

 

「なぬ!?馬鹿とは何ですか馬鹿とは!爆裂魔法を馬鹿にするのは許しませんよ!?」

 

「爆裂魔法何て覚える人は馬鹿しかいないわよ!!頭の良い馬鹿しかいないわよっ!!」

 

「まぁまぁその喧嘩腰を控えて・・・ね?」

 

 

・・・あ、案外素直なのな。

やっぱりまだ13歳位だからだろうか・・・可愛いなぁ・・・ロリコンじゃないフェミニストだ!

 

そんなこんなで春風の吹く平原へと到着した。

背の低い青葉が風に揺られ平原そのものがユラユラと揺れているように錯覚してしまう。

モンスターさえ居なけりゃピクニックにでも来たいものだなぁ・・・あ、俺ぼっち・・・

 

 

「アクアー!おま、お前、食われてんじゃねえええええ!」

 

 

綺麗な景色に似つかわしくない叫び声がこだましてきた。

この声は・・・和真の声か・・・・・ん?あのカエル・・・何か見覚えのある青い足が生えてんだけど。

 

 

「えぇ~みなさん。あれが駆け出し冒険者がいきった結果です。くれぐれもあんな事にならない様にみなさんはちゃんと大人の冒険者とクエストに行くようにして下さいね~良いですか~?」

 

「「は~い!」」

 

「あっれ~?ちょ~っと朔さ~んあんた何しに来やがったんですか?見てないで助けて下さいます~?」

 

「うわっ!?・・・ゾンビ?」

 

 

疲れ切ってここまで頑張って這って来たであろう和真・・・ゾビマがいた。

後ろからはカエルの唾液か何かでヌルヌルになっているアクアがグズグズと泣きながら歩いてきた。

 

 

「いやさ、ただ警告に来ただけなんだわ」

 

「・・・何の?」

 

「いやさ、この辺に超危険モンスターのグリフォンが・・・」

 

「「「―――――――――っ!」」」

 

「ん?お前らどした?」

 

 

見るとアクア、めぐみん、ゆんゆんが口をアングリと開けながらとある遠い空の一点を見つめていた。

それに連れられてそっちを見てみる。

 

すると何やら大きな影がこちらに向かって飛んできた。

当初は指先程度のサイズだった影は数秒で今にも触れられそうな距離まで近づいていた。

茶色の体・・・羽毛に覆われた体。金色の見開かれた瞳に嘴、鋭利な鉤爪は血に塗られている。

 

その羽が一振りされるたびに周囲の草を散らして俺たちの体を吹き飛ばそうとする。

風圧に耐える様に顔を庇いながら立っていると突然、その巨鳥が雄たけびを上げた。

 

甲高い声は周囲の空気を震わせ、辺りに闊歩していたカエルは一目散に逃げて行く。

女性陣は青い顔をして今にも泡を吹いて倒れそうになり和真は何だかこれまでの事を振り返っているかのように聡い顔・・・もとい菩薩顔をしている。

 

 

「お、おい和真・・・今日は焼き鳥パーティーだ・・・」

 

「ふふふふ・・・焼き鳥だけじゃねぇ・・・鶏つくねに唐揚げ・・・何でもござれだ・・・」

 

「まぁ・・・」

 

「「俺らが釜の飯にならなければ良いんだが・・・」」

 

 

・・・・・詰んだのかな?

 

 

 

 




案外お気に入りや評価が付いててビビってますw
本当にありがとうございます!


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1ー04この不運な者たちに逆境を!

そういやさ、こいつらって何出来るん?

こんな状況で考える事じゃないのかもしれんがさ。流石に何の打ち合わせも無しに4人と合わせれるほど俺も今は感覚が冴えてないんだが・・・紅姫1本でやれるか・・・?

 

目の前でこちらの出方を窺っているのだろうか。

その場で羽ばたき続けて動こうとしないグリフォンはこちらにとっても好都合。

下手に動かない方が良いなこりゃ・・・

 

 

「お前ら、何が使える?頑張っては見るが初見で合わせるのはキツイ」

 

「いや一応合わせれるんだ・・・俺は短剣1本」

 

「私はアークプリーストよ?攻撃なんてアンデッド以外に出来る訳無いじゃない」

 

(おい・・・・・)

 

「我が爆裂魔法の前では他の魔法など塵芥に同じ・・・!!」

 

「わ!私は一応中級魔法と上級魔法を少々・・・です!」

 

 

良し決めた。

ゆんゆん以外の3人・・・まるで使えねぇ・・・

短剣1本ってどうよ?お相手さん飛んでんのよ?無理がある。

アークプリースト?ヒールくらいしか需要無いじゃん?というか俺以外攻撃もらったら即死でしょ?

爆裂魔法?準備の間に死ぬに決まってんじゃん。しかも奴さんの機動力じゃ躱されるかもしれんし・・・

 

 

「よーしゆんゆん!連いて来い!()()()倒すぞ!」

 

「は、はい!」

 

「「「いやちょっと待てい!!」」」

 

「・・・どうしたお前ら?」

 

「いや何で露骨に嫌そうな顔すんなよ!俺らは何で数としてカウントされねぇんだよ!!」

 

 

だってさ・・・お前らさ・・・使えんやん。

ゆんゆん以外の3人から飛んできたツッコミに俺が若干間をおいて答える。

 

突っかかってきたギャーギャーと騒ぐ3人を適当にあしらいながら考え込む。

いや~・・・ホントどうしよっかな・・・・・

はぁぁぁぁ・・・・・何で一介のギルド職員がグリフォン討伐してんだか・・・有り得ん。

 

突然、痺れを切らしたのだろうか。巨鳥が咆哮を上げた。

若干おふざけムードに入っていた俺達の意識を強引に自分に向かせた。

 

 

「ほれ行くぞ!!お前たちは囮な!逝ってらっしゃい!!」

 

「おい字!字幕おかしいから!!天国へのドア一直線な字幕になってるから!!」

 

「カズマさん!字幕なんてメタな事言わないの!!」

 

「く、くくく黒より黒く、闇より・・・」

 

「あわわわわ・・・どうなっちゃうのぉ・・・!?」

 

 

もう・・・爆裂魔法の詠唱をしている馬鹿は放っておこう。

軽くパニクッてるゆんゆんは大丈夫かな・・・まぁやってもらうしかないんだが。

そうして俺が紅姫の始解を済ませると和真が焦った様子で問いかけてくる。

 

 

「お、おい!結局俺たちはどうすりゃ良いんだ!?」

 

「お前たちは走れ!とにかく走れ!24時間走り続けろ!サライ歌ってやるから!!」

 

「「ふざけんな(ないで)よおおおぉぉぉぉ!!!」」

 

 

派手に土煙を巻き上げながら走っていくズッコケ三人組につられてグリフォンも飛んで行った。

案外頑張ってるなあいつら・・・結構時間は稼げそうだ。

 

羽ばたくと射出される鋼の様な羽毛。

それを必死に躱しながら辺りを爆走していくあの3人・・・面白っ!

しばらく見てたいけど流石にそこまでドSでもないしな。

 

 

「制御大丈夫か?ゆんゆん」

 

「中級魔法の方は大丈夫なんですが・・・上級魔法の方はちょっと・・・」

 

「そうか・・・どうすっかなぁ・・・正直高レベルの魔法使いなら他人の魔力の制御も出来るらしいんだが・・・生憎魔法は10ちょっと位しか使えんし・・・」

 

「す、すいません。私のレベルが低いばっかりに・・・」

 

 

露骨にしょげくれてしまうゆんゆん・・・き、気まずい・・・

落ち込んでる子を慰める・・・とかそんな柄じゃないしな・・・まぁ偶には慣れない事をしても罰は当たらないだろう・・・正直神様の事は信用してないが・・・

 

彼女の頭に手をポンと置いてかき混ぜるかのようにワシャワシャとする。

頭を回されアウッと短い声を上げるゆんゆん。不思議そうな顔と日に照らされて紅く輝く目でこちらを見つめる。

 

 

「お前が心配する事は無いさ。誰だって一度は通る道だぜ?俺もだけど」

 

「あ・・・ありがとうございます!強い人・・・なんですね、サクさんって」

 

「俺は・・・強くは無いさ・・・」

 

「へ?」

 

「・・・あぁ!何でもない。気を取り直して、行くぞ!」

 

「はい!」

 

突然俺が暗い顔をしたからだろうか。少し驚いたかのように俺の顔を覗き込んでくる。

が、俺も俺ですぐ気持ちを入れ替えて彼女に鬨の声を上げる。

 

グリフォンが羽ばたいている真下にまるでドームの様に舞っている土煙。

そこに向かって走っているが近づくほどにどれだけ土煙を上げながら走っているんだと思わせるような状況へとなっていく。

 

忙しなく動くドームの端には赤青緑と言うまるで信号機の様な奴らが走っている。

今なら不意打ちで一発当たるだろ・・・いや、どうかな・・・ま、やってみよう。

 

 

「『剃刀紅姫(かみそりべにひめ)』!!」

 

「『フローズンレイ』ッ!」

 

 

俺の声に合わせて普段は控えめな彼女からはあまり想像できない凛とした声が響く。

紅姫の刀身から赤黒い血液の様な斬撃が4,5個ほどの塊となって飛んで行く。ゆんゆんが翳した手のひらからは何処からともなく人の頭部程のサイズをした氷塊が飛び出した。

 

しかし、あいつらを追い回しながらも意識の一部はいつでも向けられるようにしていたのか。

俊敏にこちらへと向き直るとその巨躯を翻し全弾躱してしまう。

明後日の方向へ飛んで行き自然消滅してしまう氷塊に斬撃。

 

 

「・・・チィッ!!」

 

「ようやく・・・ハァッ・・・来たのかよ・・・ハァッ・・・もうちょっとで・・・鳥の餌に・・・なるとこだった・・・」

 

「おっそいわよ2人とも!このアクア様を囮にするなんていい度胸じゃない!これは後で天罰が下るでしょうね!回避するにはそうね・・・アクシズ教に入信するでしょ?それかrフギュッ!?」

 

「く、食われてしまいましたよ!大丈夫なんですか!?」

 

 

セリフが長いと、天からのお告げなのだろうか。

近くの藪から伸びてきたピンク色の長い舌に絡み取られ消えてしまった。

 

・・・あれでも女神・・・なのか?半信半疑だったが俺がここ来るときアクアっていう女神の名前を聞いた様な・・・聞いて無い様な・・・いや、あんな駄女神がいるもんなんだろうか・・・

 

 

「「あぁうん、あれはあれでいいんだよ」」

 

「酷くないですか!?特にカズマ!あなたパーティーメンバーでしょう!?」

 

「いや・・・・あんな何ちゃってプリースト・・・正直捨てれるなら捨てたい・・・」

 

 

俺と和真が2人揃ってアクアの扱いはあれで良いのだと言うとめぐみんが声を張り上げてこちらに叫んできた。

そして和真の下衆発言に一同がドン引きしている中、グリフォンが放置され、度々空気となっていたのだが我慢の限界を迎えた。

 

上空高く回転しながら飛び上がり羽を勢いよく広げた。

バサッと大きな音を立てるのと同時にそれを見ていた俺たちに無数の羽を飛ばしてきた。

マズイ!!間に合えぇっっ!!!

 

 

「『血霞の盾(ちがすみのたて)』ッ!!」

 

 

持てる限りの全力で剣を大きく円を描くように振るう。

先程と同じように刀身から赤黒い何かが飛散し和真にめぐみん、俺とゆんゆんの所で立方体の盾へと変形した。

何回も連続して襲い来る衝撃に歯を食いしばりながら耐える。

 

クソッ・・・強い・・・!

気ぃ抜いたら・・・殺られる・・・

 

 

「よぉっこいしょぉっとお!!」

 

 

気合の無い気合を入れる声(矛盾)を上げて盾の強度を更に上げる。

連続していた衝撃も消え一息ついてから技を解いた。

 

パラパラと目の前に落下する羽を無視してグリフォンの方へと向き直る。

視界の隅でバラバラになったジャイアントトードの死体からアクアが泣きながら出てくるのが見えた。

 

まぁそんな事に付き合ってる暇はない。

というか何か背中・・・っていうか・・・尻が・・・

 

 

「あの~サクさん・・・」

 

「ど、どどどどうした・・・ゆんゆん?」

 

「あの・・・その・・・お、お尻に・・・」

 

 

顔を赤くしながら俺の尻を恐る恐る指さした。

俺も認めたくない現実だが、確認しない訳にも行かずゆ~っくりと首を後ろへと曲げた。

 

すると器用に・・・というか訳の分からない軌道により俺の尻に羽が1本、堂々と突き刺さっていた。

それを確認した途端体中に激痛が走る。・・・・・こ、こんな殺られ方・・・・・てかどうやって・・・

 

クラクラと歪む視界の中、グリフォンの周りに発生している大きな乱気流を見つけた。

・・・そうか・・・あれの軌道に乗って・・・上手い事・・・俺の・・・尻・・・に・・・グフッ

 

 

(や、やられた・・・・!!またとない最低な原因で・・・オリ主やられた・・・・・っ!!)

 

 

和真の声にならない叫びをあげている顔が俺の目に映った最後の物だった。

 

 




お気に入り100件越え・・・正直ここまで伸びるとは思わなかった・・・やったぜ。


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1ー05 この闘いに幕引きを!

ドサッという音と共に朔が地面へと倒れ伏した。

・・・それも尻から血をダラダラと流し、白目を剥いたままという類を見ない最悪の姿で。

尻からズボン越しに滲んでいる血を見て傍にいたゆんゆんが慌てふためく。

 

 

(ど、どうしよう・・・!?これ、動かしちゃダメなのかな?でも、このままじゃ・・・)

 

 

そう言って彼女らを上空から悠々と見下しているグリフォンにちらりと視線を移す。

一番厄介であった朔が倒れた事で余裕が生まれたかのように彼女たちを一瞥した後、再び上空へと飛び立った。

 

すると真っ先に倒れている朔に視線を向けて容体を推し量る。

ショックで気絶しているのだろうか、脈はしっかりとしているが動きは無い。

ひとまず平原のど真ん中で看病する訳にもいかず辺りを見回した。

 

 

「おーい!こっちだゆんゆん!」

 

「早く来てください!グリフォンは何時また襲ってくるか分かりません!」

 

 

西の方角、森林の手前に生えている大木の前で和真にめぐみんがこちらへ手を振っていた。

2人の後ろには体操座りをしながら顔を伏せているアクアの姿もうっすらと見て取れる。

それを見るや否や彼の脇に手を回して上体を起こす。

しかし彼女の細腕には成人男性を担ぐのは無理があり、ズルズルとゆっくり引きずる姿勢となってしまう。

 

焦りが彼女の胸中を覆い尽くすがそれで何が変わるという訳ではない。

流石に不味いと感じた和真も木の傍から駆け出して朔の左腕を掴む。

多少速くなりはしたが芋虫の這う速度が餌を担いだ蟻程度の速度になっただけだ。

グリフォンも旋回を止め、彼らに向かって突進を始めた。

空気を切り裂く甲高い音を響かせながら速度を急上昇させるグリフォン。瞬く間に距離を詰め、舞い起こる風に2人が顔を顰める。

 

 

「あぁー!!もうダメだわ!!詰んだわ!!人生やり直してえええぇぇっ!!」

 

「う、うぅっ・・・!も、もうダメ・・・お父さん・・・っ!」

 

 

和真が頭に両手を当てながら遺言・・・というか懺悔を叫ぶ。その拍子に朔の体は地面へと顔面から叩きつけられた。・・・しかし、その時漏れた小さなうめき声はかき消されてしまう。

諦めの色を浮かべた2人を余所に目と鼻の先まで迫ってきてしまう。

そしてグリフォンの鉤爪が2人に襲いかかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鮮血が辺りに飛び散る。

雄叫びを上げて上空へと飛び立ってしまうグリフォン。

・・・飛び散った鮮血は・・・2人の物では無かった。

 

グリフォンが胴体を真一文字に切られ、羽をユラユラと散らす。

深手を負ったせいなのかユラユラと安定しない飛行を行うグリフォンだったがすぐさま羽を翻し後退してしまう。

 

 

「ケ・・・ケツが・・・割れる・・・綺麗に・・・真っ二つに・・・これ休暇もらえるかな?」

 

「「心配そこなの!?」」

 

 

自分の尻の心配よりもギルドに帰った後の心配をする朔。

そのずれた心配に思わず敬語を忘れて突っ込んでしまうゆんゆんに和真。

紅姫を杖にしながら立ち上がると剣を振るい、刀身に付着した血を振るい落とす。

 

そのいつもと変わらぬギルド職員の姿を見た2人が安堵のため息を吐く。

 

 

「――――――――アクア!!ありったけの支援魔法だ!!それにめぐみん!!合図したら全力で爆裂魔法を撃て!!」

 

 

突然平原に響いた大声。大きく肩を震わせるがすぐさま気を取り直してアクアが朔に向けて攻撃、防御、素早さ、命中率、運、ほぼ全てのステータスを上乗せするバフを放った。

そして木の傍でバサッとマントを翻して杖を掲げながら詠唱を始めた。

 

杖の先端にあしらわれている彼女の瞳と同じ色の水晶に黒色の奔流が収束され始める。

和真とゆんゆんもそれに感化されて戦闘態勢を取った・・・・・約1名、全く役に立たないが。

 

 

「『剃刀紅姫(かみそりべにひめ)』!!」

 

「『フローズン・・・レイ』ッッ!!」

 

 

こちらへと距離を詰めるグリフォン。

金色の瞳と彼達の視線が交錯しあう。その瞬間、朔にゆんゆんから先と全く同じ技が放たれた。

当然一度見知っている動きだ。・・・だがグリフォンの背後、そこにはそれの巨躯をもスッポリと覆ってしまいそうな巨大な赤黒い網が展開されている。

 

 

「『縛り紅姫(しばりべにひめ)!!」

 

 

見事に引っかかったグリフォンを一瞬で雁字搦めにしてしまう。

拘束されたグリフォンは体を必死に動かしながら脱出しようと試みる。

 

それなりに時間は稼げそうだが解かれるのも時間の問題だろう。

1本1本確実に網の目を切り裂いていきほぼ右半身は自由となってしまう。

 

 

火遊紅姫 数珠繋(ひあそびべにひめじゅずつなぎ)!!ゆんゆん!!行け!!」

 

「はい!―――――――――『ライト・オブ・セイバー』ッッ!!」

 

 

突然網が発火し出し巨大な火だるまを造り出す。

更にゆんゆんが空中に振るった手刀の軌跡から金色の光の刃が飛び出した。

・・・しかしゆんゆんの刃は道半ばで消滅してしまった。

――――こんな時に制御が・・・!その気持ちで胸がいっぱいになる。

悔しそうにゆんゆんが歯軋りをするがそんな彼女の心に掛かった暗雲を晴らす一喝が響く。

 

 

「まだだ!まだ終わってねぇっ!!――――――闘え!!」

 

 

もう拘束は持たないだろうと判断し技を解いてしまう。

所々は焦げてしまっているが依然、俊敏な動きは崩さない。

 

 

「『ライト・オブ・・・・・セイバー』ッッ!!!」

 

 

渾身の魔力を込めて放たれた黄金の刃が一直線に向かう。

しかし、当然の事ながら回避しようと旋回を始める。

 

 

「逃すかってんだ!!『重撃白雷』!!」

 

 

切先から放出された細い糸の様な白い雷撃。

雷は何者にも躱せない。この世に存在する中で光に次いで速い物だからだ。

 

だが、体をほんの数秒硬直させるのみの雷撃だ。

雷撃が直撃し、ほんの一瞬グリフォンの体が硬直した。

 

すぐに気を取り直すかのように頭を振り前に向き直る。

だがそれの眼前には刃が迫っていた。

 

 

「・・・ようやく仕舞か・・・めぐみん!!」

 

「ようやくです・・・ようやく・・・『エクスプロージョン』ッ!!」

 

 

刃がグリフォンの羽の端から端まで真一文字に切り裂いた。

バランスを崩し巨体が重力に沿って落下していく。

 

彼の声に詠唱を続けていためぐみんの杖から一筋の漆黒の閃光が走り抜けた。

グリフォンに突き刺さった閃光は途端に収束したかと思われたがとてつもない轟音と目も眩むような黒の光が辺りに広がった。

 

全員が爆風に耐えようと足を踏ん張る。

数十秒で爆煙がようやく晴れたかと思うと辺りには半径20メートルほどのクレーターが痛々しく、魔法の威力を物語るかのように広がっていた。

 

 

「やったか・・・!?」

 

「朔さん・・・・それアカン奴。復活される奴」

 

「カズマさん!それってどういう事!?」

 

「ふ、ふふ・・・我が名はめぐみん・・・グリフォンをも屠りし者・・・!」

 

 

魔力を使い果たしためぐみんを背負いながら和真の復活する発言に突っかかってくるアクア。

一方めぐみんは恍惚の表情を浮かべながら爆裂魔法の快感に浸っていた。

 

 

「やったな、ゆんゆん」

 

「えぇ・・・まさかこんなサクさん以外低レベルのパーティーでグリフォンを倒しちゃうなんて」

 

「ハハッ!こんなん奇跡だろ!本気でグリフォン倒せるたぁ思ってなかったわ!」

 

 

戦闘中の鬼気迫る彼の気迫は何処へやら。

いつもの軽薄なただのギルド職員と化していた。そんな彼にクスッと笑いを零すゆんゆんだったが突然、虚脱感と睡魔に襲われる。思わず足を滑らせてしまう。

 

 

「あっ――――――」

 

「っと・・・・・大丈夫か?・・・・・寝ててもいいぞ」

 

 

彼女を抱きかかえるかの様に体を支える朔。

ゆんゆんの魔力もめぐみん同様尽きかけているのを察して耳元で誰にも聞かれない様に呟く。

 

すると頬を赤く染めながら『ズルい人です』と呟いてそのまま寝息を立て始めてしまった。

その穏やかな寝顔を見て軽く笑ってから彼女を背中に担いだ。

 

押し付けられる大きな胸と柔らかい体にドキッとしてしまったが尻の痛みで何時ぞやの様にはならずに済んだ。

 

 

(ケツイテェ・・・これ痔になったりしないよね?大丈夫だよね?)

 

 

青い顔をしながら嫌な事を考え込む。

しかし、めぐみんをアクアから受け取った和真が話しかけてきた。

 

 

「朔、そろそろ帰ろうぜ?」

 

「・・・ん?あぁ、そうだな」

 

「ねぇ早くあのグリフォンとカエルの討伐報酬を換金しましょうよ!報酬はもちろん山分けよね?」

 

「「このバカは・・・」」

 

「バカって何よ!?」

 

 

何時までも緊張感の無い駄女神はもう少しカエルの中に居ればよかったのに・・・

そう思う2人は傾き始めた日に向かって歩み出した―――

 

~*~

 

「あれ・・・?そうやゆんゆんの宿って・・・何処?」

 

 

クエストの報告・・・肝心のジャイアントトード5匹の討伐はまるで進んでないのだが。

ギルドに帰ってきた俺達を待っていたのは歓声とルナさんの肩揺さぶり質問地獄だった。

 

尻の傷とゆんゆんを理由に何とか解放されたが・・・疲れたなあ・・・

俺がもうちょっと早く感覚戻せてたんなら楽だったんだが・・如何せん久しぶり過ぎて力が全然出せなかった。

 

なっさけないなぁ・・・我ながら・・・

ま、俺以外は怪我人も居なかった訳だし上出来か。うん、そう考えよう。

 

というかゆんゆんどうしよ・・・こいつの宿の位置何処だっけかな・・・

ダメだ、思い出せん。

 

そんな事を考えながらかれこれ1時間程ゆんゆんを担ぎながら夜の街を彷徨っていた。

昼時の麗らかな陽気とは裏腹に冷気に包まれ下手したら風邪でも引いてしまいそうだ・・・

 

・・・・・これは・・・あれか・・・・今度は俺の宿に連れてく奴か・・・

俺は結城リ〇じゃないんだが・・・・・

 

そうこうしている内に何とか宿へと到着した。

受付のおばちゃんに鍵を貰ってから自室へと向かう。だが、その際に・・・

 

 

アァラサクチャァン、オンナノコツレテカエッテクルトハアソビニンニナッタモンダネェ!

オイオイジョウダヨシテクレヨオバチャ~ン!ア~ッハッハッハ~!

 

「「ア~ハッハッハッハ~!」」

 

 

こういう悪乗り、嫌いじゃないよ?

 

 

「お休み、お姫様」

 

 

そう呟いてベッドへ動かないゆんゆんを寝かせ布団を掛ける。

やっぱ綺麗・・・だな・・・

 

改めて感じる彼女の浮世離れした容貌に心を奪われそうになる。

整った顔立ちやサラサラとした両肩から垂らして纏めてある黒髪。白く綺麗な肌にとても13歳とは思えないほどの発達した体。もうホント完璧だよな・・・こいつ。

 

まぁ良いや、とっとと俺も寝るか・・・机で・・・

 

~*~

 

「・・・ないよ・・・かし・・・くだ・・・ね」

 

 

・・・・・?

この声って・・・あぁ・・・体が重い・・・

 

やっぱ机で寝るもんじゃないな・・・ロクに疲れも取れやしねぇや・・・

って!そうじゃねぇ!!

 

 

「ワッ!・・・起きちゃいました?」

 

「・・・おはよ」

 

「深夜ですよ?今。ほら、月があんな綺麗に・・・」

 

「そうか・・・イテテ・・・」

 

 

痛む尻を摩りながら立ち上がる。

食器棚へと近づきカップを2人分取り出す。

 

そしてココアを用意するためにガラス瓶に水を溜める。

コポコポと音を立てながら熱せられる湯を見ながらボーッと何も考えず突っ立っていた。

 

軽く首のストレッチがてら後ろへ向けるとゆんゆんはベランダから星空を見ていた。

・・・そろそろ良いか。

 

粉と湯をかき混ぜて簡単だが飲み物を確保した。

鼻腔を刺激する特徴的な匂いや手から伝わる温かさ。

 

若干眠気に誘われるがそんなのは気にも留めずカップを以てベランダに居るゆんゆんの所へとゆっくり歩く。

足音に気付いたのかこちらへと向き直ったゆんゆんの目は暗闇の中で煌々と輝いていた。

 

カップから撒き散らされる湯気が上空へと消える中、ココアを一口啜る。

彼女もそれに習って一口啜る・・・が案外彼女にとっては熱かったらしい。アチッと小さく声を漏らしてフーフーと息を吹きかけココアを冷まそうと試みていた。

 

 

「ハハ!あちぃぞ、気ぃ付けろ?」

 

「あ、熱かったです・・・」

 

「そうか。まぁ・・・あれだ。旨かったか?」

 

「は、はい。美味しいです」

 

「そりゃ良かった」

 

 

そう言って同時にもう一口ココアを啜る。

口から食道、胃に至るまでの道のりに熱い液体が流れ体が温まっていくのを感じる。

 

フウッと一息吐いてから柵にカップを置き軽く身を乗り出す。

顔に掛かる冷たい夜風を感じながらアクセルの街並みを見下ろす。

 

すっかり黒に染まってしまった街並みに若干驚きつつもチラリと横目で彼女を見てみた。

・・・・・何故だがこちらをジッと彼女が見ていたせいでバッチリ目が合ってしまった。

 

まるで何かをしようとしているが躊躇っているように。

 

 

「・・・・・どしたの?」

 

「いえ、踏み入った話になるかもしれないんですが・・・聞かせてくれませんか?サクさんが冒険者だった頃の話・・・とか・・・」

 

「何だ、そんな事か・・・長くなるかもしれんが?」

 

「全然構いません!むしろ大歓迎ですし!楽しみです!」

 

 

――――――――――俺も4年くらい前まではお前たちと同じひよっこ冒険者だった。時には1人でやったり何人かとパーティー組んでやったりとかな。ドラゴンを倒したり、グリフォンの群れとやったりパーティーメンバーと手合せして実力を測ったりとかもした。とにかく楽しかった、何回死にかけたかも分からないが。悪友とバカやれてホント、充実してたし、満たされてたんだ。

それでまぁ・・・色々あって今の場所(ギルド職員)に落ち着いたんだ。

 

 

「す、凄い人だったんですね・・・サクさん。驚き・・・です。今の態度からじゃ想像できませんよ」

 

「ハハッ!昔のパーティーメンバーに今の俺見られたら爆笑されること間違いなしだぜ?」

 

 

そうして段々と弾んでいく会話。

眠気も時間の流れも感じられない程に楽しい会話は久し振りだ。

 

ゆんゆんはちょっと人見知りが激しそうな性格だが・・・こうやって明るく話せて嬉しい。こういうタイプは一度仲の良い友人が出来れば付き合い続けるからな。

 

 

「他には!?他には無いんですか!?」

 

「あるにはあるが、また今度にお預けだな」

 

「エエッ!?何でですか!?もっと話聞いてたいです!」

 

「何でってそりゃ・・・」

 

 

俺が回答までをわざと溜める。

すっかりテンションが上がってしまい興奮気味の彼女は顔をズイッと近づけながら問い詰めてくる。

 

この世界の子ってさ・・・テンション上がると顔を近づけて演説する癖でもあるんかね?

めぐみんとかさ向こうが俺の顔知ってたくらいでも俺が呼んだ途端に飛び付いてきたしさ。

 

というか・・・こうして美少女の顔が至近距離に寄せられるのは童貞には非常に堪える・・・嬉しいけどさ、恥ずかしくもあるんだよ。分かる?男なんて基本内弁慶なんだよ。

 

・・・そろそろ突進とかかましてきそう。

俺が返答を出し渋っているせいか痺れを切らしたようにソワソワし始めるゆんゆん。何時催促が飛んでくるか分かったもんじゃない。

 

 

「・・・お前とこうやって話す機会が増えるからさ」

 

「えっ──────?」

 

 

我ながら・・・・・恥ずかしすぎる。

あぁ!何でこんなこと言ったんだろ!いきなりこんなんじゃ間違いなく引かれるよなぁ・・・

 

 

「わ、悪い!気持ち悪・・・かったか?」

 

 

ゆんゆんは赤い顔をしたまま俯いて何も話さない。

何か良からぬ事をしてしまったなと思い俺が慌てて謝る。

すると、それを聞いてゆっくりと顔をこちらに上げる。

 

赤く染まっている頬は若干大人な彼女を年相応の少女に見せ、いつもと違う印象を受ける。

 

 

「わ、私、目を合わせて話すこと・・・とかも苦手だし、自分からじゃつまらない話しか出来ないし、長続きもしません。そんな私でもお話・・・してくれるんですか?」

 

「もちろん。むしろ数少ない有給とってでも話に行くぜ?何時でも来いよ。愚痴でも悩み事でも、自慢話だろうと何でも聞いてやるからさ」

 

 

・・・俺は案外こいつを気に入っているらしい。

出会って2. 3日なのにどうしてここまで肩入れするんだろうと不思議に思う。

 

 

「本当ですか!?その・・・毎日行ったりとかしても引きませんか?クエストが無くて、日程の合う日とかだったら一緒にいてくれますか?」

 

「ああ、良いぞ・・・というか大歓迎だ」

 

「あ、ありがとうございます・・・!」

 

 

感激して深々と頭を下げているゆんゆんの顔を上げさせ、俺はくしゃくしゃと彼女の頭を撫でてやった────




ダイスの神楽しいお・・・( ;∀;)
マスタークラスで200憶位負けちまったぜ・・・( ´_ゝ`)


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1ー06 この辛いキャベツ狩りに職員を!

「いらっしゃいませ!クエストなら奥のカウンターへ!食事なら奥の・・・ってゆんゆんか。どした?」

 

 

今日の俺の当番は厨房、それもウェイトレス担当だったのでいつも以上に忙しなく動かなければならない。

来店された客、もしくは冒険者に関しては入り口から1番近くにいたウェイターが対応する事となっているのでたまたま料理を両手に担いで運んでいた俺がいつもの営業スマイルに爽やかボイスで客を迎える。

 

見知った顔・・・・・は大概の奴らなんだが、その中でも見知った顔が訪れていた。

ゆんゆんはグリフォン討伐の夜以降、こうしてチョクチョク冒険者ギルドに足を運び軽食を頼んでいる。

そして休憩時間とかに俺の相手になってもらっている。

 

 

「お待たせしました。ジャイアントトードの酒蒸し、グリフォンの唐揚げでございます」

 

 

ゆんゆんと席へ向かう道すがら運んでいた料理をテーブルの上にゆっくりと置いた。

グリフォンの唐揚げは俺たちが討伐した奴を解体して数量限定のメニューとなっている。

 

顔に掛かる湯気や鼻を刺す料理の香ばしい香りに内心がっつきたい気持ちが芽生える。

・・・だからウェイター嫌なんだよなぁ・・・忙しいしこうやってセルフ飯テロしなきゃならんし。

いや、基本何処も忙しいんだけどさ・・・・・やっぱブラックだなぁ・・・

 

まぁいいや。ひとまず昼のピークは捌ききったし、裏にはけるとすっか。

 

 

「じゃあなゆんゆん」

 

「あ、はい。お仕事頑張って下さいね!」

 

 

任せろと言わんばかりにビシッと親指を立て駆け足で裏へと向かう。

 

 

「フィー疲れた疲れた・・・ん?」

 

 

愚痴を零しながら扉を開ける。

表とは違いヒンヤリとした空気が顔を撫でる感覚に心地よさを感じる。

 

だがそれよりも気にかかる事があった。

そうそう会する事の無いギルド職員達・・・受付以外が一同に集まっていた。

 

珍しいなこんな事・・・こんな事があったのは・・・あっ・・・

と~っても嫌な予感・・・と言うかこれは忙しくなるな・・・栄養ドリンク買いに行かんと・・・

はぁ・・・・・憂鬱・・・・・嫌だなぁ・・・あれ、事後処理とか色々面倒なんだけど・・・

去年は確か・・・栄養ドリンク2,30本は飛んでたっけ・・・

 

 

「いや~良く集まってくれたな諸君!」

 

 

厳ついオッサンが満面の笑みで話を始める。

低く太い声だったが一語一句聞き取れ・・・・・うるさい。

 

このオッサン・・・・・ていうか所長が耳元で喋り出した時なんか鼓膜の危機を初めて感じたからな。

うん、間違いなくうるさい人ランキングNo.1なんだよなぁ・・・

 

 

「今年もあの季節がやって来たぞ!それは――――――」

 

「もったいぶらないで早く話してくださいよ、ルドルフ所長」

 

「ん~モノノベサク!何度も言ってるだろう?私はルドルフではなくルードだ!ルード・アルバートだっ!イッパイアッテナと旅をした覚えなぞないからなっ!!」

 

「へいへい分かりやしたよ」

 

「サク君、所長をからかうのは構わないけど話が進まないから静かにしててね?」

 

「は~いルナさん」

 

 

あ~うるせぇ・・・やっぱ所長みたいなタイプは苦手だ。

ルナさんへの対応と所長への対応の差に笑顔を崩さないが困った声を捻りだす所長。

何で所長への対応があれで先輩への対応は―――――――そんな事だろう。まぁそんなんをグチグチと咎める人じゃないのは俺たちの間じゃ当たり前だ。どうせ1時間もしたら忘れてら。

 

 

「話を戻そうか!先日探索部隊(ファインダー)達が『キャベツ』の群れを観測したっ!これにより緊急クエスト――――――キャベツ収穫祭を発令するっ!!」

 

 

その一声でドンヨリとした雰囲気に早変わりした一室。

もしや何か良い話ではないかと言う一部の職員の淡い期待は消え失せた。

 

そう、キャベツ収穫祭・・・年に1度だけ行われる緊急クエスト。

一玉捕獲すれば年ごとにバラつきはあるが大体6.7000エリスほどで取引される。

 

貧乏な冒険者にとっては破格のローリスクハイリターンの高報酬クエストだ。

・・・だが!俺達ギルド職員にとっては地獄でしかないのだ!!

 

まず襲い掛かるのは冒険者達への報酬の配布!この時点でアクセルのほぼ全ての冒険者に報酬を配らなければならずその処理で数人は落ちる。次に襲い掛かるは調理ラッシュ!捕獲されたありったけのキャベツを全速力で調理し振舞わなければならない!ここで半数は落ちる。こうして残った4割ほどの職員で各地へキャベツの梱包から搬送手段の確保をしなければならない!

 

こうして事後処理に3週間ほどかかり、その後には職員達の屍の山が積み上がる―――それがこのクエストの闇だ!

・・・・・ホンッッッッット嫌だあああぁぁぁぁ・・・!!

 

・・・ん?仕事量を減らせれば・・・・・

 

~*~

 

「キャァベツ―――――――狩りじゃああああああぁぁぁぁぁぁいっ!!!」

 

ウオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォ!!!

 

 

アクセルの街と平原を隔てる大門の正面。

そこに俺は腕組みに仁王立ちの体勢で陣取っていた。

 

あの後、すぐにルナさんによる緊急放送がなされ俺と同じように冒険者たちが集まった。

鉛色に垂れ込んだ空の下、彼方の空に浮かぶ緑色の斑点を凝視して固まっている俺達。

 

 

「来た・・・」

 

 

俺がポツンと呟いた。

斑点は時を重ねるにつれて大きくなっていきただの丸ではなく上部に羽の様な部分が生えているのも見て取れた。

 

武器を構え臨戦態勢を取る。

よし・・・・俺もやるとするか。

 

 

「啼け『紅姫』・・・ん?」

 

 

羽ペンをつばの無い細身の刀に変化させる。

というか・・・・・俺の隣でフンッと荒々しい鼻息を吐いた人物・・・めぐみんだ。

 

しかも何やらブツブツと呟きっていうか・・・詠唱・・・こいつの詠唱って・・・・・ば・・・爆裂魔法?

まっずい!爆裂魔法なんてやらせようもんならキャベツの全て・・・肉の最後の一片までも絶滅させられるうううぅぅっ!!AMEEEEEEEEEEEN!!!・・・あれ?キャベツの肉って何?まぁいいか。

 

いやそうじゃねぇ!早く取り押さえねぇと!!

 

 

「『縛り紅姫』!」

 

「むぐっ!?―――――むぐぅ!!むぐむぐぅっ!!」

 

「どうしためぐみん!?・・・誰だ貴様?・・・って!ギルドの人ではないか!なぜこんな所に・・・?」

 

 

こいつのパーティーメンバーなんだろうか。

白を基調とした鎧に腰に掛けた長い大剣。長い金髪を後ろにポニーテールで纏めた18・・・位の少女が俺に向けて怪訝そうな顔で問い詰めてきた。

 

・・・え?何?俺なんかした?

特に突っかかれるようなことをした覚えは・・・

 

 

「おーいめぐみん!どうしたー・・・って朔か?・・・ていうか何でめぐみんふんじばってんの?」

 

「おぉ、和真か。いや考えてもみろよ。こいつに爆裂魔法でも撃たせたら・・・」

 

「・・・・・マズイな。ありがとよ。おいダクネス、あんま絡むなよ」

 

「い、いやしかし・・・」

 

「ダクネスダクネス!ダメよ朔さんに突っかかったら!ヤバいのよ!彼は色々ヤバいのよ!」

 

「ヤ、ヤバいって・・・何がどうヤバいのだ?ちょっとそこを詳しく・・・」

 

 

ダクネス・・・・と呼ばれている女騎士が何故か顔を赤らめている・・・Mか。

結局集まってしまった馬鹿共・・・もとい和真たちのパーティー。個性的だなぁ・・・駄女神に一発屋の魔法使い、ドM騎士・・・美少女だけどさ。

 

 

「サ、サクさん!?」

 

「はいはい朔さんですよ~?」

 

 

この声はゆんゆんのか。

こいつも参加してたか――――――全員参加って通告したのギルドだっけ。

 

後ろも振り向かず、手だけをヒラヒラと振った。

彼女は俺の右隣で立ち止まった。縛られてるめぐみんを踏みつけながら。

 

 

「むぐぅっ!?むぐ!むぐぅ!」

 

「お、おいゆんゆん?ちょっと悪意の無い暴力っていうか・・・うん、ただの暴力事案が発生してるんですが」

 

「うん?どうかしました?」

 

「あっ・・・・・いえ、何でもありません」

 

むぐぅっ!?(無視!?)

 

 

フゥ・・・案外S気質があるのか・・・ゆんゆん。

・・・・・・ピンクのレオタードに鞭を持って高笑いするゆんゆん・・・似合わん。

 

ていうか、もうだいぶ近づいて来たな。

よし、ボーナスの稼ぎ時だ・・・!グリフォン戦以来若干感覚は戻ってきたし、技のキレも全盛期にゃ遠く及ばんが前よか全然動ける。

 

 

「っし!じゃボーナスが欲しいんで・・・物部朔行っきまああああああぁぁぁぁすっっ!!」

 

「「「「おういえい!!」」」」

 

むぐうぅっ!?(解放してよ!?)

 

ヒャッハー!ショクインニツヅクゾヤロードモー!!

オウイエエエエエエエエエエエエッッ!!

 

 

こうして俺たちは高速で突進するキャベツに向かって行くのであった―――――――俺たちの戦いはこれからだ!!




消滅都市楽しいなぁ・・・


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1ー07 この過酷な職務にご褒美を!

キャベツvs冒険者という別に世界の命運も何も懸っていないただ懸っているのは彼らの生活線に俺が飲むことになるであろう栄養ドリンクの本数だけだ。

 

というかどしよっかな・・・紅姫始解したはいいが・・・捕獲できんよな。縛り紅姫使えば行けるだろうが如何せん効率が悪いし・・・何か無いかな・・・そうだ!

 

 

「ちょっと行ってくる!」

 

「行ってくる!?何処に!?」

 

「ま、待って下さいよサクさ~ん!」

 

「ゆんゆんは待っとけ!すぐ戻るから!」

 

 

こうしてアクアやダクネス達からも引き止める声が聞こえてきたがまぁ別に大丈夫じゃろ。

キャベツ程度にやられる玉じゃないだろ・・・そう信じよう。

さぁて、エクスカリバーを取りに行かないとな!

 

~*~

 

手に伝わる若干ヒンヤリとした硬い表面の感触。

俺の持つ部分から上に行くにつれて段々と太っていき先端は分厚く、円形になっている。

 

・・・そう酒b・・・・・じゃないエクスカリビンだ。

 

 

「さ、酒瓶!?朔さんあんた何考えてんのよ!?」

 

「やっかましいぞ駄女神!謝れ!俺とエクスカリバーに謝れ!!」

 

「えぇっ・・・!?私が悪いの・・・?」

 

「エ、エクスカリバーって伝説の剣じゃないですか!サクさんどうしてそんな物を!?」

 

「よく見ろゆんゆん。ただの酒瓶だぞ、騙されるな」

 

 

何でこの紅魔族は酒瓶・・・まぁいいや。酒瓶をエクスカリバーって呼んだのもあるがそれでもそこまで思い込むか・・・?

ま、何も酒瓶ダイレクトで使う訳じゃない。

俺の紅姫の技・・・血霞の盾(ちがすみのたて)という技があるんですね。

それをこの酒瓶に掛ければ・・・!

 

刀身からピッと飛び出した赤黒い血の様な物。

それが酒瓶に付着した途端酒瓶を覆い尽くし、もう酒瓶じゃなくただの血の塊の様になってしまった。

 

ほい、即席ハンマーの完成!

これならキャベツをノックアウトできるぞい!

 

 

「エクスカリバーの勇者様がお通りじゃああああぁぁぁいっ!!ひれ伏せ野菜どもおおおおっ!!」

 

「朔待って!それ勇者じゃない!ただの赤毛エセ神父!!」

 

「み、皆さん!サクさんに続きましょう!」

 

 

俺がガンガンとキャベツにホームランを噛まし爆走していると後ろから多数の足音が聞こえた。

・・・まぁ俺が仕留めてないキャベツは突進を続ける訳で。

 

ちょくちょく激突音と某龍球の格ゲーで倒された若本みたいな声も聞こえてきた。

わざわざセルフエコーでもしてんのかね。

 

っと!

いつの間にか目の前に急接近していたキャベツを酒瓶で真下に叩き付けた。

キャベツはその飛沫を撒き散らしながら木端微塵に四散した。

当然、弾け飛んでしまったため四方八方に飛沫が飛ぶ。

 

 

「ああっちょっ!!臭っ!!スムージー臭っさ!!バボッ!!ベッ!!」

 

 

青臭いキャベツの飛沫で目を潰され、好機と言わんばかりに怒涛の2連撃。

ていうかめっちゃ臭いんですけど!しかも変にドロドロしてて取れねぇ!!

 

 

「『クリエイト・ウォーター』!」

 

「『花鳥風月』♪」

 

「うおっ!?」

 

 

突然俺の顔面に水が放射された。

冷たい冷たい!てか何時まで消火活動続けるんだこいつら!!溺死するっ!消火されるのがキャベツスムージーじゃなくて俺の命になっちまう!!

 

 

「いい加減止めいっ!!命の灯が消化されるわ!!」

 

「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか・・・?」

 

「何よ!折角私が洗い流してあg「行けキャベツ」ウギッ!」

 

 

俺がキャベツ達に背を向けていたがそう簡単に激突されるとでも?

アクアが突っかかって来たので頭をずらしてこいつにキャベツをクリーンヒットさせてやった。

 

漫画によくあるグルグル巻きの目で倒れてしまった駄女神(笑)。

 

 

「よしゆんゆん!駄女神は名誉の戦死を遂げちまった!後で厚く弔ってやるとして、今はキャベツ狩りすんぞ!」

 

「は、はい!・・・・・女神?」

 

~*~

 

「フー・・・300匹位はとっ捕まえたかな・・・」

 

 

死屍累々・・・・キャベツ累々な光景。

山の様に高く積み上がったキャベツを夕日に照らされながら見上げていた。

 

俺が捕まえたキャベツは全体の20%ほど。

ちょっと力み過ぎてお星さまになってしまったキャベツもあったが・・・まぁそれなりに取れた方だろ。

 

これは俺のボーナスにするとして・・・残りの奴らはどうなったかな?

・・・・・そういやめぐみんどうなったけ?

確かふん縛ったまま放置してきちまったが・・・

 

 

「酷いですよサク!カズマが気付かなかったらどうなっていたことか!一日一爆裂を危うく逃すかもしれませんでしたよ!」

 

「ハッハッハッ~。悪い悪い、忘れてた」

 

「むっ!反省してませんね!?そこになおりなさい!私が一日一爆裂の大切さを説いてあげましょう!」

 

 

無理やり正座させられその目の前でクドクド演説を始めるめぐみん。

俺の少しだけ高い視線の前には彼女のスラッとした生足に・・・うん、何も言うまい。役得ありがとうございます――――――――黒か。

 

 

「おーい和真!お前ら何匹位捕れたんだ~?」

 

「ま、待って下さい!まだ私の話は終わって――――――――」

 

 

説法・・・一日一爆裂について語っているめぐみんの姿を見たのかキャベツの山を見つけたのか。

すっかり伸びているアクアを担ぎながら和真がやって来た。

あれあんなクリーンヒットしたのか。

 

某ジョースターの様な事を口走っているめぐみんを放置。そのまま和真たちの方へと向き直った。

見ると後ろからゆんゆんも数個のキャベツを担ぎながら歩いてきた。

 

 

「100ちょっとだな・・・ってあれ全部朔が?」

 

「まぁな。それにしてもやるじゃないか。100匹って」

 

「1人でその何倍も捕まえた奴が言っても嫌味にしか・・・」

 

 

ポカーンと口を開けながら俺が築いたキャベルの塔を見上げる2人。

だが、その瞬間に俺の耳にとんでもなく大きな声が響いてきた。

 

 

「モノノベサク君!今すぐ冒険者ギルドへ戻ってきなさい!でないと給料減額、勤務時間増加よ!!」

 

 

所長にも迫る勢いの大声が街に備え付けのスピーカーから聞こえてきた。ていうかさ・・・マズイ!!給料減額はまだしも・・・いや良くないし勤務時間増加も非常に不味い!!

今でも睡眠時間削ってプライベートを最低限確保してんのにこれ以上削るなんて冗談じゃねぇ!!

 

 

「今行きます!!今行きますから勤務時間は待って!!早まらないでルナさああああぁぁぁぁぁんっ!!」

 

「見事に尻に敷かれてんな・・・朔」

 

「大変なんですね。ギルド職員って・・・」

 

~*~

 

「キャベツロールにビール!20人前追加っす!!」

 

オーイウェイトレスサンオカワリー!

モットサケニリョウリニツマミモッテコイヤー!

 

 

厨房に空いている小窓に向けて思い切り声を張り上げる。

多数の冒険者で一杯になっている熱気の溜まり場であるギルド。

 

 

「10番テーブルにシュワシュワとキャベツの浅漬け2人前追加!!3番テーブルにキャベツ炒め早く持ってってください!!」

 

 

忙しい忙しい忙しい!!

あぁ忙しい!!クソッ!!満席御礼で注文の嵐だ!!

ビールジョッキ重いし料理の皿馬鹿熱いし!!やっぱキツ過ぎるこの注文ラッシュ!!

 

捌いても捌いてもそこが見えねぇ!!数が多いんだよこの野郎!!

クエストよかこっちの方がよっぽど命の危険感じるわ!!絶対後で過労で倒れる!!このブラック企業め!!

 

 

「サクさ~ん・・・」

 

「ゆんゆん悪い!!今は相手できねぇ!!また後でな!!」

 

「ショボン・・・」

 

 

露骨にションボリしてしまったゆんゆん。

後で何か買ってやろう・・・ボーナス降りるだろうし。

 

 

オーイショクインサン!チュウモンダー!

 

「はいただいま!!」

 

 

こうして俺は右へ左へと奔走するのでした―――――

 

~*~

 

「あぁ・・・レベル上がった・・・やったぁ・・・夢の70台だぁ・・・」

 

 

疲れからなのだろう。我ながら間延びしたやる気の無い声が出てしまった。

こんな姿は俺だけではなく、俺がブッ倒れている石床の周りには同様に生きる屍の山が積み上がっていた。

 

全員、精根尽き果てた様子で所長に至っては大鍋を振り回し続けていたせいで死にかけている。

あのうるさい所長をここまでへばらせるとは・・・やはり恐ろしやキャベツ狩り・・・

 

しかもこれから余ったキャベツ共を箱詰めして出荷・・・鬱だ・・・

まぁいいさ・・・・・俺にはボーナスが・・・・・

 

 

「所長ぉ・・・もう少し人員増やしましょうって・・・これじゃ持ちませんぜ・・・」

 

「うむ・・・・・そう・・・だな・・・今度募集の張り紙・・・でも作ると・・・しよう・・・」

 

職員一同(あ、あの所長がここまで静かになってる・・・!?)

 

 

ホンット・・・嫌な職業だ・・・ホント1人で良いから誰か来てくれ・・・

 

~*~

 

「サクさん!」

 

「・・・ん?ゆんゆんか・・・わざわざ待ってたのか・・・?」

 

 

ギルドから出るとそこにはゆんゆんが待っていた。

健気だなぁ・・・マジ天使だわ・・・唯一の癒しかな・・・・・

 

 

「お疲れ様でした!さっ!今日はお話をしてくれる日じゃないですか!」

 

「ん・・・あ・・・そう・・・だった・・・な・・・」

 

 

マズイ・・・意識・・・が・・・これ・・・過労・・・?

ハハ・・・今日はいろ・・・・・いろ・・・はしゃぎ過ぎた・・・から・・・

 

薄れゆく意識の中俺は前のめりに倒れる。

このまま硬い地面に倒れて痛い思いすんねやろなぁ・・・

 

 

「えっ!?サ、サクさん!ど、どどどうしたんですか!?」

 

 

柔らかい・・・・・この感触・・・それに温かさは・・・ゆんゆんが・・・受け止めて・・・くれた・・・のか。

役得・・・とか・・・言いたいが・・・もう・・・眠い・・・

 

 

「フフッ・・・子供みたいですね・・・お休みなさい、サクさん」

 

「・・・スー・・・・・スー・・・・・・」

 

 

ゆんゆんの声が至近距離で耳に届いた。

その声で俺は深く、安らかに眠りについてしまった――――――

 

~*~

 

「・・・ん・・・あ・・・朝・・・・・?」

 

 

頬を照らす朝日で目が覚めた。

頬が熱い・・・・・んだが・・・それ以上に胴体・・・布団被ってるだけでこんな温まるっけ・・・?

それに疲労のせいか?体が重いし・・・頭がクラクラする・・・ここは・・・俺の宿か?

とりあえず・・・顔でも洗おう・・・・・ん?体が・・・上がらない・・・

 

そんなに疲労ピークまで来た?動けんレベルまで来てた・・・?それとも・・・金縛り的なあれ?

えやだ・・・・・幽霊?お兄さん幽霊とか怖いんですけど・・・・・・

 

いや、腕と・・・顔は動く・・・・・ていうかホントさっきから・・・胴体に何か・・・柔らかい物が・・・それに・・・何か定期的に感触が変わってるし・・・布団も膨らむし・・・ま、まさか・・・・・

 

震える手で布団の先をペラリと捲り上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには俺の素肌・・・上着てないのかよ俺・・・何があった?

だがそんな事を何光年も後に置き去りにしていきそうな衝撃があった。

 

スースーと穏やかな寝息を立てながら俺の胴体をガシッと両手両足で挟み込み、鎖骨辺りでその柔らかい頬や胸を擦り付ける様に眠っているゆんゆんが居た。しかも、胸元どころか着衣が乱れそこらかしこから素肌を覗かせている。

 

・・・・・・・寝ている内に・・・過ちを・・・侵したのか・・・?

事後・・・・・なのか・・・?

――――――――――――――マズゥイッッ!!!

こんなん見られよう物なら社会的に血の一滴レベルまで残らないほどに惨殺されるっ!!

 

14歳の少女を宿に連れ込み一夜を過ごした?

しかも・・・・・2人とも半裸?

タイムマシンを下さい・・・過去の自分をAMENさせて・・・300円あげるから・・・お願い・・・!




1万UA突破ありがとうございまあああぁぁぁっす!!

とまぁ感謝の弁はここまでにしまして。雑談をば・・・
HELLSING全巻まとめ買いしちゃった☆(金欠


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1ー08 このやらかした職員に罰を!

すっかり更けてしまった夜空の下、ゆんゆんは自分の胸の中でスースーと眠りこけている物部朔を必死に抱えながら固まっていた。

彼が吐き出す寝息が自分の晒している胸に掛かってくすぐったさと気恥ずかしさが吹き出してくる。

だが普段の仕事の時の活発な姿からは想像の出来ない幼い寝顔を見て若干得した気分になった。

 

 

(フフッ・・・サクさんでもこんな顔するんだ)

 

 

クスッと笑みを零しながらもこれからの方針を考える。

どうしたものかとウーンと唸りながら考え込むゆんゆんだったが寒さでクシャミをしてしまう。

 

 

(うぅ~寒い・・・・・こんなのじゃ風邪引いちゃう・・・ここから近いのは・・・)

 

 

街のはずれにあるゆんゆんの宿よりも街中にある朔の宿の方が近いのは明白だ。

い、行くしかないわね・・・と、決心して彼女は歩き出した。

ズルズルと死体の様に眠りこけている朔を地面に引きずりながら。

そして彼女も一向に気付かない――――――――――ボロボロになっている彼の脇周りの服に。今にも千切れそうな事に。

 

 

(お、重い・・・・・でも!この前はサクさんに担いでもらって行ったんだし・・・え?)

 

 

自分も彼にこうして担がれながら宿へと連れて行かれたという事になる。

その間、自分は彼に思い切り体を預けて熟睡し、寝顔を見られていた――――――という事になる。

 

途端に羞恥心が湧き上がり顔を真っ赤にしながら両手で顔を覆い隠す。

その際支えを失ってベチャッと音を立てながら朔は地面へと叩きつけられた。

 

あぁっ!と我に返り未だに眠っている彼の体を起こした・・・が。

ビリッと彼の来ていたシャツが脇周りのほつれた部分から裂けてしまった。こうして彼の上半身は寒空の下、露わになってしまった。

 

 

「ハワ、ハワワワ・・・・・どうしよう!?さ、寒いわよねこれ!?は、早く行かないと!」

 

 

こうしてゆんゆんは上半身裸の彼の足を持って引きずりながら走ったのでした―――――――

 

~*~

 

アラ、オジョウチャンハ・・・・ヤダ!ツイニサクチャンモツカマエタノネ~!

 

「いやそういう訳じゃないです!何でもいいので彼の部屋の鍵!貸してください!」

 

ハイハイ!ワカッテルワヨ~!ホラコレ!ステキナヨルヲスゴシナヨ!

 

「だから違います!」

 

 

女将にからかわれてタジタジになってるゆんゆんだったが鍵を奪い取るように受け取り走り出した―――――

 

キイイイィィィと重厚な音を立てながら木の扉が開く。

暗い部屋に明かりをともして彼をカーペットの上に下した。

が、ようやくここで彼が引き摺られて泥まみれになっていることに気付いた。

 

 

「こ、これは・・・洗った方が良いのかしら・・・?お、おおお・・・お風呂で・・・!」

 

 

はい、お風呂シーン入りまーす。

 

~*~

 

湯気が立ち込める木造りの立方体の部屋。

そこに薄い白のTシャツを着たゆんゆんと半裸で眠っている朔が入って来た。

 

彼女がゴクッと生唾を飲み込み彼の体をマジマジと見つめる。

引き締まり盛り上がっている腹や腕の筋肉。彼女には無いガチガチの筋肉に驚きを見せる。

 

 

(お、男の人の体って凄い・・・私なんて・・・)

 

 

自分の腕に思い切り力を込めて触ってみるが筋肉など14歳の少女に碌にあるわけも無く少しの固さとプニプニとした感触が残るだけだった。

いやそうじゃない!と気を取り直して桶に湯を溜める。

 

そして桶のお湯を下半身に掛けてしまわない様に手でお湯を汲んでゆっくりと彼に掛けた。

体の筋を伝って泥を巻き込みながら流れていくお湯。振り回すようにかけたり時には手を使い丁寧に泥を落としたりする。その姿はまるで子供の世話を焼く母親の様だったが当の本人は緊張で何も考えられていない。

 

~*~

 

「ようやく・・・終わったぁ~・・・・・」

 

 

深くため息を吐きながら額の汗を拭うゆんゆん。

目の前にはあれだけの事があったにも関わらず未だ眠っている朔がベッドに横たわっている。

 

やりきった気持ちに浸りながらも若干気まずそうな感覚に陥る。

なにせ然程広くも無い部屋に男女二人っきり、人見知りな彼女にとっては地獄でしかないが少しだけ嬉しそうでもある。

 

 

「あれ・・・?震え・・・てる?」

 

 

当たり前だ。布団を被っているかと言って半裸だ。

寝ているとはいえ寒いのは寒いのである。当然身震いの一つもする(謎理論

そして震えている彼を見て彼女は1つ決心をした。

 

 

「こ、こうした方が・・・暖かい・・・よね・・・?」

 

 

ゴソゴソと音を立てながら彼女が布団に侵入する。急に接近したことにより彼の顔が近づき体温や呼吸も感じられるようになる。その感覚に心臓が大きく飛び跳ね体温が急上昇していく。

近すぎるよ!その一心で一杯になっていく彼女の心だったがここで寝ているはずの彼が行動を起こした。

 

 

(え・・・?いきなりモゾモゾし出して・・・)

 

 

抱き枕と勘違いしたのか彼女の体を掴むと自身の体に乗せてしまった。

何が起こったのか分からず混乱するゆんゆん。しかし理解すると同時に気恥ずかしさで何も頭が回らなくなってしまう。

 

 

(えええええぇぇぇっ!!サクさん何でこんな事してるの!?これって寝相なの!?サクさん寝てるよね!?・・・でも・・・寒がっての行動なら、私にも非がある・・・わよ・・・ね・・・恩返しになるかは分からないけど・・・)

 

 

そう言って自分の下敷きになっている朔の体に腕と足を回して抱きついた。

そして途轍もない恥ずかしさと彼の心臓の音を感じながら彼女は眠りに就いた―――――――

 

~*~

 

「ゆんゆん様!私は!物部朔めは何か過ちを犯してしまったのでしょうか!?」

 

 

俺こと物部朔は自分の宿で正座しながらゆんゆんを拝むように両手を合わせていた。

目の前で仁王立ちしているゆんゆんをゆっくりと見上げる。

 

するとゆんゆんは何かを考え込んでいた・・・ホント俺何も犯してないよね!?何もやらかしてないしナニをしてもないよね!?大丈夫なんだよね!?

 

 

(どうしましょう・・・そうだ!少し・・・イタズラしちゃいましょうか・・・フフッ)

 

「え、え~?何故そんな性悪な笑みを・・・」

 

「サクさん」

 

「何でしょうっ!?どんな罰だろうと甘んじて受けます!!」

 

「罰として私と・・・何処かで日程の合う日、一日デ、デデデデ・・・・・」

 

「デ・・・?」

 

 

デから始まる罰・・・電流?

怖い・・・日本じゃ電流を流されてもアフロになるだけで済むスーパーマサラ人もいるが・・・

死ぬよ?普通に死ぬよ?アフロどころか心臓の鼓動が大人しい髪型になっちゃうよ・・・?七三分けになっちゃうよ・・・?

 

 

「デートして下さ「喜んで」・・・え?良いん・・・ですか?」

 

「喜んで」

 

 

いやっふぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!

デートやったああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!

ゆんゆんとデートふぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!天国じゃあああああぁぁぁぁぁぁいっっ!!

 

これなら仕事滅茶苦茶頑張れるよおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!

ありがとおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!

 

 

「―――――ありがとうございます!」

 

「いや俺の方が嬉しいよ!ホントありがとう!―――――――って!時間やべぇ!じゃあな!日程決まったら話に行くから待っててくれ!」

 

 

こうして俺は部屋を勢い良く開けて走り出した―――――――――

 

~*~

 

「サ、サクさんと・・・デート・・・えへへぇ・・・」

 

 

部屋を借りた当人が居ない部屋の中。

ゆんゆんは鼻の下を伸ばしながら少し下品な笑いを零していた―――

 

~*~

 

ギルドの裏の部屋。そこで制服に着替えた俺は勤務時間が始まるまで待っていた。

昨日の熱気は何処へやら。若干冷気の漂う石造りの部屋で暇を持て余す・・・・・ん?あれって・・・

 

 

「どしたんすか?所長?」

 

「モノノベサク、君に1つ仕事を頼みたい!」

 

 

所長に呼ばれて部屋の隅で密談をするかのような体勢をとる俺達。

・・・・・いやな予感がする・・・面倒くさい仕事を・・・押し付けられる気が・・・

 

 

「・・・何でしょう?正直・・・嫌な予感が・・・」

 

「いや!安心してくれたまえ!君の仕事!晴れては我々の仕事まで減らせるような朗報だ!――――――君には新人の教育係を頼む!」

 

「きょ、教育係・・・?それって俺が最初にルナさんに受けてたあれみたいなもんですか?」

 

「あぁ!ここでは新人が入った場合、1番の若輩が新人の教育をする事となっている!」

 

 

へぇ~そんなしきたりがあったのか・・・

まぁ教育係ってこたぁそこまで面倒でもないだろ・・・てか受けたくないって言っても無駄か。

 

 

「それで?その新人は何処にいるんですか?」

 

「うむ!それでは入って来てくれ!」

 

 

そう言って1人の少女が入って来た。

銀髪のボブカットに青い瞳、垂れ目と目もとの泣きホクロが若干不幸そうな様相を醸し出していた。

 

その子に近づいて手を出すと彼女も恐る恐る手を差し出してきた。

 

 

「俺は物部朔。よろしく頼む・・・え~っと・・・」

 

「あっ!わ、わたしキノアといいます。よろしくお願いします!モノノベ先輩!」

 

 

何だろうこの感じ・・・悪くない・・・

 

 

 




お気に入り200件突破イエーイ

誰かとコラボとかしてみたいけどボッチなんで無理っすね(白目


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1ー09 この可愛らしい新入りにご指導を!

今回の最初は新キャラ視点です




「こ、ここここちらのクエストは・・・え、え~っと・・・」

 

 

冒険者ギルド。

日々ならず者の冒険者達が金のため、食事のためと訪れるアクセルでも一際大きな建物・・・なのです!

そんなギルドを経営する労働者・・・ギルド職員に私、キノアは就職したんだけど・・・

 

どうしよう!?

受付をしてるけどこういう時ってどういう対応をすれば良いの!?せっかくモノノベ先輩に色々教えてもらったけど緊張で・・・頭が回らないよ・・・

 

そんな事を目の前の冒険者が差し出してきたクエスト内容の書かれてる紙に視線を落としながら考える。

今の私・・・酷い顔してるんだろうなぁ・・・視線の焦点は定まってないし泳ぎまくってるし・・・何より顔も真っ赤で呂律が回らない・・・向いてないのかな・・・この仕事。

 

 

「搬送物の護衛、報酬は10万エリスに受諾料は1000エリスだ。キノア」

 

 

モ・・・モノノベ先輩・・・!!

あたふたしていたわたしに助け船を出してくれたのかな・・・耳元で先輩の声が聞こえてきたよ・・・!

えぇ~っと、今言われた内容を伝えれば良いんだよね! 

 

 

「すいません!荷物の護衛ですね!こちら、報酬は10万エリス、受諾料は1000エリスになります!」

 

「あいよ。ほら、受諾料だぜお嬢ちゃん。見たところ新入りだろ?兄ちゃんもちゃんと世話したれよ?」

 

「は、はいっ!頑張ります!」

 

「ハハ!先輩も頑張るさ。所で・・・そのクエストの目的地だが最近モンスターが多いらしい。気を付けろよ」

 

「そうか、ありがとよ!」

 

 

そう礼を告げてギルドから出ていった冒険者さん・・・というか世話って・・・いや、実際はそうなんだろうけどさ・・・もうちょっと言い方というものが・・・

 

というか先輩はどうしてモンスターが多いなんて知ってたんだろう?

 

 

「ありがとうございました、モノノベ先輩」

 

「うん?────あぁ、別に構わないけど・・・てか最初はこんなもんだ。俺だって最初の内は録に話せなかったしな」

 

「そうだったんですか・・・あっ!そういえばどうしてモンスターが多いなんて知ってるんですか?」

 

「それは────経験と、俺がちょっと外回りが多いからか風の噂で、な」

 

 

へぇ~・・・経験かぁ・・・そういえば所長さんが言ってたかな・・・モノノベ先輩はこの街じゃ1、2の元冒険者だって。それじゃどうして職員になったんだろ・・・踏み行ったことにならないなら今度聞いてみよっかな・・・ん?

 

私が視線を感じてカウンターから身を乗り出すと何やら食堂の一角から黒色のマントに紅い目をした私より・・・いや、同い年位かな・・・とにかく、少し特徴的な女の子がトンでもなく恨めしそうな視線にオーラを向けていた。

何か恨みを買うようなことしちゃったの!?こ、これまでも田舎で目立たず過ごしてきたのにいきなり呪殺されそうな感じになってるのは何故!?

 

 

「モ、モノノベ先輩・・・冒険者って怖いです・・・」

 

「ん?」

 

 

身を引いて震える声で呟く。それに対して先輩は不思議そうに首を傾げると私に休憩時間だと告げ、裏へと掃けてしまった・・・

 

~*~

 

・・・何でこんな俺は詰め寄られてんだ?

刑事ドラマの尋問でもこんな詰め寄られんぞ。

 

 

「サクさん!あの娘は誰なんですか!?」

 

 

さっきからず~っとこんな調子だ。

頬を膨らませフォークを縦向きに持ち、グワッと机から身を乗りだし問い詰めてくる。

・・・こらこら、そんな体勢じゃ胸にしか視線が行かないじゃないか。・・・役得役得。

 

 

「新入りだよ。新入りのキノア、俺のはじめての後輩」

 

「こ、後輩・・・ですって・・・!?」

 

 

俺がそう言い放つと今度は素早く身を引いてしまった。それに右手を顎辺りに持っていき白目を向いて某ベルサイユの様な表情をしている。忙しい奴だ。

 

そんな事を考えつつ、また一口料理を頬張る。うん、やっぱりここの料理はウマイ。この賄いを毎日食べられるってのがこの職場の数少ない良いところだな。

それにしてもゆんゆんは・・・・・何かあったのか?

 

キノアがビビってたのもこいつがあいつにトンでもない視線を向けてたからだし・・・

 

 

「私というものがありながらサクさんは・・・ブツブツ」

 

 

当のゆんゆんは顔を伏せて黙々と・・・ブツブツと何かを呟きながらフォークで料理をつついて口に運ぶのを延々と繰り返している。

 

まぁ良いか。午後からは確か事務・・・っていうか食材とか資材の調達担当か。面倒なところだがまぁキノアに仕事を教えるわけだし・・・多少マシか。

 

 

「悪いなゆんゆん、時間だ。じゃあな」

 

「あっはい・・・お仕事頑張って下さい・・・」

 

 

お盆を持って立ち上がった俺に暗い顔のまま生返事をゆんゆん。・・・今度、なんか奢ってやろう。もしくはプレゼントかな───何が良いかな?キノアに聞いてみるか。

  

 

「ほれキノア。仕事再開するぞ」

 

「は、はいっ!ただいま!」

 

 

俺が壁際でちみちみ昼食を食べていたキノアの肩を叩いて声を掛けると彼女は返事をして食べるスピードを上げる。

・・・ちょっと悪いことしたな・・・ごめん。

 

さてさて、今日のリストは・・・

 

 

「サク君、今日はこれお願いね」

 

「分かりました。ルナさんも仕事頑張って下さいね」

 

「ありがとう・・・流石にこの量は堪えるわよ・・・」

 

 

心なしかげっそりしているルナさん。自慢の栗色の巻き毛も若干ボサボサになっている気がする・・・無理ないか。

あの量だもんな・・・

 

ルナさんの事務机に積まれている大量の紙束に目を向ける。身長の低いキノアなら見上げなければ上が見えないほどの量だ。どうやら未だにキャベツ狩りの事後処理に手こずっているらしい。どうせ上の方が経費を出し渋ってんのとその癖、詳しいレポートを寄越せ・・・とか言ってんだろ。迷惑な連中だ。

 

 

キノア。この量だと馬車が要るから、業者の所に借りに行くぞ」

 

「ま、待ってください先輩!」

 

 

書類の塔を見上げて唖然としているキノアを連れて専門の業者の所へと歩を進める。

・・・これじゃアクセルで集めんのは難しいな・・・仕方ない、隣街まで行ってくるか・・・

 

~*~

 

馬車の荷台というのは非常に乗り心地が悪い。

幾ら大きな車輪とはいえ木製。道端の小石を跳ねるだけでも荷台は右へ左へと大きく揺れる。

 

そんな劣悪な状態に辟易しながら俺とキノアは隣街へと向かっていた。

向かう先はイムル。決して大きいとは言えないが農業が盛んで様々な野菜がアクセルよりも安価で売られている。

その為か案外アクセルよりも栄えている・・・かもしれない。いやホント農家しかないもんなあそこ・・・

 

キノアはというと・・・・・・荷台の隅っこでメソメソしながら悲しいオーラを漂わせていた。

何故かというと俺が業者と話を付けている間、キノアに自由にしていいと告げ、彼女は馬小屋へ行き馬を見ていた。

そして俺が彼女を呼び戻しに行ったんだが・・・

 

~*~

 

『可愛い可愛いお馬さん、今日は何処へ行くの?』

 

『フフッ、そうだな・・・キノアちゃんを乗せられるのなら何処へでも俺は走っていくぜ』(キノア低い声ver

 

『キャー!お馬さん大好き!』

 

『ハッハッハッ!そんなに抱きつくものじゃないぞ!』(キノア低ry

~*~

 

という、一人芝居もとい黒歴史を目撃してしまったからだ。そのせいか彼女の方からは『もうやだ・・・』『恥ずかしい・・・消えたい・・・』等々、とてもブルーな呟きがちょくちょく聞こえてくる。

 

はぁ・・・

 

 

「ま、まぁ元気出せよ?他の奴等には言わないし俺も忘れるからさ、な?」

 

「うっ・・・ぐすっ・・・ホント・・・です?・・・ホントに言いませんか・・・?」

 

「大丈夫だ。俺はこういう約束は守るから!」

 

「なら・・・」

 

「?」

 

「高級料亭のディナー・・・お願いします」

 

「ファッ!?」

 

 

・・・な、中々に逞しい奴だな・・・

 

 




今年最後の投稿、いかがでしたでしょうか? 
それではよいお年を!


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1ー10 この過酷な者達に更なる佳境を!

明けましておめでとうございます。


「そういやさ」

 

 

ガラガラと騒音を立て平原を踏み荒らし、土煙を巻き上げながら疾走していく馬車。非常に乗り心地の悪い荷台で大人しく揺られていたがいい加減暇だし、乗り物酔いも回ってきた。そんな気分を何とか紛らわせようとキノアと話でもしようと口を開く。

 

先程までキノア1人劇場を見られたせいでまるで胡散臭い心霊番組にでも映る幽霊のようなオーラを漂わせながら体操座りをしていたがようやく顔を上げた。

 

・・・・・ゆんゆんへのプレゼント云々の話・・・聞けそうにないな・・・涙の痕で顔面パンダ模様になっとるやないかい・・・まぁいいや、話を切り出すか。

 

 

「キノアってさ、何でギルドに入ったんだ?こう言っちゃ悪いがギルドの仕事なんて良いものじゃないし・・・何より何でそんな歳で・・・」

 

「・・・・・」

 

 

俺の問い掛けに暗い顔をして彼女は俯いてしまった。

先程の羞恥からくる落ち込みではなく後悔や恐怖、そんな決して明るい感情ではない部分からくる姿だ。

 

・・・不味いか・・・・・地雷を踏んだかもな・・・

 

 

「悪い・・・今のは聞かなかった事に・・・」

 

「・・・いえ、話しますよ。先輩」

 

「・・・良いのか?」

 

「えぇ」

  

 

気づけば端的で何時もよりも真剣味のある声色になっていたが今はそんな事を気にしている場合ではない。

人には誰にも踏みいられたくない領域がある・・・そこに足を踏み入れるのだ。他の事に意識を向けようものならばそれは相手のことを軽視していることに他ならない。

 

俺が決心を固めていると彼女は被っていたローブについているフードを取った。ボブカットの銀髪が風に揺られ彼女は横髪を耳の後ろへ掛けた。

だが、その耳は人間のように楕円形ではない。上部が後ろへと伸び、先端は尖っている。こんな耳を持つのはエルフと呼ばれる種族のみ・・・だが・・・

 

 

「まだ・・・純血のエルフが・・・残ってたのか・・・」

 

 

エルフの耳は様々な過程・・・人間との交配などを経て退化してしまったはずだ。人間と見分けのつかない彼らはつけ耳等をして主張をするが・・・見たところ、あの耳は本物だ。つまり、何の混じり気もない純血のエルフ・・・初めて見たな・・・・・たが・・・何故?

 

今時純血のエルフなんてそうそういない。高い魔力に魔法を操る能力・・・紅魔族と並ぶスペックが売り・・・紅魔族は頭の良い馬鹿ばっかだがエルフはマトモな連中の集まりだったはず・・・そんな種族が他の種族とわざわざ一戦交える訳もない・・・ということは・・・

 

 

ストライフドック(闘争の犬)・・・か」

 

「えぇ・・・ギークと名乗る狼の獣人(ビースト)に・・・」

 

「ギー・・・ク・・・?」

 

 

あいつが・・・ストライフドック(闘争の犬)・・・?

よりにもよってあんな無法者の集団に・・・何があった?それにセラス・・・何で止めなかった・・・・・?あいつならギークを無理矢理にでも側に置いておこうとするはず・・・・・

 

胸の中をドス黒い感情が蹂躙していく。

1つはかつてのパーティーメンバーが墜ちた事に対する憤りと絶望、そしてキノアの事情に軽率に踏み込んでしまったことの自分への怒りと限りない無力感だった。 

 

 

「辛いかもしれないが・・・そのギークって奴について詳しく教えてくらないか?無理にとは言わない」

 

「・・・奴は・・・」  

 

「旦那!ありゃ何ですかい!?」

 

 

キノアがゆっくりと口を開き言葉を紡ごうとする。

俺もその言葉を固唾を飲んで待っていたが、業者の切羽詰まっている焦りの声が会話を遮った。

 

『千里眼』・・・ありゃあ・・・マジか・・・・・

俺の目に映ったもの・・・悠々と天へと立ち込め、空を覆わんばかりの黒煙に燃え盛る民家。

だが、そんな物はどうでもよく思えてくる人影が1つだけ映った。所々焼けただれた皮膚や衣服。それが腐敗からなのか、火事の煤からなのか、それさえも分からない黒ずんだ体。焦点の合っていない虚ろで光を一切映さない濁った瞳・・・・・あれは・・・アンデットだよ・・・な・・・それに・・・あの服・・・つまり・・・・・

 

 

「クソがっ!!────キノアァ!!」

 

「はっ、はいっ!!」

  

 

感情の歯止めが効かず無意識のうちに放ってしまった怒声に業者や彼女が怯えてしまっているのにも気付かず俺は紅姫を取り出しながら告げる。

 

 

「今すぐ馬車を引き返してアクセルに帰れ!!ギルドに報告しろ!!」

 

「分かりました!・・・・・先輩!何をする気ですか!」

 

「俺はアンデット共をどうにかする!報告を早く!!イムルの村はほぼ壊滅してる!!」

 

 

こんな事をするとしたら・・・そうか・・・・・最近目撃されたっていう・・・魔王軍の幹部・・・だが・・・何故だ?何故あの村を襲った・・・?

いや、そんな事は後回しだ。ああなった以上・・・・・助からない・・・せめて一撃で・・・一瞬で終わらせよう。

 

俺が荷台から飛び降りて村へと走り出すのと同時に馬の勇ましい嘶き声と車輪の立てるガタガタという音が聞こえてきた。・・・まさかな・・・あんな街に幹部がわざわざ来るはずがない・・・

 

こちらはアンデットで事足りる。幹部本人は冒険者の集まるアクセルへと向かった可能性が否定しきれない。

あの街で幹部に対抗出来るのは・・・あの痛い魔剣野郎と店主・・・あいつは無理か・・・・・いや、今のは目の前の事に集中しよう。流石に神聖魔法なしでアンデットの軍団とやるのは骨が折れる。

 

走っていた足を止め、村の正面へと仁王立ちする。

千里眼で見たよりも鮮明に痛々しく映る村の惨状。立ち込めるのは焦げ臭い様々な物が燃える臭いと腐臭のみ。往時のように活気のあった華やかな村の面影は何処にもなかった。胸の底から込み上げてくる怒りを何とか抑えつつも血が滲むほどに拳を握りしめ歯ぎしりをする。

 

 

「一瞬で・・・・・終わらせてやる」

 

 

救いを求めてか、同種を増やそうとしているのか。

魂胆は一切見えないがアンデットの1体が覚束無い足取りでこちらへ走ってきた。

何処か見覚えのある顔だ・・・

 

 

「・・・すまない」

 

 

腐食したドロドロの血液が飛び散った。

頭部の制御を失った体はグシャッと音を立てながら地面へと倒れ伏せ、数メートル後方に転がっていった頭部は少しの間、濁った目でこちらを睨み付けていたがやがてその目も閉じられた。

 

恨むなら恨め・・・幾らでも恨むといい。俺は拒まない。これが救済だと綺麗事を吐くつもりも、許してくれなどと許しを乞うつもりもない。全て・・・怨念だろうと何だろうと受け止める。それが俺の贖罪だ・・・だから

 

 

「・・・2度、死んでくれ」

 

 

そういってまた1つ、2つと首を飛ばしていく。

その度に辺りは血の海となり俺が歩いている痕はまさに血のレッドカーペットといえる様な有り様になっていく。

 

 

「こいつは・・・」

 

 

目の前の光景に思わず声を溢してしまう。

これまでは数歩に1体のペースだったのだが目の前には恐らく・・・・・全ての村人・・・それにこの数・・・おかしい、こんなに住人は多くない・・・・・

 

目の前に広がる人ならざる者の集団、その異様な光景に目を奪われる。・・・が、突如足にとてつもない痛みと圧迫感が走る。何よりも人の皮膚のはずなのだが・・・何だ?酷く冷たいしザラザラとしている・・・

 

 

「クソッ!!」

 

 

力はとんでもないな・・・捕まったら速効でへし折られる。てか・・・地中から手ってことは・・・墓場の死体まで蘇ってるって事か!

 

 

「ヴァルプルギスの夜って所か?・・・上等、全員冥界に送ってやる!」

 

 

数は・・・100少しか。あのキャベツ狩りに比べりゃイージー過ぎるもんだ。・・・・・?

 

 

「あの影・・・ハァ・・・・・こんな偏狭の村に・・・ンな大物送り込むかっての・・・ラーヴァナ・・・久々の強敵だ・・・」

 

 

俺が空だと思っていた暗黒の空間。だが、そこから発せられる闘気と殺気・・・肌がビリッビリする・・・魔王さんよぉ・・・人選間違ってんぜまったく・・・

 

闇がゆっくりとその全体を現す。骨格はどこか俺たち人間を嘲笑うかのように人間に近い・・・が、10の頭に20の腕、こちらを一斉に睨み付ける銅色に血走った眼球、歯ぎしりしている口から覗く鋭利な月の色をした牙。そして何よりも山のような巨体・・・その全てが恐怖を植え付け絶望を生み出す。

あれ放置してたら・・・いや出来ないか。だが、魔王軍の奴ならアクセルに行くかも・・・やれやれ、やるしかないか。決心を固め、刀を目の前へと構え叫ぶ。

 

 

「卍解!!───観音開紅姫改メ(かんのんびらきべにひめあらため)!!」

 

 




 
最近スランプ気味・・・・・嫌だなぁ・・・

追記
活動報告にアンケート書きました。よければご協力お願いします!


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1ー11 この壮絶な死闘に決着を!

活動報告兼、アンケートを書きました。
よければご協力お願いします!


「卍解!!───観音開紅姫改メ(かんのんびらきべにひめあらため)!!』

 

 

背後に巨大な着物を着た女性が現れる。俺を包み込む彼女はこの場に存在しているはずがまるで生気の無い死体のような風格をしている・・・巨大と言っても目の前のデカブツには遠く及ばない訳だが・・・ラーヴァナ・・・・・地球じゃ確かインドの魔王だったか・・・ここじゃ第一級危険生物・・・・・神話通りの姿をしてるが、スペックまでその通りってこたぁねぇよな・・・?そうであってくれ。

 

 

「さて・・・俺の魂を潰すのが先か改造を終わらすのが先か・・・根比べと行こう」

 

 

『触れた物を造り変える』・・・・・それが能力な訳だがあの巨体を弄り終わるのは骨が折れるし、どのくらい掛かるのかねぇ・・・はぁ・・・・・何でこんなのを相手どらないといけないんだか。俺は一介のギルド職員だぜ?

 

こういうのは、日本から転生してきたチート持ちの勇者気質の真面目君がやってくれりゃいいんだよ・・・っと!

 

その巨体に似合わぬ高速で拳が降り下ろされる。風を切りながらいきなり眼前へと迫る数本の拳・・・不味い。

何とか風を造り変えて気流を産み出す。その気流に乗りながら後ろへと大きく後退する。

 

って、威力のせいで岩盤ぶっ飛んで来てるじゃねぇかよ!

あんなん当たったら死ぬ!このまま天国にfly away!しちまう!

 

 

「『血霞の盾(ちがすみのたて)』!!」

 

  

ガンッ!と数回の衝撃が連続して襲ってくる。しかし、この程度で崩される程こっちの防御も柔ではない。

空中で発生した土煙を払い、そのまま剃刀紅姫を放つ。

無事着弾したものの巨体とその分厚く硬い皮膚に阻まれ、軽く傷を負わせるだけとなってしまう。

 

というか、まずはアイツに触らねぇと・・・そうでもしないと始まらん。

 

気流の勢いを強くして、一直線に突撃する。当然、奴さんも俺を撃ち落とそうとゆっくりと掌を3つほど顔の前に持ってきた。・・・左右にも掌があるってこたぁ、俺があれに戸惑って速度を落としたところで潰す気か。

 

死角をつくろうにもあの頭の数じゃ無理があるな・・・なら・・・

 

 

「───『騙紅姫(だましべにひめ)』」

 

 

刀から溢れ出た血を纏い、周りの景色と同化する・・・俺のオリジナルだがまぁ・・・案外汎用性は高い。

こうしてる間、他の技を使えないのは難点だが。

 

当然卍解の能力で風を操ることも出来ないのでそのまま滑空するのみとなるが・・・十分届く。

巨大な腕が目と鼻の先にまで近づいてくる。すれ違うその瞬間、紅姫をラーヴァナの腕へと突き立て、着地する。

 

技を解いて再び追い風を造り出して腕をかけ登り肉薄していく。が、向こうもこちらを視認して四方八方から蚊を潰すかのように無数の平手が降り下ろされる。

 

 

「縛道の七十五『五柱鉄貫(ごちゅうてっかん)』!!」

 

 

上空より落ちてきた五つの五角柱が降り下ろされている腕を拘束し停止させる。・・・ちょっと本来の用途じゃないし詠唱破棄だからあんま効果はないだろうが・・・

さて・・・後どのくらいで改造が終わる・・・?改造さえ完了すればこっちの勝ちだが・・・・・

 

 

「おいおいおいおい!冗談キツイぜ!?」

 

 

俺のいる場所に向けて自分の腕を引きちぎり、それを降り下ろしてくる。嘘だろ!?自爆覚悟で当たる保証も無いのに下手したら腕2本無駄になるんだぜ!?

あの巨体だから出来る荒業ってか!一旦改造を止めて回避するしかないか・・・

 

乗っていた腕から飛び立ち距離をとる。もちろん、降り下ろされていた腕が止まるはずもなくそのまま腕同士で激突する。

辺りにとんでもないな轟音が響く。それに混じってゴキッという鈍い音と鮮血が大量に飛び散る。

土煙に目を細めていたがようやくそれか晴れる。

・・・う~わ痛そう・・・・・叩きつけた方の腕は関節が折れてしまったのか振り子のように宙をブラブラとして、叩かれた腕は骨が飛び出し、辺りに血の海を作っていた。

 

そんな地獄絵図に吐き気を覚える。目の前の惨状に、そして何よりも未だ衰える事を知らないギラギラの殺気を放ってくるその毅然とした態度に。

こういう肉体も精神も(どっちもタフ)な野郎は手強いんだよ・・・

 

とりあえず、また目を潰して接近しねぇとな・・・

 

 

「千手の涯、 届かざる闇の御手、映らざる天の射手、光を落とす道、 火種を煽る風、 集いて惑うな我が指を見よ 光弾・八身・九条・天経・疾宝・大輪・灰色の砲塔 弓引く彼方 皎皎として消ゆ・・・破道の九十一『千手皎天汰炮(せんじゅこうてんたいほう)』!!」

 

 

相変わらず詠唱が面倒なんだよこれ・・・その分威力も強いんだけどさ・・・後恥ずかしいから絶対人前じゃやらない。やったとしても詠唱破棄する。

 

背後から無数の三角の矢が相手の顔へと降り注ぎ、爆発する。爆音と爆風に顔をしかめながらも再び改造を開始する・・・後、10分って所か。まぁ、あれ食らったらしばらくまともに動けねぇだろ・・・・・ッ!!?

 

背筋が凍りついた。この時、完全に頭から抜けていた。こいつの頭の数・・・あれを全部潰さないことには安心できない・・・なのに、完全に油断した!

 

 

「カッ・・・ハッ・・・・・!」

 

 

拳をもろに受け、吹き飛ばされる。

何件も廃屋の壁を吹き飛ばしていき、止まった時には10枚以上の壁に穴を空けていた。

 

いてぇなチクショウ・・・こんな良いの貰ったの何時ぶりだよ・・・吐血しちまった辺り・・・内臓の方もヤバイな・・・・・とっとと決めねぇと・・・幸い、改造はギリギリ続いてるし・・・後・・・少しだ・・・・・

 

 

「こいつでも食らっとけ・・・デカブツ・・・滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し痺れ・瞬き、眠りを妨げる爬行する鉄の王女、絶えず自壊する泥の人形、結合せよ!反発せよ!地に満ち、己の無力を知れ!!破道の九十!『黒棺(くろひつぎ)』!!!!」

 

 

ラーヴァナの巨体を闇が覆い尽くす。特大の重力塊だ・・・押し潰されちまえ・・・!

しかし、相手も馬鹿ではない。黒棺に飲まれた腕が潰れたのを見て素早く移動し、黒棺から逃れてしまった。

 

危機感知能力・・・スピード、パワー・・・・・ホントどれとっても強すぎるんだよこいつは・・・まぁ、それもこれで終わりだ。 

 

 

「施術完了・・・安心して潰されろ」

 

 

瞬間、ラーヴァナの顔の輪郭が歪む。続いて腕は枯れ木のような見た目になるまで圧縮され、足は上へ引っ張られるかのように吊り上げられ押し潰されていく。

骨が折れ、砕ける音に肉が裂け、血の吹き出す音。そして醜い断末魔が辺りに響く。

 

一応・・・時間は掛かったが・・・成功したみたいだな。紅姫の施術。しっかし、アイツの重力に対する抵抗を0にして、周りの重力を数倍にしただけでここまでなるものなのか・・・

 

いつの間にか潰され続けたラーヴァナの体は何処にも無くなっていた。残ったのは破壊され尽くした無惨な村とただただ虚しい空気のみだった。

 

大きく溜め息を吐き紅姫を元の羽ペンに戻す。だが、とてつもない痛みと疲労感が一気に押し寄せる。

寝よう・・・・・こんな所で寝るのもあれだが・・・流石に無茶やりすぎた・・・イテェ・・・・・

 

それを最後に意識は闇へと沈んでいった───

 

~*~

 

黒鎧の騎士・・・デュラハンのベルディアはアクセルで散々こけにされ、イライラを募らせながら自分の一時的な住まいである廃城への帰り道を歩いていた。

 

結局、任務であるあのなんちゃって幹部のリッチーと主君である魔王から告げられた重要人物・・・『骸王』との接触は敵わなかった。

1週間後には死に至る呪いを掛けたクルセイダーの仲間はどう出るのかと少しばかり胸を踊らせる。

そして、道すがらに配下のアンデッドに命じた『骸王』の目撃情報があった村・・・イムルの村への襲撃、それがどのような結果になったのかが気になり村へと馬を走らせた。

彼が目にしたのは既に蹂躙と虐殺の痛々しい痕跡。燃え尽きた家々に惨たらしい姿になってしまった住人の姿。幾らアンデッドになろうとも騎士の精神がその惨状に少なからず嫌悪感を覚えさせる。

しかし、違和感を感じずにはいられなかった。

 

───おかしい、配下のアンデッド・・・ラーヴァナの気配でさえ・・・何も感じられない。

 

虚無、まさにこの言葉が似合う。この世界には自分1人しかいないのではないか、そんな感覚に陥るほど、静かで何もないのだ。

村の中へと足を進める。途中途中で幾つもの死体を発見した。当然、配下のアンデッドと村人の物だ。だが、少し開けた広場に出るとそこは血の海と化していた。

 

そして、そのど真ん中で倒れている青年は彼の中でとある人物と合致した。

 

(中肉中背に黒髪・・・そしてこの羽ペン・・・これが・・・魔王様の仰られていた・・・『骸王』・・・か)

 

その青年を肩に担ぎ上げ、彼は廃城への道を急いだ───




詠唱の入力疲れた・・・
何か自分でも変な感覚がするけど分からん・・・意見がありましたら何かお願いします!


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1ー12 この緊張感の無い人質にはお帰りを!

俺がイムルの村でぶっ倒れていた所をベルディアとかいう魔王軍の使いっぱしり・・・もとい幹部に拘束されてから数日。待っていたのは劣悪な環境に辛い拷問・・・

 

 

「ンだこのシケた飯に酒はよぉ!?もっと上等なモン持ってこいよ!!ロマネ・コンティなりドンペリなり自腹切って貢げよおい!!あぁーあ!!どうしようかな!?もう脱出しちゃおうかな!!この城跡形もなく消してやろうかな!!」

 

「もう・・・大人しくしてくれよ・・・何で貴様はこんな状況でそんな態度が取れる・・・」

 

 

という訳でもなく案外ギルドにいた頃より充実して楽な生活を送っていた。

こうして毎度毎度脱出するぞ詐欺をしてベルディアを脅して彼を使いっぱしりにして豪勢な飯や酒を食らっていた。

と、言うわけで俺の入れられてる牢屋・・・・・というか無理言って高級ホテルのスイートルームクラスまで仕立てさせた部屋で右手を壁に繋がれている事以外は快適に暮らしていた。

 

向こう側も最初は渋っていたが俺が誠心誠意真心込めて☆O☆NE☆GA☆I☆をして()()()()☆O☆HA☆NA☆SHI☆をしたところ、快く承諾してくれたんだ。いやー!良い奴等だな!アッハッハッハ!

 

 

「いつもすまないねぇ!ベルディア君!君には感謝してるよ!お願いして、色んな世話をしてもらってさ!」

 

「やかましいっ!!目覚めた直後に俺以外の奴等をほぼ皆殺しにして城に風穴空けながら脅してきたのは何処のどいつだっ!!」

 

「いいじゃん別に!こんなジメジメした城にも偶には日光入れないとやってけないよ!?」

 

「日光が入ってきたらマトモにやっていけないんだよこっちは!!ただの嫌がらせでしかないわ!!あれな!夜の内に俺が1人でコツコツ修復してんだぞ!?」

 

 

面白いなぁ~・・・このアンデッド。

しばらくからかってるけどもうこの衰え知らずのリアクションと突っ込みはホント才能だと思う。何処のメガネ掛けられ器を思い出すなぁ・・・

 

 

「ハァ・・・俺はアクセルへともう一度繰り出す。大人しくしてろよ!いいな!?」

 

「えっ・・・ちょっと・・・ごふぁんがまだぁですよ・・・?あいつ出てきやがった・・・!」

 

 

おいふざけんなよ!俺は1食抜いただけでも餓死するんだよ!どこぞの少佐みたいな感じなの!!

 

だが、幾ら叫ぼうとも自分以外誰もいなくなった空間で応答してくれるのは誰1人としていない。

静寂に包まれる空間のなか、何かが切れる音がした。

 

 

「─────卍解!!」

 

 

轟音と共に廃城に二つ目の風穴が穿たれた────  

 

~*~ 

 

「サクさん・・・どうしちゃったんだろう・・・」

 

 

憂鬱と心配から机に突っ伏し溜め息を漏らす。

紅魔の里から上京してきた彼女には友達が少ない・・・というかほぼいない。つまるところのボッチである。

友達を作ろうにも彼女の控え目、慎重、そしてコミュ障という典型的な友達の出来ない人間モデルなため、全く友達が出来ない彼女だった。

 

しかし、ひょんな事から親しくなった元冒険者、現ギルド職員の物部朔。彼だけには一緒のベッドで寝たり、眠ってしまった彼の世話を焼いたりと存外、紅魔族での同級生達以来の親友とも言える関係になっていた。

更に先日はなんやかんやありデートの約束までも取り付けその日の内に細かい日程まで決め、楽しみにそわそわしていたのだが・・・そんな彼は1週間程前から失踪して、行方も一切掴めない。

 

同行していた新人職員のキノア曰く村に発生したアンデッドを討伐しに向かった・・・との事だったが、ベルディア襲撃と彼の失踪は同時刻に起こってしまった為、調査隊の派遣が遅れてしまった。

襲撃から2日後に村へと調査隊が向かったがそこにはアンデッド達の死体の山と壊滅した村だった。

 

生物と呼べる物は一切無かった。只の一つさえも。

そんな事があり、彼は失踪扱いと表向きにされているが一部では死亡したのではないかという説が流れている。

 

そんなことを思いだし再び溜め息を溢す。

だが、突然ガタン!と、大きな音と共に何かが勢いよく彼女の目の前に置かれた。

 

少しだけ目を上げると木の器に盛られた湯気の立ちこめる温かな料理が数品、お盆に乗せられていた。

 

 

「隣いいですか?ゆんゆんさん、あなたの分の料理もありますよ?」

 

「あ、ありがとうこざいます・・・えっと、ルル・ベル・・・じゃなくてルナさん・・・でしたよね?」

 

「どこぞの変身褐色女の名前が聞こえたんですけど・・・じゃなくて、仰る通り一応モノノベ君の先輩、職員のルナですよ」

 

「な、何でそんな事をわざわざ・・・?」

 

 

そう問いかけたゆんゆんにルナは普段の誠実そうな雰囲気とはうって変わって少し意地悪そうな笑顔を浮かべる。

 

 

「自慢・・・では無いのですけれど貴方より付き合いが長いという事ですよ、ゆんゆんさん。それで本題なんですけど、彼は帰ってきますよ。いつもの若干腑抜けた顔で」

 

 

その声に勢いよく顔を上げるゆんゆん。その分かりやすいリアクションにクスリと笑いながらも彼女は話を続ける。

 

 

「彼、ギルドでのいざこざを対処したり、ギルド内で問題を起こした人にちょっとお仕置きを加えたり・・・そんな用心棒みたいな仕事もしてるんです」

 

「・・・?」

 

「ゆんゆんさん・・・・・モノノベ君に気、あるんでしょう?」

 

 

チビチビと口を付け、飲んでいたシュワシュワを勢いよく吹き出し咳き込むゆんゆん。そしてルナの発言のせいで顔を真っ赤にし、ぷるぷると震えながら「え?」と小さく声を発する。

そんな彼女を見て再び笑いを溢しつつも話を続けるルナ。

 

 

「だって、この前なんて彼、私に───」

 

「ルナ君!すまない、急いで来てくれ!」

 

 

仕事で使う敬語を忘れ、明るい口調で口を開いた彼女だったのだが、どこぞの声がデカイ所長によってそれは遮られてしまう。カウンターの方へと返事を返すとお盆を持ち上げてゆんゆんに「ごめんね」と小さく言ってから裏へと行ってしまった。

 

 

「な、何でバレたの・・・・・?」

 

 

そんな彼女の背中をポカンと見つめ、静かに呟いたゆんゆんだった───

 

~*~

 

「なぜ城に来ないのだ、この人でなしどもがあああああっ!!」

 

 

アクセル正門の前、そこにはこの街の冒険者が集まり、ベルディア率いるアンデッドの軍団と対峙していた。

 

そして、カズマにめぐみんを見つけると開口一番に叫んだのが人でなしとかお前が言えたことかと満場一致で思わせるあの言葉だった。

カズマが珍しくめぐみんを庇うように前へ出るとベルディアと会話しようと口を開いた。

 

 

「いや、その・・・なんで行く必要なんかあるんですか」

 

「KMRなのか貴様はああああああっ!!」

 

(こいつホモ・・・!?)

 

 

カズマの中でベルディア野獣先輩説が提唱されたが心底疑問に思っていることがある。

別に爆裂魔法を撃ち込んでもないのに、なにをそんなに怒っているのかと。

 

それを言葉にしてみるとベルディアはプルプルと怒りを露にしながら左手に持っていた球体を地面に叩きつけ・・・ようとして、自分の頭だと気付き慌てて脇に抱え直す。

 

 

「爆裂魔法を撃ち込んでもいない?撃ち込んでもいないだと!?何を抜かすか白々しいッ!そこの頭がおかしい紅魔の娘が、あれからも毎日欠かさず通っておるわ!」

 

「ファッ!?」

 

 

文節を言う度に力強くなっていくベルディアの声。

それに対し思わず汚い声が出てしまったが慌てて顔をめぐみんの方へと向ける。すると、それに合わせて彼女も顔を逸らした。

 

 

「・・・・・・お前、行ったのか。もう行くなって言ったのに、あれからまた行ったのか!」

 

 

彼女の柔らかい頬を右へ左へと弄くり回してイライラをぶつけているなかめぐみんが必死に弁明を始める。

 

 

「ひたたたたたたたた、いた、痛いです!違うのです、聞いてくださいカズマ!今までならば、何もない荒野に魔法を放つだけで我慢出来ていたのですが・・・!城への魔法攻撃の魅力を覚えて以来、大きくて硬いモノでないと我慢できない体に・・・!」

 

「もじもじしながら言うな!というか余計にお前の爆裂欲求が高まって面倒くさくなっただけじゃねーか!!」それにお前、魔法撃ったら動けなくなるだろうが!てことは、一緒に通った共犯者が───」

 

 

彼の言葉の途中、音の鳴っていない口笛を吹いて何処かへ立ち去ろうとする厄介事の女神がいた。

先程のめぐみんと同じく頬を弄られたアクアだったが「仕返しがしたかった」という録でもない、本当に女神なのかを疑わせるような返答が帰ってきた。

 

そんな小芝居を見せられていたベルディアだが、まだ怒りは収まらないらしく再び怒声を上げた。

 

 

「この俺が真に頭にきているのは何も爆裂魔法の件だけではない!貴様らには仲間を助けようとする気はないのか?不当な理由で処刑され、怨念によりこうしてモンスター化する前は、これでも真っ当な騎士のつもりだった。その俺から言わせてみれば、仲間を庇って呪いを受けた、騎士の鏡の様なあのクルセイダーを見捨てるなど・・・!」

 

 

突然学校の教師のように説教を始めたベルディアに「何言ってんだこいつは。」と、一同が感じ軽く引いている中、ガシャガシャと重い鎧を鳴らしながら人の波を掻き分けながらダクネスがカズマの隣へと立った。

 

先程の説教も聞かれていたらしく頬を染めながら片手を挙げて「・・・・・・や、やぁ」と呟いた。

それを見たベルディアは兜越しでも分かるほどに唖然としながら素っ頓狂な声を上げた───

 

~*~

 

あの後、幾度となくアクアの神聖魔法をセリフ途中に浴びせられていたベルディアだったが、とうとう堪忍袋の緒が切れたのか、右手を振り上げ。

 

 

「街の連中を。・・・皆殺しにせよ!行け!!我が軍勢の屍共よ!!」

 

 

その瞬間、後ろにいた甲冑を着こんだそれなりに強そうなアンデッドの軍団は灰となり、10メートル程遠くにいるカズマ達にも届くような火柱となって昇天した。

 

 

「え・・・?いや、行けってそっちの逝け・・・じゃなくてgoの方だから、dieの方じゃないから・・・」

 

 

もちろん、命令されたから逝った訳ではない。オドオドしているベルディアに怒声が上空から降りかかる。

 

 

「おいこらこのち○かすアンデッド・・・俺の昼飯はどうしたこの野郎おおおおおおおおおっ!!!」

 

 

ゆらゆらと周りの燃え盛る炎も意に介せず刀を持った鬼がベルディアへと迫っていた────

 

 




僕はホモじゃない


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1ー13 この録でもない闘いに終止符を!

「さぁさぁクソアンデッド!とっとと始めようぜ!んでもって昼飯用意しやが・・・・・れぇっ!!」

 

 

周りからは文字通り死人が蘇ったような物だ。唖然と呆けながらその光景を見つめていた。

だがそんな冒険者たちを他所にベルディアと朔の剣戟が始まった。互いに鬼の様な形相で周囲を寄せ付けない空気に周囲は完璧に置いて行かれていた。

火花が散り金属音が耳を裂く。右に動き刀を振り下ろし左へ避けては真一文字に大剣を薙ぐ。目まぐるしく変わっていく戦況に付いて行けているのは戦っている2人のみ。

 

唯一彼らの希望であるカツr・・・ミツルギキョウヤは某カスマにアイデンティティの魔剣を売り飛ばされ、そこらかしこを奔走している。

もう1人、働けば働くほどお金がドブヘ消え自分で自分の首を絞めるリッチーは基本、魔王軍が攻めてこようともとある理由で参戦は出来ない。

だが見物に耽っていた冒険者たちも我を取り返したかのようにいきなり「聖水をもってこい!」「ほら聖水あくしろよ!」「パパパッとイッて、終わりっ!」・・・大半が関係のない語録だったのは置いておこう。

 

珍しく荒くれ者共が団結して1つの目標に向かっているのを見て若干胸打たれるものを感じながらカズマは何とか弱点を見出そうとベルディアを観察していた。だが目で追うのがやっとであり観察する暇もなく、助太刀を挟む隙もない。何も出来ない自分に歯軋りし、悔しさを噛みしめる。そして隅っこで飽きを感じ始め、地面に絵を描いているアクアを引っ叩き爆裂魔法を撃ちたがりソワソワして止まないめぐみんからは杖を取り上げる。

 

 

(はぁ・・・どうしてこうも俺のパーティーは世話のかかる奴ばっか・・・そういやダクネスは・・・)

 

 

横目で案外大人しくしているダクネスを横目で見ると頬を染め、荒い息を吐いている・・・詰まる所あの剣戟を浴びに行って斬られたいとでも思っているのだ。

そんな彼女を見て飽きれながらも忠告をする。

 

 

「ダクネス・・・分かってるとは思うが、行くなよ?幾らお前が硬くてもあん中に入っていったら間違いなく斬られるから、な?」

 

「わ、わかってりゅ・・・じゃ、じゃけどよくびょうをおしゃえれりゅじひんは・・・にゃ、にゃいぞ・・・っ!」

 

「呂律が回ってねぇ時点で信用できるか!!欲望全然抑えられてねぇだろ!思いっきりフリーダムだろ!!」

 

 

こいつはもう駄目かもしれない・・・そんなことを思いながら正面に向き直ると平行線だった戦況にも変化が見られた。やはり細身の刀と大剣、人間とアンデッドでは地力の差が出てしまう。

ベルディアの奮起の声と共に放った渾身の一撃。その一撃で刀を弾かれ大きく上に仰け反ってしまう。

 

 

「殺った!」

 

「しまっ―――――――――――」

 

 

一閃、朔の体を軌跡が駆け抜けた。全員が言葉を失いまるで時間が止まったかのように固まる。

胴体を切り裂かれ、糸が切れたマリオネットの様にグラリとバランスを失い地面に倒れ伏す。

 

顔から血の気が引いていく。あまりにも無残に、一瞬で命の灯を掻き消され肉塊と化してしまった1人の男。その光景に心から戦慄し、恐怖する。絶望が膨れ上がり叫びとなって込み上げてくる。

ある者は金切り声上げ、またある者は恐怖に駆られ逃げ出す。雪崩のように逃げて行った冒険者達。

 

そんな彼らを一瞥し、残った一部の冒険者へと向き直るベルディア。赤い瞳は平時よりも煌々と怪しく、禍々しく煌き、肉体は死んでいるとは思えないほどに滾っている。

そんなベルディアの全力の姿を見てゴクリと生唾を飲み込む。息が詰まり吐く息は震えが止まらない。

足が竦み膝は笑いが止まらない。震える手に握られた短剣を握りなおす。

 

普段はチャラケているアクアでさえも杖を構え他のめぐみんやダクネスも詠唱を始め当たらない剣を構える。

だが、そんな折1人の女性が掛けてきた。紫のローブを着、腰辺りまで届くような長い茶髪を携え豊満な胸を揺らしながら働けば働くほど貧乏になる不思議な得技の持ち主、ウィズが日光に晒されながらも青白く不幸そうな顔で現れた。

 

 

「べ、ベルディアさ~ん!」

 

「む・・・ウィズか。調度良い」

 

 

カズマ達には目もくれず彼らを追い越したウィズだったが彼女の背中を見て一同は何かを察する。

だがそんな彼らを無視してウィズ(?)はベルディアの元へとワザとらしく体のラインを強調する様に駆けていく。

 

 

「私、決めたんです!私・・・魔王軍に戻って・・・いや!ベルディアさんに・・・貴方に連いて行くって!」

 

「そっ!そうか!いや~照れるな~!」

 

 

腕に胸を押し付けながら話すウィズに分かりやすく鼻の下を伸ばしデレデレしながら応答するベルディア。

カズマにめぐみん、ダクネスは「三文芝居を・・・」と静かに呟いたのだが1人は憤慨を露にしながら叫びを上げる。そう、駄女神である。

 

 

「ちょっとこのクソアンデッド!あんた、裏切るなんて良い度胸してんじゃない!そこ動かないでよ!今すぐ浄化してあげるから!なるべく苦しむようにゆっくりとね!!」

 

「お前、一応はヒロインだろ・・・」

 

 

ただの小悪党になってしまっているアクアを必死に抑えるもカズマの説得は効果を為さずに終わってしまい彼女が『セイクリッド・ターンアンデッド』を放つ。2人の足元に魔法陣が現れそこから白く淡い光が漏れ出す。

 

 

「ま、マズイッ!」

 

「安心してくださいベルディアさん!『テレポー・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんてすると思ったかい?」

 

「へ―――――――?―――――――グ、アアアアアアァァァァァッ!!」

 

 

ウィズが口角を引き上げ不敵に笑った。その顔にベルディアがその変わりように間抜けな声を漏らす。

だが次の瞬間背中に髪の毛で覆い隠しておいた紅姫を取り出し彼の目下から思い切り斬りあげ右腕を切断した。

ドロリと腐った若干黒色が混じっている血が肩から噴き出す。更にアクアの神聖魔法を浴びたせいで体の至る所から煙を噴き出して、満身創痍となってしまった。

 

肩を抑え膝を突ベルディア。震える声を漏らしながら彼女(?)を見上げた。

 

 

「ウィ、ウィズ・・・本人かは知らぬが・・・後生だ・・・」

 

「何だ?1つくらいなら聞いてやるよ」

 

「パンツ見せてくれ・・・」

 

「良いぜ、ほら」ピラ

 

 

ポンポンと進んでいく会話。ベルディアの必死だが下らないお願いを彼女は聞き入れカズマ達に背中を向けながらスカートの裾を少し摘み上げた。

その姿を見たベルディアは兜から勢いよく鼻血を噴き出しながら何だか花が散っているようなバックを連想させる倒れ方をしてしまった。

 

 

(何色だったんだ・・・!?)

 

 

酷く冷たい目で彼を見つめられるカズマ達だったがカズマだけは少しだけ場違いな事を思い浮かべている。

未だに悶えているベルディアにペッ!と唾を吐き捨ててからウィズは自身の輪郭をゆらゆらと歪め始める。その不思議な光景に何か幻覚でもと思ったが次の瞬間には揺れが収まり、本人が出てくる。

 

彼はカズマ達の元へとゆっくり歩きながら軽いノリで刀を肩に掛け、片手をヒラヒラとさせながら口を開く。

 

 

「よっ!ただいま、久し振りィ!」

 

「「「「サク(さん)!?───イヤソウゾウハツイテタケドモ・・・」」」」

 

 

その姿を見て、駆け出す人影が1つ。

黒色のマントを棚引かせ、その息を切らしながら。一心不乱に走り大きく跳ねる心臓の鼓動を感じながら。

そして、彼に到着すると同時に腰に手を回し彼の胸に顔を埋めた。

涙と嗚咽を漏らしながら泣きじゃくった。

 

 

「うっ・・・うぅっ・・・良かった・・・・・しゃくしゃぁん・・・うわあぁぁん・・・!」

 

「ったく・・・・・デートの約束してんのに、死ぬ訳ないだろ?」

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「あぁもう・・・泣くな泣くな」

 

 

ギューギュー押し付けられる柔らかい胸か涙や鼻水でグシャグシャになっている服か、どちらを憂れうべきかと苦笑いをしながら考え彼女の背中と頭を撫でている。

 

そしてこのままでは埒が明かないとカズマに大きな声で呼び掛ける。

 

 

「おぉーいカズマー!あいつは水が弱点だ!後は何とかしてくれ!」

 

「何弱点サラッとバラしてくれてんだ!!」

 

「えぇー・・・いや、水が弱点?なら・・・おいアクア。お前、元なんたらなんだろ?なんちゃって女神でも水の1つや2つ出せるんだろ?」

 

「元ってなによ元って!ちゃんと現在進行形で女神よこの私は!そろそろ罰の1つでも当たるわよ!?謝って!なんちゃって女神って言ったの謝って!」

 

「はいはい駄女神駄女神」

 

 

ゆんゆんをあやしながら何処かへと去っていく朔、弱点を暴露されて憤慨するベルディアと怒りのアクアが何やらひっくと嗚咽を漏らしてから珍しく神聖な雰囲気を漂わせながら何やらブツブツも詠唱を始める。とてもカオスな状況である。

 

 

「ふぅ、この世にある我が眷属よ・・・水の女神、アクアが命ず」

 

 

空気が震え始め何やらただならぬ雰囲気が漂い始める。

危険を感知した朔が卍解でダクネスとめぐみん、ゆんゆんを抱えながら城門の上へと避難した。

 

 

「我が求め、我が願いに答え、その力を世界に示せ・・・・・!『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!!」

 

 

杖を頭上で回転させ、魔法を発動させる。ただならぬ空気が突如破られ、ベルディアの頭上からとてつもない勢いの水流が降ってくる。

辺りを蹂躙するかのように水流が全てを呑み込んで行く。カズマとベルディアが水流に遊ばれている中、朔達は城門から高見の見物、アクアはあの水流の中でも悠々と泳いでいた。

 

城門が轟音を立て崩れていくのにヒヤヒヤしながらもようやく収まった災害の後には今にも死にそうなベルディアと危うく溺死寸前のカズマが仲良く倒れている。しかし、先にカズマが意識を取り戻し、アクアに魔法を撃つように叫んだ。

 

そして本日何度目かの神聖魔法が放たれ、哀れなデュラハンは天へ還っていった────

 

~*~

 

2週間程療養という名目で休暇を貰えた朔はギルドの食堂でグラスを傾け、ゆんゆんと食事を取っていた。

他愛もない世間話を交えながらグラスを傾ける。こんな日常に安堵していた────が、唐突にギルドの扉が開けられた。

 

 

「て、店主・・・?ど、どどどどうした・・・怖い顔して・・・」

 

「どうしたもこうしたもありません・・・モノノベさん、私に化けてトンでもない事をしてくれましたね・・・!!」

 

 

往時の、冒険者時代の迫力を取り戻しているウィズが朔の元へとスタスタ歩みより胸ぐらを掴み上げる。

 

 

「歯、食いしばってくださいね?」

 

「痛くないようにお願いします・・・・・」

 

 

アタフタしているゆんゆんを他所にウィズにしばかれ朔の悲鳴もとい断末魔が響き渡った────

 




ようやくデートさせれる、やったぜ。
デート回の次はエロ注意かも・・・?


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【番外編No.1】この非凡な日常に祝福を!
【特別編】exー01 東京サマーセッション+α


この話の前半(←ここ重要)はHoneyWorks様の曲『東京サマーセッション』を聞きながら読まれる事をオススメします!

駄文でも頑張ってある程度歌詞とリンクさせましたんで・・・
後後半はエロパートだぞ野郎共!


【前半】デート編

 

療養生活(もう治ってる)3日目、2日間はちょっとベルセルク王国に行って野暮用を済ませた訳だが・・・久々の休日ってのも案外暇だなぁ・・・・・取り敢えず腹減ったし、飯でも食うか。

 

読んでいた本を閉じ席から立ち上がる。静かな部屋に響くパタンという乾いた音に木と木が擦れ合う音。直ぐ様静寂を取り戻した部屋を後にし、宿を出た。

 

 

「お前・・・何してるんだ?」

 

「ひゃっ!・・・サ、サクさん!こ、こんにちわ・・・」

 

「あぁ、こんにちわ。ゆんゆん」

 

 

宿の前でう~んと唸りながら右へ左へフラフラ歩き回っていたゆんゆんに声を掛けるとビクンと面白いほど肩を揺らし素っ頓狂な声を上げ何故か赤い顔で彼女がこちらを向く。

 

何をそんな躊躇してんだ・・・?いっつも俺の部屋に入ってくるしもう慣れたのかと思ったんだが・・・

 

 

「そ、その!ベルセルク王国の花火大会・・・・・一緒に行きませんか?」

 

「花火大会かぁ・・・正直、あんな人が多い所は・・・」

 

「そ、そんなぁ!?・・・分かりました・・・別の人をグスッ・・・探してグスッ・・・来ます・・・」デートシテクレルッテイッタノニ・・・(泣)

 

「い、いやいや!案外楽しみそうだなぁ!行ってみたいかも!」(汗)

 

 

そ、そうだった!デートの約束がすっかり頭から抜けてたぁっ!!

泣き顔で何処かへ去っていこうとするゆんゆんを必死に呼び止めつつ手をとる。ていうかこいつ別の人って・・・誰か誘う奴いるんかね?

 

それにベルセルク王国ならまぁ多少・・・都合は良いか・・・な?

ついでにアレも渡せるんなら・・・

 

 

「ホ、ホントですか・・・?私なんかと行ってくれるんですか?」

 

「も、もちろんだって!むしろお前みたいな可愛い子と行けるなら俺も本望だよ!」

 

「私・・・別に可愛くもないし、面白くもないし・・・ホントにいいんですか・・・?実は何にも面白くもないしもう関わりたくもないとか・・・・・思ってたりしませんか?」

 

「お、おう!全然大丈夫!むしろウェルカムだから!僕の胸空いてますから!」

 

 

ど、どうする!?ゆんゆんのネガティブモード、1回発動させたら面倒だ・・・・・こうなったゆんゆんを元に戻すには取り敢えず言ったことを否定して誉めちぎるしかない!

ていうかゆんゆんはホント可愛いし魔法も使えるし・・・別に良い女だと思うけどなぁ・・・・・多少、性格に難ありか・・・?

 

いや、性格の難をカバー出来るくらいのスペックがあるしな・・・磨けば磨くほど良くなる・・・言うなれば宝石の原石みたいな?

それに別にゆんゆんみたいな性格、俺は好きだし別に悪いって訳でもないしな。

 

 

「それじゃあ今から行こうぜ?ちょうど良いくらいの時間に着くだろうしさ」

 

「分かりました!なら行きましょう!」パアアァァァ・・・!

 

 

ゆんゆんのバックにお日様とお花が見えるなぁ・・・可愛い。

一気に機嫌を直したゆんゆんに引っ張られながら馬車の元へと向かっていたのだが、まぁ視線が痛いこと痛いこと。

舌打ちまで聞こえてきたからねぇ・・・・・怖い怖い。

 

~*~

 

この前は荷馬車に乗ってた訳だが人を乗せる為の馬車は乗り心地がそれなりによろしい。

揺れも少ないし備え付けのソファーも結構気持ちいい。

 

そんな中俺は頬杖を付いて景色を眺めていた。忙しなく移り変わっていく景色、普通の馬車よりも案外速度出てんな・・・・・あ?

あれって・・・・・コボルトか・・・しかも結構な群れだな・・・

 

 

「おっちゃん、ストップだ。コボルトの群れが来てる。このままじゃ激突すんぞ」

 

「だ、旦那!?どうしますかい、一旦止まりやすか!?」

 

「安心しろ。こう見えても・・・元は冒険者・・・何でね」

 

 

土煙を巻き上げながら突進してくるコボルトの群れ。『千里眼』で確認した限りは完璧に直撃コースだ。あの種族がわざわざ進路を変えるとも思えねぇしな・・・

 

 

「サクさん待ってください!ここは私がやります!」

 

「ゆんゆん・・・?分かった、んじゃ俺はゆっくり本でも読んで待ってるわ」

 

 

そう言うと座席から身を乗り出してコボルトの群れと向き直るゆんゆん。そして、群れの戦闘に狙いを定め魔法を放つ。

 

 

「『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 

彼女の魔法がコボルトの群れを覆うように沼を造り出す。かなり深い沼なのかコボルトの使わない両腕をジタバタとさせながらドンドンと沈んでいく。

 

 

「へぇ・・・・・」

 

 

あの魔法は確か消費魔力で沼の範囲に深さが決まるんだったか・・・だとしたら魔力を結構掛けてんな・・・しかも制御も上手く行ってるしあの距離だと空間把握能力も要求される・・・

 

 

「やるな、ゆんゆん」

 

「サクさん!やりました!」

 

 

珍しく明るい声で頭上に♪を浮かばせながら俺の腕に抱きついてくるゆんゆん。ムニムニと胸が押し付けられ、正直その感覚に浸ってたいが・・・ここは誉めてやって頭の1つでも撫でてやるべきだろう。

 

 

「よくやった。ていうか、強く・・・なったな」

 

「ありがとうございます」♪

 

 

最初の内はレベルもステータスも上がりやすい。そのため一気に強くなってレベルを上げれば自分が強くなっていると実感できるもんだ。

俺みたいにレベル80まで来るとねぇ・・・全盛期ってか、90代よりはマシだけどホント、変化が感じれないんだよなぁ・・・昔の転生仕立ての頃が懐かしいよ全く・・・

 

~*~

 

ベルセルク王国の花火大会。当然アクセルよりも広い為規模も人数も大きい。ギルド以上の喧騒を感じる。肌で熱気を。耳で騒音を。目で彩りを。様々な屋台が並べられそこらかしこで楽しそうな声が響き食べ物の香ばしい匂いが鼻を刺激する。

 

なんか食べよう。今は夕方時だが昼からな~んにも食べてない。というか案外色々あるなぁ・・・流石、王国の祭りなだけある。

 

 

「ゆんゆん、なんか食べるか?取り敢えずネロイドでも買ってくるが・・・」

 

「それじゃあ・・・クレープ1つ・・・お願いします」

 

「OK。んじゃそこのベンチででも待っててくれ」

 

 

よし、んじゃアレ取りに行ってくるかな・・・幸い店も近いしそんな時間も掛かんねぇだろ。どうしよ、唐揚げでも買っとくか。

 

~*~

 

少し薄暗く街の喧騒からも一足離れた古風な道具兼加工屋。

あまり知られてないが俺の冒険者時代、結構使ってた知られざる名店ってやつだ。ここでは道具販売に加え、材料を渡してアイテム製造もしてくれるし、腕も一流だ。

 

暗い店の奥で椅子に座り鎮座している怪しげな丸眼鏡を掛けた老人、というかここの店主。

 

 

「親父~、アレ出来てるか?」

 

「おぉ、あんたか。この通り、バッチリだよ」

 

「流石。サンキューな」

 

 

うん・・・・・ホント、流石の出来だな。たったの2日で仕上げたとは思えん仕上がりだ・・・これなら、役に立つだろ。

 

 

「ほれ、とっとと金を出さんか」

 

「あいよ。っと・・・100だっけ?」

 

「一桁足りんわい、1000じゃ」

 

「クソッ、誤魔化せなかったか・・・まぁ最近金入ったから余裕はあるが・・・」

 

「おろ?確か5000じゃったかの?」

 

「ふざけんなジジイ」

 

 

こいつ・・・あわよくばぼったくろうとしやがって・・・こんだけで5000は法外だっての。材料の一部も俺が出したってのに。

 

あ、ちなみに1000エリスじゃなくて1000()エリスだからね。まぁこんだけ払う価値はあるが・・・

 

 

「まぁいいや、じゃあな」

 

「今後もご贔屓にの」

 

 

カランカランと乾いたベルの音に送られながら再び大路地へと戻る。

店内の温度との差に軽く汗をかきつつ頼まれていた品物を買ってゆんゆんの元へと戻ってくる。・・・はぁ、あいつってホント絡まれやすいよな・・・変な連中に。

 

 

オジョウチャァン、チョットイイコトシヨウズェ・・・ズェ・・・

サンジュップンデゴマン!ドウダイ・・・?

 

「い、いえ・・・私、待ち合わせが・・・や、止めて下さい・・・」

 

「はいはいお兄さんたち。人のツレに手を出すって良い度胸してんね~。根性入れ直しちゃうぞ☆」

 

ナンダコノオッサン!?

アァ!?ンダテメェ!スッゾコラァ!オレラガダレカシッテンノカ!?アァン!?

 

「お前らが誰なんて知った事か」

 

 

ホント誰だよこいつら。どうせイキッてるぽっと出のアホ冒険者だ。しっかしここでもこんなアホはいるのか・・・アクセルも王国もそんな変わんねぇじゃねぇか・・・

 

 

オッシャオメェオレラノコワサオシエテヤンヨ!

ホレ!イイヨ!コイヨ!

 

「んじゃ遠慮なく。TDNデコピン×2!」

 

ギャー!

ギャー!

 

 

俺のデコピンで綺麗に吹っ飛んで行ったバカ2人。

周りがザワザワと騒ぎだしたがまぁ構ってる暇はない。とっとと離れるとしよう。

 

 

「行こうぜ、ゆんゆん」

 

「あ、ありがとうございます・・・サクさん」

 

「あ、そうだ。ほいクレープ」

 

 

クレープを渡して俺は唐揚げにしゃぶりつきネロイドに少し口を付ける。クレープを堪能して頬を抑えるゆんゆん・・・天使だ。今度久し振りにサキュバスの店に行くかな・・・

 

取り敢えず適当な川原にでも座って見やすい位置取るかな。

もうちょっとで花火も始まるだろ。

 

 

「この辺にでも座ろうぜ。ここなら花火も見えるだろうし」

 

「そうですね・・・失礼します」

 

 

それからは暫く無言でそれぞれ料理を味わった。

だがクレープの生地のせいなのかゆんゆんがとても小さな声で呟きを漏らす。

 

 

「のど乾いたな・・・」

 

「これ飲むか?」

 

「こ、こここれって所謂・・・か、間接・・・キス・・・?」

 

 

おい止めろ。恥ずかしくなるじゃないか。俺はただ自分のネロイドを渡しただけなのに。

 

 

「・・・意識した?」

 

「意識・・・しちゃいました」

 

 

止めろぉ!!のど乾いたのゆんゆんの筈なのに俺も乾いてきたじゃないか!!ていうか結局のどは乾いたまんまだよチッキショウ!!

 

 

(う、う~・・・恥ずかしい・・・)

 

 

左手を支えにして空を見ているゆんゆん。

・・・繋いでも・・・良いかな・・・ゴクリ

俺は悪くないよな!こんな流れになってるんだから!!

仕方ないよな!!男として不可抗力だもんな!?

 

赤い顔でブツブツ何かを呟いているゆんゆん。

その左手にゆっくりと手を伸ばし・・・・・指先が少し触れた。

やっぱ無理!恥ずかしい!!何でこういう時だけチキンなんだよ俺!

 

どうしよ!ゆんゆんめっちゃこっち見てるよ!あぁクソ!!どうやって誤魔化そう!よし!こうなったら─────

 

 

「サ、サクさん・・・?」

 

「ん、んん!?どうしたゆんゆん!何かあったか!」

 

 

わざとらしく声を出し手を回しながら川原の芝生へと頭に手を当てながら背中を預ける。

頼むからゆんゆん!何も言ってくれるな!

 

 

(手、繋ぎたいな・・・でも・・・迷惑かな・・・)

 

 

えぇい!ちょっと落ち着くまでブラブラしてこよ!

こんな赤い顔のままじゃ無理だ!まともに顔見て話も出来ない!

 

 

「ゆ、ゆんゆん!ちょっと追加で飯買ってくる!何か要るか!?」

 

「ま、待って!」

 

「・・・・・へ?」

 

 

ちょ、ちょっとゆんゆんさん?何で俺の袖を引っ張って放さないんですか?これじゃ買い物行けないじゃないですか・・・

 

 

「花火、一緒に見ましょう?・・・は、始まっちゃいますから」

 

「あ、あぁ!そうか、悪い悪い!」

 

 

何でこんなに気まずいの!何で呂律がこんなに回らないの!

暑いよ!夏だっての抜きにしてとんでもなく暑いよ!主に顔!花火!早く花火始まって!この気まずい空気を爆発させて!!

 

途端、ヒュ~と甲高い音を立てながら火の玉が上空に打ち上がる。上空何メートルかの場所で破裂する。

色とりどりの火花を周囲に散らしながら火の花が咲いた。咲き乱れた花々は辺りを明るく照らしそして散っていく。

そんな一瞬の芸術に心を奪われ言葉を失ってしまう

 

 

「綺麗・・・だな」

 

「・・・綺麗ですね」

 

 

日本にいた頃。そんな薄れた記憶の片隅にあっただけの花火が今目の前にある。それだけで胸を満たす何かが確かに溢れてくる。

 

 

「このまま時が止まればいいのに・・・」

 

「・・・そうだな」

 

 

花火で会話など上の空。端的で単純な言葉を交わし会う。

・・・今か?今なら・・・手、繋いでも・・・いいよね!?そんな雰囲気だもんね!よし!覚悟決めろ物部朔!

 

ゆっくりと自分の手を彼女の手へと伸ばす。

すると、彼女の方からも手を伸ばしてくる。

そして二つの手が合わさる。俺が少し力を入れて彼女の手を握る。

ゆんゆんがギュッと力強く握り返し、更に固く手は結ばれる。

 

 

((ずっと、繋いでたいかな・・・))

 

 

何の合図もしていない。なのに同時に赤い顔が向き合った。

心臓の鼓動が早くなって段々と体も火照ってくる。

 

 

「・・・・・キス・・・してもいいか?」

 

 

・・・あ~あ、何でこんなこと言っちまったんだろ・・・流石に引かれるよな・・・今すぐにでも消えたい。もう、恥ずかしすぎる。

 

 

「・・・良いですよ・・・キ、キス・・・しても・・・///」

 

「・・・へ?」

 

 

・・・ええの?・・・・・えぇ?・・・てっきり断られると思ったけど・・・ええの?・・・・・良かったぁ・・・!

チキンハートを奮い立たせた甲斐があったよ・・・!

 

 

「だから・・・良いですよ・・・その・・・キ、キス・・・」

 

「・・・・・ありがとう・・・」

 

 

目を閉じ、全て俺のタイミングに預けたゆんゆん。若干恥じらって赤くなった顔、震えている頭・・・もう・・・全部が可愛い。

 

唇と唇がふれ合う。俺の乾燥しきり荒れた『保湿』なんていう言葉とは無縁の唇とは違い彼女の唇は柔らかく微かに濡れていた。

何か・・・新鮮な感覚だ・・・それに、ゆんゆんの吐息や髪の毛がくすぐったい・・・何か、癖になりそうだな・・・

 

 

「・・・はぁっ・・・・・ゆんゆん、もっと・・・していいか?」

 

「・・・Hな事はダメ・・・ですよ?」

 

 

花火に照らされながら俺たちはもう一度唇を重ね合った───

 

~*~

【後半】エロ編? 小便はすませたか?神様にお祈りは?部屋のすみでガタガタ震えて命乞いする心の準備はOK?by作者

 

 

あの花火大会から1日空いたとある日。

俺は再び読書に耽っていた・・・ゆんゆん可愛い・・・じゃない。あぁ、何であの日以降こんな事・・・?

 

突然、部屋の静寂が破られた。出入口から響いてきたノック・・・来客なんて珍しいな・・・・・

 

 

「今出ます」

 

「・・・こ、こんにちは・・・サクさん」

 

「ゆ、ゆんゆん・・・どうした?取り敢えず・・・入る?」

 

「失礼します・・・」

 

 

な、何用じゃ・・・?あ、そういやアレ渡すの忘れてた・・・どうしよ・・・あの時はキスに夢中で・・・忘れてた・・・あの時渡すべきだったろ俺の馬鹿!

 

テーブルの対角に座った俺とゆんゆん。何この気まずい沈黙・・・早く話切り出して・・・お願い・・・

 

 

「あ、あの!」

 

「はいっ!何でしょう!?魔王(マーラ様)討伐コースですか!?」(超デジャブ)

 

「その・・・あの日、キ・・・キスした後・・・サクさん、色んな所にキス・・・したじゃないですか」

 

「あ、あぁ・・・もしかして嫌だった?ホントすいません!!指詰めるんで勘弁して下さい!!」

 

 

純潔(?)を奪ったんだから指だろうがジョイスティック何だろうが詰めてやる!そのくらいの覚悟は出来てんだこのヤロー!

 

 

「なら・・・今から何言っても・・・引かないで下さいね?」

 

「お、おう・・・もちろん!」

 

 

何々?何言う気なのこの子・・・?ま、まさかPTAを召喚する気なのか!?

 

 

「・・・その、唇以外の所で・・キスされるのも、するのも。その感覚・・・癖になっちゃったんです・・・だから・・・してくれませんか・・・?」

 

 

何だ、ただのご褒美じゃないか。

顔をこれまで類を見ないほどに紅潮させアタフタするゆんゆん。ホント天使だわこの子。サキュバスの夢とはまたちょっと違いがあって・・・非常に可愛い・・・・・ていうかこれベッドインフラグ!?そうなんですか!?

 

~*~

 

We are on the bed.(俺らベッドの上に居るお。)

 

若干軋んだベッドに不安を覚えたがまぁ・・・大丈夫だろ。

ていうか凄く緊張するんですけど・・・ヤバイよ?心音漏れてない?これ、ヤバイよ、めっちゃドックンドックン鳴ってるよ?

 

まぁ・・・それはあっちも同じか・・・

 

 

「じゃ、じゃあ・・・よ、よよよよろしくお願いひゃす・・・!」カンジャッタ・・・ウゥ・・・

 

「あ、あぁ・・・んじゃあ・・・背中向けて?」

 

「分かりました・・・ンショッ・・・こうですか?」

 

 

こちらに背中を向けてもらい、準備を始める。

ていうかこれじゃ・・・アレだ・・・服が・・・邪魔だ・・・聞いてくれるかな・・・?

 

 

「嫌だったらいいんだけど・・・上の服・・・その・・・脱いで?」

 

「えっ!?・・・で、でも!何か考えあっての事・・・なんですよね・・・分かりました・・・み、見ないで下さいね!」

 

「ありがとうな。後、もう後ろ向いてるから大丈夫だぞ」

 

 

微かにパサッという音が聞こえた。マ、マジで脱いでるよ・・・素直すぎるだろゆんゆん・・・!それでいいのかゆんゆん・・・!おっと、別に俺が楽しむ為に脱いでもらった訳じゃない。ちゃんと理由があるからな、うん!コラそこ!変な目をしない!

 

 

「良いですよ・・・こっち、向いても」

 

 

俺が再びゆんゆんの方へと向き直るとそこには上半身だけだが下着以外、一糸纏わぬゆんゆんの素肌があった。

いつも日を浴びて少し日焼けしている顔や太ももとは違い、ほとんど日光を受けない背中は雪のように純白で綺麗だった。

お、女の子の素肌ってこんな綺麗なモンなの・・・!?

 

 

「それじゃあ・・・ゴクリ、行くぞ」

 

「は、はい!準備は出来てます・・・ヒャッ!な、何で目を塞いで・・・?」

 

「・・・・・」

 

 

こっからは無言で行こうと思う。異論は認めん。

後ろから彼女に抱き付くように接近して右腕で彼女の目を覆い隠す。いきなりの事に裏返った声を上げる・・・が、俺は止まらんぞ。

 

耳へとキスをする。一瞬ビクリと震えたがすぐさま冷静を取り戻し大人しくなる。・・・なら・・・

今度は首筋にキスをする・・・が、これでは終わらんぞ。キスをした場所に舌を当ててゆっくり、ゆっくりと沿うように鎖骨までを舐める。

 

 

「んっ・・・うぅっ・・・んあっ・・・///」

 

「・・・・・」

 

 

肌の味が舌から伝わる。何とも言えない味を感じるがそれよりも彼女の反応が第一に気になる。

 

抱きついているせいで露骨に体温がドンドン上昇していくのが伝わってくる。それに若干フルフルと体が震えだし吐く吐息も熱く、荒くなっていく。やっぱ目を塞ぐと他が敏感になるよな・・・フフフ・・・よし、もっと行こう。

 

次は背中。時にじっくりゆっくりと。ある時は一気に駆けるように背筋に舌を這わせる。汗をかいているのか肌の味に混じって若干しょっぱいとも感じられる。

 

 

「んんっ!~~~~ッ!・・・ああっ!///」

 

「・・・・・」ムクリ

 

 

次は・・・足行ってみるか。いや・・・胴だ!

ゆんゆんの前へと移動し、かがみ込む。そして胴体に顔を近づけ・・・正直胸に突っ込みたいが・・・まぁそれは置いておいて。クビレに舌を沿わせながら目隠ししていた指以外の指と左腕でゆっくりと彼女をベッドへと押し倒す。

トスッと軽い音を立てながら俺は四つん這いに、ゆんゆんは仰向けになった訳だがそんなのお構いなしに俺はクビレを辿り腰骨をなぞる様に舌を沿わせ最後にヘソへキスをした。

 

 

「ンンッ!あっ・・・!フウッ・・・!や、あぁっ!」

 

「・・・・・ ・・・・?」(エロイ・・・・・)

 

 

気付くとゆんゆんの両腕が俺の服を強く掴んでいた。シワが・・・声抑える為なのか・・・?

取り敢えず次で・・・終わりか・・・な?

 

彼女の爪先を軽く天井へ上げさせ・・・しやすい態勢にした。

太ももの横っ腹に軽くキスをしてから太ももからふくらはぎにかけての裏を舐め回す。特に膝の裏を入念に・・・

 

柔らかい太ももの感触にただでさえドキドキしているのに更にドキドキさせられこちらも若干息苦しくなってきた。

当のゆんゆんは最初の内は小さくフルフルと震えていただけだったが今は何かを我慢するように体をうねらせながら大きく震えている。

 

 

「ンンッ!ーーーー~~~~ッ!!」

 

 

あ・・・・・・

彼女の体が大きく跳ねた。震えも更に大きくなり吐息も震えてドンドン熱く荒くなっている。

彼女の目隠しを外すと目はトロンとまどろみ、恍惚としていた。俺が俺がゆんゆんを覆うように前へ出ると彼女は自分の体を押し付けるように俺の体を引き寄せる。なるべく体重を掛けないよう軽く膝で態勢を上げてはいるがそれでもほぼ彼女の顔の真横に俺の頭が来ていた。

 

 

「次は・・・ハァ・・・私の・・・ハァ・・・番ですね・・・!」

 

「・・・お手柔らかに頼むわ」

 

 

今度は俺がベッドに押し倒され、ゆんゆんが覆い被さる態勢になった。彼女の胸が胴に当てられて・・・しかも今は下着しか隔てるものがない・・・余計にリアルな感触が伝わってくる。

 

突然、頭を両手で掴まれた。そして彼女が顔を近づけキスをした・・・だけでは止まらず俺の口内に彼女の舌が唾液と共に侵入してきた。

 

 

「何し───っ!?」

 

「んっ・・・ふぅ・・・ん・・・///」

 

 

舌が触れ合う度、歯をなぞられる度、体に電流のように快感が走り口内に甘い味が広がる。

お互い時々吐息を漏らしながら俺も彼女と舌を絡ませ、口内を蹂躙しようと忙しなく動かす。・・・こ、これはヤバイ・・・!それにこんなに顔が近く・・・!

 

 

「ぷはぁっ・・・これは・・・良いのか?」

 

「Hな事はダメって言いましたけど・・・これくらいならって・・・我慢が効かなくなっちゃいました・・・」フフ!

 

 

まるで小悪魔・・・いや、年相応の少女らしいイタズラな笑みを浮かべるゆんゆん。案外積極的・・・なのな・・・俺が受け身の立場になろうとは・・・・・

 

そして彼女はさっきまで俺がやっていたように体をキスし、舐め始めた。ちなみに俺も既に上は脱いでいる。

ゆんゆんの吐息が直に伝わる。耳に顔を近づけ耳の裏へキス、中の溝を舐めていく。やけに大きく唾液のクチュクチュという音と呼吸音が聞こえる。ていうかこれ・・・めっちゃ気持ちいい。声が出そうになんのも分かるわ・・・

 

 

「フフッ・・・可愛いですね・・・」フウーッ

 

 

そんな呟きが聞こえたかと思うと耳に息を吹き掛けられた・・・こいつ、何処でそんなテクを!?

 

 

「まだまだですよ・・・これからです・・・!」

 

「マジすか・・・」

 

 

長い1日はまだ終わりそうにない。

 

~*~

 

「あ、そうだゆんゆん!」

 

 

ナニ・・・・・じゃれ合いが終わった俺達は適当に俺の作った料理に舌づつみを抜かしていた。

食事にもキリがついた頃、アレの存在を思いだし机の引き出しからちょっと高級そうな箱を取り出した。

 

 

「こ、これは・・・」

 

「まぁまぁ、百聞は一見に如かず。開けてみろよ」

 

 

そう言われ彼女がゆっくりと上蓋を取る。中から飛び出したのは丁度顔位の長さをしたワンド。そう、王国で作ってもらった特注品だ。

 

 

「ワンド・・・ですよね・・・それにこの先端のって・・・」

 

 

灰がかった白色の柄に先端で光輝く大きな宝石。似たような宝石は柄にもちりばめられている。

 

 

「マナデポット・・・繰り返し使えるマナタイトだ。ちなみに柄に散りばめられてるのも同じやつ」

 

「マ、マナデポットって・・・超高級アイテムじゃないですか・・・!それにこんな量にサイズ・・・も、貰えません!こんな高価な物!」

 

 

やっぱそう来たか・・・何となくこう言うんじゃないかって思ってはいたが・・・なんて説得しよう・・・

 

 

「いやいや、貰ってくれ。日頃からの気持ち・・・プレゼントだ」

 

「プ、プレゼント・・・えへへ・・・じゃなくて!本当に良いんですか?こんなワンド・・・相当高いでしょうに・・・」

 

「だから良いって。貰ってくれよ、ゆんゆん」

 

 

プレゼント発言に若干頬を緩ませていたがやはり若干譲れない部分があるのか。真剣そうな面持ちで再び問いかけてくる。

別に良いって言ってんのにな・・・

 

 

「ありがとうございます!一生大切にしますね!」

 

「どういたしまして・・・後、ちょっと目閉じて」

 

「え・・・?こう・・・ですか」

 

 

っと・・・・ん?案外・・・付けるの難しいなこれ・・・んん?

・・・あぁ、付いた付いた。

 

 

「目開けていいぜ・・・その・・・気に入ってくれたら良いんだが・・・どうだ?」

 

 

手鏡をゆんゆんに見せると驚き・・・なのか?とにかく、多分驚きで目を見張った。

俺が彼女に付けたのはヒマワリの様な黄色の花を模した髪飾り。

ど、どうだ・・・?かれこれ結構悩んだんだが・・・

 

 

「可愛い・・・!とっても嬉しいです!ありがとうございます!サクさん!私・・・私・・・!」

 

「お、おい!泣くまでの事か!?」

 

「うわああああああん!ありがとうございますうううううぅぅぅ!!サクさあああああああぁぁぁん!!」

 

 

宿一帯に幸せそうな泣き声が響き渡った───




書きたいこと書いてたらほぼ1万文字行ったじゃねぇか!
あっさり読めるのを目指してたのによぉ!!


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【休日編】exー02 この真夏の海に美女と水着を!

今回の話はドラマCD(アニメと声優が違うやつ)の話の導入となっております。




「暇だなぁ・・・限りなく暇・・・・・例えるなら変にボケる観光ガイド位暇・・・・・」

 

 

どしよ、適当に街ブラブラすっかな・・・療養ってことで最初は舞い上がってたが・・・いざこうなると暇な物だねぇ・・・

 

昼間から酒を引っ掛ける気にもなれないのでとりあえず適当な飲食店で昼食を済ませよう。そっから何するかを考えよう。

 

~*~

 

「いらっしゃいませ!ご注文はいかがなさいますか?」

 

 

家族で切り盛りしている飲食店・・・まぁ別に珍しくもない。親が厨房に立ち、子はウェイター・・・よく見る光景だ。

 

どうしよっかな・・・案外メニューが多い・・・良い穴場見つけたな、役得役得。

 

 

「それじゃこの日替わり定食1つ。後、ネロイドも」

 

「了解しました!日替わり1つ入りましたー!」

 

 

元気な声で別の客の場所へと向かった娘。良い家族だな、うん。俺の家族・・・・うん(泣)碌な奴がいなったよ・・・泣きたい・・・

 

少し感傷に浸りながらも閑散としている店内を見渡す。やっぱこの時期じゃ外食する奴も少ないか。普段の客の量を知らないから何とも言えないが。

まぁこういう静かな店は嫌いじゃない。

 

 

「お待たせしました!日替わり定食にネロイドです!」

 

「ん・・・ありがとう」

 

「どういたしまして!それではごゆっくりしていって下さいね!」

 

 

そう言って机に置かれた大きめのお盆に乗ったジョッキにその他もろもろ数品。

メインのカツが香ばしい匂いを放ち、カラッと揚がった狐色が食欲をそそる。他のコンソメのスープにサラダも案外丁寧に作ってある・・・今後もちょくちょく来るとするか。

 

まずはザクッと豪快にカツを一口。肉汁が溢れだし衣が持つ若干の甘味と食感が具の豚肉と合わさって何とも言えない旨味を演出している。

また添えてあったキャベツも一緒に口へ放り込めばそれだけで食感に変化が生まれ少し濃いめな油も緩和され、軽く食べられるようになった。

 

このスープも・・・具にしっかり味が染みてて旨いしサラダもシャキシャキで青臭さが殆ど感じられない。いやぁ、ホント良いところ見つけたな、こりゃ。

 

今度ゆんゆん連れて来よっか・・・ゆんゆん・・・夏祭り・・・舌で・・・・・ウッアタマガ・・・

 

何でこのタイミングでアレ思い出すかな・・・ホントその場の雰囲気に流された感は否めないけど・・・何で俺あんな事したんだろ・・・解せnあぁ!?

 

 

「ちょっと!お前らなに!?まだカツ食べてるんですけど!!」

 

「「・・・・・」」

 

「タ、タキシードってお前ら同業者(ギルド職員)か!そうなんだろ!?ていうかまだカツ食べてるんですけど!!ちょっと!」

 

 

何々!?何で俺同僚に無言で両腕掴まれて引きずられてんの!?ていうかまだカツ食べてるんですけど!!ねぇ!連れてっても構わないけどカツ!カツ食べさせてよ!!

 

そんな俺の願いを聞き入れてくれたのだろうか。俺が料金を払ってお盆を左手に持つと再び仮面にタキシードの謎の連中は俺をどこぞへと引きずっていった。

 

止めて!乱暴するつもりでしょう!?─────エロ同人みたいに!!

 

~*~

 

「・・・で?モグモグどういう事かちゃんとモグモグ説明・・・モグモグしてくれま・・・ゴックンすよね?」

 

「うん、モノノベ君。喋るか食べるかどちらかにしましょう?というか・・・何で定食丸ごと持ってるの?」

 

 

現在、ギルドの裏部屋にて手以外を縄で拘束され酒樽に詰められている。

やっぱりあいつらギルドの職員だったか・・・ていうか何で俺はこんな状況で目の前の所長とルナさんをどうすればいいの?

 

酒樽に詰められる時点で訳が分からないけどさ。

あ、衣落ちちった。もったいない・・・

 

 

「うむ、モノノベサク。君には依頼があってだな─」

 

「所長、こんな状態の人間へのお願いっていうのは一般的に恐喝っていうですよ」

 

「モノノベ君、話が進まないからちょっと・・・ね?」

 

「今日君を()()()のは同僚・・・職員としてではなく冒険者としてだ!君にはサトウカズマ率いるパーティーに再研修の講師を頼みたい!引き受けてくれるね?」

 

 

呼んだってか連行した・・・だろうにモグモグ。

やっぱ旨い・・・講師めんどくさい・・・モグモグ。

 

 

「はい、トンカツ美味しいでふ」

 

「モノノベ君・・・そうじゃなくて、講師の件、引き受けてくれるかしら?」

 

「ゴックン・・・別に構いませんよ。ちょうど暇してたとこですし。で?何処でやってるんですか?それ」

 

「アクセル郊外の海岸で行うようだ!メインの講師はミツルギ君に頼んであるから彼に詳しくは聞いておきたまえ!」

 

「了解・・・てか、これ外してくれません?」

 

「うむ!それでは健闘を祈る!」

 

「えちょっ・・・これ、縄・・・」

 

「じゃあねモノノベ君。頑張って!」

 

「そりゃ頑張りますけど・・・縄外してよ?え?ルナさ~ん!しょちょー!聞こえてますよね!?」

 

 

出てっちゃったよ・・・何これ?ぶっ壊してもいいの?後でとやかく言われたりしない?

いや、おかしいだろ!?何でこんな状態で放置!?黒ひげ危機一髪じゃねぇんだよ!何が悲しくてずっと酒樽に籠ってなきゃなんねぇんだ!!

 

 

「ふんっ!!」

 

 

酒樽の中で体を思い切り丸め、そこから勢いよく大の字に体を広げる。思っていたより野太い声が出てしまったがま、憐れ酒樽は爆発四散し縄も細切れになってしまった。

 

肩凝りが酷いな・・・後首も。

肩と首をゴキゴキと音を鳴らしながらギルドを後にするととある二人組と遭遇した。

 

 

「・・・ん?店主にゆんゆん、何やってんだ?」

 

「あ、モノノベさん。こんにちは~。これからギルドに頼まれてる仕事をやりに行くんです。そしたらゆんゆんさんと偶然会いまして」

 

「サ、サクさん!?───よ、良かったらその・・・お仕事、手伝ってもらえませんか?私、こういうの初めてですし・・・」

 

 

なんだ、俺と同じ用件なのか。

それなら都合が良い・・・

 

 

「別に構わんってか、ついさっき俺も同じ用件を頼まれたとこだしな」

 

「そうなんですか!な、なら一緒に行きましょう!そうしましょう!」

 

「・・・・・お盛んですね~・・・」

 

 

おいこらアホリッチー。勘違いすんなよ。成仏させんぞ、それも未練タラタラなやり方で。

 

 

「だぁ~!ちょっ!ゆんゆん!押すな押すな!」

 

「フフッ!早く行きましょうよ~!」

 

 

何こいつ!?こんな積極的だったっけ!?・・・うん?酒の匂い・・・軽く酔ってる?

ゆんゆんに背中を押されているお陰で録に障害物を避けれず次々と顔面に何かが直撃していく。

 

・・・痛い、キャベツ狩りの時もそうだったけどやっぱゆんゆんって隠れS・・・?隠れっていうか天然。

とりあえず後でゆんゆんがこんなんになった元凶であろう店主はお仕置きだな。

海岸でちょっとグニャッとした海草の成れの果てみたいなのを散々踏むように仕向けてやる。

 

~*~

 

水着!!圧倒的水着!!

真夏の日差しの下に晒される乙女達の白い柔肌。

アクアは一応なんちゃって女神の名に恥じないバランスの取れたスタイルを。

めぐみんは発展途上ながらも冒険者として生きてきただけはあるしなやかでスラッとした体つきを。

ダクネスは騎士として若干筋肉質ではあるものの余分な肉は胸にしか・・・余分ではないか。とにかく、脂肪が殆ど付いていないが出るとこはかなり出ているエロい体つきを。

店主はダクネス以上に豊満な体にリッチーの白く美しい素肌を。

我らがゆんゆんは幼さの残る容姿とは裏腹に発育良好。めぐみんと同い年とは思えないほどの豊満な果実を持っているが、やはり年相応の少し丸みを帯びた、しかし全体的にスラッとしているとにかく完璧としか言えないスタイルを。

 

5人の水着姿を悲しい男3人衆は水着にマララギは青、カズマは緑、俺は灰色のジャケットを羽織り眺めていた。

 

 

「おいマララギ。研修はどうした?」

 

「マララギじゃありませんアララギでもありません!僕はミツルギですよ!」

 

「まぁまぁ落ち着けよカツラギ。取り敢えず研修を始めたいんだったらあいつらをどうにかしてこいよ」

 

「ミツルギだと言ってるだろう!全く・・・というか僕にあそこへ突っ込めと?」

 

「「うん、そだよ」」

 

 

イヤー、アンナエデンニツッコメルナンテウラヤマシーナーモーデュララギクンハシアワセモノダヨーアーハッハッハー。

・・・ん?あれは・・・・・

 

 

「サクさ~ん!」

 

「カズマさ~ん!」

 

カズ、サク「「我が世の春が来たあああああああぁぁぁぁぁっ!!」」

 

 

なんだあの極楽浄土を具現化したような絵は。

黒色のワンピース・・・ほぼスク水にしか見えないけど。まぁ、その黒髪が日に照らされ軽く輝かせながらこちらへと駆けてくる。

アクアも同様に普段の駄女神のなりは身を潜め、今だけはちゃんとした女神の様に写った。

 

横でミツツキが項垂れているのが見えたがそんなの知った事か。俺は行くんだ!あのエデンへ!

 

 

「サクさ~ん!」

 

「カズマさ~ん!」

 

「お、おう!どうしたー!?」

 

 

俺とカズマがやけに緊張し上擦った声で返事をする。

・・・・・ん?何でダクネス達は何か変な方に走ってってんの?何かあったのかな?

 

 

「カズマさ~ん!────岩場からアンデッドが出てきたのよー!助けてー!」

 

「サクさ~ん!私もですー!何でか巻き添えにされちゃったんです!助けてください!!夏場のアンデッドの腐乱臭はツラいんです!!」

 

 

───カズマ、行くぞ。

 

何故だか心が通じあった気がした。

恐らく同じ思考を持って動き出した俺たち二人はまず俺がアンデッドの元へと向かった。

 

そして・・・・・

 

 

「ぎゃああああぁぁぁぁ!?吸われる!吸われるぅ!!」

 

 

やはり、ミロカロスからドレインタッチしたか。

そして俺の背後から大量の水がアンデッド達に降りかかったかと思うとカズマ渾身のフリーズで5、6体程のアンデッドの群れは綺麗に氷像となった。

 

俺はというと捨ててあった酒瓶を拾い上げ紅姫の能力で強化し────

 

 

「ジャスト───ミートゥッ!!もういっちょ!!」

 

 

氷像を遥か彼方へホームランしましたとさ───

 

 




お気に入り400件突破、ありがとうございます!

このすば2期、そろそろですね。
取り敢えずバニルとゆんゆんが楽しみです。


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exー03 この自己中勇者から研修を!

最近、描写が下手になってきて・・・若干スランプ・・・


  

「っと、つまり何だ?ミツルギが体力、剣術面の指導でゆんゆんが魔法の制御、店主が最後に心構えを教えてくれる。んで俺は逐一ヘルプに回れと」 

 

 

海岸線沿い、波が一定のリズムで砂や貝などを運び、さらっていく音を背景に7人の男女は集まって何やら話し込んでいる。

沖では青髪の少女が何もない水上でターンを決めたりと考えられない神業を披露しているが誰もそれに見向きせずトボトボと少女は海から上がってきた。

 

 

「そういうことです。それでは研修に入ろうと思う。何か質問はあるかい?」

 

「特に無いな」

 

「右に同じく、です」

 

「私もだ」

 

 

ミツルギの問いかけに軽く返答を返しながら各々勝手に準備運動を始めたり、話を始めたりする。

特にめぐみんは何やら剣呑な雰囲気で講師役のゆんゆんに食って掛かってる。

 

 

「ゆんゆん!紅魔族随一の天才であるこの私に一体何を教えてくれるのでしょうね~?さぞ為になるんでしょうね~?」

 

「魔法の制御とか色々よ!」

 

「陰湿な姑か己は」ペシッ

 

 

露骨に嫌みな雰囲気を出しながらゆんゆんに絡んでいるめぐみんの頭を軽くサクがはたくとアウッと声を出して少しだけ大人しくなる。そしてその後ろではカズマとウィズが

 

 

「しっかし、ウィズが講師役か・・・店の方は大丈夫なのか?」

 

「えぇ、どうせお客さんも来ませんし・・・それより講師のバイト代を貰えないと今日のご飯も砂糖水になっちゃうんです・・・ここ最近、固形物をお腹に入れてませんから・・・」

 

「そ、そうか・・・」

 

 

なんだか負のオーラを放ちながら心なしかゲッソリとしているウィズを見てカズマが少し狼狽えていると再び沖に繰り出したアクアを回収してきたミツルギが息を切らしながら帰ってきた。

 

 

「で、では・・・研修に入ろうと思う・・・!」

 

「それさっきも聞いたんだが」

 

「えぇい!もう余計な口は挟まないでくれ!これ以上脱線していたらキリがない!」

 

「なぁなぁゆんゆん。あのミ・・・ふふふさん、意地でも自分のペースに乗せたいみたいだぜ?そうでもしないと出来ないんですかね~」ヒソヒソ

 

「サクさん!ミ・・・さんに失礼ですよ!でも・・・あぁして自己中心的な所は私もちょっと・・・」ヒソヒソ

 

「そこ!全部聞こえてるからね!!」

 

「お気になさらず~」

 

 

耳打ちしあっていたサクとゆんゆんに指を指しながら絡んできたミツルギを軽く流したが当の本人はさほど気に止める様子も見せず話を続けた。

 

 

「まず、基礎的な体力を図ろうと思うからあそこの灯台までランニングと行こう。別に辛くなったらその時点でギブアップしてもらっても構わない」

 

 

こうしてようやく、録でもない研修の幕が上がったのだった───

 

~*~

 

「ハァ・・・ハァ・・・!マ、マツラギィ!もう辛いから・・・ギブアップしてもいいかぁ!?」

 

 

砂浜で足をとられ走りにくい・・・という要素を含めても開幕5分でバテているカズマは必死のエスケープを出した。

 

そんな中、ノロマだと思っていたダクネス、体力の低いめぐみんにも追い抜かれカズマはビリをゆっくりと走っている。荒い呼吸を小刻みにしているその姿は今にも倒れてしまいそうだ。

 

 

「君・・・幾ら早く終わりたいからって無理があるよ?それとも何かい?君は魔法使いの女の子以下の体力をしてるって言うのか?」

 

「うるせぇ!これでも・・・全力なんだよ!!」

 

「えっ・・・本来、人にステータスを聞くのはマナー違反なんだけど・・・良かったら冒険者カードを見せてくれないかい?」

 

「ほ、ほらよっ!!」

 

 

必死の形相をしているカズマが叩きつけるように差し出した冒険者カードを見たミツルギは顔色を変えた後に態度を180度変えた。

 

 

「そ、その・・・大丈夫かい?辛いんだったらギブアップしても良いんだよ?ほら、肩貸すよ」

 

「や、やめろ!優しくすんな!俺はまだやれる!」

 

 

ミツルギの天然優男気質で二重に苦しめられるカズマさんでした。一方、他の講師組、サクにゆんゆん、ウィズはというと────

 

~*~

 

「はぁ・・・バカだろこの店主。頭の良いただのバカだろ・・・」

 

「ま、まぁサクさん・・・そう言わずに・・・」

 

 

日光にやられたウィズを木陰へと運び、南国っぽい木葉で呆れながら彼女の体を扇いでいましたとさ。

グルグルお目目で倒れているウィズを他所にこれからの研修が不安になりサクはもう一度深いため息を付く。

 

 

「はぁぁ・・・どうなることやら・・・っと、帰ってきたみたいだな」

 

「そうみたいですね・・・って、カズマさんどうしたんでしょう?やけに疲れてるような・・・」

 

 

フラフラと覚束ない足取りで帰ってきたカズマと愉快な仲間達。それぞれ軽く汗を掻いているがカズマの様に死にそうになっている者は誰一人としていない。

 

 

「それじゃあ・・・剣術に入ろうか・・・大丈夫?やれるかい?」

 

「優しくすんなって・・・言ってるだろ!・・・そんなより早くやるぞ!・・・」

 

「そうだな、それでは早くやるとしようではないか」

 

「何で君が進めてるんだい・・・」

 

 

ミツルギの用意した木刀を勝手に構え、勝手に始めようとするダクネスとカズマに憂鬱になりつつも彼も木刀を取り、内容を伝え始める。

 

 

「それじゃあ一人ずつ掛かってきてくれるかな?そうやって欠点を見つけて指導すらから」

 

「ちょっと待て、これでお前から1本取ったらもうやる意味もない。だから1本取ったら終わりでもいいか?」

 

「う~ん・・・それもそうか。良いよ、それで構わない」

 

「それではまず私からだ!行くぞ!」

 

 

勢い良く飛び出していったダクネスの木刀は空を切りミツルギの足元の砂を叩いた。

とんでもないノーコン具合である。

 

顔を赤くしたダクネスは直ぐ様弁明もとい、言い訳を始める。別にこの場にいる人達は彼女の剣が一切当たらないことを知っているにも関わらず。

 

 

「ち、違う!これは相手の足元の砂を勢い良く巻き上げて目潰し効果を狙うアレであって、外した訳では・・・!」

 

「はいはい、ノーコンなのは分かってるから。お前もう下がってろ」

 

「!?・・・意外と、悪く・・・ない・・・」

 

 

別の意味で赤くなったダクネスを他所に今度はカズマが飛びかかった。あのパーティーの中では唯一マトモに攻撃のできるメンバーだ。

木刀と木刀のぶつかり合う音が響き、ようやくそれっぽい雰囲気になってくる。

 

 

「一応、様にはなってんな・・・ん?この感じ・・」

 

 

サクが何やら感じ取ったのだがそれに気付いた者はおらず、また彼も気のせいだと済ませてしまう。

そんな中、つばぜり合いになっている両者は睨み合って動こうとしなかったがカズマが口を開く。

 

 

「所でマツラギ・・・お前が崇めてるアクアだが・・・後ろで溺れかけてるぞ」

 

「!?ア、アクア様!!?」

 

「隙あり!!」

 

 

良く考えれば幾らでも水の中に居られるアクアが溺れるなどあり得ない話なのだがそれでもミツルギの気を逸らすには十分。

名前を間違えられているのにも突っ込まず勢い良くカズマに背中を向けた。その隙に彼の頭頂部に勢い良く木刀が叩き付けられる。

 

 

「欠点その1、不意打ちに弱い」

 

「欠点その2・・・アクアに気を取られすぎだな」

 

 

カズマとダクネスに見下されながら何やら趣旨の違うことを言われているミツルギが悔しそうに言葉を放つ。

 

 

「誰が僕の欠点をあげろと・・・全く!こんなのは無効だ!到底1本とは言えない!」

 

「凄いですね~カズマさん・・・やっぱりレベルだけでは分からない強さというのもあるんですね・・・」

 

「カズマさんは凄いけど・・・ミ・・・さんも凄かったと思いますよ?・・・でも高レベルのソードマスターっていうプライドで意地でも負けを認めないのは・・・それに負けた後に言い訳するのって何だかめぐみんみたい・・・」

 

「おい、今のはどういう意味か聞かせてもらおうじゃないか」

 

 

再びゆんゆんに突っ掛かるめぐみんを他所に二人からの無意識な精神攻撃でミツルギのライフはもうボロボロになっていた。

 

 

「ご・・・だ・・・」

 

「え?なんて?」

 

「ごう・・・よ・・・」

 

「もっと大きな声で!」

 

「えぇい!何処の鈍感系主人公なんだ君たちは!合格だよ!合格だと言ってるんだ!!」

 

 

合格を貰ったカズマがダクネスに剣を当てれるようにしろと説教して、彼女が目を背けているなか、サクがスッと立ち上がった。

 

 

「合格おめっとさん。んじゃ俺からも1つ」

 

「ん?どうしたんだ?・・・こら!無言で逃げようとすんな!」

 

「相手すんのがいつも人間大な訳は無い。そこで大型モンスターの対処を俺が実践してやる」

 

「それはありがたいんだが・・・大型モンスターなんて何処にいるんだ?」

 

「真後ろ」

 

 

そう言うと沖からいきなり巨大なクラーケンが現れた。触腕を振り回し、海を割りながら進んでくるその姿は海の悪魔というに相応しい風格をしている。

 

サク以外の一同がアングリと口を開けているなか、サクだけは悠々と散歩でもするかのようにポケットに手を突っ込みながら海岸へと歩いていく。

 

 

「幾ら威力が高かろうと範囲が狭いんじゃ効果は薄い!だからデカブツを相手する時にゃあ・・・」

 

 

ウィズが息を呑んだ。彼女の視界に映った紅姫も持たず白い息を吐く彼の姿。それを見た瞬間普段では絶対に発しないような大声を上げる。

 

 

「皆さん今すぐ離れてください!!海岸からできる限り!!」

 

「な、何だ何だ!?」

 

 

切羽詰まった彼女の声に素直に従って退避した直後、サクが何やらスキルを使った。

 

 

『氷河の地平線』(グレイシア・ホライズン)!」

 

 

彼が海水を勢い良く踏みつけるとそこから海が凍りだし、辺り一面を氷漬けにしてしまった。

そんな異様な光景にポカンと呆けているカズマやゆんゆん達を背にしながら彼は氷の上を歩き出す。

 

クラーケンが触腕をうねらせ彼の元へと槍のように突き出す。喰らってしまえば無事では済まない一撃。

しかし、彼は相変わらず気だるそうな立ち姿を崩さず回避をしようともしない。

 

 

『絶対零度の楔』(ウェッジ・アブソルート)!!」

 

 

触腕に向かって放たれた上段蹴り。

彼の蹴りと触腕が接触した途端、触れた箇所から蹴りと同じ軌道でクラーケンの巨体をも多い尽くすような氷の十字架が飛んでいく。

 

十字架がクラーケンを貫き、一瞬でそのからだを1つの氷像にしてしまう。あまりにも一瞬で一方的な闘いは直ぐ様その幕を閉じた。

 

 

「あ・・・アクアって・・・この辺で泳いでなかったっけ?」

 

 

とんでもない技を披露した張本人は呑気にそんなことを呟いていた────

 




我ながら描写下手すぎやろ・・・


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exー04 この紅魔族と多少マトモな研修を!

新しく活動報告書きました。良ければ見てみて下さい。色々自分が描いた絵も乗せましたんでよければ感想よろしくお願いします。


「ぐすっ・・・うぅっ・・・サクさんに殺されかけたぁ・・・」

 

「あぁ・・・えぇ・・・その・・・悪気は無かったんだ」

 

「・・・殺る気があったぁ・・・・・」

 

 

め、面倒くせぇ・・・!普段はギャーギャーうるせぇくせに面倒くせぇ・・・!例えるならジャンプアニメで心折れた主人公レベルで面倒くせぇ!

 

俺がクラーケンを倒した後、水面下から氷を浄化しながら気絶したアクアがプカプカと浮かび上がってきた。砂浜に連れていき俺やカズマの『ティンダー』で何とか体を暖めてたんだが・・・起きた途端この様だし・・・いや、今回は俺にも非があるけど。

 

・・・取り敢えずアクアが起きたんだから研修再開だよな?まぁ俺は海の氷をどうにかしなくちゃいけないんだけども・・・こんな事に卍解使うのか・・・

 

 

「ミツ・・・何とか。勝手に次の内容に入っててくれや。俺はちょっと事後処理してくるから」

 

「え?・・・あ、分かりました・・・って!僕はミツルギです!半分出てたじゃないですか!!」

 

「へいへい」

 

 

ヒラヒラと手を振りながら海岸へと向かう。

果てしなく続いている海が見渡せる範囲の7割程が完全に凍りついていた。

波が押し寄せてくる音も聞こえず、魚類などの生命の気配も何も感じられない。ここだけはまるで時間が止まっているかのように静かだ。

 

はぁ・・・我ながら、制御は相変わらずヘタクソだな・・・もうちょっと範囲狭くても良かったのに。

これ位なら詠唱破棄の『蒼火墜』乱発した方が楽か・・・?いや、普通に卍解で改造して1回で終わらせた方が楽だな。

 

 

「卍解!」

 

 

せっせと研修を受けているカズマ達を他所に俺は1人悲しく氷を黙々と溶かしていたのでした。虚しい!

 

~*~

 

「そ、それでは!け、けけけ研修を行わせて頂ひゃぁっす!!」

 

「また分かりやすく緊張しているな・・・」 

 

 

俺たち講師役のゆんゆん以外・・・3人に見守られながらゆんゆんの研修が始まった。

緊張のせいで出鼻からグダグダだが・・・

 

 

「ゆんゆん!紅魔族随一の天才でa」

 

「お前は大人しくしてろっての!ただでさえ長くて面倒な研修がさらに伸びちまうだろ!」

 

「和真和真、多少本音は抑えようぜ?な?」

 

 

ホンット、辛く厳しい研修ってのは何処に行ったんだか。ほぼほぼお遊びじゃねぇか。

ていうか俺もいい加減暇だな・・・カツラギとしりとりでもしてよっかな。

 

 

「お~い磯野ぉ!しりとりしようずぇ!」

 

「中島ぁ!・・・じゃなくて、僕はミツルギです!いい加減覚えて下さいっていうか・・・覚えててやってますよね!?」

 

 

イヤーソンナコトナイヨーオボエテナイヨー

まぁいいや、こういうのは先に無理矢理引きずり込んで始めた方の勝ちだ。行こう。

 

 

「んじゃあ、しりとり!」

 

「も、もう勝手に始まってる・・・!?ええい!やるしかないのか!では───リス!」

 

「スリ!」

 

「リ、リ・・・・リスト!」

 

「鳥!」

 

「理解!」

 

「医療!」

 

「よ、よしきた!これなら・・・瓜!」

 

「倫理!!」

 

「もう『リ』は嫌だああああああ!!」

 

 

よし、勝った。計画通り・・・!

いやぁ・・・瓜から倫理の返しはいつやっても面白いなぁ・・・相手が長考するリアクションがホンットもう・・・面白いんだよ。

さて、暇潰しも終わったし、あっちはどうなってるのかなぁ・・・あぁ?

 

な、何で和真のぶん投げた石が爆発してんの?

何処の高校生探偵の世界?いやぬいぐるみに爆弾とか・・・ね?

 

和真が切羽詰まった様子で何やら赤色に輝いている手のひらより少し小さいくらいの小さな宝石のような小石をアクアからひったくり急いで海へ投げ捨てる。

 

すると恐らく石が爆発でもしたのだろう。高く水柱を上げながら派手な爆発音を轟かせる。森にいた鳥たちは一斉に飛び上がり水面にはプカプカと明らかにとばっちりを受けた魚たちが浮かんでくる。一瞬の騒乱が場を騒がしくするが直後に静寂が訪れた。

 

 

「・・・な、何なんだよあの石は!ゆんゆん!?」

 

「ひっ!すいませんすいません!で、でもあの石に上手く魔力を貯めて爆発しない程度に止める・・・ていう訓練なんです!」

 

「「「なんだ、話を聞かなかったアクアが悪いんじゃないか(ですか)」」」

 

「な、何でそうなるのよぉ!」

 

 

いや事実だからな?

察するに、めぐみんとかが石を使って何かやってたらアクアも遊びたくなって弄ってたら爆発したんだろ?・・・運がないな。うん、普通に可哀想。

 

 

「それじゃゆんゆん。次に進めてくれよ・・・ゆんゆん?」

 

 

すっかり怯えて卑屈モードに入ってしまったゆんゆんは何やら1人でボソボソと呟きながら波打ち際に小さく座って1人棒倒しに興じている。

何やってんだ・・・・・棒倒しって普通2、3人位でやるもんだろ?それを1人でって・・・強者?

 

 

「ま、まぁまぁゆんゆん。元気だして!再開しないと終わらないぜ?俺もできる限りフォローするから?もうちょっとだけ、もうちょっとだけやってみようぜ?な?」

 

「う、うぅ・・・分かりました・・・サクさんがそこまで言うなら・・・コ、コホン!それでは!次の内容です!まずこう・・・胸の前で手を合わせて合掌してください!」

 

 

お、おぉ・・・良かった。戻った戻った。

何やかんやで和真達もゆんゆんに習って胸の前で合掌した・・・が、俺と和真は恐らく・・・同じものを見つめているだろう。

 

深呼吸の指示で深く息をし始めた一同・・・もちろん多く空気が入ればその分、肺は大きく膨らむ。つまり肺が膨らむとそれに押し上げられて男なら胸板、女なら・・・果実がゆっさゆっさするのだ。

 

ゆんゆんはスク水・・・じゃない。黒のワンピースの水着を着ているので分かりにくいが・・・胸元を曝してビキニを着ているダクネスの果実は・・・・・それはもう、見事に揺れてくれてますよ。これでも言わんかとばかりに。

 

 

(あ、あのカズマとサクの獣のような視線・・・視姦というのも・・・悪くない///」

 

 

あれ?あいつ・・・・・顔赤いし息荒いし、とんでもない事を一部口走ってるんだけど・・・

 

 

「こうすることで大気中の魔力を効率よく取り込めるんですよ。どうです?役に立ちますか?」

 

「元々の魔力量が凄い私は魔力切れとかしたことないんですけど」

 

「えっ!?」

 

 

・・・・あ

 

 

「1日1回の爆裂魔法で使った魔力はこのくらいじゃ回復しませんし・・・この調子ではもう一度魔法を放つのは無理そうですね」

 

「えぇっ!!?」

 

 

・・・・あぁ

 

 

「そもそも私は魔力を貯めようとそれを使う手段が無いのだが・・・」

 

「えぇっ!?!?」

 

「「「使えない(わね/ですね/な)」」」

 

「うわあああああああん!!」

 

 

ゆんゆんの心がノックアウトどころか猟期殺人されちゃったよ。惨殺だよ、無惨極まりない有り様になるまで完膚なきにまで叩きのめされちゃったよ。

 

 

「おぉ~おぉ~ゆんゆん良し良し。どーどー・・・大丈夫大丈夫。ちゃんと役に立つ技術なんだから。な?」

 

「うっ・・・えぐっ・・・・サクさぁぁぁぁ~ん・・・!」

 

「はいはい泣かないの」

 

他一同(保護者みたいだな・・・)

 




フレミー可愛いよフレミー。


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exー05 この謎の研修に終幕を!(まだ終わらないけどね)

デストロイヤー戦、まだまだ公開する時期が未定な長編のシナリオばかりが書き上がって行ってる・・・おかげで全然本編が書けませんw

ちょっとシナリオちょい見せ↓
 

~デストロイヤー戦~

部屋に所狭しと詰められている何台もの防衛用の戦闘ロボット。各自がガチャガチャと武装をしており、突破は容易ではない。だが・・・

「心配いらねぇ。道は俺が作る。だからお前はその馬鹿力であの鉄格子もろともぶっ壊してこい」

「フッ・・・頼もしいな。本当にただのギルド職員なのか疑いたくなる・・・それよりも私を馬鹿力と言ったこと、後で覚悟しておくのだぞ?」

「ハッ!そいつぁ恐ろしいこって──行くぞ!」
~*~

『縛り紅姫』の投網がダクネスの腕を絡み取り、彼女の体を引き上げる。
勢い良く飛んでいったはいいが録に受け身も取れず顔面からデストロイヤーの壁面に激突してしまう。

「サ、サク・・・これはどんなプレイだ・・・!」

「ぶれねぇなおい!って!それどころじゃねえ!取り敢えず走れ!!」


~長編~

次の瞬間、その場にいた全員の視界からミツルギの姿は消え失せた。代わりに轟音が轟き、大量の土煙に城の残骸が舞い上がる。
青年以外、二人の少女の視線はすぐさま轟音の方へと向けられる。

そこには、壁にめり込み、拳型の跡を付けられた最早見る影も無い鎧をした、ミツルギの姿だった。
腕や足、所々の関節があり得ない方向へ折れ曲がり、深々とシャンデリアの破片が腹部に突き刺さっている。
~*~

「クリス松村!!」

「何で!!何でその4文字付けちゃったの!?折角合ってたのに馬面にしちゃったの!?あれかい!?ボクが時々男と間違われるからかい!?」

「ははっ、悪い悪い」


ツッコミお上手ですね、クリスさん。
~*~

「ずっと不満に思ってたぜ・・・ポッと出のガキに長年冒険者やってきた俺たちが抜かれるのは・・・こいつら痛め付けて見せしめにしてやる!」


・・・・何で反撃しない?
この辺じゃ多少腕の立つ位だったらあいつらでも勝てるだろうに・・・いや、それ所じゃないな。


「女の顔をキズモノにするとは・・・良い度胸してんね、オッサン」

「お、オメェはギルドの・・・!ヘッ!オメェみたいなヒョロヒョロの野郎に俺様が止めれっかよ!!」

「・・・これだから脳筋は・・・・・ラアッ!!」


大振りの拳を避け、回し蹴りを鳩尾に向けて放つ。
綺麗に足が腹を穿ち数メートル方向に吹っ飛んだチンピラは動かなくなった。が、それが不味かったらしい。他の血の気が多い野郎共に油を注いじまったみたいだ。・・・ハァ・・・・・
~*~

本編ど~ぞ~


「最後はウィズの研修か・・・ゆんゆんの研修、不完全燃焼感が凄いが」

 

 

今の状況、アクアは飛び魚ターン。ダクネス、触手モンスターが来ないかソワソワして海に石投げた。めぐみん、爆裂魔法撃ちたくてソワソワ。店主、講師役がようやく回ってきてソワソワ。ゆんゆん、心をへし折られて朔に慰めてもらい中。ミツルギ、何とか事態を落ち着けようとドタバタ。

 

研修とは何だったのか。ただの幼稚園の遠足である。まるで研修など最初から無かったように統一感が無く閑散としている。

 

このままじゃ、収拾付かねぇぞ・・・

 

 

「店主、とっとと始めねぇと収拾付かねぇぞ?これ」

 

「そ、そうなんですが・・・カズマさん達はともかく、あんな楽しそうに泳いでるアクア様を呼び戻したら浄化されそうで怖いんです・・・・・」

 

「まったく・・・超大物モンスター、リッチーがあんな駄女神にビビってるとは・・・魔王軍とかお前が昔ちょっかい出してたあの仮面野郎が知ったら何て思うだろうな・・・・」

 

「うぅ・・・で、でも!最近はちょっとマシになってきたんですよ?今までは共通の人語を使ってる筈なのに出会う度に話も聞かず浄化されかけてましたが、今はなんと!人語が伝わりますし浄化の刑が執行されるまでに猶予が出来たんですから!」

 

「人語が伝わるかどうかって・・・ボーダー低すぎだろ・・・低すぎて地面に埋まってるぜ?」

 

 

まぁ事実ディディー○ングみたいだなって思う事はあるけどさ。和真に泣きついてる時なんて特に。

これ言ったらまた本人がうるさそうだから黙っとくけども。

 

 

保護者(和真)、ちょっとアクア引っ張ってきてくれないか?話が進まん」

 

「あ、あぁ!そうだな・・・おーいアクアー!そろそろ戻ってこーい!でないとスティールで剥いたるぞー!」

 

一同(和真以外)『こ、ここまでおおっぴろげにセクハラ出来るなんて・・・恐ろしい子・・・!』

 

 

流石にあの発言には危機感を覚えたであろうアクアが沖から帰ってくると和真達四人を並ばせてウィズがようやく研修を始めた。

内容は・・・冒険者としての心構え、だっけか?普段下手にしか出れないアクアに上から物が言える数少ない機会だ。・・・・・何だか荒れそうで怖い。

 

 

「遂に・・・!遂に私の研修ですっ!」

 

「テンション高いな・・・ウィズ・・・」ヒソヒソ

 

「きっと、アクアに物言い出来る数少ない機会なのだから、興奮しているのだろう」ヒソヒソ

 

「カズマ、ダクネス。その辺りにしておいた方が良いですよ。さっきからウィズが目力だけで私達をブッころがせそうな視線を向けてますから」

 

「せっかく気持ち良く泳いでた所をカズマさんに呼び戻されて来たわけだけど、ウィズ何かがこの完璧なアクア様に何を教えてくれると言うのかしら?」

 

 

おう駄女神。さらっと刺さること言ってやるなよ。

あの一言でウィズが一転して涙目になってるじゃないか。赤い顔でメチャクチャプルプルしてて今にも泣き出しそうだよ。

というか、十中八九泣きついてくる先は俺なんだから厄介事・・・でもないけどまぁ、面倒な事を増やしてくれるなよ。

 

 

「私からは、冒険者として最も大事な事について教えたいと思います!みなさん、何だと思いますか?」

 

「急に学校の先生みたいになったな・・・案外しっくり来るし」

 

「それでは・・・めぐみんさn「火力です」違います!」

 

「えぇっ!?」

 

「えぇっ!?じゃありませんよ・・・確かに火力も大事ですが!それよりも、もっと大事な事です!それでは・・・ダクネスさn「捨て身」違います!」

 

 

ダクネス、めぐみん。振りに対して喰わせ気味・・・つうか食い込み過ぎて離れないレベルまで行ってる。ダメだぞそんなのじゃ。ある程度間を置いてからのボケも大事なんだから。そんなんじゃ漫才師になれないゾ。

 

 

「いや、時に仲間を守るためには己の身を省みないほどの覚悟・・・捨て身が必要だと思うぞ」 

 

「少しは自分の身も省みて下さい・・・!」

 

「おっ!勇気と来たもんだぞ、このお嬢様!この世知辛い世の中で、格好いい事言っちゃってるぞ!」

 

「シーッ!カズマさんカズマさん!ダクネスはね、英雄とかが出てくる英雄譚が大好きなの!そんな純情なダクネスは、そのままに純情なままで居てもらいましょうよ!」

 

「い、良いと思いますよ・・・?英雄譚!私も好きですし、格好良いですもんね、英雄!」

 

「・・・死にたいッ・・・・・!」

 

 

あのくっ殺系ドMクルセイダーが珍しく恥じらっている貴重な1場面。永久保存だな。

 

 

「答え、出そうにありませんね・・・」

 

「いや、あいつらにマトモな回答を求めてる時点でアウトだろ」

 

 

逆にウィズの中での和真パーティーの評価はどうなってるんだ?まぁ、上手く使えれば曲がりなりにも魔王軍幹部も倒せた訳だし・・・いやでもなぁ・・・

 

 

「皆さん!良く聞いてくださいね、正解は――――仲間との団結に絆、です!どんな強敵でも仲間との団結で乗り越えられます!ですから実戦形式で皆さんの絆を試したいと思います!」

 

 

ドヤ顔でふんぞり返りながら何だかキラキラしているウィズをミツルギ以外の冒険者は案外白い目で彼女を見ていた。

かくゆう俺も・・・あいつのパーティーってほぼウィズの一枚岩じゃなかったっけ・・・そんな事を思い、ちょっと疑心暗鬼になっていた。

 

 

「私が今からこの、胸の谷間に仕込んでおいた・・・んしょっ!この魔道具で今からモンスターを呼び出します。ですから皆さんで協力して団結し、そのモンスターを倒してください!」

 

「いや、そんな事よりもその小瓶を取り出した動作、もう1回やって欲しいんだが・・・」

 

「右に同じく」

 

 

和真に便乗して色々言っとけ。

ちょっとしたおふざけのつもりだったのだろうか。ウィズが胸の谷間からわざとらしい動作で何やら明らかに怪しい色をしている液体が入った小瓶を取り出す。

だが俺と和真にとってはそんな小瓶なぞアウトオブ眼中だ。

 

プルンと揺られた豊満な果実をもっと見たい。そう思うのはいけない事でしょうか。否、当たり前の欲求である。従ってそれでも僕は悪くない。

 

そんな正直どうでも良いやり取りを他所に、彼女の小瓶から何やら灰色の煙が吹き出しそれに乗じたかのように辺りが雲に覆われ薄暗くなり、海は荒れ狂い始める。

 

へぇ・・・ようやくそれっぽくなってきたな。

 

恐らく和真も同じことを思っているのだろう。

若干緊張の入り交じった感心の表情を浮かべている彼の横では何かと当たるアクアの悪い予感が発動していた。ダクネスは何やらクラーケンだの触手責めだのと頭の悪い事をブツブツと呟き、めぐみんも杖を握りしめ、臨戦体勢に入っていた。

 

 

「そろそろ・・・来るかな」

 

 

俺が何となくそう呟いた直後だった。

海を割りながら浮かび上がってきた巨大な影。辺りには無数の触手が蠢き、黄金色の両目は冷ややかにこちらを見つめている。

そう、海の悪魔と名高いクラーケンだ。それも、俺が少し前に倒した奴よりも幾分か大きい、明らかにこの辺りの海のボスの様な風格を漂わせている。

・・・もしかして、俺が倒したあのクラーケンって・・・今目の前の奴のJr.か何かだったの・・・?いやいや、ないない・・・筈。

 

 

「お、おいウィズ!幾らなんでも、あれはやりすぎなんじゃないか!?」

 

「カズマさんカズマさん、私の役目はダクネスに支援魔法を掛けたら終わりだからその辺でバーベキューの準備でもしていていいかしら?あっ!出来れば触手の1本や2本、取ってきてね!」

 

「アクア・・・相変わらずだな・・・・」

 

「あぁ・・・愛しのアクア様・・・!変わらずお美しい・・・!」

 

 

おいコラミツルギ。今さら思い出したようにアクア溺愛キャラを出してくるんじゃねぇぞ。阿久根先輩ですかこのヤロー。

 

 

「カズマ・・・もしもだ。万が一にでも私がクラーケンに捕まったとしてもなるべく助けないでくれ。出来る限り触手プレイを楽し・・・じゃない、出来る限りクラーケンを引き付けておくからその間に攻撃をするといい」

 

「何を頭の悪い事を言ってるんだ・・・ていうか、今触手プレイされたいって言っt「言ってない」・・・言っ「言ってない」・・・そうだな」

 

「カズマ!撃って良いですか!?いいえ!あんな大物に撃ち込まずして、何に撃てと言うんですか!」

 

「お前は勝手に結論を急ぐな!もしもの為に爆裂魔法は取っとけ!ていうか制御率98%は信用ならねぇから、絶対に撃つなよ!!」

 

 

苦労人だな、和真。今度ジュースを奢ってやろう。9本で良いかな。というか・・・ウィズの言ってた団結で、どうにかなるレベルなのかな?あれは。

ハッキリ言うが、和真のパーティーには爆裂魔法という一瞬、一発の瞬間火力は凄まじい攻撃があるが、逆に言えばそれだけ。低レベル冒険者のカズマ、精々ちょっと喧嘩が強い位のアクア。そもそも論外であるダクネス。

 

そんなメンバーであの特大クラーケンがどうにかなるとは思えない。まぁ、なんやかんや奇跡を起こしてきた訳だし、のんびり眺めるとしよう。

 

 

「カズマさん、あの相手には剣よりも弓の方が効果的ですよ」

 

「ウィズ・・・頼むから内のパーティーメンバーを店で永久に働かせるからパーティーに入ってくれないか?」

 

「えぇっ!?・・・そ、そう言われましても・・・でも・・・あぁやっぱり・・・」

 

「いや迷うなよ店主。ていうか、向こうさんもそろそろ限界だとよ」 

 

「うおおおぉぉっ!?来たあぁっ!?」

 

「カズマさん!頑張ってください!いざとなれば私達が出ますので!」

 

「なら今出てくれよぉぉぉっ!!」

 

 

何故か幸運の高い和真を追い回すクラーケンとそんなクラーケンの触手を物惜しそうな赤い顔で追い掛けるダクネス。世界中どこを探そうと見つからない絵柄だな、うん。

というか、何アクアは鼻歌歌いながら意気揚々とバーベキューの準備してんだ・・・・・

 

 

「おいカズマ!ここは私がクラーケンを引き付ける!だからその隙に攻撃をするんだ!」

 

「よぉし!んじゃあととっとと捕まってこい!そのまま一緒に弓矢で撃ち抜いてやるから!!」

 

「んっ・・・くうっ・・・!」

 

「サク!この状況!皆の団結力で状況が刻一刻と悪い方向に進んで行ってるんですが!?」

 

「おぉおぉめぐみんめぐみん、大丈夫」

 

「な、何が大丈夫だと言うんですか・・・?」

 

 

それはですね・・・

俺はゆっくりとこちらに訴えかけてくるめぐみんの後ろへ指を指した。

 

 

「捕まっ――――たああああぁぁぁぁっ!!」

 

「刻一刻進んでるどころか、F1カーレベルの速度で落ちていって奈落の底だから。速度メーターの針もマイナスに振り切れてるからね、あれ」

 

 

嬉しそうな表情でクラーケンの触手に捕まったダクネスとそれをあたふたしながら必死にピョンピョンしている和真だった。

真っ暗な顔で絶句するめぐみん。どうやら言葉も出ないらしい。

 

 

「な、何とかして下さいよサク!本当にどうするのですか!?私の爆裂魔法を使うしかないですが、それだとダクネス諸ともチリになってしまいます!」

 

「めぐみん!こういう時こそ落ち着くのよ!落ち着いて素数を数e」

 

 

何処から出てきたのか、人差し指を立ててドヤ顔でめぐみんに対処法を説き始めたゆんゆん。

多分面倒になった作者がサボる為、読者サービスの為にプッチ神父式落ち着き方を説こうとしたゆんゆんが触手にテイクアウトされる。

 

 

「いいいぃぃぃやああああぁぁぁぁっ!!?触手はいやああああぁぁぁぁっ!!」

 

「良いぞクラーケン!―――――あああぁぁぁっ!?ビデオカメラがねぇぇぇっ!!畜生!どうする!?脳内フィルムに保存するか!?」

 

「お、おい朔!何そんな事言ってるんだ!そんな事言ってる暇じゃ―――――」 

 

 

次の瞬間、今まではただただダクネスやゆんゆんの体を撫で回すような動きだった触手が急に動きを活発にし、体を締め付け、彼女達の局所を責めるような動きになってくる。

 

 

「んんっ!この締め付け悪くな―――い、いや!それだけは止めろ!止めるんだこのエロ触手!!裂くぞ!!」

 

「いやああぁぁっ!!触手いやなのぉぉっ!!―――ちょ、ちょっと落ち着きましょう触手さん!?そ、そこはダメ・・・キャアアアァァァッ!!水着!水着持って行かれちゃうううぅぅぅっ!!」

 

「だあああぁぁぁっ!!何で俺は異世界に来るとき、ビデオカメラじゃなくて、アクア()()を持ってきたんだああっ!!」

 

「!?・・・うわあああん!!ウィズ!ウィズゥ!!カズマさんに酷いこと言われたぁ!!」

 

 

特濃、大量のアクアが流したアクアのせいで軽く浄化されているウィズ。やっぱ不憫過ぎるなぁ・・・ていうか普段はウィズを目の敵にしているクセにこういう時にはアイツに泣きつく辺り、狙ってるのかツンデレなのか・・・

 

と、そうこうしている内に事案が発生しようとしていた。触手が二人の水着に執拗に絡み付く。張り付いた触手は何故かヌルヌルの謎な液体を滴らせながら水着を引っ張っていく。それに準じて幼いゆんゆんの柔肌、ダクネスは少し成長した大人な白い素肌を。

 

そして何よりも二人のたわわに実った果実。俺の周りにいる女性の中でルナさんに次いで大きな果実を持っている二人の果実・・・もう面倒だからおっぱいでいいや。おっぱいで良いよね?うん。

 

まぁそんなこんなで見えそうで見えない局部との戦いを制して健全なおっぱいを脳内フィルムにしか納められない事を悔いている和真と俺を尻目に、触手はドンドンと彼女達の水着を剥いていく。

あぁ~・・・これはマズイ。どのくらいマズイかと言うとこの作品がR18指定になって内容が荒くれ者が昏睡レイ○される位マズイ。

 

 

「ビデオカメラ!この中にビデオカメラをお持ちの方は居ませんか!?・・・ん?」

 

「おぉっ!!見えそう!超見えそう!凄いきわどい!もうちょっと・・・もうちょっと右に・・・あ?」

 

 

海を拓いていく音。木が軋み今にも壊れそうな音をしているが、それは一向に消える気配はなくドンドンと距離を詰めてくる。青白い朧気な雰囲気を漂わせながら迫ってくる1隻の巨大な船。それは―――

 

 

「「ゆ、幽霊船だああああぁぁぁぁっ!!」」

 

 

 




ちなみに、朔が前一緒に戦ってメンバーの話も用意中


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exー06 この骸王に復刻を

 

「「ゆ、幽霊船だああああぁぁぁぁっ!!」」

 

 

俺と和真の叫びにアクアやめぐみんが青い顔をし、店主、ミツルギは重い腰を上げて戦闘体制を取る。

 

ていうかどうする!?このままだとゆんゆんとダクネスが素っ裸でクラーケンにテイクアウトされるしかといって幽霊船を放置してたらアクアが先走って店主が星になっちまう!

 

 

「ミツルギ!お前はクラーケンの方に行け!幽霊船は俺と店主でどうにかすっから!和真!お前はアクア抑えとけ・・・あ」

 

 

俺の声でクラーケンの方へ走り出したミツルギの後ろで起こっていた出来事。既に浄化魔法を放とうとしていたアクアに必死に泣きついているウィズの姿があった。もう、手遅れだったか・・・店主、骨は拾ってやるから、墓は・・・・・ドロップの缶でいい?

 

 

「お願いしますアクア様ぁ!浄化魔法だけは!どうか浄化魔法だけは止めてください~!私、成仏しちゃいます~!!」

 

「・・・ウィズ、私は知ってるわよ。あなたは大アンデッドのリッチー。そんなあなたが高々水の女神である私の浄化魔法で消える訳がないって、知ってるから・・・ね?良いでしょう?」

 

「良くありませんよ~!!とんでもない位未練がましく成仏するのは嫌です!!」

 

 

こんな状況で呑気だな・・・あ、アンデッドに追いかけられてる。・・・あ、捕まった。しばらく寄らんとこ。

いつの間にか背後を取られていたアクアと店主はアンデッドから距離を取ろうと走り出したがもう時既に時間切れ。夏場のアンデッドの腐乱臭を擦り付けるように二人は絡まれている。

 

アクアの猿と揶揄される叫び声と珍しく声を荒げて叫んでいるウィズの姿は何だか・・・アクアにどれだけ色気が無いのか、とういうのが痛い程伝わった。

だってさ、もうあぁいう状況の女の子はね、不思議とエロくなるものじゃない?だけどね、あの駄女神は一切無いのよ。もう逆に凄いよ。どんな状況でもそうやってギャグに出来るのは。

 

・・・どうしよ、取り敢えずゆんゆんとダクネスには・・・

 

 

「啼け、紅姫!―――騙し紅姫(だましべにひめ)!」

 

 

そう告げると同時に切っ先から赤黒いオーラの様な物が飛び出し二人を数秒間だけ、包み込む。

そして二人が出てくるとあら不思議。いつもの黒いローブ姿に白い鎧姿のダクネスが出てきたではありませんか!まぁ所詮は見かけだけでアイツらは今殆ど裸みたいな格好をしてるんだろうが。

 

この作品の存在が危ぶまれるのだ。致し方なし、許せ和真、そして読者たちよ。脳内補完でどうにか妄想に耽っていてくれ。・・・という、謝罪のような、嘆願の様な天の声・・・もとい中の人の懺悔が聞こえた気がする・・・が、無視しよう。

 

 

「全く・・・ウィズにアクア(あの二人)は働けっての・・・・・俺みたいな奴がアンデッドを殺ろうと思うと結構面倒だってのに・・・そらっ!」

 

 

海岸に幽霊船から降ろされた階段を駆け上がり勢い良く雪崩のように迫ってくるアンデッドを切り払う。

一閃、また一閃と剣を振るい頭を跳ね、体を斬り倒していく。その度にドロドロの腐った血液が辺りに飛び散り、惨状の跡を痛々しく刻んでいく。

 

 

「ショートカットだ・・・っらあっ!!」

 

 

躍起の咆哮と共に飛び上がり勢い良く甲板へと降り立つ。目の前には大量のアンデッドが大挙をなし、壁を形成している。

おどろおどろしいその形相にまるで大気が萎縮しているように冷気を漂わせ頬を撫でる。

 

が、その中でも一際異彩を放つ大きな影が1つ。

他のアンデッドよりも巨大な体躯と構えている獲物はこれまでの非道を象徴するように赤黒い血に染まっている。

コイツは・・・ちょいとマジメに行くとしよう。少しばかり・・・・・

 

 

「面白くなりそうだ」

 

 

自然と口角がつり上がり顔に影が落ちているのが分かる。不気味な笑み、それ以上の殺気と狂気を放った俺を死しても尚動き続けているアンデッド達の体を硬直させ身を退かせる。しかし、やはりと言うべきか。ボス各であろう巨大なアンデッドはその荘厳な態度と仁王立ちを崩さない。

 

 

「ただでは死なねぇし―――死なせねぇぞ」

 

 

その声と同時にアンデッドの持つ巨大な斧が降り下ろされる。相当な重量の斧は慣性で速度をドンドンと増しながら風を切り俺に迫ってくる。

 

すんでの所で身を翻す。止まることを知らない斧は轟音を立てながら甲板の床板を大きく抉り、あまつさえ周りにいたアンデッドも巻き添えにし、痛々しい肉塊へと姿を変えさせる。

 

鬼気迫る表情で斧の柄に紅姫を沿わせ顔面を狙う。

渾身の力を込め、最速で迫った細身の刀は確かにアンデッドの顔を捉えた。が、その巨躯は揺らがない。

それどころか腕を伸ばし刀をがっしりと掴み片手で斧を操り俺を叩き潰そうと動き出す。

 

 

「チッ―――破道の十一、綴り雷電(つづりらいでん)!」

 

 

刀から発せられた電撃が腕を伝いアンデッドの全身へと駆け抜ける。

一瞬。ほんのまばたき程度の間だった。

その秒も無い間だけ、動きを止め力を緩めた。

 

俺にとっては十二分なインターバルだ。

これでもう終わり。

少しの虚無感が心を覆うがそんな場合ではない。

 

巨大なアンデッドの背中。

背後を取られること、それは即ち。

 

 

「終いだ・・・剃刀紅姫(かみそりべにひめ)

 

 

死を、意味する。

 

深々と突き刺された紅姫。体の中に入っている刀身から無数の赤い刃がその巨躯を切り裂きながら辺りへ振り撒かれる。

 

四散した体が糸の切れた人形のように揺らめく。

 

決して揺らぐ事の無かった体は脆く、情けなく、大した事もなく小さな音を立て崩れ落ちた。

 

 

「やっぱ・・・・・ダメか」

 

 

うわ言が自然と口から零れる。

 

残念そうに、悔しそうに、負の感情であればなんとでも取れる声色。

 

ただただ、作業のような闘いだった。

何の高ぶりもありはしない、襲われたから応戦しただけ。

 

それ以外、何も無かった。

 

ありはしなかった。

 

自分が何故、こんな感情を抱いているのか。

 

疑問が心の深層から浮かび上がってくる。

 

俺は何故・・・闘いを欲する?

 

ここの所・・・ベルディアとやった時からか。その時から拭いきれない虚脱感と一抹の退屈。

 

何をしてもしつこく纏わり付いてくるこの感覚は恐らく・・・俺の闘いの感覚。

 

『骸王』と揶揄され、人間からも魔王軍からも恐れられていた時代。

 

取り付かれた様に闘いに明け暮れ、闘いに充足を感じ、それ以外では満たされない何か。その何かも最近は鳴りを潜め、俺自身も満喫していると感じられる生活を送っていた。

 

だが、再び呼び起こされたこれ(何か)は収まる所の知らない狂気となり、俺の体を操ろうとする。

 

 

もっと殺せ。

 

もっと苦しめろ。

 

もっと殺されろ。

 

もっと苦しめ。

 

 

そう、言われている気がする。

 

正気を保っていられてるのは恐らく・・・皮肉な事に闘いで無駄に図太くなってしまった精神のおかげだろう。

 

狂気に駆られては終わり。

 

もうそれは人でなく狂気に取り付かれた亡霊であり、狂気の言いなりの操り人形、犬に成り下がる。

 

 

「・・・クソッ」

 

 

不意に漏れたその一言。

 

その一言の綻びで、行き場の無い感情(狂気)がほんの一瞬。

 

体を持っていかれた。

 

困惑する自我とは裏腹に体は動き出す。

 

最も合理的な、最速の摘み方を取っていた。

 

~*~

 

気付いたときには跡形もなく船は崩落し周りにはバラバラになった何かの肉片と血に染まった海だけが視界を覆い尽くしていた。

 

体を包む砂の感触が何故か新鮮な感じがする。

ギシギシと痛む体を無理矢理起こすと膝元でゆんゆんが、隣でダクネスが眠っていた。

 

そして正面には険しい顔をしたミツルギに店主とその後ろに隠れる怯えた和真とめぐみん、アクアが居る。

 

 

「モノノベさん、自分との決着は付いてないんですか・・・?」

 

「俺は一体・・・何をした・・・?」

 

「あなたは幽霊船を壊して飛び出して来たんです。そしてアクア様やウィズさんを追い回していたアンデッドを、ゆんゆんさん、ダクネスさんを捕まえたクラーケンを討伐しました。この全てがほんの数秒の事でした。しかし、その間のあなたは・・・明らかにこれまでのあなたではありませんでした」

 

 

呑まれた・・・のか・・・俺に。

 

こうなっちまったら・・・もう、居られない・・・かな。・・・いや、少なくともちゃんと俺とのケリを付けないことには・・・戻れないな。

 

 

()()()()()、お前ら・・・ゆんゆん」

 

 

膝元で眠っているゆんゆんの髪を出来る限り優しく撫でてやる。

 

心なしか安らいだような顔をした彼女を見ると自然と頬が緩んだ。

 

少しだけ笑顔を浮かべ、紅姫の始解を解いた。

 

それを見て切羽詰まった表情の店主にミツルギがこちらへ駆けてくる。

 

・・・もう、遅いさ。

 

~*~

 

ウィズにミツルギ、二人の伸ばした手は虚しく空を切った。

 

静寂に消えていった彼が何処へ行ったのか。

皆目検討も付かないが・・・・それ以上に思うことがあるのか。

 

ウィズが言葉を漏らした。

 

 

「ゆんゆんさん・・・この人を置いていって・・・どうするんですか・・・!あなたは・・・彼女の・・・光・・・だったのに・・・」

 

 

ウィズの悔しげな言葉が1つ、また1つと虚空へと消えていく。

 

その情景を他の四人は黙って見つめ、悔しさに歯を噛み締めていた―――――

 




次回からちょっと長めのストーリー入るかもね。


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exー07 骸王

投稿遅れてすいませんでした・・・プロット練ってたり文才を育てようという名目で虐殺器官読んだり・・・色々あったんです(白目


とある何処かの町外れの森。

月明かりに照らされ淡く輝いているかのように神秘的な様相を呈している。

 

が、あって当たり前の何かが欠如している。

 

そんな違和感の正体は静寂。

生物の営み。木々のさざめく音。そのどれもが、欠如していた。

 

そしてとある開けた一角。

天然のスポットライトがまるで悲劇のヒロインを照らすように、柔らかくも冷たい光が一ヶ所をピンポイントで刺している。

 

まるで風景の一部のように自然に溶け込み、静かに岩の上に腰掛け、佇んでいる青年。

 

黒のローブを羽織り、抜き身の白刃を月光にかざしている。

 

 

「・・・・・」

 

 

無言。そして無害であるはずがこの森が静寂に包まれている理由は彼にあった。

 

野生の本能で生命の危機を感じた動物たちは遠くへがむしゃらに逃げ、冬眠をしていた洞穴の奥の奥へ閉じ籠り、震えている。

 

しかしここで静寂を破る小さな足音が響く。

ゆっくりと青年が視線を上げるとそこにはそれなりにガタイの良い黒色のタキシード、顔の半分を覆う白と黒の仮面を着た男がゆっくりと歩み寄ってきていた。

 

 

「・・・・・クソ仮面悪魔・・・」

 

「フハハハハ!!開口一番あんまりな挨拶であるなぁ?―――“骸王”よ?」 

 

「ハッ・・・久々にあのヘタレを押し退けて出てきたんだが・・・一番に遭遇したのがテメェみたいなクソだったこっちの身にもなれ。消されたいか?」

 

「フッ。やれるものならやってみろ・・・と普段なら啖呵を切っている所だが今の貴様では余裕で残機を減らされかねな・・・おっとっと」

 

 

目にも止まらぬ一閃。地面を抉り、軌跡の上に存在するものを全て切り裂いた斬撃。

が、仮面の男に届くことは無かった。

 

 

「・・・次はタマ取る・・・さて、本題だ。何の用で来た?」

 

「恐いのぉ・・・全く、あの老いぼれ魔王に命じられて来たはいいが・・・・・よもや数少ない我の見通せぬ相手とは・・・目的は偵察だったのだが、偵察だけでは・・・済みそうにないであるな」

 

「チッ・・・腕1本・・・」

 

 

幾本もの軌跡が同時に襲いかかる。

全て避けたと思われたが何かの落ちる音が二人の間に鳴った。

 

地面に落ちると同時に切断された腕は土に還り、本体の方に再び腕が勢い良く生えだした。  

 

そんな頂上現象もあの悪魔と一度手合わせしたことがある者からしたら当たり前なのだが。

 

 

「・・・騙し紅姫」

 

 

骸王と呼ばれた青年が軽く刀で自分の指を斬りつける。

 

鮮血が玉になって溢れてくるがそんなものは意に介さず何やらブツブツと口頭で何かを唱えている。

 

次の瞬間、仮面の男の四肢が全て切り落とされる。

青年はまだそこに立っているというのに。

 

 

「ぬうっ・・・・・!?」

 

「次は何処が良い?」

 

 

驚きの声を上げる男を他所に青年は真一文字に固く結んだ口から軽口を叩く。

 

そして言葉を紡ぎ終わる瞬間、目の前に現れた青年に目から光線を放つ。

 

しかし血のような赤い光線は青年を通過し、後ろの地面を焦がしただけで消滅する。

まるで、初めて3Dを体験したかのような反応を示した男は直ぐ様距離を取り、身構える。

 

ユラユラと不穏な立ち姿をしている青年。

亡霊のように立ち尽くして動かない・・・・様に見えた。

 

突然、男の視界が反転、急速に視線が下がりゴトッと音を立て頭部に鈍い刺激が走る。

 

目の前の幽霊は何もしていないと言うのに、男の首が切り落とされたのだ。

 

諦めるしかないか―――そう悟った男は自分の体を土で再構築する事もせず、ただただ迫ってくる青年の足元を見つめる。

 

 

「魔界にでも帰って出直せ」

 

「出来ることならば二度と会いたくは無いがな」

 

「・・・そうか」

 

 

仮面を破壊される刹那、彼の赤い瞳はとあるものを確かに捉えた。

 

青年の輪郭線が重なり、2重になっていること。そしてそれが合わさり、いつも通りの姿に戻った事を。

 

~*~

 

「骸王・・・ですか?聞いたことはありますが・・・どうしてそんな事を?」

 

 

日も暮れ、青い月光が小窓から注ぎ込んでいるとある町外れの小さな店。

 

ウィズ魔道具店。それなりに値の張る最上級アイテムからポンコツ、何に使うか分からないガラクタ。なんでもござれの品揃えをしている店だが、表には 

 

『closed』

 

の看板が出され、ただでさえ人の来ない店には店主であるウィズともう一人、紅い瞳を輝かせる少女、ゆんゆんが向かい合い丸テーブルを囲んでいる。

 

神妙な顔をしたウィズからの問いかけ。

それに対してこちらも似たような面持ちをしたゆんゆんが頷き返答する。

 

 

「では・・・どんな人物かは?」

 

「あまり詳しくは知りませんが・・・お伽噺、冒険者さん達の理想が創りだした英雄像・・・そんな噂を少し耳に入れた位です」

 

「でしょうね。骸の様に虚で、骸の山の頂上に君臨する王の風格と実力を持つ冒険者達の妄想、虚言が産んだ骸の王・・・・・“骸王”。今となってはそんな幻とされています」

 

「あ、あの・・・そんなに強かったんですか?店主さんがそこまで言うなんて・・・」

 

 

目の前の温厚そうな彼女が昔は高名なアークウィザードとして名を馳せていた事実。  

そんな彼女がここまで大袈裟に語るなど考えがたい事である。

 

 

「えぇ、名実共に最強だったと思いますよ、私は。恐らく魔王よりも・・・」

 

「そ、そんな・・・で、でもあくまでお伽噺・・・ですよね?」

 

「いいえ、これら全て・・・紛れもない真実です。私は―――実際に見てますから」

 

「え―――――?」

 

 

あまりないウィズのハッキリとした物言い。

それが一体どれ程の説得力、現実味を持っているのか。

疑う余地も無いのは明白である。

 

衝撃が電撃の様にゆんゆんの脳を駆け巡り、その処理能力を縮め、圧迫していく。

あまりの発言に頭が追い付かず固まっているゆんゆんにウィズは話を続ける。

 

 

「まず、恐らく何を差し引いても最速なんです。目にも止まらない剣筋や肉体攻撃・・・速さで敵う者はいないかと・・・ですが、一番はとにかくこれに尽きます―――――行動と攻撃の乖離性―――です」

 

「乖離性・・・?」

 

「私たちは何をするにもそれに決まった動作がありますよね?魔法を使いたかったら魔法名を声に出して放つ方向に掌を向ける。そんな動作が。ですが彼は違うんです・・・棒立ちの状態で数メートル先の敵を斬り倒し、鬼気迫る表情で肉薄、首を斬られたかと思うと何もなく、数秒後に何もしていない彼に斬られる・・・そんな乖離性が彼の最大の武器です」

 

「えっと・・・つまり・・・」

 

 

話に付いていけずアタフタとしているゆんゆん。

そんな彼女にウィズは静かに口を開く。

 

 

「言葉を飾りすぎましたね・・・率直に言います。骸王は・・・モノノベサクは歴代・・・地上最強の冒険者です」

 

 



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exー08 とある精神世界で

思ったより長くなっちまってるよ・・・やべぇよ・・・やべぇよ・・・

あ、本文中に挿絵あります。相変わらずのアナログですが・・・

【追記】
お気に入り500件突破・・・本当にありがとうございます!


「なんか・・・見えづらいかと思ったら・・・あの野郎、目勝手に弄くりやがったな・・・」

 

 

バニルを下し、満天の星空に黄昏ている青年。

うわ言の様にそう呟くと右手を抜き手の形に構えた。

 

一切、躊躇いのない、淀みない動作でその抜き手を目の前に持っていくと恐怖という、行動のストッパーが存在しないのか。勢い良く抜き手で目玉を潰した。

 

殆どが水分である眼球が潰れ、グチャグチャと不快な音を立て、その原形は見る影も無くなってしまう。

 

 

「卍解・・・観音開き紅姫改メ・・・ッ!?」

 

 

突然、頭痛と共に意識が遠退いていく。既に光が失われ、真っ暗な世界が遠退いていく。

そして、彼の意識はブラックアウトし、体はその場にまるで糸の切れた人形のように、倒れ伏した―――

 

~*~

 

「―――い!―――――ってんだよ!―――いこら!」

 

「・・・?・・・・・あぁ、お前か・・・フヌケ」

 

 

ゆっくりと覚醒した意識。根底の中からその意識をサルベージした声の主を認識すると、うんざりした声を上げる。  

目の前には全く同じ容姿の、声色を持った、自分の姿が。だが、冷たい、冷酷な雰囲気を漂わせる青年とは違い、目の前の自分は何処か飄々とし、軽快な印象を醸し出ている。

 

 

「おい俺、人の体で好き勝手やってんじゃねえぞ」

 

「こいつは俺の体だ。どう使おうと俺の勝手だろ?・・・俺」

 

「ハァ・・・お前、ホントに俺なのか?何でおんなじ俺同士の筈が、ここまで食い違う・・・」

 

「それはこっちが言いたいな。・・・どうしてそこまでフヌケた。何故、今の俺から貴様のような俺が発生する?」

 

 

体は同じ。だが、決定的に二人を分かつもの。それは魂。一方は冷酷無慈悲な伝説の冒険者、骸王。一方は人に好かれやすいただのギルド職員。一体何が、彼から目の前の彼を生んだのか。

 

それは彼ら同士、疑問に思っていること。恐ろしく簡単で分りやすい筈なのに。

 

 

「さあな・・・そいつぁ、俺にも分からねぇ。どうすりゃ、分かるだろうな」

 

「芝居はよせ・・・どうすれば、答えが見つかるか等と言う事、お互いに分かっている筈だろう」

 

「ハッ!・・・そりゃそうだな・・・不器用同士、簡単で分りやすいコミュニケーション方法があるじゃあねえか」

 

 

そう言うと両者がまるで何かに取りつかれた様に。積が切れたように、高笑いを始める。

だが、お互い、目だけは冷たく刺さるような視線で一切笑うこと無く、相手を見据えている。

 

そして次の瞬間、火蓋は唐突に切って落とされた。

 

 

「テメェのその腐った道徳心・・・」

 

「貴様のフヌケに落ちぶれた野心・・・」

 

「「叩き直してやる」」

 

 

両者の右拳が、両者の顔面を捉えた。

しかし、やはり両者とも引こうとはしない。寧ろ拳を振り抜こうとますます顔に相手の拳を埋めながら前へ前へと渾身の力を込める。

 

だが、そんな完璧に拮抗した状態はほんの少しで崩壊を始めた。

 

 

「フンッ!!・・・やはり、落ちぶれたな」

 

 

立っていたのは、骸王だった。振り抜かれた拳に吹き飛ばされた朔は倒れ伏し、中々立ち上がろうとしない。

 

 

「ハッ・・・確かに、俺はお前に比べりゃ落ちぶれただろうよ・・・だが・・・搾取を続けるテメェには死んでも・・・敗北は認めねぇ・・・!弱者の・・・抵抗者の・・・執着ナメんなよ・・・!!」

 

「そうか・・・なら、その執着とやらを・・・見せてみろっ!!」

 

「上等だよ・・・!テメェのそのしかめっ面一発と言わずボコボコにぶん殴ってやっからよぉ!!」

 

 

上段回し蹴り。からの身を沈め放つアッパー。

身を反り、サマーソルトを降り下ろす。着地の体勢のまま、地を蹴り懐へと切り込む突進。

 

全てが全て、分かっている攻撃。自分がやることだから。一向に有効打は決まらない。

 

時に受け止め、時にいなす。時に大きく動き、時に虚を織り交ぜ緩急を作り出す。

 

そんな攻防が続いていながらも徐々に状況は変わりつつあった。

関節を決めようと朔が腕を掴み脇固めの動作を取る。が、腕を捉えられた瞬間にその意図を読み取り骸王は掴まれた腕を軸に大きく身を翻しがら空きの背中へと肘鉄を放つ。

 

前方に倒れていくが当然、只では倒れない。倒れながらも位置を予測して後ろ蹴りを何とか骸王の右腕へと当てる・・・しかし、ここで彼が口を開く。

 

 

「終いだ」

 

 

放たれた後ろ蹴りが右腕を打つ瞬間。思いきり腕を後ろへ引き、そのまま体を大きく回転させる。

 

朔が右足のみで何とか踏みとどまった一瞬の硬直。そこに回転のエネルギーがたっぷりと詰まった回し蹴りが直撃する。

 

回し蹴りで目で追えない程の速度で地面へ叩きつけられた朔が轟音と共に倒れ伏す。

 

 

「やはり・・・フヌケはフヌケだ・・・まぁいい、これでコイツの精神は死んだ・・・好きにさせてもらうとしよう」

 

 

そう言うと突然、辺りが目も開けられないような明かりに包まれる。辺りが完璧に明転、それと同時に再び彼の意識の糸は途切れた―――

 

~*~

 

「よし・・・これで・・・良く見えるな」

 

 

天を仰ぎ、寝転がっている男がゆっくりと上体を起こす。まるで幽霊の様に希薄な雰囲気とは裏腹に手のひらから覗かせている左目は異彩をこれでもかと放っている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

十字架を象った様な黒目、そしてそこから溢れ出す紫の靄とバチバチと爆ぜては消える軌跡。

彼から見えている視界はどうなっているのだろうか。それは本人のみぞ知るところなのだろうが、常軌を逸しているのは間違いない。

 

そして、彼はゆっくりと歩き出す。周囲に、畏怖を撒き散らしながら。歩くだけでも抑止力となってしまう今の彼に、何かしらの措置がなされるだろう。彼はそれを承知の上、いや、それを求め宛も無く放浪していく。

 

~*~

 

あぁ~・・・・痛ェ・・・ったく、自分にあそこまで躊躇なく蹴りかませるか普通・・・

 

星空でも、青空でも、世界に存在するどんな言葉を使っても定義出来ないような淀んでも、澄んでもいない空。どこまでも続くそれを仰ぎながら俺は痛む後頭部を擦っていた。

 

現在、俺の体は絶賛乗っ取られ中。全くどうしてくれるんだか・・・というか俺強すぎだろ。まるで歯が立たん。

ここ・・・精神体だけの世界なら武器とかも使えないし何とか・・・って思ってアイツの意識をこっちに引き摺り込んだはいいが・・・・・案の定ボコボコにされて体を取り戻すどころか、若干俺という人格が消え始める始末だ。

 

あんだけ啖呵きっといて情けない・・・恥ずかしい・・・アクアがいたら腹抱えて笑われるだろうな・・・・・つうか、結局どうなったんだ?あの後。

 

多分、ウィズが事情を説明してくれてるとは思うが・・・殊更に追うのを躊躇うだろうな・・・ミツルギ辺りはどうにか探し当てそうだが・・・正直、アイツじゃ歯が立たんだろ・・・よしんばラッキーパンチが当たっても・・・・・ねぇ?

 

恐らく・・・さっきみたいにアイツをこっちに引き込めても後2・・・いや、1回が限界だろうし・・・ドンドン俺は弱体化していく。そんな状態でどうあの化物に勝てってんだ・・・・・ウィズやミツルギが何とか弱らせてくれれば少しだけだが俺が顔を出せる。その時に何とか・・・最悪の時も考えておかないとな・・・躊躇しないように。

 




エフェクト描くの難しい・・・練習しとかないと・・・幸い時間はたっぷりありますし。

後、朔の容姿はこれからもちょいちょい小出ししていこうかな・・・と、感じています。ツイッターとかやってれば進捗報告とか出来るんですが、如何せん苦手なんですよね・・・

あ、大雑把ですが、オリキャラのキノア、下書きを一応描きました。(アナログですが)↓

【挿絵表示】


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exー09 この劣勢な状況に逆転を!

いい加減、話を動かしたい。
多分次回からは結構動きがあると思います。


「そ、それで・・・朔さんは?」

 

「いえ・・・正直、私には今の彼がどんな行動を起こすのか・・・」

 

 

我が物顔で世界を多覆い尽くし、支配していた夜が顔を出した太陽によって世界から追い出されていく。

まるでこびり付いた汚れを払い、素顔を覗かせるように。まるでモノクロのキャンバスに絵の具をたらし、色を付けていくように。

 

そんな夜明けの中、一夜を明かしたウィズとゆんゆんが再び顔を合わせていた。失踪したギルド職員、物部朔―――正確には彼の中に存在していたもう1つの人格、骸王と言う歴代最強の冒険者の行方をあれやこれやと詮索していた。

 

 

「それに・・・恐らくですが、彼と・・・・・コト(戦い)を構えることになってしまうかも・・・しれません」

 

「そ、そんな・・・で、でも・・・・・そうなってしまった時、しょ・・勝算は・・・あるんですか?」

 

「・・・今の時代、兵は数より質の時代です。前時代では兵や兵器の物量、そして策略と兵法に依存した闘いばかりでした。ですが、冒険者という者達が生まれてからというもの、レベルの高い冒険者や兵、それらの前には先程話した物量や策略等は意味を為しません。そんな冒険者たちの頂点である彼には・・・魔王軍幹部でも束にならないと・・・・・勝算は万に一つもないかと・・・」

 

「そ、そこまでの・・・実力・・・何ですか?」

 

「・・・・・えぇ」

 

 

彼女の体に衝撃が走る。開いた口が塞がらない。まるで、自分の体が自分の物ではなくなる、操られてしまったように。

普段の彼女ならば、はっきりと物が言えない性格だとしても、嘘だと信じて疑わないだろう。だが、今の状況、彼女の剣呑な雰囲気、それらを鑑みて、確信する。これは、紛れもない事実である、と。

 

 

「ど、どうすれば・・・良いんでしょうか?」

 

「彼に一人で対抗出来るような人物は・・・恐らく、私の知るなかでは・・・一人・・・だけ」

 

「本当ですか!?」

 

「え、えぇ・・・」

 

「あ、す・・・すいません」

 

 

思ったよりも自分が声を荒げ、ウィズを驚かせてしまったことを詫びるゆんゆん。

だが、そうなってしまうほどにウィズの一言は衝撃的であり、この状況に希望を射すものだった。

 

 

「いえいえ・・・それでですね・・・その人物なんですが・・・その・・・性格に難あり・・・でして」

 

「そ、それでも!その人の所に頼みに行くしか・・・!」

 

「最悪・・・有無を言わさず殺されちゃいます・・・多分()》に殺されずに会話が出来るのは・・・私と恐らくですがキノアさん、それにミツルギさん、反撃は出来ませんがダクネスさん・・・位かと」

 

「・・・そう・・ですか・・・・・」

 

 

痛々しいほどに実感する力不足。自分では役者不足であると。自覚はしている。それでも連いて行きたいという感情が沸き上がり、それは許されない駄々でもあると。

 

行き場のない感情が歯軋り、という形で現れてくる。

 

 

「ゆんゆんさん、あなたにも来てもらいたいのですが・・・どうですか?」

 

「・・・え?」

 

「彼と親しいあなたが来てくれればもしかしたら・・・と思うのですが・・」

 

「そ、それは・・・行きたいですが・・・・・良いんですか?わ、私じゃあ力不足じゃ・・・」

 

「大丈夫です。私が、絶対に守ります。どんなことになろうとも、必ず」

 

「て、店主さん・・・!ありがとうございます!!」」

 

 

感極まったゆんゆんがウィズに椅子から飛び出して抱きついたおかげでウィズの頭部に多大なダメージが入ってしまった。

 

~*~

 

「先輩の所へ・・・ですか?」

 

「えぇ・・・というか、大丈夫ですか?キノアさん・・・」

 

 

昼下がりの午後。それなりに日も暮れてしまったため、夕食を取りにと、冒険者達が集まり、やはりそれなりに活気づいているギルドに訪れたゆんゆん。

受付嬢として日々の激務に追われているキノアは朔の欠員のおかげなのか、いつもよりも髪はボサボサ、若干やつれていた。

 

 

「先輩の為だし、職務を抜けられるから良いのですが・・・一体何をするんですか?」

 

「正直話しにくいので、一旦上がってもらうことって・・・できます・・か・・・・ね?」

 

「ありがとうございます!ありがとうございますゆんゆんさん!!これで仕事を抜けられます~!!」

 

「何でそんなに感謝されるか分かりませんが・・・表で待ってますね?」

 

 

とんでもなくキラキラした顔で詰め寄られたおかげか段々と言葉が尻すぼみになってしまったが、何とか約束の取り付けにする。そしてニッコリと満面の笑みで彼女は冒険者ギルドを後にした。

 

 

「ルナさ~ん!ちょっと私上がらせてもらいますね~!!頑張って下さ~い!!」

 

「えっ!?ちょっ、ちょっとキノアちゃん!!待って!モノノベ君に加えてキノアちゃんまで抜けられたら・・・!待って!行かないでキノアちゃ~ん!!」

 

 

後ろで、こんなドラマが繰り広げられているとも知らずに。

 

~*~

 

「それで?これからどうするのよ?」

 

「あ、あれ・・・・?」

 

 

現在、ギルドから出てきたキノアの口調が一変。そしてゆんゆんがそれに戸惑っている。

 

 

「冗談ですよ。で・・・ウィズさんにミツルギさん、これまた御大層な面々ですね」

 

「ボクはあの時、引き留めることも何も出来なかったからね。せめてもの・・・罪滅ぼしがしたいんだ」 

 

「ひとまず本題に移りましょう。単刀直入に言いますと―――これから、とある人物に接触を計り、その人物と共にモノノベさんを連れ戻しに行きます」

 

「回りくどい言い方をしますねウィズさん・・・誰なんですか?その、とある人物とは」

 

「あなたもよく知る人物ですよ、キノアさん。モノノベさんの元、パーティーメンバーであり、最凶の獣人(ビースト)・・・ギークさんです」

 

 




ありがとうございました!


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exー10 この凄惨な追憶に救済を!

とある山中。そこにはとある集落があった。

大人達は昼に農業へ精を出し、夜は研究に明け暮れる。子供達は友達と勉学を学び、共に思いきり遊んで健やかに育っていく。

 

娯楽という娯楽もないが、殆どの者がその生活に満足し、日々を過ごしていた。

が、時間は過ぎていき、時代は移ろっていった。

それに連れ、里を出ていく者が増え、彼らの一族は減少を辿っていくことになる。

 

それが、エルフという一族。紅魔族と同格かそれ以上の知識と魔力を有しながらも滅多に世間から悪く注目されることのない、静かな種族だった。

 

そんな種族に起こった悲劇。冒険者・・・と言っても一概にモンスターを狩り、魔王軍との闘いに身をやつす者だけではない。モンスターだけを狩り自給自足する者、人々の依頼を率先してこなし生計を立てる者。大きな権力に長く雇用され、護衛から後ろ暗い仕事まで、主の為に尽くす者・・・そしてただただ惨殺を繰り返し、過剰な数のモンスターを狩り、果てには絶滅にまで追い込む者――――【闘争の犬(ストライフドッグ)】と呼ばれる者達。

 

行動原理は至極単純で明快、満たされること。底なしの闘争への欲求。それの傀儡となって、操られたように狩り続ける。犬と名付けられた由縁だった。

 

誰も踏み込まなかった領域。そこに一匹の犬が踏み込んだ。

 

高い戦闘力を持つエルフでさえ、歯が立たず一人、そして一人と命が消えていった――――

 

~*~

 

燃え盛る醜炎、すべてを飲み込まんとする勢いで広がり立ちはだかる物を焼き尽くしていく。建造物は崩れ去り、押し潰された数知れない死体。炎で炙られた体は収縮し、まるで胎児のように手足や背中を丸めうずくまっている。

 

その惨状を見つめる影が1つ。まだ年端の行かない小さな体躯は土や煤に塗れ、ひどく汚れている。荒く浅い呼吸を不規則に繰り返し、目の前の光景を顕著に映し出している双眸は零れ落ちんばかりに開かれ、瞳は左右に揺れ動き、酷い動揺を表している。

 

目の前の光景をどう受け止め、解釈するかを考え脳がフル稼働する。だが、その処理能力の限界はすぐ訪れてしまう。行き場の無い感情、衝撃、その全てが声の無い叫びとなって現れる。

 

膝を突いたまま顔を上げ、口をOの字にして静かな咆哮を上げる。叫んでいるつもりでも漏れ出すのは空気のみ。いずれ喉も裂け、その叫びも止まる。そんなオルゴールはこの惨劇にお似合いで、滑稽な物だろう。

 

そして消えかけの淡く儚い灯は深い、闇の中へと堕ちていった――――

 

~*~

 

「・・・ちゃん!・・・アちゃん!・・・キノアちゃん!!」

 

 

・・・・・?

・・・あぁ、少しボーっとしてしまいましたか・・・

 

耳元に掛かってきたゆんゆんさんの声と吐息で急に現実に引き戻されました・・・吐息が若干くすぐったいです。

それにしても・・・今は何をしてるんでしたっけ?

 

・・・・・そう・・・でした。アイツを・・・探しに来た・・・んでしたね。

幾ら先輩を元に戻すためとはいえ・・・気が進みませんね・・・・・進まないどころか、全力で後退して行ってるんですが・・・・・・

 

 

「皆さん・・・その・・・・・言いづらいのですが~・・・」

 

「「「??」」」

 

「ここの職員さんたち曰く・・・・・何かしら騒ぎを起こすかもなのでそれを目印に・・・だそうです」

 

 

・・・・・舐めてるんでしょうかね・・・?一回魔法でこの辺り一帯・・・・・

おや?何だか地響きしてますね?何でしょうか・・・(棒

 

石造りの建物がパラパラと欠片を散らしながら何やら嫌な音を立ててますね。それにウィズさん達も何だか焦ってますし・・・・

 

 

「キノアさん!魔力!魔力抑えてください!!崩れちゃいます!」

 

「だ、大丈夫なのかいこれ!?崩れたりはしないの!?」

 

「はわわわわ・・・キ、キノアちゃん落ち着いて!」

 

「あ・・・魔力溢れてましたね~・・・すぅいませ」

 

 

私の言葉を遮って轟音が響いてきました。私の起こしていた揺れもすべて上書きしてしまうようなインパクトと共に外からとてつもなくドロドロとした雰囲気が漂ってきました。

肌を突き刺すようでありながらも粘液の中に放り込まれたような不快感。以前にも味わったことのあるこの感触は・・・・!

 

気づけば私達4人は殆ど同時に走り出していました。恐らく自分達の求めていたものだと確信しているのでしょう。勢いよく木製の扉を開け放ち外へと飛び出した私達。そこには先輩と同じくらいの年齢、身長をした獣の耳を頭から生やしている白髪の男性が気だるそうな立ち姿で土煙の中、呆然と立っていました。

 

 

「んだよ・・・デケェ魔力があったかと思えばてめェかよ・・・ウィズゥ・・・!」

 

「ギークさん・・・」

 

「こ、この人が物部さんの元パーティーメンバー・・・なのか・・・」

 

「おっ・・・知ってるぜお前。ミツルギキョウヤ・・・だったな?」

 

「『グレイド・ライトニング』」

 

 

自分でも、ここまで冷たい声が出せるのかと少し驚きました。

目の前のクズに飛び切りの魔法を速攻で放ちます。

 

蒼い軌跡。バチバチと音を立てながらも一直線に対象に向かって行きます。

 

これを避けれるものなら・・・と言いたいところですが、無理でしょうね。

 

 

「あぁ?―――邪魔クセェ」

 

「―――は、弾いた!?」

 

「えぇ、まぁ驚くことではありませんよ・・・ゆんゆんさん、あいつの手、見えますか?」

 

「え、えっと・・・赤くなってるわね。それが・・・どうかしたの?」

 

「あれの種族は獣人(ビースト)なんですが・・・ブラッドウルフって・・・知ってますか?」

 

 

――――ブラッドウルフと言うのはですね、名前のとおりですが、血を操る狼・・・一種のモンスターなんです。高い知能と血を操る特殊能力、狼特有の身体能力を駆使して戦う非常に強力なモンスターでした。十数年前に絶滅してしまいましたがね・・・彼はブラッドウルフの獣人(ビースト)なんです。普通、獣人(ビースト)と言うのは犬や猫との混合が殆どなんです・・・が、彼の血縁はモンスターとの混合です。そしてその気性もあってか冒険者の道に進み、瞬く間に先輩とのパーティーで最強の呼び名をゲットしました。

 

 

「それが、最凶の冒険者・・・二つ名神喰(フェンリル)のギークです」

 

「おいおい・・・今のは戦闘開始と取って良いのかァ・・・?それによぉ・・・魔法撃ってきたオメェは・・・エルフじゃあねぇか・・・!ククク・・・!ハハハハハハハハハ!!オモシレェ!!仇討ちッて奴かァ!?」

 

 

瞬きほどの刹那。その瞬間にここまで距離を詰められるとは・・・癪ですが・・・凄いですね。

ですが・・・・・少々腹が・・・立ちますね・・・!!

 

 

「『ダマカス・カタストロフ』!!」

 

「おぉっ!?―――――っとォ!ヒュー!流石エルフだなァ!!見たことねぇ魔法がポンポン出てきやがる!良いねェ!!サイッッコウだねェ!!」

 

 

こ・・・このクズは・・・っ!!

口の中に血の味が・・・・・どうやら歯を噛み締めすぎたみたい・・・ですね。

 

あの悪魔が魔法の爆発で出来た半径五メートル程の小さなクレーターを挟んで高らかな声を上げてくる。

腹が立つ・・・!体の血の巡りが加速していく・・・!!憎い・・・!!憎い!!

 

 

「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

「さて・・・どう料理してやるかな・・・っと!」

 

 

何か視界に・・・黒い影・・・・・もう視界いっぱいに・・・あれ?・・・これって・・・・・死ぬ・・・のでしょうか・・・?私・・・・・このまま脳幹を通って・・・い、いや・・・!いや!

 

発狂してるはずなのに、何も考えられないはずなのに。体は死を受け入れて感覚はもう遠退いて行っているのに・・・・・ただただ孤独感だけがはっきりと認識できる。これが・・・死なのでしょうか・・・

 

 

「ギークさん・・・ボク達は冒険者としてのあなたに依頼をしに来ました・・・そのナイフ、しまってもらえませんか?」

 

「ほぉ・・・中々に速ェじゃねぇか・・・・それに俺のナイフを防いでも何ともなってねぇその剣・・・・・魔剣グラムか・・・・・良いぜ、別に聞くだけならな。なぁ?ウィズに・・・紅魔族のガキ・・・・・魔法より、俺の方がこの距離なら速ェ・・・折角この優男の手柄潰す気かァ?」

 

「クッ・・・仕方ないですね・・・・・」

 

 

高い金属音が周囲に鳴り響いた―――――と思ったら私の目の前にはグラムを構えたミツルギさんが立ってました。そして、今まで時が止まっていた様に呆けていた周りの人々が爆発や武器を見たせいか、クモの子を散らすように逃げていってしまいました。

 

 

「ゆんゆんさん・・・抑えてください、私は・・・大丈夫ですから」

 

「っ!・・・・・キノアちゃん、大丈夫・・・なの?」

 

「大丈夫・・・ではないですが何とか」

 

「さぁ・・・話に入ろうか・・・!」

 

~*~

 

「大体は分かった・・・が、何かアテはあんのかァ?」

 

「「「「・・・・・・」」」」

 

「アホ共がよォ・・・・」

 

 

 




最近、前後書きで書く事が無いです。誰かぼすけてくだしあ(割と切実


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exー11 Encount with Corpse King

ちょっとイキッてタイトル英語にしてみました。
後、タイトルの表記を少しばかり変更しました。

〇〇ー〇〇
↑最初の2つには巻数(例:2巻→2、番外編→ex等々)、次の2つには話数(最初の二桁が変わる度にリセットされます)が入ります。

これからもよろしくお願いします!


(な、何も言い返せない・・・!)

 

 

テーブルを囲んで作戦を練っている中、依頼側・・・・・キノア達のあもりにもひどすぐるノープランのせいでギークに呆れられてしまい、辛辣な言葉を貰ってしまった一同。

暗い顔をしたまま俯いているとどんどんと空気は悪くなっていく。そんな中、キノアが深いため息を吐いてから何かを決心したように口を開いた。

 

 

「仕方ないですね・・・私が一肌脱ぎましょうか」

 

「ンだよ・・・なんかあるならさっさと出せ。何を渋ってンだよ」

 

「あ?出来る限り使いたく無かったんですよ。だからその汚らしい口を閉じやがって下さい犬コロ」

 

「てめェ・・・・・どの立場でンな口聞いてんだ・・・殺されてェのか?」

 

「ちょ、ちょっと皆さん!」

 

「キノアちゃん抑えて抑えて!」

 

 

瞬く間に剣呑な雰囲気の絶頂まで登りつめた2人をゆんゆんやミツルギがどうにか宥める。一向に冷める気配も無いが何とかキノアとギークに残された小さな互いの理性の必死な訴えで2人とも再び椅子に体を預けた。

 

ピリピリと肌を刺すような突っ張った雰囲気が消え、ほっと息を吐く3人。しかし、何か進展があったわけではなくむしろ最悪の一歩手前でギリギリ踏み止まっている事。それを自覚しているからかこれからを憂う気持ちは晴れない。

 

 

「疲れるから・・・出来る事なら控えたかったのですがね・・・『探す人、探す物、探すべき処・・・その一切合切に我を導け、飛ぶ者よ・・・彼の人の元へ・・・風水明探』」

 

(詠唱・・・私たち紅魔族の口上とは違う・・・こんな魔法があるのね・・・)

 

「・・・綺麗ですね」

 

 

ウィズが自然と口から呟きを漏らす。

机に置かれたハンカチの周りに淡く光る青色の魔法陣に照らされながらキノアがかざした手のひらから伸びる銀色の糸。それがハンカチを包み、何かを形取って行く。

 

見たこともないような幻想的な光景に約1名を除いて惚けている者たちを他所に造形が終わろうとしていた。

 

糸が彼女の手のひらへと吸い込まれ、同化していくような様に再び目を疑う一同だったがそれ以上の衝撃が1つ。

鳥のような形に作られたハンカチが動き始めたのだ。まるでそこに存在しているかの様に。羽ばたき、息をし胸を膨らませ、首を動かし周りを見渡している。

 

 

「これは・・・魔法が使えない僕には何がなんだか・・・」

「私にもサッパリです・・・こんな魔法、店主さんは何か分かりませんか・・・?」

 

「私も・・・見た事が無いです。詠唱のいる魔法自体、殆ど使われませんし・・・エルフ独自の術である・・・としか」

 

「私の魔法の話はもういいでしょう。それよりも、鳥に変化したという事はあまり近くはありませんが・・・決して遠くはない場所にいますよ」

 

 

全員がゴクリと生唾を呑み込む。やけに重たく感じる空気を吸い込みながら決心を固め、席を立つ。

恐怖や緊迫。拭い去ろうとも決して離れる事の無い感情が固めた決心を揺るがす。付きまとう負に飲み込まれない為なのか、無意識からなのか、ゆんゆんの口からは小さな奮起の声が漏れた。

 

「よしっ」という、気弱な彼女には似合わない勇ましい声は凍りついた場に笑いをもたらした。

全員がクスクスと小さく口を抑えながら笑っている。そんな光景に軽く憤慨を起こした彼女は無邪気な子供の様で、焼け石に水を注いだだけであった。

 

瞬く間に笑いの渦に飲み込まれた一同とその中心にいる酷く赤面したゆんゆん。その雰囲気に神妙な顔をしていたキノアの顔も綻ぶ。

 

ゆんゆん達が吹き出したキノアを少し驚いた表情で見つめる。そんな事は御構い無しに涙を溜めながら笑う彼女は途切れ途切れの言葉を紡ぐ。

 

 

「あっ・・・いや・・・すいません、皆さんの・・・姿を見てたら何だかおかしくって・・・」

 

「・・・えっと・・・それで良いんじゃ・・・ないかな・・・なんて」

 

「・・・え?」

 

 

ゆんゆんの思いがけない一言で面食らった様な表情をするキノア。ごちゃごちゃの脳内を整理している間、ミツルギも笑いを止め口を開いた。

 

 

「キノアさん、君は・・・なんて言うか、背追い込みすぎてる・・・んじゃないかな。だから、偶には誰かに甘えて、泣いて、頼って、そうやって何もかも忘れて・・・自分でいた方が良いんじゃないかな。ゴメンね、知った様な口を聞いちゃって」

 

「・・・・・そう・・・ですね・・・」

 

 

そう言ってキノアは俯いてしまう。だが、その口には小さな笑みが浮かび、依然として顔を綻ばせていた。

それを見て安心した様に微笑むウィズだったが、ここで、店から出ようとしているギークの姿を視界の端に捉える。

 

 

「悪ィが、そういうのは柄じゃァねェ」

 

「・・・・・」

 

「キノアちゃん・・・・」

 

 

消える事の無い怨恨。ただならぬ気配をギークに注ぐ視線を放つ暗く、濁った彼女の目を見て、ゆんゆんには再び一抹の不安が芽生えてしまった-------

 

〜*〜

 

場所は移り変わり、一行は森の中を進んでいた。それも、人が開拓した道でもなければ獣道でもない、整備も何もされていない純然たる自然の中を草木を掻き分けながら行進していた。

劣悪な歩き心地に辟易しながらも全員が決して足を止め弱音を吐く事も無くただただ進み続けている。

 

まるで軍隊の行進の様に統制されてはいるが身の振り方は十人十色だった。魔法使い組は不規則な道に翻弄され、息が切れ始めているがギークやミツルギの戦士組はそんな物に負けじまいと力強く歩を進めている。

 

そんな者たちの先頭をまるで後ろの低層社会に我関せずを決め込んでいる様に悠々と飛んでいる一羽の鳥。羽ばたきの度に銀色の粒子が飛び散り、それらが日に照らされ輝いている。

 

これを生み出した本人曰く『おそらく私が魔法を放った事もあってか、それを感知してこっちに向かっているのでは』と推測。

事実、なんの脈絡もない様な場所で歩いて向かえる距離に目的の人物がいる、というのは偶然にしては出来すぎている。

 

と、言う訳で現在はお互いに引かれ合っているという憶測を立て、こうして行進している。が、いかんせんこうも道が悪いと憂鬱にもなってくる。

 

そんな鼓舞したはずの気持ちをなんとか舞い戻そうとどうにか悪戦苦闘している。

 

しかし、ここで一辺倒だった状況に変化が起こる。

先陣を切っていた銀色の鳥。それが急に勢いを無くしたかと思うと萎んでいくように形を失い、元の布切れへと戻ってしまった。

 

全員がまるでこれまでに何もなかったと思わせる様な機敏な動きで構えを取る。探し人との遭遇----これがこの現象の意味である。というのが共通の認識。

 

閑散とした密林にザッザッと足音が響く。鳥たちが足音に合わせ散っていく中、全員の視線はとある木陰、音の出所へと釘付けになっていた。だんだん、足音の間隔が長くなっていく。

 

足音が途絶えた。

木陰から微かに輪郭を覗かせていた影。それが白日の下に晒され、顕となる。

中肉中背、多方向へ跳ねている黒髪、そして異彩を放つ左目。

まるで剥き身の白刃を突きつけられている様な感覚をこれでもかと味わわせる冷たく、研ぎ澄まされた息の詰まる殺気。

 

傍から見たらただただ睨まれているだけの筈。だが、動けば間違いなく殺られるという、揺るがない確信は深く食い込んで来る。

 

 

「・・・・・ギークか。確かに、お前らの戦力で対抗しようと思ったら、そうなるな・・・悪くない」

 

「サクさん・・・・」

 

「その紅魔族・・・あのフヌケが随分と入れ込んでいた様だったが・・・・・」

 

「おいおい、サクさんよォ・・・何をブツブツ言ってやがるんだァ?つうか、ンなまどろっこしい事ァ抜きにして・・・いい加減殺されろよ」

 

「精々吠えていろ駄犬。誰が貴様なぞの為に死んでやるか」

 

 

瞬間、空気が弾ける。

爆心地から押し出される様に流れる空気の波が辺りを撫で回し、去っていく。

 

金属同士のぶつかり合いによる火花と金属音。

一瞬の躊躇もなく刃を交え始めたサクとギークに完璧に遅れを取りつつも臨戦態勢を取る。

 

しかし、心を鷲掴みにする恐怖感。狙いが自分であったならば、間違いなく殺られていた・・・如実に突きつけられた歴然とした実力差。それが、恐怖を植え込み、判断を鈍らせる。

 

1つ2つ、3つ4つと、局所で起こる衝撃。

目には軌跡でしか捉えられない速度。

 

そして、ゾワリと背筋を泡立たせる殺気。

感情など余分な物であり、そんな物はとうに削ぎ落としてある。

そう嫌でも感じさせる混じりっけのない純粋な意思の表れ。

 

自分に向けられずとも分かるほどの『気』に完璧に3人は萎縮してしまった。

足が竦む、震えが止められない。

植え付けられた『死』。一度芽生えてしまえば、拭い去れない深く、黒い予感。

 

そして、思い知らされる。

いくら自分が1人であっても、1人で闘って来たとしても、自分たちはまだまだ子供で、大人達に守られてきたんだという事を。

 

行き場の無い悔しさが自分たちの中で膨らんでいく。

死への恐怖、それを拭おうとする勇気。

一生残る悔恨、それに負けまいと立ち上がろうとする葛藤。

 

そして、それらは自分を自滅にしか導かない、死に急ぐ必要はない、だって------自分たちはまだまだ子供、大人達に任せれば良いじゃないか。そう囁く理性。

 

 

捕まえた(ガッチャ)ァ・・・!おいおい、ンなのに引っかかるたァよ・・・・・てメェ・・・まだ殺り切れてねェな・・・?」

 

「・・・何だと?」

 

 

戦局が動いた。

王を捉えた龍がその鋭牙を喉元に突き立て、屠る。

 

音も立てず、鮮血が飛び散る。生々しい鮮やかさを持つそれは四方の至る所に赤い染みを着色した。

 

ドシャッとまるで糸の切れた操り人形の様に力なく彼の体が崩れ落ちる。

 

 

「あ・・・あ・・・あ、あぁ・・・・・!ああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

 

紅目の少女の悲しげな咆哮が辺りに木霊した----------



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exー12 『俺』と『お前』

みなさん、GWですね。まあ作者は月火と学校があるのでちょっと先の事になりますが・・・みなさんいかがお過ごしでしょうか?

作者は部活が体育系から文化系の部活になったので休日は殆どフリーなのです。やったぜ。ですので今までよりも少しだけ更新頻度は上がるかもしれません。どうにかGW中に2本ほど更新したいと思っております。

実質休日編最終回みたいな感じになってしまいました。
それではどうぞ!


「あ・・・あ・・・あ、あぁ・・・・・!ああああああああああああああああああああああああああああッッ!!!」

 

「チッ・・・この程度で喚きやがって・・・・・これだからガキャ嫌なんだ」

 

「・・・・殺すっ!!」

 

 

狂乱、嘲笑、激昂。

全てがそれらの色へと塗り尽くされる。

 

激昂に支配されたキノアから溢れ出す魔力。肌を刺すような殺気と流れる魔力が彼女を中心に1つの渦を作り出していた。

 

精神的にも肉体的にもその場に存在させる事を許さないような渦中の中、男は確かに笑っていた。それも、声を大にして。

 

 

「ハハハハハハハハハハッッ!!良いぜェ!!もっとだ!!もっと騒げェ!!骸王(コイツ)が拍子抜けだったからなぁ!!()()()()()()()()で暴れ足りなかった分、殺しまくってやる!!」

 

「キノアさん!!」

 

辺りが、ウィズの一喝で静まり返った。

取り巻いていた渦も嘘のように消え去り、場の主導権は彼女に握られた。

 

 

「キノアさん、落ち着いて下さい。ここはもうじき戦場になります。今はモノノベさんを連れて・・・」

 

「ふざけないで!!こいつは2度も!!2度も私の全てを奪った!!それなのに大人しく手を引けなんて!!手を引け・・・なんて・・・・・ッ!!」

 

 

尻すぼみになっていく言葉と溢れ出していく涙。

それは怒りに身を任せていながらも理性が現状を受け入れ始め、感情が溢れ出し、止められなっている証拠だった。

 

 

「それに、この状況をどう変えるかどうかは今、私たちに懸かっているんです!」

 

「・・・・え?」

 

「今・・・なんて言いました?・・・店主さん・・・助かるんですか!?サクさんは!!」

 

「ひとまずは離れましょう。それからです。ミツルギさん、モノノベさんを頼みます」

 

「りょ、了解です」

 

 

冷静さ。この状況で最も欠落していたそれを最速で取り戻したウィズが次々と指示を飛ばす。

 

それに伴って周りにも伝染していった冷静さはようやくキノアやゆんゆんの激情を沈めていく。

 

〜*〜

 

「こいつは・・・思いがけないチャンスだな」

 

 

あっち(現実)の方の俺がどうやらギークに負けたらしいな・・・だがマズイな・・・多分進行形で俺の命は消えかけていっている。けどまだこっち(精神)が消えてねぇって事は即死は免れたっぽいな。

 

さあ・・・お出ましか。

 

 

「これまた手酷くやられたらしいな・・・俺」

 

「皮肉のつもりか?笑えねぇな・・・・フヌケ」

 

「ハッ・・・・だがよぉ・・・気付いてるか?」

 

「・・・何がだ」

 

「まぁ、気付かねぇのも無理はねぇか・・・お前の口調、最初の方は俺となんら変わらなかった・・・そしてバニルにギーク戦の時はすっかり変わっちまってた・・・んで今、段々とだが・・・戻ってきてるぜ?」

 

「そいつぁ・・・ッ!」

 

「な?」

 

「クソッ・・・!!」

 

 

・・・来るな。

ガラリと雰囲気が変わり、俺に向けられていた怒りは殺意へと変わった。

 

ぞわり。首筋を泡だ立たせるような感覚。幾度となく味わった死が隣席した時の物だ。

研ぎ澄まされた白刃を向けられた様な息の詰まる殺気。混じりっ気の無い純粋な殺気というのは、それだけで戦意を挫けさせられそうになる。

 

だが・・・俺もそう易々と死んでやるつもりは―――――

 

 

「ねぇんだよっ!!」

 

「チィ―――――ッ!?」

 

 

何とか・・・読めたぞ。多分あいつと一体になりかけてるからあの目の性能の一部だけは今俺の物になってるのか・・・だがまぁ・・・

 

 

「これで―――ようやく同じ土俵に立った訳だ」

 

 

あいつの急接近に何とかローキックをかまして思い切り吹き飛ばした。

数メートルは回転しながら飛んでった訳だが・・・こんなんじゃまだまだだろうな・・・

 

 

「どうしたぁ!?そんなもんじゃねぇだろ!?」

 

「当たり前だ・・・・・そら見ろ」

 

 

速ェッ!!クソッ・・・これは・・・・・

一瞬で背後を取られた。時が圧縮され、意識の加速に体が置いていかれる。

何とか体を捻り、腕を防御の為に構える・・・が、その時にはもう漆黒の鞭がしなり、迫っていた。

 

 

「ガッ・・・グッ・・・・・」

 

「・・・お返しだ」

 

 

視界が激しく回転し、視界の端に捉えていたあいつが急激に遠ざかって行った。

頭がグラッグラッする・・・意識が飛びそうだ・・・それに左腕の感触が薄い・・・・・ん?あいつの腕・・・

 

 

「お互いに・・・これで片腕は無くなったわけか・・・」

 

「その様だな」

 

「「・・・・・ぶっ潰してやる」」

 

 

ハイキックからのローキック。そこからの胴を狙ったジャブ・・・全部分かってる。

首を狙った手刀、フェイントをかけての回し蹴りだって・・・全部防がれるって分かってた。

 

俺なんだから。

 

 

「「ラアッ!!」」

 

 

ハイキックがぶつかり合う。ただの蹴りとは言え、至近距離、それもかなりの速度だ。

ビリビリとした衝撃が肌を撫でる。

 

・・・・・あぁ。楽しい。

何でだろうな・・・・・いや、そんな事考えるのは無粋だろ・・・なぁ?

 

目の前の俺も、瞳の中の俺も、笑いを浮かべていた。歯をむき出しにしてまるで子供みたいな様相になって、俺達は殺しあっていた。

不思議と蹴りを当てられようとも、拳を打ち込もうと何も浮かび上がってはこなかった。

 

怒りも焦りも憎しみも。ただただある種の悦楽がどこからか湧き出て来るだけ。

 

 

「「フフフ------ハハハハハハハハハハハ!!!」」

 

「最高だ!!もっと!もっと踊ろう!!このまま終わらすなんてもったいねぇ!!」

 

「奇遇だな!------激しく同意だ!!」

 

傍から見たら狂人であるんだろう。狂気しか伝わらないんだろう。そして恐れしか覚えないんだろう。

 

だが、俺の目に映るこいつは・・・ひどく幼く、無邪気で純粋な子供に見える。どうせ・・・お前も同じ事考えてんだろ?

 

〜*〜

 

「「ッハァ・・・ハァッ・・・ハァッ・・・!」」

 

「お互いロクに四肢も動かない・・・どうする気だこれ以上」

 

「そいつぁこっちのセリフだぜ・・・それに俺には切り札っつう物があってな・・・」

 

「皮肉だな・・・生憎様だが俺にも切り札ならある・・・」

 

「へぇ・・・そいつは・・・是非、お聞かせ・・・願いてぇな・・・!!」

 

 

次が最後の一撃だ。

軋む全身を震わせ、体を立たせる。それでもひどく不恰好な状態でしか立ち上がれねぇ・・・あっちも同じ事だがな。

正直、今みてぇに軽口叩くだけでも精一杯なんだよこっちは・・・!

 

一歩。そしてまた一歩と。ひどく重く感じる足を、ズルズルと体を引きずって距離を詰める。

お互いの吐息が掛かる位置まで接近し、静止する。こうするとホント鏡合わせだなこりゃ・・・・・

 

俺たちは切り札の為に頭を大きく振りかぶった。

 

 

「「ああああああああああああああああッッッ!!!」」

 

 

ゴチンと、鈍い音が辺りに大きく響き渡り、俺たちは額を激しく打ち付けた。なんでこんなカッコワリィ・・・最後、なんだろうな。

 

 

「ハハ・・・どうやら仕事で殴られまくってたのが・・・効いたらしい。俺の方が・・・石頭だったわけだ」

 

「・・・・・フッ」

 

 

そう言って、目の前の俺がゆっくりと崩れ落ちて来る。

力尽きたその体を何とか受け止め、背中に腕を回す。

 

 

「・・・・・何をしている?」

 

「ちょっと・・・・お話がしたくてな。なぁ・・・ようやく分かった気がするよ。(お前)が生まれた理由・・・怖かったんだろ?訳の分からない世界に刀一本で転生させられて、周りも助けてくれない。全部、何もかも自分でやらないと・・・そう思ってた。だから、強さだけ求めて人を拒絶して・・・そうやってる内にいつしかお前が生まれ、前に出ていた」

 

「・・・・あぁ」

 

「だけどよ・・・人を頼るのが下手くそな俺にこう言うのも何だが・・・頼ってこそ、助けがあるんだ。別に助けを乞いても良かったんだ。だが、自分で拒絶してしまったから・・・1人で生きていく事になった。別に責めてる訳じゃない。こうして冷たい過去や辛さがあったからこそ、今の幸せ、未来への希望っていうのは眩く映るし、強く強く実感できる。分かるだろ?俺は、カズマやゆんゆん達(ここに居る奴ら)が大好きだ。だから、そいつらが辛い目にあったら、必死に、惨めだろうと、どれだけ傷つく事になろうと支えてやる。そしてそいつらは俺を助けてくれるし、支えてくれてる。だからこうやって死ぬかもしれない事だろうと、戦い抜こうとした」

 

「・・・あぁ」

 

「だから、この世界を信じていいんだ。もう怖がらなくていいんだ。頼っていいんだ。()()()には最高の幸せと希望(信頼出来る大好きな仲間達)が居るだろ?」

 

「仲間・・・か・・・・・なら・・・」

 

 

突然、突き飛ばされた。そして何故だか今まで立っていた地面をすり抜け俺は際限なく落ちていく。

 

 

「なっ----------!?」

 

「その仲間達がお呼びだ。俺たちの希望である奴らなんだ。あんまり待たせて、悲しませてやるんじゃねぇよ。行け、()()

 

「あいつめ・・・格好つけやがって・・・・・だが--------任せとけ!!兄弟!!」

 

 

遠ざかる俺の姿。そこに一筋、涙が走っている様な気がした--------

 

 




次回の話は続きをちょっと書いてプラスアフターストーリーみたいな事になると思います。それで一旦休日編は打ち止め、次話から『厨ニ病でも魔女がしたい!』編に入ります。

それが終わったら次は現代入りとかとか考えています。というかこのペースだと5巻のゆんゆん主役巻の前に100話超えるかもですねぇ・・・どこぞのワン◯ースレベルの展開の遅さですね。

なるべく展開は速くしたいですがなるべく中は薄くならない様にしたいのでやっぱり更新頻度は変わらないかもしれませんw


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exー13 決着

僕にしては早い方です・・・うん。
GW中に後1話・・・出来るかなあw

さて、話は変わりますがこのすばのss、大分増えましたね。僕が投稿を始めた頃は190作品程だったのに、今となってはもう373作品、既に2倍位に増えていますね。
そんな事をしみじみと感じた今日この頃です。




「私の使える回復魔法は・・・最弱の『ヒール』しかありません。今の彼を回復させようと思うと相当な量の魔力が必要になります。ですから、ゆんゆんさんにキノアさん。魔力を分けてください」

 

「もちろんです!速く!速くサクさんを!!」

 

「・・・・・」

 

 

薄暗い森の中、鮮血を絶えず溢れたさせている男の体を3人は囲んでいた。失血ですっかり青白くなってしまった顔を抜け殻の様な形相を呈しているキノアが覗き込む。

涙で赤くなった目元を擦りながらもまるで人形の様に表情1つ変えない。今、思考はフルスピードで回転しながらも自分でも怖いほど、彼女は冷静でいた。

 

涙で感情まで流れたか。先輩は助かるか----------そんな想いだけが深く頭に根を張り、他の事を考えさせずにいる。

 

焦っている筈なのに、恐れている筈なのに、何も浮かんでこない。

怒っている筈なのに、悲しい筈なのに、何も思えない。

 

そんな事象でさえ、路傍の石程度の事にしか彼女は感じられなかった。

 

 

「早く!早くしてください店主さん!!――――キノアちゃん!!」

 

「・・・・・あ、はい・・・」

 

(朔さん・・・・助かると良いけど・・・・・ん?)

 

 

その様子を見ていたミツルギ。

ふと何かを感じて後ろに振り向くが何もなかった。

 

杞憂か。そう自分の中で決着すると彼は側の倒木に腰を下ろした。

 

〜*〜

 

一方その頃、まるで爆心地の様になっている森の一端。

そこには時を今か今かと待ち、心を躍らせている獣がいた。

 

歯をむき出し、子供の様な笑顔を浮かべているその双眸はギラギラと深紅に輝いていた。

 

 

「さァさァ・・・楽しい楽しい殺し合い(ゲーム)の始まりだぜ・・・!!」

 

 

そう呟き、ナイフを投擲する。

目にも留まらぬ速さでナイフは真横の藪へと一直線に飛んでいく。

 

藪の中で「グアッ」という短い断末魔と共に何かが倒れる音がした。そこから流れる血を一瞥し、彼は両手いっぱいにナイフを挟み込む。

 

それを合戦の合図とした様に雪崩の如く、異形の者たちが飛び出して来た。

しかし、恐竜に蟻が闘いを挑む様な物だ。

瞬く間に八方を取り囲んでいた相手の喉元にナイフが深々と突き刺さる。

 

 

「『連結(ジョイン)』!------『ブラッドネット!!』」

 

 

刺さったナイフから赤黒い糸の様な何かが飛び出す。

それはお互いを繋ぎ合わせ、1つの巨大な網を形成する。

 

そしてその中心の彼がまるでタクトを振る指揮者の様に腕を回した。

 

瞬間、地面が削れる。

悲鳴と地鳴りの様な轟音。

 

網の上の全てが、まるで吸い込まれる様に彼の頭上へと収束し、圧縮されていく。

 

血の雨を降らす凶星。

 

その星が、鉄槌を振り下ろす。

 

4つに弾けたそれは辺りの何もかもを薙ぎ倒し、蹂躙していく。

木々がなぎ倒される音、恐慌に駆られ、溢れ出す悲鳴。

そして、狂気じみた高らかな笑い声。

 

全てが、“死”へと染まっていく。

 

 

「ハハハハハハッッ!!胸踊る接戦ってのも悪かァねェが!!」

 

 

また1人、有象無象が特攻を仕掛けてくる。

 

惨めな奮起の声。震える手足。そして絶え絶えの息と蒼白の顔面。

 

到底、勝利への意志は見受けられない。

むしろ、恐怖に駆られ無謀にも命を差し出しに来た蛮勇。

 

それを、

 

 

「------やっぱ一方的な殺しってのもたまらねェなァ!!」

 

 

刈り取る。

 

風が、通り抜ける。

一瞬のすれ違い。

 

目の前に捉えていた筈の人物が消え、代わりに背中からまとわりつく様な悪寒が走る。

 

恐る恐る震える顔は事実をその目に焼き付けようと振り向き始める。

 

目にしたのは、悪魔。

手に握られた赤く胎動する果実。

 

儀式の代償だとでも言う様に悪魔は笑みを浮かべ、それを握り潰した。花火の様に飛び散る鮮血が辺りを染める。

 

死。それが今まで遠い事の様に感じられていた。

だが、その惨状の認識と共にそれは急に自分を追い越した気がした。

 

ドシャリと崩れ落ちた1つの死体を一瞥し、彼は頰に付着した血液を舐め取る。

 

 

「おいおい、まだまだ・・・序の口だぜ?」

 

 

そう告げる彼は再び無数のナイフを手に、虐殺を始めた------

 

〜*〜

 

・・・何だ?・・・・・体がいてぇ・・・何つうか・・・傷の痛みじゃなく・・・デケエ負荷が掛かった後みてぇな・・・・・・そうか・・・・・そうだった、送り出されたんだったな・・・あいつに。

 

瞼が重い。体中痛む。

 

どこか体の一部分を動かすのも億劫になる。

だが、目くらいは開けて・・・どうにか・・・周りを確認しねぇと・・・

 

 

「うっ・・・あ・・・」

 

「サクさん!」

 

「せ・・・先輩?」

 

 

まだボヤける視界の中、何だか見慣れたシルエットが見えた。

 

右には黒髪と紅目の少女。

左には銀髪と青目の少女。

 

聞き慣れた声に何だか安堵感を覚える。

そうか・・・・帰って来たんだな・・・・・

 

 

「・・・ありがとう」

 

 

痛む体を動かし、どうにか2人の頭に手を伸ばす。

今はこれ位しか出来ないからな・・・それに、他にもうっすらと店主にミツルギの姿も見える。

迷惑かけちまったな・・・・・こりゃしばらく頭が上がらねぇな・・・ハハハ。

 

 

「目が覚めましたか、モノノベさん?」

 

「店主・・・・悪いな」

 

「お礼なら、これからたっぷり彼女達にしてあげて下さい。特にキノアさんは1番の功労者ですから」

 

「ミツルギ・・・お前にも迷惑掛けたな・・・ありがとう」

 

「ようやく・・・僕の事をちゃんとした名前で呼びましたね」

 

「ハハ・・・そう言えば・・・そうだったな・・・・・!」

 

 

ふと、感覚がとてつもなく鋭敏になった。

 

肌を撫でる風の向き。風で舞い散る木の葉の葉脈。土くれの一粒一粒。そして闇に潜む何かの輪郭。

 

ミツルギの背後の闇。そこに蠢いた微かな影。

 

クソッ!今は体なんて全然動かねえ!なら・・・

 

 

「ミツルギ・・・!!後ろだ・・・!!」

 

「え?・・・・・グウッ!!」

 

 

マズイ・・・辺りはもう囲まれちまってる・・・・・それにゆんゆんやキノア達・・・魔力が殆ど感じられねぇ・・・闘えるのはミツルギだけ・・・

 

突如飛び出した魔物。鋭利な爪がまさにミツルギの脳天に突き立てようと振るわれるギリギリのタイミング。

何とか爪を受け止め弾き飛ばす。

 

それを皮切りに周りからはぞろぞろと敵が現れてくる。

後ろの樹木が見えない程に敵達の壁は分厚い。

 

向けられる殺意とこの絶望的な状況。

最悪だ・・・!

 

 

「店主・・・刀を・・・!」

 

「そ、それならここにあります!」

 

「サンキューゆんゆん・・・・・お粗末な術式しか組めねえだろうが・・・卍解・・・!」

 

 

こいつでどうにか体を無理矢理にでも動かせるくらいに改造するしかねぇ・・・どうにか間に合ってくれよ・・・!

 

周りの魔王軍と思しき魔物達は死に体の俺がいきなり卍解を発動させたのに多少、ビビってくれたらしい。

ほんの少しだけ、後ずさり攻撃までの猶予が伸びる。

 

もう、時間もねえ・・・途中だが、やるしかねえ・・・!!

 

 

「店主・・・!!俺の魔力を絞り出して・・・テレポートでそいつらと逃げろ!」

 

「なっ!?何でですかサクさん!無理です!!置いていけません!せっかく・・・せっかく戻って来たのに・・・何でっ・・・!」

 

「・・・分かりました」

 

「ウィズさん!?彼を置いていくんですか!?僕はそんなの・・・!」

 

 

早く・・・早くしろ・・・・・!

じゃねえと・・・全員死ぬことに・・・!

 

死が、刻一刻と迫ってくる。

敵が、殺意が、死が俺たちを刈り取ろうと肉薄する。

 

一歩、そしてまた一歩と距離を詰める。

後、持って数秒のタイムリミットだ・・・早く・・・早く・・・!!

 

凶刃が刀を杖にして息も絶え絶えの俺に振り下ろされる。

このままじゃ・・・死ぬ・・・

 

サーッと全身から素早く血の気が引いていく。

酷く時間がゆっくりと感じる中、何か・・・声を聞いた気がした。

 

 

『・・・こんなものか?フヌケ』

 

 

罵声としか取れない声。だが、今はひどく豪勢な応援に感じる。

・・・・・ったく・・・つくづく我ながら嫌味な奴だ。

 

次の瞬間、力が全身を支配した。

 

 

「ああああああぁぁぁっ!!!」

 

 

無意識のうちに漏れ出た叫び。

それに伴い、俺は大きく刀を振るった。

 

音は無い。

 

認識でさえ。

 

一瞬で目の前の景色が開ける。

 

刀の軌跡。

その延長線上の物全てを真一文字に切り裂いた。

 

 

「----------行けっ!!」

 

「そんな・・・!--------店主さんっ!!放して下さい!!」

 

「ゆんゆん・・・悪いが、こっからは()()の時間だ。とても見せられた物じゃねぇ・・・店主、頼んだ」

 

「えぇ、任せて下さい」

 

「先輩・・・・・死なないで・・・下さいね」

 

「任しとけ・・・それに・・・そろそろあいつが来る」

 

 

そう俺が言った瞬間。

 

隣に衝撃波が生まれる。嫌な殺意も。

 

ギラリと光る紅い目。全身に隠された無数のナイフ。

その風貌だけで誰もが尻尾を巻いて逃げそうな恐怖が、現れた。

 

空から流星の様に降り立ったのは返り血で全身を赤く染めたギークだった。・・・どうやら、絶好調らしい。

ここまで滾ってるこいつを見んのも久しぶりだ。

 

 

「・・・ハァ、言ったろ?見せれた物じゃねぇって・・・」

 

「あァ・・・?ンだてめェ・・・骸王の方じゃァねェな・・・それにガキ共はまだ居やがったか・・・」

 

「サクさん・・・」

 

「安心しろって。絶対に戻って来る。それにお前らやルナさんにまだお礼の1つも言ってねぇ。そんなままで死ぬなんてゴメンだからな」

 

「・・・はい!」

 

「良い子だ」

 

「モノノベさん・・・絶対ですよ?」

 

「・・・分かってるさ」

 

 

その言葉を皮切りに彼女達は光の柱に包まれ、消失した。

跡形も無く。

 

若干の虚しさが胸に残るが今はそれに浸っている暇じゃ無い。

今を生きて、生き抜いてこの世界を好きでい続けよう。

 

そう俺は決めたんだ。絶対に曲げない。

 

 

「久々の共闘だ!鈍ってねぇだろうな!?」

 

「ぬかせ!!死にかけのてめェなンて目じゃねェんだよ!!殺すぞ!!」

 

 

波のように押し寄せて来る敵の波。

到底、2人でどうにかなる量じゃない。

 

だが今なら・・・

 

 

「ラアァッッ!!!」

 

「死ねェッッ!!」

 

 

何とかなりそうだ。

 

2つの軌跡が立ちはだかる壁に風穴を穿った。

 

〜*〜

 

まさに死屍累々・・・だな、こりゃ。

辺りを埋め尽くす異色のカーペット。それらは斬り伏せられた無数の魔王軍の残骸だった。

 

辺りを埋め尽くす死臭でさえ、どうでも良く感じる。

それ位に疲れた・・・・・元々、動かない体を無理矢理動かしたんだ。5分間だけとは言え、やっぱ負荷がヤベェ・・・・・

 

そう木にもたれながら考えていた。

空は地上を悠然と見下ろし、この惨状には見向きもしていない。

だが、何の皮肉か、その空は恐ろしいほどに澄んでいた。

 

地上の地獄から天空の現世を見つめ、蜘蛛の糸でも待っているのかと自分で皮肉を思う様になっている。

 

数メートル向かいには切り株に同じく疲弊したギークが腰掛けていた。だが、俺と違い少しは余裕があるらしくまだその双眸はまだ闘えるぞと訴えかけて来る。

 

・・・・・?足音・・・それにこの雰囲気・・・何だか身に覚えがあるな・・・・まさか・・・・・

 

 

「全く・・・久々のご対面かと思えば、ボロボロじゃない。それに何よ、この辺り一帯死体だらけじゃない。また随分と暴れたわね」

 

 

森の奥から姿を現した1人の女性。

ツンツンとした金髪を後ろでまとめ、修道衣の様な、紺色のローブを羽織っている。

 

そいつは腰に手を当て、呆れた目でこちらを見つめて来る。

 

 

「おい不良シスター・・・何しに来たんだ?」

 

「不良シスターとは何よ!私はただそこのバカ(ギーク)の回収に来ただけよ!」

 

「誰がバカだァ・・・?あんまふざけた事ヌカしてんじゃねェぞ・・・!」

 

 

ギークの発言をさらりとスルーし、何やらおちょくる様に手足をヒラヒラさせ変な動きをしている。

正直頭突きの1発でも入れてやりたいが、生憎なことにそんな気力は残されていない。

 

 

「ついでにあなたも連れてってあげようか?サク」

 

「俺は・・・アクセルに帰る。待たせてる連中が居るからな」

 

「何よあんた・・・随分と丸くなったじゃない。気持ち悪っ」

 

「おい待て今なんて言った」

 

 

サラリと聞き捨てならない事を言った彼女を睨みつけるがそれもまるで意に介されていない。

それどころかズイッと顔を寄せ、「で」と別の話を勝手に切り出す始末だ。

 

 

「まあ、ついでだし。治療と転送くらいはしたげるわよ。ほれ、動かないでね」

 

「悪い・・・助かる」

 

「だから!お礼なんて柄じゃないでしょ!気持ち悪いからやめてね!」

 

「へいへい・・・そいつぁ悪うございましたよ」

 

 

そう俺が言い終わるのと同時に彼女が俺に手をかざす。

「『ケアルガ』」と告げると、その手は橙色の光に包まれる。

 

そこから流れ出す光の粒子が俺に染み込んでいく。

傷も小さいのなら消えていっているし、疲労感がドンドン抜けていってるのも実感できる。

 

やっぱ魔法ってのは凄いな・・・俺の元いた世界でこんなのがあったらどうなってたか・・・

 

 

「ほい、終わり!後は自分で適当に包帯巻くなり何なりしてよね。それじゃ、そこ立って」

 

「あ、あぁ・・・」

 

 

何つうか・・・やっぱこいつには振り回されるな・・・いつもそうだった。毎度毎度、俺とギークの闘い方とかにグチグチと文句を垂れつつも世話を焼く。

なんやかんや、俺がどうにか生き延びれたのもこいつに依るところが大きい・・・かもしれない。俺は認めないぞ、うん。

 

 

「それじゃ行くよ。『テレポート!』----------大切にね」

 

「え----------?」

 

 

ハッキリとは聞こえなかった。

だが、微かにだが彼女は何かを言った。

 

そんな気がし、どうにか確かめようするが、既に視界は見慣れた城壁に囲まれた街と森だった。

 

 

「何だったんだ・・・それに、ここは・・・・・そうか、アクセル・・・帰って来たんだな・・・俺」

 

 

正直、もう帰れないと思ってた。ここで死んでも仕方がない。

そう思いながらこの数日、過ごしてた。

だけど、俺は今、こうして現実で呼吸し、2本の足で地面を踏みしめ、目の前の景色を2つの目で吟味している。

 

それを実感すると、何だか胸の奥から何かがこみ上げて来る様な気がする。

目尻が熱くなったのに気がつき、バッと目元を全力でこする。

誰も居ないにしても涙流してるとこなんて見られたくねえし・・・まあいいや。早く帰ろう、冒険者ギルドにでも。

 

〜*〜

 

見慣れた木製の扉。古めかしい歴史を感じさせるそれは、普段であれば別に躊躇いもなく開け放てる。

だが、今はこの扉がひどく硬く冷たい、難攻不落の要塞の様に感じてしまう。

 

いや・・・男になれ俺・・・ここを開ければまたバカ達に会える。宴でも何でもござれのどんちゃん騒ぎに混ざれる。

 

よし!

 

そう心の中で呟き、俺は勢いよく両手で扉を押し開けた。

 

そこで広がって居たのは、オレンジ色の暖かい照明に照らされ。ビールグラスを傾け、酒を浴びて浴びせ。バカみたいに騒いで歌って。料理を流し込み。笑顔で溢れている、いつもとなんら変わらない、大好きな日常があった。

 

そして、目の前を通りかかる栗色の巻き毛をした女性。

彼女は若干俺を通り越した後、横目でこちらを捉える。

 

そのまま目的であっただろうテーブルへと足を運び、明るい声で料理を客に差し出す。その後、俯いたままこちらへ歩み寄ってくる。

 

コツコツと足音を響かせていたが、歩を重ねるごとにテンポは速くなり、あっという間に彼女は俺の目の前に来ていた。

 

ゴクリと生唾を飲み込む。もう、何をされようと、言われようと文句は無いし、覚悟もできている

 

 

「良かった・・・お帰り・・・・・モノノベ君」

 

 

フッと、彼女が視界から消えたかと思うと、次の瞬間には俺の胸に顔を埋めていた。

胸周りに伝わる震えや何か濡れているような感覚・・・泣いてるのか・・・・・

 

 

「すいません・・・遅く・・・なりました・・・・・ただいま、ルナさん」

 

「うんっ・・・良かった・・・良かったよぉ・・・!」

 

「その・・・このタイミングで言うのも何ですけど・・・その仕事の方って・・・」

 

「バカッ・・・そんなの・・・キツかったに決まってるじゃない・・・・・けど、どうでもいいわよ・・・!」

 

「・・・・・ありがとうございます」

 

 

そう言って彼女の頭に触れる。

心なしか若干荒れている髪の感触が物語るこれまでの苦労。

 

・・・ホント、悪いことしたな・・・・・いや、大事なのはこれから・・・か。好きなだけ愚痴を話させて、それを忘れて楽しめるくらい酒飲んでもらって・・・ハハ、やる事多積みだな・・・

 

気付けば、俺とルナさんは冒険者達の冷やかす声が大量に浴びせられていた。そして、2人揃って顔を赤める。

あいつら・・・覚えとけよ。

 

〜*〜

 

「しょ、所長・・・これは・・・」

 

「うむ!君が欠員していた間の分の仕事だが!」

 

 

思わず引きつった声で問いかける。

倉庫近くの小さな2つ目の事務室。そこが使われる時は追い込まれた職員が全力で書類を片付ける為に籠る時。

そして次に出てくる時は見て取れるほどにやつれて出てくる。

 

そんな地獄に俺は翌日に呼び出され、書類を前にしていた。

目の前には俺の背丈を遥かに超えるような書類が山のように連なっていた。

 

 

「ハハハ・・・これはこれは、素敵なお友達が沢山お越し下さいましたね・・・」

 

「うむ!そうであろう?では、頑張ってくれ!」

 

 

そう言って何かを机の上に置いて、部屋を後にする所長。

机の上に残されていたのは超強力な、一回使えば2日は体力の続く限り不眠不休で動けるようになるという、魔法具じみた、化け物のような栄養ドリンク。

 

全く以ってブラックだよチキショー!

 





ようやく・・・ようやく次回から本編に戻るよ・・・


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【中ニ病でも魔女がしたい!編】このキリがない災難に決着を!
2ー01 この厳しい季節に救いを!


先に言っておこう。駄文注意だ。



冬。

それは、1年の中でも最も厳しい季節である。

 

冷え込みや積雪による地形の変化、雪崩、吹雪による視界不良に遭難事故など、様々な危険が生まれる季節。

 

もちろん、大概のモンスターは冬眠に入り冬を越す。しかし、そんな中でもこの世界の逞しいモンスター共の一部はそんな劣悪な環境など御構い無しに活動している。

 

その為、この時期には依頼の量は減る。残るのはそんな逞しいモンスターの討伐依頼、つまりはハイリスクハイリターンな依頼のみとなり、一般的に言われる『美味しいクエスト』はめっきりその姿を見せなくなってしまう。

 

だが、現在の冒険者ギルドでは大量の冒険者達が朝っぱらから呑んだくれている。

原因は恐らくベルディア襲撃のせいだろう。

 

参加したアクセルのほぼ全ての冒険者には報酬が支払われ、無理に節制したりクエストに行ったりしなくても良いくらいには今のあそこの酔いどれ達の懐は潤っているんだろう。

 

てな訳で、俺は三日三晩睡眠なしのデスマを終えた直後、その酔いどれ達への料理や酒の配給にてんやわんやと右往左往していた。

 

何なんだこの仕打ち・・・いや、無断欠勤してたのにまたこうやって働かせてもらってるからむしろ・・・・・いややっぱブラックだわ。

 

例えるならヤムチャにフリーザ、セル、魔人ブウを同時に相手しろって言うくらいブラックよ?

と、まあそんな事を考えながら俺は天井を見つめていた。

 

ようやく貰えた仮眠時間。しっかり寝ておこうとひとまずベットで横になっていた。

 

まあ良いや・・・とにかく寝ようそうしよう・・・・・起こされるまで起きねえからな・・・今回はここまでだ読者達・・・おやs

 

 

「モノノベく〜ん、お客さn「エンダアアアアアアアアアアアアいやあああああああああああああいっっ!!!」キャアアアアアアッ!?・・・・・ど、どうしたの?」

 

「・・・・・俺の・・・俺の休憩時間を乱すぅ・・・」

 

「・・・へ・・・・?」

 

「バカヤロウはどこのどいつだああああああああああっっ!!」

 

 

許さん!!俺の仕事全部押し付けてぶっ倒れるまでこき使ってやる!!うおおおおおおおおおおおおおっっ!!

 

リアルでも脳内でもとんでもない叫び声を上げながら、俺はベットから飛び出した。

獣を連想させるような低い姿勢で走り出し、ドアを突き破るように開け放った。

 

そして開けた視界に飛び込んで来るカウンター越しのテーブル群や外の景色。なんだなんだとこちらを不思議そうな顔で見つめて来る他の職員や冒険者達。そして、何やら横から声がかけられる。

 

 

「あ、あの〜・・・先輩?その・・・お客さんが・・・あちらに・・・」

 

「フシュー・・・フシュー・・・」

 

 

息を荒ぶらせながらキノアの指差した方向へ顔を向ける。

そこには何やら見覚えのある小さな影がいた。

 

逆光で顔は見えないがあのゴツゴツした上半身に丈の長いスカートは・・・ダクネスだな。

確かあいつら(カズマ達)は雪精討伐に行ってたんじゃ・・・

 

 

「ああ良かった!サク!話が・・・あ・・・る・・・お邪魔しました」

 

 

どうやら俺の不機嫌さに気が付いたらしい。

一瞬顔を引きつらせ苦笑いしたかと思うとドンドン言葉を尻すぼみにし、最終的にはクルリと背中を向け、走り出そうとする。

 

 

「おいおい・・・」

 

 

そうつぶやくと瞬歩を発動させる。

瞬間移動もどき・・・ただただ自分の霊圧を蹴って移動してるだけなんだがな。だが、それでも次の瞬間には10メートルは離れていたダクネスの背中に追いついていた。

そして彼女の肩を鎧越しにガッシリと掴む。

 

 

「・・・・・」グッグッ  

 

 

俺は一切離すつもりも逃すつもりもない。

が、彼女は無言でどうにか俺の手を剥がそうと四苦八苦している。

 

 

「・・・・・」ミシミシ 

 

 

鎧が嫌な音を立て始める。

若干鎧が凹んだ気がしないでもない。

 

ダクネスがようやく危険と俺の不機嫌さに気が付いたらしい。

大人しくなると彼女は恐る恐るこちらへ振り向く。

 

 

「そ、その・・・今は大丈夫なのか?見た所、かなりお疲れの様だが・・・」

 

「あぁ・・・まあ、良くは無いな。だけど問題はねえよ。んで?なんかあったんだろ?」

 

「あ、あぁ。それなんだがな・・・そうだ!こんな事してる場合じゃないんだった!カズマ達が!!」

 

「--------移動しながら聞こうか」

 

〜*〜

 

どうも、ダクネス曰くカズマ達が捕まったらしい。

雪精討伐の際、めぐみんが振り回していた杖が綺麗に脳天に直撃。動けなくなっていた状態で何やら得体の知れない大きな雪像の様なモンスターが現れ、3人は連れ去られたらしい。

 

多分その雪像ってのは冬将軍なんだろうが・・・冬将軍がその場で悪☆即☆斬しなかったのが気になるな・・・そんなに気に障る事でもしたのか?いや、今はとにかく急がないとな・・・

 

 

「皆の盾であるクルセイダーの私が・・・クソッ・・・」

 

「ダクネス・・・っと・・・ここか」

 

 

悔しそうな表情で顔を陰らせたダクネス。そんな彼女を少し気に掛けながらも、目の前にそびえ立つ山に目をやる。

 

悠々と雪を抱く白銀の山は日光に照らされキラキラと光っていた。

ここへ冬将軍はカズマ達を連れて行ったらしい。

標高は・・・・・ざっと見積もって1000mってとこか・・・?

この位の標高であれば瞬歩でとっとと登っちまえば良いか。頂上には何かしらあるだろうが登頂と同時に鉢合わせなんてのは考えたくないし、恐らく無いだろう。

 

 

「うし、行くぞダクネス。掴まっとけ」

 

「な、何をするのだ?ここは地道に登って行った方が・・・」

 

「バカめ、マトモにこんなの登ったら体力無くなるわ」

 

「バカッ・・・!?」

 

 

案外、ストレートな罵倒は彼女にも響くらしい。

ちょっとヘソを曲げてしまい、膝をついていた彼女の腕を強引に引っ張り上げる。

 

 

「いよい------っしょ!!」

 

「え?--------う、うわああああああああああっっ!!」

 

 

大体下見た感じ・・・1回で50メートルってとこか?

もうちょっと霊圧を込めればもっと伸びるんだろうが・・・冬将軍とやってる時にガス欠なんて笑えないからな。この位で良いだろ。

 

・・・ていうか、叫び過ぎだ。

 

俺が右腕で抱えているダクネスはもろにリアルタイムで遠ざかっている地面を見ているからか、それとも高い所が苦手なのか。

いちいち甲高い叫び声を上げている。

 

うるせえ・・・!

 

〜*〜

 

「おいおい・・・なんだこりゃ・・・!」

 

「ハァ・・・ハァ・・・死ぬかと思ったぞサク・・・・・な、なんだあれは・・・?」

 

 

山頂に到着した俺たちは思わずそれを凝視してしまう。

台形型の山の頂上はかなりの広さがある。別にそれだけならなんという事はない。

が、俺たちを待ち構えていたのは純白の城壁に囲まれた真っ白な天守閣だ。

 

雪や氷で出来ているのだろうか。城は恐ろしい程に白で囲まれていた。城壁や城門、屋根瓦や微かに見える鯱も、何から何まで白で出来ている。

 

いや・・・ひとまずは偵察か。それに俺は今、休憩時間の筈なんだよ。だから残されたのはせいぜい2時間と少しってところか・・・取り敢えず裏口でも探すか。

幸い、堀もなければ警備もない。侵入するには楽そうだ。

 

 

「ダクネス、取り敢えずはこの城壁に沿って裏に回るぞ・・・おい?」

 

「うぷ・・・あ、あぁ。分かった・・・うぷ・・・」

 

「頼むから、リバースだけは勘弁してくれよ?」

 

〜*〜

 

大体、4分の1・・・つまり、側面辺りまで歩を進めた。

特にこれと言った変化もなく、妙な物音もない。あ、こう言うののテンプレで行くと地下牢って奴か?めんどいな・・・

 

 

「うわあああん!!何でよ!!何で私まで巻き添いにならないといけないのよ!殺すならこのヒキニートだけにしてよ!!高貴な女神様は解放するべきでしょ!?」

 

 

このチンパンジーみたいな声は・・・まさか・・・

ダクネスと共に塀から顔をチラッと覗かせる。

そこには見覚えのある茶髪に青髪、黒髪のズッコケ三人組がいた。だが、普段の服とは違って何故か白装束を着せられている。

 

そして庭だと思しき縁側の先に広がる少し広めの地面。そこには同化していて分かりにくいが白州と小さな木の台に脇差しが置いてある。

 

 

「あ、あれは・・・まさかSAMURAIのHARAKIRI・・・!?」

 

「HARAKIRI・・・?な、何なのだそれは?」

 

「俺の故郷に伝わる究極の謝罪方法・・・実行者は死ぬ!」

 

「な、なんだと!?早く助けなけれbあぁっ!?」

 

 

マズイマズイマズイマズイマズイ!!

あいつ何してくれてんだ!

 

俺の言葉を聞いて焦ったのだろう。ずるっと身を乗り出したが、そのせいで彼女は顔面から敷地内に落下してしまう。

 

 

「ふざけんなよこの駄女神!!元はと言えばテメェのこさえてきた借金が原因だろ!!死ぬならお前1人で死ねぇ!!」

 

「うわああああん!!酷いこと言った!!カズマさん今人として色々アウトな事言った!!ねぇ聞いためぐみん!?」

 

「だだだだいじょうび・・・だいじょうびだいじょうび・・・!」

 

 

騒ぎ立てるカズマやアクアを他所にめぐみんがすっかり壊れた喋るおもちゃみたいになっている。

知能が高い彼女はHARAKIRIを知らずともなんとなくこの行く末を理解してしまったのか、すっかり血の気が引き、青い顔になっている。

 

なんとかああしてあいつらが騒いでいてくれたおかげでダクネスは気づかれていない様だ。良かった・・・!

 

 

「おいお前!突っかかってくんじゃねえ!こんの駄女神・・・!」

 

「謝って!私の心を深く傷つけた罪を償ってこの状況をどうにかしてよ!!」

 

 

・・・ん?

マズくない?あれ?おい止めろカズマ、駄女神。

 

突っかかってくるアクアの顔面を必死に押しのけるカズマ。

そのせいで駄女神の顔面はダクネスが倒れている方向へと向けられている。あいつの金髪と所々入ったオレンジ色はなんの保護色効果も持たず、今駄女神が少しでも目線を動かせばダクネスを発見するだろう。

 

 

「・・・・・!」チャキン!

 

「「「ひいっ!!」」」

 

 

流石に見兼ねたのか。痺れを切らした冬将軍が3人に白刃をチラつかせ、強制的に白州に座らせる。

だがこっちにはまだ気づかなさs

 

 

「あぁっ!ダクネス!ダクネスじゃない!早く!早く助けてよ!!」

 

「何で気付いたんだ駄女神ぃっっ!!・・・・・あ」

 

 

反射的に上げてしまった怒号。辺りに響き渡り静寂をもたらしたそれは、全員の視線をこっちに向けさせる。

 

だが、冬将軍だけはこちらに気を取られる事もなく、淡々とカズマの首を撥ねようと刀を振り上げる。

 

 

「クソッ!縛道の四!『這縄』!!」

 

 

瞬歩で間合いを詰め、鬼道を放つ。

光の縄は冬将軍の腕を綺麗に縛り上げる。が、力が強すぎるせいで早くも効力が薄れ始めている。

 

 

「伏せとけよお前ら!君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ!焦熱と争乱 海隔て逆巻き南へと歩を進めよ!!破道の三十一!『赤火砲』!!」

 

 

這縄を破られた直後、巨大な火の塊が冬将軍の刀を弾き飛ばす。

三十一番だがまあ・・・完全詠唱でこれなら上出来だ。

 

 

「・・・!何なのですか!今のカッコいい口上は!サク!!ちょっと詳しく・・・」パァァァァ!

 

「おいバカめぐみん!あんまり近づくんじゃ・・・!」

 

 

・・・最悪だ。詠唱バッチリ全部聞かれた。恥ずか死にしそう。やだもう。

 

目を輝かせためぐみんをカズマが必死に制止している。

そこにダクネス、アクアも加わりめぐみんは抑えられた。

 

・・・あり?そう言えば刀は?

 

吹き飛ばした筈の刀が見当たらず辺りをキョロキョロと見渡す。冬将軍も同じ事を思ったらしいが、やはり何処にも見当たらない。

 

と、ここで何かが空気を裂きながら落下してくる音が聞こえてくる。

音の鳴る方へ顔を向けると、上空には刀身を下にして落下してくる刀が目に入る。カズマの頭頂部目掛けて。

 

するり。

 

音は無い。

 

遅れて吹き出す血。

 

赤く染め上げられた雪。

 

ドサリと体が崩れ落ち、そこから更に血が吹き出す。

脳が、現状を受け入れる事を拒み危険信号を上げる。

 

理性が飛びそうになる。頭が真っ白く染まり何も考えられなくなっていく。

 

 

「カズマさんが死んだ!!」

 

「この人でなし!!」

 

 

アクアの一言、それで俺は一気に現実へ引き戻され、声を上げていた。

 

 

 

 



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2ー02 このブラックな重労働にボーナスを!

投稿遅れてすいませんでしたあぁぁっっ!!
すいません!許して下さい、なんでもしますから(なんでもするとは言ってない

ブレソルやってたのもありますが素直に忙しかったりネタとか終わらせ方が分からんかったんや・・・・


「カズマさんが死んだ!」

 

「このひとでなし!!」

 

「ええっ!?何なのですかそのノリは!?」

 

 

めぐみんよ、異世界ではこれがテンプレなんだ。察せ。

って!こんな事してる場合じゃねえ!!

 

 

「アクア!!カズマは頼むぞ!!------啼け、『紅h・・・あれ?」

 

 

いつも通り、紅姫を取り出そうと腰に差してある筈のそれへと手をかける。が、その手は虚しく空を切る。

 

ま、待てよ?お、落ち着け落ち着けおちけつ!素数を数えるんだ1 2 3 7 11・・・よしOK。えぇと思い出せ・・・確か

 

 

『ふぃ〜疲れた・・・休憩時間だぁ・・・!っと、紅姫も横っちょに立てかけといて・・・ベッドダ〜イブ!!』

 

 

あの時だぁぁぁ・・・!!完璧にすっぽかして来ちまったよ・・・!ま、まさか鬼道だけで・・・冬将軍を撃退・・・しろってのか・・・?・・・・・積んだぁぁぁぁっ!!ヤダ!詠唱破棄じゃ絶対ダメージ入らないしかと言って詠唱なんてあいつらの前で・・・特にアクアに聞かせようものなら社会的に死ぬっ!!そして恥ずかしさで俺の精神的なアレもドンドン削れていく!!

 

 

「------やるしかないかコンチキショウッッ!!」

 

 

その言葉に反応し、冬将軍は瞬時に刀を作り出し、それを振るう。

 

凶刃が空気を裂き、迫ってくる。

 

波立つ刃の光沢。切っ先の到達点。

刃までの距離。そして、撃つべき鬼道。

 

・・・全部見えた。

 

 

「縛道の三十九!『円閘扇(えんこうせん)』!!3重展開!」

 

 

円形の盾が刀の軌道上に出現する。

当然刀は盾と激突する。火花を散らし拮抗するが、いかんせん番号の低い縛道だ。

ミシミシと嫌な音を立てながら亀裂を走らせる。1枚、また1枚と割られ、遂には最後の1枚も破られてしまう。

 

 

「縛道の二十一!『赤煙遁(せきえんとん)』!!」

 

 

障害物を跳ね除けた刀が再びその速度を上げながら迫ってくる。

が、それを身をかがめて避けると同時に地面に手を当てる。

 

かわした刀が頭上を通過するのとほぼ同時に手をついた所から赤い煙が噴き出す。

 

冬将軍を巻き込みながら辺りに赤い煙が充満する。

ここで相手が取るであろう行動は2つ・・・胴を狙っての薙ぎ払いかバックステップで距離を取って煙の外から襲撃・・・

 

視界が潰されたせいか、聴覚は異常に冴えているらしい。

雪を踏みしめる音とその上に何かが落ちるような音・・・後者か!

 

 

「破道の五十八------『闐嵐(てんらん)』!!」

 

 

竜巻が煙幕を押し出し、急激に視界がクリーンになっていく。

当然、素直に煙幕に呑まれる程バカな選択はしない・・・なら来るとしたらサイドか、後方だ。

 

 

「破道の三十一、『赤火砲(しゃっかほう)』!んでもって-----!」

 

 

両手を横に大きく広げ、そこから火球を両サイドに放つ。

もちろん、当たらないのは重々承知してる。が、これであいつの攻撃方向は俺の背面に限定される。なら、そこに全力で火力をぶつけてやればいい。

 

 

「君臨者よ!血肉の仮面・万象・羽搏き・ヒトの名を冠す者よ!蒼火の壁に双蓮を刻む!大火の淵を遠天にて待つ----破道の七十三、『双蓮蒼火墜(そうれんそうかつい)』!!」

 

 

凄まじい量の火炎が前方を埋め尽くす。

俺の立っている場所から扇状に焼け焦げた大地のラインが現れている。微かに見えた冬将軍の影も今やその姿は何処かへと消えている。

 

どうやら・・・撃退は出来たらしい・・・どうせ後数分もすれば復活するだろうし・・・早く帰るのが・・・クソッ、霊力一気に使い過ぎたな・・・・・だるい・・・まぁ・・・瞬歩でどうにか帰れるくらいの霊力なら残ってる・・・

 

 

「アクア!カズマの容体は!?」

 

「蘇生魔法をかけたからもうそろそろ復活すると思うけど・・・というか朔さん。あの面白い詠唱は何だったのかしら〜?プークスクス!『君臨者よ!』ですって〜!」

 

「帰る!!じゃあな!!」

 

「ま、待ってよぉ!置いてかないでよ!私たち目隠しして連れて来られたから帰り道も何も分からないのよ!!お願い見捨てないで!!」

 

 

ったくこいつは・・・ん?

 

 

「・・・おいめぐみん、その目はなんだ」

 

 

いつの間にか俺を横から覗き込むような形で立っているめぐみん。

その目はひどく輝いており、恐らくは好奇心で胸がいっぱいなのだろう。

 

 

「サク、後であの詠唱・・・教えてくださいね♡広められたくなかったら従って下さい(まだ外を歩いていたいでしょう?)

 

「・・・・・ハァ・・・分かったよ、じゃあ明日の朝にでもギルドの前に来い。どうにか休み貰うから」

 

 

一丁前に脅しを覚えてやがって・・・頭の回るバカは怖い。

辺りをなんとなく見渡す。満足気な顔をしためぐみんがハッとしカズマの元へテクテクと歩いて行く。アクアの膝に乗せられた彼をダクネスが彼の手を握りながら目を閉じ、祈っている。

 

傍から見ると、家族の様な暖かささえ感じられる・・・俺は・・・・いや、そんな事は当たり前だよな・・・

 

なんだかんだ・・・良いパーティじゃないか。

あいつ(カズマ)の愚痴に付き合ってる時も、アクア達の事を本気で不満に思ってる訳じゃ・・・いや、何回かガチトーンのもあったな・・・

 

そんな胸の奥に生えた一抹の雑念。

それを無理矢理押し殺し、4人の元へゆっくり歩み出す。

 

 

「悪いが、そろそろ俺は帰らないといけない。帰り道ならダクネスが知ってるだろうが・・・どうする?下山位は手伝ってやれるが・・・カズマが起きるまではそうしてるのか?」

 

「あぁ、気遣いはありがたいが、私たちはここで待つことにする。すまないな、時間を取らせたり戦わせてしまって」

 

「気にすんなよそんなの。またなんかあったら呼んでくれ、なるべく手助けできる様にするからよ。じゃあな」

 

 

そうして俺は走り出す。

まるで、何かから必死に逃げる様に。何かから目をそらし、認識しない様に。

 

〜*〜

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ギリギリセーフですか・・・?ルナさん」

 

「・・・な、何があったの?モノノベ君」

 

 

息を切らしながら大きく扉を開けはなつ。

室内の蒸し返す様な熱気と喧騒が全身に押し寄せる。そんなギルドを感じながらも心配そうな顔で飛び出してきたルナさんに問いかける。

 

なんとなくだがギリギリ間に合ったらしい。だがまぁあの冬将軍の一件関連でまた仕事に追われる事になるだろう。

 

 

「ちょっと素敵なお友達と戯れてきまして・・・泣いちゃいそうです」

 

「そ、そう・・・そう言えばあのダクネスさんは?」

 

「何でも、仲間の回復を待つので自分達は残る・・・だそうです」

 

「・・・とにかく、休んで来て頂戴。最近モノノベ君働き詰めなんだし」

 

「い、いえ・・・そういう訳には・・・」

 

「休みなさい、上司からの命令!後、仕事が終わるくらいに私の所に来るように!」

 

 

い、一体何が・・・・・ていうか、周りからの視線が・・・何だ何だ・・・・

普段の誠実で優しそうなギルドのお姉さん、ルナさんのイメージとはかけ離れた強い口調。そんな彼女に驚きを隠せないのだろうか。

周りにいた一連のやり取りを聞いた冒険者達は少し呆けた様な顔をしている。

 

そして、俺を見て何だか心配そうな視線を一瞬向け、顔をそらす。

 

俺の額を軽く押し、少しだけはにかんで見せた彼女は背中を向け、いつもの受付カウンターへと戻っていく。何故だろうか、今の彼女の背中は少し大きく見えた。

どうしよう・・・いや、素直に少し休ませてもらおう。悪いな・・・・・キノアや所長達にも・・・・・いや、言葉も大事だが・・・行動で示さないと。働いて、彼女達に楽してもらえるように。

 

そう自分の中で決着をつけ、俺も仮眠室へ歩き出す。やっぱ・・・さっきルナさんに小突かれた時に軽く倒れそうになったし・・・今も正直、気を抜いたらぶっ倒れそうだし足元も覚束ない。

 

ふぅ・・・・・本当に役に立ちたいなら、今は休まないとな・・・

 

辿り着いた休憩室。普段なら1分もあれば到着出来る筈の距離。だが今はひどく、遠く離れている様に感じる。

質素なベッドに敷かれた薄い布団。それで必死に体を包む。

 

決して良いとは言えない筈なのに、不思議と体からは安心感が溢れてくる。

体温が篭り、適度な暖かさになった全身が睡魔を呼び込む。

意識を刈り取ろうとするそれに、特に抵抗もせず、だんだんと意識を闇に預ける。

 

考える事もだんだん億劫になってきた。と言うよりも既に頭は殆ど働いていない。そして俺は意識を手放し、眠りに落ちた。

 

〜*〜

 

ん・・・あ・・・・・体がそこら中・・・痛え・・・・・そうか・・・・どのくらい寝てたんだ・・・・・?

 

だんだん覚醒していく意識。それに比例する様に視界はクリアになり正面の石壁を映し出す。

はだけた毛布の隙間を縫って肌を刺す冷たい空気が意識の覚醒に一役買っているのか。思ったよりも早く目は完璧と言って良い程に覚めた。

 

 

「・・・・・」

 

 

ゆっくりと上体を起こす。静まり返った部屋では衣摺れの音でさえ明瞭に聞き取れる。

 

・・・・?

 

ふと感じる人の気配。

顔を向けるとそこにはよく見慣れた人物。

 

整った顔立ちに肩にかかるほどの栗色をした巻き毛。スヤスヤと穏やかな寝息を立てる彼女--------ギルドのお姉さん、ルナさんの姿。

 

--------!ちょちょちょちょちょおおおおぉぉぉぉrrrrおおおおっと待て待て待て!!見える!!見えちゃう!見たいけどヤバイよヤバイよ!

 

しばらく呆けて彼女を見つめていたその時。

案外ゆるいんだ。女性用のギルドの制服の胸元は。

 

そして今、彼女は椅子に座りながら俯いて寝ている。

そう、変態紳士(読者)諸君なら分かるだろう!

 

おっぱいがボロンしかけてるんだよ!!

俺は何!?どうすればいいの!?このままだと全年齢版のエロゲみたいになっちゃうよ!朝チュンしちゃうよ!?

 

そうこうしている間にまた彼女がカクンと深く俯き、白い肌とおっぱいが大きく晒される。

 

どうしよう!!結構マジで!!

 

 




次回は久々にルナさんとイチャイチャさせるゾ


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2ー03 彼女の想い

なんだか・・・イチャイチャさせようと思ったら思ったよりしんみり?した恋愛話になっちゃった・・・

後、活動報告にオリキャラ達の設定とか色々書いてみました。良ければどうぞ。


おいおいおいおいおいおいおい!

どうしよどうしよ!?もう心の中でどうしよとおいがゲシュタルト崩壊起こしてきたよ!?何!?このまま行くと何タルト崩壊起こしちゃうの!?イチゴ!?イチゴタルト崩壊!?

 

静まり返ったギルドのとある一室。

ベッドの上で青い顔で固まっている俺と相変わらず眠り呆けているルナさん。

 

ひ、ひとまずベッドから出ようそうしよう・・・今は時間的には10時頃だろうし・・・・・まぁ、残業している様な時間帯だ。

 

音を立てない様注意しながら、ベッドから降りる。ヒンヤリとした石の床の感触が素足を通して伝わってくる。

軽く身震いしてからも取り敢えずベッドのシーツと布団を取り替えようとそれらを自分の方へと手繰り寄せる。

 

多少の物音は立ってしまったがどうやら彼女がまだ起きる様子はない。

 

魔力式の洗濯機もどきにシーツと布団を叩き込み近くの棚から新しいシーツを取り出す。サラサラとした清潔な肌触りと若干の暖かさが再び睡魔を呼び起こそうとする。

 

人ってなんでこう・・・布団とかにくるまると安心するのかね・・・全人類共通なんだとは思うけど。かく言う俺もベッドに入って布団に入るとすぐに眠っちまう。不思議なもんだなぁ・・・・・何だこのクソトークは。

 

そんなこんなでどうにかシーツの取っ替えは終わった・・・さて、最大の難関だ・・・!

 

椅子に深く腰掛け眠り呆けている彼女。そんな彼女をどうやってベッドへと運んだものか・・・・・俺の覚えている技で人体を浮遊させるなんて便利なもんは無いし・・・やっぱり自分の手でやるしかないか・・・・・別に下心はな・・・ちょっとだけ、ちょっとだけ芽生えたかもしれんな。

 

しゃーないやろ!しゃーなんやから!!

 

誰に向けての叫びとも知れないそれを心の中でぶち撒ける。スッキリとした所で、俺は足を運び彼女の横へと足を運ぶ。

実の所、ベッドとの距離はそう遠くはない。精々人が1人間に入れるかどうかの間隔だ。だが、その距離は逆に正面から抱え上げてよいしょとベッドに運ぶ、と言うことが出来ないのだ。なのでまずは・・・・俺が椅子になるしかない・・・?

 

頼むから起きないでくれ・・・そして煩悩を打ち払え俺・・・

 

ゆっくりと。ゆっくりと体を支えながら椅子を引き抜いていく。次第に負荷が大きくなっていく膝回り。だがそれ以上に彼女の柔らかな体の感触が伝わってくる。

 

ドクンと大きく心臓が跳ね、一向に治まるどころかドンドンと心拍数の上昇に拍車をかける。

 

体がひどく火照っていく。息が上がっていく。

 

落ち着け・・・後ちょっとなんだから・・・・・

 

そうして彼女の膝に腕を回し、胴体を支える。

ひどく笑う膝を叱責して、どうにか立ち上がる。

 

お姫様抱っこした彼女の体をどうにか、できる限りの優しい、静かな動作でベッドに寝かせる。

 

これだけしても起きない彼女に、少しだけおかしさを覚え、口角が緩む。どれだけ眠りが深いのか、どんな夢を見ているのか。そんな事を考えながら布団を被せる。

 

 

「フウウウウゥゥゥゥ-------・・・」

 

 

大きく息を吐き、床に膝をつき、ベッドに背を預ける。

・・・久々にここまで神経使ったなぁ・・・・・というか、これからどうしたものか・・・流石にルナさん1人、ここで放置して帰宅----っていう訳にもいかねぇし・・・久し振りに1人月と星を見ながら一杯やるかな。思えば酒もだいぶご無沙汰な気がするし・・・うん、悪くない。何かつまみがあれば良いが・・・まぁそんな贅沢は言わない。

 

うし、それなら善は急げだ。っと・・・酒は確か・・・・・

 

そう思い立ち上がろうとした瞬間。背中が何かに引っ張られるのに気がつく。

 

 

「・・・どこ行くの・・・・?」

 

 

聞きなれた声。だが、いつもよりも数段幼く感じる。そして、儚げにも。

 

 

「・・・だめ、このままで居て・・・お願い」

 

 

振り返り、何か喋りかけようとした時。そんな声がかけられる。

これまで聞いたことのない彼女の声に固まってしまう。

 

 

「・・・はい」

 

「・・・・・ありがとうね」

 

 

ガサゴソと言う音ともにお礼を告げる彼女。

次の瞬間、彼女が自身の腕を肩から回し、俺の背中に顔を埋める。

 

確かに感じる人肌に少なからずドキドキしてしまい、言葉が詰まる。俺が何も言えずに固まっていると何かを喋り出す。

 

 

「・・・引き止めちゃってごめんなさい・・・ただ、嬉しかったのと・・・また君が消えちゃいそうで・・・」

 

「・・・・・・」

 

「愚痴・・・いや、私のお話・・・聞いてくれる?」

 

「もちろん」

 

「私がこうやってギルドに勤める様になってから2年とちょっとだけどさ・・・なんだか満たされなかったんだ。同僚達や冒険者さん方から高嶺の花・・・・とか思われてたのかな。みんな、私に良い様にしてくれた。だけど()()()()・・・だから、誰も一線を踏み越えようとしなかった。ただの顔見知り・・・ちょっと仲が良い人・・・っていうのがドンドンと増えていった。そして段々と1人になって、勝手に潰れそうになって・・・それを紛らわしたくて、ろくに家にも帰らずここで眠って、誰よりも早く1人ここで目覚めて・・・・そんな日々だった。だけどある日、君が来た。当時の君は・・・なんだか私みたいだった。笑顔を忘れて、何かに追われてるみたいな・・・もちろん、私と君じゃ抱えてる物のレベルが違いすぎるけど・・・・・とにかく、上手くは言えないけど、そう感じたんだ。そして君の教育係になって・・・最初はただただ事務的に、君に仕事を教えていた。だけど、だんだん仕事が板について・・・結局私から離れて行くんだろうと・・・そう思ってたんだ・・・だけど・・・」

 

 

声が震えている。背中越しの彼女が若干涙ぐんでいるのが分かる。

なんでだ・・・なんで俺も泣きそうになってる・・・・・?

 

 

「------君は、笑顔を見せる様になった。そしていつも私と居てくれた。例え貼り付けの笑顔でも私にはそれが嬉しかった。この人は、私の中に踏み込んで来てくれるって。そしたら私もなんだか笑える様になってた。偽りの、事務的な笑顔じゃなくて、本当の笑顔で。それがとても嬉しくて、楽しくて・・・!幸せだった・・・!1人で目覚める筈の私の側に君が居てくれた・・・!だから・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------大好き、モノノベ君」



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2ー04 この純情な恋心に祝福を!

「大好き、モノノベ君」

 

 

揺らぐ視界。いつの間にか俺は目に大粒の涙を溜めていた。

 

そんな中、唯一明瞭に聞こえる彼女の声。それが焦った思考に拍車をかける。

 

 

「・・・ごめんね。こんな一方通行で。」

 

 

・・・・・いいや。そうじゃない。

 

 

「・・・戸惑ったでしょ?いきなり、訳の分からない話を聞かされて、自分が“私なんか”と重ね合わせられてたんだから・・・」

 

 

・・・違う。俺は----俺は--------!

 

 

「ごめんね。もう、こんな事言わない・・・だから、忘れて。これは誰かに縋ろうとした・・・私のエゴ」

 

 

--------違う! 言え!! 早く言え!! 一生後悔してもいいのか!?

ここまで彼女が話したんだ!!黙っているのはそれこそ1番ひどい自分のエゴだろうが!!

 

 

「------ルナさん」

 

 

叱責する心。それがようやく、火を灯す。

 

肩から回された彼女の腕にそっと触れ、できる限りの優しめな声で話しかける。

背中から伝わる彼女のしゃくり上げた小さな泣き声が心を締め付ける。既に涙でマトモに見えてなかった目から大粒の涙が零れ落ちる。

 

 

「-------知ってますよね? 『骸王』って。あれは--------俺なんです」

 

「・・・・・え? 」

 

「すいません、こちらこそいきなりこんな事言って。ただ、そんな事打ち明けてもらった以上、言うしかないかなって・・・取り敢えず、俺が所長に拾われてここに来て大体・・・1年、でしたっけ? 入ってすぐの俺は、ずっとあなたに憧れてました。俺はこれまで与える事なんて無かったんで、周りの方々に笑顔を振りまいて、幸せを与えてるあなたが。もちろん今の今までそんな背景があったなんて知りませんでしたから、それこそ、あなたの言うただの顔見知りで踏み込もうとしない人だったんでしょう。 だけど、俺は嬉しかったですよ。なにせ憧れの人と一緒に居て、働けたんですから。あなたのおかげでそんな日常が、この場所が大好きになれました。 ですから、泣かないで下さいよ。こんなありきたりな言葉しか言えませんが、あなたが泣いていると俺も泣きたくなりますから。 これこそ、さっき言ってたエゴです」

 

「で、でも・・・・」

 

「ほら、そうやってまた自分を否定しようとする。自分を無下にしないで下さい。-------あなたが否定したあなたを、俺は信じてるんです。  ただのワガママですけど、俺だって嬉しいんです。憧れの人にそんな風に思われていて・・・ですからそのあなたが変わっちゃうのは-------俺には受け入れらんないです。さて・・・・・これで俺のエゴは全部吐き出しましたよ。どうです? 誰かに・・・俺に縋ろうとしたあなたのエゴっていうのは、全然エゴなんて呼ばないような気がしません? 少なくとも俺はそう思いますよ」

 

「-------フフッ・・・不器用で口下手なのにそんな事言うから、怪しいカウンセリングみたいになってるわよ・・・!」

 

「ハハハ。そりゃあ違いないですね」

 

 

彼女が笑うに連れて俺も笑い出す。閑静な部屋に響く笑い声。それがなんだか自分の胸の内の何かを満たしていくように感じられる。

 

-------俺が求めてた物・・・ってのは存外、ルナさんと同じだったのかな・・・・・自分を心の内に秘めてくれる人。それがきっと、俺の求めてた物であり、今日カズマ達を見て感じた事なんだろう・・・ひとまず、いつまでもこの体勢でいるってのも・・・無作法だろう?

 

そう思い立ち、彼女の腕を優しく解く。

一息の静寂。その僅かな余韻で決心をつけ、俺は体を回転させる。

 

背中にずっと顔を埋めていたのだから当然と言えば当然、なのだがやはりこんな近距離で彼女の顔を見るとどうも固まってしまう。

 

いや、ここまで来たんだ。言うしかねぇだろ。もう退けない。

自分の発言には責任を持て。無下にするなと言ったのは誰だ。

 

だから------言え!!

 

 

「ルナさん・・・・・俺・・・まだ返事返せそうにないです」

 

「・・・・・そう・・・やっぱり・・・」

 

「・・・昔--------いや、ほんの2、3ヶ月位前の俺だったら間違いなくイエスと答えました。今だって正直、このままあなたと付き合いたい、なんて思ってます。 ですけど・・・・・俺自身、揺れているんです。どうしたら良いのか、どうするべきか・・・って。つい最近、守りたい人・・・って言うのが増えました。頼りないくせに、やけに意地っ張りで、一途で、真面目で、そして健気で。一緒にいると温かくて、身を委ねられる・・・そいつらを、今は必死に守って、育ててやるべきなんじゃないか・・・・・なんて、事を今は思ってます。ただ、いつか俺も気持ちに整理を付けます。ですからその時-------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-------また、告白してもらっても良いですか?」

 

「フフッ・・・女の子にそんなひどい事させるなんて・・・モテないわよ?」

 

「そう言ってる割には、嫌そうな顔してないじゃないですか」

 

 

真っ直ぐ彼女の顔を見据える。

涙でぐしゃぐしゃになったお互いの顔が面白いからか。何にせよ、俺たちはまた笑い合っていた。それこそ、いつもの日常みたいに。

 

・・・自分でもひどい事を言ったのは分かってる。ただ、今の俺のこの気持ちを伝えず、不明瞭な想いで安直にイエスとは言いたくないし、言えない。それこそ、彼女に対する無礼だ。なにせルナさんはこうやって自分の胸中を明かしてくれた。

 

今まで通り、俺に接してくれ・・・・・そう言いたい。が、それは傲慢が過ぎる。それに、どうするかはルナさんが決める事・・・・・クソッ・・・結局、どの道だろうと後悔はついて来んのかよ・・・

 

 

「そう言えばモノノベ君」

 

「・・・・・あ・・・な、何です?」

 

「私ね、君と愚痴してる時、いつも行き遅れた〜なんて言ってるけどさ・・・・・」

 

 

彼女はそう告げるとイタズラそうな表情を浮かべながらウインクし、俺の唇に優しく人差し指で触れる。

初めて見た彼女の幼げな表情に顔がドンドン紅潮していくのが分かる。が、彼女はそんな事御構い無しに口を開く。

 

 

「こうやって、ちゃんと告白したの、初めてなのよ?いつか返事を聞かせてね。私の初めてを貰っちゃった()()()♡」

 

「----------ッ!・・・・・フフ・・・任せてくださいよ、()()()

 

「ありがとう・・・・・やっぱり、大好きよ」

 

「ちょ、まだ早いですって」

 

「フフ・・・面白い・・・・何回でも言うわよ、私のこの想いを・・・ねぇ、抱き・・・・・締めて」

 

「・・・・・つくづく分からない人ですね・・・」

 

 

彼女がベッドの上で体勢を変え、再びこちらを見つめてくる。

そんな彼女に軽く皮肉を口にして俺もベッドへとゆっくり足を踏み入れる。

そして、何かウキウキしている彼女との距離を詰め、互いの体の所々が触れ合い始める。相変わらず柔らかい彼女の体の感触はいつでも慣れず、ドキドキしてしまう。

 

距離が無くなり、彼女が俺の首に両手をかけ、俺も彼女の背中に手を回し抱き寄せる。吐息も鼓動も、胸の柔らかな感触も、全部伝わってくる。

 

 

「・・・ねぇ、このままでいて」

 

「もちろんです・・・僕もそうしてたいですから」

 

 

泣き疲れたせいだろうか。それともお互いの体温がとても心地いいせいだろうか。すごく眠い。だけど、しばらくこうして・・・たい・・・あぁ・・・ダメだ・・・・・眠い・・・

 

 

「-------おやすみ、モノノベ君」

 

 

 

 



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exー14 メタ話

朔「・・・・・おぉ、この小説の作者、まだ生きてたのかよ。すっかり死んでたと思ってたのに」

 

和「なんでも、リアルの方が忙しいとか何とか嘆いてたぜ。文系部活に加え勉強時間クラス最下位が何を抜かしておるやら」

 

朔「ホントそれだよな・・・サボり性が過ぎるっての。何を考えてんだあのクソ野郎」

 

朔和「はぁ・・・・・」

 

エ「あの・・・この会話、書かれてますよ」

 

朔「いやそうは言ってもよお・・・・・だって事実じゃん。分かる?どんな気持ちで作者がパソコンにこれ打ち込んでるか。すごい惨めな気分だよこれ」

 

和「ていうかあんたこんな回が初登場でいいの?この小説、クリスが登場してないから未だにスティールネタも解禁されてないってのに」

 

エ「それに関しては作者も嘆いてましたね。スティールネタ解禁しようにもクリス登場のタイミングを完璧に逃し、男オリ主のパンツ剥いだ所で何になるんだと。後、初登場に関しては非常に不本意です」

 

和「---------ハッ!というかだよ!!」

 

朔「なんだようっさいなぁ・・・」

 

和「一応俺はこの小説の元ネタの主人公な訳だ。それなのに・・・それなのに・・・出番が少なすぎやしないか!?」

 

エ「えっとカズマさん最後に登場した回は・・・2ー01、まあ3話程出番がないですね・・・私に至っては0回ですが・・・」

 

朔「いやいや、まだお前は出てる方だろ。と言う訳でパネルカモン!」

 

 

〜出演順位〜

1位:モノノベサク(25回)

2位:ゆんゆん(23回)

3位:カズマ(14回)

4位:アクア ルナ (13回)

5位:めぐみん ウィズ (12回)

6位:ミツルギ (11回)

7位:ダクネス (10回)

8位:キノア 所長 (6回)

9位:ギーク 骸王 (4回)

10位:ベルディア (3回)

11位:バニル エリス ??? (1回)

 

 

和「これまた2位から3位までの転落ぶりが凄まじいな・・・」

 

朔「ほらカズマお前、ヒロイン候補のルナさん押し退けて3位なんだぞ、贅沢言うんじゃない。どうせこれから抜かれるだろうけど」

 

和「俺、案外出てたんだな・・・最近失速気味だったけども・・・」

 

エ「何で私が悪魔なんかとタイなんですかねぇ・・・」ピキピキ

 

朔「正直、ゆんゆんをヒロインにしたいが為に無理やり1話から登場させたが場合によってはエリスとゆんゆんの順位が逆転してた説あるからなぁ・・・恨むなら作者のタイプを恨むんだな」

 

エ「そうですね。あのクズには後で焼きを入れときます」

 

和「女神がする顔じゃないな・・・・っと、作中の2大チートキャラがタイで4回か」

 

朔「だな。というか、あの2人はこれからホント滅多に登場しないだろうけども。予定としてはexの長編で時々出るかどうか位の予定らしい。正直、あの2人が揃おう物なら相手がとんでもない化物か神様でもない限り物語が一瞬で終わる。情けとか尺の都合、モラルその他諸々考えもしない野郎どもだし・・・・・というかこんなランキングでベルディアをランクインさせた辺り、進行の遅さが目に見えてんだよなぁ」

 

エ「本当ですよ。30話もやってたら他のssは大体2巻の話終わってるんじゃないですか?」

 

ダ「いやいや!ちょっと待ってくれないか!」

 

朔「何だよ出演順位ミツルギの1個下、7位のダクnあだだだだだだだだっっ!!」

 

ダ「何故私があのいけ好かない男よりも下なのだ!これでも原作メインヒロイン組の1人だぞ!良いのか!?ポンコツ系お姉さんキャラがいなくなっても良いのか!?」

 

和「ポンコツ系を頼むから卒業してくれよお前は・・・・・後、朔が逝きかけてるぞ」

 

朔「はぁ・・・・はぁ・・・はぁ・・・三途の河の間で反復横跳びしてた・・・というか、原作主人公組は仕方ないだろ!ex編が案外長くなっちまったがそこでのお前ら、前半みたいな所で出番終了してたんだから。むしろ、1巻の話だけでここまで出演してんだから良いだろ!」

 

ル「そうよ!まだ良い方じゃない!私なんてこのssのメインヒロイン候補だっていうのに、こんなヒキニートに順位を抜かれた挙句、駄女神とタイなのよ!?」

 

和「(無言の吐血)」

 

朔「ルナさん・・・カズマが軽く言葉の暴力で死にかけてますが・・・ていうか酔ってます?」

 

キ「そうですよぉ!せんぱぁい!!ぬわぁんでこんなにじぇばんがしゅくにゃいんでしゅかぁ!?」

 

朔「酒臭ッ!!ルナさん!こいつに酒呑ませました!?」

 

ル「ふふふのふ〜、にゃんのこちょきゃしらにぇ〜。ほらほら、もにょにょべきゅんもいっぱいにょみましょ〜」

 

朔「ダメだもう・・・完璧に出来上がってる・・・そ、そうだ!この2人がいるってことは所長も・・・!」

 

所「もうマヂ無理・・・リスカしよ・・・・・」

 

朔「しょちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉっっ!!??だあぁぁもうっ!!この酔っ払い共め!とっとと退場せい!!出番はまだ先なんだから!!」

 

和「ふう・・・行ったか・・・」

 

朔「まったくだ・・・・・と、いうかこの流れは嫌なよkトリニダード・トバゴッッ!!?」

 

骸「おいフヌケ。貴様、もとい中の人よ!この俺をここまで短い出演回数にするとは何事だ!!この作品中、最強の一角である俺をもっと出せ!そうすればこのクソ程のテンポの悪さも改善されるだろうて!」

 

ギ「まったくだぜ・・・てめェ、何が時々出るかどうかだァ?ふざけんじゃねェぞ!」

 

朔「い、いやお前ら2人もう十分主役してたじゃん・・・・・というかそれを言ったらただの俺TUEEE系になっちゃうじゃん。典型的な痛い夢小説やん。もう手遅れかもしれんが」

 

骸 ギ「うるせェ!知ったことか!!」ズドオオン

 

朔「タコス!!------痛えんだよてめえらいい加減にしろやとっとと帰れぇ!!」

 

和「何なんだこの状況・・・そう言えば、お前らさっきから珍しく黙ってるがあそこの朔達みたいになんか物申したい事とかないのか?」

 

ア「私は特にないわね。女神たる私が、そんな汚い欲にまみれている訳無いでしょう?」コウチャズルズル

 

和「それじゃあ、金銭欲も汚い欲だろうからお前の分け前はこれから無しな。後、出演回数も減少の方向で」コウチャボッシュ-ト

 

ア「何でそうなるのよぉ!!許して!許してよぉ!!」

 

め「アクアの様にバカなことを言うつもりはないですが、正直私はこの位出演できれば十分です。ゆんゆんに男が出来て、出演回数も大きく上回られてるのは不服ですが、そんな贅沢言える立場でもないですし、爆裂魔法が撃てればそれで良いのです」

 

ア「バカって何よ!あんた達、そろそろ天罰でも当たるわよ!もう手遅れなんだから!!」

 

朔「何でこんな奴がルナさんと出演回数同じなんだ・・・ハァ」

 

ウ「モノノベさん、それ位にしてあげては・・・」

 

朔「店主か。そうやお前はどうなんだ?1巻では出番が全然無かったけどex編で活躍したからかめぐみんと同じ順位だけど」

 

ウ「露骨な説明口調は置いときますが・・・私もこの位出られれば十分過ぎるくらいですよ。元々、原作でもサブヒロインみたいな感じですし」

 

朔「そうか。さて、そろそろ作者の気力が尽きたらしい。と言うわけでこのメタ回も終幕。悪いがそんな都合でミツルギ、ベルディア、バニラに???の愚痴タイムは無しで」

 

負け組「えっ」

 

ゆ「えっ」

 

朔「あっ・・・・・」

 

一同「合掌」

 

ゆ「そうですよね・・・私なんて下位組どころか登場人物としても数えられず、忘れられていくんですよね・・・」

 

朔「えっいやっ・・・あっ・・・あぁ・・・・・」

 

ゆ「さようならああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜!!」

 

朔「カムバーック!!ゆんゆーん!!」

 

和「どこ行くんだあの2人・・・・・仕方ない。代わりに挨拶して締めるか----------え〜皆さま。この度はこんなグダグダな回を読んで頂きどうも----」

 

一同「ありがとうございます!」

 

和「至らぬ点など等、多々ありますがこれからもご愛読頂ければ幸いです。それでは次回、『この風変わりな爆裂デートに平穏を!〜モノノベサク、死す〜』でお会いしましょう!それでは!」

 

朔「え?待って俺死ぬの?え?」

 



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exー15 モノノベサク、まだ死なず!

前回からだいぶ期間が空き、更には予告詐欺をしてしまい、誠に申し訳ありません。
お詫びとして作者が全裸で硬〜い尖った石の上で3年ほど瞑想してきます(大嘘



「爽やかな朝・・・・だなぁ・・・」

 

 

朝一番、カーテンを開け放ち朝日を浴びながらそんな事を呟いてみる。すると後ろから

 

 

「ふふっ・・・いきなり何言ってるのよ・・・」

 

 

薄っすら笑みを浮かべる寝起きのルナさん。ホント凄いなこの人・・・あの寝相の悪さを通り越して暴力とも呼べる猛威を寝ながら振るっていたというのに。そんな事は一切感じさせない快調な寝起きの様ですねハイ・・・・・めちゃ顔面痛い。

 

 

「ちょっと約束があるんで、もう出ますね。お仕事頑張って下さい」

 

「・・・そう。行ってらっしゃい」

 

 

変な間を置いて、彼女が手を振り笑顔で送り出してくれる。

なんだあの間は。女心って分かんないな〜・・・怖い怖い。

 

そんな事を頭の片隅で考えながら、ギルドを後にし銭湯を目指す。さっきから微妙に服が汗で肌に張り付いて仕方がないからな。それに一応は女の子とお出かけな訳だし。

 

〜*〜

 

竹籠を棚に並べただけの簡易な脱衣所を抜け、浴室への扉を開ける。するとそこには久々に目にする大きな浴槽。湯気が一気に全身へ吹き付け、少なからずの暑苦しさを覚える。

 

備え付けの桶で湯を被りそのまま遠慮なく湯に浸かる。

全身を覆う程よい温かさの湯が脱力感を誘い、自然とリラックスしていく。目を閉じてそんな感覚に浸りながらしばらく惚ける。

 

日々の疲れもなんだか少しは取れた気がする。あんな激務なんだ。こんな癒しがあったって構わないだろう。

 

思い返せば、ゆんゆんにカズマとそのパーティーメンバー達、あいつらと会ってから色々あったなぁ・・・たまたま俺の面倒事を引き寄せる才能でも開花したか?めちゃくちゃいらん。そんなのは駄女神にでも食わせとけ。

 

自称女神に対して不敬が過ぎる発言だがまぁ、あれを崇めろなんてのも無理な話だしな。なんでアクシズ教団なんてのが生まれたのやら。

 

っと。そろそろ上がるとするかな。のぼせても困るし。

 

そう思い立ち湯船から上がる。水の流れる音が辺りに反響するが、そんな事は一切気にも留めず体を洗い流す。

 

〜*〜

 

サッパリした爽快感と湯上りの少しポカポカした眠気をその身に感じながら待ち合わせの街の正門へと歩を進める。

 

するとそこには分かりやすいシルエットが1つ。

周りの人たちが露骨にスッと避けて通っているからだろうか。遠くからでも視認できたその大きな帽子と杖。 めぐみんだ。

 

爆裂魔法を毎日毎日ぶっ放していたのは元より、それが原因で魔王軍幹部であるベルディアの怒りを買ったりと、悪い意味でカズマ達のパーティーの悪名を轟かせるのに貢献している爆裂狂。それがあいつなのだ・・・・・が、まぁ普通に大人しくしていればただの美少女だ。・・・一部のマニアにしか需要はないだろうが。

 

 

「うっす。で?今日の爆裂スポットはどこなん?」

 

「おはようございます。それについては心配ありません」スッ

 

 

彼女が差し出した1枚の紙切れ。もとい恐らくクエストの依頼状。それに向けて身長のせいで腰を低くしてそれを覗き込む。

 

が、突然腰に電撃、もとい魔女の一撃が炸裂する。

 

体の隅々を駆け巡るような刺激。それが体を硬直させ、突き刺すような痛みを脳が知覚し始める。

突然硬直し、冷や汗を掻き始めた俺にめぐみんが声をかけてくる。

 

ま、まさかルナさんからのダメージが・・・・・こんな所、時、そしてこんな一撃で現れるとは・・・・・い、痛すぎて声も出ない・・・

 

 

「・・・・・ま、魔女の一撃を受けた・・・気をつけろよめぐみん・・・歳っていうのは怖いぞ・・・・・」

 

「魔女の一撃・・・と言うのが何なのかはいまいち分かりませんが、早く行きましょうよ。時間がもったいないです」

 

「そ、そうだな・・・・」

 

 

あ・・・クエスト内容・・・・・ていうか・・・腰・・・・・ヤバいんだって・・・・バカにならないんだよこの痛み・・・・

 

〜*〜

 

丘を越えて、山を越えて、谷を越えてくんだ・・・じゃなくて、まぁこれと言って変哲もない草原を歩き続けること1時間ほど。ひとまず休憩という名目で昼飯をとることにした。

 

 

「まさか・・・ここまでサクサクと昼食の用意ができるとは・・・・・」

 

「そんな珍しい事か・・・?」

 

「えぇ。普段なんてダクネスが弁当を用意するといっては、得体のしれぬ冒涜的な何かを生成し、アクアがそれを笑いなんやかんやでモンスターの餌食となり、カズマがその後始末に追われる・・・・・みたいに一向に準備が進まないのです・・・そういえば最近は何だかアクアが大人しい・・・というかいつも何かを心配して青い顔をしてるのですが・・・」

 

「そ、そうか・・・・・つーか、その流れだとお前何してんの?」

 

「私は無論、爆裂ですとも」フンッ!

 

 

どこぞの少佐を思わせるような発言とともに得意げな顔で胸を張るめぐみん。

なんだか非常に可哀そうなカズマの様相がうかがえて来る。

 

そんなこんなで始まった昼食。内容は簡単なサンドイッチの詰め合わせ。今朝速攻で作ってきた物だが空腹のせいか、案外マトモな味に仕上がっている。・・・・・これを機に男飯卒業してちょっとは真面目に料理でもしようかな・・・・・

 

と、ここで視界の端に映るめぐみんのとある動作。それはハムサンドの中のレタスをせっせと取り出し、わざわざ皿へと戻している。

 

 

「おいめぐみん。野菜を食べいや野菜を。栄養偏るぞ」

 

「むう・・・・・サクも母の様な事を言うのですね・・・子供扱いしないで下さいよ・・・・」

 

「母って・・・」

 

 

そう言い頰を膨らませ少し拗ねるめぐみん。渋々嫌そうな顔をしながらもレタスをハムサンドに戻し頬張る。

 

 

「そういや昔は俺もそんなんだったっけか・・・・・」

 

「?・・・・どうしました?」

 

「いやなに。ちょっと昔の事を思い出しだけだ。それよりも、腹ごしらえも済んだ事だし、出発しようぜ」

 

「そうですね。依頼書によるとそろそろターゲットに遭遇しそうなものですが」

 

「あそうだ。結局今回の依頼ってなんなんだ?結局聞かされずに来ちまったが・・・」

 

「えーとですね・・・ヴ・・・ヴァストローデ・・・だそうです。なんだか変な名前してますね」

 

「え?」

 

「え?」

 

「は?」

 

「はい?」

 

「・・・帰ろうか」

 

「ちょちょちょ!何故なんです!?」

 

「バッカお前!おま・・・お前!ヴァストローデだぞ!知らないのか!?」

 

「知りませんよ!変な名前なんですしどうせそこまで強くありません!ですから!ですから置いて行こうとしないで下さい!」

 

 

そう言いながらとっとと身支度をして帰ろうとする俺の足に縋り付いてくるめぐみん。

というかそんな事はどうでもいいんだよ!美少女に縋られてお願いされるのはちょっと答えるけども!!

ヴァストローデはマズイ!今の俺じゃ間違いなく死ねる!あいつを起こすか一国分の勢力でも連れてきてようやくどっこいになる様な相手だぞ!?

 

 

「ヴァストローデはなぁ!よしんばお前の爆裂魔法が当たったとしても倒せるかどうか怪しい位の化け物なんだぞ!何でそんな奴の討伐依頼なんて受けちまったんだよ!?」

 

「だ、だって・・・簡単なお仕事だって・・・か、書いて・・・あったんですよ・・・うっ・・・うう・・・」グスッ

 

 

我ながら珍しい結構本気になってしまった声。そんな俺に怯えてしまったのだろうか。彼女が身を縮め涙ぐみながらこちらに訴えてくる。

 

・・・・・あぁっ、クソ・・・・・

 

 

「・・・めぐみん」

 

「・・・・・はい?」

 

「悪かった。まぁ後で依頼主にはお灸を据えに行くが・・・ヴァストローデが大したことないなんて言うなんてどうせただのバカだろうし。それはそれとしてだ。俺たちは冒険者だ。なら、依頼は引き受けたからには失敗か成功か、撤退なんていうのは似つかわしくない」

 

「!・・・それじゃあ!」

 

「最後まで付き合ってやる。最悪死ぬが・・・最大限努力はする。死ぬ事になろうとお前だけはどうにかあいつらの所に返してみせる。任せとけ・・・こう見えても俺は昔、強かったらしい」

 

「------はいっ!頼りにしてますよ!サク!」

 

 

頭を撫でながら彼女に語りかける。できる限りの安堵を与えられるよう、これからの恐怖を押し殺し精一杯笑ってみせる。

そんな俺を見ためぐみんが無邪気そうな笑顔を返してくる。

 

少し和らいだ硬い心を落ち着かせ、大きく深呼吸をする。

感覚がどんどんと鋭敏になっていく。擦れ合う木の葉の音、生物の足音、それらがリアルな感覚で瞼の裏に描かれていく。

 

そして、数キロ先、山の中・・・いいや、埋もれているが・・・一部が出て来てる・・・ん?目覚めてる筈だが・・・なぜ動かないんだ・・・?

 

 

「・・・見つけた。行くぞめぐみん。腹くくれよ!」

 

「えぇ!いつでもばっちこいですとも!」

 

〜*〜

 

・・・落下、というのはかくも不自由な物だ。恐ろしい速度での落下というのは何一つ許されない。思いを馳せる事も、誰かに助けられる、誰かを助けるなどという事も。精々、無様な断末魔を上げるのが精一杯だろう。

-----そう、つい数秒前。

 

 

「あ、あの・・・サク!これがホントのホントに最善のルートなのですか!?明らかに死亡する確率のが高いような立地ですけども!?」

 

「しょうがないだろ!?あの辺りは頭おかしいレベルで強いモンスターの密集してる地帯なんだよ!ならせめて事故死位しかありえないここを選んだ方が死の選択肢が少なくて済むだろォ!?」

 

「なぜ死ぬことが前提なのですか!?そんなこと言ってるとカズマの以前言っていたふらぐという物が建ちますよ!」

 

 

鼻先に広がるは地平線。一寸先には足場も何もなく、鬱蒼とした樹海が落下した俺たちを飲み込もうとしている。

そんな命懸けの綱渡りを俺とめぐみんはギャーギャー騒ぎながら攻略しようとしていた。

飛べばいいと思うかもしれないが頭上にはグリフォンクラスの魔物がとんでもない数を展開しており、更にはめぐみんが今にも吹き飛ばされそうなほどの強風も吹き荒れていてとてもではないが飛べるような状況では無かった。

必死に岩壁を伝いながら這うように移動する俺たちを容赦なく強風が吹き付ける。が、日頃の行いなのか。運が悪いのか。

 

後方・・・・・めぐみんのいる方向からボゴッと鈍い音がなる。

見るとそこの壁に大穴が空き、そこから何かが顔を覗かせていた。

だが、そんな事はどうでもいい。壁に穴が空いた衝撃で岩の破片とともにめぐみんの華奢な体が宙に放り投げられていた。

 

 

「えっ-----------うあああああああああああああああああああああああああああああっっ!!」

 

「めぐみんっ!!-----------クソッタレがっ!!」

 

 

落下していくめぐみんに向かってこちらも落下しながら全速力で彼女の元へ向かう。

とんでもない速度と加速で目も開けられないほどの風圧が体を叩きつける。だがそれよりも焦燥でいっぱいの心にはそんなものを意に介す暇はない。

間に合ってくれよ・・・!

 

 

「啼け、紅姫!------『縛道の三十七・吊星』!」

 

 

地面スレスレ。手を伸ばせば地に着いてしまうような高さで、ようやく彼女を受け止める事が出来た。

吊星のクッションで衝撃を殺しながらゆっくりとめぐみんをその上に下ろす。そして何よりあそこでこっちを生意気に睥睨してるアレは・・・・・本命か。上手いこと霊圧を隠しやがるせいであそこまで接近されても気付かなかった・・・クソッ。

こんな形で遭遇するとは・・・・・それに、今こそ分かるあれの霊圧・・・マジモンの化け物だわありゃ。

 

 

「めぐみん・・・掴まってろよ・・・落ちたら死ぬと思え」

 

「は、はい・・・!」

 

 

真剣な声色で話しかけ、彼女の体を抱え込む。

彼女がギュッと服の裾を掴んだのを確かに感じ取る。が、それ以上に向こうから向けられる殺気に息がつまる。

 

背中に冷や汗が流れ、目は零れ落ちそうな程に開かれ、奴にくぎ付けになっている。

 

張りつめられた糸が途切れる瞬間。それを必死に詮索する。下手に動けば、間違いなく殺される。何か、何かきっかけは・・・・

 

奇跡、という物だろうか。野生動物もすぐさまに逃げ出したこんな空虚な空間が突如として地鳴りを起こし始める。

 

そしてその一瞬。一瞬だけ張りつめた空気の重圧から体が解き放たれる。

 

 

(『騙紅姫(だましべにひめ)』!・・・瞬歩ッ!)

 

 

姿を透明にし、霊圧を可能な限り抑える。

さらに霊圧の塊を俺たちの姿に形どり、思い切り進行方向とは反対方向に撃ち放つ。これでどうにか・・・少しだけでも騙されてくれよ・・・!

------足を止めるな!走り続けろ!走って走って・・・どこに流れ着こうと今はとにかく逃げろ!

 

そう自分の脳内で警鐘を打ち鳴らし続ける。そうでもしなければ今、この速度に悲鳴をあげる体を止めてしまいそうになる。

それだけはならない。俺だけではなく、腕の中で必死になっている彼女(めぐみん)まで死なせてしまう事になる。

そうならない為、走れ。ただ何も考えず遮二無二風を切れ。

 

 

「・・・・ク!・・・・サ・・・!・・・・・・サク!ちょっと!ちょっと待ってくだ・・・あ"っ"!!」

 

「ゔぁっ!?」

 

 

必死に走っていたせいでなかなか聞き取れなかった彼女の声。ようやく聞こえ始め、足を止めた瞬間、その衝撃からか後ろから痛々しい濁った声が聞こえ、プルプルと震えが伝わってくる。

 

 

「・・・どうした?」

 

「・・・ひ、ひたかみまみた・・・・・」

 

 

あぁ・・・うん、ご愁傷様・・・

そんな聞いただけで軽く背筋に悪寒が走るような体験を報告されながら俺は一旦めぐみんを降ろす。

 

すると彼女は口を抑え、水筒を持ちながらそそくさと木の影へと隠れてしまった。何をしているかは察しがついたので俺は軽く咳払いをしてそちらに背を向ける。

 

・・・さて、どの辺まで来たのかな・・・場所的に・・・・・この前の冬将軍と戦った辺りの場所か・・・・・うん?なんか・・・・・この薄っすらと感じる魔力・・・・・どっかで・・・

 

そう悩んでいると木陰から出て来ためぐみんが後ろから声をかけてくる。

 

 

「お待たせしましたサク。・・・これからどうするのですか?」

 

「いや、とりあえず帰りたいんだが・・・この辺りはモンスターがうじゃうじゃいる地区に隣接してるし、まして今は冬・・・・・それにヴァストローデ(あれ)もまだそう離れてはいないだろうし・・・うん?」

 

 

そう話しているとめぐみんがどんどんと青い顔になっていくのに気がつく。・・・・・いやだ。なんだかデジャヴ。いやまあそんなはずは・・・・・

 

そう心の中で願掛けしながらゆっくりと彼女と同じ方へ振り向く。

-----そこには視界いっぱいに溢れかえるモンスターの一行がこちらへ向け全力疾走してきていた------想像してた30倍くらいヤバイ・・・・まぢ卍・・・・

 



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exー16 この超難度のふざけたクエストに終幕を!

僕にしては早い方でしょう?ね?ね?(汗
ていうか1周年ですよ1周年!正直半年で失踪すると思ってました()なんか記念の話を書きたいけどそれでまた本編から脱線しちまうよぉ!!


迫り来る幾百のモンスターの波。巻き込まれようものならミンチよりひでぇやとなるのは目に見えているような地獄絵図。

そんな物を戦ってどうにかしようなどとは毛ほども思えなかった。

 

 

「やばいやばいやばい!走れ走れええええええ!!」

 

「ちょちょちょちょっと!!まだ!まだ舌が!!舌が痛いのですがあ!!」

 

「なら!舌痛いの我慢して走るか立ち止まってエロ同人コース直行どっちが良いよぉ!?」

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

「えっ!?ちょっおまっ・・・・・はやっ!!」

 

 

必死に俺の少し後ろをついて来ていためぐみんだったが俺のその一言でどこぞのランサーの様な姿勢で爆走してあろうことか俺はその遥か後ろに取り残される形になった。

・・・・・あの子、アークウィザードだよね?俺の知ってるアークウィザードじゃなあいよあんなの・・・・・なんてこっ「いや息切れェ!!」

 

 

数秒走った所で木の下で膝をつき、リバースしそうになっている彼女を見つける。あいも変わらずモンスター共は迫り来ている。

 

 

「-------許せめぐみん!!」

 

「えっちょっ・・・まだ出てな・・・・・あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

 

彼女の首根っこを思い切り鷲掴み、速度を上げながら走り抜ける。

結構な負担がかかったであろう首と体に呼応し、かなり痛々しい叫びが彼女を掴んでいる右手の下から聞こえてくる。

 

流石にこのままでは彼女がゲロインになり、更にはいつかのカズマの様に逝ってしまう。

 

そんな事は絶対に許されない・・・ので、彼女を背中をやる。

 

 

「しっかり掴まってrお"く"う"っ"!?」

 

「よくも!!よくも乙女のデリケートな所を見た上にあんな扱いしてくれましたね!?もう許しませんよ!!」

 

「あ"だだだだだだだだ!!首!首絞まってるし!!どこにお前足回してんだああああああああああああ!!」

 

「どこって・・・ナニですよ?」

 

「ナニじゃねえよバカ野郎!!お前のさっきの嗚咽よかよっぽど大事な漢女(おとめ)のデリケートゾーンだぞ!!」

 

 

首を絞めながら俺の背中に張り付くに飽き足らず、めぐみんが俺のジョイスティックを足で捩じらせる様な形で締め付ける。

いやてかマジで何やってんのこいつ!?

 

 

「いだだだだだだだ!!もげる!!マジであかん!!首も息子ももげるぅ!!」

 

「ふふふふふ!!これぞ私の編み出した秘技なのです!名付けて『チンストロック☆』!!」

 

「ロック☆じゃねぇんだよ!!男は自由であるべきなんだよ!!いやいつも欲に囚われてるけども!!」

 

「無理に剥がそうとしない方が身の為ですよ!ロックが私以外の手で外される時!それは死です!!」

 

「何ちょっとっぽく言ってんだよ!それただもげて新境地開拓してるだけじゃねぇか!!ばっちり何かが死んでもう一つの自分が目覚めてるじゃねぇかああああ!!」

 

 

なんなんだよマジでこの状況!!

とっととどうにかしないと後ろからモンスターどもに追いつかれるし俺の息子も死ぬ!!

何かこの状況をどうにか出来るモンは・・・!

 

鬱蒼とした森。そんな中、めぐみんを抱え無闇に走り回ってる訳だが・・・・・っと。そろそろ森を抜けるか・・・・・

 

 

「--------しめた!!行くぞめぐみん!!----掴まってろよぉっ!!」

 

「えっ!?な、何を・・・・・う、うわあああああああああああああああっっ!!」

 

 

森を抜けた直後。目の前には切り立った崖とその間を流れるとてつもなく大きな川。こんな状況でこれは・・・

 

 

「-------飛ぶしかねぇよなぁっ!!『瞬歩』ッ!」

 

「ああああああああああああ!!今!今そんなフワッてなるアレを食らったら・・・・・」

 

 

・・・うん?なんか変な言葉が聞こえた気が・・・・・

 

風圧に顔をしかめながら、必死に対岸を目指している最中。

彼女のとんでもない叫びはバッチリ耳に届いたのだが・・・・一体何を言ったんだ?それになんだかプルプルし出して・・・・

 

 

「オ・・・オエエエエエエエエェェェェェェェェェ!!」

 

「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!?お、おま・・・お前!お前ぇ!な、なな・・・何リバースしてくれちゃってんのぉ!?」

 

 

お、思いっきり失念してた・・・!さっきまでこいつが吐きそうになるくらいに全力疾走してた事、そしてこれまでのリアクションから、三半規管が死ぬほど弱い事・・・!

 

そんな俺の悔恨もつゆ知らず。背中の彼女はキラキラを思うがままに遥か下の川へリバースし続けている。そして、その弊害は俺にも当然降り注ぐ訳でして・・・!

 

 

「ああああああああああっ!おっ・・・俺の数少ない普段着がああああああああっ!!悪かった!!ロクに配慮せずこんな事したの謝るから!頼むからキラキラ止めてええええぇぇぇ!!」

 

 

対岸にどっしりと着地し、また絶叫する。

モンスターの中にどうやらここを越えられる個体はいないらしく、追手はようやく振り切れた。

 

だが、一難去ってまた一難。

綺麗に背中でリバースし続けている彼女を崖際に四つん這いにさせ、背中をさする。

リバースするめぐみんを尻目に足や背中に付着した吐瀉物をどうしたものかと心の中で唸る。

 

 

「オォ良し良し。吐くもの吐いてスッキリしたか?」

 

「う、うぅ・・・・すいませんサク・・・・」

 

「・・・・・うん、まぁ・・・気にすんなよ・・・うん・・・」

 

 

心境は複雑だがまぁここで変に落ち込んだら愚痴ったらめぐみんは絶対気にかけるだろうからな・・・それにしても、あのモンスターの大群は何だったんだ?・・・崖は渡れないと認識したのか、左右に分かれたり踵を返してまた逃げていくようにいなくなったし・・・件のヴァストローデか?

 

それにしては姿を見ないし霊圧も感じな・・・いや。アレの霊圧を隠すステルス性能は尋常じゃない・・・霊圧をアテにした探知は出来んか・・・視認・・・・・も、あん時うっすらと確認できた人と同じシルエット。それをあんな薄暗い森の上から見つけるなんて事は無理だろう・・・

 

 

「・・・どうしたもんかねぇ・・・・・」

 

「・・・何をどうするのですか?」

 

「今回のクエストの討伐対象だよ。------そうやさっき落とされた時、なんかわかんなかったか?遠目じゃ人型だっつう事位しか分からなくて・・・」

 

「そうですね・・・なんだか、不気味でした・・・背丈はカズマと同じくらいだったんですが、所々から棘みたいな・・・言ってしまえば獣と人が融合したみたいでした」

 

「ふうむ・・・どうしたもんかな・・・・・」

 

 

そう言って2人でうーんと首を傾げ唸る。

時刻は昼を少し過ぎ、3時・・・に入るかどうか位かな・・・こりゃもしかしたら、野宿で日を跨ぐことに・・・

 

 

「--------アラァ?さっき感じた霊圧・・・どんなのかと思ったけど中々良い男じゃない。ただ・・・ちょっと若すぎるのがたまに傷ねぇ・・・」

 

「「!?・・・・・」」

 

 

俺たちの背中側。死角から聞こえる妖艶な女の声。だがそれはこの世全ての凶兆を押し込めた様な底知れない恐怖の呪詛に聞こえる。

背筋を突き抜ける悪寒。それを感じ首を咄嗟に向ける。

そこには、黒いまるでカラスを連想させるような軽装のドレスを纏った長い黒髪を纏った女。細めた切れ長の目と妖しく曲げた唇とそれを舐める舌。その挙動一つ一つに目を釘付けにさせられる。

 

それ程の恐ろしさをその女は携えていた。

 

いつからだ!?いつからここに来た!?

なんだこの霊圧は!なんで今の今まで気づかなかった!?いや!そんな事より・・・!

 

 

「めぐみんっ!!早くこっちに!!」

 

「は、はいっ!」

 

「あらあら・・・そんなに私の事が怖いかしら?随分と勘が良くて()()なのね」

 

「何とでも言っとけよ・・・この()()

 

「売女だなんて心外ね。私、これでも結構高位のヴァストローデで、誇りとかも面倒だけど持ってるつもりなのよ?」

 

「知ったことか・・・それで?ただそんな事を言いに来ただけじゃないだろ?」

 

「あら、察しが良いのね。それじゃ単刀直入に--------あなたのその能力(ちから)、食べさせて?」

 

 

そう告げながら女は俺の前から消える。

かと思いきや、瞬きする間もないほどの一瞬、そんな隙間に彼女は俺と鼻が当たるほどの至近距離に存在していた。

 

禍々しい瞳孔の開いた金色の目と赤い唇。その全てが嫌でも持てる全てで防御の姿勢を取らせる。

 

振り抜かれようとする掌底。風を押しのけ迫るそれの威圧感は凄まじく、まるで隕石が突撃して来たかのように錯覚させるほど。

 

その掌底をどうにか紅姫で受け止める。が、とてつもない衝撃を受け止めきれず、後ろへ軽く吹き飛ばされる。

 

 

「あら。案外やるのね。霊圧ばっかりのものだと思ってたら・・・良いわね。余計に唆られるわ・・・!」

 

「嬉しかねえよこの野郎・・・!軽く殴られただけでこっちはこの体たらくだよ・・・」

 

 

衝撃でビリビリと痺れる右手を振り回し、どうにか感覚を誤魔化す。そして今の一連の動作で分かるれっきとした力の差。

正直、逃げの一辺倒でしか作戦を立てる気にならねぇ・・・だが、さっきみたいにめぐみんを担いであのバケモノから逃げられる確率は・・・・ったく、色々と絶望的だなおい・・・

 

 

「良いわ------少しだけ興奮してきちゃった--------どうか、すぐに死なないでねっ!!」

 

「ッ!--------めぐみん!!さっきの道を引き返せ!!このあたり一帯にはモンスターはいないはずだ!!」

 

「っで、でも・・・・・!」

 

「良いから早く!!お前を気にかけながら闘える相手じゃ・・・」

 

「------闘いにお喋りがすぎるわよ」

 

 

紙一重で捌き続けてきたやつの拳。元より最大限の集中力を向けて、なんとか守りに徹すれば渡り合えるような状況だった。

 

そんな状況で後ろのめぐみんに少しでも気を向けてしまえば、どこかしらに綻びが現れる。当然、それを見逃す相手ではない。

 

拳が左腕を打ちすえる。凄まじい衝撃とミシミシと何かにヒビが入った様な感覚が脳に電流の様に駆ける。

 

激痛に顔が歪む。が、歯を食いしばりなんとか踏みとどまり、身体を動かさんと叫ぶ。

 

 

「----------ッッ!!------ああああああああああっ!!」

 

 

殴られた衝撃。その衝撃を左腕を上げ、身体を回転させるように捻り、威力のベクトルを変える。

凄まじい威力をそのままとは言えないが、十分な重さと速さに達した瞬間。紅姫を逆さまに持ち替え、回転のなすがままに女の身体に突き立てる。

 

 

「ハァッ・・・・・ハァッ・・・ハァ・・・・」

 

 

夥しい量の血を流しながらグシャッと糸が切れたように女が倒れる。肩辺りから脇腹を貫通するように柄まで深々と突き刺さった刀とそんなスプラッタな死体を他所に、改めて凄まじい痛みが身体を巡ってくる。使い物にならない左腕ととてつもない回転で負荷がかかった身体の隅々まで軋むような痛みを感じる。

 

 

(少し・・・休みたいがめぐみんを探さねぇと・・・・・アイツの魔力の感じを頼りに探せるか・・・・)

 

 

そう思い立ち、どうにか身体を動かし、刀を抜こうと振り向く。

そこには、女が立ち上がり虚ろな瞳で刀を肩から抜こうとしていた。

 

・・・ッ!?何故だ!?殆どの臓器を貫いてた筈だぞ!なのになぜ生きて動いている!?それに、あの時の手応えは完全に殺した筈だ!死んだ筈だ!死なせた筈だ!!

 

肩と脇腹に空いた穴からグチャグチャと不愉快な音と血を撒き散らしながらも女が刀を抜こうとする動きを止める予感は感じない。そして、足元にドス黒い血溜まりをつくり、身体から今も大量の血を流しながら、女は刀をカランと地面に捨てた。

 

 

「中々にテクニシャンね貴方・・・・おかげでそうね・・・3回くらいは死んじゃったかしら?」

 

「3回死んだ・・・・だと?明らかにあの一撃は致命傷だった筈だが・・・何をした?」

 

 

目の前の光景と動揺がひどく心を揺らす。だが、それでは奴の思うがままになってしまうだろう・・・何とか平静を装い言葉を返す。

この一言二言のやりとりの間で、今度は地面の血溜まりと身体に付着していた血が消え、傷口もみるみる塞がってしまった。

 

 

「あら。もう傷口が塞がった程度じゃ驚かないのね・・・ちょっと意外だわ・・・」

 

「さっきの光景を見た後じゃ驚かねえよ・・・それで、再三問うが・・・何をした」

 

「そうねぇ・・・言ってしまえば食べて大きくなった。それだけの事よ。まあモンスターどもはひどく不味かったのだけれど」

 

「・・・・食べた・・・だと?」

 

「ええそうよ。貴方のお仲間が見た通り、つい少し前の私はもっと幼くてまだヴァストローデとしての面影も残るそれはそれは醜い姿だったわ。だから、食べたのよ。命を取り込んで完全な姿になった・・・それだけよ」

 

「命を取り込む・・・・つまりお前の中には命のストックがあるって事か・・・だからあの一撃で死なず、蘇った・・・」

 

「そうそう。正確に言えば死んだのだけどね。久々にとっても痛かったわねぇ・・・少しイラッと来ちゃった」

 

(・・・・・後3・・・いや2秒弱・・・下手な動きを見せなければ恐らくその時攻撃が飛んでくる・・・・・なら・・・)

 

 

1・・・・・息を呑む。酷く冷たいツバと汗が身体の感覚を嫌でも引き寄せる。そして・・・・・・2!!

 

 

「『絶対零度の楔(ウェッジ・アブソルート)』!!」

 

「!--------へぇ。上手いこと読んだじゃない」

 

 

鞭の様にしならせ首を確実に捻じ切らんと飛んでくる黒い腕。それに向け準備していた足を思い切り叩きつける。

 

靴裏に仕込んだ魔法陣から魔法を発動させ、腕を凍りつかせる。巨大な十字架の氷像が出現し、辺り一帯の水分を凍らせ、気温を急激に低下させる。

 

奴は間違いなく腕を犠牲にして抜け出すだろう。時間は恐らく秒もかからない・・・が、この距離なら・・・・中々に面倒な鬼道だがやるっきゃねぇよなぁ・・・・!!

 

 

「縛道の九十九、第二番-----卍禁!!『初曲止繃(しりゅう)』!!」

 

「------んなっ!?何・・・これ・・・!?」

 

 

霊圧で作られた白の布。それらがまるで引き寄せられる様に体に纏わりつき、動きを奪っていく。

よしっ・・・・後は俺の忍耐力だけだ・・・!

 

 

「------『弐曲百連閂(ひゃくれんさい)』!!」

 

「--------------」

 

 

目も耳も声も動きも奪った・・・次は霊圧だ。それを塞ぎこむ。無数の杭が飛び、それらが身体の随所に突き刺さっていく。処刑が執り行われる様に無慈悲に、機械的に刺さっていく杭の数に連れドンドンと弱まっていく霊圧を感じながら、この縛道を終わらせにかかる。

 

 

「『終曲!!------卍禁太封(ばんきんたいほう)』!!」

 

 

------上空に出現した“それ”はあまりにも無慈悲で無機質だった。大きくそびえ立ち、一切の妥協を許さずトドメを執り行う。

 

重く、冷たい石の塊が俺の指揮に合わせ出現し、振り下ろされる。圧倒的質量による衝撃。地面を鳴動させまるで嵐の様な風量とそれによる土煙を巻き起こす。

 

・・・・・あの影は・・・フッ・・・・バカだなぁ、俺もアイツも・・・

 

 

「--------めぐみぃぃん!!お待ちかねの爆裂だあああ!!!」

 

「--------ッ!・・・はいっ!待ちわびてましたよサク!!------空蝉に忍び寄る叛逆の摩天楼。我が前に訪れた静寂なる神雷。時は来た!今、眠りから目覚め、我が狂気を以て現界せよ!穿て!エクスプロージョンッッ!!」

 

 

飛び上がりながら卍禁太封の維持にかける霊圧を極限にまで抑えて強度を落とす。

 

そして地上の木々が豆粒ほどになった頃。

地上に一筋の黒い軌跡が走る。軌跡が収束し、ゼロになる。そしてそのゼロから爆炎の破壊が巻き起こる。

 

その恐ろしい熱量が遥か遠くにいるはずの俺の頰を撫で、轟音が腹の底を揺らす。・・・・・あいつが病みつきになるのも分からなくもないな。

 

ゆっくりと降下し彼女の斜め後ろに柔らかく着地する。

彼女はそれと同時にキラキラした顔で振り返るがすぐに顔色を曇らせる。

 

 

「あ、あの・・・言いつけを破ってしまって・・・ゴ、ゴメンなさ--------え?」

 

 

彼女がそう言い切る直前。黙って帽子を押しつぶす様にしてわしゃわしゃと頭を搔きまわす。

 

 

「ああうぅ・・・・ど、どうしたのですか?」

 

「謝る事ないさ。冒険者ってのはいっつもそんなモンだ。ロマンを求めて無謀に挑み続ける。------お前は立派な冒険者だよ」

 

「--------あ、ありがとうございます!サク!」

 

「ハハ!・・・・さあ、帰ろうか。カズマたちに大金見せて目一杯驚かせてやりたいしな!」

 

「ハイッ!」

 

 

そう言い、踵を返して振り返った瞬間だった。

めぐみんが爆裂魔法を撃ち込んだ中心------すっかり死の土地になり今後数年は何も生えないであろうグラウンド・ゼロ(爆心地)から、何かが蠢く音がした。

 

息を呑みながらゆっくりと振り返る。

まさか・・・殺しきれなかったのか?あれだけの攻撃を入れておいて?いや、そんな筈は・・・・・

 

恐る恐るめぐみんを後ろに並ばせながら音の鳴る方へ一歩一歩近づいていく。するとそこにはゆっくりと緩慢な動作で起きる、小さな人影があった。

 

まだ生きていた------そう確信し、一切の躊躇いもなく抜刀する。

だが、そこからあり得ない一言が聞こえてくる。

 

 

「・・・・・パパ?」

 

 

幼い声。その主の姿にだんだんと目の焦点があってくる。

つい数分前に対峙していた女とそっくりな黒髪とブカブカのドレス。子供特有の大きく垂れた目。

 

確実に、初対面で可愛くてほぼほぼ裸で俺の事を確かに『パパ』と呼んだ幼女がそこにいた------------



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exー17 この新人パパに災難を!

Vtuberにハマってました。個人的には御来屋に1番ハマってます全然動画ないですけどネ!

投稿ペースに関しては1ヶ月2ヶ月に一本更新できたらのペースでいこうと思います・・・


「・・・パパ・・・・・?」

 

 

・・・なんだって?今なんて言ったこの幼女・・・え・・・?パ、パパ・・・?

 

目の前に出来たクレーターの中心。そこにチョコンと女の子座りで鎮座している長い黒髪を携えた、見る限り・・・5、6歳・・・キノアや隣のめぐみんよりも明らかに数段幼い女の子。

 

そして何よりこちらをマジマジと見つめてくる紅く、大きな瞳。引き込まれそうな不思議な魅力と、こちらを引き裂くような凶暴さを伴った瞳。そして何より、何もかもを計算され尽くして調度された宝石のように美しい。

 

・・・・いやいやいや・・・そんな事よりも・・・

 

 

「・・・サク、後でギルドにでも(サクを)届けに行きましょう」

 

「あぁ。ひとまず分からないことが多すぎしな・・・変に刺激しないように(幼女を)届けるとしようぜ」

 

「・・・パパ?なに・・・はなしてるの・・・・・?」

 

「いやちょ・・・?パパ・・・・?」

 

「うん!パパ!」

 

 

そう言い、満面の笑みをこちらに向ける幼女。だがそんな笑顔を向けられ、なんだか複雑さに顔が引きつってしまう。

お、俺がパパ・・・?俺がパパになるんだよ・・・?

 

 

「こ、これは一体・・・・ハッ!この勢いは私がママと呼ばれる流れなのでは・・・!?ハ、ハーイ!マ、ママです・・・よぉ〜?」

 

 

・・・いやいきなり何言ってやがんだアイツ。

 

俺の後ろに隠れ、チョコチョコと幼女を眺めていためぐみん。

そんな彼女が心なしか周りにキラキラした陽気オーラ的なアレを撒き散らしながら幼女に擦り寄って行く。

 

同じ目線までかがんだめぐみんの顔をまるで品定めするように見つめる幼女。そしてようやく彼女が口を開く。

 

 

「・・・ママじゃない・・・」

 

「え"っ」

 

「ブフォッ!・・・」

 

「そ、それはどういう・・・」

 

「ママじゃない!ママはもっと・・・!」

 

「「もっと・・・?」」

 

「もっとおっぱいがあるの!」

 

「ブッフォォッッ!!ハハハハハハハハハ!!ヒーッ!!く、苦し・・・ハハハハハハハハハハ!!」

 

「--------〜〜ッッ!!ふ"ん"っ"!!」

 

「フフフハハハハハハハハハハ!!アッハハハハハアァァァァァァァァッッ!!イイィッタイメガアアアアアアアアアア!!オォウ!!ノーッッ!!」

 

 

俺が爆笑しながら辺りを転げ回っている中、プルプルと震えていた彼女がノールックで杖を投げつけてくる。

するとなんということでしょう。綺麗に両目を押しつぶす様に杖が直撃するじゃありませんか。

カランカランと落ちる杖をよそに今度は別の意味で転げ回る。

 

ていうかめちゃイテェ!大丈夫これ!?花京院みたいになっちゃわない!?

 

 

「ママじゃない・・・・・うぅ・・・」

 

「パパ・・・だいじょーぶ・・・?」

 

「お、おう・・・軽く俺もめぐみんも瀕死だけどなんとか・・・そ、そういえば君、名前は?・・・あぁ、目が痛い・・・」

 

「うん!あのね!わたしのなまえはラヴィア!ラヴィーってよんでねパパ!」

 

「おう・・・あ、待てなんで俺パパ呼ばわりに慣れてんだ・・・まあいいか。うん・・・じゃ、行こうか。ラヴィー・・・もしもーし?めぐみんさーん?」

 

 

地面に項垂れて倒れているめぐみん。そんな洗濯物みたいになってる彼女を揺するが反応がない。

まさかと思い、彼女の体をひっくり返し顔を確認する。

 

 

「・・・はぁ。さっきまであんなだったのに・・・幸せなやつだよまったく・・・まあ、今日は武勲賞だしな」

 

 

仰向けになった彼女は、唾をだらしなく垂らしながらとてもやりきった顔で、なにより笑顔で眠りこけていた。

 

そんな彼女に少しだけ笑いをこぼしながら背中に担ぎ上げる。

・・・うーん・・・・この子(ラヴィー)もいるし・・・どっかで野宿かなぁ・・・流石にこんな小さい子達を担いで間に合うように瞬歩でトバす・・・ってのもなぁ・・・こんな年齢で野宿させる事になるとは・・・心苦しい・・・・・

 

日が落ち始め、空が茜色に染まり始める。

今日一日、ひどく色々なものに振り回された。朝っぱらからめぐみんに。そしてついさっきまでラヴィアに命を振り回された。

 

それがどうだ?今さっきまで殺しあってた相手が幼女になって俺の手を握り、横を歩いている。全くもって訳がわからん・・・が、愉快だ愉快。面白いのは大歓迎だうん。

 

 

「・・・帰ろう。ゆっくり、ゆっくりのんびりさ」

 

「-------うん!かえろ!パパ!」

 

 

俺がそれとなく呟いた言葉。

それに不思議そうに目を丸め、一瞬黙り込んだ後ラヴィーが満面の笑みでそう言ってくる。

 

・・・それにしても・・・・・パパかぁ・・・パパ・・・うぅん・・・

 

〜*〜

 

手頃な場所を見繕い、簡易的にそこらにある木や葉でどうにかテントの様なものを作り、辺りからパパッと食材を取り調理し、そして夜を明かし、夜が明け、歩き続け、結局アクセルに帰ってこれたのはその日の昼頃だった。

 

よく見慣れたいつぞやの駄女神による洪水で未だ所々欠損している門を3人で潜りひとまずギルドへ歩を進める。

 

 

「ふぃ〜・・・遠かったなぁ・・・」

 

「えぇ。大変なクエストでしたね・・・それにこれから届けて事情聴取も行わないといけないですし・・・」

 

「事情聴取・・・?うんまぁ、もう少しばかりは頑張らないといけないかな」

 

「パパ?これからどうするの・・・?」

 

「うん?そうだな・・・ひとまずパパの家に行こうか」

 

「うん!わかった!」

 

「サク。その前にほら、手、出してください」

 

「え?あ・・・はい」

 

 

俺が言われるがままに手を差し出す。

するとどこから取り出したのか。いやそれ以前になんでそんな物騒な物を持ってたのか。

 

それは、俺の手を冷酷に、硬く、決して抜け出させないよう存在している。

 

詰まる所の手錠が、俺の手にかけられていた。

しかも触ってる感じ、魔力だとかその辺がビンッビンにかけてある、手錠っていうかただの魔道具と言っても差し支えない様な代物。

 

 

「・・・・へ?」

 

「・・・言ったじゃないですか。届けるって」

 

「と、届けるって・・・この子じゃねーの?」

 

「いやサクの事に決まってるじゃないですか・・・」

 

「「・・・へ?」」

 

「・・・・・ふ・・・」

 

「・・・ふ?」

 

「ふざけんなクソッタレエエエエエエェェェェェェ!!」

 

 

これでも元はそれなりに強かった冒険者だ。

魔力を軽く放出して肉体強化するだけでもそれなりに超人的な力は出せる。

 

そして怒号と共に全力の魔力で強化した膂力で手錠を跡形もなく粉微塵にする。

 

バギンと鈍く高い音を奏でながら砕け散り、それにめぐみんの悲鳴がそれに共鳴する。

 

 

「いやあああああああああああっ!わた、私の・・・・手錠・・・うぅっ・・・・・せっかく・・・お金貯めたのに・・・」

 

 

そう小さく呟いた声はどんどん尻すぼみになり、震えていく。そんな彼女を見て自分の愚かさを痛々しいほど痛感し、焦りが込み上げてくる。

 

まずいまずい・・・!ど、どうする・・・!?い、いや砕け散った破片があるなら・・・!

 

 

「・・・めぐみん、ちょっと待っとけ------」

 

「・・・?」

 

「わあぁっ---!パパ、すごい!」

 

 

辺りに飛び散った鉄の破片。

それらが俺の手の上に集まり成形され直す。所々に赤や濃い紅と言った色を入れ、味気ない鉄をどうにか一級の色彩を持ったアクセサリーに作り直して行く。

 

そして数十秒程経った頃。俺の手のひらに握られているのは手錠だった頃の面影を残しながらも、彼女の好きそうな赤や濃い紅色の幾何学模様やラインを随所随所にあしらったブレスレット。

 

 

「ほらめぐみん、手を出して」

 

「あっ・・・はい・・・//」

 

 

おいバカやめろ。必死に作ってクールにつけてやろうとしてるのに恥ずかしいじゃないか顔に出てしまうじゃないか・・・

 

彼女の手首を取り、ゆっくりとブレスレットをはめる。

細く白い腕に、魔女のような衣装。そんな彼女にこのブレスレットはまるで元から一体だったかのようにマッチした。

 

 

「おっ、中々似合ってんじゃないか?悪かったな、手錠ぶっ壊したりして」

 

「いえ・・・!こんな素晴らしいブレスレット、見たことありません!ありがとうございますサク!!」

 

 

そう満面の笑みで言ってくるめぐみん。彼女が手首と首を必死に回しながらデザインを確認している仕草も相まっていつもより幼く可愛らしげに見えてくる。

自分もなんだか満ち足りた気分でそんな彼女を見つめる中袖が引っ張られるのを感じる。

 

見るとそこにはめぐみんを羨ましそうな、そしてキラキラした目で見つめるラヴィーの姿が。

 

 

「きれい・・・!パパ!わたしもあれほしい!」

 

「うーん・・・悪いけどパパ忙しいから・・・明日の夜になっちゃうけど、我慢してくれるかな?・・・・・ハッ!?」

 

「サク、犯罪臭が凄まじいですよ」

 

「あぁ・・・今のは流石に否定できん・・・・・くそう俺もうパパなのか・・・・」

 

「・・・パパ、だいじょうぶ?」

 

 

俺がわざとらしく膝をついてうなだれる。

すると暖かい、小さな手のひらの感触が肩から伝わり、優しげな声が降ってくる。

 

はぁ・・・マジかぁ・・・・・こんなとこ、ゆんゆんに見られようもんなら・・・・

 

 

「サ、サク・・・!マズイです・・・非常にマズイです・・・」

 

「・・・・・え?何がマズイの?」

 

「あ、あれ・・・あれ!あそこです・・・!」

 

 

震える手で彼女が指差す先には薄暗い路地に紅色の光が2つ。

薄暗いながらも2つの光の下からは人の輪郭が読み取れる。それも、華奢な女の形をしている。

 

俺とめぐみんが呆けてその影を見つめているとその影は小刻みに震え始め、何かを掴んでいた手から紙袋のような物が地面へ無造作に落ちる。

 

そして雲から夕暮れの太陽が一瞬、少しだけ顔をのぞかせたその瞬間。その人物の姿をしっかりと目に捉える。

 

「あ・・・・あぁ・・・!ちょっ・・・・ちょっと待っ・・・」

 

「----------サ、サクさんの変態いいいぃぃ!!!」

 

「カアアンムバアアアアックウウウウウ!!ゆんゆうううううううううううん!!」

 

涙まじりの男女の悲鳴が路地に響いた----------

 

 

 



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2ー05 この不思議な依頼に詮索を!

2週間くらいで仕上げたの、めちゃくちゃ久しぶりな気がします。

お気に入りが600件超えました!本当にありがとうございます!!


あの日-------俺がパパになった日-------以降、ゆんゆんと言葉を交わしていない。精々、顔を合わせて会釈する程度の交流だけ・・・理由がなんだかは分かってる。

 

変化はそれだけじゃない。なんだか周りから俺を見る目と職場が変わった-------具体的に言うと、勤務時間が俺だけ短くなった。そして何より、帰る場所である宿に待つ人が出来た。

 

酷く荒らされた部屋を憂う日もあれば、疲れ果てた時にも御構い無しに笑う顔に癒される日もある。

 

最初の内は不安な事だらけだった。が、宿主のおばちゃんや近所の人たちに色々とご教授を賜り、何とか暮らせている。 日中はその先輩たちにラヴィーを預けて俺は仕事に励み、日が落ちかける頃に彼女の待つ宿へ帰る。

 

そんな2年ぶりに変わった生活のサークルにも、ようやく体が慣れて来た。

 

そんな事を夕飯時前のにわかに活気付いて来たギルドの裏で思索する。少し早くなった退社時間だが、今日は殊更に早く上がれそうだ。タキシード風の制服を着替え終えた時にちょうど後ろから聞き慣れた女性の声が聞こえてくる。

 

 

「-------それじゃ、今日は上がります。お疲れ様でした、ルナさん」

 

「えぇ、お疲れ様・・・あっそうだ。モノノベ君!」

 

「?・・・どうかしました?」

 

「これ-------家でたまたま見つけたんだけど、ラヴィーちゃん好きかなって」

 

そう言い、彼女が目の前の机に差し出したのは幾つかの木製の知育玩具に絵本。

 

思えば、当たり前といってしまえば当たり前なのだが、俺の部屋にこういった類の物は一切ない。平日の夜や休日に遊べるものが何もないというのは苦痛だろう。

 

周りの喧騒を意に介せず、それらの玩具に目を通す。そしてその内に玩具に刻まれた少し大きめの傷に目が止まる。

それを見ると、さっきまでラヴィーは楽しんでくれるだろうか、これらをどう管理しようかと思考していた筈が、彼女が幼少期にどんな使い方をしていたんだろうと思考を画策させてしまう。

 

 

「-------くん!モノノベくん!」

 

「はっ!-------ど、どうしました?」

 

「どう?気に入ってくれたかしら?-------後、最近なんだかボーッとしてる事多いわよ?大丈夫?」

 

「ラヴィーも気に入ってくれると思います。わざわざこんなに用意してくれて・・・ありがとうございます、ルナさん・・・えっと、俺そんなにボーッとしてます?」

 

「うん、してるしてる」

 

「マジですかそりゃ・・・いや、それなりに慣れたつもりではいたんですけどやっぱ、過剰かもって位に気になっちゃいますね・・・」

 

 

そう俺が苦笑いしながら言う。すると彼女も顔をほころばせながら吹き出す。

 

 

「ちょっ!?珍しく俺が悩んでるのに吹き出すなんて事あります!?」

 

「い、いや・・・ごめんなさい・・・フフッ・・・それにしても、板についてきたわね・・・そうだ、そう言えば最近こんなクエストが流れてきたから、『気が向いたら』モノノベくん掲示お願いね」

 

 

そう言いイタズラな笑みを浮かべながら彼女は仕事に戻る。

軽く挨拶をし俺も彼女から渡された紙に視線を落としながら身支度を始める。

 

 

「板についてきたって・・・で?なになに・・・・・町外れにある屋敷2件の除霊。報酬として屋敷の悪評がなくなり、買い手がつくまでの間、無償でお貸しします・・・なんでこうもあの人には見透かされてんだ・・・ありがたい・・・・・うん?依頼者・・・ウィズ魔法具店?」

 

 

ふと目に付いた依頼者欄の氏名。店名義ではあるものの、そこにはこの街じゃ最強クラスのリッチー、ウィズからの依頼であると示す押印が。怨霊系なら、下手な冒険者に渡る可能性のあるギルドより自分で出向いた方がいいだろうに・・・何をわざわざ?

 

疑問が浮かんでは消えるが、家で待つラヴィーの事が頭をよぎる。

 

 

「まぁ・・・明日は幸い休みだし、件の屋敷に向かう前に事情だけ聞いて見るか・・・・あっ」

 

 

ルナさんの置いていった大量の玩具に目をやる。彼女は自前の袋に入れて持ってきたみたいだが、俺にその類の物はない。そして、両手では余る量がそこにはある。

・・・・・ちょうど、物資をくくる為の麻縄が少しだけ部屋の隅に転がっていた-------

 

〜*〜

 

「おかえりパパ!----------あはははっ!どうしてパパそんなおもしろいことしてるの〜!?」

 

「あ、あぁ。ただいまラヴィー・・・・この格好については・・・触れてくれるな・・・」

 

 

満面の笑みで出迎えるラヴィーが1番に見た俺の姿。それは大量の児童用玩具を手足にまるで甲冑のように装備し、背中にはこれでもかと言わんばかりに絵本が巻きつけられた世にも奇妙な姿だった。

 

 

「「・・・・」」

 

「・・・どうしたの?パパ」

 

「・・・・・喜べラヴィー、オモチャを沢山もらったぞ・・・代償にパパの威厳とかが吹き飛んだが・・・」

 

「オモチャ!?ありがとうパパ!!」

 

「・・・今度ルナさんって言うお姉さんに会ったらちゃんとお礼を言うんだぞ」

「うん!」

 

 

そう言い、俺の体から玩具をもぎ取って遊び始めるラヴィー。そんな姿を見ながら晩飯の用意に着手する。

 

・・・さて、明後日くらいにはこの宿ともおさらばか・・・・おばちゃんにはほんと世話になった・・・ちゃんと礼を言っとかないと・・・

 

油が跳ね、食材が焼けていく音に耳を傾けながらひどく虚ろに、無心になる。ラヴィーがキャッキャと遊びに惚ける音も、夜の帳やガヤも何もかもから切り離され、1人になっていくような感覚に落ちる。

 

 

「------あ"ぁ"っつあ"ぁ"っ!!?」

 

 

いつのまにか時間が経ってしまったのか。それともただ運が悪いのか。どちらにせよ放置された料理が怒り油を飛ばして来たんだろう。飛沫が大量にフライパンを持つ手に降りかかる。

 

凄まじい温度による痛みが瞬時にフライパンを手放しさせる。が、視界が焦げ始めている食材とコンロに直撃して悲惨な事になってしまいそうな様子をしっかりと捉える------------『捉えてしまった』。

 

反射的に手を伸ばし、フライパンを捉え、料理をなんとか救おうとする。

 

だが、反射的に伸ばした手は全速力でフライパンへ直行する。それ故に手を止められたのは取っ手を遥かに通り過ぎた後だった------

 

 

「--------オオオウウアアアアァァァッチイイイイイイッッ!!」

 

 

シュアッという乾いた音ともに少し赤熱し始めた鋼鉄部に触れた手から水分が飛び劇熱と共に皮膚が焼けていくのを感じる。

 

 

「------あ"あ"あ"っつい"い"!!あかん!!あかんこれシャレにならん!!イフリートに焼かれた方が遥かにマシだ!!あづゔいいい!!」

 

「パパ!どうしたの!?」

 

「いぃいや大丈夫だあ心配するなぁ!!そ、それよりほら、オモチャがどこかに転がって行っちゃってるぞ大丈夫かなぁ!?」

 

「あっ!ほんとだまてまて〜!」

 

 

ふぅ〜なんとかラヴィーにこの間抜けな醜態を見られずに済んだが・・・いや呑気に安心してる場合じゃねえ!!

 

一瞬だけ安心で視線を落とす。そして今目の前で起こっている大惨事に再び目を勢いよく戻すとそこには油が跳ねまくる魔女の釜の様な景色から、燃え盛る火山の様な光景が。

 

 

「おいいいいい!!なんでフランベされてんだよ!香りじゃなくてコゲを刻みつけてどーする!?水!とりあえず水だ!!------っと、今朝汲んどいた井戸水は------!」

 

 

急いで木桶を持ちだそうと走り出す。幸いすぐ真横の流しの側に水をいっぱいに張った木桶を見つけられる。

乱暴に持ち上げ底を右手で支えて上から料理を台無しにする覚悟で水をかけようとする。

 

だが、料理の最後の抵抗だろうか。

 

ゴウッと強く燃え上がった火と共に火の粉が舞い散る。その火の粉が今度は土台を攻め落とさんと足の甲に大量に降りかかる。

 

もちろん、我慢できる様な熱さではない。

 

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"ぁ"ぁ"ぁ"っっ!!クソッタレ------エ"エ"エ"ェ"ェ"ンッ!!」

 

 

水を派手にぶちまけ、料理を鎮火という訳わからない目的を達成する。が、火の粉の抵抗で足を辺りにブンブンと振り回してしまう。

 

そしてここはそれなりに色々あるとはいえ、決して大きいとは言えない一室。その一角であるキッチンは人1人で一杯なほどの広さ。

 

勢いよく振り回された足は鈍い音を立て、流しの角に直撃する。当然、小指が1番に被害を受ける。

 

そしてそれでも有り余る運動エネルギーが小指を押しつぶす様に更に追い討ちをかけてくる。

・・・とどのつまり、小指をぶつけてめちゃくちゃ痛い。

 

 

「いっ・・・・・あぁっ・・・・あかん・・・し、しぬ・・・・!」

 

 

ショワアアアアと水で熱が奪われる音を俺は床に頬を預けながら耳にした。結構な火傷を負った右手を天井に掲げ左手で小指を必死にさする。

 

・・・・・信じられるかな・・・こんな俺がほんの2年前にゃ、伝説の冒険者だ・・・・・骸王がフランベ自爆芸だよ全く・・・最高のお笑い種だよ・・・

 

皮膚がこんがり焼けた右手に触れる空気を恨みながら、小指をかばいつつ起き上がる。

 

ガーゼ・・・あったあった。

 

ガラガラと棚を漁り見つけたガーゼを乱雑に巻きつけ糸で縛り付ける。テーピングなんて物はないし、ガーゼも日本のみたいに繊細な表面をしてない。

少しばかり強めに巻いた糸の痛みに顔をしかめていると服の裾が引かれる。

 

 

「パパ・・・ほんとにだいじょうぶ・・・?」

 

 

振り返るとそこには心配そうな目でこちらを見つめるラヴィー。ひどく思い悩んでいる様な表情は真剣に心配しているんだろう・・・こんな顔させてちゃパパ失格だよな・・・

 

 

「------あぁ!俺は大丈夫だよ・・・それより、どこかに行ってご飯食べるか!」

 

「わぁっ------!うん!食べる!!」

 

「よし!それじゃ行くぞー!」

 

「おー!」

 

 

そう言い彼女は手を振り上げ、太陽の様に笑顔を咲かせる。・・・少しばかりはパパ、出来てるかな・・・ルナさんは板に付いてきたって言ってたけどまだまだだな・・・

少なくともこの子はヴァストローデだけど、俺みたいな道には進んで欲しくはない・・・・・いや、どう進むかはラヴィー次第だし、それを見守るのが役目か・・・

 

頑張らないとな。どんなクエストより難しいねぇ・・・子育てってのは。だけどまぁ・・・最高に幸せな日々だ。

 

〜*〜

 

「店主〜、いるか〜?・・・・・って、何やってんだ?おい」

 

 

翌日。依頼をこなす前の情報収集・・・という程、立派なものでもないか・・・疑問が少しばかり気にかかったので俺はウィズ魔法具店のドアを開いた。

 

するとそこには握手する店主とアクア。

 

視界に入る手元にはアクアから店主へ、確かな魔力の流れが見られる。

そしてこちらをプルプルと震え、涙目になりながら声にならない叫びで何かを訴える店主と意地の悪そうな表情のアクア。

 

・・・また駄女神がロクでもないことをしやがってんのか・・・おいおいカズマ(保護者)、出番だろうに。

 

 

「や、やめてくださいアクア様!ドサクサに紛れて浄化しようとしないでください!」

 

「フハハハハハハハハハ!邪悪で醜悪なリッチーに情けなんてかけるわけ無いでしょう!?このまま私の神聖な魔力で浄化したげるから、光栄に思いなさい!」

 

「「おい、いい加減やめてやれ」」

 

 

調子に乗って魔力を大量に送り込もうとするアクア。

流石にあの量は店主が浄化されてしまう。なぜかその光景を凝視しながら黙り込んでいたカズマも流石にと手を出す。

 

繋いだ手と頭にチョップをかまされたアクアはアウッとやかましい笑い声を途絶えさせ、その場に頭と手を抑えて座り込む。

 

アクアが大人しくなった直後、今度は店主が涙目で青い顔になりながらこちらに泣きついてくる。

 

 

「あう〜・・・・ありがとうございますう!サクさんカズマさん!」

 

「何よ!2人揃って酷いじゃない!この女神たる私にチョップを2コンボするだなんて!」

 

「うるせぇ!元はと言えば素直に魔力を吸われてればいいのに下手にウィズに手を出したテメェが悪いんだろうが!!」

 

「だって〜!!」

 

「・・・あの2人は置いとくとして、店主。あの依頼はどういうこった?お前なら屋敷の除霊なんて片手間で終わらせられるだろうに」

 

「えぇ〜長くなってしまうので簡潔に言いますと・・・非常に言いにくいのですが〜・・・・その・・・」

 

 

そう言い指をモジモジさせながらちらりとカズマと取っ組み合いになっているアクアを見やる。

はぁ・・・あの女神は全く・・・

 

 

「あの駄女神はカズマが抑えてるし、いざとなったら俺がどうにかするから。ほれ、魔力吸わしたるから話してくれよ」

 

「・・・私がある種日課みたいにしてた集団墓地の除霊を諸事情でアクア様に任せる事になったんですが、どうも結界を張ったせいか悪霊が流れ出して、件の屋敷に移っちゃったらしくて・・・その除霊を私が依頼されたのですが、さっき見てもらっても分かる通り、浄化されかけて力が無いんです・・・ですから一件はカズマさん達、もう一件は受付嬢さんに取り合ってモノノベさんにやって頂こうと・・・あ、魔力少しばかり失礼します・・・」

 

「・・・はぁ・・・・・」

 

 

やっぱアクア絡みか・・・・いやもう段々慣れつつある自分がいるんだけど。

だけどなんか、バツが悪くなったのもあるけどアクアが自分から引き受けたらしいしな・・・それに免じて、俺も素直に依頼をこなすとしよう。

 

俺の手を握りながらリッチーとは思えないような謙虚な量の魔力をチマチマと吸い出す店主。

そんな彼女を見つめながら今回の経緯に呆れため息をこぼす。

 

いや、これで家が提供されるのは嬉しいんだけど・・・その代償なのかねこの右手・・・

 

 

「・・・カズマ、ダクネスを借りてってもいいか?もちろんこっちで仕事が終わり次第そっちの屋敷に送る」

 

「イダダダ!!------うん?どうした急に」

 

 

反撃したアクアにコブラツイストをかけられながらもカズマがキョロっとこちらに向き直る。

そして我関せずといった風にお茶を楽しんでいためぐみんが不思議そうな顔をし、当の本人はというと

 

 

「------へ?」

 

 

私?と言わんばかりに素っ頓狂な表情で自分に指を指していた------

 




【追記】
3/10、14:24分。執筆を始めました。どうにか10日以内には上げたいと思います。もし上がらなかったら桜の木の下に埋めてもらっても構わないよ(フラグ


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2ー06 この怪しげな新居で探索を!


どうも、桜の木の下に埋められることが確定しましたパザーです。
一応10日以内に大体のは書けたんですけど、締め方に迷走して結局6000字超とそれなりに長くなりました・・・

ところで桜の木の下に埋められたら亡霊っていうか地縛霊的なのになってテレビデビュー出来たりするんですかね?


「なぜ、私なのだ?こういうのはアクアの専売特許だろうに」

 

 

件の屋敷へ向かう道すがら。ふとダクネスが口を開く。

昼前の陽気に当てられ、眠気が襲って来ていたちょうどいいタイミングで来てくれた。話がてら眠気覚ましだ。

 

 

「そりゃまあ、腐ってもクルセイダーだしな。お前」

 

「腐っても!?腐ってもとは何だ!ちょっとそこら辺の話を詳しく聞こうじゃないか!」

 

「じゃあ、ドMで変態なお前が腐ってない理由を簡潔に説明してみなさいよ」

 

「うぐっ・・・サクまでカズマの毒舌に当てられたのか・・・!?」

 

「そんなこたないさ。別に右手が痛くて少しばかり八つ当たりしてるとか、決してそんなのじゃない」

 

「いや確信犯だろ貴様・・・というか、その右手はどうしたのだ?ひどく丁重に手当てされてるが・・・・」

 

 

そう言い彼女は視線を落とし俺の包帯とガーゼで棍棒のようになった右手を見つめる。

正直、バカなぽかしてこんな大惨事になっただなんて言いたくない・・・

 

 

「・・・・あれだ。仕事柄って奴だ。うん」

 

「元冒険者だが、ギルド職員のはずだろう!?ハッ!まさか危ない裏稼業とかで・・・それでもししくじって敵に捕まってあんな事やこんなことを・・・!サク、お前にそんな危険な事は任せられな」

 

「何勝手に妄想はべらせた上に、自分の欲求満たそうとしてんだバカ!それに裏稼業なんてねぇよ!!」

 

「そ、そうか・・・・・」

 

 

露骨にしょげやがって・・・何を自爆しとるんだ。

荷物を粗方纏めた荷車を押しながらそんな他愛もない頭の悪い会話を繰り広げる。

街の喧騒を通り過ぎ、のどかな平野を抜け、小さな丘にたどり着く。すると、そこには日本で見た屋敷。それよりも数段広く、高い洋館があった。

 

洋風の石垣と鉄柵に囲まれた石造りの屋敷には長いこと放置されたのか、ツタが要所要所に絡まっている。

が、元の建造物の造形美と言うものの力だろうか。ツタという頭を抱える様な障害でさえも、洋館はオシャレに着こなしている。

 

 

「こんな屋敷を捨てるなんて貴族様ってのはまぁ・・・」

 

「あぁ・・・そうだな・・・」

 

「まっ、俺ら庶民が知ったこっちゃないな。悪いがダクネス、荷物下ろすの手伝ってくれ」

 

「・・・へっ?除霊は・・・・・どうするのだ?」

 

「そりゃもちろんするさ-------だが、ここをキャンプ地とするのだ!」

 

「幽霊屋敷に住むとは・・・中々にタフだな」

 

「?・・・・・もしかして、カズマ達から聞いてないのか?お前」

 

「・・・なんだか嫌な察しが付いたが、何をだ?」

 

「カズマ達・・・俺もだが、悪霊の風評被害が消えるまでこの屋敷を貸し出すってのが報酬・・・ならもう除霊しながらも、噂が絶えない様ないい塩梅で寸止めして、生涯のマイホームにするっつう寸法だ」

 

「ま、まさか・・・住むのか・・・・!?下手したら幽霊だらけの屋敷に・・・!」

 

「まぁそういうこったな」

 

 

そういうとダクネスは青い顔で頭を抱える。

幽霊がそんなに応えてるのか?意外や意外、だねぇ・・・幽霊を見ても新しい性の扉を開きそうなもんだが・・・・・

 

若干薄汚れた扉を開き、念願のマイホームの内装とご対面する。

照明は付いてないが、窓から差し込む日光が全容を照らし出し、おそろしく幻想的な空間を演出する。

 

大きなソファ並べられ、目下には様々な調度品に頭上では豪勢なシャンデリアが拵えてある。そして何より大きな暖炉。

 

煉瓦造りの壁に囲まれ、外の煙突と繋がっている暖炉が頼もしさと豪華さに更に磨きをかける。

 

 

「こいつはまぁ・・・豪勢なこって・・・スゲェ・・・」

 

「カズマやめぐみん達が向かった屋敷・・・というか私達の屋敷もこんな感じなんだろうか・・・それにしても、幽霊やそんな類のものは一切感じないが・・・」

 

 

そう彼女が言いかけた瞬間。頭上のシャンデリアに火が灯る。それどころか、所々にある細々とした照明にも明かりが。

 

だが、決してランダムで付いているわけじゃない。何処かへ誘う様に、道順を示しながら1つ、また1つと明かりが灯る。

 

 

「ヒィッ・・・!な、なんなのだこれは・・・!」

 

「何・・・・ってのは分らねぇが、行って見るほか無い・・・よな?というか、その為のお前だぞ。多少なりとは神聖な力的なアレ、頼りにしてるぜ?」

 

「うぅっ・・・い、嫌だ・・・・・!おばけ・・・・」

 

 

そう小さな、震える声で唸りながら俺の腕に泣きつくダクネス。

 

・・・ったく、こんな弱点が・・・・・しゃあなし・・・・俺が今ここで適当なスキルを習得するか・・・?

 

流石にそれなりに冒険者をやったんだ。適当な除霊か対亡霊、アンデッド系のスキル、1つや2つ習得可能になってるだろ。

 

▶︎エクスプロージョン

▶︎花鳥風月

▶︎ドレインタッチ

 

・・・おいおい。なぜに1面がネタスキルに染まってやがる。しかもドレインタッチなんてリッチーのスキル、習得したら何を勘ぐられるか分かったもんじゃないぞ・・・まだ、続きのページがあるな・・・えっと何々・・・

 

▶︎フリーズ

▶︎セイクリッド・クリエイトウォーター

▶︎ライト・オブ・セイバー

▶︎フローズンレイ

 

・・・実用性があるもの、揃えときました。じゃないんだよ俺の冒険者カードよ。なんかあるだろとか言ったけど、知ってるんだよ?

バッチリあの駄女神の『ターンアンデッド』見たから覚えられる筈なんだよ?どうしてこうも焦らすんだ全く・・・

 

そんな冒険者カードのイタズラに会いながらも何とかターンアンデッドの項目を見つけ出し、習得する。

久しく味わっていなかった、根本的な部分-------遺伝子や魂に新しく何かが刻まれていく感覚。一瞬で過ぎ去ったその感覚の後には何も残らないが、確かに習得できたのだろう。

 

 

「悪いダクネス、待たせた-----------何やってんだ?」

 

「お、お前がターンアンデッドを習得したなら、別にもう私は用済みだろう!?ほ、ほら荷ほどきとかあるだろうし、私はそっちに・・・!」

 

「申し訳ないけどよ・・・俺みたいな貧乏人にこんなデカイ屋敷の構造なんて分かったもんじゃないし、習得したと言ってもまだまだ未熟だ。だからこそ、クルセイダーのお前が来てくれるだけでありがたいんだが・・・」

 

「・・・・・?・・・・むぅ・・・分かった。付いていけば良いんだろう?・・・・・ホントに、付いて行くだけだからな?」

 

 

屋敷の入り口、扉の後ろで震えていた彼女が出てくる。ひどく怯えた姿に彼女がなんだかめぐみんやラヴィーの様に幼く見えてくる。

 

・・・本当に申し訳なくなって来た。何かしら埋め合わせ・・・・上等な酒・・・・いやこいつの場合は武具・・・いやいや・・・まぁ今考えてもキリがないか・・・

 

〜*〜

 

「-----------さてさて、ここに入れと」

 

「地下・・・結構広そうだな・・・・・」

 

 

床の取っ手がついた板を開けると、そこには下へ伸びる縄梯子(なわばしご)と、不細工な石造りの地下道。

 

冷気とともに、申し訳程度のランタンが確かにまだまだある先を示している。

 

コツコツと響く足音と空気の音だけが永遠と繰り返される廊下。歩き続けていると、ランタンの行く先はなんの変哲も無い壁の前。

 

いや、なんの変哲も無い、それは違う。うっすらと消えかかっているが確かに描かれた魔法陣と、それを彫ったのか、小さな凹凸が何とか見てとれた。

 

 

「な、なんなんだ?ここは・・・何も無いではないか・・・・」

 

「いいや・・・どうやら、なんかあるっぽいぜこの先・・・さてこの魔法陣・・・まいったな、俺もお前も魔法に関してはからっきしだってのに」

 

 

手持ちのランタンで座りながら色々と石壁を触っていじる。

だが、そこからは何も返ってこない。後ろで辺りをせわしなくキョロキョロと見回す彼女を尻目に冷たい石と悪戦苦闘する。

 

すると、俺の発言に何か引っかかったのか。彼女が口を開く。

 

 

「・・・ん?サクお前、魔法を使えないのか?」

 

「使えないって程じゃないが、精々10数種類。それも、魔法陣だったりの媒体がないと使えないのが殆どだ・・・それにしても、触れても魔力を注いでみても何の反応もない。しゃーなしか・・・啼け、『紅姫』」

 

「お、おい!まさかとは思うが・・・!」

 

「大きすぎず、俺たちが少し余裕を持って入れる程度に加減はするから・・・大丈夫だ多分!」

 

 

いつも通り、羽ペンから紅姫を起こし構える。

たかが石とは言え、どんな厚さをしてるか分かったもんじゃない。刃こぼれなんてしようものなら目も当てられない。

 

だからこそ、慎重に狙いを定める。

脳内でいくつも軌跡を描き、より良いものを取捨選択し続ける。

 

目を座らせ、息を吐き、腰を落とし、集中を針の様に尖らせる。

ピンと張り詰めながらも、脱力が最高潮に達した瞬間。

 

探訪の鍵を振るう。

 

 

「-------せいッ!!・・・・・フゥー・・・久々にこんな集中して斬ったな・・・」

 

「す、すごいな全く・・・お前の技術もさる事ながら、剣の方も凄まじい斬れ味だな」

 

「ん?あぁ・・・いい刀だろ?これ・・・・・っと、これはこれは・・・」

 

 

斬ったのが、床から少し離れた場所だったからだろうか。斬りつけた石は落ちてこず、未だに壁にハマっている様な状態で留まっている。

 

ダクネスの感嘆の声を背中で聴きながら軽い自慢をする。

 

そして石を取り去り、地面にゴトンと無作法に落とす。穴をランタンで照らすと、俺たちを出迎えたのは恐らく、6畳ほどだろうか・・・書斎とも研究室ともつかない、狭い部屋だった。

 

 

「そこらかしこに本や瓶が並べてあるな・・・どれもひどくボロボロだが」

 

「だな------それにこいつは・・・日誌か?・・・・・ん?」

 

 

各所の棚をガサゴソと漁りながら、部屋を探索していると、隅に小さな椅子や明かりだった物と、机の上に廃れた本を見つける。

 

----------いや待て、俺は今ナチュラルに日誌だと判断した。理由はそう書いてあるから。至極単純だ。だが、この文字はこの世界のじゃない・・・・・日本語、だよな?

 

『にっき』

 

と、汚いミミズが這った跡のような日本語が、確かに書かれていた。

 

色々となんだかキナ臭いが・・・中身の確認が優先かな。万一にでも罠があったりしたら事だし・・・

 

経年劣化なのか枯れ葉の様な感触のそれを手に取り、慎重にページを1枚めくる。時間がかかりそうだし、斜め読みで済まそう・・・そう、思い最初の1行に目を通す。

 

 

『この世界には、性玩具が足りないとおm』

 

「は〜〜っくしょお"お"お"ん"ん"ん"!!!」

 

 

・・・確信した。これ書いた奴は俺やカズマと同じ転生者。それに、3億パーセントロクな野郎じゃない。字も汚いし・・・・・だが、頭は働くらしい。

 

 

「サ、サク!?どうしたのだいきなり本を破いたりして!」

 

「あぁ、こりゃ・・・あれだよ。ホントはこの本はこの世界の物じゃないから、本来のあるべき姿に戻そうって言う、世界の修正力的なアレで本意ではないんだけど、クシャミの勢いで『偶然』引き裂いちまったんだよ」

 

「何なんだそれは・・・まるでめぐみんみたいな事を言うな、お前は」

 

「別に俺はそんなつもりは無かったんだが・・・まぁいい、ひとまずここを出ようぜ。結果、何も無かったわけだし」

 

「あぁ、そうだな。早く出よう。そう、早く!」

 

 

帰ろうと提案した瞬間、ダクネスが顔をキラキラさせる。

薄明かりの中だろうと御構い無しに彼女は背中をグイグイと押し、俺を先頭に出口へ戻る。

 

 

「・・・悪かった。無理させて、それも無駄足に終わって・・・」

 

「・・・ん?まぁ、たしかに怖かったが構わないさ。それに、お前の方が年上とは言え、私はクルセイダーだ。困ったお前から頼まれた事を断るわけもないだろう?」

 

(・・・こうしてれば、ホントに一世一代の聖女だのとか呼ばれそうなものなのに・・・・)

 

 

通路を抜け、ハシゴを登りながらそんな事を思う。

 

 

「ほれ、掴まれ」

 

「あぁ--------すまない」

 

 

先にハシゴを登りきった俺が彼女に手を差し伸べる。

勢いよく彼女を引っ張り上げる。

 

だが、勢いのせいなのだろうか。彼女の全身が上がりきる直前、何かガッと引っかかる音が鳴る。

 

 

「うわっ--------あっ--------」

 

「えっちょっ・・・なに・・・・ぷげぇ!」

 

 

引き上げたダクネスが、そのまま前倒しに崩れてくる。大きな屋敷の、広い廊下の弊害と言うべきなのか。周りに手をついて彼女を受け止めるなんて事も出来ず、無様な声を上げながら頭を派手に地面へ打ち付ける。

 

頭の痛みとは別に、胸板から伝わってくる柔らかい感触。

ここ最近で、何故だか味わう機会が嬉しいことに増えた感触だ。

 

 

「〜〜〜ッ!------だっ、大丈夫かサク!?」

 

 

置かれている状況を知覚した途端、ダクネスの顔が茹でダコの様に赤くなる。が、それよりもこちらの心配を先にし、上半身を持ち上げる。

 

重さから解放された喜びと、あの感触が離れた寂しさが同居する中、今度は顔周りを彼女の美しいブロンドの髪がカーテンの様に囲みこむ。

女性特有の柔らかな髪の匂いが鼻腔を刺激し、自然と全身を火照らせる。火照る体に比例する様に紅潮していく顔を感じ、唾を飲み込む。

 

少しだけ余裕を取り戻し、正面にある彼女の顔に目をやる。するとそこには混乱のせいかまるで見えていなかった彼女の顔。

 

鏡を見させられている様に、彼女の顔は俺と同じ様に目を丸くし顔を赤くしている。

 

 

「--------わ、悪い・・・っしょっと・・・んと・・・た、立てる・・・か?」

 

 

お互い、とても恥ずかしい状況に置かれていることを自覚しどうにか脱却しようとあたふたする。

 

床を蹴り彼女の髪の包囲網から抜け出す。そして顔を冷却する様に息を吐きながら立ち上がり、彼女に再び手を差し伸べる。

 

混乱が俺よりもひどいのか未だに四つん這いのままでいる彼女を半ば無理やり立たせる。

 

 

「あ、あぁ・・・すまない・・・ず、随分時間を割いてしまったな!は、早く本題に取り掛かろうじゃないか!さて〜!どの荷物を運べば良いのだ!?」

 

「ダクネス・・・・・わざわざ取り繕わなくて良いぞ」

 

 

言葉をいつもの様なハッキリとした物言いから遠く離れた、詰まりながらの言動とぎこちない動きをしながら、ダクネスは玄関へ向かう。

 

俺が声をかけると彼女は石化したように急停止し、ゆっくりとこちらに向き直る。

 

 

「うぐっ・・・!そ、その・・・すまなかった・・・それに、その・・・ああしてマジマジと見つめられるのも慣れてなくて・・・」

 

「俺だって慣れてないさ・・・元はと言えば、俺の雑さ加減が招いたあのハプニングな訳だし謝るのは俺の方だよ・・・・・」

 

「な、慣れていない・・・だと・・・!?」

 

「・・・そんな意外か?」

 

「あの紅魔族・・・ゆんゆんと言ったか・・・と、親密にしてるそうだからてっきり・・・・・」

 

 

そう言いバツが悪そうに顔をそらす。

その一言で恥ずかしいあんな思い出とかが思い出されるが、最近ゆんゆんとは言葉を交わしていない。

 

そのせいだろうか・・・大人気なく、何故だか彼女をからかってやろうと思ってしまう。

 

 

「仲良くしてるからって、別にそんな事ないさ・・・・なぁ?ララティーナ『お嬢様』」

 

「------ッ!?な、何故それを知ってるのだ!まだカズマたちにも明かしていないのに・・・!」

 

「ハハッ------俺はギルド職員だぜ?あそこのギルドで登録した冒険者たちの名簿には一通り目を通してある。カズマたちがお前の事をダクネスなんて言う名前で呼んでるから、何か事情があると思って合わせてたが、今ここには俺たちしかいない。別に問題ないだろ、ララティーナ嬢?」

 

「〜〜〜〜ッ!!その名前で呼ぶなぁ!!」

 

 

さっきの数倍顔を紅潮させ、プルプルと震えだすダクネス。

どうやらこれは彼女の中では中々に恥ずかしい話らしい。

 

彼女のリアクションに笑いをこぼしながらももう少しばかりからかってやろうと口を開く。

 

が、口を開いた途端、顔の真横に風が駆け抜けた。恐怖で顔は引きつりながらも、ゆっくりと何かが飛んでいった背後を見る。そこには投擲のせいで粉々になった何か。大方、適当なその辺りの調度品だろうか・・・いやそんな事より!

 

 

「や、やめろララティーナ!一応俺の新居だぞ!廃墟にする気かぁ!」

 

「うるさいうるさい!その名前で呼ぶな!!ぶっ殺してやる!!」

 

「うぉっ!!待て待て!危ないじゃないかララティーナ!!」

 

「その名前を----------呼ぶなぁあああああああぁぁぁっ!!」

 

「待て!机!!机はあかんだr------------ギャアアアアアアアアァァァァァァッッ!!」

 

 

こうして、俺の引越しは大惨事になりながらも何とか幕を閉じた--------------





そう言えば私事ではあるんですけどDDLCをひとまずユリちゃんルートを3周ほどプレイしました。

無料であそこまで作りこまれてるの凄いですねホント。まぁ、見事に1周目のあのシーンでトラウマを植え付けられたのですが・・・

見事にユリちゃんに惚れてどハマりしてしまったのでヤンデレ物の奴をこの作品のサイドストーリー的な感じでプロットを急いで練っておりますどうかお楽しみに・・・


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2ー07 この平和なひと時に祝福を!

fgo第二部始まりましたね。みなさんどれだけ進みましたでしょうか


「さ、流石に右手が死んでるのに調子乗ってやりすぎたか・・・」

 

「す、すまない・・・私もついカッとなってしまって・・・・」

 

「いや・・・大人気なかった俺が悪いんだ。気にしないでくれ」

 

 

一通りの荷解きと戦争を終え、日も落ち始めた頃。

茜色に染まるお互いが少し苦い顔をしながら見つめ合いながら、玄関でダクネスと少しばかりの談笑をしていた。

 

そもそも、事の発端はこの屋敷の変なマジックだ・・・俺たちを感知して作動したランタンとあの地下室・・・それにあの日誌、絶対何かしらキナ臭い事情があるんだろう。 だがまぁ、こう言う事は臭いものに蓋をして、見て見ぬ振りをするのが最適解だなんて事が往々にある。今回の事も俺やダクネスの記憶からしばらくすれば抜けてしまうだろう。

 

夕暮れ時特有の陽気を感じながら、呆けていると彼女が沈黙を破りながら少し前に踏み出し、こちらへ向き直る。

 

 

「------さて、私はそろそろカズマ達の元へ帰るとする。今日は楽しかった。ありがとう、サク」

 

「あぁ・・・っていうか、礼を言うのはこっちだ。ありがとな、おかげで作業が捗った。カズマ達によろしく言っといてくれ、できる限りの手伝いはしてやるって」

 

「ふふっ------頼もしい限りだ。知っての通り、私は不器用で頼りないからな」

 

「ったく・・・その攻撃当たらないの、いい加減どうにかしたらどうだ?なんなら俺が微力でも教えてやれる事はない事もないが・・・」

 

「本当か!?マンツーマンの修行・・・!そして、次第に雰囲気に流され『ほら、ダクネス・・・ここ、こんなに固くなってるじゃないか・・・』と性的な指導へと発展し・・・・・クゥッ・・・!」

 

「思い出したように変態ドMを発動させるんじゃねぇよバカ野郎」

 

「ンンンッッ・・・///」

 

 

・・・なんだこいつ。今日一日作業ばっかで溜まってたの?

 

ダクネスが妙に艶めかしく顔を赤らめ顔をくねらせる。 普通の人が見れば簡単に悩殺KOだろう。だけど、彼女の内面を知ってるせいか、全然息子も反応しないしそういった情も煽られることはない。

 

 逆にすごいことだよなここまで来ると・・・

 

 

「―――――まぁ、なんだ。今日はお疲れ様だ。何かしらくれてやりたいが・・・適当な酒くらいしかなくて・・・」

 

「いや、わざわざそこまでしてもらわなくても大丈夫だ。気持ちだけ受け取っておく----それになにやら、アクアが昨日新居祝いの準備だのと言って上等な酒を買っていたようだしな」

 

「ほうそりぁまた----女神の大盤振る舞いとあっちゃ、さすがに出る幕がないか」

 

「女神?・・・アクアのことを言ってるのか?」

 

「あぁいや!あいつにも女神エリスの神託でも降りたんじゃないかってことだ。気にしないでくれ」

 

「何やら胡散臭いが・・・・・まぁいい、そろそろ帰るとする。それではな」

 

「----あぁ、気をつけて帰れよ」

 

 

 そういい、彼女は背中を向け歩き出す。送っていきたいが、カズマ達の酒の席にまでわざわざ送ると、何かと変なことになりそうだしな・・・さて、俺もラヴィーを迎えに行くとするかね。ついでに食材だのの買い出しだ。こんな日だ、それなりに豪勢な食事で迎えないとな。

 

~*~

 

「パパおかえり!」

 

「―――――っと、ただいま。ラヴィー」

 

 

 以前の住居であった小さな宿。そこの扉を開けると、ラヴィーが胸に勢いよく飛び込み、俺を出迎えてくる。

 彼女の頭をなでながら部屋を見渡すと、なんだか哀愁がこみあげてくる。長い人生の内とはいえ、2年間というのは決して短くない時間だ。思い入れもあるし、それとお別れするとなるとやはり心寂しいものがある。

 

 昨日のうちにラヴィーにはしんきょのはなしをしてあったので、特に何ということもなく彼女に引っ張られながら部屋を出る。女将のおばちゃんに挨拶をして、外へ、そして街から市場へと繰り出す。

 

 夕暮れ時のせいか、まばらになった人の間を縫いながらぶらぶらと見て回る。なにかしら計画を立ててから来たらよかったのだろうが、まぁ散歩代わりにもなるし悪くない。隣の彼女もルンルンと鼻歌を口ずさみながら軽快に歩いている。

 

 

「わぁ~っ!おいしそうなものがいっぱい!」

 

「なんか食いたいものはあるか?」

 

「うんっとね~・・・・これと・・・・これと・・・あれと・・・これ!」

 

 

そう言い彼女は手頃な店に立ち入り、品を目利きし始める。選んだのはなかなか手が出せないような物から立ち寄ったらとりあえず買っておく様な手軽な物まで三者三様だ。

 

こいつらでどんな料理をしたものか・・・・まぁ、ある程度は調理済みのやつでも買ってくかな。

 

「っと------こんなとこか」

 

「うん!じゃあ、はやくあたらしいおうちいこうよパパ!」

 

「そだな。ラヴィー、今日のメシは豪華だぞ〜?」

 

「めしだめしー!ごうかなめしー!」

 

 

俺の言葉を反芻しながら彼女がまた先を行く。食材の入った紙袋を担ぎながらそんな彼女を見ていると自然と顔が綻びる。

 

日本にいた頃は子供だとか苦手だったんだが・・・まぁ人は変わるもんなのか・・・

 

〜*〜

 

豪勢な食事を終え、洗い物に手をつける。流しから見える彼女の後ろ姿を見るとどうやら満腹になって眠たいらしい。 フラフラと体を揺らし、首はカクンと一定の周期で上下を繰り返してる。

 

 

「------食べてすぐ寝ると牛になるって言いたいけど・・・まぁこんな日だ。そこのソファーででも寝てて良いぞ」

 

「ほんとぉ・・・?それじゃ、おやすみなさいパパ・・・・・」

 

「あぁ、おやすみ」

 

 

そう言い、小さな音を立てながら彼女がソファーに横たわる。静かな部屋に流水の音と小さな寝息が響く。 窓から覗く空は黒で塗りつぶされ、そこに白の星々がそこらかしこに散りばめられ、街の灯りと鏡写しの様になっている。

 

さて・・・こいつが済んだら俺も風呂に入って寝ようかな・・・寝室にラヴィーを連れてって、俺もその脇で寝ようそうしよう。

 

 

「・・・ん?」

 

洗い物を済ませ、脱衣所で服を脱いでいるとポケットや襟の隙間などから何か数枚の紙切れが落ちてくる。 色褪せてボロボロになったこれは・・・あの部屋で見つけた研究日誌?か・・・多分破いた時に舞った破片が入り込んだのか・・・

 

消えかけているが確かに何かしら文字が入っているのを見つけ、どうにか読み取ろうと目を凝らす。

 

読み取れたのは『ろ・・・やー・・・・・いと・・・うかん・・・』と訳の分からないひらがなの羅列。間間に何かしらの文字が入っていた跡があるから、もっと意味のある言葉があったんだろうが・・・・まぁどうでもいい。 いつまでもラヴィーをソファーで寝かせる訳にはいかん。そんなダメ人間にお父さんは育てないゾ。・・・人間?

 

〜*〜

 

「いい風呂だったな中々に・・・・・」

 

 

湯上りのポカポカと火照った体に眠気を誘われる。タオルで髪を拭きながら適当に酒をグラスに注ぐ。一杯だけを今は念頭に置いてグラスを一息に煽る。

 

食道から胃へ酒が流れ込み、湯上りの体の高揚を更に助長する。適度な眠気に誘われ、自然と首がカクンと何度か倒れ始める。

 

思考も鈍ってきてちょっとでも気を抜けば寝落ちして目の前のシンクに顔面を叩きつけるのは確定だろう。そんな事にならない内にラヴィーをベッドに運んでやらないと・・・

 

ソファーで穏やかな寝息を立てるラヴィー。パジャマの薄い生地の下に華奢な白い肌が見え隠れしている。何もケアしてないとは思えない程綺麗な体だ。・・・・・可愛いけど、流石にエ◯いとは思わないよ?そんなロリコンじゃないし、ラヴィーにそういう情を抱いてたら生活がままならない。

 

そんな事を考えながらゆっくりと彼女の体を抱き上げる。サラサラとした彼女の細い髪が腕に触れひどくくすぐったい。・・・・いやもう・・・ダメだ・・・もう・・・・眠すぎる・・・・・今日は荷ほどきとか頑張ったし・・・・うん・・・・早い所寝てしまおう・・・

 

そう思いベッドに彼女を横たえ、即座に俺もその側で寝る体勢に入る。

 

・・・・・酒臭くないかな・・・

 

そんな平和な思考を最後に、俺の意識は闇に落ちた-------

 

〜*〜

 

「・・・・・なんだって?ルナさん・・・もう一回、30文字くらいで簡潔にお願いできます?」

 

「デストロイヤーが接近中。早く逃げないと。・・・・30文字弱で説明したわよ」

 

「なんてこったい・・・・新居に住み始めたばっかなんですけどね・・・・」



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2ー08 この難攻不落の要塞に鉄槌を!

「逃げないと・・・とは言ったけど、そうも行かないのよね・・・」

 

「まぁなんとなく察せたんですけど・・・とっとと街の冒険者を招集しましょうか」

 

 

まるで俺がそう言うのを分かっていたかのようにフフッと彼女が笑い、街中のスピーカーにつながる機器がある事務室へ駆け出す。

 

・・・さて、俺は食堂の方で会議用にテーブルとかの移動でもさせとかなきゃな・・・それにしても、ルナさんもマトモだと思ってたけど、大概この街に染まってるよな全く・・・

 

移動要塞デストロイヤー。強固な岩石で形成されたボディを幾層もの強力な魔法で覆いつくし、数え切れないほどの砲門にガーディアンなどの兵器を兼ね備える。 近づくものは自動の迎撃装置で許さず、魔法も無効化される。 落とし穴など、魔法に関せずに尚且つ近づく事のない地形を利用したアナログな方法も強靭な蜘蛛の足で這い上がって通用しない。 まさに要塞。国さえ落とすのも固くない、地上最強の兵器だと言うに相応しい一種の災害だ。

 

それが通る後どころか、通る前に粗方の生き物は消え失せ、通った後には正真正銘に植物含めたありとあらゆる命が消え去った不毛の地が広がると言う・・・・・いずれこの辺にも来るかもなんて思ってたが、まさか新居に引っ越して次の日だとは・・・

 

 

『アクセルに居る、全冒険者に通告します!デストロイヤー接近につき、緊急クエストを発令します!至急、冒険者ギルドの食堂へ集まってください!繰り返します-------』

 

 

「っと・・・準備を急がないと・・・」

 

 

テーブルを集め、円卓を作る手を急がせる。円卓などとは言っても、来るのはロクでもない山賊みたいな奴らだが・・・まぁ今の状況なら誰でも勇者様だ。頑張ってもらわないとな・・・

 

〜*〜

 

「それでは、今より緊急会議を開催します。デストロイヤーに対する有効打を思いついたら遠慮なく発言して下さい」

 

「「・・・・・」」

 

(重いな・・・流石にデストロイヤー相手じゃこの街の奴らもお手上げか・・・・・てかあの駄女神は何やってんだ)

 

 

打つ手がないせいか、集まり始めたうちは活き活きとしていた荒くれ者達もすっかり黙り込み、非常に重い空気が辺りに張り詰めている。

そんな中でもあの青い髪をした一応女神は呑気に水絵を無言でチマチマと描いている。

 

ルナさんの後ろ、詰まる所隅に背を預けて全員を平等に俯瞰できる状態でいるからこそ、策を弄しては消えていくごとに彼らの気色が落ち込んでいくのがよく分かる。

当然と言えば当然。空からも地上からも考え得る手でのアプローチは不可能。無理ゲーも良いところだ。俺1人なら、どうにか侵入まではこぎつけられる。が、そうして尚且つあれを止めるもしくは操作する方法があるにしても小さな城となんら変わらないデストロイヤーの内部を走り回って見つけるなんてのは1人では決してなし得ない。だからこそ、人手がいるのだが・・・・・

 

 

「おいカズマ。機転の利くお前さんなら、何かしら思いついてるんじゃないか?」

 

 

難航する会議に飽きてきたのか。頭を抱えるカズマにダストが問いかける。悩み続けるカズマだが、ふと何かを閃いたかのように隣のアクアに顔を向ける。

 

 

「-------アクア、そう言えばお前、魔王軍幹部が2、3人で維持した結界でも破れるって言ってたよな?なら、デストロイヤーの結界も----ってなんじゃこりゃ!?スゲェ!水だけでこんなのが・・・」

 

 

カズマが感嘆の声を上げる先にはチマチマと描いていたアクアの水絵がいつのまにか、1つの芸術作品として完成されていた。美しい天使が花を手にし、妖精達と戯れる姿を描いたそれは間違いなく後世に語り継がれるべき作品だろう。

 

 

「ん〜?そう言えばそんな事も言ったわね・・・・だけどデストロイヤーよ?流石の私も破れるなんて確約できないわ」

 

 

そう言い惜しげも無くコップの水をぶちまける。

 

 

「あぁっ!もったいねぇ、何で消すんだ!」

 

「そりゃ、完成したから消して新しいのを-------」

 

「破れるんですか!?デストロイヤーの結界を!」

 

 

そう言いかけたアクアを遮り、ルナさんが声を荒げる。その声に辺りの冒険者から衆目に2人が晒される。焦ったようにカズマが手を振るがせっかく降ってきた希望の糸だ。結界の問題はアクアに託された。

 

 

「一応、やるだけお願いできませんか?それが叶えば魔法による攻撃が・・・!あ、でも・・・デストロイヤー相手じゃ下手な魔法じゃ効果がありませんし、駆け出しばかりのこの街じゃ・・・」

 

 

-------ピースは揃ったか。会議が始まって20分弱、あそこからここまでの距離を考えればもうそろそろ来てもおかしくない。なら、ドンドン進行してしまおう。

 

 

「-------ルナさんルナさん。火力なら事足りてますよ?ほら、赤い頭がおかしいのがいるじゃないですか」

 

 

俺が少しばかりわざとらしく大きな声を彼女にかける。その言葉でギルドは活気を少しばかり取り戻しざわつき始める。

 

 

ソ.ソウダ.....アタマガオカシイノガイタナ.....!

オカシイコガイタナ.....!

 

 

あちらこちらからそんな声が上がる中、その頭がおかしな子は恐らく勢い任せに立ち上がる。

 

 

「おい待て、それが私の事ならその略し方はやめてもらおう。さもなくば、いかに私の頭がおかしいか今ここで証明することになる」

 

 

その言葉に冒険者達が一斉に目をそらすが、やはり期待の眼差しはやまない。資産の反撃を期せずして受けた彼女はみるみる顔を赤くし、

 

 

「うぅ・・・・・・わ、我が爆発魔法でも流石に一撃では・・・・厳しいと・・・思われ・・・・・」

 

 

そう言葉をドンドン小さくしながら再びめぐみんが着席する。・・・まぁあいつの言うことは最もだし、それを自覚してる分全然良い。下手に啖呵を切って失敗しただなんて目も当てられないからな。

 

再びギルドが静まり返る。が、突然に入り口のドアが開かれるとそこから差し込む光とそれを遮る人影が現れる。

 

 

「・・・来たか」

 

「すいません、遅くなりました・・・ウィズ魔法具店の店主です。冒険者の資格はあるので何か力になれるかと・・・!」

 

「店主、佳境も佳境だ!-------忙しくなるぞ!」

 

 

店主の登場に湧き上がるギルド。・・・なんだか、冒険者としての店主より恐らくこいつらの士気を高めてるであろう『あの店』での店主を呼ぶ声も聞こえる気がするが、まぁ気のせいだろうん()

 

 

「ど、どうも、店主です、ウィズ魔法具店をよろしくお願いします・・・店主です、よろしくお願いします・・・・・また砂糖水生活になってしまいそうなんです・・・・」

 

「羨道を通ってるのに、そんな切実な事を言ってくれるなよ店主・・・」

 

 

冒険者達の歓声と拍手で出来上がった羨道をペコペコと頭を下げながらこちらへ足早にかけてくる店主。本当に元高名な冒険者で、魔王軍幹部のリッチーなのかと疑いたくなる気弱さだが・・・

 

 

「それでは店主さんも来たので改めて作戦を!-------まず、アークプリーストのアクアさんがデストロイヤーの結界を解除、そしておかし・・・めぐみんさんが結界のない本体に爆裂魔法を撃ち込む、という話になったのですが・・・」

 

 

それを聞いたウィズは口に手を当てて考え込む。さっきのヘコヘコしていた様子からは想像もできない綺麗な横顔と頼もしい立ち姿だ。

 

 

「・・・爆裂魔法で、左右の足を私とめぐみんさんで破壊するのはどうでしょう。何かしらの種がない限り、それで機動力を奪えますし、足さえどうにかすれば後はなんとでもなると思いますが・・・」

 

「そいつで良さそうだな--------そんなら、俺は上からその種を摘みに行くかな。もしもの事があったら他の奴らも本体に乗り込めるようにロープなりを用意しておこう」

 

 

ルナさんや周りの冒険者が俺と店主の提案にコクコクと頷く。

その後も駄目元ではあるが、罠やバリケード、ゴーレムの設置などの案が出され、前衛職の冒険者達が万が一破壊し損なった足を破壊するためデストロイヤーを取り囲むと言った作戦も追加された。

 

 

「それでは作戦開始-------です!」

 

「「うおおおおおおおおおおおおお!!!」」

 

 

ルナさんの号令と共に野蛮人達の雄叫びが辺りにこだました-------

 

〜*〜

 

「・・・っと、来たか」

 

 

アクセルの門から2、300メートルほど離れた上空で辺りを見渡す。目を凝らす先には広大なアクセル近辺の草原が広がり、そしてそれを踏み荒す石の化け物がその頭角を見せていた。

 

作戦前にルナさんから渡されていた信号銃をほぼ真下に撃ち込む。赤い煙が弧を引きながら落ちて行くのを他所に信号銃をホルスターにしまい、刀を抜く。

 

銀にきらめく刃を軽く一振りする。フッという軽い感触。そして空気を裂く音がデストロイヤーの地鳴りに掻き消される。軽く汗ばんだ身体に別れを告げ、駆け出す。

 

斜めに降下しながらの肉薄で10秒もたたないうちにデストロイヤーは目と鼻の先にまで迫る。そしてもちろん、迎撃機構が発動する。中心の塔の左右が開かれると、そこから無数、多種多様の弾が発射される。

 

 

(直線的なのとやけに軌道が不規則なのがあるな・・・後者は多分追尾型か・・・・・どういう原理がわからない限りは隠紅姫も使えない・・・・結局正面突破しかねぇか)

 

 

まだ向こうも様子見程度なのか。まず当たらない無誘導の弾以外の数発を軽く刀で捌く。ベルディアやギークの剣に比べたらまだまだ遅く、余裕もある。よっぽどのトラブルが起こらない限り、このペースなら乗り込むのは余裕だろう。

 

迎撃のためか少し速度が落ちてる・・・これならウィズ達の迎撃地点まで後2分ってとこか・・・それなら・・・

 

 

「-------そらっ!!」

 

 

一瞬だけ思い切り霊圧を発し、エンジンに火をつける。準備万端になった体をデストロイヤーに向けて弾丸のように撃ち出す。

 

こんな直線的な動きだ。余裕で迎撃されるだろう。

 

 

「来たか」

 

 

予想通り弾が発射され、こちらに迫る。だが、先ほどとは違い誘導弾含め、全体の数は倍以上になっている。刀一本で捌ききるには無理がある・・・が、それも予想通りだ。

 

進路を斜め下にずらし、デストロイヤーの真下に潜り込む。もちろん幾つかの誘導弾は俺を確実に追尾してくる。全くもってトンでもない性能だ。だが、このくらいの数がありゃ十分だろう。

 

 

「縛道の三十七『吊星』!」

 

 

デストロイヤーの足と本体数ヶ所に霊圧を貼り付け、自分の背後に吊星を展開する。元はと言えば落下の衝撃を和らげるものだが、こいつは少しばかり弾力性に重点を置いて作った。

 

背後の吊星がこちらに大きく突き出て一瞬静止する。伸縮の限界を迎えた吊星が元の形に戻ろうと誘導弾を、元の数倍の速さで押し返す。 少し斜め上側に反射するよう調整した角度が上手く機能し、とてつもない爆音と煙を立ち込めながらデストロイヤーの底面に大きな穴を穿った。

 

 

I did it!!(してやったぜ!!)-------さぁ、後は頼んだぜカズマ!」

 

 

そう叫び、俺は大きく跳んで本体へ侵入した-------

 



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2ー09 この強大な要塞に制圧を!

行進により胎動を絶やさないデストロイヤー内。後少しもすればウィズとめぐみんが爆裂魔法を撃ち込む。それまでに、ここのどこかに搭乗しているであろう責任者、そしてゴーレムだのが地上に降下して暴れ回らない様殲滅するのが仕事な訳だが・・・

 

暗く冷たい石の通路の向こうからはいくつもガシャガシャと何かが近づいてくる音がする。

 

 

「迎撃か。こいつらが来た方向にははてさて・・・何があったものかな」

 

 

そう言い、音の方へ向き直るとゴーレムの壁がまるで波のように連なっていた。数の想像などしたくはないが、この1分足らずでこんなに集まったって事はそれなりに重要な区画か、その近くに入れたって事だ。

 

四角く角ばった人型をしたゴーレム達がこちらを冷ややかに見つめる。鋼鉄を思わせる無骨な質感を携えた体とそれから繰り出される殴打を想像しただけで背筋に悪寒が走る。

 

だが、このタイプの奴は・・・

 

 

「フッ!!」

 

 

掌底で思い切り先頭のゴーレムの頭部をはじき出す様に突く。斜め下から滑り込むように繰り出した掌底は頭部を的確に捉え、天井にその首をめり込ませた。そして頭部を失ったゴーレムは糸が切れた人形の様にその場にガシャンと体を崩しながら活動を停止した。

 

頭か胴には少なからず重要な回路が詰まってる。ならそこだけを突けば、一撃一殺は容易だ。刀じゃ接触面が少なくて深く斬り込まないとパーツには届かない。スティールでも使えれば楽なのだろうが、生憎なことに習得していない。よっての徒手空拳だ。両の手足4本でこの数を捌くのはなかなかに骨が折れるが・・・

 

 

「やるしかねぇよなぁッッ!!」

 

 

攻撃をしない限りは襲いはしないようプログラムされていたのか、先頭の一台がやられた途端に壁が押し寄せてくる。数が数だけあってこのままでは簡単に潰されてしまう。

 

ただ、全台を相手してる余裕も時間もない・・・一点突破だ。

 

目の前のゴーレムの目線の高さまで跳び上がり、首を勢いよく捥ぎ取る。回路をブチブチと千切りながら輝きを失った頭部を間髪入れずに今度は第二陣のセンターへと投げ込む。 胴に首が食い込むとスパークを発しながらまた一台が鉄くずになるが、先程スルーした第一陣と二陣のサイドのゴーレムが取り囲み、拳を振り下ろす。

 

4方向から鉄槌が迫る。

狭い通路の中で逃げ道はない。

ならば、逃げずに受け止めてしまえ。盾ならば、周りに大量に転がっているではないか。

 

 

「フッ-------!オラァッ!!」

 

 

背後のゴーレムの足を払い、倒れてくる体を頭上へ強引に引きずり込む。そのまま振り下ろされた3つの拳は盾にしたゴーレムの胴を粉々に砕き、自身もパーツを撒き散らしながら砕け散る。そして、空中に舞っている腕をキャッチし、魔力で補強しながら正面のゴーレム二台に思い切り突き刺す。

 

胴を貫きながら壁に貼り付けになった腕を起点に飛び上がり、一瞬だけ残りのゴーレムの数を確認する。

見たところ、後三陣か・・・だが、おかわりが来るだろうし、速攻で片付かなけりゃな・・・

 

 

「韋駄天とまではいかないが-------鈍い鉄くずが追いついてこれるかな?」

 

 

床を本気で蹴り出す。幾つかの石材を撒き散らし、ゴーレムの波へ突貫していく。1つ2つ3つと後続のゴーレムを一台ずつ巻き込みながら計三台を地面に叩きつけ、刀で素早く首を落とす。刀はそのまま床へ突き刺し、落とした首を拾い上げては投げつけていく。

 

三台やって、残り六台・・・この首で三台やるとして、後三台は・・・後で考えよう。

 

投げつけた首が次々とゴーレムをお釈迦にし、残る三台と相対する。こちらには床に刺さった刀とゴーレム三台分の残骸。・・・よし閃いた。

 

腕をもぎ、素早く突貫しながら正面と右端のゴーレムに押し倒すように二本の腕を突き立てる。二台は沈黙、残る一台がこちらに拳を振りかざす。

 

 

「こう単純だから、相手にすらなんないんだよ-------全く」

 

 

身を翻し、ゴーレムの真横に付く。空を切る拳をよそに腰を落とし、渾身の裏拳を叩き込む。壁に叩きつけられながら、それも敢え無く沈黙した。

 

 

「さてさて、探索を急がないとな-------ってオォッ!?」

 

 

爆音が響いたかと思うと、凄まじい揺れとともに壁に叩きつけられる。少しすると爆音が収まり、デストロイヤー内で絶えることのなかった振動がなくなり、まるで時間が停止したように廊下は静寂な空間と化していた。

 

 

「痛っつつ・・・店主とめぐみんがやってくれたか・・・あ?なんだアレ・・・」

 

 

視界の先には恐らく慣性と老朽化により抜けた扉だったであろう板が転がっている。歩みを進め、その部屋に入る。そこには、幾層と積まれた書物に、それに埋もれるようにして佇む玉座と白骨。

 

・・・多分書物は研究資料だかで、この白骨は玉座に座ってる辺り責任者・・・・の成れの果てか。まぁ綺麗な骨になってるなおい・・・

 

そう感心していたのも束の間。突然、非常に耳に悪い警告音が辺りに響き渡った。

 

 

『警告、この機体は活動を停止しました。排熱、及び機動エネルギーの消費ができなくなっています。搭乗員は速やかに避難してください。繰り返します-------』

 

 

そんなアナウンスが流れ始めた。そしてそれと共に、乗り込んだ時とはまた違う小刻みな揺れが始まり、心なしかそれは段々と大きくなってきている。

 

 

「ひとまず・・・外の様子を見にいかねぇと・・・!」

 

 

慣性で投げ出された方向が恐らく今カズマたちがいるであろう方向、つまりデストロイヤーの正面だ。そうと分かれば話は早い。とっとと階段なり見つけて上がっていこう・・・めちゃくちゃ忙しいぞクソ・・・

 

〜*〜

 

「-------見えた!-------カズマ!どうなってんだ-------」

 

 

とにかく出口のあるであろう方向へ前へ上へと進み続け、そこまで時間もかけずにデストロイヤー内部から脱し、外界を久々に見る。デストロイヤーの高度から見ると、いくら足がなくなったとはいえ相当な高さなのだろう、カズマ達がギリギリ識別できるくらいだ。

 

柵から身を乗り出しながら叫ぶ。-------が、その言葉を言い切る前に冒険者達の「乗り込めー!!」という雄叫びと共に何かが顔面の真横を刹那に通り過ぎる。 見ると、顔面の真横には重たい鉄の矢じりと地上へ垂れ下がる長いロープを携えた弓矢が外壁を軽く砕きながら突き刺さっていた。こんな物が直撃したと考えると、ギャグ補正があっても『見せられないよ!』状態になるのは確定的だろう。

 

 

「いや-------危ねぇじゃねぇかおい!!・・・・ったく、この阿呆どもめ・・・・!」

 

 

ギルド職員とは思えない悪態が誰にも届かず虚しくなったが、アイツらはどうもアボンしそうなこのデストロイヤーを止めようとしている。・・・今の俺はギルド職員じゃない、冒険者だ。なら、郷に入ればなんとやら・・・・・

 

 

「-------ッシャ行くぞォァ!!5人程度で固まって確実に一体一体倒せ-------いや、リンチにしていけ!!方法は任せる!!」

 

「「ウオオオォォォォ!!」」

 

 

指示・・・というよりも山賊に自由行動の時間だと声高に宣言する。すると駆け出し冒険者ばかりの街の住人だということを疑いさせる様な速度で次々とゴーレム達がスクラップになっていった。・・・数の暴力って怖い・・・・・

 

そんなことはさておき、辺りの魔力をどうにか探ってみると、俺が侵入した辺りの魔力が冒険者達と合流する前とは比べられないほどに高まっている。あの玉座・・・いや?よくあの部屋の全貌が思い出せない・・・脳に霞がかかってるみたいに・・・・・流石に、2、3分前の事を忘れるほど落ちぶれちゃいない・・・・・・認識阻害・・・っていう魔法の類か・・・?・・・・あそこにコアがあるってか?確かめてみる価値はあるだろう・・・どの道、この人数なら、ローラーでもさほど時間はかからん。

 

 

「----っし!そうと決まりゃ-------!」

 

「・・・うおっ!?職員サン、どこ行くってんだ!」

 

 

駆け出した後ろからテイラーの声が聞こえてくるが、無視だ無視。ていうか、アイツが見てくれたら十中八九カズマ達も俺の後を追ってくるだろうし。

 

〜*〜

 

・・・どうしよう。迷った。いや待て待て待て・・・流石に来た道を再現くらいは出来る、うん。間違ってはないはずなんだ。よくある思い込みとかじゃなくてマジで。・・・・・突拍子な発想になるが、まさか・・・(部屋の配置が)入れ替わってる!?・・・ふざけるんじゃあないぞ俺・・・・・冷静になろう。部屋の配置が変わったというよりもこれ多分、壁が動いて1つのデカイ部屋を作ってるんだろうな・・・・・体感だが上がる時より、奥へ移動する時間は短かったが、横へ移動する時間が長かった・・・・つまり、中央に巨大なスペースができてる・・・・って事はだ。俺の真横の壁・・・

 

暗い、狭い通路で1人ウンウンと唸ってみる。何も反応は返ってこないが・・・答えは得た・・・合ってるかは知らんが。まぁいい・・・走り続きで軽くイラついてたとこだ。全力でぶち抜いてやろう。

 

 

「・・・・チェストォォォッッ!!」

 

 

そう叫びながら全力で放出したただの魔力の塊は目の前の壁に大きな穴を穿つ。そして、穴の向こうには薄暗いながらも確実に空間がある事を確認できた。

 

恐る恐る中へ足を踏み入れると、奥の闇からガシャガシャと今日何度目かも分からない音が。・・・まぁ、俺の予想が当たってりゃ、ここはぶっちぎりレベルで重要な部屋だ。なら当然、守護がいる。

さっき倒したのが確か15台程度、侵入して来た冒険者の迎撃に当たってるのもそれなりの台数だろう。この軍団がデストロイヤー内では最後だと信じたいが・・・何台いやがる?まぁいい、冒険者達が来れば数の暴力でどうにかなる。ならそれまで疲れない程度の塩梅で処理していこう。

 

 

「ふぅ・・・『絶対零度の氷河(グレイシア・ホライズン)』」

 

 

久々の魔法だ。制御・・・・は別に考えなくてもいか。この床一帯凍りつかせてやる。

足元から伸びた氷がゴーレムの足を捉え拘束する。だが、決して分厚くはないことを考えると、拘束はせいぜい1分だが・・・俺が絶対に割りながら暴れるからな・・・とっとと片付けよう。

 

片っ端からゴーレムの頭部を捥いで回る。だが、捥いだ際の力で確実に床の氷に亀裂が入り、それはドンドンと広がっている。が、何でだろう。少しずつ楽しくなって来た俺にはそんな事、気づきすらしなかった。

 

 

「ハハハハハ!もぎもぎフルーツだぁ!次はお前だ!-----------アアァッ!?」

 

 

後ろから鋼鉄が羽交い締めをかまして来る。それに直前まで気づかないほどに油断していたせいで完全に拘束され、動かせるのはせいぜい手足の首から上くらいになってしまう。 拘束されて締め付けがドンドン強くなっていく中、正面や左右からも更にゴーレムが加わり、完全に押しつぶす陣が整っていく。

 

背筋に冷や汗が走る。

冷やされた脳裏によぎる最悪の未来。

それら全てが体を焦燥で埋めていく。

が、冷やされた頭はほんの一瞬だけ、行動の取捨選択をする猶予を与えた。

 

 

「-------吹き飛べェェッッ!!」

 

 

消費など度外視した全力の魔力放出。たった一瞬だけふかしたとはいえ、残りの魔力4割程を注いだ放出は纏わりついていたゴーレムを1つ残さず壁に叩きつける程に吹き飛ばした。

 

放出による凄まじい倦怠感が膝をつかせる。肩で息をしながらどうにか呼吸を整えようと大きく息を吐く。

 

元から一方的に蹂躙する為に、下手くそな制御も無視しての闘い方をしてきたんだ。それに加えてさっきの放出で残りの魔力は3割強あるかないか・・・

 

背後に駆動音とともに、威圧感が蘇る。ゴーレム共の第二陣か・・・数は20弱・・・体はろくに動かない。だがまぁ・・・

 

 

「出てこいやここを襲いやがった責任者ァ!!とっちめてやるっ!!」

 

 

罵声とともに入り口のドアが勢いよく破壊される。なんで誰もマトモに入ろうとしないんだろうな。 こじ開けられたドアから雪崩のように冒険者達が流れ込み、実に効率的にゴーレム達を蹂躙していく。

 

襲われたとは思えない野蛮さです。どう見てもこっちが襲撃した側です本当にありがとうございます。

 

 

「ぎゃあああああ!腕っ!腕がああああ!!」

 

「だ、大丈夫ですかカズマさん!?重い物を持ってる相手にスティールは-------!」

 

「別に、ヒビも入ってないわよ。一応ヒール位はかけたげるけど-------」

 

 

どこからかそんなおバカなやり取りも聞こえてくる。それに軽く安堵しながらようやく落ち着いてきた呼吸をゆっくり繰り返しながら立ち上がって辺りを見渡す。

 

俺が一部の足を氷漬けにしておいたのもあるだろうが、冒険者達の士気は凄まじく、すでに殆どのゴーレムが鉄くずになり、残りのゴーレムも絶賛リンチにされて制圧は終わっていた。

 

冒険者達が止める手段はないかとあれやこれや部屋を散策している中、部屋の最奥には1つ人だかりが出来ていた。 人だかりでは先程のテンションが嘘のように皆沈んだ表情をして軽く俯いている。

 

 

「・・・おっ。カズマに職員サンか、良いところに来たな。・・・見てみろよこれ」

 

 

そう言い、これまた浮かない表情のテイラーが何かを指差す。その先には、俺が侵入したての頃に発見した白骨が。それを見たアクアは静かに首を振る。

 

 

「・・・成仏してるわね。そりゃもう未練のかけらもないぐらいにそれはそれはスッキリと」

 

「・・・いや、これ絶対アレだろ。1人寂しく無念タラタラのまま死んでったみたいなアレじゃん・・・」

 

「てか、それじゃあデストロイヤーっていつからかは定かでないにしろ、完全に自立して暴れ回ってたのか・・・とんでもない兵器だな全く・・・って、アクア。お前なんだそれ。また厄介ごとを引っ張って来たんじゃ・・・!」

 

 

俺とカズマが白骨を見つめながら首をかしげる中、アクアは何やら周りの書物の山からノートを手に取っていた。 保護者が何かの厄介ごとを警戒して語調を強める。

 

 

「何これ・・・日記かしら。どれどれ・・・」

 

「ホッ・・・日記だけなら流石にこの女神も安心だよな・・・な?朔」

 

「いや、俺に聞かれてもな・・・とりあえず素直に内容を聞いとこうぜ?」

 

〜*〜

 

◯月△日 国のお偉いさんが突然押しかけてきたかと思ったらありえない量の金を積んで何やら兵器を作れと言ってきた。こんなに金もらったら断るに断れない。仕方なく依頼を受けた。

 

×月◇日 アイデアがなかなか浮かばない。女研究員達の見る目が養豚場の豚を見るそれだしもう嫌だ。いっそのこと金と酒だけ持って逃げてしまおうか。

 

□月◯日 あーもーダメだ。詰んだ。終わった。ヤケになってパンイチになってもうこいつダメだろってお払い箱にしてもらおうとしたらあの女、「それも脱げよ」だって。俺も大概だけどこの国も終わってるんじゃなかろうか。

 

△月□日 最終日。終わった。なーんも進捗がない。作業が滞るとか言って人払いをしたが、亡命的なのの準備をする為だしілмвлцвдслмкд!!〜〜〜・・・・・終わった。本当のマジに終わった。大嫌いな蜘蛛を反射的に叩き潰したんだが、なんとそれは設計図に蜘蛛型のシミを作っていた。このご時世、ここまで良質で大きな紙は貴重だし・・・・もういいや、このまま出してしまおうそうしよう。

 

◇月♤日 なんかアレが案として通った。いいの?ただ蜘蛛叩き潰しただけの紙だよそれ?なんなら俺の汚い汗とかもちょっと付いてるよ?まぁそれは置いとくとして、引くくらい作業が急ピッチで進んで行き、俺はこれまで見たことのないような金で遊び倒している。最高!!!

 

♧月♡日 やっちゃったよこいつら。小さな城となんら変わらないくらいのアレを動かしたかったら、伝説のコロナタイトでも持って来いやと適当に啖呵をきったらやりやがったよやり遂げやがったよ。どうしよ動く見込みなんてないよ?お願い!!動いてぇ!!

 

♤月♧日 やったー動いたー国滅びたマジ卍ー・・・ったく誰だよこんな兵器作ったやつ・・・あっそれ、俺でしたテヘエッ

 

〜*〜

 

「「舐めんなぁ!!!」」

 

満場一致の怒号であった。



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2ー10 この難攻不落の要塞に終幕を!


結構頑張りました。まぁ量はいつもの半分くらいですが、ご容赦ください・・・そして、1巻よりも短くはありますが2巻のお話もこれにて完結です。


怒号が響く中、アクアがとても気まずそうな顔で俺とカズマの方にゆっくり助けを求めるような視線を向けてくる。 最初のうちはあいつがちょっとふざけて内容を改変したりしながら読んでるもんだと思ったが、あの子犬みたいな様相を見るに、『ま、真面目にやったんですケド・・・』みたいなことを思ってるんだろう。

今回ばかりはあいつも悪くない。このままじゃ状況も足踏みしたままだろうし・・・

 

 

「ダスト、みんなを先導して先に脱出しといてくれ。後は俺たちがどうにかする」

 

「えっ・・・い、いいのか?」

 

「ほらアクアやウィズがいるんだし大丈夫だって。それに『あの店』のことも頼んだぜ?」

 

「カズマ・・・職員サンまで・・・よし分かった!俺に任せとけ!」

 

 

人払いを済ませ、煌々と輝くコロナタイトの前にウィズ、アクア、カズマに俺の4人が並ぶ。太陽の名を冠するそれは恐ろしいほど綺麗な赤と熱気を周囲に振りまきながらただただそこに存在していた。

 

・・・多分、あの容れ物を壊してコロナタイトを引きずり出すのは簡単だ。だが問題はその後の対処だ。俺の氷魔法で多少なりとは時間稼ぎ出来るだろうが、そんな事したら俺が魔力切れ起こした瞬間におわおわりだ。

 

 

「暴走してますね・・・ど、どうしましょう・・・」

 

「なぁ、これお前どうにかできないのか?よくあるだろ、女神が悪しき力を封印するーみたいな」

 

「そんな都合のいい展開あるわけないでしょ・・・」

 

「『絶対零度の地平線(グレイシアホライズン)』・・・取り敢えず時間稼ぎは任せろ・・・つっても俺もわりかし魔力がカツカツだ。早急に頼むぜ」

 

 

コロナタイト入りの円筒に近づきそれを傲岸不遜にも足蹴にして凍らせる。凍らせた側からコロナタイトの熱で溶かされてはいるがまぁ多少なりとは意味があるだろう。

てかめちゃくちゃ熱い。格好つけてクールキャラぶった態度したけどめちゃくちゃ熱い。マジで靴底とか溶けてきてない?大丈夫これ?ねぇ変な汗出てきたんだけど!靴とか溶けて変な物質とか出てきてないよね!?

 

 

「-------そうだ!テレポートを使えば・・・!あ、でも魔力が・・・カズマさん、吸わせてください!」

 

「はい、喜んで」

 

 

何が?などと無粋な言葉はいらない。男ならば仲間を信じてただ身を預けるのみだ。そう言わんばかりの凜とした表情でカズマはウィズと向き合った。 その様相を見て後ろから

 

 

「ねぇねぇサクさん、カズマさん卒業の時・・・?」

 

 

とアクアが肩に手を置きながらアワアワしている。・・・こんなロクでもない世界のことだ。アクアやカズマが想像してるような事にはならないだろうさ。ありゃ多分・・・

 

 

「ごめんなさい!『ドレインタッチ』!」

 

「あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

 

「ちょっ!ちょっとウィズ!カズマさんが!カズマさんが干物になっちゃうわ!」

 

「ご、ごめんなさいごめんなさい!でも・・・これで・・・!ただ・・・」

 

 

そう言いウィズが顔を曇らせる。なんだなんだ。この期に及んで心配事項か?てかマジでそろそろ限界なんだけど。視界がフラフラしてきたんだけど。

 

 

「私が今できるのはどこに飛ばせるか分からないランダムテレポート・・・万が一にでも集落に飛ばしてしまったら・・・!」

 

「だ、大丈夫だウィズ・・・世界は広い。人がいないところの方が多いし、こう見えて俺は運がいいらしい・・・ぞ・・・それに・・・俺が責任を取る!!だからやってくれ!!」

 

「ちょ!カズマさんくたばりかけなのに下手に動かないでよ!」

 

 

見るからにげっそりしたカズマが治癒されながら体を起こしてウィズに語りかける。そして極め付けに俺が責任を取ると啖呵をきったもんだから、ウィズの目が冒険者時代の輝きを取り戻した。

そしてウィズが決意を決め、俺の横に歩み寄る。

 

 

「て、店主・・・靴がそろそろ限界だから早くしてくれ・・・ちょっとクールキャラっぽくしてるけどマジで無理だから・・・」

 

「え!?そ、そうなんですか!?てっきり余裕そうな態度だったのでまだまだ大丈夫かと・・・!」

 

「てか靴離れないんだけど・・・あれ?これまさか熱で溶けて氷で冷やされてくっついちゃった・・・?え?・・・・・えぇ・・・?」

 

「ご、ご愁傷様です・・・というかそうやって間接的に触れられているとモノノベさんも飛ばしてしまうかもなので、靴は犠牲に・・・」

 

 

幾ら足を自分の方に引っ張ろうと。引っ張るどころか自分に膝蹴りをかます勢いで動かそうと、靴がコロナタイトの円柱から決して離れない。いつのまにか体の関係を築いてしまったようだ・・・いや何言ってんの俺・・・しょうがないけどデストロイヤーと一緒に消えてもらおう・・・うぅっ・・・

 

 

「『ランダムテレポート』!」

 

 

彼女が呪文を唱えると、遥か上空に軌跡を描きながらコロナタイトの熱気と膨大な魔力は感じられなくなった。核が消えた事により、静寂に包まれた内部。4人が安堵の溜息をこぼす。ようやく、終わったんだなとそれぞれが胸に秘めていると、アクアが前に躍り出る。

 

 

「終わってみれば呆気ないものだったわねデストロイヤー!さっ!ギルドに帰って勝利の美酒を浴びようじゃない!サクさん頼むわよ!」

 

「あいつまた余計なフラグを・・・まっ、流石にこれ以上は起こりようもないか」

 

「そうだな、俺も片っぽ靴が犠牲になったがまぁ・・・一件落着って奴だ。そうと決まったらとっとと脱出しようぜ」

 

 

そう言い一行が振り返り、帰還の一歩を踏み出す。その瞬間、慟哭が一面に響いた。そして後ろの空間に何かが収縮され始める。

 

 

「なんだなんだなんだ!!?周りから・・・回路かありゃあ・・・!?」

 

「デストロイヤー内部に溜められてた熱エネルギーが収縮されて、魔力に変換されてます・・・!この量は・・・!」

 

「な、何!?あたしがまた何かしたっていうの!?」

 

 

熱エネルギー・・・いや、それだけじゃない、この魔力の感じ・・・・・・そうだ!めぐみんとクエストに行った時のあの妙な魔力がここに集まってきてるのか・・・!?だからデストロイヤーがあの魔力を求めてアクセルに来たのか!それにあの家の地下にあった日誌の破片にあった『ろ・・・やー・・・・・いと・・・うかん・・・』の文字・・・!

 

 

「ああぁっ!!全っっ部繋がった!!コロナタイトが失われた時!周囲の魔力と自身のエネルギーで何かしらを起こすようプログラムされてやがる!!」

 

「ええぇぇっ!な、何が起こるんですか!?」

 

「分からんが!早く逃げ-------!!」

 

 

俺は、その言葉を最後まで言えなかった。部屋を青白い光をたたえ、覆い尽くすと同時に視界はホワイトアウトした-------

 

〜*〜

 

体を何かが激しく打ち付け続けている。それも身動きの取れないような強さで。それに体がフワフワする。まるで地面から離れているみたいだ。

 

 

「-------ん!----ベさん!-------モノノベさん!!起きてください!!」

 

 

聞き慣れた店主の声がする。なんだそんなに切羽詰まって。デストロイヤーの件は解決した・・・いやしてねぇわ!!あの後どうなった!?状況はどうなってる!?

 

そう思考にフルスロットルがかかると同時に目を開く。目を開くと映るのは青と白のまだら模様。そして横から切羽詰まった店主の声。それに加えこの感覚・・・落ちてんのか!!

 

体を反転させて恐らく地面があるだろう方向へ目をどうにかこらす。すると、緑と灰色の地面がみるみると近づいてきている。

 

 

「なんだこのターミネーターもびっくりなこの状況!-------ッ!店主!掴まれ!!」

 

「は、はい!」

 

 

なんとか互いの手を取り合い2人で落下しながら円をつくる。確か日本っていうか、元の世界にこんなスポーツ?アクティビティ?があったな・・・ただ、パラシュートがないというオワタ式だ。しかしただ落下してるだけなら対処は楽だ・・・それがまだ救いか。

 

 

「『吊星』!」

 

「わわっ-------!」

 

 

クッションを展開してどうにか地面に叩きつけられるのを免れる。落下した先は森だが、空から見ていた時、近くに灰色の面があった。そこに歩いていけばここがどこだか分かるだろう。

 

 

「-------っと、大丈夫だったか?店主」

 

「こ、腰が抜けましたぁ・・・」

 

「ハハッ・・・まぁあんな経験すりゃあな・・・ひとまず、近くに街があるっぽいからそこまで移動するぞ・・・っと!」

 

 

ヘナッと地面に座っている店主を担ぎ上げ、俺は足を運び始める。

 

ただ・・・妙に静かだ・・・魔物の1つもいてもおかしくないし、それに・・・・・魔力が回復しない・・・?一体何処なんだここ・・・?

 

 

〜*〜

 

「う、嘘だろ・・・?」

 

「ふぇ・・・・?」

 

 

見上げてようやく先が見えるほどに高くそびえる無数の建造物。その下には無数の車が走り、横の歩道にはそれ以上の人々が堅苦しいスーツと電話を片手に忙しそうに歩き回っている。照りつける日と絶えることのない喧騒。毎秒毎秒姿を変え続け、忙しなく変遷するこの街は俺がよく知る街だった。道路の青地に白文字の標識が告げるこの街の名前は-------

 

 

「日本・・・・・東京・・・だ・・・」

 

「ど、何処なんですか・・・ここ・・・」

 

 

背中越しに店主がそう弱々しく告げた声も届かない程に目の前の光景は驚愕のものだった-------




2巻終了現在、話数は40話に到達しました。そして多分5話くらいのEXパートが入るので2期の話が終わる頃には70話くらいいってるんじゃないですかね(遠い目


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【番外編No.2】この未知な大都市で安寧を!
exー18 この未開な大都市で散策を!


お久しぶりです


「トウ…キョウ…?聞いたこともない地名ですけど、なにか知ってるんですか?」

 

「……うんまぁ、少しばかり縁がある地ってだけだ」

 

 

日差しが照りつけ、それを浴びる人々はあまり良い表情はせずにそこらかしこを行き交う。前にいたアクセル-----あの世界とは似つかない人と建物の街。俺やカズマが暮らしていた世界。店主に伝えても良いことなのかこれは……ひとまず、今は話す時じゃない。

 

 

「まずはだ。帰る宛も住む所も物もない。ならまずは生活用品の確保だ。と言うわけで森に戻るぜ、店主」

 

「えぇっ!?またあの道を戻るんですか!?もう疲れましたよ…」

 

「そんなこと言ってくれるなよ…正直俺だって戻りたくはないが、ここじゃ人の目が多すぎる」

 

「それもそう…ですね。戻りましょうか…とほほ…」

 

〜*〜

 

1時間ほど歩き通し、ようやく再び鬱蒼とした木が生い茂る森に到着した。太陽の光が枝葉に遮られ日陰と日差しがなんとも言えない調和を図っている。そんな中にタキシードのような服と紫のロングドレスを着た男女が入り込み、一層景色のモヤモヤとした感じを助長する。

 

 

「っし…卍解『観音開き紅姫改メ』」

 

 

まずは金だが…この国の金は色々と精巧すぎて作れる気がしないから文字通り金の成る木を作るとしよう。

綺麗な形には到底整形できやしないから、とにかく手頃なサイズでだ。

 

 

「……っと、店主。こいつ持っててくれ」

 

「わわっ……これ、宝石ですか?それにしてもなんで…」

 

「金だよ金。普通なら魔法を使うための媒介だが、この辺じゃ魔法はないし、宝石はただのアクセサリーだ。ってことで、また戻るぜ」

 

「え!?ちょ…私、散々陽に当たって限界なんですよ!?」

 

「あっそうだお前リッチーだったな。なんかもう海行ってたりしてたしその設定忘れてたわ」

 

「せ、設定ってなんですか!?割と命に関わる大事なことなんですよ!」

 

「わ、悪い悪い…」

 

 

必至の剣幕で詰め寄ってくる店主をなんとか宥めつつどうしようか四苦八苦する。

鬱蒼とした森に店主の怒号が響く。しかし日差しが強いせいでこの辺りもだんだんと暑くなってきている。このままじゃ冗談抜きで店主が焼きリッチーまっしぐらだろう。

 

 

「ああ分かった分かった!こんな格好じゃ目立ちすぎるから、なるべく普通の服作ってやる!少しなんか自力で木に穴でも開けて待っとけ!」

 

「は、はい!分かりました〜-----!」

 

 

そう対抗するように大声を出すと少し嬉しそうにどこかへテクテクと小刻みに歩いて行ってしまった。

 

 

「あぁ言いはしたが…女物の服…ワンピースにちょっとデカめの帽子でも作ってやればいいのか…?」

 

 

ラヴィーの為にもこう言うセンスは磨いておいた方がいいのだろうか…?いやひとまずは店主の服だ。サイズはまぁ適当に…

 

〜*〜

 

 

「なんだ…その……あれだ」

 

「……なんでしょうかモノノベさん」

 

「……ごめん、センスなかった」

 

 

無事に真っ白でフリルだとかは何も付いてはいないシンプルなワンピースとツバが広い帽子になんだか優雅そうなフワッとした日傘。日傘に帽子は割りかしそれっぽく造形はできたんだ……できたんだけども、問題はワンピースの方だった。

 

形は別になんてことはない普通のワンピースだ。なのだが…店主の胸が豊満すぎたせいでスカートの丈は上へ上へと引っ張られ、あわやパンツが見えそうな領域まで行ってしまった。

 

こんなんじゃ痴女認定待ったなしなんだが……

 

 

「……」

 

「-------眺めてないで早く直してくださぁいっっ!!!」

 

「ごめんなさぁいいいい!!!」

 

〜*〜

 

店主のあんな剣幕始めて見……いやベルディアの時といい勝負だったなうん…てか最近暴力振られる事多いよね僕……いやまぁ自爆も多いけどさ。

 

そんな事を思いながら、結局膝下まで伸ばしたスカートの裾を若干鬱陶しそうに横を歩く店主の方に目をやる。

普段は紫色のロングドレスで言ってしまえば若干陰気な雰囲気を纏っていたが白で統一した服に身を纏った彼女は人にはない…リッチーだけどそこは置いとけ…妖艶さと美しさを称えていた。

 

街に出てからというもの、どこまで歩こうとコンクリートのビル、ビル、ビルと嫌になりそうなほど景色が変わらない。東京を知ってはいるものの土地勘なんてなく、その中で特定の店を見つけようだなんて、少し無理があったか…?

 

 

「……店主、休憩いるか?」

 

「あっいえ別にまだまだ大丈夫ですよ?-------あ、なんだかあの建物、他と違くないですか!?ほらほら!」

 

「ん?-------あぁ、ありゃ…デパートか?うし、涼みたいし寄ってくか」

 

 

向こうの世界ではあり得ない様な景色や人達に暑さのことなどそっちのけで目を輝かせ俺の袖をつまみながらはしゃぐ店主。

普段から接しているせいであまり意識した事はないが彼女はやはりかなりの美人だ。スタイルもいいし、この日差しに照らされて映える白のワンピースも相まって彼女の所作一瞬一瞬のどこを切り取ろうとも幻想的な画が撮れるだろう。

 

そんな彼女になんだか顔が熱くなるがなんか癪なので誤魔化す様にそっぽを向いて足早にデパートへ向かう。

まわりの社畜からの視線が痛い…許してくれよ、俺もある種同類なんだから…

 

〜*〜

 

「わぁ----!すごい!すごいですよモノノベさん!こんなに涼しいし何よりいろんなお店がたくさん!」

 

「あ、あぁ分かった。分かったからもうすこし落ち着こうぜ?じゃないと平日とはいえ周りからの視線が…あっ御構い無しですかそうですか…」

 

 

都心のものという事もあり、中々に豪勢な嗜好をこらした店内。そんな店内に普段からあんな地m……質素な店で暮らしている反動でこれまでに見た事ないくらいはしゃいでいる店主に珍しく振り回されるがままになる。目的があるってのになぁ…

 

 

「店主ー、その辺うろつくのは構わないけど、違う階には行かないでくれよー」

 

「〜〜〜〜!〜〜〜!」

 

 

……なんて言った?もうどっか行っちゃったよ…まぁとりあえずはだ。エレベーター辺りにでもマップがあるはず…

 

冷房の効いた店内をブラブラと歩き回る。外と温度差がありすぎて若干肌寒さを感じる。この感覚も久々に味わう、贅沢な悩みってやつだ。向こうだと空調なんてものはないから、暖炉で薪を燃やし続けてもしもそれが無くなってしまったらチャンチャン。極寒の中外出して薪を買いに行くなんていう憂鬱なクエストの始まりだ。

 

ホンットなんであんな面倒な世界に行っちまったんだろなぁ…素直に生まれ直しとけば良かったものを……おっあったあった。……二階になんかそれらしい店があるな。うし。

 

 

「な〜にしてるんですかぁ?モノノベさんっ!」

 

「くぁwせdrftgyふじこlpッッッ!?!?」

 

「わぁ〜ひ〜どいですねぇそんなに悲鳴あげるなんてぇ」

 

 

耳元で急に囁かれた冷ややかで妖艶な声。

脳が震え、体が縮みあがり心拍が加速する。

脳はフル回転し、それに比例して体は酸素を求めて呼吸を加速させる。恐ろしい程に鮮明な畏怖。それらが一気に体を駆け巡り、思考をフリーズさせた。

 

 

「て、店主かよ……ビビっt酒臭くね?」

 

「にへへ〜」

 

 

赤く染まった頰に惚けた顔をして夢うつつな店主。彼女からほのかに香った酒の匂い。そして辺りを見渡すと、エプロンを着た店員らしき男が店先に立ち何かの試飲を行く先々の人に勧めていた。 彼の後ろにはオシャレな石造りに様々な瓶が陳列されている。

 

なるほど断りきれず飲んじまったのか…いやそれにしても下戸すぎん?

 

 

「あー店主。シャキッと立て。最上階に行くぜ。そんなフラフラした足じゃろくに動けんぜ?」

 

「最上階ぃ?連れてってくださいよほら〜-------ん!」

 

「その手は……はいはい分かった分かった。エスコートすればよろしいですか、お嬢様?」

 

「にっへへへへ〜〜」

 

〜*〜

 

……どうしてこうなった。ホント、どうしてこうなった?

 

少しばかり一階とは様相の変わった最上階。コミケがどうだのと書かれたオタクショップを横目にしながら訪れた質屋。そこで宝石を換金してホクホク顔で出て行こうとした矢先だった。 悲鳴があがり、防火シャッターが降りてきて、俺たちのいる一角は閉鎖された。けたたましいサイレンを打ち消す銃声が辺りに轟いた。

 

 

「お前らあ!!妙な動き見せるんじゃねぇぞ!!この娘の頭が吹っ飛ぶのを見たくなかったらなぁ!!!」

 

 

その小さな女の子を人質に取った男の怒声を合図に、目出し帽の男数人が角から飛び出して銃を突きつけて辺りの人間を中央に集めた。

 

……どうしてこんなに冷静かって?それは…

 

 

「あらら〜なんだか変な人たちが出てきましたね〜?あの手に持ってるものは何ですかぁ?」

 

 

この酔いどれ店主が粗相を起こさないか冷や汗全開で逆に落ち着いてきてるからです。 全くどうしたものか……人質は拳銃を突きつけられている女の子と銃を持った5人から監視されている俺たち含め十数人……はぁ、場所が悪いな。手段さえ確保できれば逃げやすい最上階に質屋がある一角…まぁうってつけの場所だわな。 多分、人質の安否をまるで考えなければ脱出はできる。だけどそれでもし死人が出たら胸糞悪いな……魔力は…何でか少しだけ回復してるな。これなら…

 

 

(店主!店主!周りにいる人たちに壁を貼ってくれ。んで、合図したらあのドアの方に走ってこい)

 

(イッタタタタタ!つ、つねらないでください!…あれ?どういう状況ですかこれ?そ、それに壁って…)

 

(説明は後。もしもの時はカバーを頼む)

 

(……はい、よく分かりませんが了解しました)

 

(頼もしい…んじゃ-------行くぞ!)

 

「『アイシクル・ウォール』!」

 

「お、おい!!何をしてやがる!大人しくしねえと-------」

 

 

膝を曲げ、立ち上がる。

風を切り、走り出し肉薄する。

目出し帽越しの驚いた視線と呆気にとられ動けない周りの男たちを一瞥する。

紅姫を抜刀し、リーダー格の男の真下に潜り込みながら腕の腱を切断する。 短い悲鳴とともに人質の女の子と銃も落としながら悶絶する男を蹴り飛ばす。

顎に的確に入った上段蹴りで動かなくなった男を見てようやく周りの男達が状況を飲み込んだ。 怒号とも悲鳴ともつかない叫び声をあげながら発砲しだす。

 

 

「ちょっとここで待っててくれよ?大丈夫だから」

 

「-------ッ」コクッコクッ

 

「いい子だ-------っと危ない危ない」

 

 

近くの柱に人質の子を隠し、状況整理を始める。敵は5人。全員躱す事は不可能の武器持ち。ただ柱に身を隠して撃ってくる様子もない。手前の2人を不意打ちで一旦片付けるべきか-------

 

 

「『剃刀紅姫(かみそりべにひめ)』!」

 

「ぐあああっ!ああああああっ!!」

 

「なっなんだ!柱に隠れろお前ら!!」

 

 

刀からの斬撃で手前2人の足と腕を落とさないくらいに斬りつけ無効化する。流石に四肢が落ちかけた経験はないのか、叫びながら地面をのたうち回り、そんな姿を見て他3人は柱に姿を隠した。

 

……まぁ、こんな国で起こるレベルだ。正直、最初の手際こそ良かったがそれ以外は全部成り行きで組んだであろうずさんな作戦。それにこういう戦いにも慣れてないと見えるし…これでもう、俺は仕掛けるだけの側じゃなくて待つのも仕掛けるのも自由自在な優位に立った。

 

 

「…『重撃白雷(じゅうげきびゃくらい)』-------店主!逃げるぞ!」

 

「は、はい!」

 

 

一気に真横へ回り込み雷撃を放つ。さっきまでの戦いを見てもまるで考えなしにタイミングを伺っていた男たちは反応できるはずもなく、3人仲良く気絶した。制圧完了だ。

 

 

「飛ぶぜ!準備し「まっ----待って!」ちょっとおおおおおおおおおおおおおお!?!?」

 

店主と一緒にビルから飛び出してトンズラしようと踏み出した瞬間。背中に急に重みと人肌の温かさがかかる。ただ、もう足は止める事のできない所まで進んでしまっている。

 

 

「ちょちょちょ!止ま、止まれないのにアカンだろおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「モ、モノノベさん!落ち、落ちちち落ちないでくださいね!?絶対ですからね!?」

 

〜*〜

 

 

デパートからいくつかのビルを谷間を飛んできた先。コンクリートの上でペタンと座り込んでいる店主をよそ目に、同じく座り込んでいる黒髪の女の子に問いかけていた。

 

あの状況で飛びついてくるなんてとんでもないなホント…しかもまぁよくも割と平然として…いや強がってるだけだわこれ。

 

 

「えっとその…なんで付いてきたのかな?」

 

「…あ、あの状況から助けてもらったのにお礼もしないなんて名家の名折れよ!それに何なのよ貴方達…変なもの飛ばしたり銃を持ってる大人に臆せず立ち向かっていったり----」

 

「ん〜……弱ったな…ごめん、詳しくは説明できないんだ。えっと…」

 

「西園寺よ!西園寺こころ!14歳!説明できないならいいわ、貴方達。何か望む物はないかしら?なんでも叶えてあげるわよ!」

 

 

そう自信ありげに力説を続けるこころと名乗る少女。よくよく見てみればその年齢にしては知識のない俺でも分かるくらいに上等な服や小物を身につけている。うーん…この年の子に何か頼みごとをするってなんか人として……いやでも背に腹は変えられないか…

 

 

「なんでもか……んじゃあ出来るならで構わないがマンションの一室を貸して頂くとか…?」

 

「そんなのでいいの?一室だなんて言わずワンフロア、一件とか言えばいいのに。ていうか何で住む場所なのよ?そんな良さげな格好しといて住む場所ないの?」

 

「っと…俺たち、生まれは日本なんだけど、殆ど海外にいてね。そこのお姉さんと一緒に帰ってきたんだけど、向こうの方に国籍あむたりで色々面倒な事になってさ。だからいいかなーって。ていうか、ワンフロアとか一件って-------」

 

「貴方…西園寺グループ知らないの?まっ、海外にいたんじゃしょうがないのかもね。-------良いわよ、私の住んでるマンションの一室を貸したげる」

 

 

期せずして有難い恩恵が生まれたな…それにしても西園寺グループか…確か、俺が日本に住んでた頃から世界規模で有名な財閥…ホント、すごい恩恵だわこりゃ…

 

そうして久々に見上げた日本の空は何だか無性に腹の立つ快晴だった-------



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exー19 この変わりきった安寧に日常を!

お久しぶりです。流石にexで話数がかさばるのもなぁ…って思って書いてたら1万字弱程になりこんな期間が空いてしまいました。

誠に申し訳ございませんでしたアアアアアアアアアッッ!!!


「こ・た・え・な・さ・い!!」

 

「……ホントに答えなきゃダメっすか?」

 

 

白を基調とした部屋に単調ながらも意匠の込められた高級な家具の数々。落ち着いた柔らかい照明の下、これまた高そうなソファに腰掛けた俺に真上から強い語調で問いかけて来る少女が1人。

-------西園寺こころ。世界的な財閥、西園寺グループの令嬢。そしてひょんな事から行く宛のなくなってしまった俺と店主にこうして高級マンションの一室を貸してくれた人物。

 

……いい大人2人がこんな幼女に養われるままで情けないって?…うるさい。幾ら腕っ節が立とうと不思議パワーが使えようとこの国じゃなんの意味もない。ただの一般人となんら変わらないんだから。

 

そして、つい1時間くらい前に起こった出来事…デパートでのテロ。それをバリバリ不思議パワーで鎮圧、逃げ出そうとしたところ、こうして連いてこられて今に至る……まぁ、そうなるよね。聞きたいよね不思議パワーの根源。うん分かるとも。好奇心は猫を何とやらとか言うけど、生憎俺も店主もこんな幼女、かつ恩人に手を出せるほど非常ではなかった。

 

 

「はぁ〜…それじゃあ注意事項を幾つか。1つ、これから話すことは嘘偽りない真実です。2つ、もし現実離れしていようと嘘だなんだとは言わないで下さい。了解してもらえるかい?」

 

「えぇ!えぇ分かりましたとも!だから早く話して!」

 

「-------んじゃあまず最初に、俺と向かいの彼女。外国人だって言ったけど真っ赤な嘘だ。いわゆる異世界って所からなんでか知らないけど飛ばされてここに流れ着いたんだよ。そんでその異世界は魔法だとかそういうのが当たり前の世界なんだ。だからあぁして自在に氷を出したり、刀を出してそこから斬撃を飛ばしたりできるんだけど…納得してもらえた?」

 

「……」ホケ-‥‥

 

「ちょっ…ちょっとモノノベさん!?どういう事ですか異世界って!?」

 

「………まぁまぁ落ち着いて」

 

「お、落ち着いてって……」

 

 

……当たり前だけどフリーズしてますねはい。突然異世界人ですー魔法とかも使えますよーっていきなり言われたら信じないだろうけど、実際に目撃しちまったから揺れてるんだろうなぁ…

 

さっきまでの生意気そうな表情はどこへやら。ポカンとした表情で固定されて1ミリも動けずにいる彼女を俺たちはただただ待つしかなかった-------

 

〜*〜

 

『-------続いてのニュースです。昨夜未明、郊外の山にて遺体が発見されました。遺体には穴が幾つも開いており、これと同じ傷を負った遺体が発見されたのはこの1ヶ月で4人目となります。警察は-----」

 

「…なぁんか物騒だなぁ」

 

「…なぁんか物騒だなぁ…じゃないわよ!何よ異世界って!何よ魔法って!」

 

「あっ復活したか……何、と言われても困るんだけど…」

 

「あれだけ念を押したのもわかるけど、それ以上に理解不能よ!」

 

「とは言っても…ほら、こうやって実際に使えるんだし、認めてもらうしか……」

 

 

そう言い再びソファでくつろぎながらテレビのニュースを見る俺に今度は真後ろから怒声か叩きつけられる。

鬼気迫る形相で問い詰める彼女に『ティンダー』で指先にロウソク程の火を灯してみせると、険しい表情が少したじろいだ。

 

 

「み、認めるしかないのかしら…」

 

「だからそう言ってるでしょうに…」

 

「ぜひ解剖して調べ上げてもらいたい所だけど、私が騒ぎ立てた所で相手にされないでしょうし……はぁ…素直にテロられとくんだったわ…」

 

「いやそれはそれで良くないでしょうよ。まぁ何はともあれ認めてもらえてよかった」

 

 

ようやく事態を理解したこころが項垂れながらも俺たちの素性を認めてくれた。高級な内装には似つかわしくない無様な姿勢をしているが。

 

 

「-------はぁ…ひとまず、あなた達の素性に関しては棚に上げとくわ。それよりも、異世界から来たって言っても帰る宛はあるのかしら?それとも日本ででも余生をすごすか。どうするのよ?」

 

「…あぁそれなんだがな……ここに来たのって正直訳の分からない事故がキッカケでな…もしかしたらテレポートで帰れるかも…なんて思ったんだが……どうだ店主?魔力のほう」

 

 

そう言いこれまで会話に参加せずに胸の前で手を合わせ黙想のようなポーズをしていた店主に声をかける。すると彼女はゆっくり息を吐きながら目を開けて初めてこちらの話に入って来た。

 

 

「ダメですね…ここに来て消費した分もそうなんですが、デストロイヤーと戦って使ってしまった魔力も全然回復しません。これじゃテレポートなんてとても…」

 

「やっぱそうか…俺も正直残ってて3割くらいだ。全然回復もしないし全部吸えばテレポート一回分くらいになるかも知れんが、俺は死ぬし失敗したら元も子もないし…」

 

「な、何よ貴方達。そんなにボロボロなの?全然そんな風には見えないけれど…」

 

「正直今寝ろと言われたら俺は5秒で寝れるぞ」

 

「いやそんなキメ顔で言われても…まぁいいわ。とりあえず今日の事情聴取はここまで!ゆっくりするといいわ。後、ご飯とかは適当に出前でも頼んでおいて。玄関の所にある程度お金は置いてくから。それじゃあね」

 

「本当に助かる。ありがとな」

 

 

背中を向けて去ろうとするこころにそう声をかけると、彼女は後ろ姿からでも分かるくらい何だかバツが悪そうなのか照れ臭そうに去っていった。ドアの閉まる重々しい音が響くと俺は深くため息をついた。

-------思えば今日は色々ありすぎた。デストロイヤー襲撃に日本紀行、そして極めつけにテロ撃退に財閥ご令嬢のお膝元に収まってしまう…また帰ったら仕事が溜まってるやつか…そうや一緒に飛ばされたであろうカズマ達はどうしたんだろうか。アイツらも日本に来たのか、若しくは適当な向こうの世界のどこかに飛ばされたか…まぁいい。疲れたし、こんな状態で考えたって徒労だ。素直に飯食べて寝よう。

 

〜*〜

 

その日はもう疲労でとにかくクタクタだった。手早く飯を済ませシャワーを浴びて床に入って眠ってしまいたい。

 

そんな思いを胸にベッドに入り横になって目を閉じる。何も考えない方が寝れるんだろうが久しぶりの日本に思慮が止まらない。脳裏で寝付きたい思いと日本への思いが寝よう寝かせまいとせめぎあいごちゃごちゃになる。

 

その中、不意に扉を小さくノックする音が耳に入った。

 

 

「…鍵なら空いてる」

 

「…し、失礼します……すいません、起こしてしまいましたか?」

 

「いんや、俺も少し寝付きが悪くってな。しばらく付き合うぜ?」

 

 

そう言い腰掛けたベッドの縁をぽんぽんと叩く。ベッドを少し鳴らしながら店主が横に腰掛けてくる。女性特有のいい匂いがして少し心臓が跳ねるが、流石に耐性がついて来たのか顔にまで興奮が現れることはなくなった。まぁ贅沢な耐性だなおい。

 

月明かりが部屋に差し込む。だが月に負けない程にこの東京という街は眠らず輝き続けている。そんな夜景を眺めていたがふと店主の方に顔を向けてみる。

 

-------綺麗だった。白くきめ細かい肌、キラキラと輝く胡桃色の大きな瞳。整った目鼻立ちとシルクのような瞳と同じ色をした髪。彼女の全てが、月光の下で美しく映えている。

 

気づかなかった。こんな綺麗だったんだ……普段がアレだとこんな事にも気付けないのか……なんかスッゲェ損した気分だ…

 

 

「……ど、どうしたんですか?ボーッとして」

 

「-------あぁ、悪い。ちょっと考え事を…」

 

 

ふと目の前に意識を向けるとそこにはこちらをひょこりと覗く店主の顔があった。考えていた事が事なだけに心臓は鼓動を徒らに加速させ、胸がつまり少しばかり息苦しさを覚える。

ただこの店主の事だ。ここでもし俺が少しでも苦しんでるような仕草を見せたら自分が何しかしたかなどと言って心配をかけてしまうだろう。なら、少しでも気丈に振る舞っとかないと…こんな状況なんだ。余計に彼女に心労をかける訳には行かないしな…

 

 

「それなら良いんですが…何かあったらすぐ言ってくださいよ?いつでも頼ってもらって構わないですから」

 

「はははは!」

 

「ちょ、ちょっと!?なんで笑うんですかぁ!」

 

「お前なぁ…これでも一応一児の親だし、今の状況にまだ慣れてるのも俺の方だ。それなのに強がりやがって-------」

 

「……むぅ。こ、これでも私の方が年上…なんですし、ここは1つ大人の余裕を…なんて思っただけです!」

 

 

思わず吹き出してしまった俺に珍しく頰を膨らませ若干の剣幕でこちらに詰め寄ってくる。そんな珍しい店主の様子にさらに込み上げた笑いをどうにか抑えながら話を続ける。

 

 

「-------ふぅ。悪い悪い。いやさ、確かに俺のが年下だけどさ、それで俺に気遣いをさせちゃいけないなんていう事はないだろ?こういう心に関することなんて人によって堪えられる度合いも捉え方もまるで違う。だからたまには弱音を吐いたりしたって構わないさ」

 

「……………」

 

「……ん?どした」

 

 

そう恥ずかしいながらもクサい言葉を語りかけると店主は体をこちらに向けたまま俯いて黙りこくってしまう。長い髪に隠されたその奥の表情は影が差しまるで分からない。

 

 

「…う……ます」

 

「……?」

 

「……ありがとうございます。モノノベさん」

 

「え?……ど、どうした、なんか悪いものでも食べた?」

 

「…覚えてるか分かりませんが…あなたがまだ新米だった頃、もちろん仕事の一環だったと思いますけど、足繁く私の店に来て一緒に経営などの事を不器用ながらも必死に、親身に相談させてくれました。お互い、経営のことなんてまるで知らないのに必死に詮索して失敗して……リッチーの私は人と何かするという事は久しくありませんでした。ロクに素性も分からない怪しい者ですし……だけど、あなたはそんな事御構い無しに私といてくれました。それだけ…たったそれだけの事なんですけど、とても嬉しかったです。楽しかったです。幸せでした……だからもう一度、ありがとうと言わせてください」

 

「店主……」

 

 

これまで見たことない程の彼女の真摯な目。

そんな彼女から伝えられた言葉に何も言えなくなる。その言葉の重さが語調が、全てが圧倒してくる。

だが、彼女の瞳の奥は確かに、微かに揺れていた。

 

「…そんな事、幾らでもやってやるとも。やってやるさ…だから店主、泣かないでくれ。俺は周りの人たちには皆、笑顔でいてほしい。その為ならなんだってやる。不安な時は側にいてやる。何にだって付き合ってやるとも。だから、笑っていてくれ」

 

「-------!あ、ありがとう…ございます……ありがとう……!」

 

 

関が崩れたようにポロリポロリと彼女が顔を伏せて泣き出す。震える彼女の背中はひどく小さくみえる。

 

 

「……ったく、泣くなって言ったばっかりなのに…うし、ちょっといいか店主」

 

「…ふぇ……?」

 

 

相変わらず震えている店主の小さい背中。声をかけると少し間の抜けた声が漏れる。そんな彼女には御構い無しに頭を俺の膝に乗せて体に布団をかけてやる。微かに覗く瞳から困惑の色が伺える。

 

 

「も、モノノベさん…」

 

「…気がすむまで甘えててくれ。気持ち悪いかもしれないが、寝心地は保証する」

 

「……フフッ…やっぱり、モノノベさんはいい人です」

 

「やめろ照れ臭い。ほら、さっさと寝た寝た」

 

「えぇ、ありがとうございます。……本当にありがとうございます」

 

 

そう言いながら目を瞑った彼女の寝顔は最高に幸せを謳歌する様な綺麗さだった-------

 

〜*〜

 

「買い物に行こうと思う」

 

「お、お〜-------ど、どうしたんですかその姿勢」

 

 

朝とも昼とも言えない微妙な時間帯。起床した俺は店主に端的に快哉と告げていた------逆立ちの体勢で。

 

 

「…いやなに、昨日の膝枕で膝が死んでまともに立てないとかそんなんでは決してない。決してないからな」

 

「す、すいません…」

 

「俺が自分からやった事だ。気にするな」

 

「……あの、逆立ちのせいで全然カッコついてません…」

 

「「……」」

 

 

沈黙と妙な気恥ずかしさが2人の間に流れる。なにを話していいものか…いやそもそも話すべきなのだろうか。それについて話してもいいのか問うべきなのだろうか。それを話してもいいかと問う事で話しかけてもいいものか。それを話してもいいかと問う事で話しかけてもいいかと問う事で話してもいいものかはたまた……やめよう。なに考えてんだ俺。

そんな時、部屋にインターホンが鳴り響く。

 

 

「はい-------って、こころか。ちょうどいい」

 

「えっちょっ何よいきなり…」

 

「いや……お前にしか頼めないんだ。お前のその品性を見込んでのことだ。引き受けて…くれるか?」

 

「〜〜ッ///!しょ、しょうがないわね!で!要件はなにかしら!」

 

 

ドアの前に立っていたこころを中へ案内しながら半身を向けて真摯っぽくそれっぽい口文句で彼女に問いかける。

するとまるで漫画のように顔を赤くしながらもまんざらでもない様な様子で逆に俺の先を歩き始めた。

 

 

「あぁそれなんだが-------」

 

 

そう言い店主の待つドアを指差す。意気揚々とこころがドアに手をかけて勢いよく開け放つとそこにはベッドに腰掛けカーテン越しの淡い朝日に照らされる店主がいた。

 

 

「……」

 

「えぇっ!?ちょ、ちょっとあの……」

 

「……何やってんだお前」

 

 

それを見るやいなやこころはゆっくりとドアを閉めた。慌てた店主の声がドア越しに聞こえてくるが、それを意に介さず俯いた彼女の表情は深く陰り何も読み取れない。

 

 

「あ、あ……」

 

「あ?」

 

「あんな美人に何しようってのよこの変態!無理!あんな美人と隣にいるだなんて私の精神がもたないわ!」

 

「何じゃそりゃ…てか何変態とか言ってくれてんのねぇ!?」

 

「変態は変態よ変態!変態以外に何があるってのよ変態!」

 

「変態変態うるさいわ!変態がゲシュタルト崩壊してきたじゃねぇかよ何でこんな変態的な事象に会わなきゃならねぇんだ変態め!!」

 

「あなたもめちゃめちゃ変態って言ってるわよ変態!ほら変態なんだから何回変態って言ったか数えてみなさいよ変態!」

 

「あ、あの〜……」

 

「「何(だ/よ)!この変態に用!?」」

 

「ご、ごめんなさい〜〜〜!!」

 

「「あっ……」」

 

 

恐る恐る開け放たれたドアに向かい2人揃って怒声を放つ。少しだけ体を覗かせていた店主は怯えながら何故か謝りながら部屋の奥の方へと逃げていった。そんな彼女を見て冷静になり俺とこころの間に微妙に気まずい雰囲気が流れる。

 

 

「な、なぁ…」

 

「ね、ねぇ…」

 

「「……」」

 

「……なんだ?何か聞きたい事でもあるか?」

 

「……あなた、あの人とどういう関係なの?なんだか、あなたみたいな人とは到底無関係そうな人に思えるのだけど…」

 

「どういう意味だそりゃ…って問いただしたいけど質問してんのはそっちだな…まぁ端的にいうと元同業者、現友達ってだけだ」

 

「友達……ねぇ」

 

「おいなんだその含みのある笑みは」

 

「さぁ〜?どうかしらねぇ?」

 

「はぁ……まぁいい。それで俺からの質問…ってか頼みなんだが-------あいつを引っ張り出すのと服を見繕ってやってほしい」

 

「-------何、そんな事だったの?」

 

 

いたずらな笑みを貼り付けていたこころの顔が一転、俺の頼みを聞くやいなや素っ頓狂な表情に様変わりする。……いやマジで俺ってこいつにどんな人間だと思われたんだ…

 

 

「いいわよ、ちょうど暇だったし。この西園寺こころ様のファッションセンスを見せてあげるわ!」

 

「本当か!?助かるぜサンキューな!」

 

「〜〜〜ッ!もうっ!うっさいわよほら支度してなさい!」

 

「うびばっ!!」

 

 

喜んだ俺の顔面は彼女の平手で思い切り半回転した-------

 

〜*〜

 

「〜〜♪〜〜〜♪」

 

「お〜い店主。はしゃぐのはいいがあんまり先行き過ぎんなよ〜」

 

「……買い物1つであんなにはしゃぐ物なのかしら?ちょっと前にテロられたばっかりなのに…」

 

「正直、昨日の奴らなんて素人もいい所だ。どうやって銃を手に入れたかは気になるが…まぁ俺達のいた世界だとちょっと街外れの原っぱにいるカエルのがよっぽど強い」

 

「テ、テロリストより強いカエルってなんなのよ…あっあそこよ、目的地」

 

 

昨日と相も変わらず鬼のように熱い日差しの元、先を急ぐ店主をボンヤリとした目で見ながらこころとそんな他愛のない会話を交わす。

なんだか向こうの世界で感じた事のある刺々しい視線を感じるがまぁ無視するとしよう…いや、服の下に雑誌でも仕込んどくかな。

 

 

「〜〜〜〜〜ッ!〜〜〜ッ!」

 

「……何騒いでんだ店主」

 

「…なんだか、自動ドアの前でわちゃわちゃしてるわね」

 

「……まさか…」

 

 

目的のビルの入り口にて、何故か店に入らず焦った顔でわちゃわちゃしている店主。こっちののドアの仕様に混乱しているというかアレは…

そんな事を考えていると迷っていた店主がとうとう決意を固めたのか未だ開かずにいるドアに向けて歩を進める。

が、もちろんそんな都合のいいタイミングでドアが開く訳もなく彼女はドアに直撃して尻もちをついてしまう。

 

 

「店主〜……あっ」

 

「フギャッ!……うぅ〜…ど、どうなってるんですかこれ…」

 

「あぁ〜これ、今時珍しいけど多分これ温度センサー式ね。暑い日だと反応が鈍るらしいし…」

 

「あぁいやそれ多分こいつが……いや、そうだな、温度センサーだもんな」

 

 

リッチーだから多分認識されてない…なんていったらまた話が余計にややこしくなる。そんな言いたいような言いたくないような気持ちをグッと抑えて店主に手を差し出して起こす。

少し赤くなった額をさすりながら懲りた表情の店主は前に行かないように左右からこころとエスコートしながら店内を練り歩く。

冷房のよく効いた店の中には年にもう何回やるんだというセールの呼び込みやそれを狙う客で溢れかえっている。

つい昨日同じような店で事件が起きたというのに、そんな事は誰も気に留めることなくそれぞれが思うままに買い物を楽しんでいる。

 

 

「-------さってと、この辺かしらね」

 

「はぁ〜…たくさんありますね…!」

 

「…やっぱ女物の服って何がなんだか…」

 

 

様々な方法で展示、販売されている女性服の数々。ワンピースやシャツなどの種類の違いは流石にわかるのだが…ワンピースとかの一ジャンルの中での服の違いが分からない…何が違うんだアレ全く…

 

 

「ん〜そうね…店主さん?は落ち着いた色の…そうね、これとこれ…後これとかも……はい!これ持ってあの試着室で着てきて!」

 

「こ、こんなに…分かりました♪」

 

 

こころの差し出した3セット程の服の数々。それを持って爛漫そうな顔でスキップしながら試着室へと向かう店主。彼女の滅多に見たことのない至福の表情を見てなんだか和むが…それと同時にあの世界での店主の経済状況を思うと胸が苦しくなる…いや自業自得だけども。

 

そんなこんなで色々思いを馳せていると、試着室の向こうから「お、お待たせしました〜」と相変わらずの弱々しい店主の声と共にカーテンがおずおずと開かれる。

 

彼女が着ていたのは、藍色のスキニーパンツに白色のシャツの上からベージュ色をした薄手のカーディガンを羽織った落ち着いた大人の雰囲気がよく伝わるコーディネート。

 

そして次にカーテンを開けると再びベージュのチェック柄が入ったノースリーブのシャツにゆったりとした黒色のロングスカート。Vネックがロングスカートのゆったりとした雰囲気をシュッと引き締め若干深めに被った藍色の帽子が怪しげな中に美しさを感じさせる。

 

3つ目のコーディネートは膝丈ほどの白地に花柄の入ったスカート。薄い黄色の型にフリルがついたシャツと胸の下辺りに黒色のリボンがついたサッシュベルトを巻いている。彼女の豊かな体のラインがサッシュベルトで強調され、上の縁がないメガネが更に知的な雰囲気を醸し出す。

 

どれもこれもオシャレという言葉を濃縮して具現化したような具合で店主の美貌をより引き立たせる。そんなコーディネートを10分強で見繕ったこころのセンスに素直に感服する。隣の彼女も満足そうに鏡で自分の姿を眺める店主を見て顔を綻ばせている。

 

 

「いや〜久々にいい感じにコーディネートできたわね…!やっぱり素材がいいと気合も入るし服も映えるわね」

 

「ファッションなんて毛先程も分からんが確かにあれは洒落てるな…凄いなお嬢様」

 

「別に…お嬢様だからって訳じゃないわよ。まだまだ若い女の子としてこれくらいは出来ないとってだけよ」

 

「はぁ〜…おじさん今時の事情は分からないが…凄いんだな、こころ」

 

 

2人で店主を眺めながらそんな会話を交わす。が、なんだか人がいすぎるせいかはたまた冷房に当たりすぎたせいか、少しばかり外の風に当たりたくなってきた。こころ達に一言告げて外の適当な日陰のベンチに座ってしばらく空を眺めたりして何も考えず、ただただボーッと放心していた。

 

明るすぎる日差しに大きな雲が空を覆っている。そんな夏空のお手本のような景色中に一点、何か形容しがたい『異物』のような何かがふと目に入る。黒い歪な点がゆっくりと不規則に動いている。カラスや何か風船が飛んでしまったとか、空に飛ぶ物の中で考え得る限り、アレに該当する物は俺の記憶にはない。

 

そんな何かを太陽の日差しを浴びながらも目を細め訝しげに見つめる。よく見つめてみるとその黒い点の周りは少し光が反射しているようにキラキラと白や赤に光っているような気がした。だが、それに気づいた時、同時にもう一つ違和感を覚える。

 

黒い点が、急速に大きくなっている。それも、その歪さや不規則な揺らめきを大きくしながら。思わず立ち上がりもう一度目を凝らす。

 

-------それは、大きくなっているのではない。近づいて(落ちてきて)いるのだ。

点はだんだんと形を取り戻していく。

それはよく知る形だった。

なぜなら自分と同じ、『人』であったから。

不規則な揺らめきや歪さ。

それは落下の風圧で煽られて手足や頭が色々な方向に振れているから。

そんな思慮の内、それは地上に衝突した。

グチャリ。衝撃で骨肉は原型を失い生々しい音を立てながら混ざり合う。

辛うじて残った顔は恐怖に引き攣ったまま時が止まっている。

そしてその首には『マルタ 5』と書かれた血まみれのドッグタグ。

更に、ニュースで聞いた穴の開いた死体と一致する傷がなんとか残った体の一部から見て取れた。

 

脳が十数メートル先の目撃した光景を処理するのを拒む。

汗が全身から吹き出し、呼吸が荒く不規則になる。

だんだんとあの顔が今にもこちらを向いて恨み言を連ねて来るのではなかろうか。

そんな突飛のない妄想に囚われる。

気が狂いそうになってしまう。

それ程までに目の前の光景は猟奇的でこの世のものとは思えなかった。

 

 

「キャアアアアアアアアアアアアアッッ!!」

 

 

その場に居合わせた誰とも知れない金切り声。

その声で堰が壊れた。

辺りは狂乱し、混沌に落ちていく。

 



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exー20 この素晴らしい女の子達とコミュニティを!

お久しぶりです(n番煎じ
ペルソナ4gやったりアベンジャーズエンドゲーム見たりしてました。シナリオのクオリティとか上がってるといいなぁ…




日本(ここ)に降り立った時、俺や店主は空から落ちてきた。その時の感覚は簡単には言い表せない。

恐怖や焦り、諦めの感情が落ちる身体と連動してグルグルとかき混ぜられて段々と何も思考が追いつかなくなる。

俺にはそんな状況から抜け出せる『手段』があった。あったからこそ、何とか対処できた。

だが、ここはそんな異能なんて物は空想上のものでありそれを使える者なんていないだろう。そんな者の恐怖は計り知れない。

 

そして、目の前の男だった『物』は実際にその恐怖を味わったのだ。その顔は酷く歪み、直視も辛くなるような醜悪さを呈している。

 

 

「モ、モノノベさん…一体何が…」

 

「-------来るなッ!!中に戻れ!!」

 

「ど…どうしたってのよ……そんな大声出して…」

 

 

周りのつんざくような悲鳴をかき消すほどに怒号を買い物を終えた店主たちに放つ。2人が楽しそうな表情から一変して怯えた表情になるが

それに構っていられる場合ではない。

のっぴきならぬ雰囲気を感じ取った店主がこころを店内に連れ戻す。その様子を見届けて俺は再び遺体に目を向ける。

 

見るのも憚れる形相。だが、それを堪えて見ているうちに何かおかしな違和感を覚える。

明らかに小さいのだ。

落下の衝撃で潰れていたとしても、成人男性にしては身長が小さいだとか、そんな理由では説明できない違和感がある。

 

こんな惨たらしい状態の遺体は少し前-------あのベルディアに捕まる前の村で嫌という程見た。あれとの違い……

思い出したくない凄惨な記憶の鍵を開けてどうにかしてあの情景を思い浮かべようとする。

 

煌々と燃え盛る炎。

鼻の曲がる様な腐敗臭と鉄の匂い。

そして何より押し寄せる屍人達。冷たく、ただ彷徨うしかない悲しいもの。

目を背けたくなる形相がまぶたの裏で広がる。その中で、目の前の男とは違うもの、それは-------

 

 

「……血か」

 

 

成人した男の体重…70kg位なら血はその0.13倍の量……大体5Lくらいか。だがあんな上空から落ちて来たのに血が飛び散ってなさすぎる…なんなんだこの違和感…

 

深く、深く考え込んでいた。周りの悲鳴もざわざわと騒ぎ立てる喧騒も無視して。だが、そう遠くない所から甲高いサイレンが響き渡ってくる。

 

……目撃者として取り調べとかされたら色々と面倒そうだな…はぁ……またあいつらを担いで屋上の駐車場からでも飛んでいくしかないのか…それにしてもだ。

空に見たあの男を運んでいたか何かしらをしていた『アレ』は…黒い点に見えたのは多分男の体だとして、光の反射か何かでようやく視認できたって事は透明って事なのか?空を飛ぶ透明な生物、もしくは兵器……ダメだ。皆目見当もつかない。

 

 

「あっモノノベさん!一体何が-------」

 

「…話してやりたいのは山々だが、今はここから離れる事が優先だ。っていうわけで屋上に向かう」

 

「お、屋上ってもしかして…」

 

「ん?察しがいいなこころ」

 

 

店に入ると店主とこころが中央の踊り場の様な場所で椅子に腰掛けていた。そこで俺が屋上へ向かう旨を笑顔と共に伝えるとこころの顔が青ざめた。

 

〜*〜

 

「はぁ…はぁ……もう、なんたってまたあんな帰り方したのよっ!何回心臓が飛び出しそうになった事か!!」

 

「あー……うん、正直すまんかった」

 

「--------------」

 

 

風でボサボサに乱れた髪を振り回しながら問い詰めてくるこころ。そんなこころともう声も出ない程にグロッキーになった店主をどうにか諌めつつテレビのニュースをつける。

 

 

『-------速報です。本日昼過ぎ、◇○デパート前にて男性の遺体が発見されました。遺体にはこれで5人目となる穴の様な傷がついており、目撃者によると空から降ってきたとの事です。警察は-------』

 

「な、何よいきなりこんなニュースなんて付けて…それにこのデパートって私たちがいた…」

 

「…まぁ、昼間は悪かったな怒鳴ったりして。それでだが…ここ数年、変な生物が発見されたーだとか、そんな発表はなかったか?後はそうだな……この辺りで誘拐だとか失踪事件だとか」

 

「へ、変な生物…?私が覚えてる限りだとせいぜい虫だとか…それも素人目には違いが分からないくらいのよ。誘拐に失踪……って言ったらそうね…学校での噂でしかないんだけど、休み続きの子が3人いてその子達、探検とか言って今は使われてない旧初台駅ってとこに行ったらしいわ。先生は風邪としか言わないけど生活に困ったホームレスに襲われただのって、もっぱらの噂になってるわよ」

 

「旧初台駅……分かった。ありがとうな、こころ」

 

「ま、まさか探検しに行く----とかそんなつもりじゃないでしょうね!?」

 

「そのまさかだ。もしかしたら俺たちが帰る足がかりになるかも知らんしな」

 

「-----------」

 

 

そう焦るこころに返すと彼女は俯いて黙りこくってしまう。

軽く答えた俺もその様子に感化されて2人の間に重苦しい空気が流れた。

 

 

「なぁこころ」

 

 

そう言い、彼女の前に膝をついて下から腕を優しく掴みながら顔を覗き込む。

 

 

「大丈夫だ。信用しろなんて言っても難しいかも知れないけど、必ず生きて帰ってくる。だからそんな顔すんな」

 

「……ホントに?ホントのホントに、大丈夫なんでしょうね?」

 

 

そう言い、悲しそうに疑り深い視線を向けてくる。大きな黒い瞳が微かに揺れながら問いかける。

その彼女の姿はとても見ているととても苦しくなり、申し訳なさがドンドンと胸の奥から込み上げてくる。

 

 

「-------あぁ、約束する」

 

「-------破ったら許さないからね」

 

 

そう誓い笑ってみせる。すると彼女もゆっくりと口を開き不器用に、しかししっかりと薄く笑ってみせた。

そんな彼女を見て安心する。

が、なんだか掴んでいる彼女の腕に少し腫れている様な感触を覚える。ゆっくりと指をずらして見てみるとそこには痛々しい青痣があった。

 

 

「……なぁこころ。この痣、もしかして運んでる時に怪我させちまったか…?」

 

「-------な、なんでもないの!ただちょっとぶつけただけで!」

 

「本当か?もしアレだったら土下座して謝りたいんだが…」

 

「本当に大丈夫だから!そ、それじゃあもうちょっとしたら暗くなりだすし部屋に戻るわね!」

 

「……あ、あぁ。じゃあな」

 

 

そう言い残し、なんだかバツが悪そうにそそくさと退散していく。

その姿から露骨に見て取れる焦りに違和感を感じるが深く立ち入る様な立場でもない。

なら今やる事は-------

 

 

「-------店主、大丈夫?立てる?」

 

「……ちょ、ちょっとトイレまで連れてってくださうっぷ……」

 

クッフフハハハ……おう、分かった…よっこらしょっ」

 

 

そう笑いを殺しながら店主の肩を担ぎトイレへと運ぶ。

そして一応耳は塞いだが結局、小さいがハッキリと店主のナイアガラの滝の音をしっかり聞き遂げて俺は結局張り手をされて夕飯時まで気まずく過ごした-------

 

〜*〜

 

「……ってなわけで旧初台駅ってとこを調査してみようと思う」

 

「な、なるほど…。確かになんだか怪しそうではありますけど…どうやって行くんですか?」

 

「何でも、関係者の出入りするビルから地下の駅に降りて行く階段があるらしい。だから紅姫を使って監視を避けながら潜入する」

 

「そ、それは…大丈夫なんですか?その…倫理…だとか、そういうアレからして」

 

「バレたらヤバイわな…一応、作業員の格好に変装はしていくつもりだが……まぁ、元の世界に戻るための足がかりだ。申し訳ないが、腹くくってくれ」

 

「あう〜…分かりました……そ、それといつ決行するんですか?」

 

「そうさな…善は急げっていうし明後日だな。明日は作業員の格好だったり他の噂を調査するのと休息だ」

 

「了解しました-------それにしてもこのピザっていう食べ物美味しいですね」

 

「大概の食べ物はお前の主食の砂糖水よりは美味いと思うが…そんな2枚も食べて…太っても知らんぞ?」

 

「ちょ、ちょっと!デリカシーがありませんよ!!」

 

「あぁーッ!悪かった!悪かったから平手だけは勘弁してくれ!!」

 

 

幸せそうにピザを頬張る店主を少しからかってやると、さっきのナイアガラの件のほとぼりがまだ冷めてなかったのか再び俺に向けて凶器の平手を向ける。

その恐怖を存分に刻み込まれたので瞬時に顔面を両手で覆って謝罪の言葉を向ける。この間僅か0.5秒。すごいやろ。

 

〜*〜

 

「きょ、今日も今日とて暑いですね……」

 

「あぁ…全く以って参るなこりゃ…」

 

 

その翌日、サンサンと照りつける太陽の下。俺と店主はこの暑さに辟易しながら往き行く人々を眺めていた。その奥には警告色のポールや赤いコーンが置かれた無骨な扉。そう、件の旧初台駅へと続く扉だ。

 

そこで延々作業着の人間が出てこないかを見張っている訳だが…全然現れそうにない。この季節だと作業着じゃなくもっとなんかラフな格好で仕事してるのか?それともこの時間に訪れる人間はいない?

 

そんな事を頰を伝い、手に落ちたうっとおしい汗を拭いながら考える。そろそろ2時間が経つ。買ってきたペットボトルもすっかり空っぽになりただ手持ち無沙汰な気持ちを紛らすオモチャにしかならない。

 

 

「-------店主、一旦切り上げよう。住宅街で聞き込みだ」

 

「えぇ…そうですねそうしましょうその方がいいです…ぜぇ…」

 

 

店主の方を見ると、太陽に弱いせいか髪が多すぎるせいか俺以上に汗をかいている。伝う汗で強調されるしなやかな顔のラインが色っぽく少しドギマギするがそれ以上に彼女は幾ら日傘と帽子があるとはいえもうノックアウト寸前だ。

 

そうして都心から少し離れた郊外。多くの一軒家、公園が並ぶが高層ビルはなく、この一帯だけは都心の喧騒や息苦しさを忘れさせて楽に生きさせてくれる。そんな雰囲気がある。

たくさんの家のおかげで日陰は増えたものの、やはり日本の高い湿度も相まって蒸せ返る様な暑さからは逃げられない。

 

買ってきた水もほんの少しだけで生温かさを帯びてきたがそんなのより…人はいないかね……平日の昼前だし流石に厳しいか…?

 

 

「あっ…モノノベさん、あそこに人がいますよ!」

 

「おぉ。良くやったぞ店主!-------すいませーん!少し時間いいですか?」

 

 

店主の指さす先に1人、影の濃いところに日傘をさした初老の女性がゆっくり向かいからこちらに歩いてきていた。

その人になるべく大きな声で話しかけながら歩み寄る。すると歩くのと同じ様にゆっくりとした動作でこちらへ顔を向けてくる。

 

 

「----どうもこんにちは。最近暑いですね」

 

「え、えぇ……あ、あの…どうかなされたんですか?」

 

「あぁ、すいませんね。実は少し調べ物をしてまして----旧初台駅、について何か知ってる事ありませんか?それも怪談とか都市伝説とか…ちょっと怖そうなやつです」

 

「旧初台駅…って確かもう使われてない駅ですよね?なんたってそんな所を----」

 

 

旧初台駅、その名前を出した途端女性の顔つきが少し疑いの色を見せる。…マズイな。こんな時の言い訳に作っておいた名刺名刺…

 

 

「あぁ…申し訳ないですがそこまで答える事は…一応商売ですので、どうかご理解のほどを」

 

 

そう言って先日デパートに行った時適当なオカルト雑誌を立ち読みしてそれっぽく作っておいた名刺を手渡す。そして彼女にそれを渡すと思惑通り疑いの色が少し晴れた。

 

 

「雑誌社の方なんですか?えっと旧初台駅っていうと…そう!最近私の知り合いがね、なんだか変な物を見たって話してましたよ。なんでも何個も透明なキラキラした物が駅のホームで見えたって…まぁ、窓の反射とかそんな物だと思いますけどね」

 

「キラキラしたもの…ですか…いえいえ、有益な情報です。ご協力いただきありがとうございます。では、熱中症には気をつけてくださいね」

 

「えぇ。それでは私はこれで-------」

 

 

そう言い軽く手を振りあって彼女は再びゆっくりとした動作でどこかへ歩き出した。その軽く曲がった後ろ姿を見送っていると店主がなんだか素っ頓狂な顔をしているのが目に入った。

 

 

「----どうした店主?」

 

「モ、モノノベさんってそんなキャラでしたっけ…?」

 

「お前…俺の職業忘れたのか?ギルド受付係だぞ。こんなもんお茶の子さいさいじゃ」

 

「あっ…受付係……そうでしたね。受付係でしたもんね…受付…係…」

 

「おいなんだその欺瞞がありありの言い方。本職なんだぞ本職。本職……」

 

 

……思えば、最近ロクに受付の仕事してなかったな…現場でゴリゴリに闘ってた…あれ受付係ってなんだっけ…受付係って書いてバーサーカーって読むアレなんかな…

 

 

「……うん、本職って言葉をちゃんと調べてくるわ…てかそれよりもだ!駅で見たっていうキラキラ!ちゃんと覚えとけよ!!」

 

「フフフ----は〜い」

 

〜*〜

 

その後も見かけた数人の通りすがりに適当に話しかけ件の事を持ちかけたが証言は似たり寄ったり。旧初台駅(あそこ)には、何か不思議な物がある。そうにわかに噂されているようだ。

このまま続けても特段目新しい情報が入って来るとも思えないし…

 

 

「店主、図書館に行きたいんだが……ねぇ、大丈夫?」

 

 

そう提案しながら彼女の方に振り向く。

すると彼女はゼェゼェと肩で息をするのを通り越して掠れた弱々しい息でもう瀕死と言っても差し支えのない様相だった。

 

 

「だ、大丈夫です……大丈夫ですから…調査をつ、続けましょう…」

 

「……悪かった。今日のところはこれで引き上げる」

 

「…え?ど、どうしてですか…図書館に行くんじゃ……」

 

「少しは自分に甘くなれよお前は。それに、そんな状態で言われてもな…いいから、帰るぞ」

 

「は、はい…わっ-------」

 

「-------っと」

 

 

憔悴しきり足元が覚束なくなっていた為だろうか。不意に店主がこちらに向かって倒れ込んでくる。

受け止めた店主の弱々しい息遣いと心なしかひどく軽い体途端にを至近距離で感じられる。そこから伝わる彼女の体の状態がひどく胸に何かバツの悪い何かをじわじわと生み出した。

 

 

「……悪かった。本当に…」

 

「…え?ど、どうしたんですかいきなり…そ、それと苦しいです…後恥ずかしい……」

 

 

 

腕の中で戸惑う店主をよそに彼女を背中に担ぎ上げる。

無言でいる俺に彼女も何か察したのかそれとも観念したのか。静かにゆっくりと俺の背中に体重を預けて頰を乗せるような感触が伝わってくる。

そして、若干傾き始めた日を背に浴びながら特に言葉を交わすこともなく微妙な空気の中、帰路に着いた----

 

〜*〜

 

「-------ちょっと色々買い物をしてくる。シャワーでも浴びて大人しくしといてくれよ?」

 

「…は、はい……すいません、お手数をおかけしてしまって…」

 

「はぁ…だから、自分にもっと甘くなれっつったろ。ほら、とっとと休め休め」

 

 

ソファに一旦休ませた店主を横目に見ながらそんな軽口を叩く。いつもより赤みがかった顔と希薄で今にも消えそうな雰囲気をこれでもかと漂わせる彼女に少し不安を覚えて買い物する事に決めたが……大丈夫だよな?このままぽっくり…心配だ。

 

 

「-------店主、吸え」

 

「----ふぇ?い、いきなり何言ってるんですか!?」

 

「は!?おま…人の親切にそんなドン引きするか普通!?」

 

「し、親切!?吸えだなんてそんなの親切な訳ないじゃないですか!」

 

 

顔をより一層赤くして慌てふためく店主。そしてそんな彼女に俺もつい口調が強くなってしまう。

てか何言ってんのこいつ!?何をそんな恥ずかしがってんの!?

 

 

「だ・か・ら!ドレインタッチで俺の魔力を吸えっての!!お前、このままじゃ消えそうで怖いの!!」

 

「ド、ドレインタッチ……あ、なるほど…は、恥ずかしい…で、でも良いんですか?その…魔力、回復してないんですよね?」

 

「消えられるよりマシだっての。ほら、はやく」

 

「じゃあ…お、お言葉に甘え…ます」

 

 

そう言うと俺の差し出した手を取り魔力を吸い出す。その影響で若干立ちくらみの様な感覚に襲われるがこれで彼女が消えてしまう心配はないだろう……ただ…魔力残量…3割6分ってとこか…あの死体を発見した時も何故か少し回復したが、安心できる数字じゃないな……なんだか今回の件、怪しい感じがするし…

 

そんな事を考えながら、日が落ち始めオレンジがかった街へと繰り出した----

 

〜*〜

 

「こんなもんか…」

 

 

繰り出した先は薬局兼スーパー。氷枕や冷えピタ、とにかく涼むための物や適当にオロナミンCだのの精のつく飲み物。そしてひさひざに料理をしようと数種類の食材。何年か振りの日本での買い物だが、まるで初めてみたいに新鮮で懐かしくなる。

だが、そんな懐かしい気持ちを店外に出た途端に襲いかかる熱気が遥か彼方に吹き飛ばしてしまった。

 

今日何度めかも分からない暑さへの辟易に若干飽きながらも帰り道をなぞり始める。

そんな折、ふとよく見た黒髪の後ろ姿を視界に捉える。

学校の帰りなのか、これまで見たことのない服…おそらく制服だろうか…と周りに数人、同じような服装に年齢の少女がいる。下校途中ってところか…うん、まぁここで俺が何かする事もないし帰る…

 

そう思い踵を返して帰ろうとした時、

 

 

「ねぇあんたさぁ……よね……」

 

「-----------」

 

 

ふと、そんな会話の断片が耳に飛び込んでくる。

それも愚痴だとか談話だとかそんな楽観な雰囲気でない、明らかに悪意のある、剣呑な様相だった。

……これは…ちょっと気が引けるが…

 

 

「『騙し紅姫』」

 

 

そう呟き、街の喧騒へと身を溶かした----

 

〜*〜

 

魔力の節約をしたいがゆえ若干雑なカモフラージュになってしまったため、注意を払いながらようやく着いた街はずれ。密談に密会、こそこそ何かをするにはうってつけな雰囲気だ。

移動の合間、彼女たちの間に一言も会話はなかった。

ただただその鉛のように重苦しくドス黒い雰囲気が辺りを取り巻いていた。

あの感じ、冒険者の時に嫌という程味わった感覚とよく似ている。背中に刺さる妬みや嫉みそれに怨念だとか、自分の劣等をなんの気もなしにぶつけるあの視線と同じだ。

 

 

「……ん!?」

 

 

…やらかしたな…この辺り、思ったより視界が悪い…どこ行った…?

辺りも薄暗く、案外木で視界が遮られるせいだろうか。少し考え事をしている内に少女たちの姿はすっかり消えてしまっていた。

彼女達の間の剣呑な雰囲気。流石に大事には至らないとは思うが心配だ…早く見つけねぇと…

 

〜*〜

 

「見つかんねぇなチクショウ…!ハァ…ハァ…」

 

 

辺りを10分弱程駆け回った。視界の悪さに悪路というのもありイタズラに体力が奪われていき、息も絶え絶えになる。

ここまで見つからないとなると…誰かに見られる可能性もあるが…鬼道で探すしかないか…

 

 

「……上空から、って思ったが…大気に踏めるくらいの霊気がないな……いや、あったら魔力も回復してるはずだし…節約したかったんだが、しょうがないか----『黒白の羅、二十二の橋梁、六十六の冠帯、足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ----天挺空羅(てんていくうら)』」

 

 

青白く輝く魔力の網が辺り一面へと這っていく。日本の常人には見えるやつはいないから大丈夫だろう…大丈夫だよな?

辺りに伸びた魔力の網から次々と情報が流れ込んでくる。地形に温度、材質にそこにいる生き物まで。膨大な情報の波に眩暈がする…が、まだ目的のモノは引っかかってない。

そして、数百メートル程伸ばした所にようやく、他の鳥や虫などより大きめの反応が4つ見つかった。

 

頼むから…下手に大事だとかに至ってくれるなよ……

 

そんな不安に駆られながら歩を踏み出す。

日が落ち始め、冷たくなってきた風が肌に吹き付ける。その冷感が否応にも胸の焦燥を加速させた-------

 

〜*〜

 

「-------腹が立つのよっ!!このっ!!」

 

「…うっ……」

 

「「〜〜〜〜!!」」

 

 

移動のために木の上を渡り歩いてきて数百メートル。

ぽっかりと空いた大きな林冠から下を見下ろすと、そこには地面にうずくまるこころと彼女を取り囲むリーダーらしき罵声を浴びせる少女とその周りで何かわめき散らしている2人の少女。

そしてたどり着いたその時、リーダー格の子がこころの腹に蹴りを入れた。それに便乗して他の2人も蹴り出し彼女はより一層その体を丸める。

 

 

「------『雷吼炮(らいこうほう)』」

 

 

天空に向けて雷を纏った爆砲を放つ。

爆音と振動が辺りに響き渡り、震え上がらせる。一帯を一瞬昼のように照らし出し、直後に全てが凍ってしまったような静寂が訪れる。

 

 

「な、なによ…雷…?」

 

「…は、はやく帰りましょ…山火事とかになったらヤバイし…」

 

 

怯えた様相を見せた3人はどこかに去っていった。

が、うずくまったこころは一向に動かない。

 

 

「……大丈夫か?」

 

問いかける。

 

「……」

 

彼女はゆっくり、小さく頷く。

 

「何回目だ?」

 

再度問いかける。

 

「……」

 

 

今度は何も反応を見せない。

うずくまった彼女はひどく小さく、そして儚く見える。

 

 

「…ねぇ……」

 

「…あぁ」

 

「……何で私は、西園寺なの?」

 

 

そう、問いかけてくる。

なぜ自分は自分なのか。そんな素朴な疑問。だが、決して解決することは難しい。それこそ、生涯かけて考え抜くような事だ。

 

彼女はとても、途方も無いほどに大きく広い荒野で迷っている。

どこにもあても、道しるべになる光もない。そんな彼女の身になるとどれだけ恐ろしく、不安なことか。身が震え上がる。

だが、俺は大人で。彼女は子供だ。なら、先に人生を歩んだ者として少しでも助けになってやらないと。

 

 

「…少し話をしよう。膝でも空いてるが、どうする?」

 

「……」

 

 

そう聞きこころの頭の側に足を伸ばして座り込む。

すると彼女はゆっくりと動き出し俺の太ももに頭を預けた。小さく弱々しい感触が伝わる。

 

 

「----俺も昔、一応少しは格式のある方の家に生まれたんだ。それも武道だとかそういう方のな。たっくさん仕込まれた。剣道、柔道、空手に合気道。槍術棒術、何から何まで親の思う理想の俺を体現してたと思う。

だけどまぁ……その…なんだ、こんなバカな性質(タチ)だからかな。ある日、子供を見たんだよ。自分と同じくらいの。めちゃくちゃ楽しそうにしてたよ。その時思った訳だ----俺はあんな風に笑えた事があるか?なんでこんなにも不自由なんだ?-------って。

だから逃げた。今思うとヤバイくらい短絡だな。だけど、抑えられなかったんだよ-------そうやって逃げて逃げて…気づいたらどこかの孤児院に拾われてた」

 

「……そう…だったの…」

 

「----ってのが俺だ。物部朔だ。これまでの歩いてきた道のり全てで俺ができてる。…なら、お前はどうだ?こころ」

 

「……」

 

 

そう問いかける。

するとこころは黙り込み、少し重々しい雰囲気が辺りに立ち込める。

が、彼女は少しずつだが、重い口をゆっくりと開く。

 

「……私は、西園寺に生まれた。ただそれだけ…親はいつもどこか飛び回ってて年2、3回くらいしか会えないの。でも、不自由は感じなかったわ----全部があったんだもの。自分の望む物の殆どは叶ったし。そして小学校を卒業して中学校に入って……それからかしら。なんだか皆よそよそしくなって距離を感じ始めたの。それもそうよね…大財閥の令嬢だなんて、何かしでかしたらタダじゃ済まないのは目に見えるもの……それで皆から離れて過ごしてる内にあの子達が来た。言い分は簡単、金持ちってだけで周りの大人から優遇されてて腹が立つ。なんで普段から努力してる私たちは見向きもされないのに-----って。そうやって彼女達のストレスのはけ口に仕立てられたの…もちろん抵抗もしたけどいつもいつも嘘の告発をするだのって脅されて……おどされ……て……」

 

「-------ありがとう。よく話してくれたな」

 

 

段々と震え、嗚咽交じりになる彼女の細々とした声。

細かく震える彼女の頭をゆっくりと撫でて何とか落ち着かせようとする。

 

 

「そうか…辛かったな。よく耐えたよ、そんな小さな体で…本当に凄いな…お前は。それでさ----お前は今の自分の事、どう思ってるんだ」

 

「……こんな事に…なる……なら…西園寺になんて……生まれたく…なかった…」

 

「…生まれたくなかった…か……そればっかりはどうしようもない…ごめんな。ただ、これだけは絶対に言える-------生きろ。どんなに辛くても、折れそうでも生きろ。どんなに汚れても傷付こうともな。自分が諦めない限り、この素晴らしく、ふざけた世界に晴れない雲はないんだ」

 

「……雲…」

 

「…そうだな…それじゃあ、参考にはならないかも知れないが…これが、1回は折れたが…諦めなかった俺の『答え』だ」

 

 

こころを立たせ、自分もゆっくりと立ち上がる。

そして深く、重い雲のかかった空を見上げる。分厚く、灰の深い、陽の光を閉ざす雲が余計に辛気臭くさせているのではないか…そんな事を感じ始める。

 

 

「破道の八十八----『飛竜撃賊震天雷砲(ひりゅうげきぞくしんてんらいほう)』」

 

 

掌から先ほどの雷吼炮とは比べ物にならないほどの波動と衝撃。名前の通り、飛竜が天へと昇る様な咆哮と閃光が響き渡る。

 

そして竜は天へと昇り、分厚い鉛の雲と衝突する。

 

その威光は辺り一帯の暗雲を完膚なきまでに晴らし、夕焼けの美しさを余す事なく映し出すキャンバスを作り出す。

 

 

「------どうだい、凄いだろ?」

 

「-----------」

 

「……ちょ、ちょっとこころさん?なんか言ってくださらないとわたくしの労力が…」

 

「…プッ……ブフッ!アッハハハハハハ!な、何よこれ!こ…こんなの、何をどうしたらこんな事が出来るように成長するのよ!アハハハハハ!!」

 

 

温かい夕日に照らされ、風景がガラリと明るくなる。

そんな中、彼女は黙り込んでいる。が、突如。なんの脈絡もなく積が切れたように高笑いを始める。

その様子はなんだかこれまでの彼女よりも一段吹っ切れた様に見えた。

その様を見ると俺の頬も緩んで笑えてきた。

 

 

「おま…フフフ……割とちゃ…ちゃんと…ブフッ……頑張ったのに……フフフ…ハハハハハ!」

 

「い、いやだってこれ…て、天気変わってるじゃない…アハハハハハ!」

 

「ハハハハハ!うーし!帰って飯にするぞこころー!!」

 

「えぇそうね!そうしましょう!アハハハハハハハハ!!」

 

 

夕日に照らされ、凹凸のお調子者の様な影が森の中へ伸びていた-------

 

 



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