この素晴らしい世界に神様の査察を! (ぷらもん)
しおりを挟む

プロロ~Guu!

神様にお願いしたいことがあったのでクリスマスに書いた。


「のう、『理』の。ぬしにちょいと出張を頼んでもよいかの?」

 

「出張? 私がか? どこへだ『魂』の」

 

白い、白いとしか形容できない世界。部屋が、という話ではなく空も大地も白一色の空間。神界。そんな場所へ無造作に置かれた四つの腰掛イスのうち二つに座る人物が二人話している。

 

一人は『魂』と呼ばれた褐色の少女。

 

一人は『理』と呼ばれた金髪の青年。

 

この二人、どちらも神である。

 

褐色の少女は椅子……背もたれのないソレに胡座をかいて座っており、その身に纏う装束は僧が着る袈裟である。両の目は常に閉じているが語る相手を見失うことはない。

 

金髪の青年は国王が座るような豪奢な椅子に足を組んで座っている。しかし、金で装飾され座り心地の良い赤地の絨毯を背もたれから足元まで敷いたその椅子に座る青年の顔は苦い色をしている。

 

この少女(中身BBA)の持ってくる案件に禄なものがないからだ。

 

「わしらの管理外の世界。便宜上『異世界』と呼ぶが……そこにぬしの世界の住人を転生させとるじゃろ?」

 

「ぬ、」

 

『魂』に言われて『理』は思い出す。

 

彼の管理する、というか作った宇宙にある惑星『地球』。その星で死亡した人間を転生させている『異世界』があったことを。

 

そして、死んだ人間をわざわざ別の世界へ転生させている理由とは……。

 

「……何時になったら魔王を倒してくれるんじゃろうなぁ?」

 

「いや、それは……その」

 

魔王。ファンタジーな作品、世界に存在する強大な悪。人類の敵。魔物、もしくは魔界の王と呼ばれる存在。地球では空想上の存在でしかなく、しかし異世界それも剣と魔法、モンスターの存在する世界には度々登場する。そして大抵、魔王と呼ばれる者は迷惑なことに魔物を率いて人類に牙を剥くのだ。

 

そうすると身体能力やその他もろもろで魔物に劣る人類は一部の英雄を除いてそれはもうバッタバッタと殺されるわけで。

 

そんな経験を、人生の最後を迎えた魂が。『もう一度頑張る?』と聞かれれば口を揃えてこういうのだ。

 

「「「勘弁してください!!!」」」

 

と。そして始まったのが惑星規模の人類の過疎化。生まれ変わるなら他の世界で! と希望する魂が殺到し、そして去っていった。

 

「神具とかチートとか、かなり優遇してやっておるのにのう?」

 

「本人たちも頑張っていますし……ハイ」

 

故に、始まった魔王討伐を兼ねた移住計画。他の世界へ転生させた分、その世界の死者を連れてくる。その時、その死者の希望に沿った特典……チートと呼ばれる特殊な能力や神具を与えて。そうすれば能力的に劣る人類でも魔物に対抗できゆくゆくは魔王も打倒できると……思っていたのだが。

 

その計画を初めて数百年。人類は今だに魔王に打ち勝ってはいなかった。

 

「誰が転生させてやってると?」

 

『魂』の神様です。

 

褐色の少女神が『理』の青年にジト目で迫る。普段閉じている双眸で、だ。

 

「……わかったッ、私が行こうッ!」

 

「そうか! 行ってくれるか!」

 

笑顔で柏手を打って喜ぶ『魂』の。すると、彼女を中心に魔法陣が広がっていく。異世界への送還の魔方陣だ。

 

「ちなみに『魂』の。なんで私なんだ?」

 

「消去法じゃよ『理』の」

 

「おいババァ!!」

 

その言い草に敬意もクソもなく叫んでもいいと彼は思った。

 

「だってのぉ? 人間嫌いの『命』のはむしろ魔王側につきそうじゃし、『物質』のはファンタジーをSFに変えかねんロボット好きじゃしなぁ」

 

「ならアンタが行けよ!!」

 

カッカッカと嗤う『魂』の神。それが悔しくてしょうがない『理』の神はすでに魔法陣によって宙へと吸い上げられていた。

 

「わしはぬし等がもがき苦しむ姿を生暖かく見守るのが趣味なんじゃ!!!」

 

「そうだよテメェはそういう奴だった!!」

 

仏教には輪廻転生という教えがある。それは悟りを開くことを目標に、生前の修行によって徳を積み重ねること。一生の間に悟りを開くことができなかければその魂は輪廻の輪を何度も廻るのだ。その日が来ることを解脱という。

 

その様はまるで終の見えない受験戦争。結果発表があるのは死後のみで、「今回はいけた!」と思ってみればカンガルーの赤ちゃんだったりとかもあるそうな。そんな魂達の姿を見て楽しむのが趣味と公言するこの神が、ある意味一番悟りから遠いところにいるのではないかと思うのだが……。

 

「あ、そうそう」

 

「なんだよ!!」

 

だから。

 

「ぬしは異世界では存在そのものがチートすぎる。故に、性能に制限をかけさせてもらうぞ」

 

「………は?」

 

そんなことを言い出すのもある意味彼女らしいというもので。

 

「逆チートじゃよ。弱体化じゃ!」

 

「!? この魔法陣ッ! よく見たら『送還』意外にも効果あるじゃねえか!? 『魔力減少』『身体能力激減』『幼児化』に……おいこら『女体化』ってなんだオイ!???」

 

「お揃いじゃろ!」

 

「うるさいよ! 完全に嫌がらせじゃねぇか!?」

 

文句を言うが時すでに遅し。肉体が青年から少年へと縮んで行き、体の線は丸みを帯びて少女のものへとなっていく。『彼』は『彼女』へとなっていった。

 

「それでは一応定条文でも送ってやろうかの。……『理』の神アルマよ。ぬしは異世界へと赴き魔王討伐が進まぬ原因を査察し、改善せよ。あと現地の女神に協力もして下界の問題に首を突っ込みすぎないように上手いことやれよぉ~」

 

「さらっと仕事の難易度を増やすなァァァァッ!!」

 

『彼女』がこの神界で最後に挙げたその声は……とても可愛らしい少女のものだったという。

 

 

 

その日。駆け出し冒険者の街、アクセルの上空に太陽と見紛うほどの光が降臨したそうな。

 

 

 

 

 




神様設定は超テキトーです。神仏混合摩訶不思議程度で。

『魂』……見た目はパ●ドラのパールバティーさん。愉悦!

『命』……でっかいドラゴン。登場予定なし。人間嫌い死ねぇ!!な御方。

『物質』…グレート合体! ろけっとぱーんち! 登場させたら世界観が壊れます。

『理』……貧乏くじ。天界規定とか宇宙の法則とか倫理観とか法律とか、そういったルールを決めている御方。苦労性。魔物嫌い死ねぇ!!な御方

神様に性別はない? アルマさんは今は男の子の気分だったんです。

ルールを決めた人がルールを破る。実は真面目な人程ストレスで胃がマッハなことになる地獄。今アルマちゃんはココ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にお小遣いを!

ルビ振ってないんですが、『理』と書いて『ことわり』と読みます。ルールと読んでも可。


「本当に……本当に来てしまった」

 

地面に両手を付いた少女が力なく項垂れてる。

 

彼女の背後には『駆け出し冒険者の街アクセルにようこそ!』と書かれた看板が立っており、目の前は街の大通りであった。馬車が車輪をゴロゴロと音を立てて走り、多くの人々が少女のことを珍しそうに見やりながら歩いていく。

 

ただいま絶望のまっただ中にいる彼女の名はアルマ。

 

いちおう、宇宙創造の四柱神の一柱、『理』の神である。

 

「身体は……十二歳くらい、か?」

 

ついさっきまで大人だったのに! と嘆くがどうにもならない。自分も神の端くれ、この程度の逆境はどうとでもなると『変身魔法』や『成長魔法』などを試みるが発動する気配すら無し。

 

……あのババァ。

 

どうやらかなり念を入れた妨害が施されているようだった。

 

改めて自分の現状を確認してみる。

 

『理』の神アルマ。

 

種族  :人間。

 

性別  :女。

 

肉体年齢:十代前半。

 

体格  :身長百二十センチ。体重わかりませんキログラム。髪型、金髪のセミロング。青目。

 

服装  :黒いズボンに白いベスト。両手には金属製の篭手をつけ背中にはフードの付いた白地のマントをかけている。

 

装備  :無し。

 

………あ、うん。少女だ。間違いなく。というか装備なしってなんだ無しって!! 私の神具は!? まさかのボッシュートですか!?

 

まずい、泣きそう。でも泣かない! 神様だもの!!

 

「……とにかく、街でも歩くかー」

 

現地調査の基本は聞き込みと足である。

 

 

 

 

 

 

「お嬢ちゃん、飴んこ食べるかい?」

 

「あ、いただきます」

 

農家のおばあちゃんに飴を貰いました。美味しいです。

 

アクセルの街は意外と大きかった。

 

高い城壁で街全体を囲み、街を割るかのようにして大きな水路が引かれている。小舟が行き交うほどの大きな水路の周りには民家が立ち並び多くの子供たちの姿が見れる。釣りをする者、遊ぶ者と微笑ましい光景である。

 

城壁の内側には民家のみではなく農地も広がっており、畑や酪農地域もちらほら見えた。流石に人口密集地の付近では家畜の匂いが気になるらしく立地は城壁の隅ギリギリだという。まぁ世間様というのは世知辛いものだがしょうがなくもない。

 

で、だ。

 

神である私が何故農家の御婦人から飴玉を施されているのかと言えば、だ。

 

「ありがとうねぇ。重いだろう荷車」

 

「いえ、鍛えてますので」

 

収穫物のお野菜が満載の荷車を引いている、そのお駄賃である。ほんと、世知辛い。

 

街を歩いていて気づきました。私、無一文です。

 

金がなくてメシが食えるかぁああああああああああああああああああああ!!!

 

飴玉! 舐めずに入られない!! そして腹の音は止まらない!!!

 

働かざる者食うべからず、である。それが常識、ルール! だからこそ私は労働に励むのである! 決しておばぁちゃんが食べていた美味しそうなお弁当に屈したわけではない! ないったらない!!

 

「お嬢ちゃんのその格好……お嬢ちゃんも冒険者なのかい?」

 

「いえ、今日アクセルに着いたばかりでして……冒険者とはどうやったらなれるものなんでしょうか?」

 

などと言ってみるが、実は知っています。冒険者は皆、冒険者ギルドと呼ばれる場所で必要な手続きをすれば誰でもなれる職業です。

 

「(……でも、細かいことは知らんしなぁ……)」

 

今まで散々地球人をこの世界に転生させてきたのです。知らないと言うはずはありえません。……いや、ありえない、よな? 部下の女神達もしっかり把握してるよな? まさか現地に送るだけ送っておいて後は放置、なーんてこと……してないよな!? してたら職務怠慢でぶっ飛ばすぞ!!

 

「この世界の女神は……確かエリスだったか」

 

「おや。お嬢ちゃんもエリス教徒かい? おばーちゃんちもみぃんなエリス教徒なんよ」

 

荷車の上から農家のおばあちゃんがエリス教徒だと言ってくる。

 

ごめんなさい。私は彼女の上司です。

 

 

 

 

 

 

「ありがとよ~」

 

「こちらこそありがとうございま~す」

 

おばあちゃんを自宅へと送り届けると、お小遣いを貰いました! あぁ、人類よ善行を重ねよ!

 

その額、千エリス! 

 

「とりあえずこれで冒険者登録ができる……」

 

おばあちゃんに聞いたところ。この街の冒険者ギルドでは登録料に千エリスを支払わなければならないのだという。

 

……『魂』の奴! 私を無一文にして困らせるつもりだったな!?

 

半ば確信じみた考えをする私は悪くない。絶対に悪くない!!

 

というか、そうか、エリスか。通貨になっているのか部下よ。

 

「現地の信者が多ければ多いほど神はその力が増すというが、国の指定通貨になっているとは……」

 

同僚に弱体化させられたこの身からすれば羨ましい限りである。神であるこの身が人類にちょっと毛が生えた程度のステータスしかないとか……もうやだ帰りたい。

 

「いっそ、『理』を書き換えて通貨をエリスからアルマに……いいや駄目だ! それはルール違反だ!!」

 

 

にょほほ! 悩んどるの~!

 

 

「黙れ『魂』の!」

 

脳裏にあのロリババアの愉しそうな声が響く。にゃろう、見てるな!!

 

とりあえず軍資金は手に入ったんだ。ギルドに登録に向かおう。

 

そう思い、ギルドのある方角へと足を向けたところ……頭上に光が降ってきた。

 

 




その頃のアクセルの中央広間。

「あああ……ああああああ………あああああああああ!!!」

「おいうるさいぞ! 俺まで頭のおかしい女の仲間だって思われたらどうするんだよ!!」


次回出会います。


ちなみに『理』の神様ことアルマちゃんのステータス。

人類(勇者)に毛が生えた程度のステータスです。

これでも弱体化しまくってます。本来は太陽と木星でお手玉出来る程度のステータス。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に職業を!

今日も朝からついてないことの連続だった。神様、アンタ俺のこと嫌いだろ?

カードの発行に意外と時間が掛かりました。


農家のおばあちゃんからお小遣いを貰った私はその足で冒険者ギルドまでやってきた。気分はルンルン、ご機嫌である。

 

冒険者ギルドは地球で言うところの食事処と役場をくっつけたような場所だった。長テーブルで昼間から酒を飲む屈強な男たちが多く見られ、壁際の窓口ではギルドの職員達が笑顔で仕事をしている。

 

というか、昼間から酒飲んでる奴多いな!? お前ら仕事はどうした!!

 

「あの、どうしました?」

 

「え? いえ、なんでもないです。えぇなんでもないですとも」

 

この世界の冒険者たちが魔王を倒せない理由の一反を垣間見た気がする……キノセイダヨネ?

 

さて、それでは冒険者カードを作って貰いましょう。

 

ただひとつ問題が……。

 

「あの、本当に冒険者になるんですか? お客様は……まだその……」

 

「年齢のことなら問題ないです。腕っ節には自信があります」

 

受付のお姉さんが手強い! そうか、魔王はここにいたのか!!

 

「稼ぎたいんです。働きたいんです。なので、冒険者にしてください」

 

「でもね、お嬢ちゃん? 冒険者って危険なお仕事も多いのよ? あと二、三年位してからの方が……」

 

「そんな時間はないんです」

 

いや、ホント。あるんだろうか、時間。や、寿命は心配していない。腐っても神様です。不老不死なんで。むしろ、『不老』だから……成長するのかなぁこの身体?

 

二、三年経ってもこのままの姿かもしれない。そうしたら冒険者になんてずっとなれないだろう。

 

それは困る。下手をしたら人外扱いで私が指名手配されかねない。そしたら調査どころではないだろう。

 

「大丈夫、ダイジョウーブ。私、無理しない。危険なクエスト受けない、オーケイ?」

 

「……信用の欠片も感じられませんが、そういうことでしたら……」

 

やっと折れてくれたか、と無い胸をなで下ろす。ゴロツキばかりの中で私のような少女がいるんだ。ただでさえ目立っているので早く手続きを終えたいのだ。下界へはお忍びでの訪問なのだということを忘れてはならない。査察をするのなら普段と何も変わらいありのままの実態を見極めなければならないのだから。

 

「………、………、………、………、 ………」

 

受付嬢のお姉さんが冒険者としての仕事の説明や危険の有無を説明しているが軽く聞き流す。そういうマニュアルは最初から頭に入っている。倒したモンスターや飲食した物から経験値を得てレベルアップするとかなどの仕組みも理解しているつもりだ。そもそも、その仕組みは『魂』と『命』の合作だったはずだ。それを世界の『理』として纏めたのは私の仕事だったわけで……最後の面倒くさいところを丸投げされただけなような気もしたが。

 

まぁ、要訳すると。

 

冒険者カードを制作すると、本人のステータスに見合った職業につくことができる。そうして、モンスターを倒して経験値を溜めていけばレベルアップして強くなれるよ、ということだ。

 

改めて考えるとゲーム要素強すぎるなこの設定。街の近くで雑魚狩りだけしてても強くなれるまで何年かかるのやら……これは最初期のステータスで後の冒険者稼業にかなり響くな。いや、待てよ? もしやそれでこの街の冒険者達は昼間から飲み食いしているのか? 戦いで経験値を得るだけでなく、モンスターの血肉を食らうことで更なる経験値を得ようと………成程、人の子の向上心はやはり素晴らしい。

 

私が人類の素晴らしさを再認識している間に受付のお姉さんが手のひらサイズの一枚のカードと書類を差し出してきた。

 

「それではこちらの書類に貴方の身長、体重、年齢、身体的特徴等の記入をお願いします」

 

「はい。……書きたくないことは書かなくても?」

 

「どうしても、ということなら結構です。しかし、できるだけ詳しくご記入ください」

 

ぬぅ、年齢とか真面目に書いたら宇宙誕生と同時期から数えなくてはならんのだが……しかし、真面目にそれを書く訳には……だが経歴の詐称など『理』の神である私が行うわけには……いや、しかし……。

 

困った。年齢の欄一つでなんという難関。人の子の女子が人に歳を口伝することに細心の注意を払うのもうなずける。

 

しかしあまりにも長いこと悩んでいれば不振に思われる。ここは断腸の思いで年齢欄に「十二歳」と書く事とした。本当に、血を吐く思いである……ッ! 

 

あ、駄目だ。胃が痛い。ポンポン痛いよー。

 

「え、あの、大丈夫ですか?」

 

「ダイジョウブデス。モンダイアリマセン」

 

書類を書く私が顔面蒼白だったことでいらぬ心配をかけたらしい。ゴメンね。しかし安心するがいい。記入は今終わったぞ! 嘘ばっかりな書類が完成したのだァ泣きたい!!

 

「できました」

 

「それではカードに手を触れてください……はい、ありがとうございます。アルマさん、ですね。……え? 何これ? 身体能力は全部普通なのに知力だけありえないほど高い……逆に幸運値が低すぎて計測不可能なんですけど……え?」

 

「キニシナイデクダサイ」

 

「あの、冒険者は止めて学者さんになられたほうが……」

 

「キニシナイデクダサイ」

 

「でも、こんなに運がないんじゃぁクエストに出でも禄な目に会いませんよ!?」

 

「キニシナイデクダサイ」

 

自分に運がないのはわかってるんだよぉ……。

 

もう神様の泣き顔パワーでゴリ押ししました。結局、ステータスの低さから私の職業は最弱職の『冒険者』と決まった。

 

まぁ、弱体化したこの身だ。上級職なんて期待していない。しかし、日頃から貧乏くじをひかされてばかりだと思っていたがこうして数値で見せられると流石にへこむ。なんだよ、計測できないほど運がないって……これはあれだよね? 『魂』のの弱体化が原因なんだよね? 私、生まれつきこんなに運がなかったってことないよね?!

 

冒険者カードを受け取った私は若干ふらつく足取りでクエスト掲示板を目指して歩く。その様子を心配そうな顔で受付のお姉さんが見ているのが地味に辛い。ギルドの職員からそんな視線を受けているのが冒険者になったばかりの新人、それも見た目も小さな少女なのだから周りも困惑した目で見てくる。

 

その結果、遺憾ながら私は冒険者になった初日からもの凄く悪目立ちをしてしまったようである。

 

 

「はい、今日はどうされましたか?」

 

「えっと、冒険者になりたいんですが、田舎から来たばかりで何も分からなくて………」

 

 

あぁ、私の後ろに並んでいた少年よ。君も冒険者になりに来たのか……すまんな、先立ちがこんな縁起の悪い神様で。厄除けに君に幸あるよう加護をあげよう……って、ん? あの少年ジャージを着ていないか?

 

 

 

もしや日本人か?

 

 

 

 




『魂』 「かかか! あやつ、自分のステータスをわしが書き換えたことに気づいておらんわ!」

『物質』「どゆことっすか先輩!」

『魂』 「本当は上級職につけるくらいあるのに冒険者にしかなれないように書き換えといた!」

『物質』「流石先輩! マジひどいっす!」

『魂』 「でもあれじゃな。本当はそのことに気づいて、経歴詐称した自分に自己嫌悪する様を見たかったのに当てが外れたわい」

『物質』「幸運値を低くしすぎたんじゃないっすか? ここ数世紀ほど見たことない落ち込みようでしたっすよ?」

『魂』 「わし、幸運値はいじってないぞ?」

『物質』「マジっすか?」

『魂』 「マジじゃ」

神様からみた『冒険者』と『勇者』のステータスの差は五十歩百歩。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に張り込みを!

いえすろりーたのーたっち


やぁ! 俺、佐藤和真! 日本で死んでこの世界に転生した高校生だ!

 

相棒は俺のことを引き篭りのゲームオタクだの期待してないだの死因が情けなくておっかしー、だッ! のッ! とッ! 散々人のことをバカにしてくれやがった腹正しい上に使えない女神、アクアだ!

 

二人の、剣と魔法のファンタジーな異世界で魔王を倒す勇者様としての活躍する冒険の日々が今日から始まるぜ!

 

……などと思ってみた事が俺にもありました。

 

異世界に来たらまずは冒険者ギルド! とゲームの知識を参考にやってくればまさかの「登録手数料千エリスになります」という受付のお姉さんからのお言葉だった。

 

初っ端からつまずいた。そして俺は一気に現実に引き戻された。

 

ファンタジーの世界でも所詮は金、か。

 

いやいやいや! ダメじゃん! なんで俺達無一文なんだよ! こういう冒険の初期段階では軍資金は手渡されるだもんだろう!? 勇者に魔王を倒せって言う王様だって百ゴールド位くれるぞ!?

 

アクア、俺がこちらの世界に持っていける特典として選んだ『者』である彼女に相談したら……長テーブルでご飯食べてるおじいさん風のプリーストにタカリに行きやがった。お前本当に女神か? 一応頭下げてお願いしてるけど、って見かねたおじいさんが説教込みでお金をめぐんでくれた。アクアの目は死んでるけど。

 

どうにもアクアには後輩の女神がいてあのおじいさんプリーストはその信者だったらしい。後輩女神の信者に情けをかけられるのがそんなにもショックだったとは……神様同士の上下関係はよくわからんが、一応励ましておいてやろう。

 

アクアが貰ってきた金額は三千エリス。登録手数料が一人千エリスだから二千エリス使って千エリス余る。これが俺たちの当座の生活費か、大事にしないとな~。

 

というかあれだ。一エリス=一円らしいからこれは子供の小遣いぐらいの金額ということだ。現に、俺たちの前に並んでいた金髪の女の子だって普通に払ってたし。何の問題も無く冒険者登録できてた。あ、背が低いから受付のテーブルに身長が届いてない。書類書くのに必死のつま先立ちしてる。可愛いな~。

 

あんな小さな女の子でも冒険者になりたがる、もしくはならざねばならない世界、か。ふふふ、だが俺が来たからには安心するといいぜ! きっとここで俺に隠された凄まじい潜在能力が見つかってギルド内が大騒ぎに……、

 

 

凄まじいまでの能力の低さに冒険者人生を否定されました。

 

 

おいこらどうなってんだ。

 

受付のお姉さんは可哀想になったのか必死にフォローしてくるし、それにアクアは水差して笑ってるし。こいつ捨ててこようかな?

 

と思ったらまさかのアクアさん祭りだよ。え? ステータスが異常に高い? どんな職にも就ける? ギルド職員総出で万歳三唱とかイベントを完全に奪われたんですけど!? 

 

こうして俺たちの冒険者生活は始まった。

 

俺は最弱職の『冒険者』に。

 

アクアは上級職の『アークプリースト』に。

 

なーんだーかなー。

 

 

 

 

 

 

 

 

え? 何今の光景?

 

日本人っぽい少年とどう見てもうちんとこの女神がセットで騒ぎを起こしてるんですけど!? そもそもアクア! お前なんでここにいる!?

 

冒険者登録が終わったので、私こと『理』の神アルマはジャージを着た転生者っぽい少年を見ていたのだが、その後ろに見慣れた青い少女の姿があったことで頬が引き攣る。

 

女神アクア。地球、日本で死者の魂を導く仕事を任された存在。長い髪は青く美しく、プロポーションは抜群な『水』を司る女神だ。『魂』のの部署で働く直轄の部下だ。というか、『魂』のが創った女神だよ。

 

そして、馬鹿である。いや、言いすぎた。お調子者の阿呆である。職務怠慢、勤務態度に問題ありと。創り手そっくりな破天荒な性格に、そろそろ何かしらの罰を与えてやろうかと思っていた問題神がそこにいた。

 

いやなんでだよ。

 

女神は下界に無闇に降臨したらいけないって天界規定で私が定めたろうが!

 

あ、今度は飯食ってるプリーストに自分が女神アクアだって名乗って金をせびってる!? 

 

下界で女神の威光を振りかざしてはいけないって天界規定で禁止してるだろうが!!

 

しかも金銭を受け取ったーーーーーーッ!!! おまッ、おまーーーーーーーーーッ!!!!!!

 

駄目だ、アレを放置しては絶対に何かしらの問題を起こす。女神が下界で不祥事とか洒落にならん!!

 

しばらくあの二人を監視しようそうしよう。

 

 

 

 

そんな感じで二週間ほど経ちました。

 

 

 

二人は毎日土木工事でいい汗を流しています。いやぁ、いい働きっぷりですね。私も見ててつい応援したくなったよ、うん。

 

でもお前ら、冒険者だよな? モンスター相手に剣を振るわないで、なんでツルハシを地面に叩きつけてんだよ! 私の二週間を返せ!

 

アクアが人様に迷惑をかけないか心配だった私は二人が働く姿を遠く、木の影、建物の影から見守っていたのだ。すると予想外のいい働きに呆気にとられた。

 

なぁアクアよ? お前そんなに外壁工事が得意だったの? なんで新人なのに一番仕事が早くて頼られてるんだよ。なんなら『物質』ののところに部署変更してやろうか? アイツの趣味は無意味に巨大都市を造って数千年後に謎の古代遺跡として世間様に注目されることだぞ? 『魂』ののところよりよっぽど重宝されるぞ!?

 

あの二人のこの二週間の様子はこうだ。

 

朝起きて工事現場に出勤。

 

一日中働いて日当を貰った夕方頃に風呂屋に行く。

 

夜は冒険者ギルドで飲んで食って大騒ぎ。

 

そして馬小屋を寝床に明日のお仕事に備えてご就寝。

 

うん、理想的な素晴らしい労働者の姿だ。

 

お前らが冒険者でなければな!!! 魔王と戦うために来たんだろお前ら!! 

 

え? 私? 

 

私だってもちろん働いていたさ! 

 

朝一番に冒険者ギルドに走り受付のお姉さんに挨拶し。いい稼ぎになりそうなクエストがないか掲示板を探したりもした。

 

しかし、無いのだ。本当に。

 

この街、アクセルは駆け出し冒険者の街だ。つまり、弱い冒険者が集まる場所でもありスタート地点というわけだ。当然、魔王城から一番遠い場所でもある。

 

すると、ね。強いモンスターもそう多くないのだ。街の衛兵でだって倒せるレベルの奴らばかりで冒険者の出る幕はない。

 

そうすれば、街の周りは比較的安全で。子供にだってできるような薬草や木の実の採取だって誰も冒険者に頼まなくなる。依頼しなくても自分たちで出来るからだ。

 

なら、冒険者にしかできないこととは?

 

無論、モンスターの討伐だ。しかし、これが意外と難しい塩梅のものばかりなのだ。

 

駆け出し冒険者には簡単に倒せないモンスターばかりが依頼されてるのである。何故なら、簡単に倒せるようなモンスターは街の勇士が片付けているのだから。

 

駆け出し冒険者達は装備もレベルも未熟だからこそ駆け出しなのだ。強くなるためにはある程度身の丈に合った相手が必要で。

 

なのにこの街には中堅レベルのモンスターしか討伐依頼が出ない。残っていない。

 

一撃グマの討伐とかマンティコアにグリフォンを相手にしろとかどんだけ高いレベルの冒険者を要求してるんだよと激しくツッコミを入れたい。だからか、報酬が高いのに誰も受注しないし。しまいには王都の騎士団とかにたらい回しにされるてるし。

 

手頃なのでカエル退治とかがあるんだが……これもソロで挑むには駆け出しだと厳しいかなぁ……。

 

受付のお姉さんに無理はしないと約束したのも原因か、私は高レベルのモンスター討伐のクエストを請けるのを禁止されている。なので、農場や家畜の世話などを住み込みでのお手伝いばかりの生活をし、空いた時間で二人の監視を行う二週間だった。

 

しかし、工事現場に足繁く通う少女の姿に街の住人達はホッコリとし、作業者達は誰が目当てだ! 俺が本命だ! と目を血走らせていたが……私にどうしろと? 手でも振ればいいのだろうか?

 

あ、サトウ・カズマと目があった。今日も爽やかな笑みである。あの男、私の姿を見るたびに笑顔を向けてくるのだが……何故だろう? 敵意など微塵も感じられないのに背筋に悪寒が走るのだが……私、神様なのにあの人間が怖い。

 

 

 

 

 

 

 

 

とりあえずここまでの調査報告。

 

アクセルの街には若く勇敢な冒険者達が集っている。

 

しかし、その殆どがこの街から旅立とうとせず定住を決め込んでいるようである。

 

現在その原因を調査中。

 

しかし、荒くれな冒険者達が多く集まっているにしても、この街の治安はすこぶる『良』である。

 

そして何故か男性冒険者の数が異様に多く、この街から頑なに離れようとしないようだ。何故だろう?

 

 

 

追伸。何故か下界で地球担当女神、アクアを発見。詳細を調べるために転生者らしき少年と接触を試みようと思われたし。




『魂』 「……なぁ、あのカズマとかいう転生者……まさかロリコn」

『物質』「先輩、それ以上はいけない」

『魂』 「いや、だってあれで何か問題とか起こったらわし、『命』のに殺される」

『命』 「我が何か?」

『魂』『物質』「「ひぃッ!?」」

『命』 「おや? 珍しく『理』のがいませんが? 弟はどこです? ………何を観ている?」

『魂』 「……『物質』の! 後は任せた!!」

『物質』「ちょっ! ずるいっすよ先輩!?」

『命』 「に ・ が ・ さ ・ ん 」


『命』と『理』は姉弟です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に面談を!

大体聞くだけ聞いて反映されない。


最近、俺たちの働く土木現場に天使のように可愛らしい少女がやってくる。

 

金髪の小柄な女の子。冒険者のようで何時も手甲とマントをつけて歩いてくる。そしてサッと木の影とかに隠れるんだ。バレバレだけど。

 

そんな姿が可愛すぎて俺達はみんなあの子が大好きだ。愛でていると言ってもいい。

 

俺のことをアクアの奴がロリコン引きニートとか呼んでいるが決してそんな不純な気持ちではない。これはあの子を守ってあげたいという紳士的で崇高な想いなのだから!

 

そして今日も朝、彼女は俺たちの仕事っぷりを遠くから眺めている。

 

「アルマちゃーん!」

 

「ッ!?」

 

あはは、名前呼ばれただけですぐに隠れちゃうなんて恥ずかしりやさんだな。

 

「……うわー、何今のドン引きなんですけど。めっちゃキモい顔してたんですけど。通報しちゃおうかしらこのロリニート」

 

「おいお前。俺は働いているからニートじゃないしロリコンでもない。ただの紳士だ。それにアルマちゃんは俺に会いに来てくれてるんだぞ。挨拶をして何が悪い」

 

「はぁ!?この人自意識過剰なんですけど! ありえないんですけど! アルマちゃんは私に会いに来てくれてるのよ! きっと私がアクシズ教団の御神体、女神アクアだって気付いちゃったんだわ! だから私の信者になるために毎日通ってるのよ!!」

 

「なわけあるかこの駄女神が!」

 

「絶対にそうよこのロリニート!」

 

ちなみにこの争いは俺たちだけで起こっているわけではない。この現場の人間みんながこんな感じである。

 

アルマちゃん可愛いようぉハァハァ……。

 

そう、彼女の名前はアルマ。俺が冒険者登録をしたあの日、列の前に並んでいた小さな女の子だ。

 

アルマちゃんはアクセルの街で今一番人気の女の子だ。人当たりもいいし礼儀正しい。お年寄りに優しく街で困った人を見るとすぐに手助けをしに走り回っている。どっかの駄女神よりも女神のような女の子だ。

 

しかも冒険者だ。ギルドのクエスト掲示板の前にはいつも朝一番に駆け寄ってくるし皆が嫌がるクエストも進んで請けようとしている。危険なクエストも選んでるんので受付のお姉さんに何時も止められているが。

 

そんな、街の誰しもが愛する少女、アルマちゃんが毎日工事現場で働く俺たちを見ている。俺、を! 見ている。様な気がする。

 

これはアレかな? 立っちゃったんじゃないかな? フ・ラ・グ! いやー、やっぱりあの時かな? ギルドで初めて会ったあの時に運命感じちゃったかなーぁ?

 

「……あのー。サトウ・カズマさん、ちょっといいですか?」

 

「ひゃ、ひゃいっ!?」

 

アルマちゃんが俺のすぐそばに!? 何時の間に近づいたんだこの子! 

 

「こ、この子気配が全然感じられなかったんだけど!? 女神である私にも気取られないなんて一体何者!?」

 

「初めまして。アルマです」

 

「あ、はい」

 

普通に挨拶されたわ。というか、俺の名前を知ってるのね。やっぱりここ最近の視線は俺に用があったのか。

 

「サトウ・カズマさん。お仕事が終わりましたら少し付き合ってもらえませんか?」

 

「「なんですと!?」」

 

俺とアクアの声が重なった。声どころか、動きまで揃って仰け反る。

 

日本の母さん。俺、異世界で女の子にナンパされました。

 

 

 

 

 

 

 

さて、サトウ・カズマを連れ出すにはどうしようかと悩んだが……面倒になったので正面から引っ張ってくることにした。多分こいつら駆け引きとかするだけ無駄な気がする。

 

話しかけたところ、二人は明日から冒険者として活動を始めるつもりだったので今日でこの外壁工事の仕事を辞めるつもりだったんだそうな。これから日当を貰ったらその金で装備を買って昼からクエストを受けに行くらしい。

 

……そうか、やっとか。やっと魔王討伐の冒険に戻ってくれるのか……今日の『面談』は優しくしてやろう。

 

アクアは杖を。サトウ・カズマは短剣を買うそうなので、武器屋でアクアが杖を選んでるうちに彼を連れ出すことにした。

 

「ちょっと来てください」

 

「うんわかった」

 

え? 何この子。素直すぎないか? 普通もうちょっと警戒しないんだろうか? 私達、さっき話したばかりだろう?

 

私の誘いに二つ返事で付き従う少年に一抹の不安を覚えたが、まぁ都合がいいので良しとしよう……いいんだよね?

 

「サトウ・カズマさん。貴方と二人きりで話したいことがあります」

 

「なんなりと」

 

え、即答……。 

 

なんなのこの子? なんでこんなに従順なんだろう? 私が何をした? 

 

サトウ・カズマの私を見る目もどこか変だ。何か決意を秘めたような強い輝きが見えるのに忌避感しか感じない。視線は私の顔、目をまっすぐ見ているが、時折上下に泳いでいる。なんだ? どこを見ているんだ? 

 

「それでは、その、私の後ろに付いてきてください」

 

「どこまでも」

 

だからなんで!?

 

アクアを放置することに一切の躊躇のない彼が非常に不気味だった。私の後ろを歩いてもらい共に武器屋から出る。

 

 

 

その瞬間、世界が書き変わった。

 

 

 

 

「え?」

 

「そこに座ってください」

 

ぽかんとした顔は驚いているところだろう。無理もない。武器屋から出たら景色が変わっていたのだから。

 

ここは私の世界。青い空と草原が広がる地球と同じ広さの空間。

 

弱体化させられたとはいえ神様だ。人間一人を自分の内側に引き寄せることくらい造作もない。……いえ、見栄をはりました。成功してよかったー。正直出来るかどうか内心ドキドキでした。

 

なんか、『魂』のの監視が弱まってないか? 天界で何かあったのだろうか?

 

「椅子とテーブルを用意しました。そちらへ」

 

「あ、は、はい」

 

状況が飲み込めそうにないサトウ・カズマに着席を促す。飲み込める訳がない。いきなり目の前で世界を移動したのだ。落ち着いて会話をするためになんとか落ち着かせねば……。

 

とりあえず笑顔で応対しよう。

 

足の長い丸テーブルを中心に向かい合って椅子に座り合う私達。

 

「落ち着いて、私の話を聞いてください」

 

「存分に語り合いましょう」

 

この子ちょろすぎて怖い。

 

「改めて自己紹介させていただきます。私は『理』の神アルマ。さしずめ、この魔王討伐ツアーの主催者の一人です」

 

「アルマちゃんって女神様だったの!?」

 

め、女神……まぁ、女、だしな、今………女神か、私が。

 

「いきなりのことで信用していただけないかもしれませんが……」

 

「信じます」

 

おい。無駄にキリッとした顔で答えるな。

 

「そう、私、アルマは神です。ですがそのことはどうかご内密にお願いします。これはお忍びの視察ですので」

 

「お忍び、ですか?」

 

「はい。ですので、女神アクアにも内緒ですよ?」

 

「二人だけの内緒ですね!」

 

………あ、うん。なんでサムズアップ? 顔も締まりがないし……、何がそんなに嬉しいんだろうか?

 

「今回カズマさんにお話を伺ったのは、これが転生者を対象にした勤務実態調査だからです」

 

「勤務実態調査!?」

 

驚くカズマをよそに私は一枚の書類を取り出してテーブルの上に置く。そこにはいくつかの質問事項がイエス・ノーで答えるように書かれている。

 

質問内容は主に、天界側の転生者たちへの対応についてである。

 

つまりアクアの勤務態度。

 

カズマが書類を上から下まで読んだ辺りでペンを渡す。それを受け取ると何やらものすごい勢いで書き込み始める。

 

「……あの、何か思うところが?」

 

「ちょっと恨みつらみが」

 

何をしたアクアーーーーーッ!!!

 

 

 

 

 

 

武器屋を出ると、そこは草原でした。

 

なんと、天使だと思ってたアルマちゃんが女神様だった。なんだ、何も変わらないじゃないか。

 

いや待て俺。そう簡単に納得していいのか? 考えてみろ。女神ってアレだぞ? 馬小屋で、最近俺の隣で腹出して寝てる駄女神だぞ?

 

……比べるまでもなくこちらの方が本物の女神様です。

 

いやないわー。アクアとアルマちゃんのどっちが女神って、悩む必要すらないわー。

 

冒険者ギルドの天使ことアルマちゃん。彼女はもう俺の、いやこのアクセルの街のアイドルである。男も女も関係なく、皆が彼女を愛でている。

 

その正体が女神様? むしろ納得だわ。こんな世界をいきなり作り出す時点でアクア以上の神様ってことだし。

 

しかも俺が戸惑いを感じる度に見せてくれるあの慈悲深い笑顔! これが女神でなくてなんだというのか!!

 

そして渡されたのが……生々しい『勤務実態調査シート』。神様の世界って会社みたいだよな。アクアにも後輩が居るって言うし……OLなのか女神って。

 

まぁアルマちゃん、いやアルマ様が書けというなら喜んで書かせてもらうけど……んんッ?

 

 

『1.あなたの担当女神は死亡後の心的ケアをきちんと行いましたか?』

 

『2.異世界への転生への概要はきちんと説明されましたか?』

 

『3.担当女神の対応は貴方から見て適切でしたか?』

 

『4.異世界への転生後、貴方は不自由な思いをしましたか?』

 

『5.担当女神への不満を感じましたか?』

 

 

…………かつてここまでペンを握る手に力を込めたことがあっただろうか! という勢いで答えましたとも!!

 

 

 

 

 

 

返ってきた書類を見て私は卒倒するかと思った。

 

『1.あなたの担当女神は死亡後の心的ケアをきちんと行いましたか?』 

 

・ノー

 

『2.異世界への転生への概要はきちんと説明されましたか?』

 

・ノー

 

『3.担当女神の対応は貴方から見て適切でしたか?』

 

・ノー

 

『4.異世界への転生後、貴方は不自由な思いをしましたか?』

 

・イエス

 

『5.担当女神への不満を感じましたか?』

 

・イエス

 

 

「……あの、カズマさん? これは、その、なんと言いますか……質問をさせていただいても?」

 

「はい、どうぞ」

 

駄目だ、喉がカラカラする。部下のしでかしたことにどう対応すればいいのか……いや、私は人類の守護神、最後の砦! 神様はこんな逆境でめげたりはしないのだ!

 

「最初の質問への回答なのですが、これはどういう経緯でそう思われましたか?」

 

「死因を馬鹿にされた挙句大爆笑の後にストレス発散になったと告げられました」

 

ぎゃふん!

 

「つ、次の質問ですが、」

 

「説明の途中に書類の項目を隠されたり質問をはぐらかされました」

 

キャン!

 

「……次」

 

「ポテチ食べながらさっさとしろとなじられました」

 

にゃん!

 

「……つぎぃ」

 

「こっちの世界に持ってこれる『者』として選んだのにちっとも役に立ちません」

 

そ、そういう理由でこちらの世界に来てたのかアイツ。

 

「そして最後! 不満たりたりじゃぁあの駄女神がぁああああああああああああああ!!!」

 

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさーーいっ!」

 

 

しばらくお待ちください。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやまあ、でも。まだ異世界での暮らしも始まったばかりですし、これからも初クエストなんでなんとか頑張っていきますよ」

 

「ありがとうございます。しかし改めて謝罪を。うちの女神がご迷惑をおかけしました」

 

アルマ様が頭を下げて謝罪する。アクアよりも偉い神様だって言ってたのに随分と腰が低い。

 

まだ小さいからアクアみたいに図々しく威張ったりするなんてこと覚えていないんだろう。このまま純粋なまま成長してもらいたいものだな。

 

「カズマさん。実は貴方のことはこの二週間ずっと見させてもらいました」

 

知っています。実は、なんて言っているがバレてないと思っているのは貴方だけです。

 

「貴方は可笑しな人ですね。アクアを駄女神と呼びながらも見捨てない」

 

捨てたいとは何度も思いましたよ? 

 

「貴方の死因、トラクターをトラックと勘違いした挙句に引かれたと思い込んで失禁しながら意識を失い、そのままショック死という他に類を見ない珍事でしたが」

 

やめて。何か書類をペラペラめくりながら読み上げないで。しかもそれ遠まわしに馬鹿にされてないっすかね?

 

「それでも、貴方の誰かを守りたいという想いは本物でした」

 

……え?

 

「サトウ・カズマさん。貴方はグダグダ文句を口から垂れ流し女神を貶しながらも見捨てず、利益を独占しようとしませんでした」

 

まぁ、確かに。アクアは俺の所有物なんだからあいつが稼いだ金も暴論を振りかざせば俺のもなんだけど、それを奪い取るほど落ちぶれちゃいない。

 

「『理』の神アルマの名において、女神アクアを貴方の正式な『特典』と認めます。これからは二人、力を合わせて魔王討伐を目指してください」

 

神々しい(神様なんだから当たり前か)までの後光を発しながらアルマ様は俺にそう告げた。おかしいな? あまり嬉しくない。

 

そうか、だって俺が駄女神の面倒を見ることが正式に決まったようなものだからか。そ・れ・は! 嬉しくねーーーーーッだろうがッ!

 

「すいません! アクアの出した迷惑の分だけ何か特典を補填してください!!」

 

「は? え、えええええええええええ!? そ、それはちょっと……い、いえ分かりました。なら、私の権限で叶えられる範囲のことまでなら……」

 

 

「俺の妹になってください!!!!」

 

 

「……あんだって?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……カズマ! カズマ!! ナニ店の入口で寝てんのよ! 恥ずかしいわねぇ!!」

 

「? アクア? あれ、俺どうして……? って顔がいてぇ!!?」

 

気づいたらアクアに顔面ビンタされて叩き起こされていた。

 

叩き起される? なんで? どこで寝てたんだよ俺?

 

「アンタ、私が杖を買い終わって店から出てみれば入口で寝てたのよ? なに? なんなの? とうとう引きニート辞めたくて野外ニートになりたいの? お外がカズマのお家なの? ベッドなの?」

 

「うるさいよこの駄女神が! なわけねーだろが!!」

 

「何よ! 人がせっかく心配してやってるのに!!」

 

「どこがだ!! ……ってあれ? アルマ様は? 俺の妹は!?」

 

「……は? ……えー? 大丈夫カズマ? 頭おかしいなら今日のクエストやめとく?」

 

え? ………え?

 

俺もアクアも二人揃って何がなんだか理解できなかった。俺からすればさっきまで店から出た草原でアルマ様と一緒だったのに今一人で。アクアからすれば俺は目を離した隙に地べたで寝てた心配な子だそうだ。

 

なにこれどゆこと?

 

まさか、さっきまでの全部………、

 

「夢オチかよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちが叫びたいわ。お兄ちゃんの阿呆」

 

 




『魂』 「      」

『物質』「      」

『命』 「我だって呼ばれたことないのに……お姉ちゃんって……ないのに



                 よし、人間滅ぼそう」



『魂』『物質』 「「落ち着いてぇええええ!!!」」


おねえちゃんはブラコン



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に農民の力を!

アルマちゃんは人類至上主義


初クエストに向かったお兄ちゃん……カズマを遠くから見送り、私もクエストをギルドで受けてきた。

 

農場で草刈である。

 

……なんだよ、文句あるかい?

 

受付のお姉さん、ルナさんというらしい彼女の善意によって私はソロでのモンスター討伐クエストを受けることができない。よって、こういったお手伝い系の仕事しか回してもらえないのだ。

 

農場はアクセルの街の外にある、かなりの規模の広大な農地だった。畑で野菜を育て羊を放牧しており農家の住まいを中心の柵がぐるっと囲っている。その広さは……向こうが霞んで見えないなー。

 

ただの草刈と笑ったやつ。今すぐ来てみろ。そして手伝え。足腰が愉快に笑い出すことになるぞ? この世界に農耕機械などない。全て手作業か家畜が動力の農具を用いている。で、草刈なんてものは草刈鎌を装備しての手作業だぞ?

 

「アルマちゃんは手際がいいね」

 

「息子さんの教えがいいからですよー」

 

この農場の息子さんである。歳は三十五歳。熊のように大きく、うさぎのように臆病な人。そう感じさせる雰囲気の男だ。今もリスのように縮こまって足元の草を刈っている。独身。奥さんは………そんな酷いこと私には言えない。

 

この農家はおじいさん、おばあさん、息子さんの三人で経営しているようで。冒険者ギルドに草刈のような簡単なクエストが届けられているのも単純に人手不足なため。

 

私が刈っている場所だって羊の放牧場の手入れだ。

 

「ゴメンねアルマちゃん。うちに働き手がもう少しいればねぇ」

 

「いえいえ」

 

「お前が嫁さんでもこさえてくれてればアルマちゃんも楽できてたんよ」

 

「か、母さん!?」

 

農場のご主人の奥さんであるおばあさんだ。私たち三人で羊の世話をしながら草刈作業を行なっている。

 

ややこしいので私はおばあちゃんと呼んでいます。

 

というか、私達三人がこっちで作業していていいのかな? これじゃぁ向こうの畑はおじいさんだけになってしまうのでは……?

 

そう思い、柵の向こうにある畑を見やると、

 

「ほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほい!!!!」

 

鍬を高速で振るって畑を耕すおじいさんが………見なかったことにしよう。

 

残像が見えるほどの高速耕しなんてなかった。うん。

 

それにしても、私は何時になったらモンスターの討伐を行えるのだろうか? ソロではダメだと言われているのならどこかのパーティーに混ぜてもらえばいいのだが、そう頼んでみると皆が断るのだ。

 

まだアルマちゃんには危ないよ、と。

 

見た目の幼さ故か、どうにも子供扱いされているような気がする。事実、子供の姿なのでしょうがないのだがこれでは調査にならない。しかし、人が定めたルールなのだとすれば従う他なく、私が破れば周りに迷惑にもなる。

 

ここは一つ、何かしらの実績を作るしかなのだろうか? モンスターの討伐を任せてもらえるような実力を残せば周りも心配はしないだろう。

 

しかし、どうするか。

 

別に一人で街の外に出て適当なモンスターを仕留めてくればいいだけのことなのだが、それだと門番への言い訳を考えなくてはならなくなる。馬鹿正直にモンスターを倒しに行きたいんです、などと言えば通せんぼ、詰みだ。

 

ならば虚偽を用いて騙すか? いやいや、私は『理』を定める神だぞ? 私が嘘を許せばそれは罪ではないということだ。そんな『理』に合わぬことはできない。

 

「……じゃぁどうしようかな?」

 

「何がだい?」

 

おっと。

 

「この刈った草をどうすればいいのかな、と」

 

「あぁ、纏めて燃やして灰にするから一端籠に移して運ぼうか。倉庫に行って取ってくるよ」

 

「あ、なら私も行きます」

 

息子さんと倉庫へと向かう。農具が詰まったそこは薄暗く足元も見辛い。内部を勝手知ったる息子さんが先導し、竹製で出来た籠は直ぐに見つかったのだが。

 

倉庫の片隅に、油がたっぷりと染み込まれた布でグルグル巻きにされた長物が無造作に置かれているのを見つけた。長さにして約三メートル。アルマ二人分よりも長かった。

 

「なんですかこれ?」

 

それがなんとなく気になり、ひょいと持ち上げる。

 

「あ、アルマちゃん。その辺に布に巻かれてる長いのあるから気を付けて。重いから足に躓くと危ない……し?」

 

「え? …………………………」

 

「え? …………………………」

 

布に巻かれた長いソレを片手で持ち上げるアルマと、それを見て固まる農家の息子。

 

互いに瞬き一回。そっとアルマはそれを地面に置く。

 

「じゃ、行きましょうか」

 

「今持ち上げてなかった!?」

 

「目の錯覚です」

 

「それ大人が四人がかりで運ぶやつなんだよ!?」

 

「へー、なんなんですこれ?」

 

ひょい!

 

「もう完全に持ち上げてるよね!?」

 

「あ、……今の無しで」

 

「うん、もうそれでいいよ」

 

自分のステータスを忘れてやっちまったと後悔するアルマ。これが冒険者か、と幼くとも常人を遥かに超える怪力に唖然とする農家の息子。

 

しかしアルマは一つ勘違いしていた。

 

「(私みたいな低いステータスでも持てるのに農家の方は大人四人がかりじゃないと持てないなんて……やはりモンスターの驚異は冒険者が頑張って防がないとッ!)」

 

自分のステータスは一般的な駆け出し冒険者程度しかないのだと思っていた。

 

「それは作物の豊作を願って、近隣の農家たちが金を出しあって作った御神刀だよ」

 

「これ武器なんですか!?」

 

「違うよ? 神様にお祈りする御神体みたいなものだよ」

 

なるほど。まぁ人の子が使うには大きすぎるしな。いや、待って。それでも大きすぎないかい? 

 

「カエル退治に使えないかと、皆が張り切っちゃったんだよ。畑から出土した鉱石とか沢山持ち寄って」

 

「……皆さん農家ですよね?」

 

「農家だよ?」

 

………んん? 

 

「あ、そうだ。アルマちゃん、スキルアップポーションあげようか? 御中元で沢山貰ったんだけど、うちじゃ使わないからねぇ」

 

「農家ですよね!?」

 

「だから農家だよ?」

 

スキルアップポーションとは、その名の通り冒険者のスキルポイントを増やす魔法の飲料である。どんなルートで農家が手に入れるんですか!?

 

「農家を継がなかった次男坊や三男坊が冒険者になってね。それで偶に送ってくるんだけど、誰も飲まないから山になっちゃっててね」

 

「その方たちはなんで自分で飲まないんですか?」

 

冒険者にとってスキルポイントは貴重だ。なにせ、レベルを上げなくては手に入らず、一レベル上げるだけでも大変だからだ。それこそ、高火力の魔法持ちがパーティーにいて、経験値の詰まったレアモンスターを大量に纏めて倒すくらいしないと短時間でレベルが上がることなどまずない。そんなの、駆け出しの冒険者にできることではない。

 

ならば、貴重なスキルアップポーションなど手に入ればすぐに飲んでしまうのでは?

 

「あいつら皆、家を出てもなんやかんや心配なんだよ。だから欲しがる奴の多いレアなアイテムとかを送ってきて、いざって時の財産にしてほしいんだろう」

 

「確かにここまで集めれば……売ればひと財産になるでしょうけど……」

 

なのになぜ売らなかったのか? しかも何故自分に渡すのか? その辺の事情がよく分からない。

 

「あー……結局、俺達は農家だからなぁ。自分たちじゃ使わないし、よっぽど不作の時じゃないと売るつもりも起きないんだ。家族が俺たちの為に送ってくれたもんだしな」

 

「だったら、私が貰うわけにはいかないじゃないですか」

 

「何言ってるんだい。アルマちゃんは『冒険者』だろ?」

 

つまり、農家の自分たちは使わないから冒険者の私に使えと? それは駄目じゃないだろうか? 

 

「それにな……何か理由を付けて使っちまわないと、親父たちが送られてきたアイテムで『何か』を作っちまうんだよ……そこの『超神刀・豊穣丸』とか」

 

「アレってそんな名前だったんですか!? ていうか、なにで作ったの!?」

 

「わからん。なんたらタイトとかミスなんちゃらとか……よく知らんし」

 

農家怖っ! これひょっとしてもう神器なんじゃないかな!?

 

ハンドメイドは農家の嗜みだということを私は知った。……この世界の農家って一体……?

 

その後、籠を背負って放牧場に戻った私達は刈った草をせっせとそれに詰めていった。

 

「うーん、モンスターの討伐したいなぁ……」

 

「おいおい、アルマちゃんにはまだ早いんじゃないかなぁ?」

 

ギルドでモンスター討伐のクエストを受けさせて貰えない不満を呟いていると息子さんがそう答える。

 

「何を言っているんですか? モンスターは人類にとって即・殺! な存在なんですよ! いわばゴキブリの仲間のようなものです! 見つけたら殺して殺して殺し尽くさないといけません!!」

 

「そこまで言う!?」

 

「当たり前です! 特にアンデットはいけません!! 人であることを捨てて生命の『理』を踏み外すような弱虫は害虫なのです!! 駆除するのがこの世のため宇宙のためです!!」

 

「お、おおう」

 

なので、この近くでモンスターを狩れそうな場所がないかをおばあさんや息子さんに聞いてみた。

 

すると、

 

「「ここ」」

 

「はい?」

 

なんとあっさり解決しちゃいました。

 

それからオヤツ時間を挟んだ後のことです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キエェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」

 

老婆の声が辺りに響く。

 

小さな身体の両手に構えられた草刈鎌を振り乱し、宙を舞って血飛沫をあげる。

 

「家畜と子供を狙う害獣がぁああああああああああああああ!! 死にゃらせェェェっ!!!」

 

その影から飛び出す老人が持つのは畑を耕す鍬だ。干からびた細い体のどこにそんな力が? と疑いたくなるほどの跳躍を見せて獲物の背に飛び乗りその肉を耕していく。

 

そして息子は。

 

「オラぁっ!」

 

大きなシャベルで普通に切り掛って、普通に走って、普通に頑張っていた。

 

 

相手はジャイアントトード。巨大なカエルである。

 

 

しかし唯の巨大なカエルと思うなかれ。その大きさ、約三メートル超。長い舌で獲物を捕食し、その被害は農家の家畜や小さな子供にまで及ぶ。

 

そう、アルマが働くこのような農家にとっての天敵、害獣なのだ。だからこそ、退治するためにギルドへクエストの依頼が貼られていたりするのだ。危険なので。

 

しかし、危険とはどこまでのレベルのことを言うのだろうか?

 

ジャイアントトードは確かに危険なモンスターだ。大きいし跳ねるし下も遠くまで伸びる。その上肉体が軟らかく、衝撃に強い物理耐性持ちだ。倒すには斬撃か魔法しか通用しない。だが弱点もある。奴らは金属を嫌う。故に、金属製の鎧や装飾品を身に付けておけば捕食されにくくなる。

 

そういう特性や弱点に気をつければ駆け出しの冒険者でもなんとか倒せる、というのがジャイアントトードのクエスト攻略法だ。

 

アルマはそこまで調査したところある疑問を浮かべた。

 

 

冒険者と一般人の違いとは何か? 

 

 

単純な話、冒険者とはギルドカードを作った一般人だ。スキルを習得できる恩恵を除けば、自分のステータスを数値化してみることができるという違いしかない。

 

つまり、一般人だってステータスは成長しているのだ。目に見えていないだけで。ここはそういう世界なのだから。

 

生き物を殺し食事をすれば経験値が手に入る世界。それは誰でもスキルを覚えられないがステータスは伸ばせられるということ。

 

駆け出し冒険者のステータスが総じて低いのはこの為だと思う。

 

冒険者になるまでの間に伸ばしたステータス……つまりどれだけ殺し、どれだけ経験値の詰まったモノを食べてきたか、だ。

 

冒険者になる者は若者が多い。十代がほとんどだ。で、彼らは冒険者になって初めて殺し、初めて食事の意味を考える。鍛錬だって必要だ。

 

一般的に、貴族や王族は軒並みステータスが高いと評判なのも当然だ。彼らの食事は全ての意味で豪勢なのだ。味も食材の値段も経験値もだ。身体を育てる環境がそもそも違うのだ。

 

しかし逆を言えば、一般人でも経験値を多く取りながら鍛錬すれば冒険者並みに強くなれるのだ。

 

それが目の前の光景である。

 

「シャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャァアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

「ほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほいほい!!!」

 

「やぁ! とぉ!」

 

ジャイアントトードを狩りまくる老夫婦とその息子。

 

老夫婦は長年の農作業によって身体が鍛えられ、殺した家畜と自ら育てた質の良い野菜の経験値を多く得ている。冒険者で言えば駆け出しなど足元にも及ばないのではないだろうか?

 

息子はまぁ、……まだまだ未熟ということなのだろう。

 

老体なのにこの強さの謎? 逆に考えるのだ。衰えてなお、この強さなのだと。

 

そしてもう一つ納得のいくことがある。

 

ジャイアントトードのクエスト報酬である。

 

安すぎるのだ。命の危険もあるというのに、最低ノルマでも城壁工事に日当レベルである。これでは冒険者など割に合わないと夢を諦めるものも多いだろう。

 

何故か? 農家でも出来ることだからだ。クエストに依頼されているのは数が多過ぎるだけのこと。農家は基本、畑を守るためには自衛をし、手に負えないときだけ助けを求める。

 

だって、お金がかかるんだもの。自力で倒せるならそんな無駄な経費、農家は払いたくはない。

 

日本でだって思い出して欲しい。畑を荒らすイノシシやシカをわざわざ高い金を払って討伐してもらうだろうか? いいや、ない。自分で罠を張って仕留める。もしくは猟銃でスドン! である。熊でも出れば別だが、この世界ではそれは一撃熊がそうなのだろう。

 

しかも仕留めたカエル肉は美味いから高く売れる。これを逃すなど以ての外だ。余れば自分たちの晩ご飯でもあるので経験値も入る。

 

ギルドを通さない、農家にとってそれだけで一石二鳥にも三鳥にもなるのだ。

 

 

そんなことを頭の中で纏めつつあったアルマは……その考えの全てが吹っ飛んでいた。

 

「死ぃねぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!」

 

目の前のカエルを殺すのに夢中で。

 

「人の子を喰らい! 人を泣かせ! 人の暮らしを苦しめる魔物がぁっ!! 死ね! 死ね! 死にさらせぇええええええええええええええ!!!!」

 

その手に持つは倉庫から引っ張り出してきた超神刀・豊穣丸。油布を剥がしてみれば持ち手一メートル、刀身が二メートルの巨大な両刃剣だった。

 

日本人ならこう呼ぶだろう。それって斬馬刀じゃね? と。

 

馬に騎乗した武士同士の戦いで、相手を馬ごと叩き斬ってやるという考えから生まれた刀。あまりにでかく、馬鹿げたソレは重すぎて使える者など本当に居たのかというほどで。

 

そんなものを軽々と振るう神様少女アルマちゃん。

 

息子さん、ドン引きである。いろんな意味で。

 

「……えぇ?」

 

ひと振りすればカエルが上半分を切り飛ばされ。投擲すればカエルの腹を貫通して何匹か纏めて屠る。その姿、悪鬼羅刹のごとくなり。

 

アルマも頑張った。本当に我慢したのだ。しかし、無理だった。

 

人食いのモンスター。そんな存在、人類を愛し、人類を守ると公言している『理』の神アルマにとって怨敵でしかない。

 

ソレは突然だった。

 

地面からカエルがボコッと現れた。その直ぐに伸ばされた舌がアルマを捕らえて飲み込み、身に付けていた金属製の篭手を嫌ってすぐに吐き出した。

 

吐き出されたアルマは倉庫まで飛ばされて中でキレた。豊穣丸を掴み、カエルの元まで走って切りかかった。

 

それを見たおばあさんが、

 

「その意気じゃぁアルマちゃーーん!!」

 

とウキウキと鎌を光らせてカエルに向かい、その騒動に気づいたおじいさんが顔を真っ赤にさせて鍬を振り上げながら畑から走ってきたのだ。

 

「わしの牧場を荒らすカエルは、どこじゃぁあああああああああああああああああああああああああ!!?」

 

息子はその光景を見て慌てて武器になりそうな農具を取りに走った。倉庫へ。それで見つけたのがシャベルである。

 

おばあさんが伸びた舌をサイドステップで躱し、切捨てる。その痛みで怯んだジャイアントトードをおじいさんが後ろから鍬で仕留め、アルマはコマのように回りながら巨大な両刃剣でカエルの群れを切裂いていた。

 

群れである。

 

一匹だけかと思えば地中から出るわ出るわ。五匹までは数えた。そこから先は覚えていない。

 

気が付けば周りにはジャイアントトードだった肉が山のように積まれ、息子はシャベルでカエルが出てきた地面の穴を塞いでいた。

 

今夜はご馳走である。

 

 

 

 

 

夕暮れのアクセルの街。冒険者ギルドへと向かう道の途中。

 

そこにはジャイアントトードの粘液でまみれた女神アクアと、疲労困憊の少年カズマの姿があった。

 

「ひっ……ぐすっ……うえぇえええええええん……」

 

「つ、使えねぇ…この駄女神ほんとに使えねぇ……おい、いい加減泣きやめよアクア! 俺まで変な目で見られるだろうが!!」

 

本日初のクエストに挑み、帰還した二人の姿である。

 

クエスト内容は『三日以内にジャイアントトード五匹の討伐』。今日の成果は討伐一、精神的ダメージ(大)である。

 

カズマは頑張った。日本のそれとは違う巨大なカエルから必死に逃げ回り、その姿をアクアに笑われて。それでも頑張っていたら当のアクアがカエルに殴りかかって食べられる。アクアを捕食するのに夢中で動きを止めたジャイアントトードをなんとか手にした短剣で仕留めて体力を使いきり、アクアと一緒にフラフラとなって帰還したのが今である。

 

「くそ~、こんなに、こんなに苦労して報酬が外壁工事の日当一日分って……割に合わねー」

 

カズマは思った。こんなはずではないと。こんなのが自分が考えていた冒険のハズなどないと。

 

「二人じゃ、俺たちだけじゃ無理だ……」

 

「あれ? お兄ちゃんじゃないですか? お疲れですね」

 

「え?」

 

そんなカズマの横をガタゴトと音を立てながら進む荷車が一台。その荷には、ジャイアントトードの死体が山のように積まれていた。

 

「アルマ!? どうしたんだよソレ!」

 

「仕事先で沸いて出たので駆除しました。私頑張ったんですよ!」

 

荷台を引いていたのはアルマと農家の息子だった。アルマはにこにこと笑顔を振りまき嬉しそうにギルドへと荷台を引いていく。荷台には驚くほど巨大な剣も置かれている。

 

「これをギルドに持っていって、私もモンスターの討伐に参加できるようお願いしてみます! じゃあねお兄ちゃん!」

 

「お、おう」

 

アルマの可愛い笑顔にニヤける余裕もなく、その姿をカズマは見送る。

 

「うそ~ん」

 

肩を落としてそう言った。アクアを見て、

 

「やっぱり夢じゃなかったんかい! 女神、チェーーーーーーーンジッ!!」

 

昼に見た夢とか、既に妹になってくださいと願いを使っていたことなどを思いだして絶叫した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の調査報告。

 

モンスターの討伐によって得る経験値も命の対価と比べるとバランス調整が必要かもしれない。許可が出れば『理』を書き換えることも可能。

 

しかしこれらは『魂』と『命』の管轄なり。二人の判断に任されたし。

 

また、強い冒険者を育てるには食生活の見直しから始めるべきかもしれない。

 

これは冒険者の戦力向上についての考察であるが一般人にも効果があり、人類すべてのステータス向上に繋がるものである。

 

ただし、最低でも貴族レベルまでの生活力向上が必要であり、平民が貴族、王族に並ぼうなどとすれば魔王を倒す前に人類が争いを起こしそうなので却下する。

 

 

追伸。今日は人類の敵をたくさん殺すことができた! もっと滅ぼしたいので業務に魔物の全滅を追加されたし。

 




『魂』 「クソ真面目じゃのう」

『物質』「ですねぇ。先輩ごときとの約束なんて破っちゃえばいいのに」

『魂』 「あ?」

『物質』「なにか?」

『命』 「アルマ可愛いよアルマ可愛いよ。なのに我をそっちのけで人類ばかり……やっぱり人類嫌いだ滅ぼそう」

『魂』 「この姉弟がいるかぎり人魔大戦にケリはつかんのう」

『物質』「ですねぇ。まったく困った二人ですよ」

『命』 「何を言っている。この仕事が終わったらアルマはお前たちにも『お仕置き』をするぞ? 今の内に言い訳でも考えておくんだな」

『魂』 「アイアンクローは嫌じゃぞ!?」

『物質』「私の超銀河合体アルマテリオンを壊さないでください!!」

『命』 「こいつら、下界に向かって土下座だとッ?」

アルマちゃんは四人の中でも最強です。だけど『魂』と世界を査察すると約束したのでそれが終わるまでは逆らいません。終わるまでは。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にパーティーを!

明けましておめでとうございます。


農場でジャイアントトードの群れを倒した翌日。

 

私は三人パーティーで一撃熊の討伐に来ています。ようやく、高ランクモンスターの討伐クエストです!

 

ということで、アクセルの街を離れて森の中。クマさん出てこいブッ●してやんよ!

 

が、ですね。

 

 

なんだか、パーティーメンバーからの視線が痛いです。

 

 

………私、何かしましたでしょうか? ちょっと思い出してみましょう。

 

 

 

 

 

「おはようございますルナさん!」

 

「おはようアルマちゃん。今日も早いわね」

 

冒険者ギルドが開いた朝一番に駆け込んでルナさんに挨拶。今日はモンスター討伐を堂々と行える記念すべき日。気合を入れて頑張ろうー。

 

そういうわけで、クエスト掲示板に手頃な仕事がないか確認へ。

 

…………うーん、相変わらず微っ妙ー。

 

商隊の護衛……ソロじゃなー。

 

迷子のペット探しています……見かけたら捕まえておこう。

 

ダンジョンに潜るので盗賊職の方募集中……およびじゃないですねすいません。

 

パーティー募集中。条件、上級職の方のみ……これはまた豪気な……。

 

畑を荒らす一撃熊の討伐……おぉ! いいじゃないか!!

 

 

一撃熊。確かデカイ熊だよな? そこそこ強いらしいから駆け出しのソロだと荷が重く、数人のパーティーで取り囲んでようやく倒せるレベルだったか。まぁ中級魔法が使える魔法職が一人いれば余裕とも聞くし、試しに受けてみるか。

 

あ、そうそう。魔法と言えばね? この度カエル討伐で経験値が入ったのでレベルが上がりました。スキルポイントも貯まったので早速初級魔法を覚えましたよハッハッハ。

 

……はぁー。この世の『理』を統べる私が初級魔法を、か。まぁしょうがなし。そもそも私自前の魔法とか使えるようになるまでスキルポイント貯めるのに何百年かかるかわからないし。

 

いや、それはそれで良しとしよう。この世界の調査をするのに過度な威力の魔法はバランス崩壊の元だろう。

 

大げさなこと言ってると思う? ならばチラッと冒険者カードを見せてあげようか? 面白いスキルが並んでるぞ?

 

 

『りゅうせい』……1000000000sp

 

『たいよう』 ……1000000000sp

 

『くろきあな』……1000000000sp

 

『ことわり』 ……無限sp

 

 

……覚える必要ないわこれー。効果と威力はお察しで。一つでも使えば文明が滅びる魔法とかいらんいらん。

 

あ、でもまた姉貴と喧嘩するときにないと困るんだよなー。どうしよ?

 

っと、いかん。話がそれた。

 

クエストを受けに来たんだったな。

 

さて、ルナさーん! このクエスト受けまーす! クマー!

 

 

しかし、一撃熊討伐のクエスト用紙を掲示板から剥がして受付に持っていった私は、そこで予想外の言葉を聞いたのだ。

 

「アルマちゃん。ご指名ですよ!」

 

「はい?」

 

 

 

 

 

「君がアルマか? 私はダグネス。クルセイダーを生業にしているものだ」

 

「あたしはクリス。と、盗賊です…………えー」

 

「え? えー………初めまして! アルマです!」

 

私の名はダグネス。本名はダスティネス・フォード・ララティーナ。故あって冒険者などをやっているがこの国の貴族だ。

 

一緒にいるのはクリス。盗賊職についている冒険者で私の友人だ。今日は彼女と二人で……アルマという少女の素性を調べるため共にクエストを受けれるよう彼女を指名したのだ。

 

ことの始まりはアクセルの街で広まった噂だ。

 

 

最近、アクセルの街に金髪碧眼の少女が冒険者として現れた。

 

 

新人冒険者がアクセルの街に現れるのは珍しいことではない。しかし、気になったのはその容姿にだ。

 

金髪碧眼。それは貴族の証だ。別に平民にそういう特徴の者が居ないわけではない。だが、貴族のそれは見るからに輝きが違うのだ。

 

更に貴族のステータスは一般冒険者のそれを遥かに上回る。王族などは勇者の血を何代に渡って取り込み続けている影響か特に顕著だ。

 

……なぜならこの国の国王と王子が最前線で魔王軍と戦っているしな。他国からも脳筋王家とか言われてるし……。

 

いや、よそう。今はそれはどうでもいい。

 

問題というのはそのアルマという冒険者なのだが……その、だ。登録して一週間ほどでギルドの者から我がダスティネス家に問い合わせがあったのだ。

 

 

―『アルマ』という少女はどこぞの名家から家出した貴族令嬢ではないですか?

 

 

と。

 

 

まさか、と思った。しかし、担当した受付嬢が言うには容姿が整いすぎている上に見事な金髪碧眼の美少女だという。仕草にもしっかりとした教育が施されているように見え、庶子にしては粗暴な面が見受けられない。

 

受ける依頼も依頼主には礼儀正しく応対し、街を歩けば老人から子供まで困っている人たちに笑顔で手を差しのべる。

 

もしも彼女が貴族だとしたら、ノブレス・オブリージュ、まさに社会の模範となるべき振る舞いを持った貴族と言えるだろう。

 

 

だが、ギルドの話ではアルマという少女のステータスは一般的冒険者とさほど変わらない平凡なものらしい。

 

つまり由緒ある貴族の家の者ではない、もしくは容姿が優れているだけの庶子である。ということになる。もしも彼女が貴族だったとしても、ステータスの低さはそのまま家の生活レベルの低さを表すことから彼女の生家は裕福なものではない、小さな権力しかないということだ。最悪、とり潰しになった貴族の者という線もある。

 

それならばなんの問題はない。

 

貴族崩れがその高いステータスを頼りに生活のため冒険者になるのは珍しいことではないからだ。

 

だが、しかし。しかしだ。

 

先日、彼女が大量のジャイアントトードを屠ってきた、という知らせがギルドから届いたのだ。それもかなりの血相を変えて。

 

その知らせを聞かされたとき「は?」と我が耳を疑ったものだ。

 

ギルドカードの記されていたステータスが間違っていたか、それとも何らかの手段で誤魔化されていたのか。十二歳の少女が大人でも持ち上げられるのに数人がかりでやっとという大剣を片手で振り回していたと。それで十数匹の巨大ガエルを食材として売りに来たのだと聞かされた時は……嫌な汗が背筋を伝った。

 

もしや、いや、まさか。

 

その時私には、ひとつだけ。とても大きな不安材料があった。

 

金髪碧眼。貴族。十二歳。

 

この条件が揃う貴族に、一人だけ心当たりがあったのだ。

 

まぁ、その心当たりは貴族は貴族でも『王族』という、とんでもない存在だったのだが……。まさか城を抜け出して? 護衛はいないのか? シンフォニア家のクレアから連絡はないぞ? と、どれだけ混乱したものか。

 

だからこそ。早急な確認を行う必要があった。知らせがあったその日の早朝から、ギルドが開くと同時に駆け込むように押し入り、受付で名指しで指名して同じクエストを受けれるよう取り計らった。

 

結果はというと。

 

ギルドで初めてその、『アルマ』という少女を見た私は心底……安堵した。

 

「良かった……アイリス様ではない……」

 

アルマはベルゼルク王国の第一王女、アイリス姫ではなかった。それが確認できただけでどれだけ私の心労が和らいだ事か……って、ん?

 

「どうしたクリス?」

 

「…え!? なにがだい!?!?」

 

事情を説明したら快く協力を申し出てくれた友人、盗賊職の冒険者のクリスを横目で見ると初めて見るほどの狼狽を見せていた。私が声をかけるまで口を半開きにさせて固まっていたほどだ。

 

「(……なぁ、まさか彼女に心当たりがあるのか? やはりどこかの家の……?)」

 

「(……いや、ないないない!! 貴族じゃないよ! 見たこともないさ!!)」

 

むぅ? 明らかになにか怪しいんだが……? 貴族では無いと言っているが心当たりがあるんじゃないのか?

 

「今日はよろしくお願いしますね!」

 

「あぁ、こちらこそよろしく頼む」

 

「あは、あははは……」

 

噂通りとても良い娘みたいだな。……私としてはもっと腹にドス黒い欲望を隠しているくらいのほうが好みなのだが。

 

後は彼女の素性をハッキリと見極めねばな! 一撃熊が相手というのも素晴らしい! うむ、今日は良き日だ!   

 

うん? だからどうしたクリス? さっきから何を頭を抱えて……おーい、聞いているか?

 

 

 

 

えー、そういうわけでして。

 

私を指名してまでクエストについてきた二人なんですが……なんでしょうねぇ? めっちゃ見られてます。

 

ダグネスさんとは色々世間話を交えながら歩いていますが、内容が時々変です。貴族しか知らないような話題……使用人の教育とか買い付ける調度品のセンスとか、答えられる範囲で答えましたが何故にそのチョイス? というか貴方、実は貴族でしょう? なんで冒険者やってるんです?

 

そしてもう一人。

 

えーと……おい。

 

おいおいおいおいおいおいおいッ!!!

 

なんでお前までいるんだ! ()()()!!

 




『魂』 「お父さんが少女になっていた件」

『物質』「これには女神も涙目です」

『命』 「年頃の娘ならグレるわ」



アクアを創ったの…『魂』

エリスを創ったの…『理』

子は親に似る。特に娘はお父さんに似るという?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に娘の涙を!

このすば二期、楽しみですね。


私の名はエリス。地球とは違うここ、異世界を担当する女神です。

 

この世界では国教として広められているエリス教という教団の御神体として崇められてたり通貨の単位として多くの方々に親しまれています。

 

そして天界規定により、神々は下界へみだりに降臨してはならないと定められていますが、『あたし』は盗賊クリスとしてここにいます。

 

もちろん、女神としてではなく人間として。

 

それはとある少女の願いを叶えてあげたいという理由からの行動でしたが、今では自分自身がこの世界での生活を楽しみたいと思ってもいるのです。

 

そんな私には憧れている『父』がいます。

 

厳密にいえば違うのです。人間の様に父母が行為をして子供を生み出すのではなく、神力を行使し独りで創り出されたのが私です。しかし私はアルマ様を『父』として慕わせていただいています。

 

彼は私を創ってくださった『理』の神。宇宙を構成する四柱神の一柱にして、人類を守り導こうとする御方。

 

その背中をずっと見ていました。

 

大きな手で頭を撫でてくれたことを覚えています。

 

人類に害悪をもたらす悪魔達との戦いではいつも先陣をきり私達を鼓舞してくれます。

 

とてもお強くて、でもどこか抜けていて、大好きな人達を守るためにいつも一生懸命な。

 

そんな『お父さん』が私は大好きです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(え? まさか嘘…ッ!? お父さん!!?)」

 

今のあたしの気分はとても複雑だ。だってね? 久しぶりに会ったお父さんが女の子になってるんだよ!? 何があったのさ!!

 

一撃熊を討伐して欲しいという農家の畑へ向かう道中で。森の中を突っ切ったほうが早いと、あたしとダクネスとお父さん……アルマちゃんの三人は歩いている。

 

あたしがダクネスの頼みを聞いたのは友人の願いというだけでなく、自分の仕事も関係していた。

 

 

地球から送られてきたチート転生者の残した『神器』の回収という仕事だ。

 

 

魔王を倒すために転生者に送られた神造兵器。しかし志半ばで倒れた転生者達によって持ち主不在となり世界中に散ってしまったそれを回収するのが『女盗賊クリス』として下界で活動するあたし、女神エリスの仕事だった。

 

神器が持つその強大な力を邪な心の持ち主が扱えば大変なことになる。だからこそ、それを与えた女神が自ら回収しなくてはならない。

 

そう信じて活動するあたしの元に舞い込んだ新たな情報。

 

 

―それは一人の新人冒険者が所持しているという巨大な剣。

 

 

ステータスが低い筈の少女がジャイアントトードの群れを屠ることを可能とする武器。力無き少女を勇者に変えたその剣はもしや、転生者が残したチートアイテムではないのだろうか?

 

そう考えてみれば確かめない理由はなかった。ダクネスの話に乗り、その少女、アルマという冒険者に接触することにした。

 

ただ、その名前に疑惑があった。

 

 

……あれ? アルマ?

 

 

ん? いやいやいやいや、まさか、そんなはずないよね? すごく聞き覚えがあるんだけど? 

 

だって『理』のアルマ様は金髪碧眼で背が高い男性だよ? 十二歳の女の子なわけないじゃないか。うん、きっと名前がたまたま、偶然同じだけの別人だよね!

 

 

でもギルドで顔を合わせた瞬間に思い知りました。本人じゃないですかぁあああああああああああああああああ!!

 

 

神格とか魔力とかが人間の肉体から漏れ出てるし! 隠しきれてないし! これで気付かない女神は節穴すぎるでしょう!? でもなんで身体が小さくなって、しかも女の子になってるの!? 私の格好いいお父さんはどこに!!?

 

「ク、クリス、さん……何か?」

 

何かどころじゃない。そしてお父さん。あなたも私も正体に気づいてますね? 

 

「アルマちゃん。後で二人で話さないかなぁ?」

 

「……の、望むとこです」

 

そして言葉遣いも変。お父さん、あなたもっと威圧的な喋り方でしたよね? なんで可愛らしくなってるの?

 

でも覚悟してねお父さん。後で絶対に追求してあげるんですから! 泣いてもダメですよ!!

 

あ、でもお父さん、平たいなぁ……どこがとは言わないけどね。

 

 

 

 

 

 

「二人とも随分と仲良くなったのだな。私も混ぜてくれないか?」

 

おっと、いけない。エリスの視線が怖くてでダクネスを放置してしまった。これでは彼女に失礼ですね。猛省せねば。

 

「ダクネス。依頼のあった農家の畑はこの先なんだよね?」

 

「あぁ。もうじき見えてくるはずなんだが……あ」

 

「はい?……あ!」

 

森の茂みから出た私達の目の前に広がった光景。それは……巨大な熊と戦う人参たちの姿だった!!

 

なんなんこの世界ぇぇ?

 

森を抜けると開けた土地に畑が広がっていた。そこにいたのは討伐対象の一撃熊。黒い毛皮に巨大な体躯。そして飛び交う立派な人参たち。

 

「わしらの、わしらの野菜を守ってけろ~~!!」

 

守る? いや、勇敢に熊へと立ち向かってるんですが。

 

「任せろご老人!! 来い一撃熊ッ! 貴様の一撃など私にはきかんぞ……野菜を喰らいたくばまず私を倒してからにするんだな!!」

 

「グアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

だから、その守るべき野菜が一撃熊に立ち向かってるんでうちのパーティメンバーも攻撃を仕掛け辛いんですが。

 

 

というかさ。

 

 

あのさぁ……なんで野菜が生きて動いてるんだよ!! あぁ新鮮な生野菜ってそういうことね、って違うわ阿呆!!! 誰だこんな野菜作ったの!! 担当した神出てこいッ! 

 

 

私は自分が見たものが信じられず不満をぶちまける。だってさぁ、野菜が動いてるんだもの。なにこれぇぇ? そしてダクネスと一撃熊に体当たりをしている人参たちがそこにあった。えぇ?

 

「アルマちゃん。この世界の野菜は動くんだよ。そして食べられないように逃げたり反撃したりする」

 

「わぁ、料理人は修行内容に料理と格闘が必須項目なんですね、ってお馬鹿!」

 

なんという頭のおかしい野菜だ……。そして恐らくこれも身内の犯行な気がする。そんな気配がプンプンする。

 

……『命』の仕業か?

 

植物とは大地の恵み、土壌の栄養によって育つ。すなわち星の生み出すエネルギーの象徴、生命の塊だ。豊穣神の管轄かもしれんが、大元まで辿ればあのお馬鹿な姉貴に行き着くのだ。

 

もしやと思うがあの姉、食べるのに苦労しろ人間、という悪意あってのことではなかろうか?

 

確かに食べるという行為は命を頂くということであるが、そこに逃走と闘争を盛り込むところがあの脳筋らしいとも言える。

 

「まさしく命懸け、というやつですか」

 

「アルマちゃん、上手くないから」

 

そもそも私が知らないという時点であの姉の関与が疑われるのだ。あんにゃろ、さては隠してやがったな!?

 

「帰ったら一発ぶん殴る」

 

「怖いこと言わないでね!?」

 

ははは、心配するな娘よ。実行はこの調査が終わってからやるから。

 

あ、ダクネスを心配するのを忘れていたよ。大丈夫かなあの子?

 

一撃熊の前へと身体を拡げ、畑の前に仁王立ちするクルセイダー。ダクネスは文字通り、体を張って畑と野菜たちを守っていた。

 

 

おぉっ! なんという献身! なんという勇猛さか!

 

 

クルセイダー。それは神の加護を受けた聖騎士。その高い防御力からパーティーを、人々を守る盾である。その有り様を証明するかのように、彼女は一撃熊の重い攻撃を決して避けようともしない。全てその身で受け止め周りの被害を防いでいるッ!

 

「素晴らしいッ! なんという高潔さかッ!!!」

 

「いや、アルマちゃん? あの、ダクネスのアレはね……」

 

ダクネスの姿に感動するあまり、私は無防備にその場で立ち尽くしていた。その隙を一撃熊は目ざとく見つけ、襲いかかろうとダクネスから離れ、飛びかかってくる。

 

「貴様! こんないたいけな少女まで狙おうというのか!!」

 

しかし、ダクネスが許さない。彼女は尚も身体を巨大な熊へと向け私を庇い守ろうとする。

 

「どうした一撃熊よ!? お前の一撃とはその程度か!! もっと私にその暴力的な衝撃を与えてみせろ!! 私にはその程度の威力などモノ足らんぞ!?」

 

一撃熊の強力な攻撃。両腕(前足)から繰り出されるソレを何度もその身に浴びても怯まぬその姿は正に民を、人々を守る貴族にして騎士そのもの!! 人の子よ! 自ら苦難に立ち向かいし心強きものよ! 私は君のような者が大好きだ!! 素晴らしきかな人類!! 種族の弱さを鍛錬で埋め足掻く君達はなんと愛おしく可愛らしいのだろうか! 

 

 

あぁっ、人類に幸あれ。我が加護よ届きたまえ!

 

 

「おとう、アルマちゃん!? ゴメン、違うから!! ダクネスのアレはちょっと特殊というか性癖というか!」

 

 

娘が何やら騒いでいるが、そうだな。勇敢なクルセイダーの姿に感動するあまり少々浮かれていたようだ。すまないダクネス。君には後で回復魔法をかけよう。

 

うん? そういえば、なんで彼女は無事、なんだ? 一撃熊の攻撃力は上級職でもそこそこ苦しい威力のように見えるぞ?

 

ダクネスの身体に一撃熊の攻撃が深く突き刺さる。肉球で顔面を叩き、ローキックが足を払う。その攻撃はとても甘いものではなく……って、ロークキックだとぅッ!?

 

「待ってくださいダクネス!!」 

 

「! どうしたアルマ?」

 

待つも何も、ダクネスは受身で攻撃をする動きすらないが、それでもアルマは一撃熊とダクネスの間に割り込んだ。

 

「お、アルマちゃん! 危なッ!」

 

突如乱入してきたアルマに一撃熊が爪を振るう。それをアルマは、

 

「ふッ!」

 

片手で受け、相手の腕を滑るように身体を回して懐に潜り込む。そして腹へと裏拳を叩き込む。

 

「グアッ!?」

 

思いがけない威力に一撃熊がたたらを踏んでよろける。しかし、地に膝をつけることなく耐えきってみせた。

 

「熊よ、一撃熊よ。貴様、何が目的でここに来た?」

 

「グア! (無論、強さを求めるが故!)」

 

アルマの問いに一撃熊が答える。クマ語で。

 

構え合うアルマと一撃熊の対峙する二人に置いていかれ、畑の主と二人の冒険者は困惑する。

 

「いやいや! なんで一撃熊と会話してるの!?」

 

「会話できてるのか!? 本当かクリス!!」

 

「成程、あのお嬢ちゃんは一撃熊の拳に魂を感じたか!!」

 

「「おじいさん!?」」

 

突然キリッ! としだした畑の主のおじいさんがアルマの行動の意味を代弁する。そう、アルマは一撃熊の動きに感じ取ったのだ。

 

 

()性を!

 

 

「強さ、か。成程、一撃熊の個体としての強さを超えるために貴様は闘技を編み出し、経験値の詰まった食材を喰らおうと……その意気や良し!!!」

 

「グアァア!! (ぬかせい小娘!! うぬも我が覇道の礎となるがいい!!)」

 

一撃熊が構える。両手を合せ、これから倒す相手の死を弔うかのように。

 

アルマも構えた。右腕を前に突き出し、左腕は腰だめに添える。腰は落としていつでも飛び出せるように力を溜める。

 

彼女はモンスター、魔物が大嫌いだ。全て滅べばいいと考えている。しかし、動物は好きだ。人類の生きるために必要な存在であり適度な脅威となるからだ。人は、安全というぬるま湯に浸かりすぎると危険に鈍感になる。命を守るために戦う勇敢さを忘れてはならないのだ。

 

考え、身構え、鍛錬する。それは生きるために必要なこと。

 

それは知性を持つ生物が、『生きたい』という本能に呼び起こされての当然の行動。

 

『理』の神様によって与えられた理性という己を奮い立たせる柱。『強くなりたい』と考えたのなら、『どうすればいいか?』と探求する。

 

野生動物が、だ。

 

人類よりも知能で劣る、と言えば侮蔑かもしれない。それでも、それが事実の彼等が、彼がそれをなそうとしている。形にしようとしている。

 

 

こんなに嬉しいことはない!!!

 

 

この相手に剣など無粋。そうとでも言うかのように、アルマは『超神刀・豊穣丸』を投げ捨てた。それが大地へと落ちたとき、大きな音が地響きとなって鳴り響く。

 

 

ゴングは鳴った。

 

 

「ちょ、何これ? ねぇなんなの!!?」

 

「アルマの覇気はなんだ!? 一撃熊も何故当然のごとく武闘家のように立ち振舞っているんだ!?」

 

「これが強さを求める者たちの生き様よ!!!」

 

「「だからおじいさんはなんなの!?」」

 

 

「てーーーーーーいっ!」

 

「グァァァァァァア!!!」

 

 

少女と一撃熊の殴り合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えーっと、討伐は失敗、ということでよろしいですか?」

 

「はい、残念ながら」

 

ギルドに帰って来ました。ルナさんに仕事の報告をしています。

 

えぇ、そうです。先に述べたとおりです。

 

討伐、失敗しました! あの熊強かったですねッ!

 

弱体化したこの身ですが、殴られて『痛い』なんて感覚ずいぶんと久しぶりでしたよ。アレはいい相手でした。うん。

 

「一撃熊と殴り合う?……やはり庶子ではない、貴族? まさか他国の王族なんてことはないよな? ないよな!?」

 

「お父さん、お願いだから自重して……ッ! 実はハシャいじゃってるよね!!」

 

ん? どうした暗いよ二人とも。今日は良き日だというのに、もったいない。

 

あ、もったいないと言えば。

 

「ダクネスはパーティーに入らないんですか? それともクリスとコンビを?」

 

「あ、いや……私を入れてくれるパーティーを探して入るのだが、なかなか……」

 

なんということだ。この素晴らしい騎士がその能力を活かせず燻っているなどあんまりではないか。何をしているんだアクセルの冒険者たちよ。君たちの目は節穴なのかね?

 

そうだ。

 

「掲示板に『上級職の方のみ募集』というパーティーメンバー募集の張り紙がありましたよ」

 

「本当か!? ちょっと見てくる!」

 

あ、走っていった。君に幸あれ。応援しているぞ、素晴らしき守護者よ。

 

 

 

「それで、なんでお父さんは幼女になってるの?」

 

……チクショウ!

 

そうだよね、二人きりになったら聞くよね。

 

父と娘の家族会議が始まりました。

 

 

 

 

 

 

 

ある老夫婦とその息子が営む農家にて。

 

「腰が入っとらんぞ! 腰が!!」

 

「腕の力だけで鍬を降るんじゃない!」

 

広大な農場で鍬を振るう。そんな農家の働く場所に、やせ細ろえた老夫婦と、熊のように大きな息子。

 

そして、

 

「グア!」

 

オーバーホールを着て鍬を振るう大きなクマさんが働いていました。

 

 

 

「あ、ルナさん。ペット飼うんで申請書って要ります?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

本日の調査報告書。

 

この世界の野生動物はたくましいです。

 

ヤセイというか、ヤサイというか……うん。

 

 




『魂』 「パーティーが人間とは限らない!」

『物質』「『理』さんって頭いいのに感情優先なとこありますよね」

『命』 「あのクマの毛皮を剥いで我が着れば……」



『理』は男子特有の川原で殴り合うとか大好き。ただし魔物、テメーはダメだ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に衣服を!

キャベツは自然に自生しない。いいね?


「全部『魂』のが悪いんです」

 

あ、はい。納得しました。そっかー……あの御方の仕業ですか。

 

前回に引き続き、エリスです。クエストを終えた私達は冒険者ギルドで晩ご飯をとっています。

 

ダクネスがパーティーを募集してる人達とお話に行っている間にお父さんから事情聴取ということで。

 

そうしたら、お父さんの幼女化には『魂』様が関わっていると。あのアクア先輩を創った問題神筆頭な御方が……よく二人でお仕事をサボっているところをお父さんに見つかって、拳骨からの正座でお説教コースでしたね。

 

「それでなんでそんな姿に? しかも言葉遣いまで……」

 

「うーん、多分」

 

 

『!? この魔法陣ッ! よく見たら『送還』意外にも効果あるじゃねえか!? 『魔力減少』『身体能力激減』『幼児化』に……おいこら『女体化』ってなんだオイ!???』

 

 

「あの時の魔法の、『幼児化』が原因ですかね。肉体が幼くなるだけかと思っていたんですが、まさか私の精神にまで及んでいたとは……正直甘く見てました」

 

「『魂』様の魔法は直接相手の魂魄を書き換えますからね……」

 

恐ろしいことに、あの御方の魔法はそういう類のものなのです。新しい魂を生み出すことや死者を転生させる、あるいは『壊して』、純粋なエネルギーに昇華させたり好きなように作り替えたりします。

 

お父さんが『理』を書き換えて周りから整える力なら、『魂』様は魂を内側から書き換えて侵食する力。内と外からでは内側からの作用の方が効果は大きい。

 

「神としての格は同格ですからね。術の解読と解除に時間をかければすぐに元の姿と口調に戻せますよ」

 

「時間をかければって、どのくらい?」

 

「安心しなさい。たったの千年ほどですよ」

 

ゴンッ! という音がギルドに響く。クリスがテーブルに頭を打ちつけた音だ。

 

千年……千年ですか……。

 

父たちの感覚で言えば確かに千年なんてあっという間でしょうけど、私からすれば長すぎます!! お願いです『魂』様! 早く私のお父さんを返してください!!

 

これから千年、ロリなお父さんと過ごすことが半ば確定した瞬間だった。

 

「あぁ、なんだ。パーティーメンバーを募集していたのはカズマお兄ちゃんでしたか」

 

「あ、ダクネスが……お父さん、今なんて?」

 

お。お兄ちゃん?

 

「そうそう。カズマお兄ちゃんは日本からの転生者だから、あとでサポートをしてあげてくださいね」

 

待って、お願いだからこれ以上爆弾を増やさないで!

 

あれ? どこ行くんですか? え、帰る? お風呂入って寝る? お風呂って女湯ですよね!? ルールだから仕方がない? そうは見えませんよ!?

 

行かせませんよ! どうしてもここを通りたければ私を倒してから……グハァッ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルマです。

 

いつもの農家からおはようございますをお送りしています。最近、私はこの農家の娘になった気分です。いえ、孫でしょうか?

 

おじいちゃん、おばあちゃん、息子さん、ペットの熊と一緒に朝食を頂いて、その後に朝一番のお仕事を手伝ってからギルドに向かうのです。

 

「今更ですが、毎日朝ご飯を食べるだけでレベルアップしている生活に疑問がわきます」

 

「ご飯がおいしい証拠やよ」

 

おばあちゃん、貴方が神か。いえ、神は私でした。

 

それにしても昨日は散々でした。

 

お風呂です。お風呂に入るのに苦労したのです。

 

何故か鼻息の荒い娘に妨害されました。まったく、困った子です。女の子の私が女湯に入るのになんの問題があるのでしょうか? いいや、ない! ないったらないのです!!

 

なのに不潔だの助兵衛だのと名誉毀損もいいところです。女性の裸を見て鼻の下を伸ばすような子供だと思うなかれ。私は紳士です。今は幼女ですが。

 

それにしても、エリ…クリスの全裸を見て色々と驚きでしたが。いえね? 私は『娘』を創ったつもりだったのですが実は『息子』だったのかと錯覚しまして……それを言ったらぶっ飛ばされました。まさかのお父さん、敗北です。

 

私は成長したら絶対にバインバインになってやると言ったら泣かれました。ごめんなさい。お父さんは貴方のお母さんではないので女の子の悩みは分からないです。『理』の神様なのに不甲斐ないです。

 

お風呂のことはもう忘れましょう。今晩も行くけど。

 

さて、今日は収穫日です。畑で育てたお野菜を籠に詰めてアクセルの街まで出荷します。

 

そのお手伝いですが、残念ながら参加できるのは途中までです。

 

ペットの熊、熊というか一撃熊ですが、のペット登録の為に一度冒険者ギルドに向かわなければならないからです。書類手続きは昨日終わったのですが、首輪を受け取りに行かなければならないので。

 

「収穫するのはなんていう野菜ですか?」

 

畑に向かいながらおじいちゃんにそう尋ねます。畑仕事は主におじいちゃんがやっているので私はあまり関わりがないからです。

 

「キャベツじゃよ」

 

へー、キャベツかー。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キャベツが並ぶ大きな畑。

 

そこは、アサシンの狩場でした。

 

 

いや、いやいやいやいやいやっ!?

 

またですか農家の皆さん! 

 

ナイフを構えたおばあちゃんがキャベツの背後に回り込み、キャベツの芯に刃を突き刺す。その動きに微塵の隙もなく、また気配すらない。陽炎のごとく揺れる身体は目の錯覚か残像か。

 

あ、おじいちゃんは指でひと突きして仕留めています。秘孔でも点いたのですかね? 商品に傷をつけずに収穫する。なるほど、素晴らしい技術です。

 

なんて言ってる場合か。冒険者カードに暗殺者系のスキルが増えていくんですがおかしいですよね? この農家怖い。

 

私の職業は最弱職の冒険者です。ですが、冒険者には全ての見聞きしたスキルを習得出来る利点があります。本職に比べれば効果は落ちますが、です。

 

なのに農家の仕事ぶりを見てるだけで戦闘系スキルが増えていく謎……この世界はわからないことばかりです。だから、私、『理』の神様なんですがね……。

 

キャベツの収穫をお手伝いする前に、おばあちゃんからこう教わりました。

 

 

キャベツは強く、逃げるのが速い、と。

 

 

この世界の野菜が動くことは先日知りました。どうやらこの世界の野菜は意思があるらしく食べられたくないと逃げ出すという。それも当然です。誰だって『食べられたい』なんて思わない。

 

ですがこれは……。

 

 

おばあちゃんの教えその一。キャベツは畑から刈り取ったならば逃げ道を塞ぐべし。

 

……大地から解き放たれた瞬間に全力でジャンプするそうです。キャベツが。

 

おばあちゃんの教えその二。右手は添えるだけ。左手は突き刺すだけ。

 

……逃げたキャベツを片手で掴み、もう片方の手に持った刃物でキャベツの芯を刺して殺すのです。

 

おばあちゃんの教えその三。死んだフリには注意せよ。

 

……攻撃が甘ければ殺しきれません。倒したと思って放置したキャベツが逃げ出すこともあるそうです。確実に息の根を止めるべし。

 

おばあちゃんの教えその四。商品に傷をつけるべからず。

 

……売り物ですしね。キャベツの葉を傷つけないように芯を攻撃すべし。

 

 

以上、おばあちゃんからのキャベツ収穫レクチャーでした。

 

では、早速やってみましょう。

 

キャベツの球体部分を掴み、ナイフの刃を入れます。ザックリと音を出して芯が切断されると、

 

「!!」

 

キャベツの葉に目のような記号が浮かび上がり動き出しました。

 

「非常識な!!」

 

意思の宿ったキャベツが手の中で暴れ始めます。私の手の大きさを遥かに超える、それはもう立派に育ったキャベツは私の手には余るサイズで。

 

「あっ!」

 

慣れてないからか、それとも傷を付けないように慎重になりすぎて押さえつける力が弱かったのか……いえ、言い訳ですね。未熟な私ではキャベツの捕獲すら失敗してしまいます。

 

逃げたキャベツを追いかけようと立ち上がると、

 

「逃がしゃんよ」

 

「!!」

 

サクッ、という軽い音が聞こえたと思えば、気配なく回り込んでいたおばあちゃんが手にしたナイフを逃亡キャベツの芯へと突き刺していました。

 

「アルマちゃん。キャベツが逃げても、ばあちゃがみーんな殺ったるけぇ安心しな」

 

「は、はい」

 

こ、恐い……農家恐いよぅ……。

 

ちなみに、息子さんでもキャベツを逃さずに『収穫』出来ている模様。これができない農家は野菜の大量脱走を許してしまい、最悪冒険者やギルドに始末されて買い叩かれてしまうらしい。もちろん、それらの売上が農家に還元されることはない。何故なら、キャベツの大脱走は世界中で起きているので、報告したとしてもその頃にはどこの農家が逃がしたのかわからなくなってしまうからだ。

 

生活のためですもんね。そりゃぁお仕事にも殺気立つのも仕方ないですよ、ね?

 

「ククク、どこに行くんじゃ? 貴様はここで生まれ、ここで死ぬんじゃよ?」

 

「甘い、甘いのう。味もこれくらい甘くなってれば嬉しんじゃがねぇ」

 

「これも売上のためなんだ……恨まないでくれよ、なぁ?」

 

「グ、グアァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

 

が、頑張れ! 熊コダイーーーーンッ!

 

 

 

 

もうお昼前です。

 

私と一撃熊はアクセルの冒険者ギルドまで来ています。キャベツの収穫? 高速移動するおじいちゃんとおばあちゃんによって瞬く間に終わりましたよ。

 

さて、街の中にモンスターがいることについては問題ないです。えぇ、ないですとも!

 

何故ならこの子はちょっと大きいだけの熊ですから! 魔物じゃないでーす! 野生動物でーす!

 

 

無茶苦茶? ノー! 私が『(ルール)』だ!

 

 

「あるから! 無茶しかないからアルマちゃん!!!」

 

「おぉ! 愛息子よ!」

 

「娘です!!」

 

間違えました。えり、クリスは娘、女の子です。例えまな板でも、風呂屋の番台さんに女湯に入ろうとして止められたとしても、女の子ですとも!

 

一撃熊を引き連れて冒険者ギルドに入った私達を出迎えたのはクリスです。そうかそうか、そんなにお父さんに会いたかったのですね。

 

「街中にモンスターが出たって大騒ぎだったんだけど!?」

 

「そんな! 大剣かついだアルマちゃんがクマさんに跨って歩いていただけなのに!?」

 

「それが原因でしかない!」

 

どうやらアクセルの街を一撃熊と一緒に歩いていたのが問題だったようで。

 

むぅ、子供や老人たちは手を振ってくれたのに……。

 

よく見るとギルドに来ていた冒険者たちのほとんどが戸惑っているようです。武器に手をかける者、仲間の背に隠れるもの、机の下で念仏を唱える者。あ、『神様助けて』って頭に響いてきた。大丈夫ですよ、私はここにいます。

 

「で、アルマちゃんは何しに一撃熊なんてギルドに連れてきたの?」

 

「この子の首輪を受け取りに来たんですよ」

 

「グア!」

 

一撃熊を引き連れてギルドの受付に向かいます。窓口に並んでいた冒険者たちが慌てて逃げ出していますが気にしてもしょうがありません。むしろ順番を譲ってくれたと思いましょう。

 

「ルナさん。この子がペットの熊です」

 

「ほ、本当に一撃熊をティムしたんですね……」

 

ティム? 調教ですか? そんなことしてませんよ。ちょっと拳で語り合っただけです。

 

「それではこちらがギルド登録用の首輪になります。それで、名前はどうしますか?」

 

「この子の名前、ですか」

 

ふーむ、どうしましょう?

 

クリスを見る。『エリス』と名付けたあの子の名前。あの時はどうやって決めたのだったか。あれ? クリス? なんで涙目? 誰だ私の娘を泣かせたのは!? 

 

まぁそれは後にしよう。

 

うーん、クマさん……森で出会ったクマさん……よし、決めました!

 

「では、『ダックス』でお願いします」

 

「グアッ!」

 

「はい。それでは『ダックス』と首輪のプレートに刻みますので少々お待ちください」

 

待てと言われても手持ち無沙汰です。クエスト掲示板へ仕事を探しに行くか、クリスの元に様子を見に行くか……娘の心配をしてあげましょうか。

 

一撃熊改め、ダックスを連れてクリスのいるテーブルに向かいます。すると、そこにはダクネスと……あ。

 

「カズマお兄ちゃん!」

 

「アルマさ、ちゃん!?」

 

「「お兄ちゃんッ!?」」

 

クリスを含め、数人の女の子に囲まれた少年、カズマが慌てた様子でそこに居た。その手には何故か……女の子のパンツを握り締めて。

 

「………大丈夫、男の子ですものね」

 

「待ってください。その慈悲深い微笑みは心を抉られます」

 

なら握り締めたパンツをこちに向けないでくださいな。というか、誰のですかそのパンツ。

 

「私のです」

 

おや、初めまして。カズマお兄ちゃん、アクア、クリス、ダグネスの他に一人見知らぬ少女がいました。見た目は魔法使いのような格好ですが……。

 

「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!」

 

「…………(厨二病?)」

 

「(違いますお父さん。この子は紅魔族です)」

 

脳内でクリスとの会話。そうですか、この子が例の……厨二集団、紅魔族ですか!

 

紅魔族。生まれつき高い知能と魔力を持つ一族。その身体的特性から一族の殆どが高位の魔法使い職『アークウィザード』だ。そして、一族の全てがアレな病を患っていることでも有名である。かの一族についてはアクセルの街での聞き込み長さで知っていたが……まさか本当にこのような性格とは……。

 

ですが礼儀には礼儀を。挨拶には挨拶で返さなくては。

 

……えーと、こうでしょうか?

 

「我が名はアルマ! 一撃熊『ダックス』を引き連れた冒険者にして、『超神刀・豊穣丸』を携えし、全宇宙の頂点に立つ者……!」

 

すっかり自分のものとなった農家特製の大剣を構えて、マントを翻し、初級魔法で戦隊ヒーローのような爆発エフェクトを辺に響かせて名乗りを上げます。

 

実はこういうの、嫌いではありませんので。

 

「す、凄いです! 小さな身体に大きな武器、爆発による演出! 完璧ではないですか!!」

 

「ふふん、そうでしょう」

 

「「ええぇー?」」

 

なんですか? 古今東西、英雄(ヒーロー)というものは演出が大事なのですよ? 歴史を神々の都合良く動かすのに地上の人間をプロデュースするために色々と研究してるんです。主に、『魂』のがですが。

 

「ところで、なんでクリスが涙目でカズマお兄ちゃんがパンツを握り締めて?」

 

「いや、アルマちゃんこそなんでカズマをお兄ちゃんって呼んでるの? このロリニートに弱みでも握られたの?」

 

「ちょ、おま! ふざけんなよ?! 誰がロリニートだこの駄女神が!!」

 

アクアよ。説明しなきゃダメかな? そしてお兄ちゃん、ロリニートと呼ばれているのですか? ……ロリ? え?

 

「グアァ」

 

私がアクアのロリ発言に引いているとダックスが立ち上がり私を後ろへと隠します。動物の本能が何かを察したのでしょうが?

 

「おいアクア。お前のせいでアルマちゃんどころか、俺を見るこのギルド中の冒険者の目が冷たくなっているんだが?」

 

「自業自得よ、このロリマさんが!」

 

「ごめんなさいカズマ。私も少し身の危険を感じ始めたのですが」

 

「お前もかめぐみん!?」

 

めぐみんという紅魔族の少女も、言ってはなんだが幼い体型をしている。お兄ちゃんの守備範囲に入りそうなロリ具合なのだろうか。

 

「あのー。それで、結局パンツの真相は?」

 

ダックスの後ろからダクネスに訪ねます。彼女は高潔な騎士。この騒ぎでも取り乱すことなく落ち着いた様子を見せているので質問しても大丈夫でしょう。

 

「あぁ、実はカズマがクリスから習ったスティールでめぐみんのパンツを奪い取ったのだ」

 

「それは………」

 

成程。確かにそれは変態的行為です。女性の下着を奪い、返すことなく握り締め続けるとは……アレ? じゃぁうちの娘が涙目だったのはどゆこと?

 

「あたしも盗られました……」

 

クリスを見ると、私から目をそらしながらそう言う娘の姿があった。

 

「いや、不可抗力なんだって! 俺だってまさかパンツばっかりクリティカルヒットするなんて思っていないし!」

 

おい、『スティール』って相手とのレベル差、そして使用者の運の強さで奪えるアイテムが変わるっていうスキルだろう? なぜ女神であるお前が負けてるんだよ。それ程この少年の運の強さが高いといのか? それともまさか、お前も私同様に運の値が低いのか? 人間以下? 神が?

 

それはあんまりだろう……。

 

「お兄ちゃん、私にもスティールをかけてください」

 

「ちょっ、アルマちゃん!?」

 

「正気ですか!?」

 

クリスやめぐみんという被害者が声を上げる。私の言葉に信じられないと、周りの者たちも絶句し、ギルドに静寂が訪れた。

 

しかし、私は引けないのだ。

 

このパンツ泥棒という不名誉な視線に晒されている少年の為、そして私達神々の沽券のためにも!

 

私の運がそこまで悪いはずがない!!

 

ダックスの影から飛び出し、バッと両手を広げてカズマお兄ちゃんに身を晒す。かかってこい人の子よ!!

 

「さあ、どうぞ!」

 

「じゃ、じゃぁ……スティーーーーーール!!!」

 

カズマお兄ちゃんの突き出した右手が私に向けられ、スキルが発動する光に包まれる。

 

さぁ勝負だ!

 

 

……。

 

………。

 

…………。

 

……………あれ?

 

 

 

「カ、カズマ……あんた」

 

「わわわわわわざとじゃない! ホントだって、信じてくれ!!!」

 

「だだダックスネス! 早くアルマちゃんを隠して!!!」

 

「落ち着けクリス! 私と一撃熊の名前が混ざってるぞ!?」

 

「い、いいから早く何か着せるものを!!」

 

 

…………何これ?

 

先程までの静寂が嘘のように、ギルド内が喧騒に包まれる。主に、私の周囲がだ。

 

で、私はだ。

 

何故か、身体が涼しく、スースーとする。

 

何故か、目の前に手を伸ばしたカズマお兄ちゃんがいる。

 

何故か、カズマお兄ちゃんの手が私の頭の上に乗せられている。

 

何故か、私の後ろからガラン、と何かが落ちたような音がする。

 

 

何故か、私は全裸である。

 

 

「な、なんという鬼畜の所業!! 幼女を全裸にひん剥いて奪い取るとは!! やはり私の目に狂いはなかったぁッ!!!」

 

ダクネスが見たままの光景を口にして叫ぶ。そうです、私は全裸です。

 

「な、な、な、みぎゃぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

「グアァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

すぐにダックスに抱きつく私。彼は私を抱きとめるとそのまま床に散らばった衣服や大剣を回収してギルドから転がるようにして走り出す。

 

「ま、待っておとッ、アルマちゃー―ん!!」

 

娘よ、追ってくれるな。父は、父は、アイテム扱いされる程運がないんだ!!!

 

「人間なんて、人間なんて………大好きだよバッキャローーーーーー!!!!」

 

 

次やったら来世は魔物に転生させてやる!!!! 覚えとけ!! だから許す!! 許してやんよぉおおおお!

 

 

ちくしょうぉ。

 

 

『緊急クエスト! 緊急クエスト! 街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!! ……繰り返します』

 

 

え、なんの放送?

 

 

 




『魂』 「エターナルロリータァァッ!!」

『物質』「説明しよう! 『エターナルロリータ』とは、対象がなんであろうと幼女にしてしまう魔法なのだ!!」

『命』 「何故『エターナルショタコーン』を開発しなかったのだ!!!! そうすれば弟にあんなことやこんなことを出来たのに!!!」

『魂』『物質』「「こいつはやべえ」」


ちなみに。

『魂』…少女。『物質』…女子高生。『命』…(人化)くたびれたOL。

『理』…青年、だったのになぁ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に注意を!

ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィってかわいいよね。FGOやってみたい。


調子に乗っていました。

 

この身がくそったれな同僚による弱体化の弊害に見舞われているということを完全に忘れていました。

 

運です。全てこの身の不幸がいけないのです。思えばエリスだって天界から下界に降りてくるのに神力を封印していないわけないのです。

 

というか、そもそも、エリスは『幸運』の女神じゃないですか!!

 

運で人間に負けるはずはないでしょうが!! なぜ気付かなかった私!?

 

「ハッ!? ならあの敗北はクリスの趣味!?」

 

「人を露出狂みたいに言わないでくれません!?」

 

おや、クリス。

 

「そもそも今は露出狂なのお父さんの方でしょ………早く服を着てください」

 

「グアァァ」

 

ダックスまでそんな声出して。

 

あぁ、そういえば。

 

私、全裸でした。

 

 

 

全裸の私を隠すように、ダックスがその巨体で包み隠します。さながら、子猫を抱きしめる親猫のように。

 

まぁ、一撃熊なんですが。

 

「いや、大蛇に捕食されそうになってるみたいだから!」

 

「いや、これがなかなか……ソファーに埋もれてるというか、これが着る毛布というか……落ち着きますわー」

 

アクセルの街中で。全裸の女の子が腰を下ろした一撃熊に抱きしめられているという通報がギルドに届くのはまた別のお話で。

 

「それにしてもクリス。あのカズマという少年は面白いですね。仮とはいえ、神に勝つなんて」

 

運勝負で、だ。しかも自分だけでなく『幸運』の女神であるエリスにまで。

 

だから人間は素晴らしい。

 

彼らは魔物よりも弱く、悪魔に魅入られ、同族同士で殺し合う愚かな種族だ。

 

だが、それは逞しいとも言える。

 

どんなに魔物に蹂躙されても、悪魔に唆されても、国家間戦争を繰り返しても、人間は滅んでいないのだから。

 

もちろん人間が滅びないように神々()も介入した。それでも、彼らは諦めない、自分たちの力で前を向いて歩いている。それが嬉しくも好ましい。

 

 

神をも上回る幸運。ひょっとしたら、あの少年こそが人類を導く勇者となるのかもしれない。

 

 

「……育ててみたいなぁ」

 

「止めてください! それに全裸にひん剥かれたでしょ!? いいんですか!!」

 

「いや、別に私の裸くらい見られたってどうでも……というか、何を恥ずかしがることがあるのです? この私の身体に隠すようなところなど一片もありませんが…?」

 

「な、なんていう自信……いえ、それでもいい加減服を着てくださいホント」

 

残念です。ああいう素晴らしい原石を磨くのが楽しいのに。まぁ、宝石というのは鑑賞してなんぼということでしょう。それに、天界規定でも神が下界の者に過剰な干渉をしてはならないと定めたのは私です。ここは我慢しましょう。

 

ダックスが私の身体を覆うようにして立ち上がる。その陰に隠れて衣服を着ます。

 

「そういえば、先程の放送はなんですか? 緊急クエストと、緊迫した様子でしたが」

 

「あぁ、あれはキャベツの収穫を知らせるものだよ。街に向かって飛んで来てるからね」

 

「なんですと?」

 

キャベツ? まさかどこかの農家が収穫に失敗したのでしょうか? 

 

「むぅ、未熟な農家もいるものですね」

 

「グアッ!」

 

「いや君たち……すっかり農民に染まっちゃって……」

 

育てた作物を収穫できない農民など農家にあらず。今朝おばあちゃんにそう教わったからこそなのですが。クリスもまだまだですね。

 

「では先程の放送は?」

 

「うん、キャベツの集団がアクセルの街に向かって飛んで来てるから、冒険者に収穫のクエストが出てるの。ほら、街の中に入ってきて民家とかにぶつかると危ないしね」

 

成程、確かにあの元気すぎるキャベツならありえますね。

 

「よろしい。ならば殲滅です」

 

「ダメです。アルマちゃんはクエストに参加してはいけません」

 

えー?

 

「いい? キャベツの収穫は駆け出し冒険者にとって大事な収入なの。それにギルドが買い取って食堂にも並ぶから食べてレベルアップにもなるから皆美味しいWin Winなんだよ。だけどアルマちゃんが参加したら根こそぎ収穫しちゃうかもでしょ? それじゃぁ他の駆け出し冒険者が稼げないからダメ」 

 

「いや、私だって駆け出し冒険者なんですが……」

 

「なら、キャベツの大群をアルマちゃんならどうするの?」

 

「魔法をバンバン撃って丸焼きです」

 

「はいアウト」

 

「ぐう」

 

馬鹿、な……。

 

というわけで。アルマちゃん、クエスト参加不可、です。着替え終わったのにー。

 

あとエリス。貴方は『エリス』と『クリス』を使い分けるのはいいのですが、お父さんを子供扱いするのはちょっと悔しいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そういことで、アクセルの街をぐるっと囲む城壁の上で冒険者とキャベツの戦いを観戦しています。

 

いますが、

 

「スティール!」

 

おぉ。

 

「倒れたものを見捨てるなど……できる、ものかぁッ♥」

 

え?

 

「花鳥風月~」

 

おい。

 

なんでしょう。この混沌とした光景は。

 

迫り来るキャベツの軍勢に対抗するために集結した冒険者達。突進するキャベツは力強く彼らを吹き飛ばしていく。戦士の剣を掻い潜り、魔法使いの魔法は弾かれる。

 

え? キャベツ強すぎない? 冒険者が弱いの? それとも農家が強すぎるの?

 

「あ~、今年のキャベツは出来がいいね~」

 

そういう問題か。

 

隣で一緒に観戦しているクリスが当たり前のように言った。なんなんだろうこの順応力。エリス、すっかりこの世界に染まっちゃってお父さん嬉しいような悲しいような。

 

「エクスプローーーーーージョン!!!」

 

あ。

 

あの紅魔族の娘、確かめぐみんといったでしょうか。彼女が放った爆裂魔法がキャベツをまとめて吹き飛ばしました。何人か冒険者が巻き込まれていたような気もしましたが大丈夫でしょうか?

 

「凄まじいですね……さすが紅魔族」

 

あの年齢で爆裂魔法を扱えるとは……紅魔族は優秀なアークウィザードを多く輩出すると言われていますがまさしく彼女がそうなのでしょう。

 

「神をも超える幸運の持ち主のカズマお兄ちゃん、優秀なアークウィザードとクルセイダーにアークプリースト……これはもしかするとかなり素晴らしいパーティーが誕生したのかもしれませんね」

 

「え?」

 

なんとバランスのいい編成か。攻撃力、回復魔法、そして防御力。更にパーティーを勝利に導く幸運。この力を結集させれば魔王討伐も夢ではないでしょう。

 

「あの、アルマちゃん……ひょっとしてとんでもない勘違いしてない?」

 

クリスは何を言っているのでしょう? 騎士の鑑と言えるダクネスに高位の魔法を操るめぐみん。女神として力は封印されてはいるものの、優秀な能力を持ったアークプリーストであるアクア。このメンバーに囲まれた幸運持ちのカズマお兄ちゃん。

 

これの何が不安だと?

 

「確かにあのメンバーは肩書きだけ見たら優秀だよ? その、ダクネスはあんな性癖だけど壁としては最硬だし、めぐみんは最狂の爆烈っ娘だし、アクア先輩にそっくりなあの娘も変な事をしなければ普通に優秀だし……新人くんは言わずもがなだけど…」

 

うん? クリスは何をブツブツと……て、え? アクア先輩にそっくりとは?

 

「く、いえエリス。あそこにいる青い髪のアークプリーストはアクアという名前でしたよね?」

 

「え? うん。アクア先輩にそっくりでビックリだよね」

 

…………そうですか。

 

「エリスもまだまだ、人を見る目がないですね」

 

「……お父さんにだけは言われたくないです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「納得いかない」

 

「何がよカズマ?」

 

俺はギルドの食堂でキャベツ炒めを食べてて思った。

 

なんでただ炒めただけのキャベツがこんなに美味いんだよ。しかも食べてるだけでレベルが上がったし。

 

俺達はキャベツの収穫が終わるとギルドに戻ってその収穫物を食べていた。

 

そう、俺たちである。

 

テーブルで俺と一緒に食卓を囲むのは三人。

 

あらゆる回復魔法を操る駄女神なアークプリーストのアクア。

 

一日一発の爆裂魔法しか使えないアークウィザードのめぐみん。

 

攻撃が一切当たらない鉄壁のドMクルセイダーのダクネス。

 

このメンバー、一見完璧そうに見えて嫌な予感しか全くしない。どうしてこうなった。

 

「ところで新人くん。君、なんでアルマちゃんにお兄ちゃんなんて呼ばれてるの?」

 

と、何時の間にか盗賊のクリスがニコニコとした笑顔で側の椅子に座っていた。

 

アレ? なんだか目が笑ってなくないか? 

 

「そうだ、私もそれが聞きたかったのだ。カズマよ、お前はあの少女とどういう関係なのだ??」

 

「ですね。私もそれは気になってました」

 

「そうよこのロリニート! あんたアルマちゃんになにしたのよ!!」

 

おいおい、なにこの四面楚歌。女の子四人に囲まれて質問攻めとか、これがハーレム主人公というやつか? 

 

なんて言ったら思いっきり睨まれた。俺のハーレムにデレは存在しないらしい。解せぬ。

 

「別に? ただアルマちゃんに俺の妹になってくださいってお願いしただけだぞ?」

 

「な!?」

 

「うわー……ドン引きだわこのロリニート」

 

「ここまで末期だったとは。アルマが可哀想です」

 

「あんないたいけな幼女になんて鬼畜なッ! 私も、いや、待て待て!?」

 

周りになんと言われようと俺のアルマ様に対する信仰は揺らぎはしないのだ。あんな可愛らしい御方に『お兄ちゃん♥』と呼ばれる幸せがお前らには解るまい!!

 

「なぁカズマ、それと他のみんなも聞いてくれ……」

 

「? なんですかダクネス。改まって」

 

ダクネスの奴が真面目な顔をしている。それだけで俺は驚きだが続く言葉にもっと驚いた。

 

「アルマは……貴族かもしれない」

 

「「はぁ?」」

 

「「ブッーーーーーー!?」」

 

アクアとめぐみんは首をかしげたが俺は驚きのあまり飲んでたシュワシュワを吹き出した。アレ? なんでクリスまで?

 

「金髪碧眼、それと高い魔力と身体能力……それはこの世界では貴族の証明と言われてるのは知っているな?」

 

「え、そうなの?」

 

「知らないであんな態度をとっていたのか……いや、知らなかったからこそか」

 

いやいや、確かに俺はそんな常識知らなかったが。俺はアルマ様が女神様だから慕ってるんで、貴族相手に無礼を働く気は……アレ? もしかして俺って神様相手にすっげー無礼働いてなくね?

 

……やっべー。可愛すぎるロリっ子に夢中すぎて、つい勢いで妹になってくださいなんてお願いしちゃったけど……天罰とか当たんないよな? よね?

 

「まだ調査中で確証はないが、頼むからくれぐれもアルマに変なことはしないでくれ……」

 

「あ、はい」

 

違う意味でできなくなりましたとは言えない……。

 

 

 

 

 

ちなみにその頃のアルマちゃん。

 

「マンティコア~っとグリフォン~ってどーんーな風に死っぬっのっかっなー♪」

 

「グーアッグァッ!」

 

鼻歌を交えながら、ダックスに跨り生態調査の為に討伐クエストへと向かっていました。

 

逃げて。

 

 

 

 

 

 

 

 

その夜。

 

すっかり寝床となった馬小屋に戻った俺はアクアと一緒に藁の上に寝転がった。

 

「おやすみー」

 

「おう」

 

そこで俺はふと、気になったことを思い出した。

 

隣に寝るアクアを見る。女神だ。いえ、決して容姿に見惚れての発言とかじゃなく、事実として。

 

で、アルマ様を思い出す。女神だ。もう神々しさとか容姿から見ても。

 

アクアには内緒って言われたけど、ダクネスとかが勘違いしてるのは知ってるのだろうか? あの人、貴族じゃなくて神様ですよ?

 

「なぁアクア」

 

「なにー? カズマさんトイレ? 暗くて怖いならついて行ってあげましょうか?」

 

「ちゃうわ。お前ってさ、地球担当の女神で確か後輩もいるって言ってたよな?」

 

確かにそう言っていた。こんなのが地球担当とか不安でしかないが周りが優秀ならば安心だろう。

 

なので、俺はさりげなーくアクアの仕事仲間のことを聞き出そうと思う。

 

だからこれは別に、決して、アルマ様のことをアクアにチクることではない。断じてない。

 

「お前の上司ってどんな人?」

 

「上司ー? うーん、天界のことを下界の者にペラペラ喋っちゃいけないから私が言ったって言いふらさないでくれるなら教えてあげなくもないけど?」

 

「誰にも話さないと神に誓います」

 

「うわっ、気持ち悪いわね。どうしたのカズマ? 何か変なものでも食べた?」

 

うっせ。いいから話さんかい。

 

「私は魂の転生を担当してたから直属の上司は『魂』のアルマ様。ついでに言うと、私を創ってくださった御方でもあるわ!」

 

は? 今なんて? アルマ、様?

 

「あー、そういえばアルマちゃんと偶然にも同じ名前ね。でも、私の上司のアルマ様は四人いるの」

 

四人!? アルマ様が四人?!

 

「『魂』のアルマ様。『命』のアルマ様。『物質』のアルマ様。『理』のアルマ様の四柱の創造神様。なんで同じ名前かというと、実は四人の内一人から他の三人が別れたという説と、一人の創造神アルマ様が四つ存在に別れたという説があって天界の女神たちも知らないの。解ってるのは、四人でアルマ様ってこと」

 

ま、マジか……つまり、あんな可愛らしい神様が四人もいるのか!?

 

「『魂』様は私と一緒によくお仕事サボって遊んだわねー。『命』様は魔物から魔神様なんて崇められてるし、『物質』様は考え事しながら星にメモ書きしててそれが地上絵だーって騒がれちゃって」

 

おい、なんかヤバイ神様ばっかりじゃないか? 明らかに聞いちゃいけないことを聞いた気がするぞ? そもそも、仕事サボるなよ最高神。アクアが真似しちゃってるでしょうが!!

 

 

「あれ? じゃぁ『理』様は?」

 

 

俺が聞きたかった本命、アルマちゃんの話が出てないことで気になったんだけど……その瞬間、アクアから表情が消えた。

 

「カズマ、カズマさん。『理』様は……ヤバイわ。絶対に怒らせちゃいけないし、逆らっちゃいけない御方よ……」

 

はぁ?

 

「あの御方は人類大好き、それ以外は滅べが信条。悪魔が人間を脅かせば魔界に乗り込んで全滅。もしくは蹂躙。あるいは根絶。職務に忠実でルールを破った者は即厳罰」

 

あ。つまりお前は罰を喰らいまくったと。

 

なんて言ってる場合じゃねぇ。あの可愛らしい外見に反してかなりのクレイジーゴッドじゃねぇ!? アルマちゃんってそんな恐ろしい神様だったの!?

 

「人類が滅んだ宇宙なんて維持するのも無駄、なんて言って消滅された宇宙も幾つかあるわ」

 

うわぁ……うわぁ……うーわーッ!!

 

「いいことカズマ? もしも『理』のアルマ様に出会ったとしても絶ッ対に怒らせちゃダメよ!? でないとこんな星なんて片手でプチッとされちゃうんだからね!!」

 

拝啓、地球のお母様。

 

俺は盛大にやらかしたかもしれません。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日の報告書。

 

もう、農家が世界を救えばいいんじゃないかな?

 

あと、グリフォンとマンティコアは普通に強かったです。驚異レベルは中の上。駆け出し冒険者だけでは明らかに勝てません。

 

なので、アクセル周辺から全滅させておきました。

 

これで人々の恐怖も薄れるでしょう。

 

 

追伸。

 

凶悪なモンスターが減ることで懸念される生態系の崩れを解決するため、ダックスを定期的に山に放り込むことにしました。彼がこの先、アクセルの守護神となるまで徹底的に鍛えてやろうと思います。




『魂』 「もしかして、『理』のの幸運が低いのって娘に全振りしちゃったからじゃないのけ?」

『物質』「あー、かもしれませんね。あれ? じゃぁアクアは?」

『魂』 「ワシはほら、楽しければなんでもいい」

『物質』「親子だー。……そういえば『命』、は?」

『魂』 「さっき鼻血垂らしながらカメラ探しに行った」

『物質』「あ(察し」


四人には○○○・アルマという個人名もあります。四人以外は誰も知りません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に農民の力を! part2

休日出勤とか、残業とか、休みの日に雨とか……。


「おつかいですか?」

 

「お願いできるかねぇ?」

 

アルマです。

 

朝食を食べ、ダックスや息子さんと仕事前の準備体操を終えた頃に、農家のおばあちゃんからおつかいを頼まれました。

 

なんでも、先日収穫したキャベツで売れ残った、もしくは形が規格外のB級品を余所の農家にお裾分け、という物々交換に行くそうな。

 

「それを私がですか。構いませんけど……」

 

私が行ってもいいのでしょうか? ご近所付き合いもあるでしょうし、息子さんが行った方がいいのでは?

 

「ええんよ、アルマちゃんもうちん子やよ。それに、息子が挨拶に行くには……もうちょっと鍛え直してからやね」

 

「ヒィッ!?」

 

「グアぁ!?」

 

おばあちゃんが呟いた言葉に熊のように大きな息子と熊より大きな一撃熊が抱き合って怯えています。ナニガアッタノ?

 

という訳で。

 

本日はおつかいです。

 

 

 

 

 

 

 

キャベツが沢山入った籠を三つ乗せてた荷台をダックスに引かせ、私はおつかい先の酪農家のお宅へ向かっています。牛、鶏、豚をそれぞれ専門に扱う農場で、所在地はどれもアクセルの街の外、大農家らしいです。

 

ご近所、というからには近い場所にあると思っていましたが、農家の『近所』はとてもあてになりません。ダックスと荷車を引き始めて一時間は経過した頃にようやく、目的地に到着です。

 

「牛の鳴き声……ここが乳牛牧場ですね」

 

おばあちゃんに渡された地図通り、そこには沢山に牛が柵の中で放牧されていました。荷台から降りてキャベツの入った籠を掴み中へと入っていきます。

 

「すいませーん。お届けものでーす。どなたかいらっしゃりませんかー?」

 

広い牧場です。目に入るのは大きな牛ばかり。なので歩きながら声を上げて挨拶をします。

 

すると、牧場の中に建てられた家のような、作業場のような建物から一人の男性が出てきました。

 

「来たか。話は聞いている。入ってくれ……」

 

「あ、こんにち……は…」

 

出てきたのはとても背の高い男性。筋骨隆々としたその鍛え上げられた肉体は今にも衣服をはちきらんばかりで、そしてなぜか肩パッドをしていました。

 

「は、初めまして! アルマです!」

 

「あぁ、ケンだ。この牧場で妻と子供たちと牛乳、チーズ、肉を作っている」

 

妻子持ちデスト。

 

ケンさんは息子さんと同い年と聞いています。成程、確かに結婚して子供が居てもおかしくないでしょう。いや、ですけど、ですけど……。

 

「あの、これ、うちで採れたキャベツです」

 

「あぁ……いいキャベツだ。ウチの者たちも喜ぶ」

 

渡した籠からキャベツをひと玉掴みあげて、ケンさんはニコリと微笑みます。

 

「待っていろ。今ウチのを持ってこよう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

キャベツの入った籠を持ち上げると、ケンさんは牧場へと歩いていきました。私はその場に残された形になりましたが、ここで牛たちを眺めてのんびりするのもいでしょう。

 

ですが、

 

「なぁ、お前どこの子だ?」

 

寄ってくる子供はいるもので。

 

「初めまして、アルマです」

 

「俺はこの牧場の息子のバットだ!」

 

「ランです。お兄ちゃんがすみません」

 

私と同じ年くらいの男の子と女の子が話しかけてきました。どうやらこの牧場の子供たちらしく、お兄ちゃんがバット君。妹ちゃんがランちゃんらしいです。

 

「私はキャベツと羊を育てている農家さんの家で厄介になっている者です。今日はキャベツを届けに来ました」

 

「へー、いつも上手いキャベツをくれるとこの子か。ならウチで作ったモンも持ってけよ! 上手いからさ」

 

「はい。今貴方たちのお父さんが取りに行ってくれているところなんです」

 

「もう、お父さんったらお客さんにお茶も出さないでこんなところに立たせてるなんて……待ってて、今お母さんに言ってくる!」

 

「ありがとうございます。お構いなく」

 

私の話を聞くと、ランちゃんがサッと走り出していきます。

 

……うーん、出来た子です。あれ? おかしいな……あの純粋さが眩しい。

 

「なぁお前、その格好ひょっとして冒険者か? なんかでっかい剣も持ってるみたいだし」

 

と、私の装備や荷台に置いてある『超神刀・豊穣丸』を指さしてバット君がそう尋ねてきます。私は素直にそうですと答えました。

 

「スッゲーなぁ! お前にもできんなら俺も冒険者になってみてぇ!!」

 

あ、駄目だ。直視できない。この子の真っ直ぐな目に見つめられるともの凄く申し訳ない気分になります。違うんです。私、真っ当な冒険者じゃないんです。私を見て憧れるとか気まずいので止めてください。

 

しかしふと、疑問に思うことがります。

 

この子やランちゃんもそうですが、ダックスこと一撃熊を見ても誰も驚かないところです。

 

そう言えば、お世話になっている農家のおじいちゃん、おばあちゃん、息子さん、それとこの子のお父さんも特に何も言わなかったのですが……まさか農家にとって一撃熊なんて犬猫と同程度の扱いなんでしょうか?

 

「あの、バット君。私のダックスなんですが……怖くないですか?」

 

「ん? 一撃熊? 捌いたら肉多いし、胆とか薬にもなるし高く売れるよな!」

 

「グアッ?!」

 

オゥゥ……成程、そういう……流石農家の子供。猛獣イコール食材兼素材と。あ、ダックス。大丈夫だから逃げない逃げない。

 

最近ダックスは人間の言葉を理解できるようになってきました。元々賢い子でしたが、私と一緒にいるようになって飛躍的に知能が向上しているようで、その内本でも渡せば文字も理解できるようになることでしょう。

 

なので、『旨そう』、『売れそう』という言葉に大層怖がるようになっちゃいました。この子は悪くない、うん。

 

「待たせたな」

 

「あ、父ちゃん!」

 

バット君と話している内に、ケンさんが大きな包を幾つか抱き上げて持ってきてくださいました。それはチーズの塊と牛乳の入ったビン、それとお肉の大きな塊です。

 

「こんなに……ありがとうございます!」

 

「気にするな。師父にはいつもお世話になっている」

 

……ん? 師父? 誰?

 

食品を荷台に乗せてくれながらケンさんがそう言います。誰のことかなー?

 

「あれ? 父ちゃん、それ昨日仕留めたミノの肉だよな? もう捌いたの?」

 

「あぁ、早く食えるようにして良かった」

 

ミノ? ミノ……みのたうろす?

 

「あの、これ、まさか……?」

 

「気にすんなって。牛農家じゃよくあることだから」

 

「よくあるんですか!? そしてやっぱりこの肉ミノタウロス!? 仕留めたんですか!?」

 

「父ちゃんにかかればミノなんて指先一つでダウンさ!」

 

「ユアーショック!?」

 

あ、言っちゃった。

 

「ミノタウロスは牛の化物だ。故に、牛を育てて食す酪農家から解放しようとするミノタウロスの襲撃は珍しくない」

 

「だから自衛の為に俺達の父ちゃんは鍛えてるのさ! 余所じゃ冒険者に依頼して警護してもらったりするけど、ウチにそんな余裕はないし」

 

「……ですね! ケンさんってとっても強いです!」

 

私は深く考えることをやめました。

 

 

 

 

 

 

「あーあ、行っちゃった。お母さん、ダメ、遅かったみたい」

 

「まぁ」

 

一撃熊が引く荷台に乗って、アルマちゃんがお隣の鶏卵農場へと去っていきます。

 

お母さんにお茶とお菓子を用意して貰っていたらお父さんとお兄ちゃんがアルマちゃんに品物を渡し終わっていました。そしてさっさと見送ってしまったのです。

 

「お父さんもお兄ちゃんも、ホント我が家の男連中はダメね」

 

「お兄ちゃんなんてアルマちゃん見て顔を赤くしっぱなしだしね」

 

「な、なんだよそれ!」

 

「ほぉ。だがなバット。アルマは強いぞ。お前よりも遥かにな」

 

「えぇ!?」

 

お父さんの言葉にお兄ちゃんが驚きます。あたしだって驚きですが、お父さんが言うのならそうなのでしょう。

 

お兄ちゃんは家の仕事が辛いときによく、冒険者になりたいと呟いていますが、その冒険者だって家の仕事よりも辛いことの方が多いはずです。両方こなすアルマちゃんの方が立派なのだとアタシも思います。

 

「それにあのアルマという少女……スキがなかった。本当に、強い」

 

お父さんの最後の言葉はよく聞き取れなかったけど。

 

とにかく、お兄ちゃんは毎日真面目に仕事をしてればいいと思います。

 

お父さんを見習って、まずは牧場の草刈を素手で!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが鶏卵農場ですか」

 

「よく来たね」

 

うわっ!? 早いッ!

 

目的地に到着するとすぐに農場主の方が出迎えてくれました。この人、出来る!

 

お兄さん? いえ、すでにおじさんの年頃に見受けられるその方は凄くやせ細った人でした。髪も白く、病弱な印象を受けます。

 

「あの、失礼ですがお体の具合が宜しくないのでは?」

 

「気にしないでくれ。持病なんだ」

 

持病。つまり普段から体調が宜しくないと。それはお辛いことです。

 

「でしたら私に構わないでお休みになっていてください。指示をいただければ……」

 

「ふっ、ありがとう。だが大丈夫。ただの鳥アレルギーさ」

 

「ここ鶏卵農場ですよね!?」

 

致命的に職種を間違えているとしか思えないのですが。あぁ、よく見たら目や鼻、喉の辺りが少し腫れています。かなりキツそうです。本当に、何故にこの人はこの仕事についているのでしょう?

 

「うむ、いいキャベツだ。待っていてくれ。ウチの卵を持ってくるよ」

 

「ありがとうございます。いえ、私もお手伝いします。というか手伝わせてください、お願いします」

 

「ありがとう。なら、お言葉に甘えさせてもらおうか」

 

キャベツの籠は私が持ち、おじさんの後を歩いていきます。大きな鶏舎の横に倉庫があり、そこへキャベツを置き、代わりに卵のたくさん入った包をいただきました。

 

「そうだ、これも持っていくといい」

 

「これは……お肉ですか?」

 

おじさんが渡してくれたのは、これまた大きな鳥肉の塊でした。

 

え? 大きすぎません? こんなに大きな鶏がいるのでしょうか?

 

「これはコカトリスの肉だ」

 

「コカッ?!」

 

モンスターですよね? モ・ン・ス・タ・ーですよね!!!

 

「今朝、鶏舎に侵入しようとしているのを見つけてね」

 

ニコリ、と微笑んでそう話すおじさんの言葉は多くを語らなくとも十二分に意味が伝わりました。

 

そうですかー。コカトリスも倒せちゃうんですかー。

 

コカトリスは鶏と蛇が合体したようなモンスターで、体内に毒を持ち、バジリスクのような見ただけで相手を石化させる能力を持っています。それをどうやって? なんて考えたら負けです。何に?

 

「大丈夫、毒は抜いてある」

 

「そうですか。それは安心ですね」

 

またも考えることを止めた私は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「養豚場ですね。間違ってないですよね? ここで間違ってないんですよね!?」

 

最後の目的地は家畜豚を飼育している養豚場です。

 

ですが、さて何から指摘すればよいのやら。

 

まず、入口が物々しい石造りの頑強な門で出来ており、見張りの男たちが二人立っています。

 

どちらもモヒカンで肩パットをしてます。だから何故肩パット? 荒くれファッション?

 

「止まれーい! ここは豚王(とんおう)様の居城! 何用か!?」

 

「キャベツのお届けものでーす」

 

「なにぃ!? 良し、入れ!!」

 

「ありがとうございまーす」

 

うん、深く考えるな。考えちゃダメだ!!!

 

門を通されるとダックスに荷車を引かせて進みます。すると、そこは荒廃した世界。建物は崩れかけ、空気は汚染され、人々は狂気と暴力に支配されていました。

 

……なんてことはなく。

 

普通に清潔な農場でした。なんですかこれ。

 

放牧される豚たち。それをたくさんの従業員が世話をしています。

 

しかしモヒカンに肩パット。

 

「ヒャーハーッ! 汚物は消毒だーーっ!!」

 

泥まみれになって遊んでいた豚を水で綺麗に洗っている従業員がいます。

 

しかしモヒカンに肩パット。

 

「家畜の分際でおれの身体にさわりやがったなぁ~~!?」

 

子豚たちを可愛がっている従業員がいます。

 

しかしモヒカンに肩パット。

 

ここの制服なんですかね? モヒカンに肩パット。

 

モヒカンに肩パットの従業員に案内されてここの農場主の、えーと、豚王様の元に向かいました。そこはとても大きな建物で、まるでお城のようでした。

 

「よくぞ我が居城に参られた」

 

あ、やっぱりお城だったのですか。

 

豚王様はとても大きな人でした。人? 人でいいんですよね?

 

身体は二メートルを越え、鍛え上げられた筋肉はまさに鋼鉄の肉体を形作っています。その身体を更に鎧で纏い守りを固め、被った兜は対するものに威圧感を与える迫力があります。そんなお人が巨大な椅子に腰掛け、周りに武装したモヒカン達を従えているのです。

 

あの、貴方はどこの魔王ですか? いえ、豚王様でしたね。

 

「初めましてアルマです。この子はペットのダックスです」

 

「グァッ!」

 

「ほう……一撃熊を従えるか。気に入った、娘! 余の女になれ!!」

 

「ごめんなさい。あとこれ、キャベツです。どうぞお受け取りください」

 

「うむ……ほう見事。皆の者! 戦の前に腹ごしらえだ!! 食らいつけぃ!!」

 

「「「ハッ!!!!」」」

 

は?

 

手渡したキャベツを一目見ると、豚王様はそれを従業員に配ります。すると、彼らはワイルドにかぶりつきました。一人につきキャベツひと玉丸かじりです。

 

「あの、戦とは?」

 

「うむ、オークの軍勢が迫ってきておる」

 

「オーク?! 軍勢!?」

 

なにそれ恐い。何が恐いってこの空気がです。

 

この人たち、慣れてる。間違いなく、戦い慣れてる!!

 

「豚農家とオークは長年の宿敵同士。戦は避けられぬ運命よ……」

 

「質問いいですか豚王様」

 

「ぬ、なんだアルマよ」

 

私が挙手をして豚王様に質問すると、律儀に相手をしてくれる豚王様。

 

「オークとはアレですよね。オスが絶滅してメスしか存在せず、他種族と交配しまくってもはやオークなのかよく分からない天然のキメラ集団ですよね?」

 

そう、この世界のオークはオカシイのだ。

 

まずオークと言えばその繁殖力が有名か。豚と人間が混ざったような外見に、他種族と交配して子を産み、産ませる種族。しかし、何故かオスの数が激減したのだ。そうすると、残されたメスたちは数少ないオスに群がり、枯れ果てるまでナニを搾り取りました。そうしてテクノをブレイクさせたオスたちはあっという間に滅んでいったのです。

 

今ではオスのオークは遺伝的にも弱くなったのか、生まれてもすぐに死んでしまいます。成人する前にブレイクさせられるからです。すると、メスたちは軟弱な同種のオスよりも強い他種族のオスを求めるようになりました。

 

その結果生まれたのがキメラ化したメスのオークです。強いオスの遺伝子を取り込みまくり、何度も世代交代した彼女らは元のオークからかけ離れた見た目と能力を獲得したのです。

 

故にこの世界では、『オークを見かけたら男は逃げよ、戦うな、勝つべからず!』という一般常識が成り上がったのです。なにせ、男と認識されれば喧嘩を売られ、それを買い、勝てば惚れられ子種を求められる。そのまま連れ去られれば待つのはブレイクされるまで搾り取られる監禁生活。

 

え? そんな危険生物に狙われてるんですか?

 

「一つ訂正しておく。ここを付け狙うオーク共は皆、オスだ」

 

「なんですと!?」

 

珍しいオークのオスで軍団とな!?

 

「彼奴は生まれながらに強者だった。メスに蹂躙されながらも生き残り、逆に自分を取り囲むメス共を蹂躙していった。そして真の同胞たるオスを産ませ、余所の巣穴のオス共を開放して軍隊を作った」

 

「それ、確実にオスよりもメスの方が増えてますよね!? オークの出産率舐めんな!!」

 

産まれたオスで軍隊作ったって、絶対メスの方が多く生まれています。あぁ……世界に迷惑なモンスターがまた増えた……駆除しないと。

 

「彼奴等の軍勢……その数三百!!」

 

「多いような少ないような……それでもメスはその何倍もいるんですよね……」

 

でも、なんでオスのオーク達はここを狙うのでしょう?

 

「奴らはメスと交配していくうちに気づいたのだ。『こいつらはオークじゃない』と」

 

「まぁ、色々と混ざってますし」

 

聞けば、豚ベースのオークなのに、ネコ耳だったりイヌ耳だったりする個体が多いらしい。どんだけ雑食なのか、スキモノなのか。男の私も、女となったこの身の私も恐怖でいっぱいですハイ。

 

「だからこそ、彼奴等は真の豚を求めたのだ。それが、ここだ」

 

「え、やだ気持ち悪い。メスの豚さんですか。そうですか。それでは私はここで失礼しますさようなら!!!」

 

やだ、ほんとやだ。もう何も考えたくない、逃げ出したい!!

 

何が悲しくて、豚の穴を付け狙うモンスターの大群と向き合わなければならないのか。私はもうお腹いっぱいです。胸焼けです。

 

ダックスに跨ると、私はすぐにここを離れようとしました。しかしその後を追うようにして、巨大な黒い生き物が後に続きます。

 

黒い豚さんでした。それも普通の豚なんて目じゃないほどに大きい。一撃熊であるダックスと遜色ない大きさです。

 

「ブギッ!」

 

「グアッ!?」

 

豚と熊が視線を合わせます。やや豚が優勢。こらダックス、お前それでもモンスターか!!!

 

「ほう、我が黒豚号に気に入られたか……ますますお前が欲しいものだな、アルマよ」

 

「豚王様!? って、当然の様に黒豚さんに跨らないでください!!」

 

気づけば、黒豚王と呼ばれた巨大豚に豚王様が跨っています。なんで着いてくるんですか!?

 

「この黒豚は我が農場の種豚。故に、オークのオス共に一番の敵対心を持っておるのだ」

 

「豚さんハーレムのピンチですもんね! ではサヨナラ!」

 

つまり自分の女達にコナかけようという余所の男達に闘志を燃やしているらしい。確かにこの豚ならオークとだって戦えそうである。

 

しかし私はこんな戦いには関わりたくない。モンスターは根絶やしにしたいですが、私にだって選ぶ権利はあります!! 

 

「どうだアルマよ。我が下で時代の豚王軍を作らぬか?」

 

「色んな意味に聞こえますのでお断りします!!」

 

我が下が文字通りの意味にしか聞こえない。軍隊ができるほど子供が欲しいねってことですかふざけるな!!

 

「ぬぅ、仕方がない。では、気が変わったらいつでも来るがいい」

 

「ハハハそうですねー、無いです」

 

お土産にベーコンを沢山もらって帰りました。次からは息子さんに来てもらおうそうしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただいま帰りました」

 

「お帰りアルマちゃん……」

 

おつかいを終えていつもの農家に帰った私を出迎えてくれたのは息子さんでした。

 

「あれ? どうしました、大分お疲れのようですが」

 

「は、はは……まぁ、ね」

 

あー……おばあちゃん、どんだけ……。

 

どうやら息子さんは今日一日を農家修行で酷使され続けたらしいです。ナニカサレタヨウダ。

 

「これ、沢山いただきました」

 

「どれどれ……あぁ、凄いね。ありがとうアルマちゃん」

 

「はい、どういたしまして」

 

私が持ち帰ったチーズや牛乳、ベーコンに魔物のお肉を見て息子さんが感嘆の声を寄せてくれます。それが今日の私の被った心労に癒やしを与えてくれて……。

 

「息子さん。貴方はそのままでいてくださいね……本当に」

 

ホロリと、涙が流れちゃいました。

 

「ちょっ、どうしたのアルマちゃん!? 何かあったの!?」

 

いえね? 農家って、なんなんでしょうね、うん




ミノタウロス「おのれ! いたいけな女の子を産む機械とし乳を奪い去り、男は殺して食らうとは!! 許せんぞ人間どもめ!!」


酪農主   「あたたたたたたたたたたたたたた!!! ホァタァッ!!」

ミノタウロス「たわらば!」



コカトリス 「少女を監禁し愛無き卵を産ませ続けるなどなんと非道な!! 人間滅ぶべし!」

鶏卵主   「せめて痛みを知らずに安らかに死ぬがよい・・」

コカトリス 「あ、あぁああああああああああああ!!」



オークキング「豚王よ! 大人しくメスを差し出し、死ぬがいい!!」

豚王様   「黙れ下郎! この天に王は二人もいらぬ!!」

オークキング「ならば死ねぃ!!」

豚王様   「家畜剛掌波!!」

オークキング「ヌワーーーーーーッ!!!」




彼らは農家のおじいちゃんの弟子です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に逆鱗を!

ガチモード(大喧嘩)のアルマさん方の姿を別アニメで考えてみた。

『理』のアルマさん……デュークモンクリムゾンモード

『命』のアルマさん……ジェネシックガオガイガー。

『魂』のアルマさん……パズドラの転生パールヴァティー。

『物質』のアルマさん……天元突破グレンラガン。

あくまで見た目の脳内イメ~ジです。

喧嘩するのはいつも『理』と『命』。仲裁するのが『魂』で、後始末が『物質』。




あー、なんというか……酷い一日でした。ただのおつかいで何故もこう疲れるのでしょうか。

 

こういう日はお風呂にでも浸かって疲れをとるとしましょう。夜遅くになる前にアクセルの街に向かい大衆浴場に出向きます。

 

しかしアクセルの街の外の農家を拠点にする私です。街に入るまでが遠く、行く道が暗い夜道も相まって一人の寂しさを感じております。ダックス? あの子はもうお休みですよ。動物は寝るのが早い。

 

その途中、街外れの丘の上にある共同墓地を横切るととてもいい匂いが……これは肉の焼ける臭いでしょうか? 香ばしく弾ける肉汁の匂い、それと楽しげに聞こえる人の声。

 

焼肉? みんな仲良くバーベキューですか?

 

 

は? 墓地で? 焼肉!?

 

 

「どこの罰当たりかぁッ!!?」

 

「ひぃ!? ごめんなさい!!」

 

魂魄の休まる墓地で騒がしくしている連中に注意してやろうと乗り込むと、そこに居たのはよく知る面々でした。

 

「カズマお兄ちゃんのパーティーじゃないですか」

 

「アルマ様!? どうしてここに?」

 

『様』を付けるな『様』を、と言いたいですがあえて無視。こういうことは指摘しないでスルーしたほうが誰も気にも留めないものです。

 

夜遅く、共同墓地の近くでキャンプまでしてバーベキューを行なっていたのはアクセルの駆け出し冒険者達四人でした。

 

そうです。カズマ、アクア、めぐみん、ダクネスの四人です。

 

「墓地で騒いじゃダメじゃないですか」

 

「いやすまん。しかしこれには訳があるのだ」

 

「聞きましょう」

 

年長者であるダクネスに事情の説明をしてもらいます。貴族として、人の上に立つ者として常識を知る彼女なればこそ、こういう非常識な行為を諌めるべきなのです。アクア? 論外ですね。

 

「ゾンビメーカーの討伐依頼の為に野営中だったのだ」

 

「詳しく」

 

アンデッドは殺す! 二度殺す!! 皆殺ーッす!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

ことの始まりは、アクアのレベリングだったそうな。

 

少ない資金でパーティーの装備を整え、いざクエストを受けようと意気込んだところにパーティーの戦力不足を痛感。そこで、回復魔法は得意ではあるが攻撃手段に乏しいアークプリーストのアクアを鍛えようということになたそうな。

 

その手段が、ちょうどギルドの依頼掲示板に張り出されていたゾンビメーカの討伐。

 

ゾンビメーカー。つまりは墓地にゾンビを蔓延させる傍迷惑なモンスターのことである。この世界での死者の埋葬は土葬だ。ゾンビメーカーは悪霊の一種で、新鮮な死体に乗り移るばかりか、周りの死体までも手下として操るのだという。

 

はい、アレですね。死者への冒涜に加えて『死んだものは蘇ってはならない』という私が決めた『理』への反逆です。

 

 

ははは、ハハハハハハハハハハハハハハ!! 

 

 

面白いなぁ、おい。クソアンデッド風情が神に喧嘩売ってますよー? ウッケルー。

 

 

 

「あの、アルマがとても怖いのですが……」

 

「あぁ。全身から神々しく視える程の魔力を溢れさせているのに顔がすごい凶悪だな……」

 

「アレ? 私、あの顔どこかで見た覚えがあるんですけど。どこでだっけ?」

 

「お前ら見るな! 忘れろ! 余計なことは絶対に言うなよ!? 絶対だぞ!!」

 

 

なんだか周りが騒がしいけど気にしない気にしない。

 

しかし残念ですね。アンデッド退治になるのなら『超神刀・豊穣丸』を持ってくればよかったです。えぇ、そうです。今晩の私は無手ですよ。素手で()っていきたいと思います。

 

素手といえば、アクアよ。お前ゴッドブローはどうした? 確かに一般的なプリーストなら攻撃魔法は覚えないから攻撃手段に乏しくもなる。だからこそのゴッドブローじゃないですか。

 

「まぁなんにせよ。アルマも討伐に参加してくれるというのなら心強い」

 

「ですね。正直アクアのレベリングの為とはいえ、墓地で爆烈魔法を放つわけにもいけませんし」

 

「ダクネスは攻撃が当たんねーし、俺は《片手剣》スキルしか攻撃手段なかったし、肝心のアクアはここぞというときはポンコツだし……アレ?」

 

「ちょっとカズマ! 誰がポンコツよ聞捨てならないんですけど!!」

 

うん? 

 

「あの、カズマお兄ちゃんはともかく。ダクネスやめぐみんならゾンビ程度瞬殺できるのでは?」

 

焼肉を頂きつつ、おかしな発言があったので確認してみます。ダクネスの攻撃が当たらないとは? めぐみんも別に爆裂魔法以外の上級魔法を使えばいいのでは?

 

そう尋ねたら……。

 

「「…………………………」」

 

ふいっ、と無言で顔を背けられました。

 

あれ? え?

 

「ちょっと、カズマさんカズマさん。まさか皆、アルマちゃんに内緒にしてるとか?」

 

「言ってやるなよ……皆子供にいいカッコしたい奴等ばっかなんだよ」

 

カズマお兄ちゃんとアクアがこそこそと何やら話しています。なんでしょう? 私に内緒な秘密があるのでしょうか? 少し疎外感が……寂しいです。

 

「あ。すいません、ちょっと失礼しますね」

 

「ん? どうしたの?」

 

私は皆にそう一言告げるとその場を離れます。いえね? 今更ながら、お世話になっている農家の方々に今晩は遅くなるという連絡をしていないことを思い出したのです。元々、街でお風呂に入ってきますと言っていたので。

 

草原に跪き、目を閉じて両手を合わせて祈ります。

 

思い浮かべるのは農家の息子さんの姿。

 

 

……息子さん。息子さん。聞こえますか?

 

 

…………え? アルマちゃん? 

 

 

……いま私は貴方の頭の中に語りかけています。

 

 

………くっ、こいつ、直接脳内に!?

 

 

……そういうネタはいいです。というか、そんなネタどこで覚えてきたんですか?

 

 

………ゴメン。いや、昔オヤジがね? それでどうしたの?

 

 

……友人の仕事を手伝うことになりました。今晩は帰りが遅くなるか、もしくは帰らないかもしれません。

 

 

………わかった。気をつけてね? 危ないことしちゃダメだからね?

 

 

……ありがとうございます。それではそれではそれでーわー………。

 

 

 

 

 

「ふぅ。息子さんの優しさは癒されます」

 

合わせた両手を薄目を開けて見ながら崩し、ゆっくりと立ち上がります。その後ろにはカズマお兄ちゃん達の姿が。

 

「あの、アルマは何をしていたのですか?」

 

「《ゴッドテレパシー》です」

 

神託ともいう。

 

親指で軽くサムズアップしてみせて答えます。

 

突然祈り始めた私の姿にめぐみんは驚いたことでしょう。しかしご安心を。今のは心に思い浮かべた相手にメッセージを送る以心伝心、いえ()心伝()スキルです。

 

「めちゃくちゃ便利なスキルじゃないですか! ん? ゴッド?」

 

「わーーーーッ! なぁアクア! 魔力は無駄にしてないだろうな!? ゾンビメーカーを目の前にして回復魔法が使えないなんてことのないようにな!!」

 

「何言っちゃってんのカズマ? こっちはアンデッドを浄化するために《花鳥風月》だって我慢してるんですけどー。というか、ねぇゴッドって……」

 

「黙ってろ駄女神!!」

 

「どうしたんだカズマ。墓地で騒ぐんじゃない。それよりも今ゴッドって」

 

「蒸し返さんでいいこの脳筋クルセイダー!!!」

 

「はうっ!」

 

一気に騒々しくなったパーティーを微笑ましく思いながら眺めます。カズマお兄ちゃんの罵倒に周りも感化され罵り合いが発生しても、その根底には仲間たちへの信頼が感じられます。

 

人と女神。互いの立場を知らぬせいか、そのおかげか、このパーティーは遠慮というものがない。アクアが、アクアも同等の立場で……馬鹿をやっている。

 

だが、それがいいのだ。

 

人間とは賢い馬鹿である。思いついた馬鹿を行うために最高の叡智を振り絞る。それを全力で取り組める人間だからこそ、進歩を続けてこれたのだ。

 

そこに人間と神との差など、ない。神だって馬鹿なのだ。賢いフリをした馬鹿なのだ。そんな自分だからこそ、今まさに苦労を重ねているのではないか。神は乗り越えられる試練しか与えない、という教えを広めたのは誰であったか。

 

そんなことはない。人間は何時だって神の予想を上回る。

 

だから面白いのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「臭い、臭い、臭い。これはかなり臭ってきてます」

 

「本当ね。間違いなくアンデッドがいるわ!」

 

カズマです。

 

今俺の目の前で二人の女神が鋭い目付きで墓地の匂いをかぎわけているところです。曰く、アンデッドの悪臭が漂ってきているらしい。なんなの? 女神って警察犬の親戚なんだろうか。

 

「なぁカズマ。アルマのことなんだが……」

 

「なんだよ。俺は今核弾頭の側で爆竹に火が点かないか心配でお前の相手をしている暇はないぞ」

 

そう、アクアというトラブル製造器がアルマ様を大爆発させないか恐ろしくてしょうがないのだ。

 

「アルマは神族との混血かその子孫じゃないのか?」

 

「お前何言ってんの?」

 

どうぢよう。この頭が残念なドMクルセイダーは時たまぶっ飛んだ発想で正解を言い当てる。

 

でもな、混血でも子孫でもない。神そのものだよ!

 

「そういえばさっきアルマは《ゴッドテレパシー》とかいうスキルを使ってましたね。神と名の付いたスキルなんて普通ありませんよ。あったとしてもかなりのレアスキルです」

 

おいこらめぐみん。お前も便乗するな。ていうか、お前前にアクアがゴッドブローを使ったのを見てなかったか? いや、あの時はゴッドレクイエムだったか?

 

「貴族の中には稀に先祖が神とか勇者だったと嘘ぶく輩がいるが真実の場合もある。王族とかがそうなのだが……どうしようカズマ。アルマの素性がいよいよ恐くなってきたぞ。流石の私もこういった恐怖は別腹なのだ」

 

「お前がなんでそんなに貴族事情に詳しいのかは知らんがつついたら不味い藪があることだけは覚えとけよ?」

 

こいつら、アクアが女神だと名乗っても痛い子扱いのくせに、なんでアルマ様だと気になってしょうがないんだよ。

 

いや、わかるよ? あんな小さな子供が大剣振り回して高難度のクエストを達成してるの見たらそりゃ目も止まるわ。しかも可愛いし。ここ重要。

 

「もうさっさとゾンビメーカーを討伐して帰ろうぜ? ……お、早速《敵感知》に反応が……」

 

アレ? 敵感知の反応が多くね? 三つ、四つ? おかしいな……ギルドの説明じゃ取り巻きは精々二、三体と聞いたんだが……まぁこの程度、誤差だな誤差。

 

そんなことを考えながら歩いていると、墓地の中、開けた場所が青白く光っているのが見えた。よく見るとそれは地面に描かれた魔法陣の光。その中心にフードを被った黒いローブの人影が見えた。

 

「あれがゾンビメーカーか?」

 

「いえ……なんでしょう? ……どこか違うよう、な?」

 

自信なさげなめぐみんの返しに不安になるが、あれが今夜の討伐対象なのは間違いないだろう。

 

「どうするカズマ? 突っ込みたいところだが、アルマもいることだし不安要素は極力減らしたい。私一人で突っ込めというのなら喜んで引き受けるがッ」

 

ダグネスがアルマ様をチラチラと見ながらソワソワするという器用な行動をとっている。アルマ様が気になるのなら頼むから自重してくれ。

 

「安心しろ。お前を囮にするのは最初から決まっている」

 

「そうか!」

 

気持ちのいい返事を返すんじゃない。

 

なんて思っていたら。

 

「「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」」

 

アクアとアルマ様が揃ってとんでもない行動にでた。

 

二人が突然駆け出す。向かうのは勿論、目の前の怪しい人影にだ。

 

「おい、待て! 待ってくださいって!!」

 

なんて言っても聞きやしない。俺の静止を無視して二人はローブの人影を取り囲むとビシッと人影を指さした。

 

「リッチーがノコノコこんなところに現れるとは不届きなッ! 成敗してやるッ!」

 

「成敗なんて生温いッ!! 魂のひと欠片も残さず消滅させてくるわッ!!」

 

 

リッチー。

 

それはアンデッドモンスターの最高峰。魔法を極めた大魔法使いが、魔導の奥義により人の身体を捨て去ったノーライフキングと呼ばれるアンデッドの王。強い未練や恨みで自然にアンデッドになってしまったモンスターと違い、自らの意思で自然の摂理を捻じ曲げて、神の敵対者になった存在。

 

よ、よりにもよってぇええええええええええええええええええええええ!!!!

 

ここにその、自然の摂理を定めた『理』の神様がいるんですけどッ!!!!

 

 




『魂』  「ワシが一番不利じゃないか?」

『命』  「我は最近ようやく覇界王の設定が出てきたからできればそっちがいい」

『物質』 「僕は大きさを全く活かせてない役割なんですが」

『理』  「アニメ版かX抗体版か……」


本編に登場する予定は全くありません。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に更なる災難を!

もしも彼らが冒険者カードをつくたら。


『理』のアルマ…攻撃も魔法もこなせる賢者から転職した勇者タイプ。しかし運の良さが壊滅的。

『命』のアルマ…攻撃力、HPがぶっぱしたバトルマスタータイプ。

『魂』のアルマ…魔法、特技が壊れ性能の頭の悪い精霊使いタイプ。

『物質』のアルマ…ステータスは基本(神様として)だけど壊れ性能の神器で固めている。合体ロボが起動したらどんな逆境でも逆転できるオヤクソク仕様装備である。


拝啓、地球のお母様。カズマです。

 

こちらの世界に転生し、そこそこの月日が経ちました。そちらでは家に引き篭ってばかりな僕でしたが、こちらの世界ではアグレッシブにお外で活動しています。

 

思えば、家族の皆様にはご迷惑と心配ばかりかけていたと思います。そんな僕も、今では大勢の仲間と協力し困難に立ち向かう生活を送り、貴方の僕への心配りの意味を深く知り感謝しています。

 

ですので、どうか……、

 

「やめ、やめやめやめ、やめてえええええええええ!!! 誰なの!? なんで突然現れて私の魔方陣を壊そうとするの!? なんでこんな小さな体に神気が溢れてるの!? やめて、近づかないでください!! 側に寄られただけで消えちゃう! 私成仏させられちゃううううう!!!」

 

「うっさい! 黙りなさいアンデッド!! どうせこの怪しげな魔方陣でよからぬことを企んでいるんでしょう!? なによこんなもの! こんなもの!!」

 

「お前なにアンデッドになんてなってんの? リッチーになんて堕ちてんの?? なんなの? 喧嘩売ってんの? 人間辞めてまで俺に喧嘩売りたかったのか。そーかそーか、買ってやるから歯ぁ食いしばれやこのアマァッ!!!」

 

このチンピラ女神達に絡まれてる、可哀想なアンデッドさんをお助けください。

 

 

 

 

アンデッドを見つけた直後、アクアとアルマ様はその黒いローブを着たアンデッドらしき女性を締めあげ、足元に輝く魔方陣を破壊しようと試みていた。

 

やっていることは悪しきアンデッドの企を防ぐ女神の行いなのに絵面が酷い。酷すぎる。はた目から見れば、気の弱い女性にいちゃもんつけるヤンキーの図である。

 

超大物モンスターであるアンデッドのリッチー?が、ぐりぐりと魔方陣を踏み付けるアクアの腰にすがりついている。その目は涙目で、とてもアンデッドの王とは思えない。

 

ではアルマ様は? 

 

「…………チッ! チッ! チッ!」

 

足元の魔方陣を見ながら何度も舌打ちをしていらっしゃる。その手はリッチーの後頭部をアイアンクローでがっちりと掴んでおり、その触れた部分から蒸気が上がっている。

 

なんというゴールデンフィンガー。触っただけでリッチーを昇天させてしまうとはまさに神業ッ!

 

「あの、アルマの手が黄金の魔力で光っているんですが?」

 

「しかも周りの取り巻きアンデッドが余波で次々と成仏していく……」

 

ちなみに、アクアの魔力は水色で今もゴッドブローを繰り出そうと拳をその色に光らせている。

 

というか、アレは本当にリッチーなんだろうか? アクアが言うのなら怪しいが、アルマ様が言うのならそうなんだろうとは思うけど、全然そうは見えない。これが神々とアンデッドの、光と闇の戦い、か。

 

「やめてー! やめてー! この魔方陣は未だ成仏できない迷える魂を天に還してあげるためための物です! ほら、沢山の魂達が魔方陣から空に昇って……って、予想以上に成仏している!? それに私も消えかかってる!? 熱い! 頭があつーい!!」

 

ひょっとしてこれはあれだろうか? 魔方陣に葬送の効果があるのはマジで、アルマ様がそれを強化している?

 

「おい、リッチー」

 

「痛い熱い痛い熱い!! ヘェッ!? な、なんですか!? というか離してくださーい!!」

 

ドスの効いた低い声がアルマ様の口から響く。呼ばれたリッチーは開放してくれと嘆きながらも返事をする。

 

それを見て俺達はドン引きした。めぐみんは俺の後ろに隠れるし、ダグネスは羨ましそうにリッチーを見ている。アクアはノリノリだ。

 

「お前なに自然の摂()に逆らってアンデッドになんて堕ちてんだ? あ? おら、選べ。《ゴッドレクイエム》でごめんなさいするまで殴り続けてやろうか? それとも《ターンアンデッド》で問答無用に成仏させられたいか?」

 

「そーよそーよ! アンデッドは……アレ? ……アルマちゃん? ……アル、マさ……え?」

 

あ。アルマ様ー! アクア! アクア! めっちゃ凝視してますよ! 正体バレますよ!!

 

「わ、私は……ッ」

 

「いや、いいか。この墓地の浄化を行なってくれた礼だ。ゴッドレクイエム(げんこつ)一発で勘弁してやる。逝け」

 

リッチーが顔を青ざめさせる。有無を言わさない言葉に俺たちは息をのんだ。

 

「ゴッドォォ!!」

 

「ひっ、ひぃいいいいいいいいいいいい!!」

 

アルマ様が拳を振りかざし、黄金の魔力は輝きを更に増していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、これ不味い。駄目だ止まれ、止められない、制御出来ない!!?

 

アルマです。

 

しくじりました。

 

まさかこの体、魔力の放出に耐えられないとは想定外でした。

 

思えば、今まではは殆ど魔力を使わない肉弾戦ばかりだったのが幸いだったというか、不幸だったというか……。

 

うん? では何か? これも私の幸運の低さが招いたというのか? いや、違う。これはどちらかというと作為的な……『魂』のの罠か!?

 

今の私は神とはいえ肉体は人間。それも幼子だ。身体が出来上がってもいない状態で何時も通り(『理』の神)の感覚で《ゴッドレクイエム》を使おうとすればこうなるのは当然だった。

 

三輪車にロケットエンジンをくくりつけたような状態。それが今の私だ。最大出力でぶっぱなせばこうもなろう。

 

それに加えて、私の魂に刻まれた『幼児化』の呪い。これのせいで思考まで子供っぽくなっており演算も鈍くなっている。

 

これは不味い。つまり、魔力の制御ができず暴走状態ということだ。

 

「ちょっ!? アルマ! 魔力が溢れ出しています!! 今すぐとめてください!!」

 

魔法の扱いに長けたアークウィザードにして紅魔族のめぐみんが、私の状態に気づいて叫ぶ。しかし遅い。私自身もどうしようもない。

 

何故なら、今こうしている間にも『幼児化』、『弱体化』の呪いが私を侵食しているのだ。

 

私は『魂』のにかけられた呪いにも似た強大な制約を解除するために日頃から『解析』に魔力を割いていたのだが、同時にこれ以上の侵食を抑えるために『抵抗』も行なっていた。

 

だからこそのこの姿。もしも本当に『幼児化』していたらもっと幼い姿、精神であっただろう。

 

だが、その均衡は今崩れた。

 

しかし、これは当然の結果だったのかもしれない。私がアンデッドや悪魔に出逢えば必ず同じ行動をとっていただろう。必ずだ。私は人間に仇なす存在を決して許さないのだから。

 

つまり、だ。

 

「(お前の思惑通りかこのロリババァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!)」

 

 

あ、駄目だ。魔力の放出が制御できない。飲まれる、考えがまとまらにゃい……あたちもうねむいからねんねするー…。

 

おやちゅみなちゃい。

 

 

 

 

 

 

 

クリスです。

 

あれから一週間が過ぎました。そう、あれから、です。

 

今、あたしの腕の中には。

 

「くりすねーちゃ! くりすねーちゃ!」

 

身も心も幼児化したお父さんがいます。

 

「どうしてこんなことに……」

 

恨みますよ『魂』様。ほんっとに恨みます!!

 

お父さんは身長が百センチ未満まで縮み、言葉も覚束ず、思考も完全に子供になってしまいました。

 

「ごめんなクリス。俺たちも何がなんだが……」

 

「新人くんは悪くないよ」

 

あの日の夜、新人くんこと転生者の佐藤和真さんが幼児化したお父さんを抱えてきたときには本当に驚いたよ。……本当に、ね。

 

詳しいことは濁されて教えてくれないんだけど、どうやらお父さんは魔力を使いすぎて『魂』様の『幼児化』の魔法を抑えきれなくなったみたい。

 

でも、この状態から元に戻るのは実は簡単なんだ。

 

……お父さんがもう一度、『幼児化』の魔法に『魔法抵抗』を行えばいいんだ。だけど、それができない。

 

「ねーちゃ! あそぼ! あそぼ!」

 

「じゃぁ何して遊ぼっか」

 

魔法の構築式を解明し、抵抗する。そんな発想が精神も幼児になった状態で出来るはずがない。最悪、自分が神様だったことまで忘却してるんじゃないかと心配になる。

 

覚えているよね? 

 

「それじゃぁクリス。俺たち行くけど、本当にアルマちゃん連れてっていいのか?」

 

「うん。いろんなところに連れてってあげて。その方が思い出すことも多いかもしれないし」

 

どうすればお父さんが自分を取り戻してくれるか、それを考えた結果。思いついたのが冒険させること。ただ何もせずに部屋で子供をあやしているよりもいいという、あても何もないことだけどしないよりはいいと思う。

 

今アクセルの街にはろくなクエストもないしね。

 

実はというと、アクセルの街は小さく、そして大きな危機に見舞われている。

 

 

魔王軍の幹部が、街の近くに引っ越してきたのだ。

 

 

そのせいで、弱いモンスターは遠くに逃げ出した。残っているのは駆け出し冒険者の手には余る手強いモンスターのみ。

 

そのせいでダグネスや新人くんが受けれそうな簡単なクエストがなくなって皆困っている。

 

しかも、

 

「カズマさ~ん! 借金が! 借金が~!! お金貸して~~!!」

 

「うるさいわこの駄女神ガッ!! 子供の教育に悪いからあっちいけ!!!」

 

あのアクア先輩によく似たアークプリーストの女の子が借金を作ったらしく、その返済のための資金作りにも困っているらしい。

 

「あーあ。いっそアンデッドでも来てお父さんに喧嘩売ってくれないかな~」

 

そうしたら、絶対にお父さんはブチ切れる。アンデッドを消滅させる為に自分を取り戻すはずだ。

 

「こういう時、神頼みができないから女神はつらいよ……」

 

女神は誰に祈ればいいのかな?

 

 

 

 

 

 

 

あの後、リッチーのお姉さん、ウィズには丁重にお帰り願った。

 

突然、更なる幼児と化したアルマ様にその場の全員が驚愕し、混乱した。あのアクアでさえアンデッドの浄化そっちのけで狼狽したほどだ。

 

で、やっぱりあの墓所に仕掛けられた魔方陣は悪いものじゃなかった。聞くに、アクセルの街のプリーストは墓地でさまよう魂たちの浄化をしないらしい。して欲しければ金を出せ、まずはそれからだ。という奴らが多く、アクアもその口だ。

 

そのことを指摘され、アクアは嫌嫌ながらも折れた。リッチーを見逃し、更には墓地の浄化も無償で行うことを約束した。

 

その代わりといってはなんだが、ウィズに今度リッチーが持つ強力なスキルを教えてもらうことを約束した。驚いたことに彼女はこのアクセルの街で魔道具店を経営しているらしい。

 

神様とアンデッドの王が暮らす駆け出しの冒険者の街とはなんというカオス。

 

それで俺はというと。

 

アルマ様を連れてめぐみんと街の外に爆裂魔法を撃ちに来ています。

 

ちょっと何言ってるのか自分でもわからないです。

 

事の始まりはこうである。

 

「カズマ! 依頼が全然ないわ!? どうすんのよ! どうしよう!!! これじゃぁ借金が返せないじゃないのよ~!!」

 

知らん。と言ってしまいたいが仕事がないのは正直辛い。

 

アクアが自分でこさえた借金は別として、自分たちだって仕事がなければ働いて稼げない。どうにも、魔王軍の幹部とやらが引っ越してきたせいで弱い魔物が辺りから逃げ出して、手頃な討伐系の依頼がなくなったらしい。

 

なので、アクアはせかせかと内職や工事現場で働いている。ダグネスは一度実家に帰った。俺はめぐみんに付き合い、こうして一日一回、爆裂魔法の特訓という名の破壊活動に勤しんでいる。

 

アルマ様が一緒なのはクリスのアイディアだ。魔法を見たり聞いたり、色んな場所で知らないものと接することで何か思い出すきっかけになればいいと言ってくれたのだ。

 

「もうその辺でいいんじゃないか? アルマちゃんもいるんだし、あまり街の遠くまで離れたくないぞ」

 

「う……しかしもう守衛さんにうるさいと怒られたくないのです」

 

「おい、今『もう』って言ったか? 既に怒られたのか?」

 

「めぐみんわるいこー?」

 

「ち、違うのですよアルマ?!」

 

さしもの頭のおかしい爆裂娘も、小さな子供の純粋な目で見られれば動揺するらしい。いいぞ、もっとやってください。

 

爆裂魔法をこよなく愛するめぐみんは、一日一回爆裂魔法を撃たないと気が済まないらしく。こうして毎日街の外まで出向いて適当な場所で無差別テロ並みの爆発を起こしているらしい。

 

「今日はアレにしましょう」

 

そうして街の外をぶらぶら歩いて見つけたのがそのアレである。

 

遠く離れた丘の上。そこには廃墟となった城。廃城があった。

 

「薄気味悪いなぁ……お化けでも住んでそうな……」

 

「おばけ? ……アンデッドか」

 

え? アルマ様?!

 

「どーちた、おにーちゃ」

 

あれ? 気のせいかな?

 

でもまぁ。確かに人の住んでなさそうな廃城だ。あれなら爆裂魔法を撃っても問題ないだろう。

 

「よし、じゃぁあれに一発撃って帰ろうぜ」

 

「……なんかくちゃい」

 

「じゃぁ行きますよ!!」

 

心地よい風が吹く丘の上。

 

のどかな雰囲気には場違いな、爆裂魔法の詠唱が始まった。

 

めぐみんが爆裂魔法の詠唱を初めて数十秒。その魔法は紡がれた。

 

 

「《エクスプロージョン》!!!」

 

 

一つの魔方陣が空中に展開し、それが弾けた。吹き荒れる暴風、爆発に包まれる廃城。それらの光景を包む閃光。めぐみんの放った爆裂魔法は今日も強烈だった。

 

そして。

 

「くきゅ~~~~」

 

「おつかれ」

 

一日一発。それだけで体内の魔力の全てを消費しためぐみんは、今日も何時もどおり倒れる。こうなるともう動けない。だから、俺のような回収のための同行者が必要なのだ。

 

今日はこれで帰るだけだった。

 

だけだったんだ。

 

「やっぱりくちゃい!!」

 

「アルマちゃん?」

 

「どうしたのですアルマ?」

 

俺が倒れているめぐみんを抱き起こそうと身をかがめると、手を繋いでいたアルマ様が走り出した。

 

「あたちもやる!」

 

そう言うと、アルマ様が懐から取り出したのは冒険者カードだ。それを持つ手が黄金色に輝き、指で操作していく。

 

何をしているのか分からなかったが、それが終わると人差し指を廃城に向け、唱えた。

 

「《えくちゅぷろーじょん》!!!」

 

は?

 

四つの魔方陣が廃城を取り囲む。四方から中心である廃城に向けて魔力が収束していき、弾けた。

 

めぐみん以上の、破壊力で。

 

「「はぁああああああああああああああああああああああ!??」」

 

「まだくちゃい!!」

 

ちょっと、

 

「《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》《えくちゅぷろーじょん》ッッッ!!!!!!!!」

 

いやぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!

 

めぐみんとアルマ様を抱えて俺は駆け出した。

 

連続する大爆発。空気が振動し、大地が揺れ響く。耳が馬鹿になりそうな状況で走るのも大変だった。しかし、俺は一度も廃城を振り返ることなく走りきった。

 

だって、見るのも怖いし。

 

その後、その廃城が更地になっていたと冒険者の間で噂になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドに駆け込み、クリスに相談すると。

 

「り、理性がとんでスキルポイントを書き換えた!?」

 

ヨくワカラナイコトヲ言っていた。

 

なんか知ってんだろ。

 

説明しろ。




『魂』 「よっしゃぁ! ようやくかかったなダアホォめ!!」

『物質』「これには流石の僕もドン引きです」

『魂』 「年下の坊やの分際でいつもワシのことをロリだのババアだの言ってるからじゃばーかばーか!」

『物質』「ロリもババァも本当のことじゃないですか……でもいいんですか?」

『魂』 「なにがじゃ? なーに、あやつがワシに泣いて謝ればすぐに元に戻して」

『物質』「いや、無理でしょ」

『魂』 「へ?」

『物質』「あれじゃこちらに連絡もとれないし、謝るなんて不可能ですよ?」

『魂』 「あ」

『物質』「あと、『理』先輩の加護がなくなったって、先輩の部署で働いている天使たちが涙目で仕事してましたけど、どうするんですか?」

『魂』 「え? いや、その」

『物質』「ど・う・す・る・ん・で・す・か・?」


『魂』はアクアの親。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に神託を!

仕事からの現実逃避が日課。


「この世に神がいるとしたら、きっと無能ですよ」

というある漫画のセリフが頭から離れません。


「遠い遠い昔のお話。

 

そこは地獄。文字通り、悪魔がひしめく魔の世界。

 

そこで。

 

「オラオラくたばれや悪魔共! 神様直々の神罰の時間じゃゴラァッ!!!」

 

「キャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

神様による一方的な虐殺が繰り広げられていました。

 

金髪碧眼。高い背に鍛えられた肉体。歳は若く、青年のように見えるがとんでもない。宇宙誕生よりも早く、長く生きている神様です。

 

広い地獄を練り歩き、目があった悪魔は殴り飛ばし、目をそらした悪魔は蹴り飛ばす。逃げ出した悪魔は放り投げ、命乞いした悪魔は踏み潰す。

 

情けなし、容赦なしの悪魔退治。悪魔のごとき神様の所業。

 

何故こんなことを? ただのライフワークです。『理』の神様は人間に迷惑ばかりかける悪魔とアンデッドが大嫌いだからです。

 

『理』の神様は人間は大好きである。愛していると言ってもいい。

 

そして悪魔は人間を食い物にする生物。寄生虫のような存在するだけで罪な者たちなのです。

 

悪魔は人間の血肉を食べる者もいます。高位な悪魔は人間の悪感情を食べます。

 

人間の悪感情。つまり、「嫌だなぁ」とか「腹立つなぁ」という感情を悪戯などをして無理矢理起こさせそれを食らうのです。許せません。

 

イラっとするくらいの悪戯ならいいのです。いえ、良くないですが……。場合によっては悪戯ではすみません。

 

悪感情には悪魔の好みの味があります。「絶望」、「憎しみ」、「悲しみ」。そういった感情を好む悪魔の悪戯はもはやタチの悪い犯罪だです。死人が出ることもあります。

 

だからこそ、『理』の神様は悪魔という種族が大嫌いです。滅べばいと思っています。

 

そして思うだけでなく実行してくださるのがこの神様です。

 

「神め!! いい加減にしろ!」

 

「あん?」

 

一匹の悪魔が『理』の神様に逆らおうと立ち上がりました。愚かなことに、この悪魔には神の素晴らしき行いが理解できなかったようです。

 

「貴様、罪なき幼子まで手にかけるとは……この外道め!!」

 

「罪がない? お前ら悪魔は生きているだけで迷惑極まりない畜生だろうが。ほら、殺してやるからさっさと死ね。即刻死ね。無様にのたうち回って死ね」

 

悪魔は自分たちを棚に上げ、『理』の神様にくってかかりましたがそれは筋違いというものです。悪魔は神に殺されるために存在します。神に出会ったら頭を垂れて首を差し出すのが常識だというのに。

 

「もう我慢ならん…ッ! 喰らえ! バニル式殺人光線!!」

 

「神に殺()光線など効くかボケ!!」

 

額から人間を殺す怪光線を放ったその悪名高き悪魔。しかし『理』の神様にはそんなものは当然のごとく驚異ではありませんでした。怪光線を平然と浴びながら反撃の拳を振るいます。

 

「グハァッ!? ば、馬鹿な……残機が、一撃で我輩の残機が……ッ」

 

「チッ、一機残ったか。手を煩わせるなゴミが。こっちは手加減するのにだって苦労してるんだぞ」

 

悪魔には『残機』と呼ばれる命のストックがあります。これは、長い年月を生きる悪魔が魔力を溜め込み己の命の予備を貯蓄して、死んだあとに復活できる回数でもあります。

 

『理』の神様は本気を出せば大抵の悪魔は拳の一撃で葬りされます。しかし、同時にその世界そのものに深刻なダメージを与えてしまうので常に慈悲深い手加減を行なってくださっているのです。だというのに、この悪魔はなんと空気の読めない最低の悪魔なのでしょうか。

 

「おのれ……悪魔の神よ、魔神よ! どうか我らをお救い、この神ちくしょうめを葬り去る力をー―ーッ!!」

 

「耳が腐るわ。静かに死ね」

 

その時です。

 

 

「呼んだ?」

 

 

「呼んでねぇよ!!」

 

『命』の神様が降臨されたのは。

 

彼の神は宇宙の『命』を司る神。『命』の神様です。当然、悪魔といえど例外ではありません。更に、悪魔のような世界の生ゴミを慈悲深く対等に愛する命として見ておられる稀有な御方でもあります。

 

故に、悪魔からは魔神、と呼ばれる神様でもあるのです。

 

「ん。残機がもう無い。今補充してやろう」

 

魔神こと、『命』の神様が悪魔に手をかざします。悪魔を光が包むとその御加護が降り注ぎます。

 

「おぉ……我輩の残機が元通りに…ッ。感謝致します、魔神よ……」

 

「ん」

 

残機の減った悪魔に『命』の施しを与えストックを瞬く間に補填してしまう『命』の神様。彼の御方に、その行為への善悪の区別はありません。命はただ命。求められれば与え、与えたいと思えば理由なく生み出すのです。

 

「おい『命』。貴様、何をしにきやがった?」

 

「呼ばれたから来た。それだけだが? (弟と遊ぶためだが何か?)」

 

「邪魔をするな。そいつ殺せないだろうが」

 

「『理』は悪魔に厳しすぎる。命は等しく尊い。人間も、悪魔も。オケラだってアメンボだって皆、みんな命なんだぞ? (弟以外は等しく同価値)」

 

「悪魔は人間を食い物にする産業廃棄物だろうが」

 

「人間だって他の生き物を食物にしてる。生きるということは皆そう。そこに人間も悪魔も違いはない (だからもっとお姉ちゃんを見て!)」

 

そこに居た悪魔のことなどもはや眼中に無く続く平行線。二柱の神は持論を譲り合うことはいたしません。

 

「……どうしても退かないか」

 

「当たり前 (弟と遊べる機会を誰が逃すか!!)」

 

空気が変わります。口喧嘩からガチ喧嘩へ。悪魔の危機から宇宙の危機へ。

 

この神様達はどちらも、星程度なら息をするよりも簡単に割れるからです。互いの意見が割れたら星を割る。そんな方々なのです。

 

悪魔はすぐさま逃げ出しました。地獄にある自分の領地の配下たちを連れて人間の世界へ。

 

 

その後、地獄はその殆どの土地が更地になりました。

 

その後、数百年に渡って悪魔たちが震えあがりました。

 

その後、赤い天使と青い龍皇が何度も殺しあいました。

 

 

今日も宇宙は平和です。

 

 

おしまい。」

 

 

 

 

「相変わらずエリス教団の教えは過激ね」

 

「過激ってもんじゃねーぞおい!!」

 

「エ、エリス様は悪魔がお嫌いだからな」

 

「クリスねーちゃ! もいっかい! もいっかい読んで!!」

 

「……………………」

 

ここは冒険者ギルド。あたしは幼女となったお父さん、『理』のアルマ様に絵本を読んであげています。もちろん、エリス教の教えを子供に分かりやすく纏めたものです。実際、お父さんの実話ですし。

 

……これでお父さんの理性が戻んないかなぁ?

 

とりあえず昔の記憶とかだけでも思い出して欲しいのです。

 

「でさ。アルマちゃんのことで確認したいんだけど。クリスなんか知ってない?」

 

アクア先輩によく似たプリーストの女の子がそう聞いてきます。当然知っているけど、話せないことが多すぎて返答に困るんだよなぁ。

 

「それはどうして?」

 

無難に聞き返します。これがお父さんだったら「質問に質問で返すな馬鹿もん」と怒られたでしょうが、今の『あたし』は盗賊クリスですのでお父さんの教えは脇においておきます。

 

「アルマ様が爆裂魔法を連発した」

 

「はぁっ!?」

 

新人くんが言った言葉にあたしは耳を疑った。爆裂魔法? 『アルマちゃん』が? しかも連発?

 

そういえば。さっきからとても静かな彼女に違和感を感じていたんだ。

 

めぐみん。このアクセルの街で毎日爆裂魔法を放つことから頭のおかしい爆裂娘という二つ名で呼ばれている紅魔族の娘だ。彼女は新人くんにアルマちゃんと一緒に抱えられてギルドに飛び込んできてからというもの一言も話していない。

 

「オカシイです。爆裂魔法は一発撃つのに多大な魔力が必要となる筈……なのにあんな威力、回数……羨ましい……」

 

「おいこら。今お前羨ましいって言わなかったか?」

 

新人くんが聞き質すのも無理はない。めぐみんはどういうわけか爆裂魔法をこよなく愛し、それを撃つことに至上の喜びを得ているなかなかの奇人だ。それを連発できるというのはとても魅力的なことなのだろう。

 

ちなみに。

 

『理』の神様であるお父さんが爆裂魔法を連発できることに驚きはない。連発できるほどの魔力は勿論、魔法の構築式、理解力、放つ技量に関しては文句なしの使い手だから。そもそも、魔法という術式に『理』が絡んでいる時点でお父さんに扱えない魔法は存在しないのだから。

 

でも、それを『アルマちゃん』が行なったというのなら話は別だ。今の状態の彼女は思考も幼女なのだから。魔法を使う為の()論を考える頭脳に欠けている、筈だ。

 

「そもそも爆裂魔法にはスキルポイントが45ポイント必要なんですよ! アルマが何時の間にそんなに貯めていたというのですか!?」

 

「スキルカードから取得してたの?」

 

お父さん、そんなにポイント貯めてたっけ?

 

下界のルールに則り、コツコツとレベル上げをして《初級魔法》を覚えるような堅物な魔法のスペシャリストがそんなスキルポイントの荒稼ぎをしていた筈がない。

 

「なんか、手が金色に光ったまま冒険者カードをいじってた」

 

『理』の権能使ったの!? 書き換えたんですねスキルポイント!!

 

お父さんは『理』の神、つまり常識の神様だ。悪いことは罰するし、やらせない。なのにそんなインチキを、ルール違反を行なった。

 

つまり。

 

お父さん、理性がとんで自制が効かなくなっているの!?

 

それは不味い。とても不味い。だって、この世の理性や道徳の基準を作った人がそれを狂わすのだ。地上がソドムとゴモラの悪夢に苛まれてしまう。

 

「何があったのッ?!」

 

「だーかーらッ! 突然爆裂魔法を連発しだしたの!」

 

「だからなんでッ!?」

 

声を荒らげるあたし達の会話はギルド内でよく響き、他の冒険者達の視線を集めていた。そんな中で、一人の舌足らずな声が。

 

「くちゃかったの」

 

え?

 

「あのおちろ、くちゃかったの。だから、きれいにちたの」

 

その意味を理解出来た者がどれだけいただろう? 

 

お父さんが、『理』の神様が臭いと言って魔法で吹き飛ばしたいと思うほどの異物。

 

「アンデッドとか悪魔がいたってこと?」

 

「うん!」

 

「なぁんですってぇええええ!? どこよそこ!? 今すぐ私のターンアンデッドをお見舞いしてあげるわ!!」

 

「だからもう吹き飛んだんだって!! え? マジで? いたのかアンデッド? ……うわー」

 

それならしょうがないか。むしろお父さんグッジョブ! 悪魔死すべき慈悲はない!

 

アルマちゃんと笑顔でサムズアップし合うあたし達に周りがドン引きするけど気にしない。悪魔やアンデッドはどんな犠牲を払っても滅ぼすことこそが下界の幸せに必要なのだから。

 

「なぁクリス。カズマが言うほどではないが、やはりお前は何かアルマについて知っていることがあるのではないか? 初めて二人が出会った時も何か隠していたようだったし……」

 

「そうなのか?」

 

「でなければこうなってしまったアルマをクリスに預けん」

 

うっ、ダクネス余計なことを……。

 

ダクネスが言ったとおり、日中、アルマちゃんはあたしが主に預かっている。普段お父さんがお世話になっている農家の家には朝迎えに行って夜に送り届ける。そんな感じなので、あたしも最近は盗賊のお仕事は休業中だ。

 

「……結局、アルマは何者なんです?」

 

めぐみんの一言でまたもあたしに注目が集まる。

 

さて、どう答えようかな?

 

めぐみんには爆裂魔法を扱える言い訳を。ダクネスはお父さんが貴族とか疑ってるし、アクアさんは悪魔とアンデッド嫌いなところで変な仲間意識持ってる。新人くんは……アレ?

 

新人くんってお父さんの正体を知ってるんだっけ? なら、あたしがアルマちゃんの事情説明したら……関係者だってバレる?

 

つまり、これって、私の正体がバレる危機じゃないですか!!

 

 

 

 

 

 

 

さて、クリスは本当に何か知っているんだろうか?

 

カズマです。アルマ様の暴れっぷりに危機感を抱いとるです。はい。

 

だってさ? 爆裂魔法を連発するんですよ? 突然に、前触れも無くに。

 

それが散々やらかしている俺にいつ向かない保証があると?

 

怖くて夜も眠れません…ッ! だからクリス先輩! どうか教えてちょんまげ!!

 

俺が知りたいのはアルマ様が幼女になった原因とどうやったら元に戻るかだ。怒られるのならせめてもっと理性的で、穏便なお説教にして欲しい。間違っても爆裂魔法で吹き飛ばされたくない。

 

ちなみに何故クリスかというと、ハッキリ言って唯のカンだ。前にダクネスから二人の仲がいいと聞いたことがあるような気もしたし、何よりもアルマ様に無意識に頭を下げている人物でもあるからだ。

 

つまり、アルマ様の正体を知っているっぽい。

 

ひょっとしたら俺みたいに正体を隠すように言い含められているかもしれないが、背に腹は変えられない。こっちはいつ神罰を食らうのかわからないんだ。クリスには悪いが、無理を通して同理を蹴っ飛ばしてもらうとしよう。

 

「まず、確認しておくけど。アルマちゃんがちっちゃくなったのはアンデッドにスキルを使おうとしたからなんだよね?」

 

そう。多分、アクアもたまに使う《ゴッドブロー》とかだと思う。女神の怒りと悲しみをのせたパンチで、相手は死ぬらしい。アクアが使ってモンスターを倒したところなど一度もないが。

 

「なら、魔力の使いすぎで『幼児化』の呪いに抵抗できなくなったんだと思う」

 

「『幼児化』の呪いだと!?」

 

呪い、と聞いてまっ先に反応したのはダクネスだ。果たして、アルマ様を心配してのことなのかどうなのかは判断に悩むが、俺だって驚いた。神様って呪いとか受けるの?

 

「呪いって、そんなもの誰にかけられたんです?」

 

「とてつもなく邪悪な、悪意の塊みたいな邪神に、だよ」

 

なん……だと!? 

 

「なぁクリス。つまりアルマ様は実は大人のボンッ! キュッ! ボンッ! なお姉様ということか?」

 

「なんで新人くんはそこに食いつくかな!? 大人なのはそのとおりだよ!!」

 

マジか。マジなのか。あんな可愛らしいアルマ様が実は大人のお姉さんとかなにそれ素敵。可愛い妹かと思ったら美人のお姉様とかすごい素敵。もう俺、アルマ様の信者になる。

 

「しかしその『幼児化』の呪い? というのはどういった経緯で? 解呪の方法は?」

 

ダクネスが呪いに関してよく聞いている。アレは変態クルセイダーとしてではなく、敬虔なエリス教徒のクルセイダーとしての顔だ。実に珍しい。

 

「アルマちゃん、様は元はとてもお偉い御方で、凄腕のアークウィザードだったんだ。人一倍悪魔とアンデッドがお嫌いな御方で、あたしもよくお世話になっていたんだけど……ある日、何度も手を焼いた宿敵に『幼児化』の呪いをかけられてしまって、気がついたら体が縮んでしまっていたんだ」

 

その言い回し、凄く聞き覚えがあるんだが気のせいだろうか?

 

「では今の姿は呪いが進行した姿ということでしょうか?」

 

「うん。今まではアークウィザードの莫大な魔力で呪いを抑えていたんだけど、強力な魔法を使ったことで抑えていた呪いが一気に……」

 

「成程、だから幼い身体だというのに凄腕冒険者のような貫禄があったということか……」

 

いや、神様のオーラじゃないかと思うんだが。アクア? この駄女神からそんなもん感じたこともないわ。

 

ん? アクア? そういやさっきからやけに大人しいな?

 

「スピーーー」

 

……寝てやがる。静かな方が都合いいし放っておこう。

 

にしてもクリス、上手く誤魔化したものだな。アルマ様がお偉いお方なのは神様なんだから当たり前だし、凄腕のアークウィザードって言っとけばめぐみんも納得するだろう。自分以上の爆裂魔法を使われたことで密かに自身喪失してたからな。

 

「それで、その呪いっていうのはどうやったら治るんだ?」

 

「わかんない。アルマちゃんは自力で解呪しようとしてたけど、時間がかかるって言ってたから」

 

神様が時間がかかるって、どんだけ強力な呪いなんだよ。そして、そんな呪いを俺たち人間ごときがどうこうできるものか? いいや、できない。

 

俺たち人間には。

 

 

「ぴゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

「うるっせぇぞアクア!! 寝てたと思ったらいきなりなんだよ!!」

 

さっきまでぐーすかいびきかいて寝てた駄女神が奇声をあげて起きやがった。だから寝てたほうがよかったのに。

 

「お告げよお告げ!! 今まさに神託が聞こえてきたのよ!!」

 

「なんだと!?」

 

えー? いや、お前……仮りにも元女神じゃん。神託って……むしろ聞かせるポジションだったんだろうにいいの?

 

 

「『汝、《セイクリッド・ブレイクスペル》を使うべし』だって! ……それで、これどういう意味か誰か分かるかしら? 意味不明なんですけどー?」

 

 

 

「「「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!!」」」

 

 

もうやだこの駄女神。なんでまっ先にそれを思いつかないんだよアークプリースト!!

 

 

 




『魂』 「届けワシのゴッドテレパシーー!!」

『物質』「大丈夫かなぁ」

『命』 「ただいま」

『物質』「アレ? お出かけだったんですか?」

『命』 「うん。呼ばれたから」

『物質』「へ? 誰に?」

『命』 「『魂』。グッジョブです。ロリぺドも素晴らしい」

『魂』 「ほえ?」

『命』 「あぁ、姉×妹の百合もよかった。しかしまさかぺドとか、その発想はなかった。迂闊、迂闊です。今から新刊を作らないと。ネームを、いやもうそんなの待てない。この情熱を直接原稿にぶつけなくては……待ってて弟、今イク」


『魂』 「あー……神絵師あるまん先生の新作決定じゃのー」

『物質』「今年の薄い本が厚くなりますね……流石コミケの守護神」



『命』は魔神よりもコミケ会場の守護神になりたい御方。あるまん先生の次回作にご期待下さい。
 


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に説教を!

へんなゆめをみまちた。

 

「のぅ『理』の! 面白いものを考えついたぞ!!」

 

「よし、両手を頭につけてゆっくり跪け。おかしな動きはするなよ?」

 

「ひどッ!? まだ何もしとらんじゃろ!!」

 

「何かするのは確定じゃねぇか」

 

おとこのひととおんなのこがいっちょにいるゆめです。

 

「『命』のが触手ものを書きたいから資料が欲しいって言うんでの! タコとイカとナマコとナメクジと人間の性欲とオークの繁殖力を悪魔合体させた、名付けて『マーラ君四十八手』じゃ! どーれ、早速うちの部署で死んだ目しとる連中に持っていってやるか!!」

 

「……………………」

 

なんだかとてもおおきなうにょうにょちたぬるぬるがいまちた。

 

「お? なんじゃ『理』の? 急にワシを抱きかかえて? いやん♥ そういうことは二人っきりでムードたっぷりベッドの上で」

 

「そぉいっ!!!」

 

なげました。

 

「むぎゃぁああああああああああ!!! ちょっ、マーラ君!? あん、らめぇええええええええええええええええ!!!」

 

「あ、おーいエリスー! この部屋百年くらい封印しとくから立入禁止なー! あと俺『魂』のんとこの部署の仕事手伝ってくるから。うちんとこ任したぞー」

 

「はーい」

 

ぎんぱつのねーちゃがえがおでおへんじをしてまちた。おとこのひとはしんだめをしていまちた。

 

 

 

 

へんなゆめをみまちた。

 

「センパーイ。やっぱ宇宙(パーツ)足んないから増やしていいー?」

 

「……お前、前もそう言って創ったばかりの宇宙を虫食いだらけにして廃棄したよな?」

 

「だって、イマイチ創作意欲が沸かなかったっていうか、いじってる途中で飽きちゃったっていうかー」

 

おとこのひととおんなのひとがいました。

 

「却下だど阿呆。自分の宇宙でオモチャでもいじっとれ!」

 

「ちぇー。じゃぁいいっすよ。帰ってダーリンとイチャイチャするっす」

 

「あっ、お前仕事……ッ! あー、あの少年が生きてる間はつかいもんにならんな……」

 

おんなのひとがでていくと、おとこのひとはあたまをかかえちぇいまちた。

 

「あ、お父さん。『物質』様が百年間の休暇願いを出していったんですけど……」

 

「百年で済んだらいいんだがなぁ。彼氏を人体改造しないでくれよぉぉ」

 

おとこのひとはないてまちた。

 

 

 

 

へんなゆめをみまちた。

 

「なぁ弟よ。地球はいいぞ?」

 

「……お前もとうとう人間の素晴らしさが理解できたか!」

 

おとこのひととおねいさんがいました。

 

「いや、コミケだ」

 

「……………は?」

 

「人間などどうでもいいがその文化は素晴らしい。我はパソコンというものに出会った瞬間に無限の可能性を得た」

 

「あの、もしもし?」

 

「いんたーねっとで描いた絵をうp?したのだがアクセス数が凄くてな。今度コミケとやらで薄い本を出そうと思う。あとペンタブが欲しい」

 

「お前最近仕事してるんだろうな!?」

 

「ぬぅ、神ですら苦しめる締切と白い原稿……腐腐腐、なかなかやるではないかオタク文化……これぞ戦場の風よ!」

 

「おーいエリスー!! ちょっと『命』の職場見てこい! なに!? 死屍累々!? 修羅場!? 天界が地獄ってどいうことだ!?」

 

「というわけで弟よ。お前の部署のアシスタントを貸してはもらえぬか?」

 

「俺の可愛い部下を地獄に引きずり込むな!!!」

 

よくみるとほおがこけたおねいさんをおとこのひとがしばきたおしちぇいまちた。

 

 

 

さいきんこんなゆめばかりみまちゅ!

 

 

 

 

 

 

 

「アルマちゃんその夢を今すぐ忘れよう! 覚えてちゃダメ!!!」

 

クリスです。アルマちゃんからとてもひどい話を聞かされました。というかそれ、思い出したくもない実話です。

 

あたしのお父さんこと、『理』の神、アルマ様は天界一の堅物で最後の良心です。つまり、同格の三柱の方々は控えめに言っても碌でなしばかりということになります。

 

仕事はしない、不祥事ばかり起こす、後片付けはしないと周りに迷惑ばかりかけてその尻拭いを全部お父さんに押し付けていました。

 

でも、お父さんは真面目すぎるくらい真面目な御方なので悪態を付きながらもきちんとお仕事をするのです。……他の方々の分の後始末も。

 

アルマちゃんが思い出したのはそんな一部の出来事。そう、恐ろしいことに一部です。お父さんは『理』の神。叡智を司る神でもありますので記憶を忘却することはありません。忘れたくても忘れられないのです。

 

なんだろう、お父さんはこのまま幼女の姿の方が幸せになれるんじゃないだろうか? そう思えてきたよ。

 

「おーい、クリスにアルマ! 今日はもう帰るぞ!!」

 

「はーい! ダクねーちゃ!」

 

今日はこれでお仕事は終わり。クエストを一つ片付けて、皆でギルドに戻ります。

 

「アクアねーちゃ、だいじょぶ?」

 

「檻の中……こここそが私の世界の全て……出るのは嫌ぁ……」

 

大丈夫じゃないみたい。

 

今日はアクアさんが主体となってのクエスト。というより、アクアさん一人でのお仕事だった。何故かというと、これは彼女の借金を返すための資金作りが目的のクエストだったから。

 

クエストの内容は『水質の悪くなった湖を綺麗にしてください』というもの。これはアクセルの街の水源である湖の水質が悪くなり、ブルータルアリゲーターが住み着いたからなんとかして欲しいという依頼。

 

これに威勢良く名乗りを上げたアクアさんは賞金は欲しいけど危険は犯したくないと駄々をこねた。それを解決する妥協案として、新人くんがまた面白いことを考えついたんだ。

 

「アクアねーちゃ、でがらし! でがらし!」

 

「この子は意味を分かっていっているんでしょうか?」

 

「だとしたら末恐ろしいな……」

 

アクアさんの職業はアークプリースト。水を浄化させることにかけては正にうってつけの職業であり、なんとアクアさんは触れただけで水を浄化できるという。

 

うん? 触れただけで水を浄化って……それって……いやいや、まさか。

 

まぁその素晴らしい体質のおかげで、新人くんはある方法を思いついた。それが、アクアさんを鋼鉄の檻に閉じ込めて湖の淵に浸けておくこと。こうすればブルータルアリゲーターに襲われても檻がアクアさんを守ってくれるから安心して水の浄化もできる。

 

え? 非人道的? そうだね。でも、何故かアクアさんを見ていると職場の先輩を思い出すから止める気がしないんだよな~。

 

で、その結果。約半日程かけて湖は浄化され。ブルータルアリゲーターは去っていった。途中、何度もアクアさんが入った檻を集団でガシガシ噛んでいたから檻の形は変形してるけど問題ない。アクアさんがその恐怖で心に深い傷を負っているけど問題ない。

 

「これでアクアさんのレベル上がってくれたかなぁ」

 

「ク、クリスがなかなかえぐいこと言ってますよ」

 

「あぁ、今のアクアの状態を見てそんなこと言えるとかマジないわー」

 

めぐみんと新人くんが何か失礼なことを言っているけどそんなことは気にならない。

 

だって、

 

「アクアねーちゃ、れべるあがったらまほうせいこうする?」

 

「うん、きっとね」

 

 

アクアさんの《セイクリッド・ブレイクスペル》は失敗したんだよね。

 

原因は、スキルの熟練度と魔力不足だった。

 

 

 

 

 

 

スキルはただ覚えただけでは極めたことにはならない。

 

例えば、新米プリーストと熟練のプリーストが《回復魔法(ヒール)》のスキルを覚えて使ったとしよう。すると、同じ傷でも回復量に差が出る。当然、熟練のプリーストの方が上なんだ。

 

スキルは何度も何度も使うことでコツを掴み、熟練度をあげることで効果を向上することができる。極端な話、《初級魔法》で《上級魔法》並みの威力だって出せるようになれるんだ。

 

……ちなみにお父さんは、「これは《インフェルノ》ではない、《ティンダー》だ!」なんてノリノリでやります。真面目なのに変なところで遊んじゃうところがあの方々と同類なんだなぁ、と思わずにはいられません。

 

アクアさんが入ったままの檻を荷車に乗せて、アクセルの街をギルドに向けて進みます。中でドナドナを歌っているアクアさんが悲壮感を漂わせ、あたし達がまるで人攫いか奴隷商人の集まりみたいに見えるので正直やめて欲しい……。

 

あれ? ドナドナって地球の歌だよね? なんでアクアさんが知ってるの??

 

「どなどなどーなアクアどーなー」

 

「こらアルマ様! そんな風に歌っちゃいけません!」

 

「びぇっ!」

 

「カズマ! 子供に怒鳴りつけるな!!」

 

アクアさんの姿にあんまりな歌を歌うアルマちゃんに新人くんが叱りました。涙目になったアルマちゃんがあたしに抱きついてきます。ダクネスはそんな姿を見て新人くんを逆に叱りつけますが、彼は悪くありません、むしろ、今のお父さんの方がおかしいんだよ。

 

「め、女神様ッ!? 女神様じゃないですかッ!! 何をしているのですかそんな所で!?」

 

子供の教育方針で争う夫婦のように口論する新人くんとダクネスを眺めていると、そんな叫びが聞こえてきた。なにさ?

 

 

 

 

 

 

 

カズマです。今俺はとてもめんどくさそうな奴に絡まれています。

 

「ハァッ!? アクア様を檻に閉じ込めて湖に浸けこんだ!? 君は何を考えているんだ!!」

 

人の襟首を掴んでぎゃーぎゃー騒ぐこの男は御剣響夜というどこの主人公だっていう感じのイケメンだった。名前から分かるとおり、俺と同じ地球から転生してきた日本人らしい。しかも、転生させたのはこれまた俺と同じアクアだったらしく、余りにも落ちぶれた女神の姿に仰天しているというわけだ。

 

まぁ、確かに。世話になった美しい女神が不当な扱いを受けていれば誰だって憤るだろう。俺だってそうする。かもしれない。

 

しかし。

 

俺はこのアクアが駄女神ということを知っているし、こいつが落ちぶれたのも自分が作った借金のせいだ。俺が責められる理由など一つもない。むしろ、返済のために協力してやってるだけ感謝して欲しいくらいだ。

 

なのにこいつ。

 

やれアクア様に大してこの扱いはなんだ! とか言ってアクアの入った檻を壊すし。

 

やれ馬小屋生活なんて信じられん! とか言って駆け出し冒険者をディするし。

 

やれ最弱職に上級職のパーティメンバーなんて勿体ない! とか言って俺のこと見下すし。見下すし!

 

随分と偉そうなことを、自分勝手に、好き勝手言ってくれやがる。小さい子供もいるんで、教育に悪いから止めてくれませんかねぇ? ダクネスも怒りがたまってるし、めぐみんなんか爆烈魔法の詠唱始めちゃってるし、アクアはオロオロと慌ててるだけで役に立ちそうにないし、クリスは……目を見開いて固まってるし。なんで?

 

にしてもこいつ、かなり調子に乗ってんな。装備も豪華で、転生特典のチート装備の魔剣なんか持ってるし? それでレベルが37で仲間に美少女が二人いてハーレムですか。

 

あ、俺こいつ嫌いだわ。なんていうかもう、存在が。俺が苦労して苦労して、神様を怒らせないように毎日をビビりながら過ごしているのに俺TUEEEEしながら楽しく冒険してたんだろ? もうその時点でないわー。うん、ない。

 

「君達、今まで苦労したんだね。これからは僕のパーティーに来るといいよ。僕なら君たちに馬小屋で寝かせるなんて苦労はさせないし、装備だって高級品を買ってあげるよ!」

 

こいつは何を言っているんだろう? めぐみんやダクネスはおろか、当のアクアだってドン引きしているのにまったく気付かずに話を進めている。しかも勧誘しているのは上級職のめぐみんやダクネスにアクアで、冒険者の俺や盗賊のクリスは含まれてないらしい。

 

「ちょっとカズマ、この人痛い人よ。関わらずにギルドに行きましょ?」

 

「このスカしたエリート顔に爆裂魔法を撃ってもいいですか? いいですよね?」

 

「なぁカズマ。この男、何故だか無性に腹が立つ。殴りたくて仕方がないのだが」

 

「アクアさんを女神様って……あの人どう見ても神器所有者……まさか、え?」

 

ミツルギさんよ。うちのメンバーはとても不評のようなんですが。空気を読んで帰ってくれませんかね?

 

その場の全員が苛立っている中、一人だけいつもと変わらずにいた人がいた。

 

「こら! めッ!」

 

アルマ様だった。

 

「なんだい、この小さな子は?」

 

今まで眼中になかったのか、初めてアルマ様に気付いたと言わんばかりの様子を見せるミツルギ。そんな奴にアルマ様はというと。

 

「ちょうしにのったらだめでちょ! えらそうにちない!!」

 

ミツルギの前に仁王立ちして、説教を始めていた。自分の腰よりも低い身長の幼女に怒られている、という状況がまだ飲み込めないのか、ミツルギは狼狽えていた。

 

「お嬢ちゃん、僕たちは大事な話をしているんだ。下がっていてくれないかな?」

 

「じぶんのわがままでひとにめいわくをかけることがだいじなはなち?」

 

「いや、それは……」

 

子供は残酷なことをストレートで言うから怖い。我儘、の一言でミツルギが言葉につまる。

 

「にーちゃもねーちゃたちも、いまのままでいいの! よけいなおせわ!」

 

「だがッ! 僕はアクア様を! こんな扱いを黙って見ているわけにはいかない!!」

 

おいおい子供相手にムキになるなよ。

 

止めるか? そうダクネスの目が言っていた。俺たちだけでなく、ミツルギの仲間の女の子たちも不安そうに見ている。まあ、いくら慕っていると言っても小さな女の子相手に口を荒らげる男の姿は見たくないだろう。

 

だけど俺は知っている。目の前の幼女は、神様なんです。

 

「じぶんのつごうをおしつけるにゃ!!」

 

「「「うっ!」」」

 

その言葉に、全員が圧倒された。一瞬、アルマ様から後光が輝いて見えたが、夕日の光がそう見えたのだろうか?

 

「だれかをすくいちゃい! それはけっこう! でも、あいてのことをかんがえないのはどくぜんでありぼうりょくといっしょ!!」

 

あかん! 何これ!? なんか足が震えてきたんですけど!!

 

「たいわができるのなら話しあえ! じぶんの意見をいうだけでなく相手のはなしをきけ!」

 

アルマ様が一言喋るたびに空気が震えて声が響く。それが耳を通して頭に入ると目眩がして立っていられなくなる。

 

「自己を押し通すだけなら獣と同じぞ! 人間は言の葉を交わす口と耳と理があるであろう!!」

 

もうダメ……脳が蕩けてきた……他の皆は……クリスとアクアが跪いてる……ダクネスは半泣きで天に祈ってるし、めぐみんは……爆裂魔法を撃ったあとみたいに倒れ込んでる。

 

で、アルマ様の説教を直に受けたミツルギはというと、

 

「申し訳ありません……僕が浅はかでした……」

 

号泣しながら土下座していた。お前、やっぱ日本人だわ。取り巻きの女の子達は泣き崩れてるけど大丈夫か?

 

あれ? そういや俺、もうなんともない?

 

急に体調が良くなったというか、身体が元通りに戻った。ガクガクだった足腰も治ったので普通に立ち上がってみる。見れば、他の奴らもフラついてはいるが立ち上がっている。

 

「よかった! じゃぁもういいよー」

 

にかーッ、と笑うアルマちゃんがそこにいた。アルマ様でなく、アルマちゃんで。

 

この人怒らせたらダメだと本気で思い知らされました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「佐藤和真、だったね。さっきはすまなかった」

 

「いいよもう。お前もこっちに来て今まで必死だったんだろ?」

 

アルマ様の『お説教』が終わり、俺達は連れ立って冒険者ギルドにやってきていた。

 

そこで、ギルドからのレンタル品だった檻をミツルギに壊されたことで賠償金が発生していたり、それをアクアがミツルギ払わせたりとしたが、当初ほどの険悪な空気はなくなっていた。

 

ただ、

 

「なぁ佐藤和真。あの女の子は何者なんだい?」

 

それだよなぁ。

 

ミツルギはあれ以来、アルマ様のことを滅茶苦茶ビビってる。目があったら引きつった顔で目をそらすし、微妙に距離をとっている。

 

こいつも転生者だし、話してもいいかな?

 

口止めはされてるけど、このままなのも不味い。現に、避けられていることでアルマ様は半泣きだ。ギルド内の冒険者もそのことで殺気立っている。何気にアルマちゃん大好きな冒険者はいっぱいいるのだ。

 

「そうだな。詳しいことは話せないが、これだけは教えておく」

 

「あ、あぁ」

 

「あの人はアルマ様だ。神と思って逆らうな。オーケイ?」

 

「なん、だって……!?」

 

他の冒険者たちも頷いていた気がするが、このくらいならいいだろ。俺は何も喋ってない。だから大丈夫。……だよな?

 

「《セイクリッド・ブレイクスペル》ーーーー!!!」

 

「だがまりょくがたりない!」

 

「なんでよーーーー!! レベルも上がったのにーー!!」

 

「アクア先輩……私達、女神ですから、ステータスは変わりませんから……というか、やっぱりアクア先輩なんだ……ハハ…」

 

アクアはレベルが上がったからか、早速呪いの解呪に挑戦している。なんでかやる気になっているみたいだけどなんでなろう?

 

とにかく、早いとこアルマ様の呪いを解かなきゃなー。

 

 

 

 

 

 

 

「神、アルマ様……まさか神絵師あるまん先生!?」

 

「どうしたのキョウヤ!?」

 

「絵師? 先生ってなんのこと?!」

 

「新刊が欲しいーーーーーッ!!!!」

 

ミツルギは魔王を倒し、そのご褒美で新作の薄い本を手に入れることを固く心に誓った!!

 

 

 

 




『魂』 「アクアーーーッ! もっと頑張らんかい!!」

『物質』「頑張るって…一番いう資格ない人が言ってるし…いろんな意味で」

『魂』 「やかましい! アレ? そういや『命』は? 最近みとらんぞ?」

『物質』「部屋にこもって修羅場中です」

『魂』 「あー。じゃぁもう呼んでも出てこんの」

『物質』「なので、ビデオカメラ渡されました」

『魂』 「撮れと?」



マツルギさんはあるまん先生の大ファンです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に農民の力を! part3

毎日残業。毎週休日出勤。プレミアムフライデー? それどこの言葉? そんな日常。


夏が終わりに近づいた季節の変わり目。アクセルの街にそれはやってきた。

 

台風である。

 

 

 

「なぁ、こんなもんでいいかウィズ?」

 

「はい。ありがとうございますカズマさん」

 

「しっかし、すごい風だなー」

 

店の窓に木材を打ち付けて店主に確認する。

 

今、アクセルの街全体では台風による強風の影響で補強工事が行われている。馬小屋に住んでいる冒険者達は寝床が吹き飛ばされないように必死に補強しているかギルドからの依頼で街の建物を補強して回っている。

 

俺たちがやってきたのはウィズ魔道具店。

 

先日、墓地で遭遇したリッチーが経営しているマジックアイテムを売る店だ。

 

「街中でアンデッドが店を構えているなんていいのでしょうか?」

 

「今更だと思うぞ?」

 

駆け出し冒険者の街中にアンデッドの王であるリッチーが店を開いている。確かにおかしな話でがあるが、既にこの街には女神だの駄女神がいるのだ。もう魔王が観光に来たって驚かないぞ俺は。

 

ギルドの依頼で、俺とめぐみんは街の中で建物の補強を。アクアやクリスは街の外に住んでいる農家の人たちに避難勧告をして回っている。ダクネスは何故か街の偉い人たちと一緒に指示を行なっていた。

 

アルマ様? 彼女は農家の家で預かってもらっている。元々そこが彼女のホームみたいなものだし、小さな子供が台風の中外を出回るのも危険という周りの判断だ。

 

……なんか、アルマ様なら台風だって吹き飛ばしてくれそうなイメージなんだけどなぁ。

 

そんなこと考えちゃいけないとは思いつつ、リアルに神様が身近にいると神頼みしちゃいたくなるのが人間の弱さだろうか。

 

「そういえば、アルマちゃんの呪いはまだ解けないんですか?」

 

「あー、うん。アクアも頑張っているんだけどなぁ」

 

ウィズはアルマ様が呪いで幼児化した現場に立ち会っていることもありこうして気にかけてくれている。生前、凄腕のアークウィザードだったということから何か解呪の為の方法はないかと訪ねたこともある。しかし、呪いの解呪というのは強力なモノほど難しいという現実を懇切丁寧に説明される結果だけに終わってしまった。しかも、経験談らしい。

 

「アクアが言うには魔力不足で呪いの核まで解呪呪文が届かないらしいんだけど」

 

「成程。術者が解呪されないように防壁を仕掛けているんですね」

 

いや、わからんがな。どゆこと?

 

「一言で呪いと言っても、かけた術者によって魔法なんていくらでも工夫できます。その『幼児化』の呪いはきっと、幾つもの魔法防壁が仕掛けられていて、それを先に突破しないと呪いの核の部分まで解呪の魔法が効かないんだと思います」

 

「つまり、アクアの魔力が増えれば呪いは解けるってことか?」

 

そう言えばアルマ様がそんなこと言ってたような。アクアはその度に泣いてたけど。

 

「アクアもそんなこと言ってましたよ。マナタイトが三十個もあればいける、と」

 

「マジで?」

 

「ま、マナタイトを三十個、ですか……」

 

聞くと、マナタイトというのは魔力を大量に貯蔵した魔石のことらしい。それが三十個、か。

 

「なぁ。ウィズの店はマジックアイテムを扱っているんだろ? マナタイトは売ってないのか?」

 

「あるにはありますけど……」

 

おぉ! ならいけるんじゃ……。

 

「おひとつ、一千万エリスになります♪」

 

別の手を考えよう。

 

「魔力を増やすのなら……リッチースキルにいい方法がありますよ?」

 

「リッチーのスキル?」

 

「はい。《ドレインタッチ》というんですけど」

 

 

 

 

 

 

「それにしても本当に強い風ですね」

 

強風によって身体に叩きつけられる雨の中、めぐみんが言う。確かにそうだが、日本から転生してきた俺としてはそうでもない。まだこれくらいなら傘をさして頑張れるレベルだ。本当に酷いときは歩くことだってままならないのが日本の台風だし、雨だって視界が効かなくなるほどもっと振る。

 

まぁ、島国である日本と大陸の内陸にあるアクセルの街の違いだろう。

 

 

と、俺はまだここが異世界だという認識を甘く見ていた。

 

 

「大変だカズマ! 街の外に竜巻型のモンスターが出現した!!」

 

血相を変えたダクネスがそう言って息を切らせながら走り込んできた。

 

「ふざけんな!!!」

 

そう叫んだ俺は悪くない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャーーー!!! こっち来てるんですけど!? あの竜巻こっちに向かってきてるんですけど!!」

 

「ここはもう危ない!! 皆さん早く逃げてください! 街の中に早く!!」

 

アクアさんと農家のお宅に街の中に避難するように触れ回っていたところ、ソレはやってきた。

 

高さ五十メートル。渦の大きさが百メートルはあろう竜巻が草原の向こうからこちらに向かって突き進んでくる。

 

すぐに避難をしなければならない中、困ったことがあった。

 

農家の人達が、自分達の畑から離れてくれないんだ。つまり避難が進まない、逃げられない。

 

「ばあさんや。畑が心配だからちょっと見てくるよ」

 

「あいよ、気を付けてな」

 

「いやダメだからね!? どこ行こうとしてるのお爺ちゃん!!」

 

肩にタオルをかけたお爺ちゃんがこの嵐の中外へ出ていこうとしている。何度も止めたけど、どこの農家も皆同じことをするから怖くてしょうがない。この人たちはなんで自分の命をもっと大事にしないのかな?

 

「お嬢ちゃん、わしらのことはええ。早く逃げんしゃい」

 

「だからお爺ちゃんたちも一緒に!」

 

竜巻は尚もこちらに向かって来ている。その速度はゆっくりだが、近づくにつれて風も強くなってきていた。このままだと、この農家の建物ごと吹き飛ばされる。

 

「ねぇクリス! お爺ちゃんとお婆ちゃんも早く逃げましょう!? アルマちゃんだってこんなところにいたら飛んでいっちゃうわよ!!」

 

水の女神らしく、アクアさんは顔から色んな液体を大洪水させながらも逃げ出すことなくあたしと一緒になって農家の人たちを説得している。普段はぐうたら女神な先輩だけど、人の子を見捨てようとしないその姿勢は本当に尊敬する女神の姿だと思う。

 

しかし。

 

「アルマちゃんも早く逃げよう? ね?」

 

「んー? にげなきゃ、らめ?」

 

アルマちゃん。お父さんも乗り気じゃないのが問題だ。幼児だからだろうか? 子供は台風が来ると妙なテンションになる。そう聞いたこともあるけど、お父さんがそうなるとは思わなかった。

 

「むすこー。あのぐるぐるってあぶない?」

 

「んー、そうだね……」

 

ダックス。そう名付けられた一撃熊の膝の上に座り込んだアルマちゃんが、近くで農具を倉庫に片付けていた農家の息子さんにそう問いかける。

 

何を当たり前のことを? アルマちゃんが台風の危機感を今だに感じ取っていないのかと思ったとき、彼はこう言った。

 

「毎年のことだし、別に大丈夫だと思うよ?」

 

「そっかー」

 

「「いや、どういうこと!?」」

 

朗らかに笑ってそう言う農家の息子にあたしたちは驚きのあまり叫んだ。

 

毎年ってなにさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とめぐみんはダクネスに先導される形でその竜巻の元へと走っていた。

 

「おいダクネス! 普通逃げるだろ!? なんで危ないところへ走っていかなくちゃならないんだよ!!」

 

「ギルドの調べで分かったのだ! この台風はあの竜巻が引き起こしている! だから奴を倒さなければ街に被害が出続ける!!」

 

「「マジで!?」」

 

竜巻型モンスターって、そういうことかよ……。

 

聞けば、遠くから見れば巨大な竜巻だが、その中心に風を発生させているモンスターがいるらしい。そいつを倒さなければこの台風は終わらないということだ。

 

「つまり、私の爆裂魔法の出番というわけですね!?」

 

「そういうことだ!!」

 

「え!? あ、任せてください!!」

 

いつもなら全力で止められるのに、ぶっぱなせと言われて少し戸惑うめぐみん。しかしやる気に変わりなく、むしろ見ていろという気概だ。

 

アクセルの街を出て走った先は、なんとアルマ様がいる農家の方角だった。

 

「なぁ、ダクネス。あのでかい竜巻がそうか?」

 

「……そうだ」

 

「あわ、あわわわわわわっ!!」

 

街を出てすぐに視界にはいる巨大な竜巻。それがどんどんと速度を上げて近づいていく先に、農家だあった。

 

そこには、アルマ様とアクア達がいるはずだ。

 

ッ! 

 

近づけば近づくほどに風は強まり走ることもままらない。地面から身体が飛ばされそうな浮遊感すら感じる中、俺達は必死に台風に近づいていった。それこそ、地面にしがみつきながら、這って進んだ。

 

「今だーッ! 撃てめぐみん!!」

 

「はい!」

 

竜巻がめぐみんの爆裂魔法の射程距離内に入った時、俺はそう指示をした。めぐみんによる爆裂魔法の詠唱が始まる。

 

少しの時が過ぎたあと、めぐみんは高らかに叫んだ。

 

「《エクスプローーーージョン》!!!!」

 

………。

 

………………。

 

………………………。

 

………………………………?。

 

しかし、何も起きなかった。

 

「「あれ!?」」

 

「ま、魔力が足りません……」

 

「あーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

「ど、どうしたカズマ!? めぐみんも何があったんだ!?」

 

すいません、ちょっとね。

 

爆裂魔法が不発に終わった以上、当然ながら竜巻は止まらない。そのままその勢いを緩めることなく突き進んでいく。

 

その先には農家があり……。

 

「ま、不味い! アクアーーッ! アルマ様ーー! クリーーーッス!!!」

 

頼む、逃げていてくれ!!!

 

必死に叫んだその瞬間、

 

 

ブハァッ!!!!!!

 

 

という轟音と突風の後……竜巻が斬れた。

 

 

「「「ハァッ!?」」」

 

 

 

 

少し前。

 

「今年も、奴が来たか……」

 

「行くのか、親父」

 

「あぁ」

 

じーじがこわいおかおをしてぐるぐるをみてまちゅ。あたちはそれがふあんになりまちちゃ。

 

「じーじ、おそちょ、かぜつよいよ?」

 

「大丈夫じゃよ。じいじの足腰は鍛えとるからのぉ」

 

「いや、そいう問題じゃないでしょお爺ちゃん」

 

アクアねーちゃがじーじをちんぱいしちぇそーいいまちゅ。あたちもちんぱいでちゅ。

 

らから。

 

「ん、じゃーアルマがぐるぐるけしちゃう」

 

「「「え?」」」

 

「おいでほーじょーまる」

 

アルマがよぶと、ほーじょーまるがとんできまちゅ。ほーじょーまるはいいこでちゅ。

 

ほーじょーまるをにぎっちぇ、おそとにでます。かぜがつよいので、かぜよりもはやく、いっきにはちりまちゅ。

 

「そーれっ、よーいちょっ!」

 

ぐるぐるのまえで、ほーじょーまるをおもいっちりふりまちゅ。

 

そちたら。

 

ぐるぐるはまっぷたちゅになりまちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい! 何だ今の!? 何があった!!!」

 

「あ、カズマさん。よっほー!」

 

「じゃねぇよ!? 説明しろこの駄女神がッ!!!」

 

突然目の前の竜巻が消えた。その原因を探るべく、俺達は農家に走り込んだ。そこにはやっぱり逃げ遅れていたのか、アクア達がいたわけで。

 

「あれはね……アルマちゃんが斬ったんだよ」

 

「は? 斬った?」

 

「うん。斬った」

 

「竜巻を?」

 

「竜巻を」

 

クリスの説明を聞いて、俺やめぐみん、ダクネスがポカンと呆けた。

 

そっかー。成程ねー、竜巻が消えたのはアルマ様のおかげだったのかー。納得ー。

 

「アルマ様すげええええええええええええええええええええええええッ!!!!」

 

いや、確かに言ったけどさ! 竜巻なんとかしてくれねぇかなーって言ったけどさ!! 本当にできるとは思わないじゃん!? え? あれフラグだったの!?

 

「またもアルマにいいところを持っていかれましたか……次こそは負けませんよ!」

 

「なぁクリス……いい加減、アルマがどこの国の要人なのか教えてくれないか? 私はそろそろ胃が痛くなってきたんだが」

 

めぐみん、不安になるから対抗心を燃やすんじゃない。ダクネス、世の中には知らなくていいこともあるんだからな?

 

「いや、それよりも見ろカズマ! 竜巻が消えたことで現れるぞ!!」

 

「何が?!」

 

竜巻はもうアルマ様が消してくれたから問題ないんじゃ……いや? そういや、あの竜巻はモンスターが発生させていたんだっけ?

 

なら……。

 

「あれが国から高額賞金をかけられている特別指定モンスター」

 

ダクネスの言うとおり、竜巻があった場所には一体のモンスターが立っていた。そう、立っていた。

 

人と同じ姿の体躯。全身の肌の色は浅黒く、手足は白いテーピングが巻かれ、腰にはボクサーパンツを履き、上半身は裸。見れば老齢の格闘家、といった風体のモンスターだった。

 

その名も、

 

「台風一過だ!!!」

 

「舐めんな!!!」

 

駄洒落か!

 

よく日本でも口にした駄洒落がある。それは台風が来るたびに、「タイ風一家がやってきた。キックボクシングで家を蹴りにやって来た」と友達と笑いながら冗談を言った記憶がある。……捏造じゃないぞ? 本当だぞ?

 

だからってなんでそんな冗談そのままみたいな姿のモンスターがいるんだよ!!!

 

「いいことカズマさん。『台風一過』は夏の終わりを告げる精霊よ。そして精霊は決まった姿を持ってなくて、相対する人間の思考を読んでその姿形になるの。そして、今まで台風に向かっていく冒険者や人間なんて、無駄にレベルの高いチート持ちの転生者しかいなかったから……」

 

「おい、じゃぁ何か? アイツは日本から転生した俺の国の奴らの冗談から産まれたってか!? 馬鹿じゃねぇの!!」

 

「私に言われたって知らないわよ!!」

 

なんて、アクアと怒鳴り合っていたら。

 

「む!? いかんご老人!! どこへ!?」

 

「危ないですよお爺さん!!」

 

ダクネスとめぐみんが焦った声で何やら叫んでいる。見ると、

 

「きぃええええええええええええええええええええええええええ!!!!」

 

農家のお爺ちゃんが『台風一過』に向かって走り出していた。

 

「何やってんの!?」

 

「じーじ、あれとたたかうちゅもり」

 

「だからなんで!? 冒険者でもない農家のお爺ちゃんだぞ!?」

 

「カズマこそ何を言っているんです?」

 

はい?

 

「うむ。そうだぞカズマ? 農家といえば、冒険者を除いた国が保有する最強の職業。魔王軍ですら手を出せない強者たちだぞ?」

 

「私のいた紅魔族の里の農家だって上級魔法を駆使して畑を管理し、収穫によってレベル上げを行う集団ですよ?」

 

えー……なにそれ。この世界の農家怖い。そういや、こんな魔物だらけの土地で農業やるとか怖くてできねぇや俺……。

 

「さらに言うと、農家が作物を育てる時期に合わせて季節が変わることから、実は農家が毎年、季節を告げる精霊を討伐しているんじゃないかって噂があったりなかったり……」

 

「怖いわ!!」

 

「見ろ! ぶつかり合うぞ!!」

 

農家のお爺さんと、『台風一過』の戦いが始まった。

 

 

 

 

「おのれ! 今年もやって来おったか!? この畑を荒らす害獣ガッ!!」

 

「ターーーーーーーーーーーィッ!!!!」

 

風が凪いだ草原で。二人の老躯が拳を交わす。どちらも細い筋肉の削げた身体ながらも、いやだからこそ、軽やかな動きで技を繰り出す。

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「ぬぅっ!」

 

腕に小さな竜巻を纏い、『台風一過』がラッシュを繰り出す。それを受ける農家のお爺さんは風が生み出す真空刃に衣服を切り裂かれていく。しかし、鍛え上げられたその肉体には傷一つつかない。

 

「ならば見よ! 奥義、害虫駆除烈拳!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「ほいほいほいほいほいほいほい!!!」

 

竜巻を纏った拳を撃ち落とすかのように同じ数、いや、それ以上の拳を繰り出すお爺さん。

 

「おぉ! あの技は!?」

 

「知っているのかダクネス!?」

 

「あぁ。あの技は農家が生み出した必殺奥義! 作物に群がる害虫を、その拳で全て駆除する農家の必殺拳! しかし未熟な農家が使えばたちまち本人が害虫に群がられ命を落とすいう諸刃の拳!! まさかそれほどの使い手がこの街の外にいようとは!!!」

 

「あっそう!」

 

お爺さんの技を見たダクネスが突然解説を始めたが、どうやら有名な技らしい。もうツッコむまい。

 

「ほぅあたぁっ!!!」

 

「ターイ!」

 

お爺さんの勢いに押され、『台風一過』が競り負け弾き飛ばされる。しかし、その身体が、分かれた。

 

「分裂したぞ!?」

 

「『台風一過』は夏の風の精霊よ! 身を割いて増えることだってあるわ!!」

 

旋風。そう呼ぶほどの勢いと言えばいいか。四つに分裂した『台風一過』はその姿をそれぞれ変える。

 

老躯。男。女。子供。そんな姿をした個体が一体ずつ、計四躰。

 

「ガチでタイ風一家じゃねーか」

 

「つっこんでるよにーちゃ」

 

勝ち誇った笑みを浮かべる『台風一過』の老躯。その見せつけるかのような笑みは今だ嫁すら来ず孫すらいないお爺さんへの当てつけのようでもあった。

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

「タイタイタイタイタイタイタイ!!!」

 

四躰の『タイ風一家』のラッシュがお爺さんを襲う。だが、お爺さんは怯まない!

 

「じーじ! がんばれー!!」

 

後ろには、彼を応援する可愛い孫(息子は知らん!)がいるのだから。

 

「小癪な! しかし愚かなり!!」

 

ラッシュを躱しつつ、お爺さんは空に飛んだ。

 

「おぉ! あの技は!!」

 

「またかよ!!」

 

「あれは農具すら買えなかった貧しき農家の編み出した奥義! 己の肉体を農具と見立て放たれるその蹴りは岩盤を砕き地中に埋まった岩すらも砂に変えるという!! その技の名は!!」

 

「喰らえぃ! 開墾多連脚!!!」

 

飛び上がったお爺さんよる空中蹴り。それはまるで地上に降り注ぐ豪雨のように、地上の『タイ風一家』を蹂躙した。

 

「「「ターーーーーーーーーーーーーーーーイッ!!!」」」

 

繰り出される蹴りの威力は、一撃のそれはそれほどのものではない。しかし、分裂したことにより一体ごとの強さが分散し弱体化している。故に、お爺さんの攻撃はその尽くを打ち倒した。

 

「タ、タイ……」

 

消滅されていく家族に手を伸ばしながら声を漏らす老躯の『台風一過』。その目にはうっすら涙すら浮かべており、その光景にカズマは『一家離散』と心の中でつぶやいた。

 

そして、彼は怒り狂った。

 

「ターーーーーッイ!!!」

 

「む!?」

 

身体を縮みあげ、片足立ちで構える。その姿勢のままお爺さんの背後を取るべく動き出す。

 

「まさか、出るのかあの技が!? 気をつけろご老人!!」

 

「今度はなんだよ!?」

 

「アレよカズマさん! アレ!! タイキックよ!!」

 

「年末の番組かよ!?」

 

日本からの転生者達の思念を読み取った『台風一過』は、その戦闘方法も習得していた。

 

すなわち、尻部への強烈な蹴りである。

 

もしもこれを喰らえばお爺さんは再起不能となるだろう。何故なら、腰部は農家にとって最も酷使する生命線。鍛え上げられた腰こそが農家の強みであり、粉砕されればもはや農業を行うことすらできない致命傷となる。

 

だからこそ、お爺さんの対応は迅速であった。もはやそれは農家の本能だったといえおう。

 

なぜならば、お爺さんは農業を受け継いだ農家そのものだったのだから。

 

強敵(とも)よ。それが貴様の全霊を込めた一撃というのならば、わしもそれに応えよう……受けるがいい! 農家究極奥義!!!」

 

「ま、まさか……出るのかあの技が!?」

 

「もうなんでもこーい!」

 

『台風一過』から繰り出される中段蹴り。その名もタイキック。それを迎撃するためにとったお爺さんの行動とは、腰だめに構えるということ。

 

逃げるのではなく、構えた。その意味とはッ!!!

 

「作物! 豊穣拳ッッ!!!」

 

お爺さんの身体から大地のエネルギーが迸る。それが拳へと収束し、放たれた一撃と共に放射されタイキックとぶつかりあった。

 

「た、タィッ!?」

 

「天へ還るがいいッ!! ぬおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

渾身の一撃が爆発した。お爺さんという農家を媒介に、大地のエネルギーが天へと突き上げられ、弾けた。そのエネルギーは天へと昇ったあと霧散しまた地上に降り注ぐ。

 

そして大地に新たな芽が咲き乱れる。

 

「タ…………い…………」

 

「また、次も死合おうぞ……」

 

「おぉ……あれぞ農家究極の奥義。大地に根を張る大樹の様に、地についた足から大地のエネルギーを汲み取り拳から放つ技。あれを食らった畑は栄養に満ち溢れ豊作になること間違いなしだという。『大地』の女神ガイアに祝福された真なる農家にしか扱えない秘伝の奥義をこの目で見ることができるとは!!」

 

「もうさ、農家ってなんなの?」

 

「ちなみにあの技を使える農家は所属する国の国王が土下座をして使用を控えるよう懇願するという」

 

「連発されたら国の大地が枯れ果てますからね」

 

「国王より農家のほうが立場上じゃん……」

 

こうして、国の特別指定モンスター『台風一過』は消滅した。夏は終わり、秋の訪れである。

 

しかし、農家の戦いは終わらない。彼らは作物を育てるため、もう一度立ち上がるだろう。

 

農業とは、大自然との戦いなのだから。

 

「次は、冬じゃ!」

 

 

農家よ、永遠なれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『緊急! 緊急! 全冒険者の皆様は、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいッ!!』

 

 

終わったと思ったんだ。

 

台風が過ぎ去った、というか打ち倒した後。俺達が街の片付けに戻ろうとした、その時にこの放送が流れた。

 

そしてそのまま。街へと向かうその足で、ほかの冒険者がそうしていたように俺達は街の正門へと集合した。

 

そこには。

 

「俺の、俺の城にッ! 引っ越したばかりのマイホームに、爆裂魔法をポンポンポンポンとぶち込んで消滅させた馬鹿は、どこのどいつだーーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

全身を、包帯でグルグル巻きにした上から全身甲冑を着篭み、スケルトンや骸骨兵に肩を支えられながら弱々しく立つ、首無しのアンデッド。

 

デュラハンがいた。

 

 

「アンデッド?」

 

「アンデッドね?」

 

「あんでっどはころーす!」

 

逃げて。




『魂』 「読者(お主)は、「馬鹿な! ベルディアは死んだ筈!?」と言う!!」

『物質』「馬鹿な! ベルディアは死んだ筈!? ……ハッ!?」

『魂』 「……いや、なんで?」

『物質』「あの爆発で逃げ延びれるはずが……?」

『命』 「あーーー、徹夜続きで腹が空いた……あ、ベルディアだ。まだ怪我治ってないのに頑張るなぁアイツ」


『魂』『物質』「お前かーーーーーーーーーーい!!!!」

次回! 頑張れベルディア! お前の勇姿は忘れない!! をお送りします。タイトルは違うよ?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に御慈悲を!

一ヶ月ぶりの土日休みです。


「俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王軍幹部の者だが……」

 

 

街の正門のすぐ前にある小さな丘の上で、魔王軍の幹部と名乗った満身創痍の首なし騎士アンデッド、デュラハンが。ギルドの招集で集まった冒険者達の前で弱々しくで語りだした。

 

「引っ越して早々! いきなり爆烈魔法を食らわすとは何事だ!? おかげで運びこんだおニューの家財道具一式が纏めて吹き飛んだわ!!! なんでこんな悪質な真似をする!? おかげで住むところと財産を同時に失うし部下も俺を守るために皆死んだ!! アンデッドだけど死ぬときは苦しいんだぞ!? お前らには血も涙もないのか!! この極悪人共がッ!!」

 

魔王軍の幹部にだけは言われたくない。

 

 

遅くなりましたが、カズマです。

 

どうやらこの魔王軍の幹部と名乗ったデュラハンは、以前アルマ様が爆裂魔法の連発で吹き飛ばした廃城に引っ越していたらしい。成程、あの時アルマ様が『くちゃい』と言っていたのは廃城がアンデッドの巣窟になっていたからだったのか。

 

「爆裂魔法?」

 

「爆裂魔法と言えば……」

 

冒険者たちの視線が一点の人物に集中する。アクセルの街で有名な頭のおかしい爆裂娘(めぐみん)へと。

 

そして、めぐみんの視線がふぃっ、とアルマへと向けられ……、

 

「おい」

 

「じょ、冗談ですよ!?」

 

流石の爆裂娘も、幼女にヘイトを集めるのは気が引けたようだった。が、困ったことに、犯人は彼女である。

 

あ、そういえばアルマ様は?

 

 

「おまえくちゃい!!」

 

「……なんだこのガキは?」

 

 

ちょっ!? アルマ様ぁああああああああああああああああああ!??

 

 

デュラハンの目の前で、指を指して臭いと言い放つ幼女がそこに居た。子供ってちょっと目を離している内にとんでもないことをしでかしてるよな、ってんなこと言ってる場合じゃねー!!

 

「くちゃい! くちゃいッ! えんがちょ! えんがちょ!!」

 

「く、臭い臭い連呼すんなこのガキ!! 毎日風呂に入ってるから臭くないわい!!」

 

子供か! あ、子供でしたね! というか、このデュラハン。煽り耐性が低いな。子供の悪口に即ギレって、なんとまぁ大人げない……。

 

「あのデュラハン臭いんですって……」

 

「全身鎧だしなぁ……臭いも篭るんだろう」

 

「見てあの顔の脂汗……汚ーい。えんがちょ」

 

「しかもアンデッドだろ? 腐ってるんじゃねーの?」

 

「うわぁばっちぃ……斬ったら剣に変な汁付きそうで嫌だぜ俺」

 

そんな二人のやり取りを見て、周りの冒険者たちの辛辣な声がひそひそと聞こえてくる。やめたげてよぉ。

 

「臭くないと言ってるだろうがぁ!! なんなんだこの陰湿な街は!?」

 

「アルマ! 危ないから下がってろ!!」

 

ダクネスがアルマ様に近づき後ろから抱き上げる。デュラハンの目の前へまで近づくその度胸は尊敬するが………危ないとは誰のことを言っているのか判断が難しいところだ。

 

「お前が親か!?」

 

「ちちち違うわ!!」

 

「おまえなんでいきちぇる!? ちね! ちゃっちゃとちね! りちゃいくるもできないちりがみゅいかのちょんざいのくちぇにちぶといぞ! なまごみはくちゃるとくちゃいしむちもわくからみんなめいわく!! はながまがるからちゃっちゃとあなほってうまってこい!!」

 

「子供にどんな教育しとるんだお前は!?」

 

「だから親じゃない!!」

 

魔王軍の幹部すらドン引く幼女の罵倒の内容の酷さ。さらにこのままだとダクネスがアルマ様の母親として周知されそうである。

 

だがダクネス、お前にアルマ様はやらん。その方は俺の妹だ。そこだけは絶対に譲らん。

 

「駆け出しの冒険者の街だと思って見逃してやろうと思えば、なんて最低最悪な街なんだ! 元々俺は魔王軍の占い師がこの辺にとても強い光が降臨したと言うから調査のつもりで来たのだが……気が変わった! お前ら皆殺しにしてやる!!」

 

「「「なっ!?」」」

 

マジっすか!?

 

「恨むなら俺の新居を爆裂魔法で吹き飛ばした輩とそこの口汚い小娘を恨むんだな!! あと、普通にお前らがむかつくわ!!!!」

 

前者はどちらも同一人物です。あとこのデュラハン、威勢はいいが見るからにボロボロなんだよなぁ。正直ここにいる冒険者達全員で袋叩きにすれば勝てそうなくらいだ。

 

なのになんでこんなにやる気まんまんなんだ? なにか勝算があるのか?

 

「クックック、お前ら、俺が弱っていると見て余裕そうだな? だが、俺がお前らを殺すなど造作もないのだぞ?」

 

どういうことだ?

 

やはり何か隠し球があるのか、デュラハンは自分の勝利を疑っていない。ボロボロの身体を部下に支えてもらってやっと立っている状態でこの自信。

 

 

こいつに何があったんだ?

 

 

「いいだろう、冥土の土産に教えてやろう……俺が授かった、魔神様の加護をな!!!」

 

魔神だって!?

 

………魔神?

 

「え、魔神って……えぇー?」

 

「なにしてるのあの御方?」

 

なんか身内から落胆の声が聞こえるが、やっぱり魔神ってあの魔神?

 

 

「そう、あれは俺がマイホームとなった城の最上階に家具を設置した直後のことだった……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よーし! 玉座オッケー! 赤絨毯も敷いた! 部下も城の要所に配置したし、今日は自分の部屋作りにいそしむとするかなぁ!」

 

出張とはいえ出先でこんな大きな拠点を得た俺は、それはもう気分上々でご機嫌だった。魔王軍の幹部とはいえ、城一つを拠点にするなんて魔王軍では魔王様以外にいないからだ。

 

アンデッドになって長い俺だったが、魔王軍の幹部にまで成り上がるまでは殆ど野宿に近く、幹部となっても魔王城の一室で借家生活だ。

 

そんな俺が今や一城の主。気分も高まるいうものだろう!!

 

「よーし、今日は秘蔵のワインでも飲んで明日から仕事に励むとしようかなぁ! おいそこの骸骨兵! ちょっと酒蔵に行って……」

 

が、俺の栄光はそこまでだった。

 

「これは、爆裂魔法の魔方陣!?」

 

突如、城の外壁にくっきりとそれが浮かび上がったのだ。

 

何者かによる、爆裂魔法の攻撃だ。

 

「全員ふせろーーーーー!!!」

 

俺は咄嗟に叫んだ。その声を聞いた奴らはすぐに机に下に潜り込んだりその場にしゃがみこんだ。おれも、玉座のすぐ横に頭を抱えて床に這いつくばった。

 

そして、轟音と共に衝撃が来た。

 

ドーーーンッ! という爆発と城が揺れる衝撃。それらにもみくちゃにされて城の中にいた俺達は大混乱だった。地面には立っていられない、床はグラグラするし壁や天井は今にも崩れ落ちそうだった。

 

しかし、俺のマイホームは耐えてくれた。

 

爆裂魔法を放った魔法職の下手人が未熟だったのか、それともこの城の作りが思いの外頑強だったのか、とにかく耐えてくれたのだ。

 

「ちくしょう! 冒険者の襲撃か!? 今すぐ城の入口を固めろ! 全員武装を忘れるな!」

 

部下に冒険者の襲撃に備えるように指示を出し、俺は玉座に腰を下ろした。爆裂魔法はその威力故に消費魔力もとてつもない。恐らく、犯人はもう一日の魔力のほとんどを使い切っただろう。この城に攻めいるのなら仲間がいるはず。ならば、これから俺達を討伐に複数人のパーティーが雪崩込んでくるはずだ。

 

「俺たち魔王軍の、しかも幹部である俺がいると知っての襲撃だとしたら大した度胸だ! いいだろう! 迎え撃ってやるぞ冒険者共!!」

 

城の主として、ボスの風格を醸し出すために玉座に悠然と腰を下ろす俺。……俺今メチャクチャカッコイイ! めっちゃボスっぽい!

 

魔王軍として数多の冒険者と戦い殺してきた俺は今や高額の賞金首だ。その額三億エリス! 思えば魔王軍としてかなり有名な部類ではないだろうか!?

 

「よーし! 今日から俺は魔王軍の幹部改め中ボス! 魔王様の右腕とは俺のことだ! かかってこい冒険者め!!!」

 

玉座で高笑いを決め込んでいた俺だったが、

 

 

やっぱりそこまでが俺の輝かしい栄光の、終わりの始まりだった。

 

 

また、爆裂魔法の魔方陣が城に浮かび上がった。

 

 

それも、タクサン。

 

 

は?

 

 

え?

 

 

あれーーーーーーーーーーーー??

 

 

 

チュドーーーーンッ! ドゴーーーーンッ!!! ドドドドドドドドドッッ!!!! ドンガンドンガン!!!! バッゴンバッゴン!! ガーーンッガーーンッ!!! 

 

 

「逃げろーーーー!!! お前ら逃げろーーーー!!!  うわぁあああああああああああああああ!!!? 何これ!? なんなんだこれはぁっ!??」

 

まさしく地獄絵図だった。

 

最初の一撃に耐えてくれた俺のマイホームが無残にも破壊されていく。天井は崩れ落ち、床は抜けた。石柱が次々と倒れて部下を押しつぶしていく。俺も必死に逃げようとしたが、床がグラグラと振動して思うように歩けない。なんとか這うようにして城の外へと進んでいく。

 

「俺の城が……部下が……奮発して買ったキングサイズのベッドが……ワインセラーが……こっそり隠しておいたエッチな本が……あんまりだぁああああああああああああああああ!!!」

 

皆、城と一緒に崩れていく。降り注いだ瓦礫が家具や砕いて台無しにしていく。

 

そして、当然、のたのたと這い蹲る俺の元へも……。

 

だが、俺はすぐには死ななかった。

 

「お、お前達!?」

 

部下のスケルトンが、骸骨兵が、アンデッドナイト達が、崩れ落ちる瓦礫の雨霰から身体を張って守ってくれたのだ。

 

「(逃げてくださいベルディアさん!)」

 

「スケゾウ!?」

 

「(俺たちのボスがこんなところでくたばっちゃならねぇ!)」

 

「スカるん!」

 

その二体のアンデッドは俺の部下として最も長い付き合いの最古参の兵だった。そんな奴らが、身を張って俺を逃がそうとしてれた。俺は目に涙を溜めながら必死に逃げた。

 

だが、どうしようもなかった。

 

城の崩壊は圧倒的で、俺は砕けた床から落ち、天井だった構造物に押しつぶされた。

 

生き埋め。アンデッドには相応しい最後なのかもしれない。だが、俺はまだ死にたくなかった。

 

人間として、騎士として生きた人生。怨嗟にまみれながら処刑され、復讐の為にアンデッドとして蘇ったデュラハン。それが俺、ベルディアだ。

 

まだ死にたくない。まだ、俺の中の恨みと憎しみは消えずに残っている……。

 

魔王様、魔族の神、魔神様……ッ!

  

 

「どうか……救いを……たす、け……」

 

 

 

 

 

 

「呼んだ?」

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

目の前にいたのは人間の女に見えた。銀髪に赤目、褐色の肌。長身で、スタイルも抜群という、どこか作り物じみた美しさをもつ美女だった。

 

しかし、俺にはその女がドラゴンに思えた。

 

どこからどう見ても人間にしか目えないのに、ドラゴンとしか思えない。まるで目の前に、今にも大きな口を開けてこちらを喰らい尽くそうとする巨大な生物が立ち塞がっているような、圧倒的な存在感。生前、騎士だった頃に軍勢に混じって討伐したドラゴンを前にした時に感じた絶望感を思い出し、堪らず口から出た言葉が。

 

「貴方が……魔神様……か?」

 

「ん。助けて欲しい、だったな?」

 

魔神様は俺の頭と身体を片手ずつで鷲掴みにすると、

 

「じゃ、頑張れ。一応簡単には死なないように加護つけてやるから」

 

身体を覆う一瞬の魔法付与の後、無造作に城の外へと投げ飛ばした。

 

「いやっえ!? えぇえええええええええええええええええええ!???」

 

城の壁を粉砕し、宙に舞う。空の青さを視認すると同時に身体がマイホームの建っていた丘の下に広がる森へと落ちていくのを確認した。

 

首は飛んで行き、身体は森の中。

 

「ちょっ、これ助かってなくないぃいいいいいいいいいいいいい!?」

 

遠ざかる身体を見ながら、ベルディアの首は遠く空の向こうへと飛んでいった。

 

生き残った部下のアンデッドナイトが身体と首を見つけるまでの間、ベルディアは野生のモンスターに襲われ続けたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「「うわぁ」」」

 

不憫。余りにも酷い惨状にその場の冒険者たちの同情の視線がベルディアに突き刺さる。全身が包帯でまかれているのもそのためか……。

 

「ふっふっふ、だが、魔神様は俺に素晴らしい加護をお与えくださった。だからこそ、俺は今だに生きているのだ!! そう、『不滅』の加護をな!!」

 

「なんだって!?」

 

『不滅』。つまり、死なないってことか? 

 

唯でさえ強い魔王軍の幹部に『不滅』属性とかチートってレベルじゃねぇぞ!?

 

 

 

「おいごみくず」

 

「なっ!? またお前か! 口の悪いガキめ!」

 

その話を聞いたのか聞かなかったのか、アルマ様はダクネスの腕の中からすり抜けて再びデュラハンの、ベルディアの前に立っていた。

 

「ぱーんち」

 

「ハッ! ガキのパンチが効くかよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!???」

 

滅茶苦茶効きました。

 

アルマ様のパンチは身長差からベルディアの足のスネに当たった。その一撃は甲冑を砕き内部の生身を粉砕する。

 

「いでええええええええええええええええええええええ!? なんだこのガキのパンチは!? だが俺は『不滅』だ! こんな攻撃でくたばったり」

 

スネを両手で押さえながら涙目でベルディアの頭部が叫ぶ。

 

そう、両手で殴られた足を摩っているのだから、頭部は地面に転がっていた。

 

「あ」

 

アルマ様はそれを、掴んだ。

 

「えい」

 

そして、地面に叩きつけた。

 

 

ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッ!!!!!!!!!!!!!

 

 

 

その時、星が揺れた。

 

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」」

 

「「きゃぁああああああああああああああああ!!」」

 

冒険者も、アクセルの街にいた住民たちも、全員が叫んだ。恐らく、この辺りだけでなく、

 

 

この星に住む全ての生物が驚き叫んでいるだろう。

 

 

星揺れによる、大地震の発生である。

 

 

「あれ? つぶれない?」

 

「いっでええええええええええええええええええええええええええええ!! なんだこのガキ!? なんなんだ!? だが俺は『不滅』! 残念だっ」

 

「じゃ、ちぬまで」

 

 

「なんどでも タ タ ケ バ イ イ カ 」

 

 

 

アルマ様は再度、ベルディアの頭を振りかぶった。

 

そして星は、また震えた。

 

 

 

 

 




ベルディアを放り投げた後の『命』のアルマさん。

「ふふふ、下界に呼ばれたおかげでようやく弟と遊べる!」

神は理由なく下界に降臨してはいけません(天界規定より)

「! 弟の匂い! そこかッ………!?!?!?」

そこにはロリータどころかアリス、いやハイジと呼ぶほどに幼くなった彼女の弟の姿が。

「まさかのぺドおおおおおお!!?」

大量の鼻血を吹いてその場でしばらく気絶していたそうな。





『魂』 「お前なにしとるんじゃ?!」

『物質』「だからあの時居なかったんですか」

『命』 「弟可愛いよ! かわいいよ!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にもっと御慈悲を!

やめて!魔神アルマの特殊能力で、ベルディアに《不滅》の加護を与えたら、死ぬことなく痛みを受け続けることでベルディアの精神が壊れちゃう!

お願い、死なないでベルディア!あんたが今ここで倒れたら、スケゾウやスカるんとの約束はどうなっちゃうの? アクセルはまだ無事。ここを耐えれば、貴方が魔王軍のニューリーダーよ!

今回「ベルディア死す」。慈悲はない!


「止めてーッ! 誰かあの子を止めてーーッ!!」

 

アクアの泣き声が耳に響く。俺だって泣き出したいよ!!

 

アルマ様のベルディアへの攻撃はまだ続いている。つまり、

 

「ちねー! ちねー! ちねー!」

 

「ぎゃぁああああああああああああ!!! 痛い痛い痛い!! いやぁあああああああああああああああ!!!」

 

大地震はまだ継続中だ。

 

見た目は女の子座りをした幼女がボール(頭部)をペチペチと平手でビンタしている光景だ。

 

しかし、音がおかしい。一発のビンタが、ペちん、ではなくドゴォオオオオオオン!! なのだ。そりゃぁ大地だって揺れるわ!!

 

「というか、なんでベルディアの頭は何時まで経っても潰れないんだよ!? 硬すぎるだろ!!」

 

頭を潰すとか、自分で言ってて怖い発言だが、正直このままだとこの惑星が割れそうだ。どうせ割るなら自分たちのいる世界よりも賞金のかかった首が割れてくれたほうがマシだった。

 

「マズいよ新人くん! このままだとアクセルの街ごとこの辺一帯が人の住めない土地になる!!」

 

「なんで魔王軍の幹部よりも身内の方が被害でかいんだよ!? それよりなんなんだよあのベルディアの硬さは!」

 

アルマ様が星を割りかねない威力で叩いているのに無傷ってどういうことだ!? ……滅茶苦茶痛がってるけど。

 

「あのデュラハン、魔神様の加護って言ったわよね? しかも『不滅』って……それって多分『不壊』属性じゃないかしら?」

 

「不壊?」

 

「『絶対に壊れない』ようにする魔法だよ。耐久力が無限大、自動修復速度ノータイム、時間経過による劣化無効っていう付与魔法だね。いわば擬似不老不死ってやつさ」

 

「なんだその無限コンティニュー!? 誰だそんな状態のアンデッドをアルマ様の前に置いた奴は!?」

 

「でも痛がってるってことはダメージは与えられているってことでは!? このまま倒せないんですか!?」

 

「物理攻撃じゃ不可能なんだ! かけられた魔法を解除しなくちゃ、このままこの星ごと叩き割っても倒せない!」

 

「結局それかよ! おいアクア!! 出番だぞ!」

 

「無理よ! 『命』様の魔法よ!? 構造術式を見慣れた『魂』様の魔法ならともかく、あの御方の魔法を私が解除出来るはずないでしょう!?」

 

いつも自信満々なアクアにしては珍しく、女神の力での完全敗北宣言だった。

 

マジかよ、じゃぁどうすればいいってんだよ!?

 

「とにかく新人くん! アルマちゃんをベルディアから引き離すんだ!」

 

「引き離すって!?」

 

どうやって?

 

「えい! えい! えい!」

 

ドゴォオオオオオオン!! ドゴォオオオオオオン!! ドゴォオオオオオオン!!

 

「ぎゃぁあああああああああああ!!! ぁああああああっ!! いっそ殺せーーーーー!!」

 

あの震源地にどうやって近づけと?

 

アルマ様がベルディアを叩くたびに揺れる大地。その度に地面に這い蹲る冒険者たちは誰も動くことができずに悲鳴を上げている。街の外壁も崩れかけていて中の住民も恐怖で震えている。

 

……いや、ダメだろ。

 

人間が大好きで。アクセルの街の人達が笑顔で暮らせるように頑張ってた人が、この星ごとそんな人々を怖がらせてちゃダメでだろ。

 

アルマ様はなにがなんでも止める。それに異論はない。でも、そんな大層な役目を俺みたいな駆け出し冒険者がなんでやらないといけない? ここにはベテランの冒険者だっているだろうに。

 

……いや、あったわ。俺が頑張らなくちゃいけない理由が。

 

 

俺、アルマちゃんのお兄ちゃんだったわ。

 

 

「しょうがねーーなぁっ!」

 

右腕を突き出して震源地へと走る。

 

「アルマちゃん、お兄ちゃんを見ろ!」

 

「え?」

 

『お兄ちゃん』という言葉に即座に反応して振り返る妹アルマちゃん。彼女は俺の、『妹になってください』という願いによってその言葉に軽い強制力が働くのかもしれない。

 

「スティール!!!!」

 

「「「あぁ!!」」」

 

窃盗スキルをアルマ様に使えばどうなるか、俺には分かっている。分かっているんだ!

 

 

全裸のアルマ様が腕の中に飛び込んでくるってことが!!!

 

 

「「「この鬼畜ーーーーーーーッ!!!」」」

 

「うっさいわ! 緊急事態だろ!?」

 

「? かすまおにいちゃん? はなちて! あいつころちぇない!!」

 

「一番妹に言われたくないセリフきた! ダクネーーッス!! ベルディアは任せたぞ! お前とどっちが硬いか競ってやれ!!」

 

「硬いっていうな! だが分かった!」

 

暗に時間稼ぎをしろという指示をすぐに理解し、ダクネスがベルディアに突進していく。アルマ様がベルディアから離れたおかげで地震もおさまり他の冒険者達も次々と戦線に突入していった。

 

「おいアクア! アルマ様の呪いを解くぞ! こっちこい!!」

 

「ちょっ!? まだ無理よ! 魔力が足りないんだってば!!」

 

アクアが弱音をはいているけど、やってもらわなければ困る。

 

物理無効な『不滅』なんて相手に俺達冒険者が勝てるはずがない。何せ、理性のない神様ですら手をこまねき、女神すら無効化できないっていうのだから。

 

だったら、もうこの神様に頼るしかないだろう!?

 

「よくやったね新人くん! そのままアルマちゃんを抱きしめてて! もの凄く変態っぽいっけど!!」

 

「言うなーーーッ!!! また周りから白い目で見られちゃうだろう!?」

 

「へんたいー! かすまおにいちゃんのろりぺどやろー!」

 

「カズマ、フォローできません」

 

「お前もかーッ!!」

 

今俺は全裸のアルマ様を向かい合わせの状態で抱きしめている。ハッキリ言って誰から見ても変態だ。めぐみんが自分のマントを脱いでアルマ様に被せているが、その時でも隙あらば抜け出そうとするアルマ様を抑えないといけないから余計に犯罪集が凄い。

 

「いい新人くん? アルマちゃんは人間相手なら絶対に手を出さない。今きみが抑えている間だけがこの星の救いとなるんだ!」

 

「めっちゃ叩かれてるんですけど!?」

 

「このー! はなちぇー!」

 

ぺちぺちとアルマ様のビンタが俺の顔を叩く。もしや、これが人間仕様のビンタなのだろうか? アンデッド相手の威力なら、この一撃で俺の頭は吹き飛んでいるんだろうな……。

 

「いいかアクア! 今から俺がウィズに教えてもらった《ドレインタッチ》でお前に魔力を供給する! その魔力でアルマ様の『幼児化』の呪いを解け!!」

 

「はぁっ!? アンタ何時の間に《ドレインタッチ》なんてリッチースキル覚えてきたのよ! 女神の従者としての自覚無いの!?」

 

「ねぇ新人くん? リッチーのスキルなんてどこで覚えてきたのかな? かな?」

 

「誰がお前の従者だ! そしてクリスは目がこええよ!? なんなの!? いいから魔力を沢山持ってそうな魔法職の奴らからかき集めてこい!!」

 

やっぱり女神のアクアに黙ってアンデッドのウィズにスキルを習うのは不味かったか? しかもクリスまでなんか怖いし。

 

「でもカズマ? アクセルの魔法職は皆ベルディアの攻撃に行っちゃったのでもう残っていませんが」

 

「なにぃ!?」

 

「それにアクセルの魔法職の魔力だけじゃ全然足りないわよ? アクシズ教の御神体である私が世界中のアクシズ教徒の信仰心を集めた魔力でも足らないのに無理よ」

 

「マジで!?」

 

誤算だった。マナタイトを三十個買えないのなら、三十個分の魔力を集めればいいと思ったのに、アクセルの街の冒険者でも足らないだって!?

 

「私は今日はもう爆裂魔法を撃てませんので魔力は提供しますが、どうするんです?」

 

「どうするって……」

 

めぐみんはもう爆裂魔法は使えない。ウィズから《ドレインタッチ》を教えてもらうためにスキルの実験台になってもらって魔力を減らしているからだ。そのせいで、今日は台風相手に爆裂魔法を撃てなかった訳だし。

 

「なら新人くん! あたしの魔力を使って!」

 

「クリス?」

 

悩んでいたらクリスがそんなことを言ってきた。気持ちは嬉しいけど、盗賊職のクリスの魔力量じゃ……。

 

「大丈夫! 私だけの魔力じゃない、世界中のエリス教徒の魔力なら足ります! ね! アクア先輩(・・)

 

そう言って、クリスはアクアに向かってウインクをする。どういうことか俺にはわからないが、それを見たアクアは。

 

「………ハッ!! この私を先輩と呼びたくなるくらい敬っているなんてクリスも中々見所があるじゃない! なんならエリス教徒止めてアクシズ教徒にならない?」

 

「………えぇー……」

 

何故だろう。アクアを見るクリスの目が「こいつマジかよ」って言っているように見えた。うん、俺も正直なに言ってんだこの駄女神って思う。

 

「よくわからんが、いけるって言うんなら魔力をもらうぞクリス!」

 

「うん! 早いとこやっちゃって! ダクネスたちも危ない!」

 

ダクネス?

 

「大変だカズマ! このデュラハン、私の鎧ばかり狙って脱がそうとしてくる! とんだ変態だ!!」

 

「ちちち違うわ馬鹿!!」

 

ほっといてもよくね?

 

ダクネスは自分の性癖を楽しんでるみたいだからまだ大丈夫だろう。ウィズに《ドレインタッチ》は相手の心臓に近い位置の肌からが一番魔力を吸収できると聞いたので、クリスとアクアの首を掴んで魔力のバイパスを作る。両腕を離すことになるので、アルマ様はめぐみんに任せる。

 

「じゃ流すぞ! 《ドレインタッチ》!」

 

クリスから俺、アクアへと魔力が流れていく。どれくらい流せばわからないから、そのへんの調整はアクア任せだ。

 

アレ? クリスから流れてく魔力の量が半端ないんですけど。流れる量が膨大すぎて腕が痺れてきてるんですけど!? なんなんだこれ!!

 

「どうだアクア!?」

 

「きてる…すっごい魔力が流れてきてるわ……あれ? なにかしらこの魔力。なんだか覚えがあるというか、懐かしいというか……」

 

「かなり魔力を持ってかれてるのにまだ入るなんて……『魂』様の娘なだけあるよアクア先輩……」

 

かなり怖い会話をしているみたいだから放っておこう。俺は何も聞かなかった!

 

「いける! いけるわよカズマ!!」

 

「よーーし! やれーーーッ!! アクアーーー!!」

 

 

「《セクリッドォオオオオオオオ!!! ブレイクスペルッッ!!!!!》」

 

 

アルマ様の頭上に巨大な魔方陣が五つ展開し、そこから神々しい光が飛び出し一つとなって降り注いだ。

 

「うぉ! 眩しッ!!」

 

「ちょっ!? わたしもいるんですけど!?」

 

「うにゃ~~~~~!!!」

 

あまりの光量に目がくらむ。アルマ様を抱いているめぐみんは巻き添えだが、物理ダメージはない筈なので耐えてくれ。

 

その光を全身で浴びたアルマ様(とめぐみん)はあまりの輝きの強さに姿すら見えない。

 

 

眩しすぎる光景が過ぎ去った後、そこにいたのは……、金髪、碧眼、長身の……ボン! キュ! ボン!! で全裸なお姉さんだった!!

 

 

「あ”ぁ”ぁ”っ!?」

 

「「「クリス!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

寝起きから思考がスッキリとする朝の目覚めのような気分だった。

 

頭にかかっていた靄が取り払われ、鈍っていた頭が冴え渡ってくる。

 

そして、故に思う。

 

 

「何をやっているんだ私は………」

 

 

子供の姿で人並み外れた力の行使。スキルポイントの書き換え。スキルの乱獲と乱用。星を砕きかねない攻撃を長々と続け、人の子らを不安と危険に晒す。

 

自分自身が度し難くてしょうがない。『理』の神である私が『(ルール)』を破ってばかりだ。

 

……あぁ胃が痛い。どうしてこんなことに。いや、全部アレだ。『魂』のが悪い。あのロリババァ、帰ったらお尻ペンペン百叩きの刑に処してやる。

 

あ、そういや俺が意識を失っている間の天界の仕事は大丈夫だろうか? ウチの天使達は教育はきちんとしているが、私が不在の時は『理』の神の加護で事務能力を底上げしていたはずだ。天界は仕事をしない三馬鹿神のせいで仕事が溜まる一方だから、天使達の処理能力を余裕で超えているかもしれん。

 

「一度帰るか……」

 

だがその前に。

 

「アルマ、さん? 服! 服を着てください!!」

 

「めぐみんのマントだけじゃ足りないよ! アクア先輩! その羽衣貸して!」

 

「嫌よ! これは私の女神としての……あぁ! カズマ! カズマさん!! 無理矢理取らないで!!」

 

「俺は何も見てない! 見てないからどうぞごゆっくり!!」

 

目の前のゴミを片付けよう。

 

めぐみんのマントを受け取りキャミソールのように腰に巻く。アクアの羽衣は無理やり奪い取り、胸にサラシのように巻きつけた。まぁこれで、公然猥褻の誹りは受けない程度の体裁は整えたはずだ。

 

まぁ、私としては隠さないといけないような恥しい身体はしていないつもりだがね?

 

「いいから隠してよ恥しい!!!」

 

おいエリス。お父さんに対して酷くないか? あ、今はどっちかというとお母さんか? ままならぬ。

 

なんでもいい。

 

私は戦場へと足を向ける。目の前ではゴミと可愛らしい人の子が戦っている。早く手を差し伸べねてやらねばならない。

 

特に、そのゴミにウチのバカ姉の加護が掛かってるんなら尚更だ!! 何やってるんだアイツは!!! 人の子に神の加護を相手にできるわけないだろうが!!!

 

「ダクネス、離れていなさい」

 

「……え? 誰?」

 

「「「半裸のネーチャンだ!!!」」」

 

ダクネスの肩に手を置いて下がるように告げる。私を見た他の人の子とゴミが口を揃えてこの姿に目を剥くが、戦場で発情できる余裕があるとは素晴らしい。だが、ゴミは駄目だ。人の子ならおおいに結構だが、ゴミムシに見つめられるのは我慢ならん。

 

「ゴミは捨てる、虫は潰す。うむ、アンデッド相手に行うことはいつもシンプルでいい」

 

「なんだこの痴女は! この街は変態だらけか!?」

 

「黙れ」

 

五月蝿いゴミだ。目にするのも耳で聴くのも鼻で臭いを嗅ぐのも肌で吐息を感じるのも、全てが嫌になる。

 

「《ゴッドブロー》」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

軽く拳を振るう。《ゴッドブロー》は込めた魔力が多いほど威力が上がる。以前はリッチー相手にと張り切りすぎたせいでへまをしたが、今は問題ない。

 

アクアのおかげで『幼児化』の呪いは解けた。アイツはやれば出来る子なのに、中々やる気を出さないのが欠点だ。『魂』のが知性と向上心を全捨てして他の能力に割り振って創ったせいだろうか?

 

だが、流石に『弱体化』と『女体化』までは解けなかったらしい。こちら二つは自分でなんとかしよう。

 

それに、目の前のゴミ掃除を行う分には問題ない。

 

「神気を纏わせた拳でも死なない、か。アイツめ、どれだけ強力な加護を」

 

このゴミは、私の拳でも死なないらしい。よほど『命』のの『不滅』の加護が強力ということだ。

 

なら、さらに威力をあげよう。

 

「《バインド》」

 

「俺に捕縛のスキルなど効かぬわ! ……あれ?」

 

《バインド》スキルはロープなどで相手を縛り上げて拘束するスキルだ。まぁロープなど持っていなかったので、ロープを創ったのだが、問題ないだろう。

 

このゴミはどうやらかなり調子に乗っているらしく、私のスキルなど効かないと思っているのだろう。駆け出し冒険者の街にいるのだからレベルも低いと思っているに違いない。目の前に突如現れたロープを避けることなく捕縛されたことからよくわかる。

 

舐めるなよ?

 

「さて。《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《筋力強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《速度強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《防御力強化》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》《威力上昇》」

 

「は? おい、待て……」

 

身体能力上昇スキルの過剰がけ。これなら人の子でも行える、この世界のレベルに合わせた攻撃手段だろう。

 

「《害虫駆除烈拳》」

 

「ぎゃぁああああああああああああああ!! ぎゃぎゃがっ!? がぁああああああああああ!! いやぁああああああああああああ!!!」

 

うむ、虫を潰すにはやはりこれだろう。

 

拳の連打が目の前のゴミを殴り続ける。農家の技がスキル扱いで覚えていたことが驚きだが、なんとも素晴らしい人の編み出した技だ。

 

まずは威力の検証だ。攻撃力を上げた拳で神の加護を突破できるか? というのは実に問題だ。人の子が使うスキルで、人の身である今の私で無理なら……。

 

「あ、が、が……待って、なんだ、お前……なんなんだ!?」

 

む、まだ生きてる。やはり無理か? いや。

 

「《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《筋力弱体化》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《速度低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《防御力低下》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《魔法付与無効》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》《痛覚倍増》」

 

今度は弱体化させてみよう。

 

「待て! お願いします!! 待ってくれ!!」

 

「《ゴッド……》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《ブロー!》《フィンガーーーーーー!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》《レクイエム!!》」

 

「あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

おや? まだ生きている。なんとしぶとい。

 

「ふうむ、これはもうあれだな。やはり人の手には余る、か」

 

この先、《不滅》のスキルはこの世界から抹消するとしよう。後で『命』のにも釘を刺しておかねば。

 

ん? そう言えば、周りが静かだな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目の前でベルディアの可哀想すぎる断末魔が何度も響く。

 

あんまりにも理不尽で、不憫すぎるその光景に、周りの冒険者達はドン引きだった。

 

「なぁカズマ? アレは本当にアルマなのか? なぁ? 頼むから嘘だと言ってくれ!!」

 

「お前あぁいうの大好きなんだろ? 頼んで混ぜてもらってこいよ」

 

「私に死ねというのか!?」

 

ダクネスが自分のキャラをと性癖を忘れて何か言っているが、こいつに限ったことじゃない。他の冒険者も似たような状態だった。

 

「うわぁぁ……いくらアンデッドでもアレは引くわー。でもどっか見慣れた光景よねー」

 

「おと、アルマ様。頼むから自重して! 本当に頼むから!!」

 

「ああああの冷静に相手の耐性を検証しながら殺しにかかるところとか紅魔族でもしませんよ!? なんですかアレ!? おっかなすぎて見てられないんですけど!!」

 

うん、めぐみん。俺もそう思うよ。

 

前に馬小屋でアクアが言っていたのはこういうことか!! そりゃ怖いわ!! 相手を殺す方法をじっくり検証しながらいたぶるってどんな悪魔だ! いや神様でした!! すいません! だから怒らないでください!! すんませんでした!!!

 

格好も、胸にサラシ(アクアの羽衣)を巻いたロンスカ(めぐみんのマント)の女番長みたいで余計に恐い。恐いと怖いで正しく恐怖のお人だわ。そりゃこんな神様怒らせたらいかんよ!!

 

「ん、もういいや」

 

この場にいるすべての生物を恐怖で縛った神様は、気だる気にそう言うと、動けない哀れなベルディアに指先を当ててなにやら呟いた。

 

「《付与魔法除去》」

 

アルマ様の指先から出た光がベルディアを包み込んでいく。それに一番驚愕したのもやはりベルディアだった。

 

「馬鹿な!? 消えていく…ッ! 魔神様の加護が消えていくだと!?」

 

さっきの魔法は、どうやらベルディアにかけられていた《不滅》の効果を打ち消したみたいだ。アクアが無理って言っていたのにあっさりと……。

 

「脳筋馬鹿のかけた魔法を、『理』の神である私が解けない道理もあるまい」

 

「……は?」

 

それは小さな呟きだった。俺以外、耳に出来た奴は居ないかもしれない。でも、ひょっとしたら俺のパーティーの奴らには聞こえたかもな。

 

「お前の来世はナメクジか、それともボウフラにしてやろうか」

 

「待て! 色んな意味で待てぇえええええええ!!!」

 

俺は、その光景に静かに合掌した。自然と、周りの冒険者たちも各々の宗教の形式で手を合わせている。

 

 

サヨナラ、ベルディア。

 

 

「《セイクリッドォオオオオオオオオ!!」

 

アルマ様の拳が光って唸る。

 

「タァアアアアアアンッ!!!」

 

振りかぶった一撃がベルディアの身体を貫き輝き弾ける。

 

「アンデッドオオオオオオオオオオオオオ!!!!》」

 

「ぎゃぁあああああああああああああああああああああああぁぁぁ………」

 

拳から迸った光がそのまま突き抜け、水平に飛んでいって遠くの山の一部を砕いていった。

 

「それそういう技じゃないからぁああああああああああああああああ!!!!」

 

最後に、ウチのアークプリーストはそう言って叫んだ。

 

 

こうして、魔王軍の幹部ベルディアは浄化(物理)された。

 

アクセルの街はその驚異から救われたのだった。

 

 

……正直、神様の方がよっぽど酷い被害を出したのだがぁ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその翌日。

 

俺たちのパーティーはベルディア討伐の報奨金三億エリスと。

 

 

アルマ様が引き起こした大地震による街の被害、総額五億エリスの弁償金を背負うことになった!

 

 

差し引き二億エリスの借金である!! どうしてこうなった!!??

 

おせーて神様ぁ!!!

 

 

 

 

 

 

久しぶりの報告書。

 

神が付与する加護について。

 

・チート転生者への特典という前例があるが、これは能力で劣る人類種への配慮であって、魔物に与えてはもともこもないだろう。

 

・《不滅》《不老不死》《復活》といった、死なない、殺せない系統の加護は基本禁止とする。

 

・悪魔、アンデッド、魔物といった脅威は人類の生活範囲を脅かさないようにバランスに留意されたし。

 

・なお、悪魔とアンデッドと虐殺することに関しては問題ない。

 

結論。天界規定通り、『神は下界に干渉してはならず』を徹底されたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルマちゃん、今度はこっち手伝って」

 

「はい! 息子さん!」

 

小さい身体も慣れれば悪くないものである。




『魂』 「いやー、『理』のが元に戻ってよかったのう!」

『物質』「いえ、また女の子になってませんでした?」

『命』 「なぁ、もうそろそろ弟分を補充したいのだが……」

『理』 「よう」


『魂』『物質』『命』「「「!!??」」」


『理』 「お し お き の 時 間 だ 」


アルマちゃんの査察はもうちょっとだけ続くんじゃ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にお仕置きを!

おさらい。

『理』のアルマ…金髪碧眼の青年。

『魂』のアルマ…褐色肌の童女(ロリババア)。

『命』のアルマ…銀髪赤目褐色のお姉さん。

『物質』のアルマ…黒髪ロングの女子高生。






『幸運』の女神、エリスです。

 

アクセルの街を襲ったベルディアの騒動も一段落し、私は一度天界に戻ってきました。

 

……仕事が溜まっているんですよ。下界じゃお父さんのお守りが長かったですから。

 

下界と天界での二重生活を送っている私ですが、正直下界での生活の方が気が楽といいますか、いい息抜きになっているのかもしれません。

 

ちなみに私の天界でのお仕事ですが。主に下界で魔物に殺された人間の魂を新たな生へと転生させ導く役目を担っています。

 

これでも一応、担当世界ではトップの立場なんですよ? 上司がハチャメチャなだけで結構私偉いんですからね?

 

……お父さん? あの人達はノーカンです。本社の社長とか会長みたいな立場の方々と支社の支部長な私を比べないでください。

 

ちなみに、アクア先輩は地球担当女神なことをエリートだと言い張っていますが、アレって本社が地球にあるようなもので、実際は支社を任せるのが不安だったから目の届くところに置いておいたんだ、とお父さんがぼやいていました。

 

……仕事サボって星の管理とか放り投げそうですもんね、アクア先輩って。

 

実際、地球でのお仕事ってほとんどお父さんが管理してましたし。アクア先輩は『魂』様と一緒にお菓子食べながらテレビ見てた事の方が多かったような……? いえ、真面目に仕事をしているときもあるんですよ? ただ、対応がおざなりというかテキトーというか……駄目です、フォローすればするほど情けない光景しか思い浮かびません。

 

「あぁー……早く仕事片付けてギルドでシュワシュワ飲みたい……」

 

これから転生待ちの死者の魂をいくつか応対して、回収した神器を保管したり、行方が分からない神器をピックアップして……今日中に終わるかなぁ?

 

「お? エリス。お前も来ていたのか」

 

「お父さん!?」

 

驚きました。

 

下界でアルマちゃんという少女の冒険者をやっている私の父、『理』の神アルマ様が天界に帰って来ていました。姿も元の金髪碧眼、長身の成人男性と、元の御姿です。

 

「おと、アルマ様、元の御姿にお戻りになられたのですか?」

 

「うむ。まぁ、『魂』ののアレも少し綻びさえすればどうとでも出来るしな」

 

どうやら下界でアクア先輩に解呪された呪いの一部から取っ掛りを得たお父さんはそこから『魂』様の魔法を全て解呪出来たそうです。

 

魔法に関してはお父さんは四柱一の使い手ですしね……。

 

「いやお前、使い手以前に私そのものが魔法の根幹みたいなものなのだがな?」

 

でした。

 

『理』の神様というのは、あらゆる現象を引き起こすための原理を決定した神様ということです。魔法を長年研究した賢者がいたとして、その賢者が探求の末たどり着いた真理でさえお父さんが用意した解答でしかないのです。

 

つまり、魔法を使うということは、『理』の神が用意した例題を参照しているに過ぎず、模範解答そのものであるお父さんに解明や対処が出来ない道理はないのです。

 

だからこそ、幼児化によってその頭脳がふにゃけていた状態がどれだけ異常だったことか。思考がまともになった瞬間に全ての妨害魔法を解除して元の姿に戻れたことが何よりの証拠でしょう。

 

「で、だ。私はこれから自分の職場に入るわけだが……」

 

「……あぁ」

 

仕事、溜まってそうだなぁ………。

 

お父さんの仕事量は宇宙一です。誇張にあらず。

 

他の御三方のサボりまくったお仕事を一手に引き受けているお父さんです。なのにここ数ヶ月、下界にいたので全く片付いていません。部下の天使達が代行していたと聞きましたが、大丈夫でしょうか?

 

不安を抱きつつ、職場への扉を開いていきます。そして、私達が見たその光景とは……、

 

 

天使A「……あー……あー……判子をポーン。もう一枚ポーン」

 

天使B「伝票きりまーす……もっときりまーす……計算合いませーん……もう一回最初からやり直しまーす」

 

天使C「書類がいちまーい……ファイルが足りなーい……何してるのかもうわかんなーい」

 

天使D「&js%k!”$kq!!」

 

 

まさしく地獄のような光景でした。

 

目の下に隈をこれでもかと作った天使達。書類のそびえ立つオフィス。虚ろな目で手が止まることなく動き続ける職場風景。これを地獄と言わず何と言うでしょうか?

 

「お前らーーーーーーッ!!!」

 

「ちょっ!? 皆寝てる!? 寝てないよね!? 何徹してるの!!」

 

あまりの光景に目を疑いました。お父さんと部屋に飛び込み天使達を介抱します。皆、どこを見ているのか定かではない表情でボーっとしているのが心配でしょうがありません。

 

これ意識あるの!?

 

何度か肩を揺すってみますが、なかなか正気に戻ってくれません。仕事、仕事とうわ言を繰り返すのみです。

 

「おい! しっかりしろ!! おい! 《ヒール》!!」

 

もはや疲労が酷すぎるので回復魔法を使う程です。ですが、効果が徐々に出てきたのかゆっくりと目に焦点と活力が戻ってきてます。

 

「………? …こ、『理』さ、ま?」

 

「大丈夫か? いや、大丈夫じゃないな。もう休んでいいぞ、後は私が引き継ぐから……」

 

「「「『理』様ーーーーーーーーッ!!!!」」」

 

天使達が泣きながらお父さんに飛びつきます。それはも必死に、縋り付くように。抱きついたら、そのままわんわんと泣き出してしまいました。

 

「あの馬鹿ども、どんだけ仕事押し付けやがったんだ!!」

 

あ。これは御三方、お仕置きですね。

 

お父さんのお怒りです。

 

 

 

 

 

「ぎゃーーーーーーーッ!!! 堪忍しとくれ『理』のーーーーーッ!!」

 

「やかましい! 貴様、仕事サボってなに遊んでやがる!!!」

 

まずは『魂』様のお部屋に突入です。すると、なんとまぁ。

 

お部屋の中はゲームと漫画、お菓子にジュースと散らかっており、テレビには下界の光景がこれでもかと映っていました。

 

下界でのお父さんの姿を見ながらゴロゴロしてましたね?

 

お父さんは『魂』様を捕獲すると、片腕抱きにして彼女のお尻を、

 

パチーーーーーーーーーーーーン!!!

 

思いっきり叩きました。

 

「アヒィンッ!」

 

「この阿呆がッ! 性根から叩き直してやる!!」

 

「わ、ワシの方が年上なんじゃぞ!?」

 

パチーーーーーーーーーーーーン!!!

 

もう一発です。

 

「オホォッ♥!!」

 

「コンマ差の年の違いだろうが!! お前の悪いとこばかりアクアに似てきてるんだぞ!? ちょっとは創造主らしくきちっと模範とならんか!!」

 

「おまっ!? お前さんがそれを言うんか!? エリスとアクアのアンデッド嫌いも元はお前さんのアァァンッ♥!!!」

 

パチーーーーーーーーーーーーン!!! パチーーーーーーーーーーーーン!!! パチーーーーーーーーーーーーン!!!

 

『魂』様の言い分などお構いなしに、お父さんの折檻はきっちり百回お尻を叩くまで続きました。ちなみに一回で宇宙が消し飛ぶ威力があります。私だったらお尻から爆発して死んでます。

 

でもね、お父さん?

 

いい加減気づこうよ。

 

『魂』様って、お父さんのこと大好きだからちょっかい出してるんだよ? アクア先輩のかまってちゃんっぷりの元祖な御方だよ?

 

何やったってご褒美なんだから御仕置きにならないんだよなぁ。

 

『魂』様は足腰が立たなくなるまで折檻されたので、最後は顔を真っ赤にさせて倒れちゃいました。

 

 

 

 

 

 

次は『物質』様のところです。

 

「すいませんでしたーーーーーーーっ!!! でも僕は基本見てただけですよ!?」

 

『物質』様の私室に入った瞬間土下座されました。この御方、見た目は清純派女子高生なのに行動が子供っぽいところがあります。

 

「仕事サボった言い訳になるかボケーーーッ!!」

 

拳骨です。一撃で星を粉々にし、超新星爆発を引き起こす拳で脳天への拳骨です。

 

「いったーーーい!!!」

 

痛いですむのは貴方達だけです。私ならチリも残さず消滅してます。

 

「お前下界で少年とデート禁止な!!」

 

「そんな殺生な!!!!」

 

『物質』様は芸術家を自称し、ちょくちょく下界の人間たちと交流を持っておられる御方です。しかも、現地の人間と恋仲になることも多く、今のお相手は十五歳の少年とのことです。

 

ちなみに、『物質』様はショタコンです。

 

「それが嫌なら今すぐ溜めまくった仕事片付けてこい!!! 終わったら許してやる!」

 

「三日で終わらせます!!」

 

スカートを翻して机へと向かっていきます。普段から真面目に仕事すればいいのに……。

 

本当に三日で仕事を終わらせた『物質』様は、実はお父さんに次ぐ頭脳の持ち主なのです。

 

なのになぁ……。

 

「携帯見ながら仕事するな!!」

 

「ごめんなさい!! あぁっ! 没収しないでよぉ!!」

 

ここは学校か何かでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

最後は『命』様です。

 

正直、この部屋には入りたくありません!! 腐臭がするからです! いろんな意味で!!

 

「………仕事しないで引き篭っているのは何時も通りなんだが」

 

「今回は特に酷そうですね」

 

扉の隙間から臭気が漏れています。怨念というか、執念というか。おびただしい熱意と情熱を妄執によってこり固めたような、そんな雰囲気が感じられて開けるのが躊躇われます。

 

「エリス、お前ちょっと中見てきてくんない?」

 

「嫌ですよ!?」

 

だって『命』様の部屋の中って所謂修羅場ってやつですよ!? 夏と冬になると絵の上手い天使達が監禁されて出て来れなくなる魔界です! 天界に魔界を生み出すとかどんな禁忌ですか!!

 

「部屋に入るよりもっと確実な手段があります」

 

「ほぅ? それは?」

 

「『命』様ー! 『理』様がお会いになりに来ましたよー!!」

 

私は『命』様の私室の扉に向かってそう叫びました。『命』様を呼び出す、これが一番確実な方法です。

 

「は? お前そんなんで……」

 

「弟ーーーーーーーーッ!!!!!!」

 

ほらね。

 

妙にテンションの高い。徹夜漬けで気分がハイになり末期のようです。

 

部屋の中を覗くと……あ、はい。察してください。天使が数人修羅場ってます。アグネスが軍団を率いて黙示録を引き起こしそうな作品が溢れていました。もうあれ禁書指定したほうがいいと思います。

 

「弟! 久しぶりだな!! さぁ殺し合おう(遊ぼう)!!」

 

「嫌だ」

 

「………えっ!?」

 

「嫌だ」

 

「………………ぇ?」

 

「い・や・だ」

 

「…………………………ぐすっ、ぇぇ?」

 

「仕事しないような奴は姉とも思わん」

 

「う、うぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!!」

 

あー、はい。

 

泣いちゃいました。『命』様って物理最強、無限復活と、お父さんと喧嘩したら宇宙がいくつも消し飛ぶほど暴れるくせに、メンタル弱いんですよねー。

 

お父さんから拒絶されると特に酷い。どう酷いって、幼児化したお父さん並みに子供っぽくなる。見た目が大人なお姉さんなだけ余計にギャップがあります。

 

「なら、仕事するから後で……」

 

「あぁ、喧嘩でも殺し合いでもなんでも遊んでやるからさっさと仕事してこい」

 

「わかった!」

 

お父さんにそう言われると笑顔で去っていきました。あの、『命』様の執務室ってこの部屋じゃ……?

 

「アイツ、私の部屋に仕事道具持ち込んでるんだよなぁ……頼むから自分の部屋で仕事してくれよ邪魔くさい」

 

えー?

 

お父さん、『命』様の好意に気づいてあげられないかな? 

 

あの人、『命』の神様だからか。「殺し合いで命のやり取りを行うことが一番生きてるって感じがする!」って言ってお父さんに喧嘩売っているから好意を向けているのに全く気づいてもらえないんですよね。

 

とりあえず、これで全員仕事に戻ってくれたかな?

 

「まだだぞ?」

 

「え?」

 

あれ? まだ仕事してない人いましたっけ?

 

「私の仕事が溜まっているだろう?」

 

「あはは、そうですね!」

 

そうでした、こういう人でした。

 

なんだかんだ言って、お父さんの仕事量は何時もの四倍程溜まってました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、天界の様子は散々でした、まる」

 

「そーなんだー」

 

カズマです。あの、アルマちゃん? アルマ様!? そういうこと俺相手に愚痴るのやめてくれません!?

 

冒険者ギルドで抱えた借金をどうしようかと悩んでいると、十二歳、小さな女の子のアルマちゃんがシュワシュワを二人分持って俺の隣に座って来た。

 

なんでまた子供の姿なの? って聞くと、

 

「カズマお兄ちゃんのせいです」

 

そう一言で言い切られてそれ以上の質問を封じられた。俺が何したっていうの!?

 

「……まったく、お兄ちゃんが『妹になってください』なんて願いを言わなければ……」

 

「あの、今なんて」

 

「なんでもないです!」

 

よくわからないが、どうやら彼女はまだ俺の妹らしい。ようやく大人の姿に戻って、呪いも解けたっていうのに自分でこの姿になって冒険者を続けている。

 

ひょっとしたら、なんやかんだでこの小さな神様も下界の暮らしが気に入ったのかもしれない。

 

そう思った。

 

「それにしてもアレですね。カズマお兄ちゃんに借金が二億も請求されるのはおかしな話です」

 

「原因がそれを言う!? いや、確かにおかしいけどさ!!」

 

この借金、アルマちゃんが壊した街の修繕費なんですけど!?

 

「それですよ。普通、借金を突きつけられるのはお兄ちゃんじゃなく私の筈です」

 

たしかにそうかもしれないけど、そうはならなかった。

 

それは、アルマちゃんが十二歳の未成年だからだ。

 

大人のアルマ様なら借金は彼女のものだった。しかし、ギルドに登録されている冒険者のアルマちゃんは十二歳の子供だ。

 

なら、借金はその保護者に向かったのだろう。

 

普段から、彼女の『お兄ちゃん』を名乗る俺に。

 

それが俺の二億の借金の真相だ。

 

まぁ、最高神様を妹に持てる代償と思えば安いもんだろう。

 

そうカッコつけていた俺だが、どうやらアルマ様ことアルマちゃんはそうはいかなかったらしい。

 

シュワシュワをグイッと一気に飲むと、ダンッ! とジョッキをテーブルに叩きつけてこう言った。

 

「直談判です!」

 

「へ?」

 

「ちょっと領主のところに行ってきます」

 

「はぁ!?」

 

アルマちゃんはその可愛らしい笑顔でそう言い切ると、軽やから足取りでギルドから出ていった。

 

「じゃぁお兄ちゃん! ちょっと行ってアルマの借金引き受けてくるね!」

 

「ちょっ、まーーーーーーーーーッ!!!!!」

 

 

小さな神様の引き起こす騒動はまだまだ続く。




『魂』 「尻が! 尻がぁぁぁ!!」

『物質』「デート! デート!」

『命』 「弟と遊ぶぞ!!!!」

『理』 「仕事が片付かない……」


アルマちゃん「天界の本体は大変そうだなぁ」


どういうことでしょーか!

『理』は面倒見がいいので皆が甘えてきます。ある意味、家族でお兄ちゃんで弟で夫で恋人でお父さんなお人。本人は真面目なだけで自覚なし。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に殴り込みを!!

仕事で嫌なことってありますよね。そういう時ほど筆が乗る。


アクセルの街でひときわ大きな屋敷があります。

 

この屋敷の主こそ、アクセルの街を含んだここ一帯の領地の領主なのです。

 

その領主の名は、アレクセイ・バーネス・アルダープ。

 

アクセルの街で悪徳領主と名高い男である!

 

脱税の疑いなど毎年のことで、それ以外の余罪などそれはもう出るわ出るわ。街の噂だけで両手両足の指では足りないほどに口々に出される悪行の数々。

 

しかし悪事がよほど上手いのか、証拠が一切出てないという。それでは罪には問えないし、貴族の権力をゴリ押したもみ消しも多い。被害者は泣き寝入りするか、最悪貴族に逆らった者として逆に処刑されることもあるらしい。

 

つまり、どうひいき目に見ても、アルダープという領主は悪党らしいです。

 

しかし、あくまでも、噂では、です。

 

 

「………くっさ!? ナニここくっさぁ!?」

 

開始早々申し訳ありません。

 

現在この街の領主の屋敷の前で鼻を摘んで悶えている女の子、アルマです。

 

最悪です。私の悪魔ブッ殺センサーがバリ三です。

 

つまりですね。この屋敷、悪魔がいます。私の嗅覚を誤魔化せると思うなかれ。例え屋敷の奥深くに隠していたとしても私には分かるのです。

 

世界というキャンパスに、悪魔という汚れが付着しているのです。これはいけません。

 

早急に、そして確実に汚れを落とさなくては。

 

お掃除しましょう。

 

借金? それはまた今度にしましょう。

 

「たのもー!!!!」

 

屋敷の正面にある立派な門を叩きます。門番さんが二人立っていますが、アポなし訪問ご容赦ください。

 

「すいませーーーん! 悪魔いますよねー? 処分するんで持ってきてくださーい!!」

 

「ちょっ!? なんなんだこの娘は!?」

 

二人の門番さんが慌てて駆け寄ってきます。そうですね、悪魔が居るなんて不安でしょうがないです。わかります。

 

「このお屋敷、悪魔がいます! 大丈夫、私がすぐに駆除しますので安心してください!!」

 

「………………」

 

「さぁ! 門を開けてください!」

 

門番さんは私を前にニッコリと微笑みました。そうです、もう安心ですよ?

 

そして、

 

 

何故か私は、門番さんに抱えられてギルドまで連行されました。

 

 

解せぬ。

 

 

 

 

 

 

 

「何が悪かったのでしょうか?」

 

「全部じゃないですかね?」

 

ギルドで再びカズマお兄ちゃんとシュワシュワを飲みながら、作戦計画です!

 

「あれ? これまさか俺もやんなきゃダメなのか? 強制参加?」

 

当たり前じゃないですか。

 

「いいですか? 悪魔ですよ? 悪魔がこの街にいるんですよ? なら殺処分は当然ですよ? それを匿っているなんて信じられません! きっと領主さんは悪魔に誑かされているんですよ!!」

 

「そ、そうですね! あ、悪魔を街に匿っているなんて正気を疑いますよね!?」

 

? どうしたのでしょう? カズマお兄ちゃんが急に饒舌になりました。いえ、きっとお兄ちゃんも悪魔の気持ち悪さと救いようのなさに気づいたのでしょう。やはり人の子に悪意を求める悪魔など滅ぼすべし。

 

「ということで、どうしたら領主さんのお屋敷に殴り込みに行けるでしょうか?」

 

「殴り込むんっすか!?」

 

「あ、あと借金のお話もしなくては」

 

「ついで!? もう当初の目的とか後回しなんですね!!」

 

いえいえそんな。きっと領主さんも悪魔から開放されれば心穏やかに私達の話に耳を傾けてくれるようになりま、……あれ?

 

「あの、ひょっとしてなんですけど……領主さんが悪徳領主と揶揄されるほど悪行を重ねているのは全て悪魔の仕業なのでは?!」

 

「なんか凄いとこに飛び火した!?」

 

そうです! きっと領主さんは悪魔によって悪行を強いられているです! こうしてはおられません!! もう一度領主さんのお屋敷に赴き、今度こそ悪魔を駆除しなくては!!

 

「では行ってきます!!」

 

「ちょっ!? 誰かーー!!! この子止めてーーー!!」

 

 

 

 

 

 

というわけで、アルマ様は本当に領主の屋敷に殴り込みに行った。止めようとしているうちに、何故か俺まで領主の屋敷前に来ている。

 

しかし、

 

「おらー! 出てこい領主!! 税金下げろや!」

 

「このドケチ領主が!! いい加減店のツケ払え!! いくら踏み倒してると思っているんだ!!」

 

「ウチの土地を返して!! アンタが不当に取り上げたことはわかってるんだからね!!!」

 

「俺の娘を返せ! なにがメイドにしてやるだ!! もしも手を出してたらぶっ殺してやる!!」

 

ギルドでアルマ様との会話を聞いていた冒険者達を引き連れて。

 

これ、全部で二百人位いるんじゃないか? 

 

ギルドから着いてきた冒険者達を始め、話しを聞きつけたアクセルの街の住人が続々と合流してきた。数が数を呼び、膨れ上がった人の数は屋敷の門の前に留まらず、周囲をぐるっと囲む程になっていた。

 

なんて思っているうちにまた増えた。どんだけ恨み買ってるんだよ領主。

 

「凄い人の数ですね」

 

「領主は手広くやっているからな。その、色々と……」

 

「くっさ!? 本当にくっさぁ!? 確かに屋敷の中から匂いが漏れてるわ! 間違いなく邪悪な者が潜んでいるわよ!!」

 

「匂いどころか嫌な気配もするよ! 近づいたらヤバイと思わせる程なんてかなりの悪魔だよ!!」

 

「でてきなさーい! 貴方は完全意包囲されていまーす! 悪魔を差し出して改心しましょう!!」

 

めぐみんやダクネス。それにアクアやクリスまで加わって、なんかもうこれ、デモじゃないか?

 

ちなみに、こいつらはアルマ様がまた小さくなっていることに最初は驚きはしたが安堵もしていた。よほど大人アルマ様の衝撃が尾を引いていたのだろう。露骨にホッとしていた。まぁ、本人が何時でも大人になれますよ? と言ったところ、盛大に顔を引き攣らせていたのもいい思い出です。

 

そうして騒いでいること小一時間。

 

「なんだこの騒ぎは!? 貴様らここを誰の屋敷だと思っている!!!」

 

でっぷりと太った図体の大きい、まるで豚のように太った熊のような金髪口ひげのおっさんが屋敷から出てきた。おっさんは屋敷から庭に出ると、それ以上門には近づかずこちらを怒鳴っている。

 

あれが噂の悪徳領主か。確かに悪いことしてそうな顔をしている。人を見た目で判断してはいけませんと、幼い頃親に教えられた俺だが、このアルダープという男に関しては見た目で判断していいと確信できる。

 

だって、着ている服がいかにも成金ですって言っているような悪趣味な格好だもの。

 

具体的に言うと、金目のものを高いものから順に服に装飾として縫いつけましたと、そんな感じの服だった。

 

豚に真珠とはよく言ったものである。

 

有罪(ギルティ)!!」

 

「なっ!?」

 

アルマ様が領主を指さすと、突然声を張り上げてそう言った。

 

見ただけでわかるんかい!!!

 

「領主さんから悪魔の残り香がします!! こいつはクセェーです!」

 

「確かに邪悪な気配がするわ!!」

 

「なんで今まで気付かなかったのかわからないけど、確かに悪魔の気配がするよ!!」

 

アルマ様に続いてアクアまでそんなことを言い出した。あと、何故かクリスも。敬虔なエリス教徒の彼女は悪魔の気配にも敏感なんだろうか?

 

「なななななななな何を言ってるんだ!? あ、あ悪魔なんてこの屋敷にいる訳がないだろう!!!」

 

大根か。居そうだよ。絶対いるだろこれ。

 

「領主さん!」

 

「なんだ小娘!?」

 

「大丈夫。貴方は救われますよ」

 

「はぁ!?」

 

両手を胸の前で組み、慈悲深い微笑みを浮かべて。アルマ様は悪徳領主アルダープにそう告げた。

 

どうしよう? このおっさん、絶対に自業自得というか、身から出た錆びなパターンだと思う。絶対悪魔に騙されたとか唆されたって案件じゃないわ。

 

「領主さん! 悪魔は駄目です! そばに置いてはろくな目にあいませんよ!? 貴方は騙されているんです!!」

 

「だから悪魔などいないと言っているだろう!! なんの根拠があってそんな戯言を!? しかもこんな騒ぎまで起こしよって! どう責任を取るつもりだ!! 責任者は誰だ!! 警察に突き出してやる!!」

 

「「「!!?」」」

 

警察。その一言で群集は押し黙った。まぁそりゃそうだ。しょせん悪事の証拠もない糾弾だ。訴えられればこちらが不利である。

 

というか、なんでこんなに集まってきたんだろう? 

 

「責任者は私です」

 

「ほぅ? お前だと、小娘」

 

まっ先に名乗り出たのは、やはりというかアルマ様だった。堂々と、なんの躊躇いもなく前へと出るその姿に周りの大人達は息を呑む。

 

あ、そうか。ここにいる皆、アルマ様に、アルマ様だから着いてきたんだ。

 

彼女が前を行くから。だから着いてきた。

 

領主に言いたいこともあったんだろうけど、それが爆発したのは、彼女が心配だったから。

 

この街の人達みんなが大好きな女の子を、この街のみんなが心配して着いてきた。

 

それだけのことだ。

 

「悪魔がいます。絶対います。それを私に証明させてください。もしもここに悪魔がいないと言うのであれば、どんなことをしても私が償います」

 

「……ほほぅ? どんなことでも、だと?」

 

アルマ様!?

 

「駄目だアルマ!!」

 

ダクネスがアルマ様の肩を掴んで止める。周りの大人たちだってそうだ。こんな、見るからに好色そうなおっさんにそんな約束していいはずがない。

 

「このロリコン! お前アルマ様に何を期待した!? 言ってみろよ! 可愛い幼女を先物買いしてみたいと思いましたって言ってみろよ!!」

 

「お前中々わかってるじゃないか……って、誰がそんなこと思うか!!!」

 

ちぃ、領主め、やっぱり思ってるじゃないか。

 

「カズマ……あんた」

 

「まずこの男を警察に突き出すべきじゃないでしょうか?」

 

「公衆の面前でそんな罵りを! んんッ!」

 

「ダクネスも大概だと思うよ?」

 

うるさいぞお前ら。

 

「カズマお兄ちゃん、いいのですよ。でも、心配してくれてありがとうございます」

 

どうしよう。素直なお礼が逆に心苦しい。

 

「でも、大丈夫です。ちょっと行ってきますね」

 

「「「え?」」」

 

「なっ!?」

 

行ってきます、そう言って。

 

アルマ様は屋敷の門をぴょんっ、と軽く飛び越えていった。

 

「さぁ! 悪魔を退治しに行きましょうか!」

 

「俺達が集まった意味は?!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アレクセイ・バーネス・アルダープは焦りを感じていた。

 

この屋敷には悪魔がいる!

 

そう騒ぐ小娘が現れたのだ。

 

 

事実、悪魔はいるのだ。

 

 

アルダープは悪党である。しかし、だいそれたことは出来ない小悪党であった。

 

そんな彼が、ふとした偶然で手に入れた二つの宝がある。

 

それは、神器と呼ばれる特殊なアイテム。かつての転生冒険者の持っていたチートな品物である。

 

 

一つは他人と身体を入れ替えるアイテム。

 

一つはランダムで魔物を召喚するアイテム。

 

 

どちらも一級品の性能で、どちらも危険な代物だった。

 

この二つの神器のうち片方が、小悪党だった彼の領主に野心を抱かせた。

 

それはランダムで魔物を召喚するアイテム。

 

彼はこのアイテムで、ある日悪魔を召喚したのだ。そして契約し、使役して、その悪魔の能力で様々な悪事を隠蔽してきた。

 

そう、隠蔽である。

 

この悪魔の能力は真実をねじ曲げる力。他人の記憶を書き換え、意思を操る、そんな能力をこの悪魔は持っていた。

 

アルダープは、この力で色んな悪事を隠してきたのだ。

 

人を騙したときはその記憶を自分に都合のいいものに書き換えた。訴えられ、裁判になったときは裁判官の意思を操って勝利を収めてきた。

 

しかし、この悪魔には一つだけ、それも致命的な欠点があった。

 

頭が、悪いのだ。それも取り返しのつかないほどに。

 

何かを覚えることができず、何度教えても忘れてしまう。自分の主人の名前を覚えたのも奇跡のようで、自分の名前すら覚えているのか怪しい悪魔。

 

だが、悪魔は従順だった。言われたことはきちんと行い、どれだけ痛めつけても逆らわない。

 

だからこそ、この悪魔は敵に成り得ない、自分に都合のいい家畜だった。

 

故に。

 

「(……この小娘も、屋敷の外の奴らも全部忘れさせてやる……ッ)」

 

アルダープは勝利を確信していた。こんなのは茶番。どうとでもなる。

 

そう思っていた。思っていたからこそ、その小娘を。

 

アルマを『そこ』に連れてきてしまった。

 

「さぁ、この部屋に入るんだ」

 

「お邪魔しまーす」

 

そこはアルダープの寝室、ベッドのした。一階にある彼の寝室には、実は隠し部屋として地下室があった。

 

そこに、下級悪魔マクスを隠していたのだ。

 

「あ」

 

「ふっふっふ、馬鹿め! のこのことこんなところまで着いてくるとは所詮小娘よ! 貴様の記憶は念入りに書き換えてやる!! さぁマクスよ! この小娘を心の底から私の愛玩動物となるように支配しろ!!」

 

マクスと呼ばれた悪魔。恐ろしいまでに整った容姿の青年。感情の抜け落ちた無表情に、絶えず苦しそうな喘息のような音を出す悪魔。その悪魔が、地下室にあるベッドにいた。

 

その顔に、いつもなら不愉快で不気味な無表情に、恐怖を張り付かせて。

 

「あ、ああああああああああ、ヒュー、ヒュー、アルダープ、駄目だ! アルダープ!! その娘を連れてきちゃダメだぁぁぁぁあ!!」

 

「《ゴッドブローーッッ!!!!!》」

 

グチャァッ! という音とともに眩しい輝きが地下室に満ちる。目が眩んだアルダープの視界が戻る頃には、マクスという悪魔の姿はどこにもなかった。

 

「はい、領主さん! 悪魔は退治しましたよ!!」

 

「え? あ? ……あ?」

 

一瞬、ほんの一瞬の出来事だった。

 

信頼していたわけではない。愛着があったわけでもない。しかし、長年使い続けた有益な道具が一つ、瞬く間に失ったのだと理解するのに。アルダープは理解するという行為が受け入れ難かった。

 

それは、彼に芽生えたとてもちっぽけな、とても大きな野望が潰えたということなのだから。

 

「そんな、そんな……」

 

「領主さん」

 

「ひぃ!?」

 

殺される。アルダープは咄嗟にそう思った。

 

この小娘は自分の悪事を知っている。知っていて、だからこそ悪魔がいると確信してここに現れたのだと。

 

下級とはいえ、悪魔を一撃で処せる冒険者に自分が勝てる筈がない。ならば、自分に待っているのは死刑か私刑のどちらかだろう。そうするだけのことをしてきたし、そうされるだけの恨みも買っているからだ。

 

「大丈夫ですよ」

 

「な、なにがぁだ……?」 

 

何を大丈夫と思えばいいのだ。悪事も、悪魔を飼っていたことも、小娘に不貞を働こうとしたことも、全て明るみに出る。そうすれば自分は終わりだ。

 

いや、そうだ。大丈夫だ。この場にいるのは自分たちだけ。

 

自分と小娘だけ。

 

小娘さえ始末してしまえば、あとはどうとでも……ッ!!

 

「私は貴方を許します」

 

「………へぇぇぇ?」

 

しかし、その小娘が見せたのは敵意ではなく、慈悲の笑顔だった。

 

「領主アレクセイ・バーネス・アルダープ。貴方は何も悪くありません。罪など何も犯していないのです」

 

何を言っている? ワシは罪を犯している。悪事も沢山やった。それがどうしたと棚に上げ、後悔も微塵もない。

 

なのに、何を…?

 

「貴方は悪魔に誑かされていたのです。貴方の行いは貴方の意思ではありません。全て悪意ある悪魔の罠なのです」

 

こいつは、馬鹿だ。都合のいい善意の愚か者だ。

 

ならば、どうとでも丸め込める!!

 

「そ、そうです! ワシは、あの悪魔に騙され、操られていたのです!! どうか御慈悲を!!」

 

みっともなく、両手をつき、地下室の床へと跪く。それは演戯とはいえ、屈辱的な姿だった。

 

しかし、これに耐えれば、耐えさえすれば……!!

 

「人間は弱いです。欲望にも塗れましょう。悪事も働きましょう。人に迷惑もかけましょう。しかし、私は貴方たち人の子の行いを許します」

 

な、なんだ……この、小娘……後光が……?

 

「欲しいものは欲しいと言いなさい。やりたいことはやりなさい。したくないことはしなくていいのです。己の望むまま、望むことを行いなさい」

 

言葉が……頭に、ひび、く………。

 

「それが罪だというのなら私が裁かれましょう。貴方への罵詈雑言も私が浴びましょう。愛しい人の子よ。正しい貴方を私は愛します。正しくない貴方も私は愛します」

 

お、おぉぉ………神よ……!

 

「命繋ぐため、生きることが目的の生命が、望みのままもがき生きる姿がなんと美しい……だから、私は貴方を愛していますよ。アレクセイ・バーネス・アルダープ」

 

「お、おぉぉお……ッ!!」

 

泣いていた。知らずうちにワシは、私は泣いていた。滝のような涙で顔を濡らしながら、心が洗われていくことを感じている!!

 

「あ、貴方様のお名前は……」

 

「私はアルマ。全ての祖、女神アルマです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、あの後アルマ様は笑顔で帰ってきた。

 

とてもいい子だった、と嬉しそうに。

 

「結局、悪魔はどうなったんすか?」

 

ギルドでシュワシュワを飲みながら、アルマ様と話す。実はこのシュワシュワ、最初から全部アルマ様のオゴリである。小さな女の子に奢られるなんて情けないとか言うなよ? こっちは借金持ちなんだよ。

 

「悪魔は倒しましたよ」

 

「やっぱりいたんですか」

 

うーむ、こりゃウィズの魔道具店には絶対連れていっちゃダメだな。即アンデッドの気配を感じてターミネートされちゃうわ。

 

アルマ様に悪魔・アンデッドは近づけちゃいけない。そう決意させられる事件でした。

 

「で、お兄ちゃんの借金ですが。「街の一大事にお金を渋るなんてどうかしていた。何時か必ず全額支払う」と約束してくださいましたよ」

 

マジか、マジなのか。

 

悪徳領主が謝罪しお金まで返金すると約束するなんて、アルマ様……恐ろし娘!?

 

聞くところによると。

 

あのアルダープという領主は完全に人が変わったようだという。

 

全ての悪事を認め、謝罪し、賠償したという。金で償える罪は私財を惜しみなく支払い、不当に奪った土地や巻き上げた品々は全て返却したという。

 

あまりにもの変貌に、何か裏があるんじゃないかと疑いの目も多いが、彼個人が大人しくなったことには違いなかった。

 

 

………まさかこれって、マツラギショック再び!?

 

 

どっかの魔剣使いを思い出した。名前は思い出せないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり中身が寂しくなった領主の屋敷。

 

高価な貴金属や装飾品、家財道具などを売り払い、最低限の生活環境しか残されてない大きいだけの入れ物となった建家に、領主アルダープはいた。

 

私室で、力なく椅子にもたれかかっている。

 

「父上!!」

 

「バルターか」

 

そんな彼の部屋に飛び込む勢いで入ってきたのはアレクセイ・バーネス・バルター。

 

アルダープの養子であり、唯一の息子である。

 

「急にどうしたのですか父上!? 貴方が、その、」

 

「ふっ、私が己の罪を認めた、とはっきりとは言いづらいか」

 

「いえ、そんな……」

 

このバルターという青年。アルダープの息子にしてはなかなか立派な好青年であり人格者である。

 

反面教師というか、養父であるアルダープの姿を見て育った彼は人柄も良く、非常に努力家で、なにより父であるアルダープの悪政にたびたび進言しては軌道修正してきた傑物であった。

 

だからこそ、アルダープの愚かしさを最もよく知る人物であり、その変化に驚いた男である。

 

「息子よ。私は領主の座を辞しようと思う」

 

「……な!?」

 

バルターは驚き、戸惑った。

 

権力と欲に溺れた父がそれを捨てるという。自分が領主の息子という立場を失うことにはなんの不満もない。自分が次の領主になろうとも思っていない。

 

しかし、戸惑った。劇的すぎる養父の変化についていけなかったのだ。

 

「私は……神に出会った。そして悟ったのだ。己の罪深さ、愚かしさを。だが、慈悲深き彼の御方は私を罰さずお許しになられた。しかし、それでは私の気が済まぬ、罰は受けねばならぬのだ!!」

 

「は、はぁ……」

 

いや、本当に何が起こったんだ?

 

正直、引いた。ドン引きである。なにが養父をここまで変えたのだ? 神?

 

「だから私は考え、祈った。罰をお与えください、償いの方法を、と」

 

「そ、それが領主を辞することと?」

 

どこかの貴族に呪いでもかけられたのじゃなかろうか? 思わずそう思った彼は悪くない。

 

「いいや。違う」

 

「では?」

 

 

「私は、農家になる!!!」

 

 

「ハァッ!?」

 

なんで?




『魂』 「誰かあの人間ラブ神を止めとくれ。徳をつまん魂が増えて一向に解脱せん」

『物質』「人間やることなすこと全肯定ですもんね」

『命』 「そのくせ悪魔やアンデッドは即殺だ。理不尽過ぎる」

『理』 「流石私。 素晴らしい判断だ」





悪党A 「百人殺しまであと一人で捕まっちまった! 畜生!! 絶対脱獄して目標達成してやるぜ!!」

『理』「ええんやで」


悪党B 「だまくらかした家族が一家心中だってよ! ザマァwww」

『理』「ええんやで」



勇者 「くそぅ! 魔王を倒したのに国王には裏切られて両親は無実の罪で処刑された! 結婚しようと約束した姫も実は戦士と出来てて俺を強姦未遂の犯罪者だって言い出しやがった! そして俺は救った世界の人間ずべてに石を投げつけられながら処刑された!! でもアンデッドとなって蘇ってやったぞ!! 復讐だ! 俺を裏切った奴らは全て惨たらしく殺してやる!!」

『理』「死ねゴミが」


人間()全て愛し、許してくれます。人間()


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に依頼を!

日が空いて申し訳ありません。体調不良でしばらく休んでいました。


農家、という職業がある。

 

それは農業を行う者を指す。

 

それは大地を耕す者を指す。

 

それは家畜を育てる者を指す。

 

それは、屈強な肉体を持つ者を指す。

 

 

故に。農家とは常に、鍛え続けているのである。

 

 

「おぉぉぉ!! あたたたたたた!!!」

 

「グゥアアアアアアアアアアアア!!!」

 

早朝。朝日が昇るのと同じ時間に、草原で拳を交わす二頭の熊の姿があった。

 

否、正確には熊にあらず。

 

一頭は一撃熊と呼ばれる魔物。とある神によってダックスと名付けられた個体。

 

一頭は農家の息子。熊のように大きな体格の三十代も後半に差し掛かった今だ独身の男。

 

彼らは常に高みを目指す。ダックスは強さを。息子はより良き農家を。

 

拳のぶつけ合いから始まり、大地に蹴りを放って畑を耕し、抜き手を放って畝を形作る。それを日が昇り、朝食の時間までに終わらせるのが彼らの日課であり修練であった。

 

そんな彼らを見守り、叱咤する男が。

 

「なっとらん! 全然なっとらんわ! この未熟者共が!!」

 

もはや存在全てが農家となった男。農業によって肉体を育て、農業によって大地と対話する彼は、今日も後進を育てていた。

 

「アルマちゃんを見ろ! 既に畑を完成させて種まきまで終えているぞ!!」

 

「「グゥッ!」」

 

「あの、なんだかすいません……」

 

「えぇんよ。アルマちゃん、朝ごはん食べようや」

 

農家の息子とダックスが耕した畑のすぐ横で、アルマが耕した畑が朝日の光で輝いていた。その大きさ、二人?がかりで耕した彼らの畑の倍の大きさである。しかも、息子達が耕した畑は畝作りまで。それに対して、アルマは作物の種まで植え終えている。

 

何故か?

 

それは、彼らと違い既にアルマは大地との対話を終えているからである。

 

というか、

 

「(あー、その、ガイア?)」

 

『あらぁん? なにかしらんアルマ様?』

 

対話するも何も、呼びかければ当然のように『大地』の女神ガイアが返事をしてくるのだから当然だろう。

 

「お前たちには聞こえんのか!? この大地の声が! 耕す大地の痛みが!! それも分からず、耳を傾けぬ農家など唯の無法者よ! だからお前らは阿呆なのだぁあああああああ!!」

 

「くぅ、農業を初めて数ヶ月のアルマちゃんに先を越されるなんて……」

 

「グゥアッ! グゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

「あー、働いた後のご飯美味しい」

 

「お代わりもあるけんね」

 

今日の朝食はおにぎりと唐揚げ、キャベツの味噌汁であった。

 

 

 

 

さて、朝一番から暑苦しくて申し訳ありません。アルマです。

 

季節は秋。今日も農家は農業に勤しんでおります。

 

春キャベツの収穫が終わり、次に育てるのは夏秋キャベツです。

 

まずは新しい畑づくりから。春キャベツを作る時に使った畑は冬までお休みさせるそうで。

 

ついでに、息子さんとダックスを鍛えるためにも新しい畑を一から作らせるそうで。

 

つまりお爺さんは、息子さんを鍛え直そうと考えているみたいです。

 

対抗馬はダックスでしょうか? 熊なのに馬とはこれいかに。

 

え? 私ですか? 私は冒険者ですので。

 

「やっぱり俺には……農家の才能がないのかな………」

 

「息子さん……」

 

お爺さんに厳しく言われたのが堪えたのか、息子さんが弱々しく呟きます。ご飯はしっかりと完食してますが。

 

「うちには昔、三人の兄弟弟子がいたんだ」

 

「はぁ…」

 

「うちの親父は耕作と畜産を極めたスーパー農家人だったんだ」

 

どっかの星のヤサイ人ですか?

 

「基本的なことは皆が教わった。でも、やりたいことは別だから、だから大兄弟子は養豚について師事し、小兄弟子は鶏卵について、弟弟子は酪農を………でも、俺は耕作を学んだんだ。耕作だけを」

 

あの人達かッ! あの人達が一つ屋根の下に集結してたとか怖いんですけど!?

 

「俺は親父の息子だから。親父の後を継ぐなら全てを学ばなきゃって思ってたんだ。そうやって頑張って、頑張って……でも、駄目だった」

 

「え?」

 

「アルマちゃん。俺はね? 家畜を殺せないんだ」

 

あ……。

 

「畜産は生き物を育てて、大切に育てて、怪我をしないよう、病気にならないよう気を配って……最後にはその命を奪う仕事だ」

 

あぁ、そっか。

 

「俺にはできなかった。鳥を絞める時の手の感触、瞳が暗くなっていく豚と牛を目が合った瞬間。それが何時までも消えなくて、手が震えるんだ。足が竦むんだよ」

 

初めて会った時から優しい人だと思っていた。大きな体躯の小さな心。小心者という臆病者。優しさが強さではなく、弱さになってしまった人。

 

「家畜はペットじゃない。愛でるだけな駄目なんだ。生活のため、売上の為に『殺すために育てる』ことをしなきゃらない」

 

それは悪いことじゃない。でも、足を止め、遠ざかるということは生き方を狭め選択枝を減らすということにほかならない。

 

「俺は、畜産から逃げたんだ。耕作しかできないんじゃない。耕作を極めなきゃ、農家として生きられないんだよ……」

 

息子さんは泣いていました。その大きな身体を小さく縮こませ、震えて泣いていました。

 

お爺さんという大きな父の姿を見て育った彼には、その後を継がなくてはというプレッシャーがあったのかもしれません。大成した兄弟弟子達に引け目があったのかもしれません。

 

でも、息子さんは頑張っていました。

 

才能がないなんて弱音を吐くのは、弱音を吐きたくなるまで頑張ってきたなによりの証拠です。

 

人は弱いんです。弱いからこそ頑張ります。強い人が出来ることを出来るようになるために。それがどんなに辛いことでも頑張って。頑張ってしまえるから人間なのです。

 

頑張れない人達は、それでもいいのです。辛いことを頑張るということは我慢するということです。耐えるということです。

 

人間は耐えることができます。しかし、それで壊れてしまうこともあるのです。頑張れる人ほど壊れやすくなってしまうのです。

 

肉体が、心が。どちらも傷ついて、溢れた心が弱音となって漏れ出すのです。

 

ならば、それを救って(掬って)あげるのが私の仕事です。

 

「息子さん、あ「俺の名前を、」」

 

え?

 

励ましの言葉をかけようと、しかしそれはその本人によって遮られました。

 

「俺の名前を、言ってみろォオオおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

「息子さーーーーーーん!?」

 

咆哮をあげ、そのまま走り去っていく息子さん。

 

仕事をほっぽり出したら怒られますよーーーーーッ!

 

というか、貴方名前あったんですか!? 皆さん『息子』って呼んでるからそういうものだと思ってたんでけど! 

 

謝りますから帰ってきてくださーーーーーい!!!

 

あと、名前教えてくださいよ! じゃないと呼べないじゃないですか!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

冒険者ギルドにて。

 

「なぁカズマ。お前は今日も働かないのか?」

 

「言ったろダクネス? もう借金はないんだ。領主のおっさんが三億を払ってくれるって言うんだから、それを待ってるんだよ」

 

「そういってもう一週間も飲んだくれているじゃないですか」

 

今日もギルドの酒場でシュワシュワを飲みながらツマミをかじっているカズマの姿があった。

 

冒険に行きたいダクネスとめぐみんはそんな彼に苛立ちつつも諦めることなく説得している。

 

アクア? 彼女は、

 

「さぁさぁじゃんじゃん持ってきてー! 宴会よ! お金はたっぷり入ってくるんだから全部ツケといて!!」

 

大金が入るとわかると、翌日から毎日ギルドで酒宴を開いていた。周りの冒険者達も、タダ酒に有り付けるとノリノリで誰も止めようともしない。

 

有り体に言って、調子に乗っていた。

 

しかし、そんな彼らにダクネスは無慈悲とも言える忠告を放った。

 

「その金はいつ手に入るんだ?」

 

「「はい?」」

 

カズマがシュワシュワの入ったジョッキを持ち上げた腕をピキリと固める。

 

アクアも《花鳥風月》を垂れ流したまま顔を引き攣らせた。

 

「アルダープは悪事で貯めた財産を吐き出すように方々への賠償金を払っている。今や贅沢をこり固めたような屋敷は空の箱。お前たちに支払う懸賞金の三億など、残っているかもわからんぞ?」

 

「い、いや……でもアルマちゃんが悪徳領主はちゃんと払うって約束したって……」

 

「約束はしただろうさ。だが、それは何時になる? 明日か? 来月か? 一年後か?」

 

「「………」」

 

「もしかすると、分割払いという線もありますよ? 領主自ら奉公に出たという噂もありますし」

 

「「え!?」」

 

最近、毎日のようにギルドで酒盛りをしていたカズマとアクアは知らなかったことだが、領主アルダープは既に領主ですらない。そして富豪でもない。財産も殆ど無く、自ら働いて日銭を稼ぐ生活をしているという。出来た息子は、領主を継いでくれたとある大貴族の元で働いているそうだ。

 

つまり、三億の賞金など支払われる当てなど殆どないのだ。

 

いや、いつかは支払われるのかもしれない。だがそれは、予定の決まっていない未定で仮定の話しであった。

 

その話しを聞いて、ギルドで盛り上がっていた冒険者達がそそくさと席を離れ始める。と同時に、酒場を担当する職員達が目を光らせ始めた。

 

既に、アクアがギルドの酒場にツケた金額は洒落にならないものになっているのだ。

 

「……で、どうするんだ?」

 

「なんでもいい! 今すぐクエストを受けるぞ!! 出来るだけ報酬のいいやつ!!!」

 

「何してるのダクネス! 冒険が私達を待ってるんだから!! ほら! めぐみんも急いで支度して!」

 

「「こ、こいつらは……ッ!」」

 

カズマ達の借金返済生活が再び始まったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ないか!? なんかないか高額クエスト!?」

 

「『サラマンダー十体の討伐』が百万エリスでありますよ?」

 

「死ぬわよ!! もっと楽して稼げるの!!」

 

「そんなのあればとっくに誰かが受けている! お、これとかはどうだ? 『森で昆虫型モンスター大量繁殖。駆除されたし』報酬は五十万エリスだ」

 

「お、いいじゃん! それにしよう!!」

 

「……なお、ベテランの農家が既に重傷を負った模様……」

 

「却下!!!」

 

ギルドの掲示板で血眼になって張り付くようにクエストを漁る。早急に大金が欲しい。切実に欲しい!!

 

「一体どれだけ飲み食いしたんだ、この二人は……」

 

「確実に数十万ほどはツケを作っていますね」

 

めぐみんとダクネスが冷めた目でこっちを見ているが、そんなことは気にしてられない。このままではまた借金地獄だ。前はアクアがこさえた借金だったが、今度は俺の分もある。

 

夏が終わり、秋に突入した今の季節。涼しくなってきたが今だ残暑が残る今の時期にはそこそこ身入りのいいクエストが残っていた。

 

……危なかった。これで冬になっていたら弱いモンスターは全部冬眠してたらしい。

 

「モンスターは夏に多く見られます。しかし冬が近づくと冬眠に備えて数を減らしますので、今が最後の稼ぎ時でしょうね」

 

「でも微妙に手強いモンスターがいるクエストしかないけどな!!」

 

寒さに弱いモンスター程早く冬眠に備えて巣穴に引っ込むらしい。つまり、今活動しているモンスターは寒さに耐性もあり、食料の確保にも余裕のある強い個体ばかりだという。

 

不味い。つまり、手頃に討伐できるカエルとかはまっ先に冬眠しているし、数が多いゴブリンや手強い一撃熊が相手のクエストしか残っていないっていうことだ。

 

でも報酬はいい。

 

「どうする? どう……」

 

そこへ。

 

「カズマお兄ちゃんに依頼をお願いします!!」

 

アルマ様が飛び込んできた。

 

その手に、クエストの依頼書を携えて。

 

 

「家出した息子さんを探してください!!」

 

 

息子さん、三十過ぎのおじさんですよね!?

 

 

 




『魂』 「悩むのは人間の専売特許じゃな!」

『理』 「……?」

『物質』「どうしました先輩?」

『理』 「いや、下界の子機とのリンクが、な」

『物質』「え? 僕の創った肉体ですよ? そんな不備は……」

『命』 「まぁ、あの子は既に一個の命だ。そういうこともあるだろう」

『魂』 「にょほほ。元の精神は同じでも、のう?」

『理』 「人の心は理屈じゃないからなぁ……」


アルマちゃんはアルマ様の子機でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に決闘を!

容姿について

『理』と『物質』が性別反転見た目お兄ちゃんと妹。

『魂』と『命』が同じ褐色肌でロリータとお姉さん。

『理』と『命』は姉弟って認識があるのに、他はそのへん薄いらしいよ。


神の視点、というものがある。

 

現代では衛生カメラが発達したことにより、遥か頭上、宇宙から地上の光景を見ることができるその視点。

 

それすらを上回る神の全てを見通す目。

 

しかし、違いといえば建物を透過して見ることができ声すら聞こえるという程度。

 

漫画やアニメでネタバレを知っている読者の視点、という意味は除くが。

 

ともあれ、科学の発展は目覚しいモノがある。

 

話がそれた。

 

 

私は『理』の神アルマ。娘を一人持ち、全人類を愛する天界の責任者の一人だ。

 

そう、あくまで、責任者の、一人、だ。

 

私の他にも責任者は三人いる。いるのに、いるはずなのに、何故か私一人が責任者であり代表者のような振る舞いを求められている。

 

今更な話だ。なにせ、その三人は生来の遊び人だからだ。

 

まるで、四人に別れた際に『責任感』というものを全て自分に押し付けて生まれてきたような……そんな絶望感すらある。まさか、な?

 

現に。

 

一人は別の宇宙で彼氏とデートをしている。仕事は勿論貯まっている。

 

一人は部屋に篭って恐ろしい禁書を作成している。仕事を貯めるどころか、複数人の優秀な天使が犠牲になっている。

 

そして、もう一人は。

 

「のぅ『理』の~。遊んどくれんかのぉ~」

 

「やかましい。私は貴様が貯めた書類の山を片付けるのに忙しいんだ」

 

何故か私の背中に張り付いて我儘をこねていた。実に鬱陶しい。

 

背中に張り付いて、というが。正確に言うならば私の首に腕を回し、背中側にぶら下がっている、と表現すべきか。椅子に座って机に向かい、誰かさんの仕事を片付けてやっているというのに……。

 

「ぬしは働きすぎじゃないかの。息抜きも必要じゃぞ?」

 

「お前は休みすぎだろう。仕事の邪魔をするなら出て行けド阿呆」

 

「阿呆とはなんじゃ! 謝れ! 愛しい『魂』様にごめんないって謝れ!!」

 

「………頼むから耳元でわめかないでくれババア……」

 

重力など知らぬわ! という態度で、ぷかぷかと浮いている『魂』のが耳元でギャーギャーと騒がしい。これが長く続くと私の首を軸にしてぐるぐる回り始めるわ、膝に乗って腹に抱きついてくるわで邪魔ばかりしてくる。

 

まるで猫だ。それもかまってやれば手のひらを返してくるところが実に面倒くさい。

 

「休憩じゃ! もう休憩にせんか! ほれ、布団を敷いてやるから昼寝でもせんか? な、なんならそのままシッポリとご休憩でもええぞ……?」

 

「…………はぁ?(心底可哀想なものを見る目)」

 

「心折れるわ!!」

 

何がしたいんだこの万年発情期ロリババァは? もう子守唄を欲しがる歳でもなかろうに。あぁ、そういえばエリスやアクアは餓鬼の頃なぞなかったな。創った時から今の姿だから人の子のようにあやして寝かせるというようなことはなかった。

 

子供といえば。下界で活動している子機、『アルマ』の様子が最近どうにもおかしい。私の記憶と人格をコピーして送り出し、見聞きした情報を共有していたはずが最近途絶えた。『物質』のは肉体に不備はないというし、『命』のはアレはもう一個の命という。

 

ならば、不調の原因はもう……。

 

「お前か『魂』の」

 

「え、アイラビュー?」

 

「………、お前、下界の『アルマ』に何をした?」

 

「ス、ルーッ! 別にー? ちょっとアレの魂を創る時に当たり前のコトを加えただけじゃしー?」

 

  や  は  り  か  !

 

お前また何してくれてんの? え? えー? マジか、そうか、そうか……はぁぁぁぁ、あーあ。

 

「お前ら、休憩な」

 

「「「はい」」」

 

「おぅ? そうじゃ休憩じゃ! ほれほれ! さっさと仕事なんぞ止めて遊び惚けんか! 飲めや歌えや騒ごうぞ!!」

 

天使達を全て下がらせる。私の部下たちは皆心得ているのですぐに察して動く有能な者ばかりだ。

 

察しが悪い阿呆は相も変わらず、私にへばりついているが。

 

「お前は今から説教な」

 

「何故じゃ!?」

 

何故も案山子もねぇよ。頼むから仕事の邪魔すんなよ……あぁ、胃が痛い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぬぅ、『理』のめ。今日も説教が長い。相も変わらず頭の固い奴よのぉ。

 

『理』のはワシが邪魔ばかりしとると言うが、ちゃんと意味あってやっとることなんじゃぞ?

 

ぬしが仕事ばかりで息抜きをせんからこうしてワシが身体を張って気晴らしを与えてやってるんじゃというのに、全く!

 

ちょっとはワシに構ってくれる時間も作れるというだろうに、何時も仕事仕事とゆとりのない生活をしおってからに。ワシは『命』ののように喧嘩を売れるような強さはないし、『物質』ののように妹のような後輩のような下の者の放つ面倒みてくださいオーラは出せんというのに。

 

これも年長、『最初のひとり』としてのジレンマよ。

 

ワシは他の三人の上に立つ者。『始祖』が四つに別れたのか、三つを創ったのかは自分たちも覚えてはおらぬが。『魂』であるワシが最初に『個』を得たのは覚えておる。他の三つが自分であり他人であると知覚したとき、何故『理』のがそう(・・)だったのか。

 

まぁ、あやつの言葉を借りるなら『理屈』ではないということよな。

 

ひと目見て気に入った。一緒に過ごすうちに気になるようになった。気づけば何時も目で追っていた。側にいなければ落ち着かなくなり。くっついていれば安心する。

 

自分の分身であり、どうしようもなく他人な家族。

 

だから、ワシはどうしても欲しいモノがあった。

 

アクアでは初めてじゃった故、ちと勝手がわからんかったが今度こそ……。

 

 

「(産まれたばかりの魂に個性が芽吹くようにする……子供に与えるには当たり前のことじゃろう?)」

 

 

今度こそ、ワシら二人の子供が欲しいものよのぉ。

 

あ、でもアクアも大事じゃからな! 天界に帰ってきたら一緒に食べる新作お菓子もちゃんと用意しておるから! はよ魔王倒して帰ってこんか!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「息子さんが帰って来ないんです! もうお昼ご飯の時間になるのに!」

 

「それで家出と?」

 

「それしか考えられません!!」

 

いや、もっと他にも考えようはあると思いますよ?

 

 

カズマです。なんと、アルマ様がギルドに家出中年の捜索依頼を俺たちに持ってきました。

 

子供が迷子のペット探しを冒険者ギルドに依頼を出すことなら稀にあるけど、子供の姿をした神様が家出したイイ年のオッサンの搜索依頼を出すのって。

 

「とりあえず冷静になりましょう。本当に家出したかどうかもですが、このような依頼、ギルドに申請して受理されるかもわかりませんし」

 

めぐみんがそう言うが。

 

「お金ならあります!」

 

ドン! とテーブルの上に大きな金貨袋が叩きつけられる。軽く百万エリスは詰まっていた。

 

「なんなりとお申し付けください」

 

「この依頼、私達に任せなさい!!」

 

「困っている人を助けるのは当然じゃないですか」

 

「………お前たちなぁ」

 

ダクネスが呆れた声を上げるが、そんなこと言っている余裕は俺たちにはない! 

 

借金を返すのに纏まった金が必要なんだよ!! 仕事選んでる余裕なんてねぇ!

 

「では出発! 手当り次第、心当たりを探します! 着いてきてください!!」

 

「「「了解ですご主人様!!」」」

 

 

そうして、俺達はアルマ様の跨る一撃熊のダックスが引く荷車に乗って、アクセルの街の内外を走り回った。

 

アクセルの街も一撃熊の引く荷車では狭く、広大な畑の広がる草原は広かった。

 

街には居なかった。

 

森にも居なかった。

 

山にも居なかった。

 

滝にも居なかった。

 

川にも居なかった。

 

「いや、なんでこんな場所!?」

 

「お爺さんが教えてくれた農家修行の場です!」

 

「なるほどそうですか!」

 

もうやけくそです。

 

そうしてアクセルの周辺を探し回っていると、手掛かりは意外なところから見つかった。

 

「息子殿なら確かにウチに寄ったぞ」

 

「本当ですかケンさん!!」

 

牛舎の立ち並ぶ酪農牧場で、息子さんの目撃情報があった。それを聞き、アルマ様の表情に安堵が浮かぶ。余程心配だったようだ。

 

……あれ、この農場主さん、すっごい見覚えがあるんですけど。これはツッこんではダメなんだろうか? 

 

「確かに奴は拳に迷いがあったようだ。アレでは農家とはいえん、唯の冒険者崩れのようだったな」

 

「農家とは一体」

 

「ダメよカズマ。気にしちゃ負けよ」

 

農家の良し悪しを拳で見定めるこの人たちが怖い! ホントなんなのこの世界! ザケンな!!

 

「だが安心するがいいアルマよ」

 

「それはどういう……?」

 

どっかで見たようなマッチョな農場主が遠くを見つめてアルマ様に語りかける。

 

「息子殿は一人前の農家になるために己を鍛えようとしているようだった。ならば、あの場所が相応しいと思ったのだ」

 

「え、ちょっと待ってください。貴方、息子さんをどこへ連れてったんですか!?」

 

「ちょうどこの時期は新兵訓練の最中。それに混ざれば身も心も生まれ変わるだろう……」

 

「まさっ!? ちょっ!!!!」

 

農場主さんの言葉にアルマ様が驚愕しっぱなしなんですけど。言葉も出ない様子なんですけど。

 

「なぁダクネス。この街って兵隊とかいたっけ?」

 

「いや………あ。ま、まさか……あそこか!?」

 

「? どうしましたダクネス? なにか心当たりでもあるのですか?」

 

明らかに狼狽え始めたダクネスをめぐみんが不思議そうに見ている。俺やアクアもそうだが、アルマ様はさらに酷い。目が死んでいた。

 

「豚王軍の新兵訓練合宿に息子殿を参加させた」

 

「なんてことをーーーーーー!!!!」

 

豚王軍ってなに!?

 

 

 

 

 

 

 

で、ほんと何ここ?

 

アルマ様に案内され、俺たちがやって来た場所はまさに世紀末だった。

 

ユアーがショックしそうなモヒカンたちが肩パッドしながらヒャッハーと家畜の世話をするカオスな光景。

 

知る人ぞ知る、アクセルの街に豚肉を卸す最大の養豚場。

 

別名、豚王軍前線基地である。

 

「頭おかしいんじゃねぇの!?」

 

「滅多なことを言うな! ここはアクセルの街で食す豚肉を全て賄う生命線であり、凶悪なモンスターを追い払う要塞なんだぞ!!」

 

「怖いんですけど! 明らかに見た目が荒くれな人ばっかりなんですけど!? 大丈夫!? 本当に私達ここに入って大丈夫なの!?」

 

「紅魔族のセンスでもここはちょっとないです。これならさっきの牛舎の農場主さんの方がまだマシでした」

 

俺達はもう、なんていうかドン引きだった。なんでこんなことになってんの? これアレだろ。明らかに日本からの転生者が関わってるだろ。誰かが『北斗の○』とかの知識を広めたんだろ。

 

でなきゃここまで酷いことになんねーよ!!

 

「すいません。ウチの息子さん来ませんでした? 熊みたいな大きい人です」

 

なんて、俺たちがビビっているのを余所にアルマ様が普通に肩パッドに話しかけていた。

 

「……皆さん、どうやら息子さんはコロシアムにいるそうです」

 

「なんでそんなものがあるの!」

 

 

 

 

 

 

豚王コロシアム。

 

そこは、優れた雄豚を交配用の種豚に選ぶ為に、豚同士を戦わせることを目的とした決闘上であった。

 

「その時点でもうおかしいからな」

 

「今更ですよカズマ」

 

広い円形上の闘技場。そこを囲むように観客席があり、その中心にひときわ大きな豚と……熊がいた。

 

否。

 

「! 息子さん!? それに!!」

 

「あれはまさか、アルダープ!?」

 

豚王軍のコロシアムで。

 

熊のような体格の農家の息子と。

 

豚のように太った熊みたいな元領主が。

 

ファイティングポーズを構えて向かい合っていた。

 

 

「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 

ファィッ!




『理』 「仕事の手が回らん……補佐が欲しい……」

エリスが生まれました。

『魂』 「『理』のが構ってくれん……そうじゃ! 『理』のそっくりな子供を創ろう!」

アクアが生まれました。


エリス→仕事を真面目にするいい子に育つ。

アクア→『魂』のがべったり可愛がりすぎて自分そっくりなダメな子に育つ。


『魂』 「何故じゃぁああああああああああ!!!」

天使s’ 「「そりゃねぇぇ」」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にお別れを!

スーパーミニプラ 勇者王ガオガイガーを買って思い出しました。

「もがきあがく事こそ生命の本質 それなくして何の生命か」

名言だらけなので今でも大好きです


豚王コロシアム。

 

名前は大層なものだが、実際は簡素な造りとなっている。

 

広大な牧草地にベニヤ板を円形状に打ち付け、その周りを観客が立ち見で囲む。

 

普段はしまっておけて、必要なときにすぐに用意できる。そんな手軽で便利な農家の仕事道具。

 

それが豚王コロシアムだ。

 

「仕事道具? どの辺が?」

 

「あそこで家畜を絞めるのだ」

 

「豚の処刑場!?」

 

ダクネスの説明にドン引きする俺達。アルマ様すら顔を引き攣らせるその事実に、この世界の農家とはなんなのだろうと何時も思う。

 

遅くなりました。カズマです。

 

本日は前回に引き続き、アルマ様の依頼を受けて農家の息子さんを探す旅に同行しております。やってきたのは豚を育てている農家のある豚王牧場。もはや農家なのか世紀末覇者なのか分からない農場主に怯えながら農場内を歩いていると、そこにはベニヤ板で囲まれた簡易決闘場で対峙する農家の息子さんと元・悪徳領主の姿が。

 

どういう状況だ?

 

「処刑場ではない。むしろ、これは新人農民への試練の場だ」

 

「試練? 何を試すというのですか?」

 

その言葉に食いついたのはアルマ様だった。

 

「野菜を育てる農家と違い、生き物を育てる農家において必然とも言える行い……家畜の屠殺を行う試練だ」

 

「あ……」

 

屠殺。家畜等を食用の肉と加工するために殺す行為。

 

生き物を殺す。それは通常なら忌避される行為。しかし、この世界ではモンスターがいる、魔王軍との戦争がある、ならず者の略奪に対抗しなければならないと、命の奪い合いは日常的にある。

 

しかし、それは自分の命を守るための仕方のない行為だ。だが、家畜は出荷するために、商売の為に殺すのだ。

 

殺さねば困るのは農場の経営。自分の命を落とすわけではない。生活費に問題が出る、という意味では命に関わるがすぐに死ぬわけではない。

 

しかし、家畜を扱う農家を名乗る以上、『屠殺』からは逃れられない。

 

その農民が、どれほど心優しい人格者だったとしても。

 

「その通り、これは我が豚王軍の兵なら全て通った道」

 

「豚王!」

 

「デカッ!?」

 

ダクネスの話を聞いていたら身の丈二メートルを越しそうな大男が隣にいた。筋骨隆々、鋭い眼光。腕は丸太のように太く、足は盛り上がった筋肉で今にもズボンが弾けそうである。

 

この男こそが豚王。ここの農場主だ。

 

「新兵はまず豚を育てる。生まれたばかりの子豚が、売り頃にまで大きく育つまで。そしてそれを自らの手で屠ってこそ真の豚王軍の一員となるのだ」

 

「ここは修羅の国ですか!?」

 

「いいや、唯の豚農家なり!!」

 

ひでぇ……。そんなもんトラウマになるわ!

 

「手塩をかけて育てた豚ほど情が移る……。それを殺す瞬間、豚は自分を育てた男を見て涙を流す……その哀しみを乗り越えた者にしか農家にはなれぬのだ!!」

 

「わかりますけど! わかりますけどなんだか話がズレている気がします!?」

 

「これはあの者達の農家としての資質を見る試験! 手出し無用!!」

 

ちなみに余談だが。

 

この世界にはカモネギという、とても愛らしい容姿をした鴨が存在する。その鴨は、どこからか手に入れたネギを所持しいつも持ち歩いている。カモネギは栄養価も高く、味も素晴らしい高級食材に数えられる一品。食べればレベルアップ。殺してもレベルアップという文字通り二度おいしい生物だ。

 

そんなカモネギを、養殖している農家がドリスという温泉街にいる。その農家は、大事に、大事に育てた愛情たっぷりの愛らしいカモネギを料理の食材として出荷している。

 

滝のような涙を流しながら、カモネギに『死にたくない』、『なんで?』、『殺すの?』という、今まで自分たちを大切に育ててくれた農家へと向ける哀しみの目を受け止めているのだ。

 

そうしてたどり着いた境地がある。カモネギをその手で屠殺し続けることで自身のレベルは凄まじく上がり、同時に魂へと刻まれた哀しみが己を『無我』へと押し上げた男。

 

彼はドリス最強の農家。このアクセルの街で生涯現役を貫く老人の終生のライバルである………。

 

「愛するものを手にかける哀しみをその身に刻んでこそ一人前……しかし、それができぬ愚か者があの目の前の男よ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「息子さん……」

 

豚王の視線の先には優しき男がいた。家畜を殺せなかったと語ったその男は今、目の前で豚のような貴族の成れの果てと戦っている。それは何故だろう?

 

 

「ぬぅおおおおおおお!!! 種植数え抜き手!! 一! 二! 参! 四!! ハァーーーーーーーーッ!!!」

 

「なんの! ハイッ! ハイッ! ハイッ! ハイッ!」

 

 

いや、本当になんでだろう?

 

種植数え抜き手。それは農家が行う必殺の種植。指で詰んだ種を、高速で畑の畝へと突き入れるその手法の速度がその年の収穫量に影響するとまで言われる技。アルマの知る農家のお爺さんはあの技で瞬く間に広大な畑の種植を終わらせるのだ。

 

「ちなみにあの技を人間に使うと蜂の巣のように穴だらけになると聞きます」

 

「怖いわ!!」

 

「しかしあの元・領主、すべて捌いていますよ!?」

 

「成程、腐っても流石貴族と言うわけだな!!」

 

お爺さんは朝の準備体操で岩盤に指を突き刺していましたしね。

 

この世界の貴族は軒並み身体能力が高くなっている。それは、その地位によって得られる資金と発言力を駆使した高水準の生活環境に由来している。

 

貴族は良いものを食べて、優れた血筋のものと子をなす。

 

極端な話し、長い歴史を持つ貴族の子供とベテラン冒険者のステータスが遜色のないほどに。

 

それほど、貴族の身体能力は凄まじいものがあるのだ。

 

アルダープという男も例外ではない。

 

むしろ、悪行の限りを尽くし贅沢を極めたこの男だからこそその肉体は凄まじい潜在能力を秘めていた。

 

 

今まで食していた高級食材で毎日レベルアップ! 

 

メイドの着替えを覗くための慎重な足運びで潜伏技能が軒並みアップ!!

 

ストレス発散の奴隷虐め(高レベルのものを抵抗できないように縛り上げて)でレベルアップ!!

 

召喚した悪魔(実はとんでもない高位悪魔)と接してきて魔力抵抗がレベルアップ!!

 

 

知らぬこととはいえ、アルダープは優れた能力の持ち主になっていた。

 

それが、罪滅ぼしの為に農家となることを誓い、豚王軍に入隊したことで才能が開花したのだった。

 

「くらえ!! 猛牛青龍斬!!」

 

アルダープが手刀を構えて跳躍する。翼のように広げた両腕を農家の息子の頭上で研ぎ澄まし、彼へと振りかざした。

 

「ば、馬鹿な!? あれは巨大な牛すら血を一滴も流させることなく解体するという家畜農家の奥義! それをアルダープが使うだと!?」

 

「そんなスプラッタな技なの!?」

 

そう、この技は本来、酪農家であるケンが最も得意とする奥義。育てた牛の繊維を一切傷つけることなく解体するその技は、素手で肉を切り裂く。

 

これをその身で受ければ、農家の息子といえども命はないだろう。

 

だが、彼は生きていた!

 

「ま、まだだ! まだ倒れぬ!!」

 

「未熟! 私の腕ではまだこの程度なのか……ッ!」

 

全身に切り傷をつけ、農家の息子は片膝をつきつつもなおも闘士を捨てていなかった。それを見て、アルダープは己の未熟さに口を噛む。そう、アルダープの放った技は未完成だったのだ。本来なら肉を裂き、骨を外し、臓腑を腑分けるその手法は、相手の肉を切るだけで終わっていた。

 

「「「だから怖いわ!!!」」」

 

危うく人間の解体ショーを見る羽目になるところでした。

 

というか、アルダープさんが妙に強くなっている。

 

まさか、豚王軍で鍛えられた? でぶっと太った脂肪の塊みたいだった彼が、まるで動く肉弾戦車のごとく戦いっぷりに戦慄する。

 

素晴らしい。これぞ人間! これぞ人の子の成長の証!!

 

鍛えれば強くなれる。なんて私は言わない。何故なら、この世に確実なことなどないからだ。

 

努力すれば報われるのではない。報われるまで歩みを止めないものがその先の結果を見ることができるのだ。

 

それは望んだものかもしれないし違うかもしれない。もしかすると、頑張って、人生をかけて行なったそれが無駄とも思える最低な結果になることもある。それでも、恐れぬ勇気と信じた可能性に人の子は突き進めるのだ。

 

私はそれが眩しい。だからこそ愛おしい。

 

だが、当然望まぬ結果になったものもいる。人生に絶望し道を踏み外したものもいるだろう。

 

だというのに、人は選ぶのだ。自分の望んだ道を。

 

失敗を恐れないのではなく、恐れながらも自分を鼓舞して。

 

目の前のアルダープはまさにそれだ。

 

どんな経緯で今の姿になったのかは知らない。しかし彼は頑張ったのだろう。たるんだ脂肪だらけの肉体を鍛え上げ、豚王軍に揉まれ、農家の技を習得した。

 

生半可な努力ではなかった筈だ。辛くない訳がない。

 

それでも、彼はすごい男になっている。

 

「くっ、あの脂ぎった目付きと欲望にまみれた男が一瞬カッコイイと思えてしまった自分が憎いッ!」

 

「ダクネスはゲスな男なら目に自動補正がかかるんじゃないですか? カズマ相手みたいに」

 

「おいこらめぐみん。どういう意味か詳しく説明してもらおうか」

 

そして彼らは通常営業である。どこでこうも差がついたのか。

 

「そこまでぇい!! 双方拳を収めよ!!」

 

「「ハハッ!!!」」

 

豚王の宣言により、二人の戦いは唐突に幕を閉じた。揃って地に手をついて跪く。

 

その二人の前へと、豚王はゆっくりと歩いていった。

 

「貴様らの農家への想い、しかと見させてもらった。見事だ」

 

冒険者としてなら見事と言えるんですが、農家としてなんですか、そうですか。

 

「まずはアルダープよ。貴様を農家と、我が豚王軍の兵として認めよう。資金返済まで面倒を見ると約束しよう」

 

「ありがたき幸せ!!」

 

へ? 資金、返済?

 

「どういうことでしょう?」

 

「そうか、アルマやお前たちはこの国の法律を知らなかったな」

 

私やカズマお兄ちゃん達が豚王達のやりとりに疑問を浮かべていると、ダクネスがその答えを言う。

 

「罪を犯した貴族に架せられる刑罰、『農家徴用刑』だ」

 

「「「『農家徴用刑』!?」」」

 

なんですそれ!?

 

「権力と資金にまみれた貴族が犯した罪は重く、償いきれないものも多い。特に、家の位が高い貴族ほど裁くのも難しい」

 

はぁ。家の力が大きいほど罪を揉み消すのも簡単そうですしね。

 

「だからこそ、有罪が確定した貴族は徹底的に裁く。周りへの見せしめも込めてだ。それが、最も過酷であり、国家に貢献する職業、『農家』への無償の奉仕活動だ」

 

「……つまり、農家でボランティアをしろと? お給金は国へと支払われるということです?」

 

「そうだ。必要最低限の生活費以外は全て賠償金の返済という形で徴収される。これを断れば、国家に貢献する意思なしと見なされ処刑が確定するのだ」

 

なるほど、貴族の優れた能力を活かすいい刑罰かもしれません。

 

ですが、恐らく元は腹黒い貴族が処刑を逃れるために用意されたものだったのでしょう。農家の過酷さを知らない、馬鹿な貴族が。

 

あれ? よく見ると……モヒカン集団の髪の色、金髪が多いような……? ま、まさかね? ヒャーハー言っている彼らが元は貴族とかそんな馬鹿な話が……。人格が矯正された? それとも思考停止による現実逃避?

 

この刑罰、実はもの凄く辛いのでは?

 

冒険者でもない、素質だけが高い貴族が、日夜作物を狙うモンスターと戦うこと確定の農家で働く。ベテランの冒険者だって裸足で逃げ出すような業務を、だ。

 

逃げたら、死。逃げなくても、死。生き残りたければ強くなれ。生き残っても稼ぎは国のもの。

 

恐らく、この刑罰で農家に送られるような貴族は相当なことをやらかした筈。賠償金の返済額も相当だろう。下手すると一生かかっても返済しきれずにただ働きになるかもしれない。

 

もしもこれを、アルダープが自ら望んで受けたのだとしたら……その時は見守ってあげよう。最期まで。

 

 

 

 

「そして、息子よ。貴様には失望したぞ」

 

「あ、兄者……」

 

豚王は農家の息子を冷たい眼差しで見やる。それこそ、出荷を控えた家畜豚を見るように。

 

「貴様は何年師父の元にいた? 何を学び、何を成してきた? それがこの様か?」

 

「お、俺だって……ッ!」

 

「農家に成り立ての貴族に劣る者の言葉などいらぬわ!!!!!!」

 

「「「!!??」」」

 

その怒声に、周りの者全てが震えた。

 

私もちょっぴり怖かったです。

 

「貴様の農家としての人生は、そこの貴族崩れと変わらぬ程度のものだったとはな!! これでは師父の嘆きも知れようぞ!!」

 

「くぅっ!!」

 

豚王の言葉に悔しそうに下を向く息子さん。彼も思うところはあるのだろう。いや、ありすぎるのかもしれない。

 

お爺さんは今更ながら凄い人だ。あの人がこの世界の基準なのだとしたら魔王軍なんてチンピラ同然、驚異でもなんでもないだろう。

 

そんなお爺さんの息子で、立派な農場主となった兄弟弟子に囲まれて育った彼が、農家になったばかりの貴族崩れと互角程度の実力なのだ。

 

憤りもするだろう。悔しさに震えるだろう。

 

それでも、これが現実だ。

 

彼は未だに、未熟者だったのだ。

 

「消えよ! 貴様の姿など見たくもないわ!!」

 

「ぬぅ、おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

豚王が突き放すように怒鳴りつけ、それが脳天に響きわたる。それを受けた彼はその場から走り出した。ベニヤ板を吹き飛ばし、見物人を押しのけての逃走。その目にはうっすらと輝くものを溜めて。

 

「息子さん!!」

 

「追うなアルマよ!!」

 

その後を追いかけようと動いたところを、豚王が引き止めます。

 

ですが。

 

「いいえ、追います」

 

それを決めるのは私です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

息子さんを追いかけると、ダックスが着いてきました。

 

「貴方も彼が心配なのですか?」

 

「………」

 

あれ? この子……。

 

ダックスは何も言わず、私の後に続きます。私の足に追いついてこれる彼もなかなかの成長ぶりです。

 

そういえばこの子、最近は息子さんと一緒に農業ばかりしていましたが……どこまで成長したんだろう?

 

知能が高く、魔物なのに理性を持った一撃熊。ある意味、私以上に息子さんと付き合いの多い彼だからこそより気にかかるのだろう。

 

息子さんはその巨体だというのに足が速い。これも農家の鍛錬の成果だろう。

 

しかし私達はそれよりも速く走れます。彼に追いつくのは自明の理でした。

 

「息子さん!!」

 

「……アルマちゃん、ダックス……」

 

息子さんに追いついたのは深い森の中でした。木々が密集し酸素が濃いその場所は、不思議と肺が締め付けられるほど苦しい空気が漂っています。

 

「……帰りましょう? 皆さん心配して、……いえ、私が貴方を放っておきたくないんです」

 

「ありがとう、アルマちゃん。でも、俺は行くよ。まだ帰れないんだ」

 

それは……彼の家出紛いの失踪が続くということ。ならばやはり原因は、

 

「貴方は立派な農家ですよ?」

 

「いいや、違うさ。俺は駄目な……半端者さ」

 

家畜を殺せず畜産農家にもなれず、耕作を極めようとしても偉大な父の足元にも及ばない。そして今日、農家でもない貴族崩れに遅れをとった。

 

これを未熟と、半端という他はない。自身が情けなくて滑稽ですらある。農家の息子はそう思っていた。

 

だから帰れない。帰れば、そんな自分を許してしまう。許容し、妥協してしまう。

 

「ならば、我も共に行こう」

 

「え?」

 

ギギギ、とまるで関節が錆び付いた金属のように首を回し、そちらを見る。

 

今、誰が喋ったの?

 

「ダックス、お前……」

 

「貴様とは共に拳を交わした仲よ。修行の旅と云うのなら付き合おうではないか」

 

「いや、何普通に喋ってるんですか!?」

 

聞いたことのない声がした方を振り返ると、そこにいたのはやはり一撃熊のダックスだった。

 

前々から知能が上がっていると思っていましたが、まさか言葉を解し発するようになっていたとは……口の構造上、人語の発音は不可能なはずなのに……一体どうやって? 

 

 

そこをツッ込むのは無粋じゃぞ!

 

 

うるさいです!! 

 

今怪電波が……また見てますね『魂』! 

 

いえ、それどころじゃ……ダックス、貴方も息子さんに着いていこうというのですか?

 

「主よ、すまぬ。だが、同じく頂きを目指す者として息子の力になってやりたいのです」

 

「また流暢に……いいでしょう。貴方となら息子さんを野生に放っても心配ないでしょう」

 

「え、待って? 今野生って? 俺の修行の旅って山篭りになるの? ねぇ?」

 

ダックスとなら山の中でも洞窟でも生きていけるでしょう。そういえば、以前にマンティコアとグリフォンの縄張りを荒らしたときもダックスが面倒を見るって言ってたし良い強敵となる筈です。

 

「息子さん。私待ってます。息子さんが数多の魔物をちぎっては投げちぎっては投げて無双し、ガイアを押し倒してディープを決め込んでくるくらい勇敢な人になってくることを……」

 

「それ遠まわしに帰ってくるなってことじゃないよね!? ガイアって女神の!?」

 

「よし、行くぞ相棒」

 

「待てダックス! やっぱ一度よく考えよ、て、あああああああああああああああ!!!」

 

息子さんの服を噛んで、ダックスは走っていきました。森の奥へとダックスと息子さんが消えていきます。

 

次に会えるときを楽しみに、信じて待ちます。

 

ずっと。

 

ずっと待っていますからね。

 

 

 




『理』 「……やっぱおかしいよなー」

『魂』 「…………むふー」




『物質』「あー、あの二人またやってるし……あれ? あれってデストロイー? うわぁ懐かしい………あ、やば」



農家の息子とダックスは修行の旅にでました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にサムライの力を!

何故にFGOの武蔵はCV林原ではないのか。それが悔やまれる。ネタ的に。

FGOが面白すぎて課金しっぱなしです。アンソロに。ゲーム? DLすらしてません。


息子さんとダックスを見送り、私は一人で歩いて豚王牧場へと戻りました。

 

カズマお兄ちゃん達を置き去りにしてきたのと、もう一人、話をしておきたい方がいたからです。

 

「ただいま戻りました」

 

「おかえりー」

 

よかった、まだいましたね。

 

私を出迎えたのはアクアでした。彼女は何をするでもなくのんびりと過ごしています。

 

他の三人はしっちゃかめっちゃかしていましたが。

 

「アルダープ! 一体どうしたんだお前は!? あの欲望に塗れたいやらしい目付きをどこにやった!!」

 

「おい! 稼いだ金が国に取り上げられるんなら俺の賞金はいつ支払われるんだよ!?」

 

「私の爆裂魔法を差し置いて最強を名乗るなど笑止! 今すぐ私の魔法と勝負です豚王!」

 

などと、アルダープと豚王に詰め寄っています。

 

まぁそれはおいといて。

 

「アクア、今回の報酬です。百万エリスでいいですか?」

 

「え!? 百万!!? ありがとうアルマ!!」

 

息子さん捜索の依頼。その成功報酬を渡そうと懐から金貨の詰まった袋を取り出すと、

 

「「ちょっと待て!!!」」

 

先程までアルダープに言い寄っていたダクネスとカズマお兄ちゃんが慌てた様子で走ってきました。

 

「高すぎる! 今回の報酬なんて無くてもいいくらいだ!!」

 

「いや待て、無いのも困る! せめて十万でどうです!?」

 

どうにもこの二人、報酬額が高すぎると文句があるようです。人が良いですね。そういうところは好ましくあります。

 

「いいんですよ。今回の依頼は無事に達成されています。それに、とても愉快なものの見られましたしね」

 

アルダープや息子さん、ダックスの成長。それらはとても素晴らしいものです。

 

いえ、未だその途上ではありますが、それがいいのです。

 

人の子の進む先がどうなるかなんて神にもわかりません。運命の神だって、人の選択枝の先にある未来を見ているだけなのです。つまり、未来を創っているのはその人の子自身なのです。

 

これから先、アルダープや息子さんがどう成長していくのか、その始まりを見ることが出来たのです。なんなら一億エリスを支払ってもかまいませんよ? 私は。

 

「それに………ギルドの酒場で作った借金の返済にも必要でしょ?」

 

「「うっ!」」

 

「アルマ! この二人を甘やかすな!!」

 

ダクネスはそう言いますが、カズマお兄ちゃんは私の『お兄ちゃん』なので、身内の作った借金は家族が立て替えてもいいはずです。そしてアクアはガチの身内なのでこれも私が立て替えてあげてもいいでしょう。

 

もちろん、立て替えてあげるだけです。しっかり返してもらいますよ。

 

「利子はそこそこ貰いますから大丈夫ですよ?」

 

「「え?」」

 

「私、こう見えてお金の管理にはうるさいですからね? 早く返しにこないと利息だけで凄い額になっちゃいますよ?」

 

伊達に宇宙の管理はしていません。

 

「あわ、あわわわわ!! カズマ! カズマしゃん!! 依頼! 急いで次の依頼探さないと!!」

 

「分かってるよ! おい、めぐみん! ダクネス!! 街に戻って次の仕事探すぞ!! もうなんでも来いだ!!」

 

「そ、そうか!! なら、一撃熊の討伐なんてどうだ!? いくらどんな強力な一撃でも私が全て受けきってやるぞ!!」

 

「いえ! 強力なモンスターに爆裂魔法を撃ち込むことこそ私の役目でしょう!!」

 

焦りや歓喜、期待を入り交じらせながら、カズマお兄ちゃん達は急いでアクセルの街へと戻っていきました。

 

「騒がしいですね。でも、元気なのはいいことです」

 

「そうですな。お久しぶりですアルマ様。お元気そうでなによりです」

 

おや、アルダープ。

 

「貴方も随分と逞しくなられましたね」

 

アルダープは脂肪たっぷりとした、でぷっ、とした体型だったにも関わらず、いまやその肉の毛布を鎧に変えるほどに鍛えられていました。

 

なにより、その両の眼が見違えるように輝いています。例えるなら、綺麗なアルダープ、と言った所でしょうか。

 

「改めてお礼を申し上げます。アルマ様のお導きによって、私は新たな人生を見出すことができました」

 

「見出しすぎじゃないですかね?」

 

とても素敵になりましたが。

 

「母から賜ったこの肉体を育て上げ、それが他の者たちの肉体をも育てる源になる。やはり農家とは素晴らしいものです」

 

「悟りましたね。なんか、もの凄く、明後日の方向に」

 

この人、何千年か前に出会った宗教の開祖と同じ目をしているんですけど。

 

「ダクネスに何か言われてましたけど、大丈夫ですか?」

 

アルダープの悪行三昧はかなり知れ渡っており、このアクセルの街はおろか王都にまで及んでいる。なので、ダクネスのような国に忠誠を誓った貴族ならばそう簡単には信用しないのは仕方ないでしょう。

 

「えぇまぁ。彼女には酷いことばかりしてしまいまして。その報いと思えば……」

 

「そうですか」

 

ちなみに、アルマは知らないことだが。

 

アルダープは幼い頃のダクネスに一目惚れした生粋の変態である。その変態具合といったらもう。ダクネスと結婚するために養子を得るほどである。

 

ダクネスと同じ年頃の少年を自分の子供とし、結婚させ、その息子と身体を入れ替わらせる。その為の手段はあった。神器というアイテムを使うことで。

 

しかし、その願いは既にない。彼は目覚めたのだ。

 

…………いろんな意味で。

 

そしてアルダープも知らない。

 

アルダープが恋焦がれたダクネスの理想の男性像もまた彼のようなクズ男だということを。しかし、彼女はすでに別の男を見ているようだが。

 

「アルマ様、見ていてください。私はこの生涯をかけ、人々の笑顔の為に農家を極めて見せます!!」

 

 

きゅん。

 

 

……え?

 

なに、今の?

 

アルダープのとてもいい笑顔を見たら、何故か胸の奥が高まりました。

 

今のは一体……?

 

「む、あの紅い娘は去っていったか……爆裂魔法とやら、昔のように身体を鍛えるいい刺激となったものを……」

 

豚王がそんなことを言いながら残念そうにアクセルの街を眺めています。

 

そうですか。爆裂魔法を喰らってもそんな認識なんですか。

 

……今度めぐみんに教えてあげましょう。日課の爆裂魔法のいい的ができたじゃないですか。

 

「アルマよ。そこの豚よりも我の妻とならんか?」

 

「貴方にはオークの夫がもういるでしょう?」

 

イラッときました。あぁ、うん。なんだか胸焼けというか、今日は色々あってお腹いっぱいですのでもう帰りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

あの後、農家のお爺さん、お婆さんの待つ家に帰り息子さんのことを報告しました。

 

すると、二人とも嬉しそうに笑っていました。

 

邪魔者が出ていった、という笑いではなく。巣立ちした雛鳥を喜ぶ笑みで。

 

私はそのまま二人の家にお世話になっています。

 

息子さんとダックスという働き手が居ない以上、お手伝いすることも多いので。

 

アクアやカズマお兄ちゃんのパーティーは毎日ギルドのクエストを頑張っています。私に作った借金を返済するために必死だそうで。

 

でも、冬が近づくに連れて手頃な依頼が無くなって来ているので少々焦っていました。そのせいか、偶に農家からの依頼も受けているようで……。

 

気が付けば、カズマお兄ちゃんのレベルもそこそこ上がっていました。

 

この前、草原で魔物と戦っているのを見かけましたが、「シャォーーーーーーーーーーーーッ!」と奇声を上げながら飛び上がっていました。何を学んでいるんですか何を。

 

農家と言えば。

 

カズマお兄ちゃんが「お米が食べたい」と駄々をこねていました。

 

コメ。日本人の主食にして転生者の誰もが一度は願う故郷の味。その洗礼をカズマお兄ちゃんも受けたようで、アクセルの街中のお料理屋さんを駆け回っていました。

 

しかし、お米を扱っているお店はアクセルの街に一軒だけ。しかも、貴族御用達の超高級店でした。

 

「なんでだよ!」

 

とお兄ちゃんは叫びましたが、仕方がないのです。

 

米は四季のある地域でしか栽培できず、また手間も時間もかかる食材です。さらに、自然災害や獣害などの驚異もあり、この世界には魔物の驚異もあります。

 

ならば、値も貼るというものです。

 

だから私はこう助言をしました。

 

「だったら米農家をお手伝いして、その報酬で少しだけ分けてもらえばいいじゃないですか」

 

と。

 

「それだ!」

 

と意気揚々とお兄ちゃん達は走っていきました。米農家に。

 

それがまた、新しい驚きと発見に繋がるのですが、まぁ終わって見ればいい思い出でした。

 

お手伝い募集の依頼を出していた米農家さんのお宅。そこは若いご夫婦の農家でした。

 

夫の名はコジロウさん。

 

妻の名はムサシさん。

 

ペットの猫が一匹いて、二人と一匹と、アルバイトを募っての収穫作業となりました。

 

名前も和風ながら服装も和風なお二人でした。先祖に日本人の転生者でもいるのでしょうか? 

 

あと、何故かカズマお兄ちゃんが二人を見て頭を抱えていました。

 

なんでも、銀河を駆けるとかホワイトホールとか白い明日が待ってるとか、そんなことをブツブツ言っていました。よくわかりません。

 

コジロウさん宅の農地は、山の斜面を開拓した段々畑で、そこに水田がありました。面積は小さいですが、数が多く、日本で言うところの有名な「千枚田」のようでした。

 

「き、きつい」

 

「腰が、腰が痛いよ~」

 

「情けないぞお前達!」

 

「いえ、私も結構キツイです」

 

お兄ちゃん達は早々に値をあげていましたが、コジロウさんご夫婦は余裕でした。なにせ、その背に、腰に、武器である刀を携えながら収穫をしていたのですから。

 

「あの、何故に武器を?」

 

私は堪らずそう訪ねました。すると、意外というか、やっぱりというか。

 

「あぁ、それは魔物対策でござるよ」

 

と、ある意味予想通りの答えが。

 

コジロウさんは長刀を。ムサシさんは二刀を。どちらも日本刀でした。

 

魔物、魔物ねー。米と言えばスズメというのが日本人の脳裏に過ぎるでしょう。鳥よけに案山子を立てたり目玉を描いたバルーンを浮かせたり、最近では光を反射するCDを吊ったりしてと色々な対策をしている記憶があります。

 

なのに武器ですか。

 

「む! いかん! 皆の者ッ、敵だ! 武器をとって迎撃の準備をせよ!!」

 

コジロウさんが叫ぶと、確かに敵、魔物の類が空から接近してきました。

 

そう、空。

 

やはりスズメかと思いましたが、スズメなんて可愛いものではなかったです。

 

「今年も来たか、鬼スズメめ!!」

 

「ちょーーーーっと待てーーーーーッ!!!!」

 

「お兄ちゃん五月蝿い!! なんですかもう!!」

 

「いやだって、だってさぁ!?」

 

鬼スズメ。犬のように巨大なスズメで額に角が生えていることから鬼のようだと名付けられた鳥類型モンスター。その巨大さなのに素早く、その速度を活かした突撃により《つのでつく》攻撃が強力なモンスターである。

 

「行くぞムサシ!」

 

「わかった!」

 

「ニャー! ………っす」

 

「待てそこの猫! 今なんつった!? 鳴き声の後になんつった!?」

 

何故か飼い猫の鳴き声にお兄ちゃんが騒がしかったですが、それどころではありません。鬼スズメはすごい数で、空が黒く染まるほどの大群でした。もう電気ネズミに纏めて十万ボルトでも落としてもらいたいくらいです。……私は今何を?

 

「これは……拙者の秘剣・スズメ返しを見せる時が来たようでござるな…」

 

「燕返しじゃないの!?」

 

「わたしも、伊舎那大天象を見せる時が来たようね」

 

「なにそれ!?」

 

よく分かりませんが、奥義だそうです。きっと、米農家には必須なのでしょう。うん、きっと、多分。

 

そこからもう筆舌に難しく、凄まじい光景でした。

 

米を狙って飛来する隕石と化した鬼スズメ。それを瞬く間に斬り捨てるコジロウ、ビームサーベルを放つように鬼スズメを纏めて薙ぎ払うムサシ。

 

「……こいつらが魔王倒せばいいんじゃね?」

 

「農家は魔王軍の驚異よりも作物への被害を恐れるので無理です」

 

「理不尽だ」

 

冒険者を差し置いて魔物を倒しまくる農家の夫婦。私たちの仕事? それはひたすら稲穂を刈ることですが何か? といった具合のお仕事でした。

 

 

そしてお仕事が終わった頃には。

 

大量の鳥肉と、米俵一つを頂いて帰りました。

 

「今年は鬼ドリルがこなくて楽勝でござったな!」

 

「そうねコジロウ!」

 

「ニャー! ………っす」

 

私、帰ったらお爺さんたちと美味しいご飯食べるんだ!

 

現実逃避した私は悪くない! ないったらない!!

 

 

 

 

そうして秋が終わりました。でも、息子さんはまだ帰ってきてません。

 

はやく会いたいなー。




『理』 「お前何した!? 本当に何した!?」

『魂』 「別にー? 何もしとらんぞ?」

『理』 「嘘を付け!! 精神、本能を形作るは『魂』の領分だろうが!!」

『魂』 「ふっふっふ、ようやく気付いたか間抜けめ!」

『理』 「なん……だと!?」

『魂』 「そうさな、刻み込んでやったのよ! 乙女回路を!!」

『理』 「貴様ーーーーーー!!!!」

『物質』「喧嘩してる? チャンスっす!!」

 
『魂』『理』 「「ん?」」



『理』さん、受難は終わらず。

自分が乙女になるのではない。乙女になっていく自分を見るのだ。耐えられるかな?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に秋の終わりを!

いつも感想と誤字報告ありがとうございます。

誤字の方は読み返しながら探して修正しています。

感想はいつも楽しみに更新ボタンを連打して待ってます。




本日のアルマは農家の集いに参加していた。

 

季節は冬。雪の降り積もった景色が当たり前となった頃、アクセルの街の農家達は新たな驚異に備えて力を蓄えている。

 

「これ以上力を蓄えていたら国家転覆だって可能な気がします」

 

「やめて。怖いこと言わないで」

 

ちなみにカズマ少年の姿もそこにあった。

 

場所はアクセルの街の一角。

 

農家が利用するために作られた「農民の宿」という少し大きめの公民館のような石造りの建物に彼らはいた。そこは、普段は収穫した野菜や肉類などを集め出荷する為の施設でもあり、農家たちの情報共有の場でもあった。

 

その建物の一室に、この街の名だたる農家達が集っていた。

 

キャベツ農家の老人。

 

豚農家の豚王。

 

鶏卵農家の農場主。

 

酪農農家のケン。

 

他にも、人参、じゃが芋、大根といった野菜を扱う農家に山羊やその他家畜を扱う農家、蜂蜜やサトウキビに酒造などの生産職の者たちまでいる。

 

その場は農家の、農家たちの闘気が密集し、農家パワーが視認できるほどに農家であった。農家が充満していくうちに部屋の木製の家具は生命を吹き返し芽が芽吹こうとするほどに。もはや、この場において農家でない者など存在するだけで許されない。もしもそんな者がいれば、この空間の農家に触れ、農家の一員になるのは時間の問題である。

 

「お兄ちゃん、気をしっかり持ってください!!」

 

「俺は耕す、育てる、大地をををを愛しますす。ガイア様バンザーーーイ!!」

 

「目を覚ませーーーーッ!!!」

 

「ありがとうございますッ!!」

 

この場に充満していた農家に当てられ、大地の輝きにトリップしていたカズマの顔をアルマはその小さな手で張り倒す。叩かれる瞬間、ぷにっとした柔らかい指の感触にカズマは正気を取り戻した。

 

「危ないところでした……このまま放置していたらお兄ちゃんも立派な変態農家になるところに……」

 

「その変態呼ばわりされてるのは農家達がおかしいからですよね? アルマ様から見た俺が変態だからじゃないですよね!?」

 

それは些細な違いでしかない。カズマ少年ならきっと、立派な変態農家になることだろう。

 

さて、話を戻そう。

 

この場に集まった農家たちは円卓を囲むように置かれた椅子に着席している。その中に、アルマとカズマ少年は混ざっていた。

 

では、彼らがここに集まった理由。議題とは何だろうか?

 

それは。

 

 

『今年の冬将軍は誰が討伐する?』という問題であった。

 

 

「あの、アルマ様? 冬将軍って一体……?」

 

これに不思議に思ったのはカズマ少年だ。彼は地球・日本の知識から『冬将軍』という単語は知っている。それは冬の風物詩。厳しい冬の寒さを擬人化し、その脅威は将軍のような恐ろしさと力強さだと表す言葉。だからこそ、それをこの異世界で聞き、あまつさえ討伐すると言われれば疑問にも思うだろう。

 

「『冬将軍』は『台風一過』と同じ季節の精霊ですよ。先日の秋の精霊の時と同じ案件でしょう」

 

「成程。また日本人のせいですか」

 

日本人のせい。その言葉が示すとおり、この世界の精霊たちはどれここれも可笑しな風貌をしている。それもこれも、日本から転生してきたチート冒険者達が強敵を求めて姿を変える精霊たちと戦い続けたのが原因である。よって、冬将軍という精霊もまたチート転生者である日本人のイメージを元にした姿をしていた。それは全身甲冑の日本武者。手にした名刀で同族の雪の精を守護するその姿はまさに武士の鑑。その戦闘に特化した出で立ちからもその強さは将軍の名に相応しい恐ろしさ。間違いなく、戦犯は彼らであった。

 

「………秋は大変でしたね」

 

「そうっすね」

 

既に過ぎた秋の季節。そこには激動の戦いがあった。

 

秋。それは四季の中で穏やかな季節。夏のように暑苦しくもなく、冬のように凍えることもなく、春のように新たな生活の準備に追われることもない。秋は少しの肌寒さを感じながら力を蓄える穏やかな季節………そう思っていた時がアルマやカズマ少年にもあったのだ。

 

あの、秋の精霊四番勝負が無ければ。

 

「まさか、秋の風物詩が連続ラッシュするとは」

 

「バカだろ。日本の転生者この世界に迷惑かけすぎだろう」

 

秋には四つの風物詩がある。いや、日本人特有の、であるが。

 

スポーツの秋。読書の秋。食欲の秋。芸術の秋である。

 

主に秋に親しまれ、よく言葉にされているのは日本人なら知っているだろう。それは穏やかな秋の季節に余暇を有意義に楽しむ為の行い。身体を動かし、よく食べ、知識を蓄えて創作を楽しむ。

 

それらの行為の総称がこれらであり……日本のチート転生者達がこの世界に持ち込んだ概念であった。

 

「秋といえば○○の秋じゃね?」。そう言って活動を始めた彼、彼女等は秋を大いに楽しんだ。その結果、その行動は秋の精霊の目に留まり、模倣された。

 

 

例えば。

 

スポーツの秋。

 

大きな人間の集まる場所。つまり街の中に現れるガタイのいい大柄なスポーツマンの姿をした精霊。大勢の人間を無理矢理集め、トライアスロンを強制してくる。街の運河を泳ぎ、盗んだ馬で走りだし、ゴールを目指して走り続ける。これが終わる頃には街の姿は死屍累々の地獄絵図となり、スポーツの秋に勝利する者が現れなければ終わることがないデスレース。

 

読書の秋。

 

知識欲の権化のような精霊。頭から足の先までローブでスッポリと隠した少年の姿をし、街を歩く人々に無理矢理難解な著書を読ませようとする。それは仕事をしている時、食事をしている時、睡眠をとっている時と見境がなく、また読まされる本の難解さから頭も痛くなること間違いなし。しかも、読みたくないと逃げればどこまでも追いかけられるという。

 

食欲の秋。

 

それは暴食の権化。小さな少女の姿で、再現なく街の食料を喰らい続ける悪鬼羅刹なり。討伐が遅れれば、冬が来る前に街は飢餓で滅ぶだろう。

 

芸術の秋。

 

芸術と名のつく全てを愛する精霊。可愛らしい女性の姿で現れ、その街で最も盛んな『芸術活動』を行う。ある意味、一番大人しく脅威的な精霊である。

 

 

 

「スポーツの秋には手こずらせられましたね」

 

「全身筋肉痛ですハイ」

 

街の住民全てを集めた強制トライアスロン。一週間にまで及んだデスマーチは、アクセルの街からスタートし、モンスターのひしめく草原を走破し、アクセルの街の冒険者ギルドまで帰ってくることをゴールとしたレースであった。そして、このレースに勝利したのはなんと、馬を育てている牧場主であった。

 

「牧場主さんには馬小屋での寝泊りでお世話になっていましたが……まさかあれほどの猛者だったとは……」

 

「泳ぎは普通だったけど、陸を走るのは馬並みの速さ。馬に乗って走れば誰も追いつけない、でしたしね」

 

「なんなら馬を担いで走ってやらァッ! おっと、背負って泳ぐのは簡便な!」と豪語した彼の牧場主の姿をアルマは忘れないだろう。というか忘れたくても忘れられない。なにあのイキモノ? 本当に人間? 

 

「それと読書の秋は……まぁ思いの外有意義な時間でした」

 

「アルマ様大活躍だったじゃないすか」

 

読書の秋。街の住民に無理矢理読書をさせる彼の被害者の中にアルマの姿があった。そして、アルマが最後の被害者であり勝者だった。彼女は押し付けられた六法全書のように分厚く、電話帳のように細かい本を恐ろしいまでの速読で読破した。それどころか、四百字詰め原稿用紙三十枚の感想文を書き連ね、読書の秋に押し付けたのだ。

 

そしてこう言った。「読め、そして感想を書け」と。後には涙目の読書の秋と採点と添削を延々と続けるアルマの姿がそこにあり、読書の秋はアルマが満足するまで消滅することを許されなかったという。どっちが被害者だ。

 

「食欲の秋は……農家の怒りが凄まじかったですね」

 

「怖かった……あれは本当に怖かった……」

 

食欲の秋。美味しそうなものは手当り次第に食す少女の脅威は計り知れなかった。店先から陳列された野菜が消え肉が消えた。馬小屋の馬もキャトられる程であり何より、農家の出荷予定の商品にまで暴食される被害が出た。

 

それが食欲の秋の最後であった。彼女は農家の逆鱗に触れたのだ。ありとあらゆる農家という生産職が食欲の秋に殺到し、必殺拳を放っていった。後に残されたのは食欲の秋が食い散らかした食材の食べかすだけだっとという、実に虚しい勝利だっという。

 

「芸術の秋は……めぐみんは肩身の狭い思いをしてましたね」

 

「ウチのパーティーメンバーがホントすいませんでした」

 

芸術の秋はその街で最も流行した芸術活動を行うだけの、一番大人しい精霊……だというのに、今年のアクセルは最悪の芸術活動が行われていた。そう、人はこういう。「芸術は爆発だ」、と。

 

一日一爆裂! と豪語し実践する頭のおかしい爆裂娘。その名はめぐみん。彼女が毎日毎日アクセルの街の外でぶっ放す爆裂魔法を、芸術の秋は芸術活動だと理解した。してしまったのだ。そうして始まる地獄絵図。ところかまわず鳴り響く爆裂魔法の轟音にアクセルの住人はブチ切れ、めぐみんは何時も以上に睨まれた。そうなれば当然、彼女を有するカズマ少年のパーティーが芸術の秋討伐に向かうのは必然であろう。

 

「……今更ながら、よく勝てましたね? 確か、芸術の秋が認めるほどの『芸術活動(爆裂魔法)』を見せつけないといけないんでしたよね?」

 

「ウィズも手伝ってくれ……あ、まぁめぐみんも爆裂魔法のいい特訓になったって喜んでました!」

 

「……? まぁ、彼女が楽しかったのなら芸術の秋も本望でしょう」

 

ちなみに、この世界の住人達は知らない。カズマ少年も、アルマですら知らない事実がある。

 

この四体の精霊達はそれぞれ、四人のアルマ達の写身であることを。

 

スポーツの秋は生命溢れる『命』のアルマ。

 

読書の秋は叡智の象徴、『理』のアルマ。

 

食欲の秋は欲望の権化、『魂』のアルマ。

 

芸術の秋は溢れる創作意欲の塊、『物質』のアルマ。

 

この四者四様の、暇を持て余した神々の戯れが秋の精霊騒動の原因だということを知られないことは世界にとって幸せなことであろう。

 

 

 

 

 

「それで、冬将軍はどうするんでしょうね?」

 

「立候補者が討伐するみたいっすよ」

 

ここに集った農家たちは誰もが(農業の)腕自慢の猛者ばかり。彼らは皆こう言う。俺がやる、と。

 

「ちょうど新しい豚小屋を建てようと思っとったところ。今年の冬将軍は我が討伐して見せようぞ」

 

そう宣言したのは豚王である。彼は自信満々、至極当然といった不遜な態度で冬将軍討伐を名乗り出た。

 

「いや、お主は豚の世話でもしておれ。冬将軍とは拙者の物干し竿と切り結ぶ約があってな」

 

「ぬ、何を言うコジロウッ! 貴様の腕試し、いつ終わるかも分からぬ戦では冬の終わりも見えてこぬわ!!」

 

「ふむ。それも当然。が、生憎拙者らは米の収穫も終わって暇を持て余しておる。ならば、刀を存分に振るいたくもなろう?」

 

「それは困るな。冬が終わらなければ野菜も育たない」

 

「ウチの蜂たちも冬が終わらんと産卵を始めん。討伐するならさっさとやってくれ。……別に、ウチが倒してしまっても構わんのだろう?」

 

最初に飛んおうが名乗りを上げ、米農家のコジロウが続く。それに感化され続々と声を上げる農家たち。皆冬が終わらねば仕事にならぬと不満を募らせているのだ。

 

冬の終わり。それは農家にとっては待ち望んだものなのだ。

 

寒さは生命の活動を停止させる。動植物は冬眠し、大地は凍りつく。それでは作物も養殖も行えず農家は悲鳴を上げるだろう。

 

冬将軍の討伐。これは農家にとって早急にカタをつけなければならない案件であった。

 

我こそはと声を上げる農家たち。その喧騒に場の空気は混沌を極め収拾がつかないでいた。故に、アルマは頼った。彼を。

 

「お爺ちゃん。どうしましょう?」

 

「………うむ」

 

彼は老人だった。そして最も農家であった。長年培った技術を大地の女神への信頼。それらが凝縮し昇華した農家である老人は静かに黙考し、口を開いた。

 

「早い者勝ちじゃ」

 

「「!?」」」

 

その言葉に、その場の農家たちは皆声を失う。驚愕に、そして喜びに。

 

 

「冬は早く終わるに越したことはない。それは事実じゃ。が、冬将軍ほど手頃(・・)な相手もそうはおらん。死合たいというのも道理じゃろう」

 

いや、そんな『理』しいてねぇよ? と思いもしたが、そんな言葉は当然この場の農家たちには届かない。彼らには彼らの『(ルール)』があるのだろう。

 

少し寂しい。

 

「冬将軍の討伐報酬は二億。これで新たな農具を買うも良し。事業の投資を行うも良し」

 

老人は語る。巨額の報酬の使い道を。かつて自分が辿った道程を。それは若き農家たちへの激励であった。

 

「欲しければ掴みとるがいい。農家とは生命の開拓者ぞ! ()けぃ!!」

 

「「「おおぉっ!!!!」」」

 

農家たちが我先にと外へと駆け出していく。向かうは雪の降り積もった山の頂き。目指すは冬将軍の首ただ一つ。

 

「……今年の冬は早く終わりそうですね」

 

「わーい、これで馬小屋で凍え死ぬこともないわ」

 

今頃山中では農家による山狩りが行われていることだろう。哀れ冬将軍。君の勇姿は忘れない……というか、見てみたかった。

 

農家が去り、がらんとした室内で残ったのはアルマとカズマ少年。それと老人だけであった。自分たちも帰ろうか、そう思い立ち上がったアルマはふと老人を見る。

 

そこには、寂しさを漂わせる老人の、小さな背があった。

 

「……帰りましょう、お爺ちゃん」

 

「おぉ、そうじゃなぁアルマちゃん」

 

未だ帰らぬ農家の息子。冬将軍の討伐は、彼に行なって欲しかったという親心にアルマは触れていたのだった。

 

「息子さん、今頃どうしているんでしょう?」

 

冬将軍はこの三日後に討伐されたという。

 

決まり手は大地を焼き尽くす、『焼畑農業拳』だったという……。いや、やったのどこの農家だ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………相変わらず酷い世界だなぁ、おい」

 

「ノーコメント」

 

天界。アルマからの報告書を読んでいた『理』のアルマ。彼はその奇想天外な報告書にツッコミを入れつつも嘆息して茶を飲んだ。その話し相手は娘のエリスである。

 

「で、首尾はどうだ?」

 

「過去数百年に及んで書類の改竄後がありました。主に『物質』様の担当分で」

 

「内容は?」

 

「資材の必要以上の浪費、技術の流出かと……」

 

その報告に、青筋をこめかみに浮かべるアルマ。

 

最近、どうにも『物質』のの態度が挙動不審だったことから怪しいと当たりをつけていたのがドンピシャだったと『理』のは頭を抱える。

 

つまり、

 

「どんな手を使ってもいい……あの馬鹿を捕縛しろ!!!!」

 

「はい!!」

 

下界同様、天界においても大規模な討伐クエストが発生した瞬間だった。

 

天裂き地砕ける神々の折檻が幕を開ける。

 

 




『理』 「あの馬鹿もんはどこ行った!?」

『魂』 「『物質』なら芸術を極めると言って逃げたぞ」

『命』 「口止めしてと言われたが、何かあったのか?」

『理』 「ん、これを見てみんしゃい」

『魂』『命』「………あー……」

『理』 「場合によっちゃぁ…下界のアルマに制限解除してでも動いてもらわねばならん!」

『魂』 「(『物質』の、後でお仕置きコース確定じゃな)」

『命』 「(彼氏のショタ少年にも手伝って貰おう)」




『命』、冬コミ脱稿! 下界のアルマに新刊を送付した模様。 

今回は『理』視点の光景でした。彼は最近頭痛薬が手放せない様子。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に逃亡を!

今回農家の出番がない。単なる新キャラ登場回です。


カズマです。最近、貴族が残した大きな屋敷に引っ越してきました。

 

元いた貴族が病死しただの、隠し子がいて病死しただの、幽霊が出るだの、マッチポンプでヤッベーだのと色々ありましたが、とにかく寒い冬を馬小屋で凍死するまで過ごさなくて良くなったのは喜ばしいことです。

 

そんなある日の朝。玄関を開けると、

 

「来ちゃった!」

 

女子高生がリュックを背負って立っていました。

 

ここ、異世界だよな?

 

腰まで届く黒い長髪。ブレザーの制服にミニスカート。背中に背負ったリュックサックはパンパンに膨らんでいて大きなシャベルの先端まで飛び出している。

 

シャベル?

 

しかもそれらはどう見ても地球産のものばかりだった。

 

まさか、日本からのチート転生者?

 

「あのさ、アクアいるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルマです。カズマお兄ちゃん達が新居に引越ししたそうです。今日はその引越し祝いを持ってやってきました。

 

「果物の詰め合わせでよかったですよね?」

 

幽霊騒ぎがあったと聞きましたが、嘆かわしいことです。死者の魂が現世に留まることは良いことではありません。未練は転生の妨げになり後悔は怨念に代わります。

 

現世をさまよう魂に救いあれ。その為のプリーストであり、上位アークプリーストがいるのです。

 

本来、『魂』のの部署の女神や天使達はその為に創られた存在だというのに、アクアときたら……。

 

真面目に働けば誰よりも優秀な魂の導き手たる女神がなんという堕落っぷりか。また何か問題を起こさないか注意しておかないと。

 

……まさか、今回の幽霊騒ぎもアクアが原因なのでは? ははは、いやいやそんな……。

 

一度締め上げようか? いえいえ、可愛い子供を疑う親がいますか。ここはアクアを信じて……あ、無理ですね。やっぱり尋ねるくらいはしておきましょう。

 

さて、そういうことは彼女に直接会って話しましょうか。

 

それにしても大きなお屋敷ですね。

 

立派な門構え。広い庭。二階建ての大きな洋館。これを駆け出しの冒険者が購入したというから驚きです。

 

いえ? 逆に考えれば、お金を持っていない駆け出し冒険者にでも買えるほどに安い事故物件ということでは?

 

………考えるのはもうよしましょう。きっとアクアが頑張ったのでしょう。うん。

 

玄関のドアノッカーを叩きます。扉を叩く音を響かせながら「こんにちはー」と声を出す。

 

「はいはいはい! ただいま開けまーす!」

 

と、中からカズマお兄ちゃんの声が。

 

ドタバタと慌てた足音が聞こえてくる。それが玄関にまで近づいてくると、バーンッ!と勢い良く扉が開け放たれた。

 

現れたのは聞こえてきた声の通り、カズマお兄ちゃんです。なにやら慌てているようですが?

 

「こんにちはお兄ちゃん。引越しおめでとうございます」

 

「ありがとうございまッす! ところでアルマ様! 外で一緒にお茶しませんか!?」

 

なんということでしょう。いきなりデートのお誘いです。

 

「いえ、せっかくですが遠慮します。この立派なお屋敷を見せていただけませんか?」

 

別にカズマお兄ちゃんが、ぺっ! てめぇとなんて誰がお茶するかよ。鏡見て出直しておいでしょっぱい坊や、というわけではない。せっかくこんな大きな新居を訪ねたのです。どんな内装なのか気になって見てみたいと思うでしょう。

 

「いやいやいや!! こんな屋敷でかいだけで中身はみすぼらしくて見るとこなんてないっすよ!! それよりも一緒にアクセルの外壁のレンガの数を数えに行きません!?」

 

だけどお兄ちゃんはそれが嫌だったようで。というか、外壁のレンガを数えるって、今日中に帰って来れるんですかそれ?

 

………なにか怪しいですね?

 

「お兄ちゃん、私に何か隠していません?」

 

「べべべべつに!?」

 

目は焦点が合わず、顔は汗でいっぱい、足は生まれたての小鹿のようにガクブル。

 

バレバレじゃないですか。大根か。

 

さて、私をこの家から遠ざけたいと仮定し、それは何故か?

 

私に見られては困るものがある? ありえますが、ここまで警戒されるようなものとは如何に?

 

私と合わせてはいけない人物が居る? ……まさかアンデッドの類? それなら気配でわかりますね。

 

私が嫌いになった? 地味にショックです……その場合は泣きながら帰るとしましょう。

 

私が家に入ること自体が問題? 突然の訪問に慌てる、男女の住まう家……あ(察し)

 

ふー、私としたことが。なんと間の悪い。どうやらお兄ちゃんに必要だったのは大根ではなくバナナだったようです。

 

まぁいいでしょう。別にお兄ちゃんが隠しごとをしていたとしても空気を読んであげるのが大人の対応というものです。ここはそっとしておきましょう。何かあれば彼の方から相談に来るでしょう。

 

「お兄ちゃん、避妊はしないとダメですよ?」

 

「ちょっと待って? 違うよ? 別にそういうやらしい意味でお帰り願っているわけじゃないですからね!?」

 

「あ、アクアならオッケーです。アレも孫の顔とかみたいでしょうし」

 

「どうぞお上がりください!! お客様一名ご案内しまーーーす!!!」

 

あれ?

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の中は外見に劣らず立派なものでした。玄関は広いホールに、部屋数は多くなくても一つ一つが広い間取り。一際広い、日本で言うところの居間とも呼ぶ部屋には暖炉やキッチンに大きなテーブルがあります。

 

その部屋にはダクネスやめぐみんやアクアが正座したままカチコチに固まってこちらを見て………はい?

 

「お兄ちゃん? 何故皆は身動ぎもせずに座ったままこっちを見てるんですか?」

 

「さ、さぁ?」

 

? まぁ情事に及んでいたわけではなさそうです。多分。もしもそうなら気まずいってものじゃないですよ。

 

後は……まぁ立派な屋敷だな、ぐらいの感想しかありませんね。ちらほら幽霊の姿も見えるのも噂の通りですし、あ、メイドがいます。ダクネスが雇ったんですかね? 流石貴族……ん?

 

 

んんんんんんんッ!?

 

 

「ここで何をやっているんですかッ!?」

 

 

「や、やっほ~。アルマちゃん、元気してたかい?」

 

このボディの創造主、『物質』のアルマがメイド服を着てそこにいた。

 

いや駄目でしょう。何考えてるんですかこの子は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それはほんの少し前のこと。

 

「ぶぶぶぶ『物質』様!? なんでここにいるの! ですか?!」

 

「お願いアクア! 僕をここに匿ってくれ!!!」

 

女子高生の突然の訪問に、一番驚いたのはアクアだった。顔から汗をびっしりと垂れ流し、両手をわなわなと震わせている。

 

「おいアクア。この少女はお前の知り合いか?」

 

アクアのあまりの驚きようにダクネスがその女子高生を指さし声をかけるが、

 

「だぁらっしゃぁああああああああああああ!!!!」

 

「ぬわーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 

アクアのフライングクロスチョップがダクネスを襲う。その勢いに押されて床に二人して転がり、上にのしかかってきたアクアをダクネスが払いのける。

 

「な、何をするんだ!? 危ないだろう!!」

 

「不敬よ! 不敬!! 気安く人間がこの方に指ささない! 視界に入らない!! 頭が高いわよ!!」

 

「はぁ!? ちょっ、どういうことだ!?」

 

「アクア、この子は貴族か何かですか? 髪の色から紅魔族っぽい知的さを感じるんですが」

 

「この方の頭脳明晰に比べれば紅魔族なんてパーよパー!」

 

「にゃにおう!?」

 

微妙に頭の悪い言い回しをしてるが、めぐみんには効果抜群だ。

 

し、かーし。

 

え? 今アクアのやつなんて言った? 『物質』様? なんか聞いたことがあるんだけど? それで、普段から偉い人相手でも恐れを知らない傍若無人ぶりを見せるアクアのこの態度。

 

……まさか。

 

ダクネスやめぐみんに聞こえないように、アクアにそっと近づいて耳元にささやくように尋ねる。

 

「あのー、アクアさん? もしかしてこのお方は……例の?」

 

「………そうよ。私の、宇宙を創る系の上司よ……」

 

ははは、嘘だと言ってくれぇ。

 

アルマ様と同格の神様じゃないかーい! なんでこんな幽霊屋敷に降臨してんだよー! 

 

あ、アルマ様といえば。

 

「そういやアルマちゃんがこの後引越し祝持ってきてくれるって言ってた」

 

「はぁ!? ちょっと待って! あの子ここに来るの!?」

 

「すいません!!」

 

思わず謝ってしまった。でも俺、なにも悪いことしてませんよね? 

 

アルマ様の名前を出すと、それまで居間のテーブルにロケットエンジンを取り付けていた女子高生アルマ様がこちらを向く。ちょっと待って、何してんの!?

 

「ねぇカズマ。あの魔道具はなんですか? うちのテーブルが食事の出来そうにない代物に変わり果ててるんですが」

 

めぐみんの言葉の通り、俺達の飯を食う為のテーブルの上にドデカイロケットノズルとエンジンが取り付けられていた。木製のテーブルなのに重量の問題とか強度とか大丈夫なの? という疑問がつきそうにない。

 

「多分、俺たちの食事を宇宙の彼方までデリバリーしちまう発明だよ」

 

「なんて恐ろしいものを!! 今すぐ外してください!!」

 

「えー? 空中エキサイティングご飯食べてみたくない?」

 

「「「「ないです」」」」

 

こえぇぇ。何が怖いって、この人……素だ。ボケでも悪ふざけでも冗談でもなく、素で今の言葉を口走ってやがる!

 

「おい、アクア。結局彼女は何者なんだ? そしてあの不思議な道具がたくさん入ったリュックはなんなんだ?」

 

「詳しくは言えないわ。だから皆、一言だけ聞いて……あのお方は水の女神たる私よりも徳のお高い神様なの!」

 

「「なんだまた夢の話か」」

 

「違うわよ! 信じてよ!! でないとこの星を改造されちゃうわよ!?」

 

「えー? しないよー? ……今は」

 

「ほらーーーー!!!!」

 

この世界にはない地球の工具セットを片手にケラケラと笑いながらそういう女子高生アルマ様。これがアクアが言ってた『ヤバイ』神様の一人か。

 

アクアが以前話していた四人ののアルマ様。それぞれが『魂』、『命』、『理』、『物質』を司り、俺たちが知っている幼女の方が『理』のアルマ様。アクアの上司が『魂』のアルマ様で、アクアはこの人を『物質』様と呼んだ。

 

つまり、この女子高生は宇宙創造を担当する『物質』のアルマ様だということらしい。

 

嘘だろ? どう見たって俺と同い年くらいの、高校の同級生の女の子にしか見えないんですけど。でも、『理』のアルマ様だって幼女にしか見えないし……アレは呪われてたからだけど。

 

「と、ところで『物質』さ「テンちゃん」へ?」

 

「僕のことはテンちゃんと呼んでくれ! 『物質』さまじゃ可愛くないだろ?」

 

「は、はい! わかりましたテンちゃん様!」

 

「うん、わかってないね!」

 

とりあえず、女子高生アルマ様のことは『テンちゃん』と呼べばいいらしい。

 

それで結局、テンちゃん様はここに何しにきたんだ? 匿うって何から?

 

「いや、だから匿ってくれ!! 他の三人に追われているんだ!!」

 

「何をしたんですか!? 勘弁してください! 私を巻き込まないでくださいよ~~!!」

 

あ、つまりやらかしたんですね。何を? なんて聞かない。怖いから絶対に聞かない。

 

「なぁカズマ。つまり、彼女は誰で何をしにきたんだ? あんな腰の低いアクアを見るなんて滅多にないぞ?」

 

「そうですね。たしかに気になります」

 

ダクネスとめぐみんにも話しておかないといけないよな? 全部は無理でも、どういう立場の人かを知ってて貰わないと相手にしずらいし。

 

俺は二人の肩に手を置き、言葉少なめにこう教えてやった。

 

「大人の、アルマ様の、身内だ」

 

「「はう!」」

 

効果は抜群だった。

 

ベルディアの討伐以来、アルマ様の大人の姿を見た二人は彼女に若干の苦手意識があったみたいだが、普段からアルマ様が幼女の姿でいるおかげでそのことを忘れかけていたみたいだった、が。

 

その大人アルマ様の身内が現れたら? 拳の一撃でアクセルの街が半壊するほどの大地震を引き起こした彼女の関係者。考えただけでも恐ろしい。

 

「じゃぁ君達! 僕をアルマちゃんから守ってくれ! お願いします!!!」

 

「……アルマ様から?」

 

この人ホントに何したの?

 

「特に君には期待しているよ佐藤和真くん! いや、お兄ちゃんシールド!!」

 

「おいこら、狙いが透けて見えんぞテンちゃん! アルマちゃんの盾にする気満々じゃねーか!!」

 

「なんなら君が好きそうなメイド服とか着てあげるから! だから証拠隠滅も手伝って!!」

 

そう言ってテンちゃんはリュックからミニスカメイド服を取り出して掲げてみせた。その中どうなってんの? あと今サラっと証拠隠滅って言ったよね? 

 

「俺別にメイドとか興味ねーし」

 

「え? 引きこもりオタクって大抵メイドさんが好きなんじゃないの!?」

 

「酷い偏見! なわけねーだろそれとこれとは別として、是非に着てくださいお願いしゃっす!!」

 

「「「うわぁぁ」」」

 

別にメイド服に釣られてねーし。神様のメイド姿なんてレアなもんを見たかっただけだし。

 

 

そして、メイド服を着終わったテンちゃんの前に、引越し祝いを持ってきたアルマ様がやってきた。

 

 

どーなんのこれ?




『理』 「リック君(『物質』の彼氏)とこに馬鹿行ってないか?」

『命』 「いないな」

『魂』 「あやつの工具一式無くなっとるぞ?」

『理』 「四次元リュックごと?」

『魂』 「四次元リュックごと」

『命』 「我は避難させてもらう」

『魂』 「あ! ずるいぞ『命』の! ワシも連れてけ!!」

『理』 「逃がさん! お前らも最期まで付き合え!!」

『魂』『命』 「「結婚!?」」

『理』 「は??」


『物質』のアルマことテンちゃん。趣味:芸術活動(無許可な改造含む)

目を離した隙に貴方の自転車が宇宙戦艦に!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に暗躍を!

神様達は色んな世界を楽しんでいます。


目の前にメイド服を着た少女がいる。スカートは下着が見えそうで見えない程際どいミニで、フリルやリボンの装飾も必要以上に多かった。

 

その一部の層が好みそうな衣装を着た少女こそ、『物質』のアルマという『理』のアルマと同格にしてある意味格下の神の一柱。

 

下界での人間名、『天童(てんどう)アルマ』がニコニコとテーブルの席についていた。

 

……テーブル? 何あのロケットエンジン。カズマお兄ちゃん、随分と可笑しな趣味を……あ、『物質』のの仕業ですね。

 

「こんなところで何をしているんですか?」

 

「バイト帰りに寄ったんだよ。アルマちゃんのお手伝いをしたくて」

 

バイト帰り。あぁ、そうですか。

 

『理』のアルマの知識の中に彼女が着ているメイド服の記憶がありました。これは、彼女が『現在』拠点にしている世界にあるメイド喫茶の制服です。………勤労神様ってやつなんですよ彼女。学費やお小遣いを稼ぐためにアルバイトをしているんです。保護者は『理』のアルマで。その世界ではこの二人、『親子』という設定で滞在しているので。

 

「お義父さんには許可をとっているんですか?」

 

「とってないよ。あの世界の子機にも、天界の本体にもね」

 

「通報しましょう」

 

「おーけー、話し合おう」

 

いや、駄目でしょう。なに勝手なことしてるんですかこの子。

 

『理』の、というより。私達四柱の子機はあらゆる宇宙、世界に存在している。理由はそれぞれ様々ですが、大体が『楽しむ』為です。しかも、子機達はあらかじめ神としての記憶は封印されています。ただの一人の人間として、その体験と記憶だけを天界にいる本体に転送するためです。

 

なのに、稀に本体が下界で生活しているケースがあります。それがこの子、『物質』のアルマです。

 

だからこそ、神々が下界に降臨するのは天界規定で厳しく制限されていますし、『理』のアルマが少女の姿とはいえ下界に降り立ったのも特例中の特例なのです。あれはある意味、神としての格を女神にまで落としたからこそ出来た抜け道かもしれませんね。

 

つまり、この子は天界規定を無視してこの世界に来ているとうことです。また仕事をほっぽり出している可能性すらあります。天罰落としても問題ないですよね? 

 

 

そんな二人のやり取りを遠巻きに見ている四人がいる。

 

 

 

「なにあれ怖い。ほんと怖い」

 

「二人は知り合い?として、どういう関係なんです?」

 

「分からん。アルマの方が実年齢は上?なんだろうが、テンちゃんとやらはどういう立場なんだ?」

 

「なんでこの世界に『物質』様が……いえ、これはチャンスよ! 私が天界に帰るための!」

 

カズマ達は暖炉の前に置かれたソファーに隠れるようにしていた。背もたれの端から顔だけ覗かせてテーブルの二人の会話に聞き耳を立てている。

 

その会話の内容に、カズマとアクアを除く二人は頭に『?』を飛ばしていた。

 

それで、カズマはというと。

 

 

 

アクアが不穏なことを口走っているが今はどうでもいいや。

 

今日突然現れた故郷日本を思い出させる女子高生の少女。テンちゃんと名乗った彼女は会話から察するに神様らしい。しかも、アルマ様と同格の。

 

「なぁアクア。テンちゃんって、お前の昔の職場の上司なんだろ? どういう人なんだ?」

 

「「アクアが、働いていたッ!?」」

 

「二人とも驚くとこそこなの!?」

 

普段の行いのせいだよ。

 

日頃から、朝は二度寝、三度寝を繰り返し、昼は部屋でゴロゴロ稀に冒険者。夜は酒場で宴会と、グータラ駄女神の姿を晒しているんだ。めぐみんとダクネスの反応は当然だと思う。

 

「『ぶっし…』テンちゃん様は私のいた部署とは違う職場のトップの御方で、主に宇宙創成(土木関係)のお仕事に就かれていたわ」

 

「あの容姿でガテン系だと…?」

 

「つくづくアクアの前の職場というのが謎ですね」

 

……ぶっしつ? アクアが前に言ってた四人の創造神の一人で宇宙を創るのが担当の?

 

アカン! 怒らせたらこの世界が滅ぶ。宇宙ごと!!

 

しかも既にアルマ様と不穏な空気を醸し出しているし。なんなの? なんで引っ越したばかりの新居でアルマゲドンが起こってるの? この屋敷そこまで呪われてたの?

 

カズマのその想いを感じ取ったのか、背後で幽霊の少女が首と手をブンブンと振っていたがそれは彼には分からない。

 

「テンちゃん様は見た目はあんなだけど、戦闘力はパないから。ろぼっ、ゴーレムを創るのが得意で、それに搭乗したら宇宙だって天元突破しちゃうんだから」

 

「ダクネス、今すぐウチの最高級の茶菓子をお出ししろ! 急げ!!」

 

「わ、わかった!」

 

やめて。なんで剣と魔法のファンタジーの世界にロボットのパイロットが来るんだよ!! しかもリアル系じゃなくてスーパー系かよ!?

 

「あと上司たちの中じゃ最年少だから色々と手ほどきされてるみたい。勉強とか体術とか」

 

「めぐみん! 絶対に喧嘩売るなよ!? 絶対だからな! フリじゃないからな!!」

 

「わ、わかりました!」 

 

つまりベルディアをボコッたアルマ様に鍛えられてるってことですね。素でも強いんかい!

 

なんでウチに来たのかはわかんないが、さっさとお引き取りください。マジで。

 

 

 

 

 

 

「言っておくけど、僕はアルマちゃんの後始末に来んだよ?」

 

「は?」

 

後始末? なんの……あ。

 

「気付いた? アルマちゃん、この星を砕きかけたでしょ?」

 

そう、でした。私、正確には『理』のアルマの本体がデュラハンと戦ったときにやらかしたことがあったのです。理性が半ば失われていたとはいえ、なんてことを……。危うくこの星ごと叩き割るところでしたね。

 

「アルマちゃんじゃないアルマちゃんがしたことだけど、アレのせいでこの星の寿命は確実に縮まったよ? 星全体に亀裂が出来てるし形も完全な球体じゃなくなってるしね。あと星の座標も移動しちゃったからその内天候とかにも影響がで始めるだろうし、何より自転速度も変化しちゃうね」

 

「それ、普通に考えてとっくの昔に生物が生きていけない環境になってるはずですよね?」

 

「そうだよ? だから僕の力で無理矢理維持してる。でも、ずっとなんて面倒だから嫌だし? もう出張ってでも直しに来たほうが早いじゃない」

 

「お、御手数おかけしました……」

 

なんという失態。いくら神の力を制限されているとはいえ、自分が立つ星の惨状に気付かなかったなんて。

 

いえ? 私が気付かなくても天界の本体は気付いたはずでは? なのに何故私になんの連絡もなく、手を打たなかったのでしょう?

 

………まさか本体とのリンクが?

 

「アルマちゃん」

 

! と、いけない。考えすぎて目の前の彼女を忘れてました。

 

「大丈夫、安心しなよ。僕が来たからには壊れた星の修復なんてちょちょいのちょいさ!」

 

「ありがとうございます。なにか私にお手伝いすることはありますか?」

 

「う、ううん? ないよ。ない。こればっかりは僕と、僕の天使達じゃないと……あ、天使連れてきてないや」

 

「じゃぁアクアを使ってあげてください。あの子、土木作業得意ですよ」

 

「……え? アクアって『水』の女神だったよね?」

 

そうなんですよねー。なんであの子、泥とレンガを組み上げている時が一番いい笑顔なんでしょう? 

 

「まぁ……お言葉に甘えてアクアを借りようかなー」

 

? なんでしょう? 『物質』のの歯切れが少し悪いような?

 

アクアのぐうたらっぷりは天界でも有名でしたから少々思うところでもあるんですね、うん。

 

「じゃ、そういうことで」

 

「よろしくお願いしますね」

 

ニカーと笑顔で言う『物質』と頭を下げるアルマ。こうして『物質』のアルマの異世界滞在が決まり、アクアがそれに参加することとなった。

 

「あれ? 私の意思は!?」

 

拒否権はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、『物質』のに星の修復をお願いした私は自分の仕事に戻ろうかと思います。

 

皆さんお忘れかもしれませんが、この世界の査察を再開しましょう。

 

「何か依頼は……」

 

という訳で、ギルドの依頼掲示板の前に来ております。パーティーメンバーは私、カズマお兄ちゃん、ダクネス、めぐみんの四人です。

 

アクア? 『物質』のが連れていったのでいません。売り渡した? はて、なんのことでしょう?

 

「おい、もう一度言ってみろ」

 

ん?

 

なんでしょう? カズマお兄ちゃんの、妙にドスの効いた声がギルド内に響いてきました。

 

見ると、酒場のテーブル付近で金髪の酔っぱらいとカズマお兄ちゃんが口論を始めてました。

 

……面白そうだからしばらく眺めてましょう。

 

人の子は常に誰かと争いを繰り広げています。よく、争いは何も生まないだの、憎しみの連鎖だのと綺麗事を並べる聖人君子っぽい詐欺師が時代ごとに現れますが、私達神々からすれば戯言でしかありません。

 

人々よ、大いに争いなさい。醜くてもいい、存分に滅ぼし合いなさい。それでも生き残るのが貴方たち人の子の素晴らしさです。もしも滅んだとしても、私は貴方達をいつも見守っていますよ。

 

あの酔っ払いの少年も、カズマお兄ちゃんも元気に罵り合っています。良いことです。あ、言われっぱなしだったカズマお兄ちゃんが反撃を始めました。相変わらず凄まじい口撃力です。

 

二人の少年の微笑ましい光景に楽しくなり期待が尽きることありません。

 

「なぁ、アルマ? アレを見てなんでそんな笑顔なんだ?」

 

ダクネスが後ろから口の端を引き攣らせながら訪ねてきます。何って、決まってるじゃないですか。

 

「あぁやって人は交流を深めて行くんです。素晴らしいじゃないですか」

 

「いや、明らかに不穏な空気というか……不安しかないのですが…」

 

めぐみんも心なしか落ち着かない様子ですが、何を不安がっているのでしょう?

 

「ぶつかり合うことで前へと進むのが人の子です。あの二人もきっと良き関係になりますよ」

 

「「……はぁ」」

 

どうなるかなぁ? 楽しみです。

 

 

 

 

 

 

などとワクワクして観戦していたら、何故かパーティーメンバーの交換となりました。意外。

 

「よう! 俺はダストってんだ! よろしく!!」

 

「はい、よろしくお願いしますね!」

 

「……はぁ」

 

「よろしく」

 

カズマお兄ちゃんに絡んでいた酔っぱらいの少年こと、ダストさん。彼はアクセルの街でも有名なチンピラです。金髪碧眼という貴族? と疑わしくなる容姿を持っていますが、全然そんな雰囲気を感じさせない見事なまでの三下さんです。やることなすこと姑息で卑怯で情けない見事なまでのゲスという素晴らしい評判の冒険者です。

 

「ダストさんって有名なんですね!」

 

「え、あの、アルマさん? その話し誰から聞いたんすか?」

 

「街の皆さんと主にリーンさんです」

 

「あのアマァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

ちなみにリーンさんというのはダストさんの元のパーティーメンバーの女性です。可愛い女の子ですよ?

 

さて、カズマお兄ちゃんとダストさんの口喧嘩の結果。今日一日限定でお互い彼らを交換しての依頼となりました。なのでカズマお兄ちゃんはあっちのパーティーとトレード済みです。

 

今日のお仕事は街の外の危険調査です。街の安全な周囲から少し出たところまで移動し、その付近で何か異常がないのか数日かけて調査するのです。

 

あ、ちなみに受注したのは私です。モンスター討伐系の依頼を他の冒険者の方からとっちゃうのは大人げないと思ったので。

 

「と、とりあえず自己紹介しようぜ? 俺はダスト。職業は戦士で武器は長剣だ」

 

「私はダクネス。クルセイダーを生業としている」

 

「我が名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法使いにして爆裂魔法を操りしもの!」

 

「アルマです。か弱い冒険者ですのでよろしくお願いしますね」

 

「「「は?」」」

 

冗談です。そんな目で見ないでください。

 

周りから凄い目で見られましたが、私が冒険者なのは本当ですし、か弱いというのも本当ですよ? スキルもこの新しいボディに新調した際に殆ど制限されましたし、ステータスだって低すぎて泣けてくるほどです。

 

「前々から思っていたんだが……アルマの冒険者カードはバグってるんじゃないか?」

 

「確かに。あの身体能力で最弱職の冒険者にしかなれないなんておかしいですよ」

 

「え? アルマさんってやっぱり上級職並みのレベルなの? やっぱあの大人の姿が本物?」

 

そこ、私をのけ者にしてこそこそ話さない。寂しいじゃないですか。

 

「でも爆裂魔法が使えるなんて凄いじゃねぇか。魔法職でそんなネタ魔法を覚えてるってことは相当な凄腕アークウィザードってことだろ?」

 

「ふふん! なかなか見る目があるじゃないですか! 如何にも私は紅魔族で最も優れたアークウィザード! 我が最強の爆裂魔法は魔王すら打倒します!」

 

「そりゃすげー!」

 

……いや、まぁ確かに爆裂魔法の威力は凄いですよ。爆裂魔法の威力は。

 

だって、めぐみんは爆裂魔法(それ)のみに全スキルポイントを注ぎ込んでいますし。

 

ダストさんはめぐみんが上級魔法を覚えている上で爆裂魔法も習得していると思ったのでしょうが違います。彼女は爆裂魔法しか扱えないのです。しかも一日一発のみ。

 

しかも、

 

「そこまで言うのなら仕方ありません。私の爆裂魔法を見せてあげましょう!!」

 

「え、いや別に……」

 

ほら、調子に乗った。おだてられたら良いとこ見せようとするのが彼女の悪いところです。

 

「黒より黒く、闇より暗き漆黒に我が真紅の混交(こんこう)に望み給もう。覚醒の時来たれリ、無謬(むびゅう)の境界に堕ちし理。無業の歪みと成りて現出せよ! 踊れ、踊れ、踊れ、我が力の奔流に望むは崩壊なり。並ぶ者なき崩壊なり。万象等しく灰燼に帰し、深淵より来たれ! これが人類最大の威力の攻撃手段!! これこそが! 究極の攻撃魔法!!」

 

「ちょっと、ちょっと待てって!」

 

あ、今更めぐみんの本気に気づきましたね。もう遅いです。

 

めぐみんの爆裂魔法の詠唱が紡がれます。言葉一つ、呪文が発せられるたびに魔力が当たりに充満し収束していきます。めぐみんという個人から溢れた膨大な魔力が現れた巨大な魔法陣に集められ、それ(・・)が穿たれます。

 

 

「エクスプロォォージョンッ!!」

 

 

 

閃光と爆音。爆発が響きます。

 

目を覆うほどの輝き。

 

耳を塞がなくてはならないほどの轟音。

 

身体が吹き飛ばされそうな爆風。

 

それら全てを引き起こす一発の最上級魔法。人類が編み出した、最強の攻撃魔法。

 

周りがネタ魔法と馬鹿にしようと、その威力は本物。魔物も悪魔も精霊も。等しく吹き飛ばす魔力での大破壊。極めれば敵うものなど存在しない大魔法。

 

めぐみんが生涯をかけて極めると誓った爆裂魔法。その威力。まさしく本物だった。

 

「すげぇ! マジスゲェって……って、え?」

 

「ふふふ見ましたか……我が爆裂魔法の威力……」

 

その破壊力を見て興奮するダストさんだが、爆裂魔法を放った当の本人であるめぐみんが、大地に倒れ伏しているのを見て絶句する。

 

どう見ても魔力切れですハイ。

 

「は? 嘘だろ!? まさかアンタ、今ので打ち止め!?」

 

「何を言っているのですか。私の爆裂魔法は全ての魔力を注ぎ込む大魔法。一発撃ったら動けなくなるのは当然です」

 

「だったらいきなり撃つかフツー!?」

 

「まぁまぁ気にするなダスト。何時ものことだ」

 

「何時も!? 何時もこんなことやってるのかアンタら!!」

 

何を今さら。

 

アクセルの街で『頭のおかしい爆裂娘』の噂は有名でしょうに。知らなかったのなら、それは貴方が悪いんですよ? 冒険者にとって情報は生命線でしょうに。

 

「あれ? 皆さん、山の方から何か走ってきますよ?」

 

「「「え?」」」

 

爆裂魔法を放った草原。その近くの山から土煙を上げて走ってくる生き物がいます。その存在に気付いたのは私だけのようです。

 

「? どこだアルマ。私にはわからないが……」

 

「いや、アルマさんの言うとおりだ。あの山の方から不自然な木の揺れる音と足音がする……って、げぇっ?! ありゃ初心者殺しじゃねえか!!」

 

 

初心者殺し。

 

見た目サーベルタイガーのような猫科大型の魔物。何故に初心者殺しという名称が付いたかと言えば、それは新人冒険者がこのモンスターの被害に最も多くあうからだ。

 

初心者殺しの狩りの方法はえげつない。ゴブリンやコボルトと言った駆け出しの冒険者でも狩りやすいモンスターを追い立て、人里に送る。それを討伐に来た冒険者を誘いだし、襲いかかるのだ。

 

故に初心者殺し。知恵を使う狡猾なモンスター。その驚異を知らぬ駆け出し(初心者)冒険者を狙うかのような狩りの方法から名付けられた、凶悪な相手である。

 

「成程。アレが……ちょっと待ってください。メモしますので」

 

「何言ってんのアルマさん!? 早く逃げる準備を!!」

 

「しょ、初心者殺しだと!? 皆逃げろ! アイツの相手は私がしゅりゅぅ!!」

 

「ちょっ!? アンタ鎧着てないだろ!? やめろって!!」

 

あ、ちなみにダクネスの鎧はベルディア戦で損傷したので修理中です。なので彼女、私服の普段着です。繰り返します。私服の普段着です。

 

鎧なんて着てません。

 

「さぁ来い初心者殺し! 襲うなら私を襲え!! 仲間には牙一本触れさしぇんじょぅ!」

 

「何時も通りですね」

 

「そうですね」

 

「お前らおかしいだろう!?」

 

あらやだ。ダストさん、ダグネスの変態クルセイダーっぷりも知らなかったんですか? ダメですよホント。情報は常に集めてなきゃ。

 

私も、ダクネスが立派な聖騎士だと思っていた時期がありました。それももはや遠い理想郷の彼方です。

 

彼女は救いようのないドMです。きっと魂の形がそうさせるのでしょう。

 

「くそ! 魔法使いの嬢ちゃんは動けねぇし、俺たちでどうにかするしかねぇ!! アルマさん、行きやすぜ!」

 

「あ、頑張ってきてください。私は見てますんで」

 

「はぁ!?」

 

そんな意外そうな顔されても困ります。私の仕事は調査なので、モンスターの生態を見聞きするのが目的です。ついでに冒険者の戦い方とかも見ておきたいので、初心者殺しというレアケースが現れた以上、ダストさんやダクネスには是非とも頑張ってもらいたいところです。

 

「いや、この状況で何言ってんのアンタ!?」

 

「大丈夫、私は貴方たちを信じてますよ」

 

「信じなくていいから戦ってくれません!?」

 

ダメですよ。そんなことしたらすぐ終わっちゃうじゃないですか。私としては色んな情報が欲しいのでそれは勘弁して欲しいところです。

 

なので。

 

「じゃ、頑張って来てください」

 

「え、チョッ、えぇえええええええええええええええええええ!?!?」

 

ダストさんを掴んで放り投げます。勿論、初心者殺しのいる方向へ。

 

頑張れ人の子。私は君たちの奮闘に期待しています。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさい」

 

「お、おぉう……」

 

一応のお仕事が終わり、ギルドに戻ってきた私達の後にカズマお兄ちゃん達とダストさんのパーティーが戻ってきました。

 

「……何があったの?」

 

「まぁ色々と」

 

シュワシュワを飲みながら報告書を書く私。酒場の床に転がるめぐみん。恍惚の表情でニヤけているダクネス。

 

私達の姿を見たカズマお兄ちゃんは、なんとそのままその場を去ろうとしました。

 

「待ってくれ! 頼むから待って!!」

 

そんなお兄ちゃんに縋り付くダストさん。見ればその目には涙すら浮かべています。

 

「なんすか?」

 

「俺が悪かった! 悪かったからパーティーを戻してくれ!!」

 

カズマお兄ちゃんは未だダストさんに馬鹿にされたのが気に入らないらしく、ダストさんの訴えを心底どうでもよさそうに聞いています。

 

「聞いてくれって! 街を出ていきなり爆裂魔法ぶっぱなすわ、初心者殺しは出てくるわ!! なのにクルセイダーは突っ込むしアルマさんはギリギリまで戦ってくれないしでもう散々なんだよ!!」

 

「おい皆! 初心者殺しの報告はこいつがやってくれたみたいだし今日は飲もうぜ! 新パーティーの結成で打ち上げだ!」

 

「「おぉーーーーー!!!」」」

 

「待ってくれ! 俺を元のパーティーに帰してくれーーーーー!!!」

 

「あ、私も臨時なのでパーティーは今日だけですので。頑張ってくださいね」

 

「………はぁ?!」

 

いや、そんな絶望的な顔されても、基本私ソロですし。今日はアクアが居ないから代理でいただけなんですが……。

 

今日の稼ぎは初心者殺しのお肉だけですし、帰ってこれで晩ご飯にしましょうかね。

 

では皆さん、仲良くケンカしてくださいね。

 

さようなら。

 

「待ってくださいってぇええええええええ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

その頃の『物質』とアクア。

 

「だから親方! これじゃアートが足らないんだって!! 魂! ソウル! もっと熱くなろうよ! まだまだ諦めちゃいけない!!」

 

「アホか! こっちは予算だって決まってるんだよ!! なんで外壁全部に彫刻刻まなきゃなんねぇんだ!?」

 

「テンちゃん様! お願いですから自重してください~~!!」

 

外壁工事の現場で。親方と熱く語り合う『物質』のアルマことテンちゃんと。そんな彼女の泣きながら懇願するアクアの姿があったそうな。

 

「大体なんだこの彫刻? 変な模様ばっかりじゃねぇか!」

 

「この先進的な芸術が理解できないなんて遅れてるよ君!! この魔方陣はね!!」

 

「チョッ?! 今魔方陣って言った!? 魔方陣って言いましたよね! 止めてー! アクセルの外壁を魔改造しないでーーー!!!」

 

大丈夫だろうか?

 




『魂』 「もしもし、リっくん? ワシじゃけど、天童が顔出したら捕まえといておくれよ?」

リっくん「ははははい!! 分かりました神様!!」

『命』 「リグザリオ。天童を見つけたら地上を観光させてやるぞ?」

リっくん「竜王様は僕に死ねと?!」

『理』 「リック。ウチのジャジャ馬が迷惑ばかりかけてすまんな。今度メシでも食いに行くか」

リっくん「はい先生!」



リクザリオ・ローレックス。

『物質』のアルマこと天童アルマの彼氏。身長百四十センチの十六歳。男の娘として絶大なポテンシャルを秘めた逸材。第二シーズンでは高身長のイケメンになる可能性あり。銀河合体アル・マテリオンのメインパイロット。神様と女の子に愛されるハーレム主人公な少年。

彼の周りの同級生(男子)のコメント。

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「リっきゅんハァハァ」

「マジ爆発しろ」

「マジ爆発しろ」

「エースはオレだ!」

どんな世界だろう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にダンジョンを!

ダンジョン攻略ってさ。収穫を無視すればクリエイトアース+クリエイトウォーターで終わるよね。入口から大勢で溢れる返るまで続けたら攻略完了。上級魔法で行えばもっと楽になるし。


「今日はダンジョンに行ってきます」

 

「はいよ。気ぃつけな」

 

よく晴れたいい天気。そんな清々しい朝を農場で迎えた私はお爺ちゃん、お婆ちゃんに今日の目的地を伝えて出かける準備をしていました。

 

すると、行ってらっしゃいと言ってくれたお婆ちゃんとは違い、お爺ちゃんが。

 

「どこのダンジョンに行くんじゃ?」

 

と、聞いてきたので。

 

「『キールのダンジョン』に行こうかと」

 

そう答えたら。

 

「儂も行ってもいいかの?」

 

と尋ねられました。

 

 

断る理由もなかったので勿論オーケーしました。

 

 

………それがまさかあんなことになるとは、私は予想だにしていなかったのです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キールのダンジョン』。

 

それは、アクセルの街からそうは遠くない山中にあるダンジョン。駆け出し冒険者の街の近くにあることからも、そう難易度の高くない初心者~中堅冒険者のレベルにちょうどいい塩梅の難易度なダンジョンです。

 

しかし、このダンジョンは今から数十年前にできたものらしく、既に多くの冒険者が攻略に挑戦したためめぼしいお宝の類は探索され尽くしてしまったそうです。

 

では何故、今回私がこのダンジョンの探索に来たかというと……内部のモンスターの間引きが目的なのです。

 

ダンジョンという閉鎖された空間では内部に淀んだ空気、瘴気が篭もり充満していきます。すると、ダンジョン内で発生するモンスターは増えるし、元から居たモンスターは強くなっていきます。

 

下級モンスターは中級モンスターに。

 

中級モンスターは上級モンスターに。

 

上級となったモンスターはダンジョンの支配から脱却しダンジョンの外へと出ていき、層が薄くなったダンジョン内ではまた下級モンスターが生まれ、繰り返す。

 

この流れを止めるために、ダンジョンには定期的に冒険者が探索に入り、強力な個体が生まれないように倒していく必要があるのですが、そこはほら、アクセルの冒険者なので。

 

「ダンジョンモンスターの間引き? 嫌だよ、割に合わねぇし」

 

と、誰もやりたがらないのです。

 

これには冒険者ギルドも頭を抱え、クエストを張り出しても大した額ではないため誰も受注しない。かといって驚異度の少ないダンジョンに大きな報酬額をかけるわけにはいかず、放っておけば本当に高額賞金が発生しそうな上級モンスターが生まれかねない。

 

これには困ったというギルド職員の皆様の前に現れたのが私です。

 

「それでしたら私が行きますよ?」

 

「「「ありがとうございます!!!」」」

 

特にお金に困っているわけでもなく、モンスターだって怖くないどころか最近冒険者にだって怖がられている。そんなしょんぼり気味なアルマちゃんですが、ダンジョンからモンスターが溢れてくるのは見過ごせまん。クエストを受けない理由のほうがむしろないのです。

 

ですが。やはりそこは駆け出し冒険者。

 

「でもアルマちゃんだけじゃ心配よね?」

 

「ダンジョンに入るなら『索敵』と『罠感知』スキルを持った盗賊職がいないと……」

 

「……え? そう? 心配いらないんじゃ……」

 

「魔王軍の幹部を殴り殺した人だよね……?」

 

などと職員の皆さんには大変ご心配をおかけしてしまいまして。

 

なので。

 

「あ、ならクリスを連れていきます」

 

「クリスさんなら最近見てませんよ?」

 

おや。

 

どうやらクリスは留守らしいです。彼女は下界での神器探しという仕事をしていますが、元領主であるアルダープの屋敷から二つの神器を見つけてしばらく天界に戻って貯まった仕事を片付けてくると言っていたのでした。

 

これはうっかり。彼女には後で報告だけしておきましょう。

 

エリス教の御神体である女神エリス。というのが正体の盗賊クリスにはエリス教の教会で祈れば会話できます。仕事が終わればそこで報告書を読みあげましょう。

 

では、クリスの代わりとして今すぐ誘える、暇してそうな盗賊職のスキルを持った冒険者を探しましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

「それで俺ですか」

 

「頼りにしてますよお兄ちゃん」

 

「ホッホッホ。賑やかじゃのう」

 

『キールのダンジョン』前。そこに集まったのは私とお爺ちゃん。それにカズマお兄ちゃんのパーティーです。アクア除く。

 

盗賊スキルを持った暇そうな冒険者と言えば、日頃大きなお屋敷でぐうたらしているカズマお兄ちゃんしか思いつかなかったわけで。

 

なのでお願いしちゃいました。

 

「ではダンジョンには私達三人で入りますので、ダクネスとめぐみんはもしもダンジョンからモンスターが逃げ出したら討伐してください。まぁないとは思いますのでのんびりしていてください」

 

ダクネスとめぐみんの二人はダンジョンの外でお留守番です。めぐみんは爆裂魔法をダンジョンの内部で放つわけにはいけませんし、ダクネスは唯でさえ攻撃が当たらないというのに視界の効かない狭い空間で暴れられても困りますので。

 

「仕方ありませんね。カズマをよろしくお願いします」

 

「わかった。しかし、ご老人。何故貴方がダンジョンに?」

 

「……ちと、会いたい奴がおっての」

 

お爺ちゃんは腰に手を置いてダンジョンの中を覗いていました。その目には哀愁がこもっていました。

 

 

そもそも『キールのダンジョン』とはその昔、お姫様を攫った国一番の実力を持った悪い魔法使いが逃亡の末に生み出したてこんだダンジョンだといいます。

 

「個人の魔力でこれほどのダンジョンを生み出せるのですね」

 

バキッ! という破砕音を響かせながらそんな感想を漏らす私です。ダンジョンの内部は真っ暗ですが、神である私には昼間のように明るく見えます。なので、モンスターが近づいてきても余裕で殴り殺せます。

 

「そうじゃな。昔はこのダンジョンを攻略するのに沢山の人間が挑戦したものじゃよ」

 

シュパッ! という鋭い音とともにモンスターがまっぷたつに裂けます。お爺ちゃんの手刀での一撃で、曰く、空気の流れで大体の位置が分かるそうです。

 

「すいません。俺必要なかったんじゃないっすか?」

 

カズマお兄ちゃんは私達に挟まれて歩いています。先頭は私。後ろにカズマお兄ちゃん。最後尾はお爺ちゃんという順番で一列に並んで進んでいます。

 

いえいえ。実際役に立っていますよ?

 

戦闘には関わっていませんが、ダンジョン内の罠とかを見破るのには非常に役立っています。私もお爺ちゃんも戦闘面では遅れを取りませんが、ことトラップに関しては素人ですので。

 

「あ、下級悪魔……死ねぇ!!」

 

「プギャアアアアアアア!!」

 

目の前から気味の悪い小型の犬くらいの大きさの悪魔が走ってきたので神気を纏わせた拳で殴り飛ばします。うん、今日も下界のゴミ掃除ができました。素晴らしいことです。

 

「これこれアルマちゃん。そんなに殺気を出してちゃいかんぞ? 心穏やかに、殺すのじゃ」

 

「ごめんなさいお爺ちゃん」

 

「いやそういう問題!?」

 

でも悪魔相手で穏やかになんていられません。殺すのなんて一瞬なんですから、殺気を瞬間的に放ってもいいではないかと思うのです。

 

「あ、今度はアンデッドが……わらわら来てる」

 

「敵感知ハンパないんですけど!? 前と後ろからどんどん湧いてきてるんですけど!?」

 

「まるで蜜に樹液に群がる虫のようじゃの」

 

狭いダンジョンの通路の中。前と後ろから沢山のアンデッドが押しかけてきます。まるで何かを目指すかのように。

 

あー、これはアレですね。原因は私です。

 

アンデッドは死者がモンスターに堕ちた存在。現世に残した未練が怨念となって生まれる彼らは浄化されることを望むこともあるのです。つまり、神聖な存在に惹かれるという特性も持っています。これにより、『敬虔なプリーストはアンデッドを引き寄せる』という厄介なことが起こるのです。

 

ということは。神聖どころか神そのものな私に浄化を求めてアンデッドが群がるのも当たり前なわけで。

 

「面倒なので……はいっ!」

 

パァン! と両手を合わせて神気を解放します。

 

「「「おぉぉぉぉぉぉぉお……」」」

 

アンデッドが塵も残さず消し飛びます。

 

「ほぅ!」

 

「すげぇ……」

 

更に私を中心に、神気が充満した清浄な空間を作り維持します。そのフィールドは三人がスッポリ入る規模で固定しそのままにしておきます。

 

すると。

 

「あのー、アルマ様? アンデッドが近づいただけで消滅して行くんですけど?」

 

「そりゃだって、全自動昇天フィールドですので」

 

「プリーストが失業しそうな技ですね!」

 

カズマお兄ちゃんが言うように、これはプリーストのお仕事を奪いかねない禁じ手です。なにせ、アンデッドが近づいただけで成仏する空間を作るのですから。

 

「大丈夫ですよ。この世界でこれができるのは私以外だとアクアだけです」

 

「あぁなんだ。よかったような、そうでもないような……え、今なんて?」

 

……アクアは本気を出せば凄い子なんです。本気が出せるようなヤル気さえあれば……どうしてあぁなった。

 

まぁ育てた『魂』ののせいなんですが。仮に、私があの子を育てていればどうなっていたのでしょう? エリスの様に真面目で礼儀正しいアクア……それはそれで面白くないかもしれませんね。

 

ちなみにエリスにはこの技は不可能です。あの子はこういう能力には秀でていませんので。

 

「アルマちゃん。その技は儂が言う場所で止めてくれんかの?」

 

「もちろん構いませんが、どうしてです?」

 

アンデッドが断末魔をあげながら消滅していく中ダンジョンを進んでいくと、お爺ちゃんが道すがらそう言いました。

 

「これから会いたい奴に会えなくなるからのう」

 

思いがけずにダンジョン探索が楽になったこともあり、私たち三人はサクサクと奥まで進んでいきました。すると、最後の部屋であり終点の最奥までたどり着きました。

 

そしてその部屋は、とても臭かったのです。

 

「やっぱなんにもねぇなー」

 

「やだ、こそ泥みたい」

 

タンスやツボの中身を漁るお兄ちゃんの姿はとても盗賊らしいものでした。冒険者から立派に転職できそですね。

 

お爺ちゃんはというと。

 

「……この壁も変わらんの」

 

ダンジョンの再奥の壁に手を付いていました。すると、その部分の壁が消失し、左右に広がって通路ができたではないですか。

 

「隠し部屋っすか!?」

 

「うわぁ、アンデッド臭ッ!」

 

お爺ちゃんの目の前の壁は無くなり、通路が現れました。その奥から臭ってくるアンデッド臭もより濃くなります。

 

「それじゃぁ、キールの奴に会いに行くとするかの」

 

 

 

 

 

「久しぶりじゃなキール」

 

「あぁ、本当に久しぶりだね。友よ」

 

隠し部屋の中は質素なものだった。ドレスを纏った白骨が眠る大きな天蓋付きのベッドと小さなタンス。その上に僅かばかりの金銀財宝があるだけの空間。

 

しかし、そこにはとんでもない存在がいた。

 

アンデッドの王、リッチー。このダンジョンを生み出した悪い魔法使い、キールその人である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の『物質』のアルマことテンちゃんとアクア。

 

「親方ァッ! どうですこの出来? 完璧でしょう!!」

 

「す、スゲェ……、二ヶ月かかる工事が一日で!?」

 

なんということでしょう。アクセルの土木作業者が総出で奮闘していた外壁工事を、テンちゃんとアクアの二人だけで一日で終えてしまったではありませんか。

 

アクセルの街をぐるっと囲む外壁は完全に修理され、全てのレンガにはびっしりと魔方陣が一つずつ書き込まれています。これには親方も驚きです。

 

「では浮いた工費で好きにしていいよね!!」

 

「待ってテンちゃん様! 本当に待って! アクセルの外壁の次は街のタイルなんて、一体何するつもりなんですかッ!?」

 

テンちゃんが魔方陣の刻印されたレンガを恐ろしい速度で積んでいきながら、アクアがセメントの水分を飛ばしてあっという間に乾燥させる。その作業を涙目で頑張ったアクアがテンちゃんの足に縋り付いて止めてくださいと泣きつく姿を誰が笑えようか。

 

 

「もちろん、最高にドッキリビックリな芸術さ!!」

 

「ドッキリとビックリの桁が怖いことになるから止めてくださいよー!!」

 

この星の修復は順調に進む。

 

順調に。

 

 

 

 




『命』 「新刊も出来たし、冬コミの準備しなきゃ……あ、そうだ」

エリス 「え。なんですか『命』様? え、お土産? これを下界に? なんで?」

『命』 「布教よろしく」

エリス 「私に別口の信者を募れと!?」



エリスは同人作家あるまんの新刊を手に入れた!(R18女性向け)


ちなみに『命』の子機は地球在住の在宅イラストレーターです。(2●歳独身)

ひとつ屋根の下に『理』の子機の義弟(高校生)がいます。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に農民の力を! part4

現実逃避をしながらだと筆は進む。

もうすぐGWも終わりですね。


「いやー、本当に久しぶりだねー! 元気してた!?」

 

「お主は相変わらず陽気じゃのう」

 

ダンジョンの主、キールと呼ばれたアンデッドと農家のお爺ちゃんは親しげに会話する。

 

彼らはなんと、五十年来の付き合いだというのだ。

 

「カズマ君や。アルマちゃんをしっかり押さえておいておくれよ」

 

「は、はいっ!」

 

「ははは、何を言っているのですか? 私だって我慢ぐらい出来ますよのやっぱ殺したいすぐ始末したい」

 

「出来てないじゃないですか!?」

 

どうも、カズマです。ただいま、小さな神様ことアンデッド絶対殺すウーマンなアルマ様を羽交い締めしているところです。手を離せば直ぐ様目の前のリッチーを抹殺しかねない勢いで、もう必死です。

 

アルマ様に誘われて、農家のお爺さんと一緒にダンジョン探索に来たところ、そのダンジョンの主がなんとお爺さんと旧知の中らしくびっくりですハイ。

 

なので、二人の旧友の久しぶりの会話が終わるまでアルマ様に我慢してもらっている。なお、『お兄ちゃん』効果のおかげでアルマ様の拘束が出来ているのだーがー、絵面が事案ものなので割愛するしだいである。

 

「成程、彼女が……約束を守ってくれてありがとう、友よ」

 

「うむ、待たせてすまなかったなキールよ」

 

二人がそう言い合うと、こちらを向いてリッチーであるキールがアルマ様にこう言った。

 

「済まないねお嬢ちゃん。どうか私を浄化してくれないだろうか?」

 

 

 

 

 

 

 

王国一の腕前を持つアークウィザードのキール。彼は、言い伝えでは王様の妃を拐って逃げた悪い魔法使いだった。

 

しかし真相は、王宮内で邪魔者扱いされていた側室の王妃と愛の逃避行をした情熱的な魔法使いだったという。

 

欲にくらんだ貴族が、王様に取り入るために自分の娘を側室として差し出したが、王様も欲しくもなかった彼女を大事にすることもなく、それが周知される頃には彼女の味方は一人もいなくなっていた。

 

彼女に一目惚れした一人の魔法使い以外は。

 

キールはその胸の内に宿した恋心を押し隠しながらも研鑽を磨き続けながら功績を残し、国一番の魔法使いと言われた頃に王様にこう言われたという。

 

「お前に一つ、好きな褒美をやろう」

 

そうすると彼は。

 

「ならば彼女をください」

 

王様のそばに控える沢山の側室の中から、愛する女性を指してそう言いのけたという。

 

これには王も困惑した。正直なところ、王様はその願いを聞き届けてもいいと思った。何せ、その側室はいらない存在だったからだ。しかし、側室とはいえ王の所有物をおいそれと一介の平民に与えるわけにはいかない。

 

だから声高に拒否した。それはダメだと。他の褒美にせよと。

 

しかし、国一番の魔法使いは諦めなかった。なにせ、欲しいと言った側室の女を拐っていったのだから。

 

王様は面子を守るためにも魔法使いへ追手を差し向けた。いらない側室とはいえ、王のモノを奪ったのだから許すわけにはいかなかったのだ。

 

そしてそれは、魔法使いにとって吉とでた。

 

王は追手の数を最小限とし、国力に支障が出ないよう抑えた。国内一の腕前を持つ魔法使いにとってありがたいことだったのだ。

 

キールを追う王様の刺客は弱くもなく強くもなかった。数も一人で相手するには多かったが、相手できないほどの数でもなかった。本当に最小限の規模だったのだ。

 

しかし、それでも体力の限界はあった。相手は国であり、戦えるのは魔法使いだけだったのだから。

 

逃避行の末、魔法使いは重傷を負った。追手は退けたが死は目前だった。

 

だから魔法使いは、選んだ。人間をやめ、アンデッドに堕ちる道を。

 

愛するものを守るために。

 

 

 

 

「それで最後はこの山まで逃げ延びてダンジョンを造り、二人仲良く慎ましく暮らしましたというわけさ」

 

「アンデッドになるくらいならその場で死ねばよかったのに」

 

「台無しですアルマ様」

 

一人の魔法使いの壮絶なラブロマンスを死ねばよかったのにと斬り捨てるアルマ様。ブレない御方だと思うよホント。

 

「じゃぁお爺さんとは何時知り合ったんだ?」

 

「このダンジョンを造ってすぐだよ」

 

「……山に見慣れないダンジョンが出来ていたからの」

 

なんと、腕試しだったという。

 

若かりし頃のお爺さんがまだ修業中の農家だったころ。山篭りをしていたところにダンジョンを発見し、攻略したのだという。

 

「まさか、冒険者や追手よりも先に、農家に攻略されるとは思ってもいなかったよ」

 

「儂らは作物を収穫しても財宝は収穫せんからのう」

 

ハッハッハと笑う老人達を見ながら、そんな問題か? と疑問に思う。やはりこの世界の農家はオカシイ。

 

で、攻略した最奥の部屋でリッチーとなった夫と疲れきった妻を見つけた若い農家はこう言ったそうな。

 

「腹が空いているのか? 俺は農家だ」

 

と。

 

そこから修業中の農家に新たな仕事が生まれた。食料を求める夫婦への食料供給という仕事が。

 

リッチーとなったキールには食事は要らなかった。しかし、妻は違う。人間である彼女にはダンジョンでの生活で食料の確保は必須であった。

 

しかし、お尋ね者だった二人には山を降り、街へと赴いての買出しなど不可能だった。金銭の問題もある。

 

だがそこはダンジョン。攻略しようと乗り込んでくる冒険者がいた。彼らには悪いが、探索中に命を落とした者から所持金を頂戴することで懐だけは温めていたのだ。

 

それでも。金はあっても使うことはできない。ダンジョンの奥で、つき始める食料の前に、もはやこれまでかというときに現れたのが、一人の農家だった。

 

夫婦には彼が救いだった。

 

「儂は修行するのに好都合で商売もできる。正に一石二鳥の環境じゃったよ」

 

「修行しやすいようにモンスターの強さや量を調整したりしたんだ。いやぁあの頃は楽しかったなぁ」

 

とんでもない話である。

 

なんとこのダンジョン、実質お爺さん専用の修行場だったのだ。酷い。

 

このダンジョンが攻略されたとギルドに報告はされていない。ダンジョンの主を討伐していないからだ。だから、モンスターは発生し続けるし、ギルドの攻略依頼も出たままである。

 

しかしそれがなんとまぁ。蓋を開けてみれば農家とダンジョン主の間で癒着があったという事実が隠れていたわけだ。

 

農家は世界を救わない。ただ耕すだけだ。

 

だから冒険者を支援などしないし、ギルドにも貢献しない。

 

自分たちが育てた野菜や家畜を売るのみ。その相手が人間でも魔王軍でも、正しく買って食ってくれるのなら関係ない。

 

この二人はそう言う関係だったのだ。客と友という関係。

 

お爺さんの食料の訪問販売は人間である奥さんが老衰で亡くなるまで続いたらしい。

 

つまり数年前だ。

 

「妻が逝ったので、今度は私もと思ったのだがね? なにせリッチーになっていたものだから死ねなくてね。彼には私を浄化できる程のプリーストが現れたらここに連れてきてくれるようお願いしていたのだよ」

 

「なるほど」

 

そういうことか。

 

つまりお爺さんは、アルマ様ならこの友人であるリッチーを浄化できると思ってここに連れてきたのだ。それは俺もそうだと思うので納得だ。

 

でも。

 

「つまりこのリッチーを始末すればいいのですね? 安心してください秒殺です!」

 

この方に慈悲はないです。

 

本職のプリーストでキール程のリッチーを浄化することはできない。可能なのは女神であるアクアとアルマ様レベルが必要だというのだから驚きだ。

 

アクアって本当に凄かったんだな。普段が駄女神だから忘れがちだけど、やっぱり神様なんだなと思い出す。

 

「これ」

 

「あイタ!」

 

俺に拘束されたアルマ様の脳天にお爺さんの軽いチョップが降りおろされた。それでアルマ様の勢いがしぼむ。

 

「……なんですかお爺ちゃん。あの死に損ないのミイラを処分すればいいんでしょう?」

 

「その通りじゃが、おぬしはもうちょい死者にも心遣いというものを持たんといかんの」

 

あ、ハイ。俺でもそう思います。

 

でも、それは難しいと思う。アルマ様にとってアンデッドは神の理に背いた存在だというので、憎さ余って殺意百倍な相手。そんな相手に慈悲はなく、手心を与えてもそれは安楽死という浄化。許すと書いて殺すと読むらしいのだ。

 

「お爺ちゃん。この世の理を背くということは世界のルールを破綻させるということです。一つの綻びが全体を崩壊させます。それは許されないことなのです」

 

「そうじゃのう。金を払って野菜を買ってくれる客を差し置いて、タダで野菜を配る奴がいれば儂もしばき倒すしの」

 

いやお爺さん。確かにそれも大事なルールだけど今言うことなのだろうか?

 

「死んだ者は生き返ってはならない。例え死者蘇生の方法があったとしても、それは許されないことです。アンデッドという存在そのものが禁忌であり、地獄の釜の(ふた)を持ち上げてしまうのです。見過ごせば、この世とあの世の境は曖昧になりアンデッドが生まれるのが当たり前の世となるでしょう」

 

「すまないねぇ」

 

頭をかいて謝るキールさんだが、アルマ様の言うことには恐ろしいモノがあった。俺はこの世界がファンタジーなのだからアンデッドとかゾンビとかが居ても、そんなものかと受け入れていたがその考え自体がアンデッドを産むのだという。『死んだ人間が生き返ってはならない』。転生者の俺には耳が痛い言葉だが、この『理』が守られないということはアンデッドが生まれてもいいのだと認めているのようなものだ。

 

アンデッドは死者が生き返った訳ではない。けれでも、結果だけ見れば死者が意志をもって活動している。それを『生き返った』と思う者がいないと誰が言い切れるだろうか?

 

それを認め、許容してしまう世界になってしまえば、確かにそれは『理』が崩壊した壊れた世界なのかもしれない。だからこそ、アクアも駄女神ながらもアンデッドを許さないのだろう。

 

「アンデッドが死者の未練から生まれるというのならそれを癒すために女神がいるのです。その女神の慈悲を無視し、なおも現世に留まるというのなら死神を差し向けます。それでも駄々をこねるのなら魂を消滅させます」

 

「怖いのぅ」

 

うん、怖い。本当に怖い。俺、次死んだら絶対に生き返れないわ。アクアが蘇生呪文使えるって言うけど、アルマ様のいるところじゃ無理かもしれない。

 

「アルマちゃんはまるでピンと張り詰めた糸のようじゃ。余裕を持たんとはち切れてしまうぞ?」

 

「当たり前です。『理』が揺らいでいれば示しが付きません。蜘蛛の糸を垂らす同僚はいても、私が揺らいでしまえば支えをなくした者達は何を信じられましょうか」

 

お爺さんはアルマ様に『柔らかくなれ』と糸に例えて言う。アルマ様はそれでは世界()が動揺するという。

 

どっちもそのとおりだと思う。アルマ様は頭が硬すぎるし、『理』がコロコロ変わってたら世界は混乱するだろう。

 

あれ? じゃぁそれって、もうどうしようもなくね?

 

アルマ様に変わって欲しいな、なんて考えはつまり、世界を変えることと同義なのだ。

 

アルマ様がアンデッドを許してしまうとアンデッドの存在を世界が肯定してしまうことになり、下手をすれば死んだ人間がその場でアンデッドになる世界が出来上がってしまうのかもしれない。

 

「(世界の『理』を決めた時から、アルマ様は考えを変えてはいけなくなったってことか)」

 

めぐみんが爆裂魔法に誇りをもってそれだけを極めようとするように。

 

ダクネスが頑なに攻撃補助系のスキルを取らないように。

 

それを変えてしまえば根底から狂ってしまう矜持というものが人にはある。それが、アルマ様にとっては世界規模、いや宇宙規模ってことなのだろう。

 

でもさ。

 

「大丈夫だって、ちょっとくらい」

 

「お兄ちゃん?」

 

肩肘貼ってばかりじゃ疲れちゃうからさ。

 

「アンデッドを見つけたら浄化するのは当然としてさ、もっと気楽にやれば? なんなら鼻歌まじりでもいいし」

 

もっと楽しもうぜ。アルマ様が創ったこの素晴らしい世界を、創った本人がさ。

 

「でも、」

 

「ほんのちょっとの真心じゃよ。ほんのちょっと、一摘みの真心があればいいんじゃ」

 

「そうそ。俺なんて、それがなきゃ今頃馬小屋で凍死してるぜ!」

 

実際、幽霊屋敷のマッチポンプとかアレとかコレとか見逃して貰ってなきゃ俺は犯罪者ですよ?

 

「……なんですかもう。これで文句を言ってたら私が人でなしみたいじゃないですか」

 

まぁ人ではないしね。神様ですし。

 

 

 

不満タラタラな神様ではあったが、キールというリッチーは穏やかなまま満足して浄化されたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳で、私としては大変不本意なこととなりました。お兄ちゃんに汚された気分です」

 

「待ってアルマちゃん。それだとなんか如何わしい意味に聞こえるから」

 

仕事が終わり、ギルドへの報告も終わったので私はエリス教会へと足を運びました。今度はこちらから天界へ報告しなければなりませんので。

 

「でもアレですよ? 嫌がる私を後ろから力任せに羽交い締めし、もっと力抜けよ? と耳に囁いたのは本当ですよ?」

 

「冒険者ギルドの掲示板に幼児を狙う不審者として手配書貼ってもらうよ!」

 

嘘は言ってませんよ?

 

「それはさておき。久しぶりですねクリス。天界の様子はどうでしたか?」

 

「……それがもう大変だったよ」

 

そうクリスです。

 

エリス教会の懺悔室。私たちしかいない密室で天界への報告書の受け渡しが行われていました。これ、実は定期的に行なっているんです。

 

前の私が下界に降臨したときもそうですが、どうにも天界とのアクセスが不調でして。この世界で唯一天界と下界を行き来できるクリス(エリス)に報告書を書いて運んでもらっているんです。で、そのついでに天界の様子を聞いているのですが。

 

「あ、これ『命』様からのお土産です」

 

「なんですかこの薄い本」

 

聞いといてなんですが、予想はついています。今年の分が書き上がったんですね。酷使された天使達に祈りを捧げていると、クリスがとんでもないことを報告してきました。

 

「え? 『物質』のがやらかした?」

 

「はい! もう、天界のお父さんもカンカンで。見つけしだい縛り上げてこいって通達が出ているんです」

 

「……だからですか」

 

「はい?」

 

先日から『物質』のことテンちゃんが押しかけてきた理由。つまりは説教が嫌で逃げ出してきたということですか。

 

「来てますよ、アクセルに」

 

「え?」

 

「『物質』の。この星を治しに来たってもっともらしい理由を並べて逃げてきてます」

 

「灯台もと暗しとはこのことだよ!! 今まで色んな宇宙をしらみつぶしに探してたのに!?」

 

「なに無駄なことに時間を使っているんですか」

 

こうしちゃいられないと、クリスが私の書いた報告書を持って天界へと戻る支度を始めました。『理』のの本体へと伝えに行くのでしょう。

 

 

何をしたのかは分かりませんが、尻拭いを私に任せる気満々じゃないですか……。

 

 

クリスは今まで探していたといいますが、どうにも初めからこの世界に狙い済ましていたとしか思えません。なにせ、『理』のが探せと命令し、下界にいる私にも手伝わせようと言うのです。ならば元からこの世界にいると考えていたということではないですか。

 

「ふむ……逃亡を見逃していた、なんのために、あぁ押し込める……面倒は纏めてですか……なら事態はそこそこ大規模なことになりそうですね」

 

 

目には目を、歯に歯を。神の行いには神の行いを持って解決せよ。

 

 

つまり、『暴れて』もいいという許可が出たのだと。

 

 

私はそう()解しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の『物質』のアルマことテンちゃんとアクア。

 

「あ、そろそろ時間切れっぽい」

 

「何がですかテンちゃん様ー?」

 

アクセルの外壁に『神気ジャミング』の効果のある魔方陣を書き込み、地面のタイルには『神気ドレイン』の魔法効果を付与した。その他もろもろ、億とも兆ともある様々な魔法効果のある陣をアクセルに仕掛け終え、創造神の一柱は『時間切れ』に気付いた。

 

「アルマちゃんに気付かれないように妨害してたけど、もう必要ないか。いんや、もうちょっと必要かな?」

 

「?」

 

「あぁ、アクア達女神クラスには効果ないから安心して」

 

「え、だから何がです?」

 

アクアに話しているようで、アクアを見ていない。そんな独白に、『水』の女神は恐怖を覚える。こういう時の神々の放っている雰囲気は恐ろしい。

 

まるで、嵐の前の静けさのようであるし、もしくは起こした火を自分に非はないと対岸の火事を決め込んでいるような。そんな薄ら寒さを感じるのだ。

 

「もうすぐ来るね。きっと来る」

 

世界を正面からでなく、天上から見る神の視点。そこに映るソレを『物質』のは見て笑う。

 

「楽しい愉しい、玩具が来るよ」

 

 

 

遠く、地響きが近づいてくる。




『理』 「………なんでこのタイミングでリンクが回復するかな」

『魂』 「のうのう? 今どんな気持ち? ねぇどんな気持ち? アンデッドに情けをかけた自分に対して今どんな気分?」

『理』 「……とりあえずお前にイラっとくるな」

『魂』 「(あ、ダメじゃ。これブチギレてるの無理矢理押さえ込んどる)」

『命』 「(黙って、ゆっくり、離れなさい)」


嫌がらせと時間稼ぎは大成功な『物質』です。


アルマが考えを変えた例(時間編)。

「あ、老化するのが嫌なら若返るようにしてやろうかな」

生物は死体で生まれて赤ん坊まで『成長』して死ぬようになりました。

「あ、カップ麺出来るの待つのめんどくせ。三分すぐ経てよ」

1秒が180倍になりました。

「遅刻した。時間巻き戻すか」

時間を自由に操作できる、歴史という概念が不確かな世界になりました。。

皆さん、『時間』はきちんと守りましょう。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に娘との会話を!

社会人になるとですね、「会社用」「プライベート用」「自宅用」で三つの顔を使い分けています。偶に使い間違えて周りがびっくりしちゃうのが問題です。ストレス? 凄いよ?

会社「僕、この間の連休にデジモンのフィギュアを買ったんですよ」

プラ「NXエッジのアルファモン買った! オメガモンと並べるといいなぁコレ!!」

自宅「金? まープラモとかフィギュアとかに使ったかなー」


同じ話題でこんな感じです。


さて、クリスに報告を済ませた私はそのままエリス教会を後にしようかと懺悔室から出ようとして、ふと思いついたことがありました。

 

「そうだクリス。ちょうどいいので一つ、私の話を聞いてはもらえないですか」

 

ここは懺悔室。私の愚痴のひとつも吐き出してもいいでしょう。

 

「いや、アルマちゃん。急いで『物質』様を抑えないと」

 

「構いませんよ。しばらく放っておけばいいんです」

 

「……は?」

 

『物質』のが何かを企み暗躍している。それは結構。そんなのは何時ものことです。今更慌てたところで何も変わりません。

 

「むしろ、懸念すべきは企みを中途半端な状態で放置されることです。貴方も、自分の管理する世界に処分不可能な『爆弾』を放り出されたくないでしょう?」

 

「………確かに」

 

『物質』のは何をするにしても、結局は『創る』のが楽しいという問題児だ。やらかすとしたら『芸術活動』だろう。

 

で、それによって『作品』を創っているとして、その製作を途中で放棄される方が問題なのだ。地球で例えるなら、原子力発電所の原子炉を造りかけたまま放置されるようなものである。

 

……だったら早めに手を打ったほうがいいのではないか? そう思うかもしれませんが、既に遅いのです。

 

こと創り出すという工程で『物質』のの速度に追いつける存在はこの次元には存在しえません。彼女が何かを始めたと気づいた頃にはもう手遅れです。

 

「正直なところ、私はもう『作品』の一つや二つは完成していると思っています。なので、それを壊すのではなく、使わせない方針でいきましょう」

 

「頭痛くなってきたよ……」

 

クリスは頭を抱えていますが、いい加減諦めて慣れなさい。こんな事態はぶっちゃけ何時ものことです。

 

「大方、天界の本体はこう考えているんでしょうよ。泳がせて向こうが自分から暴露するのを待って拳骨入れろ、と」

 

「そんな悠長な……」

 

何が起きるでしょうね? 私としては月が変形して巨大な砲台になっても驚きませんし、太陽と同じ大きさの巨大ロボットがパンチを繰り出してきても既に経験済みです。

 

「そんな経験積みたくもありません」

 

「修行不足ですよ」

 

「オカシイ……やっぱり最高神の常識オカシイよぉ……」

 

「想像力が足りませんね。地球の言葉を勉強しなさい。『人が想像できる事は必ず人が実現できる』という言葉を残した作家がいたように、神の想像力はそのまま創造力となります。それで遅れを取るようではまだまだ未熟者ですよ」

 

「妄想癖があるのかと心配されそうなんですけど」

 

妄想結構。何事も最初は思い描いた頭の中の設計図から作り出されるのです。今ではあって当たり前の物だって、最初は誰かの妄想から生まれたのですから。

 

懺悔室で説教をするのはいいのですが、する側とされる側が逆転していますねこれ。

 

「頭の硬い貴方に世間話という息抜きをしてあげましょう」

 

「うわー。ありがとうございまーす」

 

生真面目なこの子は頑張りすぎて空回りする癖がありますので、余裕を持たせてあげないと潰れてしまいます。会話というのはいい気分転換のひとつです。一つ問題に頭を悩ませているのなら、別の話題で一度頭の中を切り替えてしまったほうがいいでしょう。

 

「敬虔なるエリス教徒様。仕事先で娘たちが破廉恥な格好をしています。どうしたらいいでしょう?」

 

「えぇ!? まさかそれあたしのことかな!?」

 

当たり前です。おへそ丸出し、太腿見せ放題、胸は布あてを巻いただけで上着を着ない。地球でそんな格好をしていれば、まぁ一部の地域を除いて痴女扱いでしょう。お巡りさんに呼び止められること間違いなしです。

 

「なんです? 家では真面目なふりして外ではハッちゃけてるんですか? 何時からそんな不良娘になったんです」

 

「違います! これは盗賊職だから軽装なだけでッ、別に自分から肌を見せてまわってるわけじゃないからね!?」

 

「しかも自分の信者達を騙すなんて言語道断ですよ。女神エリス像とか肖像画を見たとき私がどれだけ情けなく思ったことか……」

 

「それどこを見て思ったの!? 思ったんですか!!」

 

胸ですよ胸。

 

この世界にある女神エリスを象った肖像画や銅像は全て豊満な胸の女性の姿で作られています。本人は悲しいほどにまな板だというのに……。

 

「そんな虚しい見栄を世界規模ではらないでください。お父さんは恥しいです」

 

「創った張本人がそう言う?! 私だって人並みの大きさならこんなこと…って何言わせるんですか!!」

 

「自爆を人のせいにしないでください。ちなみに本体は大きいサイズが好みです」

 

「余計に腹が立つんですけど!? なんであたしの胸こんなサイズにしたし!!」

 

「実務優先、コスト削減。自分の性癖を押し付ける程変態でもなし」

 

「この堅物親父!!! だったらアクア先輩とかどうなのさ! あの人お尻丸出しだよ!?」

 

「あそこの家は裸族の家系なのでノータッチです」

 

「家系でいうなら親戚でしょうが!!」

 

や、だって『魂』のは言わなきゃ自分から服を着ない全裸主義者ですし。下界じゃ動物に囲まれて森の中で全裸でごろ寝してるロリBBAですし。そんな彼女が創ったアクアがきちんとした身だしなみをしていたら製作者を疑います。

 

「全裸いうなら自分だって脱ぐじゃないか」

 

「私が裸になったのはどれも不可抗力でしょう。というか、脱がせたカズマお兄ちゃんに文句言ってくださいよ。訴えたら勝てますよねアレ」

 

思えば地上に降りた神々が皆露出癖あるみたいじゃないですか。なんですかこれ。違いますよ? 神様は皆変態だなんて思わないでください。お願いします。

 

あ、やだ。変態で思い出した。日本在住の『理』の分体がいました。あの変態とだけは記憶共有したくありません。

 

「エリスは日本にだけは来てはいけませんよ」

 

「え、なんで?」

 

「アクシズ教徒みたいになりますよ?」

 

「分かりました」

 

素直でよろしい。まぁ、この子だって日本という国がどういうところなのかわ知っているでしょうが、自分の足で降り立って見ないと実感はわかないでしょう。

 

あの国はアクシズ教の理想郷ですからね……。

 

「破廉恥といえば、この街は驚くほど治安がいいですよね。血気盛んな男性冒険者や露出の多い女性冒険者が昼間から歩いているのに性犯罪など一件も起きていません」

 

「あ、それはあたしも不思議なんだよね。スケベな冒険者はいるけど犯罪は起こさないんだよ。なんでだろ? まぁいいことなんだけどね」

 

死地に片足を突っ込んでいる冒険者達は多くがどうせ明日は死んでるかもしれないから、と今日を大事に、思い残すことなく過ごしている。でも、そういう人間は犯罪にも走りやすくなるので危険だ。だというのに、この街の冒険者、特に男性たちはというと、まるで高僧の修験者のように落ち着き払っているというか、悟りを開いているかのように振舞っている。どちらかというと女性冒険者の方が血の気が多いぐらいだ。

 

「……この街って『大人の夜の店』とか充実してましたっけ?」

 

「……娘に聞く? 自分で夜の街にでも繰り出せば?」

 

「アルマちゃんは小さな女の子だもん! 夜はいい子にして寝てるもん!」

 

「背筋が寒くなる声出さないでくれないかな!?」

 

ぶりっ子を装ったら怒られました。見た目相応の態度をとったら怒りを買うとは解せぬ。

 

「だったら普段どうり喋ればいいのか? あ? 違和感しかなくて酷いだろうが、えぇオイ?」

 

「ごめんなさい。子供口調でお願いします」

 

忘れてるかもしれねぇだろうが、こちとら頭の中は子持ちの男なんだよ。ガワが幼女だから周りに合わせて口調と一緒に思考まで餓鬼にしてる苦労を理解しろ。

 

「あぁ……分体になった以上、一生女児で過ごさないといけないのが辛い」

 

「お父さんはその、そのまま女性としてこの星で生きていくのです?」

 

「魔法使えば性別ぐらい変えれるが、基本は女として生きなきゃならんよ。人並みに成長もするから男捕まえて子供でも産んで大地に骨でも埋めるよ。当然、寿命もお前より早く尽きるしな」

 

「下界に降りた分身体の運命(さだめ)ですね……」

 

神の分体は神の一部であって神ではない。超常の力を持った下界の生物に成り下がった存在だ。ただ、中身が神として自覚があるかないかで話が変わってくる。

 

私は自分が『理』の神だと理解してる。だから天界の本体から制限付きで権能を引き出すことができる。人間以上女神未満ということだ。

 

……まぁ、稀に分体の分際で天界の本体を圧倒してその座を奪い取る個体が生まれることもあるんですけどね。私にその気はありませんが。

 

「……書類仕事から開放されましたし」

 

「え、今なんて?」

 

「なんでもありません」

 

危ない危ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、アルダープの屋敷から回収した神器はどうしたんですか?」

 

「……あー、あれね。アレなら今持ってるよ。本当はとある湖に沈めようと思ってたんだけど」

 

おや? 以前アルダープという悪徳領主が所持していた二つの神器を回収してからどう処理したのか。それが気になってクリスに聞いてみたのですが。

 

「神器になにかありましたか?」

 

「そっちは無事だよ? ただ……隠そうと思ってた湖が使えなくなったというか……」

 

湖?

 

聞けば、クリスはアクセルの街から南下した位置にある山の湖に神器を投げ入れようとしたのだという。

 

なんでせっかく回収した神器をポイ捨てするんだ阿呆、と思いましたが。どうやらその湖には『クーロンズヒュドラ』という巨大な多頭のドラゴンがいたらしい。日本で言えばヤマタノオロチを思い描いてもらえばわかりやすいだろう。

 

そう、いた(・・)らしい、と過去形なのだという。

 

「クーロンズヒュドラは大地の魔力を吸収し、周りを汚染しながら力を蓄える性質を持つドラゴンなんだ。だから、その中に投げ込めば神器の放つ神気を感知できなくなるし、ヒュドラが住み着いてるから誰も手を出せないと……思って……」

 

「予想を越えて、ヒュドラを倒されちゃったから廃棄場所を考え直すしかなくなったと」

 

「……はい。もうこれは天界に持って帰ります」

 

「それがいいです」

 

そもそも、『魔物を召喚して使役する神器』とか『他人と入れ替わる神器』なんて勇者候補に渡す特典としては物騒すぎるでしょう。性能ではなく倫理的に。百歩譲って『魔物を召喚~』のほうはいいかもしれませんが、人格を入れ替えるのは駄目でしょう。聞いてて犯罪臭しかしませんし。

 

にしても。

 

「クーロンズヒュドラが討伐されていたとは……一体どこの凄腕冒険者の仕業でしょうか? それとも王都の騎士団が?」

 

あのモンスターはその性質上、力を蓄える前の早期に倒すのが得策なのですが、如何せん強力な個体ですので手ごわいのです。しかも、クーロンズヒュドラは死ねば蓄えた魔力を大地に還元する性質も持っているのです。還元された魔力を吸った大地は肥え栄え潤うといいます。その後の経済効果は目覚しく、討伐報酬の金額に上乗せされるほどらしいのです。ですので、あえてすぐには倒さず収穫時期を待つ農家のように魔力を溜め込むまで焦らして討伐する狩猟法があるとかで。ヒュドラが住み着いた土地の持ち主はギリギリまでギルドに依頼を出さないとまで言われているほどです。

 

なのに、人知らず討伐された? 

 

それ程のモンスター。高額の賞金が動く相手が討伐されたというのに噂にもなっていない。これは異常です。

 

まさか?

 

「……ギルドに報告がいっていない?」

 

「そうなんだよ。というか、依頼主も聞かされていないかも」

 

あーらら。偶にあるんですよね、こういうことが。

 

討伐依頼を受注した冒険者が現地に行ってみると既に対象のモンスターが死んでいた。こういうことは実はよくあることなんです。

 

何故そんなことがあるかというと、原因は上級冒険者にある。駆け出しの街で張り出されている討伐依頼は、この街では高難度の依頼でも、王都に所属する冒険者からすると楽な仕事なのだ。そんな高ランクの冒険者が偶々見つけた討伐モンスターを知らずにサクっと倒して歩いていっても誰が責められようか。

 

そういう、依頼が知らないうちに消滅していた場合、気付いた者が報告しておけば少しばかりの報酬が出る仕組みになっている。

 

なのに、全く報告されていないということは……ギルドの仕組みを知らない者の犯行? いえ、別に悪いことをしているわけではないですが。

 

「クーロンズヒュドラって、討伐報酬を欲しがってなく、ただモンスターを倒したってだけじゃ理屈に合わない強敵ですよね?」

 

「上級冒険者だけで構成されたベテランパーティーか、王国の騎士団が長期にわたって攻略する相手だよ? それをたった二人でなんておかしいよね?」

 

「は? いま二人って言いました?」

 

「言った。目撃者がいてね。あまりに衝撃的すぎて白昼夢か何かと思ってるみたいだけど、その人が言うには全身けむじゃくらで体の大きな二人組だったって……どうしたの?」

 

「………いえー……別に」

 

何やってるんですかもう。

 

「色々と調べてからギルドに報告しようと思ってたんだけど、どうだろう?」

 

「クーロンズヒュドラが討伐されたのは間違いないのでしょう? だったら早く報告したほうがいいですよ」

 

どこの熊と農家がやったかは知りませんが、元気そうでなによりです。

 

早く帰ってこないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その頃の『物質』のアルマことテンちゃんは。

 

「いい夜だねー君ぃ」

 

「ッ!? だ、誰ですか!?」

 

もう就寝時間も間近という、静まり返った夜の街で。その屋根の一つに登って夜空を眺めて居る時に見つけた悪魔っ子を見つけた彼女は。

 

「サキュバスかー。夜も遅くに盛んだね! 頑張って子作りしておいで!!」

 

「こ、子供は作りませんから!! ご飯をいただくだけです!!」

 

なんだ、つまらない。

 

ロリサキュバスのそんな面白みのない言葉に落胆していた。

 

アクセルの街を夜な夜な飛び交うサキュバスの影。それがこの街の治安を守っている存在の姿だった。彼女達は男性冒険者と共生関係にあり、少しばかしの精気を頂くことで生活している。これにより、サキュバスは生きられる、冒険者は気持ちよくスッキリできると互いにイイことづくめらしいのだ。

 

カズマ少年曰く、皆が賢者タイムなら争いは起こらない! だ、そーだ。

 

「若い男女の営み、産めよ増やせよ子宝を! 一番原始的な創作活動なのになー」

 

この街の冒険者たちはサキュバスに玉を抜かれているからか、なかなか結婚もしないし子供も作らない。由々しき問題だと思う。

 

『魂』のはエロスの権化なのでサキュバスはウェルカム! 頑張れ! だし。

 

『命』のは人間が増えない? いいぞ頑張れ! だし。

 

『理』のは人間の出生率が下がるんじゃ死ねぇぃッ!!!だし。

 

え? 僕? 僕はねー……リっくんを誘惑したいから教えて! ってお願いしてみようかな!

 

あ、どっかの屋敷の窓が割れてさっきの子が逃げ出した。痴女のもつれかな? 怖ーい。

 

さーて、準備は終わった。

 

アルマちゃんにも全部バレてる頃だよね? 久しぶりに思いっきり遊べそうだよ。

 

「どうせ怒られるのなら全部やりきって、後悔なく怒られたいよね!」

 

天界の『理』先輩が苦笑してるのが目に浮かぶ。あの人、感情の切り替えが凄まじいからなー。もう僕のことは許してるし、怒っている最中なんだろうね。

 

甘くて優しくて、厳しくて怖いお人だよ。

 

「じゃぁ遊ぼう。皆で楽しもうよ。この宇宙は僕らの泥団子。叩いて丸めて投げ合おう」

 

 

「だってその方が面白いだろう?」




『理』 「日本のアイツを思い出させるなぁぁ」

『魂』 「……どんまい」

『命』 「あの子がいると筆が止まらない! 加速する!!」


地球日本在住、『理』のアルマの分体。(高校生)

分体という自覚があるけど、魔王寄りな自由人。魔法使って不老不死、性転換、年齢操作なんて当たり前。彼女を作って彼氏を作って、嫁さん作って夫を作る。息子と娘と孫を看取りながら、今日も元気に若い子供たちに混ざって青春してまーす! 性別? 気分で変わります。クラスのみんなには内緒だよ! 

『理』 「頭いてぇぇぇ」

『魂』 「どうしてこんなのが生まれたのか…バグ?」

『命』 「でも、『理』の分体の中じゃ一番強いぞ?」

アルマちゃんとはロイヤルナイツと七大魔王的な関係。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外 この一撃熊に家畜の辛さを!

今回の主人公は一撃熊のダックスです。


吾輩は一撃熊である。名前はダックス。

 

同族の中で何故か己のみが抜き出て頭が回り、効率の悪い本能のままに狩りを行う仲間たちに嫌気がさして群れを離れ強さを求めていた。

 

そうして、ご主人と慕う、ダックスという名の名付け親でもあるアルマ様と出会うまでの間、吾輩は山中で手強い野菜どもと戦い、喰らう修行を続けていたが……山を降りて初めて、己が井の中の蛙、いやさ熊なのだと思い知らされた。

 

まず、我輩を拳だけで屈服させたご主人。彼女は見た目は人間のメスであり子供であった。それだけならば魔物からすれば文字通りいい餌である。力も脆弱、逃げ足も遅い、思慮も足りない。森で遭遇すれば労なく仕留めて腹に収めることだろう。

 

だが、ご主人は普通ではなかった。その身から発せられる威圧感。まるで樹齢千年を超える大樹を前にしたようなそれは足を震わせ頭を垂れそうになった。目を合わせると吸い込まれそうな瞳に恐怖を覚えたのは獣としての本能だ。それは己が一番嫌い、群れから離れると心に決めた弱肉強食の掟そのもの。

 

 

知性なき獣畜生に落ちるくらいなら死ぬほうがマシ。

 

 

いっそそう思った。むしろ、ここでこの少女に食われるのなら生きたかいもあると、そう諦めるもただでは死なんと心に誓う。

 

それが功を奏したのか、少女は吾輩を見て笑みを浮かべたのだ。

 

後は知っての通り。我輩はご主人に敗北し、彼女の従者となった。強さを求め群れから離れる道を選んだ唯一匹の一撃熊が、どういう縁でこのような場所に収まったのか。まさに神の思し召しとでも言うのであろうか。

 

しかし、強者はご主人だけにあらず。今まで相手をしてきた山中の農家とはレベルが違う相手が其処らかしこに居たのだ。

 

 

 

「さぁさぁダックス。今日からお世話になる皆様に、挨拶をしましょうね」

 

「ガァ」

 

ご主人に連れられて、我輩は羊を飼い、キャベツを育てている農場に住むことになった。

 

キャベツ。奴らは実に強い。葉の凝縮された球体は岩のように重く、それが宙を舞い集団で襲いかかってくるのだ。

 

成程、これはまた恐ろしくも腕が鳴る場所だと思った。今まで戦ってきた相手とは一味違うことだろう。

 

しかし、そこで暮らす農家どもは別の意味で一味の違う修羅達であった。

 

なんだこの老人共は?

 

今まで山中で出会った農家共が如何に貧弱だったというのがひと目でわかる覇気(オーラ)。ご主人とはまた違う、圧倒的強者の姿に我輩は言葉を失った。……農家の一人息子はそうでもなかったが。

 

農家には老人と老婆、息子の他に住民がいた。家畜である。

 

多くの羊が飼われていた。しかし妙である。この羊共、我輩を前にして怯むことなく堂々として草を食べている。

 

……舐められている? まさか。

 

たかが人に飼われる家畜ごときが、一撃熊である我輩を下に見ている? 

 

なんという侮辱。搾取されるだけの弱者が森の強者である我輩を愚弄するか。

 

ならばご主人の言うとおり、きちんと挨拶をしてやろう。

 

羊の群れの中、ひときわ大きな奴に目を付けた。

 

………大きすぎないだろうか?

 

全高一メートル半。人間の子供とほぼ同じ大きさであり、全身に蓄えられた羊毛が体型を隠しているが、四肢の筋肉は駿馬のようであり恐らく全身が……本当になんだこの羊は?

 

「貴様、新入りか?」

 

※人語ですが動物の鳴き声を変換しております。

 

こちらから威嚇してやろうかと思っていたら向こうから話しかけてきた。生意気にも吾輩を新入り呼ばわりである。

 

「おうとも。羊共、吾輩のご主人に迷惑をかけぬよう大人しく飼われているがいい。粗相をすればすぐに食い殺してやろう」

 

低く唸りながらそう言ってやる。確かに我輩は新参であるが、上下関係はハッキリと自覚させてやらねば。

 

「生意気な熊め。立場というのを分からせてやろう」

 

は?

 

「メェェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!」

 

仰天。目の前の羊が、体毛を震わせて身を小さく縮ませる。それに合わせてバチバチと音が聞こえだし、ウール百パーセントの体毛が放電を始める。すると四肢を踏ん張り、大地を蹴って突進を仕掛けてきた。

 

「奥義! 羊毛羽織静電弾(ようもうはおうせいでんだん)!!!」

 

「ぐあぁああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

なんということだ。この羊、武術を使うだと!?

 

電気を纏った毛玉の突進。それは我輩を突き飛ばし中に舞い上がらせた。その衝撃に意識を奪われそうになりながらも必死に歯を食いしばり耐える。

 

だが、

 

「「「メェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!」」」

 

目玉はひとつではなかった。その場の家畜、羊の群れ全てが雷電を身に纏い突進してくるではないか。

 

「グ、グハァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

一撃ならば耐えられるだろう。しかし、それが十発を超え始めると限界はすぐに訪れた。吾輩は気が付けば芝生生い茂る大地に転がされ、空を見上げる格好でいた。

 

腹の上ではご主人が寝転がっていたが。

 

「ダックスはまだまだ可愛いですねぇ」

 

「グ、グァァァ」

 

可愛いい。そんな表現などされたことがない。いやさ。子熊だった頃に、母にそう呼ばれていたことがあったかもしれない。つまり、ご主人にとって我輩は子供でありそう扱われているということだ。

 

そこに先程の羊がひょこひょこと近づいてくる。

 

「愚かな。貴様など、所詮は飯を食い糞を出すだけの獣にすぎん」

 

「なんだと!? 家畜風情が生意気な!!」

 

ご主人を腹に乗せたまま、無礼な羊に我輩は牙を剥く。その言い草に腹が立つのだから当然だ。

 

「家畜? 大いに結構。我々は住む場所と食物の引き換えに対価を支払っているのだ。貴様こそ、家主に何の見返りも渡さぬなど家畜にも劣るペットではないか」

 

その言葉に、我輩がどれほどの衝撃を受けただろうか。

 

強さを求め、ご主人に着いてきた我輩。しかし、その先のことなど何も考えていなかったのではないか。これでは吾輩が忌み嫌った群れの主にただ付き従う野生の獣そのものではないか。

 

「我ら家畜は農家の財産。農家が欲するこの体毛を与えるために食し、生きる。その為に生きることに疑問はなく、健やかな暮らしが得られる対価として十分である」

 

「それでは人間の奴隷ではないか!!」

 

餌のかわりに生活の自由を奪われ搾取され続ける。それを満足と言ってのけるこの羊が気に食わない。だというのに、

 

「奴隷? 巫山戯ているのは貴様だな。我らは自らの意思でここにいる。ならばそれは奴隷ではない。我らは家畜と言うなの労働者であり、農家である」

 

「農家、だと!?」

 

農家とは人間を指す言葉ではいのか? 我輩はこの羊を前にして無知を晒す阿呆であることが悔しくてならなかった。だが、確かに農家とは農業を営む者の総称、つまり人間だけを指すものではないのかもしれない。

 

つまり、この羊が言うとおり、こやつらも農家という存在なのか。

 

「いえ、その理屈はおかしい」

 

ご主人が吾輩の首をぎゅーっと抱きしめながら耳元でそう囁く。しかしご主人よ、この羊共の実力派本物だろう。

 

「ここでなら、強くなれる!!」

 

我輩がその手に鍬を握る日が来ることは必然だったのだ。

 

「えー」

 

その姿を見たご主人の胡乱な目を我輩は生涯忘れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

最近、ご主人と共にいると自分の知的好奇心というものがにょきにょきと芽生え始めていることを実感する。

 

朝、起床の後にご主人達と体操をして身体をほぐし、鍬を振るう。作物を育てる為の様々な作業を老人の指導の下行い、農家の息子と手合わせをし修行の日々である。

 

その合間、暇さえあれば文字の学習をし書物を読むようにした。発音などはできぬが練習はしている。しかし人語の理解は完璧であり読み書きもできるようになった。ご主人と冒険者ギルドなるものに赴くときも、共に依頼掲示板に目を走らせいい腕試しの相手はいないものかと思案する毎日である。

 

最近はキャベツの収穫時期が近い為、この農家一家は気合に満ちていた。老人はキャベツが逃げ出さないように殺気を畑全域に巡らせ、老婆は鎌をまるで名刀のように研ぎ澄ましている。農家の息子は収穫に使う農具の手入れに忙しい。

 

そんな中、我がご主人はギルドの仕事の他に何やら書類を書き連ねている。見るや、この近隣の魔物の生態や冒険者の活動を纏めた調査票のようである。

 

何故そんなものを? 疑問は尽きないが、吾輩は一撃熊である。人の政になどに関わるものではない。故にそのことには追求しないこととしよう。

 

ご主人はその調査票を纏めると、何時も教会に足を運んでいる。我輩は一撃熊故教会の中に入ることは叶わぬが、一度窓の外から様子を伺ったことがある。

 

礼拝堂の女神像に祈りを捧げるご主人がおり、宙に舞う調査票が天に召されていった。成程、アレは報告書の類であったか。

 

目撃した奇跡には一切触れず、その事実だけを受け止める。我輩は出来た従者である。一撃熊であり魔物である我輩は、教会というものが苦手なのだ。中にいるプリーストや教徒である冒険者達が獲物を握ってこちらを睨みつけてくるからである。

 

これも強者の定めかと思うが、どうにも視線の質が違うように思う。

 

……これは殺意に混じって嫉妬が混ざっていないであろうか?

 

「ダックス、帰りますよ」

 

「グア!」

 

教会から出てきたご主人をその背に跨らせ、家路に向かう。その後ろ姿を見つめる者たちを背にして聞こえてくる声があった。

 

「アルマちゃんに馬乗りに……う、羨ましい…ッ!!」

 

人語とはなんとも難解なのだろうか。その言葉の意味を思い知るのに、我輩は夜なべして書物に向かうこととなる。

 

 

 

 

 

 

ご主人と共にいると、山で暮らしていた頃とは比べ物にならない程の経験値を得ることができた。

 

食事。農家で暮らしていることで高密度な経験値を有した作物を食らうことができるようになった。

 

修行。農業で身体を酷使し、老人の手ほどきで技を伝授される。

 

死闘。ご主人とギルドの依頼で強者と戦い、農家の家畜共と切磋琢磨する日々。

 

こんなものを繰り返していれば嫌でも強くなれるだろう。特に家畜共。アイツらに襲われる方がよっぽど怖い。傷つけたら怒られるから手も出せぬ。

 

恐ろしいのは羊だけではない。凶悪な家畜とはそこらにいるのだ。

 

まず、牛がいた。

 

「きゃー! 熊よ! 一撃熊よ!」

 

「追い払え! メス共は下がれ!!」

 

「害獣が! このたわわに育った俺たちの肉を喰らいに来たか!!」

 

「違うわい」

 

ご主人と他家の農家にお使いに行ったとき、血気盛んな牛共が多くいた。羊の件で懲りていた吾輩は穏便にことを執り成すことを覚えていた。

 

何故なら奴ら、今にも全力で突っ込んできそうな迫力だったからだ。アレを前にすると、ギルドの冒険者など恐ろしくもない。

 

 

次は鶏であった。チキン、臆病者かと思えばやはりそうではなかった。そうであって欲しかった。

 

「熊か……もはやここまで」

 

「しかし、何時か食われるのが我らの定め、それが早まっただけのこと!!」

 

「総員、嘴を尖らせろ!!! 今日が我らの出荷日よ!!」

 

「「「コケーーーーーーーーーーーーーー!!!!」」」

 

「だから違うわい」

 

目があった瞬間、即座に覚悟完了するチキン共のどこが臆病者だというのか。しかも刺し違える覚悟とは恐れ入る。

 

求められるのが体毛である羊と違い、牛や鶏は乳や卵の他に肉も求められる。つまり、食われることが決まっていながら育てられているのだ。

 

だというのに、あの家畜共は何故逃げ出さないのか? 決まっている、農場主が強く、それを許さないのだろう。

 

農家の家畜は強者であり、それを育て上げた農家もまた強者。この関係、互いに高め合うも訪れるのは死。農家とはなんと悲しい行いか。

 

などと思っていたら、すぐにそんな想いは覆された。

 

豚共だ。

 

「くくく、おい、どっかのお坊っちゃんが迷い込んできたぜ?」

 

「ヒャッハー! 今夜は熊肉だー!」

 

「ここのモヒカンと一緒にテメェもあの世に送ってやるよーーッ!!」

 

この豚共、畜生にも程がある。

 

ご主人と訪ねた最後のお使い場所。そこはモラルの欠如した畜生共の溜まり場だった。職員はモヒカンに肩パッド。家畜はヒャッハー。子豚の頃からヒャッハーに囲まれヒャッハーに育ったからその影響なのであろうか? つまり悪いのは環境か。

 

「ダックスはこんな不良になっちゃ駄目ですよ」

 

ご主人に心配されるまでもない。というより、こんな下品なのはこちらから願い下げである。

 

ご主人と一緒にこの豚共のファームを進んでいくと、人とは思えないデカイ豚の王が現れたり、豚人(オーク)と戦争が始まると言い出したり、正に農家とは人外魔境なり。

 

その帰り道、黒い豚に喧嘩を売られて余計にそう思った。

 

「憐れだなぁ! 一撃熊ともあろうものが小娘のペットかよ!!」

 

「口を慎め豚が! ハムにしてくれようか!?」

 

くまと見まごうほどの巨体の黒豚が、熊のような大きな豚王を背に乗せ追ってきて併走する。我輩はご主人を背に乗せそれを引き離そうと走るが、なんと無礼な豚なのか。

 

「なんだテメェ? お高くきどりやがって、さては童貞か? 童貞だろう坊っちゃんよぉ?」

 

無礼なだけでなく下品極まりない。なんだこの不良豚は。

 

「ここのメスは皆俺のスケだ、ハーレムだぜぇ? 独り身の坊っちゃんは帰ってママに甘えてな!!」

 

殺してやろうかこの豚野郎。しかし、商品に傷をつけることまかりなし。農家の鉄則だ。

 

吾輩は怒りをぐっと堪え、ご主人を一刻もこんな下卑た集団のいるところから遠ざけようと脚力を上げる。

 

この日の夕餉がベーコンの野菜炒めだったことは胸のすく思いだったと言っておこう。

 

 

 

 

農家の家畜共はどうしてこうもクセのある者たちばかりなのであろう。吾輩のような常識あふれる存在は居ないものだろうか。

 

畑を耕し、体を鍛え、書物をかじる。そんな平凡な日常が心を穏やかにさせてくれる。強さを我武者羅に求めていた頃の自分が嘘のような日々である。しかし、それは怠けているわけでも強くなるという目標を捨て去ったわけでもない。むしろ、己が日々強くなっている事への確かな実感を感じていた。

 

そんなある日だ。

 

ご主人がご主人で無くなった。

 

我輩、何を言っているのか自分でも分からないが、確かにそう感じるのだ。

 

ご主人の性格が変わった訳でもない。別人になったわけでもない。他人と入れ替わったわけでもない。

 

しかし、目の前のご主人はご主人でありながらご主人ではない別のご主人だと、野生の本能がそう告げていた。

 

前々から感じていたご主人からの愛情に母性のようなものが溢れ始めて来た頃に、それは決定的となる。

 

そしてそれは、吾輩の巣立ちを予感させるに至ったのだ。

 

母の愛に報いるため、独り立ちをする時期が来たのだと。ちょうど、前から何かと目についていた農家の息子の姿を思い出す。

 

そう言えば、あやつもいい加減一人前になるべきであろう。

 

農家として新参者の吾輩であるが、息子の未熟さには気づくことができた。何せ、農家に携わって数ヶ月の我輩と遜色ない農家というレベルの低さなのだ。

 

鍛え直そう。そして強くなろう。

 

息子の姿にそう思わされたとき、その機会は訪れた。

 

農家の息子の挫折、後悔。豚共との決闘と敗北。それらが息子を襲い蹂躙する日がやってきたのだ。

 

我輩と息子。我ら二人の視線が交わされたとき、言葉は不要であった。

 

「ならば我も共に行こう」

 

練習していた言葉。それを初めて聴かせる相手がご主人ではなくこの男とは。まったく、どうにも上手くいかぬものよ。

 

我輩はご主人にしばしの別れを告げると、農家の息子…相棒を捕まえ山へと走り出す。

 

今よりも大きな農家となって帰ってくる。そう心に近い、ご主人の元を去った。これより我らは修羅に入るのだ。作物と会っては作物を狩り、害獣と出会ってはそれを狩る。

 

「クハハハ! 強くなる、強くなるぞ相棒よ!!」

 

「農家だよな!? 一人前の農家を目指すんだよな?!」

 

同じことだろう? 相棒の言葉に首をかしげながらも吾輩は止まらぬ。目指すは強者のいる場所。闘争こそが己を強くする近道よ。

 

「『大地』の女神を味方につける、それが農家の極意! 共に極めようぞ!!」

 

「ダックス!? 何言ってるんだ!? ねぇ!」

 

実に楽しみである。

 

農家の極意を極める、なんと困難な道か。しかし、吾輩はご主人の従者、できぬはずがない。はずがないのである。

 

ところで、ご主人が言った『ガイアにディープをきめる』とはどういう意味であろうか? 『きめる』ということは何かしらの技? つまりガイアを倒せということなのか?

 

「やはり修行だ! 打倒ガイア!!」

 

「お前絶対なんか勘違いしている! 勘違いしているからぁあああああああ!!!」

 

 

待ってろご主人。我輩達は強くなって帰ってくるからな!!




頑張れダックス君!


羊「この体毛、簡単に刈れると思うなよ!?」

ダ「コイツ、毛から放電を!? ヌワーーーー!!」

稀に、優れた農家の育てた羊の中から電気を操る最強の竜種が生まれるという。

アルマ「そんなばっかーな」


当時、ポケモン金銀ではデンリュウが常に一軍でした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に害虫対策を!

農家にとって、畑を荒らすものはみんな害虫。野菜泥棒も害虫。人権なんて存在しません。


農家の朝は早い。

 

日の出と共に目覚め、手早く朝食を済ませると家畜の世話を始める。その後、畑に向かい作物の世話を、その後にまた家畜の世話を、とこれを一日行い続ける。

 

だがその日。一人の農家が大地に足を踏みしめた時、気付いた。

 

「大地が震えておる……」

 

その農家は老人だった。

 

酪農家だった。

 

鶏卵農家だった。

 

豚の王だった。

 

米農家であった。

 

蜂蜜を、果物を、砂糖を、様々な農家が畑に向かった瞬間にそれを感じ取ったのは当然のことであった。

 

そして彼らは皆、誰が言うでもなく集い始める。その手に農家の魂である農具をとり、鍛え上げた肉体を震わせて。

 

震源地に向かって農家の声が爽やかな早朝に響きわたる。

 

「「「畑荒らしが来たぞーーーーーーーーーーー!!!!」」」

 

爽やか?

 

訂正。殺気だった怒声が轟いたという。

 

 

 

 

 

 

 

そしてその頃。冒険者ギルドにも激震が走っていた。

 

『デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在この街へ接近中です! 冒険者の皆様は装備を整えて冒険者ギルドへ! そして街の住人の皆様は、直ちに避難してくださーいッ!!』

 

アクセルの街の端から端まで響く魔道具を用いたギルドの緊急警報。朝食を食べていた者は食器を取り落とし、布団にくるまっていた者は跳ね起きた。

 

「デストロイヤーってなんだ?」

 

「知らないんですか!?」

 

カズマもその中にいた。寝惚け眼で屋敷の自室から出てくると、荷物を纏めて出てきためぐみんと出会いそう尋ねた。

 

 

機動要塞デストロイヤーとはなんぞ? と。

 

 

見れば、アクアやダクネスすらも荷物を纏めて、今から夜逃げをしますといった風体である。

 

「どうしたんだお前ら? ギルドから緊急の呼び出しが出てるのに行かないのか?」

 

「はぁ!? カズマさん何言ってんの? 逃げるのよ! ほら早く! 逃げるの! デストロイヤーが来てるのよ!?」

 

「だからなんなんだよ、デストロイヤーって」

 

この世界の住人ではないカズマには、子供でも知っている大人気特級危険構造物デストロイヤーのことを知らない。

 

なので、ギルドからの緊急の呼び出しだと言われてもピンと来ず、何故彼女たちがすぐにギルドに向かわないのか、むしろ逃げ出す準備を始めているのかが分からなかった。

 

何となく、やばいものが近づいてくるということしか分からなかった。

 

「あ、まだこんなところにいましたね」

 

「え? アルマ様?」

 

「おはようございます」

 

「あ、はい。おはようございます」

 

そんなカズマの前に冒険者姿でしっかりと武装したアルマが現れた。今日は『超神刀・豊穣丸』も装備していた。

 

「アクア、テンちゃんを見ませんでしたか?」

 

「え? 今日はまだ見てないけど、どうしたの?」

 

アクアにそう尋ねる。アルマには確信があった。

 

「いえ、ちょっと。機動要塞なんて名称、明らかにあの子が好みそうな案件なので」

 

「あー……え、なんでアルマちゃんがそれを?」

 

だから、機動要塞デストロイヤーってなんなんだよ!

 

あといい加減、アクアはアルマ様の正体に気づいて欲しい。後が怖いという意味で。

 

テンちゃん様こと『物質』様はこの屋敷に滞在していた。毎朝アクアを連れてアクセルの至るところで土木作業に赴くためだ。

 

しかし、今日はいなかった。というより、昨晩からいなかったような気がする。

 

「ちっ、逃げましたか……いえ、特等席を探しているのかもしれません」

 

「特等席だと…? まさかアクセルの街がデストロイヤーに蹂躙される様を鑑賞しようと言うのか!? なんて悪趣味な!」

 

「そんな!? いくらデストロイヤーの被害に遭う街が珍しくてもそんな酷いことしませんよね!?」

 

「いいえ、テンちゃん様たちならやりかねないわ! あの人達は超新星爆発を連発させて『たーまやー!』って眺めてるくらいなんだから!!」

 

だから! デストロイヤーって、なんなんだよ!

 

「ちょっと待ってください……『機動要塞デストロイヤー』。その昔、魔道技術大国ノイズで造られた対魔王軍用兵器。その姿は八本足の巨大な蜘蛛を模しており、様々な武装を搭載した巨大ゴーレム。その巨大な体躯は城を踏み潰し街を更地に帰ると言われています」

 

「なにそれやべぇ」

 

アルマ様がメモ帳を取り出して読み上げたのは件の『機動要塞デストロイヤー』の情報だった。調べた情報をメモしてるとか可愛いっすねと一瞬思ったけど、書かれてる内容が酷すぎた。なんだよ、城を踏みつぶすって。どんだけデカいんだ?

 

「ちなみに、デストロイヤーが通った後にはアクシズ教徒しか残らないと言われているほどの脅威として知られていますよ」

 

「それアクシズ教徒の方がやばくないか?」

 

「ちょっと、ウチの子達をひどく言わないでくれる?」

 

アクシズ教の御神体が何か言ってるが今はそんな場合じゃない。

 

「お前ら! ギルドに急ぐぞ!!」

 

「え! 逃げないんですか!?」

 

俺の発言にめぐみんが驚くが、俺は逃げる気なんてない。せっかく苦労して手に入れた屋敷を捨てて逃げるなんて考えられないし、こちらにはアルマ様がいる。相手がどんな化け物か知ったこっちゃないが、勝算は必ずあるはずだ。

 

「でしたら皆さんは先にギルドに向かっててください」

 

へ?

 

「アルマは行かないのか?」

 

ダクネスが手をヒラヒラさせて俺たちを見送ろうとするアルマ様に聞き返す。

 

あんれぇ? アルマ様、着いてきてくれないんすか!?

 

「私はちょっと、やることがありますので」

 

それって今じゃないとダメっすか!?

 

目前に迫った脅威を前に、別のやることとはいかに。い、いいや、きっとそれもこの街のために必要なことなんだろう。なんだって神様なんだし、きっと先の先を見通した作戦がある……んだよな?

 

「それでは戦場で会いましょう」

 

あっさりそう言うと、アルマ様はさっさとどこかへ行ってしまった。

 

マジで?

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして俺たちはアルマ様を欠いた状態で冒険者ギルドに足を運んだ。集まっていた冒険者や職員たちはアルマ様がいないことに露骨に嘆いていたが、今はそんな場合ではないとすぐに気を引き締めた。

 

「皆さん、お集まり頂き誠にありがとうございます。それでは、ただいまより対デストロイヤー防衛作戦会議を始めさせていただきます」

 

司会として職員のルナさんが集まった冒険者達に声を上げて話し始める。ギルドの酒場のテーブルにはアクセルの街周辺の地図や今までデストロイヤーの被害の報告書。そして、デストロイヤーに関しての資料が並べられていた。

 

デストロイヤーの資料を一枚、ペロッと摘んで読んでみる。なんじゃこら。

 

とてもじゃないが、この街の冒険者たちでどうこうできる代物とは思えなかった。

 

 

機動要塞デストロイヤー。

 

全長二百メートル。全高五十メートルの蜘蛛を模した超大型のゴーレム。その体躯は魔法金属によって作られ、見た目よりもずっと軽く動きは俊敏。そのくせ降り下ろされる八本足に巻き込まれた者達は全て挽肉にされ大地は畑のように耕されるのだという。

 

なら、遠くから魔法で狙撃すればいいのでは? という意見は常に張られた魔力結界の存在で却下され、それから攻めればという意見には対空砲座の存在が確認されているという絶望的な報告が挙げられる。

 

近づいての物理攻撃では踏み潰される。

 

離れての魔力砲撃は結界で無効化。

 

空から近づいたら撃ち落とされる。

 

これ造ったやつガチすぎるだろう。『俺が考えた最強武器』すぎる設定に辟易する。というか、魔導技術大国ノイズがやばすぎる。この国、技術進歩おかしすぎるだろう。なんでこの国だけ百年は先行ってそうな技術保有してるの? そのくせデストロイヤーにまっ先に滅ぼされたとかマジ笑えない。造ったんなら責任とれよおい。

 

「デストロイヤーは今もこの街に接近中です。何かいい案はありませんか?」

 

デストロイヤーはその製作者が占拠し造った国を滅ぼした。今もその場を乗っ取って世界中を蹂躙しながら回っているらしい。もとは魔王軍と戦うために造られたのに被害に遭っているのはそれ以外の街だというから皮肉なものだ。肝心の魔王軍の城はというと、強力な結界で守られていてデストロイヤーが近づいてもはじき飛ばせてしまうんだと。それってつまり、元から太刀打ちできなかったってことじゃなかろうか?

 

で、だ。

 

あーだこーだと議論を重ねているうちに、大雑把な方針が決まっていく。

 

まず、誰も破れないという魔力結界をアクアが突破する。

 

次にデストロイヤーの足をめぐみんとウィズの爆裂魔法で破壊する。

 

足を失って動きを止めたデストロイヤーがその時点で何もしなかったら万々歳。だけど、もしおかしな動きを見せたら冒険者達が乗り込んで責任者をとっちめるといった作戦が決まっていく。

 

その最中、誰かが気付いた。

 

アクセルの街周辺の地図。そこに描かれたデストロイヤーの進行予想図を指さしてこう呟いた。

 

「あ、このままだと農地に突っ込む………?」

 

「「「………あ」」」

 

全員が、食い入るようにして地図を睨めつけ始めた。デストロイヤーが目撃された地点と、アクセルを繋ぐラインの途中に、農家たちが管理する土地が広がっていた。

 

「………勝ったな」 

 

「「「うん」」」

 

この世界に来て分かった事実がひとつある。それは冒険者も、市民も、更には魔王軍にも知れ渡る常識であり非常識な事実。

 

 

農家は戦わない。ただ耕すだけ。

 

 

ただし、畑を守るためなら魔王軍とだって戦うと言われる最強の農耕民族である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけましたよ」

 

「あれ? いいの? こっち来て」

 

アクセルの外壁の上。接近するデストロイヤーが遠くに霞む程度で見える場所。

 

そこに『物質』のアルマはいた。服は元の学校制服。ミニスカにブレザー、ネクタイをしめた彼女は今にも登校する女学生といった風体だった。

 

胸を期待に膨らませ、ワクワクとドキドキで一杯な無邪気な少女。まるで遠足の前日の夜に眠れない幼児のように待ちきれず、今か今かと巨大蜘蛛の到着を心待ちにしている。

 

破壊と創造。『物質』を創り出すことにおいては概念その者である彼女は新たな工作時間に心躍らされていた。

 

そんな観覧席に来客が。

 

お菓子もジュースも用意して、ショーの始まりを待ちわびていたというのに出し物の主役の一人が現れたような驚きが彼女にはあった。

 

「アルマちゃんがこっちにきたら街の人たちは困っちゃうんじゃない?」

 

「でしょうね」

 

しかし、アルマは動かない。いや、動けない。

 

何故なら、これはこの星で生まれ育った者同士の戦い。それに神々が介入することは天界規定が許さない。

 

そう定めたのは他ならぬ『理』のアルマ自身だ。例え分体とはいえど、かの主神の一部である以上守らぬ道理はない。

 

が、それはあくまでも地上のルールが守られていた場合に限る。

 

地上の技術で作られた兵器を破壊するのは同じく、地上で生まれた者たちの手で行われなければならない。だとすれば、その前提が狂っていた場合どうなるのだろうか?

 

だからこそ、アルマは確かめなければならない。『理』を守る裁定者として、違反者がいないかを。

 

「単刀直入に尋ねます。機動要塞デストロイヤー、造ったのは貴方ですね?」

 

「そうだよ」

 

神器『機動要塞デストロイヤー』。それが彼の巨大蜘蛛の本当の名であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

農地を目前とした荒野の渓谷。そこをデストロイヤーが巨体を轟かせながら進んでいく。

 

その前に立ち塞がる集団がいた。

 

その者たちは異様な格好をしていた。

 

一人は白いシャツと股引、腹巻をつけた老人であった。

 

一人は作業着を着た男だった。

 

一人は病弱そうな痩せた男だった。

 

一人は筋骨隆々とした巨大な大男だった。

 

更には刀を、鎖鎌を、鍬を、熊手を持った老若男女が最強の仕事道具を構えて動き出す。

 

先頭の老人が叫んだ。

 

「畑を荒らす害虫を始末するんじゃ~~~~~~~!!!!」

 

「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」

 

大地を踏み荒らす巨大蜘蛛の起こす衝撃よりも激しい地鳴りを巻き起こす農家の集団。

 

農家と蜘蛛の、畑を守る戦いが今始まる。




ノイズの技術開発局

職員「新兵器造るぞー!」

『物質』「おー!」

職員  「図面できたけどどうする?!」

『物質』「いいアイディアあるよ!」

職員  「こいつはスゲェ!」

『物質』「資源もジャンジャンあるよ!」

職員  「おっしゃ! やりたい放題だぜ!」

『物質』「じゃ、頑張ってね! 楽しみにしてるから!!」

職員  「任せろ! ………ところでアイツ誰?」

他の職員「「「え?」」」


神様は何時も貴方を見てますよ。

アルマ「見ててもいいけどちょっかいは出さないで欲しい」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に戦いを!

タイトル考えるのが一番苦労してます。


「この物の怪がぁあああああああああああああ!!!」

 

アクセルの農家達を引き連れ、お爺さんが先陣となって飛び出す。

 

繰り出されるのは足。振り上げた右足へ、残した左足から汲み上げた大地のエネルギーを集め一点集中させ振り下ろす。

 

「地ならし!!!」

 

ダン! と大地へ叩きつけられた踏み込みが、お爺さんの正面とデストロイヤーの間へとエネルギーを浸透させていく。放射状に拡散したソレは、地面の土を細かく分解・均一化させていく。

 

生まれたのは振るいにかけられたようにサラサラとなった土。まるでケーキ作りのために準備された小麦粉の様に、突如流砂となった足場に巨大な蜘蛛型ゴーレムは八本足の内の前二本を沈みこませ体制を大きく崩した。

 

「今じゃ! 行けぃ!!」

 

「「「応!!!」」」

 

お爺さんの後から屈強な農家達が飛び出していく。しかし、勢いを削ぐかのように熱線が彼らに降り注いだ。

 

「ぎゃぁ!!」

 

「何事!?」

 

「む! アレは!」

 

デストロイヤーの進行は止まった。しかし、地面に前から突っ込んだ巨体は頭を地の下に潜り込ませたことによって、眼下の者たちには決して見ることのない巨体の背を晒していた。

 

対空防御の為の、固定砲台がこちらを向いていたのだ。降り注ぐ魔力砲弾。それを受ける者、躱す者、叩き付ける者と対応が様々だが攻勢の出鼻をくじかれていた。

 

「私が行こう!」

 

「鶏卵農家!」

 

ハァッ! と高く飛び上がる漢がいた。彼は翼のように広げた両の腕と、羽のように重さを感じさせない軽やかさで宙に踊り出る。その跳躍力や。デストロイヤーの遥か頭上を軽々と飛び越え、太陽を背にしてかがやきを放った。

 

そんな鶏卵農家に向けて、対空防御の魔力砲弾が降り注ぐ。

 

「ぬ! あれでは的ぞ!」

 

「兄者!!」

 

天にて滞空し砲座に狙いつけられる兄弟弟子の姿。しかし彼に焦りなし。広げた腕から羽根が舞い広がり、翼となってその美しさで辺りを魅了していく。その虜となったデストロイヤーは魔力砲台の照準を狂わせ、鶏卵農家には一発たりとも砲弾は当たらなかった。

 

「アレは羽毛!」

 

「流石は兄者! 家畜農業伝承者において最も華麗な技の使い手よ!!」

 

使われたのは彼が飼育する鶏の体毛。抜け落ちたものをかき集めておき空中に散布することで己の姿を大きく見せ、狙う的との照準を狂わす即席のチャフであった。

 

鶏卵農家はまるでこぼれ落ちる枯葉のようにデストロイヤーへと舞い降りる。その動きのまま繰り出されるのは鍛え上げた農家の技。

 

「天翔害獣百裂拳!!!」

 

日々家畜を狙うコカトリスとの戦いで最も繰り出される奥義。それは相手が鋼鉄の身体であろうと威力に変わりない。対空砲座は鶏卵農家の拳によって一面ボコボコに陥没し破壊される。

 

しかし。

 

「グゥッ!」

 

多くの砲座が設置されたデストロイヤーの背面。その砲座を全て破壊したところで鶏卵農家の男は血を吐き、地上へと落下していった。

 

「兄者!」

 

「……弟よ、病んでいなければ」

 

なんと悲しきかな。天高く飛翔する翼を持ち、鳥を愛する漢でありながら。その身を蝕む病は彼の農家を地に堕とすのだった。

 

「取り付けぃ!!」

 

しかし彼らは止まらない。ここで足を止めては体を張った漢の行いを無駄にするというもの。農家たちは地面に沈み込んで足をとられて動けないデストロイヤーに乗り込もうと近づく。しかし、それでも前足二本。残りの六本足は暴れており空をかいていた。

 

巨体を支える足が大地を蹴り体制を立て直そうとしている。そもそもデストロイヤーは見た目に反し身軽なのだ。過去、巨大蜘蛛に対して落とし穴作戦をとった国があったという。しかし、それは失敗だったという。落とすことには成功したが、八本の足を巧みに使った跳躍で難なくと脱出されたという。

 

つまり、狙うは足。

 

「その足、貰い受ける!!」

 

「一番槍は俺が!」

 

「串刺しにしてくれる!!」

 

赤い槍を持った農家が助走をつけた跳躍で飛び上がりそれを投擲した。それに続いて同じく槍を投擲する男たちがいる。全員が白いシャツに青いオーバーホールを身にまとい、麦わら帽子を被った男たち。ゴム製の黒い長靴で大地を駆けるその姿は正に美形の農業アイドル。一人は青い長髪の兄貴。一人は黒髪の泣き黒子が眩しいイケメン。一人はダンディな髭のオジサマ。

 

彼らこそはチームYARIO。YARIO村という、モンスターに滅ぼされ廃村となった村々を復興させるという活動を行なっている団体の代表たちである。稀にモンスターの巣となった廃村もあり、それら全てを討伐する必要もあるために日頃から槍などで武装し鍛錬しているとかいないとか。現在、アクセルの街付近で活動中である。

 

そんな彼らに続く農家たち。次々とデストロイヤーの足に殺到し、ある者は関節部に雑草を詰めて機能不全を起こし、ある物は農具を突き刺して内部の配線を切断し、またある者は根元から斬り堕とした。こうして流砂に沈んだ前足二本と天に向かって投げ出されている足二本を除いた、地についた四本の足が行動不能にされていく。

 

「乗り込めえぇぇい!!!」

 

「「おーーーーーーーーーーー!!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、冒険者いらないだろアレ」

 

「何を今さら」

 

カズマたちである。

 

遠く、アクセルの街の外壁の上からデストロイヤーと農家達の戦いを眺めるのは冒険者たち。彼らはデストロイヤー迎撃のために街の正面に陣を構えていたのだが、そのかいなく戦闘は既に始まっていた。

 

「農家は自分達の畑を守るときにのみその戦闘力を全開にします。そしてその強さが、デストロイヤーの驚異から街や王国を守ってきたのですよ」

 

「農家スゲェ」

 

傍らに立つめぐみんの言葉に素直に感嘆の声をあげるカズマ。めぐみんやダクネスが言うには、今までデストロイヤーの被害を抑えていたのは農家だという。

 

デストロイヤーがノイズという国に造られたのが何時なのか、その記録はもう残っていない。しかし、大昔というほど古い時代からその巨大蜘蛛はこの大地を闊歩してきた。なのに何故、今だにこの大陸が人の住める環境なのだろうかというと、それこそ『農家がいたから』である。

 

街や王国がデストロイヤーの被害を受ける際、まっ先に襲われるのは外にある農業区である。当然だ。いくら大きな国でも外壁の中に広大な農地は作れない。どうしても街の外に畑を作らないと収穫量が少なくなってしまう。そうすると、農家を襲うもの、守るものは相対的にレベルが上がっていく。つまるところ、デストロイヤーなど農家にとって害獣、もしくは災害なのである。

 

ギルドの掲示板に『畑をモンスターから守ってくれ』などという依頼を出す農家は未熟者、と先に述べたことがあるが、一流の農家から言わせれば『蜘蛛如きから畑を守れない農家など三流』だという。

 

つまり、デストロイヤーの通った後にはアクシズ教徒しか残らない、という逸話にはこう付け加えるべきなのである。

 

デストロイヤーから畑も守れない軟弱な農家どもめ、と。

 

国が滅んだのではない。農家が畑を守りきれなかったのだ、と。魔王軍ですら避けて通る農家。デストロイヤーですら壊せない魔王城を守る結界。本気を出せば魔王軍なんて一日で崩壊させることができる農家が、魔王軍に手を出せないデストロイヤー如きに遅れを取る道理なし。

 

だからこそ、デストロイヤーに敗北するような農家など、農家と呼べぬ家庭菜園者なのである。

 

……しかし、ここまでデストロイヤー相手に無双する農家が集うアクセルも輪をかけて異常なのだという。特に今年は例年に比べて農家の活動が活発になっている、なりすぎているとか……何があった。

 

「だからもうさ、農家に頼んで魔王倒しに行ってもらえよ」

 

「そんなことしている間に収穫時期が来る、と言って毎年断られている」

 

「あ、そですか」

 

農家にとって、魔王軍など世間を騒がすチンピラ程度である。そんなもの相手にするよりも畑を荒らす馬鹿共を相手にするほうが忙しいのだという。

 

目の前であんなデカイ蜘蛛型ゴーレム相手に無双出来るのにね!!!

 

実に残念である。

 

「ほら、行くぞカズマ。私達もいい加減、戦線に加わらなければ」

 

「いや、ダクネスさん? もう農家だけでよくね? 俺たちが行く頃にはもう終わってるって」

 

や、ほんと。ここからデストロイヤーのいる場所まで移動している間に全部終わりそうな勢いである。

 

「バカを言うな。ギルドにも言われただろう?」

 

「そうだけどさー」

 

放っておけば農家が全てを終わらせてくれそうなのにダクネスがグイグイと俺たちの背を押すのには理由がある。

 

それは数時間前。デストロイヤーの進行方向に農業地帯があると作戦会議でわかった時。

 

 

職員のルナさんが言った。

 

「……ギルドの活動資金を農業組合に取られちゃう」

 

「「「!??」」」

 

 

冒険者の危機である。街の危機が去りそうなのに、まさかの大問題であった。

 

そりゃぁ、街を守る戦力に金をかけるのなら冒険するよりも酒場で騒いでいることの方が多い冒険者と、食料を作ってくれるうえでデストロイヤーよりも強い農家。どっちに資金援助をすると権力者が考えたら誰だって農家を選ぶ。俺だってそーする。

 

「ちなみに、ここで冒険者が活躍しなかったらどうなると思う?」

 

「依頼の報酬額がひと桁減るそうだ」

 

「「「…………」」」

 

気まずい沈黙が当たりに満ちていく。

 

「や、やったるぞお前らーーーーーー!!!」

 

「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」」」

 

かつてここまで俺達冒険者の想いが一つになったことがあっただろうか!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ凄いですね」

 

「凄すぎない? なんなのこの街。ていうかあの農家さんたち」

 

そう言ってデストロイヤーと戦う農家、遅れながら参戦する冒険者達を眺める二柱の神々。

 

名も無き女神(アルマ)『物質』のアルマ(アルマ)である。

 

彼女ら二人、アクセルの外壁の上から戦いの様子を眺めていた。のほほんと。

 

「いいの? みんな頑張って戦ってるよ?」

 

「いいんです。人の生み出したものは人の手でケリをつけるのが道理でしょう」

 

アルマちゃんは『理』の神から生まれた存在。故に、始まったことへの終わらせ方というものにはこだわるのだった。

 

曰く、人の起こした問題は人が解決せよ。神が起こした問題は神が解決せよ、ということだ。だからこそ、彼女は魔王と戦わない、この星の人間たちを『救わない』のだ。

 

まだまだ、この程度では神の出る幕ではないのだから。

 

この程度では。

 

「貴方の趣味はなんでしたっけ?」

 

「んー? やっぱ危機的状況、絶体絶命! ってところで主人公の隠された力とか奇跡とか友情とか愛とかが爆発してサヨナラ逆転大勝利を迎える展開?」

 

「ハッ、ご都合主義の塊ですね。そこまでいけば一種の『理』とも言えます。でも、私の趣味じゃありませんね」

 

「なにおー」

 

趣味とは個性であり神にとっては権能の一部だ。

 

『理』の神である彼は真面目で頑固な堅物であるが、言い換えれば自分の決めたことは絶対に曲げないということ。やることなすことが一貫しているからぶれない、揺らがない。

 

『物質』の神である彼女は何でも創るし何でも壊す自由奔放な存在。やりたいことはやるし、やりたくないこともやる。過去に絶対に不可能と言われたことも技術の進歩で可能となるように、創り出すということは肯定と否定を併せ持つ。

 

『物質』のアルマは楽しんでいる。

 

自分の仕組んだ『物語』がどう転ぶのか、ワクワクしながら眺めている。

 

『理』のアルマの分体は厳しく見定めている。

 

この『脚本』を検閲するために違反がないかを探しながら眺めている。

 

しかし、彼女たちには共通して、どうしようもない想いがそこにあった。

 

期待、である。

 

人間は見ていて飽きない。失敗、成功、挫折に勝利。どんな結果であれ見る者を楽しませてくれる最高の娯楽。人間が嫌いな神も大好きな神も皆同じ。『楽しむ』ということは神にとって必要なことであり、人間からすればいい迷惑である。

 

だからこそ、公平さを重んじる者が必要であるのだ。

 

どんな娯楽もルール違反が存在すれば途端につまらなくなる。『理』のが悪魔の茶々入れを憎み嫌うように、『物質』のが当事者になって楽しむように。

 

人の世に神のテコ入れは最小限に抑えなければならないのだ。

 

「貴方がやりすぎていれば、私は即座に動きますからね」

 

「僕が動いてもいいよ?」

 

「………却下します。どう考えてもろくなことになりません」

 

『物質』のの発言に少し思案したが、よくよく考えてみればこの女、事態を更に混沌の渦に叩き込みかねない。巨大蜘蛛型ゴーレムを倒すのに、更に巨大なゴーレムを作り出しそうな……しかもそれを転生者に与えて『これが……俺の機体……俺の新たな力……!』的な展開を演出しそうなので嫌になる。

 

そもそもこの世界は剣と魔法のファンタジーなのであって、SFはお呼びでないのだ。

 

なんて思っていたら。

 

『デストロイヤー~~~~へ~んし~んッス!!』

 

なんか、デストロイヤーが巨大な人型ロボットに変身(トランスフォーム)した。

 

「……ギルティ。判決、有罪。待ったなしです」

 

「えー!? せっかく用意した改造惑星ユニ○ロンが!?」

 

さて、出撃しましょうかね。

 

 

 




『理』 「オイィイイイイイイイイイイイイ!!!」

『命』 「あーあ」

『魂』 「あひゃひゃひゃ!!」


アルマちゃん「なんでファンタジーの世界でこんな……」

『物質』「ポテチとコーラ用意しなきゃ!!」

冒険者一同「「「ぎゃぁああああああああああああ!!!」」」

農家一同 「「「畑を守れぇええええええええええ!!!」」」

次回、ステゴロ。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に出撃を!

だってCV,チョーさんなんだもん。


俺たちは走る。

 

走って走って走りまくる。

 

なんでかって?

 

 

 

「「「生活の危機なんじゃぁああああああああああああああああ!!!!」」」

 

 

死ぬかもしれない戦場に、日銭を稼ぐために向かう冒険者達の魂の叫びである。

 

 

オッス! 俺カズマ! 死にたくないのにでっかい蜘蛛のゴーレムなんかに挑まなくちゃならないしがない冒険者さ! よーし、いっちょう英雄になってやるぜ!!

 

「なんて言うわけねーだろ!? なんなの? 死ねってか!? 俺に死ねってか?! えぇ!?」

 

「五月蝿いぞカズマ! 仕方がないだろう!!」

 

「ダクネスの言う通りですよカズマ。農家にばかりいいカッコさせてたら冒険者の名が泣きますよ」

 

「いいじゃないそんなの! 私は今泣いているのよ!? いや~~~ッ!! もう帰ろ? 帰りましょうよ~!!」

 

デストロイヤーに向かう冒険者の団体、その中に混ざってカズマ達の泣き言が響く。されど、彼らを責めるべからず。この場にいる冒険者は大体みんなそんな気分だった。

 

心に秘めた帰りたいという思い。みんなの心は一つ、素晴らしい団結力であった。

 

「なぁカズマよ。ここで帰るのは簡単だ。だってそうだろう? 誰もが恐れたデストロイヤーは農家の手によって陥落寸前。もう街を脅かす驚異もなく、私達が頑張らなくても彼らが全部終わらせてくれる」

 

「ダクネス」

 

「だが私達は冒険者だ。冒険者は国の為、市民の為に依頼をこなす。そこに人々の平和と笑顔があると信じて。そうだろうカズマ?」

 

「……そうだな、やっぱ俺は」

 

そうだ。何を考えてたんだ俺は。デストロイヤーが怖い? 逃げ出す? そんなの……、

 

当たり前じゃん。

 

「俺、やっぱ帰って寝たい」

 

「こ、この男はッ!」

 

や、だって相手は巨大ロボットだぞ? ロボット文化大好き日本人だって巨大ロボット相手に生身で戦うようなことしねぇよ。勝ち目ないし。どうせならアクセルの地下から秘蔵のスーパーロボットでも出してこいっての。

 

「カズマカズマ。デストロイヤーの討伐報酬がいくらか知っていますか? 三十億エリスですよ?」

 

「マジで!?」

 

前言撤回。何としても倒そう。

 

「行くぞお前ら! ボサボサとすんな!! あのデッカイ蜘蛛からアクセルを守るぞ!! 農家が弱らせてる間に止めだけでも頂きだ!!」

 

「「「この野郎」」」

 

一撃だけでも入れておけば、後は農家に任せて三十億の賞金が転がり込んでくる。ボロ儲けじゃないか!! こりゃ逃げるなんてとんでもない!

 

「そうだ! カズマの言う通りだぜ!」

 

「農家たちだけにいいカッコさせませんぜ!!」

 

「アクセルがやられるかどうかなんだ! やる価値はありますぜ!!」

 

「ギルドのために!!」

 

「サキュバス店の為に!!」

 

「バカヤロウ! それは言うな!!」

 

俺の掛け声にこの場にいる冒険者の皆がやる気のこもった声を上げる。なんだか一部邪な声も上がったが、大丈夫、俺もその意見には賛成だ。

 

「いくぞーーーー!!!」

 

「「「おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」」」

 

デストロイヤーへ向かって雄叫びとともに地響きが鳴り響く。冒険者の団体は速度を上げて先程よりも勢い良く走り出す。余りにも勢いが付きすぎて作画崩壊をしてるんじゃないかってくらい全身の輪郭がぶれ始めているが些細なことだ。

 

「「「デストロイヤーが見えたぞーーー!!!」」」

 

「登れーーーーー!!」

 

「「「よっしゃぁああああああああああああああ!!!!」」」

 

農家の攻撃によって大地に伏せて動きを止めた巨大蜘蛛を見た時、俺達は迷うことなくその内部へと侵入した。投げられるフック付きロープ。足を駆け上がる冒険者たち。もう誰も俺たちを止められない。

 

デストロイヤーの背中はまるで砦のようだった。石造りの通路に植物が生い茂るそこは、まさに長い歴史を刻んだ建造物であり、世の歴史評論家が見れば生唾ものの遺産だろう。

 

そんな貴重な遺跡を俺達は蹂躙しだした。

 

「ゴーレムだーーー!!」

 

「「「ぶちのめせーーーーー!!!!」」」

 

侵入者を排除しようと岩で出来た二メートルほどの大きさの人型ゴーレムが通路を塞ぐ。そんな相手に武器を持った冒険者達が挑み始める。

 

しかし。

 

「ほぁたぁっ!!」

 

鍛え上がられた農家の一撃が我先とゴーレムを破壊していく。

 

「農家に遅れを取るなー!! 進めーーー!!」

 

「「「ファイヤァアアアアアアアアアアアアア!!!」」」

 

冒険者たちが出てくるゴーレムたちを次々と屠っていく。硬い鉱石で造られた身体をハンマーで叩き潰し、ロープで足を縛って転ばせ、魔法で凍らせ吹き飛ばす。破壊率は農家六割、冒険者が四割だ。

 

そんな光景を遠巻きに眺めながらたま~に支援して後ろから付いていく俺達。寄生? バカ言っちゃいけない。

 

だってほら。農家に手柄取られたら賞金もらえないかもだし。低レベルの俺達じゃこんな強そうなゴーレムに歯なんて立たないじゃん?

 

ちなみにダクネスとめぐみんは置いてきた。ダクネスの奴は着ている鎧(と本人)が重すぎて登って来れなかったし、めぐみんはこんなダンジョンみたいな狭い場所で爆裂魔法なんて使わせるわけにはいかないからだ。

 

「ねぇカズマ。みんなそろそろ喉が渇いたんじゃないかしら? 私の《花鳥風月》が必要な場面じゃない?」

 

そんな場面こねぇよ。

 

正直、俺は自分が活躍することよりもこいつの手綱を握ることの方が大変だった。ちょっと目を離した隙に問題を起こしそうで。

 

「開いたぞーー!」

 

何が? 

 

 

 

砦のような建物のドアを冒険者達が叩き壊し、そのままぞろぞろと建物の中に突入していく。デストロイヤーの背に建てられた砦のような建物の内部の部屋、その中心位の場所に椅子に座って朽ちた白骨死体がこちらを見ていた。

 

「おい、あれって」

 

「噂のデストロイヤーの開発者か?」

 

「こんなでっかいのを乗っとっておいて死んでんじゃねぇかよ」

 

遠巻きに冒険者達が騒ぎ出す。そりゃそうだ。騒ぎの責任者が死んでたんなら誰に文句を言えばいいってんだよ。

 

しかしここにはアクアがいる。死者と言えばプリースト。プリーストと言えば女神の出番だ。

 

俺はアクアを呼んで白骨を見てもらう。すると彼女は、

 

「ダメね。綺麗さっぱり成仏してるわ。それはもう未練もなくスッキリと」

 

「は? 嘘だろ?」

 

スッキリって、こんなところで一人寂しく死んでるのに?

 

こいつがデストロイヤーを乗っ取ったっていう科学者なら一体何がしたくてこんなことをしたのだろう? 散々世界中に迷惑をかけておいて孤独死とか、何が楽しかったんだ?

 

そんなことを考えていると、アクアが白骨の傍らに置いてあった机の上にあった一冊の手記を見つけた。

 

それは、この白骨の日記だった。

 

アクアが代表してそれを読み上げることとなり、周りの農家や冒険者達が見守る。

 

 

日記が読み上げられる。

 

「○月×日。国のお偉いさんが無茶を言い出した。こんな少ない予算で機動兵器を造れという。無茶だ。言ってきた偉いさんに抗議をしたが聞く耳を持たない。無理な理由も予算の増額も申し出てみたが駄目だった。ふさけんな。辞表を書いたが目の前で破り捨てられた。いっそバカになったふりをしてクビにならないか試してみた。……女性開発者の前で全裸でブレイクダンスをしようとしたら、パンツに手をかけたところで、さっさと脱げよ、とガン見された。もうこの国は駄目かもしれない」

 

……その内容に、周りの者たちが別の意味で静まり返った。

 

「○月×日。駄目だ、さっぱり思いつかない。どんどん納期が迫ってくる。なのに設計図は真っ白け。機動兵器のアイディアなんてなーんもない。仕方ないから飲みに行こう。そう思って酒場にくり出したらめっちゃカワイイ子がいた。話しかけたらかなり気さくな子で仕事の愚痴とか全部ぶちまけてやったけど親身になって聞いてくれた。でも気がついたら財布は空っぽ。機動兵器の成功報酬も全部使っちゃった。どうしよう」

 

……いや、どうしようって、おい。

 

「○月×日。やばい。とうとう設計図の締切が今日だ。何も思いつかねぇ。報酬も全部使っちゃったし、これバレたら俺死刑じゃね? やだ、死にたくない。そうやって頭を抱えていたら白紙の設計図の上に大っ嫌いな蜘蛛が歩いていて慌てて叩き潰した。どうしよう。この設計図の紙高いのに、設計図出来てないけど使えなくなったから新しいの頂戴! なんて言えない……もういいや、このまま出しちゃえ! もう知るか!!」

 

周りの空気がどんどん冷えていく。

 

「○月×日。なんかあの設計図がえらく好評だ。なんで? アンタらが素晴らしい! って言ってるそれ、潰した蜘蛛の体液だぞ? ばっちぃ。なのにもう機動兵器は蜘蛛型! って決まっちゃった。なんなの? それからはトントン拍子に進んでいった。ていうか、俺が何も口出さなくてもどんどん出来上がってる。俺いらなくね? 俺の代わりに現場の指揮とってるあの女性研究者だれだよ? もういいや、勝手にやってくれ」

 

白骨を見る周りの視線が酷く冷たいものになってきた。中には同情的なものもあるかもしれない。

 

「○月×日。どうしよう? ほとんど出来ちゃった。俺、何もしてないのに。なのに、動力源はどうします? って聞くか普通? 俺が知るわけないだろ? 作ったのほぼお前たちじゃん。俺知るわけ無いじゃん! だから適当に、永遠に熱を放ち続けるという伝説のコロナタイトでも持って来いって言ってやった。言ってやったもんね。持って来れなくても知るか!」

 

アクアもとうとう真顔になってきた。俺も口をきつく結んでただ聞いていく。

 

「○月×日。本当に持って来ちゃった!? えぇ? なんで持ってくるかなぁ!? 空気読んでよ! 誰だよこんな伝説の鉱石を持ってこれるような凄腕冒険者を手配した奴! もうこいつらに魔王倒しに行って貰えばいいじゃん! 機動兵器いらなくね!? でもどうしよう? これで動かなかったら俺今度こそ死刑じゃね!? おねがぁい! 動いてください!!」

 

俺たちのキツイ視線が突き刺さってアクアが涙目になってきた。

 

「○月×日。完成した。とうとう明日が起動日だ。俺の命もここまでか…。動くわけ無いじゃんこんなの。俺なんもしてないよ? ただ蜘蛛を叩き潰しただけだよ? 殆どあの女が指揮して造ってたよ? なのに責任だけ全部俺にくるってどういうことだよ! ひどくね? もう頭きた。文句言ってやる。でも偉いさんに言っても無駄なのは分かってるからコロナタイトの設置してある部屋で酒でも飲んでぶちまけよう。うん、そうだ。それがいい。………あれ? なんか思いの外気分がいい。愚痴を言えば言うほど胸がすっとなっていく。なんだか楽しくなってきた。ようし、どんどん飲もう! え? あぁうん、分かった分かった。今日は無礼講だよ君ぃ! 酔い潰れるまで飲むぞー! あれ? 誰と話してるんだっけ?」

 

これはアクアの創作じゃないのかと思い始めたが、読んでるアクアの顔がマジなのと、どうしたらいいかこちらをチラチラ見ながら助けを求めていることから全部本当のことなんだと思う。

 

「○月×日。今起きた。絶賛暴走中! やべぇ! これ絶対俺がやったと思われてるし! マジやべぇ!! どうしてこうなった!? 俺コロナタイトの前で愚痴喋ってただけだよ? なんでこうなってるの? これ降りたら俺犯罪者じゃね? 捕まって死刑じゃね?」

 

アクアがとうとう鼻水をすすり出した。気持ちはわかる。でもさっさと続きを読め。

 

「○月×日。ヤッベー! 国滅んじゃった! ヤッベー! どうしよう。国滅んじゃったよ。でもいっか! なんだかスッキリした! もうここで余世を過ごそう。……だって降りられないしな。これ造った奴馬鹿だろう! おっと、コレ造った責任者、俺でした」

 

「………お、終わり」

 

アクアはそう言って、日記を締めくくった。

 

「「「舐めんな!!!!」」」

 

全員がそう叫んだのは仕方のないことだと思う。

 

 

 

 

 

「で、これがコロナタイトなのか?」

 

その後、再び内部を家探しして見つけたのはデストロイヤーの動力部に鎮座された赤い熱を放つ鉱石だった。恐らくこれが動力源であるコロナタイトなんだろう。

 

「どうやってとるんだこれ?」

 

「えっと…」

 

アクアと一緒にウィズもいる。他の冒険者達は、大勢居ても仕方ないだろうって理由でもう降りた。確かに、動力源であるコロナタイトを取り外せばデストロイヤーはもう動かなくなると思うが、どうすればいいのやら。

 

コロナタイトは分厚い鉄板で造られた機械の中に収められており、そこに嵌められたガラス越しにしか見ることができない。取り出そうとするならまずこの装置を壊さないといけないだろう。

 

「あ、そういえば魔剣持ちのなんとかさんが街にいたわね。今から呼んでくる?」

 

「今からですと時間が掛かりすぎる気もしますが、最悪そうするべきかもしれませんね」

 

「それか俺が《スティール》を使うか?」

 

「手が燃えちゃいますよ?」

 

「やめておこう」

 

ウィズの忠告が遅かったらやっていました。いやね? それでも最近は考えなしに《スティール》をしなくなった俺がいる。だって、何度もアルマ様を全裸に剥いてるし。最近女性冒険者の視線が痛いし……。

 

「じゃぁやっぱりなんとかさんを呼んで……」

 

『それは困るッスねぇ~~』

 

「「「誰!?」」」

 

ここにいるのは俺とアクアとウィズの三人。なのに、もう一人、知らない奴の声が部屋中に響く。その声は機械の合成音声のようで、どことなく間延びした男の声だった。

 

『いや~、造られてから二百年はたつッスけど、ボディの破損が三割を超えたのは初めてッスね~』

 

どこからかじゃない。この声、この部屋全体から聞こえてくる。いや、まさか……。

 

「まさかこの声、デストロイヤー!?」

 

「「えぇ?!」」

 

天井を見上げながら俺は叫ぶ。この声、デストロイヤー自身が喋っている。白骨の開発者が残した音声かもしれないが、ここまで状況を把握した言葉は出ないだろう。

 

『いやぁ~。ボクちゃん、嬉しいッス。ようやく全力で暴れられるんスねぇ~。開発者がピンチになるまで変形(トランスフォーム)しちゃいけないって言うもんだからもう窮屈だったッスよ~』

 

「「「は?」」」

 

変形? トランスフォーム? トランスフォーム!!!?

 

『それじゃぁ乗組員のみなさ~ん! これから当機は変形しますので~速やかに退去してくださ~い。でないと、ぷちっってなっちゃうッスよ~?』

 

「やばい!! 二人ともすぐに外に出るぞ!!」

 

「え!? え!? なんですか? 何が起こるんですか!?」

 

「ほら! 急いでウィズ! トランスフォームなのよ!? ほわぁあああああああって爆発しちゃうわよ!?」

 

「不吉なこと言うな馬鹿!!」

 

アクアの言葉が変なフラグになりませんように! 

 

そう願って俺達はデストロイヤーからなりふり構わず飛び出した。揺れる床、いいや、デストロイヤー自身が振動し壁や天井、至るところが姿を変えていく。背後から激しく響く鉄と鉄が叩き合う衝突音や機械が駆動していく大気の震え。

 

「急げぇ~~~~~~~!!!」

 

堪らず俺たちは、デストロイヤーから飛び降りた。

 

『デストロイヤー~~~~へ~~んしんッス!!!』

 

落下の恐怖で涙が溢れる俺たちの目に映ったのは、巨大な蜘蛛が巨人に変形していく姿だった。

 

「そんなんありかぁああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

誰だよ。ファンタジーにSFぶっ込んだ奴は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセルの外壁の上。遠くで変形を終えたデストロイヤーを確認した私達はすぐさま行動に移ります。

 

「クリス。今すぐアクセルの住人を避難……は、もう遅いですね。ではこれ以上この馬鹿が問題を起こさないよう見張っておいてください」

 

「はい!」

 

「酷くない!? 僕がこれ以上問題を仕込んでいるっていうのかい!?」

 

武器を手に立ち上がった私を『物質』のが駄々をこねて文句を言う。クリスはそんな彼女を《バインド》スキルで縛り上げますが、あまり意味はないでしょう。

 

「……先程、改造惑星とか言ってましたよね?」

 

「ギックゥ……」

 

「あの、『物質』様? あたしの担当世界で何をしてくれやがったんですか!?」

 

口を滑らせた『物質』のの言葉を私が聞き逃すとでも? 

 

クリスを呼び出した私ことアルマちゃんでありますが、彼女は戦力に数えることはできません。

 

アクアやエリス。彼女たち女神は魔を退け魂を導く存在。そう創られている以上純粋な物理戦闘に劣る面があります。あんな巨大ロボットの相手なんて想定していないカタログスペックなのです。

 

「いいですかクリス? その馬鹿は隙あらばこの星ごと変形させますよ。その仕掛けはこの星を修復するついでに仕込んでいたのでしょう?」

 

「その通りだけどさ! なんでバラすかな!? ネタバレは面白くないよアルマちゃん!!」

 

「面白さなんてどうでもいいです!! や、なんでそんなことしてるんです!?」

 

「面白そうだからだよ?」

 

「面白そうだからでしょう? あと、対策はしておきましたが、もう幾つかネタを仕込んでいると思いますから注意しておいてくださいね?」

 

「もうやだこの人たち!!」

 

クリスが頭を抱えていますが、私達神が起こす問題なんて、究極的には『ひまつぶし』が原因となる。他にも『もののついで』とか『無意識に手が動いてました』とかですね。

 

自覚なき悪意。そう言ってしまえば厄介な性分ですが、それを止められないのが神というもの。なにせ、それが生きがいなのだから。

 

「……だから私の仕事がなくならないのですがね」

 

『理』の神。それはつまり、『理』を守らない全ての者を許さない存在。

 

法の裁きを下す軍神という面を持つ『私達』は常に戦っている。宇宙の法則を乱す、イタズラな神々と。

 

故に我、神殺し神なり。

 

「神器、機動要塞デストロイヤーを世界を乱す『神敵』と認定。これを破壊します」

 

「お、お手柔らかにお願いします!!!」

 

この世界の管理者であるクリスこと女神エリスが焦った声をだしますが、それは保証しかねます。なにせ、私だってこのボディではどこまでやれるかどうか。

 

「天界の『本体』に申請します。『我、アルマなり(本気でやってもいいよね?)』!!」

 

「止めて! ホント止めてぇえええええええ!!」

 

アルマが輝き出す中、ズンッ! ズンッ! という巨大な足音が響く。その震源は巨大なゴーレムであり、徐々にアクセルへと近づいてきた。

 

「あ、外壁に仕込んだ誘導術式が効いてる。こっち来てるねデスちゃん」

 

「アレをこの街に呼び寄せたのも貴方ですかーーーーーーーーーー!!!」

 

『物質』のアルマ。今回の首謀者である。




『理』 「承認!」

『命』 「承認!」

『魂』 「承認じゃぁああああああああ!!」


変態  「うわ、なんか面白そうなことやってるなー、おい」


『理』 「お前なんでいる!?」

変態  「いや、妹出来たって聞いたから見に来んだけど……」

『理』 「お前、会いに行こうとか考えるなよ!?」

変態  「………それはフリなのか?」

『理』 「違うわぁあああああああああああ!!!」




・デストロイヤーの建設時期を二百年前位に。

紅魔族を作ったのがノイズ王国で、そのことを里の者たちが忘れているみたいなのでその位の世代差があるのかなと。

・コロナタイトの保管場所。

高熱を放つ鉱石が動力源って滅茶苦茶熱いでしょうに。原作では腕が入る幅の鉄格子の中に設置されていましたが、この話では密閉された入れ物の中に。


・変態こと日本在住の『理』の分体。

妻子に孫がいる高校生なお爺ちゃん。最近、クラスメイトの孫から熱視線を感じて不味いと思っているご様子。悪魔殺せな『理』と人間殺せな『命』に挟まれているが本人は自由気ままに生きています。ちなみにS○Xは抱くのもいいが抱かれるのも悪くない模様。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にやりすぎに注意を!

神様の分体について。

例えるならNARUTOの影分身みたいなものです。消えれば本体に分身が得た情報を自動的に送ることができる存在。ただし、分身は頑丈なので死ななければ消えないし、自覚もあるから個性が生まれて別人になります。

つまりアルマちゃんは自立したナルコ。


全長およそ百メートルはありそうな巨人ゴーレム。そんなのが現れたらもう逃げるしかない。

 

 

「なんだアレ!? なんだよアレは!! おいこらアクア!! お前自称ナンタラで無駄に歲食ってんだから何か知ってんだろ!? なんでデストロイヤーが巨大人型ロボットに変形するんだよ!!」

 

「今カズマが言っちゃいけないこと言った!! 言っちゃいけないこと言ったぁッ!! 知らないわよ!! 私は地球担当のエリート女神よ! こんな辺境の世界で造られた骨董品のことなんて詳しいわけないでしょ!?」

 

「「喧嘩してないで早く走れ!!!」」

 

冒険者達が来た道を逆走してえっちらほっちら逃げ出した。何からって? もちろん、デストロイヤーからである。

 

「しかし、まさかデストロイヤーにこんな機能があったとは!」

 

「紅魔の里の者たちが見たら大喜びしそうですね!」

 

「お前ら実は楽しんでるだろ!?」

 

俺とアクアは涙目で走ってるのに、ダクネスとめぐみんは大興奮である。この二人、冒険者達がデストロイヤーの内部を探索中に外で置いてきぼりを喰らっていた。そのおかげで巨大蜘蛛が人型ロボットに変形するシーンをバッチリ目撃していたらしい。

 

う、羨ましくないんだからな!!

 

「つーか、アレどうやって倒すんだよ!?」

 

「最初の予定通り、めぐみんとウィズの《爆裂魔法》を使うのはどうだ?」

 

「………当たるか?」

 

ダクネスが《爆裂魔法》を使うことを提案するが、俺の言葉に全員が後ろを、デストロイヤーの方を向く。

 

『HAHAHAHA!!! 待つッスよ~!! あ、そーれ! ワン! トゥー! トロワ! ルンルンスキップでランララーン!!』

 

そこには何が愉快なのか、軽快なステップで大地をピョンピョンと飛び跳ねる巨人がいた。

 

魔法なんて素でよけられそうである。

 

「……どうにかして足止め」

 

「蹴り飛ばされそう」

 

「……数撃ちゃ当たる」

 

「まずアクアの《ブレイクスペル》を当てねぇと」

 

「……農家(物理)」

 

「……いや、アレ相手じゃキツイだろ?」

 

いいアイディアが出ねぇよ。どうやったって全部あの巨体が厄介だ。

 

元からデストロイヤーという巨大な移動物相手にするつもりではいたが、当初とは状況が違いすぎている。蜘蛛型の時は進行方向と速度が一定で待ち構えることができた。魔法だって回避行動を取る様子もなかったので撃てば確実に当たるという情報もあった。

 

でも、意志をもって動きまくる巨人、という姿が全部をダメにした。

 

「でも早くなんとかしないと、あいつアクセルに向かってるぜ!?」

 

「ヤバイ、もう街が見えてきた!!」

 

周りの冒険者達もこの状況にとうとう慌て出した。俺達はもう逃げの一手しかなく、目前には守るべき街が見える。このまま街の中に逃げ込んだどころで、あの巨大なデストロイヤーに街を踏み潰されるだけだ。

 

万事休すか、そう思ったとき。

 

 

「このまま街の中へ逃げなさい」

 

 

凛とした声が通り過ぎた。

 

 

「アルマ様!?」

 

「「「アルマちゃん!??」」」

 

耳を撫でるような、柔らかい空気が流れていった方向。その場の全員が後ろへと振り返ると、そこには大剣を持って巨人へと突撃する小さな女の子の姿があった。

 

「アレは私の獲物です!!」

 

「んな無茶な!?」

 

………いや、ひょっとして、無茶じゃないの?

 

そんな考えが頭を過ぎった。よくよく考えてみれば、アルマ様ってアクアと違ってモノホンの神様じゃん。あの人に任せておけば……助かるんじゃね?

 

「おい、カズマ! いくらアルマでもアレは無茶だぞ! ……だよな?」

 

「そうですよカズマ! 早く止めないと……いけませんよね?」

 

「そこは自信持って言えよ! 俺も同感だけど!!」

 

ダクネスとめぐみんも不安げに言うが、どこかしらアルマ様ならなんとかしてくれるんじゃないかと期待しているのが分かる。俺だってそうだ。こんなとんでもない事態、人間の手に余るってもんだ。神様が解決してくれるって言うんなら任せとけばいいだろう。

 

「ねぇ、カズマ? 大丈夫かな? アルマちゃん、身体が小さいからデストロイヤーの正面に立つとホントに米粒みたいに見えるわよ? ほっといて大丈夫かしら? 人としてそれってどうなのかしら? ねぇどうする? どうしよう?」

 

「お前はそれわざと言ってんのかッ!?」

 

俺が全部アルマ様に丸投げしようと思ってたのに、アクアの奴が俺の良心をボコボコにしやがる。これで無意識っていうのだから嫌になる。

 

ちくしょう、そうだよ。ちょっと罪悪感もあったさ。あんなデカイやつに、神様といえ小さい女の子に押し付けるなんてどうかしてる。

 

それになにより、俺はアルマ様のお兄ちゃんだからな!

 

「チクショーー!! お前らアルマ様に続けーー!!!」

 

「「「おぉおおおおおおおおおお!!!」」」

 

「よく言ったカズマ! 流石ロリマさんだぜ!!」

 

「アルマちゃんは俺が守る!!」

 

「アルマたんを見捨てられるかよ!!!」

 

「女神アルマ様に続け!! これは聖戦なり!!」

 

この街の冒険者は大丈夫だろうか? あと誰だ、俺のことロリマさんと言った奴。それとアルマ様が大人気すぎる。女神って、バレてないのにバレてるやん。

 

ま、まぁいいか! 待ってろアルマ様! 今すぐ俺たちも駆けつけるぜ!!

 

 

……。

 

………。

 

…………。

 

……………。

 

あ、はい。俺達、必要なかったみたいです。

 

「ちぇいさっ!」

 

『あらーーーーーーッ!!!』

 

アルマ様がデストロイヤーの足を掴んで放り投げた。自分で何を言っているのかもう意味が分からない。空高く飛んだデストロイヤーは、そのまま空中でぐるんぐるん大回転しながらまた地上に落ちてきた。なのに、地面が全く揺れていない。物理法則さんはどこに行ったのだろうか?

 

あのな、アルマ様の小さな手でね? デストロイヤーの足の表面にある小さなとっかかりを掴んだと思うと、ヒョイッ! てあの巨体が浮くんですよ。はは、俺、目がおかしくなったんですかね? ダメだな、こっちきてから目医者になんて通ってないから目の調子が悪くなったのかわかんねぇや。

 

「大変です! カズマが遠い目に!」

 

「しっかりしろカズマ! こんなところで気が遠くなってちゃ踏み潰されるぞ!!」

 

「うるせい! ちょっとくらい現実逃避させろ!!」

 

「大変よカズマ! アルマちゃん、まるで『理』様みたいな戦い方してる! どこで覚えたかしら?」

 

本人だよ! でも、どういうことだ?

 

「あのね? 『理』のアルマ様っていうのはこの世の理、つまり法則を管理している御方なのよ。だから、管理者権限で自由に物理法則を書き換えることができるの」

 

「じゃぁ、あんなに小さいアルマ様が大きなデストロイヤーをポンポン投げてるのは?」

 

「重力の向きとか互いの質量とか身体の硬度とか、全部『やりたいこと』が可能になるように書き換えてるんだと思う」

 

「あんなに暴れてるのに一切地面が揺れないのは?」

 

「この世界の『衝撃が発生する』って決まりを『衝撃なんて発生しない』って具合に書き換えてる?」

 

「何でもありか」

 

「何でもありよ」

 

……デストロイヤーが地面に叩きつけられる。当然、地面が、星が揺れるはずがない。だって当然だ。地面が揺れるはずがないじゃないか。生まれてこの方地面が揺れるところなんて見たことがないぜ。

 

「……ハッ!? 俺は今何を考えてた!?」

 

「気をしっかり持たないと、世界の書き換えに常識が引っ張られちゃうわよ?」

 

こ、怖ぇぇ。これ、宇宙規模の洗脳じゃねぇか!? いや、データの書き換え? アップデート!?

 

「神様こわぁい」

 

……。

 

「なぁめぐみん。地面が全く振動しないネ」

 

「ハァ? 何言ってるんですか? 地面が揺れるわけないでしょう? 私もアルマと一緒にデストロイヤーを投げに行きましょうかね?」

 

めぐみんはもう駄目らしい。

 

「あ、デストロイヤーが山の斜面にぶつかってバウンドしましたね」

 

「うむ、いい跳ねっぷりだな!」

 

……ダクネスぅぅ。

 

「ははは! デストロイヤーが地面に埋まって飛び出したぞ!」

 

「おいおい、このへんの土は質がいいな! 天然のトランポリンだぜ!」

 

冒険者は全滅しました。

 

もうすごぉい。アルマ様がデストロイヤーを投げ飛ばす。それが山に当たるとグニョンと山がたわんでデストロイヤーが跳ね返る。その更に上空に飛び上がったアルマ様がでかい巨体を地面にダンクシュートする。そうしたら地面がゴムみたいに沈み込んでポッカリ穴が出来る。その穴の中に落ちて見えなくなったデストロイヤーがポーンッ! と地中から飛び上がってくる。

 

そんな摩訶不思議な光景を、この場の誰しもが当たり前のことと受け入れていた。

 

「駄目だ、俺もう頭痛い、気分も悪くなってきた……」

 

俺のよく知る物理法則さん、早く帰ってきてください。お願いします。

 

 

ははは。そんなに親しんでくれると『理』を定めた甲斐がありますね。

 

 

脳内に直接話しかけないでくださいアルマ様!!

 

俺の嘆きを知ってか知らずか。アルマ様の言葉が頭に響く。貴方、目の前でデストロイヤーを殴りつけている最中ですよね?

 

 

まぁそうですが、そろそろ本気を出そうと思うので皆さんに退避をお願いしたいと。

 

 

「ハァッ!? 今からが本気!?」

 

「どうしたのカズマ? 頭の病気なの?」

 

うるさいわ!! 

 

「おいアクア! 今からやばいのが始まるぞ! もっと離れろ!!」

 

 

 

 

 

 

「さてと」

 

『こんのぅ! いい加減にするッス!』

 

デストロイヤーという人型巨人が立ち上がり、こちらを踏みつけてくる。このサイズ差だ。人間でいえば地面に群がる蟻を相手にするようなものだろう。それだと相手はどうしても踏み付けるという攻撃手段しか取りにくくなる。考えてみて欲しい。例えば、地面の蟻を殺すとき、人間はわざわざ地面に座り込んで丁寧に指で潰すだろうか? する人もいるだろう。だが、効率で考えれば足で踏んだほうが早いのだ。

 

だから、頭に血が登った木偶ならばそんな丁寧な対応はしない。地上の人間を相手にするなら、まだ蜘蛛型の姿の方がよかったくらいだ。

 

頭上から巨大な『足』が降ってくる。それに対し、私は片手をあげて手のひらで押し返す。ズン!! という音とともに、『足』は止まりそれ以上踏み込めなくなった。

 

『またッスか!? なんで潰れないんス!?』

 

「申し訳ありませんが、これ以上この星を傷つけるわけにはいかないんですよ」

 

私のせいとはいえ、この星がおったダメージは深刻なものだ。『物質』のが修復をしてくれたが、だからといってまた傷つけていい道理などありません。

 

なので、私が知覚する範囲の空間をいじらせていただきました。

 

デストロイヤーの攻撃全てを、星自体が吸収・反発するように。今この星は構成物質はそのまま、巨大なゴムボールとなっているのです。当然、そのことに誰もおかしいとは思いません。そういうものだと、この星の住人たちの『常識』と既になっているので。

 

一部例外をあげるとなれば、この世界の外からやって来た異世界からの転生者でしょうか。今頃彼らは混乱しているかもしれませんね。

 

なので、早々に決着を付けましょう。

 

龍脈解放(ドラゴンインストール)

 

大地に足を、心を農業に。星の命を頂くことに感謝を捧げ、己の肉体を育てることに喜びを。

 

その想いが『大地』の女神に届くとき、彼女が地中より権限する。

 

「おぉ! あの技は!?」

 

「知っているのかご老人!!」

 

農家の老人が唾を飛ばして叫ぶ。アルマの全身を巡る大地の生命エネルギー。それが目視できるほど迸り溢れ出す。その溢れた出した力が形となり、農家が信望する女神が姿を現すのだ。

 

「いでよ! ガイア!!!」

 

『大地』の女神ガイア。それは肉体持たぬ女神。だがそれは違う。この大地こそが彼女の肉体なのだ。故に誰も彼女の姿を見たものはおらず、生まれた時から彼女は人々のそばに寄り添っている。その恩恵を特に感じているのが農家。彼らは知っている。ガイアの偉大さ、美しさを。故に日々の恵みに感謝を捧げ、祈るのだ。

 

そのガイアが今、顕現する。

 

『ぶるぁああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!』

 

「「「おげぇええええええええええええええええええええええええええええ!!!!」」」

 

アルマの背後に現れたのは筋骨隆々! 四肢の太さは丸太のように! 鍛え上げられた筋肉は色黒くテカって光る!! そして美しいピンクのレオタードを肌に貼り付け、体のラインを惜しみなくさらけ出している。

 

翠の長髪を見事な逆三角形の上半身になびかせ、雄々しいその姿の美女の名は!

 

『ガイアよ~~ん! アルマ様、呼・ん・だ?』

 

彼女こそ最強の漢女! その鋼鉄の肉体で地上の生物全てを背負い支える者! 

 

その名はガイア!!!

 

「「「……なんと美しい筋肉なのだ」」」

 

その姿、農家の感想がこれである。

 

「オロロロロロ……酷いもん見た! 酷いもん見た!!」

 

「げぇ……ガイア……久しぶりに見たわー。あの娘、汗臭いし何時も筋トレばっかで近寄りがたいのよねー」

 

カズマお兄ちゃんとアクアが酷いことを言っています。気配りのできるイイ子なんですよ?

 

呼び出したガイアが私の身体の中に入ってきます。これこそがこの技の効果。ガイアと一体化し、その力をこの身に宿すのです。

 

「……《龍脈解放(ドラゴンインストール)》。この星に流れる生命エネルギー、その流れ道たる龍脈から直接大地の力を汲み上げ取り込む奥義。まさかあの年齢でその域にまで達したかアルマちゃん!!」

 

「農家って凄いんすね」

 

お爺さんがわざわざ解説してくれていますが、概ねその通りです。カズマお兄ちゃんも律儀に相手しなくていいんですよ?

 

この技は本来、『命』のアルマのもの。星の生命力の根幹たる彼女が無敵の肉体を持ち、星の生物に生命を与える霊脈の流れ。龍脈。ドラゴンの皇たる魔神の力の源泉。

 

それを同じ『アルマ』である私が使えぬ道理なし。

 

この肉体は『物質』のアルマが創り。

 

この魂は『魂』のアルマが練り上げ。

 

この精神は『理』のアルマが構築し。

 

この生命は『命』のアルマに与えられたもの。

 

故に我は『アルマ』なり。四柱の神の権能を一端とはいえその身に宿す者。

 

最強の『物質(肉体)』と『理』を操る力。『命』は生命力を底上げし、『魂』が全てを纏めあげる。

 

「では、お姉ちゃん(ドラゴン)の力、見せてあげましょう」

 

『ド、ドラゴンは苦手なんスよ~~~!!』

 

全身に廻った()の生命が馴染み肌の色が紅くなる。この肌は龍の鱗だ。姉は青龍だが私は赤い天使。力が違えば色も変わる。

 

そんなことはどうでもいいか。

 

早く死ね。

 

「お仕置きです!」

 

『メガ様!?』

 

大地を蹴り、デストロイヤーの腹部をくの字にひしゃげて拳を叩き込みます。そのまま吹き飛ばした巨人を空中で睨み、あの子を呼びます。

 

「おいで、豊穣丸」

 

地上からギュンッと飛んできた三メートルの大剣。刀身二メートル、持ち手が一メートルのそれを掴み、魔法を発動させます。

 

「《ライトオブ…ザンバー》」

 

中級魔法、《ライトオブセイバー》の派生技。己の腕を刀身にして魔力の刃を生み出すセイバー。それを腕ではなく巨大な大剣に魔力を流すし生み出す魔力刀。魔力でできた刀身の長さは込められた魔力量に比例する。つまり、神の魔力と星の魔力を合わさった刀身の長さは。

 

 

およそ五十メートル。

 

 

『ちょ、まさかーーーー!!?』

 

「バラバラになれ」

 

自分の身体を軸に、超長大な魔力刀を幾度も振り回します。その刀身の乱舞は地上の冒険者達からは遠目に見ても目視できる巨大さで、まるでデストロイヤーを包み込む光の帯びで造られた籠のようだったという。

 

『生まれ変わったら美術学校の校長先生になりたーい!!! あーーーーー!』

 

細切れになったデストロイヤーが破片を地上に落としていく。千にも万にも及ぶ破片たち。それらが地上に落ちることはない。

 

「めぐみん、《爆裂魔法》を撃っていいですよ!」

 

「いいんですか!」

 

声を張り上げ、地上の頭のおかしい爆裂娘にご馳走を振舞う。細切れになった残骸に、もはや魔法を防ぐ魔力結界などあるはずばない。

 

私のご馳走が余程嬉しかったのか、地上に巨大な《爆裂魔法》の魔方陣が二枚、浮かび上がる。

 

 

うん? 二枚? めぐみんと……誰です?

 

 

アクセルにめぐみん以外の《爆裂魔法》使いがいたのでしょうか? これは私の調査不足ですね。嬉しい誤算ですが、失態は失態です。

 

この件が終わったらそのもう一人の《爆裂魔法》の使い手にお礼がてら会いに行きましょうか。

 

 

それでは、ついでに私も《爆裂魔法》を撃つとしましょう。

 

詠唱など不要。魔方陣を生み出し、それを配置し、魔力の流れを形作る。作り出した魔法陣の数は二百。その全てを球形の立体魔方陣とし魔力を高速で循環・加速させる。デストロイヤーの残骸全てを包み込む魔法陣の檻は魔力をたっぷりと流し込まれて弾け出す。

 

唱えよ。

 

「一片残らず消え去れ。《エクスプロージョン》」

 

地上の二つの魔方陣と、私の魔方陣。三つの《爆裂魔法》が光を放つ。生まれたのは巨大な破壊の嵐。術者が『壊れろ』と願った全てを吹き飛ばす暴力の塊。その威力たるや留まることがなく、爆発の規模はどんどんどんどん、どんどんどんどんと膨れ上がる!!

 

 

……あ、あれ? やりすぎちゃいました!?

 

 

しまった。力加減間違えました。

 

 

アクセルまで飲み込んじゃいましたけど大丈夫かな?

 

 

 

 




『魂』 「アクセル死す! 犯人は金髪の幼児だった!」

『理』 「あんれぇぇぇ? なんであんな初歩的なミスを?」

『命』 「新しい身体に慣れていない。初めての制限解除。ちょっと張り切りすぎた。つまり、うっかり」

『魂』 「そういえば、『理』のは運が悪かったのぅ」

『命』 「可哀想に。こんな欠点を引き継いでしまうとは」

『理』 「俺のせい!?」


変態  「いや、お前ら『物質』のの心配しねーの?」


アルマちゃんの爆裂魔法はアレで一発扱いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様に新たな災難を!

前回アルマが使った『龍脈解放』。この状態で大地のエネルギーを畑に撃つのが『作物豊穣拳』です。

つまり……。


「あーもうっ! つまんないつまんないつまんない!!」

 

ほんと面白くないなぁ。あの人。

 

「ねぇエリス。君はあんな頭でっかちなお父さんの言うこと聞いていて疲れないの?」

 

「私はお父さんに創られた存在ですので」

 

「あ、そ」

 

僕を縛り上げた手を一切緩めないこの女神は実にいい性格をしている。僕の質問に答えているようで、会話をしようとも思っていない。僕が逃げる隙を作ろうともしない姿勢は上司に対する敬意が微塵も感じられないね。

 

神生(じんせい)に遊び心がないと息苦しくなっちゃうよ?

 

そうさ、重要なのは遊びだよ。

 

僕が造って、放置していた『玩具』。それのことが皆にバレそうになったから取り上げられる前に最後の大暴れをさせてあげたかったのに、何にもさせてくれなかった。

 

 

大地を踏み砕く巨大蜘蛛の大行進! 逃げ惑う人々! 立ち向かう冒険者達!! 死にものぐるいの戦いの中、追い詰められたゴーレムの真の姿! そびえ立つ巨人が街を蹂躙し地上に火の七日間を与えたもう! そんな地獄の中に現れた希望! 立てよアクセルの地下に隠されたスーパーロボット、アクセリオン!!

 

 

て、いうのを企画してたのにさぁ。全部実行前におジャンにするって酷すぎると思わないかい? ご丁寧にこちらからの手出しを一切許さなかったし。あの人、『龍脈解放(ドラゴンインストール)』でこの星の魔力の主導権を全部奪って僕の企画に利用できなくしてたよ。じゃなきゃ、過剰戦力もいいところだ。あのゴーレムを壊すだけなら素手でもよかったくらいだし。

 

用意していた秘蔵のスーパーロボットも使えなかった。その搭乗者に仕立てあげようと思っていた少年も誑かす前に手を打たれてた。なんのことかって? 後でアルマちゃんに聞いてみなよ。ひっどいオチだったよあれは。

 

そのくせ自分は、この星を守ることを優先して、使った魔法は現地レベルの最低威力の下級魔法って、いい子ちゃん過ぎてやっぱり面白くない!

 

「もう帰ろうかなぁー」

 

「いいですね。是非ともそうしてください」

 

ほんとイイ性格してる。流石先輩の娘だよ。

 

空を見上げる。そこには、アクセルの街を覆う光のカーテンがあった。

 

「ほんと、ムカツク。人の邪魔ばかりしたくせに、最期は僕の用意したものに頼るんじゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アレ!? どうなった!!?」

 

「生きてる! 私達生きてる~~~!!」

 

俺とアクア。二人が泣きながら抱き合って生きている喜びを分かち合う。

 

巨人デストロイヤーの残骸が《爆裂魔法》で大爆発をした瞬間。俺達冒険者達は死を覚悟した。それほどの爆発だった。山より大きな魔方陣。目が潰れそうな爆発の光。咄嗟に両手で塞ぐ耳。

 

しかし、いくら待っても爆発の熱も、振動も、爆風も襲ってはこなかった。

 

目を開けた俺たちが見たものは、アクセルの街から俺達のいる場所までスッポリと覆う、光のバリアだった。

 

「間に合いましたね。流石『物質』の、いいものを造りましたね」

 

アルマ様が大剣を地面に引きずりながら歩いてきてそう言った。これなぁに?

 

「アクアが一番分かっているはずでしょう?」

 

「あーーーーっ! テンちゃん様と一緒に組み上げたアクセルの外壁工事!」

 

「マジで!?」

 

なんとこの駄女神。知らず内にアクセルの街に光○力バリアをこさえていたらしい。実際に作れるんだな光○力バリア。

 

「外壁一個一個に刻み込んだ魔方陣が周囲の魔力を吸収し、それ自体が巨大な魔法陣となって街とその住人を守るバリアとなる。役に立つものも造れるんですけどねぇ」

 

なんだかアルマ様が嫌そうな顔をしてアクセルバリア(仮)を見ている。何か気に入らないものでもあるんだろうか。

 

「あぁ、単純に文明レベルに合ってない技術なので。今日中には壊しときますよ」

 

「えぇ!? 苦労して造ったのにぃ!!」

 

「勿体なくないですか?」

 

アクアは嘆き、めぐみんは高度なマジックアイテムなのにと残念がる。口には出さないがダクネスも否定的だ。なにせ、街を守ってくれるバリアーなんだし。

 

そんな俺たちの視線を浴びて、困った顔をしたアルマ様が指を指してバリアーを見る。

 

「これ、起動するのに周辺の魔力をかき集めてますので。次に使うとこの辺一帯が砂漠化しちゃいますけど?」

 

「「「すぐに解体してください!!!!」」」

 

燃費悪いにも程があるわ!!!

 

というか止めて! 今すぐ止めて!! 早くーーーッ!!!

 

「大丈夫。てい」

 

「え?」

 

アルマ様が指からビーム、ではなく魔力の光を撃った。それはアクセルの外壁へと向かって飛んで行き、レンガの一枚を砕く。

 

すると、光り輝いていたバリアーが消失していく。

 

「魔方陣を一画でも崩せばすぐに壊れます」

 

「え、えー?」

 

なにそれ、しょぼい。凄い技術なのか違うのか、よく分からないなこれ。

 

「魔法とは、一に魔力、二に知識。三四が無くて、五に魔方陣。魔力の流れを読み、それを阻害してしまえば効果は発揮できません」

 

「……なるほど」

 

「だからってそんなあっさり」

 

この街に二人しかいないアークウィザードがアルマ様の言葉に何か感じ取ったのか、互い互いの顔で頷く。ウィズは口の端を引き攣らせていたがめぐみんはどこか顔色が暗い。

 

ん? ウィズ?

 

「ウィズ!? アンタ来ちゃダメでしょ!?」

 

「え? え? な、なんでです? あ、アルマさんってそう言えばばあばばああばば!??」

 

ウィズの阿呆! アンデッド絶対殺すウーマンのアルマ様の前になんで出てきてるんだよ!!!

 

「ま、待てアルマ! ウィズは悪いアンデッドじゃなくてだな!」

 

「そうですよ! むしろナメクジの親戚らしいんです!!」

 

「主食は砂糖水なのよ!」

 

「もう別のモンスターじゃねぇか!!」

 

「皆さん酷いです!」

 

ウィズはリッチーじゃなくナメクジのモンスターだったのか。それならアルマ様の討伐対象から逃れるよな。……なんて訳にはいかないよな?

 

「………えっと、…………成仏したいのかな?」

 

アルマ様が手にした大剣を肩口まで水平に構える。その剣先が魔力で覆われてまた巨大なビームサーベルのようにブッパした。

 

五メートルくらい伸びてるんですけど。

 

可愛らしく首をこてん、と傾げているけどアルマ様の目、瞳孔が開いていません?

 

ウィズが腰を抜かし、めぐみんとダクネスがガクブルと震え出す。周りの冒険者たちも騒ぎに気付いて近寄り始めた。

 

「なんだなんだ?」

 

「どうしたアルマたん。また物騒なもん出して」

 

「アレ? あそこにいるの貧乏店主さんじゃないか?」

 

「揉め事か?」

 

どんどん人が集まってくる。そりゃ、デストロイヤーも居なくなって静かになった場所に、またデッカイビームサーベル?が現れたら異常事態すぎて野次馬も集まるもん……いや、これだ!

 

「あーーーーーーッ! いーけないんだ! いけないんだッ! アルマちゃんがウィズを虐めてるーー!! せーんせーに言ってやろーッ!!!」

 

「へぁっ!?」

 

「「「なんだって?」」」

 

俺の告げ口(いちゃもん)に周りの冒険者が眉をひそめる。その場にあるのは凶器を構えたアルマ様と怯えて腰を抜かすウィズの姿。

 

学級裁判待ったなしである。

 

「先生! アクア先生!! アルマちゃんがウィズちゃんを苛めています! 友達を苛めるのは悪いことだと思います!!」

 

「駄目でしょうアルマちゃん! 謝って! ウィズちゃんに謝って! ほら早く!!」

 

あっさりとアクアが味方についた。お前、先生って呼ばれて嬉しいだけだろ。でも好都合だ。調子に乗ったアクア程やっかいな奴はいない!

 

アルマちゃんがイジメ? まさか……。

 

大勢の冒険者たちに囲まれて、そんな声がちらほら聞こえてくるが、一番耳に痛いのはアルマ様本人だろう。

 

「ち、ちが、私は苛めてなんか……」

 

「じゃぁその剣は何!? そんなもの人に向けちゃ危ないでしょう! しまって! 片付けて! さっさとする!!」

 

「え、あ、は、はい……」

 

アクアの勢いに飲まれて、アルマ様が剣を収める。魔力の放出も無くなり、唯の大剣に戻った。それをアクアがすかさず掴み、

 

「はい、これは没収しま、重ッ! 何これおっもい! なんでこんな重いモノ持てるの!? こんなのこうよ!」

 

「え!? …きゃん!」

 

取り上げようとして地面に刀身がめり込んだ。持ち上げようと頑張っていたが、どうやっても無理なので………宴会芸スキルで消してしまった。

 

「私の豊穣丸ーーーーッ!!!」

 

ひ、酷ぇ。アルマ様の大剣って、農家の人に貰った神剣なんじゃ……後で天罰が堕ちるぞアイツ。女神なのに。

 

「ほら謝って! ウィズに苛めてゴメンナサイってちゃんと謝って!」

 

「ア、アクア……貴方という子は……」

 

アルマ様がとんでもないものを見たという目をしている。

 

アンデッドを庇う女神。大神に逆らう女神。小さな女の子の武器を取り上げて消してしまう女神。とんでもねぇなこれ。

 

というか、やりすぎじゃないだろうか?

 

「謝って! 謝りなさい!」

 

「「「謝~れ! 謝~れ!」」」

 

アクアに釣られて周りの冒険者達がハモって謝れという。めぐみんなんかは手拍子までしてやがる。気のいい奴らばかりのアクセルの街の冒険者達。普段の彼らなら、幼子にこんなことなどしない。しかし、彼らは知っている。アルマという少女が可愛く、優しく……大人の姿になることを。むしろ、本当は大人?なのだといいうことを。

 

「い、いえ皆さん…私は気にしてませんから!」

 

「ダメよウィズ! 子供のうちに悪いことをしたらきちんと謝ることを覚えさせておかないといけないの! じゃないと性格の捻くれた子供に育っちゃうわよ!?」

 

どの口が言ってんのお前?

 

「わ、私、悪くないもん……」

 

そんな大勢の人間の喧騒響く中。低い位置から震える小さな声が。

 

あれ?

 

え? 

 

嘘……。

 

やんやんと「謝れ」コールをしていた周りの声が困惑の小波となって広がっていく。

 

その中心にいるのは、その両目に大粒の涙を湛えた小さな少女の姿。

 

あかん。やっぱりやりすぎだ!

 

アルマ様、泣いてるやんか!!!

 

周りの冒険者達も、やべぇ、悪乗りしすぎた! と慌てている。そして、この中で一番ビビっているのは、アクアだ。

 

「あ、あれ? アルマちゃん?」

 

「う、うえぇ~~~~~~~~~~~~~~~~~ん!!! アルマ悪くないも~~~~~~~ん!!!!」

 

「アアアア、アルマチャーーーン!?」

 

「撤収!!!」

 

「「「あ!」」」

 

アルマ様が盛大に泣き出す瞬間。俺は彼女を抱きかかえてアクセルの街中へと駆け込んだ。

 

後日。俺は『幼女泣かせのクズマさん』と呼ばれ、街の女性陣と紳士から唾を吐きかけられる毎日になった。

 

またこの展開かよ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひっく、ひっく、うえぇええええええん」

 

俺達は冒険者ギルドに逃げ込んだ。アルマ様は今だに大泣きである。

 

職員の視線が痛いッ!

 

「あー! アルマちゃんを泣かせてる奴がいるー! 悪い子だー!」

 

「ひぃ!?」

 

俺とアクア、ついでにめぐみんとダクネスがビクゥッ! と肩を震わす。

 

振り返ると、そこには何故か縛られて転がされている『物質』のアルマことテンちゃん様。そしてその縛ったロープの先を持ったクリスが居た。

 

「いや、え、ちょっと待って。なんでおと、アルマちゃんが泣いてるの? ねぇ、誰が泣かしたの? ねぇ? ねぇ?」

 

「「「アクアです」」」

 

「あ?」

 

「クリス、怖い、凄く怖いわ。だからやめて、そんな目で見ないで! ごめんなさいするから!!」

 

クリスが目の光を真っ暗に塗りつぶしてアクアに迫る。その迫力にビビるアクア。既に土下座の構えは万全だった。盗賊の女の子に詰め寄られて頭が上がらない女神とは一体。

 

「でも本当にどうしたの? ちょと見せてね」

 

「あ、縄抜け」

 

「何時の間に」

 

縛られていた筈のテンちゃん様が自由な身でするりとアルマ様の側に来ていた。彼女はアルマ様の頭を両手で包み込むようにして触る。それだけでわかるのか、という周りの目も気にせず、彼女はしばらくそうしていると、胡乱な目で俺を見た。

 

「……本当に何したの? 『アルマ』ちゃんのメモリーが一部欠損してるんだけど?」

 

真顔でそんなことを言いだす神様。どういうことかよくわからないので、とりあえずアルマ様が泣き出すまでアクアの所業を包み隠さず話した。その度にアクアを見るクリスの視線が酷いことになっていくが、テンちゃん様が頭を抱えていくほうがより恐ろしかった。

 

「なんて乱暴なことを……あぁ、それとこの子の運の悪さもあってか。どうしようかなーこれ」

 

「あ、あの。つまり、どういうことでしょうか?」

 

戸惑う仲間を代表して俺が診断の結果を尋ねる。

 

「カズマ君は日本じゃオンラインゲーでランカーだったんだよね? じゃぁキャラのレベルもステータスも凄いデータだったんだろうね~」

 

おい、俺の個人情報。神様怖い。なんで知ってるの? まぁそうだけど。

 

めぐみんやダクネスは『おんらいん?』と訳の分からない言葉に首を捻っていたが仕方ない。つまり、俺にしか説明しないということか?

 

「じゃぁそのデータが入ったUSBをプレイしながら抜ッき差し! 抜ッき差し!」

 

「うわぁああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

なんて恐ろしいことを考えるんだ!?

 

「そんなことをしたらどうなると思う?」

 

「データが破損する恐れがありメモリに深刻なダメージを与える可能性があります」

 

まるで取扱説明書に記載されている説明文をそのまま読み上げるかのように俺は答えた。そんな、ゲーマーなら誰もが恐る悪魔の所業を異世界で思い出させないで欲しい。

 

ゲームのセーブデータ。それはハード本体に記録しているか、もしくはバックアップを外付けの記録媒体に保存するかをして消失の対策とするのが基本だ。しかし、データのやりとりをしているプレイ中に、接続を強制的に切断した場合、不備が起こりデータが一部欠損、最悪消えてしまう恐れがある。

 

そんなこと知っている。日本人でゲーマーというだけでもなく、パソコンや携帯電話などの電子機器を扱う現代人なら尚更だ。

 

「アルマちゃんの大剣、豊穣丸だっけ? あれはどうしたの?」

 

「それならさっきも言いましたけど、アクアが奪って消しちゃって………え?」

 

まさか……  ま  さ  か  !? 

 

「アルマちゃんは『超神刀・豊穣丸』を媒介に『理』の権能を使っていた。使っている最中だった。なのにそれを強制的に奪われた、切断されたことで体内を巡っていた『理』の力が乱れ、切り取られた。その結果、あの大剣に流れていた力の一部が失われたせいで感情が暴走しているんだよ」

 

「やっぱりお前のせいじゃねーかぁあああああああああああああ!!!」

 

「ごめんなさーーーーーーーい!!!」

 

俺はアクアの頭に思いっきり拳骨をくれてやった。誰も止めなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「『理』っていうのは感情、心を支配する力なんだ」

 

「? そうなんです?」

 

アルマ様改め、アルマちゃんを膝の上に抱えて座るテンちゃん様。その横でクリスがアルマちゃんにジュースをあげている光景を微笑ましく思いながら話を聞く。

 

「そう。『命』は生命の原動力。『物質』は肉体。『魂』は本能。『理』は感情を生み出す力さ」

 

「本能と感情は違うのか?」

 

「違うよ。例えば食べたい。眠りたい。遊びたい、っていうのは生きるための本能でそれを好きなこと、やりたいことっていう感情とは違うだろ?」

 

自分の性癖まっしぐらなダクネスがそう聞くが、返ってきた答えはそんな言葉だった。

 

生存本能と趣味嗜好の違いということだろうか?

 

「人は自分の生活に『(ルール)』をしいてきた。生きるためには必要のないルールを、人という群れの中で生きるために。だからこそ、『理』を考え、広め、守ることを第一とした。当然、納得のいかないきまりや我慢できずに対立だってしたと思う。でも、それを抑え、対話し、理解しあったからこそ心を通わせることに成功した。それこそが生物の育んだ感情というものの根幹だよ」

 

「「「はぁ」」」

 

なんか説法じみてきた。見た目はイケイケな女子高生なので、なんだか学校とか校長の挨拶を思い出す。つまり、考えることを放棄して話半分で聞いてしまいたくなる。

 

「アルマちゃんはその『理』を司る存在。だからこそ、それが乱れれば感情によって形成される精神や人格に影響を及ぼされる。つまり……」

 

「アルマ、悪くないもん。悪いのはアンデッドだもん」

 

「幼児退行、ですんで良かったと思うよ?」

 

「良くないです!」

 

ごめんなさい。ウチの駄女神がほんとう~にゴメンナサイ!!

 

「カズマお兄ちゃんは謝ってばかりだね!」

 

「そうだね。だってアクアが謝らないからね」

 

「謝ってるから! 私だって反省してるわよ!」

 

誠意が足りないんだよ! 今すぐ消した大剣もってこいや!!

 

「それでアルマは元に戻れそうなのか?」

 

こういう時、まっ先にアルマ様のことを気にかけるのはダクネスの様な気がする。なにかあるんだろうか?

 

「んー、無理かな?」

 

「ッ! どうしてだ?」

 

「まず消えた豊穣丸の行方が分からない。アレがないと欠損箇所がわからない。だから直しようがない」

 

「おいアクア。さっさと消した豊穣丸出せ」

 

「は? 出せるわけ無いじゃん。消しちゃったんだから」

 

「だよなー。消しちゃったんだからしょうがないよなー」

 

「そうよー。しょうがないのよー」

 

無言で取っ組み合いをはじめました。こいつは一発殴らにゃ気が済まん!!!

 

でも困った。アクアの宴会芸はまさに神業レベルで、ガチでタネも仕掛けありませんという程だ。消したというマジックはまるで瞬間移動したかのように痕跡なく消してしまう。

 

いったい豊穣丸はどこに消えたんだろう?

 

「『消す』という行為は存在の否定だからね。破壊したのでなければ同一世界上での転移か、はたまた別の空間へか、どちらにせよ見つけるには面倒だね」

 

とんでもねぇなアクアの宴会芸。芸人って超能力者だっけ?

 

「なんか手はないですか?」

 

「あるよ。アルマちゃんと豊穣丸の繋がり、縁を辿ればいいんだよ」

 

「どうやって?」

 

「さぁ? 神様(僕達)ならやろうと思っただけで結果になるけど、君達はスキルで覚えるしかないんじゃない? 何百ポイントかかるかわからないけど」

 

冒険者を廃業してドレジャーハンターになれと? 

 

どうやらアルマ様を元に戻すには人生を全部捧げなくちゃならない覚悟がいるらしい。

 

「が、頑張ってねカズマさん!」

 

「お前も手伝うんだよ!!」

 

「ぞんな無理よ~~~!!」

 

元凶が泣き言言うんじゃねぇ!! 

 

「カズマ。私は爆裂魔法を極めるという使命がありますので」

 

おいこら。

 

「私は出来るだけ協力するぞ? 聞き込みとか」

 

効果はあるのだろうか。

 

「あたしは当然手伝うよ! 副業として」

 

ダンジョンの宝箱を開けるついでに探すんだなちくしょう。

 

どうしよう。こいつら、手伝いたいけど自分のスキルポイントは使いたくないっていうのがありありと透けて見える。まぁ俺だって出来るならそうしたいけどさ。

 

そうして途方に暮れていると、

 

「君達に無理なら出来る人に頼めばいいのに」

 

そんな神様の、悪魔の囁きがあった。

 

「そんな人いるんですか!?」

 

「いるよ。悪魔だけどね♪」

 

マジで悪魔の囁きだった。




『魂』 「おぬし本当に運がないのぅ」

『理』 「うるせい。まぁあの状態でも調査はできるだろう」

『命』 「以前よりもまだ精神年齢も高そうですしね」


変態  「いや、お前らもうちょっと心配してやれよ……これだから神どもは」



変態  「はぁ……仕方ない、行くか」


スマフォのSDカードが破損してデータが取り出せなくなりました。ちくせう。

アルマちゃん十二ちゃい。情緒不安定。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

この神様にお兄ちゃんを!

アルダープが農家になり、デストロイヤーの被害もありません。なのでそれが原因で起こる三巻の裁判もありません。セナさんの出番やいかに。


アルマちゃんが再び幼女化して早一週間。

 

「カズマお兄ちゃん! 今日はこのクエストいきましょう!」

 

「はいはい。アルマちゃんは今日も頑張り屋さんだねー」

 

未だに元に戻る目処が立っていない。

 

しかし、それでもアルマちゃんは健気に冒険者として仕事をしていた。

 

でも。

 

「家に積もった雪の雪下ろしって……」

 

「? 嫌なら川の周りのゴミ拾いにします?」

 

「えー……」

 

受ける依頼の内容がなんでも来いというほどに、地域のみなさんの出した依頼ばかり受けるのである。

 

冒険者ギルドに届けられる依頼は何もモンスターの討伐だけではない。むしろ、アクセルの街の住人からのささやかな依頼の方が多かったりする。

 

やれ迷子のペットを探してくれだとか。

 

やれドブ掃除をやってくれだとか。

 

やれ手紙を届けてくれだとか。

 

そんな簡単でいて面倒くさく、なおかつ報酬額の少ない依頼ばかりを進んで請けるアルマちゃん。特に冬の今は寒さで外に出たくない冒険者ばかりなので依頼掲示板にはその手の依頼が貯まりまくっていた。それを消化してくれる彼女にはギルド職員も大助かりしているらしい。

 

ちなみに俺がアルマちゃんと一緒にクエストを受けているのはパーティーの間で取り決めたことだ。

 

アルマちゃんの愛刀、『超神刀・豊穣丸』の捜索のための割り振りだ。

 

ダクネスはギルドに捜索の依頼を出しに行っている。転移装置を使ってアクセルから王都等、行ける場所へは絶えず移動しっぱなしだ。

 

めぐみんは紅魔族の里へ手紙を出している。失せ物を探すことのできるマジックアイテムを造れないか父親に頼んでいるらしい。

 

アクアはウィズのところに入り浸っている。ウィズの仕入れる魔道具で、やはり失せ物を探し出せる効果のものが入荷しないかと紅茶を飲んでいるらしい。うん? こいつ実はなんにもしてなくないか?

 

テンちゃん様が提案した悪魔に頼るという提案はアクアとクリスとアルマちゃん本人の猛反対により却下された。というか、当てがあったのだろうか神様。

 

で、俺はアルマちゃんが無茶しないか一緒に行動しているということで。

 

まぁ、当然のことながらいつも無茶ばかりするんですけどね。

 

「お兄ちゃーん! 雪下ろしとゴミ拾いとまき拾いのお仕事とってきましたよー!」

 

「全部とったの!? しかも増えてるし!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ楽しかったですね!」

 

「……そうですね」

 

寒かった。ただひたすら寒かったです。はい。

 

民家の屋根に積もった雪や道を塞ぐ雪を掻き分け川に落とし。ついでに河川の周りのゴミを拾い続ける。それが終わったらまとめたゴミを森まで持っていって処分する傍らまきを拾い続ける。なにこのコンボ。アルマちゃん、無駄がないよちくしょう。

 

ちなみに報酬は合わせて一万エリス。うん。一万エリスである。寒い。身も心も財布の中も寒いぜ。

 

デストロイヤー破壊の賞金? そんなの、討伐に参加した冒険者と農家で分配して、それでも残った額の賞金はアルマちゃんの豊穣丸探索の報奨金にしたからない。一エリスもなーい。

 

うん、デカイ屋敷はあるけどな。心なしか肌寒い冬の季節なのさ。

 

「お兄ちゃん寒いの? お手手繋ぐ?」

 

「うん。寒くて凍えそうだよ」

 

色んな意味で冬の寒さを噛み締めていると、アルマちゃんが低い身長で俺を見上げて言う。自然と上目遣いになる彼女はとても可愛かった。

 

そしてアルマちゃんは俺の返事を聞くと、俺の右手をその小さく柔らかい両手で包んでこういった。

 

「はい! これでもう寒くないよ!」

 

「ありがとうアルマちゅぁん!!!」

 

俺の妹めっちゃ可愛いいいいいいい!!!!

 

(変態だ)(変態よ)(流石のロリマさんだぜ)(アルマたんを守れ! アサシンを集合させろ!)(おのれカズマめ! 明日の太陽を拝めると思うなよ!!)

 

なんだか変な声が聞こえるが俺は気にしない。最近街の奴らからロリマさんとか呼ばれているけどそれは誤解である。俺はただ妹が心配なだけの紳士なのだから。

 

「カズマお兄ちゃんー?」

 

「なんだいアルマちゃんー?」

 

あーーーーにしても可愛いなぁーアルマちゃん。

 

しばらく二人で手を繋いで歩いていると、

 

「なんか道に落ちてるよー?」

 

「へ?」

 

道の真ん中で、真っ黒い服を着た男が倒れていた。

 

いや、あの格好は……お坊さん?

 

その男が着ていたのは日本人なら誰でも見たことがあるような、仏教徒が着る袈裟という法衣だった。白、黒、金と三枚を重ねてきた五条。頭には藁で編んだ傘を被り、傍らには金の錫杖まで転がっている。

 

もしかして日本からの転生者か?

 

そう思ったのは最近やってきた女子高生のせいか。まさかまた……なんて考えていると。

 

「大丈夫ですか!?」

 

アルマちゃんが駆け出した。倒れている人を放っておくことなど彼女には到底無理なことなのだろう。

 

「って、げ!?」

 

と、思ったら。

 

「どうしたんだアルマちゃん? おい、アンタ大丈夫か?」

 

まっ先に近寄ったアルマちゃんが普段聞かないような声をあげて後ずさる。それを不思議に思いながらも俺は近寄って話しかけると。

 

がしっ! と足を掴まれた。

 

「うぇ!?」

 

ぐぎゅるううううううううううううううううううううううううううう!!!!

 

そしてこのあまりにでかい腹の音。

 

「あー、すまん。飯奢ってくんね?」

 

「行き倒れかよ!!!」

 

単なる空腹だった。

 

何こいつ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガツガツガツ! と豪快に飯を食らう男がいる。

 

ここは冒険者ギルド。道で拾った行き倒れの男を運び込み、とりあえず食物を適当に頼んだところ。

 

……ものすごい勢いで完食されていく。

 

「おい、今ので何杯目だ?」

 

「もう二十杯目だぜ? 何もんだあの兄ちゃん」

 

「俺、見てて胸焼けしてきた……」

 

周りの冒険者達やギルド職員達が遠巻きに言う。皿がカチャカチャと積み上がっていく光景に恐怖を抱きながら俺はそれを見る。

 

これ、いくらになるんだろう?

 

「あのー、おたく、金って持ってます?」

 

「ん? ねぇよ? ごちそうさん!」

 

「奢んねぇよ!? 今すぐ食うの止めてくんない!?」

 

「嫌だ! まだ腹六分目だ!」

 

「アンタもう十人前は食ってるよね!?」

 

なんて男なんだ。無銭飲食でどうどうと奢られようとは。いや、金がないから行き倒れてたのか? なら飯屋になんて連れてきたら集られるのは目に見えてたじゃないか!! ちくせう!!

 

「……はぁ、わかりました。わたしが出します」

 

「アルマちゃん!?」

 

女の子が財布を取り出す。大の大人が平らげた飯代を子供が払いに行く光景は見る者を悲しい気持ちにさせる。周りの「アルマちゃんを愛でる会」を自称する冒険者たちはその最たるものだ。皆ものすごい目でこっちを睨んでくる。

 

「悪いなぁ妹」

 

「妹言うな変態坊主」

 

「「「はぁ!? 兄妹!?」」」

 

今この人なんて言った!? 妹?! 新しいお兄ちゃんだとぅ!?

 

目の前の若いお坊さん。歳は俺と同じか少し上くらい。坊主なのにボウズじゃないフサフサの黒髪に、しっかりと肉の付いた背の高い男。

 

何よりも、魔剣のなんとかさんよりもイケメン! なんだこいつ!! 

 

……でも、よく見たらアルマちゃんとどことなく似ているような? マジで兄妹なの?

 

「何しにきたんですか変態。去勢しますよ?」

 

「いや、お前が心配だから様子見に来たんだけど……」

 

「そんな心配いりません。もう帰ってください。さようなら」

 

「…あー、こりゃ……うん、ガキだな」

 

「は?」

 

なんだろう。お兄さん?に対してアルマちゃんがムキになってる? 子供っぽい仕草に、やはり幼児化の影響がまた出てきてるのを感じた。それにお兄さん?も気づいているようだ。

 

「しゃーない、飲むか!! おーい受付のネーチャン! 酒どんどん持ってこい!! 樽ごと全部! 俺の奢りだ! 酒蔵空っぽにするまで飲むぞお前らぁッ!!」

 

「はぁ!? ちょっと!!」

 

「「「ヒャーーーーーーーー! ゴチになるぜ(あん)ちゃん!!」」」

 

「待っ、誰のお金で飲むと思ってるんですか!!!」

 

「だーーーーはっはっはぁ!!! 飲め飲め!! 飲みまくれ!」

 

「「「オォオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」」」

 

「聞いてってば!!」

 

アルマちゃんが必死に声を張り上げるが酔っぱらいには届かず。酒が入って頭がハッピーになった冒険者たちは軽い暴徒である。その騒ぎの中心にいるのがあのお兄さん?なわけで。

 

「いいかお前らー! 酒に潰されるようなヘタレは勿論いないだろうなー!?」

 

「「「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」」」

 

酒樽を持ち上げて、お兄さんが叫ぶ。そのまま樽に口を付け傾けながら中身を豪華に飲み干し冒険者たちを煽りまくる。

 

「じゃぁそんなヘタレがいたらそいつは腰抜け冒険者かー!?」

 

「「「そうだそうだーーー!!」」」

 

手を叩き、音頭を上げ続ける。ギルドの熱気は下がることなく、全員が頭の中を麻痺させていくようだった。

 

「腰抜けには罰が必要だなー!? 違うかー!?」

 

「「「違わねー!」」」

 

酒の勢い。ただそう言うだけでは収まらない、流れができていた。

 

「だったらまっ先に酔いつぶれた腰抜けが今日の払い全部だーーーーー!!!!」

 

「「「オッシャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」」」

 

「あ、あれ!?」

 

あ、うん。なんだかそうなった。

 

一つ分かったことがある。このお兄さん?。坊主は坊主でも、破戒僧だわ。間違いなく。もしくは生臭坊主。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやぁ飲んだし食った! 上手いなぁここの飯は!」

 

「はぁそうですね」

 

ギルドが酔っぱらいで死屍累々となった夜。俺達はさっさと逃げ出した。酒を樽でガンガン飲んでいたはずのお兄さん?が最後まで立っていたのが恐ろしい。とんでもない酒豪すぎる。

 

そしてまっ先に酔いつぶれて酒代を全額払うことになったのはダストだった。可哀想に。今頃目を覚まして、とんでもない額の請求書をギルドから渡されている頃だろう。

 

で、今俺たちは俺の屋敷に居る。アルマちゃんも。

 

「いい屋敷に住んでるじゃないか少年」

 

「あざっす」

 

リビングで暖炉の前のソファーに寝転んでいるお兄さん?。それを見て警戒する二人がいた。

 

アクアとめぐみんだ。

 

ちなみにテンちゃん様は天界に帰った。なんでも、『出席日数がやばい』らしい。マジで女子高生だったんだなぁ。でも、豊穣丸が見つかったら呼んでって言っていたからアルマちゃんのことはちゃんと面倒を見てくれるらしい。

 

「あわわわ!! なんで今度はあの人がいるのよー!?」

 

「カズマカズマ。彼は誰ですか?」

 

「アルマちゃんのお兄さんらしい」

 

「「は?」」

 

俺の言葉に二人が驚く。めぐみんはそれほどでもなかったが、アクアは特にだ。

 

「え? あの人がアルマちゃんのお兄さん? ならアルマちゃんって……え、まさか? あんれぇ?」

 

うん、お前はそろそろ気づけよ。頼むから。

 

「んー。めぐみんー」

 

「どうしましたアルマ? 眠いんですか?」

 

「あらあら、じゃぁお風呂入ってもう寝ましょうねー」

 

どうやらアルマちゃんはおねむのようだった。まぁ今日は色々あった。主にこのお兄さん?のせいで。

 

「お、風呂か。兄ちゃんと一緒に入るか?」

 

「は? 死ねよ変態」

 

「ハッ! 辛辣!」

 

「「「…………」」」

 

やっぱり新鮮だ。こんなアルマちゃん見たことない。まるでアンデッドや悪魔を相手にしているような、そんな態度を人間にとっている。

 

「やっぱり身内の気安さなのかなぁ」

 

ちょっとお兄ちゃんとしてのジェラシーがあったりする。神様相手だけど、こればっかりはしょうがない。

 

……ん? あれ? アルマちゃんのお兄さんってことは……この人も神様!?

 

「おぅ少年。このあと一緒に風呂でもどうだ?」

 

「は、はい!」

 

このタイミングで!?

 

断れない誘いが来たことでひょっとしての正体に気づかなきゃ良かったと後悔する俺だった。

 

 

 

 

 

 

 

アクア達があがった後の風呂場。

 

そこで俺とお兄さん?は一緒に湯船に浸かっている。

 

「あ~~~。いい風呂だな。広いし湯加減もいい」

 

「あ、はい。恐縮です」

 

このお兄さん?。脱いだらやっぱり凄かった。別に俺はそんな趣味はないが、男が惚れる漢の身体だった。厚い胸板。程よく付いた全身の筋肉。決してムキムキのマッチョというわけでなく、細身の鍛え上げられた肉体であった。

 

「凄いな少年。君はまだこの世界にきて一年も経っていないんだろう?」

 

「そうっすね。大体半年ちょっとです」

 

「それでこんな大きな屋敷持ちか。うん、君はできる男だよ。もっと胸を張りたまえ」

 

あらやだ胸にくる。この世界に来て、こんな世辞を言われたことがあっただろうか。

 

思えばこの世界来てからというもの。理不尽な常識と理不尽なパーティーと理不尽な評価に歯を食いしばって頑張ってきたが、褒めてもらったことはないかもしれない。

 

ちょっとウルッときた。

 

「それで、さっきの少女達で誰が少年のコレだい?」

 

「ひゃい!?」

 

小指を立てて言われた。猥談っすか?! そんな話しもイケる口なんです? お坊様!

 

「アクアはまぁイィ女だし、めぐみん君はまだ幼いが……まさかアルマに手を出してないだろうな? ……もしや全員か?」

 

「いぃいえいえいえいえ!! 手を出すなんてそんな俺達パーティーの仲間だしぃ!?」

 

「…………なんだ童貞か。ひとつ屋根の下に住んでて情けないな。やっぱりまだまだの男だな少年」

 

「……はい。面目ありません」

 

ちくせう。だってしょうがないじゃん。仲間に手を出すなんて気まずくてしょうがない。そりゃ俺のパーティーは皆女ばかりで美人だ。中身は残念だけど、外見は文句なしである。正直、サキュバスサービスのお店で何度アイツらの姿にお世話になったことか。そんなこと口が裂けても言えないけど。

 

「………ふむ? どうやらヘタレなだけで興味はあると見た」

 

「ま、まぁ……俺だって男ですし」

 

この人、心情をバンバン見抜いてくるな。なんなの? 心でも読めるの? やっぱり神様ってこと?

 

「じゃぁ、これならどうだ?」

 

「へぇ?!」

 

パン! と湯船のお湯が弾ける。視界が一瞬お湯や湯気で何も見えなくなり、お兄さん?の姿を見失う。

 

しかし、換気が効いた風呂場でそれはすぐに晴れた。戻った視界で見た光景に俺は驚きのあまり目を見開く。

 

そこには。

 

「そう言えば名乗ってなかったな」

 

「あばばばばばばにゃじゃばら!?」

 

アルマちゃんやテンちゃん様に似通った、俺と同じくらい年齢の女の子が全裸で立っていた。

 

「俺はタカマチ・アルマ。日本在住の悪魔王だ」

 

それはもう見事なプロポーションで。

 




『理』 「あの堕落の象徴が……今度は何を始めやがった」

『魂』 「ワシはあの坊主のこと気に入っているんじゃがのう」

『命』 「我も、日本じゃ義弟ですし」

『物質』「僕だけ特に接点はありません!」


リっくん「あ、すいません。アルマいます?」

『物質』「リっきゅううううううううううううん!! 会いたかったよおおおおお!!!」

りっくん「うん。僕も会いたかったよ……はいこれ」

『物質』「え、………なにこれ?」

リっくん「宿題。あと毎日補修だって。先生がね? サボったら落第だって」

『物質』「…………い、いや、あの、デート……」

りっくん「大丈夫! 毎日放課後デートしようよ! 僕も付き合うからさ!」

『物質』「はは、ははは。わぁい、嬉しいなー………」


リクザリオ・ローレックスことリっくん。

クラスの男子から「俺の子供を産んでくれ」と密かに思われている学校一可愛い男の子。しかし、中身は男前なところもあり彼に頭が上がらない生徒多し。


変態ことタカマチ・アルマ。

日本在住の悪魔王。『理』の分体にして悪魔に魂を売った男。なお、『理』とはガチの殺し合いを何度も行なっており、未だ決着がついていない。女子高生として遊んでいたら先日高校に通う孫(♂)に告白された。どうしよう?


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。