テイルズオブエクシリア 黒き転生者 (狐目)
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原作開始前
第1話 大精霊との遭遇
『起きて』
何処からか声がする。夢の中にいるような心地よさの中俺ーー桐生真はその声に耳を傾ける。
『起きてってば、僕の声が聞こえないのかい?』
うるさいな…さっさと返事してやれよ誰かさんよ…
ホワホワした頭で考えていると、
『僕は君に話しかけているんだよ…ほら起きて』
ん?俺にか?俺はゆっくりと目を開ける。そこには現実ならまず目にすることの無いものが見えた。黒い靄の中にある大きな歯車に囲まれた水晶のように透き通った足場。そこには、大きなダイヤル錠のようなものが置いてある。おかしい、俺はさっきまで部活から家に帰っているところだったはずなのに。
てか、この場所って……
『やっと僕の声が届いたみたいだね。僕はここだよ』
声のする方を向くと…真っ白な少年がいた、しかも素っ裸の。でも肝心の部分は見えてないのであしからず。
『初めましてだね。僕は…』
「まさか、大精霊オリジン、なのか?」
俺のその言葉に驚くこともなく少年ー大精霊オリジンは微笑んだ。
『知っていてもおかしくは無いかな。だって君は《あの世界》で僕達のことをよく知っているだろうからね』
オリジンの言っていることは正しい。俺はRPGが好きで、テイルズシリーズが大好きだった。中でも《テイルズオブエクシリア》と《テイルズオブエクシリア2》は特に好きだった。この二作品は何度も繰り返しやっていたからオリジンのことはもちろん知っていた。
「だけどなんで俺はここに?さっきまで俺は……」
『君は家に帰る途中で車にはねられて死んでしまったんだよ』
俺は、オリジンのその言葉を聞いて思い出した。歩いている時、歩道に車が猛スピードで突っ込んで来たことを。
「そうか…俺はあの時死んだのか…」
『その時僕が、彷徨っていた君の魂を見つけてここに呼び出したんだ』
「それで俺はどうすればいいんだ?元の世界に戻せたりはできないんだろう?」
『そうだね、確かに死んでしまった世界には戻すことはできない。けど別の世界に転生させることはできる』
マジか…さすが大精霊、そういうことはお手の物ってわけか
『だけど1つだけ条件がある』
「条件?」
幾ら何でもただって訳じゃないか。
『そう難しいことじゃないよ。君の「選択」を見せて欲しいだけだよ』
「選択だと?」
『そう、君のこれから歩む道の選択をね』
そう言ってオリジンは、二つの光り輝く球体を出した。一つは、緑でもう一つは淡いピンクに光っている。俺はなんとなく察した。これはいわゆるルート選択というやつだろう。緑は『彼』のピンクは『彼女』の物語につながっているわけか…。
しばらくして、俺はピンクの球体を選んだ。
『そうか、君はその道を選ぶんだね』
「ああ、その通りだ。さて、俺は選んだぞ。これからすぐに飛ばすのか?」
『その前に……』
オリジンはまた光を放つ球体を出した。するとその球体は、おともなく俺の体に入っていった。
「これは?」
『そのままでは、この世界は生き残れないよ。だから、君の身体を適した物に変えたんだ』
確かにそうだ。一応、一通りの武道は修めているが今から行くのは剣と魔法の世界だ。このままでは軽く死ねる。ありがたくいただいておこう。
『それじゃあ、君を送るよ。君に精霊の加護があらんことを』
「おう、じゃあ行ってくる!」
こうして俺はテイルズの世界へ旅立った。
いかがだったでしょうか。もう一つの作品もあるので不定期になると思います。では次のお話でお会いしましょう。
See you next time
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第2話 リーゼ・マクシアに到着! そして出会い
〜トラメス暦2289 リーゼ・マクシア ニ・アケリア霊山〜
「転生してすぐのスタート地点がココかよ。いきなりハードだなぁ」
オリジンによって人間界に送られた俺の目に映ったのは、荒れた山肌に、切り立った崖だった。俺はこの景色を見てこの場所を二・アケリア霊山と判断した。
「まぁ、ひとまず下山しねーとって、ん?なんだこれ?」
俺の近くに何やら紙切れが落ちている。何か書いてあるようなので拾って読んでみる。紙切れにはこう書かれていた。
『無事人間界に着いたみたいだね。何点か補足しておくことがあるので確認してね』
どうやら、オリジンからの手紙らしい。しかも俺の能力についての説明のようだったので続きを読んでみる。
『まず一つ目は君のステータスについてだ。能力としては初期の段階とであると判断してくれて構わない。確認の仕方は君のよく知っている作品と同じだよ』
「俺のよく知っている作品?まさか……」
俺は恐る恐る『あの動作』行う。人差し指と中指を揃えて縦に振ると、鈴の音のような音がしてメインメニュー画面が表示された。
「おいおい、SAOと同じかよ。でも、表示はテイルズのなんだな。えーとステータスっと」
俺はステータスの表示をタッチして確認する。オリジンの言う通り、初期能力だと判断できた。俺は、手紙の続きを読む。
『二つ目は術技についてだ。これもこの世界にはないものがあるので確認して見てくれ』
再びメインメニューに視線を戻し、術技にタッチすると、一覧が表示される。テイルズシリーズに馴染み深い『魔神剣』や『掌底破』などが表示される中、異彩を放つものが。
「……はぁ!?」
それは、またしても例の作品からの技だった。どんなものがあったかは、後で話すことにしょう。頭を抱えながら俺は続きを読む。
『最後にアイテムについてだよ。装備やアイテムはインベントリに入っているよ。改めて幸運を祈るよ』
インベントリを覗いてみると確かに装備品とアイテムがはいっている。試しに装備をタッチすると《装備しますか?》というワードが出てきたので迷わず《YES》をタッチする。するとたちまち俺の身体を光が包み装備が装着された。黒いロングコートに黒いズボン、黒いブーツと全身黒づくめの装備だった。そしてきわめつけは、
「刀か、しかもこれも黒一色、まぁいいけどさ」
俺は立ち上がると、山を下り始めた。
しばらくして、俺は何かの気配を感じ足を止めた。岩陰から、そっと覗く。
「あれはトレントか?」
トレントーー生で見るとホントに木、ていうか半端なくゴツく見える。だが、しかしである。
「ちょうど腕試ししたかったところだし、相手になってもらうとするか!」
刀を抜き、静かに接近する。距離が10メートルほどになったところで、トレントもこちらに気づいたらしい。かなりのスピードで突っ込んでくる敵を前に出せる技をイメージする。
「『魔神剣』!」
テイルズシリーズにおける基本中の基本である技《魔神剣》、《蒼破刃》でも良かったが、初めはやっぱりこの技だろう。
放った斬撃は、真っ直ぐトレントに向かいダメージを与えるが、威力が足りなかったのか仰け反ることもなくこちらに向かってくる。
「ちっ、流石に固いな。なら次は、こうだ!!」
俺は《魔神剣》を放った後、それを追うようにトレントに肉薄し、斬撃が着弾すると同時に《掌底破》を叩き込む。今度は効いたらしく、動きが鈍くなったところで刀を一度鞘に納め、抜刀術の構えをとる。
「斬!!」
気合いと共に放った斬撃は見事トレントを捉え、切り裂いた。
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〜二・アケリア霊山の麓 ミラの社〜
その頃、ニ・アケリア霊山の麓にある社では一人の少女が瞑想していた。少女の名はミラ・マクスウェル。原始の三霊の一人であり、地水火風を司る四大精霊を従える精霊の主である。ミラはしばらくの間瞑想をしていたが、ふと目を開けると霊山のある方向に目を向ける。
「今のは……精霊の力か?」
『ーーーーーーーー』
「ああ、僅かだが感じた。すぐに消えてしまったが」
『ーーーーーーーー?』
「いや、死んだわけでは無いようだ」
『ーーーーーーーー?』
「ああ、何が起きたのか確かめる必要があるからな」
虚空に話しかけていた少女は、社を後に霊山の方向へと飛んで行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「いやー、戦ったなー。やっぱり何事も実践してみた方が身につく
な」
霊山を下りている途中、俺は道中に現れる敵で腕試しを続けていた。やはり元の世界で習った剣道の技術だけでは危ないと判断した俺は、戦闘を通して実戦的な型に修正していった。結果、時間がかかってしまったが、ある程度戦えるようになったので良しとしよう。
「おお、やっと出口かな。ん?なんかこっちにとんできてるな…」
鳥にしてはシルエットが違う気がする。かといって魔物かと聞かれると邪悪な感じはしない。やがて、それが人の姿をしていることに気がついた。相手もこちらを見つけたらしくこっちに降りてくる。
「君は何者だ?霊山から下りて来たようだが、一体ここで何をしている?」
俺はこの少女に見覚えがある。見間違えるはずがない。整った顔に長い金髪を一房だけ結った特徴的な髪型、そして綺麗な赤い目をした少女。間違いない、ミラだ。
「何者かって言われてもなぁ……。気がついたら山頂にいたから下りて来たんだけど」
「ふむ、なら質問を変えよう。先程精霊の力を感じたのだが、あれは君のものか?」
精霊の力?精霊術は使ってないんだけどな。
「下山する途中で、魔物と戦いはしたが、その精霊の力とやらは使ってないよ」
「そうか、なら君はアルクノアではないのだな。呼び止めてすまなかったな。気をつけて下山しーーーー!!」
急にミラの目が鋭くなった。その視線は俺の背後に注がれている。恐る恐る振り向くとそこには、ーーー魔物がいた。しかもただの魔物ではない。人馬のような姿に全身縞模様の紫の身体をもつ魔物ーーガデストーチだった。
「なっ、あいつは…」
「この辺りでは見ない魔物だな。それに…」
その瞬間、ガデストーチは俺達めがけて衝撃波を放ってきた。ミラは一歩も動かず、衝撃波は当たる寸前で消しとばされた。その余波が、近くの岩を粉砕した。その威力に俺は唖然とした。
「どうやら力も強そうだ。私がここを引き受けるから、君は早く下山した方がいい」
逃げることを勧められた。確かに逃げた方がはるかに安全だろう。だが俺は、
「いや、そろそろ手応えのあるやつと戦いたかったんだ。手伝うぜ」
刀を抜いた。
何故かって?もちろん言葉通りの意味もある。でもそれ以上に、ここで逃げたらもう会えない気がしたのだ。だから逃げない。
「……勇気と蛮勇は違うぞ」
「まあ、ホントにヤバくなったら逃げるさ」
ミラも剣を抜き、構える。さあ、初めてのボス戦だ!
〜???・ミラVSガデストーチ
「くらえ!『魔神剣』!!」
先手必勝とばかりに俺は『魔神剣』を放つが、ガデストーチはその攻撃をもろともせず迫ってくる。
「な、マジかよ…」
「イフリート!!」
ガデストーチの一撃が当たろうとした瞬間、業火を纏った精霊がその一撃を受け止める。
「すまん。助かった!」
「礼はいい!今は目の前のことに集中しろ!」
あ、危なかった…。イフリートが止めてくれなかったら致命傷だったかもしれない。
「次は私だ!シルフ!!」
ミラはシルフの力で攻撃する。風の刃がガデストーチを切り裂く。それに合わせて俺も接近する。相手の動きをよく見て、身体を捻り攻撃を躱す。そして、ガラ空きになった背中を斬りつける。
「ガアァァァァ!!」
ガデストーチが咆哮する。その威力で俺は吹き飛ばされ、崖に叩きつけられた。怨嗟の目で俺達を睥睨し、ミラに突進する。
「ノーム!!」
ミラはノームの創り出した岩の壁で防ごうとする。ガデストーチはそのまま突っ込む。壁は突進を止めたかのように見えたが、
ビシリ……
「なに?!」
嫌な音と共に壁にヒビがはいる。そのままヒビは広がり、そして、
ドガアァァァァン!
凄まじい音と共に破られる。
「マズイ!」
俺は素早く体勢を整え駆け出し、ミラを抱き寄せ、突進の軌道から外れるように飛び退いた。ガデストーチはそのままの勢いで走り去っていった。
「……大丈夫か?」
ミラはガデストーチの走り去っていった方向を見て、
「ああ。だが、まさかノームの盾が破壊されるとは…」
と、驚きを隠せないでいた。
『…ごめんでし。少しあいつの力を甘くみすぎてたでし…』
何処からか、謝るような声が聞こえてきた。
『全くだね!もしこいつが居なかったら、ミラが傷つくところだったんだからな!』
「そう責めるなシルフ。避けることをできなかった私にも非はある」
『我ならば力ずくで受け止めることもできたのだが…』
『仕方ありませんよ。あの魔物、相当な強さでしたから…』
ミラの側に四つの光が現れるそれから声が聞こえる。あれは恐らく四大精霊だろう。
「礼がまだだったな。助けてくれてありがとう、助かったよ」
ミラからの素直なお礼の言葉が、妙に照れくさい。元の世界じゃ、女子にこんなこと言われたことなんてないからな。気が抜けたところで、左腕の痛みに気づく。どうやら、敵の攻撃を躱した時に掠めたらしい。
「怪我をしてしまったか」
「ああ。流石にほっとけば治るレベルの怪我じゃないよな…」
「なら村で治療した方がいいだろう。なに、ここからそう遠くないから安心するといい。案内しよう」
そう言ってさっさと下山するミラを追って、俺も歩き出す。
「そう言えばまだ名乗っていなかったな。私はミラ、ミラ=マクスウェルだ。君の名前は?」
途中、ミラは自己紹介と俺の名前を聞いてきた。俺は元の世界のオンラインゲームでよく使っていた名前を口にする。
「俺の名前はシンだ」
「シンか。いい名だ」
こうして、俺達は近くの村ーーニ・アケリアに向かったのだった。
いかがだったでしょうか?ちなみにこのお話で、私の年内の投稿は最後です。皆さん、良いお年を〜。
では次のお話でお会いしましょう。
See you next time
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第3話 ミラの提案
はい、お久しぶりです。狐目です。約半年ぶりの投稿となります。リアルが忙しくなかなか書く時間が取れませんでした。もう少し早く投稿できるようにしなくては。
それでは第3話どうぞ。
〜〜ニ・アケリア参道〜〜
ガデストーチとの戦闘の後、俺はミラについて近くの村ーーニ・アケリアに向かっていた。先程の戦闘で負った傷の治療のために向かっているのだが、参道にも魔物がいて中には襲ってくる魔物もいた。
幸いにも霊山の魔物ほどは強くないのでミラや四大精霊、手負いである俺でも対処することができた。
「…とはいえやっぱ痛えなあ…」
怪我をした左腕を眺めながらボヤいていた俺の声が聞こえたのか、先を歩いていたミラが振り返った。
「なら、戦わなければいいだろう。私は戦わなくていいと、言ったのに君が、『できる限りは戦う』と言ったからそうしているのだが…」
「いや、撤回することはないよ。ここら辺なら、『こいつ』だけで大丈夫そうだからな」
俺は刀を示して言った。ミラは、表情こそ変えないものの雰囲気を幾らか和らげてくれた。
「そうか、だが無理はしないようにな。人間の身体は思っている以上に脆いのだからな」
そう言ってミラは歩いていった。俺はその後ろ姿を眺め、
「ああ、気をつけるよ」
と呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ミラに先導されてようやくニ・アケリアに到着した。
「ここが、ニ・アケリアか…」
俺が、村を眺めていると、ミラは近くにいた一人の老人に声を掛けた。
「すまない、少し良いだろうか?」
老人はミラを見ると驚き、恭しく頭を下げた。
「これはマクスウェル様、私めに何か御用でしょうか?」
「うむ、実は彼の手当てを頼みたいのだ。先程魔物との戦闘で傷を負ってしまってな」
老人は俺を少しばかり警戒心を覗かせて見た。見慣れない顔だったからだろうか。
「この者は……」
「霊山の頂上で気を失っていたらしい。私が精霊の力を感じて霊山に向かったところ、下山しているところに鉢合わせたのだ」
「…わかりました。では、私めについてきてくだされ」
老人は少々俺のことを怪しそうに見ていたが、俺とミラは老人の後ろをついて行く形で村長の家に案内された。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
案内された村長の家で俺は治療を受けた。
「はい、これで終わりです」
「ありがとうございまs痛ぁ?!」
治療をしてくれた女性に包帯の巻かれた腕を叩かれて、顔をしかめた。
どうやら終わった後にペシッとするのはどの世界でも一緒らしい。そして、それが一番痛いことも。
「ふふ、それだけ元気ならその怪我が治るのも早いだろう」
ミラは微笑ましそうに笑った。
「…さて、腕の治療も終わったようだがシン、君はこれからどうするのだ?」
ふと、ミラはそんなことを聞いてきた。思わず動きが止まった。
…マズイ、これからどうするか全然考えてなかった。この世界に俺の帰る所はない。もちろん頼れる友人もいない。何処ぞの小説の主人公のようにあてもなく旅をしてみるのもいいかもしれないが、下手をするとこれから先の『未来』も変わる可能性もある。いや、いっそその可能性を楽しむべきなのか……
「シン?どうかしたのか?」
返事をしない俺を見てミラは?を浮かべている。そこに勢いよく家の扉を開け一人の少年が飛びこんできた。
「ミラ様!こちらにおられましたか!」
この声に茶色がかった白髪、褐色の肌、そして白い巫子服。間違いないな、彼は、
「イバルか。どうかしたのか?」
「ミラ様が見かけない男を連れてきたと村の者から聞き、ミラ様の御身に何かあってはと居ても立っても居らなかったのです!」
…なんと言うかいい奴なのは間違いないんだろうけど騒がしいな。まぁ、これもミラを心配しているからこそなんだろうが。
「私は問題ない。彼が守ってくれたからな」
ミラがこっちに視線を向けるとイバルもつられて俺を見ると、さっきの老人と同じように警戒心をあらわにした。
「ミラ様……この男は何者なのですか?」
「私もよくは分からない。霊山で見たことのない魔物と戦ったときに傷を負ってしまったから村に連れてきたのだが」
そこでミラは真剣な表情になり、
「シン、君のことを教えてくれないか。私は少々特別な立場なのでな、君が素性を明かして貰わなければ困るのだ」
俺の正体を問いただしてきた。はっきり言って正体もなにもないのだが、変に嘘をついて後々追及されるよりは話すべきだと判断した。
「正体もなにも、気がついたら霊山の頂上にいたこと除けばごく普通の人間なんだけどーー」
「しらばっくれるな!普通の人間がどうして霊山に行く必要がある!」
話そうとしたら、イバルがいきなり声を荒げた。それをミラが抑える。
「落ち着けイバル。ここは私に任せてくれないか」
イバルが渋々といった様子で引き下がるのを見てミラは再度疑問を投げかけてきた。
「シン、私が霊山で『精霊の力を感じた』と言ったことを覚えているか?私はそれが君となんらかの関係があると思っているのだが」
(…さすがミラ、鋭いな)
ミラの推測に感心していると、イバルがいきり立った。
「ではミラ様、こいつは……!」
「私も初めはアルクノアだと思っていた。しかし、彼は『黒匣』を使わなかった。私やイバルと同じように剣を使って戦っていた」
「それはミラ様を油断させる為の作戦なのではーー」
「なら私を助けたのはどう説明する?アルクノアなら確実に仕留めたい私を魔物から助ける意味が無いだろう」
イバルの横槍をミラは次々と論破していく。ミラが言っていることは正論だが、イバルはまだ疑っているらしく難癖をつけている。
「と、とにかく、この男はすぐに追い出すべきです!このまま、村にいられたらミラ様の御身に何か影響が及ぶかもしれません!」
「心配症だなイバルは。そう騒ぎ立てずとも傷が癒えたら帰ってもらうさ。そういう訳だ、シン、君の家はどこにあるんだ?」
イバルとのやりとりが終わるとミラが俺の家を聞いてきた。もちろんそんな所はないので正直に話した。
「どこにも」
俺の返事にミラは呆気にとられた顔をしていた。
「…なら君の家族はどこにいる?」
「どこにもいない」
「親しい者は?」
「一人もいない」
「ふむ、身寄りがいないのか…。どうしたものか…」
俺の返事を聞いてミラはどうしたものかと考え込んでいる。静まりかえってしまったこの場をどうしたものかと考えていると、
「イバル、イバルはいないか!」
一人の男が扉を壊さんとばかりの勢いでとびこんできた。男はイバルとミラの姿を見つけた途端に安堵の表情を浮かべたが、すぐに険しい表情に戻り二人に近づいた。
「よかった、ここに居たのか。マクスウェル様もちょうどいいところに」
「随分慌てているが、何かあったのか?」
「はい…!ソグド湿原から魔物の群れがムラに向かってきています!」
「なんだって!?」
イバルは男の報告に驚き目を剥いているが、ミラは落ち着き払っている。この辺りの魔物ならミラが手こずることも無いだろうが…
「わかった。群れは私が追い払おう。イバルは念のため村に残っていてくれ」
「しかしミラ様…!」
「私なら心配ない。もう霊山のときのような遅れはもうとらないさ」
そこでミラは言葉をきり、そして静かに言った。
「それにイバル、お前の使命は私を守ることだけではないはずだ。それを忘れるな」
ミラはそうイバルを諭した後に村長の家を後にした。そこには俯いたイバルと話に入ることもできず決まりの悪そうに頭を掻く俺だった。
「…これからどうするか」
「…どうもこうもあるか。巻き込まれたくないならさっさとこの村から出て行け。それ以上傷を増やす前にな」
そう言ってイバルは家を出て行った。このままじっとしているのも落ち着かないので俺も家を後にした。
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「はあ…ホントにどうしたもんかな」
ぼやきながら俺はニ・アケリアをキジル海瀑方面に歩いていた。負傷した左腕はなぜかもう痛みを感じなかった。俺は雑念を払うために軽く頭を振った。このままニ・アケリアを出て、旅に出るべきだろう。村に居座るような理由もないなら来るべき時に備えるのがベストだ。
ふと足を止めてソグド湿原の方を見やる。今頃ミラが魔物相手に戦っているだろう。
「…再会できることを祈るしかないか…」
そう呟き俺はキジル海瀑へと歩を進めた。
グオオオオオオオオ!!
魔物の咆哮を背にー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ニ・アケリアを出てしばらく進んで行くと、やがて地面が土からサラサラとした砂に変わり辺りには奇岩と水辺が見え出した。どうやらここからがキジル海瀑らしい。
「さてと、ここからハ・ミルに抜けてそこから更にイラート海亭か、まだまだ遠いな…」
若干気落ちしながらもまずはハ・ミルに向かうべく歩こうとしたとき、
「ま、待ってくれ!」
突然呼び止められた。何事かと振り返ると男が必死に駆けてくる。よく見ると先程魔物の群れの接近を伝えた男だった。何やら先程よりも慌てている。
「よかった…まだ、ここにいたか…」
「どうかしたんですか?」
と訝しげに尋ねると、
「た、頼む!マクスウェル様を助けてくれ!」
「…っ!?」
俺は男の言葉に耳を疑った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜〜ソグド湿原 南部〜〜
ミラside〜
「はぁはぁ…っ」
私は息を荒くし、思わず膝をついていた。周囲に視線を巡らせれば先程まで共に戦っていた者たちが倒れているのがそこかしこに見える。
そしてその元凶が自分を見下ろしている。
「くっ、こんなはずでは…」
『大丈夫ですかミラ!』
『一体なんなのだこの魔物は…!』
私の側に青と赤の光がやってくる。青の光ーウンディーネは私を心配し、赤の光ーイフリートは眼前の魔物に静かに憤りを露わにしている。私が魔物の撃退を始めた時は何の問題もなかった。それぞれの能力は高くなく、数こそ多いが四大の力で圧倒できた。
しかし、状況は一変してしまった。群れから現れた一体の魔物によって。濃い紫の毛に覆われた巨大な体躯と頭にこれまた巨大な角を生やしたその魔物は、いとも簡単に村人たちを吹き飛ばした。応戦こそしたものの四大の力でしかまともなダメージをあたえることができなかった。
(それにしても妙だ…霊山の魔物といい、このような魔物はこの辺りにはいなかったはずだが)
思考を巡らせたその時、一瞬集中が途切れた。その一瞬を魔物は見逃さなかった。その体躯に見合わないスピードで襲いかかってきた。
「しまっ…!」
回避することもできない、ノームの土の盾も間に合わない。全てがゆっくりと動いて見える。
(これまでか……)
思わず死を覚悟したその時、
「させるか!《蒼破刃》!」
後ろから鋭い声と共に風の力を宿した斬撃が放たれ魔物の攻撃の軌道をそらした。想定外の攻撃を受けたからか距離を取り、私から視線を外し自分を傷つけた敵を怒りで満ちた目で睨みつけた。その視線を追ってみると、抜き身の刀を持ったシンがいた。
ミラside out〜
「君は…何故ここに来た!?」
到着早々に怒鳴られたがそんな余裕は俺にはなかった。それはなぜかだって?
「おいおい、ベヒーモスじゃねぇか。お前は別のゲームのやつだろうがよ」
そう、目の前にいたのがベヒーモスーーあれだ、F●Xにでてくるようなヤツーーだったからだ。そんなのがいれば誰だって驚く。呑気にそんなことを思っているとベヒーモスが俺に向かって真っ直ぐに突っ込んできた。慌てて回避すると、続けて電撃を落としてきた。
「あっぶねっ!?」
咄嗟に飛び退くことで回避すると電撃の当たったところは湿地であるにも関わらず真っ黒に焼け焦げていた。
(このままじゃ、倒れてる人たちを巻き込んじまうな…)
「ミラ!倒れてる人たちを村まで連れて行ってくれ!」
「何を言っているんだ…君一人で倒せる敵じゃないぞ…!」
「違う!時間を稼ぐからシルフの力でみんなを村に送ってくれってことだ!」
ミラは俺の言ったことを理解すると、頷いた。
「…わかった。できるだけ早く戻る!!」
「そう願うよ…」
ミラはシルフを召喚し、倒れてる人たちを回収しニ・アケリアに飛んで行った。その姿を見送って俺はベヒーモスに向き直る。
「さーて、ここから先は通さねぇ。しばらく俺と遊んで貰うぜ!」
『グオオオオオオオオ!!』
俺の挑発を理解したのかは謎だが、ベヒーモスは怒りの咆哮をあげ俺に突撃してきた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜シンVSベヒーモス(F●X.ver)
突撃して来たベヒーモスをギリギリで躱すと、ベヒーモスは勢いそのまま崖に直撃した。よく見るとその際に頭の角が崖に刺さったらしく
なんとか抜こうともがいている。
「隙あり!」
距離を詰め背中を斬りつけるが、
ギャリィィン!!
と不快な音を立てて、刀は通らなかった。
「なっ?!」
斬れなかったことに驚いているとベヒーモスが力任せに角を抜き、そのまま尻尾で薙ぎ払った。なんとか飛び退くことで回避したが、まともにくらっていたらマズかっただろう。
「…斬れるとおもったんだがな。こりゃあ精霊術の方が弱点か…」
どうしてくれようかと考えるが、ベヒーモスはそれを待たず激しく攻撃してくる。回避を続けるが遂に、
「がっ!!」
攻撃の一つを避けきれずくらってしまう。刀で幾らかダメージをいなしたが、崖に体を強かに打ってしまった。
「痛っ、こうも一方的か…ヤベェな…」
立とうとするが力が入らない。そうこうしている間にベヒーモスはゆっくりと迫ってくる。
(ああ、俺、このまま死ぬのか……?)
ぼんやりとしたあたまでその考えに至った時、俺に猛烈な嫌悪をいだいた。
死ぬ? 俺が?
「嫌だ……」
絞り出すような声で呟く。
「死んで…たまるか…」
ふらつきながらも立ち上がり、刀を握り、腰溜めで構える。
「死んで…たまるか!!」
そう叫んだ瞬間、全身の血が沸騰するような感覚を感じた。俺はその感覚に任せ、全力で刀を振り抜いた。
「斬!!」
俺の放った渾身の一撃は、刀の通らなかったベヒーモスの皮膚を易々と斬り裂いた。更にはベヒーモスの巨体を吹き飛ばし大きく怯ませた。
「はぁはぁ、今のは一体…?『ピローン』ん?何だ?」
先程のが何だったのかと考えていると状況に不釣り合いな音が聞こえ、俺の前に半透明なウィンドウが現れる。そこにはこう書かれていた。
《New Skill 固有スキル 『レイジバースト』を習得しました》
その表示を確認すると視界の端にゲージが表示されているのに気づいた。そしてそのゲージが徐々に減少していることも。
「つまりあれだな。これが切れるまでは能力が上がっているってことだな」
考えが纏まった所でベヒーモスが体勢を立て直しこっちを憤怒の表情で睨みつけてくる。俺は刀を向け不遜な言葉を吐く。
「さあ、タイムリミットもある事だし今度はこっちから行くぞ!」
俺は一気に距離を詰める。ベヒーモスも前足を振り下ろし俺を迎撃するが、俺にはそれがスローモーションに見える。易々と躱し、刀を構える。すると、刀が赤く輝き加速する。俺はそれに合わせて威力をブーストする。
「せあああ!!」
刀はベヒーモスの足を捉え、見事斬り裂いた。
これが俺がオリジンから受け取った転生特典、『ソードスキル』。
そして今放ったのは、カタナスキル単発技『絶空』。
そこで俺は止まらない。『絶空』に繋げて新たにスキルを始動させる。カタナスキル重攻撃技『羅刹』の三連撃を打ち込む。ベヒーモスは足を斬られたうえに『羅刹』をくらったために堪らずダウンする。そこを逃さずスキルを放つ。大きく飛び上がり刀を全力で振り下ろす。カタナスキル単発重攻撃技『破山』。山を破るという名に相応しい斬撃は角を捉え斬り落とした。
「よし!これならいけ?!」
突如体から力が抜けた。一体何がと焦ったがすぐに思い当たる。『レイジバースト』のタイムリミット。『レイジバースト』の制限時間は1分程度、そのタイムリミットがきてしまったのだ。その代償はしばらくの間のステータスダウン。それは容赦なく俺を襲った。
「ヤベェ、体動かねえ…!」
その隙を敵は見逃してはくれない。ベヒーモスは体制立て直し俺に向かって来る。そして俺に致命傷を与えるべく前足の振り上げた、その時、
「シン!!」
待ち望んでいた声が聞こえた。その瞬間、猛烈な炎にやってベヒーモスは吹き飛ばされた。すると空からミラが降りてきた。どうやら無事に村人たちを村まで連れていけたらしい。その表情はかなり驚いて見えるのは気のせいだろうか。
「シン、無事か!?」
「まあ、何とかな…」
「そうか、よかった。少し言いたいこともあるが、先に奴を倒すのが先決だな」
戦えるか?
というミラの問いにステータスダウンが終わったのを感じ、頷く。俺たちは依然倒れたままのベヒーモスに駆けた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
それからの戦闘はあっけなく終わった。角を斬り落としたことで雷撃を放つことも出来なくなり、攻撃も通りやすくなっていた。部位破壊による特殊ダウンというやつだろうか。
「はあ、何とかなったな」
「ああ、しかし、また君に助けられてしまったな。同じ台詞ですまないが礼を言うよ」
再度礼を言うミラに俺は気にするな、と手で返事をする。
「だが、何故あそこまで無茶な戦いをした。あれで命を落とすとはかんがえなかったのか?」
「始めは逃げに徹するつもりだったんだけど、どっちにしろあのままじゃジリ貧だったからな。だったら危険をおかしてでも少しでも勝算のある方を取るのがベストだろ?」
「それで君が死んでしまっては元も子もないだろう。まさか君がここまで無茶をする人間だとは思わなかったよ」
「あー悪かった」
ひとまず謝ったが、ミラはそれきり一言も発さなかった。ミラの表情を窺うが、気まずくてすぐに顔を逸らした。やがてミラが口を開いた。
「…シン、君は帰る場所もなく、行く当てもないと言っていたな?」
「ああ。それがどうかしたか?」
「ふむ、なら二・アケリアに住む気はないか?もし君にその気があるなら私が皆を説得するが」
「え?」
俺は自分の耳を疑った。まさかこんな短時間で村に住まないかと言われるとは普通思わないだろう。
「うむ、どうやら私は君のことが気になるようだ。いや、これは心配
しているというのが正しいか。このまま君が旅をしたらまたどこかで無茶をするのではないかと」
ミラは自分の中の感情に戸惑っているようだ。そういえば原作でも始めは精霊然としていた。今はまだ人間らしい感情をまだ持ち合わせていないのかもしれない。
「それでどうだろうか?君さえ良ければ、だが」
「願ってもない話だ。あの村は居心地が良さそうだし、厄介になることにしよう」
そう言うと俺はミラに向き直る。ミラは俺の返事に満足したのか「そうか」と呟いた。短く、少しばかり嬉しそうに。
「それじゃよろしくな、ミラ」
「?」
俺が手を差し出すとミラが疑問符を浮かべているのに気づき悪手だと教えた。
「おお、握手か。人間が互いに友好を深めるためにするあれだな」
ミラはすぐに握手に応じてくれ、俺はその手を握り返した。ミラの澄んだ綺麗な瞳が真っ直ぐに俺に向けられる。俺も彼女を見返す。
「改めてこれからよろしくな、ミラ」
「こちらこそよろしく頼むよ、シン」
こうして運命の歯車はゆっくりとしかし確かに回り始めた。
いかがだったでしょうか。
これからもリアルが忙しくなるので難しいかもしれませんが、可能な限り早く投稿できるようにしたいと思います。
それでは次のお話でお会いしましょう。
See you next time
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第4話 決断と修行開始
それはさておき、第4話です。どうぞ。
俺とミラがベヒーモスを倒して数ヶ月が過ぎた。
穏やかな陽気のニ・アケリアの草地に一人のんびりと昼寝している少年がいる。俺ーーシンである。あの後俺はミラの提案でニ・アケリアで暮らしていた。ミラが言うには「村を守るために力を貸してほしい」とのことだった。それから何度か魔物相手の戦いがあったが、ベヒーモスのようなイレギュラーな魔物はいなかった。
…まあそう何度もいられても困るが…。
「う〜ん、平和だな〜」
緩みきった表情でそう呟く。そこに、
「おーい、シーン」
と呼ぶ声がする。
目を開けると農具を持った男が手を振っている。
「丁度よかった。今から収穫するから手伝ってくれないか?」
「ああ、かまわないよ」
返事をして起き上がると、軽く体をはたいてくっついた草を落とし歩き出した。
ベヒーモスを倒した後、ミラは俺をニ・アケリアに住まわせたいという旨を告げた。
これから先、いつ同じような魔物が攻めて来ないとも限らない。まして自分自身の力不足で死者がでる可能性もある。それを補う意味で彼を受け入れたい、と。
村人たちはミラの言うことをすぐに聞きいれた。自分たちを助けてくれた恩があったからだろう。
村に慣れるまで少し時間がかかったが、今ではすっかり馴染んでみんなに頼られている。
そんなある日のこと、
「うーん」
俺は一人唸っていた。村にある小さな空き地、シンがここで何をしていたかと言うと、
「どうして、精霊術が使えないんだ?」
そう、精霊術の修行である。しかし、進歩はない。ベヒーモスとの戦いの傷が癒えてから続けているのだが、何をやっても上手くいかない。『ウインドカッター』を詠唱しても風の一つも吹かず、『ファイアーボール』を詠唱しても火の粉の一つも出ない。そう言うわけで完全に修行は行き詰まっていた。
「どうしたもんかな」
「こんな所で何をしている」
「うわっ!」
突然、声をかけられて驚き、慌てて振り返るとイバルが立っていた。
「なんだイバルか、驚かすなよ」
「シン、ミラ様がお呼びだ。すぐに社に行ってくれ」
「ミラが…?」
ミラが呼んでくるとは珍しい。というのもあれからミラは社で瞑想する毎日で、時々村に来た時に一言二言交わすことぐらいだったからだ。
「用件がなんだか聞いてるか?」
「いや、聞いていない。ミラ様から呼び出しを受けるなんて…何かやらかしたのかシン」
「わからん。心当たりはないが…」
「とにかく行ってこい。あまりミラ様をお待たせさせるな」
俺としても呼ばれる理由は知りたいところなのでひとまずミラの社に向かうことにした。一体どんな理由で呼んでいるのやら……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜ミラの社〜
俺はイバルから伝えられた通りに社にやって来た。木々の中にひっそりと佇むそれはこれといった装飾もなく、逆にそれが厳かな雰囲気を醸し出している。
「ミラ様、シンをお連れしました」
「……うむ、入ってくれ」
呼びかけに返事があったので、イバルは扉を開け中に入っていく。俺も後を追って中に入る。
「来たか」
ミラは瞑想を解き、こっちに歩み寄ってくる。
「ご苦労だったイバル。私はシンと話があるからお前は村に戻れ」
「…はい、わかりました」
イバルは俺を一瞥すると、言われた通りに社を出ていった。
「さて、今日君を呼んだのは君にどうしても聞かなくてはならないことがあったからだ」
イバルが社から出たことを確認すると、ミラは真剣な表情になった。数ヶ月前に見たあの表情だ。
「……何が聞きたいんだ?」
「君は私のことをどこまで知っている?」
「そうだな、四大精霊を従える精霊の主『マクスウェル』ってことくらいだな」
「それは村の者たちから聞いたのか?」
「そうだが、どうかしたか?」
なんだ、ミラの真意がわからない。ひとまず当たり障りのないように答える。何か疑われるようなことをしただろうか?
ミラは目つきを険しくした。
「…できれば正直に答えてほしい。村を救ってくれた君に剣を向けたくはない」
同時に空気が変わったことを感じる。ピリピリと張り詰めた空気の中俺を囲むように四つの光が現れる。
「貴方はミラを救ってくれた恩人です。ですが…」
水の大精霊ウンディーネ。
「敵、間者であるなら見過ごせん」
火の大精霊イフリート。
「言っとくけど逃げても無駄だよ。ま、逃げるなら切り刻むけど」
風の大精霊シルフ。
「僕もそんな事はしたくないでし。だから嘘つかないでほしいでし」
地の大精霊ノーム。
それぞれが具象化し、俺に伝えてくる。ミラは鋭い目で俺を見ている。真っ直ぐな目だ。相手が向き合ってくるなら自分も応えなければなるまい。本気には本気で返す。これは俺の信条だ。
「ふぅ、わかった。それで何が聞きたい?」
俺は息を吐き、両手を挙げることで抵抗の意思がないことを示す。
「では聞こう。…君はアルクノアの人間なのか?」
「いや、俺はアルクノアではない。そもそも【黒匣】《ジン》も持っていない」
「ああ、君が黒匣を持っていないのは霊山で会った時に分かっている」
「だけど、イフリートが言ったようにアルクノアの間者である可能性も捨てきれないんだ」
「私は、そんな事はないと思いますが…」
シルフは疑い、ウンディーネはどちらか測りかねており、イフリートは何も言わず俺を見下ろし、ノームはどうすべきか悩んでいるように見える。
「なら、どうしたら納得してもらえる?残念なことに俺はみんなを納得させれるほどの口はないぞ」
俺の言葉を聞き、ミラは思考を巡らせる。しばらくして口を開く。
「そうか、ならばシン、君には私達と共にアルクノアと戦ってもらうとしよう」
「ミラ!?」
「なっ!」
「なるほどな」
「やったでしー!」
ミラの言葉に精霊たちは各々の反応を示した。かくゆう俺も少し驚いた。
「君の強さはあの戦いである程度はわかった。君が私達に協力してくれるなら十分心強い」
「ミラ!アルクノアかもしれない奴を連れていくなんて正気かい!?もしホントにそうだったらーーー」
「なに、その時は処理するすればいいだけだ」
「シルフ、ミラの決めたことだ。我らはそれに従わねばならん」
「そうですね。主の定めたことは絶対ですから」
ミラはシルフを説得し、イフリートとウンディーネはシルフを諌めていた。ミラの判断を聞いて俺はようやく小匙一杯分の安心を得た。
「ひとまずわかってもらえたってことで良いんだよな?」
「今のところは、な」
ミラは俺に短く答える。しかし目には先程までの鋭さはなく、いつものミラの目だった。
「それじゃあこれからはシンしゃんも一緒でし♪よろしくでしー」
「ああ、よろしくなノーム。あ、あと俺のことは呼び捨てで良いよ」
ノームが俺の隣で全身を使って嬉しそうに揺れている。なんかノームはマスコットみたいで癒されるな。
「シン、これからよろしく頼むよ」
「ああ、しかしそれならもっと強くならないとな。今のままじゃ足手まといになりかねない」
「何故だ?君は今でも十分強いと思うがどうかしたか?」
それを聞いて俺は最近の悩みを打ち明けることにした。
「いやな、精霊術の修行をしていたんだが上手くいかなくてな。どうしたものかと考えていたんだ」
「ふむ、そういうことか。どれ、少し見てみよう」
「え、ちょっ、ミラ!?」
ミラは俺の額に手を当て、何かを感じ取るように目を閉じる。俺は、突然手を当てられて少し慌てるが、なんとか落ち着かせる。やがてミラは目を開けると何故か当惑した表情を浮かべた。
「ミラ、なに、どうかした?」
「いや、だがこれは一体…?」
何かやばいことでもあったのかと気をもんでいると、ミラはこちらに向き直った。
「シン、君に【霊力野】《ゲート》があることは間違いない。それに大きさも小さくない。だが、大きさに反してマナの量が非常に少ないようだ」
「………へっ?」
「おそらくだが、精霊術が使えないのはマナの量が少ないのが原因だろう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!」
ここで一度ストップをかけ、大きく深呼吸する。頭を落ち着かせるためだ。落ち着くと恐る恐る問いかける。
「念のために聞くけど、こんなケースってあるのか?」
「いや、少なくとも私は初めて見るケースだ。普通は霊力野に比例したマナの量を持つ筈だ。シンは何か心当たりはないか?」
「心当たりって言われても…」
ミラに尋ねられて、考えて見る。そして、一つの可能性に辿り着いた。そもそも俺はリーゼ・マクシアの人間ではない。というか、別世界の人間である。元の世界では当然精霊術などなく人の脳に霊力野なんて部位もない。しかし、オリジンによって転生した際に霊力野を開かれたならどうだろうか?オリジンは、転生させる前に体を世界に適したものに変えると言っていた。その際に霊力野は開かれたが、元々精霊術のない世界から来ているためにマナの量が少ないのではないか。そう考えるとなんとか納得できる。
「シン?」
ミラの声で我にかえると、彼女がどうかしたのだろうかと顔を覗き込んでいた。
「あ、ああ大丈夫。あと心当たりはこれと言ってないな。因みにだがマナを増やすために、効率的な修行方法とかあるかな?」
考えていたことを誤魔化して、肝心なことを尋ねる。
「ふむ、普通なら精霊術を使っていくうちに少しずつだが増えていく。だが、君はその精霊術が使えないからな」
ミラが考えていると、イフリートがミラに話しかけた。
「ミラ、良い方法があるぞ」
「なに?どんな方法だ?」
「それはーー」
何故だろうあまりいい予感がしないのだが…。
「えーっとなんか思いついたみたいだけどそれってどんな…?」
「それはだな、シン」
そこでミラは言葉を切り、直後俺にとっての爆弾を落とした。
「今から四大と戦うのだ」
「………ふぁっ?!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数分後、俺は完全武装で四大たちと向かい合っていた。
(なんでだ、どうしてこうなった?!)
(やばいよ、四大と初期装備で戦うってもうただの自殺行為だよ!)
(ああ、俺死ぬかもな…)
そんなことで頭がいっぱいになっているが、現実とは非情である。
「それでは、私の合図で始めるぞ。いくぞ、始め!」
合図と同時にイフリートが突撃してくる。炎を纏って突っ込んでくる姿は恐怖以外の何者でもない。間一髪、回避することに成功するが、
「隙ありでしー!」
避けた先にはノームが精霊術で精製した壁が立ち塞がっていた。
「なっ!」
驚いて目を剥いていると、
「ほらほら、油断してると死ぬよ!」
「はああぁぁ!」
前方からはシルフとウンディーネが精霊術を放ってきた。
「クソッタレぇぇぇ!!」
俺は反射的に刀で迎撃する。するとそこであり得ないものが見えた。
「はぁ?!」
「これは?!」
刀が精霊術を打ち消している。刀が振るわれる度に風の刃がきられ、水の弾丸が叩き落される。精霊術同士で相殺しているのならわかる。しかし、物理的な物で打ち消されるなど普通あり得ない。
「オラァ!!」
俺はようやく最後の一発を叩き落しその場で膝をついた。
「そこまで!もう十分だ」
ミラの言葉に四大たちは戦闘体制を解く。俺はその場で大の字になってぶっ倒れた。
「し、死ぬかと思った…今のはやばかった」
「まぁ、死なない程度で手加減はさせていたのだがな」
「あれで!?」
ミラの言葉で頭痛がし始める。四大精霊、やはり桁違いである。
「それよりシン、今精霊術を使ってみろ」
「え、なんで?」
疑問に思いながらも、ミラの言葉に従い精霊術を詠唱する。
「風の刃よ、切り裂け、『ウインドカッター』」
次の瞬間、俺の掌から風の刃が放たれ、辺りの草を切り裂いた。
「え?」
「ふむ、どうやら上手くいったようだ」
ミラは満足そうに笑っている。
「これは一体、どうゆう事なんだ?」
「四大と考えたとき思い出したことがあってな、人間は自分の命が危険な時にはそれまで以上の力が出る時があるな?それを利用したのだ」
「…なるほど、火事場の馬鹿力ってやつですか…」
「そうだ。その際は人間のマナの量は瞬間的に増える、結果としてマナの量が増えて精霊術が使えるようになった訳だ」
過程どうあれ精霊術を使えるようになったことは良い事なので、このことには目をつぶろう。しかしそれよりも、
「ホント、この刀どうなってんだろうな」
自分の刀を眺めて呟く。そういえばベヒーモスと戦った時もかなり無茶な使い方をしたし、それなりの硬度のある角を切り落としたにも関わらず、刃こぼれや曲がりもなかった。今回に至っては精霊術を切った。
(今度、しっかり調べてみるか…)
そう心に決めると、ミラに向き直った。
「まぁ、何にしてもありがとうな。助かったよ」
「私はあくまでも切っ掛けを作っただけだ。これから君がどれだけ強くなれるかは君の努力次第だからな」
「ああ、精進するさ」
そう返すと俺はミラの社を出た。
いかがだったでしょうか。
ちなみにマナが増える理論についてはbleachを参考に考えました。
違和感があったらすみません。
それでは次のお話でお会いしましょう。
See you next time
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第5話 意外な才能と贈り物
それではどうぞ。
命懸けの修行で最低限であるがマナを得ることができた俺は、再び精霊術の修行を再開した。これから原作開始までに少しでもマナを増やすためだ。ただし、元々のマナが少ないために一回、二回と使うだけで倒れそうになるという行為を繰り返した。また、四大精霊とも親交を深め、修行に付き合ってもらったりした。
そんな合間に俺はあることに励んでいた。が、しかしである。
〜シンの家〜
技能って恐ろしい、と、俺はしみじみと思っていた。俺の目の前には今しがた自分自身が作り上げた代物が、作業場の炉の炎の照り返しを受けて明るく輝いている。鑑定スキルで鑑定すると、
ヴォーパルソード 属性(水)
物攻 715
魔攻 516
一定時間経過毎にHP回復(小)&TP回復(小)
序盤で見るにはオーバースペック過ぎる代物である。
なぜ俺がこれを作り上げてしまったのか、事の始まりは俺が村の近くで素材を集めていたことから始まる。
二・アケリアに来てから俺は村の周辺の見回りの時にそこら辺にある素材を集めていた。それが最近になってかなりの量になっていたのだ。ゲームの時ならショップに行って納品するのだが、それでは何だか味気ない。何かできないかとスキルを見ているとあるスキルに目が止まった。
そう、鍛冶スキルだ。これを使えばわざわざショップで武器を買う必要が無くなるのではないかと思い立ったのだ。思い立ったが吉日、とばかりに鉱物系統の素材を引っ張り出して製錬、インゴットに変えて打ってみた結果がこれである。
「今更だけどホントにチートだな、これ…」
苦笑いしながらスキルを確認すれば、何故か鍛冶スキルのみカンストしていることに気づく。
「作ったはいいけどこの剣どうしよう…ミラに渡すのは…やめとこ。武器の力で強くなるのは良くないし。…少なくとも今は」
ひとまず剣をインベントリにしまって鍛冶スキルの有用性について考える。今回は、武器を作ったが恐らくこれは金属に由来する物なら他の物も作れるだろう。それもショップで売っている物より良い物が作れるのも間違いない。これもさっきの剣で検証済みである。更に、先程は自然とやっていたがインゴット錬成できることも恐ろしい。これはこの世界にない金属を作れるのと同義なのだから。
「でも、こんな便利な物を使わないなんて勿体無いよな。何かできないかな…」
頭の中で一つ一つ良さそうな物をリストアップしていく。そこで妙案が浮かんだ。柄じゃないと自覚しているので少々気恥ずかしく思いつつも偶にはこういうのも悪くないだろうと決める。
「これなら、大丈夫だろ」
こうして俺は思いついたことを実行に移した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
数日後ーー
俺は完成したある物を小箱に収めて社に来ていた。完成した物をミラに渡すためだ。自分なりに試行錯誤を繰り返し作ったものだが、気に入ってもらえるだろうか。
「シン?今日は修行はないはずだが、どうかしたのか?」
社の扉が開いて、ミラがウンディーネを連れて出てくるなり、疑問を投げかけてきた。
「ああ、えっと…」
「?」
なかなか言葉を出さないでいる俺を見てミラはキョトンとしている。クソ、こういう時に尻込みする自分が情けない。
「…ミラ、私は少しばかり外します。終わったら呼んでください」
そう言うとウンディーネは、何処かに行ってしまった。おそらく俺の考えていることを察してくれたのだろう。
「む、ウンディーネのやつ、要らぬ気遣いを…。それでシン、私に何か用か?」
ミラはいつもと変わらない柔らかい表情で聞いてくる。俺は顔が熱くなるのを必死に抑えて口を開く。
「ああ…と、これを…渡したくてさ…」
「ふむ、これは?」
「まあ、今までの感謝の気持ちみたいなものだ。俺を村に住まわせてくれたり、修行にも付き合ってもらったりしてるからさ…。だから何かしらの形で感謝したくて」
「いや、村のことに関しては君が村を救ってくれたようなものだからな。修行に付き合っているのも、君が私の使命を果たすための助力になると判断したからだ」
俺が小箱を贈る理由を話すと、俺に対する自身の考えを教えてくれた。ここらまでは大体分かっていた。
「だから、それを受け取る理由が私にはない」
予想はしていた。だからこそ、思っていたほどではないが少なからずダメージを負った。悟られないように振る舞おうとするが、多分、いやきっと隠せていないだろう。
「そうか……。悪かった、そうだよな…いきなりこんな事……?」
そう言って小箱を引っ込めようとしたが、ミラの手がそれを優しく掴んだ。
「だが、人間には自分の気持ちを込めて相手に物を贈る、という風習があるのを聞いたことがある。さすがに相手の気持ちを無碍にできるほど私は薄情ではないさ。だから…ありがたく受け取らせてもらうよ」
…なんと言うか、やっぱり『ミラ』なんだと思った。マクスウェルとしての使命を貫く彼女の中には確かに未来のミラの片鱗がある。それが分かっただけでも贈った甲斐があった。
「開けてもいいだろうか?」
その言葉に俺は静かに頷き返した。ミラは小箱を開け、中身を取り出しそれを見つめた。
「これは……ネックレス、か?」
「ああ、ミラは指輪とかしないだろうし、動くときに邪魔にならない物がいいと思ってさ」
「なるほど、確かにこれなら身に付けることができるな。早速付けてみるとしよう」
ミラはネックレスを取り出しそれを身に付けた。ミラの元に落ち着いたネックレスは過度な装飾のない簡素な作りだが飾りについた無色透明の水晶が控えめに己の存在をアピールしている。
「……どうだろうか?」
「…よかった。良く似合ってる」
「そ、そうか…」
当たり障りのない、ありきたりな感想をひねり出すと、ミラは少し照れたような顔を見せてくれた。
ふとそこでミラが何かに気づいた。
「シン、今気が付いたがこれからは君のマナを感じる。もしやこれは…」
「ん、ああ、俺が作った」
それを聞くとミラはネックレスを見て驚きの表情を浮かべた。確かにネックレスは素人が作れるものではない。
だが、それを可能にするものが俺にはあった。
そう、鍛冶スキルだ。
マナを流しながらミスリルを限界まで薄く叩くことで細い鎖を作り、飾りはミスリルを花の形に細工してその中央に水晶を嵌めた。それらを合わせて作ったのがこのネックレスだ。花の細工をするのに時間がかかり、完成するのに3日ほど掛かった。
ミラが感じ取ったのは俺が細工をする際に流したマナだろう。
「そうか、ありがとうシン。君の感謝の気持ち、確かに受け取った。大切にさせてもらうよ」
ミラはそう言って優しく微笑んだ。
俺はミラと絆を強めることができたことを嬉しく思った。そしてこう願った。
このネックレスがミラを守ってくれますように、と。
いかがだったでしょうか。やっぱり恋愛成分を入れるのは難しいなぁ。
あと、原作開始まであと1・2話くらいで行けると思います。
それではまた次のお話でお会いしましょう。
See you next time
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第6話 相棒とはじまりの足音
ミラにネックレスを贈って1週間がたった。俺は修行を続ける傍ら、鍛冶スキルも鍛えていた。というのも、ネックレスを作ってからいろいろな武器を作っていたのだが、自分の思っている物が作れずにいた。何が足りないのかと考えた結果、自分の技術が未熟だからではないかと思い至った。スキルではカンストしていても使用者の技術が未熟なら良い物は作れない。だったら徹底的に鍛えてやろうじゃないかと俺はこの1週間家の作業場に篭っていた。
「ふう、ようやく及第点の物が打てるようになったな」
目の前に横たわる代物を鑑定し、満足そうに一人頷く。ちなみに打った物は、
朧月 (刀) 属性(無)
物攻 700
魔攻 400
術技威力強化(中)
クリティカル率上昇(小)
一定時間毎にHP回復(小)&TP(小)
かなりチートだった。
ただ、
「素材がねぇ」
そう、作業場に篭って作業している間に今まで集めた素材をほとんど使ってしまっていた。こうなっては鍛冶どころではない。
「集めに行くか」
一言呟き、俺は準備をして家を出た。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「よし、これだけあれば大丈夫だろ」
村の周辺を回って素材を集めた俺は帰路についていた。いつもの様に村への道を歩く。ふと、それは俺の目に止まった。
「ん?こんな所に道無かったよな」
細い、それこそ獣道ほどの物だが道がある。それはかなり先に続いている様だった。
「……行ってみるか」
そう呟いて獣道に足を踏み入れる。人一人がようやく通れる細い道を進んで行くと俺は奇妙な感覚を覚えた。小さいが頭に直接聞こえてる声に顔を顰める。
「精神干渉系の結界か何か?だとしたらこの先に何があるんだ?」
頭に響く声を無視して進んで行くと、獣道を抜けることができた。そこにはこの世界に無いモノ、しかし俺には非常に見覚えのあるモノがあった。
「これは……神社か?」
塗装が剥げ、所々に地がみえているが朱塗りの鳥居、ボロボロになった注連縄、狛犬ならぬ狛狐、小さな社、何処からどう見ても神社である。何故こんなモノがと疑問に思いながらも境内に踏み入れた、その瞬間、
ピキッ
「ん?なんだ今の音?…まあ今は後回しだ。境内を調べてみるか」
辺りを見渡し調べられそうな場所を探す。しかし、これといった物もなく社に足を向ける。社の扉に手を掛ける。鍵はかかっておらず扉は軋みながらも滑らかに開いた。その中で俺はあるモノを見つけた。
理解不能な文字の描かれた円形の魔法陣、その中心に横たわる銀色の子狐がいた。この状況に怪訝な表情を浮かべるが、子狐のステータスを見て表情を変える。
「やばい、毒と麻痺がかかって瀕死じゃないか!て、いってる暇があったら治療しないと!」
俺は急いで持っていたパナシーアボトルを子狐に飲ませ、アップルグミを食べさせた。ひとまず危険な状態を抜けたことに安心する。しかし次の瞬間には外から嫌な空気を感じ取った。すぐに外に出てそれを視認する。そこに居たのは骨だった。境内を埋め尽くすほどのおびただしい数の骨の魔物だった。
見た目は完全にスケルトンだが用心して鑑定スキルを発動する。
《鑑定:報告 スカルフェイス》
《簡単に言うとスケルトン。強さによる階級があり、下からポーン、ジャック、クイーン、キングとなる。体の中心にコアがあり、それが破壊されるまで活動し続ける》
「コアを破壊すればいいんだな。これで攻略法はわかった。けど…」
視線を子狐に向ける。体力は回復したがまだ弱っている。放っておくことはできない。
「ちょっとだけ、我慢してくれよ。よっと」
子狐を片手に抱き、刀を抜く。こっちが武器を構えたからかスカルフェイスが襲いかかってきた。
「遅え!」
刀を一閃し、スカルフェイスを薙ぎ払う。俺が刀を振るたびに四体から五体のコアが砕け散る。だが、
「数が多い……っ!」
見た所スカルフェイスの等級はポーンとジャックで大したことはないが、なにぶん数が多すぎる。数の暴力とは厄介で一体ずつが弱くても少なくないダメージを受けてしまう。一瞬でも気を抜けばそれは致命的な隙になる。
「しょうがないか…。出来れば使いたくなかったが、出し惜しみしている余裕もなさそうだし」
刀を横薙ぎに振るって距離をとると、刀を納刀してインベントリに放り込み、別の武器を引っ張り出す。先程まで使っていた刀よりやや長い刀、それを抜きざまに振り抜く。すると、さっきよりも明らかに多くのスカルフェイスが切り裂かれた。
「性能はまずまず。これなら実戦で問題なく使えそうだな」
俺の持っているこの刀は、今まで打ってきた物の中で一番の性能を持つものだ。銘は波紋刀。この刀の特徴は攻撃力の高さもさることながら通常の打刀よりも広い攻撃範囲である。1対多を想定して作った試作品で今まで試す時がなかったのでここぞとばかりに振る。
「ひーふーみー、そろそろ終わりが見えてきたな。これで終わりだ!『旋車』!」
刀スキル 範囲攻撃 旋車
波紋刀によって拡大された範囲攻撃は残っていたポーンとジャックを纏めて切り裂いた。
「よし、これで戦闘終りょ…っ!」
刀を納刀しようとして、咄嗟に飛び退く。さっきまで立っていたところには、
「氷柱…?なんでこんなモノが…?…まさか!?」
側に立っている狛狐を見る。さっきまでなんの変哲もなかったのにもかかわらず狐の目が光っている。そして一対のそれは静かに動き出す。
「おいおい…なんだよこれ、さっきのもそうだけどこんな奴ゲームに居なかっただろ…」
《鑑定:報告 ガーディアンゴーレムインベイド》
《試練用のゴーレムが瘴気よって狂化し、変異したもの。一度瘴気によって変異したものは、元に戻ることはない》
「瘴気、さっき俺が感じた嫌な空気はこれのことか。全く厄介なことだ」
子狐を抱え直し、体勢を整える。
ガーディアンは牙を剥き、襲いかかってくる。それを紙一重で躱すが、
「くうっ!」
子狐が苦しそうに鳴くのを聞いて顔を顰める。
「くそっ!回避はなんとかなるがこのままじゃこいつの方が耐えられないか」
此方から仕掛けても悠々と躱されてしまう。
「なら、これならどうだ!『シャドウ・バインド』!」
少ないマナを使って術を発動させる。相手の影がゴーレムを縛り行動を制限する。しかし、
『グガアアアアア!!』
ゴーレムは咆哮すると真っ黒な黒煙を吐き出した。黒煙で視界を閉ざされ何も見えなくなる。
「なんだこれ?ただの目眩し、という訳がないな!」
俺のステータス及び子狐に毒の状態異常が表示される。慌ててパナシーアボトルを含むが、
「くそっ!すぐに戻るか!なら一気に仕留める!『刃通し』!」
『刃通し』で斬撃を飛ばすが既にバインドが外されており、躱されたようだ。すると右からガーディアンが飛びかかってくる。それを回避するが、
(もう一体がいない?一体何処に…まさか!?)
「上か!!」
上から襲ってくるガーディアンに合わせてスキルを放つ。
「『木霊打ち』!」
サマートルソーを決めながらの蹴りはガーディアンの首をクリティカルで捉え、ガーディアンの首が吹き飛ぶ。しかし事態は変わらない。
「動けるのかよ…」
首から上を吹き飛ばしたにもかかわらずガーディアンは動いてる。元が石像だったためかあまり意味がなかったらしい。
「このままじゃ、ジリ貧だ「くうっ!くうっ!」ん?なんだどうかしたか?」
急に子狐が騒ぎ出したので子狐を見ると何処かを指し示しているように見える。子狐が示している場所を見ると、そこには光が見える。
「あそこに行けってことか?」
「くうっ」
返事をするように鳴いたのを聞き、光っている場所に駆ける。
「これは…お前がいた魔方陣か!…なるほどな」
魔方陣の中に入ると黒煙の中、ガーディアンを視認することができる。子狐を下ろし、話しかける。
「ちょっと待ってろ、すぐに終らせる」
俺は残りのマナを殆ど使い、術を発動させる。その瞬間、魔方陣も術に反応したかのように強く輝いた。それが術を強化したのを感じながら叫ぶ。
「『アーク・バインド』!」
先程使ったシャドウ・バインドと違う光の鎖がガーディアンを縛るガーディアンはもがくが、外すことができないでいる。
「終いだ、『迦具土』!!」
刀スキル 単発重攻撃 迦具土
現時点で俺の使える最強の技は身動きの出来ないガーディアンをまとめて切り裂き、焼き尽くした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ふう、なんとか終わったな。しかし……」
辺りを見渡して呟く。
「これは、酷いな…」
境内はただでさえボロボロだったのにスカルフェイスとガーディアンとの戦闘でもうその原型をとどめていなかった。あの魔方陣は迦具土を放った後に消えてしまいもう残っていない。壊れた境内から自分の手に目を移すとそこには半ばから折れた波紋刀があった。迦具土の威力に耐え切れなかったらしい。
(まだまだ改良の余地があるな……それはそうと)
残った柄を回収すると俺は残された問題に目を向ける。
「クー!!」
「おわっ!急に飛びつくなよ、お前」
文句を言いつつ魔方陣の中からジャンプしてきた子狐を受け止める。顔を擦り付けてくる子狐を抱き、その様子を観察する。体調も良くなったらしく、しきりに顔を舐めてくる子狐に、さっきまでの弱った様子は微塵もない。
「まあ、いいか」
結局、何故ここに神社があって、今回の事態がどうゆう状況だったのかわからなかったが、子狐が無事だったのだから良しとすることにした。
「クー?」
考え事をしている俺が気になったのか、子狐が問いかけるような鳴き声を上げた。
「そう言えば、よくわからないのはお前もだったな」
子狐のステータスを見た時は名前も見ることができなかったので改めて鑑定スキルを使い、確認する。
「えーと、どれどれ……ゑ?」
俺は鑑定結果に現れた説明に釘付けになった。そこに書かれていた名前は、俺の想像を遥かに超えていた。
《鑑定:報告 エレメントテイル》
《妖狐の最上位種、またそのままエレメントテイルと種別される。簡単に言うと、九尾の狐である。神獣とも言われている》
しばらくこの事実に体が硬直していたが、すぐに思考を再開する。
(神獣クラスがあそこまで弱っていたのってどういうことだ?余程のことがない限りはなることはないだろうし…そもそも、こいつにしてもさっきの奴らもゲームにはいなかったし…一体どうなってんだか)
所詮、俺の持っている知識はゲームだった時の知識。俺が入ったことでいろいろなイレギュラーと起きたのだろうと結論付けて割り切ることにした。だが、この後どうするのかという問題が残る。
「お前、これからどうするんだ?」
「クゥー……」
地面に下ろされた子狐改めエレメントテイルは、社の跡、そしてモンスターの残骸が散乱する境内を見つめていたが、しばらくすると思いを振り切るかのように、くるりと体を反転させる。
そして、勢いよくジャンプすると俺によじ登り、頭の上にポテッとその身を預けた。
「なぜに頭の上?」
「ク〜!」
「いやわからないから」
頭をペチペチ叩いてくるエレメントテイルに俺はなんとなく思ったことを口にする。
「…一緒に来るか?」
「クゥー!」
なんとなく「行く!」と言っているような気がした。
「そうか……っていててて!こら暴れるな!爪!爪が痛いから!」
何やらご機嫌な子狐の暴れっぷりに、視界がぐらぐら揺さぶられる。しかも獲物を仕留めるための爪が全く隠されていないから、俺の頭をチクチク攻撃していて、歩きづらいことこの上ない。
「おま、ちょっと落ち着け!」
「クー?」
「何首かしげてんだ。絶対言葉の意味わかってんだろ、お前!」
放たれる肉球パンチ(爪つき)を両手で防ぎながら、俺は歩き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
二・アケリアに戻る道中、子狐をおとなしくさせ、「肉球パンチは爪をしまってすること」と何度も言い聞かせてようやく落ち着いたところで、頭の中で考えていたことを呟いた。
「名前どうすっかなー」
「クー?」
俺が唐突に呟いたことに子狐は首をかしげている。
「ん?ああ、お前の名前だよ。いつまでも名前がないままじゃ不便だからな。まあ、もう何個かは考えたんだが」
「クゥ!?クークー!!」
「それでだな……って落ち着けい!頭が揺れるわ!!」
「ホント!?どんなの!!」とばかりに急かしてくる子狐をなだめつつ、俺は思いついた名前を告げる。
「ユズハ、っていうのはどうだ?」
「クククゥ……」
小さく鳴いた子狐は、ユズハという名を反芻するかのように黙り込んだ。そして、気に入ったとばかりに、「クゥ!」と一際高く鳴き声をあげた。それを聞いて俺は軽く微笑んだ。
「それじゃあ、改めてよろしくな」
「クゥッ!!」
「よろしく!!」とでも言うように、右足をピョコッと鳴く子狐あらため、ユズハ。なんとも微笑ましい光景である。俺は再びニ・アケリアに向かって歩き始めた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜トラメス暦2293年〜
〜ミラの社〜
俺がこの世界に来て四年の年月が過ぎた。ユズハを見つけた後、俺はミラがアルクノアと戦う際に同行する様になった。これまでかなりの数の拠点を潰してきたが、未だ黒匣による精霊への被害は絶えることがなかった。
そんなある日、いつもの様にミラの社で静かに眼を閉じて瞑想していると、
「………」
ミラが突然、顔をあげ、重い表情をした。
「精霊が……死んだ」
そう言いながら、ミラは立ち上がった。その時、彼女の後ろにいた蛇が彼女に噛みつこうとしたが、青い炎に焼かれて消えた。その後ろにはイフリートの姿があった。
「またか?」
俺は瞑想を解き、側で丸くなっていたユズハを頭に乗せるとゆっくりと立ち上がる。
「ああ、やはり黒匣の力かもしれない。確かめる必要があるな」
「場所は?」
「イル・ファンだ」
その言葉を聞き、俺は確信した。遂に物語が始まろうとしていることに。
「シン、これまで通りお前も共に来て欲しい。なに、確認した上で黒匣であるなら破壊するだけだ」
「言われなくてもついていくさ。今更頼む必要なんてないだろ?」
「ふふ、そうだな。頼りにしているぞ、シン」
聞き慣れたミラの言葉に無言で頷く。
俺とミラは扉の前に立つ。
そして互いに顔を見あい、同時に口を開く。
「「行こう。イル・ファンへ」」
扉を開け、俺たちは社を出るとシルフの風に乗り、イルファンへと飛び立った。
人は願いを胸に抱き、叶えばと空を見上げる
精霊と人が暮らすこのリーゼ・マクシアでは、皆がそうして暮らす
人の願いは精霊によって現実のものとなり、精霊の命は人の願いによって守られる
故に、精霊の主マクスウェルは、全ての存在を守るものとなりえる
世にそれを脅かす悪など存在しない
あるとすれば・・・・・それは人の心か
いかがだったでしょうか。
次回からは原作に入っていきます。更新は不定期になるかもしれませんが読んでいただけたら幸いです。それでは次のお話でお会いしましょう。
See you next time
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原作開始
第7話 研究所
今回からエクシリア本編に突入していきます。
楽しんで頂ければ幸いです。
それでは第7話どうぞ。
〜イル・ファン〜
俺とミラはイル・ファンの上空に到着した。ミラがさっと手をあげると、街中の街灯の灯りが消えた。この街の街灯は精霊の力を使って光っているので灯りを消すことくらいミラには朝飯前だ。
それを確認すると俺たちは水路に降り立った。水面にはウンディーネの力を使うことで立てるようにした。
「感知したのはこの先?」
『ああ、同時に感じた強大な力もおそらくそこだ』
『なんでかな……なんだか嫌な予感がするだよね……』
『いざとなったらシンがいるでしから、大丈夫でしよ』
『そうですね。シンならきっとミラを守ってくれるでしょう』
『…まあ、期待はしないでおくよ』
「ひどい言われようだな」
四大達と話しながらしばらく歩いていると、研究所に続いていると思われる排水路を見つけた。ミラが鉄格子を精霊術で壊そうとしているのを見て止める。
「待てミラ、こんな所で精霊術を使うなよ。ここは俺に任せろ」
「そうか、では任せるよシン」
ミラが十分離れたのを見て、俺は腰の刀に手を伸ばし、そっとその柄に添える。鉄格子をじっと見据えると、刀を抜く。
「シッ!」
一息で二度振り、ゆっくりと余韻に浸るように刀を納刀する。鉄格子を見ると人一人が通れるほどの穴があいている。
「うわっ!?」
いきなり後ろから聞こえてきた声に俺とミラが振り向くと、一人の少年が俺たちと同じように、水面に立っている。ーーーーーーーーーーこの物語のもう一人の主人公、ジュード・マティスだ。
「あ、あの……」
彼は俺たちを交互に見て口を開いたが、ミラが口に指を当てる仕草で静かにしろ、と牽制した。
「危害は加えない。静かにしていれば、な」
彼女なりの警告だったのだろうが、ジュードはそれでもなお追求した、いや、してしまったと言うべきだろうか。結果としてウンディーネの水牢に閉じ込められもがいている。
「…ミラ、流石にあれはやり過ぎじゃないか?せめて鼻で息させてやってくれ」
「む…静かにしてくれないから適切な処置だと思ったのだが…」
ミラが腕を振ると水牢が解けた。ジュードは苦しさからで咳を繰り返している。
「あー……大丈夫、か?」
「ゲホッ…あ、ありがとう…」
流石に放置はできないので手を貸して立たせていると、その間にミラは水路の入り口から中を確認していた。
「シン、余り時間をかけられない。先を急ごう」
「ああ、今行く」
「何するつもり?すぐに警備員がくるよ」
「なので急いでいる。君は早く帰るといい。不審者として捕まってしまう前にな」
そう言うとミラは先に進んでいってしまった。ジュードを見ると何とも言えない表情をしていた。
「…帰る帰らないは君の自由だぞ」
俺はそれだけ言うとミラを追って水路を進んでいった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〜ラフォート研究所排水路〜
排水路をミラと進んで行く。途中、四大達と今回の異常がアルクノアの仕業ではないかと話していた。それは原因を知ってる俺には重く心にのしかかってきた。
スキット:知るが故の悩み
ミラ「シン?さっきから黙っているがどうかしたのか?」
シン「え?いや、何でもない」
イフリート『まさかここに来て臆したのではないだろうな』
シン「違う。少し考え事をしていただけだよ」
シルフ『へ〜シンにも考え事するくらいの悩みあるんだ』
シン「………」
ユズハ「クウ?」
シルフ『あ、あれ?』
ノーム『シン、どうしたんでしか?』
ウンディーネ『私達でよければ話してくれませんか?力になれるかどうかはわかりませんが』
シン「ありがとな皆、ユズハも。けどなこれは俺が自力で答えを出さなきゃならないことなんだ。気持ちだけ受け取っとくよ」
ミラ「…そうか、わかった。だが、あまり思い詰めないようにな。私でよければいくらでも話を聞いてやるから、な?」
シン「ああ、ありがとう、ミラ」
排水路から研究所内に侵入した俺たちは、黒匣を探し出すべくしらみつぶしに部屋を調べていった。やがて俺たちはある部屋の前に来た。他の部屋はロックされているものを除いて全て調べた。残りはここだけだ。
「あとはここだけか?」
「ああ、間違いない。多分ここにーー」
次の瞬間、部屋の中から衝撃音がした。俺たちは顔を見合わせると、すぐ部屋に飛び込んだ。
室内には無数のカプセルが部屋の両側と中央に設置されており、その前で赤い服が着た少女ーーアグリア、そして先程会った少年ーージュードが膝をついていた。
ジュードがこちらに気付くと同時にアグリアも興味を移してきた。
「アハ〜、そっか、侵入者ってあんた達の方か」
…ここまで来るのに俺たちは一度も戦闘していない。にも関わらずこいつは俺たちが侵入したことに気付いていた。流石は『四象刃』(フォーブ)ってところか。
「つまんないんだ、この子。だから、あんた達から殺したげる」
アグリアは剣と杖の複合武器を掲げ精霊術を発動しようとした。
ここで読者の皆さんに問題だ。
人間と精霊の主がほぼ同時に精霊術を詠唱した場合どちらが早く発動できるだろうか?
もちろん、正解は後者だ。
ミラの発動した精霊術ーーファイヤーボールはアグリアを捉え、吹き飛ばした。しかし、アグリアはすぐ起き上がり激怒した。
「その顔……ぐちゃぐちゃにしてやる!!」
「それは困る」
ミラとアグリアのやりとりの間に、俺はジュードの所へ向かい、助け起こした。
「ほら少年、ヘタっている場合じゃない、構えろ!」
「!はい!」
俺、ミラ、そしてジュードは迎え撃つべく構える。アグリアは激怒したまま突っ込んで来た!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
シン・ミラ・ジュードVSアグリア
アグリアは有言実行とばかりに俺とジュードに脇目も振らずミラに突撃して行く。それを俺とジュードが阻み押し戻す。
「何なんだお前らぁ!?」
「説明する暇は無いし、そもそも教えてやる義理は無い!大人しく退けば攻撃しない!」
「ハッ……誰が退くか!『グランドファイア』!!」
アグリアの放つ武身技を読んでいた俺は、バックステップすることで攻撃を回避した。しかし、
「うわっ!」
ジュードは対応できず、もろに受けてしまった。俺はダメージを負ったジュードに駆け寄り、アップルグミをねじ込み即時に復帰させる。
「あ、ありがとう」
「礼はいらない。大丈夫だ、あれは落ち着いて相手の動きをよく見れば躱せる」
俺のアドバイスに頷くのを確認すると、すぐに俺は打ち合いに戻る。
ジュードは武身技に対応すると、集中回避で回り込んで反撃し、俺とジュードが注意を引いているときは、ミラの精霊術が撃ち込まれる。
「くそっ、ちょろちょろしやがって…!だったら!」
追い詰められているのに焦ったのか、アグリアは我武者羅にミラに突進して行く。だが、
「隙だらけだぜ!」
後方から近づいていた俺の一振りで武器を弾き飛ばされる。
「イフリート!!」
『ウオオォー!!」
ミラはすかさずイフリートを召喚し、その強力な一撃で殴り飛ばした。アグリアは壁に叩きつけられ、気を失ったのかそのまま倒れ伏した。
「これってまさか…」
「イフリート、火を司る大精霊だ」
「四大精霊を従えてるなんて、いったい……」
ジュードが驚きを隠せないでいると、ミラがジュードに振り向いた。
「帰れと言っただろう。まさか、ここが君の家というわけか?」
「いや、あの……」
「まあまあ、彼も何か理由があってここにいるんだろ、な?」
「まったく、シン、お前は……」
そこで言葉を切ると、間近にあるカプセルに近づく。
「これが、黒匣の影響……?」
「黒匣……?」
ミラが四大と話し始めると、ジュードは自分に向けられているものと勘違いしている。まあ、そうだろう。はたから見れば何もない空間に話しかけているようにしか見えないのだから。
ミラは再度、ジュードに帰るようにと促す。ジュードはそこで一つのカプセルに視線を移す。…確かあのカプセルは…。
「黒匣は……別の場所だろうか?」
「だな。この部屋に用はない。さっさと見つけよう」
気絶したアグリアの側に落ちていたカードキーが拾う。これで奥まで行けるだろう。俺たちが部屋を出ようとすると、
「ね、ねえ、待って」
ジュードに呼び止められた。俯いて彼はこう続けた。
「……あてがないんだ。教授が一緒ならここから出られたかもしれないけど」
「僕も行っていい?」
それを聞いて俺とミラは顔を見合わせて、思わず笑ってしまった。
「ふふっ、なるほど、確かに。それなら次も助かるだろう。君は面白いな」
「ははっ、まったくだ。大胆と言うか、恐れを知らないと言うか」
ジュードは顔を上げると、手を差し出した。握手をしてこちらも名乗る。
「ジュード・マティス。それが僕の名前。君達は?」
「私はミラ。ミラ・マクスウェルだ」
「俺はシン。俺の頭に乗っかってるのが、ユズハだ。よろしくな、ジュード」
「クゥッ!」
ジュードを含めた俺たち3人(と1匹)は、黒匣を目指して部屋を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
部屋を出ると、ミラが何かに気付いたらしく、足を止めた。
「む、この光は……?」
「リリアルオーブが光ってる」
ジュードも俺も気付いてリリアルオーブを取り出す。
「リリアルオーブ……旅立ちの時、無理矢理持たされたが、なんなのだ?」
「あ、そういえば教えてなかったな、悪い」
「なんだ、シンは知っているのか?」
「貰った時に教えようと思ってたんだが、教える間も無くすぐに出発したからな」
ミラと俺のやりとりに、ジュードは少し苦笑いしながら説明する。
「えっと、魔物とかと戦えるようにするアイテムだよ。僕も故郷を出る時、念のためにって貰ったんだ」
〜リリアルオーブ チュートリアル中〜
「……と言うわけ。僕も成長させたのは初めてだけど」
「なるほど、潜在能力を覚醒させる道具か。非力な人間には必要不可欠な品だな」
「俺もこれがなかったら、何度死んでたところか……」
「何を言うかと思えば、修行の時は、四大に手加減させていただろう」
「手加減されていようが、大精霊だぞ……しかも常に内容が命懸けの無理難題だったんだが……」
ミラの言葉に、思わず遠い目をしてしまう。四大達による修行を思い出すと、いろいろとトラウマを思い出してしまいそうになるので、意識を切り替え、先を急ぐことにした。
探してきた兵器は少しして見つかった。今までの部屋の数倍はあろうかという空間の中央に鎮座しているキャノン砲のようなもの。
「何これ……?」
「やはりか……黒匣の兵器だ」
「なるほどな。確かにこれだけのものを動かすには、大量の微精霊が必要になるだろうな。周辺に影響がでるのも無理もない」
そう呟くと、ジュードはコントロールパネルを操作し、兵器の名前を確認した。
「【クルスニクの槍】……?創世記の賢者の名前だね」
クルスニク……ね。まさか、一年後にまたこの名前を聞くことになるとは、まあ、思わんよな。
「ちょ、どうしたの!?」
「ふん、クルスニクを冠するとは。これが人の皮肉というものか」
ジュードの声で我にかえると、ミラが四大精霊を召喚し、兵器を破壊しようとしているところだった。四大の召喚で空気は一変し、精霊術に長けていない俺でも、マナが震えているのが分かる。
「やるぞ。人と精霊に害為すこれを破壊する!」
ミラが四大精霊を召喚したことで、ジュードの中で抱えてきた疑問が確信に変わり始める。
「彼らが四大精霊……。ミラは本当に精霊マクスウェル……!?」
四大精霊が兵器を囲むように位置取り、一つの術式を展開する。小型ならば俺でも破壊できるが、この規模になると、四大達の力がなければ破壊は難しい。だから、俺はジュードと成り行きを見守ることしかできないのだ。
ガッ!!
ここで俺は気配を察知し、気配のした方を見る。そこには、先程撃退したアグリアが立っていた。そして、そのすぐ側にはもう一つのコントロールパネル……!
「しまった!やめろ!」
何をする気か分かった俺の声も虚しく、
「許さない……!うっざいんだよ……!」
兵器は起動した。起動すると、たちまち上空に展開されていた術式が消滅。同時に四大達はじめジュード、ミラ、俺、そしてアグリアから、凄まじい勢いでマナが吸収されていく!!
「うっく……!マナが……抜け、る……!」
「バカもの!正気か?お前も、ただでは済まないぞ!」
「アハ、アハハハ!苦しめ……!し、死んじゃえ〜!!」
ミラが正気問うが、アグリアは狂気を見せつけ、倒れた。その間もマナは次々と吸われていく。
「ぐ、ぐう、こ、これは、マズイ……!」
これは、俺にとってかなり、いや、非常にマズイ。それは何故か?俺のマナは、常人が持っているマナの量より非常に少ない。このままでは、すぐにマナを吸われて干からびることは間違いない。
「ク、クゥゥ……」
ユズハも苦しそうだ。今すぐ、止めなくては……!
「霊力野に直接作用してるんだ!」
「すこし、予定と、変わったが……いささかも問題は……ない!」
俺とミラは重い身体を引きずりながら、コントロールパネルへ向かって歩いていく。コントロールパネルにセットされた鍵を見つけ、外すべくさらに近づく。しかし、その下にさらにもう一つの術式が展開される。
「二人とも、下!」
俺たちの発動させてしまった術式は、四大と俺達を束縛し、さらにマナの吸収を加速させてしまった。
「お前たち、引きずりこまれるぞ!」
四大達のことを案じながらも、ミラは鍵に必死で手を伸ばすがあと一歩届かない。俺もマナが尽きかけているのか、意識が飛びかける。
絶対絶命。その時だった。
『シン!!』
頭に直接響く声にハッとし、見上げる。そこには、何かの決意を固めた表情を浮かべ、俺を見下ろしている四大達の姿があった。
『シン、すまない。どうやら我らは自力で逃れそうにない……』
『ですから、ミラを……いえ、ミラと共に逃げてください……』
『まさか、本当に頼ることになるなんて思わなかったけどね……』
『ミラもシンも、こんなところで死んで欲しくないでし。だから、僕らの……最後の力で逃がすでし……!」
「っ!!」
彼らの言葉を聞き、俺はギリギリと歯をくいしばる。そして、強く頷いた。それを見届けると、四大達は頷き返し、自分達が兵器の栓になることで兵器を無理矢理停止させた。
マナの吸収が止まったことでミラも鍵を回収することに成功した。しかし、その衝撃で飛ばされたミラを受け止めると同時に、俺達の立っていた足場崩れてしまう。ミラがシルフを呼ぼうとするも、召喚に応じる者がいない為に、そのまま俺とミラは落下してしまった。
「っ!ミラ!しっかり掴まってろ!」
俺はミラを抱きしめると、濁流にのみこまれていった。
いかがだったでしょうか。
次回の更新は、何時になるかは未定です。
理由は活動報告で。
では、次回、別のお話でお会いしましょう。
See you next time and happy new year
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第8話 脱出と傭兵
ザッパーン!
ラフォート研究所に続く橋の脇――
俺とミラは激流に流されるままに、ここにたどり着いた。泳げないミラを背中に負って岸に上がると、すぐにジュードが流されてきたので手を貸す。
「ほら、掴まれ」
「あ、ありがとう。そっちは大丈夫?」
「おう、まあな」
「ゲホッ、シンがいてくれたからな、問題ない。しかし、ウンディーネがいてくれれば苦しい思いをせずに済んだのだが……」
「やっぱり、四大精霊の力がなくなったんだ……」
先程の状況とミラの様子を見て、ジュードは何が起きたのか察したようだ。それを心配してか、俺たちにこれからどうするのかと尋ねた。
「そうだな、まずはこの街から出るのが最善だろう」
「シン、お前の剣でどうにかならないか?」
ミラの言葉に一瞬思案してみるが、すぐに首を振る。
「単純に破壊するだけなら問題ない。だが、今回は、四大が囚われているからな……。ただ破壊するだけではだめだろう」
「そうなると四大の力をどうにかして取り戻すしかない、か……。二・アケリアに戻ればあるいは……」
ミラは二・アケリアに戻ることを決めると、ジュードに礼を言って先に行ってしまった。
「あ……」
「じゃあなジュード、ホント助かったぜ」
ジュードに別れを告げてミラを追うと、ちょうど警備兵の一人と闘おうとしているところだった。
……イヤイヤミラ様?ちょっと待とうぜ?何いきなりバトろうとしてんの?面倒なことせずにさっさと行きゃあいいのに……。
「貴様、侵入者だな!」
「違う、と言ったら通してもらえるだろうか?」
……イヤな?ミラ様、それ完全に『はい、そうです』って言っているようなもんなんですけど?まあ、実際侵入者だからしょうがないけどな!
「ミラ!」
「不用意だなジュード、無関係を装えばよいものを」
「貴様も仲間か!」
警備兵が後から追いかけてきたジュードに気付いた隙を狙い切り付けるが、自分の力のみで振るった彼女の剣は大きく空振りしてしまった。
「ちょ!ミラって、剣使ったことないの!?」
「ったく……!少しくらいは慣れといたほうがいい、って言ったんだがな!」
ミラは今まで自分の力で剣を振るっていたのではなく、四代精霊の助力を頼りに振るっていたのだ。それを知っていた俺はある時、指摘したのだがーーーー
「ならば、その状況に陥らなければいい話だろう?」
と、取り合われなかった。その後も何度か忠告したのだが、結局ミラの考えが変わることはなかった。
「あいつらの力がないとこうも違うとは……。これならシンの言う通りにするべきだったか」
「覚悟しろ!」
警備兵がミラを捕縛するべく動き始めたところで、俺は瞬時に抜刀し、武身技を発動させる。
「シッ!」
「ぐおぉ!?」
俺の放った武身技は警備兵の胴を捉え、警備兵は倒れこんだ。
「こ、殺しちゃった……の?」
ジュードが恐る恐る聞いてきたので答える。
「まさか。俺は無駄な殺しはしない主義なんでね」
ジュードは倒れた警備兵を見ると確かに血は出ていなかった。代わりに攻撃を受けた鎧は、一部がベッコリとへこんでいた。俺が使った武身技は、『不殺ノ太刀』。刀を斬ることではなく、打つことに専念させて攻撃する技だ。基本的に俺は人に対してはこの技を使っている。理由は前述の通りである。
「すまないシン。助かったよ」
「やれやれ。しばらく苦労しそうだ」
刀を収めるとジュードが話しかけてきた。
「イル・ファンから離れるなら急いだ方がいいと思うよ」
「そうしよう。ではな」
「街の入り口は、警備兵がチェックしていることが多いんだ。海停の方が安全だと思うよ」
「む、そうか」
ジュードに言われた通りに海停に向かおうと周囲を見渡した後に俺とミラは、そろって首を傾げた。
「……海停、知らないんだね」
ジュードが呆れたようにこちらの考えを察した。ゲームとは違いリアルだとマップ間の空白にも道が存在しており、俺の覚えているマップはほとんど役に立たないのだ。
俺とミラは、ジュードの案内で海停に向かうことになった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
海停に到着すると、ちょうど一隻、船があった。今は積荷を積んでいるところで、近いうちに出航するようだ。しかし、広場まで歩いたところで俺達は呼び止められた。
「そこの三人、待て!」
「え……何!?」
複数人の警備に囲まれたことで、周りに野次馬が集まってきた。すると、囲んだ警備員の一人がジュードを見て、呆然としたように呟いた。どうやらジュードの知り合いらしい。
「先生?タリム医院のジュード先生?」
「あなた……エデさん?何がどうなっているんですか?」
「先生が要逮捕者だなんて……」
エデと呼ばれた男は、軽く目を閉じると決意を固めたように口を開いた。
「……ジュード・マティス。逮捕状が出ている。そっちの二人もだ」
エデの言葉を聞いてジュードは、愕然とした表情になった。
「軍特法により応戦許可も出ている。抵抗しないでほしい」
「ま、待ってください!た、確かに、迷惑かけるようなことはしたけど、それだけで重罪だなんて……!」
ジュードは、必死に弁明を試みるが、相手は応戦の構えをとるだけだった。
「問答無用ということのようだ」
「エデさんっ!」
「悪いが。それが俺の仕事だ」
「仕事……か。なら、しょうがないな。やらなきゃ自分が被害被るわけだからな」
「そういうことだ。だから――」
「なら、俺も自分の仕事をするとしよう。やらなきゃ最悪あいつらに殺されかねないからな」
そう言ってミラにアイコンタクトを図ると、ミラはすぐに頷き返した。
「……ジュード、私たちは捕まるわけにはいかない。すまないが抵抗するぞ」
言い終わると同時に抜刀した。
「……抵抗意思を確認。応戦しろ!」
エデの言葉と同時に俺たちに向けて、火の精霊術が放たれる。俺は、一歩前に出ると放たれた精霊術を刀の一振りで打ち消した。
「なに!?」
目の前で起きたことが信じられず、思わず放った当人は硬直した。周りで一連の騒動を見ていた野次馬たちもまた驚いていたが、すぐに危険を察知し、その場から一目散に逃げていった。その直後、船が汽笛を鳴らして出航し始めていた。
「さらばだジュード。本当に迷惑をかけた」
「ジュード!捕まりたくないなら、早く船に!」
ジュードに声をかけると、俺たちは船へと駆ける。船に飛び乗り振り返ると、一人の男がジュードを担いで駆けてくるのが見えた。次の瞬間、彼は見事な大ジャンプを決め、船に飛び乗った。豪快な着地を決めた男は軽い調子で言った。
「まったく参ったよ。なんか重罪人を軍が追ってるようでさ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
俺たちが、船に乗り込んで数時間がたった。急に乗り込んだ俺たちを待っていたのは船長の尋問だった。それはそうだ。港の騒ぎの中船に飛び乗ってきた奴らなんて怪しい以外のなにものでもない。船長の尋問をのらりくらりと受け流し丸め込むのに思った以上の時間がかかった。
「見ろよ。イル・ファンの霊勢がおわるぞ」
ジュードを抱え、船に乗り込んだ男ーアルヴィンが言い終わると、星が輝いていた夜空から澄み渡る青空に変わった。彼の言う通り夜域をぬけたのだろう。
「にしても、医学生だったとはね。ちょっと驚いたよ」
「ねえ、聞いていい?どうして助けてくれたの?あの状況じゃ、普通助けないよ」
「金になるから」
ジュードの質問にアルヴィンはさも当然のように答えた。
「私たちを助けることが、なぜそうなるのだ?」
「簡単な話だよ、俺たちみたいに軍から追われるようなヤツは、何かしらの機密を握っている可能性がある。そこをうまく助ければ金をせびれる、そういうことだろ?」
ミラの疑問を代わりに答えると、アルヴィンは「ご明察」と肯定した。
「でも、僕、お金ほとんどもってないよ」
「生憎、私もだ」
「俺も持ち合わせはないな」
「まじか……。それじゃ、値打もんがあれば、それでも受け付けるぞ?」
こっちに金がないとわかると、アルヴィンは妥協案を提示してきた。
「ないよ。あんな状況だったんだ」
「高く取引されそうなものなどないだろうな」
「あるとすれば刀くらいだが、これは手放せないしな……。後払いでもいいなら俺の住んでいるところまでいけば何とかなるかもしれないが」
俺がそう言うと、ミラは意外な表情をしていた。
「意外だな、シン。お前はてっきりお金を持ってないものかと」
「心外だな。俺が普段何をしているのか知っているだろう?」
それを聞いてミラは思い出したようだった。
「そうか、武器か!」
「その通り。俺が今まで作った武器を売ればそれなりの金になるだろう。それにさっきもう一つ思いついた」
俺はアルヴィンに思いついたことを話す。
「俺達の目的地までの間によるだろう村とかで依頼を受けて、その成功報酬をお前にやる。だから、俺と一緒にミラに剣の使い方を教えてやってくれないか?報酬は弾むぜ?」
俺の提案にアルヴィンはいい表情をする。
「その名案、乗ったぜ!確かに、依頼で魔物退治とかがあれば嬢ちゃんの剣の使い方を覚えられて、実践を行えるな……。一石二鳥ってやつだな。それでいいぜ」
「交渉成立だな。よろしく頼む」
俺達は交渉成立の握手をする。
その後、ジュードがアルヴィンが何者なのかを聞いて傭兵について説明したりした。『金はいただくが、人助けをする素晴らしい仕事』とは本人の談。……それって金さえもらえれば「なんでも」する、言ってるようなもんだが少なくともきっちりと報酬を用意しておけば良好な関係を築けるだろう。そんなことを考えていると船は無事にア・ジュールのイラート海停に到着した。
いかがだったでしょうか。相変わらず亀更新の駄文ですが楽しんでいただけたなら幸いです。では、次の話でお会いしましょう。
See you next time
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