俺の家が幻想郷 (十六夜やと)
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序章 幻想郷(仮)
プロローグ


この作品には以下の内容が含まれております。

・作者の妄想から生まれた作品
・痛々しいまでの中二病表現
・拙い文章力
・達観したオリ主

以上の要素が苦手な方はブラウザバックすることをお勧めします。
それでもよろしければ、ゆっくり楽しんでいってくださいm(__)m


 世の中には不思議なことがある。

 科学的には説明できないような出来事など、よくTVで見ることもあるし、雑誌などで紹介されることもある。その大半が捏造であったり、夢幻であるなんて数えきれないが、それでも非科学的な実証不可能な現象は存在する。

 まぁ、そんなことは普通の高校生である俺――夜刀神(やとがみ)紫苑(しおん)には関係のないことだと思っていた。

 

 確かに俺の人生は普通とは言い難い。

 小さい頃に両親を事故で亡くし、一人で住むには広すぎる二階建ての一軒家を拠点とする高校生。そして預けられた義理の父母が奔放的で海外で働いているせいか、自分のことは大抵一人でこなす『やけに達観した奴』と見られることもあったな。

 奨学金やら保険やら遺産やらバイトの収入で不自由のない生活をしているが、それでも周囲の人間からは腫れ物でも扱うような立ち位置となっていた。自分がそう思ってなくても『親のいない可哀そうな奴』ってレッテルを勝手に張られているせいだろう。小・中学校では非常に苦労した。

 普通に接してくれる友人なんて……昔から付き合いのある、あの未来(アホ)兼定(ハゲ)ぐらいなもの。

 辛くなかったと言えば嘘になる。一人というのは正直寂しい。

 けど、支えてくれる連中がいたから今の自分があると断言してもいいだろう。ソイツ等の前では口が裂けても言わないけど。

 

 

 

 普通とは言い難い俺の人生。

 だが、非科学的かと言えば……違う気がする。

 

 

 

 不謹慎かもしれないが、小さい頃に親を亡くした経験のある子供が俺だけだとは限らない。国……いや、県内でも数人くらいは見つかるんじゃなかろうか。非現実的であろうが、非科学的ではない。

 ならば何が普通ではないのか。

 何が非科学的なのか。

 

 そう、例を挙げるとすれば――

 

 

 

 

 

「――私の名前は八雲紫。以後お見知りおきを」

 

 

 

 

 

 現在進行形で起こっている現象だろうか?

 

 状況を説明しよう。

 時計が0時過ぎを差している時間帯に俺は二階の自室で勉強をしていた。

 教科は物理。お世辞にも得意教科なんて言えないし、ぶっちゃけ勉強なんざしたくない。しかし、課題をこなさないと奨学金を打ち切られる可能性があるし、何より担当の先生が煩い。

 

 音楽をかけながら見たくもない数式を解いているときに、その人物は現れた。否、声だけが聞こえた。

 唐突だからなのか、面倒な物理の課題を解いてるからなのか、反応が遅れてしまったのは言うまでもないだろう。訓練された軍人じゃあるまいし、想定外のことに瞬時に対応できるほど常識から外れてない。

 

 

 

「初めまして、夜刀神紫苑さん」

 

 

 

 発せられた声は耳を刺激し、どこから聞こえたのかと周囲を見渡した。

 

 しかし、人の姿は見当たらない。

 当たり前だ。俺は独り暮らしなのだから。

 幻聴かと首をかしげて勉強しようと机を向いたときに、また女性の声が聞こえた。

 

「こちらですわ」

 

 刹那、俺の目の前に不思議な歪みが生まれた。

 いくつもの『目』が奥に見える気持ち悪い歪みの中から、その声の主が現れる。

 妖艶な美を醸し出す大人な女性。金髪の長い髪を靡かせて、俺の机の上に現れたのだ。状況が状況なら惚れてしまうかもしれない、美しい女性。

 

 怪しげな笑みを浮かべた彼女は、手に持っていた扇子で口許を隠しながら自己紹介をする。

 つまり先程の台詞だ。

 

「……え?」

「驚いているようね。無理もないけれど」

 

 見下ろす俺に、見上げる女性――八雲紫。

 俺は我が目を疑った。

 

 ん? なんか描写がおかしい?

 確かに『机の上に目を向けている』俺が『目の前の歪みから出てきた女性』と普通に会話すること自体がおかしいが、今は空間的問題があった。つまり女性は『机の上』にいるのだから、俺が見下ろすのは常識的に考えて間違っている。一般女性の身長が何センチなのかは知る由もないが、少なくとも目の前の女性は俺と同じくらいの身長をしている。

 八雲紫さんが机で正座してても、視点は彼女が上になるはずだ。なのに描写は俺が見降ろす形。

 

 ならば作者のアホが描写をミスったのか?

 いや――今回はそうじゃなかった。

 

「……なぁ、色々聞きたいことがあるんだけど、一つだけ最初に質問に答えてもらってもいいか?」

「ええ、答えられるのなら」

 

 では、早速質問しよう。

 

 

 

「――ちっさくね?」

「ですよね」

 

 

 

 机に立つ身長7センチ程度の金髪美女は困ったように微笑んだ。

 そう、俺は筆箱の横幅よりも少し大きい女性と会話してたのだ。

 非科学的な現象云々よりも話し相手の身長を質問したのだ。これも現実では起こり得ない現象だから間違っている反応ではないだろうよ。本人は理由は後で話すと答えてくれなかったが。

 

 課題の問三辺りに立つ女性に次は何を質問しようか迷っていると、八雲紫さんは深々とお辞儀をした。

 どうも機械で出来てるようには見えない。

 

「実は貴方にお願いがあって来たの」

「お願い……?」

「初対面の相手に頼むことではないのは私でも分かるわ。それでも時間がないから貴方に頼むしかないの。つまり貴方以外にお願いできないことなのよ」

 

 初対面で図々しいなって思わなくもないが、誠意を見せている八雲さんの頼みを却下できるかと言われたら、そこまで非情な奴ではない。この辺りで日付が変わっている弊害か、正常なリアクションが取れないでいるが、そこら辺は目を瞑って欲しい。

 彼女の正体やらも気になったけれど、俺の前にわざわざ現れた理由を知りたかった。

 

 しかし『願い』とは何なのか。

 こういうときライトノベルでは『異世界の魔王を倒して欲しい』とか『転生する気ない?』なんて破天荒な頼みをするのが相場と決まっている。生憎、ここはラノベの世界じゃないから知らんけど。

 俺にしか頼めないってことは、恐らく俺のできる範囲内の願いなのだろう。そうであって欲しいなぁ。

 

 だから俺は聞いた。

 わからないなら聞けばいい。

 

「お願いってのは?」

「簡単なこと……いえ、頷くのは簡単であるけれど、十中八九貴方に迷惑をかけてしまう事よ。でも頷いてくれないと――私はもう成す術がない」

 

 んな悲痛そうな表情をしないで欲しい。

 断れねーじゃんか。

 

「内容次第だと思うぜ。とりあえず教えてくれ」

「……わかったわ」

 

 数分考えた後、決心したように八雲さんは頷いて、その願いとやらを口にした。

 

 

 

 

 

「ここに――幻想郷を作っても良いかしら?」

 

 

 

 

 

 彼女の説明を簡単にまとめると以下の内容だ。

 

 まず彼女は人間ではなく妖怪。しかも希少な種類の妖怪らしい。

 そして彼女等が住んでいる『幻想郷』という場所は『現代から忘れ去られた者達の集まる楽園』なのだとか。現代社会で人々の記憶から消えた者や物が、俺達では目視することのできない幻想郷って場所に行きつくってさ。そして彼女は『幻想郷の賢者』とも呼ばれている創設者なのだと宣った。

 そこで人とか妖怪とか神様とか住んでたらしいのだが、なぜか突然として幻想郷が崩壊してしまったのだと語る。八雲さんですら原因が分からず、それどころか原因を見つける暇もなく、彼女の作った幻想郷は跡形もなく消え去ってしまったわけだ。事実だとしても流れが急すぎて頭が理解に追いつかんけど。

 幻想郷がなくなったら、そこに住んでいる人々はどうなってしまうのか? もちろん消えてしまう。

 彼女は残された力を振り絞って彼女の能力で救えるだけの住人を『スキマ』という空間に避難させた。しかし、これは一時的な処置。幻想郷に住んでいた人間は仮死状態となり、八雲さんのような有力者は存在を保てなくなり小人化してしまった。なるほど、彼女の姿にも納得だ。

 

 さて、このままじゃいけない。

 この状況を打破するには八雲さんの力を回復させる『霊脈』ってパワースポットが必要らしい。

 けれども霊脈は簡単に見つかるほど都合の良いものではない。しかも日本に点在するパワースポットの大半が、観光スポットだったり危険地帯だったり、小人となった幻想郷の住人が暮らせる環境ではないとか。

 

 途方に暮れて、もはや消滅すら覚悟した幻想郷の賢者。

 だが彼女は見つけた。見つけてしまった。

 

「貴方の家はちょうど『霊脈』の真上に建っているの」

「マジすか」

 

 俺の家は『霊脈』という胡散臭いパワースポットなのだとか。

 やっと見つけた数少ない霊脈。しかも外敵から身を守る建築物の存在というオマケ付き。

 

 彼女は賭けに出ることにした。

 自らの存在を外の人間にバラすことになるにも関わらず、八雲紫は夜刀神紫苑の前に現れたのだ。

 

「なるほどね。つまり八雲さんの力が回復するまでの間、この家を『仮の幻想郷』として小人化した住民を住まわせてほしいってワケか」

「話が早い男の子は好きよ」

「お褒めに預かり光栄の至り。けど賭けにはリスクが大きすぎじゃないか?」

「えぇ、貴方が話のできる人間で助かったわ」

 

 他の人間ならどんな反応をするのだろうか?

 思考回路が睡眠を欲している現在では、実験体としてモルモット扱いみたいなマッドサイエンティストな考えしか思いつかない。

 

 なんて考えていると彼女は深々と頭を下げた。

 いや、膝までついて彼女は頭を課題プリントに押し付けたのだ。

 つまり土下座。

 

 

 

「私にはこれしかできない。恩は必ず返します。どうか――私達を救ってくれませんか?」

 

 

 

 俺は絶句した。事の重大さを今さら自覚したのだ。

 人生16年。今まで苦労したし様々な経験もしたが、何十何百?それ以上の命の選択を突き付けられたのは初めてだった。そもそも重要な選択を今この時間に突き付けてくるのか。だから金髪美女に何と言葉を返せばよいのか迷った。

 よく観察してみると、彼女の身体は震えていた。

 

 

 

 

 

 助ける? 彼女は家を明け渡せって言ってんだぞ。

 断る? 今の話を聞いて断れるかよ。

 

 

 

 

 

 何秒、何分、何時間。体感では非常に長かった。

 よくよく考えた後――俺は口を開いた。

 

「三つ、質問させてくれ」

「えぇ」

 

 彼女は頭を上げずに肯定した。

 

「一つ、俺はこの家を出ていかなきゃならないのか?」

「まさか。私達は貴方の生活を邪魔するつもりはないの。ただ住む空間だけを与えてくれれば」

「二つ、このことは外部に漏らしてはダメなのか?」

「……もし知られてしまったら、物凄く困る」

 

 ……後から考えたら、俺は答えを簡単に出し過ぎたのだと思う。

 だって日付変わってんだぜ? 眠くて頭が機能していなかったし、働いてない頭で考えすぎた。限界がそこに迫ってる。

 それも彼女の計算ならば称賛に値するよ。

 

 

 

「三つめの質問なんだが――俺の家なんかで良いのか?」

「――っ! えぇ!」

 

 

 

 遠回しの移住許可。

 それに気付いた彼女は頭をバッと上げて、満開の花のようにきれいに笑った。

 

 それ以降は記憶がない。

 何を言ったのかも覚えてない。

 とにかく眠ったことと、物理の課題が終わってないこと。

 

 俺が目を覚ました時には日付が変わっていたのだから仕方のないことだろう。

 

 

 

 

 

 付け加えるのならば。

 

 

 

 

 ぶっちゃけ起きた時にはそれどころじゃなかった。

 

 

 

 

 




裏話

紫「ゆっくり、音を立てずに運ぶのよ……!」
全員「「「「「断る」」」」」
紫「コイツ等……」
霊夢「┐(´д`)┌ヤレヤレ」


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1話 幻想郷in俺ん家

ほのぼのって何だろう(哲学)


 携帯のアラームで起きた。

 スマホの画面をスライドして鳴り響く騒音を解除する。おはよう。

 

「……んぁ……こんな時間か……」

 

 時刻7時過ぎ。

 学校の授業には余裕で間に合う時間だ。

 なんか大切なこと(=物理の課題が終わってない)を忘れている気がするが、それ以上に大変なことが起きていた気がするのは俺だけだろうか?

 

 

 

 物理はなかった。いいね?

 

 

 

 俺はベッドから体を起こして地面に降り立ちながら、昨日起こったことを頭をフル回転させて思い出す。確か友人達とゲーセン行って、帰ってきて、飯食って、風呂入って、勉強をして――

 

「……あ」

 

 なんか小さい金髪美女に『幻想郷を作らせて』って頼まれた気がする。今思うとアレは夢だったのだろうかと、不思議と笑い声が出た。

 そんな幻想を見てしまうくらい眠たかったのか、物理が苦手だったのか――あるいは寂しかったのか。俺はこんなにメンタルが弱かったのかと自分の事なのに驚いた。もう慣れたと思っていただけに、俺にとっては衝撃的だった。

 

 

 

 人と妖怪が住む楽園?

 俺の家が霊脈?

 幻想郷?

 

 

 

 ないない、あるわけがない。

 頭が働いていない故に幻覚を見てしまったことと、それに安直にOKしてしまったことに我ながら馬鹿らしく感じる。

 あるいは夢だったのか。夢ならば安易に引き受けたことも理解できる。ほら、夢で起こした行動って後から考えて「それはないだろ」と思うことがあるだろ?

 夢だとしたら――まぁ、面白かった。

 

「っと、馬鹿なこと考えてる暇じゃなかった」

 

 余裕で学校に間に合うだろうけど、早めに行くに越したことはない。俺は畳んでいない洗濯物の山から制服を探し出して着る。アイロンをかけるほど身嗜みを気にしたことはないし、独り暮らしなんてこんなもんだろ。

 梅雨も過ぎて夏の初め。半袖でも長袖でも生きていけるような気温。俺の住んでいる県は夏でも冬でも少々気温が高いが。

 

 学生鞄に教科書やノート(と物理の何か)を突っ込み、それ以外のものをリュックに収納。

 とりあえず学校に行く準備はできた。

 

「飯食うか」

 

 何度も言うが俺は独り暮らし。

 朝食は自分で作って食べるのが習慣化している。というか料理作るのが趣味と断言してもいい。

 

 何を作ろうかと考えながら自分の部屋から出た。

 ――自分が昨日何をしでかしたかも知らずに。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 部屋を出て違和感を覚えた。

 二階は一階程でもないが広く、俺の部屋の横には客室やら物置などが数部屋存在する。そこは見間違いでもなく普通の部屋なのだ。

 しかし、言葉に言い表せられないような違和感を確かに感じる。どこか、何か違うような。

 首を捻りながら俺は一階に降りる。

 そしてリビングへ続く扉を開けた。

 

 

 

 

 

「パチュリー、これ借りてくぜ!」

「ちょ、魔理沙! 待ちなさい!」

「小町!? どこにいるのです!?」

「輝夜ああああああああああああ!!!!」

「妹紅おおおおおおおおおおおお!!!!」

「これ何だろ!? どんな造りなのかな!?」

「あたい最強!」

「チルノちゃん……そこ危ないよ?」

 

 

 

 

 

 俺は静かに扉を閉めた。

 ……何あれ。え、待って。え?

 

 疲れてるのかな、俺。なんか小人がリビングとキッチンで大騒ぎしてたような気がするんだけど。

 もう一度扉を開ける。

 

 

 

 

 

「へへっ! 捕まえられるもんか!」

「騒々しいわね、静かにできないのかしら」

「あ、見つかった」

「小町、仕事はどうしたのです?」

「輝夜ああああああああああああ!!!!」

「妹紅おおおおおおおおおおおお!!!!」

「そーなのかー」

「この素材……人形に使えるかな?」

「酒はないのかい?」

 

 

 

 

 

 俺は再度扉を閉めた。

 女は三人寄れば姦しいと言われるが、それが何十人いれば表現のしようがないくらい五月蝿い。

 

「嘘だろオイ……」

「あらあら、立ち眩み? 若いんだから栄養ちゃんと取らないとダメよ?」

「誰のせいで頭抱えてると思ってんだ?」

 

 扉の前で崩れ落ちる俺に、歪んだ空間から現れた昨日の金髪美女が顔を出す。夢だけど夢じゃなかった。

 人形サイズの八雲さんに詰め寄る男子高校生。

 

「つかアレ何!? リビングに紅い家建ってんだけど!? テレビ前に社あるんだけど!? キッチンに店建ってんだけど!? ちっさい女の子達が空飛んで変な喧嘩が始まってんだけど!?」

「紅い家は紅魔館、社は博麗神社、店は香霖堂。ちっさい女の子達は幻想郷の住民」

「説明ありがとうコンチクショウ!」

 

 泣いていいですか。

 いや、確かに幻想郷作ってOKなんて言っちゃったけど! けども! まさか本当に俺の家が小人の街になるなんて普通思わないだろ!?

 つかリビングとキッチン占拠されて生活できるかっ。

 

「その点は大丈夫よ? この家の主は貴方。キッチンで料理するなり、リビングでゆっくりするなり、何事においても貴方が優先されるのだから」

「既に彼女等が言うこと聞くとは思えないんだけど」

「そのために博麗の巫女がいるのよ」

 

 博麗の巫女? なんじゃそりゃ。

 新しく聞く固有名詞に首をかしげていると、前――つまり玄関側から女の子の声が聞こえた。

 

「紫、結界張り終わったわよー」

「ナイスタイミングね。霊夢、この人が家主の夜刀神紫苑さん」

「ふーん……」

 

 ふわふわ俺の目前で浮かぶ紅白の巫女服を着た美少女が値踏みするように俺を眺める。廊下に胡座をかいて気まずく頬を掻く中、興味を失ったように八雲さんと会話。

 どうやらお眼鏡にかなわなかったようだ。

 別にいいけど。

 

「小規模だけど結界は完成。あとは紫の境界を張り巡らすだけで仮の幻想郷は維持できる」

「ご苦労様。というか『ふーん……』で済まさないで、貴女も自己紹介しなさい。命の恩人よ?」

「そんなこと頼んだ覚えはないわ」

 

 気難しい年頃なのか、ドライな印象の博麗さん。会話の内容から察するに、彼女の名前は博麗霊夢なのだろう。もう幻想郷が俺の家の中に作られたのは諦めた。掃除機で全員吸い込んで追い出すわけにもいかないし。

 人間って諦めが肝心だよね。

 ぶっちゃけリビング&キッチンエリアも諦め気味だが。

 

 そんなことを考えていると八雲さんと博麗さんの口喧嘩が終わったらしく、紅白の巫女さんが自己紹介をした。

 

「私の名前は博麗霊夢」

「よ、よろしく……博麗さん」

「名前で呼んでいいわよ。というか幻想郷の住人の大半は名前で呼び合うから、全員呼び捨てでいいんじゃない?」

 

 フレンドリーなのかドライなのか、幻想郷の文化は日本とはだいぶ違うらしい。

 人種も変われば文化も違う。ましてや生物学的に違う個体の集まりなのだから、人間の文化と相違点があるのは当たり前か。

 

「紫苑さん――いえ、私も貴方のことを呼び捨てで構わない?」

「ご自由に」

「なら改めて。紫苑、博麗の巫女は幻想郷において妖怪退治の役割を果たしていたの。でも貴方の家に悪さをする妖怪や神なんていないでしょう?」

「俺ん家は人外魔境か」

 

 今は妖怪やら小人やらが住み着いてるから否定できないが、俺の知ってる友人達の家に妖怪や神様がいるのを見たことはない。

 

「だから今の幻想郷で博麗の巫女がするべき仕事は、貴方に迷惑をかける住民を退治すること。言うこと聞かない住民がいたのなら、彼女に頼むといいわ。これでも霊夢は幻想郷最強なのよ。ね、霊夢?」

 

 幻想郷における警察のような役割を担っているのが彼女ってことね。何歳かわからないけど凄いなと感心していると、霊夢は笑顔で紫の言葉を、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一蹴した。

 

「おい、話違うんだけど」

「あ、あれ?」

 

 思いっきり笑顔で否定された。

 あまりにもの清々しさに好感が持てるくらいには心地よい断りっぷりだった。

 

「博麗の巫女は妖怪退治が仕事。つまり妖怪のいないここでは仕事する必要がないってことでしょ? なんでアンタの生活を守るなんて面倒なことしなきゃいけないのよ。自分のことくらい自分でやりなさい」

 

 彼女の言葉も一理あると俺は思った。

 紫の頼みを引き受けたのは家主の俺だし、こうなることは予想できなくとも覚悟するべきだった。ましてや(物理的に)小さな女の子に自分の生活を頼るなんて都合の良い話はないだろう。

 今回のは完全に俺のミス。

 俺は激しく後悔すると同時に、良い経験になったとポジティブに考える。考えないとやってられない。

 

 肩をすくめて溜め息をついていると、幻想郷の賢者こと八雲紫が霊夢に噛みつく。

 責任者の視点から鑑みれば、この発言は場所の提供者である俺との無闇な亀裂を生むかもしれないと考えたのかもな。

 

「彼はここを提供してくれた人なのよ? 私達は居候の身なのに、自分ことは自分で守れってのは図々しいわ」

「アンタが勝手に約束したことに私を巻き込まないで」

「でも――!」

「はいはい、わかったわかった!」

 

 剣呑な空気が流れ、暴力沙汰を心配してしまうくらい二人が不機嫌になっていたので、俺が強制的に話をぶった切る。俺のせいで喧嘩が始まるのは御免だ。

 さっきリビングでも光景を目の当たりにしたけど、幻想郷の住人は血の気が多い連中の集まりなのか? 面倒な奴等を引き入れた昨日の自分にアッパーを炸裂させたい気分になった。

 今日何度目かもしれない溜め息をつきながら、俺は廊下に置いた鞄とリュックを持って外に出ようとする。

 

 それを引き留めようとしたのは紫だ。

 慌てたような声色が背後から発せられる。

 

「し、紫苑?」

「学校行ってくる。遅刻したくないし」

 

 飯は……適当にコンビニで買うか。

 自分の家なのにキッチンに行き辛くなったもんだ。

 

「あ、そうだ。リビングとキッチン以外に使ってる場所はあるか?」

「貴方の部屋と二階端の客室以外は……」

「トイレと風呂に建築物はないよな?」

「え? えぇ……」

 

 もし風呂場に建物あったら水没させるわ。

 でも家の大半を占拠された、と。元々広い家で部屋を持て余していた訳だし、自室が無事なら別にいっか。

 

「んじゃ、こうしようか。俺は幻想郷に干渉しない、アンタ等は俺に干渉しない。もう部屋は好きに使っていいから掃除くらいはしてくれ。俺の部屋と風呂場とトイレには入るな。これでいい?」

「待っ――」

「OKってことで話は終了! 行ってきます!」

 

 短期間で俺は学んだ。

 面倒事をこれ以上大きくしないためには、彼女等との交流を極力避けるべきだと。だから互いに不干渉を貫けば被害は大きくならない。

 俺の提案を無理矢理押しきって、靴穿いて外に出る。

 

 

 

 

 

 どうして俺は朝から疲れてるのか。

 分かりきった質問が頭の中をぐるぐる回っていた。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「霊夢!」

「何よ、彼だって言ってたじゃない。自分に関わるなって」

 

 紫苑が学校に行った後、私は隣にいる生意気な巫女を怒鳴り付けた。霊夢の言い分は第三者から見ても横暴が過ぎると判断したからだ。

 一方の霊夢は鼻を鳴らしてそっぽを向く。

 

 ようやく見つけた安息の地。それを無償で提供してくれた少年・夜刀神紫苑。

 その恩に報えるためにも自分にできることは何でもやろうと思っていた矢先、計画は一人の少女の面倒臭さによって音もなく崩れ去った。これを怒鳴らずして何時怒鳴ればいいというのだ。

 

 

 

 場所を提供してくれ。

 でも被害は自己責任。

 加えて私達には関わるな。

 

 

 

 図々しさが霞むレベルの横暴な条件だ。

 もし私にこんな条件を押し付けられたなら、それを提案した者は確実に殺してるだろう。追い出されなかったことが奇跡だと言っても良い。

 後から来るのは罪悪感。私は呻き声を上げながら頭を抱えて踞る。

 

「どーすんのよコレ……あー、頭が痛い」

「歳?」

「五月蝿い! そもそも何で断ったの!? 本当に面倒だったとか言うんじゃないでしょうね!?」

「それもあるけど――アイツ、気持ち悪かったから」

「気持っ――」

 

 なんて言いぐさだ。

 私は再度怒鳴ろうとしたところで、霊夢から発せられた第二声に唖然とする。

 

「アイツ、アンタを見ても反応が薄かったって言ってたじゃない? それおかしいでしょ。普通なら怒るなり呆れるなり、とにかく紫を追い出すのが自然よ」

「………」

「だから二つ返事で了承したから、私達を利用しようとしてる奴なのかって疑ったけど……そんな様子はないし、しかも私に怒ろうともしなかった」

 

 霊夢の言葉を頭で少しずつ理解する。

 彼の言動は――普通じゃない。

 

「私も怒るなり怒鳴るなりされる覚悟はあったわよ。でもアイツ……自分から折れたわ。何あれ。自己犠牲? 結果的には面倒にならずに済んだけど」

「……あぁ」

 

 だから霊夢は『気持ち悪い』と称したのか。

 私は紅白巫女が不機嫌そうに語るのを眺めながら、ニヤニヤ笑みを浮かべた。

 

「というか簡単に引くのって男として――何よ、ニヤニヤして」

「……なんだかんだ言いながら、貴女って彼のことよく観察してるのね~」

「はぁ!?」

 

 焦ったように私に罵詈雑言をぶつけてくる霊夢をのらりくらりと回避しながら、私は紫苑との関係をどのように修復するかを考えていた。

 

 

 

 このまま無関係は寂しい。

 さて……どうしよう?

 

 

 

 




裏話

紫「これ破綻したら貴女の責任ね」
霊夢「私は悪くない」
紫「( ゚Д゚)ハァ?」
霊夢「( ゚Д゚)ハァ?」


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2話 それぞれの悩み

 俺が通う学校は家からバスと電車を経由して行く。

 時間にすると約40分。遠いか近いかは皆様のご想像にお任せしよう。

 

 そこまで珍しくない一般的な高校。いつものように授業を受け、いつものように昼休みは図書館に籠り、いつものように放課後を迎える。何の変哲もない時間が、今日の朝起きた騒ぎが幻であったかのように流れていくのだ。

 英語の時間は担当教師の孫自慢を聞き、物理の時間は即席で宿題を済ませ――なんて日常。そんな日常など、あっという間に終わってしまう。

 

 そんな日常の放課後。

 

 俺は自分の荷物を伴って美術室へ向かった。

 美術室の扉を開けると、独特な油の匂いが充満する部屋に、雑談をしながら何かをしている一つの集団があった。

 絵を描く部屋で絵を描いてる人間が一人もいないのは問題だが、顧問の先生が見渡してもどこにもいないので大丈夫だろう。どこ行ったんだろうね?

 

 扉を開く音に集団全員が反応し、それぞれの反応を見せる。

 これもいつもの光景だ。

 

「お、来た来た」

「遅ェぞ」

「お待ちしておりましたよ」

 

 教室では腫れ物のように扱われる俺だが、ここではそんなの関係ない。

 俺は幾分か機嫌をよくして集団に加わる。

 

 最初に反応したのは白髪の男子生徒。本人曰く染めてないらしい。名前は九頭竜未来(くずりゅうみらい)、俺のクラスメイトの一人だ。マイペースそうな笑みを浮かべている。

 次に反応して舌打ちした灰色の髪の男子生徒。本人曰くガッツリ染めてるらしい。コイツは獅子王兼定(ししおうかねさだ)、クラスは違うが昔からの親友。目つきが鋭く制服を着崩して着用していた。

 最後に手招きしていた先輩。この人は霊龍慧(みたまりゅうけい)、先輩だけど皆からタメ口を使われ、なぜか何もしてないのに胡散臭さを感じる。

 それぞれが下の名前で呼び捨てをする仲。

 それもそうだ。俺達は旧知の仲なのだから。

 

「で、何してたん?」

「チェスだよ。紫苑そう言うの得意でしょ」

 

 確かに彼らが囲む机の上にはチェス盤と駒が二セットずつ置いてあった。そして片方の盤は戦局が若干進んでいる。

 先ほどまで兼定と龍慧がやっていたらしい。

 

 俺は空いている盤の前に腰をおろして未来と向き合う形を取る。

 そして試合開始。話をしながらもガチなボードゲームが繰り広げられるのだ。

 これもいつもの光景。適当に雑談しながら一日を潰していくので、俺たち全員が所属している美術部は『駄弁り部』なんて呼ばれることが常々。

 補足だが、顧問がいない理由の大半が俺。美術部に入ってすぐ、俺が描いた絵を顧問と副顧問が見た瞬間、絶叫しながら倒れて救急搬送される事件が起こったのだ。俺は地味に心が傷つき、先生方は精神に傷がついた。

 まだ顧問達は復活しておらず、こうして無政府状態の『駄弁り部』になってるのだ。

 

 

 

 いつもの日常。

 駄弁って笑う日々。

 

 

 

 そんな中、俺は。

 

「なぁ、未来」

「んー?」

 

 戦局も中盤戦。若干俺が押され気味のチェスをしている途中、俺は対戦相手の未来に声をかけた。

 未来は所持品のペットボトルから水分を摂取しながら、俺を横目に見る。

 

 

 

 

 

「俺ん家に小人が住み着いたわ」

「ブハッ!」

 

 

 

 

 

 明後日の方向に虹を生み出す白髪男。

 隣の二人も「は?」と真顔で俺を見ている。

 

「どうすりゃいいと思う?」

「……僕は何て答えればいいと思う?」

「だよな……」

 

 俺は大きく溜め息をついた。

 その様子を見て、学校では有名な不良少年たる兼定が呆れ顔でナイトの駒を動かす。

 

「……冗談言ってる訳じゃねェな。マジもんか?」

「どうやら本物らしいぜ。だから困ってんじゃん」

 

 俺は小人――幻想郷と呼ばれる場所に住んでいた住人が、俺の家に来た経緯を三人に説明する。ある者は苦笑いを浮かべ、ある者は眉を潜め、ある者は興味深そうに話を聞く。

 俺だって絵空事を説明している気分だ。

 それでも三人は話を聞いていた。

 

 兼定側のチェスが終わるのと、俺の話が終わるのが同時だった。

 勝ったのは龍慧。当然の結果だろう。

 龍慧は微笑みながら俺に感想を述べる。

 

「ぜひとも、紫苑の家にお伺いしたいですね。相変わらず紫苑の周りは面白いことが起こります」

「え、コレ信じるの?」

「テメェが雑談のためだけに戯言抜かす奴なわけねェだろ。信じられねぇことに代わりはねぇが……」

 

 さすが小さい頃からの仲。俺の発言の真偽を長年の勘だけで判断しやがった。

 嘘ではないから別に構わないが。

 

「けど、その幻想郷の賢者……だっけ? その人からは口止めされてるんじゃないのかな? 僕達に話しちゃって大丈夫なの?」

「絶対ボロが出るに決まってんだろ。よく考えてみろよ、自室と風呂便所しか使えない生活なんかしてたら、お前等のうちの誰かが疑ってかかるに違いねぇ。数か月くらいならまだしも……例えば水道管とかのトラブルとかどーすんだ? もう俺が隠せるレベルの秘密の範疇超えてんだよ」

「確かに……そう言われると無理がありますね」

 

 こういう秘密を隠し通せる経済力と人脈が豊富な奴なら話は別なんだろうが、現代社会で一般的な高校生活を送っている一学生には荷が重すぎる。電気ガス水道のトラブルを始めとして、クーラーの取り換え――それ以前に両親が帰ってきたら確実にバレるのは目に見えてるしな。そんなに世間は甘くないってことだ。

 ラノベの世界みたいに鈍感な人間がゴロゴロいるとはさすがに思ってない。特に近所の奥様方はそういう変化に敏感だと未来が前に言ってた気がする。

 

「それに俺の会話を聞いてなかったか? 『……もし知られてしまったら、物凄く困る』と言われただけで、言うなとは一言も言われてないんだぜ。じゃなきゃ俺がお前等に話すかよ」

「……屁理屈だなぁ」

「屁理屈も立派な理屈さ」

 

 この情報を漏らした一番の理由は、協力者が数人は欲しかったためだ。もしものことがあった時の為に口裏を合わせてくれそうなのは、俺の知ってる面子ではコイツ等しかいない。口外されたくないのなら絶対に念を押すだろうし、紫もそのことは考慮して……あぁ、『言ったところで誰も信じない』可能性もあったか。もしそうならご愁傷さまだな。

 それか家主たる俺に強く出られなかった、か。コイツ等なら今の情報を悪用はしないだろうし、大丈夫だろ、うん。

 

「お前等絶対に言うんじゃねぇぞー」

「写真見せたって、こんなん誰が信じるンだよ」

「合成写真かな?」

 

 逆に信じられないってことか。確かに加工さえすれば、彼女らのように小さくなっている風を装えるし、もしかして公にすることで隠せるのだろうか? さすがにこれ以上広めようとは思わんが。

 なんて考えながらルークの駒を動かす。

 未来のキングが風前の灯火。

 

「チェック」

「あらら。まぁ、本題に戻るけど小人ちゃん達とコンタクトを図りながら、頑張って共存する道しかないんじゃないかなー」

「追い出す選択肢がねェんなら、未来が言ったような方法しかねェだろ。分かり切ったこと聞くんじゃねェ」

「まあまあ……紫苑だって誰かに話したい気分だったのでしょう」

 

 龍慧が的確に俺の心境を察しながら兼定を宥める。

 口に出さないと自分が夢見てるのかどうなのか判断しにくかったってのが本音。今でも家での騒動は夢幻かと疑っているぐらいだ。

 効果は的中。少し心が軽くなった。

 

「けどキッチンが使えないのは不便ですね。生活路の一つを断たれた訳ですし、飲み水が飲めないのは厳しい状況なのでは?」

「箱水買えば?」

「湯が沸かせるポットがあればカップ麺を作れるよね。他に自室だけで暮らすには何が必要かな」

 

 そして話は『自室だけで生活するには?』の話題へと切り替わる。それぞれチェス盤の駒を操りながら、必要な物の案を出していく。

 俺はそれに同意したり同調したり反論したり。一人では思い付かなかったことなんかを頭のメモに追加する。やっぱりコイツ等に相談して正解だと思った。

 

 非日常を何の疑いもなく受け入れ、それを皆で考える『普通じゃない』集団。それでも日常の一部であることは明白で、いつものように暗くなるまで雑談を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

「チェックメイト」

「あ」

 

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 紅魔館の一室。

 そこには私を含めた各勢力の代表者が集まっていた。もちろん私が呼び寄せた者達であり、これからの行動を考える緊急会議だ。

 

 呼んだのは以下の面子。

 

 紅魔館の主。

 白玉楼の管理人。

 閻魔。

 永遠亭の医者。

 バ鴉。

 守矢の軍神。

 地霊殿の支配人。

 聖徳導士。

 命蓮寺の大魔法使い。

 そして私――幻想郷の賢者。

 

「何か私だけ扱い酷くありません?」

「??」

 

 バ鴉――射命丸文の疑問に私は首を傾げる。私の説明に間違っているところでもあったのだろうか? 思い返しても問題点は見当たらず、とりあえず無視した。

 幻想郷の避難地が見つかり、仮の幻想郷が作られた今日。各勢力の首脳は次の課題に当たることとなった。それを本当に問題としているかどうかは別として、だ。

 

 私の説明を聞いて各々反応を見せる面々。

 最初に口を開いたのは紅魔館の主――レミリア・スカーレットだった。

 

「私達を集める程度の問題なのかしら? ここの家主……えっと、誰だっけ? ソイツが互いに不干渉を提示してきたのだから、関係修復する必要ある?」

「私も同意ですね。わざわざ外来人……今は私達の方が外来人ですが、彼と無闇に馴れ合う方が問題なのでは?」

「関わらないで済むのであれば、別に自分達から関わる必要なんてないわね」

 

 彼女の発言に同意する地霊殿の支配人――古明池さとりと、永遠亭の医者――八意永琳。干渉否定派の意見は要するに『関わる必要性がない』である。外との交流を絶ってきた私達が、今さら現世の人間と関わるのもおかしな話。

 そもそも彼女等は幻想郷でも他との関係を積極的に行わない。そういう考えに行き着くのは当然か。

 

 しかし、否定派がいれば肯定派も存在する。幻想郷も一枚岩とは言えないのだから。

 彼女等の発言に反論するのは宗教関係者。

 

「それは不義理に値することでしょう? 見ず知らずの方が善意で居場所を提供してくれたのです。何かしらの恩を返すのが道理というものですよ」

「妖怪を受け入れてくれる人間は決して多くはありません。理解者を減らすことこそが愚行なのでは?」

「打算的な考えが彼にあるんなら不干渉でもいいが、覚妖怪曰く、完全に彼の善意なんだろう? だったら恩を返すのが筋ってもんじゃないか」

 

 豊聡耳神子、聖白蓮、八坂神奈子がそれぞれの意見を述べる。特に最後の発言は地霊殿の支配人の表情を変化させるには十分であった。

 

 そう、私は何の保険もなしに彼と接触したわけではない。

 スキマを開いたまま紫苑と接触したが、スキマの中にはさとりを待機させて、彼の心を読ませたわけだ。もし私達を害する意思があるのなら去るつもりだった。

 交渉後、彼女は言った。

 

「『あー、物理の課題終わらないわー。マジやる気出ないわー。妖怪とか幻想郷とかどーでもいいから寝かせてほしいわー』……だったわよね?」

「……はい」

 

 彼の表面意識を一字一句違えずに復唱した私に、古明池さとりは頷いた。深層意識を読むことはできない彼女だが、たぶん寝ていたのではないかと言っていた。つまり彼には私達をどうこうする意思はない訳だ。

 神秘との遭遇よりも宿題のことを考えていたのは予想外だったが。

 

 ちなみに他のメンバーはと言うと、

 

「私はあくまで中立です。閻魔ですから」

「あ、どちらにせよ天狗は不干渉なんで。私としては彼の話を聞いてみたいですが」

 

 四季映姫と文は立場上の中立を宣言する。白玉楼の管理人――西行寺幽々子は黙々と出された大福を食べている。

 旧友のマイペースさに頭を抱えている間にも、言い争いは加熱していく。

 

「だいたい人間如きのために何で私が恩返しなんて考えなくちゃいけないのよ!」

「あら、吸血鬼という妖怪は、恩すら返せない恥知らずの種族なんですね」

「はぁ!?」

「そもそも貴女方も神道や仏教の信者増やしたいだけじゃないの? 信仰が足りないからって唯一の人間に媚を売らないといけないなんて大変」

「……年増」

「アンタも五十歩百歩でしょ……」

 

 それぞれの代表者が子供レベルの言い争いを始める始末。これが人間の倍以上を生きる者達の会議だと思うと、主催者の私の胃が痛くなる。

 これを見ていたさとりは、

 

「……みなさん、それぞれ打算的な思惑がありますね」

 

 ジト目で言い争いを眺めていた。

 これなら紫苑の方が大人に見える。年齢と言動が必ず一致するとは限らない良い例だろう。

 

 しかし言い争いも長くは続かない。

 年のせいなのか、言い争っていた首脳陣は息を切らせて互いを睨む硬直状態へと陥った。とりあえず止まったは良いものの、これからどうやって協力体制を作るか迷っていると、幽々子が食べる手を止めた。

 彼女の皿を見てみると大福が底をついていた。

 

「この大福美味しかったわ~」

「幽々子ェ……」

「どこの大福だったの?」

「あぁ、台所に置いてあったやつよ」

 

 レミリアの大福入手場所に思わず叫び声が出た。

 それ人の家のものでしょう?

 

「家主がここを好きに使って良いと言ったってことは、食べ物も好きなように使って構わないってことでしょ?」

「そうだとしても――っ!」

「それに、この場に居る全員が台所の甘味を全て奪取しているわ。私だけが罪に問われるなんて不公平じゃない」

 

 キッと他の面子を睨むと、全員が明後日の方向を向く。この連中はどこまで私の胃を痛めつければ気が済むのだろうか? もう自分の身を差し出しても丸く収まりそうにはない。

 加えて幻想郷の住民は好戦的。いつ家に穴を開けるかなんて遠くない未来だろう。その時のためにも友好関係を築き上げる必要があるのに、こうも意見や思想がバラバラだと、まとめるのに時間が……。

 う、胃が。

 

 顔を真っ青にして解決策を練っていると、意外なところから突破口が見える。

 幽々子が悲しそうに呟いた一言だ。

 

「そう……なら家主さんと仲良くしなきゃね」

「はぁ? どうしてよ」

 

 レミリアの怪訝な表情に、幽々子が理由を答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって家主さんが食べ物を買ってこないと餓死しちゃうじゃない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全員が紫苑と友好関係を築くことに了承したのは、この発言の僅か30秒後のことだった。

 

 

 

 




裏話

未来「というかコレ話してもOKなやつなの?」
紫苑「言わんとストレスで禿げるわ!」
未来「まぁ、確認とったところでNGでるだけだしねぇ」
龍慧「面白ければ何でもいいです」
兼定「それな」


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3話 自室への侵入者

 学校から帰って来る途中で必要なものをスーパーやら雑貨屋で購入後、俺は大荷物を抱えて家へと辿り着く。家の玄関を潜る頃にはよぞらに星が輝いていた。辺境の中心市街地だけれど住宅街なので、上を見れば星座が見える。

 お世辞にも都会とは言えないからな。

 人が多すぎるわけでもなく、ましてや必要なものが揃わない訳でもないから、そこまで意識したことはなかった。

 

 鍵を懐から取り出して解除する。

 いつもなら暗い家が俺を迎えるのだが、独り暮らしの俺ん家のリビングは明かりがついていた。もう両親がいないのに明かりがついてるって時点で、近所の勘のいい方々は訝しむに違いない。隠す気ねーだろコレ。

 なぜか無意識に溜め息が出る。

 

「やっぱ夢じゃねーよな……」

 

 というかスーパーで買った箱水が重い。

 お湯作れるポットや弁当はリュックに入れているが、20リットルの水が入ってる箱は片手で持つには重すぎる。というか箱水なんて水道水が直に飲めない地域でしか使わないものだと思っていたから、まさか買う羽目になるとは想像すらしなかったわ。

 廊下を歩いて階段を上ろうとしたとき、幻想郷の賢者さんが道の真ん中に浮いていた。

 

「おかえりな――」

「はい退いた退いた!」

「うわっ!?」

 

 もう箱水持ってる腕が限界なので、紫の声を無視して二階へ上がろうとする。ここまで来るのに行き交う人々が俺を珍しそうに見ていたのも同時に思いだし、この箱水を自室まで早急に運ぶのだ。

 マジ恥ずかしかった。これからは休日に運ぶとしよう。

 

 ドタドタと音をたてながら階段を上り、自室の扉を足で開けて中に入る。

 あー、重かった。近くのスーパーで買えばよかった。

 

「あ、あの……」

「んぁ?」

 

 荷物を全部床に下ろしていると、控えめな声が聞こえて振り返る。もしかしなくても八雲紫だった。

 

「それは何?」

「キッチン使えないから箱水買って来たんだよ。飲み水ないと俺が死ぬし。あとポットとか保存食とか……まぁ、自室で生活を完結できるようにしたってわけ。これで俺がリビング行くこともなければ、幻想郷の住人に迷惑かけることもなくなるだろ?」

「その件についてなのだけど――」

「ほら、ここには来んなって言っただろ。自室とトイレ風呂以外は自由なんだから、さぁ出ていた!」

 

 7センチ弱の妖怪を丁重に部屋の外へ出し、扉を閉めて鍵をかけた。幻想郷の住人が何らかの侵入手段があるかもしれないが、わざわざ鍵をかけた人間の部屋に入っては来ないだろう。

 というか、何で紫は俺のところに来たんだろ?

 用があったのかもしれないが……どうせ面倒事なんだと思う。もう今日は疲れたんや。

 

 誰もいない部屋の中、俺は制服から私服に着替えてデスクトップ型のPCを起動させる。テレビはリビングにあるから見れなくはなったけど、どうせニュースや『笑○』が見れなくなるだけで、PCがあれば十分だ。

 そう、十分だ。

 十……分……。

 

 俺はPC前に頭を打ち付ける。

 

 

 

「『○点』見れないのか……」

 

 

 

 地味に精神的なダメージを受ける。

 『笑○』見れないとか、人生に生きる価値があるのだろうか? いや、ない。反語。

 もしそうなら小型テレビでも購入しようか。ちょうど週末に小型冷蔵庫買う予定だしね。

 

 そしてPCが完全に起動したので、俺は前からやっているオンラインゲームを始める。前々からゲームは好きだったけれど、リアル関係なしに交流できるオンラインゲームは個人的に楽しい。

 今やってるのはRPG系のゲーム。廃人のように金をかけているわけでもなく、自分のキャラの強さは中の上ぐらい。普通に楽しめるから別に気にしていないけど。

 

 インした俺は初めにチャットでギルドメンバーに挨拶して、適当にクエストを進めたりする。

 自分の所属しているギルドは特別縛りのない、ゆるゆるなギルドだ。チャットや交流が盛んで、廃人が4.5人いる。

 

 チャットでギルドの弄られキャラたる『暗闇』という人を暴言にならない程度にディスりつつ、収集系クエストを黙々とこなしていた。

 ……が、どうにも最後の一個が見つからない。

 ゲームパッドでキャラを操作しながら、マップと照らし合わせて首をかしげているのだった。

 どこ見落としたっけ?

 

「そこ最後の一個じゃない?」

「お、マップの端かよ。サンキュー」

「えへへ、どういたしまして」

 

 NPCの後ろに置くかよ普通。

 そういえば『暗闇』さんが数日前に、こんな感じのクエストが終わらないと3日間ずっとさ迷ってた気がする。

 

 っと、ボス戦か。

 

「なんか強そうだね。勝てる?」

「うーん……まぁ、大丈夫だろ。俺のキャラのジョブは火力職だし、上手く立ち回れば倒せないことはない」

「そっか。あ、倒せた」

 

 一人用のクエストボスなんだし、装備整ってる火力職がソロで倒せるように設定されているはずだ。これで死んだらゲーム内の大半のジョブが詰む。運営に苦情を入れる。

 俺は街まで戻って装備を修理したり、所持品の整理をしたり、マーケットで他プレイヤーが出してる売り物をチェックする。

 

「このキャラの着てる服可愛いね。こんな服、私も着てみたいなぁ」

「君なら似合うんじゃないかな?」

「そう? ありがとう!」

 

 マウス動かしている右手の近くでPC画面を鑑賞している緑髪の女の子(・・・・・・)が嬉しそうに微笑――

 

 

 

 

 

「って、いつの間に!?」

「あ、気づいちゃった?」

 

 

 

 

 

 なんか普通に会話してたような気がするけど、ちょこんと地べた(机の上)の上に座り、こっちの方を笑顔で首をかしげて見てきた。

 身長は紫とは違って5センチ弱。実際の身長なら俺の胸辺りの位置に彼女の頭上が来るのではないか?というくらい小さい少女。こんな風に説明しているけど、ある単語を使えば長文使わずとも一発で理解できるだろう。

 

 

 

 つまり『幼女』である。

 

 

 

 緑髪の幼女はニコニコと無邪気に笑う。

 

「初めまして、巨人さん」

「巨人……君達が小さいだけだろ……?」

 

 この前兼定に貸して貰った漫画の影響もあってか、どうにも『巨人』と呼ばれるのは少し勘弁してほしい。

 物理的に人間は補食しないよ?

 駆逐されたくないよ?

 

 巨人と呼ばないでくれと頼んでみると、物怖じしない幼女は質問してくる。

 

「じゃあ、何て呼んだらいい?」

「代替案は持ってないけど……まぁ、変な呼び方じゃなければ何でもいいかな。夜刀神でも紫苑でも、お好きなように」

「なら『おにーさん』でいい?」

 

 おにーさん、か……。

 兄弟や姉妹のいない俺にとっては新鮮な響き。しかも美幼女に上目遣いで言われたとなれば、なんかこう……心にグッと来るものがある。素晴らしい。

 内心は歓喜しながらも俺は平然を装った。

 

「いいよ、それで」

「わーい! あ、私は古明池こいし!」

「不思議な苗字だな」

 

 ナチュラルにブーメラン発言をする俺。

 後から考えたら『夜刀神』も相当珍しい名前であったと遅れながらに悟る。

 彼女のペースに乗せられていたのを互いの自己紹介後に思いだし、俺は自分の寝床へ帰るよう言ったが、

 

「嫌だ。だって地下は面白くないんだもん」

「地下まで使ってんのか……どんだけ移住してきたんだ?」

 

 頬を膨らませて拒絶された。こうなると無理矢理返すのも犯罪臭漂って躊躇われる。どうやら紫は自室と風呂場以外をフル活用して幻想郷を作り上げたのか。遠慮というものを知らんのか、アイツ等は。

 そして、彼女との会話はこいしが前に住んでいた幻想郷の話――つまりは『旧地獄』と呼ばれる場所の話題になった。ついでに俺は緑髪の幼女との会話で『旧地獄とはどんな場所なのか?』を詳しく知ることとなる。

 

 旧地獄――通称『地底』『地底世界』。

縦穴を下らないと行けない場所で、鬼達が築いた巨大都市『旧都』や、中心区の地中にある灼熱地獄跡地の上に『地霊殿』建っており、地霊殿はこいしの家なのだとか。

 地底生まれの妖怪や動物、地上を厭い移住してきた地上の妖怪や、忌み嫌われて封印された妖怪などの妖怪の中でも『ヤバい奴等』が主な住人であるらしい。んな奴等が俺ん家の地下にある書庫に住み着いてやがるのか。

 

「そんで旧地獄と幻想郷の妖怪達は不可侵条約を結んでいると。基本的に地上の人間や妖怪を疎んでいる連中が多いから」

「うん、怨霊や亡霊が地上に出さないようにすることを引き換えにね」

 

 そして地霊殿の主……つまりは彼女のお姉さん。古明池さとりという妖怪が地底の代表格。

 彼女の姉がなぜ地底に住んでいるのか。それは名前から察することは容易だろう。

 

「お姉ちゃんは〔心を読む程度の能力〕を持ってるんだ。だから他の人達とあんまり関わらないの」

「難儀な能力だね……常人なら発狂するぜ?」

 

 つまり『悟り妖怪』なのだ。

 他人の心を読むことができるため、地上の妖怪やら人間やらに忌み嫌われている。確かに現代人の俺から見ても、心を無断で読まれるのは良い気分とはいかない。

 本人が地霊殿に籠っていたとこいしが話す辺り、彼女も心を読むことは不本意だったのだろう。

 

 同時に俺は納得した。

 そんな妖怪がいるのなら、なぜ紫が俺の言葉を信じて幻想郷を俺ん家に作ったのか分かったからだ。何らかの悪意があるのを警戒するはずなので、恐らくこいしの姉に俺の心を読ませたのだろうよ。

 あのとき俺は何考えてたっけ?

 覚えてないや。

 

「大変だなぁ、その人」

「おにーさんはお姉ちゃんのこと気味悪がらないんだ」

「だって故意じゃねーんだろ? 内心暴露とか洒落にならんが、不可抗力なら許せる」

 

 諦める以外の選択肢あるか?

 それだけで彼女の姉を忌避するのは可哀想だろう。

 しかし、俺の持論はこいしには珍しい考えだったようだ。目を丸くしていた。

 

 こいしと雑談していてはゲームなんて進みやしない。

 彼女と会話しながら俺はチャットで『落ちまーす、お疲れさまでしたー』と打ち込んでゲームを落としていた。彼女がハイテンションで喋るのを相槌を打ったり、時々質問したりしていると、時計が11時を過ぎていた。

 

 飯食ってない。

 風呂入ってない。

 

 やっべー。

 俺は立ち上がってこいしに帰るよう催促する。

 

「ほら、良い子は寝る時間だ。地下室に帰りな」

「えー」

 

 俺は着替えを持ったまま一階の風呂場に行く。

 部屋は開けっ放し。さすがにこいしも地下室に戻るだろうと考え、俺は彼女が帰ることを前提に出たのだ。彼女が好きな姉も心配するだろうし。

誰とも接触することもなく、俺は風呂に入ってシャワーで済ませる。湯船に湯を張るには独り暮らしだと贅沢過ぎる。

 

 今日だけでも色々あった。

 日付変わる前に寝よう。ちょいと早いけど。

 さっと体を洗って頭洗って、ついでに髪をドライヤーで乾かして、20分も経たずに自室に戻ると、

 

 

 

 

 

「おにーさんお帰りー」

「………」

 

 

 

 

 

 俺のベッドの枕元にハンカチで簡易な布団を作っているこいしちゃんの姿があった。誰の目から見ても地下に帰るような妖怪のする行動ではない。

 俺は膝から崩れ落ちた。

 目元には一筋の光。

 

「Oh……俺の安眠……」

「寝るんでしょ? おにーさん」

「せやね」

 

 悪意のない笑みほど厄介なものはない。

 枕の横に寝そべっている幼女。これじゃあ寝返りをすることさえ難しくなってくる。最悪、こいしを潰しかねない。

 幻想郷の住人って彼女や霊夢のようにフリーダムな方々が多いのだろうか? 俺の胃を徹底的に苛めたいのだろうか? 俺なんか彼女達に悪いことでもしたのだろうか?

 

 ワクワクした表情で待機する幼女に、俺は引きつった笑みを浮かべることしかできなかった。どう繕っても純粋に笑えなかった。

 俺ん家なんで霊脈なん?

 

「……もういいや」

 

 何度目か分からない思考放棄。

 俺は電気を消してベッドに横になる。もちろん枕元の小人を押し潰さないように目を凝らして。

 

 明日は土曜。休みだ。

 なのに鬱になっているのはなぜか。

 

「~~♪」

「………」

 

 月の光が窓から差し込む俺の部屋に、上機嫌な鼻唄が眠りにつくまで響き渡った。

 

 

 

 

 

 それはお世辞にも上手いとは言えなかったが。

 不思議と――安心した。

 

 

 

 




裏話

こいし「うーん……おにーさんといると楽しいなぁ」
紫苑「Zzz」
こいし「もっとおにーさんのこと知りたいなぁ」
紫苑「Zzz」
こいし「そういえば『がっこう』って場所に行ってるんだっけ?」
紫苑「Zzz」
こいし「……(・∀・)ニヤニヤ」


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4話 食糧問題と悪魔

 金平糖。

 

 

 

 砂糖と下味のついた水分を原料して作られ、表面に凹凸状の突起(角状)をもつ小球形の日本の菓子だ。

 『金米糖』『糖花』とも表記され、語源はポルトガル語のコンフェイト。金平糖がカステラ・有平糖などと一緒に南蛮菓子としてポルトガルから西日本へ伝えられたからポルトガル語が由来なのだろう。初めて日本に金平糖が伝わったのは戦国時代の1546年(天文15年)なんて説もある。

 18世紀には一般でも広まってたらしい。

 

「ポリポリポリポリ……」

 

 そんな南蛮由来の和菓子を一心不乱にかじる幼女。

 俺は朝飯に昨日食べ損ねた弁当を咀嚼しながら、物珍しそうに眺めていた。他人の食事を見つめ続けるのは失礼かと思ったが、当の本人が気にしてない。

 

 土曜日。つまり休日。

 朝起きた俺が弁当を食っていると、自分も何か欲しいとこいしが言い出したのだ。妖怪も人と同じような食事をして生きているらしい。

 何かないかと机の中にあった金平糖の入った瓶を差し出し、現状に至る。デスクトップPCのキーボードを退かして、PC前で幸せそうに金平糖を食していた。

 

 

 

 彼女が自室に入っているのは諦めた。

 どーせ何言っても気が済むまで去らないだろう。

 

 

 

 問題があるとすれば……

 

「ポリポリポリポリ……」

 

 こいしの隣で同じく一心不乱に金平糖を貪る桃色の髪をした女性を半眼で睨む。

紫と同じ系統の美女で、貴婦人のように机に腰を下ろしながら、ブラックホールか何かと見間違うレベルで金平糖を減らしていくのだ。もう瓶の底に二個しか残ってないんだけど。

 加えて隣には申し訳なさそうに佇む銀髪の少女。

 

 ピンク色の髪をした女性の名前は西行寺幽々子。白玉楼(現在は隣の部屋)に住居を構える、幻想郷では転生を待つ亡霊を管理していた方。

 そして少ない交流で分かったことは――この人が馬鹿みたいに食材を過剰摂取するモンスターだということだ。これを人間等身大で換算したらと思うと、銀髪の少女――魂魄妖夢に同情してしまう。彼女に渡した金平糖も己の主人に食われてたし。

 なんて言っている間にも幽々子さんは瓶の中に入って金平糖をゲットしている。

 その胃袋どこに繋がってるんや。

 

 

 

 

 

 彼女達が来たのは俺とこいしが食事をしていた時。

 

 

 

 

 

 普通に自室の扉を開けて入ってきた二人は、何か要件を言う前に言葉を切ってしまう。

 

「初めまして~、家主さ――金・平・糖うううううううううううううううううううううううううううううううう」

「私の名前は魂魄妖夢と言い――幽々子様ぁ!?」

 

 最初は『綺麗な人だな……』と思ったが、今では『なんやこの食欲魔人』だ。金なくて数日断食してた作者でさえ、ここまで食事に飢えていなかったはず。

 もしかしてご飯食ってないのか疑ったが、

 

「さっき戸棚の等身大大福食べたばかりでしょおおおおおおおおおお!!??」

 

 ただの食欲の化身だったわ。

 つか俺の大福食われたんか。あれ貰い物だったんだけどなぁ。

 

 はい、こんな回想しているいる間にも金平糖底を尽きました。

 ……おい、ピンクの悪魔。こっち見んな。この弁当はやらんぞ。

 

「美味しかったね~」

「そうね~」

 

 楽しそうに金平糖の感想を述べる幼女とブラックホール。

 俺は後で銀髪の子に食べれるものを渡そうと心に決め、幽々子さんにここに来た理由を聞く。

 

「で、紫から話は聞いてなかったか? ここと風呂場は幻想郷の住人が近づいてはいけないって決まりだぜ?」

「でも無意識の彼女はココで寝たんでしょう?」

「無意識?」

 

 今さらながら俺は彼女が何の妖怪なのかを知らなかった。

 お隣さん曰はく、幻想郷の実力者には「○○程度の能力」を持っていると聞いた。どれも妖怪としての特性だったり、自身特有の能力だったりと様々だ。

 

 古明地こいしの能力は〔無意識を操る程度の能力〕。

 相手の無意識を操ることで、他人に全く認識されずに行動することができる能力。たとえ彼女が目の前に立っていたとしても、その存在を他者が認識することはできない。マジかよ。

 

 その説明を受けて俺は首を傾げた。

 

「あれ? 何で俺は認識できたんだ?」

「さぁ?」

 

 能力を教えてくれた幽々子さんよ当の本人が分からなかったんだ。深くは考えないことにした。

 分からんものを深く考えたって仕方ないやろ。

 

「というかこいしさんと一緒に寝たんですか!?」

「あらあら~、お盛んね~」

「茶化すなよ……」

 

 初心な反応を見せる銀髪の少女と、マイペースに意味ありげな視線を送ってくる桃髪の女性に、俺は呆れを含んだ溜息交じりの声を出した。

 フィギュアみたいな彼女達に欲情するような特殊な性癖は持っていない。

 確かに彼女等は可愛いけどさ……それとこれとは話が別。

 

「私がここに訪れたのは食料に関することなのだけれど……」

「まだ食い足りんか、貴様は」

「今回は腹八分目にしておくわ。そうじゃなくて長期的な話よ」

 

 腹八分目の話はスルーして、俺は食欲魔人の話に耳を傾ける。

 つまりは今の幻想郷に食料生産能力は存在しないわけだ。家の中に畑を作るのは無理だし、出来るとしてもモヤシを栽培することぐらいか? そうだとしてもモヤシだけを食べる生活は耐えられない。

 家の外に使ってない花壇があるけれど、それで作れるものは限られてくる。

 

 ならばどうするか?

 いるじゃないか、外の世界に食料を買いに行ける奴が。

 

「私達だって場所を提供してくれたのは嬉しいし、その恩に今の私達は報いることはできないのは良く知ってる。でも頼めるのが貴方しかいないのよ」

「あー、そういや食い物のことは考えてなかった」

 

 よくよく考えればわかること。それに気付かないなんて昨日はよっぽど疲れてたんだろうな。

 今は幻想郷の住人は冷蔵庫や戸棚などの食料で繋ぎとめられるだろうが、それも一時的な供給にしかならないはず。幻想郷(仮)に待っているのは食糧難。

 食べ物があふれている現代日本で餓死なんて滅多に起こらないことだけに、食い物すら買いに行けないスモールサイズの幻想郷の住人が何と不憫なことか。滅びを待つだけなんて冗談じゃない。

 

 だから西行寺幽々子――まぁ、幻想郷の住人は俺に頼んできたのだろう。

 図々しいと思えばそれまでだけど……俺の家に餓死した死体が散乱するのだけは避けたい。罪悪感で軽く死ねるわ。

 

「でもなぁ……」

 

 そうなると幻想郷の住人との接触は避けられないだろう。

 不干渉を提案しておいて次の日には破るとか笑い話にも程がある。

 

 俺の漏らした言葉を否定に近い何かと勘違いしたんだろう。

 桃色の女性は机の上で綺麗に正座をし、深々と地面に頭を下げた。それに銀髪の少女も倣う。

 

 

 

 

 

「幻想郷の住人を代表して……どうかお願いできませんか?」

 

 

 

 

 

 それは一昨日の夜に紫が行ったことと同じことだった。

 俺に否定権はあるのだろうか?

 

 俺は深く深く深く溜息をついた。

 昨日今日で何回溜息をついたか計り知れない。若干イラついているのは、こうなる未来が僅かながら心の底で分かっていたような気がするからだ。

 そして椅子から立ち上がった俺はリュックに入っている財布と、壁に掛けてあった大きめの手提げ鞄――エコバッグ代わりに使用している鞄を携える。ベッドに置きっぱなしのスマホの手に取って電気残量を確認し、尻ポケットに差し込む。

 

 唖然とする三人をよそに俺は部屋から出ていこうとして――想いだしたかのように机の上にいる面々を呼ぶ。

 

「ほら、行くぞ」

「い、行くって……どこにですか?」

 

 戸惑いを隠せない妖夢に、俺は仏頂面で外を指差した。

 

 

「買出しだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「「「うわ~」」」

「……無意識ってホントに便利だよなぁ」

 

 所変わって少し遠めのデパート。

 休日の昼だからなのか主婦の皆様が多く、特売セールのアナウンスが響き渡る。

 手提げ鞄の持ち手を肩に通し、近くのスーパーに来なかったのは、ここで小型のテレビと冷蔵庫を買ったからだ。家に来るのは数日後だろう。

 

 小人達は手提げ鞄の中から顔を出してデパートの様子を観察し、初めて見る光景に一々反応して感嘆の声を上げるのだった。俺の耳に聞こえるくらいはしゃいでいるが、行き交う人々は何事もなかったかのように通り過ぎていく。こいしの〔無意識を操る程度の能力〕は本当に便利だ。

 食品売り場で品定めをしながら苦笑する俺。

 

「おにーさん、あれ何?」

「カレーのルーだな」

「家主さん、それは何かしら?」

「焼き肉のタレ」

「紫苑さん! あの武器は!?」

「ラバーカップや。武器ちゃう」

 

 質問攻めにしてくる幻想郷出身の小人達。口を動かすのは苦労しないので説明しながら、足りないものや欲しいものを買い物かごに入れていくのだった。

 昔、俺の家に駄弁り部の連中が来た時、晩飯に何を作るかでスーパーでワイワイと買い物したことを思い出し、それと同じ状況だなと笑う。あの時はアホ共が関係ないものまで悪ノリしてかごに入れていくものだから、会計で入れた覚えのないものを清算した記憶がある。ハヤシライス作るのに何で諭吉が二枚飛ぶんだ?とか。

 

 あの時とは面子も(物理的)大きさも違う。

 なのに既視感を覚えるのだ。

 

「幻想郷の住人の食料を買うとなると……どのくらい必要かね」

「幽々子様を除けば、そこまで多くの量は必要ありません。幽々子様の胃袋がヤバいんです」

「うん知ってる」

 

 俺の考えでは幽々子さんの食う量と、こいしの食べた量から計算して『幻想郷の住人達=幽々子』の方程式で食材をかごの中に入れていた。つまり幽々子さんが食いたいものを指定して来たら、その二倍はかごの中に入れる……みたいな塩梅だ。

 後から妖夢から聞いたら、正確には『幻想郷の住人達<幽々子』だったらしいが。

 ピンク色の悪魔マジ怖い。

 

 適当に食材放り込んで会計に並ぶと、ちょこんと鞄の中から顔を出す妖夢が不安そうに俺を見ていた。周囲を気にしながら訳を聞いてみると、どうやら俺の財布を気にしているようだ。

 

「えっと、その……お金の方は大丈夫なんですか?」

「うーん……大丈夫」

 

 頭の中で計算してみると三人分の食費の計算となった。

 要するに幻想郷の住人を受け入れることは、二人の人間が居候するのと同じ計算となる。今のところは支払える程度の金は持っているが、こうなるとバイトのシフトを増やしてもらおうかな。あと国外で働いてる義理の両親から受け取り拒否していた分の仕送りを貰うのも考えた。

 妖夢が心配するほど頭を悩ませる問題じゃないわけだ。

 バイトしてたけど使い道がなくて貯金していた分もあるし。

 

 会計も終わって袋詰めを行い、エコバッグとレジ袋を携えて帰ろうとした矢先、

 

「――紫苑かァ?」

 

 不良に絡まれた。

 デパートから出ていこうとしたところで灰色の髪の少年に会う。

 

「よ、兼定。お前も買い物か?」

「今日はクソジジイとクソババアが帰ってこねェンだよ」

 

 不良少年――兼定は舌打ちをしながらレジ袋を揺らす。あぁ、兼定はココ近辺に住んでいたわ。

 コイツは別に貧困というほどでもないが、俺と同じで両親が家にいないことが多い。しかも三歳離れた年下の妹がいるため、こうして晩飯作るために買い物に来るとか。外見と行動が一致しないことなんてザラにあるだろ? 俺は幽々子の食いっぷりを思い出しながら苦笑する。

 口は悪いから学校の面々は勘違いする。本当は妹想いの兄なんだよ。

 ツンデレなだけで。

 

 そんな考えをよそに、兼定は俺の買い物量を見て目を細める。

 

「昨日言ってた幻想郷って所の連中の食い物か?」

「そゆこと」

 

 この言葉に小人達は驚いていた。

 認識されないから声を上げるものもいたが、まさか自分たちの存在を普通に受け入れている者がいるとは思わなかったのだろう。俺がコイツに話したことも含めて、だ。

 

「テメェも面倒な奴等を引き入れたもンだぜ。小さい奴等のパシリは楽しいかァ?」

「はいはい、早くお兄ちゃん帰らないと妹心配するぜ?」

「ぶっ殺すぞ」

 

 こういう馴れ合いも日常風景だ。

 デパートから離れながら雑談をしながら並んで歩き、家の方角が分かれるまで世間話や罵倒、罵り合いを繰り広げるのであった。

 別れ際、兼定に背を向けたら声をかけられる。

 振り返ると何かが俺に投げつけられ、反射的に俺は袋を持っていないほうの手で掴む。

 

 キャッチしたのは兼定のレジ袋に入ってた惣菜だった。

 投げつけてきたであろう本人は俺に背を向けながら、レジ袋を持ってない手をヒラヒラさせて去る。「せいぜい頑張りな」と言いたげに。

 

「いい人だね~」

「たまにはな」

 

 こいしの兼定に対する評価に、俺は苦笑した。

 ツンデレなアイツの前では口が裂けても言えないだろう。

 

 俺は貰った惣菜をエコバッグに入れながら笑うのだった。

 

 

 

 

 

「これ食べていい?」

「やめんか悪魔」

 

 

 

 

 

 家に帰るころには惣菜は現世に存在しなかった。

 

 

 

 




紫苑「メインヒロインどうしよっかね……って作者が」
幽々子「どうするの?」
紫苑「だから活動報告でアンケートとってるで」
幽々子「(・∀・)イイネ!!」
紫苑「というわけで興味ある方は投票してくれると嬉しいな。あ、感想欄には書かないでね? 消されるから」
兼定「……霖之助」
紫苑「やめい」


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5話 すれ違い

「ねぇ、本当に理解しているんでしょうね?」

「何度も五月蝿い。さすがに食料云々は必要だし、頭下げるわよ」

 

 玄関前で紫苑の帰りを待つ間、私は何度も霊夢に注意を促す。この他人に一切興味ない博麗の巫女は、幻想郷の妖怪に負けず劣らず厄介事を引き起こす。

 この前の会議だって、幼い(外見の)妖怪や妖精達の面倒を見ていた人里の代表者――上白沢慧音と違い、「行くの怠い」って理由だけで来なかったし。毎日を冷蔵庫の中にある食料を食い潰して寝るだけの生活を見て、毎日頭を抱えている私の身にもなって欲しい。

 

 というか今回の頼み事も霊夢一人でやってほしかった。

 こっちは他にやることがある。

 

「えーと……この後は何するんだっけ? あー? 旧地獄(地下の書庫)の結界調整? 妖怪の山(一階の和室)への訪問? 天界(屋根裏)の環境調整? 他には――」

「……それ藍にも手伝わせたら?」

「手伝わせてコレなの!」

 

 手帳で今日やるべきことを確認しながら、それを覗き込む霊夢に怒鳴る。

 この半ニートが。

 

 藍には水道などの設備をスキマを利用させて整えさせているのだ。食糧問題と同じくらい重要なことで、これ以上自分の式に任せたら過労で死ぬだろう。今の藍ですら死んだ魚と同じ目をしている。

 水道を夜遅くまで引いて、マヨヒガ(白玉楼の横)で死んだように眠る。それを繰り返して今に至るのだ。

 もう少しで終わりそうだから彼女は休めそうだけど。

 

 私はスキマから胃薬の錠剤を取り出してかじり、スキマの中に収納する。申し訳ないけどリビングから4,5錠を拝借させてもらった。最近はコレがないと生きられない体になりつつある。

 その光景にはさすがの霊夢も引きつった表情を見せる。

 

「……ごめん、アンタって胡散臭いことを裏舞台で繰り広げて、厄介事を増やしていくような印象があったわ。苦労してるのね」

「これ以上変なことしたら許さないわよ」

 

 かなり本気の殺気を霊夢に向ける。

 居心地が悪くなったのだろう。霊夢は慌てたように話題を変えた。

 

「そ、そう言えば! あの家主……紫苑だっけ? アイツも私達のような能力を持っているのよね?」

「え?」

 

 霊夢の言葉は私の手帳をめくる手を止めるには十分な発言だった。思わず彼女の顔を凝視する。

 彼にも幻想郷の住人と同じように、特殊な能力を持っている?

 

「ほら、アンタが『夜刀神紫苑がどんな人間か?』って観察してたときに、あの覚妖怪が私に教えてくれたのよ。忙しいから紫は気づかなかったってことね」

 

 確かに学校やら家での生活を、彼と接触する数日前から観察していたが、それは彼の人となりを調べるためのものだったので、そこまでは気づかなかった。

 あの小五ロリ、黙ってたのか。

 

 なら彼の能力は?

 私は霊夢に尋ねた。

 

「さとりの話を聞いてみたけど、なんというか……うん、何とも言い難い能力だったわ」

「勿体ぶらずに教えなさい」

「しかもアイツは毎日のように能力を使ってる」

 

 毎日のように!?

 私は我が目を疑った。

 

 妖怪などの神秘が失われつつある現代で、その神秘の筆頭である『程度の能力』を毎日のように使用している? それを私が気づかなかったことにも驚いたが、彼は大丈夫なのだろうか?

 

「けど彼は霊力が少ないわよね?」

「私から見れば『ない』に等しい量よ。でも霊脈の真上で生活していたからなんでしょうね。能力が開花しちゃったってことじゃない?」

「で、肝心の能力は?」

「使用していたのは学校?ってところの、主に夕方辺り。さとり曰く『世が世なら世界に名を轟かせていたであろう』ってさ。将棋や囲碁とかで使ってたらしいんだけど、自分と相手の状況を即座に把握し、相手の行動を無意識に読み、物事を有利に進める能力。言い換えるなら――」

 

 

 

 

 

 〔戦局を見極める程度の能力〕かしら?

 

 

 

 

 

 数秒間考えた後、私は感想を口にした。

 

 

 

「必要なくない? それ」

「ぶっちゃけ必要ない」

 

 

 

 可哀想ではあるが私と霊夢の意見は重なった。

 戦時中の日本なら稀代の名将として名を残したのだろうけど、平和過ぎる現代日本に必要なのかと言われたら、あればマシ程度の能力。

 なるほど、思い返してみれば彼が将棋や囲碁、チェスなどで負けるところなど見たことがない。

 

「私でもやろうと思えば再現出来なくもない能力。盤上で遊ぶときぐらいしか使い道のない能力に意味ってある? 弱い能力だから弾幕すら出せない霊力で使えるんだろうけど」

「しかも得られる情報を生かすも殺すも自分次第。ボードゲームならルールさえ分かれば展開できるけど、自分の知らない領域で生かせる訳もない、と」

「そういうことよ。付け加えるなら、その能力を維持できるのも一日に一時間程度」

 

 つまり彼の能力は、生かせるだけの頭脳がなければ真価を発揮できない制限付きの平凡な能力というわけだ。それを高校生が持っているとなれば、生かせるはずもないのは必然だろう。

 永遠亭の医者が持ってたなら話は別だが。

 驚異と言えるほどでもない。

 

 心配して損した。てっきり幻想郷の実力者と同じような能力を持っているのだと思った。しかし、〔戦局を見極める程度の能力〕ならば、存在が稀薄となって能力が低下した私達でも対処できる。

 

 

 

「……まぁ、さとりは違う考えなんだろうけど」

 

 

 

「ん? 何か言った?」

「なんでも」

「貴女がわざわざ言い出すから、思わず警戒しちゃったじゃない。胃薬の摂取量を増やすようなこと言わないでちょうだい」

 

 私が溜め息をついた刹那、私の張った結界に反応があった。彼の敷地の入り口に独断で張らせてもらった結界で、侵入者を察知できる結界だ。

 他にも霊夢が『悪意ある者を寄せ付けない結界』も張っている。

 

 恐らく外に出掛けていた彼が帰ってきたのだろう。

 急いで姿勢を正す。

 

「どうしよう……胃が急に痛くなってきた。もし断られたら……」

「……アンタ大丈夫?」

 

 霊夢が心配するくらいに顔が青いのだろう。

 それでもキリキリと胃が痛む。

 

 そんな私達を他所に、玄関の扉が勢いよく開かれた。

 

 

 

 

 

「あ、ちょ!? 惣菜ねーんだけど!?」

「美味しかったわ~」

「私が見張っていたのですが、一瞬にして……!」

「ねーねー、紫苑が御飯を作ってくれるの?」

 

 

 

 

 

 入ってきたのは人間一人と三人の小人。幽々子と妖夢とこいしだ。

 

「「え?」」

「「「「あ、ただいま」」」」

 

 私達を見つけた外出組は声を揃えて言うのであった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 やっぱりピンク色の悪魔は怖い。

 俺は空になったプラスチック素材のトレイを眺めながら悟った。惣菜の入っていたはずのトレイには汚れ一つなく、本当に惣菜が入っていたのかさえも疑わしいくらい、綺麗に平らげられていた。

 俺の晩飯にしようと思っていただけに、そのショックは計り知れない。豚カツ……。

 

 西行寺幽々子(ブラックホール)に苦手意識を覚えていると、玄関に紫と霊夢が目に入ったので挨拶をする。そして、俺はふと気づく。

 

 

 

 俺が「ただいま」って言ったの何時以来だっけ?

 

 

 

 あのアホ共が泊まりに来るときは「ただいま」なんて言わないし、本当に久しぶりな気がした。それこそ、義理の父母が一緒に住んでた短い期間が最後だったはず。

 ただいま、か……。

 懐かしいような、感慨深いような。

 

 昔を思い出している間に、紫は幽々子に事情を聞いていた。霊夢は妖夢に、だ。

 

「幽々子! 貴女どこに!?」

「でぱーと?ってところよ。美味しそうなものが沢山あったわ。今度は紫も一緒に行きましょ」

「外の世界は珍しいものばかりでしたね。このようなものまで買って頂きました」

「え、何これ。美味しそう」

 

 食い物の話だけで姦しくなれるのは、女性のスキルや特性なのだろう。近所のおばちゃん達と姿が重なり、思わず苦笑いを浮かべてしまう。

 まぁ、賑やかなのは悪くはない。

 夜に睡眠の邪魔さえしなければ好きなようにって感じ。

 

「外の人間にバレたら……!」

「大丈夫よ、こいしちゃんが一緒だったし」

 

 俺の肩に乗ってピースサインをする無意識の少女。

 なんか彼女のお陰て他の人に露見することはなかったんだよな。幻想郷の妖怪ってすげー。

 

 紫はホッと胸を撫で下ろしたが、話はそれだけではなかった。

 幽々子は余計なことまで口にする。

 

 

 

「でも家主さんのお友達は知ってるのよね」

 

 

 

 時間が止まったかと錯覚した。

 空中に上下するように浮かんでいた紫がピタリと止まり、そこだけ時間の流れがなかったかのようだった。見間違いでなければ、石のように見えるのは気のせいだろうか?

 そして壊れた機械のように俺を見る紫。

 ぶっちゃけ怖いです。

 

「どう、いう、こと?」

「『俺の家に小人住んじゃって、どうしたらいい?』って昨日の夕方に相談しました。アイツ等は何の疑いもなく信じて、アドバイスを頂きました。事後報告になっちまうけど……遅かれ早かれバレてたと思う」

「……いや、でも本当に信じるはずが」

「今時の人間は妖怪とか信じないと思ったけど、見えないものを信じてくれる人もいるのね。忘れ去られていくだけの存在にとっては、彼のような人は嬉しいわ」

 

 紫は最後の抵抗を試みたが、幽々子のマイペースな感想の前に崩れ去った。破片くらいなら拾ってやろうと思うけど、原因は俺にある。

 反省はしてないけど。一人で抱えるには重すぎる。

 

 泡を吹いて倒れようとする紫を妖夢が支えていると、俺の前まで飛んでくる小人がいた。紅白の巫女服を着た博麗の巫女様だ。

 彼女は険しい顔で俺と対峙する。

 

「どした? 顔怖いぞ」

「アンタ、何したか分かってんの?」

 

 これは怒っているのだろう。

 俺は気づきながらも惚けたように首を傾げた。理由を察せないほど馬鹿じゃないさ。

 

「さぁ? 俺に何か不手際があるのであれば、ぜひともご教示願いたいな」

「そんなことも分からない思考回路してるんなら、アンタの能力も宝の持ち腐れね。幻想郷のことを外部の人間にバラしたことが問題だって言ってんのよ」

「なるほどね、俺が未来や兼定、龍慧に幻想郷のことを言ったのが問題だったのか」

 

 わざと追い打ちをかけるように言った言葉に、紫が灰になって崩れ去る。

 そして霊夢も俺の平然とした態度に殺気立つ。

 

「……ただの偽善者だと思ってたけど、考えなしの大馬鹿者だって理解したわ。アンタのしたことが私達を危険に晒すことだって子供でも分かるわ。所詮は平和ボケした外の人間だってことね」

「霊夢さん、言い過ぎです」

 

 妖夢が諫めるが、霊夢の罵倒は止まらない。

 とにかく俺をなじっているのは分かるし、幽々子やこいしも心配そうに俺の顔を伺っている。今後の関係を想ってのことだろうが、罵倒やなじり文句なんてアホ共と散々繰り広げられてきたから耐性がついている俺に死角などないわ。

 ――だが、言われっぱなしも性に合わないのは事実。

 

「妖夢、これは幻想郷全体の問題なの。このアホには注意しないとまた――」

 

 

 

 

 

「――その考えなしの大馬鹿者に依存しないと生きていけない幻想郷の皆様には頭が上がらないぜ。どうだ? アホに命握られてる気分は?」

 

 

 

 

 

 未来に言われたことがある。

 『紫苑の毒舌と皮肉ってマジで腹立つ』と。

 

「……は?」

「おっと、気分を害したのなら謝ろう。ここは偽善者らしく土下座して謝罪するべきだったなぁ。まったく、俺も気の利かない人間だって痛感するよ」

 

 ドスの効いた声で顔を歪める霊夢に、俺はおどけたように笑いかける。

 正直言おう。俺も怒ってる。

 

「全然反省してないわね、アンタ」

「一つ質問なんだが、霊夢や紫……この際誰でもいいや。俺に対して『幻想郷の住人のことは外の世界の人間に知られてはいけない』ってことを一言でも口にしたか? もちろん、外部に知られた場合の被害も含めて」

「そんなの言わなくてもわかるでしょ」

「『言わなくてもわかる』のは君の物差しで判断したことであって、希望的観測だってことに気付け。みんながみんな君のように察しの良い奴じゃない。んなことも知らんのか博麗の巫女様」

 

 博麗の巫女は俺を殺気を込めて睨みつける。

 その様子を俺は冷めた様子で、買い物袋を床に置きながら見つめていた。

 

「確かに報告が後手になったのは俺の不手際だ。それは謝ろう。でも、さっき言ったことも踏まえて、俺は協力者が欲しかった」

「まずは私たちに話しを通すのが筋なんじゃないの?」

「協力者の選択肢を君達が提示せるような立場だったんなら、こんな苦労をせずに済んだんだけどね。あと筋を通すって、君の口から聞けるとは思わなかったよ。押しかけ同然で、家主の安全すら保障しない幻想郷側からな」

 

 小さいから怖くないのか?

 いやいや、単に理不尽な怒りに反抗したくなっただけだ。

 俺だってNOと言うことだってあることを、幻想郷の住人には認識してもらわないと今後の生活が困る。

 

「怖い怖い、恐怖で人を押さえつけるのが博麗霊夢のやり方か?」

「聞き分けのない子供を叱りつけないといけない時って……あるわよね?」

「弱肉強食の世界で生きてきた人間の言葉は迫力が違うねぇ。でもココは現代日本だぞ? 一昔前の暴力で解決する脳筋共の考え方は時代遅れにも程がある」

「……死にたいの?」

「生きたいに決まってんじゃん。自殺志願者じゃあるまいし」

 

 俺は溜息をつきながら二階に上がろうとする。

 それを止めようとした霊夢だが、本当に止まると思ってんなら頭ん中お花畑だろう。

 

「待ちなさい! 話はまだ――」

「はいはい、また後で聞いてあげるからねー」

 

 もちろん聞くつもりなど更々ない。

 俺は二階の自室まで一直線に向かい、扉の鍵を閉めた。

 

 扉に体重を預けるように背をくっつけながら、俺は言い争っていた時のような余裕を崩して頭を抱える。今さらながら自己嫌悪に陥るのだ。

 なんて大人げない。

 少女にアホ共とするような煽り合いをするなんて。

 

「霊夢も幻想郷が大切だから怒ってたんだよ? 言い過ぎなのは確かだけど」

「……言われなくても分かる」

 

 肩に乗ってるこいしにすら諭される始末。

 俺はずるずると床に腰を下ろす。

 

 

 

 

 

「……あぁ、面倒だ」

「だねー」

 

 

 

 




紫苑「こういう不仲からの関係も面白そうじゃない?」
霊夢「そして回を重ねるごとに絆を深めていく、と」
紫苑「もしもメインヒロインが霊夢になったら、ツンデレの方向かもしれんな。違うとしても流れは面白くなるよ。たぶん」
霊夢「まだ序章だし、焦らなくてもいいんじゃない? 個人的には早く仲直りしたいんだけど」
紫苑「先の話になるんだろうなぁ」
紫苑・霊夢「(´・ω・)(・ω・`)ネー」
妖夢「……なんなんですか、この本編と後書きの空気の差は」


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6話 妬みと怨み

「この度はウチの霊夢がとんだ御無礼を……」

「ゆ、紫! 頭上げろって!」

 

 カーペットを敷いている床に土下座する紫に、俺は慌てて頭を上げるよう懇願する。このまま五体倒地してしまうのではないかと錯覚するぐらい、紫は体を小さくしていた。物理的に小さいが。

 その光景に俺も正座する始末。

 むしろ俺の方も謝りたいのに。

 

 霊夢と子供のような喧嘩を繰り広げて部屋に戻って数分後、血相変えた紫と妖夢、マイペースな幽々子がスキマを経由して来たのだ。

 帰れと言おうとしたのだが、紫が入ってきた瞬間に土下座するものだから、今さら追い出すことすら難しい状況となった。胃を押さえながら謝るから余計に実行しづらい。

 どーするんだコレ。

 

 溜め息をついている中、隣でのんびり会話する部外者三人の声が聞こえた。

 

「けど霊夢さんの反応がおかしくありませんでしたか? あそこまで他者を否定する霊夢さんは初めて見ました」

「霊夢って他の人に興味ないから普通だと思うけど」

 

 妖夢と話からすると今日の霊夢は様子がおかしかったらしい。

 二人の疑問に答えたのは幽々子だった。

 

「私は家主さんの人を見る目を信じるけど、霊夢にとっては知らない第三者。警戒するのは幻想郷を守る巫女として当然だがら、その危険性を知らないふりをしていた(・・・・・・・)ことに腹を立てたんじゃないかしら?」

 

 この桃髪の女性にはお見通しって訳か。

 霊夢には気づかれなかったようだが、食欲魔人を欺くことは叶わなかった。苦虫を噛み潰したような表情をする俺に、幽々子はボソッと言葉を付け加える。

 

「……まぁ、それだけじゃないと思うけどね~」

「どういうこと?」

 

 『幻想郷を守る者として俺の安易な行動が許せない』という推測は俺も持っていた。だからこそ謝りたいと思ったのだが、彼女曰く他にも理由があるように見える。

 俺も首をかしげるこいしと同じ気持ちだ。

 

 しかし幽々子が教えてくれることはなかった。

 のらりくらりと俺たちの疑問をかわしつつ、買い物袋から自分が選んだ惣菜を取って来ながら微笑む。

 

「そんなことより、今は霊夢と仲直りする方法を考えることが重要じゃない?」

「――する必要あるか?」

 

 思いの外自分の言葉に棘が含まれていたことに驚いたが、それ以上に驚いたのは妖夢とこいしだろう。妖夢は不安そうに俺の様子を伺い、こいしはわざわざ俺の足元まで来てズボンを握りしめたくらいだ。

 それぞれの行動に俺は慌てる。

 

 俺の棘に答えたのは土下座していた紫。

 顔を上げて複雑な顔で自分の考えを述べる。

 

「貴方には厳しい態度であったけれど、幻想郷でも発言力の強い娘なのは確かよ。今後の幻想郷全体の友好関係にかかわることかもしれない。あんまり同居人とぎくしゃくするのは紫苑の望むことではないのよね?」

「……まぁ、そう言われると」

 

 亀裂を生むのは得策じゃないのは未熟な高校生である俺も理解している。

 早急に霊夢と仲直りする必要があるな。

 

 渋々と言った感じで紫の言葉を飲むと、またもや申し訳なさそうに顔を伏せる。

 

「本当に、ごめんなさい」

「気にするなって。もう怒っちゃいない」

「それとは違って――私達、厚かましいでしょ?」

 

 

 

 そんなことはないさ!

 

 

 

 って言いたかったけど、さすがの俺もフォローできなかった。紫が現れた日から今日までの幻想郷の住人の言動を思い出して「そ、そうだな、うん……」と言葉を濁すのが精一杯だった。

 昨日の未来がマイペースな口調で「厚顔な人達だね~」なんて辛口評価をしていたのを思い出した。

 別に恩着せるわけでもないが、家主の俺を蔑ろにしている印象は受ける。

 

「幻想郷は弱肉強食の世界。弱きものが簡単に生き残れる世界ではないし、人間は生態系の底辺に近いと断言してもいいわ。だから家主の貴方を幻想郷の住人は見下している風潮があるのよ」

「なるほどなぁ……どうりで霊夢が強く出てくるわけだ」

 

 人間社会で例えるなら、俺はコミュ障のいじめられっ子的立ち位置なのか。

 俺居なくなったら困るのは幻想郷の住人だろうに、どうして強気でいられるのか疑問に思ってたのだ。俺は弱っちい存在って認識なんだな。

 嘆息しながら溜息をつく俺。

 

「幻想郷の皆様から見れば、俺なんて平和ボケした無力な人間。取るに足らない道端の雑草の一部みたいなもんか。妖夢や幽々子、こいしからも心の底では見下されてるのかもしれないのかな?」

「そんなこと――!」

「隠さなくても怒らないぜ? 自覚はしてるし」

 

 本当に怒ってるわけじゃない。

 紫から幻想郷、こいしから地底の面々の話を聞いたが、実力者の誰も彼もが輝かしい能力や経歴を持っていた。現代日本で平和に暮らしていた俺と比較するのがバカらしくなるくらい、幻想に住まう者達は凄かった。

 最早、他に表しようがない。

 こんな人間でも住んでいける平和な社会に感謝するべきなのか、彼女等を妬む俺の不甲斐なさを嘆くべきなのか。

 

 ……霊夢に大人気もなく皮肉をぶつけたのも、それが原因かもしれないな。

 単に俺は羨ましかったのかもしれん。

 

 

 

 人の身でありながら幻想郷最強。

 人妖関係なく慕われる人柄。

 そして――天性の才能。

 

 

 

 これが平凡な高校生を打ちのめすには十分な素質だ。

 進路やら今後の予定などが霞んで消えてしまうくらい……博麗霊夢という人物は偉大に見えた。加えて、それに嫉妬する自分が更にちっぽけに映る。故に俺は彼女等を自分の家に招いたことを後悔したのだ。

 だから対等の関係を作るのが烏滸がましく感じた。

 見下されたところで、なら彼女達に勝るものがあるのか?と問われて答えられるはずもないのだから。ここで怒り狂ったところで何も解決はせん。

 

 皮肉気に笑い周囲の面々を心配させる自分に余計腹を立てていると、幽々子が爪楊枝で器用に焼きそばを食べながら口を挟む。

 

「やふしはんっへひほほうははひふいほへ~」

「ごめん、日本語でお願い」

「家主さんって自己評価が低いのね~」

 

 食べながら喋るな。

 

 

 

 

 

「個人的には――家主さんって素晴らしい人だと思うけど」

 

 

 

 

 

「ふーん……は?」

 

 笑顔でサラッと爆弾発言をする幽々子に、俺は聞き流そうとしたところで意味が脳に到達する。

 俺が……素晴らしい?

 

「私達って忘れられてる存在なの。だから忘れられてる者同士が手を取り合って生きていかなきゃ、存在そのものが消えてなくなってしまうのよ。外の世界の人々は神秘を信じなくなったから」

「おにーさんのように信じてくれる人が珍しいんだよ~」

 

 遠回しに俺が普通じゃないと?

 自覚してたけど。

 

「でも家主さんは信じてくれた。私達を受け入れてくれた(・・・・・・・・)。幻想郷の住人にとって、これほど嬉しいことはないわ。全てを受け入れてくれる幻想郷に住んでいたから忘れている人も多いけど、忘れ去られた自分達を受け入れてくれる場所は他にないはずなの」

「「「……!」」」

 

 幽々子の発言に幻想郷他メンバーは電撃が走ったように固まった。

 

「故に――」

 

 焼きそばを食べる手を止めた桃髪の女性は飛翔し、俺の目の前まで飛んで停止し手を差し伸べる。

 その穏やかな表情は聖母のようで――ひどく美しい。

 

 

 

「貴方のように部外者の私達の為に真剣に悩んでくれる人って素敵よ。そういう人間って貴重だって知ってるから」

 

 

 

 そこには外見にふさわしくない、時の流れと共に人のあり方を見てきた貴婦人の印象を強く受けた。

 俺は目を見開き、失笑する。

 

「そういう子、私は好きよ」

「……likeの方だろ?」

「……貴方がそう思うなら、そうかもしれないわね」

 

 意味ありげな微笑を浮かべる彼女に気付かず、俺は照れ笑いを隠しながら目を逸らすのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「霊夢、お前って本当は馬鹿だろ」

「うっさいわね魔理沙」

 

 新しい博麗神社の境内で茶をすする私に、金髪の魔法使いの少女――霧雨魔理沙の放った言葉は予想の斜め上をいった。

 長い階段を上らずとも簡単に神社へ行くことが可能になったため、前よりも人の行き来が多くなったから最初は興奮したものだが、賽銭を入れてくれる者はいないし妖怪やら神やらが騒ぎに来るだけだ。面倒事が減ったことは喜ぶべきか?

 袋から食料を奪い合う幻想郷の住人を眺めながら茶を飲んでいた矢先、いつもの魔理沙から考えられないような罵倒を浴びせられた。

 

 不服そうに私は魔理沙を睨んだが、彼女は眉間に皺を寄せていた。

 

「どうしてお前は家主――えーと、誰だっけ? ……あぁ! 夜刀神だ! その夜刀神に喧嘩売ってんだよ!?」

「ウザかったから」

「そういう問題じゃないぜ!?」

「ま、魔理沙。落ち着いて……」

 

 興奮して声を荒げる魔理沙を諫めるのは人形を操る金髪の人形遣い――アリス・マーガトロイド。

 一緒に来て魔理沙の発言に慌てていたので、彼女が私を非難するために魔理沙と来たわけではないのは明白だろう。

 

 

 

 それで魔理沙が止められるとは思わないが。

 

 

 

「夜刀神が食料くれないと餓死するって慧音が言ってたぞ! それなのにアイツと喧嘩するとか馬鹿じゃないのか!? アイツがこれで食べ物持ってきてくれなかったらどーすんだよ!」

「紫が何とかしてくれるでしょ」

「だぁかぁらぁ!」

 

 私はこの話を打ち切りたいのに、魔理沙は何度もあの男の話題を蒸し返す。

 どうせ私が何か言ったところで夜刀神紫苑……あの薄気味悪い男は偽善者面をしながら食料を持ってくるだろう。私の勘がそう告げている。

 

 

 

 もう私は()()()とは関わり合いたくないのに。

 

 

 

「そういう問題じゃない! だからお前は貧乏巫女なんだよ!」

「貧乏巫女は関係ないでしょ!」

 

 コイツと喧嘩をするのは面倒だが、ここまで言われて黙っているほど私も打たれ強くない。

 湯呑を乱暴に置いて立ち上がり、私は魔理沙を睨む。

 受けて立つように睨む魔理沙に、諦めの表情を浮かべるアリス。

 

「あぁ、もう! 私はアイツが大っ嫌いなの! ヘラヘラと笑って反抗もしないし抵抗もしない! 自分のことに興味がなければ、自分のことを気にすることもしない! そんな薄気味悪くて気持ち悪い人形(・・)みたいな人間になんて関わり合いたくないわ!」

「人形ディスんなし」

「ちょ、アリス! 落ち着け……!」

 

 私の発言にキャラ崩壊したアリスが烈火のごとく怒り出す。それを必死に止める魔理沙を引きずりながら迫ってくる姿は下手な怖い話よりも恐ろしく、さすがに人形に例えたことは素直に謝った。

 拳骨は戴いたが。

 物凄く痛かった。

 

 喧嘩両成敗で私と魔理沙が地面にのたうち回るのを尻目に、両手をパンパンと叩いたアリスは話をまとめる。

 

「つまり夜刀神紫苑って人と仲直りすればいいってことね」

「はぁ!? なんで――」

「い・い・わ・ね?」

「……はい」

 

 今のアリスに逆らうのは得策じゃない。

 あの男と会話することは控えたいが、否と言えば拳骨が飛ぶだろう。

 

「というか霊夢は何で夜刀神紫苑さんが嫌いなの?」

「いや、さっき言った」

 

 痛みから立ち上がった私の目を真正面から見つめるアリス。

 その真摯な瞳に思わず目を逸らした。

 

「……嘘じゃないけど、本当のことも言ってないわ。だって霊夢が他人を()()()()の理由だけで嫌いになるわけがないもの」

「………」

 

 こうなると隠すことも難しい。

 確かに偽善者面した気持ち悪い男という認識があるけれど、もちろん他にも理由がある。そして、その理由はできれば他の面子に言いたくない。

 

 

 

 

 

 だって――私とアイツは。

 

 

 

 

 

「仲直りの方法だろ!?」

 

 この何とも言えない変な空気をさえぎったのは白黒魔法使い。

 飛び上がるように跳ね起きた魔理沙は一変して満面の笑みを浮かべ、アッパーを喰らわせたい衝動に駆られた。

 

「はいはい。で、何なのよ」

 

 その問いに待ってましたと言わんばかりに拳を掲げて、魔理沙は叫ぶのだった。

 

 

 

 

「宴会だぜ!」

 

 

 

 




紫苑「あけましておめでとうございますm(__)m」
紫「今年もよろしくお願いしますわm(__)m」


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7話 宴会戦線(上)

 祭事や祝い事。

 俺の人生には関わることが少なく、俺自身もあまり良い記憶のないイベント。

 

 

 

 

 

「宴会?」

 

 だから土曜の夜、自室で白玉楼の二人&無意識少女と将棋を嗜んでいた時、紫が言い出した単語に俺は首を傾げながら金将を動かした。

 対戦相手は白玉楼の庭師兼剣術指南役の魂魄妖夢ちゃん。

 俺がカーペットに胡坐をかき、妖夢が正座して対峙している間に設置された盤上は、誰から見ても分かる通りに俺が優勢の局面を展開していた。妖夢側に残されている戦力は歩兵三枚と銀将一枚、桂馬二枚と王将だけだ。対する俺は成った飛車角行などの倍兵力が戦線を包囲している。

 最初は俺がハンデとして飛車角落ちを提案したのだが、負けず嫌いの性分を発揮した妖夢に断られて、正々堂々全力で挑ませてもらった。

 結果は別として。

 

 先ほどは幽々子とも一戦し、こっちは飛落ちで指した。

 圧勝させてもらったが。

 

「家主さんは将棋強いわね~」

「そうか? 結構危なかったぜ」

「誘導が上手いというか、罠に引っ掛けるのが自然で気づかないというか……私も幻想郷では将棋を指すのは上手い方だと思ってたのだけれど」

 

 幽々子とハンデありで勝ったのに、将棋を数回ほど体験した程度の妖夢が勝てるはずもなく。

 紫が宴会の話を持って来た時には、妖夢から頂いた駒もフル活用して包囲していた。これには紫も苦笑いを浮かべるしかなかったようだ。

 

「……いじめ?」

「ボードゲームにいじめも何もないだろ? 卑怯な手も使ってないし、イカサマなんて以ての外だ」

「私も負けちゃった」

「幽々子が!?」

 

 桃髪の幽霊の言葉には幻想郷の賢者も驚いていた。

 もしかして結構強い方なのだろうか?

 

「貴方って将棋の経験はどれほどなの?」

「友人達と放課後に時々指してたぐらいの腕前だな。まぁ、ジュースや食事代を賭けたガチの勝負だったりもするし、そんじょそこらの棋士に負けない自信はある」

「そ、そうなの……」

「大局将棋もやったことあるし」

「「はぁ!?」」

 

 これには二人の美女も目を丸くした。

 泰将棋や天竺大将棋、和将棋……そして以上の駒を取り入れた世界最大の将棋――大局将棋を経験したことがあるのは日本でも数少ないだろう。きっかけは龍慧の『面白そうだったので作ったのですが、指してみませんか?』という発言からだった。

 自軍と敵軍それぞれ402枚、合計804枚の駒を使用する大局将棋は夏休みに飯を食いながら行い、4日間の40時間の末に俺が勝利して幕を閉じた。天竺大将棋なら駄弁り部でも数回行われたが、大局将棋だけは二度とやらないと心に誓った。

 

 龍慧は今でも誘ってくるけどね。

 絶対にやるもんか。あの泥沼ゲー。

 

「あれやったんだ……」

「おにーさんって普通じゃないよね。やっぱり」

 

 こいしの無邪気な発言に心を抉られる。

 普通じゃないかー。

 

「でも大局将棋は俺と龍慧だけじゃないぞ? なんかウチの生徒会長と副会長の間でも一局指したって聞いたし、割と普通じゃないのか?」

「……前言撤回、貴方の学校も普通じゃないわ」

 

 学校ごと否定されると何も言えない。

 

「話を戻しましょう。明日に幻想郷の住人の間で宴会が行われるの」

「どうぞご自由に」

「貴方も参加してもらうけどね」

「はい?」

 

 自室や風呂場以外で幻想郷の住人が何しようが勝手ではあるが、どうして彼女等の開催する宴会に俺が参加しなければならないのだろうか? というか俺は日曜に未来の家に上がり込んで笑〇を観るつもりなのだが。ついでに農業アイドルグループの番組も。

 宴会に参加するとなると週一の楽しみが見れなくなる。

 由々しき事態なのだ。

 

 なので丁重にお断りしたいのだが紫が諦めてくれない。

 しかも話からして主役が俺になってる。

 

「それ絶対に出ないとダメなのか?」

「駄目……かしら?」

 

 大喜利を取るか宴会を取るか。

 悩みながら王手を指していると、外野からの参加してほしいコールが飛んできた。

 

「えー! おにーさんもやろうよー」

「とは言ってもなぁ」

「お姉ちゃんにもおにーさんを紹介したいし、みんなで飲めば宴会も楽しいよ!」

 

 楽しいかどうかは無意識少女の観点からであって……。

 なんて小難しい話が緑髪の幼女に通じるはずもなく、俺は諦め半ばに宴会参加を決定した。俺はどうやら子供の頼みを断りにくい性格らしい。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 さて、宴会には金がかかるのは万国共通。

 今回の宴会は金使わなくても大丈夫らしいが、ここ数日だけで諭吉が一枚失われたことに頭を抱えながらも、日曜の午後七時ぐらいにリビングへと足を運んだ。久方ぶりのリビングだったが、机の上に鎮座する紅い館やテレビ前の神社以外は特に変わった様子もなかった。

 そしてテレビ前に多くの小人達が賑やかに酒盛りを楽しんでいた。外見からは何の妖怪か判別できない者もいれば、あーコイツはアレだなって外見の妖怪もいる。というか小人の九割近くが女だ。回れ右して自室に帰りたいです。

 

 俺が入ってきたことによる彼女等の反応は様々。興味深そうにに俺を観察したり、人間である俺を下に見ていたり、関係なさそうに目を逸らしたり、死んだような目で虚空を眺めていたり。

 そんな様子の住民を余所に、俺はキッチンにある電子レンジを使って、コンビニで買ってきたグラタンを黙って温める。キッチン使えないからマトモな食生活が送れないし、気休めの野菜ジュースを飲む度に『不健康な生活送ってんなー』と他人事みたく現実逃避をする。

 

 幻想郷の住人の会話は聞こえない。

 聞こうとも思わないから、何を言われても気にしない。

 

 チンし終わったので再びリビングに戻った俺は床に腰を下ろし、宴会の様子を少し離れたところから眺めていた。その距離は俺と彼女等の心の距離を表しているかのようだ。

 こそこそと耳には届かない会話。

 まるで小中学校での再現じゃないか。

 

 このまま終わってくれないだろうか。

 さっさとグラタン食って部屋に帰ろう。

 

 

 

「おにーさーん」

 

 

 

 んな穏便に済むのなら俺は苦労しないがな。

 てくてく床を歩いてくる二人の幼女に、俺は溜め息をこぼした。溜め息をすると幸せが逃げていくなんて迷信があったが、俺の場合は溜め息をしなくても不幸だぜ。

 二人の幼女のは、簡単に説明するのなら無意識の幼女――こいしが、幽々子とは違ったピンク色の髪をした幼女の手を握って連れてきている。顔つきが似ているから姉なのだろう。こちらもこいしと同じで美人だね。

 

 そんなことを考えながら幼女を眺めていたら、こいしの姉は急に顔を赤くさせて俯く。

 俺はその様子を訝しんだが、次の瞬間に理解する。

 

「なるほど、君が悟り妖怪の古明地さとりさんか」

「……初めまして、貴方が夜刀神紫苑さんですね」

 

 ピンク幼女――古明地さとりは顔を若干赤くさせながらも俺の言葉を肯定した。

 彼女が俺の心を読んでいたわけか。思春期の高校生の心ん中を感じとるなんざ、この娘もチャレンジャーだなと感心した。

 その考えも相手に伝わるけど。

 

「貴方と同じくらいの人間の心は、そんなに凄いものなんでしょうか? 私にはわかりません」

 

 さとりさんは不思議そうに首を傾げるが、その純粋無垢さに苦笑いを浮かべるしかなかった。

 だって――

 

 

 

 思春期の男なんて×××××とか×××××やら×××××などで頭の大半を埋め尽くしてるとか未来が言ってた。あと×××××を×××××したり、×××××を×××××とかを用いて×××××に×××××を行ったり――

 

 

 

 R18のアニメやらゲームの知識を脳内でフラッシュバックさせると、案の定さとりさんは首元まで真っ赤にして涙目で抗議してきた。

 

「なななななななな!? な、何を考えてるんですか!?」

「え? あー……なんかごめん」

 

 知識としてしか考えてなかったが、イマイチ彼女が読める心の範囲が分かりにくい。加えて、てっきり人の心を覗けるものだから耐性があるかもしれないという先入観にとらわれていた。そして反応を見る限りだと、こういう下世話な話に耐性がなさそうだし、悪いことしちまったなぁ。

 ぽかぽかと俺の足を叩く悟り幼女に謝っていると、無意識の幼女は嬉しそうに俺と姉の様子を傍観していた。

 

 姉が被害にあってるのに呑気な奴だ。

 肩をすくめていると、こいしは笑いながら感想を述べる。

 

「お姉ちゃん楽しそうだね!」

「「どこが!?」」

「だってお姉ちゃんが他の人と会話してるところとか珍しいよ? おにーさんは心を読まれても気にしない人だし、お姉ちゃんだって嬉しいでしょ?」

 

 妹の発言に姉は目を見開いて絶句した。そして、恐る恐る俺の顔を見上げる。可愛らしい顔には不安と怯えを混ぜたような、俺の心を地味に傷つける表情。

 んな戦々恐々しなくても取って食ったりはせん。

 まるで俺の存在自体が、彼女の不安材料みたいじゃないか。

 

 彼女の立場上、分からなくもないけどね。

 他者の心が読めるなんて気持ちの良いものでもないだろうし、そのせいで人間や妖怪から距離を置かれるなんて目に見えてる。誰だって自分の考えてることを見透かされるとか洒落にならんわ。

 こいしも言ってた。地底というのは地上で忌み嫌われる者も住んでいると。自らの意思なのか、実際に迫害されたのか、そこんところは俺の想像でしかない。

 でも……何となくだが、古明地さとりは自分で地底に引きこもっていたんじゃないかと予想する。単なる予想だ。根拠はないけどさ。

 

 どんな気持ちだったんだろうな?

 16年しか生きてない俺には想像もつかない。

 

 気まずい空気でこいしだけがニコニコ笑っている中、さとりさんは声を震わせながら問う。

 手が震えてるかもしれない。小さくて見えないけど。

 

 

 

「貴方は……心を読まれることが嫌じゃないんですか?」

「え? 嫌だけど」

 

 

 

 でも、と心の中で付け加える。

 

 

 

 まぁ、読みたいなら好きにすりゃいい。

 

 

 

 一瞬だけど俺の言葉に俯いたさとりさんが顔を勢いよく上げる。そこには口にしていた言葉と、心の中の言葉が矛盾していることにだろう。

 どちらが本心なのか。

 俺はさとりさんにも分かるように心中で考える。

 

 心を読まれるのなんて誰だって気持ちの良いものではない。この持論には、無論俺も含まれている。できれば勘弁してほしいし、今でも目前の悟り妖怪に知られていることを踏まえると複雑な心境なのだ。

 だから古明地さとりは俺に近づくな?

 それは違うだろう。

 無意識で歯止めの効かない能力であることは、そこでニコニコしてる妹さんから聞いた。それで苦労してることも。

 なら俺が彼女を嫌う理由がどこにある? 元々読まれてもたいして痛手のない思考だし、むしろ口にする手間が省けるし、俺の考えを一聞いて十理解する娘だぞ? 前向きに考えりゃ自分のことを誰よりも知ってるんだ。

 

 他の奴等は違う考えかもしれん。偽善だと笑いたきゃ笑え。

 でも――俺は古明地さとりを嫌う必要はないと思う。

 

 

 

「私のことが気持ち悪くないんですか?」

 

 能力に関してか? 確かに不気味ちゃ不気味だけど……故意じゃないんなら仕方ないだろ? 

 

「心を読む妖怪ですよ?」

 

 それが君の本質だろう? しゃーないしゃーない。

 

「知られたくないことまで読んでしまいます」

 

 不便だよね、それ。

 

「貴方と……一緒にいても大丈夫なんですか?」

 

 ご自由にどうぞ。後は知らん。

 

 

 

 言葉にしなくても相手に伝わるって楽でいいな……とポジティブ思考に切り替える。溜息ばっかしか出てないし、ちと考え方を変えてみる。

 傍観者の妹は微笑みながら疑問符を頭に浮かべてるけど。

 

 俺もさとりさんと同じような状況だった。いや、彼女よりは数倍マシだったけれども。

 他者に受け入れられないってのは寂しくて心苦しいもんだ。俺は初めからアホ共が近くにいたけど、彼女には最初から理解してくれる仲間がいたのだろうか?

 静かに涙を流すさとりさんから目を背けながらグラタンを黙々と食す。

 

 また幻想郷の住人と関わらなければならないフラグを立てた気もするが……これは仕方ないだろう。もう数人が自室に居座ってるし。

 さて、さっさと食べないと奴が来る。

 グラタンを味わいつつ周囲を見渡し、

 

 

 

 

 

「――あらあら、女の子を泣かしちゃダメよ」

「来たあああああああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 振り返るとそこには俺の飯(グラタン)を狙う西行寺幽々子(あくま)の姿が。瞳を怪しく輝かせて、虎視眈々と狙うは三分の二は残っている生命線。

 コイツだよ!

 食欲魔人のせいで俺の飯がどんだけ減ったか!

 

「いっただっきまーす♪」

「や、やめろぉぉぉおおお!!」

「幽々子様ぁ! それ紫苑さんの!」

 

 さっきまでのシリアスはどこに行ったのやら。

 別の意味でシリアスとなる俺の周囲。

 

 せめてもの救いは。

 

 

 

 

 

 涙を拭きながら笑う悟り妖怪の笑顔ぐらいか。

 

 

 

 




裏話

紫苑「幽々子は敵」
幽々子「( ´゚д゚`)エー」
紫苑「その食べてる手を止めてから言いやがれ」


   ♦♦♦


紫「さて、お便りのコーナー」
紫苑「感想や評価からのピックアップね」
未来「楽しみだなー」
兼定「これからも続くンか、このコーナー」
龍慧「作者の気まぐれでしょう? さて、今回は……これですな」

『名前が痛い』
『厨二臭い』
『名前変えたら良くなる』

オリキャラ勢「「「「さらば現世」」」」
紫「ちょ、投身自殺はやめ――」


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8話 宴会戦線(下)

「満足満足♪」

「これが……これが人間のやることかっ!?」

「幽々子様は亡霊ですよ?」

 

 俺は空になったグラタンがあった皿に涙を落としつつ項垂れる。コンビニで売ってるような小さなグラタンを三分の一しか食べれなかったとか、食べ盛りの高校生には圧倒的に足りないのだ。

 あれか? あれなのか?

 西行寺幽々子の能力は〔視界に映るものを片っ端から食す程度の能力〕でも持っているのか? そうでも、そうでなくても恐ろしいわ。

 

 後で自室でカップ麺を食うことを心に誓っていると、見知った顔とそうじゃない方々が飛んでくるのが見えた。紫と霊夢と……魔法使いのコスプレした娘と人形みたいな娘と、九つの尻尾のある女性?

 俺は幽々子の所業を一旦置いといて、にこやかに彼女たちを迎え入れる。

 グラタンの空きを退かして、彼女達が降り立つできる場所を確保する。ついでに近くにあった座布団を俺の前に置く。

 

「………」

「お姉ちゃん? どうしたの?」

「いえ……彼の心の中が悟りの境地に至っているから、想像以上に苦労してきたんだなと」

「さとりなだけに?」

「………(ジト目)」

 

 こちとら無心にしないと無意識に涙が出てくるんじゃ。

 せめてもの救いは彼女等がレベルの高い美女&美少女だってこと。だからと言って何しても許されるわけではないが、これが小人のオッサンの集まりだったらと考えると、心読んでるさとりさんと一緒に何とも言いがたい表情を形成する。

 可愛いって正義だよね。

 

 降り立った紫は、大きな座布団にちょこんと座る幽々子と妖夢、いつの間にか胡座かいてる俺の太股に器用に座るこいしとさとりさんの姿を見て微笑む。

 まるで不出来な息子に初めての友達ができたのを喜ぶ母親のようだ。年齢的には圧倒的にあちらが上だろうから、あながち間違いではないけれど。

 

「宴会に参加してくれてありがとう。楽しんでる?」

「さっき晩飯をそこのピンクに食われたけどな」

「まいうー」

 

 ぼふっと座布団の上で受け身も取らず前から倒れる紫。

 慌てて近づく九つの尻尾の女性。

 

「紫様!? お気を確かに!」

「いぐっ……いぐす……」

「胃薬ですか!?」

 

 スキマを開いた紫が錠剤型の胃薬を取り出してボリボリかじる。体の比率からして、んな摂取の仕方は明らかに間違っているような気もするが、一心不乱に胃薬食う美女を止める気にはなれなかった。

 張本人以外が幻想郷の賢者に哀れみの視線を向ける中、一つ食いきった紫は体育座りで虚空を眺める。

 何この見たことあるような光景。鏡を見ているかのようだ。

 そこでふと彼女の胃薬の接種を見ていて気になったことがあったので尋ねてみる。

 

「……ところで胃薬って残ってる?」

「………」

 

 黙って首を横に振る紫。

 マジかよ。不安だから戸棚に3箱ぐらい備蓄してたんだぞ。全部食いきったのかよ。

 

 そこまで考えた俺はハッとした。

 もしかして幻想郷にいたときも、同じように彼女は胃を痛めていたのだろうか? 幻想郷の住人には十数人ぐらいしか会ったことはないが、ここまで個性的な面々を束ねているのだ。どれほどのストレスを心身に貯め込んでいるのか想像もつかん。

 俺は静かに目を伏せる。

 

「あ、紫苑さん。勘違いしているかもしれませんが、八雲紫は幻想郷でも生粋のトラブルメーカーです。同情の余地はないかと」

 

 俺の心配を返してほしい。

 まぁ、さとりさんの暴露話は別として、明日辺りに胃薬買い足しておこう。なくなるとは思わなかったから予備ないしな。

 

 スマホを取りだして買い物メモに追加していると、魔法使いのコスプレをした金髪の少女が霊夢の手を引っ張りながら前に出てきた。そして博麗の巫女さんは心底嫌そうな顔をしていた。前世で俺はこの少女の親でも殺したのではないかと勘違いするレベル。昨日煽ったから、自業自得と言えばそうだが。

 俺の前に立った霊夢は最後の抵抗と言わんばかりに俺を睨みつけている姿は、怒りを通り越して呆れてしまうくらいだ。そんなに嫌なら来なければいいのに。

 

「私の名前は霧雨魔理沙! 普通の魔法使いだぜ!」

「初めまして、紫苑さん。私はアリス・マーガトロイド。よろしくね?」

「自己紹介どうも。俺は夜刀神紫苑だ」

 

 肩をすくめていると金髪の二人組が自己紹介をしてきた。元気そうな女の子と、御淑やかそうな女の子だ。

 話は変わるけど。幻想郷の住人ってやけにフレンドリーな方々が多いな。いつの間にか懐に入ってくるような感覚を覚える。そして財布の中身を空にして行く感じ。

 

 

 

「そして彼女達が上海と蓬莱よ」

「シャンハーイ」

「ホウラーイ」

「おう、よろしくな」

 

 

 

 俺はルーペ越しに見えるアリスさんの近くに漂う二つの人形に挨拶をしてみる。彼女等と交流するなら、もしかしたら必要かもしれないと思って持ってきていたのだが、マジで肉眼で全貌をとらえるのが難しい相手が来るとは思わなかった。

 視力は両方とも2.0だけれど、幻想郷の住人と関わるならば眼鏡をかけるべきか悩む。

 ルーペに写る上海と蓬莱がクルクル嬉しそうに回っているのを微笑ましく観察していると、「おい、紫苑」と活発そうな自称魔法使い――魔理沙さんが声をかけてくる。俺はルーペを魔理沙さんに移し、彼女の顔がドアップで映し出された。

 

「昨日は飯ありがとな! あのプルプルした寒天みたいなやつ、物凄く美味しかったぜ?」

「魔理沙さんの好みに合ったのなら何より。寒天みたいなやつ……あぁ、ゼリーのことか」

「そんなさん付けなんて他人行儀なことするなよ。これから一緒に住んでいく仲なんだからさー」

「あ、私も呼び捨てていいわ」

「私もです」

 

 魔理沙の発言にアリスとさとりが便乗。

 幻想世界出身は他人行儀を嫌う風習があるのか定かではないが、楽と言えば楽の部類だろう。なるほど、紫が『幻想郷は全てを受け入れる』とか言ってたけど、こういう風に仲に混じりやすい風習があるのも頷ける。悪くない。

 俺自身、名前で呼ばれることが少ないから尚更だ。苗字が特殊な上に、名前で呼び合うほどの友人は少ないからな。名前も珍しい部類だろうが、苗字ほどじゃないし。

 

 幻想郷の文化の一端を垣間見ていると、すっごく不機嫌そうな霊夢が半眼で俺を威嚇しながら前へ出てきた。

 もはや苦笑い以外に俺が浮かべる表情があるか?

 

「………」

「………」

 

 おい、何か話せよ。

 周囲のメンバーが気まずそうじゃねーか。

 仕方ないから俺が先に言いたいことを述べるとしよう。俺は彼女に頭を下げた。

 

「昨日はすまんかった」

「……は?」

「俺が君のことを煽ったし、まず君達に相談するべきだったと思うからさ。だから……その……悪かったよ」

 

 彼女等の言動が厚かましかったとはいえ、俺の方にも悪いところが少なからずあったのは第三者から見ても明らか。なら謝るのが道理ってもんだ。

 未来や兼定がこの光景を見たら「どーしてお前が謝ってんの?」と眉間に皺を寄せるだろうけど、これが俺と言う人間なのだから仕方ない。自分の否を謝ることのできないような奴等と一緒にすんな。

 

 さて、この行動に博麗霊夢はどう出るか。

 横柄な態度で許すか、怒鳴り散らすか。どのみち、肩を震わせて俯いてる彼女を見れば何らかの心の揺れがあったのは確かだろう。

 

「……て……よ」

「ん?」

「どうしてアンタが謝ってんのよ!!」

 

 ばっと顔を上げた霊夢。

 そこには困惑と怒りがあった。

 

「昨日は完全に私が悪かったのよ!? 自分の常識押し付けて、散々馬鹿にして……なのに何でアンタが頭下げたの!? 下げるのは私の方でしょうがっ!」

「いや、俺に言われても……」

「だから私はアンタのことが嫌いなの! 大っ嫌い! そうやって自分のことを諦めてるところとか、無駄に自分を悲観してるところとか! ヘラヘラ笑って偽善者面してるところとか!」

 

 それを面と向かって言える霊夢を心から尊敬する。

 普通本人の前で言えるか? しかも途中から涙目で言葉を吐かれるもんだから、怒りを通り越してこっちまで困惑してしまう。

 ほら、みんなも困ってるじゃん。

 しかし……言い方が悪いかもしれんが、それだけで他者を嫌悪するものなのだろうか。最初会ったときは霊夢がそのようなことで感情をぶつけて来るような娘には見えなかっ――

 

 

 

「――私に似てるところとか……!」

「……は?」

 

 

 

 ぼそっと最後の言葉を呟かれたので反応が遅くなったが、確かに俺の耳に届いた。だから俺は俯きながら衝撃発言をした霊夢を凝視するのだった。

 数秒だけ静かになる俺の周囲の中、博麗の巫女は自分の発言を思い出したのか、我に返った瞬間にテレビ前の神社に猛スピードで逃げ出す。あまりにも衝撃的だったため、誰も彼女の行動に反応できなかった。

 どーすんだ、この空気。

 

 最初に言葉を発したのは悟り妖怪。

 恐らく彼女の心を読んだのだろう、俺にその内容を伝えようとしているのは表情から判断できる。

 だから俺は制止した。

 

「……紫苑さん、彼女は」

「今の霊夢の内心、俺なら誰にも伝えてほしくないなぁ。俺も聞くつもりはないし」

「そう、ですか」

 

 あっさりと納得するさとり。何か思い当たる節でもあったのか定かではないが、何でもかんでも心の中を暴露する性格じゃないことにホッとした。

 霊夢は何を思ったのか。

 似ているところとは何なのか。

 魔理沙とアリスに聞いてみても、互いに顔を見合わせて首を横に振るだけだった。幽々子は意味ありげに微笑みながら佇んでるし、彼女の発言は謎を増やすだけの結果となった。

 

 そのうち分かることなのだろう。

 だが気にならないはずがない。

 俺は頭をかきながら溜め息をついた。

 

 

 

「面倒なことになったもんだ」

「上に同じ」

 

 

 

 同意したのは腹部を押さえて踞る幻想郷の賢者だった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「あちらは楽しそうね」

 

 リビングのテーブル上――紅魔館のテラスから、この家の主と周囲の面々を観察する私。今回の宴会は興味なかったし、ここからでも幻想郷の賢者が下手に出ている人間を眺めるのは容易だった。

 私の後ろには咲夜が待機し、向かい側には黙って本を読むパチェ。テーブルには紅茶と菓子が並んでいる。

 

「お嬢様は挨拶に行かないのですか?」

「どうして私から赴かないといけないのかしら」

 

 メイドの質問に微笑みながら答える。

 主人の応答に「そうですか」と納得した昨夜。

 

 実際に私と同じ考えの者は多い。

 プライドの高い鬼や天狗、天人も自ら足を運ぶ必要なしと判断している節が見れ、永遠亭の蓬莱人共も彼を警戒している。彼と友好関係を築こうとしていた宗教家連中は、互いの勢力を牽制するように睨み合っていて動く様子がない。

 どの勢力も動かない現状を眺めるのは、盤上で駒を動かしているようで面白い。

 

 そもそも人間に媚を売るのは性に合わないのだ。

 家主とは言っても、博麗の巫女のように実力があるわけでもない一般人。むしろ頭を下げるのは人間の方だろうに。

 たかが凡人と話す必要もなし。

 私は誇り高き吸血鬼らしく優雅にティーカップの紅茶を嗜みな――

 

 

 

 

 

「あ、お嬢様。それ緑茶です」

「ブハッっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 誇り高き吸血鬼とはほど遠い、明後日の方向に口に含んだ緑茶を吹く私。同じ茶葉から作られたとは思えないほど苦い味に、咳き込みながら水を求める。

 パチェはその光景を見て「汚なっ」と呟いた。

 こんのヒキニートが。

 

「咲夜! どうしてティーカップに緑茶入れんのよ!」

「なぜと申されましても……この家に紅茶がなかったので」

「はぁ!? 紅茶ないとかアホなの!?」

 

 だから緑茶を代用した紅魔館のメイドも大概だが。

 家に紅茶を常備しないとか、家主は客が来たときに何を出しているのだろう? 紅茶ないとか吸血鬼なめてんのか?

 ふと前を見るとコーヒーを飲みながら勝ち誇った笑みを浮かべる友人の姿。その表情は無性に私の精神を逆撫でするものだった。

 

「このコーヒーは美味しいわね。家主も分かってるじゃない」

「うぐぐぐ……」

 

 私は家主を睨み付けた。

 幻想郷の賢者や式神が彼のところにいるのは納得できるし、白玉楼の管理人は何考えてるのか分からないから特に興味もない。

 けれども地霊殿の主が積極的に会話しているのは正直驚いた。しかも楽しそう。

 

「……これは私達紅魔館の力を示さなければならないようね」

「は、はぁ……」

「器ちっさ」

 

 困惑するメイドや毒吐くヒキニートはどうでもいい。

 私は家主に思い知らさなければならない。吸血鬼に喧嘩を売る行為が、どれほど愚かなのかを。

 

 私は立ち上がって威厳ある態度で宣言する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、思い知らせてあげましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「我等が恐怖を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅き霧の再来を」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「紅に染められし満月を!」

「ここ家ん中よ。月が出るとでも?」

「………」

 

 水を差す七曜の魔女。

 互いに睨み合ったのも刹那の時間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと表出ろや、ヒキニート」

「受けて立つわよ、かりちゅま吸血鬼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先に思い知らさなければならない奴がいるようだ。

 

 

 

 




紫苑「というわけで序章は完結」
こいし「次からは異変だね」
紫苑「心底しょーもない理由で起こる異変がな」
こいし「それよりヒロインのアンケートどうするの?」
紫苑「今から集計するよ。まさか二桁来るとは思わんかったけど」
こいし「だねー」
紫苑「『こいしメインヒロインにして!』って声もあったが、ぶっちゃけメインにする必要あるか?」
こいし「なんで?」
紫苑「作者の考えだと、お前は俺の自室を拠点にするらしいからな。ある意味メインヒロインよりも出番多いかも」
こいし「私はおにーさんから離れないからね!」
紫苑「……嫌な予感しかしねーわ」


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1章 紅霧異変?~火災報知器事案~
9話 四人寄れば何とやら


 月曜日ってのは一週間の中で一番憂鬱になる日だと思うのだが、皆様はどう思うだろうか?

 二連休が終わっての朝から学校。たいして交流のないクラスメイトと再会しなければならない面倒臭さ。課題提出日と重なることで、自分の机で他人の課題を全速力で写す者達。この気怠い日常を楽しむ者もいるだろうけど、俺は苦痛と感じるタイプである。

 高校入学して長い月日が経過したとは言い難いが、この風景が日常となるのに時間はかからなかった。中学から高校に上がったところで、あんまりやることに変わりはない。

 

 そして、いつも通りの一限。

 この時間は基本的に国語の教師が壇上に上がって授業を行う。外見40代くらいの女性教諭が、重い足取りで来るのを見て、クラスメイト達は教科書やらノートやらを取りだして準備を行う。

 今日は物理がないのが救いだが、あんまり好きじゃない教科が今後並ぶ。

 

 教室の窓際最後尾に座る俺はペンケースを開けずに、教科書とノートを机の上に開いた状態で、空を眺めながら昨日のことを思い出す。白い雲がゆっくり動いていくのがぼんやりと視界に映っているが、俺は別のことを考えている。

 日曜の宴会のことだ。

 

 楽しくなかったか?と問われるならば「まぁ、悪くはなかった」と答えられるくらいには楽しかった。大人数で何かをする経験が乏しかった俺は、面倒と呟きながらもそれなりにエンジョイしていたわけだ。

 幽々子に食事を食われたり、紫が胃痛で倒れたりもしたが、特にアクシデントもなく終わったのは幸いだった。お酒の方は幻想郷の住人達が用意していたし、俺は買えないから地下のワイン倉庫を開けずに済んだのも含めて。義父母のものだけれど、使っても問題のない酒だけどさ。

 幻想郷に住む『鬼』という種族は、水さえあれば酒を作れると紫から聞いたのだ。

 鬼って凄い。

 

 霊夢のことは……ちょっと相互理解するのに時間はかかるだろう。

 あれから「霊夢と俺は似ている」という言葉について真剣に考えてみたが、答えが出ることはなかった。思いつかないし、心当たりもない。幽々子は知ってる雰囲気だけれど、教えてくれないんだよな。

 飯で釣ろうとしても、これだけは教えてくれんかった。

 飯だけ集られたけど。

 

 つか支出がヤバいなぁ。

 通帳の記入された金額と今回の支出を計算してみた結果、貯蓄があるとはいえ、俺が就職するまでの間には尽きる可能性が浮上してきた。彼女等が居座り続けるのが前提の話だけど、就活前に貯金ゼロは少々厳しいのだ。

 ぶっちゃけ彼女等が自分で稼げる手段があれば良いのだけれど、んなことできるんなら俺が頭を悩ます必要はない。一高校生が考えられる範疇越えとるわ。

 

 なんて考えていると、女性教諭がチョークを動かす音が聞こえる。

 っと、先生が板書し始めたな。

 この先生の授業は細かいところまで黒板に書いてるから、予想だけど写しとかないと大変なことになるだろう。こっからテストに出てきそう。

 俺は布製のペンケースを開――

 

「Zzz……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰、この幼女。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ペンケースの中で筆記用具を押し退けるように眠る金髪の美幼女に、俺は言葉を発することができなかった。決して授業中に声を出すことが周りの迷惑を考慮したわけじゃないことを言っておく。

 宝石のような不思議な羽を持つ彼女は、気持ち良さそうに寝息をかいていたのだ。ここまで鞄に入れて公共交通機関の車両に揺られながら来たにも関わらず、まだ寝ていることにも驚いたが、どうして彼女がここに寝てるのだろうか?

 ……あ、そっか。これ夢か。

 とうとうストレスで幻覚を見るようになったのか。あーあ、幻覚ヤバいなぁ。

 

「ところがどっこい! 現実(リアル)だよ!」

「……すみません」

「………」

 

 制服の胸ポケットから無意識幼女、右ポケットから悟り幼女が顔を覗く。無意識はニコニコ無邪気に笑いながら俺の微かな想いを打ち砕く。

 無意識が働いてあるから、クラスメイトに見つかる恐れはないだろうが、俺が言いたいのはそんなことじゃない。見えなきゃいいってもんじゃない。

 そして俺の涙は授業に感動してるわけじゃないぜ。

 普通じゃなくなりつつある男子生徒は机に突っ伏した。

 

 

 

 

 

 何でお前ら学校(ここ)いんの?

 

 

 

 

 

「……紫苑さん、本当にすみません」

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「……Zzz……んん……ん?」

「お、やっと起きたか」

 

 金髪幼女が起きたことによる安堵で俺は項垂れる。

 昼休み辺りに目を覚ます予測が見事に的中したわけだ。これが授業中に目を覚ましたとかなら、今よりもっと面倒なことが起きるに違いない。

 

 なんて言ったって今の教室に人は限りなく少ない。

 みんなは食堂行ったり、外で飯食ったり……そもそも弁当勢が少ないからである。俺はコンビニで買ったものを持参しているわけだが、教室の端っこで机を四つ合わせて座ってるだけだ。移動するのが面倒だし、容易に移動できない理由がある。

 ん? どうして机四つ合わせてるのかって?

 そりゃあ――

 

 

 

 

 

「おー、起きた起きた」

「電池入ってねェ……マジもンか」

「まさに神秘ですな」

 

 

 

 

 

 コイツ等いるし。

 

 この教室にいるのは、離れたところで馬鹿騒ぎする女子数人と、物理的に小さい幼女を囲む俺と不愉快な仲間達だけである。

 いつも通り彼等が飯食いに教室へ入ってきて、食堂へ誘われたのだが、俺の「幼女がまだ起きない」の一言で急遽ここで食うことになった。物珍しそうに眠っている幼女を横目に見ながら持参した飯を食う怪しげな連中だが、彼女が起きたことによって全員が箸を止める。

 

 彼女が起きたことでこいしとさとりもポケットから出てきた。

 前者は伸びをしながら元気いっぱい、後者は恐る恐るといった感じで。

 それを見て呆れるのは兼定だ。

 

「おいおい……まだ出てくンのかよ」

「これで全員だから安心しろ。……全員だよな?」

「初めまして! こいしだよっ!」

 

 俺の結構重要な疑問をスルーする無意識の妖怪。

 白髪頭は「よろしくね~」と、不良は「……おう」と、年長者は「自己紹介ありがとうございます」と、それぞれの反応を示す。

 彼女は特に未来と馬が合うらしく、二人で「うぇ~い」と互いの指と拳を合わせて変なことを言っていた。

 

「そんで、この娘が姉の古明地さとり」

「よ、よろしくお願いします……」

「姉妹なのですか」

 

 龍慧が興味深そうに彼女を見つめるため、さとりは俺の腕の死角となる空間に隠れてしまう。ひょっこり周囲を伺うために顔を出しているため、それがまた可愛らしい。

 

「あ、さとりは『悟り妖怪』だからな」

「え!?」

「「「悟り……妖怪……」」」

 

 さとりは何でバラした!?という目を向けるが、俺は微笑みを返すだけだ。

 男共の視線を集めるさとりは、不意に変な悲鳴を上げて服をギュッと掴む。

 

「なん……え……!?」

「どした?」

「か、彼等が私を悟り妖怪と認識した瞬間に、心の中で同時に『ふぁみちきください』って考えたんです! ふぁみちきって何ですか!? 魔法の呪文ですか!?」

「あー……うん」

 

 俺はジト目で男連中を睨む。

 気持ちは分かるけどさ……ちょっと安直すぎじゃね? 男共が同時に視線を逸らす。

 まったく……幼女怯えさせるとか男としてどーなのさ。

 

「話を変えましょう、この可愛らしい少女のことは紫苑も御存じないのでしょう? まずは彼女の身元確認、現状把握が先決なのでは?」

「おっと、そうだった」

 

 俺はペンケースの中で不思議そうに首をかしげる幼女に優しく声をかけるのだった。

 

「ちょっといいかな?」

「ここ……どこ?」

「学校だよ」

「……どうして私はここにいるの?」

 

 俺が聞きてぇわ。

 

「君の名前は?」

「……フランドール・スカーレット」

 

 何の警戒もなく答える幼女に、横文字かー、と苦笑いを浮かべる未来。

 アリスという前例があるとしても、金髪だろうが桃髪だろうが和名が多かったから、横文字が出てきたことに少々驚く俺。外見からして何の妖怪か判別がつかない。

 

 俺の思考を読んだのだろう。隠れていたさとりが警戒するように俺へ教えてくれる。

 警戒しているのは男共――ではなく、金髪幼女。

 

「彼女はフランドール・スカーレット。紅魔館の主、レミリア・スカーレットの妹で、吸血鬼です」

「吸血鬼……」

「見た目に惑わされないでください。彼女の能力は〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕――幻想郷にいたときは、目に見えるありとあらゆる物質を破壊する、凶悪な力だったそうです」

 

 今はどうか分かりませんが……と悟り妖怪は言葉を続けるのだが、俺にとってはそれだけの情報で警戒するに値する人物だと判断した。

 未来は若干だが目を細め、兼定は興味なさそうに気怠げに彼女を眺め、龍慧は軽く口笛を吹きながら苦笑いを浮かべる。態度は異なれど、昔からの付き合いでフランドール・スカーレットに注意を払っているのは伝わった。

 

 それを知ってか知らずかは定かではない。

 フランドールは目前にいた俺に質問してくる。

 

「貴方は誰?」

「俺の名前は紫苑だ」

 

 苗字は省かせてもらった。どうせ幻想郷の住人に名乗ったところで呼んでもらえるわけじゃないのだから。

 

「じゃあ、次は俺からの質問。どうしてこの中に入っていたの?」

 

 俺が指したのはペンケース。

 昨日の夜に鞄の中に入れたのだから、おそらくは夜に侵入したのは明白。

 彼女の思惑を計りかねていると、吸血鬼の幼女は何かを思い出したのか、頬を膨らませて不機嫌に言う。

 

「だってお姉様が屋敷から出ちゃいけないって……危険だからって言うの! 私は子供じゃないのに!」

「お、おぅ」

 

 さとりの「彼女、500歳超えてます」の囁きに、引きつった表情を戻すことは叶わなかった。

 さすが伝説上の生き物と言うべきか。5世紀生きてるとか洒落にならんわ。

 それにしては言動が歳と一致しないように見える。

 

「つまり家出して寝床がなくなったから俺のペンケースの中で寝てたと?」

「うん!」

 

 家出なんて大層な響きだが、正確には家の中にいるわけで。よほどのことがない限り死ぬことはないからな。家の中で家出とはカオスな響きだ。

 急に眩暈を覚えて突っ伏す俺に、未来がニヤニヤしながら尋ねてくる。

 

「あれ? でも紫苑の自室って幻想郷の人って入らないんじゃないの?」

「こいしを見てくれ」

 

 男共は緑髪の幼女に視線を集める。

 当の本人は俺がコンビニで買ってきたチーズパンのチーズの部分だけを捥ぎ取って嬉しそうに食べている。

 何食べとんねん。

 

 

 

「これみたいなのが大量に居るんやぞ? 『自室進入禁止』なんて言ったところで、素直に聞くと思ってんのか?」

「無理だねぇ」

「だなァ」

「ですね」

 

 

 

 あっさり論破してしまった。現実見たくないから少し反論も期待してたんだけど。

 突っ伏しながら勝手に開けられたチーズパンにくっついてるブロック状のチーズを取り、机にちょこんと座る姉の方に渡す。小動物のように少しずつ頬張る彼女に癒されていると、金髪幼女も物欲しそうに見つめていたので、彼女にもブロックを贈呈。

 

「可愛らしいですね。食べる量も少ないのならば、食費も少ないのでしょうか?」

「この3,4日で諭吉が消えた」

「……晩御飯、ファミレス行きません? 紫苑の分は私が奢りますから」

 

 ポーカーフェイスが売りの紳士の表情が崩れるのは珍しいね。

 その優しさに涙が出てくるわ。

 細かい金額の用途を説明するが、俺等の表情は曇るばかり。

 

「このままだと貯蓄が消える……マジでどうしよう……」

「ほ、本当にすみません!」

「……その様子じゃマジで死活問題らしいなァ。つっても俺様等じゃ賄えることにも限度があるぜ?」

「その話なんだけどさ……」

 

 新しい話題を切りだしてくるのは白髪頭。

 

「案外簡単に解決するかもしれないよ?」

「「「「え?」」」」

「もちろん幻想郷の子に協力してもらわないと難しいけど、紫苑の計算を考えると食費に関しては零になるかもしれない」

「マジか!」

 

 思わず立ち上がって大声を出したため、遠くにいる女子勢が怪訝な表情を向けてきた。

 しかしそんなのどうでもいい!

 

「んで、その方法は!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――内職って知ってる?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『三人寄れば文殊の知恵』なんてことわざがあるけれど、四人もいれば文殊の知恵なんて簡単に出てしまう。そう錯覚してしまうくらい、未来の言葉から解決策が現れる。

 

「モニターとかライターとかは厳しいかもしれないけど、制作系なら簡単にできるんじゃないかな? 幻想郷出身の人数も多いって話だから、紫苑が受け取りとか送るのとか仲介役をこなすだけで金銭面は解決すると思うよ。制作系もそんな難しくないだろうし、ほとんどが出来高制だからさ」

 

 コイツ神なんじゃないかって思った。

 

 

 

 




裏話

龍慧「500年前、ですか……」
紫苑「日本だと室町時代真っ只中だな」
未来「そう考えるとめっちゃ古く感じるよね」
フラン「……?」
兼定「巻物に書かれてる爺共と同じ年ってことかァ?」


   ♦♦♦


紫苑「さて、アンケート発表!」
全員「「「「「いえーい!!」」」」」
紫苑「これは去年12/23から序章終わりまで開催されたアンケートの結果発表です。アンケート内容は『メインヒロインを誰にするか?』」
未来「あくまでメインヒロインが誰なのかを決めるだけだから、ハーレムタグついてるし他幻想郷メンバーとの恋愛要素がないわけじゃないよ?」
龍慧「主導権を誰が握るか……という話ですね」
紫苑「んじゃ、さっそく結果発表」


1.霊夢    6票
2.紫     17票
3.幽々子   1票
4.アリス   6票
5.ランダム  9票


紫苑「というわけでメインヒロインは『紫』に決定」
兼定「胃痛仲間になるのかァ?w」
紫苑「うっさい」
龍慧「他にも『○○をメインヒロインにして下さい!』という案もありましたので、全てあげておきますね」


咲夜(3票)、こいし(4票)、霖之助(2票)、こころ、影狼、サグメ、フラン、天子、神奈子、早苗


紫苑「おい、男混じってんぞ」
未来「全員に恋愛フラグ立てるのは難しいけど、以上のキャラでは出てきたらハーレム要因に加えようと思うよ!」
紫苑「いや、だから男が――」
兼定「作者の処女作が『東方神殺伝~八雲紫の師~』だから紫のイメージが強かったンだろうな。この結果で話を進めるわけだが、これからも読んでほしいってわけだ。ンじゃ」
紫苑「ちょ、待――」


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10話 蛇足のような雑談

テスト終わって投稿です。


 白髪頭から『内職』という素晴らしい仕組みを教えてもらったのだが、5.6時間目をそのことについて考えてみた結果、次のような新しい問題が浮上してきた。

 

 

 

 

 

「けど幻想郷の奴等が協力してくれるのか?」

「「「それな」」」

 

 

 

 

 

 いつものように放課後は美術室でアホ共と遊ぶ俺。

 今日はトレーディングカードゲーム。昨日の夜にSNSで『デッキ持って来いよ!』と連絡が来たので、自分の構築したデッキを持参して挑む。

 チェスや将棋では勝つことが多い俺でも、運要素のかなり強いTCG(トレーディングカードゲーム)だと、勝敗は五分五分だったりする。ガチ勢なら目当てのカードを引けるようにデッキを組むらしいが、俺達は嗜む程度なので、手札事故(何もできないこと)が起こるのは日常茶飯事。

 まぁ、それが面白いのだが。

 

 自分のデッキを手慣れたように切りながら、俺は先ほどの台詞を口にするのだった。

 5.6時間目は本当に大変だった。ちょうど日が差し込む時間帯なので、吸血鬼であるフランドールが入っている筆箱にハンカチで日が差し込まないようにしたり。数学の授業の時、認識されないことを良いことに「ねえねえ! あの人禿げてるよ!」と肩に乗ったこいしが叫んだり。教科書の上でさとりが寝てしまい、ちょうど先生から指定された問題の上だったので解くのに苦労したり。

 とにかく授業を受けるのが大変だった。

 良く言えば刺激的な時間だったな。良く言う必要ないけど。

 

 カードの束を切り終わって向かいの席に座る未来の前に置く俺。

 これは不正をしないためにも相手側にも切ってもらうことで、イカサマなしの真剣勝負をするためだ。俺も未来のデッキをシャッフルする。

 未来はディールシャッフルを行いながら苦笑いを浮かべた。

 

「そう、それが欠点なんだよ。紫苑の話を聞く限りだと、友好的な人と非友好的な人の態度がはっきりしてるからねぇ。紫苑の分かる範囲内で手伝ってくれそうな娘ってどのくらいか分かる?」

「えっと……」

 

 と、シャッフルされたデッキから五枚のカードを自分の前に裏返しのまま置きながら考える。

 紫は確定だろうし、彼女の式神も参加が見込める。白玉楼の二人と、金髪の魔法使いと人形遣いだろ。あとデッキの横でぴょんぴょん飛び跳ねながら自己主張をする地霊殿の古明地姉妹は期待できそうだ。

 

「八人くらいか」

「うーん……できないことはないけど少ないかな? もうちょっと増やせないの?」

「無茶言うな」

 

 じゃんけんして俺が勝ち、後攻を選んで互いが手札をめくる。

 ふむ……この手札だと……ああして、こうやって……。

 

「お兄様、勝てそう?」

「相手次第じゃないかなー」

 

 肩に乗って俺の手札を見ていたフランドール・スカーレットが耳元で聞いてくる。

 その問いに俺は考えながら答えた。悪くない手札なんだが、このデッキ自体が未来のデッキと相性が悪かったような記憶がある。これは相手次第だろう。

 

 そんな自然な会話をしていると、未来がジト目でカードを伏せる。

 

「……うわー。幼気な少女に『お兄様』って呼ばせるとか、紫苑変態だわー。三伏せでエンド」

「ドロー。フランドールが呼んでもいいかって言って来たんだよ。無理やりじゃねーし。魔法カード使ってサーチするけどOK?」

「通すよ」

 

 すると俺と未来の会話に不満があったのか、フランドールが頬を膨らませる。

 

「私のことは『フラン』って呼んでって言ったでしょ! あと未来もお兄様のこと悪く言わないで!」

「わかったわかった。あ、これで攻撃」

「うわ、それ何気に攻撃高いじゃん」

「二伏せでエンド」

 

 モンスターのカードで伏せられたカードを攻撃して破壊。

 未来が召喚したモンスターを一掃して、魔法や罠を置くエリアにカードを伏せた。このカードでアホの行動を妨害するわけだ。

 

「そもそも紫苑の約束は契約が履行されておりません。口約束は契約の内に入らないんですよ? 幻想郷の賢者……でしたっけ? その方と正式な条約を結ばない限り、紫苑の部屋に彼女等が入ってくることは止められないのです」

「テメェなら薄々感づいてるだろうから責めはしねェが……取り決めを早いうちに定めておかねェといいように扱われるだけだぜ? ……オイ、龍慧。高レベルモンスターを一ターンで三枚展開すんじゃねェよ」

「だよなぁ……」

 

 兼定が龍慧のデッキに蹂躙されながらも、何だかんだアドバイスをくれる。

 そして二人が言ってたことは俺も悩んでいたことだ。

 

 お堅い言葉で表すならば『自室及び風呂場への進入禁止』の法的能力は皆無に等しい。なんせ俺と紫は正式な取り決めを行っていないからだ。そのことは口約束を一方的に押し付けた金曜日の授業中に思い至ったことなので、不法侵入してきたこいしや幽々子達に罰を与えていない。

 けれども明確なルールを決めないといけないのは俺も重々承知している。

 あのフリーダムな幻想郷の住人を法で縛らないと何をしでかすか分からない……と、幻想郷代表のスキマ妖怪が言っていたのだ。

 

 俺の今後の生活を左右する重要な案件。

 しかし――それを停滞させている原因がある。

 

「文化の違いがなぁ……」

「ん? どゆこと?」

「ほら、幻想郷と現代日本の文化の違いから、取り決めが中々進まないんだよ」

 

 いまいちよく分かっていない未来が召喚したモンスターを殲滅しながら、俺は新しい幻想郷のルールが決まらない理由を説明した。

 

 まず幻想郷と現代日本の文化・思想が全く違うのは高校生である俺達も知ってる。

 さて、ここから分かりやすく説明するならば『生死の考え方』を例に上げたほうが分かりやすいだろう。

 現代日本で人を殺すことは法律で禁じられている。道徳云々の話は省くとして、それが日本の法であり、守らないといけないのは小さい子供から年配の方々まで承知の上だ。

 じゃあ、幻想郷はどうなのか? これがまた妖怪が人間を襲うことが犯罪である……わけではないらしい。俺も詳しいことまでは説明してもらっていないから分からんが、『スペルカードルール』ができて死人が減ったとはいえ、決して零ではないと紫が言っていた。しかも妖怪が妖怪を殺すのは黙認されているとかなんとか。

 ちっさくなって仮の住まいでも『幻想郷』に違いはない。しかし俺の家は『現代日本』の法によって成り立っている。

 

 どっちのルールを適用させるか。

 適用させて彼女等が守るのか。

 ここら辺で俺と紫の議論が繰り広げられている。

 

「あー……、そっか。戦国時代の武将に『刀持つな』って言って素直に捨てるのか?ってのと同じ状況なんだ」

「いくら幻想郷側が移民勢だからって、自分の環境をそう簡単に変えられるわけがない。俺も紫と考えながら初めて痛感したぜ」

「普通の学生はそんなこと痛感しないはずだけどネ」

 

 将来役に立ちそうもない経験。

 俺だって経験したくなかったわ。

 

 頬杖をつきながら自分の手札を机に置いて気怠そうにしていた兼定は、俺のデッキ横で腰をおろしていた悟り妖怪に話しかける。

 

「悟り妖怪、どうにかなんねェのか」

「どうにかと申されましても……私は幻想郷でも他勢力との交流が少ない方なんです」

「つっかえねェなオイ」

「えっと……あいたっ」

 

 複雑な表情をしているさとりの頭上に何かが落ちた。よく見たら小さなグミのようなものだった。誰が彼女の頭に落としたなんかなんて説明する必要もないだろう。素直に渡せばいいのにさ。

 彼女が何とも言えない表情をしたのは、兼定の言葉と心の中が一致しなかったからと推測する。アイツはツンデレだからな。需要あんのかそれ。

 

 他の幼女たちの頭上にもグミが飛ぶのを眺めていると、龍慧も彼女達を微笑ましそうに眺めているのが見えた。

 

「……神秘とは意外に身近なところにあるものなんですね」

「俺は身近過ぎて泣けてくるけどな」

「龍慧はもう一方の部活に参加しなくていいの? オカルト目の前にあるけど」

「……あ、そっか。お前って兼部してたんだっけ?」

 

 未来の言葉に俺は思い出す。

 よく覚えてないけど、この胡散臭い男は美術部とは違う部活に参加しているはず。休日などはそっちに顔を出したりしているため、休日の龍慧との遭遇率はそう多くない。

 

 俺の疑問に龍慧は「あー……」と思い出したように手札を弄る。

 そして俺に己の所属している部について説明を始めた。

 

「私の所属しているもう一方は『秘封倶楽部』――簡単に申しますとオカルトサークルなんですよ。私含めて三人しか所属していないので、正式な部としては機能しておりませんが」

「それ言ったら美術部も四人しか居ないが……オカルトサークル?」

 

 秘封倶楽部……なんかどっかで聞いたことがある。

 数秒考えた後、答が出てきた。

 

「あ、宇佐見さんと留学生のサークルか。あの学年一位の」

 

 そのオカルトサークル云々は詳しく知らないが、ウチの学年主席の宇佐見蓮子が所属している部の名前がそんな奴だった気がする。あの俺にも気軽に絡んでくることのある破天荒な人。

 留学生の方はクラスが違うから何とも言えん。

 ただ二人に共通することは頭が良いってことぐらいしか思いつかない。

 

「えぇ、その破天荒な人です。本当ならば神秘――幻想郷のことを報告するのがサークルのルールみたいなものですけれど、さすがに教えてはマズいですよね?」

「黙ってくれると助かる。また霊夢に怒られかねんし」

 

 あと紫がマジで昇天しかねん。

 これ以上胃を刺激するのは可哀そうだ。

 

 完全に尻に敷かれていますな……と言いたげに生暖かい目で憐れむ龍慧に、俺は嘆息しながらも未来とのバトルで蹂躙していく。

 そして『霊夢』という言葉に反応したのか、フランが「何かしたの?」と俺の肩の上から聞いてきた。

 この前起きたことをかいつまんで金髪幼女に説明すると、同情の視線を送ってきたフラン。俺、幼子にすら憐れまれるのか。泣けてきた。

 

「霊夢って容赦ないから仕方ないよ。お姉様が異変起こした時も退治しに来たから」

「そりゃ異変解決が霊夢の仕事だろ?」

「うーん……そうじゃなくて、仕事中は立ちふさがる奴に容赦しないし、通りすがりの妖怪も退治するんだよ」

「何それ怖い」

 

 立ちふさがる奴等全員敵かよ。

 しかもアイツって幻想郷最強なんだろ?

 

 フランの説明に補足するのはさとり。

 グミを少しずつ食べながら『博麗霊夢』という人物について語る。

 

「人妖に興味を持たず、喜怒哀楽が激しく、一生懸命取り組むことを嫌う天才です。あと本気を出しているところを見たことがありませんね」

「本気出さなくても何でもできるタイプかぁ」

 

 全員が溜息をついた。

 学生勢全員が『羨ましい』と思ったのだろう。

 まぁ、その手の人間は同世代の人間から疎まれやすいが、それでも「全力でしなくてもできる」なんて言ってみたいわけである。

 

「はぁ……えっと、何の話だったっけ?」

「中央銀行の金融政策が公開市場操作と支払準備制度って話だった気がする」

「んな小難しい話してねぇよ」

 

 マクロ経済学についてのボケに俺はジト目で対応した。

 それ作者のテスト範囲で出てきた奴だし、もうテストは終わってるわ。

 

「幻想郷の奴等が内職手伝うのかって話。ま、これは紫苑の仕事だろ」

「私達じゃどうにもできません。紫苑が少しづつ信頼を得て、事を成す課題でしょう」

 

 確かにここで議論したところで答えが出るはずもなく、分かり切っていることを悩んだって仕方がない。すぐに解決するようなことじゃねーしな。

 ここは『内職』という手段を提示してくれただけでも感謝するべきだろう。

 

 俺は提示してくれた御礼に、未来へ微笑みながら言うのだった。

 

 

 

 

 

「はい、トドメ」

「紫苑、それ御礼ちゃう。煽りや」

 

 

 

 

 




裏話

龍慧「事前に話を重鎮の面々に通しておいて、後から全体に報告するのがベストですよ。コレをするかしないかで、事業の成功率はかなり変わります」
紫苑「根回しが重要だってことか」
龍慧「……まぁ、幻想郷の賢者殿に確認も取らず、その存在を話した件なんて論外ですが」
紫苑「………」


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11話 異変の前触れ

※2/12 胃薬の量を変更しました


「……はぁ」

「どうしてお家に帰ってきたのに溜息ついてるの?」

 

 アホ共とファミレスに寄った帰り。

 家の前について明かりがついているのを確認した俺は、肩に重荷が乗ったような徒労感を感じた。

 おかしいな。家って生活における『憩いの場』みたいな役割を果たす場所のはずなのに、どうして嫁が怖くて家に帰りたくないサラリーマンの気持ちを味わっているのだろうか?

 

 

 

 だって溜息をつきたくもなるだろ!?

 人生稀に見る自由人の集団がお出迎えだぞ!?

 むしろ家出したいわッ!!

 

 

 

 いっそ新幻想郷の範囲内で生産形態を確保して、独立した地域として欲しい限りなのだが、それができれば片手に幼女達、もう片方に胃薬の束を抱えて帰宅するわけがなかった。

 幻想郷の賢者には皮肉にも似たプレゼントだな。

 薬局のレジにいたオッサンから不思議な目で見られたぜ。胃薬5箱も買ってればそうなるか。しかも一箱1200粒入りだから、幽々子並みに消費する紫には最適な商品かもしれない。財布には大打撃な出費だけれど、まぁ……彼女には同情してるから特別ということで。

 んな特別、俺は絶対に欲しくないけど。

 

 ちなみに『困ったことがあったら力になるぜ』と言ってくれた友人達に、『んじゃ、幻想郷の住人を一部でもいいから引き取って』とお願いしてみたら、

 

 

 

 

 

『嫌だね』

『冗談は顔だけにしろ』

『頷くとでも?』

 

 

 

 

 

 駄弁り部に災いあれ。

 頷かれたとしても彼女等が了承するとは思えんが。

 

 ひどく重くなった体を引きずるように玄関前まで運び、鍵を開けて中に入った。

 靴を出船にするように脱いでいると、八雲紫がフワフワとこちらに近づいて来る。どーでもいい知識なのだが、こうやって玄関前の靴を脱ぐ場所を三和土(たたき)や土間と言うらしい。兼定が言ってた。

 

「お帰りなさいませ」

「うーっす。ただいまー。はい、胃薬」

「あ、ありがとう……」

 

 左手で箱の入った袋を掲げると、嬉しいような複雑そうな表情を浮かべたスキマ妖怪殿は、俺の胃薬を持つ方の手の前にスキマを出現させる。相変わらず気持ち悪い不思議な空間だ。ここに入れろってことなのだろう。

 奥行きのないスキマに入れるとスキマは閉じて跡形もなくなった。

 便利だなぁ。

 

 そのまま二階まで上がろうとしたとき、ふと紫が俺の肩にいる三人の幼女妖怪達のことについて質問される。

 彼女等は右手にいたのだが、玄関の鍵を開けるときに肩に飛び乗り、俺が土間で靴を脱ごうとしたときには襟首を掴んでぶら下がっていた。

 

「え? ま、まさか……」

「あぁ、学校にまでついてきたぞ。バレないように細心の注意を払ったがな」

 

 こめかみを押さえる幻想郷の賢者に、俺は思い出したように後で部屋に来るよう伝える。

 あのアホ共と話し合ったことを伝えるつもりだ。

 

「了解したわ。……ん? そこにいるのは紅魔館の?」

「フランのことか?」

 

 金髪幼女に厳しい視線を向ける紫。

 さとりから彼女の危険性はある程度聞いたのだが、まさかスキマ妖怪も危険視するような存在だったのかと考えると、これ肩に乗せてもいい生物なのだろうか?と考えてしまう。

 学校でも大人しくしてたし、そこまで警戒する必要がないと思われるが。

 この娘、幻想郷で何やらかしたんだろ?

 

 案の定、紫の口からは忠告の言葉が発せられた。

 

「……気をつけなさい。彼女は危険だから」

「知ってるよ。〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕だろ?」

 

 肩をすくめて肩にいるフランの頭を人差し指で撫でる。

 ……ここまで同胞から警戒されるなんて逆に可哀そうと思えてくるのは俺だけか? 年端もいかない(推定500以上の)幼女を忌避するなんざ、彼女に悪影響しか及ばさないと思う。

 それとも『まだ排除しないだけマシ』と考える方が適切なのか。不安要素は排除する。危険なものは排除する。そういう疑いを持つものも排除する。現代日本だと以上のような考えが多くなったが、危険と共存する幻想郷が彼女の居場所なのかもしれん。

 ……外の世界から忘れ去られたのも『危険だから』とかいう理由じゃないだろうな?

 

 いつもの癖で頭の中でいろいろと考察を立てていると、紫は意外なことに首を横に振った。

 え、他にもあるの?

 破壊以外にも危険な要素あるとか……彼女いったい何も――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼女は究極のロリコンホイホイよ!」

「あ、そっち?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いや、まぁ、確かにそうなのかもしれないけどさー。

 外見は人形みたいに可愛らしいから、ロリコンじゃなくても()()()()()に目覚めそうな気はする。人形サイズじゃなかったら危なかった。

 

 ん? ちょっと待て。

 紫は『紫苑はロリコン』だと思って忠告したわけじゃないだろうなぁ!?

 肩に三人の幼女を居座らせているから考えられなくもないんだが!

 

 そこんところを問いただしたいのだが今日は疲れた。

 気をつけるわーと適当に返しながら二階へ上がり、床に荷物を、机に幼女を置いてベッドの上にダイブする。寝転がって仰向けになった俺は真っ白い天井を何も考えずボーっと眺める。

 不意に何も考えたくないことってあるよね?

 

「わーい!」

 

 そこで真似てなのか俺の胸にダイブしてくるフラン。

 5.6時間目の授業と放課後ですっかり懐いてしまった彼女だが、これで危険だから遠ざけるとか俺にはできないんだけど。

 ええやん。高額の機材さえ壊さなければ。

 

 面白ければ真似するのが幼女なのか。こいしもさとりも同じように俺の胸へダイブしてくるのだった。

 幼女三人が俺の胸の上に寝ている。字面にすると物凄い光景になるよな。

 普通なら力士一人分の体重が俺の上に乗ってる計算になるんだぜ?

 

「楽しそうね~」

「そう見えるなら眼科に行くことをお勧めするぞ、ピンクの悪魔」

 

 俺の胸の上でキャッキャキャッキャはしゃいでいる幼女をあまり咎めずにボーっとしてると、耳元から冥界の管理人の声が聞こえた。

 俺は呆れながらもご用件を承る。

 

「で、何の用だ?」

「用がないと来ちゃいけないの?」

「少なくとも用がなければ幽々子は来ないんじゃないのか?」

 

 無駄なことをするイメージがない彼女。

 扇子で口元を隠しながらも、深窓の令嬢の如き儚さを持つ女性は俺に忠告を促す。

 それは紫と同じようにフランを――ではなく、

 

「異変のことは紫から聞いたでしょ?」

「妖怪の気まぐれや興味本位で起こるイベントみたいなもんだろ? 霊夢や魔理沙が解決するアレ。それがどーした」

「紅魔館の吸血鬼が異変を起こそうとしているらしいわ」

 

 紅魔館……フランの実家か。

 吸血鬼って確かレミリア・スカーレットだっけ?

 

「そりゃまぁ御大層なこった。娯楽らしい娯楽もないし暇なのかね」

「……その反応は黙認するってこと?」

「黙認するも何も『異変』については明確な取り決めなんて俺は何一つ触れちゃあいない。どーせ連中は幻想郷のルールで動くわけだし、博麗の巫女さんが解決して、はい終了。じゃないのか?」

 

 

 

『博麗の巫女は妖怪退治が仕事。つまり妖怪のいないここでは仕事する必要がないってことでしょ? なんでアンタの生活を守るなんて面倒なことしなきゃいけないのよ。自分のことくらい自分でやりなさい』

 

 

 

 少し前に霊夢はそう言った。

 つまり本職である『異変解決』のためならば彼女は動くわけだ。動かなくても魔理沙が勝手に解決することもあると宴会で言ってたから大丈夫だろう。

 

 興味ないという意思を示すと、幽々子は意味ありげに目を細める。

 

「そう……」

「異変以外の何かでも起こるんか?」

「さぁ? どれはどうかしらね……」

 

 これは教えてくれなさそうな雰囲気だ。俺は追及を諦めて再度天井を眺める。

 真っ白い天井ではあるが、俺の心の中は灰色の良くわからない色に染まっていた。

 

「あ、そうだ。家主さん、この木が欲しいのだけれど~」

「んぁ? ――オリーブの木?」

 

 いきなり本を掲げられて飛び起きる俺。

 その拍子に幼女たちは笑い声と悲鳴を上げながらコロコロ落ちていく。

 

 彼女が指すのは樋口が飛んで行きそうな値段のオリーブの木。

 俺の腰くらいの高さまで育っている木だ。

 俺は引きつった表情を浮かべながら、畏怖を込めて呟くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それ、食うんか」

「その発想はなかったわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 クッキーに紅い液体の入ったティーカップを前に、私は優雅に尋ねる。

 

「咲夜、首尾はどうかしら?」

「あと少しで準備完了とのことです」

「そう」

 

 従僕の素晴らしい働きに私は頷いて二階を睨む。

 さっき外から帰ってくる音が聞こえたのだから、きっと私の標的は二階でくつろいでいるのだろう。

 

 私の怨み(=紅茶が置いてない)、その報いを与えねば気が済まない。例え目の前に()()があったとしても、この恨みを晴らさなければ吸血鬼ではない!

 不敵に笑みを浮かべていると、「ですが――」とメイド長は言葉を付け加える。

 

「パチュリー様が霧を出そうにも現在の魔力では部屋全体を覆うのは不可能だと仰っておりました」

「……あのヒキニートでも難しいか」

 

 パチェを責めるつもりはない。

 私だって今の状態だと、紅い月を顕現させることさえ不可能なのだから。わざわざ()()()を用意したわけだし、あの私達がかつて起こした『紅霧異変』を完全に再現するには力が足りない。

 

「で、霧はどうするの?」

「現在、美鈴が代わりの物を探しに行っております」

「……本当に大丈夫?」

 

 信じて待ちましょうと真顔で言うあたり、内心は不安なのだろう。

 アレが何持ってくるのか分からんから。

 

 パチェ曰く、霧を発生させる装置さえあれば、それを赤く染める魔術を展開させることは可能だと。その発生装置が見つかるかは門番次第だけど。

 この異変を成功させるには美鈴が探し出せるかが重要となっているが、私が心配しているのはもう一つの問題が関係している。

 

「まぁ、それは置いておきましょう。咲夜、もう一つの問題は?」

「……難航しております。おそらく家から出た痕跡はないのですが」

 

 

 

 

 

 フランドール・スカーレットの捜索だ。

 

 

 

 

 

 突如として地下室から消えた私の妹。

 ここがどれ程安全なのかが分からない今、あの娘が暴走しないように地下室に待機を命じていたのだが、宴会後に訪れてみたらもぬけの殻になっていた。

 

 どうやって抜け出したのか。

 それは容易に予測はついた。

 

「まさか地下室をブチ破るなんてね……」

「申し訳ございません。私が目を離したばかりに」

「ふん、地下室の床が薄いことを前々から懸念していたんだから、こういうことが起こるのは警戒してしかるべきだったはずなのにね。迂闊だったわ」

 

 机の上に紅魔館を転移させたが、地下室は机の下――つまりむき出しの状態だったのだ。

 無防備だとは思ったが、これを補強することは難しかった。せめてパチェの魔術で対策を練ろうとも考えたのだが、それを実行した矢先に起きた事件だった。

 

 私はひそかに呟く。

 

「全く……早く帰って来なさいよ、フラン……」

 

 そして紅茶に口をつけるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、それ紅い緑茶です」

「ブハッっっっ!!!」

 

 

 

 




裏話

レミィ「紅い緑茶って何よ!」
パチェ「そりゃ魔術で紅くしただけの緑茶よ」
レミィ「何で!?」
パチェ「可哀そうなレミィにせめて紅茶を飲む雰囲気だけwwでwwもww」
レミィ「(# ゚Д゚)」


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12話 家主の怒り

久しぶりの投稿。作者がバイトで忙しかったんよ(´・ω・`) 


 おかしいと思ったのは家に入ってからだった。

 

 

 

 なんか三者面談がどうのこうので昼間に帰ることが出来た俺(とついて来たこいし&フラン)。確か俺の三者面談……いや、二者面談か。それがあるのは明後日辺りだったはずだから、特に伝えることでもないけど紫に教えたほうが良さそうだ。

 軽い学生鞄片手に、日光が当たらないように上手く胸ポケットに隠れている二人を気にしながら、歩いて家の前に辿り着く。

 

 そこまでは良かった。

 家の外壁に変化があるわけでもなく、周囲に人がいないから幼女二人と何気ない会話をする余裕すらあった。

 

「……あ、なんか飯買って来れば良かったわ」

「今からでも戻る?」

「いや、日も照ってるし早く家に入ろうぜ。フランにはきついだろ」

「お兄さんは優しいんだね!」

「ありがとう、お兄様!」

 

 無邪気な二人の反応に機嫌が良くなるちょろい俺。

 兄弟は当然いない俺にとって、年下の幼女たちは数少ない癒しだ。兄と慕ってくれて嫌なわけがない。もしかして妹ってみんなこうなのだろうか?

 身近にいる兼定の妹を参考に思い出してみたが……うん、はい。こいしとフランって稀有な存在だわ。

 

 鍵開けて玄関を開けた時、

 

「あれ?」

「ん?」

「……んぁ?」

 

 俺達三人は眉をひそめた。

 そして同じ行動を取る。つまり『匂いを嗅ぐ』だ。

 

「焦げ臭いね~」

「だな……」

 

 こいしの言う通り、何か焦がした様な匂いが廊下に充満していた。田舎で見られる庭で松やら焼いたときの咳をするほどの匂いではないが、何かしらを焼いた匂いだ。もちろん家を出るときまでこんな匂いがした覚えはない。

 しかも若干視界が悪い。不思議なことに()()()が廊下に薄く流れている。

 おそらく煙のせいだ。その煙は若干開いたリビングの扉の奥まで続いている。

 

 

 

 嫌な予感がする。

 つか嫌な予感しかしない。

 

 

 

 幼女二人以外の荷物は玄関に置き、匂いを辿ってリビングの扉まで近づく。

 その途中で廊下に落ちている者も発見。

 ――白目で倒れてる幻想郷の賢者様だった。

 

「お、おい!? 大丈夫か!?」

 

 返事はない。ただの屍のようだ。

 というボケは置いといて、真っ白に燃え尽きた八雲紫は、ピクピクと死にかけの虫のように蠢いていた。表現が汚いとは思うが、他の例えが思いつかん。

 何があった?

 

 答えはリビングの扉の向こうにあるのだろう。

 正直開けたくないんですが。

 

「レッツゴー!」

「ごー!」

 

 テンション高い無意識少女につられて吸血鬼幼女も先に行くよう促す。

 元気があることは良いことだ。TPOを弁えてくれるともっと嬉しい。

 

 ドアノブに手をかけて、一瞬躊躇しかけた想いを打ち払い、俺は全力で扉を開ける。

 

 

 

 

 

 そこは。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 阿鼻叫喚のオンパレードだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リビングからキッチンまで天井を覆う紅い煙。

 リビングで繰り広げられる鮮やかな弾幕ごっこ。

 

 霊夢や魔理沙、アリスなどの顔見知りと、メイドと魔女とコウモリの羽の生えた幼女が見栄えの良い光の玉やら、鋭利な武器を用いて激しいバトルが展開されていた。皆が笑っている。視界が悪くなっていても、光る玉――弾幕をとらえるのは簡単だ。とても楽しそうだネ。

 そしてリビングの机の上にある館――紅魔館と言ったか。それの前に中国の民族衣装を着た女性と、悪魔っぽい女性が意識を失っている。

 

 まぁ、それはいい。

 弾幕ごっこ自体は彼女等が来た初日に見たものだし、幻想郷の住人は好戦的なものが多いと聞いた。家を傷つけないのであれば多少なら目を瞑る。

 

 問題は机の上にある丸型の七輪。

 正しい用途は()()()()()()()()を焼くときに用いる道具。確か二階の倉庫に置いてあったものだが、誰かが取りだして持ってきたのだろう。

 良く観察してみると、七輪の網に幾何学模様が浮かび上がっていた。あれが俗にいう『魔法』というものなのだろう。初めて見た。あれのせいで煙が赤くなっているのではないかと推測する。炭を使って焼いているあたり、ちゃんと正しい使い方をされているように思われた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 網上の参考書の束が火を吹いてなければの話だったが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 明日が新聞紙やチラシ、冊子のゴミの日だったからと玄関前に置いてあったもの。いらないものだったのが幸いしたが、だからといって七輪で燃やしていいとは一言も言ってない。

 めらめらと燃え上がる火から紅い煙を発生させ、部屋を充満しているわけか。

 

 

 

 その現実逃避に近い考察から解放された後の行動は反射的なものだった。

 

 

 

 リビングのガラス戸を開け放つ。

 キッチンの換気扇を作動。

 バケツに水を汲む。

 バケツをリビングに運ぶ。

 七輪に水をぶっかける。

 

 火は消えた。シューっと小さい煙を出しながらも、参考書と炭の鎮火に成功した。カーペットに水をシミを浮かび上がらせるが気にせず、紅魔館と七輪めがけて盛大にぶっかけた。この勢いで紅魔館窓が割れてたり、部屋ん中にも水が入っただろうが知ったこっちゃない。

 呆然としている少女達をよそに、バケツを地面に落とす。トボトボと何も考えず歩く俺は、無意識に近くにあった扇風機をつけて煙が外に出るのを助長させる。

 

 最初に声を発したのは紫髪の幼女だ。

 声色に含まれるのは怒り。

 

「はっ! ちょ、人間! 私の館に何してくれてんのよ! 私の考えた計画が――」

「――おい」

「ひっ」

 

 自分でも信じられないくらいに低い声が出た。

 これには幼女を始めとする幻想郷の住人の表情は引きつり、反論しそうな雰囲気は消え失せる。

 

 俺には関係のないことだが。

 次に出た言葉は――

 

「そこ直れ」

「はぁ!?」

「霊夢、魔理沙――いや、()()()()()()()机の上に直れっつってんだよ」

「私も!? ただ異変解決して――」

「そ、そうだぜ!?」

 

 

 

 

 

「直れっつってんのが聞こえんのか? てめぇ等」

 

 

 

 

 

「「「「「……はい」」」」」

 

 顎で机を指す俺はどんな顔をしていたのか。

 異変後のレミリア・スカーレットはこう語った。

 

『……種族とか力の強弱なんて関係ない。()()は怒らせてはいけない生物よ』

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 机の上に正座する紅魔館のメンバーと顔見知り三人。

 かれこれ二時間は経過しただろうか。リビングとキッチンに広がる煙は跡形も存在しない。

 最初は正座にも抵抗のあった者は多く、魔理沙とアリスは自分の無罪を主張していたが、んなのは関係なかった。チャイナや悪魔っ娘も叩き起こさせて正座させていた。

 

『そこ、正座』

『私やアリスは関係ないだろ!?』

『魔理沙、私が入ってないんだけど』

『関係ねぇよ。家燃えるかもしれねぇってんのに弾幕ごっこなんざ嗜むとは素晴らしい余裕の表れだな』

『……私、ボコボコにされてたんですが』

 

 有無を言わさず横一列に並べて正座させ、こいしにその監視を命じた。

 

『わかったよ、お兄さん!』

『もし逃げ出そうなんて考えた日には――コンクリ詰めにして錦江湾に沈ませんぞ?』

 

 近くの海に捨てるという意味であり、幻想郷に海ないから伝わるとは思わなかったけど、声色でヤベーと判断されたのだろう。彼女等は渋々頷いていた。

 

 そっから俺が起こした行動は、近隣住民の皆様の家に回って騒動の謝罪をすることだった。家から紅い煙を出すなんてただ事じゃない。消防車呼ばれたなんて洒落にすらならん。

 『俺の火の不始末』という苦しい言い訳で俺は頭を下げたのだが、その時の俺は頭ん中でいろいろと思考を巡らしていたと補足しておこう。もっとマシな言い訳があったんじゃないかと今は思う。

 近所のおばさんに心配されて、ママさん方に軽い説教をされて……それだけで俺の疲労は溜まっていく。他にやれる奴もいないし、主犯には挨拶回りは不可能。この後に少女達の説教を考えると脳みそがオーバーヒートしそうだ。そろそろストレスで白髪になりそうだよ。

 

 もう自室に帰りたい。

 部屋で寝たい。

 いっそのこと土に還りたい。

 

 そう心の中で思ってることを表に出さず、俺は腕を組んで仁王立ちで彼女等と対峙する。

 考えてるの分かるなんて悟り幼女以外には今のところ存在せず、彼女はここに居ない。

 最初に出てくるのは溜息だった。

 

「はぁ……。あのさ、少しは考えなかったの? 場合によっては家が全焼するかもしれなかったんだぞ? それとも幻想郷では家の中で炎燃やすのがブームだったの?」

「………」

「別に異変起こすのは構わないんだわ。紫から幻想郷に娯楽は少ないって聞いてたし、異変のことだって説明は受けた。実害がなければ目を瞑るって暗黙の了解みたいなもんを期待した俺にも落ち度があるだろうし、ここでの明確なルールが今のところ定まってない。でもさ、限度ってモンがあるだろ?」

「……」

「別に責めるつもりだけで言ってるわけじゃない。天井についてる円形のアレ。『火災報知器』っていうやつなんだ。これは煙とか火とか察知すると水が出てきてくれる優れもの。……吸血鬼的に大丈夫なん?」

 

 異変の首謀者――レミリア・スカーレットは俯く。

 反論できない子供のように黙りこくり、子供を持つ母親の気持ちを少し理解してしまう。怒ってる側はこんな気持ちなのか。どーして男子高校生が覚らんといけないのかは理解できなかったけど。

 そして次は三人組に顔を向ける。

 

「異変解決のプロフェッショナルの方々。どーして弾幕ごっこ始めるよりも先に、七輪の火を消すことをしなかったのか理解できない俺の頭が悪いんかな? ぶっちゃけ火を消してから弾幕ごっこで遊んでも良かったんじゃないかと思うのですが」

「……異変の主犯をぶっ飛ばすのが早いと思ったのよ。何、私の解決方法にケチつけるわけ?」

「なるほど、火をを消すよりもリビングが紅い煙で充満するまで弾幕ごっこを行うことが手っ取り早いと思ったわけか。それは失敬した。七輪を取り上げれば簡単に解決すると個人的には思うけど、博麗の巫女様的にはベストを尽くしたわけね」

 

 昔からの馴染みである兼定との煽り合いのせいか、皮肉なんて腐るほど思いつく。

 未来や龍慧のように『皮肉を皮肉と思わない』厄介な連中も確かに居るのだが、幸いにも霊夢は違ったようだ。言葉を詰まらせてバツが悪そうに顔を背ける。俺への当たりは強い霊夢()だが、基本は良い子のはず。でなければ紫を始めとする幻想郷の住人に認められるはずがない。

 俺は肩をすくめながらも三人組には正座を崩すよう促す。

 

「しっかりしてくれよ、新しい幻想郷守るために行動したのに家全焼とか本末転倒にも程がある。弾幕ごっこを楽しむのは大いに結構だが、せめて頭を使って行動してくれないかな? 未来みたいに故意に間違って状況を楽しむアホじゃないんだからさ」

「何その迷惑な人……」

 

 アリスは微妙な顔をするが、それは俺にこそふさわしい表情だろう。

 真面目なところは真面目にする奴だけど、不山戯るときはとことん不山戯る奴なんだよ、アイツ。

 座布団ないところで正座だ。立とうとして足が痺れて愉快な行動を取る彼女等を尻目に、俺は期待に満ちた瞳で見つめてくる中国風の女性――紅美鈴の期待を一蹴する。

 

「あ、主犯勢はそのままな?」

「ああぁぁぁ……」

 

 どこからか仏壇でチーンと鳴らすあれ(お鈴)の音が聞こえた。あの七輪持ってきたの君でしょ?

 つってもルールも正確にはないし、あと一時間正座させればいいだろうと俺は決める。放火紛いの行動は未遂で終わったし、紫は今だに回復しないし。

 

 これで終わると思って内心徒労感で死にそうになる。

 魔理沙の痺れた足を無意識で近づいたこいしが突き「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!???」と悲鳴を上げている中、俺はそう思った。

 そう思った。

 思っていた。

 世間一般でこれを『フラグ』と呼ぶらしいが。

 

 死にそうな俺の胸ポケットから顔を出そうとするフラン。

 そしてそれはコウモリ幼女――姉に見つかってしまう。

 

 

 

「フラン!?」

「お、お姉様……」

 

 

 

 神様、俺はいつになったら休めますか?

 

 

 

 




後日談

担任「夜刀神、進路は決めてるのか?」
紫苑「いえ、まだ決めてません」
担任「そうだよなぁ。この時期に決めてる奴の方が少ないしなぁ」
紫苑(あの環境で決められるかよ)


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13話 忠告はちゃんと聞こう

『肝臓の病気じゃね?』って白髪が大幅に増えたこと以外は元気です。


「何かないかな……なんもねーなー」

「「「あー……」」」

「全部食べちゃったからねっ!」

 

 冷蔵庫を覗き込む五人。

 俺は想定通りだったので肩をすくめ、事情を知っている三人娘は気まずそうに目を逸らし、無意識少女は隠すことなく暴露した。

 冷蔵庫や冷凍庫すらも綺麗さっぱり空だと、逆に清々しいと俺は思う。

 

 台所の棚も漁ってみたが、ここ新築じゃないかってくらい何もない。かろうじでカップ麺が残っているくらいか? 幻想郷の住人には作り方が分からなかったらしい。

 久方ぶりにキッチンに立った俺はやかんに水を入れてIHヒーターにスイッチを入れる。台所の変な店――香霖堂の横に蓋を半分開いたカップ麺を開いて、お湯が沸騰するのを待つ。その間は本当に暇なのでスマホを適当にいじろうとしたのだが――

 

「なにこれ!? なにこれ!?」

「おい、ちょ!? 蓋ん上で飛び跳ねるな! ……それはお湯を注いで三分すればラーメンが食えるんだよ」

「へぇ……そんな風にして作るのね」

 

 危なっかしいこいしに注意しつつ説明すると、博麗の巫女様が興味深そうに頷く。やっぱり知らんかったか。

 カップ麺の隣に立ってパンパンと叩く魔理沙と、中身を覗くアリス。ちょうど白黒魔法使いが隣に立つと微妙にカップ麺の方が高い感じ。霊夢は俺から少し離れたところで魔理沙とアリスの様子を眺めている。

 俺はそんな好奇心の塊の行動を監視しつつ、その光景を微笑ましく眺めていた。ついでに茶葉を急須(きゅうす)に注ぎ込む。

 

 いつもなら手軽にできる一品を作る時間なのだが、なんせ材料がないから簡単なものすら作れないぜ。料理は趣味を拗らせて土日祝日に作っていたのが懐かしい。たかが一週間そこら厨房に立ってないだけで懐古するとは思わなかったが。

 まぁ、それも難しい話だろう。家の管理の主権を実質握ってるのは彼女等なのだから。

 今度どっかの誰かさんの家にでもキッチン借りに行こうかな?

 

「ぜってー栄養面的に悪いよな……」

「どうしたんだ、ちゃんと食ってないのか?」

 

 俺の呟きに反応したのは白黒魔法使いの少女。

 

「別に食ってないわけじゃないんだが……なんつーか自分で作った料理を最近食べてないから落ち着かないってか、外で買ってきたやつだとバランス取れてんのか心配になるというか……」

「え、紫苑って料理作れんのか!?」

「当たり前だろ? 基本学校ある昼とか以外は自炊してっぞ」

「「「ゑ」」」

 

 どうしてそこで声揃えて驚く?

 そこまで珍しいことでもないだろうに。

 

 驚いてる少女達とは裏腹に、カップ麺の蓋を破って下に落ちたらしい幼女が容器から這い上がって……ちょっと待てやコラ。

 何落ちとんねん。

 

「おにーさんって料理作れたんだ! 食べてみたいなぁ」

「つっても食材ないしキッチン使えないしでロクに作れんけど」

「大丈夫だよ、美味しいものは皆大好きだからキッチン使っても怒られないって」

 

 ふむ、そういうことなら今からでも食材を買いに行ってもいいかもな。趣味を封じられるのは苦痛でしかなく、幻想郷メンバーにOKもらえるのなら今からでも行くのも悪くはない。

 もしかして晩飯を久々に作れるんじゃね?

 そう考えるとテンションが上がる俺。

 

「私も紫苑の料理食ってみたいぜ!」

「そうね、外の世界の料理がどんなものなのか気になるわ。是非ともご馳走してほしいわ」

「……別にアンタの家なんでしょ。台所くらい好きに使ったら?」

 

 魔理沙は満面の笑みを浮かべながら無邪気に、アリスは学ぶ姿勢を見せながら優雅に、霊夢はそっぽを向きながらも好奇心を隠せないかのように、それぞれの反応を見せる。

 いい流れだ。こいしに親指を立てると、彼女も同じようにポーズを取る。

 

「これ食ったら買出しだな。……何ならデザートもつけるぜ?」

「「「「――っ!?」」」」

 

 ないとは思うが気が変わって「やっぱダメ」と言われないための保険のために、デザートをチラつかせると目を光らせる女子勢。ここで龍慧の言である『大抵の女子はスイーツやデザートが大好き』のアドバイスが役立つ。オカルトサークルで女子に囲まれてきたアイツの経験談が生きた。

 さて、デザートと言っても何を作ろうか。

 買い物に彼女等を連れて行けば何か思いつくだろう。

 デザート話で盛り上がる女子を尻目に、沸騰したやかんのお湯をカップ麺の容器に注ぐ。

 ボコボコと音を立てながら容器を満たしていく湯が線の内側まで貯まったところで、今度は急須にお湯を注ぐ。急須の中を、茶葉が踊るように充満していく様に頷きつつ、それを湯呑に注いで右手に持つ。

 もう一方の手はカップ麺だ。

 

 二つの神器を持って移動すると、姦しかった少女達もついて来た。

 さて、リビングの様子なのだが――

 

 

 

 

 

「お姉様の分からずや!!」

「心配させといてそのセリフを吐くの!?」

 

 

 

 

 

 外見幼女の吸血鬼姉妹が空中で仲良く弾幕ごっこを行っていた。

 紅魔館の横にカップ麺を置いて座りながら、机の上にいる弾幕ごっこに微塵も興味のなさそうな紫色の寝間着を着た少女に軽く尋ねる。彼女は地べた(テーブル)に腰をおろして本を読んでいた。

 今日の天気を聞くような軽さで。

 

「今どんな感じ?」

「ずっとこのままよ。飽きもせず弾幕を無駄に撃ってる」

「へー」

 

 反対にメイド姿の女性は不安そうに二人の弾幕ごっこを見守り、門番らしい女性は灰色に燃え尽きてる。

 

「つか一時間は経過してるだろ? なんつーか、こう、色んな意味でスゲーな」

「元々元気なお子様なのよ、二人は。太陽が照ってないから自由に活動できるわけだし、いつもより余計に騒がしいんじゃないかしらね。理解できないわ……私としては静かな方が落ち着くのだけれど」

「それな。別に体を動かすのが嫌いってわけじゃないが、静かに本読んでる方が俺も好きだぜ」

「……ふーん、貴方、話が分かるわね」

 

 持久力的な意味でも、精神的な意味でも、同じことやってて飽きないのは凄い。

 インドア派の俺と紫色の女性は肩をすくめる。

 そして同じタイミングでそれぞれ茶、コーヒーをズズズッと飲む。

 

「ふぅ、この後買い物かー。何作ろっかなー」

「……あの、そんなのんびりしないで止めて頂けると助かるのですが」

 

 控えめにカップ麺の横に立つメイド服の女性。

 止めて、というのは空中で展開される弾幕ごっこという名の姉妹喧嘩なのだろう。

 

「人様の家庭の事情にわざわざ首を突っ込むほど、俺はお人好しじゃないよ。喧嘩くらい好きにやらせたら? ほら、殴り合って分かりあうことだってあると思うし」

「そうだな!」

「殴り合うの域を超えてる気がするんだけど……」

 

 夜刀神家とスカーレット家なんて交流なんざ微塵もない。

 どうして俺が他者の家の厄介ごとに首を突っ込まなきゃならんのか。余計に話がこじれて、新しい面倒事が生まれる気かしない。

 

 そういう意味を込めて、俺は3分たったカップ麺の蓋を上げながら拒絶する。

 弾幕ごっこ大好きらしい魔理沙は、俺の言葉の真意をくみ取ったわけでもないのに肯定し、アリスは空中で繰り広げられる弾幕ごっこを冷や汗かきながらツッコミを入れる。霊夢も机の上からスカーレット姉妹の弾幕ごっこを黙って眺める。

 三者三様の態度を示しつつも、誰も介入はしないらしいな。

 俺はズズズッと麺を啜る。

 

「醤油ラーメンうめぇ」

「うめぇ」

「勝手に横から食ってんじゃねぇよ無意識幼女」

 

 麺の一本を横から吸引するこいし。

 これ彼女等からの視点ならう〇い棒ぐらいの太さになるんじゃないだろうか? 極太ラーメンとかいうレベルじゃねぇぞ。

 

「そうそう、紫の魔女さん。あのレミリアって娘は何で異変を起こしたの? わざわざミラーボールまで天井からぶら下げてさ」

「パチュリー――いや、貴方なら『パチェ』って呼んでいいわ。あのおこちゃま吸血鬼はね、この家に紅茶がないから異変を起こしたのよ。あぁ、あの光ってるアレはレミィが持ってきたの。月みたいだって」

「「「えぇ……」」」

 

 本好きを暴露したためか妙な親近感を持たれてしまったことは置いといて、異変を起こした理由のしょぼさに俺と金髪娘×2がドン引きする。俺は特にキラキラ光ってる、カラオケなどで見られるミラーボールを残念そうに見上げる。吸血鬼にとってアレは月として代用していいの?

 

 今は亡き(生きてるけど)紫に聞きたいくらい。異変って、んなしょーもない事で起きるものかと。どおりで霊夢が異変解決を面倒くさがるわけだ。

 小さいことで変なことされたんじゃ、解決する気も起きない。

 

 そして『紅茶』という単語で思い出した。

 

「あ、そうだ。俺の部屋に紅茶の葉は持っていったんだった。そりゃないわけだよ。言ってくれれば買ったのにさ」

「つまり……お嬢様の行動は」

「無駄だったな」

 

 何とも言えない顔をするメイドに、噴き出すのを一生懸命堪えるパチェ。

 魔女さん、いい性格してるじゃないか。嫌いじゃないぜ。

 

 そんな事を露とも知らず、妹と弾幕ごっこしてる姉。もう喧嘩しか頭になさそうだし、異変って根本的には解決してるんじゃね?

 レミリア・スカーレットとフランドール・スカーレットの出す赤や青を始めとするカラフルな弾幕やスペルカードを背景に、俺はこいしと昼飯のラーメンを食す。そして、汁を飲む頃には両方が肩で息をするくらいに膠着していた。

 

「はぁ……はぁ……お姉様……しつこすぎ……」

「ぜぇ……ぜぇ……アンタねぇ……!」

「はいはいはいはい、そこまでにしとけよお二方」

 

 フランの鬱陶しそうに吐き捨てたセリフに、レミリアが再び怒りを見せようとしたところで、俺は机の上に空のカップ麺を置く。ちなみに俺は座りながらスカーレット姉妹を見上げて発言している形になる。

 止めたのが人間だと分かると、レミリアはふんと鼻を鳴らす。

 

「下賤な人間が私達に指図するな」

「お兄様に向かって失礼でしょ!?」

「ちょっとフラン! 何時からこれを兄って呼ぶようになったの!」

「姉妹喧嘩はどーだっていいからさ、二人も疲れてんだし弾幕ごっこは終りにしたら?」

 

 メイドのじーっと見つめる視線に耐えきれなくなった俺は、溜息をつきながらも停戦を提案する。

 立ち上がった俺は近くにあった脚立を持って来て、ミラーボールを取り外すために上る。今度は彼女等が高さ的に俺を見上げていた。

 

「レミリアさんは紅茶なくて異変起こしたんだろ? ったく、言ってくれれば紅茶の葉くらい買ってきたのに」

「私は誇り高き吸血鬼よ。人間風情に頭を下げるなんて――」

「あ、いらん?」

「上質なものを所望するわ」

 

 そう、この会話だけで終わるはずだった異変。

 机の上にいた面々は『何コイツ、ちょろすぎ』とでも言いたげに遠い視線を吸血鬼に向けていた。とても誇りある吸血鬼には見えない。

 

「そしてフラン。迷惑かけたんだから姉ちゃんに謝っとけ。心配してくれるなんて妹想いの素晴らしい姉ちゃんじゃねーか。……え、ちょっと待って。ボルトで止めてあるんかよ」

「――お兄様も私が悪いって言うの?」

「そーゆー訳じゃないが、迷惑かけた自覚があるって学校で言ってたじゃん。あっれー、工具どこに置いたっけ」

 

 後々の俺の行動を考えれば本当にバカだったと思う。

 彼女の話は学校で聞いた。あのアホ共と一緒だったり、こいしと一緒だったりもしたが、俺は本当の意味で彼女のことを理解していなかったのだろう。

 他の作業しながらフランのことを聞くのとか阿保かと。

 

「戸棚かな? 俺の部屋かな? うーん、魔理沙とアリス。プラスドライバー……って言っても分からんか。いいや、一度降りて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘つきっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この悲痛な台詞で俺はようやく状況を理解した。遅すぎたが。

 フランが肩を震わせていることも、小さな機微だったため気付かなかった。

 

「お兄様ならっ、お兄様なら分かってくれると思ってたのに! お兄様も私のことが悪いって言うの!?」

「いや、だから――」

「お兄様なんて……お兄様なんて……!」

 

 彼女は子供だ。

 年齢的には遥かに俺よりも年上なのだが、この際はどうでもいい。重要なのはそこじゃない。

 これを他のアホ共は気づいていたのだろうか? 忠告してきた面々の『フランドール・スカーレットが危険な存在』という言葉が、能力を指していたのではなく、精神的なものだったと。〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕を持つが故に、彼女が情緒不安定だったことを。

 俺はこの日この時まで、彼女が『狂っている』ことを理解していなかったのだ。

 

 所詮、俺も彼女等から見れば外の世界の住人。

 常識という物差しだけで計っていたのだろう。今後の教訓になる。

 代償と言っては何だが――

 

 

 

 

 

「大っ嫌いっっっ!!!」

 

 

 

 

 

 パァン!!

 何が弾けたのか俺は分からんかったが、急に俺の前に落下してくるミラーボールだけが視界に映った。

 条件反射で受け止めたのだが、不運なことにバランスが悪かった。ぐらりと大きく揺れる脚立は重力によって倒れ、もちろん俺も床に落下する。

 

 さらに不運なことが重なるものだ。俺は頭から落ちたため、ゴスっと嫌な音と共に気を失う。

 

 

 

 

 

「お兄さ――」

 

 

 

 




裏話

霊夢「ばーか……」
魔理沙「ちょ、あれ大丈夫なのか!?」
霊夢「知らないわよ」
魔理沙「いや、それで済ませることじゃないだろ!?」
霊夢「………」


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14話 問題と答え

お久しぶりです(`・ω・´)ゞ
この前の活動報告の通り、このまま話を進めたいと思います。
では本編をどうぞっ。


 とても懐かしい夢を見た。

 ……懐かしい? 分からない。

 

 視点が低いから、俺が小さい頃の場面なのだろう。

 しかし、俺にはその光景に見覚えがないのだ。だから自分が何歳なのかが特定できないし、そもそも今立ってるところがどこなのかが分からない。

 自分に身に覚えのない光景。

 それでも――会話は進んでいく。

 

 

 

『……君が私を助けてくれたの?』

『ん? そうだよ』

 

 

 

 どこかの公園のベンチ。

 それに座って居るのが女性だとは認識できるのだが、首から上に陰りがかかっていて誰なのか判別がつかない。こう……どれだけ凝視しても、逆にどんどん分からなくなっていく不思議な感覚。どこかで聞いたことのあるような声? それとも初めて聞いた?

 記憶が酷く混乱している。思い出そうとしても何故か思い出せない。

 

 

 

『君の名前は?』

『僕? ■■紫苑だけど……』

『そう……綺麗な名前ね』

 

 

 

 もはや自分ですら忘れていた名前。どうして忘れていたのだろうか。

 小さな少年(自分)の口から発せられる家名は、今の両親に引き取られる前に名乗っていたもの。

 この女性と会ったのは本当の両親が健在だったころの話なのか? 少し出も思いだそうと現在の状況把握に努める俺。

 

 

 

『おねーさんの名前は?』

 

 

 

 よし、ナイス昔の自分。

 名前さえ聞ければ糸口が――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私は■■■■■の■■■よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この記憶のセキュリティ硬ぇなオイ。

 彼女が名乗った時だけ耳に流れるのは酷い雑音。彼女がどこの誰なのか、少年は『そうなんだ!』と納得しているが、俺としては何一つ理解していない。

 おい、昔の俺。ちょっと彼女の名前復唱しろや。

 

 

 

『おねーさんは……どこの人?』

『■■■ってところから来たの』

 

 

 

 お前は『おねーさん』で通すのか、そうなのか。

 ちくしょう。ヒントくらい寄越せよ紫苑jr。

 

 出身地すらも雑音が混じって聞こえない。

 彼女の声は聞こえる。どこか温かみのある、妖艶で不思議な声色。確か龍慧が『美女は美しい声をしているものです。なぜなら、骨格が整ってるので、美しい声を出しやすいんですよ』とか無駄知識を披露していたが、あのアホの言葉を参考にするのなら、彼女はきれいな顔立ちをしているのだろう。

 ……ならば、なぜ思い出せない? 首から下は見えることに加えて、声まで聞こえる。判断材料なら腐るほどあるのに、記憶の片隅にも引っかからないのは不可思議にもほどがある。

 まるで思い出すのを阻害されている(・・・・・・・)ようで――

 

 その考えに辿り着いたとき、俺の視界がぐらりと揺らいだ。

 少年と女性は会話の途中なのだが、俺には何を言っているのか理解できなかった。おそらく現実世界の俺が起きるのだろう……たぶん。

 

 

 

『―――――』

『―――――』

 

 

 

 一つだけ分かったことがあるとすれば。

 そう遠くないうちに――彼女に会えそうな、そんな気がした。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 目を開けるとリビングの天井が見えた。

 ここで俺は脚立から受け身も取らず落ちて気絶したことを思い出す。打ち所が悪かったのだ――いや、むしろ良かったのか? 死ななかっただけマシと考えれば、腹立たしさが沸いてこない。

 ポジティブシンキングって大切だよね。

 

「お、紫苑! 起きたか!?」

「……魔理沙?」

 

 俺が魔理沙の声を認識すると同時に、白黒魔法使いは大声で他の住人の元へと向かった。

 起き上がって少し眩暈を感じたけれども、それ以外の違和感は感じない。外が暗くなっており、時計がカップ麺食っていた時より二時間ほど経過している。

 スマホを取り出して確認しても時間経過は同じだ。Twitterやソシャゲの通知が増えている。

 

 後頭部を摩りながら立ち上がって周囲を見渡し、そういえばミラーボールを取り外している最中だった現実が広がった。つまり倒れた脚立と転がってるミラーボールだな。ミラーボールは天井からぶら下げる部分が消し飛んだだけだったので、そこさえ直せばまた使えるようになるだろう。コレをまた使う機会があるのかは別として。

 天井にはまだミラーボールを支えていた部分が残っているが、今日はもう片付ける気にはなれない。脚立を元の場所へ戻そうとしていると、

 

「貴方、大丈夫なの!?」

 

 悲鳴に近い声が背後から聞こえる。

 振り返ってみると――

 

「ん? おっはよー」

「え、あ、あぁ。おはよ――じゃなくて!」

 

 少々怒り気味の幻想郷の賢者様だった。

 そこで初めてリビングの方の様子も窺えたのだが、スカーレット姉妹が正座をしているのがチラっと確認できた。今日はレミリアさんが正座をする日なのかな?と思ったが、半分は自分のせいなので口にすることはない。

 俺の目の前まで飛んできた紫は、手に持った扇子で俺の頭を叩く。痛みは皆無。

 

「そこの脚立から落ちたって霊夢から聞いたのだけれど、どこか痛いところはないのかって聞いてるのよ!」

「……机の角に頭をぶつけたわけじゃないし、本調子じゃないことを除けば大丈夫じゃねーの? 寝れば明日には普通に戻ってるって」

「……本当?」

 

 俺の弁明を聞いても尚、疑わしそうに半眼で睨んでくる紫。派手な落ち方をしたのは自覚があるから、後ろめたいことがなくとも彼女から目を逸らしてしまう。

 気絶までしたからなぁ。

 

 これ以上心配されるのも考え物だ。

 話題を逸らすために、一番気になっていることを半笑いをしながら紫に尋ねてみる。

 

「ははっ、んなことより俺の目にはスカーレット姉妹が半泣きで正座させられているように見えるが、あれ放っておいて大丈夫なのか?」

「あぁ、そのことね」

 

 露骨に話題逸らしてきやがった……という顔を一瞬見せたが、紫の顔つきが幻想郷の賢者に相応しいそれに変化する。その様子を見た俺も顔を引き締める。

 ルールを早急に決めていなかったツケが回ってきたわけだな。

 

「今回の異変は明らかに幻想郷の存続……最悪この家が全焼しかねない案件だった。それを踏まえると紅魔勢は幻想郷から追放するのが然るべき対応――なんだけど」

「幻想郷からこっちに来て数日も経ってない上、彼女達には火を起こすイコール家が燃え尽きるかもしれないなんて考えにくいもんだ。自分達の背が小さくなっているから、家の中にいるって感覚がないのも情状酌量の余地はあると思う」

「それ以前に私達は新幻想郷の詳しいルールを作ってないから、彼女等を裁く法がない」

「うんうん、それが問題」

 

 要するに俺達にも非があったわけだ。決めるのが難しいからって、後回しにしてきた結果がコレだ。

 彼女――フランドール・スカーレットの暴走も含めて、俺は考えや配慮があまりにもなかった。どーして俺がんなこと考えにゃいかんのか、と溜息の一つや二つもつきたくなるもんだが、巻き込まれたからには手探りにでも進まないといけない。

 かと言って紫に全部任せると、今回のように俺の家そのものに被害が及ぶ可能性もある。

 

 まぁ、今回の件は厳重注意に留めておくのが正解だろう。

 少しの会話のキャッチボールがあった後、そういう風に考えがまとまった。

 俺は彼女に今後の処理や通達を任せて、二階の自室へ戻ろうとする。

 

「あら、貴方もフランドールに言いたいことの一つや二つあるんじゃないのかしら?」

「こんな巨人に怒られるとか拷問レベルだろ。叱りつけるのは君達に任せるよ」

 

 自分よりも数百倍も大きな奴に怒鳴り散らされてみろ。フランのような精神年齢が子供な奴には一生もののトラウマになりかねない。レミリア含める紅魔勢や金髪娘達は別として。

 手を振りながらリビングを出ようとする俺を、心中を悟った紫は複雑そうな表情を浮かべながらも了承し、「面倒だから」という本音を言わずに厄介事から離脱する。全部任せるわけじゃないが、もう終わったことの後始末くらいは引き受けて欲しいところだ。

 

 玄関近くの荷物を回収して、二階の自室へと移動する。

 そこらへんの床に鞄を投げ置いた俺は、鞄の中からプリントファイルと筆記用具を取りだして、机の上に放り投げた。荷物を運びながら、課題プリントを配布されて提出期限が明日だったことを思い出したのだ。今は特に勉強などやりたくはないのだが、やらなきゃ怒られる。

 適当に洗って乾かした後の洗濯物の山から引っ張り出したジャージに着替えて、席に座りながら大きく息を吐くのだった。

 教科は数学。得意じゃないが苦手でもない科目。

 

 黙々と問題を解きながらも、独り言のように呟いては考える。

 そして聞きなれた合いの手。

 

「大問一問四、3x²-xの因数分解は……っと」

「x(3x-1)だね!」

「……そだね」

 

 いきなり机の上に現れて俺の解いていた問題の答えを声高々に述べ、胸を張ってドヤ顔をキメる無意識幼女。俺は彼女の答えを確認し、苦笑いを浮かべるしかなかった。

 俺と一緒に学校へ行っては授業を聞いていた古明地こいし。最初は全ての授業例外関係なく頭上に疑問符を浮かべていた彼女だったが、どうやら因数分解ができるようになったらしい。彼女のスペックが高かったのか、はたまた数学の先生の授業が幼女にも理解できるくらい分かりやすかったのか。

 どちらにせよ、恐らくこいしは今のところ幻想郷で一番、外の世界の知識を吸収しているんじゃないかと思う。

 できれば答えは胸の内に秘めて頂けたらよかったのになぁ……と思うのは贅沢だろうか? 

 

 こいしと一緒に楽しく(?)お勉強をすること数十分、センター入試の過去問らしき問題を解いていた時、控えめに自室の扉がノックされた。

 控えめに俺は聞こえたが、たぶんノックした人物は全力で叩いたんじゃなかろうか。

 

「どぞどぞー」

「……お兄様」

 

 扉を開けて入ってきたのは金髪幼女の吸血鬼。

 彼女の声を聞いた瞬間、俺はペンを止めてプリントの上に置き、扉が開かれた方へ向き直る。先ほどの失態は犯さんよ? 俺だって学習する生き物なんだぜ?

 話半分で彼女の話を聞くのではなく、幼き妖怪と面と向かって会話せねば。

 

「フランか、何のようだ?」

「え、えっと……その……」

 

 先ほどのようにミラーボールを外しながら適当に対応されただけに、このように真剣に真正面から話を聞いてもらえると思わなかったのだろう。俺の反応に気圧されたフランが空中でもじもじと言葉を言いあぐねる。

 もちろん俺は喋ってもらえるまでフランから目を逸らさない。

 例えこいしが俺のプリントに答えを書こうとしても、だ。

 

 流れるのは気まずい空気。カリカリとシャーペンの音だけが響く。

 こいしが気にせず答えを不器用な文字で書いていく中、沈黙を破ったのはフランだった。

 

 

 

 

 

「――ごめん……なさい……」

 

 

 

 

 

 小さく儚い少女の謝罪。涙目の吸血鬼が発する言葉は静かな空気だからこそ聞こえたものであり、小さいながらも気持ちは十分すぎるほど伝わった。

 言葉ってのは不思議なもんだ。

 彼女の震えた声に、俺は優しく微笑む。

 

「良く言えました。えらいぞ、フラン。つっても俺もフランのことを何も分かっちゃいなかったがな。こっちの方こそ謝らせてくれ――すまんかった」

「……お兄様はフランのことが怖くないの? 怪我までさせちゃって」

 

 頭を下げた俺の鼓膜を震わせる幼女の言葉は、子供が心配するにはあまりにも酷な内容だった。

 ゆっくりと顔を上げた俺は相変わらず微笑むだけ。その笑みには少しばかりの寂寥が含まれていたんじゃないかな?

 

 人間は排他的な生き物だ。少しでも自分達の違うものを排除する傾向にあり、それに対して人間はどこまでも残酷になれる。全員がそうというわけではないが、それでも多数なのは事実。

 彼女の言葉を吟味するならば、俺よりも長い時を生きる彼女は自分の能力のせいで心なき言葉を投げかけられた過去があるんじゃないかと推測する。言葉だけならまだいい。フランの反応といい、物理的に迫害を受けた可能性も否定できない。幻想郷にも人間が住んでいるわけだし、あながち最近もあったかもしれない。

 どこまで人間はクソッタレな生き物なのだろう。フランが人間と言う単語を出していないから完全に俺の妄想の域を出ない人間批判。けどレミリア・スカーレットの態度を見るからして――的外れな考えじゃないと思う。

 

 倫理学の授業以外でこんなことを考えさせられるとは思わなかった。異種間交流なんてレアな体験、俺はするつもりはなかったんだけどなぁ。

 今この場所に悟り妖怪がいないからフランにこの内心が漏れることはない。

 

「あれはフランが望んで起こしたものじゃないだろう?」

「う、うん……!」

「なら事故だ。俺はホラ、この通り生きてるわけだし。次は気をつけてくれれば俺は何も言わないよ」

 

 そこで俺はわざとらしく声色を変える。

 

「あー、でもフランには『俺がそれしきのことでフランのことを嫌いになる奴』って思われてたのかー。うわー、お兄様ちょー悲しいわー。そこまで薄情な人間って認識だったとか泣けてくるわー」

「そ、そんなつもりじゃ……!」

「――なーんてな。ははっ、そんな悲しそうな顔すんなって」

 

 俺はフランに笑いかける。さっきみたいな微笑みではなく、ニカッと歯を見せるような笑みだ。

 

 

 

 

 

「確かにフランの能力は怖いよ、正直に言って悪いけど。でも、見くびってもらっちゃ困る。()()()()でフランのことを嫌いになるなんて断じてないわ」

 

 

 

 

 

 この言葉をかけられて、フランドール・スカーレットはどう思ったのか。少なくとも泣きながら、そして安心したように俺の胸で泣く彼女に僅かばかりは響いたんじゃないかって思う。

 小さなフランを両手で包み込みながら、俺はカーテンを閉めていない窓から外を眺める。

 

 

 

 初めての異変。

 多くの問題点。

 複雑な家庭事情。

 

 

 

 騒がしくも大変な一日だったが。

 そんな中、俺は何かを得たような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やった! 全部解けた!」

「え、ちょ」

 

 

 

 




魔理沙「更新遅かったな」
紫苑「いろいろ事情があったんだよ、作者にも」
魔理沙「活動報告のこととかか?」
紫苑「それもあるが――中でも一番ヤバかったのは、大学の履修登録で作者が卒業できないことが判明したことじゃね?」
魔理沙「( ゚Д゚)ハァ!?」
紫苑「まさか必修科目と演習科目の時間が重なるなんてなぁ。両方必要だし、『単位取れてるのに卒業できない』なんて面白展開が繰り広げられるところだったわw」
魔理沙「笑いごとで済むのか!?」
紫苑「とりあえず演習変更したから大丈夫らしいよ。あの作者それで更新できずに大学走り回ってたわけだし。履修はみんな気をつけてね!」
魔理沙「_(:3」∠)_」


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15話 終わり良ければ……?

基本的に異変は

アホ共の会話→異変前兆→異変→アホ共との反省

を恒例化しようかと思います。


 何事も『反省』が必要である。

 とまでは言わないにせよ、何らかの言動を完璧に遂行する人間は非常に珍しい。ましてや俺は学生。成人未満の若造が過ちを犯さないとか気味が悪いにも程がある。

 失敗すりゃ反省。

 成功しても反省。

 人類の歴史は反省で積み重なっている。それが生かされるかどうかは別として。

 

 

 

「――って決まったわけよ」

 

 

 

 安定の放課後。

 三者面談の期間が終わって憂鬱な授業が再開され、放課後も変わらず美術部で無駄な時間を過ごしていた。俺は紅霧異変……なんか()()()()って感じだったが、そのことを美術部他メンバーに話しながら手元を動かしていた。

 一つの机を囲んで、現在俺達は立ちながら話し合っているのだ。こいしは勿論机の上で見守っている。

 

 どうして立ちながら話し合っているのか。

 答えは机の上にあった。

 

「っと、ほい」

「ちょ!? 紫苑テメェ! 変な置き方すんじゃねェ!」

「ヤバいヤバいヤバいヤバい! 次僕の番だよ!?」

「……どうしましょうかねぇ。ふふっ」

 

 

 

 

 

 ジェンガしてます。

 

 

 

 

 

 四人で囲んで遊んでいる『ジェンガ』とは、同じ大きさの直方体パーツを組んで作ったタワーから、崩さないように注意しながら片手で一片を抜き取り、最上段に積みあげる動作を交代で行うテーブルゲームである。パーツは最上段を除きどこから抜き取っても良いが、最上段に3本そろわないうちにそのすぐ下の段から抜き取ってはならないルールがある。タワーを崩した人が負け。余談だがパーツはそれぞれ極僅かに厚みが異なっており、元々『ジェンガ』という語はスワヒリ語で『組み立てる]という意味の『クジェンガ』に由来している。

 いまやってるのは54本の直方体パーツを縦横に3本ずつ組み上げた18段のタワーだ。

 

 不安定なバランスが奇跡的に保たれている現状で、無意識幼女が見守っているのはコレである。俺が抜き取ったパーツを雑に置いたので少しタワーが揺れている。

 だから他のアホ共が騒いでいるのだ。

 未来が息を止めて新しいパーツを抜き、最上段に置きながら口を動かす。

 

「あぶなっ……まぁ、後頭部強打だけで済んで良かったじゃん。その吸血鬼ちゃんに紫苑そのものが壊される可能性だってあったし」

「それな。小さくなってるからって油断するとヤバいって痛感したぜ」

「あのガキがンな危ねェ奴だったとはな……姉の行動も間違っちゃいなかったンじゃねェの? つか再度閉じ込めなくて良かったのか?」

 

 あれだけ騒いでおきながら、スタイリッシュにパーツを片手で抜く兼定。その技術が他で生かされる日が来るかは定かではないが、こいしは手を叩いて喜んでいた。

 美術部の暗黙の掟『無駄なことは真剣に』を忠実に守っているので良しとしよう。他に『卑怯・汚いは敗者の戯言』ってルールもある。

 

 さて、さらりと兼定が問題提起したから反論することにしよう。俺たちの間ではよくある光景だ。

 俺は鞄から購買部で買ったパンの袋を開けながら舌打ちする。この時間になると不思議と腹が減るのは、高校生だとよくあること。ほら、同じように兼定もパンを開封してるし。

 

「臭いものには蓋をしろってか? 小さい子相手に非情にも程がある」

「甘ったれるな。臭いもンに蓋理論は日本社会では常識みたいなもンだぞ。少数を犠牲にして多数を救う、異質は全力で排除する。綺麗事は必要ねェ。皆でお手手繋いでゴールの世の中で、出来ない奴に人権なンぞ与えられるかよ」

「今まで誰とも関わらずに過ごしてきた少女に、また地下室ニートに戻れなんて俺なら言わねぇ。散々彼女は我慢したんだからひょっとふはひひゆゆははっへほひひひゃはいは」

「別にテメェのことだし解放したきゃ構わねェけど、小さくても危険な妖怪なのは事実だろ。フランドールだっけか。逆に能力暴走して他者を殺したら、ほへほほへほはへはへはいはほふは」

「食べるか喋るかどっちかにしたら? 真面目に論争するんならさ」

 

 未来が呆れながら肩をすくめるが、俺と兼定は首をかしげるだけだった。両方とも口の中にあったパンを飲み込んで、

 

 

 

「「え、真面目にしてるとでも?」」

「……うん、知ってた」

 

 

 

 真顔で言い切るのだった。

 このようなノリに未来は白目で理解を示す。これが赤の他人なら口の中に物を入れながら話すなんてことは絶対にしない。『親しき仲にも礼儀あり』ってことわざがあるが、この程度の無礼なら日常茶飯事だ。

 さっきの論争だって冗談だってのは互いに理解している。俺が感情的観念から、兼定が論理的観点から発言するのだから、どちらかが折れない限り決着はつかない。ぶっちゃけ兼定が何を言おうが俺がフランを閉じ込めないし、個人的に被害はないのだから兼定は強く言わない。

 つまりはそういうことである。もちろん未来も分かってて止めてるので、龍慧もニコニコ笑いながらパーツを取ろうとする。

 

 やっぱ仲の良い連中とじゃないと今のようなことはできないよね。腐れ縁だけど。

 

「さて――ふっ!」

 

 龍慧が一番下のパーツを中指をバネのようにして弾く。もちろん一番下の三本は最初から俺と兼定によって一本しか残っていない。

 パーツは銃弾のように吹っ飛び、だるま落としの要領で上のタワーは綺麗に保ったまま着地した。弾かれたパーツは使っていない隣の机の角に当たってくるくると上空に躍り、パーツは龍慧の元へ落ちて行く。計算された洗練された動きで龍慧は弾いた方の手でパーツをキャッチ。

 

「「「「おー」」」」

 

 やっぱりジェンガガチ勢の技はキチガイじみてるわ。

 パフォーマンスとしてなら十分と言える特技で、こいしなんかが特に机の上で跳び跳ねながら楽しんでいらっしゃった。龍慧はこいしに向かって仰々しくお辞儀することも忘れない。

 これが俺たちのジェンガである。

 

 さて、俺の番だが……どうしようかねぇ。

 不安定なタワーを睨んでいると、水分補給している年上のアホがこいしを眺める。

 

「幻想郷の新しいルール、決まったようですが穴が多々あるようで。紫苑のことだから何か考えがあるのでしょうが、聞いてもよろしいでしょうか?」

「考えてるも何も今の限界がコレってだけ。紫から他住人に話してくれるらしいけど、こりゃ施行して実際に過ごしてみないと分からん」

 

 またもや不安定な場所のパーツを抜いて未来が発狂する。コイツはジェンガ苦手だからな。

 俺の説明だけだとイマイチ伝わらない可能性もあるので、まとめた内容をグループLI○Eに張り付ける。それぞれスマホに張られた内容を確認していた。

 

 驚くことなかれ。実は集まっているメンバーの中で一番成績が良いのは兼定である。現代文の如く流し読みで先に内容を理解した外見不良少年は、考えるように唸った。

 未来は呼吸を止めてパーツを恐る恐る引き抜いている。

 

「……悪かねェが、不安要素の多いルールだなァ。俺様だったら今載ってるコレの三つ四つを悪用できるぜ?」

「どんなのどんなの!? 教えて!」

「誰が教えるかよ」

 

 幼女の質問を切り捨てる不良。

 この反応は分かりきってたことだが。

 

「何この心臓に悪いゲーム……紫苑の部屋へは入室OKになったんだ。そこら辺は譲らないと思ってたんだけど」

「許可さえあればな。禁止したらしたで余計に面倒になりかねないから、いっそ許可制にしたってわけだ。下手に縛ると燃えそうな連中なんだよ……」

「僕もそのタイプだネ」

「死ねばいいのに」

 

 それでも呑気に笑う未来。よし、次は際どいところにパーツを置くか。

 冗談はさておいて、許可制にしたけど許可なしに入れる幻想郷メンバーも存在している。こればかりは俺が折れて、紫も渋々納得していた。

 

「おにーさんの部屋で寝ても怒られなくなったよ!」

「通報」

「待てやコラ」

 

 こいし(こいつ)だ。

 純粋無垢にニコニコ笑うこいしの発言に110しようとした未来にスカイアッパーを喰らわせて、俺は頭をかきながら溜め息をつく。

 仕方ないやろ。いつ入ったかも分からんのだから。

 

「あれ、リビングやキッチンも解放されてる?」

「それが今回の異変での補填だろうなー」

「良かったではありませんか」

 

 スカイアッパーをものともしない未来がルールの一部を見て驚く。散々な目に遭った俺が、唯一得をした部分と言えば『家主はリビングとキッチンの利用を自由にできる』の一文だろう。

 ルールができる前に起こった異変だから罰則は与えられなかった紅魔館だけれども、それでも無罪放免は幻想郷の賢者的に納得できなかった紫が、紅魔館勢の領域は自由に使ってもいいわよね?みたいな感じで解放してくれたのだ。紅魔の主も(半強制的に)首を縦に振ってくれた。

 これで不規則極まりないコンビニ弁当やらカップラーメン生活が幕を閉じ、最近は気合い入れてキッチンに足を運んでいる。

 

「テメェの料理はプロ顔負けだからなァ」

「無駄に美味しいからね」

「無駄は余計だ」

 

 滅多に他人を誉めない兼定からの御言葉。

 自慢ではないけれど、俺は料理だけは多少の自信はある。下手な飲食店で出てくる飯より美味しいものは作れるはずだ。

 数少ない俺の特技の一つだし。

 

 ちなみに三者面談の学校から早く帰る期間に――つまりコイツ等と顔を会わせる前に、一部の幻想郷メンバーに料理を振る舞ってみた。そこの無意識幼女と金髪吸血鬼、桃色の食欲魔神とスーパーまで買い物に行き、日本人の大半が大好きなカレーを作ってみたのだ。

 インスタントじゃない。スパイスから何やら厳選してルーから作る本格的なやつ。

 元々は買い物についていった三人が俺の飯を食いたいと話になり、姦しい博麗神社勢にも振る舞ったわけだが……

 

 

 

『これ美味しー!』

『お兄様って料理上手なんだね!』

『………(モグモグ)』

『ふーん……まあまあなんじゃないの』

『何これっ、美味っ!?』

『や、ヤバい。美味し過ぎて太るかもコレ』

 

 

 

 好評だったらしい。

 暑っ苦しいアホ共とは違って、可愛い女の子達に喜ばれるのは嬉しいもの。幼女勢を考慮して作り慣れない普段より甘めのカレーだったが、お気に召されたようだった。

 幽々子は二皿分のカレーを軽く平らげたが。

 あれ普通なら物理的に無理なんじゃねーの?

 

 こうしてキッチンの所有権は奪還することに成功した。オマケにリビングも得たので、○点も見れるようになったのも大きい。皆も観てみてよ、笑○。

 紅茶の茶葉も献上して紅魔の主とも和解できたし、異変で得たものはプラスだったんじゃないだろうか。

 

「そして内職要員も増えた、と」

「そういうことになるな。いやー、そのうち俺の懐から金を出さなくて済む日が来ると思うと待ち遠しいぜ」

「料理を食わせて仲間を増やすRPG」

「ゲーム要素どこだよ」

 

 またもや手品のようにパーツをかっさらっていく龍慧。それ言うなら『飯で釣って労働要員を徴収するRPG』の間違いじゃ?

 ブラック漂うキャッチフレーズだ。

 

 そろそろ自分が適当に重ねてきたツケが回ってきたようだ。少し衝撃を与えただけで崩れそうなタワーから、パーツを抜き取って上に置く。

 ギリギリってレベルじゃないぞ。

 

「糸口が見つかって良かったですね。私達も紫苑の料理を集りに……頂きにお邪魔できそうです」

「つっても連中が自力で稼げるまでは油断できねェな。どう見繕ってもテメェの支出が上なんだしよォ」

「ルールも完全じゃないから今後が勝負所か。こんだけ苦労して序の口とか笑え――」

 

 

 

 

 

 ガラガラガラガラ

 

 

 

 

 

 崩れ落ちる不安定だったタワー。

 机を転がりながら落ちてきたパーツを回避する緑髪の少女と、瓦礫の山と化したタワーの前に立つ未来。

 

「「「「「………」」」」」

 

 一時期の無言の後、俺達は未来に頭を下げるのだった。

 

 

 

 

 

「「「ごちになりまーす」」」

「くそおおおおおお!!」

 

 

 

 

 

 今日の飯代が浮いた。

 

 

 

 




紫苑「異変終了。次からほのぼの日常回だな」
龍慧「ドタバタ騒がしい日常回なのでは?」
紫苑「そうなりそうだよなぁ」
龍慧「話は変わりますが」
紫苑「突然だな」
龍慧「そろそろ作者が小説投稿始めてから一年が経つそうですよ」
紫苑「もうそんな時期か( ゚σω゚)」
龍慧「何か特別企画したいですな( ゚σω゚)」


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2章 幻想郷の日常
16話 お仕事


お久しぶりです(*`・ω・)ゞ


 学生たるもの勉学が本分。

 例え心の中では『学校に隕石落ちねぇかな……』なんて思っていたとしても、それが叶うことなど机上の空論にすぎないのだから、おとなしく課題をこなすのが賢い選択だと俺は思う。特に可能かもしれない幻想郷の住人に何ぞ口が裂けても言えない。

 フランドール・スカーレットのように〔ありとあらゆるものを破壊する程度の能力〕なんて規格外のチート能力を持ってる住人もいるのだ。下手なことを言って取り返しがつかなくなることなんて、この世には腐るほど存在するのだから。

 

 というわけで俺は休日に学校から出された課題を黙々とこなす。

 国語・数学・英語は当然のこと、他の科目も『宿題』が出されている。学校の授業だけでは足りないとこや、覚えて欲しいところ。そういうのを課題として先生が用意するのだ。仕方ないが受け入れなければならない。

 だが物理。テメーはダメだ。

 

 よし、BGMでもかけなければヤル気が出ない。

 ちょうどいい雑音が、かえって集中力を増加させるって龍慧の祖母(ばっちゃ)が言って――

 

 

 

 

 

『あー……魔理沙、もうちょい左上』

『ちょっとフラン! 丁寧に運びなさい!』

『レミィ、次はここに訂正のシールを貼る作業よ』

『……私の刀はシールを切るために使うものではないのですが』

 

 

 

 

 

 BGMいらねぇか。

 恐らく後ろで行われているであろう、幻想郷の協力的な住人による『シール貼りの内職』に嘆息しながら苦笑いを浮かべるしかなかった。彼女等も真剣にやっているのだから、笑うのは不謹慎だと思うけれど……そこは多めに見て欲しい。

 試しにチラッと後ろを確認してみると、十人そこらの小人達が騒がしく封筒にシールを貼っているのが見えた。遠くから見て指示を出す者、封筒の束を運ぶ者、仕事の整理をする者、シールを分割する者――人一人でするはずの仕事内容を、可愛らしい(物理的に)小さな女の子達がワイワイ作業をしているのは癒しとも呼べるだろう。

 生活費のためだからね。そりゃ真剣にもなる。

 

 俺が嬉しく思う背景には、この仕事を提供してくれたアホ共の働きもある。

 ネットで内職の簡単な仕事を探してみたのだが……何ともまぁ『詐欺まがいの広告』の多いこと。そして内職の仕事が思ったより少ないことも判明し、加えて信憑性も確かではないことから頭を抱えていた。俺は高校生。メディア・リテラシーの乏しい俺は内職の求人を選べなかった。

 しかし、内職言い出した未来が当てもなく言うはずがない。アイツ経由の親戚の仕事場での紹介で、封筒や商品に値段やバーコード、訂正のシールを貼る仕事を持って来てくれたのだ。持つべきものは友である。仕事を斡旋してくれたことに、紫も感謝していた。

 ん? どうして俺の部屋で彼女等が仕事してるのかって?

 ここに荷物が置かれてるからだよ。俺の部屋は仕事部屋じゃないのに。

 

 それでも彼女等の雑談は俺の勉強の妨げになるほどではない。

 誠に遺憾ながらも許可してる。

 

「見て見て! 上手く貼れたよ!」

「お兄様! 私のも見て!」

「ほー、よくできてんじゃん」

 

 コイツ等を除いては。

 ここまで飛んできて封筒のシールを見せびらかす幼女達に、内心は溜息をつくも外面に出さずに対応する。勉強の邪魔はしないでほしいなと考えるが、よそ見していたこともあり強く言えない自分がいる。

 あんな単純作業を彼女等が喜んでする理由を知っているだけに、こいしとフランの笑顔が余計に眩しい。

 

 自分達の食い扶持は自分で稼ぐ。

 幻想郷の賢者様はそう言って未来の持ち込んだ仕事をこなしているのだが、紅魔館メンバーと神社勢のヤル気は非常に低かった。手伝ってくれるだけマシ……と紫は諦めかけていたが、つい先日転機が訪れる。

 きっかけは平日に俺が朝に歯を磨きながらリビングのテレビでニュースを確認していたとき。とある新幹線の玩具を紹介していたCMを紅魔館組と姦し娘達が見てしまったのだ。食い入るようにCMを見ていた彼女等に嫌な予感がして、俺が風呂に入ってる間に無意識幼女がPCを用いて情報収集。

 そして幼児組を使ってのアピールを始めたのだ。

 

 

 

 

 

『お兄様! 鉄道敷いていい!?』

『俺ん家をアミューズメントパークにするつもりか?』

 

 

 

 

 

 呆れた俺だが幻想郷の住人には物珍しい鉄道。

 子供使って催促してくるのは嫌らしいなぁと感じたけれども、モチベーション向上のために後日紫からも提案された。彼女等の稼ぎの範囲内で敷くと言ってたし、邪魔にならなければと俺も許可した。どうせ俺の財布から諭吉が消えないんなら問題ないし。

 小人化してる彼女等にとって、鉄道の玩具は物資移動の助けにもなる。玩具程度で物が運べるのか?と意地悪な質問もしてみたが、どうやら機械弄りの好きな妖怪にアテがあるらしい。何でもアリだな、幻想郷の奴等ってのはさ。

 俺も見てみたいと思ったのは内緒だけど。

 

 それにしても幻想郷の賢者様は理解してるのだろうか。

 ……プラレールを家中に敷くとして、どのくらいの金が必要なのかを。

 

「鉄道早く見たいね、こいしちゃん!」

「そうだね!」

「「ねー!」」

 

 なんて現実的な話を彼女等の前で話すわけがないが。

 子供の夢を目の前で粉砕するほど、俺の性根は腐っていない。いや、彼女等の方が年上なんだろうけども、重要なのはそこじゃない。

 

 それにしても食い扶持だけじゃなく鉄道網を家中に敷くとなると、リアル程ではないにせよ結構な金がかかるような気がする。内職程度では余程頑張らないと、そういう余裕を作るのは難しいんじゃなかろうか。

 紫のことだから抜かりはないと思うけどさ。

 そこんところが俺は気になった。

 

「そのシール貼りの仕事、一ヶ月で幾らぐらい稼げるのか知ってるか?」

「ふん、馬鹿ね。そのくらい知ってるわ。これだけ私が頑張ってるのよ?」

 

 振り返りながら幻想郷の住人に尋ねてみると、代表して霊夢が俺を小馬鹿にしながら自信満々で宣う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

軽く5000兆円ぐらいでしょ?

何夢見てんの?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思わず真顔でツッコんでしまった。

 内職程度で月5000兆円稼げるのなら、この国のインフレが目に見えそうだ。つか実質経済破綻だよ。ジンバブエドルじゃねーんだぞ?

 その事実に幻想郷の住人が「なん……だと……」と、作業を中断して俺を見上げる。漫画なら劇画タッチになってそうなくらい、一部除いて皆が凄く驚いていた。

 

 そこでスキマから現れたのは大賢者様。

 右手に胃薬を携えながら、仕事をしていた幻想郷の住人達の近くに現れる。スキマから上半身だけ覗かせている感じだ。

 最近は扇子片手に優雅な貴婦人を連想させる姿よりも、向日葵の種の代わりに胃薬をボリボリかじるハムスターのイメージが強くなりつつある八雲紫は、雰囲気だけは幻想郷のリーダーを思わせる態度を示す。

 

「どう? 仕事は捗っているかし――」

「ねぇ、紫!? どういうことなの!? これで5000兆円稼げるんじゃないの!? お賽銭ガッポガッポになって私ウハウハになるんじゃないの!?」

「ちょ、霊夢……苦し……!」

 

 胸ぐら掴んで紫をスキマから引きずり出し、ブンブン振り回す博麗の巫女様。

 遠心力により生まれる砂嵐が小宇宙を産み出すわけがないけど、ソレに近いレベルで霊夢は振り回し、とにかく彼女の食べた胃薬を吐き出しかねん勢いに、俺がストップをかけた。

 つか他の連中見てないで助けろよ。

 

「なぁ、この仕事をすれば私達が働かなくて済むくらいのお金が手に入るんじゃなかったのか?」

「は? そんなわけないでしょう? こんな仕事程度で一生分の資金が集まるなんて、幻想郷でもあり得なかった筈よ。ここでも一緒」

 

 魔理沙の発言に正論で返す紫。それに白黒魔法使いはぐぅの一言すら返せなかった。

 良かった。幻想郷の経済事情を知らない俺からして見れば、くっそ簡単な仕事でポンと大金が手に入る楽園にコイツ等住んでたんじゃないかと錯覚してしまった。それか盛大なインフレを起こしているのかと。

 むしろ何で5000兆円貰えると思ったのか。

 

 紫も同じことを思ったらしく、幻想郷メンバーを見渡しながら「誰がそんなこと言い出したの?」と問い質す。

 俺も気になって椅子に逆方向に座り、背凭れに腕を回しながら事を見守る。両肩にはそれぞれ天使と見間違うほど可愛らしい妖怪が鎮座している。

 

「え、霊夢が言ってたから……」

「魔理沙が旨い話があるって……」

「妖夢に紹介されて――」

 

 と、アリスから始まり盥回しに名前を連ね、最終的に紅魔館の主で止まった。

 コイツか。

 

「貴様か、かりちゅま吸血鬼」

「その呼び方は止めなさいっ! ……え、だって私が働いてやってんのよ? そのくらい貰えるんじゃないの?」

「んなわけないでしょ!?」

 

 吸血鬼やべぇ……金銭感覚やべぇ……!

 その発言に俺は吸血鬼の本当の恐ろしさを思い知って真っ青になり、紫はレミリアおぜうさまに怒鳴る。

 

「じゃあ幾ら貰えんのよ」

「……基本的に出来高制だから、ここにある分を作ったとして一万そこらじゃないかな? 追加で発注先から送ってくるようだし、君達の頑張り次第だと思うけど」

「「「「「少なっ!」」」」」

 

 確かシール貼り一セットで二円換算だった気がする。内職なんてそんくらいだろ? 外に出なくても稼げる反面、安定しないし低収入ってのが内職のデメリットなんだから。

 俺より稼げたら今のバイト辞めるわ。

 暇なときシール貼ってるわ。

 

 レミリアおぜうさまの勘違いにより気力をなくした幻想郷メンバーだが、どうせ働かないと飯が食えなくなると紫が何とか説得して仕事を再開する。

 それでも文句を垂れる博麗の巫女。

 

「あー、やる気でないわー」

「頑張れー」

「うっさいわね、アンタも手伝いなさいよ」

 

 棒読みで応援してやると、霊夢は半眼で俺を睨んできた。彼女はキレ気味で手伝いを示唆するが、俺は反転して椅子に腰掛け、顔だけを彼女達に向けて笑うのだった。

 

「学生の本分は勉学だから、これが終わらないと手伝えないんだよねー。そんなに面倒なら仲間数増やせば?」

「働かざる者食うべからず、じゃないの?」

「残念、俺だって稼いでいるんだなぁ。君達の仕事を手伝わなくても、食費は自分で払ってるわけですよ」

「……幾らよ」

 

 俺も無職で偉そうに言ってる訳じゃない。

 実際に俺の帰りが遅いときはバイトをしているわけで、霊夢は悔しい気持ちをこらえながら月給を聞いてくる。えっと……時給が○○○円で、週○で入ってるから……。

 頭の中で大まかな計算をした俺は、顔を向けずに答えるのだった。

 

 

 

「ざっと五万くらい?」

「むきぃぃぃいいい!!!」

 

 

 

 この県の最低賃金は全国平均と比べても遥かに低く、割かしシフト入っているが時給が低くて稼げない。それでも内職よりは収入は多い。

 そのことに霊夢は奇妙な唸り声を上げて、いつもの不仲な光景に幻想郷の住人は微妙な反応をするのだった。

 

 俺を働いていない風に罵倒した霊夢へのちょっとした意趣返しだが、ぶっちゃけ俺のバイトは忙しいんだぜ? 田舎の飲食店の給料に見合わない仕事量は本当に洒落にならん。土日祝日なんか特にそうだ。

 飲食店とコンビニバイトはブラック。

 これが俺の周囲の人間の共通認識だ。逆に内職を羨ましく思う俺だった。

 

 

 

 

 

「もう、咲夜! どうして教えてくれなかったの!?」

「……お嬢様が自信満々で言う姿が可笑し――可愛らしくて」

 

 

 

 

 

 貴様もか。

 

 

 

 




紫苑「太字導入しました。見やすいかな?」
こいし「ねーねー、どーしてブラックな場所で働いてるの?」
紫苑「その理由は後々出てくると思うよ」
こいし「そっかー」
紫苑「一番の理由は作者のバイト先が、ねぇ?」
こいし「( ´_ゝ`)」


紫苑「余談だが作者が小説投稿初めて一年が経過する」
こいし「よく続いたねー」
紫苑「んなわけで何か企画を考えてるわけでして、活動報告欄に『企画募集』してる。全部やれるとは思えないけど、何かアドバイスを頂けると嬉しい」
こいし「感想欄に書くと消されちゃうからね」
紫苑「ついでにTwitterのリンク先も乗っけとく。投稿のお知らせとか呟くから是非見てね( ・`д・´)」
こいし「唐突だね!」


https://mobile.twitter.com/1735yato


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17話 信仰は誰が為に(上)

シリアスの中にほのぼの入れれば、ほのぼの少なくてもほのぼの感出るんじゃないかと思った今日この頃。
というわけで例のあのキャラ登場回です。
みなさん予想してなかった形だと思いますが。


 役員制度なるものが我が高校に存在する。

 簡単に説明するなら『美化委員』とか『文化祭実行委員会』とか、自分の所属する組に何らかの奉仕をしなければならない面倒なシステムだ。

 経歴から第三者に腫れ物のように扱われていて、極力他者と関わり合いを持ちたくない俺としては、このような制度を考えた奴をぶん殴りたい。しかし、現実は非情なために俺は渋々妥当な役員の職に就いた。

 決して働くのが面倒だからじゃないよ?

 

 そこで俺が選んだのは『図書委員』だ。

 昼休みと放課後に本を並べたり貸し出しを受け付けしたりするだけの簡単な仕事で、尚且つ他者と交流する必要があまりない。受付だって他の委員に比べたら少ないし、読書が好きな俺には適任の素晴らしい職だろう。

 ぶっちゃけ簡単な仕事。俺は同学年の同じ図書委員と組まされて受付をすることになった。機械で本のバーコードを読み取って貸し出しをするだけだから、上級生と組ます必要がないわけだな。

 本を借りたい人が来るまで読書をしながら待てばいい。

 問題があるとすれば……

 

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 

 

 チラッと隣の同級生を隠し見る。

 葉緑体が混じっているのではないかと疑うくらい、艶やかな緑色の長髪が印象的の美少女。スタイルがとても良く、佇む姿は『深窓の令嬢』を彷彿させた。こんな美しい少女が同学年に存在したとは知らんかったが、男ならば玉砕覚悟で告白した奴が少なからずいるんじゃないだろうか?

 俺だって男だ。普通の状況なら彼女の美貌には見惚れるよ? この世の絶望みたいな顔で佇んでなければの話だが

 

 初めての顔合わせをしたときは本当に驚いた。驚きを通り越して呆れた。

 彼女の名前は『東風谷早苗』と言うらしく、それを聞いた未来が「学校でも有名な超美少女じゃん! ワケありだけど」と後半部分をボソっと呟いていたが……この事前情報を黙っていたアイツに後でラリアットをくらわせた。

 深い事情がありそうなのは俺でもわかる。最初の役員会議には用事があって参加できず、どうして学年でも有名になるくらいの美少女と俺が組まされているのか疑問に思ったが、完全に腫れ物同士でワンセットにしたとしか思えない。いくら可愛くても、こんなテンションの異性と一緒にいたくないだろう。

 

 姿勢正しくカウンターの椅子に座り、俯いてスカートの裾を握り締める姿は異常だ。

 本を借りに来た生徒も彼女の雰囲気を察知して、俺に本を渡して貸し出しを希望する。この生徒は俺と同級生の男子で、俺の経歴を知っている。つまりはそういうことだ。

 俺はスキャナーでバーコードを読み取り、片手でパソコンを操作しながら本を渡した。

 

「来週の金曜日までにお願いします」

「あ、あぁ……」

 

 本を渡されて帰る間際に東風谷を横目で見て、俺に同情の視線を向けて去った男子生徒。

 完全に俺の経歴云々で向けた視線じゃない。

 

「「………」」

 

 そして、訪れる無言の空間。

 図書館は静かにしなければならない場所だが、さすがにコレは受け入れがたい。

 本を読んで気を逸らそうとするけれども、時折彼女の方を見てしまう。なんというか……明日に彼女が首吊り自殺を行ったとしても不思議じゃないと錯覚するくらいだ。

 

 放課後には返された本を本棚にしまう仕事もあるのだが、本の束を持った俺の後ろを無言でついてくる。とりあえず返却された本は抱えており、俺が自分の抱えた本を本棚にしまったり、彼女から受け取ったりする。

 っと、古典文学の本棚はここか。

 

「上から三番目の本とって」

「………」

「ありがと」

 

 無言の彼女は従順に自分の持っていた本の山の上から三番目の本を俺に渡し、俺は感謝の言葉を述べながら一番上の段の空いている部分にしまう。

 できれば自分で本をしまって欲しいが、そんなこと言えるのなら苦労しない。持ってきてくれるだけマシ。そう思うことにしようか。

 

「あ、広辞苑ちょうだい」

「………」

「サンキュー」

 

 悲痛そうな表情で渡す東風谷。

 俺は心の中で頭を抱えながらも、微笑みながら受け取るのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「東風谷早苗さん……の情報ですか?」

「そうそう、お前なら何か知ってるんじゃないかって。なんか学校の生徒全員の情報とか持ってそうだし」

「紫苑にとって私はエロゲ主人公の友人的立ち位置なのですね。私はそこまで万能ではありませんよ? まぁ、彼女は有名ですし、知らないわけではないですが」

「俺様も少しは知ってるぜ」

 

 図書委員の仕事は毎週金曜なため、基本的に金曜以外の放課後は部活に行っている。そしてバイトある日は途中で帰るけどね。

 俺はいつも通り美術部に顔を出し、アホ共と駄弁りながら放課後を満喫していた。今日はトランプを使って七並べ。今回の幻想郷からのゲストは金髪吸血鬼のフランだ。

 俺がスペードの5を置きながら龍慧に聞いてみると、意外なことに兼定も知っていると口にした。びっくり。

 

「良くも悪くも有名ってことです。性格は天然で活発的。とても明るく元気な少女ですね。あと、彼女は守矢神社の風祝(かぜはふり)なんですよ」

「……風祝?」

「風祝っつーのは風の神を祀る神職だ。しかも守矢は『秘術』なンて呼ばれる技法で天候操作を行う連中らしい」

 

 知ってる印象とだいぶ違うが、それよりも気になった俺の疑問を兼定が解説する。

 なんでお前がんなこと知ってるの?

 

「……商売敵のことくらい調べるだろ」

「あ、そっか。お前ん家って神社か」

「あれは傑作だったよねー」

 

 いつもの素行で忘れがちだが、確か数年前にコイツの家に初詣に行ったことを思い出す俺。神主姿の兼定に俺達が大爆笑して以来、コイツは頑なに神社へ来ることを拒むようになった。

 だって全然似合ってなかったもん。

 妹にすらコスプレ扱いされてたし。

 

 当時のことを思い出したのは俺や未来だけではないらしい。龍慧も笑いをこらえつつ、東風谷早苗という人物について語り始めた。

 

「まぁ、その秘術を扱える守矢神社の当代の風祝というのが彼女なんです。簡単に言えば雨乞いやらを行う、巫女さんみたいなものですね。それにしても秘術って胡散臭いと思いませんか?」

「お前の存在みたいにな」

「……そうですね、はい」

 

 一気にテンションダウンする龍慧。

 その説明に兼定が「風祝と巫女は違うけどな」と付け加える。ちなみに巫女と聞いて思い出したのは博麗神社(テレビ前)在住の女の子だった。

 フランはハートの6のトランプに座っている。

 

「胡散臭い話――で終わればよかったのですが、彼女が天候操作できる話は真実なようでして、『現人神』と崇める者も多いとか。それを商売道具として彼女の両親は使っているらしく、東風谷早苗さんと実家の仲はよろしくないそうです」

「なるほどな」

「そして紫苑が聞きたいであろうこと――なぜ彼女が元気をなくしたのか、なんですが……」

 

 フランの座っているカードの横にハートの5を置く龍慧。声を潜めて話始めたので、俺達は顔を寄せて聞く。

 聞かれたくないことなのか?

 

「こればかりは私も知らないんですよ。時期的には昨年度――だいたい二月から急に変わったらしいのですが、誰一人として原因が分からないんです」

「もしかして秘術が使えなくなったとか?」

「その線も視野にいれました。ですが風祝としての能力は健在なようでして」

 

 だから両親もそこまで気にしていない、と龍慧が締め括る。親なのに娘の変化を気にしないのかと未来は憤りを感じていたが、商売道具としてしか見てない連中には些細なことかと俺は納得する。

 俺と兼定もあまり良い顔はせず、フランも話だけは聞いてたのか眉を潜めていた。

 

 昨年度の二月辺りから彼女が変化した。

 あの悲痛そうな表情は普通じゃないのは確かだ。どのような背景があって、何が東風谷早苗を変えたのか。

 同じ図書委員のペアとして、これは聞いてみるべきかと腹を括るのだった。

 ……あんな気まずい空気で読書したくないし。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 さて、事情を知るべきだと腹を括ったとしても、そんな簡単に情報が手に入るのなら、とっくの昔に龍慧が調べているわけでして。

 

「やぁ、東風谷さん。今日もよろしく!」

「………」

「………」

 

 次週の金曜日。

 手を挙げながら似合わない爽やかな笑みを浮かべて挨拶をすると、緑髪の少女は俺を一瞬だけチラッと確認し、少し頭を下げて通りすぎて行く。

 これ会話するだけでも至難の技じゃなかろうか。

 手応えナシとかいうレベルじゃねーぞ。愛情の対義語は無関心だと伝えるためなのかと錯覚するくらい、俺への対応は冷たいを通り越して反応がちっさい。

 

 いつも通り隣に座ってカウンターでの受付を開始するわけだが、今日は思ったより人が少ない。

 チャンスだと狙った俺は会話を試みる。

 

「……えーと……その……今日はいい天気だな!」

「………」

「………」

 

 見よ、これが俺のコミュニケーション能力だ。チャンスを生かせない無能の成の果てです。

 彼女はまた俺の方をチラッと見て頷く。

 共通の話題もなければ、彼女がこんなにも元気がない理由も知らない。そんな悪条件で何の話を切り出せばいいのかって問いたくなる。

 

 胡散臭いアイツの情報だと、授業の受け答えはしているらしいが、クラス内で親しい者と会話しているのは見たことがないらしい。

 それ以前に彼女はこの地域一帯でも有名な風祝だ。高嶺の花たる東風谷早苗と特別親しい同世代自体が少ないとか。こうして俺が話しているなんて知られたら、もしかしたら彼女と同じクラスの連中に刺されかねん。

 

 

 

「『現代の呪術師』『奇跡の風祝』『現人神様』なんて呼ばれるくらい、彼女は学校でも有名な存在なんだよね。知らない人の方が少ないんじゃないかな?」

「なるほどなー」

「あぁ、最近だと呼ばれ方が一つ増えたねー。『夜刀神の背後霊』って」

「……いや、確かにそう見えるかもしれないけど」

 

 

 

 という未来との会話が前にあった。

 放課後に俺の後ろを本を抱えながらついてくる姿を、誰かが見てそう揶揄したのだろう。東風谷は俺のスタンドじゃねーんだが。

 これで余計な噂を生まなきゃいいんだけど。

 俺を悪者扱いするのは勝手だが、これで色恋沙汰の噂が流れるのは東風谷さんが可哀想だ。同世代の連中はすぐ付き合ってるだの騒ぎ立てるからな。

 

 そもそも本来ならコレは先生とか同クラスの連中がすることであって、なんで同じ図書委員ってだけで俺が彼女を気にかけないといけないのかなぁ。俺は他人と極力関わりたくないだけであって、問題抱えた同学年のカウンセリングするために図書委員になったわけじゃない。

 親も親だ。コミュニケーション能力に乏しい俺ですら、彼女が物凄く悲しんでるって分かるんだぜ? 娘のことを慮る努力をしてほしいよ。

 世知辛いねぇ。

 

「あ、本の貸し出しですか? 東風谷さん、この二つの本のバーコードを読み取ってくれない?」

「………」

「ありがと。来週の金曜日までに返却お願いしまーす」

 

 こうやって指示さえ出せば言うことは聞いてくれる。

 面倒とか思わなくもないが、ここまでくると何が彼女をそうしたのか非常に気になってきた。

 それを聞くためには少しずつ根気よく頑張って行くしかないんだろう。俺が抱えている問題は他にもあるんだし、時間はまだ一年弱あるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――なんて思っていた数週間後。

 変化は唐突として訪れる。

 

「おっはー」

「………」

 

 もはや話題すら取り繕うこともなくなった俺は、いつものように挨拶してカウンターの椅子に並んで腰掛ける。

 持参の本を読もうとした瞬間。

 

「――私」

「……ん?」

 

 最初は聞き間違えかなって思った。

 初めて聞く美しい声色が俺の耳を刺激し、一人称を呟く声に俺は東風谷の方を見る。

 いつもの悲痛な表情には変わりないのだが、今回ばかりは他の感情が混ざっているように感じた。あくまで俺がそう思っただけである。

 東風谷早苗は俺の方を見据えながら――こう話を切り出すのだった。

 

 

 

 

 

「私……神様が見えるんです」

 

 

 

 

 

 『あ、この人アカンわ』って一瞬思った。

 

 

 

 




紫苑「原作とキャラが全く違う件について」
未来「それは次回判明する感じだね」
紫苑「そもそもパラレルワールド設定だから、東方メンバー全員が小人として登場するとは限らないって話」
未来「ぶっちゃけ守矢勢の『ifの話』だし、コレ。もしかしたら、こういう展開があったんじゃないかなーって」


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18話 信仰は誰が為に(下)

自分で設定している目標文字数を1500文字くらい越えました( ・ε・)
とにかく早く投稿したかった_( _´ω`)_





 私にとって神奈子様と諏訪子様は本当の家族のような存在だった。生まれながらにして天候操作を行うことのできた私の能力目当てであった両親や親戚とは違い、神奈子様と諏訪子様は『私』そのものを可愛がってくれた貴重な存在だったのだ。

 年齢を重ねるにつれて、両親は『私』を見ることはなくなり、二柱の神様だけが心の拠り所だった。周囲に集まる人々は私の『奇跡の力』を求めるだけ。その頃には人間というものを信じられなくなっていた。

 

『かなこさまー、すわこさまー』

『ああああ! 早苗ぇぇぇええええ!!』

『ちょ、神奈子! ずるいよ!』

 

 あぁ、あの頃の何と楽しかったことか。

 誉めてくれたことも、泣いてくれたことも、怒ってくれたことも、何もかも人生に必要なことは全て、神奈子様と諏訪子様が教えてくれた。

 私の楽しかった思い出の全てに、二柱の神様が一緒にいたのは確かだ。

 

 神様がいたから今まで頑張れた。

 面倒な学校での人間関係を乗り越えてこれたし、媚びを売ってくる連中にも作り笑いで誤魔化してきた。

 両親の仮面のような笑いにも耐えることができた。

 

 

 

 

 

 神奈子様と諏訪子様は自分の全てだった。

 

 

 

 

 

 二柱が姿を消すまでは。

 

 

 

 

 

 本当に突然だった。

 何の前触れもなく、忽然と私の前からいなくなってしまったのだ。最初は直ぐに帰ってくるだろうと思ったけれど、一、二週間経っても戻ってくる様子はなかった。自分に否があったのかと何度も考えたが、思い当たる節はなかった。

 私は神奈子様と諏訪子様を必死に探した。

 この町で思い当たるところは全て赴き、同じ県の他の神社まで足を運び、少ない自分の小遣いで出雲大社にも遠征した。他の人に二柱の姿は見えないため、自分の足が棒になるまで歩いて探し続けた。

 

 泣き叫びながら探した。

 必死に謝りながら探した。

 他の目など気にすることなく探した。

 

 ……それでも見つかることはなかった。

 手懸かりすら掴めず、二柱の神様がいなくなった事実だけが私を打ちのめした。

 春休みを使っても結果は実ることなく、とうとう高校一年生になってしまった。神奈子様と諏訪子様がいないのだから高校に行く理由なんてないのだが、両親の言葉もあって嫌々ながら通学することになった。

 

 媚びへつらう周囲の同級生は私の変化を悟ってか、神奈子様と諏訪子様が姿を消した日から近づかなくなった。それだけが救いだったけれど、そんなの私にとってはどうでもよかった。

 担任やクラスメイトも私を腫れ物のように扱ったが、あまり興味がなかった。クラスの役員も適当に決められて、仕方なしに私は図書委員になった。

 本を読むのは嫌いではないから別によかった。今は読む気にもなれないが。

 

 昼休みや放課後に貸し出しと本の整理をする仕事。委員会議に出席してなかったために、私は同級生の男子と組まされることになった。

 名前は『夜刀神紫苑』という子らしい。珍しい名字と名前だ。さして興味もなかったけれど。

 ただカウンターでは本を借りに来る生徒はその男子に貸出しを求めたり、本の整理にはついていくだけで彼が本をしまってくれたので、その辺りは素直によかったと思える。

 

「あ、広辞苑ちょうだい」

「………」

「サンキュー」

 

 私は無言で渡す。失礼かもしれなかったが、今の私には他人の評価など気にする心の余裕がなかった。

 それでも彼は微笑みながら受け取ってくれる。

 後から思うと、私は彼の好意に甘えていたのかもしれない。

 

 

 

 しかし、次の週から彼の私への対応が変わった。

 

「やぁ、東風谷さん。今日もよろしく!」

「………」

「………」

 

 明らかに作り笑いで私に挨拶をする彼。

 行動だけならば両親や周囲の人間と大差ない。普通なら不快感を覚える――はずだが、不思議とそのような感情を抱くことはなかった。

 内心首をかしげてしまう。

 

「……えーと……その……今日はいい天気だな!」

「………」

「………」

 

 明らかにコミュニケーションに困った人間の切り出し文句。彼も若干の冷や汗をかいているが、他の人間と圧倒的に何かが違うのだ。

 生まれたときから苛む私の能力目当ての不信感ではなく、中学以降の異性から向けられる身体全体を舐め回すように見られる不快感もなく。今まで感じたことのない新しい感覚を得るのだった。

 

 カウンターでも私に積極的に仕事を渡す。

 あの感覚の正体に戸惑いながらも、私は彼に言われたこと忠実にこなしていく。

 

「あ、本の貸し出しですか? 東風谷さん、この二つの本のバーコードを読み取ってくれない?」

「………」

「ありがと。来週の金曜日までに返却お願いしまーす」

 

 媚びへつらうわけでもなく、私の身体を性的に見ることもなく、私に積極的な交流を求めてくる同級生。まるで……そう、神奈子様と諏訪子様のときに似ていた。

 このときになって初めて、私は彼――夜刀神紫苑という人物が何者なのかを知りたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 とは言っても高校入学から私に親しい友人がいるわけがなく、彼の情報が中々集まらない。隣のクラスに在籍しており、美術部に所属している。

 そのような簡単なことしか分からず、途方に暮れていた。煩く面倒だった人間関係の大切さを、そのときになって初めて実感したのだった。後の祭りだが。

 

「……でさ……なんだよー」

「マジ……か? ……で……」

 

 廊下側の席で次の授業の準備をしながら、どう彼のことを理解しようか考えている。

 何やら廊下で話している男子がいるけれど、そのようなことに気をとられている暇はない。どうやって――

 

 

 

 

 

「けど夜刀神も大変だよね」

 

 

 

 

 

 廊下で話している他愛のない会話。

 しかし、私の耳には珍しい名字を含むその言葉だけは聞こえた。思わず手を止める。

 

「大変っつーと、東風谷のことか? 確かにクソ暗いオーラの面倒そうな女と一緒なンざ俺様なら死んでもゴメンだ」

「だよねぇ。夜刀神も東風谷さんの情報を集めてるって言うし、何とかしたいって思ってるんじゃないの?」

 

 彼も私のことを?

 

「なンだ? 惚れてンのか?」

「いやいや、どうやら委員活動しながら読書するのに邪魔だから、彼女の鬱モードを何とかしたいとかなんとか。夜刀神って色恋沙汰とは無縁の奴だし、強ち本当のことなんじゃない?」

 

 清々しいまでの利己的理由。

 逆に好意を持てるくらいだ。

 

「けどなァ。俺様は逆に東風谷の方が可哀想だと思うがな。だって組まされてる相手は『死神紫苑』なんだぜ?」

 

 死神……?

 あの穏和な彼からは想像もつかないような渾名だ。

 なぜか自分の事ではないのにイラッとする。

 

「『死神紫苑』? 何それ」

「知らねェのか? 夜刀神の両親って死んでンじゃんか。あれバスの衝突事故が原因らしいが、乗客運転手含めて生き残ったのはアイツだけらしい」

「マジで?」

 

 呼吸が止まったかと思った。

 

「だから死神みてェな奴だって噂されて、今の名字に準えて『死神紫苑』って影では嫌われてンだよ。あれに近づくと殺されるってな。所詮は噂……なんだろうが、長いものには巻かれろってこった。近づこうとする奴はすくねェ」

「へぇ、怖いなぁ。近寄らんとこ」

「それが賢い選択だァ」

 

 私とは正反対だ。

 どうして彼は大切なものを失っても、あんな風に笑っていられるの? 両親を失い、周囲からは疎まれて、それでも彼は何で私と交流を計ろうとするの? 決して同情で近づいてきたわけではないのは、長年の経験から理解できる。

 知りたい。

 彼の目的を理解し、もう知る必要はないはずなのに、その気持ちだけが強くなる。授業開始のチャイムが鳴っているにも関わらず、私の頭は彼のことで一杯だった。

 

 

 

 

 

『いやー、これで面白くなるかなぁ?』

『何やってンだアホ。次は英語だ』

『しまった! ヴラド先生にシバかれる!』

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 さて、俺は持参していた本を取り出して読み始める。俺の反応を待ってる彼女が俺を見つめる中、ボソッと頭の中に思い浮かんだ言葉を発する。

 

 

 

 

 

「新手の宗教勧誘?」

「ち、違います!」

 

 

 

 

 

 いや、だって『私、神様が見えるんです』なんて言葉、まず日常生活で聞くことはないでしょ? 精神系の病を疑わないだけオブラートだと思う。

 龍慧は天然で活発的と表現していたが、どう見ても電波系少女じゃねーか。

 俺の言葉に東風谷はあたふたと戸惑う。そこに悲壮感は微塵も感じられず、これが彼女の本来の姿なんだろうなぁと冷静に分析した。

 

「えっと! 私が神社の風祝をしているのは知っています……で……しょう……か……?」

「……まぁ、耳にしたことはあるよ」

 

 自分のことをまるで知っているのが当たり前だと捉えかねない言い方だったと自覚してか、後半部分が不思議な日本語の疑問系になっていた。

 無意識に上目遣いをしている辺り、マジで天然だったのかと考える俺。美少女の上目遣いとか破壊力が凄まじい。

 

「風祝は昔から自分の神社に祀られている神様が見えるんです。胡散臭いかもしれませんし、親族以外に口外するのは初めてなので信じてもらえないかもしれませんが……」

「……えーと、うん。君が見える前提で話を進めようか」

 

 正直、彼女じゃなければ物凄く胡散臭いと勘ぐる。龍慧が言葉にしたのなら十中八九信じない。恐らく機密事項のはずの守矢神社の情報を、そこまで親しくない俺に言う理由が見当たらないし。

 というか風祝にそんなオプション機能ついてるの? 詳しく知らないから何とも言えんけど。

 彼女が両親と仲が悪いと、胡散臭い先輩から教えてもらっているから一応考慮に値するのだが。機密なんざクソ食らえって心情なのかもしれない。

 

 それに――と脳裏に浮かぶ居候の数々。

 神様、いるもんなぁ

 

 そして、俺が彼女の話を信じるという前提で始まる、俺の知り得なかった彼女の情報。

 ざっくり説明するなら家族みたいに慕っていた二柱の神様が突然消えてしまった……ってことだろう。その二柱の神様の名前を聞かせてもらったが、何か聞いたことあるな、その神々

 思い出せないから置いといていると、話している途中からか。東風谷はボロボロと涙を流し始めた。図書館に今のところ人がいないのが幸いしたわ。司書の先生も職員会議で席を外している。

 

「……それ……っで! ……私……ずっと……!」

「もういい、もういい。大体の事情は理解したから、もう泣くなって。ほれ」

 

 話すことすら辛かったのだろう。

 言葉が支離滅裂になってきたので、会話を中断させて、持っていたハンカチを東風谷に渡した。関係ないけど、ハンカチ携帯している男子って珍しいの? 未来や兼定はハンドタオル派なんだけど。

 どうか今だけ図書館に人が入ってきませんように……!と祈りつつ彼女が回復するのを待ち、落ち着いたところで俺が疑問を投げ掛ける。

 

「どうして、その話を俺に?」

「……夜刀神君の両親は既に他界していると聞きました。自分だって今のままでは他人に迷惑をかけているって自覚してます。貴方は大切な人達を失ったとき、どうやってそれを乗り越えたんですか?」

「……うーん」

 

 差し支えなければ教えてほしい、と東風谷が言い、俺は何て答えようか迷う。

 そんな質問されたの初めてだからなぁ。そもそも聞く時点で、彼女はどこかズレているのだと実感する。

 

「俺の両親が死んだのは小さいときだったから、詳しくは覚えてないんだ。なんか物心つく頃には居なかったわけだし、東風谷さんと二人の神様の関係ほど親しくはなかったかもしれない」

「そう、ですか……」

「東風谷さんも知ってるだろうけど、小さい頃から俺って嫌われてるわけよ? 俺自身そこまで気にしてはないけどさ」

 

 学校での『二人組作って~』は俺の天敵だったが。

 

「確かに両親が死んだときは悲しかった。でも……今の友人――腐れ縁のアホ共がいたから今の自分がいるのかもしれない。ダチいなきゃ今の東風谷みたいになってた可能性も否定できないから」

「友達……私に友達はいません。私に寄って来る人たちは、私の風祝の力が目当てですから」

「そういう目的で寄って来る連中がいんのか。そりゃ友達作りの難易度が上がるわけだわ。大人の汚い部分を子供の頃から見てたらねぇ……」

 

 やっぱ現実ってクソだわ(極論)。

 龍慧が『東風谷さんと親しい人間は多いです。……彼女がそう思っているかは別として』って曖昧に説明してたが、確かに人を信じられなくなる環境だ。

 彼女に見えるらしい神様が心の支えだったってのも頷ける。

 

「神様が何を思って君の前から姿を消したのかは知らない。何も残してないのだから、部外者の俺が知る手段がないからね。そうなると時間でしか解決できないんじゃないかな?」

「時間が経てば忘れると?」

「忘れるってのは少し違うけど、心の傷を癒す的な? 俺もそうだったわけだし、悲しいのなら悲しむのが一番なんだよ。けど、いつかは立ち直らなきゃいけない。俺は知らんけど、俺が神様ならいつまでも悲しんでいて欲しくはないな」

 

 どーして俺が説教紛いのアドバイスをしているのか。俺の仕事じゃないのにと内心やさぐれながら、せめて真摯に伝わるように言葉を紡ぐ。

 

「こういうのは人と接することで癒すのが最適なのかもしれないけど――」

「それは……」

「……ならさ、俺と友達にならないか?」

「え?」

 

 心底不思議そうに俺を見つめる東風谷。

 実は俺も不思議と口から出てきたので、表情には出さないが驚いてはいる。どうしてだろう?

 でも、『能力目当て』という点なら俺は当てはまらないと思う。つか天候操作とか何に使うん? 物理の授業ある日に大雨洪水雷注意報を発令させるのにしか利用価値ないだろ?

 一方の東風谷は恐る恐るといった表情で、控えめに尋ねてくる。

 

「いいん、ですか?」

「むしろ俺が聞きたいわ。こんな変なのと友達になってもいいのかって」

「い、いえ! よろしくお願いします!」

 

 彼女の悲しそうな心境が完全に癒えた訳ではない。

 そう簡単に癒えるもんじゃないのは、俺にだって理解できる。何年かかるだろうか? 何十年かかるだろうか?

 それでも――今の彼女は笑っていた。悲痛に俯くだけの前とは違い、一歩前に進もうと努力している、直視するには眩しすぎる笑顔だった。

 俺の言葉が彼女に影響を与えたのなら。

 それはそれで悪くない。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「ってなわけよ」

「つまんねー」

「臆病者が」

「死んで出直しなさい」

「何で一人慰めて辛口評価言われなきゃいけねーんだよ!」

 

 放課後の部活で委員に関しての結果報告をしたところ、物凄くつまらなそうな表情で嗤われた。オーバーリアクションの外人みたいな反応だった。

 協力してくれたから話してやったのに。

 

 今回のゲストたる無意識少女も机でジャブをしている。アタックしろってか? 何に? 何を?

 

「心を閉ざした美少女! そこはラブコメに持っていくのが主人公ってもんでしょう!?」

「お前ラノベの読み過ぎ」

 

 そういや龍慧ってラブコメ好きだったな。

 特にベタな設定とか、純愛ものとか。自室の本棚にラノベが積み重なっている様は言葉にできない。

 

「まったく……僕と兼定がお膳立てしてやったってのにさ。ホント紫苑ってチキンですわー」

「……その話詳しく」

「「あ」」

 

 余計なことをボソッと言った未来の発言は聞き逃さなかった。このアホ共何しやがった?

 未来の胸ぐら掴んでボコボコにしてやろうと拳を振り上げようとした瞬間――美術室のドアが開く。ちなみにこいしは「喧嘩だー!」と喜んでいた。

 

 

 

 

 

「ここが……美術部ですか?」

 

 

 

 

 

 緑色の髪を揺らしながら顔を覗かせる少女。

 ……これから楽しくなりそうだ。

 

 

 

 




紫苑「ちょっと急展開感が否めない」
龍慧「時間をかけてもよかったのでは?」
紫苑「暗いままって嫌じゃん?」
龍慧「まぁ、削りに削ってコレですからねぇ」
紫苑「メッセージで感想来たぐらいだしな」


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19話 風祝の平日

どうも、急性気管支炎を再発した作者です。
とりあえず早苗さんの話はストップし、次回からは幻想郷の風景でも書きたいと思います。異変の伏線も入れなきゃいけませんし。
というわけで本編どうぞっ。


 朝起きるといつもの日常が幕を開ける。

 鏡の前で髪を解かしているが、その鏡に映っている表情は仏頂面だった。誰も見ていないからこそ、自分の本心をありのまま出せる。

 正直、部屋から一歩も出たくないが、そういうわけにはいかない。いつものように居間へと移動する。

 

「あら、早苗。おはよう」

「……おはよう、ございます」

 

 平日の良いところは、この仮面のような笑みを浮かべている両親と、顔を会わせる時間が少ないことだ。朝食を用意してくれた母親に、私は形だけの笑顔で挨拶を返す。

 嘘偽りの蔓延る朝。

 そもそも『家族』自体が偽りのような関係だから、いつものように嘘で塗り固められた仮面を被る。

 

 何も知らない愚かな娘。

 都合の良い操り人形。

 それが私。

 

「そういえば……早苗は部活に入ったんだな。急に元気になってくれたし、それが原因かい?」

「あまり熱中し過ぎて、風祝の仕事を疎かにしちゃダメよ?」

「……はい」

 

 朝食を取っていると、両親に釘を刺される。

 調子を取り戻してくれたことは嬉しいけれど、自分達の不利益を被ることは勘弁……という意味かな。私を心配しているように見えて、結局は自分のことしか考えていないのか。

 私が急に元気になっても大した反応をしなかったし、本当は興味すらないのだろう。

 

 神奈子様や諏訪子様なら……。

 そう思うだけで胸がズキズキと痛む。

 

 あぁ、早く学校に逃げたい。

 ……どうせクラスでも楽しいことはないのだが。

 今日も今日とて、作り笑いを張り付けながら両親の言葉に頷くのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 『掌を返すよう』なんて言葉を最初に考えた人間を讃えたい。それほどまでに、その慣用句の表現は的を射ていると私は思う。

 表面だけでも笑顔を取り繕うようになってから、クラスメイトが中学時代のときと同様、私の周りに群がるようになった。女子は興味のない話を振ってきて、男子は妙に優しくしてくれる。そんな日常が帰ってきた。

 担任も喜んでいた。どのような意味合いで喜んでいたのかは知らないが。

 

 皆は笑っている。

 私も笑っている。

 

 白々しいにも程がある。

 

「……が……だよね!」

「……で、……じゃない?」

「そうですね、それがいいと思いますよ」

 

 他人の興味のない会話ほど面白くないものはない。しかし、面倒ではあるが他者との関係を作るのは大切だと、()()()()()から学んだので、頬の筋肉を無理矢理動かして笑みを作る。

 打算的な関係に何の意味があるのか。

 私には苦痛でしかない作業。これを同じ部活に所属する先輩は『むしろ打算的な関係を一方的に利用してやるのが面白いですね』と言い切っていたので、嫌々するか楽しむかは人それぞれなのだろう。

 

 私が悩んでいたときは側にすら近寄らなかったくせに。手を差し伸べてくれる人なんて一人しかいなかった。

 友人とは何だろう?と考えさせられる。

 

「今週末ってテニスの大会があるんだよね~。晴れてくれないかなぁ?」

 

 露骨に「晴れにしてくれ」と頼んでくる。

 私は笑顔で女子生徒の放った発言を流すが、内心は怪訝そうに睨んでいるのを、彼女は理解しているのだろうか? 知ってたらそんな発言はしないだろうけど。

 

「――そういえば、早苗ちゃんって美術部に入ったんだっけ? ()()美術部」

「……? はい」

 

 まるで含みのあるような言い方だ。

 素直に頷くと周りがどよめく。

 

「東風谷さん大丈夫? 確か美術部って男共しか入ってないって噂だけど。それに何してるか分からないって、この学校で関わっちゃいけない部活の一つなんだよ?」

「この前あの部室通るときに変な音楽流れてたし……」

 

 まさか変な音楽の正体が『椅子取りゲーム』していたからだとは思うまい。

 

「それに『死神』いるし!」

「隣のクラスの不吉な人?」

「そうそう」

「………」

 

 無理だった。

 限界だった。

 その言葉を聞いた瞬間、仮面のような笑みが能面の如く変わる。どれだけ興味のない会話を永遠と交わそうが構わないが、その人の事を悪く言うことだけは許せない。

 幸い無表情になっているのは僅な時間で、誰にも見られることはなかったけれども、クラスメイトへの不信感が積もっていくだけだった。せめて来年は彼等と同じクラスであることを祈るばかり。

 

「そんな部よりサッカー部のマネージャーしない?」

「野球部のマネージャー少ないんだ。東風谷さん、よかったらどう?」

「ぜひともセパタクロー部に!」

 

 男子生徒が自分の所属する部活への勧誘が始まり、女子生徒がそれを止める光景。

 下心が見え見えである。

 早く放課後にならないかなぁ、と一時間目の休みなのに学校が終わった後の事を考えるのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 美術部。

 もはや私が学校へ来る最大の理由であり、唯一の理由となった場所。

 両親との会話がどれだけ面倒だろうと、クラスメイトとの交流がどれだけ苦痛だろうとも、ここに来るためだけに今の私は生きていると断言しても過言ではない。でなければ学校に遅くまで残る意味がない。

 姿を消した神奈子様と諏訪子様に自慢できるだろう、数少ない私の変化した部分だ。

 

 クラスメイトと別れて、文化棟の誰もいない廊下をスキップしながら歩くくらいには浮かれていた。まだ入部して日が浅く、彼等の輪に慣れていないが、それでも自分を隠すことなくさらけ出せる居場所なのだ。

 心が荒んでいる私を受け入れてくれる部活。

 両親の前みたいに表情を作ることなく、クラスメイトみたいに合わせる必要のない、現時点での最高の空間だろう。

 

 私は美術部の扉を開ける。

 まだ神奈子様と諏訪子様がいなくなって、前みたいに心の底から笑えなくなったけど、彼――紫苑君はそれでも良いと言ってくれた。

 少しずつでも大丈夫だと。

 だから私は、また心から笑えるように――

 

 

 

 

 

「おー、取れた取れた」

「よく掬えるよね。どうやったの?」

「……チッ、破れやがった」

「水に接する面を減らすといいですよ」

何スーパーボール掬いしてるんですか

 

 

 

 

 

 部室では絵を描く生徒――は一人も居らず、机やら椅子やらを端に移動させて、部屋の真ん中でスーパーボール掬いをしていた。

 大きなビニールプールに大小様々なスーパーボールが浮かび、ポイを使って男達が一生懸命にボールを狙っている。今に始まったことではないにせよ、思わず彼等にツッコんでしまう。

 どうして彼等は私の想像の斜め上の行動をするのだろうか?

 

 私のツッコミに振り返る黒髪の少年。

 半分破けたポイを片手に、私の入室に気づいた紫苑君が笑顔で迎え入れてくれる。

 

「お疲れー」

「それよりも何故スーパーボールを……」

「いや、未来が持ってきたから適当に遊ぼうかなって。これ意外と面白いな」

 

 むしろ学校に持ってきて、よく教師に気づかれなかったと私は心底思う。近くの机に積まれた荷物のところに自分の鞄を置いて、ボールを取るのに夢中な彼等の元へ移動する。

 この美術部は美術部として機能しておらず、こうやって所属している四人が駄弁って時間を潰すだけの部活と説明を前に受けた。別に絵を描きたい為に入ったわけではないし、私は入部してしまったのだが。

 入部手続きをした当日に囲碁、次の日に部室へ来たとき、かるたをしていたので私は確信した。ここは遊ぶための部活なのだと。

 

 彼等と一緒にいると数日だけでも痛感する。

 この美術部に常識は通用しない。

 

 紫苑君が隣の空間を開けてくれたので、そこに座り込む。座布団まで用意してくれて、屈む形だとスカートの中が見えてしまうので、そこら辺を考慮してくれたのだろう。クラスメイトの男子とは大違いだ。

 補足だが、美術部に入ってから私は紫苑君……この部の男子を名前で呼んでいる。理由は『全員の苗字が複雑すぎて覚えにくいだろ?』とのことだ。確かに難しい。

 個人的には名前で呼び合うような友人が居らず、こうやって本当の親友みたいに名前を呼ぶのは昔から憧れていた。密かな願いが叶ったわけだ。

 

「ふふふ、早苗ちゃんは難しい顔してるね。こういうのは何も考えずにノリで楽しまなくちゃ、人生損しちゃうよ。こうやって大きいボールを――」

「それっ!」

「ぬおぉぉぉぉおおお!?」

 

 マイペースに笑う未来君がボールを掬おうとして、投げられたスーパーボールにポイを破られて、不思議な悲鳴を上げる。

 ボールはプール内に漂っている御椀から投げられたようだ。みんなが掬ったスーパーボールを入れる容器と同じもので、その中に二人の人物(・・・・・)か入っていた。

 小人サイズの少女を見ても驚かなくなった自分がいる。

 一人は緑髪の少女。よく部室で見かける『古明地こいし』ちゃんだ。ボールを投げた張本人である。もう一人は……銀髪の少女。刀を携えており、私は初めて見るタイプ。

 

 彼女等は紫苑君の家に住む小人らしく、『幻想郷』と呼ばれるところから移住してきたのだとか。

 普通なら信じられないことだが、紫苑君が私の『神様が見える』発言を信じてくれた理由の一つらしい。常識が仕事をしていないけれど、受け入れるしかないだろう。

 あと可愛い。見ていて和む。

 

「こいしさん! こいし様! 御椀を揺らさないで下さい!? 落ちます! 落ちますから!」

「このボール、キラキラしてる!」

「あぁ! 水がっ、浸水がっ!?」

 

「えっと、放っておいても大丈夫なんですか?」

「いつものことだからなー。こいしが他人を振り回すか、一緒になって悪ノリするかの二択だし」

「うるせェな……」

 

 私の疑問に黒髪の少年は肩をすくめて、外見不良の兼定君は舌打ちをしながらも御椀をもう一つ水面に浮かべる。ここに避難しろと言うことだろう。

 兼定君の浮かせた御椀に移った少女――魂魄妖夢ちゃんは不良少年に頭を下げて、彼は興味無さそうに鼻を鳴らす。未来君曰く、これはツンデレというものらしい。

 最初は怖かったイメージがあるけれど、接してみて分かる。とても優しい人だ。

 

「あ、僕んところの今日の物理の授業だったんだけどさ、抜き打ち小テストあったよ。教科書32ページの範囲」

「はぁ!? うっわ、俺のクラス明日じゃん。あのハゲチャビンは本当に余計なことしかしねーわ。完全に毛根死滅してほしい」

「あンのクソハゲ小テスト好きだもンなァ。俺様んクラスはハゲが担当じゃねェから関係ねェが」

 

 こうやって真面目に遊びながらも、学校内での情報が飛び交う美術部。その中には私にも有益な情報も含まれることが多いので、注意して聞くようにはしている。

 どうでもいい会話も含まれるけど。

 それはそれで面白い。

 

「というか僕も明日は憂鬱だよ。体育超面倒。あーあ、明日雨にならないかなぁ」

「……っ!」

 

 自分の都合のよい天気を望む。

 幾度となく聞いた言葉に思わず身構えてしまう。クラス内でうんざりするほど頼まれ、私の変化に隣の龍慧先輩が「どうしました?」と声をかけてくる。

 ここは自分のクラスじゃない。

 でも未来君から遠回しにお願いされているような気がして――

 

「だから、てるてる坊主大量生産してきた」

 

 全然そんなことはなかった

 

「あ、俺の分もヨロシク」

「それくらい自分で作りましょうよ……」

「いや、物理嫌でハゲを模したてるてる坊主をリビングに飾ってたら、幻想郷住人から苦情来てさ……。気持ち悪いから外せって」

「むしろ何で模したんですか」

 

 紫苑君の奇行に先輩が呆れているが、私はホッと胸を撫で下ろしていた。

 頼られることが必ずしも嬉しいわけではない。天候操作の件では自分もその部類で、だからこそ無神経に頼んでくる他人を信じることができなくなった。未来君の言葉に反応したのも、それが原因の一つなんだと思う。

 まだ入部して日が浅いけれど、彼等は細々な事を頼まれることはあっても、この中に私に向かって天気を変えてほしいなどと言った人はいない。

 

 

 

 

 そのような心のオアシスみたいな時間も終わりが来る。外も暗くなり、遊んでいた道具を片付けて帰路につくのだ。

 あの家に帰らないといけない。

 思わず溜め息をつきたくなるが、明日も部活はあるのだ。そう自分に言い聞かせる。全員が部室を出て五人で歩いていると、ふと前を歩いていた紫苑君が振り返る。

 

「この後、用事ある奴ー?」

「「「「………」」」」

 

 全員が首を横に振る。

 私も家に帰るだけだ。

 その様子に悪戯っぽい笑みを浮かべた紫苑君が、部室の鍵を人差し指に引っ掻けてクルクル回しながら提案する。

 

 

 

「飯食って帰ろうぜ」

「……はい!」

 

 

 

 以降も時折だが部員で晩御飯を食べに行く。

 その時間も自分の楽しみの一つになる私。

 彼の提案に、私は元気よく肯定の意思を示すのだった。

 

 

 

 




裏話

レミィ「キモッ、何あれキモッ!?」
魔理沙「落武者……? 天辺に髪のない妖怪か?」
咲夜「魔除けでしょうか?」
アリス「何というか……見ているだけで呪われそう」
フラン「あんな奴なんか! お、お兄様が退治してくれるもん!」



霊夢「……アイツ、本当に物作るセンスないわ」
紫「てるてる坊主、なのよね。アレ」




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20話 敵と書いて灰と読む

難産でした。
ようやくあのキャラの登場です(*`・ω・)ゞ


 リビングと台所が解放されたけれども、俺の家での行動範囲は部屋で完結している。小型テレビもあるから情報は入ってくるし、精々外で洗濯物を干すときの中継所みたいなものか? あんまりリビングの紅魔館勢を刺激したくないし。

 風呂から帰ってきた俺は小型テレビの電源を入れ、今日の宿題(めんどうごと)を片付ける。

 今日はベッドの上にパチェ、床にこいしとフランがいる。前者は本を広げて読書、後者はゲーム機を置いて二人操作で冒険の旅に出ていた。

 

 三人が部屋に来るのは珍しくなく、パチェは本目当てで俺の部屋に入り浸ることが多い。図書館の本を借りてきては彼女に見せているため、俺と彼女がそういう関係なのは第三者の視点からでも分かるだろう。

 余談だが、かりちゅま吸血鬼ことレミリア氏曰く、「パチェが他の人に愛称で呼ばせるのは珍しい」と述べていた。つまり現代の本を入手できる俺との関係を円滑にするために、愛称で呼ばせるのを許したのではないかと俺は推測する。打算的だけど、俺は嫌いじゃないぜ?

 もっと打算的な野郎がいるから。

 

 幻想郷の住人の中でも交流の多い幼女二人は、最近RPGにハマっており、俺の部屋で仲良くプレイする姿が見られる。アクションゲームは難しいけれど、ターン制RPGなら問題なく楽しめる。

 幻想郷にないと聞く現代の娯楽をエンジョイする子供を見ると微笑ましいね。

 

『――○○時○○分に――で噴火が発生し、噴煙は火口縁上3200mで雲に入りました。1時間以内に――ではやや多量の降灰があり、降灰は――まで予想されます 』

 

 ちょうど地元のニュースで近くの火山が噴火した旨が放送される。活火山を中心として風向きがテレビ画面に映り、それが自分の住んでいる区域の方角なので、俺は思わず舌打ちをした。

 この県は活火山の噴火が少なくないので、爆発やら噴火が起こっても、県民は噴火に怯える――なんてことは全然なく、降ってくる灰によって洗濯物に被害が出ることを怖れる。浴室乾燥機がある俺に関係ないかと言われればそうではなく、灰が降った道を歩いて学校に行くのは億劫になるのだ。

 風吹けば灰は舞うからな。あれ目に入ると痛い。

 

 舌打ちをした音が聞こえたのだろう。

 フランが反応して俺を見上げる。

 

「どーしたの?」

「灰が降ったんだってさ」

「またー?」

 

 慣れてしまえば幼女ですら噴火に驚かない。

 

「明日学校についてくるんなら鞄の中に避難しとけよ? ポケットだと火山灰が入ってくるかも」

「「はーい」」

 

 自然災害の一種だから仕方ないとはいえ、ぺっぺぺっぺ灰を撒き散らす火山に殺意が沸いてくるわ。数日は灰が舞い上がるんだろうなぁ。

 明日からの登下校の憂鬱さに溜め息をついたとき、扉がノックされる音がした。

 ふむ、誰だろうか?

 

「んー? どうぞー?」

 

 入ってきたのは初見の住人だった。

 肩まで伸ばした緑色の髪が特徴的な女性で、室内なのに傘を注している。気の強そうな紅いつり目に、どこか不穏なイメージを抱く笑み。

 なんというか……うまく言葉に言い表せないけど、本能が『関わってはいけない』と警鐘を鳴らしている。その間にも彼女はフワフワとこちらに近づいてくるのだ。

 

「紫苑っ! 逃げなさ――」

「へ――?」

 

 視界が反転する。

 ぐるんと見ている光景が移り変わり、俺は自分が吹き飛ばされたと自覚するのに時間がかかった。パチェの言葉に反応する前に起きた、一瞬の現象。

 

 一人の男が椅子から吹き飛ぶ姿は壮大にして雄大。空中に乗り出す様は自由を象徴しているかのようで、一羽の鳥が翼を広げ大空を疾く駆けるが如く煌めきを放つ。放物線を描き床に着地するのは重力の理。それは人間の限界を物語るかのよ

 

「ぐはっ!」

「おにーさん!?」

「お兄様!?」

 

 なんか変なナレーションと共に着地したような気がするが、あんな詩的表現をされても困る。要するに緑色の髪の女性に吹っ飛ばされただけの話である。

 肺にあった空気が吐き出されて、「最近家で床に叩きつけられることが多いな……」と場違いな感想を浮かべる。もうちょっと穏やかに生きてきたはずなんだが。

 

 起き上がろうとしたところで、顔に傘を突き出される。本来の使用方法をガン無視したように武器として傘を扱う彼女は、嗜虐的な笑みを浮かべながら、額の血管を浮かび上がらせて俺を見下ろす。

 なんの罰ゲームだろうか。

 

「えっと……どちら様で?」

「風見幽香――名前くらいは聞いたことあるんじゃないかしら? 新しい幻想郷の主さん?」

 

 風見幽香……確か紫が言ってた名前だったような。

 

『花の妖怪・風見幽香には気を付けなさい。霊夢でも相手にしたくないって言う様な、極度の戦闘狂だから』

 

 あ、コイツか。

 なるほど、言われてみれば某戦闘民族よりも強者を求めそうな、バトル漫画の強キャラみたいな表情してんな。俺は少年漫画とか読まないんだけど。

 そんなことを知ってか知らずか、風見さんは暗い笑みを絶やさず俺へと向ける。

 

「ねぇ、家主さん。私は今すっごく怒ってるの。何故だか分かるかしら……?」

「み、身に覚えがありませんなぁ」

「私って花妖怪なのよ。だから貴方の家の庭に花壇があったのは嬉しかったわ。また大きな向日葵を始めとする花を育てられるから。でも――」

 

 風見さんは俺の胸ぐらを掴む。

 フランが目を光らせて割り込もうとしたが、俺はそれを手で止めた。ここで妖怪対戦を起こされても困る。

 

 

 

「なんで土に火山灰が含まれてるのかしら……!?」

 

 

 

 そりゃ灰が降ってるからな。

 加えて我が県の52%はシラス台地と呼ばれる地帯なため、灰を多く含む地質は水を溜め込まず、園芸を行うには適切ではない。ましてや育ったところで灰を撒き散らす活火山が近くにあるから、花に灰が被るのは火を見るより明らか。

 だから花を育てにくいわけではない。花壇に灰が多いのは、単純に俺が手入れを全くしてないからだろう。そこまで園芸に興味ないし。

 

 そう素直に話して溜飲が下がるわけがない。

 舌打ちをした花の妖怪さんは、考え込むように頭上を見上げる。

 

「あの火山邪魔ね。ぶっ飛ばそうかしら?」

「止めて、お願いだから」

「……へぇ、でも花を育てられないんだけど」

 

 イライラしているのか、鋭い瞳が俺を射抜く。

 このままだと俺の命が危なそうだ。俺は半強制的に両手を挙げて折れる。

 

「分かった分かった。肥料やら何やらを買って来ればいいんだろ? 今度の日曜にでも行くから我慢してくれ」

「私も行くわ」

「……へいへい」

 

 この後も「明日買いに行きなさい」と一悶着あったのだが、割愛させていただこう。学校休んでまで園芸用品なんざ買いに行けるかって話だ。

 言葉にしたら殺されそうだけど。

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 話が変わるが『美術部の中で園芸に詳しいのは誰か?』と問われた場合、俺達は『獅子王兼定』と答える。園芸というよりも家庭菜園だろうか? そこまでその分野に詳しくない俺から見れば、どっちも変わりないのだけれど。

 あの外見だけ不良のツンデレさんは、母親方が神社を経営していて、父親方が農家の出なのだ。どうして、ああなった?なんて野暮なことは聞かないように。俺も知らん。

 

 だから平日のうちに兼定から情報を得て、俺は怖い花の妖怪と安定の無意識妖怪を伴って近くのホームセンターに足を運んだ。荷物が多くなることが予想されるため、自転車に乗って悠々と辿り着く。

 肩に下げた鞄から顔を覗かせる二人。

 こいしは自転車走行中に帽子を押さえながら移り変わる景色を楽しみ、風見さんも普段なら味わえない『自転車での速さ』を満喫していた。俺も子供の時は自転車で走ることが楽しかったから、気持ちは分からんでもない。

 

 こうして時間をかけずにホームセンターに到着。

 近所で園芸用品を売っているのはココだけだと兼定が言っていた。

 

「っつーても、俺もココに来るのは久しぶりだからなぁ。あ、買うものに関しては風見さんに任せる」

「えぇ。……貴方は今まで私のことをそんな他人行儀に呼んでたのかしら?」

 

 直訳すれば『名前で呼べ』と。

 他の幻想郷住人ならいざ知らず、比較的関わり合いを持ちたくないタイプの女性だから、親近感を持たれないよう苗字で呼んでたんだが。

 こんな爆弾と一緒にいられるか。

 ……はい、名前で呼ばせて頂きます、幽香様。だから睨まないで。

 

 幽香はこいしを引き連れて肥料やら土やらを売っているエリアまで飛んでいく。基本的に無意識がいれば人に見つからないからね。

 何度も言うけど園芸は管轄外だ。

 適当に近くにあった土を手に取る。

 

「土なんて同じなんじゃねーの? 違いがわからん」

「土にも色々あるんだよ。ほら、養分があるとか」

 

 見当違いな会話を繰り広げる俺とこいしに反応することなく、幽香は商品の値踏みを行う。

 暇な二人はソシャゲをプレイする。

 何十分経ったか見てなかったけど、傘で頭を叩かれて現実に返る。

 

「これと、あれと、それ」

「あいよ」

「値段たかーい。諭吉が御陀仏になるね!」

「……だね、うん」

 

 幽香が指差した商品を持ったり担いだりする。

 ジャージ着て来て良かった。肥料などの臭いが服につくことを見越して、動きやすい服装をチョイスしたのたが、土とかつくなコレ。

 幽香曰く「ここの土は良質なのが多いわ」とのこと。

 

 一枚の諭吉を生け贄に捧げて園芸用品を購入した俺は、チャリの籠や荷台に乗っける。

 乗っけながら溜め息。

 

「俺のバイト代が俺の関係ない出費で消えてくんだけど。このままだと本格的に節約しないとなぁ。今月買う予定だったもんは諦めるか。……はぁ」

「おにーさん元気出して」

 

 幼女に慰められる男子高校生の図。

 CDとか本とか、最悪アホ共から借りればいいか。

 その不甲斐なさを憐れんでいる……なんてことは幽香の性格からして考えられないけど、花の(ドS)妖怪は不適な笑みを浮かべながら、情けない姿を見下ろしてくる。

 

「ふふっ、この出費が貴方に関係ない? 本当にそう思ってるの?」

「え?」

「貴方が買った種の中には野菜や果物も入っていたはずよ。私が貴方の花壇で花を育てる代わりに、育てた野菜や果物を無償で提供する。いい関係だと思わない?」

 

 俺は思わず目を見開いた。

 今までの幻想郷の住人は俺の負担を気にせず、紫ですら『俺に迷惑をかけないか』という事しか考えてなかった。それを俺は責めるつもりはなく、むしろ幻想郷が完全に安定していない今なら当然のことだ。

 だからWIN-WINの関係なんて持ち出されるとは思わず、ましてや相手はドS妖怪の風見幽香様。対等の立場に出されるとは思わなかった。

 意外という内心が相手にも伝わったのだろう。幽香は目を細めて心外だと睨んでくる。

 

「……私のことを貴方がどう思ってるかは置いておくとして、私は一方的に何かしてもらうような関係が大嫌いなの。依存するなんて論外。例え相手が人間だろうと、ね」

「あ、あぁ」

「これからも花や野菜の種を、貴方に買ってきてもらうことになるのは仕方ないわ。私にはできないから」

 

 ……まぁ、確かに悪くはない関係だとは思う。

 花壇で栽培できる野菜の量など些細な節約になるだろうけど、それでも――この緑髪の女性の気遣いに感動したのは言うまでもない。

 荷物を乗せた自転車を無言で走らせている間も、なんとも言えない気持ちを抱えていた。その気持ちは――不快ではない、細やかな爽快感を感じた。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 拡張された花壇を見て満足する私。

 まだ野菜を育てるのには手狭ではあるが、買って来れた肥料を含む土が少ないのだ。今度、これを買ってきた少年の友人から追加の土壌を貰うと言っていたので、今はコレで我慢しよう。小型のビニールハウスというものも持ってきてくれるらしいから、我儘は言えない。

 この花壇に土を入れる作業には家の持ち主――紫苑の手伝いもあった。最初は断ったのだが、『デカイ奴が手伝った方が早いだろ?』という言葉に折れた。

 彼はもう手伝いを終わらして部屋に戻っている。

 

 種を撒いていると後ろから声がした。

 こんなところに来る物好きなんて一人しかいない。

 

「何の用? 幻想郷の賢者様?」

「……また彼に負担をかけたのね」

 

 また、とは心外だ。

 今回が初めてのはず。

 八雲紫は錠剤をボリボリ噛み砕きながら、ジト目で私を見てくる。

 

「彼に手を出してないだけマシ……って考えた方が正解かしら? 貴女のことだから物理的に攻撃することも珍しくないし、五体満足だったのはさっき確認したし。先に貴女のことを説明しておいて正解だったわ」

「ふぅん……私が彼を玩具にすると。これでも私は彼を気に入ってるのよね」

 

 まるで私への対策を紫苑がしていたと思っている紫に、上木鉢が置かれた場所まで移動しながら否定する。

 私の発言に驚いたのか、紫は目を見開いた。

 どこに驚いたのかは理解できるが。

 

「あ、貴女が!?」

「これ何だと思う?」

 

 私が種の入った袋を見せる。

 

「……向日葵の種?」

 

 そう、向日葵の種だ。

 彼には『対等の関係が~』などと適当に誤魔化したけれど、正直そんなのどうでもいい。利用するときはとことん利用してやるし、弱者を虐げることに躊躇いなどありはしない。今回だって『夜刀神紫苑』は外界から種などを調達するだけの人間としか思ってなかった。

 そう、実際に会うときまでは。

 彼を軽く痛め付けたとき、紫苑は私に面白い反応を示していた。言葉にもしてないし、表情にも示していない。

 

 

 

 『またか……』と物語る瞳。

 

 

 

 彼にとって私は『幻想郷の住人』としか見ていなかったのだ。幻想郷の強者として恐れ避けられてきた私には、新鮮で無礼な感情。

 人里では見たことのない珍しいものだった。

 

 無論それだけじゃない。

 この向日葵の種。実は『買ってほしい』と頼んだものの中に、入れ忘れた種だ。気づいたときには少し焦ったが、彼が買ったものの中にはちゃんと含まれていた。

 あの痛め付けたときの私の言葉を覚えていたのだ。

 本当に……面白い。

 

 鉢に向日葵の種を植える。

 夏には元気な向日葵が見れるだろうか。

 種の植えられた鉢に微笑みかけながら、私は『追憶』『君を忘れない』『遠方にある人を思う』の花言葉を持つ名前の少年を思い浮かべるのだった。

 

 

 

 

 




裏話

兼定「ところで紫苑、向日葵の花言葉って知ってっか?」
紫苑「いや、知らねーけど」
兼定「ふぅン……ま、いいけど」
紫苑「??」
兼定(やっぱコイツ面白れェわ)


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21話 風評被害と偏見

中々体調が安定しませんね。
少しずつ頑張って投稿したいと思います(`・ω・´)ゞ

あ、今回は○○○に対する壮大なアンチ・ヘイトがあります。


「そんじゃバイト行ってくるわー」

「おつかれぇーい」

 

 紫苑君が溜め息を吐きながら部室を後にしていくのを見守った後、私は兼定君とトントン相撲をしている未来君に話しかけた。今日は龍慧先輩も顔を出しておらず、兼部しているもう一方の『秘封倶楽部』に足を運んだと聞いた。

 

「未来君、紫苑君は何のバイトをしているのでしょうか?」

「あれ……っと、早苗ちゃん知らなかったっけ?」

 

 トントン相撲に集中している未来君は、こちらに顔を向けずに私の質問の回答を述べる。

 二人とも手を小刻みに動かすことに専念しており、素人の私から見ても接戦を繰り広げていた。トントン相撲のプロとは?

 

「アイツは近所の定食屋で働いてるよ。割りと大きな企業の系列だったはずだから、名前くらいは聞いたことあるんじゃないかな?」

 

 未来君が口にした店は、確かに私も知っている名前だった。守矢神社の近くにも同じ系列の店があったから、行ったことはないが名前だけは知っていた。

 店の名前を繰り返していると、「それがどうしたの?」と疑問が帰ってくる。

 

「そこで紫苑君は頑張っているんだなと思いまして。今度行ってみようかと」

「止めとけ止めとけ。店来た日にゃ紫苑ブチ切れンぞ」

「ゑ? ど、どうしてですか!?」

 

 どうして店に行っただけで紫苑君が怒るのか。

 その程度で紫苑君が怒るとは思えないが、もしかして琴線に触れる話題なのか定かではない。

 私には想像もつかないが、まるで体験したことがあるかのように、兼定君はトントン相撲に集中しながら答える。

 

「早苗はバイトしたことねェだろ? 神社除いて」

「は、はい」

「まず止めとけっつたのは、紫苑は接客の担当じゃねェから、行ったところで紫苑が気づくわけがねェ。つまり行ったところで奴には会えねェってこった」

 

 そして――と言葉を一旦切る。

 

「バイト生……特に飲食店やコンビニのバイトしてる奴等ァ決まって同じことを口にする。まぁ、()()()()()のバイトは決まって()()だからなんだろうが、簡単に言えば――」

 

 トントン相撲を中断して同時に私の方を向く二人。

 妙に劇画タッチの表情で。

 

 

 

「「忙しかろうが暇だろうが、給料もらえる額は変わらんから楽したい」」

 

 

 

 要するに紫苑君の仕事を増やすなってことだろう。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 飲食店のバイトはクソである

 もう一度言おう。

 飲食店のバイトはクソである

 

 これは俺個人的な見解であり、店によって様々であることは明白なのだが、それを差し引いても、俺は今働いてる飲食店のバイトが嫌いである。現在の店長に恩がなければ当の昔に辞めていただろう。

 料理を作ることが趣味な俺だが、だから飲食店のバイトが合っているわけじゃない。

 現在進行形でバイトの休憩室で制服に着替えてるが、まだ始まってないのに帰りたい気分だ。学校から直接来て、オーダーストップまで働かないといけないとか洒落にならん。

 

 なぜ飲食店のバイトがクソなのか。

 まず我が県の最低賃金は全国でもトップクラスの低さを誇る。まぁ、都心から離れたド田舎だから仕方ないとして、飲食店が忌避される理由の一つになっている。

 そして上の背景もあり、飲食店のバイトは労力と賃金が恐ろしく割りに合わない。土日などキッチンは阿鼻叫喚の地獄絵図より酷い。

 故にバイト生は飲食店のバイトを選ばないので、飲食店の人員は少なく、勤務している社員やバイト生の負担が大きくなり、余計に飲食店で働こう!って人が居なくなる。素晴らしい悪循環だネ。

 

 というか田舎は基本的に個人経営以外の食べ物に精通するバイトはゴミの傾向がある。あと二十四時間営業のコンビニとか。

 龍慧にも飲食店とコンビニのバイトはブラックだからやめとけって言われたし。働く人がいないからシフトの途中変更が難しいとか何とか。

 

 酷い例をあげるとすれば、未来が一ヶ月だけ働いていた某弁当屋のバイトだろうか?

 平日六時間、休日十時間時間の週七勤務。休みは一ヶ月前から申請しなければ、重度の病気(風邪・熱などは含まない)でなければ休むことができない。サービス残業は当たり前……なんて学生のするようなバイトじゃなかった。

 

『それ労働基準法違反だろ?』

『紫苑、いいこと教えてあげる』

『ん?』

『……バレなきゃ犯罪じゃないんだよ!』

 

 本当にブラックのバイトだと未来のケースが当たり前みたいな飲食店が存在する。尚、未来はバイト辞めるときにオーナーから随分と渋られたらしい。つか最後は脅してきたとか言ってたぞ。

 そのときのアイツのブチ切れた様子は言葉にできないほど荒れていた。たぶん早苗とかに話しても絶対に信じないであろうと断言できるほど。だって日を重ねるごとに(やつ)れてたもん、アイツ。

 

 それに比べれば俺のバイトはホワイトと言えるだろう。休もうと思えば店長が計らってくれるし、残業代も支払ってくれるし。

 でも割りに合わん

 

 っと、そろそろキッチン入んないと。

 俺はスマホをマナーモードにしてポケットに入れ、料理に髪の毛が入らないようバンダナを頭巾のように巻き、一回背伸びをして気合いを入れた。

 

「うっし、頑張るか!」

「「いえーい!」」

「………」

 

 その気合いは無意識幼女(こいし)吸血鬼(フラン)によって消沈したけどね。

 

 

 

 

 

 

 

「天ぷら揚がりました!」

「鍋まだ来てないんだけど!?」

「御膳の茶碗蒸し残り3個です!」

 

 そのようなホール(接客する人)とキッチン(料理作る人)の指示や注文が飛び交う中、俺は黙々とホールから運ばれてきた食器を洗っていた。この飲食店での俺の仕事は皿を洗うことなので、キッチンとは少し離れた場所で死んだ魚のような目で働いているのだ。

 だからキッチンで料理を作ってる人たちと話すことは少ないし、幻想郷からのゲストが好き勝手に歩き回れる。

 

「紫苑、これ貰ってくね!」

「うーっす……」

 

 洗い終わった皿などを回収しに来ることもあるけど。

 それも俺の仕事のはずなのだが、なんせ俺の仕事は多い。

 ホールから帰ってきた皿を流しに放り込んだり、御盆を拭いて片づけたり、米を炊いたり、茶碗蒸しを作ったり……社員さんが「そこ(さらあらい)一人でやりたくないわ」と言ってた辺り、もしかしなくてもバイトがするような仕事じゃないのだろう。

 どうして俺がしてるのかって?

 人がいねぇんだよ

 

 調理場担当の社員さん(34歳・独身)がダッシュで持ち場に戻っていくのと同時に、俺は高速皿洗いを再開する。軽く皿の汚れを擦り流せば、あとは洗浄機にかけるだけで殺菌消毒もできるので、各皿を一秒以内に洗っては籠に立てかけて、いっぱいになったら洗浄機にシュートしていく作業を続ける。

 その間、手を動かすだけの脳死作業は暇なので、

 

「今日の晩御飯はなっにかな~」

「お兄様、さっきの『ろーすかつ』っての食べてみたい!」

「あのお客さんハゲてるね!」

「茶碗蒸しがあと二十秒で出来上がるよ?」

 

 両肩に乗っている二人の話に耳を傾ける。それに頷きで返したり、時には小声で告げたりと、いつものつまらなく忙しい作業に華が生まれた。

 それにしても両肩の幼女たち。俺の肩に乗っていることが多くなったせいか、急な俺の身体の移動や旋回にも自然に対応するようになってきた。例えば俺が百八十度急に回って走ったとしても、上手く俺の服にしがみついて振り落とされない。

 ほら、今身体を急停止させたけど、熟練の如き要領でそれぞれ反応している。

 これが他の幻想郷民なら落ちてるところだ。この動きを先日レミリアを肩に乗せたまま行ったところ、急ブレーキをかけた瞬間に前へ吹っ飛んで行ったのは悲惨な事故だったね。メイド長に怒られた。

 

 フランに指摘されて茶碗蒸しの様子を見に行く。

 業務用の蒸し器を慎重に開けて、二重に軍手を右手にはめて中を確認する。二重にしないと軽く大やけどをするのは触ったらわかることだし、これが慣れた社員さんだと蒸したばかりの茶碗蒸しを素手で取って行くもんだから驚きだ。

 もちろん俺は指先に感覚神経が通っているので素手で触るような愚行は犯さない。

 ふたを開けた感じ……うん、ちゃんと蒸されてるな。

 

「「わ~!」」

 

 液体状だったものを作る前に見せただけに、こいしとフランはプリンのように柔らかくプルプル震える茶碗蒸しに目を輝かせる。こうやって小さなことにも感動できるのって子供の特権だよなぁ。思春期の小生意気な高校生だと「これのどこに感動する要素あんの?」と思ってしまう。あの頃は若かった。

 これを保温機に持って行くまでが茶碗蒸しを作る俺の仕事。

 二人には悪いけどコレは食べさせてあげられないのだよ。……んな物欲しそうな目で見るな。今度作ってやるから我慢してくれ。

 

 話は変わるがウチの飲食店は七時から八時半が一番忙しくなる。

 客の流れは諸行無常の理を表すが、唐突に団体様などが入ってくることがあるから、今日のように予約してねーのに十二名の客が来やがることもある。許さん。

 来るのはいい。帰ったときに皿が一斉に戻ってくるのはマジで洒落にならない。

 そして七時少し回って幼女二人の話に頷いていられないほど忙しくなると、

 

「「~♪」」

 

 こいしとフランは歌を合唱する。

 それは学校の音楽の授業で流れていた曲であったり、夕方に彼女等がよく見る子供向けTV番組のオープニングテーマだったり、動画サイトで耳にするボカロ曲だったり。

 別に他者にバレなきゃ構わんが、シューベルト作曲の『魔王』を歌い始めたときはさすがに笑った。

 

「……紫苑君、大丈夫?」

「っ!? だ、大丈夫デス……」

 

 ほら、パートのおばちゃんに心配された。頭を。

 あんまりにも忙しいと他の担当している社員さんやパートのおばちゃんが助けてくれることがある。まぁ、一人でするような仕事じゃないからね。バイト生が食器の山に埋もれてるのは外聞的にもマズいしな。

 

「あ、そういえば紫苑君に言っとかなきゃいけないことがあったね」

「何ですか?」

 

 若干引きつったパートのおばちゃんは、あんまり言いたくないけど言わないと可哀そう……という表情をしながら、ホールの呼び出し音を背景に述べるのだった。

 

 

 

「――十五名の団体様が来たってさ」

 

 

 

 フランに「お兄様!? 生きてる!? 返事して!?」と叫ばれるまで、俺の思考は彼方へと誘われていた。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 電車に揺られながら窓の外を眺める俺。

 この時間帯は終電じゃないけど帰るには中途半端すぎるせいか、基本的に電車内に人が少ない。……そこ、田舎だからじゃねーの?って言わないの。四十分に一本は電車来るわ。

 なので窓際のちょっとしたスペースに無意識幼女と金髪吸血鬼が並んで座り、電車内を悠々と見学している。ちょっと古い電車だからガタガタと大きく揺れたりすることもあるが、そんなことで動じるなら仕事中に俺の肩に乗れない。

 この電車の椅子配置は車両の長手方向に並んで座る座席……俗に言うロングシートではなく、車両の長手方向と交差する方向に並んで着席する配置の座席だ。通常2人掛けの座席を中央の通路を挟んで複数列配置するので、他に人が来たとしても彼女等が見える危険性が少ない。元々こいしがいるから大丈夫だろうけど。

 

 うーん、眠い。

 バイト帰りで疲れてることに加えて、この電車の振動が眠気を増長させる。

 前みたいに乗り過ごさないためにも気合で目を開けとかないと。

 

「ねえねえ、おにーさん」

「――んぁ? どした?」

「仕事してるおにーさんって格好良かったよ!」

 

 ニコニコと笑いながら無意識に俺を褒める古明地こいし。

 俺は一瞬だけ阿保みたいに目を見開いた後、苦笑しながら「そうかよ……」と誤魔化すのだった。

 

 

 

 




未来「アンチ・ヘイトタグ希望」
紫苑「ちなみに未来のブラックバイトの件と俺のバイトの仕事内容は作者の実体験だから」
未来「だから妙にリアルだったんだね」
紫苑「そしてリアルに肩乗り幼女はいない。つまりクソ」




紫苑「あ、それと一周年記念コラボとして活動報告に『東方神殺伝~八雲紫の師~』とのコラボを延長募集してるぜ。下のリンクから飛べるぞ」
未来「応募お待ちしてまーす」

https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=153405&uid=149628


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22話 大事なことは……

次回から異変入りたいですね。


 幻想郷で生まれた『弾幕ごっこ』という遊び。

 人妖関係なく『いかに魅せるか』に重点を置いた娯楽で、パワーバランスがおかしい幻想郷住人が対等に楽しめる遊びだと、幻想郷の賢者様は言っていた。まぁ、弾幕を出せることが前提条件なので、人里という場所に住んでいた一般人だと遊べなかったとか。

 忘れ去られた楽園というだけに、文明レベルが江戸末期~明治初期だと、娯楽の種類は少ないのだろう。

 しかも小さくなってしまったが故に、遊ぶ手段が減ってしまった幻想郷住人のストレスは計り知れない。俺には関係ないけど、紫的には早急に対応すべき問題らしい。

 

 んなわけで紫は俺に相談してきた。

 美術部で少なくないゲームというゲームを遊び嗜んでいる俺に、幻想郷の住人が楽しめるような娯楽はないのか、と。

 

「知らんがな」

「そうよね……」

 

 どんなに頑張ろうとも身長の壁がある限り、スポーツなどの現代娯楽を提供するには無理があるのは紫も分かっていたことなのだろう。

 ベッドに仰向けに寝転がりながら、本を読んでいた俺はスキマから顔を覗かせる紫の相談を切り捨てた。こればかりは幻想郷の面々が工夫して現世を謳歌してもらうしか方法がないと知っていたからだ。

 

 実際にパチェは自分より大きい本を読んでいるし、幽々子とは将棋を時々嗜んでるし、こいしとフランは俺のPCでネットサーフィンをやってる。こういう例があるのだから、探せば娯楽がないわけじゃないからな。

 そこまで考えてやる義理はない。

 勝手に遊んどけって感じ。

 

「……また『弾幕ごっこ』みたいな娯楽を考えないといけないのかしら?」

「そこら辺は紫の裁量次第だろ。幸いと言っちゃ何だが、あの幼女組に助けてもらえばインターネットの閲覧ぐらいは可能だろうし、参考程度にはなるんじゃないか?」

「あの二人現代に溶け込みすぎじゃない?」

 

 紫が顔を引きつらせながらも、幼女組の手助けを検討しているなか、枕元に置いていたスマホが鳴る。通知音からSNSだと判断した俺は、スマホを手にとって確認した。

 俺達4人のグループチャットの書き込みだった。早苗は諸事情から入れてない。そのうち入れるつもりだが。

 発言者は未来。

 

 ……俺はこの時点で想像もつかなかった。

 この何気ないチャット。これが幻想郷の少女達を変貌させる分岐点になろうとは。

 

 

 

『ガンダムしようぜ!』

 

 

 

 これで予想しろとか無理な話だけど。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 なんか家主が黒い変な箱を弄ってる。

 いつもならアイツの行動に目を向ける理由がないから放置しているが、私の家の近くで作業しているもんだから嫌でも意識を向けざるをえない。

 文句を言ってやりたい。でも紫がアイツの行動を優先させているから口を挟めないのだ。

 本当にイライラする。

 

「……なぁ、霊夢。紫苑は何やってんだ?」

「私が知るわけないでしょ」

 

 私と魔理沙は紅魔館前でアイツの様子を眺める。他にも紅魔館の面子、それとアイツにくっついてる姿をよく見かける古明地こいしもいた。

 無意識の妖怪に聞いても「きっと面白いことだよ!」としか言わないから、私は余計なことをしないように見守るだけ。

 

 そして弄ること数分。

 アイツはテレビをつけた。

 幻想郷でも香霖堂などでテレビを見たこともあるが、あれとは違って画面に色がついている。にゅーす?を見るためにアイツは使うらしい。

 

「紫苑、何してるんだぜー?」

「ちょいと友達とゲームを、な……」

「それでゲームできるのか!?」

 

 楽しいことが大好きな魔理沙は興奮したようにアイツの返答にワクワクしながら観察していた。そもそも友達とゲームをすると言ってはいるが、ここにアイツの友達はいないし、どうやってゲームをするのだろうか?

 僅ながら私も興味を持つ。

 アイツは何かしらの機械に手をつけた後、座椅子と水分補給用のペットボトルを持ってくる。座ると同時にこいしが彼の元へ移動したので、私たちもそれぞれの方法でアイツの近くに集まる。

 

「あー……あー……聞こえるか?」

「アイツ誰に話しかけてんの?」

「お兄様が耳に着けてる機械がイヤホンマイクって言って、遠くの人ともお話ができる機械だよ。遠くの人とも遊べるオンラインって形式で遊ぶんじゃないかな?」

「ちょっと待ってフラン。貴女いつの間にそんな知識を」

 

 私の小馬鹿にした発言にフランが説明を入れ、それにレミリアが焦ったように反応した。姉として現代知識で完全に劣っている現状に、物凄い危機感を抱いたのだろう。おもに威厳がどうのこうのって。

 しかし……なるほど、遠くの人間とも会話できる機械か。

 あそこまで小さい機械なのに、とても便利な機能がついているようだ。

 

「おーっす、ルーム作るわ……え?……シャッフルで良くね?……ふーん……あー……それな!……OK、それでいこう」

 

 ……たぶん友人とやらと会話しているんだろうけれども、一人で何か喋っているようにしか思えない。ぶっちゃけ頭のおかしい変人みたいだ。

 その視線を悟られたのか、手元の薄い機械を操作する家主。すると他の人間の声が私たちにも聞こえるようになった。フラン曰く『スピーカーモード』に変更したらしい。

 

『どれ使おうかなー、もうオールランダムでいいかな?』

『ZZ使うわ』

『確かX3が上方修正されたとか……』

 

 もしかしてコイツ等が、あの馬鹿が幻想郷の存在を教えた奴等なのだろうか?

 

 

 

「あ、この会話こいし達も聞いてるからな」

『『『りょーかい』』』

 

 

 

 なるほど、コイツ等か。

 

「……ねぇ、フラン。紫苑は何のゲームをやってるの?」

「うーん……自分の選んだものを自由に動かして戦う『アクションゲーム』かな? ほら、お兄様は弾幕ごっこできないでしょ? でもあのゲームなら弾幕ごっこみたいな遊びもできるんだって」

 

 つまり現代の人間は『弾幕ごっこ』が出来ない代わりに、このような自分で操作することのできる機械を使って、弾幕ごっこのようなゲームをする、と。この自由度の高いゲームにはルール内で相手を倒すと勝てるらしい。

 彼等はゲームのルールを破ることは出来ないし、ある意味私のような監視役の存在は必要ないのだとか。

 実に合理的だ。

 

 そして幾つかの会話と雑談の終わって、そのゲームが始まる。2対2で相手を複数回早く倒した方の勝ちで、複数の人形の機械を操って戦う。

 戦闘開始――

 

「うぉい!?」

『チッ、外した』

 

 と同時に放たれる極太のビーム。それはアイツの操作している機械を狙っていて、ギリギリのところで回避した。太いビームは魔理沙のマスタースパークのようで、当の魔理沙は目をキラキラさせて興奮していた。

 これ魔理沙の好きな分野じゃないか。

 他の面々も興味深げに観戦している。

 

『紫苑前出て、僕は龍慧押さえとく』

「あいよ」

「紫苑! 紫苑! アイツみたいなマスパ出せないのか!?」

「俺の機体は接近格闘なんだけど」

 

 とか言いながらも、今度は小さな機械が家主のアイツにビーム攻撃を放ってくる。

 ふわりと浮き上がって回避する様を、パチュリーは目を見開いてブツブツと独り言のように考察する。あの攻撃に何か思うことがあるらしい。

 

「自立型の攻撃、ね……動かずに相手を牽制できるし、当たれば相手を麻痺させることも可能……スペルカードで再現できないかしら?」

「投げたナイフを爆発させる……」

「あの蝶みたいな攻撃は何て優雅なの……!? 後で真似してみよ」

 

 それはパチュリーだけじゃなかった。これを観戦している全員が、その美しい弾幕のような攻撃の数々に魅了されていたのだ。悔しいけれど私も参考になるような場面もいくつかあった。

 ただの人間がよくここまで弾幕のような攻撃手段を思い付き、それを小さな画面で再現できたものだ。現代の技術は河童とは別の方向で進化しているのだろう。

 ゲームが終わったあとも、魔理沙は今までにないくらいの笑顔だった。

 

「あれ私にもできるのか!?」

「ゲームは無理だろうけど、その弾幕ごっこの参考になるもんは沢山あるんじゃないかなぁ。適当にアニメなり特撮なり見ればいいんじゃね?」

 

 アイツは適当にテレビを見ることを促す。

 この出来事以降、幻想郷の住人がテレビを見始めるのだが――これが大きな変革をもたらすことになろうとは。

 

 

 

 私は予想もしなかった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 現代では人が成長する過程において、テレビやネットなどの情報を得るための媒体は非常に重要なものとなっている。その人の性格や知識などに大きく関わってきたり、その後の人生の方針などの参考になったりと、読者の皆様なども差はあれど見に覚えはあるのではないだろうか?

 故にメディアリテラシーなどの問題も発生するわけだが、そこら辺は今は置いておこう。

 大事なことは漫画から教えてもらった。純文学の○○に感化された。ニュースを見ていて事件を知った。色々あると思う。

 

 さて、話は変わるが幻想郷の住人もテレビを見始めたようで、リビングを多いに賑わせている。

 先程の事例は妖怪や魔法使いにも当てはまるようで……

 

 

 

「「「「「………」」」」」

 

 

 

 ワンシーンも逃さないという雰囲気を醸し出しながら、幼女組+αは金曜日のゴールデンタイムにある映画を鑑賞していた。ほら、ジブリって人の心を豊かにさせてくれるじゃん?

 まずテレビが珍しい環境で育ち、見たことも聞いたこともない設定の番組が二十四時間流れる情報媒体。それだけでも彼女等がテレビにハマる理由はでき上がっている。

 

 映画のコメディシーンはこいしと魔理沙が大笑い、シリアスシーンを霊夢とさとりが食い入るように見つめ、心地好い音楽が流れるシーンでは咲夜や美鈴が聞き入り、ラストシーンでアリスやレミリアが涙する。

 この約二時間でも彼女等は満足するのだ。

 他種族なので理解できない場面があっても、それでも分かるところを全力で楽しむ。

 

 もちろん彼女等だけではない。

 他の幻想郷の住人も、何の番組を見ればいいのか、時折だが質問しに来る。こいしやフランのように自分で調べる手段のない小人達。

 

「何か植物に関する番組はないかしら?」

 昼頃の園芸関係の放送を勧めた。

 

「私は歴史に興味があるのだが……どのようなものを観ればいいのか分からない。教えてくれないか?」

 深夜帯にある歴史系番組を教えた。

 

「現世の治世について知りたいです」

 ニュースやゴールデンタイムの政治関連番組を紹介した。

 

「その、仏の教えを伝えているような番組は……」

 深夜帯の歴史系番組の中で、仏教やってそうな日付を指示した。

 

 あるときは紹介した番組を見て満足し、またあるときは自分が思っていたのと違うという感想を戴いた。俺自身そこまでテレビを見ない人間なので、途中から新聞を取り始めて幻想郷の住人達に渡したぐらいだ。

 『テレビ視聴異変』と揶揄されるレベルに流行ったが、不思議とチャンネル争奪戦争は起こらなかった。それぞれが見る分野が違うのも理由の一つなのだろう。裏で誰かが調整していたのかもしれんな。

 テレビ見過ぎるなよ……と俺が注意することもなかった。自分の興味のない放送は見ないのが幻想郷の住人。まぁ、金曜の映画は基本的に多くの小人が集まったけど。

 

 テレビを放映するのは人間だ。

 中には妖怪や神様が首を傾げる表現もあったのだろう。

 

 けれども――小さい妖精や妖怪の子供達は口を揃えて後に述べたと言う。

 

 

 

 大事なことはテレビで教わったと。

 

 

 

「クリリンのことかあああああああああ!!」

「目がああああ!! 目がぁあああああ!!」

「ゴオオオオオオオオオオオッドフィンガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「ハルトオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 

 

 余計なことを教えるのもテレビだな。

 

 

 

 




裏話

早苗「おぉ! ガンダム! ザク! ジム! ガンキャノン! ガンタンク!」
紫苑「ちょ、早苗?」
早苗「これ自分の手で動かせるんですか!? 凄いです! 楽しいです!」
未来「なんか初代好きだね、彼女」
紫苑「それな」

 ――後の『ガンタンク早苗』である。


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3章 春雪異変?~西行オリーブの木~
23話 忌まわしき祭典


 更新が遅れてすみませんでしたm(__)m
 こんなタイトルですが内容を読めば理解できるかと思います。

 ……イベントなら是非もないよねっ!





 まだ入学して半年も経っていないけれど、前期の中盤に差し掛かってくる現在、この高校の生徒は非常に頭を悩ませる時期であることをご存知だろうか? いや、学生だったことのある方ならば嫌でも経験のあるビッグイベントが到来することを察するだろう。

 恐らく全国の大半の高校生が嫌いな行事。

 

 

 

 

 中間テストであるっ!!

 

 

 

 

 まぁ、こればっかりは避けることが出来ないので、おとなしく勉強するなり、部屋の隅っこでガタガタ震えるなり、カンニングペーパーを作成するなり……それぞれの方法で乗り切るほかないだろう。それが今後を左右する『評定』に大きく影響することを頭に入れるべきだが。

 この時期になると一学年の教室前の廊下は大きく賑わう。

 そりゃ高校入学試験以来初めてのテストなわけだから、不安やら動揺やらを隠しきれないのは理解できる。そんな時間有ったら勉強するのが一番賢い選択であり、明らかに頭良さそうな連中は自学自習に取り組んでいた。

 

 当の俺もテストは好きじゃない。

 中学時代も試験はあったのだから、それと同じ感覚で挑めばいいのは当然だ。適当に試験範囲を勉強して、分かるものは解けばいいだけの話。

 テスト勉強をしていることが前提ではあるけどね。

 

 さて、テスト期間が迫っているということは、部活動休止期間に差し掛かったと受け取ってもらって構わない。勉学が本分の高校生活なので、それを阻害する要因は排除しておこうという学校側の粋な計らいである。余計なお世話と思う人も少なくないだろうけど。

 じゃあ俺の所属している美術部が活動休止するのか?

 ぶっちゃけ駄弁るだけの部活を貴重なテスト期間を使ってまで行うことなのか?

 答えは否だ。どう考えても奨学金を受け取っている俺が優先すべきなのはテストであり、こんなしょーもない部活に通う理由が

 

 

 

 

 

「おいおい、兼定なんでカレスコつけてんだよ。☆5イベ礼装はよ」

「紫苑だって何でイベントボーナスの鯖をサポート設定してないのさ。周回回数が増えるんだけど」

「不満あンなら龍慧の孔明でも使ってろ」

「お、イベ礼装落ちました。今日は運がいい」

 

 

 

 

 

 そんなことはなかった

 いつものように放課後は美術室に集まり、今回は某ソシャゲのイベント周回をしていた。この四人は同じゲームをしているので、こうやって協力(?)をしながらイベント完走を目指している。安心と信頼の無意識幼女が見えるように机にスマホを置きながらプレイしているのだ。

 え、テスト?

 イベント期間と重なったのが悪い(暴論)。

 どうせテスト期間間近でバイトのシフトは入ってないし、幻想郷の住人達の騒音をBGMにテスト勉強をすればいいだけの話。

 

 いつも通りゲームで遊んでいると、扉の開く音がした。

 こんな部室に入ってくる人間なんて限られてくるが、今回ばかりは割と驚いた。

 

「こんにちは……」

「ん? 早苗か。テスト期間中だから来ないと思ってたぜ」

 

 尋ねて来たのは我が部活の紅一点。

 守矢神社の風祝の東風谷早苗さんだ。部活動をやっているか分からなかったから、小声の控えめな挨拶で入ってきたのだろう。

 

「えっと……何をしているんですか?」

「「「「ゲーム」」」」

「そう、ですか……」

 

 なんだその『あぁ、いつもの彼等だ』と言いたげな表情は。

 もしかしたらテスト勉強をしている可能性だってあったはずだろ!? ノートや教科書なんて一冊も開いてないから説得力皆無ですけどね!

 ……あと確証は持てないが、今日の早苗は元気がないように見える。時々遠くを見つめたり、切なそうな顔をすることがあるため、言い切ることはできないけど、それを差し引いても違和感を覚える。あの初対面の絶望的なオーラを醸し出していない分、遥かにマシではあるが。

 

 特徴的な緑色の髪を揺らしながら俺達の輪に近づいてきた彼女は、俺の隣の席に座りながら荷物を床に置いてはいるが視線を合わせようとしない。

 しかし、それは数秒のことであって、意を決したように早苗は俺に尋ねてくる。

 

「……その、テスト期間中の部活動の話なのですが」

「あぁ、そう言えば早苗には説明していなかったな」

 

 どこも同じかもしれないけれど、我が校のテスト期間中における部活動は例外を除き全面的に禁止されている。あ、テスト期間前の『休止』とテスト期間中の『禁止』は違うからな? 簡単に説明すると、全国大会間近とかでもない限りは、テスト期間中に部活動はしちゃいけない決まりになっている。

 これは美術部でも同じだ。

 高美展(K高校美術展の略。野球の甲子園予選みたいなもん)に参加するような技量を持ち合わせていない俺達には関係ないので、もちろんテスト期間中に部室の使用は出来ない。

 

 なんてことをソシャゲをする手を止めず説明すると、予想だが受け入れがたい……という曖昧な表情を浮かべた。その表情で俺等は察する。

 早苗と家の関係だ。仲がすこぶる悪い。

 だからテスト期間中は部活がなければ家に戻らないと行けないことがショックなのだろう。しかし、俺は言わなければいけない。

 

「つわけでテスト期間中の部活動は中止。なんせ部室が使えねぇし――」

「そう、ですよね……」

「――って思うじゃん?」

「え?」

 

 俯きかけていた早苗が顔を上げる。

 いや、ね? この部活に常識なんて通用しないんだよ?

 

「後でLINEのグループ招待と同時に送るんだけど、この部活には『第二部室』ってのが存在するわけですよ。正確には俺達がオフで集まる場所で、中学の時にはテスト期間中にそこで勉強したり遊んだりしてる」

 

 正式な活動じゃないからこそできる荒業。

 名ばかりではあるが――口実には最適だろう?

 

「そんな場所があったなんて……!」

「本当ならば紹介制でしか入れない場所なのですが、早苗さんなら気兼ねなく来てもかまいません。……私の経営しているショットバーですが」

「え゛」

 

 実はこの胡散臭い龍慧は、その胡散臭さに見合うアウトすれすれのアウトな事業を裏で展開している。様々な人間から胡散臭い言われ続けて吹っ切れたと言い換えてもかまわないが、身長も高くコンビニで身分証明書を見せなくても酒が買えそうな外見のコイツはショットバーを経営しているのだ。

 高校生が飲酒関係の店の経営が出来ないのは知ってはいるが、そこんところを詳しく聞くと日本の裏を知りそうになるので詳しくは俺も聞いてない。

 偽名戸籍偽装はデフォルトとか本当に高校生かよ。

 

 少なくとも表立って宣伝できない如何わしいお店を経営している龍慧に、守矢の風祝さんは引きつった表情を浮かべていた。バラされた龍慧にいたっては「それがどうしました?」と言いたげに首を傾げている。

 さすが美術部一の腹黒男。

 

「だから早苗ちゃんが心配してるであろう長期休暇期間も部活動は行えるのさ。龍慧が捕まらない限り」

「そうヘマはやらかしませんよ」

「知ってるか、秘匿は公開に劣るんだぜ?」

「待って下さい兼定、マジで洒落になりませんから」

 

 とか言いながらもソシャゲを動かす手を止めない俺達。

 早苗の表情に若干の笑みが戻ったところで、話題を変えるように俺の携帯を覗く。

 

「……ところで皆さんは何のゲームをしているのですか?」

 

 基本的に美術部で行われる俺達のゲームは、ボードゲームやカードゲームなどのデジタルに頼らない遊びが多い。部活外ならオンラインでプレイできるゲームをふんだんに使用するのだが、どーせ学校にゲーム機を持ち込めないなら、そういうのに頼らない娯楽を全力で遊ぶのも一興……という考えからだ。

 だがスマホは持ち込めるので、イベントとも重なったことも踏まえて、今回はソシャゲで遊んでいるわけだ。

 それが早苗には珍しく映るのだろう。

 

 未来が今回遊ぶ道具を持ってこなかったせいでもあるが。

 お前さー、昨日バスケットゴール持って来るって言うたやん。

 

「最近流行っているスマホのゲームなんだけど……早苗ちゃん知らない? テレビでもCMが放送されてたり、Twitterのトレンドとかにも挙がったりするんだけど」

「ごめんなさい、私そういうのに疎くて」

「オマエってそういうの知らなさそうだよな。スマホは持ってンだろ? 紫苑に教えてもらいながらインストールしてみろよ」

 

 電話するときに早苗がスマホを持っているのは知っていた。

 あんまり使いこなせていないよう見受けられていたが、話題作りや新しいジャンルの遊びを教える意味も込めて、兼定は不器用ながらも早苗に指示を促す。

 ガラケーからスマホに乗り換えたばかりのおばちゃんを彷彿させる操作で画面を弄る早苗に、俺は自分のやっているゲームのインストール方法をこいしと一緒に教える。ぶっちゃけ俺より無意識幼女の方が教え方が上手かったように見えるのは気のせいだろう。そうだと思いたい。

 補足だが、このゲームを幻想郷民も俺のタブレットでやっているという噂もある。どっかの姫様らしいけど……誰なんだろう?

 

 このゲームはインストールと更新の時間が長い。

 というわけで待ちながら軽い雑談。

 

「――ってなわけでさ、俺はテスト期間中は龍慧のとこでお世話になるぜ」

「こいしさんとフランさんも着いて来るそうですよ。私のバーが賑やかになるのは大歓迎です」

「あれ? 幻想郷……紫苑君の家から長期間離れるのは大丈夫なんですか? 以前霊脈がどうのこうのって話を耳にした覚えが……」

 

 その話は麻雀のときか? よくもまあ覚えてたもんだ。

 

「幻想郷の賢者様曰く、俺の身体には長い間霊脈の上で暮らし続けてきたせいなのか、よく分からん不思議パワー的何かが流れてるらしい。それのおかげで数日ぐらいなら俺の近くにいることが条件で、紫が手を加えなくても家の外に出ても大丈夫とか言ってたぞ」

「不思議パワー的何かって曖昧だなオイ」

 

 兼定に正論なツッコミを頂いたが、俺は肯定も否定もせず肩をすくめた。

 紫の説明は現代の高校生には理解できない単語の羅列だったため、俺自身が納得できる言葉に変えて皆に説明しただけだ。彼女は一生懸命に『俺の家の真下にある霊脈の凄さ』を語っていたが、んなこと俺に言われてもしょーがねーだろうが。

 俺の身体の状態が『常時博麗大結界を持ち運んでいるようなもの』とか言われてもさっぱりだし、凄くても自分で自由に使えない力とか意味なくない?

 

 その説明してる時に同席していた霊夢の顔だけは忘れはしないけどね。

 ソウルイーターのエクスカリバーを見るような表情をしていたと言えば分かりやすいだろうか。知らない人はぜひ検索してみて欲しい。

 ひどく曖昧な説明をした自信があったけど、早苗はそれを聞いて逆に納得したように頷いていた。

 

「確かに紫苑君に会った時から、なんか不思議な雰囲気な人だなーってのは思っていました。他の人と在り方が違うというか、纏っている霊力が違うというか……」

「え、マジ?」

 

 ……もしかして俺ん家って意外に凄いのか?

 そこらへんを詳しく尋ねようとしたタイミングで、早苗のスマホのゲームがインストールを終える。

 『俺ん家の謎<ソシャゲの勧誘』なので思考を切り替えた。

 

「ここをこうすると……そうそう、ゲームがスタートする」

「あ、本名は入力しないほうがいいよ! これ不特定多数の人間に見られる名前だからハンドルネーム……うん、あだ名みたいなものを入れるべきだね」

「料金は発生すンのかって? 基本はスマホゲーは無料だ。特にこのゲームは時間さえかけりゃあ、最後まで遊べるンだぜ」

「これがソシャゲ名物の『ガチャ』というものですよ。……はい、最初は高レア確定なので初心者は安心して序盤を進められます」

 

 古参勢は新規に優しいからね、ゲームにもよるけど。

 でも……共通のゲームをみんなで情報交換しながらワイワイやるのって楽しいよね? 少なくとも俺はそう思う。

 特に龍慧(廃課金勢)のガチャに関する厳重注意は見物だった。経験がここまで説得力を生む例として感想文が書けるくらいには。

 

 こうして今日の部活動は新規の早苗を入れてゲームをするのでした。

 テスト前なのにな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「この諸葛孔明さんとオジマンディアスさんとジャックちゃんって強いんですか?」

「十連で☆5鯖3体……何なのこの子」

「☆5排出率って1%だったよな?」

 

 ジャックに50万円溶かした龍慧は白目を剥いて倒れたそうな。

 

 

 

 




裏話

某姫様「え、ちょ!? バーサーカー狙わないでよ!」
某医者「姫様、どうなされました?」
某姫様「FGOやってるんだけど……あー! 私のマシュちゃんが……(´;ω;`)」
某医者「……(´・ω・`)」


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24話 竜の門

 いやー、必修科目落としましたわ( ゚Д゚)
 ストレスも含めて精神ガタガタで、突拍子もなくオリジナル作品のプロローグを書き上げましたわw
 そのうち投稿できるといいですね(・∀・)


 遠出をするのに準備が必要なのは万国共通の認識であり、自分の家を約一週間離れるとしたら、家の戸締りやら電気・ガス・水道の確認は必須事項である。

 特に一人暮らしの長い俺には常識なのだが、今回の遠出に後半の確認動作は必要なかった。

 むしろ家に一週間分の食料を置いていく暴挙。何も知らない第三者視点なら「コイツ馬鹿なんじゃねーの?」と思うこと間違いなし。

 

 家の玄関で着替えなど一式を詰めたスポーツバッグを肩にかけ、バッグのサイドポケットから二人の幻想郷住民がワクワクした表情で顔を覗かせていることを確かめ、俺は宙に浮いている紫に振り向きざまに声をかける。

 他にも霊夢やレミリア、さとりなどが見送りに来ていた。

 個人的に珍しい組み合わせだが、着いて来る奴が奴なだけに納得はしている。

 

「――んじゃ、家のこと頼んだぞ。水道出しっぱなしとか、電気のつけっぱなしだけは勘弁してくれよ?」

「えぇ、ちゃんとこの家は幻想郷の賢者の名に懸けて守っ――」

「何度も同じこと言わなくても、子供じゃないんだから理解してるわよ」

 

 紫の堂々とした宣誓が、霊夢のプライドによって簡単に邪魔される。

 引きつりながら張本人を睨むスキマ妖怪と、どこ吹く風の博麗の巫女の姿に、カリスマが若干不足している方の吸血鬼と地霊殿の悟り妖怪の二人は溜息をつく。やべー方の吸血鬼と無意識幼女はクスクスを笑っていたが。

 そんな様子だから心配になるんだけどなぁ。

 

「ったく、これならALSOKの方が安心できるっての……」

「何? 喧嘩売ってんの?」

「じゃあ霊夢は吉田沙保里に勝てんのか?」

 

 勢いづいていた霊夢態度が霊長類最強の名によって止まる。

 この名前には玄関にいる幻想郷の住人全員が渋い態度を示した。彼女の試合の様子を映したニュースと動画サイトで見せたALSOKのCMを思い出したのだろう。

 特にかりちゅま吸血鬼のレミリア・スカーレットは「吉田……沙保里……三人……」と顔面を真っ青にしていた。この前新聞にALSOKの広告があったから、適当に吉田沙保里選手のところを切り取って自立できるよう補強し、紅魔館の庭に立て掛けたのがトラウマになってるのだろう。

 

 霊夢は冷や汗をかきながら「む、夢想天生だったら一人なら……」と呟いている様子に、彼女に対抗できる霊夢が凄いのか、規格外の能力を持つ幻想郷民と対抗できる吉田沙保里選手が強いのか分からなくなった。おそらく後者ではないかと予想するが。

 というか彼女を複数形で戦うことを想定するな。CMに影響されすぎ。

 

「はぁ……まぁ、いいや。紫、よろしく頼むよ」

「え、えぇ……」

 

 未だに霊長類最強の名に怯える面々。

 こんな様子で大丈夫なのか。俺は自分の家を離れるのが物凄く心配になった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 三つほど駅から離れた隣町にやって来た俺とこいし&フラン。

 降りた駅から徒歩二十分に立ち並ぶ寂れた商店街の一角、一見どこかの事務所に繋がるコンクリートの地下へと続く階段の先に、龍慧が経営する『竜の門』がある。ここまで人気の少ない目立たない場所じゃないと学校側に見つかってしまう恐れがある、と経営者が語っていた。

 無人駅の改札近くの箱にチケットを投げ込み、鞄をあまり揺らさないよう歩く。

 

「えっと……ここら辺に……」

「誰か待ってるの?」

「あぁ、さな――」

「紫苑君!」

 

 太陽の光が当たらないよう鞄の中から声を発するフランに説明しようとしたとき、背中から俺の名前を呼ぶのが聞き取れた。

 声だけで誰かを判断できたので振り返る。

 

 そこには私服姿の早苗が走って来るのが見えた。

 LINEで『龍慧んとこに押し入る奴いる?』とグループに呼びかけたところ、なんと早苗が『行きたいです』と立候補してきたのだ。風祝の仕事がテスト期間前後になかったそうなので、友達の家で勉強すると親に言って来たらしい。うん、嘘はついてないな。

 服装は……えっと、今どきの女の子らしい上着とスカートだ。

 

 え? 服装の詳しい説明?

 俺に現代ファッションの話を振るな。伊達に未来から「ファッションセンス皆無。むしろマイナス振り切ってプラスに見えそうだがマイナス」と評価されてる俺じゃないわっ!

 それくらい現代のファッションには疎い。今着てる服だって未来に見繕ってもらったもんだぜ?

 

「待たせてしまいましたか?」

「いいや、俺も今来たところ。龍慧が飯買って来て待ってるらしいし、早くアイツん店行こう」

 

 人通りの少ない歩道を二人並んで歩いて龍慧の店へと向かう。

 途中コンビニに寄ったりもして時間が少しかかったけれど、俺には慣れた道だったため迷うことなく龍慧のへと通じるコンクリート製の階段前に到着。まだ真昼間なので看板も外に出しておらず、明かりもついていないため早苗が怖がっていたのは微笑ましかった。

 俺は躊躇せずに階段を降り、早苗もその後に続く。

 

 木製の扉を開けてカランカランと鈴の音色が響く中、薄暗い秘密の隠れ家的雰囲気を意識した、小奇麗な店内に足を踏み入れた。木製の椅子や机、ニスが照り輝くカウンター席に早苗は店内をじっくり見渡していた。

 彼女には新鮮かつ大人な雰囲気の場所なんだろう。

 ただの怪しい取引現場に使えそうな場所だよね

 

「紫苑、やっと来ましたか」

「うーっす」

「「うーっす!」」

 

 カウンターの奥から出てきたスーツ姿の龍慧に俺が適当な挨拶をして、幼女組も似たような挨拶をする。

 それに対して龍慧は胸に手を当てて礼儀正しくお辞儀をした。こういう態度が様になっているから、実年齢より上に見られるのではないだろうか?

 ぶっちゃけ俺達は彼女等より遥かに下なんだが。

 

 俺と早苗は龍慧に案内されてカウンターの奥へと通され、備え付けのエレベーターで地上に上がる。

 地上二階には生活感漂う空間が広がっていた。畳の敷かれた居間が龍慧や俺達が一般的に使うたまり場で、必要最小限の設備が秘密基地感を漂わせている。

 一階に入り口作らないのかと前に聞いたところ、「以前はあったのですが、少し組での厄介事が――」の部分で聞くのを止めた。深く聞いたら大変なことになると、俺の第六感が警報をガンガン鳴らしていたからだ。限りなくアウトに近いアウトだろコレ。

 

「す、すごいですね……」

「ここ来るの久しぶりだなー」

 

 入り口で靴を脱いで居間に上がる。

 16畳の畳が敷き詰められた空間は広々としており、ここの他にもキッチンや風呂場が別にあるのだから、秘密基地と言うには少々広い。

 荷物をそこら辺に置いた俺が折りたたまれた机を広げている間に、旅行鞄を適当な場所に置いた早苗はここの観察を行い始めた。

 

「ここの管理は龍慧先輩が?」

「あぁ、アイツ名義で借りてるぜ。株で儲かった分を維持費に費やしてるとか」

「やることが壮大ですね……」

 

 その株に俺も一枚絡んでいるのは内緒だ。

 いやー、株って結構儲かるんだな。初期投資がないから俺個人で始めるつもりがないし、そういう金絡みの博打は好きじゃないのも理由だけれど、ここ買った方がお得なんじゃないかなーって株はいつも急成長する。そういう意味で絡んでいるわけだ。

 ちなみに利益の一割を龍慧から貰ってる。貯金してるけど。

 

 とりあえず机を組み立てることに成功した頃、龍慧と早苗がキッチンから薄い紙製の箱を持ってきた。もしかしなくてもデリバリーピザである。

 恐らく龍慧が事前に頼んでレンジで温めたのだろう。

 

「ピザかー。デリバリーとか何年ぶりだろ」

「私は初めて食べるんですけど……紫苑君はピザ食べないんですか?」

「いや、食うけど。自分で作ったやつ」

「ピザ作れるんですか……」

 

 指先で生地を回転させながら広げるのって簡単だし、あとは石窯さえあれば作れるじゃん。

 時々作るけど、幻想郷民来てからはご無沙汰だな。今度焼いてやるかな?

 机の上にピザや小皿、頼んだらしいポテトの山を添えて、人間三人と小人四人は手を合わせる。

 

 

 

「いただきまーす」

「「「「「「いただきまーす(だぜっ!)」」」」」」

 

 

 

 ………。

 

お前等どっから出てきた

「ん? 紫苑の鞄からだぜ?」

「マジかよ」

 

 さも当然のように机の上に鎮座するキノコ魔法使いと人形遣いの少女達。

 どうやら俺の鞄の中に潜伏してついて来たようだ。

 

「ようこそ、我が家へ。魔理沙嬢にアリス嬢」

 

 このような不規則な事態にも俺の様に頭を抱えることなく、龍慧は上品にピザを咀嚼し終えて彼女等の訪問を歓迎していた。後で紫に報告しとかないとな。でも俺のタブレットって『永遠亭』とかに住む『姫様』って呼ばれてる奴が持ってたような。

 どうでもいい話だけど龍慧と早苗って上品に食べるんだよなぁ。ちゃんと左手を添えながら食ってるし、他の俺含むアホ三人みたいに豪快に食わない辺り、これが育ちの差なのかと実感させられる。させられるだけで俺は他二人のように真似することなく右手のピザを縦に折り曲げて零れないよう食らう。

 

「――で、何時まで勉強する?」

「――私は個人的に数学の復習がしたいです」

「――テスト範囲ってP18からP54までだよな?」

「――今晩の晩ご飯は任せました」

「――それノートからの出題が基本らしいですよ」

「――国語の古典が鬼門ですね」

 

 などと人間勢はワイワイと勉強やら晩飯について話し合い、

 

「――ここの探査とかしたーい」

「――眠くなってきた……」

「――アリス、ここドラクエあるらしいぜ!?」

「――これ美味しいわ」

 

 幻想郷民も彼女等で楽しそうに御喋りをしていたのだった。

 とりあえず分かったことは――晩飯は俺が作るらしい。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「ふぅん……家主さん行ったのね」

「そのようですね」

 

 白玉楼は死者の漂う冥界にある――が、今は明かりのついていない部屋の一室に構える屋敷。四季の彩る美しい光景は見ることが出来なくなったものの、『クーラー』と呼ばれる機械によって夏や冬でも快適に過ごすことが出来るようになった。

 私――魂魄妖夢は、主の幽々子様が家主さんの外出を確認すると、思わせぶりな表情で白玉楼の縁側にゆったりとした態度で扇子を仰ぐ。あれは何かしらを企んでいるときの顔だ。ひとまずは彼女の後ろに待機しておく。

 白玉楼内の明かりだけが光源の部屋は不気味なまでに静かで、目を細めながら窓の外の月を眺める幽々子様に、私は何を考えているのかを探るために尋ねた。

 

「彼がいることに不都合でも?」

「そう、ね……。確かに不都合だわ」

 

 パタンと扇子を閉じる。

 

「幻想郷では紅霧異変というものがあって、その主犯は紅魔館の吸血鬼だった」

「はい」

「じゃあ、紅霧異変の次は何があったかしら?」

 

 吸血鬼達の起こした異変。

 確か次は春が来なくなる――

 

「――あ」

「そうね。彼女達が模倣してくれたのだから、私達もそれなりのやり方で異変を模倣するのが正しいと思うわ」

 

 でも……と幽々子様は目を伏せる。

 言いたいことは分かった。

 

「あんまり家主さんに迷惑をかけるのも考え物だわ。でも、相応の規模で行うのが異変の主犯としての義務だと思うのよ。仮にも幻想郷が新しい形で存在し、弾幕ごっこを廃れさせないためにも」

「しかし、ここには西行妖は……」

「えぇ、だから家主さんに用意してもらったの」

 

 幽々子様は優雅に微笑む。

 その瞳には何を映し、何を考えて行動するのかを知ることは出来ないが、白玉楼の庭師として幽々子様の助力を行うことは当然のことだ。

 その微笑みを崩した幽々子様は、今度は眉をひそめる。

 

「西行妖は良いとして、問題は雪……」

 

 窓から見える月。

 どうやら今夜は満月のようだ。

 

 

 

 

 

「どうしようかしら、ねぇ……」

 

 

 

 




裏話

早苗(三つ並べた布団の端を譲ってもらったけど、隣は紫苑君……緊張するなぁ。もももも、もしかして夜這いとかされたりっっっ!!??)|д゚)チラッ
紫苑「ZZzz……」(爆睡)
龍慧「ZZzz……」(爆睡)
早苗「そんなわけないか」
こいし「(・∀・)ニヤニヤ」


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25話 各々の進行

 やっと大学始まりました。
 ちなみに時事ネタを入れることはありますが、あんまり本編との時間軸は共有しておりません。そこら辺は頭を空っぽにして楽しまれると嬉しいですm(_ _)m

 あとオリジナル作品を書きました。
 『俺の部下の異世界無双』というテンプレ設定の作品ですが、見ていただけると泣いて喜びながら泣きます。


「こいし? 何やってんだよ? こいし!」

 

 弾幕の光が鈍く輝く。

 それはフランの体を抱くように庇うこいしに殺到し、後ろ肩や背中を容赦なく穿つ。フランは瞳に困惑と恐怖を写しながら、弾幕を撃たれてもなお自分を庇うこいしに、いつもとは違う口調で叫んだ。

 こいしは弾幕の光を歯を食い縛りながら耐え、弾幕が途切れた瞬間に振り向く。手をかざして必死に唸りながら放つ弾幕は、撃ってきた連中――上海と蓬莱に直撃する。

 

 撃墜された上海と蓬莱を抱き抱えたアリスは、こいしに弾幕を撃っていた魔理沙の箒に飛び乗り、白黒魔法使いは無意識幼女への攻撃を放棄して去った。

 その様子を見たこいしは満足そうに口を歪める。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……なんだよ、結構当たんじゃねぇか。ふっ……」

 

 机の上に立つ彼女の足元には赤い液体が流れていた。

 その様を目の当たりにしたフランは声を震わせ、目尻に涙の滴を光らせた。

 

 俺は立ち尽くすしかなかった。

 見ていただけの俺は右手で頭を押さえて、ただ一つの気持ちを胸に、フランと同様に声を震わせた。

 なぜ魔理沙とアリスが牙を剥いたのか、どうしてフランとこいしが狙われたのか、何故こいしが凶弾に倒れようとしているのか。沢山の疑問が頭の中を駆け巡るが、ともかく聞かなければならないことが確実にある。

 だから俺は机の前に座り込みながら、フランみたく声を震わせながら問う。

 

「こ……こいし……。あっ……あぁ……」

「なんて声出してやがる……フラン」

「ごめん、何やってんの?」

 

 こいしは立ち上がってフランに微笑む。

 足元に流れる赤い液体(ケチャップ)をぴちゃぴちゃ音を立てながら、フランに背を向けた男らしい無意識幼女は言葉を紡ぐ。

 その言葉には鉄の意志が感じられた。

 

「俺は……地霊殿在住……古明地こいし、だぞ……こんくれぇなんてこたぁねぇ……」

「そんな……俺なんかのために……」

「鉄血48話見てから何やってんだよ、二人は。あと魔理沙とアリス、何でマジ泣きしてんの?」

 

 フランの言葉にこいしは力強く応える。

 地位と肩書きに相応しい、威厳を持った態度で。

 

「団員を守んのは俺の仕事だ」

「団員って何だよ。というか早苗も何でガチ泣きしてるんだ? え? ちょっと待って、これ俺も乗らないとダメなん?」

 

 深紅の液体の中を歩き、どこかへ向かうこいし。

 その先に何があるのか。

 恐らくは――自分達の目指したものがあるのだろう。

 

「でも!」

「いいから行くぞ。皆が待ってんだ。それに……」

「龍慧もハンカチで目元押さえながらスマホで音楽流さないで。『フリージア』流すとマジでそれっぽくなるから」

 

 言葉を止めて上を見上げる。

 彼女には青い空でも見えているのか? 満足したように微笑む姿は、とても穏やかで美しい。

 

「(サト、やっと分かったんだ。俺たちには辿り着く場所なんていらねぇ。ただ進み続けるだけでいい。止まんねぇかぎり、道は続く)」

「自分の姉のことを『サト』って略すの止めようぜ?」

 

 思い描くのは姉との約束。

 

『謝ったら許さない』

「ああ分かってる」

「そのシーン知らないんだけど」

 

 こいしは重力によって崩れ落ちる。

 ひどく軽そうな体は、自分はここにいると言いたげに質量間をもって、前のめりに倒れた。左の人差し指を頭上に掲げながら、仲間に道を示すかのように。

 無意識の幼女は大きく叫ぶ。

 

「俺は止まんねぇからよ、お前らが止まんねぇかぎり、その先に俺はいるぞ!」

「ちょ、ケチャップ! ケチャップがプリントに!?」

 

 そして――

 

 

 

 

 

「だからよ、止まるんじゃねぇぞ……」

 

 

 

 

 

 こいしは満足げに瞳を閉じた。

 

「……何だこれ」

 

 俺の解いていたプリントの中央に倒れたケチャップまみれの無意識幼女と、見事BGMに合ったタイミングで名言を言ったことに、歓喜の声を上げる周囲の面々。

 シャーペン持ちながら、俺は後ろに倒れて溜め息をつくのだった。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

 幻想郷の大賢者。

 それに従いし式神は私に問う。

 全てを見透かすような、長年の積み重ねにより生まれた貫禄とも呼ぶべき堂々とした佇まいに、私は怯むことも圧倒されることもなく対峙する。

 

「異変を解決するのが博麗の巫女の使――」

「いや、確かにそうなのは分かってるわ。それよりも洗濯物みたいにスキマから垂れ下がりながら、白目剥いて泡吹いてるアンタの主人は大丈夫なの?」

「大丈夫なわけないだろう?」

 

 彼女の横にスキマから身体だけを乗り出すように現れ、幻想郷――アイツん家のリビングの惨状に耐えきれなくなり、真っ白に燃え尽きたスキマ妖怪。

 自分の主人から目を逸らしながら、九尾の妖怪は若干冷や汗をかいて肯定する。

 威厳もへったくれもない。

 

 リビングの惨状……それは、一面の銀世界だった。

 リビングからキッチンにかけて、どこを見ても白い粉――恐らく小麦粉が綺麗に散乱しており、これを見たらアイツも紫と同じような状況に陥るだろうことは想像に難くない。それはそれで見てみたい気もするが、自分の神社までもご丁寧に真っ白くされたのは許せない。

 というか小麦粉で埋め尽くされたんだけど。

 小麦粉を袋に入ってたやつ全部をひっくり返したように、小麦粉の山に埋もれた神社。間違いなく私に喧嘩を売ってるようにしか思えないんだが。

 

 そして、遠くから「こ、紅魔館がぁぁぁあああああああ!! 真っ白館にぃぃぃいいいいいいいい!?」と叫ぶかりちゅま吸血鬼の声を背景に、私はとあることに気づく。

 

「……なんか寒くない?」

「あぁ、エアコンがフル稼働してるからな」

 

 現在の幻想郷が快適な温度を保っている理由。

 それは窓際の上辺りに取り付けられて、涼しいを通り越して寒い風を送っている機械が原因であり、今は私達に牙を剥いていた。

 かつての幻想郷の冬に比べれば遥かにマシな寒さだが、だからといって気温調節できるのに放置しておくわけにはいかない。

 

「エアコンの気温調節する機械はどうしたの?」

「リモコンのことか。それなんだが、どこを探しても見当たらないのだ」

 

 肩をすくめた籃が自分の持っている情報を開示する。

 

「この小麦粉の散乱はリビングとキッチン内、二階まで続く階段限定で、畳の敷き詰められた居間や一階客室には撒かれていない。……が、リモコンは他の部屋のものまで取られており、結構な苦情が出ている。一部の妖精を除いて」

「小麦粉を出来るだけ片付けしやすいように配慮しつつ、かつ的確に幻想郷民のみを苦しめる。この()()といい、黒幕が分かりやすいわね……」

 

 隠すつもりは元よりないのだろう。

 確実に黒幕は、幻想郷においてアレと親密な関係を結んでいる、二階のアイツの部屋横を根城とする連中……白玉楼の管理人のせいだろう。

 全くもって余計なことをしてくれたものだ。

 

「……あれ? こういう時って必ずしゃしゃり出てくる白黒のアレが見当たらないんだけど」

「うん? 言ってなかったか? 魔理沙はアリスと一緒に、彼に着いて行ったらしいぞ」

「はぁ!?」

 

 昨日の夜に『たぶれっと』という機械を経由して、『らいん』を使ったもので連絡が来たらしい。あの鞄の中に二人は侵入していたらしく、今はアレの友人の家で遊んでいるのだとか。

 ……なんか頭痛くなってくる。

 二人の性格からして、止めようとしたアリスを伴って、魔理沙が暴走した形なのだろう。

 

「ただ……」

「ん?」

「彼女等が無事なのは確認できたが、それ以上の情報は開示してくれなかった。どうやらタブレットを使っている永遠亭の連中は、連絡云々どころではないらしくてな、機械の使用が認められなかったんだ」

「何でアイツ等が独占してんのよ……」

 

 後から聞いた話によると、その連絡機能を有する機械を持った永遠亭の連中は、怒りを露にして『ついったー』というもので遊んでいたとか。

 

『はぁ!? たつき監督降ろされた!?』

『ふっざけんなKADOKAWAなめてんじゃないわよ!』

『けもフレ二期楽しみにしてたのに!』

『問い合わせ送ったるわ!』

 

 妹紅がドン引きするくらいに、引きこもり姫は珍しくブチ切れていたそうだ。その話をしていた永遠亭の医者も「……せっかくの癒しが」と悲しそうに語っていた。

 アイツ等俗物に触れすぎじゃない?

 

「とにかく異変起こしてる妖夢と幽々子をシバけばいいんでしょ? はぁ、本当に面倒だわ」

「――なら、その異変解決に同行してもいいかしら?」

 

 博麗神社(だったはずの小麦粉の山)の前で話していた三人……一人意識がないけど、私と藍の所に舞い降りたのは、紅魔館のメイド長だった。

 カツカツと小麦粉の雪に足跡をつける。

 

「お嬢様に『くっそ寒いから異変解決してきて!』と命じられたの。それにエアコンのつけっぱなしは電気代が非常にかかるんでしょ? 次の首脳会議で閻魔に経費削減されかねないし」

「うっ……それもそうね」

 

 幻想郷の財布を握る閻魔。

 内職という肉体労働をせず、内職で得た金銭を各勢力に分配する仕事を担っている。一見楽そうに見えるけれど、あの個性の強すぎる連中相手に分配とか、面倒以外の何物でもないだろう。ぶっちゃけ身体動かした方がマシだ。

 本人も不本意ながら従事している。ここには死者が居らず、裁く必要性がない。そもそも裁くべき死者がいないのだから。

 その彼女が分配している内訳には、幻想郷民全員が使うもの――光熱費や水道代なども含まれている。『公共料金』と言うらしいが、もしも無駄に使ったならば各勢力の分配資金が少なくなる。是非とも避けたい。

 

 余談だが、エアコンのつけっぱなしは想像以上に電気代を使わないらしい。あの憎たらしくも幻想郷の真の主であるアレ曰く、「エアコンの電気代は部屋をその気温まで変化させるのに金がかかるのさ。つまりエアコンつけっぱにしとけば、一定温度保つための電気代しか必要ないわけ。無駄につけたり消したりする方が高い。……まぁ、設定温度が高すぎたり低すぎたりすると、その分電気代は必要になってくるけどな」とか。

 閻魔はひどく感心しながら話を聞いていた。

 

「あ、そうそう。藍に言っとくけど、妹紅と布都をキッチンとリビングに入れないでね。私はまだ死にたくないわ」

「「あー……」」

 

 私の発案に二人は納得する。そして、藍は彼女に警告を促すためにスキマの中へと消えていった。ついでに違う意味で真っ白になっていた紫を回収して。

 咲夜も苦い顔をしている。

 

 どうして名指しで二人を入れないよう言ったのか。それは先日テレビで放映されていた番組で紹介されていたものが原因だ。

 どうやら小麦粉に火をつけると粉塵爆発というものが起こるらしく、科学について詳しく解説する番組での実験で、実際に粉塵爆発がどの程度の威力を起こすかを私達は見て知った。

 ばら蒔かれている小麦粉の量から考えて、少なくともフランの比ではない爆発が起こるだろう。

 

 というか家が無事じゃ済まなさそうだ。

 私にとっても望む結果じゃない。

 

「どっかの鴉天狗と不老不死の連携……」

「その妄想止めなさい、咲夜。その舞った小麦粉と着火は洒落にならない」

 

 アレに迷惑かけないよう今のタイミングを狙ったのだろうけど、小麦粉を雪に見立てる考えは正直どうかと思った。紅霧といい今回といい、もしかして幻想郷を消滅させたいのかしら?

 確か幽々子と妖夢は例の番組を見ていないから仕方ないのか。仕方ないで済ますレベルじゃないけど。

 

 私は頭を掻きむしる。

 今日はジブリの日だってのに。

 

「あー、もう! 金曜ロードショー前に片付けるわよ!」

「そうね、ハウルあるものね」

 

 私とメイド長は軽やかに跳んで、アレの部屋の横にある白玉楼へと向かうのだった。

 

 

 

 




【裏話】

龍慧「ところでコレを」(スッ
アリス「こ、これは……!?」
魔理沙「バルバトスの!?」
龍慧「自分で組み立ててみるのも楽しいかと」
こいし「やったー!」
フラン「わーい!」

龍慧「これで勉強に専念できますな」
紫苑「そのために鉄血見せたのか」
早苗「……ガンキャノン」
紫苑「早苗待って、マジで」


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26話 政治が学べる

 政治が学べるうえに小説も読める。これが一石二鳥(`・ω・´)
 というわけで難しい話の回です。投稿遅かったのは内容読めばわかると思います。物凄く大変でしたw
 ちょっとサークルでこのような話題になったので書いてみました。選挙近かったですからね。間違いとかあったら指摘していただけると幸いです。


 テスト勉強目的で集まったのに、勉強しなかったら意味がない。確かに俺達のメンバーなら年がら年中遊んでいるイメージを持たれるかもしれないけど、奨学金貰っている身としては下手な点数は取れない故、割と本気で勉強しないとまずいのが現状。

 

「こいしとフラン、そろそろ俺のスマホ返してほしいんだけど。アニメ見たいんだったらテレビで見るなり、龍慧のPC使えよ」

 

 勉強していた手を止めた俺は幼女二人に声をかけた。

 特に使う理由がなくても、他人に携帯を使われるというのは少し怖いものがある。ましてや使っているのが幻想郷きってのインターネット部門のプロフェッショナルなら尚更だ。

 この前スマホを少し渡したら、壁紙が変更されていて、ゲームアプリのガチャが軒並み回されていた前例があるだけに、この幼女達は何しでかすか分からんところがある。デレステのSSRが四人くらい増えてたんだが。あと呼吸するようにマーリン引いてんじゃねぇよ。

 龍慧は17万ぶっ込んでも礼装だけだったんだぞ。

 

 あとゲームアプリが追加されてたこともあった。

 なんで俺のスマホで古戦場回ってんだよ。なんで大手ギルドに所属してんだよ。家に置いてあるタブレットにも多くのゲームアプリが入っていたことにも驚いたが。

 スマホを横にして何かを見ていた幼女達は、こちらに顔を向けずに答える。

 

「『キノの旅』ってアニメ見てるー」

「最近のバイクって喋るんだね」

「なら……いっか。あとバイクじゃなくてモトラドだ。そこ間違えんな」

 

 二人は一生懸命画面を食い入るように見ている。

 電池を無駄に使用する以外に余計なことはしていない上に、何気に『キノの旅』は俺も好きな部類のアニメなので、肩をすくめながら勉学に戻る。小説は全巻揃えてるし、実はパチェも読破を目指しているラノベでもある。あの独特な雰囲気いいよね。あとがきも。

 魔理沙は『日常』というアニメを大爆笑しながら鑑賞しているし、アリスは何故かザクのプラモデルを一生懸命組み立てている。

 

「……早苗、地理のテスト範囲ってP11から何ページまでだっけ?」

「すみません、私は世界史取ってるんです」

「そっかー」

 

 それ以降は幻想郷の自由な仲間たちの雑音だけが響き渡る。早苗は教科書とノートを交互に見ながらノートにペンを走らせ、龍慧はノートに赤い透明のシートを乗せてブツブツと呟く。

 当の俺は頬杖をつきながらノートに書き記す。物理以外の教科なら平均点を越えるのは余裕なだけに、俺が必死に勉強するのは物理のテスト範囲だ。

 

 無表情で教科書の問題を解いているが、内心は『点Pそこ動くなぁぁぁぁぁ!!』とか『重力なんざ一々考えて暮らすわけねぇだろ!?』とか考えてる。

 どちらかというと数学も好きじゃない俺であった。苦手科目の物理ほどではないけど、見たくない類の科目であるため、理数好きな兼定ってやっぱり変態だと痛感する。よくこんな問題解けるな。アイツ曰く『文系って変人の集合体だろ? 作者の気持ちとか知るかよ』らしいが。

 補足だが『下線部の作者の気持ちを書きなさい』などの問題は、どちらかと言えば出題者の望む回答が要求される。作者の気持ち? それこそ知るか。

 

「なぁ、紫苑」

「ん?」

 

 数ページほど問題を解いている内に、アニメを見終わった魔理沙が俺の名前を呼んだ。この声色はなにか知らないことを尋ねるときに耳にするトーンで、実際に魔理沙はテレビのニュースを見ながら名を口にしたようだ。

 幻想郷の住人からテレビで放映されている番組にて、知らない単語の説明を要求されることは多い。汎用性の高い言葉なら説明できるのだが、時折専門用語などを聞いてくることもあるので、幻想郷民と暮らしていると、無駄に必要のない知識が増えていく。

 さてさて、今回は何を聞いてくるのやら……

 

 

 

「『右翼』と『左翼』って何だ?」

「この時期にドえらいデリケートな話題振ってきやがったな」

 

 

 

 幻想郷民にとっては素朴な疑問の一つではあるが、現在彼女が見ているニュースは政治・経済の分野。そろそろ選挙が行われるだけに、よく耳にする単語に首を捻っていたのだろう。んじゃ紫苑に聞いてみよう的な。

 古代ローマでは市民権を持った暇人共が、己の哲学や思想を互いに言い合うことがあった。それと同じで、『これ幻想郷でも右翼左翼思想とか派閥とかあるんじゃねーの?』と考えた俺は、どうにも説明をしにくい感情に駆られる。ただでさえ平和じゃない俺ん家が大変なことになるのだけは避けたい。

 あと紫に怒られかねん。

 

 けど説明をはぐらかしたとことで、調べれば分かることでもある。乗り気ではないが、今なら知識を補完してくれる龍慧もいる。教えても問題はないだろう。

 俺は視線を彷徨わせながら、自分の知識を総動員して説明を始めた。

 

「……まず『右翼』っつーのは、日本古来の伝統と秩序をしっかりと守っていこう的な思想で、えっと……『左翼』は新しいやり方で、人権や自由や平等を大切にしようって革新的で理想的な思想だな。『右翼』を保守派、『左翼』を革新派って言うこともある」

「あ、左右の翼の意味じゃないのね」

「……ここで該当しそうな人物に心当たりがあるの、幻想郷に毒されてる証拠なんだよなぁ」

 

 天然かそうじゃないのか、アリスの言葉に我が家の新聞記者を想像してしまう。なんか『翼が生えてる奴』とか普通だったら動物などを思いつくだろうに、どうして俺の思考回路は幻想郷の住人を当てはめてしまうのか。一般人な俺を非常識に染めるとか、幻想郷って怖いわ。

 脳内で「あやや」とか言ってる鴉に苦笑する俺。

 

 さて、んな戯言は置いといて、そもそも何で右翼と左翼と言うのか。

 この語源はフランス革命に遡る。

 簡単に言うと議会で議長席から見て右側に保守的なグループ、左側に革新的なグループが座っていて、それぞれが主張を述べていたことが始まりだ。

 ジロンド派と呼ばれる保守的な思想を持っていた、資産を多く持っていた市民を代表するグループ。ジャコバン派と呼ばれる革新的な考えを持っていた、比較的財産の少ない市民を代表するグループだな。保守やら革新やら言ったものの、当時のフランスの議会は全員『革新派』である。その中でも比較的保守派と革新派に分かれているわけだ。ややこしいな。

 以上から右翼は保守派、左翼は革新派と呼ばれた訳だ。

 

 じゃあ保守的な考えとは?

 革新的な考えとは?

 

「現代日本での右翼と呼ばれる方々の思想は、一般的に日本伝統を守るという信念の元に述べられます。例えるならば……天皇制の維持であったり、夫婦の同姓でしたり、外国人の参政権・選挙権に反対といったものですね」

「そんで左翼は逆だな。昔ながらの国旗や国歌斉唱に異義を唱えたり、外国人の参政権・選挙権も取り入れようぜって考える人もいる。国際化が加速している現代に、古い考えよりも新しい思考を以て日本を豊かにしていこうってことよ」

 

 俺と龍慧がそれぞれ右翼と左翼の説明を行う。所詮は主義主張だから良いも悪いも関係ないが、基本的に右翼が大衆一般に支持されやすく、左翼を支持する人は比較的少ないように思われる。劇的な変化を好まない日本人だからなのかね?

 俺の憶測だけどさ。

 

 そこで新たな疑問を金髪の吸血鬼が投げかける。

 いつの間にか俺の肩に乗っていたフランが紅の瞳を向けた。

 

「でもウヨクとサヨクって、あんまりいい意味では使われてないよね? どうしてなの?」

「その情報ソースは?」

「ついったー」

 

 ちょっと待てや、なんでTwitter見てんねん。

 俺のアカウント使って変なツイートしてねぇだろうな!?

 

「それはですね、そもそも自分の主義主張を表に出さない人が多いんですよ。そして私の経験談なのですが、大々的に自分の思想を語る人間は『過激派』と呼ばれる者達が多いです。厄介な仕事柄を営んでるせいなのか、私の知り合いにも何人かいますね」

「過激派……あの、大学に立てこもったりとか、行列で抗議をするみたいなものでしょうか?」

「早苗さんの後者はいいとして、前者は率直過ぎますが、そう思ってもらってもかまいませんよ。まぁ、あれは一昔前の有名な事件ですね。世間にも影響を与えたといっても過言ではありません」

 

 スマホの個人アカウントを確認しながらも、耳は彼等の言葉を聞いていた。

 早苗がイメージする過激派とは東大安田講堂事件的な構内バリケード封鎖なのだろう。あれは左翼過激派では有名な社会問題にまで発展した事件だ。

 行列での抗議は……どうなんだろう? あれは一主権者としては行使しても良い行動ではあるが、周りに迷惑をかけるのならば『過激』と思われても不思議じゃない故に、どうにも扱いが難しいものだ。俺自身もプラカードや段幕持って行列なんて風景は、ニュースなどでしか見たことないし。

 

 あと龍慧。さすがに自分の主義主張を述べるだけで『過激派』扱いはどうかと思うぜ?

 お前の経験談に出てくる人間は裏の人間だろうが。

 

「フラン嬢がその言葉を良いように受け止められないのは、ネット内において『ネトウヨ』や『パヨク』などの蔑称として使われるためでしょう。互いが互いに意見が真逆なため、特に自由度の高いネットワーク内では論争が絶えないんですよ」

「そうなんだ……」

「自分の主張を持つことは非常に良いことです。自分の意思がある証拠ですからね。……しかし、それで他者を精神的に、又は物理的に傷つけるのは感心しません。『過激派』が問題視されている理由はそこなんですよねぇ」

 

 そこでおどけたように焦る龍慧が弁明する。

 

「もちろん、幻想郷のシステムを批判しているわけじゃありませんよ? それが貴女方のルールであり法なのですから、無関係な私が口を挟めるものじゃないのは重々承知です」

「そりゃ、なぁ? 霊夢とかが鼻で笑いそうな話だぜ」

「弱肉強食の世界に住まう方々から見れば、ひどく面倒で意味のない思想だと思います。ですが、それが現代日本――貴女方にとっては『外の世界』のルールですので、守って頂けると有り難いですね。もしもルールを犯した場合、責任を彼が取らなければならない可能性もありますので」

 

 おっと、こっちに飛び火するのかい?

 確かに弱肉強食を謳う幻想郷から見れば、力を持つ者の自制を法律と機構によって制度化した民主主義など、なぜそのようなことをするのか理解できないだろう。そして俺の視点からだと、幻想郷の法とも言えるものを幻想郷の賢者と博麗の巫女の二名が担うことに不安を覚える。

 どちらがいいのか? 結局は慣れなんだろうね。

 

 魔理沙は難しい顔をして考える。

 パッと見だと難しい話とか理解できなさそうな性格をしているが、これは俺の第一印象による偏見だ。よく考えれば彼女は魔法使い。『魔導』を研究する者だから、馬鹿にはできない。

 

「ふーん……いろんな考え方があるんだなぁ」

「どちらが正しいの?」

「さぁ? それを決めるのは俺じゃない」

 

 結局のところはそこである。

 日本は民主主義国家。どれだけ自分の考えが正しいものなのだとしても、その『正しさ』は国民の総意によって決まるため、一票の差でどうにでも転がる。国民一人一人の価値が平等であるから生まれたもんだし、仕方ないと言えばそれまでだが。んで、その一票を如何に自分の方へ傾けるかを考えるのが政治家の仕事や。

 だからアリスの正否に関する疑問に答えることはできない。というか主義主張に正否がないのだから当然か。

 

 すると俺の言葉の意味を察したのか、いつの間にかフランとは違う方の肩に座っていたこいしが疑問を投げ掛ける。

 

「じゃあ、おにーさんはどっち派?」

「……どうなんだろうなぁ」

 

 前々から幼女二人組……特に古明地こいしサンは、俺が答えにくい質問を投げてくることが多々ある。物理の方式然り、保健体育のアレ関係然り、今の質問然り。姉の方は「無意識に質問しているようなので、適当にあしらって頂けると……」と困り顔だったのを思い出す。

 純粋な子供の質問ほど説明が難しいってのは、皆さんも体験があるのではないだろうか。俺も汚い大人になっちまったのかねぇ。

 

 事実右か左かと尋ねられても、俺はその答えを自分の中に持っていない。どちらの思想にもメリット&デメリットが存在し、自分が支持したいものがない限り、俺は投票用紙を白紙で出す人間である。

 海外からも評価されている日本古来の伝統を守るって意見にも賛成するし、国際(グローバル)化が進む日本に新しい風を吹き込むのも納得できる。

 結局のところは……

 

俺達が就職する頃に定時退社が当たり前な社会になればそれでいいんだよ

休日に休むことが出来るなら文句はありません

 

 俺達若者がもっと生きやすい国になればそれでいい。

 この時期から現代社会に絶望しか待っていないとか、歳を取ることが死刑宣告にしかなっていないじゃないか。

 

 

 

「で、本音は?」

「「働きたくない! でもそれなりの金は欲しい!」」

 

 

 

 やっべ本音が出たわ。

 

 

 

 




【裏話】

こいし「ちなみにネタの元は?」
紫苑「衆議院選挙と作者の講義。民主主義の話は銀英伝」
こいし「銀河声優伝説……!」
紫苑「声優豪華だよなぁ。あ、俺はヤン提督めっちゃ好きです。くっそ格好いい」
龍慧「私はラインハルト派ですね」
紫苑「あの人たち一々セリフが格好良過ぎるんよー」
龍慧「『魔術師、還らず』」
紫苑「やめて」

こいし「銀河の歴史がまた1ページ――」


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27話 んなことより掃除だ

大変長らくお待たせしました。
学園祭の準備や卒論のテーマ・内容、進路希望などにうつつを抜かしていたことを深くお詫び申し上げますm(_ _)m
というわけで本編どうぞ!


「ふふ、来――」

「さっさと異変戻せやオラこちとら暇じゃねーんだよハウル見逃したらどう落とし前つける気じゃ幽霊退治すっぞボケナスが」

「霊夢、落ち着いて。お願いだから」

 

 咲夜に諌められて正気を取り戻す私。

 異変元のココに来る間、金曜ロードショーまでに間に合うかを内心で検討した結果、割りと時間ギリギリなのではないか?という結論に至り、我を忘れて幽々子に詰め寄ろうとした。

 その剣幕に、幽々子を守るように刀を抜いていた妖夢でさえ、「うわー、ないわー」と顔を引きつらせていた。とりあえず咳払いして誤魔化す。

 

 いや、私も最初はジブリ作品に興味など微塵もなかった。なんせ私の家の前にテレビがあるもんだから、魔理沙やアリスんところにでも出掛けない限り、嫌でも幻想郷の住人(アイツ等)が見ている番組が目に入る。

 だから金曜ロードショーで『千と千尋の神隠し』をやっていたときなどは、暇だからという理由だけで惰性で見ていたくらいだ。控えめに言って神作だったが。

 音楽も作画も素晴らしい。何よりストーリーも引き込まれる。外の世界の人間には、妖怪がこう見えているのかと感心すると共に、宮崎駿の世界に圧倒されてしまったのだ。

 非常に、そう、非常に遺憾ながらも、紫苑(アイツ)の持っていたジブリの曲を収録したCDを借りてしまったぐらいに。借りて正解だったけど。

 

 そして今日は『ハウルの動く城』の放映日。

 こんな下らない異変など片付けてしまいたい。

 

「あら、私は異変の首謀者として殺して解して並べて揃えて晒されるのかしら?」

「アンタ亡霊なんだから死なないでしょ。まぁ、そんなこと思っている間に八つ裂きになってるだろうけどね」

 

 傑作だわ、と幽々子が微笑む。

 戯言ね、と私は肩をすくめる。

 

「で、アンタの異変の目的は?」

「特にないけれど――」

「ないんかい」

「――西行妖を復活させる、ことかしら?」

 

 その言葉に私は気だるげな気分が吹き飛ぶ。

 西行妖はかつて幻想郷にある白玉楼にあった妖怪桜の名前だ。幻想郷で西行妖の封印を解いて復活させようと『春度』を集め、おかげさまで春が来なくなる異変を起こした西行寺幽々子。今回はその再現かと適当にシバくために白玉楼(ここ)へと赴いたのだが、どうやら彼女の様子からして適当では済まされない異変だったらしい。

 薄く目を開いて私達を見下ろす姿に冗談の欠片もなく、私と咲夜は思わず身構えた。

 ……それにしては妖力の『よ』の字も感じられないが。

 

「その西行妖はどこにあんのよ」

「貴方達から見て右手にほら……」

 

 扇子を使いながら左手を動かす幽々子に、私達は視線を右に動か

 

 

 

「「………」」

 

 

 

 そして言葉をなくす。

 

「幻想郷が失われたけど、こうして新たな西行妖は生まれたわ。後はそれを成長させ――」

どー見てもオリーブの木よね?

 

 咲夜の言う通り、西行妖と呼ばれるそれは小型の観葉植物だった。小型の鉢に私達の身長よりは大きいが、木とは呼べないほどのオリーブと言う植物が鎮座していた。ご丁寧に根元に『西行妖』のプラカードが立ててある。達筆に書かれていたため余計に腹が立ってくる。

 というか桜でも何でもない。

 そのことを追求すると幽々子は鼻で笑って私達を嘲るように見降ろしてくる。

 

「――西行妖がいつ桜だと錯覚していた?」

「「なん……だと……!?」」

 

 まるで背後に『バーン』という言葉が見えたような気がしてきたが、恐らく幻覚か幽々子のスペルカードだろう。

 確かに西行妖が桜である理由は、名前から判断してもないけど。

 控えめに言って馬鹿なんじゃないだろうか。

 

 これが言いたかったと言いたげにご機嫌な幽々子。

 そこで疑問に思ったのか、咲夜が「でも……」と言葉を続ける。

 

「『西行妖』というのは妖怪よね? 名前的に」

「そうね」

「このオリーブの木には妖力と呼べるものはないわよね?」

「……そうね」

「もう一つ質問いいかしら」

 

 

 

「これ西行妖って呼べないんじゃない?」

「……君のような勘のいいガキは嫌いよ」

 

 

 

 さっきから亡霊は何をやってんだろうか。

 物凄く楽しそうな冥界の管理人に呆れ果てていると、居心地悪そうな素振りを隠そうとしているが、全然隠しきれていない妖夢が目に入った。このまま二人ともぶっ飛ばせば異変は終結するけれど、この後の()()()を考えると無駄な労力を使いたくないというのが本音だ。

 なので柄にもなく私は妖夢を説得し始めた。

 我ながら何という心境の変化かと内心首を傾げている。

 

「アンタも苦労が絶えないわね……」

「……ノーコメントでお願いします」

「でも、アンタこのまま異変の片棒担いでいていいの?」

「曲がりなりにも腐っていても、私は幽々子様の庭師で剣術指南役ですから」

 

 白玉楼の管理人が「え、ちょ、妖夢?」と焦っているが、私としては面倒この上ない。忠誠心という面から見れば立派ではあるが、どうも今の妖夢は幽々子と共に果てる覚悟を決めているらしい。でも、この前見たアニメだと諫言も忠臣の役目だとか何だとか言ってたような。

 元々責任感の強い剣術馬鹿だ。

 一度決めたことは中々曲げないし、そこが好感を持てるところだけどね。

 

 仕方ない、この前得た()()()を使うか。

 

「この異変って小麦粉何袋使ったの? その分だけ経理担当(映姫)からの支給が減るって理解してる?」

「か、覚悟の上です」

「あと――小麦粉ってゴキブリが好む食べ物らしいって知ってるかしら。月末支給が減らされる上に()()()()()()()()()()()()()()が家を徘徊する現実に耐えられ――」

 

 

 

「幽々子様! これ以上の狼藉は魂魄妖夢が許しません!」

「さっきの発言はどうしたの妖夢!?」

「さすがにアレは駄目です! デカいアレは駄目ですっっっ!!」

 

 

 

 半泣きで主に刃を向ける妖夢の姿は、遊び半分で始めた幽々子の心をかなり抉った。加えて、自分の等身大のゴキブリを想像したのか、顔を真っ青にしている。ついでに咲夜も。

 『ゴキブリは一匹いたら三十匹居ると思え』という言葉が正しいのなら、等身大のそれが群れをなしてカサカサしてくるのだ。私だってアレの群れとか御免だわ。

 もう一押しだろう。

 

「というかアイツ(家主)に連絡すればよかったわ。恐らく白玉楼の食糧供給はストップするかもしれないけど、私には一切合切関係ないし、簡単に掃除し終わ」

 

 

 

「来なさい西行妖! 私が相手よ!!」

 

 

 

 こうして敵全てを寝返らせた私は、ちゃっかり白玉楼近くにあったエアコンのリモコンを回収する咲夜を横目に、大きく深いため息をつくのであった。あの時の春雪異変も、このノリで簡単に終わればよかったのに。

 しかし、茶番のような展開もそうであるが、この後しなければならない片付けを想定すると頭が痛くなる。

 紫に残業手当でも請求してみようかしら?

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「……暇だな」

「そうだな」

 

 家主の一室にて向かい合いながら机の上に佇む二人。

 一人はもんぺを着ていて、もう一人は烏帽子を被った美少女達。共通点は灰色または銀色の髪くらいだろう。

 前者の名前は藤原妹紅、後者は物部布都。

 どちらも幻想郷の住人だ。

 

 なぜ二人は軟禁状態にあるのか。

 それは幻想郷の賢者の式神によって、スキマを経由し拉致されてきたから。彼女等は式神に「今のリビングに入ったら幻想郷が終わる」としか説明されていなかったが、真っ青に震えながら懇願してきたのだから、仕方なく大人しくしているのだ。

 妹紅は溜め息をつき、近くに置かれていた金平糖を一つ掴んでかじる。美味い。

 

「私達が入ったら幻想郷が終わるって……リビングは一体どうなってるんだ?」

「そもそもリビングに行く予定すらなかったのだがな。こうまで言われると逆に気になるが――」

 

 同じくポリポリ金平糖を口に含む布都と妹紅が一緒に、近くで倒れている人物に目を配らせる。そこには泡を吹いて白目で気絶している元トラブルメーカーが転がっていた。妹紅はヤムチャみたいだと内心思う。

 以前の幻想郷では散々引っ掻き回していた諸悪の根元。あんまり彼女には良いイメージはなかったのだが、ここまで無様に転がっていると二人は憐れみすら覚える。

 布都は試しに爪楊枝でつついてみるが反応すらない。

 

「……大人しくしとくか」

「……むぅ」

 

 流石に竹林の案内人とアホの子は賢者にトドメを刺すほど人でなしではなかった。

 人ではないが。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「そこ手が止まってるわよ。扉前の山を運んで」

「端の部分は濡れた綿棒を使いなさい」

「掃除機はまだなの!?」

 

「早くこの面倒な掃除終わらせるわよ! 終わらなきゃ金曜ロードショーは見ることが出来ないと思いなさい!」

「「「はい!!」」」

 

 いつもは指示なんて聞かない面倒な奴等だが、かかっているものがものなだけに、あの妖精達ですら素直に聞いて小麦粉を片付ける。家主のアイツが前に褒美をチラつかせて妖精達を使っているのを思い出して不本意ながら真似してみたのだが、どうやら間違いじゃなかったらしい。

 博麗神社(だったはずの小麦粉の山)を前にして、腕を組み指示を飛ばしながら内心舌打ちをする私。

 いつもなら他人に任せて昼寝でもしようと考えるが、んなことした日にゃ絶対コイツ等サボるに決まってる。粉にまみれながらハウルなんぞ見れるか。

 

 特に白玉楼勢の二人は使い潰す勢いで清掃作業を任せている私は、45リットルのゴミ袋を支えている妖夢の元へと移動した。

 袋の底に溜まっていた小麦粉に顔をしかめながら、皮肉混じりにジト目を剣士に向ける。

 

「どんだけ小麦粉ばら蒔いたのよ……」

「アハハ……こう考えると勿体無いですよね。何かに再利用出来ないでしょうか?」

「若干のゴミも含まれてるから、再利用するにしても料理とかには使えないわ」

 

 地面に落ちているものだから、掃除機で一掃することも視野に入れて指示しているのだ。あのピンクの悪魔ぐらいでないと食べようとは思わないだろう。冥界の管理人の方も、コピー能力を持っている方も。

 表面部分だけ回収することも考えたが、そうなると時間がかかるし面倒この上ない。

 金欠状態であった昔ならば血眼になって拾い上げたはずだけど、最低限度の生活が保証されている今ならば、食糧を拾い集める必要性がないからだ。皮肉にも幻想郷が消失して私が安定した生活を遅れるのだから、人生何が起きるか本当にわからないわね。

 

 とりあえず回収した小麦粉は外出中のアイツにでも押し付けることを冗談抜きで検討していると、妖精達が回収した小麦粉を運んでくるようだ。

 やれやれ、このペースで終わるのか――

 

「って、チル……ノ?」

「どうしたんだい、霊夢?」

 

 返答したのは服装的には何の変化もない⑨妖精の平凡なチルノだったのだが、頭に大きなベレー帽を被り……なんか……その……雰囲気がまるで違う。もっとこうアホらしさを全面に押し出した奴だった筈なのだが、今のコイツは大人の余裕みたいなものを彷彿させる。

 何をどう外部的干渉を受けたらアホがこうなるのか。

 どうでもいいけど物凄く気になった私は、後ろに控えていた大妖精に尋

 

「………」

「 I'll be back」

アンタ等に何が起きたの?

 

 黒いサングラスを掛けた重々しい雰囲気を出す大妖精にツッコミを押さえられなかった。キャラの方向性を見失うほどの何かが彼女達にあったのだろうか?

 絶句している妖夢を傍らに顔を引きつらせていると、肩を落としながらベレー帽を脱いで指先でクルクル回すチルノ。

 

「まったく……上が無能だと下の妖精達が苦労させられる。私達を文句も言わない無賃金労働者と思っていないかい? 自分で起こしたことは自分達で処理できる異変を起こして欲しいものだね」

「うぐっ……」

「まぁ、幻想郷に住んでいるからには、最低限度の責務くらいは果たすよ。もっとも、楽できることに越したことはないが」

「はうっ……」

 

 自分を某不敗の魔術師だと思っている精神異常チルノは、皮肉を込めて妖夢の責任強さを的確に抉っていく。明日は槍でも降るのではないのだろうか。

 目前の「ブランデー入りの紅茶を所望できるかな?」「 I'll be back」と会話になっていない会話を余所に、ふと私は時間を確認して顔を青ざめる。

 

「やっば……あと一時間で始まるじゃない!」

「ここに来て計画性のなさが露呈してきたか。霊夢が安全地帯()から指示してばっかりで動かなかったし、もし清掃に参加していれば少しは今より片付いていたと私は思うがね。他人にあれこれ言う前に、まずは自分から動かないと、私はいいとしても他のボランティアが納得しないよ」

「チルノ後で覚えておきなさい」

 

 一々正論だからこそ腹が立つ。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 早く掃除機が来ないだろうか――

 

「持ってきたわよ~」

「遅い! でもよくやった!」

「スイッチオン」

 

 幽々子が掃除機の電源を入れると、『強』に設定されていたのだろう、全てを吸収してやると鉄の意思と鋼の強さを感じ取れる勢いで、床に残っていた小麦粉を吸い続けていく掃除機(アルテマウェポン)

 

「掃除機の替えの紙パックも持ってきた?」

「それを探してたから遅かったのよ。家主さんに聞こうかなって思ったのだけど、タブレットが見当たらなかったから自分で探しだしたわ」

 

 あんのソシャゲーマー共が、と悪態をついてみるものの、その不満を飲み込むが如く全てを吸収する掃除機。

 

 全てを。

 そう、全てを。

 何度でも言おう。()()()

 

「あああああああああああああああああ!!?? 紅魔館が吸われりゅゅううううううう!!?? ちょ、亡霊止めなさい、やめ、やめろぉぉぉぉ!!??」

「やっFoooooooooooooo!!!」

「博麗神社も吸われりゅ――じゃないわっ! 家具も全部吸ってんじゃないわよ!」

 

 吸引力に心を乗っ取られて、全てを更地にする勢いで掃除機を振り回す亡霊を止めようとしたが、結局は博麗神社の家具と紅魔館全部を犠牲にして、金曜ロードショーを迎えることができたのだった。

 

 

 

 

 

 

 ダイソン凄まじいわね。

 

 

 




【裏話】

~銀英伝視聴~
チルノ「最強……あたしの求めていた最強……!」
リグル「ワンパンマンの方がチルノちゃん好みじゃない?」
ルーミア「そーなのかー」
大妖精「b」





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28話 結果と論争

 いやー、新年あけましておめでとうございます(遅い)。
 次回は雑談会となりますが、今回よりは遅くなることはないと思うので安心してください。
 というわけで春雪異変の最終話、どうぞ!


「テストお疲れ様ー。つわけで乾杯!」

「「「「「乾杯っ!!」」」」」

 

 

 それぞれのジョッキを掲げながら、グラスをぶつけて乾いた音を立てる。厳密には音を立てるのは俺と龍慧、早苗のグラスであって、幻想郷民がコップをぶつけても音は鳴らないわけだが。正確には人間の聴覚では聞きとれん。

 冷蔵庫で冷やした果汁100%のオレンジジュースが舌と喉に心地良い。一つの山を乗り切ったのだから、その美味しさは格別だろう。

 

「おにーさんは物理どうだった?」

「………」

 

 思考も冷やすの止めてもらえませんかね、こいしさん。一瞬だけど顔から感情が消えたわ。

 その無表情に俺以外の全員が「あっ……」とか察したように、生暖かい視線を向けてくるのが辛い。

 

 今回の二学年になって最初の中間期末考査。

 各教科の試験を終える度に、個人的には過去最高の点数を叩きだしたんじゃないかなって自信があり、一時期は有頂天で舞い上がっていたのは否定できない。

 国語の長文読解で「これしかない!」と記号を書き込む瞬間、数学の綺麗なまでに数式が答えと当てはまる感覚、社会科系の勉強した部分が出てきたときの高揚感、母国語を読むかのようにスラスラと頭に入ってくる英語の長文。こんなんmeの勝ちじゃないかとフラグを立ててしまうのはしょうがないことだろう。

 

 物理で全力でつまずいたけど。

 全力疾走している最中に足元を紐で引っ掛けられて転ぶアレみたいな感覚だった。

 あんのクソ教師はテスト範囲ではない部分をテストに出し、後に「まぁ授業でやってるし、皆解けるでしょ?」みたいな戯言を抜かしやがったのだ。

 確かに普段から真面目に勉強してる奴からしてみれば、今回の物理は簡単だったのかもしれない。でも、テスト範囲を徹底的に行わないと平均点すら怪しい俺にとって、ハゲチャビンの突発的な範囲外問題は死ぬほど焦った。焦って自爆した。

 他の理数系教科なら八割弱、文系科目なら良くて九割いってると自負している俺だが、物理は30取れれば良い方と睨んでいる。平均は低いだろうが……赤点が心配される領域だ。

 

 そんな推測を死んだ魚のような目をしながら話す俺に、魔理沙が興味なさそうに酒を煽るのだった。下のバーから龍慧に取って来てもらったのだろう。

 

「でも他の教科?は良い点数取ったんだろ? そこまで落ち込むようなことか?」

「問題なのは『赤点を取った』ってことなんだよ。他の点数云々よりも」

 

 奨学生たる俺が赤点なんて取った日には、奨学金が廃止をされることはまずないだろうけど、それでも眉をひそめられるだろうことは目に見えている。出来れば心象良く高校を卒業したいので、出来るだけ赤点を取りたくないというのが本音。

 

「ふーん……面倒臭いんだなー」

「援助してもらってる身としては当然なんだけどね。むしろ点数取れてない俺が悪い」

「なんとかなるよ、絶対大丈夫だよ!」

「なんともならねぇし、大丈夫でもないけど――うん、ありがとフラン」

 

 某カードキャプターみたいな励まし方をするフランに、俺は思わず苦笑いを浮かべた。

 くっそ関係ないけどフランって魔法少女コスとか似合いそうだな。あの鍵から魔法の杖にするときのキメ台詞とか言わせてみたい。

 あ、クリアカード編は面白かったっス。

 

「とりあえず食べましょう」

「せやな。冷めちまうのも勿体ない」

 

 早苗の勧めにより、俺達は目の前にある大きなステンレス製の鍋に入っている野菜や肉を、それぞれ手持ちのお椀に取っていく。

 今晩のご飯はすき焼き。制作者は俺。

 近所のスーパーで若干値上がりした野菜や、卵、シラタキなどを購入し、龍慧ん冷蔵庫にあった国産黒毛和牛を一切遠慮せずに使って作り上げたのがコレである。ちなみにだが龍慧がこんな高いものを持っている理由などは知らない。知りたくもない。

 

 テスト最終日が金曜だったので、日曜に俺と早苗は家に帰ることとなった。そして土曜の夜である現在に豪勢な晩飯と洒落込んでいるわけだ。

 これは実家に一秒でも居たくない早苗への配慮だったりもする。付け足すのならば『異変起こしちゃった☆』とLINEで幽々子から送られてきたため、俺も家に帰りたくない気持ちがある。なんだよ、小麦粉を大量に使ったとか何起こしたらそうなるんだよ。

 小麦粉は油を吸着する効果があるので、IH周りや換気扇の掃除などに重宝するため、再利用できないこともないのだが、さすがに45リットルのゴミ袋を使うレベルの量となると処理が難しい。小麦粉で粘土が作れるって話は聞くけど、どうせ使わんしなぁ。勿体ないが捨てるか。

 

 ついでにLINEにリビングの悲惨が写メで送られてきて、俺は口から魂が飛び出す幻覚を見るくらい意識が曖昧になっていた。これには一般人の感覚を持っている(かもしれない)早苗やアリス、滅多に余裕の表情を崩さない龍慧ですらも顔を引きつらせていたのは言うまでもない。

 フランやこいし、魔理沙は楽しそうだったけどな。

 

「めっちゃ家帰りたくねぇ……紫も泡吹いて倒れてんじゃねぇの、これ」

「そんなこと――ありそうね」

 

 写メの光景を忘れる勢いですき焼きを頬張る俺に、アリスは何とも言い難い反応を示す。あの胃薬がなければ生きていけない体になってしまったスキマ妖怪を慮っているのだろう。ぶっちゃけ「旧・幻想郷では紫の方が色々やらかしていた」と口にする幻想郷民も多いが、今の紫を知っている俺は今一想像がつかないのが本音だ。

 幻想郷の賢者、死んでなきゃいいけど。

 

「ちゃんと家には一度帰って下さいね。月曜から美術部(仮)の部活動は始まるのですから」

「分かってらぁ。で、明日って何するんだっけ?」

「ツイスターですね。未来が持ってくるそうです」

「……あれかぁ」

 

 龍慧の笑顔に俺は渋い表情を浮かべる。

 前回遊んだのは相当前のことであり、個人的にはマイナーの部類に入るゲームであるが、諸事情により覚えていたゲームだ。

 

 ツイスターとは、スピナーと呼ばれるルーレットのようなものに示された手や足を、プレイシートのそれぞれ対応する色の丸印の上に置いていき、出来るだけ倒れない様にするゲームだ。シートの上に描かれている色は赤・青・黄・緑の四色。

 発祥の地はアメリカで、当初はプレツェル(Pretzel)と呼ばれていたらしい。

 

 前やった時は一対一で勝負した……のだが、途中から『いかにバランスを崩さないで相手のバランスを崩すか』という戦争にまで発展し、何故か本来のツイスターとは異なるハイレベルなパーティーゲームに変化した。挙句の果てには『指定された部位しかシートに置いてはいけない』なんてルールを追加する始末。特に未来などは両手両足を使わないで相手プレイヤーを妨害することに秀でており、バランス感覚も化物レベルだったせいか、ツイスターで無双するという意味の分からん迷言が生まれた。これそういうゲームじゃねぇから。

 そして何気に俺が苦手なゲームだったりする。

 

「未来も兼定も、よくもまぁ片手倒立で直立不動とかできるよな。新体操か何か見てるとか思ったぜ」

「変なルールさえ追加しなければ簡単なゲームだったんですけどねぇ。あの二人が中々リタイアしないから縛りが追加されたようなものですよ」

「つい、すたー?」

 

 例にもよってツイスターを知らない早苗に俺は簡単にルールを説明した。

 これは幻想郷民にも向けた説明であったのだが……どうしてこいしは知っていたのだろうか? この幼女(そこまで必要じゃない)現代知識をスポンジのように吸収していくんだけど。

 

「――って遊び」

「体を動かすタイプのゲームですか。この前のセパタクローと同じようなものですね」

「いや、多分全然違うけど」

 

 ツイスターとセパタクローは全然違うんじゃないかな。

 

「でも早苗がやっても大丈夫なの?」

「どういう意味だ、こいし」

 

 ふと物凄い勢いですき焼きの肉を喰らっていっているこいしが首を傾げ――ちょっと待てや。牛肉食い過ぎだろうが。わずかな時間でガッツリ減っていることに戦慄しつつ、俺は自分の牛肉を確保しながら幼女の疑問に耳を傾けた。

 俺達と幻想郷民では注目する視点が違うのは一緒に住んでいて理解できる。特にスポンジ幼女達は現代知識と幻想郷の常識を照らし合わせて、幻想郷の賢者ですら唖然とするようなことを平気で思いつく。

 この無意識幼女は突拍子もないことを聞くことが稀にあるが。

 

 

 

「おにーさん達は普通のルールでツイスターをするんだよね?」

「そりゃ縛りはアホ二人の縛りだからな」

「早苗は紫苑や龍慧と遊ぶんだよね?」

「そうだな」

つまり早苗のおっぱいとかお尻とか紫苑と触れ合うってコトだよね?

「「「――っ!?」」」

 

 現代とか幻想郷とか関係なしに、ただ単純に女子としての意見に、俺と龍慧は電撃が走るように固まり、早苗は首筋まで真っ赤になって俯いてしまう。

 どうして俺限定なのかは置いておくとして、こうなると早苗にはスピナーを回す役をしてもらわないとな、やるとしてもジャージじゃないと下着とか見えちゃうよな……とか思考を巡らせる。思いっきりツイスターやる思考が去年の野郎共で固定されていたから、異性とやる時のことなど考えてなかった。

 これには龍慧も胡散臭い顔を引きつらせている。

 

「さりげなく早苗の胸を堪能しようと思っていたのか……なんて策士なんだっ」

「誤解を招くようなこと言わないでくれるかな魔理沙!?」

「え、じゃあお兄様は巨乳と貧乳、どっちが好きなの?」

「争いの火種にガソリンぶち込むの好きだよね、君達……」

 

 その論争は『きのこたけのこ戦争』レベルにデリケートな話題だと思う。

 ちなみに美術部の面々のすすめで、以前『きのこの山』と『たけのこの里』をリビングに置いてみたところ、紅霧異変が霞む規模の大戦争が新幻想郷で起こったのは言うまでもない。面白半分でやらなきゃよかったと思うくらいに意見が真っ二つに割れ、今でも『きのこ派』と『たけのこ派』に分かれてるとか何とか。

 『胃薬派』の紫が倒れたのは当然の結末だろう。

 

 上の例を挙げるからして、幻想郷の住人というのは暇を持て余した神仏妖魔の集団なので、事あるごとに争いの火種を欲している傾向にある。そのため、しわよせが時折……というか頻繁に俺やアホ共に飛び火することがある。自業自得と言えばそうだが

 そして悪ふざけが大好きな魔理沙を筆頭として、悪乗りするこいし、純粋で真に受けやすいアリス、どうしてか危機感を募らせているフランの元、ツイスターからは懸け離れた話題に移っていく。

 

「紫苑さんってムッツリスケベな人だったのね……!」

「あぁ、純粋無垢な人形遣いに誤解が……」

「で、で、で! どうなのおにーさん! 巨乳と貧乳どっちが好きなの!?」

「ノーコメントで」

「お兄様は貧乳好きだもん!」

「あ、私も控えめな方が好みです」

「てめぇに聞いてねぇよロリ慧」

「おや、心外ですね。あぁ、特に育ち盛りの少女の恥じらいながらも将来性に期待せざるを得ない姿は素晴らしい。涙目で『寄せれば少しはある』と強調する時など心が躍ります。胸を逸らした時には感じられない膨らみも触れてみれば確かな感触があると分かった時などは感動すら覚えますね。ましてや型くずれしている事が少なく男好みのいい形の胸に成長することが多いため最高といっても過言ではありません」

「し、紫苑君はどっちが好みなんで……しょう……か……?」

「早苗さん、これ以上俺の精神を追いつめるのは止めて欲しいんだけどなぁ」

 

 この『おっぱい論争』は、無意識幼女がすき焼きを全滅させるまで続いたそうな。

 

 

 

   ♦♦♦

 

 

 

「――そっかそっか。とりあえず密封状態にして捨ててくれ」

『えぇ、分かったわ。一部は掃除に使うから取って置くのでしょう?』

「ちょうどヒーター付近の掃除に使いたかったからね」

 

 全員が寝静まった夜中。一人ベランダに抜け出して、スマホを片手に風に当たっていた。

 そろそろ梅雨の時期がやってくるだろうか。そんな春と夏の境目に入る手前なのか、若干の肌寒さが俺の眠気を覚まさせる。

 

「んで? 俺に電話してきた理由は何だ? ゴミの出し方についてってわけじゃないだろう?」

 

 電話の相手――紫が沈黙したのは数分間。

 最初は寝落ちたかと心配したのだが、とりあえず家の固定電話には立っているらしく、目を細めながら気長に待ってみたのだった。

 

「……月」

「月?」

 

 ふとこぼされた一言に、俺は思わず上空を見上げる。

 上弦の月、だったか。半分ほど欠けた月が爛々と地上を照らしていた。

 

「月の連中に特定されたかもしれない」

「……何、月にも何か住んでんの?」

「えぇ、私達妖怪とは仲がよろしくないけどね。まぁ、気をつけて欲しいってことよ。絶対にこちら側に干渉してくるはずだから」

「ふーん」

 

 詳しいことは後日聞くとして、早々にスマホから通話を切った俺は再度月を眺める。

 爛々と輝く月に、先ほどとは違った印象を受けた俺は肩をすくめるのだった。

 

 

 

 

「また面倒事か……」

 

 

 

 




【裏話】

フラン「アサヒィ↑スゥパァ↓ドゥルァァァァイ」
こいし「アサヒィ↑スゥパァ↓ドゥルァァァァイ」
紫苑「……何やってんの?」
二人「「ポプテピピック見た」」
紫苑「違法薬物は止めろとあれほど……」



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第一回「俺家」雑談会

なんか気づいたら前回投稿から一ヶ月経ってました。
なお、今回は台本形式となっておりますので、苦手な方はブラウザバックしていただけると幸いですm(__)m


紫苑「さて始まりました『俺家』雑談会。今回は何と豪勢に我が母校の放送室を無断占拠して学校側の許可をちゃんと得て放送しております。いやー、何か放送室の扉が煩いですが頑張っていきましょー」

早苗「いきましょー」

紫苑「司会は東方project新作『東方憑依華』にて『依神紫苑』とかいう名前が呼び方も漢字も同じだから『もう主人公の外見って彼女と同じでいいんじゃね?』と作者が本気で考え始めてている本作の主人公、夜刀神紫苑こと俺と」

早苗「なんかメインヒロインみたいな位置につきつつある副司会の東風谷早苗でお送りいたします」

紫苑「メインストーリーにおいて疑問に思うことや知りたいことを応募した結果、かなりたくさんの質問・疑問が来ましたので、適当に返信していこうと思いまーす。あ、雑談会は台本形式&メタ発言のオンパレードだから、そういうのが苦手な方はブラウザバック推奨! 顔文字も使うから気をつけてね!」

早苗「この話だけ見たら完全に地雷小説ですよね……」

紫苑「いっそのこと地雷要素だけで構成された小説でも書いてみようか?」

早苗「低評価の嵐が目に見える……」

紫苑「つか低評価を押すのが普通でしょ、地雷小説なんだし。むしろ地雷っぽく書けてるんだから万々歳じゃん」

早苗「物は言いようですね」

 

 

紫苑「前置きはさておき、んじゃ質疑を返答してこっか。まず最初のコメントはこちら」

 

 

 

【作者様の一日をキャラで表現してみてほしいです!】

 

 

 

二人「「……ファッΣ(゚Д゚)」」

紫苑「いきなり文字数食いそうな質疑が来やがったなぁ。非リア充な作者の一日なんざ、代わり映えのないワンパターンなスケジュールだけだぞ?」

早苗「そういうものなんですか?」

紫苑「ラノベを読んで非現実的な高校生活に憧れて実際入ってみると幻滅するように、大学生の生活って自由なこと以外は大して変わらんのさ。それこそ自発的に動こうとしない限り何も変わらん」

早苗「高校生になってもロマンチックな恋はできないし、赤点は簡単に取れるものですし、屋上には基本的に入れませんし、奇抜な部活動は存在しませんし、美人の生徒会長など存在しない……ということですね」

紫苑「この作品完全否定だな。実際にそうだが。まぁ、作者の日常なんて──大学行って講義行って空き時間にデュエルしてバイトして帰ってデッキ調整して寝る

早苗「誰もデュエリストの生活なんて聞いてませんけど

紫苑「伊達に『イラストデザイン研究同好会という名のTCG研究同好会』とは言われてねーよ。サークル加入当初にソシャゲ以外に趣味がなかった後輩が、たった一年間で先行ワンキルを考えるレベルに成長(退化)したからなぁ」

早苗「恐ろしい成長(退化)……」

紫苑「作者も『サークルに馴染むためのコミュニケーションツールとしてデッキくらい作っとくか』みたいなノリで始めたが、今じゃパックを箱買いするのを躊躇わないし」

早苗「えっと、来年度から就活生ですよね?」

紫苑「そそ、だから来年度になったらまた生活が変わるかもしれんから、この質問を実現するのは難しいかなぁ。難しいっつーか、作者のグータラ生活を描写して何が面白いのか分からん」

早苗「そして就活生を越えて社畜orニートになるわけですか」

紫苑「洒落にならんから止めて」

 

 

 

【霊夢たちが主人公に対して思ってる心情を書いてほしいです】

【現在までに話に出てきた(紫苑と直接会話をしている)幻想郷住民に対する紫苑さんの好感度を大体でいいので知りたいです!】

【東方勢の好感度というか、心象がどんな感じなのかは気になりますね。】

 

 

 

紫苑「とりあえず現段階で登場している主要キャラクターの範囲内で紹介していこうか」

 

 霊夢「クソが」

 魔理沙「面白いゲーム紹介してくれるイイ奴」

 アリス「悪い人じゃないのは確か」

 レミリア「カリスマを削ってくる奴」

 咲夜「何を考えているのか分からない家主」

 パチェ「読書仲間」

 フラン「お兄様!」

 幽々子「彼の作るご飯が美味しいことが発覚した」

 妖夢「主がめっちゃ迷惑かけてる人」

 幽香「面白い人間」

 さとり「数少ない友達の一人」

 こいし「一心同体なパートナー?」

 

早苗「霊夢さんとの仲が絶望的なのですが」

紫苑「ほら、最初はツンツンしてるけど徐々に話が進むにつれてデレてくるヒロインとか人気あるじゃん? ウチの作品の紅白巫女はそんな立ち位置を目指してるんだよ」

早苗「で、本音は?」

紫苑「ノリで書いてたらこうなった。どっちかっていうと主人公()を無条件で嫌いになってるようなポジションのキャラが欲しかった。そしたら原作霊夢の性格って中立寄りの人間で、他人に興味がないって設定だから、こうなっちまった」

早苗「『霊夢の性格が原作に近い』ってコメントも貰いましたからね。作者は原作未プレイなのですが、『博麗霊夢』という人物はこんなキャラクターなのでしょうか?」

紫苑「どっちにしても『登場人物全員が主人公のことを認めてくれる』って空気が好きじゃないんだよね。何か登場人物の人間味が薄れるし、だから『好きでもないし嫌いでもない。ぶっちゃけどーでもいい』って立ち位置のキャラもちらほらいる」

早苗「上でいうところの咲夜さんなどでしょうか?」

紫苑「もうちょい主人公アンチ出したいなって個人的な感想。絶対性格合わなさそうなキャラに目星つけてるから、今後そういうのも出てくるかもね」

早苗「逆に紫苑君は嫌いな幻想郷メンバーとかいます?」

紫苑「特にいないよ。しいて挙げるとすれば飯をかっさらってく幽々子は苦手」

 

 

 

【それぞれのキャラの好きそうな話題(TY番組やアニメ)とか】

 

 

 

紫苑「まず俺達(オリキャラ勢)に侵食されきったこいしとフランは雑食。とにかく何の話題でも対応できるような設定で、時事ネタの発生源は基本的にコイツ等だと思ってくれてかまわない」

早苗「現段階だとジブリにはみんなが食いついているイメージが見受けられますが」

紫苑「ジブリは至高。あと彼女等に関連する番組やアニメは見てるだろうな」

早苗「幽香さんが昼頃にやってそうな園芸教室のTV番組を見ている……慧音さんがNHKの教育番組を視聴する……そんな感じでしょうか?」

紫苑「うんうん。意外なところを挙げるとするなら……パッチェさんとかラノベ発のアニメを見ることがある」

早苗「( ゚Д゚)ファッ!?」

紫苑「俺の部屋の本を読むにあたってラノベにハマってしまった彼女は、アニメ化すると興味あるなしに関係なく視聴してしまうオタクになってしまったのだ……みたいなの面白くない?」

早苗「……そういえばゲームの弾幕などに目を輝かせる一部の幻想郷民が居ましたよね?」

紫苑「それ経由で戦闘物のアニメとか流行ってるな。どっかの河童がガンダムを再現するためにアニメを見てプラモ買う資金を貯めてたり、妖夢が飛天御剣流を会得するために録画をしてたり、カリスマ向上のためにレミリアがヘルシングを教科書にしたり……」

早苗「これって案外夢が広がる質問でもありますよね」

紫苑「だからこそ全部言うのは面白くないと思うんだ」

早苗「そのココロは?」

紫苑「読者様一人一人が『○○を見ているはず!』とか『××とか見てそう』とか何かしら想像するはず。それを作者が否定するのはナンセンスじゃないか」

早苗「素直に思いつかないとか考えてないとか言ったらどうです?」

紫苑「ド直球に言うのもナンセンスだぞ……」

 

 

 

【東方キャラはお酒が大好きですが主人公未成年で買えないしどうしているのでしょうか。料理酒は度数が低いので···。気になります。】

 

 

 

紫苑「そこに龍慧のドアホがおるじゃろう?」

早苗「本当にあの人は謎の塊というか……」

紫苑「そもそも『俺家』の中では何でも屋ポジション……ドラえもんに近い立ち位置の人間だからねぇ。そこに胡散臭い見た目が化学反応を起こして『裏世界で何かやってる一般人』になった」

早苗「一般人と呼ぶには無理があるかと」

紫苑「ほら、コイツ使えば幻想郷がバレたとしても錦江湾に沈めれば……」

早苗「えぇ……」

紫苑「胡散臭いオトモダチの御蔭で、アイツ経由で購入した酒は幻想郷の酒豪によって処理されてるわけですよ。ルートを説明するならこんな感じ」

 

 闇→龍慧→俺→映姫様→幻想郷民

 

早苗「この『闇』が怖いんですが」

紫苑「世の中には知らなくてもいいことがたくさんあるんだ(*´ω`)」

早苗「現段階で後悔してます……」

 

 

 

【質問といえば、やはり本編の時系列ってどの辺まで進んでますか?神子ちんや放火魔がいるので神霊廟までは分かりましたが、実際どの辺まで出される予定でしょうか……。】

 

 

 

紫苑「この作品はバイトからの現実逃避によって生まれた作品なわけだが」

早苗「要するに?」

紫苑「んな細かい設定まで決めてるわけないだろうが

早苗「細かいというより、物語を進めていく上でかなり重要なことだと思うのですが」

紫苑「つか原作未プレイの作者は神霊廟をwikiで確認しないと、どの辺りなのかすら把握してない上に、一部の異変は完全にすっ飛ばすつもりでいる」

早苗「もしかして今作では出てこない幻想郷キャラって結構いたりします?」

紫苑「かなりいるんじゃないかなぁ。名前は知ってるけどキャラや口調を把握してないと、書き分けがかなり面倒になっちゃうからさ」

早苗「東方projectを織り込むとなると、女性キャラの割合が多くなりますからね」

紫苑「そこで問題になってくるのが『誰が何をしゃべっているかが分からなくなる』ってコト」

早苗「??」

紫苑「今作のオリキャラ勢を例に挙げてみよう。俺や未来、兼定や龍慧の一人称って全員バラバラになってる。これは地の文での描写が少なくても、一人称で誰が発言しているのかを分かりやすくするためなんだよ。ほら、口調も若干変えてるから地の文で誰がしゃべっても『あ、コイツが言ってんだな』とか察しやすい」

早苗「兼定君の『俺様』の一人称には意味があったんですね。ただ自分を乙女ゲーの攻略対象キャラだと思い込んでるイタイ人なんだとばかり……」

紫苑「それ本人の前で間違っても口にするなよ? 投身自殺しちゃうから。話を戻すと、東方キャラの大半は『私』が一人称なわけで、全員出すとなると作者が発狂死しちゃうわけ」

早苗「つまり?」

紫苑「そんな背景もあるから、東方キャラ全員を出すつもりは一切ない。書き分けが本当に大変だから。つか深く時系列なんて考えなくてもいいよって話。ぶっちゃけ幻想郷が木っ端微塵になってる時点でパラレルワールド設定なのは明白なんだから、あんま深く考えずに頭空っぽにして読むのがベスト」

早苗「バイト中に考えた小説に細かい設定なんてないってことですか……」

紫苑「だから質問の答えとしては『予定は未定。東方キャラもランダムで出るかどうかも分からない』かな。あ、東方最新作のキャラは出さんよ?」

早苗「……依神紫苑」

紫苑「それは俺の外見の元ネタの人だからNG」

早苗「その路線で行く気ですか!?」

 

 

 

【以前、紫様が胃薬を飲んでるシーンが多かったですが、今でも飲んでいるんですか?非常に気になります。】

【やっぱり紫ちゃんの胃薬飲みまくってるけど、依存症になってないかとか、薬そのものを使い過ぎてその薬が効かなくなり始めないかが心配です。】

【幻想郷の全住人がこちらに移住できたわけではないので、その住民たちが復活することは可能なのかというのが一点と、もう一つはもしゆかりんの胃に穴が開いて胃穿孔で死んだ場合こちらに来ている幻想郷の住民たちがどうなるのかについてが知りたいです。】

 

 

 

紫苑「この作品はコメディ中心だから東方キャラが死ぬことはないことを前提に話を進めよう」

早苗「薬って接種し過ぎると身体に抵抗がつくんでしたっけ?」

紫苑「正確なところは分からんけどそうだよね。ただネタで紫が胃薬を多量接種する場面を見かけることが多いから、紫を心配する人が多いなって思った」

早苗「そりゃ思いますよ。本当に大丈夫なんですか?」

紫苑「これは日常パートで書く予定だったんだけど、胃袋に穴が開くほど忙しい幻想郷の賢者の、月一の唯一の楽しみを全力で満喫する話を載せようと考えてたらしい」

早苗「人も妖怪も息抜きが必要ってことですね」

紫苑「ちなみにスキマに凍結されてる幻想郷民は復活できると仮定してもらってOK。とりあえずNEW幻想郷では顕現が難しいが、死んだわけじゃないぜ。んで紫が死んだら……そりゃ終わりよ。色んな意味で」

 

 

 

【妹紅や他の炎やら氷やらを出せる能力の子達が全力でどれくらいの力を出せるのか】

 

 

 

紫苑「んな細かい設定まで決めてるわけ以下略

早苗「もうちょいオブラートに包みましょうよ」

紫苑「まぁ、弱体化されていることに変わりはないよ。さすがに原作本来の能力を備えてると仮定した場合、主人公に頼る理由が消えちゃうし」

早苗「幻想郷の外で満足に能力が使えるのなら、そもそも幻想郷に来ることが出来ませんからね。原作の設定と矛盾してしまいます」

紫苑「すでに手遅れ感が半端ないけどな。質問の答えだと、妹紅ならコンロの強火ぐらいの火力しか出せず、チルノは丼ぶり一杯分の水しか凍らすことが出来ない。これが本編で利用可能かと言われたら……あったら便利程度にまで落とされる」

早苗「コンロならIH、凍らすのは冷蔵庫で事足りますもんね」

紫苑「科学のちからってすげー」

早苗「……あれ? それだと蓬莱人の不死性などの矛盾点はどうなるんでしょうか?」

紫苑「ぼくこうこうせいだからよくわかんない」

早苗「考えることを放棄している……」

 

 

 

【魔理沙がお酒を呑んだり、こいしちゃんがすき焼きを絶滅させてましたが、ちっちゃくなった幻想郷住人がどうやって飲み食いしているのか気になります。ちっちゃいコップお酒を一滴。みたいな感じですか?】

 

 

 

紫苑「そうそう、そんな感じ」

早苗「シルバニアファミリーの家具って、本来はあんな感じに使うんですか?」

紫苑「誰も実用的に使うことを想定するとは思わんけど、家具や食器やらの補充源は玩具だって想像してくれると助かる。時折書店に売ってる毎月発売されるパーツを集めて一つの形にするアレ?のミニチュアキットとかでも構わない。後者は高いけど」

早苗「一部のメンバーとか後者を欲しがりそうですね」

紫苑「閻魔様が泡吹いて倒れそうな出費は間違いなし」

早苗「けれど小さい体で飲み食いするのって結構難しそうですよね。体験したことがないから、具体的にどこがどう大変なのかは想像がつきませんが」

紫苑「作者的には、大きいものを切り分けてみんなで食べてるところを想像しながら書いてる。飲み物もミニチュアなグラスやコップに注いで飲んでる……みたいな? 正直、そんな描写とか書いてみたかったから、この設定の話を書き始めたってのはある」

早苗「水分系は本当に難しくないですか? 小さいコップにだと水面張力やら表面張力やらが働いて……」

紫苑「俺に物理の話をするな」

早苗「原子の大きさ的に、幻想郷の皆さんは食べ物を消化できているのでしょうか?」

紫苑「できてんじゃねーの? カブトムシもイモムシも人間と同じ原子の物をモグモグ食ってんだから、不思議パワー溢れる幻想郷民が出来ない道理はない」

早苗「比較対象がおかしくありません?」

紫苑「ただ断言できることは」

早苗「??」

紫苑「幽々子は丸呑み。どんな料理だろうと」

早苗「ですね」

 

 

 

【こいしがネット使ってる時ってどんな感じなのか(どういう調べ方したらツイスターゲームに行き着くのか気になったので)とか、現代のもの(物でも食べ物でも)を始めてみたときの東方勢の反応とかをみたいです。】

 

 

 

紫苑「反応は今作を読み進めていけば自然と見れるから安心していいぜ」

早苗「こいしちゃんの情報源の源ですが──」

紫苑「Twitterに決まっておろう。あと掲示板」

早苗「私より詳しそうですね、冗談抜きで」

紫苑「動画ネタとかも披露していく予定だから、パソコンに関する一般的な技術は身についているものと考えて差し支えないかと。ただ彼女の調べるものに一貫性はないから、たぶん幻想郷の住人から調べて欲しいものとか頼まれて、自然と色々な知識を得ちゃったんじゃねーかなー」

早苗「何が恐ろしいって、ネット世界の常識を踏まえて使ってるところでしょうか」

紫苑「最近の中高生、場合によっちゃ小学生ですらスマホを持ってる時代。学校とかの話を聞いてみると、ネットに関するトラブルってのは多いって話だ。例えるなら、個人情報の漏洩とか著作権とか」

早苗「Twitterで何も加工していない写真を上げてしまうと聞いたときは、やっぱり持たせるのは早いんじゃないかって思いますよね。注意された程度で理解するほど、小さい子は特に単純ではありませんから」

紫苑「今だとスマホ自体は必要なのかもしれんけどねぇ。背伸びしたいお年頃なんだろう。それで済まされるトラブルで事が収まればの話だが」

早苗「その点、そこら辺を注意して使ってるこいしちゃんって頭がいいのでは」

紫苑「フランもな。やっぱ幼女ってヤベェ」

 

 

 

【作者のペンネームの由来ってなんですか? もしかして咲夜さん推しなんですか?】

 

 

 

紫苑「『十六夜やと』のことだな」

早苗「咲夜さんの苗字を使っているから、彼女が由来だと思ってますが……」

紫苑「………」

早苗「え、違うんですか!?」

紫苑「実は東方全く関係ない。このペンネーム自体は苗字みたいになってる『十六夜』は、パッと思いついて名乗ったものだし、後から『東方にも同じ苗字のキャラ居たなー』程度にしか思ってなかったらしい」

早苗「正直、ビックリです」

紫苑「つか名前の『やと』に結構思い入れがあるかなー」

早苗「理由をお聞きしても?」

紫苑「……え、あ、うん。これは作者が大学生になってから始めたオンラインゲームで使っていたキャラの名前が、このペンネームの始まりなんだ。そのキャラ名が『夜刀神蒼空』なんだよ」

早苗「……………はい?」

紫苑「うん、お気づきの方も多いだろうが、俺の苗字の由来もオンラインゲームで使ってた作者のファーストキャラの名前が大本になってる。元々、当時書いてたお蔵入りの小説のヒロインネームだったけど」

早苗「……えーと……あー……」

紫苑「……最初はガチでやるつもりがなかったゲームだから『主人公らしい名前にしよう!』って使ってたんだけどねぇ……まさか一年間も使い続けるとは思わなかったんだよ。2chの晒しでも『痛い名前』とか言われたような言われなかったような」

早苗「晒しって……何したんですか?」

紫苑「そりゃもう色々と。で、仲の良いゲーム仲間からはキャラネームが長くて覚えにくいって、途中から『やと』って縮めて呼ばれるようになったと。これがペンネームの始まり」

早苗「それってもしかして……」

紫苑「この『十六夜やと』の『やと』は『夜刀神』のことで、お蔵入りされたオリジナル小説のヒロインが原点になってるわけ。あ、その小説は公開する気はないよ? もう内容すら覚えてないし」

 

 

 

 

 

 

 

紫苑「さーて、そろそろ時間となってしまいました『第一回雑談会』」

早苗「割と長かったですね~」

紫苑「『俺家』の平均文字数を大幅に上回ってるから、コレ」

早苗「今回の放送は主人公『夜刀神紫苑』と私『東風谷早苗』がお送りいたしました」

紫苑「では第二回(があればの話だけど)でお会いいたしましょう」

 

 

 

 




紫苑「くっそどうでもいいけど、現在作者の使ってるデッキはDD・パーミ天使・花札・真紅眼・満足だったりする」
早苗「最後の満足ってなんですか?」
紫苑「分かる人には分かるんや……」


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