ジュエルハートプリキュア! (みけねこ)
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第1話 誕生! 絆のプリキュア!
・亀更新
以上の点を理解した上でお読み下さい。
「遅刻だ遅刻だーっ!」
叫びながら靴を履き、カバンを肩に掛けると、少女は大声を上げた。
「行ってきまーす!」
「いってらっしゃーい」
桜の花びらが舞う中、少女は走って行った。
☆
「きずな、遅いよ!」
「ごめんごめん、寝坊しちゃって」
ピンク色のポニーテールを揺らしながら謝る少女———きずな。対して、紫の髪を持つ少女は、ドヤ顔で言う。
「私、珍しく寝坊しなかったから自慢しようと思ったのに! 約束の十分前から待機してることが当たり前のきずなが遅れて来るなんて」
「目覚まし時計の電池が切れちゃってたみたいで。やっぱり、あやめが早起きすると何かが起きるんだね」
「失礼な!」
きずなとあやめは話しながら学校へ向かって歩いて行く。
『私立光学園中学校・高等学校』と書かれた校門から入り、二人は生徒玄関に向かって歩いて行った。
「あれ? すごく混んでるね」
「今日は始業式でしょ。クラス替えがあるから、みんな自分のクラスを確認してるのよ」
「なるほどー。あやめの方が背が高いんだから、クラス見てきてよ」
「人使いが荒いわね。まあ、きずなは背が低いもんね?」
「あーあー、聞こえないー」
「もう少しマシな誤魔化し方ないの?」
きずなの反応に呆れつつ、あやめはクラスを確認して来る。
戻ってきた時、あやめの手には一枚の紙が握られていた。
「クラス名簿? 掲示してあるから、取ってきちゃダメなんじゃない?」
「先生がくれたのよ。予備を持っていたらしくて。私は3組ね」
「『天野』だから見つけやすくて良いよねー。私は……4組『
「今年はバラバラね」
「まあ、仕方ないよねー。じゃあ、また放課後」
「ええ」
あやめと別れ、4組の教室に入る。
きずなの頭文字は『う』であるため、出席番号は比較的早い。教室の窓側の席に座り、ぼんやりと窓の外を眺める。
きずながいつもより遅くあやめとの集合場所についたせいか、すぐに担任の教師が教室にやって来て点呼を取り始めた。
「皆さん、おはようございます。今年、2年4組の担任になった、鈴木です。楽しい一年になるよう、協力して下さいね」
鈴木先生はにこやかに言った後、HRを始めます、と続けた。
「まずは、自己紹介から始めましょう。それでは青木さんからお願いします」
自己紹介が始まる。
「青木すずかです。趣味は読書で、部活は文芸部です。一年間よろしくお願いします」
何人かを経て、きずなの番になる。
「えっと。う、
あ、噛んだ。
そう思った瞬間、きずなの顔が赤く染まっていく。
「きずなちゃーん、緊張してるのはわかるけど、その噛み癖直した方が良いんじゃない?」
すかさずクラスのムードメーカー的存在のフォローが入る。
「そ、そうだねっ。気を付けますっ」
後腐れなく自己紹介が終わり、きずなはほっとひと息つきながら座る。
「江口りなです。運動はそこそこ得意です。……」
「小林太郎、13歳。趣味は新聞を読むこと。好きな物はコーヒー、つまめるもの。……」
「東ひまりです。……」
「松村ゆうかです。……」
「三浦順平です。……」
「横田さきです。……」
自己紹介が終わり、学級委員を投票で決め、解散となる。
「明日から授業が始まりますので、ちゃんと教科書を持って来て下さい。それでは、さようなら」
「「「さようなら」」」
きずなが支度を終え、3組の教室へ行くと、ちょうどあやめの準備も終わったようだった。
「あ、きずな。帰ろっか」
「そうだねー」
生徒玄関で靴を履き替え、帰路へつく。
「今年も自己紹介で噛んじゃったの」
「また? もう、きずなは人見知りなんだから」
「治せるもんなら治してるよー」
二人で話しながら帰る、いつも通りの下校。しかし、二人は前を向いていたので、『いつも通り』では無いことがあるのに気付かなかった。
きずなの目が濃いピンク色、あやめの目が深い紫色になった瞬間があった事に。
☆
「あ、きずな、クレープよ! 新しくオープンした店だわ!」
「あやめ、お小遣い何円持ってるか言ってみなよ」
「え? この前五百円入っていたはず……」
「その五百円でアクセサリー買ってなかった?」
「嘘!」
あやめが震える手でガマ口を開けてみると……。
「残金、28円。あやめ、これでクレープがいくつ買える?」
「ご、540円のクレープが……」
「切り捨てて0.01個ね」
携帯電話の電卓機能で計算したきずなは、あやめに現実を告げる。
「そういう訳だから、今日は帰ろう」
「……ええ」
二人が歩き出そうとした、その時。
「あらぁ? 何だかそのクレープから明るい光が見えるわねぇ。ムカつくから、全部台無しにしてあげるわ!」
粘っこい女の人の声。
二人がそちらを見ると、死んだような目をした若い女の人が黒いボールのような物を手にしていた。
「台無しにするって……」
きずなが問い掛けると、女の人は高らかに宣言した。
「こうするのよ! 悪魔の心よ! 世界の光を覆い尽くしなさい!」
黒いボールはひとりでに空高くに飛んで行き、破裂する。すると、中から黒い煙が飛び出し、空を覆い尽くした。
「何が起きてるの!?」
「きずな、見て! 周りの人達が!」
あやめに言われて周りを見回すと、人々の顔は曇っていき、次々と膝をつき始めた。目からは光が消えている。
「あらぁ? あなた達は何とも無いのぉ? ならいいわ、遊んであげる。出でよ、クラヤミー!」
女の人の胸の中心が黒く光り、黒い石が地面に転がり落ちた。それは少し転がると、巨大化する。家程大きくなった黒い石に目と鼻、口、手足がついた怪物だ。
「わぁっ!! 大きくなったわ!」
「クラヤミー! 全ての光を消しなさい!」
「きずな、逃げるわよ!」
「えっ、ちょ、どういうこと!?」
あやめはきずなの手を掴んで走り出した。クラヤミーはのっしのっしと二人を追い掛けてくる。
「よくわかんないけど、アレはヤバイでしょ! 逃げるに越したことはないわよ!」
「でも、皆が! あのまま、ずっと過ごすの?」
きずなが問い掛けると、あやめの顔が少し曇った。
「わかんないわよ。きずな、あなたはやっぱり変わらないわね。人見知りの癖に、周りの人を優先して助けようとするところ」
「だって!」
「いいわ、私も協力する。きずなの幼馴染みだもの。あなたの考えくらい、わかってたわよ」
「……あやめ」
「ほら、公園まで走るわよ! そこで反撃しましょ!」
「……そうだね! 全速力だっ!!」
「え!? 待って、私足遅いんだから!」
二人は息を切らしながら公園に駆け込む。少し間を開けて、クラヤミーと女の人も公園に足を踏み入れた。
「隠れたって無駄よぉ? すぐに見つけるw———痛っ!!」
女の人の額に小石が命中したのだ。投げたのはきずな。二つ目も投げ付ける。
「痛いっ!! やめなさい! やめなさいったらぁ!!」
きずなに比べて更に運動神経の悪いあやめは、一軒家程大きい為に的が広く、命中させやすいクラヤミーを攻撃していた。
「この、この、あっちに行きなさーい!!」
クラヤミーは最初はキョトンとしていたものの、徐々に状況を理解して来たようで、
「クラヤミィ!!」
拳を振り上げ、思いっきり振りかぶってあやめに向かって振り下ろす。恐ろしくなったあやめが座り込み、目を閉じるが。
「……え?」
「あ、やめ」
クラヤミーの拳をきずなが交差した腕で受け止めていた。胸の中心からピンク色の光が漏れ出ている。
「私の、親友を傷つけるなんて」
きずなが目を閉じ、再び開くと、暗いピンク色の瞳が明るいピンク色へと変わっていた。
「許さないんだからーっ!!!」
漏れ出ていた光が強くなっていき、きずなを覆った。
周りがピンク色の不思議な空間の中で、きずなは本能的に動いていた。
閉じていた手を開くと、そこには5センチ×5センチ程の大きさのハート型のピンクトパーズが。目の前に浮かんでいる白い縁に金で装飾した、楕円形の鏡を左手に取り、どういう原理かはわからないものの、右手のピンクトパーズを鏡の中に入れ、叫んだ。
「プリキュア! スタート・ジュエリー・マジック!」
鏡の向こう側のハートの宝石が光り始め、鏡から一直線にきずなの胸の中心に伸びた。
キラキラとしたピンク色の光が胴体を包むと、ピンク色のワンピースが現れた。スカートは広がっていて、中には白いペチコートが何重にもある。その上に、薄い桃色のひらひらした半袖のカーディガン型をしたもの———しかし、とても薄くて風になびく———が羽織られる。胸には大きなリボンがつく。
手首を光が覆うと、ピンク色のリストバンドが現れた。足を揃えると、膝下のブーツが。
きずなが笑いながら両目を瞑ると、次の瞬間髪が明るいピンクになって膝程まで伸び、耳の下で二つに結わかれ、くるりんぱのようになる。更に、頭には小さなピンクトパーズがいくつか付いた小さなティアラが乗せられた。
最後に鏡が薄ピンクの巾着に入れられ、腰に付く。きずなが胸のリボンに触れると、リボンの中心に大きな楕円のピンクトパーズが現れた。
「ピンクの宝石は絆の結晶! キュアトパーズ!」
両手を差し出すと、手のひらの上に淡いピンクのハートが現れ、弾けた。
不思議な空間が消える。
「え、きずな? どうなってるの?」
「よ、よくわかんないけど……私、キュアトパーズみたい」
「そ、そうなんだ。とにかく……キュアトパーズ、頑張れ!」
「伝説の戦士、プリキュア……。まさか存在していたとは……。まあいい。クラヤミー! やっつけちゃって!!」
「クラヤミィ!」
クラヤミーがトパーズに向かって拳を突き出すと、避ける為にトパーズは上に跳ぶ。少し跳んだだけのつもりが、トパーズは地上から20メートルの位置にいた。
「えーっと、とりゃーっ!」
落ちるついでにクラヤミーに蹴りを入れると、クラヤミーが仰け反る。
「良いぞー! トパーズ、なんか必殺技無いの?」
「必殺技……あ、あるかも!」
「見たい!」
「えーっと。プリキュア! トパーズ・ミストっ!!」
両手を花のように広げ、大声で叫ぶと、手の間からピンク色のミストがシャワーのように溢れ、クラヤミーを包んだ。
クラヤミーの目に段々と光が戻り、表情が蕩けていく。最後には普通の石ころが残った。
「キーッ! 見てらっしゃい! 次こそは勝ってやるんだから!」
そう言うと、女の人はワープで消えた。
☆
「プリキュアかぁ。なんか大層なものになっちゃったね、きずな」
「他人事だと思ってー。まあ、何とか頑張るしか無いよね」
「応援してるわ。さ! 景気付けに、きずなの奢りでクレープ食べましょ!」
「そんなぁ」
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