GATE くうかんポケモン 彼の地にて、時空を越えて戦えり (00G)
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パルキア銀座なう

アニメGATEを見ながら、ポケットモンスタープラチナやってパルキア使っていた時にふと思い付いた作品。

この作品がメインになることはないけど気が向いたら投稿します。


 灰色の、何もない味気のない空間の中に、ソレはいた。

 三枚二対の翼を持ち、真珠のような宝玉が埋め込まれた円盤状の盾、白い体に刺青のようにも見える紫色の模様を持つ化け物がいた。

 ソレは瞑想するするかのようにただただ空間の中を漂っていた。

 

 ソレは何か行っていたのか、ゆっくりと息を吐いて瞳を開けた。

 ソレが行っていたことは空間の修復。

 なにもしていなくても、空間というものは次第に綻び、崩れ、消滅していってしまう。

 そうならないようにするのが、この灰色の空間にいるソレなのだがソレは何百年と続けてきたことを、さもつまらなさそうに行うと静かに息を吐いた。

 ソレは何百年と続けた行動に嫌気がさす。

 それが己の役目だと理解しているが、流石に飽きてくる。

 それでも、ソレは己の役目に誇りを持っていた。

 故に、何もない灰色の空間にただ一匹で存在しているのだ。

 しかし、一度空間を修復すると滅多に空間は崩壊することはなくなる。

 ソレはほぼ無意識で空間の異変に気づくことができるので、次の空間の崩壊まで眠ろうと体を丸める。

 

「……?」

 

 もう眠る、というタイミングでソレは長い首を持ち上げて閉じていた瞳を開く。

 

 ソレは感じ取った。

 自身の管轄する空間の一つを勝手に弄くられた感覚を。

 別の空間から来てはならぬ者たちがやって来たことを。

 己の力が通じない異常な状態を。

 

――何者か知らないがその行為、万死に値する。

 

「●●●●●●●●●●●●●!!」

 

 ソレは引き裂くような咆哮を轟かせると、灰色の空間に色鮮やかな穴が現れた。

 ソレは翼を大きく広げ、その穴に飛び込んだ。

 

 すべては空間の保持のため。

 ソレは別空間からの侵入者を排除する。

 

 ソレの名は『パルキア』。

 

 空間を司る神である。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 夏の銀座。

 そこは地獄と化していた。

 

 太陽が高く昇るまっ昼間に突如として現れた巨大な建造物。

 そこから現れた武装した人間やオークやゴブリン、豚人間といったファンタジーに登場する存在が、何の力もない者たちに突如として牙を剥いた。

 

 馬に乗った騎士風の男は逃げる男性を切り殺す。

 翼を生やした蜥蜴に跨がった男は手に持った槍で逃げる女を刺し殺す。

 巨大なオークは棍棒で泣き叫ぶ子どもを殴り殺す。

 地面を転がりながら移動する豚人間は嬉々とした声をあげながら目についた者たちを殺す。

 

 一方的な虐殺。

 一般人たちは抵抗することすら許されない。

 

 誰かが思った。

 これは夢だ。

 

 誰かが絶望した。

 もう終わりだ。

 

 誰かが怒った。

 子どもを返して。

 

 誰かが願った。

 助けて。

 

――●●●●●●●●●●!!

 

 そして、神が現れた。

 

 馬に乗った騎士が、羽蜥蜴に乗った男が、オークが、豚人間が、逃げ惑っていた者たちが、その声を聞いて動きを止め空を見上げた。

 青空の中に、不自然な歪みがある。

 その歪みから、白い巨体が姿を顕した。

 純白の体に赤い瞳。

 肩には美しく煌めく真珠のような宝玉が埋め込まれている。

 ソレはズシンと轟音を轟かせながら地面に着地すると、赤い瞳をソレを取り囲む者たち全員に向ける。

 ソレは肩の宝玉をより一層輝かせ右腕を持ち上げると、血の臭いに興奮してソレの存在を無視したオークや豚人間といった異形の群れに向かって振り下ろした。

 

 両断。

 

 異形の群れが、綺麗に、惚れ惚れするほど鮮やかに体を切り飛ばされた。

 

「●●●●●●●●●●●!!」

 

 ソレは異国の者たちを威嚇するように咆哮をあげる。

 その咆哮にたじろく異国の者たちだったが、それは最初だけ。

 鼓舞するように雄叫びをあげると、ソレに向かって一斉に攻撃を仕掛けた。

 

「●●●●●●!」

 

 ソレは明確な敵意を感じると、空に向かって再び咆哮を轟かせた。

 それと同時に地面から土の杭が飛び出して馬ごと騎士風の男たちを打ち上げる。

 直後、爆発。

 騎士風の男たちは日本語ではない言葉で『噴火か!?』と驚いていた。

 土の杭は次々と騎士風の男たちやオーク、ゴブリンといった異形を打ち上げ、爆発させて粉微塵にしていく。

 

 普通なら天災とも見えるこの光景を目にしたら誰でも恐怖を抱くだろう。

 だが、知るよしもないが建造物からやって来た者たちは建造物の先にある国では負け知らずの国の戦士たち。

 彼らはこれまで死地をくぐり抜け、多くの屍の上に立ちながら勝利を納めてきた。

 彼らの国で語られる龍種、特に炎龍と言われる存在よりも遥かに小さい化け物(モンスター)

 所詮、異国の蛮族が飼い慣らした生き物。我らが敗けるはずない。

 そう鼓舞し、爆発する大地を切り抜けながらソレへと突き進んでいく。

 だがソレはそんな騎士風の男たちを嘲笑うかのように、ふわりと羽を羽ばたかせることなく空中へと飛び上がった。

 目標を失った突進することしかできない憐れな生物たちは、ソレが持つ純白の体に傷一つつけることもで来ず無惨にも土の杭に穿たれた。

 

 空へ上がったソレは死んでいく地上の生物たちに目を向けることなく、キョロキョロと辺りを見渡すように首を動かしていた。

 このような弱い生物を一々相手にするのは面倒。

 さっさとこいつらがやって来る原因でもある空間の歪みを修正しにいかなければならない。

 しかし、先程から顔の回りをチョロチョロと飛び回る羽蜥蜴がうざったくて仕方がない。

 眼下の地上を見れば、別の所で好き勝手に蹂躙している侵入者たちが犇めいている。

 虐殺を続ける者。

 殺した相手の首を切り落として戦利品(トロフィー)のように掲げる者。

 浅はかな性欲を満たすために捕らえた女性を犯す者。

 

 非常に、鬱陶しい。

 

「●●●●●●●●●●●●●!!!!」

 

 ソレは今までとは比較にならないほどの咆哮を轟かせた。

 空気が震え、大きな咆哮が衝撃波となって周囲のビル群の窓ガラスが次々と割れていく。

 耳を塞いで爆音となった咆哮を耐えようと羽蜥蜴に乗った男たちだったが、なぜか()()()()()()()()()()ソレの咆哮をまともに受けた。

 爆音と化した咆哮は音の凶器となって男たちの鼓膜を破壊し、頭蓋骨を砕いていく。

 乗っていた羽蜥蜴も同様に、空中に縫い付けられたかのように動かず背中に乗せていた男たちと同じ運命を辿った。

 地上で虐殺や強姦を行っていた者たちも例外ではなく、鼓膜が破壊されるということはなかったが羽蜥蜴に乗った男たちと同じように()()()()()()()()()()()()()()()

 ソレは動けぬ有象無象を一瞥すると、目的のものを探り当てその場所へと飛翔した。

 

 空を飛べばあっという間に、目標である空間の歪みを見つけた。

 空間の歪みといっても、それは巨大な門のような建造物。

 ソレの体ならすっぽりと入ってしまいそうなほど巨大だ。

 だがソレが抱いたことはそれだけ。

 ソレは手の中にエネルギーを溜め、球体状のエネルギーを作り出した。

 ソレは躊躇いなく球体を建造物目掛けて発射した。

 球体が建造物に直撃すると球体は爆発し、それによって発生した爆煙が建造物を包み込む。

 建造物を包み込む爆煙が球体の威力を物語っているが、ソレが煙に包まれる建造物に向ける目は厳しい。

 次第に煙は晴れていき、建造物の姿を晒す。

 しかし、建造物は全くの無傷。

 欠けた場所さえ見つからないほど、憎たらしいくらい綺麗な白さを保っていた。

 ソレは無傷の建造物が逆鱗に触れたのか、再びエネルギーを溜めて球体を放とうとした。

 だが、今回の球体は一回目に放ったものよりも数倍大きなものだった。

 一回目の球体がバスケットボールほどのサイズとするなら、二回目の球体はバランスボールくらいのサイズだろう。

 比較のサイズなので、人間から見ればとてつもなく巨大なのだが。

 ソレは巨大な球体を再び建造物に放つ。

 さらにもう一度先程と同じ大きさの球体を作り出すと、その球体からさらに小さな球体を雨霰のように連続で発射した。

 一際巨大な爆発が起こり、続けて無数の爆発が連続で発生する。

 爆発の余波や流れ弾の影響で周囲のビルや道路が崩壊し、瓦礫があちこちに飛び散る。

 一頻り球体を放ったソレはもう一度煙が晴れるのを待った。

 そして、煙が晴れて現れたのはやはり無傷の建造物。

 これほど攻撃しても壊れる兆候さえ見せない建造物に、ソレは今度こそ心の中を怒りの感情が支配した。

 

「●●●●●●●●●●●●●●!!」

 

 怒りの感情が混じった咆哮を上げ、今度は肩の宝玉を輝かせ腕を振り上げた。

 最初に使ったソレが持つ最大の技を使おうとしたが、遠くから空気を高速で叩くような音が聞こえてきた。

 振り上げた腕を下ろし音が聞こえた咆哮に顔を向けると空を飛ぶ鋼鉄の塊が複数やって来た。

 ソレは近づいてくる鋼鉄の塊目掛けて腕を振り下ろしてやろうかと一瞬考えたが、先に排除すべきなのはこの建造物であると判断して鋼鉄の塊は無視した。

 だがそのせいで気が削がれたのか、ソレは肩の宝玉の輝きを消してグルルと唸りながら建造物を睨み付ける。

 

 これだけ攻撃しても壊れる様子のない建造物を破壊するには普通の方法では通用しないのだろう。

 そもそも、ソレの能力である空間の操作さえ全く通じない。

 まるで頑丈な金庫。

 爆発にさえ耐えきって中にあるものを守る金庫だ。

 外からの衝撃は一切中に伝わらない。

 ソレは考える。

 どうすればこの建造物を破壊することができるのか。

 どうすれば空間の歪みを修復できるのか。

 と、ここでソレはふと思い付いた。

 

 外から通用しなければ中から通用するようにすればいい、と。

 

 暴論。

 イカれているともとれるような考えだが、どのみちこの世界からの干渉は通じない。

 なら向こうの世界から通じるよう動けばいい。

 建造物の先に何がいるかわからない。

 もしかしたら己よりも遥かに強い存在がいるかもしれない。

 だがそれで恐れていては何が空間を司る神か。

 ソレは二対の翼を大きく広げ、建造物の中へと飛び込んで日本から消えた。

 

 こうして『銀座事件』と呼ばれるようになる騒動は、白い神が建造物の中に消えていくことで幕を閉じた。

 後に世界が白い神の名前がパルキアと知り、建造物の先に広がる世界で再びパルキアと出会うことになるのを、世界はまだ知らない。



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し~ろいつ~ばさの~♪パルキア~♪

新しく原作カテゴリにGATEが入ったのは嬉しいことだけど、原作名は英語なのにこっちはカタカナでゲートはどうなのかなーと思う00Gでした。

この原作タイトルもカタカナにした方がいいのかな?


 ソレ、パルキアが建造物を越えると、そこには広い草原だった。

 建造物を越えてから長いこと日が経ち、パルキアは悠々と空を飛んでいた。

 

 世界を二つも越え、少々警戒しながら探索を行っていたがそれは杞憂に終わった。

 建造物を越えてから今日までこの世界の脅威、生息する生物、村や町の位置などを把握するために念入りに探索を行っていたがこれまで見た物はどれも格下の存在ばかり。

 

 人間、獣型人間多数。

 動植物多数。

 竜型生物多数。

 巨大竜型生物少数。

 

 と、いった所だ。

 巨大竜型生物は遠目に二体しか確認していないが、巨大な体躯を持つ生物はどのような場合でも数は多くない。

 実際に戦闘を行ったわけではないので詳しい戦闘能力はわからないが、火炎を放つことと水を勢いよく放つくらいしかしていないのでそれほどトリッキーな攻撃は持っていないのだろう。

 まあその二体が交尾中だったため、やはり結局のところは戦闘能力はわからないということになる。

 

 この世界に生息する生物のことはある程度わかったが、空間の修復方法はまだわからずにいた。

 世界が違うからなのか、やはりパルキアの空間操作がうまく通用しない。

 単純な空間操作による攻撃と防御は行えても、空間の狭間を利用した移動や攻撃といった操作はできない。

 ここはやはり地道に探っていくしかない。

 ここで怒りに任せて暴れては空間を司る神の名が泣く。

 他所の空間だから好き勝手していいという訳ではないのだ。

 

 さてここでどうやって情報を知ろうか、とパルキアは他ポケモンより発達した知性で考える。

 これまでの期間の間に見聞きした物は到底理解することができない言葉だったり文字だったりしていた。

 こちらが喋ることは出来ないが向こうからの言葉は理解できる。

 だがそれは前いた世界での話でありこの世界の言葉は一切理解することができなかった。

 この巨体でいきなり現れても現地の人間たちを脅かすだけだし、最悪害獣扱いされて駆除されるかもしれない。

 非常に難しいところだ。

 

 最悪、非常に甚だしいが、全くもって不本意だが、時間の奴の力も借りるしかないのだろう。

 はっきりいって嫌だが、必然的には何時かは力なり知恵なり借りなければならない。

 時間の奴とは仲が悪く、以前は街の中で大人げなく喧嘩して人間にバカヤロー呼ばわりされてしまったのは苦い思い出だ。

 破れた世界にいる彼女は喜んで手伝ってくれるかもしれないが、時間の奴との喧嘩で破れた世界に悪影響が出てしまっているので少々頼みにくい。

 

――やはり一匹でやろう。

 

 そう決心するパルキアだった。

 

 さて、本当にどうやって情報を集めようかとパルキアは真剣に悩む。

 巨体で怖がられ言葉も通じない。

 しかもこの世界にやって来るために通った建造物の前には人間たちが陣を築いていた。

 数十日前までは騎士風の男たちと異形共の軍と、銃やら戦車といった近代兵器を持った軍の殺し合いが続いていた。

 結果を言えば銃や戦車を所持する軍が圧勝して、騎士風の男たちが散り散りに逃げていったことで殺し合いは終了した。

 圧勝した軍が建造物を占拠して陣を築くのは戦略的行動として当たり前なのだが、誰にも気付かれずに空間の行き来ができる建造物に近づけなくなったのは痛い。

 ポケモンたちが住む世界には戦車や銃といったものが減っているとはいえ、それらが持つ脅威は何ら変わらない。

 下手をしたら重症を負うことだって有り得る。

 要するに閉め出しをくらったのだ。

 

 コミュニケーション不可。

 帰ることも出来ない。

 逸そ開き直ってこの世界の散策を旅行気分で行おうかとパルキアは考える。

 この世界で生活することは何の苦もなかった。

 食料となる木の実や果実、肉といったそれらは自生している樹木や野性動物から手に入れることができた。

 何回か人間が飼育していたらしい家畜を捕食したことがあり、現地の人間とはそこで接触した。

 今は完全に警戒されているのでもう不用意に近づけなくなっている。

 デカイ体は色々不憫だ。

 

 さて、朝から飛行を続け気がついたら今はもうすでに昼時。

 腹も減れば喉も渇いてくる。

 何処かで食料を確保しようかとパルキアは眼下を見下ろして辺りを探る。

 樹樹樹樹。

 どこを見渡しても緑色の葉を生い茂らせる樹木が大地を覆っているが、木の実や果実を実らせている樹木が見つからない。

 どうやらこの辺りの樹木は木の実や果実を実らせる種類ではないらしい。

 見た所腹を満たせそうな野性動物も見当たらない。

 水は500~600メートルほど離れた場所に崖のようになっている岩場から滝が流れている。

 パルキアは先に喉を潤そうと滝が流れる場所へと飛翔していった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 一方、パルキアが向かう滝から300メートル程離れた林道を1台の荷台がゆったりとしたスピードで進んでいた。

 荷台には物が大量に詰められているせいでパンパンに膨れ上がった布袋や木箱が複数乗せられていた。

 その荷台を引くのはもちろん馬……という訳ではなくなぜか馬よりも体躯の小さいロバだった。

 この際なぜロバなのかは置いておき、明らかにロバが引っ張れる重量を越しているはずの荷台をロバは表情を変えずに引っ張っている。

 そしてそのロバの手綱を握るのはローブを着た少女。

 その隣に白髭をたくわえた老人の計二人の人物が座っていた。

 

「いやーモモンの実とオレンの実が多く手に入って満足じゃわい」

 

 老人は荷台に積み上げられた布袋の中に詰め込まれている物を見ながら満足気に言う。

 老人が言ったモモンの実とオレンの実というのは森の奥地に自生している木の実である。

 モモンの実は有りとあらゆる毒物への解毒効果があり、オレンの実は体力増強の効果がある実であり、採取できる場所や実が持つ効能もあって滅多に流通しない物である。

 それを大量に持っているということは、実際に自生している場所に行って採取してきたのだ。

 もちろん採取するには自生する森の所有国から採取の許可と採取する量に応じた金額を前払いしないといけない。

 さらに森には危険な動物なども生息しているため、それらを撃退する力も必要とされている。

 しかし、それらのことがありながらもモモンの実とオレンの実を大量に持っているということは、お金も力も十分にあるということなのである。

 

「師匠。モモンの実は非常に柔らかい。 戻るまで気は抜けない」

 

 老人の横でロバの手綱を握っている少女が老人に顔を向け、嗜めるような口調で言った。

 

「わかっておるわい。 だから魔法を使って浮かせているのじゃろうか」

 

 彼らが荷台に乗せている実。

 特にモモンの実は果肉が非常に柔らかく、少しの段差から落ちたり何かに擦れただけで実が崩れたりしてしまう。

 運ぶ際には細心の注意が必要になる品物だが、老人の言う通りモモンの実が詰め込まれている木箱は荷台の上でふよふよと浮かんでいた。

 木箱を浮かせているものが彼らが扱える魔法というものだが、今は説明を省く。

 

 ガタゴトと石が転がる道を進みながら彼らが住んでいる村の一角に設けられた家に向かう途中、彼らの頭上を黒い影が通りすぎていった。

 いきなり頭上に現れた影に驚いて老人と少女は当然のこと影へと顔を向ける。

 一瞬だが、白い巨体が飛んでいく姿が見えた。

 

「な、なんじゃ今のは」

「師匠、今のが飛んでいった先にはコダ村がある。 村人たちが危ない」

 

 頭上を飛び去った白い巨体に困惑しながら老人は白い巨体が何だったのか考える。

 だが考えるよりも先に隣に座っていた少女が眉を寄せて若干険しい表情で警告する。

 白い巨体が飛び去っていった先。

 そこには彼らが世話になっている『コダ村』という村がある。

 コダ村の領主が戦によって今はいないとはいえ、コダ村で生活している村人はいる。

 あの白い巨体が何であれ、コダ村に住む村人たちに襲いかからないという保証はない。

 古代龍と呼ばれる存在は人間を喰うということもある。

 

 少女の言葉を聞いて老人は顔に皺を寄せて手に持っていた杖を軽く振った。

 すると、彼らが座る荷台が地面からフワリと浮かび上がった。

 少女は手綱をバシンと叩いてロバを走らせる。

 ロバは命令通り歩きから走りに変えて道を進んでいくが、荷台の重さを感じていないのかその走りは実に軽やかだった。

 

 しばらくロバを走らせると遠くに小さな村が見え始める。

 村の入り口には門が建てられ、現地の言葉でコダ村と書かれていた。

 そのコダ村では何人もの村人たちが慌てた様子で家の外に出て空を見上げている。

 老人と少女はコダ村に到着し、走るロバを手綱を引いて停止させた。

 村人たちは老人と少女の姿を見つけると急いで駆け寄ってきた。

 

「カトー先生、それにレレイも!」

「どうしたというのじゃ」

「先ほど見たこともない白い竜がコダ村の上を飛んでいったんです!」

 

 村人は老人をカトー、少女をレレイと大きな声で呼び、カトーの問いに答えた。

 やはり村人たちが慌てた理由は、カトーたちが見た白い巨体が関わっていた。

 村人たちの表情は不安と恐怖の色が伺える。

 見たこともない巨大な生物を見れば、誰だって不安と恐怖を覚える。

 

「ワシたちもその白い竜は見た。どの方向に飛んでいったのかのう?」

「あっちの方角です。ちょうどカトー先生たちの家がある方向で……」

 

 そう言いながら村人の一人は白い竜が飛んでいった方向を指差した。

 指差した先には、ここからは見えないがカトーとレレイが住んでいる家がある。

 白い竜の目的はわからない、というか生物が何を考えているのか人間からは殆どのわかるわけがない。

 精々、襲ってきたときに反撃するくらいのことしかできない。

 

「お主たちは今からでも逃げる準備をせい」

「カトー先生!?」

「あの白い竜が何をしてくるかわからん。ワシが様子を見てくる。 レレイ、お前は村人たちと一緒におれ。何かあれば魔法で伝える」

 

 普段はふざけて弟子のレレイにセクハラまがいなことを言うカトーだが、今回はそんなふざけた様子を見せずレレイに言った。

 普段は見ない師匠の姿に多少の困惑を見せるレレイ。

 確かに師匠のカトーは実力があるというのは理解している。

 だが、彼女は未知の存在に対する好奇心が非常に強かった。

 もちろん、白い竜もその好奇心の対象になっており、村に残れと言ったカトーにこう言った。

 

 私も行く、と。

 

 流石にまだ年が15のレレイを、何をしてくるかわからない白い竜のもとに行かせるのは危険すぎる。

 だが、レレイの目は本気だった。

 

「……様子を見るだけじゃ。危険だったらすぐ逃げるならついてきてもよいわい」

「師匠、ありがとう」

 

 渋々、カトーはレレイを条件付きで同行させることを許した。

 孫娘の願いを無下に出来ない気持ちはこんな感じなのだろうか、と的外れな考えをしながらも、カトーたちは風の魔法を使って人の臭いが漏れないように風のベールで身を包む。

 下準備が出来てから、カトーとレレイの二人はまず森の奥にある自分たちの家の周囲から探そうと歩みを進めていく。

 もちろん木々や草木に隠れながらだ。

 二人が住む家は森の奥といっても、少し歩けばすぐに到着するくらい近い。

 

 家の隣から流れる滝の音がはっきりと聞こえるくらいまで近づいたとき、お目当ての白い竜を見つけた。

 カトーとレレイは白い竜の姿がしっかりと見える位置に移動すると、草木の中に身を潜めて白い竜の様子を観察する。

 白い体を持つこと自体珍しいことなのだが、それよりも目を引くのが肩に埋め込まれた宝玉だろう。

 カトーは若い頃何度か一国の城に行ったことがあり、そこで何種類もの金や宝石といったものを見た。

 だが、目の前にいる白い竜の宝玉は生命力を感じさせているのか、今まで見た宝石が石ころ同然に見えるほど美しかった。

 感心するのはさておき、本来の目的だった白い竜の監視を行う。

 白い竜は見つけたときから滝の水を飲んでおり、カトーたちのことに気づいているという様子は見当たらない。

 時折、水を飲みながら滝の中に顔を突っ込んでいる。

 顔を洗っているつもりだろうか。

 ふと隣のレレイを見れば、その視線は食い付かんばかりに白い竜へと注がれていた。

 未知のものへの興味がこれほど強いのは嬉しいことなのやら悲しいことなのやら。

 

 滝の中から顔を出して頭を振ることで顔についた水滴を飛ばした白い竜は、今度は滝が流れ落ちる池へと視線を向けた。

 しばらく何かを探す素振りを見せていたが、目当ての物は見つからなかったのか池から視線を外す。

 

「(腹でも減っておったのか? 人間を襲わなければいいのだがな……)」

 

 警戒しながらも白い竜を観察するカトーたちだったが、白い竜はもうここには用はないのか片翼3枚の翼を広げて浮かんだ。

 そして、チラリと赤い瞳を草木に隠れているカトーとレレイの二人に向ける。

 

「(気付かれておったのか!?)」

 

 カトーも流石に焦ったのか、何時でも反撃に移れるよう杖を手にする。

 しかし、白い竜は何もすることなくカトーたちを一瞥するだけで空へと飛び上がり、何処かへと飛んでいってしまった。

 

「……はぁぁぁぁ、流石に最後は焦ったわい」

「でもすごく美しかった。できれば今度はもっと近くで見たい」

 

 バクバクと老体にはきつい鼓動をあげる心臓を押さえながら、カトーは空いた手で額を伝う汗を拭う。

 臭いでバレないよう魔法で細工をし、見えないよう草木に隠れて白い竜からもできるだけ離れた。

 なのにあの白い竜は短い間で自分たちの存在を察知した。

 襲ってこなかったのは不幸中の幸いだろう。

 一方で、白い竜の姿を見ることができてホクホク顔のレレイがポツリと不穏な発言をする。

 白い竜がどんな行動をとってくるのかわからない危険性があるのはレレイも理解しているはずなのだが、やはりこの好奇心の強さには困ったものだ、とカトーはレレイの後ろで多くため息をはいた。




ちょくちょくポケモンネタ入れれたらいいなーと思ってます。

あとこの作品には私のリアル友だちが考えたキャラクターが登場します。
登場したときにはタグに追加しようかな。


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誰かウルトラマン呼んで!それかメカゴジラ造って!

はえぇ更新だなぁ……人って頑張ればやれるもんだね。


「空が青いねぇ。さすが異世界」

 

 青空の下を複数の車両が進み、その中の一台の車両に乗車している男が呑気な声を出していた。

 この呑気な声を出していた男こそ、銀座事件で『二重橋の英雄』と称賛される自衛隊員の伊丹耀司二等陸尉である。

 自衛隊員とは思えないほど実に間抜けな声だ。

 

 銀座事件での活躍を賞されて昇進。

 表彰式のあとに毎日のように続くテレビ局からのインタビュー。

 そして銀座のど真ん中に現れた(ゲート)の向こう側の世界、特別地域通称『特地』へと派遣され、第3偵察隊の隊長に任命された。

 本人のモットーは『喰う寝る遊ぶ。その合間にちょっとの人生』という社会人としてはあるまじきものである。

 さらには筋金入りのオタクであり、銀座事件当日も夏の同人誌即売会に行っており、即売会の中止を恐れていたほどだ。

 

「こんなところだったら北海道にだってありますよ。巨木が歩いていたり、ドラゴンが飛び交っていたり、妖精が飛んでいたりしているのを想像してたんですけどねぇ」

 

 呑気な声をあげる伊丹に、同じく呑気な声で車を運転している倉田武雄三等陸曹が答える。

 彼も伊丹同様オタクの部類に入り、銀座事件の時に伊丹と同じように同人誌即売会に参加していた。

 類は友を呼ぶとはよく言ったものだ。

 

 伊丹率いる第3偵察隊、というよりは特地へと進軍した自衛隊は、以前この特地の現地語で『アルヌスの丘』で諸王国連合軍と戦った。

 結果は自衛隊の圧勝で終わり、自衛隊はアルヌスの丘を拠点とし、その周辺地域の調査をするために偵察隊が編成されその内の一つを伊丹は任された。

 これまで、第3偵察隊はコダ村などのいくつかの集落を回ったがなにも起こらず順調に偵察任務は進んでいった。

 

「異世界なんだからもっとファンタジーなところを想像してたのに、なんだか期待はずれっす」

「そんなに猫耳娘が良いのか?」

「別に妖艶な魔女とか、貞淑な淫魔とか俺なら何でもいいんすっけど、隊長の好みって何なんですか?」

「俺は……魔法少女かなぁ」

「マジっすか?」

 

 同じオタク組ということもあって道中花を咲かせながら仲良く会話を続ける。

 

「妖精とかがいるのかわからないけど、ドラゴンならいるだろうな」

「銀座を襲った連中が乗ってたやつですか?」

「いや、銀座で暴れた白いやつ」

 

 伊丹が白いやつ、と言うと倉田は嫌そうに顔をしかめた。

 銀座で暴れた白いドラゴン、もといパルキアは日本は良い意味でも悪い意味でもとても目立つ存在となった。

 

 虐殺を行う異世界の軍を退け民間人を救った『救世主』。

 周囲への被害を気にせず破壊と殺戮を行った『破壊者』。

 

 今の日本でのパルキアの扱いは、大まかに上記の2種類に分かれている。

 世間ではパルキアのことは白い竜を略して『白竜(はくりゅう)』と呼ばれている。

 さらに銀座で暴れたパルキアは(ゲート)を潜りこの特地にやって来ているので、特地に派遣された自衛隊はパルキアと接触した場合は殺処分、もしくは捕獲をしろと命じられている。

 ワイドショーでも好き勝手言っているせいでネット上ではパルキアに肯定的なユーザーと否定的なユーザー同士で討論という名の罵り合いの行うほど、盛り上がっている。

 何時パルキアと出会うかわからない特地にいる自衛隊からしたらたまったもんではない。

 

「テレビでも白竜は殺すべきだとか、捕獲するべきだとか自由に言ってるけどさ、実際相手することになるのは俺たち自衛隊なんだ。堪ったもんじゃないよ、ホントに」

「しかし、もし本当に白竜と戦闘することになってもこちらの攻撃が通用しなかったらどうしましょう?」

 

 伊丹と倉田の後ろの席に座っている富田章二二等陸曹が、二人の会話を聞いて不安げに口を開いた。

 

「さすがにそれはないでしょ。もし効かなかったら戦車とか戦闘機で相手してもらわないと。 それでもダメならウルトラマンを呼ぶか、マジでメカゴジラを造ってもらうしかないよ」

 

 富田の不安を和らげるように伊丹は軽い口調で言ったが、内心伊丹も不安だった。

 銀座事件でパルキアは人知を越えた力を使ったと報告が上がっている。

 報告によれば、パルキアはエネルギー弾を飛ばし、飛ぶ斬撃を放ったらしい。

 しかも、異世界からの侵略者たちだけの動きを止めるなどもはやRPGに登場するボスみたいな能力を引っ提げている。

 だれが気功弾や気円斬擬きや動きを止めてくる竜と戦わねばならないのか。

 願わくばうっかり出会いませんように、伊丹はそう願うしかなかった。

 

「倉田、この先にある小川を右に曲がって川沿いに進めばコダ村の村長が言っていた集落がある」

「了解です」

 

 富田の隣にいた桑原惣一郎陸曹長は運転する倉田に行き先を指示する。

 彼はこの偵察隊の副長に任命されており、伊丹よりも長い任官歴によって同じ隊のメンバーのフォローなどをしてくれている。

 その事に伊丹は感謝しており、桑原に『頼りにしてますよ、おやっさん』と気軽に声をかけた。

 

「頼られついでに意見申言します、伊丹隊長。 この先の森で一旦野営しましょう」

「さーんせーい」

「一気に乗り込まないんですか?」

「何がいるかわからない森の中にこのまま入ったら夜になっちゃうよ。 それに、集落の人を脅かすのは僕たち国民に愛される自衛隊としてはNGでしょ」

 

 手早く後続に続く車に乗る他の隊員たちに指示が行き渡ると、目的地に着くまで再び伊丹と倉田のオタク話が始まる。

 途中で伊丹と倉田の二人でアニメのオープニング曲を歌い始めて女性隊員に呆れられるのだが、二人はそんなことも知らずに楽しそうに歌い続けた。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 一方、空を飛行するパルキアは楽しそうに歌う伊丹たちとは違い、苛々していた。

 理由は、中々空間の修復方法がわからずダラダラと時間が過ぎていくからなのだが、それともう一つパルキアが苛つく理由があった。

 

――あの蜥蜴人間め……俺のしらたまに傷つけやがって……

 

 白い服を着た翼の生えた少女から襲撃を受けたのだ。

 餌を探しながら空を飛んでいると、その白服の少女がパルキアの上から奇襲をかけてきたのだ。

 気配がダダ漏れだったためちょっと身を捻るだけで白服の少女の攻撃を避けたが。

 別に気にするほどのことでもなかったからそのまま無視して飛んでいこうと思ったが、無視したことが白服の少女の癪にさわったのかそのあとから執拗なまでに攻撃をされ続けた。

 何語かわからない言葉で叫ばれても理解できないものは理解できない。

 

 嫌々避けるだけの相手をしていたパルキアだったが、白服の少女は後にパルキアの逆鱗に触れる行為を行った。

 毎度毎度白服の少女が猛スピードでパルキアへと突っ込んでくるものだから、パルキアはひょいと横にずれるように飛行したが白服の少女は横にずれたパルキアへと軌道を修正し、手に持った巨大な鎌をパルキアに振り下ろした。

 ここで、鎌がパルキアの胴体に当たったのなら『おっ、当てたんだ』程度に感じるはずだったが、白服の少女は鎌をパルキアの胴体ではなく肩の宝玉へとぶち当ててしまった。

 ガキィンッ!と高い金属音が響いたのを合図にパルキアは体を回転させ、回転させた拍子に振った腕で白服の少女を殴った。

 ゴチャッと潰れる音と共に白服の少女は勢いよく森へと落下した。

 パルキアは吹き飛んだ白服の少女のことなんぞ気にせず、真っ先に鎌を当てられた肩の宝玉の状態を確認した。

 最悪、以前時間の奴がつけた傷よりも全然浅かったため事なきを得た。

 肩の宝玉はパルキアにとってプライドであり誇りでもある。

 これを傷つけられることは自身への侮辱であり恥じるべきことなのだ。

 そんなことがあったため、パルキアは少し苛々しながら空を飛んでいるのだ。

 

 もう嫌なことがあったから逸そ今日は寝てしまおうと考えるパルキアだったが、ふと焦げ臭い臭いがパルキアの鼻を刺激する。

 山火事か?と辺りをキョロキョロと見渡すと、森の遥か先で黒い煙が上がっているのが見えた。

 自然では太陽光の熱で森の草木が燃え上がって勝手に山火事になることがある。

 自然の現象ならわざわざ他所である自分が火を消すのも妙だなと思い、パルキアはさっさと燃え上がる森から離れていこうとしたが炎の赤とは違う別の赤い存在を見つけることができた。

 

 赤い竜。

 以前見た交尾中の竜の内の一匹だった。

 

 こいつが森を燃やしているのか、と山火事が自然現象ではないことを知ったパルキアはため息を吐きたい気分になった。

 確かに自然界の捕食者は戯れで獲物をなぶり殺しにすることはあるが、森を燃やしてまで獲物を殺すなんて実に馬鹿馬鹿しい。

 リザードンでもあんなことはしない。

 流石にやりすぎだ。

 

「……●●●●●●●●●●!」

 

 自然発火による山火事なら自然に任せておこうと思ったが、他の存在が介入して発生した山火事なら自分が介入しても問題ないだろう、とパルキアは思考すると空に向かって咆哮をあげた。

 パルキアが使う技には、空から落雷を落とすものがある。

 この技は必然的に巨大な積乱雲が発生して雨を降らせる。

 

――餌場がなくなるのも嫌だし、良いか

 

 軽い感じに積乱雲を発生させ、いくつか落雷が発生してから雨が降り始めたのを確認したパルキアは燃える森に背を向けて飛び去った。

 

 あのリザードン擬きに絡まれるのが面倒だから。

 

 

 

☆☆☆

 

 

「燃えてるね」

 

 森の一歩手前で野営しようとその場所を探していた第3偵察隊一行は、森が燃えている光景を見つけた。

 

「山火事かな?」

「……というより、怪獣映画です」

「んー……あれま」

 

 双眼鏡を使って燃える森を見ていた桑原の強張った表情を見て、伊丹も双眼鏡で燃える森を見る。

 そこには、ファンタジーの代名詞とも言えるドラゴンが火を吹きながら空を飛んでいた。

 

「白竜以外の竜がいるとはね……まずいね」

「白いゴジラの次は一本首の赤いキングギドラか」

「マジでメカゴジラが必要になってきたかもね……」

 

 パルキア以外の新たな竜の存在に、本当にメカゴジラがほしいと思いげんなりとする伊丹。

 報告が嫌になる。

 

「伊丹隊長、これからどうします?」

 

 ここで、今まで黙っていた栗林志乃二等陸曹がこれからの行動の指針を求めたが、伊丹はそれに対してふざけて返答する。

 

「栗林ちゃん、おいら一人じゃ怖いからさぁ、一緒についてくれなぁい?」

「嫌です」

「あ……そう」

 

 バッサリと即答され、伊丹の顔が引きつる。

 第3偵察隊の中でも数少ない自衛官でもある彼女は過去の出来事からオタク嫌いになり、隊長である伊丹やオタク仲間の倉田への当たりが強い。

 さてどうしようかと決めあぐねいていると、赤いドラゴンが一際大きな咆哮をあげて何処かへと飛び去ってしまった。

 最悪戦闘しなければならないと緊張した第3偵察隊の隊員たちだったが、最悪の事態は避けることが出来たようだ。

 これで一安心、と気を抜こうとした伊丹だったがある一つの考えに気づいた。

 

「あのドラゴン、何もないただの森を焼き払う習性があると思う?」

「ドラゴンの習性に興味がおありでしたら、隊長自らが追いかけて調べればよろしいのでは?」

 

 小馬鹿にしたよう態度で伊丹の問いに答えた栗林だったが、栗林の返答に伊丹は真剣さを漂わせた声でさらに返した。

 

「理由ははっきりしてないが、白竜は侵略軍を襲い、殺した。 それにコダ村の村長の話じゃあの森には集落があるって言ってた。 森を焼き払ったっていうより集落を襲ったって考えた方が自然だ」

「それってまずいんじゃ……!」

「おやっさん、野営は後回しだ。 生存者の捜索と救出に行こう」

「了解!」

 

 伊丹の話に他の隊員たちも事の重大さに気づき始め、伊丹の号令と共に急いで森の集落へと車を進める。

 

――――――――

 

「ん?」

「どうしたんすか伊丹隊長?」

「なんか今聞こえたような……」

 

 ここで伊丹は何かが聞こえたらしく、倉田も伊丹の様子に気がつき質問する。

 それと同時に、空を黒い雲が覆い雷が轟き始めた。

 そして、ポツポツと雨が振り、最後には土砂降りの雨へと変化した。

 大量の雨は炎を沈下していき、伊丹たちが森の中に入る頃にはもうほとんど炎は消えていた。

 

 まだ木々が燻り燃えた痕跡が残る中、伊丹たちは森の中に入って赤いドラゴンが襲撃した集落跡を調査。

 多くの犠牲者の亡骸と、井戸の中にいた唯一の生存者を発見した。

 驚くことに生存者は人間ではなく、これまたファンタジーの代名詞のエルフだった。

 やはりここは異世界なんだなと理解させられた伊丹一行は、救出したエルフの少女を連れてコダ村へと戻った。

 エルフの少女を救出した時に、アルヌス駐屯地に赤いドラゴンのことを報告すると駐屯地から偵察隊任務を切り上げて帰還せよと指示が出された。

 コダ村へと到着すると、伊丹は写真と片言の現地語で起こった出来事を伝えた。

 場合によっては村人たちの避難を手伝わねばならない。

 

「こ、これは炎龍じゃ!」

 

 村長によると、森を焼き払った赤いドラゴンは炎龍という生ける災厄と恐れられている存在らしい。

 人の味を覚えた炎龍は再び人を襲うようになり、この村を捨てて逃げなければならない。

 救出したエルフの少女を預かってくれないかと伊丹は村長に頼んだが、種族の違いから丁重に断られた。

 

「村、捨てる?」

「そうじゃ。人の味を覚えた炎龍は町や村をまた襲ってくる。 じゃが荷物をまとめて何時でも逃げれる準備をして正解じゃった」

「逃げる準備、してた? どうして?」

「実はつい数日前に見たこともない白い竜が現れたんじゃ」

「白い竜!?」

 

 村長が白い竜といった瞬間、伊丹は最悪な状況を予測した。

 伊丹はこの予想は外れてくれと願いながら、懐から一枚の写真を取り出してその写真を村長に見せた。

 その写真は、銀座で暴れたパルキアを撮した写真だった。

 

「この竜か!?」

「そうじゃよ!この竜じゃ!」

 

 村長の確認が取れると、伊丹は村長にお礼を言ってから足早に待機していた第3偵察隊隊員たちのもとに戻った。

 そして村長と話をしたこととパルキアがコダ村で目撃されたことを伝え、各員に分かれて村人たちの避難準備を手伝った。

 村人の準備が整ったのを確認すると、伊丹たちは逃げる村人たちを護送しながら宛のない逃避行を行うのであった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 時は進み、雲が大空を覆い真っ黒な闇が広がる荒野に男たちの声がする。

 

「村人がコダ村から逃げ出しているらしいぜ」

「こっちの頭数足りねぇんじゃ?」

 

 彼らは主にこの荒野を一帯に訪れる商業者たちを襲って生活する盗賊集団だった。

 事前に何か良いことが起こったのか、彼らの声からは喜びの感情が伺えることができた。

 その理由を示すのが、焚き火を囲う彼らから離れた場所に放置された馬車にある。

 彼らはその馬車の持ち主を襲い、金目のものと食糧を手に入れると邪魔な男を殺してその男の妻と娘を犯した。

 殺された男は乱雑に放置され、強姦された男の妻と娘は衣服を剥ぎ取られた姿ですでに死んでいた。

 男を殺す前に拷問によって何故こんなところにいるのか聞き出すと、コダ村から一足先に逃げ出してもうじき村中の村人たちも逃げ出すというらしい。

 これを襲わない手はない。

 

「集めればいい。この辺にはアルヌスの丘で敗けた敗残兵たちがうようよしている。 集めれば村どころか町だって襲える」

 

 頭数を増やし町を襲って領主になる夢も悪くない、と盗賊の頭は欲望にまみれた夢を見る。

 だが、その夢は自身の死という形で幕を終えた。

 バチュッと水っぽい音が響き、頭部を失った頭の体が力なく前倒れになる。

 いきなりの頭の死に他の男たちは何が起こったのかわからず、頭の首から血が大量に流れるのを見続けた。

 そんな男たちの無視して焚き火で照らされた頭の影から、ゆっくりと闇が現れた。

 男たちから見れば、闇の中から青く光る目だけが現れたかのように見え、逆にそれが彼らに恐怖心を与えた。

 

「こいつ!」

 

 血気盛んな盗賊の一人が、闇の中にうっすらと見えるソイツにククリナイフを振り下ろす。

 だがソイツはあっさりと男の攻撃を避けると、盗賊と同じように男の頭部を吹き飛ばした。

 

「に、逃げろおお!」

 

 盗賊の男の一人が恐怖に耐えきれず絶叫をあげながら背を向けて走り出す。

 それが切っ掛けとなり、他の男たちも叫び声をあげながら逃げ出した。

 

『………………逃ガサナイ』

 

 ソイツは影の中に潜り込むと、ソイツの影が地面を這うように動き出す。

 影は逃げる盗賊たちを先回りして盗賊を迎え撃つような形で姿を現すと、周囲に黒いオーラを放つ球体を作り出して盗賊たちへと放った。

 黒い球体は盗賊たちの頭や胴体といった人の急所を的確に捉え、瞬く間に盗賊たちを殺害していく。

 あっという間に逃げていた盗賊全員は全滅した。

 全員死んだことを確認したソイツは、犯され目を見開いたまま死んだ母娘のもとまで行くと、指で二人の瞳を閉じさせた。

 ソイツは青い目を閉じ、死んだ者への鎮魂を済ませると再び影の中へと入っていった。

 後に残ったのは闇夜に包まれた静寂だけだった。




次回は友だちの制作キャラクターが登場。

ギャグキャラだからカオスになるかなぁ。
サブタイトルでもカオスか。


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Oh year!あいむかみーん!

調子が良いぜ。


 コダ村からの避難民を護送しながらアルヌスの丘へと戻る第3偵察隊だったが、予想以上にうまく事は運んでいかなかった。

 事前に準備をしていたためコダ村からの出発は早い段階で達成されたが、荷物が満載された馬車は進行する速さは遅く、泥濘にはまれば抜け出すのに時間がかかったり馬車の車軸が折れてしまったりと様々な事故が起こった。

 車軸が折れた馬車の持ち主には可哀想だが、永遠とその場を動こうとしてくれなかったら逃避行の終わりはどんどん遠ざかってしまうため馬車を燃やすことで無理矢理諦めてもらった。

 そもそもこの逃避行はコダ村の村人たちがどこか安全なところまで逃げるという漠然としたものであり、伊丹たちは途中までそれに付き添うというものだ。

 宛のない逃避行は村人だけでなく、付き添う第3偵察隊の隊員たちをも消耗させていった。

 

 保護したエルフの少女は当初体温の低下で弱っていたが、今では眠ったままだが体調は良くなっているためこの逃避行の中の唯一の吉報だ。

 エルフの少女の面倒を見ていた黒川茉莉二等陸曹が、看護資格を持って正しい医療知識を持ち合わせていたのが幸いした。

 

「あれ?」

「どうした?」

「前方に、なにやら……」

 

 逃避行を続けていたある日、先頭を走る車を運転していた倉田が道の先に何かが見えると伊丹に伝えた。

 伊丹は双眼鏡で倉田が見たものであろうものを確認する。

 

「カラス?…………うわっ」

 

 双眼鏡で前方を見ると、何十羽というカラスの群れがバサバサと飛んでいるのが見えた。

 カラスが見えただけなら別にどうという事はないが、いきなり視界一杯に黄色の物体が広がり思わず驚いて後ろに下がる。

 もう一度よく見ようと双眼鏡を覗くと、デカイ斧と槍を合わせた武器ハルバートを持つ黒いゴシックロリータ調の服を着た少女が何やら憤慨した様子で黄色い物体を踏み抜いていた。

 

「ゴスロリ少女と……黄色い饅頭?」

「ゴスロリ少女!?」

 

 見えたものをポツリと口にすると、隣の倉田は興奮した様子で双眼鏡を覗く。

 ゴスロリ少女という単語だけで反応したのが彼らしい。

 一方で黄色い物体を踏み抜いていたゴスロリ少女は『はぁ』とため息を吐くと、地面に突っ伏す黄色い物体を無視して伊丹たちが乗る車へと近づいてきた。

 ハルバートという成人した男性でも持つことが難しそうな代物を持つ少女に警戒する伊丹たちだったが、避難民たちはそんな伊丹たちのことを無視して少女のもとへと近づくと祈りを捧げ始めた。

 

「祈りを捧げているように見えますね……」

「あのゴスロリには宗教的な意味があるのかな?」

「知りたいか?」

「どうおわっ!?」

 

 少女に祈りを捧げる避難民たちの光景を見ながら伊丹たちが少女の存在について考えていると、横からいきなり野太い声がかけられ伊丹の体がビクリと跳ね上がった。

 声がした方、より正確には車の前席の窓の下にはとてつもない間抜け面のような能面のような妙な表情をした50センチくらいの猫が下から見上げていた。

 

「い、今喋った?しかも日本語?」

「なぁにを驚いていやがる。喋る猫がいたって普通だろい」

 

 お前みたいな猫がいるかよと初対面で暴言を吐きそうになった伊丹だったが、ここはグッと堪える。

 ていうかやっぱり日本語を喋っている。

 マジでこの猫なんなの。

 

「あいつの名前はロゥリィ・マーキュリー。暗黒の神エムロイの神官だ」

「神官っていうことはやっぱり宗教的な意味が?」

「おうよ。つまり、メチャ偉い」

「は、はぁ……」

 

 この訳のわからない生物にどう接したらいいのかわからなかった伊丹だが、向こうから気軽に話しかけられているのでまあ敵対する意思はないのかな?と安心したくないが安心する伊丹。

 

「ちなみに歳は900越えのバb」

 

 ズゴンッ!と黄色い猫がハルバートに押し潰された。

 ハルバートの持ち主のゴスロリ少女は額に青筋を立てながらワナワナと怒りに震えていた。

 

「ちょっとぉ……勝手に人の歳を言うのは失礼じゃなくてぇ?ぶち殺すぞ」

 

 特地の言葉で甘ったるい艶やかさを含んだ声で喋っていたゴスロリ少女もといロゥリィだったが、途中でドスのきいた声で黄色い猫を脅す。

 祈りを捧げていた避難民たいも若干怯えている。

 

「そうカリカリするな。カルシウムが足りないんじゃないんか?んん~?」

 

 地面に顔を埋め込んだ状態で黄色い猫はさらにロゥリィを煽る。

 

「ふん!」

「どゅくし!」

 

 終いにはロゥリィが思いっきり黄色い猫の頭を踏み抜くことで二人の攻防は幕を引いた。

 その後何事もなかったように伊丹たちに『これ、どうやって動いているのぉ?』と訊いてきたロゥリィに別の恐怖を感じた。

 

「え、ええーっと……その、お供の猫は大丈夫なの?」

「?……あぁ、あれなら大丈夫よぉ」

 

 ジェスチャーと辿々しい特地の言葉で黄色い猫を心配する伊丹だったが、彼女からは大丈夫という返答が返ってきた。

 

「その通り!」

 

 黄色い猫はがばりと起き上がり間抜け面を伊丹に近づけたので、ロゥリィの言う通り大丈夫らしい。

 

「ちなみにロゥリィよ。これは車といって乗り心地は馬車よりも素晴らしいぞ」

「へぇそうぅ。 ねぇ、私も感じてみたいわぁ。これの乗りご・こ・ち」

「俺も感じてみたぁ~い」

 

 妖しく微笑むロゥリィにドキリとした伊丹だったが、後からくねくねと体を動かしながら喋った黄色い猫で台無しになった。

 その後、ロゥリィは伊丹の膝の上に座り、倉田がむちゃくちゃ羨ましがったことで黄色い猫に『なら俺が座ってやろう』と野太い声で宣言されて倉田の膝の上に座られた。

 その時の倉田の顔は死んでいた、と記述しておこう。

 だがさすがに膝の上に座らせるのは色々とまずいので、ロゥリィは運転席と助手席の空いたスペースに、黄色い猫は車の後ろで子どもたちと一緒に乗ってもらった。

 

「よ、よろしくロゥリィ・マーキュリーさんと」

「ロゥリィでいいわぁ」

「そ、そう……改めてよろしくロゥリィ。 それと……」

 

 伊丹はもう同行することが決まってしまったロゥリィに挨拶をし、黄色い猫の名前を訊こうと後ろを向く。

 むしろ名前などあるのだろうか。

 

「俺か?そうだな……平凡的な猫、略して『平猫(ひらねこ) 』と呼んでくれ」

 

 絶対平凡じゃない。

 黄色い猫改め平猫の自己紹介を聞いてそう思う伊丹だった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 モグモグモグ……とパルキアは口をモゴモゴ動かしながら森から離れた荒野を飛行していた。

 口に入れているのは、なんと異世界で見つけたナナの実。

 異世界だから元の世界のものなどないと思っていたが、運良く見慣れた食べ物が存在していたことにパルキアは嬉しさを覚えた。

 このパルキアが甘いものが好きだったというのも理由の一端にある。

 久しぶりに見るナナの実に思わず歓喜の声をあげたのはちょっと恥ずかしかった。

 そんなことがありながらも、パルキアはナナの実を回収しておやつ感覚で定期的に口に運んで甘味を味わいながら荒野を散策していた。

 

 ナナの実の甘さに舌鼓を打っていると、パルキアの横を鳥の群れが横切っていった。

 何やら慌てた様子でバタバタと翼を羽ばたかせ飛行していたため、捕食者から追われて逃げてきたのだろうとパルキアは呑気に考える。

 だって自分には関係ないし。

 残っているナナの実を頬張りながら『ムクホークとかもいるのかな?』などと考えながら飛行を続けたが、飛んでいく先で鳥の群れが逃げていった理由を知ることになった。

 

――ゲェ、リザードン擬き

 

 なんとあの森を燃やしていたリザードン擬きを見つけてしまったのだ。

 なんというエンカウント率。

 ビッパも驚きの遭遇率だ。

 

 嫌なやつ見つけたなぁとげんなりするパルキア。

 折角上機嫌だったのに気分がダダ下がりになる。

 幸いリザードン擬きはこちらに気づいていないので、気づかれずに退散できるかなと思ったパルキアだが、比較的他のポケモンよりも良い視力が地面を走る黒い物体を見つけた。

 

――車?

 

 なんとまたまた元の世界の代物である車を発見。

 今日はなんだか怖いくらい運が良いぞ。

 

 パルキアは不機嫌から上機嫌にまた戻り、地上で繰り広げられる車の逃走劇を見る。

 車の数は3つ。

 どうやらリザードン擬きの攻撃を交わしながら戦っているようだ。

 

 それにしてもあのリザードン擬き、デカイくせに車3つに反撃されているなんて……まさか弱い?

 それならリザードン擬きが炎を思いっきり吐いても車に当たらないことの理由になる。

 獅子は兎を狩るのにも全力を尽くすというが、ちょっと全力を出しすぎじゃないだろうか。

 

 パルキアは他人事のように車とリザードン擬きの攻防を見届けていたが、ふいにエネルギー球体を作り出してリザードン擬きの足元へと球体を発射した。

 意外と威力があったのか、リザードン擬きは球体が足下で爆発した衝撃で大きく体勢を崩した。

 これまでのパルキアの異世界探索で、あの車を所有する者たちの言葉は理解することができるということはわかっている。

 デカイから警戒されているからどう接触しようかと考えていたが、ここで恩を売っておけば後々都合よく情報を手にいれることができるかもしれない、とパルキアは考えていた。

 ならさっさとリザードン擬きを倒してしまおうとパルキアは起き上がるリザードン擬きの前に降り立った。

 

 目の前にいるリザードン擬きの第一印象。

 結構でかかった。

 これでもパルキアは元の世界で大型のポケモンに部類される存在だったが、目の前のリザードン擬きはポケモンたちが赤ちゃんに見えるくらいでかかった。

 メガ進化も目じゃない。

 

「グオオォォオオオオオオオオ!!!!」

 

 目の前に降りてきたパルキアがさっき邪魔してきた敵だとリザードン擬きは理解すると、巨大な体に合った咆哮でパルキアを威嚇した。

 

――やかましいメスだ

 

 一方でパルキアは威嚇なんぞそよ風程度にしか感じておらず、他事を考えていた。

 パルキアからはリザードン擬きがメスということがわかったが、こんなキレ気味に吼えるようなメスは好みではない。

 むしろパルキアは物静かでクールな娘が好みであり、こんな不良みたいな野蛮なメスはこっちから願い下げだった。

 番にされたであろう青い竜のオスには同情する。

 

「グオオォォオオオオオオオオ!!」

「●●●●●●●●●●●●●!!」

 

 リザードン擬きの咆哮を合図に、パルキアは己の目的のために行動を開始した。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「怪獣と戦うのは自衛隊の特権だけどよ!走れ走れ!」

 

 避難民を連れて移動していた伊丹たちは、やっとのことでアルヌスの丘までの中間地点を越えた場所でもあるロチの丘まで来ることができた。

 ここまで来るのに避難民たちは疲弊しきっており、もうすでに何人かフラフラとおぼつかない足取りをしていた。

 しかも、荒野でもあるロチの丘を太陽が煌々と照らしているせいでより体力の消耗が激しくなる。

 何も起こらなければいいのにと思った矢先、空を飛んでいたワイバーンが横から現れた巨大な影に噛み砕かれた。

 赤い体躯と巨大な翼を持つ炎龍の出現だった。

 最悪な事態に伊丹は急いで号令をかける。

 そんなことは知らず、炎龍は餌を見つけたと言わんばかりに咆哮をあげると、逃げる避難民たちへ牙を向いた。

 逃げる者にはすべてを焼き尽くす業火を放ち、地面を這う者には尻尾で吹き飛ばす。

 たった一瞬の内に、数十名の人たちの命が散った。

 炎龍の暴挙を止めるべく、第3偵察隊は今ある火器を使用して炎龍へと攻撃する。

 だが炎龍の硬い鱗に阻まれ、手持ちの武器の火力では炎龍に決定打を与えるのは難しかった。

 しかも、飛んでくる銃弾を煩わしく思ったのか、炎龍はお返しと言わんばかりにブレスを放つ。

 なんとか回避できたが、当たればひとたまりもなかった。

 打つ手なし。

 焦りが伊丹を襲うが、事態は急変した。

 

 なんと、爆音と共に炎龍が地面に倒れたのだ。

 何事だと窓から顔を出して上を見れば、銀座で暴れた白竜が真っ直ぐこちらに降りてきていた。

 最悪だった。

 巨大な炎龍を相手するだけでも必死だと言うのに、白竜まで来られたら自衛隊といえどどうすることもできない。

 新たな竜の乱入に逃げる避難民たちのパニックも最高潮に達し、諦めて地面にへたりこむ者や救いを求める者たちまで現れた。

 

「くそっ!どうすれば……!」

「安心しろ」

 

 焦る伊丹に、平猫が声をかけた。

 

「パルキアはこちらの味方だ」

 

 どういうことだ、と伊丹は声を出そうとするが炎龍の咆哮でその言葉は出てくることはなかった。

 そして、炎龍の咆哮の後に銀座事件で聞いた白竜の咆哮が響いた。

 もう一度炎龍へと視線を向けると、なんと白竜が炎龍に体当たりを食らわせていた。

 白竜の体躯は炎龍よりも遥かに小さい。

 遠目で見て5メートルもないほどの大きさだ。

 対して炎龍は白竜よりも巨大で、50メートル以上はゆうに越えていた。

 だと言うのに、白竜が炎龍に体当たりをすると大きさなんて関係ねぇと言わんばかりに炎龍の体が後ろに大きく吹き飛んだ。

 

「す、すげぇ……」

「今の内に避難民を助けたらどうだ?」

 

 白竜の体当たりを目の当たりにして、倉田は呆けた声を出す。

 平猫は唖然とする伊丹たちに避難民の救出を提案し、我に返った伊丹が急いで他の者たちに指示を出す。

 

 一方で、白竜と炎龍の戦闘はより苛烈さを増していった。

 炎龍もただやられている訳ではなく、巨大な体を活かして白竜へと攻撃を仕掛ける。

 白竜は炎龍よりも遥かに小さな体を使い炎龍の腕や翼の隙間を移動しながらエネルギーの球体を炎龍の体へ当てていた。

 

「グオオォォオオオ!!」

 

 炎龍はこちらの攻撃が当たらないことに苛立ちがつのり、炎龍の最大の技でもあるブレスを白竜へと放った。

 炎龍の口から放たれたブレスは白竜の体を包み込み、業火で白竜を焼き尽くす。

 誰もが白竜がもう終わりだと悟った。

 炎龍のブレスの恐ろしさは襲われた彼らが一番よく知っている。

 炎龍がブレスを吐き終わった後には見るも無惨な白竜の死体が出来上がる。

 誰しもがそう思った。

 

 だが、その予想は大きく外れることとなる。

 突如、ブレスを吐き続けていた炎龍が急にブレスを吐くのを止めたのだ。

 その理由は、未だ炎に包まれている白竜が炎に焼かれたままエネルギーの球体を炎龍の口めがけて発射したからだ。

 エネルギーの球体を口の中に当てられた炎龍は口から血を出しながら苦しみの咆哮をあげる。

 白竜は苦しむ炎龍に向けて口元に大量の水を集めだした。

 白竜はその集めた水を勢いよく炎龍へと発射。

 白竜が放った水は一直線に炎龍の頭へと命中し、水ではなく一種のビームのようにも見えた。

 水の攻撃を食らっている炎龍はなんとかしてその攻撃がら逃れようともがいたが、白竜は顔を大きく振る炎龍の頭部を的確に狙い撃ちにしていた。

 

「今ならこっちを意識していない……勝本!」

 

 伊丹の号令で、勝本航三等陸曹が対戦車弾を撃ち込むべくLAMを構える。

 狙うは炎龍。

 

「おっと……後方の安全確認」

「「「「遅いよ!」」」」

「ガク引きかよ!」

 

 訓練のお陰か、勝本は引き金を引く前に後ろに誰もいないか確認してから対戦車弾を炎龍に放った。

 だが、悪路を走っているせいで車が跳ね上がり、対戦車弾は炎龍とは違う方向へと飛んでいってしまった。

 しかも最悪なことに、対戦車弾が向かう先には白竜がいた。

 

「カッ!」

 

 当たる、と誰もが確信する。

 だが、それを覆したのは平猫だった。

 平猫は車の後部を開け放つとぬるりとした動きで車の屋根に移動。

 口を開き、『カッ!』という声と共に口から閃光を放ちあわや誤射しかける対戦車弾を撃ち落とした。

 突然の爆発音に白竜は水を放つのを止めてしまう。

 炎龍はやっと止まった攻撃の隙をついて逃げ出そうと大きな翼を動かす。

 こうまでいいようにされしまえば逃げる以外手段がなくなってしまう。

 死んでしまったら意味がないのだ。

 しかし、炎龍の逃走を邪魔したのは平猫に続いて車から飛び出したロゥリィだった。

 平猫と同じように車の上に乗り、巨大なハルバートを小さく細い体からは想像つかないほどの速さで投げつける。

 投げられたハルバートは放物線を描きながら地面に突き刺さり、閃光を走らせながら地面を砕いた。

 足場を崩された炎龍は大きく体勢を崩す結果となり、白竜に攻撃させるチャンスを与えた。

 白竜は空中に留まりながら肩の宝玉を輝かせ、腕に桃色のエネルギーを溜める。

 宝玉の輝きが最高潮に達したとき、白竜は腕を振り下ろした。

 白竜の振り下ろした腕から放たれた斬撃は、真っ直ぐ炎龍へと襲いかかり炎龍の右腕を豆腐のように切り落とし、炎龍は腕を切り落とされた痛みに絶叫をあげる。

 炎龍は右腕を切り落とされる重症を負い、悲痛な叫びをあげながら一目散に空へと飛び上がって逃げていった。

 

「終わった……のか?」

 

 飛び去っていく炎龍を呆けた表情で見つめる伊丹たちだったが、まだ緊張は解けない。

 まだ空を浮遊している白竜が残っている。

 白竜はゆっくりと地面に降りていき、最後は伊丹を見下ろす形で地面に着地した。

 攻撃するか否か。

 一触即発の空気が漂う中、皆が隊長である伊丹の指示を待つ。

 伊丹は、ここでどう部下たちに指示を出すか必死で考えていた。

 自分の指示一つが部下たちの命を握っている。

 人生で味わうことなどないほどの緊張が襲う中、伊丹ではない声が白竜へと投げつけられた。

 

「礼を言うぞパルキア。お前のお陰で多くの人の命が救われた」

「私からもぉ、お礼を言わせてもらうわぁ。それにぃ、貴方の戦いは見事だったわぁ!」

 

 その声は、未だ車の屋根に乗る平猫とロゥリィのものだった。

 一人と一匹は白竜を賞賛し、白竜も黙って二人の言葉を聞いていた。

 

「ん?……なるほど、そういうことか。 パルキアよ、この自衛隊と行動を共にすればお前の目的は達成される」

「お、お前何を言ってんだ!?」

 

 急に、平猫は勝手に一匹で納得してパルキアと呼ぶ白竜に自衛隊につけと言う。

 勝手なこという平猫に伊丹は怒鳴り声をあげるが、当の本人(本猫?)は伊丹を無視して話を続けた。

 

「お前が自衛隊につくことで、ある程度人間の命令には従わなければならないことも出てくる。 だが、メリットは大きい。どうだ?イエスなら首を縦に。ノーなら横に振るといい」

 

 まるで白竜の言うことが通じているかのように平猫は白竜へと語りかける。

 白竜はしばらく唸り声をあげると、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「つ、通じている……?」

「どうやら日本語なら通じるらしいぞ?伊丹も話してみたらどうだ」

 

 目の前のファンタジーな光景に間抜けな声をあげる伊丹。

 さらには平猫の尻尾が器用に車の扉を開け、尻尾で首を持たれてズルズルと外に引きずり出された。

 そして、立ち上がらされた目の前には白竜。

 緊張と恐怖でチビりそうだった。

 

「え、えーっと……その……」

「…………●●●」

 

 口ごもる伊丹にさっさと喋るように促したのか小さく鳴く白竜。

 だが目の前に立たされてはもう逃げられないと覚悟を決めて、白竜の目を真っ直ぐ見つめながら白竜へと言葉を投げる。

 

「お、俺たちについてきてくれるか? お前の目的というのはよく解らないが、自衛隊に協力してくれるなら出来る限り手を貸す。 それでいいなら、俺たちについてきてほしい」

 

 少々詰まりながらも、伊丹は白竜に自分達についてきてほしいと頼んだ。

 白竜は伊丹により顔を近づけ伊丹の目を覗き込むように見つめる。

 そして、白竜は伊丹から顔を離すと先程と同じように首を縦に振った。

 

「こ、言葉が通じている……」

「こいつの名前はパルキアだ」

 

 白竜と言葉が通じていることに驚愕する伊丹に、平猫は白竜の名前を伝えた。

 

「そうか……これから宜しく、パルキア」

「●●●●●●●●●●●●●!」

 

 伊丹の呼び掛けに返事をするように、白竜改めパルキアは空に向かって咆哮をあげる。

 斯くして、自衛隊はパルキアという予測しなかった心強い協力者を得ることとなった。

 と、同時にあり得ない状況を報告しなければならないと伊丹は気づき気分は一転、ため息を吐きたい気持ちになった。




友だちが作ってくれたキャラクター『平猫』。
ギャグキャラとして扱っても良いって許可もらったから遠慮なしに使わせてもらいました。

賛否分かれるかなぁ。
平猫も愛してやってください。

ちなみにその平猫制作者が描いてくれたイラストがこちらです。

【挿絵表示】


いつか平猫の設定を出します。


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短い……と思っても割とそうでもない時ってあるよね

小説書いてるとホントこういう時ってあるよね。

だからといって今回の話に関係あるかと言われたらわからん。


 炎龍を撃退し、自衛隊と行動を共にすることになったパルキアは特地での活動拠点となるアルヌス駐屯地へと第3偵察隊の面々と同行していた。

 

 炎龍が去った後、伊丹たちは炎龍の襲撃の被害者たちを弔い、コダ村の人々と別れた。

 彼らはここまで連れてきてくらたお礼を述べ、伊丹たちに『ありがとう』という言葉を送って新たな生活の場へと向かった。

 しかし、中には伊丹たちと一緒についていく者たちもいた。

 炎龍の襲撃で親を失ったまだ幼い子どもや怪我をした者や高齢の者たちだ。

 身寄りのない彼らは、アルヌス駐屯地で暮らすということになった。

 アルヌス駐屯地へ伊丹が報告しないまま。

 まあそんなことはアルヌス駐屯地へと案内する車の後ろをついて飛んでいるパルキアには関係ないことである。

 それよりもパルキアはこのままアルヌス駐屯地に赴いても大丈夫なのかが心配だった。

 

「そのことなら大丈夫だぞパルキアよ」

 

 そう声をかけてくれるのはパルキアの背中に乗っている平猫だった。

 パルキアとしては唯一こちらの意思が通じる相手であるということもあって仲良くしておきたいというのが本音。

 背中に乗っているのもパルキアがそう提案したのだ。

 パルキア自身は良好な関係を築いていると思っている。

 平猫は伊丹がアルヌス駐屯地にパルキアのことをしっかりと伝えたとパルキアに教える。

 パルキアはそのことに満足し、その後はしばらく黙って車の後ろをついていった。

 

 しばらくすると、前方に白い壁が見えてくる。

 このまま進んでもちゃんと報告がされているというらしいから攻撃されることはない。

 もし攻撃されたらやり返せば良い。

 やられたらやり返す。倍返しだ!なのだ。

 まあそんな心配も杞憂に終わり、パルキアは伊丹たちと共にアルヌス駐屯地に空から侵入した。

 だが、例え伊丹の報告でパルキアがアルヌス駐屯地に来るということが伝わっていても空から飛来する巨体に驚かない者はいない。

 こうして降りてきたパルキアを一目見ようと自衛隊員数十名がわらわらと現れる。

 

「本物の白竜だ……」

「写真なんかよりも迫力あるな……」

「白竜の背中に乗っている猫はなんだ?」

 

 皆それぞれ思ったことを口に出すが、正直パルキアにとってそれはどうでもいいことだった。

 まあでもこれから互いに世話になるため下手なことをして自分の立場を悪くするわけにもいかない。

 パルキアは『ふんすー』とため息に似た息を吐くと伊丹たちがやって来るのを静かに待った。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「騎士ノーマ。どう思われますか?」

「……これだけ多くの避難民が言うのだから嘘ではないだろう。 皆で口裏を合わせていると考えるのも難しいしな。 だが炎龍だけでも信じがたいというのに見たこともない白い竜まで出てくるとなるとな……」

 

 とある村にある酒場。

 そこではある噂で大変盛り上がっていた。

 その噂というのが『炎龍が撃退された』というものだった。

 コダ村の避難民たちが逃げている途中に炎龍が現れ、『緑の人』という緑の服を着た人たちが応戦。

 さらに白い竜が現れ、緑の人と協力して炎龍を追い払ったというではないか。

 デタラメ過ぎる噂だと思うが、証人が多すぎるため酒場の中は炎龍撃退の噂で持ちきりだった。

 

 その中で鎧を着込んだ男女4人も噂の真偽について話していた。

 同僚の騎士に意見を求めた女性の名前はハミルトン・ウノ・ロー。

 その顔立ちは凛々しいよりも可愛らしいというのが似合っており、お世辞にも頼り概のある女性とは言えなかった。

 ハミルトンに反論したのは同じ騎士のノーマ・コ・イグルー。

 彼は炎龍撃退の噂を信じていないため、ハミルトンにあやすような口調で反論する。

 

「ホントだよお客さん。あいつは本物の炎龍だったよ。 あたしはこの目で見たんだから」

 

 ノーマの反論に、さらに反論するように酒を持ってきた女中は噂は真実だと証言した。

 この女中メリザもコダ村からの避難民であり、緑の人と炎龍、そしてパルキアの存在を実際に目にした人物である。

 今は酒場の女中として生活している。

 

「炎龍だけじゃなく白い竜もね」

「面白い話だが私は騙されんぞ」

 

 いよいよ与太話だと思ったノーマが笑い出し、メリザは顔をしかめるがハミルトンがまあまあと宥める。

 

「私は信じるから。 よかったらその龍を撃退した人たちの話、もっと詳しく聞かせてくれない?」

「ありがとう若い騎士さん!こりゃとっておきの話をしないとね」

 

 ハミルトンから情報料として多めのチップを受け取ったメリザは上機嫌で饒舌に炎龍撃退の顛末を語る。

 

「あの日、襲われていたあたしたちを助けてくれたんだ。緑の人たちがね」

 

 数は12人。

 その内二人が女。

 黒髪の長身の美女と、小柄だけど胸が牛みたいに大きい女。

 女の話をした途端に酒に酔った男たちのスケベな声が上がるが、メリザは気を取り直して話を続ける。

 

「緑の人たちはすごい速さで走る荷車に乗って、火を放つ不思議な形の魔法の杖を使って炎龍を攻撃したんだ。 でも炎龍にはまるで効きやしなかったんだ。 もう駄目だって諦めたとき、あの白い竜が現れたんだ」

 

 酒場にいる全員の視線を浴びながら、メリザは呼吸を整えると続きを話す。

 

「綺麗な白い体を持った竜で、肩にこれまた綺麗な宝石が埋め込まれていたんだ。 外見は今まで見た竜とは全然違う姿だったよ」

 

 話に勢いが乗ったのか、メリザはさらに話を続けた。

 コダ村から逃げる前に、その白い竜の姿が目撃され、事前に逃げる準備をしていたから手早くコダ村から逃げれたと。

 そして、白い竜が現れたお陰で緑の人たちは逃げる避難民たちを炎龍と白い竜から離すように連れていってくれたと。

 

「白い竜が光の球を炎龍の足下にぶち当てると、炎龍の足下が爆発して倒れたんだ。 そして、白い竜が炎龍の前に降りてきた時、正直言っちゃあ悪いけど白い竜は頼りないくらい小さかったんだ」

 

 ちょうどこの酒場の屋根くらいまでの大きさだったよ、と分かりやすいようにメリザは例えを出しながら白い竜の事を話す。

 そんな小さな竜が炎龍を撃退したなんて信じられないと、酒を飲む男たちの表情を予想していたのか、メリザは歯牙にもかけずに話を続ける。

 

「あんな小さな竜が来ても勝ってこないって思ってたけどところがどっこい。白い竜は体当たりで炎龍を吹っ飛ばしたんだよ!」

「ホントかよ!?」

「魔導士やエルフでも炎龍を倒すのは不可能だっていうのに……話が本当ならその白い竜はどれだけ強いんだ?」

 

 話が中盤に差し掛かる頃にはもうすでに酒場は盛り上がり、白い竜の真偽について男たちが話し合う。

 メリザはまだ話は終わってないと咳払いをして、続きを話した。

 

「白い竜は炎龍に攻撃を続けたんだけど、途中で炎龍の炎に身を焼かれたんだ。 炎は白い竜の体をすっぽりと覆いつくして、さすがに死んだと思ったんだけど、白い竜は傷一つなくピンピンしてたのさ!その後、白い竜は炎龍の左腕を切り飛ばして炎龍が逃げていったんだ」

 

 これでメリザの話は終わり、男たちは酒を片手にメリザの話の真相について語り合う。

 鎧を着込んだノーマやハミルトンたちも例外ではない。

 

「姫様。この噂の真偽、どう思われます?」

 

 姫様と呼ばれた赤髪の女性ピニャ・コ・ラーダは顎に指を当て、思案する。

 

「確かに……にわかに信じがたいものではあるが……」

「正直、小官には先程の話が真実であるとは思えません」

 

 考え込むピニャに口を挟んだのはグレイ・コ・アルド。

 彼はピニャが幼い頃から付き従っており、一行の中でもピニャが一番信頼をおいている男性である。

 彼が言うのもごもっともであり、いくらドラゴンや神がいるとはいえ、さすがにこの話は作り話だと言った方が納得できる。

 

「グレイ、お前の言うこともよくわかる。 だがこの噂、妾は嘘ではないと考えておる」

 

 嘘だろ?と言わんばかりにノーマとグレイは顔を見合わせる。

 

「異世界での戦いの報告で、白い竜の襲撃があったというものがあった。 噂の白い竜と同じかはわからぬ。陛下も大敗した言い訳だろうと聞く耳を持とうとしなかったが」

「ということは……敵は白い竜を従えていると!?」

 

 ピニャの言葉に三人は顔を青くする。

 最悪、帝国は炎龍すら撃退できる力を持った竜と遭遇し、尚且つその竜を従える国と対立することになったのかもしれないのだ。

 ピニャはまだ見たこともない竜への対策を施さなければならないのかとため息をはく。

 彼女はこの後、白い竜であるパルキアの力をまざまざと見せつけられることとなるうえ、もう笑うしかない存在を目の当たりにすることになるのをまだ知らない。




次回、パルキアさんお休み回。
そんなしょっちゅうパルキア出してたらネタ尽きちゃう。


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メロメロとかってホント嫌

前回パルキアお休み回と言ったな。

あれは嘘だ。

というか書いてたらパルキア出しちゃった。


 自衛隊が特地へと派遣され、パルキアと行動を共にするようになってから幾日か過ぎた頃。

 伊丹率いる第3偵察隊はレレイ、ロゥリィ、保護したエルフのテュカ・ルナ・マルソー、平猫を連れて『イタリカ』という街へと向かっていた。

 理由は、レレイたちが集めたアルヌスの丘での戦闘で死んだ翼竜の鱗を換金しに行くためだ。

 仮設住居で暮らすようになった彼女たちだが、さすがに生活のすべてを自衛隊に任せることはせず、衣食については自弁できるようにと理想を据えている。

 最悪自衛隊に身売りをしようとしたが、翼竜を好きにしてもいいと自衛隊に言われたお陰で翼竜の鱗から得たお金で生活しようということが実現できた。

 翼竜の鱗の採取はやはりコダ村からの避難民たちで行ったが、平猫とパルキアも協力してくれた。

 その事もあってか、パルキアはコダ村の避難民――特に幼い男の子――から好印象を持たれている。

 ちなみに翼竜の鱗集めを手伝ってくれたパルキアは、今回はアルヌス駐屯地で留守番をしている。

 4メートルという巨体もあってか、アルヌス駐屯地の敷地拡張の手伝いを行っており、サイズの合わない工事用ヘルメットを被る姿は妙にシュールだった。

 

 イタリカへと向かう伊丹一行だが、車を走らせている途中道の先で黒煙が上がっているのが見えた。

 明らかに良いことではない。

 炎龍襲撃に続いて厄介事が起こるとは、さすがに伊丹も俺は不幸の星のもとに生まれてしまったんじゃないかと思ってしまう。

 車の後ろから顔を出したロゥリィが『血の臭い』と呟いたのを聞いて、争いがあったのだろうとすぐにわかった。

 それでも行かなきゃならんのかぁ、と思いながらも伊丹はそのまま前進するよう指示を出す。

 

 ほどなくして門が閉ざされた街が見えてくる。

 やはり何か戦闘があったのか、閉ざされた門の周囲にはどこかの兵士の死体が転がっている。

 このまま進んでいけば敵と間違われて攻撃されかねない。

 

「何者か!敵でないなら姿を見せよ!」

 

 案の定、門の上から鎧を着た男の誰何の声が響く。

 

「……どうする?」

 

 他の街にしない?という意味も含めた問いを車内全員にする。

 下手に刺激すれば向こう側から矢の雨という名の歓迎を受けるだろう。

 もしそうなった場合を考えて桑原は無線で交戦できるよう準備をするように指示を出した。

 だがレレイが『私が話をつけてくる』と言って車から降りる。

 レレイに続いてテュカ、平猫、ロゥリィの順に車から降りていく。

 さすがに女性と訳のわからない生命体だけを行かせるのは男としてどうか、ということで伊丹も後を追うように車から降りた。

 

 さて、この後起こることはお察しだろう。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 所変わって門の向こう側。

 イタリカの門の前でピニャ、ハミルトン、グレイの三人は突如としてやって来た謎の集団を門の小窓越しから確認しながら警戒していた。

 警戒しているのはピニャたちだけではなく、イタリカに住む住民たちも例外ではなかった。

 

 待つことしばし。

 謎の荷車から杖を持った少女が降りてきた。

 

「リンドン派の正魔導士か?」

 

 続いて金髪の女性。

 

「エルフまで?正魔導士と精霊魔法の組み合わせは厄介だな……」

 

 後に謎の猫。

 

「なんだあの猫は……魔導生物の一種か?」

 

 最後にハルバートを持った少女。

 

「あれは……ロゥリィ・マーキュリー!?」

「あれが噂の死神ロゥリィですか?」

「ああ、以前国の祭典で見たことがある。 だが油断するな。あれでも齢900歳を越える化け物だぞ」

 

 魔導士にエルフ、謎の魔導生物に死神ロゥリィ。

 もう勝てる気がしない組み合わせに、ピニャはいっそのこと抵抗せず逃げ出してしまおうかと考える。

 

 亜神、そして神の考えは人間には到底理解できぬものだ。

 亜神、特に殺戮と狂気、戦いの神エムロイの使徒であるロゥリィが盗賊と組んでいないなどという確証はない。

 だが彼女が盗賊と組んでいたのならすでにこの街イタリカは墜ちている。

 戦うか。それとも招き入れるか。

 ピニャは目の前の事態に必死に思考を巡らせ、最善の策をとろうとする。

 だが妙案が浮かぶよりも先に、門が叩かれる音が響く。

 

 敵か味方かわからぬ輩がすぐに目と鼻の先にいる。

 

――どうする。自分にはここにいる民兵たちの士気を上げる術などもうない。だが民兵たちはどうすればいいのかとこちらを見ている。亜神であるロゥリィが盗賊に与しているなら先程の盗賊――アルヌスの敗残兵――襲撃の時、もしくはその前の襲撃でイタリカは墜ちている。もしかしたら盗賊と組んでいないかもしれない。そうなればロゥリィを味方につければ戦力として使えるかもしれない。なら強引にでもいいから味方につけよう!そうしよう!

 

 ここまで約3秒ほど。

 自分の判断スピードの早さに自分で驚きながら、ピニャはハミルトンやグレイの制止の声を振り切って門の閂を外す。

 そして、勢いよく門を開け放った。

 

「よくぞ来てくれた!」

 

 ゴンッ!と、何かに強く当たった音がする。

 目の前には視線を下に向ける魔導士の少女とエルフと魔導生物と死神ロゥリィがいる。

 ピニャもつられて視線を下に向けると、緑の斑模様の服を着た男が仰向けて倒れていた。

 よく見れば額が赤く腫れており、先程のゴンッ!という音は開けた門がこの男の額に直撃したのだろうという予想ができる。

 だが、この状況はピニャにとって避けたい状態だった。

 確かに門を開けたのは自分だ。

 これから味方にしようとした矢先にこれだ。

 ピニャは違ってくれと願いながら、訊ねる。

 

「も、もしかして……妾が……?」

 

 『うん』、と三人と一匹が首を縦に振った。

 その結果に、ピニャは血の気が引いていくのを感じ、悲鳴を上げる。

 

「次回!城ノ内、死す!」

「城ノ内って誰だよ!?」

 

 魔導生物の意味不明な発言に体を起き上がらせて怒鳴る男を見て、内心ほっとするピニャであった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 さて、一方で皆が気になるアルヌス駐屯地で留守番をしている我らがパルキアはというと……

 

『………♪』

「………………」

 

 黒いポケモンに寄り添われていた。

 なぜこうなったかは伊丹が門で頭を強打した時間帯からほんの少しだけ遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 モグモグモグ……と、パルキアはまたもや口を動かしながら自衛隊から頂いた『パン』と呼ばれる食べ物を食していた。

 アルヌス駐屯地の敷地拡張工事の協力報酬として手に入れた異世界の食べ物に気分を良くしながら、パルキアはアルヌス駐屯地を歩いていた。

 アルヌス駐屯地に造られた街――といっても規模は小さい――はパルキアが問題なく通れるよう道が広げられる工事が行われ、パルキア自身も自分のために改造されるということを理解していたため工事に協力。

 工事に参加している自衛隊員が食べていたもの、パンを物欲しそうに見続けたことで貰えた。

 計画通り。

 

 パンを食べながら道を歩くパルキアは、この暇な時間をどうしようかと考える。

 正直なところ、早く空間の繋がりを絶ち切ってしまいたいがその方法がわからない現状では急いだって仕方がない。

 3ヶ月以上自分で探してもわからなかったから、もう気ままに行こうというのが今のパルキアの心情だ。

 創造神も『お前の好きにしてもよい』と仰られたので、この異世界特地で長年できなかった『普通の生活』とやらを満喫している。

 

 たまたま足下に子どもがいたのでパンをあげる。

 元いた世界では、パルキアは人間がいてもお構いなしに戦闘するバカ野郎と認識されてしまっているが、あれは時間の奴がいたから暴れただけであり本来はそこまで気性が荒いわけではないのだ。

 

「パルキア様ありがとう!」

 

 にぱーと笑ってお礼をいう子ども。

 だが残念なことにパルキアは特地の言葉は理解できない。

 何時もは平猫が通訳してくれるから問題ないが、今はいないので子どもが何を言ったのかわからない。

 それでも、雰囲気的に察することはできるので一応は小さく鳴いて返事をする。

 

 アルヌス駐屯地で生活するようになってパルキアはそこそこ、いや、かなり崇拝されるようになった。

 特にコダ村の避難民たちからの崇拝がすごい。

 実際助けられたことと、平猫の説明でパルキアは異世界の神様とコダ村の避難民たちに認識されている。

 あながち間違いではないから否定のしようがない。

 小さいがパルキアを祀った祠まで住民たちの手で作られてるとも聞いており、特地で神をするつもりもないパルキアからしたら迷惑な話だ。

 だが無下に扱うこともできないから困ったものだ。

 

 そうそう。

 近々アルヌス駐屯地内にパルキア専用の家が建てられるらしい。

 4メートルの巨体が入る家ということもあり建てられた後はとても目立つ家になりそうだが、ありがたい話である。

 要望として寝心地の良い寝床を所望し、どうやら本当に良い素材で出来た寝床を準備してくれるそうだ。

 平猫経由で金額などの負担を自衛隊に負わせても良かったのか、と聞いたがアルヌス駐屯地で指揮官をしている狭間浩一郎がこれからも世話になるだろうから構わないと言っていた。

 ある程度協力はするがさすがにこちらにも拒否権があってもいい、と信じたい。

 

 ……さて、こう色々と言ったが先程からこちらを観察するような視線をパルキアは感じていた。

 気配を消すことに長けているようで、視線の持ち主の姿は見えない。

 だが伊達に世界が出来た頃から存在している訳でもなく、パルキアはゆっくりとある一点だけを見る。

 

――出てきたらどうだ?

 

 そう言うと、建物の影になっている所からゆっくりと黒いポケモンが現れた。

 闇のように黒い体。

 人魂のように揺れる白い頭と、青い目。

 何かと因縁のあるポケモン、ダークライだった。

 時間の奴と戦った街を守るために抵抗した個体とは別個体のようだが、この世界にもポケモンがいるとは驚きだった。

 いや、ナナの実があった時点で少なからずこの可能性は考えておくべきだった。

 

 さて、今現れたダークライをどうしようかとパルキアは考える。

 ダークライの特性は『ナイトメア』。

 眠らせた相手に悪夢を見せ、タイプ関係なしに相手を眠らせることができる『ダークホール』を専用技として持つポケモン。

 すばやさもポケモンの中ではトップクラスであり、戦うことになったら本気にならねばならないような相手だ。

 パルキアは目付きを鋭くし、久しぶりに本気モードに入る。

 対するダークライは戦う意思を見せて身構える――――ということはなく、指先をモジモジと弄りながらこちらをチラチラと見てきた。

 

 なんだ?と、すっかり戦う気でいたパルキアは肩透かしを食らう。

 頭に?マークを浮かべながら、パルキアは変な物を見るような目付きでモジモジとするダークライをじーっと見る。

 

『…………ソンナニ見ツメラレタラ、恥ズカシイ……』

 

 なんと、言葉がわかるではないか。

 やはり同じポケモン同士では意思疏通が可能なのか。

 さてさて、現実逃避はやめて真剣に考えようではないか。

 目の前にいるダークライは今なんと言った?

 見つめられると恥ずかしい?

 ということはメスの個体ということか?

 いやいや、メスの個体だとしてなぜ見つめられただけで恥ずかしがるのか。

 まあ真っ先に思い浮かぶ可能性が1つあるが、さすがに違うよなぁと思いながらパルキアは訊ねた。

 『どういうことだ?』と。

 

『………初メテ貴方ヲ見テ惚レマシタ。夫婦(めおと)トナル前提デオ付キ合イシテ下サイ……』

 

 そう言って遠目からでもわかるくらい頬――の位置になる――を赤くし、両手を握りながらペコリと頭を下げるダークライ。

 待て待て待て。

 なぜいきなりそうなる。

 要するにダークライが自分に一目惚れして、今こうして告白しに来たと?

 俺ってメロメロ使えたっけ、と全く違うことを考えて頭を冷静にするパルキア。

 さて、ゆっくりと考えていこう。

 元の世界でも、ちょくちょく空間の狭間から出てくるとドラゴン系ポケモンによくモテるパルキア。

 何百、何千という回数告白されているせいでどうやら恋愛感覚が麻痺してしまっている。

 告白されてやけに冷静になれたのもこのお陰かもしれない。

 目の前の告白してきたダークライはまだ頭を下げている。

 パルキアとしては、生涯伴侶となる相手にある程度条件を決めている。

 

 まず第1に種族。

 この時点でドラゴンタイプのパルキアと全く違うが、パルキアはあくまで基準程度としているのでこれはあってもなくても正直どうでもいい。

 

 第2に強さ。

 自身と肩を並べるくらい強くないと意味がない。

 ダークライという幻級のポケモンである時点で、彼女の強さは他のポケモンよりも高い能力を持つ。

 これは問題無さそうだ。

 

 第3に性格。

 どんなに強かろうが、キツい性格の伴侶は絶対嫌だ。

 まだ会ってから少ししか経ってないが、第1印象はクールな感じ。

 めっちゃタイプ。

 しかも、告白して顔を真っ赤にしているギャップもこれまた良い。

 

 第4にどこに惚れたのか。

 肩のしらたまの美しさに見惚れたのなら上の3つをクリアしていても即刻アウト。

 伴侶となってもらうのに、しらたまに惚れられてしまったら嫌なのだ。

 ということでパルキアは自分のどこに惚れたのかダークライに訊ねる。

 

『………目、デス』

 

――目?

 

『………普段ハポーットシタ目ダケレド、戦イ二ナルト凛々シクナル貴方ノ目二惚レマシタ』

 

 うん。伴侶にしても何も問題ないじゃないか、とパルキアは思った。

 

 だがどうしよう。

 破れた世界にいる彼女も好意を示していることをパルキアは知っている。

 モテるオスは辛いぜ。

 

 ダークライは律儀にまだ頭を下げたままパルキアの返答を待っている。

 ホント律儀な娘だなぁと感心しながら、パルキアはダークライの告白に答えた。

 

――気持ちは嬉しい。だが俺に好意を抱いている相手はもう一匹いるし、君を選ぶかどうかはわからない。それでも良いと言うなら、友だちから始めよう。

 と。

 

『……ハ、ハヒッ』

 

 ダークライは感激したかのように口元に手を当てて起き上がる。

 うーん、ホントメチャクチャ良い娘じゃないか、とパルキアはうんうんと唸りながらダークライのもとに歩く。

 近づいて、感激するダークライをひょいと持ち上げて肩に乗せると、適当にブラブラと歩き始めた。

 肩に乗せるとダークライは最初ワタワタと慌てふためいていたが、次第に落ち着いてご機嫌な様子で肩に寄り添っている。

 下手に一匹で行動させていれば侵入者として攻撃されかねない。

 自衛隊からの信頼を得ているパルキアが連れているということで少し位は自衛隊もダークライのことを信用してもらえたらいいな、とパルキアは思っていた。

 

 その後は自衛隊にダークライを紹介しに行ったり、コダ村の避難民たちと会わせてみたりと色々とパルキアは行動した。

 ダークライのテレパスはどうやら特地の言葉で伝わっているらしく、自衛隊がダークライの言葉を聞き取ることに少々時間がかかった。

 でも、狭間は良い笑顔を浮かべながらダークライと握手していたので、ダークライの立場はそう悪くないものとなったのだろう。

 それにしても狭間は偉い人間のはずなのに簡単にダークライを信用するとは、人が良いのかそれとも馬鹿なのか。

 まあでも馬鹿だったら指揮官をやっていないだろうし、人を見る目があるのだろう。

 隣にいた柳田という人間のオスは不信感丸出しで見てきたが。

 

 さて、ダークライを連れて歩いて時間を潰していれば日は暮れる。

 すでに日は沈み、月が夜空の真上で輝く。

 ダークライとは一旦別れ、それぞれ別行動をすることにした。

 ダークライもダークライの生活があるので、あまりここには長居させる必要もないと感じたからだ。

 しばらくしたらダークライもアルヌス駐屯地で生活すると言っていたので、それまでは暫しのお別れだ。

 

 もうこうなれば惰眠を貪るか夜更かしをするかの2択になってしまうが、なぜか妙に何かがあると自分の第6感が告げている。

 長年生きているなかでこういった予感は結構な確率で当たるので、もしかしたらここアルヌス駐屯地に外敵がやって来るかもしれない。

 警戒しておこう、と気を引きしめるパルキアの耳にヘリコプターのプロペラの音が入り込んできた。

 なんだ?と思い、パルキアは音がした方向に飛んでいく。

 そこには、今まさに飛び立とうとしているヘリコプターが数機存在していた。

 どこかに行くのだろうかと思うや否や、ヘリコプターは地面から浮き上がると全機同じ方向へと飛んでいってしまった。

 

――ついていこう。

 

 バレないようにコッソリとヘリコプターの跡を追うパルキアだった。




無口系クール美女って可愛いと思うんだ。


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オラオラオラオラオラオラ!!

Fate/GO楽しい。


「古田、機関銃、ここ。東、小銃はここ」

 

 桑原が隊員たちの配置と担当範囲を決めていき、隊員たちはその指示に従って動いていく。

 伊丹が額を強打してからその後、伊丹たちは現在敵対関係である帝国の第三皇女ピニャ・コ・ラーダからイタリカの現状を伝えられた。

 アルヌスの丘で戦った連合諸王国軍の敗残兵が盗賊となってこのイタリカに攻め込んできたということを聞いた伊丹はイタリカ防衛に協力することを決定した。

 今の状態では本来の翼竜の鱗の換金が出来ない、という理由もあってのことで協力することになったのだ。

 協力することになった伊丹たち第3偵察隊は先の戦闘で甚大な被害を受けた南門の防衛をすることになった。

 

 だが、伊丹はピニャから決して良い感情で迎え入れられた訳ではない。

 1ヶ月も続いている戦闘で、イタリカは疲弊しきっていた。

 日に日に兵士の数が減り、士気も下がっていく。

 そこに自衛隊という異国の軍隊が現れ、イタリカ防衛に協力してくれると言った。

 使える物なら何でも使う。例えそれが異国の敵であっても。

 一度破られた南門に配属させれば捨て駒としても利用できる。

 そういう理由があってピニャは自衛隊を招き入れ、伊丹もその心意は察している。

 

「ねぇイタミぃ?どうしてあの皇女様に味方するのぉ?」

 

 いつ来るかわからない盗賊を迎え撃つ準備をしている伊丹のもとに、ロゥリィが訊ねた。

 

「街の人を守るため、さ」

「本気で言ってるのぉ?」

 

 伊丹の答えにロゥリィは破顔する。

 伊丹たちにとって帝国は敵であるため、今こうして協力する理由などはまずない。

 ピニャからの申し出も、頼み事というよりもはや命令だった。

 その場にはロゥリィも同席しており、あまりの態度に部屋を出ていってやろうかと思ったほどだ。

 それなのに伊丹は街の人を守るということに同意した。

 

「理由が気になるのか?」

 

 伊丹は暗視装置を鉄帽――自衛隊が被るヘルメットのこと――に取り付けながら訊く。

 しかし、うまく取り付けられずにいたため、ロゥリィは伊丹の代わりに鉄帽を持って伊丹が暗視装置を取り付けやすくなるように支える。

 

「エムロイは戦いの神。人を殺めることを否定しないわぁ。 でも、それだけに動機がとても重視されるのよぉ」

 

 伊丹はロゥリィの質問に対して、唇を歪めながら答えた。

 

「ここの住民を守るため。それは嘘じゃない」

「ホントぉ?」

「もちろん。それにもう一つ、俺たちと喧嘩するより仲良くした方が得って、あのお姫様に理解してもらうためさ」

 

 伊丹の答えを聞くと、ロゥリィは邪悪そうに微笑む。

 

「気に入った。気に入ったわぁそれ!」

 

 あのお姫様の魂魄に恐怖を刻み込ませる。

 自衛隊の力を余すことなく見せつけ、自分が対立しようとしている相手が計り知れない力を持っているということを知らしめる。

 ロゥリィはひょいと南門の城壁に跳び上がり、ダンスの相手に挨拶するようにスカートを摘まんで頭を下げた。

 

「パンツ見えるぞ」

 

 いつの間にかいた平猫が上を見上げながらポツリと呟く。

 ビキリ、と空気が凍る。

 ロゥリィはスカートの端を摘まんだまま銅像のようにピクリとも動かない。

 いや、よく見ればプルプルと震えていた。

 伊丹はそそくさとその場から静かに離れていった。

 近くにいた他の自衛隊員たちも例外なく、伊丹に続くように一人、また一人と城壁から降りていく。

 全員が城壁から降りると、城壁の上から爆音が響いた。

 だが平猫を心配する者は今ここには誰一人もいなかった。

 現段階で平猫の扱いはだいたいこんなもんである。

 

 

 

 

 

 

 

 そして時間は経ち、辺りが夜闇に包まれた頃に戦況は大きく動いた。

 暗闇に乗じて盗賊たちが攻めてきた。

 だが、攻めてきたのは伊丹たちがいる南門ではなく、東門だった。

 ピニャの思惑は外れ、自衛隊を捨て駒として使うことは外れたというわけだ。

 さて、盗賊が攻めてこなかったため被害が一切なかった伊丹たちだったが少々別の問題が発生していた。

 

「ダメょ、ダメ、ダメなのぉ……このままじゃおかしくなっちゃうぅぅ!!」

 

 ロゥリィが艶やかさを孕んだ声色で絶叫をあげたのだ。

 彼女は戦いの神エムロイの使徒である。

 戦いによって死んだ者たちの魂が彼女を通してエムロイのもとに召される。

 その過程で、ロゥリィは媚薬に似た快感に襲われる。

 戦いに身を任せば解消されるが、今南門で動かずにいることがロゥリィを更に苦しませた。

 

「伊丹、お前に訊くぞ」

 

 快感に悶えるロゥリィの横で、平猫が伊丹に尋ねた。

 

「今この時もイタリカの民は死んでいっている。お前はどうするつもりだ?」

 

 間抜け面の顔で伊丹の顔を真っ直ぐ見つめる平猫。

 意外にも、平猫の目は間抜けな表情とは違い妙に真剣な雰囲気を醸し出していた。

 伊丹の中では答えは出ていた。

 

「栗林!すまないが、ロゥリィについてやってくれ。 あと、富田二等陸曹と俺。この四人で東門へ行く。桑原曹長、後は頼む」

「ロゥリィ行くよ!少しの間辛抱して!」

 

 伊丹の指示に従って各自が行動を開始し、栗林がロゥリィに声をかける。

 だがロゥリィは媚薬に似た快感に襲われていたため我慢できず、栗林の肩を掴むとすぐに城壁から飛び降りて東門に向かって走り出した。

 伊丹たちも急いで城壁下に停車させていた車に乗り込み、東門へと車を走らせた。

 

「ロゥリィのやつあんなにはしゃぎやがって。ぬううぅぅぅううぅぅん!!」

 

 やれやれ、とため息を吐いたは唸り声をあげた。

 ビキビキッ、とすごい音をたてながら変貌していった。

 ずんぐりとした胴体からは筋肉が膨れ上がり丸太のように太くなった手足が生え、体長も50センチから1メートル90センチのマッチョマンへと変貌した。

 さすがに平猫を見続けていた第3偵察隊の隊員たちもポカンと口を開けたまま立ち尽くす。

 マッチョマンへと変貌した平猫はそんな隊員たちを無視して城壁から飛び降り、ズドンッと地響きをあげながら着地した。

 

「では、アデュー」

 

 『パチン(ゝω・´☆)』と平猫はウインクを一つすると、土煙をあげながら東門へと爆走していった。

 

「…………伊丹隊長に報告するか?」

「…………平猫のことなんて今さらだろ」

「…………それもそうか」

 

 現実逃避した隊員たちだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「盗賊なら農村辺りを襲っていればいいんだ! 城市を陥そうとするとは、生意気な!」

 

 ノーマは怒鳴りつつ、城壁を登ってくる盗賊を切りつける。

 ピニャの指揮で盗賊はもう一度南側から攻めてくると予想して異世界からやって来たと思われるジエイタイなる軍を配属させた。

 だが予想と反して、盗賊が攻めてきたのは東門。

 これまでの盗賊との戦闘でイタリカの民兵たちの士気は下がりきっている。

 加えて盗賊共は死ぬことをなんとも思っておらず、むしろ嬉しそうに笑いながら殺されに来ている。

 戦う実力も、気迫も負けているイタリカの民たちは雪崩のように押し寄せてくる盗賊に次々と殺されていった。

 城壁から矢を放っても、盗賊の中にいる精霊使いが風を操って矢を反らす。

 終いには城門を開け放たれてしまい、中に盗賊が雪崩のように押し寄せてきてしまった。

 ノーマは次々と城壁に上がってくる盗賊を相手に戦うが一向に数が減らない盗賊の相手はやはり厳しく、後ろから襲いかかってきた盗賊に背中を切られた。

 ノーマはそちらに振り返り、襲いかかってきた盗賊を手に持った剣で切り殺したが次々と現れる盗賊に切られる。

 そして、城壁から力なく崩れ落ちるようにして落下し、力尽きた。

 城門内では、城門を越えた盗賊たちがこれまで殺してきたイタリカの住民たちの死体を柵の方に向かって乱暴に投げ捨てた。

 さらにはその死体を蹴り上げ、罵倒を浴びせる始末。

 柵の向こう側で見ているしかなかったイタリカの青年の一人が柵を飛び越え、それを止めようとする者と勢いにつられて飛び出す。

 東門の守りは呆気なく崩れ落ちた。

 

「騎士ノーマ、討死!」

「……味方が脆すぎる。士気は上がっていたはずなのに……」

 

 もはや茫然とした様子で、ノーマが殺されたことを知るピニャ。

 今こうしている間にも、瞬く間に城門内で戦う民兵たちが命を落としていく。

 もはや彼らにとっては絶望でしかなかった。

 盗賊は笑いながら殺し、遺体を踏みつけ、虐殺を続ける。

 

 もうお仕舞いだ。

 そう思った時、楽しそうに笑う少女の声が聞こえてきた。

 全員一瞬動きを止めてその笑い声が聞こえた方向へと首を動かすと、鈍い金属音と共に巨大なハルバートを軽々と担ぐ少女、ロゥリィが降りてきた。

 突然現れた少女に視線を向ける。

 の近くにいた盗賊の一人が手に持った鎖で繋がった鉄球を降り下ろす。

 だがロゥリィは降り下ろされた鉄球を視線を合わせずに回避し、盗賊の頭部をハルバートで横殴りに吹き飛ばした。

 盗賊が被っていた兜は殴られた箇所から砕け散った。

 兜という頭部を守るものを破壊するほどの力で殴られたため、その盗賊の頭蓋骨は砕けているだろう。

 

 仲間の一人がやられて警戒する盗賊たちだったが、ふと耳に何かが聞こえてきた。

 歌。

 女性の歌声と、ホルンによる音色が空に流れる。

 なぜこんな場所に歌が流れているのだ?と盗賊が思った瞬間、盗賊たちを一筋の閃光が襲った。

 城壁を貫き、城門内にいた盗賊たちを吹き飛ばした閃光の正体が水だということに気がつけるほど盗賊たちは落ち着いていない。

 いきなりの攻撃に盗賊たちが慌てふためく中、ソイツは現れた。

 

 白い翼を広げ、鋼鉄の軍団を引き連れ、女神の歌声に祝福されるかのように、白い竜が。

 

「●●●●●●●●●●●●!!」

 

 その巨体を見せつけるかのごとく、パルキアは城門内に降り立ち咆哮をあげる。

 盗賊たちはその咆哮に恐怖するわけでもなく、雄叫びをあげてパルキアへと突貫した。

 パルキアは以外と恐怖感を覚えないんだな、と思ったがそれだけ。

 城門外の盗賊を自衛隊が、城門内の盗賊をパルキアが排除する手筈になっているため、パルキアは足を振り上げ突貫してくる盗賊たちを踏み潰す。

 踏み潰されずに済んだ盗賊たちはパルキアの体に手に持つ剣や槍を突き立てる。

 しかし、刃がパルキアの体に突き刺さる瞬間、パルキアの回りにいた盗賊たちが弾き飛ばされるように吹き飛んだ。

 理由は、パルキアの空間操作にある。

 元々パルキアは空間を操るポケモン。

 空間を弄くって斥力に似た力を発生させることなど朝飯前なのだ。

 

「パルキアぁ!」

 

 足下から自分を呼ぶロゥリィの声がした。

 チラリと目を向ければパルキアの胸元くらいの高さまでジャンプしているロゥリィがいた。

 

 これはあれか。

 飛ばせと言うことか。

 

 パルキアは『たぶん合ってるよな?』と思いながら腕を振り上げ、叩くようにロゥリィへと振り抜く。

 ロゥリィはタイミング良く足をパルキアの手の平に向け、不様に体を殴り付けられるようなことなく密集する盗賊たちのど真ん中に突っ込んだ。

 亀の甲羅みたく盾を構える盗賊に向かって降り下ろされる無慈悲なハルバートの刃が、盾を紙切れのように容易く切り裂く。

 おーおー物凄い切れ味。

 ジュカインやカブトプスといったポケモンたちにも負けず劣らずの切れ味だ。

 

「弓兵!矢を放てぇ!」

 

 盗賊の頭が弓を持つ盗賊たちに矢を放つよう命令を出す。

 弓を持った者たちは一斉に暴れるパルキアとロゥリィに向けて矢を雨のようの降らす。

 さらに、盗賊の中にいる精霊使いが矢に風の加護を付与させたことにより矢の貫通力が上げられる。

 風の勢いに乗り、矢はパルキアとロゥリィへと向かう。

 

「術なんざ使ってんじゃねぇ!」

 

 だが、矢はパルキアとロゥリィに届く前に怒号と共に吹き飛ばされた。

 現れたのはムキムキマッチョマンな平猫。

 着地と同時に地面を殴ることで発生させた衝撃波が、飛んでくる矢どころか近くにいた盗賊までもが吹き飛ばされる。

 そして続けざまに虚空を殴り付けると衝撃波が弾丸のように発射され盗賊たちを空中に打ち上げる。

 

――さすがにあれは無いな

 

 友だちのパルキアでもムキムキマッチョな平猫にはドン引きだった。

 だがパルキアが盗賊に攻撃をやめる理由にはならず、桃色のエネルギー弾を飛ばしながら着実に盗賊を排除していった。

 外では自衛隊のヘリが機銃やミサイル、搭乗している自衛隊の持つ銃による攻撃が行われ、城門内ではパルキア、ロゥリィ、マッスル平猫の化け物たちが猛威を振るう。

 遅れてやって来た伊丹たちは『怪獣映画かよ……』とぼやく。

 隊の中で演習や格闘訓練で無類の強さを誇ることから戦闘狂とまで言われる栗林でさえ『私の出番ないじゃん……』とがっかりした口調で呟いた。

 だがパルキアたちに全て任せるというわけにもいかないので、後方から銃による援護射撃を行い盗賊を排除していった。

 

 外でもボッカンボッカン戦闘ヘリが放つミサイルの爆音が、中ではパルキアとロゥリィと平猫が暴れる音が鳴り響き続ける。

 ロゥリィと平猫は次々と襲いかかる盗賊たちを蹴散らし、パルキアは二人の攻撃の射程外の盗賊たちをエネルギー弾で排除していく。

 もはや抵抗の意味もないほど徹底的なまでに攻撃が行われ、盗賊たちの勢いが急激に衰えていくことは民兵たちにも簡単にわかった。

 

『パルキア、門内の敵の殲滅を頼む』

「●●●●●●!!」

 

 一瞬パルキアの上を飛んだヘリからスピーカーで指示を出されると、その指示に答えるようにパルキアは空に向かって咆哮をあげる。

 そして、手の間に巨大な桃色のエネルギー弾を作り出し、城門外へと逃げようとする盗賊たちへと放たれた。

 一度だけではなく、何度もエネルギー弾を作り出しては盗賊たちの姿が土煙で見えなくなるまで無数に発射し続けた。

 ロゥリィと平猫は既にパルキアから離れていた。

 

 パルキアはエネルギー弾を放つのを一旦中断すると、再び空間を弄くって土煙を強制的に晴らした。

 そこには地面が抉れ、もはや人の形をしていない肉塊が無数に転がり、地獄絵図のような光景が広がっていた。

 微かに動いている者たちもいるが、そのまま放っておけばいずれ息絶えるだろう。

 外では喧しいほどに女神の歌声がこだまし、まだヘリによる攻撃が続いている。

 だがパルキアは直接手を出さなくても良いだろうと、ヘリの攻撃が止むまで黙って空を見ることにした。

 

 雲の形が時間の奴に似ていた。クソが。

 

 一方で逆転の殺戮劇を目の当たりにしたピニャは、喉元に剣先を突き立てられているかのような恐怖を味わっていた。

 ピニャが今までの人生の中で知っている空中の戦力といえば小型のワイバーン種に乗った騎士、竜騎兵である。

 だが目の前で暴れているモノは竜騎兵なんかよりも生易しいものではなかった。

 竜騎兵相手には弓矢や対空兵器を使うなどをして対処ができる。

 しかし、今東門で暴れている白い竜と白い竜が率いる鋼鉄の天馬はその対処すら許さず、敵を滅する。

 空に流れる女神の歌声も、ピニャにはもはや嘲笑にしか聞こえない。

 白い竜にいたっては女神の歌声と、破壊の音を聞き入っているかのように空を見上げている。

 

 人の思想では到底理解できない、竜の姿をした天災を目の当たりにしたピニャは自衛隊ヘリの攻撃が止むまで一歩も動くことが出来なかった。



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みんな大変なの

ただいまハーメルン。
そして投稿遅れまして申し訳ありません。

この小説携帯を利用しながら書いているのですが、前の携帯が壊れて新しく買い換えました。
そうしたら、前の携帯に書きためていた小説全て消え去り、書いていた内容を思い出しながら仕事が休みの間に書き直していたので遅れました。

次回からはまともな内容にするので、今回は短いですが読んでくれたら嬉しいです。


『パルキアが日本に来る』

 

 銀座事件から4ヶ月以上経ち、気温がめっきり寒くなった冬の銀座ーーというか全世界ーーではある一つの話題で盛り上がっていた。

 それが上記に記したパルキアが日本にやって来るというものだった。

 未だに特地のはっきりとした情報が入ってこない状況で、パルキアが日本に来るという報道がされた時の日本は久方ぶりに盛り上がった。

 ネットでの反応も大いに盛り上がり、『パルキア来たあああ』や『そんな危険な動物を呼ぶなや』など喜ぶ声やそれとは逆に否定する声が飛び交う。

 良くも悪くも話題としては最高のネタであろう。

 また特地の住民も重要参考人として呼ばれるということも報道されており、どんな人が来るのかと期待と妄想を膨らませていた。

 パルキアとは違い割と受け入れられているのが実に人間らしい。

 

さて、この通り世間の声はテレビなどを通して全世界へと発信されており、日々国会前で張り込みながら新しい情報を追い求めている者たちがいる。

 情報を発信し、情報を求める者たち……マスコミである。

 マスゴミなどと不名誉な名前で呼ばれてしまっているが、情報を集めて発信するのが彼らの仕事なので酷く言ってはいけない。

 まあたまに限度を超えてしまう輩がいるのも事実なので否定出来ないのが残念である。

 まあ今は限度を知らない動画投稿者たちの方が厄介な存在になっているが。

 

 さてパルキアが日本に来るという話に戻るが、問題が1つある。

 国会にパルキアが入ることができるのか、ということである。

 4メートルと少しの巨躯を持つパルキアが国会の扉を潜ることはできない。

 ならばテレビ中継でという案が上がったが、パルキアは『久しぶりに元の世界の空間の様子を見たいから日本に戻る』と言ってテレビ中継を拒否し、『空間の切れ目から顔を出せば良いだろ』と平猫を通して提案された。

 流石にそれはやめてと、狭間陸将と柳田二尉に懇願されたがパルキアは無慈悲にこれを拒否。

 言うことを聞かなかったことをとやかく指摘されそうだと狭間陸将たちは思ったが、別にパルキアは自衛隊の指揮下に置かれているわけではないので強くは言えない。

 実際に、『こちらの意思とは無関係に、不当に束縛するようであれば容赦はしない』と脅しもされている。

 自衛隊とパルキアはあくまで協力関係。

 決してパルキアは自衛隊の()ではないのだ。

 

 パルキアのことで頭を抱えているのはなにも自衛隊だけではない。

 日本の政府。そして今現在胃をキリキリと痛めているピニャ・コ・ラーダである。

 日本の政府は特地で門の確保に10万人以上の敵勢力への損害を一方的な虐殺ではないかということ、炎龍なる生物に襲撃され一般市民の尊い犠牲が出たこと、銀座とイタリカでのパルキアの戦闘介入と過剰なまでの虐殺を野党からずっと指摘され続けている。

 さらにアメリカ、ロシア、中国といった大国から『共同で特地を調査しようではないか』と特地進出の意図が見える提案をされ続け、しかもパルキアの生体サンプルも欲しいと要求されている。

 その影響からか、3国以外の諸外国からも同じような要求が日本へと送られる。

 断れば特地の土地・資源、パルキアを独占する気か、と言われ各国から叩かれ現総理大臣の本位慎三は頭を悩ませる毎日を送っているのだ。

 

 そして、ピニャはというとイタリカ防衛後に交わした協定直後に知らなかったとはいえ部下が伊丹をボコして連れてくるという協定破りを行ったせいでパルキアからの報復を恐れ、しかも伊丹が国会(レレイの通訳により元老院と伝えられた)に呼ばれているということを知り、なんとか取り繕おうと日本に行くことを宣言した。

 行動力がある……ように見えるが、実際のところパルキアからの報復を恐れていたときは小鹿のようにプルプルと震え、いざアルヌス駐屯地にやって来た時は帝国と自衛隊の圧倒的戦力の差をまざまざと見せつけられたりともうそこそこ(胃の)限界が来ている。

 これからもっと(胃の)限界が来るようになるのだが、今のピニャには当然わかる訳がない。

 

 さて、色々と問題続きなのだが、今のところなにも問題ない場所といったらアルヌス駐屯地に住まう住民たちだろう。

 当初のアルヌス駐屯地はコダ村からの避難民たちがほとんどで、後に人伝にアルヌス駐屯地のことを聞いた者たちが集まって今の状態になっている。

 コダ村からの避難民たちはパルキアによる炎龍撃退の件でアルヌス駐屯地を闊歩するパルキアを何ら不自然なく受け入れているが、やはりアルヌス駐屯地の評判を聞いてやってきた者たちはパルキアという見知らぬ竜への恐怖心を露にした。

 そもそも竜自体が特地においては危険な存在なのである。

 いくら騎乗兵が操るワイバーン型の竜とはいえ、竜が持つ牙、爪、尻尾はただの人にとっては驚異であり、生きる災厄とも言われる古代龍にもなればさらに危険度は増す。

 最初はアルヌス駐屯地にやって来てもパルキアの姿を見た途端に逃げ出す者たちが大勢いた。

 しかし、次第にパルキアが積極的に人を襲ってこないことに気づいていったため、ゆっくりとアルヌス駐屯地に住まう住民が増えていった。

 今ではアルヌス駐屯地を歩くパルキアは名物となっている。

 子どもたちを尻尾に乗せて歩き回っていることも名物の一因を担っている理由だろう。

 レレイに至っては、パルキアに隠れてパルキアのエネルギー弾を習得しようとしている。

 そもそもあれは念に似た力を集約させて放つものであるため、適正がないと思うように使えない……どころか感じとることすら出来なければ一向に使えるようにはならないのだ。

 パルキアはレレイに適正がないことを感じ取っており、レレイに諦めるよう平猫を通じて伝えている。

 探求心、好奇心の塊のレレイはその事実を伝えられた瞬間、少女がしてはいけない顔になっていた。

 

 みーんな大変なのだ。

 自衛隊然り、日本政府然り、ピニャ然り、パルキア然り苦労しているのだ。

 だが、これからもっと困難と苦労がやって来ることをまだ誰も知らない。

 取り敢えずは、参考人招致が過ぎ去ってからだろう。



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飛んで来た

書けって催促されたから書いたよん。


「ここが……ニホン……」

 

 『ニホン、そこは摩天楼だった』と後に自身の日記にこう綴ることになるピニャは高層ビルが建ち並ぶその光景にただただ圧倒されていた。

 土やレンガとは違う材質の道に、その上を走る鋼鉄の馬(車)や壁に人を映し出す鏡(液晶画面)など見たこともない物に溢れた銀座は、帝国が霞んで見えてしまうほどだった。

 

 銀座に圧倒されるピニャの後ろで、伊丹たちが国会に向かうための手続きをしていた。

 国会の参考人招致に呼ばれたのは炎龍との交戦時に隊の指揮をしていた伊丹。

 そして特地避難民側として日本語が話せるレレイとエルフのテュカ

 異世界の神に遣えるロゥリィと謎生物の平猫の4名。

 

 そしてーー

 

「●●●……」

 

 ズシン、と地面を鳴らしながら門からパルキアが白亜の巨躯を晒す。

 小さく唸り、パルキアは周囲を見渡す。

 初めてこの門を潜ってから大分経ったが、門の回りはかなりの整備されており少し離れた所には監視員として自衛隊の隊員がチラチラとこちらの様子を伺っていた。

 パルキアと視線が合ったその隊員はビクリと肩を震わせたが、パルキアは特に気にすることなく翼を広げふわりと空に浮かぶ。

 

 4メートル以上の体を持つ生物が急に空に浮かんだことで監視員の隊員や別で待機していた自衛隊が慌ただしくなるが、そんな彼らとは対称的に伊丹は『時間に遅れず来るんだぞー』となんとも気の抜けた会話を投げ掛けた。

 パルキアが戻ってきたのには国会の参考人招致に呼ばれたこと以外にも理由はある。

 それは自分が不在の間に出来てしまっているであろう空間の歪みの修復である。

 そう簡単に空間の歪みが広がり銀座事件のような別世界からの侵略が起こる訳ではないが、警戒するにこしたことはない。

 この事は伊丹たちにも了承を得ており、特別に参考人招致が始まるまで元の世界に戻ってもよいという許可が出た。

 必死に頼み込み、寝そべって腹を見せて可愛い子ぶった甲斐があった。

 

 空に浮かんだパルキアは爪で空間に切れ目を作ると、新たに現れた別次元の世界にスルリと入り込んでいった。

 

 それでは約束の時間まで、バイきゅー。

 

 

 

ー○○○○ー

 

 

 

 

ーそれで、何か解ったのか空間の。

 

 灰色の世界で空間の修復を行っていたパルキアの脳内に直接語りかけてくる声がする。

 その正体は、パルキアと対をなす時間を司る神話級ポケモンの『ディアルガ』のものであった。

 彼も突如別の世界同士が繋がったことを知る者の1体であり、パルキアが不在の間創造神様が作り上げた世界を見守っていた相手である。

 ディアルガも今回の異常事態のことを気にしているのかパルキアに状況を聞くも、パルキアもまだ何も解らないため答えれることはとても少なかった。

 強いてあげるならポケモン世界のきのみがあったこととダークライが居たことくらい。

 アルヌス駐屯地からあまり出ることができていないため情報収集力に限りがあるのだ。

 好き勝手動くこともできたが、自衛隊と協力関係を結んでいる以上彼らの立場を悪くする訳にもいかなかったのだ。

 幸いにも自衛隊たちも門が開いたことの原因を調査してもいるのでいつかは解るかもしれないが、こればかりは時間が解決してくれる問題になりそうだった。

 

ーそうか……ところで空間の、一つお前に言いたいことがある。

 

 そう切り出すディアルガにパルキアは何か気に触るようなことをしたのだろうかと思った。

 創造神様の人間に対する怒りが静まったお陰で、過去のようなディアルガとのとんでもない喧嘩をするほど苛立ちが創造神様から伝播することはなくなったもののやはりあの時の苛立ちが残っていたのか。

 おら、喧嘩なら安く買うぞ。

 

ーそうではない。私からでななく創造神様からだ。

 

 ディアルガから小言を言われるのかと思いきや、どうやら創造神様からの伝言があるらしい。

 

ーお前が向かった世界、どうやらゆっくりと崩壊の道を辿っているそうだ。空間の繋がりや歪みとは関係なく、世界そのもののバランスが崩れかけているらしい。

 

 それはまたスケールの大きな話だな、とパルキアは思った。

 だが、何となく思うところもあった。

 ポケモン世界のきのみがあることやダークライが居たこと。

 正常なこちらの世界と共通する部分があるということは、向こうの世界の始まりも恐らく共通しているのではないのか、と。

 創造神様と同じ存在が向こうにも存在し何かの原因で力を失っている、もしくは封印されているせいで本来あり得ない事象が発生しているのではないのか。

 怒りに支配された創造神様が目覚めようとしたことにより、本来交わらないディアルガとパルキアの時間と空間の狭間が繋がってしまった現象と似たようなものなのかもしれない。

 あまり悠長なことはしてられないかもしれない。

 

 ところで、ここに来てからどれくらい時間が経っただろうか。

 

ー人間の時間でいうと2時間12分35秒だな。

 

 ディアルガが正確に時を教えてくれた。

 伊丹が教えてくれた参考人招致の時間ギリギリだった。やべやべ。

 

 パルキアは最初に次元の狭間に入ったときと同じように何もない空間に爪で切れ込みを入れ、そこにできた空間の扉に入り次元の狭間から出ていく。

 

 参考人招致では聞かれたことに答えるだけで良いと伊丹から教わっている。

 簡単な質疑応答である。

 暴れることはない。

 

 だから姿を見せただけで腰を抜かしたり悲鳴をあげないでほしい。

 怖くないよー。




ホントは昔書いてた雰囲気を再現できるようになってから出そうと思ったんだけどね。
早出ししちゃった。

だから短いしなんか文章の雰囲気違うけど許してね。


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