隣で支えるとまり木〜夢のような日々〜 ※凍結 (マウス254)
しおりを挟む

フェイズ1 デアイ
プロローグ


初めまして、マウス254です。処女作で自己満足作品ですが楽しんでくれたら嬉しいです。

ーは時間+場所の変化

□は時間のみの変化

を表しております。因みにあまりにも文が少ない所での変化はこのルールから外れると思います。
それでは、どうぞ~


 僕の名前は(たちばな)純一(じゅんいち)。高校二年生だ。別にこれから謎の取引現場を追う予定はなければ、薬を飲まされて子供にされることもない。

 

 そんな普通の僕はクリスマスに嫌な思い出がある。中学生の頃、僕は思い切ってある子に告白した。

 

 その娘は、多くの友達にアイデアを出してもらった僕が一生懸命考えたサプライズやプレゼントを喜んでくれていた。

 

  そしてその告白の返事をすると言われ、公園で彼女を待った。僕は寒いクリスマスの夜に、その返事がどんなものか想像しながら。

 

 

 

 

 

  しかし、彼女が来ることはなかった。

 

 

 

 

 

  僕が残れるぎりぎりまで待っても、彼女は来てくれなかった。ふられるにしても、会いに来て断ってくるのだろうなと思っていたのだが、それよりもっと酷い、

 

『無かったことにされ、見向きもされない。相手にされない』

 

 という結末だったことに、僕はすごいショックを受けた。あの時の事は今でも覚えているよ。

 

  そしてその時からあの寒い冬の夜は、クリスマスは、僕にとって一番嫌いな日になった。

 

  友達と過ごした去年のクリスマスは結構楽しかったのだが、それでも僕はクリスマスと言うものに良いイメージと言うものを全く抱いてなかった。

 

  その去年のクリスマスだって、その時の事が頭をよぎると、楽しめるものが楽しめなかった。友達も心配してくれたが、こればっかりはどうしようもなかった。

 

  そんな僕の転機は11月の下旬。最も信頼してる親友の一言だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おーい橘ー!」

 

  あれは……梅原じゃないか。

 

「どうしたんだ梅原」

 

「いや、普通にお前を見かけたから、一緒に登校しようと思ってな」

 

「成程」

 

  この話しかけてきた奴は梅原(うめはら)正吉(まさよし)。僕の小学校時代からの親友で、今まで僕が色々やった事の殆どに関わってる。……その色々やった事について話すのはまた今度にしよう。

 

「もうめっきり寒いよな」

 

「冬だしね。朝起きるのが辛いよ……」

 

「それ分かるぜ。布団から離れるのが辛いんだよな」

 

「春が待ち遠しいね……あ、そういえば例の写真集。どうだった?」

 

  すると梅原はキリッとした表情をする。ただの感想を語るだけなのにここまでなるのは結構稀だな。

 

「……かなり、いいぜ」

 

「おお、どんな感じのやつだった?」

 

「結構過激だったな。お宝コレクションの中でも貴重なものになりそうだ」

 

  梅原をして過激と言わせるとはな。かなりのレベルの様だし、面白そうで安心したよ。

 

「聞くだけでもかなり期待できそう……」

 

「ちゃんと貸してやるから落ち着けって」

 

「僕は落ち着いてるって……うん?」

 

「どうした?」

 

「あの人、森島先輩じゃない?」

 

  僕は友人らしき人と2人で歩いている先輩を指差す。2人共楽しそうな顔で話しており……まあ先輩がもう一方の人を振り回している様だが。

 

  何故分かるかって言うと……そのもう一方の人から苦労人の気配を感じるんだ。気のせいじゃないと思う。うん。

 

「本当だ、ラッキーだな! ああいう絵になる人を朝から見れるとは今日一日何かいいことありそうだ」

 

「確かにね」

 

  相変わらず綺麗だな、森島先輩。僕は年上の人が好きだけどそれを差し引いても彼女にしたいという人は沢山いるだろう。告白して撃沈した人は何十人といる。

 

「そういえばこの間、森島先輩にB組のカズがふられた、って話を聞いたな」

 

「告白したんだ……」

 

  結構みんなってチャレンジャーだよね。この前も別のクラスの奴が先輩にふられたそうだけど……

 

「まあ、この時期だしな……そうだ橘、お前に相談したいことがあってな」

 

  いきなり梅原が真面目な顔になった。珍しい。こちらも真面目に聞いてみるか。

 

「ん? 何かあった?」

 

「この時期、世間的にはもうすぐクリスマスじゃねえか」

 

「……確かにそうだね」

 

「野郎だけで過ごすには、勿体無いイベントだろ?」

 

「そこまで言われれば次に言うことも想像できる。挑戦してみよう、ってことだよね?」

 

「察しが良くて助かるぜ。俺の言いたいことはそういう事。『今年のクリスマスは二人共彼女を作って幸せに過ごす』という目標を作ろう、っていう提案したいんだよ」

 

  へえ……まさか梅原からこんな事を提案されるとは思わなかった。正直、朝の会話だけ聞いたら僕達二人が付き合うのって結構難しくなるよね。聞かれてないからいいんだけどさ。

 

「でもどうして急にそんなことを? お前らしくない……っていうのは少し言い過ぎかもしれないが、去年の様に僕達男で集まるのも結構面白いんじゃない?」

 

「それもそうだが、俺たちもう二年だろ? 来年から受験や就職で忙しくなりそうだから、ちょっとそういう暇はこの次終えたら無い」

 

「確かに。考えてみればこの冬がリミットか」

 

「やらずに後悔するよりも、やって後悔した方が良い」

 

  無駄にキリッとした顔にならないでよ。いや、確かにかっこよく聞こえるけどさ。その言葉通りに行くと僕達失敗するという事にこいつは気づいてるのかな?

 

「……座右の銘?」

 

「ご名答」

 

「この前は、『宵越しの金は持たない』だったよね?」

 

「色々あってて面白いだろ?」

 

「まあいいけど。というか、その目標を考えたのはなんで? まさか……好きな人が出来た?」

 

「それについてはここじゃ言えねえよ」

 

「通学路で好きな人暴露するのも良い思い出になりそうじゃない?」

 

「黒歴史になるだろうが……と、このままじゃ遅刻しちまう。少し急ごうぜ」

 

「了解」

 

  梅原も色々と考えてるんだな、と思いながら、自分のことについて考えてみる。あの日からもうすぐ2年が経つ。でも僕は、その日からずっと止まっている。怖いから。また同じような辛い目にあうのが嫌だから。

 

「……でも」

 

  こうやって発破をかけてくれるのなら、タイムリミットが迫っているのなら、もう一度頑張ってみてもいいんじゃないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっと学校に着いたな。早く教室行って話の続きしようぜ」

 

「梅原」

 

「どうした?」

 

「僕も……頑張りたい」

 

「……何をだ?」

 

「……お前の提案に乗りたいんだ。何時までもクヨクヨしてたら何も始まらないと思うし、今年の冬は頑張ってみたい」

 

  僕は悩んだ結果、もう一度だけ頑張ってみることにした。前から僕もクリスマスの過ごし方に悩みがあり、しかしそれを口にしなかった。

 

  理由はもちろんトラウマの件のせい。友達にクリスマスの相談をして頑張ってもまた失敗するんじゃないか、と考えていたから。

 

  怖いものは怖いよね。僕は近づく必要が無いリスクなら全力で避けることを目指すような性格なので尚更話を切り出せなかった。

 

  だから、今朝の話は僕にとってはありがたかった。道連れにするとかその様なつもりは全く無い、同じ目標に向かって進む仲間がいるから凄い安心するということ。

 

「おっ、やる気になってくれたか!」

 

「お前に焚き付けられたからね……まあ、僕は梅原よりはモテる自信があるし」

 

「おっ? 言うな。俺のほうが早く彼女作ってやるからな!」

 

「そんなこと言って、僕を妬むような事になるなよ?」

 

「お前がそうならないか、俺は心配だ」

 

「そうならないよう努力しておくよ」

 

「はははは! まあ、お前が前向きになってくれたようで、俺は嬉しいぜ」

 

「そこまで心配される……?」

 

「この頃になるとお前は更に暗くなるからな」

 

「元から暗いみたいな言い方はやめてよ」

 

「すまんすまん」

 

  梅原なりに僕の事を心配してくれていたようだ。一言多いけど。クリスマスが近づくにつれ、僕は喋れなくなっていくわけじゃないんだよ?

 

「でも、ありがとう」

 

「おうよ! まずは対策会議だな!」

 

「対策会議?」

 

「女の子と良い感じになるテクニックとか調べたんだぜ? お前にも教えてやるよ!」

 

「その出処はどこ?」

 

「兄貴の部屋にあった雑誌」

 

「それは大丈夫なのか……」

 

「ま、大丈夫だきっと。とりあえず……」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「やべ、遅刻しちまう。橘、急ぐぞ!」

 

「そうだね!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  教室内では、多くの人がそれぞれの席につきながら周りの人と喋っていた。僕達もそれぞれの席について、高橋先生を待つ。

 

  高橋(たかはし)麻耶(まや)先生は女性で一応20代後半らしいのだが、かなり若く見える。綺麗な人で、未だに結婚していないのが何故なのか不思議な人だ。引く手数多な気がするんだけど……なんでだろう?っと、先生だ。

 

「おはようございます」

 

「待ってました麻耶ちゃん!」

 

「梅原君、私のことは『高橋先生』と呼ぶように。分かりましたか?」

 

「う、うぃ〜っす」

 

「返事は『はい』でしてください」

 

「……はい」

 

「これは橘君もだけど、遅刻ギリギリで入ってくるのは止めなさい」

 

「す、すみません……」

 

「全く……さて、今日はクリスマスパーティーの実行委員を選出します。」

 

「高橋せんせー。実行委員ってなんすか?」

 

「何故2年生の貴方が実行委員の事を知らないのかしら?」

 

「過去は振り返らないんすよ(キリッ)」

 

「その顔はやめなさい。……はあ。梅原君みたいな人のために一応説明しておくわね。毎年、この学校で12月24日にクリスマスパーティーが開催されるのは知ってるわね。」

 

「そしてこれは、学校近隣住民及び父兄との交流を目的としています。クリスマスイヴに行なわれるのは、学校の創設者の誕生日が12月24日だから」

 

  それは知らなかったな……

 

「そんな理由から、この行事は通称『創設祭』と呼ばれています。分かりましたか梅原君」

 

「大変勉強になりました……」

 

「返事は『はい』でしてくださいとさっき忠告したばかりだと思うのだけれど……説明を付け加えると、皆さんも知ってる通り一般市民のバザーや、生徒たちによる模擬店なんかも出店されます」

 

「校内の飾り付けや、プレゼント大会。と、軽くあげてもこのくらいあるわ。それに、今年は去年よりもっと規模が大きくなるだろうから、仕事は今までより確実に増えてるわね……」

 

  かなり力を入れてるようだったから簡単では無いだろうなとは思ってたけど……ここまでとは。

 

「ですので、創設祭は毎年、クラスから実行委員を選出し管理運営を行う事になっています。さっきも言った通り、今年は昨年までの実績によって市からの協力を得た一大イベントになっているの」

 

「大変そうっすね……」

 

「楽ではないわね。やりがいはあるわよ?」

 

  ま、そうなると……

 

「はい。ここら辺で説明を終わりにして……誰か実行委員に立候補してくれる人、いる?」

 

  予想通り手をあげる人はいないか。まあ、誰が仕事に忙殺されるだろう日々に飛び込んでいくのかという話だ……

 

「あ……もし、誰もやる人がいないのでしたら、私がやりましょうか?」

 

  あれ?……ああ、絢辻さんか。

 

「私に務まるか、正直自信はありませんが……」

 

「さすが、クラス委員ちょ!」

 

「梅原君、その余裕があるならクラス委員をやってる絢辻さんに代わって、一度やってみる?」

 

「俺には無理っす。計画が頓挫する未来しか見えないです先生」

 

「なら黙ってて。……絢辻さんは大丈夫? クラス委員と掛け持ちになるでしょうから、仕事がより増えることになるけど……」

 

「大丈夫です。クラス委員の仕事は大分慣れましたし、この時期はやることは減りますから。」

 

「……流石ね絢辻さん。色々と任せてる事は申し訳ないけど、助かるわ」

 

「い、いえ……そんな事無いです」

 

「はい。それでは実行委員は絢辻さんにお願いすることにします。絢辻さん、よろしくね」

 

「はい。えっと、皆さん。至らぬところも多いと思いますが、一生懸命頑張ります。宜しくお願いします」

 

「はい、拍手〜!」

 

  流石だな絢辻さん。あんなに面倒くさそうな仕事を、クラス委員と両立させようとしている時点で立派だし、それでミスが増える、と言う事がないからな。いや、元々ミスがあるかと言われれば1個見つかるかどうかだけど。

 

「さて、これでホームルームを終わります。次の授業の準備をしてから休憩してね」

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「おーい橘」

 

「ん? どうした梅原」

 

「ああ、さっきしてたテクニックの話だが」

 

「早速教えてくれるのか?」

 

「勿論。だがその前に……」

 

「うん? ……ああ成程。対価を払えってこと?」

 

  そういう所はきっちりしてるよね。普段宿題とか僕よりも忘れて直前に済ませるような人なのに。

 

「そういう事。いくらお前でも無償は無しだぜ。お宝本2冊、よろしく頼むぜ。」

 

「……1冊じゃ駄目?」

 

「それならその分しか教えられないぜ?」

 

「うっ……その2冊は僕が選んできていい?」

 

「いやいや、そんな訳ねえよ。お前なら俺が欲しいお宝本、分かるだろ?」

 

「……モモクリサンネン写真集と、くりぃむそーだデラックスだな」

 

「大正解だ。その2冊、頼むぜ?」

 

「お気に入りなんだけどな……」

 

「お前は十分見ただろ……それに、俺もその2冊を独占してお前にこれから一切見せないってわけじゃないんだから安心しろよ」

 

「それなら全然大丈夫」

 

「よし、交渉成立だな……んじゃ、お宝本を持って校舎裏に来てくれ」

 

「教室じゃ駄目なの?」

 

「人前でする話じゃねえだろ? それに、こういうのは雰囲気が大事なんだよ。雰囲気」

 

「まあいいけど。それじゃ、後者裏でね」

 

「おうっ!よろしく頼むぜ!」

 

  う~ん…、梅原と話が合うのは良いんだが、お宝の趣味が僕と一致してるとこういう問題が起こるんだよな。まあ、仕方ないか。それじゃ取りに行ってこよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  僕は屋上に着いてから、辺りを見回して誰もいないことを確認する。僕がこれから向かう所は誰にも知られる訳にはいかないから。入学して間もない頃からこの場所を発見できたのは幸いだったなあ。

 

  南京錠を外し、中に入り、鍵をかける。こうすれば誰も入ってこれない。……相変わらずホコリの匂いがすごい。

 

  窓にはカーテンがかかってるから薄暗いし……でも、何故かここにいると落ち着くんだよね。押し入れといい、この場所といい、僕はちょっと薄暗い場所が好きなのかも……

 

  古い鍵が壊れて放置されてて、この部屋を自由に使える事ができるのはついていた。廊下側の扉から人が入ってくる可能性はあるが、ほぼないと言っていいだろう。

 

  万が一誰かが入ってきてもお宝本はバレないようにちゃんと隠してある。見つかった時の言い訳も用意してあるから問題はない。

 

  っと、のんびりしてる場合じゃないな、早くお宝本を回収しないと梅原との取引に遅れが生じる。それはお互いにとって良くない。

 

  ……それにしても学校にお宝本を隠している人は他に何人いるだろうか?普通いないか。僕だって、この部屋が無かったら隠していないだろうし。

 

  よくよく考えてみると、僕がやってる事って結構不良に近いんだよね。

 

  校内にお宝本を隠し、その隠した部屋の入り口に鍵をかけてる。

 

  バレたら確実に怒られるだろうな。絢辻さんにバレたらそれこそ終わりだ。なんて言われるか想像もつかないが、軽蔑されてしまうだろう。

 

  クリスマス委員に立候補するくらい真面目だからな。

 

  ……クリスマス。それは僕にとって、あまり良い日ではない。

 

  でも今年の冬は、なんか違う気がする。そんな予感がしてる。

 

  いや、違うものにすると決めただろう、橘 純一。

 

  覚悟したなら、前へ進む。あの時を繰り返すような未来は嫌だが、中途半端なままはもっと嫌なんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  さて……約束通り校舎裏に来てみたけど、あいつはどこかな。

 

「おっ、来たな橘」

 

「色々教えてもらわないと、どうにもならなそうだしね。はい、約束してたお宝本」

 

「悪いな橘……おほっ! 相変わらず魅力的な表紙だなぁ」

 

「すぐに見たくなる気持ちは分かるけどさ……」

 

「すまんすまん…、よし、じゃあ取り敢えず、お前にこのメモを渡しとく」

 

  渡されたメモには話す時のポイントとか、女子が好きそうな話題について幾らかピックアップされていた。

 

  また、自分の魅力を上げるためにはどうしたら良いか等の方法も書かれていた。しかし。

 

「……このメモだけならここに来る必要は無かったんじゃ……」

 

「雰囲気重視って言ったろ。それに、そっちのほうが後で何回も見返せる分、お前にとって助かるだろ?」

 

「まあ……」

 

  僕の記憶力は人並みなので、1回言われただけだと忘れてしまうだろうな。

 

「……なあ、橘」

 

「ん? 何?」

 

「これから、頑張ろうな……」

 

「誘ったのはそっちでしょ? 先にギブアップしないでよ?」

 

「勿論だ! これから2人でさ、頑張っていこうぜ!」

 

「クリスマスを幸せに過ごすために、ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  これが僕の冬の始まり。この時にはまだどんな未来が待っているか想像もつかなったけど、今なら分かる。

 

  この一歩は決して無駄にはならなかった。そして先で掴んだものが、その一つ一つが宝石の様に輝いてるのは、間違い無くこの瞬間に決めた目標のお陰だって。

 

  これから僕が話すのはその後の軌跡。僕が歩いてきたその道程……つまらない話にならないよう努力するから、聞いてほしいな。




初めの所は原作からほぼ変わってません。ただ、あらすじにも書いた通り、この主人公は私の理想の橘君であるため、結構話の先を察する力がありますし、紳士発言が減ります(鈍感なのはデフォ)。その関係でこれから起こるイベントや、その結果もかなり変わってきます。ですので、その違いを知ってる人も知らない人も楽しんでくれると幸いです。

何か誤字などが見つかったり、変な所が見つかったら感想欄とかで報告してくれるとありがたいです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1日目

プレイステーションストアでエビコレ+アマガミが1500円で売られていたのを見て買った自分は、日中も何かやってて忙しいので七咲のスキBESTしか見てないです。他のキャラも良さそうなんですけどね……って自分の事は置いといて、話をどうぞ!


  ふー……授業が終わった。僕の学力はそこまで高い方ではないので、寝ちゃうとあっという間についていけなくなってしまうのだけれど、睡眠欲には勝てないよね。人間の3大欲求の1つとして数えられるくらいのものだから仕方ないね。

 

「橘君? ちゃんと聞いてましたか?」

 

「は、はい。大丈夫ですよ……」

 

「そのおでこが赤くなってるのは何が原因なのかしらね」

 

「……」

 

  さーて、取り敢えずお手洗いにでも行くとしますか。

 

「あっ、こら! 橘君! まだ話は……」

 

「すみません先生! 急に腹痛が!」

 

「嘘をつかないでー!」

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「さて、と。」

 

  休み時間。この時間、僕は友達と話すか、寝てるかのどちらかがほとんどだ。殆どの人がそうだろうけど。ただ、今回は次の授業の準備で忙しくなってしまい、今微妙な時間を残して作業が終わったところだ。

 

「おー橘。お疲れさん。」

 

「梅原か。見ていたなら手伝ってくれても……」

 

「その時は働きに見合う報酬をくれよ?」

 

「僕は親友がそういう人に育ってしまったことに遺憾の意を表明する」

 

「いや、誰でもそうだろうよ」

 

「絢辻さんとかも?」

 

「あの人は例外な」

 

「だよね」

 

  彼女は今も教科書を開いて勉強している。1秒たりとも無駄にしてなさそうな生活は僕には真似出来ないよ。

 

「絢辻さんは、別格だよな〜。クラス委員をやっていて、クリスマス委員も務める。それでいて成績もトップクラス。ルックスも性格も抜群」

 

「非の打ち所がないよね」

 

「ああいう人を彼女にしてみたいよな……」

 

「……ハードルが高すぎない?」

 

「おいおい、低すぎる目標より、高すぎる目標の方が燃えるだろ?」

 

「その話は納得できるけど、現実を見ないのは非常に危険だと思うよ」

 

  僕の言葉に梅原は顔をしかめる。理解は出来るけど納得はできないといった感じか。

 

「なんで最初から無理だって決めつけちまうんだよ! 諦めたらそこで試合終了だ!」

 

「僕バスケ部じゃないし……スリーポイントシュートも苦手」

 

「元ネタは今はどうでもいいんだよ! ……お前も彼女作るんだろ?確かに絢辻さんクラスは厳しいのかもしれねえが、もう少し前向きに頑張ってみないと友達以上の仲は手に入れられないぜ?」

 

「それは分かってるけど。理解するのと実行するのはまた別問題なんだよ……」

 

「お前は慎重派だもんな」

 

「……」

 

  う~ん……今冷静に考えてもやっぱり想像が出来ないな。僕今年のクリスマスをどんな風に過ごす事になるのだろう?

 

  実際決意したはいいものの、ハッピーエンドを迎えるかは僕次第だし、ぶっちゃけそのハッピーエンドになる可能性自体あるのか疑わしい。

 

  中学の嫌な思い出に引きずられて、後ろ向きな思考になるのは仕方ないんだよな……

 

「……焦って失敗するのも問題か。今日一日位はどんな人を目指すのかじっくり考えればいいさ」

 

「そうさせてもらうよ」

 

「ま、お前が止めても俺は彼女作るからな!」

 

「止めるとは言ってないでしょ。お前に負けるつもりは無いからな」

 

  そう言うと、梅原は嬉しそうな顔をする。僕が本当に止めるとは思ってなかっただろうけどそれでも心配だったのだろう。

 

「上等! ……あ、そうだ。話が変わるがお前、数学の宿題はちゃんとやったか?」

 

「ある程度は進めたけど……」

 

「見せてくれ!」

 

「報酬を要求する」

 

  先程の仕返しとして、同じことをやってみる。僕も絢辻さんじゃないからねえ……

 

「……水道水なら幾らでもあげられるぞ?」

 

「交渉決裂だね」

 

「くっ、そこをなんとか」

 

「はあ……今は保留にしておくから、えーと……はいこれ」

 

「お前は神か」

 

「普通の人間だよ」

 

「サンキュー橘! この借りは今度別の形で返すぜ!」

 

「はいはい」

 

  あいつこういう時は調子いいんだよね……まあ、僕が見せてもらったことも少なくないから別に不満とかはないけど……

 

  そういえば、今朝あんな決意をしたけどどうしよっか。

 

  いやだってさ、普通に考えていきなり女の子が空から降ってくるとかしない限り、僕には運命的な出会いとかなさそうなんだよね。

 

  小学生の頃からそうなんだけど、僕はどちらかと言えばやっぱり男子の奴らと組んでいることが多かったから、女子と話すコミュニケーション能力は人並みであるし、話の引き出しも適したものを引っ張ってこれるか、と言われれば微妙だ。

 

  友達に3、4人の女子の輪に突っ込んで話ができる猛者がいたけど……それは僕には無理だろうな。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

  っと、授業か。さて次は……古典か。苦手だけど……寝ずに頑張れるかな。

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

  放課後、皆帰宅や部活の準備をしながら、それを終えた人から教室を出て行く。

 

  梅原は剣道部なんだが、あいつの憧れの先輩がいなくなってから幽霊部員気味だ。今日も部活はある筈だが、サボるつもりの様だ。

 

「今日は先に帰るわ。じゃあな橘!」

 

「分かった。またね〜」

 

  さて、僕も残ってる用事が済んだら帰りますか……

 

  取り敢えず明日の授業を確認しながら持って帰る物を確認し、カバンの中に物を詰め込んでから、忘れ物がないか確認し席を立つ。

 

  まだ残っている人はいたが、絢辻さんはその中でも忙しそうに書類処理をしていた。

 

  やはり、幾らクラス委員の仕事が減ったからといって、掛け持ちは相当の負担になっているようだ。周りが気付いていないというわけでは無いようだが、遠目から見るだけでも分かるプリントの多さに手伝おうとする人は居ないようだ。

 

「暇だったら手伝ってあげたいんだけどね……」

 

  今回は僕も自分のプリントを先生に急いで提出する用事がある。提出期限まで残り僅かしかないので他の人に構ってると間に合わない可能性がある。

 

  絢辻さんも自分の事がやりたいだろうというのは分かるんだけど……こればっかりはどうしようも無い。

 

「これなら暇そうだった梅原に手伝わせて、2人を近づけてみても良かったな」

 

  とは言え、もう梅原はいないし、提出期限も迫ってる。急いで職員室に向かって、用事を済ませてきちゃおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  体育科の先生にプリントを提出しに行ったその帰り、僕は体育館の近くの道を通っていたのだが、そこで黒猫を見つけた。

 

「あれ?猫か……首に鈴をつけてるけど、誰かの飼い猫かな?」

 

 ニャー チリンチリン

 

「あ、待ってよ」

 

  黒猫は校舎裏の方に走っていった。あの猫が何処から来たのか追いかけて確かめたくなってしまうのは仕方ないと思う。皆も野良猫とか見たらそうなるだろう。

 

  あ、でも僕野良犬は見たことないんだけどなんだろ……って関係ないよね。もうあの猫は曲がり角についてしまいそうだけど見える範囲で、追いかけてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり、見失っちゃったか……」

 

  ここら辺で見失うかな、と思ったら予想通りの展開でした。どうしようかな……別にあの猫は僕にとって何かあるわけでは無いんだけど……

 

  探してみるなら階段の下か?いや、その奥の建物とフェンスの間を通って何処かに行ってしまった可能性もある。

 

「悩みどころだよな……」

 

「何が悩みどころなんです?」

 

  え?人?

 

「うわあ! き、君は?」

 

  彼女がどこから来たのか、何時からここにいたのか分からない。僕が鈍すぎて気付いてなかっただけかもしれないけど。

 

  そして彼女はジト目で僕を見る。いや、あの、何もした覚えないよ……?

 

「水泳部の者ですけど。貴方はどちら様です? 覗きですか?」

 

「いやなんで」

 

「ここの近くで水泳部は活動していていることは知ってると思いますが、特に用事があるわけでもないのに来る男子がいるとすると……」

 

「隠れて覗きに来た、と?」

 

  その答えに彼女はうんうんと頷く。いや、頷かないでほしいのだけど、彼女は当然こちらの事情を知ることなく話を続ける。

 

「話が早くて助かります。早速先生に……」

 

「ま、待って待って! 僕は覗きに来たわけじゃないんだ!」

 

「覗きに来た人皆そう言うと思うのですが」

 

「いや、まあそうなんだけど……」

 

  そう言われると何も言えない。昔から言い訳が下手だとあらゆる人に言われたが、今回も駄目だったよ。

 

「なら大人しくお縄についてください」

 

「いや、僕無罪だから!」

 

  確かに用もないのにここにいるのは不自然なんだろうけど……犯罪者扱いですか……

 

「取り敢えず自己紹介させてよ。僕は2-Aの橘 純一。ここには首に鈴をつけた黒猫を探しに来たんだ。」

 

「私は1-Bの七咲 逢です。ここには覗きをしに来た人を逮捕しに来ました」

 

「だから! 僕は覗きじゃないって!」

 

「冗談です。しかし……」

 

「どうした?」

 

「先輩だったんですね。落ち着きが無いから同学年かと思ってました」

 

  中々に酷い言葉をぶっこんでくるなこの子。短気な奴とかこれ聞いたら絶対殴り掛かるぞ。

 

「と、取り敢えず、黒猫がいないのなら何もすること無いし、早く帰らないといけないから失礼するね」

 

「黒猫を探しに来たという設定はもういいんですよ?」

 

「まだ疑ってるの……」

 

「冗談ですよ。反応が面白くてつい。すみません先輩」

 

「まあ良いけど。またね七咲」

 

「はい、では」

 

  そう言って彼女と別れた。後輩なのに終始僕のほうが弄られていた気がする……オンナノコ怖い。

 

  と、いうのは冗談にしても、凄いなあの子。美也(僕の妹)と比べて落ち着いていて静かだ。ああいう妹も欲しかったものだが、美也が嫌なのかと言われればそうではない。……シスコンでは決してない。兄としてのフォローだな。

 

「よし、じゃあ僕も帰りますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま〜」

 

「おかえり、にぃに」

 

  話しかけてきた妹、(たちばな)美也(みや)(家ではみゃーと呼んでいる)は同じ輝日東高校に通ってる。1-Bに所属していて……あれ、七咲と同じか。

 

  まあ、また会うかもわからないのにいきなり彼女のことを聞いても意味はないだろう。それに美羽も変に思うだろうしな。

 

  家にいる限りは何時でも聞けるんだ、もし学校で会うことが増えてきたらその時に聞こう。

 

「今日の晩御飯はハンバーグだよ〜」

 

「おっ、それはいいね」

 

「早く準備してね」

 

「分かった」

 

  さて、荷物を置いてきますか……

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

「にぃに」

 

「うん?」

 

「少し変わった?」

 

「いきなりどうした」

 

「なんか、去年この時期になると少し暗くなってたのに、今までと変わってないから不思議に思って」

 

「ああ……それは……」

 

  そしてみゃーに、今朝梅原と相談していた事を話した。もう一度、頑張ってみることを。

 

「それは良いことだよにぃに!」

 

「笑わないんだ」

 

「笑うと思ったの? そんな訳無いじゃん! 去年のこの頃のにぃには、少し無理をしている感じだったから……」

 

「……そうか」

 

  家族に感情とか、精神関係の隠し事ってほぼ通じないよね。誤魔化してその場で納得してもらっても何時かボロが出て確実にバレちゃうんだもの。

 

「今誰か気になってる子いるの?」

 

「そもそも、親しい女子が余りいない」

 

「積極的に話しかけないと!」

 

「いや、それは恥ずかしい」

 

「ヘタレ」

 

「んなっ! それは酷くないか!」

 

「挑戦してみるって言ったのはにぃにじゃん! 少しはリスクを背負い込んで進まないと駄目だよ!」

 

「お前去年の僕知ってるよね!」

 

「知ってるけど、だからこそ今年は頑張るんでしょ! 自分の宣言した事くらいちゃんと実行しなさい!」

 

「うぐぅ……」

 

「明後日までにそういう報告来なかったらお菓子1個奢ってね」

 

「何故そうなる」

 

「そうでもしないとやらないでしょ?」

 

「……」

 

  なぜ今日の僕は女子に振り回されるのだろうか。あれなのか、僕にコミュニケーション能力が無いのがいけないのか、それともこの子達が特別なのか。

 

  いや、何にせよみゃーの言う通りではある。幾ら梅原からテクニックを教わったとしてもそれを使うことが無かったら宝?の持ち腐れだ。

 

  まあ急いては事を仕損じるというが……僕にそんなことを言ってられる余裕はないか。

 

「よし、それに乗ろう。ただし僕に進展があったらみゃーが奢ってよ」

 

「それはやだ」

 

「何それずるい!」

 

「だってみゃーは手伝ってあげてるんだよ? なんで逆に奢らないといけないのさ」

 

「じゃあ良いよ。さっき言ったことは気にしないで」

 

「え、それはずるいよ! そうやって言ってることをすぐに撤回するのは良くない!」

 

「意地悪な妹に奢るお菓子は無いよ」

 

「にぃにのけち!」

 

「なんとでも言えば良い」

 

「うう……」

 

「さて、僕は自分の部屋に戻るよ」

 

「あ、にぃに!」

 

「お菓子なら奢らないぞ?」

 

「そうじゃなくて!」

 

「じゃあ何?」

 

「……頑張ってね。応援してるから」

 

「……ありがとな、みゃー」

 

「うん!」

 

  こういうところの気遣いをしてくれる所は本当に感謝してる。世間からすると、僕達兄妹の仲はかなり良い方だと思うし、そのお陰で家で2人共楽しく過ごせている。

 

  家で会話が絶える時というのはみゃーがいない時と言ってもいいだろう。僕や両親があまり話さないというわけではないが、あいつがいると騒がしくなる。いい意味でね。

 

  中学生のあの時にもあいつなりに色々言葉をかけてくれたのは嬉しいことだったな。その後からかわれたけど、それ位は許せる。

 

  ……今日はこれでお終いだな。明日の準備もできたし、寝ますか。おやすみなさ〜い……




今回も読み切って下さりありがとうございました!

誤字報告、アドバイス等ありましたら感想欄などに送ってください!

12/26 美也を間違って美羽にしてました。申し訳ありません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2日目

もうすぐ年越しです。初日の出を見に行こうと思っているのですが夜更かしもするつもりです(

皆様の来年が幸せなものでありますように!
そして続きをどうぞ〜


「よっ!」

 

「梅原か」

 

  朝からこいつは元気だ。その元気さに助けられる事もあれば、面倒なことを招いてくることがある。

 

  元気、面倒なことでもう一人僕の友人の中に思い当たる人はいるが、ここでは話すまい。毎回というわけではないが、イタズラを仕掛けてきて反応を楽しむやつだ。

 

  話してたらいつの間にかあいつが背後にいる、なんてことはかなりある。

 

「いきなり変な顔して、どうしたんだ?」

 

「なんでもないよ」

 

「……まあいいか。今日は一時間目なんだっけか?」

 

「化学。実験だね」

 

「あーそっか。ならこのペースで早く着いちまった方が良いな」

 

「連続で遅刻すると今度は授業外にも説教されそうだ」

 

  あの先生は僕達のことをよく見てるから、勉強や生活で悩んでる人とかすぐに見つける。

 

  アドバイスもかなり的確だから助かってる人も多いだろうけど、その分僕達の生活がだらしないと注意しに来るのも早い。

 

  僕もこの前、歩いている姿がだらしないと廊下で怒られた時みんなに見られて恥ずかしかったよ……梅原にもからかわれたし。

 

「あと、お前はちゃんと決心はついたのか?」

 

「まあ、ね。一度決心してたつもりなんだけど、弱気になってたよ」

 

「それなら良いが……」

 

「心配してくれるのは嬉しいけど、お前にもそこまで余裕があるわけじゃないよね?」

 

  実際、あの人が可愛いとかそういう話ばっかりで、話しかけてみたら……という感じの感想はまだ聞いたことがない。

 

  まあ目標を決めてからまだ1日しか経ってないし、当然と言えば当然か。

 

  そしてその事を指摘されると梅原は焦っている様だ。

 

「うるせ! お前より間違いなく先には進んでるからな!」

 

「そうかな〜? そうだとしても、僕がすぐに追い抜いちゃうよ?」

 

「ハハハハ! ようやくもとの調子が戻ってきたな!」

 

「お陰様でね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う~ん……」

 

  やばい、今やってた所ににちょっと分からない所があったな……これを積み重ねると厄介そうだな。

 

  期末テストも近いし、図書室に行って昼休み頑張ってみるか。

 

「わあっ!」

 

「うわあ!?」

 

 ガラガラガッシャーン!

 

「あははっ、良いリアクションだね~純一!」

 

「薫か……」

 

  こいつは同じ2-Aの棚町(たなまち)(かおる)。中学校からの友達で、悪友と表現するのが1番適切なんじゃないかな。

 

  朝言ってたのはこいつの事。梅原に近い感じで、基本明るくて接しやすい奴なのだが、人をからかうのが好きな様で、僕がその被害を1番多く受けている。

 

「何か失礼なこと考えてない?」

 

「いや何も」

 

  勘が鋭い。表情とかには出してないはずなんだけど……まあ良いや。

 

「それより、どうかした?」

 

「どうって?」

 

「何か用があるからこうしたんじゃないの?」

 

「何も用はないわよ。ただ純一が何かぼうっとしてたから、からかいたくなっただけよ。」

 

  なんて奴。

 

「何か言いたそうな顔ね?」

 

  当たり前だよ。相手が取り敢えず暇そうだからイタズラするとか、相手からしてみればたまったものじゃない。

 

  薫も自分のラインは敷いているだろうが、それでももうちょっとそっとしておいて欲しいよ。

 

「人をからかって、その反応を見て楽しむのは趣味としてどうかと思う」

 

「そんな事言われてもね……多分授業1コマ分受けたら忘れちゃうわよ」

 

「幾ら何でも早過ぎない?」

 

「仕方無いじゃない。今までずっとやってたことをいきなり止めろーとか言われたって簡単には止められないわ」

 

「中学校の頃から言ってる筈だけど」

 

「記憶にございません」

 

「はあ……」

 

  こりゃ駄目だね。うん。中学校の頃から付き合ってたから分かる。多分数日後には僕またからかわれてるよ。

 

「おっ、棚町と橘じゃねえか」

 

「梅原じゃん。やっほ〜」

 

「ああ……」

 

  この2人といると大変なんだけどなあ……どちらも似たタイプだから、話が盛り上がって弄りのレベルもそれに比例して上がるという要らないおまけ付だ。

 

  テンションが高い時なら別にそれで構わないんだがな。今はそうでも無いから止めて欲しい。言っても聞かないだろうから適度に付き合うか。

 

「相変わらず夫婦漫才してんのか」

 

「夫婦漫才ってどういう事」

 

「そうなのよ~夫の調子が悪くてね」

 

「そうか……棚町は大変だよな……」

 

「良いのよ、私が望んだことだから……」

 

  そうしてしんみりした空気となる。棚町は苦労を顔で語るかの様に沈んだ表情をしてるし、梅原もそれを心配している様な顔だ。演技だけどね、僕達のことをよく知らない人から見たら僕が悲しませたという感じに見えるよこれ。

 

  なんだこの茶番。今までに無かった訳じゃないけど、こういう風な茶番の度に毎度毎度思うのだが、なぜ普通の漫才じゃないのか。夫婦は要らないだろう……

 

「おお……なんて健気なんだ棚町」

 

「ええ……健気小町と呼んでくれてもよろしくてよ」

 

  どうしてそうなった。というより棚町は逆。相手を振り回していく方だから、健気な女性とは真逆の方向を突き進んでいるだろ。

 

  なんか、仕方無いけどこの人に付き合っているという様な顔をしているがそれ僕だから。

 

「薫が健気ならこの世の女性殆どが健気だよ」

 

「え、そこまで言うの……? 純一ほんと酷い!」

 

「なんて奴だ。自分の妻をそんな風に言うなんて……」

 

「何時から妻になったのさ……」

 

  僕のツッコミを自分のボケへと繋げる。前からこんな感じで会話が続いていくんだよ。終わりが見えない。梅原も乗らなくていいのに……

 

  本当に疲れるなこの流れ。毎回ツッコミ役をするのは慣れてるけど、もっとまともな事は言えないのか。

 

「あ、純一拗ねちゃった。こうなったら面倒ね。梅原宜しく!」

 

「おう。任された」

 

  薫は向こうへ走っていく。引き止めていつもの文句と一緒に色々言いたいのだがそれをしようとも思えない。疲れたのだ。

 

  それに、梅原が多分妨害してくるだろうからどちらにせよ無理だろう。

 

「相変わらず仲良いのな」

 

「あいつに付き合うのは大変だけどね」

 

「仲のいい女子作る方が大変じゃね?」

 

「あの性格ならよっぽど酷い奴で無い限り仲良くなれるよ」

 

  棚町はあの明るさで知らない人にも積極的に話しかける奴だ。そのお陰で顔も広く、あいつが一人でいる所など滅多に見かけない。

 

  ……トラブルメーカーでもあるから、その被害を受けてるのは僕だけじゃないだろうけど、嫌われにくい性格だから離れていく人も少ないんじゃないかな?

 

「確かにな……」

 

「知らない人の集まりに薫突っ込んでそのまま楽しく談笑する所とか数え切れない程見たぞ」

 

「薫の友達何人いるのか今でも把握してないよな」

 

「あいつ自身も把握しきれてないと思う。名前を忘れる、と言うことはないだろうけど……」

 

「多すぎて最後の人まで誰を言ってないか混乱せずに記憶を引っ張り出すのは難しそうだな」

 

「そういう事」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「授業か」

 

「残念だけど、続きはまた後で」

 

「おう、それじゃ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  昼休み、昼食を済ませて少し時間が空いた僕は外をぶらぶらしながら、日向ぼっこにちょうどいい所を探していた。

 

「どこのベンチも埋まってるな……他に座れそうな所は……」

 

  あそこだな。取られる前に急いで向かおう。

 

  校庭を眺めながら目的地まで、早足で向かう。僕の学校は進学校、と言う程勉強に忙しい生活ではないため休み時間や放課後は比較的身体を動かしている人が多い。

 

  ……僕は進学校の生徒がどんな生活を送っているのかは全然知らないけどね。多分そういう人たちよりかは自分の好きな事ができる時間は多いと思うな。

 

  校庭でやってるのは……サッカーか。おっ、やっぱ上手い人はするすると相手を抜いていくよね。おっ、シュートだ!あーっ……外しちゃったか……

 

「ねえ、純一」

 

  相手チームの反撃だ。あ、此方はパスワークが抜群だ。ポンポンボールが味方同士で繋がっているようで、相手はインターセプトを狙ってるけど難しいようだな。

 

「聞こえてる〜?お~い」

 

  あ、センターバックをワンツーで抜いた!一騎討ちだ。キーパー前に出てくる!あ、それと同時に打っ、おおおお!ナイスシュート!

 

  出てくると同時に端っこ狙って打ったんだな。近付かれてコースが塞がれるのを恐れたのか、ナイス判断だ。

 

「純一!」

 

「えっ! はい、何の御用……って、梨穂子か。」

 

  桜井(さくらい)梨穂子(りほこ)。頬を膨らませたこいつは幼稚園時代からの幼馴染だ。ずっーとぼんやりしていると言ってもいいくらいマイペースな奴で、かなりのうっかりさんでもある。

 

  一緒に登校していた時期が結構長いし、1番接しやすい女子をあげるとしたらこいつなんだよね。

 

  今は一緒に登校しないけど、それも梨穂子が合流するのが余りにも遅くて僕まで遅刻するというのを避けるためだ。

 

  今だってたまに勉強会開く位の仲はある。梨穂子は理系科目は駄目、文系科目でも同じくらいの出来だから必然的に僕が勉強を見るんだけどね……

 

「昔からの幼馴染を無視するなんて酷いな〜私の事忘れちゃった?」

 

「そんな訳無いよ。ただ、ちょっと校庭でやってたサッカーが久しぶりに上手い人が多い感じだったからさ。ちょっと集中して見てちゃっただけだよ。」

 

「なら良いけど」

 

  そう言って梨穂子は膨らませていた頬を元に戻し、ほにゃっと笑う。

 

「純一は何しに来たの?」

 

「日向ぼっこ。こんな天気のいい日に時間が空いたから、有効利用しないと勿体無いじゃん?」

 

「私もそう思って校庭に出てたんだよ。ポカポカしてて、気持ちいいよね〜」

 

  梨穂子はずっとこんなのんびりとしたことを考えている。本人は否定しているが、昔から付き合っていた僕には分かる。

 

「気まぐれな春の到来って所かな」

 

「そんな感じだよね〜風が吹くと寒いけどさ」

 

「あ、そうそう。梨穂子も一緒に来てあそこ座ろうよ」

 

「そうさせてもらうね」

 

  目的地まで近かったので小走りして、2人で座りながらのんびり話す。

 

「最近そっちではどうなの? また授業中に寝てる?」

 

「それはお前だろ梨穂子。少なくとも僕はお前よりは寝てない」

 

「え〜純一も寝る方だと思ってたんだけど。嘘ついていたりしない?」

 

  確かに中学校の最後の方は居眠りが多かった気はする。だが僕も改心したのだ。今はほんのちょっとしかしてない。……ほんのちょっとだから。

 

「こういう事で嘘はつかないよ」

 

「そういえば、昔からそうだったね。他の人のために嘘をつくところは見かけたことあったけど」

 

「え? それって何時の事?」

 

「沢山あるよ。私が覚えているのは小学4年生の時」

 

「ああ、あの時ね」

 

  朝や授業の合間と違ってこういうちょっと静かな位が丁度良いんだ。うるさいのが嫌ってわけじゃないんだけどね。

 

「今は話しているけど、ぼーっとしながら座っちゃうと寝ちゃいそうだよ」

 

「それも良いよね〜ていうか寝ちゃおう?」

 

「2人して遅刻しそうだ」

 

  そう言うと梨穂子は驚いた顔をする。寝る程時間があるわけではない事考えてなかったな。

 

「教室じゃないから予鈴で起きても遅刻だよね。忘れてたよ……」

 

「全く……」

 

  昔からこういううっかり屋さんな梨穂子は誰かが面倒を見てないと必ずと言っていいほどミスをする。

 

  やらなきゃいけない事があるのに、途中で他に気を取られる内に本来の目的を忘れるのが主な原因。

 

  僕も頼み事を何回か頼んだけど全て失敗し、結局僕がする羽目になっている。

 

  今駄目なところしかあげてなかったが、勿論良いところも存在する。梨穂子は静かにしながら、のんびりとしているのが好きであり、何時もニコニコしている。そのキャラが人気になっているらしい。

 

  梨穂子がいるだけで空気が柔らかくなる。とは誰が言ったことだったか。本人は分かってないが、それ位周りに与える影響は大きい。

 

  ミスばっかりしてても、本人に悪気はないのとそ性格、というかそのキャラのお陰で嫌われていることはないそう。

 

「あ、飛行機みたいな雲」

 

「どこにあるの?」

 

「ほら、あそこだよ」

 

  梨穂子はどこかを指差す。指差している方向を向いてみるがどれも飛行機っぽくない気がする。

 

「どこにも飛行機なんてないだろ」

 

「ほら、あそこだよ〜」

 

「あれ飛行機というより十字に足がついたみたいな感じだろ」

 

「あれは飛行機だよ!」

 

「いいや、あれは飛行機じゃないね!」

 

「「ぐぬぬ……」」

 

  こういう下らない事で言い争うのは面白い。梅原や、棚町の時も少し思ったが彼女を作らなくても、こういう会話があるだけで僕には十分な気がする……

 

  って、それじゃ去年と同じだよね。確かに今のままでも楽しい事はある。でも、彼女を作れたらもっと楽しいことがあるんだろう。

 

  中学校の時は失敗しちゃったけど、今度は成功するといいな……

 

「どうしたの純一? いきなり難しい顔になったけど」

 

「いいや、何でもないよ。心配してくれてありがとう」

 

「いつものお返しです」

 

  そうやってこの暖かな陽射しのような笑みを浮かべる。これは人気が出るわけだ、と昔から知ってたことを改めて確認することになった。

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「あ、もうこんな時間なんだ」

 

「そろそろ授業に行かなきゃね。寝ちゃ駄目だぞ?」

 

「大丈夫だよ〜もお……」

 

  僕が冗談を言うと梨穂子はふてくされる。寝てないならいいんだが、成績はもう少し改善されないものか。

 

「じゃあね、純一」

 

「うん、またね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  今日も一人で下校した。みゃーが用事で帰るのが遅くなるらしく、晩御飯の食材を代わりに買ってきてくれないか、と言われた。

 

  僕は帰宅部であり、学校関係での用事があるわけでも無 かったので頼まれた通り早く帰ることにし、梅原を誘おうとしたら、掃除で残るとのこと。

 

  待てたら良かったのだがタイムセールに間に合わなくなる恐れがあるため、先に帰らせてもらった。

 

  そして今はその買い物も済ませ、家に向かってる途中。本来この時間だと学校で部活のない友達と雑談をしている所だ。

 

  頼まれたものから察するに今日は回鍋肉だな。ああいう料理は何時も取り合いになる。美味しいからいっぱい食べたくなるんだよね……

 

「あれ、先輩もスーパー来てたんですか?」

 

  突然後ろから声をかけられた。

 

「誰?って七咲?」

 

  後ろを振り向くと同じスーパーのビニール袋を持った七咲が。昨日初めて話して、しかも悪い印象を与えてしまった七咲と今日も会うとは……

 

「こんばんは、先輩」

 

「こんばんは、七咲も買い物か。誰が料理するの?」

 

「今日は私ですよ。魚料理の予定で、そこにもう一つおかずを加えようかなと思って来てました」

 

  七咲はお使いでなく、普通に自分で材料を買いに来た感じか。偉い子だな……僕もそういう事が出来た方がモテるかな?

 

「なるほどね……やっぱり料理得意なの?」

 

「はい。親が作ってくれる事が多いですが、代わりを任されることも多くて……弟は、まだ小さいですし私しかいないんですよ」

 

「弟いるの?何歳?」

 

「7歳です。手がかかりますが……基本的には良い子で

 す」

 

  そう言って七咲は少し笑う。家族仲は良好な様で少し安心した。暗い話が嫌いだからね。

 

  僕の家族も仲が良い方だろう。僕が迷惑をかけてる事が多いが、それを酷く怒らない、大切な家族だ。

 

「そっか。僕は妹がいてね。少し生意気な所もあるけど良い子だよ」

 

「そうなんですか……あっ、ちなみにその妹さんってもしかして……」

 

「美也のこと知ってたんだ。ご想像通り、橘 美也は僕の妹だよ」

 

  ちょっと意外そうな顔してるな。昨日の出来事が予想以上にでかいか?

 

「話は聞いてましたが、何かイメージと違いますね」

 

「どんな人だと思ってた?」

 

「もう少ししっかりした人だと思ってましたが、先輩はふわふわしてますね」

 

  昨日とは別のところで弄られてるんですけど。

 

「ふわふわって何さ」

 

「風で飛んでいってしまいそうな人ですよ」

 

  先輩弄って笑ってるよこの子……

 

「全く……僕は別に良いけど、他の人にこういう事しないでよ? たまに気性荒いやつがいるからさ」

 

「こんな事するのは貴方だけですよ」

 

「つまり僕は弱そうってこと?」

 

「えーと、その」

 

  そう言って目をそらす。止めなさい、それ結構傷つくんだぞ。

 

「冗談ですよ、少しからかい過ぎました」

 

「次からは気をつけるように」

 

「はい」

 

  何だかんだいってこうやって話しかけてくれるのは僕にとって助かる。僕は関係ない人とあまり話そうとしないから……

 

「あ、私左行くので」

 

「じゃあここでお別れだね。またね七咲」

 

「はい。では、失礼します」

 

  1度礼をして七咲は去る。彼女を作る決意してからこういう風に交流が少しでも出来ているのは嬉しい。

 

  偶然会っただけど、今まで見てきた中でも七咲は可愛いし、正直彼女に出来たら僕は凄い喜んでるだろう。

 

  と、こんな感じで取らぬ狸の皮算用をしてる間に家に着いた。取り敢えず袋をリビングに置いてから……漫画でも読みますか。




感想、アドバイス、誤字脱字報告などよろしくお願いします!

ちょくちょく改稿を重ねると思いますので、よろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3日目-1

遅れてすみません……正月でだらけにだらけた結果このザマです。反省しています。急いで書き上げているので誤字脱字があるかもしれません。気づいた方は報告お願いします!

すこし短めですが、どうぞ!


  今日は曇り。朝遅刻の危険(と思っていたの)でドタバタした結果、忘れ物をした事が家を出て暫くしてから判明したため少し憂鬱だ。しかも僕が見た時計がずれていたらしく、ゆっくり準備していても大丈夫だったのも痛い。

 

  確かに戻ることも考えたけど、また急いで登校しなければならないことも合わせて考えてみると戻る気になれなかった。

 

  そんな訳で忘れ物を借りなきゃいけない、まあ数学なので最悪借りられなくても、バレないだろうから良いんだけど。

 

「にぃに〜!」

 

  後ろからみゃーが走ってくる。朝からあいつは元気だなあ……じゃなくて。

 

「美也、外出る時は僕のことはそう呼ばないでって……」

 

「それどころじゃないの! ちょっとそこで待ってて!」

 

  そんなに焦ってどうしたのだろうか。待てと言われたので逃げても良かった(?)のだが、あれほど急いで来るのには理由があるのだろうと考え美也を待つ。

 

「ハァハァ……追いついたよお兄ちゃん」

 

「そんなに急いでどうしたの」

 

「えっとね、お兄ちゃんの頭に……プッ」

 

「え?」

 

「アハハハッ!ダメだよ、改めて指摘しようとすると笑っちゃう!」

 

  いきなり人を見て笑い出すとはなんて失礼なやつだ。いくら美也でもこれは許せないぞ。今度貸してやろうとしていた漫画を永遠にこちらで保管しておこうか。

 

  笑いながら僕に渡された手鏡を見て頭を確認するとそこには、

 

「僕はポテトです」

 

 と書かれていた。……うん、有罪。

 

「痛い痛い痛い痛い! 謝るからアイアンクローだけは止めて!」

 

「普通こういうイタズラは、もうちょっと早くネタバレする必要があると思うんだ」

 

「いやほら、にぃに急いでたし! 私だって話しかけようとしたんだよ!」

 

「にぃには止めてね」

 

  涙目で美也は自分の無罪を必死に主張する。確かにそんな様子はあった。僕が急いでるから相手にしている暇は無かったけど。ただ、

 

「話しかけようとしているのは確かに分かってたよ? でもね、それならもう一つ質問があるんだよ」

 

「な、何?」

 

「僕が遅刻しそうだから急いでるのは美也にも説明して出ていったよね」

 

「うん」

 

「それを聞いていたなら何で美也は遅刻する心配が無いことを知ってた筈なのに、教えてくれなかったのかな?」

 

  これが疑問なのだ。僕が遅刻してしまうよ、と声をかけたら一緒に急いで準備はしていたけど、僕が出る時にはまだ着替えていた。

 

  確かに準備することは沢山あったのかもしれないけど、美也はそれらを前日に済ませる子だ。準備が終わるのは確実に美也が先。それでも僕が先に出ていけたという事はそこまで美也は急いでなかったと考えられる。

 

「えーと……ほら、前日にみゃーは準備を終わらせてたから」

 

「美也はそういう理由でゆっくりする人じゃないよね。どちらかと言えばそのまま少し急いで出てゆっくりするのが普通でしょ」

 

「……それでもみゃーは」

 

「認めなさい」

 

「ごめんなさい……その落書きが頭に残ったまま急いでいるお兄ちゃんが面白くて何も言えなかったの」

 

  一瞬シュンとなるが、その時の状況を思い出したのかまた笑い出す。反省していないことは一目瞭然だったので手に込める力を強くする。

 

「謝るから! 謝るから更に強めるの止めて!」

 

「どう見ても反省してなかったでしょ」

 

「もうこんなことしないからー!」

 

「はぁ……」

 

  美也の様子を見て罰は十分に与えたと判断し手を離す。まだ痛むのか美也は頭を抑えながら小さく唸っているが、自業自得だ。

 

「酷いよお兄ちゃんは。妹にこんな事するなんて……」

 

「妹だからこんな事出来るんだよ。僕は基本的に女性に暴力を振るわないから」

 

「妹が女性に入ってないのは何で?」

 

「妹は例外だよ」

 

「何それずるい」

 

  こうして下らない会話を続けながら歩きだす。頭の落書きは今は落とせそうに無いので、というかわざわざ公園とかに行くのが面倒なので、学校で落とすことにしよう。

 

  美也とは学校であまり話さない分、こういう時や家でよく話している。学校で話さないのは妹から頼まれてるからだね。

 

「ただのイタズラなんだからもう少し大目に見てよー」

 

「ただのイタズラにしては僕のダメージが大きいんだけどなあ……」

 

  仲良くしてるけど、その生活の中で色々この様なイタズラをされることも多い。そしてそれらを怒ってる途中に、僕が被害受けたのにいつの間にか妹に文句を言われてるという状況が作られる。どうしてこうなる。

 

  そんな目を細めて貴方が悪いんですよ感出しても他人から見たら悪いのお前だから。僕に朝から恥をかかせておいて……

 

「あれ、美也ちゃん?」

 

「あ、紗江ちゃんだ! おはよー!」

 

  後ろから寄ってくる女子。美也の事を知っていて声をかけるという事はクラスメイトなのだろうか。美也も楽しそうに声をかけているから仲は良さそうだな。

 

「おはよう。えっと、そちらの方は……?」

 

「そっか、紗江ちゃんはまだ会ったことは無かったね。この人は私のお兄ちゃん! 説明しておいてる通り、ちょっと変態さんだから距離取ったほうが良いよ」

 

「知らない所で罵倒されてるんですけど」

 

  僕勝手に変態扱いされてる。いやまあ、確かに人並みにエッチな事は考えるけどその紹介の仕方はどうなの。

 

  ほら、その子も少し戸惑ってるよ。これ美也のせいだからね。人をいきなり変態さんって言うからだからね。

 

「でも根はいい人だから、話しかけてあげてね! お兄ちゃんも可愛いからって紗江ちゃんの事襲っちゃダメだよ!」

 

「そんな獣みたいなことするわけ無いよ……」

 

「……えっと、中多(なかた)紗江(さえ)と申します。よろしくお願いしますね、先輩」

 

「僕は橘純一って言うんだ。妹の美也共々、よろしくね。」

 

  戸惑いながらも自己紹介をしてくれる辺り、中多さんは良い人だと思う。雰囲気は僕の周りでは梨穂子に似ている気がするな。

 

  こういう柔らかい雰囲気の人が周りに少ないんだよね。ほとんどの友達は騒ぐのが好きで明るい。お陰で生活はつまらなくないが、変なテンションのところに巻き込まれるとろくな事が無い。

 

「お兄ちゃんがまともに挨拶してる……?」

 

「アイアンクローの事を根に持ってる?」

 

「美也の事を大切に扱わないからだよ」

 

  そうやって頬を膨らませても僕は悪くないからね?睨んでも無駄無駄。美也が反省するべきなので僕はあの時アイアンクローをしたことを間違ったとは思わない。

 

  中多さんは話についていけてないようで、僕達二人をちょっと離れた位置から見てる。

 

「紗江ちゃん酷いよねー! お兄ちゃんみゃーに朝からアイアンクローやったんだよ!」

 

「えっ?」

 

「その言い方だと僕が悪く聞こえるけど、先に仕掛けてきたのは美也だからね? 顔に落書きするなんて酷い妹だ」

 

「みゃーだって家で教えてあげようと思ったんだよ! そしてお兄ちゃんを見たらおかしくて笑っちゃうんだもん。言えなくても仕方ないと思う!」

 

「そもそも落書きを書かないでよ。というか、いつ書いたの?」

 

「朝。お兄ちゃんがぐっすり寝ていたのでつい」

 

「ついやった結果がこれだよ。学校行ったら絶対ポテトって呼ばれるよこれ」

 

「くすくす」

 

「ん? どうしたの紗江ちゃん」

 

「ううん、何でもないよ。ただ、二人は仲いいんだな、って思っただけ」

 

  今の様子で仲良く見えるものだろうか、喧嘩してるところを見て仲が良いとはこれいかに。

 

  美也もよく分かっていないのだろう。同じように首を傾げている。

 

「でもまあ、こんなところを朝から見せるのは悪いし、今はこの話をやめよう」

 

「そうだね。たまには良い事言うねお兄ちゃん!」

 

「……もう反応しないからね」

 

「本当に仲が良いですよね」

 

  そうやって僕達3人はゆっくりと話しながら登校した。主な話の内容は僕と中多さんのこと。美也についても話してたけど、大体が僕の愚痴。当然突っ込まれた。

 

  そして登校していて思ったんだけど、この子はちょっとドジをする。何もない所でコケそうになる辺り、どっかの幼馴染を思い出す……

 

  雰囲気が柔らかい事と関係しているのかな。ドジっ子だから雰囲気が柔らかくなるのか、雰囲気が柔らかくて少し抜けてるからドジっ子なのか……

 

  ともかく今日も新しく話せる子が増えた。どこまで顔を広げられるかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  よし、今日は調子が良いかも。体育のサッカーで中々良いプレーが出来た。

 

  僕のアシストでゴールが1点決まったし、それなりにしかできない僕にしては上出来だろう。

 

  さてと、ボールも片付け終わったし着替えに……

 

「先輩じゃないですか」

 

「ん? ああ、七咲か」

 

  1年はこれから別の場所で体育か。美也から聞いた話が確かなら女子は外でハンドボールだったかな。

 

「1人で何してるんです? ぼっちなんですか?」

 

「失礼だなお前。ボールの後片付けだよ。あと、ぼっち言うなら今のお前もでしょ」

 

「私はさっきまで友達といました。しかし、ひとりぼっちの先輩を見かけたので可哀想だなと思い、わざわざ来てあげたんです。感謝してください」

 

「はいはい、ありがとうございますー」

 

「はい、は1回で十分だと言われませんでした?」

 

  本当に何しに来たのこの子。僕をいじめに来たとしか思えないよ。……後輩にいじめられる先輩ってかっこ悪いなあ。

 

「そういえば、先輩はなんで一人でボールの片付けをしてたんです? 他に人はいなかったんですか?」

 

「さっきまではいたんだけどね。皆が皆誰か片付けるだろうと考えたらしくて……結果幾つかボールが残ってたからそれを僕が片付けてたんだよ」

 

「誰かに声をかけて手伝って貰えば良かったじゃないですか」

 

「確かにその通りなんだけどね。……そこまで数が少なかったし一人でいいかなって思ってね」

 

  散らばっていたわけでもないし、時間にも余裕はあったし。僕一人でも問題なかった。

 

「先輩ってお人好しなんですね」

 

「そこまででもないと思うけど……」

 

「先輩も他の人に任せようと考えなかったんですか?」

 

 確かに普通の人ならそうするんだろうけどね。ただ、それじゃ駄目。

 

「全員他人任せじゃ、社会が上手く回らないのは当然だよね? 誰かが自主的に動く必要がある。その誰かは決まってないけれど、毎回最低1人は出てくる」

 

「本当にそうですかね? 皆サボろうと考えていたら皆そのままサボると思いますけど」

 

「七咲はパレートの法則って知ってるかい?」

 

「何です? それ」

 

「働き蟻の法則の方が聞いたことあるのかな。説明としては、ある集団において一部が全体の大部分をカバーしている、みたいな感じかな」

 

  ヴィルブレド・パレートが発見したパレートの法則。長谷川英祐が発見した働き蟻の法則。どちらにも共通しているのは今言った通り。

 

  無論全てが全てこの法則に当てはまるとは言わない。けど、普通は様々な人が集まっているのに誰もがサボり魔というのは有り得ないよね。

 

  『仕事をやらなきゃいけないのに誰もやらない、でもまあ俺はやらなくていっか』と考える人しかいない集団はいずれ勝手に崩壊する。それを避けるために動く人がいないとは考えにくい。

 

「成程。確かに、誰かが働かなければならない時に誰も怒られるまで動きませんでした、というのは数えられるくらい少ないですね」

 

「だろ?ま、確かに当人にとっては貧乏くじを引いたってストレスになるかもしれないが、その人のお陰で上手く回るなら良い事さ」

 

「……そういうものですか。それでも、先輩がぼっちなのは変わりませんけど」

 

「まだそのネタ引っ張るのか」

 

  話を逸らせたと思ったんだけどな、この子は僕の事をいじるのが好きなようだ。いじる時だけいつも笑顔だもの。

 

「そして先輩がお人好しなのは確定ですね」

 

「え? なんでだ?」

 

「理屈を並べてこれは仕方ないんだ、みたいに言ってますけど、結局そうして人の為に働くのが嫌いなわけじゃないですよね?」

 

「普通なら人の為に働く事に嫌な感情は抱かないだろう」

 

「ふふっ、自分の利益になる事が何も無いとしてもですかね?」

 

「そうなると……」

 

「少なくとも出来るだけ回避しようと思いますよね。でも先輩はそうせず、その厄介事を引き受ける。これをお人好しと呼ばずに何と呼べと?」

 

「僕のこれはただの自己満足なんだけどなあ」

 

「立派な事だと思いますよ。先輩はもっとそういう所は誇って良いんじゃないですか? あまり関わってない私が言うのもなんですが」

 

「……いや、その言葉はありがたく受け取っておくよ。ありがとう、七咲。」

 

「どういたしまして」

 

  綺麗な笑顔だ。僕が今まで見てきた女子の笑顔でも確実に5指に入るね。国語が普通な僕には上手く表現することはできないけどその笑顔は……

 

  ひっそりと輝く月のように静かだけど、なぜか暖かい、そんな感じだった。

 

「それじゃ、僕は行くよ。またね七咲」

 

「はい。それでは失礼します」

 

  あんな笑顔をされるとはね。何時も悪巧みばかり考えていそうな黒い笑みばっかり見てたからすごい新鮮だったよ。

 

  取り敢えず僕も着替えに行きますかね……




区切り的にここら辺がいいかなと思ったので3日目-2に続く。

ちょっと今までのを見返していると絢辻さんの名前までちゃんと紹介していなかった。今度紹介しようかな…

次回から遅れないよう頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3日目-2

本当に申し訳ありませんでした。様々な理由(主に勉強)により小説に触れる機会が全くなく、結果このような事態となりました…取り敢えず、自分のポリシーとして失踪だけはしたくないので、お付き合い頂けると幸いです。


 お昼の時間。授業が終わって一息ついていたら向こうから絢辻さんが。なんの用だろうか?

 

「橘君、貴方は進路調査に関してのプリントまだ提出してないよね?」

 

「……あ。そういえばまだプリントは手持ちのファイルの中だった。ごめん、今すぐ出すよ」

 

「分かったわ」

 

 えーと、確かここに……あった。記入漏れは……ないな。といってもまだ完璧に決まった訳じゃないから、これは可能性の1つでしかないんだけれど。

 

「遅れてごめんね、はいこれ」

 

「ありがとう、これで多分全員分揃ったわ。クラスの人数分ありそうだし」

 

「僕が最後か……ちゃんと朝出しとくべきだったね」

 

「気にしないでいいわよ。ただ、次からは気をつけてね?」

 

「分かってる、完璧に守れるかは分からないけど」

 

  忘れ物って無くなってからしばらくの間はしなくなるんだけどね。しばらく経って気が緩んでるといつの間にかやっちゃうんだよね……

 

  あと、僕は絶対〜〜とか、完璧に……という時には根拠をしっかりと用意しておくべきだと考えている。嘘ついたとか言われないための保険だけど、こういうのがしっかり出来ないと信用が無くなっちゃうよね。

 

「それで良いから。手紙とかプリントの整理はしっかりしておくべきよ」

 

「頑張りまーす。……そうだ、今回遅れたのは僕のせいだし、いつもの様に手伝おうか?」

 

「あ、確かに周りの皆と比べて提出は遅れてるけど、期限は今日の放課後までだから別に問題ないのよ?」

 

「良いから良いから。何時も沢山の仕事をやってるんだからたまには他の人に負担してもらっても良いと思うよ」

 

 こちらが勝手に後ろめたさを感じてるだけなんだけどね。今まで何回か手伝ってきてたし、仕事が出来ないなんて事は無いとは思うんだけど……

 

「はあ……それなら、頼りにさせてもらうわよ? じゃあ、こっちのプリントをお願い」

 

「任された」

 

 このプリントはこの前出した別の提出物だ。アンケート式だったけど……

 

「それを元にデータを整理してほしいの。何回か手伝って貰ってるし、慣れてるでしょう?」

 

「そんな事なら任せてよ! ちゃちゃっと終わらせるぞ!」

 

「ふふっ、頑張ってね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 □□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 このプリントで最後かな……お昼休みの間に処理できる量で良かったよ……

 

 絢辻さんの方を見ると僕の3倍くらいはありそうな量のプリントが。毎回こういうのを見てるとちゃんと手伝えているのか不安になる。うん、ちょっと外見てよう。

 

 ……絢辻(あやつじ)(つかさ)さん。クラス委員であり、今はクリスマス委員。才色兼備というのがまさにぴったりな人で、男女問わず人気がある。

 

 性格も出来ていて、顔も良い。勉強ができる上に運動神経もトップクラス。1年の頃から絢辻さんはそんな感じで有名だった。

 

 初めて聞いたとき冗談だろと思ったのは僕だけじゃないと思う。非の打ち所がない人なんて普通いないし、本人と知り合うまでは大きくなりすぎた噂の類だと思ってたよ。

 

 告白もそれなりにされてるらしいが、全部断っているらしい。釣り合う人がいないんだろう、というかいると思えない……

 

「橘君」

 

「うおっ! っと、絢辻さんか。どうしたの?」

 

「そんなに驚かなくても」

 

 絢辻さんは困ったように笑う。話しかけた時に驚かれたら誰も良い気にはならないよね。反省は後でするとして、話しかけられたって事は絢辻さんの方も終わったようだ。

 

「そっちも終わった様だし、この纏めたプリントは絢辻さんに渡しちゃっていいかな?」

 

「あ、終わってるのね。ちょっと多いかも、って思いながら貴方に渡しちゃったけど、問題なかったようね」

 

「そりゃまあ、何回か手伝っているし。流石に慣れるよ」

 

「あら、頼りになるのね」

 

「頼りにしていいよ、クラスメイトだしね!」

 

 絢辻さんは少し働き過ぎな所あるからな。今回クリスマス関係で仕事も多いんだろうし、手伝えるものは手伝った方がいいよね。

 

 高校生が書類仕事してて、過労で倒れるなんて何か違うよね。学ぶのが本業なのに大人みたいに仕事やってて、その仕事で倒れちゃうのは学生の過ごし方としては違うと思う。

 

「……これからも頼んでいい?」

 

「全然問題無いよ! あ、でも手伝えない時もあるからその時はごめんね」

 

「貴方のしたいことの邪魔をしてまでやらせるつもりは無いわよ」

 

「ははっ、良かったよ」

 

「その反応で私の事をどう見てるのか分かったわ。酷い人ね」

 

「ごめんごめん、ちょっと面白かったから」

 

「その対価として、今度手伝ってもらう時までに沢山貯めて貴方にその山を頼もうかしら?」

 

「やめてくださいしんでしまいます」

 

 なんて恐ろしい事を言うんだ絢辻さんは。そんな事したら僕は干からびて死んでしまうぞ。

 

「冗談よ」

 

 そう言ってクスクスと笑う。絢辻さんと冗談を言い合える位の仲になれたのは素直に嬉しい。2年で初めて同じクラスになったんだけど、最初の頃は近づけなかった。

 

 いや、だって絢辻さん凄い人だからさ。僕みたいな凡人にしてみれば近寄りがたいんだよね。本人が親切で友好的な人だから良かったけどさ……

 

「橘君は昼食済ませてきたらどう? 私は貴方に纏めてもらったプリントを念のため確認しなくちゃいけないからまた後で昼食は後でになるけど」

 

「なんか悪いね、最後は結局任せる形になっちゃって」

 

「別に良いのよ。一人でやるより早く終わったのは事実だし、助かったわ」

 

「助けになったのなら良かったよ。それじゃ、頑張ってね」

 

「分かってる。橘君、手伝ってくれてありがとう」

 

「どういたしまして〜」

 

 女子を一人で働かせてるのは男子として酷いんだろうけど本人に大丈夫だって言われた上で手伝おうとして要らないお節介を焼くのは違うよね。

 

 それに、前と違ってある程度はちゃんと手伝えたんだ。よかったよかった。さ~て、弁当を早く食べちゃおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうすぐ下校。そろそろ帰ろうかな、と考えていると。

 

「先輩じゃないですか」

 

「あ、七咲」

 

 七咲に会いました。ちょうど良いから少し話していこうかな。

 

「七咲は……そうだ、水泳部。水泳部内でどれ位速いんだ?」

 

「私の速さですか? えっと……多分同じ1年の中では1番速いと思います。先輩たちも含めると、流石に私より速い人はいますけど」

 

 1年の中でトップか。それは凄いけど、どれくらい速いのかな。あと練習とかどれ位してるんだろう。

 

 僕は水泳は人並みにしか出来ないから、速く泳ぐ、というのはあまり考えたことがない。

 

 中学でも水泳部はあったけど、速く泳ぐには体力も必要なようで、走り込みを行ってたな。その時は遠目で見ながら大変そうだな、とか小学生みたいな感想しかなかったけど。

 

「先輩は何か部活に入ってないんですか?」

 

「帰宅部。部活に入るのはちょっと遠慮したかったんだよね。僕は何か1つを極め続けられるような人間じゃないし、そんな人が頑張ってる人達の中に入るのも悪いでしょ?」

 

「まあ確かに練習で手を抜く人に好印象は抱けませんが……入学してあまり顔見知りがいない時、友達を作るには部活って結構役に立つんじゃないですか?」

 

「それは否定しないよ。ただ、普段の生活の中でもクラスメイトと仲良くなってればそのクラスメイトの友達と仲良くなれることもある」

 

「そうやって友達を増やしたんですか?」

 

「中学校の頃からそうだよ。1人の人間と仲良くなっておけば3人位はその人と特に仲いい人と話す機会がある」

 

 というより、部活に入って友達を作るとなるとその部活の友達とつるむことが多くなり、結果的に上手く時間が合わないとクラス同じ部の奴がいないとぼっちになる。

 

 僕はそういうリスキーな狭く深く、よりかは広く浅くを選択した。勿論、趣味が合うやつとは結構クラス越えても喋ることはあるし、打算込みだが仲良くしておけば助けてくれる奴とは出来るだけ敵対しない様にしてる。

 

 この立ち回りと、梅原や棚町のお陰で中学の友達で仲良い奴は結構いる。男子の方が多いから去年そいつらと集まって色々遊んだのは良い思い出だ。

 

「部活を頑張れる人は素直に凄いと思うよ。皮肉とかじゃなくてこれは本心ね。僕はさっきも言った通り、没頭するタイプではないから」

 

「そうなんですか……先輩と水泳やるのも面白いな、と思ったんですが」

 

「えっ?」

 

「冗談ですよ食いつかないで下さい。目が完全に変態さんの目ですよ」

 

「……」

 

 ホントこの子僕の事馬鹿にしてるよね。絶対先輩だと思ってないよね。なんか後輩の態度としては違いすぎると思うよ。

 

「まあ水泳部の件は冗談ですけど、先輩も何か部活やってればよかったんじゃ、と思ったのは事実ですよ? 部活やらない人がいるにしても、ここはそういう人は少なくありませんか?」

 

「確かにね。ほとんどの人が文化部であれ運動部であれ何かしら入ってる」

 

 進学でうるさい訳ではないから、部活をせず家で猛勉強している人は少ない。そもそも僕のように帰宅部だけど帰ってもあまり勉強しない、っていう人も多いだろう。

 

 そう考えると確かに帰宅部はちょっと浮くかもしれない。梅原だってあまり行くことはないけど剣道部には所属しているし……

 

 と言われても今更部活入るのはそれはそれで浮くな。そこでコミュニティが出来上がっているのに突然僕が入ってきてもやり辛いだけだろう。

 

「ま、七咲の言う通りではあるんだけどね。これでも結構大変なんだよ」

 

「何でですか? ただ帰るだけなのに」

 

「帰るまでが問題なんだよ。ほら、帰宅部の人って他の人と比べて暇になること多いから、人手が必要な時に声をかけられやすい」

 

「まあ確かにそうですが……そんなに声をかけられるんですか?」

 

「まあ活動日が少ない部活と同じくらいの活動はしてるんじゃないかな」

 

 宿題処理を手伝わされたり、授業の解説をお願いされたり、学校内の教材等の運搬を手伝わされたり……様々な依頼が持ち込まれて来る。

 

 嫌って訳ではないから別に構わないんだけど、毎日では無いにしろ1日おきに別々で声をかけられていた時は最後の方は面倒になっていた。

 

 面倒なことを頼まれたりするんだよね。ただ単に借りた物を返すだけの筈が、ずっと返すの忘れてて相手が怒ってるかもしれないから一緒に着いてきてくれって……自業自得だ。

 

 あ、勿論此方から他の人に依頼するために帰りが遅くなる事もある。僕は理系は得意だけど文系は普通だから、文の読み取りを手伝ってもらったり、人の名前の覚え方を教えてもらったり……

 

 持ちつ持たれつの関係ってことだね。たまに勉強を手伝う約束だったのに何時の間にかショッピングモールをブラブラしてたなんて事もあったけどさ。

 

「そんなに友達が多いんですか?」

 

「多い訳じゃないよ。友達の中でも頼んでくる人は結構限られてるし同じだから。30人位かな? 普通の友達を幼・小・中・高で合わせると3桁は軽く行くけど」

 

「人気者なんですね」

 

「本当の人気者は逆にちょっと離れて見てみると近寄り難かったりするけどね」

 

「どういうことです?」

 

「その人が完璧な人、非の打ち所が無いから人気な場合」

 

「成程……」

 

 昼休みに彼女からの依頼(独断)と言う事で書類整理してた時を思い出していたけど、実際彼女は同じクラス出ないと近寄り難いと思う。

 

 何をやらせても出来てしまう彼女は、普通の人間からすると雲の上……は言い過ぎかもしれないけど同じ場所にいるとは思えない。

 

 僕もそんな事を考えながら仕事してたな……

 

「そういう七咲はやっぱり友達多いのか?」

 

「えーと、多いってわけではないですが流石に一桁とかではありませんね」

 

「ぼっちかと思ってた」

 

「先輩と違って私部活やっているので。人付き合いを捨てて水泳に熱中するのはおかしいですし」

 

「それはそうだけどね」

 

「あと私は先輩と違って普通の人なので」

 

「僕が普通じゃないみたいな言い方だけど?」

 

「違うんですか?」

 

「……七咲は良いキャラしてるね」

 

「ありがとうございます」

 

「褒めてないよ!」

 

 七咲はクスクス笑う。何か敗北感がするけど気にしちゃ駄目だ。というか気にしたら何かを失う。

 

「……はぁ」

 

「ため息すると幸運が逃げますよ?」

 

「ため息しているのは七咲のせいだけどね」

 

「私は何もしていませんよ?」

 

 これ僕泣いていいかな。てか泣きそう。誰かヘルプミー。

 

 なんて、助けを求めていると神様はいたようで。向こうから見知った顔が……

 

「あれ、純一じゃん!」

 

 前言撤回。神様なんていなかった。なんでよりにもよって薫がここで来るんだよ。僕が弄られまくる最悪の組み合わせだよ!

 

「薫か……なんでここに?」

 

「あれ? テンション低いわね。私がここに来たのは散歩してたからよ」

 

「あれ、今日はバイト無いの?」

 

「今日の担当は何時もより遅い時間なのよね、で、暇になったから話し相手を探してたのよ」

 

「成る程ね。そう言えば七咲を紹介していなかったか」

 

「1-Bの七咲 逢です」

 

「七咲さんね。私は棚町 薫、この子とは同じクラスよ」

 

「この子、とか年下扱いしないでよ」

 

「実際に年下じゃない」

 

 七咲がいるこの状況で薫が来たら最早僕には手に負えない。というか誰でもそうだろう。

 

 僕をいじる時も静かだけど内容でこちらの心を鋭く抉ってくる七咲、

 

 からかう時は大体僕がターゲットな上に、気分屋でもあるから対処が難しい薫。

 

 普通に話をするにはどちらも可愛くて嬉しいのに実際こんな感じだとちょっと付き合うのは難しいよね。

 

「まーた変なこと考えてるわねあんた」

 

「棚町先輩もそう思いましたか」

 

「あら、七咲さんもなの? 気が合うじゃない」

 

 勘が鋭いのも同じな模様。何故だ。

 

「そんな変な事は考えてないよ、薫じゃあるまいし」

 

「なんでそこで私を引き合いに出すのよ」

 

「だって何時も下らないイタズラ考えてるんだろ?」

 

「下らないとか言っちゃう時点で純一のセンスは残念なことが丸分かりね」

 

「イタズラを理解できるのは同じ様にイタズラをする奴しかいないよ。梅原みたいな」

 

「そんなの分からないわよ。この地球には何十億人と人がいるんだから、分かる人がいたっておかしくない」

 

「分かったよもう……この話は止めにしよう」

 

「純一の負けだからジュース奢ってね」

 

「なんで負けたことになったのさ。」

 

「橘先輩はまた誕生日じゃないんですか?」

 

「僕はまだ。もうすぐ誕生日ではあるけど、よくクリスマスプレゼントと一緒にされちゃうからそこは残念だな」

 

 クリスマスと誕生日が近い人の宿命。ケーキもプレゼントもお祝いもすべて一緒にされてしまう悲しさと言ったらもうね。まあ慣れたけど。

 

 その分ちょっとケーキが高いものだったりするから実際のところ不満もそれほどある訳じゃない。家族に感謝しながら……

 

 いや、みゃーにケーキの3分の1持ってかれそうになった時は流石に焦った。何故お前が我が物顔でケーキを確保して切り分けるのか、とあの時大喧嘩になった記憶が。

 

「その分プレゼントとか高いものだったりするんじゃないの?」

 

「まあね。この前の誕生日で『決められないからこれで勘弁してくれ』って言われて2万円渡された時は微妙な顔してたと思うけど」

 

「現金渡されたんですか……」

 

「夢も希望もないクリスマスだったよ」

 

「まあ純一らしいわね」

 

「どこに僕らしい要素があったのさ」

 

「なんか残念な結末の話って大体純一出てこない?」

 

「それは気づかないでほしかった事実かな」

 

 考えてみるとそうなんだよね……梅原と話してる時も何気ない会話の中で僕が話すネタは大体残念な結末を迎える話だし。

 

 それを聞いて梅原は決まって、俺の肩を掴んで『お前も苦労してるんだな……』とか言ってくる。いや当たり前でしょうそんなの。

 

「あっ、先輩。私はそろそろ」

 

「うん? ああ、もうすぐ閉門か」

 

 結構話が長く続いていたようで、僕が予定していた下校時刻を過ぎていた。彼女が聞き上手だったからかは分からないが、あっという間だったようだ。

 

 途中から薫が入ってきたのも原因だろうけど。

 

「じゃあ私もおさらばしましょうかね。バイバーイ」

 

「薫じゃあなー、じゃ僕も帰るから。七咲、またね」

 

「はい。では、失礼します」

 

 七咲とも別れを告げた後教室に置いていたカバンを取って下校した。

 

 あ、宿題が今日多いんだっけか。急いで帰らなきゃ。




ちょっと感じが違うかもしれないですが、それはきっと途中まではもう1ヶ月位前に仕上げていたものに2日前位の自分の書き方を足したからだと思います。(感じてなければ良いのですが) 兎に角、この自己満足作品をたまにでも読んでくれれば嬉しいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。