三雲修改造計画【SE】ver (alche777)
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外伝的ななにか
SE修【天眼】VS小南


……ふっ。待たせたな。って、ごめんなさい。昨日帰国しました。
しばし、書いていなかったのでリハビリがてらに一話を投稿します。

天眼発動とVS風間の間に起った出来事の一つと思ってください。
そうじゃないと、小南と戦わせる事なんて不可能でしょうし。


 三雲修が師である烏丸に勝利した報せが耳に届いた時、玉狛にいた全員が目玉が飛出す勢いで驚愕したのだった。

 

 

「ちょっ。と、とりまる? あんた、修に負けたの!?」

 

 

 烏丸の実力をよく知る彼のチームメイト、小南が勢いよく詰め寄る。

 以前、烏丸と修の訓練を覗き見した事がある。最初に抱いた印象は「こんな弱そうな奴がなんでボーダーに入ろうとしたのだろうか」であった。それだけ三雲修はドがつくほど弱かった。仮に烏丸の教育がよく実力がついたとしても、こんな短期間で師である烏丸に勝利を収める事は出来ないはず。

 また、お得意の嘘だろうと思いつつ問い質すが烏丸は首を振って否定する。

 

 

「小南先輩、これは紛れもなく事実です」

 

「……とりまる先輩はウソを言っていないよ」

 

 

 小南の隣にいた空閑がフォローを入れる。嘘を見抜けるサイドエフェクトを持っている空閑が言うのだから疑う余地はない。しかし、それを事実として受け止めるにはあまりにも衝撃的であった。

 

 

「ま、マジ? お、修!? あんた、どんな魔法を使ったの!!」

 

「ちょっ。小南、少し落ち着きなよ」

 

「これが落ち着けるわけないでしょ! あの修がとりまるに勝ったのよ。栞だって「こんな子がボーダーに入ろうと思ったんだろう」って首を傾げたじゃないの」

 

「ちょっと。それを本人の目の前で口にしちゃうわけ!?」

 

 

 慌てて「違うの、修くん」と口にするが、修は「大丈夫です」と言って宥めたのであった。

 なぜか、二人に背中を向けたままであるが。

 

 

「……オサム。何でさっきから背中を向けたままなんだ?」

 

 

 当然、その事に空閑がツッコミを入れる。

 

 

「ちょっとお腹の調子が――」

 

「オサム。つまんないウソを付くね」

 

 

 空閑からダウト宣告がされる。

 修が二人に背中を向けたままなのは、修自身のサイドエフェクト【強化視覚】が原因である。彼の力には浄天眼と呼ばれる透視能力を有している。一見、便利な能力であるかも知れないが修はこの能力を扱い切れていなかった。メガネを掛ければ集中しない限り発動する事はないのだがメガネを外したいま、修の意識に反して色々と視えてしまうのだ。

 透視能力と聞いて真っ先に浮かぶモノは何か。思春期の男性諸君ならばおわかりいただけるだろう。つまり、そう言う事だ。

 

 

「アンタ、人と話す時は目を見て話しなさいって教わらなかった?」

 

「……すみません。その当時の記憶だけ抜け落ちているみたいです」

 

 

 小南の忠告に白を切る修。まさか、修から口応えされるなんて思わなかった小南は修に近寄りヘッドロックをかまそうとするのだが――小南が修の首を捉えるよりも早く避けられてしまう。

 背中を向けた状態でも修には複眼がある。その能力を使えば背中を向けたまま、小南のヘッドロッグから逃れる事など朝飯前である。

 まさか逃げられるなんて思ってもみなかったのだろう。小南の機嫌が一気に急降下する。

 

 

「とりまる。訓練はもういいわよね。……少しの間、修を借りるわよ」

 

「……後輩イジメは格好悪いですよ、小南先輩」

 

 

 と、口では諌めるのだが、言葉に反して烏丸は手を振って修に向けてエールを送るのみ。

 どうやら、彼は傍観を決める事にしたのだろう。

 

 

「こなみ先輩。次は俺ね」

 

 

 ちゃっかり空閑が修の次の対戦相手として名乗りである。そんな弟子の頼みに「修が死んでいなかったらいいわよ」と快く了承したのであった。ちなみに修の意見はこれぽっちも考慮されていない。

 

 

 

***

 

 

 

 小南自慢の戦斧が地面に突き刺さる。自信のあった一撃が避けられて、小南の表情がますます強張っていく。

 

 

「ちっ。なんなのよ、いったい!」

 

 

 修と小南の模擬戦は終始小南が有利な状態が続いていた。けれど、盾モードのレイガストを構えた修のトリオン体を未だに捉える事が出来ずにいた。縦横無尽に放たれた斬撃も不意打ちに近いメテオラも全て紙一重で避けられてしまったのだ。

 

 

「あんた、本当に修なわけ!?」

 

 

 小南が知っている修と目の前にいる修とでは明らかに回避能力に違いがありすぎている。外見がそっくりな双子の兄か弟と言われたら小南ならば信じてしまう所であろう。

 

 

「さっきからそう言っているじゃないですか」

 

「だって、あんた。私が知る限り、こんなに動けなかったじゃないの。まさか、今の今まで手を抜いていた訳じゃないわよね」

 

 

 小南がそう思っても仕方がない。修の動きはまるで自身の動きを先読みしているかの如く動き出している。そのおかげで避けられないと思われる一撃も紙一重で避けているのだ。こんな動きをB級成り立ての隊員が出来るはずがない。

 

 

「と、とんでもない」

 

 

 小南の疑念を慌てて否定する。

 そうでなければ睨み付けて来る小南に何をされるか分かったものではない。

 

 

『小南先輩。修は迅さんと同じ未来視の能力を持っているんですよ』

 

 

 ここで、まさかの烏丸のブラフが投げかけられる。

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 二人の驚愕の声が重なる。

 小南は修が迅と同様の未来視のサイドエフェクトを持っている事に対して。

 修は烏丸がそんな出鱈目な嘘をつく事に対してであるが。

 

 

「か、烏丸先輩!!」

 

 

 師のふざけた発言に文句の一つも口にしたい所であったが、小南の戦斧によって言うに言えなかった。

 

 

「なるほどね。そんなサイドエフェクトを持っているならば、あたしの攻撃を全て避ける事も不可能ではないわね。面白くなってきたじゃないの」

 

「ちょっ。小南先輩」

 

 

 気のせいか小南の背中に燃え上がる金色の炎のエフェクトが視える。修の天眼にそんな機能は存在しないはずなのだが、バチバチと火花を散らすその姿は某戦闘民族のそれに視えてならなかった。

 

 

「……行くわよ、修。あたしの動きが捉えられるものならば捉えてみなさい」

 

 

 連結していた双月を解除して修に襲い掛かる。先の戦いから手数で攻める方が得策と考えたのだろう。いかに回避能力が高かろうが避けきれないだけの手数を放てばいずれか当たる。事実、小南の双月は徐々に修のトリオン体を捉えつつあった。修もレイガストでさばいていくのだが、相手は二刀流だ。それに加えて小南は歴戦の戦士である。普通に戦ったら確実に敗北する。

 

 

「(普通にやっても勝てない。なら――)」

 

 

 格下の修が各上の小南に勝つ手段など一つしかない。

 

 

 

 ――メテオラ

 

 

 

 交差する様に振り降ろされた双月の一撃の後に炸裂弾が解き放たれる。小南が得意としている追撃戦法だ。これを防いだ所で小南はコネクターで双月を再び連結して、戦斧による強烈な一撃を放つはずだ。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

 

 スラスターを起動。シールドを突出して修は小南が放ったメテオラに向かって特攻をかける。

 

 

「……へ?」

 

 

 まさか、自身の炸裂弾にあえて向かって来るなど思ってもみなかったのだろう。コネクターを発動しようとしていた小南の動きが止まる。それが小南の最大の危機につながるとも知らずに。

 メテオラが着弾し、修の姿は白煙に包まれて視えなくなってしまう。普通ならば視覚補正が掛かるのだが、今回はただの模擬戦だ。当然だがオペレーターの支援は受けられない。

 けれど、修の眼はオペレーターの視覚支援を受けなくても小南の姿をはっきりと捉えている。多少削られたレイガストなど構う事なく真直ぐと小南へ突貫する。

 白煙から飛び出す修の姿を見て、小南は急いでコネクターを発動するが――修の方が一歩早かった。

 シールドチャージ。シールドモードのままスラスターを起動した事により、小南の身体はレイガストに押し付けられる形で後方に流される。

 壁際まで抑えつけられた小南はどうにかして脱出を図るのだが、修はレイガストを操作して完全に閉じ込めたのであった。こうなってしまったら流石の小南もなす術がないはずだ。しかし、それは修も同じはずだ。

 

 

「(この状態なら、修も手が出せないはず。こんなの――)」

 

 

 レイガストによって阻まれた状態では下手に手を出せないはず。そう思った矢先に、目の前に小さな穴が無数開けられる。それが何を意味するのか小南は直ぐに察する。

 

 

「っ!? シールドっ!!」

 

 

 双月を放棄して、フルガードを展開させる。直後、修のアステロイドが無数の穴から入り込んで小南の四肢を貫かんと襲い掛かる。

 

 

 

***

 

 

 

 予想だにしなかった展開に見学を決め込んでいた烏丸、空閑、宇佐美の三人は驚きを隠せずにいた。

 

 

「……なに、あれ? ちょっと修くんってあんなに出来る子だった訳!?」

 

 

 小南の実力を重々承知している宇佐美からしてみれば、目の前の展開は完全に予想外の出来事であった。いま自分が夢を見ているなんて言われたら、素直に信じ込んでしまう事だろう。

 

 

「残念ですが事実です。……空閑。修は実力を隠している素振りがあったか?」

 

「そんな様子はなかったかな。初めて会った時も一杯一杯って感じだったし。しかし……。オサムの闘い方はなんと言いますか、せこいな」

 

 

 空閑が修と出会ったその日に近界民と遭遇して、空閑は修の危機を救っている。幾ら訓練用のトリガーとはいえ、今の様な動きを見せたのならば勝利を掴む事も難しくなかったはずだ。

 

 

「しかし、あれならばいくら小南先輩でも手も足も出ないはずだ。仮想空間だからトリオンの消費もない。これで詰みだ」

 

「それはどうかな? 小南は負けず嫌いだから。……ほら、反撃するみたいだよ」

 

 

 宇佐美が言った直後、爆発音が鳴り響く。

 

 

「まさか!?」

 

「こなみ先輩も無茶をするな。これが肉を切って骨を断つってやつか?」

 

 

 レイガストの檻から抜け出す為にメテオラを使用して力任せに脱出した小南に烏丸は笑うしかなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「あー。もう、最悪。まさか、修にここまでダメージを受けるなんて」

 

 

 ダメージの大半の自身のメテオラであるが、それをさせた要因は修にある。故に格下と思っていた修にここまで苦戦を強いられた自分に苛立ちを隠せずにいた。

 そんな小南の悪態などお構いなく、脱出した直後の硬直を狙って大玉のアステロイドを形成したまま修は突撃していく。ここで勝負を付けるつもりだ。そうでなければ、今の様な好機は二度と訪れないだろうと知っているからだ。

 

 

 

 ――アステロイド

 

 

 

 ギリギリまで距離を詰めて高威力設定にした通常弾を放つのだが――早々に生成した双月による一撃の方が早かった。確実に修の腕を斬り飛ばし。

 

 

「メテオラっ!!」

 

 

 追撃の炸裂弾で修のトリオン体を爆散させたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 小南VS修の戦いが終わると同時に、見学を決め込んでいた三人が室内に侵入する。そうでなければ、小南は第二戦を始めかねないからだ。

 

 

「オサム、ナイスファイト」

 

「……空閑」

 

「オサムも中々やりますな。まさかこなみ先輩にあそこまで善戦するなんて」

 

「はは。ありがとう。今回は作戦が上手くいっただけだよ。僕程度が小南先輩に勝てると思ってもみなかったしね」

 

 

 結局のところ、修は小南にまともなダメージを与える事が出来なかった。先のアステロイドだってフルガードで防がれてしまっている。上手く動きを封じても致命的なダメージを与えられなければ意味がない。……と、思っているのは修だけであった。

 

 

「いやでも凄いよ、修くん。あの小南にここまで善戦できるなら、A級だって夢じゃないよ。これに遊真くんと千佳ちゃんが合わさったら怖いもの知らずだね」

 

 

 ランク戦はチーム戦だ。例え修が致命的な一撃を与える事が出来なくても、今の様に相手の身動きを封じる事が出来たならば空閑と千佳が対処してくれるはずだ。修がいまの様な動きが可能ならば戦い様などいくらでもある。

 

 

「けど、未来視のサイドエフェクトを持っていても私に勝てないようならまだまだね。もっと精進しなさい」

 

 

 胸を張ってふんぞり返る小南の一言に宇佐美と空閑。そして修が烏丸に向かって「おい、どうするんだ」と意志を込めた視線を送る。そんな三人の睨み付ける様な視線などお構いなくしれっと。

 

 

「……小南先輩。そんな嘘も気付かないのは些かどうかと思いますよ」

 

「へ?」

 

「未来視なんてサイドエフェクトはこの世で迅さんただ一人です。知らなかったんですか?」

 

 

 やれやれ、と肩を竦める烏丸の姿を見て自分がまた騙された事を知る。

 

 

「あ、あんた! また騙したわねぇぇぇぇえええっ!!」

 

「だ、だからって僕に八つ当たりしないでください」

 

 

 あっと言う間に修の頭を掴んだ小南はそのまま自身へ引き寄せて、ヘッドロックを決めたのであった。




はい、VS斧姫さんです。

小南のコネクターって便利ですよね。あれを使わせたいと常々思っていたり。
あれぐらい正規トリガーとして採用してもいいと思うんですがね。

たとえば、弧月と弧月をコネクターで連結して偃月(えんげつ)と呼ばせても面白いと思うんですが。

けど、それぐらいしか連結させるトリガーがないかぁ。それなら二刀流の方が良いのかなぁ、やはり。


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SE修【天眼】VS空閑【BTver】

物語性に欠けるとメールをもらったけど、これってそもそも強い修を戦わせて悦になろうって言うのが趣旨だったんですがね。

……まぁ、外伝で色々と閑話を挟んでつなげていくしかないですかね。

ってことで、VS小南戦後の話を書いてみました。
だって、本編で空閑は烏丸と戦った後にって書いているのに、外伝で書かないのはおかしいですよね?


 どうやら、今日は厄日のようである。朝食時の時にテレビで視た星座占いの時はそこそこ良かったはずなのだが、どうやらその占いは全く持って信用できるものではなかったらしい。

 何故かと言うと――。

 

 

「さてと……。オサム、やろうか?」

 

 

 いつの間にか黒トリガーを起動させた空閑と戦わないといけないのだから。

 

 

「く、空閑。流石にそれは……」

 

 

 空閑は近界民(ネイバー)である。玉狛支部の人間は空閑の正体を知っているからいいものの、これが外部に漏れてしまったら拙い展開に発展するのは言うまでもない。

 

 

「安心しろ、オサム。強印(ブースト)は使わない。それなら問題ないだろう?」

 

「問題大有りだ!」

 

 

 空閑の腕から分離――傍から見るとそんな風に見える――したレプリカが修を宥めるのだが、それは全く持って宥めになっていなかった。

 幼い頃から空閑は戦場に立ち、死線を潜り抜けながら己の牙を磨いてきた猛者だ。ただでさえ勝てる気がしないのに、相手は黒トリガーまで使ってきているのだ。そんな空閑と対峙してどうやって勝てと言うのだろうか。

 レプリカが言うにはトリオン体の働きや印の性能を強化する強印(ブースト)は使わないらしいが、それでも戦闘能力に歴然の差があるのは明快だ。

 

 

 

***

 

 

 

「えっと……。いいの、あれ?」

 

 

 流石の宇佐美もこれから起こるであろう事態に関して不安を抱かずにいられなかったのだろう。己の両隣にいる小南と烏丸に聞いてみるが二人は同時に「大丈夫」と口にしたのであった。

 

 

「私も驚いたけど、修は私の動きを読んでいるかと問いただしたいぐらい動き出しがよかったのよ。あの動きが出来るなら、少しぐらいの実力差でも問題ないと思うわ」

 

「同感です。メガネを取った事で何かが視える様になったらしく、俺達の動きを見てから動き出すまでの反応速度が桁違いです。小南先輩の攻撃を悉くかわす事が出来たのは、それが大きいと思います」

 

 

 戦って一番印象的であったのは、修の反応速度であった。普通ならば相手を見てから動き出すまで必ずと言っていいほどタイムラグが生じる。どんな優れた人間でも見てから体を動かすまで必ずと言っていいほど遅れが出るはずなのだ。

 しかし、修の反応速度はほとんどタイムラグがないと言っていいほど機敏であった。まるで歴戦の戦士と戦っていたような錯覚を感じさせた修ならばあるいは、と思った二人は「俺も修と戦いたい」と駄々をこねる空閑の願いを叶えさせたのである。

 

 

「私は遊真に賭けるわ」

 

「それじゃあ、俺は修に賭けます」

 

「こらこら。弟子で賭け事をしないの。……って、言った傍から始まっちゃったじゃない!?」

 

 

 二人が話している内に空閑と修の話は戦う方になってしまったみたいだ。弾印(バウンド)を使用して修に突撃して行く空閑を見て、三人の視線は弟子の戦いに釘付けになるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 弾印(バウンド)による特攻で空閑は跳び蹴りの要領で修に攻撃を放つのだが、その攻撃は確りと見極められていた。レイガストを展開し、シールドモードにして空閑の跳び蹴りを受け止めたのだ。

 

 

「っ!!」

 

 

 しかし、弾印(バウンド)によって得られた衝撃力を受け止めきれず、大きく後方に流されてしまう。

 

 

「……やるな、オサム」

 

 

 まさか、受け止められると何て思っても見なかったのだろう。C級の訓練用トリガーとはいえ、空閑が知る修はモールモッドに手こずっていた弱者のはずであった。その修に弾印(バウンド)によるなんちゃってライダーキックを受け止められるなんて予想外もいい所だ。

 

 

『だが、オサム。それは悪手だ』

 

 

 二人の戦いを特等席で見守っていたレプリカが呟く。確かに空閑の攻撃を受け止めたことは賞賛に値する事であるが、弾印(バウンド)による攻撃は強烈だ。それをまともに受け止めてしまったら――。

 

 

「……っ!?」

 

 

 レイガストに亀裂が走る。トリガーの中でも最硬を誇るレイガストが空閑の一撃に耐え切れなかったみたいだ。

 

 

「(このままでは拙い)」

 

 

 レイガストは修の生命線と言っていいほど防御の要だ。それが壊されてしまったら、次のレイガストを生成する前に倒されてしまうであろう。ならば、このまま通常弾(アステロイド)で迎撃を図るか、と考えもするがそのような単発の攻撃で空閑を仕留められる訳がない。

 考えた末に――。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

 

 ――スラスターを起動させて、力づくで空閑を引き離そうと試みたのであった。

 踏ん張りが利かない体勢故に空閑の体は推進力を得たレイガストによって突き飛ばされてしまう。それでレイガストは限界に達してしまったのだろう。鈍い破砕音が鳴ったと思いきや、木端微塵に砕け散ったのだった。

 防御の要が欠落した。それを飛ばされながらも確認した空閑は射印(ボルト)を展開する。本来ならば錨印(アンカー)と併用して使うものであるが、レプリカがいないと攻撃展開が遅れてしまう。空閑の黒トリガーの代名詞である多重印展開はレプリカの性能があってこそ出来る高等技術である。

 展開された射印(ボルト)は四発。突飛ばされたのにも関わらず、四発の弾丸は修の手足に向かって飛来している。

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 修は直ぐに通常弾(アステロイド)を放出。威力重視の通常弾(アステロイド)で空閑の射印(ボルト)を撃ち落とす算段のようだ。しかし、空閑のトリガーは(ブラック)トリガーだ。通常トリガーで修の微々たるトリオン量でしか生成されない通常弾(アステロイド)などモノともしなかった。

 

 

「ちっ!」

 

 

 舌打ちをすると同時に修は再び生み出したレイガストを真横に突出しスラスターを起動させる。推進力を得た事で空閑の射印(ボルト)から逃れる事が出来たが、そんな安直な一手では空閑の攻撃を完全に躱す事は出来ない。

 

 

 

 ――弾印(バウンド)

 

 

 

 回避した方角を読んだ空閑が弾印(バウンド)によるライダーキックで追撃を図る。

 スラスターを使っての回避行動中の修はこれをレイガストで受け止める事が出来ない。

 これは間違いなく命中する。二人の戦いを見守っていた四者は次に修が負ける瞬間を予測したが――。

 

 

「なっ!?」

 

 

 自身を護る様に修と空閑の間に通常弾(アステロイド)が展開される。それは弾幕。射程と速度を犠牲にした通常弾(アステロイド)の防御壁。あれに無防備で突撃したら空閑もただでは済まないだろう。

 

 

 

 ――盾印(シールド)

 

 

 

 空閑は防御を選択。修が展開した通常弾(アステロイド)の弾幕から身を護る為に盾印(シールド)を展開し、そのまま修のお株を奪うかの如くシールドチャージを敢行する。

 

 

「がはっ!」

 

 

 空閑の攻撃力が低下したとはいえ弾印(バウンド)からのシールドチャージは少なからず修にダメージを与える。

 先の戦いで小南にしたように壁際まで突飛ばされた修は反撃を試みるが、レイガスト握る腕を空閑によって掴まれてしまう。

 

 

「悪いな、オサム。俺の勝ちだっ!」

 

 

 一本背負いの要領で修を投げ飛ばし、俄然に射の印が浮かび上がる。空中で身動きが出来ないところを射印(ボルト)で撃抜くつもりなのだろう。これが放たれば自分の勝利。空閑はおろか、その場にいた全員が空閑の勝利を疑わなかったであろう。けど、三雲修はそんな全員の期待を再び裏切る事になる。

 

 

 

 ――射印(ボルト)

 

 ――スラスター

 

 

 

 スラスターを起動させて、身体を捻らせて空閑の射印(ボルト)から難を逃れようと実行する。けれど、流石に数発の射印(ボルト)から逃れる事は出来なかったらしく、肘から下の左腕を抉られてしまう。

 

 

「おぉっ!? マジか」

 

 

 これには流石の空閑も驚嘆するしかなかった。まさかあんな方法で自身の射印(ボルト)から致命傷を避けるなんて想像もつかなかったのだ。そもそも、修は一回もこちらの様子を見ていなかった。まるで全ての行動を見透かした動きに空閑は自然と高揚しだす。

 

 

「(とりまる先輩やこなみ先輩が驚くのも無理がない。俺が最初に見たオサムと段違いだ。……これが本当のオサムの姿なのか)」

 

 

 三雲修。口は達者であるが実力が伴っていない面倒見の鬼。それが空閑が抱く修であった。けれど、いまレイガストを突き出して起き上がる修は自信が抱いていた修像と全く以って異なる。

 そんな友人の姿を見て自然と口角が上がってしまった。

 

 

「(……ダメだ。勝てる気がしない)」

 

 

 一方、修は戦意を喪失しかけていた。相手は(ブラック)トリガーであり、歴戦の戦士だ。自分の様な素人が逆立ちした所で勝てる要素はなに一つない。運よく避ける事が出来たとはいえ、左腕を失ったいま何が出来ようか。

 

 

「(諦めるか。そうだな、諦めるべきだよな)」

 

 

 降参する、と言い掛けた時、鋭い痛みが駆け巡る。この不可思議な眼を使い続けた反動がいまになって襲い掛かってきたようだ。

 

 

「(……眼。……そうだったな。まだ、僕にはこの眼があった)」

 

 

 本人も分からず仕舞いの不思議な力。いま、歴戦の戦士と対抗できるとすれば、この名前も知らない謎の力に頼るしかない。

 

 

「(この眼があったから、烏丸先輩を……小南先輩と戦う事が出来た。なら、今度も――)」

 

 

 一度大きく深呼吸をして、瞼を閉じる。目の前に空閑がいるにも関わらず視線を外すのは自殺行為にも等しい。

 

 

「(何をしているオサム。そんな事をすれば――)」

 

 

 初めは何かの作戦か、と疑ってしまった。敵を前にして瞼を閉じるなんて愚行を真面な人間がするはずもない。けれど、様子を窺っても目の前の修は隙だらけであった。いま射印(ボルト)を放てば間違いなく命中すると思ったのだ。

 

 

「(何を考えているか知らないが、悪く思うなよオサム)」

 

 

 

 ――射印(ボルト)

 

 

 

 修が何をしたいのか分からなかったが、空閑は容赦なく射印(ボルト)を撃ち放つ。これは勝負だ。敵に情けを掛ける事は相手にとって失礼である。だからこそ、問答無用で攻撃を行った。

 射印(ボルト)は真直ぐ修の四肢を貫かんと飛び去る。だが、射印(ボルト)が放たれると同時に修の眼が開く。

 集中しきった修の視界から彩が失われる。同時に全ての動きがスローモーションの如くゆっくりと動くように見えた。空閑が放った射印(ボルト)は七発。どれも自身の致命傷となる様に放った凶弾だ。けれど今の修ならば弾丸の進行方向から着弾点を割り出す事など難しくもない。よって全ての弾丸を最小限の動きで躱して見せる。

 

 

 

***

 

 

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 

 自分達は夢を見ているのではないのか、と疑ってしまうほど修は見事な体捌きで空閑の射印(ボルト)を華麗に避けきって見せたのだった。あの弾丸は確実に当ると思っていた。二度も自身の予想を覆してきた修であるが、今回は確実に命中すると思っていた。それにも関わらず――。

 

 

「ちょっとちょっと! なによあれ。なによあれ!? アレが本当に修な訳!! 誰よ、修が弱いって言った奴は」

 

「お、落ち着きなよ小南。……けど、小南の気持ちも分からなくないかな。動きのキレが更に増している」

 

「えぇ。それに雰囲気が少し変わりましたね。見てください。修の姿を見た空閑が警戒心を強めました」

 

 

 さっきまでどことなく余裕が見受けられた空閑であったが、修の異変を感じ取ったのか、戦いに集中し始めたのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「(修の雰囲気が変わった。肌に突き刺す様なこの感覚……)はは」

 

 

 自然と笑みがこぼれてしまったようだ。まさか、修がこんな面白い人間であったと思ってもみなかった。

 そんな空閑の思いなど露知らず、修はレイガストを掲げて向かって来る。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 スラスターの起動し、真直ぐ空閑に向かって斬りかかってきた。

 

 

「甘いぞ、オサム」

 

 

 しかし、そんな安直な攻撃など空閑に通用するはずがない。

 

 

 

 ――盾印(シールド)

 

 

 

 盾印(シールド)を展開して修の行く手を阻む。

 

 

「それはどうかな、空閑」

 

 

 まるで目の前に盾印(シールド)が展開するのが分かっていたようにレイガストを地面に突出し、シールドモードへ移行。再びスラスターを再起動させて、空閑の盾印(シールド)を飛び越えたのだ。

 

 

「はぁぁああっ!!」

 

 

 力強くブレードモードへ再変化させたレイガストを振り降ろす。流石の空閑も素手で受け止められるはずもなく、自身の右腕を修によって切り落とされてしまう。

 それが空閑の本気を引き出す撃鉄となってしまった。

 

 

「っ!?」

 

 

 

 ――強印(ブースト)三重(トリプル)

 

 

 

 使わないと明言していた強印(ブースト)を三重にかけ――全力で修に殴り掛ける。

 当然、強印(ブースト)三重(トリプル)のパンチを避ける事など出来ず、修は勢いよく殴り飛ばされ、トリオン体は木端微塵に粉砕される。

 

 

「……あっ」

 

 

 撃ち放った直後、自分から封印していた強印(ブースト)を実行した事に気付く。

 修に損傷を受けて無意識に全力で殴り掛かった事に後悔しだす空閑であった。




えっと……。黒トリ空閑は流石にやりすぎたかなぁ。
だって、この時ってまだ正式なトリガーってなかったじゃんn。

あっ。けど、小南と訓練している時って正式のトリガーだったのか?

……まぁ、いいか。そのうち、本編でボーダー制トリガーの空閑とも戦わせたいですね。

ほんと、戦いばっかだな。このお話は。
そろそろ飽きません?


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SE修【天眼】木虎藍の憂鬱

はい、今回も外伝です。本編はいま執筆中なので……。

以前、感想にありました木虎の賭け事について書いてみました。
時系列はA級狙撃小隊の後になります。


「……そう言えば木虎ちゃん。例の賭けはどうするつもりなの?」

 

 

 久方ぶりに個人ランク戦ブースに赴いた木虎は偶々遭遇した緑川に何の前触れもなく尋ねられたのである。

 

 

「賭け? 何の事かしら?」

 

 

 賭けの単語に聞き覚えがなかったのか、緑川に尋ね返すと彼はニンマリと悪戯を思い出した悪餓鬼の様な笑みを浮かべて――。

 

 

「負けたら三雲先輩とキスするんでしょ?」

 

 

 ――と口に手を添えて誰にも聞かれない様に小声で呟いた。

 

 

「なっ!? あ、あなた……。なんで」

 

「なんでって、タッグを組んだ時に内部通信を繋げたじゃん。まさか、聞かれていないとでも思ったの?」

 

 

 初めは三つ巴戦で模擬戦をしていた緑川と木虎であったが、天眼修の回避能力がずば抜けている為に急遽共同戦線を組むことにしたのであった。その時に内部通信を繋げていた。

 それだけなら緑川に聞かれる事はないのだが、木虎はあの時に限って内部通信を切る事を忘れていたのだ。そのせいで先の会話を全て緑川に聞かれてしまったのである。

 

 

「な、なっ」

 

 

 まさか聞かれているとは思っても見なかったのであろう。木虎の顔が一気に赤く染めあがって行く。そもそも、自身がなんであんな事をのたまったのか、木虎自身が分かっていなかった。模擬戦が終って帰宅してから冷静になって記憶を振り返った時、何で自分はあんな恥かしい事を云ったのか激しく後悔したのだ。枕を抱きしめてベットで身悶えたなんて事は誰にも知られてはいけない最重要機密だ。

 

 

「み、緑川くん。そのことは誰にも――」

 

「――言っていないよ、もちろん」

 

 

 流石に緑川もそんな事を言い触らす様なデリカシーのない事はしなかった様子。ほっと安堵の溜息をつく木虎に緑川は先と同じように悪い笑みを浮かべて言う。

 

 

「……で、どうするの?」

 

「どうするって?」

 

「だからキ――」

 

 

 楽しげにつぶやこうとした単語を言わせまいと木虎は緑川の口を封じる。両手で口を封じられた緑川はどうにか脱出を試みるが、木虎から逃れる事は出来なかった。

 

 

「……いい? これ以上、変な事を言ったら今すぐにスコーピオンで抉るわよ」

 

 

 目がマジであった。もし、緑川は返答を間違えたら本気で緑川の体を抉るつもりなのだろう。流石に言い過ぎたかなと反省した――木虎の得体の知らない威圧感に負けたともいえる――緑川は何度も首を縦に振って了承の意を示す。

 その言葉を信じた緑川を解放した木虎は「いい!」と胸を張って言い続けた。

 

 

「あれの結果は引き分け。負けたらまだしも、私は負けていないんだから無効よ。き、ききキスなんてもってのほかよ」

 

「……え? だって、5戦中2勝2敗1分けでしょ? 俺はてっきり2敗もしたから2回するのかなぁ……って」

 

「そんな訳ないでしょ。そもそも、あれは二戦目限定よ。その結果引き分けだった。よって賭けは無効よ」

 

「そっかぁ。俺はてっきり――」

 

「――てっきり、何よ?」

 

「木虎ちゃんは三雲先輩ラブなのかなぁって」

 

「そんな訳ないでしょ! どうして、私が三雲君の事をすす好きになるのよ。どう考えてもおかしいでしょ」

 

「だって、そうじゃないとあんなことは言わないでしょ? 三雲先輩のサイドエフェクトとタイマン勝負したら俺達でも負ける確率は少なくなかったんだから。本当は勝ってもらってキスして欲しかったのかなぁ、って思ったんだよ。既成事実ゲットを盾に三雲先輩のゲットだぜってやつ?」

 

 

 直ぐに否定したかったが、自分自身がなんで戦闘中にあんな事を云ったのか未だに分かっていないが為に反論のしようがなかった。そもそも木虎が惚れている男性は三雲修の師である烏丸京介である。それにも関わらず他の男性にキスを賭けるのは些か可笑しな話である。考えた末に木虎が結論に至った答えは――。

 

 

「ああでもしないと、三雲君は本気で私を倒しにかからないと思ったのよ。ほら、私って可愛いでしょ。男なら誰しもが私のキスが欲しがるかなぁって」

 

 

 ――随分と斜め下の結論であったが。

 

 

「自分で可愛いって言っているよ、この人は。だから双葉に嫌われるんじゃないの?」

 

 

 緑川の言葉に木虎は精神的ダメージを250程受ける事になる。

 ちなみに全HPは1000である。黒江双葉の件は木虎にとってそれなりのダメージを与える事は緑川も知っていた。某ゲーム風に言うと効果抜群だ、である。

 

 

「そ、それとこれとは関係ないでしょ!」

 

「まぁ、そうなんだけどね。……それより、木虎ちゃんは例の狙撃戦を見た?」

 

 

 唐突に話題が変えられる。本当ならば「そんな事よりもって!」言い返したい所であるが、聞き慣れない単語が緑川の口から飛んできたので、そちらの方に興味が湧いたのだろう。

 

 

「なにそれ?」

 

 

 彼女は先まで広報任務で出動していた。ちなみに今回の報道任務は簡単な取材である。本来ならば部隊長の嵐山准と時枝充が相手をすることになったが、先方が女性の意見も聞きたいからと言って木虎を指名したのだ。その為につい先ほどまで繰り広げられていた狙撃戦を彼女は見ていない。

 緑川は簡潔に狙撃戦について木虎に説明する。

 

 

「……はぁ、佐鳥先輩。何をしているんですか」

 

 

 佐鳥の突拍子もない行動に呆れるしかなかった。まさか自隊のオペレーターである綾辻も一口噛んでいたのは驚きであったが。

 

 

「それで? なんでその事を私に言ったのかしら」

 

「理由なんかないよ。強いて言うならば佐鳥先輩が三雲先輩を気に入ったから、今後はちょくちょく会えると思うよ、って言いたかったぐらいかな」

 

 

 狙撃手(スナイパー)で唯一二挺狙撃(ツイン・スナイプ)が――三雲や東が出来る事は知らないので――可能な佐鳥が気に入るのは中々珍しい事であった。新人狙撃手(スナイパー)を指導する立場にいる彼は中々弟子を取る事はなかった。最もそれは佐鳥自身に問題がなくもないのだが――弟子に二挺狙撃(ツイン・スナイプ)を強いるのが最大の原因である――弟子にしたいと思える逸材は中々いないとの事だ。

 けど、そこで疑問が生じてしまう。そもそも今の会話でどうして三雲修の名前が挙がるのだろうか。

 

 

「……まさか、佐鳥先輩が賭けをした相手って」

 

「言っていなかった? 佐鳥先輩達の相手は三雲先輩と東さんだよ。いやー、面白かったな。特に最終戦。前の2試合を犠牲にして不意を突いての速攻。あれは解説してくれるまで分かんなかったなぁ」

 

 

 仮に自分があの場にいて狙撃手(スナイパー)用のトリガーを持ってもあんな風に立ち回る事は出来ないだろう。そもそも待ちに徹する狙撃戦は性に合っていないと理解している。

 

 

「なにをしているのよ、あのバカは」

 

 

 あまり修の事を知らないが、少なくとも修が狙撃手(スナイパー)として模擬戦に参加しているのがおかしい事は理解できる。

 

 

「(狙撃手(スナイパー)になったら再戦(リベンジ)出来ないじゃないの。そんな事も分からないのかしら、三雲君は)」

 

 

 そもそも修は木虎に再戦(リベンジ)したいと考えていないなんて事は木虎の考えにはなかった。自分なら負けた相手に勝つまで挑戦し続ける。それが他の人間にも当てはまると信じて疑わなかった。今の修はそんな事を考えている余裕はないのだが。

 

 

「……ぁ。佐鳥先輩だ」

 

 

 緑川の視線を追うと言った通り、そこには佐鳥の姿があった。どうやら東達に誘われて焼肉を食べて戻ってきたのだろう。物凄く機嫌が良さそうだ。彼の背中にお花畑が見えるのは気のせいではないだろう。

 

 

「あれ? 木虎と緑川じゃん。お疲れさん」

 

「お疲れ様です、佐鳥先輩。少しお時間よろしいですか?」

 

「え? なになに、どうしたの? なんか物凄く怖いんだけど」

 

「あー。佐鳥先輩。木虎ちゃんのいう事は聞いた方が良いよ。命が惜しくなかったら」

 

「なにそれ!? 俺って木虎に何かした? 思い至る節はないんだけど……」

 

 

 事実、木虎のどら焼きを無断で食べました事件は既に制裁を受けている。それ以上に木虎から制裁を受ける様な事件は未だにしていないはずであった。

 

 

「少し狙撃戦についてお話があるんですが」

 

「え? 狙撃戦? ……あぁ。もしかしてみてくれた? いやー、流石は三雲君だよね。俺も久方ぶりに高揚したって言うか、新たな二挺狙撃(ツイン・スナイプ)仲間と巡り合えてうれしいと言うか、とにかく今日は最高の日だったよ」

 

 

 親指を突き出してのサムズアップが木虎からしてみれば非常にウザかった。ドヤ顔が特に木虎の怒りのボルテージを上昇させてしまう。

 

 

「(佐鳥先輩逃げて。超逃げて)」

 

 

 そんな二人のやり取りをハラハラしながら見ている緑川はいつでも戦線から離脱出来る様にトリガーを握りしめる。木虎の怒りが大爆発したと同時にトリオン体になってグラスホッパーで離脱を図るつもりなのだろう。

 緑川に佐鳥を助けるなんて選択肢はない。逃げる一択以外彼の思考は皆無であった。

 

 

「そうですか。それはよかったですね。実はここ最近模擬戦をしていなかったので、相手を探していたのですが良ければ佐鳥先輩にお相手していただけませんか?」

 

「え? いやいや、俺は狙撃手(スナイパー)だから万能手(オールラウンダー)の木虎と相手をすることは……って、ちょっと木虎? 木虎さん。なぜに私めの後ろ襟を御掴みに?-ちょっ! トリオン体に換装してどうなさるんですか。誰か!? 誰か助けて!!」

 

 

 文字通り暴れる佐鳥を引きずって行った木虎はそのままランク戦ブースへと彼を連行していく。その後、木虎にフルボッコされる佐鳥であったが、未だに自分が彼女の逆鱗に触れたのかは未だに謎であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 東から焼肉を奢ってもらい、満足げに玉狛支部に戻った修の携帯に一通の連絡が届く。

 

 

「……ん?」

 

「どうしたんだ、オサム」

 

「いや、緑川からLINEが来たんだが、これってどう言う意味だろう?」

 

「えっと、なになに? 賭け事を思い出して? なんだこりゃ」

 

「さぁ?」

 

 

 その後、緑川に『何のことだ』と返信したら、数秒後にスタンプと言う形で返信が来る。

 

 

 

 ――このフラグ製造機がっ!!

 

 

 

 それを理解する事は修一人では不可能であった。

 試に玉狛支部の先輩方に聞いたら息を噴出して盛大に笑ったとか。




ワートリって主人公はたくさんいるけど、ヒロインっていないんですよね。
木虎が一番早く登場したから、そうなのかなぁって思うことはありますが。

自分はオサキトもありだと思っていますし、オサチカ、修怜、香修でも全然ありだと思っていますが、普通に考えるとオサキトかオサチカなのかな?

てか、日常編って本当にセンスがいりますよね。
自分ではこれが精いっぱいの日常編でした。


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SE修【天眼】雨取千佳の焦り

射手って難しいですね、ほんと。
色々と案を考えていますが、まずはこっちが先かなぁって。


千佳ちゃんを文章で表現するのってむずいよ、ホント。
……って、いつもそんな事しか書いていないような(汗


 三雲修の躍進。

 その噂は本部に所属している者達ならば、一度は聞いた事であろう。

 曰く、A級である小型万能隊員こと風間から一勝もぎ取ったこと。

 曰く、A級の迅バカ及び中学エリートこと、緑川と木虎二人を相手に引分けに持ち込んだこと。

 他にも狙撃戦で数的不利にも関わらず、二挺狙撃(ツイン・スナイプ)を使って一矢報いたことや、腕に覚えのある攻撃手(アタッカー)陣と肉薄した戦いを見せたなど、話しのネタは尽きない。

 そんな噂を聞くたびに、中学エリートが気を悪くしたらしいがそれは別の話だ。

 

 

「……なんか、凄いね。本部中、メガネ先輩の噂で持ち切りじゃん」

 

 

 狙撃訓練を終えた夏目はC級隊員の中で飛び交う修の噂は耳にし、未だに訓練中の雨取千佳に話しかけるね。

 

 

「そうだね。修くんは凄いよ」

 

 

 友人の言葉に相槌ながらも、千佳は黙々とイーグレットの引金を絞る。

 千佳が愛用するトリガーは一撃必殺を対トリオン兵ライフルことアイビスだ。しかし、彼女のトリオン量が相まってか放たれるトリオンの放出量は異常の一言であった。

 試にアイビスを撃つ様に佐鳥から言われて放った時は、本部の壁を貫通させて周囲の度肝を抜いたのは言う間でもない。

 それ以降、千佳は本部での訓練時ではイーグレットを使用している。高い汎用性を持つイーグレットは未だに慣れないが、それでも徐々に命中率は上がってきている。同期の夏目は距離が離れるにつれて命中率が落ちるにも関わらずだ。

 

 

「チカ子、最近頑張り過ぎだよ。少しは休憩したらどう?」

 

 

 ここ最近、千佳の様子がおかしかったのは気づいていた。その理由も大体予想できる。

 だけど、分かった所で彼女に何かしてあげる事は多くない。出来る事など、こうして彼女の過剰な頑張りにセーブを掛けることぐらいだ。

 

 

「ありがとう、出穂ちゃん。けど、もう少しで何か掴めると思うから」

 

「(その断り文句、何回目だと思っているのよチカ子)」

 

 

 二桁を超えたぐらいから数えるのは断念したが、耳にたこが出来てしまうほど聞き飽きた。

 

 

「(この調子じゃ、当分の間は終わらないかな。……手遅れになる前にメガネ先輩かおちび先輩に相談した方がいいかな?)」

 

 

 かれこれ、十日以上もこの調子の友人をどうにかせんと出穂は動き出す。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日。

 

 

「ほぉほぉ。チカがね」

 

 

 昼休み時、千佳の眼を盗んで修達のいる教室に向かった夏目はちょうど屋上に向かおうとしていた遊真を捕まえる事に成功したのだった。

 修は防衛任務の為に不在であったが、ある意味ちょうどいいと思ったのだろう。空閑に千佳の事で相談があると言って、そのまま一緒に屋上へ足を運び、今にいたる。

 

 

「そうっす。おちび先輩からも言ってくれないっすか。今のチカ子、ちょっと無理しすぎて正直、見ていられないっす」

 

「うーん。俺じゃムリだと思うけどな」

 

「な、何でっすか?」

 

「俺も、チカの気持ちは分からなくないからな」

 

 

 修の飛躍に焦りを感じているのは何も千佳だけじゃなかった。遊真も早くB級になろうと躍起になっている。

 (ブラック)トリガーを使えば直ぐにでもS級へ昇格する事は可能であるが、それでは意味がない。あの時、あの場所で遊真は千佳と修の二人と約束したのだ。修と千佳、三人でチームを組んで遠征部隊に入り、いなくなった千佳の兄と友人をこの手で助け出すと。

 故に同じ感情を抱いている千佳に言える訳がない。無理はするな、なんてそんな軽い気持ちを彼女へ言える訳がないのだ。

 

 

「け、けど! トリオン量が多いからチカ子って全然休まないんですよ。あのままじゃチカ子……」

 

「ふーむ。それは問題ですな。……なら、レイジさんに相談するしかないかな?」

 

「チカ子の御師匠さんに?」

 

「そそ。俺が言うよりもレイジさんが言う方が効果抜群だと思うしね」

 

「わ、分かったッす。今日、玉狛にお邪魔させていただきます」

 

 

 善は急げと言う。即決断、即行動。

 夏目は授業が終わったら、家に戻る事無く玉狛支部へと直行するのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……なるほどな。要件は分かった」

 

 

 韋駄天の如く教室から離脱し、玉狛支部に押しかけた夏目は絶賛クッキーを調理中であった落ち着いた筋肉こと木崎レイジに千佳の事を相談したのであった。

 レイジも初めは何事であろうと思ったが、彼女の相談を聞いて色々と納得したらしい。一度、席から立ち上がって出来立てのクッキーと紅茶を差出したレイジは話しを続ける。

 

 

「ここ最近、異常に熱が入っていたのはそのせいか」

 

 

 トリオン量が異常と言われるほど膨大な量を内包している彼女は、一日中狙撃訓練をしている事なんてザラであった。その事に疑問を感じた事はなかったが、夏目の言葉を聞いて悪い傾向になりつつある事だけは理解したのだった。

 

 

「ここ最近って……。チカ子、玉狛支部でも訓練を続けているんですか?」

 

 

 その質問に首肯する。

 

 

「チカ子。メガネ先輩の噂を聞いてから、より一層訓練する様になったんですよ。初めは頑張っているんだなって思ったんですが、段々と過剰なまでに訓練する様になって……」

 

 

 懇願の眼差しを向けられたレイジは腕組みをして思案する。可愛らしい弟子が訓練に集中すれば止めるまでし続ける人間である事は重々承知している。ここ最近も思いつめたように訓練をし続けていたが、それは時間が解決してくれると考えたのだが甘かったようだ。

 

 

「……分かった。俺からもそれとなく聞いてみる。わざわざすまんな」

 

「い、いえ。チカ子の事、よろしくお願いしまっす」

 

 

 余ったクッキーをタッパに詰め、彼女に渡す。彼女は「いらないっすよ」と断ったが、弟子の為にわざわざ玉狛支部に来てくれた客人を手ぶらで帰す訳にはいかないと考えた結果、本日のおやつ分を彼女に持たせたのであった。

 

 

「さてと……」

 

 

 深々と頭を下げて再三お願いされてはレイジも動かずにはいられない。今も訓練施設で黙々と狙撃をし続けている弟子の下へ足を運ぶのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 千佳が訓練している場所へ入るなり、真っ先に視界に広がるのは山の様に詰まれた標的の数々。もはや見慣れた光景であるが、違和感を覚えずにいられなかった。

 

 

「(的には当たっているが、どれも弾痕がバラバラか……)」

 

 

 一体の標的に付き、風穴が四か所撃ち抜かれていた。ここ最近では正確に頭部と腹部に一発ずつ命中出来る様になっていたのに、四発とも僅かながら反れている。

 

 

「……あっ。レイジさん」

 

 

 目の前の標的を狙撃した千佳は教えの通りに狙撃場所を変える為に移動しようとしたのだろう。立ち上がると同時に師のレイジがいる事に気付いて、丁寧に頭を下げてトコトコと近寄ってくる。

 レイジは軽く息を吐き、この真面目で無理しがちな弟子に告げるのだった。

 

 

「……休憩だ。おやつを作ったから、少しは一息入れろ」

 

 

 一瞬、何を言われたのか理解出来なかった千佳は目を丸くするが、直ぐに頷いてレイジの誘いに乗るのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「そうですか、出穂ちゃんが……」

 

 

 昨日残っていたおやつを彼女に渡し、夏目が来た事を告げる。

「早くB級に上がりたいのは理解できるが、何を焦っている? 今日の狙撃を見る限り、集中力が散漫のようだな」

 

 

「…………」

 

 

 その問いに千佳は答えなかった。

 話したくない内容なのだろう、と気遣ったレイジは別の話題を振ろうとして――。

 

 

「このままじゃ、取り残されてしまいますから」

 

 

 ――千佳の返答に反応せずにいられなかった。

 

 

「取り残される?」

 

「はい。最近、修くんの噂をよく聞きます。全てを見通す天眼の持ち主。A級になり上がるのは時間の問題だろうって」

 

 

 その噂には同意せざるを得ない。修のサイドエフェクトは圧倒的なアドバンテージを与えてくれる。近距離中距離遠距離全ての能力を備わっている修がそれ相応の戦い方を身に付ければ怖いもの知らずとなるのは安易に想像できる。

 

 

「遊真くんも後少しでB級に上がるそうです。そうなれば、C級は私だけ。このままでは私は二人に置いて行かれます」

 

「(……そう言う事か)」

 

 

 狙撃手(スナイパー)がB級に昇格する条件は他のポジションと異なっている。

 攻撃手(アタッカー)銃手(ガンナー)射手(シューター)ならば持ち前の運動神経や感が鋭い者ならば、早々と昇格する可能性もあるだろう。

 だがしかし、狙撃手(スナイパー)は他の三者と異なった別の才が必要となる。その才は普段の日常では培われない者。早々とB級に上がるのは難しいとされている。

 

 

「だからと言って、ただ闇雲に訓練をすればいいと言うものではない。お前の狙撃成績を見せてもらったが少しずつ落ちているな。……原因は過労か?」

 

 

 千佳自身も訓練のやり過ぎを自覚していたのだろう。気まずそうに視線を逸らして苦笑いを浮かばせるのみ。そんな弟子の姿を見たレイジは怒るに怒れず、ただただ深いため息を一つついて言い続ける。

 

 

「狙撃は集中力がモノを言う。集中力が欠けた状態でいくら練習しようとも意味がない。それは他の事に対しても言えることだ。……今日は早く帰って休め。修達には俺から言っておく」

 

「でも」

 

「これ以上続けても何の意味もない。休むのも訓練だと思え」

 

「もう少しやらせてください」

 

「ダメだ。どうしてもと言うなら、明日からにしろ。それまで、次の訓練メニューを組んでおいてやる」

 

「……え?」

 

「B級に上がりたいんだろ? なら、そろそろ動く標的の狙撃術を教えてやる。だから今日は休め」

 

「レイジさん。……ありがとうございます!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 やっとのこと納得してくれた弟子は、深々とお辞儀をした後に自宅へと戻って行くのを見送った後にレイジは新しい訓練メニューを考える為に部屋へ向かう。

 

 

「ふふ、優しいですねレイジさん」

 

 

 その途中、にやけた笑みを浮かべた宇佐美と遭遇する。

 

 

「覗き見とはいい趣味をしているな」

 

「いえ、見るつもりはなかったんですが……。気付きませんでした、千佳ちゃんがあんなに思いつめていたなんて」

 

「仕方がないだろう。千佳から言い出した事なのに自分が一番出遅れている。その事実が焦りを生むのも容易に想像できたはずだ。……が、俺も含めて――」

 

「――修くんの天眼ばかりに気がいって、二人の事を全然考えていませんでしたね。彼女達のオペレーターになる身としては、耳が痛い話です」

 

 

 思えば、修の天眼が分かった時から二人をそっちのけにしていた気がした。三雲隊のオペレーターとして、広い視野を持たないといけないはずなのに今回の件を見るまで千佳が思いつめていた事など考えにも至らなかった。

 

 

「修ももちろんだが、千佳や遊真も俺達玉狛支部の仲間だ。これから、もっと気を付ければいい話だ。お前もあまり思いつめるなよ」

 

「はい、分かりましたレイジさん。……それにしても」

 

 

 思いつめた表情から一変、宇佐美はニンマリとした表情で言い続ける。

 

 

「そう言った気配りが、ゆりさんにも出来ればいいんですが」

 

「なっ!? そ、それとこれとでは話が別だろうが!」

 

「……好きな人に奥手になると知ったら、レイジさんに対する千佳ちゃんの印象は一変しちゃうんでしょうね」

 

 

 今はスカウトで遠くに言っているレイジの思い人林藤ゆりが帰還した時、彼女と一緒になってレイジを茶化そうと目論む宇佐美であった。




後々に出穂や千佳を絡ませたいので、外伝ですが出してみました。
彼女たちの何気に重要なポジションにいる……かなぁ、って思っていますので。

ちなみに、千佳も少しばかり手を加えたらダメですかねぇ。


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SE修【天眼】上層部も出番が欲しい

本編?


偶には戦闘以外も書きたかったんだ。ほ、ほら。流石にネタが尽きかけてきたし。


 とある日、修は上層部から招集命令を受けて本部に足を運んでいた。

 

 

「(ここに来るのも久々だな)」

 

 

 過去に数回ほど、修は会議室に足を運んだことがある。あまりいい思い出ではない故に召集命令が下された時は憂鬱な気分にさせられたが、自分が所属している玉狛支支部長の林道から「説教とかそう言った類じゃないから心配するな」と言われている。

 

 

「(なら、何で呼ばれたんだろう?)」

 

 

 自分が上層部から呼び出される理由が分からずにいた。空閑やレプリカ絡みの話し以外で呼び出される理由が想像もつかないのだ。

 林道からそれとなく聞いてみたが、彼は「まあ、行ってみれば分かるさ」とだけ言って詳しい事を話してはくれなかった。

 心配した玉狛の先輩達が同行を申し出てくれたが、自分の為に貴重な時間を潰すのが申し訳なくて丁寧に断っている。空閑や千佳も同行しようと考えていたが、指定された日時はどちらも合同訓練が入っている。一秒でも早く修と同じB級に上がる為にも合同訓練をサボる訳にもいかないので、二人は申し訳なさそうに謝罪した時は苦笑いをせずにいられなかった。

 

 

「(この程度でみんなに心配される訳にはいかないよな、やっぱ。もっとしっかりとしないと)」

 

 

 自分の頼りなさに改めて痛感させられた修は今後も精進を忘れない様に誓うのであった。

 ゆっくりと深呼吸をして、修は上層部の方々が待つ会議室に入室する。

 

 

「――失礼します。玉狛支部所属、三雲修。招集命令に応じて参上いたしました」

 

 

 入るなり、全員の視線が集まるのを肌身で感じる。

 

 

「来たか。かけたまえ、三雲隊員」

 

 

 初めに声を掛けたのは、界境防衛機関(ボーダー)の最高責任者である城戸正宗であった。

 

 

「はい、失礼します」

 

 

 城戸の言葉に従い、近くの席に座った修を見計らい「それでは始めるとしよう」と会議を始めるのであった。

 

 

「すまんね、三雲君。急に招集されて驚いただろう」

 

 

 会議の進行役は本部長の忍田真史に任されているのだろうか。彼は緊張した表情で耳を傾ける修に話しかける。

 

 

「は、はい。その……。どうして僕が緊急招集なんてされたのか分からなくて。あの――」

 

「――今回、招集した理由はお前の副作用(サイドエフェクト)についてだ」

 

 

 話しを遮ったのは開発部門を担う鬼怒田本吉であった。

 

 

「僕の副作用(サイドエフェクト)ですか?」

 

「そうだ。三雲君の副作用(サイドエフェクト)、強化視覚。周りからは天眼と呼ばれているんだってね」

 

「は、はい。あの、それが何か……」

 

 

 忍田の質問に頷き、話しを続けようとするのであったが、今度は城戸によって遮られてしまう。

 

 

「林藤から報告書を見たが、ここに記載してある事は事実か?」

 

「報告書、ですか? あの、僕はその報告書の中身を知らないのでお答えのしようが――」

 

 

 修の返答を予測していたのだろう。城戸は忍田に視線を向け、忍田は小さく頷くと後ろで控えていた沢村響子に指示を出す。

 

 

「はい、三雲君。これがその報告書ね」

 

 

 沢村から件の報告書を受け取り、内容に視線を走らせる。

 

 

 

 

 三雲修の副作用(サイドエフェクト)の性能報告書

 

 概要

 本報告書は玉狛支部所属B級隊員の三雲修が所持していた副作用(サイドエフェクト)の性能について記されたものである。

 

 プロフィール

 氏名 :三雲修 15歳

 生年月日 :5月25日

 身長 :168㎝

 血液型 :A型

 星座 :うさぎ座

 

 過去に母校がトリオン兵に強襲され、C級隊員でありながら規約を破って戦場に立った経歴を持つ。また、近界(ネイバーフット)から来た空閑遊真と最初に接触した人物であり、玉狛支部に引き入れた第一人者。

 入隊試験を受けるものの、トリオン量が圧倒的に欠如しており結果は不合格。迅悠一の口添えによって特別枠で界境防衛機関《ボーダー》に入隊する。

 C級に入ってから特質したものは見られなかったが、近界民(ネイバー)の空閑遊真と共にイレギュラーゲートの件の解決を導き、その功績が認められてB級に昇格する。

 トリオン量、戦闘技術、戦闘経験、そのすべてにおいて未熟と言わざるを得ないが、ある日にトリガーの不調で眼鏡が換装されなかった事で副作用(サイドエフェクト)が備わっている事を認知する事になる。

 副作用(サイドエフェクト)の詳しい報告は以下に記す。

 

 

 

 副作用(サイドエフェクト)

 

 正式名称 :強化視覚

 

 視覚能力を極限まで高める事が可能。使用者のトリオンを消費する事で能力を維持しており、一定時間を超えると頭痛と吐き気を催してしまう。連続使用時間は調査中。

 現在、5つの効果を備わっている事が判明されている。

 

 効果 :千里眼・浄天眼・複眼・強化視覚・鷹の眼

 

 千里眼

 常人が不可能な距離の視覚を鮮明に読み取る事が出来る。具体的な可能距離は不明であるが、1㎞以内は可能である事は確認済みである。

 

 浄天眼

 透視・洞観に特化した性能。

 隠密トリガーのカメレオンの性能を見破った実績を持つ。また、本人が望めば障害物に隠れた死角の情報も読み取る事が可能。

 

 複眼

 視覚情報を全方面、視認する事が出来る。

 

 強化視覚

 体感時間を引き伸ばす事が可能。具体的な時間の延長は不明であるが、同支部所属のA級隊員、烏丸京介のガイスト【機動力特化】モードの動きを見極められた実績を持つ。

 

 鷹の眼

 弾丸の弾道を視覚化させる事が可能。

 赤い射線が伸びてから、弾丸が着弾するまで2秒であると判明。

 この効果は全ての弾丸トリガーに通じる。

 

 備考

 本部の隊員の力添えもあって、天眼の効果の出力調整が可能となった。それ故に、上記の内容が大きく異なる事もあり得る。

 迅悠一の副作用(サイドエフェクト)によると、他に二つほど備わっているようだが、その効果・発動条件は不明。

 

 

 

 

「改めて訊こう。その報告書に不備はないかね?」

 

「……副作用(サイドエフェクト)については本当です」

 

 

 ここで修は自身が呼ばれた理由が副作用(サイドエフェクト)絡みである事を察する。

 

 

「しかし、些か信じられませんな。自身のトリオンを消費する事で発揮する副作用(サイドエフェクト)。正直に言って異質じゃないのですか?」

 

「わしもそう思いますな。そもそも、それなら何故に今の今まで判明しなかったのか、という疑問が残るわい」

 

 

 根付と鬼怒田から疑問の声が上がる。それはある意味当然かも知れない。未だに判明されていない副作用(サイドエフェクト)であるが、判明している事も少なからずある。

 副作用(サイドエフェクト)を顕現した者達は、トリオン量が優れている者達ばかり。けれど、修の副作用(サイドエフェクト)はそのトリオン量を消費する事で発動する副作用(サイドエフェクト)の共通点から逸脱している。これを認めてしまうと、開発室からしてみると、自分達の考えが間違えである事を認めてしまうのと同じなのだ。

 

 

「お二人が訝しむのも仕方がないけど、修はこの力を用いて並み居る強豪から善戦している。それはお二人も既に見ていた事と記憶しているが?」

 

 

 林藤の指摘により、二人は口を閉ざしてしまう。修が会議室に来る前に上層部のお歴々は過去の模擬戦に目を通していたのだ。

 

 

「しかし、凄いな三雲君。この力は我々界境防衛機関(ボーダー)にとって有益な力だ。その力、大切に育てて欲しい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 

 忍田からの賛辞の言葉に嬉しく思いつつも、城戸からの言葉で姿勢を正しくさせられる。

 

 

「そこでだ、三雲隊員。我々は三雲隊員の副作用(サイドエフェクト)について詳しく把握するべきと考慮した」

 

「僕の副作用(サイドエフェクト)をですか?」

 

「そうだ。視覚をフルに使える副作用(サイドエフェクト)は我々界境防衛機関(ボーダー)にとって有益な力になる事は忍田本部長の意見と同じだ。そこで、どれほどの性能が備わっているのか、具体的な数字を知る事が急務と考えた」

 

「は、はぁ……」

 

 

 いまいち、城戸が言いたい事が理解出来ないでいた。そんな修の心情を察してか、忍田が補足説明をする。

 

 

「つまりだ。キミの目がどれほどの可能性を秘めているのか知りたいと言う事だ。防衛戦やその他諸々、三雲君の目があれば今まで不可能であったことが可能になるかも知れないと考えたのだ」

 

「な、なるほど」

 

 

 納得の声を上げたものの、上層部のお歴々が自身の副作用(サイドエフェクト)を高く評価した理由が分からずにいた。自身の副作用(サイドエフェクト)は戦闘向きとはいいがたい。応用次第では戦いを有利に運ぶことも出来るが、トリオン量を常に消費してしまうと言うデメリットがある。そんな使いにくい駒に利用価値を見出した理由が考え付かなかったのだ。

 しかし、それはあくまで修本人の考え。視る事に特化した副作用(サイドエフェクト)はどんな場面でも充分に真価を発揮してくれると上層部は踏んでいる。

 未開の地に遠征した時、大規模侵攻が発生した時、一番重要なのは情報だ。人が情報を得る最も多く占めている器官は視覚。それに特化した副作用(サイドエフェクト)を持つ人物が現れたと分かれば、有効活用するべきと考えるのは自然の道理である。

 

 

「三雲隊員には、千里眼。浄天眼と各種の効力を我々の監視の下で試験を受けてもらう。今後の進行役は鬼怒田室長に任せてある」

 

「……んじゃ、三雲。まずは千里眼とやらの試験を受けてもらう。先ずは……飛べ」

 

「………………はい?」

 

 

 鬼怒田の言葉に修は目を丸くさせるしかなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 一時間後。

 なぜか、三雲はヘリコプターに乗せされ、空の旅路に連行されていた。

 

 

『説明した通り、わしが指差した文字と色を当てて見せろ』

 

「き、鬼怒田室長っ!! い、いくらなんでもこれは……」

 

 

 内部通信で連絡を取り合う三雲の身体に風圧が衝撃波となって襲い掛かる。足に力を集中させて何とかバランスを保っている三雲であるが、正直に言って危なかしい。

 

 

『お前の千里眼は、1㎞は軽く視認出来るんだろうが。なら、手始めに五キロから始めるぞ!!』

 

「右から赤のキ、黒のヌ、緑のタ、黄色でひらながのは、白のハ、金のゲですっ!」

 

『おい、待て! わしはまだどこも指差してって寺島っ!! 誰が禿だっ! 誰が!!』

 

『スゲーな、オイ。米粒に書いた文字をあんな距離から読み取りやがった』

 

 

 

 ***

 

 

 

「次は浄天眼の試験を開始する。この中にトリオンキューブを複数ほど隠して来た。欲しければくれてやる! 探せ! この空間に全て――」

 

「……写真? 誰かのご家族の写真のようだが」

 

「そ、それは!? 無くしたと思った家族の……。返せっ! それは俺の魂だっ!!」

 

 

 鬼怒田、最後に撮った家族の写真をゲットだぜ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「つ、次は複眼の試験をか、開始する。前後左右上下、あらゆる方向からトリオンキューブを射出するから、それに記載した文字を読み取れ」

 

「えっと……。わたしこと、さわむらきょうこは、しのだ――」

 

「――だ、誰ですかっ!? こんな文章を作った人はっ!!」

 

 

 沢村響子のローキックが火を噴くぜ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「つ、次は――」

 

「鬼怒田室長、大丈夫ですか?」

 

「こ、これぐらい問題ない」

 

「(沢村さんの強烈なローキックで泡を吹いていたのに?)」

 

「次は――」

 

「強化視覚の体感速度を見極めるぞ、三雲君」

 

「し、忍田本部長? 何故に、トリオン体になって弧月を……まさかっ!?」

 

「その通りっ! この私の旋空弧月が見極めてもらおう」

 

「無理ですっ!!」

 

 

 なんだかんだ言って、五割近くの忍田の斬撃を躱す事に成功。そのせいで童心に火がついた忍田と一戦を交える事となる。

 

 

 

 ***

 

 

 

「最後は鷹の眼だ、修」

 

「あ、あの林藤支部長。これって、どこかで見た事があるような……」

 

「おう。インスパゲフンゲフン。……パクってみた。予測線を予測して、あの人形に触れてみろ」

 

「言い直していないですからね、それっ!? あなた達、何気に僕で遊んでいませんか? そうでしょっ!? きっとそうに違いません」

 

 

 弾丸は予測できた。けど、さりげなく変化弾(バイパー)を織り交ぜて来たのは意地悪もいいところだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 なんやかんやで全ての実験が終了し、城戸は沢村から受け取った報告書に目を通し、精も根も尽きかけている修に一瞥する。

 

 

「ご苦労であった、三雲隊員。これで試験は終了だ。後日、もう一度招集すると思ってくれたまえ。下がってよし」

 

「は、はい……。し、失礼します」

 

 

 退散の許可が下りるなり、修は重たい腰を上げて深々と頭を下げて退室する。

 会議室のドアが再び閉ざされたのを見守った一同は、手元の書類に視線を戻す。

 

 

 

 三雲修、副作用(サイドエフェクト)の結果報告

 

 千里眼

 5㎞からの米粒に書かれた文字すらも正確に読み取れる。

 読唇術を覚えさせたらマジやばくねby寺島

 

 浄天眼

 どれほどの細工を施しても、課題のトリオンキューブを全て探し当てた。

 また、無くしたはずの鬼怒田の家族写真も偶然であろうが発見する事が出来た。

 

 複眼

 360度全ての視覚情報を得る事が可能。

 

 強化視覚

 忍田本部長の全力旋空弧月を5回とはいえ、完全に避けきって見せた。

 その後、本部長の大人気ない五月雨旋空弧月によって細切れになってしまったが。

 

 鷹の眼

 林藤支部長が極秘裏に開発した予測君を用いて、射線を掻い潜りながら敵に近づく競技を行う。

 敵に触れようとした瞬間に両変化弾(フルアタック・バイパー)は鬼畜もいい所であろう。その不意打ちにも対処した三雲修は化け物か!?

 けど、レイガストを使用したので失格と言う形になってしまったが。

 

 

「……何をしているのかね、お前らは」

 

 

 報告書の内容を見て、頭痛を覚える城戸であった。




真面目な話にしようとしたのに、なぜこうなってしまった?

上層部がボケキャラとかダメでしょ、やっぱ(ェ


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SE修【天眼】結成、三雲隊

どもども、明け前しておめでとうございます。

……遅いって? しかも本編じゃないだと?

ほ、ほら。ネタがある時に書くのが私流と言うか。
いやね。これを本編にしてもよかったけど……うん。言い訳になるからやめておこう。


「ちょっと傾いているわよ。もう少し、とりまるの方をあげなさいよ」

 

 

 自作の横断幕を部屋に飾り始めている迅と烏丸に指示を出す小南。それに従い烏丸は「烏丸、了解」と簡潔に答えて修正を試みる。自分としては問題ないだろうと思っていたのだが、小南は満足いかなかった様子。

 

 

「それだと上げ過ぎよ。あと数ミリ下げなさいよ」

 

「……小南先輩、少し細かすぎです」

 

「仕方がないよ、京介。可愛い可愛い弟子の昇級祝いなんだから。小南が張り切るのも無理はないさ」

 

 

 空閑遊真・雨取千佳、B級昇格おめでとう。

 迅と烏丸が設置していたそれは、二人の昇級を祝う横断幕であった。

 小南にとって初めての弟子の昇級祝いだ。熱が入るのも無理はない。

 それは烏丸も理解してはいるが……。

 

 

「それなら、小南先輩も手伝ってくださいよ。小南先輩だけですよ。何もしていないの」

 

 

 師である木崎は二人の為に「これでもかっ!」と思うほどに腕に縒りを掛けて料理を作り始めている。今いるメンバー全員では食べきれない程の料理を出しているにも関わらず、パーフェクトキン肉マンは二人の為にケーキを一から作り始めている。どこまでパーフェクトを目指せば気が済むのか、と一度ツッコミを入れたい所である。

 

 

「私はいいのよ。こうして横断幕を作ったんだから。二人は用意すら何もしていなかったでしょ!?」

 

「そいつは心外だな、小南。俺と京介はちゃんと二人の為にプレゼントを用意したんだぞ。なぁ、京介」

 

「えぇ。修に手伝って貰いましたが」

 

 

 その言葉に驚きの声をあげる小南。祝いの準備はしていたが、プレゼントなど全く用意もしていなかった。そもそも、そんな気の利いたモノをこの二人が用意していること自体が信じられなかった。

 

 

「あれ? 小南先輩。まさかと思いますが、何も用意していなかったんですか?」

 

「おっと、そいつは大変だな。小南だけだぜ、プレゼントを用意していないの」

 

「……そ、そんな訳ないじゃない。ちゃんと用意したわよ! ほ、本当よ」

 

 

 動揺する小南の姿を見て、それが直ぐに嘘である事を二人は見抜く。そもそも、小南の嘘など玉狛支部の人間でなくても直ぐに看破出来てしまう。

 

 

「ち、ちなみに二人は何をあげるつもりなのよ?」

 

「それは秘密です」

 

「そうそう、それを言ったら面白くないだろ?」

 

 

 うぐぅ、と言葉をつまらせる。

 二人のプレゼントを参考にこれから購入を考えていた小南としては痛かった。

 プレゼントを考える時間を考慮すると、どう考えても今から買いに行っては時間的に間に合わない。

 

 

「こうなったら……。修っ!」

 

「……はい? なんです?」

 

 

 そこで小南は強行手段に出る事にした。

 後ろで木崎の料理を並べている修に向けて、小南は告げる。

 

 

「時間を稼ぎなさい。具体的には遊真と模擬戦をしてきなさい」

 

「……僕、小南先輩が何を言っているか分からないんですが」

 

 

 大丈夫。それは俺達も同じ気持ちだから、と同意する迅と烏丸であったが、決してそれらを口にする事はなかった。だって、言ったら巻き込まれる事は必須であるから。

 

 

 

 ***

 

 

 

「オサムからお誘いがあるとは思わなかったぞ」

 

 

 B級昇格の報告を本部から受け、報告を終えた空閑は玉狛支部から戻るなりに修から模擬戦のお誘いを受けた事に感嘆な声をあげる。

 思えば、修と模擬戦をするときはいつも自分からであった。相棒の副作用(サイドエフェクト)と戦う事で得る事は多い。

 宇佐美の協力の元、修視点で戦いを録画できる事になったおかげで自分の戦い方を分析・解析する事が容易に出来る様になった。最もこの機能は玉狛支部だけしか使用できないので、中々活用できる機会は少なかったが。

 

 

「……まぁね。遅くなったけど、B級昇格おめでとう、空閑」

 

「ありがとうございます。けど、それはチカもそうだぞ」

 

 

 後ろでアイビスを抱えている雨取を指差して「チカにも言ったらどうだ」と促す。

 

 

「そうだね。おめでとう、千佳。これで一歩、目標に近づいたね」

 

「うん、ありがとう。修くん」

 

 

 雨取のB級昇格は修にとっては予想外もいい所であった。幾ら攻撃手(アタッカー)狙撃手(スナイパー)で昇級条件が違うとはいえ、ここまで早く雨取がB級に昇級するとは思ってもみなかった。それだけ彼女が努力と研鑽を積み重ねて来たのか物語っている。

 

 

「けど、修くん。私も参加しないとダメかな?」

 

「別に俺はいいぞ。てか、チカは修と組んだ方が良いんじゃないか?」

 

 

 実力差から考えたら、雨取は修と組んだ方が良い勝負が出来ると考えている。人を撃てないと修と空閑は知ってはいるが、それでも膨大なトリオンによる弾幕は厄介極まりない。

 雨取の砲撃と修の索敵能力が合わされば、空閑ともいい勝負が出来ると考えている。

 だが、今回の模擬戦はタダの模擬戦ではない。これは修にとっても大事な実験なのだ。

 

 

「いや、千佳には空閑と組んでもらいたい。僕のこれが上手く機能するか試したいんだ」

 

 

 取り出したのは一つのトリガーである。

 

 

「ほぉ。では、それが」

 

 

 トリガーを見て、直ぐに空閑はピンと来たようだ。対して雨取は首を傾げる。修の近状は知ってはいるが、彼がトリガーを取り出した理由までは聞いてはいなかったのである。

 

 

「そうだ。僕の専用トリガーだ」

 

 

 修専用の玉狛トリガー。ランク戦などでは使用できないが、万が一に備えて玉狛支部が用意した修の為だけに用意された予備トリガーである。

 本来ならば、B級の戦闘員に支給される事は認められてはいない。しかし、林道が修の副作用(サイドエフェクト)の有用性を説き、ランク戦などで使用しない事を条件に、修に専用トリガーを持たせる事を認めさせたのだ。

 

 

「なるほど。それなら納得ですな」

 

 

 修専用のトリガーの機能を知る空閑は、自然と笑みを浮かばせる。もしも、その機能が充分に発揮出来たならば、修の性能は格段に上がる事を知っているからだ。

 

 

「……チカ。一緒にオサムをアッと言わそう」

 

 

 修がどれほど知っているか知らないが、雨取が陰で必死になって技術を磨いていた事は知っている。人が撃てなくても雨取の戦力はそこら辺のB級狙撃手(スナイパー)を軽く凌駕している事は承知済みだ。

 

 

「うん、わかった。私も修くんに見てもらいたいから」

 

 

 数多くの実績を積んできた修に、今の自分の実力を見てもらう良い機会であると雨取も判断する。今まではただ背中を見守るしか出来なかったが、これからは違うと言う事を修に見せつけるチャンスだ。

 

 

『話しはついたかな?』

 

 

 戦う意思が定まったのを見計らって、宇佐美が話しかける。

 

 

「はい。お願いします、宇佐美先輩」

 

『オーケー、三人とも頑張ってね』

 

 

 彼女の言葉を合図に、トレーニングルームは戦場と化す。

 

 

 

 ***

 

 

 

 戦闘開始と同時に、三人の位置がランダムで転送される。現在地を確認するなり、空閑は修がいるであろう方角に向けて全速力で駆け抜けながら、雨取へ通信を行う。

 

 

「チカ、速攻で行くぞ。オサムに時間を与えるのは危険だ」

 

『例の修くん専用のトリガーだね。あれって、どんなモノなの?』

 

「俺も詳しくは知らないけど、エンザン機能を玉狛支部とレンドウするとか、何とか」

 

「演算機能を玉狛支部と連動?」

 

「要するに、今の修は……。っ!?」

 

 

 突如、トリオンキューブが襲い掛かってくる。即座にグラスホッパーを起動させ、進行方向を無理矢理変更して跳んで何とか躱す。

 

 

「……なるほど。オサムも同じ考えをしていたと言う事か」

 

 

 トリオンキューブ、恐らく通常弾(アステロイド)が飛んで来た方角に視線を向けると、そこには修の姿があった。

 左手にトリオンキューブ。右手にレイガスト。C級を連想させる白い隊服を身に纏った修は真直ぐと空閑を見据え、告げる。

 

 

「……行くよ、空閑」

 

「オーケー。来いよ、相棒」

 

 

 空閑も両手にスコーピオンを生成させて、戦いに挑むのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「どうだい、メガネくんのトリガーは?」

 

 

 準備を済ませ、小南がプレゼントを買いに行ったのを機に抜け出した迅は、三人の模擬戦の様子を見に来るなり、宇佐美に向けて問い掛ける。

 宇佐美は振り向く事無く、淀みないタイピングをし続けたまま、迅の問いに答える。

 

 

「今の所、連動率は35%と言った所でしょうか。天眼の処理能力の速さが異常で、CPUの性能が追い付いていないのが現状です」

 

「マジ? 宇佐美が使っているそれもそこそこカスタマイズした事で、そこそこ処理能力は早いんだが……。やはり、無理があったか?」

 

「けど、着眼点はいいと思いますよ。修くんの完全機能(パーフェクト・ファンクション)は、あまりにも負担が大きすぎます。……初めは、未来が視えると聞いて驚きましたが」

 

「まぁね。まさか、二宮さんの一言で、天眼をそんな風に成長させるなんて思ってもみなかったよ」

 

 

 完全機能(パーフェクト・ファンクション)に目覚めた翌日、修は詳細を支部長の林道に報告したのが始まりであった。天眼の能力に変化があったら逐一報告する様に命令したとはいえ、まさか林道も数秒先の未来が視えましたなんて報告を受ける事になるとは思ってもみなかったであろう。

 迅の助言もあり、林道は宇佐美に修の完全機能(パーフェクト・ファンクション)について調べる様に伝えたのが、今回の修専用のトリガーを製作する切欠となったのだ。

 修の専用トリガーは、現存の玉狛製のトリガーと違って特殊な武器が備わっている訳ではない。天眼で見た光景をモニターに連動させ、予測の機能をCPに演算させる事で、修にかかる脳内負担を軽くさせる事が目的であった。

 最も天眼の能力があまりにも異常な為、完全にフォローする事は今の段階では出来ずにいたが。

 

 

「処理速度の問題は、CPを増やす事で解決できるか?」

 

「どうでしょうか。そこは試してみないと分かりませんが。……正直、この機能はあまり使って欲しくはないかな。人の限界を軽く超えているから」

 

「……そうだね。俺もそう思うよ」

 

 

 自身の可愛い後輩に無理をさせたくはない気持ちは迅も同じである。

 提案した自身では説得力はないかも知れないが、危険を冒す様な力を使う機会がない事を祈るばかりであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 空閑の戦い方は機動力を軸にした、高機動を主とした戦い方である。緑川から教わったグラスホッパーのおかげで更に磨きかかった機動性は並大抵のB級では捉える事は難しい。

 だが、天眼を備えもっている修にグラスホッパーによる強襲は通用しない。

 

 

「ふむ。これじゃ、オサムに通用しないか」

 

 

 グラスホッパーによる乱軌道(ピンボール)で撹乱し、死角から一撃を放っては見たものの、修はすぐさまに体の軸を回転させて空閑のスコーピオンをレイガストで防ぐ。通じないと初めから分かってはいたものの、自身の攻撃を防ぐ動き方が堂に入り始めてきている。数多くの模擬戦で体の動きを覚え始めて来たのであろう。

 

 

「その動きは緑川で学習済みだ、空閑」

 

「みたいだなっ!!」

 

「っ!?」

 

 

 片手のスコーピオンを解除して、直ぐ様にグラスホッパーを起動。修を強制的に突飛ばし、自身もグラスホッパーで追撃を図る。

 宙に飛ばされ、体勢を崩された事で空閑の一撃を躱す事が不可能と判断した修は吹き飛ばされたまま、左手のトリオンキューブを宙に放って弾幕を張る。

 トリオンキューブによる弾幕に突っ込む事を嫌った空閑は、再度グラスホッパーを起動させて進行方向を変える。その隙に修は体を捻らせて着地して体勢を整える。

 

 

「チカっ!」

 

『うんっ!』

 

 

 追撃が無理と察し、空閑は雨取に合図を送る。

 刹那、二人の間に膨大なトリオンの雨が降り注ぐ。

 

 

「これは……追尾弾(ハウンド)!?」

 

 

 天眼で雨取が放った弾丸の軌道を読んだのだろう。一度、大きく上昇した弾丸の雨は、獲物を見つけた鷹の如く一気に降下し、二人がいた空間を覆い隠したのである。

 

 

「なんで、千佳が追尾弾(ハウンド)を!?」

 

 

 修が驚くのも無理はない。

 雨取のポジションは狙撃手(スナイパー)だ。それは初めに玉狛支部に来た時に全員で決めた事である。サブトリガーに入れる事は不可能ではないが、彼女がB級に昇級したのはつい最近なのだ。射手(シューター)用のトリガーを練習している時間はなかったはず。

 

 

「オサムを驚かす為に、チカもがんばった結果だ」

 

 

 追尾弾(ハウンド)に気を取られてしまったせいか、空閑に背後を取られてしまう。

 雨取が追尾弾(ハウンド)を撃った理由は空閑の姿を一瞬でも覆い隠す為の牽制の一撃であった。

 振り向いてから対処しては間に合わない。裏拳の要領でレイガストを横一閃に薙ぎ払うのだが、その先に空閑の姿はなかった。

 

 

「なっ!?」

 

「こっちだ、オサム」

 

 

 またもや背後から空閑の声が木霊する。

 直ぐに対処しようと行動に移すが、空閑の攻撃の方が早かった。

 

 

 

 ――グラスホッパー

 

 

 

 修が以前に使っていたグラスホッパーによる吹き飛ばし。

 スコーピオンで切裂く絶好の機会にも関わらず、空閑はダメージを与えるよりも修の態勢を崩す事を選択する。

 その選択はある意味正解であった。スコーピオンが腕から伸びる時間とトリオンキューブが射出されるラグは大差ない。攻撃する動作も含めればややスコーピオンの方が不利になるかも知れない。それならば、ノーモーションで放てるグラスホッパーで修の態勢を崩す事の方がノーリスクと考えた結果であろう。

 

 

「チカ。もう一丁っ!」

 

『うん。行くよ、遊真くん』

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 戦場が暴風によって蹂躙されていく。

 かつて経験した事もないほどの突風と言う名の衝撃が襲い掛かり、修の身体は宙を舞う。

 グラスホッパーで体勢を崩され、炸裂弾(メテオラ)の衝撃波によって、身体の自由を奪われた修を倒す絶好の機会を空閑が逃す訳がない。

 

 

 

 ――テレポーター

 

 

 

 瞬時に修の頭上へと瞬間移動を行い、渾身の一撃を叩きつける。

 勝った、と勝利を確信した空閑の攻撃は空を切る。ギリギリのところで修はレイガストのオプショントリガー、スラスターを起動。スラスターによって得た推進力を得て体躯を捻らせて空閑の一撃を躱す。

 

 

「やるな、オサムっ!」

 

 

 相棒の驚くべき成長振りに称賛の声を上げながらも、空閑は更なる追撃を図る。足元にグラスホッパーを展開させ、修の方へ跳ぶ。空中戦は戦闘慣れしている空閑に分があった。グラスホッパーによって肉薄している空閑をレイガストのシールドモードで阻もうと試みるも、それより早く空閑が修の腰に抱きつき、更にグラスホッパーを使用して地面に叩きつけるのだった。

 

 

「がっ!!」

 

 

 トリオン体であるために痛みは感じなくても、衝撃は感じる。背中から勢いよく地面に叩きつけられたせいでレイガストを手放してしまう。このまま空閑がスコーピオンを身体のどこからか出現させて修のトリオン体を傷付けてしまえば勝利は決まる。

 

 

「(これで……っ!?)」

 

 

 しかし、空閑は攻撃を行わずにテレポーターで一時撤退を行ったのだった。あのまま攻撃すれば間違いなく倒せた、と誰もがそう思っていただろう。空閑が先ほどまでいた空間に無数のトリオンキューブが飛んで来るまでは。

 

 

「……気づかれていたか」

 

「アブナイ、アブナイ。自分を囮に罠を張る。オサムの得意戦法だもんな」

 

 

 修がレイガストのスラスターで空閑の攻撃を躱すと同時に、トリオンキューブを宙に放り込んで自身に戻る様に弾丸をセットしていたのであった。普通ならばそんな先の行動を読む事など不可能。

 

 

「どうやら使ったみたいだな、オサム」

 

「……行くよ、空閑」

 

 

 

 ――先視眼(プレコグ・アイ)、起動

 

 

 

 完全機能(パーフェクト・ファンクション)を限定的に発動させると同時に、支部の演算機能の恩恵を得るトリガーを既に発動させていた。

 

 

 

 ――残り、14秒

 

 

 

 先視眼(プレコグ・アイ)は師が使うガイストと同様に限界時間が設けられている。ただし、ガイストと違って時間が過ぎても強制的に緊急脱出(ベイルアウト)は発動しない。

 そもそも、今の修のトリガーに緊急脱出(ベイルアウト)の機能は設けられていないので決して発動する事はないのだが。

 宇佐美と色々と試した結果、完全機能(パーフェクト・ファンクション)の持続時間は20秒が限界である事が分かっている。それ以上過ぎてしまうと、トリオン体は強制的に解除され、天眼の能力ばかりか視力すらも低下してしまう。一日ほど時間が置けば回復するが、はっきりと言って使い物にならない。故に考えた結果、完全機能(パーフェクト・ファンクション)に時間制限を設けたのである。制限時間は18秒。18秒過ぎると、修の完全機能(パーフェクト・ファンクション)が自動的に切れる様にトリオン体に細工を施している。

 

 

 

 ***

 

 

 

「いやはや、うちの後輩達は凄いね。小南が見たら「私も混ぜなさい」って飛び込むんじゃないか?」

 

「はは。簡単に想像できますね」

 

 

 激戦を繰り広げている己の弟子達の戦いぶりを見て素直に感想を述べる。これでB級に上がり立てと言うのだから驚きものだ。

 修が数多くの強敵と戦い実力を伸ばした事は勿論であるが、空閑と雨取両名の実力も目に見張るものがある。

 

 

「空閑の実力もさることながら、千佳のあれは脅威ですね」

 

「だな。まさか、この短時間に追尾弾(ハウンド)炸裂弾(メテオラ)、そしてアレを使い熟すまでに成長するなんてな。これもレイジさんの教育の賜物かな」

 

 

 レイジと密かに特訓していた事は知ってはいたが、まさか狙撃手(スナイパー)以外のトリガーの訓練もしていたとは思ってもみなかった。基礎固めの為に幅広く指導するやり方はレイジらしくはないが、それでも完璧に指導をやり遂げた彼はまさしくパーフェクト超人と言っても差支えないだろう。

 

 

「空閑の機動力に千佳の火力。それに加えて修の索敵能力が合わされば、怖いもの知らずですね。正直、あまり相手にしたくない部隊ですよ」

 

 

 今はまだまだ課題が多い三人であるが、それでも贔屓目なしに見てもA級に充分届く実力は備わっていると思われる。後は連携に磨きをかけ、経験を重ねて行けばA級に上がるのも夢ではないだろう。

 

 

「そう言う意味では小南先輩の気紛れはいい機会でしたね。互いに戦えば、お互いの癖や戦い方が把握できる。……まさか、これも迅先輩の差し金と言いませんよね?」

 

「おいおい、京介。俺のことどう思っているんだよ」

 

「趣味が暗躍のぼんち揚げ卿でしょ? コソコソ、レイジさんと話している事も知らないとお思いですか?」

 

「さて、何のことだ?」

 

「……二人でラーメンを食べに行くときは、必ずと言っていいほど未来絡みって事は知っています。近い将来、何かあるんっすよね」

 

 

 重要な未来がある時に限って、この二人は自分達に知られないようにコソコソと密会を重ねる傾向がある。自分達を心配させない配慮かどうか定かでないが、蚊帳の外扱いされるのは面白くない。

 

 

「別にないよ。未来は無限に広がっているさ」

 

「また、そんな適当な事を……。なんか、俺にアドバイスとかないんですか?」

 

 

 やれやれ、と迅はため息を一つして。

 

 

「大規模侵攻時、やばいやつが来そうだから、レイジさんに時間稼ぎを頼んだんだよ。その場にいる大勢の隊員を逃がすようにな。……全滅したら困るし」

 

「……どう言う意味っすか」

 

「今度の戦い、どこかでメガネくんと千佳ちゃんがピンチになる。でも、その時にお前はいない。あの二人の未来を変えるポジションに、京介。お前はいないんだ」

 

 

 恐らく、お前は誰かに負けるんだろう。と続けられて、京介は思わず拳を握りしめる。

 

 

「もちろん、お前がいてくれたおかげで助かる人間もたくさんいるだろう。だから、なるべく生き残って欲しいんだ」

 

「…………」

 

「……テンション下がった? 予知なんて聞くもんじゃないだろう?」

 

「……いえ、聞いてよかったです」

 

 

 テンションが下がった? その逆である。太刀川の台詞ではないが、その未来を覆したくなったと、久方振りに闘争心が芽生えたのであった。

 京介は自身のトリガーがある事を確認し、その場から立ち去ろうとする。

 

 

「……どこに行くんだ、京介?」

 

「ちょっと、久方振りに弟子と戦いたくなってしまいました。……迅さんもどうです?」

 

「……は? ちょ、ちょっと京介!?」

 

 

 静止の声を掛けるも京介は止まる事無く、その場から立ち去る。京介が立ち去るのを見送った迅は「あちゃー」と顔を覆い隠す。未来視なんか見なくても容易に想像出来てしまう。これから起こる未来の顛末の全てを。

 

 

 

 ***

 

 

 

 空閑の一つ一つの攻撃は的確に自身の急所を捉えている。天眼がなければ、あっと言う間に胴体と首が真っ二つにされていた事であろう。

 

 

「(やはり、空閑は強い)」

 

 

 幼い頃から戦場へ立ち、数多くの死線を潜り抜けて来たのだ。受け止めるのが精一杯で、反撃をする隙が見つからない。

 

 

「(マジか。攻撃が当たる気がしないな、コレ)」

 

 

 自身が押していると自負はしているが、致命傷を当てる事が出来ない。手数はこちらの方が多いのに、必ずと言っていいほどレイガストで防がれてしまう。

 

 

「(けど――)」

 

「(だからと言って――)」

 

 

 

 ――負ける訳にはいかない。

 

 

 

 二人の思いは重なる。

 これ以上、相棒の空閑の強さに甘える訳にはいかない。相棒に相応しい実力を得て、共に肩を並べて戦えないで何が相棒か。

 空閑も似た様な感情を抱いている。少し前まで自分の方が圧倒的に強いと思っていたのに、副作用(サイドエフェクト)がある事が発覚してからと言うもの、修の飛躍はめざましいの一言。これ以上、相棒に後れを取る訳にはいかない。

 スコーピオンとレイガストの閃光が交差する。意地の張り合いか、一歩も引かずに攻撃を繰り返していく。互いに他のトリガーを使えば虚を突けるはずなのに、スコーピオンとレイガストの斬り合うのみ。

 

 

『(遊真くん)』

 

「(チカ、悪いな。オサムとは俺が決着をつける)」

 

 

 どっち道、人を撃てない故に修との決着は自身で付けないといけないのは分かっているが、ここで雨取の援護を貰う訳にはいかないと考えたのだろう。真正面から修一人勝てないで、並み居る強豪達を倒す事は出来ない。

 何より、空閑は思ってしまったのだ。今の修に真正面から勝ちたいと。

 

 

「勝つのは俺だ、オサムっ!!」

 

 

 手数を更に増やす為に、もう片手からスコーピオンの刃を出現させる。

 

 

「っ!?」

 

 

 二つに増えた刃が容赦なく修の身体に襲い掛かってくる。

 

 

 

 ――残り、5秒。

 

 

 

「(マズイ)」

 

 

 先視眼(プレコグ・アイ)の効果が切れる。アドバンテージがある現状で倒せなければ、勝利は得られない。

 なら、賭けになるが勝負に出るしかない。

 

 

「それは、ぼくの台詞だ、空閑っ!!」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 空閑の一撃に合わせて、トリオンキューブ――判明したトリガー名は通常弾(アステロイド)であった――をスコーピオンの腹にぶつける。

 横の衝撃に弱いスコーピオンの弱点を突かれ、自身のスコーピオンが破壊された空閑は思わず笑みを零す。

 

 

「もういっちょっ!!」

 

 

 空閑のスコーピオンは二振りある。一振り破壊され様が、まだ攻撃する手段はあるのだ。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

 

 けど、唐突に広がるレイガストのシールドによって阻まれ、強制的に修と距離を空けられてしまう。不利と感じ、シールドモードに変化させてスラスターを使って無理矢理、突き放したのであった。

 しかし、それは空閑も予測済み。突飛ばされると同時に、テレポーターを起動して修の背後に回る。

 

 

「これで」

 

 

 ――終わりだ、と思った瞬間。修の掌が突き出される。

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

「っ!?」

 

 

 

 ――エスクード

 

 

 

 通常弾(アステロイド)が空閑の身体を辿りつく前に、地面からバリケードが飛出す。

 間一髪難を逃れた空閑は、直ぐにグラスホッパーを使って距離を空ける。

 

 

「……チカ」

 

『ごめん、遊真くん。けど――』

 

「いや、助かった。サンキューなチカ」

 

 

 致命傷にならなくても、今の一撃を受けたら間違いなく状況が不利になるのは容易に想像できる。雨取の援護に文句を言える立場ではない。むしろ感謝するべきだ。

 

 

「……まさか、千佳がエスクードまで使うなんて」

 

 

 

 ――残り0秒。先視眼(プレコグ・アイ)、強制終了。

 

 

 

 今の一撃が最後のチャンスであった。

 強制的に先視眼(プレコグ・アイ)が解かれたいま、修の天眼は未来を予測する事は出来ない。しかし、そのおかげで以前の様に視力障害が起こる事がない。

 先視眼(プレコグ・アイ)がなくても、まだ修は闘えるのだ。

 

 

「さて、第二ラウンドといこうか、オサム」

 

「あぁ。負けないぞ、空閑」

 

 

 再び、距離を詰めて一撃を放たんとする二人に、電光石火の如く詰め寄って一撃を放った者がいた。

 

 

「おっ!?」

 

「……烏丸先輩?」

 

 

 慌ててその者の一撃を躱した二人は、突然の襲撃の正体を見て目を丸くさせる。

 

 

「悪いな、二人とも。俺も混ぜてもらうぞ」

 

 

 何時にもましてやる気のある師の様子に訳が分からず「待って」と呼びかけるものの、師の京介は聞く耳持たず。

 

 

 

 ――ガイスト起動。白兵戦特化(ブレードシフト)

 

 

 

「っ!? く、空閑っ!! 迎え撃つぞ。烏丸先輩の姿を見失うな。千佳っ! エスクードで進行を防げっ!!」

 

 

 咄嗟に二人へ迎撃の命を下す。千佳は状況に困惑し、空閑は「面白くなったな」と破顔して、修の言うとおりに迎撃の態勢に入る。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……なに、これ?」

 

 

 ようやくプレゼントを選び終え、急いで帰って来た小南が見た光景は、可愛い後輩達と戦っている京介と迅。そして何故だか木崎まで参戦していた。

 

 

「あ、こなみお帰りー」

 

「ちょっ、栞っ!! これってどうなっているのよ。なんで、とりまるや、迅。挙句にはレイジさんまで参戦している訳っ!?」

 

「いやー、それが……」

 

 

 栞が言うには、京介が参戦した直後に迅まで参戦し、様子を見に来た木崎が止めに入ったのだが、二人に説得されたのか渋々と言う形で参戦したらしい。

 

 

「なに、大人気ない事をしているのよ!! とりまるはともかく、レイジさんなんてフルアームズを使っているじゃないっ!!」

 

 

 木崎レイジの玉狛式トリガー、フルアームズは文字通り全てのトリガーを一気に出現させる反則めいたトリガーである。膨大なトリオンがあるからこそ出来る芸当であるが、あのトリガーを後輩たちに使うのは大人気なさ過ぎる。

 

 

「いやー。それが……。未だに勝負がついていないんだよな、これ」

 

 

 あっけなく勝負が決まると思っていた栞からしてみれば、未だに粘っている三人の健闘ぶりに驚きを隠せない。玉狛の精鋭達に後輩三人は未だに脱落する事無く戦い続けているのは驚愕の一言だ。

 

 

「当たり前よ。誰の弟子だと思っているのよ」

 

 

 さも当然と言いたげに、小南は胸を張って言う。

 

 

「あ、こうしちゃいられないわ。決着がつく前に――」

 

「ちょっ、こなみ!? こなみさーん。あんたまで言ったら、それこそ大人気な……」

 

 

 呼び止めたが、小南はさっさとその場から消えて戦場へ赴く。

 その数秒後、拮抗が崩れた三雲隊達は小南の戦斧によって一刀両断される事になる。




ちょっと、空閑と千佳のB級に昇級するタイミングとか、色々と弄りました。

玉狛式トリガーがあるんだから、これもありでしょ? ……なし?
それなら、このトリガーはお蔵入りになりますね。……そもそも、こんなトリガーとか実現できるのか?


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SE修【天眼】迅悠一の苦労

も、モチベーションが……。

だ、誰か。俺に原作の続きを読ませてくれ。


 迅悠一。自称実力派エリートの彼は未来を視る事が出来る副作用(サイドエフェクト)を所有している。それが故に誰も与り知らぬ所で良き未来へ誘う為に動く事が多く、周囲からは趣味が暗躍と言われていたりする。

 未来が視えると言う事は、同時に未来を知る者としての責任を負う事であると本人は考えている。最良の未来を掴みとるために人知れず奔走するのは当然だと考えている迅からしてみれば暗躍と貶された所で何とも思わないが、ある者にとって不利益な未来へ繋がる事になると分かっていても選択しないといけない重圧に悩まない訳がない。

 

 

「(メガネくんは順調に実力を付けてきている。けど、まだ足りない……か)」

 

 

 メガネくん。迅悠一が所属している玉狛支部の後輩であり、ここ最近は台風の目となってボーダーに新風を巻き起こしている頼もしき仲間。修がボーダーに入ってからと言うもの、色んな事が動き出した。空閑を仲間に引き入れ、レプリカから得た情報のおかげで色んな事が進展したと言えよう。

 最弱のボーダーと言われていた修であったが、天眼と呼ばれる副作用(サイドエフェクト)の恩恵のおかげでA級隊員の強者共達も人目を置くほどの存在となっている。

 けど、まだ足りない。これから起こり得る事件、大規模侵攻時に修が生存する確率は驚くほど少ない。

 誰かに護衛を頼む事も考えたが、それでは多くの市民が被害にあう可能性が高くなってしまう。そうなってしまうと少しずつ育んできた信頼性を損なってしまう。それだけは絶対に避けなくてはいけない。

 

 

「(何が足りない。どうすればいい)」

 

 

 修の生死を考えに入れなければ、取るべき選択肢は幾つかある。けど、それは最良とはいいがたい。三雲修の存在は数多くの未来に関わってくる。ここで彼を失うのはボーダーとしても大きな損害になる事だし、何より自分が引き込んだ人物を失うのは心が痛む。

 

 

『――たとえ、どんな困難が待っていようが、これが僕の選んだ道です。僕がそうするべきだと思ったからです!』

 

 

 どの未来でも三雲修は力強く告げ、強敵と相対して破れてしまう。

 

 

 

 鷹の眼が開眼する前は――。

 

 

『ハッ。まさかアイツと同じ眼を持っているとはなっ! が、俺の○○が視切れないとなると鷹の眼を開眼していない様子。悪いがこいつで仕留めさせて貰う』

 

 

 数人の近界民(ネイバー)と善戦するものの、砲撃によりトリオン体が破壊されてしまう。本来ならばトリオン体が破壊されると同時に緊急脱出(ベイルアウト)が発動するのだが、修は千佳を護る為にトリオン体を解除し、彼女を逃がす時間を稼いで絶命している。

 

 

 

 攻撃手(アタッカー)陣と戦う前は――。

 

 

『見事だ。まだ俺の領域まで踏み込んでいないとはいえ、未熟な天眼でよく戦った。だが、俺の○○○○○はお前と相性は最悪だったな』

 

 

 どうにか先の敵を倒す事に成功するもの、新たに現れた自分と似た敵に呆気なく倒されてしまう。そこから先は前と同様だ。

 その彼らも完全機能(パーフェクト・ファンクション)が開眼した事で切り抜ける事が出来るようだが、相手の大将格をあと一歩の所まで追い詰めた直後にトリオン体は崩壊して戦闘続行が不可能になってしまう。そして最後に修が取った行動は自分自身を囮にし、長距離からの風刃による斬撃で倒す自爆戦法であった。

 驚くべきほどの確率で強敵と相対し、他の隊員よりも多く危険にあう。それが三雲修の大規模侵攻の未来だ。

 

 

「(まったく、うちのメガネくんは人気がありすぎて困ったものだ)」

 

 

 けど、この場を乗り越えれば大きな見返りが来るのも確か。その見返りを得るのに三雲修の存在は必然と言えよう。ならば――……。

 

 

「(残り少ない時間、メガネくんにはとことん試練を与えるとしましょうかね)」

 

 

 決意を改め、今日も迅悠一は暗躍を始める。

 

 

「……おっ、迅。いい所で本部にいたな」

 

 

 ――と、思った矢先に厄介な人間に見つかってしまう。

 

 

「や、やぁ太刀川さん。悪いけど、今日は忙しくってランク戦はできないからね」

 

「ぼんち揚げ食いながら言っても説得力はないんだがな。だが今日はランク戦の誘いじゃないんだ、悪いな」

 

「……え? まさか、俺にレポートを手伝えって? まだ終わっていなかったの? また風間さんにどやされるよ」

 

「ちげえよっ! 既にどやされた後だよ。じゃなくってっ!!」

 

 

 どやされた後なんだ、と苦笑いする。

 太刀川慶。我がボーダーが誇る第一位部隊の精鋭なのだが、戦闘以外はからっきしダメ。噂によると忍田が大学の講師に掛け合って、レポート絡みの件が発生したら報告してくれるように話しを通したとか。

 

 

「今から対三雲会議を始めようと思うんだが、お前も付き合え」

 

「……はい?」

 

 

 思いがけない太刀川の一言に迅は目を丸くさせずにいられなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 強制的に連行された先は、太刀川隊の隊室であった。

 

 

「だからっ! 三雲先輩を倒すには体で反応出来ない程の機動力で撹乱するのが有効なんだよ。なんで、それが分からないかなぁ」

 

「それで負けたのは駿じゃない。三雲先輩に有効打を与えるには速攻からの一撃よ。駿の乱反射(ピンボール)じゃ、三雲先輩の通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)のいい的よ」

 

「そう言う双葉も三雲先輩のレイガストで真っ二つにされたじゃん。三雲先輩が天眼酔いしていたにも関わらず。ぷぷ」

 

「いい度胸ね、駿。何なら、いまここでどっちが正しいか証明する?」

 

「望むところっ!!」

 

 

 緑川と黒江の怒号が飛び交う。入るなり二人の諍いを目の当たりにした迅は胸中で溜息をせざるを得なかった。

 

 

「二宮さんも分からない人ですね。メガネくんを倒すには圧倒的な物量による総攻撃に限るんですよ。何度も倒した俺が言うんですから」

 

「バカを言え。あんな攻撃が何度も通用する訳ないだろうが。アイツが鷹の眼とグラスホッパーを併用すれば、お前のフルアタックも回避しきるのが容易に想像できる。そもそも、アイツがグラスホッパーを選んだ理由が出水、お前のフルアタック対策である事を何故気づかない」

 

 

 別の所では射手二人組が修の過去の対戦ログを見ながら討論に花を咲かせていた。咲かせていたと言うよりか、互いの主張をぶつけ合い火花を散らしていると言った方が正しいかもしれないが。

 

 

「やっぱ、下手に策を弄するよりも真正面から切り結ぶ方が得策と思うんですよ、風間さん」

 

「米屋の考えに一理あるな。間合いの広さは向こうにある。炸裂弾(メテオラ)で姿を眩ませてから攻撃されたら不利になる一方だ。ここは接近戦に持ち込んで、相手の動きを封じるのが得策だろうな」

 

「(か、風間さんまで……)」

 

 

 まさかの風間の参加に迅は天井を仰がずにはいられなかった。

 

 

「やってるな。おーい、みんなっ! 聞いて喜べ。自称実力派エリートを連れて来たぞ」

 

 

 太刀川の一言で、討論を続けていた一同の視線が集まる。

 

 

「……や。ど、どうも。随分と集まったね。……で、なにこれ?」

 

「あん? だから言っただろう。対三雲作戦会議ってな」

 

 

 何を言っているんだ、お前は。と冷めた目を向けられた事に若干だがイラっとするが、迅は平然を装って話しを続ける事にする。

 

 

「い、いやさ。それは分かってはいるんだが……。なんで、こんなたくさん? 何気に風間さんまでいるし」

 

「俺がいて悪いか?」

 

「い、いや。そうは言ってはいませんが……。なんかちょっと意外で」

 

「俺も奴にいっぱい喰わされた身だ。それに今後の事を考えると、こうした意見交換を得る場は欲しいと思っていた」

 

 

 まだ一度しか、しかも修が天眼を使い熟す前しか戦っていない風間であるが、あの成長振りには目を見張るものがあると感じている。なにせ、不利な場面で修は太刀川と加古、そして米屋の三人に勝っているのだ。今後のランク戦などを考慮するとこう言った機会は渡りに船と言えよう。

 

 

「そうです。三雲先輩の天眼は脅威と言えます。何か対策をしないと良い様にやられちゃいます」

 

「双葉の韋駄天や二宮さんの両追尾弾(フルアタック・ハウンド)すらも見切る能力なんっすよ。再戦する時、何も対策なしで戦ったって二の舞になるのが必然でしょう」

 

 

 双葉と緑川の二人は揃って修に負けている。中々再戦の機会を得られないが、次に戦う為に対抗手段の一つや二つ模索したい所であろう。

 

 

「二宮さんのせいで迅さんの下位互換未来視なんてものも会得しちまったみたいですしね」

 

「……ふん。あれは太刀川達が余計な事をしなければ、てかむしろ、出水が早々に脱落しなければよかった話しだ」

 

 

 更に射手二人組からも援護が飛んで来る。師と言う立場にいる二人であるが、うかうかしてしまうと弟子の修に直ぐ追い越されてしまう。簡単にやられる訳にはいかないと考え、こうして厄介な敵の分析を得られる場に参加したのだろう。

 

 

「ちなみに、後で東さんも参加してくれる事になった。どうだ? 面白くなって来ただろ」

 

「あ、東さんまで!? ちょっと、みんなメガネくんの事を意識しすぎじゃないのっ!?」

 

「バカを言え。あんな面白いやつ、意識するなって方が難しいだろ。だろ?」

 

 

 太刀川の言葉に全員が同意を示す。

 

 

「そこで、迅。どうせお前の事だ。俺達の知らない所で、三雲に色々とさせているんだろ? 聞かせろよ」

 

 

 ……あかん。この先、どんな選択肢を取った所で逃げられる未来はないと自身の副作用(サイドエフェクト)が告げている。さて、どうしたもんかとしばし考え「ふぅ」と息を一つ吐く。どうせ逃げられないならば面白い方向性へ誘う方がいい。

 迅は肩を竦めて「わかったよ」と降参の意を示し、自身が知る限りの情報を告げるのであった。

 

 

「……ほぉ。先視眼(プレコグ・アイ)とな。そいつは面白いトリガーを作ったじゃないか。どうして、俺にそれを教えない」

 

「いや、太刀川さん。あれって玉狛トリガーだから、本部仕様の正式トリガーじゃないし、ランク選では使えないでしょ」

 

「ばっか。んなの、隊室のトレーニングルームなどを使えばいい話しだろ。俺の隊室ならいつでもウエルカムだ」

 

 

 この時、太刀川が嬉々となって修と戦い続ける未来が視えてしまう。その後、出水やなぜか風間の姿もあったので、修の為にもしばらくの間は太刀川達に会わない様に助言しようと決意する迅であった。

 

 

「ずるいなー。俺も玉狛支部にお邪魔しようかなぁ。そうしたら空閑先輩や三雲先輩と戦えるんでしょ? 迅さん、やっぱり俺。そっちの子になってもいい?」

 

「いやいや。緑川は草壁隊でしょ。そっちはどうするんだよ?」

 

「大丈夫! 今流行りの二刀流スタイルで行くから!」

 

「意味が分からないわよ、駿。けど迅さん。私ももう一度、三雲先輩と再戦したいです。あんな戦いでは納得がいきません」

 

「そう言われてもなぁ。いまメガネくんは完全機能(パーフェクト・ファンクション)を使い熟す事で精一杯みたいだし」

 

 

 ここで緑川や双葉を玉狛支部に誘ったら、俺も俺もと多くの人間が玉狛支部に雪崩れ込んでしまう。多くの人と戦い経験値を稼ぐ事は必要な事であるが、今はその時ではない。

 時間は有限。遠くない未来、大規模侵攻が起こる。今の修に必要な試練は吟味する必要性があると言えよう。ここで無闇矢鱈に誰かをぶつけても良いものか、と考えていると。

 

 

「その割には那須隊と一戦交えたそうじゃないか、迅」

 

「それは俺の与り知らぬ場所で起こった事だから。てか、二宮さん。そのログ、どうやって手に入れたの? 俺も初めて見るんだけど」

 

 

 那須隊VS修のログを見せられるが、修が勝手にやった事なので自分が責められるのはお門違いもいいところだと言い返したい。だが、それよりも早く風間が会話に割って入る。

 

 

「ほぉ。俺の所に来ないと思ったら、随分と面白い事をしているんだな」

 

「(まだ行っていなかったの、メガネくんっ!?)」

 

 

 まさか、まだ風間の所へ行っていなかった事実を聞かされて頭を抱えてしまう。そう言えば自身も修に風間が待っている事を告げてはいなかったと思い出す。だからと言って、後輩の京介が未だにその事を修に告げていないと誰が想像できようか。

 

 

「やっぱ、一度みんなで玉狛支部に行くべきじゃなくね?」

 

 

 太刀川の言葉に大きく頷く一同。このまま話しが続けば冗談抜きでこの場にいる全員が修を訪ねて玉狛支部に突撃してくる事であろう。それだけはなんとしても避けたい未来だ。

 どうにか話題を変えないと思考を巡らし、気付く。そう言えば対三雲会議にいても良いであろう人物がこの場にいない。

 

 

「……そう言えば、木虎の姿が見えないが? 対メガネくん会議なら、いても良いと思うんだが」

 

 

 他にも狙撃組やら東隊の二人の姿も見えないが、一番いても不思議ではない人物の姿が見えない事に首を傾げる。

 

 

「あー。木虎ね。アイツなら、今頃……」

 

 

 

 ***

 

 

 

 嵐山隊、隊室。

 

 

「あ、藍ちゃん。そのログ、今日だけでもう18回目だよ」

 

「合計74回目だね。そんなに三雲君の事が気になるなら、会って来ればいいのに」

 

「ハハ。まあ、あの三雲君だ。木虎も気になって仕方がないんだろう」

 

 

 綾辻、時枝、嵐山の三人の言葉など聞こえていないのか、それともあえて聞こえない振りをしているかは定かではないが、木虎藍は修が完全機能(パーフェクト・ファンクション)に目覚めた戦いを視るのに夢中であった。

 

 

「(なによこれ。私の事をそっちのけで、こんな事をしていたわけ、三雲君は。それにこの動き。以前よりも動きだしや判断能力が向上している。いくら二宮さんの援護があったからと言って、こんな事が本当に出来るの?)」

 

 

 修が2秒先の未来をシミュレートできる完全機能(パーフェクト・ファンクション)に目覚めた事を知らない木虎は、修の成長振りに驚きを隠せなかった。

 

 

「(まず、三雲君の目眩まし戦法をどうにか攻略する必要があるわね。炸裂弾(メテオラ)を撃った瞬間、撃ち落とせればいいけど今の私の技術では……)」

 

 

 今後、起こるであろう修との再戦に木虎は脳内でシミュレートを繰り返す。だが、何度戦った所で良くて相打ち。最悪の場合、手出しできずに負けてしまう結果となってしまった。どうにか打開策を考えてみるものの、中々いい手が思いつかない。

 

 

「(……やっぱ、藍ちゃんって)」

 

「(綾辻先輩、それ以上は禁句です。言ったら、木虎の雷が落ちますよ)」

 

「(……ん? 何の話しだ充)」

 

「(何でもありません、嵐山さん。あの状態になった木虎に何を言っても無駄ですから、賢が来るまでお茶でも飲んでましょう)」

 

 

 時枝充。嵐山隊の名サポーターである彼は今日も平穏の未来の為に場の空気を調整する。

 嵐山隊の平穏はとっきーの手にかかっていると言えよう。

 

 

 

 一方、その頃の三雲修は……。

 

「な、何なのよそれ!? チートよ、チート。どこぞの黒の剣士か、アンタっ!!」

 

 

 香取が撃ち放った通常弾(アステロイド)追尾弾(ハウンド)を殴り、斬りおとしていた。




そう言えば対三雲会議なるものを書いていなかったな、と思って書いてみました。

まだ、会議らしい会議は何もしておりませんが(苦笑


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SE修【天眼】しゅらばナウ① Low Gear

 幾多の戦いで自身の実力が驚くべきほど飛躍している事は修も自覚していた。

 それもこれも、自身に備わっていた副作用(サイドエフェクト)の恩恵のおかげである。

 

 

「メガネくんも随分と力を付けて来たね」

 

 

 己に向かって来る変化弾(バイパー)をスコーピオンで叩き付けつつ、修の成長に嬉しげに笑みを零す。

 

 

「ありがとうございます。……けど、炸裂弾(メテオラ)を外した事で決定力が欠けた気がしてならないんですよ」

 

 

 先の戦い、香取戦の時に修はスパイダーを入れる代わりに炸裂弾(メテオラ)を外している。そのおかげでトリオン消費も抑えられ、修が得意とする騙し討ちの戦法にも幅が広がったと言えよう。

 しかし、修が言う様に攻撃力不足に陥ってしまった。攻撃の切札である変化炸裂弾(トマホーク)も使えなくなってしまったのも地味に痛い。自身にもっとトリオンがあれば悩む問題ではなかったであろう。

 

 

「それは仕方がないよ。メガネくんの副作用(サイドエフェクト)を考えると適したトリガー構成だと思うよ」

 

「そうですけど……」

 

 

 分かってはいるが、納得が行かない自分がいた。そんな修の内心を察した迅はスコーピオンを納め、動きを止める。

 

 

「……なら、いまあるトリガー構成で色々と試してみるかい?」

 

「と、言いますと?」

 

「トリガー構成によって誰もが想像も付かなかった技が出来る可能性もある。たとえば、スコーピオンを重ね合せたマンティスや合成弾が良い例かな」

 

 

 元々、この二つはとある使い手が戦いを有利にする為に思い付きで発案された技であり、もともと備わっていた機能ではない。ならば、他にもそんな合わせ技が存在する可能性もあるかもしれないと迅は提案したのであった。

 

 

「……と、言われましても僕のトリガー構成では限界があると思います」

 

 

 今の修のトリガー構成はメインがレイガストとスラスターに通常弾(アステロイド)にスパイダー。サブが変化弾(バイパー)にグラスホッパー。他の隊員が知れば眼を丸くさせるトリガー構成であった。通例ならばランク戦に備えてバッグワームを入れるのは必須だ。それに加えて防御の要であるシールドも入れるべきであろう。

 だが、今後の事を考えるとバッグワームやシールドは実戦向きではない。相手が同じボーダー隊員であればバッグワームは有効であるが、本来の実戦で使用する機会は限りなく少ないであろう。なら、たとえ不利だと分かっていてもバッグワームは入れるべきではないと考えた結果である。

 シールドも似た考えである。シールドの防御力はシールドの面積を狭めるに比例して防御力が上がるとはいえ、一番左右されるファクターは自身のトリオンである。他の隊員と比べて圧倒的にトリオンが少ない修が使用したとしても、防げる攻撃は限られてしまう。それを考慮すると天眼を利用して回避行動を取った方がトリオン消費も抑えられると考えている。

 

 

「(僕のトリガー構成でマンティスや合成弾みたいな離れ業が出来るとは……)」

 

「本当にそう思う? それがメガネくんの答えかい?」

 

 

 まるでこの後の展開が分かっているかのように問うてくる迅に修は疑問を感じた。まるで、この結果次第で何かが出来ると言いたげに。

 

 

「(未来視で何かを見た? だから、そんな事を言うんだろうか)」

 

 

 迅には色々と恩がある。空閑をボーダーに入れる為に大切な(ブラック)トリガーを手放してまで尽力してくれた。そんな人にそんな風に言われたら、期待に応えたくなってしまう。

 

 

「(仮に出来るとしたら……。考えられるのは一つしかないけど)」

 

 

 自身のトリガー構成で思いつく離れ業は一つしかない。しかし、それを使った実例もなければ試した人間もいないであろう。もし、それが実現できるならば変化炸裂弾(トマホーク)と同等の切札になり得る可能性もあるだろう。

 

 

「……その顔は思い当たる節があるって感じかな?」

 

「はい。あの、出来れば試してみたいので、お力を貸してくれませんか」

 

「OKさ。どんと実力派エリートの胸を貸してあげるよ」

 

「ありがとうございます。……では」

 

 

 模擬戦が再開される。大きく息を吐き、自身の思い描いた攻撃手段を実行に移した修は実力派エリート迅悠一から勝利をもぎ取る事に成功したのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……メガネくん。ちょっとあの技は反則じゃない?」

 

 

 自分で新技云々と言った身として強く言えない立場であったが、喰らった身としては色々と言わずにいられなかった。

 

 

「そうでしょうか? けど、火力不足と言う欠点は補えないのが難点ですね。あの技でどれだけ虚を突けるか今後の課題になると思います」

 

「いやいやいや! あれって何気に強力だからね。地味だけど効果は抜群よ! 下手をしたら流行る可能性もあるからね」

 

「そう言ってくれると、考えた甲斐があります。その、迅さん。ありがとうございます」

 

「あはは。こんな事で感謝する必要ないよ。可愛い後輩の為だもんね」

 

「それも感謝していますが、迅さんはこんな僕の為に色々と画策してくれたんですよね? 今の自分がいるのも迅さんが裏から手を回してくれたおかげです」

 

 

 全く予想もつかなかった言葉が返ってきた事に、迅はなるべく表情にだす事無く「どうしてそう思ったんだい?」と問い返した。

 

 

「太刀川さんから聞きました。「迅がお前の為に色々と手を尽くしている。だから早く強くなって、俺を楽しませろ」って」

 

「太刀川さぁん。何言ってるの、あのヒゲは」

 

 

 いったい何時の話しか定かではないが、情報が漏れる発生源は言われて容易に想像出来てしまった。

 

 

「……僕は近い内に何か起こるんですか?」

 

 

 迅には未来視と言う副作用(サイドエフェクト)がある。未来を覗き見た結果、動かざるを得ない状況が起きたせいで尽力してくれたと考えるのが自然の流れであると想像できる。その仮説は迅の表情を見たら明らかであった。いつも飄々とした風貌から戦士の顔付になっている迅は修の肩に手を置いて、告げる。

 

 

「メガネくん。未来は一つじゃないんだ。一つ一つの行動や決断によって未来は変わり続ける。さっきの様にメガネくんの選択によって変わる未来はたくさんあるんだ。だから――」

 

「――ありがとうございます」

 

「メガネくん」

 

「迅さんがどんな未来を視ているのか僕にはわかりませんが、僕の頑張り次第で最悪の未来を塗り替えられるかも知れないと言う事は、今ので分かりました。だから、もっと頑張ります。迅さんが心配にならないぐらい、もっと強くなります」

 

「メガネく――」

 

 

 開いた口を無理矢理閉ざす。思わず自身が見た最悪の未来を修に告げてしまう所であった。

 

 

「――あぁ。また時間が出来たら、一緒に模擬戦しような。メガネくんとの模擬戦って何が飛出すか分かんないから、楽しいんだよ」

 

「はいっ!」

 

 

 

 ***

 

 

 

 トレーニングルームから出た修は自身に用意された携帯電話にメールが届いた事を知らせる光が点滅していた。

 着信歴57件。開いたと同時に表示されたメールの着信数に思わずギョッとなる。

 

 

「どったのメガネくん。……うわぁ」

 

 

 携帯電話を見て固まる修の背中越しから画面を覗き見た迅は驚くほど届いていたメールの数に声を漏らさずにいられなかった。

 

 

「あの……。ぼく、どうすればいいでしょうか?」

 

「と、とりあえず返信した方が良いんじゃない。無視すると香取ちゃんに追われる未来しか視えないから」

 

「ど、どう返せばいいんですか? なんか、文面から物凄く怒っているように見えるんですが」

 

「こ、こんな時は……。京介!? 京介はいないの? なんでこんな時にいないんだよ。こういう時、京介の口八丁が必要だと言うのに」

 

 

 周囲を見渡し目当ての後輩を探すが、肝心の京介の姿は見当たらなかった。ならば、と小南や宇佐美、レイジの姿を探してはみたけど、頼れる援軍の姿はなし。

 

 

「と、兎に角、謝っておきなさい。てか、メガネくん。香取ちゃんとなんか約束していたの?」

 

「していませんよ。「なんで本部にいないのよ」って言われても、困るんですけど。僕は玉狛支部所属である事は香取先輩も知っているはずなんですが」

 

「こんな時は、同じメガネ仲間に援軍要請だ」

 

「その若村先輩からメールで「すまん。うちのお転婆の相手をしてくれ」とメールが来ています」

 

「……ごめん。これ以上思いつかない」

 

 

 いくら実力派エリートと名乗っても、こんな出来事は経験した記憶がない迅にとって考え得る手段は思いつかない。同年代の嵐山に聞けばいい考えが思いつく――と思って、直ぐにその案を却下する。

 

 

「(そもそも、アイツはこんな状況になる事がないだろうしなぁ)」

 

 

 わたわたと慌てふためく可愛い後輩にアドバイスを送りたい所であるが、直ぐにその考えを改める必要が出てしまった。

 

 

「(うわぁ……)」

 

 

 不意に未来視が発動。そして見てしまった。これから待っている後輩の修羅場の光景を。

 

 

「め、メガネくん。とりあえず、今日は用事があるからいけませんと言っておきなさい」

 

「用事、ですか? いえ、この後は何もないはず――」

 

「――今日は俺も一日暇だから、さっきの新技を徹底的に磨こう。うん、それがいい」

 

「ちょっ!? じ、迅さん? 一体どうしたんですか!?」

 

「いいから、いいから」

 

 

 迅は修から携帯電話を奪い取り、机に置くと修の手を引張ってそのままトレーニングルームへと連れていくのであった。

 その後、着信履歴が三桁を越したのを確認して、修の顔が真っ青になったのは言うまでもなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 数日後。

 三雲隊一同は授業が終えた後、玉狛支部ではなく本部へ足を運んだのだった。

 今日は同じ部隊の仲間、雨取千佳の狙撃手(スナイパー)の合同訓練日。修と空閑は彼女の付添と言う形で同行したに過ぎない。

 

 

「それじゃあ、修くん。行って来るね」

 

「あぁ、頑張れよ千佳」

 

「行ってらっしゃい、チカ」

 

 

 千佳が訓練場に行くのを見送った後、二人は自然とランク戦ブースへと向かい始める。

 

 

「オサム。今日は誰かと会う予定はあるのか?」

 

「いや? そう言う約束はしていないが、何でだ?」

 

「だって、本部に行くと必ずと言っていいほどオサムは色々とやらかしていただろ? だから、今日も何か面白い事があるのかなーって」

 

 

 他人事だから気軽に言ってくれるなと呟きつつ、事実だから言い返す事が出来なかった。

 空閑が言うのも無理はなかった。本部に行けば必ずと言っていいほど強制イベントが発生したのは修自身が一番よく知っている。

 

 

「今日は俺もいるから、混ぜてもらおうと思うけどいいか?」

 

「いいか? って聞かれてもなぁ。そもそもそう簡単に何かあっても困る――」

 

 

 

 ――アンタ、なに人のメールを無視しているのよ!

 

 

 

「「……」」

 

 

 背後から聞き覚えのある人物の怒鳴り声が聞こえ、修の動きが止まる。空閑も同様に足取りを止め、ニヤリとしてやったりと言いたげに口角を上げる。

 

 

「こう言うのフラグって言うのか、オサム」

 

「僕に聞くな。てか、そう言う言葉、どこから仕入れて来るんだよ」

 

「――ちょっと、無視しているんじゃないわよ、修っ!!」

 

 

 がしり、と右肩を掴まれ強制的に体の向きを反転させられる。

 

 

「あんたね。先輩のメールを無視するとか何を考えているのよ。そもそも、この前はなんで本部にいなかったのよ」

 

「か、香取先輩、こんにちは。えっと……。僕はもともと玉狛支部の人間ですから、毎日本部にいる訳ではないんですが」

 

「はぁ!? それならそうだとメールの一通も寄越しなさいよね。何の為に連絡先を教えたと思うのよ!」

 

 

 そもそも強制的に連絡先を交換させられた身としては、何の為にと言われても困る話なのだが、正直に答えると明らかにあたしは怒っています、と言いたげにご機嫌斜めの彼女の怒気を膨れ上がらせるばかりなので「すみませんでした」と謝罪をする修であった。

 

 

「オサム。この人が例の?」

 

「あ、あぁ。空閑は初めてだったね。この人が香取先輩だ。香取先輩、彼は同じ部隊に所属する予定の空閑遊真です」

 

「どうも空閑遊真です、カトリせんぱい」

 

「あっそ。……で、アンタって今日は暇な訳?」

 

 

 空閑を一瞥し、本題に入る。

 香取としては珍しく研鑽を重ねたつもりだ。親友と協力して創意工夫を重ね、得る物を得たと自負している。その努力がどれだけ実を結んだのか、いざ試してみようと息巻いたにも関わらず肝心の相手は本部に来ていない。それを知った時の香取の行動をしっかりと動画で録画していた染井華はオペレーターだけのお茶会で公開したとかしなかったとか。

 

 

「えっと、特にこれと言った用事はありませんが……」

 

「なら、あたしと勝負しなさい。この前みたいになるとは思わないでよね」

 

「えっと……」

 

 

 どうしよう、と隣で見守っていた相棒に視線を送るが当の本人は楽しそうに眼を細めて口を3の字にするのみ。さっきは混ざりたい云々と言っていたじゃないか、と胸中で抗議するのだが、そんな修の心中など知らないと言いたげに香取は修の手を取ってランク戦ブースへ連れて行こうとする。

 

 

「ほら、早くしなさい! 今度こそあんたに勝って見せるんだから」

 

「わ、分かりましたから。手を、手を離してくださいっ!」

 

 

 有無も言わさずに連れ去られた修の背を見守っていた空閑は――

 

 

「……フラグ回収と。俺のサイドエフェクトがそう言っているな」

 

『ユウマ。些か緑川の借りた漫画に影響を受け過ぎだ』

 

 

 ――レプリカのツッコミを無視し、これから起こるであろう出来事を見る為に修達の後を追い掛ける。

 

 

 

 ***

 

 

 

「――三雲先輩。私と再戦してください」

 

 

 ランク戦ブースに到着するなり、二人の元へ歩み寄ってきた少女――黒江双葉に再戦を申し込まれる。

 思いがけない人物からの模擬戦のお誘いに当然の如く、修は勿論のこと香取も眼を丸くさせる。

 

 

「えっと――」

 

「――生憎だけど、こいつとの模擬戦は私が先に申し込んだのよ。後にしてくれない」

 

 

 修が言うよりも早く香取が断りを入れる。

 

 

「……どなたでしたっけ?」

 

「んなっ!?」

 

 

 黒江の「お前は誰だ?」と言う発言に香取は驚きの声を上げ、直ぐに顔を赤くさせる。

 自分はB級で黒江はA級。交流する機会もほとんどなかった故に知らなくても無理はないと思う所であるが、加古隊に所属している彼女から「誰だ」発言を受けた香取の琴線に容易く触れてしまったのである。

 

 

「……三雲先輩。この人と戦うよりも私と戦った方が三雲先輩の為だと思いますが」

 

「あんた、喧嘩を売っているの!? そう言うあんたこそ、本調子じゃなかったこいつに手も足も出ずに負けているじゃないの」

 

 

 あれから三雲の模擬戦を見て研究を重ねたのであろう。勿論、その中に黒江と修が戦った模擬戦のデータもばっちり残っている。

 黒江が気にしている事を指摘され、流石の黒江も無視する事が出来ずにいたのであろう。敵意を込めた眼差しを香取に送る。

 

 

「そう言うあなたこそ、この前、三雲先輩に滅多打ちされていませんでしたか?」

 

「は? なんでそれを――」

 

「――私達、対三雲研究会に集められない情報はありません」

 

 

 正確には巻き込まれたメガネこと、若松によって情報を提供されただけなのだが、そこはあえて言わない。

 

 

「(み、三雲研究会って)」

 

 

 なにそれ怖いって戦慄する修。

 当然の如く、修はそんな研究会がある事など今の今まで知る由もなかった。いったい、どんな内容が飛び交っているのだろうと興味はあるが、それを彼女に聞く事は出来なかった。知らぬが仏と言う諺がある通り、知らない方が良い時もある。

 黒江と香取の間に火花が散る。むしろ炸裂弾(メテオラ)が爆裂したと言って方がこの場は正しいかも知れない。互いに気づかれない様に体勢を整え、いつでも火蓋が切られても良い様に身構える。

 

 

「(僕、戦うなんて言っていないんだけどなぁ)」

 

 

 自身の意見を無視して、勝手に話しが進められている事に困惑し、どのように対処して良いか頭を悩ませている修だが、戦いの様に対抗策の天啓は降りてこない。助けを呼ぼうにも周囲の人物は野次馬を決め込んでおり、関わろうと行動を起こす者はいなかった。

 唯一の味方である空閑も、少し離れた所で両手を後ろ首に回して吹けない口笛を吹く真似をして見守っているのみ。

 

 

「(ホウホウ。これが緑川の言っていた、修羅場と言う奴か。なるほどなるほど)」

 

 

 また一つ勉強になった、と感銘を受けていた空閑は修に近づく第三の刺客に気付き、そっと玉狛支部で用意してもらった携帯電話で支部の全員にメールを送ったのであった。

 

 

『オサム、しゅらばナウ』



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SE修【天眼】しゅらばナウ② Gear Second

 おさむ、しゅらばナウ。

 空閑からメールを受け取った烏丸京介はこの一文を見るなり「とうとう来てしまったか」と苦笑いせざるを得なかった。

 

 

「今頃、修は大変でしょうね」

 

 

 と、言う割に落ち着いた様子でレイジから配られた緑茶をズズーと飲む。後輩の危機が迫っているにも関わらず、呑気でいられるのは些か納得が行かない話しであるが彼は知っている。自分の弟子は女難の嫌いがあると言う事に。そのうち起こるであろうと予測した故に空閑の修羅場報告は驚くべきことではなかった。むしろ、ここまで平穏無事に過ごせた方だと思っている。

 

 

「修くん、大人気だもんね。修羅場の相手って誰かしらね? 私の予想だと香取ちゃんと木虎ちゃんの線が強いと思うんだよね。あ、けど那須ちゃんも加わっている可能性も高いかな」

 

 

 いい所のどら焼きを飲み込み、ケラケラと楽しげに笑いながら修の現状を予測する宇佐美。私も見たかったな、と今起こっている修の状況を想像しながら話しの花を咲かせる。

 

 

「って、あなた達。少し落ち着きすぎじゃないの!? 修がピンチかもしれないのよ!」

 

 

 そんな中、小南だけが弟子の報告を受け取ってハラハラと慌てふためいていた。修羅場の三文字を見て、いったいどんな困難に立ち向かっているのだろうと彼女なりに予測を立てみる。

 

 

「……落ち着いてください、小南先輩。恐らく遊真から来た修羅場ってあれですから、あれ」

 

「なによ、あれって?」

 

「知らないんですか? 今の修はモテ期到来中なんですよ」

 

「え、そうなの!?」

 

「気づいていなかったんですね。スパイダーをトリガーにセットするとモテ期が来るって専らの噂なんですよ」

 

「なによそれ? 流石に私でもそんな与太話なんて信じる訳ないじゃない」

 

「……ほんと、そうだったらよかったんですけどね」

 

 

 京介の「そうだったらよかったのに」と言いたげな表情を見やり、チョロインもとい小南の中で「え? ほ、本当の事なの?」と猜疑心が芽生え始める。京介の真意を問う為に宇佐美の方へ視線をやると、彼女は苦笑いをしながら頷くのみ。

 宇佐美まで頷いた事で単純もとい純真無垢な小南の中で「そ、そうだったんだ」と信じられないと思っていた法螺話を信じつつあった。

 

 

「京介、そこまでにしておけ。今の話しを信じて、小南がスパイダーをセットしたらどうするんだ?」

 

 

 自分もスパイダーをセットしようかな、と考え始めた小南に待ったをかけたのは京介の師匠であるレイジであった。自身の湯飲みを用意していた彼は自分が淹れた緑茶を注ぎながら京介を諌める。

 

 

「……え。違ったの?」

 

「当たり前だろう。その理屈が正しければ、俺にもモテ期が来ていた事になるだろう」

 

「…………ぁ」

 

 

 ここ最近、レイジと組んで戦う機会がなかったので忘れていたけどレイジもスパイダーをセットしている。しかし、小南の記憶が正しければ戦友の彼にそんな話しは一つもなかったはずだ。

 

 

「とーりーまるっ!!」

 

 

 自分が後輩の彼に騙されたと知るや、顔を真っ赤にさせて嘘を教え込まされそうになった烏丸へ正義の鉄拳を放たんとするが、メールの着信音に妨げられる。

 

 

「遊真からだ」

 

 

 メールの差出人を確認し、中身を見た烏丸はそっと携帯電話を懐に戻した。再び、残っていた緑茶をズズーと飲み干し、今頃滝の様に冷や汗を流している弟子にエールを送る。

 

 

「無事に帰って来いよ、修」

 

 

 

 ――かそくナウ。

 

 

 

 修の修羅場は絶賛加速中とのことらしい。

 

 

 

 ***

 

 

 

 広報任務を終えた嵐山は久方振りに時間が出来たので、ランク戦ブースで思いっきり体を動かそうとランク戦室に向かっている最中であった。

 

 

「(……ん? なんか、騒がしいな)」

 

 

 気のせいか、ランク戦ブースに近づくほどに騒がしくなっている気がする。何かあったのだろうか、と首を傾げて歩みを速めて――止める。

 

 

「……木虎?」

 

 

 自身の部下である木虎藍が身を隠すようにしながらランク戦ブースを覗き見していたのであった。

 呼ばれ、ビクつく木虎。咄嗟に振り返り、呼んだ相手が自身の隊長と知るなり、慌てつつも一礼する。

 

 

「お、お疲れ様です。嵐山さん」

 

「どうしたんだ、木虎? そんな隠れる様にして……。ここに何かあるのか?」

 

「い、いえ! 別に嵐山さんが気になるような事は――」

 

 

 覗こうとする嵐山を止めようとするが既に遅かった。

 嵐山は視た。滝の様に冷や汗を流す修が黒江双葉と香取葉子、そして風間蒼也に挟まれていた。

 

 

「……え? なにあれ?」

 

 

 隣にいる木虎に事の顛末を聞くが、木虎も目の前の状況に陥った理由は知る由もなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「さて、三雲。俺の所に来なかった理由を聞かせてもらおうか」

 

 

 第三の刺客、慧眼無双の小型攻撃手(アタッカー)の風間蒼也に会うなり身に覚えもない詰問を受けた修は「はい?」と素っ頓狂な声を上げる事しか出来なかった。

 

 

「あ、あの……。風間さん。何のことでしょうか?」

 

「京介から聞いていないのか?」

 

「烏丸先輩から? あの、特には……」

 

 

 必死に過去の記憶を遡って思い出しては視るが、京介から風間関連の話しを聞いた事はなかった。

 恐る恐ると返答する修の態度を見て、始めて風間は察す。あのもっさりイケメンこと烏丸京介は自分の話しを目の前のメガネこと修に何一つ話しを通していなかった事に。

 

 

「……そうか。ならこの場で言わせてもらうぞ。お前の天眼を生かすには近接戦闘の技術向上は今後の生存率に関わる。少しは実践を重ねて動きがよくなったが、まだまだだ。そこで、俺が近接戦闘を指導する事になった」

 

 

 ポク・ポク・ポク・チーン。

 

 

「……え!?」

 

 

 三秒ほど有して風間の言葉を理解した修は盛大に驚く。

 なんで? なぜ? ホワイ? どうしてこうなった!? と回答の得られない疑問を頭の中でグルグルと渦巻かせながら、何かを言わなくてはと言葉を選んでいる修の肩を風間は躊躇なく掴み――。

 

 

「と、言う訳だ。悪いがこいつは連れて行くぞ」

 

 

 ――連行しようとするのだった。

 だが、二人の成り行きを黙って聞いていた二人がそれを許す訳がない。双葉と香取は

修の腕――同じ右腕――を掴み、風間に物申す。

 

 

「ちょっと風間さん。今日はこいつと模擬戦をする約束をしているんです。勝手にこいつを連れて行くの、やめてもらえませんか!」

 

「同感です。三雲先輩はこれから私とリベンジマッチをする予定です。また、後日にしてくれませんか?」

 

 

 風間VS双葉&香取。気のせいか危険度が急激に増加されてしまった。この状況を打破する為に修は今までの経験則から策を練り始めるのだが、一向に解決策が見受けられない。

 

 

「ちょっと修! あんたからも言ってやんなさいよ。私と再戦する約束が一番早かったって」

 

 

 そもそも再戦する約束などしていない。修は抗議の声を上げたかったが香取の睨みに屈して言うに言えなかった。

 

 

「それなら私の方が何日も前から予約済みです」

 

 

 予約も何も、双葉と真面に会話したのは以前のランク戦以外だと今回が初めてのはず。当然の如く、そんな話しは一回もしていない。

 

 

「生憎だが、既に師である烏丸にアポ済みだ。悪いが譲ってもらおう」

 

 

 その師匠から何も聞かされていない自分としては、風間の言い分も丁重にお断りしたい所であった。けど、三人から発する言葉に言い表せない圧力に修は傍観を決める事しか出来なかった。頼りのチームメイトである空閑もようやく使える様になった携帯電話を片手を操作して誰かにメールを送っている様子。一体誰に、何を、と力強くツッコミを入れたい所であるが、そんな余裕は微塵もなかった。

 不意に腕を掴まれ、引き寄せられる。

 

 

「とにかく、今日は私の約束が最優先なのよ。二人はまた今度にしてくんない!」

 

 

 優先権は自分にあると主張する香取の逆の手を取って、黒江も応戦する。

 

 

「あなたは何戦も三雲先輩と戦って全敗しましたよね。私はまだ一回しか戦っていません。ここは譲るべきです」

 

 

 再び香取と黒江の間に炸裂弾(メテオラ)が爆散する。

 

 

「お前達。C級隊員が目指しているA級B級隊員が、こんな人の往来がある場所でいがみ合うな」

 

「と、言いながらなんでトリオン体になっているんですか、風間さん!」

 

「……大人気ないです」

 

 

 ザ・カオス。遠巻きで見守っていた空閑が脳裏に浮かんだ最初の文字はそれであった。

 緑川から借りた漫画にも似た様な展開があった。実際にこんなゴタゴタが起こる事は滅多にないと緑川が言っていたが、実は嘘だったのではと疑問に思ってしまう。自身に嘘を見抜く副作用(サイドエフェクト)があるのに。

 とりあえず、覚えたばかりのカメラ機能を使って、目の前に起こっている光景を玉狛支部の先輩方に送る事にした空閑遊真であった。

 



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SE修【天眼】しゅらばナウ③ Gear Third

やはり、原作は最高だぜ。
弧月の刀身の色とか、エスクードの使い方とか勉強になるなぁ。

……おや? 何か忘れている気がするな?


 四面楚歌。

 起源は羽が漢の高祖に敗れて、垓下で包囲されたとき、夜更けに四面の漢軍が盛んに楚の歌をうたうのを聞き、楚の民がすでに漢に降伏したと思い絶望したという、「史記」項羽本紀の故事から生まれた言葉であり、意味は敵に囲まれて孤立し、助けがないこと。周囲の者が反対者ばかりであることを指す。

 修は不意に授業で習った言葉を思い出す。理由は言うまでもない。現状の自分がまさにそんな状態であるからだ。

 目の前で繰り広げられる熱戦。誰が自分と戦うかで口論しているお三方を見やり、修は「どうすればいいんだ」と冷や汗を掻きながら頭を悩ます。

 こんな時、自身のサイドエフェクトである強化視覚である天眼は全く以って役に立たない。援軍を要請したい所であるが、無二の親友であり唯一の味方である空閑は一向に助け船を出す様子は見受けられない。傍観を決め込んでいないで助けて欲しいと空閑に向けて視線を向けるが彼は彼で覚えたての携帯電話を自分達に向けて楽しげに見守るのみ。

 まさか現状の様子を録画されて、それを玉狛の先輩方に送られているとは露も知らずにだ。

 

 

 

 ***

 

 

 

「はは、大人気だな。流石は三雲君だ」

 

 

 修達の様子を一部始終見守っていた嵐山は隣にいる木虎に言う。

 

 

「……そうですね」

 

 

 気のせいか木虎からプレッシャーなるものが膨れ上がった気がする。歴戦の雄姿の一人である嵐山は自身の部下である木虎の様子を察す。

 どうしたものかと思案して、直ぐに答えを見出す。

 

 

「よし、木虎。三雲君も困っている様子だし、助けに行こうか」

 

 

 このまま見守る事も考えたが、一向に話が進む様子も感じられない。その御蔭で周囲の連中が集まって野次馬と化し始めている。色々と理由を付ければいくらでもあるが、何より弟と妹の恩人である三雲が困っているならば助け船を出さない訳にはいかない。

 

 

「い、いえ。私は別にいいです。それに、私がなんで三雲君を助けに行かないといけないんですか」

 

「まあまあ。そんなこと言わないでさ。もしかしたら、これを機に再戦する機会が得られるかもしれないぞ」

 

 

 木虎が対三雲の為に過去の模擬戦を穴が開くほど閲覧している事は知っている。なぜ未だに話しを振らないのか不思議で仕方がなかったが、大事な部下のためだ。木虎の為に一肌脱ごうと考える嵐山であった。

 その選択肢がまさか更なる混沌を生む事になるとは、この時の嵐山は知る由もなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「修! いい加減に、アンタから言いなさいよね。今日はこの私と闘うって」

 

 

 痺れを切らした香取が現状を打破する為に思考を巡らせていた修に視線を向ける。それを合図に黒江と風間も修に言葉を投げかける。

 

 

「そうです、三雲先輩。あの時の再戦をするってこの人達に言ってください」

 

「模擬戦はいくらでも出来る。ここは更なる飛躍の為に確りと技術を磨くのがいいだろう。三雲もそう思うだろ?」

 

 

 香取と黒江、そして風間の三者の圧力に気圧される。修は脳内で何通りかの選択肢をシミュレートしてみるが、どの選択もあまり良い結果が得られなかった。故に取った行動は一つ。

 

 

「えっと、そうですね。……僕としては、今日は――」

 

「――あ、いたいた。おーい、三雲君」

 

 

 口を開こうとした時、まさかの援軍の到来であった。振り向き、声を掛けた人物を知った修は助け船を出してくれた人物の正体を知って破顔する。

 

 

「嵐山さん。こんにちは」

 

「こんにちは、三雲君」

 

 

 思わぬ援軍に修は普段では考えられない程の瞬発力を発揮して嵐山の傍に近寄る。そんな彼の反応に香取を初めとした三名は面白くない顔をするのは必然だった。

 

 

「……嵐山。いま、取り込み中だ。三雲に用があるなら後にしてもらいたい」

 

「そうは言いますが、風間さん。周りを見てください」

 

 

 嵐山に言われ周囲を見渡すと、好奇心の眼差しで見守る隊員達の姿があった。

 大半の隊員は年端もいかない子供達。目の前で色々とやらかしている三雲を中心に正隊員達が争っていれば嫌でも注目の的になるだろう。

 嵐山の指摘に風間は己の失態に今更ながら気づく。皆が憧れるA級隊員と言う事もあるが、この中では自分が一番の年長者だ。年長者たる節度と態度を取らなければいけない立場にありながら、自ら秩序を乱した事に反省しなくてはならない。

 

 

「すまん。少しばかり熱くなっていた様だ」

 

「謝る相手は俺ではないでしょ」

 

「そうだな。すまん、三雲。少々大人気なかった」

 

 

 潔く頭を下げる風間に「い、いえ。大丈夫ですよ」と修は返す。

 

 

「あなた達も少しは落ち着いたらどうかしら」

 

 

 嵐山の後ろに追従していた木虎も罰が悪そうに大人しくしている香取と黒江に注意を促す。

 

 

「な、なによ! 私が最初に約束したのは事実よ。あんたに注意される謂れはないわ」

 

「……そうです。嵐山さんが来るまで、物陰に隠れていた人に言われたくありません」

 

 

 しかし、女二人は強かった。木虎もまさか気付かれていたとは思ってもいなく、黒江の思わぬ反撃にたじろがずにいられなかった。

 

 

「おい、二人とも。俺も人の事は言えないが、正隊員の俺達が騒ぎを起したら周りに示しがつかん」

 

「まあまあ、風間さん。……三人とも三雲君と模擬戦を希望しているんですよね」

 

 

 なら、こんなのはどうでしょう? と、嵐山は提案する。

 

 

「三雲君。俺と木虎の二人と組んで、この三人と戦ってみるのはどうだい?」

 

「……はい?」

 

「嵐山さん。なんで、私達が三雲君の為にそんな骨を折るような事をしないといけないんですか!」

 

 

 最初に異議を唱えたのは木虎であった。

 木虎としては、修と再戦を望むところであったため共闘する気などさらさらない。そもそも、こんな状況に陥ったのは修の優柔不断が招いた結果である。そんな修の尻拭いをする義理はないはずだと反論する。

 

 

「木虎は不満か? なら、木虎は風間さん達のチームに入ればいいさ。俺と三雲君。後は……」

 

「でしたら、おれもお手伝いします。嵐山さん」

 

 

 いつの間にか嵐山の横に立っていた時枝充が名乗りを上げる。

 

 

「充! 良い所に来てくれた」

 

「戻って来るのが遅かったので、心配で様子を見に来たんです。見に来て正解でした。こんな事になっているとは」

 

 

 修が本部に来ている事は来る間に色々な隊員が噂をしていたので直ぐに分かっていた。とうぜん、こんな事になっているだろうなと予想はしていたが、まさか自身の隊長が関わっているのは少しばかり予想外であった時枝であった。

 しかし、これは逆に考えれば良い機会と言えよう。修にはチームメイトである佐鳥の件で大変迷惑をかけている。ある意味、貸しを返す絶好の機会と言えよう。もちろん、修は迷惑であったなど少しも感じてはいないが。

 

 

「どうだろう、三雲くん。オレと嵐山さんがサポートするから、この四人を懲らしめてみないかい?」

 

「と、時枝先輩?」

 

 

 トッキーのブラック発言に修は眼を丸くする。

 

 

「そ、その。僕としてはもう少し穏便に――」

 

「――いいじゃないか、オサム。面白そうだから、やろうぜ」

 

 

 ここで、今まで野次馬に混じって静観していた空閑も参戦だ。

 

 

「く、空閑。おまえ、何を勝手に」

 

「だって、そうでもしないとこの場は治まらないと思うぞ。周りのみんなも、それを望んでいるようだ」

 

 

 空閑の言う通りであった。嵐山の提案を一部始終聞いていた周囲の皆は、これから起こる戦いに心躍らせていた。また、高レベルの戦いを目の当たりに出来る。それは、正隊員を目指す彼ら彼女らにとっては、貴重な時間だ。中には修が繰り出す戦略を自分の糧にしようとメモを取り出す者達も現れる始末であった。

 

 

「ほぉ。お前も出るのか」

 

「いいでしょ、風間さん。俺もB級隊員になったしさ。戦う資格は得たと思うけど?」

 

 

 以前、風間は空閑に「C級隊員のお前とは戦えない」と言っていた。しかし、今の空閑はB級に昇格している。風間が言っていた条件は既に達しているのだ。

 

 

「いいだろう。香取、黒江。そして木虎。望む形ではないが、これで妥協してもらうぞ」

 

 

 年長者の風間にそう言われてはイエスとしか言えない黒江であった。香取も色々と不満を口にするが、風間の意見に賛成の意を示す。

 

 

「風間さん! 私は別にやるなんて言っていませんよ」

 

 

 だが、木虎は違った。そもそも、こんな事に巻き込まないで欲しいと反論する。

 

 

「いいのか、木虎。この機会を逃すと三雲と闘う機会はないかも知れないぞ」

 

 

 風間は知っていた。木虎が三雲と再戦を窺う機会を探っていた事を。対三雲会議に参加していた故に得た情報なので確かな筋からである。

 

 

「そ、それは……」

 

「それに、今の奴はお前が知る三雲と少しばかり違う。いや、違いすぎる。今の三雲を知る絶好の機会と思うがな」

 

「…………」

 

 

 木虎は考える。

 風間の言う言葉は正しい。修は自分が戦った時よりもかなり腕を上げている。過去の模擬戦を見ているとはいえ、百聞は一見にしかずと言う諺がある。実際に肌で感じないと分かんない事だって当然あるだろう。なら、気たるべき本当の再戦に備えてこの茶番に付き合うのも悪い話ではないはず……。と、自分に言い聞かせる木虎であった。

 

 

「分かりました。三雲くん。ここで私が勝ったらあの話しはなしですからね!」

 

「……あの話し? ごめん、木虎。何の事だっけ?」

 

 

 本気で覚えていないのか、修は首を傾げる。木虎としては良い様に解釈していると思っていた修に対して釘を刺したつもりであったが――緑川の発言を聞いて、同じ男である修もそうだろうと勝手に思っていた――自分の失言に赤面せざるを得なかった木虎であった。

 

 

「よし! 話しはまとまったな。こっちは俺と充。そして三雲くんと空閑君の四人」

 

「こっちは俺と木虎。香取と黒江の四人だ」

 

 

 ドリームマッチが決定される。

 この時、修は思った。

 

 

「……今後、本部に行く時は迅さんに視て貰ってから行った方がいいのかなぁ」

 

 

 それを聞いて空閑は思う。

 

 

「たぶん、迅さんの事だから、こんな未来を視ても教えてくれないと思うぜ」

 




……あ。

おれ、ワートリのSS書いていたんだっけ?

ワスレテイタ。ハハハ。


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SE修【天眼】しゅらばナウ④ Gear Forth

本来、公式戦以外ってチーム戦出来ない仕様らしいですね?

……まぁ、その設定を守ったらSEは破綻しちゃうんですがね(苦笑

そろそろ、修羅場回も決着させなければいけませんね。


 早々と集結する事に成功した風間達は黒江を先頭にし、その後ろに風間と香取が並び、後方に木虎と隊列を組んで三雲達の捜索を始める。

 模擬戦に選ばれたステージは市街地Aだった。広い場所も狭い場所もあり、特に何の変哲もないノーマルな市街地だ。射線も通りやすく、機動力のある隊員にとっては隠れながら移動や奇襲をするのはもってこいな戦場だ。唯一の救いは互いに狙撃手(スナイパー)がいない事であろう。

 

 

「(いや。……三雲のトリガーに狙撃手(スナイパー)用のトリガーが入っていないと考えるのは危険だな)」

 

 

 風間は知っている。三雲の天眼があれば狙撃手(スナイパー)として立ち回る事も可能だと。現に三雲は界境防衛機関(ボーダー)が誇る狙撃手(スナイパー)達と戦い勝利を収めている。もしも三雲が以前に使用していたライトニングを設定しているならば、気を抜く事は出来ない。

 

 

「風間さん。このまま無暗に捜索するのは危険かと」

 

 

 木虎も同じ考えに至ったのだろう。思案する風間に具申する。チームメイトが慣れ親しむ者達であったのならば、互いに連携をして危険を防ぐことは訳がないだろう。しかし、今回は混成チームだ。戦いになれば連携する事だって問題はないかも知れないが、互いの信頼関係と練度は段違い。コンマ数秒の差で勝敗が大きく左右する事だって当然ある。

 

 

「あら、A級の嵐山隊ともあろう人が随分と弱気ね」

 

 

 風間が同意するよりも早く、両手に拳銃(ハンドガン)を装備した香取が反応する。

 ムッと表情を強張らせる木虎であるが、状況的に噛みついてくる香取に噛み返す訳にはいかない。怒りを押し殺して、自分が慎重に行くべきと言った理由を告げる。

 

 

「……三雲君は狙撃手(スナイパー)も経験しています。彼のトリガー構成を把握するまで、安易に飛び込むのは危険と言っているんです」

 

「はぁ!? あのメガネ。そんな事までしていたの! 黒の剣士の次は蕾姫なの!? 「私は一発の銃弾」とか言わないでしょうね! てか、チートにも程があるでしょ!!」

 

「黒? 蕾?」

 

 

 香取の発言に木虎は一言も理解出来なかった。仕事上、サブカルチャーを嗜む余裕(そもそも木虎がサブカルチャーに興味を示すか定かではない)はない。よって、木虎にその手の知識は皆無。ある意味、当然と言えば当然の反応である。

 

 

「香取先輩。三雲先輩は男です。この場合、デューク・東郷の方が適切です」

 

「……あんたから、そんなツッコミが返って来るとは思わなかったわ。てか、デューク・東郷って。メガネはどんだけ化物なのよ!」

 

 

 予想だにしなかった黒江のツッコミに香取はこれでもかと悪態つく。ただでさえ、こてんぱんに返り討ちにあった香取からしてみれば、見返してやりたい生意気な後輩があまりにも規格外である事に文句の一つや二つ言わざるを得なかった。

 

 

「殺し屋は兎も角、三雲はあの手この手と俺達を殺しにかかって来るぞ。香取、はやる気持ちは理解出来なくないが、少しは落ち着け。この中で、アイツの戦術を多く体験したのはお前だ。この状況でアイツがどう動くか、お前の意見を聞こう」

 

 

 年長者である風間から忠告され、挙句に意見を求められた香取は思考を巡らせる。風間の言うとおり、四人の中では香取が修と多く戦っている。過去の模擬戦を見ているとはいえ、百聞は一見にしかずと言った言葉がある。多くの修の戦術を体験している香取なら、自分達が知らない修の動きも予想できると風間は踏んでいた。

 

 

「……アイツの事ですから、待ち伏せから隙を突いてレイガストの投擲。あるいは変化弾(バイパー)で動きを誘導させて、スパイダーで動きを封じにかかるって所じゃないですかね」

 

「……ほぉ。意外と冷静に分析していた様だな。それで今の武装ということか」

 

 

 聞いた自分が思うのはおかしいが、香取が思った以上に今後の展開を予想していた事に感嘆する。実力があるのは知っていたがむらっけがあり、よく言えば自由奔放、悪く言えば自己中心的な行動が目立つ人物だったので、今回の返答は風間的には想像以上の返しであった。

 

 

「スパイダーか。厄介なトリガーを選択したな、三雲は」

 

 

 スパイダーは直接的な殺傷能力はないが、使い方一つで戦況を大きく左右させるトリガーだ。地味なトリガー故に使い手は少ないが、スパイダーは千変万化の顔を持つ。奇襲、騙し討ちを得意とする修にとって、これほど相性がいいトリガーはないだろう。

 

 

「それに加え、嵐山隊の二人と空閑の相手をしなくてはならない。これは想像以上に厳しい戦いになるだろうな」

 

 

 空閑の実力は未知数だが、嵐山隊二人の実力は重々承知している。

 

 

「そうですね。嵐山さんと時枝先輩のコンビネーションは厄介です。空閑君の実力は分かりませんが、トリガー構成次第では厄介極まりない相手になり得るかも知れません」

 

 

 嵐山隊の最大の特徴はどんな状況にも対応し得る安定さである。突出的な能力はないかも知れないが、持ち前のチームワークで長所を伸ばし、短所を補ってきた。何より嵐山と時枝のコンビネーションはA級の中でも一・二を争うタッグチーム。万能手(オールラウンダー)の二人はトリガー構成も全く同じ。テレポーターで裏をかいた奇襲戦法は修の得意戦術に通じるものがある。

 

 

「三雲先輩と一緒にいた空閑先輩でしたっけ? 駿が言っていた凄い先輩らしいですね」

 

 

 以前、緑川が興奮気味に言っていた。

 

 

『いいなぁ、玉狛支部は。迅さんをはじめ、三雲先輩や空閑先輩みたいな強い人がいっぱいいるんだから。どうにか俺も玉狛支部に転属できないかなぁ』

 

 

 本部所属のA級隊員が何をバカな事を言っているんだろう、と当時はまったく気にする事はなかった。まさか、緑川が言っていた強い空閑先輩と闘う事になるだろうと当時は露も思っていなかったのだから。

 

 

「ふん。あんな白髪なんて目ではないわよ」

 

「侮るな香取。アイツは三輪隊の二人を真正面に相手して勝った実績を持つ。油断しているとやられるぞ」

 

「……は?」

 

 

 衝撃の事実発覚。全く名も知れ渡っていない白頭こと空閑がA級三輪隊の二人に打ち勝ったという事実は無防備の頭に鈍器で殴られるぐらいの衝撃を与えられた。

 

 

「それは私も初耳です。本当なのですか、風間さん」

 

「本当だ、木虎。詳細は教えられないが、三輪と米屋が空閑と闘う事になった。結果、二人は負けた。戦闘能力と言う意味では、あの四人の中でも断トツだ」

 

 

 空閑がまだ界境防衛機関(ボーダー)に入る前、具体的には近界民(ネイバー)として排除対象にされていた頃の話しは聞かされている。見た目が子供であろうが、油断できない相手である事は重々承知している。

 

 

「これはしっかりと作戦を練らないといけませんね、風間さん」

 

「ああ。……だが、敵は待ってはくれなさそうだ」

 

 

 四人とも咄嗟に四散してその場から飛び離れる。

 直後、四人がいた地に無数の弾丸が叩き込まれたのであった。

 

 

「会敵! これより戦闘に入る」

 

 

 頭上から聞き慣れた声、嵐山の声が四人の耳に届く。嵐山は住宅の屋根伝いで移動して風間達がいる地まで移動したのだろう。互いに狙撃手(スナイパー)はいない。狙撃をされる心配はないとはいえ、大胆に移動した事によって先手を繰り出す事に成功したのだった。

 

 

「了解です、嵐山さん」

 

 

 続いて風間達を挟む様に位置を取る時枝が追撃を仕掛ける。彼も嵐山同様に屋根伝いに移動したのだろう。屋根越しから突撃銃を風間達に向け、容赦なく通常弾(アステロイド)をぶっ放した。

 

 

「時間を取り過ぎたか。三雲が俺達の位置を直ぐに把握できるのは分かっていたの――っ!?」

 

 

 先手を取られ、直ぐ様に反撃の一手を切り出さんと動く風間の目の前に空閑が出現する。空閑のトリガー構成の一つに嵐山達と同様にテレポーターが設定されている。二人と違い、住宅の中を移動して近くまで近づいていた空閑は、嵐山達の奇襲によって隊列が崩れたのを確認して奇襲を図ったのだった。

 

 

「コンニチハ、風間さん。あの時の約束を果たしに来たよ」

 

 

 挨拶代わりの一撃、スコーピオンによる斬撃は風間の首を刈り取るまではいかなかった。けれど、完全に避ける事は出来なかったのだろう。僅かながら風間の首筋から微細の粒子、トリオンが漏れだしている。空閑の一撃は僅かながら風間にダメージを与える事に成功したのだった。

 

 

「この程度、何の問題もない!」

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 時枝の射撃を旋空弧月を用いて叩き落す黒江。しかし、全弾を叩き落す事はままならなかったようだ。旋空弧月を掻い潜って飛来する通常弾(アステロイド)が黒江に襲い掛かるが、その弾丸は木虎と香取の射撃によって迎撃される。

 

 

「まったく油断するんじゃないわよ。仮にもA級隊員でしょう!」

 

「双葉ちゃん。三雲君みたいな真似をしても意味がないわ。ここは的確に対処していきましょう」

 

 

 と、注意される黒江であったが二人もなんだかんだで修が得意としている技能の一つ、ビリヤードをしているじゃないかと心の内でツッコミを入れる。

 

 

 

 ***

 

 

 

 その頃、ランク戦室はお祭り騒ぎであった。

 理由は一目瞭然。界境防衛機関(ボーダー)の顔とも言える嵐山達が模擬戦をしているからであった。C級隊員の中には彼らに憧れて入隊した者も少なくない。そんな憧れの人達が戦っている。そんな情報が耳に入れば是が非でも見たいと思うのは無理もない事であろう。

 そして、そんな面白い話しを聞き逃すはずがない者が当然いる。

 

 

「そう! 私の耳から逃れる事は出来ない! みなさん、お待たせしました。戦いあるところ私あり。実況の鬼、武富桜子が今回も熱い実況をお送り致します。そして今回の解説者は戦場を駆け抜ける威風凛然の女子部隊(ガールズ・チーム)の隊長、那須先輩にお越しいただきました」

 

「こんにちは、那須玲です。って、桜子ちゃん。わたし、解説とか出来ないわよ」

 

「大丈夫ですよ、那須先輩。こう言うのは雰囲気作り。それっぽい事を話してくれれば無問題です。さて、今回の趣旨は……。また、三雲隊員ですか。もはやメガネある所に戦いあり! と言わんばかりのこの状況。いいぞ、もっとやれと言うべきでしょうか」

 

「桜子ちゃん、落ち着いて。今回の戦いに三雲君がどうかかわっているの?」

 

「はい。何でも三雲隊員と模擬戦をするのは誰だと香取隊長を始め、黒江隊員。そして風間隊長が口論したのが切欠の様です」

 

「あ、あはは。三雲君も人気者だね」

 

 

 そんな理由でこんな騒動を起こした一同に苦笑いせざるを得なかった那須であった。

 

 

「さーて。嵐山隊長はじめ、時枝隊員。そして空閑隊員が一斉にテレポーターを使って奇襲をかける! 風間隊長率いる混成部隊は分断を余儀なくさせられた!」

 

「頭上を抑えたのはでかいですね。嵐山隊のお二人が射撃で牽制し、空閑君が機動力を生かして陽動及び遊撃って言った所でしょうか」

 

「なるほど! けど、未だに三雲隊員の姿が見当たりませんね。那須隊長。これはどう言うプランでしょう」

 

 

 モニターには嵐山と時枝VS木虎と香取、そして黒江。風間VS空閑の構図が出来上がっているが、肝心の修の姿はモニターに映っていない。

 

 

「三雲君はどんな状況でも戦場を正確に把握する眼を持っています。恐らくですが――」

 

「――おっと! 各住居から無数の弾丸が出現したぞ!? これは変化弾(バイパー)だ!! フェンスを飛び越える様に軌道を描き、まるで追尾弾(ハウンド)の如く、風間隊長目掛けて飛来する!」

 

「恐らく空閑隊員が各住居の窓ガラス等を開けて回ったんでしょう。ガラスが割れる破砕音が聞こえませんでしたね。芸が細かいわ。効果は薄いですけど、それでも反応を僅かながら遅らせる効果が期待出来るわね。障害物を破壊して飛来すれば、どんな効果的な奇襲でも腕の立つ隊員の前では反応されてしまいます。それを見越しての戦法ですね」

 

「なるほど! そして、こんな出鱈目な騙し討ちを出来るのは当然メガネこと三雲隊員しかいません! てか、何時まで隠れているんだ! 今回は姿を現さないつもりなのでしょうか」

 

 

 武富が熱狂している間も試合は当然続く。修の奇襲と思われる攻撃によって、拮抗していた空閑と風間の戦いが僅かに動くのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ちぃっ!!」

 

 

 スコーピオンの応酬を続けていた風間は自分に襲い掛かる凶弾を確認して思わず舌打ちする。襲い掛かる弾丸は八発。対処するのは容易であるが、その間に僅かながら隙が生じてしまう。その隙を虎視眈々と狙っている空閑が見逃すはずがない。

 

 

「いいの、風間さん。俺ばっかり相手していたら修の攻撃は避けられないよ」

 

「心配するな。これぐらい何ともない!」

 

 

 二刀のうち一刀のスコーピオンを解除。空閑の鋭い一撃を後ろに跳躍する事で躱し、その勢いのまま後ろから襲い掛かる三発の変化弾(バイパー)を切り払う風間の目の前に空閑がテレポーターで移動するが、風間はそれを読んでいた。シールドを自分と空閑の間に出現させて動きを制限させる。その間に風間は残り五発の変化弾(バイパー)目掛けて跳躍し、スコーピオンを叩き付けた。

 これで修の奇襲作戦から潜り抜けたと思った。

 だが――。

 

 

「なにっ!?」

 

 

 流石に風間もこれは予想外であっただろう。

 嵐山と時枝は木虎達と交戦している最中だ。しかし、いまその二人は風間の前にテレポーターで移動し、自分目掛けて銃口を突きつけているじゃないが。

 二人の突撃銃の引金が同時に絞られる。銃口から発射された弾丸は炸裂弾(メテオラ)

 タイミング的に回避するのは難しい。風間はもう片方のスコーピオンを素早く解除し、二人の炸裂弾(メテオラ)から護る為にシールドを張った。

 嵐山と時枝の炸裂弾(メテオラ)が風間のシールドに着弾して爆散した。





……ゴブスレおもしれぇ。こう言う泥臭い戦いは参考になるなぁ。


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SE修【天眼】しゅらばナウ⑤ Gear TOP

 風間の被弾。それは自陣が圧倒的に戦力ダウンした事を意味する。

 

 

「(マズイわ。風間さんが早々に緊急脱出(ベイルアウト)してしまったら、勝ち目は薄くなる)」

 

 

 風間を失う事は自陣の主柱を失う事と同義。ただでさえチームプレイをするには些か不安な面子なのだ。ここで風間と言う御旗まで失ってしまえばチームとしての機能は失ってしまう可能性が大。けれど風間が緊急脱出(ベイルアウト)した様子は見られない。まだ、撃墜はされていないようだが、それも時間の問題だ。早急に風間の援護に向かうべきであろう。

 しかし――。

 

 

「(そのためにも――)」

 

 

 木虎達を囲う様に飛び交うトリオンキューブ(飛来物)が邪魔であった。

 

 

「このっ! なんなのよ、これは!」

 

 

 苛立つ香取。沸点の低い彼女はあからさまに怒気を孕みながら二挺拳銃スタイルで蠅のように纏わりながら飛ぶトリオンキューブを撃抜いていく。木虎も「落ち着きなさい!」と注意したい所であるが、鬱陶しいのは同感であるが故に言えなかった。

 嵐山と時枝の二人と応戦していた女性三人(ガールズチーム)が二人を自由に行動させてしまった要因はこれである。木虎と香取が拳銃(ハンドガン)で銃撃戦を繰り広げ、隙を突いて黒江が特攻するのが作戦であったのだが、頭上目掛けて落下して来た修の変化弾(バイパー)が三人の動きを封じたのだった。

 ただの変化弾(バイパー)ならば足止め程度になるかも知れないが、修が放った変化弾(バイパー)にはあるはずのない物が装着されていたのだ。それはスパイダー特有の突起物(アンカー)だ。

 

 

「……鬱陶しい」

 

 

 黒江も我慢の限界に来たのだろう。小手先の技を好まない彼女からしてみれば、修が繰り広げている攻撃は鬱陶しい以外の何ものでもない。ちまちまと応対してもジリ貧になるのが目に見えていた彼女が取った行動は一撃必殺による大技であった。

 

 

「旋空――」

 

 

 弧月の刃を水平に寝かせ、横一線に薙ぎ払おうと行動を起こすが、黒江の弧月からオプショントリガーである旋空が解き放たれる事はなかった。否、阻止させられたと言った方が正しいだろう。

 

 

「……また」

 

 

 黒江の腕に糸状の何かが絡み付き、先端が地面に打ち付けられていた。そんな事が出来るトリガーはたった一つ、スパイダーしかあるまい。

 

 

「黒江ちゃん、落ち着いて。そんな大雑把な攻撃では三雲くんの思惑通りよ」

 

 

 腕に絡み付いていたスパイダーをスコーピオンで切り払い、その場から直ぐに離れる。

 直後、黒江たちがいた地に無数の弾丸が地面を叩き付けられた。

 

 

「ああもう! 変化弾(バイパー)とスパイダーを合成させて撃つなんて、どう言う神経をしているのよ、あの陰険メガネ!」

 

 

 香取のストレスが天元突破する。幾度も修のスパイダー付き変化弾(バイパー)によって動きを封じられているのだから、フラストレーションが溜まりっぱなしなのだ。その間も的確に修のスパイダー付き変化弾(バイパー)を正確に撃抜くなんて芸当が出来るのだから、慣れない個人訓練をした成果が出たといえよう。

 

 

「(香取先輩じゃないけど、本当に厄介な技だわ。まさか変化弾(バイパー)で自在に軌道を操り、タイミングを見計らってスパイダーを起動させて拘束しようとするなんて)」

 

 

 スパイダー。他のトリガーと違って殺傷能力は限りなくゼロに近いトリガーであるが、使い方によって千の顔を持つ使い手の技量が求められるトラップ用のトリガーである。

 木虎もスパイダーの使い手であるが、自身の足場にして移動の補佐をしたり、狭い地で敵の行動を制限させるための罠として用いる事はあれども敵を拘束させる為に使った事はなかった。そもそもそんな考えに至る事が出来なかったのはスパイダーの特徴にある。両側に鉤爪が装着されているトリオンキューブは性能を発揮すると反対方向に一直線に向かって飛ぶしか出来ない。伸びる線はトリオンキューブの形を変化して細く長く変化するに過ぎない。伸びる線を鞭の様に曲線を描かせたり、螺旋を描く様に回転させる事など性質上出来るはずがなかった。しかし、修のスパイダーはその不可能とされていた機能を追加させたのだ。

 

 

 

 ――変化拘束弾(バルーニング)

 

 

 

 変化炸裂弾(トマホーク)を捨てる代わりに、新しく習得した合成弾。弾丸の軌道及びキューブから射出するワイヤーの軌道すらも設定できる変化拘束弾(バルーニング)は修のSE(サイドエフェクト)があるからこそ可能な離れ業だ。

 まさしく蜘蛛の糸。描く軌道により幾千の顔を表す弾丸が彼女達三人の行く手を阻むのだった。

 

 

「ぼうっとしない! 上から来るわよ!!」

 

 

 思考の渦に囚われ過ぎたらしい。

 香取の言葉によって我に返った木虎は香取の視線を追う様に頭上を見やる。視線の先には無数のトリオンキューブが木虎達目掛けて落ちて来た。

 

 

「このっ!!」

 

 

 シールドでやり過ごすかと思案する木虎に対して香取と黒江は迎撃態勢を取る。防御と言う選択肢も頭に過った二人であったが、二人はシールドを貼る事で足を止める事を嫌った。頭上に視線を集め、その隙を見計らって死角から奇襲をする事は過去の修の模擬戦を見ていれば容易に想像できたからの判断だ。

 そして二人の読みは当たっていた。二人が武器を頭上に向けて身構えたと同時に壁をぶち破って一直線に飛ぶものが出現したのであった。修が放ったレイガストだ。

 

 

「そう何度も同じ手が通用すると思わないことね!」

 

 

 対処に向かったのは木虎であった。レイガストが壁を突き破ると同時に脚が自然と動いていた。

 けれど、次の瞬間、想像に絶する事態が起こった。修のレイガストは木虎が張ったシールドに触れる前に右に大きく軌道を変化させたのだ。

 曲線を描くレイガストが飛来した先は香取だ。それに気づいた香取もどうにかしようとするのだが、頭上から飛んで来るトリオンキューブの迎撃で手一杯。奇襲が来る事は分かっていたにも関わらず、香取は修のレイガストによって両足を両断されてしまったのだった。

 機動力を奪われた香取はこのまま戦場から消えると思っていたが、修が焚きつけた香取の執念は誇りを被っていた牙を磨く形となっていた。失った両足からスコーピオンを生やして義足を作り出す。

 それだけではなく、自身から離れていくレイガスト目掛けて一直線に駆け出す。レイガストの行く先に修がいると読んだ上での行動であった。

 

 

「いい加減に出てきなさい!!」

 

 

 軸足側のスコーピオンを地面に突き刺し、その場で回し蹴りを繰り出す。敵の姿もないのにこの場で回し蹴りを放つ意味などないと思っていた黒江であったが、大きな間違いであった。香取が蹴り上げた先には両断されたワイヤーが地面に散らばっている。あのままレイガストを追って闇雲に走っていたら、確実に香取はスパイダーの餌食となっていたであろう。

 しかし、たった八戦の模擬戦で香取は成長した。屈辱に塗れた八戦の敗因のおかげで修が考えそうな戦い方を読み、対処を打つ事ができたのだ。

 

 

「あんたの姑息な戦法なんて、もう通用しないのよ。大人しくこの私にやられなさい!」

 

 

 香取にとってこの戦いは雪辱戦なのだ。過程はどうあれ、最終的に修を倒さないと香取敵には気が済まない。だからこそ気持ちが逸ってしまったのだろう。下手をしたら他の三人に修がやられてしまうと。

 だからこそ気づくのが遅くなってしまった。背後にテレポートして来た遊真の存在を。

 

 

「っ!?」

 

 

 三人が気づいた時には遅かった。グラスホッパーの推進力を借りて跳躍した遊真は同時に香取の頭上に生成したグラスホッパーを利用して急降下。急上昇から急降下と言ったVの字軌道で香取の視界から消え、スコーピオンを纏った右手で薙ぎ払う。

 遊真のスコーピオンは香取の首元を抉り、そのまま斬り裂いていくのだった。

 宙を舞う香取の首。トリオン体の維持が出来ずに緊急脱出(ベイルアウト)が発動する刹那、黒江の体が閃光となって襲い掛かる。

 香取の首が刎ねられたと認識するよりも早く黒江は韋駄天のトリガーを発動させていた。

 しかし、黒江の奇襲は遊真を捉える事ができなかった。遊真も香取の首を刎ねるや緊急脱出(ベイルアウト)が発動するのを確認するよりも早くテレポーターでその場を離脱したのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 緊急脱出(ベイルアウト)の輝きを目にし、風間は直ぐに木虎へ連絡を行う。

 

 

『すみません、風間さん。香取先輩が空閑君にやられました』

 

「そうか。分かった」

 

『それと未だに三雲君の姿が見当たりません。恐らく機を見てそちらにも奇襲をするかと思います。気をつけてください』

 

「了解した。できれば合流したい所だが可能か?」

 

『やってみます』

 

「頼む」

 

 

 飛び交う弾丸をスコーピオンで防ぎながら、風間は現状を分析し始める。

 

 

「(嵐山と時枝が足止めをしつつ、姿を眩ませ続けている三雲が不意打ちをして隙を作る。そして空閑がトドメを刺すと言ったところか。単純だが中々理に適っている。嵐山隊の二人と空閑の三人がテレポーターを設定しているからこそ出来る芸当か)」

 

 

 風間の分析は的中していた。修が考えた作戦はまさしく風間の推測通り。風間と女性三人で分断させたのは、風間と言うブレインを女性三人から引き剥がすため。例え急増チームでも風間と言う船首がいれば即席チームでも充分に機能する事は可能であろう。だからこそ御旗を奪う所から修達は動いたのだった。修の天眼があればイニシアチブを得る事は容易。後は三人の機動力を十二分に発揮できるように采配すればいい。

 その修の采配が見事にハマったのだった。これには嵐山と時枝も感心するしかなかった。

 

 

「(佐鳥から聞いていましたが、見事なものです)」

 

「(さすがは三雲君だ。過去の経験を見事に生かしているな)」

 

 

 以前、既に戦闘経験があるチームメイトの佐鳥に三雲と戦った感想を訊いた事があった。

 その時の佐鳥の発言は「あれはやばいですね」の一言であった。どうせならばもっと具体的な感想を訊きたかったのだが、なるほどと納得せざるを得なかった。

 チーム戦を行う場合、各自の転送先はランダム。そこから考えられる選択は二つ。

 各個撃破かチームメイトと合流して数的有利を作り出すか。転送先がランダム故に初動の判断が戦いの行く末を左右する。相手がどこにいるのか。味方とどこで合流すべきか。その判断を間違えると、どれほど個人の技量が高くても苦戦を強いられる。

 けれど修の天眼は誰よりも早く正確に情報を把握する事ができる。味方と敵の位置を正確に見極めて、仲間と連絡を取り合えれば連携して電光石火の奇襲を敢行する事も容易い。

 アドバンテージはこちらにあり。これで敵の一人や二人を落とせなければ、今後のランク戦を勝ち残る事などありえない。

 

 

「(三雲君の作戦通り、このまま風間さんを釘付けにする。炸裂弾(メテオラ)は極力温存。爆発に紛れてカメレオンで姿を消されたら事だ)」

 

「(時枝、了解です)」

 

 

 短く頷いた時枝はテレポーターで風間の背後に回る。時枝が背後に回るのを確認し、嵐山は突撃銃(アサルトライフル)の銃口を向け、通常弾(アステロイド)を連射する。

 

 

「ちっ!」

 

 

 挟撃の形を取られた風間は舌打ちしつつ、二刀のスコーピオンで対応する。手数及び間合いは嵐山に分がある。意を決して距離を詰めたい所であるが、背後にいる時枝がそれを許さない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 一方的な展開(ワンサイドゲーム)。まさかの展開に観客達はどよめく。下馬評では風間達に軍配が上がると予想する者が多くいた。中には「いやいや、あのメガネがいるから何が起こるか分からない」と異議を唱えるC級やB級もいたが、戦力的な見方から分析して風間達が後れを取るとは思ってもみなかったのであろう。それはこの方々も同じであった。

 

 

「こ、これは! まさかの一方的な展開(ワンサイドゲーム)! いったい誰が予想した事でしょう! 風間隊長率いるチーム風間が一方的に押されています」

 

「ここまで一方的な展開になるのは驚きです。三雲君達は相性の差を最大限に利用しているようですね」

 

「と、言いますと」

 

「風間隊長をはじめ、みなさんが実力者なのは明らかです。けれど、今回は急造チーム。高度な連携は中々取りにくいです。それに加えて、風間隊長達の構成は攻撃手(アタッカー)が二人。万能手(オールラウンダー)二人となっています。近距離に偏ったチーム構成となっています」

 

「なるほど。しかし、皆さんの殆どはエース級。それが何か関係するのですか?」

 

「対して三雲隊員達の構成は万能手(オールラウンダー)二人と攻撃手(アタッカー)一人。そして射手(シューター)一人です。しかも、万能手(オールラウンダー)二人の嵐山隊長達はどちらかと言うと中距離メインのトリガー構成です。攻撃の間合いは三雲隊員達のチームの方が上です」

 

「つまり、三雲隊員達のチームは近寄られる前に倒す。それが彼らの作戦なんでしょうか?」

 

「大方針はそう考えて良いと思うわ。けど、それではエース級の四人を倒す事は出来ない。そこで、三雲隊員は空閑隊員を飛び道具として活用した。彼がよく使うレイガストの投擲の様に」

 

「三雲隊員の新技も驚きましたが、空閑隊員の神出鬼没な動きには驚かされましたね。テレポーターを使用する隊員は少なくありませんが、あの俊敏性は脅威ですね」

 

「同じ玉狛支部みたいだから、三雲隊員の動きに影響を受けたのかも知れませんね。彼、テレポーターを使っていた事もありましたし」

 

「ところで、三雲隊員が使った新技の正体。あれは合成弾と分類して良いんでしょうか?」

 

「難しい所ですね。合成弾は二種類の弾丸を掛け合わせて使用するものです。その一面だけを見れば三雲隊員が使用した変化弾の性質を持ったスパイダーは分類されますね」

 

「なるほど。……おっと! 風間隊長。挟撃されるのを嫌って、近くの家屋に身を投じた! 嵐山隊長及び時枝隊長は逃げた先に向かって炸裂弾(メテオラ)を放つ! 風間隊長、緊急脱出(ベイルアウト)は免れないか!?」

 

 

 桜子の実況通り、風間がいた家屋が爆発する。これではたとえ風間と言えどダメージは免れないはず。

 だが、経験豊富な風間がこの程度で倒れる訳がない。爆発によって生じた砂塵に紛れながら背後に回っていた時枝に向かって強襲を図る。

 風間の強襲にいち早く気付く嵐山は「充っ!」と仲間に向かって声を張り上げる。嵐山の言葉に反応しようやく風間が自分に向かって襲い掛かって来る事に気付く時枝であったが、一歩遅かった。突撃銃(アサルトライフル)の銃口が向けられるよりも早く突撃銃(アサルトライフル)の銃身を両断。流れる様にスコーピオンを振り上げて時枝の心臓部に突き刺す。

 

 

「風間隊長の刃が時枝隊員に突き刺さる! 奇襲には奇襲。風間隊長、意地のワンキルだぁあ!」

 

「恐らく、身を投じて着地したと同時に設置型のシールドで凌いだのでしょう。あのままではジリ貧でした。一瞬の判断であそこまで行動に移せるのはA級ならではの動きですね」

 

「風間隊長にはカメレオンがありますからね。嵐山隊長達は風間隊長を一瞬でも見失う事を嫌って、勝負を急いでしまった。さぁ! 風間隊長の機転でお互い三体三! 勝負の行方はまだまだ分からなくなりました!」



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SE修【天眼】しゅらばナウ⑥ Over TOP-Ⅰ

 本部で修達が善戦を繰り広げている最中、迅悠一は自身の過去の模擬戦のデータを閲覧していた。

 

 

「……珍しいな。お前がそんな事をするなんてな」

 

「ありがとう、レイジさん」

 

 

 煎れ立てのコーヒーを受け取った迅はお礼を言いつつも、鋭く研ぎ澄まされた瞳を自身の過去ログから外す事はなかった。珍しい事をする迅に興味が湧いたレイジは一口コーヒーを啜る。

 

 

「三雲に看過されたか?」

 

「あはは。もしかしてみていた?」

 

 

 その問い掛けに「あぁ」と短く応える。

 

 

「俺さ。メガネくんに期待しているんだよ」

 

「似た様な事を前にも言っていたな。それもお前のSE(サイドエフェクト)が言っているのか?」

 

 

 迅は一人の隊員の合否を変える様に上層部に頼んだ事があった。相談されたレイジと玉狛支部のボスである林道は理由を尋ねた事がある。その時は「俺のSE(サイドエフェクト)がそう言っているんだ」と誤魔化されてしまったが、今となっては迅のファインプレーと言ってもいいだろう。

 何せ、迅が界境防衛機関(ボーダー)に入れる様に動いた人物こそ三雲修なのである。

 

 

「そうだね。そう。俺のSE(サイドエフェクト)はそう言い続けているよ」

 

「それといま、お前がこうして自身を見つめ直している理由に関係があるのか?」

 

「……分かっていて聞いているでしょ」

 

「あの弾を喰らって、お前も焦りを覚えたのか」

 

 

 図星を突かれそっぽを向きつつも肯定する。

 

「それで、新しい戦法を考えようとしていた所か。……らしくない事を」

 

「えー。それには物申したいな。俺って太刀川さんに勝つ為にスコーピオンを考え付いた男だよ」

 

 

 あまり知られていない話しであるが、スコーピオンは迅が考案したトリガーである。以前までは弧月を愛用していたが、弧月で太刀川を勝ち越す事ができないと悟って変幻自在の近接武器スコーピオンを生み出したのだ。

 

 

「以前、京介達にも言ったが手当たり次第に風呂敷を広げても器用貧乏に陥るだけだ。お前の戦闘スタイルは確立しているんだ。目先の新技に頼る事無く、己が技量を磨く事に念頭を置くべきだ」

 

 

 迅もそれは分かっている。今から新トリガーを試した所で付け焼刃になるのは目に見えている。目先の新技よりも既存の技術を磨く事で切り開ける未来もあるはずだ。

 

 

「お前が訪れる未来を回避する為に色々と動いているのは分かっているが、焦りは禁物だ。いつもの様にぼんち揚でも食って落ち着け」

 

 

 レイジに言われて最近ぼんち揚を口にしていない事に気付く。

 

 

「……焦っているかぁ。レイジさんには敵わないな」

 

 

 焦っていたのかも知れない。どんだけ暗躍しても回避したい未来の確率を変動させる事に難儀していた。最悪の未来を避ける手段はあるものの、その手段を得る方法が迅には分からずにいた。

 

 

「しかし、軌道を設定させたスパイダーか。三雲も面白い事を考える。もっとも、あれは三雲の眼があってこそだな」

 

「だね。たははは。メガネくんの頭の中を一度覗いてみたいよ。あの弾丸しかり、変化するスパイダーしかり」

 

「……あの弾丸? 三雲の新技は変化するスパイダーだけじゃないのか?」

 

「あれ? レイジさん、最後まで見ていなかったの?」

 

 

 何のことだ、と尋ねるよりも早く迅は先の模擬戦のログをレイジに見せる。それを見てレイジは「そう来たか」と感嘆する。

 

 

「なるほど。お前が新技を頼りたくなるのも分からなくないな」

 

「でしょ」

 

 

 共感してくれた事に嬉しく思う迅の口角が曲がる。レイジは「ならば」と一つ提案したのだった。

 

 

「お前は風刃による戦い方があったはず。なら、それを生かすのはどうだ?」

 

「風刃?」

 

 

 レイジが何を言いたいのか見当も付かないと言いたげに首を傾げる。風刃は量産型のトリガーよりも高性能なブラックトリガーであり、今は手放したトリガーでもある。

 そこで一つの推測が思い浮かぶ。ハッとレイジの顔に視線を向ける。それが何を意味するのか察したレイジは一口啜ったのみのコーヒーを飲み干して告げる。

 

 

「今日一日付き合ってやる。お前の新スタイルが確立するまでな」

 

「……レイジさん。ありがとう」

 

 

 煎れて貰ったコーヒーを飲み干し、迅も行動に移した。小南と駄弁っている宇佐美に頼み、トリガー構成を弄る。

 かつて愛用していたトリガーである弧月を空のスロットに組み込み、迅は新旧のスタイルが馴染、新たな戦闘スタイルが確立するまでレイジ達――途中から小南や烏丸も参戦していた――と模擬戦をし続けていた。

 その迅に影響を受けた小南と烏丸も更なる研鑽に励む様になるのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ところで、メガネくん達から連絡はあった?」

 

「遊真が言うには、絶賛修羅場らしいっすよ」

 

 

 京介の返答を聞いて、迅は合掌する。

 

 

「無事に帰って来て、メガネくん」

 

 

 迅の思いが届くか否かは誰も知らない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 時枝の緊急脱出(ベイルアウト)。それは予想もしなかった痛手であった。

 

 

「(さすが風間さん。こっちの焦りを利用して一計打たれるとは)」

 

 

 炸裂弾(メテオラ)は風間の姿を隠す助けとなり、カメレオンを使われる隙を生み出してしまう事は百も承知していた。だから、時枝と連携して距離を保ちつつ突撃銃(アサルトライフル)通常弾(アステロイド)で牽制しつつ、あわよくば撃破する様に動いたにも関わらず、一瞬の隙を突かれて相方を討たれてしまった。

 

 

「すまない、三雲君。充がやられた。長く風間さんを足止めする事は難しそうだ」

 

『了解です。でしたらこっちもアレを使います。空閑も隙があったら遠慮なく動いてくれ』

 

『了解だ、オサム』

 

 

 物陰から機を窺っている遊真は次の得物を物色する。狙うは嵐山と相対する風間か修のゲリラ戦法から解放され、風間の援護に向かっている黒江と木虎か。

 三人とも界境防衛機関(ボーダー)を代表するA級隊員。相手にとって不足なし。

 

 

「(隊長の期待に応えなくては)」

 

 

 個人戦ならば幾度も経験はしているが、本部の人間とチーム戦を行うのは遊真にとって初めてである。これは今後行われるランキング戦の予行演習と言ってもよい。ならば、こんな所で後れを取る訳にはいかない。

 

 

「(オサムにはあまり手札を見せるなと言われたが、出し惜しみして勝てる相手でもないよな)」

 

 

 風間達と戦う前に遊真は修から、なるべく自分の実力は見せないように指示をされている。自分は存分に手札をオープンにしている癖に、と思わなくない遊真であるが納得している自分もいる。

 本番は今後のランキング戦。ランキング戦で勝ち進んでA級に昇格し、遠征チームに選ばれること。それが三雲隊の目先の目標であり、最終目標への第一歩。自分の戦法を無暗矢鱈に見せるのは良策とは言えない。分かってはいるが、今の自分がどこまで通用できるか絶好の機会である。

 A級隊員の緑川に圧勝できたから、そこそこ通用できる事は理解しているが、それは緑川が自分と似た様な戦闘スタイルだからこそ。戦闘経験が圧倒的に上である自分が似た様な戦闘スタイルの相手に後れを取る訳はないと多少ながら自負している。だけど、今後はどうだ。相手が風間ならば自分は勝てるか。木虎と黒江の二人と戦って自分は確実に勝ち越せるか。それは戦ってみないと分からない。強者は戦う前から相手の実力を把握できると言われているが、それでも戦いで何が起こるか分からない。戦ってみないと視えない光景も必ずある。

 だからこそ決意する。

 

 

「オサム。俺はキトラとクロエを仕留める。援護を頼む」

 

『いいのか? 風間さんと戦ってみたかったんだろ?』

 

 

 入隊した当初、遊真は風間に言われた。俺と戦いたいならば、まずB級に昇格して見せろと。実際にそんな事を言われた訳ではないが、C級のお前とは闘えないと言われたのは確かだ。なら、今回は絶好の機会。修が尋ねるのも無理はない。

 

 

「カザマさんには後でお願いするさ」

 

『……分かった。なら、二人をこの場所に誘導してくれ。嵐山さん、すみませんが風間さんの相手を引き続きお願いします』

 

『任せてくれ。確りと役目は果たすさ』

 

『準備ができたら、僕の方から合図を出します。空閑、嵐山さん。よろしくお願いします』

 

 

 了解だ、と二人の声が重なる。

 

 ***

 

 

 

「さてと、頑張るとしましょうか!」

 

 

 喝を入れ直し、嵐山は二刀スコーピオンで自身の弾丸を斬りおとし続ける風間を睨む。

 前々から強かった風間であるが、今の風間は自分が知る風間よりも動きのキレが凄まじい。カメレオンを主軸にした戦い方が多い風間であるが、普通に戦っても風間は強い。そんな事は百も承知だ。だからと言って勝利を譲る気など毛頭ない。

 

 

「(俺が風間さんに優れているのは飛び道具がある事のみ。近接戦であの人を制するのは困難。さっきは隙を突かれたが、今度はへまなどしない。木虎と黒江ちゃんの相手を空閑くんがしてくれるならば風間さんとの間合いを徹底する!)」

 

 

 突撃銃(アサルトライフル)の引金を絞りながら、自身の方針を決める。他の隊員よりも鍛錬する時間は限られているが、嵐山も界境防衛機関(ボーダー)を代表するA級隊員。広告塔として動く事は多いが、それでも研鑽を怠ったつもりはない。

 

 

「すみません、風間さん。三雲くんとの勝負は諦めてもらいます!」

 

 

 僅かながら距離を詰めつつも引金を引く事を止めない。距離が縮められると言う事は、それだけ風間へ着弾する時間が短くなる事。いかに風間が優れていようとも突撃銃(アサルトライフル)から射出する弾丸を全て斬りおとす事など不可能。

 しかし、距離が縮まると言う事は風間にとってデメリットも大きいが、メリットも大きい。風間は怒涛の攻撃を凌ぎながら、嵐山に告げる。

 

 

「嵐山。悪いが、押し通らせてもらうぞ」

 

 

 風間が次に取った行動に嵐山は瞠目する。左手のスコーピオンを解除し、新たに生み出したそれは嵐山の思考になかったものだ。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 力一杯叩き付けたトリオンが爆発。舞う粉塵によって風間の姿を見失う。

 

 

「これは!?」

 

 

 この戦法は見覚えがあった。修が使っていた奇襲戦法の一つ。炸裂弾(メテオラ)による煙幕だ。

 

 

「(しまった! まさか風間さんがトリガー構成を弄っているとは考えも付かなかった)」

 

 

 風間の戦法はカメレオンを主体とした奇襲及び手数で勝負する攻撃手(アタッカー)と言う印象が強い。強いというかそれで今までそれで勝ちあがって来た。ここにきて新たな戦法を折りこんでくるなど頭の片隅にもなかった。

 

 

「アイツの真似をするのはどうかと思ったが、お前の様に距離を空けて戦う奴に有効だからな」

 

 

 背後に気配あり。それに気づいて振り向いた直後、嵐山の片腕が宙を舞う。引金を引くよりも早く風間の刃が嵐山の片腕を両断したのだった。

 漏れ出すトリオン。このままではトリオンが枯渇して、戦い続けることは不可能だ。

 

 

「(一度、距離を空けて――)」

 

「俺が逃がすと思ったか」

 

 

 テレポーターで体勢を整える――そんな事など風間が許さない。近距離戦は風間の方が圧倒的に上。尚且つ嵐山は片腕を失っている。今のままでは確実にやられてしまう。

 

 

「っ!」

 

 

 苦し紛れに通常弾(アステロイド)で応戦するも、ギアをトップに入れた風間が臆する訳がない。銃口の向きからいち早く銃弾の軌道を読みとり上半身を逸らす。その状態のまま足を蹴り上げて、嵐山の突撃銃(アサルトライフル)を蹴り飛ばす。

 武器を失った嵐山は即座にスコーピオンを生成。しかし、風間が体勢を整えて嵐山へ斬り付ける方が早かった。

 

 

「(これで――)」

 

 

 嵐山を討つ事ができる。そう確信していた風間の背後に迫る物体あり。修が放ったスパイダーだ。

 

 

「(――来ると思っていたぞ、三雲!)」

 

 

 ここで嵐山を失っては修達にとって致命的でもある。ならば、この場面で指を咥えているはずがない。何かしらの手段を用いて嵐山の援護を行うはずと確信していた。

 修のスパイダーは風間の足目掛けて飛来する。そのままスパイダーの矢じりが命中してしまったら、身動きを僅かな間といえども制限されてしまう。だからと言って風間は嵐山への攻撃を止めない。このまま斬り付ければ確実に嵐山を討つ事は可能だ。

 だからこそ、これは予想の範疇外。先ほど蹴り飛ばしたはずの突撃銃(アサルトライフル)が嵐山の手元に戻ってくるなど、誰が想像できたことだろうか。

 

 

「なんだと!?」

 

「ありがとう、三雲くん!」

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 嵐山がスコーピオンを解除して、手元に突撃銃(アサルトライフル)が戻ってくる方が僅かながら早かった。

 爆発によって支配された二人の戦場から二条の閃光が天へ昇って行った。

 




本当はここぐらいで修羅場ナウは終わらせたかったけど、迅の強化プランとかOSAMUと戦って影響を受けた人達(今回は風間)の戦闘とか、色々と盛り込んだら5000文字ってあっという間ですねぇ。

……って、後書きを書くのも久々かぁ。
書き手の所感とか読んでもつまらないと思いますから、省いていました・・・。

この場を借りて、感想及び誤字脱字報告、誠にありがとうございます。
まあ、誤字脱字が多いとか報告しても直ってないとか言われますが、そっちに手間取るとまたエたりそうなので(オイ


……ほんと、八人も戦場を動かすと文字数が幾らあっても足りない。

これ、アフトクラトル戦はマジでどうしよう。


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SE修【天眼】しゅらばナウ⑥ Over TOP-Ⅱ

 決して油断していた訳ではない。

 緊急脱出(ベイルアウト)で戦場から強制的に離脱された風間は緊急脱出(ベイルアウト)用のベットに身を預けたまま、今回の模擬戦の反省会を簡単ながら行う。

 対戦相手の嵐山の実力は知っている。タイマン勝負では相性的に不利を強いられる事は過去の戦いから十分すぎるほど学んでいる。だからこそ、今回は隠し玉を用意していた。

 必勝パターンのキーマンともいえるトリガー、カメレオンを使う為に創意工夫を重ねてきた風間であるが、真正面からの攻勢では決定打に繋げる強力なカードがなかった。もちろん、チーム戦では色々と事情は変わるが個人戦は仲間の援護は当てにできない。

 だからこそ、今まで愛用していたトリガー構成にテコ入れした。自分の戦闘スタイルを更に昇華するのに必要なモノを考え、今まで使用した事がない射手(シューター)用のトリガー炸裂弾(メテオラ)を選択したのだった。理由は簡単。炸裂弾(メテオラ)ならば最低限のトリオン量で己の身を隠す事ができる。爆発から生じた粉塵に身を隠し、後は鍛え抜いた直感で敵に位置まで近寄り、相手の首を刈り取る。これをチーム戦で実行するには色々と課題が生じるだろう。今回、試した手応えを歌川と菊地原に伝えてみようと考える風間であった。

 

 

「しかし、三雲のやつ。騙し討ちに磨きが掛かって来たな」

 

 

 悔しい事に、修と戦う事はできなかった。しかし、今回の敗因は修の思考を読み逃したと言えよう。最初の奇襲戦で完全にペースを奪われてしまった。天眼の能力を知っているからこそ、一番に警戒しないといけない事なのに、たかがメンバーが変わっただけでこうもいい様にやられてしまった。今回でいかに重要なのか身に染みた風間は動き出しの大切さを徹底しようと心の内に留める事にした。

 あまり長時間反省会に浸っていると勝負が終わる可能性があったので、風間はブースから出る事にした。そこで待っていたのはさっきまで一緒に戦っていた香取と対戦相手の嵐山、そして時枝であった。

 

 

「あ、お疲れ様です風間さん」

 

「お疲れ様です」

 

「……お疲れ様です」

 

 

 いち早く気付いた嵐山に続いて時枝が、最後は不満げな表情を隠さない香取から声を掛けられる。

 

 

「ああ。……嵐山。ますます時枝との連携に磨きがかかったな」

 

「いえ。今回は風間さんにしてやられました。鍛錬を怠ったつもりはありませんが、今回で己の力量不足を痛感させられました」

 

 

 それを知る事ができたのは風間さんのおかげです。ありがとうございました、と深々と腰を曲げる。その対応は予想外であったため、風間は眼を豆粒のように点とさせる。

「それを言うなら、僕もです。咄嗟の起点で動いた風間さんに僕はまったくと言っていいほど対応できませんでした。これでは賢に強く言えませんね」

 時枝も嵐山と同じ様にお礼を述べる。

 

 

「……頭を上げろ。そもそも事の発端は俺達にある。お前達が頭を下げる理由はない」

 

 

 経緯は兎も角、嵐山隊の二人は止める側だ。二人が自分達を咎めるならばまだしも、礼を述べられるのは筋が通らない。これでは風間自身は嵐山隊の二人に指導したように見えてしまうだろう。

 

 

「それよりも香取」

 

 

 居心地が悪くなった風間は話す相手を香取へ移す。

 

 

「……なんですか?」

 

「悪かったな。三雲と戦いたかったのに邪魔をして」

 

「いえ、大丈夫です」

 

「だが、以前と比べると周りをよく視える様になった。空閑のあれは今後気を付ければいい。テレポーターを使う相手は初めてだろ」

 

 

 香取隊との闘いでは良ければ思い切りがよく、悪ければ隊との連携を無視して一人で突っ込んでいる印象が強かった。それは今でもあまり変わりないかも知れないが、相手と周りの動きに合わせて動いている節があった。連携の精度を高めていけば、今後の香取隊が飛躍するのも夢ではないと評価する。

 

 

「……ありがとうございます」

 

 

 先輩に対して強くは言えないのだろう。香取も自分の事を評価していただいた風間に対して礼を述べるものの、それでも「アタシは不満です」と不満げな表情は崩さない。

 

 

「それで、嵐山。お前達の作戦だが、今回の三雲達はチーム戦を見据えたものなのか?」

 

「それもあると思いますが、三雲君的には新しいこころみを試すいい機会と言っていました」

 

「……それは例の変化するスパイダーですか?」

 

 

 空閑と黒江、そして木虎の戦いを注視していた香取が口を挟む。それに答えたのは時枝であった。

 

 

「違うよ。三雲君が試したいのは別のやつ。彼が言うには使うのに時間がかかるようだからね」

 

「あれ以外にまだ隠し玉があると言うのか?」

 

 

 戦う度に色々と勝つ為のネタを用意してくるとは思ってはいたが、今回は二つも用意しているとは流石の風間も考え付かなかった。それは香取も同じこと。彼女は「はぁ!?」と声を上げて時枝に詰め寄る。

 

 

「あの陰険メガネ。あれだけでも苛立つのに、まだ何か企んでるの!? なにそれ。いったい今度は何になるつもりなのよ!」

 

 

 なにになるつもり。その言葉の意図を測りかねていた三人は互いに視線を送って「どういう意味だ?」と確認し合うが、答えは「分からない」であった。

 

 

「ま、まぁ。その答えはもうすぐ分かるんじゃないかな。ほら、空閑君が動き出した。もうすぐはじまると思うよ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 風間の失墜。それはチーム風間の戦力が大きくダウンした事を意味する。しかし、敵もあと二人。目の前でグラスホッパーによるピンボールで撹乱する空閑さえ倒せれば、木虎と黒江は念願の修とのリベンジを果たす事ができる。

 しかし、相手は強敵。自分達は界境防衛機関(ボーダー)が誇るA級に加え数的にも有利に関わらず、空閑の動きを完全に捉えきれずにいた。

 

 

「(これが駿に圧勝した空閑先輩の動き。駿と動きが似ているようで、全く違う)」

 

 

 近寄る空閑に対して弧月を振るうものの、遊真は黒江に対して攻撃するどころかグラスホッパーとテレポーターで攻撃を躱すだけで一向に反撃して来ない。

 

 

「(キトラが狙っているからな。下手に攻撃は出来ない)」

 

 

 黒江の隙を見計らって攻撃を繰り出したい所であるが空閑はそれが出来ない。常に黒江の背後に回ってフォローする木虎が拳銃(ハンドガン)で狙っている。機動力では敵わないと踏んで射撃で黒江を援護する動きを「さすがはA級」と空閑は称賛を送る。

 

 

「(私を狙って来ない。空閑君がその気になればいつでも襲う事ができるのに、それをしない? なぜ? ……もしかして、私達は誘われている?)」

 

 

 遊真の動きに違和感を覚える。それに気掛かりなのは遊真の動きだけではない。

 

 

「(それに三雲くんの支援が止まっている。トリオン切れ? いえ、スパイダーだったらいくらトリオン量の少ない三雲君でもまだ使えるはず。それを使わないってことは……)」

 

 

 思考を加速させる。今回の戦いは完全に後手に回り続けている。風間が驚異の二キルを成功させたとはいえ、中身を見れば完全に後れを取っているのは明らかだ。

 

 

「戦いの最中に考え事とは余裕だな」

 

 

 考えに夢中になってしまったようだ。僅かながら動きが緩慢となっている木虎を遊真は見逃さない。黒江の斬撃をテレポーターで躱して木虎の背後に回り込む。

 

 

「しまっ……」

 

 

 咄嗟にシールドを貼るが、遊真のスコーピオンは木虎の右足をもぎ取っていく。

 

 

「(よし。次は――)」

 

 

 次の行動に移し出す空閑であったが、死角から迫る閃光によって右腕を食い破られる。

 

 

「……やっと一撃をいれられました」

 

 

 韋駄天。黒江の高速移動による斬撃がようやく空閑を捉えたのである。

 

 

「っと」

 

 

 被弾。漏れ出すトリオン粒子と失った右腕を見るなり、直ぐに二人から距離を空ける為にグラスホッパーを生成。

 けど、木虎と黒江の動き出しも早かった。これは遊真を倒す絶好の機会。

 黒江は再び韋駄天を使って高速移動に移る。逃がすつもりはない。このまま退場願おうか。黒江の高速斬撃が遊真に迫る中、遊真はグラスホッパーを踏まず、姿を消す。

 

 

「そう何度も同じ手は喰らわないわよ!」

 

 

 振り向く事無く拳銃(ハンドガン)を背後に向ける。

 

 

 

 ――スパイダー

 

 

 

 銃口からスパイダー特有の矢じりが飛出す。その先にはテレポーターで移動した遊真の背中があった。

 

 

「っ!?」

 

「テレポーターなら、嵐山さん達の動きを何度も見ているわ!」

 

 

 直ぐにスコーピオンで背中に刺さるスパイダーのワイヤーを切断するが、その僅かな間に黒江は遊真の間近へと詰め寄っていた。

 しかし、それを阻む障害物が上空から落ちてくる。修のレイガストだ。スラスターによって加速されたレイガストは地面に突き刺さり、黒江の斬撃の軌道を逸らす事に成功。

 

 

「サンキュー親友!」

 

 

 レイガストにグラスホッパーを貼りつけ、韋駄天の効力を失った黒江へ向けて跳ぶ。

 ここで修の支援がくると思っていなかった黒江も直ぐに思考を切り替える。韋駄天の軌道を設定している暇はない。回避するにも瞬発力は遊真の方が上。どっちへ逃げてもきっと回り込まれてしまう。

 

 

「(だったら――)」

 

 

 選択は迎撃一択。黒江は最大の攻撃で遊真を迎え撃つ。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 振り向き様の旋空弧月は遊真の上半身と下半身を一刀両断する事に成功。勝った、と勝利を確信した束の間、遊真のスコーピオンが黒江の首を刎ねていった。

 

 

「え?」

 

 

 それは一瞬の出来事。攻撃を受けた黒江もなんで首を刎ねられたのか分からなかった。

 遊真が緊急脱出(ベイルアウト)するのに続き黒江も緊急脱出(ベイルアウト)を余儀なくさせられる。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ここで空閑隊員及び黒江隊員が緊急脱出(ベイルアウト)! 空閑隊員! 意地を見せました。A級隊員二人に対して快挙と言ってもいいでしょう! しかし、最後のあれはスコーピオンですか?」

 

「スコーピオンですね。しかも透明度を限りなく上げたスコーピオン。さしずめ見えない斬撃。それに加えて足りない距離を、スコーピオンを付け足すことでカバー。一瞬であそこまでできるなんて驚きです」

 

 

 一目でそこまで看破出来た那須も凄いと思う桜子であるが、実況を優先する彼女はそれを口にしなかった。

 

 

「さあ、ついに。ついにこの戦いも幕が下ります! 長かった。具体的に言うと一年以上の時間が経ったような気がします!」

 

「桜子ちゃん。何言っているの?」

 

「これは失礼しました! さあ、残るは片足を失った木虎隊員とこれまで姿を眩まし続けている三雲隊員。この二人が激突するのは何話ぶりでしょうか!」

 

「だから桜子ちゃん。何を――」

 

「実力は木虎隊員が上! けど、ここまでのシナリオは恐らく三雲隊員の思惑通り! さあ、もう私は驚かないぞ。最後の戦いがいま始まります」

 

 

 

 ***

 

「っ」

 

 

 してやられた。遊真と黒江の緊急脱出(ベイルアウト)の光を見上げながら、木虎は苦虫を噛み締める。

 まさか、あそこで修の邪魔が入るなんて思ってもみなかった。いや、思わなければいけなかった。相手はどこにいても正確に状況を確認できる視野を持っている。味方が危機に陥れば援護を出すのは当然だ。隙を突かれ、遊真を迎撃することばかりに考えが至ってしまった自身の未熟さを悔まずにいられなかった。

 

 

「けど――」

 

 

 木虎は失った片脚にスコーピオンを生やして立ち上がる。久方振りに使った足ブレードによる感覚を思い出しながら、木虎は目先に立つ相手を睨み付ける。

 

 

「ようやくお出ましね、三雲君」

 

「……木虎」

 

「変化するスパイダー。あんな隠し玉を用意するなんてね。けど、空閑君はいない。嵐山隊長や時枝先輩もいない。あなたを護る人達はいなくなったわ。さあ、大人しくその首を捧げなさい」

 

「ごめん、木虎。それは出来ない。僕の我儘に付き合ってくれた三人の為にも――」

 

 

 木虎の周囲から無数の弾丸が飛出す。

 同時に両腕にトリオンキューブを生成――合成。二つの弾丸を一つへ合成したトリオンキューブを木虎へ向けて放り投げる。

 

 

「――ここでキミを倒すよ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 新スタイルを確立しつつある迅は両ひざと両手を地面に着かせる。普段は見せない程疲れ切った顔付で両肩を上下させ、乱れた呼吸を整え始める。

 

 

「……少し休憩しよう」

 

 

 フルアームズを解いたレイジが休憩を提案する。彼の後ろにいた二人――ガイスト状態の京介と戦斧状態の双月を肩に担ぐ桐絵――も賛同した。

 

 

「だいぶマシになって来たな、新しいスタイル」

 

「ハハ。けどまだまだ。刃を三つも設定した動きがまるでなっていない。あれじゃ、折角の弧月とスコーピオンを同時に入れた意味がなくなってしまう」

 

「やっぱ、三刀流よ。三刀流! これみたいに弧月を口にくわえるのがベストよ!」

 

「小南先輩。迅さんまでマンガの真似事をさせようとするのはやめてください。ちょくちょく修にマンガ技を勧め様としているの、知らないと思っているんですか?」

 

 

 スコーピオン二刀に弧月の組み合わせを聞いた桐絵がはしゃぎ、それを嗜める京介。

 そんな二人の事は無視して、レイジは迅に話し続ける。

 

 

「そう言えば、気になったのだが、三雲が編み出したもう一つの弾って何だ?」

 

「あー、あれ? んー。なんて言ったらいいのかな。……さしずめ、騙し討ちに特化した弾丸かな?」

 

 

 あの時の事を思いだし、迅は苦笑いする。

 それは修が最初に考案して練習していた技であった。しかし、修のトリオン量では決定打を与える事は勿論のこと、それを相手に当てるだけの戦法がなかった。

 だからこそ、それを支える為に生み出したのが変化するスパイダーだ。変化拘束弾(バルーニング)とそれを使う事で修に対する注目度が更に上がるだろう。

 

 

「(普通考え付かないだろうな、あれ。通常弾(アステロイド)の弾丸設定を個別で設定させようとするなんてな)」

 

 

 ちなみにその弾丸の正体を宇佐美は知っている。何せ変化拘束弾(バルーニング)と命名したのも彼女なのだから。

 バルーニングとは複数の意味を持つ。

 一つは熱気球で飛行すること。一つは飛行機等が着陸する時に反動で機体が浮き上がり、飛行状態になること。もう一つはクモの幼虫が、糸を風に乗せて空を飛ぶ事を意味する。

 宇佐美の提案に納得顔を浮かべた修はその名前を有り難く貰うようにしたのであった。

 そして、補助の為に生み出された変化拘束弾(バルーニング)に対し、相手のトリオンを奪う目的の為に生み出された弾丸の名を宇佐美はとある生き物の名前を送る事にした。

 

 

 

 ――バジリスク




やっとここまで来たかぁ。
ほんとはもっとテンポよく書きたいところですが、原作にないことをするって下手に文章を減らすと書くこっちがわけわからなくなるんですよねー。


さて、オリジナルは極力出さないと言いつつも結構出たなぁ。

けど、透明度を上げたスコーピオンは弧月の刀身の色を変更できるなら、これはこれでありでしょ? え、ダメ?

そして、最後に出てきたバジリスクも原作の設定を混ぜ混ぜしたものになります。
あえて横文字だけにしたのはネタバレ防止? ですね(苦笑

修羅場ナウ――修羅場になっているのか?――も次で戦いは終わりにしようと思います。


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SE修【天眼】しゅらばナウ⑥ Over TOP-Ⅲ

 修は常に自分が強くなる方法を模索していた。目的を果たす為には強くならなけらばならない。強くならなければA級に昇格出来ない。昇格出来ないと言う事は遠征組に選ばれる可能性は絶望的。目標を達成するためにはどうしても自身の実力を上げなければならない。

 天眼が戦いに有効と知ってから、自身が想像以上に戦える事を知ったが、それでも足りない。強化視覚の天眼があるからと言って修自身が無敵な存在になった訳ではない。周囲の人達と比べると欠点だって数え切れないほどある事は自覚している。

 真先に思い浮かべる問題は自身に内包しているトリオン量の少なさ。どれほど実力を上げようとこの問題だけは終始付きまとう。修にとっては永遠の課題と言えよう。

 そして次にあげられる問題は火力の無さ。射手(シューター)にも関わらず火力がないのは致命的ともいえる。先達の射手(シューター)達と戦った身として痛感させられた。自身では総攻撃(フルアタック)をした所で、致命的なダメージを与えられる可能性が少ないと。天眼を併用して騙し討ちをすれば通用する事は知っている。それは今までの戦いが証明している。しかし、しかしだ。騙し討ちを封じられ、正々堂々と真正面から戦ったら圧倒的不利な戦いを強いられてしまう。

 だから必要なのだ。修だけの、修だからこそ可能な総攻撃(フルアタック)が。

 

 

 

 ***

 

 

 

 四方八方から飛び出す弾丸。

 それに加えて上空から狙い澄ませてくる修の変化拘束弾(バルーニング)。完全に囲まれてしまった事に木虎は「やはり罠だったか」と遊真に釣られた自分自身の安易な行動を恥じたが、悠長に考えている時間はなかった。

 地を這う修の置き弾が木虎を狙って放たれているのだ。受け止める事は簡単。しかし、動きを止めたら上から狙っている修の変化拘束弾(バルーニング)に捉えられてしまう。

 

 

「(彼の通常弾(アステロイド)なら、多少ダメージを受けても軽微なはず。なら、いま警戒しなくてはならないのは上!)」

 

 

 多少のダメージよりも身動きを封じられる事を嫌った木虎は銃口を近くの建物に向け、スパイダーを射出させる。そのまま巻き取って自身を矢じりが突き刺さった建物の壁まで移動する。

 しかし、ここで信じられない事が起こった。

 

 

「(なんですって!?)」

 

 

 声に出さなかったが、木虎が驚くのも無理はない。曲がったのだ。修の置き弾が移動した先の壁に向かって。

 直ぐに木虎はスパイダーを再度使用して移動する。しかし、移動した先にも置き弾と変化拘束弾(バルニーング)が襲ってくるのだった。

 更にスパイダーを使用して地面へ着地。そこにも修のトリオンキューブが待っていましたと言わんばかりに飛来してくる。

 

 

「(どう言うこと!? 置き弾が曲がるなんて。そんな設定ができるはずがない。それにあまりにもタイミングが良すぎる)」

 

 

 タイミングよく弾丸が射出される。その自問に木虎は一つの推測を立てた。

 

 

「(まさか、既に発動させているの!?)」

 

 

 

 ──副作用(サイドエフェクト)完全機能(パーフェクト・ファンクション)

 

 

 

 二秒先の未来を視る事ができる迅のサイドエフェクトの下位互換版。下位互換と言えども、たった二秒先と言えども、それは脅威と言える。自分が回避した先に弾丸を先回りして放つ事は可能だ。

 けど、それだと説明できない事があった。置き弾だ。リアルタイムで弾丸の軌道を設定できる変化弾(バイパー)の性質を持つ変化拘束弾(バルーニング)ならば可能だろう。しかし、置き弾はそうはいかない。既に設定された弾丸を再設定する事は機能的に不可能だ。ならば、変化弾(バイパー)を置き弾として活用したのか、と更なる推論を立てるが、それこそありえないと一蹴する。

 変化弾(バイパー)の弾丸の軌道を設定する機能を活用すればそれも可能かも知れないが、だとしたらタイミングが全て同じはず。タイミングを計る様に大きく弧を描くような軌道で宙を舞う弾丸は一発も確認できていない。

 

 

「(いったい、どんな魔法を使ったの。三雲君っ!?)」

 

 

 修は未だに動きを見せない。ただ、自身が弾丸と戯れている姿をただ黙って見降ろしているだけ。その姿に木虎は怒りを覚えるのであった。

 

 

「(高みの見物とでも言いたい訳!? 上等よ。こんな弾丸など──)」

 

 

 否。弾丸だけではなかった。自身が立つ場所に影が差す。その正体を確認する為に上空を見上げると、変化拘束弾(バルーニング)によって地面へ引っ張られている電柱であった。

 

 

「っ!?」

 

 

 まさかのトリオン体への非トリオン攻撃。トリオンによる攻撃以外でトリオン体に傷がつく訳ではないが、木虎は咄嗟に身を翻して躱す。例え、トリオン体に傷がつかないと分かっていても危機的状況に自然と身を護る行動を取ってしまうのが生物としての当然の反応。

 その先へ向かって一発の置き弾が射出される。それを見て確信した。三雲修が使っている弾丸の絡繰りを。

 

 

「(時限式!? そんな事ができる弾は通常弾(アステロイド)だけ。しかし、この弾も──)」

 

 

 当然曲がる。子供が描く雷の様に折れ曲がる弾丸を木虎は足ブレードで斬り捨てる。

 

 

「……そう言うこと。通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)の合成弾。それを置き弾として使った訳ね!」

 

「ご名答。……いまので決めるはずだったんだけど、さすが木虎だな。総攻撃(フルアタック)を凌ぎ切るなんて」

 

「あなたの総攻撃(フルアタック)なんて、出水先輩達に比べたら全然怖くないわよ」

 

「……そうだね。木虎の言うとおりだ。出水先輩達のと比べたら僕の総攻撃(フルアタック)なんて児戯に等しいかもね」

 

 

 木虎の言うとおり、自分の総攻撃(フルアタック)が敵の脅威にならない事は知っている。迅に試した時も驚かれただけで、結局のところは全て凌がれてしまったのだ。決定打を与える切札を修は持たない。だからこそ、全てのカードをどのような場面でも利用できるように汎用性を高めなければいけない。

 

 

「さぁ、三雲君。小細工はここまでよ。使っていないなら今すぐ使う事をお勧めするわ。完全機能(パーフェクト・ファンクション)を──」

 

 

 修へ切札を切っていないならば、使う様に忠告する。

 巻き込まれた立場にある自分であるが、このような千載一遇な機会を逃す手はない。修の全力を自身の全力を持って叩き潰し、どっちが強いか今こそ証明してみせると息巻くが──修が唐突に片膝を突く姿を見て既に天眼酔いが始まっている事を理解してしまう。

 

 

「──と言いたい所だけど、勝負あったわね。今の貴方を倒した所で意味はないわ。大人しく緊急脱出(ベイルアウト)しなさい」

 

 

「余裕だね。こっちはまだ、手札を全て使い切っていない!」

 

 

 

 ──グラスホッパー

 

 

 

 残り少ないトリオン量でグラスホッパーを足元に生成。何をするかと警戒した木虎に対し、人間の頭ほどしかない壁の破片を投石したのだった。

 それを見て木虎の沸点が下がる。そんな攻撃でどうこうできると思われている事に腹が立って仕方がなかった。

 

 

「いいわ! だったら、これであなたの首を刎ねてあげるわ!」

 

 

 投石された壁の破片を修の首に見立てて足ブレードを蹴り放つ。一刀両断された直後、破片の奥から散開するワイヤーが木虎の体に絡み付く。

 

 

「言ったはずだ。まだ手札は使い切っていないと」

 

「だから何よ。こんなスパイダーなんてスコーピオンで」

 

 

 

 ──時限式変化弾(バジリスク)

 

 

 

 再び木虎の周辺から無数の弾丸が飛翔する。

 

 

「なっ!? 置き弾はさっきので最期じゃなかったの!?」

「弾丸を可能な限り細分化させていた。この時限式変化弾(バジリスク)は万が一避けられた場合の保険だよ。その分、攻撃力は下がるが今の木虎ならこれで充分倒せるはずだ」

 

 

 修の言うとおり、今の状態でこれほどの攻撃を受ければトリオン体を維持し続ける事は難しい。急いで体に絡み付くスパイダーのワイヤーを切断しようと躍起になるが、それよりも早く修の刺客が木虎へ流れ込んで行った。

 これで勝負は修の勝利と行く末を見守っていた観客達は思った事であろう。しかし、木虎はスパイダーのワイヤーを斬る事を諦め、咄嗟に別のトリガーを発動させていた。

 

 

 

 ──両防御(フルガード)

 

 

 

 木虎が張った障壁により弾かれる修の時限式変化弾(バジリスク)。手数は多くても修の時限式変化弾(バジリスク)が木虎のシールドを突き破る事はなかった。それは当たり前。修が放った時限式変化弾(バジリスク)は弾速と飛距離にステータスを割り振っており、威力は通常の五分の一にも満たない。スパイダーで身動きを封じてからの総攻撃(フルアタック)の弱点が周囲に露呈した瞬間であった。

 時限式変化弾(バジリスク)が全てなくなったのを見計らい、両防御(フルガード)を解除する木虎はドヤ顔で吐き捨てる。

 

 

「言ったはずよ。小細工はここまでって」

 

 

 両腕にスコーピオンを生やし、拘束しているワイヤーを切除。自身の体が自由になったのを確認し、失った足にスコーピオンを生やし、決着をつけるべく歩み出す。

 けれど、そこまでだった。木虎の歩みは第一歩で止まってしまう。軽い衝撃を感じ、歩みを止めた木虎はその原因が生じた心臓部へ視線を移す。

 

 

「……な」

 

 

 漏れ出すトリオン粒子。いつの間にか木虎のトリオン体に小さな風穴があいており、その風穴を始点として亀裂が生じていく。

 

 

「僕も言ったはずだ。まだ使い切っていないって」

 

 

 

 ──緊急脱出(ベイルアウト)

 

 

 

 小さな風穴から亀裂が生じた木虎のトリオン体はその姿を維持する事ができなくなり、緊急脱出(ベイルアウト)が強制的に発動されてしまう。

 その直後、修のトリオン体も徐々に色あせていき、木虎と同じように緊急脱出(ベイルアウト)が発動されてしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「こ、こ、これは……。まさかの引分け!? 再び行われた木虎隊員と三雲隊員の勝負は引分け! しかし、三雲隊員は一度も被弾したようには見えませんが、これは一体」

 

「恐らくトリオン切れでしょう。慣れない合成弾を何度も使っていますし、支援の為に多くのトリオンを消費したと思います」

 

「三雲隊員はトリオン量が低いのは知っておりますが、そこまで消費量が激しいものなんですか?」

 

「それは分かりませんが、最後の変化する置き弾の弾数から見ても、彼が許容できる弾丸数を大きくオーバーしていると思います」

 

「最後のあれですね? 置き弾式の変化弾(バイパー)。一見、誰もが思いつきそうなものですが、使っている人は見ませんね」

 

「当然ですよ。変化弾(バイパー)は設定した軌跡を描く弾丸。その場に留める続ける事は出来なくないけど、その後の軌道はリアルタイムで設定し直さないといけません」

 

「え? しかし、三雲隊員のあれは……変化弾(バイパー)じゃないんですか?」

 

変化弾(バイパー)の性質を持つ弾丸であることは間違いありません。けど、射出するタイミングと弾速と飛距離。その三点を見る限り通常弾(アステロイド)の性質も持っている様に見えますね」

 

「つまり変化弾(バイパー)通常弾(アステロイド)の合成弾? そんなの成り立つんですか?」

 

「成り立つから、木虎隊員は最後の最後に置き弾を背後から浴びてしまったようね」

 

 

 次から次へと情報が頭に流れ込んできて、桜子の頭から小さな湯気が立ち上っていく。彼女からしてみれば変化拘束弾(バルーニング)だけでも充分驚愕する出来事にも関わらず、風間の炸裂弾(メテオラ)の使用。初めて見る遊真の戦闘能力。それに加えて変化する置き弾と来たものだ。

 もはや桜子の頭はオーバーヒート気味。「もうやめて。桜子のライフはもうゼロよ」と強く言いたい所であるが、実況者としての誇りが許さない。

 

 

「さて……」

 

 

 立ち上がる那須。彼女に「どうしました?」と聞くと。

 

 

「私も射手(シューター)だもの。彼のあの弾丸に興味がないと言えば嘘になるわ。ちょっと仔細を訊いて来るわ」

 

 

 そう言うなり、那須は覚束ない足取りで遊真たちの元へ歩み寄る修へ向かう。

 その後、更なる修羅場が待ち受けているのだが、修が天眼酔いによって倒れた事によってあっけなく終幕を告げる。

 その後、燻った修羅場の火の粉が迅の元へ飛び火するとは彼のSE(サイドエフェクト)でも予想する事はできなかったであろう。

 

 

 

 ***

 

 

 

 後日。

 

 

「はぁ!? アイツに時間を与えたからこそ、あんな変態的な弾丸トラップに掛かったんでしょ! 陰険メガネに勝つなら速攻あるのみよ」

 

「香取先輩。それで空閑君にやられたのを忘れたんですか? そんなんではランキング戦でも三雲君達にいい様にやられてしまいますよ」

 

「なんですって!!」

 

 

 バチバチ。ぶつかり合う火の粉。その火の粉を放つ二人こと木虎と香取はいがみ合いながらも、自分達の模擬戦の過去ログを見ながら「あーでもない」「こーでもない」と白熱しあう。

 

 

「もうやだ。なんで俺、また対三雲会議に巻き込まれてるの」

 

「そりゃあ、迅が事の発端なんだろ、あの三雲の弾丸は。ったく、防衛任務がなけりゃ俺も参戦したのによ」

 

「太刀川。俺が言うのもなんだが、お前は自重しろ」

 

「なんだよー。風間さんだって三雲とやりあったんだろ! 俺だって天眼三雲とやりあいたいんだよ」

 

「それについては充分反省している。……それで迅。まだ三雲に何かしら吹き込んでいるなら、今すぐ言え」

 

 

 いつの間にか太刀川隊の隊室に集まっていた一同の視線が迅へ集まる。

 

 

「吹き込んでいるとは人聞きの悪い。俺だってあの弾丸を喰らって落ち込んだ一人ですよ」

 

 

 肩を竦めて「心外だ」と反論するものの、皆の目線が彼の言葉を信用していない事を物語っていた。

 

 

「……まあまあ、せっかく迅もいるんだ。ここいらで対三雲についておさらいしておこう。今回から参加している木虎と香取も遠慮なく意見を言ってくれ」

 

 

 場を纏めだした東の言葉に「了解」と全員は答える。

 

 

「とほほ。……もう関わらないと思っていたのに、恨むよメガネくん」




以上をもちまして、修羅場ナウは(強制的)終了です。
いや、ホント長かったな。おそらく、書いた当初と今回で持っていく方針は全然違っていたんだろうなぁ。


……さて、もうやれることはやった。次こそはアフトクラトル戦だ。
これについてはどうするか迷っているところです。

アフトクラトル戦を丸々書くか、戦闘の場面のみ書き綴るか。
うーむ。


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IF章:妄想劇場
SE修【天眼】VS麟児


IFと言うか妄想劇場です。
誰か、こんな話を書いてくれませんかね。

速攻でお気に入りするのに……。

※これはあくまで妄想です。原作と色々と異なる箇所が多々あります。
 それが苦手な方はおすすめいたしません。……って、今更言っても遅いかな?


 運命とはなんと残酷なのだろうか。

 三雲修は今回ほど運命の女神を呪った事はなかった。

 

 

「……久しいな、修。元気そうで何よりだ」

 

「麟児さん。……なぜだ。なぜ、あなたが!? こんな所で何をしているんですか!!」

 

 

 怒りの形相で目先にいる探し人に吼える。三雲修を知る人間がこの場にいたら目を丸くしたことであろう。それだけ、修が本気で怒鳴りつける事は珍しいのだ。

 だがしかし、修が激昂するのも致し方がないだろう。修と麟児が相対する舞台は神の国アフトクラトル。

 親友と大切な者を護る為に一人アフトクラトルに残った修を追い掛けて来た刺客の正体は探し求めていた者が一人、雨取麟児であった。

 普通ならば再会に歓喜する所であるのだが、麟児の頭部に赤いトリガー角が装着されている。それが何を意味するかバカな人間でも分かる事であろう。

 

 

「……千佳は一緒ではないのか?」

 

 

 辺りを見回して、この場に修しかいない事に不思議と思ったのだろう。尋ねられた修は麟児に「みんなでしたら帰還しました」と簡潔に告げるのだった。

 

 

「自分を犠牲にしてお前一人だけ残ったのか。……相変わらずだな、修。だが、愚かだ!」

 

 

 天眼が危険を察知する。地面を伝って何かが己に向かって来ているのを。

 

 

「っ!?」

 

 

 修は下から強襲してくるそれをギリギリな所で躱すのだが、その隙を突いて麟児は更なる攻撃を放つのだった。

 

 

「上手く躱したな修。なら、これならどうだ!」

 

 

 麟児の右手が文字通り崩れる。その現象はボーダーの記憶で見た事があった。

 これはアフトクラトルが大規模侵攻の時に使用していたブラックトリガーの一つ。

 名前は――。

 

 

「食らいつくせ、泥の王」

 

 

 

 ――泥の王、ボルボロス。

 

 

 

 千変万化。変幻自在な攻撃性能を持つ【泥の王】が修の戦闘体を食らいつかさんと襲い掛かる。四方八方から繰り出される泥の斬撃が容赦なく繰り出されるが、天眼を持つ修に死角などない。全ての斬撃を複眼で捕捉し、強化視覚で体感時間を限りなく遅くまで落とす。浄天眼で地中からの奇襲を警戒しつつ、全ての凶刃を避けきってみせた。

 

 

「……っ」

 

 

 しかし、無傷と言う訳にはいかなかった。全方位から放たれた泥の斬撃を完璧に回避する事は不可能と判断した修は最低限のダメージを覚悟して最小限の動きで回避行動を行ったのだ。そうでなければ、隙を窺って必殺の一撃を放たんとする麟児に絶好の機会を与えてしまうのだから。

 

 

「驚いたな。領主からサイドエフェクト持ちである事は知っていたが、ここまでとは……」

 

「……知っていた?」

 

「俺の主はお前も戦った事があるハイレイン様だ。この【泥の王】はミラ様から頂いたモノだ」

 

「何を……」

 

「修。俺と一緒にハイレイン様に仕えよう。お前のその眼があれば、ハイレイン様の力となること間違いない。俺が口添えしてやるから、大人しく――」

 

「――何を言っているんだ、麟児さん! 貴方がいなくなって千佳がどれほど悲しんだ事か、どれだけ悔しかったか分からないんですか! 貴方は! 千佳の為に近界へ行ったんじゃないのかよ。それがなんだ、この有様は!!」

 

 

 悔しかった。許せなかった。今の恩師の姿を目の当たりにして、修はかつてないほど怒りを抱かずにいられなかった。

 

 

「……もう一度言う。修、俺と一緒に――」

 

「――それは僕の台詞だ、麟児さん。一緒に千佳の下へ帰りましょう」

 

 

 返答は泥の斬撃であった。それが意味する答えは否定であった。麟児が自分の差出した手を払いのけ、自身に襲い掛かると知って――力を抑えていた天眼を全開にさせる。

 

 

「麟児さん。あなたは……あなただけは、僕が必ず取り戻す!」




はい、妄想劇場その①です。

麟児さん、ラスボス説を書いてみたり……。


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SE修【天眼】お見合い劇場

妄想が大爆発しました。本編とは全く持って何の関係もありません。
活動報告に入れたのですが、場違いだと思ったのでこちらに入れなおします。

……こんな妄想で更新するな、と思った方は感想のほうにクレームを(ェ

ちなみに、修が20歳になった時の妄想話です。


 

 --サイドエフェクトは遺伝するものだろうか?

 

 事件は何気なく呟いた唐沢の一言から始まった。

 

 

 

「僕にお見合いですか!?」

 

 

 上層部から召還を受けた三雲修はボーダーの最高指令である城戸から通達された命令に驚きのあまり、椅子から転げ落ちてしまった。

 

 

「な、何かの冗談ですよね?」

 

 

 隣の席に座っていた迅から差し出された手を取って立ち上がった修は聞き間違えであることを期待して聞き返すのだが。

 

 

「既に他のサイドエフェクト持ちには通達してある。玉狛支部の君達も例外なく見合いを受けてもらう」

 

 

 修の淡い期待は木っ端微塵に粉砕されてしまった。

 

 

 

 

***

 

 

 

「三雲君。あなた、お見合いをするそうね。私は興味ないのだけど……相手はどんな人なわけ?」

 

 

 真先に聞きつけた木虎に強められるが「極秘任務だから言えない」と言い返すと、その後は木虎に話しかけても無視をされる始末。

 

 

 

***

 

 

 

「修。お前は千佳が好きじゃなかったのか!? お見合いなどする必要はない。お前には千佳がいると上層部に言うべきだ!」

 

「に、兄さん!?」

 

 

 玉狛に戻るなり、苦労して取り戻した麟児に詰め寄られる。そんな兄の暴言に赤面した千佳は小南が愛用しているハリセンで突込みを入れた。

 その後、妙に余所余所しい態度を見せる千佳に修の冷や汗の量が増加するのは言うまでもない。

 

 

 

***

 

 

 

「修君。今度両親に会ってもらいたいんだけど、都合のいい日ってないかしら? その、お見合いをする前にしてくれるとうれしいのだけど」

 

 

 射手会の後、食事に誘われた那須の大胆発言に天眼が大暴走。修の視界に会うor会わないの選択肢が出現した。思わず「ギャルゲーかよ」と突っ込まずにいられなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「あんた、私を差し置いてお見合いとか生意気よ。私に負けたらそんな話など直ぐに断りなさい!」

 

「むちゃくちゃですよ、香取先輩!?」

 

「葉子と呼びなさいって言っているでしょうが!」

 

 

 理不尽な因縁をつけられた香取と30連戦の模擬戦を強制的にさせられ、もはや修の胃は限界を突破する。

 

 

 

***

 

 

 

「修。支部長さんからお話が来たのだけど、あなたってお見合いをするつもりなの。……あなた、そこまでお父さんと似なくてもいいのに」

 

「ちょっと待って、母さん。僕は修みたいにフラグなんか立てた記憶はないよ。建てたのは橋であって……」

 

「……あの子達の苦労が目に浮かばれるわ」

 

「ちょっと母さん。聞いている!?」

 

 

 

***

 

 

 

「メガネくん。この選択肢によって君の未来が確定しちゃうから、よーく考えるんだよ。俺のサイドエフェクトがそう言っているから。……何なら、俺と付き合っちゃう?」

 

 

 迅のボケをボケとも思わなかった遊真によってボコボコにされる未来は見えなかったのだろうか。

 

 

 

 

 

 さぁ。あなたはどんな未来をお望みで?




天眼の設定を真似ていいですから、こんなお話を誰か書いてくれませんかね?

やっぱ、無理かな。


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第1章:始動! サイドエフェクト・天眼
SE修【天眼】性能一覧&おまけ 【NEW】18/01/14


あらすじに書いてあった性能はここに記載します。
限定公開? そんなの人を集めるうそに決まっているでしょ(ドヤ

ごめんなさい、おまけを入れますので許してください。


【 天  眼 】【 てんがん 】

 

 詳細:正式名称は強化視覚。修の視覚情報を極限まで高めたチート能力である。

    ただし、本来修が内包しているトリオン量の八割を強制的に消費してしまう。

    また、使いすぎると乗り物酔いみたいに頭痛と吐き気に襲われる。

    連続使用時間は不明。ただし、使い続けることで徐々に伸ばすことが可能。

    修が成長するたびに天眼もまた成長する。

 

 追記:最近になって、全ての効力の出力を調整する事が可能になる。

    しかし、完全に効力を消すことは不可能。

 

 

 

 効力1:千里眼 【 せんりがん 】

     文字通り、千里を見通す双眼鏡いらずの能力。

     5㎞ほど離れた米粒に書かれた微細な文字も正確に読み取れる。

 

 効力2:浄天眼 【 じょうてんがん 】

     別名透視能力。修の見たい物を視界に表す能力。

     隠密トリガーを識別したのも浄天眼の能力の一種である。

     初め、扱いきれずにとある女性の裸を見て鼻血を噴いたのは秘密。

 

 効力3:複眼 【 ふくがん 】

     三百六十度を可視化する事を可能とした能力。

 

 効力4:強化視覚 【 きょうかしかく 】

     集中力が高まるにつれて体感時間が遅く感じられるようになる。

     修の状況把握能力に長けている最大の要因はこれに当たる。

 

 効力5:鷹の眼 【 たかのめ 】

     弾丸の予測線が視覚情報として現れる。

     赤い閃光が伸びてから、2秒後に着弾することが最近になって判明される。

 

 効力6:完全機能 【 パーフェクト・ファンクション 】

     効力1~5全ての機能をフル稼働させた際に発動する天眼の最高技。

     すべての2秒先の未来を予測し、視覚情報として表すことが可能。

     膨大なトリオンを消費する為に、20秒後に強制的にトリオン体が解ける。

     同時に、視覚障害に陥り、1日過ぎないと回復しない。

     補助トリガー、先視眼【プレコグ・アイ】によって、制御が可能となる。

 

 効力7:**眼

     その能力は、黒トリガーに匹敵する究極機能。

     発動条件は不明。

 

 

 

 おまけ

 

「いやぁ。まさか修君がサイドエフェクト持ちだったなんてね」

 

 

 トリオン体を調査し続けている宇佐美栞は目の前で気まずそうに後ろ首を掻く修に言う。

 

 

「その……。黙っていてすみません」

 

「いいのいいの。サイドエフェクトなんて思わなかったんでしょ? それは仕方がないよ」

 

 

 入隊時、全隊員はトリオン量を含めた身体検査が行われる。サイドエフェクト持ちがいればその時に発覚するはず。けれど、修のサイドエフェクトはあまりにも異質なものであったため、気づかれることがなかったのだろう。まさか、自身のトリオンを喰らって発動し続けるタイプのサイドエフェクトがあるとは思わないのだから。

 

 

「修君の例もあるし、これは鬼怒田さんに申請しないといけないかもね」

 

 

 もしかしたら修のように、トリオン量が少ない隊員やオペレーターにもサイドエフェクト持ちがいるかもしれない。

 副作用と言う忌み名を持っているが、その効果は絶大なのだ。もしかしたら、今後のボーダーの活動を大きく左右する人物が隠れている可能性もある。

 

 

「で、気になったんだけど……。何で、さっきから明後日の方向を見ているの?」

 

「……き、気にしないでください」

 

 

 なぜか知らないが、修は宇佐美を見た途端と言うか、烏丸恭介と訓練をした後、女性陣と一向に視線を合わせようとしなかった。

 

 

「そう言えば、生身に戻りたがっていたみたいだけど、何で?」

 

「……い、言えません」

 

「ん? んん??」

 

 

 修の顔が面白いぐらい真っ赤に染まっていた。

 その顔を見てニンマリする宇佐美。自身の直感がこう訴えているのだ。

 ばれてはいけない隠し事を持っている。それを察知することができれば、面白いことが起こるだろうって。

 宇佐美はパソコンを操作するのを一旦中止して、修の方へ回り込む。

 

 

「なーに、隠しているのかな?」

 

 

 呼ばれて視線を宇佐美へ向けてしまう。

 それがいけなかった。視界に広がるとある光景を目の当たりにして、純情ボーイの思考がオーバーヒート。全身から湯気が出るのではと勘違いするほど赤くなった修は……。

 

 

 ――キュー・バタン。

 

 

 糸が切れた操り人形みたいに倒れてしまった。

 

 

「……え? ちょ、ちょっと修君!?」

 

 

 あわてて駆け寄る宇佐美だが、修は既に意識を手放していた。どこぞの漫画だ、と思いたくなるほど目が渦状になっているし。

 修の持つ天眼の能力には【浄天眼】が備わっている。けれど、それを扱うことを今の今まで放棄していた修は当然使いこなすことができずにいた。

 ……お分かりだろう。修はピンクの何かを見て思考を停止させたのであった。

 

 後に修は宇佐美に、それは見事な土下座とお詫びの最高級品どら焼きを送ったのは別の話。

 それを覗き見していた迅が腹を抱えて盛大に笑っていたのは知る由もなかった。



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SE修【天眼】天眼発動

改造案その1。
……うん、かなり無理がありますかね。


 三雲修にとってメガネは生活する為に必要不可欠な道具であった。

 けれど、修がメガネを必要としている理由は目の屈折異常を矯正するためではない。

 メガネを掛けないと必ずと言っていいほど頭痛に苛まされるからであった。

 修がメガネを必要としているのは見えないからではなかった。むしろよく見え過ぎるのだ。目を凝らすと百メートル先で百円玉が落ちた瞬間すら目撃できる程に。それだけならばよかったものの、歳を重ねるにつれて目の異常は更に悪化する。今では高速で通り過ぎる列車の中にいる人間の様子すら観察できるぐらいになってしまった。

 まさか、これが俗に言うサイドエフェクトと言うものだと修が気づくのに相当の時間を要する事になる。

 

 

「あの……。宇佐美先輩。なんか戦闘体に換装するとメガネがなくなるんですが……」

 

 

 今日は師匠の烏丸京介に訓練をつけてもらう日であった。師が支部まで着くまで準備を済まそうとした修は早速トリオン体に変身を遂げるのだが、いつもと感覚が違う事に気付く。その原因は直ぐに分かった。自分の顔を触れると一緒に換装されるはずであったメガネがいまはなくなっているのだ。その事を先輩オペレーター宇佐美に報告すると大げさに驚かれる。

 

 

「え!? うそ、マジ!? 本当だ、なんでだろう。ちょっと確認するから待っててくれる?」

 

「はい、わかりました」

 

 

 トラブルといえメガネの同志が一時的に減ったのがショックだったのだろう。宇佐美は急いでシステムを立ち上げて、三雲のトリオン体を調べ始める。

 

 

「……お。オサム、珍しいな。いめちぇんと言うやつか?」

 

「違う。いつもの様にトリオン体に換装しただけなんだが、なぜかメガネが換装されないんだ」

 

「ふむ。けど、それって問題あるのか? 別に問題ないのであればそのままでもいいんじゃない?」

 

「よくない。アレがないと……」

 

「ないと?」

 

 

 首を傾げる空閑にどう説明して良いものやら分からなった修は「何でもない」と口を閉ざす。

 

 

「そうか」

 

 

 納得の声をあげたものの修が嘘を言っている事は直ぐに分かっていた。何せ空閑には嘘を見破るサイドエフェクトがある。修が何を隠しているまでは分からなかったが、きっと何か訳があると思ったのであろう。故に下手な追及をしない空閑であった。

 

 

「けど、修くんがメガネをつけないのなんていつ振りかな。久々に見たかも」

 

「そうなのか? チカ」

 

「うん。修くんは会った頃からメガネを掛けていて、外している時は寝る時ぐらいだったかな」

 

「ほう。そんなに目が悪いんだな、オサムは」

 

 

 空閑の何気ない言葉に「そんな所だ」と簡単に答える。

 

 

「で、オサム。なんでさっきから明後日の方向を見ているんだ?」

 

「そんな気分なだけだ」

 

「ほうほう。……ま、いっか」

 

 

 なにがいいのか、ツッコミを入れたい所であったが、それでも三雲は二人の顔を見ようとしない。

 

 

「ごめん、修くん。調べて見たんだけど、理由がちょっと分からないの」

 

 

 申し訳なさそうな声が耳に入る。トリガーの異常を調べていた宇佐美からであった。

 

 

「何度調べても特におかしな所は見当たらなかったの。……どうする? 予備のトリガーもあるけど」

 

「あ、いえ。そんな事でお手間をかけるのもなんですし、今日はこれで我慢します」

 

「そう? 私的にはメガネの同志がいなくなってしまうから悲しいのだけど。この後も少し調べておくから、今日はそれで我慢してね」

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

***

 

 

 

「なるほど。それで今日はそれなのか」

 

 

 予定の時間通りに来た烏丸は、弟子の事情を聞いて納得顔を見せる。

 

 

「はい。けど、訓練に支障はないようなので……」

 

「ならいいが。違和感を覚えたらすぐに言うんだぞ」

 

「はい。よろしくお願いいたします」

 

 

 何時もの様にお辞儀をして、左手にレイガスト。右手にアステロイドを生成して戦闘態勢に入る。

 

 

「それでは……行くぞっ!!」

 

 

 烏丸の先制攻撃。弧月を生み出して、一足飛びで間合いを詰めての一撃が放たれる。

 普段の修ならばレイガストで受け止めてアステロイドを放つのだが、今の修は違う。

 

 

「アステロイドっ!!」

 

 

 烏丸が跳躍したと同時にアステロイドを放ち、迎撃を図ったのだ。

 

 

「んなっ!?」

 

 

 これには烏丸も驚きを隠せなかった。単純な攻撃であったことは自覚しているが、それでも間合いを詰めての攻撃はそれほど遅くはなかったはず。まるで自分が跳んで来るのが分かっていたかの行動であったのだ。

 飛来する大玉のアステロイド両断し、直ぐ様二の太刀を放つ。けれど、それよりも早く修は烏丸の弧月の間合いから跳び離れていた。

 予想以上に腕を上げていた事に師である烏丸は感動に似た感情を覚える。男子三日会わざれば括目せよ、なんて言葉があるがそれを実感させられる日が来るとは思ってもみなかった。……修とは昨日も会っていたのだが。

 

 

「アステロイド」

 

 

 二の太刀の残身直後を狙って通常弾を放つ。いつもより弾速が速い所を見ると弾速重視の設定で放ったのだろう。通常弾で足止めをして攻撃のチャンスを狙っている事は考えなくても分かっていた。けど、そう易々と思い通りにさせてくれるほど師の烏丸は優しくない。

 

 

「アステロイド」

 

 

 烏丸も突撃銃を造り出し、応戦をする。アステロイド対アステロイド。

 撃ち合えば圧倒的に修が不利になるのだが、どうやらその予想は軽く裏切る結果になってしまった。

 

 

「なんだと?」

 

 

 修の放ったアステロイドが撃ち落とせないのだ。弾速重視の威力と射程を抑えたアステロイドならば簡単に撃ち落とせると思っていた。しかし、烏丸が撃ち放ったアステロイドは全て修のアステロイドによって呑み込まれてしまったのだ。

 流石にこれは予想外であった。烏丸は今まで修との模擬戦では使わなかったエスクードを使って防御を図る。しかし、それは相手の姿を見失う結果となってしまった。

 レイガストのオプショントリガー、スラスターの推進力を利用して烏丸のエスクードを飛び越える。

 

 

「しまっ」

 

 

 まさか、レイガストのスラスターで飛び越えるなんて誰が想像したであろう。可能と言えば可能であるが、修を知る者達からすれば今起こっている現象は異常としか言えない。

 次の瞬間、烏丸はシールドを展開するよりも早く修のレイガストによって一刀両断されるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「修。お前、何があったんだ?」

 

 

 模擬戦を終えた烏丸は直ぐ修に詰め寄る。先日も模擬戦をしたが弟子の修に負けたのは今回が初めてであった。しかも、圧倒的な実力差を見せられてだ。詰め寄って問い質すのも無理はない。

 

 

「えっと、僕も今現在の事に驚いているんですが」

 

 

 と、苦笑いして返すのだったが、修自身もまさかこんな結果になるとは予想もしていなかった。

 今回の戦い、不思議と師である烏丸の動きがはっきり見えていた。集中する事ですべての動きが遅くなる事は自覚していたが、まさかここまで戦闘を有利に運ぶことが出来るなんて思ってもみなかった。それに付け加え、己の眼がトリオンの動きを読み取る事が可能である事を知ってしまった。烏丸がエスクードを発動した時、発動した場所にトリオンが集まったのが視えてしまったのである。

 

 

「実は烏丸先輩――」

 

 

 修は正直に話す事にした。

 それを聞いた烏丸は慌てて宇佐美を呼び出し、修のトリオン体の再チェックを依頼したのであった。

 再チェックを済ませた数時間後、修の両眼に膨大なトリオンが凝縮されていた事が解明された。

 

 

 

 

 天眼。

 

 

 

 

 人間の視る機能を最大限まで強化し、トリオンの動きまで可視化する事が可能なサイドエフェクト。

 持たざるメガネはメガネを取る事で強化されるなんて皮肉な話であった。

 

 

 

 

 

 

 ……え? 続きませんが。




実はあのメガネはトリオンを抑える機能があるんですよ。

ほら、某高校生だってメガネをかけないと死の線が見えちゃうじゃないですか。


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SE修【天眼】VS風間

続かないといったが、あれはウソでした(オイ
べ、別にメインの案が思いつかなかったわけじゃないからね。

……すみません、ただの気晴らしです。ハイ。


 ――伝達系切断、三雲ダウン

 

 二十回目の敗北が伝えられる。

 圧倒的な実力の差に三雲の心が打ち砕かれそうになる。己が相対する敵はA級。普通に考えればこの結果は当たり前であるが、かすり傷一つ与えられなかった事に己の無力さを呪わずにいられなかった。

 

 

「……もういい、ここまでだ。時間をとらせたな」

 

「ありがとう、ございました……」

 

 

 体力の限界が来たのだろうか、風間の言葉と同時に膝から崩れ落ちる三雲。

 一方、風間は三雲以上の運動量で縦横無尽に駆け抜けたにも関わらず、平然と三雲を見下ろしている。

 

 

「……理解出来ないな。迅が黒トリガーを手放すほどの事なのか……」

 

 

 風間から紡がれた一言に耳を疑う。

 

 

「え!? 黒トリガーを」

 

「なんだ、知らなかったのか?」

 

 

 驚愕する三雲の表情を見て、初耳である事を知った風間は見物している人物、つい最近ボーダーに入る事となった空閑を指差す。

 

 

「迅はアイツを入隊させる為に黒トリガーを献上した。ああして、平然と見物しているのも迅が風刃を差出したからだ」

 

 

 信じられなかった。風刃は迅の師匠の形見でもある。

 その形見を手放して迅は三雲達を救ったのだ。

 自然と拳に力が入る。このまま風間を帰してはならない。彼を失望させてはいけない、と三雲は震える膝に力を込めて立ち上がる。

 

 

「……風間さん」

 

 

 振り返る風間は面構えが変わった三雲を見て表情を変える。

 

 

「申し訳ありませんが、もう一勝負お願いできませんか?」

 

 

 既に満身創痍。満足に体を動かす事もままならないはず。

 けれど、三雲は頭を下げて風間に願い出る。

 

 

 

 ――ここで終わらせてたまるか。

 

 

 

「……ほぅ」

 

 

 曇りかかった瞳をぎらつかせ強い眼差しを送る三雲の姿を見やり、風間は口角を上げる。

 

 

「いいだろう。これが最後だ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 いくら戦った所で勝てるはずがない。そんな事は三雲も承知の上だ。しかし、三雲は全てを出し切った訳ではない。A級の力量に愕然とするのは全てを出し切ってからだ。

 まだ、三雲修にはサイドエフェクト【天眼】が残っている。

 

 

 

***

 

 

 

 まだ戦いを続けようとする二人を見やり、観客達は怪訝な表情を見せる。雰囲気からさっきの勝負で終わったと思ったのだろう。未だに闘い続けようとする二人を呆れながら見守る一同は知らない。三雲修の闘志を滾らせた原因など。

 

 

 

***

 

 

 

 レイガストを構えた三雲は堂々と立つ風間を見据える。

 二十戦以上戦ったのにもかかわらず三雲の攻撃は一度も風間に届かなかった。

 ステルス戦闘を得意とする風間故にそれは当たり前と言えば当たり前であるが、このまま終わらすことなどできない。

 

 

 

 ――贅沢を言うつもりはない。

 

 

 

 己の力量などたかが知れている。

 お零れでB級に昇格した今の自分が風間に太刀打ちできるなんて思ってもいない。

 けれど――。

 

 

 ――せめて一撃。

 

 

 

 風間に一矢報いる。

 ただそれだけに集中して、三雲は己の枷を外す。

 

 

 

 --【天眼】発動

 

 

 

 玉狛支部以外の隊員にサイドエフェクト【天眼】を発動させたのは初めてであった。

 

 

「……?」

 

 

 三雲がメガネをはずし、投げ捨てた事に首を傾げる。

 トリオン体になった今では視力補佐の役割を持つメガネは必要ない。

 けれど、だからと言って投げ捨てる意味は見受けられない。

 

 

『ラスト一戦、開始』

 

 

 模擬戦の開始と同時にカメレオンを起動。三雲の行動に疑問が残るがそれだけだ。今までの戦いと同様にカメレオンで姿を眩ませて、隙を窺がって切り裂くのみ。

 三雲は動きを見せない。以前の様にアステロイドを放って牽制する様子も見られない。あろう事か、ブレードモードにしていたレイガストを消して立ち尽くすのみ。

 

 

「(……俺の見込み違いのようだったな)」

 

 

 威勢よく言ったはいいもの、いざ戦ってみると打つ手がなく戦意を喪失したのだろう。所詮は口だけの男。この程度の男に迅が期待を寄せていたと思うと考えただけで腹が立ってくる。

 もはやこの戦いに意味はない。さっさと伝達系を切断して勝負を終えようと、回り込んで――。

 

 

「(なに!?)」

 

 

 偶然か、奇跡か。

 回り込もうと駆け抜けた先に三雲が回り込んで、木崎レイジがよく行うスラスターの力を借りた打撃を放つ。

 咄嗟にスコーピオンを交差して防御を図ったのだが、攻撃は防げてもそれによる衝撃まで殺す事が出来ず、風間の身体は後方に流れるのだった。

 

 

「なっ!?」

 

 

 その光景を見守っていた観客達は驚きの声を上げる事になる。

 三雲の足は迷うことなく何もない空間に走りだし、淀みない動作で拳を振り抜いたのだ。

 初めはやけくそになったのだろうと考えていた。たかが成り立てのB級風情がA級の精鋭に敵う訳がない。

 だけど、三雲が撃ち抜いた拳は風間を正確に捉え、今まで与える事の出来なかった一撃をくらわす事に成功したのだった。

 

 

「オサムのやつ、ついに使いましたな」

 

「あぁ。今の修が風間先輩に勝つ方法はあれしかない。修のサイドエフェクトなら、あるいはと思ったが、やはりか」

 

 

 先の訓練で三雲のサイドエフェクトの怖さを知った烏丸は勝つには天眼が必要不可欠と思っていた。

 師匠としてアドバイスをしてあげればよかったのだが、これは三雲の試練である。

 三雲が自ら考えて、発動させなくては意味がない。

 

 

「ああなると、オサムは怖いからな。あの手この手で殺してくるしな」

 

 

 烏丸の後に三雲の模擬戦をした事がある空閑は知っている。

 三雲が天眼を発動すると攻撃手段が一気に増える事に。

 その事実、再度隠密トリガーカメレオンで奇襲を図った風間の刃をシールドで受け止めるとアステロイドで迎撃を図る。

 当然、三雲のアステロイドは風間のスコーピオンによって叩き落される。カメレオンがなくても風間は純粋に強い。瞬く間に全てのアステロイドを撃ち落とした風間の腹部目掛けて、レイガストが飛びついてくる。

 

 

「っ!」

 

 

 残心直後の投擲。体を泳がせた風間がそれを避ける事は不可能に近かった。

 次の瞬間、風間の身体がレイガストによって抉られようとするのだが、そこはA級隊員。シールドのフルガードによってレイガストによる脅威を受け切ったのであった。

 シールドの面積を狭めて使えば防御力は上がる。それを二つ同時使って受け止めたのだ。幾ら破壊力のあるレイガストの投擲であろうとも受け切る事は可能である。

 

 

「ちっ」

 

 

 決定打を与える事が出来なかった。防御の要であるレイガストを飛ばしたせいで左半身が隙だらけ。そんな見え見えの隙を風間が見逃す訳がない。

 弾丸の如く走り寄る風間は再びスコーピオンを生成し、三雲へ襲い掛かる。既に防御の要であるレイガストはない。例えシールドを使って防御しても、二の太刀で伝達系を切り裂けるはずだ。

 

 

「さぁ、次はどうする!」

 

 

 三度、隠密トリガーカメレオンを起動させて姿を消しにかかる。

 

 

「(見せて見ろ。さっきの動きがマグレかどうかを)」

 

 

 隙だらけの左半身目掛けて跳びあがり、必殺の一撃が放たれる。

 

 

 

 ――斬ッ!

 

 

 

 風間の一撃は三雲の左腕を捉え、切裂かれた左腕が宙を舞う。

 この瞬間、勝負あったと誰もが疑わなかった。玉狛支部の人間以外は。

 

 

「……やっと、捉えました」

 

 

 視界に広がる三雲の掌。既にアステロイドを撃ち放つ準備は出来ていたのだろう。

 トリオンキューブが既に生成されていた。

 

 

「まさか、左腕を囮に――」

 

「――そうでもしないと、僕なんかがまともに戦う事など出来ませんから」

 

 

 レイガストを投げ放ったのは、隙だらけになった左半身を攻撃する様に仕向ける為の布石。たとえ姿が消えてもどこから攻撃が来るのか分かれば、反撃に出る事など今の三雲なら容易い事だ。

 一撃を放ってから次の行動に入るまでコンマ数秒ほど。そのコンマ数秒の隙を狙う離れ業を実行に移したのだった。視る能力を最大限まで引き上げる三雲のサイドエフェクトならば不可能ではない。

 

 

 

 ――アステロイド

 

 

 

 風間の頭部目掛けて分割なしの大玉、アステロイドが容赦なく撃抜かれる。

 ゼロ距離射撃による三雲のアステロイドは風間のフルガードよりも早く頭部に着弾し、爆砕する。

 

 

 

『伝達系破壊。風間ダウン』

 

 

 

 25戦中、1勝24敗。

 最弱のメガネが意地を見せた結果が奇跡となって現れる事になる。




戦闘シーンの練習のつもりで書き綴ってみました。
まだまだ、改善の必要があるなこりゃ。


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SE修【天眼】VS緑川&木虎①

……おかしい。1話1話、別のネタを書くつもりなのにいつの間にかシリーズ的なものになっている。

天眼修、自分で書いていてあれだけどパないですね。


 ボーダー本部はとある噂で持ちきりであった。

 それは、あのA級風間隊を率いる風間隊長がB級成り立ての隊員に敗北したことだ。

 25戦中1勝24敗。結果だけ見れば散々な結果だろう。しかし、新米B級隊員がベテランA級隊員と戦った成績と付け足せば見かたは変わる。

 特に相手はあの風間だ。相手を舐めて掛かる様な真似はしないだろう。己に大変厳しい御仁であると有名だから。

 そんな風間に1勝をもぎ取った事は大きい。例えどんな手段を講じたとしても結果が伴えば評価に値する。

 本部に足を運ぶたび、三雲は件の噂を聞かされて冷や汗を流す事になる。

 

 

「おい。あれが例のメガネだ。噂によると、とてつもないトリオンを内包しているらしい」

 

 

 それはチームメイトの雨取千佳の方である。

 

 

「俺が聞いた話は、最初の戦闘訓練で最速記録、1秒未満を叩き出したと聞いたが」

 

 

 そっちは同じくチームメイトの空閑遊真の所業だ。

 

 

「私は実は黒トリガーを所持していて、カメレオンを看破したって聞いたけど?」

 

 

 惜しい。カメレオンを看破したのは正しいけど、手段が間違っている。

 正確に言うならば、黒トリガーの性能ではなく修自身の性質、サイドエフェクトの恩恵があったから出来た御業だ。

 

 

「……帰りたい」

 

 

 全身から突き刺さる好奇の眼差しに三雲は耐え切れなくなっていった。

 玉狛に入るまではこんな風に注目を浴びる事はなかった。当然、注目を浴びる事など慣れている訳がない。これが木虎ならば堂々とポーズをとってファンサービスの一つや二つしていた事であろう。

 

 

「ねぇねぇ。あなたが三雲先輩?」

 

 

 そんな中、一人の少年が三雲に話しかける。

 視線を上げて話しかけた人物を見やる。三雲に話しかけてきた人物は同い年ぐらいの元気溌剌とした少年であった。

 

 

「そうだけど……?」

 

「あ、やっぱり。それ、玉狛のエンブレムだもんね。いいなぁ。どうやって玉狛に入る事が出来たの?」

 

「入ったと言うか、迅さんの口添えで転属させてもらったんだ」

 

「迅さん、が?」

 

 

 気のせいか、少年の雰囲気が変わった。ヘラヘラ笑っているようにしか見えないが修を映す少年の瞳はまるで品定めをしているかのように探りを入れていた。

 

 

「そうなんだ。……あ、そうそう。三雲先輩が風間さんに勝ったって噂を聞いたんだけど、それって本当なの?」

 

 

 コロコロと話題が変わっていく。話に付いていくのがやっとの修であったが、風間と聞いて目の前の少年が何を聞き出したいのか察したのだろう。額から噴出す冷や汗を拭いつつ、少年に伝える。

 

 

「一応本当だけど、風間先輩は手加減してくれたと思うし、まぐれ勝ちもいいところだよ」

 

「あの風間さんが模擬選で手心を加えるなんて事はしないよ。けど、そっか! 噂は本当だったんだ。じゃ、じゃあさ! これから暇なら俺とも戦ってくれない?」

 

「え? ま、まぁ……。今は空閑と千佳を待っているだけだから、それぐらいは……」

 

 

 少年の誘いにOKサインを出そうとした時。

 

 

「――ちょっと待ちなさい!」

 

 

 待ったをかけた人物が現れる。

 

 

「……木虎?」

 

「げ、木虎ちゃんか」

 

 

 会話をぶった切って間に入ったのはA級嵐山隊のアタッカー木虎藍だった。

 

 

「三雲くん。あなた正気なの?」

 

「えっと……。ごめん、何が?」

 

 

 自身が警戒している理由すら気づかない、と言いたげなきょとんとした修の態度に木虎はいらつきを覚えるが、今にも振り落としそうな右拳を必死になって抑えて、目の前の少年を指差す。

 

 

「あなたが勝負しようとしている人はA級草壁隊。緑川駿なのよ」

 

「え、A級!?」

 

「あちゃー、ばれちゃったか。気づいていなさそうだから行けると思ったのに。ちょっと木虎ちゃん! なに、三雲先輩にばらしているんだよ」

 

「木虎さん、よ! それになんで三雲くんは“三雲先輩”なのに、私はちゃん付けなのよ。納得がいかないわ」

 

「だって、そっちの方が可愛いでしょ。ね、三雲先輩もそう思うでしょ?」

 

 

 まさかの火の粉が降りかかる。二人の視線が自身に向けられた事で、修はなんて返答していいか困ってしどろもどろ。

 

 

「ちょっと! そこでなんで言葉を詰まらせる訳!?」

 

「三雲先輩。そこで即座に“可愛いよ”と言えないのはマイナスだと思いますよ」

 

「私が可愛いのは当然の事よ。今さらその程度で嬉しくなる事なんてないわ」

 

「うっわ。この人、自分で自分を可愛いとか言っているよ。……だから、双葉に嫌われているんじゃないの?」

 

 

 緑川の口撃に木虎の精神力が半分ほど削られてしまった。歳下からは慕われたい、と強く願っている木虎からしてみれば何気ない緑川の一言は凶器以外の何者でもない。

 

 

「いや。木虎が綺麗で可愛いのは前々から知っているけど、問題はそこじゃないだろ」

 

「おっと。まさか、真面目な顔でそんな気障なセリフを恥かしげなく言えるとは……。三雲先輩は意外とジゴロなところがあるんですね。よかったね、木虎ちゃん。三雲先輩が綺麗で可愛いだって」

 

「ふん。私が綺麗で可愛いのは当たり前よ。そ、そそそんな事で喜ぶと思わないで頂戴!」

 

「滅茶苦茶動揺しているのによく言うよ。……じゃ、三雲先輩。赤面している木虎ちゃんは放って置いて俺とランク戦しよう!」

 

 

 何がじゃ、なのか甚だ理解できない所であったが、元々の話はランク戦のお誘いであったと思い出す。

 相手はA級。しかも自分よりも一つ歳下の少年と来たものだ。

 

 

『メガネくんはもう少し天眼に慣れた方が良いな。慣れる事で選べる選択肢が増えると思うよ』

 

 

 以前、迅に言われた事を思い出す。ひた隠しにしていたサイドエフェクトは必ず修の力になるだろう。ならば、実力の向上を図る為にもサイドエフェクトを使いこなす事は必要不可欠と言われた。

 それにはサイドエフェクトを使って戦闘をするのが一番だと言われた。戦って戦って更に戦って、覚醒途中の天眼を馴染ませるべきだと迅から助言を頂いた。

 ならば、誘いを断るのは自身を強化するチャンスを逃す事にもなる。断る理由など全くなかった。

 

 

「……分かった。じゃあ、五本で良いかな?」

 

「OKOK、問題ないよ。いやぁ、楽しみだなぁ」

 

 

 話しがまとまった所で、二人はランク戦が出来るブースへ移動を始める。

 一人、悶えていた木虎ははっと我に返り、自分を置いてけぼりにしようとした二人の前に回り込む。

 

 

「その話、この私も混ぜなさい!」

 

「「……え?」」

 

 

 この瞬間、まさかの緑川VS木虎VS三雲の三つ巴戦が強制的に決まったのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 現在、空閑は待ち合わせ場所で待っているはずであった修を捜索中であった。待ち合わせ時間よりも早かったからどこかで時間をつぶしているのであろう、と判断して手当たり次第に探していたら暇そうに歩いていた米屋とエンカウントしたのであった。

 

 

「お、白チビ。今日こそ、俺と一発やらないか?」

 

「ふむ。今はオサムを探しているから、その後でもよければ……」

 

 

 色よい返事を頂いた事で指を鳴らして喜ぶ米屋。修を見つければ空閑とランク戦が出来ると知って「俺も探すの手伝うよ」と空閑の横に並んで捜索仲間に加わる。

 

 

「そういや、聞いたぞ。メガネボーイ、あの風間さんに一矢報いたんだってな」

 

「ふむ。もうご存じとは、ヨネヤ先輩も中々ツウですな」

 

「本部中に広まっているぞ、その噂。ルーキーB級がA級の風間さんを撃破したって。お前やトリオンモンスターも噂に上がっているけど、断然メガネボーイの噂が広まっているな」

 

「ほうほう。流石俺達の隊長ですな」

 

 

 実際、修が天眼を発動すれば厄介極まりない事は空閑も重々承知している。どんなに強大な力があっても、当たらなければ意味がない。七重バウンドで強襲した事もあるけど、ぎりぎりのタイミングで致命傷を避けられ、カウンターを決められた時は相手が修であることを忘れて持てる力全てで襲い掛かった記憶がある。

 

 

「今度、ヨネヤ先輩もどうですか。オサムのあれは相手にして中々面白いと思うけど?」

 

「おっ。その言い方だと、メガネボーイに隠された才能ありって聞こえるぞ。……まさか、サイドエフェクトが使えるとか!? と、思っちゃったけど、メガネボーイのトリオン量じゃサイドエフェクトなんて発現しないもんな」

 

 

 正解なのに自分でその正解を撤回してしまった。ま、それも仕方がない話だ。

 サイドエフェクトが発現できる最低限の条件は膨大なトリオン量を有している事である。

 修のトリオン量はオペレーターにも負ける程しか持ち合わせていない。どう考えてもサイドエフェクトが発現するなんて考えに到達するはずがなかった。

 まさかサイドエフェクト【天眼】自体にスペックの殆どを割り振られてしまい、余った残りカスが修のトリオン量なんて思いも至らないだろう。

 

「そいつは秘密。知りたかったらオサムに……」

 

「おい、どうした白チビ。おや? あそこで群がっているのは――」

 

 

 ランク戦ブースに足を運んだ二人は、最初に視界に入った光景を目の当たりにして動きを止めてしまう。

 そこに映った光景とは――。

 

 

『うっは。マジで!? マジで当たらないの! なにこれ。三雲先輩、面白すぎ!!』

 

『たかだかメガネを取っただけで、どういう仕掛けなのよ! こ、この! さっさと当たりなさい』

 

 

 ランク戦ブースに設置されているスクリーンには三雲に攻撃を当てようと躍起になっている緑川と木虎の姿が映し出されていた。

 

 

「……うは、マジか!? メガネボーイ、木虎と緑川を相手にして一歩も引いていないとか」

 

「俺抜きで随分と楽しそうな事をしているな、オサムは。……あれ、途中から参加できないかな?」

 

 

 残念な事に一度始まったランク戦に途中参戦する事は難しい。もし、それが可能ならば米屋自身も乱入したいぜ、とつぶやきつつ、三人の戦いが良く見えるところまで近寄るのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 自身のグラスホッパーのコンボ起動、ピンボールはそう簡単に捉えきれないと自負していた。この乱機動を見抜ける変態などB級にいるはずがない。そう高を括って修の首を刈り取るべく突っかかると、まるで首を狙っていたのが分かっていたかの如く、素早くレイガストを構えて受け流したのであった。

 初めはマグレと思っていた。目にも留まらないピンボールをこんなとろそうな先輩が見抜けるはずがない。と、思った矢先――。

 

 

「っ!?」

 

 

 次に使おうとしていたグラスホッパーをアステロイドで撃ち抜かれてしまい、無効化されてしまった。慌てて着地した緑川は直ぐに次のグラスホッパーを生成し、高機動へ移動する。

 

 

「(この先輩、マジやばいな。俺の動きが全部見えているのかよ。変態級の眼力の持主だ)」

 

 

 自慢の高機動戦で優位に立てないと知った緑川は一旦距離を置く。無暗に突っ込んでも勝てないと知り、思考を本気モードへ移行させる。一度深呼吸して気持ちを落ち着かせ、目の前の敵を討つ為に作戦を練り上げる。

 

 

「(ピンボールで不意を衝けないとなると、防御する間もなく攻撃をし続ける近距離戦に持ち込むか。動きは機敏でも、剣術は分からないし)」

 

 

 よし。と簡潔に作戦を決めた緑川が実行に移そうとした時、木虎がアステロイドで足場を撃って制止する様に呼びかける。

 

 

「……緑川君。どうせ、あなたの事だから接近して攻撃し続ければどうにかなるだろう、とか思っているでしょ」

 

「なに、木虎ちゃん。もしかして、俺が負けると思っている? 確かに動体視力は凄いけど、純粋な戦闘力では俺の方が強いはずだよ。……A級がB級に負けるはずがないじゃない」

 

「えぇ、そうね。それについては同意見よ。けど、あなたを放って置いたら、あなたは間違いなく三雲くんの餌食になるでしょうね」

 

「どういう事?」

 

「今の彼はどう言う訳か、私達の動きが全て読み取れるらしいわ。何せ、風間さんのカメレオンすら看破した眼力なんだから。……きっと、あの手この手と策を巡らせて、絡め取ってくるはずよ」

 

「それは怖いな」

 

 

 カメレオンを見破る方法など、攻撃を受ける前に別のトリガーを使わせる必要がある。

 それ以外の方法は確立されていない。もしも、木虎の言うとおりカメレオンを看破出来るならば、怖い以外の何者でもないだろう。

 

 

「……手を組みましょう。あなたと私ならば、何とかなるでしょう」

 

「A級二人でB級一人を相手取るとか、ヨネヤン先輩達に知られたら笑われちゃうかもね」

 

 

 けど、それぐらいしないと切り崩せない可能性がある。たった数度ほどの攻防であったが、三雲修が危険な相手であることは肌身で感じてしまったのである。

 

 

「分かった、木虎ちゃん。フォロー、頼んだよ」

 

「任せなさい。完璧にアシストしてあげるわ」

 

「……待って二人とも! なんか間違っている! 間違っているよ。僕が一人でA級隊員を相手にするのは間違っているからね」

 

 

 修が抗議している間に、二人は散開する。数的有利を利用して挟撃を図ろうと緑川は右翼を木虎は左翼から攻め上がってきたのだった。

 何度言っても言う事を聞いてくれない二人の事を諦めたのか、直ぐにレイガストを構えて攻撃に備える。

 

 

「(敵は二人。集中しないと直ぐに刈り取られる)」

 

 

 その考えは正しかった。木虎が動きを封じている間に緑川がグラスホッパーで死角に回り込んで四肢を引き裂くのが今回の作戦行動である。

 

 

「(集中しろ。もっと、天眼に意識を……。それ以外は何も必要ない)」

 

 

 強張って力が入っていた全身を脱力させ、全ての意識を天眼へ集中させる。

 

 

「(見極められるはずだ。天眼の力ならば、視きれないはずがない)」

 

 

 次の瞬間、修が視ている光景が一変する。己は緑川の方へ視線を向いているにも関わらず、後方の木虎の動きがはっきりと感じ取る事が出来ていた。まるで、背中に目が生えているかの様に。

 

 

「私に背中を向けるとはいい度胸ね!」

 

 

 ハンドガンを構えて撃つ素振りを見せる。が、それはあくまでブラフ。既に木虎はモグラの爪、モールクローを使って地中から攻撃を繰り出しているのだった。

 普通ならばモールクローは相手の足を貫き、身動きを封じる枷となるだろう。相手が普通ならばの話であるが。

 

 

「な!?」

 

 

 モールクローが来るのが分かっていたように――事実分かっていた――修は避け、グラスホッパーで跳びかかる緑川へ振り向く。

 

 

「気づいてももう遅いもんね! これでトドメだ、三雲先輩!!」

 

 

 木虎が意識を散らしている間に高速移動で間合いを詰めた緑川は必殺の間合いに入っていた。今の間合いならばたとえどんなに回避に優れた達人であっても避ける事は不可能に近い。

 三雲の首を刈り取らんと緑川のスコーピオンが迫り来る。完璧なタイミングに二人は勝利を確信した。

 

 

 

 ――そこで、緑川に油断が生じる。

 

 

 

 修は緑川の攻撃を避ける事が出来ないと視覚で判断すると、避ける事を考えから捨ててシールドモードであったレイガストをブレードモードに移行させ、緑川の胴体目掛けて突き刺しにかかった。

 一条の閃光が交差する。宙を舞う三雲の首を目の当たりにして、木虎は思わず握り拳を作ったが、緑川の胴体にレイガストが深々と突き刺さったのを見て、直ぐに表情を強張らせたのである。

 

 

「く、そ……。最後の最後で、油断した!」

 

 

 伝達系の切断を確認したシステムが強制離脱を発動させる。

 この瞬間、一本目の三つ巴戦は木虎の勝利に終わるのであったが、観客には緑川と修の相討ちしか映っていなかった。




本当は緑川のシーンを書こうとしましたが、原作に天眼要素だけ入れても面白くないですし、こんな風にアレンジを入れてみました。
やはり、原作を忠実に再現した方がよかったかな?


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SE修【天眼】VS緑川&木虎②

 A級2人に対してB級1人のハンデマッチが行われている、と言う噂を聞きつけた数多くの戦闘員が見物に集まってきた。その一人であった風間はこの野次馬を集める原因となってしまった3人が誰かを確認して顔をしかめる。

 

 

「(意外だな。緑川……は、俺の噂を聞いて興味が出たのだろう。そう言う意味では意外でもなんでもないか。本当の意味で意外なのは木虎の方だな)」

 

 

 自身の腕を磨くために研鑽を欠かさない彼女が時折ランクブースで相手を探しているのは聞いたことがある。けど、今回行われているそれはどう考えた所で自分の腕を磨く云々とは違っていると一目でわかった。

 

 

「(そう言えば、あの二人は同年代だったか)」

 

 

 自分との模擬戦の時も木虎は見物を決め込んでいた。それに加えて修は数少ない木虎と同い年の15歳組だ。もしかしたら、必要以上に修を意識しているのかもしれない。

 

 

「(しかし、あの二人を相手にして避けきるとか……。あれが本来の三雲の姿なのか)」

 

 

 風間自身、最後の最後で修にやられてしまっている。決して、相手を侮り油断したわけではない。試すような行動はとったが、それでも全力で相手を葬る行動をしたと思っている。

 

 

「(それでも先を見越すような動きに自身の腕を捧げて隙を作る。あれを一瞬で考え付く事など出来るのか?)」

 

 

 勝負の後、烏丸に「うちの三雲はどうですか?」と聞かれて「弱いが、最後のあれは面白かった。次は最後の状態でやりたいものだな」と評した。

 持たざるメガネと思ったが、黒トリガーの話を聞いて覚醒した修を迅が気にかけるのも少し分かった気がする。あれで達人級の動きが出来る様になれば、三雲修は最強の称号を得る事も夢ではないだろう。

 

 

「……お、風間先輩だ。こんちわっす」

 

「どうも、カザマ先輩」

 

 

 野次馬の中に埋もれてしまった米屋と空閑に遭遇する。周囲に見知った顔がなかったので、風間は二人の傍まで歩み寄る事にした。

 

 

「三雲は随分と頑張っているようだな」

 

「……なんで、あんな風に発展したか分かりませんが、頑張っているよ。オサムは」

 

「そうか。だが、まだまだレイガストの使い方がなっていないようだ。近接戦闘なら、俺が教えてやるから近い内に隊室に来いと言っておけ」

 

 

 挟み撃ちを受けている修は最小限の動きで二人の波状攻撃をいなしているが、それだけであった。あれだけ余裕をもって防御出来るならば返しの刃を一つや二つ行う事は可能である。上手くいけばカウンターで敵を屠る事も可能と考えた風間は空閑に自分の番号を手渡して、修に渡す様に伝えたのであった。

 

 

「おっ。じゃあ、メガネボーイは風間さんの弟子になるのか。それは楽しそうだな」

 

「けど、オサムは既にとりまる先輩の弟子だぞ。その辺りはとりまる先輩に確認を取る必要があるのでは?」

 

 

 修からしてみればベテランのアタッカーの風間から指南を受けられる事は大変魅力的な話だ。しかし、烏丸からしてみれば自分の弟子を奪われた形となる。いわゆる寝取りだ。

 その辺は当事者でシッカリと話し合って決めるべきだ、と主張する空閑の言葉に納得した風間は烏丸に連絡を取る事にした。

 

 

『はい、烏丸です。珍しいですね、風間先輩が俺に連絡をするなんて』

 

「烏丸。単刀直入に言う。……三雲を俺にくれ」

 

『……風間先輩。ちょっと何を言っているか分かりません。まさか酔っぱらっているんですか?』

 

「お前はバイトで忙しいと聞く。三雲の事は俺に任せておけ」

 

『えっと……。つまり、修の訓練に付き合ってくれると言う事ですか? それならそうと言って下さいよ。修が望むなら、是非とも稽古をつけてやってください。アイツも喜ぶ事でしょう』

 

「俺はそう言ったつもりなんだが」

 

『そんな風に聞き取れないから言っているんですよ』

 

 

 呆れる烏丸の声色に覚えがない風間は「話は以上だ」と言って、携帯を切ろうとして――ふと、思い出したように呟く。

 

 

「いま、お前の弟子は面白い事をしているぞ。A級二人を手玉に取るとか中々だな」

 

『え!? ちょ、風間さん。その話、もう少し詳し――』

 

 

 言い終わる前に切ってしまう。

 それを一部始終見守っていた米屋は「うわ~」とドン引くのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 そんな取引が交わされているのにも関わらず、修は迫り来る二人の攻撃をいなし続けていた。

 

 

「(不味いな。二人の攻撃が激しくて反撃が出来ない)」

 

 

 そう。幾ら回避行動に優れているからと言え、反撃しなければ勝つことが出来ない。

 しかし、木虎の注意を引き付ける動きと攻撃、その隙を突いた緑川の強襲の連携に隙らしい隙は見当たらなかった。

 

 

「ほらほら、どうしたの三雲くん! 反撃しないと私達には勝てないわよ」

 

「随分と楽しそうだな、木虎! そんなに僕を苛めて楽しいかよ」

 

 

 木虎のスコーピオンをレイガストで弾き、アステロイドで反撃を行う。しかし、思っていたほど前のめりな姿勢ではなかった。修が繰り出した通常弾は簡単に避けられてしまう。

 

 

「待っていたわ、この瞬間を」

 

 

 木虎の口角が上がる。彼女は修が反撃するのを待っていたのであった。

 

 

「(っ!? しまった!!)」

 

 

 天眼が緑川の強襲を捉えていた。反撃をした直後では、幾ら修でも避けきる事は不可能。

 防ぐにしてもレイガストで切り返したとしても緑川の斬撃に間に合う事はない。質量を持たないスコーピオンの攻撃速度にレイガストが追い付けるはずがない。

 

 

「悪いね、三雲先輩。今度は油断しないよ。二勝目いただき!」

 

 

 もはや回避不可能な間合いまで迫っていた。緑川の言うとおり、回避する事は不可能。

 後は迎撃をするしか助かるすべはない。

 

 

「(く、くそぉぉおおっ!!)」

 

 

 一戦目と全く同じと言っていい状況になり、勝利を確信した木虎は次の瞬間信じられないものを目の当たりにすることになる。

 跳びかかった緑川の下顎に修の足の裏が叩き込まれる。その一撃は全くの予想外であった。修は体の向きをそのままにしたまま体全体を沈ませて、全身のばねを利用した後ろ蹴りで迎撃を図ったのである。

 トリオン体に通常攻撃は何のダメージも与えられない。修が行った後ろ跳び蹴りは全く以って意味をなさない技と言っても正しい。……が、今回の戦いで修に与えた恩恵は大きかった。

 

 

「がっ! い、今何が……」

 

 

 修の蹴りを受けた緑川の体が逆くの字に曲げられる。例え、ダメージを受けなくても蹴られた事で生じる衝撃までは打ち消せない。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 その絶好のチャンスを修が逃すわけがない。

 スラスターを起動させ、己を軸にしてレイガストを振り回す。推進力を得たレイガストは緑川の胴体を切裂き、彼を強制脱出させたのだ。

 

 

「……随分と足癖が悪いのね、三雲くんは」

 

「そう言う木虎こそ、随分とせこい真似ばかりするんだね」

 

 

 先に売り言葉を紡いだのは木虎であったが、修の返しにカチンと来てしまう。

 意外と煽り耐性がない木虎は憤りのあまり、全身をプルプル震えあがらせ――。

 

 

「後悔しなさい、三雲くん。A級の私を怒らせるとどうなるか思い知るが良いわ」

 

「風間さんに比べたら、木虎なんか……。全然怖くないからな!」

 

 

 ハンドガンを構えてアステロイドを撃ち放つ木虎。対する修もアステロイドを展開させて木虎のアステロイドを撃ち落していく。

 

 

「私の弾丸を……。生意気ね、本当に!」

 

「そいつはどうも。……アステロイドっ!!」

 

 

 今度は修がアステロイドを生み出して攻撃に転じる。対抗して木虎も修が自身のアステロイドを撃ち落したように撃ち返そうと考えるのだが、修が展開したアステロイドがあまりにも遅い事を知り怪訝する。

 

 

「超スローの散弾? あなた、何を企んでいるのかしら」

 

「もちろん、木虎に勝つ方法をさ」

 

「私に勝つ? 面白い冗談ね。もし、私に勝てたらキスの一つや二つしてあげるわよ」

 

「……いや。それを了解すると後で怖いから、遠慮しておく」

 

「なんですって! それ、どう言う意味よ」

 

「言葉通りの意味なんだが。……けど、負けるつもりはないからね」

 

 

 超スロー散弾をばら撒いた後、更に通常弾を木虎に向けて撃ち放つ。今度は速度を重視した設定だ。遅い速度に慣れた木虎としては、今の弾丸は高速に映っている事であろう。回避行動に移りたくても周囲の散弾が邪魔で上手く身動きする事が出来ない。

 

 

「(なるほど。このスロー散弾は弾幕。……私の動きを制限する役割を担っているわけね……。考えたわね)」

 

 

 避ける為には周囲の弾幕をシールドで防ぎながら移動するか、向かってくる弾丸をスコーピオンで切り捨てる必要がある。

 当然、選ぶ行動は後者である。スコーピオンを生成し、己に向かってくるアステロイドを切り落としていく。

 けど、修の目的は木虎を自身の軸線上に足を止めさせる事であった。レイガストの切先を木虎に向け、スラスターによる強襲を図る。一瞬、反応が遅れた木虎は対応に迷いが生じてしまう。迎撃にしろ、回避にしろ、既に対処不可能な間合いまで修によって詰め寄られてしまったのだ。

 咄嗟にシールドで修のレイガストを弾こうと試みるが、あっさりと突き破られ、木虎の腹部を抉って行く。

 

 

「……僕の勝ち、だな」

 

 

 しかし、ここで修の集中力が欠けてしまう。まだ、木虎が緊急脱出していないにも関わらず警戒を解いてしまったのだ。木虎が持つスコーピオンは変幻自在な剣。トリオン体のどこからでも刃を突き出す事が可能である。

 最後の力を振り絞り、木虎は胸部からスコーピオンを伸ばす。

 

 

「……ぇ」

 

「フフ。残念だったわね」

 

 

 自身の胸部を貫くスコーピオンを見やり、不敵な笑みを浮かべる木虎を見やる。

 二人同時に強制離脱が発動される。

 二戦目は引き分け。白熱した戦いに見物していたC級隊員から歓声が沸く。



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SE修【天眼】VS緑川&木虎③

息抜きで書いていた奴のほうが進むとか、何でもそうなのかな?
てか、この修くんやばいな。誰だよ、こんな魔改造した奴は!!


 二戦が終わり、現在の戦績は1敗1分けと負け越している。

 もっとも自分一人に対し、相手はタッグを組んで戦いに挑んでいる。それに加えて修よりも各上であるA級隊員が相手である。今の自分はよくやっていると思う。

 

 

「……出来過ぎと言ってもいいよな」

 

 

 緊急脱出用のベッドに移動させられた修は己の戦いを思い出して苦笑を浮かべる。

 そもそも、どうしてこんな事になってしまった。A級隊員とランク戦をするだけでもおかしな状況と言えるのに、それが二人同時と来たものだ。B級の自分が相手をするには荷が重すぎる。

 

 

『……理解出来ないな。迅が黒トリガーを手放すほどの事なのか』

 

 

 不意に風間の言葉を思い出す。

 

 

「そうだったな。迅さんが僕達の為に黒トリガーを手放してくれたんだ。あの人に報いる為にもこんな所でへこたれる訳にはいかないよな」

 

 

 師の形見を手放してまで空閑を防衛隊員に入れてくれた迅の思いに報いる為にも、修はこれぐらいの試練でギブアップする訳にはいかない。あの時、風間から迅の話を聞いた時に決意したのだ。

 

 

 

 ――あの人を失望させるわけにはいかない。

 

 

 

 ならば、これ以上愚痴を零すのはなしである。今は目の前の強敵、緑川と木虎を倒す手段を考えるべきだ。

 

 

「……まだ、練習段階だけど使うか」

 

 

 修のトリガーは風間戦の後に支部の全員で会議を開き、新たに構成し直した。

 レイガストとアステロイド、スラスター及びシールドはそのままにして、新たに二つのトリガーを装備させたのだった。

 けれど、そのトリガーはまだ練習中のもの。ようやく手に馴染む様になってきたが、ランク戦で――しかもA級隊員に通用するかどうか分からない。

 

 

『三雲先輩。次、早くやりましょうよ! 今度はそう簡単にやられないよ』

 

『遅いわよ、三雲くん。私達は既に準備万端よ』

 

 

 通信機越しから二人の催促の声が飛ぶ。

 

 

「分かった。直ぐに行くよ」

 

 

 第三戦の作戦を考えつつ、修は戦いの舞台に飛び込む。

 

 

 

***

 

 

 

「なんだよ、あれ。おい、白チビ。メガネボーイ、意外とやるじゃないか」

 

「当然ですな。何せ、俺達の隊長になる男だぞ」

 

 

 第二戦を観戦していた米屋が興奮した口調で修を褒めはじめる。自身の隊長になる相棒を褒められて悪い気がしなかった空閑はドヤ顔で応える。

 

 

「今回もメガネを外していたな。あのメガネに何か仕掛けがあるのか?」

 

「流石カザマ先輩、するどいですな。何でもオサムはメガネを外す事でサイドエフェクトを使えるらしいよ」

 

「ほぉ。……なるほど。察するに強化視覚のサイドエフェクトと言った所か」

 

「チッチッチ。ただの強化視覚じゃありませんぞ。修はトリオンの流れすら読み取る事が可能なので。だから、カザマ先輩のカメレオンもばっちり見れちゃったわけ」

 

「それでか。そんな能力を持っているならば、前の戦いの動きも合点がいった。だが、なぜアレを最初から使わなかった?」

 

「あれを使い続けると吐き気と頭痛が襲ってくるんだって。しおりちゃんが言うには強化された視力で見続けると“酔ってしまう”んじゃないかって言ってたな。難しい話で理解出来なかったけど、三半規管が耐え切れないとかどうとか……」

 

 

 隣で聞いていた米屋は頭上に疑問符を乱舞させながら首を傾げていたが、風間は空閑の稚拙な説明で大方想像がついたのだろう。なるほどな、と納得の声を上げて三度対立する修たちへ視線を向ける。

 

 

「しっかし。あのままじゃメガネボーイはつらいな。幾らその強化視覚があるとはいえ、数的不利には違いない。弾バカみたいに色々と弾丸を扱えれば別なんだが」

 

「おっ。ヨネヤ先輩。どうやら修も本気でやるみたいだぞ」

 

「……へ?」

 

 

 修に新たな動きが見られた。これまでならばレイガストを生み出して、相手の状況に応じる為に構えるのだが、両手に生み出したそれはレイガストでなくトリオンキューブ。

 これが意味することはたった一つ。修は攻撃に転じる為にシューター用トリガーを起動させたのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「へぇ。まだ、そんな隠し玉があったなんて……。三雲先輩も人が悪いな」

 

 

 両手にトリオンキューブを生成して攻撃の態勢を作る修を警戒しつつ、緑川は話しかける。

 

 

「まだ、練習段階なんだ。がっかりしないでくれよ」

 

 

 苦笑する修の言葉を真に受ける事は出来なかった。一見、昼行灯だと思っていた修は実は想像以上に厄介な曲者であった。そんな曲者の言葉を鵜呑みにするのは危険だと緑川と木虎は判断する。

 二人は小さく頷き合って、攻撃のタイミングを計る。修が何かをする前に一気に詰め寄って勝負を決めようとしたのだ。

 けど、それよりも早く修が攻撃に転じる。

 

 

 

 ――メテオラ

 

 

 

 地面に叩きつけたトリオンキューブの正体は炸裂弾。爆撃により修がいた場所は黒煙で姿を覆い隠されてしまい、二人は修の行方を見失う事になる。

 

 

「しまった、目晦まし! 緑川くん!! 一旦合流を――」

 

 

 爆風によって瞼を庇った木虎の視界に映るのは、トリオンキューブを突き出す修の姿であった。

 

 

 

 ――アステロイド

 

 

 

 大玉の通常弾がゼロ距離で射出される。

 当然、木虎はそれを回避する事など不可能。フルガードで対処するも僅かに間に合わず、一瞬にして木虎のトリオン体は閃光となって退場して行った。

 

 

「木虎ちゃん! こ、の!!」

 

 

 まさか炸裂弾で視界を眩ませ、一気に勝負を付けにくるなんて予想外であった。

 距離を開けては危険と判断した緑川はグラスホッパーを起動させ、一気に高機動戦に挑みかかろうと跳びあがる――が、上空から降下してきたトリオンキューブの束が緑川の心臓部を食い破って行ったのだった。

 

 

「いつ、こんなの!」

 

 

 と、言った直後に思い当たる。修はメテオラで視界を眩ませたと同時に別のトリガーで上空に向けて放ったのだろう。

 

 

「(同時にこんな仕掛けもしたのかよ!?)」

 

 

 一旦上空に向けて相手を狙う御業はアステロイドでは不可能だ。こんな芸当が出来るトリガーは変化弾と追尾弾のみ。

 

 

「……これで一勝かな?」

 

 

 初見殺しの電撃戦。見事に上手く当てる事が出来た修は「ほっ」と安堵の溜息を零した。

 三戦目は修の勝利に終わる。これで1勝1敗1分け。予想外の展開に気がつけばランクブースはお祭り騒ぎとなっていた。

 

 

 

***

 

 

 

「こ、これはなんと言う展開だ! B級成り立てのルーキー。玉狛支部所属の三雲隊員がA級隊員二名を瞬殺したぞ。こんな展開、誰が想像した! 解説の風間さん。これは一体……」

 

「数的不利を嫌い、まずどちらか一人を早々に打倒そうと考えたんだろ。その為のメテオラの目晦まし。通常弾を使って木虎隊員を倒したのはレイガストでは目立つと判断した為のチョイスだろう」

 

「な、なるほど。対する緑川隊員は三雲隊員の奇策を嫌ってお得意の戦法に入ろうとしましたが……」

 

「それも簡単だ。メテオラを使った直後に追尾弾か変化弾を上空に放ち、不意打ちを狙ったのだ。シューターが奇襲を使うのによくやる手だな。奇襲された時は周囲を警戒する必要があるのだが、緑川は焦って状況確認を怠った。その結果があれだ」

 

「空閑隊員の情報によりますと、三雲隊員はこれまでアステロイド以外のシューター用トリガーは装備していないとの情報でしたが」

 

「今回がお披露目だったんだろう。A級二人に対し、出し惜しみは出来ないと判断したのだろうな。悪くない判断だ」

 

 

 いつの間にか実況まで始まっている状況に米屋は笑わずにいられなかった。三戦目が始まる直前、海老名隊のオペレーターである武富桜子が噂を聞きつけて風間の横を陣取ったと思うと、Myマイクを使って実況を始め出したのである。

 隣に座っている風間も止めればいいのに、話しを振られた途端に解説を始める始末。

 もはやこの状況を誰も止める事が出来ない。噂が噂を呼び、暇を持て余していたB級A級隊員が集まり出して来たのであった。

 

 

「おいおい槍バカ。このお祭り騒ぎは一体なんなんだ?」

 

 

 防衛任務から戻ってきた出水公平も噂を聞きつけて駆けつけた一人であった。詳しい内容まで知らなかったので、先に観戦していた槍バカこと米屋に事情を聴きだす。

 

 

「あ? 見ていなかったの、弾バカ。玉狛のメガネボーイが緑川と木虎相手に一勝もぎ取ったんだよ」

 

「は? 緑川と木虎にか? ……って、俺の眼がおかしいのか? なんか、メガネくんはメガネつけていないし、緑川と木虎がタッグを組んでメガネ君に挑みかかっているように見えるんだが」

 

 

 四戦目を映し出しているスクリーンを見やり、信じられないと言いたげに指差す。

 

 

「見たとおりだ。メガネボーイ、隠していた爪を現したみたいだ。風間さんを倒したのも嘘じゃないようだぞ」

 

「マジか。あのメガネくんが……。おっ! メガネくんが使っているあれってバイパーだよな? なに? メガネくんって那須みたいな戦い方も可能なのかよ!」

 

 

 出水の言うとおり、修の周囲を飛び回るトリオンキューブはバイパーによって生み出された現象である。

 

 

「オサムは新しくメテオラとバイパーを入れたんだよ。今のオサムなら、あの二つを入れる事で戦いに幅が出来ると助言されたんだ」

 

「その助言をした奴は分かっているな! えっと……空閑だっけ? メガネくんのあの姿はなんか理由があるの?」

 

「オサムはあの状態になるとサイドエフェクトを使う事が出来るのです」

 

「サイドエフェクト!? うおっ!! 死角に回り込んだ緑川をバイパーで牽制したぞ。あいつ、後ろに目でも付いているのかよ!!」

 

 

 もはや修の独壇場であった。トリオンキューブを操って緑川の動きを封じ、接近戦を挑む木虎に対してアステロイドで攻撃の意図を与えない様に立ち回っている。

 

 

「なにあれ? なにあれ!? いいな、いいな! 俺もまざりてぇ」

 

 

 子供が玩具を見つけたみたいに目をキラキラと輝かせて悔いる様に第四戦目を見やる出水の言葉に「だろう」と米屋と空閑が頷く。

 知らぬ内に厄介事が増えている事に修が知ればなんて言うだろうか。きっと、冷や汗を流しながら「勘弁してください」と言うだろう。

 

 

 

***

 

 

 

「すげぇ、すげぇ! 三雲先輩マジすげぇよ」

 

「はしゃがないの、緑川くん。少しでも隙を見せたら三雲くんのバイパーが飛んで来るわよ!」

 

 

 嬉しさのあまり警戒を解いてしまった緑川に向かった変化弾を叩き落した木虎が緑川の頭を軽くはたく。フォローされたにも関わらず、興奮冷めやらない緑川は「だって」と話を切り出して告げる。

 

 

「だって見たでしょ! まるで全方位に目があるみたいに変化自在に弾丸を飛ばすんだよ。面白すぎでしょ、三雲先輩」

 

「だから何よ! このままだと私達は三雲君に負け越す事になるのよ。そんなのA級として許されないわ」

 

「大丈夫! 俺に考えがあるから」

 

「考え? なによ、それ」

 

「まぁ、見ていてよ。木虎ちゃん」

 

 

 そう言うと、緑川は一人で修へ向けて歩み出す。彼の考えが何か分からないが、いつでもフォローできるようにハンドガンを生み出して準備を整えるのであった。

 

 

「凄いよ、三雲先輩。俺、正直言って三雲先輩がここまで出来る人だと思ってもみなかったよ」

 

「ありがとう、緑川。お世辞でも嬉しいよ」

 

「お世辞じゃないよ。……俺、本当は三雲先輩の人気を落とす為に最初は勝負を挑んだんだ。貶めようと考えてすみませんでした!」

 

「いいよ、そんなこと。噂が先走って困っていたのは僕の方なんだから。事実、僕は弱いからね」

 

「とんでもない! 今の三雲先輩を弱いと言うやつがいたら、俺が叩きのめしますから」

 

「……ありがとう、緑川。そう言ってくれると、練習中のこれらを使った甲斐があるよ」

 

「縦横無尽に走る変化弾。姿を隠すためのメテオラ。そして、敵を撃つ為のアステロイド。厄介極りないけど……。今から三雲先輩を攻略します」

 

「分かった。全力で相手になるよ。……こい、緑川!」

 

「行きます!!」

 

 

 

 ――グラスホッパー

 

 

 

 自分の足場にグラスホッパーを生み出し、真直ぐ修へ駆け出す。高機動によるピンボールだと修が足場を撃抜いて防がれてしまうので、単独で発動したようだ。

 一直線に駆け上がる緑川に向け、周囲に浮かぶ変化弾が緑川に襲い掛かる。それに対し、緑川は新たにグラスホッパーを使って強制的に進行方向を変える。

 無情に通過していく変化弾。それを見やり、緑川がしたい事を修はともかく木虎も気付いたのであった。

 

 

「(着弾するギリギリのタイミングでグラスホッパーを使って避けるつもり!?)」

 

 

 木虎の予想は当たりであった。左方に避けた緑川に向けて修はアステロイドで追撃を図るのだが、更にグラスホッパーを使って右方へ強制的に進行方向を変えたのである。

 

 

「名付けてライトニング走法! 当てられるものなら当ててみろ!!」

 

 

 無茶苦茶にもほどがあった。けど、緑川の強硬手段は確実に修との距離を詰めていく。

 このままだと距離を詰められて葬られる。危険を察知した修はアステロイドとバイパーを同時に射出し、緑川が移動しそうな場所全域に放出したのだった。

 

 

「甘いよ、三雲先輩」

 

 

 

 ――シールド

 

 

 

 避けられないと判断するとシールドを突出し、強行突破を図る。数多の弾丸を受けたシールドは確実に削り取られるが、トリオン体を傷付けるまでにはいかなかった。広く薄く攻撃したのが仇となったのである。

 

 

 

 ――スコーピオン×2

 

 

 

 限界まで削られたシールドを消し去り、残りの弾丸はスコーピオンで切り落としていく。

 もはや、修と衝突するのは時間の問題。弾丸では止められないと判断した修はレイガストを生み出し、緑川の襲撃に備える。

 

 

「木虎ちゃん! スパイダー!!」

 

 

 後方で待機している木虎に命じる。スパイダーだけで何を意味するか判断出来なかったが、命じられた木虎は彼の意図を理解したのだろう。

 スパイダーを修に向けてぶっ放す。木虎が放った弾丸はレイガストに着弾。

 

 

「なっ!?」

 

 

 迫り来る緑川に向けてレイガストを振り上げようとして、スパイダーを通じて引っ張り上げる木虎によって一瞬だけど身動きを妨げられてしまった。

 そのごく僅かな隙があれば緑川には充分であった。

 

 

「三度目の正直! その首、もらったよ!!」

 

 

 二閃。緑川のスコーピオンは修の首を確実に捉え、一瞬にして光の帯となって上空へ消えて行った。

 四戦目は緑川の機転によりA級チームの勝利で終わる。



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SE修【天眼】VS緑川&木虎④

一つだけ言わせてほしい。

……なんか、色々とすごいことになっていますよ!?


 VS緑川&木虎の戦績は4戦中1勝2敗1分け。残りは1戦。この時点で修の勝利はなくなってしまったが、勝利以上の価値を見出せる事が出来たと確信する。

 サイドエフェクト強化視覚、愛称【天眼】と名付けられた力の使い方を少しずつであるが理解出来たはず。

 三雲修の天眼は【千里眼】【浄天眼】【複眼】が合わさった能力を有している。

 文字通り、五眼の一。全てを見通す事が可能な眼であった。

 けど、そんなチートな眼を所有しても、修は緑川の特攻を止める事が出来なかった。流石はA級と賛辞の言葉を送るべきなのだが、相手は自分よりも一つ年下。悔しくないと言えば嘘になる。

 

 

「やはり、グラスホッパーが厄介だな。使われる前に撃抜ければいいのだが……」

 

 

 天眼を使えば使った瞬間に狙いすましてアステロイドで撃抜く事は出来る。事実、既に実行した芸当だ。しかし、緑川はそれをさせまいとギリギリのタイミングまで使用するのを我慢して、発動してから使用する時間を限りなく狭めてきている。口で言うのは簡単だが、実行に移すのは難しい離れ業だ。少しでもタイミングがずれれば緑川の四肢は修の弾丸の餌食となっていた事であろう。

 

 

「今の僕では進行方向すべてにメテオラで妨害する以外、方法はないか」

 

 

 バイパーで追尾する事も考えたが、まだまだ自由自在に変化させるほど実力はなかった。リアルタイムで弾道をひく事は出来たが、発動時間に僅かながらタイムラグが生じている事を自覚していたからだ。相手に気付かれない様に変化弾は牽制と不意打ちにしか使っていない。もしも、変化弾を主力に戦う事が出来たらもっとうまく立ち回る事が出来たかも知れない。

 

 

『三雲先輩。いよいよ最終戦ですよ! 早く早く!! 俺、ワクワクが止まらないんですよ』

 

 

 通信機越しから緑川の催促の声が飛ぶ。

 

 

「あぁ。分かったよ」

 

 

 まだ五戦目の作戦が決まっていなかったが、相手を待たせるのも申し訳がない。何のプランも考え付かなかったが、それは戦っている間に考えようと戦いに赴くと――。

 

 

『メガネくん、聞こえてる?』

 

 

 聞き慣れない声が通信機から聞こえてくる。

 

 

「その声は……。A級の――」

 

『そう言えば、メガネくんと話すのは初めてか。初めまして、俺は出水公平。ちょっとした必殺技があるんだけど、良ければ聞く?』

 

「……必殺技?」

 

 

 突然の出水の申し出に戸惑う修であったが、必殺技の言葉に少なからず興味があった。

 修は「どんなのでしょうか」と出水に訊ねる。問われた彼は「それはな」と告げて一つの単語を修に伝える。その言葉の意味を知った修の目は大きく見開く事になる。

 

 

「それって……。む、無茶ですよ! まだ、僕が扱う事が出来る技術じゃありませんって!」

 

『大丈夫大丈夫! 最初だから発動させるまで時間がかかるかもしれないけど、そこはご自慢の眼力でどうにかなるって! 後は気合と根性! それだけあればメガネくんだって使えるはずさ。じゃ、最終戦を楽しみにしているぜ』

 

「ちょっ。出水先輩? 出水先輩! あの人、言いたい事だけ言って切っちゃったよ。……あの人、何で僕の眼の事を知っていたんだ?」

 

 

 言いたい事を言って通信を切った出水に頭を抱えたい所であったが、時間は待ってはくれない。修は出水から伝えられた“切札”をいったん頭の片隅に置く事にする。

 

 

 

***

 

 

 

「お、出て来たか」

 

 

 個人ブースから退出した出水を捕まえた米屋は「何をしていたんだ?」と尋ねる。

 4戦目後、出水は「あれじゃメガネくんがちょっとかわいそうだな」と呟くと「そうだ」と手を叩き、いそいそと個人ブースへ入っていったのであった。

 

 

「ちょっとメガネくんに俺様の必殺技を伝授してあげたんだ」

 

「お前の必殺技? ……おいおい、まさか」

 

 

 弾バカこと出水公平は天才シューターとして名を馳せている。彼をよく知る隊員たちは「彼の名を聞いて思い浮かぶモノは?」と問われると真っ先に口にする事があった。

 

 

「こんな所で期待のシューターが潰れるのはもったいないだろ」

 

 

 にやつく出水の姿はまるで悪戯を思いついた子供のようであった。

 きっと、5戦目に披露するはずの修の必殺技を見て見物人達がどよめく姿を想像したのだろう。

 

 

 

***

 

 

 

「遅かったわね」

 

「ごめん。待たせたかな」

 

 

 既に戦闘準備を終えた木虎の御咎めの御言葉を頂き、修は素直に謝罪する。

 

 

「別にそこまで待っていないからいいわ」

 

「そっか。それは良かった」

 

「一つ聞きたいのだけど、あなたが急に腕を上げた原因は何かしら? どんな魔法を使ったわけ?」

 

 

 木虎の知る三雲修は戦闘経験が浅い未熟なB級隊員であった。先の風間戦も隠密トリガーカメレオンに苦戦して24連敗している。けれど、最後の1戦は異質であった。メガネを投げ捨てた修の動きは同じ人間とは思えないぐらい俊敏に動き、まるで数秒後の未来が分かっているかのように立ち回っている。

 木虎はその正体を見破る為に今回の緑川の件を利用して、戦いに挑んだのであった。

 

 

「魔法と言うか……。僕は昔から視力だけは良かったんだ。今まで付けているメガネも伊達メガネだったりするんだよね」

 

「な、なんで!?」

 

「そうじゃないと、見え過ぎて直ぐに気持ち悪くなるんだよ。……けど、もっと早くこれについて相談すればよかったかな。まさか、僕の眼の原因はサイドエフェクトだったなんてね」

 

「サ、サイドエフェクト!? あ、ありえないわ。サイドエフェクトはトリオンが豊富な人間にしか起こりえない副作用のはず。あなたのトリオン量ではどんな奇跡が起こっても――」

 

「発現しない。その通りだ、木虎。……けど、僕のトリオンが元々サイドエフェクトを維持する為に使われ続けている、と言えばどうだ?」

 

「そ、そんな異質なサイドエフェクトなんて聞いた事がないわ!」

 

「だろうね。……そう言う事だ、緑川」

 

 

 トリオンキューブを生成。己の頭上に向けて変化弾を飛ばし、設置されていたグラスホッパーを撃抜く。密かに設置していたグラスホッパーが見破られたのと同時に身を潜めていた緑川が現れる。

 

 

「ちぇ、気付かれていたか。そのサイドエフェクト、チートすぎるよ三雲先輩」

 

「その天眼を掻い潜り、僕の首をもぎ取った人に言われたくないけどな」

 

「へへ、凄かったでしょ。次もその首、貰い受けるからね」

 

「だと、いいけどね」

 

 

 意味深な笑みを浮かべる修に警戒心を強める緑川。

 修はグラスホッパーを潰す為に密かに設置していたグラスホッパーを撃抜いていた。それに加えて修には天眼と呼ばれているサイドエフェクトがある。それを総合すると……。

 

 

「っ!? 緑川くん、避けなさい!!」

 

 

 結論、身を隠していた緑川の位置も正確に割り出していたと考えられる。それを見越して修が変化弾を撃っていたと考えるならば、時間差で緑川の頭上目掛けて弾道を描くはず。

 

 

「おっと、あぶなっ!?」

 

 

 身をひるがえして、頭上から襲い掛かる数発の変化弾を躱す。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 その隙をついて修の追撃が繰り出される。レイガストを生み出し、スラスターによる高速斬撃が緑川の胴体を両断せんと弧を描く。

 しかし、修のレイガストは緑川の胴体を切り裂く直前で強制的に動きを止められる事になる。木虎のワイヤー銃が僅かに早く修のレイガストに着弾し、動きを妨げたのだ。

 

 

「木虎ちゃん、ナイス!」

 

「木虎さん、でしょ!!」

 

 

 修が攻めあぐねている隙に二人はスコーピオンを造り出して、修に接近戦を挑む。幾ら強化視覚のサイドエフェクトを持っていようが、二人の精鋭による剣戟を躱しきる事は出来ないだろうと踏んだのであった。この作戦は修が来る前に練られた作戦である。

 同タイミングでスコーピオンを振り上げ、緑川は左腕を。木虎は右足目掛けてスコーピオンを走らせる。

 

 

「(レイガストとシールドでは防ぎきれないな、これは)」

 

 

 天眼により二人の狙いを把握する。二人は必殺の一撃よりも自身の戦力を削減させるのが目的なのだろう。特に足を削られてしまったら、いくら攻撃を見切った所で避けきる事は難しい。

 スコーピオンは質量を持たない刃。攻撃速度は随一を誇る。一度目の攻撃を防いだ所で、二人は更なる一撃を放つ為の追撃を用意しているはず。この攻撃を普通に受けたら、待っているのは修の敗北のみ。

 

 

「なら」

 

 

 レイガストを手ばなし、二人が放つ刃の軌道上に両手を滑り込ませる。

 普通に防御しなければいい話だ。

 

 

 

 ――アステロイド

 ――バイパー

 

 

 

「「なっ!?」」

 

 

 二人の驚愕の声が重なる。修を襲ったそれぞれの凶刃は大玉のアステロイドとバイパーによって粉砕されてしまったのだ。

 弧月やレイガストならば修程度の弾丸トリガーでは壊す事は不可能だが、強度が低いスコーピオンなら話は別だ。天眼をフル活動して、スコーピオンの軌道を読み切ってそれぞれの弾丸を叩き込んだのだ。

 驚愕の防御方法に二人の動きが止まる。その一瞬の隙は出水が伝授した必殺技を生み出す絶好の機会を与えたのだ。

 

 

「バイパー + メテオラ」

 

 

 同時に弾丸トリガーを生み出す修の姿を確認し、二人は大きく後ろへ跳んで距離を開ける。修が行っている仕草は見覚えがあった。あれは出水公平が興味本位で生み出し、シューターの必殺技へと昇華させた変態技。

 

 

 

 ――トマホーク

 

 

 

 変化炸裂弾、トマホークはバイパーとメテオラを合成して初めて効力を発揮する合成弾の一種。二つの弾丸を合成するのに数秒のタイムロスがあるが、威力はデメリットを考慮してもおつりがくるほどの効力を発揮してくれる。

 無数の炸裂弾が二人を爆砕させんと襲い掛かる。しかし、二人に向けられた弾道は目前で枝分かれし、まるで二人を避ける様な弾道を描いて着弾したのであった。

 轟音と震動が二人に襲い掛かる即座にシールドを張って防御に徹するが、流星雨の如く降り注がれる爆撃によってひび割れが生じ始めたのであった。

 けど、二人のシールドが壊れる事はなかった。トマホークの脅威から護り切った二人であった。

 

 

「あっぶねぇ。まさか、そんな切札まで持っているなんて……。人が悪すぎだよ」

 

「出水先輩の合成弾まで……。けど、これであなたの手札は尽きたはず。今なら――」

 

 

 

 ――アステロイド

 

 

 

 シールドを解除した二人の心臓部をアステロイドが撃ち抜く。

 

 

「そ、そんな……」

 

「後ろから? いったい、どうやって!?」

 

 

 完全な不意打であった。二人の予想外の場所からアステロイドが飛んで来て、伝達系を破壊していったのだ。

 

 

「緑川にバイパーを放つと同時にアステロイドの置き弾を設置した」

 

「じゃ、じゃあ……。さっきのトマホークは」

 

「あの程度で二人を倒せないのは知っていたから、切札と勘違いしてもらうための布石だよ」

 

「三雲くん。覚えておきなさい!」

 

「くっそぉぉおおっ!」

 

 

 二人の捨て台詞の後、緊急脱出が起動。光の帯状となって宙を舞う二人を見上げつつ、小さくガッツポーズを作る修であった。

 VS緑川&木虎戦は5戦中2勝2敗1分けと大金星を飾る結果となる。




とりあえず、VS緑川&木虎は終了です。
また、案が思いついたら天眼修を書こうと思います。

……てか、気分転換に書いた魔改造のアクセスがすごいことになっている。
どうして、こうなった!?


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SE修【天眼】VS緑川&木虎(別視点)

あれだけ周りを巻き込んでおきながら、戦いを終わって本文を終了するのも変だと思ったので書き綴ってみました。……ノリと勢いだけで。


「さ、さぁ。注目の変則ランク戦、三雲VS緑川&木虎戦もいよいよ最後となりました。これまでの戦績は……。三雲1の緑川&木虎2に引き分け1との事です。って、なんですかこの戦績。A級二人にここまで肉迫出来るなんて、何者なんだ!」

 

 

 友人から知らされた戦いの情報を確認して度胆を抜かれる。途中から見物し始めた隊員達もそれらを聞いて武富桜子同様に驚愕したのであった。

 

 

「私も正直驚きました。吃驚仰天とはまさにこのこと。相手はA級草壁隊の緑川くんとA級嵐山隊の木虎隊員。どちらもエース級の実力の持ち主に玉狛所属のB級三雲隊員は堂々とした立ち回りで二人を相手取っている。これじゃあ、どちらがA級か分からないぞ!?」

 

「相手の動きを見てから、実行に移すまでの判断力が早いから出来る芸当だろう。俺の時もあの判断の速さにやられたしな」

 

「そう言えば、三雲隊員は風間先輩と戦って勝ったと噂になっておりましたが、真偽の方はいかに?」

 

「事実だ。最後の最後で油断してもっていかれた。俺もまだまだ精進が足りなかったと言う事だろう」

 

 

 風間が認めた事で喧騒の波が拡大されていく。それだけ今回の噂は注目の的だったのだろう。B級成り立ての隊員がA級のベテラン精鋭隊員に勝利する。普通に考えれば眉唾だろうと勘ぐる所であるが、本人から事実だと告げられてしまった。

 それを聞いたB級隊員は修を仲間にしようと情報を集め始めるのであった。A級になるには小隊を組んでランク戦に挑み、昇級しなければならないからだ。その為に実力者を仲間に入れたいと考えるのは当然の事だろう。

 

 

「驚愕な事実に驚いている間に三雲VS緑川&木虎戦、最終戦が始まりました。三雲隊員が遅れている間に緑川・木虎隊員の両名は確りと作戦を練っていた模様です。この二人、本気だ。本気でB級の三雲隊員を潰しにかかってる」

 

「既にあいつらは三雲に1勝されているからな。数的有利な条件にも関わらずだ。アドリブで連携を取るのは危険と考えたのだろう」

 

「三雲隊員は異常に反射神経が良い様に感じられましたが、その秘訣は何だと思いますか?」

 

「それについては俺も想像の域を超えないから説明できないな。ただ――」

 

 本当はサイドエフェクトの恩恵だ、と言えればいいのだが、この場で修の手札を明かすのはフェアではない。

 風間はお茶を濁すことで質問をごまかすことにしたのだった。

 

 

「――ただ?」

 

「動きに迷いがないから、動作の一つ一つがキレているのだろう。最大の要因は三雲の状況判断の良さだと俺は考える」

 

「なるほど。っと、そうこう言っている間に、三雲隊員がレイガストで緑川くんを強襲! 先に放ったバイパーの中に緑川くんを狙う様に弾道が描かれていた模様。それに気づいた木虎隊員の指示のもとに緑川くんが避けるがそれすらも計算の内と言ったところでしょうか。これがB級成り立ての隊員の動きか!?」

 

「変化弾はリアルタイムで弾道を描く事が可能なトリガーだ。これを扱うにはセンスが必要。空間把握能力に長けた人間でないと発動に手間取るからな」

 

「では、三雲隊員はその空間把握能力に長けていると?」

 

「あれは例外と言ってもいいだろう。どっちかと言うと、全部見てから決めている節がある」

 

「……は? それはどう言う意味ですか」

 

「それよりも、木虎がスパイダーで動きを封じに掛かったぞ」

 

「っと、第4戦の決め手となった木虎隊員のスパイダーが三雲隊員に襲い掛かる。せっかく強襲した三雲隊員の一撃は木虎隊員によって防がれてしまった! その隙を狙って両者が動く。三雲隊員を挟み撃ちするつもりだ。そこまで本気で殺しにかかるか、A級隊員!!」

 

「当たり前だ。相手が何であれ、舐めて掛かるのは論外だ」

 

「し、失礼しました。おっと!? 三雲隊員、レイガストを放り投げ……え、えぇ!! 弾丸トリガーで二人のスコーピオンを破壊した? 武器破壊? 武器破壊をやってのけたぞ。武器破壊なんて私は漫画以外に見た事がありません」

 

「武器破壊をしている奴はいたが、そいつは狙撃でやっていたな。弧月やレイガストならともかく、スコーピオンなら三雲でも破壊する事は可能だろう。ま、それには大玉を放つしかなかったようだが」

 

 

 仮に分割してスコーピオンを破壊できるパワーがあれば今の不意打ちで二人を強制退散させる事も出来たであろう。けど、修は自分のトリオンが最弱であることを知っている。保険に保険をかけて、大玉一発の弾丸を撃ち放ったとみて間違いないだろう。

 

 

「これで三者仕切り直しに……ならなかった!? 三雲隊員、ここでまさかの隠し玉を発動だ! トマホーク? トマホークだ! バイパーとメテオラの合わせ技、合成弾トマホークを緑川・木虎に撃ち放った。こんな隠し玉まで持っていたのか。お前はどこの吃驚箱だ」

 

「合成弾は熟練者でも数秒の時間を有してしまう。魅力的な技であるが扱える隊員は実は少ない。あれまで使えるとなると、緑川達は更に苦戦を強いられるだろうな」

 

「狂瀾怒濤の大展開。トマホークが二人に襲い掛かる。三雲隊員、まさしく切り札を切って来たぞ。これで終わってしまうのか、A級隊員! ……へ? 弾道が逸れた? 弾道が逸れたぞ。せっかくの切り札もまるで相手を躱す様に目前で枝分かれし、トマホークは命中ならず」

 

「よく見て見ろ。あれは切り札じゃない。……ただの囮だ」

 

「……へぅ? はっ!? シールドを解いた二人の体にアステロイド? アステロイドが突き刺さる。な、なんで? いつの間に、いつの間に置き弾なんて設置したんですか!?」

 

「三雲は緑川が設置したグラスホッパーを撃ち落す為にバイパーを放っていた。が、同時にさりげなくアステロイドも放り投げていた。恐らく何らかの決め手、あるいはトラップとして活用しようと目論んでいたのだろう。けど、それだけでは二人に届かないと判断した三雲はトマホークで判断力を削ぐと同時に動きも制限させた。後は、シールドを解くと同時に置き弾のアステロイドを起動させたのだろう。あれほどいやらしい手を使う隊員は早々いないだろうな。案外、トラッパーも向いているかもしれない」

 

「ありがとうございます、風間さん。さぁ! 三雲VS緑川&木虎の変則ランク戦はこれで終了です。戦績は2勝2敗1分け。……引き分け!? 今回の勝負は引き分けです」

 

「試合はそうだが、実質は三雲の勝利だ。A級二人にこれだけの戦績を成し遂げられたなら、タイマン勝負では完勝もあり得るだろう」

 

「そうですね。三雲隊員がB級隊員であることを一瞬でありましたが忘れていました。今回の戦い、風間さんはどう見ますか?」

 

「即席チームだから連携がスムーズでないのは致し方がないが、それぞれ役割を決め過ぎていたな。突出する緑川とフォローをする木虎。役割分担は大切だが、二人とも互いの小隊のエースだ。それぞれ場面場面で順応し、状況を変化させる事で変わる場面も少なくなかったはずだ。今回の戦いはいい勉強になっただろう」

 

「なるほど。対して、三雲隊員についてはいかがでしょう?」

 

「俺の時と比べて随分と動きは良くなったが、まだまだ固いな。今後は色々な相手と戦って研鑽を続ける事でさらなる上達につながるだろう。今ある武器を大切にすることだな」

 

「ありがとうございました! 今後はこう言った面白おかしい場面はどんどん突っかかって行くつもりなので、みなさん。情報提供をよろしく! 以上、海老名隊オペレーター、武富桜子がお送り致しました!」

 

 

 

***

 

 

 

「……白チビ。メガネボーイのやつ、最後の最後でやりやがったな」

 

「俺もビックリ。なに、最後のあれ?」

 

 

 空閑のあれとは合成弾の事を言っているのだろう。当の本人に伝授した出水はドヤ顔で説明を始める。

 

 

「あれは合成弾だ。メガネくんのやつ、バイパーとメテオラを使っていたからな。隙を窺って、トマホークをぶっ放したら面白くなるぞ。とアドバイスしたんだ」

「ほぅほぅ。とまほーく、ですか」

 

「あぁ。バイパーの如く弾道を自在に描き、メテオラの如く破壊力を持つ合成弾。最後の決め手になると思って教えたんだが、まさか……。置き弾のアステロイドを意識から外すための捨て石にするなんて思っても見なかったがな。面白いな、お前の所のメガネくんは」

 

「そりゃあ、オサムですから」

 

 

 褒められて自分の事の様に喜ぶ空閑。自身のサイドエフェクトで出水が嘘や建前を言っていない事を知っているから素直に喜ぶ事が出来た。

 

 

「シューター界に新しい風が吹きそうだ。こりゃあ、二宮さんや加古さん、那須が黙っていないだろうな。今度、シューター会に誘ってみるか」

 

 

 正隊員で活躍しているシューターは少ない。大半は前衛のアタッカーであったり、後衛のスナイパーである。中衛のポジションはガンナーを選ぶものが多く、シューターを選ぶ人間は少ない。

 発想力と応用力が必要な為、戦いを工夫しないと勝つことが難しい事は出水も重々承知している。けれど、逆に言わせればそれだけ汎用性が高いとも言える。柔軟に対応できるのはシューターだけだ、と疑ってやまない出水は数少ないシューターを集めて、シューター会なるものを開いていた。互いに発想力を刺激し合って、柔軟性を高めるための集会に修も混ぜたら絶対に面白くなるだろう、と出水は確信していた。

 

 

「……え、なにその会議。面白そうなんだけど。俺も混ざっちゃダメ?」

 

「槍バカが何を言っているんだ! お前は出禁だ」

 

 しかし、出水は知る由もなかった。

 今後、修がらみで色々と騒ぎに巻き込まれるなんて。

 修をシューターにさせる為、あらゆる手段を講じて守り抜く事になろうとは思っても見なかったであろう。




ここから先、弾バカ先輩の活躍で修がシューターになるか、オールラウンダーになるか変わります。……たぶん。

実は何気に次の構想も考えていたり。
次は奴の狙撃銃が火を噴きます。

サトらないよ、たぶん。


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SE修【天眼】ツインスナイプ①

……皆さんの反響がなんかすごいから、八雲(仮)が書けないじゃないか。
どうしてくれるんですか、ぷんぷん。

気持ち悪くて申し訳ない。
今回はツインスナイプ編です。誰だかお分かりでしょ?


 天眼が発動した所で、修の総トリオン量が多くなるわけではない。同時に運動能力が向上する訳でもない。天眼が発動する事で得られる恩恵はあくまで視覚情報が他の人間よりも多く得られるだけだ。その情報を元に修は判断し、実行しているだけにしか過ぎない。

 発動しない時より発動した方が戦闘力は向上するが、過剰に変化する訳ではないのだ。

 ないはずなんだが――。

 そんな風に思っているのは修ただ一人であった。

 

 

「頼む、三雲! 俺が作る小隊に入ってくれ」

 

「いーえ。三雲くんは私が作る予定の部隊に入るのよ。みんな女の子だから楽しいわよ」

 

「いやいやいや。三雲は我と一緒にヴィクトリーロードを歩み続けるのだ。あの時の誓いの言葉をもう忘れたのか!?」

 

 

 咄嗟に「知りませんよ」と否定したかったが、それよりも早く別の人間に捕まってしまい、言うに言えなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 緑川&木虎との戦いの翌日、上層部から呼び出されてしまった。理由は近々起こりうる大惨事、大規模侵攻に付いてであった。

 修は空閑と出会ってからモールモッド2体及びイルガー1体と遭遇している。それに加えて空閑と初めて接触を行ったのが修であったので、空閑の説得役としても呼ばれたと思われる。

 用事を済ました修は空閑を待つ為にラウンジへ向かった。二人で玉狛支部に戻ろうとした時、ちょうど緑川と出くわしてしまったのだ。あれから空閑と戦った緑川は自分と似た戦い方をする空閑を気に入ってしまった様子。会う度にランク戦を誘う仲にまでなっていた。

 緑川の誘いを快く了解した空閑は早々とランク戦ブースへ駆け出していくのだった。

 

 

「空閑! 何かあったらちゃんと連絡しろよ」

 

「分かってるって!」

 

 

 あっと言う間に空閑の背中が視えなくなってしまう。子供の様に無邪気に燥ぐ空閑に呆れながらも、友人が出来たことは相棒として素直に嬉しかった。

 しかし、それが失敗の原因であった。修が一人になったのを機に周囲の人達が我先と接触を図ってきたのである。で、冒頭に戻る。

 

 

 

***

 

 

 

 何度も何度も「小隊に入る事は出来ない」とはっきり断っているにも関わらず、執拗に仲間になれと要求してくるB級隊員に頭を悩ませていた。

 

 

「おいおい、寄って集って三雲くんを取り合うとか問題じゃないか? うちの木虎が視たら、みんな仲良く緊急脱出しちゃうぞ」

 

 

 困り果てていた修に救世主が現れる。左頬に手形の痕がくっきりと残っている救世主様だったが。

 

 

「……嵐山隊の佐鳥賢だ」

 

「佐鳥って、あの俺のあれを視た? って聞いてくるあの佐鳥か」

 

「えぇ。安定の顔窓こと佐鳥君よ」

 

「――ちょっとちょっと! あれって抽象的な言葉で言うのやめてくれない!? なんか卑猥に聞こえるから。ちゃんとツイン狙撃って言ってよね。それと安定のってつけるのやめて! トラウマだからそれ」

 

 

 涙目で訴える佐鳥だったが、誰も彼の言葉に耳を傾けない。みな、木虎に下手な事を言って平手打ちにされた佐鳥の相手よりも期待の新星である修の勧誘の方が優先度が高いと踏んだからだ。

 

 

「……お前たち、これ以上三雲くんに迷惑をかけると言うならば、木虎に告げ口するからな」

 

 

 それは魔法の言葉であった。騒々しかった一同は佐鳥の一言によって静まり返ってしまったのだ。

 

 

「き、汚いぞ佐鳥。他力本願もいいところだ!」

 

「そうよ。そこで木虎さんに告げ口とか、男としてのプライドはないのかよ」

 

「だまらっしゃい。木虎の足ブレードを受けたくなかったら、大人しく三雲くんを解放しなさい」

 

 

 どうする、と相談し合う一同。佐鳥の言うとおりにするのは癪だが、木虎を敵には回したくない。けれど、こんな絶好のチャンスを見す見す逃したくもなかった。

 一同が答えるよりも早く間を縫って脱出した修は皆に向けて告げる。

 

 

「みなさん、お気持ちは大変うれしいのですが、僕は既に小隊を組む仲間と約束していますので、応じる事はできません」

 

 

 深々と頭を下げて一同に謝罪する修。当の本人は何も悪い事をしていないのに謝られた事に後ろめたさを感じたのだろう。みなは「悪かった」「ごめんね」と謝りながら、その場から去っていく。

 

 

「佐鳥先輩、ありがとうございました。大変助かりました」

 

「いいってことよ。三雲くんを放って置いたら、木虎に何を言われるか分かったものじゃないからね」

 

「さっきも木虎の名前が挙がっていましたが……」

 

「アイツ、暇が出来る度に三雲くんとの対戦ログを食い入るように見ているんだぜ。あそこでこうすれば、とか。あれは失敗だったとか、三雲くんに見せてやりたかったよ」

 

「それはなんて言いますか――」

 

「――おれも対戦ログを視させてもらったけど、凄かったね。特に第5戦のカウンター武器破壊。あれを視た時、鳥肌が立ったよ」

 

 

 賛辞する佐鳥の言葉に修は苦笑いするしかなかった。

 

 

「あれって、やっぱりメガネを外したのとなんか関係があるの?」

 

 

 佐鳥の記憶上では修はトリオン体でもメガネを着けていたはず。しかし、木虎の眼を盗んで鑑賞した対戦ログの時はメガネをしていなかった。その違和感に気付くまで修の異変を一緒に見ていた時枝、綾辻の三人で原因を推測し合ったのは秘密である。

 

 

「えっとですね……」

 

 

 修はメガネを外す事でサイドエフェクト【天眼】が発動する事を話す。

 

 

「え、マジで? 三雲くん、サイドエフェクト持ちなの?」

 

「あ、はい」

 

「マジか。それであんな事が出来たんだ。けど、そんな大切な話しを俺なんかに話してよかった訳?」

 

「大丈夫です。既に空閑が何人かに話してしまっていますし。秘密にするようなことでもありませんから」

 

「そっか。けど、強化視覚ね。スナイパーの俺にとっては咽喉から手が出てしまうほど欲しい特殊能力だよな」

 

 

 オプショントリガーにレーダーから逃れるためのバッグワームがある。もし、修の天眼があったならバッグワームを起動されても正確に撃ち抜く事が出来るだろう。

 それにそれさえあれば、仲間の眼となって動きを正確に把握する事も可能だ。ランク戦でこれほど頼もしい能力は早々ないだろう。

 

 

「まだ使い慣れていませんので、色々と改善しないといけないところはあるんですが、強みが出来たことは素直に嬉しいです」

 

「だろうね。マジでチートだもん、それ……。ね、三雲くん」

 

「はい?」

 

「気分転換に狙撃手用訓練施設に行ってみない?」

 

「……はい?」

 

 

 何を思ったのか、佐鳥は一緒に狙撃手用訓練施設に来ないかと誘ったのである。

 

 

「ほら、他の場所に行っても仲間になれって勧誘されるのがオチだろ。なら、スナイパーの訓練施設ならおれもフォローできるし、訓練中に勧誘しようと考える者も少ないと思うしさ」

 

「……えっと」

 

 

 佐鳥の提案は正直言ってありがたかった。空閑にはレプリカを通じて連絡すれば合流する事も容易であるし、何より狙撃手用訓練施設なら雨取千佳もいる。彼女に協力してもらって、小隊を組む予定があると伝えれば、他の人間にも納得してもらえると踏んだのだ。

 

 

「それでは、お邪魔でなければお願いします」

 

「オッケー。任せておいて」

 

 

 サムズアップで答える佐鳥に修は「なんて優しい先輩なんだろう」と感激する。

 今度、嵐山隊に行ってお礼のどら焼きをご馳走せねば、と思ったり――。

 

 

 

***

 

 

 

 ――した、自分がおろかであったと、数分前の自分を呪った。

 

 

「あの……。佐鳥先輩?」

 

「うん? なんだい、三雲くん」

 

「なんで僕はライトニングを持たされているのでしょうか?」

 

「気分転換だよ」

 

「しかも、なぜ二挺も持たされているんでしょうか?」

 

「気分転換、気分転換。さっ、一緒に狙撃界にツイン狙撃を轟かそうぜ」

 

「人の話を聞いてください!」

 

 

 修の大声によって注目が集まる。声主が誰かと分かって集まりだした一同に慌てた修は、佐鳥に助けを求めるのだが――。

 

 

「――はい。まずは一挺で良いから構えてね。まずは基本姿勢といこうか。片膝を地面に付ける。そして、膝にライトニングをのせてから銃口を目標に固定してね」

 

 

 どうやら、言うとおりに行動しないと逃がしてはくれない模様。諦めた修は左手に持つライトニングを消し、佐鳥の言うとおりに狙撃の体勢に入り――。

 

 

「じゃあ、まずは軽く――」

 

 

 

 ――佐鳥が助言を行うよりも早く修のライトニングが火を噴かす。

 

 

 

 放たれた弾丸は標的のギリギリ右隅を捉えていた。

 

 

「ちょっ。三雲くん! 気が早すぎ。慣れないトリガーなんだから、もっと落ち着いて狙わないと」

 

「す、すみません」

 

 

 言われるよりも早く引き金を絞った事に反省する。標的を見据えた時、メガネをかけていたにも関わらずいつも以上に標的との距離が近くに感じてしまったのだ。これなら容易にあたると思ってぶっ放してしまった。

 

 

「……まぁ、いいか。今ので弾丸の軌道を覚える事が出来たんじゃないの?」

 

「へ?」

 

「三雲くんの天眼なら、今のでライトニングの射撃能力を捉える事が出来たでしょ。後はその弾丸軌道を参照すれば当てる事が出来るはずだよ」

 

「な、なるほど」

 

 

 佐鳥の説明に納得してしまった。

 けど――。

 

 

「すみません。メガネを取っていませんでしたから、もう一度やってもいいですか」

 

「……あ。そ、そうだったね。じゃ、もう一回初めからやろうか」

 

「はい」

 

 

 修がメガネを外した時、周囲から歓声が上がる。

 

 

 

 ――あの三雲がメガネを取ったぞ。

 

 

 

 野次馬となって見守っていた者達からの言葉に佐鳥は苦笑いするが、修の集中力を妨げまいと彼ら彼女らに注意を呼びかける。

 

 

「(……まずは一発。これで)」

 

 

 ライトニングを構え、間を置く事無く引き金を絞る。放たれたライトニングの弾丸は標的の左隅を掠めていった。

 

 

「(今のでライトニングの弾丸軌道は覚えた。後は、銃口の角度を修正して――)」

 

「――お、おい。三雲くん!?」

 

 

 佐鳥は思わず三雲を止めにかかる。けれど、狙撃に集中していた三雲は彼の言葉が聞こえていなかったのであろう。

 修は再びサブのライトニングを生み出し、銃口を向けるや否や二挺同時に引き金を絞る。

 

 

 

 ――ツイン・クイックスナイプ

 

 

 

 流れる動作で狙撃を敢行した修は結果を表示するモニターを確認する。

 

 

「……ぇ、マジで?」

 

 

 修よりも早くモニターを見ていた佐鳥はこれでもかと言わんばかりに目を大きく見開かせていた。

 モニターには中央に一発だけ弾痕が表示されていた。

 これを見て、修は一発だけ命中してもう一発は外した、と思ったがそうではない。

 

 

「同じタイミングで同じ場所に命中させる……。しかも、クイックで!?」

 

 

 そんな馬鹿な、と驚愕して仰向けになって崩れ落ちる。自分で言っておきながら、こうも簡単にツイン狙撃を敢行した後輩に驚かずにいられなかった。

 この瞬間、狙撃の眼【鷹の眼】が開眼したとかしなかったとか、真意は次の戦いで分かる事だろう。

 




狙撃の技って意外と少ないですよね。
クイックドローもゲームの技ですし。……まぁ、当たり前なんですが。

次は狙撃合戦がはっじまっるよぉ――……ぇ、そうなん?


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SE修【天眼】ツインスナイプ②

……狙撃合戦? はて、何のことでしょう。


 ツインスナイプは口で言うほど簡単ではない。

 そもそもスコープを覗かずに標的を捉える狙撃だけでも難しいのだ。

 ボーダー唯一のツインスナイプ使いの佐鳥だって、今の領域に踏み込むのにどれだけの研鑽を積んだことであろうか。

 それを……。自分を見下ろして冷や汗を流す後輩は難なく成功させて見せた。幾ら、狙撃と相性が良いサイドエフェクトがあるからと言って、これはあんまりだと思う。

 

 

「あの……。佐鳥先輩?」

 

 

 仰向けのまま寝転ぶ佐鳥に呼びかける不安な表情で呼びかける修を見て、佐鳥は笑みを繕って起き上がる。

 

 

「悪い悪い、三雲くん。いきなりツインスナイプを成功させるから驚いちゃったよ。しかも、狙撃の高等技術クイックを取り込むんだから更にね」

 

 

 クイックとは簡単に言えば早撃ちの事を指す。本来、精度を求められた狙撃術に早撃ちは不要な存在……とまで言うと大げさだが、確実に当てる為には胆力と正確性の方が重視される。

 そう言う意味では修の狙撃は異端と言ってもいいだろう。ライトニングを構えてから狙撃するまでの時間が圧倒的に短い。幾ら強化視覚を持つとはいえ、あんな芸当が出来ると疑問に感じるのは致し方がないだろう。

 

 

「その……。初めてで勝手が分からなかったのですが、ライトニングを構えた瞬間に弾道の軌道が視えた様な気がします。そのせいかも知れません」

 

「なんだって? それは本当かい!?」

 

「はい。佐鳥先輩の言われた通り、一射目の軌道を天眼に覚えさせ、二射目をそれに照らし合わせてやってみたんですが、こう直線を走る何かが二つ。標的に吸い込まれるように描かれたんです」

 

「ちなみに、それってもう一回出来るかい?」

 

「……やってみます」

 

 

 修は再びライトニングの銃口を下げ――。

 

 

「――待って、ストップ」

 

 

 ――佐鳥によって射撃を中断させられる

 

 

「……はい?」

 

「はい? じゃないよ。なんで銃口を下ろすの。まさか、またクイックをやるの!?」

 

「だって、もう一回って言いましたよね」

 

「言ったけど……。ああもう! 分かったよ。クイックスナイプでいいよ!!」

 

 

 何をそんなに興奮しているのか分からないが、修は気を取り直して狙撃の態勢に入る。

 まるで決闘を行う西部のガンマンの如くライトニングの銃口を下げた修は、集中力を極限まで高め――構えて引き金を絞る。

 

 

 

 ――ツイン・クイックスナイプ

 

 

 

 銃声がシンクロする。

 佐鳥でもコンマ数秒の誤差が生じると言うのに、修のツイン狙撃は寸分も狂わないタイミングで発射された。

 ライトニングから放たれた弾丸は空を裂き、数十メートル先の標的のど真ん中を貫いていく。

 

 

「これでいいでしょうか?」

 

 

 問われた佐鳥は答えなかった。全身わなわな震わせて、修の両肩を掴むと――。

 

 

「三雲くん! 是非とも狙撃手になろう。キミはそげキングになれる逸材だ!!」

 

 

 ――興奮した口調で修を狙撃界に勧誘したのだった。

 

 

「そ、そげキング?」

 

「そう! そげキングだ。三雲くんなら絶対になれるって! むしろ、スナイパーにならないなんて勿体無さすぎる。絶対に三雲くんの為になるから」

 

「で、でも……。僕はシューターの方があっているかなって……」

 

「とんでもない! これだけの逸材をみすみす逃すなんて、この佐鳥が逃すと思ってる? 思ってないよね! ならなろう。今すぐなろう」

 

「ちょっ、待ってください。今までは気分転換じゃ――」

 

「――気分転換なんてただの口実に決まっているでしょ!!」

 

「うわ。薄々気づいていたけど、簡単に暴露したよこの人。ちょっ。待ってください、待ってくださいよ、佐鳥先輩!!」

 

「なに!? 師匠なら俺がなってあげるから、大人しく狙撃界のキングになりなさい」

 

「意味不明ですよ」

 

 

 困った。盛大に困った。まさか、ミイラ取りがミイラになってしまったこの状況に修は頭を悩ます。誰か助けを、と考えた矢先に――。

 

 

「こらこら、佐鳥。嫌がる後輩を無理矢理勧誘するのはいただけないな」

 

 

 ――狙撃の始祖、東春秋が佐鳥の暴走を止めてくれたのであった。

 

 

「しかし東さん。三雲くんのアレ見たでしょ!」

 

「あぁ。悪いと思ったが、見学させてもらったよ。三雲くん。さっきのあれはどうやったんだ?」

 

 

 年長者の東の問いに修は正直に話す。

 

 

「ふむ。銃口を構えた瞬間に弾道の軌道を描く何かが視えた……か。さっぱりだな。ちなみに、それは前から見えていたのか?」

 

 

 修は首を横に振って否定する。

 

 

「いえ。佐鳥先輩に基本の撃ち方を教わった直後からです」

 

 

 佐鳥に言った説明を東にも話した。

 

 

「なるほど。確か、三雲くんは強化視覚のサイドエフェクト持ちだったね」

 

「そうですが、どこでそれを?」

 

「噂になっていたよ。風間に勝ち、緑川・木虎のタッグと引き分けに持ち込んだB級の三雲は強化視覚のサイドエフェクト持ちだって」

 

 

 恐らく空閑が自慢げに米屋達に言った内容を第三者が盗み聞きして広めたのであろう。

 ボーダー内での噂話は井戸端会議のおばちゃん並に広まるのが早い。既に一日またいでいるから、大半の人物がその噂を聞いた事であろう。

 

 

「あ、あはは……。まぁ、隠す事ではないので良いですが」

 

「確か【天眼】と呼んでいたね。これは推測なんだが、佐鳥の助言によってその天眼に秘められていた機能が目覚めたんじゃないか?」

 

「そうなのでしょうか? こんなこと初めてですからよくわかりません」

 

「さしずめ【鷹の眼】と言った所か。いい能力じゃないか。大切にしろよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「――ちょちょちょっ! なに話を終わらそうとしているんですか」

 

 

 会話が穏やかに終わりそうになった所で佐鳥が会話に割って入る。

 

 

「ダメでしょ、東さん。そこは三雲くんを説得しないと」

 

「しかしな。無理に勧誘するのはよくないだろ。こう言うのは本人の意思が大事だし」

 

「そこを説得するのが腕の見せどころじゃないですか。口八丁手八丁な東さんなら容易いでしょ」

 

「参ったな。……三雲くんはどう思うんだ?」

 

 

 話を振られた修は正直に話す事にする。

 

 

「狙撃手は既に僕のチームメイトになってくれる雨取千佳がいます。部隊バランスを考えると僕は中距離を担当するのが良いと考えるのですが」

 

「なるほど。例のアイビスの子と組むのか。……諦めろ、佐鳥。三雲くんの見解は正しい。後輩を優しく応援するのも先輩の務めだろ」

 

「なんでですか。それなら荒船隊はどうなるんです。あそこは三人ともスナイパーですよ」

 

「荒船に考えがあっての事だろう。それを押し付けるのは違うんじゃないか?」

 

「いやだ! 三雲くんが狙撃手にならないなんて絶対に嫌だぁ」

 

「駄々をこねるな。いい歳をしてみっともないぞ」

 

「だったら勝負! 勝負だ、三雲くん。俺が勝ったら大人しく狙撃手になる。負けたら大人しく引き下がる。それでどうだ!?」

 

「待て待て待て。なんだ、それは。どう考えても三雲くんに不利な条件じゃないか。そんな条件、俺が認めないぞ」

 

「俺はイーグレット一挺。三雲君はライトニング二挺ならいいでしょ!? これで五分五分。勝負になりますって」

 

「……どうする? 三雲くん」

 

「僕が狙撃で佐鳥先輩に勝てるなんて思えませんが」

 

「だよな。三雲くんには悪いが実力はおろか年季が違いすぎる。どう転んでも佐鳥が勝つ未来しか見えないぞ」

 

「なら、三本先取! 三雲くんは1発でも当てれば三雲くんの勝ち。これならどうですか!?」

 

「お前なぁ」

 

 

 頑なに自分の意見を曲げない佐鳥に頭を悩ます東。このお調子者がこれほどまで頑固な姿勢を続けるのは稀であるから、本当なら聞き遂げたい所であるけど事が事だ。

 どうやって説得しようかと思案していると、厄介な第三者が介入してきた。

 

 

「いいじゃないですか、東さん。面白そうだからやらしてみたらいかがです?」

 

「当真か。またややこしいやつが出て来たな」

 

 

 介入した人物は当真勇。型にはまらない感覚派狙撃手だ。

 楽しさを第一優先する当真は三人の会話を聞いて、面白そうだと思って首を突っ込んできたのであった。

 

 

「ですよね、当真先輩!」

 

「あぁ、面白そうだ。何なら相手役は俺がやりましょうか?」

 

 

 予想外の申し出であった。

 

 

「ダメだダメだ。何を考えている、お前は」

 

「なら、東さんと三雲。俺と佐鳥のタッグバトルで決めましょう。形式はランク戦でいかがですか?」

 

「だから、どうなったらそうなる!? お前は話を掻き交ぜに来たのか」

 

「しかし、周りの人達は俺達が戦う事を望んでいますよ? ほら」

 

「なっ!?」

 

 

 言われて周囲を見渡せば、訓練中であったはずの狙撃手達が期待の眼差しで四人を見ていた。中には携帯電話を操作して「これから狙撃バトルが始まるよ」と情報を流布している者すらいた。

 

 

「ね。これでやらないなんてなったら収拾がつかないと思いません?」

 

「……良いだろう」

 

 

 東の背中越しから「東さん!?」と呼び止める修の声が上がる。悪い、と修に謝罪した東は「ただし」と付け足して、二人に条件を課した。

 

 

「ただし、オペレーターありだ。俺達が1勝したら俺達の勝ち。お前達は3勝連取の3本勝負。この条件を呑まなかったら、この話はなしだ」

 

「決まりですね」

 

 

 にやける当真に「よっしゃ!」と喜びの雄叫びを上げる佐鳥。

 

 

「当真先輩、ありがとうございます!」

 

「良いって事よ。こんな面白い話、早々お目にかかれないからな」

 

 

 対して東は修に向き直り、深々と頭を下げる。

 

 

「すまん。そう言う事になってしまった。全力でサポートするから、許してくれ」

 

「と、とんでもない! 頭を上げてください、東さん。僕の為に色々と尽くしていただいてありがとうございます」

 

「非はこちら側にあるんだ。俺が何とかしてやる。……佐鳥、当真! 一時間後にランクブースに来い。特別に狙撃手が戦えるように頼んでくる。あと、お前らもオペレーターを探して来い。オペレーターがいない時点でお前達の負けだ。いいな!」

 

「「了解です」」

 

 

 こうして、東・三雲チームVS佐鳥・当真戦が決定したのであった。

 その情報は瞬く間にボーダーの全隊員にいきわたる事になる。




すいません。狙撃合戦まで持ち込めませんでした。
次こそは、次こそは!

てか、東さんと当真さんの口調とそれぞれの呼び方ががわかんねぇ。


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SE修【天眼】A級狙撃小隊①

いま思ったけど、狙撃戦って初めて書くよ。
いざ書くと、滅茶苦茶長くなりそうだから、今回はこの程度で……。


 ランクブースは既に人だかりが出来ていた。

 みな、ついさっき聞いた噂話の真意を確かめに来たのだろう。

 

 

「……なんか、人が一気に集まってきましたね。遊真先輩」

 

「うむ、そうだな。なんかあるのか?」

 

 

 緑川と20 戦を終えた空閑はざわつく周囲を見渡す。

 

 

『……この状況。つい最近もあったな』

 

 

 こっそり、周囲を観察していたレプリカに同意する。この感じは昨日、相棒の修が緑川・木虎両名と戦った時の騒ぎに似ている。

 

 

「あ、ヨネヤン先輩だ。防衛任務、終わったの?」

 

 

 自分達に近づく米屋を発見する緑川。軽く手を挙げて答えた米屋は二人の傍へ歩み寄り「それより聞いたか?」と話しかける。

 

 

「戻った早々小耳にはさんだんだが、またメガネボーイがやらかしたらしいな」

 

「……ぇ。何のこと?」

 

 

 隣で聞いている空閑に振り向き「遊真先輩、分かる?」と尋ねるが、空閑も「知りませんな」と否定する。

 

 

「何でもこれから狙撃メインのランク戦をするみたいだぞ。カードは勿論――」

 

「まさか、三雲先輩!?」

 

「当たり。それだけじゃないぞ。メガネボーイの相方は東さんらしい。対する相手は佐鳥と当真先輩だ」

 

「なにそれ!? 超楽しそうじゃない。それ、俺も参加出来ないの?」

 

「バーカ。出来るものなら、俺が参加したいぐらいだぜ」

 

 

 豪華メンバーに緑川の目がキラキラ輝くが参加出来ないと知ると詰まらなさそうに口を尖らす。

 

 

「……オサムの奴。また、自分だけ楽しむつもりなのか」

 

「俺も噂だけだが、何でもこの勝負は佐鳥の方から持ちかけたらしいぞ」

 

「なんで?」

 

「理由は、何でもメガネボーイを狙撃手にさせたいらしくて、それを賭けてとか言ってたな」

 

「なるほど。つまり、オサムの才能が原因で始まった戦いと言う事ですな。それなら、いっか」

 

 

 佐鳥が勝負を挑んだと聞いて、一瞬だけ殺気を放った空閑であったが理由を聞いて直ぐにそれを引っ込める。修の才能に注目して始まった戦いならば自身が出る幕ではない、と素直に思ったからだ。

 

 

「しっかし、狙撃手か。俺達のチームはチカがいるから、狙撃手は二人もいらないかな」

 

「お前ら、小隊を組む予定だったな。確か、あのトリオンモンスターも仲間に入れるんだろ。なら、メガネボーイは前衛か中衛が望ましいな」

 

「――それよりもヨネヤン先輩! その狙撃戦っていつやるの!? 俺、絶対に見たいんだけど」

 

 

 何時まで経っても聞きたい情報が聞けない事にイラついた緑川は米屋に詰め寄る。すっかり話しが脱線してしまった事に気づき、米屋は近くにあった壁時計を指差して言う。

 

 

「あと5分と言った所か。……お、噂をすればって奴だな」

 

 

 米屋の背中越しからざわめきが起こる。ランクブースにやってきた四名に道を譲ったC級隊員の間を歩く人物は空閑たちが噂をしていた四名であった。

 

 

「よっ。オサム」

 

 

 空閑は東隊の隊服を身に纏う修に駆け寄る。

 

 

「空閑。もう、緑川とのランク戦は終わったのか?」

 

「あぁ。20戦中、17勝3敗で勝ち越した」

 

 

 ブイサインを作って勝利の笑みを繕う。

 

 

「そっか。流石だな」

 

「オサムもこれからランク戦だろ」

 

「知っていたのか?」

 

「噂になっているらしいぞ。……見守っているから、勝てよ。隊長」

 

「分かっている。行って来る」

 

 

 お互いに拳を突出してコツンと叩き合う。

 空閑は「頑張れよ」と思いを込めて、修は「勝つからな」と決意を込める。言葉は不要であった。それだけで気持ちが通じ合った二人はそれ以上声を掛ける事無く離れる。

 

 

「お待たせしました、東さん」

 

「いやいいさ。……佐鳥、当真。そちらはオペレーターを見つけたんだろうな?」

 

 

 修が合流したのを機に東は自分が出した条件を確認する。

 

 

「任せてください、東さん。綾辻先輩にお願いしましたから」

 

「バク宙土下座を見せてやりたかったぜ。流石の綾辻もアレには抗えなかったらしいな」

 

 

 佐鳥は自分の隊を担当しているオペレーターにお願いしたのであった。

 けど、理由を聞いた綾辻は中々首を縦に振ってくれなかったのだ。自分の意見を無理矢理通して、後輩を巻き込んだことに大層ご立腹であった。

 本来ならば直ぐに戦略的撤退を図るところなのだが、今日の佐鳥は違った。来る日の為に磨いていたもう一つの奥義、バク宙からの土下座を決め込み、最高級のどら焼きを贈る事を約束したのだった。これには流石の綾辻も抗えなかったらしく、泣く泣く佐鳥の頼みを聞く形となってしまった。

 

 

「そう言う東さん達の方はちゃんとオペレーターがいるんでしょうね」

 

「バカにするな、当真。ちゃんと人見にお願いしてきた。お前らを潰す為の作戦も三人で考えて来たぞ」

 

「いいねぇ、そいつは楽しみだ。東さんとこうして戦う機会なんて中々ないですからね。三雲には悪いが、思う存分に相手をしてもらいますよ」

 

「思う存分、ね。はたして、そんなに戦えるかな」

 

 

 我に秘策あり、と言いたげに不敵な笑みを浮かべる。

 二人が盛り上がっている間、修と佐鳥もまた気を昂ぶらせ合う。

 

 

「三雲くん。キミはそげキングになるべき男だ。……覚悟はいいね」

 

「そげキングが何か知りませんが、やるからには勝って見せます」

 

 

 こうして、三雲・東チーム対佐鳥・当真の狙撃戦が始まる。

 

 

 

***

 

 

 

「さぁ! まさかまさか、昨日に続いて今日もやらかしてくれるとか、私に仕事をさせないつもりだなこんちくしょう! 海老名隊オペレーター、武富桜子が噂を聞きつけて駆けつけたぞ、お前らぁ!!」

 

 

 武富の掛け声に合わせて大勢のC級隊員から歓声が沸き起こる。

 

 

「今回の解説者はたまたま居合わせたA級隊員、弾バカこと出水先輩にお願いしたいと思います。出水先輩、よろしくお願い――。どうしました? 頭なんか抱えて」

 

「……いやな。俺、今日はメガネくんに用事があって玉狛まで行ったのに、まさか本部に来ていたなんて思わなくて。……なんでこんな事になっているんだよ! メガネくん」

 

「なにやら魂の叫び声が上がりましたが、話を戻しましょう。本日のカードは三雲・東コンビVS佐鳥・当真コンビとなっています。……って、三雲隊員って狙撃も出来たんですか?」

 

「知らないよ! 知っていたら、こんな事になっていないから」

 

「ですよね。情報によりますとこの勝負に三雲隊員が負けると、狙撃手に転向するって話になっているらしいです」

 

「なんだって!? それは本当か。誰が言った? 佐鳥か? 佐鳥なんだな!? あのバサトリめ」

 

「お、落ち着いて下さい出水先輩。さぁ! フィールドに4名のスナイパー……が?」

 

「……オイオイ、こいつはどう言う事だ。なんで、6人も戦場に転送された」

 

 

 

***

 

 

 

『東さん、様子がおかしいです。転送された直後にレーダーから消失しましたが、明らかに2人以上の戦闘員が転送されてきました』

 

 

 ランダム転送された直後、オペレーターの人見から予想外な報告を聞かされる。

 

 

「どう言う事だ!」

 

『恐らく、相手は2人じゃないと思われます。三雲くん、貴方なら視えるでしょ? 何人の誰々が転送されて来た?』

 

『……はい。その、なぜか知りませんが、古寺先輩と奈良坂先輩までいるんですが』

 

 

 天眼の力を使って敵の正体を暴く。千里眼と浄天眼の複合技だ。戦いで一番多用する能力のため、自然と身に着いた技能である。

 招かれざる客の正体は三輪隊の狙撃手である古寺章平と奈良坂透であった。

 

 

「人見! 佐鳥達に抗議だ。これは明らかなルール違反だと」

 

『遥ちゃんに連絡しているのですが、一向に繋がりません。……なに、あなた達? ちょっ――』

 

「人見? 人見!? なにがあった、人見!!」

 

 

 人見からの連絡が途絶えてしまった。これは明らかに異常事態である。けど、こんなタイミングでこんな異常事態が起こりうるであろうか。考えられる事としたら――。

 

 

「当真の奴。裏で色々と手を回したな」

 

『どうしますか、東さん。オペレーターの支援が望めないとなりますと状況的に不利になります』

 

「分かっている。まず、合流を先決しよう。俺はバッグワームでレーダーから身を隠す。三雲くんはそのまま敵を引き付けながら合流してくれ。……もしもの時は、切札を切る用意もしておけ」

 

『三雲、了解』

 

 

 

***

 

 

 

『三雲くんが移動したわ。東さんはレーダーから消えたからバッグワームを使ったと思う。恐らく、三雲くんを囮にして東さんが狙撃すると思って良いわ。……ねぇ、佐鳥君。本当にこんな勝負を東さんが了承したの? 4対2の狙撃戦なんて無茶苦茶だわ。しかも、相手の一人は専門外の三雲くんじゃない』

 

「三雲くんには天眼ってサイドエフェクトがあります。むしろ、これでも足りないぐらいっすよ。既に俺達の場所は特定されていますね」

 

『そんなに凄いの!? ……分かったわ。三雲くんは真直ぐ近場の学校に向かっているわね。そこで東さんが狙っているはずよ』

 

「佐鳥、了解っす。と、言う訳で皆さん。いっちょ、よろしくお願い致します」

 

『当真、了解』

 

『古寺、了解』

 

『奈良坂、了解』

 

 

 四名の狩人が動き出す。



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SE修【天眼】A級狙撃小隊②

狙撃戦むずい。東さん動かしにくい。
マジやりにくいんですが、どうしよう。


「こ、これはどう言う事だ!? 情報では二対二のタッグバトルのはず!! なんで、奈良坂隊員と古寺隊員も参加しているんだ!?」

 

 

 想像すらしていなかった予想外の事に武富は絶叫する。それはそうだろう。前もって手に入れた情報で三輪隊の二人が参加するなんて話はなかった。

 周囲の人達も「お前知っていたか?」「いや、全然」と情報を交換し合うが、二人が参加する事を知っていた人物は一人もいなかった。

 いや、一人だけいた。困惑する人だかりから離れて、狙撃合戦を眺めている奴が。

 好物のぼんち揚げを頬張りながら、修達を追い詰めるA級狙撃小隊を見据えてほくそ笑む。

 

 

「(よしよし。順調にいっているな)」

 

 

 そもそも考えて欲しい。

 あの三輪隊の古寺、奈良坂コンビを佐鳥と当真が説得できるだろうか。

 狙撃の腕は一流でも悪巧みするほどのずる賢さは二人にはないはず。

 

 

「(あの二人組も上手くオペレーターを封じてくれたみたいだし、後はお手並み拝見と行こうか。メガネくん)」

 

 

 佐鳥、当真に悪巧みと言う名の策を与えたのは元S級、修が所属している玉狛支部の先輩。迅悠一であった。全ての黒幕は彼である。

 

 

 

***

 

 

 

 レーダーを頼りに佐鳥は修の後を追いかける。

 

 

「皆さん、三雲くんは既に俺達の居場所を特定しているはず。決して舐めてかからないでください!」

 

『問題ない。あんな奴に後れを取るはずがない』

 

 

 真っ先に反応したのはナンバー2の狙撃手、奈良坂透であった。

 

 

『当然です。幾ら三雲くんの特殊能力が厄介だと言え、付け焼刃の狙撃手に負けるはずがありません』

 

 

 奈良坂の後ろに続く古寺も答える。

 自信に満ちた二人の反応に頼もしさを感じる佐鳥であったが、そもそもどうして二人が協力してくれるようになったのか、実は知らない。

 

 

『なんで、あの二人。あんなにやる気に満ちているんだ? 迅さん、どうやってあの二人を説得したんだ?』

 

 

 今回だけの相棒、当真もその理由は知らなかった。

 二人は東から出された条件、自分達の手助けをしてくれるオペレーターを探している途中、ぼんち揚げを頬張る迅と遭遇する。いや、待ち伏せに会ったと言った方が良いだろうか。

 迅は未来視のサイドエフェクトを持つ。そのサイドエフェクトで今回の戦いを予知したのだろう。佐鳥達を待ち伏せした彼は「今のままじゃ、絶対に負けちゃうよ」と忠告したのだ。古寺と奈良坂は迅が送った刺客なのだ。

 

 

『たけのこをバカにするやつは抹殺だ』

 

『宇佐美先輩にあんなこと……。うらやまけしからん!』

 

 

 二人の怨嗟の声が通信機越しから聞こえる。きっと、ロクな事ではないだろうなと踏んだ佐鳥は頭を切り替える事にする。

 

 

「敵は釣りをする模様。俺達は四方に散らばり包囲。一斉に蜂の巣にしましょう。綾辻先輩、三雲くん達の位置は?」

 

『近場の学校、校庭のど真ん中で待機しているわ。恐らく、近くに東さんがいるから気を付けてね』

 

「佐鳥、了解っす」

 

 

 

***

 

 

 

 東から指定された場所に到着した修は現着した事を連絡する。

 

 

『了解した、そこで待機だ。人見のサポートが受けられないのは痛いが、作戦通りにやろう。いけるな、三雲くん』

 

「……やって見せます」

 

 

 力強く返事をした修は校舎を背中にする形で身を構える。修の両手には何も握られていない。つまり完全の丸腰。いま攻撃をされても反撃する事は出来ないのだ。

 

 

「(前方から佐鳥先輩。左方は当真先輩で、右方は奈良坂先輩と古寺先輩か)」

 

 

 天眼の効力で敵の姿を捕捉する。四人ともバックワームを身に纏っているためにレーダーには映らない。情報を得るには修の天眼頼みになる。

 

 

「東さん。敵は三方から包囲して攻撃を仕掛けるようです」

 

 

 東に敵の位置を知らせ――。即座に後方へ跳ぶ。修がいた地面に二条の光が突き刺さる。

 イーグレットの弾丸が放たれたのだ。

 

 

「(あんな遠い場所から、正確に)」

 

 

 撃ったのは奈良坂と古寺であった。二人は近場に建てられているビルの屋上から狙撃したのだった。目測で800メートルは優に超えているだろう。

 

 

『大丈夫か、三雲くん!』

 

「はい。狙撃をされましたが、何とか回避する事に成功しました。敵は3時の方角、ビルの屋上です」

 

 

 修の報告を受けた東は校舎の中を駆け抜ける。敵に見られない様にかがみながらの移動であったので移動速度は速くないが、敵に見つかるよりははるかにマシだ。移動を終えた東は近場の窓から覗き見るが二人の姿を捉えきる事が出来なかった。

 

 

「ちっ。人見のサポートがあればな」

 

 

 狙撃をしたと言う事は敵の位置を割り出せる切り口となる。

 それならばオペレーターの人見の力を借りれば弾道計算から敵の位置を特定できる。狙い定めることも難しくない。

 ないモノを悔やんでも仕方がない。今はあるモノでどうにか打開しないといけない。そう思った矢先、銃声が二回ほど鳴り響く。

 

 

「三雲くん、どうした!?」

 

『狙撃です。佐鳥先輩からですね、これは。二発とも寸分違わず僕の両腕を撃抜かんと狙撃するなんて流石です。けど、大丈夫。何とか避けました』

 

「また狙撃だと? 三雲くん、佐鳥は?」

 

『どうやら、狙撃地点から移動するみたいですね。正直不気味です』

 

「やはりか。気を付けろ。奴らは何かを企んでいると思っていい」

 

 

 修には狙撃と相性がいい天眼がある。佐鳥は修が天眼を持っている事を知っている。ならば、早々簡単に狙撃が命中しない事も分かっているはずだ。なのに、早々と三人は一発ずつ狙撃している。あの慎重派の奈良坂もだ。これは何か策略があると考えて良いだろう。

 東の推測は正しいと修も思った。そもそも全てが単発の狙撃なのがおかしい。タイミングを合わせて狙撃をすれば回避場所も制限されるのは分かっている。なのにしてこない。これを不気味と感じずになんと言えばいいだろうか。

 

 

「(やはり、視えないか)」

 

 

 修の視界にはツインスナイプをした時の様な弾道の軌跡は視えていなかった。自分の弾道は視えても敵の弾道を可視化する事は出来ないらしい。それは作戦を決める為に東と撃ち合いをした時に分かっていた事だ。

 

 

「(特に問題視しないけど、視えたらタイミングを合わせてカウンターも出来るのに)」

 

 

 いやいや、と首を振る。撃てば必ず当たる。その考えは傲慢すぎる。自身が狙撃銃を握ったのは今日が初めてだ。まして実戦でベテラン狙撃手と相対して生き残れると思わない。

 慢心は死を招く。以前、木崎から教わった教訓の下に修は気合を入れ直す。

 

 

「(だけど、何が目的なんだ。古寺先輩や奈良坂先輩は一向に微動だしないし、佐鳥先輩も次の狙撃地点に移動してから攻撃を見せない。何かを待っている? ……はっ!? まさか――)」

 

 

 修は東がいる方へ振り向こうとするが、三者の狙撃がそれを邪魔する。

 

 

「(古寺先輩と奈良坂先輩の弾速が違う。ライトニングか!?)」

 

 

 右方から飛来してくる弾速は一射目よりも早くなっている。その理由は狙撃手用トリガーにある。三輪隊の二人は弾速重視のトリガー、ライトニングに持ち替えて狙撃し直したのだ。

 

 

「けど、これなら――っ!?」

 

 

 跳んで避けた先に一発の弾丸が飛び込んでくる。それは佐鳥のツイン狙撃の一発であった。佐鳥の弾道は修が避けるであろう予測地点に一発ずつ弾丸を送り込んできたのだ。

 

 

「(さっきの狙撃はこう言う意味か!?)」

 

 

 三人は一発目の狙撃が通じないのを分かっていて放ったのだ。どれほどの間合いに入ったら反応し、どのタイミングで回避行動に入るのかを見定めるための一発目であったのだ。

 弾丸は修の眉間に吸い込まれていく。このままいけば眉間が弾丸に撃ち抜かれるのだが、まだ修はトリガーを使っていない。

 

 

「シールドっ!!」

 

 

 着弾する場所を予測し、極小のシールドを展開する。シールドは面積が少なければ少ないほど耐久力が増す。十円玉ほどの極小シールドを張る事でイーグレットの弾丸を防ぐ事が出来る。

 だが、刺客は三人ではない。四人である。

 

 

 

 ――スナイプ。

 

 

 

 一条の閃光が修の身体を突き破る。

 

 

「っ!? やはり校舎に……」

 

 

 尻目で確認すると東がいるであろう校舎の屋上に当真の姿があった。古寺と奈良坂、佐鳥が引き付けている間に当真が後ろに回り込んで必殺の一撃を叩き込んだのだ。

 

 

「悪いな、三雲。俺は外れる弾を撃たない主義でな」

 

 

 第4の刺客、当真がほくそ笑む。その当真の足元から閃光が飛びだし着弾。

 

 

「ありゃ? まずったか」

 

 

 自身の戦闘体が粉砕するのを自覚する。どうやら銃声で東に居場所を悟られたようだ。

 

 

「ま、いいか。これで東さんの居場所も特定できた」

 

 

 当真の言う通りであった。

 攻撃をしたと言う事は先ほども言った通り弾道から計算で割り出せる。

 佐鳥達は綾辻と言う最高のオペレーターがいる。

 三人は綾辻の情報を頼りに東の居場所を突き止めることが出来るのだ。

 そうなれば銃口の数が多い三人が有利になるのは言うまでもない。三人の狙撃は東が潜伏している場所へ撃ち放たれる。邪魔する壁を突き抜けて、その場から離れようと駆け出す東の身体に着弾したのだった。

 

 

 

 ――戦闘体活動限界、緊急脱出。

 

 

 

 ベイルアウトが発動する。同時に三条の光が空へ上がり、佐鳥達A級狙撃小隊の勝利を報せるのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 緊急脱出用のベッドに降り立った修は歯噛みする。

 天眼と言いう反則級の能力を持っているのにも関わらずこの体たらく。自分の無能さに腹が立って仕方がなかった。

 

 

『三雲くん、大丈夫か?』

 

 

 通信機から東の安否を気遣う声が掛けられる。

 

 

「……すみません。もっと粘れると思ったんですが」

 

『いや、あれは仕方がない。あの4人に狙われたら誰でもああなるはずだ』

 

「奈良坂先輩と古寺先輩と連絡は取れたんですか?」

 

『通信を拒否された。……どうする、三雲くん。人見の力を借りられないとなると感覚共有も出来ない。まだ、佐鳥達の弾道も可視化出来ないんだろ?』

 

 

 修達の一戦目の作戦は捨て試合であった。

 天眼に開眼してから狙撃を受けたのは今回が初めて。確実に勝利を掴むためにも修には狙撃に慣れてもらう必要があった。もしかするとツインスナイプを撃ったように弾道が可視化する事も期待出来たからだ。そうなれば第2戦か第3戦に感覚共有で視覚を強化させて勝負に出る筈だった。

 けれど、感覚共有を実行に移してくれるオペレーターの人見とは未だに連絡が取れない。これでは感覚共有は出来ないのだ。

 

 

「東さん。2戦目も“捨て”でいいですか?」

 

『みきる可能性があるんだな』

 

「……やります。次の試合で鷹の目をモノにしてみせます」

 

『この試合は三雲くんがメインだ。キミの意見を尊重しよう。ただし、次は俺も表に出る。あいつらに好き勝手させるわけにはいかないからな』

 

「了解です」

 

 

 最初の狙撃手、東春秋が宣言する。

 

 

「さて……。久々に、童心に返って暴れさせて貰う事にしよう」



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SE修【天眼】A級狙撃小隊③

……ちょっと酷いかな。なんか違和感を覚えたら遠慮なくいってください。
色々と視点がごちゃごちゃで分かりにくいかもしれませんが。


 戦場に転送された佐鳥は直ぐに周囲を確認する。転送されたフィールドは市街地Aだ。完全ノーマルの戦場のこの場所で射線を通すのは難しくないが、有利に出来る地点もほぼない。腕の見せ所だ、と気合を入れ直す。

 

 

「綾辻先輩。三雲くん達はどうしています?」

 

 

 先ずは情報の確認と収集が先決。狙撃手は常にクールでなければならない。例え口やかましい口上を垂れたとしても、頭の中は常に計算をし続けなければならないのだ。

 敵の隙を窺って必殺の一撃を叩きこむ。敵を撃ち抜いた時の快感はなにも勝るモノはない、と佐鳥は確信している。

 

 

『第1戦と同じね。東さんは直ぐにレーダーから消えたにも関わらず、三雲くんはそのままレーダーに残っているわ。……変ね。三雲くんがこちらの位置を特定できる能力を有しているなら、なんでバッグワームを使って奇襲しないのかしら?』

 

 

 綾辻の疑問はもっともな話だ。修には天眼と言う驚異的な能力を有している。バッグワームを使えばレーダーから逃れる事が出来る。そうなったら後は戦っている本人達で居場所を特定しないといけなくなってしまう。確実に佐鳥達が不利になるはずだ。

 

 

「(言われてみればそうだな。1戦目は釣りを目的としたからバッグワームを使わなかった、と思ったけど……。まさか、今回も同じ策? いやいや、あの東さんがそんな愚策を取るとは思えないな。と、なると考えられる事は――)」

 

『どうやら、三雲くんはバッグワームを入れていないようですね』

 

 

 結論を出すよりも早く古寺から通信が入る。

 

 

『やはりか。あの東さんが同じ策を二回もやらせるとは思えない。なにが目的だ?』

 

『あの東さんの事だから、きっと面白い事をして来るぜ』

 

 

 不吉な予想を楽しげに言う当真の言葉が現実となる。

 

 

『……え? なにこれ』

 

「どうしたんっすか、綾辻先輩」

 

『きゅ、急にレーダーが反応したと思ったら……。て、敵の数が増えている!?』

 

 

 一瞬、何を言っているか分からなかった。佐鳥は「どう言う意味っすか」と尋ね返そうとするが、当真によって遮られてしまう。

 

 

『ダミービーコンか。東さんは俺達にレーダーを使わせないつもりだな』

 

 

 ダミービーコン。任意の場所に設置する事が可能な探知機攪乱トリガー。東のトリガーには試作型のダミービーコンが装備されている。この結果に至るのは予想の範囲内と言えよう。

 

 

『これで、迂闊にきのこ派に手が出せなくなったな』

 

『ですね。これでは三雲くんの動きから東さんの位置を予測する事が難しくなりました。あの人、本気で僕等を撃ち殺すつもりですね』

 

 

 かつてA級1位の部隊を率いた男だ。トリオン器官の成長が終っているからと言って、培った技術や経験値が消える事はない。

 東春秋は後続を育てる戦技教官から一人の純粋なる兵士に戻って対抗し始めている。

 

 

『レーダーに反応!? 狙撃注意!!』

 

 

 オペレーターの綾辻から注意勧告が出される。身構える4人であったが、東の狙撃は誰にも命中せず。

 

 

 

 は?

 

 

 

 東春秋を知っている狙撃小隊は唖然とする。東の弾道は佐鳥を狙ったと思われるが、弾道は大きく上空へ吸い込まれていってしまったのだ。

 

 

「あの東さんが狙撃を大きく外した?」

 

『どうやら相当焦っている様子ですね。ここは一気に叩きましょう』

 

『……そうだな。東さんに全力で抵抗されるとどうなるか分からない。今のうちに叩くべきだ』

 

 

 古寺と奈良坂が先行する。弾道から逆算して東がいる地点を予測し、最適な狙撃地点を選んだのだろう。二人はイーグレットを構えて狙撃準備を行う――が、二条の閃光が二人のイーグレットを撃ち抜く。

 二人は何が起こったのか気づくまで数秒ほど要した。

 

 

「今のは東さんか?」

 

「いえ、東さんがいる方角と全く別の方角から撃ち抜かれました。恐らく三雲くんでしょ」

 

 

 弾道の軌道とレーダーから撃ち放ったのが三雲だと看破する古寺。なるほど、と納得した奈良坂は三雲がいるであろう方角に再び生み出したイーグレットの銃口を向けるが、スコープに三雲の姿を捉える事は出来なかった。

 

 

『あははは。三雲にしてやられたな、二人とも』

 

『ったく。気を付けてくださいよ。三雲くんは天性の狙撃の眼を持っているんですから。俺のツイン狙撃だって普通にやってのけるんですからね』

 

 

 自慢あり気に忠告する佐鳥の言葉に聞き捨てならないセリフがあった。

 

 

「「そんな話、聞いていない」」

 

 

 二人が抗議の声を上げる。三雲がツイン狙撃を出来るなんてそんな情報は一つも入って来ていない。普通ならば、佐鳥が前もって説明をするはずなのだが、打倒三雲で頭がいっぱいになって話すのを忘れていた。まだまだクールな狙撃手になるのは程遠いと言えよう。

 

 

『ちなみに、俺も見たぜその時。アイツ、早撃ちみたいにライトニングを撃っていたな。中々面白かったぜ』

 

 

 中々ユニークな撃ち方であったので、今でも鮮明に記憶している。その時の修の眼が大変印象的であったからだ。獲物を狙い澄ましたようなタカ目。東も鷹の眼とはよく言ったものである。

 

 

「佐鳥、作戦を変更しよう。東さんより三雲を狙うぞ」

 

「三雲くんを? どう言うわけですか」

 

「恐らく、役割を変えてきたのだろう。ダミービーコンを使う事で三雲に意識を向けさせない様にして、自分の居場所を知らしめる様な狙撃で俺達を誘い込む。狙撃の瞬間を見計らって、移動した三雲が狙い撃つ。中々やらしいやり方だな」

 

 

 当真の推測は大方当たっていた。ダミービーコンの目的は三雲を少しでも長く戦場へ留める為の隠れ蓑であった。長く生存すればするほど狙撃の軌道を天眼に記憶させることが出来る。

 

 

「……どうだ、三雲くん」

 

 

 一射目の狙撃後、合流した東は修の現状を確認する。

 ライトニングの銃弾を撃ち放った修は「はい」と強く答えて東に伝えた。

 

 

「やはり、自分が放つ銃弾の軌道は視えます。けど、佐鳥先輩たちの弾道までは――」

 

「――上手くいかないか」

 

「……はい」

 

 

 沈んだ表情で東が継いだ言葉に頷く。

 

 

「けど、続けるんだろ?」

 

「はい」

 

「なら、もう少し覇気のある返事をして欲しいものだな」

 

「すみません!」

 

「よし。なら――」

 

 

 自信を失いかけた修に喝が入った所で東はイーグレットを構え、引き金を絞る。何の工夫も欠片もない狙撃。奈良坂を狙ったと思われる弾丸は大きく右にそれてしまう。勿論、この狙撃もただの釣り弾だ。

 

 

「2時に奈良坂先輩と古寺先輩のイーグレット。9時の方角から当真先輩のイーグレットが来ます」

 

 

 修の告げた通り、奈良坂と古寺、当真達がイーグレットで反撃を行う。三条の光を凝視見て描かれるだろう軌道を読み取るのだが、やはりと言っていいか鷹の眼は期待通りに動作してくれなかった。

 

 

「なろっ!」

 

 

 続けて3発弾丸を撃ち放ち、己に襲ってくるイーグレットを撃ち落す。

 

 

「今度は7時から佐鳥先輩のツイン狙撃です」

 

 

 完全に自分達が潜伏している場所を特定されたのだろう。狙撃小隊の動きが完全に包囲を敷く様な動きを見せている。このまま1か所に留まっていたら弾丸の餌食になるのだが、今は下手に動く事はしない。

 

 

「こっからが本番だ。……やるぞ、三雲くん」

 

「はい」

 

 

 修は東の背中を背負う形で立ち、ライトニングを二挺生み出す。対する東もバッグワームを解除して二挺目のイーグレットを生み出して迎撃の態勢を取る。

 

 

「東さんから見て7時に当真先輩、5時に佐鳥先輩がいます」

 

「分かった。俺の相手は奈良坂と古寺だな。……とことん、相手にしてやるぞ」

 

「はい!」

 

 

 

***

 

 

 

 互いに背中を預けて狙撃を警戒している2人は4人から見て異様な光景であった。

 特に一番興奮したのは佐鳥だ。何せ、東の両手にはイーグレットが二挺握られている。憧れの狙撃手が自分と同じ二挺スタイルで対抗してくれる。そんな姿を視たら顔がにやついて仕方がなかった。

 

 

『おいおい。あの東さんが二挺スタイルって……。あの人、ツイン狙撃も出来るのかよ』

 

 

 当真が驚くのも無理はない。東がツインスナイプをしている姿など過去一度も見た事がなかった。

 

 

『ハッタリだ。堅実な東さんが佐鳥のような破天荒な狙撃をするものか』

 

「奈良坂先輩。それどう言う意味っすか!?」

 

『佐鳥には悪いが、僕も同意だ。あれは僕達に狙撃をさせない為のブラフ。けど、釈然としないな。幾ら不利だとはいえ、そんな事をしても何の意味もないのに』

 

 

 銃口を構えつつ、二人の動きの真意を読み取ろうとする。けど、頭を悩ませた所で二人は自分達の狙撃を警戒しているようにしか見えない。

 

 

「……ま、罠だと分かっていても撃つしかないんだけどね。俺がツイン狙撃で気を引きます。三人は時間差で撃ってくれ」

 

『奈良坂、了解』

 

『古寺、了解です』

 

『……パス』

 

 

 奈良坂、古寺と作戦に応じたと言うのに当真は今回の作戦に気乗りしなかった。

 まさか、当真が否定するなんて思わなかったのだろう。佐鳥は「なんでですか!?」と詰め寄ると当真は「分からないのか?」と逆に問い詰める。

 

 

『東さん達の目的は釣りや待ちじゃなかったんだよ。ハナッから一回戦と二回戦を捨てやがっていた。随分、手間の込んだ事をしやがって』

 

『なんでそんなまどろっこしい事を……。奈良坂先輩、分かりますか?』

 

『……天眼を慣らす為か?』

 

『さすが奈良坂。たぶん、そうだろう。奴らの目的は【鷹の眼】の本格稼働だ。確か、佐鳥の話だと弾道の軌道が視える様になったんだろう?』

 

 

 修が言っていた事を思い出しながら佐鳥は「そうです」と首肯する。

 

 

『自分の狙撃した弾道軌道が可視化出来るだけでも反則級の性能にも関わらず、俺達の弾道まで可視化されるんだぜ? 対狙撃手どころの騒ぎじゃねえ。一種の化け物だ。今でさえ、俺達の居場所を特定されているのに、これ以上敵を有利にさせる訳にはいかないだろ』

 

「その話と今回の作戦を否定する理由が分かりませんが」

 

『はぁ? 東さんと三雲のあれはどう考えても俺達の狙撃を撃ち落とす態勢だろうが。撃ち落として、撃ち落として俺達の狙撃の球筋を見極めるつもりだ。外すと分かっている狙撃を撃つなんて俺にはでき――っ!?』

 

 

 通信越しから銃声が鳴り響く。もたもたしている間に修が牽制を仕掛けてきた。それは奈良坂、古寺の方も同じであった。二人の弾丸は大きくそれるもの、その狙撃は「撃てるものなら撃って見せろ」と言っている様に聞こえたのだ。

 

 

『なろっ!』

 

 

 わざと外した狙撃に苛立ちを覚えた当真が舌の根が乾かぬ間にイーグレットを構えて狙撃態勢に入る。スコープを覗き、三雲の額に標準を合わせて――標準を合わせている最中に修と視線が合う。

 

 

「(この野郎。これでまだ発展途上なのかよ。参るぜ、まったく。……だが!)」

 

 

 ライトニングの銃口を向けるド素人の狙撃手に狙撃で負ける訳にはいかない。これで負けたらナンバー1狙撃手なんて名乗れる訳がない。

 

 

 

 ――スナイプ

 ――スナイプ

 

 

 

 二人の狙撃銃から弾丸が飛びだす。二人の狙いは偶然か一致してしまったようである。

 スナイプ必殺の一撃ヘッドショット。二人が狙撃で狙った場所は互いの眉間だ。

 互いの弾丸は途中でぶつかり合って消失……すると思いきや、当真の弾丸が修の弾丸をぶち抜いたのだ。

 

 

「っ!?」

 

 

 これには修も予想外であった。威力は弱い事は知っていたが、まさかイーグレットに力負けするなんて想像できようか。

 

 

 

 ――スナイプ

 

 

 

 慌てて二射目を放つ。寸分たがわず当真の弾丸に飛び込んだ修の弾丸は、今度は互いに威力を殺し合って消失していった。修が他の狙撃手の弾丸を無力化するには最低二発をぶつけないといけない事が発覚する。

 

 

「ちっ。まさか、ライトニングとイーグレットの威力にこれほどまで差があるなんて」

 

「いや違う。幾ら射撃速度重視のライトニングでもイーグレットの弾丸に押し負けるなんてあるはずがない。あるとしたら、込められたトリオン量の違いだ」

 

「……僕のトリオンが少ない故の問題ですか」

 

 

 東の言うとおりだ。性能は違うがライトニングとイーグレットの威力の差はごく僅か。先ほどみたいに押し負ける事などありえる訳がない。

 けど、実際に起こった。その原因は修のトリオン量に起因していると言えよう。

 

 

「俺も考え足らずだった。一度態勢を立て直すべきだろう」

 

「……難しいでしょう。ダミービーコンで狙撃を乱発させる作戦もあまり効果が薄かった。東さん、このまま続けましょう」

 

「三雲くんがアイツらの狙撃の餌食になるのは時間の問題だぞ。あれは最後の最後だ。まだ、奴らにお披露目する訳にはいかない」

 

「はい。なるべく粘って、みなさんの弾道を見定めます。……鷹の眼を必ず引き出して見せます」

 

「よし。なら、三雲くんは二段撃ちで当真と佐鳥を迎い撃て。やれるな?」

 

「はい!」

 

 

 これ以上、会話する必要はなかった。覚悟を決めた修と東はただ目の前の敵に集中する。

 

 

 

***

 

 

 

「さぁ。苦しい展開になって来た! 流石の東さんや三雲隊員もこの4人を相手に防ぎきるのは難しいでしょう」

 

 

 一人白熱している武富桜子の言う通りであった。東は誰にも見せた事がないツイン狙撃で対抗してはいるが、問題は修の方である。当真の狙撃、佐鳥のツイン狙撃を2段撃ちで無力化してはいるが、手数が圧倒的に違う。修が防ぐには一発の銃弾を防ぐのに二発撃たなければならない。佐鳥の場合は4発撃たなければならないのだから、不利な状況になるのは当たり前だ。

 

 

「二人の考えがまったく分からないな。ダミービーコンで撹乱していたのにも関わらず、狙撃で自分の居場所を教えたり、今は的にしてくれと言いたげに一か所で撃ち合う。東さんらしくないな。……それとも、これはメガネくんの作戦なのか?」

 

「分かりません。あっと! ついに佐鳥隊員の弾丸が三雲隊員に被弾! 被弾場所は両腕だ!? これでは狙撃が出来ない。絶体絶命だ、三雲隊員!! 三雲隊員を庇う為に東さんがイーグレットで佐鳥隊員達にも撃ちかえす。しかし、銃口の数は2対4! いくら東さんでも……あぁ!! 被弾! ついに被弾した!? 東さんの四肢に4人の銃弾が突き刺さる。東さん、三雲隊員を庇った為に先に緊急脱出だぁ」

 

 

 東の身体が光の粒子となって、上空へ吸い込まれていく。

 

 

「これで残ったのは三雲隊員だけ。しかし、三雲隊員も既に被弾して両手が使えない。もはや勝負は見えたか!?」

 

 

 武富の言うとおり。もはや勝負は決まった。第二戦もA級狙撃小隊の勝利に終わる……はずだった。しかし、この勝負はタダで転ぶ事はなかったのだ。

 

 

 

***

 

 

 

『すまない、三雲くん』

 

「いえ。東さんのせいじゃありません。僕が足を引っ張ったから、東さんは……」

 

『それは違う。俺が未知の力を当てにしたのが間違っていたんだ。三雲くんの【鷹の眼】を当てにした俺が愚かだった。もっとしっかり作戦を練っていれば……』

 

 

 ドン、と衝撃音が耳に伝わる。あの東が本気で悔しがっている。

 それを知ったら、申し訳なくて、情けなくて……。ここまで助力してくれた東の期待を裏切り続けた自分自身が許せなかった。

 

 

「(今度こそ視る)」

 

 

 どうせ、両手は使えないのだ。

 

 

「(見る、視る)」

 

 

 だったら、神経の全てを己の眼に集中させる。

 

 

「(みる、ミル。視る。……視てやる)」

 

 

 睨みを利かせた修の視界に4本の赤い筋が自分へ向けて走ってくる。「この赤い筋は?」と考えている間に天眼が4つの弾丸を捉える。

 

 

「(赤い筋に沿って弾丸が飛んで来た。すると、これは!?)」

 

 

 赤い筋に気を取られてしまった修は回避する事を忘れてしまった。4つの弾丸は修の身体を突き抜け、戦闘体は破壊される。

 

 第2戦、最後の最後で修の【鷹の眼】は本来の力を呼び覚ます。




鷹の眼の効力。性能の奴を見てピンと来た人もいますよね。

某オンラインゲームのあれと言えば分りますか?


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SE修【天眼】A級狙撃小隊④

見ました? 彼らの必殺ツインスナイプの勇姿を。


 修と東の作戦は単純であった。

 鷹の眼の効力を知っていた東が「敵の弾道も読み取れるかもしれない?」と言う点から始まり、それが可能になればオペレーターの人見に頼んで、感覚を共有。鷹の眼の力を得た東と一緒になって電撃戦を仕掛ける事であった。

 

 

「すまない、三雲くん」

 

 

 通信機越しから東の謝罪の声が飛んでくる。今回の勝利の鍵を未知な力に頼っていた事が間違えていた、と反省しているのだろう。

 戦いにおいて、計算外の力を頼りにするのは間違っている。戦術で勝負する時は敵の戦術レベルを計算に入れろ、と部下たちに口を酸っぱくして言い聞かせていた。それは逆に言うと己の戦力を十分に加味して戦術を立てろ、と意味を含めている。自分が魅力的な力を当てにして計算に入れていては部下に示しがつかない。

 

 

「(何をやっているんだ、俺は)」

 

 

 これでは隊長として部下の二人に合わせる顔がなかった。けど、後悔している暇はない。あと一回負けてしまったら、修は無理やり狙撃手にさせられてしまう。それだけは断固として阻止しなければならない。

 

 

「(どうする? 相手はA級の手練れ達だ。佐鳥と当真だけならまだしも、古寺と奈良坂まで相手にすると……。ダメだ、今のトリガー構成では三雲くんを活かす事が――)」

 

 

 できない。そう思ったとき、修から返事が来る。

 

 

『いえ、東さん。東さんは間違ってなんかいません。東さんが信じてくれたから僕は【鷹の眼】を――』

 

 

 その言葉は待ち続けていた言葉であった。聞き間違いか、と思った東は「それは本当か!?」と興奮した声色で聞き返してしまう。

 

 

『はい。お待たせしてしまいすみませんでした。……けど、次は上手くやって見せます』

 

 

 力強い言葉に沈んでいた東のテンションが一気に上がる。暗闇に閉ざされていた希望の光が最後の最後にして力強く輝きだしたのだ。

 

 

「よし。なら、これが最後だ。後先考えずに思う存分にやるぞ。いいか? 作戦は――」

 

 

 東が修に作戦を伝えようとしたとき、希望の光は更に輝きを増すことになる。

 

 

『――すみません、東さん』

 

 

 通信が途絶えていたオペレーター、人見の声が届くのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 一同が転送された戦場は市街地Bであった。ここは先の市街地Aと比べると高い建物と低い建物が混在し、場所によっては非常に射線が通りにくい地形である。けど、一流の狙撃手はそんな些細な障害など関係ない。上手く自分の戦場に持ち込み、必殺の狙撃を撃ち放つ為に幾多の戦術を繰り出す。

 それに加えて実力者は壁抜き狙撃が可能だ。ただ、これには精細なデーターとの複合オペレーションが必要不可欠だが、互いの優秀なオペレーターの力を借りれば可能なはず。

 

 

「よっし! あと1戦。これに勝てば、優秀な狙撃手ゲットだぜ」

 

 

 勝利を目前とした佐鳥は浮かれていた。それはもう、両手を大きく挙げて万歳三唱したいほどに。

 

 

『……ねぇ。佐鳥くん。どうして、そこまで三雲くんが欲しいの?』

 

「何を言っているんですか、綾辻先輩。三雲くんは優秀な狙撃手になる人材ですよ。あれほどの才能を持った人を見逃す手は――」

 

『けど、それだけじゃないでしょ』

 

「な、何を根拠に」

 

『だって、佐鳥くんはお調子者だけど、横暴な人間でないことは私を含めて嵐山隊の全員が知っているもの』

 

 

 予想外な言葉に佐鳥は言葉を失う。まさか、綾辻からそんな言葉が聞けるとは思ってもみなかった。

 

 

『もしかして、ファンに言われた言葉を気にしているの?』

 

「…………」

 

『図星みたいね』

 

 

 以前、嵐山隊のファンから「狙撃手の佐鳥は必要ないんじゃないの?」と心にもない意見が来たことがある。それだけなら佐鳥も我慢できたが、狙撃手は地味でただ隠れてお零れを貰う乞食だ、と言われた時は荒れに荒れた。

 

 

 

 ――俺だけならまだしも、狙撃手をバカにしたことは許せない。

 

 

 

 佐鳥はどうにかして狙撃手の素晴らしさを知ってもらおうと考えたが、自身が広報部隊として人気が少ないことは知っている。実際は下手な芸能人よりも人気があるのだが、佐鳥はそれを自覚していないのだ。

 だから、狙撃手には誰もが知るスターが必要であった。それに値する人物は最初の狙撃手たる東が値するのだが、あの東が快く引き受けてくれるとは思わなかった。いま徒党を組んでいる仲間達も悪くはないけど、市民を魅了するには足りないだろう。

 けど、天眼を持つ修なら……。あれほど離れ業をあっさりと決めてしまった修なら、あるいは、と考えてしまった。優秀な狙撃手になれる人材であることは嘘ではない。しかし、スター性がある事が今回の戦いの最大な要因であった。

 

 

「けど、俺では――」

 

『バカだな、そいつは』

 

 

 当真が二人の通信に割って入った。

 

 

『お前ほど面白味があって優秀な狙撃手はどこを探してもいないと言うのに……。ったく、そいつは何も分かっていないな。ま、ボーダーについて秘匿事項が多いから、仕方がないが』

 

「当真先輩」

 

『最初に狙撃手になったのは東さんだが、狙撃手の先頭に立って俺達に知識と技術を広めたのは佐鳥、お前のはずだ』

 

「奈良坂先輩」

 

『胸を張ってください。狙撃手の先輩がそんなんでは、僕達の立つ瀬がないじゃないですか』

 

「章平」

 

『ね。嵐山さんも言っていたでしょ。お前ほど頼りになる狙撃手はいないって。もっと、自信を持って。佐鳥くん』

 

「綾辻先輩。……お、俺が間違っていました。俺の手で市民の皆さんに狙撃手の素晴らしさを認めさせて見せます。けど、今は――」

 

『わかっているわ。手を抜いたら相手に失礼だもんね。いま、二人は……』

 

 

 レーダーを確認した綾辻が言葉を詰まらせる。

 映るレーダーに違和感を覚えたからであった。その違和感の正体に気づき、自分の迂闊さを呪うことになる。

 

 

「綾辻先輩? どうしたんですか!?」

 

『やられたわ!』

 

「ど、どう言う意味ですか!?」

 

『三雲くんがバッグワームを使ってきた!』

 

 

 綾辻の言葉に4人に緊張が走る。

 

 

「ちょっ! 待ってください。いま、レーダーに映っているこれは……。はっ!? まさか――」

 

『やられたな。三雲の野郎、ダミービーコンを入れていやがった!』

 

 

 佐鳥が率いるA級狙撃小隊のレーダーには一人分しか映し出されていなかった。三雲を除いた全員がバッグワームを起動して、レーダーから姿から消している。しかし、いまだに表示されている的は一向に動いていない。それを意味することはただ一つ。いまレーダーに映し出されている的はトリガーで作られた偽物である可能性が高いと言うことだ。

 

 

『これは参りましたね。各自油断をせずに――東さん!?』

 

 

 銃声が通信機越しから鳴り響く。その直後、古寺が強制脱出した事を知らせる表示が映し出された。

 

 

『おいおい。これはどう言うこった。奈良坂、古寺の近くにいたんだろ。状況を説明しろ!!』

 

『いま、東さんと三雲が……。ビリヤード!? あんなに動き回って、どうやって標準を合わせた! くっ!? 東さんの背中に隠れて三雲が――』

 

 

 次の瞬間、奈良坂の緊急脱出が知らされる。会話の途中で銃声が4回ほど鳴り響いていた。話から推測して、奈良坂は二人と遭遇して銃撃戦を強いられたと考えられる。そして、何らかの方法で奈良坂を一瞬にして仕留めたと思われる。

 

 

『くっ。バッグワームを今の今まで使わなかったのは、俺達にバッグワームを入れていないと思わせるための策略だったのかよ!』

 

 

 まんまと相手の術中にはまっていたことに、当真のイラつく声が木霊する。

 

 

 

***

 

 

 

「まさかのまさか! ここに来て三雲・東コンビの奇襲だ! まるで二人の位置を知っていたかのように真直ぐと駆け出して、必殺の一撃を叩き込む。狙撃手のセオリーを完全に無視した戦い方ですが、解説の出水先輩。二人の戦い方について、どう思われますか?」

 

「いいぞー! メガネくん、東さん! そんな奴らなんかぶっ飛ばせ。俺が全力で応援しているぞ!!」

 

「ちょっと出水先輩。解説解説」

 

 

 後輩の武富に注意された出水は、自分が興奮気味になっていた事に気づく。恥かしげに「コホン」と咳き込んで間を開けた出水は、自分の考えを――

 

 

「あぁ。あれは――」

 

「あれはあれでありだろう。互いに同ポジション。しかも、数的不利なんだ。ま、東さんのやり方ではないけどな、ありゃあ」

 

 

 ――述べるよりも早く、自分の意見を言ったものがいた。出水はその人物の顔を見てあからさまに表情を歪ませる。

 

 

「た、太刀川さん」

 

「探したぞ、出水。レポートの手伝いを、と思ったんだが……。ずいぶん、面白いことをしているな、お前ら」

 

 

 乱入してきたのはA級1位太刀川隊の部隊長、太刀川慶であった。

 まさか、自身の隊長がこんなタイミングで来るなんて、と出水は太刀川をよこした運命を呪う。

 

 

「な、なんでここに?」

 

「いやぁ。お前を探していたら、迅とばったり会ってな。ランクブースに行ったら面白い事をしているよ、と教えてくれたんだ。案の定、ずいぶんと面白いことになっているな、こいつは」

 

 

 当真に特攻する修と東の姿を見て口角を上げる。太刀川はそのまま出水の横に座り、観戦を決め込むつもりのようだ。

 胸中で太刀川と言う刺客を送り込んだ迅に悪態つく出水であるが、彼の心情など分からない武富は太刀川に質問を投げかける。

 

 

「あの、太刀川さん。さっきの言ったことって……?」

 

「あぁ。お互いに狙撃手なんだろ。だったら、どっちも待ちの姿勢で勝負を挑んだら、銃口が多い方が勝つに決まっている。あいつらがなんであんなに慌てているかしらんが、奇襲をして先手を取ろうと考えるのは当たり前だろ」

 

 

 その意見はもっともであるが、太刀川はそれまでの戦いを見ていないから言えることだ。武富はその前の2戦を見た後の意見が聞きたかったのであった。出水は自分に武富の視線が来たのを知ってか、太刀川の後に続いて話し始める。

 

 

「おそらく、この1戦に勝負を賭けたんじゃないかな? 前の2戦はあくまで今回の1戦の為の準備期間だったのかもしれない。メガネくんがバッグワームを使って、ダミービーコンを使うタイミングも2戦目で図っていたのなら、先の意味のないダミービーコンの使い方もうなずけると思うんだ」

 

「なるほど。それじゃあ、始めから奇襲で勝負を仕掛けるつもりだったんでしょうか? ですが、なんで3戦目まで持ち込んだんですか? 1戦目で使ってもよかったと思われますが……」

 

「これは推測だが、何かを視ていたんじゃないか?」

 

「視ていた?」

 

「メガネくん。強化視覚のサイドエフェクト持ちだから」

 

「……へ?」

 

「……あ」

 

 

 慌てて口を押える出水。だが、それは逆効果であった。その対応は自分が口を滑らせたと口外したも同じ。聞き間違いじゃないと悟った武富は――

 

 

「は……。はぁぁあああっ!?」

 

 

 盛大に驚きの声を上げるのであった。

 

 

「ちょっ、出水先輩!? あれって本当だったんですか? 三雲隊員がサイドエフェクト持ちだって、マジ情報だったんですか!?」

 

「な、ナンノコトヤラ」

 

「何気に噂になっていましたが、三雲隊員のトリオン量ではサイドエフェクトはあり得ない、と否定する人達もいましたので……。しかし、それならなぜ、入隊した時に発覚しなかったのでしょうか。まさか、後天的なものとか言いませんよね」

 

 

 詰め寄られて、あきらめたのだろう。もともと、修がサイドエフェクト持ちと言う噂は広まっていた。今更告げたところで何も変わらないと踏んだのだろう。

 

 

「……同じ玉狛支部の空閑から聞いたから、噂は本当だぞ。正式名称は強化視覚。愛称は【天眼】らしいぞ」

 

「て、天眼? 天眼って肉眼では見えない事でも自在に見通せる、神通力のある目のことですよね。……えぇ!? なにそれ!! 完全なチートじゃないですか。まさか、風間さんが言っていた全部視ていたって……」

 

「言葉通りの意味。今のメガネくんは何でも見通せるはずだよ。それは、お前も見ただろ?」

 

「視ました。えぇ、見ましたとも!! けど、信じられないじゃないですか。サイドエフェクトが働いていたなんて誰が予想できるんですか!?」

 

 

 誰も予想できない事だろう。出水だって、空閑から聞いていなければ修の噂を信じることができなかったことであろう。

 

 

「へぇ。あいつ、迅の後輩だろ。メガネくんって言っていたが、メガネかけていないじゃん。出水もなんで、三雲の事をメガネくんって呼んでいるんだ?」

 

「普段の彼はメガネをかけているからですよ。メガネを取る時は本気モードのときだけです」

 

「マジ。メガネを取ると真剣モードとか、どこの漫画の主人公なんだ、アイツは。……どれ、ちょっと俺も」

 

「待って、太刀川さん。ブースに入ろうとして、どうするつもりなんですか」

 

「ちょっと乱入――」

 

「――させる訳にはいきませんから。あんたが乱入したら、ますますカオス状態になるだけだから」

 

 

 ウキウキ気分でブースに入ろうとする太刀川を出水が後ろから羽交い絞めして阻止する。

 せっかくいい感じで勝負が進んでいるのにもかかわらず、太刀川が入って状況が変わったら大事だ。シューター界の新星をこんなつまらないことで台無しにさせるわけにはいかないのだ。

 そんな1位部隊のいざこざに苦笑いしつつも、武富は実況を続ける。彼女の実況魂はこの程度で折れるほど軟ではないのだ。

 

 

「さぁ、三雲・東隊員の次なる標的は当真先輩の様子。おっと、これはどう言うつもりだ? 二人してバッグワームを解除。そして、新たに……ライトニングとイーグレット? これは、ツイン狙撃だ。2戦目で使ったツイン狙撃を再び使う模様だ!」

 

 

 武富の言葉に二人が「なぬっ!?」と反応してモニターを見やる。そこには当真の射線を掻い潜る二人の狙撃手の特攻姿があった。

 

 

 

***

 

 

 

 幾多の赤い閃光が三雲と東に注がれている。

 

 

「(こいつは、予想以上だな)」

 

 

 広がる摩訶不思議な光景に東は笑うしかなかった。いま、二人に注がれている赤き閃光は当真が放つと思われる狙撃の弾道だ。確実に仕留めるつもりだったのだろう。二人に注がれている弾道はどれも額に標準を合わせていた。

 

 

「(さすがだな、当真。だが、今回ばかりは勝たせてもらう)」

 

 

 狙撃小隊の事情を知らない二人は必死にならざるを得ないのだ。負けたら失うものは大きい。東も「任せろ」と息巻いたにもかかわらず、力及ばずでした申し訳ないではすまないのだ。

 

 

「人見っ! 三雲くんの視覚情報から当真達の正確な位置を割り出せ」

 

『既にやっています。……割り出せました。北北西約1キロのビル屋上です』

 

「よし。そこまで分かれば――」

 

『東さん。当真先輩がイーグレットを構えました。5秒後、狙撃が来ます』

 

「了解した、三雲くん!」

 

 

 三雲から狙撃を注意せよ、と呼び掛けられる。三雲の言葉通り、5秒後には己を穿つための銃弾が飛んできたのだった。普通ならば真向から対抗せずにやり過ごす事なのだが、今の東ならば当真の狙撃がはっきりと視えている。

 

 

 

 ――クイック・スナイプ

 

 

 

 スコープを全く視ずに引き金を絞る。本来ならば確実性が低い狙撃なので使うことを嫌う東であるが、今の東の視線には自分が放った弾道が赤き閃光となって教えてくれている。

 この情報があれば標準をスコープで視て合わせる必要はない。自分はただ、赤き閃光に合わせて銃弾を沿わせればいいんだから。

 東が狙撃の銃弾を打ち返す――その技術をビリヤードと呼んでいる――と同時に、追従していた修がライトニング二挺の引き金を絞る。

 

 

 

 ――ツインスナイプ

 

 

 

 ライトニングから放たれた弾丸は当真の額へ吸い込まれていく。

 

 

「シールドっ!!」

 

 

 やられると感じた当真はイーグレットを投げ捨てて額に集中シールドを二つ作り出す。修の弾丸は当真のシールドによって阻まれてしまうが、その直後に放たれた東の狙撃は躱せない。

 

 

 

――クイック・スナイプ

 

 

 

 時間差で放たれた東の弾丸は当真の心臓部に着弾する。

 大きく胸部を抉られた当真は自身の反撃を最後の最後まで警戒している二人に向けて伝える。

 

 

「そこそこ楽しかった。次はちゃんと白黒つけようぜ」

 

 

 強制脱出が発動。当真の戦闘体は光となって空へ昇っていく。

 これで最後は佐鳥ただ一人。誰にも気付かれないように力こぶしを作った修は次の行動に移ろうとするのだが、激しい頭痛と眩暈に襲われて、その場で膝を折って四つん這いになったのだった。

 

 

「三雲くん!? どうした!!」

 

 

 慌てて東が駆け寄る。苦しげに表情を歪ませる修を視て、ただ事ではないと思ったのだろう。戦いを中断しようと人見に呼び掛ける東を修は止めたのであった。

 

 

「だ、大丈夫です。いつものやつです」

 

「いつものやつ?」

 

「この天眼を使いすぎると、頭痛や吐き気が襲ってくるんです。しかし、今回は随分と早かったな」

 

 

 緑川&木虎戦では5試合続けて発動させても頭痛や眩暈に襲われることはなかった。試合数だけを考えると前の戦いの方が長いはずだ。

 

 

「(鷹の眼が発動したことで、制限時間が短くなったのか?)」

 

 

 痛みに耐えながらも、連続使用時間が短くなった原因を考える。そして、修の推測は限りなく正解に近いだろう。ただでさえ天眼の効力は反則級だ。それに加えて弾丸の軌道を可視化するなんて反則能力が開眼したのだ。ただで済むわけがない。

 

 

「三雲くんはここで休んでいろ。佐鳥は俺が仕留める。人見、感覚共有を解除しろ」

 

『了解です』

 

 

 東の指示に従って感覚共有を解除する。それに伴って修の苦痛が少しばかり和らいだのだ。感覚共有は修の負担を増す原因である事をこの時に知るのであった。

 

 

「いえ。僕もやります」

 

「無理だ。そんな様子でまともに狙撃ができるとは思えない。ここは俺に任せて――」

 

「いえ、東さん。狙撃はしません」

 

「なんだって?」

 

「僕に考えがあります。手伝ってくれませんか?」

 

 

 自身が使い物にならないことは修も重々承知している。しかし、だからと言ってこのまま戦線離脱するわけにはいかない。ならば、使えない戦力の使い道などただ一つしかない。

 修は東に作戦を伝えると、人見と一緒に驚かれることになる。

 

 

 

***

 

 

 

「(高性能な力は消耗が激しい。それを今回の戦いで感じ取ることができたようだな。それでも戦う姿勢を崩さない。それは大事なことだぜ、メガネくん)」

 

 

 後輩の戦いぶりに満足気に笑みを浮かべる迅は持ち込んだぼんち揚げに手を伸ばすが、どうやらすべて食べつくしてしまったらしい。一枚も残っていなかった。

 

 

「ぼんち揚げもなくなったことだし、俺は玉狛に帰るかな」

 

 

 今回の暗躍はすでに終わっている。その結果、自分の想像以上の結果が得られたことに満足したのだろう。迅はくるりと踵を返して、その場から去ろうとするのだが。

 

 

「ほぉ。どこに行くのだ、迅」

 

 

 腕組みをしていく手を阻む風間によって移動することができなかった。

 

 

「あ、風間さん。こんちは。風間さんもメガネくんの奮闘を見守りに来たのですか?」

 

「噂を聞いて見に行こうとしたのだが、それよりも菊地原が面白い話を聴いたものでな。東隊の隊室に寄ってあの二人を諌めていたら、来るのが遅くなった」

 

 

 風間の言葉に頬を引きつる迅。修のように額から冷や汗を流した迅は、この場に居続けたら危険と判断し――

 

 

「そうなんだ、それは大変でしたね。じゃ、俺はここで――」

 

 

 ――戦略的撤退を実行したのだが、行動を先読みしていた風間は己の部下を呼んで捕縛させたのであった。

 

 

「ちょっ、風間さん。なに、なにこれ!? なんで俺、こんなことになっているの」

 

「黙れ、馬鹿者。小荒井と奥寺から聞いた。お前、あの二人に人見の邪魔をしろと頼み込んだらしいな。東さんが三雲を愛弟子にするなんて嘘までついて……」

 

「いやいや、嘘じゃないですよそれ。俺のサイドエフェクトは――」

 

「それに加えて、奈良坂には三雲がきのこ派でたけのこ派をバカにしていたとか、古寺には宇佐美の裸を覗いたとか、ある事ないことを吹聴したらしいな」

 

「あ、あはははは。こ、これには深い事情があって」

 

「ほぉ。なら、その深い事情と言うやつを聞かせてもらおうか。歌川、菊地原。すまないが、このバカを部隊室へ連行してくれ。俺も後で行く」

 

「「了解です」」

 

「か、風間さん。俺の話を聞いて! これは俺のサイドエフェクトが、サイドエフェクトが――」

 

 

 お決まりのセリフを言わせまいと歌川と菊地原が迅を連行していく。

 

 

「さぁ! いよいよ、この狙撃合戦もクライマックスに突入だ! いきなり倒れる三雲隊員でしたが、戦闘を続ける模様。ツイン狙撃の名手佐鳥隊員に三雲・東両隊員はどう立ち向かっていくのでしょうか」

 

「離せ、出水! あの戦いに俺も参加する。参加すると言ったら参加するんだ!」

 

「ダメです、太刀川さん。メガネくん達の邪魔をしないでください! 誰か、ヘルプ! ヘルプミー!! この太刀川さんを誰か止めて!!」

 

 

 熱の籠った実況の脇で醜い争いを続けている太刀川と出水の争いに風間は深いため息を吐く。このままでは太刀川は出水の制止を振り払って戦いに参加してしまうだろう。

 

 

「……あいつ、レポートは終わらせたんだろうな」

 

 

 もちろん、終わっていません。

 死刑を告げる風間の足が太刀川へ向けられる。数十秒後、太刀川は風間の顔を視て某アニメのポーズ「シェー」を披露するのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 気が付けば残りは佐鳥一人であった。

 

 

『信じられない。A級の狙撃手をあっという間に……』

 

 

 綾辻がそんな感想を抱くのは仕方がない。彼女は奈良坂、古寺、当真の実力を重々承知している。そんな実力者をあっという間に緊急脱出へ貶めたのだ。いくら、ベテランの狙撃手東の力を借りても、こんな結果に至らないだろう。

 

 

「はは」

 

 

 佐鳥は思わず笑ってしまう。本来ならば驚き、戦慄するところであるが、それ以上に凄過ぎて笑わずにはいられなかった。

 

 

「……やっぱ、すげぇわ」

 

 

 自身が極めた狙撃の奥義、ツインスナイプを軽々とやった時から修の凄さを感じさせられたが、彼の真価を目の当たりにして――気おくれするよりも、やる気が一気に増したのであった。

 

 

「(やべぇ。もしかして、いま俺はめっちゃ興奮している?)」

 

 

 気持ちの昂ぶりが抑えきれなかった。

 今の佐鳥は目の前に立つ敵、修にどうやって狙撃を当てるか何度も頭の中でシュミレートしている最中であった。

 

 

「(当てられないとは考えない。必ず当てて見せる。俺のツインスナイプで)」

 

 

 修が再び起動させていたバッグワームを解除する。もはや敵は目の前の佐鳥ただ一人。バッグワームを使っても意味がないと思ったのだろうか。代わりにライトニングを生み出し、ツイン狙撃の体勢に入る。

 

 

「(わかっているじゃないか、三雲くん。ツインスナイプ対決。この戦いに終止符を打つのはこれしかない)」

 

 

 と、思っている佐鳥に綾辻の叫び声が耳をつんざく。

 

 

『避けて、佐鳥くん! 狙撃が――東さんの狙撃が来る!!』

 

「なっ!?」

 

 

 それは一瞬の出来事であった。修の後方で構えていた東がアイビスを構えて、佐鳥に標準を合わせていたのだ。佐鳥もバカではない。東から狙撃を受けないように周囲を警戒していた。しかし、見落としていた。それはなぜか……。

 修の首が左に傾く。動いた分のスペースからアイビスの弾丸が走り、通過していったのだ。普通ならばフレンドリーファイヤー、つまり修自身に被弾するのだが天眼は既に東の弾道を示していたので、躱すのはそれほど難しくなかった。なにせ、内部通信で東が撃つタイミングを教えていたのだから。

 

 

「(俺の注意を引いて、東さんに狙撃してもらう。射線上に立ったのも俺に不意打ちをするためかよ)」

 

 

 アイビスの弾丸が飛来する。イーグレットを捨てて集中シールドを張った所で防ぎきることはできない。狙撃銃の中でも最高威力を誇る銃弾に対処する方法は避けるのみだ。

 

 

「まにあえっ!」

 

 

 東のアイビスを避ける為にビルから飛び降りる。弾丸は佐鳥の右足を捉え破壊する。完全に避け切ることはできなかったが、右足だけならばまだ戦える。視線を修に向け、銃口を合わせると――修も同様に佐鳥へ銃口を向けていた。

 

 

「いくぜ、三雲くん。勝負っ!!」

 

 

 

 ――アクロバット・ツインスナイプ

 ――ツインスナイプ

 

 

 

 4挺の狙撃銃が火を噴く。互いの弾丸はすれ違うように飛び交い、互いの頭部と腹部に命中した。

 

 

「はは、相打ちか。けど、楽しかったな」

 

 

 満足気な表情を浮かべて、佐鳥の戦闘体は粉砕される。

 同様に修の戦闘体も佐鳥の弾丸によって破壊され、二人同時に緊急脱出されるのであった。




なかなか難産でした。
あと、1話を書いたら狙撃編は終了となります。

次はシューター編かアタッカー編にしましょうかね。
さて、だれがいいですかね(チラ


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SE修【天眼】A級狙撃小隊⑤

とりあえず、これで狙撃編は終了です。
ちょっと無理やり感があるかな?


 狙撃合戦の戦績は三雲・東コンビが1でA級狙撃小隊が2と言う結果に終わった。

 普通の勝負ならばA級狙撃小隊の勝利になるのだが、今回のA級狙撃小隊の勝利条件は3勝連取だ。よって、今回の勝負は三雲・東コンビの勝利となる。

 佐鳥は清々しい表情で修と東に近寄り、勢い良く頭を下げて告げる。

 

 

「すみませんでした、三雲くん。東さん」

 

「や、止めてください、佐鳥先輩」

 

「そうだぞ、佐鳥。理由は綾辻から聞いた。お前なりに色々と悩んでいたんだろ。今回の件は水に流してやる」

 

 

 公衆の面前で先輩に頭を下げられて平常心を保てるほど修の面は厚くない。それに、今回の事の原因はブースを出る前に人見を通じて綾辻から聞かされていた。巻き込まれた二人からしてみればいい迷惑でしかないが、狙撃手の未来を真剣に考えていた佐鳥を怒るに怒れないでいた。

 

 

「……三雲くん。東さん」

 

「ただ――」

 

 

 感涙する佐鳥の後ろに控える奈良坂と古寺に視線を向け――。

 

 

「この二人については説明してもらうぞ」

 

 

 ――予想外の増援を要請したであろう佐鳥に問い質す事にした。

 

 

「それは……」

 

 

 東から視線を反らす。

 黒幕迅に「俺がやったって事は内緒だよ」と釘を刺されていたのだった。約束を守る必要はどこにもないが、迅は自隊の隊長の友人である。部下として、後輩として、自隊の隊長の友人である迅を裏切るのはいかがなものか、と悩んでいる間に――。

 

 

「――それについては俺が説明してやろう」

 

 

 黒幕を尋問した風間が仲介役を買って出てくれたのだった。

 

 

「風間さん?」

 

「調子が良さそうだな、三雲。だが、まだまだ動きが硬いな。サイドエフェクトに頼り切りな戦い方ではいずれ痛い目に合う事を忘れるな」

 

「はいっ!」

 

 

 風間の指摘はもっともであった。それは修自身も痛感していた。特に最後の狙撃は相討ちで終わらせてはいけなかったのだ。けれど、修は佐鳥のツイン狙撃をまともに受けてしまった。

 あの時、ライトニングを構えるだけで精一杯だった。悟られない様に平然を装ってはいたが、佐鳥の狙撃を避ける素振りも見せなかったのが何よりの証拠である。

 サイドエフェクトに頼り切りでは肝心な時に使い物にならなくなるかもしれない。そうならない様にもっと鍛錬を積む必要がある。新たな課題が浮き出した事は歓迎するべきことだ。そう言う意味では今回の戦いは決して無駄でないと言えよう。

 

 

「で、風間。さっきの言葉は――。その前に、そろそろ太刀川を解放したらどうだ?」

 

 

 事の真意よりも襟首を掴んで引き摺る太刀川の姿の方が気になったのだろう。正直、見飽きた光景であるが、いざ目の当りにすると気になって仕方がないから不思議である。

 

 

「「「(またレポートをすっぽかしたのか、この人は)」」」

 

 

 修を除いた後輩達は同じ感想を抱く。もはや太刀川の今の姿は恒例と化している。初めはA級1位のあられもない姿に困惑したものであるが、今ではすっかり慣れてしまっている。

 

 

「いま、三上に頼んで忍田さんを呼ばせましたので、それまで辛抱してください」

 

「そ、そうか……。まぁ、自業自得だからな」

 

「はい。自業自得です」

 

 

 風間の脇で「ちょっと東さん!」と救援要請を送る太刀川であるが、関わったら面倒に巻き込まれてしまう。過去に経験済みであるが為に太刀川の救援信号を受信する訳にはいかないのだ。常に着信拒否及び通信否定。レポートが絡んだ太刀川の相手は彼の師である忍田に任せるのが一番である。

 

 

「それで、風間。話は元に戻すのだが――」

 

「――その前に、先に風間隊の隊室へ向っていただけませんか理由はそこにいますので」

 

 

 東の言葉を遮って風間は口にする。事の真意を知らない修と東は風間が口にした“います”と言う言葉に首を傾げるのだが、それ以上の説明を風間はしてくれなかった。

 疑問符がまったく消えない事態に戸惑う修と東であったが、話はどんどん先へ進んで行く。

 

 

「奈良坂、古寺。お前らもついて行け。お前らだって巻き込まれた被害者だ。話を聞く権利がある。佐鳥は……好きにしろ」

 

「ちょっ、風間さん。それはないんじゃないですか!? 俺の扱いだけ酷過ぎませんか!」

 

「好きにしろと言っただろ。興味があるなら、4人に着いて行け。止めはしない」

 

「そうします」

 

 

 もはや話の流れを修正する事は出来なさそうだ。諦めた修と東は風間の言うとおり、風間隊へ向かう事にしたのだった。

 

 

「……と、言う事だお前ら。今回のバカ騒ぎはこれまでにしろ。いつかアイツらを脅かす隊員になってみせろ。その気があるなら鍛錬に励む事だな」

 野次馬と化していた他の隊員に向けて檄を飛ばす。修達の戦いにあてられて隊員達は風間の言葉に従って鍛錬を再開させるのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 迅悠一は未来視のサイドエフェクトを持つ。迅の眼は修が視る事の出来ない未来の可能性を覗き込む事が可能だ。しかし、迅だって人の子だ。当然に見逃して予知を外す事も稀にある。読み間違えていなければ、菊地原と歌川に尋問されているはずがない。

 

 

「さぁ、迅さん。いい加減に答えてくださいよ。ネタは上がっているんですよ」

 

「だから、言っているでしょ。全部、俺のサイドエフェクトが言っているの。それだけで納得しない!? ね、ねぇ!!」

 

 

 何故か部屋全体を暗くして、中央に机が一つあるのみ。迅と対立する様に座った歌川はいつの間にか持っていたカツ丼を差し出す。

 

 

「……ぇ、なにこれ? いまどうやってカツ丼を出したの?」

 

「迅さん。些細な問題なんて気にしている余裕はないはずですよ」

 

「些細なこと!? 今の絶対に些細な事じゃないよね。歌川のどっかにリアル四次元ポケットでも装備されているの?」

 

「そんな物があるわけないですよ。四次元袖ならありますが」

 

「そっち!? まさかのアチョー版!? 物凄く気になるんだが、見せてくれない」

 

「……迅さん。そろそろふざけるのも止めましょうね」

 

「あ、はい。すみません」

 

 

 相手が歌川と言う事もあって迅も悪ふざけが過ぎたのだろう。まったく反省していない迅に流石の歌川も我慢しきれなかった様子。なぜに歌川がそこまで激昂するのか不思議だったが、彼の言葉から紡ぎだされる言葉によって知る事になった。

 

 

「迅さん。幾らあなたでも宇佐美先輩の裸云々なんて嘘をつくのはいかがなものかと思います」

 

「……ぇ。そっち? ちょっと待って、三上。そんな汚物を視る様な目で俺を見ないで! 誤解だから。誤解だから!」

 

「ここは1階です!」

 

「誰がお約束のボケをしろと言った菊地原! 誤解だ誤解。古寺を動かすのにそれ以外の言葉が思いつかなかったんだよ!!」

 

「そもそも、何であの二人を巻き込む必要があったのですか。あんな直ぐにばれるようなウソまでついて」

 

 

 ウソではない、と迅は問い詰めてくる歌川に物申したいのだが、それを口にすることは許されない。何せ後輩の名誉がかかっているのだから。この場に修がいたならば自分から交渉の材料にしたのによく言う、とつっこまれる事だろう。

 

 

「……メガネくんに実戦経験を積ませたかったんだよ」

 

「メガネ……? もしかして、いま噂になっている三雲くんのことですか?」

 

 

 そうそう、と何度も頷く様子を見て嘘は言っていないと判断する歌川であったが、だからと言ってこんな事をする理由にはならないはず。

 確かに玉狛支部のB級メガネこと三雲修はちょっとした時の人である事は否定しない。なにせ、自身の隊長から勝利をもぎ取った男だ。本部で噂にならない訳がない。

 だからと言って、今回の騒ぎを助長させるような行為をする必要はあったのだろうか。

 考えた末、出た結論はNOのはず。常識人の歌川は迅の言いたい事が全く以って理解出来なかった。

 

 

「それで、三雲くんに実戦経験を積ませてどうしたかった訳ですか? 強くさせたいのなら、わざわざあんな事をさせなくてもよかったじゃないですか」

 

「……黙秘権を使います」

 

「知っていましたか、迅さん。ボーダーに自己負罪拒否特権は通用しません」

 

「いやいや。黙秘権と自己拒否負罪特権は違うからね。詳しくは知らないけど、ウィキさんが言っていたよ!」

 

「マジですか」

 

 

 格好つけて言ったのに、別物と指摘を受けた事に歌川の顔が紅潮する。まさかの知ったか発言を聞いた菊地原「ぷっ」と隠す事無く吹き出すのだった。

 キッとバカにした菊地原を睨むが、この程度で縮こまる彼ではない。それは歌川も承知済みだったので、直ぐに迅へ振り向き直して尋問を続けることにする。戦闘体に換装した後で。

 

 

「……それで、三雲くんに実戦経験を詰ませてどうしたかった訳ですか?」

 

「待て待て! なんでトリオン体に換装する必要がある。暴力に訴える気か!? バカにされただけで御冠になるのはお兄さん、ちょっといただけないと思うな。冷静になろう。話せば分かる、きっと!」

 

「ならキリキリ吐いてくれますよね」

 

 

 

***

 

 

 

 入室するなり、迅と風間隊のコントを見せられた修と狙撃手の5人は唖然とするしかなかった。

 

 

「えっと……。なにこれ?」

 

 

 最初に会話を切り出したのは当真であった。けど、その質問に答えられる人物はこの場にいない。そもそも、なぜに迅が事情聴取紛いな事をされているのか皆目見当もつかなかったのだ。全員が唖然としている最中、太刀川を保護者に放り投げた風間が入室して来た。

 

 

「見て分かる様に全ての黒幕はアイツだ」

 

 

 入るなりの第一声がそれであった。

 修と東は「何故に迅(さん)が?」首を傾げる。

 同様に佐鳥と当真も「なんで?」と首を傾げた。

 対して奈良坂と古寺は「まさか、俺達は――」と自分達が騙されていた事に気付くのであった。

 

 

「あの騒ぎをサイドエフェクトで視ていたのだろう。何を考えて奈良坂と古寺を巻き込んだのかは知らないが、今回の件を利用して三雲に実戦経験を詰ませたかったようだ」

 

「それでは、三雲がキノコ派でタケノコ派をバカにした事も――」

 

「宇佐美先輩の裸を覗き見した事も――」

 

「「全部ウソだったのですか!?」」

 

「……お前達。それを聞いて直ぐに嘘と気づかないのもどうかと思うぞ」

 

 

 まさか、そんな虚言を聞かされて本気にしたとは思ってもみなかった風間は呆れるしかなかった。けど、待ってほしい。

 

 

「(いえ、ごめんなさい風間さん。一つは嘘じゃないんです)」

 

 

 宇佐美の件については全てがウソではない。正確には“覗き見した”ではなく“視えてしまった”であるが、視た事には違いない。

 天眼の効力の一つ、浄天眼は透視の力を有している。集中すればトリオンの流れも見ることが可能なこの力で無意識的に生身の人間を視ると文字通り全てを視てしまう。簡単に言うと真っ裸状態で映るのだ。不幸中の幸いか相手が戦闘体の状態である時はそんな事にならない様なので真面に相手を視る事が出来るのだが、相手が生身の時に関しては非常事態以外を除いてメガネを取らない事にしている。

 

 

「……なるほど。全ては迅が仕組んだことだったのだな」

 

「その通りです、東さん。あのバカは俺から注意しますので――」

 

「分かった。そう言う事なら納得してやるよ。他に別の理由がありそうだがな」

 

 

 さり気無い言葉に瞼がピクリと反応したが、直ぐにポーカーフェイスを決め込み「何の事だか」と白を切る。東もそれ以上追及するつもりはなかったのだろう。この話しは終わりだと言いたげに話題を変えるのだった。

 

 

「……よし。事情は大体わかった。今日の所はこれぐらいにして、お前達。この後、時間はあるか? 折角だから焼肉でも食べて今回の反省会を開こう。勿論、俺のおごりだ。手伝ってくれたオペレーターの二人にも声を掛けないといけないよな」

 

「えっと……。東さん? 迅さんの事は」

 

「気にするな、三雲くん。迅のあれは趣味の暗躍が過ぎた事だ。風間にきついほどお灸をすえてもらって反省させておけばいいさ。それより飯だ。お前達も一緒に来るだろ?」

 

 

 まだ納得のいっていない4人であったが、年長者の東からそう言われると反論する訳にはいかなかった。それに東が奢って貰う焼肉の件は大変魅力的であった。

 

 

「マジっすか。ごちそう様です、東さん」

 

 

 最初に反応したのは当真である。それに習って、佐鳥と奈良坂、古寺も「ありがとうございます」と礼を言って賛同する。

 

 

「なら行くか。佐鳥、綾辻を誘って来い。俺は人見を誘って来るから。……では、二十分後に再度ブースに集合だ。解散」

 

 

 東の指示に従い、修を初めとした隊員はその場から去って行く。対して東は全員が風間隊から去って行ったのを見て風間に問い掛ける。

 

 

 これでいいのだろう、と。

 

 

「流石です、東さん。……迅、歌川。もう茶番はいいぞ。あいつらは出て行ったから」

 

 

 風間の合図で二人は「ぷはー」と大袈裟に息を吐いて脱力する。迅の拷問は既に終わっていたのであった。無理矢理吐かせた内容を聞いた風間は、まず今回の騒ぎを収める為に動いたのである。もっとも東にはお見通しであったようだが。

 

 

「さて、聞かせてもらおうか迅、風間。今回の騒ぎの発端は佐鳥の暴走であるが、それを助長したのは迅、お前なんだろ」

 

「なはは。その通りです、東さん。ちょうど、メガネくんの未来に関係する人間が近くにいたので、今回の騒ぎをちょっと利用させてもらいました」

 

「……未来視か。今回でお前が避けたかった未来は回避できたのか?」

 

 

 迅が意味もない行動をしない事はこの場にいる全員がよく知っている。ただ、それを良しとするかしないかの問題ではあるが。

 

 

「流石ですね、東さん。……まだ、9・1と言った所でしょうか。正直に言って全然足りません。メガネくんにはもっと精進してもらわないと……」

 

「なぜ、そこまで三雲くんを窮地に陥れようとする。彼はお前の後輩のはずだ」

 

「だからこそです、東さん。メガネくんは俺の可愛い後輩だ。だから、今のままではダメなんだ。このままでは――」

 

 

 

 

 

 ――メガネくんは確実に死んでしまうんだから。

 

 

 

 

 

 衝撃的な言葉に東、風間隊の全員は言葉を失う事になる。




この迅さんが妙にギャグキャラと化しているのは、私の気のせいでしょうか。
それに巻き込まれた歌川が不憫で仕方がない。

あ、出水さんを書くの忘れていた。
……ま、いっか。


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SE修【天眼】攻撃手①VS太刀川編

今回(攻撃手編)の修のトリガー構成は以下の通りです。

メイン:レイガスト
    スラスター
    グラスホッパー

サブ :テレポーター
    弧月
    旋空

シールド? そんなもの、我らがOSAMUに必要ありますか?


 相棒の空閑遊真は三雲修の相棒である。同時に近界民である。

 正確には近界で生まれた玄界の血を引く少年が正しいが。修とは色々とあって同じ支部の玉狛に所属しており、いずれは小隊を組む約束を交わしている仲であった。

 空閑はA級に匹敵する実力を持っている。そんな彼に並みのC級隊員が勝てるはずがない。ランク戦が始まっては一瞬で勝負が決まり、その繰り返しなのだから。

 たまに緑川が顔を出して空閑と戦うのだが、結果は7・3が最高である。勿論、空閑が7で緑川が3である。

 今日も迅から「本部で揉まれて来い」と言われた修は相棒の空閑の戦いぶりを見て他人事のように「凄いな」と感嘆する。近くで修の呟きを聞いていた他の隊員は「お前がそれを言うのか!?」と言いたげな表情で見ていたが、今の修はメガネをかけているので彼ら彼女らの視線に気づく事はなかった。

 そんな修に話しかけるものがいた。この瞬間を待ち遠しく思っていた弾バカ事、出水公平である。

 

 

「よぉ。メガネくん」

 

 

 呼ばれた修は相手が出水であると知ると慌てて立ち上がり、

 

 

「出水先輩、先日はありがとうございました。その、お礼も満足に言えなくて――」

 

 

 すみません、と言うよりも先に出水が言葉を遮る。こんな大衆で時の人である修に謝られたら好奇の目が集まる事は言うまでもないだろう。その好奇な視線を向けて来る輩の中に厄介な敵がいたら折角のビッグチャンスが台無しになってしまう。

 

 

「――いいのいいの。気にしないで、メガネくん。そんな事なんか気にしていないから。今日は一人なの?」

 

「いえ。空閑と一緒に来たのですが……」

 

 

 表示されているモニターに視線を走らせる修の後に続き、彼が何を言いたいのか出水は納得した。いま、モニターでは空閑と緑川がランク戦の様子が映し出されていた。

 

 

「へぇ。初めて見たが、アイツもやるんだな。緑川に圧勝したって噂は嘘じゃなかったんだな」

 

 

 空閑の凄さは専門外な出水でも見て分かる。緑川の動きも光るものがあるが、彼の動きは素直すぎる。ジャンプ台トリガーのグラスホッパーを使えば直線的な動きしか出来ないのは致し方がないのだが、最短ルートばかり選んでいるのがいけなかった。移動ルートを読まれた緑川は頭上から降下してくる空閑の一撃を受け、強制離脱される。

 経験の差が両者の動きに影響を与えているのは言うまでもない。緑川が空閑に一矢報いる瞬間が訪れるのはまだまだ先の事であろう。

 

 

「くっそぉぉ。また負けちゃったか。なんか回数を重ねる毎に遊真先輩に勝てなくなっている気がするな」

 

 

 戦績的には徐々に勝率を増やしているのだが、実感する事が出来なかった。その理由は回数を重ねる度に空閑もまた動きの鋭さが増している為である。慣れない玄界のトリガーを使っている空閑はC級の間に今使用中のトリガーを慣らす必要がある。

 緑川が空閑の動きの凄みが増したと感じるのは、それだけ空閑が玄界のトリガーに慣れて来た証拠である。

 

 

「まだまだだな、ミドリカワ」

 

 

 未熟であることは自覚しているが、空閑に言われると悔しさが込み上がってきたのだろう。緑川はその場で地団太を踏んで大層悔しげな表情を浮かばせていた。

 

 

「……おっ、オサムの横にいるのはイズミ先輩ではありませんか。どもども」

 

「よっ、空閑。中々の活躍ぶりじゃないか。緑川に圧勝するなんてお前は凄いな。これでまだC級とか反則にも程があるぜ」

 

 

 それは修と緑川も同意であった。早くポイントをためてB級に昇格すればいいのだが、緑川と戦ってからと言うもの中々ポイントが溜らなくなってしまったのだ。大半のC級隊員が恐れをなして、誰も空閑と戦おうとしないのだから……。

 

 

「……ま、焦る必要はないだろう。千佳もB級に上がるのに少し時間がかかるようだから」

 

 

 もう一人の仲間になる雨取千佳の成績は悪くないが、B級に昇格するには空閑より少しばかり時間がかかる計算になっている。

 今季のランク戦に間に合ってくれたら御の字だが、最悪の場合は修とオペレーターになってくれた宇佐美の二人組で挑まないといけない事も考慮に入れるべきだろう。ちなみに、迅が修の許可もなく勝手に三雲隊発足の申請書が出されたのは言うまでもないだろう。

 その後、玉狛第一の全員によって粛正されたのも想像出来たことであろう。

 

 

「そうだ、空閑。悪いんだけど、ちょっとメガネくんを貸してくれないか?」

 

「ん? オサムが良いならば、俺は構わないけど……。けど、何で?」

 

「この前の緑川&木虎戦で他の射手から紹介しろって言われたんだよ。前々から声を掛けようと思っていたんだが、みんなが集まれた日はメガネくん、狙撃戦をしていたしな。で、どうかな?」

 

 

 ちなみに、その後に射手全員にラインで連絡を取ったら、それはもうクレームの嵐であった。非難轟々、罵詈雑言と言った四字熟語が似合う状況とだけ言っておこう。

 特に二宮の返し文句が酷かった。使えない、とかならまだしも「だから、お前に彼女は出来ないんだ」は大きなお世話であった。自分だってホスト紛いな格好をしているのに、と返信を送ったら鬼の形相を浮かべた二宮とリアル鬼ごっこをするはめになってしまったのは秘密である。

 仮に今回も修を連れてこられなかったら、出水の運命は絶望の淵へ立たされることになるだろう。それだけは何としても避けなくてはいけない。もし、今回もダメなら二宮から「加古のチャーハンを食わす」とまで言われている。真っ白に燃え尽きて倒れ伏す堤を見た事がある身としては何としても避けなくてはいけない。

 

 

「その……。大変魅力的なお誘いなのですが、生憎先約がありまして」

 

 

 

 ――ピキ

 

 

 

 気のせいか、出水の体の一部にヒビが生じた気がする。トリオン体に換装していないはずなのだが。

 

 

「……ま、まぁ。急に誘った俺も悪いとは思うが、ちなみになんで?」

 

「えっと、この後は……」

 

 

 この後の予定を告げようとした時、修の待ち人が現れる。出水公平が所属している部隊の小隊長、太刀川慶であった。

 

 

「よっ。待たせたな、三雲」

 

「いえ。わざわざ時間を割いていただき、ありがとうございます」

 

 

 気軽に手を挙げる太刀川に対し、修は深々とお辞儀をしてお礼を述べる。そんな二人の会話を唖然と見ていた出水が割って入るのだった。

 

 

「ちょっ! 太刀川さん、これはどう言う事ですか?」

 

「なんだ、出水。いきなり怒鳴りだしてよ。俺は迅に頼まれて三雲と一戦する予定だ」

 

「はぁ!? 迅さんが?」

 

 

 どう言う事だ、と修の方へ視線を向ける。その眼が「説明を求める!」と言いたげに物語っていたので、事の経緯を出水に説明し始めるのだった。

 

 

「迅さんが「メガネくんのそれは物凄い力だけど、まだまだ持て余し気味だよね? だったら、慣れるまでとことん実力者と戦って戦って、戦うべきだよ」なんて言い出して、太刀川さんを初めとした攻撃手の実力者に声をかけてくれたんです」

 

 

 それを聞いた出水は頭を抱える事になる。

 

 

「(なんでこんなタイミングで……。しかも、何で攻撃手なんだよ。恨みますよ、迅さん)」

 

 

 この瞬間、出水は加古のロシアンルーレット式のチャーハンを食すことが決定したのだった。確率的に二割の計算だが、もしその二割のチャーハンを食す事になったら堤の様に三途の川を見学する事は間違いないだろう。この未来を既に視ていた迅が合掌したのは言うまでもない。

 

 

「オサム。今回は攻撃手メインのトリガー構成なんだろ? 玉狛に帰ったら、俺ともやろうぜ」

 

 

 空閑の言うとおり、今回のトリガー構成はなぜか近接系のみの構成となっている。

 これも迅が色々と暗躍した結果であり、いつも使っていたトリガーは宇佐美に没収されていたのだ。

 それを聞いた出水は吠えた。それはもう、魂の叫びが木霊するほどに。

 

 

「はぁ!? なんでそうなる訳!! メガネくんは絶対に射手の方が合っているはずだよ。なのに、何で攻撃手メインのトリガー構成なんだよ!!」

 

「お、落ち着いてください、出水先輩。僕も色々と納得がいっていませんでしたが「全てのトリガーを使って天眼の可能性を模索せよ」言われた時、迅さんは僕の事を色々と考えてくれていたんだな、と痛感したんです。迅さんの期待に応えたい。ですから……」

 

 

 いま抱いている感情を伝えたかったのだが、上手く言葉にする事が出来ない様であった。徐々に尻すぼみになる修を見て、まるで自分が苛めている様な錯覚を覚えた出水は後ろ首をガシガシ掻いて後に「分かった。分かったよ」と声を上げる。

 

 

「悪かったよ、メガネくん。本当は射手会に誘おうと思ったんだが、先約があるならば仕方がない。けど、次は俺と一緒に参加してくれよ」

 

「はい。勿論です!」

 

 

 出水の申し出は有り難かった。修自身はもう少し弾丸トリガーの使い方を勉強したいと思っていたところ。天眼を有意に扱うため、自身の実力を伸ばす為にも必要な課題であると思っていたからだ。

 

 

「話は終わった? じゃ、早速やろうぜ」

 

 

 待ちきれなかったのだろうか。会話の区切りを見越して、太刀川は修の襟首を掴んだかと思うと、そのままずるずるとブースの方へ連れて行く。

 

 

「ちょっ。た、太刀川さん!? どこにも逃げませんから、離してください」

 

 

 抗議の声が上がるが、太刀川は聞く耳を持つ事はなかった。これから始まる戦いを想像してにやける事で思考が一杯なのだから。

 

 

 

***

 

 

 

 攻撃手用の修のトリガー構成は迅と宇佐美、修の師匠である烏丸の3名によるディスカッションによって決められた。その場にいた修は「無理です、無理です。無理ですから!」と何度も抵抗を見せたのだが、誰も修の言葉に耳を傾けてはくれなかった。

 3人の白熱したディスカッションの末に決められた構成はガチガチの近接戦闘用である。攻撃手だから当たり前だ、とツッコミをするものもいるであろうが、修のトリガー構成は一言で例えると“零距離戦闘術”であった。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 銀閃が宙を駆け巡る。太刀川慶が繰り出した弧月のオプショントリガー、旋空による現象だ。旋空によって伸びたブレードは真直ぐと修の体躯を両断せんと襲い掛かるが、旋空が到達するよりも早く修の姿はその場から消え去るのだった。

 

 

「おっ?」

 

 

 予想外の動きに一瞬だけ太刀川の動きが鈍る。旋空が虚空を断ち効力が消えると同時に太刀川の目と鼻の先に修の姿が突然現れたのだった。

 

 

「テレポーターかっ!?」

 

 

 出現すると同時に生み出したレイガストを振り上げて渾身の一撃を放つ。

 テレポーター。文字通り瞬時に移動して、敵の意表を突く瞬間移動トリガーだ。修の姿が一瞬にして姿が消えたのはオプショントリガーのテレポーターによる効力のせいだ。

 意表を突いた修の攻撃は誰もが命中すると思った。しかし、弧月を使わせたら№1の太刀川にとって修の斬撃は遅すぎた。

 二刀の弧月を交差して修のレイガストを受け止める。完全な不意打にも関わらず通らなかった事に舌打ちする修であったが、対する太刀川は満面の笑みを浮かべて告げる。

 

 

「いいね、お前。今の一撃は中々面白かった。だが、スラスターなしの攻撃なんて……」

 

 

 と、自分で言ってから疑問が過った。レイガストは他のブレードトリガーと比べて重量物である。それ故に応用性の利くこのトリガーの人気度は低いとされている。

 レイガストで攻撃を行う場合はスラスターと併用して攻撃をするのが定石だ。しかし、今回の修はそれをしなかった。なぜか……。その答えは次の瞬間に知らされる事になる。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 ここでスラスターが起動される。今のレイガストは太刀川の二振りの弧月に阻まれている状態だ。そこにスラスターの推進力が加わると言う事は……。修の狙いは刃を交えたまま、強引に太刀川を叩き伏せるつもりだ。

 太刀川の顔から余裕の笑みが消える。スラスターによって加わった力によって刃を抑えつけられなくなっているのだ。このまま下手をしたら、そのまま修のレイガストの餌食になってしまう。

 

 

「そうは、いくかよっ!!」

 

 

 受け止めきれないと判断し、修のレイガストを受け流す事にしたようだ。強引に体を捻ってレイガストの軌道をずらした太刀川は、そのまま回転して二刀の弧月で薙ぎ払う。

 しかし、そこに修の姿は既になかった。レイガストを受け流されたと同時にテレポーターでその場から離脱し、次なる強襲を図ったのだ。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 太刀川の頭上に移動した修のレイガストが空を裂きながら振り降ろされる。まさか、テレポーターで自分の真上に移動したなんて思わなかった太刀川は跳びはねる様にその場から離脱し、辛うじて避ける事に成功する。

 

 

「うはっ! マジか、お前」

 

 

 太刀川の機嫌が更に上昇する。まさか、B級の隊員に苦戦する日が来るとは思ってもみなかったのだろう。

 

 

「お前みたいなやつがまだいるなんてな……。だからこそ、戦いはやめられないっ!!」

 

 

 一瞬にして太刀川のギアがトップへシフトされる。初めは興味本心に請け負った頼みごとであったが、今は目の前の敵と切り結びたくて仕方がなかった。

 

 

 

 ――グラスホッパー

 

 

 

 ジャンプ台トリガー、グラスホッパーを起動させて一気に修へ詰め寄る。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 だが、それに合わせて修はレイガストを投擲したのだった。同時のタイミングでレイガストが真直ぐ飛来してくる事に驚きはしたものの、弧月で薙ぎ払って事なきを得る。

 けど、修の狙いは太刀川の意識を一瞬でも自分から外す事であった。レイガストを投擲して放ったのも次なるブレードトリガーを生み出す為に必要な手段であったのだ。

 

 

「旋空――弧月っ!!」

 

 

 居合の要領で抜き放つと同時に刃が太刀川の首目掛けて伸びていく。しかし、修の旋空弧月は他の攻撃手と比べて遅すぎた。この程度の旋空弧月など太刀川は目を瞑っても避ける事が出来る。

 

 

「甘いな、三雲っ!!」

 

 

 間合いを詰め寄る事が出来た太刀川は容赦なく修へ必殺の一撃を叩き込んでいく。

 

 

「くっ」

 

「ほらほら、どうした三雲。それがお前の実力かよ」

 

 

 縦横無尽に空を断つ太刀川の弧月を強化視覚をフル稼働させて弧月で防いでいく。だが、修の剣術は素人に毛が生えた程度。受け流す技術を持っていない修にとって、一太刀受ける度に腕が痺れていくのだった。

 このままではジリ貧と考えた修は更なる強襲を図る。二刀の弧月を振り上げると同時に最短の攻撃、突き技でカウンターを試みたのだ。予備動作のない突きは太刀川の喉を確実に捉えると思ったが、太刀川の一撃はそれ以上の速さで修の身体を切り裂くのだった。

 

 

 

 ――戦闘体活動限界。三雲、緊急脱出。

 

 

 

「悪くない動きだったが、まだまだだな」

 

 

 初戦は太刀川の勝利で終わる。だが、修の戦いはこれからだ。

 二人の戦いを見守っていた米屋が次に控えていたのだ。




はい、今回は攻撃手編です。

射手編を期待していた方には申し訳ありませんが、メインは最後の最後まで取っておくことにしました。

ちなみに、一戦一戦、戦う相手を変えていこうと思います。
つまり、アニメでやっていた100連模擬戦……。え、そんなのなかった?


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SE修【天眼】攻撃手②VS米屋編

米屋戦が短いなぁ。
けど、槍対刀とか思いつくネタがないよぉ。


 剣道三倍段と言う言葉がある。

 槍術の使い手と戦う時、剣術で立ち向かうには3倍の技量が必要になる、と言う意味だ。

 

 

「どうしたどうした、メガネボーイ! 守ってばかりじゃ俺に勝てないぜ」

 

 

 数多の流星を解き放つ米屋の攻撃に修はレイガストで防ぐので精一杯であった。米屋の攻撃に突き飛ばされない様に力一杯踏ん張るのだが、そのせいで動きを止めざるを得なくなってしまった。結果、米屋の的になっている始末だ。

 このままではジリ貧と思ってテレポーターで離脱し、強襲するのだが、移動した直後に槍先が飛んで来る。これでは襲撃する余裕がない。何とかレイガストで槍型弧月を防ぐが、これではさっきと全く同じである。

 

 

「(なんでだ。テレポーターが見破られている。米屋先輩はなんで僕の移動先を正確に把握しているんだ)」

 

 

 普通のテレポーターの使い手ならば視線の先、かつ距離は数十メートル以内という制限がある。それならば熟練者ならば使用した途端に移動先を割り出す事が可能だろう。

 けど、修のテレポーターは複眼が絡んでくる。全方位を見渡す事が可能な能力を有している修に“視線の先”と言う制限がなくなる。その制限がなくなるだけで、テレポーターの機能がどれほど厄介な効果をもたらすか想像がつくだろうか。それでも、米屋は確実に修の居場所を把握して迎撃を図ってくる。

 

 

「(何か理由があるはずだ)」

 

 

 ためしにもう一度だけテレポーターを起動させる。

 今度は米屋の後ろに回り込む様に設定。次の突きが届く瞬間に実行に移したのだった。

 

 

「(……ん?)」

 

 

 ほんのわずかな瞬間であったが、米屋の動きが――正確には彼の視線が動いたのだった。あまりにも一瞬の出来事だったので、天眼の強化視覚がなかったら見逃していた事であろう。

 米屋は移動する前に修の膝を見ていた。それで何が分かるのかと思うものもいるだろうが、太刀川戦を観戦していた米屋はあの一戦で気づいてしまったのだ。修がテレポーターを発動する際に癖が出てしまう事に。

 

 

「(膝が動かなかった。と言う事は、俺の直線上か!)」

 

 

 修の癖から米屋は移動してくる先を正面・頭上・背後の三か所まで割り出す事が出来た。しかし、それだけではまだまだ対処する事は不可能なのだが、直線状ならば話は早い。

 

 

「せやっ!!」

 

 

 正面に向けて一突き。修が現れないと分かるとそのまま体を捻って扇を描くように振り上げて、背後に向けて振り下ろす。

 弧月が描く軌道の延長線上に修が出現する。絶妙なタイミングで現れた修の右肩に米屋の弧月が喰い込み、右腕を刈り取っていく。

 

 

「くっ!」

 

 

 右腕を庇いながらテレポーターを起動して、戦線を離脱。トリオン量が少しでも漏れるのを抑えた修は離脱前に米屋が同じ様に膝を見ていたのを見逃さなかった。

 

 

「まさか……」

 

「おっ。その様子は気づいてしまったか。メガネボーイ、テレポーターを使うならもっとさりげなく使えよ。重心が僅かだが行きたい方へ傾く癖がある。それじゃあテレフォンパンチ同然だ。……ま、使い慣れていないトリガーを使っているから、仕方がないかも知れないがな」

 

 

 米屋が視ていたのは膝から下の傾き具合であった。修が前方へ移動する際には僅かながら前のめり、膝から下が若干であるが後ろへ引かれているのを米屋は見逃さなかったのだ。

 それが修のテレポーターが通用しなかった理由だ。けど、理由が分かったとは言え、解決できる問題ではない。人の癖とは早々簡単に治るものではない。意識して動けばその分だけ反応速度が遅くなる。修にとって反応速度が遅くなるのは死活問題である。

 なら、癖が分かっても対応が出来ない奇策と奇襲を図るしか方法がない、と修は考え付くのだった。

 

 

『ねぇ、修。あんたなら、この漫画みたいな事が出来るんじゃないの?』

 

 

 先日、小南が何気なく見せたマンガの内容を思い出す。それはとあるマフィアの剣士が使っていた剣士にあるまじき戦法の一つだった。

 鞘から弧月を抜き、無造作に放り投げ――弧月の柄を思いっきり蹴り付ける。

 

 

「……は?」

 

 

 弾丸の様に弧月が飛来してくる。米屋もまさか修が弧月をサッカーの要領で蹴り出して、自身へ放つとは思ってもみなかったのだろう。驚いたのが素直な感想であるが、それだけである。

 

 

「甘いぜ、メガネボーイ」

 

 

 弾丸と言っても出水のアステロイドと比べるとそれほど速くはない。驚愕して反応が遅れたと言っても十分対処できるだけの距離はあった。

 向かって来る弧月を薙ぎ払ってもよかったが、その直後に懐へ飛びこまれる可能性もある。奇襲騙し討ちが得意な事は今までの戦いで確認済みだ。なら、米屋が取る行動は向かって来る弧月を躱して修に突撃あるのみ。

 飛来する弧月の軌道は米屋の額へ注がれている。体を左へ沈ませて躱した米屋は修へ突撃を図るのだが、既に修の姿はその場になかった。

 

 

「(どこへ消え……っ!?)」

 

 

 背中から僅かながら違和感を覚えた。それは米屋が培った攻撃手としての危機的能力だったのかもしれない。既に突撃せんと全体重を傾けていて振り向く事は出来ないでいる。

 米屋は自分の勘を信じて、そのまま前転跳びをする要領でその場から離脱。その直後に修の弧月が閃くのだった。

 

 

「……マジか。蹴った弧月をテレポーターで回り込んで、空中で掴んでそのまま斬り付けるとか。無茶苦茶もいい所だろ、メガネボーイ」

 

「はい。僕もそう思います。けど、これぐらいしないと米屋先輩には勝てそうにもなさそうなので」

 

「言ってくれるじゃないか、メガネボーイ。なら、遠慮なくかかって来い」

 

「はい!」

 

 

 再び二人の弧月が激突する。奇襲と正道の戦いは米屋の闘争心に焔を燃え上がらせるのに十分であった。

 

 

 

***

 

 

 

「……なぁ。メガネくんのあれは絶対に誰かの入れ知恵だろ。弧月を蹴るとか、絶対にメガネくんの発想じゃないよな」

 

 

 対米屋の戦いを見守っていた出水は隣で「今度、俺とも戦ってくれない?」と太刀川にランク戦を申し込んでいる空閑に訊ねる。

 

 

「うーん。アレについては俺も分からない。けど、何かこなみ先輩やしおりちゃんに色々と見せられていたなぁ。マンガ? がどうのこうのって」

 

「分かった。犯人が誰かわかったから、もういいや」

 

 

 胸中で「何をしているんだ、あの二人は」と悪態つく。あんな姿を見せられたら――。

 

 

「マジか。三雲のやつ、俺の時はあんな戦い方をしてくれなかったぞ。よし、米屋の次は俺が――」

 

「ダメです。今日は色んな隊員と戦わせるって迅さんから言われたんでしょ! 太刀川さんの役目はもう終わりました! 大人しく餅でも食っていてください」

 

 

 ――目を輝かせて子供の様に騒ぎ立てる太刀川を制さないといけなくなる。

 

 

「けどよ、出水。まだ誰も来ないんだからいいじゃないか。折角、三雲もいい感じに温まって来た事だし、誰も来ないなら――」

 

「残念でした。どうやら来たみたいですよ」

 

「え?」

 

 

 出水が指差した方向から、修の次の相手と思われる人物達が現れる。

 先日、迅に騙されて問題を起こした東隊の攻撃手二人、奥寺常幸と小荒井登だ。

 

 

「これはこれは、おくでら先輩とこあらい先輩。二人もオサムの相手をしてくれるの?」

 

 

 自分達へ近寄る奥寺と小荒井に手を振り、挨拶を交わす空閑に二人は「そうだよ」と「この前のお詫びも兼ねてね」と返すのだった。

 二人は狙撃戦の翌日、玉狛支部に来て修に謝罪とお詫びの印である焼き肉店の御食事券を贈って和解済みだ。元々、迅の暗躍から起こった事件だから修はまったく気にしていなかったが。

 

 

「なに? 次はお前達二人とやるの? 2対1なら――」

 

「俺も参加するって言うのはなしですからね。メガネくんは木虎と緑川のタッグでも充分に戦えるって証明されているんですから」

 

「なにそれ!? 俺、そんな面白い話を逃したの!?」

 

 

 知らない所でそんな楽しそうな事をしていた事に悔しがる太刀川を放って、先ほどから落着きなく観戦している緑川の方へ視線を向ける。

 

 

「いいないいな。俺も頼んだらまた戦ってくれるかな。どう思います、遊真先輩」

 

「なら、この後に玉狛に来るか? それで俺とタッグを組んで修とやろうぜ」

 

「なにそれ!? 超楽しそう。やるやる! 玉狛に行けば迅さんにも会えるし、断る理由なんてないですよ!!」

 

「なら、決まりですな」

 

「みなぎって来たぁあ!! よーし。次は負けないぞ!!」

 

 

 期待していなかった再戦が叶いそうになった緑川は子供の様に燥ぎまわる。体全体で喜びを体現した彼に冷たい視線を送る者がいた。

 

 

「駿。なにバカ騒ぎしているの? みっともないからやめなさい」

 

「……なんだ、双葉か。せっかくいい気分になっていたのに色々と台無しだよ。てか、何の用? 俺、三雲先輩の攻略法を探すのに忙しいんだけど」

 

 

 緑川を諌めたのは同じA級隊員の黒江双葉であった。彼女がランクブースで話しかけるのは珍しい。と言うか、自隊の隊長である加古と離れて単独で動いていること自体が珍しかった。

 

 

「その三雲先輩の相手を頼まれたの」

 

「……は? 誰に??」

 

「迅さんからよ。うちのメガネくんに韋駄天は通用しないよ。何せ、全部見えるんだから。って言われた。それが本当かどうか確かめに来た」

 

「なにそれ!? 俺、頼まれていないんだけど。なんでだよ迅さん! 俺だって三雲先輩の相手に相応しいはずだよ!!」

 

 

 明後日の方角に向かって吼える。そんな緑川など放って、空閑にお辞儀したのだった。

 

 

「初めまして、黒江双葉です。空閑先輩ですね? お噂は迅さんから聞きました」

 

「ほぉほぉ、これはご丁寧に。俺は空閑遊真。オサムの相棒になる男だ。よろしく」

 

「噂は本当だったんですね。私達歴代の討伐記録を塗り替えた人がパンドラと小隊を組むって……」

 

 

 ちなみに黒江が言うパンドラとは修の別名と言うか二つ名と言うか、忌み名と言った方が正しいか。何をしでかすか分からない吃驚箱と言う意味を込めてC級隊員達に言われるようになっていた。

 

 

「ほぉほぉ。そんな噂話が流れていたとは。流石はオサムだ。噂の絶えない男ですな」

 

 

 その噂の大半の原因は空閑にあるのだが、それを言った所で何も始まらない。黒江は米屋と刃を交わす修達の戦いぶりを見やる。

 

 

「米屋先輩に随分と苦戦していますね」

 

 

 お世辞にも強い印象は感じられなかった。あんな人が自分の韋駄天を防げるのか、と疑問に思っている時、出水が横から解説しだす。

 

 

「ま、今のトリガーは本来のメガネくんのトリガーじゃないからな。慣れないのもあって、動きが硬いのは仕方がない。けど、徐々に槍バカの軌道を読んでいるぞ」

 

「そうですか? 米屋先輩には幻踊弧月があります。あれでは……。あ、ほら。言った傍から、首を両断されてしまいました」

 

 

 黒江の言うとおり、紙一重で弧月の矛先を避けようとした途端に修の首は体と離ればなれにされてしまっていた。矛先の形状を変化させるオプショントリガー幻踊弧月を使って米屋が騙し討ちで葬ったのであった。

 

 

「あの人、本当に強いんですか?」

 

「ま、視ていなよ。メガネくんは戦いを増す毎にイヤらしく、強くなるんだから」

 

 

 出水の言葉の真意は次の奥寺と小荒井戦によって証明されるのだった。




……うん。刀を蹴りだした技はもうお気づきですよね。
云々炎とか出しませんからね。ほ、本当だよ。

あと、お気づきかもしれませんが、感想で何気なくつぶやいた案が採用されていたりします。
そう! あなたの感想で話が変わる(チガウ

すみません、調子にのりました。

次は奥寺&小荒井戦となります。その次は韋駄天黒江さんです。……たぶん。


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SE修【天眼】攻撃手③VS東隊攻撃手コンビ編

……ふっ。また、時雨を使ってしまったよ。
てか、あれ以外は実現不可能ですからね!

後はどんな剣術が再現可能なんだ?(マテ


 東隊の奥寺常幸と小荒井登の最大の魅力はコンビネーションだ。

 単身で活躍出来るほどの実力はないけど、二人で連携して立ち回れればA級の隊員ですら危ういだろう。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 奥寺による旋空弧月が解き放たれる。旋空に合わせて小荒井はグラスホッパーを起動させて修へ突っ込む。二段構えの突撃に修はレイガストをシールドモードにして、まずは奥寺の旋空を防いだのだった。

 それに合わせて小荒井は更にグラスホッパーを使って修の後ろに回り込む。修が旋空を避けたらそのまま斬り付けようと考えていた小荒井はレイガストへ弧月を叩き付けるよりも背後に回り込んで、意識を攪乱させることを選んだのである。

 そんな小荒井の動きを読んでいたのか、奥寺がグラスホッパーによる奇襲を図ったのだ。

 奥寺による一撃はレイガストで防ぐことが出来た。けれど、まだ逆方面に小荒井がいる。抜身の弧月で修の首を刈らんと薙ぎ払われるが、修はテレポーターでその場から離脱していた。

 

 

「ちっ、テレポーターか。奥寺、上空を警戒しろ」

 

「了解。小荒井は周囲の警戒だ」

 

 

 二人の切り替えは早かった。攻撃が失敗すると分かると、互いに背中合わせになって修の襲撃を警戒するのだった。向こうが天眼で制限なく瞬間移動出来るなら、二人は四つの目で視界を確保して警戒に当たるようであった。

 修が瞬間移動したのは二人の直上。上空を警戒していた奥寺が発見するなり、グラスホッパーを起動して小荒井を強制的に引き離す。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 レイガストのオプショントリガーによるスラスター斬撃を奥寺に振り下ろす。発見が早かった為に弧月で修のレイガストを防ぐことは出来たが、威力を殺しきる事が出来ずに片膝を付く結果になってしまった。その瞬間を逃す事無く修は弧月を抜刀して、追撃を図るのだが、小荒井の斬撃によって阻まれてしまう。

 

 

「やるじゃないか、三雲くん。それが噂の天眼の力か」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 小荒井が鍔迫り合いのまま話し掛けたのは、奥寺を意識から外すための作戦であった。しかし、修には複眼がある。レイガストから逃れた奥寺が修の背後に回り込んで斬り付けようとしているのは丸わかりであった。小荒井の弧月を弧月で押さえつけたまま、レイガストの盾を最小にして展開し、奥寺の弧月の刃に叩き付けたのだ。

 

 

「レイガストのシールド面積を最小にして、使い回しを良くしたのか!?」

 

「俺の弧月を押さえつけながら、奥寺の弧月を塞ぎ切るってか!? 上等だ。燃えて来たぞ、俺は」

 

 

 ただでさえ数的不利なこの状況で生き残っている事に驚かずにいられないと言うのに、悉く自分達の連携を防ぐ修の器量に驚きを通り越して、闘争心が剥き出されていく。

 二人は一旦距離を開ける――と、見せかけてグラスホッパーで修に再突撃を行う。左右から斬撃を繰り出さんとする二人に向けて修は弧月を小荒井に向けて蹴り放ったのだった。

 

 

「それは、既に視ている!」

 

 

 修の弧月シュートは既に米屋戦で見ている。弧月を蹴りつけるのが分かれば、なんてことのない攻撃であった。小荒井はその弧月を修に向けて叩き返す。が、直後にレイガストが自身へ向けて飛翔して来るのを目撃してしまう。

 修はあろう事か、小荒井に対して自身の武器を全て使って投擲戦法を行ったのだ。それは無謀もいいところ。逆から突っ込む奥寺に対抗する手段は今の修にはないはずだ。

 

 

「これで終わりだ、三雲くん」

 

 

 振りかぶり、弧月を渾身の力を込めて振り下ろすのだが、その腕を修によって掴まれてしまう。

 

 

「なっ!?」

 

 

 振り下ろさんとした自身の腕を掴まれ、攻撃を中断させられた奥寺の視界が反転する。修が一本背負いの要領で奥寺を投げ――グラスホッパーを起動させて、小荒井に向けて突き飛ばしたのであった。

 奥寺の体はレイガストすらも薙ぎ払った小荒井に真直ぐ突っ込んでいく。流石の小荒井も奥寺を薙ぎ払ったり、斬り付ける事は出来まい。奥寺を受け止めた小荒井は直ぐにグラスホッパーを起動させて、その場から移動させる。

 既に修は弧月を拾い上げて、グラスホッパーを使って追撃を図っているのだった。

 

 

「(これが噂に聞く三雲くんのサイドエフェクト。あの東さんが驚嘆した視覚能力の恩恵か)」

 

 

 確かに凄いと小荒井も同意する。

 攻撃手歴はただでさえ修よりも長い。それに加えてこちらは二人なのに、未だに決定打を与える事が出来ない。

 だからと言って、後輩でしかも本職でない輩に勝負で負ける訳にはいかないのだ。

 斬撃に合わせて、小荒井は修に組みつく事を決意する。どうあれ、小荒井組は一人でも残れば勝ちは勝ちなのだ。相討ち覚悟で特攻するのも一つの手である。

 修が小荒井の胴体を両断せんと薙ぎ払いの準備にかかる。それに合わせて小荒井も上段に振り上げるのだが――修が振り払った手に弧月は握られていなかった。

 

 

「(攻撃……じゃない?)」

 

 

 あろう事か、修は刀を振るう直前で握る力を弱めて腕のみで振り払うなんて動作を行ったのだ。そんな事をしても何の意味があるのか、と怪訝する小荒井であったが、宙を舞う弧月をもう片手で掴んだのを見て、修の狙いに気付く。

 修の弧月は小荒井の両手を切裂く事に成功する。弧月使いの小荒井にとって、両腕を失った事は致命傷も同然だ。

 

 

「お前はどこぞの殺し屋か!?」

 

 

 言っている意味は修に理解出来なかった。勿論、三人の戦いぶりを見ている観客たちに小荒井の叫びに似た言葉は届いていない。唯一聞こえて、小荒井の言いたい事が理解できる奥寺だけが「うんうん」と深々と頷いていた。そんなほのぼのムードのせいで、一瞬だが気を緩めてしまったのだろう。その隙を付いて奥寺がグラスホッパーによる奇襲を再度図るのだった。しかし、同じ失敗を繰り返すほど修は愚かではない。気が緩んだように見えたのは、ただの演技だ。数的不利の状況の時は、あえて敵に隙を見せてカウンターを叩き込むのも有効である事を緑川&木虎戦で学んだ。

 奥寺をギリギリまで近寄らせて、テレポーターで姿を消す。

 

 

「ちっ。また、テレポーターか!?」

 

「奥寺! 俺をたて……奥寺後ろだ!」

 

 

 奥寺の背後に修の姿が現れる。そこは、先ほど修がテレポーターを使うまで立っていた場所である。移動する事無く、一瞬消えるだけの為に修はテレポーターを起動させて、奥寺の攻撃を回避したのだ。

 修を引き離す為にグラスホッパーを起動させようとするのだが、それよりも早く修の弧月が奥寺の心臓部を貫いていく。

 

 

 

 ――戦闘体活動限界。奥寺、緊急脱出。

 

 

 

 奥寺のトリオン体は緊急脱出によって光の粒子になって消失する。その間に、修は次なる行動に移っていた。相棒の緊急脱出に目を奪われていた小荒井の最大な失態と言えよう。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 居合斬りの要領で抜き放たれた旋空は真直ぐと小荒井の胴体を捉えていた。両手が使えない以上、小荒井はこの旋空を弧月で防ぐ事は出来ない。けど、シールドならば話は別である。

 

 

 

 ――フルガード

 

 

 

 二つのシールドを使って修の旋空を防ぎきる事を選んだようだ。他の戦闘員の旋空ならばシールドを易々と切裂くだろうが、修の旋空は他の隊員と比べても遅くて弱い。フルガードで耐え切れると踏んだのだろう。

 だが、旋空の効力が消えると同時に修はテレポーターを使って、小荒井の背後に移動していた。

 

 

「くっそぉおお!」

 

 

 振り向き、修の動きを拘束せんとした小荒井の心臓部に弧月が生える。振り向く事無く、自身の右脇目掛けて弧月を突き刺したのだ。

 

 

「……はぁ。負けちゃったかぁ」

 

 

 

 ――戦闘体活動限界。小荒井、緊急脱出。

 

 

 

 奥寺と同様に小荒井の戦闘体も空に昇って消えていく。

 攻撃手の戦いで修は初めて勝利を手にした瞬間であった。

 

 

 

***

 

 

 

「……なに、あれ?」

 

「凄いだろ。あれが三雲先輩の真骨頂。あの手この手で殺しかかる吃驚戦法。双葉の韋駄天だって、きっと三雲先輩は防ぎきってしまうよ。迅さんの言ったようにね」

 

 

 まるで自分の様に自慢する緑川を睨む黒江であるが、今はこんな事をしている場合ではなかった。米屋戦ではパッとした印象は感じなかったが、今回の奥寺・小荒井戦はその前評価を覆さずにいられなかった。

 修の事を吃驚箱とかパンドラなんて呼ぶ所以が分かった気がした黒江は、自然と口角を上げてしまっている。強敵と戦い勝利の喜びを知っている少女は、突然現れた強敵との戦いに喜ばずにいられなかった。

 

 

 

***

 

 

 

「やるな、メガネボーイ。最初と比べて固さもなくなったって感じだな。徐々に攻撃手として動きを学習している感じだな、あれは」

 

 

 己の欠点を学んだ事により、戦い方に変化を加えたのが功を奏したように思える。

 

 

「前から思ったが、メガネボーイはタイマン勝負よりも数的不利な一対多の方が得意なのかもな。タイマン勝負だと騙し討ちは通り難いし」

 

「そうか? 俺の見立てでは、まだまだ自分の闘い方を模索しているって感じだな。小荒井に使ったフェイント斬撃なんてまさにそれだろ。アイツ、まだまだ引き出しがあるんじゃないのか? くそぉ。なんで俺はトップバッターでやったんだ。……やっぱ、もう一戦出来ないかな?」

 

 

 徐々に戦い方のレパートリーを増やす修と戦いたくてうずうずしているのだろう。出来ればもう一戦、とブースに入ろうとする太刀川を当然の如く出水が阻止する。

 

 

「ダメです、太刀川さん。太刀川さんの出番は終わったって言っているでしょ。烏丸に連絡したんですが、迅さんはとんでもない事を考えているみたいなので、絶対にダメです」

 

「なにそれ? アイツ、いったい誰を召喚させるつもりなんだ? ま、まさか忍田さんとか言わないよね。もし、そうなら俺も混ざるからな絶対!」

 

「忍田さんよりもレアです。……むしろ、よく上層部が許可を出したな、これ」

 

 

 

***

 

 

 

 一方その頃、暗躍をし続けている迅は、とある人物の下へ足を運んでいた。

 

 

「……何の用だ、迅」

 

「風間さんにお前がへこんでるって聞いてさー。笑いに来た」

 

「貴様っ!」

 

 

 怒りの孕んだ眼差しを送るが、当の本人はぼんち揚げを頬張って自分を見やるだけ。このまま迅の襟首を掴んで喧嘩を売ってもいいのだが、ボーター間での私闘はご法度とされている。

 以前の様な黒トリガーの件みたいに命令が下されない限り、目の前のヘラヘラした隊員に刃を向ける事は出来ない。

 

 

「秀次。そんなお前にいい話があるんだ」

 

「いい話だと?」

 

「うん、そう」

 

「……断る。お前の話など聞く価値もない」

 

 

 仮にあったとしても、玉狛派の話など誰が聞く耳など持たない。

 

 

「そう? 風刃の使い手として俺がお前を推薦する、と言ってもか?」

 

「なんだと!?」

 

 

 現在、風刃の候補は8人とされている。三輪秀次もその候補の中の一人に入っている。

 第一候補は風間であったが、既に辞退している為、城戸が誰を使い手にするか悩んでいる事は迅も知っていた。

 

 

「風刃があれば、お姉さんの仇も取りやすくなるぞ。パワーアップは出来る時にしておいた方が良い。そして、風刃を慣らす意味も込めてメガネくんと戦ってほしい」

 

「……どう言う意味だ?」

 

「メガネくんのサイドエフェクトは未だに発展途上だ。だが、その能力は絶大だ。敵に渡す訳にはいかない。ましては死なせる訳にもいかないんだ」

 

「それが、俺が風刃で戦うのと何の意味がある? 何ならお前が相手をすればいいだろう」

 

「お前じゃないとダメなんだ、秀次。メガネくんのサイドエフェクトが次の段階に上がるには、お前の復讐心が必要になる」

 

「三雲は正隊員だ。自分の始末は自分でつけさせろ。それが無理なら、ボーダーなんかやめさせろ」

 

 

 これ以上、迅と会話を続けたら自制が保てなくなると感じたのだろう。秀次は「これ以上、話す事はない」と切り出して、その場から去ろうとする。

 

 

「……お前は、風刃を手にするよ。そして、その風刃でメガネくんと戦い、そして救う。俺のサイドエフェクトがそう言ってる」

 

 

 一度歩みを止めた三輪は、再び歩き出して迅から離れていく。

 その直後、迅が予知した通りに城戸から風刃を渡されるのだった。




……うん、ちょっと待とうか。
自分で書いていて、随分と攻撃手編が大げさになってきたぞ。

……あ、元からか。


ちなみに、IF編は後々に別の話として移動させようかと思います。
お見合い編? 続きませんからね。

ラブコメなんて書けると思ってる?


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SE修【天眼】攻撃手④VS黒江

黒江の口調って難しいなぁ。

えーと、とりあえずこんな風になりました。
てか、魔光って本当になんだよ。原作に出ていないから使えなかった(苦笑

ダミービーコンは使っただろって? はて、何のことですかね。


 韋駄天。

 仏法の守護神と呼ばれており、俗説で足の速い神とされ、足の速い人のたとえにされている。初見で韋駄天に対処した者はいない。少なくとも使い手の一人、黒江双葉の記憶上ではそうであった。

 

 

「(……なのに)」

 

 

 韋駄天の力を借り受けて行った高速斬撃は修のレイガストによって阻まれる。既に十回も黒江の斬撃は防がれている。

 

 

「こ、のっ!!」

 

 

 力任せに修を突き飛ばし、距離が空いた瞬間に韋駄天を発動。雷の如くジグザグに高速移動した黒江の狙いは修の首であった。しかし、黒江が韋駄天を発動したと同時にまるで首を狙っていたのが分かっていたかの如くレイガストを前に突出し、自身の身体を回転する事で黒江の斬撃を殺して難を逃れたのである。

 前の奥寺・小荒井戦で只者ではないと思っていたが、これほどやり難い相手は久方振りであった。けれど、一つだけ分からない事があった。

 

 

「どうして、どうして反撃してこないんです!」

 

 

 韋駄天の発動終了後、レイガストをブレードモードにしてスラスターによる斬撃を放てば確実に当った場面が幾度かあった。だけど、修は一度も攻撃をしてこない。その理由が黒江には理解出来なかった。

 

 

 

***

 

 

 

 一連の修の動きを奇妙に感じたのは黒江だけではなかった。修と戦った攻撃手達も違和感を覚えたのだろう。

 

 

「三雲のやつ。徐々に動きが鈍くなって来ていないか?」

 

 

 初めに疑問を口にしたのは攻撃手№1の太刀川慶であった。

 

 

「そうっすね。メガネボーイ、反撃できるチャンスを悉く逃していますし、何よりさっきからテレポーターとグラスホッパーを使っていませんね。アイツの性格なら、韋駄天を使った瞬間に仕掛けると思うんですがね」

 

 

 米屋も同意した。初見の韋駄天を防ぎ切った技能は驚くべき点であるが、同じ攻撃を何度もさせるような修らしくない行動に疑問を抱かずにいられなかった。

 

 

「変だね。俺達の時はA級を彷彿させる動きだったのに、今では面影も見当たりません」

 

「だな。もしかしたら、連戦で少し疲れたんじゃないか?」

 

 

 黒江の前に戦った東隊の攻撃手、奥寺と小荒井も不思議そうに二人の戦いを見守る。

 この場にいる全員は修のサイドエフェクトの欠点を知らない。強化視覚【天眼】は連続で使いすぎると乗り物酔いの様に動きが鈍くなってしまう事に。

 

 

 

***

 

 

 

「(マズイな)」

 

 

 違和感は東隊の二人に勝利した直後に起こった。個人専用のブースに転移された修は次の対戦相手である黒江に挨拶しようと立ち上がった時、強烈な眩暈に襲われたのである。急に視界が黒く塗り替えられ、平衡感覚を失った修は勢いよく倒れたのだった。

 この現象は何度も体験済みであった。サイドエフェクト強化視覚である天眼の過剰使用による反動だ。この状態に陥ったら満足に体を動かすことも間々ならない。戦闘なんて以ての外だ。けれど、修はやめる訳にはいかなかった。

 迅から言い渡された訓練内容は天眼の反動が起こってからが本番なのだ。

 

 

『メガネくん。狙撃戦ではギリギリ何とかなったけど、あと1、2戦続いたらやばかったでしょ? 恐らく今回も途中で天眼の反動が来ると思うけど、それを乗り越えるのが今回の訓練メニューね。あ、もちろんだけど、他の人に言うのはなしね。それじゃあ、訓練の意味がないから』

 

 

 未だに迅が何をさせたいのか理解出来なかったが、意味もない事をさせる様な人間ではない事は知っている。何より、自分の為に時間を割いてくれた人達に「これ以上、戦う事が出来ません」と軽々しく伝える事なんて出来ない。

 けど、修の動きが鈍くなっている事は隠し通す事は出来ない。そのせいで、目の前で自身を睨み付ける少女、黒江に大変不評を買ってしまったようだ。

 

 

「どうして、どうして反撃して来ないんですか!」

 

「無理言わないで欲しいな。黒江の動きを捉えるのがやっとなんだよ」

 

「ウソです。前の戦いの様にテレポーターを使えば易々と躱す事が出来たはず」

 

「それは……」

 

 

 黒江の言う通りであった。瞬間移動トリガー、テレポーターを使えば黒江の韋駄天の軌道から難なく避ける事も可能なはず。けど、修はそれをしなかった。正確には出来なかったと言った方が正しいかも知れない。

 

 

「(いま、テレポーターが使えないとバレる訳にはいかない)」

 

 

 先の戦いでテレポーターを乱発しすぎたのがいけなかった。修がいま使っているランク戦は訓練ブースと違ってトリオンが消費されてしまう。二度目の韋駄天が発動した際にテレポーターでやり過ごして一撃で仕留めんと計画していたのだが、発動させようとしてもテレポーターは発動する事が出来ずにいた。

 けれどそれは仕方がないかも知れない。全ての相手が自分よりも各上であった。トリオンを温存するなんて事は出来る訳がない。何より、それでは訓練にならないのだ。

 

 

「……分かりました。私では全力で相手をするほどじゃないとお思いなんですね」

 

「ちがっ! そんなんじゃ――」

 

 

 修の沈黙に何を勘違いしたのか分からないが、黒江は自分では勝負の相手にならないと思い至ってしまった様子。修が言い訳する間もなく韋駄天を発動させていた。

 

 

「っ!」

 

 

 天眼は黒江の韋駄天の道筋も赤い閃光となって視覚化させる事が出来ていた。黒江の狙いは今までと変わっていなかった。彼女はどうしても自身の首を真二つにせんと気が済まないようであった。

 再び進行方向にレイガストを突き出して、黒江の突撃に備えようとする。が、強烈な頭痛に襲われて、防御をするのが僅かながら遅れてしまった。

 

 

 

 ――斬

 

 

 

 黒江の斬撃が修の首を捉える。手応えはあった。完全に殺した、と思ったのだが修のトリオン体は未だに健在であった。

 

 

「(浅かったか)」

 

 

 一撃で仕留められなかった自身の未熟さに苛立つ黒江であったが、考えようによってはこれでよかったかも知れないと考え直す。これで自身の首に手を当ててトリオン漏れを防ぐ修が本気になってくれるなら御の字だと。

 しかし、修は先の戦いで見せた様な動きをする気配がなかった。レイガストを突き出した状態のまま、まるで自分が突っ込むのを待つような構えを見せる。

 その姿勢が黒江の怒り募らせる結果となってしまう。

 

 

「(この人は――っ!!)」

 

 

 修の事情など知らない黒江にとって、完全に自分は舐められていると思ってしまった。お前では相手にならない、お前など認めないと言われている気がして腹立たしかった。

 確かに黒江は最年少のA級隊員であるが、実力に年齢など関係ない。強い者は強く弱い者は弱い。それが答えであり真実だ。

 けれど、そんな分かり切った事すら分からない者がいる。人間は嫉妬をする生き物だ。当然、最年少の黒江がA級隊員になっている事を面白く思わない者もいる。

 

 

「(この人もその連中の一人なら、認めさせてやる)」

 

 

 黒江は他の有象無象の様に嫉妬に駆られて突っ掛って来た者達を自慢の弧月で薙ぎ払ってきた。修もその有象無象の一人なら、己の実力で正さないといけない。

 最速を誇る韋駄天による斬撃を防ぐ事は出来ても自身を捉える事は不可能。ならば黒江がやる事は一つのみ。

 

 

「(そのレイガスト、叩き切ってやる)」

 

 

 

 ――韋駄天

 

 

 

 自慢のトリガー、韋駄天を起動。修が反撃をしないならば、着地した瞬間に再び韋駄天を起動させて連続攻撃をするのみだ。それで自分の勝利をもぎ取る。修が何を考えてどうやって勝利をしようと企んでいるか知らないが、そんな事をさせる前に勝てばいい話だ。

 しかし、黒江は既に大きなミスをしていた。幾ら自慢のトリガーであっても連発で使用すれば対応する事は容易い。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 現に残り少ないトリオンを絞った修はレイガストのオプショントリガーであるスラスターを起動させて、韋駄天の軌道上に解き放ったのだった。

 

 

「しまっ――」

 

 

 韋駄天は一度移動行路設定すると変更する事は出来ない仕様だ。韋駄天の道筋に障害物があれば衝突事故から免れる事は不可能である。しかも、今回はブレードモードのレイガストだ。黒江の身体はレイガストに触れた瞬間に上半身と下半身が両断され、一瞬にして緊急脱出が発動してしまう。

 

 

「(くそ。くそ、くそぉぉぉ)」

 

 

 悔しかった。

 自分が舐められたまま、真面目に戦って貰えなかった事に苛立ちを覚えずにいられなかった。

 

 

「くっ」

 

「(へ?)」

 

 

 けど、緊急脱出で戦場から離脱する瞬間、黒江は視てしまった。

 苦悶の表情を浮かべた修が片膝を突いている所を。右手で自身の頭を掴み、何かに絶える姿はまるで――。

 

 

「(まさか、どこか――)」

 

 

 そう思った直後、黒江のトリオン体は消失する。

 黒江戦は修の辛勝で終わる。

 

 

 

***

 

 

 

「……遊真先輩。三雲先輩の様子がおかしいんだけど」

 

「マズイですな。恐らく――」

 

 

 流石の緑川も修の異変に気付いたのか、隣で観戦していた空閑に訊ねたのだった。

 同じ支部に所属している空閑なら修の今の状態について何か知っているはずだ。

 当然、修の異変の原因を知っている空閑は緑川にその事を伝えようとするのだが、自身の目の前にぼんち揚げの袋が飛出してきて言うに言えずにいた。

 

 

「遊真。ぼんち揚げ、食べる?」

 

「……ジンさん?」

 

「メガネくんも随分と頑張っているじゃないか、感心感心。……どれ、そろそろ始めるとしますか」

 

「待って、ジンさん。今のオサムは――」

 

「分かってるって。けど、これが今のメガネくんの訓練なんだ。悪いけど、邪魔しないでね」

 

 

 空閑は相手がウソを言っているか言っていないか、判別する事が出来るサイドエフェクトを有している。そのサイドエフェクトによると迅が言った言葉は嘘ではなかった。

 本来ならば今の修をこれ以上闘わせるのは愚の骨頂とも言えるが、迅は未来を視るサイドエフェクトの持ち主だ。彼が何の理由もなく修を酷使するはずがない事を知っている。

 

 

「……オサムの為なんだね?」

 

「その通りさ。全てはメガネくんの為だ。……メガネくーん! 次は俺が相手をするから覚悟してね」

 

 

 語尾に音符でも付きそうなほど弾んだ声でこの場にいる全員が驚愕する宣言を行ったのである。

 迅悠一。風刃を上層部に譲った事で現在の地位はA級個人隊員だ。

 太刀川と風間に個人攻撃手1位を目指すと言いながら、一度もランク戦に復帰した記録はない。

 予想だにしなかった迅のランク戦の復帰に文句を言う者は誰もいなかった。

 

 

「じぃぃぃいいん! その後、俺とやろうぜぇぇええっ!!」

 

「太刀川さん、黙ってて。しまらないから」




ついに黒幕をお仕置きするチャンスが……って、できるのか? 今の修さんに。

実力派エリート迅に出てくるエスクード、便利ですよね。
「砕け、大地の咆哮――」って厨二的なことを迅が言ったらひくかな、やはり。


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SE修【天眼】攻撃手⑤VS迅

本当は前話以降の誤字脱字等をしないといけないんだけど……。
ノリと勢いがある時に書かないと書けませんものね。

……って、これだけ見ると自分がどれだけずぼらな人間がバレてしまうな。

今回はVS迅です。
攻撃手編もそろそろ佳境を迎えてきましたよ、おそらく。
いったん、間を開けたらいよいよ……ですね。(え?


 迅悠一は三雲修にとって特別な存在であった。

 自分の危機を救ってくれた人。一度、試験に落ちた自身に再びボーダーに入れるチャンスを与えてくれた人。彼がいなければ、今の三雲修は存在しない。

 そんなあらゆる意味で特別な人間とこうして相対する日が来るとは修も想像すらしなかった。

 

 

「……なんか、こうして対面すると不思議な感じだな、メガネくん」

 

「そう、ですね」

 

 

 戦場に転送された二人はゆっくりした足取りで相手がいる場所に歩み寄り、まるで偶然出会った感じで会話を始める。

 

 

「……っ」

 

「随分と苦しそうだね、メガネくん。やっぱり、天眼の反動はキツイ?」

 

 

 修の強化視覚、天眼はバランスブレイカーと言っても過言ではないチート能力だ。だが、しかし高性能故に燃費が悪いのが欠点。鷹の眼が開眼してから更にトリオンの消費量が増えたのか、連続で使用できる時間が減った印象が見受けられる。

 

 

「そう、ですね。……鷹の眼を会得してからは特にひどいです」

 

 

 以前までは頭痛と眩暈だけだったのだが、鷹の眼を会得してからと言うもの吐き気すら覚える始末。酷い時は前みたいに立眩みの様に視界が黒くなって立つ事すらままならない状態に陥ってしまう。

 

 

「……メガネ、つけるかい?」

 

「いえ。これが訓練である以上、つける訳にはいきません」

 

「強情だな、メガネくんは。まあ、それがキミのいいところだが」

 

 

 メガネを掛ければ不思議と天眼の効力を失ってしまう。同時にそれは苦痛から解放されると同意である。足元も覚束無い修とこれから戦う事に罪悪感を覚えつつ、迅は右手にスコーピオンを生み出す。

 

 

「メガネくん。キミのサイドエフェクト、天眼は確かに魅力的な能力だ。だがしかし、その能力は諸刃の剣に等しいだろう。大規模侵攻や遠征なら尚更だ」

 

 

 訓練やランク戦ならば戦闘時間は限られている。経験さえ積めば今の様にフル稼働でサイドエフェクトを発動させる必要性もなくなるだろう。

 けど、大規模侵攻や遠征ではそうはいくまい。もしも、遠征時に天眼の反動で行動不能になれば仲間たちの足を引っ張る結果になるだろう。

 遠征でも言えることだが、生死を賭けた戦いの最中に行動不能なんかになったら目も当てられない。幾ら緊急脱出が組み込まれているからと言って、この世に絶対と言う言葉はない。些細な事で死ぬ事だってあり得ない話じゃないのだ。

 

 

「もし、もしもだ。メガネくんが遠征を諦めると言うならば、今回の訓練はこれまでにしよう。けど――」

 

「――それはできません、迅さん」

 

 

 まだ迅の言葉は終わっていなかったが、修は言葉を遮って自分の意見を口にする。

 

 

「確かに僕の天眼は諸刃の剣。トリオン量の少ない僕では宝の持ち腐れもいい所でしょう。……けど、それとこれとは別問題だ。僕は千佳と約束した。空閑と約束した。三人で部隊を組み、A級に入って近界へ遠征しに行くと」

 

 

 妹を頼むと託された麟児の思いに応える為にボーダーに入った。

 兄と友人を取り戻したい。そんな千佳の願いを叶えたくて、近界へ旅立とうとした空閑を引き留めて仲間に誘った。

 それなのに、自分が全てを諦めるなんて選択肢を選べるはずはない。そんな事をしたら自分が許せなくなってしまうだろう。

 

 

「全ては僕がそうするべき……。いえ、僕が“やりたい”と思ったからだ。この思いは誰にも変えさせない。誰にも否定させない!!」

 

「……あぁ。それでこそメガネくんだっ!」

 

 

 今の文句が出る事は未来視で視えていた。どんなに意志を揺らがせても最後には不屈の精神で思いの丈を口にするだろうと予知していたが、実際にその言葉を聞くと胸に来るものがあった。

 

 

「(俺が認めたメガネくんはそうでないとな)」

 

 

 修と出会ったのは偶然に近かった。いま思えば、あれは自身の夢を叶える為に神様が与えてくれた奇跡と言ってもよかっただろう。

 試験に落ちた修は上層部に直談判する為に警戒地域に侵入した事があった。その際、運が悪く近界民が現れた。その時に修の危機を救ったのは迅だった。

 初め、上層部に直談判する為にペンチ一本で警戒地域に侵入したと聞いて、腹を抱えて大爆笑してしまった。だが、修の名前を聞いて何気なく未来視で覗いた時は驚きを隠せなかった。無限に広がる可能性の未来。諦めかけていた未来の一端が修の行動一つで決まる事も多々あるではないか。

 思えば迅は修の様な人間が来る事を待ち侘びていたのかもしれない。だから、今もこうして彼の力になりたいと素直に思える自分がいるのだ。

 

 

「(……っと、感傷に浸っている場合じゃないか)」

 

 

 早く戦闘を始めないといつ太刀川が乱入してくるか分からない。今頃、出水が必死になって食い止めているであろうが、未来視によると乱入してくる可能性は五分五分である。

 

 

「それじゃあ、始めようかメガネくん。俺とメガネくんの真剣勝負を!」

 

「はいっ!」

 

 

 修は歯を食い縛って全神経を集中させる。

 サイドエフェクトの反動で戦いが間々ならないなんて言い訳は通用しない。そもそも万全な状態で戦闘に赴く事の方が珍しいのだ。どんな状態であれ、戦う事になったら全力で立ち向かう。

 それに、目の前の恩人に恥かしい姿など見せる訳にはいかないのだ。

 修は対抗する為にレイガストと弧月を生み出そうとする――が、生み出されたトリガーはレイガストのみであった。どうやら、修のトリオン量は弧月を生成出来るだけの余裕はないようだ。

 

 

「(だからと言って諦める訳にはいかない!)」

 

 

 弧月は生み出せなくても、まだレイガストが残っている。使用量が一番多いレイガストがあるならば充分対抗できるはず。

 けど、敵はあの迅だ。一瞬の油断すら許されない。その証拠に修が思案中に足元からエスクードが出現し、修の身体を突き飛ばしたのだった。

 

 

「がっ。……つぁ」

 

 

 足元からの強襲に防御は愚か受け身すら取れなかった修は地面に叩きつけられる。叩きつけられた衝撃で大きくバウンドした修は迅が斬りかかってくるのを視界に捉えた。

 このまま一気に勝負をつけるつもりなのだろう。

 

 

「(そうはいくかっ!)」

 

 

 体を捻って地面にレイガストを突き刺して着地する。

 迅は修が体勢を整え直す前に二刀のスコーピオンで斬りかかる。二条の剣閃をレイガストで受け止める事が出来たが――。

 

 

「スラスター・オン」

 

 

 反撃のスラスター斬撃が行えない。

 もはや、スラスターすら発動するだけのトリオンも残されていないようであった。

 

 

「どうした、メガネくん。それが全力か。そんなんで千佳ちゃんを守り通せると思っているのかっ!」

 

 

 がら空きの腹部目掛けて足底を叩き込んで突き放す。ダメージはないが、衝撃までは殺せない。重心が後ろ気味に下がったせいで、迅の追撃を躱す事は出来なかった。

 スコーピオンの斬撃により左腕が宙を舞う。漏れ出すトリオンを抑えたい所であるが、迅の二の太刀がそれを許さない。左肩から脇腹目掛けて流れてきたスコーピオンを押し留める事に成功するが、それだけであった。

 

 

「今の状態で天眼は上手く作動しないんだろ! 動きが鈍すぎるぜ」

 

 

 その通りであった。反動が出てからと言うもの天眼の効力が薄れていた。

 近距離に必要不可欠の複眼は180°までと半減しているし、体感時間が遅く感じる事はなくなっている。先のエスクードにしたって浄天眼で目視できるはずなのだが、それすら出来ずにいた。

 

 

「天眼が使えない状況だからこそ考えろ、メガネくん。こう言う状況は何度だって訪れるはずだ」

 

 

 困難な状況になればなるほど修の闘い方は不利になっていく。それはそうだろう。

 修の本来の闘い方は超短期決戦型なのだ。時間が掛かればかかるほど、トリガーを使えば使うほど不利になっていくのは想像しなくても分かる事。

 迅の言うとおり、今の様にトリオン切れとサイドエフェクトの反動でお手上げ状態になる可能性も考えられる。そうなった時、いざ対処出来るかと言われたら修は自信がないと答えるであろう。

 

 

「(……そうか。だから迅さんは――)」

 

 

 本来ならば何でも視認して戦う事なんて出来ないはず。ましてや敵の攻撃の軌道を視覚で捉える事など不可能だ。迅に指摘されるまで自分がどれほど天眼に甘えていたか気づけなかっただろう。

 迅は天眼を自在に扱えるようになれと言ったが、天眼に頼り切れとは言っていない。

 天眼をマスターすると言う事は、己の意志で視たいモノを視ると言う事だ。

 

 

「(僕が視たいモノ……。それは――)」

 

 

 一度、大きく深呼吸を行って意識を集中し始める。迅もこの瞬間を既に予知していたのか、一向に攻撃する素振りを見せないでいた。まるでこれから起こる瞬間を楽しみにしているかの如く二刀のスコーピオンを構え、来る瞬間を待っていた。

 

 

「(そうだ。それでいい。メガネくんのトリオン消費が激しいのは無意識の間に全ての効力を使っていた事だと思う)」

 

 

 以前、修のメガネを調べた事があったが、あれは何の変哲もないメガネであった。

 けど、それでは辻褄が合わないのだ。修はメガネを掛ければサイドエフェクトが発動しないと言ってた。だからこそ迅は一つの推論を立てた。

 もし、もしもだ。

 修はメガネを掛ける事でサイドエフェクトが発動しないと思い込んでいるとしたらどうだ。人間は単純な生き物だ。薬と称して服用する事で二日酔いが治まったなんて実験報告も挙げられている。それなら多少であるが筋は通る。

 修はメガネを掛ける事で天眼の力を極限まで抑える様に自身でコントロールしている可能性がある。無意識と言うおまけ付きであるが。

 

 

「(ならその逆。天眼酔いをした時でも、手綱さえ確りと掴む事が出来るなら)」

 

 

 天眼は再び力を取り戻すはずだ。勝利の道筋を視る為に修の天眼が集約されていく。仮にパラメーター分けなんて項目があるなら、今のトリオン分配をパーセンテージで表すと以下の通りになるだろう。

 

 千里眼1パーセント。

 浄天眼1パーセント。

 複眼2パーセント。

 鷹の眼1パーセント。

 強化視覚95パーセント。

 

 視覚能力にトリオンを全振りする事で、修の視界から色が失われる。戸惑いはするものの、この感覚は以前にも覚えがあった。

 

 

「(よく視える。迅さんが呼吸するタイミングが……。迅さんの体重が僅かに右に偏るのだが!)」

 

 

 そう思ったとき、自然と足は動いていた。頭痛と吐き気で動くのも辛いはずなのに、これ以上の戦いは困難だと思っていたのに、修はレイガストを振り上げて迅に向かって力いっぱい薙ぎ払ったのだった。

 

 

「おっとっ!!」

 

 

 しかし、そんな単調な攻撃が迅に通る訳がない。当然だが、二刀のスコーピオンで修のレイガストを受け止める。

 

 

「甘いな、メガネくん。そんな単調なっ!?」

 

 

 迅の言葉が中断される。予想もしなかった修の攻撃で言葉を遮られたのであった。

 

 

「(頭突きかよ。随分荒っぽい手を使うじゃないかっ!!)」

 

 

 修は迅によって片腕を斬られている。距離を詰める事が出来てもレイガストを防がれた以上、攻撃の手札は残されていないと思った迅の失態だ。勢いよく己の額を迅の顔面に叩き込んだ事により、迅の身体は後ろに流れる。このまま仰向けに倒れるかと思いきや、片足が半歩ほど後ろに下がったのを天眼が捉えていた。体勢を整えられたら折角の不意打ちが無駄になる。ならばと、修は迅がやって見せたように足底を腹部に叩き込んで、更に体勢を崩しにかかったのだった。

 

 

「(マジい。このままじゃ)」

 

 

 

 ――エスクード

 

 

 

 追撃をさせまいと両者の間に障壁を展開する。けど、迅が不穏な動きをしている瞬間を強化視覚は見逃さなかった。エスクードが展開されるよりも早く修はトリオンの配分を浄天眼に全振りして、エスクードに巻き込まれない様に回り込むのだった。

 

 

「(こいつも通じないか、ならこいつはどうだ!)」

 

 

 次に展開したのはバッグワームであった。バッグワームは対電子戦用の隠密トリガーだ。今回の様なタイマン勝負に使用しても意味がないはずだ。

 何をするのかと思いきや、迅はそのバッグワームを掴んで修に向けて放り投げたのだ。目くらましの意味で放り投げて対応にもたついている間に体勢を整えようと考えたのだろう。

 その程度の狙いは修も直ぐに気づいていた。よって、レイガストで迅が放り投げたバッグワームを払いのけると目と鼻の先に迅の姿があった。

 

 

「っ!?」

 

「それは視えていたよ、メガネくん」

 

 

 

 ――斬

 

 

 

 修が対応するよりも早く残っていた片腕を切り捨てられてしまう。もはや完全な詰み状態。普通ならば諦めてしまう所であるが、修の眼はまだ死んでいなかった。

 

 

「まだ――っ!?」

 

 

 両腕がない状態で駆け出す修であったが、タイミングが悪い事に今までにないほどの頭痛が修を襲いかかる。トリオンが欠乏状態にも関わらず天眼の能力操作なんて慣れない芸当もしたのだ。もはや、修の身体は限界を超えていたのだ。

 地面に勢いよく叩きつけられた修の身体に迅はスコーピオンを突き刺して楽にさせてあげる。

 

 

「……お疲れ様、メガネくん」

 

 

 緊急脱出が発動され、天高く消えた修の行方を見守った迅はサイドエフェクト未来視で見た光景を思い出す。

 

 

「(まだメガネくんが死ぬ運命は変わらないか。天元を突破させない限り、黒トリガー使いは倒せない、か。……後は頼んだぜ、秀次)」




と、言うことでVS迅でした。
……で、結局迅さんって何がしたかったの?(マテ

ちなみに修の天眼のあれはアステロイドのような設定が出来るなんて後付けをしてみました。……自分で後付設定とか言っちゃったよ。

いよいよ最後……と、言いたいところですが、今の修じゃ三輪(風刃モード)と真面に戦える訳がないので、小休憩を挟みたいと思います。1,2話程度ほど。
そろそろ、観戦者達の会話も入れないといけないかなぁ、なんて思っていたりしますし。

実況も入れたいところだが、さすがに三回も連続で桜子さんを召喚するのもなんだしなぁ。……別の人間を召喚するかなぁ。


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SE修【天眼】吐かされる未来

ふと思った。本編で戦いがない話って片手も満たないことに。
人が多すぎて正直失敗したなぁ、と思ったり……。

さて、そろそろ千佳ちゃんも参上させないとね。


『任務失敗』

 

 

 出水から送られてきたLINEの内容を見た二宮は思わず自身の携帯電話を投げ出してしまいそうになる。

 

 

「……あら、その様子だとまた失敗したのかしら?」

 

 

 太刀川隊の隊室で待機していた加古望は二宮の様子を見て察したのだろう。自分から集合するように召集したにも関わらず、まさかのドタキャンだ。

 こう見えても隊室に集まった一同はそれほど暇ではない。こうやって全員が集まる機会など中々難しいことは出水も重々承知しているはずだ。

 けれど、出水は任務失敗と連絡をよこした。これで二回目だ。流石の二宮の機嫌も悪くなるのは無理もない。

 

 

「出水君にも困ったものよね。……これは、もう一回教育し直さないといけないかしら?」

 

「か、加古さん。できれば穏便にお願いいたします」

 

 

 以前、ドタキャンをかました出水に教育と言う名のお仕置きを敢行した情景を知っている那須が嗜める。

 

 

「あら、心外だわ那須ちゃん。そう言うあなただって、出水君に色々と言ったじゃないの」

 

 

 肉体的なダメージを与えた事は自覚しているが、精神的なダメージを多大に負わせたのは那須の方が大きいと加古は思っている。

 何せ彼女は表情一つ変えないで「出水君に任せたのがいけなかったのよ」とか「弾バカさんだもんね」と絶妙なタイミングで出水の精神を削っていったのである。その時の彼女を見て「なんて末恐ろし子なの」と慄いたことだろうか。

 

 

「ったく。あいつはひと一人まともに勧誘してこれないのか」

 

「それ、二宮くんが言えること? 小隊を組むのに大層苦労した二宮くんが」

 

「うるさい、加古。それより、なぜ俺たちがB級ルーキーの隊員を待たないといけない。あいつの模擬戦を見たが、弾丸トリガーを使ったのは木虎・緑川戦だけだ。佐鳥戦の時なんか、あいつは狙撃トリガーを使っていたぞ。射手(シューター)を舐めているのか」

 

 

 正確に言えば修の模擬戦データは少なすぎて判断材料に欠けるが、二戦目で狙撃トリガーを使ったことが気に食わなかったのだろう。そんな奴の為に自分の貴重な時間を割くのは面白くないと感じた二宮の言葉に加古と那須は大層驚くのであった。

 

 

「……二宮くん。なんだかんだ言って、事前に情報は集めていたのね」

 

「その……。私も失念していました。けど、三雲君って狙撃手(スナイパー)希望なんでしょうか?」

 

 

 まだ面識のない二人は修の事情や人柄を知らない。二宮の話を聞く限り、三雲修と言う人物は『風間を倒し、木虎と緑川を翻弄させてかつ狙撃が出来る期待のB級隊員』としか知らない。まさか修を巡って水面下で争奪戦が行われていることなど露も知らないのだ。

 

 

「知るか。出水が言うには「必ず射手(シューター)にさせる」と言っていたが、優柔不断な奴に射手(シューター)が務まるとは思えん」

 

「あら、そう判断するのはまだ早いんじゃないの。あの出水君が認めた子なら、将来有望株かもよ?」

 

 

 射手(シューター)のなり手は案外少ない。C級の時に通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)を選ぶものは少なくないが、銃手(ガンナー)と違って弾丸のトリガーは色々と面倒な設定を考えなくてはいけない。初めの頃は面白おかしく使っていた使い手も次第に設定を考えるタイムラグのせいで敗北し続ける結果に陥り、他のトリガーを選び直す者も少なくない。

 よって射手(シューター)は弱者と強者の境界線が確りと引かれているのだ。この場にいる二宮をはじめ、加古と那須は射手(シューター)として上位の隊員と言える。出水を入れて射手(シューター)四天王なんて噂が広がった事もあるぐらい射手(シューター)と言えばこの四人の名前が挙げられる。

 四人は射手(シューター)人口を増やす為に色々と模索しているが、中々射手(シューター)を希望する者は少ない。そこで今回名前が挙がった修に興味津々であったのだが、未だに邂逅する機会は設けられていなかった。

 

 

「そもそも、今日はなんで失敗したのかしら?」

 

 

 ふと、疑問に思った加古が二宮に問う。それは二宮も思った事なのか、失敗した理由を聞くと出水から「攻撃手(アタッカー)陣と模擬戦で力を使い果たしたから」と返って来た。

 その返信を見て二宮の機嫌が下がらない訳がない。

 

 

「なになに? 攻撃手(アタッカー)陣と模擬戦で力を使い果たした?」

 

 

 そう言えば、と加古は思い出す。今日は小隊員の黒江が迅に頼まれて模擬戦をしに行くと連絡が来ている。珍しいな、と思いつつ別に大した問題でもないから「分かったわ」と了承して快く見送ったのだが……。

 

 

「(まさか、ね)」

 

「……どうします? 肝心の三雲君が来れないのなら、今回の射手(シューター)会は解散致しますか?」

 

 

 那須の提案に一考する二宮。肝心の人物が来ない事には今回の射手(シューター)会は初めようがない。だがしかし、ここで待ちに徹していたら気のせいか今後も会う機会がないだろうと思えてならなかった。

 ここはひとつ、攻める姿勢をとってもいいのかもしれない。

 

 

『……出水。いま、貴様はどこに居る?』

 

 

 ラインで現在地を問い質すと――。

 

 

『東隊の隊室です』

 

 

 旧小隊の隊長の部屋に行くかどうか、少しばかり悩んだのは言うまでもなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 二宮は自身の小隊を組むまでは東が率いるA級一位の小隊員として活躍していた。

 ボーダー規定で東がB級隊員に降格したのと同時に小隊を解散したとは言え、数少ない尊敬する先輩隊員であることは言うまでもない。

 射手(シューター)組は東隊の入り口前まで到着すると――。

 

 

「ちょっ! ちょっとタイムタイム、タイム! ちゃんと説明するから。説明するから生身で弧月を向けないで! お願いプリーズ!!」

 

 

 ――聞き覚えのある人物の悲鳴が東隊の隊室から聞こえてきたのだった。

 

 

「あら、この声って?」

 

「……とにかく入ってみるぞ」

 

 

 軽くノックをした後に「どうぞ」と返事が来たので、三人は東隊の隊室に足を踏み入れる。すると一番初めに映った光景は簀巻きにされている迅に弧月を突き付けている黒江の姿であった。

 

 

「……なんだ、これは」

 

 

 当然、事情を知らない二宮は驚愕の声を上げるしかなかった。そんな様子の二宮に自身の隊室に来てから事情を伺った東が苦笑いを浮かべながら説明しだしたのだ。

 

 

「どうやら、迅の奴が三雲くんに無理をさせたみたいでな。いま、黒江を初めとした奴らが迅にお仕置きをしている所だ」

 

「迅が? 話しが見せませんが」

 

「三雲くんにサイドエフェクトがある事は知っているか?」

 

 

 その問い掛けに「いいえ」と否定する。後ろにいた加古と那須も同様に否定した。

 

 

「そうか? 結構噂になっていたんだがな。まぁ、その高性能なサイドエフェクトを磨くために迅の奴が無理な注文を三雲くんに吹っかけたらしくてな。その実験台にさせられた攻撃手(アタッカー)陣――主に黒江が憤慨してな。いま、その暗躍エリートをお仕置きしているって感じだ。ところで、お前たちはどうしてここに?」

 

 

 東は修のサイドエフェクトが【強化視覚】であることを話し、わざわざ自隊の隊室に来た用件を問うたのだった。

 

 

「はい。俺達は――」

 

「――げっ!? 二宮さん? 加古さんに那須も……。もしかして、待ちきれなくなって来たんですか!?」

 

 

 迅戦で力尽きた修をベットに寝かしつけた出水がこの場にいない射手(シューター)組を見て顔を顰める。

 

 

「出水。三雲の様子はどうだ?」

 

「あ、はい。東さん。サイドエフェクトを使いすぎただけみたいなので、しばらく横になっていれば大丈夫だそうです」

 

「そうか。……所で、射手(シューター)四天王と呼ばれているお前達はどうして――って、三雲くんを勧誘しに来たのか?」

 

 

 この場にいる理由を察した東が自己完結させる。そもそも、修は射手(シューター)志望であることを本人から聞いている。それに加えてこの四人が新たな射手(シューター)の誕生を望んでいる事も知っていた。自然とその結論に達するのは当然であろう。

 

 

「あの、出水君。三雲君は具合が悪いのかしら?」

 

「あ? さっきも言ったけどサイドエフェクトの使いすぎて少々気分を悪くしただけだ。アイツのサイドエフェクトは使いすぎると乗り物酔いみたいになったりするらしいからな。……迅さんはそれを踏まえて、今回の訓練を仕組んだみたいだが」

 

「それは分かったけど、それでどうしてうちの双葉があんなに憤慨しているのかしら? 珍しく随分と怒っているようだけど……」

 

「まぁ、何と言うかあれですよ。自分の番だけ全力で戦えなかった事に対する苛立ちと後悔ってところでしょうね。事情を知らなかったとはいえ、メガネ君に色々と文句を言ったみたいですし」

 

 

 先の黒江戦で修に全力で戦え、と口にしている。

 まさかサイドエフェクトの反動で動きが鈍くなっていた事など露知らずにだ。普通ならば反動が出た時点でやめればいいのだが、迅からオーダーが来ている事を理由に戦いを止めなかったなんて誰が想像出来ようか。

 自分の見当違いの考えに腹が立ち、穴があったら潜り込みたい心情であったが、この状況を招いた黒幕――迅が許せなかったのだろう。迅が個人ブースから出てきたと同時に韋駄天を起動して、器用にロープを使って迅を拘束する事に成功したのであった。

 その直後、疲労困憊の修がブースから現れた直後にぶっ倒れてしまったのだから、もう大慌てであった。

 

 

「そう。双葉の用事ってこの事だったのね」

 

 珍しく感情を露わにする自隊の仲間を見やり、加古は面白い玩具を見つけた子供の様に笑みを見せたのだった。

 

 

 

***

 

 

 

 大人組達の話しが纏まろうとしたのに対し、迅を初めとした者達の話しは未だに続く。

 

 

「ちょ、ちょっと黒江ちゃん。話し合おう。人類皆兄弟! さぁ。このロープを外して、まずは話し合おう。ちゃんと事情を説明するから」

 

「うるさいです。少し黙っていてください。そうじゃないともぎますよ」

 

「どこをもぐの!?」

 

 

 一瞬、自身のある部分がもがれる事を想像し、恐怖のあまり体が震えはじめる。そんな迅の事など知らず、更に追い打ちをかけるものがいた。

 

 

「迅さん酷いよ! なんで俺じゃなくて双葉なのさ!? 俺だって三雲先輩と再戦したかったのに」

 

「ごめんごめん。悪かったって駿」

 

 

 追求者は木虎とタッグを組んで修と戦った事がある緑川であった。彼は憧れている人から頼みごとをされなかった現状に大層ご不満であった。黒江にお願いしたのなら自然と自分の名前もあがると言うものだろう。それなのに、自分に声がかからなかったのはなぜだ、と詰問し続ける緑川であった。

 

 

「そうだそうだ、迅。お前、やっとランク戦に復帰したと思ったら、何で三雲となんだよ。最初に相手をするのは俺のはずだったのに」

 

「太刀川さんは空気を読んで! そして、俺を助けてよ」

 

「この後100戦してくれたら考えなくもない」

 

「オニー、アクマー、タチカワっ!」

 

「おい。太刀川を悪口みたいに言うなよ。普通に傷ついたぞ」

 

「こ、こうなったら……。た、頼む遊真。俺を助けてくれ。お願いプリー……。ゆ、遊真? 遊真、どこだ!?」

 

 

 唯一、この状況を打開してくれると思われる玉狛支部の後輩、空閑遊真に援軍を打診するのだが、肝心の友軍がどこにも見当たらない。

 

 

「空閑なら、三雲を見ているぜ」

 

 

 太刀川が言うには、修がベットで横になってから様子を見守っているらしい。何度も助けを求めるが来る様子は見受けられない。援軍要請は完全に拒否られたようだ。

 

 

「……さっきから、説明するすると言っておきながら、逃げる気満々ですね。よっぽど、この弧月のサビとなりたいんですね」

 

「わ、分かった分かった。する、します! させていただきます。だから、その弧月をどかして!!」

 

 

 未だに信じた様子はなかったが、眉間に突き出した弧月はどかす事にしたようだ。けど、一向に鞘へ入れる様子はない。無言の圧力で「下手な言い訳をしたら、刺しますので」と殺気を放ちながら、説明を要求するのであった。

 流石の迅も諦めたのだろう。今から言う内容でどれだけ未来が動くか分からないが、言わなければ言わなかったで自分の今後の未来に大きなダメージが残るだろう。それはそれで構わないのだが、今後の事を考えると正直に話す方が良いと結論付けたのだろう。

 大きく息を吸い、迅は簡潔に伝えるのであった。

 

 

「次に起こる大規模侵攻で人型近界民と独りで戦わないといけない事になる。今のままだとメガネ君は確実に死んでしまうんだ。雨取千佳ちゃんを守り通して、な」

 

 

 衝撃的な未来を聞いて、東を除いた全員が驚愕したのは言うまでもないだろう。

 




ここまで騒がせておきながら、大規模侵攻時の事を何も考えていないのはどうだろうか。

……まぁ、大方の話もその場その場で考えたものだし、大丈夫かな(ェ

プロット?
なにそれ、おいしいの。
全部インスピレーションに決まっているじゃないですか、いやだなぁ。

……すみません。プロットのない方が受けがよかったので(以下省略


さて、そろそろ射手編に移行しますかねェ。
って、まだ肝心の人がいるのを忘れていたよ。


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SE修【天眼】第一回、適性ポジションを考えよう会

第一回ってなんだよ、ってツッコミはなしだ。
だって二回三回あるかもしれないじゃないか(オイ

感想にあった対三雲会議や他の人間のやり取りを入れても面白そうかなぁと思って入れてみました。そろそろこれで日常編は終わらせないと永遠と続きそうだな(滝汗


 目が覚めたら見知らぬ天井だった。

 

 

「ここは……」

 

 

 掛けられていた掛布団を押し退けて上半身を置き上がらせて周囲を確認する。何やらドア越しから大勢の声が聞こえて来るが、いま自分がいる場所は見当がつかなかった。

 

 

「僕はどうして」

 

 

 ふと、自身の記憶を思い返して――思い出す。

 

 

「そうだ。僕は迅さんと戦ってそれから……。っ!」

 

 

 惨敗した記憶が蘇る。結局のところ、修は迅と真面に戦う事が出来なかった。迅に与えた攻撃は苦し紛れの頭突きのみ。幾ら天眼酔いで動きが鈍くなっていたとは言え、今回の結果は酷過ぎた。

 この場に誰かしらがいたら「そんな事はないぞ」と慰めてくれるかもしれないが、そんなものは気休めにしかならない。修自身が今回の迅戦は納得が言っていないのだ。

 

 

「(天眼を持っていたからと言って、有頂天になりすぎたかな)」

 

 

 修自身はそんな考えなど微塵も抱いた事はないが、無意識の内に“天眼を持つ僕なら迅さんとも対等に渡り合える”なんて幻想を抱いてしまったのかもしれない。それが間違いであった。修が目指す戦い方は実戦に通用する戦い方である。天眼酔いになってもそれなりに戦えなくては意味がない。そう言う意味だと今回の自己評価は赤点もいい所だ。

 

 

「(もっと、強くならないと。こんなんでは麟児さんの約束も守れない)」

 

 

 家庭教師であり兄的存在であった麟児から「千佳を頼む」と託されている。彼女を護る為にボーダーに入ったまではいいが、修自身はボーダーとして最弱の最弱もいい所であった。唯一、天眼なんて特殊な力があって戦闘員として見出すことが出来たが、それでも自身が弱いのは変わりない。

 たかがサイドエフェクトを持っているとはいえ、慢心なんかしていい訳ではないのだ。

 

 

「そのためにはもっと天眼を扱えるようにならないと」

 

 

 迅の戦いで学ぶ事が出来た特性の操作。今は意識して行わないと難しいが、最終的には反射的に特性の強弱を切り替えられるまで持って行かなくてはならない。それに加えて他にも出来る事があるかもしれない。頭痛や吐き気が嫌で使う事を控えていたが、これからは積極的に使う事を決意する。

 

 

「――おっ。起きたか、オサム」

 

 

 修がある決意を抱いていると様子窺いに来た空閑が入室して来た。

 

 

「空閑? ここはどこなんだ。どうして、僕は――」

 

「ここは東隊の隊室だって。オサムはてんがんの使い過ぎで倒れたんだよ。で、そんなオサムを介抱する為にここへ連れて来たんだ」

 

「……そうか。みんなに色々と迷惑かけたみたいだね。すまない、空閑」

 

「俺は大丈夫。これもオサムが決めた事だろ。チカを護る為に」

 

 

 けど、と続けて。

 

 

「他のみんなにはお礼を言った方が良いと思うけど、今はやめた方がいいかな」

 

 

 自分が入ってきたドアを指差し、こちらへ来るように言って来る。

 いったい何があるんだろうと思って近寄ると、空閑は静かにドアを開け――なぜか知らないがほんの少しだけ――様子を窺うように言ったのだ。

 修は疑問を抱きながらも中の様子を窺う。

 

 

「だからぁ! メガネボーイは攻撃手(アタッカー)が一番なんだよ。トリオン量が少なくてもあれだけの身のこなしが可能ならば全然問題ない。射手(シューター)なんてもっての他だ」

 

「いーや! メガネくんは射手(シューター)になるべきだ。チーム戦術的にも攻撃手(アタッカー)攻撃手(アタッカー)狙撃手(スナイパー)なんて偏りすぎだろ。あの狡猾さは射手(シューター)こそ相応しい」

 

 

 なぜか知らぬが、模擬戦をしてくれた米屋と出水の二人が口論していた。引けぬ案件らしく両者の間に激しい火花のエフェクトが見えてしまう。

 

 

「……なに、あれ」

 

 

 後ろ首に両手を回して、口を3の字にしている空閑に訊ねると「オサムの今後のこと」と簡潔に答えてくれた。しかし、その真意を察せなかった修は更に「僕の事?」と首を傾げながら訊ね返す。

 

 

「オサムは絶対に攻撃手(アタッカー)がいいんじゃないかって誰かが言いだしてな。それを否定したのがいずみ先輩なわけ」

 

 

 正確には迅から色々と聞きだした太刀川が最初に言いだした事であった。

 

 

『三雲のトリオン量ならば射手(シューター)狙撃手(スナイパー)よりも攻撃手(アタッカー)の方が良いんじゃないか? 近接戦闘ならばトリオン量なんてトリガー構成次第ではそれほど必要ないしな』

 

 

 とのことだ。その言葉に同意したのが米屋である。彼もトリオン量は他の隊員と比べて低い方であるが、持ち前の運動神経でA級まで上り詰めている。自身がそうなのだから、メガネボーイだってその方が良いと主張したのだ。それに当然の如く反対したのが出水である。

 

 

「メガネくんの天眼は生命線だ。索敵能力と危機回避能力に特化した力を最前線で出すのは愚策もいい所だ。司令塔として配置させた方が良いに決まっている」

 

「そうか? 俺としては電撃戦――速攻時にアイツの能力が生かせると踏んでいるぜ。瞬時に敵の位置を割り出して、射線も即座に見破れる。それならば部隊として機能される前に単体で落とす方が効率いいはずだ。よって、攻撃手(アタッカー)の方が良い。そうだろ、迅」

 

「た、太刀川さんが論理的に話す事に驚きだけど、俺としてはメガネくんの好きにさせてあげたいかなぁ……って。ほ、ほら。メガネくんってレイガストとスラスターを基本として戦術を組んでいる節があるし、そう言う意味では攻撃手(アタッカー)であり射手(シューター)であると言ってもいいんじゃないかな? な、駿もそう思うだろ?」

 

「え!? 俺としては攻撃手(アタッカー)になってくれた方が嬉しいかな。この前の雪辱戦も……。あっ、でも。あの時は変化炸裂弾(トマホーク)通常弾(アステロイド)で負けたし」

 

「何を迷っているの駿。三雲先輩は攻撃手(アタッカー)一択でしょ。あんな終わり方じゃ納得いかないし。攻撃手(アタッカー)でないと困ります」

 

「あらら、双葉は随分と三雲くんにお熱なのね。けどね、数少ない射手(シューター)の有望株を奪われても面白くないのよね。那須ちゃんもそう思うでしょ?」

 

「そうですね。加古さんの言うとおり、今後の防衛戦も考慮しますと射手(シューター)の存在は必要不可欠と思うから、射手(シューター)になってくれると嬉しいかな」

 

 

 本人を差し置いて好き勝手言っている者達――なぜか面識もない人たちもいたが――の言葉に修は大量の冷や汗を流さずにいられなかった。

 

 

「く、空閑。これは――」

 

「だから、第一回三雲修の適性ポジションを考えよう会だって」

 

「それ今考えただろ。絶対に」

 

「そ、そんな事はないよ」

 

「ウソを言っている。空閑はつまらないウソを言っている!」

 

「オサム。そんな大声で言ったらばれるぞ。音量を下げて下げて」

 

「うっ……。すまない」

 

 

 謝る必要はないのだが、反射的に空閑へ謝罪していた。空閑は満足気に「うんうん」と頷き、想像したら恐ろしい事を言って来る。

 

 

「迅さんが「オサムが目覚めた事を知られるな」って言っていたからな。当分の間、狸寝入りしていろって言っていたし」

 

「迅さんが?」

 

 

 恐らく未来視のサイドエフェクトで自身が目覚めた事にいち早く気付いたのだが、なぜ自分が目覚めた事を知られてはいけないかまでは察する事が出来なかった。

 もっとも、いま目の前で繰り広げられている「三雲修の適性ポジションを考えよう会」なんてものに参加したくないので、ここは迅の行為に甘える事にする。

 

 

 

 ***

 

 

 

「まぁまぁ、お前達の意見はもっともだが、最終的に決めるのは三雲くん自身だ。自分の考えを押し付けるのは良くないんじゃないか?」

 

 

 場がヒートアップしている中、東の鶴の一声によって静まりかえる。誰しもこの場の年長者に反射的に反論する事など出来る訳がなかった。

 

 

「けど、東さん。三雲は攻撃手(アタッカー)になるべきでしょ。いま、見させてもらった狙撃戦なんていい例だと思うんだがな」

 

 

 と思いきや、太刀川が観戦している先の戦いを指差しながら同意を求めて来たのだ。

 

 

「そう言えば、東さんってメガネくんと組んで狙撃戦に参加したんですよね。どうだったんですか? 視覚共有をしたって言っていましたが」

 

 

 隊長太刀川の言葉に続いて、思い出したように言葉を紡ぐ出水。彼は狙撃戦を観戦していた為に東が修とタッグを組んで模擬戦をした事を知っている。

 

 

「どんな感じと言われてもな。まぁ……なんて言うんだ? 口では上手く説明出来ない異様な体験をさせてもらったって感じだな。相手の裏をかく発想力はいいと思う。あれでまだ15歳なのだから恐れ入るな。もっと戦術を学んだらいい戦闘員になるんじゃないかと思う」

 

 

 一度、修の天眼を共有した事がある東は自身が感じた感想を口にするが、中々みんなに伝わらなかったようだ。

 

 

「はいはい、質問っ! さっき迅さんが三雲先輩は相手の射線を目視できるって言ってたけど、それって本当ですか?」

 

「あぁ、その通りだ緑川。あれは中々体験出来ない事だったな。自身に伸びる赤い帯状の光が伸びて来たと思うと実際に弾丸が飛んで来たんだから驚きだったな」

 

 

 東は視覚共有で体験した事を思い出す。修の天眼の能力の一つである鷹の眼は破格の能力であった。相手の射線を目視出来る事は考えている以上に便利な能力である。不意を突かれたとしても先に鷹の眼が射線を教えてくれる。弾丸の軌道が分かれば対処する方法などいくらでもある。

 それを聞いて、当然反応したのは攻撃手(アタッカー)陣の筆頭である太刀川である。

 

 

「なんだよそれ。めちゃくちゃ便利な能力じゃないか。……なぁ、迅。三雲をうちの隊にくれ」

 

「……は? 太刀川さん、いきなり何を言っているの?」

 

「だって、三雲がいれば不意打を受ける必要もないし、隠れている相手も見つける事が出来るだろ。敵の位置をいち早く知る事が出来れば、うちの出水が狙い撃ちする事も可能だ。三雲はうちの隊こそ相応しい」

 

「ダメダメっ! ちょっと太刀川さん何言っているの。うちの人間を引き抜こうとしないでよ。それにメガネくんはもう隊を組む人間を決めているの。既に売約済みなのっ!」

 

 

 流石にそれはシャレにならない。確かに修が太刀川隊に入ればいい事尽くめかもしれないが、そうなったらそうなったで色々と未来に問題が生じてしまう。本部と玉狛支部の全面戦争が起こりかねない。

 

 

「ふん、くだらない。あんな素人に何を熱くなっている」

 

 

 唯一冷めた目で話の成り行きを見守っていた二宮が初めて言葉を挟む。

 

 

「奴の過去の模擬戦を見せてもらったが全然ダメだ。たかが反射神経が良くても、それ以降の対処がなっていない。そもそもなんだ、あの通常弾(アステロイド)の使い方は。近づいて放たないと当てる自信がないのか、アイツは」

 

 

 二宮のダメ出しを扉越しから聞いていた修は胸にスコーピオンを刺されたような痛みを感じてならなかった。彼の言うとおり、修はゼロ距離射撃の通常弾(アステロイド)を好む。しかし、それは自身のトリオン量では距離を取った通常弾(アステロイド)では破壊力がないと思った故の判断だ。破壊力重視した通常弾(アステロイド)は射程と弾速を犠牲にしてしまう。そんな弾を当てる方法など近づいて撃つしか方法がないと思った故の使い方である。

 

 

「あんなへっぽこ弾を使うなど俺が許さない。通常弾(アステロイド)を極めるまで、俺が面倒を見てやる」

 

 

 

 ――はい?

 

 

 

 まさかの二宮の発言に、その場にいた全員が素っ頓狂な声を上げる。

 

 

「ちょっ! 待って二宮さん。メガネくんは最初に俺が目を付けたんですよ。アイツの師匠になるのは俺ですからっ!」

 

「ふん。お前の様な感覚派が真面に弟子を育てられるはずがないだろう。教えを乞うた俺が言うのだから間違いない」

 

 

 かつて二宮は射手(シューター)として伸び悩んでいた時期があった。それを打開する為に年下の出水に教えを乞うたのだが、出水は超感覚派思考が強く、人に教える時に擬音を使って説明する事が多かった。理論派の二宮は出水の説明の大半を理解する事が出来ず、彼と模擬戦をする事で技術を盗んで行ったのだ。

 

 

「そうね。出水君じゃ三雲君を指導するのは難しいかもね。彼の闘い方は射手(シューター)の中では私が一番似ていると思うから、私が教えるわ」

 

「けど、加古さんは主に使っているのって追尾弾(ハウンド)じゃないですか。その点、私は変化弾(バイパー)炸裂弾(メテオラ)と教える事が出来ると思うから、私の方が適任だと思います」

 

 

 ここにきて、まさかの射手(シューター)陣が修の指導役に名乗り出てくる。

 それを覗き見ていた修は全身冷や汗を掻きながら呟くのだった。

 

 

「……なに。このカオス状態は」

 

「モテモテだな、オサム」

 

 

 それから一時間ほど、修は攻撃手(アタッカー)になるか射手(シューター)になるか揉めに揉めたのは言うまでもない。

 

 ***

 

 ちなみに終始会話に入ってこなかった東隊攻撃手(アタッカー)コンビはと言うと、先の自分達の模擬戦のログとにらめっこしていてそれどころではなかった。




人が多すぎて失敗したよ(泣

射手(シューター)陣営はもう少し後に出すべきでした。
けど、このやり取りをさせるには必要不可欠だからなぁ。

ちょっと拙すぎましたがご了承願います(マテマテ


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SE修【天眼】VS三輪【NTver】①

……どうしてこうなった?
自分で書いていて、すごく違和感を覚えて仕方がありません。


 攻撃手(アタッカー)陣と射手(シューター)陣のいざこざが終った頃、修の魂は天へ召されてもおかしくなかった。

 

 

「……オサム、大丈夫か?」

 

 

 隣で修と一緒に見守っていた空閑から言葉が投げられるが、頭が混乱していてそれどころではなかった。

 

 

「(そもそもなんで、出水先輩以外に射手(シューター)の方々がいたんだろうか)」

 

 

 参考資料として部隊に所属している人達の模擬戦のログは頻繁に目を通している。特に自分が希望している射手(シューター)の方々のログを良く見ていた。その為に一度も面識がなかった加古と二宮、那須の顔と名前は直ぐに一致したのだった。

 

 

「やれやれ。あいつ等も困ったものだな」

 

 

 放心状態の修と空閑、そんな二人を楽しげに見ている迅にコーヒーを淹れて渡した東は一口飲み、まだまだ淹れ方に改善点があるなと思いつつも話を続ける。

 

 

「それで、今回の模擬戦で何かは掴めたのか?」

 

 

 東は事情を迅から聴いている。当然、今回の攻撃手(アタッカー)限定模擬戦闘に関する内容と目的も聞かされている。何せ東はメインディッシュを送り届けるウェイターとしての役割を担っているのだ。

 東から話しかけられた修はやっと我に返る。

 

 

「え、あ。……はい。どうにか天眼の能力を少しばかりコントロールする事が出来ました」

 

「ほぉ。具体的には?」

 

「簡単に言えば精度の割合を変える事が出来るって感じだと思います。今までは発動したらただ見えるだけでしたけど、今は意識すればはっきり見えると言いますか、そんな感じです」

 

「なるほど。つまり解像度を上げたり下げたりすることで、特定の性能を上げられるってところだな」

 

 

 一度視覚共有している東だから言えることだが、解像度の強弱をつける事が出来なくても修の天眼は充分高性能な能力である。あれが何も加工されていない原石の状態であるとすれば、磨き上げた状態まで持っていけばどれほどの力を発揮出来るか想像すらできない。それこそ神のみぞ知ると言う所だ。

 けれど、狙撃戦後に風間隊の隊室で迅は言っていた。

 

 

『メガネくんが生き延びる可能性は限りなく低いけど二通りあった。それは天眼の能力によるものだと思う。上手く口に出来ないけど、二つとも今はまだ開眼されていない能力だと思うんだ』

 

 

 その能力については詳しい事は聞かされていないが、今回の模擬戦で得られたモノは新たな能力ではなくそれを扱う手段であった。つまり、未だに迅の暗躍は達成されていないと言う事になる。

 そもそも迅が視た何かしらの能力が開眼した切っ掛けが分からない以上、お手上げもいいところであるのだが、修が生き残れる為に迅は可能な限り手を尽くすと言っている。これから起こる試練もその為のショック療法の一つだ。

 

 

「オサムだけ一人で楽しんでずるいぞ。俺も混ざりたかった」

 

 

 3の口でブー垂れる空閑を慰めつつ、迅は話を継ぐ。

 

 

「まぁまぁ。遊真は玉狛支部に戻ればいくらでも出来るでしょ」

 

「そうだけどさ。あれ以来、(ブラック)トリガーを使っちゃダメって言われたし。今のオサムと本気で戦いたいぞ」

 

 

 それを聞いて当然の如く焦るのは修であった。

 

 

「や、止めてくれ。空閑の本気に僕が敵う訳ないだろ。やるならせめてノーマルトリガーにしてくれ」

 

「そこで模擬戦をしたくないって言わない所が、感化されたんじゃないメガネくん」

 

「はっ!?」

 

 

 指摘されて気づく。今までならば無理だダメだと断る事を第一に考えたのだが、今では妥協点を見つけてはなんだかんだ言って戦おうと思考が働いている。強くなる為には良い傾向であると言えなくもないが、少しずつ戦闘狂になりつつある自分にほんの少し嫌悪感を抱く修であった。

 

 

「なはは。俺も迅の考えている通り、使える機会があればどんどん使った方が良いと思う。人間の体って単純でな。鍛錬を休むと取り戻すのに三日かかると言われている。少しの時間でもいいから、毎日使う事で掴める何かがあると思うぞ」

 

 

 特に使いすぎる事で戦う事が困難になる能力の鍛錬は安全が確保されている状態でやるのが一番の安全策である。今回の様にダウンしてもボーダー内であればフォローしてくれる者もいるだろう。必要ならば今回の様に仮眠所として場所を提供してもいいと東は思っている。

 

 

「……まぁ、三雲くんの事だから引き際は弁えていると思うが。どこかのお調子者が煽らない限りな」

 

 

「そこで俺を見るのは止めて、東さん。俺だって非常に心が痛んだんだよ。けど、こう仕組んだのはメガネくんの為でもあるし、他の人達の為でもあるんだから!」

 

 

 第一の目的として強者と戦う事で修自身の自力が上げる事であったが、修と戦う事で視えなかったモノを見直せるいい機会になるとも考えたのだ。

 天眼の能力に強化視覚がある。修はそれを使用する事で極限まで動きを遅く見える事が可能になる。隙があればそこを突き、難しいならばカウンターを試みるのが近接戦闘の対処方だ。最も今回の様にテレポーターがあればその限りではないが。

 相手は自分の戦い方を、修を通す事で見つめ直せる事が出来ると考えた。自分では感じられなかった隙があれば対処の一つも考えられる。大規模侵攻の予知がなければじっくりと研鑽をつませてやりたい所であるが、時間はそれほど多くはないのが悩みどころである。

 

 

「はい、迅さんには感謝しています。この眼に関しては正直に言って持て余していました。戦闘員として未熟な僕が数多くの実力者と渡り合える事が出来たのも、迅さんがセッティングしてくれたからだと思います」

 

 

 自身が未熟な事は重々承知している。トリオン量が少ない自分がA級戦闘員に這い上がる為にはどうしても誰にもない何かを手に入れる必要があったと思っていた。幾ら空閑と千佳の性能がずば抜けているからと言って、それに甘えていたら自身の目的なんか到底叶わない。空閑を巻き込んだ身としては、何としても彼の横に立てるだけの力を手に入れる必要がある。

 

 

「そう言ってくれると気持ちが楽になるよ。……実は、もう一人戦って欲しい相手がいるんだけどいいかな?」

 

「随分と急だね、迅さん。これ以上の戦闘が出来ないのは迅さんも分かっているはずだよ。まだオサムを戦わせるつもり?」

 

 

 相棒としてはこれ以上戦わせる訳にはいかない。そもそも、少しばかり休んだからと言ってトリオン量が全快する訳ではないのだ。

 

 

「それはもちろん分かっている。今回は訓練室だから、トリオン量が消費される事はない。それなら問題ないだろ?」

 

「……いったい、どなたがお相手してくださるんですか?」

 

 

 その問い掛けを待っていました、と言わんばかりに迅の口端が持ち上がる。

 

 

「メガネくんには秀次の相手をしてもらう。(ブラック)トリガー、風刃の鍛錬相手としてな」

 

 

 直後、修が盛大に声を上げたのは言うまでもなかった。

 

 

 

***

 

 

 

 最近、木虎の様子がおかしい。任務帰りの嵐山准は相棒である時枝充に相談を持ちかけていた。

 

 

「嵐山さんの気のせいでは? 僕が見る限り、木虎は普通でしたよ?」

 

 

 一緒に広報任務をした時、隊長の嵐山が言う様なおかしい点は見受けられなかった。

 けど、気にならなかった点がない訳でもない。時枝は思い出したように「あ、でも」と言い続ける。

 

 

「以前、賢をボコボコにしていましたから……。もしかすると――」

 

 

 狙撃戦の後、偶々あった木虎に佐鳥はフルボッコされている。その時、大方佐鳥が木虎に変な事でもしたのだろう、と勝手に思っていた。

 

 

「それだっ!!」

 

 

 ただの推測で確証がないのに嵐山は「なぞは全て解けた」と言わんばかりに破顔する。その笑顔にあてられたのかすれ違った女性隊員――恐らくC級隊員だろう――が熱っぽい目で見つめていた。嵐山准、知らぬうちに一人の女性のハートを射止めた瞬間である。

 

 

「早速賢に聞いてみよう」

 

 

 思い立ったら即行動。自身の携帯電話を取出し、原因を究明するために佐鳥に連絡を入れようとして――動きを止めた。

 

 

「……嵐山さん?」

 

 

 どうしましたと続けようとした時、彼の視線が遠方に向けられている事に気付く。原因を探る為に嵐山の視線の先を追って見てみると、そこには迅と空閑に引っ張られている修の姿があった。

 

 

「ま、待ってください迅さん。無理ですムリです、無理ですから。僕じゃ実験台にもなりませんから」

 

「だいじょうぶ大丈夫、メガネくん。俺のサイドエフェクトが言っているから」

 

「僕のサイドエフェクトが全力で逃げろと言っています」

 

 

 随分と珍しい光景に唖然とする時枝であるが、直ぐに我に返って嵐山の方を見る。ご兄弟を救ってくれた恩をきっかけに、嵐山は修の事を気にっている。そんなお気に入りの修があんな目に合っているのを目の当たりにしたら、嵐山の行動はただ一つ。

 

 

「ま、待っていろ三雲く――」

 

「――ダメです、嵐山さん」

 

 

 駆け付けようとする嵐山の腰に手を回し、全力で阻止する時枝。

 この後、任務の報告を提出する為の書類を作成しなくてはならない。肝心の嵐山がいなければ仕事が進まないのは必定。

 それに、ここで嵐山を修の元へ向かわせたら大変な事が起こりかねないと第六感が警告を出している。

 だが、A級ホイホイの第一被害者である嵐山の思いは伊達ではない。これぐらいの障害などものともせずに一歩一歩前進していく。傍から見たら時枝を引き摺りながら歩いているので、物凄く滑稽に見えてしまうが。

 

 

 

***

 

 

 

 捕えられた修を救出するために、嵐山は勢いよく訓練ブースの戸を開くとそこには信じられない光景が広がっていた。

 

 

「……あれ? 嵐山?」

 

 

 予想外の乱入者にいち早く気付いた迅が呼び掛ける。異様な光景を作った元凶である迅を発見した嵐山は未だに時枝を引き摺りながらもその犯人の元へ駆け付ける。

 

 

「迅! これはどう言う事だ」

 

「いや、どう言う事って。それは俺が聞きたいんだが?」

 

 

 そもそも訓練ブースは関係者以外立ち入り禁止する様にセキュリティーをロックしたはず。それにも関わらずどうやって侵入したのか不思議で仕方がない迅であるが、そんな事など露知れず嵐山は刃を交えている二人を指差せて言う。

 

 

「なんで、三雲くんと三輪が戦っているんだ!?」

 

 

 

***

 

 

 

 空を描く二条の光が幾多もぶつかり合う。三輪が両断せんと弧月を振るうと修も負けじと弧月でいなし、返しの刃で反撃にかかる。しかし、修の弧月は三輪からしてみれば欠伸が出る程の遅い斬撃。簡単に払って修の顔面に斬りかかる。

 既に一分近く続いている。お互いに使用しているトリガーは弧月のみ。純粋な剣術勝負に迅は「待った」を掛けたかったが、二人の醸し出す雰囲気がそれを許さない。

 

 

「前々からお前の事が気に入らなかった、三雲」

 

 

 自身の相手、三雲修は玉狛支部に所属している。当然、ボーダーにある派閥は玉狛派寄りであろう。対する三輪は城戸派。近界民は全て殺せ派と近界民でも仲良くなれる奴がいるはず派は対立関係にある。

 第一次大規模侵攻で姉を殺されている三輪からしてみれば近界民など全て敵である。その敵と「仲良くしよう」を体現している修も、三輪からしてみれば憎むべき敵だ。

 

 

「だから弧月以外は使わないと?」

 

「思い上がるな。お前程度、弧月だけで充分なんだよっ!!」

 

 

 三輪は修が強化視覚のサイドエフェクト持ちであることを知らない。それ故に新米B級としか三輪は修の事を認識していなかった。

 研鑽を続けた弧月の一撃を修が受けきるはずがないと思っていたが、何度も必殺の一撃を放とうとも三輪の弧月は修のトリオン体まで届く事はなかった。

 

 

「弧月だけで倒せますか?」

 

 

 それは安直な挑発な言葉であった。普段の三輪ならば簡単に挑発されないのだが、相手が玉狛の人間ならば話は別だ。抑え付けていた感情を露わにさせ、怒りに身を任せたまま弧月で修を斬りかかる。

 

 

「近界民は大切な場所を! 家族を奪って行った。お前は! そんな奴らを許せるのか」

 

「だからと言って、空閑や全ての近界民がそうだと断定するのは早計です。三輪先輩は全ての外国人が同じだと言っているのと同じことです」

 

 

 互いに刃を押し付けながら感情をぶつけ合う。

 初めは二人とも戦う気がなかった。互いに適当な事を言ってこの場をやり過ごそうと思ったのだが、空閑を見た事で三輪の態度が豹変したのだ。

 

 

『勝手にうろつくなと言ったはずだ近界民。俺の気が変わらない内にさっさと失せろ』

 

 

 第一声がそれであった。空閑は三輪の言葉に対して気にしてはいなかったが、彼の相棒を自負している修の琴線に触れる事になってしまった。

 

 

『撤回してください、三輪先輩。あなたが近界民を恨んでいる事は知っていますが、空閑を他の近界民と一緒にしないでください』

 

 

 年下の、しかも何も奪われた事がないであろう雑魚に反論されたのが気に喰わなかったのだろう。更に修は玉狛派だ。三輪の怒りが噴火の如く膨れ上がるのも無理はなかった。

 互いににらみ合った二人は無言で弧月を抜き、何の合図もなしに斬り結んでいく。初めは止めようと試みた東――三輪の説得役として同行していた――であったが、迅によって止められてしまう。それから嵐山たちが来るまで弧月のみの剣術勝負が続いていたのだ。




水と油、同じ三つながりなのに三雲と三輪の印象と個人的にそんな感じだったりします。
原作だったら衝突なんかしないと思いますが、自分的には互いの意見をぶつけ合って衝突して欲しいなと言う願望が出たのかもしれません。

ほんと、どうしてこうなった?


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SE修【天眼】VS三輪【NTver】②

リアルが忙しく&三輪が全然言うことを聞いてくれずに苦労しました。

早めに三輪戦もどうにかしないといけませんね。

けど、ずいぶんと執筆していなかったから書き方を忘れちゃったよ(オイ
また外伝でリハビリをしないとダメかな、このデキじゃ。


ちなみに外伝は対三雲戦対策会議なんて書いてみようかなぁって……。
うん。人が多すぎて死ぬ未来しか見えないや。


 必殺の一撃を叩き込んだはずなのに、自身の弧月は修の弧月によって受け流されてしまう。受け流した直後の隙を突いて必殺の一撃を叩き込まれる三輪は辛うじて払いのけ、返しの刃で修の腕を切り離さんと振るうのだが、その一撃を天眼で視きられていたようだ。崩された体勢のままにも関わらず何の躊躇もせずに後ろに跳んで三輪の弧月の軌道から脱出したのだった。

 

 

「(こいつ……)」

 

 

 戦いは直ぐに終わると思っていた三輪にとって、これは大きな誤算であった。噂はちょくちょく聞いてはいたが、これほどまでの立ち回りが出来るなど想像もしていなかったのである。戦いの前に三雲の模擬戦をログで確認しなかった自分の迂闊さに今さらながら後悔するのであった。

 だからと言って、修が脅威であるかと聞かれては否であった。確かに受け流しや立ち回りの術は侮りがたいモノがある事は認めるが、攻撃面に関してはお粗末もいいところ。幾ら攻撃をいなした直後のカウンターを狙った所で、修の視線によってどこを狙っているのか丸わかりであった。テレフォンパンチも当然の攻撃に三輪が易々とダメージを負うはずがない。

 弧月同士の純粋な剣術勝負はこう着状態に陥ってしまった。だからと言って、三輪は短銃を出すつもりはない。相手は自分よりも実戦経験も乏しい、実力だってはるかに上であると自負している。そんな自分が先に他のトリガーを使う事はプライドが許さなかった。

 本来ならばそんなプライドなど考えずに遠慮なく叩き込んでいく方が正しいのだが、そこは感情の問題である。自分から弧月以外は使わないと言った以上、なにがなんでも弧月のみで勝たなくてはいけない。

 

 

「(くっ。弧月だけでは三輪先輩に勝てないか)」

 

 

 ブレードトリガー一つで三輪に勝てない事など初めから分かっていた。そもそも弧月の経験自体が修にはほとんどない。弧月一本で三輪に勝利するヴィジョンが未だに視えなかったのである。

 

 

「(だったら――)」

 

 

 距離を一旦空けた修から攻撃を仕掛ける。今までカウンターを狙っていた修の戦い方から見れば珍しい事であった。

 予想外の特攻に警戒した三輪は返り討ちを試みて、真直ぐ飛び込む修の一撃を見極めんと目を凝らす。

 一閃――と思いきや、薙ぎ払ったはずの右腕には弧月は握られていなかった。払う直前に弧月を離し、器用に左手で掴み直して時間差の攻撃を繰り出す。

 

 

「っ!?」

 

 

 想像もしていなかった一人時間差攻撃に驚きはしたもの、三輪は冷静に対処して修の弧月を叩き落とす。その直後、修の胸ぐらを掴んで背負い投げの要領で力尽くで投げ落としたのだった。

 

 

「がっ!」

 

 

 咄嗟の反撃に対処できず、地面に叩き付けられた修に間髪入れる事無く弧月の切先を修の顔面に突き放つ。身体を捻る事で辛うじて回避出来たが、この絶好な機会を三輪が逃すわけがない。地面に突き刺した弧月に体重を預け、修の腹部に強烈な蹴りを御見舞いするのだった。蹴られた修の体は宙を舞う。いま弧月で斬り付ければ回避するどころか防御する事すらままならないはずだ。

 

 

「(終わりだ)」

 

 

 三輪の弧月が修の体に触れようとした直後、いたはずの修の姿が忽然と消えてしまう。

 

 

「テレポーターかっ!?」

 

 

 あのままでは倒されると判断した修は三輪の一撃を躱す為に使うのを渋っていたテレポーターを使用する。移動先は三輪の背後。気配を感じ取った三輪は振り向き様に弧月を振るうのだが、それよりも早く修の拳が三輪の顔面を捉える。レイガストとスラスターを利用した右ストレートによって後方に流されていく。膝から下に力を込めて倒れる事は免れたが今の一撃は三輪にとって色んな意味で大きなダメージを受ける事になってしまう。

 

 

「みくもぉぉ」

 

「すみません。本来ならば僕も弧月のみで戦いたかったのですが、それは無理そうです。ですので、いまの僕が持つ全てを使ってあなたを倒します」

 

「寝言は寝てから言え。お前が俺に勝てるはずがない」

 

「いえ、勝てます。今のあなたならば――」

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 ブレードモードに変化させたレイガストを振り被りながら再び突貫する。

 三輪はこれまで修が使ってきたトリガー構成から同じような不意打ちがない事を予測して、今度は自身も迎い討って出たのだった。

 もはや何度目か分からないほどの鍔迫り合いが行われる。しかし、修は力勝負になるのを嫌ってかレイガストを離すとテレポーターで後方上空へ瞬間移動したのであった。

 

 

「また、テレポーターかっ!」

 

 

 主を失った修のレイガストを無造作に払い飛ばし、気配を感じる後ろへ振り向くと――。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 抜刀すると同時にオプショントリガー旋空によって引き伸ばされた弧月の刃が三輪を襲う。修の旋空は他の攻撃手(アタッカー)陣と比べても威力は愚か速度も低い。不意打ちされてはしまったが、距離と旋空の速さから考えて充分に対処できる時間があった。

 修の旋空弧月の軌道上に弧月を突き出して受け止める体勢を取った三輪に、間髪入れる事無く二度目の旋空を解き放つ。

 

 

 

 ***

 

 

 

 試合の流れは修に傾き始めていた。相手がA級の三輪にも関わらず奮闘している修の姿に嵐山は大興奮していた。

 

 

「す、すごいよ三雲くん。じ、迅! どんな指導をしたら、あんなに強くなるんだ!?」

 

 

 噂は色々と耳にしていたが、実際に修が戦っている所を見るのは風間戦以来である。まさか短時間であそこまでの戦闘能力が向上した事が信じられなかった。

 きっと、暗躍エリート様の教育によって向上されたのであろう、と興味を持った嵐山が迅に問うてみると彼は「俺は何もしていないよ」と苦笑いを返すのみ。

 

 

「落ち着いてください、嵐山さん。確かに三雲君の立ち回りは見事ですが、三輪先輩は相変わらず弧月一本のみ。もし、他のトリガーを使われたら幾ら三雲君で勝つのは難しいでしょう」

 

「時枝の言うとおりだな。秀次には鉛弾(レッドバレット)がある。弧月しか使わないと言ったからこそ、三雲君は旋空弧月を軸にして遠・中距離戦にシフトしたと思う。だが、本来の秀次は万能手(オールラウンダー)だ。変なプライドさえ固執しなければ、形勢は簡単にひっくり返るだろう」

 

 

 東の言うとおりである。本来の三輪の戦い方は弧月と短銃型の弾丸トリガー通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)を併用して戦うスタイルだ。本来ならば短銃型のトリガーを使って応戦するところであるのだが、頑なに使おうとはしない様子。あれでは距離を開けて戦える修が有利になるのは当たり前の話だ。

 

 

「だが、メガネ君の旋空弧月はお世辞に言っても威力は低いし遅い。それ相応の工夫をしなければ当てる事は難しいな」

 

「迅。この後の出来事をサイドエフェクトで視えているんだろ?」

 

「まぁね。けど、どうかな? 俺としてはその未来を裏切ってくれるとうれしいんだけど」

 

 

 嵐山的にはこの後の展開を教えて欲しいものであるが、早々に易々と教えてくれない事は知っている。表情から察するに拙い方向に進む事はないと思われるが、それでも未来ある後輩達の行く末を心配してしまう。

 

 

「そもそも、何であの二人が戦う事になったんですか? まさか城戸派と玉狛派の代理戦争という訳ではありませんよね?」

 

 

 時枝の指摘にハッとなる嵐山。そもそも二人がこうして戦っている理由を知らない。経緯を聞く前に二人の戦いに見入ってしまって、聞くに聞けない状況であったのだ。

 

 

「いやいや。そんな大したことじゃないから、大丈夫だよ。何て説明したらいいんだ? 簡単に言えばメガネ君を強くさせる為に必要な登竜門ってところかな?」

 

「要領を得ませんね。そんな事でわざわざ三輪先輩と戦わせますか? それに、最近の三雲君の騒ぎも察するに迅さんの仕業とお見受けしますが、どうでしょう?」

 

「なにっ!? そうなのか、迅!!」

 

 

 時枝の指摘に嵐山が詰め寄る。具体的な事は知らないが、色々と修の噂が出回っている事だけは知っている。仕事の忙しさから噂の真意までは突き詰められなかった。

 迅は気まずそうにソッポを向き「まぁ、そうだね」と答えた。

 

 

「あまり迅を責めるな、二人とも。こいつにもこいつなりに考えがあるからこその行動だ。暗躍エリートとして動いていると言えば分かるだろ?」

 

 

 気まずい空気が立ち昇りそうになったので、東がフォローに入る。事情を知っている彼だからこそ言える言葉であった。

 

 

「東さんは知っているんですか?」

 

「まあな。それを聞いたからこそ協力もしている。未来ある若者達を危険に合せる訳にはいかないからな」

 

「いやだな、東さん。東さんだって全然お若いじゃないですか」

 

「嵐山に言われても嫌味にしか聞こえないよ。……っと、秀次もそろそろ本気を出すみたいだな」

 

 

 修が旋空弧月を主軸に戦う事を嫌ったのだろうか。三輪が「ちっ」と舌打ちをしながら、今まで出す事のなかった短銃型トリガーを使って応戦を始めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 銃口から射出された弾丸、通常弾(アステロイド)が修の旋空弧月を掻い潜って飛来する。流石に無視して攻撃を続ける事が出来なかったのか、幾度も繰り出していた旋空弧月を中断して、迫ってくる通常弾(アステロイド)を弧月で叩き斬る。

 その間に三輪は銃口を向けて通常弾(アステロイド)を放ちながら距離を詰めていく。走りながらの銃撃は命中精度が落ちてしまうが練度が高い三輪の射撃能力は伊達ではない。正確に両腕両足、眉間に関節部と狙った場所に飛んで行く。

 

 

「(流石A級。動きながらも命中精度は衰えないか)」

 

 

 鷹の眼で自身に着弾する場所をいち早く察し、避けきるのが難しいと判断して弧月で叩き落としていく。けれど、弾丸の数が多いためにその場から身動きを取る事が出来ずにいた。

 その結果、三輪と修の距離はゼロになる。二人の弧月が再び衝突する。

 

 

「弧月以外は使わないのではなかったのですか?」

 

「黙れ。いつまでもお前なんかに付き合いきれないだけだ。直ぐに終わらせてやる」

 

「いーえ。あなたが風刃を使うまで、僕は諦めませんっ!!」

 

 

 力づくで三輪を突き離す。直後、無造作に弧月を放り投げて柄を蹴り付ける。

 弾丸となった弧月は三輪の眉間へ一直線に飛ぶ。反射的に切上げて弧月を払いのける事に成功したのだが、既に弧月が待っていた宙に修がテレポーターで移動していた。

 

 

「なにっ!?」

 

 

 弧月の柄を掴みとり、そのまま三輪の右腕を切裂く。弧月を握っていた右腕が負傷したが至近距離で通常弾(アステロイド)を心臓部に撃ち放つ。しかし、既に修は再びテレポーターを使って距離を開けていた為に通常弾(アステロイド)は明後日の方向へと飛んで行くのみだった。

 

 

「こいつ……」

 

 

 相手はB級成り立ての新米正隊員だ。

 それにも関わらず苦戦を強いられている事に苛立ちが抑えきれなかった。

 

 

「秀次! 熱くなるな。もっと冷静になれば対処できるはずだ」

 

 

 傍観を決め込んでいた東から助言が飛んでくる。本当はそんな事をするつもりではなかったのだが、元チームメイトの秀次があまりにもらしくない戦いぶりを見せているので言わずにいられなかったのだろう。

 

 

「(東さん)」

 

 

 自分達の戦いを元隊長である東が視ている事を今さらになって思い出す。

 認めたくないが玉狛派の修に怒り任せて戦って周りが見えていなかったようだ。

 

 

「(……いいだろう、認めてやる。お前がそこそこ強いと言う事を。そして!)」

 

 

 

 ――トリガー・解除(オフ)

 

 

 

 戦闘中にも関わらず生身へ換装した三輪は城戸から渡されたトリガー風刃を取り出す。

 

 

「お前の策略に乗ってやる、迅っ!!」

 

 

 

 ――ブラックトリガー・風刃起動

 

 

 

 玄界(ミデン)に三本しかない(ブラック)トリガーを起動させ、風刃の能力の遠隔斬撃を修へ叩き込む。




戦いの方が気楽に書けるっておかしいかな?
まぁ、戦闘描写がうまいわけではないんですがね。

そう言えば、今回は空閑がめちゃくちゃ空気だな。
てか忘れていた(マテ


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SE修【天眼】VS三輪【BTver】

はい、BT戦です。風刃の描写が難しい。てか、三輪のキャラが掴みにくい。
やはり、攻撃手修だと攻撃手段が限られて難しいことがわかりました。

弧月ではなくスコーピオンにするべきだっただろうか。



 風刃。形状は弧月に酷似しているが、その性能は現存のブレードトリガーを軽く凌駕している。弧月以上の斬れ味と耐久性を誇り、スコーピオンよりも軽い。それだけでも武器として魅力的であるが、風刃の真価は別の所にある。

 

 

「っ!?」

 

 

 地を這う様に斬撃が修に襲い掛かる。数は三つ。速度重視の通常弾(アステロイド)よりも飛来スピードが速く強化視覚で高めた視力でもやっとであった。

 

 

「(やっと、風刃を起動してきた。……ここからが本番だ)」

 

 

 出し惜しんでいた風刃の起動を確認した修は気を引き締め直す。何せ、相手は玄界(ミデン)に三本しかない(ブラック)トリガーの一つ、風刃だ。

 

 

「(風刃の性質は迅さんから聞いていたけど、やっぱり厄介だなこれは)」

 

 

 間髪入れる事無く更に三つの遠隔斬撃が襲い掛かってくる。

 風刃の真価はこれに合った。目に届く範囲ならば斬撃を物体に伝播させて攻撃を行う事が可能である。今の三輪はどこに居ようとも修に攻撃を当てられる事が可能である。

 

 

「望み通り、風刃を起動してやったぞ」

 

「はい、ありがとうございます。これで本気になって三輪先輩を倒せます」

 

「やれるものならやって見ろ」

 

 

 会話をしている間に斬撃用の帯をリロードし、再び修に向けて遠隔斬撃を放つのであった。

 

 

 

***

 

 

 

 三輪の風刃起動に一番驚愕したのは嵐山隊の二人であった。

 

 

「……は? なんで、三輪がアレを使っているんだ?」

 

 

 風刃を本部に返却した事は迅本人から聞かされていた事なので知ってはいたが、次の持主が三輪になって居たことは聞かされていない。当然の如く迅に詰め寄る嵐山であるが、彼の部下である時枝が止めにかかる。

 

 

「落ち着いてください、嵐山さん。恐らくはこれが戦いの目的なんでしょう。三雲君の実力を向上すると同時に、三輪先輩に風刃を慣れさせるためなんだと思います。違いますか、迅さん」

 

「さすがだな、時枝。その通りさ。まあ、俺の目的はもう一つある所なんだけどね」

 

 

 風刃は元々迅が使っていた(ブラック)トリガーであるが、横で観戦している空閑を玉狛に引き入れる為に取引材料として本部に譲っている。今後の未来の為に是非とも風刃の使い手を早めに決めたかった迅としては、これが良き未来へ向かうファクターとなる事を祈るばかりであった。

 

 

「……どうだ、迅」

 

 

 遠隔斬撃をテレポーターで避け続ける修を見つつも東から問われる。主語がない質問であったが、何をいいたいか知っている迅は「まだですね」と首を横に振った。

 

 

「(なんだ? いったい、何が足りないんだ。メガネくん)」

 

 

 今の天眼の能力も破格な性能であることは認めるが、それでもまだ足りない。決して三輪と戦う事が無駄とは言えないが、本来の目的は天眼の性能を更に高める事にある。けれど、一向にその兆しが見られない。迅のサイドエフェクトが合ってしても、その未来の要因を垣間見ることが出来ずにいた。

 

 

「落ち着け、迅。焦るのは分かるが、今は目の前の事に集中しよう」

 

 

 表情に出ていたのか、東が軽く肩を叩いて諭す。修の命に係わる事と知れば焦る気持ちも分からなくはないが、焦った所で事態が好転する訳ではない。珍しく苦虫を噛み潰している迅に「今は戦う三雲君の勇姿を見守ろう」と告げる東であった。

 

 

「……オサムの奴、随分と戦い難そうだな」

 

 

 終始、黙って修の戦いぶりを見守っていた空閑が初めて言葉にする。その感想に時枝が返す。

 

 

「仕方がないと思うよ。三雲君の戦いを見た事がありますが、彼は弾丸トリガーを駆使して闘うスタイルのはずです。彼がなんで攻撃手(アタッカー)構成のトリガーで戦っているのか分からないけど、あれでは三輪先輩の風刃を攻略するのは難しいんじゃないかな」

 

「確かにな。レイガストを使っていたが、あれはどちらかと言うと接近する為の盾であり、奇襲する為の槍のはず。その隙を突いて通常弾(アステロイド)を有効に活用するからこそ活かせた戦闘スタイルのはずなんだが」

 

 

 時枝と嵐山は同時に迅の方向へ視線をやる。二人の中では既に答えを得ていたのであろう。どうせ、この暗躍エリート様が修に何かしら施したのであろうと。

 

 

「はいはい。俺が原因ですよ。だから、二人してそんな目で見ないでくれないかな」

 

「迅、お前なあ」

 

「悪手も良いところですよ。どんな理由でこうなったのか知りませんが、使い慣れていないトリガーで勝てる程、三輪先輩は甘くありません」

 

 

 事実、今の修は攻めあぐねていた。テレポーターで奇襲をかけて弧月を振るっても、気配を察知して即座に対処される。それだけならノーマルトリガーの時と一緒であるが、刃を交えた時に修の弧月の刃が欠けたのだ。このまま刃を交え続ければいずれ壊されてしまう。それを嫌った修はグラスホッパーで後方に跳ぶと同時に旋空弧月で牽制を図るのだが、風刃の一撃によって両断されてしまう。

 

 

「厳しいな。幾ら(ブラック)トリガーは他のトリガーを使う事が出来ないとはいえ、あれでは歯が立たないぞ、迅」

 

「分かっている。けど、メガネ君はこの程度の壁など乗り越えて貰わないと困るんだよ」

 

 

 自分がどれだけ無謀な事をしているか、そんな事は迅自身が一番自覚していることだ。けれど、運命の瞬間まで出来るだけの手段は講じておく必要がある。その為には修に恨まれようとやらなくてはいけないと考えている迅であった。

 

 

 

***

 

 

 

 圧倒的な戦力差に修は未だにダメージを与える事が出来なかった。それだけならまだしも、最初に刃を交えてからと言うもの、三輪の一メートル範囲に近づく事すら困難になってきている。

 

 

「(……マズい。このままいくと)」

 

 

 今のトリガー構成では練れる戦略も多くはない。テレポーターを主軸とした奇襲戦も決定的なダメージを与える事が出来ずにいた。だからと言って、遠距離戦に強みがある風刃とやり合えるような手札は修にはない。変化弾(バイパー)炸裂弾(メテオラ)などがあればやりようがあったはずだが、今はないものねだりをしている場合でもない。

 

 

「(チャンスは風の帯を再装填する瞬間だけど、僕の弧月だと――)」

 

 

 トリオン量によって遠隔斬撃を連続で行える回数が決められていると迅から聞かされている。戦いの様子を見ている限り、三輪が連続で放てる回数は六発であると推測出来る。

 襲撃を掛けるならば、再装填をしている間にやるのが良策であるが、接近戦に持ち込んでも風刃の斬れ味の前に歯が立たない始末だ。

 

 

「どうした、三雲。本気で俺を倒すんではなかったのか?」

 

 

 防戦一方の修に挑発を投げる。あれほど強気な発言をしたのだ。何かしら風刃の対処法があると思っていたのだが、その気配を一向に見せない。言葉を返さない修に三輪は言葉を続ける。

 

 

「お前たちが何を狙っているのか俺の知った所ではないが、正直に言って時間の無駄だ。風刃の使い方も分かってきたところだし、そろそろ仕留めるぞ」

 

 

 五条の風の帯が斬撃となって扇状に拡散される。この短い間に風刃の特性を把握したのだろう。

 

 

「っ!!」

 

 

 自身に襲い掛かる遠隔斬撃を躱そうと目論むが――。

 

 

「(安全地帯がない)」

 

 

 風刃の斬撃軌道から危険地帯を算出してテレポーターで躱すつもりが、扇状に散ばられた遠隔斬撃によって安全地帯が三輪の後ろしか確認出来なかった。ならば三輪の後ろに転移すればいい話だが、放たれた斬撃は五つ。まだ全ての斬撃を開放していない。三輪の背後に瞬間移動したら間違いなく最後の一撃を叩き込まれるはずだ。

 

 

「(だったら――)」

 

 

 逃げる選択肢がないならば逃げなければいい。

 弧月の剣先を三輪に合わせ、襲い掛かる風刃の斬撃に挑む様に地面を蹴る。

 

 

「(向かって来るか)」

 

 

 第三の選択を取った修の動きに合わせて、三輪も風刃を振り上げる。もしも、修が風刃の斬撃を嫌って自身の背後に回って転移したならば、その直後に風刃の遠隔斬撃を叩き込むつもりであった。扇状に解き放った遠隔斬撃はあくまで修の動きを制限させるための陽動であったのだ。

 一直線に向かって来る修の動きをにらみつつ、最後の一撃がいつでも放てるように準備する。恐らく修は自分へ飛来する斬撃を躱して、その勢いのまま攻撃をするつもりだ。ならば、攻撃の機は躱した直後。例え致命傷を与える事が出来なくてもダメージを与える事は出来る筈だ。

 

 

「(東さんが見ているんだ。格好悪い姿は見せられない。それに――)」

 

 

 理由はどうあれ三輪は高性能のトリガー、(ブラック)トリガーを使用しているのだ。それに加えて修はB級隊員。圧倒的な戦力差で負けてしまったら自分自身を許せなくなってしまう。

 

 

「(――こいつ程度で苦戦するようでは、近界民(ネイバー)を殺すなど到底不可能だ!)」

 

 

 第一次大規模侵攻時に三輪は最愛の姉を失っている。あの時、自分にもっと力があれば姉を護る事も出来たはずだ。だからこそ、この戦いは負けられない。負ける事は許されない。目の前に迫りつつある修程度、軽く捻らなければ復讐など出来る筈がない。

 修が一条の遠隔斬撃と接触しようとしている。必ず修は何らかの方法で斬撃を躱して、攻めに転じる筈だ。

 

 

「(さぁ躱して見せろ。その時こそ、お前の……なに?)」

 

 

 次の瞬間、修の右腕が宙を舞う。最小限の犠牲を払ったまま突貫する事も予想はしていたが、まさか攻撃の要であるはずの弧月を掴んでいた腕を犠牲にさせるとは思ってもみなかった。

 だが、三輪は知らない。本来の修が使うブレードトリガーは弧月に在らず。

 

 

「レイガストっ!!」

 

 

 左腕にレイガストが展開される。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

 

 被弾した直後にスラスターを起動して急加速。三輪の一瞬の思考停止を狙って真向からの強襲を図ったのだ。

 

 

「っ!? な、舐めるなぁっ!!」

 

 

 最後の遠隔斬撃を解き放つ。

 

 

 

***

 

 

 

「……今日は悪かったな、秀次」

 

 

 修との闘いを終えた秀次に向かって、迅は謝罪と礼を述べる。

 

 

「勘違いするな。城戸指令から、風刃を慣らす為に訓練をしろと言われたまでだ。今回はたまたま、貴様の利害と一致しただけだ」

 

「それでもいいさ。俺が望んだ結果にはならなかったが、今回でお前が風刃に慣れてくれればいいさ」

 

「……三雲修。アイツは何なんだ。最後のあれは正気の沙汰じゃなかったぞ」

 

「はは。お前もそう思う? いやー、見ていた俺も驚いたよ。まさか、両腕を犠牲にしてお前に詰め寄ろうとするなんてさ。やっぱ、慣れないトリガーでお前と闘わそうとしたのは間違っていたかな」

 

 

 あの時、修のレイガストによる突貫は三輪に届かなかった。三輪の攻撃の方が少しばかし早く、レイガストを掴んでいた方の左腕も風刃によって切り裂かれてしまったのだ。

 本来ならばこの時点で勝負は決まっていたが、信じられない事に二人の間に弧月が飛び込んできたのだ。

 

 

「まさか、左腕が斬られた瞬間にグラスホッパーを起動して、飛んでしまった弧月を呼び戻すとか無茶苦茶もいい所だよな。あんな使い方を思いつくのなんて天眼持ちのメガネくんぐらいだろうさ」

 

 

 グラスホッパーの本来の使い方はジャンプ台だ。自身の足元に展開して跳躍し、空中軌道を可能にするための補助トリガーである。しかし、修は宙に舞った弧月の行く先にグラスホッパーを展開して、自身に舞い戻ってくるように作動させたのである。天眼があるからこそ出来た離れ業もいい所であった。

 

 

「だが、馬鹿げている。弧月を口にくわえて振るおうとするなど無謀もいい所だ」

 

「あ、あははは。あれには参った、本当に。きっと、玉狛に戻ったらみんなからお説教が待っているだろうね」

 

 

 三輪戦に関しての全容は既に全員へ送っている。アレを見て、何も思わない仲間達ではないはず。きっと、小南を先頭に全員からお説教される事は間違いないだろう。

 

 

「……三雲修に伝えろ」

 

「はい?」

 

「お前の考えを正しいと思うならば、次は全力で俺に向かって来いとな」

 

「しゅ、秀次がツンデレたっ!?」

 

 

 盛大に驚きの声を上げた迅に風刃を突き出したのは言う間でもなかった。

 




本当ならば、鞘を使った飛○御○流とかもやらせてみたかったが、自分のお頭では無理でした、はい。

なんか、色々と中途半端な気がしますが、これにて攻撃手編は終了です。
……さて、いよいよ射手編ですかね。

どうしましょう?(マテ

ちなみに案としてはいくつかあったりするんですよね。

案1:みんなで修をいじめよう (VS射手全員)
案2:指導と言う名のしごき  (一人ずつ)
案3:攻撃手陣の逆襲から守れ (射手対攻撃手の連戦)
案4:修の師は譲らないぞ   (射手VS射手)

などなど。
……GW中に投下できればいいなぁ。


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SE修【天眼】VS出水①

さて、いよいよ射手編って感じですね。
射手編は狙撃手編や攻撃手編と違って色々と趣向を変えていきたいと思います。

ま、何が変わるのかは見てからのお楽しみと言うことで(ェ

修の射手トリガーはどうしようかな。
やはり、ここはチーム戦を想定したトリガー構成にするべきか。
それとも個人戦のみに特化した構成にするべきか……悩むなぁ。


 継続は力なり、と言う言葉は修にとっても座右の銘となりつつある。特に天眼以外に特出した能力を持たない自分は地道な努力を続けて、経験を積み重ねていかなければいけない事は重々承知している。一日でも休めば取り戻すまでに三日はかかる事も頭の中では理解している。

 だからと言って、現状のこれはあんまりではないかなと嘆かずにいられなかった。

 

 

「……さて、いっちょ派手にやろうか。メガネくん」

 

 

 対峙する強敵、出水公平はやる気満々であった。絶対に勝たないといけない理由が彼にあるからだ。巻き込まれた修の立場からしてみればはた迷惑もいい所であるが、射手(シューター)の先輩と戦える機会など早々ないので口に出す事は出来ないが。

 

 

「よろしくお願いいたします、出水先輩」

 

 

 言いたい事は色々とあるけど、言った所で状況は変わらない。修は両手にトリオンキューブを生成して、戦闘態勢に移行する。

 

 

『出水先輩。分かっていると思いますが修に勝てないようでは修を任せる事は出来ません。まずは修に勝ってください』

 

 

 修の師である烏丸京介の声が部屋中に響き渡る。この戦いを仕組んだ張本人として端末を通してみているのであろう。その機能を使って呼びかけた内容に抗議の一つも出したかった所だが、それよりも早く出水が応えてしまう。

 

 

「分かってるって。射手(シューター)の先輩として、後輩に格好いいところを見せないとな」

 

「(ほんと、どうしてこうなったんだろうか)」

 

 

 時は少しばかり遡る。

 

 

 

***

 

 

 

 数多くの攻撃手(アタッカー)の猛者達と戦った修は木崎の助言もあり、翌日は自分が戦った模擬戦の過去ログを見て反省点についてまとめていた。

 

 

「テレポーターに頼り過ぎだな。米屋先輩の弧月を掻い潜りたいのは分かるが、奇襲一辺倒はいただけない。せっかく天眼と言う便利な能力があるんだ。ここは冷静に受け流して、懐に入るのが良い」

 

「そうね。それに弧月を無駄に投げ過ぎ、蹴り過ぎ。てか、よくあんな事が出来るわね、あんた」

 

 

 両脇を陣取る烏丸と小南からダメ出しをくらう。二人の言葉がグサリと突き刺さるが、事実だから言い返す事も出来ない。ちなみに弧月を投げたり蹴ったり出来ないか、と最初に言ったのは小南なんだがここでそんな事を言ったらヘッドロックをされるので絶対に言えないが。

 

 

「やっぱ、修に弧月は合わなかったのよ。だから、あれほどスコーピオンにした方が良いって言ったじゃないの」

 

 

 攻撃手(アタッカー)メインのトリガー構成を考えたのは迅と宇佐美、そしてこの場にいる烏丸である。後に聞いた小南は「修に弧月は合わない」と主張したのだが、その時には修は本部に行っていたので後の祭りであった。

 

 

「弧月を推したのはどちらかと言うと迅さんですよ。……ま、俺も賛同しましたが」

 

「迅が? スコーピオン使いなのに、何で弧月を推したのよ」

 

「それは俺にも分かりません」

 

 

 スコーピオンは迅発案のブレードトリガーである。弧月をブレードメインにしている烏丸が勧めたならばまだしも、迅が弧月を勧める理由が小南には考えられなかった。

 

 

「(あいつ、また何を考えているのやら)」

 

 

 これも暗躍の一つであるかと考えると小南としては文句の一つもしてやりたかったものである。そもそも、そんな面白そうな事に自分を除け者にしたこと事態が面白くなかった。

 

 

「やはり、弧月はやり難かったか?」

 

「そうですね。旋空弧月と言う遠距離技があるとは言え、使い辛いと言えば使い辛かったです。けど、あれはあれでいい勉強になりました」

 

 

 ブレードメインをレイガストにしている修からしてみれば、弧月は新鮮であった。

 けれど、弧月では突破口を開くための手札がなかった事が修にしては痛かった。苦し紛れにやったマンガの技がいくらか功を奏してくれたのは大きいが、あんな曲芸技は早々何度も通じないだろう。

 

 

「けど、こうしてみると修って複数戦の方が得意みたいね。東隊の二人と戦っている方が体の使い方が良いみたいだし」

 

「恐らく奇襲不意打を得意とするからでしょうね。小南先輩がそう思われるのは、相手が複数の方が利用する手段が多く感じるからだと思います」

 

 

 烏丸の見解は以下の通りである。

 真面に戦っても実力以上の相手と戦う事が出来ない。ならば、王道を捨てて邪道で対抗するしかない。その為にはあらゆる手段を講じないといけないのだが、相手が一人の場合だと状況を上手く動かすことが出来ない。それ故に相手が一人だと上手く能力を活用する事が出来ないのだろう。概ね、烏丸の見解は正しかった。

 

 

「(最も今回は慣れない攻撃手(アタッカー)メインのトリガー構成であった事も大きいだろうな。通常弾(アステロイド)を入れていたら、この戦いの結果も大きく左右されていたかも知れない)」

 

 

 そう考えると今回の修の戦績は決して恥ずかしいものではない。むしろ、弟子の成長振りに褒めてやりたいぐらいである。

 

 

「(天眼を開花させてから、修との勝率も徐々に危うくなっている。いずれはガイストを使う事にもなるかも知れないな)」

 

 

 天眼を使うようになって今日までの烏丸の修に対する勝率は八割弱であった。しかし、それまでは十割だったのに、この僅かな時間で二割も勝率を削られている。今回の模擬戦でどれほどの実力を身に着けて来たのか定かではないが、修の事だ。今回の戦いも無駄にする事無く自分の糧にする事であろう。そうなると自分が勝つ確率もまた減って来るだろう。修の師として早々に負ける訳にはいかないのだ。

 

 

「――けど、修。天眼の燃費の悪さは少し考えようね。たった数戦であんな風になると、長期戦は考えものね」

 

「そうですね。恐らく迅さんもそれを僕に教えたくて、今回の戦いを仕組んだと思うんですが。これに関しては対抗策がなくて……」

 

 

 烏丸が今後の事を考えている間も、修の反省会は続く。いま、二人が論議しているのは修の天眼の持続性に関してであった。黒江戦から明らかにパフォーマンスが低下している事を指摘する小南に修は苦笑いを浮かべる事しか出来ずにいた。

 

 

「そうね。けど、そう考えると攻撃手(アタッカー)と言う選択肢も悪くないんじゃないの。迅も今後の事も見据えて遠回しに攻撃手(アタッカー)の転向を勧めたんじゃないのかしらね」

 

「どうなんでしょう。確かに小南先輩の言うとおり、他のトリガーと比べるとトリオンの消費は少なく出来ますが――」

 

「――俺としては射手(シューター)と言う選択は間違っていないと思うぞ。狙撃手(スナイパー)も悪くないが、修のトリオンでは火力不足だ。そう考えると応用力に長けている射手(シューター)は悪くない選択だ」

 

 

 そもそも、修を射手(シューター)に勧めたのは烏丸である。

 修の条件でA級に昇級させる為には、最適なポジションと考えていた。けれど、今回は事情が違う。今は戦場を支配出来るだけの特殊能力である天眼を持っている。ならば、戦場を睨みつつ援護をしたり、補助に長けた射手(シューター)は修にとって相性の良いトリガーであると考えている。

 

 

「けど、とりまる。修のトリオン量を考えると弾丸をばら撒く射手(シューター)は不向きよ。それなら特殊工作兵(トラッパー)の方が良いんじゃない?」

 

特殊工作兵(トラッパー)は確かに魅力的ですが、それでは天眼の能力を最大限に活用出来ないと思います。修にはA級並の攻撃手(アタッカー)の遊真と膨大なトリオンを誇る千佳の砲撃が加わります。この二人の性能を最大限に上げるには繋ぎ役が必要です」

 

 

 今後のチーム戦を見据えると前衛・中衛・後衛と綺麗にばらけた三雲隊(予定)の中核となるのは修になると鳥丸は考えている。千佳がどれほど実力を上げているか定かでないが、あちらは師である木崎レイジが見ている。何の問題もないだろう。

 空閑に関しては心配する理由はない。なにせ小南と対等に戦える実力者だ。心配する方がおこがましい話だ。問題は弟子である修だ。ブレインの立ち位置にいる修が早々に簡単に脱落したら試合にならない。それに加えて全力で戦うのに制限時間が課せられると言った欠点を持っている。天眼酔いになる前に試合を決めないと勝利を掴むのは難しいだろう。

 

 

「……まぁ、その為のレイガストであるんだろうな。けど、修。今後はもう少しトリガー構成を真剣に考えるべきだな」

 

 

 それは重々承知していることだが、あえて修は言い返す。

 

 

「面白可笑しく僕のトリガー構成を弄っていたのは烏丸先輩達だと思うのですが?」

 

「……さて、過去ログも見た事だし、久しぶりに模擬戦でもやるか」

 

「ちょっ。いま、なかった事にしましたよね。無視しないでください、烏丸先輩!」

 

 

 訓練を始める烏丸を慌てて追い掛ける修であったが、急に烏丸が動きを止めたせいで背中に体当たりしてしまう形となってしまった。

 

 

「いたた。……どうしまし、た?」

 

 

 動きを止めた烏丸に問い掛けが、彼の視線の先にいる筈のない人物がいるのを目撃して目を丸くする。

 

 

「出水先輩?」

 

 

 なぜか、A級太刀川隊の一人である出水公平が玉狛支部にいた。後ろに苦笑する迅の姿を見て、烏丸と修は同じ感想を抱く事になる。

 

 

「(この人。また何か企んでいるな)」

 

 

 

***

 

 

 

「いやー。いきなり押しかけて悪いね。あ、これお土産。玉狛支部に訊ねる時はこれを差し入れするのが通例なんだろ?」

 

 

 なにが通例なのかは定かでないが、出水は玉狛支部でも良く口にするいい所のどら焼きを差出す。

 

 

「……はぁ。ま、入ってください出水先輩。立ち話もなんですし」

 

 

 受け取った烏丸は修に渡して、お茶を用意する様に頼む。

 修は嫌な予感を感じつつも、言われた通りにお茶を用意する為に行動を起こすのであった。

 案内された出水は彼を見て目を丸くしている小南に会釈しつつも、用意された席に座る。その横に迅が座り、烏丸は出水と対面する形で座った。

 

 

「それで出水先輩。急に玉狛支部に来てどうしたんですか? まさか、玉狛支部に異動した訳ではありませんよね」

 

「違う違う。てか、迅さん。京介達に何も言っていないの? おれ、ちゃんとアポを取ったよね」

 

 

 全く以って知らぬ存ぜぬ状態の烏丸の様子を見て、自分が頼んだ内容が伝わっていない事に気付いたようだ。言伝を頼んだはずの迅をねめつけると「ごめんごめん」と全く悪びれもない様子で謝り出す。無言の圧力を放つ烏丸に耐えかねたのか、慌てて事情を話し始める。

 

 

「いやさ。メガネくんと戦ってみたいらしくてさ。射手(シューター)構成のトリガーで勝負する機会をくれって頼まれてさ」

 

「またですか、迅さん。先日、攻撃手(アタッカー)メインのトリガー構成で模擬戦をしたばかりですよ。今は過去の戦いを顧みて反省点を挙げるのが先決だと思いますよ」

 

 

 それを指摘したのは師である木崎であるが、あえてそれは口にしない。烏丸としても同じ考えを抱いているので、ウソを言っているつもりはない。

 

 

「けどさ、メガネくんは射手(シューター)希望なんだろ。だったら射手(シューター)構成のトリガーで練習しないと意味がないんじゃないか?」

 

 

 出水の指摘は最もである。幾ら反省会を開いたところで、本来のトリガーでなければ改善点を見つけるのも難しいだろう。動き方は指摘出来てもトリガーの使い方に関しては助言する事が出来ないのだから。

 

 

「それに加えて京介のポジションだと射手(シューター)として、的確な助言を送る事は難しいだろ? 俺なら同じポジションだし、力になれると思うんだが」

 

 

 その申し出は正直言って有り難い話である。烏丸も万能手(オールラウンダー)だけあって、トリガーの使い方に心得はあるが突っ込んだ話まで出来ない。

 その点、出水ならば射手(シューター)としての心得などを助言する事が可能だ。ただでさえ射手(シューター)は数少ないのだから、この申し出は修にとっても良い話しのはず。

 

 

「有り難いお話しです。修も喜ぶと思われます。ただ、何で急に玉狛支部へ訪れたのか、と言う疑問がありますが。本部であった時にも出来る話しでしょ?」

 

「それは――」

 

「――実はさ、攻撃手(アタッカー)陣がさ、修を攻撃手(アタッカー)にさせようと、色々と企んでいるみたいなんだよ。公平はそれを阻止する為に、先手を打った見たいでね」

 

「……話が見えないのですが」

 

 

 説明しようと口を開く迅であったが、口で説明するよりも実際に見せた方が早いと考えたのだろう。懐から私用の携帯電話を取り出して操作する。画面にラインを表示させて、それを烏丸に見せたのであった。

 

 

 

メガネ攻撃手(アタッカー)計画

 

太刀川:迅!

    三雲は攻撃手にするべきだ。

 

迅  :ちょっと太刀川さん、急にどうしたの?

    てか、このグループ名は何!?

 

太刀川:メガネ攻撃手(アタッカー)計画だが?

 

迅  :それは見たら分かるよ。

    だから、何でこんな事をしているのかを聞いているの。

 

太刀川:いやさ。あれからみんなと話し合ったんだが、

    やはり三雲は攻撃手(アタッカー)こそ相応しいと思うんだよ。

    だから、全員に声を掛けた。

 

迅  :は? 全員って??

 

米屋 :攻撃手(アタッカー)その一、山上

 

緑川 :その二、剣山。

 

黒江 :その三、です。

 

迅  :……は? ちょっとちょっと、何を考えているの?

    てか、陽介と駿は参上と見参を間違っているからね。

 

米屋 :え!? マジですか。

 

緑川 :やーい。よねやん先輩、間違えてやんの。

 

黒江 :駿も間違えているじゃないの。

 

迅  :ストップストップ。話しが進まないから、ちょっと黙ってて。

 

 

 

「……これ、いつになったら本題に入るんですか?」

 

 

 何時まで経っても本題に入らないので、思わず迅に聞いてしまう。迅自身も似た感想を抱いていたのか「あはは、だよね」と苦笑いしつつ、一度烏丸から携帯電話を受け取り、スクロールして肝心の部分を映し出す。

 

 

 

太刀川:と、言う事で、

    俺達は三雲を攻撃手(アタッカー)にする為に色々と働きかける事に決めたのだ。

 

迅  :いやいや、意味が分からないから。

    何が「と、言う事で」なの? あまり、変な事をすると風間さんに言い付けるからね。

 

太刀川:その点は大丈夫だ。

    何と、今回はあの風間さんも味方してくれる事になった。

 

迅  :な、何だと!?

 

太刀川:なんか「アイツは、いつになったら俺の所にくるんだ?」とか、

    珍しく怒っていたな。なんか知ってる?

 

迅  :し、知らないよ。それは俺の暗躍の領域を反しているから。

 

太刀川:ま、そう言う事だから。

    俺達攻撃手(アタッカー)陣は、これから三雲を見かけたら遠慮なく模擬戦に誘うから、そのつもりで。

    安心しろ。ちゃんと予備のトリガーは持参する様に各自に言っておいたから。

 

迅  :こういう時だけ用意周到に根回しするのはやめて!

    そのやる気を少しはレポートに気を回して、マジで。

 

 

 

「なんですか、これ?」

 

 

 正直に言って、訳が分からなかった。全く要領を得ない話しの内容に首を傾げてしまう。

 

 

「だからさ! 槍バカ達はメガネくんを攻撃手(アタッカー)にさせようと、これから毎日誘うつもりなんだよ。特に黒江のやる気が凄くてさ。先に手を打たないとメガネくんを取られる可能性があるんだよ」

 

「修がそんな事で気持ちを変えるとは思いませんが、要するに攻撃手(アタッカー)陣が修を攻撃手(アタッカー)にするべく、色々と動き出すから、出水先輩はそれを阻止せんと動き出したと言う事で、合っていますか?」

 

 

 隣で「私にも見せて」と小南がせがんできたので、迅の携帯電話を彼女に渡して、簡潔に要件を纏めてみたのだった。

 

 

「概ねそんな所だ。後は純粋にメガネくんがどこまでいけるか、個人的に気になっていると言うのが正直な話だ」

 

「なるほど」

 

 

 腕を組んで思案する。

 どちらに転んでも悪くはない話である、と思うのが正直なところであった。射手(シューター)を勧めた身としては、修に射手(シューター)になって欲しい気持ちが大きいが、これほど多くの人の協力を得られるならば話はかわってくる。何も完全に攻撃手(アタッカー)寄りのトリガー構成にする必要はない。修さえその気ならば万能手(オールラウンダー)と言う道もあるのだ。

 

 

「お待たせしました」

 

 

 色々と思考を巡らしている間に、お茶を淹れ終わった修が現れる。トレイには出水が買って来たどら焼きと木崎が作ったポテトチップスがのせられていた。少々時間がかかったのは、木崎お手製のお菓子が出来上がるのを待っていたからのようだ。

 

 

「修」

 

 

 淹れたお茶を各自に渡している途中で声を掛ける。

 

 

「はい? 何でしょうか鳥丸先輩」

 

「お前、これから出水先輩と戦え」

 

「……はい?」

 

 

 で、何だかんだで冒頭に戻る事になるのだった。




修のトリガー構成が6つと言うのが肝なんですよねぇ。
8つならば、千変万化と思えるほどの戦いぶりを披露させる自信があるのですが。
バッグワームとシールドを入れたら、やれることが限りなく少なくなってしまうじゃないか(プンプン

やはり、特化型で行くべきか。


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SE修【天眼】VS出水②

出水戦の修のトリガーは木虎&緑川戦と同様のものにしてみました。


 弾丸の雨が容赦なく修へ降り注がれる。

 出水の先制攻撃、弾丸トリガーの一つ追尾弾(ハウンド)による上空からの奇襲攻撃だ。

 射手(シューター)の弾丸、トリオンキューブの大きさは使い手のトリオン量によって左右される。出水のトリオン量は正隊員の中でもトップクラス。生み出されるトリオンキューブの大きさも修のトリオンキューブの数倍の大きさを誇る。よって、無数に散ばれた出水の追尾弾(ハウンド)の全てを躱しきる事は容易ではない。

 

 

炸裂弾(メテオラ)!」

 

 

 出水の追尾弾(ハウンド)が降り注がれると同時に修は炸裂弾(メテオラ)を地面に叩きつける。黒煙に身を隠し、奇襲を図る戦法なのだろう。修には弾丸を予測する反則の能力、鷹の眼がある。追尾弾(ハウンド)の軌道を読んで既に安全地帯にいたのだ。

 

 

「甘いぜ、メガネくん! 通常弾(アステロイド)

 

 

 今までの戦いで修が行うであろう戦法は既に頭に入っている。次に修が行動を起こす前に通常弾(アステロイド)を放って、動きを封じにかかる。上空と前方から襲い掛かる十字砲火(クロスファイア)は脅威もいいところ。何せ逃げ道が圧倒的に限られてしまうのだ。

 

 

変化弾(バイパー)炸裂弾(メテオラ)

 

 

 しかし、修が取った選択は回避ではなかった。再び炸裂弾(メテオラ)を生み出し、既に生成していた変化弾(バイパー)と融合させる。この技は木虎&緑川戦に出水が伝授した必殺技だ。

 

 

変化炸裂弾(トマホーク)っ!!」

 

 

 黒煙の中から螺旋状を描くトリオンキューブが出水に向かって飛来する。二人の弾丸は衝突する事なくすれ違い、それぞれの標的に向かって走り出す。

 

 

「いっ!?」

 

 

 まさか反撃が来るとは出水も思わなかったのであろう。

 直ぐにシールドで防御を図ろうとするのだが、第六感が防御をしたら危険だと訴えて来たのだった。確証はないが、出水はその直感を信じる事にした。しかし、相手は合成弾だ。生半可な回避は敗北につながってしまう。

 

 

「(だったら)……使わせてもらうぜ、メガネくん。通常弾(アステロイド)っ!!」

 

 

 両手に通常弾(アステロイド)を生み出して射出する。超低速の散弾通常弾(アステロイド)。かつて、修が木虎に対して使った戦法だ。

 修の変化炸裂弾(トマホーク)は出水の弾幕によって空中爆破されていく。辺り全体が黒煙に包まれるも、出水に致命的なダメージを与える事は出来なかった。

 

 

「(けれど、これで)」

 

 

 出水の追尾弾(ハウンド)通常弾(アステロイド)十字砲火(クロスファイア)を天眼と鷹の眼とレイガストのシールドモードとシールドの二重防御でやり過ごした修は直ぐに反撃を試みようとする。

 辺り一面は修の変化炸裂弾(トマホーク)によって視界が狭まれている。だが、浄天眼を持つ修には全く以って関係ない。今もはっきりと出水の姿を捉えている。

 

 

「スラ……っ!?」

 

 

 レイガストのスラスター斬撃で奇襲を図ろうとするが、出水がトリオンキューブを生成したのを確認して中断する。このまま斬撃を放てばダメージを与えられたかも知れないが、相手はA級1位の部隊に所属している精鋭だ。無闇に突っ込んだら蜂の巣にされかねない。

 その判断は正しかったと言えよう。

 

 

炸裂弾(メテオラ)

 

 

 造り出した弾丸は炸裂弾(メテオラ)だった。修がした様に地面に叩きつけて、辺り一面の黒煙を衝撃による爆風で吹き飛ばして見せたのだ。

 せっかく身を隠せたのに、出水の炸裂弾(メテオラ)によって姿を露出してしまう。

 

 

「あっぶねぇ。随分と状況判断が早くなったんじゃないか? まさか、あそこで変化炸裂弾(トマホーク)を返してくるとは思わなかったぜ」

 

「あなたと戦うには、危険を承知で反撃しないと勝てないと思ったので」

 

「なるほど。合成弾の生成速度も悪くなかった。だが、合成弾は何も変化炸裂弾(トマホーク)だけじゃないんだぜっ!!」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)+通常弾(アステロイド)

 

 

 

 二つの通常弾を生み出して融合してみせる。出水が最も得意としている合成弾のそれは、通常の通常弾(アステロイド)よりも貫通力が高い弾丸だ。

 

 

 

 ――徹甲弾(ギムレット)

 

 

 

「(まずい)」

 

 

 出水の攻撃はただでさえ破壊力が抜群なのに、徹甲弾(ギムレット)なんか放たれたら防ぎようがない。ここは鷹の眼の効力を活用して回避に専念を図るべき、と考えた直後に出水の怒涛の追撃が行われる。

 

 

炸裂弾(メテオラ)+追尾弾(ハウンド)

 

「(まさか、また合成弾!?)」

 

 

 合成弾はただでさえ隙の大きい大技だ。それ故に破壊力は抜群であるが、トリオン消費も激しい。そう容易くポンポンと使える様な技ではないはずなのに、出水は更なる合成弾を解き放つ。

 

 

 

 ――誘導炸裂弾(サラマンダー)

 

 

 

 先と同じ様に上空と前方からによる十字砲火(クロスファイア)戦法で修に攻撃を仕掛ける。しかし、先と違って弾丸の威力は桁違いだ。先ほどは上空の追尾弾(ハウンド)を躱しつつ、前方の通常弾(アステロイド)をレイガストの盾モードとシールドの二重防御で防ぎ切ったのだ。しかし、それでもシールドは通常弾(アステロイド)を受け止めきれる事が切れず、破壊されてしまっている。ただの通常弾(アステロイド)でさえ紙一重もいい所なのに、合成弾の十字砲火(クロスファイア)など防ぎ切る事など出来る筈がない。

 

 

「(ダメだ。躱しきれる場所がない)」

 

 

 鷹の眼の予測線を持っても、出水の攻撃をやり過ごせる事は不可能と言っている。このまま何もしなければ、修のトリオン体は出水の合成弾によって木端微塵に粉砕されてしまうであろう。

 

 

「(このまま、何も出来ないで負ける訳にはいかない)」

 

 

 相手との戦力差など初めから分かっている。けれど、模擬戦をした以上は何もできずに蹂躙される訳にはいかない。

 

 

「(避けきれないのならば)」

 

 

 

 ――スラスターオン

 

 

 

 レイガストシールドモードを突き出して、出水の徹甲弾(ギムレット)に向かって突貫する。

 

 

「(避けきれないと悟って、最小限のダメージで留めようとするつもりだな)だが、そうはいくかメガネくん! 俺の合成弾はもう一つあるんだぜ」

 

「(っ!?)」

 

 

 

 ――変化弾(バイパー)+炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 修の行動パターンを読んだ出水は容赦なく第三の合成弾を生み出す。

 

 

 

 ――変化炸裂弾(トマホーク)

 

 

 

 修を包囲する様に展開された変化炸裂弾(トマホーク)は修が徹甲弾(ギムレット)によって左腕を食い千切られると同時に着弾される。当然、修に避ける能力などなく無数の変化炸裂弾(トマホーク)によってトリオン体を爆砕されてしまうのだった。

 

 

 

***

 

 

 

「うわー」

 

 

 二人の戦いを見守っていた小南は引いた。それはもう、あからさまにドン引いた。

 

 

『出水先輩、大人気なさすぎです』

 

 

 同様に烏丸も似た感想を抱いたのだろう。二人の戦いが終えると同時に怒りの籠った声で出水を批難する。

 

 

「仕方がねえだろっ! 手心を加えたら、絶対に突拍子もない奇襲戦法を使って来るんだから」

 

 

 その判断は正しいと言えよう。それに、今回は自分の実力を修に見せるのが目的であった。そう言う意味では成功と言えなくもないが、やはり大人気なさ過ぎであった。あんな合成弾のオンパレードを相手に出来る変人などA級隊員でも限られているはず。それにも関わらずB級隊員の修に使ったのはそれだけ修の実力を認めていると言えなくもない。

 

 

『けどやり過ぎよ。あんな合成弾の連発なんて、普段のランク戦でもしないじゃないのっ!!』

 

 

 小南の言うとおりだ。

 出水にとっても、あんな合成弾の連発など今回が初めてである。

 

 

「そうでもしないとメガネくんに手を打たれちゃうだろっ!! メガネくんに勝つなら、圧倒的な手数で攻めないと無理だと思ったんだよ」

 

 

 数は力。文字通り数の暴力によって修の策略が働かない内に完膚なきまで叩きつけるのが今回の出水の作戦であった。下手な小細工をして痛い目に合うよりか、自身の持ち前のトリオン量による圧倒的な弾幕で押し通す事にしたのだろう。その考えは間違えではない。幾ら回避能力に優れている天眼であろうが、躱しきれない程の弾丸の雨を放ち続ければ被弾する事は必然。例え視えていたとしても、修にはどうする事も出来ない。

 

 

『……出水先輩。アウトです』

 

 

 烏丸から判定が下される。幾ら修に実力を示せと言ったが、あんな戦い方をするような人間に大事な修を預ける訳にはいかない。

 

 

「はぁ!? なんで、そうなるんだよ」

 

 

 だが、当然の如く出水が納得できる訳がない。

 

 

『いやいや、無理ですよ。あんな戦い方、修が出来る筈もありません』

 

「あれは、あんな戦い方もあるぜ。と言う先輩からのメッセージだよ」

 

『いやいやいやいや。あれは傍から見たら、ただの後輩イジメです。ここに遊真や千佳、宇佐美先輩がいなくてよかったですね。無事に帰る事が出来ませんでしたよ』

 

「なにそれ、こわっ!? って、違うんだよ。今回だけは張り切ったと言うか……。な、メガネくん。メガネくんからもなんか言ってくれよ」

 

 

 ここで、まさかの修に白羽の矢が当たる。

 終始話しを見守る心算であった修であったが、矛先が自分に向けられてしまった事で会話に参加せざるを得なかった。

 

 

「えっと……。烏丸先輩。僕としては今回の戦いはいい勉強になったかと」

 

『だからと言って、あんな戦い方は参考にならないだろ?』

 

「そ、それは……」

 

「ちょっと待ってメガネくん。なんで目を逸らすわけ!? ちゃんと言い返してよ。ねえってば!!」

 

 

 烏丸の指摘通り、今回の戦いは射手(シューター)として参考になる点は少なかった。と、言うかほとんどなかった。出水は相手に当てる工夫をトリオン任せの物量戦で勝負して来ている。あんな戦い方など修には逆立ちしたって出来る筈がない。

 

 

「分かった、メガネくん。もう一戦。もう一戦しよう。今度はもっとうまく立ち回るから」

 

「あ、あはははは」

 

 

 先輩からの頼まれごとを嫌と言えなかった修は、この後に五戦ほど行うのだが五戦中零勝五敗と惨敗する事になる。

 

 

『出水先輩、アウトー』

 

「だから、何でだよ」

 

 

 五戦とも修の奇襲を嫌って物量戦で勝負を図る故に、烏丸からアウト判定を下されるのは言う間でもなかった。




こうして書くと、出水戦って非常に難しいですね。
圧倒的な物量戦で戦われたら、修なんてイチコロでしょうし。

てか、出水先輩大人気なさすぎ!


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SE修【天眼】VS二宮

お久しぶりです。
まあ、色々とあって今まで放置しておりました。


『三雲ダウン』

 

 

 これで何度目になるであろうか。

 修は容赦なく襲い掛かる弾丸の嵐を避けつつ、自分の不甲斐なさに悔恨を感じずにいられなかった。

 

 

「その程度か、貴様の実力は。避けてばかりじゃ勝てる戦いも勝てないぞ」

 

 

 防戦一方の修に更なる通常弾(アステロイド)を放つのは、なぜか戦闘体をスーツ姿に設定している二宮隊を率いる二宮匡貴である。

 二宮が放った通常弾(アステロイド)は速度重視の弾丸である。二宮程のトリオン量と技術があれば、並大抵の隊員は彼の弾丸を反応する事なくぶち抜かれる事であろう。

 しかし、修には弾丸の軌道を可視化する事が出来る鷹の眼がある。二宮の通常弾(アステロイド)が真直ぐ自身の四肢を狙い定めていた。

 弾丸の軌道が分かれば躱す事は容易い――と、思いきや襲い掛かる二宮の通常弾(アステロイド)は早すぎた。どうにかレイガストで防ぐ事は出来たが、防御するだけで精一杯である。

 

 

射手(シューター)は発射前に弾丸をある程度浮かしたり、散らしたりすることが可能だ。それを使い熟せば――」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 更なる通常弾(アステロイド)を周囲にばら撒かせて、通常弾(アステロイド)を発動させる。今度は先の通常弾(アステロイド)と違い、多角的に放出されている。全てイーブンに設定された弾丸はダメージを受ければ修にとって致命傷だ。しかし、躱そうにもこれほど雨の様に物量戦で来られたら避ける事など不可能に近い。

 

 

「くっ!」

 

 

 回避の選択が無理なら、残されているのは防御のみ。レイガストを前に突き出して、弾丸を防ごうと動く修のレイガストに炸裂弾(メテオラ)が命中する。

 

 

『三雲ダウン』

 

「強化視覚と言うサイドエフェクトがあると言うのに余裕がなさ過ぎる。圧倒的な物量戦で来られただけで困惑している程度じゃ、この先やった所で時間の無駄だ」

 

「……もう一戦、お願いします」

 

「なら、守り一辺倒ではなく少しは攻撃に転じて見ろ。次、こんな不甲斐ない戦いぶりを見せたら終わりにするからな」

 

「はい! よろしくお願いします!」

 

 

 負傷したトリオン体が回復したのを確認し、修は再びレイガストを生み出す。

 

 

 

***

 

 

 

 出水との訓練の後、修は過去の模擬戦を確認しながら反省点を洗い出す。

 

 

「……やはり、これと言った武器がないのがいけないんでしょうか」

 

「天眼以外と言う意味ではそうかもしれないな。けど、修の真価はチーム戦にある。そこまで深く考える必要はないと思うがな」

 

 

 隣で見ていた烏丸が応える。

 一方的に蹂躙された事に気落ちしている弟子を気にしてか、空気を読まない先輩を蹴り飛ばして一緒に過去の戦いを見ていたのであった。

 

 

「……いえ。ランク戦は常に空閑や千佳と一緒とは限りません。特に合流する前に遭遇してしまったら、負ける確率が高いと言えます。……僕に空閑や千佳の様な武器があればいいんですが」

 

 

 チームメイトになってくれる空閑と雨取は他の隊員には真似できない武器がある。

 空閑は機動力と今まで培った戦闘経験がある。並大抵の隊員に後れを取る事など想像すら難しい。

 雨取は圧倒的なトリオン量がある。アイビスから放たれる一撃は砲撃と呼ばれる程の威力を誇る。

 二人とも単独でも生き残るだけの武器が備わっている。それに加えて修の能力は索敵に特化された力である。使い方次第では多大な恩恵を与えてくれるが、そのデメリットとして自身のトリオンを注ぎ続けなければならない。そのせいで他の隊員と比べてやれる事が少ない。今までは初見と言う事もあってどうにかなったかも知れないが、これからは相手も自身を調べつくすことであろう。そうなってしまえば、修程度の実力で生き残る事は難しくなる。

 

 

「けど、修には圧倒的な回避能力があるじゃない。それに加えて射手(シューター)の戦術を確立させれば、問題ないと思うわよ」

 

 

 思考が後ろ向きになりつつある修にフォローをいれたのは小南であった。

 彼女が言った言葉は本心である。確かに修にとっての強みは単独にないかもしれないが、それは“今の修”と言う意味だ。

 修はまだ若い。色んな意味で成長が楽しみな逸材だ。今すぐに結果を求める必要はないと考えている。

 

 

「小南先輩の言うとおりだ。……もし、何か変化を付けたいのなら、いっそのことレイガストを外したらどうだ?」

 

「レイガストを、ですか?」

 

「そうだ。これまでの戦いに必ずと言っていいほどレイガストを入れていたのは修なりに考えがあったのだろうが、レイガストは修の戦いに不向きなトリガーだと俺は思う。確かにスラスターを併用した戦術は騙し討ちに向いているかも知れないが、それならばスコーピオンやらオプショントリガーを併用して戦った方が修には適していると思う」

 

 

 仮にレイガストとスラスターを抜けば、烏丸としてはスコーピオンとテレポーターかカメレオンを勧めた事だろう。

 トリオン量の問題はあるが、それでもやり方次第では戦い方に変化を与える事が出来る。メテオラで姿を眩ませてカメレオンなんて戦い方も可能だろう。

 

 

「けど、それじゃあ射手(シューター)じゃなくって、どっちかと言うと万能手(オールラウンダー)になるんじゃないの?」

 

「別に射手(シューター)に固執する理由はないと思います、小南先輩。修は狙撃トリガーだって使えるんですから、何ならレイジさんみたいに完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)を目指すのもありかと思います」

 

「そうね。修の天眼があれば――」

 

「――いや、それではダメだ」

 

 

 烏丸の考察に納得しそうになった小南の言葉を遮ったのは、今の今まで静観を決めていた木崎レイジであった。

 

 

「レイジさん?」

 

「珍しいわね、レイジさんが意見を挟むなんて」

 

「本当ならば静観を決め込むつもりだったんだがな……。京介、修を少し借りるぞ」

 

 

 突然のレイジの誘いに修の眼が点になる。

 

 

「それは構いませんが、何をするんです?」

 

「レイガストの使い方を少し教えるだけだ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 様子見の意味で二宮は通常弾(アステロイド)を解き放つ。射程を犠牲にした速度と破壊力を重視した通常弾(アステロイド)だ。

 しかし、弾丸の軌道は前の戦いと同じ様に単純な軌道だ。躱す事は容易であろう。けれど、二宮の狙いはその後だ。大きく回避行動を取った後に――追尾弾(ハウンド)を放って敵の動きを封じるつもりなのだ。

 修の天眼の一つ、鷹の眼もそれは捉えている。普通ならば回避行動か防御の二択しかないのだが、修は第三の選択を選ぶ。

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 一閃。

 弾丸の軌道にレイガストの斬撃の軌道が交差するタイミングを合わせて、被弾するであろう通常弾(アステロイド)を全て切り捨てる。

 

 

「ほぉ」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 お返しと言わんばかりに修も通常弾(アステロイド)を解き放つ。

 設定を全く加えていない、いたって普通の通常弾(アステロイド)だ。

 

 

通常弾(アステロイド)!」

 

 

 修の通常弾(アステロイド)に自身の通常弾(アステロイド)をぶち当てる。

 シールドを使って防御する事も可能であったが、修の弾丸の軌道は天眼がなくても見極める事は容易。

 トリオン量で勝っている二宮の弾幕に修の通常弾(アステロイド)は全て撃ち落とされてしまう。

 が、修の弾丸が二宮の弾丸に触れた瞬間、小規模の爆音と爆風が発生したのであった。

 

 

「(炸裂弾(メテオラ)か。通常弾(アステロイド)と言ったのはブラフか。なら、次にする行動は――)」

 

 

 

 ――スラスター・オン

 

 

 

 煙幕を突き破る飛来物が二宮を襲う。

 

 

「(やはり、レイガストか)」

 

 

 過去の戦いから修がレイガストを投擲する癖は研究済みであった。姿を眩まし、強襲するにはスラスターを利用したレイガストの投擲は修の攻撃の中で最速の攻撃手段である。

 

 

 

 ――シールド×2

 

 

 

 敵の攻撃手段が分かっているならば慌てる必要はない。

 いくら速度の高い攻撃と言っても軌道は容易に見切る事が出来る。二宮程のトリオン量ならばシールドの面積を限りなく小さくしてフルガードをすれば、レイガストの攻撃であっても容易く防ぐことが可能だ。

 事実、修のレイガストは二宮のシールドに阻まれて明後日の方角に跳ね返され――爆発する。

 

 

「っ!?」

 

 

 予想もしなかった現象に二宮は顔を初めて表情を崩すことになる。

 

 

「(レイガストに炸裂弾(メテオラ)を付着して飛ばして来たのか?)」

 

 

 その予想は正しかった。修はレイガストを投擲する前に炸裂弾(メテオラ)を使用し、爆発する飛槍をぶっ放したのである。

 

 

変化弾(バイパー)+炸裂弾(メテオラ)

 

 

 二宮がレイガストに意識を奪われている間に、修は必殺の一撃を造り出す。

 相手がB級一位の部隊である隊長であろうとこの一撃を真面に受ければタダでは済まないはず。

 レイガストによる強襲はこの一撃を生み出すための布石にしか過ぎなかった。

 

 

 

 ――変化炸裂弾(トマホーク)

 

 

 

 修の最大火力が解き放たれる。四方に散開した変化炸裂弾(トマホーク)は狙い澄ましたように、全弾が二宮がいる方角へ軌道を変え一斉に襲い掛かる。

 

 

「ちっ!」

 

 

 

 ――追尾弾(ハウンド)×2

 

 

 

 最大火力には最大火力。

 二宮も出遅れながらも追尾弾(ハウンド)によるフルアタックで変化炸裂弾(トマホーク)を撃ち落としにかかる。

 けれど、八割方は無力化する事は出来たが、それでも数発は迎撃する事が出来なかった。

 

 

 

 ――シールド

 

 

 

 だからと言って、慌てる必要はない。数が減った弾丸など冷静に対処すれば何の問題もない。

 シールドで丁寧に受け止めた二宮は次の一手を打つ――前に修がトリオンキューブを握りしめながら突貫してくるじゃないか。

 

 

「(バカの一つ覚えだ)」

 

 

 強襲の一手としては悪くない。けれど、それを可能にするには上位攻撃手(アタッカー)並の身体能力が必要となる。

 故に修の吶喊など――。

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 冷静に対処すれば簡単に無力化出来る。

 

 

『三雲、ダウン』




実は射手(シューター)が一番戦いの表現が難しい、と言うことに気づきました。
弾丸を飛ぶ表現って難しいですよね。

特に修みたいなトリオン量が少ない射手(シューター)は、一工夫しないと真面に戦えないわけですから。


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SE修【天眼】VS出水③

加古さんか那須さんだと思った?

残念でした、また弾バカですよ!

……ほんと、なんでこうなったんだ……。


 木崎レイジの特訓は修にとって、今までの戦いよりもキツイものであった。

 

 

「……どうした、修。もう終わりか?」

 

 

 両手にパンチング用ミットを構えたまま、汗まみれになっている修を見下ろしながらレイジは言う。

 

 

「疲れると言う事は、余計な動きがある証拠だ」

 

 

 トリオン体で行い続ければ疲労感を得る事はありえない。つまり、今の修は生身でレイジと訓練をしていると言う事だ。

 

 

「れ、レイジさん。この訓練って何の意味が……?」

 

「分からないか?」

 

 

 質問を質問で返されてしまう。

 分からないから聞いたのだが、そう言われてしまうと自分の推論なりを応えざるを得なくなるが、レイジはそのまま言葉を続けた。

 

 

「以前、生身の訓練がトリオン体になった時も影響があると話しただろう」

 

 

 その話しは覚えている。トリオン体になれば生身の筋力は関係ないが、その体の操縦は生身の感覚が元となっている。生身で動く感覚を掴めばトリオン体ではその何倍も動けるようになる。

 

 

「今回はその発展型だ。余計な力が入れば入るほど動きは鈍くなるし、無駄な動きがあればあるほど疲れは増す。今回のスローミット打ちは無駄な動きを無くすのと余計な力を入れない為の訓練だ。そして、お前の強烈な技に繋がる練習とも言えよう」

 

 

 強烈な技。その言葉を聞いた時、疲労感が一気に吹っ飛んだ気がする。地面に向けられていた顔が自分へ向けられたのを見て、レイジは話しを続ける。

 

 

「お前がたまに使うスラスターを併用したストレート。アレを使うのは、接近戦で一番早く相手へ当てる為だろ?」

 

「……その通りです」

 

 

 修の接近戦の手段はレイガストによる斬撃か、近距離による弾丸の射出のみ。けれど、弾丸系を接近して当てる行為は正直に言って無駄だ。相手に意表を突いて当てる置き弾とかならまだしも、一々近寄って通常弾(アステロイド)を放つなど射手(シューター)としてあるまじき行為だ。それならば通常弾(アステロイド)型の短銃を装備した方がはるかにマシだろう。

 

 

「お前はサイドエフェクトのせいで時間が経てば経つほど不利になる傾向がある。ならば、考え得る対抗策は二つ。サイドエフェクトをここぞと言う時以外は使わないか、短期決戦で相手を仕留めるしかない」

 

「それは僕も考えました。しかし――」

 

 

 前者の方法は自身の最大の強みを失うと言う事。

 これまで強者とそれなりに戦えた理由もサイドエフェクト天眼があったからだ。ここぞと言う以外に使うタイミングを見極める事も難しいが、天眼を開放する前に仕留められてしまったら意味がない。天眼を使わない戦術を考える事も大事であるが、単独での行動時に考えられる戦術は考え付かなかった。

 そうなると後者を考えるのが必然となるが、自身の能力を考慮するとそれも難しい。奇襲が成功すれば短期決戦も難しくはないかも知れないが、早々簡単に成し遂げられるとは思えない。

 

 

「――だからこそ、必要になるのは武器だ。お前にとって一番の強みとなる武器を持たなくてはいけない」

 

「武器、ですか」

 

「京介や小南、迅は色々な武器を熟すことで天眼の可能性を広げようと考えていた様だが、俺としてはレイガストを極めるのが先だと思っている」

 

 

 万能型の弧月。奇襲型のスコーピオン。そして重装型のレイガスト。ブレードトリガーの中でレイガストが一番不人気とされているが、攻防一体のレイガストは修にとって最適とレイジは考える。

 

 

「最終的に回避に特化した戦い方になるかも知れないが、レイガストならばシールドモードにすれば致命傷は避けられる可能性がある。生存確率を考えれば、防御は必要不可欠だ。と、言っても修のシールドでは少々頼りないから、必然とレイガストになる訳だが。お前もそう思って、最初にレイガストを選んだんだろ?」

 

「それは……」

 

 

 咄嗟に顔を背けてしまう。

 

 

「(い、言えない。シールドモードなんて機能があった事を知らなかったなんて)」

 

 

 修がレイガストを選んだのは、他の者達と同じトリガーだと生き残る事が出来ないと考えたからである。ただでさえ運動神経が低い修が4000ポイントを確保するには何かしらの工夫が必要と考えたからであった。だからと言って、弧月やスコーピオンならば対策の対策を練られてしまう可能性がある。ならば、使い手のすくないトリガーを選んで初見殺しを狙っていたのであった。そんなトリガーにシールドモードがあるなんて、玉狛に入るまで知る由もなかったが。

 

 

「仮に修がレイガストのシールドパンチをマスター出来たら、鷹の眼と併用して面白い事が出来るはずだ。そこまで言ったら、この訓練の意味も理解できるだろう」

 

 

 それを聞いてハッとなる。

 

 

「レイジさん、まさか……」

 

「あぁ。大量の弾丸が放たれたら対抗手段は一つだ。……レイガストで叩き落してしまえ」

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日。出水と二宮に捕まった修はそのままランク戦ブースへと連れられ、二人とランク戦をさせられる羽目となった。

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 無数の通常弾(アステロイド)が修へ降り注ぐ。対戦相手である出水は修が切る手札を予想しつつ、次の一手を用意する。

 

 

「(さーて、何で来るメガネくん。炸裂弾(メテオラ)か? それともシールドで防ぐか?)」

 

 

 目眩ましによる回避かシールドによる防御か。それによって放つ弾丸を選択せんと身構える出水に向け、修は力強く地面を蹴って迫り来る通常弾(アステロイド)目掛けて駆け出す。

 

 

「……は?」

 

 

 一直線に駆け上がる修は自身目掛けて飛んでくる通常弾(アステロイド)に左拳を突き出して殴り飛ばしたではないか。

 

 

「(おいおい、何の冗談だ。それは!?)」

 

 

 数発のジャブと裏拳、時にブレードモードに形状変化させて斬撃によって致命傷となりえる出水の通常弾(アステロイド)を防ぎながら出水に吶喊していく。

 

 

「そう来るかよ!」

 

 

 天眼に弾道を可視化する鷹の眼がある事は知っていた。いずれはブレードトリガーで斬り捨てるなんて芸当が可能と予想していたが、あまりにも早すぎる。ついちょっと前に戦ったときは回避か防御しか出来なかったにも関わらず、この短時間で撃墜と言う芸当を見せて来たではないか。

 

 

「そっちがその気ならっ!」

 

 

 通常弾(アステロイド)を防がれるならば、取る手段は一つのみ。撃墜できない程の火力か硬度の高い弾丸を撃ちこむだけだ。

 

 

通常弾(アステロイド) (プラス) 通常弾(アステロイド)

 

 

 

 ――徹甲弾(ギムレット)

 

 

 

 通常弾(アステロイド)通常弾(アステロイド)の合成弾徹甲弾(ギムレット)を解き放つ。強度の高い弧月すら破壊する事が可能な徹甲弾(ギムレット)ならば撃墜するなんて芸当は不可能なはず。

 

 

「(足を止めた瞬間、変化炸裂弾(トマホーク)を叩き込む。それで終わりだ)」

 

 

 けど、修は足を止める事はなかった。あろう事かスラスターを起動させて加速するのだった。

 

 

「(ここで加速するのかよ!? だが、それじゃあ俺の徹甲弾(ギムレット)は躱せないぜ)」

 

 

 と、誰しもが思うだろう。

 

 

 

 ***

 

 

 

「なにあれ? あんな芸当が可能な訳?」

 

「俺に訊くな」

 

 

 出水と修のランク戦を観戦していた加古が目の前で繰り広げている光景を指差しながら、隣で腕組みしながら睨み付けている二宮に話しかける。

 

 

「あの子。スラスターの推進力を利用して向かって来る出水君の徹甲弾(ギムレット)を悉く避けているんだけど……?」

 

「俺に訊くなと言ったはずだ」

 

 

 加古の言うとおり、徹甲弾(ギムレット)の弾丸を大道芸人真青な動きで回避し続けているのだ。

 

 

「恐らく、スラスターの連続使用する事で可能とした動きだろう。だが、あれでは直ぐにトリオンが尽きるぞ」

 

「そうね。けど、三雲くんは短期決戦を狙っているみたいよ」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 器用な事に徹甲弾(ギムレット)の雨を躱しつつ、通常弾(アステロイド)を周囲にばら撒いて応戦する修の姿はどう考えて長期戦とは考えづらい。

 

 

「出水が物量戦で攻める前に短期決戦に持ち込んで勝利をもぎ取る心算か。……あいつ、俺との闘いで何も学ばなかったのか?」

 

「狙いは悪くないけど、あれじゃあ……」

 

 

 いくら修の回避能力が高かろうと限界がある。徹甲弾(ギムレット)を掻い潜った所で、出水は何度でも弾丸をばら撒く事が可能である。現に修が接近するよりも早く変化弾(バイパー)通常弾(アステロイド)を同時に解き放ち、修を叩き落そうとしていた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ちょっと会わない内に随分と腕を上げたじゃないか、メガネくん。だが、これで終わりだ!」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)

 

 

 

 高速移動で回避する修に対抗する為に出水は通常弾(アステロイド)を広く拡散させる。更に螺旋を描く様に軌道を描いて変化弾(バイパー)を撃ち放つ。点や線の攻撃では修には通用しない。ならば面による攻撃で修の逃げ場を完全に防ぐつもりだ。

 普通ならば、この攻撃をした時点で修のトリオン体は蜂の巣になる事であろう。

 

 

 

 ――グラスホッパー

 

 

 

 展開されるジャンプ台トリガー。通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)が到着するよりも早く踏み抜いた修の身体は更に上空へと跳びあがり、襲い掛かる全ての弾丸を躱していく。

 

 

「な、なんだとっ!?」

 

 

 グラスホッパー。空中軌道を可能とするジャンプ台トリガー。確かにそれを入れていれば先の様な動きは可能であるが、修は前の戦いにグラスホッパーを入れていなかった。

 

 

「(トリガー構成を変えて来たのかよっ!?)」

 

 

 大当たりであった。あれから色々と考え抜いた結果、修はシールドを外してグラスホッパーに入れ替えていた。本来ならばシールドを外すことは愚策もいい所であるが、修のトリオン量では防御力などたかが知れている。それを考えた故の選択であろう。

 上空へ飛翔した修は力一杯レイガストを出水目掛けて振り下ろす。修得意のレイガストによる飛槍だ。

 

 

「その程度っ!」

 

 

 驚いたがそれだけである。修の攻撃は単発のレイガストによる投擲だ。単純な攻撃など両防御(フルガード)でどうにでもなる。事実、修のレイガストは出水の両防御(フルガード)で弾かれる。

 けど、本命はそれではない。

 

 

炸裂弾(メテオラ)(プラス)変化弾(バイパー)っ!!」

 

 

 出水目掛けて降下する修は両手にトリオンを作りだし、合成させる。

 

 

「なるほどなっ!? 本命はそっちかっ!!」

 

 

 即座に修の狙いを看破した出水も同じ様に両手にトリオンを形成し、合成させる。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)(プラス)変化弾(バイパー)

 

 

 

 二人の合成弾が同時に生み出される。

 そして、数メートルほどの至近距離で――。

 

 

 

 ――変化炸裂弾(トマホーク)

 

 

 

 二人の変化炸裂弾(トマホーク)が衝突し、壮絶な爆発を生み出す。

 

 

 

 ***

 

 

 

「……引分け、みたいね?」

 

 

 モニターに表示されている結果は引分け。この事実を述べた加古は隣へ振り向くといたはずの二宮がいつの間にか姿を消していた。

 どこに言ったかと周囲を見渡すと、探し人は個人ブースへと足を運んでいたではないか。

 その数秒後、修と二宮のランク戦が始まった事は言うまでもない。




このまま惨敗するのも他の皆さん的には納得いかなかったかなぁ、と思って出水に逆襲してみました。

……ま、現時点ではこれが限界かもしれませんね。

次は、加古か那須を出すべきかなぁ。


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SE修【天眼】VSVSVS①

……加古さんのネタがちょっとね。
だから、少々変な小細工をしてみました。


 実戦は何が起こっても不思議ではない。時に予想もつかない様な出来事が起こる可能性は否定できない故に、常に隊員には臨機応変が求められると教えられている。

 教えられているが、今回の事は少々常軌を逸していると思わなくもない修であった。

 

 ――NEW CHALLENGER

 

 出水との再戦を終え、強制的に二宮とランク戦をさせられていた修は突然表示された文字に目を丸くする。

 当然、両追尾弾(フルアタック・ハウンド)で修を撃抜かんとしていた二宮も同様に動きを止めてしまう。

 その直後、二人の間に割って入る様に転送されて来た人物が真直ぐ修へ向かって突撃し、抜き放った二刀の弧月で斬りかかってくる。

 

 

「っ!?」

 

 

 予想だにしなかった敵の出現にグラスホッパーを起動させて上空へ逃げ延びるのだが、相手も同様にグラスホッパーを使用して追撃してくる。

 

 

「グラスホッパーをいれたか、三雲。悪くない動きだ」

 

「太刀川さん!? なんであなたが!!」

 

「言わなくても分かるだろ? お前達だけこんな面白い事してずるいぞ。俺を混ぜろ!」

 

 

 更にグラスホッパーを使って修の上を行く太刀川。空中軌道に慣れていない修は直ぐにグラスホッパーで距離を空けようと試みるが、それよりも太刀川の斬撃の方が早かった。

 だが、振り下ろされた弧月に無数の通常弾(アステロイド)が命中し、太刀川の刃は修に届く事はなかった。

 

 

「ちっ」

 

 

 無事に着地した太刀川は、攻撃を妨げた人物である二宮へ視線を向ける。

 

 

「二宮」

 

「……どう言うつもりだ、太刀川。今は俺がそいつとランク戦をしている最中だ。部外者は早々に立ち去れ」

 

「どうもこうもねえよ。聞く話によると、お前達はちょくちょくこいつと模擬戦やらランク戦をしているんだろ? ずるいぞ。俺も混ぜろよ」

 

「バカが。俺はそいつに射手(シューター)としての心構えを叩き込んでいる最中だ。お前は邪魔だ。さっさと消えろ」

 

「いやだね。そんなに邪魔扱いするなら、力づくでやって見な」

 

 

 

 ――旋空弧月(せんくうこげつ)

 

 

 

 話しは終わりだと言いたげに、弧月を二宮に向けて薙ぐ。オプショントリガー、旋空によって刀身が伸びた弧月は二宮の胴体を両断せんとするが、そんな単調な攻撃など二宮に通じる訳がない。両防御(フルガード)できっちりと防ぎ、直ぐ様通常弾(アステロイド)を撃ちかえす。

 修との闘いでは見せなかった速度重視の通常弾(アステロイド)は並の隊員では対処する事など出来ない。けれど、相手は太刀川だ。攻撃手(アタッカー)一位の太刀川がこの程度の通常弾(アステロイド)を視切れない訳がない。

 しかし、太刀川に向かって来た通常弾(アステロイド)は先に動いていた修の炸裂弾(メテオラ)によって不発に終わってしまう。

 

 

「む?」

 

 

 黒煙によって視界を奪われた太刀川は耳を澄ませて辺りを警戒する。こんな芸当をする奴など修しかいない。奴はこの状況を利用して不意打ちを狙って来るはずだ、と予想する。

 その予想は概ね合っていた。トリオンの噴出音が右方から聞こえて来たのだ。

 

 

「右かっ!?」

 

 

 振り向くと同時に、修が拳を振り上げているのを視界に捉える。ブレードモードにしていない所を見ると――。

 

 

「スラスター・オンっ!!」

 

 

 レイジから伝授されたスラスター打撃で強襲する。太刀川は弧月をクロスさせてその攻撃を防ぐのだが、衝突したと同時に修はグラスホッパーを起動させて太刀川は後方へ吹き飛ばしたのであった。

 体勢を崩され吹き飛ばされた太刀川は直ぐにグラスホッパーを使用して体勢を整え、構え直す。その表情が玩具を見つけた子供の様に笑みを浮かべていたのは言うまでもない。

 

 

「いいじゃないか、三雲。前の時もそこそこ楽しめたが、今回はそれ以上の手応えがあるじゃないか」

 

「アホが。お前はこれで退場だ」

 

 

 修がグラスホッパーで太刀川を吹き飛ばした時には、既に二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)が解き放たれていた。

 容赦のない弾丸の雨に太刀川はすぐさま対応するが、無数の雨を全て叩き落とす事など不可能。数発程度だが太刀川の身体を撃抜き、僅かながらトリオンが漏れだすが、この程度で太刀川が怯むわけがない。

 

 

「二宮さん」

 

「とんだ邪魔が入った。先にあのアホを落とすぞ、三雲」

 

「はいっ!」

 

「いいねぇ。前々からお前とも久しぶりにやりたかったんだよ」

 

 

 射手二人の結託に太刀川は俄然やる気が上がる。戦闘大好き太刀川にこの程度の逆境など燃える事はあれ、怯む事などない。

 

 

「いーや! 二人だけじゃないっすよ、太刀川さん!!」

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)(プラス)通常弾(アステロイド)徹甲弾(ギムレット)

 

 

 

 二宮と修の反対側から合成弾徹甲弾(ギムレット)が太刀川に襲い掛かる。咄嗟の事にグラスホッパーを使用して緊急脱出した太刀川であるが、その拍子に弧月を徹甲弾(ギムレット)によって破壊されてしまった。

 

 

「出水か」

 

「ったく。あれほど邪魔をしないでくださいって言ったはずなのに、何をしているんですか!?」

 

「だって、お前達だけ楽しそうにしているとかずるいじゃないか。俺も混ぜろ! 俺も楽しみたい!!」

 

 

 まるで子供染みた言い訳に頭が痛くなってしまう。戦闘の際は頼もしい隊長なのが、それ以外はてんでダメな隊長にため息をこぼさずにいられなかった。

 

 

「駄々をこねないでくださいよ。ったく。わりぃメガネくん。二宮さん」

 

「なら、さっさとこのアホを駆除するのを手伝え。三雲、お前は前に出ろ。俺と出水で後方支援する。出水っ! ありったけの弾丸をあのアホにぶつけるぞ」

 

「了解です」

 

「了解っ! 変化弾(バイパー)っ!!」

 

 

 二宮の指揮の下、三人の射手(シューター)が魔王太刀川へ挑みかかる。

 手始めに出水が変化弾(バイパー)を使って牽制と陽動を図る。弾道設定は大きく弧を描くのみ。だけど、全弾の弾道半径に手を加えている変化弾(バイパー)は簡単に軌道を見極める事は困難だ。

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 それに合わせて二宮も通常弾(アステロイド)炸裂弾(メテオラ)を放出。

 圧倒的な弾幕に流石の太刀川も回避する事など出来ないだろう。と、思ったのだが口角を上げた太刀川は再び弧月を一刀生成するや、向かって来る弾丸を斬り落としていく。

 長年の経験か。それとも野生の勘と言うべきか、自身の致命傷になるであろう弾丸を確実に弧月で切り裂き、回避できるであろう弾丸は最小限の動きで躱していく。

 その動きを見た出水は「なんて変態染みた動きだ」と胸中で嘆くが、二人の役目はあくまで陽動と足止め。本命は別にある。

 

 ――変化弾(バイパー)(プラス)炸裂弾(メテオラ)

 

 グラスホッパーで太刀川の上空へ跳んでいた修が自身の最大火力を叩き込まんとしている。流石の太刀川であっても三方からの一斉射撃を防ぎ切れるはずがない。

 これで終わりだ、と出水は確信するのだが。

 

 

「と、思うじゃん?」

 

 

 修の眼前に転移されてきた米屋が槍状の弧月を薙いで、修を薙ぎ飛ばしたのである。

 

 

「メガネくんっ!!」

 

「よそ見するんじゃねぇ、出水っ!!」

 

 

 

 ――旋空弧月(せんくうこげつ)

 

 

 

 事なきを得た太刀川の反撃に出水は対処しきれなかった。何とか右方に転がる様に飛ぶのだが、対応が遅く右足を両断されてしまう。

 

 

「ちっ。アホにつられて、更にアホがやって来たか」

 

「あら? そんなに余裕ぶっていいのかしら、二宮君?」

 

 

 まさかの三人目。油断していたとは言え、敵に背中を取られてしまう。振り向いてからでは遅いと判断した二宮は咄嗟に通常弾(アステロイド)を後方へ解き放つのだが、それよりも早くスコーピオンが二宮の右腕を切り裂く。

 

 

「……加古」

 

「ずるいじゃない、二宮君。抜け駆けは許さないわよ」

 

 

 三人目の刺客は加古望。A級加古隊の隊長であり、二宮と出水に引けを取らない三人目の射手(シューター)である。

 

 

 

 ***

 

 

 

 太刀川、米屋、加古の三人の乱入に流石の修も理解するのに幾許の時間が必要であったが、そんな猶予など米屋が許してはくれない。

 

 

「あの時の続きといこうぜ、メガネボーイっ!」

 

 

 休む間もなく米屋の刺突が修に襲い掛かる。それに対抗する様にレイガストと対抗する。

 

 

「レイガストの打突か。面白い戦いをする様になったじゃないか、メガネボーイ。なら、これはどうだっ!!」

 

 

 

 ――幻踊弧月(げんようこげつ)

 

 

 

 幻踊を起動させ、穂先の形状を変化させる。先の戦いではこれによって修は米屋に敗してしまったが、今回は前とは状況が異なる。拳を避けて心臓を抉らんとする弧月にグラスホッパーを横から当てて強制的に軌道を変えるのであった。

 

 

「っ!?」

 

 

 弧月が泳いだ事で、米屋の体勢も強制的に崩れてしまう。その隙を突いて修は通常弾(アステロイド)を起動。米屋の腹部に向けて撃ち放つのだったが、咄嗟にシールドを張ったのだろう。修の通常弾(アステロイド)は米屋を撃抜く事はなかった。

 難を逃れた米屋は後方へ跳んで距離を空ける。このまま続けても不利になると感じたのか、いったん仕切り直しを図る米屋であった。




……わーい。なんか、勝手にバトルロイヤルしているぞ、この人たち(泣
で、なぜか修以外は全員A級なんですが。


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SE修【天眼】VSVSVS②

ちょっと趣向を変えてみました。

ほぼ会話文ですが、こう言うのもありかな?


 ランク戦ブースで乱戦が始まったと聞き、武富桜子はいても経ってもいられなかった。

 目の前の報告書を驚くべき速さで片付けたと思いきや「野暮用があるので、失礼します!」と言って早々と隊室から飛び出したのであった。背中越しから海老名隊の隊長である海老名が呼び止めたが、そんなのは無視。実況魂が彼女の乙女心をギラギラと燃え上がらせてしまったのだ。待ってなどいられない。

 思えば、今の今まで実況魂が燻る事件が幾重も襲い掛かって来たと言うのに、まるで図ったかの如く仕事やら任務で見学する事が出来なかったのだ。後ほど友人達に聞き、なぜ自分がその場に立ち会えなかったのかと悔やんでも悔やみきれなかった自分がいる。

 韋駄天もびっくりする速度でランク戦ブースに到達した彼女はマイクをトリガーオン。戦闘態勢に移行する。

 

 

「なんだなんだ、この状況は! 片や時のメガネ、三雲隊員と弾バカこと出水隊員、そしてスーツマイスターの二宮隊長が戦闘バカ太刀川隊長と槍バカこと米屋隊員に、なんと加古隊長が睨み合っているぞ!? 誰か! 誰か、この状況を教えてプリーズ!? 解説者を要望するぞ!!」

 

「入った早々、元気だな武富は。仕事はもう終わったのか?」

 

「東さん!? なんていい所に。ちょっと解説を! 解説をお願いします」

 

 

 テンションマックスで実況を始める武富に話しかけたのは東であった。彼女の異様なテンションに苦笑いを浮かばせていた東に武富は現状を教えて欲しいと懇願する。

 

 

「簡潔に言うと、三雲隊員が二宮隊長とランク戦をしている最中に、太刀川隊長と米屋隊員。そして意外な人物、加古隊長が乱入したんだ。三人の強襲に深手を負った出水隊員と二宮隊長が落されるのを恐れ、三雲隊員は米屋隊員と一旦距離を置いて二人の下へ駆け寄ったって所だな」

 

「ありがとうございます! しかし、またお前か!? またお前なんだな、メガネ隊員……もとい、三雲隊員! いったい、お前は何度やらかせば気が済むんだ。いいぞ! もっとやれ!」

 

「おいおい、武富」

 

 

 久々の実況で制御しきれないのだろうか。初めからクライマックス状態の彼女を落ち着かせようとする東であるが、最初の狙撃手(スナイパー)である彼でも止める事など出来ない。

 

 

「さぁ。戦況は圧倒的な三雲連合。この状況をどうひっくり返す!? 解説の東さん。どう思われますか?」

 

「いつの間にか、俺が解説役なのね。……そうですね。出水隊員が片足を失ったのは痛いですね。幾ら彼の弾幕があるとはいえ、機動力を削られてしまっては切れる手札は少ないです。それを二宮隊長と三雲隊員がどうフォローするかが勝利の鍵だと思われます」

 

「なるほど! 対して太刀川連合射手(シューター)二人を相手取る事になりますが、これをどう攻略するのが最適と考えますか?」

 

「太刀川連合には加古隊長がいます。彼女に後方支援を務めてもらい、太刀川隊長が旋空弧月で牽制。その隙に米屋隊員が突貫と言った所でしょうか」

 

「そうこう言っている内に戦況が動いたぞ。最初に動いたのは太刀川隊長だ! 東さんの言うとおり、旋空弧月が炸裂! それを出水隊員が両防御(フルガード)で防ぐ! その間に米屋隊員が三雲連合に突貫だ。距離を詰められたら射手(シューター)は圧倒的に不利だぞ。当然、それを嫌って二宮隊長が通常弾(アステロイド)で迎撃を図る。しかし! その弾丸を加古隊長が通常弾(アステロイド)で撃ち落とした!!」

 

「本来なら、通常弾(アステロイド)通常弾(アステロイド)を撃ち落とすのは難しいのですが、狙いを読んでいたんでしょうね。前もって通常弾(アステロイド)を撃つ事を読んでいたのでしょう」

 

「米屋隊員! 真直ぐ三雲隊員に向かう。迎撃に向かったのは、なんと三雲隊員!? グラスホッパーを……グラスホッパー? あれ? なんで三雲隊員はグラスホッパーを使っているんですかね?」

 

「最近、トリガー構成を変えたのでしょう。色々と模索していたようなので」

 

「そうなんですか!? それは知りませんでした。グラスホッパーで米屋隊員へ一足飛びした三雲隊員がレイガストで斬りかかる! しかし、後ろから追従していた太刀川隊長が弧月でそれを防いだ! その隙を突く様に米屋隊員の強烈の一撃が襲い掛かるが、出水隊員がそれを変化弾(バイパー)でフォローしたぞ。一旦後方へ跳んだ米屋隊員と入れ替わる様に加古隊長が前に出る! てか早い! 展開が早くて実況が間に合わない!!」

 

「流石はA級隊員と言うべきでしょうか。それに遅れを取らない三雲隊員も大したものです。二人の射手(シューター)にフォローしてもらっているとはいえ、恐れず立ち回っていますね」

 

「鍵は前衛の三雲隊員と言うべきでしょうか。その三雲隊員に向かって加古隊長が追尾弾(ハウンド)を放つ。……と、思ったら軌道は二宮隊長に向かっているぞ!? 後方支援を最初に断つのが狙いか!? しかし、自身はスコーピオンを生み出して三雲隊員へ襲い掛かる。三雲隊員、太刀川隊長と加古隊長の二人と切り結ぶ!?」

 

「あんな風に密着されては流石の二人も援護射撃が難しいですね。味方に当たってしまう恐れがありますので。……普通ならば」

 

「それはどういう意味って、出水隊員!? 炸裂弾(メテオラ)追尾弾(ハウンド)を合成した!? これは誘導炸裂弾(サラマンダー)だ!? 二宮隊長が加古隊長の追尾弾(ハウンド)をシールドで防いだと同時に誘導炸裂弾(サラマンダー)で反撃したぞ!? ちょっ! そんな事をしたら三雲隊員にも多大なる被害が……」

 

「いえ、大丈夫でしょう。出水隊員が誘導炸裂弾(サラマンダー)を撃つ事は見えているはずです。ですので――」

 

「上空から襲い掛かる誘導炸裂弾(サラマンダー)! それを嫌って一旦二人が距離を置こうとするが、何と何時の間にかグラスホッパーが二人の足元に置かれていた!? 強制的に上空へ移動させられる太刀川隊長と加古隊長。まさか、これは狙っていたのか!?」

 

「事前に練っていた作戦なんでしょう。あれでは真面に回避する事はままなりません。最も、あの二人がそう簡単にやられるとは思えませんが」

 

「その通り! 不意打ちによって上空へ吹き飛ばされたものの、太刀川隊長が旋空弧月で出水隊員の誘導炸裂弾(サラマンダー)を薙ぎ払う。加古隊長もこれを利用して出水隊員と二宮隊長へ追尾弾(ハウンド)を仕掛ける」

 

「加古隊長の追尾弾(ハウンド)は足を止める為の攻撃でしょう。ただでさえ出水隊員は片足を失って動きが鈍いはず。彼女達の狙いは出水隊員かも知れませんね」

 

「え? ……あぁっと!? 加古隊長の追尾弾(ハウンド)をシールドで防いでいた出水隊員の背後にいつの間にか米屋隊員が回り込んでいた!? いつの間にか姿を消していたと思いきや、これを狙っていたのか!!」

 

射手(シューター)は接近されては不利になります。接近されてはいけません」

 

「いち早く気付いた二宮隊長が通常弾(アステロイド)で迎撃を図るものの、左腕を犠牲にしつつ出水隊員に一撃を放つ! 放たれた一撃は出水隊員の心臓部へ突き刺されてしまった! ここで緊急脱出(ベイルアウト)! 緊急脱出(ベイルアウト)だ。出水隊員がいち早く緊急脱出(ベイルアウト)したぞ!?」

 

「これで三雲連合は更に苦しくなりましたね。左腕を犠牲にしたもの、米屋隊員は大きな働きを見せてくれましたね」

 

「さぁ、残るは二宮隊長と三雲隊員! この状況でどうひっくり返すんだ、三雲連合!!」




久々に実況を入れてみましたが、思いのほかに難しいですね。人が多くなると。

本来ならば、ここから戦闘員達の話に持ってくるのですが少々長くなりそうなので、ここでぶった切ってみました。


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SE修【天眼】VSVSVS③

久々に書くなぁ、これも。

いえね、これも閃の軌跡Ⅲやら色々とやりたいものが出たのが悪いんですよ。

……すみません。まだまだ、このVSVSVSは続いちゃいます。
たぶん、次ぐらいで終わるかなぁ?


 出水の戦線離脱は勝利が決まったと言ってもいいほどの大打撃であった。相手はA級連合軍。ただでさえ戦力差があったにも関わらず、今では数的不利に加えて五体満足なのはB級の修のみ。普通に考えれば模擬戦の中断を選択するべきなのだが、二宮のプライドがそれを邪魔していた。

 

 

「(ここで模擬戦から降りたらアイツらから何を言われるか分かったものではないしな)」

 

 

 元チームメイトの加古からの嫌味ならば耐性もある故に問題ないのだが、太刀川から嫌味など耳にしたら我慢できる自信がない。きっと両追尾弾(フルアタック・ハウンド)を容赦なく叩きつける事になるだろう。

 

 

「(だからと言って、このまま模擬戦を続けても――)」

 

 

 勝てる要素は限りなく少ない。今は修がどうにか踏ん張って太刀川と米屋を抑えているが、そんなに長続きはしないだろう。今もこうして均衡を保っているだけでも上出来だとしか言えないのだ。

 

 

「あらあら、二宮君。どうしたの? 随分と大人しいじゃないの」

 

 

 フフと不敵な笑みを浮かべながら通常弾(アステロイド)を射出する加古を睨みつつ、同様に通常弾(アステロイド)を放出して相打ちを図る。

 

 

「(こいつが邪魔だ)」

 

 

 この戦闘で勝利を掴むためにはいち早く加古を倒さないといけない。けれど、相手はA級であり、尚且つ元チームメイト。互いの癖を知り尽くしている仲だ。易々と倒す事が困難な敵だ。

 

 

「それにしても、彼も中々やるわね。太刀川君と米屋君の攻撃を一人で防ぎ切っているのだから」

 

 

 視線の先には二人の猛攻を辛うじて防いでいる修の姿があった。

 

 

「おらおら、三雲! さっきの勢いはどうした!? 手数が少なくなっているぞ」

 

 

 一閃、二閃、三閃。縦横無尽に空を裂く斬撃が容赦なく修に襲い掛かる。どうにか天眼をフル稼働して斬撃を躱してはいるが、少しずつ太刀川の剣戟が修の四肢を捉えようとしている。幾ら視覚強化の副作用(サイドエフェクト)を持っているとはいえ、身体が付いて行かなければ意味がない。それに――。

 

 

「こっちも忘れてもらったら困るな、メガネボーイ」

 

 

 敵は太刀川だけではない。太刀川の隙を窺って、まるで獲物を横取りせんと言わんばかりに攻撃の合間から刺突が襲い掛かってくる。どうにかレイガストの打突で跳ね返してはいるが、二人の猛攻に何時までも堪え切れる筈がない。それは遠くから見ていた二宮も同じ考えであった。

 

 

「ちっ」

 

 

 これ以上無暗に闘いを続けた所で敗北は必須。ならば、いま打つ手は一つしかない。

 

 

追尾弾(ハウンド)(プラス)炸裂弾(メテオラ)

 

「あら、珍しい手を使うじゃない。けど、させないわ!」

 

 

 二宮にしては珍しく合成弾を生み出す動きを見せた事に、加古は先手を打つ。素早くテレポーターを使用して距離を詰め寄って、スコーピオンで二宮を斬りにかかったのだ。

 けれど、それは予想済み。二宮は加古が飛んだ瞬間に右方へ大きく跳躍して、加古の飛ぶ軌道上から逃れていたのだ。

 

 

 

 ――誘導炸裂弾(サラマンダー)

 

 

 

 加古が現れると同時に無数の誘導炸裂弾(サラマンダー)が宙を駆け上がる。

 

 

「二宮君の誘導炸裂弾(サラマンダー)が来るわ! 二人とも注意して!!」

 

 

 狙いは定かではないが、不慣れな合成弾を使ったのには必ず理由があるはず。あの二宮が苦し紛れに解き放つ訳がない。

 駆け上がっていた誘導炸裂弾(サラマンダー)が百八十度反転して、戦場へ降り注がれていく。

 

 

「三雲、撤退だ! 一旦戦線を離脱する」

 

「っ!? りょ、了解です!!」

 

 

 二宮の指示に従い、咄嗟にトリオンキューブを生成。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 米屋と太刀川の攻撃の隙を突いて炸裂弾(メテオラ)を地面に叩きつける。白煙が修の身体を包み隠し、その隙に戦線から離脱する算段のようだ。

 

 

「させるかよっ!」

 

 

 当然、太刀川と米屋は修を逃がさんと追撃を図るのだが、そのすぐ後に二宮が放った誘導炸裂弾(サラマンダー)着弾する。盛大なる衝撃と爆音に流石の二人もシールドを張って守りに徹せずにはいられなかったのだろう。おかげで修は二人から離れる事に成功する。

 

 

「……あらあら、随分とらしくない事をしてくれたものね、二宮君。けど、状況は貴方たちが圧倒的に不利よ。さて、どうするのかしらね」

 

 

 同様に二宮を逃がした加古はスコーピオンを解き、二人の追撃をする事はなかった。ここで無理して追撃しなくても、必ず向こうから仕掛けてくるはず。模擬戦を中断する事など決してしないであろうと確信しているからこその落着き振りであった。

 

 

 

***

 

 

 

 一方、この模擬戦を見守っている隊員達は固唾を呑みながら見守っていた。これほどまでの高ランク隊員が一度に模擬戦をする事など早々お目にかかれない事案だ。少しでも彼らの技術を盗まんとC級隊員達は射抜かんと言わんばかりに彼らの一挙一挙を注視している。

 

 

「さて、二宮隊長の機転で圧倒的に不利な状況から脱出しましたが、解説の東さん。二人のこの状況を打開するためには、まず何を考えるのが一番よいでしょうか?」

 

 

 話しを振られた東は「そうですね」と腕を組んで自分の考えを話し始める。

 

 

「まず、出水隊員が開始早々に失ったのが大きいですね。彼が健在であるならば、物量戦で攻める戦術も可能でしたが。それに加えて五体満足なのは三雲隊員のみ。まずは数的不利な状況を覆す為に一人倒したい所ですね」

 

「では、二人が最初に狙う標的は誰になると思いますか?」

 

「現状ですと片腕を失った米屋隊員ですかね。彼の弧月では無数の弾丸を相手にするには少々分が悪いと思います。けれど、それは太刀川隊長や加古隊長も重々承知しているはず。早々簡単に倒せるとは思えないでしょうね」

 

「なるほど! さぁ、ここで注目したいのはやはりメガネ、もとい三雲隊員の機転でしょう! 今回は何をやらかしてくれるのか、大いに期待をしたい所です!」

 

 

 武富の言葉に「おいおい」とツッコミを入れる東であったが、内心では彼も何を見せてくれるのか少しばかり期待を膨らませていた。

 

 

「(それに……)」

 

 

 これはあくまで想像の域を超えていないが、この状況を作り出した黒幕が必ずいるはず。そうじゃなければ、こんなお祭り騒ぎになる事などなかったであろう。最も黒幕の正体など容易に想像が出来てしまうが。

 

 

「(これも、お前が作った試練なのか迅)」

 

 

 

***

 

 

 

「おっ、やってるやってる」

 

 

 今後起こりうる大規模侵攻の防衛に関して打合せをしていた迅は、個人ランク戦ブースが賑わっているのを見て笑みを零す。

 見る限り、自分の後輩である修は善戦しているようだ。二宮の援護があるとはいえ、A級三人と戦えつつある事は大きな成果と言えよう。

 

 

「これもお前の仕業か、迅」

 

 

 同行していた風間もこの状況を見やり、ほくそ笑む迅に向けて問い掛ける。風間に追従していた風間隊の三人は「何のことだ?」と互いに見やるのだが、迅はそれを無視して応える。

 

 

「まぁね。ここいらで今までの集大成をメガネくんに見せてもらいたくってね。まぁ、加古さんも参加したのはちょっと予想外だったけど」

 

「だからと言ってやり過ぎだ。あの状況で三雲が出来る手段など数える程ない。出水が墜ちた事で、二人の勝敗は見えたも当然だ」

 

 

 いくら二宮の戦闘能力と指揮能力が高いとはいえ、痛手を負った状況に加えて圧倒的な戦況を覆す事など難しい。仮にあの場に自身がいた所でひっくり返す事は叶わないだろう。

 

 

「あれ? 風間さんともあろう人が弱気だね。何なら、どっちが勝つか賭ける? 勿論、俺はメガネくんが勝つのにぼんち揚げ一年分賭けるけどね」

 

「……なに?」

 

 

 迅がここまで強気な発言をすると言う事は、既に副作用(サイドエフェクト)でこの後の行く末を見たのだろう。それを踏まえての発言となると、この状況を覆す何かが起こりうると言う事だ。

 

 

「何を見た、迅」

 

「まあ見ていてよ、風間さん。メガネくんはこっからが怖いんだからね」

 

 

 

***

 

 

 

 戦線から離脱した二人はとある団地に身を隠し、一息を入れる。

 

 

「三雲、奴らは追って来ているか?」

 

「……いえ、追って来ていません。どうやら僕達を待ち構える様子です」

 

 

 千里眼と浄天眼の二つを活用して、加古達の動向を見た修は答える。それを聞いた二宮は「そうか」と言って、今後の事に思考を移すのであった。

 

 

「(さて……。この状況を打開するとなると、どうしても加古が邪魔だ。アイツを先に倒せれば戦況が大きく変わるが――)」

 

 

 考え、直ぐに自分の考えを否定する。

 

 

「(だが、それには二手……。いや、三手足りない。ちっ。出水のバカが墜ちなければ、作戦の一つも考えられたんだが)」

 

 

 この場に出水がいれば、修の天眼を使って狙撃も難しくないだろう。しかし、それだけではあの三人を仕留める事は難しい。出水がいれば弾幕に混じらせて必殺の一撃を与える事が可能だったが、真っ先に落されてしまった。

 

 

「(なら、まずは――)」

 

 

 本当ならばあまり言うつもりではなかったが、状況が状況だ。

 二宮は隣で警戒している三雲に助言を与える事にした。

 

 

「三雲、よく聞け」

 

「はい。なんでしょうか、二宮さん」

 

「お前には他の隊員と比べて圧倒的に足りない部分がある」

 

「足りない部分、でしょうか?」

 

 

 修自身、他の隊員と比べると足りない部分など数え切れないほどあると自覚している。なぜ、今そんな事を言うのだろうかと不思議に思っていると――。

 

 

「それは天眼なんて副作用(サイドエフェクト)がある故の要因だ」

 

「……え?」

 

 

 告げられる言葉は修にとって意外な指摘であった。まさか、天眼がある故に足りないものがあるなんて言われたのは初めてだからだ。

 

 

「それはなんですか!?」

 

「本来ならば自分で気づかせるつもりだったが、事が事だ。あいつ等をどうにかする為に、お前にはその足りない部分を自覚してもらう。お前は敵の動きを見てから動く癖があるな」

 

 

 それは事実であった。なまじ、強化視覚なんてものがあるから相手が動いてから自身が動いても容易に対応出来ていた。他の隊員と戦った時もこの能力があったからこそ対等に渡り合えたと自負している。

 

 

「並大抵の敵ならばそれでもかまわないが、太刀川や加古、米屋の様な強敵と戦う場合はそれでは足りない。お前の身体能力が高ければ、それでも充分対処出来るかも知れないが、今のお前ではそれでは遅い」

 

 

 今までの修は常に後の先を取っていた。圧倒的な対応能力の高さから敵の攻撃を躱し、いなし、手の虚を突いて勝利をもぎ取る事で勝利を収めていた。

 しかし、後の先だけでは強敵と対等に渡り合えることは困難だ。今までの戦いから感じた自身の考えを告げると、修は「ならどうすればいいんですか?」と二宮に訊ねるのだった。

 

 

「少しは自分で考えろ……。と、言いたい所だが、今回は特別に教えてやる。お前に足りないのは“想像”だ。相手の動きを予測し、想像して、先手に立ち回って見せろ。常に三秒先の未来を想像して見せろ」

 

「三秒先の未来ですか」

 

「他の隊員も無意識にやっている事だ。最も他のやつは勘を働かせているにすぎないがな」

 

 

 脳天を殴られた気分であった。思えば常に対処する事で頭が一杯で、その先の行動を予測した事があったであろうか。自身の副作用(サイドエフェクト)が便利過ぎた故に、戦いで養われるはずであった“野生の勘”がこれぽっちも培われていなかったのだ。一見、そんなものは必要ないと笑う者もいるが、経験則に基づいた勘はバカに出来ない。修は見てから対応できるだけの眼力があった故に、その貴重な感覚を研ぎ澄ませる機会を放棄していたのであった。

 

 

「初見の加古はともかく、太刀川と米屋は一度戦った相手だ。なら、お前の天眼があれば、挙動から動きを予測できるはずだ」

 

「挙動から動きを予測……」

 

 

 無茶苦茶な指摘であったが、なぜか説得力があった。自身にそんな離れ業が出来るのか甚だ不思議に思う所であるが、二宮が無責任な事を言うような人ではない事は数少ない模擬戦で何となく理解していた。

 ならば、修が取る行動は一つだけだ。自分の様な人物にアドバイスをしてくれた師に報いる必要がある。

 

 

「……二宮さん、一つ考えがあるんですが」

 

「ほぉ……。聞かせて見ろ」

 

 

 作戦を修から聞いた二宮は一瞬だけ目を細めるのだが――。

 

 

「いいだろう。好きに動いて見せろ」

 

 

 修の作戦とも言えない作戦に乗る事にしたのだった。




まさかの迅さん、またアンタですか!?
……ぇ、知っていた。でしょうね!

今回は天眼の力のフラグですかね、これ。
まぁ、今後どうなるかは私自身わからないんですが(マテ


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SE修【天眼】VSVSVS④

……おや?

気が付いたらいつもの倍近くになっているぞ。


 二宮と修が行方を眩ませたのを機に三人――太刀川と米屋、加古――は展開していたトリガー類を一旦解除する。本来ならば戦場で武器を解除する事は自殺行為なのだが、あの二人が直ぐに行動を起こすとは思っていないのだろう。次に二人が動くときは何やら策を練って立ち向かって来るはず。ならば、こちらもそれ相応に対抗策を練る必要がある。

 

 

「さて、二人とも。二宮君と三雲君はどう来ると思う?」

 

 

 加古は自分の意見を述べる前に、二人の意見を聞く事にした。元チームメイトの二宮の事ならば大方想像つくが、修と戦った事は皆無。それに対して太刀川と米屋は修と一度だけ戦っている。ならば、多少なりとも戦い方を知っていると思って問うてみたのだ。

 

 

「そうっすね。メガネボーイの事ですから、きっと不意打ち、騙し討ちの類の戦略を練ると思うんっすよ」

 

 

 最初に返したのは米屋であった。自身と戦った時は攻撃手(アタッカー)メインのトリガー構成であったが、弧月を蹴ったり、それを囮にして後ろに回り込んだりと真正面から戦う事を嫌っている節がある。ならば、今回も同様な戦い方をするだろうと自分の意見を述べるのだった。

 米屋の推測に「そうね」と同意を示す。模擬戦をチェックした印象として、修は王道よりも邪道を好む傾向が強い。勝利を得る為に創意工夫を重ねた結果と言えよう。真面に戦えば勝てないと考えた故の不意打ち、騙し討ち。ならば、今回のトリガー構成を考慮して戦術を読み取ると――。

 

 

「――んなこと、別にいいじゃねえか」

 

 

 思考を纏めている途中で、太刀川から呆れた口調が飛んで来る。

 

 

「要はアイツらの奇策妙策を真正面から切り捨てればいいだけの話しだろ。何をそんなに考える必要がある」

 

「太刀川君、あなたは……」

 

 

 らしいと言えばらしい発言であるが、それでどうやってA級一位部隊の隊長になれたのか甚だ疑問である。きっと彼の部下である出水は苦労した事であろう。仮に太刀川の戦闘力を最大限に生かせるような参謀役が部隊に入ったら、手の付け所がなくなるかも知れないと考えるとゾッとしてしまう。

 

 

「ハハ。太刀川さんらしいと言えばらしいっすが、今回のメガネボーイのトリガー構成は恐らく木虎と緑川の二人と戦った時のトリガー構成と一緒っすよ。前の様に不慣れなトリガー構成じゃないっすから、きっと俺達が想像する斜め上の戦い方で来るかもしれないっすね」

 

 

 数々の修の戦いを観戦していた米屋だから言えることであった。それに「なんだと?」と反応した太刀川は不敵な意味を浮かべて、弧月を抜き放つ。

 

 

「それは良い事を聞いた。迅の予知もある」

 

「……予知? なにそれ?」

 

 

 首を傾げる加古。ここで何故に迅の予知なんて言葉が出るのだろう。

 

 

「今回、俺達がこの模擬戦に乱入したのは、ただの気紛れじゃないってことっすよ」

 

「えっ!? そうだったの!!」

 

 

 驚愕な事実発覚。てっきり太刀川と米屋の事だから、戦闘狂が患って二宮と修のランク戦に乱入したのだと思っていた。それに便乗して乱入した加古からしてみれば聞きたくない真実である。

 

 

「あぁ、そうだ。あの野郎、二宮と三雲がランク戦をしていると教えて来るなり「戦うなら気を付けた方が良いよ。次は太刀川が撃たれる番だから。俺の副作用(サイドエフェクト)がそう言ってる」なんて言いやがった」

 

「それって……」

 

 

 単なる挑発の類じゃないのかしら、と思えて仕方がなかった。

 迅がそんな挑発染みた発言をする事に疑問を感じずにいられなかったが、そんな安っぽい挑発に乗ってしまう太刀川に苦笑いを禁じ得なかった。

 

 

「俺は「炸裂弾(メテオラ)に気を付けろ」って言われたっすね」

 

 

 けれど米屋も似た様な事を言われたと聞いて考えを改める必要があった。幾らおつむが弱いと言われている二人であっても似た様な事を言われたと聞いたら疑問に思う事であろう。自分達は迅に良い様に使われたと。

 

 

「(なら、この戦いは彼が狙って仕組んだ事になるわね。……黒江の時といい何を考えているのかしら)」

 

 

 未来視なんて副作用(サイドエフェクト)を持つ迅だからこそ、見えている世界がある事は理解できる。だがしかし、その力を使って後輩たる修を成長させようとしている事に疑問を抱かずにいられなかった。

 今までの修の戦歴を調べて思った事が、戦った相手のほぼ全てがA級の実力者のみ。

 これを知った時、違和感を抱かずにいられなかった。格上と戦って得るものは少なからずある。けれど、普通は同程度の実力者と戦って己の腕を磨き、自分の戦闘スタイルを確立させていくのだ。修のような常に格上と戦うなんて真似は決してしないだろう。

 

 

「(もしかして、私も彼の掌で踊らされているのかしらね)」

 

 

 出水と模擬戦をしている事は耳に入っていたが、二宮とランク戦などをしている事は聞く由もなかった。男同士気兼ねなく話しかけられる事は理解出来ても、自分に声が掛からない事は面白くないと感じた加古である。……最も、出水は半ば押しかけられた形で戦っただけであり、二宮に関しては待ち伏せされて出水と戦った事をあれこれ聞かれた流れでなし崩しであった。修が自分から進んで申し出た訳ではない。ないのだが、加古はそんな真実を知る由もない。

 ちなみに、この事を迅が聞けば「いやいや、違うから。加古さんが参加するなんて未来は見えなかったから」と全力で否定する事であろう。事実、迅が見た未来(ヴィジョン)には加古の姿はなかったし。

 

 

「ま、迅がああ言うならば、覆してなんぼだ。何時までもアイツの副作用(サイドエフェクト)通りの顛末になるのは癪だからな」

 

「そうっすね。それに弾バカを早々に脱落させましたので、こっちが優勢なのは変わりないっすし。何なら太刀川さん。どっちがメガネボーイを早く倒せるか競争しません?」

 

「おっいいねぇ。お前が負けたらレポー……とはいいや。缶ジュース一本奢れ」

 

 

 レポートと言い掛けた太刀川の心情を察した加古が苦笑いする。大方、賭けに勝ったら課題のレポートを手伝えと言いたかったのだろう。相手が米屋と気づいて撤回した事は彼の名誉の為に言わないでおこう。

 

 

「いいっすよ。なら、俺が勝ったら同じようにお願いっすね」

 

 

 商談成立。俄然やる気が出た米屋は再び弧月を展開させて、今か今かと二人が襲撃してくる瞬間に胸を膨らませる。

 

 

「(この二人は……)」

 

 

 猪突猛進の考え振りに呆れつつ、自身もスコーピオンを展開。時間から考えてそろそろ策を巡らしてもいい時間と考え――その考えが正しかった事を知る。

 

 

「遅かったじゃねえか、三雲」

 

 

 最初に気付いたのは太刀川であった。彼の視線上には修がトリオンキューブを二つ生成した状態でゆっくりと自分達の方へ歩み寄って来ている。

 

 

「おいおい、メガネボーイ一人か? 二宮さんはどうしたんだよ」

 

 

 米屋の指摘通り、修の近くに二宮の姿は見られない。緊急脱出(ベイルアウト)した様子はなかったから、未だに二宮が戦場にいるのは容易に想像できる。なら、修が一人だけで姿を現した理由は一つ。自身を囮に二宮が射撃で落とす作戦だろう。

 

 

「…………」

 

 

 修は二人の問い掛けに応えない。代わりに片腕を突出し――。

 

 

 

 ――変化弾(バイパー)

 

 

 

 数発の変化弾(バイパー)を射出。

 問答無用の姿勢に二人は迎撃態勢を取るが、修の放った変化弾(バイパー)は二人の斬撃、刺突の間合いに入る前に百八十度方向転換を行う。

 迎撃する気満々であった二人はこれに肩透かしをくらう。だが、既に修は次なる行動を始めていた。残っていたトリオンキューブを向かって来る変化弾(バイパー)に向けて射出。

 自身の変化弾(バイパー)とトリオンキューブは衝突し、爆発を起こす。修が放ったもう一方のトリオンキューブは炸裂弾(メテオラ)であったのだ。

 

 

「ちっ。また、それかよ。同じ手が通じると思うかっ!!」

 

 

 白煙に包まれ、再び修の姿が消されてしまう。逃がすまいとグラスホッパーで追撃を行おうとする太刀川に、加古は注意を促す。

 

 

「二人とも! 上から来るわっ!!」

 

「なにっ!?」

 

 

 

 ――両追尾弾(フルアタック・ハウンド)

 

 

 

 煙幕を穿つ弾丸の雨。修が放った広域の炸裂弾(メテオラ)煙幕は二宮の追尾弾(ハウンド)の軌道を覆い隠す為のようだった。

 太刀川、米屋両名は修の追撃を諦めて両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の迎撃を行う。奇をてらった攻撃故に対応は遅かったが、それでもA級隊員。迫り来る凶弾の雨を持ち前の反射神経で斬り捨てていく。

 

 

「(芸がないわね。この程度では二人を倒す事なんて出来ないわ。他に何か手だてが――)」

 

 

 その時、今までの弾丸とは桁外れの何かが白煙を吹き飛ばしながら飛来してくる。

 

 

「メガネボーイのレイガストかっ!?」

 

 

 修得意の飛槍。最速を誇る攻撃で一人落そうと考えたのだろう。この攻撃は三人とも見覚えがある。何せ、修の戦い方は事細かくチェックしている身だ。米屋へ飛んで来るそれが何かなど直ぐに判別出来た。

 

 

「はっ。この程度――」

 

「――躱せっ!!」

 

 

 いくら今までの弾丸よりも速度が速いとはいえ、見切れない速度ではない。米屋は弧月を振り上げて叩き落さんとする横で太刀川が声を荒げる。

 太刀川は見えていたのだ。飛来するレイガストにトリオンキューブが付着していたのを。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 米屋がレイガストを叩きつける前にレイガストが爆散する。ここ最近、攻撃手段として増やした修が得意とする飛爆槍。虚を突かれた爆風に米屋の態勢が崩れる。その隙を突いたように二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)が再び三人に襲い掛かる。

 

 

「ちっ。二宮の野郎。トリオンを全て使い切る心算かよっ!!」

 

 

 これほどの追尾弾(ハウンド)を放てばいずれ二宮のトリオンも底をつくだろう。まるでトリオン残量など全く考えていない大盤振る舞いに太刀川は身動きが取れないでいた。それは加古も同じだ。これほどの弾丸の雨をシールド一枚で防ぎ切る事は難しい。二枚のシールドを集中させないと二宮の凶弾を受け切る事は出来ない。

 しかし、米屋は別だ。修の不意打ちによって体勢を崩された事により二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の対処に遅れてしまったのだ。どうにか致命傷を避ける事は出来たが、それでも数発の弾丸を両足に浴びてしまったのだ。その瞬間を修は見逃さなかった。

 

 

 

 ――通常弾(アステロイド)

 

 

 

 二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)を縫う様に新たなる弾丸が米屋に真直ぐ飛んで行く。標的は米屋である。その米屋は二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)をシールドで防ぐので手一杯であった。

 

 

「米屋君っ!!」

 

 

 加古が呼びかけるが時既に遅し。完全に意識外の弾丸を被弾した米屋のトリオン体は維持する事が出来ず、この戦場から姿を消すことになってしまう。

 

 

 

***

 

 

 

 米屋の脱落に会場はどよめく。何せ、米屋を蹴落とした人物は無名のB級である三雲修であったのだ。動揺するなと言う方が無理であろう。

 

 

「で、電光石火の騙し討ちっ!! 炸裂弾(メテオラ)で姿を眩まし、二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)で身動きを封じる。その隙を突いたレイガストの爆撃と疑似十字砲火(クロスファイア)!! あの短い間にこれほどまでの作戦を思いついたのか!?」

 

「二宮隊長らしからぬ作戦ですね。これの作戦を考えたのは三雲隊員でしょう。炸裂弾(メテオラ)で視覚を封じ、二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)で身動きと思考の自由を封じ、一瞬の隙を突いてきましたね。ここで米屋隊員を落とせたのは大きいですよ」

 

「しかし、まるで次の行動が分かっているかのような的確な攻撃でしたね。二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)と同タイミングで通常弾(アステロイド)を放ったように見えましたが、これも打合せ通りの動きなんでしょうか!?」

 

「それは分かりませんが、恐らく二宮隊長は遠距離から放っていると思いますね。姿を隠すことで数的不利を不意打ちの弾幕で補う。恐らく最初の炸裂弾(メテオラ)は自身の姿と弾道を覆い隠す以外に戦場の位置を知らせる意味も含んでいたと思いますね」

 

「つまり、全てアドリブですと? あのぉ……。確認なんですが、本当に三雲隊員はB級隊員なんですか? なんか、ここまで来ると成り立てB級隊員と言っても誰も信じてくれないと思いますよ」

 

「あはは。それは仕方がないでしょうね。何せ、ここ最近の三雲隊員はあらゆるA級隊員によってしごかれ……もとい、鍛えられていたんですから。気付かぬうちに地力が上がったと言う事でしょう」

 

「はぁ……。っと、そうこう言っている内に、三雲隊員が再びレイガストで特攻をかける! 二宮隊長の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の雨を的確に躱しつつ……って、あんな動きがルーキーB級に出来るかっ!!」

 

「(あっ。ついにキレちゃったよ)」

 

 

 それも仕方がない話だろう。戦場は休む間もなく追尾弾(ハウンド)の雨が降り注いでいる。太刀川と加古は両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の弾雨の対処で動きが鈍くなっているにも関わらず、修はスラスターとグラスホッパーを併用しているとはいえ、二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)などものともせずに自在に動き回っている。

 

 

 

***

 

 

 

「動きのキレが更に増したな」

 

 

 戦いを静観し続けていた風間は迅を見やる。迅の予知した通り、再び太刀川達と相見えた時から修の動きが数段よくなっている。

 

 

「驚くのはまだだよ、風間さん。もっと面白い事が起こるから」

 

 

 楽しげに呟く迅の言葉に怪訝する風間。これだけでも充分驚愕に値すると言うのに、これ以上の何かが起こるらしい。

 

 

「……ところで、迅。烏丸に三雲を寄越すように言ったのだが、未だに俺の下へ来る気配がない。何か知っているか?」

 

「…………」

 

「なぜ顔を背ける。あと、吹けないのに口笛をする真似をするな」

 

「(メ、メガネくん。逃げて、ちょー逃げて。これ死亡フラグだから)」

 

 

 迅の副作用(サイドエフェクト)が全力で言っている。この風間をどうにかしない限り、自身の可愛い後輩は風間隊と戦わされる羽目になると。

 必死に戦場を駆け抜けている修は、戦いが終わった後も決戦が待ち構えている何て思ってもみなかったであろう。

 ちなみに、この未来ルートに突入してしまうと迅は太刀川と百連戦させられる羽目となる。

 

 

 

***

 

 

 

 修は自分自身が弱い事を知っている。

 トリオン量はボーダー隊員の中でも一・二を争うほど少ないし、運動神経も優れているとは決して言えない。天眼と呼ばれている特殊な眼があろうとも強者から勝利をもぎ取る事は難しいと思っていた。

 

 

「(けど、それは間違っていた)」

 

 

 今までの戦いは視る事に特化していた力に頼り切り、全てを視ようとしていた。視れば対処法は容易に想像つくし、一方的に負ける事はないと踏んでいた。相手の不意を突いて攻撃を与えれば勝てる可能性もあると踏んでいた。

 けど、視るだけではダメだと二宮から教わった。本来培われるはずの戦闘予測と言う名のスキルを磨く機会を自ら放棄していたのだ。

 

 

「(予測する、か。……それが、僕に足りないもの。なら!)」

 

 

 千里眼を。浄天眼を。複眼を。強化視覚を。鷹の眼を。天眼の全ての効力をフル稼働させる。

 修は自身が弱い事を知っている。故に天眼に備わった全ての効力をフル稼働しなければ、二宮の課題をクリアできないと悟っている。持っている全ての力を出し切らない限り、太刀川と加古を倒す事など不可能と言う事も。

 

 

 

 ――副作用(サイドエフェクト)完全機能(パーフェクト・ファンクション)

 

 

 

 千里眼と複眼で半径五メートル以内の視覚情報を読み取る。建物や障害物で死角となっている個所は浄天眼で無効化させる。二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)の弾道を鷹の眼で視覚化し、強化視覚でトレースする。

 最近になって判明した事であるが、鷹の眼で可視化した弾道の筋は到達してから二秒後に着弾する。到達時間が分かれば二宮の弾道の雨もスラスターとグラスホッパーを用いれば、被弾する事なく太刀川達へ突っ込む事も不可能ではない。

 

 

「(緑川のこれが役に立った)」

 

 

 元ネタは緑川、木虎両名と戦ったときに見せたグラスホッパーの変速走法。雷の如くジグザグに走るそれを(ライトニング)走法と名付けたのは相応しいかも知れない。ちょっと中二病が混ざって気恥ずかしいものがあるが、その効力は絶大であった。

 

 

「っ!? さっきと動きが段違いじゃないっ!!」

 

 

 修のA級すら吃驚する身軽な動きに加古はシールドを一枚減らして、追尾弾(ハウンド)で牽制を図る。

 

 

 

 ――斬

 

 

 

 一閃。

 ブレードモードに形状変化したレイガストが加古の追尾弾(ハウンド)を両断する。

 まるで追尾弾(ハウンド)の軌道が初めから分かっていたかのように自然な動作に目を疑いたくなるが、加古の狙いは別にある。

 

 

「(これで体勢を崩せたはず。二宮君の追尾弾(ハウンド)の餌食になりなさい)」

 

 

 追尾弾(ハウンド)を斬った事により、修の身体が泳ぐ。加古の狙いは一秒でも修の動きを妨げて、未だに上空から降り注がれる二宮の弾丸を浴びさせる為であった。事実、修の上空から数発の弾丸が迫りつつある。加古の狙いは的中した――と思ったのだが、天眼を完全機能(パーフェクト・ファンクション)している修が見逃すはずがない。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 自身の頭上に向けて炸裂弾(メテオラ)を放つ。狙いは二宮が放った追尾弾(ハウンド)の数発。全く見向きもせず解き放った炸裂弾(メテオラ)追尾弾(ハウンド)に命中し、再び修の姿を覆い隠してしまうのだった。

 

 

「これでもダメなの!?」

 

 

 見て多少は理解していたが、実際に戦ってみると驚愕の連続ばかり。距離を空けた射撃戦では埒が明かないと理解しているが、二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)がそれを阻み続ける。

 

 

「……くっ。くく」

 

 

 ふと、くぐもった笑い声が耳に届く。この場で笑い声を出す人物など一人しかいない。

 

 

「は、はははっ!! なんだよ、三雲。面白すぎだろ、それ。それが迅の言っていた三雲タイムかよ」

 

 

 なにが三雲タイムだ、とツッコミを入れたい所であるが、一人で悦に浸っている太刀川のテンションは一気に最高潮へ膨れ上がっていた。

 

 

「喜ぶのはいいけど、また上から来るわよ太刀川君」

 

「あん?」

 

 

 加古の指摘した通り、トリオンキューブの雨が降り注がれる。

 

 

「はっ。そう何度も同じ手が通じるかよ」

 

 

 

 ――斬

 

 

 

 弧月を抜き放ち、抜刀の如く切り裂く太刀川の真正面に修のレイガストが飛び込んでくる。

 

 

「っ!?」

 

 

 

 ――両防御(フルガード)

 

 

 

 完全に虚を突いた修のレイガストは太刀川の腹部を抉る寸前で加古のシールドによって防がれてしまう。

 

 

「あっぶねぇ。サンキュー、加古」

 

「ったく。気を付けなさいよね、太刀川君。さっきの三雲君より数倍も戦い方がイヤらしいわ。考えなしに突っ込んだら、餌食になるわよ」

 

 

 このまま戦いが長引けばジリ貧もいいところ。何とかして突破口を作りたい所であるが、いやらしい事に現段階で火力を有する二宮が姿を消して遠距離から暴風雨の如く追尾弾(ハウンド)をぶっ放し続けている。これだけでも充分厄介であるのに、そんな中を掻い潜って向かって来る尖兵がいる。その尖兵は鬼掛かった才気を爆発させてA級隊長両名を脅かし続けている。

 

 

「(二宮君を見つければどうにかなるけど、彼の事だから易々と姿を現すとは思わないわね。と、なると――)」

 

 

 こちらから動く必要がある。それは重々承知しているが、一歩足を踏み出した瞬間にトリオンキューブが自身へ襲い掛かってくる。

 

 

「っ!?」

 

 

 まるで自分の動きを見抜いているかのように先回りして弾丸が飛んで来る。それだけならまだしも、数発の弾丸を囮に本命の弾丸は意識の外から自分の脳天を撃抜かんと飛んで来るから下手に修から視線を外す訳にもいかない。

 修が加古に対して変化弾(バイパー)を放ったのを機に、太刀川は迫り来る二宮の追尾弾(ハウンド)を叩き落しながら修へ特攻を仕掛ける。これ以上続ければ、いずれは被弾する。ならば一か八かの大勝負に仕掛ける事にしたのだろう。

 

 

「旋空――」

 

 

 弧月のオプショントリガー旋空を発動させる瞬間、修の近くに転がっていた瓦礫が太刀川に向けてぶっ放される。グラスホッパーの効力を利用した投石だ。

 

 

「はっ。その程度!!」

 

 

 その程度の牽制など太刀川には通用しない。勢いよく飛んで来る瓦礫ごと旋空弧月で真っ二つに斬り裂き、修のトリオン体を両断せんと行動を続ける。

 もちろん、修もこの程度の牽制で太刀川の行動を止められるなど思ってはいない。瓦礫の投石はあくまで本命を隠す見せ球にしか過ぎない。

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 旋空が発動され、太刀川の弧月は瓦礫を両断して修へと襲い掛かる。だが、それを引鉄に円状に弾丸が分散され、弧月を振り終えた太刀川へ一斉に軌道を変えて駆け抜けていく。

 修の左手をぶっ放した事で気が緩んでしまったのか、隠し玉の存在に気付くのが遅れてしまう。

 

 

 

 ――両防御(フルガード)

 

 

 

 けれど、修の変化弾(バイパー)は太刀川に届く事はなかった。加古がテレポートを発動し、両防御(フルガード)で太刀川を護ったのだ。

 

 

「わりぃ、加古」

 

「お礼は後! 次が来るわ!!」

 

 

 加古が太刀川に接近したのを見計らい、二宮の両追尾弾(フルアタック・ハウンド)が降り注がれる。二人が接近した事により、弾幕の厚さが今までよりも多く張り巡らされている。回避しても間に合わないと踏んで、二人は両防御(フルガード)を重ねて四重のシールドで乗り切る選択肢を取る。

 しかし、その選択は間違っていたと先に言っておこう。二人のシールドがトリオンキューブに触れた瞬間、盛大な爆発が生じたのだ。両追尾弾(フルアタック・ハウンド)と思っていたそれは二宮の合成弾、誘導炸裂弾(サラマンダ-)だったのだ。

 二宮程のトリオン量を有した誘導炸裂弾(サラマンダー)を真面に受けた二人のシールドは少しずつひび割れし、最後の一発が触れると同時に木端微塵に爆散する。

 

 

「があっ!?」

 

「っぁ!!」

 

 

 小さな悲鳴を上げながら爆風によって吹き飛ばされた二人を追い掛ける様にトリオンキューブが飛来する。

 まるでどの様に吹き飛ばされるのか分かっていたかのように、トリオンキューブは進路方向を変え、二人のトリオン供給機関を貫いていく。

 

 

 

***

 

 

 

「………………は?」

 

 

 太刀川、加古の両名が緊急脱出(ベイルアウト)してしまった。

 一度、自身の目をごしごしと拭いて再びモニターを見やるが、どうやら見間違いではなかったようだ。三雲・二宮WINとでかでかと表示されており、二宮と合流した修が安堵の溜息をしているのを見れば、嫌でも理解させられてしまう。

 

 

「は、はぁ!? まさかの下剋上だ!! B級ルーキーの三雲隊員がやらかしてくれたぞ! 二宮隊長の力添えがあったとはいえ、誰がこの展開を想像していましたでしょうか」

 

「二宮隊長の誘導炸裂弾(サラマンダー)が効きましたね。何度も何度も両追尾弾(フルアタック・ハウンド)で援護射撃した故に、太刀川隊長と加古隊長も誘導炸裂弾(サラマンダー)が来るとは思ってもみなかったのでしょう。その絶好な隙を突いた三雲隊員も見事の一言でしたね。二宮隊長をあくまで追尾弾(ハウンド)による援護射撃に拘らせたのは、この誘導炸裂弾(サラマンダー)を撃ちこむチャンスを窺っていたのでしょう」

 

「つまり、ここまでが作戦の一環であったと? なにそれ、ちょー怖いんですけど。それじゃあ、太刀川隊長と加古隊長は三雲隊員の掌で踊っていた事になりますよ。なんて恐ろしいメガネなんでしょう」

 

 

 

***

 

 

 

「はぁ!? マジかよ。太刀川さんと加古さんが負けるなんて……」

 

 

 四つん這いになって意気消沈していた出水の横で戦いの結末を見守っていた米屋は、まさかの結果に笑うしかなかった。まさかの敗北。しかも、メガネボーイによって二人が止めを刺されてしまう。これを笑う以外にどう反応すればいいのだろう。いや、ない(反語)。

 

 

「……う? ……う、ううぉぉぉおおっ! メガネくん!! バンザーイ、バンザーイ!!」

 

 

 真先に脱落した出水がここで復活を遂げる。予想外の勝利に出水は号泣しながら、二人の勝利を大いに喜ぶ。隣で米屋がドン引きしている事などお構いなく。

 

 

 

***

 

 

 

「……ほら、言ったでしょ」

 

 

 満足の行く結果が見られた事に満面な笑みを浮かばせた迅は、懐からぼんち揚げを取り出してがぶりと口に頬張る。後輩の勝利がスパイスになったせいか、今日のぼんち揚げは格別に美味いと感じ仕方がない。

 

 

「……ただのマグレでしょ。二宮さんの力があったからこその奇跡だって、あれ」

 

「だが、相手は太刀川さんと加古さんだ。幾ら二宮さんの力添えがあったからといって、マグレの一言で片づけて良いとは思わないな」

 

 

 悪態つく菊地原にそれを諌める歌川。

 

 

「歌川の言うとおりだ。マグレで勝てる程、あの二人は甘く無い。……迅、これがお前の答えか?」

 

 

 以前、迅は言っていた。このまま行けば三雲修は大規模侵攻時に命を落としてしまうと。それを阻止する為に暗躍をし続けていた。簀巻きになろうが、太刀川と百連戦させられようが、後輩の命を護る為に抗い続けたのだ。

 自身の副作用(サイドエフェクト)は言っていた。修を生かすには天眼の何かしらの効力を使わないといけない。けれど、それが今まで見て来たどの効力とも違っていた。つまり、修の天眼には本人も知らない未知な能力を有していると推測し、開眼させる機会を与え続けた。

 

 

「……それは俺にも分からないですね」

 

 

 風間からの問い掛けは苦笑いして言葉を濁すのみ。そうであって欲しいと思っていたが、それでも修が生き残る未来が確定されない。まだ何かが足りないらしい。

 

 

「動き出しが常軌を逸していた。まるで未来を視ていたかのように、二人の一手……いや、二手先まで回り込んでいた印象がある。三雲の天眼は未来すらも視る力があるのか?」

 

 

「それはメガネくん本人から聞いてよ。今さら何が見えたと言われても大して驚かないけどね」

 

 

 この時、迅は知る由もなかった。

 今後の修が見る対象に目玉が飛出すほど驚きの声を挙げる事に。

 




これが三雲タイムの力か!?

ここまで常軌を逸するつもりはなかったのに、スーパー三雲タイムのせいで、もはやお前誰だよ!! と全力で声を荒げたいほどチーターになってもうた。


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SE修【天眼】反動

どうも、お久々っすね。

正直、今後の展開に悩んでいたらこんなに時間が開いてしまいました(泣


 天眼の新たなる可能性に修は僅かながら興奮を隠せないでいた。二宮から助言を授かり、全ての能力をフル稼働した時、今までにない世界を目の当たりにしていたのだ。

 

 

「(まさか、全ての動きが少しだけ早く視えるなんて)」

 

 

 三秒後の世界を見ろ、と言われた時は流石に自身の副作用(サイドエフェクト)で不可能だと思っていたが、二宮の言葉に従って予測を踏まえて視たら太刀川と加古の動きが残像の様に先送りで動いて視えたのだ。何を言っているか分からないかも知れないが、口で上手く説明出来ないからこのような喩しか修には言えない。

 

 

「っ!?」

 

 

 けれど、全ての機能をフル稼働すると言う事は、修にかかる負荷も大きくなる。僅か一戦しかしていないと言うのに、今までに感じた事のない頭痛が襲い掛かってくる。

 

 

「……炸裂弾(メテオラ)戦術は控えろ。あんなトリオンの無駄遣いはお前には自殺行為にも等しい。これからは爆破による目眩まし戦法より他の戦術も模索するべきだ」

 

 

 戦いの総称を述べる二宮の言葉が頭に入って来ない。言葉に棘はあるが、適切な助言である故に集中して聞いておきたい所であるが、副作用(サイドエフェクト)の使用によって生じた副作用のせいで言葉が上手く浸透しきれない。

 

 

「……副作用(サイドエフェクト)の反動か?」

 

 

 二宮は三雲が苦悶の表情を浮かばせている事に気づく。

 

 

「だ、大丈夫です。これぐらい――っ!?」

 

 

 平気ですと続けようとするのだが、視界にノイズが走る。

 初めて見る現象に言葉を止めざるを得なかった。

 

 

「どうした?」

 

「へ、平気です」

 

「頭を抑えて平気と言われても信じられると思うか?」

 

「す、すみ――」

 

 

 

 ――トリオン体状態維持不可能、緊急脱出(ベイルアウト)

 

 

 

 突然、緊急脱出(ベイルアウト)が作動する。

 三雲の姿は光の粒子となって、戦場から強制退出させられたのであった。

 

 

 

***

 

 

 

「な、なんで?」

 

 

 個人ランク戦ブースに設置されているベッドに着地した修は、いったい何が起こったのか理解出来ずにいた。

 ゆっくりと上半身を起こして――視界が歪む。

 

 

「っ!?。また……」

 

 

 一瞬であるが、目の前の光景が全て二重に視えてしまった。目の異常の一つ、複視と呼ばれる症状に近い見え方に似ている。

 直ぐに症状は治まったが、こんな風になる原因など一つしか考えられない。

 

 

「これが完全機能(パーフェクト・ファンクション)を使った反動か」

 

 

 天眼のフル稼働は諸刃の剣。内包されていた全てのトリオンを使い切ったせいか、視力に異常が出たと考えるのが自然だろう。本来ならば詳しく調べる必要性があるのだが、こんな欠点を知られる訳にはいかない。

 

 

「もし、それが本当ならば――」

 

 

 推測が正しいならば報告するべきことだ。完全機能(パーフェクト・ファンクション)は使い続ければ、強制的に生身へ戻されてしまうだけじゃなく視力に異常が発生する。

 仮にこれが防衛戦や遠征で起こったら大問題に繋がる。

 

 

「言うべきなんだろうけど……。けど」

 

 

 報告を躊躇う。この事象を報告して、遠征部隊に選ばれないと理由づけられる可能性も否定できない。そうなってしまえば、空閑と千佳に合わせる顔がない。自身の問題のせいで目標を見失う事だけは避けないといけない。

 

 

「使い熟して見せる、必ず」

 

 

 故に、誰にも気づかれる訳にはいかない。

 気付かれる前に、天眼を完全に自分のものへ昇華させられるように鍛錬を続けようと一人胸に秘める修であった。

 それまで人前での完全機能(パーフェクト・ファンクション)の発動は封印する事にする。

 

 

 

***

 

 

 

「す、すみません。二宮さん」

 

 

 ランクブースから出た修は、真っ先に二宮の元へ歩み寄って深々と頭を下げる。

 

 

「天眼の完全機能(パーフェクト・ファンクション)のせいか? あれは」

 

「……はい、そうみたいです。僕のトリオンが底を突いたのだと思います。だから……」

 

「なるほどな。先の戦いから顧みると精々使えるのは20秒弱と言った所か。今後は使い所を考えるべきだな」

 

 

 燃費の悪い能力である事は事前に聞いている故に納得する。思えば自分もかなり無茶な注文を投げつけたものだ、と今更ながら考える。

 しかし、天眼は常人では考えられない程の情報量を取得出来る。ならば、その情報を元に二手三手先を予測出来ると考えたのだが、それを意図も容易く実行に移した事は驚愕に値する。

 まさか、全ての効力をフル稼働させて本当に数秒先の未来を視ようと考えるとは思ってもみなかったが。

 と、しみじみと思い思いふけっていると――。

 

 

「みーくーもぉぉぉぉっ!!」

 

 

 聞き慣れた声が耳を劈く。誰か容易に想像できた二宮はしかめっ面で声がした方角に視線を向けると、喜色満面な表情を浮かばせた太刀川が猛ダッシュでこちらへ近づいてきているじゃないか。

 

 

「……三雲、今日の訓練はここまでだ。お前はさっさと休め」

 

「た、たはは。あ、ありがとうございます」

 

 

 途中で出水に通せんぼされている太刀川に視線を向け、冷や汗を流しつつ苦笑いする。

 深々とお辞儀をしてお礼の言葉を述べた三雲は二宮の言葉に甘えて早々とランク戦ブースから離れる事にしたのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「驚いたわ。どう言う手品を仕掛けた訳?」

 

 

 三雲と入れ違いに加古が二宮の傍に歩み寄って尋ねてくる。

 

 

「何のことだ?」

 

「決まっているじゃない。さっきの戦いの事よ」

 

 

 まるで狐に化かされた気分であった。

 戦線離脱して僅かの間に、加古と太刀川、そして米屋は一方的にやられてしまったのだ。

 

 

「そんな事か」

 

 

 二宮は戦略的撤退後の作戦会議の内容を加古に話す。

 

 

副作用(サイドエフェクト)を使って未来を予測しろ? 二宮君、随分と無茶苦茶なオーダーを出したもんね」

 

「奴の天眼の能力ならば可能だと考えた故だ。最も、俺は予測しろと言ったがアイツは視ようとしたみたいだがな」

 

「それで、あれなのね。二宮君が後方支援に徹した理由もそれなのかしら?」

 

「それはアイツの作戦だ。数的不利を不意打ちの弾幕で補い、自分は囮と奇襲要因に徹すると言ってきやがった。機を見て合成弾でぶっ放せと言ってきたが……あそこまで、上手く不意を突けるとは思ってもみなかった」

 

 

 修が考えた作戦は単純であった。複数的不利な状況でしかも相手が強敵ばかり。戦略的撤退が不可能な状況で現状を打開するには奇襲に次ぐ奇襲を繰り返して、相手の虚を突き続けると言うものであった。聞いた時は何を言っているんだこのバカは、と思ったのであった。

 しかし、二宮自身を視えない砲台にする事で常に上空を意識させる事でチャンスを狙うと聞いて渋々了承したのである。死角を持たない修だからこそ出来る考え方である。

 

 

「そうね。二宮君が合成弾を使うこと事態が稀だから、使って来ないと思い込んでいたのがいけなかったわね。私も少しは考えを改める必要があるわね」

 

 

 戦いは何が起こるか分からない。幾ら勝手知ったる隊員とはいえ、経験則だけで選択肢を自ら狭めてしまうのは危険だと思い知らされた。

 

 

「……あ、そうだ。今度、今回の戦いについてみんなで反省会でもしない? 射手(シューター)会の題材にしても面白いと思うのよ」

 

「今回のあれは、あまり参考にならないと思うが?」

 

「あら、いいじゃないの。那須ちゃんにも見せてあげたいし、何より新星射手(シューター)の意見も色々と聞いておきたいわ」

 

 

 射手(シューター)は戦術を生かしてこそ輝くポジションである。戦略を駆使する戦いは人によって千差万別。いつものメンバーだけでは得られる経験値も限られる為に、新しい人の意見は聞いておきたいと考えたのだ。

 

 

「そんな事より、あれをどうにかしろ。見ていて痛々しい」

 

 

 出水にしがみ付かれながらも三雲の元へ駆け出そうとする太刀川を見やる。

 

 

「あぁ、大丈夫よ。だって――」

 

 

 言うよりも早く、太刀川達の状況が動く。いつの間にか近づいていた風間が太刀川の片耳を掴んで彼の暴走を諌めたのである。

 

 

「ちょっ!? か、風間さん。何をするんですか!!」

 

「黙れ。仮にもA級の隊長とあろう者が公衆の面前で醜態を晒すな。下の者に示しがつかんだろうが。それに、忍田本部長から連絡が来たぞ。お前、またレポートをほったらかしにしているそうだな」

 

「げっ!? な、何でそれを」

 

「今日という今日は許さないとのお達しだ。レポートが終わるまでランク戦はさせん。非常事態以外のトリガー使用も禁止も考えるとのことだ」

 

「ちょっ、ちょっと待って風間さん! それはあんまりにも――」

 

「――問答無用だ。いいからさっさと課題を終わらせて来い、バカ者めが」

 

 

 ドナドナと強制連行される太刀川。そんな二人のやり取りを見て、加古は「ね」と二宮に告げる。あれが同学年と思うと頭痛を覚える二宮であるが、先ほどの顛末は綺麗さっぱりと忘れて、話しを続ける事にした。

 

 

射手(シューター)会は後ほど日程を決める。それまでに――」

 

 

 諸々の資料を用意しろ、と言おうとする二宮達に近づく者達がいた。

 

 

「か、加古さん!!」

 

「……双葉? どうしたの、そんなに慌てて」

 

 

 加古隊の隊員、双葉黒江であった。その後ろには緑川駿の姿も見える。学生服姿から察するに二人は今さっきボーダーに来たのであろう。

 

 

「か、加古さんが三雲先輩と戦っていると聞いて」

 

「あぁ、なるほど。それで急いで来たのね。けど残念ね。今さっき終わったばっかりなのよ」

 

「そうみたいですね。そ、それで結果は?」

 

 

 まだ先の戦いの詳細を聞いていなかったらしい。加古は苦笑いを浮かべて「負けちゃったわ」と軽い口調で結果を告げる。

 

 

「えっ!? 加古さんが負けたって事は、三雲先輩が勝ったの!? 確か太刀川さんやよねやん先輩も一緒だったって聞いたけど」

 

「そうなのよ、緑川くん。正直、想像以上だったわ。あれでまだB級とか信じられないのよね。……いっそのこと、うちの隊に引き入れようかしら」

 

「三雲の頭文字はMだぞ。そんな事も分からなくなったのか、お前は」

 

 

 加古のこだわりらしく、加古隊は頭文字Kの隊員で揃えている。

 

 

「そんなの将来うちの隊の誰かと一緒になったら、問題ないわよ」

 

「奴が結婚するまで、お前が現役でいるとは到底思えないがな」

 

「それ、どう言う意味かしら二宮君」

 

「事実を言ったまでだ」

 

 

 修は十五歳。仮に最短で結婚したとしても三年後。その時の加古の年齢とトリオン機関の現状を考えるとA級として現役でいるかどうか微妙なところである。

 だけど、二宮は分かっていなかった。女性に年齢の事を話す時は慎重に展開を予測しないといけない事を。

 

 

「二宮君。わたし、ちょっと物足りないから久々にランク戦でもしないかしら?」

 

「構わないが、目が据わっているぞ」

 

「誰のせいだと思っているのかしら」

 

 

 この後、二宮は加古となぜか一緒について来た黒江と緑川の変則模擬戦をさせられる羽目になったのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 視界が歪む。まるで高熱を帯びた時の様に視界がゆらゆら揺れ続ける。それだけならまだよかったものの、時折であるが色彩を認識しない症状すら出始めているのであった。

 

 

「(思った以上にひどいな、これは)」

 

 

 副作用(サイドエフェクト)の反動が長時間続く事は稀であった。今までの経験上では続いても十分ぐらいであったのだが、既に十分など軽く超えてしまっている。

 

 

「(空閑と千佳には悪いけど、先に帰らせてもらおうかな)」

 

 

 二人とも合同訓練の為に本部に来ている。修は待ち時間を利用して二宮とランク戦形式の鍛錬をお願いしていたのである。本当ならば二人が終わるのを待ってあげたい所であるが、この状態で二人が終わるのを待つのは中々しんどい。携帯電話を取り出して、先に帰る旨をメールに書き始める。

 

 

「……お、そこにいるのは三雲君か?」

 

 

 ふと、声を掛けられて振り向くとそこには――。

 

 

「こんにちは、嵐山さん」

 

 

 嵐山隊の隊長である嵐山准であった。嵐山は修を見るなり満面な笑みを浮かばせながら近づいてくる。

 

 

「こんにちは、三雲君。聞いたよ。太刀川さんと加古さん相手に勝ったんだって?」

 

 

 修達の戦いは本部中に広まっているようだ。

 

 

「二宮さんの御力添えがあったからです。僕一人ではとてもあの三人と戦い抜く事なんて出来なかったですよ」

 

「謙遜する事はないよ。それだけキミは凄い事をやり抜いたって事なんだから。もっと胸を張るべきだよ」

 

「ありがとうございます」

 

 

 副作用(サイドエフェクト)の反動で思考を取られていたせいで実感する事がなかったが、こうして同じA級の嵐山に褒められると今更になって自分のしでかした事に気付く修であった。

 

 

「三雲君程の弟子を持った烏丸も鼻が高いだろうね。桐絵が気に掛けるだけあるよ」

 

 

 小南越しから嵐山は修の近状を色々と聞かされている。双子の姉弟を救ってくれた恩人の話しゆえに大変興味があったが、仕事の事情から中々本人とこうして話す機会がなかった。

 

 

「今度、うちの隊に遊びに来てくれよ。木虎も喜ぶからさ」

 

「あの木虎がですか?」

 

 

 軽く想像してみるが、どう考えても歓迎してくれるとは思えない。第一声に「私は忙しいのよ」と言われて門前払いを喰らうイメージしかわかない。

 そんな修の心情も知らずに、嵐山は話しを続ける。

 

 

「ここだけの話し、木虎は時間が空く度に三雲君の模擬戦のデータを見ているんだよ」

 

「そ、そうだったんですか? よっぽど悔しかったんでしょうか?」

 

 

 木虎はエリート思考が強い。よっぽどB級の自分に勝ち越せなかった事が悔しかったのだろうか、と口にすると嵐山は目を点にして修が言った言葉を脳内で反芻し、彼が勘違いしている事に気付く。

 

 

「そうかもね。なら、今度でも良いからもう一度木虎の相手をしてあげてよ。木虎も喜ぶからね」

 

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いいたします」

 

「おっと、ごめんな。これから報告書を纏めないといけないんだ。また今度、ゆっくりと話そう。今のキミの状態も含めてね」

 

「っ!? ……はい」

 

 

 なるべく表情に出さないように試みていたが、嵐山には簡単に見破られてしまったようだ。胸中で「敵わないな」とぼやく。

 

 

「じゃあ、今日は早く帰ってゆっくりと休みなよ」

 

 

 軽く頭を下げて嵐山と別れる。

 

 

「……もっと、しっかりとしないとな」

 

 

 こうも易々と自身の体調不良を見破られてしまったら意味がない。

 修も今後も精進する事を胸に秘めつつ、空閑と千佳に「今日は用事が出来たから先に帰る」とメールを送るのであった。




さて、今後はどうしましょうかね。

まず、那須さんを出したいけど……。これ射手編終わっているんじゃね? と思っていたり。
仕方がない。那須編を始めるか(マテ

あと、他のメンバーも出したいけど、大規模侵攻編もやりたいしなぁ。
……執筆速度をトランザム化しないと無理か。エグザムでもいいから、脳内妄想展開が加速化しないと追いつかないですね、これ苦笑


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SE修【天眼】那須隊①

めっちゃ迷ったよ!

香取隊を巻き込ませようか、修羅場に陥れようか(マテ

けど、結局、今回“は”ストレートに行こうと思います。

変化球ばかりじゃ、後々大変になるでしょうし苦笑


 玉狛支部の一室。

 修は今までの過去の戦いを見ながら、改善できる点を模索していた。

 三雲隊の結成。予定よりも早い二人のB級昇格に修は少しばかり焦っていたのだ。

 

 

「(ランク戦まで、あと少ししかない。それまでに僕自身、力を付けなくては……)」

 

 

 数多くの実力者と戦い、そこそこ戦えると自覚はしている。だからと言って、まだまだ自分自身がお荷物的存在である事は変わりない。

 

 

「(けど、使用できるトリオンが限られている以上、トリガー構成を弄るにも限界がある。天眼も使い方を間違えれば、二人の足を引っ張るのは間違いない)」

 

 

 今までは天眼と相対する事が初めてな者達ばかり。いわゆる初見殺しでどうにかなった点が大きい。しかし、今度からは自身の戦いぶりを研究して対策してくるはずだ。次からは早々簡単に勝利を得る事は難しくなるだろう。

 

 

「(だからと言って、完全機能(パーフェクト・ファンクション)は使えない。使うとしても、最後の切札だ)」

 

 

 2秒先の未来を見通す完全機能(パーフェクト・ファンクション)なら、奇襲戦法と併用して戦えば有利に戦闘を運ぶ事が可能かもしれないが、ランク戦は三つ巴、四つ巴戦。敵の数が多すぎる故に、ここぞと言う時のみしか使えない。

 

 

「(転送直後、どれだけ有利に事を運ぶ事が出来るかが勝負の分かれ目と言った所かな)」

 

 

 他の戦闘員と違って、レーダーを使わなくても敵の所在が分かるのは大きな武器である。いかに情報戦で有利に運べるかが勝負だと思われる。

 だが、どんなに情報戦に優れていても限度がある。空閑は兎も角、千佳は人を撃てない。それに加えて自身の戦闘力の低さを考えると、どうしても決め手の一つや二つは欲しい所だ。

 

 

「ここにいたか、修」

 

 

 呼び掛けられ、思考の海から離脱する。呼びかけた相手は師の烏丸であった。

 

 

「……お疲れ様です、烏丸先輩。防衛任務は終わったんですか?」

 

「あぁ、今さっきな。模擬戦のログを見ていたのか?」

 

「はい。こうしてみると、騙し討ち一辺倒なのが分かりますね。真正面から戦った記録がほとんどありません」

 

 

 自身の大戦ログを改めて見て、自分が如何に騙し討ちの一辺倒である事が分かってしまう。それがダメとは言わないが、これでは真正面から戦えないと言っているものだ。

 

 

「それは仕方がないだろう。どれも修以上の実力者だ。むしろ、よく戦ったと言うべきだろう」

 

「そうですかね」

 

 

 烏丸はそう言ってはくれるが、やはり自分自身も空閑とまではいかないが、それ相応の戦闘能力は欲しい。しかし、トリオン量が圧倒的に少なく運動神経もそこまで高くない事は自覚している。木崎に基礎体力作りのメニューを貰って体力の向上を施してはいるとはいえ、未だにその成果は見受けられない。

 

 

「焦るな、とは言わないが無理をするのだけはやめて置け。修には天眼と言う立派な武器があるんだからな」

 

 

 まだ修が玉狛支部に来てから日は浅い。それにも関わらず、納得のいかない表情を見せる後輩は充分戦果を挙げているのは確かだ。少しばかり自信の評価を下に見ている弟子に「それならば……」と提案を上げてみることにした。

 

 

「お前がこれまで戦った相手はA級ばかりだろ? だったら、今度はB級の隊員と戦ってみればいい」

 

「B級の方達とですか?」

 

「そうだ。これから戦う相手の分析にもなるし、自身がどれだけ動けるかも分かるはずだ。何より、実力が同等な奴と戦う事で視える世界もあるはずだ」

 

「……なるほど」

 

 

 考えてみれば、今までの対戦成績から鑑みると殆どの相手がA級であった。くよくよ考えるよりも体を動かして見ろ、と言う師の提案は一理あると考え直す。

 

 

「ありがとうございます、烏丸先輩。早速、明日から本部に言ってみます」

 

「そうか。……所で修。少しばかり時間があるから、久しぶりにやるか?」

 

 

 珍しく師からの模擬戦のお誘いに修が断るはずもない。

 

 

「はい! よろしくお願いいたします」

 

 

 その後、烏丸本気モード――ガイスト使用――と五戦ほど戦い、時間切れであるがどうにか一勝をもぎ取る事に成功した修であった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日、空閑と千佳に本部へ行くことを伝え、修はランク戦室に向かっている最中――。

 

 

「……あ、三雲君だ!?」

 

 

 見知らぬ少女に声を掛けられたのであった。

 

 

「えっと、キミは?」

 

「あ、初めまして! 那須隊の狙撃手(スナイパー)の日浦茜です! 千佳ちゃんと一緒に訓練したりします!」

 

「そっか。千佳がいつもお世話になっています」

 

「この前の狙撃戦を見たよ。凄いね! 二挺狙撃(ツイン・スナイパー)を楽々と出来るなんて。それにそれに、奈良坂先輩とも撃ち合って勝っちゃうんなんて」

 

 

 尊敬の眼差しを送る彼女は、以前に佐鳥が引き起こした狙撃戦のログを見た様子。あの時の事を思い出し、修は苦笑いを浮かべながら答える。

 

 

「あれは、東さんの力添えがあったからこそだよ。僕なんてぜんぜんだし」

 

「そんなことないよ! 私だったらあんな作戦も立てる事も出来ないもん。千佳ちゃんだって、三雲君は凄いって褒めていたよ」

 

 

 狙撃手(スナイパー)の世界で三雲と東、佐鳥の狙撃手(スナイパー)連合の戦いはちょっとした話題になっている。狙撃手(スナイパー)同士で戦う模擬戦はなくもないが、実力者達の戦いを視る事は機会は中々少ない。あの戦いはC級やB級達の狙撃手(スナイパー)達にとってはちょっとした教材になっていたりする。

 

 

「ね、ね。どうやったら、あんなに正確な狙撃が出来るの!? コツとかあったら、教えて欲しいな」

 

「こ、コツ?」

 

 

 そんな事を聞かれても答えようがない。修の狙撃は例えるならば高性能なレーザーサイトが常に付いている状態なのだ。コツと言うコツはないに等しい。

 なんて答えて言いか迷っているところ、またもや一人近づく者が現れる。

 

 

「茜、こんな所にいたの。今日は連携の訓練をする……。って三雲君だっけ?」

 

 

 隊員室に中々来ない日浦を迎えに来たのだろう。那須隊の隊員の一人、熊谷友子が油を売っている日浦を嗜めようとしたところ、相手が時の人である三雲だと初めて知る。

 

 

「あ、熊谷先輩! いまちょうど三雲君とあって、狙撃戦の話しをしていたんです」

 

「だからと言って、訓練の時間を忘れちゃダメでしょ。キミが三雲君ね。玲からちょくちょく話しは聞いているわよ。……あ、私は熊谷友子ね」

 

「初めまして、熊谷先輩。その、玲って? それに話しとか……」

 

「あぁ。玲は私達の隊長の那須玲ね。面白い射手(シューター)の子がいるって玲から聞かされていたのよ。この前のログも見たわ。面白い戦い方をするのね」

 

 

 友人の那須の勧めで熊谷も修の過去のログ、特に加古と太刀川、米屋のA級混合部隊と戦ったログを何度も見た口である。同じB級であそこまで戦える事に、少なからず刺激を受けた身だ。

 

 

「あ、ありがとうございます」

 

「そうだ! 熊谷先輩。三雲君に例の件をお願いしてみようよ」

 

「……例の件?」

 

 

 何やら嫌な予感がしてならなかった。こう言う予感だけは何故だか的中率が高い。

 日浦の提案に熊谷は「そうね」と思案顔を浮かべる。

 

 

「あ、あの。その例の件って?」

 

 

 聞くに、那須隊は対来馬隊、特に村上鋼隊員の攻略に苦戦していた。今回の連携の訓練も、対村上戦を考慮した作戦会議に等しい。

 

 

「三雲君なら、弧月も使えるし仮装敵としてぴったりと思うんです」

 

「けど、彼のポジションは射手(シューター)でしょ。村上先輩の代役はちょっと務まらないんじゃない?」

 

 

 いくら修が強いと言っても、攻撃手(アタッカー)ランク上位の村上の代役は務まらないだろう。

 

 

「じゃあ、那須先輩に相談しましょう!」

 

「そうね。……そう言う事だから、三雲君。少しばかり付き合ってくれない?」

 

「はぁ」

 

 

 気が付いたら、彼女の訓練を手伝う流れになってしまった。本当ならば、ランク戦室に行って手ごろな相手と戦いたい所であったが、先輩のお願いを卑下にする事も出来ず、流されるままに修は那須隊の隊室に向かう事になったのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 那須隊に入るなり、事件は起こった。

 

 

「……あの。やはり、僕は退室した方が良いのでは?」

 

「ごめんごめん。小夜子がいるのを忘れていたよ」

 

 

 うっかりしていた、と豪快に笑う熊谷であるが、初対面の女性に叫び声をあげられて小鹿みたいにプルプル震えて那須の背中に隠れられた修からしてみれば、非常に居心地が悪い事この上ない。

 

 

「もう、くまちゃん。いきなり三雲君を連れてくるからびっくりしたわよ。ごめんね、三雲君。小夜ちゃん、男の人がちょっと苦手で」

 

「そ、そうなんですか。なら、やっぱり退室した方が良いのでは?」

 

 

 そんな話しを聞いては尚の事、自分がこの場にいてはいけないと思えて仕方がない。早々に退室する宗を伝えて、退散しようとするのだが……。

 

 

「大丈夫よ。良い機会だから、少しは慣れておかないと。小夜ちゃんも、それじゃ三雲君に失礼でしょ」

 

「し、しかし……」

 

 

 失礼と分かっていても、男の人は苦手なものは苦手だ。幾ら隊長の言葉でも、そればかりは容易に了承出来ない。

 

 

「しょうがないわね。ごめんね、三雲君。那須隊の隊長、那須玲よ。あなたとは一度話して見たかったから、こうして会えたのは嬉しいわ」

 

「この子、最近はしょっちゅう三雲君の対戦ログを見ているのよ」

 

「ちょっ。くまちゃん」

 

「だって本当の事じゃない。あそこまで、他の人の対戦ログを視るのは初めてじゃない?」

 

「それはそうだけど……」

 

 

 那須が初めて修の対戦ログを見始めたのは、木虎・緑川戦の時であった。数少ない変化弾(バイパー)の使い手に色々と思う所があったのだろう。気がつけば、過去の修の対戦ログを視る習慣がついていた。

 

 

「にに、二宮さんと出水先輩の対戦ろ、ログはわわ、私もみました」

 

 

 那須の後ろからひょっこり顔を出して、声を震わせて志岐も会話に参加する。

 

 

「私も見たよ、それ! あと、太刀川さんや加古さん、迅さんと戦ったログも見たなー。あんなにA級隊員と戦えるなんて、三雲君は本当にすごいねー。狙撃も出来て、攻撃手(アタッカー)も出来るなんて、本当に尊敬しちゃうな」

 

 

 キラキラと瞳を輝かせる日浦に修はなんて返答して言いか迷ってしまう。自分自身、そこまで尊敬されるような人間ではない。歳の近い日浦にそんな風に褒められても、困ってしまうのが正直なところだ。

 

 

「ごめんね、三雲君。急に呼び出して、騒がしくしちゃって」

 

「いえ、大丈夫ですよ」

 

「ところでくまちゃん。なんで、三雲君を呼んだの?」

 

 

 今日は前々から、対村上を考慮した連携の訓練する日と決めていたはず。それなのに、どうして修を連れて来たのか、当然の疑問を口にすると……。

 

 

「茜の提案でね。彼に相手をしてもらうのはどうかなって」

 

「三雲君に?」

 

「そう。連携だって、相手がいた方が分かる事も多いでしょ。彼なら、オールレンジ対応が可能だから、相手として打って付けだと思ったのよ」

 

「けど、三雲君に悪いんじゃないかな?」

 

 

 前々から話しをしていたならともかく、いきなりそんな事をお願いしても迷惑するはずだ。視線を三雲に向けると彼は「ぼ、僕で良ければ」と了解の意を示してくれた。

 

 

「ちょうど、僕もランク戦の相手を探していたので、力不足かも知れませんがお手伝いしますよ」

 

「そう? それなら……。お願いしようかな」

 

 

 こうして、対那須隊VS三雲修の戦いが始まる事になった。

 

 

「(こんな事になるなら、空閑にも来てもらうんだった)」

 

 

 と、少しばかり後悔している修であったりする。




難産でした。その割にはめっちゃ文字数が少ない(苦笑

こ、これからだ。これから那須隊戦の本領発揮だ。
何を言っているか自分でもわからないが、那須タイムはーじまーるよ!

続きが欲しいなら、万雷の絶叫を寄越すことだ(オイ


……酔っているのか、テンションがおかしいのはスルーしてください。


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SE修【天眼】那須隊②

那須隊の結末、どうしましょうかねぇ(オイ


 初めて三雲修の戦いを見た切欠は、同じ学校に通っている小南が自分の事の様に自慢をした事が始まりであった。

 

 

『以前話していた三雲修って後輩なんだけど、最近めきめきと実力を伸ばして来たんだよね。まさか副作用(サイドエフェクト)持ちなんて誰が想像出来たかしら』

 

 

 副作用(サイドエフェクト)持ちの後輩。しかも、自分と同じ数少ない射手(シューター)志望と聞いて、少しばかり興味が出て来たのだろう。何気なく対戦ログを見た時、始めは目を丸くしたのを鮮明に覚えている。

 A級二人に対し、堂々と立ち振る舞い、挙句の果てには勝利を収める年下の男の子。自分と同じ変化弾(バイパー)を使い熟し、戦略を駆使して戦う姿勢は自分にも学ぶところがあると感じていた。

 同じ射手(シューター)として話してみたい思いはあったが、三雲修は玉狛支部所属。それに加えて、自身が本部に足を運ぶ事は少ない。修と顔合わせする機会は少なかった。

 

 

「(厄介とは知っていたけど、ここまでとはね)」

 

 

 その件の男の子、三雲修は仲間の熊谷と切り結んでいた。正確にはシールドモードを最小限にして、熊谷の弧月と殴り合っていたが。

 今回の対村上戦の作戦は、熊谷が接近戦に持ち込んで、その死角を日浦と那須が援護射撃で動きを封じこむと言う作戦であった。けど、その作戦は修に対しては通じないと痛感させられる。

 

 

『へぅ。あ、当たる気が全くしませんよ、那須先輩っ!!』

 

 

 狙撃手(スナイパー)の日浦から早くも泣きが入る。鍔迫り合いをしている最中、彼女は修の右脇腹目掛けて狙撃したのだが、修は振り返る事もせずに弾丸を射出して日浦のライトニングを軽々と防いでしまったのだ。あんな離れ業を見せられたら、狙撃をする気も無くしてしまうのは無理もない。

 

 

「諦めないの、茜ちゃん。小夜ちゃん! 茜ちゃんのサポートを。くまちゃんは、そのまま三雲君を抑えて!」

 

『分かりました』

 

『了解よっ!』

 

 

 と、隊長の玲の言葉に了解を示したものの、モンクスタイルの修と戦うのは非常にやり難い。

 

 

「旋空――」

 

 

 距離を置いて、旋空弧月を叩き込もうにも修がそれよりも早く通常弾(アステロイド)を放って体勢を崩されてしまう。無理に放ってもグラスホッパーで斬撃の軌道上から逃れられて当てる事が叶わない。だからと言って、接近戦に持ち込んでも自身の斬撃は正確にレイガストによって叩き落され、隙が出来るなり通常弾(アステロイド)を射出して撃抜こうとしてくる。

 かろうじで首を振って避けられたものの、こんな芸当を何度も成功できる訳がない。

 

 

「実際に見てみると厄介極まりないわね、三雲君っ!」

 

「ありがとうございます。けど、まだまだです」

 

「それでまだまだとか、少し自分を過小評価しすぎるわよっ!」

 

 

 渾身の力を込め、右肩から左脇腹に沿って袈裟斬りを放つが太刀川や米屋の攻撃に比べたら対応圏内の速度。シールドの面積を広げて弧月を受け止め、グラスホッパーで熊谷の態勢を崩しにかかる。グラスホッパーの効力で宙に泳がされた熊谷を追撃せんとスラスターを発動するが、それを阻止せんと那須の変化弾(バイパー)が飛来する。

 

 

「っ!?」

 

 

 出水の変化弾(バイパー)と違い、那須の変化弾(バイパー)は意志が込められた用に自在に空を走る。螺旋に描かれた無数の弾丸は修の逃げ道を塞ぐ様に囲いながら襲い掛かってくる。

 

 

「……スラスターオン」

 

 

 並大抵の隊員なら、変化自在に飛来する弾丸の対応に戸惑い、致命傷は避けても被弾するだろう。けれど、修には天眼の効力の一つ鷹の眼がある。自身に襲い掛かる変化弾(バイパー)がどこに着弾するか、視覚として情報を与えてくれる。

 

 

 

 ――斬

 

 

 

 後は、その情報に従いレイガストを走らせるのみ。

 

 

「……うそ」

 

 

 まさか、那須も自分の弾丸をレイガストによって斬り落とされるとは想像もつかなかった事だろう。グラスホッパーで逃げたところを日浦の狙撃で落とすつもりであったが、その作戦も実行に移すことが出来ずに終わってしまった。

 

 

『ちょっと玲っ!? あの子、想像以上過ぎるでしょ。どうすれば崩す事が出来るのよ』

 

 

 修の厄介さを間近で体験し続けている熊谷からも悲鳴が上がる。

 どうすればよいか? そんなの、自分が一番知りたい所である。

 

 

『落ち着いて下さい。今はとにかく体勢を崩して、戦力の低下を図るべきです。三雲君の戦い方はレイガストをベースとしています。接近戦に持ち込み、レイガストを封じれば那須先輩の変化弾(バイパー)で何とか出来るはずです』

 

「だって小夜子先輩。私の狙撃じゃ、三雲君の通常弾(アステロイド)で防がれちゃいますよ」

 

 

 既に一回実践されてしまっている。振り向く事無く正確にライトニングの弾丸を通常弾(アステロイド)で受けとめられている。体勢を崩すにしても、頼みの熊谷もレイガストと通常弾(アステロイド)の前になす術もなくなってしまっている。

 

 

「……少し、やり方を変えましょう」

 

 

 これ以上、戦い続けてもジリ貧である。ならば、戦いに変化を加えて工夫を行うべきだ。臨機応変に戦わなければ、目の前の強敵は勝てないと改めて理解し、那須は作戦を伝える。

 

 

「(……みんなの動きが変わった?)」

 

 

 那須隊の行動の変化を修は見逃さなかった。今までフロントアタッカーとしての役割を担っていた熊谷が下がり、支援攻撃に徹していた那須が前に出て来たのである。

 

 

「(日浦は狙撃場から離れて、何か行動を始めているな)」

 

 

 初めは狙撃場を変更する為に移動を始めたのかと思いきや、彼女は要所要所にトリオンキューブを設置し始めている。

 

 

「(罠か。……察するに置き弾の類と言うべきかな)」

 

 

 狙撃が通じないと諦めて、日浦は罠要因として動く事にした様子。トリオンキューブの類がなんであろうと、視えている以上、易々と引っ掛かる事はないはず。

 

 

「(けど、ただ黙って見過ごすわけにはいかないか)」

 

 

 戦闘が長引けば長引くほど罠の効力は発揮されていく。奇襲騙し討ちを得意とする修としては、自身の得意分野で後れを取る訳にはいかない。

 ここは一旦、グラスホッパーで戦場を離脱して罠を張り巡らしている日浦を先に討つべきだろう。

 しかし、目の前の那須がそれをさせまいとトリオンキューブを射出。変幻自在に弾道を描く那須の変化弾(バイパー)は扇状に広がる。

 

 

「(通常弾(アステロイド)で……。いや、これは)」

 

 

 鷹の眼が知らせる。那須の変化弾(バイパー)の軌道は一旦修目掛けて飛ぶが、数秒後に那須目掛けて戻ることを。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 自身に戻る変化弾(バイパー)目掛けて、那須は更なるトリオンキューブを解き放つ。

 この戦術は見覚えがあった。対A級連合部隊と戦ったときに修が使った目眩まし戦法だ。

 白煙により視界を潰される。直ぐに浄天眼を発揮させて無効化を図るのだが、間髪入れずに熊谷の旋空弧月が空を裂く。

 

 

「っ!?」

 

 

 咄嗟にシールドモードのレイガストで防ぐ事に成功するが、熊谷の攻撃は止まらない。

 

 

「もう一撃っ!!」

 

 

 

 ――旋空弧月

 

 

 

 返しの刃で力強く横薙ぎに振るわれた旋空は修の身体を両断せんと襲い掛かる。タイミング的に避ける事は不可能。胸中で「勝った」と呟く熊谷は修の咄嗟の行動に目を丸くさせる。

 

 

「あんたはどこのサーカス団よっ!!」

 

 

 戦っている最中にも関わらず、つっこまずにはいられなかった。何せ、グラスホッパーで真上に跳んだと思いきや、スラスターの推進力を利用して前方に一回転。俗に言う前宙で熊谷の旋空をギリギリの所で避けきったのである。

 そして、つっこみの代償は大きかった。熊谷の動きを止めた隙は回転している最中でもくっきり、しっかりと視えている。着地するなりレイガストを振り被り、スラスターを起動。

 

 

「スラスター起動(ON)

 

 

 繰り出すは必殺奇襲の飛槍。修の攻撃の中で最速を誇る一撃を解き放つ。

 

 

「しまっ!?」

 

 

 我に返った時、既に修のレイガストは間近に迫っていた。シールド一枚を張っても、飛槍を防ぐ事は難しい。ならば、ここは力と力の勝負。熊谷は渾身の力を込めて修のレイガスト目掛けて弧月を振り降ろす。

 宙を舞うレイガストと弧月。熊谷はどうにかして修のレイガストの脅威から身を護る事に成功したのだが、逸らすだけで精一杯であった。爆走するレイガストの力に負け、唯一の武器である弧月を手から離してしまったのだ。

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)(プラス)変化弾(バイパー)

 

 

 

 更に修は合成弾で畳み掛ける。人数的な不利な状況、この絶好な機会を逃す訳にはいかない。

 だが、それを那須と日浦が許すはずがなかった。

 変化炸裂弾(トマホーク)を叩き込もうと重心を前に傾けた瞬間、地面を這う様に無数の弾丸が駆け抜けていく。

 

 

「(地を這う変化弾(バイパー)!? グラスホッパーで……っ!?)」

 

 

 修がグラスホッパーで上空に回避する事も予想していたのであろう。那須は修が逃げるルートを予測して上空にも変化弾(バイパー)を撃ち放っていた。

 

 

「(ダメだ……。間に合わない)」

 

 

 持てる手札は変化炸裂弾(トマホーク)のみ。しかし、この無数の弾丸を全て防ぎ切る手札はない。たった一つを除いて。

 

 

 

 ――副作用(サイドエフェクト)完全機能(パーフェクト・ファンクション)

 

 

 

変化炸裂弾(トマホーク)っ!!」

 

 

 一塊の変化炸裂弾(トマホーク)を足元に叩き込む。




待て! ここでそれを使っちゃうの!? と書いていた自分もびっくりです(オイ

あと、いつも感想、誤字報告ありがとうございます。


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SE修【天眼】那須隊③

文字数が少なくてすみませんね。


 変化炸裂弾(トマホーク)によって発生した黒煙により修の姿を見失ってしまう那須隊。

 

 

「……自爆した?」

 

 

 流石にあのタイミングでどうにかできるとは到底思えないが、だからと言って変化炸裂弾(トマホーク)を地面に叩きつけるなど理解に苦しむ。自爆したと考えるのも無理はないだろう。

 

 

『いえ、まだレーダーに反応があります。三雲君は健在です』

 

 

 しかし、その考えを志岐が否定する。

 終始、戦闘中の全員の行動を見守っている志岐はレーダーによって健在か離脱したのか直ぐに判別できる。3対1でも厳しい条件なのに、オペレーターのサポート無しで戦うなど無謀もいいところだ。

 

 

「茜ちゃん。姿が見えたら、狙撃をお願い」

 

『はい、わかりました。……けど、いくら三雲君が凄くてもアレを受けたら戦い続けるのは難しいのでは?』

 

「油断は禁物。もし、三雲君がそっちに向かったら炸裂弾(メテオラ)を使うのよ」

 

「はいっ!」

 

 

 その時、足に違和感を覚える。ゆっくりと違和感を得た足元を見ると、自身のトリオン体に穴が開き、トリオンが漏れだしているじゃないか。

 

 

「こ、これは……?」

 

「い、何時の間に!?」

 

 

 熊谷からも驚愕の声が上がる。彼女も両足からも少量のトリオン量が漏れだしているじゃないか。

 

 

「小夜ちゃん!?」

 

『レーダーは動いていませんっ!! 三雲君はそこにいますっ!!』

 

 

 なら、どうして自分達は知らぬ間に被弾したのであろうか。考え、那須は一つの仮定に至った。

 

「(まさか……)」

 

 

 

 ――炸裂弾(メテオラ)

 

 

 

 黒煙から無数のトリオンキューブが放たれる。

 

 

「玲っ!!」

 

 

 

 ――変化弾(バイパー)

 

 

 

 熊谷の言葉に応じ、直ぐに迎撃の変化弾(バイパー)を放つ。

 けれど、それは悪手であった。那須の変化弾(バイパー)が修のトリオンキューブに触れると盛大に爆発し、彼女達の視界を奪う――と、同時に熊谷のトリオン供給機関に風穴があく。

 

 

「……ど、どうやって?」

 

 

 

 ――トリオン供給機関、破壊。熊谷、訓練停止。

 

 

 

 熊谷のトリオン体が戦場から強制的に退出させられる。今回は那須隊の訓練室で行っている故に、緊急脱出(ベイルアウト)は発動しないが、代わりに訓練室から強制的にテレポートされるようになっていた。

 

 

「くまちゃん!?」

 

 

 親友の退場に動揺を隠せずにいた。しかし、慌てふためく訳にはいかない。既に修から奇襲が放たれているのだから。

 

 

「(やはり、これは……)」

 

 

 知らぬ間に被弾した足。炸裂弾(メテオラ)を撃ち落とすと同時に風穴を穿かれた熊谷。その答えは一つしかない。視線を首から上に集め、本命の弾丸は下から飛んで来ている。

 

 

 

 ――変化弾(バイパー)

 

 

 

 背後に回り込んでいた修の変化弾(バイパー)が那須のトリオン機関目掛けて飛ぶ。

 寸前の所でシールドを張って事なきを得たが、修の変化弾(バイパー)はこれ一発だけではない。

 

 

「(やはり、この弾道軌道は、私の……)」

 

 

 地を這う変化弾(バイパー)(ブラック)トリガー、風刃を想像させる弾道軌道は那須が偶に使う攻撃手段の一つ。自分が修の戦い方を真似した様に、修も同じ様に那須の戦い方を真似したのである。

 放たれた弾丸の数は少ないが、四方から取り囲む弾道の軌道は那須の十八番である鳥籠に近しいものがある。

 

 

「(シールドで……。いや、三雲君ならっ!!)」

 

 

 シールドで防御する事を初めに考え付くのだが、直ぐに思い直す。過去の対戦ログを見たおかげで修が次に行う行動が少なからず分かっていたのだ。

 防御したら、スラスターで突貫してくる修の攻撃を受け止めきれない。ならば、リスクを承知でこの場から離れるのみ。

 だが、その選択肢は完全機能(パーフェクト・ファンクション)が補足していた。那須が跳んだ先には、グラスホッパーで急接近していた修の姿があったのである。

 

 

「えっ!?」

 

 

 予想の上回る行動に、那須の思考が一瞬だが止まる。そしてその思考停止はたとえコンマ数秒だとしても命とりだ。

 

 

通常弾(アステロイド)っ!!」

 

 

 射程を犠牲に威力と弾速に調整(チューニング)した通常弾(アステロイド)をぶっ放す。分割せずの一塊の通常弾(アステロイド)は那須のトリオン供給機関目掛けて一直線。

 

 

「っ!? 変化弾(バイパー)っ!!」

 

 

 僅かながら対応が遅れた那須も変化弾(バイパー)で対抗する。半分を通常弾(アステロイド)に、もう半分を修目掛けて弾道の軌道を描く。

 咄嗟の弾道軌道であったが、那須の変化弾(バイパー)は修の通常弾(アステロイド)を全て受け止める。狙いが素直であった故に、容易に止める事が出来たのだ。

 対して、自身に向かって飛んで来る那須の変化弾(バイパー)を止める手立てはない。今の修は那須の鳥籠によって所々に弾丸を受けた形跡が見受けられる。トリオン漏れの様子から見て、後数発ほどでも被弾すれば墜ちる可能性が大。

 

 

「(あの攻撃を最小限のダメージで防ぎ切った? どうやって……)」

 

 

 疑問は当然の問題であるが、戦闘中にする事ではない。ある意味、思考の聖域(ゾーン)に入っている修は那須を撃墜させる為に、次なる一手を画策していた。

 修の身体が急激に降下する。グラスホッパーで自身を無理矢理下へ飛ばし、那須の変化弾(バイパー)から逃れたのだ。

 この動きも那須は視た事がある。劣化版とはいえ、A級の緑川が得意とするグラスホッパーの連続技の乱反射(ピンボール)の動きに近い。

 

 

「(この子は……)」

 

 

 過去の対戦ログ以上の実力を持っていた。過去の対戦相手の動きを真似(トレース)して、自身の動きへと昇華させようとしている。

 

 

「(だからと言って!!)」

 

 

 ボーダーの先輩として、射手(シューター)の先輩としても後輩にそう易々と勝利を譲る訳にはいかない。

 直ぐに変化弾(バイパー)の弾道を描いて修へ射出せんと行動に移すが、上空から降り立つ変化弾(バイパー)が那須のトリオン体を穿つ。

 

 

「バ、変化弾(バイパー)っ!? いつ、どうやって……」

 

「すみません。那須先輩の弾道を真似(トレース)させていただきました」

 

 

 地を這う変化弾(バイパー)が解き放たれた時、修は同時に大きく弧を描く投下爆撃の弾丸も用意していたのであった。地と空の同時放出に弾道を調整する事で、時間差を加えた偽鳥籠。初見で防ぎ切る事はなかなか難しい鬼畜技も良い所である。

 那須のトリオン体が戦場から消え去る。

 

 

「あとはっ!!」

 

 

 完全機能(パーフェクト・ファンクション)の持続時間は残りわずか。日浦のいる場所にどうあがいた所で時間内に到達する事は不可能であるが、諦める選択肢など三雲修には毛頭ない。

 那須と熊谷の撃沈。その情報は日浦の思考を絶望に陥れる。

 

 

「(どど、どうする? どうすればいいの!?)」

 

 

 自身の狙撃の腕ではレイガストのスラスターとグラスホッパーを連続使用して急接近してくる修を当てる事は難しいと判断する。

 

 

「(べ、緊急脱出(ベイルアウト)? 逃げる? 逃げた方が良いよね?)」

 

 

 その選択は決して間違いではない。逃げる事も戦略の一つ。しかし、逃げた所でその先の選択肢は皆無。どんな奇策妙策があった所で、結局のところは実力が伴わなければ意味をなさない。

 

 

『落ち着いて、茜。相手は一人。いま、三雲君の動きを予測する。前もって用意した炸裂弾(メテオラ)を上手く使って、まずは足を止める事です』

 

 

 混乱しそうになった日浦にフォローを入れる志岐。その言葉が効いたのであろうか。

 日浦はアイビスのスコープに目をやり、修の挙動を捕捉する。

 

 

「(そ、そうよ。わたしだって、わたしだって――)」

 

 

 引鉄を絞る手に力が入る。それでは奈良坂に「当たる狙撃も当らない」と窘められてしまうだろう。

 思考が徐々にヒートアップする。相手は自分と同い年。加えて射程と言うアドバンテージを受けている身だ。例え勝てなくても一矢報わなければ、この先やってなどいけない。

 

 

「(よく狙って、よく狙ってっ!!)」

 

 

 まだ、距離は充分ある。ここは様子見しつつ、既に用意した炸裂弾(メテオラ)の地雷を有効活動すれば有利に戦闘を運ぶ事も出来たであろう。

 しかし、高揚している日浦の頭からそんな考えは消え失せていた。狙撃手にあるまじき失敗だ。

 

 

「(狙ってっ!!)」

 

 

 引鉄を絞り、アイビスの銃口からトリオンが放出される。

 工夫も何もない狙撃など、修の天眼を前にしては何の脅威にもならない。特に完全機能(パーフェクト・ファンクション)状態のチートモードでは、日浦のアイビスはただの流れ弾にも等しい。だが、日浦のアイビスの一撃は修の脳天を見事に撃抜いたのだ。

 

 

「……はぇ?」

 

 

 まさかの的中に、一番信じられないと驚愕したのは日浦自身であった。




誰だ!? アイビスでヘッドショットを食らわせろ、なんて言った奴は!?
本当になってしまったじゃないですかっ!!爆笑

OSAMUも完全機能なんて無茶な真似をしなければ、日浦からヘッドショットなんかされなかっただろうに……。


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SE修【天眼】那須隊④

とりあえず、那須隊のお話しはここまでにしましょう(ェ

てか、みなさん那須さんが好きすぎでしょ!(アクセス解析を見ながら)


「(やはり、完全機能(パーフェクト・ファンクション)では、限界があるか)」

 

 

 隊室に強制送還させられた修は、自身の浅はかな判断に今更ながら反省を始める。

 完全機能(パーフェクト・ファンクション)は諸刃の剣。それに加えてあの力に頼り切りになってしまうのは、今後の成長の大きな妨げになってしまう可能性がある。早々易々と使わないと決めていたのであるが、咄嗟に発動してしまっていた。

 

 

「(けど、あの状況で生き延びる手段などなかったしなぁ)」

 

 

 那須の鳥籠に襲われた時、修は変化炸裂弾(トマホーク)を地面に叩きつけた後、頭上から襲い掛かる変化弾(バイパー)のみ対象を絞り、通常弾(アステロイド)の弾幕で半分ほど防ぎ、残りの攻撃は片腕と片足に被弾させるように回避行動を行ったのである。

 空閑の俊敏性や緑川並の乱反射(ピンボール)が出来れば完全回避も可能であったかも知れないが、そんな芸当は修には不可能。故に取った行動は最小限のダメージでやり過ごす事に成功する。

 しかし、最後の最後で完全機能(パーフェクト・ファンクション)の稼働時間が過ぎてしまったのか、一瞬だけ意識が失われ、日浦の狙撃を受ける羽目になってしまったが。

 

 

「(那須先輩の変化弾(バイパー)の軌道、これだけでも戦った価値はあったな)」

 

 

 地面を這う変化弾(バイパー)と言う発想は那須と戦うまで考えもつかなかった。今回学習した弾道軌道と今までの戦い方を上手く融合させていけば、戦いの幅も広がる事は確実だ。この弾道軌道を学んだだけでも、戦ってよかったと感じる修であった。

 

 

「いやー、まいったよ三雲君。てか、本当にB級? あんな動きが出来るなら、直ぐにでもA級になれるんじゃない?」

 

 

 熊谷から賛辞の声を頂く。

 

 

「ありがとうございます。けど、まだまだです。最後の最後で日浦に一発貰ってしまったので」

 

「あー、あれね」

 

 

 思いだし、苦笑いを浮かべる。初めに戦線離脱した熊谷は最後の日浦と修戦を観戦出来たから分かる。相変わらず、慌てる癖が抜けていない日浦は折角用意した炸裂弾(メテオラ)の地雷原を用意したにも関わらず、それを上手く活用する事無くアイビスをぶっ放したのであった。あんな単発の攻撃など簡単に避けられるだろうな、と頭を抱えた熊谷であったが結果は被弾。これには熊谷だけではなく、横で見ていた志岐も「へ?」と目を丸くさせていた。

 ちなみに、志岐は修が戻ってくるなりに那須の背中に隠れている。プルプル小鹿の様に震えて怯える姿に居心地の悪さを覚える修であるが、無視する形でやり過ごす事にした。

 

 

「けど、最後の最後で油断したの? 三雲君なら、最後の一発は簡単に避けられると思うけど?」

 

 

 最もな疑問を那須が口にする。

 

 

「えっと、それなんですが……」

 

 

 言うが言うまいか迷っている最中、視界にノイズが走る。

 

 

「っ!?」

 

「……どうしたの、三雲君?」

 

 

 咄嗟に両目を抑える三雲に不思議と思ったのであろう。小首を傾げながら、近づいてくる那須を心配させまいと「だ、大丈夫です」と答えようとしたが、次の瞬間、那須たちの心配は更に加速させられる。

 修のトリオン体にひび割れが生じたのだ。

 まさかの異常事態に修を除いた全員の目が剝けられる。初めはトリオンの枯渇問題と察すが、直ぐにその考えを否定する。ランク戦ブースで戦ったのならその考えも否定しないが、今回使用した戦場は那須隊の訓練室である。戦い時にはトリオンの消費量で退場する様に設定したが、実際には修のトリオンは消費されていないはず。

 ならば、今回のこの現象は一体。と、考えている間に修のトリオン体は完全に砕かれる。

 

 

「み、三雲君っ!?」

 

 

 異常事態に那須が動く。

 どう考えても尋常ではなかった。トリオンを消費していないにも関わらず、トリオン体に異常が発生する。不測の事態に修へ駆け寄る那須だが、それが事件の発生させる切欠となる事を一同は知る由もなかった。

 後に熊谷は語る。

 

 

『マンガで言うラッキースケベは現実では絶対に起こるはずがないと思ったけど、その考えは間違っていたわ』

 

 

 トリオン体が砕かれ、生身の修が現れる。意識を失っているらしく、力なく膝から崩れ落ち、那須が駆け寄ってきた方へと倒れる。

 自分に向かって倒れる修を受け止める那須であったが、彼女も戦闘後にトリオン体を解いている。つまり、生身の状態で修を受け止めようとしたのである。だが、生身の那須の力では受け止めきれず、そのまま一緒に倒れる形となってしまった。

 その一部始終を見守っていた熊谷は我に返り、二人の安否を気遣うのだが……。取った行動は那須に手を伸ばすことではなく、愛機スマートフォンの装着であった。

 カメラモード起動。連写機能展開。画質を最高度に設定。これより熊谷友子は現状を鮮明に記憶する為に写真を撮り始める。

 

 

「はぅ。ただい……ま?」

 

 

 少しばかり遅れて戦場から戻ってきた日浦は、現場のカオス状態に困惑するしかなかった。

 

 

「く、くまちゃん!? そんな事していないで、助けてよっ!!」

 

「そ、そそそうです熊谷先輩!! は、はは早くしないと、那須隊長が大人の階段を……」

 

「小夜ちゃんは慌て過ぎよっ!! ちょっ!? くまちゃん、くまちゃんさん! 助けて」

 

 

 狼狽する志岐。写真を撮り続ける熊谷。

 そして、那須を押し倒している修の姿に、日浦の思考は強制離脱(ベイルアウト)せずにはいられなかった。

 

 

 

 数分後。

 

 

 

「す、すみませんでした!」

 

 

 完全機能(パーフェクト・ファンクション)の反動から意識を手放していた修は、

我に返るなり現状を把握。滝の様に冷や汗を流しながら那須から離れると、それは見事の土下座を敢行したのであった。15年生きて来た中で初めての土下座であったが、社畜ヒーローに劣らぬ見事な土下座振りであった。

 

 

「こ、これは決して他意があってやった訳では……」

 

 

 と、言った直後に後悔する。素直に反省の意を示せば多少は許してくれる可能性もあると言うのに、こんな言い訳染みた言葉を発してしまえば那須も激昂する事であろう。もはや何もかもが手遅れ。ここは素直に平手の一発や二発、素直に受けるべきと判断し、未だに那須から何の反応もない事に疑問を覚える。

 

 

「な、那須先輩?」

 

「…………」

 

 

 那須玲。

 突然のラブコメイベントに思考が強制離脱(ベイルアウト)

 その横で清々しい笑みを浮かべてサムズアップする熊谷に胸中で悪態つかずにいられなかった。

 

 

「やるね、三雲君。戦いだけではなく、そう言う事も奇襲、不意打ちが得意なんだ」

 

 

 ニタニタと。楽しくて仕方がないと言いたげに笑みを零しつつ、意識を手放した那須を介抱しながら修をおちょくる。

 ちなみに、会話に入って来ていない志岐と日浦は那須より先に意識を強制離脱(ベイルアウト)させていたりする。ある意味、修は那須隊を壊滅状態に陥れたのである。

 

 

「ち、違いますって。あれは……。その」

 

 

 一度開いて口を閉ざす。

 修の完全機能(パーフェクト・ファンクション)の反動を知る者は少ない。世話になっている玉狛支部の人間も使用すれば一日ほどトリオン体になれないとしか伝えていない為、視覚障害や意識が朦朧とすると言った話しをした事がないのであった。

 

 

「あれは?」

 

 

 そんな修の気持ちも知る由もなく、熊谷は話しを促す。彼女からしてみれば、いったいどんな言い訳をしてくれるのであろうと楽しみで仕方がなかった。

 

 

「あれは……」

 

 

 数十秒ほど思案し、誤魔化し切れないと諦めて素直に話す。

 

 

「あれは、天眼の使い過ぎから来る反動なんです」

 

 

 

 ***

 

 

 

「そう。……あの動きにはそんな理由があったのね」

 

 

 熊谷に詳細を説明している最中、どうにか回復した一同は自分達の対戦ログを観戦しながら、お茶会を始めていた。三人が回復したのを見計らい修は退散しようとするのだが、那須と日浦、そして熊谷によって阻まれてしまったのである。

 

 

「2秒先の未来を予測し、視覚の情報としてシミュレーションする。……なによそれ。反則もいい所じゃない」

 

 

 熊谷が悪態つくのも無理はないだろう。もし、そんな事が可能ならば無敵も同義。何せ相手は自分の行動を文字通り視覚として捉えているのだ。

 

 

「じゃあ、じゃあ。あの時、私が狙撃した時も」

 

「あれは鷹の眼の効力がデカいかな。相手の弾道を視認し、解析する力だから」

 

 

 あっさりと告げられた言葉に日浦は席から転げ落ちそうになる。それも仕方がない話し。そんな事が可能ならばいくら不意を突いた狙撃を行った所で、直ぐに対応されてしまう。狙撃殺しと言っても過言ではない。

 

 

「……あ、けど」

 

 

 ふと、疑問が過る。ならば、最後の最後でどうして自身は修のトリオン体を射抜く事に成功したのであろう。

 

 

完全機能(パーフェクト・ファンクション)は、僕の最大の切札。しかし、無理やり副作用(サイドエフェクト)を全開にするせいか、反動が強いんです」

 

「それで、茜ちゃんの狙撃を躱す事が出来なかったのね」

 

「はい。情けない事に、日浦へ向かう途中で天眼に誤作動が発生し、元に戻った時には日浦の狙撃を受けていました」

 

 

 ぜんぜんダメでしたね、と苦笑いする。

 

 

「けど、大丈夫なの? その完全機能って奴を使ったらトリオン体に換装出来ないんでしょ?」

 

「熊谷先輩の言うとおり、回復するまでムリみたいです。一度睡眠を取れば回復出来るようですが、まだまだ未知数なところが多いですね」

 

 

 未知数。そう言う意味では自分は天眼の事をよくは理解していないな、と改めて思わされる。そもそも副作用(サイドエフェクト)を持続する為に自身のトリオンを消費し続けるなんて修が初めてである。それに加えて能力が複数も兼ね備えられていると言う点もおかしな話しだ。視力と言う共通点があるせいで疑問に思った事はなかったが、自身の副作用(サイドエフェクト)は他の副作用(サイドエフェクト)と違いが多すぎる。

 

 

「(もしかすると、それが天眼を理解する近道なのかもしれないな)」

 

 

 弱すぎる自身を支えてくれた力。初めは何の疑問も感じずに使っていたが、今後はもう少し天眼と向き合う必要があると感じさせられた修であった。

 

 

「三雲君」

 

 

 自分の考えに浸っている最中、那須から声が掛けられる。

 

 

「はい、何でしょう。那須先輩」

 

「その完全機能(パーフェクト・ファンクション)は、今後、使うべきではないわ」

 

 

 突然の那須の言葉に目を丸くする。

 

 

「……どうして、ですか?」

 

「分からないかしら。確かに2秒先の未来をシミュレートする力は絶大と思う。けど、その代償が大きすぎるわ」

 

 

 那須の指摘は最もな話しだ。

 修は反論する事無く、黙って話しを聞き続ける。

 

 

「トリオンを消費しない訓練にも関わらず、貴方のトリオン体は崩壊。更にトリオン障害の様に今は換装も出来ない。ランク戦とかならまだしも、これが実践になったらどうなるか。……もしかしたら、強制離脱(ベイルアウト)も発動出来ず、生身で戦場に残されるかも知れないわ」

 

「それは……」

 

 

 まだ確認していないが、その可能性も否定できない。ただでさえ相手は強大にも関わらず、生身で相対する事になれば待っているのは抗えない絶望。考えただけでゾッとしてしまう。

 

 

「そうなってしまったら、貴方の大切な人達を悲しませてしまうわ。だから、完全機能(パーフェクト・ファンクション)は使わないで」

 

「……それは出来ません」

 

 

 心配してくれているからこその忠告。その気持ちは有り難いし嬉しくもある。

 しかし、しかしだ。だからと言って、完全機能(パーフェクト・ファンクション)を使うな、と言われても無理な話しである。

 

 

「仲間と約束したんです。大切な人達を救おうって。必要なとき、僕は躊躇なくこの力を使うと思います」

 

「け、けど! それで三雲君が怪我でもしたら本末転倒じゃないかな?」

 

「日浦の言う通りかもしれない。使い方を間違えたら、ただじゃすまないだろう。だから、この力の使い方を磨いていくしかない。それが僕のやるべきことだと信じているから」

 

 

 千佳と空閑の二人は物凄い勢いで実力をつけてきている。二人の仲間として、置いて行かれる訳にはいかない。その為にも天眼の機能を自在に使い熟さなくてはいけない。

 

 

「……聞いていいかしら、三雲君」

 

「はい、何でしょう。那須先輩」

 

「どうして、そこまで決意する事が出来たの?」

 

「決意、ですか。そんな大層なものではないですよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

 一度、大きく深呼吸して、はっきりと告げる。

 

「ぼくがそうするべきだと、心の奥底から思っているからです」




だれだ、こいつは!? OSAMUはいつからTo Loveるの主人公みたいになったんだ。

ちょっと、どなたかアイビスを貸して! メテオラでもいいよ。

……さて、冗談はともかく。この後、どうしましょ(マテ
普通ならば、大規模侵攻に行くんですけど……。書きたい話しがない訳じゃないんですよねぇ。

ちょっと、冒頭だけ書いてみるか(ェ


「頼む、三雲君!! 君の力がどうしても必要なんだ」
「ちょっ!? 頭を上げてください、若村先輩」
 会うなり、土下座する勢いで頭を下げられた修は困惑するしかなかった。
 若村麓朗。香取隊の一員で、ガンナーのメガネと言われている彼は頭を下げたまま、修に懇願する。
「あのバカをこてんぱんにのしてくれ、この通り!」


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SE修【天眼】VS香取① 若村麓郎の依頼

今の三雲隊にトリオン兵は物足りないぜっ!!(ェ


 三雲隊――三雲修、空閑遊真、雨取千佳の三名――は、玉狛支部のトレーニングルームで戦闘用トリオン兵・モールモッドを相手に無双していた。

 鋭いブレードによる一撃が放たれるよりも素早く遊真が懐に入り、スコーピオンの一撃で消滅させる。瞬く間に消滅されたモールモッドの代わりに現れた二体目が出現すると同時に千佳の追尾弾(ハウンド)の数の暴力で粉砕。流石に訓練にならないと呆れた彼らのオペレーターになった宇佐美は少しばかり訓練プログラムを弄って一気に三体のモールモッドを出現させたのである。

 だが、その三体もまるで予測済みとあざ笑うかの如く修の変化炸裂弾(トマホーク)が襲いかかり、ダメージを負ってしまう。辛うじて動く事が出来た三体のモールモッドは修目掛けて襲い掛かろうとするのだが、眼前に千佳のエスクードが出現して行く手を阻まれてしまった。その間に遊真がグラスホッパーで高速移動し、三体のモールモッドを細切れにしてしまう。

 宇佐美は顔を引きつらせる。姿形は普通のモールモッドと同じであるが、性能上ではその数倍に改造した玉狛型改造モールモッドだ。並大抵のB級では悪戦苦闘する事は間違いないであろうと思って訓練に投入したのに。

 

 

「あ、あはは。……私のモールモッドじゃ訓練にもならないかな」

 

 

 今回の三雲隊の訓練目的は連携。特に修の視覚を共有した時の戦い方に慣れると言う趣旨の元に始まった訓練であるが、その結果はご覧の通り。もはやモールモッド程度では訓練にもならなかった。

 

 

「いやはや、凄いな。おさむのてんがんは。モールモッドの動きが手に取る様に視えてしまう」

 

「うん。出現する場所まで予測されるから、なんか簡単に倒せた感じがするね」

 

 

 先視眼(プレコグ・アイ)を発動させた模倣・完全機能(パーフェクト・ファンクション)を体験した二人が口々に感想を述べる。

 

 

「そうだな。しっかし、弾丸の射線が実際に視えるのって便利だな。これなら、修がやっていた弾丸斬りも出来るかも知れないな」

 

「空閑なら鷹の眼がなくても出来るだろ。……けど、これで全ての天眼の効力を体験してもらう事が出来たと思う。それを踏まえて聞きたいが、どんな感じだ?」

 

「そうだな。頭で理解しても、身体が動かせられないもどかしさはあったかな」

 

「私もそれは思ったかな。あと、色んな情報が一気に増えるから、ちょっと混乱しちゃった」

 

 

 空閑と千佳の素直な感想に修は「そうか」と簡単に答えて思案する。

 これから三人で戦う以上、今一番必要な事は連携。その連携の中で自身の副作用(サイドエフェクト)である天眼を一部でも共有する事が出来れば、戦術が大きく広がるであろうと思ったのだが、そう簡単な話しではなかった。

 慣れてしまえば問題ない事かも知れないが、空閑と千佳は修の天眼に力を完全には扱い切れていない。それは当然の話しかもしれない。何せ視える筈のないモノまで視える様になると言う事は情報量が一気に跳ね上がると言う事だ。それ故に選択肢も増える。同時に判断力が試されると言う事だ。こればかりは練習あるのみだろう。

 

 

 

 ***

 

 

 

「流石の宇佐美先輩が自慢するモールモッドでも、修達も訓練になりませんね」

 

 

 宇佐美の後ろで三人の訓練を見ていた京介が言う。初めは自分が相手をすると提案したのだが、宇佐美がそれを否定したのだ。京介程の実力者と戦う事は確かに訓練として最高な相手かも知れないが、修達ボーダーが主に戦うのはモールモッドを初めとしたトリオン兵。ならば、まずはそのトリオン兵と戦って連携の練度を上げるべきだと提案したのである。

 

 

「そ、そうだね。私も物足りないかも知れないと思ってはいたけど、これほどまでとは……」

 

 

 何度も修達の戦いを目の当たりにしていた宇佐美であるが、実際に戦った事がある訳ではないので、今回の結果は予測出来なかったのだろう。もっとも最後の方は修が先視眼(プレコグ・アイ)を使った奇襲戦法なので仕方がない話しかも知れないが。

 

 

「次は俺が出ます。これでは修達の訓練になりませんので」

 

「そ、そうね。けど、あの子達相手では普通の戦い方では流石のとりまる君も厳しいと思うよ」

 

「えぇ。それは俺が一番知っています」

 

 

 三雲達が総勢43体のモールモッドを倒しつくしたと同時に京介は三人がいるトレーニングルームへと乱入。結果、7分後に落された事で少しばかり気落ちしたのは言う間でもない。

 

 

 

 ***

 

 

 

 訓練が終わり、玉狛支部の全員は休憩と称して全員で訓練のログを見ながら反省会を始めていた。

 

 

「だらしないわね、京介。修達相手に7分しか保つ事が出来ないなんて」

 

 

 宇佐美が買って来たどら焼きを食べながら、小南は同じ部隊の仲間の不甲斐なさに呆れてしまう。

 

 

「そう言う小南先輩こそ、10分持つのが限界だったじゃないですか。修の変化弾(バイパー)と千佳のエスクードでなす術もなかったみたいですし」

 

 

 ログを早回して、小南対三雲隊の戦いを映した京介が反論する。京介達が戦っている最中に玉狛支部に来た小南は「情けないわね」と言って「今度は私がやるわ」と息巻いて三雲隊に挑んだのだが、修の変則的な弾丸の軌道と千佳のエスクードによる妨害で動きを制限され、空閑の高機動斬撃によって敗北してしまった。その直後「なんで、アンタ達がB級なのよ!」とお約束のツッコミを入れるのを忘れなかった。

 

 

「し、仕方がないでしょ。数的な不利もそうだけど、修の視る景色を二人も視れるんだから。遊真に強化視覚の恩恵を与えたら、早々簡単に攻撃を当てられる訳ないじゃない」

 

「だが、攻めあぐねていたのは事実だな。遊真の力を修と千佳が充分に引き立てていたのが今回の結果につながったと言えよう」

 

 

 お茶を持って来た木崎の言葉に千佳は照れくさそうな表情で笑う。師に褒められる事は中々ないので純粋に嬉しく思っているのだろう。

 

 

「だが修。お前は少々攻め手を遊真に頼り過ぎているな。数的有利な状況だから仕方がない話しかも知れないが、もう少し援護射撃を入れるべきだ。変化弾(バイパー)で状況を作り出す事は悪くはないが、もう少し前に出て遊真と連携しても良いと思うぞ」

 

 

 木崎の指摘に「そうですね」と相槌を打つ。修自身も今回は距離を空けて戦うばかりで、接近戦を遊真ばかりに頼り過ぎていた事を自覚している。最強の盾である千佳のエスクードがあるのだから、もう少し前に出て空閑と連携をとっても良かったと反省する。

 

 

「えー。でも、修が落されたら危ないでしょ。遊真もそうだけど、修が落されたら戦力が一気に激減しちゃうじゃない」

 

 

 小南が反対の意見を述べる。それも一理ある話しだ。空閑が墜ちたら攻撃力が一気に減少してしまうのは勿論であるが、修が墜ちても戦力――主に情報力が――激減するのは間違いない。撃墜される可能性が高い修を後ろに置くのは小南的には悪くない事だと思っている。

 

 

「小南先輩の言うとおりかもしれませんが、千佳が狙撃位置についたら必然に遊真と修の二人がかりで戦う状況が増えると思います。二人の連携は今後課題になると思いますよ」

 

 

 理想としては空閑と修が別れて他の隊員を撃墜させればいいのだが、戦いは何が起こるか分からない。確実に落す為にも数的有利な状況を作り出して落すのが理想だろう。

 

 

「オサムがそう簡単に墜ちるとは思いませんが」

 

「だがユウマ。修の天眼は長期戦に入られると不利になる一方だ。それを防ぐためにも確実にかつ早々と戦いを終わらせる必要がある。仮に天眼を使わず長期戦に持ち込んだ方が有利になる戦術があるならば話しは別だが」

 

 

 天眼の最大の弱点は時間。トリオンを消費し続ける副作用(サイドエフェクト)は時間が経つにつれて不利になるのは考えるまでもない。ならば要所要所で天眼を発動させればいい話しかも知れないが、それでは予想外の奇襲に対処できずに落される可能性も否定できない。ならば初めから天眼を発動させていた方が生存率は高いだろう。

 

 

「天眼を使わずに長期戦で有利になる戦い方か」

 

 

 レプリカの発言に修は考えを巡らせる。

 

 

「……そうなると、あれか」

 

 

 ふと、木崎が思い出して用に口にする。

 

 

「何か思い当たる節があるんですか?」

 

「なくはないが、そうなると修のトリガーを再び考え直す必要があるが、いいか?」

 

「トリガーの再考ですか……」

 

 

 トリガーの再考。ようやく今の戦い方にもなじみ始めたのに、再びトリガーを変える事に少し抵抗があるが、今後の闘いの為に必要と考えると頭ごなしに否定するのもよくないと考えた修は木崎の考えを聞く事にする。

 

 

「して、そのトリガーとはなんでしょうか?」

 

「トリガー名はスパイダー。思えば修にあっているトリガーと言えよう」

 

 

 

 ***

 

 

 

 木崎の指導のもと、修はスパイダーの訓練をしている最中、玉狛支部に珍しい客が来訪する。

 

 

「珍しいわね。ろっくんが玉狛支部に来るなんて」

 

 

 突然の来訪者、若村麓郎にお茶と御茶菓子を持って来た宇佐美が言う。

 若村麓郎。香取隊の隊員の一人でガンナーのメガネと言われているとかいないとか。

 

 

「悪い、宇佐美。あとろっくん言うな」

 

「別にいいじゃない、ろっくん。可愛いあだ名じゃない。ねえ、ろっくん」

 

「小南。お前が言うと明らかに茶化している様にしか聞こえないぞ」

 

「それで、ろっくん。わざわざ玉狛に何の用? 何でも頼みがあるって聞いたけど」

 

「無視かよ。……あぁ、それなんだが。ここに行けば三雲君に会えると聞いてな。いるか? 三雲君は」

 

「修? うちの修に何の用? 事と次第によっては会わせるわけにはいかないわね」

 

「いや、その……。実は――」

 

 

 同年代にこんな事を話すのは情けないと思っていた若村は、言わなければ修に会えないと判断して正直に話す事にしたのだった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「――頼む、三雲君! キミの力がどうしても必要なんだ。力を貸してくれっ!!」

 

「ちょっ!? 頭をって言うか、土下座を止めてくださいっ!! なにがあったんですか、若村先輩っ!!」

 

 

 会って自己紹介を終えた早々、若村は勢いよく土下座の体を取って懇願してくるので、修は訳が分からず戸惑うばかり。呆れる顔を見せる木崎は修の後ろで興味深そうに見ていた空閑と狼狽する千佳を連れたって一足早くトレーニングルームから去って行ってしまった。

 

 

「あのバカを真面目に訓練させたいんだ。頼む、アイツをこてんぱんに伸してくれっ!!」

 

 

 若村麓郎の依頼は、自身の隊長の意識改革のお手伝いであった。




はい、結局のところ香取編に入ります(いつの間に編になったんだろう?)

苦労性のろっくん、めっちゃ親近感がわきますよね。

……てか、木虎とのスパイダーがなくなってしまった。
マジどうしようか(滝汗
いや、大規模侵攻で出したかったし、いいよね?


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SE修【天眼】VS香取② こりない二人

大規模侵攻を考えがまとまらない……。

……そもそも、考えて書いていないから当然なんでしょうが(苦笑


銃手(ガンナー)つまんないわ。やっぱ万能手(オールラウンダー)よね、これから」

 

 

 その言葉に若村麓郎は久しぶりにキレた。

 

 

「お前なっ! ちょっと躓く度にコロコロと変えやがってっ! お前にはプライドはないのかよ」

 

 

 その発言に香取の機嫌が急降下する。

 

 

「アタシより銃手(ガンナー)ランクが下の人に言われたくはないわよ」

 

「あんだとっ!?」

 

「マスタークラスになった事がない人間には分からないから、教えてあげるわ。世の中には上級者の壁と言うものがあるのよ。……まぁ、アンタには分からないでしょうけどね」

 

 

 ちなみに香取は攻撃手(アタッカー)から銃手(ガンナー)に転職して半年でマスタークラスに辿り着いている。それに対して若村は二年ほど研鑽を積んではいるが、未だにマスタークラスには辿り着いてはいなかった。

 それだけ香取に才能がある事は若村も重々承知している。だからこそ、そんな風に言い捨てられる事が許せなかった。

 

 

「あぁ、そうだよ! お前が半年でなったマスタークラスを犬飼先輩に射撃を習って2年かけて磨いても届かないのがオレの実力だ!」

 

 

 強くなりたくて、日々努力を重ねてコツコツと腕を磨いてきた。

 

 

 

 ――だが。

 

 

 

「――けど、おまえは違うだろうがっ!!」

 

 

 何度も言うが香取葉子は才能がある。

 

 

「訓練もせずにそんだけやれるくせに、何でもっと本気でやらねーんだ」

 

 

 もっと真面目に訓練し、腕を磨けば必ず彼女は上級者の壁を突き抜けられると信じている。それが分かっているだけに、今の様に途中で投げ出そうとする彼女の態度が非常に気に食わなかった。

 

 

「全力を出さねえ言い訳ばっかいいやがって。本気で上級者の壁と言う奴にぶちあってから言いやがれ、このヘタレっ!!」

 

 

 思いの丈をぶちまけた若村は大きく息を吐く。久方振りにキレた自分に少しばかり反省をし――。

 

 

「――ばっか見たい。なに熱くなってるのよ。アホらしい」

 

 

 ――隊室から消え去る香取を見て目を丸くさせてしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 事情を話した若村は自身のトリガーを取り出し、トリオン体へ換装する。

 

 

「……なるほど。けど、何で僕に白羽の矢が立ったんですか?」

 

 

 記憶が正しければ香取葉子と面識はない。同時に目の前で相対している若村麓郎も同様だ。彼にここまで懇願される理由が修には思いつかなかったのである。

 

 

「実は、キミの戦いを何度か見させてもらった」

 

「僕のですか?」

 

「あぁ。……キミはどんな敵でも全力で戦い、困難な状況でも勝利を掴もうと全力で戦っていた。その結果、信じられない実力を発揮したのも知っている。正直、羨ましい限りだ」

 

 

 若村が修の戦いを初めて見たのは攻撃手(アタッカー)陣達とタイマン勝負をしている時であった。初めはB級の素人が無謀にもA級の実力者に挑んだんだろうと思っていた。どうせ勝てっこない。無残に負けて戦意を喪失させるだけだ、と思っていたが修はあの手この手と勝利を掴む為にあがき、東隊の攻撃手(アタッカー)二人組とA級の黒江双葉を倒している。

 そんな修の戦いぶりを見て「どうせ負けるだろう」と高を括った自分が恥ずかしくなってしまった。同時に修の様にあがいてあがいて足掻きつづけようと思わされるようになったのだ。

 

 

「だからこそ、アイツに知って欲しいんだ。本気で足掻けば、キミみたいに上を目指せるってなっ!!」

 

 

 突撃銃(アサルトライフル)を生み出し、修へ向ける。通常弾(アステロイド)が込められた突撃銃(アサルトライフル)の引金を絞り、容赦なく修へと叩き込む。

 

 

 

 数分後。

 

 

 

「……やっぱ、強いね。三雲君」

 

 

 腹部に深々と突き刺さったレイガストを見やり、若村は満足気な表情を浮かばして口にする。

 

 

「まだまだです。それに僕は――」

 

「――副作用(サイドエフェクト)のおかげって言いたいんだろう?」

 

「知っていたんですか?」

 

「もっぱらの噂になっているからね」

 

「……だったら」

 

「アイツはなんか言うかも知れないが、そんな事は関係ないさ。その力を自在に扱えるようになったのだって、キミが努力したからだ。……もう一度言う。アイツをこてんぱんに伸してくれ」

 

「分かりました、若村先輩」

 

「麓郎でいいさ。同じメガネの同士だろ」

 

「……はいっ!」

 

 

 ここに三雲若村のメガネ同盟が成り立ったとかないとか。

 

 

「――そのメガネ同盟ちょっっっとまったぁぁあああっ!!」

 

 

 トレーニングルームに響き渡る宇佐美の声。メガネと聞いて彼女が黙っているはずがない。

 

 

「……って、なんだよ。そのメガネ同盟って」

 

「メガネ同盟はメガネ同盟よ、ろっくん。メガネとメガネが交友を結ぶ。これをメガネ同盟と言わずになんと言う! いいえ、いわないわっ!! 反語」

 

「……宇佐美ってこんな奴だっけか、三雲君」

 

 

 修は苦笑いするしかなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 若村麓郎の香取葉子、意識改革作戦に力を貸す事になった修は頭を抱えていた。本当なら善は急げ。思い立ったら吉日。早速香取隊がいる本部へ足を運んで作戦の実行に移そうとしたのであったが……。

 

 

「だからっ!! スパイダーを入れるなら、炸裂弾(メテオラ)変化弾(バイパー)を変えるべきよ。修のトリオン量に限りがあるのはとりまるだって知っているでしょっ!」

 

「いいえ。ここはグラスホッパーを変えるべきでしょう。修の弾丸トリガーは言わば奇襲に必須なトリガー。なら、ここはオプショントリガーのグラスホッパーを変える方が賢明だと思います」

 

「修ならどうにかやるでしょっ! 長期戦も考えるなら、消費量が高い弾丸トリガーを少し減らすべきよ。むしろ、レイガストやスラスターも変えてスコーピオンにするべきだわ」

 

「それじゃあ、防御能力がなくなってしまうじゃないですか。今の修では出水先輩や二宮さんのフルアタックを完全に回避する事は不可能です」

 

 

 テーブルを挟んで鳥丸と小南の言い争いに周りの連中、特に若村の口がぽかんと開く。

 

 

「(なぁ、三雲君。これは?)」

 

「(えっと、なんて言いますか……。お二人とも僕のトリガーについて考えてくれていると言うか)」

 

 

 修がトリガーの構成を変える度に烏丸と小南は今の様に衝突していた。二人とも自分の事を考えて真剣になってくれるのは嬉しい事であるが、自身の意見を無視して口論するのはそろそろ止めにして欲しいと心底思う。

 

 

「……ほぉ。オサムのスコーピオンか。それはそれで面白そうですな」

 

「バカ、く――」

 

「でしょっ!? 流石は遊真。私の弟子な事だけあるわ」

 

 

 ポツリと漏らした遊真を止めようとしたが時既に遅し。弟子の賛同の言葉に反応した小南は遊真を自身の横へ引き寄せ、勝ち誇った表情で烏丸を見やる。

 この瞬間、遊真は二人のいざこざに巻き込まれる事が決定されてしまう。

 

 

「けど、修くんの持ち味を考えるとやっぱり変更するべきなのはグラスホッパーなのでは?」

 

「修の幼馴染である千佳が言うなら間違いないだろうな」

 

 

 まさかの千佳も巻き込まれてしまう。幼馴染と親友を互いに得た烏丸と小南の間に火花が散るエフェクトが幻視されたのは気のせいではないだろう。

 こうなってしまうと、頼れるのは落ち着いた筋肉こと木崎レイジしか止める事が出来ない。彼に助けを求めようと視線を送ると……。

 

 

「すまん、そろそろ防衛任務だ。冷蔵庫に残りのカレーがあったから、温めて食えよ」

 

 

 まさかの木崎(ストッパー)の退場。もはやこの二人を止める事が出来る役者はいない。一度、二人を止めようと躍り出た若村であったが瞬殺と言う名の返り討ちを喰らう事になった。

 第N回、修のトリガーを勝手に決めよう会は数時間に渡る大会議と発展したのは言う間でもなかった。

 




この二人はいつからこんなはっちゃけキャラになってしまったんだ?

……さて、次からおしおきタイム(え?)ですかね。

香取戦はどうしましょうかね。直球ストレートか変化球を織り交ぜるか……。

同時に大規模侵攻も考えませんといけませんね。
あれこそ、完全に変化球になってしまう気がするなぁ……。

原作の流れに補強を入れるのと、完全に原作を無視するの。
どちらがお好みですかねぇ。


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SE修【天眼】VS香取③ チートよチート!

この副題を自分で入れて「何をいまさら?」と思った自分がいました、はい。


……てか、何気に50話じゃない?
よく続いたなぁ、これ。


 番狂わせの大物喰らい(ジャイアント・キリング)の三雲修。その名前は噂話に全く以って興味のない香取の耳にも入っていた。正確には聞きたくなくってもC級隊員の話題の七割が三雲修の話しで持ち切りであったために、嫌でも耳に入ってしまったのだが。

 

 

「……で、何のつもり麓郎。隊に関係のないメガネを連れてきて」

 

 

 その噂のメガネこと三雲修が何の前触れもなく自身の隊室にいる。隊長の自分に何の断りもなく招き入れた事に香取の機嫌は一気に悪くなる。

 

 

「えっと。初めまして、僕は――」

 

「――あんたは黙っててくれない。アタシはそっちのメガネに聞いているのよ」

 

 

 自己紹介をしようとしていた修を一蹴し、自分を睨み付ける麓郎へ問い詰める。

 

 

「お前の不真面目さにはいい加減、頭に来るんだよ」

 

「質問の答えになっていないわ。あたしは、どうして関係のないメガネがいるのって聞いているの。日本語も分からなくなったのかしら?」

 

 

 麓郎の額に青筋が浮かび上がる。重苦しい空気がより一層に重くなり、二人の様子を見守っていた修と三浦雄太の額に冷汗が流れ始める。

 三雲修の話しは三浦雄太も耳にしている。しかし、なぜそんな人物が自分の隊室に来たのかは流石に分からない。しかも同じチームメイトのろっくんに連れられる形でなんて。

 まずは、こんな状況に発展した事情を知っている人物へ話しかけて情報収集を図る事にした三浦であった。

 

 

「(えっと、三雲修くんだよね)」

 

「(は、はい。初めまして)」

 

「(初めまして。オレは三浦雄太。……で、これってどういうこと?)」

 

「(えっと、それが――)」

 

 

 事情を話そうとした矢先に、染井華が推論を述べ始めるのであった。

 

 

「(葉子の不真面目さを正そうと麓郎くんが巻き込んだんでしょ)」

 

「(……ろっくん、何しているの。先日、用事があるって隊室に来なかったのってもしかして)」

 

 

 葉子の不真面目さに苛立っている事は三浦も知っていた。その為に色々と策を巡らせて彼女のやる気を上げようと試みた事もだ。

 香取隊は彼女のモチベーションによって戦果が左右されるチームと言っていい。彼女がどれだけ活躍できるかによってランク戦の結果が掛かっている。仲間として彼女に頼り切りになっている事に幾許か情けなさを感じなくもないが、それだけ彼女のポテンシャルが大きいと言っていい。それだけにろっくんこと麓郎は歯痒さを感じていたのであろう。彼女にやる気があればA級へ登り詰める事だって可能だと評価していた。それにも関わらず、鍛錬を疎かにしている彼女に苛立ちを感じ続けていたのだ。

 だからと言って、全く関係のない人間を巻き込むのはどうかと思う。香取隊の問題は同じ香取隊の自分達がどうにかするべきじゃないのかと。

 

 

「俺は三雲君とタッグを組んでお前達に挑む。俺達が勝ったら、真面目に訓練をするって誓え」

 

「……なによそれ? 自分一人ではあたしに勝てないからって、そこのメガネに頼るってそう言う訳?」

 

「何とでも言え。それでやるのか、やらないのか?」

 

「やる訳ないでしょ。あんた、バカじゃないの。そいつとやって、何のメリットがあるっていうのよ」

 

 

 三雲修の実力は知らないが、たかが同じB級。噂では番狂わせの大物喰らい(ジャイアント・キリング)なんて大袈裟な呼び名が付いているが所詮は噂である。

 

 

「こんな雑魚メガネと戦った所で時間の無駄だわ」

 

「なら、試してみますか?」

 

 

 小馬鹿にした――実際にバカにしたのだが――自分に対して挑発染みた言葉が返ってくる。返した人物はさっきまで話しを黙って聞いていた修であった。

 

 

「ちょうど、トリガーを調整したばかりなんです。実験台になってくれる人を探していたんですよ」

 

「実験台? 実験台ですって。アンタ、後輩の癖にいい度胸してるじゃないのよ」

 

「僕は若村先輩にどうしてもって懇願されてここに来ただけです。あなた程の実力者に新しいトリガーを試せればちょうどいいと思ったんですが……」

 

 

 修はあからさまに肩を竦めて「やれやれ」と首を横に振る。

 

 

「若村先輩。やっぱ、香取先輩では力不足かも知れません」

 

「――ムカつくわね、アンタ」

 

「気に障ったのだったら謝ります。けど、事実だから仕方がありません」

 

 

 三度の挑発の言葉に香取の沸点が一気にオーバーフローする。怒髪天を突く勢いで怒り出す姿を目の当たりにした修は若村の傍に近寄る。

 

 

「(若村先輩。無理です、もう無理です。やっぱやめましょうよ。こんな芝居を続けたら身が持ちませんって)」

 

「(がまんしてくれ、三雲くん。てか、烏丸の奴。なんて内容の台本を三雲くんに持たせたんだよ)」

 

 

 修らしからぬ発言の数々は当然の如く本心で言ったものではなかった。香取と戦うには策の一つや二つ巡らさないと実現できないと若村が言ったせいで、修のトリガーを考えてテンションが異常に高くなってしまっていた二人の先輩がついでに考えた結果がこれである。本人としてはただの悪ふざけの延長上で考案した作戦のメモ用紙を渡しただけなのだが、その効果は抜群に発揮する事になるなど考えもしなかったのかも知れない。

 

 

「いいわ、やってやろうじゃない。あたしに楯突いた事を後悔しなさい」

 

 

 修の首根っこを掴み、自隊のトレーニングルームに強制連行させる。

 

 

「……ろっくん。幾らなんでもやりすぎじゃない?」

 

「かもな。けど、アイツには上級者の壁とやらを超えてもらわないと困る。てか、一度痛い目に合って貰った方がアイツの為だろう」

 

「それは分からなくもないけど……」

 

「いいんじゃないかしら。噂の三雲君の戦いを分析する事が出来る。今後のランク戦を考えると十分すぎるほど私達もメリットのある話しだわ」

 

 

 染井華の冷静過ぎる発言に三浦は言い返す事が出来ず、ただただ何事もなく終わる事を祈るしかなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 戦いが始まるなり、香取は両手に拳銃(ハンドガン)を生成し、数発の弾丸をぶっ放す。香取の拳銃(ハンドガン)に込められている弾丸は通常弾(アステロイド)追尾弾(ハウンド)通常弾(アステロイド)を囮に右方から大きく弧を描く追尾弾(ハウンド)で早々とこの戦いを終わらせようとしたのである。

 

 

 

 ――雑魚メガネなら、この程度で落ちるでしょ!

 

 

 

 仮に何かしらのトリガーで回避しても、自身にはグラスホッパーがある。回避した直後にグラスホッパーで急接近し、スコーピオンで一気にあの生意気な後輩の首を刈り取ろうと算段していた。

 だが、香取の通常弾(アステロイド)は修の右拳によって叩き落されてしまう。

 

 

「……は?」

 

 

 驚くのも無理はない。幾らトリオン体で身体機能が強化されているとはいえ、弾丸を正確に殴り付けるなんて芸当は出来る筈がない。それに加え――。

 

 

 

 ――スラスター・起動(オン)

 

 

 

 本命の追尾弾(ハウンド)はブレードモードに変化したレイガストの刃によって一刀両断されてしまった。あまりにも人間離れた芸当に流石の香取も眼を丸くせずにはいられなかった。

 

 

「……す、少しはやるみたいわね。なら、これはどうよっ!!」

 

 

 先の攻撃は少しばかり単調過ぎたと反省。次はグラスホッパーを起動して撹乱しながら、追尾弾(ハウンド)を射出する。今度は修を取り囲む様に四方八方に弾丸をばら撒き、簡単に真っ二つにさせないように工夫を行う。

 が、次の瞬間、修に襲い掛かった無数の追尾弾(ハウンド)は修のレイガストによって叩き落されてしまったのだ。

 

 

「な、何なのよそれ!? チートよ、チート。どこぞの黒の剣士か、アンタっ!!」

 

「黒の剣士? なんですか、それ?」

 

 

 アニメなどのサブカルチャーに疎い修は香取の発言に首を傾げる。

 修が香取の追尾弾(ハウンド)を叩き落した方法は至って単純であった。事前にレイガストと自身の腕にスパイダーを繋ぎ合わせ、シールドモードに変化させたレイガストをスラスターで投げ飛ばし、鞭の要領で香取の追尾弾(ハウンド)を叩き落したのである。

 スラスターの効力が切れたレイガストをスパイダーで自身に戻る様に引っ張って手元に戻す。

 

 

「次は僕から行きます!」

 

 

 言うや修は通常弾(アステロイド)を香取目掛けて撃ち放つ。

 

 

「こんな攻撃っ!!」

 

 

 ――当たる訳ないでしょ、と言うよりも早く三度、修のレイガストが先に放たれた通常弾(アステロイド)を追い抜いて飛来してくる。予測していた攻撃速度以上の飛来物に驚きつつも香取は咄嗟にシールドを二枚張って修の飛槍を弾き返す。

 しかし、面積を狭めて防御力を高めたシールドでは遅れて飛来してくる修の通常弾(アステロイド)を防ぐことは出来なかった。

 

 

「っ!?」

 

 

 右肩から漏れ出すトリオンの粒子。咄嗟に右方へ跳躍して躱すが完全に回避する事が出来なかったようだ。

 

 

「やってくれたわねっ!!」

 

 

 格下と思っていた相手に先制を受けた事に香取の自尊心に傷がついた様子。グラスホッパーで一気に距離を詰めて、修に接近戦を挑むのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「あんな動きが出来るならA級の人達と対等に渡り合えたと言う噂も嘘ではなさそうね」

 

 

 香取と修の戦いを隊室で見守っていた染井は修の戦いを冷静に分析する。

 

 

「あれで俺達と同じB級か。これはとんでもない新人が現れたね」

 

 

 その脇で見守っていた三浦も染井の言葉に同意を示す。簡単そうに香取の弾丸を殴ったり斬ったりしていたが、あんな芸当を戦闘中に行う技術と度胸は自分にはない。仮に自分が同じ立場にあったらシールドで確実に防御していたであろう。

 

 

「まだまだあんなもんじゃないさ、三雲君は」

 

 

 メガネ同盟の同胞の一人、若村は知っている。戦闘開始と同時にメガネを投げ捨てた修の実力はまだまだこんなもんではないと。

 

 

「葉子の方は冷静さが欠けているわね。あんな弾丸トリガーの対処をされたら無理はないでしょうけど」

 

「でも凄いよ。葉子ちゃんのスコーピオンをレイガストで確実に受けきっている。何よりブレードモードとシールドモードに変形させる判断が良いのかな。基本姿勢がボクシングスタイルなのが驚きだけど」

 

 

 香取の猛攻をレイガスト一本で立ち回っている修の戦い方は今までに見た事のない戦闘スタイルであった。レイガストは形状を変形させる事が出来る武器であるが、シールドの面積を最小限にして拳で戦うやり方など三浦は視た事がない。しかも、あれで香取の疾風怒濤の斬撃を悉く弾いているのだから恐れ入る。

 

 

「アイツ、三雲君に悉く攻撃を弾かれているからと言って戦い方が単調になり過ぎているぞ。あれでは――」

 

 

 と、言葉を続けようとした矢先に香取の動きが不自然に止まった様に視えた。何が起こったのだろう、と様子を窺うよりも早く修が腕を突出して通常弾(アステロイド)を放つ。

 両腕に生やしたスコーピオン、枝刃(ブランチブレード)verを交差して受け止めようとしたが、一歩遅かった。心臓部、トリオン供給機関を撃ち抜かれてしまう。

 この瞬間、香取葉子は修に一敗を喫する事になってしまった。本人がなんで負けたのかも知らぬ間に。

 

 

 

 ***

 

 

 

「な、何なのよ! いま、何をしたのよアンタっ!!」

 

 

 通常弾(アステロイド)によって風穴が閉じたのを確認し、香取は修の襟首を掴んで問い質す。

 

 

「ちょっ。か、香取先輩。勝負は終わったんですから……」

 

「そんな事より、いいから吐きなさい。あんた、どんな手を使った訳?」

 

「お、置き弾ですっ!」

 

「はぁ? 置き弾!?」

 

 

 置き弾と聞いて香取は素っ頓狂な声を上げる。香取の知る置き弾は通常弾(アステロイド)を設置し、時間差で発動して相手の意表を放つ攻撃手段である。

 

 

「は、はい! スパイダーをこう、地面にばら撒いて後はタイミングを見計らって」

 

 

 口で説明するよりも見せた方が早いと判断したのだろう。修はスパイダーを地面に撒き散らす。スパイダーを起動するとキューブの両端に角の様な突起物が生える。修は突起物を上向きにする様にばら撒き、忍者などがよく使うマキビシみたいに使用したのだ。

 

 

「あとは、香取先輩が足を踏みそうになるのを見計らってスパイダーを起動。一瞬ですが、あのように身動きを封じる事が出来るって訳です」

 

 

 おどおどしながらも説明を続ける修の言葉に香取は唖然とするしかなかった。スパイダーを前後左右に使うのではなく、上下方向に使おうと考える事は勿論のこと、タイミングを見計らってスパイダーを起動させて相手の身動きを封じようなど考え付く訳もない。

 

 

「そんな芸当、普通は思いついても出来ないわよ。何をどうしたらそんな事が出来るのよ」

 

「どうしたらって、僕にはサイドエフェクトがあるので……」

 

「サイドエフェクトですって!?」

 

「は、はい。僕の副作用(サイドエフェクト)・強化視覚の能力で――」

 

 

 三雲修は副作用(サイドエフェクト)持ちである事は有名な話しであるが、香取はそう言った噂などに興味がない故に情報として持ち合わせていなかった。

 修から聞いて副作用(サイドエフェクト)・強化視覚の効力を聞いて、吼えずにはいられなかった。

 

 

「なによそれ!? 本当にチートじゃない」

 

「チートって言われましても……」

 

 

 なにも良い事尽くしではない。副作用と言う名前だけあってデメリットもちゃんとある。それを説明しても香取は全く以って納得してくれなかったようで、ますます機嫌が悪くなっていった様子。

 突き放すように修の襟首を離し、新たにスコーピオンを生み出して戦闘態勢に入る。

 

 

「次は負けない」

 

「あ、あの……。香取先輩?」

 

「いいから構えなさい、メガネ」

 

「えっと、勝負はついたはずなんですが?」

 

「あんなの無効よ無効。練習はここまで、本番はこれからよ」

 

「そ、それはちょっと無理があるような……」

 

「問答無用っ!!」

 

 

 修の言葉など無視して、香取は斬りかかる。

 その後、7戦ほど模擬戦を繰り返す羽目になってしまったが、新しく入れたスパイダーのおかげで修は全勝をもぎ取る事が出来たのであった。




ボコボコにはできませんでした、香取戦。

……本当にボコボコにしたら涙目になって「やめるー」とかそんな風な流れになってしまいそうでしたので。

とりあえず、今の修のトリガー構成を書いてみました。

メイン
レイガスト・スラスター

サブ
アステロイド・バイパー・スパイダー・グラスホッパー


……うん。レイガストにこだわらない方がいいかなぁ、と今更ながら思っていたりします。
けど、自分の中では修=レイガストなんですよねぇ。


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SE修【天眼】VS香取④ 香取隊の戦いはこれからだ!

今回で香取編は終了です。


 7戦中全敗。その結果は香取にとっては想像すら出来なかった結果であった。

 

 

 2戦目。

 開始早々に修はトリオンキューブをばら撒き、レイガストを用いて特攻する。

 1戦目と同様にスパイダーをばら撒き、タイミングを見計らって自分の身動きを封じようと画策したと香取は予測した。

 下手に動いては修のスパイダーの餌食になる。それを嫌った香取はグラスホッパーを用いて空中戦で挑むつもりで跳躍する。だが、そのトリオンキューブは修の一言によって全トリオンキューブが上昇したのだった。

 修がばら撒いたトリオンキューブはスパイダーに在らず。通常弾(アステロイド)だったのだ。空中で弾丸を躱すのは容易ではない。シールドを片手にグラスホッパーでダメージを最小限に留めようと試みたところ、修のレイガストがシールドを貫き香取のトリオン供給器官をぶち抜いて行った。

 

 

 3戦目。

 置き弾戦法をさせたら不利になると悟ったのだろう。香取は拳銃(ハンドガン)を片手に間髪入れずに弾丸をぶっ放しながら接近する。

 だが、修には天眼の効力の一つ鷹の眼がある。連射機能の高い突撃銃(アサルトライフル)ならともかく、拳銃(ハンドガン)から放たれる弾丸の連発程度などレイガストのシールドナックルで充分対応されてしまった。

 もちろん、この程度で修を落とせるとは香取も思ってはいない。修が弾丸をぶん殴る瞬間を見計らってグラスホッパーで距離を詰め、スコーピオン・枝刃(ブランチブレード)を展開させて修の首を刈り取らんと刃を走らせる。

 しかし、刈り取れたのは、首は首でも足首であった。いち早く香取の狙いに気付いた修はグラスホッパーを起動して頭上へ回避。直ぐにスラスターを併用して香取目掛けて降下し、レイガストの刃で一刀両断。

 

 

 4戦目。

 今度は戦法を変えて拳銃(ハンドガン)の二挺スタイルに変更し、トリオンが尽きるまで追尾弾(ハウンド)通常弾(アステロイド)の弾丸をお見舞いする。

 修の基本スタイルを何となくだが学習した香取が考えた対抗策。奇襲、騙し討ちを得意とする事は前の3戦で学習済み。ならば相手が裁き切れない程の弾丸を撃ち続け、相手のミスを誘うのが狙いであった。後は置き弾戦法を注意すれば怖いものはないはず。

 けれども、スラスターとスパイダーの組み合わせ技、連結槍によって悉く弾丸を落とされてしまう。一定に保っていた距離では修にダメージを与えられないと思い、僅かながら距離を詰めて着弾時間を狭めようと一歩踏み込んだ時、修の連結槍が香取の右腕をもぎ取っていく。修も全身にダメージを負うリスクを負ったが、相手の攻撃手段を排除する事を優先したのだろう。一挺の拳銃(ハンドガン)ではその後の修の猛攻を押さえつける事が出来ず、あえなく連結槍の餌食となってしまう。

 

 

 5戦目。

 思えばこれほど必死に戦いに打ちこんだのはいつ以来であろう、と戦いの最中にも関わらず香取はふと思ってしまう。

 その一瞬の隙を突かれてしまい、上空からの変化弾(バイパー)の奇襲に対応が遅れてしまってあっけなく敗退を期してしまう。

 

 

 6戦目。

 6戦もすれば修のトリガー構成や戦いの癖が徐々に視えて来たのだろう。

 スパイダーのマキビシをシールドで撃ちこまれる前に防ぎ、独特の攻撃の軌道を見せる連結槍の弱点も見え始める。

 修の戦い方はレイガストを主軸にしている。天眼と言う反則染みた力のおかげで、僅かな隙を見計らって置き弾や死角から弾丸を放り込む戦い方はいやらしいの一言。

 ならば、攻撃の主軸となる弾丸を封じ込めればどうだろう、と考察を繰り返して実行。

 レイガストを持たない側に回り込み、拳銃(ハンドガン)で牽制をしつつ、飛び込んできた連結槍はシールドで軌道を逸らす。そこで初めて修の欠点に気付くのだった。

 頭に血が上っていて気付かなかったが、修はこれまでの戦いで一度もシールドを使っていない。つまり、修はレイガストのシールドモード以外の防御手段を持ち合わせていないと言う事だ。

 だったら、と閃いた策を披露しようとした矢先に、修はバカの一つ覚えとも言えなくないトリオンキューブをばらま――いたと思ったトリオンキューブが一斉に香取目掛けて飛んで行く。置き弾と思わせての変化弾(バイパー)による騙し討ち。

 悔しいが策の巡らし方は修の方が上手だと認めざるを得ないだろう。だが、自分もプライドがある。早々何度も倒される訳にはいかない。弾道を見極め、致命的なダメージ以外のダメージは受けるつもりで修へ突貫。

 だが、その戦法は修も予測済みだったのだろうか。レイガストをシールドモードに変形させて香取目掛けてシールドチャージを敢行してきた。

 相手も突貫してくるとは予想外であった。このままぶつかり合っても――と考え、ここでグラスホッパーを使用して逃げたら何のためにダメージを負ったのか分からないと考え直し、修のレイガストに通常弾(アステロイド)を撃ち続ける。

 数発お見舞いすると、修のレイガストに亀裂が生じる。

 香取の射撃技術は隊員の中でも高い方である。幾ら頑丈なレイガストでも同じ個所を数発続けて撃たれたら罅割れが発生するのも無理はない。

 イケると思ったが、修のレイガストが粉砕するよりも早くシールドチャージが香取に命中する方が早かった。そのまま壁際まで押し込まれる。背中に強い衝撃を感じるが、トリオン体に物理的なダメージは無意味。直ぐに反撃を敢行しようと画策するも、自身を包み込む様にレイガストが香取を閉じ込めたのだ。

 直後、一部だけレイガストの結界を開けた隙間に修のゼロ距離通常弾(アステロイド)が撃ち放たれる。咄嗟にスコーピオンを伸ばしてカウンターを狙ったが、香取のスコーピオンは狙った喉元から逸れてしまい逆転の一撃とはなりえなかった。

 

 

 7戦目。

 攻略の糸口は見え始めて来た。修の戦い方もこの6戦で大方学習する事が出来た。

 後はどのような戦術を駆使して、戦いを挑むべきかと考え始める。

 しかし、既存の戦術では修の眼を欺くのは難しいと考える。戦闘技能の高さは修に負けないと自負しているが、あの忌まわしい副作用(サイドエフェクト)がある限り、アドバンテージはないに等しい。何か虚を突くような一手を打たない限りこちらが優位に立つのは難しいだろう。

 そこで、香取は一つの奇襲を思いつく。自身のトリガー構成ならば可能であろう。しかし、その攻撃手段は完全にパクリであり、プライドの高い香取が使うのは憚られていた。

 だが、そんなつまらない事を考えている余裕はない。このまま行けば、修に7戦連続の敗北を受けてしまう。今は涼しい顔をして置き弾を設置している修に何としても一勝をもぎ取るのが先決だ。

 

 

 

 ――マンティス。

 

 

 

 スコーピオンを連結して、無理やり攻撃の間合いを伸ばす蛇腹剣。

 修もここで新しい攻撃手段に転じられるとは思ってもみなかったはず。マンティスの軌道は強化視覚で捕捉されても鷹の眼の様に予測する事は出来なかった。故に反応が僅かながら遅れ、修の左腕はマンティスによって食い千切られてしまう。

 ここに来て初めての致命的なダメージに胸中でガッツポーズを見せる香取。これでこの戦いは有利に運ぶ……と思いきや、自身の右足がいつの間にか破損している事に気付く。

 マンティスが放たれると同時に修は回避できないと判断して、那須戦で学んだ地を這う変化弾(バイパー)を放り込んでいたのだ。ご丁寧に大きく回り込む様に弾道を描いて香取に気付かれない様に細工を施していたのであった。

 右足を失い機動力が一気に激減する。しかし、その対策はスコーピオンを起動する事で解決出来た。足ブレード。損失した脚部にスコーピオンを義足代わりに用いて戦う戦法。

 これも木虎がよく使う戦法として、あまり真似をしたくはなかったが四の五の言ってはいられない。何としても修を倒す。その思いが香取の思考を加速させる。

 そこからは変化弾(バイパー)追尾弾(ハウンド)の応酬撃であった。互いに体の一部を損失している。下手にダメージを受けたらその瞬間に勝負が決まる。互いに隙を窺い、必殺の一撃を与えんと探り合う。

 このまま勝負は長引くかと思いきや、今度は修の方が勝負を仕掛けてきた。グラスホッパーで距離を詰め、スラスターによる一撃を香取へ放つ。しかし、そんな単調な一撃など香取に通じるはずがない。グラスホッパーで加速して修の一撃を躱し、すれ違い様に拳銃(ハンドガン)の引金を絞る……が、何かに弾かれる様に香取の腕が大きく逸れる。腕を伸ばした先に修が先に起動していたグラスホッパーの盾が香取の腕を跳ね除けたのだ。

 それが勝負の決め手であった。直ぐにグラスホッパーを使って仕切り直しを図らんとするが、それよりも早く修のスラスター斬撃が発動し、香取の胴体を真っ二つに斬り裂いたのであった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 7戦目が終わった直後、香取は崩れ落ちる。自身の戦術がここまで通用しなかった事は今まであったであろうか。

記憶が正しければ、ここまで惨敗したのは初めてかもしれない。

 

 

「香取先輩、今日はありがとうございました」

 

 

 メガネを装着した修が香取へ歩み寄る。

 

 

「そ、その……。色々と生意気言って、本当にすみません」

 

 

 深々と頭を下げて謝罪を述べる修であったが、香取はそれどころではなかった。

 惨敗の二文字が頭にこびり付いて消えない。こんな冴えない後輩にここまで無残に負けた事で香取のガラスのハードが完全にブレイクしたのだ。

 

 

「あんた……。つい最近、B級に上がったばっかりなんでしょ!? どうして、そこまで戦い方に幅が出る様になったのよ」

 

 

 これまでの7戦全て、似た様な戦術はなかった。置き弾を主体とした罠にそれを囮とした変化弾(バイパー)の奇襲。戦い慣れていないはずの中学生が考え付かない戦法ばかりだ。幾ら天眼と言う反則染みた特殊技能があるからと言って、あそこまで攻撃に幅を生み出すにはそれ相応の経験値を積まなくては出来ないはず。

 

 

「そう、ですね……。ひとえに、みなさんが協力してくれたおかげでしょうか。今までの戦い方は色んな人から学び、盗み、自身の戦い方へ昇華したにすぎません。僕一人ではとてもなし得なかった戦法ばかりでしょう」

 

「それも、天眼ってチート能力があったからでしょ!? その能力がなければ、アンタ程度の雑魚メガネがあんな風に戦えるはずがないわ」

 

「否定はしません。この力がなければB級に上がれなかったかも知れません。僕は香取先輩の様な才能はおろか、身体能力はダメダメですし保有トリオン量も少ないですしね。ですから、香取先輩が羨ましいです」

 

「なによ、それ。嫌味なつもり!?」

 

「い、嫌味とはとんでもありません。僕は純粋にそう思っています。戦いが重なるにつれて、動きのキレが増すし、マンティスや足ブレードなんて多彩な技も披露したじゃないですか。戦い方の選択肢が多いのは香取先輩も同じことですよ」

 

 

 マンティスや足ブレードは修に負けたくないが故に一心に行った技術。不慣れな戦い方故に思う様に動けなかったが、思えばそこまでがむしゃらに戦った事があったであろうか。

 香取は自分に才能がある事を自覚している。何をやってもそつなく熟す事が出来た為に、何かをなす為に熱を込める事はしてこなかった。それ故に努力の仕方が分からないでいた。

 

 

「(……ふん)」

 

 

 頭で分かっても認める訳にはいかなかった。後輩への対抗心によって、努力の二文字を知る事になったとは口が裂けても言えない。そんな事が知られたら、この先ずっとこの事でからかい続けられるだろう。

 

 

「……あんた、連絡先を教えなさい」

 

「はい?」

 

「まさか、勝ち逃げできると思っているの! そんなの許さないから! あたしがこてんぱんに伸すまで、アンタには徹底的に相手にしてもらうわよ」

 

「えーと、香取先輩?」

 

 

 なんでそんな話しに発展したのか、当の本人である修は考えもつかなかった。

これで全てが解決するとは到底思ってもいなかったが、連絡先を交換するという突拍子もない事態になると誰が想像出来た事であろう。

 

 

「いいから教えなさい!」

 

 

 このまま渋ったら噛みつかれると思って、修は渋々と言った形で香取に連絡先を教える事になった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 修が去った後、香取は鍛錬を続けていた。修の動きを思い浮かびながらあの手この手と戦法を変えながら体を動かし続ける。

 

 

「……惨敗だったな、葉子」

 

 

 咄嗟に体を捻らせて拳銃(ハンドガン)を突き出して、声を掛けた人物に向けて発砲する。

 

 

「うわっ!?」

 

 

 まさか、唐突に攻撃をされるとは思ってもみなかったのだろう。咄嗟にシールドを張って何とか防ぐ事が出来たが、後一秒遅ければ脳天を撃ち抜かれた事であろう。

 声を掛けた人物が自隊の仲間、若村麓郎である事に気付いた香取はあからさまに不機嫌な表情を見せて言い放つ。

 

 

「なによ」

 

「三雲君は強かっただろ」

 

「ふん、あんなの直ぐに追いついて見せるわよ。あんな雑魚メガネにいい顔なんてさせるつもりはないから」

 

「……だな。お前が本気になれば、きっと三雲君にだって負けないと思う」

 

「そんな事を言いに、態々来た訳? そんな暇があったら、アンタも努力したらどうなのよ」

 

「言われなくてもそうするつもりだ。俺も、三雲君の様に強くなりたいからな」

 

 

 そう言って、若村は突撃銃(アサルトライフル)を香取に向ける。

 

 

「なに? どう言うつもりなのよ?」

 

「一人で練習しても身が入らないだろ? 俺が相手役になってやるよ」

 

「……ふん。あんたでは力不足よ!」

 

 

 言うと同時に拳銃(ハンドガン)の引金を絞る。

 香取葉子……。いや、香取隊の真の戦いはこれから始まったと言えなくもなかった。




……さて、香取編も終わりましたのでいよいよやっちゃいますか、みなさん?

次は大規模侵攻編を始めたいと思います。

と、その前に外伝を一つ入れるかもしれませんが苦笑
香取編を無理やり入れた理由が、何気に次の外伝を見たいただければご理解いただけ……ればいいなー。
ちょっとやりたい、合成弾もあるんですよね。オリジナル要素入れないと言ったけど、今更かなぁ。


この場をお借りして、誤字の修正やご感想をいただいた方々にお礼を申し上げます。
いつもありがとうございます。
皆様のおかげで、地味にランキングにも乗らせていただいておりますので、ちまちま頑張りたいと思います(オイ






……いよいよ、最後の力も目覚めるかもしれませんよ?(ェ


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第2章:激闘! 大規模侵攻
SE修【天眼】大規模侵攻 嵐の前の日常


色々と考えましたが、プロットとか作っても、どうせ作って満足して終わるのが目に見えているので、お得意の見切り発車を発動します(エ

……てか、コブラぁ。質問集にしか書かれていないから普通に間違えたよ。
あれ、通常弾と追尾弾じゃなかったのね。……よし、亜種扱いにしよう(マテ


 界境防衛機関(ボーダー)の上層部が集結する会議室へ来るように命じられた修は冷や汗を流しながら扉を潜る。

 

 

「……お待たせしました」

 

「ちわー。実力派エリート、迅悠一。ただいま参上しました」

 

 

 遅れて数秒後、同じ支部の迅が登場する。

 招集命令を下した忍田は二人に用意した席に腰かける様に促す。

 

 

「それで、俺とメガネくんを呼んだ理由は何です?」

 

「既に分かっているだろ、迅。お前のSE(サイドエフェクト)はこの未来が視えているはずだ」

 

「買被りっすよ、城戸さん。俺だって見えていない未来は多くあります。……たとえば、ここにメガネくんがいる事とかね」

 

 

 呼ばれた理由は何となく予想は着くものの、迅のSE(サイドエフェクト)では修が一緒に召集を受ける未来はなかった。

 

 

「彼を呼んだのはほかでもない。鬼怒田室長、例のものを」

 

「了解です」

 

 

 話しを振られた鬼怒田が立ち上がり、事の成り行きを見守り続けている修へ近寄る。

 

 

「受け取れ、三雲」

 

「これは、トリガーですか?」

 

「それ以外の何に視える」

 

 

 鬼怒田から渡されたのはトリガーであった。そのトリガーには見覚えがあった。玉狛支部特有の刻印が刻まれているそれは修の専用トリガーとして宛がわれた先視眼(プレコグ・アイ)の機能を持つトリガーである。

 

 

「そのトリガーには本部の施設と連動に特化したトリガーを追加してある。さしずめ義眼(グラス・アイ)と言ったところかの」

 

義眼(グラス・アイ)ですか……。それでなんで僕にこのトリガーを?」

 

 

 疑問に思うのは最もである。そもそも本部は個人専用のトリガーを与える事はない。個人を優遇したら必ずと言っていいほど問題を抱える事になる。A級に昇格した者に既存のトリガーを改造する権限は与えているが、今回はそのケースから外れている。

 

 

「以前の調査により、三雲君の天眼が防衛に適した能力を有している事が分かった。私達本部の者は、キミに我々の眼となって欲しい」

 

「つまり、メガネくんに監視役をしてもらう。戦闘員として適していないから、監視役に徹底しろ。忍田さんはそう言っているんですか?」

 

 

 忍田の説明にいち早く察した迅が問う。

 本部の者達は戦闘能力が低い修を戦闘員としてより、監視役に適していると結論付けた。そこで本部の施設と連動に特化した専用トリガーまで作り、修に戦いから身を引けと言っていると考えたのだろう。だが、忍田の答えは「ノー」だった。

 

 

「そこまではいっていない。彼の実力は報告にも上がっている。将来性のある隊員を私達の勝手な判断で潰す事はしない」

 

 

 忍田はそう言うが、迅が指摘した事で口論したのは確かである。上層部の全員が天眼の有用性に納得している。

 他の隊員が持つSE(サイドエフェクト)についても特定の場面ならば有用性を発揮すると考えているが、修の持つ強化視覚は汎用性が高い。ならばこれを利用しない手はないと考えた鬼怒田が林藤の報告――修の専用トリガーの件について――を聞き、考案されたのが修の観測手化だ。本来の観測手(スポッター)とは役目は異なるが、修の観測手が機能すれば界境防衛機関(ボーダー)として得られる利点は大きいと鬼怒田は説く。それに賛同したのがメディア対策室長の根付と最高司令官の城戸であった。

 しかし、ここで待ったをかけたのが意外にも唐沢であった。忍田が言うよりも早く彼は「それは早計でしょう」と窘める。

 理由を問うた城戸に唐沢は「彼は他の隊員と繋がりが広いし、対戦相手として望む者も多い。彼を戦闘員から外して観測手へ無理矢理転向させたら、後々騒ぎに発展する」と答える。界境防衛機関(ボーダー)が軍隊の様な組織であるならば、上官が命じればいい話ではあるが界境防衛機関(ボーダー)は軍隊ではない。隊員のほとんどが思春期の学生達。彼ら彼女らに軍隊の様に命令遵守を押し付けたら離れていく者も少なくはない。その中に将来有望な隊員がいたら界境防衛機関(ボーダー)として大きな痛手に繋がってしまう。

 

 

「だが大規模侵攻に備える為にも、三雲君の眼は我々にとって大きな武器になる事は確かだ。このトリガーには鬼怒田室長が仰った義眼(グラス・アイ)と強化された先視眼(プレコグ・アイ)が入っている。戦闘員として戦えるトリガーも入れてある」

 

先視眼(プレコグ・アイ)は本部の施設からも演算能力を補助してくれる手筈となっている。玉狛で使ったよりも視るのが楽になるはずだ」

 

 

 忍田の言葉に林藤が補足する。支部長である林藤は修の観測手化に口を挟む事はしなかったが、忍田と唐沢が反対したのを切欠に修専用のトリガーである先視眼(プレコグ・アイ)の強化を持ち掛けた。城戸達の指摘は最もだ。しかし、修を戦闘員として外すのは惜しい。ならばそちらの意見も受け入れる代わりにこちらの意見も聞け、と半ば脅迫染みた提案であったが、このままでは何時まで経っても意見が纏まらないと踏んだ城戸が林藤の条件を呑んだのであった。

 

 

「……分かりました。その役目、引き受けます」

 

 

 全員の意見を静かに聞いて考えをまとめた修は上層部のお願いを聞き入れる事にした。

 

 

「いいのかいメガネくん」

 

「はい。千佳には空閑がいますし、玉狛支部の皆さんがいます。それに上層部の方々の意見も理解出来ます。大規模侵攻に備えてと言われたらとても断れません。それとも、迅さん的にこの未来は見えていなかったんでしょうか?」

 

「それは……」

 

 

 先ほど視えていなかったと言ったのは嘘になるが、確率が限りなく低い未来の一つであったのは確かだ。

 迅が多く見た未来では大規模侵攻時に遊真と一緒に登校しており、一緒になって防衛していたことが多い。

 

 

「(どうする。この選択は正しいのか)」

 

 

 考えた所で明確な答えは得られないと分かっているものの考えずにいられない。何せ、大規模侵攻は修に黄泉の入り口。死出の旅立ちを阻止する為に暗躍し続けてきた迅としては、慎重にならずにいられなかった。

 

 

「迅さん。色々と考えてくださっている事は知っています。けど、大丈夫です。これは僕が選んだ未来ですから」

 

 

 自分の為に色々と考えてくれている。その気持ちは素直に嬉しい。だけど、自分のせいで重たい何かを背負わせていては申し訳ない気持ちもある。今回の選択が正しいかは分からない。しかし、これは自分で選んだこと。例え迅の未来が最良からかけ離れた結果になるだろう選択でも後悔はない。それに迅は言っていた。未来は一つではないと。この選択肢が最良からかけ離れた選択であるならば、それを変える何かをすればいい。口に出して言うのは簡単であるが、それをしなければ辿り着けない未来があるのならば喜んで果たして見せよう。故に修は「ならば、僕からもお願いがあります」と上層部達に告げる。

 

 

「お願い? 俺達ができる範囲で良ければ聞こう」

 

「ありがとうございます、本部長。でしたら、C級以外の方々に天眼の疑似体験をさせてください」

 

「それは視覚を共有する、と言う事かい?」

 

「はい。できればオペレーターの方々にも体験して頂けるのが望ましいです。一度見るのと見ないとでは変わって来ると思いますので」

 

 

 修は自身の考えを述べる。

 大規模侵攻の様な特殊な戦いの場合、同じ隊の人達以外の隊員と肩を並べて戦う場合があるはず。その時に感覚を共有する事で状況を打破する可能性があるかも知れない。けれど、天眼で視る視覚を共有すると言う事は膨大な情報量の可視化と感覚のズレに慣れてもらわなければならない。

 

 

「空閑と千佳の二人と感覚を共有しましたが、二人とも膨大な情報量と今までの感覚のズレに戸惑いを隠せなかったようです。ですので、皆さんには僕が見ている光景を見ていただき、慣れていただきたいと思います」

 

「……なるほど。それは義眼(グラス・アイ)にも通ずるな。城戸指令、いかがでしょう」

 

「ちなみに、修の天眼は玉狛支部全員が体験済みだ。あれは初見はつらいが、慣れれば戦いに有利をもたらす事は確実だな」

 

 

 再び捕捉する林藤。その言葉が効いたのかは定かでないが、城戸は考えるそぶりも見せずに返答する。

 

 

「戦いに必要な事ならばやらない理由はない。明日にでも戦いに参加する者達に声を掛けるように」

 

「了解です。三雲君、これでいいかな?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「そうと決まったら、早速義眼(グラス・アイ)の試運転を始めるぞ、メガネ」

 

 

 方針が決まったと同時に鬼怒田が動く。修を強制的に立ち上がらせた。製作した義眼(グラス・アイ)の性能テストを行う為に修を強引に引っ張っていく。

 

 

「……不服か、迅」

 

 

 鬼怒田と修が退出する背中をむず痒そうに眺めている迅に城戸は問う。

 

 

「いえ。メガネくんが決めた事に不服はないっすね」

 

「お前が見た未来では彼は何をしていた?」

 

「それをいまこの場で口にした所で意味がないっすよ。メガネくんは既に決めちゃったみたいですからね」

 

「……そうか」

 

「俺に異論はありません。メガネくんが言う様に自分で選択した事を当事者でない俺があーだこーだ言った所で始まらないでしょ。だったら、実力派エリートらしく俺は俺で頑張るとします」

 

 

 既に賽は投げられた。今更慌てた所で遅い。ならば、今やれる最善の一手を打ち続ければいい。それが未来視のSE(サイドエフェクト)を持つ俺の役目だと迅は信じている。

 

 

「お得意の暗躍もいいが、あまり修を虐めるとまた痛い目にあうぞ」

 

 

 林藤の指摘に迅は苦笑いせずにはいられなかった。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日。

 上層部の命によって集結したA級隊員達は修の天眼を体験していた。

 

 

「マジか、コレ!?」

 

 

 第一声を口にしたのは出水だった。普段見ていると情景と全くと言っていいほど異なる光景を一言で例えるならば「気持ちが悪い」であった。普段は視える景色は良くて180度。つまり前方のみだが、修の天眼はそれに加えて後ろの180度分も視野に入れる事が可能なのだから、意識をしっかりと保たないと気分を悪くなったり眼を回しかねない。

 

 

「こいつが、三雲が見ている世界か。……なるほど。こりゃあ、初見で感覚のズレを修正するのは難しそうだな」

 

 

 自身のトリガー、弧月を抜刀して数回ほどその場で振り回す。いつもと異なる新鮮な感覚に感嘆し、何度も振り回して感覚のズレを矯正し始める。

 

 

「俄かに信じられなかったけど、確かに弾道が可視化されている。これを見て三雲君は弾丸による攻撃を対策している訳ね」

 

 

 適当の方角に拳銃(ハンドガン)の銃口を向け、通常眼(アステロイド)を数発放つ木虎は事前に伸びる赤い線、鷹の眼によって可視化された予測線を見て今までの修がやって来た事に納得の声を上げる。

 

 

「なるほど。確かにカメレオンが起動してもはっきりと目視できる」

 

「そうですね。それに加えてターゲットとの間に障害物があろうと、ターゲットを確実に捉える事が可能なのは便利ですね。浄天眼でしたか。まさに透視能力ですね、こいつは」

 

 

 菊地原にカメレオンの使用を頼み、障害物を伝って接近しようとする動きを確実に捉えている事に感心する風間と歌川。

 他の面々も修が見る天眼の光景に各々驚愕半分感心半分であった。

 視野が驚くほど上がった事で気分を害した者。感心し目の前の光景を楽しむもの。自身視覚による感覚と肉体反応のズレにもどかしさを感じるもの、と多種様々であったが、彼ら彼女らは軽く武器トリガーを振るいながら感覚のズレを調節していく。

 同じ様にB級隊員の者達にも体験してもらった。B級隊員の者達の大半は感覚のズレに悪戦苦闘していた。中には修が見た光景に馴染む事ができずにリタイアした者達もいた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日の翌日。

 

 

「……以上で僕が使っている時限式変化弾(バジリスク)変化拘束弾(バルーニング)の説明を終わります」

 

 

 修の天眼による疑似体験の際に出水から射手(シューター)会のお誘いを受けた修は二宮達から時限式変化弾(バジリスク)変化拘束弾(バルーニング)の説明を求められた。

 大勢の先輩達に「いやです、ごめんなさい」と断る事も出来ないので、修は対風間混成部隊と戦った過去ログを元に自身が考案した武器の解説を行った。

 

 

「前者はコブラの置き弾版であり、後者は鉛弾に似た分類って所ね」

 

「加古さんの言うとおりですが、普通、コブラをそんな風に使う奴はいねえんじゃないか? あまり使い手はいないから分からないが」

 

「でも、出水君。弾道距離と射出速度に威力を設定できるのは知っているけど、発動時間の設定なんてできるのかな?」

 

「理論上では可能だ。今までの置き弾は自身の意志で発射させていたが、設定を弄る事で自動的に射出する事も可能だろう。実際、三雲は時限式変化弾(バジリスク)を個別に設定していたようだ。射出時間を設定する事で既に放出したとみなされ、合成弾による総攻撃(フルアタック)が可能となるのだが、メリットよりもデメリットの方が大きい。あれは変化拘束弾(バルーニング)があるからこそ生きる弾丸と言っていいだろう」

 

 

 那須の疑問に二宮が答える。

 

 

「二宮さんの言うとおり、始めはコブラを迅さんに使って見たんですが、有効打らしい有効打を与える事は出来ませんでした。そこで僕は通常弾(アステロイド)の置き弾を利用できないかと考えました」

 

「なら、素直に置き弾を使えばいいじゃないか? 何故にコブラを置き弾として活用したんだい?」

 

「出水先輩の仰る通り、通常弾(アステロイド)を置き弾として使えばいいと考えました。けど、通常弾(アステロイド)の置き弾では不意は付けても気付かれたら簡単に対応されてしまう」

 

「それで変化弾(バイパー)の性質を加えたコブラを使ったって事ね。けど、三雲くん。あの置き弾の軌道ってリアルタイムで描いた訳ではないのでしょ?」

 

「その通りです。先に弾道は設定済みです。弾道を設定しないとそれが放たれた事にならないので」

 

 

 加古の質問を最後に先輩射手(シューター)達は互いに顔を寄せ合って、修が考案した二つの弾の評価を行う。

 

 

「……なんか当然の様に言っているけど、二宮さんはどちらかの弾を使えます?」

 

「どちらも使う事は容易だが、当てると言ったら話しが変わる。そもそも、あの二つの弾はアイツの天眼があってこそだ。使えて変化拘束弾(バルーニング)で相手を拘束させるぐらいだろうな。その辺りは変化弾(バイパー)に秀でた那須に聞くのが妥当だろう」

 

「既に弾道の軌道を設定させたコブラを置き弾として活用するなら可能かも知れませんが、変化弾(バイパー)の弾道軌道を設定した後にスパイダーのワイヤーを戦闘中にリアルタイムで設定するのは容易な事ではないと思います」

 

 

「そうよね。三雲君が言うには時限式変化弾(バジリスク)って一発の弾丸を分割する際に個別に設定しているんでしょ? そんなの出来ても当てる事は出来ないわ。その弾道を頭に入れて変化拘束弾(バルーニング)で束縛させるなんて考えても使おうと思わないわね。これは推測なんだけど、あれって出水君の総攻撃(フルアタック)を参考にしたんじゃないの?」

 

「……へ? 俺っすか」

 

 

 まさか、ここで自分に話しが振られるとは思わなかったのだろう。出水は加古が指摘した内容に思い至るものがなかったのか「そうですか?」と肩を竦める。

 

 

「あれか。通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)の同時攻撃」

 

 

 使った張本人である出水はまだ合点がいっていなかったが、二宮は修に指導している最中に太刀川達が無理矢理乱入した時の訓練を思いだし、納得する。

 

 

「つまり、あの変態的な合成弾は出水のせいだと」

 

「ちょっと待った! 風評被害も甚だしい。それを言うならば、変化拘束弾(バルーニング)の弾道軌道に那須の弾道軌道の面影があったんですがね」

 

 

 収拾がつかなくなり始めていく。出水の言葉をゴングに射手(シューター)の四人は修が間違った方向性に行こうとする原因を押し付け合い始める。真っ当に育てるつもりであった期待の射手(シューター)がこんな変態染みた技を編み出した切欠を与えた人物は誰のせいだと口論するのだが、そもそも口論すること事態が間違っている。こんな風に変態射手(シューター)の方向性に誘ったのは他の誰でもない。セクハラエリートの迅悠一だ。四人がその可能性に気付くのは、まだ先の事である。

 

 

 

 ***

 

 

 

 翌日の翌日の更なる翌日。

 

 

「これは持論だけど、先ずは自身の特性を把握する事から始めるといいと思うんだ。自分に苦手なこと、得意なこと。ポジションによる特性と自身の戦い方を今一度振り返ってみると、見えてくるものがあると思う」

 

 

 嵐山の考えに「なるほど」とメガネ同盟の同士である麓郎は頷く。

 

 

「たとえば、若村くんの銃手(ガンナー)と三雲くんの射手(シューター)では似ているようで実は結構違う。大きな違いは何か分かるかな?」

 

 

「銃で撃つのと直接弾丸を放り込む事でしょうか?」

 

「正解だ、三雲くん。なら、それによる利点と欠点を――」

 

 

 異様な光景が広がっている。玉狛支部にも関わらず本部の嵐山と麓郎がいる事に違和感を覚えずにいられなかった小南は隣でお茶を嗜む宇佐美に耳打ちする。

 

 

「(ちょっと、何でうちにろっくんと准がいるのよ)」

 

「(何でも本部で作戦に関する勉強会をしていたら、嵐山さんが手伝いを申し出てくれたみたい。嵐山さんが言うには「あっちは大勢いるから、俺はこっちに助力する」らしい)」

 

「(なにそれ? なんの話し?)」

 

「(さぁ……。それにしても、嵐山さんのメガネ姿はレアすぎるわね)」

 

 

 小南と宇佐美は対三雲会議の事を知らない。

 以前、迅に対三雲会議の事で助けを請われた事がある嵐山は一度だけ参加した事がある。敵味方関係なく自分達の意見をぶつかり合う場はとても新鮮であったのか、今回の様な場を設けたいと感じてはいたが議題のほとんどが天眼の修をどうやって対抗するべきかであった為にそれ以来、辞退していた。嵐山としてはもっと議題の内容を幅広く持って、後進の育成にも尽力できるような話し合いをしたいと考えていた。そこに麓郎と修の勉強会が目に入ったのだ。二人ともまだまだ至らない所は多いけど、学ぶ姿勢に感銘を受けたのだろう。自分の経験が活かせるならば是非とも力になりたいと立候補したのだった。

 ちなみに現在装着されているメガネは宇佐美から付ける様に渡された伊達メガネである。イケメン力が倍増された嵐山の写真は高値で売れたそうだ。その後に烏丸も宇佐美の界境防衛機関(ボーダー)メガネ化計画に巻き込まれ、修達の講義の際にメガネを装着する様になる。言わずがな、烏丸のメガネ姿の写真も嵐山同様に高値で取引されたのだった。

 その後、彼らメガネ同盟はメガネ一族と改められ、遊真と千佳を巻き込み――二人は自分の意志で参加した――挙句には嵐山のツテで柿崎隊、狙撃手(スナイパー)の一部の隊員達が参加し、対三雲会議と対を成す派閥が生まれるのだが、それは別のお話しである。

 

 ***

 

 それから三日後、運命の日が訪れる。




いよいよ始動、大規模侵攻編。

書きたい内容はいくつかありますが、それを上手く繋げられるか今のところ不明です。
……だれだ、いま計画なしも大概にしろっていった人は。


さて、前もってここで謝罪を。
おそらく、原作の話しの流れから大幅に変わる可能性があります。てか、なります。
原作遵守の流れも好きですが、物書きとして原作をなぞって文章化してもつまらないし……。(まあ、何も考えずに話しが進むから楽だけど)

なので、ここでは修が変わったことで影響された世界を綴っていこうと思います。
人ひとり変化する事で、物語って大なり小なり変わると思いますので。


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