PSO2 ~創造主の遺産~ (野良犬タロ)
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プロローグ
第一章 ~平穏と不穏~


『マザーシップ』を中心とし、広い宇宙を旅する『オラクル船団』に所属するアークス。

彼らは宇宙を滅ぼさんとする存在『ダーカー』と幾度に渡って戦いを続けていた。

 

戦いの最中、ダーカーの筆頭である『ダークファルス』の暗躍により復活させられた、全てのダーカーの根元である『深遠なる闇』。

 

その強大なる力の完全なる復活はアークスの英雄である『マトイ』ととある一人のアークスによって阻止され、『深遠なる闇』は惑星ナベリウスより退けられ、何処かへと去る。

 

戦いの負担が余りに大きかった二人の英雄は、コールドスリープと言う長い眠りに着く事を強いられる。

 

これは、英雄達が眠っている間のとあるアークス達の物語。

 

 

~ノワール 惑星ナベリウス遺跡エリア~

 

すまない・・・

 

許してくれ     何もできなかった

   自分が許せない

 間違っていた

       どうして

なんで       ふざけるな

  死んでしまいたい

 

 

マモレナカッタ

 

 

「・・・!」

はっと目を覚ます。

どうやら木陰で休んでいるつもりが眠ってしまったらしい。

無理もない。

この惑星の調査に来てから1週間帰還していないんだからな。

此処は惑星ナベリウス、森林が多く、野生動物が多く存在する惑星だ。

だがこの惑星は何故か気候の変化が激しく、森林を抜けたすぐ先が凍土になっているのだ。

その凍土に隠されるように存在するのが今俺のいる遺跡エリアだ。

この辺りにはダーカーと呼ばれる者が牛耳っている。

ダーカーは言わばこの宇宙に存在するウィルスのような存在であり、様々な 惑星に干渉しては原生生物を狂わせたり果ては惑星の環境を汚染したりする、厄介な存在である。

俺はダーカーを討伐するためにこの惑星に降り立ったのだ。

『・・・さん、ノワールさん!』

通信機から声が聞こえてくる。

司令部のアナウンスだ。

「・・・。」

呼びかけられているが俺は答えない。

『このエリアにいるダーカーの集団を率いていたウォルガータはすでに討伐しました!長期間帰還しなければ体に障ります!早く帰還を!』

「・・・まだ逃がした残党がいるだろ。」

『残党狩りには別のアークスを向かわせています!無理をせず帰還を!』

「任せられるか」

『ですが!』

「黙れ、ダーカーは俺がこの手で殺す・・・一匹残らずな」

俺は遺跡の奥へと進んでいく。

 

 

「後悔するくらいなら・・・進むだけだ。」

 

 

~エスカ ナベリウス凍土エリア~

 

「ネージュ、あまり走るんじゃない!」

「なんでじゃ!あやつがこの辺りにおるんじゃぞ!こうしてはおれんのじゃ!」

吹雪の中、目の前の銀髪の少女に私は静止をかける。

「はぁ・・・ついてくる私の身にもなってくれ。」

「お主は此処で寝てても良いぞ!あやつを捕獲したら起こしに来てやる!」

「捕獲って動物か!あと、こんなところで寝てたら普通に死ぬからな。」

「え、ダメなの・・・?」

「本気で言ってたのか!」

「うわー!それヤバいのじゃぁ!凍土ぱねぇのじゃぁ!!」

目の前で悪ふざけもなく本気で驚いているいかにも頭の悪そうなニューマンの少女はネージュ、常に一緒に任務に出ている相方のような存在である。

一緒に任務、というか私が彼女について行っているような物だが、その経緯については秘密だ・・・。

私達がこの惑星に降り立った理由は捜索任務、ここ1週間帰ってこないアークスがいるというので連れ戻す任務だ。

それでネージュが何故こんなにも張り切っているのかと言うと・・・。

「今日こそはあやつを仲間にするのじゃ!」

そう、そのアークスの男をチームに勧誘するのが目的だ。

アークスにおけるチームと言うのは言わば共同で任務に参加する集団である。

司令部から辞令が下って一時的にチームを組む例もあるが、アークス同士が個人の有志で集まってチームを組むのが大体主流である。

現在、私達のチームは私とネージュの二人だけ。

一応、リーダーはネージュだ。

それでチームの人数が少ないから手当たり次第に勧誘している・・・というわけではなく、どうやら彼女はその男をターゲットに絞っているようだ。

彼女は昔、とある一件で命を救われて依頼、彼の実力に惚れ込んでいるのか、ほぼ毎日のようにスカウトしているのだ。

「張り切るのはいいが無駄だと思うぞ。」

「なんでじゃ!最初から諦めるのか貴様!」

「そうじゃなくてだな・・・。」

私が焦れるのには理由がある。

彼女がスカウトしても彼はいつも首を縦には振らない。

彼は、簡単に言ってしまえば一匹狼である。

理由は分からないが他人とつるむことを嫌っているようで、アークスになって以来、一度もチームに所属していないらしい。

よくダーカー討伐任務に一人で出ているが、任務を完遂してもダーカーを狩り続けるせいで数週間は帰って来ないことで一部では、シップにあまり姿を表さないことから「幽霊」だとか「亡霊」だとか呼ばれており、あまり評判もよくない。

必要以上に成果は出ている反面、帰還命令を無視するなどで上からも問題視されている男だ。

しかも見た目は黒いボロボロのコートを着ており、黒いフードで頭を覆い、ドクロのような仮面で顔を隠しており、死神のような不気味な外見をしている。

ネージュはよくこんなやつを仲間にしようだなんて考えられるものだ。

『ネージュさん。』

司令部からのアナウンスだ。

「おお、ヘンリか!」

通信機の向こうの声の主はヘンリエッタ、キャストの女性だ。

『彼の位置を捕捉しました。』

「おお、でかしたのじゃ!」

『彼は現在、遺跡エリアにいます。』

「何ぃ!凍土じゃないのか!?」

『それと、現在進行方向と全く逆です。』

「・・・。」

ネージュは黙ったまま、まるでガタのついた機械がギギギと音を立てるかのように私の方にゆっくり顔を向ける。

無表情だが、罪悪感が徐々に沸くのか顔がだんだん青ざめていく。

「・・・。」

私は黙って腕を組んだまま、右足の先をパタパタと軽く足踏みしながら目を細めてネージュを見ていた。

沈黙の中、吹雪の音が良く耳に響いた。

 

 

~ラパン 民間居住区~

 

「さあ、ここが君の新しいお家だよ」

「・・・。」

私の手を握る人は私に優しく言う。

目の前には二階建ての大きな建物、ぱっと見ただけでは中で何をしているのかわからない。

でも、此処が何処なのか分かる。

まだ九歳の私でも分かる。

「・・・。」

「辛かったね、でも、此処でそれもいつか忘れられるよ。」

「・・・。」

優しい言葉を掛けられるけど私は答えない。

「さあ、行こう。」

手を握る人は私の手を引いて中に入ろうとするが・・・。

「ッ!!!」

私は手を弾いて離れる。

その時、私が被っていた縁なしの帽子が宙に舞った。

「!」

手を握っていた人は驚いて自分の手を見たがすぐに私の顔に視線を戻す。

「ラパン?」

「・・・バーカ。」

「?」

「バーカバーカバーカ!!!」

「・・・どうしたんだい?」

私の罵倒に男は戸惑う。

「分かってるよ、私、捨てられたんでしょ!」

そう、此処は孤児院、親のいない孤児が引き取られる場所、私は父親に首を絞めて殺されかけ、それを偶々家に寄っていた近所の人が見つけて取り押さえられた。

そしてこの目の前の男の人、孤児院の院長がまた殺されるかもしれないと、私を引き取ったのだ。

「なんでよ・・・私部屋で本を読んでいただけなのに!!」

「・・・。」

院長は私の帽子を拾い上げる。

「いつもそうだった・・・パパもママも・・・私の部屋のドアをちょっと開けるだけで、ドアの隙間から私を見て・・・私と目が合うと悲鳴を上げてドアを閉めて・・・まるで怖がってるみたいに・・・私が何をしたって言うの!?」

「・・・そうだね。」

院長は帽子を私の手を持って直に手渡す。

「確かにキミのお父さんとお母さんは君を恐れた・・・だけど君は何もしていない。君は悪くない。」

「・・・。」

院長は私に優しい言葉を掛ける。

でも私にはそれがすごくイライラする。

「私は君を恐れない。」

「嘘だ!!」

院長の言葉にイライラを押さえられなくなって叫んだ。

「嘘じゃない。」

「嘘だ嘘だ!!大人はみんな嘘つきだ!!私はもう絶対に大人なんて・・・ッ!?」

私は急に言葉を詰まらせる。

院長の手が私の頭の上に乗っていた。

別に叩かれたわけじゃない。

優しく置かれていた。

「ぇ・・・?」

突然すぎて上手く声が出ない。

「怖い子に、大人はこんなことするかい?」

そう言うと院長は私の頭を撫でる。

「ぁ・・・ぅ・・・?」

これも突然すぎてうまく声が出ない。

「約束するよ、私は君を恐れない。」

「・・・!」

ついに声が出なくなって、されるがままに頭を撫でられる。

「行こう、みんなが待ってるよ。」

その声は、今まで聞いたどんな声よりも優しかった。

 

 

~ノワール ナベリウス遺跡エリア~

 

「・・・やっと見つけたぞ、クズ共。」

俺の目の前にはダーカー、四足歩行の虫型のダガン三匹、二足歩行の人型のキュクロナーダ一体、魚型のダーガッシュ二匹。

逃がした奴らと数は合っている。

ウォルガータと戦っている際に逃がした奴らだ、間違いない。

ダーカー達は俺の顔を覚えているのか、顔を見るなり一斉に襲いかかってきた。

「来い、フェジサー。」

俺が呼び掛けると俺の背中に二つ銃が出現する。

それらを即座に抜いて、敵の群れに飛び込む。

俺の最初の狙いはダーガッシュだ。

奴は口を何度も大きく歯噛みしながら向かってくる。

だがダーカーには弱点となるコアがあり、奴はあろうことか、その歯噛みしている口の中だ。

近接戦闘をするアークスはそのコアを攻撃しようものならその歯に反撃されるリスクはあるが俺の武器は銃だ、間合いがあっても撃ち込めるのでこいつは格好の的だ。

だが俺はあえて一匹の近くまで飛びかかる。

「まずは『二匹』。」

銃を牙の間合いギリギリまで近づけて銃をぶっぱなす。

銃口からは光が爆発するかの様に放たれる。

俺のアークスとしてのクラス、ガンナーのフォトンアーツである『サテライトエイム』だ。

威力が強い反面、銃弾の様に発射されずに銃口の先で己のフォトンの弾丸を炸裂させる近接向けの技だ。

ダーガッシュは二匹とも互いに近くにいたので、続けざまにサテライトエイムをぶっぱなす。

喰らったダーガッシュはひとたまりもなく、コアが抉れて苦しみながら宙を舞ったかと思えば、即座に動かなくなる。

即死だ。

それを確認すると間もなく横からキュクロナーダがその右腕の棍棒のような腕で俺を凪ぎ払いにくる。

「ああ?」

俺は足を蹴りあげ、右腕を弾き、更にドリルの様に上に向かって蹴りあげ、更に高度を上げる。

フォトンアーツ、『エリアルシューティング』本来は敵を打ち上げて自信も空中に上がり、空中技に繋げるものだが今回のように敵の攻撃を弾いて空中に逃げる事も出来る。

更に俺はその体勢のまま、回転しながら銃弾を真下の敵全てに放つ。

フォトンアーツ『バレットスコール』、俺のやり方では本来はエリアルシューティングで敵を打ち上げ、更に敵を空中で蹴り落として銃弾の雨を喰らわせるのがこのコンボの基本だが、このように高所に逃げて一方的に弾丸を喰らわせることも出来るのだ。

三匹のダガンば脳天に弾丸を喰らうと、潰れたカエルのように死に絶え、キュクロナーダはそのひとつ目で俺を見上げたせいで、弾丸を諸に目に喰らい、目を左手で塞ぎ苦しみ悶える。

それを確認すると俺は地面に降り立つ。

キュクロナーダは目を潰された状態で俺を近づけさせまいと、右腕の棍棒を闇雲に振り回している。

だが、この時の奴の癖は既に知っている。

目が見えない状態で重い腕を振り回す行為は身体のバランスを大きく乱す。

奴も例外ではなく、何回か腕を振り回すとその重さでバランスを崩して転んでしまうのだ。

案の定、奴は仰向けに倒れる。

再び起き上がろうとするが、倒れた隙に近づいた俺は奴を足で踏みつけてそれを阻止する。

そして奴の腹部のコアに弾丸を浴びせる。

しかしコアは若干分厚い殻に覆われており、大したダメージにはなっていないが、何発か弾丸を当てると殻が破られ、弱点のコアが露になる。

「祈れ、神のいないこの世界でな。」

俺は銃口に意識を集中する。

最大出力のサテライトエイムで止めを刺すために。

だが・・・。

「!」

急に辺りが暗くなる、いや俺がいる位置だけが暗くなり、不審に思った俺は咄嗟に俺は後ろに跳ぶ。

間一髪だった。

俺がいた位置、つまり倒れていたキュクロナーダの真上にそれは降ってきた。

胴体の三つのコアが積み重なるように縦に並び腕には武器のような爪がギラリと赤く光るダーカー。

デコル・マリューダだ。

今俺に仕掛けてきた攻撃もよく奴がやるジャンプ攻撃だ。

俺の代わりに攻撃を受けたキュクロナーダは既にピクリとも動かず、死に絶えたダーカーとして身体が霧状になり始めている。

更に彼の周りに黒い霧のような渦が数ヶ所出てきたかと思うと、その渦からダーカーが出現する。

人間と同じ直立二足で大きさも人とほぼ同じだが、顔は鳥のダーカー。

『ソルダ種』と呼ばれる鳥型のダーカーだ。

しかもこいつらはそれぞれ違う武器を持っている。

双剣と大剣をもつ子分が相手を撹乱する隙に親玉である槍持ちが遠距離から鋭い突きを喰らわせる連携を得意とする奴らだ。

槍持ちが号令を掛けると子分が一斉に襲いかかる。

それに合わせてか否か、デコル・マリューダも此方へ前進してくる。

最初に攻撃を仕掛けてきたのはソルダの双剣持ちだ。

軽く飛び上がって滑空するように飛んで斬りかかってくる。

本来なら迎え撃つが、ソルダ種とデコル・マリューダが同時に来た事で近接戦闘をするのは分が悪い。

なので後ろに宙返りするように回避する。

間合いが空いた。

槍持ちも遠距離攻撃を前提に間合いを取っていたせいか、この距離は射程外だ。

「まとめて死ね。」

銃をまるで格闘技で拳を放つ様に乱射する。

フォトンアーツ「エルダーリベリオン」、体術を駆使して放つ事により、通常のフォトンの弾丸より重い弾丸を浴びせる技だ。

更に連撃を重ねる事によって威力が増し、より重い弾丸を喰らわせられる。

最初の連撃により、ソルダの子分を倒し、更に威力が増した弾丸を槍持ちに喰らわせる事により、ソルダ種は全滅する。

デコル・マリューダはその光景を見て気圧されまいとしているのか、爪を高く上げて、此方を威嚇してくる。

「恐れてんのか? いや、お前らに『感情』なんて無いだろ。」

俺は威嚇など物ともせずに敵の懐に突っ込む。

「死ね。」

 

 

~エスカ 惑星ナベリウス遺跡エリア~

 

「ハァ・・・ハァ・・・!」

私とネージュは必死に走る。

『彼の座標はこのまま先、交戦中のようです。』

「ハァ・・・ハァ・・・!」

ヘンリエッタのナビに従って必死に走る。

「急ぐのじゃ・・・! 急がなくては・・・!」

「ああ・・・!」

そう、急がなくてはならない。

彼が交戦中。

彼の命の危険を心配しているのではない。

急がなくてはならない理由は・・・。

「「あ!!」」

目の前の光景に私とネージュの声が被る。

目の前にはダーカーのデコル・マリューダ。

そして見間違うことのない不気味な外見のアークスの男。

デコル・マリューダは胴体に三つのコアがあるが、既に全て破壊されており、武器である爪も折られて虫の息でアークスの男に向かって爪を振るが、男は宙に舞ってそれを回避し、デコル・マリューダに踵落としを喰らわせる。

「詰みだ。」

そのまま、バレットスコールの無慈悲な銃撃をデコル・マリューダに喰らわせる。

デコル・マリューダは身体の何処から出しているのか分からない独特な断末魔を上げて死に絶えた。

「間に合ったか・・・。」

「間に合わなかったのじゃ・・・!」

目の前の光景に私とネージュは、それぞれ違う反応をする。

私の『間に合った』の理由は、即座に決着をつけられてまた何処かへ行ってしまったら更に探索が面倒になると言うこと。

そしてネージュの『間に合わなかった』の理由は恐らく・・・。

「貸しを作るチャンスがぁ・・・!」

ネージュは地面に手を突き、項垂れる。

そう、窮地を救って貸しを作ろうと考えたのだろう。

しかし、そもそも彼が危険だったようには到底見えなかった。

ネージュの考えたチャンスなど、最初からなかっただろう。

「・・・またお前らか。」

男は此方に気づく。

「ノワール、帰還命令が出て何日も帰って来ないから連れ戻しに来たぞ。」

「・・・司令部はわざわざそんな事の為にお前らを寄越したのか。」

ノワールはため息混じりに言う。

「・・・悪いが、お前らが来た意味はないぞ。」

「まだ帰らない気か!」

「その逆だ。」

「逆・・・?」

「やろうと思ってたことが丁度さっき終わった。奴が出てきたのは予想外だったがな。勝手に帰らせてもらう。」

「そ、そうか・・・。」

こいつが帰ると言うなら私達も任務は完了。

全て丸く収まるはずなのだが・・・。

「貴様!わしらがわざわざ出迎えてきてやったのになんじゃその言いぐさは!」

ネージュはノワールに喰って掛かる。

「頼んでねえ。」

「んぬぇー!!可愛げのないやつじゃぁ!」

「最初(ハナ)からねぇよそんなもん。」

「・・・。」

「どうしたのじゃ?エスカ?」

ネージュが私の様子に気づく。

丁度不可解な事があって考え込んでいたのだ。

「なぁ、少し変じゃないか?」

「あ?」

私はノワールに問いかける。

「デコル・マリューダは本来、惑星ウォパルで出現するダーカーだったはずだ。それが何故ナベリウスに・・・。」

「知るか・・・『深遠なる闇』が復活したり懐世区域まで出る惑星だ・・・別に他の惑星からダーカーがきたところで驚いたりしない・・・出てきたら殺す・・・俺がやることは変わらない。」

そう言っている間にノワールは、何かアイテムを天に放る。

すると少し遠くに転移するためのゲートが出現する。

アークスが惑星間を移動する際に搭乗する『キャンプシップ』へ瞬間的に転移できるアイテム、『テレパイプ』だ。

「・・・帰る。」

ノワールが足を進めたその時だ。

「待てい!!」

ネージュが彼の目の前に回り込む。

「・・・。」

「お主に重大な話がある!」

「・・・。」

ネージュが口を開いたそのときだ。

「「わしの仲間になれ」!!」

「なっ!?」

ネージュとノワールの台詞が被る。

いや、正確にはノワールがネージュの台詞を読んで被せた。

「そして俺の答えはノーだ。」

「何故分かったのじゃ!!えすぱー!?」

「・・・何度このやり取りしてると思ってる。」

「何回じゃったっけ?」

「十から先は数えるのを止めた。もう知らん。」

「えぇー!?やめるの早すぎるのじゃ!!もうちょっと粘るとこじゃろそこ!せめて五十くらい!!」

「知るか、じゃあな。」

ノワールはさっさとネージュの横を通りすぎてテレパイプへと向かっていく。

「なんじゃー!わしと組むのがそんなに嫌かー!泣くぞ!?わしまじで泣くぞ!?」

ネージュが叫ぶがもう彼の耳には届いていないようだった。

 

 

~惑星ナベリウス遺跡エリア~

 

草陰から何かが姿を表す。

『それ』は二本の足で立っていた。

『それ』は離れたところから、二人のアークスが立ち去ったもう一人のアークスに関して一人は怒り、もう一人がそれを宥めている風景を見ていた。

少しすると興味が薄れたのか、『それ』は踵を返し、歩を進める。

 

 

『それ』は赤黒い霧に包まれて消えた

 




どうも!
野良犬タロです!

まだまだ第一章なので展開は薄いですが、これからどんどん盛り上げて行くので、読んでいただけると嬉しいです!

せっかくのあとがきなので裏話を一つ。

この小説のオリキャラ達、実は私のゲーム内の自キャラです!

で、なんで自キャラで小説書こうかと思ったかと言うと、元々小説書いてた時期あって、その影響からか、ゲームで設定出来る戦闘時のオートワードでかなり(無駄な)設定魔っぷりが発揮され、
『あー、こいつらでもう小説作れるんじゃね?』
っていう軽はずみな考えがきっかけです。

行き当たりばったりに聞こえるとは思いますが、こうして投稿するまでにある程度プロットは練っておりますので、ネタにつまる事はないと思います!(・・・多分)

まぁ、こんな作者ではありますが、本作品を続けて読んで頂けるよう、頑張って行きますので応援して頂けると幸いです!
ではでは!


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スレイヴデューマン編
第二章 ~奴隷の刺客~


 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

孤児院に入ってから此処の院長、私は『先生』って呼んでるけど、その人が好きになった。

いつも優しい言葉をかけてくれる。

悪いことをしたら叱られる事もあるけど、毎日パパにもママにも怖がられてた私にはなかったコトだからそれすらも嬉しかった。

でも・・・。

「おい、またあいつだよ。」

「うわ、こわぁい。なんであんな・・・。」

此処に一緒に暮らしてる子供たちはキライ。

私の事をいじめてくる訳じゃないけど、こうして避けては、距離を取ってはひそひそと内容が分からない陰口を叩いている。

「意味分かんない・・・。」

なんで・・・なんでなの?

 

 

『私何もしてないのに・・・!』

 

 

「・・・!」

今の言葉が脳裏を過った時、前の家での出来事を思い出す。

パパとママが私を怖がっていたあの姿がその言葉を思い浮かばせた。

同じだ。

あいつらはパパとママと同じように私を見てるんだ。

どうして・・・!

「どうした?ラパン?」

後ろから不意に頭に手を置かれる。

「先生・・・。」

私が振り向くと先生は優しく微笑んでそのまま私の頭を撫でる。

「また何か悩んでる?」

「・・・。」

黙っていると先生は私の前に立ち、屈んで私と顔を合わせて微笑む。

「言ってみなさい。」

「私・・・普通の子じゃないの・・・?」

「ん・・・?んー・・・。それはまた随分とアバウトな質問だね。」

「ここの子たちも、私を怖がってる・・・パパとママみたいに・・・私を見た人はみんなあれが普通なのかなって・・・。」

「あはは、全く!馬鹿馬鹿しい事を考えるね!」

先生は急に笑い出す。

「え?」

「そんなのが当たり前なら、どうして私がこうやって話してるんだ?私が変なのかい?」

「・・・分からない。」

「でしょ?」

「?」

「『分からない』から、変に悪いことを想像しちゃうんだ。ラパン、君はちょっと年齢の割に考える事が大人すぎる。だから尚更だよ。」

「そう・・・なのかな?」

「だからさ、子供は子供らしく、遊んでる子たちのとこ行って『仲間に入れてー!』って言えばいいんだ。友達なんて、そうやってたらすぐ出来るよ?」

「・・・出来るかな。」

「出来るよ。」

そう言うと先生はまた私の頭を撫でる。

「ラパンは頭がいいからね♪」

「うぅ・・・。」

恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい。

こうやって先生に頭を撫でて貰ってる時が今の私にとって一番大好きな時間だ。

 

 

~エスカ アークスシップ ゲートエリア~

 

「捜索任務?」

「またノワールか!?」

任務管理のカウンターで任務を言い渡された私達、ネージュはまだ彼と決まった訳でもないのに目をキラキラさせている。

いや、仮にそうだとしても目をキラキラすることじゃないからな。

「いえ、捜索して貰いたいのは研究室の研究員です。」

「なぁんじゃぁ・・・。」

一気に熱の冷めたネージュはつまらなさそうに頬を膨らませてそっぽを向く。

「それで、何処の惑星なんだ?」

「惑星リリーパです。何故彼がそんな所へ行ったのかは不明ですが、アークスでもない非戦闘員がダーカーやエネミーが存在する惑星へ単独で降り立つのは危険なのでこの度貴女方へ任務が降りました。」

「また人探しか・・・。」

「上でも貴女方の豊富な捜索の経験を買っての任務です。度々地味な仕事をさせるようで申し訳ありませんが・・・。」

「いや、任務が下った以上、現場は上の指示に従うだけだ。」

「よろしくお願いします。」

「ああ。」

私達はカウンターを後にし、準備の為にショップへ向かう。

「あ、ネージュちゃんだ!ほら、あそこ!」

「わ、ホントだ、かーわーいーいー!」

「たまんなーい!もうペットにしたーい♪」

通りすがりのアークスの女子達が黄色い声援をネージュに送る。

ネージュは童顔で背が低いせいか、可愛く見られがちで、言わばこのシップではマスコットキャラのような存在であり、可愛い物好きな女子や、子供好きな中高年のアークスに人気がある。

だが時々、変な男がアメを持ってネージュに近づくことがあるので、私が全て撃退している。

私はと言うと・・・。

「エスカさんもいるよ!」

別に嫌われている訳ではないが・・・。

「凛々しくてカッコいいよねぇ、惚れ惚れしちゃう・・・。」

「ああ、エスカお姉様・・・素敵ですわ・・・。」

同性にこう言う熱い視線を受けるのは女としてどうだろうか。

異性にも評判は悪くないが・・・。

「おい見ろ、エスカ様だぞ!」

不意に男の声がする。

いや、『様』ってなんだよ。

「あの凍りつく様なオーラ、たまらんな!」

「あの冷たい視線で蔑みながら踏んで貰えないだろうか。」

どうにかならんのかこの反応!

ネージュの方を見てみる。

周りの反応はいつもの事だから気にせず、任務がノワールの捜索ではないことをつまらなさそうにぶーたれているのを想像したが・・・。

「ムフフ~♪」

何故かご機嫌だ。

「なんでそんなに機嫌がいいんだ?」

「『貴女方の豊富な捜索の経験を買っての任務です。』じゃって~!まぁ、そんな頼られたら仕方無いのぉ♪」

「はぁ・・・。」

そうだった。

ネージュは単純すぎるからこうやっておだてられるとすぐにこうやって天狗になるやつだった。

「それってノワールが帰還命令を無視して惑星に留まって、私達がそれを何度も連れ戻しに行ってただけだからな?」

「でもそれでこうやって指名されて任務が来るんじゃろ?結局、わしらは上に認められる功績を上げとる訳じゃ♪」

「知り合いの尻拭いで功績になるとか・・・。」

「功績は功績なのじゃ!胸を張れエスカよ!その豊満なるバストを!」

「反論ついでにセクハラ発言するんじゃない!全く・・・。」

「ふふふ♪」

「!!」

話している間にショップエリアのアイテムショップのカウンターまで来ていた。

今笑ったのは店員のフェリシアだ。

「ごめんなさい、笑っちゃって。でも、仲がいいんですね。貴方たち。」

「な!?」

「おうともさ!わしらはチーム!仲間!友なのじゃ!」

「やめろネージュ!」

「なんでじゃ?違うのか?」

「いや、別にそう言う意味じゃなくて・・・。」

そう、別に違うわけじゃない。

私はなんだかんだでチームとして、仲間としてネージュの事は信用している。

ただ・・・。

「だったらなんでじゃー!」

「・・・照れ臭い。」

「へ?」

「うるさい!さっさと準備済ませて任務いくぞ!」

 

 

~ノワール 惑星リリーパ 壊世区域~

 

惑星リリーパ、砂に砂漠に覆われた砂の惑星。

それだけではなく、独自に機械の文明があるのか、機工種と呼ばれる機械のエネミーが蔓延る惑星だ。

そのせいなのか、この惑星には機械仕掛けのような地下坑道があり、まるで古い工場のような惑星である。

俺がいるのはその地下坑道の中にある壊世区域、深遠なる闇の復活の影響なのか、機工種が異常進化して凶暴化し、そのせいなのか、元の古ぼけた坑道と違い、道も壁も真新しくコーティングされている。

此処には更に地下にダークファルス【若人】が封印されているせいなのか、ダーカーがよく確認されている惑星だ。

壊世区域に深遠なる闇の直属の眷属である、『アンガ・ファンタージ』が出現したという報告があって、こうして俺は討伐に来た訳である。

壊世区域のエネミーは凶暴性、強さが普通の区域とは比較にならないため、カウンターの管理官には、一人では無茶だと言われたが、これは俺のやり方だ。

危険だと言われようが曲げるつもりはない。

「うわああぁぁっ!」

「?」

悲鳴が聞こえてその方角を向くと、白衣を着た男が此方へ走ってくる。

後ろには機工種のエネミーが数体、男を追いかけていた。

恐らくはアークスシップ研究室の研究員だろう。

「・・・。」

ダーカー以外のエネミー討伐に興味はないが、此処で何もせず見過ごせば後々面倒なので救出することにする。

追っ手の機工種は二足歩行の中型ラピドギルナス一体と獣の様な四足歩行の小型カイザーバルガー三体だ。

「まずは・・・。」

「やめろ!殺すなあ!」

「?」

研究員は突如叫ぶ。

どうやら俺に言っているようだ。

この黒ずくめの格好のせいでエネミーと勘違いしてるのか?

「俺は味方だ!」

「私を追いかけてるこいつらを殺すなあ!」

「・・・!?」

俺のことを勘違いしている訳ではなさそうだが、何を言ってるんだ?

あまりの恐怖に気が動転しているのかも知れない。

「すぐ終わらせる。」

「やめろぉ!」

男の言うことを無視して銃を抜き、エネミーの群れに突っ込む。

奴等は男をターゲットにしているせいか、攻撃よりも走る事を優先しているようだ。

先ずは射程ギリギリから弾丸の連撃である『エルダーリベリオン』の火力をラピドギルナスに集中させる。

しかしラピドギルナスはタフで、これくらいでは倒れず、なおも進撃する。

だがそれが狙い通りだ。

『エルダーリベリオン』を食らわせている間に敵は俺の目と鼻の先に来ていた。

「この間合いなら!」

奴の頭にフォトンの炸裂弾、『サテライトエイム』を喰らわせる。

さすがに耐えきれず、ラピドギルナスは火花を吹いてその場に倒れた。

「・・・。」

その隙に俺の横をカイザーバルガー達がすり抜けて男の方へ向かっていく。

「逃がすわけねえだろ・・・!」

俺は筒状の手投げ爆弾をカイザーバルガー達に投げつける。

爆弾は奴等の近くで破裂するとその場に黒い渦が起こり、敵を吸い込むように集めた。

『グラヴィティボム』、起爆させた場所に重力の磁場を発生させて複数の敵を一点に集める爆弾だ。

「チェック・・・。」

吸い寄せられたエネミー達に高く跳躍して飛びかかり、弧を描く様に宙返り様に踵落としを喰らわせる。

一点に集まったせいでエネミー達はすべてこの踵落としの一撃を喰らってしまう。

「メイト・・・。」

近距離から銃を目にも止まらぬ速さで連射してエネミー達に浴びせる。

体術と銃撃のコンボ、『ヒールスタッブ』だ。

これらを喰らったカイザーバルガー達は既に機能を停止していた。

「やめろと言っただろう!」

男は怒鳴る。

「何を意味が分からん事を言ってるん・・・だ?」

男の怒鳴りに口答えしているうちに男の容姿に目を疑う。

黒いボサボサ髪に似合わない銀縁眼鏡でだらしなく生えている顎髭。

「エリック・・・!」

「何故私の名前を・・・!」

向こうは気づいていない。

無理もない、前に合った時はこんな姿じゃなかったからな。

「俺だ、ノワールだ。」

「ノワール・・・!」

エリックは俺の名乗った名前にハッとする。

「ノワール・・・なんて偶然だ・・・!」

彼はエリック。

俺がアークスになるに当たって色々世話になった奴だ。

「身体はちゃんと動くみたいだな。」

「ああ、おかげさんでな。それより・・・なんでこんな所に・・・!」

「ああ、それが・・・あ!」

「!!」

エリックの反応に気付き、咄嗟にその視線の先に銃を盾の様に向けると間一髪で何かを止める。

「!?」

カタナだ。

遠距離用のバレットボウと合わせて遠近の弱点もなく戦える、ブレイバーをクラスとするアークスの武器だ。

「こいつッ・・・!」

カタナを弾くと、その持ち主は離れる。

「・・・。」

持っているカタナはヴィタカタナ、武器ショップでも簡単に手にはいる最もポピュラーな武器だ。

見たところ、どう考えてもアークス駆け出しのデューマンだ。

「おい、誰だか知らんが、此処は壊世区域だ、来る所を間違えてるんなら帰れ。」

「うわあ・・・最悪だ・・・!」

エリックが項垂れている。

「なんだ、エリック。俺があんなのに遅れを取るとでも・・・。」

「違う、奴は普通じゃない!」

「・・・?」

エリックの言葉が気になり、注意深く相手を観察する。

服は、カイゼルハウト、男性デューマンがよく最初に着ているスーツによく似た服だ。

顔の表情は、なんだか感情を感じない、目が何処と無く虚ろな赤と紫のオッドアイ・・・。

「・・・?」

『赤と紫のオッドアイ』・・・?

何処かで見たような・・・。

「・・・る。」

「?」

何かぶつぶつ言ってるな・・・。

「・・・する。」

「・・・!」

何を言ってるか確認する間もなくデューマンは此方へ攻撃をしかけてくる。

カタナの抜刀の速さを活かした一閃で俺を斬りにかかるが態勢が低すぎる。

すぐに足を斬りにかかると分かった俺は、軽く跳んで回避する。

その後も一閃を何度も撃ってくるが、難なく回避する。

足や首を狙っても回避されると悟ったのか、今度は真ん中の胴体に向けて一閃を放つ。

だが分かりやすい。

難なく俺は銃でカタナを止める。

鍔迫り合いのような状態になるが、俺の銃はもう一丁ある。

余裕を持ってデューマンの左肩に弾丸を命中させる。

怯んだデューマンは間合いを取る。

「・・・。」

予想以上に弱い。

とてもこの壊世区域に来れるとは思えない。

「・・・じょする。」

さっきから何をぶつぶつ言ってるんだ?

そう思っているうちにまたデューマンは仕掛けてくる。

さっきと同じ胴体への一閃。

俺は銃でそれを止める。

これではさっきと同じ展開・・・だが。

「!?」

デューマンは意外な行動にでる。

カタナを手放し、俺の手を掴む。

さらに逃がさないようにするためか、俺のコートを掴む。

「!」

デューマンの異変に気づく。

ぶつぶつ言っていた口が開いたまま止まっている。

まずい!

わかったぞ、こいつは!

「うっ!?」

急に耳鳴りがしたかのような、キィィィンという音がする。

目の前のデューマンがやったわけではない。

寧ろデューマンも俺と同じく異変に気づいたようで、これからしていたであろう事を中断して視線を音の方へ向ける。

「出やがった・・・!」

普通のダーカーとは比べ物にならない程の巨大なコア。

そのコアに操られているかのように浮遊している胴体と腕。

深遠なる闇が直属の眷属として従えている大型ダーカー、『アンガ・ファンタージ』だ。

「・・・いじょする。」

またデューマンが何かぶつぶつ言っている。

「排除する・・・排除する・・・。」

近くにいたのでどうにか聞き取れた。

どうやら同じ言葉を繰り返していたみたいだ。

不気味な奴だ。

アンガ・ファンタージに気づいたからか、俺から手を放し、カタナを拾って奴に対して構える。

「・・・。」

いつもの俺なら『手出しをするな』と言うところだがあえて何も言わない。

こいつには何を言っても無駄な事を知っているからだ。

「まずいな・・・。」

早急に手を打たなければこいつは・・・。

「!」

考える間もなくアンガ・ファンタージは攻撃の構えを取る。

「くっ!」

俺は咄嗟に横に跳ぶ。

俺達がいた場所にビームが放たれる。

デューマンの方は、反応が少し遅れたのか、脇腹に攻撃を受ける。

だが痛みを感じていないのか、デューマンはそのままアンガ・ファンタージに向かっていく。

アンガ・ファンタージはデューマンに狙いを絞ったのか、前屈みになり、腕先を彼に向ける。

デューマンが飛びかかると腕の爪を使った刺突攻撃が放たれる。

デューマンはカタナでそれを防ごうとするが、カタナが腕から弾け跳ぶ。

だがそれでも後退せず、そのまま身をよじって腕を回避し、アンガ・ファンタージの胴体にしがみつく。

「・・・。」

デューマンはぶつぶつ言葉を止め、また口を開いている。

「待て!!」

無駄だと分かっていたが叫ばずにはいられなかった。

「・・・。」

デューマンは歯を強く噛み締める。

するとデューマンの体が白く光り、すぐにその光は眩しい光となり、アンガ・ファンタージの身体を全て巻き込む程の大爆発が起こった。

自爆だ。

当然ながらデューマンは跡形もなく消えていた。

アンガ・ファンタージの方もダメージが強く、胴体が消しとんでコアだけが残った。

「・・・くっ!」

俺はこのあとの展開を知っている。

残されたコアは光り出すとまた胴体が現れる。

「くそがっ!!」

そう、奴は一度だけ復活するのだ。

俺はアンガ・ファンタージに向かっていくが・・・。

「!!」

どこからともなく、バレットボウの矢と銃弾と法撃の炎が飛んできて、アンガ・ファンタージに命中する。

「・・・?」

弾道は全て同じ方角からだ。

アークスの援軍かと思ってその方角を向くと・・・。

「嘘だろ・・・。」

そこにはデューマンの男女が数人・・・全てが赤と紫のオッドアイ。

最悪の援軍だった。

 

 

~エスカ 惑星リリーパ壊世区域~

 

「なんだ、今の爆発は!」

ナビゲートが反応を探知するままに壊世区域へ行くと爆発音が聞こえ、私たちはその現場に走って行く。

するとそこには・・・。

「・・・!!」

アンガ・ファンタージだ。

だが奴は数人のデューマンにしがみつかれ、それを振り払おうともがいている。

「おい!!」

「!!」

声がするかと思ったらノワールが人間を肩に抱えてこちらに走ってくる。

よく見ると、その抱えている人間は、私たちが探していた研究員のエリックだ。

「おお、ノワー・・・」

ネージュが呑気な声をあげようとしたその時だ。

「伏せろおぉッ!!」

ノワールはそのまま両手を広げ、私たちの肩を掴み、そのまま覆い隠すように押し倒した。

するとアンガ・ファンタージのいた方角から物凄い大爆発が起こった。

爆発を諸に受けたアンガ・ファンタージは、コアだけが残り、次第にそのコアも腐敗していくように霧となって消えていった。

「あ・・・あぁ・・・!」

立ち上がったワタシは目の前の光景を見て立ちすくむ。

私はこの光景を知っている。

いや、あのデューマン達をここにいる者の中で一番よく知っている。

どうしようもない絶望感が脳裏をよぎると、次第にその怒りがわき、即座に研究員の男にダガーを突き出す。

寸止めなどするつもりもない。

殺す気だ。

だが、ダガーはノワールが即座に拳銃を抜いて止める。

同時にノワールは拳銃で私のダガーを止めていない腕で研究員の胸ぐらを掴んでいた。

「エリック・・・!」

「ち、違う・・・!」

「どういうことか説明しろ・・・『スレイヴデューマン』は既に廃止されてるだろ!」

「・・・。」

『スレイヴデューマン制度』・・・アークスの中で密かにあった非人道的な制度。

アークス及び、民間居住区で重大な犯罪を犯した者をデューマンに改造し、戦場の駒として扱われる制度だ。

『死刑にせずアークスに協力させる』と言う大義名分を掲げているが、歯に体内に仕込んだフォトンの自爆装置を起爆させる装置を仕込まれたり、生き残れるはずのない戦場に駆り出されたりと、ほぼ捨て駒の奴隷のような存在にされる。

しかも改造されたデューマンは特殊な精神制御をかけられており、感情、特に『生への執着』を抑制されており、自ら進んで死んでいくのだ。

あまりに非人道的な制度だが、それなりの成果が出ていたために黙認されていたが、ウルク総司令が今の階級に就任した際にアークスの制度を見直すなかで他の不要な制度と共に廃止された。

「この外道が・・・!」

デューマンの出所は研究所と考えればこの研究員の男は確実に一枚噛んでいる。

「違うんだ!話を聞いてくれ!」

「ああ、言え。なんであれが出回ってる・・・!」

私とは対照的に、ノワールは怒りを抑えてエリックを問いただす。

「私の仲間が彼らを作った・・・だが私はこの研究を恐れてデータを持ち出して逃げたんだ・・・。」

「ふざけるなッ!そんな話が信じられるわけが・・・!」

「落ち着け・・・!」

私が罵声を浴びせるのをノワールがダガーを止めた銃に力を込めて止める。

「あのデューマンの一人は最初、こいつを狙っていた・・・これに関しては当事者の俺が証人だ・・・こいつが本当にデータを持ち出していたなら全て辻褄(つじつま)が合う。」

「・・・。」

ノワールが嘘をついているとは考えにくい。

この男と知り合いのようだが、庇うほどの間柄には見えない。

第一、ノワールは簡単に嘘をつく奴じゃない。

分かっている。

分かっているんだ。

だが、気持ちに整理が着かないのは事実だ。

「エスカ・・・。」

ネージュが心配そうに私の肩に触れる。

「・・・。」

私はダガーを落とす。

「君のその目は・・・!」

エリックは私を見て目を見開く。

「・・・。」

私はデューマン、目は赤と紫のオッドアイだ。

「すまない・・・君には謝っても謝りきれない・・・。」

「・・・。」

そう・・・私は・・・。



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第三章 ~亡者の晩餐~

 

~ノワール キャンプシップ~

 

「・・・。」

俺は今、発進中のキャンプシップにいる。

行き先はマザーシップだ。

何故こんな状況になったかと言うと・・・。

 

~惑星リリーパ 壊世区域~

 

エリックが此処で逃げ回っていた理由は注意を反らす為だった。

彼の仲間が作ったというスレイヴデューマンは、彼よりもダーカーや侵食の強いエネミーを優先して攻撃するらしく、アークスの護衛もいないまま奴らから逃げ切るにはこの特性を利用した方が最も効果的だと考えたからだ。

エネミーの侵食が強い程注意を反らせる様なので逃げ回る場所をこの壊世区域にしたようだ。

「エリック、お前は安全な区域に避難しろ。」

「ダメだ、それじゃ奴らの注意を反らせない!」

「逃げ回るにもいずれ限界が来る。それに、もう逃げ回る必要はない。助っ人を呼んである。」

「え?」

不意に通信音がする。

『マスター。』

通信機から女の声がする。

「アオか。」

『九時の方向にエネミーが二体、そちらに気づいて向かっています。』

「任せる。」

『了解。』

通信機の声が返事をすると遠くで光の柱の様な光線が降り注ぐ。

ライフルのフォトンアーツ、『サテライトカノン』だ。

『命中を確認、目標、鎮圧しました。』

「ああ・・・。」

通信を切る。

「こいつに任せる。」

「ちょちょ、待つのじゃ!」

俺が話を終わらせようとするとネージュが割り込む。

「お主、仲間がおるのか!?」

「あ?何言ってる。仲間なんかいねぇよ。」

「だって、今、通信機から・・・。」

「あれは俺が作ったサポートパートナーだ。」

「へ?」

『サポートパートナー』、特定の試験任務をクリアしたアークスに作ることを許される疑似生命体だ。

アークスに能力は劣る物の、アークスのようにクラスを配置して様々なサポートをさせる事ができる。

俺のサポートパートナーであるアオはライフルなどの銃器を得意とするクラス、レンジャーだ。

「な、なぁんじゃぁ・・・。」

何を安心したのか、ネージュはホッとする。

「それなりに訓練はさせてある。刺客が来ても爆発の射程外から狙撃させれば問題ない。」

「あ、あぁ・・・。」

「それと・・・。」

俺は手のひらをエリックに見せる。

『渡せ』と言う意味でだ。

「?」

エリックは理解出来ていない。

「データだよ。」

「え?なんで、君に?」

「決まってんだろ、本部に届けるんだよ。」

「ダメだ!危険すぎる!君にも追っ手がかかるぞ!」

「百も承知だ。だがな、あんた一人じゃ本部に届けられないだろ。」

「そ、それは・・・。」

「それに連中はまだあんたがデータを持っていると思ってるはずだ。今ならバレるリスクも少ないはずだ。」

「う、うーん・・・。」

エリックは少し悩んだが、ようやく観念したようで、白衣のポケットからデータの入ったディスクを手渡す。

「一つ約束してくれ。」

「なんだ?」

「無理をしてその身体を壊さないでくれ。」

「・・・。」

思わずため息が出る。

「相変わらずおせっかいだな、あんたは・・・。」

 

 

~キャンプシップ~

 

ネージュ達には『エリックのいる壊世区域にアンガ・ファンタージが出現した。危険なので討伐されるまで探索は断念する。』と言い訳してもらうように手筈を伝えておいた。

これでまだ逃げ回っているであろうエリックに連中の目がいくはずだ。

あとはこっちでマザーシップにいるウルク総司令にこのディスクを、渡せば・・・。

 

 

~エスカ マイルーム~

 

「・・・。」

私はベッドとテーブルしかない殺風景な自室に入ると、そのままベッドに倒れ込む。

「・・・。」

一通り報告は済ませた。

あとはノワールがディスクを届ければ全て終わる。

「・・・。」

ネージュには一人にしてほしいと言っておいた。

気持ちに整理が着かないからだ。

「・・・?」

不意に部屋の入口からドアが開く音がする。

「これはこれは、なんとも味気ない部屋ですねぇ。」

「!!」

入ってきたのは長身で細身、目が細目な男だ。

そんなことより驚いたことは、この男が白衣を研究員用の白衣を来ていた事だ。

「エリックの言っていた・・・!」

「えぇ、ウィル、彼の同僚です。はじめまして、いや・・・『お久しぶり』・・・ですかね?」

「貴様・・・!」

怒りがこみ上げて男の胸ぐらを掴む。

「おぉっといいんですか?ここで私を殺して。」

「何が言いたい・・・!」

「我々の不正を知らしめようとするお方がアークスシップ(こんなところ)で人殺しなんかしたら何を言っても誰も信じてくれませんよ?」

「苦し紛れの命乞いだな・・・!」

「それに・・・あなたも死にますよ?」

「・・・!?」

ウィルの言葉が気にかかって周りを見てみると後ろにいた・・・デューマンの男がベランダから侵入していた。

下手な事をすればこの男諸とも消し炭になる。

「ね?分かったでしょ?あぁ、因みにアークスに紛れて何体かロビーをうろつかせてます。」

「そう言う事か・・・!」

「分かったら降ろして下さい、そろそろ苦しいですから。」

「くっ・・・!」

不本意だがウィルから手を放す。

ウィルは胸ぐらを捕まれて乱れた服装を整える。

「何の用でここまで来た・・・まさか今更『データを届けるのをやめろ』だなんて言わないよな?」

「いえいえ、どうぞご自由に♪」

「えらく余裕だな・・・このまま私を人質にでも取るつもりか?」

「まぁ、それも良いんですけど、既に手は打ってありますし・・・。」

「?」

なんだ?

どう言う事だ?

ノワールの奴は移動中・・・マザーシップに伏兵がいたとしても彼らに遅れを取るとは思えないが・・・。

「因みに彼はマザーシップにすらたどり着けないでしょう。」

「どういう事だ・・・!」

彼とは同時にキャンプシップを出発させた。

移動中のキャンプシップを奇襲するのは困難だ。

「・・・! まさか・・・!」

「ほら油断した。」

「ッ!?」

後ろのデューマンから奇襲をかけられたが、反応が遅れた。

背中に針のような何かを撃ち込まれる。

途端に意識が朦朧としてくる。

麻酔のような物を打たれたのか・・・?

「回答は聞いてませんが、多分あなたの予想、間違ってないですよ♪」

「うっ・・・ぐ・・・!」

身体が動かない。

まずい・・・今のノワールには・・・!

 

 

~ノワール ???~

 

「くっ・・・!」

霞んだ視界がハッキリして後悔する。

油断した。

俺の乗ったキャンプシップにスレイヴデューマンが潜んでいたのだ。

移動中に自爆され、船はコントロールを失い、何処かに不時着したらしい。

それにしても此処は何処だ?

なにやらアークスシップの民間居住区に似ているが何やらおかしい。

至るところが破壊され、瓦礫が赤黒く染まっていた。

「この感じ・・・。」

そうだ、見覚えがある。

アークスは、様々な兵器も扱える。

空から援護射撃する戦闘機、機動力のある大型戦闘機体『A.I.S』。

これらは時々ダーカーに侵食されてコントロールを奪われることがある。

そんなときにこのように赤黒く染まっていくのだ。

ダーカーの侵食はこの辺り一帯全てに広がっている。

「そう言うことか・・・。」

ダーカーの襲撃に合い、放棄されたアークスシップがダーカーに侵食された物か。

「・・・!」

探索しようかと辺りを見渡すと、見覚えのある奴が倒れていた。

「ったく・・・。」

迂闊だった。

どうやらデューマン以外に潜んでいた奴がいたようだ。

「う、うーん・・・。」

「おい、起きろ。」

「情報屋ァ・・・。」

「?」

「お前じゃない・・・姉のほう・・・そのデカパイの秘密・・・教えるのじゃぁ・・・。」

どんな夢見てるんだこいつ。

「起きろ!アホニュマ!」

「んがっ!?」

頭を靴の先で小突きながら起こす。

「ようやく起きたか。」

「んん?此処はどこ?わしは美少女?」

「どうやらまだ寝ぼけてるようだな・・・!」

拳を思い切り握って構える。

「なああぁ!?ちょ、待て!お、おお起きた!起きたのじゃぁ!」

「フン・・・。」

「それより、ホントに此処はどこなのじゃ?」

「運悪く、いや、運良く不時着した場所だな。」

「運良く・・・?」

ネージュは辺りを見渡すと表情が段々苦々しくなる。

「うぇぇ・・・此処の何処が運がいいのじゃぁ・・・?」

「不時着しなけりゃ宇宙に身体中の空気が抜けて萎れたミイラが二つ泳いでたんだからな。」

「怖いッ!!説明もリアル過ぎて怖いのじゃぁ!!」

「アホに分かりやすく説明しただけだ。」

「アホ!?バカじゃなくてアホ!?なんか余計頭悪そうなのじゃぁ!!」

「どっちでも変わらんだろ、それと攻守交代だ。今度は俺の質問に答えろ。」

「なんじゃ?」

「なんで着いてきた。」

「あー。」

『なるほど』とばかりに手を叩くネージュ。

「答えろ。」

「その・・・エスカがのぅ・・・一人になりたいらしくてのぅ・・・どうせならこっちについてった方がいいと思ってのぅ・・・。」

「はぁ・・・育児放棄された赤ん坊の御守りが俺に回ってきたわけか。」

「失礼じゃな貴様!!わしもう十四じゃぞ!立派な大人なのじゃ!!」

「いや、世間一般レベルで完全にガキの範囲だが。」

「ガキって言うなぁ!!」

「そう言う反応がガキなんだよ・・・っと、早速お出迎えがきたみたいだな。」

「へ?」

横で状況を把握仕切っていないアホを尻目に構える。

目の前にはダーカーの群れが・・・その中に何やら二本足で歩く奴がいる。

全身を赤黒い液体でコーティングされたような見た目だが、明らかに頭、手足があり、五本ずつの指もある、まるで人の様な形の奴だ。

「新手のダーカーか・・・。」

 

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

今日も頑張った。

『一緒に遊ぼう』って言っても友達と遊んだ事がなくで何をしたらいいか分からない。

私は本を読むことしか出来ないから、『一緒に本を読もう』って誘ってみた。

でも皆、私が声を掛けると何も言わずに何処かに行ってしまう。

「・・・。」

必死だった。

本当はやりたくなかった。

此処の子達と仲良くなりたかった訳じゃない。

嫌われるのなら別に嫌われたままでもいい。

でも、私に友達が出来るように励ましてくれる先生の思いに応えたかった。

先生が私に友達を作って欲しいから、頑張っている。

ただそれだけだった。

「調子はどう?」

先生が丁度後ろにいて、追い越して顔を覗かせる。

「・・・今日も駄目だった。」

「そっか・・・何がいけないんだろうな・・・。」

「逃げてく子達がコソコソ話してたんだけど・・・。」

「うん?」

「『悪魔』とか、『怪物』とか・・・。」

「悪魔?」

「私、悪魔に見えるのかな・・・。」

「いや、そうは見えないんだけど・・・う~ん、ひょっとしたら・・・。」

「ひょっとしたら・・・?」

「いや、別に・・・。」

「気になる・・・。」

「うぐっ。」

私が問い詰めると、先生は降参したのか、溜め息をついて話始める。

「ラパンって、ちょっとつり目気味じゃない?それに瞳も赤いし、それでそんな風に言われたり・・・。」

「・・・。」

「い、いや、ゴメン!悪かった!ただの私の臆測だからさ・・・その・・・。」

「よかった・・・。」

「え?」

「私が、悪魔の生まれ変わりとか、そんなんじゃないんだ。」

「・・・ぷっ、あはは、なんだそれ!」

「先生?」

先生が急に笑い出す。

「先生ひどい、私、怖がられてるから本当にそうなんじゃないかと思って・・・。」

「え?ああ・・・。」

私の話を聞いた途端に先生の顔が急に暗くなる。

「そっか、そうだよな、訳も分からずに怖がられてるんだもんな・・・。」

「・・・。」

「だったらラパン、先生が保証する。」

「保証?」

「ラパン、君は『普通の女の子』だ。何処にでもいる、ただの『普通の女の子』だ。」

「・・・。」

「どう?」

「『可愛い』とか・・・『キレイな』・・・とかは無いんだ・・・。」

「え、あ、あぁ・・・。」

先生は困り気味に目を逸らす。

「そっか、そんな感じの期待してたか・・・ゴメン、気が回らなくて・・・うん、可愛いよ、ラパンは。」

「いいよ、そんな言われたあとに言ったって嬉しくない。」

つい頬を膨らませてそっぽを向いてしまう。

「悪かったって、何かやれることあったらするからさ、機嫌治してくれよぉ・・・。」

「じゃあ、その、頭・・・撫でてくれたら・・・・・。」

「え?なに?」

恥ずかしくてつい後半がゴニョゴニョになってしまって先生は聞き取れなかったみたいだ。

「もぉ・・・。」

「っ!」

先生は私の頭を撫で始める。

「何言ってるか分かんないけど、悪かったよ!別にラパンのこと悪く思って言った訳じゃないから!ね?」

「・・・。」

先生は必死に謝ってるけど私はもう全然怒ってない。

して欲しい事をしてくれたから・・・。

「?」

近くの人工芝の茂みからガサッという音がした。

音のする方をみると、女の子が茂みの中から此方を見てた。

「っ!」

女の子は私に気づくと慌てて茂みに潜って何処かへ行ってしまう。

「・・・。」

また嫌われたのかな・・・。

 

 

~ノワール 旧アークスシップ~

 

「はぁ・・・はぁ・・・!」

「くそっ・・・!」

なんなんだ、大型のダーカーがいないのにどうしてここまで手こずるんだ。

「いい加減にせい!!このっ!」

ネージュが杖から光の弾を発射する。

クラス、フォースのテクニック『イルグランツ』だ。

イルグランツはダガンを標的に飛んでいく。

「キィァアアアアア!!」

「!」

人型ダーカーが悲鳴にも似た金切り声を上げると、ダガンは急にイルグランツから逃げ始める。

光弾はダガンを追うがすぐに消えてしまう。

イルグランツは敵を追尾する光弾だが、弾速も弱く、あまり長距離を飛ばない弾丸だ。

明らかにその性質に合わせて動かれている。

普通のダーカーにはあり得ない動きだ。

「あいつか!」

明らかにあの人型ダーカーが指示を出している。

人型ダーカーに標的を絞り、一気に間合いを詰める。

充分に近付いてからサテライトエイムを放つ。

すると人型ダーカーは即座に後ろに跳び、間合いの外に逃げる。

やはりだ。

明らかに此方の動きを読まれている。

「逃げたのなら・・・。」

今度はエルダーリベリオンによる弾丸のラッシュを放つが、人型ダーカーはまるで近距離からの格闘の突きや蹴りを回避するかのように全てを紙一重でかわしてしまう。

「くそっ!」

何処までも鬱陶しい奴だ。

「く、来るなぁ!」

「!」

後ろからネージュの声がする。

見るとダーカー達に囲まれている。

「うああぁ!」

ネージュがやけ気味に杖を掲げると、球体のような光がネージュの周りをバリアのように包む。

テクニック『ナグランツ』だ。

光のバリアを突破しようとダーカー達は無理矢理進撃するが、バリアはダーカー達を弾き、近づけない。

「・・・。」

あっちはあっちで大丈夫そうだと思い、人型ダーカーに再び標的を移すが・・・。

「キィァアアアアア!!」

また金切り声を上げる。

何かダーカーに指示を出した合図のようだが、自身の周りを確認しても襲ってくるダーカーはいない。

「まさか・・・!」

ネージュの方を見る。

「と、止まれ!それ以上寄ったら・・・!」

ネージュに数体のキュクロナーダが襲いかかる。

まずい、人型ダーカーを深追いしたせいですぐに助けられる距離じゃない!

ネージュはナグランツを張っているが、キュクロナーダはその巨体に違わずタフなので、ナグランツ程度の攻撃には怯みもせず攻撃出来る。

「効かんのかこいつ!ならばこうじゃ!」

有効ではないと判断したネージュは、今度は一体のキュクロナーダに向けて杖の先を構えてテクニックを練る。

標的のキュクロナーダが自分の間合いまで詰めて、腕を振りかぶった瞬間。

「今じゃ!」

ネージュが練ったテクニックを解放すると、杖の先から鋭い槍のような光が放たれ、光はキュクロナーダの身体を抉るように貫く。

テクニック、『ラグランツ』だ。

当たり所が悪かったのか、キュクロナーダは一撃で倒れる。

「さて、今度は・・・!」

「バカッ!!避けろぉ!!」

「へ?」

ラグランツは光を一方向に集中して放つテクニックだ。

ナグランツの様に全方位はカバー出来ない。

それが意味するのは・・・。

「あ・・・。」

ネージュが気づいた時には遅かった。

別方向から襲ってきていたキュクロナーダが既に振りかぶっている。

「逃げろオォ!!」

必死に叫んだがそれも虚しかった。

ネージュは回避しようと身体をよじったが、そのわずかな時間に出来たのはそれだけで、キュクロナーダの横振りの凪ぎ払いを諸に喰らってしまう。

車に跳ねられた猫の様に吹き飛んで地面を転がるネージュはぴくりとも動かなかった。

「・・・!」

瞬時にフラッシュバックする光景があった。

大切な人間が何人も自分から放れた所で惨殺される光景だ。

すぐに我に返り後悔する。

俺のミスだ。

人型ダーカーが指示を出したタイミングでネージュの周りを警戒しなかった俺の判断ミスだ・・・!

「・・・。」

走る。

考えるのをやめて走る。

走る先は・・・。

「・・・。」

ネージュをやったキュクロナーダだ。

間合いまで近づくと即座に地面を蹴ってキュクロナーダの懐に飛び込むと同時に上半身の全体を思い切りぶつける。

フォトンアーツ『デッドアプローチ』、敵の懐に飛び込んで急所に渾身の体当たりを食らわせてスタンさせる技だ。

キュクロナーダが目を回している隙にサテライトエイムを顔面に何発も喰らわせる。

どんなにタフでもこれだけ喰らえば人溜まりもなく、キュクロナーダはアスファルトの地面に倒れる。

隙をついたつもりか、別のキュクロナーダが凪ぎ払い攻撃を後ろから仕掛けてくるが、跳んで回避し、その回避した体勢のまま弾丸を放ち、さらに他のキュクロナーダも攻撃を仕掛けてくるが、それも身を捩って回避し、回転しながら全ての方向へ弾丸を放つ。

回避と攻撃を合わせたフォトンアーツ、『メシアタイム』だ。

弾丸は数発それぞれキュクロナーダ達の目に命中しており、目を潰されたキュクロナーダ達は苦しみ悶えている。

「躊躇うな・・・殺せ・・・殺セ・・・!」

自己暗示をかけながら全方位に瞬時に弾丸を放つ。

弾丸は、全て放たれたその場に留まるが、俺が体内のフォトンを爆発させると、弾丸は、花火の様に放たれる。

フォトンアーツ、『シフトピリオド』。

四散した弾丸は苦しむキュクロナーダ達を一気に仕留める。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

キュクロナーダを全滅させて息切れをしている俺を『気はすんだか?』とばかりにダーカーは容赦なく囲む。

思い出す・・・この光景・・・!

「だからこれが罪滅ぼしなんだ・・・!」



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第四章 ~神託の白狐~

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

「・・・。」

まただ。

庭園のベンチで一人で本を読んでいるとまたあの子が草影から見ていた。

「あの・・・。」

「・・・!」

私が声を掛けると、女の子は草影に隠れる。

でも前みたいに逃げる様子はない。

「・・・あ。」

もしかして・・・。

「ねぇ!もしかしてこの本読みたかった?」

「・・・。」

女の子は少し顔を出す。

やっぱり・・・なのかな?

「一緒に見よう!」

慣れてない笑顔で誘ってみる。

「・・・。」

女の子は草影からゆっくり出てくる。

見た目は私と同い年くらいに見える。

特徴的なのは、長い金色の髪をポニーテールで纏めて私と同じ赤い瞳。

なんだかおどおどしてるのけど・・・もしかして警戒されてる?

というか、どうしよう。

なんて言えば良いんだろう。

まずは・・・。

「私、ラパン。あなたは?」

名前を名乗って名前を聞く。

初対面だし、やっぱりこれが自然な気がする。

「・・・ルナール。」

「ルナール・・・。」

そういえば私、孤児院の子達の名前、全然知らなかった。

この子が初めてだ、名前を聞いたの。

「よろしくね!ルナール!」

嬉しくてつい笑みが零れた。

 

 

~ノワール 旧アークスシップ~

 

「ハァ・・・ハァ・・・!」

全然数が減らない。

いくら銃弾を放ってもダーカー小型のダーカーは避けて行くし、中型のダーカーは盾持ちのガウォンダを筆頭に攻撃を防ぎながら徐々に間合いを詰めてくる。

「・・・。」

人型ダーカーは瓦礫の上から俺を静観している。

まるで闘技場を観戦するかのように。

「くそが・・・!」

あいつを倒さないとこの包囲網を抜けられない。

何より、ネージュにまだ息があるかも知れないのに、これじゃ確認しようもない。

「キィァアアアア!!」

人型ダーカーが号令の金切り声を上げる。

何をする気だ・・・!

「・・・!」

ダーカー達は全方位を取り囲む。

「くっ!」

全方位射撃のシフトピリオドを放つ。

だが突然ガウォンダ達が前に出て弾丸を全て防いでしまう。

この一瞬だった。

この瞬間、俺の射撃は途切れた。

その隙をダーカー達は逃さなかった。

ガウォンダ達の盾の隙間から羽持ちの中型の虫型ダーカー、エルアーダが腕の鎌を添えた突進を四方向から仕掛けてきた。

「うっ・・・!」

無理だ。

避けきれない・・・!

「!!」

突然、エルアーダ達が矢のような光に貫かれ、地に落ちる。

「・・・?」

エルアーダが倒れた隙に包囲を抜ける。

まさかと思ってネージュの方を見ると、予想外の光景が目の前にあった。

「お前・・・なんだ・・・その姿・・・!」

ネージュが異様な姿で立っていた。

いつもは軽装のコートを着ているのに、今は古い文献にあるような巫女のような服を着ている。

頭には狐のような耳が生えいつも被っていた帽子は金色のカチューシャに変わっており、背中にも狐のような尾がいくつも生えており、羽衣と合わせたその姿は、さながら古い神様を思わせる。

 

 

「我、現世に顕現せし、『氷(ひょう)』と『輝(き)』の魂、故に『雪』。」

 

 

「・・・。」

明らかに様子がおかしい。

「キィァアアアア!!」

「!!」

ダーカーが号令をかけてきた。

ダーカー達は一斉にネージュに襲いかかる。

「汝らの運命、我、語り聞かせん。」

意味不明な言葉と共にネージュはテクニックを練る。

「地を這う者は、地に縛られ・・・。」

ネージュの足元が徐々に凍り始めたかと思うと、瞬間的に周囲の地面が凍ってしまう。

地上にいたダーカー達は足を凍らされ、身動きを封じられる。

「天舞う者は、天に囚われ・・・。」

宙に舞っていたエルアーダは、急に動きが鈍くなったかと思うと空中でもがき始める。

よく見ると微細な光が糸状の網になってエルアーダを包み込んでいた。

網は頑丈なようでいくらもがいても取れないようだ。

「今、汝らに裁きが下る。」

身動きが取れなくなったダーカーの群れの左右に光の魔方陣のような紋章が現れたかと思うと、そこから数えきれない程の光の槍が現れ、ダーカー達に襲いかかる。

ダーカー達は最後まで逃れようともがいたようだが、身動きが取れず、槍に貫かれて全て死に絶えた。

「・・・。」

なんなんだこの力・・・。

今までアークスとして色んな奴を見たが、こんなテクニックを使うフォースは見たことがない。

「キィァアアアア!!」

「またか!」

人型ダーカーが金切り声を上げると、周りにダーカーが現れる。

「くそ、来るぞ!」

「立ち向かう者に我が目を与えん。」

「・・・?」

またネージュが意味不明な言葉と共に杖を天に掲げる。

「!」

青白い光が俺の周りを包み込み始めた。

「なんだ!?」

「我が目と汝は一つとなった・・・打ち倒して見せよ、迫りくる亡者を。」

「?」

「キィァアアアア!!」

人型ダーカーが金切り声を上げると、ダーカー達はまた襲いかかってくる。

「!?」

なんだ?

敵の姿がぶれて見える。

いや、その表現はおかしい。

本当にそうなら実体の後を残像が追いかけるはずだ。

俺がみえているこれは実体が残像を追いかけているように動いている。

「・・・。」

ダーカーの群れに飛び込む。

ガウォンダの残像が盾を振って殴る動きが見えたので、先に避けて背中に回り込む。

実体が盾を振った頃には既に銃を構え、サテライトエイムを背中のコアに当て、難なく仕留める。

横を見ると様子見に飛び回っているエルアーダがいる。

仕掛けてくる残像は無いので距離を詰める。

すると残像が後方へと移動する。

回避の動きだ。

実体が動き出したとき、それに合わせて俺はデッドアプローチで一気に距離を詰めて体当たりを腹部のコアにぶつける。

エルアーダが目を回す間もなく踵落としで地面に叩きつけ、バレットスコールの雨を喰らわせる。

「敵の動きが・・・分かる。」

ダーカーの動きは人型ダーカーの指揮によって統率は取れていた物の、先の動きが見えるのであれば、全て倒すのは容易かった。

「さぁ、残るはお前一人だな、人型。」

銃を人型ダーカーに構える。

「ク・・・キキ・・・!」

「・・・?」

聞いた事もない声を発している。

「何がしたいんだ!!」

即座に人型ダーカーに詰め寄る。

今度は動きが見えるんだ。

何をしようが・・・。

「?」

残像が見えない。

動かないのか?

「死ね!」

サテライトエイムを放つ。

だが人型ダーカーは一瞬遅いが後方に跳んで回避する。

「!」

有り得ない。

奇想天外な能力を付与されておいて言うのもなんだが、有り得ないことは分かる。

「キキ・・・。」

人型ダーカーはまた後方に跳ぶと、赤黒い霧に包まれて消えた。

逃げたようだ。

「・・・。」

ネージュを見る。

「その力・・・まさか・・・。」

「戯れる時間など無きに等しい。逃げし亡者、更なる群を纏いてこの地に参らん。」

「・・・。」

妙な話し方だが、段々意味が分かってきた。

「『もたもたすりゃ増援がくる』ってことか。」

「この地を去るに、我は知識を持たず、汝に全てを委ねよう。」

「『脱出方法は俺が決めろ』ってか。」

まぁ、それくらいなら考えはある。

まず、此処はダーカーに浸食されたとは言えアークスシップ、ならキャンプシップがあるはずだ。

だが、キャンプシップはこの民間居住区ではなく、アークスロビーのゲートエリアしかない。

しかも民間居住区はアークスシップによって街の造りも違ってくる。

自分の所属するシップならまだしも、他所のシップの居住区を歩こう物なら、それこそ迷路を歩くような物だ。

しかも普段は管制からのナビゲートがあるため、ある程度の地形の把握は出来るが、こんな状況ではそれも望めない。

どうすれば・・・。

「汝の考え、概ね理解した。」

「え?」

俺は頭の中で考えただけで何も言ってない。

心を読まれたとでも言うのか?

「我には分かる。汝の目指す場所が・・・標を与えよう。」

道案内・・・?

どうするつもりだ?

「うっ!?」

急に辺りが眩しい光に包まれる。

あまりに眩しく、瞑ってしまった目を開くと・・・。

「なんだ・・・これ・・・。」

目の前には光で出来た線が道路のラインのように敷かれていた。

「・・・これに添って行けってことか?」

「・・・。」

ネージュに尋ねるが、ネージュは返事はおろか、頷きもせず、いまいち判断が難しい。

「くそっ、行くしかねぇか・・・。」

他に宛はないのなら従った方がいいかもしれない。

そう判断して走る。

ネージュの様子がおかしいので少し後ろを見たが、ちゃんと走ってついてきているみたいだ。

色々不安はあるが、考えても仕方がない。

俺達は市街地を突き進んだ。

 

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

最初はおとなしい子だと思ってた。

けど違った。

「カッコいいよね!キャストのマリアさんって!」

「う、うん。」

ルナールは活発で凄く元気な子だった。

将来アークスになるのが夢みたいで、私が見ていた本が偶々アークスの記録を元にした冒険譚だったから余計に火が着いちゃったみたいだ。

「私、アークスになったら絶対にハンターになる!」

「うん・・・なんか、ルナールにはハンター合ってる気がする。」

「ホントに!?」

「うん、だって戦うとき一番に前出ていきそうだし・・・。」

「むぅ、それって向こう見ずってこと?」

「い、いや、そうじゃなくて・・・それに、そんな感じで勢いよく飛び出す人がいたら、みんなも勇気出て戦えるんじゃないかな・・・なんて。」

「そうかな・・・エヘヘ。」

「ふふ。」

なんか、同い年の子と話すことなかったから、楽しいな。

「そういうラパンはフォース向きじゃないかな。」

「え?」

「だってラパン、本たくさん読んでて色んなこと知ってるし、頭良さそうだもん。そんな子が後ろから色々サポートしてくれたら、前に出ても安心そうだもん!」

「そう・・・なのかな・・・。」

「うん!もしかしたら私達、アークスになったらいいコンビになるんじゃないかな!」

「わ、私、まだアークスになるって決めたわけじゃ・・・。」

「え?じゃあ研究員とか?学者?」

「え、えーと・・・。」

別に研究員になって何かを研究したい訳じゃないし、学者になるほど勉強したい訳じゃない。

そもそも・・・。

「私、ルナールみたいに将来、何になりたいとか、考えたことなかった。」

「そうなの?」

「だからルナールのこと、素直にスゴいと思うよ。ちゃんと前見てる気がする。」

「ちょ、ちょっと。なんか照れくさいよ!エヘヘ。」

「ふふ。」

笑いあっていると、鐘が鳴る。

「あ、夕飯の時間!」

「行こっか。」

「うん!」

「!?」

ルナールは無意識なのか、私の手を引いて走る。

「・・・。」

こんなことされたの生まれて初めてでびっくりしたけど、なんだか凄く嬉しかった。

 

 

~ノワール 旧アークスシップ 市街地~

 

認めざるを得ない道案内だ。

ネージュが指し示した道は、単にこの市街地を脱出するルートと言うだけじゃない。

「!」

真っ直ぐに行く道が右に切り替わる。

俺は疑いもせず右に走る。

「・・・。」

走りながら後ろを見る。

先程正面からの道の先からダーカーがゾロゾロと進軍し、キョロキョロと旋回している。

そう、無駄な戦闘を避けるルートでもあるのだ。

「・・・?」

光のルートが途切れる。

「どういうこと・・・だ!?」

急にネージュが服の布を掴んで瓦礫の陰に隠れる。

「・・・!そういうことか。」

瓦礫の陰から道の先を見て納得する。

居住区からアークスエリアへ通じる検問所があるが、そこにダーカー達が群れを成していた。

「さすがにゴールの守りは硬いか。」

「術(すべ)は我に有り。」

「何か策でもあるのか?」

「・・・。」

何も言わない。

全く、言わなきゃ分かんないだろ・・・ってちょっと待て。

なんかネージュの姿がブレ始めたかと思うと、二人になり、すぐに三人、四人と増え、五人に分裂する。

「マジか・・・。」

ネージュ達(?)は一人を残してダーカーの群れの方へ走っていく。

そのまま、まるで軍隊の一斉射撃のようにイルグランツをダーカーの群れに放つ。

突然の不意打ちに何体かのダーカーは死滅するが、生き残ったダーカー達はネージュの群れに襲いかかる。

しかしネージュ達はダーカー達を器用にすり抜けて二手に別れて散るように走っていく。

ダーカー達は見張りにガウォンダを残してネージュ達を追いかけていく。

「好機・・・。」

「ったく、陽動なら陽動って言えよ!」

悪態をつきながらも走り出す。

ネージュがガウォンダにイルグランツを放つが、ガウォンダはそれを止める。

その間に俺が後ろに回り込み、背中のコアにサテライトエイムをぶちこんで仕留める。

「おい、あの逃げていったのはいいのか?」

「亡者が追うは偽りの光。時を経て原初に還る。」

「・・・。」

『偽物(フェイク)だから次期消える』か。

だったら心配ないな。

「・・・行くか。」

検問奥にある転移用のテレパイプに俺が歩を進めると、ネージュが手を伸ばして止める。

「なんだ?」

「門を潜れば数多の亡者の牙にてその身が裂かれよう。」

「?」

『ゲートを潜ったらダーカーにやられる』?

待ち伏せされてるってことか?

どうすれば・・・。

「・・・!」

俺は自分の頭の上を飛ぶマグに目が行く。

『マグ』、サポートパートナーと同じく特定の試験任務をクリアすることによって得られる小型のサポート機体で、状況によって様々なサポートをしてくれる存在である。

こいつの『アレ』を使えば・・・。

 

━━━数秒後

ダーカー達は転移先の位置を囲んで俺達が来るのを今か今かと待っていた。

そして俺達の姿が現れた瞬間、ダーカー達は一斉に襲いかかる。

だが・・・。

 

 

「かき集めろ!!『ユリウス』ッ!!」

 

 

俺が呼び掛けるとマグは光り出し、その小さな姿は変化し、大きさは俺の三~四倍、腕が六本ある幻獣に変わる。

『フォトンブラスト』、マグを成長させることにより行使できる言わばアークスの奥の手である。

マグを幻獣の姿に変え、一時的にではあるが、その強大な力を使わせることができる。

幻獣の姿は様々で、成長するマグによって異なる。

俺のフォトンブラストの幻獣は『ユリウス』。

姿を消して闇討ちしたり、暗器を空から降らせたりと奇襲に特化した幻獣だ。

ユリウスはその六本の腕を大きく広げると、その目の前に大きな光の球体が現れる。

球体はまるでブラックホールのように敵を吸い込んでかき集める。

「汝ら、氷獄にて散るが運命(さだめ)。」

ネージュが杖を掲げると、吸い寄せられたダーカーの周りに冷気が現れ、瞬時にダーカー達を巨大な氷に閉じ込める。

凍ったダーカー達は次第にヒビが入り、瞬時に粉々に砕け散った。

「良いとこ取りな上にえげつねぇな・・・。」

ボソッと本音を漏らしつつ走る。

どうやらここはアークスロビーのショッピングエリアのようで、キャンプシップのあるゲートエリアは目と鼻の先だった。

すぐに転移用のゲートに走り、ゲートエリアに移動する。

「まずは・・・!」

キャンプシップは管制からあらかじめ行き先を設定されて動く自動操縦だ。

まずはミッションカウンターからアクセスをかけ、行先の座標を設定し、発進命令を出さなくてはならない。

ミッションカウンターの仕切りの台を飛び越え、キャンプシップにアクセスしようとするが・・・。

「これは・・・!」

端末は愚か、管制装置全体が侵食されており、操作が出来ない。

あちこちでダーカーの侵食核があるが、壊そうと銃を使えば装置に当たって壊しかねない。

「どうすれば・・・。」

「我が光にて、閉ざされし扉、開かれん。」

ネージュが言葉を発すると、柔らかな光が広がり、カウンター全体を包み込む。

すると侵食核がまるで萎れた花のように萎んで消えていき、侵食が晴れていく。

「・・・。」

思わず立ちすくんだがすぐに我に返る。

こいつの力は何でもありかよと今更ながら思う。

「・・・とにかく!」

すぐにキャンプシップにアクセスをかけ、行き先の座標を検索する。

「行き先は・・・決まってんだろ・・・!」

マザーシップ。

そう、俺達の目的は此処の脱出だけじゃないんだ。

二分後に発進するように設定する。

「・・・!」

警報が鳴り出した。

するとダーカーがロビー中に沸き始める。

「くそっ!」

戦っている暇はない。

急いでゲートを潜る。

いつも何の気なしに任務に行く行動なのに、こんなに肝を冷やすのは初めてだ。

すぐに幾多に並ぶテレパイプのうちの一つを潜り、キャンプシップの内部へ転移する。

発進までは時間がかかるが、追ってきていたダーカーが乗り込んで来る気配はない。

どうやらテレパイプを潜れないみたいだ。

キャンプシップに中から先頭の操舵室へ向かい、前の様子を見る。

キャンプシップの格納庫のシャッターが徐々に開き始め、開ききるとキャンプシップは動きだし、徐々にスピードを上げて宇宙へと飛び出した。

脱出成功だ。

「ふぅ・・・。」

力がどっと抜けたが、ネージュのいる船の出入口へ行く。

「・・・。」

ネージュは狭いフロアの真ん中でまるで来るのが分かっていたかのように俺の方を見ていた。

「・・・俺も恩を感じないほどクズじゃねぇ。礼くらいは言うぞ。」

「全ては終わり、我、再び眠りにつく。」

「は?眠りに・・・うわっ!?」

ネージュは急に光りだしたかと思うと先程の神のような姿から元の帽子とコート姿に戻っていた。

そのままネージュは倒れる。

「・・・。」

念のために確認したが、息はある。

「う、うーん・・・。」

「・・・。」

目を覚ますか?

「く、苦しい・・・。」

「!」

なんだ!?

「おい、大丈夫か!?」

さっきの力の副作用か!?

「暑・・・苦しい・・・のじゃぁ・・・。」

「は・・・?」

暑苦しい?

「『六芒均衡』って・・・こんな・・・キャラ・・・濃い奴らばっかり・・・なのかぁ・・・?」

こいつまた変な夢見てるな・・・。

「・・・ハァ。」

怒りの混じったため息が出る。

どうやら元のアホに戻ったみたいだ。

とりあえず安心するとネージュの元を離れ、外の風景を眺める。

こいつのこの力・・・まさかとは思うが・・・。

 

 

「『神託のフォトン』・・・継承者がいたなんてな。」

 

 



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第五章 ~忠犬と狂犬~

 

~ノワール キャンプシップ~

 

「ほら、起きろアホ。」

「んがっ!」

通常通り頭を蹴るように小突いて起こす。

ネージュは頭を擦りながらむくりと上半身を起こす。

「・・・んん?此処はどこ・・・わしは・・・。」

「・・・。」

既に拳を構えている。

「お、起きました・・・ゴメンナサイ。」

「よし。」

「・・・。」

ネージュは辺りをキョロキョロと見渡す。

「わしが気絶してる間に脱出出来た・・・って感じじゃな・・・なんか・・・。」

「・・・そうなるな。」

「むぅ・・・此処で活躍しとりゃノワールにデカい貸し作れたのに・・・なんじゃ・・・また助けられただけなのか・・・。」

「・・・。」

実際何度も助けられたわけだが、あれはこのアホがやった訳じゃない・・・。

だからノーカンだ。

そう自分に言い聞かせるしかない。

何せ調子に乗ると何処までも調子に乗る奴だ。

付きまとわれる身なりによく知っている。

「・・・。」

ネージュは何やら自分の胸や太股をぺたぺたと触り出す。

「・・・何してる。」

「ノワール・・・。」

目をギラリとさせ、にやけながらこっちを見る。

「あ?」

「わしが寝とる間に人には言えないあーんなことやこーんな事しとらんじゃろうな。」

「いやお前みたいなアホに手出すとかないからマジで。」

「返し方冷静すぎるのじゃ貴様!!そこちょっとは動揺するとこじゃろ!?なんか傷つくのじゃぁ!!」

余りに女として敗北感があったのか、半泣き状態で喚いてくる。

「知ったことか。ほら、バカ話してる間に着くぞ。」

キャンプシップがマザーシップの格納庫に入ると、シップ内の滑走路を通って止まる。

『ノワール、ネージュ、二名搭乗のキャンプシップ到着を確認しました。』

管制から通信が入る。

「大至急ウルク総司令に会いたい。渡す物が・・・。」

俺が言伝てを頼もうとした瞬間・・・。

「今すぐキャンプシップを降りて投降してください。貴方達には反逆罪の容疑が掛かっています。」

「は・・・?」

 

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

昨日の庭園でまた一緒に本を読もうって約束してたけど、ルナール遅いな。

「・・・。」

ちょっと気になって探して見ることにした。

部屋にはいない。

リビングにもいない。

図書室にもいない。

食堂にもいない。

「・・・?」

「・・・!ーー!!」

入れ違いになってルナールが庭園に着いたのかと思って戻ろうとしたとき、誰かの声が聞こえる。

見ると物置の近くで何人かの子達が何かを囲んでいた。

「・・・!」

囲んでいるのはルナールだ。

それを数人で何かを非難するかのように怒鳴っている。

「ルナール!!!」

「・・・!」

私が叫ぶと囲んでいた子達がこっちを見る。

「あんたたち・・・なにしてるの・・・?」

「・・・。」

「ねぇ!!」

「・・・行こ。」

一人がそう言うと、周りの子達も一斉に何処かへ去っていく。

「・・・。」

これってもしかして・・・。

「ルナール・・・。」

「あはは、ごめんね、待ち合わせ間に合わなくて。」

「そんなのどうでもいい!!」

「っ!」

私が叫ぶとルナールは目を丸くしてびっくりする。

「もしかして私のせい・・・?私と話してたから・・・?」

「ち、ちがうちがう!!昨日、えっと、焼却炉で火焚いてる時に近づいちゃダメって先生に言われてたのに近づいてたの見られてたみたいで・・・。」

「・・・。」

ルナールはすごく無理して笑ってるように見える。

全然信じられる気がしなかった。

「・・・。」

「行こ!ラパン!」

「ルナール・・・。」

「な、なに?」

「私、何があってもルナールの味方だからね。」

本心を言った。

けどルナールは困った顔で・・・。

「もう、訳分かんないよ!」

笑ってた。

 

 

~??? マザーシップ 司令室~

 

オフィスの端末を着けて報告されているデータに目を通す。

『反逆者ノワール、ネージュ、マザーシップに侵入。現在包囲の上、投降勧告中』・・・ね。

反逆者さんの片方の性格を知っているだけに、先の展開が見え透いてしょうがないんだけど・・・。

「大変です!!」

アークスの連絡員が急いで部屋に入ってくる。

「反逆者二名、勧告を無視して包囲を突破しました!」

「・・・やっぱりね。」

「隊長?」

「今いくよ!」

久しぶりの再開だ。

丁重におもてなししないとね。

 

 

~ノワール マザーシップ 回廊~

 

「ハァ・・・ハァ・・・。」

マザーシップの中を走る俺達。

「の、のうノワール・・・。」

「休憩するなら置いてくぞ。」

「いや、そうじゃなくてじゃな・・・。」

「なんだ・・・手短に済ませろ。」

「わしら、なんで反逆者なんじゃ・・・?」

「知るか。大方此処の奴らが研究員の奴らにデタラメ吹き込まれたんだろ。」

「だったらわざわざ逃げんでも良かったんじゃないのか?」

「なんでだよ。」

「『わしらなんにも悪いことしてません!』って言えば・・・。」

「信じる訳ねぇよ。」

「なんでじゃ!やってみなきゃ・・・!」

「俺らが此処に来るまでに連中にはかなり有余があったはずだ。でっち上げのネタなんて山程用意できる。法廷に立てば間違いなく連中の思う壺だ。」

「むむむ・・・じゃあ・・・今わしら何処に向かっとるんじゃ!」

「ウルク総司令の所だ。当初の予定通り、データを届ける。」

「総司令は、反逆者のわしらが出した物、信じるのか?」

「多分信じるさ。連中がどんなに嘘吹き込もうがな。」

「なんでそんな、信じられるのじゃ?お主総司令と知り合いなのか!?」

「全然。」

「ずごっ!!」

ネージュは思わずコケそうになる。

「知らんのになんなのじゃ貴様のその自信!!」

「知り合いじゃないが、どんな人間かは知ってる。」

「へ?」

「ウルク総司令は昔・・・ッ!!」

話そうとしたが、背中からくる殺気に反応し、攻撃を止めた。

「・・・!」

カタナだ。

しかも受け止めて分かった。

一撃が鋭い。

カタナを振るって来た奴は手練れだ。

「あれぇ、今の絶対油断してたと思ったんだけど・・・。」

「・・・。」

カタナの持ち主は前に見た時と風貌は変わっていたが、その金髪と色黒な肌に見覚えがあった。

男はカタナを鞘にしまうと、白いコートを埃を払うように叩いて此方に向きなおす。

「やあ、久し振り。」

男は気さくに挨拶するように手を翳す。

「・・・お前誰だっけ。」

「とぼけても無駄だよ。ノワール?」

バレバレみたいだ。

「おかしいな。前はこんな格好してなかったはずなんだが・・・。」

「君のその銃さ。」

「・・・。」

「え、銃?」

男に指摘されてネージュは中腰になって俺の手に持っている銃を眺める。

「通常の青色とは違い、灰色の光弾を打ち出す、スカルフェジサー『モデルゼロ』・・・テスト段階で五人のうち四人のモニターの命を吸いとった曰く付きの試作品。その銃を持ってるのはアークスで・・・いや、この世でお前一人だよ、ノワール。」

「チッ・・・使いやすいから使ってるけど、こりゃ新調も考えるかな。」

「ノ、ノワールの銃ってそんなおっかない物なのかあ・・・?というかノワール、あやつ誰なのじゃ?」

「セト、昔のちょっとした知り合い・・・。」

「その言い方は無いんじゃない?かつての相棒に対して。」

「あ・・・相棒!!!?」

「・・・。」

めんどくさくなったせいか、頭が痒くて掻きむしる。

あーもう、だから嫌なんだよなあ、こいつ・・・。

 

 

~エスカ マザーシップ 研究ラボ~

 

「もしもし、起きてます?まぁ寝ても起きても一緒でしょうけど。」

ウィルの声がする。

何も見えない。

目隠しをされてるわけでもない。

ただ目の前に明かりがあることしか分からない。

そしていま自分が椅子に座っているのか、ベッドに寝かされているのかも分からない。

何も分からない。

「あなたのスレイヴデューマンになった経歴調べて驚きましたよ!よく今みたいにアークスできますね!」

「・・・。」

言葉も出せない。

言いたい事は山程あるのに。

「かつての種族はヒューマン、職業殺し屋。罪状は『アークス殺害未遂』。前科も合わせれば、これはスレイヴデューマン直行コースですね。」

「・・・。」

うるさい。

黙れ。

「しかも、スレイヴデューマンになってからも戦闘力がかなりあったせいか、どんな過酷な状況になっても自爆する事態に陥らなかった。いやあ、頼もしい!これからその力を奮って貰えるとなると嬉しいですよ!」

嫌だ。

こんな奴の手駒になんかなりたくない!

「おや、この脳波・・・まだ嫌がってるんですか?意識もほとんど無いのにあきらめ悪いですねぇ・・・仕方ない。」

手をパンパンと二回鳴らす音が聞こえる。

「装置の出力上げてください。それと、投薬の量も増やして・・・『死んでしまう』?大丈夫ですよ。彼女思ったより頑丈みたいですし♪」

嫌だ・・・。

嫌だ・・・。

嫌だ・・・。

私は・・・もう・・・。

 

 

~ノワール マザーシップ 回廊~

 

さっきからセトと幾度に渡ってカタナと銃で撃ち合う。

ネージュはさっきからイルグランツなどによる援護射撃の機会を伺っているようだが、俺達が動き回るせいで誤射を恐れているのか、手が出せずおろおろしているようだ。

「!」

セトに間合いを詰められ、カタナを抜かれたので銃で止め、鍔迫り合いの状態になる。

「今一緒にいる子は新しいパートナー?それとも彼女?」

「いや全然全く。」

「だから貴様なんでそこ冷静に返すのじゃぁ!!少しは動揺しろ!!傷つくの通り越してムカつくのじゃぁ!!」

坦々と返すと後ろからわめき声が聞こえる。

「お前どっちの味方だよ・・・。」

「はは、面白いしゃべり方する子だね!」

「変な奴だろ?」

「面白い子だね♪」

「なんでわしばっか弄るのじゃぁ!!」

脚でセトを弾いて鍔迫り合いに状態を放す。

「ガンナーになってから接近戦でも上手く打ち込めなくなったねぇ・・・昔みたいにライフルとかガンスラッシュとか使ってくんない?」

カタナのコーティングの状態を確認しつつ、軽口を叩くセト。

まだ余裕がありそうだ。

「んな事誰がするか・・・そう言うてめぇは武器が小振りになったせいでひねくれた打ち込みが更に磨きがかかってんじゃねぇか。」

「はは、誉めても何も出ないよ!」

「貶してんだよバカッ。」

「まぁまぁ、そんなつれない事言わないでさッ!」

セトは思いっきり間合いを詰めてくる。

カタナを振って来るが、俺はそれを回避し、銃弾を放つ。

セトも身体をずらして回避し、続けざまにカタナを振る。

その繰り返しでラッシュを繰り返していると・・・。

「!!」

突然イルグランツの光弾が放たれたため、セトと俺は互いに間合いを開け、回避する。

「おいアホ!俺まで殺す気か!!」

「アホはどっちじゃ!!こんなことしとる場合か!!それにセトとか言ったか?」

「うん?」

「わしらを捕まえようとするならお門違いなのじゃ!!わしらは寧ろ本当に悪い奴ら捕まえて欲しくて此処に来たのじゃ!!」

「・・・へぇ。」

ネージュの言葉にセトは俺とネージュを交互に見る。

「はぁ・・・ふーん、ふむふむ。」

セトはカタナを鞘に納める。

「面白そうな話だね。聞かせてよ。」

「・・・はぁ。」

めんどくさいが一通り説明した。

「なるほど、スレイヴデューマンね。研究所の奴等まぁたそんな事してんのか。」

「ああ、データを本部に届けようとしたらこの有り様さ。連中は余程データを見られたくないらしい。」

「ふむ。」

セトはカタナの鞘から手を放す。

「行きなよ。」

道を開けるように避ける。

「いいのか?幹部が反逆者見逃すようなことして・・・。」

「心配ない、お前が全て片付ければ問題ないことだろ?それまで適当に言い訳はしとくさ。いざとなったら自分に傷をつけてお前にやられたことにするから。」

「・・・お前ホント最悪だな。」

「お前に言われたくないよ。『暴食の幽霊』君。」

「昔馴染みを悪名で呼ぶか普通。」

「はは、行けよ。」

「ケッ・・・。」

セトの横を通りすぎようとするが・・・。

「・・・。」

ネージュは途中で立ち止まる。

「どうした?」

「お、恩に着るのじゃ。」

ぺこりと頭を下げる。

「いいよ。僕は仕事を全うしてるだけだからさ。それより、今度会ったら最近のあいつのこと、色々聞かせてよ。」

「おう、任せるのじゃ!!」

一通りやり取りを済ませるとすぐに俺のあとを追った。

 

 

~院長 民間居住区 孤児院~

 

孤児院の地下には女神の像がある。

古い文献に載っている神を象って作られた像だが、実のところ、私はどんな神なのか知らない。

この孤児院の院長であり、神父でもある者として恥ずかしい話だ。

だが、私にとっては知っているいないはどうでも良いことなのだ。

人は神の全てを知らなくてもいい。

人は必ずしも同じ考えを皆が持っている訳ではない。

だから神を信仰する者は、各々の意志や理由で信仰すればいい。

それが私の考えだ。

そしてこの女神の像は、見れば見るほどこの世の人に対する慈悲を感じる。

地下に在りながら天に向かって祈りを捧げるその姿は、まるで地上に居る者の幸せを願って居るように見える。

この像がこの孤児院に置かれている理由は、きっと此処に預けられる子供たちを見守る為なのだ。

だからこそ私は今こうして祈りを捧げる。

「今日も子供たちを見守っていて下さい。そして願わくは、子供たちに真の幸せを見つけられるよう、私を導いて下さい。」

そう、私には責任がある。

此処に引き取られ、この孤児院を前の院長から引き継いだ際に誓った。

預けられた子が新しい里親を見つけられるように、叶わずとも成人となってそれぞれで自立して行けるまで責任を持って面倒を見る。

それが私の・・・。

「先生やっぱり此処にいた!!」

「あ、ルナール!」

入口からルナールとラパンが入ってきていた。

「どうした?何か用かい?」

「ラパンがさ!先生に会いたいってさ!」

「ちょ、ちょっとルナール!!」

ラパンは顔を真っ赤にしてルナールに怒る。

「あはは!」

思わず笑ってラパンの頭を撫でる。

「すっかりルナールと仲良くなったね!」

「うぅ・・・。」

ラパンは恥ずかしそうに目を反らす。

「ラパンだけずるい!先生私も!!」

「はいはい!」

ルナールの頭も撫でる。

「エヘヘェ♪」

「ルナールもありがとう。これからもラパンと仲良くしてやってくれ!」

「もっちろん!!」

本当にルナールには感謝の言葉もない。

今のラパンに必要なのは『友達』なのだから。

こうして私の悩みが一つ減った。

だが、これで全て解決した訳じゃない。

ラパンには、この孤児院の子達に仲間として受け入れて貰わないといけない。

一緒に暮らす以上、私達は等しく『家族』なのだから。

 

 

~ノワール マザーシップ 回廊~

 

「のお、ノワール。」

「今度はなんだ。」

相変わらず走っていると唐突に言ってくるなこいつ。

「さっきセトの奴が言ってた、『暴食の幽霊』ってなんじゃ?」

「知るか。」

説明がめんどくさい。

どうせアホだから適当にはぐらかせば・・・。

「さっきお主自分で『悪名』って言っとったじゃないか。知っとるからそう言ったんじゃろ?」

「ぐっ・・・。」

流石にこれでスルーするほどにまでアホじゃないか、くそ・・・。

「・・・ハァ、言えばいいんだろ。」

「おう!話すのじゃ!」

「任務でダーカー必要以上に狩るから『暴食』。帰還命令無視してアークスシップにほとんどいないから『幽霊』。」

「なんじゃ、みから出た・・・ミから出た・・・ドレミ?」

「ピアノかッ!・・・『身から出たサビ』って言いたいのか?」

「そう!それじゃ!ざまあないのう!」

「語学力なくてアホって言われるよりマシだ。」

「貴様何回わしのことアホって言えば気がすむのじゃぁ!!」

「お前のアホが治るまでだ、つまりは一生言う。」

「えーっとそれってつまり・・・あ!貴様!!遠回しにわしのこと『アホが一生治らない』って言ったな!!」

「アホにしちゃよく分かったじゃねぇか。」

「んぬぇーッ!!バカにしおってえええ!!」

「無駄話はここまでだ。そろそろ最深部につくぞ。」

「うぇぇ・・・やっとかぁ・・・。」

ネージュが安堵の溜め息を着こうとしたその時だ。

「!」

咄嗟にネージュを捕まえ、そのまま押し倒す。

「なっ!?」

ネージュは余りに唐突な出来事に驚いている。

「き、きき、貴様!わしに手を出さんとか言っておいて・・・い、いや、それ以前にこ、ここ、心の準備が・・・。」

顔を真っ赤にして慌てふためくが・・・。

「黙れ・・・アホ・・・少しは緊張感持て・・・。」

「へ・・・?」

「・・・。」

ゆっくりと立ち上がり、目の前に向き直す。

「・・・!」

後から立ち上がったネージュは俺の背中を見て目を見開く。

俺の背中には斜めに大きく刃物で切りつけられた傷痕があった。

「お主・・・ケガが・・・いや、それよりも・・・!」

背中の傷痕からは血は出ておらず、電気の火花が飛び散り、幾つか切れた配線が露になっていた。

そう・・・俺は・・・。

「お主・・・キャストなのか・・・?」

キャスト、身体が機械の種族だがロボットと言う訳ではなく、人間に必要な臓器もある、言わばサイボーグだ。

本来のキャストはそれ特有のロボットの様な見た目をしているが、俺のように希に人と同じ形状の身体の奴もいる。

「ったく・・・つまんねぇネタばらしさせやがって・・・しかも・・・。」

俺の目の前にいるのは・・・。

「・・・!!?」

ネージュは目の前の刺客に顔を青くさせる。

「エスカ・・・・・・?」



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第六章 ~罪人と友人~

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

「・・・!ーーー!」

「!」

まただ。

ルナールが物置の裏で皆に怒られてる。

「・・・。」

気になって様子を見ることにした。

物陰に隠れて耳を澄ましてみる。

「だから、ラパンはそんな怖い子じゃ・・・。」

「怖いとか怖くないとかじゃない!まだ安全って決まった訳じゃないんだよ!?私達、あんたの為に言ってるんだよ!」

「でも、普通に話してるし、近くにいたってなんにも・・・。」

「何か起こってからじゃ遅いんだよ!ルナール、頼むからあいつに近寄らないでくれ。オレたち心配なんだよ!」

「・・・・・・。」

どういう・・・こと?

私、危険な子なの・・・?

私にすら分からない、なにか危ない事を・・・あの子たちは・・・知ってるの・・・?

「ラパンは普通の女の子だよ。」

「普通なわけない!だってあいつ・・・!」

「ッ!」

怖くてこれ以上何も聞けなかった。

私は耳を塞いで走った。

ただひたすら、あの子たちの声が聞こえない場所を目指して走って、寝室に逃げ込む。

「ハァ・・・ハァ・・・!」

呼吸が落ち着かない。

走って疲れただけだよね・・・?

「・・・ッ!」

自分のベッドに飛び込み、毛布で身をくるむ。

「・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

それでも呼吸が落ち着かない。

それに今度は寝転んだせいで分かる。

震えも止まらない。

歯もさっきからカチカチ言っている。

「私・・・なんなの・・・?」

『ラパン、君は『普通の女の子』だ!どこにでもいる、ただの『普通の女の子』だ!』

不意に先生の言葉を思い出す。

先生・・・なんであんな事言ったの・・・?

私に言い聞かせる様に言ったあの言葉は嘘なの・・・?

私の前で見せてくれたあの笑顔が私の中でガラスの様に砕けそうになる。

「違う・・・先生は・・・先生は・・・!」

右手で胸を必死に握り締め、自分を叱咤する。

先生は私を迎え入れてくれた人だ。

あの人を信じなかったらもう私には信じられる人間なんていない・・・!

そんなのあんまりだ!

「怖い・・・!」

先生の言った事が本当なのか・・・あの子達が言ったことが本当なのか・・・私には分からない。

怖い・・・。

怖い・・・。

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い

 

 

怖い!!

 

 

 

~ノワール マザーシップ 最深部前~

 

「よりによってお前かよ。」

エスカに向かって銃を構えながら皮肉を吐く。

「エスカ・・・冗談じゃよな・・・。」

ネージュの声が震えている。

「・・・ぃ・・・・さぃ・・・・・・。」

エスカは何かブツブツ言っている。

「これは・・・。」

俺には最悪の事態しか頭に浮かばない。

「いやぁ、間に合って良かった良かった!」

奥から声が聞こえたかと思うと、男が一人姿を現す。

研究員の白衣を着ている、恐らくは今回のスレイヴデューマンの・・・。

「貴様、研究員の奴か!」

「ええ、はじめまして。この度彼女を調整させていただいた・・・。」

「『ウィル』だろ?」

「おや?」

ウィルはその細目で物珍しそうに俺を見る。

「あなた、どこかで会いましたっけ?」

「安心しろ。初対面だ、だがエリックには聞いたことがある。エグい人体実験を繰り返すゲス野郎がいるってな。」

「それはまた人聞きの悪い・・・。」

「今回のスレイヴデューマンも大方お前が主犯格だろ。」

「主犯格・・・まるで悪い事してるみたいじゃないですか。これも人類の未来を思ってしていることなのに・・・。」

「それが『これ』か・・・?」

エスカに視線を戻す。

「彼女の『再調整』には時間がかかりましたよ。まぁ、あなたたちに『不慮の事故』があったおかげで時間には充分余裕がありましたけど・・・。」

「ああ、『不慮の事故』だったな。乗ってるキャンプシップがスレイヴデューマンに自爆テロされるなんて最悪な『不慮の事故』だ。」

「もしかして怒ってます?」

「怒っちゃいないさ。俺も大人だからな、そんな些細な事で怒らないさ・・・ただ。」

銃をエスカに構えたままウィルを睨む。

「てめぇ人並みに楽に死ねると思うなよ・・・?」

 

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

気分が晴れない。

庭園のベンチで本を読む気にもなれず、横たわっていた。

「ラパン!お待たせ!」

「・・・。」

ルナールの方に視線を移すが、返事を返す気になれない。

「どうしたの?元気ないね!」

「ルナール・・・。」

「?」

ルナールはキョトンとして私を見る。

「おい!ルナール!!」

「!!」

近くで怒鳴る声が聞こえてそっちを見ると、男の子と数人の子達が物凄い剣幕で此方を見ていた。

「ちょっと、まずいよ・・・!」

子供の一人が怒鳴った男の子を必死に止める。

「ダメだ!もう我慢出来ない!!おい、ルナール!!そいつから離れろ!!」

「・・・・・・。」

男の子の言葉に、私は驚かない。

「だ、大丈夫だよ・・・別に。」

ルナールはおろおろしながらも答える。

「ねぇ・・・。」

子供達の前に歩みだすと、みんな一斉に一歩引く。

「なんで・・・みんなそんなに私の事怖がってるの・・・?」

「・・・。」

みんな黙って視線を反らす。

「教えてよ!!」

「本当に分からないの・・・?」

集団の中の一人の女の子が顔を引き吊らせながら言う。

「知ってるの?じゃあ教えて!」

「言えない・・・。」

「どうして!!」

 

 

「先生と約束してるから・・・。」

 

 

「え・・・。」

「先生が『触れないであげて』って言った。だから言わない。」

「先・・・生・・・?」

先生が私の何か恐ろしい所を知ってて、みんなに黙って貰うように言ったの・・・?

『君は『普通の女の子』だ!』

先生の言葉が、笑顔が、どんどん薄らいでいく。

「あは・・・。」

砕けていく。

『何処にでもいるただの』

「あははは・・・!」

消えていく。

「あはははははははははははははははは!!!!!!」

『『普通の女の子』だ!』

「うあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!」

心の中に色んな黒いものが混ざった様な気分で前を見ると、子供達が恐怖の表情を浮かべながら私を見ていた。

「・・・全部嘘だったの?あの言葉・・・。」

涙が溢れて前が見えなくなる。

「ひどいよ・・・先生・・・ひどいよ・・・・・・ヒドイ・・・みんなも・・・ひどいよ・・・!」

涙を拭いて訴えかけるように前を見るとみんなの様子がおかしかった。

みんな、上を見ていた。

私の上を見上げるように。

その顔は、さっきの表情とは比較にならない程恐怖に満ちていた。

「ヒィ!!」

「うわああああ!!」

「逃げ、逃げろおおお!!」

子供達は一斉に逃げていく。

「なんで・・・。」

この光景、見たことがある。

私が前の家に居たとき。

パパとママが私を部屋の外から見ていたあの時の光景だ。

悲鳴を上げて逃げていく、あの訳の分からない光景だ。

「ラパン・・・。」

ルナールに声を掛けられてルナールの方を見ると・・・。

「!?」

ルナールの表情がおかしい。

笑顔で笑っているが、その表情は明らかに作り笑いだ。

何より、目が笑っていない。

見開いて瞳が泳いでいる。

まるで怖い動物を無理に警戒させないように笑顔を作っているような顔だ。

「ラパン、私別に気にして・・・。」

「うぅ・・・!!」

耐えられなかった。

必死に走ってルナールから逃げた。

 

 

~ノワール マザーシップ 最深部前~

 

銃撃を放つ。

しかしエスカは警戒にステップを取り、銃弾を回避していく。

「くそッ!」

動きを封じようと足を狙うと、今度は高く飛び上がる。

そのまま空中で宙返りしたかと思うとダガーを構えたまま物凄い速さで滑空してきた。

ダガーの奇襲用フォトンアーツ、『レイジングワルツ』だ。

「くっ・・・!」

なんとか横っ飛びで回避する。

だが、レイジングワルツには切り上げる動作があり、エスカの使うツインダガーは空中戦向きだ。

つまりまた空中に上がったエスカは・・・。

「・・・さぃ・・・・んなさ・・・。」

空中から斜め下に滑空しながら飛び蹴りを放ってくる。

同じく奇襲用のフォトンアーツ、『シンフォニックドライブ』だ。

「うっ・・・!」

回避しきれず、銃で蹴りを防ぐ。

エスカは蹴った勢いで再び空中に上がり、今度は物凄い速さで刃を振るうと、真空の刃が何度も襲いかかる。

中距離用のフォトンアーツ、『ブラッディサラバント』だ。

「やっぱそれだな!」

手の内を知っていたのでなんとか後ろに跳んで射程外に逃げる。

「・・・全く。」

俺が帰還命令無視して連れ戻しに来る都合上、何回か闘り合ったことはあるが、やはり手強い。

手加減して勝てる相手じゃない上に今回は人質でもある。

殺さず無力化させるにはかなりの至難の業だ。

「おやおや、さっきの勢いはどうしたんですか?」

「てめぇ・・・自分が戦ってもいねぇクセに意気がってんじゃねぇよ。」

「私は科学者です。自分の得意分野で戦うことに何の不義があるんですか?」

「・・・お前とは一生話が平行線になりそうだな。」

「いいんですか?私と話なんかしてて・・・。」

「!!」

エスカの姿を見失った!

「くっ・・・!」

嫌な予感がしてネージュの方を見るとやはり向かっていた。

「ッの野郎!」

エスカに銃を乱射しつつ追いかけるがすぐにエスカはこちらを向いて回避し、一気に近づいてきた。

しまった、罠だ!

エスカはかなり距離をつめてダガーを横振りに振るってくる。

後ろに跳んで回避するがそれでもダガーの射程内だ。

俺に残された手段は銃でこれを防ぐ事だがもうそれが無駄だと分かっていた。

銃とダガーの金属と金属がぶつかり合う音がした瞬間、エスカの姿が消える。

すると四方八方から容赦のない斬撃が襲いかかる。

ツインダガーの真髄とも言えるフォトンアーツ『ファセットフォリア』。

超高速で飛び回りながら斬撃を喰らわせる攻防一体の攻撃で、ツインダガーの中でも最も強力なフォトンアーツだ。

「ぐああああああああああッ!!!!!!」

動きが全く捉えられず、一方的に鱠切りにされる。

斬撃が止む頃には、俺には立っている余裕などなく、倒れまいと膝を着きながらも上体を起こすのに精一杯だった。

「ぐっ・・・!」

「どうやら終わりのようですね・・・エスカ、とどめを刺しなさい。」

「・・・。」

エスカが今にも俺にダガーを突き出そうとした瞬間・・・。

「ッ!!」

ネージュが俺の前に立ち、あろうことか、両手を広げて仁王立ちする。

「・・・なんの真似ですか?」

「エスカ!!目を覚ませ!!わしが分からんのか!!」

「バカ、逃げろ!!!」

「何を言っても無駄です。」

「・・・。」

エスカはダガーを振り上げ、ネージュに向かって降り下ろそうとしている。

「・・・ぃ・・・・さぃ・・・。」

また何かぶつぶつ言っている。

「・・・のう、ウィルとか言ったか?」

「なんです?」

「貴様の『再調整』とやらは本当に完全な物なのか・・・?」

「ええ、完全ですよ。何せ彼女は既にスレイヴデューマンになっていました。調整なんて簡単でしたよ。最初にスレイヴデューマンになってから多くの無駄な感情を覚えた様ですが全て取り去り、完全な本来の兵隊になって頂きましたよ。今にでも命令一つで貴方なんて簡単に殺します。」

「エスカはわしの仲間じゃ!!」

「貴方がどう言おうが・・・。」

「黙れぇッ!!」

ネージュの叫びに場の空気が震えるのを感じた。

「・・・さい・・・・・んなさい・・・。」

段々エスカの言葉が分かってくる。

「ならエスカはなんで・・・!」

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・。」

「なんで謝りながら泣いてるのじゃッ!!」

ネージュの言う通りだった。

エスカは相変わらず顔の表情は変わらないが、その目からは涙が流れている。

「なっ!?」

ウィルも予想外のようで、先程までの余裕の表情が一転して強張っている。

「有り得ない・・・エスカ、早くそいつを殺しなさい!!」

「ごめんなさい・・・。」

エスカはダガーを振り下ろす。

「ッ!!」

ネージュは思わず身を縮めて身を守る姿勢になるが、何も起こらない。

「・・・!」

エスカのダガーがネージュの額の上で止まっている。

「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・・・・。」

「エスカ・・・!」

「ふふ・・・はは・・・あははははは!!」

ウィルは頭がおかしくなったのか、腹を抱えて笑い出す。

「有り得ないですよ!三文小説じゃあるまいし、科学を超えた奇跡なんて!」

「貴様・・・この期に及んで・・・!」

「まぁ、いいですよ。こちらも彼女に万が一仲間に手が出せない時に備えての手段は考えていましたし。」

そう言うとウィルは懐から銃を取り出す。

「見せてあげますよ。科学を超えた奇跡なんて有り得ないとね。」

するとその銃をエスカに対して発砲する。

「うっ・・・!」

「エスカ!!」

エスカは一瞬ぐらっとしたが、倒れる様子はない。

「貴様・・・何をした!!」

「特殊な強心剤を仕込んだ弾丸です。これを撃ち込まれた者は戦いの命令には逆らえません、決してね!」

「何じゃと!?」

「・・・。」

エスカの様子がおかしい。

先程の虚ろな目と違い、目が完全に見開かれている。

「さっきみたいに貴方に攻撃出来なくなるのも考慮して、念のためにもこう命令させていただきます。」

「何!?」

「まさか・・・!」

ネージュは分かっていないが、俺には展開が読めてしまった。

 

 

「自爆しなさい、エスカ!!」

 

 

エスカはネージュの肩をがっしりと掴んだまま、口を大きく開ける。

不味い、歯に仕込んだ起爆スイッチを作動させる気だ!

「逃げろッ!!」

「エスカ!!」

エスカの口は容赦なく閉じられる。

全てが終わったと思った瞬間だった。

この時、ネージュは有り得ない行動に出る。

逆にエスカの肩を掴み、自らの身体を引き寄せ、口を口で塞ぐ。

「そんな事して止められる訳ないでしょう!エスカ!自爆しなさい!」

「・・・。」

「・・・どうしたんです、自爆を!」

「・・・。」

数秒経ったが、爆発は起こらない。

「ウゥ~・・・!」

「?」

獣のようなネージュの唸り声が聞こえて動かない身体をどうにかずらして様子を見ると状況が分かってしまった。

どうやらエスカの歯に自分の歯を横向きに噛み合わせ、歯を止めているようだ。

端から見ればそう見えるが、状況が分かると到底キスには程遠い光景だ。

「ったく・・・。」

最後の力を振り絞ってエスカの後ろに回り込む。

「お前ホントアホだなッ!!」

銃でエスカの首筋を殴るとエスカはそのまま倒れる。

念のため確認したが、ちゃんと気を失っているようだ。

「ノ、ノワールゥ・・・!」

ネージュはしゃがみこんで項垂れながら恨みの籠ったようなドス黒い声を上げる。

「・・・恨まれる覚えはないぞ。こうでもしないと助けられ・・・。」

「口、切ったのじゃぁ・・・!」

「え、ああ、そっち?って、それも自業自得だろ・・・。」

「ぐぬぬ・・・まぁよいわ。それよりも・・・。」

ネージュはウィルの方に向きなおす。

「貴様、わしの大事な仲間によう色々やってくれたのぅ・・・。」

「ヒィ!」

ネージュが杖を構えるとウィルは先程の威勢など何処へ行ったのかとばかりに恐怖の声を上げる。

「成敗じゃああ!!」

渾身のイルグランツを放つ。

「うわあああ!!」

ウィルは必死に逃げる。

だが、それが効を奏したのか、イルグランツの射程外に逃げ切りそのままマザーシップの奥に逃げていく。

「逃がしたか・・・追うぞノワール!!」

「待て・・・!」

「む・・・。」

ネージュに制止をかけると、懐から回復薬のトリメイトを出し、封を開け、仮面をずらして喉の奥に流し込む。

すると身体中から痛みが引いて動けるようになる。

「あと・・・。」

さらに懐から錠剤を取りだし、エスカに口に含ませ、小型の瓶に入った水を流し込んで飲ませる。

「なんじゃそれ?」

「睡眠薬だ。これで俺らが居なくなってもしばらくは目を覚まさない。」

「なんでそんなもん持っとるんじゃ?」

「眠れない日が多くてな、常備してるんだ。」

そしてさらに、通信機でアクセスをかける。

『ぐっ・・・やられたよ・・・。』

「・・・。」

セトに連絡をかけたつもりだが、なにやら苦しそうだ。

『反逆者のやつら予想以上に手強い・・・身体中に風穴開けられて・・・。』

「・・・お前の想像の中の俺どんだけ容赦ねぇんだよ。」

『あ、ノワール?』

俺と分かるとセトはケロッとして会話に応じる。

「ったく、今どこだ。」

『さっきのポイントに一番近いトイレの中だよ。』

「なんでトイレにいんだよ・・・。」

『ケガしてるフリするにも限界あるから身を隠してたんだよ。こう緊急状態だとトイレに用を足しにくる奴なんかいないだろうからさ。』

「ハァ・・・それより、今俺がいるポイント来れるか?」

『なに?どうしたの?』

「連中に操られてた連れの仲間を眠らせたんだ。お前んとこで回収してくれ。」

『久々に会ったと思ったら急に人使い荒くない?』

「お前に言われたかねぇよ。昔散々振り回したクセによ・・・それに、お前今本来の仕事放棄して暇だろ?手伝え。」

『分かったよ、座標のデータ送ってくれたらいくよ。』

「ああ。」

端末を起動してセトにデータを送る。

『そこだね。分かった、回収しておくよ。』

「任せた。」

通信を切る。

「さて・・・。」

後始末をつけると、ウィルが逃げた方角を向く。

「待ってろよ、クソマッドが・・・豚のエサにしてやる。」

「おう!!ブーブー言わせるのじゃ!!」

最深部を目指して走った。



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第七章 ~追跡と真実~

 

~セト マザーシップ最深部前~

 

「確か・・・このポイントだよな・・・あ!」

目の前で人が倒れている。

どうやらビンゴだ。

「・・・それにしても。」

倒れていると言うだけで詳細は聞いていなかったが、デューマンか・・・。

スレイヴデューマンにされておきながら気絶だけで済むって、どんだけ運がいいんだろうな。

それにしてもまた女か・・・。

さっきの子といい、女の知り合いが多いとはノワールの奴も隅に置けないな。

「・・・。」

どうでもいいが目のやり場に困る姿だ。

戦闘服のようだが、黒のボンテージ風の服で露出も多い。

「全く・・・。」

目を逸らしても仕方無いので背負う。

・・・はいいが何処に連れてけばいいんだろ。

医務室・・・は危険かな。

目を覚ましたら何をするか分からないし、かといって倉庫ってのもな・・・。

「ノワールはこの奥かい?」

「?」

声がする方を見ると・・・。

「あなたは・・・!」

 

 

~ノワール マザーシップ最深部~

 

「邪魔だ!!」

スレイヴデューマンが何人も襲いかかってくるので片っ端から撃退する。

エスカならまだしも、他のスレイヴデューマンは戦闘に関しては素人同然の雑魚ばかりだ。

自爆の間合いにさえ気を付ければ無力化させるのは容易い。

しかしいくら雑兵とはいえ肉の壁にはなるようでウィルが逃げる時間稼ぎにはなっている。

だが此処はマザーシップの最深部、逃げようにもキャンプシップからかなり距離はあるし、逃げている方向は更に奥。

捕まえるのも時間の問題だ。

奴を捕まえてディスクと同時にウルク総司令に突き出せば、この馬鹿げた反逆者ごっこにも早々にケリがつく。

「・・・!」

何やら大きな入口の前に着く。

「いかにもな入口だな。」

ウィルが逃げたこの通路はほぼ一本道だった。

なら他に逃げ場も無いだろう。

追い詰めた。

「待っておれ、エスカの仇め!」

「ハイハイ勝手に殺すな殺すな。」

いい加減ツッこむのも疲れてきた。

さっさとケリを着けよう。

奥へと進む。

「・・・。」

部屋の中は何とも殺風景だった。

壁や床の内装は他と変わらず奥に何やら大きな水の様な壁があるだけの大広間だ。

その真ん中に、ウィルは立っていた。

隠れる場所が無いかと辺りを見渡しているようだが、無駄な抵抗だろう。

「やっと会えたな。」

「ヒィ!」

此方に気づくとウィルは腰を抜かしたのか、急に尻餅を着いたまま後退りする。

「ったく、手間かけさせやがって・・・。」

俺達が一歩一歩進むたび、ウィルは後退りし、次第に奥の装飾の壁に追い詰められる。

「もう逃げられん、覚悟するのじゃ!!」

「ヒィィ!!」

ウィルはこれからの事態を予測してか、身を縮めて防御姿勢を取る。

「今度こそ成敗じゃあぁ!!」

ネージュが制裁のイルグランツを放ったときだ。

「・・・。」

「!!」

ウィルが一瞬ニヤついた。

その直後だ。

ウィルの前に薄い光の壁が張られ、イルグランツは防がれる。

「な!?」

ネージュが口を開けて声を上げる。

俺も驚きは隠せない。

「やれやれ・・・テロするのは構わないけど、こんなとこまで来てドンパチやらないでよ、静かに演算したいのにさ・・・。」

奥の水の壁からその人物は出てくる。

「せっかくシップを任せるハイキャストを配置して専念出来ると思ってたのに。」

少年だ。

髪と目が青色で、口調は見た目に違わないが、どことなく大人びた雰囲気で言い知れぬオーラがあった。

「なんじゃ貴様!!邪魔をするのなら・・・!」

「待て!」

攻撃的なネージュに制止をかける。

「聞いたことがある。このオラクル船団の根源の核になっている存在・・・。」

まさか実際に目にする事になるとはな・・・。

「あんた・・・シャオか。」

 

 

~院長 民間居住区 孤児院~

 

通信端末から通信が入ったので端末を開くと、映像が開き、見知った顔が写る。

『ロイド院長、私だ。』

「・・・またですか。」

『言うまでもないが・・・。』

「何度言いに来ても同じです。」

『だがあれは・・・。』

「あの子は私が預かった子です。貴方がたのモルモットにするつもりはありません!もう来ないで下さい!」

通信を切る。

「先生・・・。」

「!!」

ラパンが部屋の出入り口に立っていた。

「ラパンか、どうした?」

「今の、誰?」

マズい、聞かれたか・・・?

うまく誤魔化したいが、ラパンは頭がいい。

下手に嘘を言えば怪しまれるかもしれない。

「研究所からだよ。」

・・・嘘は言っていない。

「どうしてそんな所から連絡がくるの?」

「いやなに、子供を引き取りたいと時々言ってくるけど、あの手の輩は人体実験に使うかもしれないだろ?だから断ってるんだ。」

これも本当だ。

「それ・・・私のこと・・・だよね?」

「・・・!」

核心を突かれて言葉に詰まる。

「な、なに言ってるんだよラパ・・・。」

「先生・・・私ね・・・分かったよ?」

「えっと・・・何が?」

「私がみんなに怖がられてる理由・・・。」

「え・・・?」

 

 

「いるんだよね・・・私の背中に・・・何かが。」

 

 

「・・・!!」

もはや言い訳のしようもない。

そう、私には・・・いや、『ラパン以外』には見えている。

彼女の背中には黒い霧状の何かがおぶさるようにくっついている。

その顔には眼とおぼしき赤い光が二つ。

まるで赤子のようだが、これを赤子と呼ぶにはあまりにも不気味だった。

「・・・教えて、私の背中には何がいるの?」

「・・・ああ、分かった。」

私は真実を彼女に伝えることにした。

 

 

~ノワール マザーシップ 最深部~

 

シャオは俺を見て爽やかに、かつ、不敵さを思わせる笑みを見せる。

「キミ、よく知ってるね。僕のことそんな風に知ってる人ってなかなかいないと思うけどな。」

「生憎、ダーカー狩るために色々情報を仕入れるようにしててな・・・つい余計な事まで知ってしまうんだよ。」

「ダーカーを狩るため、か。結構仕事熱心なアークスだね。関心するよ。」

「そりゃどうも・・・どうでもいいが、あんたに銃口向けるのは些かリスクが高そうだ。」

この少年は、言わばオラクル船団の核のような存在だ。

戦うことは愚か、殺すような事があれば、オラクル船団全てを滅ぼしかねない。

第一に勝てるかどうかすら怪しい。

見た目は少年だが、人間とは違う存在であるという情報すらある。

戦いは極力避けるべきだ。

「そう?じゃあ降伏して捕まる?」

「いや・・・。」

「逃げる?別に僕は追わないけど。」

「それもしない。」

「じゃあ、どうするの?」

「あんたがこうして現れたのは・・・寧ろ俺らには幸運かもな。」

「どういうこと?」

「あんたに『これ』を調べて貰う。」

データのディスクを取り出してシャオに見せる。

「おいノワール!!それウルク総司令に見せるんじゃないのか!?」

「いや、こいつならウルク総司令に見せるより手っ取り早い。」

「それは?」

「スレイヴデューマンの研究データが入ったディスクだ。そこのクソ研究員が禁止されてるにも関わらず勝手に進めた人体実験やら何やらまで全てこの中に入ってる。」

「ふーん、それを僕に確かめろと?」

「ああ・・・。」

「嘘です!!騙されちゃいけない!!」

「!」

シャオの横にいたウィルが急に叫ぶ。

俺達の前に立っていた時とは売って変わって被害者のような顔をしている。

「この男達は反逆者です!その目的はこのマザーシップにウイルスを送り込むことです!!そのディスクを調べようものなら、このマザーシップの機能が停止してしまう!!」

「・・・なるほど、そういうデマで俺達は反逆者の濡れ衣着せられてたわけか。」

全く用意周到なことだ。

そう言っておけばディスクを危険物として預かると言えば自分達の手元にディスクも戻って全て丸く収まり、尚且つ万が一俺達がディスクを証拠としてつき出した際に調べられるリスクも少ないわけだ。

しかもこいつ、さっきの一瞬の笑みから察するにシャオの事を知ってたな?

追い詰められた最後の手段として、味方につけるつもりか。

「貴様!!この期に及んで・・・!」

「待て、アホ!!」

ネージュがウィルに杖を向けるが、制止をかける。

「状況考えろ、今実力行使に出たらそれこそこいつの思う壺だ。」

「ぬぅ・・・。」

ネージュは杖を納める。

「話を戻そう。」

「そっちの言い分は?」

「反逆者っていうのは勿論そいつが仕組んだデマだ。余程データを見られたくないみたいでな。此処に来るまでにもかなり邪魔された。キャンプシップに爆弾仕掛けられたり、このアホの保護者を洗脳してけしかけたりな。」

「それこそ嘘です!!キャンプシップが移動中に爆発したのなら此処に来られるはずがない!!第一、この男は噂にもあるほどに命令無視の常習犯です!アークスに対し、反抗的な意志があるのは明白です!!」

「・・・。」

確かにウィルの言った事には一理ある。

放棄されたアークスシップに不時着出来たなんて確率が低すぎて信憑性は全くないし、後者も事実だ。

そんな臆測をつけられても言い訳は出来ない。

「この男はいつも狂ったようにダーカーを狩り続ける戦闘狂です!前にも似たような男がダークファルスを復活させたという記録さえある!この男の考えていることは我々の常軌を逸している!!狂っているんです!!信じちゃいけない!!」

「・・・。」

ああ、そうだ。

俺は狂っているさ。

ダーカーを狩る以外に何も見えて居ないような男だ。

否定は出来ない。

俺は・・・。

 

 

「ノワールは狂ってなどおらん!!!」

 

 

「・・・!」

ネージュの言葉に場が静まり返る。

「ノワールは・・・わしがアークスになったばかりの頃、命を狙われてたところを助けたのじゃ!!」

「おい・・・今そんな話をしてる場合じゃ・・・。」

「それにこやつはな・・・此処に来るまでに困ってる者に自分のサポートパートナーを貸し与えたり・・・わしの大事な仲間を助けたり・・・今こうしてディスクを届けようとしとるのだって・・・ダーカー狩るのに関係ないのに人助けでやっとることじゃ!!」

ネージュは顔を伏せて拳を握りしめ、何やら震えている。

「狂っとるのか・・・? こんな奴が本当に狂っとるって言うのか貴様はッ!!」

ネージュは顔を真っ直ぐに正面に上げて怒鳴る。

顔は真っ赤になり、その目は今にも泣きそうなほど涙ぐんでいた。

「調べてみたらいいんじゃないかな。」

「!」

後ろから女の声がするので見てみると、ニューマンの女が部屋に入ってきた。

管制や、ロビーの職員が着るような制服だが、出で立ちから普通の職員には思えない。

「ウルク!」

「私はそのノワールって人の事、信じてみたくなった。」

「あんたが・・・ウルク総司令?」

「その子の担架、すごく良かったよ!」

俺が質問を投げ掛けると、返事変わりに屈託のない笑みを俺に向けてくる。

「ったく・・・このアホは・・・。」

どう反応していいかも判断がつかず、ネージュに当たるが、思ったように怒れない。

「どうでもいいけど、ウイルスがあるかもしれないみたいだよ?そこの科学者君の言い分を聞く限りは。」

「シャオ君自身が調べればいいじゃん、そんなの!」

「え”?」

「シャオ君ならウイルスがあったとしてもそれ取り除いて調べられるでしょ?」

「全く・・・。」

総司令の言葉に、シャオは溜め息を吐く。

「ホント、ウルクって感情任せかと思ったら意外な所で活路開いてくるよね。」

「フフーン、だからこそこうして総司令をやってる訳ですよ!」

シャオが皮肉混じりに言う言葉を、総司令は胸を張って返す。

「ハァ・・・いいよ、調べてみる。」

「そうか、助かる。」

どうやら賭けには勝ったみたいだ。

だが、一つ腑に落ちないことがある。

『シャオ自身が調べる』?

どうやって・・・。

「!」

シャオが手を翳すと、急にディスクが俺の手元を放れて宙に浮かぶ。

ディスクはゆっくりと移動してシャオの手元に渡る。

ディスクがシャオの手の上で浮きながら光り始めた。

「ふむ・・・ウイルスは無し・・・と。」

するとシャオの周りに端末で開いたようなデータの映像が次々に開かれ、円柱の柱の様にシャオを囲う。

「他種族からデューマンに変換させる遺伝子操作・・・精神制御の装置の設計、投薬の精製方法・・・自爆装置の内蔵するための手術方法・・・確かに廃止されたスレイヴデューマンの研究に間違いはないね。」

シャオが全て確認すると、映像は消える。

「さて、どっちが黒かハッキリしたみたいだけど・・・。」

「っ!!」

一同が睨む様に見るとウィルは身構える。

「は・・・はは・・・はははは・・・!」

「何か言い訳はある?」

「くっ・・・!」

ウィルは部屋の隅に逃げ混むと、通信機を耳に着ける。

「聞こえますか?研究チーム!」

「おい!何を・・・!」

「アークスシップにいるスレイヴデューマンを全て自爆させなさい!!」

「な!!?」

「ははは・・・、どうせ人類は終わります。だったら私の手で!」

「何言ってやがるてめぇ!!」

「今から行ったって・・・避難を呼び掛けたって無駄です・・・起爆は数秒後、規模はアークスシップ全土・・・逃げられるわけが・・・。」

 

 

「スレイヴデューマンは起爆しない。」

 

 

「!」

部屋の出入り口の方から聞き覚えのある声がして見るとそこには・・・。

「エリック!!?」

「研究室に潜入して端末を全て弄らせて貰った。スレイヴデューマンは全て今は眠っているし、暫くは操作も出来ない。」

「貴様・・・!」

「エリック・・・なんで此処に・・・!」

「申し訳ありません、マスター。」

エリックの足元には人より四分の一程度の大きさで青髪のニューマンの少女がいた。

俺のサポートパートナーのアオだ。

「アオ・・・一体どういうことだ。」

「エリック様の『研究室に潜入すれば何かしらサポートが出来るかもしれない』という進言がマスターの目的に対し最適な判断だと考え、独断ではありますが共に惑星を移動した後、引き続き護衛をさせて頂きました。」

「そうか・・・。」

「申し訳ありません。如何なる罰でも・・・。」

「いや、お前にはいざとなったら自己判断をしろって言ってある。責める理由はない。」

「感謝します、マスター。」

「彼女には色々と世話になった。ありがとう、ノワール。」

「気にするな、あんたには借りがあるからな・・・。」

「動くな!」

「!」

声のする方を見ると、ウィルが総司令に銃を突きつけていた。

「・・・。」

本来なら『馬鹿な真似はやめろ!』とでも言うべきなのだろうが、この男は余りにも哀れすぎてそんな言葉をかけてやる気にもなれない。

「諦めろ・・・もうお前の負けだ。」

「うるさい!私は・・・捕まる訳には・・・!」

「あんたね!こんな事したら今に後悔するよ!?」

人質になっている総司令が罵声を浴びせる。

「どうでしょうね!捕まらなければどうと言うことは・・・。」

「そっか・・・ホントに後悔しないんだね?」

「・・・?」

何やら不敵に笑っているのが不思議でウィルを始めとして一同が困惑する。

「テオオオォッ!!」

総司令は急に叫び出す・・・が何も起こらない。

「何を・・・グガッ!?」

ウィルはビクンと身体を跳ね上がらせたかと思うと、白目を向いて倒れる。

気のせいかもしれないが微妙にバチッとした音がしたような気がする。

ウィルが倒れると、即座に総司令は離れる。

代わりに俺が抵抗するかどうかを確認するために近づく。

「・・・。」

手が微妙にピクピクとしているが動き出す気配はない。

死んではいないようだがこれは・・・。

「大丈夫、弱めのゾンデを当てましたから。」

「・・・?あんたは?」

すぐ近くから声がするので見ると、そこには金髪のデューマンの男が立っていた。

「遅いよテオ!」

総司令はデューマンの男に不満を投げるが、顔は怒ってはいない。

寧ろ笑っていた。

「ウルクの足が速いから途中で見失っちゃったんだよ・・・それで探してたら奥からいきなり声がするから・・・。」

「言い訳しないの!」

「・・・ハイ。」

テオと呼ばれた男は最初に見たときも物腰が柔らかな印象だったが、総司令の前だともっと弱腰になっている。

やり取りは友達や恋人同士とも取れるが、見方によっては恐妻家の夫婦にも見える。

「・・・まぁ何にせよ、これで解決だね!」

「ああ。穏便に済んでよかった。感謝する。」

一通り礼を言ってホッと一息着いたかと思うと・・・。

「・・・。」

「?」

「・・・フフッ。」

「なんじゃ?なんじゃ?」

総司令は俺とネージュを交互に覗き見るようにみて笑う。

「いやね、前にもこんな風に二人組でマザーシップに乗り込んでた人達がいてさ、二人とも、なんか似てるなーってさ!」

「二人組・・・?」

「いいのいいの!気にしないで!こっちの話だから!それにしても・・・。」

総司令は明るい笑みから一変してウィルを見る。

「なんでこいつ・・・スレイヴデューマンなんて作ってたんだろ。何か引っ掛かるなぁ・・・。」

「それについては私が説明します。」

申し出るエリックだったが、その表情は何やら重苦しい。

「事の発端は私がアークスが捕獲して転送された惑星の原生生物を調べていた時のこと・・・。」

エリックは説明する。

曰く、ダーカーに侵食されたエネミーの中にあるダーカー因子は、侵食するダーカーの種類によって違うらしい。

分かりやすく言えば虫型のダーカーは『A型』、魚型のダーカーは『E型』など、まぁ、血液型みたいな分け方をされている。

それによって惑星にどんなダーカーが潜んでいるかが分かるそうだ。

「だがある日、私が調べた原生生物から未知のダーカー因子が発見された・・・つまりそれは、未知のダーカーの可能性を示唆していた。」

「未知のダーカー・・・!」

「ダーカーにはそれぞれ従う親玉、ダークファルスがいる。未知のダーカーの存在とは、未知のダークファルスの存在を意味する。」

「・・・なるほどな。」

合点がいった。

「つまりその存在を危険視した研究員が揃ってアークスの戦力増強を焦った・・・それが『スレイヴデューマン』か・・・。」

「ああ、だがそんな未知のダーカーが発見された報告がない。大方複数のダーカー因子が混ざって知らない物に見えたのだろうと私は説得しようとしたが、それが叶わず、今回の事態を招いてしまった・・・申し訳ない。」

エリックは頭を下げる。

「いや・・・あんたは何も悪くない・・・けどな。」

「・・・?」

俺の言葉にエリックは困惑する。

「マズいな・・・当たってる。」

「え?」

「俺達は、既にそれを見た。」

「まさか・・・!」

エリックは目を見開く。

そう、俺達は見た。

此処に来る途中、不時着したアークスシップでそれを見た。

「未知の・・・人型のダーカーを・・・!」



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番外編 ~サポパ姉妹のお茶会 Part1~

 

~アークスシップ マイルーム~

 

??『ふっふっふ、ふはぁーっはっは!この番外編コーナーはこのボク、『マーチラビット』が占拠したぁー!』

 

アオ『なにしてるんですか、姉さん。』

 

ラビ『なにしてるかだってぇ?番外編コーナーだよ番外編!』

 

アオ『本編と違うようなストーリーでも展開されるんですか?』

 

ラビ『ノンノンノン!此処では本編では言えないことあーんなことやこーんなことを暴露していっちゃうコーナーなのだあ!』

 

アオ『本編では言えないこと・・・ああ、ネタバr』

 

ラビ『さあて!!そんなわけでコーナーを進めるわけなんだけど!』

 

アオ『姉さん、ひとつだけお聞きしたいことが・・・。』

 

ラビ『なんだねアオくん!』

 

アオ『姉さんまだこの段階では出ていないキャラですよ?』(スレイヴデューマン終了地点)

 

ラビ『だーいじょぶダイジョブ!作者がこれ書いてるの二十一話終わったあとだから!』

 

アオ『ですが、最初から順に読んでくれている読者様にはネタバレ・・・。』

 

ラビ『だったらー!こう言うのはどうだー!』

 

アオ『どう、とは?』

 

ラビ『ボクはアオと同じサポートパートナーです!ここでクイズ!ボクは誰のサポートパートナーでしょう!』

 

アオ『それ、本編全部読んでる人にはバレバレ・・・。』

 

ラビ『分かってないなー、アオ・・・。』

 

アオ『はい?』

 

ラビ『クイズにすることによってこれから読む人には先の展開に対する楽しみが・・・本編読んでる人には『俺もう答え知ってんだぜ?フッヘッヘ』って言う優越感が与えられる、つまりは『一石二鳥』なのだ!』

 

アオ『なるほど、そんな意図が・・・。』

 

 

(ツッコミがいない現状)

 

 

ラビ『とりあえずおおまかなあらすじからね!時系列としては原作のストーリーのエピソード3の終わりから大体一年位経った世界だよ!』

 

アオ『しかし、何故わざわざそんな中途半端な所からはじめたのでしょう。原作のストーリーも理解しないとですし、色々と読者様には手間をかけさせるものかと。』

 

ラビ『作者曰く、『エピソード3と4の間に二年も空白があったのなら、オリジナルで話を作るにはここしかない!』って事でこの時系列にしたんだ!』

 

アオ『なるほど、ですがそもそもオリジナルエピソードで書こうとしたことには何か理由があるのですか?』

 

ラビ『ふっふっふ、いい質問だアオよ、流石わが妹!その理由はキャラ達にある!』

 

アオ『マスター達、ですか?』

 

ラビ『そう!元々この小説のオリキャラは作者が原作ゲームの自キャラってことは一話の後書きで作者が書いてるはず!』

 

アオ『そうですね、プロローグだからって読み飛ばされていないといいですが・・・。』

 

ラビ『それで、その原作ゲームでオートワードを組み込む際に肉付けで考えてた設定が原作に沿ったエピソードじゃ描写しきれないからこんな感じになってしまったのだ!』

 

アオ『確かに、スレイヴデューマンの事件なんて原作のストーリーに組み込んだら大幅に時系列をずらしかねませんからね。』

 

ラビ『うむ、では次!キャラクターについて語っていこうじゃないか!まずはこの物語の主人公である『ノワール』さんから!』

 

アオ『私のマスターですね。』

 

ラビ『ダーカーに人並み以上の怨みを持つあまりに必用以上に惑星に留まってダーカーを狩り、帰還命令を無視する一匹狼の問題児!』

 

アオ『ですが、困っている人は放っておけない、優しい所もあって、私の自慢のマスターです。』

 

ラビ『まぁ、見も蓋もない話をするとこの『ノワール』さん、原作ゲームでは元々作者が本当にゲーム内の自分自身として作ってたキャラだったんだよね。』

 

アオ『え、じゃあ、マスターは作者さんと同じキャラなのですか?』

 

ラビ『いや、そうじゃなくてね、オートワードで設定に凝りだしてから完全にひとつのキャラとして確立させちゃったキャラなんだ。元々その時の名前、そもそもちがってたし。』

 

アオ『そうなんですか?』

 

ラビ『うん、『StrayDog』って名前にしてたんだけど、これがちょっとね・・・。』

 

アオ『どうしたんですか?』

 

ラビ『ゲーム内のプレイヤーには外人さんがいてね・・・その人達に会うたびに仲間と勘違いされて英語で話しかけられちゃって・・・。』

 

アオ『ああ、ネトゲではよくありますねそんなこと・・・。』

 

ラビ『まぁ、しばらくして落ち着いたからいいんだけど・・・名前変えたのはそう言った経緯もふくめてだけど、そもそもの理由は小説に載せるのに一人だけ英語表記なのがおかしいって理由だね。』

 

アオ『そもそも今のマスターの名前にした理由などはあるんですか?』

 

ラビ『それはちゃんとした設定があるんだけど、これはネタバレに繋がるから此処では秘密!』

 

アオ『そうですか(ショボン)』

 

ラビ『まぁまぁ、それじゃ次ね!メインヒロインの『ネージュ』さんだね!ノワールさんをチームに入れたいけど上手く行かないアホの子!』

 

アオ『マスターによく軽くあしらわれているのを聞きます。』

 

ラビ『このネージュさんも原作ゲームじゃ一波乱もふた波乱もあったキャラだね!』

 

アオ『具体的にはどういった感じですか?』

 

ラビ『オートワードが『ヤンデレ妹キャラ』になったり『ボクっ娘魔女っ子キャラ』になったり『おしとやかお嬢様キャラ』になったりとにかくキャラが色々と泳いでるキャラだったんだよ!』

 

アオ『作者は余程迷走していたんですね・・・。』

 

ラビ『今のキャラが定着した理由は、某ギャグファンタジー漫画のヘタレ魔王様と某アーケードゲームのキョンシーをみて作者が『のじゃっ子いい!』と思ってネージュさんに組み込んだらしいよ!』

 

アオ『結局行き当たりばったりですね。』

 

ラビ『次はネージュさんの保護者ポジ、『エスカ』さんだね!』

 

アオ『マスターとよく喧嘩しているらしいです。』

 

ラビ『この人は先の二人に比べてあまりキャラはブレてないね!』

 

アオ『というと?』

 

ラビ『元々『火力特化、紙装甲打撃キャラ』を作りたくて作ったキャラで、それに因んでオートワードを考えた結果『事故犠牲キャラ』になってたんだよね、まぁそれが今回の『スレイヴデューマン』の話の核になってたんだよね。』

 

アオ『つまり出来た当初のキャラが昔のエスカさんというわけですか。』

 

ラビ『そうなるね!あと名前なんだけど、お気づきの読者さん結構いると思うけど・・・。』

 

アオ『はい、エピソード4ですね。』

 

ラビ『そう!OSソフトの名前と被っちゃったんだよね!』

 

アオ『何故そのようなことに?』

 

ラビ『エスカさんはエピソード3が配信されてた頃に作ってたキャラで、元々『囮(イタリア語)』って意味で着けてた名前なんだ、そしたらエピソード4が出たときにOSソフトと名前被っちゃったんだけど、今更名前かえるのめんどくてそのままにしちゃったらしいんだ!』

 

アオ『確かにキャラ名変更はリアルマネーかかりますからね・・・。』

 

ラビ『次は『セト』、ノワールさんの元相棒で現在エリート部隊の隊長!』

 

アオ『私も作られた時に会ったことあります。』

 

ラビ『ぶっちゃけこのキャラだけ、最初の二人が可愛く見えるくらいキャラがあっちこっちしてたんだよね!(笑)』

 

アオ『そんなにですか?』

 

ラビ『うん!作った当初は作者が当時ドハマリしてた漫画の主人公のパロキャラだったり、あまりにパロ元が知られてなくてアーケードゲームの帽子屋さんになったり、それで顔も声も名前もクラスもコロコロ変わってたキャラだよ!』

 

アオ『でしたら何故現在のお姿に?』

 

ラビ『作者がマザーシップ辺りを書き始めたときに急遽作ったみたいだよ?』

 

アオ『何故わざわざ?』

 

ラビ『なんかね?当時のゲームのスクラッチのボイスにスズケンさんのいい感じのボイスがあって、ノワールさんと対を成すキャラって感じがして作りたくなったみたいだよ?』

 

アオ『急ごしらえだったんですね・・・。』

 

ラビ『しかも最初は善人キャラにするつもりだったんだけど、孤児院の院長、研究員のエリックさんと被るからキャラをずらしてちょっと計算高いキャラになったんだ。』

 

アオ『確かに善人率高いですよね、本編は。』

 

ラビ『次は『ラパン』ちゃん!謎の特異体質のせいで親に捨てられて孤児院に預けられた悲劇のヒロイン!』

 

アオ『思ったのですが、何故この孤児院の話が?』

 

ラビ『それはね・・・実は・・・。』

 

アオ『実は?』

 

ラビ『ボクもカンペ渡されて無くてなにも知らされて無いんだ・・・。』

 

アオ『え?』

 

ラビ『多分物凄くトップシークレットみたいだからだと思う、でもわざわざ書くってことは何処かで必ずオチはあると思う!思う・・・よ?(自信なさげ)』

 

アオ『姉さん、あまり自信なさげだと読者様も不安になると思います。』

 

ラビ『わ、分かってるよ!次!エリックさんだね!』

 

アオ『マスターがお世話になったらしいのですが、私もよく知りません。』

 

ラビ『この作品随一の聖人!スレイヴデューマンの計画を阻止する為に頑張っていた科学者さん!』

 

アオ『この方も自キャラなのですか?戦うようには思えませんが・・・。』

 

ラビ『ううん違うよ!この小説にだけ出てくるオリジナルキャラだよ!』

 

アオ『でしたら見た目とかはどのような感じなのでしょう。一応文面では『髪がくしゃくしゃ、似合わない銀縁メガネ』とありますが・・・。』

 

ラビ『うん、分かる人にしか分からない例えだけど、『Dグレイマン』のティキが最初人間に化けてる時の格好にそのまま白衣着せた感じと思ってもらえれば多文化合ってる!』

 

アオ『読者様には申し訳ありませんが、気になる方はグーグルなどで調べて見てください。』

 

ラビ『次はアオだね!』

 

アオ『私、ですか?』

 

ラビ『ノワールさんのサポートパートナーで、冷静沈着スナイパー!マスターに従順な模範的サポートパートナーでボクの自慢の妹!』

 

アオ『そんな事はないです。マスターに従順なのは、サポートパートナーとして当然だと思うのですが、私がマスターに心から遣えているのは、マスターが優しい方だからです。』

 

ラビ『それなんだよね、ノワールさんってばアオにはなんか素直に優しい感じなんだよね。』

 

アオ『はい、もしかすると根はあんな感じなんだと思います。』

 

ラビ『見た目はあんな感じだけど・・・。』

 

アオ『人は見かけに寄らないんだと思います、マスターを見て私はそう思います。』

 

ラビ『ふーん、まぁそれは置いといて、原作ゲームではアオは最初某ラノベのパロキャラのつもりで作ってたけど、元ネタに合いそうな性格をサポパに設定できなくて現在のキャラになったみたいだよ。因みに本編のしゃべり方から推測してもらうと分かるけど、『無垢』の性格なんだ!理由は・・・まぁ、アオが話した方がいいかな。』

 

アオ『はい、私がマスターに何度か『私の性格についてどう思われますか?』とお聞きした所、『お前はお前のなりたいようになればいい、それが分からないなら今のままでいい』と仰られたので、初期の『無垢』の設定のままです。』

 

ラビ『ただの放任主義なんじゃ・・・?』

 

アオ『いえ、私は悪く思いません、マスターは私に考える自由を与えてくれているんだと思います。』

 

ラビ『・・・アオってポジティブだね。』

 

アオ『そうでしょうか?』

 

ラビ『いやまぁ・・・いいけど・・・とりあえず次は、エリックさんの同僚、『ウィル』!スレイヴデューマンの研究の第一人者であり、過去にエスカさんをスレイヴデューマンにした張本人のゲス科学者!』

 

アオ『姉さん、気持ちは分かりますが少し言い過ぎなのでは・・・。』

 

ラビ『こいつも小説のみのキャラだね!作者の考える悪党キャラのイメージって『普段はゲスい部分を表に出さず人前ではニコニコしてる』って感じなんだけど、そんな風に書いちゃうせいか、台詞を書く度に何度も某有名格ゲーのヒャッハーな蛇男さんが頭に浮かんだみたいだよ・・・流石にあの本性表した描写にまでは行かなかったけど・・・。』

 

アオ『そこまでやっちゃうと丸パクりになりますからね。』

 

ラビ『でしょ?さて、最後は孤児院のロイド院長だね!ラパンちゃんの為に色々一生懸命に頑張ってくれてる人だね!』

 

アオ『そうですね。でも何か隠し事をしてたみたいですが・・・。』

 

ラビ『だね!ラパンちゃんの特異体質を知っていて本人に伝えず、子供達にも口止めしてたみたいだね!』

 

アオ『何故そのようなことを?』

 

ラビ『まぁ、その事はその内分かってくるよ、この先にもう書いてるみたいだし!』

 

アオ『まぁ、順に読んでくださる読者様の為にもネタバレは駄目ですからね。』

 

ラビ『うん!そりゃそうと思ったより尺余っちゃったね、作者は一話につき、大体7000文字くらいで占めるみたいだし・・・。』

 

アオ『どうしましょうか・・・。』

 

ラビ『うーん、じゃあ作者について裏話しちゃう?縞パンが好きだとかー、高校時代男なのにおっさんに痴漢された話とかー、ホモに迫られたことあるとかー。』

 

アオ『ん?なにか紙が落ちてきました。何か書いてますね、えっと・・・『ラビ、おめーは俺を怒らせた、この先の展開で天罰を与える by作者』、らしいです。』

 

ラビ『うん、作者は物凄くいい人!うーんとぉ、えーとぉ、とにかく色々と凄くてぇ、いい人だよ!』

 

アオ『・・・・・・・・・・待ってはみたんですけど別の紙は落ちてきませんね、撤回はないみたいです。』

 

ラビ『いやあああああああああああああああああああああ!!何、何が起こるの!?やだやだやぁだあああ!!』

 

アオ『あ、紙が落ちてきました。『読者の皆様、引き続きお楽しみくださいね☆』。』

 

ラビ『ボクは楽しめないッ!!いやあああああああああああああああああああああああああああ!!!!』

 

アオ『では番外編コーナーを一旦締めさせて頂きます、ありがとうございました。』



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【従者】襲来編
第八章 ~離別と意地~


 

~ロイド 民間居住区 孤児院~

 

 

『えっと・・・短い間ではありましたがお世話になりました。私は誰にも迷惑がかからぬよう、一人で生きていきます。ご迷惑をお掛けしました』

 

「・・・。」

朝、寝室に彼女の姿はなく、部屋にメッセージパックがあった。

こうなると思っていたから黙っていた。

だが、それは間違いだった。

彼女は私の想像以上に頭が良かった。

元より真実を隠し通せるわけがなかったのだ。

それどころか隠していたことが寧ろ彼女を余計に傷つけてしまった。

こうなるなら荒療治になろうと彼女に最初から真実を伝えて受け入れさせるべきだった。

「先生・・・。」

私が手紙を見ている後ろには孤児院の子供達全員が揃っていた。

「・・・。」

私はゆっくりと椅子を立ち、子供の一人に歩み寄り、手を翳す。

「ッ!!」

叩かれると思ったのか、目の前の子供は身構える。

だが私はそんなことはしない。

そっと子供の頭の上に手を置く。

「みんなは私の『家族を大事に』という教えを守ってくれただけだ。ルナールが危ないと思ったから守ってあげただけだ。悪くない。」

「なんでだよ、先生!!」

ルナールが激昂する。

「ラパンは危なくなんかない!!話してみたら良い子だもん!!」

「ルナール!!」

「ッ!!」

つい怒鳴ってしまい、ルナールがビクッと肩を震わせる。

ハッと我に返り、「すまない」と謝罪する。

「みんなの気持ちも分かってあげてほしい。確かにみんなはラパンのことを怖がった。だが本当に怖いだけならルナールを放っておいたハズだ。関わらない方が自分達は安全だからね。」

「・・・どういうこと?」

「怖いって感情を振り切ってルナールを守ろうとしていたんだ。この子たちなりの精一杯の勇気だ。自分がみんなに大切に思われているってこと、分かってあげてほしい。だからみんなは悪くないし、もちろん、ルナールも悪くない。悪いのは私だ・・・。」

そう、悪いのは私だ。

子供達にラパンの背中の事を触れさせない為に嘘の言えない小さい子供を年長組の子供達に離れさせるよう指示したりしたことも、返って彼女に『避けられている』という意識を持たせた。

そしてなにより子供達に、彼女が実際に人に害を成したことがない事を伝え、説得すべきだった。

やるべき事をせず、余計なことをしてしまった私の責任だ。

「・・・すまない、ラパンを探してくる。だがその前に、話しておかないといけないな。」

子供たち全員を真っ直ぐに見る。

「無理を言うようですまないが頼む。」

その場で土下座をする。

「一度だけでいい、あの子と向き合ってほしい!それでも怖いと思うならそれでいい・・・一度、彼女とちゃんと話をして彼女がどんな子か、みんなに見極めて欲しい!!」

「・・・。」

子供達は私の行動に戸惑い、互いに目配せをしている。

「頼んだよ・・・。」

私は部屋を出た。

 

 

~ノワール~

 

事件の首謀者であるウィルは捕まり、スレイヴデューマンの研究チームは一網打尽でお縄となり、収監されることとなった。

エリックに関しては事の発端であったとはいえ、事件の犯行に一切協力しなかった点に情状酌量の余地があり、無罪放免となったが、自身の研究室の研究員が居なくなったことから別の部署の下で研究員を続けることとなった。

エスカもエリックから治療を受け、数日かかったが、どうにか元に戻ったようだ。

例のダーカーの事を考えると、全てが丸く収まったとは言えないが、事件は一連の幕を閉じた・・・。

だが問題はまだあったようだ・・・。

 

~ノワール マイルーム~

 

「・・・。」

「ひっぐ・・・うぐっ・・・。」

部屋で紅茶を乗せたローテーブルを囲い、俺とネージュは向かい合う様にソファに座っており、ネージュは俯きながら泣いていた。

何故こんなことになったかというと・・・。

 

ーーー数時間前

 

俺はアムドゥスキアの浮遊大陸でいつものようにダーカーを狩っていた。

「・・・!」

気配がしたので振り向く。

「・・・。」

ネージュがいた。

だが下を向いたままフラフラと歩いている。

「・・・なんだ、まだ俺はこのエリアに来て三日しか経ってないぞ?」

「・・・。」

『連れ戻しにきた!』とか言われるのを予想して予め皮肉を吐いたが、ネージュは何も答えない。

そして違和感に気づく。

「おい、あいつはどうした?」

エスカがいないことだ。

「・・・。」

ネージュはフラフラと歩き・・・!

「おいッ!!?」

足を踏み外して落ちそうになったのを間一髪で助ける。

「死にたいのかこのアホ!!」

いつもの暴言をぶつけるが・・・。

「ノ・・・ワール・・・?」

ネージュは何故か虚ろな目で俺を見ながら、さも今俺の存在に気づいたような言葉を口にする。

「なんだ・・・お前今日変だぞ?」

「ノワール・・・!」

俺の名前を口にすると、急に涙ぐむ。

「ッ!?」

急に抱きついて来た。

「うわあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」

急に泣き出した。

その声は浮遊大陸全体に広がりそうなほどけたたましい泣き声だった。

 

 

ーーー回想はここまで

で、仕方無く俺は帰還を余儀無くされ、部屋にこの泣き虫を上がらせて事情を聞くことにした。

どうやらエスカがチームを抜けたらしい。

事情も話さず、ネージュの部屋に用件だけを述べたメッセージパックを残して姿を消したようだ。

「エスカ・・・なんでじゃあ・・・わしの何がいけなかったんじゃぁ・・・!」

「・・・。」

ネージュは分かっていないが、俺には容易に想像出来る。

ただ一つ言えることは、皮肉にもこのアホに何の落ち度もないと言うことだ。

教えてやってもいいが、それでは何の解決にもならない。

「本当にお前のせいなのかそれは?」

「・・・ぇ?」

俺の言葉にネージュは漏れ出るように出した声で反応する。

「そんなもん、実際にあいつの口から聞かなきゃ分からねぇだろ。」

「でも・・・あやつが何処におるのか分からんし・・・。」

「あいつも気持ちに整理つかないで距離取ってるだけじゃないのか?時間が経てばあいつから現れるだろ。」

「・・・それまで何しときゃいいんじゃ?」

「そんなことまで知るかよ。適当になにかやればいいんじゃねぇの?」

「・・・。」

ネージュは俯いたまま何も言わない。

「まぁ任務に行くなら誰かに手伝って貰え、お前一人じゃダーカーどころか原生エネミーのエサだろうからな。」

「ッ!!」

皮肉を吐くと、ネージュはピクリと肩を震わせる。

「バカにするなッ!!」

急に立ち上がる。

「わし一人だって任務こなせるわ!!後で謝ったって遅いからなッ!!」

そういって勢い良く部屋から出ていった。

「・・・マズった。」

黙って頭を抱える。

完全に余計な事を言った。

どうしたものか・・・。

 

 

~ラパン 民間居住区 ???~

 

「・・・。」

誰の声も聞こえない。

誰もいない。

そう、此処が私がいるべき場所・・・。

私が居るのは廃墟街、ダーカーの小規模な襲撃を受け、倒壊した建物の残骸が並ぶ場所・・・。

その中の廃ビルにいる。

「・・・。」

手には本を持っていた。

一人になるのに、何も無ければつまらないと思い、本を持ってきていた。

今朝はあまりに急いで出てきたため、適当に選んで図書室から持ち出した本だけど・・・。

本のタイトルは『フォトンの扱い方 初級編』。

『ラパンはフォース向きじゃないかな?』

「・・・。」

ルナールの言葉を思い出す。

本を開いて見た。

『テクニックの扱い方』。

フォースの基本であり、最大の武器であるテクニック・・・。

これが使えれば私も・・・。

「・・・。」

首を横に振る。

そんなことが出来たところでアークスになんかなれはしない。

背中に不気味な影がくっついてる私なんて、アークスの適性試験を受ける前に危険物として捕まっちゃう。

「・・・。」

ルナールのアークスになりたいことを聞かせてくれたときの顔を思い出す。

凄く楽しそうだった。

凄く希望に満ちていた。

私もアークスを目指したら、あんなに希望を持てるのかな。

「・・・。」

本を見てみる。

『テクニックの扱い方』。

『最も初級の前方放出型のテクニック。

体内のフォトンを放出させる箇所に集中する事をイメージする。』

えっと・・・今の私なら、手のひらかな。

手のひらを前方の瓦礫に向けてみる。

体内のフォトン・・・よく分からないけど身体の中に巡っている自分自身の力・・・だよね。

前方に集中・・・!

「・・・!」

手のひらから光が溢れ始める。

私がそれに気づいて集中を途切れさせたせいか、その光は瞬く間ん消える。

「今のが・・・フォトン・・・あとは・・・。」

『自然元素である『炎・氷・雷・風・光・闇』、いずれかをイメージすると、フォトンはその形に変化する。』

『最後に、それを放つ為に、キーとなる言葉を瞬時にイメージすることにより、変換されたフォトンは前方に放たれる。』

『尚、自然元素は人によっては得手、不得手もあるため、自分に合っているテクニックが最も放ちやすい。』

「自然元素・・・私にあってる物・・・。」

私は・・・。

「・・・ッ!!」

首を横に振る。

一瞬『闇』だと思ってしまい、即座に否定する。

背中に不気味な影がくっついてるからってそんなこと有り得ない。

もし使えたら余計に誰かに不気味がられる。

「・・・まずは、とりあえず『風』。」

前方に手のひらを構え、先程の様にフォトンを集中する。

フォトンが集中したのを確認して、風をイメージするが・・・。

「うっ・・・!」

手のひらの前に風のような塊が出来たように見えたが、パァンと弾けて消えてしまう。

「『風』は・・・だめ。」

他の元素で・・・。

「・・・!」

ダメだった。

全部試したけどすぐ消えてしまう。

「・・・。」

『全部』というのは嘘だ。

一つだけ試していない。

「・・・『闇』。」

・・・正直試したくない。

でも、このまま何も出来ないでいるなら自分に何も残らない。

それも怖い。

でも『闇』が適していることを認めるのも怖い。

ジレンマに苛まれながらもフォトンを手のひらに込める。

「・・・『闇』。」

すると・・・。

「・・・!!」

手のひらの前に貯まったフォトンの球体が黒くなり、自分の胴体程の大きさに膨れ上がった。

「・・・。」

認めたくないけどやるしかない。

あとはキーとなる言葉を頭に浮かべるだけ。

 

 

『   メ   ギ   ド   』

 

 

すると球体が更に膨れ上がり、自分の身体全体と同じ大きさになって放たれる。

黒い球体は、ゆっくりと前方に飛んでいき、瓦礫にぶつかると破裂する。

そしてその破裂は、小規模な轟音と共に瓦礫を砕き、大穴を空けた。

「・・・出来た。」

後悔はあったが、ちょっとだけ達成感があった。

「私にもできることが・・・ッ!?」

急に何かドサッという音が聞こえ、後ろを振り向く。

「ッ!!?」

ルナールだった。

何やら袋を持っていたようだが、私を見て呆然とした拍子に落としたみたいだ。

「ルナール・・・!」

見られた。

背中に不気味な物を背負っている私が闇のテクニックを使った現場。

そんなものを見たらルナールだって私のことを・・・。

「す・・・。」

「え・・・?」

「すっごおおおおおおおおおおい!!!」

「え・・・え・・・?」

ルナールは目をキラキラさせて駆け寄ってきた。

「今のテクニックだよね!?どうやったの!?」

手を握って息をあらげて話すルナール。

そうだ。

こんな顔して生きられたら・・・。

でも・・・。

「どうして来たの・・・?」

「ラパンを探してたから!」

「それが嫌だから出てったんだよッ!!」

今はルナールのその希望に満ちた顔がイライラする。

「私はそんな心配される資格なんかない!!背中にこんな物背負ってる私なんか・・・ッ!!」

罵声をルナールに浴びせるが、何かを顔の真正面に押し付けられ、とっさに言葉が詰まる。

「・・・?」

手を取られ、その顔にくっつけたものを手に乗せられる。

袋だ。

「?」

得体のしれない事に警戒しつつ中身を確認をすると、中身は食べ物だ。

よく朝食で食べるパンと目玉焼きだ。

「今朝から出ていって、まだ何も食べてないでしょ?」

「いらな・・・。」

言い切ろうとした瞬間、お腹がくぅ~っと音を鳴らす。

「・・・。」

「お腹は『欲しい!』って言ってるよ?」

「うぐぅ・・・。」

ぐうの音も出ない。

「ラパン。」

ルナールは手を強く握る。

「私言わないよ。ラパンが此処にいること。」

「え・・・?」

「私ね、色々怒られて分かったんだ。周りのこと考えてなかったなって。」

「ルナール・・・?」

「だからね、ラパンが此処にいたいなら止めない。でも一人で此処にいるの退屈かもしれないし、おなかも空くだろうから、食べ物もってくる!」

「ルナール・・・。」

「その代わり・・・。」

「・・・?」

ルナールは顔を近づけてくる。

目がさっきみたいにキラキラしてる。

「ラパン、フォトンの扱い上手いよね?」

「え?」

もしかしてさっきのテクニックのこと?

「いや、さっきの・・・本見て見よう見まねでやっただけで・・・。」

「だったら本もっと持ってくる!だから訓練手伝って!」

「訓練・・・?」

「アークスになるための訓練!ラパンと一緒にやったら上手くいきそうだからさ!」

ルナールの目は一層キラキラしている。

なんか断りづらい・・・。

「う、うん・・・それくらいなら・・・。」

「やったー!!」

ルナールはピョンピョン跳ねながら喜ぶ。

でも・・・。

「ルナール、門限大丈夫?」

「あ!」

そう、孤児院は外出は出来るが、門限はある。

「ごめんね!じゃあ戻るけど、ちゃんとご飯食べてね!」

「うん・・・。」

「絶対だかんねー!」

そう言ってルナールは手を振りながら去っていく。

「・・・。」

近くに腰掛けられそうな瓦礫があり、腰掛けて袋を開ける。

「・・・。」

目玉焼きを一口食べながらパンをかじる。

「・・・。」

いつも食べてるものなのに・・・。

「・・・ッ!」

なんでこんなに美味しいのかな・・・。

「・・・。」

美味しくて・・・。

「・・・っ。」

涙が出る。

「・・・。」

食べ終わった頃には目が涙で見えなくなっていた。

「・・・グスッ・・・ひぐ・・・。」

日が陰り、薄暗くなった廃ビルの中で私は声もなく泣いた。

 

 

~ノワール アークスシップ フランカ'sカフェ~

 

「・・・?」

店内に入ると誰かが俺を追い越して回り込むようにして此方を向く。

「ゼェ・・・ハァ・・・。」

女だ。

服装からしてコックのようだ。

慌てて走ったようで、息を切らしている。

「・・・なんだ?」

「あなた、ノワールよね!」

「あんたは?」

「此処のオーナーのフランカよ!」

「オーナー?オーナーが俺に何のようだ?」

・・・まさか出禁じゃないよな?

いや、別に此処でいざこざを起こした覚えはないが・・・。

「噂は聞いてるわ!『暴食の幽霊』なんですってね!」

「・・・。」

なんでこんなときに悪名で呼ばれないといけないんだ?

気分悪いなこの女・・・。

「たくさん食べるみたいだから腕の振るいがいがあるわ!」

「は・・・?」

いまなんて言ったこいつ?

「これドリンクのサービス券ね!」

そう言ってチケットを渡してくる。

「いや・・・別にそう言う意味の『暴食』じゃ・・・。」

「注文決まったら席の端末で注文してね!すぐ作って送るから!!」

そう言って去っていく。

「・・・。」

つくづく思う。

なんで自分はよく変な奴等にばかり絡まれるのかと・・・。

「まぁ・・・いっか。」

カフェの階段を上がる。

此処に来た目的は食事じゃない。

このカフェの二階には簡易的なバーがある。

そこで必ず飲んでる奴に心当たりがあるからだ。

「・・・。」

いた。

俺はすぐにそいつの横に座り、端末で酒を注文する。

少しすると酒の入ったグラスとボトルが目の前に転送される。

「・・・なんでお前が。」

エスカは煙たそうに俺を見る。

「お前一人のとき、いつも此処で飲んでるだろ。」

「なんだ・・・わざわざ調べたのか?」

「いや、俺も時々来るけどお前がいるときだけ外してたんだ・・・。」

「なに避けてんだよ。」

「お前はお前でめんどくさそうだからな・・・。」

「・・・だったらなんで今日はわざわざ隣に。」

「抜けたんだってな、チーム。」

「・・・!」

エスカはピクリと肩を震わせたあと、俺を見てから飲みかけのグラスに視線を戻す。

「・・・ネージュに聞いたのか。」

「わんわん泣かれて聞くハメになったんだよ。」

「それで、『なんで抜けた?』か?」

「どうせ『負い目』だろ?」

「・・・。」

「・・・。」

しばらく沈黙が続く。

「お前も知ってるだろ?あの時ネージュに刃を向けた。」

「ああ・・・。」

 

 

「私があの子を殺そうとしたのはこれで『二回目』だ。」

 

 

「そうだな・・・。」

俺もその場に偶然居合わせていたので知っている。

「殺し屋時代・・・アークスになったばかりのあいつを殺そうとした・・・。」

事実だ。

こいつが負い目を感じるのも無理はない。

だが・・・。

「それがどうした?」

「なっ!?」

エスカは俺の一言に身体ごと此方に向いてくる。

「アークスだって殺し屋と変わらねぇよ。殺す相手がダーカーか、人間かってだけだ。」

「お前、ふざけてるのか!?」

「お前のやったことを咎めるのは誰だ?」

「それは・・・。」

エスカは視線を反らす。

「・・・あいつがそんなの気にするタマか?」

「あいつが気にしなくても、私が私自身を・・・!」

「償いたいなら罪から逃げるな。罪と向き合え。」

「そんなのどうすれば・・・!」

エスカが反論仕掛けたとき、通信音がする。

「こちらエスカ、なんだ?」

『エスカさん!大変です!惑星ウォパルの海底エリアで、ネージュさんからの通信が途絶えました!』

「チッ・・・早速かよあのアホ・・・!」

「何・・・!どういうことだ!」

「話はあとだ。さっさと探しにいくぞ。」



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第九章 ~災厄の使徒~

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

唐突だが、俺がネージュのスカウトを断る理由は単純に一人で居たいと言う理由もあるが、それに限った事ではない。

理由はもうひとつある。

「・・・はぁ。」

水のある場所を歩きながらエスカは忌々しそうに溜め息をつく。

「チッ・・・。」

俺も同じように舌打ちをする。

「舌打ちするな。私だって嫌なんだぞ。」

「お前だって溜め息つくな・・・ったく、何が悲しくてお前なんかと行かないといけないんだ。」

そう、俺はこいつのことが大嫌いで、こいつも俺が大嫌い。

つまりは犬猿の仲だからだ。

「嫌なら来なきゃいいだろ。」

「・・・色々理由があるんだよ。」

理由は自分で撒いた種だからだ。

あんなつまらない一言でネージュに死なれでもしたら後味が悪すぎる。

それにさっさとこいつとあのアホを引き合わせて仲直りさせておかないと色々面倒だからだ。

おそらくは今回のような事のループが起こってあのアホの面倒を俺が見続けないといけなくなる。

そんなのは真っ平ごめんだ。

「だからなんだよ、その理由は!」

「なんでお前に言わなきゃいけないんだよ。」

「理由も知らずに同行を許可するほど私もお人好しじゃない。」

「めんどくせぇ・・・だからお前嫌いなんだよ。」

「私だってお前はキライだ!その自分勝手で私らにどれだけ迷惑かけてると思ってる!」

「お前らが勝手にやってんだろ。それこそ嫌ならしなきゃいいだろ。」

「私はあいつに着いていってるだけだ!私一人なら別にお前なんかどこでのたれ死のうが関係ないからな。」

「おーおー、血も涙もないな。流石人の身体ズバズバ斬り付けただけはある。」

「今その話をするか?最悪だな。」

「俺が体裁気にする奴だと思ってんのか?」

「そんなんだから悪名が着くんだぞ、『暴食の幽霊』。」

「うるせぇ、『スレイヴデューマン』。」

「仲がよろしいようですな、お二方。」

「「ああ”!?」」

後ろからあり得ないツッコミをいれられてエスカと反応が被りながらも振り向く。

声の主はかなり年老いてはいるが、背筋が伸びており黒い執事のようなスーツを着ており、とても調査に来たアークスには見えない男だ。

「誰だお前。」

「いえ、ただの通りすがりです。」

「・・・。」

俺はエスカと視線を合わせ、相手に見せないように手で合図する。

「そうか、ただの通りすがりか。」

俺とエスカはそのただの通りすがりに歩を進める。

「誰かお捜しですかな?よろしければお手伝い致しますが?」

「そうだな、助かる。」

「ああ、だが結構だ。悪いな、通りすがりの・・・。」

俺とエスカは銃とダガーを同時に向ける。

「「ダークファルス!!」」

俺は頭に向かって弾丸を放ち、エスカは腹部に向かって刺突を放つ。

弾丸は頭に当たり、エスカのダガーも腹部に深々と刺さった・・・かに見えたが、男は即座に霧の様に消える。

「いきなり攻撃とは、礼儀がなっておりませんな。」

「!」

後ろから声がするので急いで前に進んで距離を取る。

「アークスとてめぇらの間に、そんなもの必要か?」

「それはごもっとも。」

男は目を開ける。

その瞳はダーカーの目のように赤かった。

「何故分かった?」

「生憎俺の目は特殊な機械で出来ててな、ダーカー因子を視る事が出来るんだ、お前は濃すぎる。」

「それはまた、素晴らしい。」

男は称賛を込めて拍手してくる。

「では改めて自己紹介を。」

男は腹部に手を添え、深いお辞儀をする。

「ダークファルス【従者(ヴァレット)】、言うまでもありませんが、貴方達の敵です。」

「新手のダーカー、新手のダークファルス・・・まさかこんなに早くお目にかかれるとはな。」

だが一つ問題がある。

このダークファルスの能力が今一分からないことだ。

手の内が分からない相手に対し、迂闊に仕掛けるのはあまりにも愚策だ。

最悪の場合、撤退も視野に入れるべきか・・・。

「ほう、中々出来る者とお見受けする。態勢を前に向けすぎず、そちらからは仕掛けては来ない。初対面の敵に対する対処としては非常に正しい。」

「・・・なんだ。そっちも迂闊に仕掛けられずにビビってんのか?」

此処は相手の出方を伺うべきだ。

防御に徹していれば必ず相手は手の内をさらけだしてくる。

「仕方ありませぬな。いいでしょう、つまらない挑発に乗ってあげましょう。」

【従者】は両手を前につき出す。

するとその手からは銃が二丁現れる。

「くっ・・・!」

俺とエスカは散開してそれぞれ物陰に隠れる。

銃声が辺りに木霊しながら、弾丸が放たれる。

「ったく・・・!」

バンバン撃ちやがって。

物陰から少しだけ顔を出しながら相手の位置を確認する。

「!」

いない!?

だがその謎は直ぐに解けた。

俺の辺りが薄暗くなったからだ。

何かが上の光を遮った証拠だ。

「上か!!」

【従者】は物凄い跳躍で跳んでいた。

そしてそのまま上空から弾丸を放つ。

俺はしゃがんでいた姿勢のまま横に側転して回避する。

【従者】が着地する瞬間に弾丸が止む。

その隙をついて一気に距離を詰め、足払いの蹴りを放つ。

「・・・ふむ。」

【従者】は着地と同時に難なく跳んで回避する。

だがこれは狙い通りだ。

「こっちだ。」

「む!」

声がする頃には既にエスカがシンフォニックドライブの飛び蹴りを仕掛けていた。

【従者】は空中にいたため、回避しきれず銃で蹴りを防ぐ。

エスカが蹴った勢いで空中に再び上がったと同時に俺も【従者】から離れる。

「「終わりだ。」」

エスカは遠当ての斬撃、ブラッディサラバンドを、俺は弾丸のラッシュ、エルダーリベリオンを【従者】に向かって同時に放つ。

「ふふ。」

「!!」

【従者】は不敵に笑う、そしてその瞬間、有り得ない行動に出る。

身体を有り得ないほど高速に回転させ、銃と蹴りを使いながら俺達の攻撃を全て弾き飛ばす。

「・・・。」

強い。

銃撃戦になれば俺でも勝てない。

かといって接近戦ではエスカですら勝てないだろう。

「素晴らしい!」

【従者】は銃をしまい、拍手する。

明らかに隙だらけな気がするが、迂闊に攻めるとヤバイ気もする。

「素晴らしいコンビネーションだ。組んだばかりのパートナーではこれほどの連携は取れない!余程お互いを信頼しあっていると見える。」

「反吐が出るようなこと言ってんじゃねぇよ。」

「全くだ、私らはただ喧嘩相手でお互いの手の内を知ってるだけだ。」

「腐れ縁もまた縁、これ程の連携が取れるのならば、絆の賜物だと思いますがな。」

「チッ、いちいち癪にさわる奴だ。」

「貴方達に敬意を表し、少しだけ本気を出しましょう。」

「くっ・・・!」

何をする気だ・・・?

【従者】は両手を大きく拡げる。

「くそっ・・・!」

何をするか分からんが早々に阻止しないとマズイ気がする。

そう判断して二人で即座に攻撃を仕掛けるが、突然【従者】は姿を消し、俺達の攻撃は空を切る。

「!」

それだけではなかった。

辺りが急に暗くなったかと思うと、ダーカーが急に現れて取り囲む。

二足歩行の虫型、ディカータだ。

そして目の前には手が鎌のディカータの上位種、プレディカータが出現する。

「くそ、何が敬意だよ、こすズルい手使いやがって・・・!」

数は対した事はない。

こいつらを始末している間にエスカに奴を探させれば・・・。

「おい、エス・・・カ?」

どういうことだ?

「おい!何処だ!」

エスカがいない。

 

 

~ラパン 民間居住区 廃ビル~

 

「うぉりゃあああ!!」

ルナールが壁に向かってタックルするとコンクリートで出来ているはずの壁が豆腐のように破片を撒き散らして吹き飛んだ。

「う、うわ、わわ!」

「ルナール!」

壁の向こうは外だった。

マズイ、此処二階なのに!

「うわああああぁぁ!!」

ルナールは真っ逆さまに落ちていく。

「ルナールゥゥ!!」

もう駄目だと思って思わず目を塞ぐ、しかし、見ないわけにはいかず、恐る恐る下を見てみると。

「フゥ・・・フゥ・・・。」

ルナールは手と足を上手く使って受け身を取っていた。

普通の人間がやったら運が良くても骨折は免れないようだが、ルナールは平然と立ち上がる。

「はあぁ・・・。」

緊張の糸が解けたせいか、力が抜けてその場に座り込む。

「ラパーン!ごめーん!すぐ戻るー!」

ルナールは何事もなかったかのようにビルの入り口へと姿を消す。

ルナールは今、ハンターのフォトンの扱い方を習得している所だ。

本によれば、体内のフォトンを磁石と考え、空気中から身体にエネルギーを集める事をイメージして身体を強化するらしい。

偶然にもルナールには才能があったようで、このように体当たりで壁を壊すことも出来れば、多少高いところから落ちても対した怪我もしない。

着々と上達しているようだ。

私はと言えば・・・。

「自身の周囲に螺旋状の渦をイメージ・・・あとは体内のフォトンをその流れに乗せるだけ・・・。」

本で読んだ内容を確認するように復唱しながらイメージする。

「ギフォイエ・・・!」

声に出さずとも心の中で言えばいいが、イメージしやすいので声に出す。

すると周囲に炎の渦が起こる。

「うおわぁ!」

「!」

ルナールはいつの間にか戻ってきて、私のテクニックを見て腰を抜かしていた。

「ご、ごめん!」

「ラパンすごーい!!炎も使えるようになったの!?」

「う、うん。」

そう、あれから私も炎のテクニックを使えるようになった。

本音を言えば闇のテクニックの方が使いやすいが、闇以外の元素でテクニックを使えるのは嬉しかった。

「よーし、それじゃ私は『一点集中型の身体強化』ってやつを・・・!」

「ルナール!!」

「「!!」」

声のする方を見て見ると男の子がいた。

見覚えがある、ルナールに私から離れるように怒鳴った子だ。

「最近行動がおかしいと思ったらそういうことか・・・!」

「イド・・・。」

「そいつから離れろ!」

「なんで?」

ルナールの態度が前と違って異様だった。

なんか開き直ってるように見える。

「なんでってお前・・・!」

「先生言ったよね?今度ラパンを見たらちゃんと話しようって・・・。」

「それは・・・。」

「ちゃんとみてもないのにラパンを危険物扱いして、勝手なこと言わないで!!」

「お前がどうしても心配だからだ!!」

「なんでそこまで心配されないといけないの!?おかしいよあんた!」

「お前が大事だからだ!」

「え・・・?」

ルナールは一瞬固まったが、すぐにはっとバカにしたかのような溜め息を吐く。

「なにそれ、きれいごと言って・・・それに変な言い方して、まるで告白みたいじゃん。」

「みたいじゃねぇ!!」

「え?」

「お前の事が好きなんだ!!」

「え・・・ぇ・・・ぁ・・・。」

ルナールはまるで壊れかけの古いロボットようにギシギシとした動きで訳のわからないポーズを連発する。

そして最後に一番変なポーズを取った瞬間・・・。

「うわああああぁぁ!!」

あまりにも唐突すぎてパニックになったのか、周囲の壁を手当たり次第に破壊する。

「なんだよそれなんだよそれ訳分かんない分かんない分かんなあああああい!!」

「!!」

ゴゴゴと音がする。

ルナールが壁を破壊している音じゃない。

なんかヤバイ!

「ルナール、駄目!」

「うわああああぁぁ!!」

ルナールが壁を破壊した時だ。

破壊された壁だけじゃなく、天井、床、全てが崩れ、私たちの身体は落下と共に瓦礫の雨に襲われる。

 

 

━━━どれだけ時が経ったんだろう。

気がつくと私は瓦礫の中にいた。

でもなんでだろう。

痛くない。

高いところから落ちたのに。

瓦礫の雨に襲われたのに。

「うぅ・・・うう・・・!」

「!!」

視界がハッキリしてくるとその理由が分かった。

ルナールが瓦礫を持ち上げて支えていたのだ。

「ラパン・・・大丈夫・・・?」

「ルナール!!待ってて、いますぐ助ける!!」

すぐにルナールが支えている瓦礫にメギドを放ち、破壊する。

「うぁぁ、重かったぁ・・・。」

「ごめんね、頑張ってくれてたんだね。」

「ううん、おかげで助かった!やっぱり訓練しててよかったね!」

「うん・・・。」

心からそう思う。

「うう、誰かぁ・・・!」

「!」

近くからイドの声がする。

「イド!?」

ルナールが声のする方を頼りに瓦礫をどかしていくとイドがいた。

脚が瓦礫に挟まって動けないみたいだ。

「ラパン・・・助けることないよ。」

「え・・・?」

ルナール、何を・・・?

「イド、あんたは先生の言うことを破って私の友達を傷つけた。」

「悪かったよ・・・もうしない・・・だから・・・!」

「・・・。」

私はルナールより前に出る。

「ひぃ!」

イドは怯えた声をだす。

ルナールはそれを見て呆れ気味に鼻で笑う。

「ほら、怯えてるじゃん、やっぱりあんた助ける価値なんて・・・。」

「メギド・・・。」

「え?」

私はメギドを放つ。

ルナールはさっきの態度とは売って変わったかのように戸惑う。

「ラパン、何もそこまで・・・!」

「うわああああぁぁ!!」

イドが断末魔のような叫びをあげるが、メギドはイドの脚を潰している瓦礫に直撃し、瓦礫を吹き飛ばす。

「ぇ・・・?」

戸惑っているイドに歩みより、足に手をかざす。

確か本によると、『自身のフォトンを生命とイメージし、それを放つようイメージ』だったっけ。

「レスタ・・・。」

キーワードを唱えると、淡い光が手から放たれ、イドの脚を包み込む。

「・・・動ける?」

「え・・・?」

イドは脚を動かす。

骨折しててもおかしくないのに足は何事もなく動いていた。

「ラパン・・・。」

「・・・ルナール?」

「なんでだよ!!そいつ、ラパンに散々酷いこと言ったんだよ!?」

「でも、それはルナールの事を心配してくれたからでしょ?ルナールの事が大好きで大事に思うのは、私も同じだから・・・。」

「ラパン・・・!」

「ッ!?」

ルナールは急に抱きついてきた。

「馬鹿馬鹿・・・あんた馬鹿だよ・・・お人好し過ぎるよ・・・!」

声が震えてる・・・泣いてるの・・・?

「ごめん・・・でもやっぱり目の前で助けられる人は放っておけな・・・?」

私が返答している間にルナールは突如倒れる。

「ルナール・・・?」

「う、うああ・・・ぁ・・・!」

ルナールは苦しそうなうめき声をあげる。

「ルナール!?」

「痛い・・・身体が・・・痛い・・・痛いよぉ・・・!」

「!?」

どういうこと!?

「待ってて、すぐにレスタかけるから・・・!」

急いでルナールにレスタをかける。

「どう・・・?」

「痛い・・・駄目・・・全然よくならない・・・!」

「え!?」

どうして!?

レスタは痛覚を和らげて傷を癒すテクニックのはずなのに・・・!

「・・・!」

あれ?

視界が歪んでる・・・?

そう思った瞬間、私の身体は倒れる。

「・・・!?」

なんで・・・?

力が入らない・・・。

それに・・・身体中が寒い・・・!

「痛い・・・痛いよぉ・・・!」

「ルナー・・・。」

苦しむ友達の名前を言い切る前に、私の意識は途切れた。

 

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「なんなんだよ、こいつ・・・!」

ディカータは全て倒した。

だが群れの中に一体だけいたプレディカータだけはどうしても倒しきれない。

弾丸を放つと普通の奴とは違う動きでかわされる。

それにプレディカータは本来もっと攻撃的な奴だ。

持ち前の素早さを利用してどんどん距離を詰めて仕掛けてくるはずなのに、こいつは頭がいいのか、迂闊に仕掛けてこず、的確に攻撃が止んだ隙をついて仕掛けてくる。

異様なまでに攻守のバランスがとれている。

「仕方ないな・・・。」

こうなったらあの手を使うか。

俺はエルダーリベリオンで牽制をする。

奴は攻撃を避けるが、俺は途中で弾丸のラッシュを止めて距離を詰める。

「隙ありだ。」

奴を転ばせるために足払いをかける。

「!!」

プレディカータは跳んで回避する。

有り得ない事だ。

奴は俊敏な動きで回避するが、その動きは水平移動(スウェー)のみのはずだ。

「なっ!?」

さらにプレディカータは跳んだ高度を利用して飛び蹴りを放ってきた。

「ぐあっ!!」

あまりに意表を突かれて諸に食らってしまう。

だが・・・。

「・・・分かった。」

分かったぞ、この違和感の正体が・・・!

おかしな動きをするプレディカータ。

そしてなによりエスカが此処にいないこと。

それらが導き出す答えは・・・。

「茶番は終わりだ。」

俺は球状のアイテムを取りだし、そのアイテムの蓋をとる。

その隙にプレディカータは距離を詰めて仕掛けてくるが、構わずに上に放り投げる。

アイテムからは真っ白い光が溢れて辺りを包み込む。

放り投げたのはソルアトマイザー。

毒や火傷、光による目の眩みなど、様々な不調を治すアイテムだ。

プレディカータの鎌が今にも俺の喉元に到達しようとした瞬間・・・。

「なっ!?」

鎌はダガーに、そしてプレディカータはエスカの姿に変わり、エスカはダガーを間一髪で止める。

「なんで【従者】がお前に・・・!」

「そう言うことか・・・。」

「どういうことだ!」

「俺達は幻覚を見せられてたって訳だよ。」

奴は相当手の込んだ事をしたようだ。

【従者】は俺と同じように双機銃で戦っていた。

俺にプレディカータを、エスカには【従者】の幻覚を見せれば、武器が似ているだけに戦っても全く違和感が無い。

「だったら【従者】はどこに・・・!」

「・・・。」

互いの背中を合わせ、辺りを警戒するが、【従者】の姿は見えず、攻撃がくる様子もない。

しばらく攻撃が来ないのを確認すると、俺達は構えを解く。

「くそっ・・・舐めやがって・・・!」

考えてみれば奴は俺達が騙されてやりあっているうちにいくらでも殺しにくる隙があった。

だが敢えてそれをせずに去った。

つまりは完全に弄ばれたのだ。

なんなんだ、奴の目的は・・・!



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第十章 ~紅眼の紫兎~

~ネージュ 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「う、うぅん・・・。」

目が覚めると、青い天井が見える。

ああ、そうか。

確かダーカーに襲われて、崖から落ちたんじゃっけ・・・。

「気がついた?」

「!」

隣から人の声がする。

見てみると声の主はわしが横になっている隣に座っていた。

「お主は・・・?」

「通りすがりのアークスよ。」

黒い防寒用のコートを来た少女だ。

わしより年はそう変わらなさそうじゃが、辛うじて年上ってとこじゃろうか。

特徴と言ったら紫の髪に、ちょっとつり目気味、瞳が赤い。

「えっと、これ、何がどうなってこんな状況なのじゃ?」

「あんた本当に何も分かってないのね。いいわ、教えてあげる。」

「ふむ。」

「あたしも別の任務でこっちに来てたんだけど、遠くから強い光があったから見に行ったら気を失ったあんたが水の上に浮いてたのよ。」

「光?」

「あんた何かしてたんじゃないの?」

「いやいや全然なのじゃ。何せ崖から落ちた所以降の記憶が無くての。」

「はぁ?ますます意味分かんないんだけど。しかも上層から落ちてきたっての?いくら水があるからって普通死んでるでしょ?」

「そんなこと言われてものぅ。」

「ハァ・・・あんた任務はなに?」

「原生民から救難信号あったらしくての、そのポイントに向かってるとこなのじゃ!」

「それって結構急ぎじゃない!しょうがないわね。あたし急ぎじゃないから手伝うわよ。」

「おお!助かるのじゃ!!」

「ほら、行くわよ。」

そう言うと少女は立ち上がる。

「おう!」

立ち上がり、着いていく。

「・・・あれ?」

「? どうしたの?」

わし、なんかしなきゃいけないこと忘れてるような・・・。

なんじゃろう、思い出せん。

「まぁいいか。」

「?」

わしは少女についてくことにした。

 

 

~ロイド 民間居住区 孤児院~

 

「う、うぅん・・・。」

ラパンはゆっくりと瞼を開ける。

「ラパン・・・!」

良かった、目を覚ましてくれた。

「先・・・生・・・?」

私の名を呼んだあと、キョロキョロとして此処が孤児院の寝室だと理解する。

「ラパン・・・。」

「先生・・・ッ!?」

私は思いっきりラパンの頬を引っ叩く。

「どれだけ心配したと思ってるんだッ!!」

「先生・・・ごめんなさ・・・!?」

ラパンは謝ろうとしたが、堪らず抱き締める。

「怖かったんだぞ・・・このまま目を覚まさないんじゃないかって・・・!」

「先生・・・痛い・・・。」

「本当に・・・本当に良かった・・・無事で良かった・・・!」

涙が押さえきれなかった。

ラパンを見つけるまでも、悪い人間に捕まっていないか、事故にあってしまってはいないかと言う不安があった。

見つけてみれば命が危険な状態で見つかった。

何日も何日も続いた恐怖がやっと終わった。

ラパンは無事に帰って来れた。

これが泣かずに居られる物か・・・!

「先生・・・そうだ・・・ルナールは・・・?」

「ラパンッ!!」

ルナールは勢い良く入ってきた。

「大丈夫!?痛いところとかない!?」

「うん、平気・・・ルナールは・・・?」

「ルナールはラパンより一日早く治ったよ。」

「私・・・どれだけ寝てたの・・・?」

「三日だよ。」

「三日!?」

「ラパン、ルナールにも教えたけど、これ見てみな。」

「え・・・?」

取り出したのは『フォトンの扱い方初級編』。

ラパンが持ち出していた本だ。

その最初のページの注意事項を見せる。

「『一般人のフォトンの扱いは身体に多大な負担をかけるため、もし本書の事が出来ても適度に休憩を挟み、過度な使用は控えてください』。一番最初に書いてるじゃないか。」

「あ・・・本当だ、見落としてた・・・。」

「ラパンでもうっかりすることがあるんだね。」

「ご、ごめんなさい・・・。」

「本来なら、二人にはフォトンの扱いを禁止するところだけど・・・。」

「・・・!」

ラパンの頭に手を乗せて撫でる。

「将来の目標を持って努力する事は良いことだ。だから訓練はしていいけど、ちゃんと私の許可を取って、私の見てる所でする事!いいね?」

「・・・はい。」

注意しているのだが、なんだかラパンは嬉しそうだった。

本当にこの子は、頭を撫でてると幸せそうな顔するな。

「それと・・・。」

私は部屋の出入口に目をやる。

「ほらみんな、おいで!」

そう言うと孤児院の子供たちが入ってきた。

「・・・!」

ラパンは急に顔を強張らせる。

「・・・大丈夫だよ。もうみんなラパンを怖がってない。」

「・・・え?」

「あのあと、イドが助けを呼びに来たんだ。それでイドが此処の子達にラパンがやったこと全てを話してくれた。そしたらみんな、君をみる目が変わってね。」

「え?」

ラパンはイドを見る。

「・・・。」 

イドは照れくさそうに目をそらす。

「あのさ・・・。」

一人女の子が前に出る。

彼女はエル、ルナールの親友でルナールがラパンに近づいていたことを一番注意してた子だ。

「ごめん・・・怖がったりして・・・。」

「あ、えと・・・その・・・。」

お互い気まずそうだ。

「ラパン姉ちゃん!」

「ふぇ!?」

小さい子達数人がラパンに飛び付く。

「イド兄助けてくれてありがと!」

「テクニックって言うの使って助けたんでしょ!?」

「私もテクニックやってみたい!」

「え・・・えっと・・・。」

ラパンは助けて欲しそうに私を見る。

「良かったな、弟子が出来たじゃないか。」

「そ、そんな、弟子なんて・・・!」

「ししょー!」

「師匠!?そ、そんな、私、そんなんじゃ・・・!」

「ふふ。」

そうだ・・・これだ。

この光景が見たかった。

こうやってラパンが皆に受け入れられている光景。

これが見たかった。

「ラパン。」

またラパンの頭に手を置く。

「お帰り、そして改めてようこそ、我が家に。」

「おかえり、ラパン!」

「おかえりなさい!」

「おかえり!」

皆がラパンに歓迎の言葉を贈る。

「みんな・・・。」

ラパンは涙ぐんで泣きそうになったが、すぐに拭って顔を見せる。

「ただいま・・・!」

ラパンは笑った。

その笑顔は、今まで見た彼女の顔の中で一番輝いて見えた。

 

 

~ネージュ 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「あかん、あかんてぇ!!」

救難信号があったところに向かうと原生民が怪物に食われかけておった。

「あんたぁ!アークスの人ら来てくれはったで!もう少しふんばりぃや!!」

近くでその奥さんらしき奴が旦那に激を飛ばしておった。

「せやかてもう限界や!はよ助けてぇな!!」

「おう!任せるのじゃ!!」

わしは怪物に向かってイルグランツを飛ばす。

怪物は原生民を食うことに夢中なのか、避けようともせず直撃する。

しかし、身体が大きい事もあるのか中々タフで、傷が少し着いたぐらいであまり威力がない。

「んぬっ、効かんか、ならば!」

ラグランツの方が良さそうじゃ。

フォトンを練りながら怪物に近づく。

「むっ!?」

なんじゃ!?

奴から水流が起こって押し戻される。

じゃが奴が攻撃らしき行動もとってないんじゃからこのまま押し進んでも・・・。

「待ちなさい!ちょっと離れて!」

「へ?」

少女に注意された瞬間・・・。

「ふぎゃ!!」

突然怪物から強力な水噴射が起こり、吹き飛ばされる。

「痛た・・・なんなのじゃこいつ・・・!」

「補食中のガラムアネモネは食事の邪魔をさせないために、近づくやつを水噴射で妨害するの。」

「じゃあどうやって倒すのじゃ!あいつ結構タフじゃぞ!?」

「下がってて。」

少女は手を前に翳す。

すると黒い剣が出現する。

「お、お主ハンターなのか!?」

「違うわよ、まぁ見てなさい。」

そう言うと少女は剣を逆手にもち、剣の柄の部分を怪物に向ける。

すると柄の先から真っ黒い球体が現れる。

「一発で仕留めるから。」

そう言うと少女の身体から黒いオーラが涌き出てくる。

しかも少しすると怪物から黒と紫が混じったような禍々しい魔方陣が現れる。

「ハッ!!」

少女が剣に力を込めると、化け物は内部から爆破されたかのように四散する。

「あぃた!!」

食われかけておった原生民は、急に化け物が爆破したお陰で足場を失い、下の水面に落ちて転ぶ。

「お、お主・・・。」

「そう、あんたと同じフォース。最も私は闇のテクニックの方が得意だけどね。」

「あんたぁ!!」

「お前ぇ!!」

奥さんが駆け寄り、旦那の方も駆け寄り、今にも抱き合うかと思った瞬間・・・。

「ふぬぁ!!」

「ぶふぉ!?」

奥さんが旦那を掴み、そのまま見事なバックドロップをかます。

「何すんねんアホ!!」

「アホはあんたや、アークスの人らに迷惑かけ腐って!!」

「お前がさっさと逃げるからわしが敵に囲まれたんやろ!!」

「あんたがトロいのが悪いねん!!それに救難信号もちゃんとアークスの人らのとこ送ったで!『うちの旦那御愁傷様』ってな!」

「勝手に殺すな!!それ救難信号ちゃうやろ!!」

「救難信号なってますー!アークスの人ら来てくれはったのが証拠ですー!結果がもの言うんや結果が!!」

「それアークスの人らが察し良すぎんねん!!なんでそんなんで来てくれんねん!すげぇなアークス!」

「それにあんたが死んだらもっとええ人旦那にしたるねん!サクラ貝ヘッドのヘブラカスさんとか、アサリヘッドのナラブカンさんとかホラ貝ヘッドの・・・。」

「どいつもこいつも頭貝やないかい!!わしと大して変わらんやろ!!」

「あんたには美意識が足らんねん!少なくともあんたの糞みたいな巻き貝ヘッドよりマシや!!」

「なんやと!」

「ぷくく・・・。」

「なんや嬢ちゃん?腹痛いんか?」

駄目じゃ・・・もう限界・・・!

「ぷはははッ!お主らッ、面白過ぎるのじゃ!!」

「人の喧嘩みてそない面白いんか!気分わるい奴っちゃな!」

「いや・・・あんたらのそれ完全に漫才だから。」

少女の方も顔がひきつっている。

割とわしと同じでキツそうじゃったかな?

「これが漫才に見えるんか!失礼な奴っちゃな!」

「これ以上はツッコまないわよ。それに此処も安全じゃないんだから、さっさと住処に帰って喧嘩なり漫才なりやってなさい。」

「フン、なんか納得いかんけど嬢ちゃんの言うことはもっともや!とにかく、助けてくれた事には感謝しとるで!ほなな!」

「ほななー!」

原生民の真似をしてワシは見送った。

「ところであんた・・・。」

「へ?」

少女は急に話しかけてくる。

「あんまり一人で任務行ってないでしょ。」

「ギクッ!」

な、なんでバレてるのじゃ!?

「な、ななな、なんのことじゃ?」

「目がクジラみたいに泳ぎすぎ、あんなの見たら誰だって気づくっての。」

「うぐぐぅ・・・!」

「あんた仲間は?」

「それがのぅ・・・。」

「ネージュ様!!」

「へ?」

なんじゃ?

声のする方を見てみると・・・。

「・・・!」

見覚えのある執事服。

年老いたその姿・・・。

「じ、じいや・・・!」

「ネージュ様、お会いしとうございました!」

「じ、じいや!!」

今にもじいやにかけ寄ろうとした瞬間・・・。

「待って!!」

少女が手を突き出して制止をかけてくる。

「な、なんじゃ・・・。」

「・・・。」

少女は先程の剣を目の前に翳す。

「え、なんじゃ!?」

剣は黒い霧の様なオーラを放っておった。

「この剣はダーカーに反応するんだけどこんなに反応したのは初めて・・・あんた、何者なの?」

「ふっふっふ。」

少女の言葉にじいやは急に笑い出す。

「こうも度々騙し討ちに失敗してはいささかプライドが傷つきますな。」

「じいや!?」

なんじゃ?

どういうことじゃ?

わしには全然分からん!

「では正体をお教えしましょう。」

じいやは礼儀正しく礼をする。

「ダークファルス・・・ダークファルス【従者(ヴァレット)】。」

「ヴァレット・・・!」

その名前には聞き覚えがあった。

「ヴァレットって・・・あのヴァレットか・・・!」

「なに、あんた知ってるの・・・?」

「ああ、じゃがヴァレットはじいやではない・・・あやつはメイドだったはずじゃ!!」

「ふふふ・・・。」

じいやは急に笑い出すと黒い霧に包まれる。

そして霧が晴れると、見覚えのあるショートヘアのメイド服の女になっていた。

「お久しぶりですわ、ネージュ様。」

ヴァレットはスカートを両手で摘まんで一礼する。

「ヴァレット・・・貴様・・・なんでじいやの姿に・・・!」

「わたくしは元よりダークファルス・・・肉体を乗り換える事など造作もございませんわ。あぁ、因みに、今のこの姿はわたくしの能力でこう見せているだけで、実体は執事長の物ですわ。」

「そのじいやって人の身体が、今のあんたの『依り代』ってわけ?」

「な、どういうことじゃ!?」

わしには分からんが少女は理解しとるようじゃった。

「知らないの?ダークファルスは本来実体がないの。だから実体を得るために人間の身体を乗っ取るのよ。」

「そちらの方は中々博識ですわね。説明の手間が省けて助かりますわ。」

「許さん・・・許さんぞ・・・この裏切り者め!!」

「『裏切る』?」

そう言うとヴァレットはじいやの姿に戻る。

「それは違いますな。わたくしは最初から貴方たちの敵だった・・・ということでございます。」

「黙れ!!じいやの姿で話すな!!じいやを汚すな!!」

「まぁ、色々と話したいことはあるでしょうが、これ以上話が脱線しても仕方がないでしょう。本題に入らせて頂きます。」

【従者】は礼をしたあと、顔を上げ、わしを睨む。

「ネージュ様、貴方様が『神託のフォトン』を既に継承されていることが判明致しました・・・よって即刻排除させて頂きます。」

「『神託のフォトン』・・・!」

少女は目を見開く。

「え、なんじゃ知っとるのか・・・?」

「知ってる・・・アークスシップ第23番艦『アルクトゥス』にのみ存在する『テンプルエリア』。そこにとある一族が一子相伝で受け継いでいる強力なフォトン・・・それが、『神託のフォトン』。」

「なんで知っとるんじゃ!?『神託のフォトン』は秘密裏に管理されとるから、他のシップには知られとらんはずなのに・・・!」

「私も『アルクトゥス』にいたのよ。」

「ほお、『あの襲撃』を生き残っていたのですか。確か七年前だったはず。貴女も流石にその年でアークスにはなってはおられないでしょうに・・・。」

「お喋りはここまでよ。あんたがあの艦を襲撃したっていうならあんたはあたしの家族を奪った『仇』ってことになるわ!!」

少女は剣を先程の様に逆手で構える。

「わしだって戦うぞ!!貴様は許せんのは変わらんからな!!」

「ほう、勇ましいですな。ですが・・・。」

【従者】は二丁の銃を出して構える。

「貴方がたはフォース。であればわたくしが銃でこの間合いに立っていることがどういうかお分かりですな?」

わしらと【従者】の間合いは歩く歩幅六歩分。

銃で撃つにも充分射程内じゃ。

「・・・テクニックのチャージ中にいくらでも撃ち抜けるってわけ。」

「はい、テクニックを練った瞬間に攻撃に移らせて頂きます。」

「舐められたもん・・・ね!!」

「!!」

少女は意外な行動に出る。

剣を更にひっくり返し、元の剣の様に持って【従者】に斬りかかった。

【従者】は意表を突かれたものの、なんとかそれを銃で止める。

「ほう・・・!」

「これがあんたには『杖』に見えるの?」

少女は【従者】に容赦なく連撃をかける。

「くっ・・・!」

流石に押され気味と思ったのか、【従者】は後方に宙返りしながら銃を構えるが少女はテクニックを練っている。

「マズイ!狙われ・・・!」

銃を構えている相手にテクニックを練り始めたら無防備じゃ!

わしが注意を呼び掛けようとした途端・・・。

「残念ね。」

「!!!」

わしが予想していたよりも早く少女はテクニックを練り終わり、炎のテクニック『フォイエ』を【従者】に向かって放つ。

「ぐぁっ!?」

【従者】もこんなに早く撃たれることは予想していなかったようで、フォイエを諸にくらってしまい、すぐ後ろの壁に身体を打ち付けて倒れる。

「クラスカウンターで申請出来るスキル、『フレイムテックSチャージ』。あたしの炎のテクニックはあんたの銃を撃つ早さにだって負けないわよ。」

「ふふ、見事・・・!」

「覚悟しなさい!」

少女はフォイエを放つ。

「ふふ。」

「!?」

【従者】は突然霧のように姿を消す。

「お見事。」

「!!」

【従者】は少女の後ろに回り込んで後頭部に銃を突きつけていた。

「今やったのは『幻覚』だったってわけ。」

「・・・看破されてましたか。」

「あんたが最初にメイドになった時からそうじゃないかって思ってたわ。」

「中々賢い・・・ですが、終わりです。」

【従者】が引き金を引こうとした瞬間・・・。

「む!?」

【従者】は即座に右に向き、銃を突き出す。

するといつの間にか現れた者が何かをその銃にぶつけた。

「お主・・・!」

金髪に白いロングコート。

「ハァッ!!」

ぶつけたのはカタナの鞘で、既に抜いたカタナを【従者】に向かって縦一文字に叩き込む。

「ぬぅッ!」

【従者】は少女から離れて回避する。

「また失敗か・・・訓練は受けてるけど、どうも苦手なんだよな、『不意討ち』って。」

「セト・・・!」

「やぁ、また会ったね!」

相変わらず爽やかな笑顔で気さくに話しかけてくる。

「さて・・・。」

セトはカタナを鞘に納め、【従者】に構え直す。

「ノワールから受けた報告の『新種のダーカー』を狙って張ってたらえらい大物がかかったみたいだね。」

「三人ですか。しかも前衛がつくとなると・・・。」

【従者】は銃を構えるが・・・。

「三人じゃねぇよ。」

「!!」

【従者】の両斜め上から人影が二つ降ってくる。

「『五人』だ。」

ノワールとエスカが【従者】に向かって蹴りを放つ。

「くぅッ!」

【従者】は後方に飛んで更に距離を取る。

「ノワール!エスカ!」

「やっと見つけたぞこのアホ・・・!」

ノワールは忌々しそうにいつもの憎まれ口を叩く。

「エスカ・・・!」

「ネージュ・・・。」

エスカは一瞬だけわしを見て【従者】に視線を移して構える。

「・・・すまない。」

「エスカ・・・。」

「これはこれは・・・。」

【従者】は銃をしまう。

「ネージュ様、わたくしの知らぬ七年の間に、随分と仲間を増やされましたな。いやはや全く・・・。」

【従者】は表情を変える。

「忌々しい・・・!」

その表情は憎しみに満ちたかのように険しい。

じゃが、すぐに元の余裕ある表情に戻る。

「まぁいいでしょう。今回は引きましょう。ですがネージュ様。」

【従者】はうっすらとした細目でわしを睨む。

「わたくしが『殺す』と公言した以上、安眠出来る夜があると思われますな。」

そう言って【従者】は赤黒い霧と共に消えていった。

「・・・行ったか。」

セトが確認するように言うと、一同は構えを解く。

「それにしてもセト、お前なんでこんなところに・・・。」

ノワールが質問を飛ばす。

「君ら第一発見者だろ?『新種のダーカー』の、奴等が一度接触した君らにまた接触してくると思ってつけてたんだ。」

「単独行動かよ。お前確か部隊任されてなかったっけ?仲間はどうしたよ。」

「大人数でゾロゾロ行動したら敵も寄り付かないだろうから、僕一人で監視してたんだよ。」

「じゃあお前一人がずっとネージュの後をつけてたってことか?」

エスカは目元をひくつかせながら聞く。

「そうだよ?って、え?なんでみんな距離取ってんの?」

エスカはわしを庇うように背中に着けながら距離をとり、ノワールも距離をとり、少女までもセトから距離をとる。

「うわぁ・・・!」

少女の顔が嫌悪感に満ちているように見える。

「あぁ、そういうこと?って違うッ!!これはただの敵を釣るための隠密行動ッ!!そういう意味じゃない!!」

「そういう意味ってどういう意味じゃ?」

「ネージュ、お前は知らなくていいぞ。それより、こいつから距離を取れ。」

なんかよくわからんが、エスカに諭される。

「余計なこと言わないで!」

「引くわぁ・・・。」

「ノワール!!お前も男だろ!?なに女の敵を見るような目で見てるんだよ!!」

「俺の方にも密偵着けてたし余計引くわぁ・・・。」

「だから引くなって!!って、え?なんで知ってんの!?」

「ん。」

ノワールは懐から袋を取り出す。

「むぅう!!うぐうううぅ!!」

袋の中で何かが暴れている。

「プハッ!!」

袋の中身が顔を出す。

兎の耳のついたシルクハットを被った、片目に眼帯のついた少女のようじゃが、人にしては頭だけでもそれが分かるほど小さい。

「サポート・・・パートナー?」

「うぅ・・・。」

サポートパートナーらしき少女の目はみるみるうちに涙ぐむ。

「うわあああぁぁぁん!!セドオオオオ!!だずげでええええぇ!!ごの人たぢごわいよおおおぉ!!」

サポートパートナーは物凄く大声で泣きながら助けを求める。

「ラビ!?なんでこんなことに!?」

「俺らが【従者】の幻覚破ったころに、物陰から連絡取ろうとしてたから銃突きつけて洗いざらい吐かせようとしたんだが逃げた・・・だからふん捕まえて袋に入れた。」

「袋に入れる意味が分かんない!!はぁ・・・だからか・・・途中から連絡取れなくなったのは。」

「セト、よう分からんが、どんまいなのじゃ。」

「哀れみにしか聞こえないけどありがと・・・。」

「よく分かんないけど、仲間と合流出来たみたいだし、あたしはもう用済みみたいね。」

少女は溜め息混じりに両手を挙げて言う。

「んじゃ、あたしも任務あるからいくわ。」

「おう!感謝するぞ!」

「ん。」

少女は振り返らず手を降りながら去っていく。

「ネージュ、あいつは?」

エスカに聞かれる。

「途中で助けてくれた奴なのじゃ。えーと。」

あれ、たしか・・・えっと。

「あ!」

「どうした?」

「名前聞くの忘れてたのじゃ・・・。」

「ハァ・・・お前そうやって抜けてるから一人で任務行くと危ないんだよ。」

「エスカ・・・お主もそんなこと言うのか・・・。」

「は?『も』ってなんだ。他にも言ったやつがいるのか?」

「ノワールなのじゃ・・・。」

「ノワール・・・!」

エスカは少し考え込むとハッとする。

「まさかお前、ネージュをムキにさせたからって私に・・・!」

エスカがノワールの方を向くが・・・。

「いない!?」

「ノワールならさっきどっか行ったよ。」

セトは泣きじゃくるサポートパートナーをあやしながら言う。

「なに!?くっそ、あいつぅ!!・・・!?」

エスカは戸惑う。

「・・・。」

わしが後ろから抱きついたからじゃ。

「・・・!あぁ、僕も今回の件、報告しないとだから、いくね。」

気を効かせてくれたのか、セトも去っていく。

「ネージュ・・・。」

エスカはわしの手を握る。

「すまなかった。お前に刃を向けたこと・・・チームを抜けたこと・・・。」

「どうでもいい・・・。」

「どうでもよくないだろ・・・。」

「どうでもいいのじゃ・・・。」

力を込めてエスカにしがみつく。

「エスカ・・・もう、一人はいやなのじゃ・・・!」

「ネージュ・・・。」

「・・・。」

「私は・・・戻ってきていいのか?」

「駄目なんて・・・わしが言うわけないじゃろ・・・!」

「ネージュ・・・。」

「・・・。」

「ありがとう・・・。」

 

 

~紫髪の少女 惑星ウォパル 海底エリア~

 

目の前の巨大なエネミーは奇妙な声を挙げて動かなくなった。

海底エリアの最深部、そこに潜んでいた原生エネミーである『ビオル・メデューナ』。

こいつがダーカーに侵食されて暴走し、原生民に被害を及ぼしたため、原生民より討伐依頼が来ていた。

「その程度のエネミーなら瞬殺か。」

不意に後ろから声がする。

「覗き見なんて趣味悪いわね。」

さっき会ったばかりなので声を聞いただけで人物は特定できる。

あの黒いコートの男。

確か名前は、『ノワール』だったっけ?

「その剣・・・強いな、何処で手に入れた?」

「・・・色々あって手に入れただけよ。」

「そうか・・・。」

「なにそれ・・・興味があったんじゃないの?」

「まぁ、ないと言えば嘘になるけど、嫌なら別に言わなくていい・・・邪魔したな。」

水の音が混じった足音が遠ざかっていく。

去っていったみたいだ。

「・・・。」

報告の為に通信機を管制に接続する。

「終わったよ。」

『こちらでも確認しました、お疲れ様です!』

「うん・・・。」

 

 

 

『では帰還してください、ラパンさん!』

 

 

 

「うん・・・。」

通信を切る。

管制からのアクセスで自動生成されたテレパイプに足を進める。

「・・・。」

途中で止まり、胸に着けていたロケットを開く。

中には当事九歳の自分と、この世で最も大事な人が一緒に写った写真があった。

「先生・・・。」

ロケットを閉じ、握りしめる。

「何処・・・寂しいよ・・・また・・・頭撫でてよ・・・!」



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第十一章 ~夜の群像~

 

~セト マザーシップ ブリーフィングルーム~

 

ダークファルスが出現した事が確認され、アークスの最上層部、旧六芒均衡を招き、大規模な会議が開かれる。

「今回セトから報告されたことを纏めましょう。」

映像を開きながら進行をしているのはカスラ。

六芒均衡の『三』を務めていた人物であり、情報部の司令を務めている。

「ダークファルス【従者】、その能力は『幻覚操作』。目的は『神託のフォトン』継承者であるアークス、ネージュの抹殺。発見者達の証言から、七年前にアークスシップ第23番艦『アルクトゥス』襲撃の主犯であり、以前報告にあった『人型ダーカー』の筆頭と推測されます。」

映像には【従者】の顔が表示され、彼の抹殺対称であるネージュ、そして過去の外装の映像と思われる『アルクトゥス』の姿があった。

「神託のフォトン?聞かない名だね。」

最前席のキャストの女性が疑問をなげかける。

元六芒均衡の『二』、マリア。

現在は総務部の司令を務めている人物だ。

「ええ、そう言われると思い、情報部で事前に情報を集めていました。」

カスラが端末を操作して映像を切り替える。

するとその映像には奇妙な光を放つ、透明な狐の像だ。

「『アルクトゥス』にのみ存在する『テンプルエリア』にある『選定の神弧』、この像に触れた者の中で選ばれた者には『神託のフォトン』と呼ばれる特殊なフォトンを与えられ、強大な力を扱えるそうです。神託のフォトンは彼女の一族からのみ継承者を選ぶそうで、彼女の一族はこの像を奉る宮司の一族だったようです。」

「何故そのような強大な代物が今まで報告に無かったのだ?」

疑問を投げ掛けた男性キャストはレギアス。

六芒均衡の『一』を務めた、僕の部隊が傘下となって所属する教導部の司令であり、要は上司だ。

「『アルクトゥス』は他のシップと違い宗教的な考えが強く、また排他的な部分がありました。この『テンプルエリア』も、神々が住まう聖域とされ、宮司の一族以外は入れなかったそうです。さらに他のシップの者からの悪用される事を危険視し、情報を漏洩させないために所属する民間人のシップ間の移住を制限し、他シップからの交流も制限されていました。また違和感を持たせない為に、アークスを所属させてはいましたが彼等にも情報を漏洩させないよう、厳重な口止めをさせていたようです。」

「随分とセキュリティが厳重だな。でもルーサーの一件もあったからな。結果的にはそれが効を奏してたわけか。」

「ええ、皮肉にも、と言うべきでしょうか。」

相づちを打ったのはゼノ、旧六芒均衡の『四』。

レギアスと同じ教導部の次席だ。

今の内容はアークスの研究所の所長、『ルーサー』が実は『ダークファルス【敗者】』であり、アークスを裏から支配しており、オラクル船団の根源ともいえる存在、『シオン』の力を我が物としようとした事件だ。

幸いにもシオンは既に自分の後釜であるシャオを産み出しており、その力をシャオに譲渡することによりルーサーに悪用されることを阻止し、ルーサーは六芒均衡と英雄マトイともう一人のアークスにより打ち倒され、事件は幕を閉じている。

もし神託のフォトンの存在が露になっていれば、ルーサーの魔の手が伸びていなかった可能性の方が遥かに低いだろう。

「しかし当事者の証言によれば、既に神託のフォトンの存在は【従者】によって察知されており、七年前のアルクトゥス襲撃は、奴の計画的犯行であったものと思われます。しかも情報制限をかけていたことが仇となり、当時の襲撃は単なるダーカーの襲撃とされ、【従者】の存在も此方で掴むことができず、七年もの間、【従者】という存在を察知することも出来ずに泳がせていたという事になります。」

「なんてこった。」

マリアは頭を抱えて嘆く。

「同じオラクル船団に所属するシップだろう、何故手を取り合う道を選ばなかったんだろうね。そうしていれば、艦が無くなったとしても仇を撃ってやる為に色々手配出来ただろうに。」

「それにしてもなんで今頃になってそのネージュって奴を殺そうとするんだ?」

「そちらに関しては、ノワールからの報告にあった、不時着したアークスシップでの出来事が関係していそうですね。」

「ノワール・・・ああ、セトが昔組んでた奴か。」

ゼノはハッとして手をぽんと叩く。

「あの帰還命令無視の常習犯かい?」

マリアは目を細めて此方を見る。

「・・・。」

うわ、恥ずかしい・・・!

僕の席の近くからも視線が集まって来るのがわかる。

こう言う時に肩身が狭くなってくるんだよな。 

「話が脱線しているぞ、報告の内容を進めてくれんか。」

レギアスが一同を叱咤する。

「・・・。」

「!」

レギアスが一瞬だけ此方を見て視線を戻す。

・・・もしかしてフォローされた?

「ええ、彼はネージュと共にダーカーに侵食されたアークスシップに不時着した際、例の人型ダーカーに接触しました。その際に彼女が神託のフォトンらしき力を発動させ、アークスシップ脱出に成功したそうです。」

「その際に神託のフォトンの存在を察知されたってわけかい?」

マリアの指摘に、カスラは頷く。

「そして恐らく、それまでの間は彼女が神託のフォトンを継承していることを知らなかったと思われます。」

「確かに筋は通ってるな。既に知ってたなら血眼になってネージュを探していただろうから、もっと早く事が起こってただろうしな。」

「ええ、それにこれらの情報から、彼等が不時着したアークスシップは、十中八九【従者】の拠点であり、アルクトゥスとみて間違いないでしょう。」

「おお、それならそこに殴り込みに行って【従者】を倒したらいいんだな!?」

最前列の席から少女が勢いよく立ち上がる。

元六芒均衡の『五』、クラリスクレイス。

戦闘部の次席だ。

「バカね、それがすぐ出来れば苦労しないっての。」

横やりを入れたのはサラ、総務部の次席であり、クラリスクレイスの姉のような存在だ。

「ええ、現在アルクトゥスの探索を様々な手段で行ってはいますが、未だに発見の報告はありません。」

「相手はアークスシップ、移動も出来るからね。それに七年もうちらの目を逃れてた奴だ。そう簡単に見つかりゃしないだろうね。」

「ええ、それに今回の事が起きた以上、敵は彼女を狙って何かしら行動を起こしてくるはず、それらの対策も練らなくてはなりません。」

「後手に回らざるを得んか、歯痒いな。」

現状をレギアスは嘆く。

「彼女の監視は、今後、私の部下にさせましょう。何か事が起きれば情報も得られるでしょうからね。」

「今は地道に探索しつつタワーディフェンスって訳か。」

「ええ、敵は彼女をいぶり出す為に無関係の者を襲う危険も想定されます。戦闘部には極力出動は控えていただき、こう言った事態に備えて待機して貰いましょう。」

「えぇ!?じゃあ私はしばらく出撃しちゃダメなのか!?」

クラリスクレイスは驚いたようにまた立ち上がる。

「そうなります。」

「ちぇ、ちぇ、なんだよ、カスラのばーかばーか。」

「悲観する必要はないぞ、クラリスクレイス!!」

クラリスクレイスがぶーたれていると横にいた男が立ち上がり、ガッと彼女の肩を掴む。(何故いちいち立ち上がるかはこの際スルーして)

元六芒均衡(らしくない人)『六』、ヒューイ。

戦闘部の司令だ。

「俺達は言わば『秘密兵器』!秘密兵器がホイホイ表に出ちゃいけない!!そう言うことだろう、カスラ!!」

「まぁ・・・そう捉えてもらって結構です。あと私に振らないで下さい。」

「話は纏まったようだな。」

話に決着がついた事を確認すると、今度はレギアスが立ち上がり、カスラの横の皆の視線が集まる位置に立つ。

「諸君、深遠なる闇との戦いの最中、こう言った新たな敵に立ち向かわなくてはならない事は非常に困難を極める事だろう。」

レギアスの言葉に、参加者一同は表情を曇らせる。

アークスで恐らく一番長く戦ったと言える三英雄。

その言葉は重く、他のどんな人間よりも戦場を見た彼だからこそ現実味を帯びている。

「だが!」

レギアスが右手を翳すとレギアスの前に光の紋章が浮かぶ。

六芒均衡の紋章だ。

「困難があってこそ、我らは団結し、一丸となって戦わなければならない!この結束こそが我々人類が生き残る為に振るい、磨きあげてきた最大の武器であるからだ!!」

「おお・・・!」

一同はその光と、その言葉に先程の曇りがまるで黒い霧が晴れるかのように表情の明るさを取り戻す。

「諸君らの力、今一度この老いぼれに貸してほしい!!」

「「「オオオオ!!」」」

会議の参加者一同は立ち上がり、歓声を上げる。

「アークスの底力、今一度奴等に知らしめる時だ!!」

「「「オオオオオオオオ!!」」」

歓声は収まらなかった。

長年アークスを率いていた者のカリスマ性は伊達では無いと言うことを改めて知った。

 

 

~ラパン アークスシップ マイルーム~

 

報告と事務手続きを済ませて部屋に戻るとすぐシャワーを浴びる。

「・・・。」

結局、今日も手がかりがないまま終わった。

生きているのは分かってる。

でも何処にいるのか分からない。

「どうして・・・これだけ探してるのに。」

アークスになった理由はただひとつ。

先生を見つけること、ただそれだけ。

戦いなんて正直好きじゃない。

出来れば静かに暮らしたい。

でもそんな想いを押し退けてでも先生に会いたい。

これだけはどうしても、誰になんと言われようとも譲れないことだった。

候補生時代に『たかがそんなこと』とバカにされたこともあった。

でも私にとってはもうこの人生の中で残されたたった一つの望みなんだから・・・。

「先生・・・。」

ノズルをひねり、シャワーを止めてシャワールームを出る。

部屋着に着替えるとやることもないので本を読む。

「マスター!!!」

小さな足音と共に何かが部屋に入って走ってくる。

「ダーイブ!!」

「わっ!!」

勢いよく飛び込んできたそれは、私のお腹に勢いよく飛びつく。

「もうっ!」

それは少女だ。

金髪のポニーテール、赤目で浴衣姿が特徴的である。

しかし一回り小さい。

そう、サポートパートナーだ。

「マスターマスター!!頼まれてたフランカさんの食材!!集めてきたよー!!」

「うん、ありがと・・・。」

サポートパートナーの頭を撫でる。

「えへへ・・・。」

嬉しそうだ。

「・・・。」

これをすると必ずフラッシュバックする光景がある。

自分が逆に頭を撫でられているときだ。

「先生・・・。」

「マスター、先生ってひと、また見つからなかった?」

「うん・・・。」

サポートパートナーの少女は、心配そうに私を見上げる。

顔に出ちゃったかな。

「マスター元気だして!きっと見つかるよ!」

「うん・・・。」

「私も仕事してる傍らで、色々聞いてるから、何かあったらすぐ分かるよ!!それにこの間友達になった子がいてね!すごく目がいいの!だから任務の途中にその人いたら教えてくれるって言ってた!」

「また友達出来たの?ホントあんたは・・・。」

ホントに、『あの子』そっくりだ。

「ありがと・・・。」

サポートパートナーを抱き締める。

他の人間の前ではこんなことは絶対にしない。

この子の前でなら、私は素直になれる。

だって・・・。

 

 

「ありがとう・・・ルナール。」

 

 

 

~エスカ アークスシップ マイルーム~

 

オラクル船団にも『夜』はある。

とは言ってもシップ内の光の量と気温と、人工的な紫外線を調整しているだけなのだが、これは人間の生活リズムの為に行われている。

人間は一日にある程度の日光をうけ、ある程度は日光を受けないのが健康上必要なことだとされているからだ。

朝に起きて夜に寝る。

当たり前の事だが、これはオラクル船団が出来たときから、人間が元の星に居たときから伝えられた医学である。

「・・・寝るか。」

殺風景な部屋のなか、私はベッドの上で灯りを消し、シーツを体に被せる。

「・・・。」

ネージュに再び仲間として迎えられた。

そんな喜びも束の間、彼女の命を狙う【従者】が現れた。

色んな思いが渦巻くが、私のすることは決まっている。

ネージュを・・・。

「・・・?」

部屋の入り口のドアが開く音がする。

何かがゆっくりと歩いてくるのが足音で分かる。

「・・・。」

殺し屋時代、こう言う状況は何度もあった。

敢えて私は動かない。

此処は下手に動かず相手が自分の間合いまで近づくのを待つ方が得策だからだ。

ギリギリまで待つ。

すると足音は私のすぐ近くで止まる。

その瞬間・・・。

「ッ!」

すぐにシーツをその侵入者に投げつける。

「!!」

侵入者が怯んだ隙に即座に腕を掴んで背中に回り込む。

更にダガーを手元に転移させて侵入者の喉元に突きつけた。

「ヒィ!!」

「・・・寝首を掻くなら相手を間違えたな。」

「え、エスカ、わしじゃわし!!」

「・・・!」

聞き覚えのある声がして灯りを着ける。

「ネージュ・・・!」

確認するとすぐに拘束を解く。

「くはぁ、生きた心地がせんかった・・・!」

ネージュはその場で崩れるように座り込む。

「す、すまない。でも、どうしてここに・・・。」

「その・・・な・・・。」

ネージュは指を捏ねるように動かしながら言葉を詰まらせる。

「はっきり言え。」

「一緒に・・・寝ても、いいかの・・・。」

「は?」

「じゃから・・・。」

「はぁ・・・。」

そんなことの為に私の部屋にきたのかこいつ。

「なんだ、怖い夢でみたのか?」

「いや、その・・・【従者】が言ってたじゃろ・・・その・・・。」

「【従者】・・・ああ・・・。」

 

『わたくしが『殺す』と公言した以上、安眠出来る夜があると思われますな?』

 

あれか。

ウォパルで【従者】が最後に言った台詞だ。

「別に心配しなくてもいいだろ。夜だろうと、【従者】どころか、ダーカーが侵入したら直ぐに警報が鳴る。寝首をかかれることなんて・・・。」

「そういう問題じゃないのじゃ・・・。」

「なんだよ・・・。」

「寝ようと思ったらあやつの言葉が耳に何度も囁くように聞こえてきて眠れんのじゃ・・・。」

「なんだ、軽くトラウマになったのか?」

「分からん・・・けど、眠れんものは眠れんのじゃ・・・。」

そう言ってネージュは私の服の裾を掴む。

「ダメ、か・・・?」

「・・・ッ!」

うるうるとした涙目で見上げてくる顔が異様に可愛かった。

おそらく計算ではやっていないだろう。

こいつにはそんな頭があるわけがないからな。

「ハァ・・・。」

呆れ混じりにシーツを取ってベッドに戻って敷き直して横になる。

「ほら。」

「・・・!」

シーツを開けて誘うと、ネージュはちょっと嬉しそうに入ってきた。

「灯り消すぞ?」

「うむ!」

再び灯りを消すと、辺りは真っ暗になる。

「・・・。」

しばらく沈黙が続く。

ネージュはちゃんと寝ただろうか。

「エスカ・・・。」

・・・起きてたな。

「なんだ?」

「・・・。」

「!」

ネージュは急に抱きついてくる。

「ホントにどうした?なんか変だぞ、お前。」

「・・・怖かったのじゃ。」

「え・・・。」

「【従者】に襲われたときもそうだったんじゃが・・・いつもお主がいたから・・・一人は・・・心細かったのじゃ・・・。」

「・・・。」

「・・・。」

「なぁ、ネージュ。」

「なんじゃ・・・?」

「お前にとって・・・私って、なんだ?」

「どうしたんじゃ?急に。」

「いや、ちょっと、気になってな。」

少し気になっていた。

私はネージュに恨まれてもおかしくないことをしているのに、いつもこいつは私を仲間として迎え入れてくれる。

こいつに取って、私はどういう存在なのか。

そこに理由がある気がしたからだ。

「・・・仲間、なのじゃ。」

「そうか・・・。」

なんか、望んだ答えと違う。

だが、答えたくないのかもしれない。

だったら別に・・・。

「いや、違うかの。」

「・・・?」

なんだ?

「家族・・・みたいなもんかの。」

「家族・・・?」

「わしな・・・生まれ育ったアークスシップがダーカーに襲われて、もう家族がおらんかった。」

「・・・。」

話が急に重くなったな。

「お主のこと知ってな・・・お主、一人ぼっちみたいじゃったし、同じ似た者同士で寄り添えたらなって・・・。」

「それで私を誘ったのか・・・。」

「怒った・・・か?」

「いや・・・。」

正直、どんな理由があろうとこいつには色々借りがある。

どんな下心があろうと、こいつの仲間であろうと思った。

でも、なんだか嫌じゃなかった。

「お前は私がスレイヴデューマンだった頃・・・私が死にそうになったのを助け、仲間に引き入れ・・・生きる意思を奪われた私に、必死になって生きる希望を教えてくれた・・・お前は私にとって、色んな意味で『命の恩人』だ。」

「エスカ・・・その・・・大袈裟すぎるのじゃ・・・。」

「大袈裟なもんか・・・私はお前の仲間でいる限り、お前を守る。」

そうだ。

【従者】の件もある。

ネージュ一人では身を守ることすらできないだろう。

誰かが守ってやらなけれならない。

そんな役は、他の奴等に任せておけない。

私がネージュを守るんだ。

「頼りにしとるぞ・・・エスカ。」

ネージュは私の背中に顔を埋めて呟いた。

「・・・エスカ。」

「どうした?」

「今日会ったあやつ、また会えるかの・・・。」

「あいつ・・・?」

「フォースなのに剣持ってたあやつじゃ・・・。」

「ああ・・・。」

あの紫髪のアークスの少女。

「・・・気になるのか?」

「同じアルクトゥス出身みたいじゃから・・・故郷がもうないのに、そういう奴に合うと、なんだか昔のこと思い出せての・・・。」

「そうか・・・。」 

確かに、そう言うのはあるかもな。

「また・・・会えるかの。」

「会えるんじゃないか?同じアークスだ。シップが違ってても任務でバッタリ合うかもしれないしな。」

「そうかの・・・。」

「でもネージュ、忘れるなよ?」

「え、なんじゃ?」

「名前だよ。」

「そうじゃ、忘れてたのじゃ、えへへ・・・。」

「ふふ・・・。」

それから少し話をしていくうちにネージュはいつの間にか寝つき、私も寝た。

 

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「・・・。」

目の前にダーカーがいた。

双剣と大剣をもった鳥頭のソルダ種だ。

だがすでに殺したあとで、断末魔と共に宙を待って地面に落ちる。

「やれやれだ・・・。」

寝込みを襲うつもりだったんだろうが、長期間帰らない身としては既に慣れきった事で、いくらでも冷静に対処出来る。

さて、もう一眠りするかと思った矢先だ。

『マスター。』

不意に通信機からアオの声がする。

「・・・珍しいな。お前から俺にかけてくるなんて。」

『ご就寝中でしたか?』

「まぁそうだけど、さっきダーカーが来て起きた。で、なんだ?」

『あの、報告・・・というかお知らせがありまして。』

「・・・なんだ?」

『友達が出来ました。』

「・・・そうか、どんなやつだ?」

『私と同じサポートパートナーで、活発な子で、その子のマスターの指令で人を探しているそうでした。マスターの命を受ける傍ら、手が空いていれば助力しようかと。』

「いいんじゃないか?お前はお前のやりたいようにやればいい。」

『感謝します、マスター。ご就寝の邪魔をしてはいけないので失礼致します。』

「ああ・・・。」

冷静に対処していたが正直驚いてはいた。

アオは感情を表に出さないような奴だから、俺同様、近づく奴も少ない。

それにあいつは『マスターの為に尽くすことが私の望みです。』と言うように、いまいち自分に対する願望がなかったので、友達が欲しいと思っていたのかという意外さもあった。

「・・・。」

周囲に敵影なし。

「・・・寝るか。」



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第十二章 ~再会と暗躍~

 

~ラパン 民間居住区(七年前)~

 

『緊急警報発令!ダーカー襲撃発生!市民の方はアークスの指示に従い避難を!繰り返します、市民の方は・・・』

 

「みんな、こっちだ!」

「ハァ・・・ハァ・・・!」

先生に誘導されるまま、私達はダーカーによってめちゃくちゃにされている道路を走る。

アークスが街に到着するまでに、出来るだけ早く安全地帯であるシェルターに行かなくてはならない。

先生は護身用に孤児院に飾ってあった銃を持っているが、ダーカーに対抗出来るかは分からない。

とにかく今は逃げないと・・・!

「!」

急に赤い霧が周りに発生したかと思うと、周りに何かが現れる。

「あぁ・・・!」

黒い四足歩行の虫のような怪物。

「ダーカー・・・!」

本で見たことがある。

虫型のダーカー『ダガン』、一体一体は弱いけど必ず集団で襲ってくるダーカー。

五体程現れ、私達は囲まれている。

「どうしよう・・・!」

「くっ・・・!」

ルナールが心配そうな眼差しを向けると、先生は前方のダガンに向けて銃弾を放つ。

弾丸は頭に命中しダガンは怯むが、傷を負った気配は無い。

「くそっ、やっぱり効かないのか・・・!」

先生は後退りし、ダガン達は一歩一歩とにじり寄ってくる。

このままじゃやられちゃう・・・。

「くそっ・・・!」

「先生・・・!」

みんなが不安そうな声を上げる中・・・。

「・・・。」

私だけは黙っていた。

恐怖のあまり声が出ない訳じゃない。

『あれ』をやろうか迷っていた。

でもこの状況を打破するにはもうこれしかない。

 

 

「メギド・・・!」

 

 

咄嗟にメギドを前方のダガンに放った。

しかし球体の速さは遅く、ダガンは横に移動してかわす。

しかし私の狙いはダガンでは無かった。

「・・・よし!」

球体はダガンの真後ろにあった車に飛んでいき、球体が車に当たって破裂すると、車は派手に爆発し、その爆風はダガンを巻き込んで吹き飛ばした。

「みんな!!今!!」

私が合図すると、先生と子供たちは一斉に走り出し、ダーカーの包囲を突破する。

私もあとに続いて走り出そうとするが・・・。

「危ない!!」

「え・・・?」

何かに突き飛ばされて後ろを見ると、ルナールがダガンの攻撃から私を庇っていた。

「ルナール!!!」

「くっ・・・こん・・・のぉ!!」

ルナールは拳を固めてダガンを殴ると、ダガンは想像以上に派手に吹き飛ばされた。

ハンターの身体強化のフォトンを拳に込めて殴ったんだ。

「ルナール!」

先生がすぐにルナールに駆け寄る。

しかし他のダガンがそこに襲いかかる。

「このっ!」

私はダガンにメギドを放ち、牽制する。

その隙に先生はルナールを捕まえ、背負って子供たちの元へ合流する。

私もそれについていき、一緒にダガンの群れから逃げる。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

しばらく走ると、ダガン達は追いかけて来なかった。

振り切れたみたいだ。

「ここまで来れば、しばらくは・・・。」

先生は安堵してルナールを降ろす。

「君たち、民間人だな!?」

「!」

声がする方を見ると、そこにはフォトンでコーティングされた剣を持っている男がいた。

アークスだ。

「もう安心だ!」

「・・・!」

一同に安堵の笑みが浮かんだ。

助かった。

誰もがそう思った。

「早くこっ・・・!」

アークスの人は突如吹き飛ぶ。

「ぇ・・・!」

アークスがいた場所には黒い巨体のダーカーがいた。

一つ目で右腕が棍棒の様になっている。

本で見たことがある。

「キュクロナーダ・・・!」

「くっ・・・!」

アークスの人は起き上がろうとするが、違和感に気づく。

「あ・・・!」

手に持っていた剣が無い。

良く見るとキュクロナーダの足元に剣があった。

おそらく吹き飛んだ際にうっかり手放してしまったんだろう。

「な!?」

更にアークスの人の周りに黒い霧が発生したかと思うと、取り囲むようにダガンが現れた。

「や、やめろ・・・やめろ、ぎゃああああああ!」

アークスの人の懇願は聞き入れられず、ダガン達は容赦なくその鋭い爪を振るい、まるで獣の群れが獲物を食い漁るようにアークスの人を殺した。

「う、うわああああああ!!!」

「ぎゃあああああ!!」

子供達は恐怖のあまり絶叫する。

「ど、どうしよう・・・!」

そう思ったのも束の間・・・。

「わああああああ!!」

声がしたかと思うと、ルナールがダガンの群れに飛び込んでいた。

その手には先ほどのアークスが持っていた剣があった。

「でりゃ!!」

身の丈以上の大きさをもつ剣を、ルナールはいとも容易く振るい、ダガンを切り裂いた。

「ルナール、右!」

「!」

私が警告すると、ルナールは直ぐに剣を盾のように構え、ダガンの攻撃を防いだ。

「はっ!!」

私も即座に炎の前方放出テクニック、フォイエで援護する。

ダガンの数は着々と減り、最後の一体をルナールは縦一文字に剣を降るって切り潰した。

「残るは・・・!」

キュクロナーダだけだ。

奴はルナールに狙いを定めているようで、ゆっくりと近づいてくる。

二人が接触する前に私はフォイエを放った。

しかしキュクロナーダは怯みもせず、ルナールに棍棒のような右腕を振るう。

「ぐっ・・・が・・・!?」

ルナールは咄嗟に剣を盾にしたが防ぎ切れずに後ろによろめいて後退りする。

「このっ!」

私はメギドを放つが、キュクロナーダは対して痛がる様子もなく平然とこちらへ向かって歩を進める。

「駄目だ、私たちじゃどうしようも・・・!」

諦めて逃げる事を考えた時だ。

「!」

キュクロナーダの目に弾丸が飛んで当たる。

するとキュクロナーダは目を押さえ、苦し紛れに腕を闇雲に振り回す。

「・・・!」

まさかと思い見てみると、先生は銃を構えていた。

間違いなく先生が撃っていた。

「今だ、みんな逃げるぞ!」

「う、うん・・・!」

再び走ってシェルターを目指す。

でも流石に続けて走るのにも限界があるから隠れられそうな物陰を見つけてみんな休む。

「先生。」

「なんだい?」

気になって声をかける。

「よくあいつの弱点が分かったね。」

「・・・!」

先生は黙って目を反らす。

「先生・・・?」

「・・・偶々だよ。」

「・・・?」

先生の様子がおかしい。

「なんとなくやってみたら・・・っ!?」

先生はこっちを見ると目を見開く。

「ラパンッ!!」

「え・・・?」

私が気づいた時にはもう『それ』は私を捕らえていた。

黒い霧が突如私を覆い尽くすように包んでいた。

「これ・・・!」

知ってる・・・これ確か・・・!

「くっ・・・!」

先生が手を伸ばすがもう遅かった。

途端に視界が真っ暗になる。

「・・・?」

少しすると視界が戻る。

だが、周りには先生やルナール、他の子供たちの姿は無い。

あったのは・・・。

「ヒッ・・・!」

思わず声を漏らす。

周りにはアークスらしき人たちの死体があった。

更に私の周囲は赤黒い蔦のような物で囲われている。

「やっぱり・・・!」

最近アークスの本を見て知っていた。

ダーカーの捕獲兵器、『ファンジ』だ。

先程の霧が一人の獲物を捕らえ、遠くへ隔離させて檻の中に閉じ込めるのだ。

此処にある死体のアークスは、恐らくみんな此処に個別で捕らえられて殺されたんだ。

「!!」

周りにダガンが現れる。

どうしよう、このままじゃ・・・!

「!」

足元に杖があった。

殺されたアークスの人の中でフォースの人が持っていた物かもしれない。

咄嗟に拾ってテクニックを練る。

「・・・!」

いつもと違う。

身体の中を巡るフォトンの動きが違うのが実感出来る。

フォースの杖は放出するフォトンを増幅させるのか。

今なら・・・!

「ギフォイエ・・・!」

周囲放出型の炎のテクニックを発動させると、以前ルナールと訓練して出した炎とは比べ物にならない程の炎が発生し、ダガン達を全て焼き払った。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

良いことばかりじゃなかった。

放出するフォトンが多い分、身体への負担が大きい。

「!」

またダガン達が出現する。

「そんな・・・!」

もしかして何度も現れるの、これ・・・?

「こんなの・・・キリがないよ・・・!」

誰か・・・誰か助けて・・・!

 

 

~エスカ アークスシップ ゲートエリア~

 

「何!?」

「申し訳ございません。」

任務のカウンターの受付から、信じ難い言葉を受ける。

「ネージュが暫く出撃停止!?」

「えぇ、先程上の方から辞令がありまして。」

「・・・。」

【従者】の件か。

「・・・そうか、分かった。ネージュに伝えておく。」

「ええ、助かります。」

踵を返してショップエリアへ向かう。

ネージュには先にアイテムを揃えて貰っていたので伝えに行かないと。

「・・・。」

上はどうやらあいつの保護を決定したみたいだな。

だがあいつもれっきとしたアークスだ。

出撃出来ないなんて状況を突きつけられたら堪えるんじゃないだろうか。

何せまたあのバカがいつもの帰還命令無視をしたせいで捜索任務に出られるって張り切ってたからな。

「今日のエスカさん、なんか機嫌悪そうね。」

「心配ですわ、エスカお姉様。」

「・・・!」

周りの声を聞いて自分の状態に気づく。

顔に出てたか。

平常心だ平常心。

「・・・。」

無理だ、平常心なんて・・・。

なんかあいつ今日物凄く上機嫌で張り切ってたし・・・。

「ハァ・・・。」

「エスカ様今日は何かあったのか?溜め息ついてるけど・・・。」

「バカ、あの物憂げな感じがクールでいいんだろうが!」

「・・・。」

こんな時に男集団の言葉は鬱陶しい・・・!

「! 今こっち睨んで無かったか?」

「あぁ、たまらん!この射ぬかれた感じがなんとも・・・!」

「・・・。」

ホントどうにかならんのかこの反応・・・!

 

 

~ノワール 惑星リリーパ 採掘遺跡エリア~

 

「・・・揃いも揃ってうじゃうじゃと。」

ダーカーが大量発生したって言うから来てみれば、異様な数だった。

怯えるリリーパの原生民族を尻目に我が物顔で徘徊している。

なんとも不愉快な事だ。

粗方倒して帰還命令が下ったが、当然ながら無視した。

こうして高台から見下ろしても数体確認できるしな。

アオにも別の場所を当たらせて索敵させる限り、何体か確認出来たらしい。

「さて・・・。」

掃除開始だ。

高台から飛び降りて砂の大地に降り立つ。

ダーカー達は俺の存在に気づくと、敵意を露にするように鳴き声を上げる。

敵は鎌持ちの鳥型のリューダソーサラー三体。

鳥型のソルダ数が九体。

まぁ、一人で相手取るには充分行ける数だ。

「まずは・・・。」

ダーカーの群れに向かおうとした時だ。

「!!」

突如俺の後ろから脇を黒い大きな腕のような物が高速で通りすぎていく。

腕はソルダ種を襲い、四体ほど貫通して命を奪った。

「『イルメギド』・・・?」

今のは高速追尾型の闇属性テクニックだ。

一体誰が・・・?

「! お前は・・・!」

後ろを見ると見覚えのある帽子と黒コート。

片手に持った黒い剣。

「あれ、あんた・・・。」

あの時ネージュの側にいた少女だ。

「・・・話はこいつらを狩ってからだ。」

「・・・まぁいいけど。」

俺はリューダソーサラーに狙いを絞って突っ込む。

敵は俺が向かってくるのを確認すると、鎌を片手で回し始める。

「その挙動は・・・。」

リューダソーサラーが回した鎌を横凪ぎに振るうと、斬撃が回転しながら飛んでくる。

俺は一旦止まる。

そして鎌が目前にきた瞬間に上に跳んで回避する。

奴の斬撃は追尾力がある。

早めに回避すると軌道が変わって諸に喰らってしまうため、敢えて待ったのだ。

「さあて。」

すぐに距離を積める。

リューダソーサラーは鎌で俺を凪ぎ払おうとするが、奴の動きは余りに大振りすぎて楽に回避出来る。

鎌を振った直後の奴の顔面にサテライトエイムをぶちこんで仕留める。

「!」

足元に赤い魔方陣が出現する。

これは敵の攻撃だ。

すぐに横にズレた直後、自分の元いた位置へ突き上げるように光線が魔方陣から発射された。

「うぜぇよ・・・!」

これもリューダソーサラーの攻撃だ。

すぐに犯人と思われる一体に狙いを定めて飛びかかろうとした瞬間・・・。

「とりゃああ!!」

何かが掛け声と共にリューダソーサラーに飛びかかる。

金髪のポニーテールを下げた、浴衣姿のサポートパートナーだ。

手に持った大剣でリューダソーサラーの腹部を切り裂く。

すると弱点のコアを覆っていた霧が晴れて弱点が露になる。

「・・・。」

チャンスを逃さず、俺は続けてサテライトエイムを撃ち込んでとどめを刺す。

「おい、サポートパートナー。」

「うん?」

俺の急な呼び掛けにサポートパートナーはきょとんとする。

「お前はマスターを守ってろ。」

「大丈夫!私のマスター強いから!」

「・・・?」

少女の方を見ると・・・。

「・・・。」

少女の周りには生き残ったソルダ種が群がっていた。

だが少女は慌てた様子もなくテクニックを練り、周囲放出型の炎テクニックのギフォイエを放つ。

二体程焼き払ったが、炎が止んだ瞬間に双剣持ちが飛びかかって仕掛けた斬撃を剣で止め、弾き飛ばして双剣持ちを切り裂く。

続け様に今度は大剣持ちが剣を降り下ろした所を、上手く剣でいなしてその勢いを殺さず、流れるように剣で大剣持ちを切り裂く。

最後に槍持ちが離れた所から突きを放つが、身体をずらして回避し、フォイエを放って焼き払う。

ソルダ種はわずか数秒の間に全滅した。

「ね、すごいでしょ!」

「・・・ああ、大したもんだ。けどな・・・。」

「え?」

俺はすぐに少女の元へ駆け寄る。

「え?なに?」

少女が戸惑っていると、その後ろから黒い霧が現れ、リューダソーサラーが現れる。

「マスター!!危ない!!」

「!!」

少女は剣を構えようとしたが、リューダソーサラーは既に鎌を振り上げている。

「甘いんだよッ!」

あらかじめ読んでいた俺はすぐに敵の顔面にサテライトエイムを撃ち込んで仕留めた。

「敵の数を見誤るな・・・今みたいに油断して死ぬぞ。」

「・・・!」

少女は顔をカッと赤くさせる。

「な、なによ!!貸しでも作ったつもり!?」

「別に、ただ目の前で勝手に死なれたら後味悪いだけだ。」

「うぅ・・・!れ、礼は言わないわよ?あんたが勝手にやったんだからね?」

「結構だ。じゃあな。」

振り向かず軽く手を降りながら場を後にしようとした瞬間・・・。

『マスター、すみません。』

「ん、アオか?」

アオから通信がかかる。

『ちょっと待って貰えますか?』

「どうした?」

『ルナール、私です!アオです!』

「あ、アオ?こないだぶりー!」

「「え!?」」

突然の事実に俺と少女の反応が被る。

「え、じゃあ・・・!」

「まさか・・・!」

「じゃあこの人がアオのマスター?なんか想像してたより物凄くコワモテだね!」

『ええ、でも優しくて面倒見がよくて素晴らしい方です。』

「ちょ、おい、アオ!」

『マスター?』

慌てる俺に、アオは通信機越しできょとんとした声を出す。

「・・・。」

恐る恐る少女の方を見ると案の定ぷるぷると笑いを堪えていた。

「・・・なんだよ。」

「あっはっは!何慌ててんのダッサ!!」

「うるせぇ、ほっとけ。」

『申し訳ありませんマスター、何か不手際がありましたか?』

アオは訳もわからず戸惑っている。

今更知ったがアオって意外に天然だな。

「いや、別に・・・もういいだろ、行くぞ。」

『は、はい・・・。』

さっさと場を後にしようと踵を返した瞬間・・・。

 

 

『現在惑星リリーパに滞在中の全アークスに通達!』

 

 

「!!」

急に管制から通信が入る。

『惑星リリーパ採掘基地周辺に大多数のダーカーを感知!直ちに基地防衛に向かって下さい!』

「・・・。」

急な召集だが願ってもない話だ。

奴等が纏まって動くなら一気に殺せる。

「そういう事だ、俺は先に行ってるからな。」

「あ、ちょっと!待ちなさいよ!!」

少女は走り去る俺を必死に追いかけた。

 

 

~エスカ アークスシップ ショップエリア~

 

「えぇ!?そ、そんな・・・あんまりじゃぁ・・・!」

ネージュに例の件を伝えると、案の定驚いて項垂れた。

「仕方ないだろ、上もダークファルスの標的にされてるアークスをみすみす敵の前に晒すようなことしたくないだろうからな。」

「わ、わしだってアークスじゃぞ!?なのに出撃出来んって、こんなのあんまりなのじゃ!!」

ネージュは涙目で訴えてくる。

「まぁ、調査に出れないのは確かに死活問題だろうけどな、だけど何も出来ない訳じゃないからな?」

「どういうことじゃ?」

「調査に出るアークスばかりじゃアークスシップもがら空きになる。だからシップに残るアークスが居れば有事の際にはすぐ対応出来る。」

「う、うん・・・なるほど?」

「・・・分かってるのか?」

「わ、分かっとるぞ、つまりぃ、あれじゃろ、アークスシップがゆうじ?で残って対応、じゃろ?」

「・・・分かってないんだな?」

「エ、エスカの説明が難しいのじゃ!!」

「別にそんなに難しくないだろ・・・。」

相変わらずのネージュの頭の悪さに呆れつつも説明をしようとすると・・・。

「あぁ、良かった。此処にいたのか!」

「?」

声がする方を見るとエリックがいた。

「やぁ、二人とも。」

「ああ、あんたか。この間は世話になったな。」

「いや、いいよそんなのは!」

軽く頭を下げるとエリックは照れ臭そうに首を横に振る。

「それより、今回は少し用事があってね、探してたんだ。」

「用事?」

「あぁ、ネージュ、ちょっといいかい?」

「ほぇ?」

「?」

なんだ、一体・・・?



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第十三章 ~亡者の再来~

 

~ノワール 惑星リリーパ 採掘基地~

 

「・・・。」

ダーカー大規模殲滅も兼ねて俺はこの基地防衛に来た。

で、大規模作戦には人がゾロゾロいる物だ。

「・・・。」

それはいい、想定の範囲内だ。

それに今回はリリーパに丁度いたアークスのみが緊急召集された集まりだ。

周りにいるのは精々他のシップから来たやつか、同じシップでも話したことすらない奴等ばかり。

「・・・。」

・・・のはずだ。

「で?」

それでだ。

「・・・なんでてめぇが居やがるんだよ、セト。」

「あっはっは、なんでだろうね♪」

「・・・ちっ、なんなんだよ。」

こいつとのエンカウントは避けたかったんだけどな。

後ろに妙に身なりの揃った奴等もいる。

こいつの部隊の隊員みたいだな。

俺とセトの・・・いや、正確にはセトを中心に後ろで横並びに整列している。

「部下までつけて随分と偉くなったもんだな。」

「羨ましい?」

「まさか、いるだけめんどくせぇ奴らつれてる奴の気が知れねぇよ。」

「またまたぁ♪」

「うぜぇ・・・!」

「ハァ・・・ハァ・・・やっと追い付いた・・・!」

少女が俺のすぐ左隣で息を切らしている。

「・・・誰がついてこいって行った。」

「あ、あたしは別に・・・ん?」

少女は顔を上げて何かにはっとする。

「あ、あんたは・・・。」

セトに反応したみたいだ。

「やぁ、昨日ぶり♪」

セトは相変わらず善人ぶった笑顔で手を振る。

「昨日のロリコンストーカー!!」

「・・・!」

少女の言葉にセトは笑顔のまま、石になったかのように固まる。

加えてすぐ後ろから何やらヒソヒソ声が聞こえる。

「・・・ッ!」

不意に吹き出しそうになってしまい、咄嗟に堪えた。

「あー、みんな?今・・・何か聞こえた?」

「な、なんでもありませんッ!!」

隊員はヒソヒソをやめて正面に向き直り直立姿勢に戻る。

「・・・お前が部下にどんな教育してんのかよーく分かった。」

「誉めても何も出ないよ♪」

「誉めてねぇ。」

「・・・。」

少女は目の前の光景に目をぱちくりさせる。

「あんた、大型チームのマスターなの・・・?」

「いや、こいつは教導部付属の部隊長だよ。」

「教導部って・・・最近出来た元六芒のレギアスが主席の幹部組織じゃない・・・!」

「驚いた?」

「ま、まぁそりゃ驚くけど・・・。」

少女は俺とセトを交互に見る。

「・・・なんだよ。」

「・・・あんたらの接点が分からない。」

「あっはっは!そうだね!」

少女の疑問にセトは笑い出す。

「片や部隊長、片やぼっちの単独アークスだもんね!」

「ぼっち要らねぇだろ。」

「こっちの黒いのが昔部隊にいた・・・って線はなさそうね。」

「黒いのってなんだ。」

「そうだね、自己紹介がまだだった!」

「別にしなくていいだろ、んなもん。」

「セトだ。んでこっちの無愛想な仮面野郎がノワール。」

俺を無視してセトは自己紹介を始める。

「悪かったな無愛想な仮面野郎で。」

「僕らは昔組んでたんだ♪まぁ、僕のがちょっぴり先輩だけど♪」

「対して変わんねぇだろ、一ヶ月くらい。」

「凸凹コンビだったのが容易に想像出来るわ・・・。」

「おい言われてんぞ?」

「お前もだよ?で、君は?」

「・・・ラパンよ。」

「で、ノワールとはどういう関係?」

「「ついさっきバッタリあった関係ッ!!」」

セトのふざけた質問にラパンと俺の反応が被る。

「あーそっかー、ごめんね!でもこいつってば久しぶりに会ったかと思えば色んな子とお知り合いだったみたいだし♪」

「うぜぇ・・・それにお前が期待してるような関係じゃねぇよ、向こうが勝手に絡んで来るだけだ。特にあのアホが・・・。」

 

 

~ネージュ アークスシップ~

 

「ヘクシュッ!!!」

 

 

~ノワール 惑星リリーパ 採掘基地~

 

「それってあの時いたあの銀髪の・・・。」

「・・・。」

『アホ』で理解されるあいつってホントなんなんだろうな。

 

 

『惑星リリーパ採掘基地のアークスへ通達!ダーカーの反応が接近中!!直ちに戦闘準備を!!』

 

 

「はは、そろそろ来る頃だと思ったよ!各員、戦闘配備!!」

「「「ハッ!!」」」

セトの号令に隊員は武器を手元に構えた。

「・・・。」

今更だが、戦闘前なのに会話に気が抜けすぎだろと思った。

 

 

~ロイド アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「ラパンッ!!」

目の前でラパンは黒い霧に包まれて消えた。

「ッ!!」

「!!?」

ルナールは突然走り出した。

「ルナール、待て!!」

「・・・!」

制止をかけると、ルナールは止まって振り向く。

「ラパンを探しに行く!!先生はみんなを避難させて!!」

「無茶だ!お前はケガをしてるんだぞ!?」

そう、ルナールは最初にダーカーと戦った際に負傷している。

それ以前に子供一人でこんな戦場に放り出すことなど出来ない!

「へーきへーき!すぐラパンと一緒に先生達と合流するから!!」

そう言ってすぐに走り出す。

「おい!!」

すぐに追いかけようとしたが、ルナールはなかり足が早く、すぐに瓦礫の陰に消えていった。

「くっ・・・!」

それでも追いかけようとしたが、すぐに向き直って子供達に目をやる。

深追いすれば子供達が完全に無防備になる。

そうなれば間違いなくダーカーにとって格好の餌だ。

「くそっ・・・!」

「先生・・・。」

子供達が心配そうにこっちを見る。

「・・・。」

そうだ、子供達を放って置くことは出来ない。

「・・・シェルターに急ごう。」

「でもルナールやラパンは・・・!」

エルが心配そうに投げ掛ける。

「心配するな・・・。」

エルの頭を撫でる。

「皆の安全を確保したら、私が二人を連れ戻しにいく、だから・・・ッ!」

エルを宥めようとして何気なく周りを見ていると、子供達の後ろにダーカーが迫っていた。

先程のダガンだ!

「危な・・・!」

すぐに子供達をダガンから引き離そうとするが、とても間に合わない。

ダガンの爪が今にも子供の一人を引き裂こうとした瞬間・・・。

「ッ!?」

突然現れた何者かによってダガンは無数の弾丸に撃ち抜かれ、息絶える。

「ったく、子供連れてゾロゾロと・・・死にてぇのか民間人。」

「・・・!」

手に二丁持った銃、黒いコート。

その男はアークスだった。

だがその顔には見覚えがあった。

「兄・・・さん・・・?」

「・・・お前は!?」

目の前の男はライド、私が幼い頃に生き別れた兄だ。

「・・・。」

「兄さん・・・アークスになったんだね。」

「ロイド・・・俺は・・・ッ!?」

兄は何かを言いかけたがハッとする。

黒い霧と共にダーカーが周りに転移してきた。

「ロイド・・・すまん、無理を言うが頼む。手を貸してくれ・・・。」

「え・・・。」

「この数相手にこんな人数を守りきれる自信はない。こんな事言えた義理じゃないが頼む・・・。」

「・・・。」

状況が状況だ。

でも私は・・・。

 

 

~ラパン 惑星リリーパ 採掘基地~

 

「レンジャー部隊、散会!近接部隊は半数法撃部隊を防衛、残りは僕についてこい!」

「「「了解!!」」」

セトは部隊に指示を出し、瞬く間に前線へと進んで行った。

「マスター!あの人ホントに隊長っぽいね!」

ルナールは生き生きと私に話しかける。

「う、うん・・・。」

さっきまでの飄々としたあの男とは思えない。

「で、あんたは何を・・・っていない!?」

ノワールに話しかけようとしたが既にその姿はなかった。

「セトよりも先に突っ込んでったわね・・・。」

部隊に属してない分フットワークが軽いみたいね。

ってこうしてる場合じゃない!

「ルナール、私達もいくよ!!」

「うん!!」

私達も剣を持って前線へ走っていく。

「!!」

前方にダガンが四体見えた。

「このッ!」

テクニックを練り、ダガン達に放つとダガン達の中心で爆発が起こり、敵を一掃する。

点座標型のテクニック、ラフォイエだ。

続けてダーカー達の群れが来るので近づいて来た時に備え、テクニックを練る。

「ルナール、この辺りで前に出るのはやめよう。このラインで迎え撃つ!」

「了解!」

ルナールは私の前に立ち、私に敵を寄せ付けないように剣を構える。

「行って!!」

練った闇のテクニックを放つ、誘導型のイルメギドだ。

放たれた闇の腕は敵陣を引っ掻き回す様に暴れまわり、小型のダーカーを一掃する。

しかし、それを切り抜けたダーカーがいた。

二足歩行の中型で虫型のダーカー、ゴルドラータだ。

先程のイルメギドで私を脅威と取ったのか、塔へは向かわず私に向かって来る。

「やらせないよォ!!」

ルナールがゴルドラータのうちの一体に突っ込んで斬撃を食らわせるが、小柄なサポートパートナーの一撃に怯む事なく進み、私を取り囲む。

「・・・ナイス、ルナール!」

狙い通りだった。

ルナールが離れて敵が私を取り囲んでいるなら・・・。

「これが撃てる!!」

練ったテクニックを周囲に散布させると、炎が渦の様に周囲に燃え広がる。

周囲放出型のギフォイエだ。

ルナールが近くに居れば撃てるものではないが、今突っ込んで行った拍子に離れてくれたので躊躇う事なく撃てた。

ゴルドラータは炎に焼かれる内に口辺りの外皮が焼き払われ、コアが露になる。

「そこッ!」

「てやぁ!!」

私とルナールはそれぞれ一体ずつ、剣でコアを切り裂き、ゴルドラータを仕留める。

「残りは・・・?」

最後の一体の姿が見えない。

「マスター!!」

「!!」

ルナールが先に気づいて注意を呼び掛けて気づいた。

最後の一体は飛び上がっていた。

私の頭上の数メートルから、今にも私を踏み潰そうと迫っていた。

避けられない!

「!!」

何かがゴルドラータに突進するようにぶつかった。

その拍子に落下の起動が反れ、ゴルドラータは私の僅か右に落下する。

「っ・・・!」

すぐにゴルドラータから離れると、その間にぶつかった人影が着地する。

「あんた・・・!」

「ったく、見てらんねぇな。」

ノワールだ。

「下がってろ。」

「な、なによ!」

「足手まといだって言ってんだ。」

「ッ!」

かちんと来た。

「ふざけ・・・ッ!」

文句を言おうとしたが、すぐに気づいて回避する。

ゴルドラータが口から黒い波動弾を放ったからだ。

そして剣を手元に出現させるとノワールに向かって剣を振るい、斬撃を放つ。

「・・・。」

ノワールは飛び上がって回避し、その姿勢から流れるような動きで宙返りし、ゴルドラータに向かって踵落としを放つ。

しかしゴルドラータは意外にも俊敏で、横跳びに回避する。

そしてそのままノワールに向かって蹴りを放つが、ゴルドラータは忘れている。

「こっち見てないの?」

私の存在を、既にテクニックを練っていた私はフォイエ放った。

ゴルドラータは炎に包まれて息絶えた。

「・・・。」

「足手まといが何って?」

「チッ・・・。」

ノワールは忌々しそうに舌打ちする。

「伊達に女一人でアークスやってるわけじゃ・・・ッ!?」

突然の出来事に驚く。

ノワールが急に私の横に立って仁王立ちする。

「ぐぅッ!」

何かに当たったように身体を震わせ、よろめく。

背中に何か喰らったようで、その向こうを見てみると、先程のとは別のゴルドラータが口から放った波動弾を当ててきたようだ。

「あ、あんた・・・!」

「無駄口叩くな・・・! 戦場だぞッ!」

「・・・!」

そうだ。

此処は戦場、油断すれば・・・!

「マスター!!」

ルナールが呼び掛ける。

「分かってる・・・!」

私はテクニックを練ってノワールに放つ。

治癒のテクニック、レスタだ。

「・・・。」

ノワールは痛みが引いたようで、倒れそうだった姿勢から立ち直る。

そしてすぐさまゴルドラータに向かって銃撃を放つが、ゴルドラータは回避する。

「・・・礼は言わねぇぞ。」

「わ、分かってるわよそれくらい!」

私は続けざまにフォイエを放つ。

するとゴルドラータは回避すると、何故か後方へ逃げていく。

「は?待てよクソがッ!!」

ノワールはゴルドラータを追いかける。

「ちょ、待ちなさいよ!」

私もノワールを追いかける。

何かおかしい、まるで誘い込まれているような・・・。

「!!」

予想が皮肉にも当たってしまった。

逃げたゴルドラータ達は同じゴルドラータの群れに合流し、そのまま構えて仲間と一緒に先程の波動弾の一斉射撃を放ってきた。

「くっ!!」

標的はノワールのようで、ノワールは必死に回避する。

しかし間一髪に回避しているようで、この一斉射撃がこのまま続けばいつかは被弾する。

「なら・・・!」

私はテクニックを練って放つ。

放ったのは点座標の爆破テクニックのラフォイエだ。

しかし敵に放った訳ではない。

爆破させたのはノワールとゴルドラータ達の間の足元の砂だ。

砂は物凄い勢いで吹き上がり、壁のようになって視界を塞ぐ。

こうなってしまえばゴルドラータはノワールを狙えない。

「はっ・・・。」

ノワールは皮肉混じりに鼻で笑うと、砂の柱を潜り抜けてゴルドラータに弾丸を放つ。

突然の不意打ちに、ゴルドラータ達は回避など不可能だ。

「!!」

次の瞬間、あり得ないことが起こる。

「キィアアアァァ!!!」

叫び声が聞こえるとゴルドラータの前にグウォンダが現れ、盾を構えて弾丸を止めた。

「ちょ、なによあいつら・・・!」

ダーカーの習性は知っている。

奴等は目的が一緒でも戦い方は個々で統率された意思はないのだ。

だからこそあり得ない。

『連携を取る』なんてことは絶対に・・・!

「なんであんな動きが・・・!」

「・・・。」

ノワールは体勢を立て直す為に私の横まで下がってきた。

「なるほどな・・・。」

「なによ!知ってるの!?」

「アオ、頼めるか?」

「ちょっと!」

ノワールは私の問いかけを無視してサポートパートナーと連絡を取る。

『問題ありません、十一時の方向、距離二十三、ノイズ無し・・・行きます。』

アオの言葉の直後、グウォンダ達の頭上に光の柱のような光線が降り注ぎ、グウォンダ達は一掃された。

「・・・!」

グウォンダ達が倒れてゴルドラータたちの姿が露になったが、そのなかに何やら人影のような物が見えた。

「やっぱりな・・・。」

「何よ・・・あいつ・・・!」

そいつは人のような形をしているが、身体中が赤黒い液体でコーティングされているような不気味な奴だった。

「また会ったな・・・『人型ダーカー』・・・!」

 

 

~ルナール アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「ハァ・・・ハァ・・・!」

必死に走る。

ラパンと一緒に本で見て知っていた。

ダーカーの捕獲兵器、『ファンジ』の事を。

ファンジは捕獲した獲物を隔離して閉じ込めるものだけど、そう遠くはない。

「ラパン!!ラパァン!!」

友達の名前を必死に呼びながら探す。

「・・・!」

前方で黒い霧が起こると、ダーカーが表れる。

その体は先ほどキュクロナーダよりも大きく、筋肉質な見た目から、格闘技でもしそうなダーカー。

「ウォルガータ・・・!」

知ってる・・・こいつ、強い奴だ。

「あんたはお呼びじゃないんだよ!!」

先に進むには倒すしかない。

持っていた剣を構える。

「・・・!!」

違和感があった。

手を見ると震えていた。

相手はアークスですら手こずる相手、ましてや自分はアークスでもない、フォトンをちょっと使えるだけの一般人。

怖くない訳がない。

でも・・・!

「それでも、私は行かないといけないんだ!!」

私はウォルガータに突撃する。

ウォルガータは腕を大きく振りかぶる。

やばいと思い、剣を盾に構える。

振りかぶったウォルガータはそのまま私を凪ぎ払うように大きく腕を振るった。

「ぐうっ・・・!」

さっきのキュクロナーダよりも遥かに重い一撃だ。

必死に踏ん張るが、それでも数メートル押し戻される。

「・・・!」

ウォルガータは身体を低くして構えている。

何をするのかと思った瞬間、平手を突きだし、ぶつけるような動きを繰り返しながら此方に迫ってきた。

「ヤバいヤバい・・・!」

あんな馬鹿力のあんなラッシュ攻撃、防ぎきる事なんか出来るわけない!

そう判断してすぐに後ろに逃げる。

さすがに攻撃しながらは足が遅いようで、ウォルガータは私に追い付けない。

ウォルガータは突きのラッシュを止めると、今度は全身に力を込める様に身を縮み込ませる。

「ッ!?」

ウォルガータは、突然飛び上がるように突っ込み、一気に私の元に飛んでくる。

「うわああっ!!!」

間一髪、全力で横に跳んで回避出来た。

あんな体当たり喰らったらシップの外まで吹き飛ばされてお星様になりかねない。

「・・・!」

ウォルガータは先ほどの体当たりのせいか前のめりに倒れている。

これって起き上がるまでに一撃入れられるんじゃないのかな?

「うあああぁ!!」

勇気を込めた叫びと共にウォルガータに突っ込む。

やっぱりだ。

ウォルガータはゆっくりと上体を起こし、しかも反対方向を向いている。

今にも一撃入れられる瞬間だった。

「えっ・・・?」

気づいた時には私は吹き飛ばされていた。

ウォルガータは振り向き様に腕を振るって私を殴り飛ばしたからだ。

そのまま私は後ろの瓦礫に吹き飛ばされて埋もれる。

「ぐっ・・・かはっ・・・けほっ・・・。」

痛い!

全身が痛い!

今殴られた右の脇腹、そして瓦礫に打ち付けられた頭と背中。

全てがこれでもかとくらいに悲鳴をあげている。

「・・・!!」

そんな私を可哀想と思って見逃してくれるはずもなく、ウォルガータは私に迫っていた。

「ヒッ・・・!」

怖い・・・!

自分よりも圧倒的に強い相手。

しかも逃げようと思っても逃げられる気がしない威圧感。

まさに自分が蛇に睨まれた蛙のような状態だと思った。

でも・・・。

「私は・・・私が・・・。」

私が此処で負けちゃったら・・・。

「私が此処で死んじゃったら・・・ラパンが死んじゃうんだ!!」

そう、私はラパンを助けないといけない!

だから負けられない。

「うわああああああああああああああああぁぁぁ!!」

身体中の痛みを堪えて走り出す。

ウォルガータは迎え撃とうと振りかぶるが私はもう防御は考えない。

奴の攻撃よりも早くその顔面に剣を突き立ててやる!

それ以外考えなかった。

「うわああああああああああああああああ!!」

 

 

・・・。

「ハァ・・・ハァ・・・!!」

私は息を切らしながら仰向けに倒れたウォルガータの上に乗っていた。

手に持っていた剣はウォルガータの右目を突き刺していた。

「私が・・・やったの・・・?」

やった・・・やってしまった・・・。

本当にこれ現実なの?

とか思った。

「・・・あっ!」

すぐに我に還った。

「ラパンを探さないと・・・!」



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第十四章 ~殺戮者の罠~

 

~ネージュ ???~

 

「・・・?」

気がつくとわしは変な場所にいた。

周りは青と緑が混ざり合った光に包まれ、まるで海の中にいるような状態じゃった。

じゃがこの場所を見たのは一度では無い。

前にノワールと一緒に不時着したアークスシップで気を失った時もこの空間にきた。

夢だと思っていた。

でも今は違うのか?

いや、これも夢なのか?

「また会えたな。」

「!」

声がすると、目の前に女が現れる。

白い白衣を着て眼鏡を掛けた、科学者のような女。

これも前に見た。

じゃがこの間はわしを見て優しく頬に触れてわしを見ているだけじゃった。

話しかけられるのは初めてじゃ。

「お主、誰じゃ?」

「・・・。」

わしの問いかけに女は応えず、ただわしをじっと見ていた。

「・・・?」

「シオン・・・いや、正確にはシオンのほんの一摘まみの砂の欠片のような存在だ。」

「シオン・・・で良いのかの?」

「・・・。」

シオンは黙って頷く。

「わしに、なんの用じゃ?」

「謝らせて欲しい。」

「へ?」

「重荷を背負わせた事を、謝らせて欲しい。」

「重荷・・・なんの事じゃ?」

「今は知らずとも、いずれ分かる。でも、私は申し訳なく思う。」

「なんで教えてくれんのじゃ!分からんものを謝られても困るのじゃ!」

「・・・そろそろ時間だな、また会えるだろう。それまでに・・・。」

「へ・・・な、えぇ!?」

女が消えて行く。

いや、視界の全てが消えて行く。

なんじゃ?

なんじゃ!?

 

 

 

「・・・ハッ!?」

気がつくとわしはアークスシップのショップエリアのベンチで眠っていた。

「どうした?魘されてたみたいだが。」

すぐ目の前にエスカの顔があった。

そういえば膝枕をさせておったな。

「変な夢みたのじゃ・・・。」

「ぷっ・・・またか。」

エスカは思わず吹き出しそうになって茶化すように言ってくる。

「なんじゃ?前にもそんなことあったのか?」

「ああ、昨日私の隣で寝てた時、変な寝言言ってたぞ?『弟ニューマン女装上手すぎるのじゃ、貴様ホントに男なのか?』ってな。」

「えぇ!?な、なんか恥ずかしいのじゃ・・・!」

思わず手で顔を覆ってしまう。

「いや・・・その、私のこの体勢の方が恥ずかしいんだが・・・。」

「いやじゃ!せっかくのんびり出来るのじゃ、甘えさせるのじゃー!」

「こ、こら!頭を膝にスリスリさせるな!くすぐったいだろ!」

「えへへ♪」

「全く・・・。」

エスカは溜め息を着きつつも笑っていた。

 

 

~ノワール 惑星リリーパ 採掘基地~

 

「くそが・・・!」

前にも戦ったが、相変わらず厄介な相手だ。

金切り声で指揮されたゴルドラータはかなり上手く連携が取れており、反撃出来る隙がほとんどない。

杖持ちが自身の周囲に引力の磁場を展開して足止めし、剣持ちが中距離から斬撃を飛ばしながら銃持ちが狙撃するといった連携だ。

だがこういう連携が取れる奴等には大抵共通して決定的な弱点がある。

それも連度が高い奴等ほどだ。

「くっ、この・・・!」

杖持ちがラパンを標的に集まっているようだ。

これなら行ける。

俺はグラビティボムをゴルドラータに投げた。

ボムが破裂すると引力が発生し、ゴルドラータをかき集める。

「キィアアアァァ!!」

人型ダーカーが金切り声で指示し、磁場から逃がそうとするが、ゴルドラータ達は動けない。

「死ね、害虫が・・・!」

逃げられないゴルドラータに対して容赦なくエルダーリベリオンの弾丸ラッシュをかまして仕留める。

「さぁて・・・。」

残りのゴルドラータに対して構える。

剣持ちが斬撃を放ってきたが、先ほどの杖持ちの磁場が無い分回避は容易い。

これがこいつらの弱点だ。

連携が強い奴等ほど、一人が倒れた時の戦力の崩れ方がデカいのだ。

敵は射撃や斬撃による中距離攻撃を繰り返すが、回避しながら近づけばすぐに仕留められた。

「よし。」

ゴルドラータは全て全滅した。

残るは人型ダーカーのみだ。

「取り巻きが居なくなったらどうするんだ?司令塔。」

こいつは初めて見たときから妙だった。

自ら攻撃してくる事もなく他のダーカーに指示を出しているだけ。

ひょっとすると『戦わない』のではなく『戦えない』のでは・・・。

「グ・・・ギギ・・・。」

「・・・。」

と思ったが違うみたいだ。

何やら口に手を突っ込んだかと思えば、そこから剣と銃を取り出した。

どう考えてもやる気だ。

「ク・・・キキ・・・。」

「・・・。」

変な声と共に口元を釣り上げる。

笑ってんのか?

不気味な奴だ。

「キ・・・キキッ!」

「!!」

一瞬で距離を詰め、俺の喉元を貫こうと、剣を突き出してきたが、なんとか紙一重でかわす。

「っの野郎!!」

即座に銃弾を放つが、あの時同様、簡単に回避され、さらに斬撃を放ってくる。

動きが早く、当たりそうだったが、なんとかかわす。

「!」

人型ダーカーの身体が怪しく光り始めた。

そしてその周囲に魔方陣の様な模様が浮かんでくる。

こいつ自身がやっている訳ではないだろう。

これは恐らく闇属性テクニック『ナメギド』だ。

まさかと思い、見てみると案の定ラパンがテクニックを練っていた。

このまま行けば人型ダーカーの内部からフォトンの爆発が起こり、人型ダーカーは内側から破壊される。

だがこのテクニックの弱点はチャージが非常に長く、発動までに時間がかかることだ。

「キアアァッ!」

人型ダーカーは察したのか、ラパンに襲いかかっていく。

「させないよッ!」

ルナールがラパンの前に現れ、人型ダーカーに対し、持っている剣を盾に構える。

ナメギドが完成するまで粘る気だ。

人型ダーカーはルナールを切り潰そうと、剣を降り下ろすが、ルナールはなんとか剣で止め、持ちこたえる。

こうしている間にも魔方陣は完成しつつある。

「ッ!?」

人型ダーカーはあり得ない行動に出る。

剣でルナールを押さえたまま、飛び上がり、ルナールを飛び越えてしまう。

「このッ!」

後ろを取られ、咄嗟に振り向き様に剣を横に振るうが、人型ダーカーは飛び上がって回避し、そのままの勢いでラパンに斬りかかる。

だが・・・。

「時間切れ・・・。」

人型ダーカーの魔方陣は急に圧縮し、人型ダーカーの身体の中心で、液体が破裂した音がする。

人型ダーカーは内部からの破壊に即死したのか、身体をビクンとさせて空中で脱力するが・・・。

「!?」

人型ダーカーの身体を覆っていた液体の様なコーティングが取れ、そのまま液状となってラパンにかかる。

「ケホッ・・・ウェッ!なにこれッ!?」

蒸せながら何気なく前をみると・・・。

「・・・ッ!?」

目の前にあったのは・・・。

 

 

~ロイド アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「くそッ!」

ダガンに対し銃弾を放つが、全く効いていない。

だが、銃弾に対し痛みはあるのか、足止めくらいにはなっている。

「ロイド!何してる!!フォトンを使え!!」

兄さんはダガンを倒しながら私を叱咤する。

そう、私はアークスの訓練を受けたことがあり、フォトンを扱った事がある。

しかし・・・。

「無理だ、兄さん・・・私には出来ない・・・!」

そう、私はフォトンを扱えなくなったのだ。

「くっ!」

兄さんは私が足止めしていたダガンを倒す。

「・・・お前は出来るだけ足止めしろ、全部俺が倒す。」

「あ、ああ・・・。」

兄さんに言われた通り、私はダガンの足止めに専念した。

役割がはっきりしているだけあってダガンはどんどん倒せているが、何度も何度も沸いてきて切りがない。

それでも私は銃弾を使って足止めした。

「・・・。」

そう、兄さんに任せておけばいい。

私は戦えないのだ。

だから倒すのは兄さんに任せておけばいい。

『あの時』だって・・・。

「・・・!」

銃弾が無くなったのに気付く。

「兄さ・・・ッ!!」

兄さんにこの事を教えようとした瞬間、ダガンの爪が目の前に迫っていた。

「あ・・・・!」

 

 

~エスカ アークスシップ~

 

「びゃああぁ!!む、無理!無理無理無理!!無理なのじゃああぁ!!」

ネージュはナベリウスの森のなかでダーカーと原生生物に追い回されていた。

私はと言うと・・・。

「逃げてちゃいつまでたっても終わらないぞ?」

それを映像越しに見てネージュを叱咤していた。

普通ならこんな光景を見れば私ならすぐ助けに行く光景だが、今はそんな必要はない。

今ネージュがいる場所は本当のナベリウスではなく、VR空間、つまりは映像化された仮想空間だ。

此処はアークスシップの訓練施設、ネージュは今訓練を受けている真っ最中だ。

任務に出られない間、復帰した際に鈍っていないよう、訓練している。

・・・と、ネージュには説明しているが、これを私に言い渡した上層部の狙いは別にあった。

それと私がいる場所、つまり映像を見ている側には私以外にもう一人いる。

「いいですよいいですよいいですよぉ♪もっと、もぉっと極限状態まで自分を追い込んで下さいねぇ?」

悪魔の様な笑みを浮かべ、映像を食い入る様に見ている女がいる。

髪は赤紫で、片目が隠れたロングヘアーの不気味な雰囲気の女だ。

彼女はカリン、このVR訓練施設を調整、管理している管理官だ。

だが見た目とこの様子からして普通じゃないと思うのは私だけじゃないはずだ。

彼女はこの訓練を受けているアークスをいつも楽しそうに観察しており、時折調整に失敗しては訓練者を本来の訓練よりも過酷な状況に陥れてしまうようだが、一部ではわざとやっているのではないかとも言われている。

いくら上からの命令とはいえ、こんな狂人にネージュの訓練を任せて良いのか些か疑問だ。

「うなああぁ!」

ネージュはがむしゃらにナグランツやらイルグランツやらを放つがVRのエネミー達はお構いなしに前進する。

「ちょっとこれヤシじゃろ!!攻撃すり抜けてるじゃろ!!」

「いえいえとんでもない♪このVR空間の再現度は折り紙つきです♪攻撃が当たれば敵は本物のように怯みます♪『当たれば』ね♪」

カリンの言葉の真偽は定かではないが言っている事はごもっともだ。

ネージュは滅茶苦茶にテクニックを撃つので一切狙いが定まっていないので当たる訳がない。

そうこうしている間にあっという間に囲まれてしまった。

「待って!!ちょっと待つのじゃ!!助けて!!お願いします!!ああああああああッ!!」

命乞いも虚しくネージュはエネミーにフルボッコにされた。

「あれぇ~?ちょっと難しすぎたのかなぁ~?まぁいっかぁ♪」

カリンは笑いながらエネミーをネージュの周りから消去する。

エネミーの群れが集まっていた場所にはぐったりと倒れていたネージュだけが残る。

「ふーむむ、どうにも追い込みが甘いんですかねぇ?彼女、情報によればかなりの潜在能力があるみたいなんですけどねぇ?」

「・・・。」

そう、上層部の狙いはこれだ。

ネージュが持つ神託のフォトンの能力を視るためだ。

ノワールの報告によればネージュはダーカーに一度やられて気を失った際に能力が発動したらしい。

恐らく神託のフォトンはネージュが命の危機に瀕した時の防衛装置のような役割を果たしているのだろうと上は推測したようだ。

確かに間違った線は行っていないだろうが、だからと言って意図的に危険に追い込むのは度が過ぎているのではないだろうか。

確かにVR空間なら敵が仮想の生命体である分調節は効くようだが、何せ調節する奴がこの狂人だ。

とても安全が保証される物ではない。

「うん、それじゃあ難易度下げちゃいましょうか♪ネージュさーん!行きますよぉ♪」

「ちょ、タンマ・・・休ませて・・・!」

「わあぁ!私の調整下手すぎぃ?もう出しちゃいましたぁ♪」

「わざとじゃろ貴様ぁ!!」

問答無用でネージュの前にエネミーが出現する。

出てきたのは・・・。

「へ・・・?」

出てきたのはアークスだ。

どうやらソード持ちの若い男のようでかなり身軽そうな格好をしている。

「なんじゃ?なんでアークスが・・・って、のわぁ!!」

男は容赦なくネージュに斬りかかる。

ネージュはフォース特有のミラージュステップで回避し、距離を取る。

咄嗟にやったが判断は悪くない。

ソードは遠距離の攻撃に乏しく、接近しなければほとんど戦う術がない。

「・・・?」

ネージュは男の様子に戸惑う。

男はネージュに距離を取るかと思えば距離を取ったまま此方の出方を伺うかのように動かない。

「なんか知らんがチャンスじゃのう!」

ネージュはテクニックを練り始める。

「・・・?」

「なんだ?」

ネージュを始めとして私も困惑する。

男は剣を持ったまま左手を天高く掲げる。

サブクラスの関係でテクニックを使う奴かと思ったが、あんなテクニックの練り方は見たことがない。

相手が妙な動きをしたときには迂闊に仕掛けないのは鉄則だが・・・。

「隙だらけじゃあ!!」

案の定ネージュは嬉々としてイルグランツを放つ。

「!?」

男は掲げた手をネージュに向けて降り下ろす。

だが何も起こらずイルグランツの光弾は今にも男に迫っていた。

しかし・・・。

「へ?」

ネージュの周囲が光り始めたとあいつを始め、私も気づいた頃には全て終わっていた。

「なああああああぁぁ!!?」

柱のような光が上空からネージュに襲いかかり、ネージュは間抜けな断末魔を上げる。

「・・・。」

ネージュはうつ伏せに倒れたままぴくりとも動かない。

「お、おい。ネージュは大丈夫なのか?これ・・・。」

カリンに確認するが、嫌な予感がする。

「あらぁ、ヤバイですかねぇ・・・仮想空間とは言え痛みは感じますしぃ、余りに酷いと精神的にも負荷がかかりますしぃ、理論上死ぬかも知れませんねぇ。」

「な!?」

死ぬのか!?

仮想空間の訓練で!?

「だーいじょぶ大丈夫♪空間調整上手くやって今までそんな事態はなかったですしぃ♪」

「だったらすぐ攻撃を止めさせろ!!」

「えぇ?これからが面白いところなのにですかぁ?」

「くっ!こいつ・・・!」

噂で狂人と聞いていたがここまでとは・・・!

「!!」

そうこうしている間に男が今にもネージュに止めを刺そうとソードを振り上げていた。

「ネージュッ!!」

もう駄目かと思ったその瞬間・・・。

「ッ!?」

急に映像が真っ白になる。

機械の故障ではない。

余りに強い光で見えなくなったからだ。

「・・・?」

映像を見てみると・・・。

「傀儡よ、我が宿主に仇なした事・・・懺悔し、甘んじて粛清を受けよ。」

「な!?」

なんだ・・・?

ネージュの姿が変わっている。

服が巫女のような服になり、狐のような耳が生え、何本もの狐の尾が生えていた。

「ネー・・・ジュ・・・?」

「あー、これですよこれッ!!ようやくお出ましですねぇ♪『神託のフォトン』ッ!!」

カリンは今までに無いくらい目を輝かせていた。

 

 

~ノワール 惑星リリーパ 採掘基地~

 

「これは・・・!」

ラパンが倒した人型ダーカーは液状のコーティングが取れて中身が露になる。

それはアークスのものと思われる服を着た男だった。

しかもそいつは白目を向いたまま動かない。

「・・・。」

念のため調べようと男に歩み寄る。

「ちょ、ちょっと・・・!」

「調べるだけだ。」

ラパンの制止を無視して口元に手を近づけて息をしているか確認・・・してないな。

手を持って脈を確認・・・動いてな・・・。

「ぎゃあああああッ!!」

「ッ!?」

悲鳴が聞こえて見てみると知らない顔のアークスが、恐怖に満ちた顔でこっちを見ていた。

「・・・。」

待て?

落ち着こう。

今の状況を確認しよう。

こいつの視線の先は俺たち。

そして俺は動かないアークスの男(ほぼ死体と断定)の腕を掴んでいる。

そして辺りには(先程の人型ダーカーのコーティングと思われる)赤黒い液体。

しかもラパンに至ってはその液体を返り血のように浴びまくっている。

あぁ、そっか。

そうだよな。

・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

「違うッ!!」

必死な第一声を発する。

「どうした!!何があった!!」

セトを始め、奴の部隊が駆けつけてくる。

「ッ!ノワール!?」

「おい、誤解すんなよ!これは・・・!」

状況を見て驚くセトを説得しようとするが・・・。

「た、隊長、こいつ!」

「アークスを・・・!」

隊員が続々と余計な事を言う。

「みんな、落ち着けッ!!」

セトが部下に制止をかける。

「・・・どうした。何があった。」

「あぁ、これは・・・。」

状況を説明しようとするが。

「うわ、なにやってるんだお前!!」

「ひ、人殺し!!」

「な!?」

不幸にもどんどん人が集まって惨状に悲鳴を上げる。

「セト・・・落ち着いて聞け、これは・・・。」

「ノワール、及びラパン。今からアークス殺害の容疑で拘束する!!」

「くっ・・・!」

「抵抗しなければ・・・ッ!」

セトが話しきる前に俺は距離を積めて銃で殴りかかっていたが、セトはすぐに反応して刀でそれを止める。

「するに決まってんだろうが・・・!」

そのままつばぜり合いになるがすぐに離れて互いに距離を取る。

「隊長!!援護します!!」

セトの部下のレンジャーがライフルを構える。

「いや、お前達は下がれ!」

「え!?」

セトの提案に部下達は困惑する。

「こいつの実力は僕が一番よく知っている。下手に手を出したらお前たちもただじゃすまない。」

「しかし・・・。」

「命令だ!!」

「は、了解・・・!」

そしてそのまま俺と距離を取ったままにらみ合いになる。

「良いのかよ、一騎討ちなんか挑んで・・・。」

「お前は油断ならないからな、昔から・・・。」

「・・・?」

会話の途中で違和感に気づく。

セトが片目をパチパチとさせている。

『話を合わせろ』?

どういうつもりだ。

しかも片手を刀から放したまま指を微妙に動かしている。

これは昔こいつと組んでいた時にやっていた口で話せない時のサインだ。

僅かな動きだが、内容は理解できた。

「・・・ハァ。」

分かったよ、やりゃいいんだろ?

「油断ならねぇんならよ・・・寧ろさ・・・。」

先程の会話を再開する。

「一騎討ちなんざ挑むんじゃなかったな!!」

俺は即座にアイテムを宙に放り投げる。

敵を光でスタンさせる手榴弾、『スタングレネード』だが、これはただのそれではない。

「やれッ!アオッ!」

『了解。』

アオに指示をだすとスタングレネードは狙撃され、起爆する。

すると、通常の光を遥かに上回る光量の光が発せられ、セトを始めとして周りの奴等全員がうめき声を上げながら怯む。

今投げたやつは俺が改造した特別製だ。

奴等が怯んだこの瞬間だ!!

「来い!」

即座にルナールを捕まえ、ラパンの腕を掴んで走り出す。

「ちょ、え、なにすんのよ!!」

「話は後だ!逃げるぞ!!」

「え、えぇ!?」

困惑するラパンを無視して全力でその場から撤退した。

先程のセトのサインの意味は・・・。

「ったく、『その子連れて逃げろ』って・・・それからどうしろってんだよ・・・!」



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ノワール逃亡編
第十五章 ~白狐と策士~


~ノワール キャンプシップ~

 

「ハァ・・・ハァ・・・。」

キャンプシップまで走り通しだったせいか、ラパンは息を切らしていた。

俺は既に抱えていたルナールを降ろし、アオも途中から合流して全員キャンプシップにいる。

「ッ!」

突然ラパンは俺の胸ぐらを掴んでくる。

「なんてことしてくれたのよッ!!」

「・・・。」

俺は答えない。

「おかげであたしお尋ね者よッ!!アークスシップに帰れないじゃないッ!!せっかく目立たないように行動してたのにッ!!あんたのせいで台無しよッ!!」

「・・・。」

「あんたがあんなのと戦うからッ!あんたがダーカー深追いするからッ!あんたが・・・あんたが・・・!」

「・・・気が済んだか?」

「うっ・・・うっ・・・!」

ラパンは反論もせず罵声を浴びせるのを止め、胸ぐらを掴んだ手を下ろして泣き始める。

そりゃそうだ。

俺もこいつもあんなことになるなんて思わなかったんだ。

それに、自分もこの一件に手を着けた時点で責任は自分にもある。

そんな状況で俺だけ責めるのはお門違いだ。

「・・・。」

次第にラパンは泣くことすらしなくなり、大人しくなる。

なんだか知らんが放っておいた方が・・・。

「あああああッ!もうッ!!」

「ッ!?」

突然叫び出す。

「もういいッ!!過ぎたことくよくよ考えんの馬鹿らしいッ!!」

「・・・。」

なんだこいつ・・・急に泣き止んだかと思えばこの切り替わりの早さ・・・!

「で?この船何処に向かってんのよ。」

「あ、あぁ・・・。」

いかん、動揺してる場合じゃないな。

「惑星ウォパルだ。」

「ウォパル?悪いけど洞窟に隠れてサバイバルとか・・・。」

「コネがひとつある。」

「え、コネ!?」

「・・・なんだよ、そんなに驚くことか?」

「いや、あんたにそんな交友関係があるとかありえないでしょ?」

「失礼な奴だな・・・まぁ、アークスシップにそんな奴いないのは否定せんが・・・いいさ、行けば分かる。」

「なによ、勿体振って・・・教えなさいよ!」

「もうすぐ着くぞ、話すよりついてきた方が早い。」

「なにそれ・・・ハァ、まあいいわよ。」

キャンプシップは目の前の惑星に吸い込まれるように入っていった。

 

 

~エスカ アークスシップ 訓練施設~

 

「・・・。」

「・・・。」

ネージュと男は、制止したまま動かない。

「あれぇ、装置の故障ですかねぇ~?ネージュさんはともかく、エネミーが動かないなんてことはぁ~・・・。」

「・・・迂闊に仕掛けられないんじゃないか?」

「仕掛けられない?」

「あのエネミーの男、さっきもネージュがテクニックを撃つまで仕掛けて来なかった。恐らく相当慎重なタイプのアークスだ、明らかにネージュの様子が変わったのを見て迂闊に仕掛けられないんだ、きっと・・・。」

「う~ん、彼のパラメーターをデータ見る限り、攻撃性と防御性のバランスはいいですが、防御の方が若干上擦ってますねぇ・・・それにしてもおかしい・・・なんで彼はいるのに・・・。」

「なんだ?」

「あ、いえいえ、こちらの話ですよ♪」

「・・・。」

怪しい・・・だが映像に集中した方がいいか。

「・・・?」

男はまた左手を上げている。

そして更に指を微妙に動かしている。

「・・・我、企て事を許さず。」

ネージュは手を前に翳すと、冷気らしき霧が集まり、杭のような氷が現れる。

氷の杭は、ネージュの意のままに前方に飛んでいく。

だがそれは男の横を通りすぎ、木に刺さる。

「外した・・・?」

「愚者に裁きを・・・。」

「!」

木に刺さった氷の杭が光始めたかと思うと、いきなり爆発した。

「!? なんだ!?」

爆発した木々の隙間に誰かいる!

赤と黒のカラーリングをした機械のような見た目の男、キャストだ。

「二人いたのか!?」

「はぁ!なるほどぉ、そういう事でしたかぁ!」

「・・・どういうことだ?」

「いやぁ、二人けしかけたのに一人しか現れなくて、故障でもあったかなぁって・・・いやぁ、良かった良かった♪」

「・・・。」

こいつ・・・。

何が『難易度を下げる』だ。

伏兵入りの敵との戦いとか実戦でもほとんどないぞ。

しかも・・・。

「・・・。」

敵二人は互いに左右に別れてネージュを囲み、先程の様に指先を動かしている。

キャストの方は何かを理解したのか頷き、持っていたライフルを転送してガンスラッシュに持ちかえる。

恐らく戦闘中に意志疎通をするためのサインだろう。

それにそれで会話できている様子から、かなり実戦慣れしている。

「けどこれで分かったな・・・さっきの奇妙な攻撃のトリックが・・・。」

「えぇ♪恐らく前衛のヒューマンさんが手を翳すのを合図に隠れていたキャストさんがサテライトカノンを撃ったんでしょう♪」

「だがネタが上がった以上、もう同じ攻撃は出来ないはずだ。」

「でも今作戦立てている辺り、まだ何かありそうですねぇ♪・・・っと、動きましたよぉ!」

敵二人が先に動き出した。

ヒューマンがソードで斬りかかりながら、キャストがガンスラッシュの銃撃をネージュの後方から放つ。

「我が氷壁は何人も通さず。」

ネージュの呟きと共に氷の壁が現れ、ネージュを護るように取り囲み、弾丸と斬撃を防ぐ。

「!」

キャストが壁が張られていないネージュの真上に何かを投げた。

「あれは・・・!」

ガンスラッシュに装填する弾丸の弾倉だ。

「まさかっ!?」

キャストはそれを撃った。

すると弾倉は爆発し、爆風がネージュを襲う。

「ネージュッ!」

氷の壁が粉々に砕かれ中身が露になる。

「!?」

ネージュの姿がない。

「汝らの健闘・・・称えよう。」

ネージュは爆発に巻き込まれた処か、敵の包囲を抜けて離れた場所に立っていた。

「なんで・・・?」

私が疑問に思っている間にヒューマンが斬りかかる。

「!?」

ネージュは身体が一瞬光ると共にヒューマンの背後に立っていた。

ヒューマンは振り向き様に剣を振るうがネージュは今度はヒューマンの右に瞬間移動する。

そこにキャストがガンスラッシュで狙い撃つが、今度はキャストの背後にネージュは瞬間移動したので慌ててキャストは離れる。

「完全に遊んでますねぇ♪仮想エネミーだからいいけど、実物のアークスだったら最高にイラつきますねぇこれ!」

「一体なんなんだ・・・あの動き・・・!」

「まるで光にでもなったかのように移動しますねぇ、しかも相当移動範囲広いですよ多分。」

「あれもテクニックなのか?・・・ん?」

カリンとのやり取りの途中、異変に気づく。

敵二人が突然ネージュから走り去り、それぞれ別の木々の間へと消えていく。

「逃げた!?」

「あれぇ?これまたおかしいですねぇ・・・操作してないのに撤退するなんて・・・。」

だがそのカリンの疑問もすぐ解決した。

ネージュの周りの木々が揺れたかと思うと、ヒューマンが斬りかかって来た。

「愚か・・・。」

ネージュは難なく瞬間移動で回避する。

しかし、ヒューマンはすぐにネージュの横を通りすぎてまた木々の間に消えていく。

そう思ったのも束の間、別方向から銃弾が数発飛んでくる。

「我が身に礫(つぶて)は無粋なり。」

ネージュは全て顔色も変えずに身体をずらして回避しつつ、先程の氷の杭を放って木を爆発させる。

だがキャストの姿はない。

移動しているようだ。

「おやおや、今度は木を使って地の利を活かしてきた感じです?」

確かに戦術としてセオリーなやり方だ。

まともにやり合って勝てる相手でない以上、極力安全に戦うのは基本だろう。

それにしても・・・。

「マズいな・・・防戦一方だ。」

ネージュは難なく攻撃を捌いているが、木に隠れて戦う相手に手が出しにくいようだ。

このままじゃ・・・。

「興の刻は既に過ぎ・・・。」

「・・・?」

ネージュは左手を天に掲げる。

これを好機と見たのか、ヒューマンが突っ込んでいく。

「我が魂は氷界を産み・・・。」

「!」

ネージュは左手をそのまま地面に降り下ろす。

ヒューマンは危険を察したのか、足を止めて一気に引き返す。

だがその判断は正しかった。

ネージュを中心に地面が凍り始め、周りの木々も全て凍ってしまう。

敵二人は木々に隠れていたため、この氷結に巻き込まれたのか分からない。

「氷界は無に帰す・・・。」

ネージュの言葉が合図だったのか、凍った木々は全て光り始める。

「まさか・・・!」

先程のキャストに飛ばした氷の杭の攻撃からして、このあとの展開が薄々分かってくる。

案の定、木々は全て爆発した。

その規模は凄まじく、半径数十メートルに及ぶ爆発だった。

「ネージュ・・・!」

こんな大爆発を起こして平気なのか!?

と思ったが、爆発の煙が晴れて来ると・・・。

「なっ!?」

いつの間に張っていたのか、ネージュのいた場所には人が二、三人入れそうなドーム状の氷の塊があった。

程なくして氷は砕け散り、平然としたネージュが姿を現す。

「・・・。」

「あの二人は~っと・・・。」

カリンがカメラを動かして敵二人を探す。

見つけた。

どうやら凍らされてはいなかったようだが、爆発によって飛び散った破片が身体の至るところに刺さったようで動かなくなっていた。

「終わったか・・・ん?」

カメラの角度のせいで見切れているが、ネージュのいた所から光が射しているのが見えた。

「カリン、カメラを・・・!」

「ハイハーイ♪」

カメラを戻すとネージュから光が放たれ、ネージュの姿が見えなくなる。

光が止むとネージュは元の姿に戻り、目を瞑ったまま倒れる。

「終わった・・・ってことだよな?」

「・・・。」

「・・・?」

なんだ?

カリンが何やら震えている。

「おい、カリ・・・。」

「よしよしよしよしとても良しッ!!素晴らしデータが取れましたぁ~!」

カリンは今までに無いほど嬉しそうな顔でうち震えていた。

その表情はまるで天国に行ったかのような至福さを帯びた笑みだった。

 

 

~ラパン 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「・・・。」

こいつにコネがあるって聞いて普通の奴じゃないとは思っていた。

「・・・。」

「急にすまないな。」

いや、分かってたよ?

惑星ウォパルに住み込んでいるアークスなんていないってさ。

そんな話聞かないし?

でもさ、だからと言ってさ・・・。

「・・・。」

「ノワールはんやないか!久しぶりやな!」

目の前の珍生物は現地の訛りでノワールに親しげに挨拶する。

「ああ、あんたも相変わらずテンションが高そうだな。」

そう、今私達がいる場所・・・それは・・・。

「原生民の・・・住み処・・・!」

貝殻を屋根にした青い石造りの家々を前に私は只々白目を向いて苦笑いを浮かべていた。

「集落と言え、此処の奴等もちゃんと生活してんだからな。」

(ちょっとこんなの聞いてないわよッ!ていうか、あんた、どんだけ交友関係特殊なのよ!)

一応相手に失礼のないように小声で話す。

(ダーカー狩ってるついでに原生民助けることが多くてな・・・いつの間にか気に入られてた。)

(だからってこんなとこ滞在するつもり!?何食って何処で寝てるかも分からないような連中よ!?)

(飯はわりといけるし寝ようと思えば丁度いい場所もある、何か問題でもあるか?)

(ちょっと待ってよ・・・その口振り、まさか・・・!)

(ああ、泊めて貰ったことがあるがそれがなんだ?)

(あんたどんだけ恐い物知らずなのよッ!!)

「なんやなんや?さっきからヒソヒソヒソヒソ!人前で失礼やで!」

「そうやで!」

ヒソヒソ話しすぎたせいで原生民に怒られ・・・ってちょっと待って!?

「ちょっとルナール!?なんでナチュラルにそいつの横にいるのよ!!」

「ノリやで!!」

ルナールは原生民の横でふんぞり返る。

「嬢ちゃんいける口やな!」

「『考えるんじゃない!ハートで感じるんだ!!』ってやつだよね!」

ちょっとそれこの間一緒に読んでた小説の痛い主人公が言ってたセリフ!

恥ずかしいからやめて!! 

「せやせや!分かっとるやないか!」

何故か原生民と意気投合しちゃっているルナール。

「よっしゃ、気に入ったで!嬢ちゃんには集落の施設色々案内したるわ!」

「おぉ!ありがとー!」

ルナールは原生民と一緒に集落の奥に進んでいく。

「あいつのお陰で交渉は上手くいきそうだが・・・。」

「・・・うん。」

恐らくノワールと私は同じ事を考えている。

「俺らしか使わん秘密の通路あってな、でも嬢ちゃんならそない背丈変わらんし、通れそうやな!」

「背が低いって得だねー!」

「せやろ!」

原生民とすっかり会話の弾んでいるルナール。

「「順応早すぎじゃね・・・?」」

 

 

~カリン アークスシップ~

 

「いやぁ、眼福眼福♪」

今日はいつぶりかのような素晴らしいデータが取れてすごく嬉しかったですね♪

エスカさんは・・・。

『上から命令されてももうこんな訓練やらないからな?』

とか言われちゃったけど、まぁ、いずれ圧力でも裏工作でも駆使して無理矢理来て貰うことになりそうですよ♪

まぁ、冗談は置いておくとして・・・。

「さっきの敵二人も面白い動きしてましたね~、古いデータから適当に引っ張り出した二人組だったのに・・・。」

名前くらいは覚えといても良さそうですね、ちょっとデータ見てみましょう。

 

 

「ふむふむ・・・ヒューマンさんが『セト』、キャストさんが『ノワール』・・・五年前のデータですか・・・今なにしてる人なんでしょうねぇ・・・まぁいっか!」

 

 

 

~ラパン アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

あれからどれだけ時間が経ったか分からない。

依然としてファンジの檻は壊れず、ダーカーが私の周りに際限なく沸いてくる。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

杖を使ってテクニックの負担が大きいのでかなり身体中がつらい。

もう限界・・・誰か・・・!

「ラパンッ!!」

「!!?」

声がする方を見るとルナールがいた。

「これがファンジ・・・!」

一瞬呆気に取られたルナールだったが、すぐに表情を強張らせ、持っていた剣を構える。

「待ってて!こんなもんすぐぶっ壊して助けるから!」

ルナールはファンジに斬りかかる。

ファンジは蔦のようなものが網目状に張られているので剣なら私のテクニックよりも効果はあるかも知れない。

だが・・・。

「わっ!痛・・・!思ったより硬い・・・!」

剣をぶつけるとゴンッといった感じの硬い物をぶつけた音が聞こえる。

斬れている音などと微塵も思えない。

「やっぱり・・・私たちなんかじゃ・・・。」

「ラパン、諦めないでよ!!それにほら!見て!」

「?」

ルナールが指差す方を見ると、さっき斬った場所の蔦が僅かに解れている。

「ちょっとだけど効いてる!」

「!」

本当に助かるかも・・・。

そう思った矢先だ。

「ッ!!ルナール!!」

ルナールの周りにダーカーが沸き始める。

「ッ!」

私の周りにもダーカーは沸いてくる。

「くっ、こんのぉ!」

ルナールは剣を振り回して切りつけ、ダーカーを凪ぎ払う。

「くぅ・・・!」

私も残り少ないフォトンを使ってテクニックで一掃する。

「ラパン、今助け・・・。」

ルナールがファンジの破壊に入ろうとするとまたダーカーが沸いてくる。

何がなんでもファンジを壊させないつもりだ。

「くっ、こんなんじゃ全然壊せない・・・!」

「・・・。」

・・・仕方ないよね。

「ルナール・・・お願い・・・。」

「分かってるよ、絶対助け・・・。」

 

 

「逃げて。」

 

 

「え・・・?」

ルナールは一瞬呆気に取られそうになってダーカーの攻撃を受けそうだったのをなんとか止める。

「逃げてッ!」

「なに冗談言ってるんだよ!!」

ダーカーを倒したが、ルナールは逃げてはくれない。

「このままじゃ消耗して二人ともやられる・・・だからルナールだけでも逃げてッ!!」

「そんなの無理に決まってるでしょ!?何のためにここまで来たと思って・・・。」

「言うこと聞きなさいよッ!バカルナールッ!!」

「ッ!!なっ!」

突然の罵倒にルナールは顔を真っ赤にさせる。

「ラパンの方がバカでしょ!?助けに来た私の気持ち踏みにじる気!?」

ルナールはムキになって言い返してくる。

「それが迷惑だって言ってんのよッ!!」

「あんたどんな神経してんのッ!?人の好意をなんだと・・・!」

「いらない!!そんなのッ!!もういいんだよッ!」

「もういいって・・・!」

「そうだよ・・・もういいんだよ・・・私はもう・・・ルナールには色んな大事なもの貰ったよ・・・!」

「貰ったって・・・何も・・・。」

「貰ったよ・・・ルナールは・・・私に『居場所』をくれた・・・『夢』をくれた・・・こんな不気味な影を背負ってる私なんかが手に入らないものいっぱいくれた・・・もう、それだけでいいから・・・だから・・・!」

「・・・。」

ルナールは黙ったまま立ちすくむ。

「だから逃げ・・・!」

必死にルナールを説得しようとしたが・・・。

「うわあああああああああああああぁ!!!」

ルナールは雄叫びを上げて剣でファンジを殴る。

「ルナールッ!!」

ルナールの周りにまたダーカーが沸くが、ルナールは完全に無視してファンジを殴る。

ダガンがそれを阻止しようと前足の爪でルナールの背中を切り裂く。

「ルナールッ!!」

「あああああああああああああああッ!!!」

切り裂かれた背中から大量の血が流れる。

でもルナールはファンジの破壊を止めない。

「ルナール、やめてッ!!」

「あああああああああああああああッ!!」

ルナールは全身をどんなに斬られ、殴られ、噛みつかれてもファンジに向かって剣を振るう。

「ルナールッ!!逃げてッ!!死んじゃうよッ!!」

「うわあああああああああああああッ!!」

もうルナールは全身血だらけで、顔や腕もアザだらけだった。

それでもルナールはただファンジに向かって剣を振るう。

「ルナールッ!!お願いッ!!もうやめてッ!!」

もう見ていられなかった。

涙で何も見えなくなりそうだった。

「うわあああああああああああああッ!!」

ルナールが雄叫びを上げて最後の力を振り絞ってファンジを殴り付けると、ファンジは霧が晴れるかのように消えていく。

「ッ!」

ルナールは今まで自分を散々殴り付けたダーカー達を睨み付ける。

その眼光はするどく、手負いの獣を彷彿させるような危険な威圧感があった。

ダーカー達は勝ち目が無いと悟ったのか、はたまたファンジを破壊されて襲う理由がなくなったからなのか、逃げていく。

「ルナール・・・!」

「ラ・・・パン・・・!」

ルナールは私に向かって虚ろな目で微笑むと、その場で前のめりに倒れた。



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第十六章 ~疑惑と信頼~

~ラパン アルクトゥス市街地(七年前)~

 

「ルナールッ!!」

倒れたルナールに駆け寄り、頭を抱き抱える。

「待ってて・・・すぐ手当てを・・・!」

レスタをルナールにかけるが、ルナールは全然元気になる様子はない。

「どうして・・・!」

私のフォトンがもう尽きかけてるから?

処置を間違ってるから?

今なんらかの異常があってレスタが効かないから?

理由を考えても分からない。

いや、分からない振りをしているだけ。

「いや・・・・!」

頭を掻きむしって思考を紛らわす。

いや・・・考えたくない・・・!

考えたくない、やだやだやだやだやだ!!

「『手遅れ』な訳ない・・・助かるから・・・ルナールは絶対助ける方法が・・・!」

「ラ・・・パン・・・!」

ルナールは意識を取り戻す。

「ルナールッ!大丈夫!?」

「・・・。」

「ルナールッ!?」

「はは・・・ちょっと・・・頑張りすぎた・・・かな・・・。」

「ルナール・・・無茶しないで・・・こんなの・・・!」

「ラパン・・・。」

「・・・?」

ルナールは私の手を掴む。

「!?」

手が冷たい。

しかも掴む力も弱々しい。

「やっぱり・・・駄目だった・・・。」

「ぇ・・・?」

何を・・・急に・・・?

「だって・・・無理なんだ・・・私・・・ラパンを死なせ・・・ るの・・・。」

「なんでよ・・・!」

「最初はね・・・ただ『アークスになりたい』って・・・思ってた・・・。」

「なによ、それ・・・。」

「でも・・・ラパンと一緒に・・・ アークス・・・目指してたら・・・ね・・・いつの・・間にか・・・『ラパンと一緒に・・・アークスになりたい』・・・に・・・なってた・・・。」

「そんなの・・・ 。」

そんなの・・・!

「私だって同じだよルナールッ!私だって・・・ルナールと一緒にアークスになりたいよッ!」

「ラ・・・パン・・・へ・・・えへへ・・・。」

ルナールは力のない声で笑う。

「嬉しいな・・・!」

するとうつ伏せから首を動かしてかろうじて顔が見えるようにしてくる。

笑っていた、精一杯の力で笑っていた。

私の手を握っていた手も震え始める。

「あり・・・ が・・・・と・・・・ラ・・・・・・パ・・・・・・!」

ルナールは手を降ろし、ぐったりと脱力した。

「ルナール・・・?」

揺らしたが起きない。

「やだ・・・やだよ・・・!ルナールッ!」

ルナールは起きなかった。

「ルナール・・・ルナールッ・・・う、うぁ・・・ぁ・・・!!」

起きてよ!

冗談やめてよ!

寝ちゃっただけだよね!?

やだよ、やだよ!

「あああああああああああああああッ!!」

もう耐えられなかった。

心が折れて号泣した。

その声に呼ばれたのか、またダーカーが現れて私を取り囲む。

「なによ・・・なによ・・・!」

恐怖よりも自分を塗りつぶす感情があった。

黒く、ひたすら黒い何かが私の胸のなかを塗り潰した。

「お前たちがやったんだ・・・!お前たちが・・・!お前・・・タちガ・・・!」

目の前が真っ赤になって見えなくなった。

いつの間にか手に持っていた『何か』をがむしゃらに振り回す。

手応えがあればそこを何度も切り裂き、見えなかったが物体を掴んだら、それに『何か』を突き立てた。

とにかく、周りにあるものを壊すつもりで振るった。

「ハァ・・・ハァ・・・!」

次第に手応えがなくなってくると、視界がハッキリしてくる。

「・・・?」

手に持っていた物に気づく。

それは黒い剣だった。

片手で持てる程度の大きさだが、確かな大きさで禍々しさのある不気味な剣だった。

「・・・。」

周りを見てみると死んだばかりのダーカー『だった』腕や足や頭が転がっていた。

中には片目を抉られた物もある。

「あんたらにお似合いの姿だよ・・・バーカ。」

死体に皮肉を吐くとルナールの方を向く。

あまりに錯乱して暴れまわったが、ルナールには傷をつけていなかったようだ。

「・・・。」

このままルナールを此処に放って置いたら可哀想だ。

運ぼうと思って歩を進めるが・・・。

「え・・・?」

何かにつまづいた訳でもないのに転んでしまう。

「・・・。」

起き上がれない。

力が入らない。

ああ、そっか・・・ 私も『限界』なんだ・・・。

「・・・。」

『まぁ、いっか。』と言おうとしたが、口も動かない。

もう、いいよね・・・。

思えば泣いてばかりの人生だった。

親に捨てられたかと思えば知りたくもなかった自分の正体を知り、それでも幸せな居場所を得られたかと思えばダーカーに奪われる。

こんな人生・・・もう疲れちゃったな。

「・・・!」

ルナールの姿が目に留まる。

「ッ・・・!」

這いずりながら傍まで近づき、すっかり冷たくなった手を握る。

ルナール・・・先に行っちゃったけど、すぐ会えるよね。

死んだあとの世界なんて想像出来ないけど、ルナールと一緒に行けるなら怖くない・・・。

ずっと、一緒だよ・・・。

「・・・。」

でもひとつだけ心残りはあった。

先生だ。

私を最初に受け入れてくれた先生・・・。

いつも頭を撫でてくれた優しい先生・・・。

私に友達が出来るように色々教えてくれた先生・・・。

孤児院が貧しいながらも頑張って美味しい料理を作ってくれた暖かい先生。

大好きだった。

そんな先生にお礼も何も言わずに逝くことだけが心残りだった。

でも・・・ 仕方ないよね・・・。

「・・・?」

誰かが繋いだ私達の手に触れる。

「・・・!!・・・!」

何か言ってるけど、うまく聞き取れない。

身体を揺すられるが、私は言葉を発する事も身体を動かす事も出来なかった。

次第にその人物は諦めたのか、私から手を放し、ゆっくりと足音を遠ざけていく。

あーあ・・・もしかしたら助かるかも知れなかったけどいっか・・・。

もう・・・眠いや・・・。

 

 

~ネージュ アークスシップ ショップエリア~

 

「うえぇ・・・。」

医務室に運ばれたみたいじゃが、まだ頭がガンガンするのじゃ・・・。

エスカは報告に行くとかでどっか行っとるし、気晴らしに散歩しようかと思ったけど、部屋に戻ろうかのう・・・。

「それにしても・・・。」

訓練は失敗じゃったんじゃろうか。

あのあと何が起こったか誰も教えてくれんし・・・。

「・・・。」

なんでわし、こんなに弱いんじゃろうか。

いつもそうじゃ、エスカに守られて・・・ノワールに助けられて・・・二人共居なかったら、危ない目に遭って結局助けられて・・・。

「おい、聞いたか?」

「ノワールってあの『暴食の幽霊』だよな?」

「・・・?」

ノワールの話?

男二人が近くで話しとるようじゃ。

「あぁ、ついに人にまで手ぇ出しやがったってよ。」

「・・・?」

人?

なんのことじゃ?

「大規模作戦に紛れてアークス殺したんだろ?」

「!!」

ノワールが人を殺した・・・?

「それにしても・・・。」

「あぁ、ついにやりやがったってやつだよな。」

「元々帰還命令無視の常習犯だしな、見た目もやべぇ感じだったし。」

「『暴食』ってつくぐらいの戦闘狂だしな、もうダーカーぐらいじゃ食い足りなくなったんじゃね?」

「ホントサイコ野郎だよな、いい迷惑だわ。マッド野郎の考えとかマジわかんねぇわ!」

「ハッハッハ!マジそれだわ!」

「ッ!!」

「ぶぇ!?」

堪らず男の片方を突き飛ばす。

「あぁ!?なにすんだよ!!」

「貴様ら・・・今の話もういっぺんしてみろ・・・!」

「あ?『暴食の幽霊』ちゃんの話?」

「噂広がってるよな!まぁ、あんなことすりゃ自業自得だろ!」

「わしはノワールのことよく知っとるぞッ!!」

「は?」

「確かにあやつは、ダーカー倒す事に没頭しすぎて、帰還命令無視するようなアンポンタンじゃ・・・じゃがあやつは、助けられる奴にならどんな奴にでも手を差し出す奴じゃッ!!わしは奴に何度も助けられたのじゃッ!!」

「は?ありえないだろ、噂と違いすぎ・・・。」

「貴様らは噂があったらダガン一匹が一秒で跡形もなく惑星を消し去るって信じるのかッ!!」

「何が言いたいんだよ。」

「ノワールのこと何も知らんくせに・・・噂だけでノワールの事を悪く言うなッ!!貴様らは、噂に踊らされてるだけのピエロじゃッ!人形劇みたいに操られてる間抜け面な人形じゃッ!!」

「おい・・・。」

「お嬢ちゃん俺らのこと舐めてない?」

「いっぺん痛い目見た方がいいよね?ほら、ちょっとこっち来いよ。」

「ッ!!」

男が肩をガッと掴むとぞっとした感覚がする。

じゃがその瞬間・・・。

「いで・・・ いででででッ!!」

男は間抜けな顔で苦しみだす。

「すまないな、うちの連れが迷惑をかけてるようだ。」

「!!」

エスカが男の片腕を後ろから絞め上げていた。

「ッのやろ!!」

もう一人の男がエスカに殴りかかるが、エスカは拳を片手で止める。

かと思えば、そこから手を滑り込ませて男の手首を掴んで捻り上げる。

「いたたたたッ!やめ、いで!痛い痛い痛いッ!!」

男二人はエスカに完全に絞め上げられていつ腕を折られてもおかしくない状態になっておった。

「迷惑をかけたなら謝るさ。ここは私に免じて穏便に退いてくれると嬉しいんだが。」

「てめっ!言ってることとやってることが逆だろうがッ!!」

「なぁ、頼むよ。」

エスカは少し艷の入った優しい声で前にいる男の耳元に顔を近づける。

「私もこんな所で『殺し』なんかしたくないんだ・・・。」

「ッ!!」

エスカの声は優しかったが、見ているわしさえ恐怖するほど危険な響きが耳に残った。

直接言われた男に至っては冷や汗を流して脚が震えておった。

「わ、分かったよ、分かったっての!だ、だから、放せって・・・!」

男は逆ギレしながら言ってるつもりのようじゃが、声が震えてて全く言葉に威力がなかった。

「そうか、あんたがいい奴で助かるよ。」

エスカは男二人を解放する。

「チッ、気分最悪だ。」

「飯食い行こうぜ?」

「あぁ・・・。」

男二人は皮肉混じりに捨て台詞を吐いて去って行った。

「エスカ・・・。」

怒られるかのう・・・。

「・・・気持ちは分かるが無茶するな。」

「!」

エスカはわしの頭を撫でる。

・・・『無茶するな』、か。

「・・・? ネージュ?」

「ぅ・・・ひぐっ・・・。」

涙が止まらなくて泣いてしまう。

「お、おい、こんな所で泣くな!」

エスカは周りを見ながら慌てる。

「なんだ、怖かったのか?」

「違うのじゃぁ・・・!」

情けなかった。

あんな状況になって結局誰かが助けてくれないとどうにもならない自分が情けなかった。

「よく分からんが、部屋に戻ろう!な?」

エスカはわしの手を引いて二人で部屋に向かって行く。

 

 

~エスカ マイルーム~

 

「・・・落ち着いたか?」

「・・・うん。」

好物のハチミツ入りのホットミルクを飲ませると、一先ず落ち着いたようだ。

道中で話は聞いた。

なんともネージュらしい理由だ。

「なぁ、ずっと気になってたんだが・・・。」

「なんじゃ?」

「お前ってどうやってその年でアークスになったんだ?」

ずっと気になってはいた。

ネージュぐらいの年齢ならあと二、三年はまだ候補生であってもおかしくはないのだ。

特別に頭がいい訳でもなく、戦闘に特化していた訳でもない。

「・・・候補生時代に適性検査があっての、フォトンの適性が異様に高かったらしいのじゃ、それで色々パス出来る科目があったとかで、飛び級でアークスになったのじゃ。」

「フォトンの適性、か・・・そんな事でお前みたいな年の子を戦場に送るとか、アークスも酷だな。」

「わしは悪くは思わんぞ!元々アークスになりたかったし、早くなれるなら願ったり叶ったりじゃ!でも・・・。」

「でも・・・なんだ?」

「それもきっと・・・『神託のフォトン』を受け継いだからじゃろうし、結局、わし自身の力なんて・・・。」

「・・・。」

「エスカ・・・?」

「てぃ!」

「ふにゃッ!?」

ネージュの脳天に指先だけのチョップをかます。

加減はしたつもりだがそれでも痛そうにネージュは頭を両手で押さえる。

「何するんじゃエスカァ!」

「ネージュ、ひとつ聞くぞ?」

「な、なんじゃ?」

「強さって頭の良さや戦闘力で決まることか?」

「え?」

私の質問にネージュは考え込む。

「違う・・・のか?」

「ああ、私は違うと思ってる。それも、お前を見て思ったことだ。」

「わしを・・・?」

「お前、最初に私を助けた時のこと覚えてるか?」

「え?んーと・・・。」

「・・・忘れたんだな?」

「うぐぐ・・・!」

ネージュは悔しそうに声をくぐもらせる。

「市街地がダーカーに襲撃された時だ。私はあの時瀕死の重症で動けなかった。そこにお前が現れて安全な場所まで運んだんだよ。」

「あぁ!」

ネージュは思い出したようで、手をポンと叩く。

「あれこそ、お前の強さだよ。」

「そ、そんなの、普通に出来る事じゃろ?」

「あの戦場は最前線で敵も多かった。お前がもし薄情な奴なら私を見捨てて逃げてただろう。私もあの時、散々お前に『捨てて逃げろ』って言ってたしな。」

「そ、そんなこと出来るわけないじゃろ!わしだってアークスじゃ!助けられる奴は助けるのじゃ!」

「そう言うところだよ、お前の強さは。」

「・・・?」

ネージュは私の言葉が理解出来ないようで考え込む。

「つまり・・・どういうことじゃ?」

「ふふ。」

私はネージュの頭を撫でる。

「?」

「分からなくていい、けど、私はお前の良いところも知ってるってことだ。それだけ分かってくれればいい。」

「うぬぅ・・・誤魔化された気がするのじゃ・・・。」

ネージュは不満そうだが、私は別にそれでもいい。

「それよりエスカ・・・。」

「なんだ?」

「ノワールの事じゃけど・・・。」

「ああ、噂は聞いてる。アークスを殺したとかだったな。」

「エスカはどう思うのじゃ?」

「・・・あいつをフォローするのは気にくわないけどな、私もお前と同じ考えだ。」

「ほ、本当か!?」

ネージュは目を輝かせる。

「大方また変な事に首突っ込んだとかで何かに巻き込まれたんじゃないか?」

「そ、そうか!そうじゃそうじゃ!あやつなら充分有り得るぞ!」

「それに、お前と違うが私も私なりにあいつを理解してるところはある。」

「え、なんじゃ?」

「あいつはダーカー以外殺せない。」

 

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「そっち行ったわよ!」

「分かってる・・・!」

ラパンの炎から逃れたソルダ種の親玉に一気に距離を詰め、俺は零距離から銃をぶっ放す。

「ふぃー、助かるわぁー。」

原生民は安堵の溜め息を着く。

俺達はしばらく泊めて貰う代わりに集落から遠出する住民の護衛を買って出た。

住民には遠慮されていたが、ただで泊めて貰うのは症に合わないからだ。

「それにしても、お前らよく狙われるな。」

「当たり前や!あんたらのとこがどんなところか知らんけど、この惑星は弱肉強食や!ちっこくて弱いもんが真っ先に餌と見なされるんや!」

「ちっこくて弱いって・・・自分で言ってて悲しくない・・・?」

「事実や!でもな、俺らやからこそ生き残る手段かてあるんや!狭い隙間に逃げ込んだり、小さい穴に入り込んで敵が諦めてどっかいくまでやり過ごしたりな!」

「小さい穴・・・。」

ラパンはじっと一点の場所を見る。

「・・・。」

こいつと同じ場所を見て納得した。

僅かに周りの地面が盛り上がった岩穴がある。

だがあれは海底エリアの原生エネミーであるガラムアネモネの巣穴だ。

なんの変鉄もない穴にみせて近づく獲物を吸い込んで補食することを得意とする生物だ。

「ちょっとあんた!足下にある穴に逃げ込むのだけはやめなさいよ!?」

ラパンは慌てて原生民に注意換気する。

「は?何言うてんねや?追い詰められたらそない選んでられへ・・・。」

「いい!?絶対よ!?」

「急にどないしたんやこの嬢ちゃん・・・。」

原生民は俺に助け船を要求してくるが・・・。

「悪いことは言わん、やめとけ・・・。」

「ノワールはんまで!意味分からんで・・・。」

「待て・・・お客さんのお出ましみたいだな。」

すぐそこからの気配を感じとり、構える。

物陰に潜んでいた『それ』は、隠れても無駄と悟ったのか、姿を表す。

「チッ・・・。」

鮫のような身体に手足が生えた、狼にも似たエネミー。

『タグアクルプス』だ。

しかも一体ではなく、五体の群れのようだ。

「まぁ、いずれこうなるとは思ってたけどな・・・。」

「・・・何?」

俺の独り言にラパンは反応する。

「・・・なんでもねぇよ。」

「ふん、まぁいいわ。」

ラパンと一緒に構える。

タグアクルプスが襲いかかって来ると、ラパンはフォイエを放って一体仕留める。

「・・・。」

俺は一体に向かってデッドアプローチによって体当たりを喰らわせ、スタンさせて銃を構える。

「・・・。」

だが、撃たずに蹴り飛ばす。

「え、なんで・・・やめてよ・・・こんなときに・・・!」

「・・・?」

不意に変な声が聞こえてラパンの方を向くと、ラパンは頭を抱えていた。

「来ないで・・・なんでよ・・・やめてよぉ・・・!」

意味のわからない言葉を並べて怯えている。

「やばっ、こんな時に・・・!」

「・・・。」

ルナール・・・なにか知ってるな?

「やだ・・・やだよぉ・・・もう・・・殺したくない・・・いやぁ・・・!」

相変わらず訳の分からない事を言って頭を抱えるラパンに、敵は待ってくれる筈もなく、遠くで地面に潜っていたタグアクルプスが地面から勢いよく出てくる。

「!」

あの動きはまずい!

タグアクルプスは空中で高速に一回転すると、その頭部のヒレによって真空の斬撃が放たれる。

「こんのぉ!」

ルナールがソードを盾にラパンを庇う。

「!!」

予想外の展開が起こる。

左にもう一匹地面に潜っていた。

ルナールが一匹目の斬撃を防いだ瞬間に飛び出して斬撃をラパンに向けて放つ。

今ルナールがいる位置からは完全に無防備だ。

「ぐっ・・・!」

咄嗟にラパンを掴んで位置を替えて背中で斬撃を受ける。

「ノワールさん!?」

「くっ・・・そが・・・!」

なんか最近誰かを庇って怪我ばかりしてる気がするな。

「・・・ったく、俺はお姫様守るナイトとかじゃねぇんだよッ!!」

即座に斬撃を放ったタグアクルプスに距離を詰め、一匹は蹴り飛ばし、もう一匹は銃で殴り飛ばした。

「うわわ!」

「!?」

ルナールの声がして振り向くと、ラパンとルナールは二匹のタグアクルプスに囲まれていた。

まずい、ルナールが止められるのは一匹だけだ。

「・・・!」

気がつくと身体が動いていた。

エルダーリベリオンの弾丸ラッシュでタグアクルプスを次々に撃ち抜き、仕留めた。

「・・・くっ。」

やってしまった。

一瞬だけ嫌な映像がフラッシュバックする。

 

 

一匹の犬が苦しんで死んでいく姿だ。

 

 

「ハァ・・・ハァ・・・。」

映像は直ぐに止んで落ち着く。

「・・・。」

タグアクルプスの残りに向き直る。

敵は勝ち目が無いとみたか、即座に立ち去る。

「・・・。」

身の回りの安全を確認してラパンの元に戻る。

「ぅ・・・あれ・・・?」

「・・・。」

ラパンは正気を取り戻したようだ。

「マスター!良かった!」

「て、敵は!?」

「もう追っ払った。」

「・・・!!」

俺の言葉に、ラパンは自分がどんな状況なのか察し、無言で目を剃らし、悔しそうに歯軋りする。

余程他人に見られたくなかったことのようだ。

親切心があるやつなら見なかったことにしてやるところだが・・・。

「・・・お前のそれ、なんだ?」

敢えて聞く。

「・・・。」

「マスター・・・。」

ルナールは心配そうにラパンに歩み寄る。

「答えろ。」

「・・・なんだっていいでしょ?」

「・・・。」

俺は銃を転送させて手ぶらの状態に戻し、そっぽを向く。

「・・・お前、今回の件が片付いたら、アークスをやめろ。」

「ッ!」

俺の一言にラパンはカチンと来たように向き直る。

「ふざけないでッ!何勝手な事言って・・・ッ!?」

反論するラパンだが、言葉を詰まらせる。

俺が胸ぐらを掴んで目の前まで引き寄せたからだ。

「お前には無理だって言ってんだッ!!」

「ッ!!」

俺が怒鳴ると、ラパンは顔を強張らせて固まる。

「いいか、アークスはいつ、何処で戦場に立たされるか分からない仕事だ。そんな発作だか何だか分からない物を抱えてアークスを続けると・・・お前死ぬぞ?」

「・・・・・・・・・・ッ!!!」

俺の言葉に顔を俯かせたラパンだが、すぐに俺の手を引き剥がす。

「何も知らないくせにッ!あたしには、どうしてもアークスをやらないといけない理由があるのよッ!偉そうに説教すんなッ!!」

散々怒鳴ると、ラパンは何処かへ走り去る。

「あ、待ってよマスター!」

ルナールはラパンの跡を追いかけていった。

「なぁ、ノワールはん・・・。」

原生民が俺に歩み寄る。

「後輩か部下か知らんけど、ちょっと言い過ぎちゃうか・・・?」

「・・・優しくして死なれる方が迷惑だ。」

不意に通信音がして通信機に耳を貸す。

『マスター。』

「アオか、なんだ?」

まさかアオも言い過ぎとか言うんじゃ・・・。

『その、『手』は大丈夫でしょうか。』

「・・・。」

通信機を添えていない俺の左手はカタカタと震えていた。



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第十七章 ~幻想の英雄~

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

夜になって集落の住民が寝静まった頃だ。

「・・・。」

集落の片隅、僅かなライトの明かりの側、寝袋の上で俺は腕を押さえていた。

腕の震えは治まっていない。

ラパンの事をあんな風に言ってはいたが、実は俺も人の事が言えない。

俺は本来殺生が苦手な体質だ。

ダーカーに関しては過去からの恨みからか、殺す事に何の躊躇いはないが、原生エネミーを殺すのには身体がかなり拒絶し、腕が震え、酷いときには昼のように過去のトラウマの映像が見えたりする。

度合いもあり、惑星リリーパの機工種ならまだ『殺す』と言うよりは『壊す』と言った感じなので症状は軽いが、惑星ナベリウスや惑星ウォパルのような生身の生物に至っては今日のようにかなり症状が重い。

ましてや人を殺そう物なら、どうなるか分かったものじゃない。

「・・・!」

僅かに少し離れた所から小石が何かに当たって水に落ちた音がした。

「誰だッ!」

気配のする岩を銃を転移させて撃つ。

「へひゃッ!?」

案の定ビビって声を出したので、即座に突っ込んでいき、岩の前で銃を構える。

「・・・出てこい。」

「ご、ごめ・・・なさ・・・!」

「・・・?」

聞き覚えのある声がして見てみると・・・。

「お前は・・・!」

「ぁ・・・あぅ・・・!」

「・・・。」

ルナールだ。

「・・・見たな?」

「え、えっと・・・ひゃいッ!?」

ルナールに銃を突きつける。

「・・・他言無用だ。分かるな?」

「ひ・・・ぃぅ・・・!」

「・・・?」

何か臭う・・・?

「ッ!」

徐々にルナールの太もも辺りから液体らしき物が拡がっている。

どうやら恐怖のあまり失禁したようだ。

「・・・。」

呆れとどう対処しようかの面倒くささで言葉が出ない。

『マスター、その辺で許してあげて下さい。』

「あぁ。」

アオから通信が来て俺は銃をルナールから放し、転送させる。

まぁ、『あれ』を他言されないためとは言え、アオが初めて作った友達相手にやり過ぎたかもしれない。

「・・・何の用だ。」

「・・・へ?」

「わざわざただ覗きに来た訳じゃないだろ?」

「あ、うん・・・!」

「・・・立ち話も疲れるな、こっちだ。」

ルナールを明かりまで案内する。

 

 

「・・・ほら。」

互いに座ると、持っていたブロック状の携帯食料をひと切れルナールに渡す。

「え、いいの?」

ルナールは受けとると、一口かじる。

「・・・さっきは悪かったな。」

「あ、ううん。いいよ、それよりも・・・。」

「ああ、なんだ?」

「マスターの『アレ』について話そうと思って・・・。」

「・・・。」

「・・・ノワールさん?」

「マスターのプライバシーに関わることを、サポートパートナーが簡単に喋っていいのか?」

「知りたく・・・ないの?」

「軽率な行動でマスターと仲違いしたらサポートパートナーとして本末転倒だって言ってんだ。」

「そ、そうかも・・・。」

核心を突かれてルナールは俯く。

「分かったら帰れ。あんまり長居すると、お前のマスターが・・・。」

「で、でもね・・・!」

「?」

ルナールは立ち上がる。

「やっぱり、ノワールさんには知って貰いたい!」

「・・・。」

「マスターね?誰にも分からないように、チームにも入らないで一人でアークスやって来たけど、それでも知った上で理解してくれる人が居ないと苦しいと思うの。なんでか分からないけど・・・私、マスターが苦しんでるの分かるんだ・・・。」

「・・・それで俺が理解者に?」

「うん。」

「馬鹿言うな、あれを見て俺はあいつに『アークスをやめろ』って言ったんだぞ?そんな俺にか?」

「・・・ それでも、見られちゃった以上、ノワールさんには知って貰いたい。」

「・・・。」

ルナールの目は真っ直ぐに俺を見ていた。

こいつは・・・サポートパートナーにしては出来すぎているようだ。

「そうか・・・意地の悪いことを言ったな。まぁ、俺もあれに関してはずっと気になってた。話してくれ。」

「うん。」

ルナールは再び座り込む。

 

 

「マスターはね、ホントにタマになんだけど、幻覚を見ることがあるの。」

「幻覚?」

「うーん、どっちかと言うと、『白昼夢』?に近いのかな?場所全体がアークスシップの市街地みたいな場所に見えて、アークスに囲まれてるような状態になるの。」

「アークスに・・・。」

「しかも自分は何かに持たれてて、滅茶苦茶に振り回されてるんだって。」

「何か・・・?」

その『何か』は分からない。

だが、アークスに対して友好な奴とは到底思えない事だけは分かる。

「それで振り回されてるうちにアークスの身体に当たったらそのアークスが血を流して倒れちゃうって。」

「・・・明らかに人間じゃない物になったってことか、そのとき、自分の姿とかに変化は無かったのか?」

「それが・・・身動きも取れなくて、目も動かせなくなるんだって・・・。」

「確かめられないってことか・・・。」

ホントに妙な話だ。

奇妙な状況で気になることが確かめられないってのはなんとももどかしい。

「・・・。」

 

『やだ・・・やだよ・・・もう・・・殺したくない・・・いやぁ・・・!』

 

あの時あいつが言ったことはそう言うことか。

「あと・・・最後に明らかに三人の強そうな三人のアークスに睨まれた所でいつも終わるって・・・。」

「三人・・・。」

「うん、一人はカタナを持ったキャストの男、二人目はタリスを持ったニューマンの男、三人目はロッドを持ったヒューマンの女だって。」

「キャストとニューマンとヒューマン・・・。」

「何か、分かる?」

「『三英雄』・・・!」

「三英雄って・・・。」

「あぁ。」

「なに?」

「ッ!」

思わずずっこけそうになった。

てっきりサポートパートナーはオラクル船団に関する知識もインプットされている物かと思ったが案外そうでもなさそうだ。

「『三英雄』ってのは、四十年前だったか?アークスの前に現れたダークファルスに勝った三人の英雄のことだ。今はもう解体されたが、六芒均衡の中の内の三人はその名前を襲名することで、今も『三英雄』は存在してるってわけだ。」

「その三人って?」

「『レギアス』、『カスラ』、『クラリスクレイス』、クラリスクレイスは今は三代目、カスラは二代目、レギアスは初代のままだ。」

「へぇ、ノワールさんって物知りだね!」

「こんなのオラクル船団の常識だ。多分お前のマスターだって知ってる。」

「そうかな?」

「・・・話を戻すぞ、問題はなんであいつが三英雄の幻覚なんか見るかだ。いや、まだ三英雄って決まった訳じゃないが・・・。」

「うーん、分かんない。」

「・・・いつからだ?」

「なにが?」

「あいつの『あれ』が起こるようになったのは。」

「うーん、私がサポートパートナーになってからも普通に起こってたみたいだし、元からなのかな?」

「・・・お前も正確には分からないってことか。」

「うん。」

「そうか・・・そこから原因突き止めれば治る方法も見つかるかもしれんがな・・・。」

「うん、マスターに聞いてみる!」

「・・・俺が言ったとか言うなよ?」

「あ、うん。ノワールさんにこの話したのバレちゃうもんね!」

「あぁ。」

「んふふ♪」

「?」

ルナールは急に楽しそうに笑い出す。

「・・・なんだ?」

「アオが話してた通りだったなぁって思った!」

「アオが?」

「優しい人だって言ってた!なんだかんだでマスターのこと気遣ってくれてるし、見た目怖いけど優しいなって!」

「あいつ、余計なことを・・・ 。」

「アオね、ノワールさんの話になるとすっごく楽しそうに話すよ!だから、いい人だって思ってた!」

「やめろッ!!」

「・・・!」

俺が怒鳴ると、ルナールはビクリとして固まる。

「・・・アオもお前も誤解してるぞ。俺は最低なクズ野郎だ。お前らの考えているような出来た人間じゃない。」

「ご、ごめん・・・なんか、気分悪くしちゃった?」

「・・・もういいだろ。お前のマスターもお前がいなくなって探してるかもしれない。早く帰れ。」

「う、うん・・・じゃあね。」

「・・・。」

ルナールは立ち上がると少し重い足取りで帰って行った。

「・・・。」

通信機に手を添える。

「アオ・・・。」

『はい。』

アオはいつもの調子で淡々と返事をする。

「お前・・・あいつにわざと見せたな?」

俺が言っているのはあの発作を押さえている光景だ。

『申し訳ありません・・・。』

寝る前に俺はアオを見張りに着けていた。

アオは俺に近付く敵をいつでも狙撃出来る様に見ていたのでルナールの接近には気づいていたはずだ。

流石に狙撃しないだろうが、近づかないよう警告ぐらいは出来たはずだ。

『弁解は致しません。罰があれば如何様にでも・・・。』

「・・・お前もあいつと同じだろ?」

『マスター?質問の意図が・・・。』

「知って欲しかったんだろ?」

『・・・。』

「・・・責めはしない。元はと言えば俺のミスだ。」

そう、あの時反射的に原生エネミーを殺さなければ上手くいってたことだ。

『その、手はもう大丈夫でしょうか?』

「ああ。もうほとんど治まったさ。」

俺の発作は治るものではないかもしれない。

だが別に困りはしない。

俺はダーカーを狩れればそれでいいからだ。

 

 

~セト アークスシップ 訓練施設~

 

室内に何度も刃の交わる音が聞こえる。

だが、やがてひとつのカタナが空を舞った。

「・・・!」

僕の喉元の前でカタナが止まる。

「詰みだ。」

レギアスの言葉と同時に僕のカタナは後方に落ちる。

「・・・。」

相変わらず化け物染みている人だ。

振るっていたのはヴィタカタナ。

ショップで手に入るごく一般的な武器で、僕が振るうユキガラスよりも遥かに性能が劣る武器だ。

そんなカタナで意図も簡単に勝ててしまうのだから実力が遥かに違うことを痛いほど思い知らされる。

勿論、本来使っている武器は僕が使うカタナよりも遥かに性能が高いので、どれだけ恐ろしいことか。

「腕が鈍っているようだな、セトよ。」

「最近鍛練する暇もなかったからですかね、この頃警らの任務多かったですし・・・。」

「・・・。」

レギアスは黙ったままカタナを鞘に納める。

「打ち合って分かった。鍛練をしたところで補える綻びではない。」

「・・・。」

「貴様の剣には迷いがある。一手一手の一撃に心が入っていなかった。」

「迷い・・・。」

なんとなく分かる。

見抜かれてもなにも言えない。

「・・・何があったのかは敢えて聞かん。だが何か思い詰めている事があるなら早目に解消させておくことだ。隊を率いる者がそれでは、隊の士気に関わる。」

レギアスは踵を返す。

「セトよ。貴様の本来の剣は真っ直ぐだ、ひとつの思いに向かって真っ直ぐに伸びる剣だ。だからこそ、隊を任せている。その真っ直ぐな剣が隊を導くのだ、努々忘れるな。」

「ひとつの思い・・・。」

「ではな、また時間が空けば手合わせ願う。」

「はい、御指南ありがとうございます。」

レギアスは去っていった。

「・・・。」

『迷う理由』、それは分かっている。

けど僕の剣が向かう『ひとつの思い』。

それは分からない。

だがレギアスの言う通り、僕がこんな調子では士気に関わる。

切り替えて行かないと・・・。

「『ノワール』。」

「!」

突如後ろから声がするので見てみると・・・。

「それが『迷い』の原因でしょう。」

「・・・!」

『げ!』と言う言葉が喉まで出かかってなんとか留まる。

カスラ、僕の苦手上司ナンバーワンの男。

「えぇ、そうですよ・・・。」

「隠しもしないとは、貴方は少しひねくれた性格だと思っていたのですが・・・。」

「どうせ調べ挙げて全部筒抜けなんでしょう?」

「ご明察、ですが貴方が作戦後に現場捜査を行ってくれたおかげで手早く情報が集まりました。此方としても欲しかった情報も得られて、願ったり叶ったり。」

「・・・。」

そう、あれから色々調べて見て分かった。

あの死体からは僅かだが妙なダーカー因子が発見されたし、ナメギドで臓器を破壊された形跡はあったが、直接的な死因はそれではなかったのだ。

 

死体には既に心臓を貫かれたような穴があったのだ。

それも銃弾でもなく、槍のような鋭い武器によるものだ。

 

恐らくそれが死因だろう。

到底あの二人が殺した様には思えない。

なによりあいつは人なんか殺せる訳がない。

それは長い付き合いだったからこそ分かることだ。

 

『緊急連絡!』

 

「!」

なんだ!?

 

 

~ラパン ???(七年前)~

 

「・・・?」

アークスシップの市街地・・・。

そっか・・・確か私・・・。

「・・・!」

たくさんのアークスの人達が周りにいた。

そっか、助けに来てくれた!

「・・・!・・・!?」

声を出そうとしたが声が出ない。

「!?」

身体も動かない。

何かに縛られたかのように動けない。

それに何かおかしい。

身体のどこか分からないが物凄く潰されそうな程の圧迫感がある。

「!」

訳も分からないまま身体が勝手にアークスの一人に高速で急接近する。

「ぐあっ!」

私の身体が当たるとアークスは血を撒き散らして悲鳴を挙げた。

見て確認は出来ないが身体に返り血がかかるのが分かる。

「くそっ!よくも俺の仲間を!」

別のアークスが非難するかのように罵声を浴びせてくる。

(わ、私がやったの・・・?)

だとしても違う!

私は自由が効かないの!

「ぐわっ!」

「ぎゃああ!!」

次々にアークスが死んでいく。

「きゃあぁ!」

「くそっ!ぐああ!!」

(やだ!いやだ!なんで止まってくれないの!?)

私の意思も虚しくアークスは惨殺されていく。

「そこまでだ!!」

(・・・?)

声がすると身体の向きが変わり、声のする方角が見える。

「!」

三人のアークスが立っていた。

一人は白いロッドを持った女。

一人はタリスを持った男。

一人はカタナを持ったキャストの男だ。

「・・・!!・・・!」

(違うの!わざとじゃないの!お願い信じて!!)

必死に弁解しようにも声が出ない。

「フ・・・フフ・・・。」

「・・・?」

何か鼻息にも似た声が聞こえる。

目の前の人のものじゃない。

「フフフ・・・ハハ・・・ハハハハハハ!!」

「!?」

笑い声・・・。

私の近くからこの世の物とは思えない、おぞましい笑い声が聞こえてくる。

 

 

(やだ・・・やだ・・・いやああああ!!!)

 

 

「・・・!」

気がつくと目の前は真っ白なライト。

青緑の一色の殺風景な部屋。

私はベッドの上にいた。

服は病院の患者が着けるような袖の無い真っ白なスカート状の服。

腕には点滴用の針が刺さっており、その他にも腕に微細な検査用と思しき装置が付けられていた。

『見てください!意識が戻りました!本当によかった!』

「・・・?」

アナウンスらしき声が何処からか聞こえてくる。

声は若い男の人の声。

『聞こえるかい?聞こえていれば指を動かしてくれ!』

先程の声とは別の、今度は中年染みた低めの声の男の人の声がする。

「・・・。」

言われた通り、私は指を動かした。

『ありがとう。今スタッフが点滴と検査機を外しにくる。安静にしててくれ。』

声が止むと、入り口のドアが開く。

そしてそこから白衣を来て、マスクと防護用の帽子を着けた人達が入ってくる。

そしてそのまま点滴の針を抜き、装置を外す。

『起きれるかい?』

「・・・。」

言われるままに起きた。

「ここは・・・?」

周りの人に聞く。

『ここはアークスシップの研究室、ちょっと医務室が一杯になっちゃってね、こっちで君を治療することになったんだ。』

「『研究室』・・・?」

何か引っ掛かって。

 

 

『いい加減にしてください!あの子は貴方方には渡しません!』

 

 

「!!」

不意に先生の言葉を思い出す。

「『研究室』・・・!」

この人達・・・まさか・・・!

「どうかした?まだ何処か・・・。」

女の人が手を伸ばす。

 

 

「い、いやあああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 

女の人の手を弾き、部屋の隅に逃げ込む。

「ど、どうした!?」

「わ、私、違うの!!普通の人間だよ!!お願いッ!信じてッ!!」

私、背中に黒い影があるから・・・ダーカーと繋がってると思われてるんだ!

私は関係ない!

必死に弁解する。

『何を・・・言ってるんだ?』

「え・・・?」

白衣の人達も集まって注意深く私を観察する。

「角が生えている訳でもない・・・翼や尻尾が生えている訳でもない・・・何処からどう見ても普通のヒューマンです。」

「え・・・?え?」

なんで?

私の姿を見たひと、皆怯えてた筈なのに・・・!

「見えないの・・・?私、背中に・・・黒い影が・・・!」

「何を訳の分からないことを・・・?」

「恐怖で幻覚でも見たのかしら?」

「ちゃんと検査した方が・・・。」

「だが装置にも異常はないし・・・。」

「え?え?」

白衣の人達の反応が明らかにおかしい。

「どうして!?先生は『私以外にはみんな見える』って・・・。」

『いや、何を言っているのか分からないがモニター越しじゃ、見えないし・・・スタッフにもそんなものは見えないみたいだ。』

「え・・・?」

どういう・・・こと?



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第十八章 ~兎と狐~

 

~ラパン アークスシップ 研究室(七年前)~

 

研究員の人達に言われるままに廊下を歩いていた。

「・・・。」

念のため周りの反応も見ていたが、怖がっている素振りは全くない。

本当に私の背中の黒い影はみえていないみたいだ。

「さあ、ここだ。入ってくれ。」

「?」

誘導されるままに部屋に入る。

中には人が一人入れそうなカプセル状の装置が真ん中に設置してあった。

「此処に連れてきたのは『彼女』についてだ。」

「!!」

カプセルの中に入っていたのは・・・。

「ルナール!?」

ルナールは口にマスクの様な装置を嵌められており、外から見えるのはそこだけであとは機械の中に埋まっていて見えない状態だ。

「やはり君の友人か。」

「ルナール、これ、大丈夫なの!?」

「落ち着いて聞いてくれ。」

「・・・!」

研究員の人達の表情が重苦しい。

「ひどい話をするようだが、彼女はこのままだと助からない。」

「そんな・・・!」

せっかく保護されたのにそんなのあんまりだ・・・!

「・・・ッ!」

はっとする。

「キャストにするのは!?身体が弱った人でもそれで一命を取り止められるんでしょ!?」

本で見たことがある。

アークスの医療技術で、身体が弱った瀕死の他種族はキャストになることによって寿命を伸ばしたって・・・。

キャストになる前の記憶は無くなるらしいけど、それでもルナールが生きてるなら・・・!

「詳しいようだがそれはオススメできない。」

「なんで!?」

「キャストも臓器などは他の種族と変わらない人間の物だ。彼女はハンターのフォトンの才能があったようだが無理に酷使したせいで既に全ての機能がボロボロだ。とても手術に耐えられる状態じゃない。」

「そんな・・・じゃあもう助からないの・・・!?」

「方法は・・・無いことはない。」

「え・・・?」

不意に後ろの扉が開く。

別の研究員の人が何かを乗せた小さいベッドのような物を押しながら入ってきた。

「!?」

ベッドの上に乗っていたのは女の子だ。

一回り小さく、人というより童話に出てくる小人のようなサイズだ。

けどそんなことより驚いたのは、顔がルナールにそっくりなことだ。

「開発中の擬似生命体だ。これに彼女の脳情報を移植する。」

「脳情報を移植・・・!」

「彼女の意志、記憶、性格の全てをこの擬似生命体に写し変えるんだ、そうすることでこっちの彼女の本来の肉体は完全に機能が停止してしまう。だが彼女の『存在』は残すことが出来る。」

「それでルナールが助かるの!?」

「・・・。」

研究員の人達は表情を更に曇らせて目をそらす。

「・・・?」

「君に尋ねて起きたいことが二つある。」

「なに?」

「先程も言ったがこれはまだ開発中の物だ。一度もこんなことは試した事はない、理論上は上手くいくはずだが、百パーセント成功するとは言えない。それでもやるかだ・・・。」

「・・・。」

そんなの、決まってる・・・!

「でもやらなかったらどのみち、ルナールは助からないんでしょ?」

「そうだな・・・これは無意味な問答だった。それじゃあもう一つ。」

「もし成功したとして、これは擬似生命体だ。『彼女が助かった』と言えるかだ。」

「なに?よくわかんない・・・?」

「人格が同じだからと言って彼女が彼女と言えるかどうかだ、その違いは恐らく君が一番よく分かるはずだ。」

「ルナールがルナールで無くなるってこと・・・?」

「そうなるかもしれないってことさ、特に君にとってね。」

「・・・。」

どういうことか分からない・・・。

でも『どうなるか分からない』ってことは分かる。

どうしよう・・・。

 

 

『『分からない』から、悪い方に考えちゃうんだ。』

 

 

「!」

先生の言葉が不意に過った。

そうだ、後先考えても始まらない。

それに、どの道ルナールが助からないなら同じこと・・・!

「私・・・信じる、ルナールは変わらずルナールのままだって・・・!」

「じゃあ・・・いいんだね?」

「うん・・・!」

私は研究員の人の目を真っ直ぐに見た。

 

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

今日は原生民が離れた集落へ会いに行く人がいるとかで護衛をした。

護衛対象の原生民はしばらく留まるようなので俺達だけで元の集落へ戻ることにした。

その帰り道だ。

「ねぇ。」

不意にラパンが話しかける。

「なんだ?」

「あたしの発作について昨日ルナールから聞いたでしょ?」

「!」

即座にルナールを睨む。

「ご、ごめんなさい・・・!」

ルナールは泣きそうな顔でラパンの後ろに隠れる。

「お前、言うなってあれほど・・・!」

「ち、ちち、違うの!これは・・・!」

 

 

~ルナール 惑星ウォパル 海底エリア(昨晩)~

 

とにかくノワールさんと話したことは黙っていよう。

マスター、まだ寝てるかな・・・ 。

「・・・?」

寝床に戻ったけどマスターがいない。

「ルナール・・・。」

「ひッ!」

後ろから声がして振り向くとマスターが仁王立ちしていた。

「ま、まま、マスター?どうしたの?」

「・・ どこ行ってたの?」

「ちょっと・・・トイレどこかなって・・・。」

「・・・。」

マスターは黙ったまま動かない。

「ほ、本当だって!」

「まぁいいわ。」

マスターは寝袋に向かって歩いていく。

「どこでなにしようが、『あいつの所行こうがね』・・・。」

「ッ!!?」

もしかして見られた!?

だとしたらマズイ、なんとか誤魔化さないと・・・!

「な、なんでもないよ!ただ、アオのマスターだし、話とかしたかっただけで・・・ちょ、ちょっと話してる様子とか見てておかしかったかもだけどそれでも何でもない話で・・・!」

「ふーん・・・行ったんだ、あいつのとこに。それで何か私が気になるような雰囲気で話してたんだ。」

「え、え・・・?」

マスター、何言ってるの・・・?

「マ、マスター・・・?見てたんじゃ・・・?」

「あたし一度も『あんたがあいつの所に行くとこ見た』なんて言ってないわよ?」

「・・・あッ!」

しまった!!

罠だッ!!!

「ルナアアアァァァァルウウウゥゥゥゥ?」

「あわわわわ・・・!」

マスターが後ろに魔神的な何かでも居そうなオーラで私を睨んでいた。

「マスターとしての命令よ。洗いざらい全て吐きなさい。」

「で、でも・・・口止めされてることとか・・・。」

「・・・ふーん、逆らうんだ。」

「い、いや、別にそう言う意味じゃ・・・へ?」

マスターは急に私を押し倒す。

「マ、マスター!?痛ッ!」

更に左手で私の両足を押さえつけ、右膝で私の両手を押さえつけて身動きを封じる。

「覚悟しなさい?あんたの弱いとこ全部知ってるから・・・。」

マスターは自由な右手をわきわきさせる。

「ひッ!や、やめて・・・いやああああああああああああああああああ!!!」

 

 

~ノワール 惑星ウォパル 海底エリア~

 

「・・・とまぁ、カマかけたら一発だったわ。」

ラパンは途中からルナールと交代し、涼しげに説明を終える。

「ったく、このポンコツが・・・!」

「し、仕方ないんだよ!度重なる拷問(くすぐり)に耐えられなかったんだよ!!」

「こいつに秘密握らせたら百パーあたしの耳に入るってこと、覚えときなさい。」

「・・・よくわかったわ。」

「納得しないでぇ!!」

ルナールは半泣き状態で喚く。

「それと・・・あんたの『手』だけど。」

「・・・。」

ったくポンコツサポパめ、余計な事まで喋りやがって。

「お前に言う義理はない。」

「不公平でしょ?話しなさい。」

「なんでそんなこと・・・。」

「あんたがルナールと共謀して、あたしの発作に関してお節介焼くからよ。だったらあたしだってお節介焼く、それでトントンでしょ?」

「言ってる事がめちゃくちゃだぞお前・・・。」

「借りなんて作るの酌なの。それに・・・。」

ラパンは急に黙り込む。

「それに・・・なんだ?」

「あんただってそのまんまの状態でアークス続けたらきついんじゃないの?」

「俺のは条件が分かりきってる奴だ。気を付けてさえいれば・・・。」

「そうやって自己犠牲であたしを助けようとするのが迷惑なのよッ!!」

「・・・。」

ラパンは怒鳴ると、震えながら息を切らす。

「マスター・・・。」

ルナールがおずおずとラパンを見上げる。

「ごめんなさい・・・。」

「え?」

ルナールの言葉にラパンは困惑する。

俺から見てもなんで謝るのが意味がわからない。

「な、なんであんたが謝るのよ!」

「よく・・・分かんないけど、申し訳ないというか・・・。」

「・・・。」

ラパンはしゃがんでルナールの肩を掴む。

「あんたは関係ない!だから謝らなくていいの!」

「う、うん・・・でも、ごめんなさい・・・。」

「だから・・・。」

「あーもう分かった分かった、分かったっての!」

面倒くさくなって俺から割って入って会話を切る。

「・・・話せばいいんだろうが。」

 

 

面倒くさいが手の発作に関して説明をする。

「・・・ダーカー以外殺すと手が震える?」

「ああ、殺す対象にも依るがな。」

「・・・分かった。」

「は?」

「それの治し方探すの手伝ってあげる。その代わり、協力してほしい事があるの。」

「おい、何勝手に話進めて・・・!」

「私、探してる人がいるの。」

「探してる人?」

「あたしがアークスやってるのも・・・その人見つける為なの。」

「そうかよ・・・。」

勝手に話を進めるので半分流し気味にだが聞いてやる。

「『ロイド』って言う人、あたしが小さい頃、孤児院にいた時の院長だった人。」

「特徴はなんだ。」

「髪は割と大人しめで、よく神父の服を着てた。身長は・・・あたしが小さかったから具体的には分からなかったけど、高かった・・・と思う。」

「・・・。」

「知ってる?」

「・・・知らねぇな。」

「・・・そう。」

「それに、そう言うのはもうお前のサポートパートナーが頼んでるだろ?」

「え?」

ラパンはルナールを見る。

「あ、あぁ!アオに話してたねそう言えば!」

「・・・。」

ラパンの目が段々細目になっていく。

「それとは別!情報収集は協力者が多いと効率がいいの!」

「だったらどっかチームに入ればいいじゃねーか。」

「い、嫌よ!これは私の個人的な目的よ!チームなんかに入ったら色々巻き込んじゃうじゃない!」

「只でさえ一人で戦うと危ねえ身じゃねぇか。アークス続けるつもりならそれくらい身の安全を確保しとけ。」

「それって寄生してる様な物じゃない!私は人の迷惑になる事は嫌なの!」

「死ぬよりマシだろうが。」

「イ・ヤ!!」

「お前が嫌とかそんな問題じゃ・・・。」

「うるさいバカッ!!お節介!!根倉仮面の真っ黒黒介!!」

子供染みた罵倒をするとラパンはまた走り去る。

なんだよ、真っ黒黒介って・・・。

「ふふ・・・。」

「・・・?」

ルナールが此方を見てニヤニヤしているのに気づく。

「・・・なんだよ。」

「マスターってさ、案外ノワールさんの事嫌いじゃないと思ってさ!」

「・・・お前の目は節穴か?今のやり取りの何処にそんな要素がある。」

「マスターが私以外にあんなに生き生き話すとこ見たこと無いもん!第一、マスター素直じゃないからね・・・。」

『それ、何処かで聞いたことあります。確か、『ツンデレ』でしたっけ?』

「そうそれ!よく知ってるねアオ!」

通信機越しのアオにルナールは更に楽しそうに話す。

ったく、こいつはともかくとして、アオはそんな言葉何処で覚えた。

「・・・肝心な事は何一つ言わず、無駄にでかい態度でぎゃーぎゃー喚き散らすってだけだろ、話す相手は迷惑この上ないんだよ。」

「でもノワールさんもマスターのこと嫌いじゃないよね!」

「は?何を根拠に・・・。」

「だって昨日は『アークスを辞めろ』って言ってたのに、今日は『チームに入れてもらえ』って言ってたもん!マスターがアークス続けられるように考えてくれてるんだよね!」

「馬鹿言うな、死なれたら目覚めが悪いだけだ。それに昨日みたいに言えばまた反発して聞かねぇだろ。俺なりに妥協点を考えただけだ。」

「マスターが死なないように考えてくれるんだから、それだけほっとけないってことだよね!なんだかんだでノワールさんもツンデレ・・・ って痛い痛い痛い痛い痛い!!」

減らず口を叩くルナールの頭を鷲掴みにして上から潰すように押し付ける。

「やめてやめて!!縮む!!ちーぢーむーぅ!!」

「元々小っせぇだろうがッ!!ったく・・・。」

すぐにルナールから手を離す。

「ノワールさん?」

「此処にいろ、お前のマスターを連れ戻す。はぐれたら後々探すの面倒だからな。」

「ノワールさんやっさし・・・。」

「あ"?」

「ゴメンナサイ、マッテマス、イッテラッシャイマセ。」

睨み付けると片言でロボットの様に固まる。

「ふん。」

ラパンが走り去った先に歩を進める。

 

 

ーー数分後

 

「此処にいたか。」

「・・・。」

水が深い池の様な場所の前でラパンはしゃがみこんで池を眺めていた。

「さっさと戻るぞ。」

「・・・。」

俺が声をかけても返事はない。

当然と言えば当然だが、機嫌が悪いようだ。

「あー、もう。さっきのチーム云々の話は無しだ無し。」

こう言う駄々っ子はこっちが折れなきゃテコでも動かないからな。

「ねぇ、ずっと気になってたんだけど・・・。」

「あ?」

「あんた・・・なんでずっと仮面つけてるの?」

「なんだよ、今聞くことか?」

「・・・。」

「ハァ・・・面倒くせ・・・言えばいいんだろ。」

『言わなきゃ動かない』と言いたげな沈黙だ。

マジで面倒くさいなこいつ。

「・・・顔を見せられる生き方をしてないからだよ。」

「・・・なにそれ。その電子音の声、あんたキャストなんでしょ?だったら顔を変えればいいじゃない。」

「・・・事情があるんだよ。」

「事情ってなに・・・。」

「俺のこの体はキャストになる前の姿に似せてるんだ。」

「え?」

ラパンは目を丸くして振り向く。

「あんた、キャストになる前の自分のこと、分かるの!?」

「ああ。」

「だってキャストってキャストになる前の記憶が・・・!」

「俺は稀なケースなんだよ。」

「そ、そう・・・。」

ラパンは立ち上がる。

「それで?なんでわざわざそんなことしてるの?」

「この姿の時の自分が憎いからだ。」

「憎い?」

「この姿の時、俺は甘い奴だった。その甘さで大事な奴等をダーカーに殺された・・・だから、この姿でダーカーを狩るのが、ダーカーと殺しを嫌うかつての自分への復讐であって、そいつらへの罪滅ぼしなんだよ。」

「だったらなんで仮面を?」

「周りは関係ないからな。」

「関係ない?なにそれ。」

「俺がこの姿で復讐すんのは俺だけの事情だ。だからこの姿、仮面の中を知るのは俺だけでいい、そう言うことだ。」

「周りを自分の事情に付き合わせたくない・・・巻き込みたくない・・・ってこと?」

「どう捉えようがお前の勝手だ。」

「ふーん、成る程ね。」

ラパンは俺の横を通りすぎる。

「決めた。」

急にラパンは振り向く。

「あんたのその仮面、あたしの目の前で取らせてやるから!」

「は?」

何言ってんだこいつ。

「言っとくが、駄々を捏ねられようがこればかりは・・・。」

「正々堂々、正面から勝負してやるっつってんの!」

「・・・そんなことして、お前になんのメリットがある。」

「だって・・・。」

「?」

ラパンは俺の目の前まで歩み寄って仮面をデコピンする。

「その方が、面白そうじゃん!」

歯を覗かせ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「・・・!」

不覚にもその笑みが少し可愛いと思ってしまった。

いや、普段つり目気味の目だし、怒ったり仏頂面だったりで見たことの無い表情だからそう見えたはずだきっと。

錯覚だ、絶対にな。

「勝手にしろ・・・。」

ラパンの横を通りすぎるが・・・!

「!!?」

少し放れた所に見覚えのある人影が見える。

「セト・・・!」

だがいつもの飄々とした余裕面なあいつからは想像もつかない状態だった。

カタナを杖代わりにしてなんとか歩いている状態だ。

「あ・・・!」

セトは俺の姿を確認すると何を安心したのか、その場に倒れる。

「おい!」

すぐに駆け寄り、頭を抱き抱える。

「へへ・・・お前の事だから此処に来ると思ってたよ・・・!」

「んな事言ってる場合か!」

「もしかして良い雰囲気のとこ・・・お邪魔だったかな・・・!」

「おいこのゴミ此処に捨てといてもいいよな。」

「そうね。」

「ゴメンナサイ僕重症・・・!助けて下さいお願いします・・・!」

立ち上がって去ろうとするとセトは慌てて引き留める。

「ふん、案外余裕じゃねぇか・・・おい、レスタかけてやれ。」

「あたしは『おい』じゃないわよ、全くしょうがないわね。」

ラパンがレスタをかけると、セトは一息ついて起き上がる。

「いやぁ、助かった!回復薬補充せずに来たからキツかったんだ!」

傷は治りきって居ないだろうが、それでもケロッとしていつもの減らず口を叩く。

「ったく、なんでそんな事になってんだよ。」

「急ぎだから手短に説明する。」

「・・・?」

セトの表情が途端に真剣になる。

「お前の所属してるアークスシップが襲撃を受けた。」

「まさか・・・!」

「そう、【従者】だ。あともう一つ。」

「なんだ?」

「・・・。」

セトは表情を曇らせる。

「早く言え。」

 

 

「ネージュが拐われた。」

 

 

 

「!?」

「な・・・!」

セトの言葉に、俺とラパンは表情を凍らせた。



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第十九章 ~馬鹿の償い~

 

~ラパン アークスシップ 研究室(七年前)~

 

「・・・。」

「!」

疑似生命体の身体のルナールがゆっくり目を開ける。

目を覚ました!

「?」

ルナールはキョロキョロと辺りを見渡す。

「ここ、どこ?」

「・・・。」

無理もないよね。

最後に居た場所が市街地だったもんね・・・。

説明してあげたいけど今は・・・!

「ルナール・・・!」

ただ、友達の名前を呼んで抱きしめる事しか出来ない・・・!

 

 

「それ、私の名前?」

 

 

「・・・!」

今、なんて・・・!

「私の名前、ルナール?」

「ルナール・・・!?」

途端にルナールから放れて肩を掴み、顔を合わせる。

「お姉ちゃん、だあれ?」

「・・・嘘。」

話が違う、だって、『記憶』も一緒だって・・・!

「すまない・・・。」

研究員の人は後ろから声をかける。

「ッ!」

研究員の人の服を掴む。

「謝って済むわけないッ!!」

服を叩く。

「返してよッ!!ルナールを返してよッ!!」

「すまない・・・。」

「許さないッ!!ルナールを・・・ッ!?」

足が何かに掴まれたような感じがして足元を見ていると、疑似生命体が私の足にしがみついていた。

「なにを・・・?」

「泣かないで・・・。」

「何言ってるの・・・?」

「あなたが悲しんでると、私も泣いちゃうよ・・・。」

「ッ!!」

頭の中で何かが切れた。

「ッ!!」

「わわッ!」

足を無理矢理動かして疑似生命体を蹴飛ばすように振り払う。

疑似生命体は装置に体を打ち付ける。

「馴れ馴れしくしないでッ!!私の友達は『ルナール』なのッ!!あんたじゃないッ!!」

走って部屋を出ていく。

「ハァ・・・ハァ・・・!」

廊下を必死に走る。

「出ていって・・・やる・・・!こんな所出ていってやる!!」

闇雲に走るが出口が分からない。

道が複雑に入り汲んでいてどうやったら出口に着けるか分からない。

それでもがむしゃらに走った。

「ッ!」

適当に選んで開けたドアを抜けると室内から外に出た。

「ここ・・・何処だろう・・・。」

なんだかいつかパパとママと言った百貨店の外観の様な場所だ。

「!」

人の気配がしてすぐに物陰に隠れる。

「・・・。」

隠れながら様子を見ると見たことのある戦闘服を着た男の人が二人、歩いてくる。

「お前次の任務は?」

「ナベリウスの警ら、お前は?」

「リリーパで地質調査。」

「うわ、それすげー地味でめんどくせーじゃん!」

「仕方ねぇだろ?」

「・・・。」

惑星の警ら・・・調査・・・間違いない、アークスだ。

と言うことは此処はアークスロビーみたいだ。

「子供がこんなところで何してる?」

「ひゃっ!!?」

突如後ろから声を掛けられ、変な声が出る。

っていうかマズイ!

見つかった!

「ッ!」

すぐに逃げようとするが・・・。

「おっと。」

すぐに首元の襟を掴まれ、捕まってしまう。

「ッ!放してッ!!」

咄嗟に抵抗するが私の襟を掴む手はびくともしない。

「無断でアークスロビーに入った一般人を見逃す訳ないだろう?それにその格好、保護された先のメディカルセンターか研究室から逃げてきたクチじゃないか?」

「・・・!」

抵抗する最中、相手を見て固まる。

その人はキャストの女性だった。

それに機械のフレームで作り込まれた青い髪、シャープな体型の黄色のフレームのボディに見覚えがあった。

「マリア・・・さん?」

本で見たことがある。

ルナールと最初に読んだアークスの冒険譚の実話のモデルになってた人だ!

「なんだいあんた。あたしのこと知ってんのかい?」

「本で見たことあって・・・その・・・友達があなたに憧れてアークスになりたがってて・・・。」

「本って、ああ、あの本かい?」

「私も本みてると、凄い人なんだなって・・・。」

「ははっ!よしとくれよ!あれは知り合いがあたしの任務に着いてきて見たものを大袈裟に誇張して書いた物さ!そんな大したものじゃないよあたしは。」

「でも、惑星アムドゥスキアで巨大な龍族相手に一歩も退かなかったって・・・。」

「たまたま前衛張れるのがあたしだけだったって話さ。それに、あの戦いは後衛のバックアップも頑張ってくれてたからあたしもちょっと張り切ってね。それが奴らには偶々そうみえたんだろうさ。」

「じゃあ、惑星リリーパでフードを被った謎の巨大生物の群れが襲いかかってきたとき、仲間を逃がすために一人残ったのに生き残ったっていうのは・・・。」

「ああ、あれは・・・。」

それから私はマリアさんと色々話をした。

どれもこれも色々と自分は大した事をしていないと言ってたけど、あの本の内容で嘘だった事は何一つなかった。

そもそもあの本は最初、作者がマリアさんに何の断りもなく出版したらしい。

何故そんな事をしたかと言うと、マリアさんが自分の自慢をするのを好まないので断られると分かっていたからだとか。

当然マリアさんは怒ったが、作者がマリアさんの戦う姿や仲間思いな姿に感動した事を本を通して伝えたいと言う熱意に押し負けて已む無く許可したみたいだ。

その他にも色々聞いてみて、どれもこれも面白い話だった。

「いやぁ、すっかり話し込んじゃったね。」

「すっごく面白かった!マリアさんの話!」

「そうかい?」

「・・・。」

「どうした?急に暗い顔して。」

「あ!なんでもないよ!」

「何か悩みがあるんなら言ってみな。」

「えっと・・・。」

話して良いのかな。

「この話、友達にも聞かせてあげたかったなって・・・。」

ルナールならきっと、マリアさんに会えたならどれだけ喜んでくれただろう。

「そうか、あんた・・・。」

マリアさんは目を細める。

言葉には出さないが察してくれたみたいだ。

でも、初めて会った人にこんな暗い話するのは・・・。

「ごめんなさい!暗い話しちゃって・・・。」

「いや、いいよ。それより、あんたも友達と同じようにアークスを目指していたクチかい?」

「あ、えっと・・・そう・・・だったっていうか・・・。」

「『だった』?今は違うのかい?」

「うん、元々自分は将来何になりたいとかなかったけど、初めて出来た友達が誘ってくれた夢だった。けど、その子がいなくなって分かった、『あの子がいないとアークスにはなれない』って・・・だから、今はアークスになろうなんて思えない。」

本心だった。

マリアさんはもしかしたらアークスを目指すことを薦めるつもりで言ったかもしれないけど、私はアークスになる気はない。

「・・・そうかい、それを聞いて安心したよ。」

「え?」

「あんたも見ただろう。『戦場』ってやつを・・・。」

「・・・。」

マリアさんの言葉で鮮明に頭の中に甦ってくる。

ダーカーに何度も襲われた。

ルナールが目の前で動かなくなったあの光景・・・。

「そう、あれは地獄だ。息をする間にも誰かが死ぬ場所さ。アークスになれば、あんたの命は保証されない。友達が出来てもいつまでも側にいる保証はない。カタギの世界で生きる余地があるなら、そっちに行くべきだ。」

「うん・・・。」

異論はない。

これ以上あんな辛い思いをしたら私もきっといつか壊れてしまいそうだから・・・。

「さあ、あんたを保護した連中も今頃探し回ってる頃だ。ついて行ってやるから戻りな。」

「い、いやいいよ!一人で戻る!マリアさんも忙しいかもしれないし!」

「さっき逃げようとしたじゃないか。見張りが要るだろ?」

「うぅ・・・!」

ぐうの音も出ない。

「ほら。」

「!」

マリアさんは私の手を握った。

 

 

『行こう!ラパン!』

 

 

「・・・!」

そう言えばルナールにこうやって手を繋がれたっけ。

「!」

目の前に一回り小さい見覚えのある小さい人影があった。

「あ・・・!」

あの疑似生命体だ。

「!」

こっちに気づいて走ってくるのを見て反射的に足を止め、手がマリアさんから離れる。

「あの・・・。」

「・・・。」

私を心配でもして来たんだろうか。

だけどこいつは『ルナール』なんかじゃない。

きっと関係ない第三者の視点で心配してるからだろう。

「なんだいあんた。その成り、人間じゃないね?」

マリアさんは目を丸くして疑似生命体を覗き込む。

「あの、えと、白い服の人達が『ぎじせーめーたい』って言ってた!」

「疑似生命体・・・なるほど、研究員の奴等また妙な物を作ったね。」

「それでね、そこのお姉ちゃんが私の事を知ってるみたいなの!」

「やめてッ!」

「!」

私の言葉に、場が静まり返る。

「あんたは私が知ってるルナールとは別なの・・・だから・・・!」

「話は聞いたよ?」

「!」

「・・・ごめんなさい。」

「え?」

「私、あなたの事を覚えてないといけなかったんだよね。だから、ごめんなさい。」

 

 

『私ね、色々怒られて分かったんだ。周りのこと考えてなかったなって。』

 

 

「・・・!」

ルナールの言葉を思い出す。

そうだった。

ルナールは色々他人のために一生懸命になって馬鹿な事をしでかすような子だったけど自分に非があればちゃんと認めて行動する子だった。

「・・・。」

 

 

『私、信じる・・・ルナールは、変わらずルナールのままだって・・・!』

 

 

あんな偉そうな事を言って馬鹿な事をしたな私・・・。

記憶が無くても、この子は・・・。

「?」

疑似生命体は戸惑う。

私が抱き締めたから。

「謝らないでよ・・・あんた、何も悪くないんだから・・・。」

涙が止まらなかった。

「ごめんね・・・さっき蹴飛ばして、痛かったよね・・・!」

「ううん、いいよ。」

「ごめんね・・・ごめんね・・・信じてあげられなくて・・・!」

「何?よく分かんないよ!」

「ううん、いいの・・・大丈夫だから・・・!」

この子は間違いなく『ルナール』そのものだった。

「あー、その、水を指す様で悪いけどね・・・。」

「!」

マリアさんの一言に気づいて慌てて涙を拭って向き直る。

「ごめんなさい!」

お辞儀をして謝る。

「その子も戻らないといけないんだろ?」

「うん!あ、でもその前に・・・。」

「なんだい?」

「此処、アークスエリアだけど、私でも来れる?」

「ん?ああ、このショップエリアとかなら申請とか手続きを取れば一般人でも来れるよ。流石にゲートエリアは無理だけどね。」

「じゃあ、此処に来たらマリアさんに会える?」

「まぁ、『かもしれない』ってぐらいかね、あたしも色々とシップを回ってる身だから。」

「また会えたら話色々聞かせて!今度はこの子と一緒に!」

「わわ!」

ルナールは抱き抱えられて戸惑うけど、マリアさんを見て目を輝かせる。

「ああ、お安いご用だ。あんた、名前は?」

「ラパン!この子はルナール!」

 

 

~ノワール アークスシップ メディカルセンター~

 

俺達の容疑は既にセトが晴らしたおかげでアークスシップに入っても捕まる事など無く、堂々と正面ゲートからアークスシップに入れた。

だがそんな状況に喜んでいる場合ではない。

「バイタル低下!」

「そっちでどうにか持たせて!こっちも危ない!」

「傷が浅い人は手伝って!」

医療スタッフの声が飛び交う。

余りにも怪我人が多く、手に負えない状況みたいだ。

フォースの人員もレスタを使って処置をしているが、傷が深すぎる者には応急措置程度にしかならない。

「酷い・・・!」

ラパンは思わず口許を手で覆う。

「私、手伝ってくる!ルナールもスタッフの人の補助をしてあげて!」

「うん!」

ラパンはルナールと共に治療の手伝いに行った。

「笑えよ、ノワール・・・。」

「あ?」

セトは皮肉混じりに不謹慎な台詞を吐く。

「奴の目的も阻めず、隊の奴等は愚か、一般のアークスにすらこんな目に合わせ、出来る事がこうやって仲間を呼んで連れてくるだけ・・・教導部附属の隊長が聞いて呆れるだろ?」

「・・・。」

掛けてやれる言葉がない。

「昔だってそうだった。僕はお前が居なかったら何も出来ない、口先だけの男だったよ。」

「らしくねぇ台詞吐くんじゃねぇよ。」

「ノワール・・・?」

「俺が居なくなってからエリート部隊の隊長になった奴は何処のどいつだ?こんな情けない台詞吐く奴が隊長だったら隊の奴等は命がいくつあっても足りねぇよ。」

「・・・。」

返す言葉も無いみたいだ。

付き合いが長かったから知っている。

なんだかんだでこいつは人に弱みを見せないやつだ。

多少辛い目に合っても飄々とふざけて誤魔化し、さも何でもない顔をしている。

こんな愚痴を言うときはかなり精神的に堪え、やりきれない時だ。

だがやりきれないのは俺だってそうだ。

こいつが戦っている時、俺もその場にいれば可能性が百パーセントで無くてもあるいは阻止出来たかもしれない。

しかし、一つ引っ掛かる事があった。

「なぁ。」

「なんだ?」

「俺があの時、人型ダーカーと戦ったのは、偶然なのか?」

「あの時か・・・。」

どうにも腑に落ちない。

人型ダーカーが爆散して中身の死体が出たとき、偶然にも人が現れ、俺は恰も人殺しのように仕立てあげられた。

思えば手下のダーカーを使って俺を誘き寄せた事もなにかしら意図があるように思える。

まるで俺を標的にこんな状況を作った気がしてならなかった。

「いや、今の話忘れてくれ。俺の考え過ぎかもしれん。」

考えてても仕方無い。

今は・・・。

「放せ!私はもう動ける!」

「駄目です!今立ってるのもやっとの状態でしょう!」

「!」

聞き覚えのある声が聞こえてそっちを見るとやはりだ。

身体中に包帯を巻かれた状態のエスカがスタッフに組み付かれながらもがいていた。

「!!」

エスカは此方に気づく。

「ノワール・・・!」

「・・・。」

目をカッと開いて固まるがすぐに事は起こった。

「うあああああああああああああああッ!!!」

「きゃぁッ!!」

医療スタッフを吹き飛ばすように払い除けると、俺に向かって走ってくる。

「ノワールッ!!お前ぇぇッ!!」

「ッ!!」

俺の胸ぐらを掴むと、そのまま押し倒してきた。

だが俺は抵抗しなかった。

「お前はダーカーを狩るのが仕事だろうッ!!なんでだッ!!なんでこんな被害が出ているのにお前は何もしなかったッ!!ネージュが連れ去られたのになんでお前はあの場に居なかったッ!!」

普段のこいつの顔から想像も着かないほど怒りに満ちた顔だった。

「・・・。」

俺は何も言わない。

いや、何も言えない。

「落ち着けエスカ!」

「放せッ!!」

セトは俺からエスカを引き剥がす。

「こいつは敵にありもしない罪を着せられて逃げてたんだ!だから・・・。」

「やめろッ!!」

「ッ!」

セトに制止を掛けて立ち上がる。

「そうだ、俺は逃げた。だから此処に居る奴等がこんなになっても身体に傷一つついて居ない。此処で怪我した奴等!!俺が卑怯者だと思う奴は存分に非難しろ!!」

「・・・!」

セトを始めとしてその場にいた奴等は全員固まる。

「なんだよ・・・謝りもしないのかよ・・・!」

怪我人の一人が俺に言葉を投げ掛ける。

「ふざけるなッ!!」

別の怪我人が俺に罵声を浴びせる。

 

「そうだ、謝れッ!」    「卑怯者ッ!!」

   「クズ野郎ッ!!」 「悪魔ッ!!」

  「恥知らずッ!!」

 

一人が火蓋を切れば他の奴等は一斉に俺に罵声を浴びせてきた。

「・・・。」

俺はその罵声を背にその場を後にする。

 

 

~アークスロビー ゲートエリア~

 

「・・・。」

窓際の外が良く見える位置から俺は外を眺めていた。

「ゼェ・・・ハァ・・・!」

「・・・。」

駆け込む足音が近くで止まり、息を切らす声が後ろから聞こえるが俺は敢えて振り向かない。

「・・・何しに来た。」

「お前・・・あれでいいのかよッ!」

セトは俺に向かって非難を投げ掛ける。

「・・・いいのかも何も、この状態が俺の在るべき姿だ。」

「そうやってカッコつけて、周りの人間突き放して、一匹狼気取って楽しいのかよッ!!」

「・・・。」

「答えろッ!!」

「・・・一つ聞いていいか?」

「なんだよ・・・!」

「あのアホの追跡の目処は立ってるのか?」

「ッ!!今はそんな話をしてるんじゃないッ!」

一瞬言葉が詰まった。

「・・・立ってるんだな?」

「だったらなんだよ・・・ッ!?まさかお前・・・!」

「ああ、奴等の拠点に殴り込む。」

「馬鹿かお前ッ!!あんな被害を出した奴だぞ!?一人でどうにかなるわけ・・・!」

「無謀は百も承知だ、だがこうしている間にもあのアホが生きている保証はない。動ける奴が向かうべきだ。」

「なんでそうまでして無茶するんだ!!まさかお前、さっきの件で・・・!」

「分かってるさ、こんな事した所で俺のやったことは変わらないって・・・だが落とし前は着けるのが筋だろ?」

「・・・。」

セトはしばらく俺を見て黙り込むと、目を閉じて俯き、歯痒そうに拳を握り締める。

「・・・分かったよ、拠点の座標・・・教えてやる。」

「やけに素直だな。」

「僕が言わなかったら・・・司令部や情報部を脅して無理矢理情報を引き出すつもりだろ・・・!」

「さすがだな。よく分かってるじゃねぇか。」

「だが条件がある。」

「なんだ?」

「僕も連れていけ・・・!」

「お前は関係ないだろ、それに怪我人だ、連れて行ける訳が・・・。」

「僕だって落とし前を着ける義務があるッ!!あれだけの被害を出しておきながらのんびり治療なんか受けられる訳がないッ!!」

「・・・。」

曇りもなく真っ直ぐに見るこの向こう見ずな馬鹿面・・・組んだばかりの頃の顔にそっくりだな。

「・・・お前、俺の『馬鹿』が伝染ったんじゃねえのか?」

「ははっ、そうかもね。」  

「ハッ・・・勝手にしろ。」

「言われなくても。」

早速その場を後にしようとした時だ。

「!」

目の前にラパンがいた。

「お前・・・!」

嫌な予感しかしない。

「話は聞いたよ。あたしも行く。」

「却下だ。」

即答だ。

「なんでよッ!成り行きとはいえ、あんたと立場一緒よ!?」

「馬鹿が、これは殆んど死にに行く様な戦いだ。只でさえ二人で定員オーバーなのに、これ以上増やせるか・・・。」

「あんた達の方が馬鹿じゃないッ!!」

「ノワール・・・駄目だろ?女の子に冷たくしちゃ。」

「なんだよ、お前はこのじゃじゃ馬の肩持つのか?」

「・・・!」

俺の反論にラパンは僅かばかり目を輝かせるが・・・。

「まさか、『もっとちゃんとした断り方があるだろ?』って話さ。」

「ッ!」

ラパンはずっこけそうになる。

「なんでよッ!上げておいて・・・!」

「まぁまぁ。それに、この根倉バカみたいに頭ごなしに何もするなって言う訳じゃない。」

「おい俺の呼び方。」

俺のツッコミを無視してセトはラパンの肩に手をおく。

「君はフォース、じゃあレスタが使えるだろ?此処ですぐに治療出来る奴をちゃっちゃと治療してくれれば、すぐに援軍を送れる。わざわざ君まで危険を冒す必要はないし、それも立派な償いだよ?」

「・・・それまであんた達が持ちこたえる保証なんてないじゃない。」

「『持ち堪える』?馬鹿いうな、援軍が来るまでにダーカー根こそぎ駆逐してやるよ。」

「・・・とまぁ、こんな出来もしなさそうな事を口走る大口馬鹿をいざとなったら歯止めをかける役も必要さ、だから僕も行くんだよ。僕以外適任も居なさそうだし・・・。」

「悪かったな大口馬鹿で。」

「じゃ、頼んだよ♪」

セトはラパンの肩を片手でポンと叩いて横を通りすぎていく。

「・・・。」

俺はラパンの前で立ち止まる。

「な、なによ・・・。」

「・・・。」

頭にそっと手を乗せて横を通りすぎる。

「なんであんたは頭なのよッ!」

「うるせぇ。」

そのままセトに続いていく。

「ホント知らないわよ!?馬鹿ァッ!!死んでも泣いてなんかやんないだからね!?」

ラパンは罵声を浴びせるが、俺達は聞く耳を持たなかった。



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アルクトゥス突入編
第二十話 ~再開と喪失~


 

~ネージュ アルクトゥス ???~

 

「ぬぅ!!んぎぎ!!」

手足を赤黒い鎖のような拘束具で固定され、動けない。

さっきから力を込めても全然外れる気配はない。

「無駄ですよ、ネージュ様。先程から分かっているでしょう。」

【従者】は目の前で呆れ気味にわしを見ていた。

「ネージュ様の神託のフォトンの発動条件は『命の危機に陥ること』、だからこそこうして気を失わせる事なく拘束して連れて来たのです。」

「わしをどうする気じゃ!!」

「ふむ、良い質問かもしれませんな。」

考えるように【従者】は顎に手を当てる。

「最初はただ、貴方様の神託のフォトンを警戒し、抹殺を考えていたのですが、如何せん事情が変わりましてな・・・。」

「事情?くっ、貴様の事情なんか知ったことか!!この拘束を解けッ!」

「まぁまぁ、落ち着いて下さい。貴方様に是非とも会って頂きたい方がおられるのですから・・・。」

「へ・・・?」

会って貰いたい奴?

「き、貴様の知り合いなぞ知ったことか!!」

「おやおや、そのような事を仰られておりますが、果たしてお会いして同じことが言えるのでしょうか?」

「なんじゃと?・・・!」

何やら奥の方でカツンカツンと足音が聞こえてくる。

「ッ!?」

足音が近づいてきて音の主が見えた瞬間、わしは目を疑った。

「母・・・様・・・?」

わしと同じ青い瞳、銀色の長く美しい髪。

その顔を忘れたことなど一度もなかった。

ヘイル・・・母様じゃ!!

「母様ッ!」

「ネージュ・・・。」

母様は顔を涙ぐませながら歩み寄る。

「母様・・・母様・・・!」

「ネージュ・・・会いたかった・・・!」

母様はわしを抱きしめ・・・

 

 

「なぁんて言うと思ったか?」

 

 

る寸前に止まり、嘲笑うかのようにわしを見た。

「ッ!!」

即座に母様から放れようともがいたが、拘束具のせいで思ったように離れられない。

「母様・・・じゃない・・・?」

「へっ!」

わしの言葉に何を呆れたのか、立ち上がり様に頭を掻きながら母様はわしを見下すように見る。

「ったくよぉ、鈍いんだよ!察しろよな!俺様はてめぇの言う『母様』じゃないの!分かる?どぅーゆーあんだすたん?」

こんな下卑た言葉・・・母様が使うはずがない!

母様はもっと気高く気品のあるしゃべり方だったはずじゃ。

「母様じゃないなら・・・貴様、誰じゃ!!何故母様の姿をしておるのじゃ!!」

「だーから!その質問事態ちゃんちゃらおかしいんだよ!まだわかんねぇの?【従者】と一緒にいる時点で気づけや!」

「え・・・!」

 

 

『ダークファルスは本来実体がないの。だから生きている者の身体を乗っ取ってこの世に顕現するのよ。』

 

 

いつかの少女が言っていた言葉を思い出す。

「まさか・・・!」

【従者】はじいやの身体を乗っ取っている。

じゃあ母様は・・・。

「ダーク・・・ファルス・・・!」

「やっと分かったかこの間抜けぇ!」

その言葉と同時に母様の目は赤く染まり、髪は紫色に変わる。

「嘘じゃ・・・嘘じゃ・・・。」

「ざーんねん!嘘でも夢でもありませえぇん!!」

「は・・・はは・・・・あはははは・・・!」

嘘じゃ、そうじゃ夢を見とるんじゃ!

「ん・・・?おい、大丈夫かー?もしもーし!」

「はははははは・・・!」

「・・・!この感じ・・・!」

「お下がり下さいッ!!」

 

 

 

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 

 

~ラパン アークスシップ 難民保護区域(七年前)~

 

「嘘・・・!」

カウンターの受付に確認を取って絶句する。

アークスシップがダーカーの襲撃を受けた際、保護された民間人は端末に自動登録され、受付で安否が確認できる。

でも孤児院の子達や先生は・・・。

「ごめんなさい、何度も確認を取ってるけど、あなたの言った名前の子や院長先生の名前は見当たらない。」

「ほ、他のシップは・・・?

「もし保護されたなら他所のシップに行っても端末から確認出来るわ。でも駄目、どのシップにも保護されてないみたい。」

「そん・・・な・・・!」

あのシップはダーカーの勢いが強すぎて放棄されたらしい。

つまり保護されてないというのは、既に死んでいるか、生きていても未だにあの地獄に取り残されている事になる。

「みんな・・・!」

私・・・ひとりぼっちなの・・・?

その場に崩れて呆然とすることしかできない。

「お姉ちゃん・・・。」

ルナールは心配そうに私の元に歩み寄る。

「ルナール・・・。」

すぐに私は涙を拭う。

「大丈夫・・・大丈夫だよ?」

「・・・。」

「・・・!」

ルナールはその小さな手で私を抱きしめる様に引っ付いてきた。

「ルナール・・・?」

「無理しなくていいんだよ・・・?」

「・・・!」

ルナール・・・やめてよ・・・。

あんたの前では弱い顔しちゃ駄目だって自分に言い聞かせてたのに・・・!

今甘えちゃ駄目なのに・・・!

「うぅ、ぅぐ、うぁぁあ・・・!」

泣いちゃ駄目なのに・・・!

「あああ、うぁぁ・・・!」

私はルナールを抱きしめて泣いた。

「あの・・・。」

「・・・!」

突如後ろから声を掛けられ、慌てて涙を拭って振り向く。

そこにいたのは銀色の髪を後ろで二つにまとめた小柄な女の子だ。

私を見るその表情は何処かしら元気がなく、まるで魂の抜けた脱け殻のようにも思えてくる。

「なに・・・?」

「この写真に写ってるの・・・あなた・・・ですか・・・?」

「・・・!」

女の子が渡してきたのは首に掛けるタイプのロケットだ。

その写真には私と先生が写っていた。

これはいつか先生が手作りでアクセサリーを作ってたとき、私が先生にお願いして一緒の写真を撮ってお揃いで作って貰った物だ。

私は自分の分はちゃんと持ってる。

だとしたらこれは・・・!

「これ・・・どこで・・・!」

「えと・・・メディカル・・・センター・・・。」

「メディカルセンター・・・!」

先生・・・保護されてたんだ・・・!

そうじゃなきゃメディカルセンターにこれが落ちてるはずがない!

「ありがとう!」

「は、はい・・・。」

「・・・?」

女の子は私の手を握る。

「会えると・・・いい・・・です・・・ね。」

何処かぎこちない言葉で話しかけてくる。

「うん、ありがとう!」

すぐに急いでメディカルセンターに向かう。

 

 

―――一時間後。

 

「・・・。」

私は避難区域に戻っていた。

メディカルセンターに行って探した。

でも見つかることはなく、結局このロケットを見せてスタッフの人に確認を取っても『火事場泥棒をした者が此処に運ばれた際に落としたのではないか』という結論に至った。

「・・・。」

どうしようもなく頭の中が空っぽになった。

「お姉ちゃん・・・。」

ルナールがまた私を心配そうに見る。

「・・・。」

私は黙ってルナールを抱きしめた。

 

 

~ノワール アルクトゥス ゲートエリア~

 

ネージュが捕まってすぐ追跡がかけられたのは既に下準備をしていたからだったようだ。

【従者】が最初に現れた次の日、カスラはもしもの事態を想定してエリックをネージュに接触させ、発信器付きのピアスを付けさせていた。

尚、本人にはスレイヴデューマンの件のお礼などと適当な理由をつけていたが、あのアホは何の疑いもなく受け取ったらしい。

アルクトゥスにはキャンプシップを入れず、艦の外から自分達を転送させて潜入した。

キャンプシップは撃墜されないよう、あらかじめ搭載されていたステルス迷彩機能で視認されずレーダーにも引っ掛からないようにしておいたので帰り道に困ることはない。

余談だが、サポートパートナーも一緒につけている。

アオもそうだが、セトのサポートパートナーも法撃を使う遠距離タイプなので隠れながらついてきている。

「・・・。」

「・・・。」

俺達は武器を構え、警戒しながらゲートエリアを進むが・・・。

「なあ。」

「ああ、おかしい。」

俺達は既に違和感を感じていた。

此処は敵の本拠地だ。

だがゲートエリアにはダーカーの姿がない。

俺とあのアホが居たときにはかなりうじゃうじゃ沸いていたはずだ。

 

 

―――数分後。

ロビーは隈無く調べた。

ショップエリア、研究施設、司令室、調べられる所は全て調べた。

だがダーカーの姿は雑魚の一匹すら見当たらない。

「・・・次は市街地だな。」

「ああ。」

ゲートをくぐり、市街地に出る。

「・・・此処もか。」

「くそっ、なんなんだよ・・・!」

やはりダーカーは居ない。

「おかしい、座標も間違っていないはずなのに・・・。」

「こんな侵食されたアークスシップがそう何槽もあって堪るか。」

そうだ。

このアークスシップがダミーだったとは考えにくい。

だがこの静かさは何なんだ。

何もないのが反って不気味すぎる。

 

 

『汝が眼、未だ我が眼なり』

 

 

「・・・!」

頭に直接語りかけたかのような言葉が聞こえる。

「どうした?ノワール?」

「え?」

まさか・・・!

「お前、今聞こえてなかったのか!?」

「え、何が?」

「声だよ。」

「声?」

「・・・。」

セトは真顔だ。

恐らく俺をおちょくるためにわざとふざけている訳では無さそうだ。

 

 

『汝が眼、我が身へ運ぶ道標。』

 

 

「ッ!」

急に眩しくなって目を腕で覆う。

「何してんだお前?」

セトには分からないようだ。

「・・・!」

目を再び開けた瞬間、全てが分かった。

「あいつか・・・!」

俺の目の前にあったのは、いつぞやで見た道案内をするような光のラインだ。

ネージュは恐らく何らかの拍子に神託のフォトンが発動し、俺に道案内になるようにサポートしたのだ。

「いくぞ、こっちだ!」

「はぁ!?どういうことだよ、説明しろよ!」

状況が分かっていないセトを無視して走る。

しばらく走ると・・・。

「おい、ノワー・・・!」

セトは目の前の状況に足を止め、言葉を詰まらせる。

行き着いた先は豪邸のような場所、そして・・・。

「ダーカー・・・!」

そう、ダーカーだ。

しかも数が尋常ではない。

「なんでこんな一点に集まってるんだ・・・?」

「決まってんだろ、通さない為だよ。」

「・・・!ノワール、あそこ!」

「ッ!」

ダーカーの群れの中に人影があった!

しかも倒れている!

「チッ・・・さっさと片付けるぞ!!」

「オッケー!!」

俺達は飛び出した。

「そーらよっと!」

セトが敵の懐に飛び込み、カタナを一閃すると、半径数メートルの敵が一気に切り裂かれる。

対集団用のカタナのフォトンアーツ、『カンランキキョウ』だ。

小型のダーカーは絶命したが、それでも中型は耐えきれるようだ。

しかしそれも想定の範囲内、俺が残りをエルダーリベリオンで一掃する。

セトの周りに生きたダーカーは一匹足りたともいない。

「はぁッ!」

セトが叫ぶと、俺にも分かるほどプレッシャーが周囲に伝わる。

クラスカウンターで申請出来るスキル、『ウォークライ』、周囲の敵に自分へ注意を引く事が出来る技だ。

「よし・・・!」

セトは此方に引き返してくる。

勿論注意を引き付けられたダーカー達はセトを追ってくる。

狙い通りだ。

これで完全に倒れている奴からは注意が逸れた。

「さあて、こっからが本番ですよノワールさん?」

「分かってたけどこれだけの数相手にすんのかよ・・・。」

ダーカー達は俺達を取り囲み、俺とセトは背中合わせに構える。

「ま、もう終わってるけど・・・。」

既に下準備は終わっていた。

俺とセトの頭上にはトランプのカードが浮いていた。

フォースの武器『タリス』だ。

タリスはバチバチと雷を帯電させている。

「ラビ、ゴーッ!!」

『イエッサーッ!!』

通信機から声が聞こえると同時に俺とセトはそれぞれ正反対の方向へ走って包囲を抜ける。

ダーカー達はそれぞれ俺達を攻撃しようとするが、急にタリスが光り出し、ダーカー達を一気にかき集める。

雷属性テクニック『ゾンディール』、敵を磁力で一点にかき集めるテクニックだ。

このテクニックは普通に使うと自身に敵を集めてしまう為、耐久力のないフォースには本来危険なテクニックであるが、タリスは座標を投げたタリスに移せるので比較的安全に使える。

「さあて・・・。」

セトはカタナを転位させて代わりに弓を転位させて構えると、ダーカーに向かって矢を何発も連射する。

弓のフォトンアーツ『ミリオンストーム』だ。

「アオ。」

『了解。』

俺も逆方向からエルダーリベリオンを放ち、アオも物陰からサテライトカノンを敵の頭上に御見舞いする。

前後と頭上に攻撃を喰らったダーカーの群れは動かなくなり、死体となって霧になって消えた。

「片付いたか。」

「ノワール、こっちだ。」

「ああ。」

倒れている奴の元に駆け寄る。

そいつのは青い髪の女だった。

黄色と黒のカラーリングの機動性を重視したような戦闘服は明らかにアークスの物だ。

「・・・息はあるね。」

セトが抱き起こして確認する。

「う・・・!」

女は目を開ける。

「セト・・・貴方が何故此処に・・・!」

「それはお互い様だと思うんだけど・・・。」

「なんだ、知り合いか?」

「ああ、クー・・・。」

「ッ!!」

「むぐッ!?」

女は手を突き出して突然セトの口を塞ぐ。

「今の私は機密事項です。名前を呼ぶのもタブーです。」

「むぐん(ゴメン)・・・!」

「・・・。」

安全を確認したのか、女はセトの口を放す。

「それで、なんで此処に・・・。」

「それは・・・ゲホッゴホッ・・・!」

女は急に血を吐いて咳き込む。

「うわ、無理するなって!」

無理もない。

見たところ、身体中に銃弾を撃ち込まれたような痕があった。

「【従者】だな・・・?」

「聞くのは後だ!回復アイテムを・・・!」

「よせ、勿体ない。」

「はあ!?何言ってんだよ!重症だぞ!?」

「分かってるよ。」

そう言うと俺は親指で背後を指す。

「すぐそこで隠れてる鼠に治療させる。」

「は?」

「おい、出てこい!隠れてるの分かってんだよ!」

俺が指差した方へ叫ぶと、そいつは物陰から姿を表す。

「・・・。」

顔を真っ赤にして忌々しそうに此方を睨んでいる。

「ラパン!?」

「やっぱり来やがったな、このじゃじゃ馬・・・!」

「・・・。」

「シップにいろって言ったじゃないか!」

「し、仕方無いじゃない!あんたがあんな事言って・・・あたしが彼処に居られる訳ないでしょ!?」

「あ、あ~・・・。」

セトは俺を見る。

ラパンが言ってるのは恐らく俺が怪我人のアークス達から非難を浴びまくったあの台詞だ。

同じ立場のラパンが居づらいのは確かにそうだが、だからって・・・。

「ノワール・・・。」

セトの俺を見る眼が段々『やっちまったな』と言いたげな哀れみの視線になる。

「うるせぇ!怪我人が居るんだよ!さっさと治療しろ!」

「はぁ・・・分かったわよ。」

ラパンは溜め息混じりに此方に来て女にレスタをかける。

傷が治り、女の息は落ち着いてきた。

「立てるか?」

「ええ。」

女はすぐにセトの補助を外れて上体を起こす。

「それで、なんで此処に?」

「彼女の追跡・・・兼尾行です。」

「『尾行』・・・?」

「セト、貴方は会議で話を聞いていた筈ですが?」

「あ!もしかして・・・!」

「ええ、彼女を監視していたのが私です。」

「なんなんだ?」

「オーケー、説明する。」

俺が質問を投げると、セトは説明を始める。

どうやらこの女はカスラの命令でネージュを監視していたらしい。

そしてネージュが拐われた際、密かに尾行し、敵の拠点に関する情報を得た後に隙有らばネージュを奪還する為に動いていたらしい。

だが途中で【従者】に気づかれ、返り討ちに合ったようだ。

「一人で無茶だろそれは・・・。」

「ノワール、ブーメランって知ってる?」

「うるせぇ。」

「とにかく、傷が癒えた以上、任務を再開します。貴方達の目的は分かりませんが、帰還してください。此処は危険です。」

「女の子一人置いて帰る訳にはいかんでしょ?それに僕らも目的一緒だし。」

「え?」

「それに・・・。」

セトはまた俺を見る。

「・・・なんだよ。」

「情報部ならこいつの事知ってるでしょ?帰還命令無視の常習犯だよこいつは。『帰れ』って言われて帰る奴じゃないの。」

「はぁ・・・。」

女は呆れ気味に溜め息をつく。

「貴方は相当苦労してたみたいですね。」

「そりゃもう目一杯!!」

「威張んな!馬鹿話してねぇでさっさと行くぞ。どうせこの先だろ?」

「ええ。」

俺だけが見えている光の道は、屋敷の中へと続いていた。



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第二十一章 ~過去と邂逅~

 

~ノワール アルクトゥス 屋敷~

 

屋敷の中に入って、俺達が今居るのは書斎のような場所だが・・・。

「・・・。」

何も変わったものはない。

見た感じ、何処かの金持ちが住んでいるような屋敷だ。

ダーカーの浸食さえ無ければもっと綺麗な場所だっただろう。

脱線したようだが困った事がある。

俺が見えていたあの光の道が途切れている事だ。

「・・・。」

嫌な予感がする。

あいつに何かあったんじゃないかと、いや、それしか考えられない。

「くそっ・・・何処に行けばいいんだよ。」

 

 

『汝が心、我が心、過ぎ去りし我が元への道標』

 

 

「・・・!」

声が聞こえた!

いや、ちょっと待て・・・!

「うっ・・・!」

「ノワール?」

なんだ?

意識が・・・!

ね、眠い・・・!

「ノワールッ!!」

セトの言葉を最後に、俺の意識は途切れ・・・。

 

 

・・・

・・・・・・

「・・・!」

気がつくと俺は・・・。

「なんだ・・・ここは・・・!」

さっきの屋敷・・・のようだが違う。

ダーカーの浸食が晴れている・・・?

しかも周囲は薄暗いはずなのに妙に明るい。

なんでだ?

まるでシップ全体が昼間のように明るくなったみたいだ。

「・・・!」

セト達がいない?

「客人かな?」

「!」

声がする方を見るとそこには本を眺めている女がいた。

ネージュと同じ銀髪で青い眼、だがあいつのようにツインテールのように纏めてはおらず、一子乱れず流れるようなストレートのロングヘアから大人びた印象だ。

俺が気づいたことを確認すると本を置いて立ち上がる。

「私はヘイル、そなたの名を聞かせてくれ。」

「・・・ノワール。」

「なるほど、そなたが・・・。」

「母様ッ!!」

「?」

ドアが急に開き、子供が入ってくる。

同じように銀髪と青い眼の少女でこっちは見覚えのあるツインテールだ。

「母様!じいやが呼んどるぞ!」

「こら、ネージュ!また言葉遣いがおかしいぞ!」

「ネージュ!!?」

どういう事だ!?

「うぐっ、だ、大丈夫なのじゃ!他所に行くときはちゃんとするからの!」

「駄目だ!お前はそう言って他所ではほとんど喋らないではないか!宮司一族たる者、威厳が無くてはならんのだ!この場でもしっかり練習せねば、他所でもボロが出るぞ!」

「うぐぅ・・・!」

「それで?じいやが私に何の用だ?」

「ケーキ作ったから呼んで来いって言われたのに・・・こうなったら母様の分も食っちゃる!」

「は?おい!!」

ネージュ(?)はヘイルの言葉を無視して走り去る。

ヘイルは呆れ気味に溜め息をついた。

「さて、本題に移ろうか・・・まぁ、色々と説明の手間が省けたがな?」

「・・・。」

俺がこんなリアクションを取ることも分かっているような態度だ。

なんなんだこの女・・・!

「ネージュを知っていたな。」

「いや、俺の知ってるあいつとは違う・・・他人のそら似だろ。」

「いや、あれは間違いなくそなたが知っているネージュだ。」

「・・・!」

なんでそんな自信満々に言えるんだよこの女は・・・!

「それと、もう一つ、違和感はなかったか?」

「違和感・・・?」

「ヒントは先程のネージュだ。」

あいつが・・・?

「・・・・・・あった!」

そうだ。

目の前に見知らぬ人物。

その俺があいつの名前を口から漏らしたのに何のリアクションも無かった。

「俺に気づいてない・・・!」

「そう、そなたは本来この場に居ないはずの存在なのだ。だからこの世界の者はそなたを見ることも聴くことも出来ない。」

「だったらなんであんたに俺が見える・・・!」

「ふふ、そなたなら薄々気づいているのではないか?」

「・・・。」

そもそも俺がこうなったのは神託のフォトンの訳の分からない力のせいだ。

だったら・・・。

「神託のフォトンか・・・。」

「御名答だ。」

「俺は神託のフォトンの力で過去に飛ばされた・・・それで神託のフォトンの力を持つ奴以外には見えない。そう言うことだな?」

「ああ、察しが良くて助かる。」

ヘイルは満足気だ。

だが・・・。

 

 

「だったら今すぐあんたの力で俺を元の時代に戻してくれ。」

 

 

「・・・!」

俺の言葉にヘイルは目を丸くする。

「俺はすぐにでもやらなきゃいけない事があるんだ。」

「・・・それはネージュのことか?」

ヘイルの顔が途端に厳しくなる。

「ああ・・・。」

俺が言葉を返すと、ヘイルはまた元の落ち着いた笑みに戻る。

「であれば、神託のフォトンの導きに従うしかあるまい。」

「導き?」

「神託のフォトンは意味のない事はしない。そなたがこの時間軸に飛ばされたのにも必ず意味があるのだ。此処で成すべき事をすれば、おのずと元の時代に戻れるだろうさ。」

「成すべき事って・・・そんな悠長な事してる余裕なんかないんだ!」

「そうは言われてもなぁ・・・それにしても・・・。」

「・・・?」

「ケーキの事が気になってきた・・・ネージュの奴、食べると言ったらホントに食べかねんからな・・・。」

「は?」

こんなときにケーキ!?

何考えてんだこの女!

「じゃあ、すぐ戻るからな!」

「おい!」

俺の制止も無視してヘイルは足早に去って行った。

「ったく・・・。」

こんなことしている場合じゃないのに・・・!

 

 

~ラパン 民間居住区 孤児院~

 

あれから私はすぐ別の孤児院に引き取られた。

「ナベリウスって色んなお魚いるんだね!」

「うん・・・。」

ルナールと一緒にベンチで図鑑を読んでいた。

「おいまたこいつ変な小人と本読んでるぜ?」

「・・・。」

声がする方を見ると数人の男の子が私を馬鹿にするかのように見ていた。

「読書が趣味ですーみたいなアピール?」

「暗すぎるの誤魔化したいだけじゃね?こいつその変な小人としか喋らないし!」

「一人で人形遊びしか出来ないなんて気持ちわりー!ぎゃははは!」

馬鹿にするように笑い出す。

「・・・。」

黙って立ち上がる。

そして男の子達の方へ向く。

「お?なに怒った?」

「アークスで初めてダークファルスに打ち勝った『三英雄』、そのうちの一人で今も初代のまま生き残っているのは?」

「・・・は?」

「答えは『レギアス』、『カスラ』は二代目、『クラリスクレイス』は二代目だったけど消滅し現在は空席。」

「なんだよ。」

「オラクル船団の祖先に当たるアークスにフォトンの力を与えた先住民は?」

「何が言いたいんだよ!」

「答えは『フォトナー』、アークスにフォトンを与えた理由は自分達がフォトンを扱えなくなったから。」

「そんなこと知ってるからなんだよ!」

「あんた達が馬鹿にしてた『本』から貰った知識だよ。これでもほんの一ページ程度の内容だけどね。」

「それがどうしたよ!」

「あんたたちみたいな馬鹿と遊んでるより、ルナールと一緒に本読んでる方がよっぽど有意義だって言ってんの。」

「おいこいつ、嘗めてるぜ俺達を!」

「いっぺん泣かした方が・・・。」

「『フォイエ』。」

私が手をかざして言葉を口にした瞬間、小さな爆発音と共に炎が上空に飛んでいった。

「うわっ!?」

「『これ』も本で覚えたこと・・・でもこれ、本気じゃないよ?」

「は!?」

私は男の子達に掌を向けてテクニックを練り始める。

掌の前で炎が渦巻き始める。

「次は本気で撃つけど・・・。」

「ひっ!?」

「『泣かす』程度じゃすまないかもね?」

「「「うわあああっ!!」」」

男の子達は逃げていった。

「お姉ちゃん・・・!」

ルナールが心配そうに歩み寄る。

「大丈夫だよ、ルナール。」

ルナールを抱き締める。

「ルナールは何も心配しなくていい。」

そう、これはルナールが私にしたこと。

一人で苦しんでまでルナールは私を友達だと言って見捨てなかった。

私が出来る事なんてたかが知れてるけど、それでも今のルナールを守れるなら、私はなんだってする。

「そうだ、外に出よ?」

「え、でも・・・。」

「大丈夫!周りがどう見てても私は気にしないから、ルナールも気にしないで!」

「う、うん・・・。」

ルナールと手を繋ぎながら一緒に市街地に出る。

 

 

~市街地~

 

「ほわぁ~・・・。」

ルナールは町行く人を見ながら色々と目移りしていた。

「・・・?」

前から走っている男の子がいた。

髪は金色だが、耳が尖っているあたり、ニューマンみたいだ。

何かに急いでいる様には見えない。

ただ軽く、ペースが落ちないように、ジョギングのような足取りだ。

男の子は私の脇を通り抜けていく。

「・・・?」

何かスポーツでもやってるのかな・・・。

「ねね、お姉ちゃん!見て見て!」

「ん、なに?」

ルナールに手を引かれて見てみると、ルナールは服を着たマネキンを指していた。

「可愛くない!?この服!!」

「あ、うん・・・えっと・・・。」

咄嗟に返事をしたけど、その服を見てみる。

薄い布地だが、袖の口が大きい服だ。

「浴衣・・・。」

本でも見たことがない。

暑い時とか着てて涼しそうな雰囲気あるけど、部屋着にしては柄がちょっと派手な気もする。

足周りの裾は長いのと短いのがあるが、ルナールが指しているのは短い方だ。

「うん、でも実際着ると足見えすぎて恥ずかしいかも・・・。」

「え、なんで?動きやすそうだよ?」

「い、いやルナール・・・まぁ、いいけど・・・。」

「着てみたいなぁ・・・!」

「・・・!」

「お姉ちゃん?」

「な、なんでもない!」

改めて現実を知る。

ルナールは普通の人間では無いことを・・・。

ルナールは身体が極端に小さい。

わざわざそんなサイズの服を売っている店なんて無いのは当たり前だ。

「・・・いや、大丈夫。」

「へ?」

「ルナール!私、お金いーっぱい稼げる仕事ついて、ルナールの服作って貰えるお店に頼んでルナールの服作って貰う!」

「おお、『おーだーめいど』って奴だね!」

「うん!」

「ありがと!お姉ちゃん!」

「もっとお店みて回ろっか!」

「うん!」

それから色んな所を見て回った。

何一つ買える物なんてないけど、それでもルナールと一緒に見て回るのは楽しかった。

そして夕方になり、帰る途中・・・。

「今日楽しかったね!」

「うん!」

笑いあって戻っていると・・・。

「!」

ふと目の前に見覚えのある人影が見える。

またジョギングしている男の子だ。

昼間も見かけたから覚えてる。

いや、ちょっと待って?

もしかして一日中走ってたの!?

「ハァ・・・ハァ・・・。」

それを物語っているかのように彼の顔は疲れきっており、その足は普通の人が歩いた方が早いほどペースが落ちていた。

しかも身体中何故かすり傷だらけだ。

「ぐえっ!」

私の横をすり抜けようとすると男の子は転んだ。

「・・・。」

恐らく先程のすり傷は散々転んだ事に依るものだろう。

「ハァ・・・くそっ、あとちょっとだ・・・!」

男の子は立ち上がってすぐ走ろうとするが・・・。

「待って。」

呼び止める。

「・・・?え、俺?」

「傷見せて。」

「え、え?」

男の子が戸惑っている打ちに足に手を翳し、レスタをかけて傷を治す。

「え、これ・・・テクニック!?」

「知ってるの?ってああ・・・。」

これ見てすぐテクニックだって言うってことは・・・分かった、色々と。

「一日中走ってたのはアークスになるため?」

「な、なんでそれが!?ていうか、なんで俺が走ってた事を!?」

「これがテクニックってすぐ分かるならアークスに関してちょっとは勉強してるってこと、走ってたのは昼間見かけたから。」

「もしかして、お前もアークスを目指してるのか!?」

「ううん、『目指してた』けど今は違う。」

「なんでだ!?テクニック使えるのに勿体無いじゃん!」

「・・・実はね。」

私は男の子にアルクトゥスに居たときの事を話した。

長くなったので近くに腰かけられるスペースで横並びに座っていた。

「そっか・・・目標を見失っちゃった訳か・・・でもさ、そのロケットがこっちのシップに運ばれたんなら先生って人も居るかもしれないじゃん!」

「駄目・・・探したけど見つからなかった。メディカルセンターの人も『盗んだ人が落としたんじゃないか』って・・・。」

「そっか・・・でもさ、やっぱりおかしいよ。」

「え?」

「そんな古ぼけたロケット、盗む程の物に見えないよ!俺だったらもっと金になりそうな物狙う!」

「!」

「ぐぇ!?」

急にかちんと来て男の子の胸ぐらを掴む。

「先生が作った物・・・馬鹿にしてるの?」

「うわあ!違う違う!だから、それやっぱり先生が持ってたんじゃないかってこと!」

「でも、先生、居なかったし・・・保護された人の名簿にも載ってないって・・・。」

「諦めんなよ!先生に会いたいんだろ!?」

「会えないんだから仕方無いでしょ!?なんでよ!なんで会ったばかりの私にそこまで言うの!?」

「俺だって諦めたくないからだ!」

「・・・!」

何?

「何それ・・・?」

「俺もお前と一緒で、ダーカーの襲撃受けて生き別れた家族がいるんだよ。」

「え・・・?」

「勝手に色々やって、物なくして俺を勝手に問いただして探させる・・・ホントに憎ったらしい所あるけどさ、それでも、俺の姉ちゃんだからさ・・・。」

「保護されなかったの?」

「されるわけないさ、だって姉ちゃんは・・・目の前で黒い霧に拐われたんだからな。」

「それ・・・アークスになったら・・・見つけられるの・・・?」

「ああ、きっとな。」

「・・・。」

確かにアークスになればオラクル船団の各シップ所か色んな所に行ける。

だったら先生も・・・。

「私も・・・。」

「うん?」

「アークスになってみようかな・・・!」

「え、マジで!?なんで!?」

「なる理由が出来たから・・・かな。」

「おお、じゃあ俺と同期になるかもな!」

「う、うん・・・。」

「俺、アフィン!」

「私ラパン、この子はルナール・・・ッ!?」

少し離れた所から音楽が聞こえる!

マズイ!

あれ、孤児院の門限の音楽だ!

「ご、ごめん!門限近いから行くね!」

「おお、そうか、悪い悪い!んじゃ、また何処かでな!」

「うん!」

私達とアフィンは正反対の方角へ走り出した。

 

 

~ノワール アルクトゥス 屋敷(七年前)~

 

「こら、ネージュ!今イチゴ取っただろ! 」

「早い者勝ちなのじゃー♪」

「こいつぅ!」

「・・・。」

ヘイルは先程の落ち着いた堂々とした態度から一変して娘とケーキを前に苺の一つで喧嘩・・・。

こうしてみると普通の母子に見えるが、とてもこんな金持ちが住んでいる様な館の主には見えない。

と言うか気になる事がひとつ・・・。

「・・・ッ!」

「・・・。」

さっきからショートヘアーのメイドらしき少女が物凄い剣幕でこの光景を眺めている事だ。

しかもなんか、ブツブツ何か言ってるし・・・見ているこっちが気が気じゃない。

「まあまあ、そうお気を曲げなさいますな、ヘイル様。」

「?」

突如声が聞こえ、見てみると・・・。

「!!?」

見覚えのある執事服、見覚えのある白髪の老人の男・・・!

間違いない・・・!

【従者】だ!

「ケーキはまだ作りおきが御座います故。」

「む、さすがだなじいや。」

まさか既に化けてこの中に・・・!?

「おい!」

慌ててヘイルに声をかける。

(なんだ?)

「!?」

頭の中に直接声が聞こえる。

(おっとすまない、透明人間のそなたと話して周りに違和感を持たれても困るのでな・・・テレパシーを使わせて貰っているよ?)

「そ、そうか・・・。」

これも神託のフォトンの力ってやつか?

何でもありだな・・・あれ?

この台詞、前にも言ったような・・・。

(それで、どうしたのだ?)

「ああ、大変だ、ーーーーー!!・・・!?」

『ダークファルスがいる!!』と言おうとしたら声が、まるでノイズがかかったかのように雑音に阻まれる。

(ん?なんだ?何かの声芸か?)

「違う!ーーーーー!!」

(ふむ、そなたのその様子、どうやら何かを伝えたいようだが、そのノイズに阻まれて聞こえなくなるようだな。)

「ああ、どうなってんだこれ・・・!」

(ふむ、何かは分からないが、その様子から何か良からぬ事があるのだろう。用心しておこう。)

「あ、ああ・・・!」

くそっ・・・まさか未来に関する事は喋れないのか・・・!

なんなんだよ!

今にも寝首掻かれ兼ねないってのに・・・!

「・・・。」

それにしても・・・。

「母様!苺一つで大人気ないのじゃ!」

「誰のせいだと思ってるぅ~???」

「大体そんなに食べられるのが嫌なら早めに食べときゃいいのじゃ!」

「そなたには『お楽しみはあとに取っておく』と言う思考回路が無いようだなぁ?」

「なんじゃそれ?」

「はぁ・・・やはりそなたにはまだまだ色々教える事が多そうだ・・・。」

「・・・。」

こいつはやはり俺の知っているネージュで間違いなさそうだ。

こんなアホはオラクル船団の何処を探しても見つからないだろうしな。

(まぁ、そなたも肩の力を抜いてゆっくりしておけ。どうせ見るだけの状態なのだからな。)

「ゆっくりって・・・。」

俺にはこんな事してる暇ないのに・・・!

 



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第二十二章 ~偽りの絆~

 

~ノワール 惑星ナベリウス 森林エリア(七年前)~

 

「じいや!ヴァレット!」

「「はっ!!」」

ヘイルが二人に号令をかけると執事とメイドは目の前の大型エネミーに飛びかかる。

敵は『ファングバンサー』四足歩行で長い鬣(たてがみ)が特長の獣のエネミーだ。

図体のデカさの割に俊敏に動く危険な奴だが、この二人はそれ以上の速さで跳び回りながら撹乱し、尚且つ持っている双機銃でエネミーを削っていく。

しかも二人はかなり息が合っており、戦っているのにエネミーを中心に蝶になって舞っているようにも見える。

不意にエネミーは『グゥ!』と声を漏らして右前足を滑らせてバランスを崩す。

全体的に満遍なくダメージを与えていたようだが、先にそこだけが堪えたようだ。

「そこだな!」

ヘイルは構えていた長槍を距離を一気に詰めながら鋭く突きだす。

槍はエネミーの脇腹に深く刺さり、槍を抜くとエネミーは倒れ、動かなくなった。

「おー!」

後ろで見ていたネージュは目を輝かせて三人の所へ走っていく。

「すごいのじゃみんな!!」

「ふふ、まぁな。ってそうじゃない!ネージュ?お前はフォースなんだから後方支援をしなきゃ駄目だろ?今だって四、五発はテクニックを撃てたぞ?」

「だ、だって、二人の動き早すぎるのじゃ!もし誤射したら危ないじゃろ!?」

「言い訳はするな!他所でそんなだったら、代々アークスやってる者としてみっともないぞ!」

「うぅ・・・!」

ヘイルの厳しい言葉に、ネージュは涙目になって今にも泣きそうになる。

「・・・。」

ヘイルはネージュの頭に手を翳す。

「ッ!」

叩かれると思ったのか、ネージュは身体をビクッとさせて身を縮める。

だが、ヘイルは叩くことはなく、ネージュの頭を撫でる。

「?」

「だが、己の未熟さを弁えた上で仲間を思いやるのは良いことだ。分かっただろ?自分がまだまだ半人前だと。」

「うん・・・。」

「二人の事を思うならもっと強くなるのだ。良いな?」

「分かったのじゃ!わし、もっと強くなるのじゃ!」

「あと言葉遣いな?いつ何処で誰が見ているのか分からぬからな。」

ヘイルは一瞬俺をちらっと見た。

「・・・。」

そーだな、見てるんだよな、今此処で。

「ッ!」

ネージュは即座に口を両手で塞ぐ。

「・・・いや、だから喋るなって事じゃないって・・・。」

「なぁ、こいつ、元からこんなしゃべり方なのか?」

なんとなく気になって俺はヘイルに聞いてみる。

(・・・あまり言いたくないのだがな。)

「?」

(アニメの影響だ・・・。)

「アニメ・・・どんなやつだよ・・・。」

(『プリンセス・エリィ』だ。)

「プリンセス・エリィ・・・あぁ、あれか。」

あやふやだが覚えがある。

『マジカル王女 プリンセス・エリィ』・・・昔あったアニメだ。

確か魔法少女のようなお姫様が主人公の女の子向けアニメだ。

主人公がそんなしゃべり方なんてのは知らなかったけどな。

「はっはっは!いやぁ、相変わらずネージュ様に甘いですなぁヘイル様!やはり実の娘故にですかな?」

じいやが笑いながら手を叩く。

「何を言っているのだじいや!そなたもヴァレットも皆等しく家族だと思っているぞ私は!」

「・・・ブツブツ。」

「・・・。」

まただ。

ヴァレットと呼ばれたメイドは遠目から怒りの籠った眼でその様子を見ていた。

「ん?どうした?ヴァレット?」

ヘイルがヴァレットの様子に気づく。

「・・・なんでもありませんわ。アークスとしての報告もあるでしょうから、先に戻ります。」

そう言ってスカートを摘まみ、礼をすると足早に去っていく。

「・・・。」

ヘイルは黙ってその様子を見ていた。

「・・・おい。」

(なんだ?)

気になって声を掛けるとヘイルはテレパシーで返事をしてくる。

「追いかけなくていいのか?」

(そのことなんだが・・・。)

「?」

(そなたに頼んでも良いか?)

「は?なに言ってんだよ、俺は透明人間なんだろ?引き留めることなんざ・・・。」

(いや、様子を見に来てくれるだけで良いのだ。)

「なんでそんなまどろっこしいことを・・・。」

(理由は聞かないでくれ、そなたにしか頼めんことなのだ。)

「ハァ・・・分かったよ、行けばいいんだろ行けば・・・。」

渋々ヴァレットを追いかけることにした・・・。

 

 

暫く後を追っていると見つけた。

やはり報告には行っておらず、木々の間の小道で立ち止まっていた。

「・・・ブツブツ。」

また何かブツブツ行っている。

「ったく・・・何が不満なんだか。」

どうせ見えやしないし聞こえもしないんだ。

だったら近くで聞いてみるか。

「嘘・・・絶対嘘ですわ・・・!いつも・・・どうしてなんですの・・・なんで・・・ヘイル様・・・酷いですわ・・・!」

「・・・。」

どうやら・・・というかやっぱりな話だが、ヘイルに何か不満があるようだ。

「ッ!」

「あ!おい!」

ヴァレットは突然走り出した。

思わず声をかけてしまったが、聞こえているわけもなく、ヴァレットは立ち止まることなく走り去って行った。

「・・・。」

それにしてもあのメイドに関して引っ掛かる事がある。

名前だ。

『ヴァレット』・・・【従者】と同じ読みだが、何か関係があるのか・・・?

「ちっ・・・考えても仕方ないな。」

とりあえずヘイルの元へ戻ることにした。

 

 

元いた場所に戻ると、ヘイルは一人で俺を待っていた。

聞くと、どうやらじいやには『知人に会う約束をしている』と誤魔化したようだ。

何にしてもありがたい。

ヘイルはテレパシーで会話をしていても顔色ひとつ変えないから、本当に俺との会話が成立しているのか不安になるくらいだからな。

「そうか。」

俺からの報告を聞くと、ヘイルは顔色を曇らせる。

「あいつに何かしたのか?」

「いや・・・『しなかったから』こそ、不満なのだろう。」

「・・・?」

まるで意味が分からないが、どうやら何か知っているようだ。

しかし、こう周りくどく言うには何やら話したくない事もある気がする。

深く追及するのは野暮だろうし、興味もない。

しかし、色々と引っ掛かる。

神託のフォトンが意思を持って俺を過去に飛ばしたのには理由がある。

意味の無いことはしないとは聞いたが、今のところ、何て事のない、ただの他人の生活を覗いているだけだ。

これの何処に意味があるんだ?

俺はさっさと元の時代に戻ってやらなきゃいけない事があるんだ。

いつまでもこんな呑気な状況を見せられてられないってのに・・・。

「さて、此処でそなたに色々と話を聞きたいが、今日は特別な日でな、早く戻らないとならないのだ。」

「何かあるのか?」

「ふふ、来れば分かるぞ。それにそなたは透明人間だ。特等席で拝ませてやる。」

「?」

ヘイルは楽しそうに話すが、意味が分からなかった。

 

 

~ラパン アークスシップ ショップエリア(七年前)~

 

「すごいな!やっぱりマリアさんって!」

「だから大したことはしてないよ!」

ルナールはマリアさんの話を聞いて目を輝かせていた。

私はと言うと・・・。

「・・・。」

本当なら楽しくて仕方ない時間のはずなんだけど楽しめない。

「どうした、ラパン?話がつまらなかったかい?」

「ううん、そんなことない!あのね・・・マリアさん・・・。」

言わなきゃいけない、何を言われてもマリアさんにだけは・・・。

「私・・・アークスになろうと思う。」

言った。

このあとどんな事が起きるかなんて分かりきっているけどやっぱり怖い・・・!

「そうかい・・・。」

マリアさんは目を細める。

きっとおかしな事を考えてるとか思われてる・・・!

 

 

「いいんじゃないか?」

 

 

「・・・!!?」

え?

なんて言ったの?

「マリア・・・さん・・・?」

あり得ない言葉だった。

てっきり『何をバカなことを言ってるんだ!』とか怒られると思ってたのに・・・!

「あたしが怒るとでも思ったのかい?」

「う・・・!」

図星だった。

「あんたがなんの覚悟もなしにそんな事を口走るとは思っちゃいないさ。大方、何か理由でもあるんだろ?」

「私・・・。」

「言いたくないなら別に聞きはしないよ・・・。」

「・・・。」

なんか、叱られないと余計申し訳なくなってくる。

「ついてきな。」

「え?何処に・・・?」

「知り合いにアークスの教官がいる。そいつの伝で訓練校に入れるように手配してやるよ。」

「えぇ!?」

予想してた事より全く逆過ぎて訳が分からない!

「そ、そんな、悪いよ!マリアさん!」

「別にあたしは構わないよ?それとも、あんたがアークスになりたい理由ってのは、他人の都合を優先してまで大したことじゃないのかい?」

「・・・!」

それは絶対に無いことだ。

まだ生きてるかもしれない先生を探すことは、私にとっては何より願ってる事だ。

「・・・お願い、します。」

「いい返事だ。さ、おいで。そこのおチビさんもだ。」

「え、私!?」

突如呼ばれてルナールは目を丸くする。

「どうせこの子の行くとこ以外、行く宛もないんだろ?だったらあんたも傍で支えてやるんだよ。」

「・・・!うん!」

ルナールは目を輝かせてついてくる。

「マリアさん・・・。」

「うん?」

「ありがと・・・。」

「礼ならアークスになれたあとに言いな。うちの知り合いは厳しいからね。」

「う、うん!」

厳しくてもやるって決めた。

絶対にアークスになるって決めた。

先生、待ってて・・・絶対に私、見つけるから!

 

 

~ノワール アルクトゥス 屋敷(七年前)~

 

「よくお似合いです、ヘイル様!ネージュ様!」

じいやはヘイルとネージュの姿を見て満面の笑みを浮かべる。

「ふふ、そうかそうか!」

ヘイルとネージュの服、それは白を基調とした袖の大きな服で、花と葉が川に流れていくような柄が全体にあしらわれ、その姿は、古い文献の東の国のお姫様のような服だ。

髪は正装のためか、ネージュはいつものツインテールではなく、降ろしている。

「誉めても何も出ないのじゃ!」

「私は正直に申し上げているだけで御座います!」

「ふふ、じいやは相変わらず口が達者だな!」

誰もが笑っている光景。

しかし、その状況に笑えない人間がいる。

「・・・。」

俺だ。

(どうだ?似合っているか?)

「なぁ・・・今日って何月何日だ・・・。」

(? 八月十五日だが?)

「・・・!」

やっぱりだ。

間違いない。

『あの日』だ!!!

「おい、ーーーー!!ーーーーーーーーーー!!!」

(? ノイズ、そなた、何か伝えたい事があるのか?)

「・・・くそッ!」

『ヤバイことが起きる!!すぐにシップ内の全員を避難させろ!!!』と言ったが、ノイズに阻まれた。

そう、俺はこの日が何の日か知っている。

この日は『選定祭』と呼ばれる祭りが執り行われた日だ。

 

 

 

そして、この日こそが、アルクトゥスがダーカーによって滅ぼされた日だ!

 

 

「・・・。」

なんとなく分かってきた。

神託のフォトンが、俺をこの時代に飛ばしてきた理由・・・。

この日に俺にやらせたいことがあるのは確かだ。

まさか、この時代のダーカーの襲撃を阻止しろって事なのか!?

でも、どうすれば・・・。

 

 

ーーー数時間後

 

 

シャン

 

 

シャン

 

 

鈴の音が一定の感覚で鳴り響く。

街中の道路をシップ内の全ての人間が取り囲む様に並び、狐の面を被って鈴を鳴らす。

その囲んでいる道を、俺を交えたヘイル達が同じように狐の面を被って歩いていた。

この時、恐らくは管制の奴等ですら祭りに参加しているので、端末を開いて危機を呼び掛けようとしたが、無理だった。

俺は見えないどころか、この世界の物には触れなかった。

そんな俺が端末を操作できる筈もなく、このまま時が過ぎていった。

「ーーーー!!ーーーー!!!(すぐに祭りをやめろ!!みんな死ぬぞ!!!)」

諦めずヘイルに呼び掛けるが、やはりノイズに阻まれる。

(その様子・・・何やら起きるのだな?)

「・・・!」

必死さが通じたのか、ヘイルからテレパシーが送られる。

「そ、そうだ・・・!」

(焦る気持ちは分かるが、少し待って貰えないだろうか。)

「は?」

予想外の返事が返ってきた。

「なに言ってんだよ!事態は一刻を争うんだよ!!」

(そなたの様子を見れば分かる・・・だが、少し見守ってくれないだろうか。)

「・・・くそ、ふざけんなよッ!!」

(すまない・・・。)

今にもダーカーがすぐそこまで迫っているのに・・・!

無情にも時は過ぎていく。

 

 

ヘイル達は街中を隈無く歩いていく。

これは宮司の神子が全ての街を見渡し、全てを見納めて次の代に神託のフォトンを引き継ぐという習わしだ。

途中で取り囲む人間の列が途切れる。

これは神のみが知る道とされ、宮司の一族以外は進むことは出来ない道である。

道の先に聖地であるテンプルエリアがあるとされるが、その道は宮司の一族しか知らない。

つまりは、宮司の一族というのは、アルクトゥスの人間ですら、誰なのか分からないのである。

人間の列が途切れると、ヘイル達は真っ直ぐ自分達の屋敷に向かう。

そして向かった先は中庭だ。

そこでヘイルは全員の中の真ん中に立ち、両手を広げ、天を仰ぎ見る。

 

 

「彼の御光を継ぎし者、此処に有り、我が意を叶え、彼の地へ我等を導きたまえ!」

 

 

ヘイルが呪文の様に言葉を読み上げると、辺りが震える様に揺れ始める。

「・・・!」

目の前の地面に黒い穴が現れた。

それは段々と広がり、人が数人はいれそうな空間が出来た。

そしてそうなる頃に、中の光景がハッキリと見える。

「階段・・・!」

(そうだ。これがテンプルエリアに続く道だ。)

「・・・成る程、こりゃ宮司の一族以外入れない訳だ。」

(そうだとも、場所も分からない上に合言葉も必要、それに異空間であるとは誰もが思うまい。)

「・・・なぁ。」

(なんだ?)

「まだ見守れって言うのか?」

(すまないな。もう少しだけだ。)

「・・・なんなんだよ。」

(すまない。)

「・・・。」

皆は階段を降りる。

道を進むと道の脇に、何体もの像があり、その像は、刀を掲げ、まるで道をゲートになって囲むように立っていた。

その道もまた長い。

まるでダンジョンの様に入り組んでいた。

「ハァ・・・ハァ・・・。」

俺達ならまだしも、まだ子供のネージュには体力的にキツそうだ。

「頑張れ、あと少しだ。」

「うん・・・!」

ヘイルに励まされ、ネージュはなんとか気を張る。

「・・・着いたぞ。」

目の前には祭壇があり、その天辺には、透明な九尾の狐の像が建っていた。

噂に名高い、『選定の神狐』だ。

この像に選ばれた者が、神託のフォトンを受け継ぐことが出来るらしいが、どの様に儀式を執り行うのだろうか。

「さて、『選定の儀』を始める。」

「・・・。」

儀式が始まる・・・。

「・・・が、その前に。」

ヘイルは何故か槍を手元まで転送させる。

「・・・ヘイル様?」

着いてきていたメイドのヴァレットがヘイルの様子に驚く。

「そうですな。そろそろ終わりにするべきですな、お互いに猿芝居は・・・。」

じいやも銃を転送させる。

 

 

「「ヴァレット!!」」

 

 

ヘイルは突きを放ち、じいやも銃弾を放つ。

「ッ!!?」

ヴァレットは思わず思いがけない行動に出る。

霧状になって消え、すぐに後方に出現する。

「!?」

見たことがある・・・!

これはあの時、俺とエスカが【従者】にやられたような、幻術にそっくりだ。

「まさか・・・!」

こいつが・・・!

「くく・・・くふふふ・・・ふふふふふふ・・・あは・・・はははは・・・ははははははははははははははは!!!」

ヴァレットは突然笑い出す。

「全て知った上でわたくしを謀っていたんですの!?悪趣味にも程がありますわッ!!!」

「・・・。」

ヘイルはなにも言わない。

「大方この時を待っていたのだろう。最後の目的を目の前にして油断した方が尻尾を掴みやすかったのでな。」

じいやはヘイルに変わって言葉を返す。

「貴様の野望もここで終わりだ、ダークファルス!!」

じいやは一層鋭い目付きで銃を構える。

「・・・成る程、最初から知ってたわけか。通りで俺の忠告を無視したわけだ。」

(ああ・・・。)

「・・・?」

なんだが生返事だ。

「ふふ、もう取り繕っても無駄ですわね。」

ヴァレットは狂喜染みた笑みを浮かべると、黒いオーラに包まれる。

すると髪が真っ赤に染まり、眼も同じように赤く染まる。

「この姿では、はじめまして・・・ですわね。」

「ヴァレット・・・それがそなたの正体か・・・。」

「では改めまして自己紹介を・・・。」

ヴァレットはスカートを摘まんで一礼する。

 

 

「我が名は【従者(ヴァレット)】・・・ダークファルス【従者】!!我が根源の願いは、『我が主への絶対なる忠誠』!!」

 

 

「・・・そうか、ならば私もそれに応えよう。」

槍を高々と掲げる。

すると身体が光に包まれ、狐の耳に九尾の尾、そして戦をするかのような甲冑に身を包んでいた。

 

 

「我が名はヘイル!!聖地アルクトゥスの守護者にして、『絆の番人』!!いざ、参る!!」

 

 

ヘイルと【従者】は互いにぶつかり合った。



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第二十三章 ~主と従者~

 

 

~ヘイル アルクトゥス テンプルエリア(七年前)~

 

 

「ハァッ!」

私は真っ直ぐに槍を突き出す。

「ふふっ・・・!」

【従者】は笑みを浮かべるとまた消えて後方に現れて銃を構える。

「ヴァレットォ!」

じいやがタイミングを見計らって銃弾を放つ。

だが【従者】はそれを読んでおり、さらに消えて別の位置に現れる。

「・・・。」

「・・・。」

【従者】と私達は互いに睨み合うように様子を伺っている。

「さすがに互いの手の内は百も承知のようだな・・・ヴァレット・・・!」

「お生憎ですが執事長・・・わたくしはダークファルスであることを隠すために今まで本気で戦ってはおりませんでしたの・・・。」

「ふふ、それは私も同じだぞヴァレット。そなたやじいやの前ですら、この姿で私は戦ってはおらんのだからな。」

「それはそれは・・・では貴方様のその力、どれほどのものか、確かめさせて頂きますわ!」

そう言うと【従者】は何体にも分裂する。

「幻覚を使った分身か・・・!」

「槍一本で、果たしてわたくしを捉える事が出来るでしょうか!?」

【従者】は分身と共に向かって来る。

「あはははははは!!」

笑いながら分身と共に銃弾を私に向かって集中放火をかけてくる。

「・・・。」

私は目を閉じ、意識を集中させる。

「おいッ!何してんだ!!」

ノワールは私の身を案じてか、声を荒げて呼び掛ける。

だが心配ない。

「!?」

次の瞬間、ノワールは目を疑う。

銃弾は全て身体をすり抜ける。

「!」

見えた。

私に弾丸が当たる風景が・・・。

右上からだ。

瞬間に目を見開き、槍を一点に向かって回転させる。

すると銃弾が弾ける音が聞こえ、銃弾が叩き落とされる。

「・・・そなたが本体か。」

【従者】の軍勢の内一体を真っ直ぐに見る。

「くっ・・・!」

「『何故わかった』とでも言いたげな顔だな。」

「おかしいですわね、初めて見せる奇襲なのに一瞬の気の迷いもなく合わせるなんて・・・まるで未来でも見えたかのようですわね。」

「ご名答、その通りだ。最も、数秒先の未来しか見えんが、奇襲を捌くには充分だろう?」

「成る程、でしたら・・・。」

「『逃走』など考えるなよ?」

「!!」

既にじいやが元来た道の前に立っていた。

「貴様は闘いに勝つことも、逃げる事も叶わん・・・終わりだ、【従者】!!」

「ふふ、誰が逃げるなんて仰いました?」

「まだ我々に勝つつもりでいるのか?」

「えぇ、方法など、いくらでもありますもの!こうすれば・・・。」

【従者】は両手を広げると、姿を消す。

かと思えば辺り一帯が暗くなり、また分身が何体も現れる。

「また分身か・・・芸が無いな。」

私は平然と構える。

「ふふ・・・。」

【従者】はまた銃弾を放つ。

「今度は初手からか。」

分身の銃撃などに惑わされもせず、銃弾を叩き落とす。

「ハァッ!!」

槍を【従者】に突き出す。

「ッ!?」

突如槍を止める。

ノワールが突如前に立ちはだかり、進路を塞いだからだ。

「何をしている!」

「アンティを使え!使えないならソルアトマイザーだ!」

『アンティ』、毒や火傷など、特殊な異常を治すテクニックであり、ソルアトマイザーと同様の効果の物だ。

「・・・?」

【従者】が飛びかかり、今にも私に弾丸を浴びせようとしている。

しかし、この土壇場で彼が言うには本当に何か理由があるのだろう。

「・・・分かった。そなたを信じよう。」

槍を掲げる。

すると光が周囲に散らばるように広がる。

アンティを発動させたのだ。

光が私とノワールを照らすと辺りを包んでいた暗闇が一気に晴れる。

「ッ!?」

突如【従者】から姿を変えたじいやが、構えていた銃を引っ込める。

「ヘイル様!?」

「・・・なるほど、そういうことか。」

状況に困惑するじいやに対し、私は落ち着いて状況を理解する。

「私達は互いに幻覚を見せられていたようだ。」

「そうでしたか・・・よくお気づきに・・・!」

「いや、咄嗟に私の友人が教えてくれた。」

「・・・?」

「何でもない、それよりヴァレットは・・・!?」

 

 

「チェックメイト・・・ですわ。」

 

 

「!!」

【従者】は・・・!

「母様ぁ・・・!」

ネージュに銃を突きつけていた。

「【従者】・・・貴様そこまで堕ちていたかこの外道・・・!」

じいやは忌々しそうに【従者】を睨む。

「どうとでも仰いませ。選定の儀のために必要とは言え、ネージュ様をここに連れてきたこと・・・それがお二人の敗因ですわ。」

「・・・。」

私は慌てもせず、怒りもせず、槍を降ろす。

「あら、それは投降と見てよろしいのですか?」

「ヴァレット・・・そなたが私に近づいたのは、私の神託のフォトンを狙ってのことか?」

「えぇ、しかし貴方様は神託のフォトンを使わずとも只でさえ戦闘力の高いお方、真正面からねじ伏せようものなら例え負けずとも、苦戦を強いられるのは必至、ですがネージュ様が神託のフォトンを引き継いだ後ならば、まだ子供のネージュ様を捕らえれば良いだけですもの。」

「私がそなたを拾ったのは今から五年前・・・そなた、その間に気持ちに何も変化が無かった・・・というのか?」

「・・・!!」

一瞬だが【従者】の表情が固まる。

「な、何を今更・・・この状況を見て分かりませんの!?茶番は終わり、そう仰ったのは貴方達でしょう!わたくしはこの選定祭が始まってから、こうするつもりでしたわ!!気持ちに変化?そんなもの、あるわけがありませんわ!!」

「そうか・・・。」

「!!」

 

 

「残念だ。」

 

 

「!?」

私は【従者】の後ろに立っていた。

そして、【従者】の前にいた私は徐々に薄くなって消える。

そして槍でネージュに突きつけていた銃を打ち払い、【従者】の頭を掴み足払いをかける。

【従者】は一瞬の内に仰向けの状態で宙に浮かぶが、すぐに槍の柄で叩き落とされる。

「がはっ!」

【従者】は呻き声を上げて地面に叩きつけられる。

「な・・・何故・・・!」

「私も光を使って幻覚を見せることが出来る・・・自分の出来ることが相手に出来ないと傲るべきでは無かったな。」

「くっ・・・!」

「ヴァレット・・・。」

とどめを刺そうと槍を振り上げる。

「・・・すまない。」

槍を容赦なく振り下ろす。

「!?」

突如ドオオと轟音が聞こえる。

その拍子に一瞬だが槍が止まってしまう。

その隙を【従者】は逃さない。

【従者】は霧状になって消え、私から離れた場所に現れる。

「爆発は市街地からです!」

「ヴァレット・・・何をした!」

「ふふ・・・こうなることも想定して仕込んでおいただけですわよ?」

「何をしたと聞いている!!!」

「今頃市街地はダーカーで溢れ返っている頃でしょう。ほら、早く行かれませんと、どんどん人死にが出ますわよ?」

「くっ・・・!」

すぐに元来た道を引き返そうとしたが、【従者】に対して構えを緩めない。

一歩下がると、【従者】も一歩前に出る。

「ふふ、そうですわね!行けばわたくしがその背中を狙わない訳がありませんわよね!」

「ふ・・・伊達に私に仕えてはいなかったようだな、ヴァレット・・・!」

「お褒めに与り、光栄ですわ・・・これで形勢逆転ですわね!」

「それはどうかな?」

「?」

じいやが前に出る。

「ヘイル様、此処は私に任せ、貴方様はネージュ様と共に市街地へ・・・。」

「じいや・・・!」

一瞬迷ったが、すぐに頷く。

「いいだろう。だがじいや、私に仕える者としてこれだけは守ってくれ。」

「はい・・・。」

「『絶対に死ぬな』。」

「・・・御心のままに。」

「ネージュ!!行くぞ!」

「うん!」

「そなたも・・・!?」

ノワールに呼び掛けようとしたが言葉が詰まる。

何処を見渡しても彼の姿が無かった。

 

 

~ノワール アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「ハァ・・・ハァ・・・!」

爆発が起こり、ダーカーが市街地に現れたのを知ってからすぐに走り出していた。

「ハァ・・・ハァ・・・!」

走る。

ただ走る。

「キャアアアアア!!」

「!!」

女が一人、道を塞ぐ程の瓦礫の塊を背にダガン三体に追い詰められていた。

「くそっ・・・!」

俺はすぐに銃を転送させようと手を翳す。

「!?」

なんだ?

銃が出てこない!

「くそっ・・・まさか・・・!」

武器も出せないのか!?

「やめて、いやあああああ!!!」

「ッ!」

気づいた時には遅かった。

女はダガンに何度も鋭い爪に貫かれ、絶命する。

目的を果たしたのか、ダガンは黒い霧に包まれて消える。

「う・・・うぅ・・・!」

本当に俺は・・・この世界じゃ何も出来ないのか?

「くそっ、くそぉッ!」

それでも俺は走った。

あるはずだ・・・何かあるはずだ!

ダーカーの襲撃は止められなかった。

でも、『あいつらを助ける方法』はあるはずだ。

「何か・・・何かないか・・・!」

あいつらをあいつらだけは・・・!

 

 

 

「やめろッ!!!!やめてくれええええぇッ!!!!」

 

 

 

「ッ!!」

聞き覚えのある声・・・すぐ先の曲がり角の先・・・!

「!!!」

目の前で血が舞う。

遅かった。

「あ・・・あぁ・・・!」

もう二度と見ないと思っていた。

「あぁ・・・!」

もう二度と見たくなかった。

「う・・・うあぁ・・・!」

かつての自分と・・・。

「うあぁ!」

『あいつら』が死んでいった。

 

 

「「うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!」」

 

 

最悪の光景だ。

 

 

~【従者】 アルクトゥス テンプルエリア(七年前)~

 

執事長と私は何度も銃で撃ち合う。

私は幻覚を使って回避するのに対して執事長は弾道を見切って銃で防いだり回避したりしている。

一頻り撃ち合った後に睨み合う。

「・・・全く、ただの人間の癖によく粘りますわね。」

「これでもヘイル様よりも先代の頃より仕えた身でな、伊達に戦場を見てきてはおらんのだ。」

「貴方の昔話に興味などございませんわ。さっさと散りなさいませ。」

「そうだな・・・互いに言葉は不要。決着は早めに着けるべきだろう。」

「ふふ、話が早くて助かりま・・・。」

私が会話に気をとられた僅かな隙に執事長の姿が消える。

「がはっ!?」

執事長はいつの間にか私の右に回り込み、身体全体を使った体当たりを仕掛けてきた。

諸に喰らった私は近くの柱まで吹き飛ばされ、思いっきり身体を打ち付けてしまう。

「ッ!」

執事長は銃を既に構えている。

「くっ・・・!」

私はすぐに目の前に幻覚で自分の虚像を作って左に避ける。

「ッ!?」

何故か執事長は虚像ではなく、私の方へ銃口を向けていた。

「ぐぅッ!?」

直撃こそしなかったが、右肩に銃弾を受けてしまう。

「な、何故・・・幻覚を撃たずに私を・・・!」

「その虚像を使った回避、乱発すればタイミングなど見切るのは容易い。」

「だからって、何故わたくしが逃げる方向が・・・!」

そう、右に逃げる可能性だってあるのに・・・!

「忘れたか?貴様に銃技を教えたのは私だ。弟子の癖など分かる。後方に逃げ道を失った時、貴様は決まって左に避ける。」

「ふふ・・・そういうことですか。」

「・・・何がおかしい。」

「くくくっ・・・今に分かりますわ!」

私は大量に幻覚の分身を展開する。

「数で攻める気か・・・愚かな。」

「あはっ!」

分身と共にあらゆる方向から奇襲をかける。

「ふっ・・・。」

執事長は私の分身の攻撃を全て避けて捌く。

だが、執事長とて完璧な人間ではない。

分身の内の一体の攻撃を仰け反り気味に回避した時、わずかな隙があった。

「いただきましたわ。」

後ろにいた本体の私は、執事長の足に銃弾を放つ。

「くっ・・・!」

執事長は回避しきれず、弾丸を受けてしまい、倒れるが、すぐに受け身をとって起き上がり、体勢を建て直す。

「・・・。」

執事長は私を睨むように見る。

その表情には弱冠だが、平静が崩れているように見える。

「要は読みで動いているだけ、わたくしが完全に見えている訳ではないのですよね!であれば、ヘイル様程脅威ではありませんわ!」

「ふっ・・・それくらいで勝ったつもりか?」

「まだ減らず口を・・・フォトンを扱える程度の一アークス程度の力しか持たない貴方が、わたくしに勝つことなど・・・!」

話している間に執事長は銃を撃ってくる。

「くっ・・・!」

幻覚を展開して回避する。

今度は銃弾は偽物の私を通りすぎる。

「人が話している最中に不粋で・・・。」

皮肉を吐こうとした瞬間・・・。

「がぁッ!?」

銃弾が私の左足と肩を突き抜ける。

「な・・・!?」

何が起こった?

落ち着け、行動を思い出せ・・・!

今、執事長は私に向けて一発、あらぬ方向に二発撃った。

「・・・!」

まさかと思い、私に撃った方向以外の軌道を見ると、柱が中心より少し軌道がズレた位置で弾丸によって抉れていた。

弾丸は柱に埋まり込んだ様子はない・・・だとすれば・・・。

「跳弾・・・!」

「ふん、若い時以来腕が落ちたな・・・全盛期であれば両方とも急所を貫いていた。」

「そんな技・・・一度も拝見させて頂いた覚えなんてないんですが・・・。」

「分からんか?私とて、貴様に全て教えた訳ではない。貴様がダークファルスとして『力』でくるなら、私はそれに『技』で迎え撃つまで・・・。」

「くく・・・あはは!やっぱり執事長は執事長ですわね!」

「・・・何が言いたい。」

「今だから言いますけれど、わたくし、執事長のことが吐き気がして死ぬほど大嫌いでしたの!」

「ふん、それは何より、私もダークファルスであろうとなかろうと、貴様は気にくわなかった。この場を与えてくださったヘイル様に感謝せねばな。」

「えぇ、思う存分・・・。」

 

 

「殺し合いましょうッ!!!」

「殺し合おうッ!!!」

 

 

私達は互いにぶつかり合った。

 

 

~ヘイル アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「ハァッ!」

キュクロナーダ三体を槍で凪ぎ払って倒す。

「あっちに逃げろ!奴等の包囲が薄い!」

民間人に指示を出す。

「へ、ヘイルさん・・・あんた、ヘイルさんじゃないか?」

「!」

しまった!

狐面を被り直すのを忘れていた!

しかもこの民間人は近所の知り合いだ!

「その姿・・・!」

「い、今はそんなことどうでもいい!早く逃げろ!」

「あ、あぁ・・・。」

民間人は戸惑いながらも去っていった。

「くそ・・・。」

宮司の一族にはしきたりがあった。

『宮司の一族であることを身内以外に知られてはならない』というものだ。

もし破れば大きな災いが訪れると言われている。

だが、すでに災いなど起こっている。

「今更だな・・・。」

そう自分に言い聞かせた時だ。

 

 

『ヒッヒッヒ・・・。』

 

 

「!?」

何か頭に下卑た笑い声が聞こえる。

声質は何やら合成音声のように男だか女だか分からない感じだ。

気のせいだと思って聞き流そうとした時だ。

『おいおい、無視なんてひどいなぁ、泣いちゃうぜ?』

「・・・。」

どうやら気のせいではないようだ。

「誰だ。」

『あなたの心の中に潜む悪魔でーす♪なぁんてな!』

「・・・。」

答える気はないようだ。

まぁ、こんな状況で私に接触してくる相手などだいたい見当がつく。

「なぜ私の頭の中に話しかける。」

『なぁに、頑張ってるあんたにちょっとしたプレゼントをあげちゃおっかなーって!』

「プレゼント・・・?」

『そーそ!プレゼント!そろそろ到着すんじゃねぇの?』

「なに・・・ッ!!?」

周りに霧が現れる。

そこに現れたのは・・・。

「ダーカー・・・なのか・・・?」

そこに現れたのは赤黒い液体でコーティングされた人型のダーカーだ。

「なにをするかと思えば・・・。」

『見せてみろよ!神託のフォトンって奴をよ!』

ダーカー達は一斉に襲いかかってくる。

「ハッ!」

襲いくる攻撃を往なし、槍で凪ぎ払う。

「ッ!?」

瞬時に未来の映像が見える。

液体が大量に掛かってくる映像だ。

何かの毒か?

だが回避するに越したことはない。

「・・・。」

ダーカーが破裂し、液体が飛び散るが、難なく回避する。

『ヒヒ、流石だなぁ!』

「毒液でも被せるつもりか?」

『ああ?そんなもん、いくら被ったっててめぇに害はねーよ、それよりお前が殺したダーカー見てみな、もうダーカーじゃねぇかもしれねえがよ!』

「なに!?」

目の前のダーカーだったものを見る。

「!」

男が倒れていた。

紛れもなくヒューマンだ。

胴体には先程のダーカーに私が与えた槍の傷が残っていた。

「お、おい!?」

男は既に死んでいた。

『ひっでぇなぁおい!人殺しちゃうなんてよ!』

「貴様・・・!」

『なぁんてウソウソ!マジになんなって!そいつらは元々死体だよ!』

「この者はまさか・・・!」

『あー、先に答え言っちゃうけど、お前のだーい好きなアルクトゥスの民間人だよ!』

「貴様・・・命を弄んでいるのか!?」

『それと良いこと教えてあげちゃうよ!このダーカーは死体からしか造れない・・・この意味が分かるよな?』

「・・・!」

つまり民間人が殺されれば殺されるほどこいつらの兵力は増すと言うことか・・・!

『それともうひとつ!薄々勘づいてると思うが俺もダークファルスだ。勿論依り代を得て現世に降り立ってる訳だが・・・。』

「何が言いたい・・・!?まさか!」

『ゲームのルールを理解したみたいだな!』

「ふざけるなッ!何がゲームだッ!!」

『んじゃ、改めてルール説明だ。俺の兵隊を倒しつつ俺を見つけて倒せばお前の勝ち。お前を倒せば俺の勝ち。ただし俺の兵隊は民間人が死ねば死ぬほど増え続けからお前は民間人を助けながら俺の兵隊と戦わなければならない。しかも助けないといけない民間人の中には、一人だけ俺本体が混じっている。だから無闇に助けて隙を見せれば背中から刺されてゲームオーバーってわけだ。』

「貴様・・・!」

『まぁ、こんなの不平等だよな?お前の方が断然不利だよなぁ?だからお前にもハンデをやろうじゃねえか。』

「ハンデだと・・・?」

『俺の兵隊はお前しか狙わない。だからお前は民間人を助けるには他のダーカーだけを殺せばいい。悪くねぇ話だろ?』

「くっ・・・!」

忌々しい相手なのに『ノー』と言えないのが屈辱だ・・・!

『精々頑張って俺を探しな!俺は怯えたフリでもしながらお前の奮戦ぶりを観戦させて貰うからよ!』

「くっ・・・!」

飛びかかる人型ダーカーに、私は槍を構えた。



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第二十四章 ~母と娘~

 

~ヘイル アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

あれから結構時間が経った。

「はぁ・・・はぁ・・・。」

私は傷だらけの状態で息を切らしていた。

「くっ・・・!」

やりたくはないが、已む無く人型ダーカーを凪ぎ払う。

人型ダーカーを無視してダーカーを倒さないといけないが、奴等の数は想像以上に増え続ける。

しかも私を倒す事だけが目的ではなく、進路を塞いだり、取り囲んだりして妨害に撤する者もいる。

しかも奴等は動きも素早く、あまり数で来られると槍ひとつでは足りないほどの手数となるため、已む無く排除を強いられる。

『ヒャハハハ!見物だなおい!民草を守る宮司の一族様が、民間人を殺しまくってんぞ!』

「黙れ、下衆が・・・!」

薄々分かって来たが奴が作り出したかった状況は、どうやらこれだろう。

私の手を民間人の血で染める。

ダークファルスにも色々いるのだろうが、奴は一際下衆な部類と言えるだろう。

「でやあああッ!」

人型ダーカーの群を槍の一振りで凪ぎ払う。

切り裂かれた人型ダーカーは赤黒い液体をぶちまけつつ、中身が露になり、私はその液体を諸に受ける。

「ッ!?」

なんだ?

人型ダーカーが途端に退いていく。

「うわああッ!」

「?」

悲鳴が聞こえ、そっちを向く。

「ひ、人殺し!」

夫婦らしき男女が私を指差して怯えていた。

私の周りは先程の人型ダーカーの媒体となった人間の死体、更に私は赤黒い液体にまみれている。

まずい。

夫婦にとって私が人を殺して返り血を浴びたと取られてもおかしくない!

「ち、違う・・・!」

「あ、あいつ、ダーカーの親玉だ!」

「いやああああぁッ!」

「ひぃ!ま、待ってくれ、置いてくな!」

弁解しようとしても女は逃げ出し男も必死にその後を追いかけた。

『ヒヒ、傑作だな、ダーカーの親玉だってよ!どお?今どんな気持ち?俺達と同じ立場になってみた感想は!』

「ふざけるなッ!正面から戦わずに大口を叩くな卑怯者!」

『卑怯?さっきチート級の能力で【従者】いたぶってたのは何処のどいつだ?』

「黙れッ!!」

『結局俺とお前は一緒なんだよ!立場が違うだけでさあ!それにさお前、今はもう『人殺し』のレッテル貼られてるじゃん!さっきの奴ら、多分今頃合流した仲間かアークスに今のことチクってるぜ?もういいだろ?』

「もういい?何が言いたい!」

『だーから、もういいだろ?殺しながら俺を探せばいいじゃん!『人』をさ!』

「ふざけるなッ!そんな口車に誰が乗るかッ!」

奴は馬鹿か?

そんなことをすれば結局奴の兵隊が増えて悪戯に自分の状況を悪くするだけだ。

第一そんなことを抜きにしても私がこのアルクトゥスの民を殺すはずがないことぐらい、奴にも分かるはずだ。

『じゃあさ、もうひとつハンデをあげちゃおうじゃないの!』

「なにをこんな時に・・・!」

『お前が殺した民間人からは俺は兵隊を作らない!つまり、お前が民間人を殺せば殺すほど俺は兵隊を作る材料をどんどん失い、お前はどんどん王手に近づけるわけだ!あわよくば殺した奴の中に俺が混じってるかもしれないしな!』

「ふ・・・!」

「ふざけるなッ!」

「!?」

私が言おうとした言葉をネージュが先に叫んだ。

「母様がそんなことするわけない!わし、ずっと見てきたのじゃ!!母様は、アークスをやりながら・・・アルクトゥスの誰かが困っていたら皆助けてたのじゃ!!アークスの調査先でボロボロになって帰ってきてつらい時だってあった・・・でも母様はいつだってアルクトゥスの為に頑張ってきたのじゃ!!母様を馬鹿にするなッ!!」

「ネージュ・・・。」

『・・・。』

ネージュが怒るとダークファルスは黙り込む。

『ヒッヒッヒ、泣かせるねぇ!!けど、今その母様は何したって誰も喜ばねぇぜ?目の前でダーカー殺そうが、民間人からは化け物食い殺してる別の化け物にしか見えねえからな!!』

「そんなの関係ないのじゃッ!!誰がなんと思おうと、わしが母様を見とる!母様はアルクトゥスの皆の為に戦っとるって!わしが見てるのじゃ!!」

「・・・。」

どうやら私はネージュのことを子供扱いしすぎていたようだ。

この子は、私の世界でたった一人の最高の娘だ。

『へっ、口が達者なのはいいけどよ、 今の状況をどうにか出来なきゃ、そんなもんただの戯れ言だぜ?ほら・・・。』

「くっ・・・!」

人型ダーカーが襲いかかってくる。

やむを得ずダーカーを凪ぎ払おうとした時だ。

「!?」

突如現れた人影が銃を手に、人型ダーカーを全て撃ち抜く。

「じいや・・・!」

唖然と立ち竦む私に、じいやは振り向き、笑みを返す。

だがその額からは血が、更に見れば足や腕にも銃弾で撃たれたかのような傷跡があった。

「ヘイル様、お待たせ致しました。」

「じいや・・・その傷・・・!」

いや、そんなもの分かりきっていることだ。

「じいや・・・ヴァレットは・・・。」

「・・・『敵』は無事、排除致しました。」

「・・・そうか。」

じいやは私が気落ちしないよう、敢えてキツイ言い方をしているのだろう。

そうだ。

落ち込むのは全てが終わった後だ。

「じいや、すぐにでも民間人の救助を・・・ッ!!?」

じいやが一瞬ほくそ笑んだのに気づく。

「!!?」

身体が停止して意識だけが働く状態になる。

じいやが撃った銃弾が私の腹部を貫いていた。

「ッ!」

意識が身体に戻る。

未来が見えた瞬間だ!

でも、信じられない。

どうしてじいやが!?

「くっ!!」

咄嗟に身体をずらすが、今の気の迷いが判断を鈍らせ、じいやが撃った銃弾は脇腹を突き抜ける。

「がはっ・・・ぐっ・・・じいや・・・何故・・・!」

「『じいや』・・・それは誰のことでしょうか。」

「は・・・?」

困惑する私に対し、じいやは気味が悪い程に優しく微笑む。

「言ったではありませぬか、『敵』は排除したと・・・わたくしの『敵』、『執事長』を・・・。」

「まさか・・・!」

「ふふふ・・・。」

じいやは笑うと、白かった髪が紫に染まり、瞳も赤くなる。

「ご機嫌麗しゅう、ヘイル様。」

「ヴァレット・・・じいやの身体を・・・!」

「満身創痍ゆえ、身体を乗り換えさせて頂きました。」

「そんな・・・!」

『ヒャハハハ!それよそれ!その青ざめた顔!俺が見たかった顔だよ!最高だねぇ!!』

「くっ・・・!」

ヴァレットは一歩、また一歩と近づいてくる。

『これでニ対一だ!さぁどうする!?』

多勢に無勢、しかも敵の一人は手練れ。

明らかに此方が不利だ。

「母様・・・!」

ネージュが私にしがみつき、心配そうに私を見上げる。

「・・・。」

黙ってネージュの頭を撫でる。

「母様・・・?」

「心配するな、ネージュ。母様は強いぞ。こんな状況、すぐになんとかしてやる!」

精一杯笑みを向けてネージュを励ます。

『へぇ?じゃあどうすんの?』

「・・・。」

奴の言葉を無視して槍を掲げる。

『何してんだ?そんな無防備だったら死ぬぞ?ほら。』

ダークファルスの言う通り人型ダーカーは私に襲いかかってくる。

「・・・。」

だが私は動かない。

人型ダーカーは今にもその爪で私の喉元を貫こうとした瞬間・・・。

「ッ!」

今だ!

私は槍の先に意識を集中させる。

すると槍の先から突如眩しい光が放たれる。

『ぐあぁッ!』

遠目から見ていたであろうダークファルスですら、目が眩んだのだろう。

テレパシー越しに苦しそうな声がする。

『くそっ、何処だ!何処に行った!』

私達がいた場所は既に藻抜けの空だった。

 

 

ーーー私達は少し放れた物陰に隠れていた。

奴等と戦いながら民間人の救出は流石に消耗が激しい。

一旦身を隠してやり過ごした方が良さそうだ。

『無駄だぜぇ~?こうやってテレパシーで会話出来んだ。何処にいたって分かるぜぇ?』

「くっ・・・!」

『諦めて出てこいよ?』

「黙れッ!」

『ほら、出て来いよ。』

「・・・。」

焦るな。

奴の挑発に乗れば今やったことが水の泡だ。

いや、待て。

奴とてダークファルス・・・我々人間と同じ感情を持っている存在だ。

逆に挑発してみれば何かしらの隙は作れるのではないか?

「そうやって貴様自身は挑発するしか出来んのだな、直接戦闘が出来んのであれば、貴様自身の力など程度が知れるな。」

『ほらほら、もしもーし?聴こえてんの?何か言い返してみたらぁ~?』

「・・・何を言っても無駄か?」

『ほーら、隠れてるだけだとどんどん民間人死んじゃうよ?いいの?宮司の一族様よ!』

「誰がそんな挑発に・・・。」

何かがおかしい。

『神託のフォトンっつってもそんなもんなの?』

「・・・。」

『んじゃびくびく怯えて隠れてればぁ?民間人見殺しにしたいならいいけどさぁ?』

こいつ、さっきから一方的にしか喋ってないか?

『あーあ、しらけるわぁ、こんな奴に【従者】追い詰められ

「お前の母ちゃんデーベソ。」

てたのー?ダッサ!』

「・・・。」

『まじさぁ、雑魚なら雑魚らしく根性見せようとか思わないわけぇ?ほんっと情けないわぁ!』

「・・・。」

やっぱりな。

奴は此方にテレパシーを送れるが、私達の声が奴に直接聞こえているわけではないようだ。

そうでなければ私が今割り込んでまで言った突拍子もない変な発言に何かしら反応があるはずだ。

奴等は此方を感知する力はない。

テレパシーも通信機で会話をするような物ではなく、一方的にメッセージを送っているだけのようだ。

先程会話が出来ていたのはおそらく、奴が近くに居て声を直接拾っていたのだろう。

「・・・?」

ネージュが何やら私のお腹を見ている。

「ネージュ?」

「母様・・・出べそなのか?」

「は?」

「だって母様、『お前の母ちゃんデーベソ』って・・・。」

「違う!そなたに言った訳ではないぞ!?はっ・・・!」

慌てて私は口を塞ぐ。

「母様・・・?」

「ネージュ、あんなこと言っているが奴は私達の居場所に気づいていない。大声を出さなければ奴に私達の会話は今聞こえない。だから小さい声だ。しーっ。」

「・・・!」

ネージュは慌てて口を塞ぐ。

いつもなら何かしら言う行動だが今はありがたい。

ただ、状況は芳しくない。

『オラどうすんだよ!このままじゃアルクトゥスの奴らみんな死んじまうぞ!?』

「・・・。」

奴の言う通り、このままでは民間人がどんどん死んでいく。

だが出ていけば奴等の包囲からは逃げられない。

それに・・・。

「ッ・・・!」

痛みが走り、脇腹を押さえる。

血が出ている。

さっきヴァレットにやられた傷だ。

「母様・・・。」

ネージュは心配そうに私を見る。

「大丈夫だ。ネージュ、母様がそなたの前で無様に負けたことあったか?」

「・・・。」

「・・・?ネージュ?」

ネージュは目を閉じて私の傷口に手を翳す。

「・・・今治すのじゃ。」

「・・・!」

ネージュの手から微弱だが光が灯る。

レスタだ。

だがまだ子供な上にアークスとして経験の浅いネージュの力では傷を治すには至らず、僅かに痛みを和らげる程度だ。

「むむむ・・・ぷはっ!」

ネージュは息を切らすとすぐに光は消える。

「・・・どう?母様?」

「・・・ありがとう、ネージュ。」

ネージュの頭を撫でた。

傷はほとんど治っていないが、その気持ちだけは嬉しかった。

だが現実は甘くない。

敵はダークファルス二体。

それもネージュを連れた状態で戦わなければならない。

今のままでは勝つことは愚か、ネージュも危ない状況だ。

「・・・。」

方法は無くはない。

だがこの手段は賭けに近い上に奴らへの勝率も下がる。

「・・・ふふ。」

宮司の一族とはいえ、私も人の親だな。

それが一番正しいと思える。

「母様?」

ネージュは急に笑った私の顔を不思議そうに覗き込む。

「ネージュ・・・。」

ネージュの肩に手を置く。

「そなたにしか頼めない事がある。」

 

 

~ノワール アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「ぎゃあああああッ!」

「いやああああああああああああッ!!」

「は・・・はは・・・。」

悲鳴が飛び交う市街地を俺は笑いながらふらふらと歩いていた。

俺はこの時代に来て何がしたかったんだ。

ダーカーの襲撃は愚か、 助けたかった奴らも助けられなかった。

「何が・・・『神託のフォトン』だ。何が『神』だ。」

そうだ。

俺は『あの時』から、神の存在など切り捨てた。

この世界に神なんかいない。

『神託のフォトン』なんて何処のおめでたい頭のやつが名付けた?

俺にこんな仕打ちをする存在の何処が『神』だ!?

「『神』なんかいない・・・いないんだッ!!」

阿鼻叫喚の戦場の中、誰にも聞こえもしない声で叫んだ。

「いるって言うならッ!!」

人々が逃げ惑い、ダーカーが人を殺す残酷な風景に向かって叫んだ。

「何故俺達を救わなかったッ!!」

建物が崩壊し、爆炎の舞う中、人々がダーカーに殺される惨状に叫んだ。

「・・・。」

次第に虚しさが胸の中を覆い尽くし、膝を着き、次第にその気力すら無くなり、横たわる。

「・・・。」

あの時もそうだった。

ただ絶望し、こうして空を見上げたまま意識を失った。

「今度こそ・・・死ねるかな・・・。」

思えば無意味な事をしてきた。

死んでいった奴らへの罪滅ぼしとか言いながらダーカーを狩っていたが、結局のところただの自暴自棄な八つ当たりだった。

そんな所へ過去を変えるチャンスが来たかと思えば、この様だ。

結局、俺はあの甘い頃の自分となにも変わらない、ただのクズだった。

「・・・。」

結局、神託のフォトンが俺にやらせたかったことはなんだったんだ?

まぁ、おそらくはもう出来なくなったことかもしれない。

俺はずっと元の時代に戻れずにここで朽ち果てるだけなのかもな。

「どうでもいい・・・。」

こんな苦しみを繰り返すくらいならいっそ・・・。

「・・・ル!!・・・ール!」

「・・・?」

何か聞こえる。

阿鼻叫喚しか聞こえないはずなのに、その声だけが変に気になった。

いや、気のせいだ。

無意識に希望にすがって何かに耳を傾けただけだろう。

 

 

「・・ワール!ノワール!!」

 

 

「・・・!」

俺は身体を起き上がらせる。

気のせいじゃない。

俺の名前を呼んでいる。

『一体誰が?』という疑問と同時に驚くことがあった。

あり得ないのだ。

俺はこの時代に存在するはずがないのに何故・・・。

「ノワール!ノワール!!」

「!」

声が近くなった事で姿が見え、声の主が確認できた。

ネージュだ。

走りながら俺の名前を呼んでいる。

「・・・。」

急に虚しくなった。

どうせヘイルに名前を聞いて適当に探しているんだ。

第一俺は透明な上に物に触れない幽霊みたいなもんだ。

助けを呼んだつもりだろうが、宛てが外れたな。

「ノワール!!ノワールゥ!!」

「・・・。」

うるさくて仕方がない。

場所を変えるか。

立ち上がり、ネージュの横を通りすぎようとした瞬間だ。

 

 

「お主、アークスか?ノワールって男が何処か知っておるか!?」

 

 

「・・・え?」

今、こいつ・・・。

「・・・。」

落ち着け、こいつはたまたま近くの奴に・・・。

「お主の他に誰がいるのじゃッ!!」

「・・・俺?」

真っ直ぐに俺を見る。

周りを見渡していたが他の人間は此処にはいない。

「まさかお前・・・俺が見えるのか!?」

なんでだ!?

見えないんじゃないのか?

『良かった。ネージュはどうやら合流出来たみたいだな。』

「!!?」

「母様!」

ヘイルのテレパシーだ。

どうやらネージュにも聞こえるみたいだ。

「おい、こりゃ一体どういうことだ!」

『ネージュに神託のフォトンを半分継承し、与えた。』

「継承・・・?ちょっと待て、こいつは選定の儀はやってないだろ!?」

そう、神託のフォトンの継承には本来選定の儀が必要なはずだ。

『しきたりではそうだが、神託のフォトンは本来直接継承することが出来るのだ。』

「どういうことだ!?」

そんなことが出来るなら選定の儀なんて必要ないじゃないか!?

『選定の儀は選定の神狐の像に神託のフォトンを返還し、像が選んだ者に神託のフォトンを与える仕組みだ。宮司の一族は継承者の候補が複数いる場合、跡取り争いを防ぐために、このようなしきたりを儲けていたのだ。』

「・・・とりあえず内容は分かった。けどなんでいきなりこんなことをした!」

『そなたに頼みがあるからだ。』

「頼み・・・?」

 

 

『ネージュを連れて、今すぐこのアルクトゥスから脱出してくれ。』

 

 

「・・・は?」



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第二十五章 ~選択と誓い~

 

~ノワール アルクトゥス 市街地(七年前)~

 

「・・・何、言ってんだよ。」

『言った通りだ。ネージュを連れて逃げてくれ。』

「どういう事だ、なんでそうしなきゃいけなくなる・・・!」

『ダークファルス二体と戦っている・・・ネージュを連れたままじゃ無理だ。だからネージュを安全なアルクトゥスの外に連れていってほしい。』

「お前・・・それ・・・一人で戦ってんのか!?」

どう考えたって無理だ!

『ああ。』

「それに・・・神託のフォトンを半分って・・・力が半減してんじゃねぇのかよ・・・!?」

『・・・。』

ヘイルは答えない。

「母様・・・は、話が違うのじゃ!ノワールを呼んできてくれって・・・。」

ネージュは顔を青くしてヘイルに叫ぶ。

『すまない、ネージュ。そうでも言わなければそなたは動かないからな。』

「いやじゃ!!母様一人で戦うなんて無茶じゃ!!それにノワールもアークスなんじゃろ!?だったら・・・。」

『残念ながらその者はこの世界に実体を持たない存在なのだ。故にこの世界に干渉することは出来ない。』

「な、何言っとるのじゃ、母様?分かんないのじゃ・・・!」

「こう言うことだ。」

「へ・・・?」

俺は近くの壊れかけの車に触れようとする。

しかし車には触れず、手が車を貫通する。

『この世界の物を触れない。つまり、ダーカーと戦えないんだ。』

ヘイルがネージュに説明する。

「・・・。」

ネージュは立ち止まったまま動かない。

「・・・んのじゃ。」

『ネージュ?』

「分からんのじゃッ!」

ネージュは耳を塞いで叫ぶ。

「二人が何言っとるのかわしには分からん!!分からあぁんッ!!」

ネージュは必死に叫ぶ。

どう見ても分かってて分からない振りをしているだけだ。

『ネージュ、聞き分けろ!そなたを助けるためなのだ!』

「嫌じゃ嫌じゃッ!!!」

「・・・。」

二人が争うなか、俺はそれを静観していた。

俺だって助けられるものなら助けたい。

だが状況が絶望的だ。

苦渋の選択、どっち付かずな状況だ。

だが、采配は俺に委ねられている訳ではない。

決めるのはネージュだ。

俺はこの世界に干渉出来ない。

つまり、こいつに触れられないので無理に連れ出す事が出来ないのだ。

だからこいつが嫌だと言えばそれまで。

連れて逃げるのは不可能だからだ。

「ノワールッ!!」

ネージュは俺のコートの裾を掴んで俺の名を呼ぶ。

「え・・・?」

なんで・・・こいつ・・・裾を掴んでるんだ?

触れないはずなのに・・・!

「母様は今撃たれて怪我しとるんじゃ!今のままじゃ絶対戦うなんて無理じゃ!!お願いじゃ!母様を助けてほしいのじゃ!」

ネージュの話よりも気になって仕方ない事がある。

「・・・。」

ネージュの頭に手を伸ばす。

「ッ!!」

触れた!!

「くっ・・・!」

神託のフォトンを持った奴には触れるのか・・・!

いや、考えてみればあり得ることだ。

俺を見て俺と話す。

他の人間が出来ない事をこいつらはやってのけるんだ。

出来ない訳がない・・・!

くそ、なんてこった・・・!

采配は最初から俺に委ねられていたんだ!

「・・・ぅ!」

急に嗚咽感が込み上げてきた。

『ノワール・・・ネージュを助けられるのはそなただけなのだ!お願いだ、ネージュを・・・私の娘を助けてくれ!』

「・・・!」

そうだ。

俺に出来るのはせいぜいこいつを運ぶことだけ・・・だったら迷う理由なんて・・・。

「嫌じゃ!!嫌じゃ!!連れていくなッ!!」

「ッ!?」

ネージュが泣きながら俺の足元にしがみつく。

「助けてッ!!母様を助けてぇ!!お願いじゃ!!母様を・・・助けでッ!ノワールゥ・・・ぅぐ・・・!お願い・・・お願い・・・!」

「うっ・・・!」

くそ・・・こんなときに罪悪感逆撫でしてきやがって・・・!

俺だって助けられるなら助けたい・・・助けたいんだよ!

でも・・・。

 

 

『いや、助けて!!ぎゃあああああッ!!』

 

 

さっきの助けられなかった民間人の姿を思い出す。

あの時、銃を出せなかった。

俺はこの世界じゃ戦えない。

「母様を・・・助げで・・・ぅぐ・・・えぅ・・・うあぁっ・・・!」

「くそ・・・ちくしょう・・・!」

俺はこんな泣いている子供を・・・!

 

 

「くそがああああああぁぁぁぁぁッ!!!」

 

 

「ッ!?」

俺はネージュを掴み、肩に抱えて走り出す。

「戻れッ!戻るのじゃッ!!」

ネージュは必死にもがき、俺の背中を殴りながら叫ぶ。

「うるせぇッ!黙ってろ!!」

「戻らないなら降ろせぇッ!!わし一人だって母様をッ!!」

「お前みたいなガキが行って何が出来るッ!!黙って運ばれろ、このアホッ!!」

『ありがとう・・・!』

ヘイルでテレパシーを送っているが、その声は涙ぐんでいた。

「うるせぇッ!!礼なんか言うんじゃねぇッ!!」

『そうだな・・・すまない・・・。』

「俺に・・・こんな事させやがって・・・!」

『頼んだぞ・・・ネージュの『縁者』よ・・・!』

「・・・ッ!」

『縁者』・・・?

なんだそれは・・・。

「おい、なんだよ、『縁者』って・・・!」

『そうだな、そなたには話しておくべきだな。『縁者』とは、神託のフォトンの加護を受けた者だ。』

「加護・・・?」

『身に覚えはないか?ネージュに力を与えられ、数秒先の未来が見えるようになったり、見えないはずの物が見えたり・・・。』

「・・・まさか!」

そう、覚えがあった。

元の時代のネージュと一緒に不時着したこのアルクトゥスを脱出する際の事だ。

あの時にネージュが力に覚醒し、俺に力を与え、敵の動きが見える上に脱出の為の道筋まで見えた。

『覚えがあるのだな?』

「その時に俺は縁者にされたってのか・・・!」

『そうだ、そなたは縁者・・・だからこそ神託のフォトンに導かれ、この時代に来たのだ。』

「くそ・・・なんで・・・なんで俺なんだよ!」

『不服か?だが仕方ないだろう、それこそ、神託のフォトンの気まぐれというやつだ。』

「ふざけんな・・・ふざけんなよ!そんなのでこっちは二度と見たくないもの見せられたんだ・・・!」

『それはすまなかったな。』

「お前が謝んじゃねぇよ!」

『そうだな・・・。』

「・・・。」

『・・・。』

それから会話が止まる。

『こんな状況だから言うがな・・・。』

「なんだよ・・・。」

『そなたの時代のネージュの話を聞きたかった・・・。』

「・・・!」

そんなこと・・・。

「俺だって話したかった・・・文句言ってやりたかったよ!こいつにどんだけ迷惑被ったか・・・!」

何度もしつこくスカウトしに来たことを思い出す。

「ホントアホだよ・・・こいつは・・・よく纏わりついてきて鬱陶しくて・・・!」

俺がアルクトゥスに不時着したときについてきていた事を思い出す。

「とんでもなくお節介で・・・!」

エスカが操られて自爆しそうになった時、捨て身で助けたことを思い出す。

「誰かを助ける為に後先考えなくて・・・!」

戦闘狂だの言われ、何も言えなかった俺の為に必死に怒鳴りつけたことを思い出す。

「優しすぎるアホだよッ!」

『そうか・・・それを聞けてよかった・・・ありがとう。』

「これで満足かよ・・・!」

『ああ、そろそろ時間だ・・・会話はここまでとしよう。』

「どういうことだ・・・?」

『これからできる限り時間を稼ぐ。その間に逃げてくれ。』

「・・・。」

本当ならふざけるなと言って止めにいくが、今の俺にはそんなことが出来るわけがない。

『ネージュを頼んだぞ・・・。』

「・・・ああ。」

「母様ッ!母様ああぁッ!!」

ネージュが必死にヘイルに叫ぶ声を聞きながら、俺は自分の無力さを呪いつつ市街地を駆け抜けていった。

 

 

~ヘイル アルクトゥス市街地(七年前)~

 

良かった。

無事にネージュは脱出することが出来そうだ。

「・・・ふふ、随分と長く話してしまったな。」

笑ってはいたが、これは虚勢だ。

「これでは殿の意味がないな。」

身体が震えているのを必死に押さえる。

「・・・。」

怖いのだ。

ネージュの前ではいつも毅然としていたが、私もただの人間だ。

宮司の一族だからと言ってもただの人間だ。

本当は私は情けないほどに臆病だ。

これから死にに行くのが怖くない訳がない。

逃げたかった。

ネージュと一緒に地の果てまで逃げたかった。

だがそれはできない。

私は宮司の一族。

例えアルクトゥスの民に知られずとも、感謝されずともアルクトゥスの民を守る守護者なのだ。

それに私はネージュの親だ。

子供を守るために手段を選ぶ訳がない。

例え自分を投げ捨ててでも。

「いや・・・そんなのは言い訳だな。」

そう、これは罰。

ヴァレットを止めることが出来なかった私への罰。

ヴァレットの想いを受け止めることが出来なかった私への罰。

私は最初から全てを知っていた。

彼女がダークファルスであることを・・・。

彼女が仲間と連絡を取り合い、今日の襲撃まで水面下で動いていたことを・・・。

孤児を装って私に近づいてきた彼女を拾った五年前から知っていた。

始めは彼女を餌に仲間をおびき出して一網打尽にして殺すつもりだった。

そうとも知らずに嘘くさい笑みで私に仕えていた彼女が滑稽だった。

しかし、そうした芝居の中で、私は彼女の色々な面を見てきた。

慣れない事には初々しい反応を見せるし、本当に好きなものには見た目相応の可愛らしい笑みを見せる。

それを見るたびに私は彼女を殺すことを先延ばしにした。

そうして先伸ばしにしていくうちに、彼女の嘘くさい笑みは消えていた。

心の底から愛情に満ちた眼を向けてきていた。

そう確信した時、私は彼女を殺す事をやめた。

当然、事情を把握していたじいやには反対されたが、彼女の中に何かが芽生えた気がしたからだ。

私の我が儘だが、最後にじいやは折れて私に賛同してくれた。

だが、彼女はある日を境に私に対し、憎悪に満ちた眼を向けるようになった。

それが何かは分からなかった。

次第に私は彼女から距離を取るようになってしまっていた。

それから息を吹き替えしたかのようにじいやは私に彼女を殺す事を提案した。

彼女が選定の儀を利用して神託のフォトンを手に入れようとしていたからだ。

しかし、彼女の思いも分からずに殺すことは出来ない。

そう言うとじいやは条件を突きつけてきた。

もし、彼女が私に敵意を抱いているなら殺せと。

これが最後のチャンスだった。

だから一人の時に本音を聞いて貰うよう彼に頼んだ。

原因は分からなかったが、結局彼女は私を恨んでいたのだ。

しかしこれだけは言える。

「私が・・・悪いんだ・・・。」

そう、私が彼女から距離を取ったのがいけなかった。

こんな事になる前に彼女と向き合い、本音を聞き出し、わだかまりを解くべきだったのだ。

「なんで・・・なんでこうなっちゃったんだろうな・・・。」

ヴァレットはダークファルスとして私から離れ、じいやは私を守るために犠牲になり、ネージュも私が逃がして離れていった。

「なんでだろうな・・・!」

みんな・・・私から離れていった。

だが、これは全て私の罪だ。

私が全て招いた事だ。

「ヴァレット・・・ごめん・・・ごめんね・・・!」

涙が止まらなかった。

「ッ・・・!」

すぐに涙を拭う。

奴等がネージュを人質に取るために探し回っているかもしれないのだ。

私が注意を引かねばならない。

「私はここだッ!」

叫んで物陰から飛び出した。

人型ダーカーが此方に気づいた。

「逃げも隠れもせん!何処からでもかかってくるがいい!」

最後まで私は戦う。

最後まで宮司の一族として・・・。

最後までネージュの親として・・・。

最後まで・・・『ヘイル』として・・・!

 

 

~ノワール キャンプシップ~

 

道順は分かっていた。

前に神託のフォトンが発動したネージュと共に脱出したし、潜入したばかりだ。

市街地の道筋も分かるので敵を振りきりながらゲートエリアまですぐに駆け込んだ。

端末はネージュの手を使って操作し、キャンプシップを動かし、脱出まで漕ぎ着けた。

「・・・。」

ネージュは最初こそ泣き喚いていたが、今は何も言わず、無表情な人形みたいになっていた。

「・・・。」

俺はというと、そんなネージュに声もかけず、ただ座り込んでいた。

「・・・。」

「?」

ネージュは立ち上がったかと思うと、俺のほうへ歩みより、立ち止まったまま動かなくなる。

「・・・殴れよ。」

こいつのしたい事なんか分かってる。

俺が憎いはずだ。

母親を見殺しにして逃げた卑怯者だ。

殺したいほど憎んでいるだろう。

俺だってそうだ。

大事な奴を殺したり、死なせたりする奴は憎い。

だからこうしてダーカーを殺す殺戮狂に成り果てた。

「ッ!」

ネージュは思いっきり俺の顔を殴った。

「・・・。」

大して痛くなかった。

当然だ。

俺はキャストだ。

見た目をいくら人間に近づけたところで身体は硬い。

寧ろネージュの拳の方がダメージがあるくらいだ。

だが、その拳には憎しみが籠っているのだけは痛いほど伝わった。

「・・・ぅぅ。」

ネージュは殴った拳を押さえて踞る。

「・・・どうした。」

俺は立ち上がる。

「もう終わりか?」

「ッ!」

俺の挑発に、ネージュはかちんと来たのか、何度も何度も腹部を殴り付けてきた。

拳は血が流れてきたが、それでも俺の身体を殴る事をやめない。

「・・・。」

俺は抵抗しない。

当然だ。

俺はこいつに殴る事の何百倍も酷いことをした。

こいつの拳を止めることも、避けることもしない。

その資格はない。

「・・・?」

「・・・。」

ネージュは突然殴るのをやめる。

「・・・どうした。」

「・・・。」

「俺が憎いだろう?殴るだけじゃ気が済まないか?だったら・・・。」

「もういい。」

「・・・?」

なんだ?

「こんなことしても母様・・・喜ばないのじゃ・・・。」

「・・・。」

こいつからは想像もつかない程冷静な言葉だ。

「お主はわしをたすけた・・・母様の望むことをした・・・助けてくれた人にはお礼を言えって母様・・・言ってたのじゃ・・・。」

「・・・。」

「ありがとう・・・。」

「・・・。」

「ありがとう・・・!」

「・・・。」

ふと思ってネージュの手を見る。

震えていた。

拳を握っていた。

言葉にない気持ちが手に取るように分かる。

「ッ!?」

突然のことにネージュは戸惑う。

俺がネージュを抱きしめたからだ。

「・・・このアホ。」

「・・・え?」

「ムカついたら怒れ・・・泣きたかったら泣け・・・。」

「・・・!」

「親と引き離されたガキが我慢なんかすんじゃねぇ・・・!お前は泣いていいんだッ!」

「・・・! ひぐっ・・・えぐっ・・・・!」

俺が言い聞かせた途端、ネージュは目を涙ぐませる。

「うあああああああああ!わあああ!」

ネージュは声を露にして泣いた。

まるで赤子のように泣いた。

泣き崩れ、座り込んだらそれに合わせて俺も座って抱きしめた。

しばらく泣くと、ネージュはまた大人しくなった。

「ノワール・・・。」

「なんだ・・・?」

「わし、これからどうすればいい・・・?」

「そうだな・・・ん?」

自分の身体の異変に気づく。

身体が光始め、段々透明になり始めたのだ。

「・・・!ノワール・・・?」

ネージュも気づいた。

「ああ、なるほどな。」

容易に理解出来た。

「なんじゃ・・・お主・・・どうなっとるんじゃ・・?」

ネージュは分かっていない。

「悪いな・・・俺、もうすぐ消える。」

そう、神託のフォトンが俺をこの時代に飛ばしてやらせたかったこと・・・それは、この時代のネージュをこうして助けさせる事だったのだ。

「え・・・?」

ネージュは顔が青ざめる。

「そんな・・・お主まで居なくなったらわし、どうすればいいのじゃ!」

「さっきも聞いてきたなそれ・・・。」

俺はネージュの頭に手を乗せる。

「いいさ、教えてやる。」

答えは解りきっている。

 

 

「アークスになれ。」

 

 

「・・・!」

ネージュはきょとんとする。

「そしたら、また俺と会える。」

「・・・ホント?」

「ああ。それに仲間が一人出来る。」

「仲間・・・?どうしてそんな事わかるのじゃ?」

「俺は未来から・・・いや。」

そう言えば未来の事を言えば遮られるよな。

あんまり本当のこと言えないな。

なら・・・。

「俺は予言者だからな。」

「予言者・・・?」

「で、この予言は百パー当たる自信がある。」

「お主にまた会えて、仲間が出来るのか?」

「そうだ。」

「ホントに?」

「ああ。」

「・・・!」

ネージュは途端に笑顔になる。

「わし・・・アークスになる!」

「ああ。」

今の事を知ったら、こいつと初めて会った時の俺は恨むだろうな。

そんな下らないことを考えながら俺は相槌を打った。

「・・・!」

段々視界が薄くなってきて、自分の身体も益々透明になってきたのが分かる。

そろそろ限界みたいだ。

「そろそろ時間だ。」

「・・・!」

ネージュは途端に顔が悲しそうになる。

「そんな顔すんなよ。」

「ぬぁッ!?」

わしゃわしゃとネージュの頭を撫で回す。

「サヨナラじゃねぇよ、『またな』。」

「・・・!おう!」

ネージュは涙目で必死に笑みを見せる。

その必死な笑みを最後に、俺の視界は真っ白になり、次第に真っ暗になった。

 

 

・・・!

 

 

「・・・?」

何か聞こえる。

なにも見えなくなったが、声のするほうへ歩く。

 

 

・・・ール!

 

 

「・・・。」

どうやら合っているみたいだ。

声が近くなった。

 

 

ノワール!

 

 

「・・・。」

歩くのをやめ、走り出す。

すると光が見えてきた。

俺が光のもとまでたどり着くと、今度は光の眩しさで辺りが見えなくなった。

 

 

~ノワール アルクトゥス 屋敷(現在)~

 

「ノワール!おい、ノワール!」

「ちょっと、どうしたのよ!」

「しっかりしてください!」

「・・・。」

セトとラパンと屋敷前で同行した女のうるさい声に目を覚ます。

「え、あ、なんだ。脅かすなよ・・・。」

俺が気がついた事にセトを始めとして三人は疲れきったように脱力した。

「・・・戻ってこれたか。」

「・・・は?」

「何言ってんの?」

起き上がりながら言うセリフに、セトとラパンは声を合わせて困惑する。

「・・・俺はどれだけ寝てた。」

「え、どれだけって・・・。」

セト達は困ったように顔を見合わせる。

「どれだけだよ。」

「いや、どれだけって言われても・・・。」

「早く言え。」

「倒れて数秒で気がついたわよ、あんた。ホントにどうしたの?」

「数秒・・・!」

数秒って・・・。

「たった数秒の間であんなことが起きたのか・・・。」

「は?何言ってんだよさっきから・・・。」

「気にすんな。さぁ、行くぞ。」

すぐに立ち上がる。

「行くって何処に・・・?」

「この屋敷は全て探索しました。貴方も知ってるはずです。」

セトと女は俺に疑問を投げ掛ける。

「大丈夫だ。行き先はもう分かった。」

「「「え!!?」」」

三人は声を合わせて驚いた。

 

 

~ネージュ キャンプシップ(七年前)~

 

「・・・。」

目の前の男は消えた。

最初は憎かった。

でも、わしの事を想って怒ってくれた。

母様みたいじゃった。

それに、凄く嬉しいことを教えてくれた。

いい奴じゃった。

「待っておれよ・・・ノワール・・・。」

そうじゃ、あやつは言っておった。

アークスになれば会えると・・・。

「頑張るからな・・・わし・・・!」

笑顔にしたけどもう限界じゃった。

「わし・・・アークスになるんじゃ・・・絶対・・・絶対・・・!」

涙が止まらなかった。

「母様・・・じいや・・・!わし、頑張るからな・・・!」

そうじゃ、あやつに会うだけじゃない。

じいやも母様もきっとそれを望んでおるはずじゃ・・・!

「わし・・・頑張る・・・頑張るから・・・う・・・うぁ・・・うああぁ・・・わあああ!」

わしはその場に泣き崩れた。



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第二十六章 迷宮の宴

~ノワール アルクトゥス 屋敷~

 

屋敷の庭の中心に着いた所で俺は歩を止める。

「? ノワール、どうした?」

セトはまだ俺が何処かに進むと思っていたようで、立ち止まった事に困惑する。

「此処だ。」

「此処って・・・別に何もないじゃない。」

ラパンもセトと同じ反応だ。

「さっき僕らが見てない間に頭打った?」

「レスタかけようか?」

「うるせぇ、黙って見てろ。」

哀れみ染みた言葉を一掃して庭の中心を向き、両手を肩の高さまで軽く翳す。

確か、こうだっけか?

 

 

「『彼の御光を継ぎし者、此処に在り、我が意を叶え、彼の地へ我等を導きたまえ』。」

 

 

『合言葉』だ。

ついさっきの出来事だから覚えている。

これで合ってるはずだ。

「・・・。」

だが・・・。

「・・・。」

何も起きない。

「・・・。」

敢えて後ろを見ない。

何が起こっているか分っているからだ。

「こいつ最近イタイ漫画でも見たのかな・・・。」

「いや、私も色々本とか小説みるけどこんな状況でこんな台詞吐いたやつ見たことない・・・。」

「さっき気を失っている間に変な夢でも見たんでしょうか・・・いや、それにしても・・・。」

「・・・。」

後ろから容赦のないヒソヒソ声が聞こえる。

頼む、なんでもいいから何か起こってくれ・・・!

この状況だと『間違えたかな?』っていうのですら恥ずかしい・・・!

「ノ、ノワール・・・言っちゃ悪いんだけど・・・。」

「彼の・・・」

「! 見てください!」

女が異変に気づく。

空間が歪み、歪みは穴となり、階段が現れた。

「か、階段・・・!」

「・・・。」

セトを始め、残り二人も唖然とする。

それを見ていると、ヘイルが此処を開いたときの自分を客観的に見ているような気がした。

「『テンプルエリア』に繋がる道だ。」

「お前、なんでこんな事知ってるんだ・・・!」

「ついさっき知った。」

「は!?意味分かんないんだけど・・・。」

「話は後だ。行くぞ。」

「は、はい・・・。」

俺達は歩を進め・・・。

「ねぇ、ノワールさん。」

「?」

後ろから声がして振り向くと、ルナールがいた。

ラパンについてきてたか。

まぁ別におかしい話ではないが・・・。

「なんでさっき言い直そうと・・・って痛い痛い痛いッ!!なんでなんで!!なんでまたこれッ!?」

余計な事を言いそうだったので反射的に前のようにルナールの頭を掴んで押し潰すように上から力を加える。

「ちょっと!ルナールになにすんのよ!」

ラパンは突然のことに驚きながら怒る。

「別に・・・いいだろ、行くぞ。」

俺達は階段を降りる。

降りると以前のように像の道にでた。

だが・・・。

「ハッ・・・ですよね・・・。」

案の定、ダーカーがうじゃうじゃと群がっていた。

 

 

~ネージュ アークスシップ メディカルセンター(七年前)~

 

「・・・。」

わしはなんの目的もなく無く歩いていた。

結局ノワールも消えてしまい、わしはひとりぼっち。

目標はある。

アークスになればノワールに会える。

家族もいなくなった今、わしが頼れるのはあやつだけじゃ。

やることは分かってる。

でも、やっぱり心は浮かばない。

母様やじいやのことが頭から離れない。

気持ちがもやもやするのじゃ・・・。

それに・・・。

「・・・。」

此処には知らない者しかいない場所・・・。

母様は言っておった・・・。

 

 

『ネージュ、他所ではちゃんとした言葉遣いを心掛けるのだ!』

 

 

「・・・。」

他所ではちゃんとやるって言ってたけど、やっぱり無理じゃ・・・。

この話し方以外だと話しづらい。

じゃけど、大丈夫じゃ。

わしから話すような事が無ければ。

「・・・?」

俯きながら歩いておったせいか、何かを見つける。

ロケットじゃ。

「・・・。」

落とした者には悪い気もするが、中身を見てみる。

写真が中にあった。

わしと同じ年くらいの少女とその傍に大人の男がいた。

男の方が此方に手を伸ばしている辺り、カメラを撮ったのが男みたいじゃ。

少女の方は、急に抱き寄せて頬をくっ付けられたのか、顔を赤くして慌てた顔をしておる。

余程仲がいいんじゃな。

親子じゃろうか。

きっとこの親子もわしと母様のように幸せなんじゃろうな。

わしの方はもうその幸せな時には戻れんがな・・・。

「ひっく、うぐ・・・!」

「・・・?」

子供の泣く声がするのでそっちを向くと・・・。

「ひっく、怖かったよぉ・・・!」

「はいはい、でも大丈夫。お母さんもあなたも無事だったんだから泣かないの。」

「・・・。」

泣く子供を母親が優しくあやしておった。

「・・・。」

わしも母親がいればこんなことして貰えたんじゃろうな。

母様・・・。

「・・・ッ!」

涙が出そうじゃが拭った。

なんとなくじゃが、あの親子に泣いとる所を見せたくなかった。

急いでわしは親子の元を離れた。

 

 

~難民区域~

 

とにかく人のいない所へ走ってなんとか落ち着く。

「・・・いいなぁ。」

ロケットを開く。

さっきの親子、ロケットの中の親子。

皆親がおっていいなぁ。

わしだけいない。

なんでわしだけいなくなったんじゃ・・・。

 

 

『泣きたかったら泣け。』

 

 

「・・・!」

ノワールの言葉を思い出す。

「・・・ひく、ひっ・・・ぅぐ・・・。」

声もなく泣いた。

しばらく泣くと涙が出なくなった。

もう平気じゃ。

ロビーに出る。

「・・・?」

奇妙な光景に視線が止まる。

わしと同じくらい年の女の子と小人のようなサイズの女の子の二人組じゃ。

小人のような女の子は金色のポニーテール。

普通の女の子の方は紫色の長い髪。

「?」

あれ、おかしいのぅ。

見たことない女の子なのに何処かで見たような・・・。

「!」

もしかしてと思ってロケットを取り出す。

やっぱりじゃ。

このロケットに写ってる女の子じゃ。

「お姉ちゃん・・・。」

「ルナール・・・。」

小人の女の子は心配そうに紫髪の女の子を心配そうに見る。

「大丈夫・・・大丈夫だよ?」

紫髪の女の子は笑顔でそれに答える。

「・・・。」

「・・・!」

小人の女の子が抱きしめるようにくっついた。

「ルナール・・・?」

「無理しなくていいんだよ・・・?」

「・・・!」

その言葉に紫髪の女の子は震え始める。

「うぅ、ぅぁ・・・!」

「・・・!」

これ、もしかして・・・。

「・・・。」

ロケットを見る。

あの女の子・・・きっと父親と離れ離れで泣いとるのじゃ。

このロケットが落ちてたことを教えれば・・・!

「あ・・・。」

 

 

『他所ではちゃんとした言葉遣いだぞ!』

 

 

母様の言葉を思い出す。

うぅ、話さないようにすれば大丈夫と思っとったけど、これ、話さないとどうにもならないのじゃ・・・!

でも・・・。

「ぁぁ・・・うぁぁ・・・!」

女の子が泣いとるのを見るとつらいのじゃ・・・!

すぐにそれをどうにかできそうなのに、なんでこんな、出来なくなるのじゃ・・・!

「・・・。」

覚悟・・・決めるしかないのじゃ・・・。

「あの・・・。」

「・・・!」

声をかけると紫髪の女の子はわしに気づく。

「なに・・・?」

わしに話しかけてくる。

なんじゃ・・・身体から汗が出るのじゃ・・・。

「この写真に写ってるの・・・あなた・・・ですか・・・?」

ロケットを渡して言った。

うぅ、やっぱり、話しづらいのじゃ・・・!

「これ・・・どこで・・・!」

「・・・!」

言葉を返された。

何処かと聞かれた。

メディカルセンターじゃ・・・!

「えと・・・メディカル・・・センター・・・。」

「メディカルセンター・・・!」

伝わった・・・!

伝わったのじゃ・・・!

女の子は慌てて走り去ろうとするが・・・。

「!」

女の子は戸惑う。

わしが手を握ったからじゃ。

もうひとつじゃ・・・。

もうひとつ伝えたい事があるのじゃ・・・!

「会えると・・・いい・・・です・・・ね。」

そう、見つけ出して欲しい・・・!

その父親と再会して欲しい・・・!

わしはもう母様には会えない・・・だから、わしのようになってほしくない・・・!

精一杯の願いじゃった。

「うん、ありがとう!」

女の子は笑顔で小人の女の子と共に走り去った。

「・・・。」

その場に座り込んだ。

「母様・・・やったぞ・・・わし、頑張ったぞ・・・ふふ・・・。」

胸の奥が暖かかった。

なんでじゃろ。

 

 

『ありがとう!』

 

 

「そっか・・・。」

母様はみんなの為に頑張ってみんなに感謝されておった。

母様って、こんな気持ちで頑張れたんじゃな・・・!

「わし、なるぞ・・・アークスに・・・。」

アークスになるんじゃ・・・!

そして・・・。

「誰かの為に頑張るアークスになるのじゃ・・・!」

母様みたいになりたい・・・!

いつも思ってたことじゃが、前よりずっとそうなりたいと思った。

 

 

~ノワール アルクトゥス テンプルエリア~

 

「ハァッ!」

迫り来るダーカーをセトはカンランキキョウで一閃する。

「このっ!」

カンランキキョウの射程外のダーカーをラパンはイルメギドを放ち、黒い腕がダーカー達を一掃する。

「!」

ラパンの後ろから鎌持ちのプレディカータが現れ、鎌を振り下ろして来るが・・・。

「ふぬんっ!」

ルナールが立ち塞がり、剣で攻撃を止める。

『ルナール、動かないで下さい。』

「え?うん、ってうわぁッ!」

アオの通信にルナールが相槌を打った直後、プレディカータはライフルの光弾に頭を撃ち抜かれ、絶命する。

「! 来るぞ!」

セトが何かに気づいて一同を叱咤する。

少し距離のあるところから数体ダーカーが構えていたからだ。

フレイル状の腕を持つダーカー、サイクロネーダだ。

棍棒の腕を持つキュクロナーダと見た目は似ているが、奴の腕は遠心力で伸び、遠距離からでも攻撃できる。

今にも攻撃しそうな瞬間だが・・・。

「させるかバカ。」

俺が懐に飛び込み、そのひとつ目にサテライトエイムを撃ち込む。

「まだだ。」

続けざまに他のサイクロネーダの目にもエルダーリベリオンで容赦なく弾丸をお見舞いする。

サイクロネーダは目を押さえて苦しみながら闇雲に腕を振り回す。

「くっ!」

伸びる腕のせいか、かなり範囲は広く、普通は近づけない。

だが・・・。

「終わりです・・・。」

「?」

聞き覚えのある声がしたかと思うと、サイクロネーダ達は身体中を切り裂かれ、倒れる。

「!」

倒れたサイクロネーダ達の前からあの青髪の女が現れる。

「・・・これで一先ずは片付きましたね。」

「流石に単身で乗り込んで来るだけはあるな・・・えぇと・・・。」

「『ハドレット』。」

「?」

「本来の名前ではありませんが、呼びにくければそれで・・・。」

「ああ・・・。」

 

 

「キィアアアアアアア!!」

 

 

「!」

聞き覚えのある叫び声が聞こえた瞬間・・・。

「ッ!?」

エルアーダが後ろから突進して腕の刃で俺を切り裂いて通りすぎた。

「?」

しかし痛みがない。

「!」

まさかと思って後ろを見ると同じようにエルアーダが突進してきていた。

さっき通りすぎたのは恐らくは・・・!

「くっ!」

間一髪で横に跳んで回避した。

恐らく今のに当たれば胴体を真っ二つに切り裂かれただろう。

「・・・。」

エルアーダを再度見るとやはりだ。

ゆらゆら跳んでいるので若干見え方がぶれている。

実体のない像を実体が追いかけているような・・・。

あの時ネージュに与えられた予知能力、恐らくは『縁者』の力だ。

「・・・皮肉だな。」

嫌なものを見せられた証と言える代物と言える力が、こんなところで役に立つんだからな。

エルアーダは腕を振りかぶって鎌の斬撃を繰り出すが・・・。

「・・・『首』か。」

像で動きがバレバレだ。

虚像が俺の首を掻き切ったあと、実像が攻撃が当たる寸前で上半身を軽く反らして回避し、その体勢のままサテライトエイムを食らわせる。

動きが見えるってだけで回避だけじゃなく、急所をとらえて攻撃するのも楽だ。

難なくコアにヒットし、エルアーダは絶命する。

「くそ・・・奴らだ!」

セトはエルアーダが飛んできた方角を見て冷や汗を流す。

「クキキ・・・!」

「・・・。」

またあの人型ダーカーだ。

しかも今度は五体いる。

その周りをダーカー達が気持ち悪いほど整った陣形で守っていた。

「僕らはあいつらにやられた・・・!」

セトは顔を真っ青にさせている。

「ああ、確かに並のアークスであいつらの相手は無理だな。」

「ノワール、引き際だ・・・奴らに見つかった以上・・・。」

セトは撤退を提案したが・・・。

「お前らは周りのダーカーを始末しろ。あいつらは俺がやる。」

「な!?」

「は!?」

「ッ!?」

俺の言葉にそれぞれ同時に似た反応を見せる。

「馬鹿かお前!奴は一体ですら一個中隊を全滅させるんだぞ!?」

「だからお前らはあいつの相手すんなって言ってんだ。俺が押さえてやる。」

「ちょっとあんた本気!?セトの話聞いてた!?一人じゃ無理よ!」

「待ってください、二人とも。」

俺の案に非難するセトとラパンに、ハドレットが制止をかける。

「確かに突拍子もない行動だと思います・・・ですが、なにか策がある・・・そうですね?」

「本当か・・・?」

「何よそれ・・・!」

二人が困惑する中、ハドレットは冷静に俺を見ていた。

「・・・あるにはあるが、企業秘密だ。」

「おい!?なんだよそれ!?」

「おしゃべりは此処までだ。行くぞ。」

状況整理ができていない二人を置いて俺は突っ込む。

「だああ!!くそっ、もうどうにでもなれだ!!」

セトはやけ気味に突っ込む。

「もう!!死んだらあんたの部屋に化けて出てやるからね!?ルナール!!いくよ!!」

「うん!!ドロドロ~!!」

ラパンも腹をくくって剣を構えてルナールと一緒に突っ込んでいく。

「挨拶代わりだ。」

俺は人型ダーカーに銃弾を放つ。

しかし。

「キィアアアアアアア!!」

人型ダーカーはガウォンダ四体に指示をだして盾で防がせる。

だが。

「甘いぞッ!!」

俺が銃弾を放って盾の向きを押さえているうちにセトが後ろに回り込み、素早く抜いたカタナで横に一閃、そこからカタナを鞘に納め、さらに抜いて縦に一閃食らわせる。

カタナのフォトンアーツ、『サクラエンド』だ。

だがガウォンダ達はタフでそれだけでは倒れない。

「盾でこれが防げる!?」

ラパンの言葉の直後に一番中心にいたガウォンダが爆弾になったかのように爆発する。

点座標の火炎、おそらくはラフォイエだ。

セトの攻撃の間にテクニックを練っていたみたいだ。

爆発に巻き込まれたガウォンダ達は火炎に包まれて倒れる。

そこを透かさず俺は突破する。

「・・・!」

セトの頭上を通過する際、セトが俺にサインを送ってきた。

 

 

『任せていいんだな?』

 

 

「・・・。」

俺はセトから視線を離しながらサインを送る。

 

 

『せいぜい信じてろ。』

 

 

「・・・。」

俺は人型ダーカーの群れの中心に着地する。

「クキキ・・・!」

人型ダーカーは口から武器を取り出した。

「さぁて、遊ぼうか。アルクトゥスの犠牲者たちよ。」

 



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