帰りたい、でも帰れない天狗さんの日常 (monochrome vision)
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01 帰りたい…

駄文でしょうが、よろしくお願いします。
多分、長続きはしないでしょう。そんな予感がします。


 

 

 

「知らない天井だ……」

 

 実にテンプレなセリフを言ってみたい言ってみたいとは思っていたが、まさか本当に、しかも無意識のうちに言葉が出てくるとは思わなかった。訳の分からない事実に心臓が鼓動を早め、視界と身体が揺れる感じがするほどの焦り。

 この不安はちょっとやそっとじゃ消せやしないだろう。只の大学生で一般人だった奴が急に別の場所に拉致されたとして、落ち着いていられるだろうか。例え冷静だとしても、これからの事を予想し、その出来事によるデメリットを考えるだけで泣きそうになる。

 

 行方不明ならば捜索願が出されて、見つからなければ全国的に報道されるだろう。家族に迷惑をかけ、大学にいけなくなることで将来の道は限られる。中退と顔割れは就職に響くに違いない。

 

 いや、家に帰れる距離で何事もなければ問題はないのだが……あり得ない()()が更なる混乱へと導き、不安が消えないのだ。

 

 幻想郷? 妖怪? 烏天狗? なんだこれは! そう叫びたくなるが口は動揺で動くことはない。数百年の記憶とカラスのときの記憶がある人間なんているか? 居ないだろうさ。居たら只のキチガイだ。

 

 本当に自分自身を取り戻すのに時間を要した。具体的には朝から昼になるぐらいまでだろうか。記憶に持って行かれて人間である俺の記憶が飲み込まれる…それは俺が俺自身を否定するということだろう。俺が今まで生きてきた人生を殺すということなのだろう。だから数百年分の記憶をたった二十年分ぽっちの記憶で塗りつぶし、自我を保つ。長い時間をのんびり過ごすのと、短い時間に強く多くの経験と記憶を持つ方が印象が強いからな。

 

 それともう一つ思ったこと…この身体の持ち主の自我は何処に行ったのだろうかということだ。まさか俺の体に行った? そ、それはそれで困るものだ…絶対に人間の生活に馴染めないだろうよ。もしくは消えたか…消えてもおかしくないような、機械のように日々を作業として過ごしていたらしいし、俺が入った瞬間に塗りつぶされてもおかしくはない。

 

 一つ、大きく息を吐いて起き上がる。妙に長い髪が視界を遮り、背中に今まで感じなかった感覚を知覚する。ぎこちなく動かしてみると、それは烏天狗の持つ黒い翼のようだ。

 

 折り曲げて見えるようにすると、その黒はくすんでいるように見えて輝きが全くない、まるで油に汚れた汚い翼に見える。本当に油で汚れているわけではないから洗っても無駄だろうが…いや、今はいい。

 

 取り敢えずの目標は帰ることだ。だが、博麗大結界とやらが有るのに帰れるのか? 方法としては博麗の巫女に送ってもらうか、妖怪の賢者にどうにかしてもらうか……ふむ、無理だな。

 

 数時間も掛けて落ち着かせた、いつも通りの思考から導き出される答えは無理という簡潔な一言。巫女は外界から来た人間に対してしか送らないし、俺が行ったところで何を言っても天狗にしか見えない俺は相手にされないだろう。なんなら下っ端も下っ端、居ても居なくてもいい存在の天狗の中では雑魚妖怪な俺だ…無視されるわ。妖怪の賢者? 同じだろ。

 

 あ~……どうするか……。駄目だ、段々自棄になってきてどうでもいいやって感じになってきている。例え戻れたとしてもその体は生きているのか? 部屋で倒れたままなら一週間もすればもう致命的だろう。それに、人間界に俺がいるとは限らない。異世界からこの身体に憑依したのなら、もう帰れない……寝て起きたら元通りにならないかね? 

 いや、もうこのことは後回しにしよう。幸い、この体になったことで時間は有り余るほどあるのだ。考えることくらい、いつでも出来る。

 

 改めて小さな自分の部屋をぐるりと見渡す。部屋は古いが掃除はされていて問題ない。あとはこの身体の人物が作っていた新聞が隅に積まれている。

 どうも天狗は新聞を作っているようだ。この身体のやつも何に感化されたのかは知らんが、作り始め、最下位をキープしている。読んでいるやつなんて居ないだろう。

 

 傍らにある机の上から新聞を取り、少し読んでみる。

 

「なんだこれ……小学生の作文か」

 

 今日はなになにがありました。そして感想……作文か。長く生きているくせに何もわからない状態で書き始めた頃から書き方を変えていないから、これで定着してしまったのだろう。

 

「これは酷いな…」

 

 パサリと新聞とも言えない作文を投げ捨ててため息をつく。別に俺が新聞を書く義理もないのでこのまま止めてしまってもいいのだが、情報を収集する良い理由付けになるので、俺の思う新聞でも書いてみるか?

 

 そのためにもまずは情報収集とこの身体に慣れることだろう。まずは外に出て人気のないところで自分の身体の情報収集。善は急げと立ち上がるが、やる気はそこまでない。気楽に行こう。

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 天狗の里を出て妖怪の山の特別人が居ない所にやってきた。まずやるべきこととして部屋から持ってきた小太刀で前髪を斬ることだろう。視界が暗くて狭いと危ない。

 

 バッサリと前髪を切り落とし、ついでとばかりに後ろの髪も適当に掴んで斬り捨てる。髪を切らないから何に対しても厄介払いされるのだ。この身体の持ち主は幼いころに自分の女顔にコンプレックスを持って隠していたようだが…見ていないからわからないが、想像としては今は少女とは言えないと思う。子供は男か女かわからないような可愛らしい姿をするものだ。

 

 視界は開け、後ろの髪も肩甲骨にかかるくらいになった。適当に掴んで、切った場所が悪かったのだろう…これ以上はいいようにする自信がないので手はつけないがな。

 

 さて、まずは何をするか…無難なものでは身体能力だろう。記憶はあるし経験も身体に残っているが、新しい俺の記憶に残っている人間の頃の身体能力とは差がかなりあるだろうから戸惑うことになる。

 

「よっと!」

 

 手刀を作り、近くの太い木に横薙ぎに打ち込むがうんともすんとも言わん。普通に痛かったでござるよ……。

 もういい、俺が特別弱いのかどうかも気になるが、腕力がこれくらいだと分かったらもう他もだいたい予想がつく。しかし、足の速さは別だろう。百メートルを全力で測るとして…時間は頭の中で数えることにした。

 木にぶつからないような直線上の場所を見つけ出し、クラウチングスタートの格好で深呼吸をし…走り出す。一、二、三…と数える中、もう一つの思考ではかなりの速さに驚き、加速に身体が持っていかれそうになり、前傾姿勢にする。

 

 結果。純粋な身体能力ではボルトを余裕で超えた。五秒程度だろう。これを妖力で強化すると二秒までは縮まりそうである。流石速さに定評の有る天狗…足の速さも天下一品ですな。

 

 そして妖力についてだが、体内での循環の仕方は体が覚えていたので問題はない。手のひらの上で妖力球を作り出してくるくる回転させながら感動に浸る。

 まさか、小説やアニメの中でしか見ることのできなかった超常の現象が自らの手で操れるとは……これで魔力だったら魔法とか使えたのだろうか。妖術なら簡単なものが使えるようだが、そちらにも今後期待だ。

 

 妖力を丸から四角、三角や糸に変えたりとサブカル好きの日本人男子として想像力を膨らませて様々な形に変え、手裏剣にして投げるとトスッと木に刺さってしまった。

 

「おお…これは良いな。色んな形に出来るから応用が利きそうじゃないか」

 

 あと興奮する出来事と言えば…能力だ。この身体の持ち主だったやつは能力を持っていたらしい。いいな。能力と聞くだけで少し興奮する。

 

 少しばかりワクワクしながら己の内を見るように集中すると能力の名前が浮かんできた。それを自然と口にして言葉として表現する。

 

「『感覚を司る程度の能力』……程度とはなんぞや」

 

 主人公が持つような派手な能力ではないが、感覚を司る能力は誰かと対峙した時に役に立つだろう。もし…殺し合いなんてことがあれば、相手が幻想殺しのような能力でも持っていない限り、俺の一方的な攻撃ができてしまう。

 

 ただ、この身体の奴は使う相手も居ないのか、特に使用したこともなく、せいぜい自分の聴覚を乱して雑音を消しているくらいだ。後料理できないらしく、まずい料理を味覚を乱して食べるとか。あれ? 割りと役立ってない? 普段から使ってるじゃん。

 

「ん? もう一つ…?」

 

 もう一つ、俺の頭の中に浮かんできた能力名がある。もしかしたら俺がこの身体に入ったことにより、俺自信の能力が発現したのかもしれない。

 

「『影を司る程度の能力』……影のように存在でも薄くしろってか?」

 

 とは言うが、これは二次元的な意味で捉えるのであれば、かなり最強の部類に入るし、応用が効くものだ。あらゆる影を支配出来るのだからもう何も言えない…これで収納に困らんな。まずこれを思いついたのはどうなのだろうか…。

 

 少し使用してみることにした。能力を発動させることだけに意識するのではなく、自然な感じで思った通りに影が動いていく。広範囲で動けと念じた瞬間、ゾワリとあらゆる物質の作り出している影が蠢き、まるで炎のようにゆらゆらと上へと揺らめき、やがては木を超えてしまう。

 

 なんだろうな…アニメとかでありそうなこの光景。山全体ではないが、俺を中心として広範囲に影が揺らめき立ち、言い方があれだが海藻のように木々の間から天へと伸びている。ハガレンの黒い手が揺らめいているのを思い出した。

 

 少しの間眺めていたが、ハッとして意識を清明にする。これだけのことをしてしまえば目立つに決まっている…故に逃げるに限るが、ここで影を消してしまえば隠れ蓑として機能しない。俺が逃げ切ってから消すのが良いだろう。

 

 妖力を全身に巡らせ、脚に多めに溜めたところで全力のダッシュによりこの場を離脱する。ぶつかりそうになる木を懸命に避けて山を下りきり、再び別の山へと一つ跳躍して中腹辺りに着地する。まさに人外の高速機動…ジャンプ一つで山の半分ほどまで届き、着地して地面をクレーターのように抉るが身体には問題がない。暇さえあれば走ってしまいそうな疾走感だった。

 

「ただの一般人だったのにな…記憶のせいか?」

 

 慣れるのが異様に早い。まだ一日も経っていないんだぞ? それなのにここまで動けるなど…やはり混ざってしまったからだろうか。

 未だ使っていない翼を畳みながら影を消すと、ゴムが縮むようにして影は収縮し、消え去った。

 

 やれやれ…目立つ行動はしないように注意しないとな。強化した視力では未だ周囲を烏天狗が飛び回り、白狼天狗が木々の間を彷徨いている。千里眼で見られても厄介だし、本当に影のように忍んで行かないと。

 

 暫くは妖怪の山に帰らずに飛行練習でもしようかと考え、その場を離れて反対へと行く。妖怪だからなのか疲れもなく、草も小太刀で切り払ったのでそこまで苦ではなかった。

 

 文句があるとすれば……服装くらいだろうか。どうせ出歩かないからといって下駄は止めよう。よく走れたな俺。拍手三回。そして服も和服ではなくラフな格好にしよう。これは何処に売っているのだろうか…人里まで行けば流石にあるか?

 

 これも今後の課題の一つとし、今は飛ぶことに集中する。跳ぶことはできたが飛ぶことが出来るようになればそちらのほうが断然良い。木を避けながら山を跳躍して進むより、飛んだ方が速い。

 

 まずは鳥が飛ぶときのようにイメージして翼を動かす……と、既に空まで舞い上がっていた。やはり身体はしっかり覚えているようで勝手に動き出す。これはもう無意識の領域に入っている。歩く時、何かを掴む時、物を噛む時…様々な場合で一々股関節を屈曲させて脚を動かして、足を背屈させて踵を着けてなどと一つ一つの肯定を考えながら動かしているか? していないだろう。それは当たり前の行動で、脳が無意識的に動かしているのだから。 

 

 この翼も同じだ。カラスから天狗になったのだから翼を動かすなんて当たり前のことだから無意識で行われている。これはもはや手や足と同じだ。

 

 今はそんなことよりもこの空を飛んでいるというシチュエーションを存分に味わうべきだ。人間だった頃では考えられない、生身一つでの自由な飛行。まさに人類の夢が叶った瞬間(妖怪だが)。

 

 空を飛び、風を切る感触が実に心地よく、一定速度で飛びながら下を見れば美しい光景が目に入る。

 この幻想郷は本当に美しい世界だ。コンクリートジャングルと汚れた空気では味わえない絶景。海外に行って自然を堪能すればいいが、今の状況と比べると天と地の差。

 

 大空を飛び、眼下の絶景に見惚れる。何処を見ても現代のような背の高いビルなんかも見えず、自然を感じさせる光景だ。湖、山、森、草原、川…人間の手が一切加えられていない大自然は見ていて飽きない。カメラを持ち、様々な場所を巡って幻想的な写真を撮るのもいいかもしれない。新聞の他に写真集でも出すか?なんてことを考えながら。

 

 この光景と飛ぶ感覚に酔いしれながらも人里の場所や博麗神社、その他の重要そうな場所の位置情報もしっかりと記憶に留めておく。

 

 気づけば影を操ってから時間が経ち、太陽が下がり始めていた。もういいだろうと思いながら妖怪の山へと飛び、里の手前で降りて自分の家へと帰る。誰もいない小さな家に入り、畳に倒れると同時にあることに気がつく。

 

 今日、食べるものが一切無いと。

 

 

 

 

 




これからもこれくらい適当…だと思います。


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02 河童の技術力

 

 

 

 

 翌日。今日は朝から河童のところへ行くことにする。どうもここの河童は技術力がもはや人間を超えているようで光学迷彩を発明しているらしい。ならカメラを頼んでも余裕で作ってくれるだろうと思って河童のいる河へ向かう。

 

 俺が作ってもらおうとしているのはスマホだ。普通にカメラを持つのもいいが、スマホみたいにして色々な機能をつけてもらったほうが便利だろう。音声録音やムービー、音楽に写真やメモ帳。一つに詰めてもらったほうがお得感。しかし、アプリとかで機能していたこれらは河童が作ることが出来るのだろうか…いや、任せよう。そういう機能付きのものを作ってくれるだろう。

 

 鞄に詰め込んだ胡瓜と胡瓜の漬物や胡麻和え、その他諸々の簡単料理と野菜スティックみたいに付けて食べれるように調味料を数点。これで交渉に挑む。

 

 河童の住んでいるところは川の上流付近でそこに集落を作っているが、そこに突撃するわけにもいかないので川付近で暇している河童を見つけてそいつに話しかけてみるつもりだ。

 川に沿って低空飛行で飛んでいると、ようやく一人の河童を見つけた。美少女の河童で水色の服に帽子、背中には大きなリュックが背負われており、胸の前では鍵がついた紐が見える。なにあれ、胸が強調されてエロい。

 

 羽を散らしながら川岸に降り立ち、その河童の近くまで歩いていくと、踏みしめる小さな石達の音にそいつも気づいて此方を見てくる。

 

「あれ? 文じゃん。昨日あったときとなんか違うけど…髪伸びた? 胸縮んでない?」

 

 髪切った?ならよく聞くセリフだが、胸縮んだ?は初めてだぞ……いや、男に何を言っているんだという話だが。どうも俺はその文とかいう女に似ているらしい。女顔らしいからよくわからんが、髪型が似ているとかそんなのかもしれない。

 

「俺は文とか言う女ではないんだが……」

「ん~? 声も違うね…変声機でも使った?」

「誰がコナンくんだ。俺が使うならボーカロイドでも使うわ……それより河童であるお前さんに少しばかり頼みがあるんだが、聞いてもらえるか?」

 

 怪訝な表情で首を傾げている河童の女に鞄の中身をちらりと見せながらそう聞くと、瞬時に目を輝かせながら頷き、家へと案内してくれる。

 

 道中に自己紹介をし、新聞に使うネタを収集するための道具を作って欲しいという簡単な説明をしながら歩く。その説明の途中で河城にとり…にとりは自分も読んでいる新聞があると言ってリュックから一つの新聞を取り出して俺に渡してくる。

 

 その新聞の名前は『文々。新聞』と言い、さっと目を通してみるが、確かに新聞になっているが比較的に読みやすいし、面白みを出している。漫画や雑誌の代わりに読むとしては丁度いいものだろう。人間界の新聞は情報を伝えるものだけでそこまで面白くないしな。

 

 俺が作る新聞も最初は人間界の新聞のように淡々と情報と事実を伝えるものにしようかと思っていたが、変えてみるか……そうだな、半分を大人向けの情報で文章に。半分は読みやすい文章で少しばかり面白みを取り入れた話を。

 ふむ…色んな人に読んでもらうのであれば4コマ漫画も書いてみて、下の方に小説でも書いてみるかな。どちらも幸いなことに書くことが出来る。写真を載せてもいいし、自分で絵を書いてどこか一枚に載せるのもありだろう。うむ、全部詰め込んでしまえ。

 

 大まかなことは決まったし、後はにとりに色々してもらってと…。

 

「着いたよ、蒼夜! さ、あがってあがって」

「ん、お邪魔します」

 

 案内された家に入ると、そこは現代風の綺麗な家だった。これはもう、土下座をする覚悟も必要か…俺の小さな家を捨てて里の外でにとりに家を作ってもらってそこに住む。綺麗な家に住みたいんだよ。

 

 通された居間で座布団の上に座ると、机を挟んでにとりも座る。その顔は今か今かと胡瓜を楽しみにしている顔だが、これは報酬なのだ。話を進めながら一つずつ取り出していくことにする。

 

「早速で悪いが、作ってもらいたいものがある。胡瓜は間で随時前報酬として渡していく。何か書くものはあるか?」

「紙でいいかい?」

「ああ。それでこういうものなんだが……」

 

 胡瓜の漬物を入れた容器を俺の手元に置く。渾身の出来であり、ご飯が欲しくなるほどかなり美味いと思う。受け取った紙とペンでスマホのフォルムを書いていき、その傍らに欲しい機能を書いていく。あとは充電器と発電機、スキャナーなどだろうか。

 

 ふんふんと頷いているにとりの口元に一枚一枚、適度に間隔を空けながら摘んで持っていく。一枚目を食べさせたところで叫び、次だと言われて待ったをかける。そして話をして理解したところでもう一枚。待てもおすわりもできる犬みたいな奴である。餌付けは成功したようだ。

 

「なるほどね…確かに面白いものだね。カメラは勿論?」

「高性能、高画質。持ち歩くからチェーンを付けれるようにしてほしいし、強度とか防水も任せるぞ」

「画像編集は?」

「出来るのか?」

「やってみせるよ。久々に腕が鳴るってものさ。任せて、最高のものを作ってあげようじゃん!」

「フッ…助かる。まだ作って欲しいものがあるんだが……」

「幾らでも。だけど……」

 

 にんまりとしながらにとりは俺の胸の前にある容器と鞄に視線が注がれる。苦笑しながら一枚取り出して口元に差し出すと、笑顔で指ごと咥えられた。彼女いない歴=年齢の俺がこんなことしているとは……柔らかい唇の感触にちょっとドキドキする。

 

 引き抜いて鞄の中から更に容器を取り出して別のつまみのような料理も並べていく。

 

「胡瓜をくれればいつでも作ってこれるが…漬物だけだと思うなよ?」

「おっ、いいねぇ…いやぁ、蒼夜は最高だね。今まで暇してて詰まんなかった日常が、一気に色を取り戻したような気がするよ。まさかこんな鴉天狗が居たなんてね」

「これからも何か頼むだろうけど、スマホのでき次第では専属になって欲しい。それと、俺との話は他言無用で頼む」

「いいけど、なんでだい?」

「この情報をネタにされたくないし、もし腕が確かであるのなら…そんなにとりを誰にも渡したくねぇからだよ」

「そ、そう? そ、それよりさ! 続きはお酒でも飲みながら話さない!? 見た感じ、つまみに持って来いってラインナップだからね」

「ん? いいのか?」

「勿論さ! 河童の…私の技術力を舐めないでよ?」

 

 酒も含めてだが違う意味でのいいのか?に反応してくれたらしい。短いやり取りで既に契約を結んだようなものだが、余程腕には自信があるのか、その瞳には自分が失敗することや無様な物を作るなんてことは微塵も見えなかった。運がいい…まさか川で出会った河童がここまでとは。とは言え、まだ作ってもらったわけじゃないが、大丈夫そうだな。

 

 その後、にとりが持ってきた酒とつまみを飲み食いしながら夜遅くまで話に花を咲かせ、上機嫌に酔ったにとりを寝かせてから夜の空へと身を踊らせる。

 

 人工の明かりなんてない幻想郷の夜空は、宝石なんて霞むような輝く星々に彩られ、寝るのが惜しくなうような絶景だった。これは朝日も綺麗なのだろう…寝るのが嫌だな。

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

「…………妖怪のままか」

 

 夜の景色を堪能してから部屋に戻り、床についたのだが、朝起きてみてもそれは妖怪である俺の部屋の天井であり一人暮らしの時の部屋の天井ではなかった。

 

 寝たら鴉天狗の俺は夢の出来事でいつもと同じように朝を迎えて大学へ行く…そんな生活に戻っていると思ったが違ったようだ。

 溜息を吐いて布団から起き上がる。それにしてもこの布団は少々汚くて臭いし、使い潰されてぺったんこで寝心地は最悪だ。ベッドとか売っていないのだろうか。

 

 ハッ!? もしかしたらにとりに頼めば色々売ってくれるかも。なにせ名前がにとりだからな。……なんてことはないか。幻想郷の文化からして古い日本の風景を残しているからベッドなんて使っているところなんて無いだろう。

 

 ベッドの代わりに自分の羽を羽毛布団の代わりに…することは不可能だがこの翼、寝る時に少々邪魔である。寝心地悪くて寝る前に盛大に寝返りを打とうとしてメキッていった時は飛び起きた。うつぶせでねよ……。

 

 がりがりと頭を掻きながら適当な服に着替えて今日は何をするかを頭の中でスケジュールを立てる。

 優先順位としてはまずは服などの生活用品を揃えること。しかし、色々買ったところで部屋は小さいので置くスペースがない。これもまた問題だろう…引っ越しできるか?

 

 それまでは影の中に入れておくことにする。影を一つの倉庫にすることで様々なものを収納が可能となるのだ。簡単に言えばアイテムボックスや空間倉庫。

 

 あらかたの今日することを頭の中で整理して部屋を出る。朝は全く飯が食べられないのでパン派の俺が米を食べるとか結構無理な話なので水だけ飲んで出た。流石に何も飲まずに行動するのは脱水状態になるのでこれだけは気を付けている。水を飲まずに朝のランニングをして倒れかけるのと同じだ。あれは死ねる。

 

 行き先は人里。翼は妖術でどうにかできるので影を軽く纏い、気配を薄くすることで普通の人は知覚しづらくなるので大丈夫だろう。なんなら道行く人に片っ端から感覚を支配して誤魔化してもいい。流石にゴリ押し過ぎるがな。

 

 朝の冷たい空気の中を飛びながら人里の近くで飛ぶのをやめる。そして門番の居る入り口を素知らぬ顔で通り抜けるが…

 

「嘘だろおい……」

 

 まさかの気づかれないという…。槍を片手に大きな欠伸をする門番は、影を纏った俺が横を通り過ぎているというのに全くの反応無しでボーッと何処かを眺めている。流石にこの事実に俺も驚愕し、少し落ち込む。これは、俺が存在が薄いからなのだろうか…影のせいだよな? 成功してるからだよな? 素でスキルにステルスヒッキーが備わっているとかだったら悲しいものである。大学でもぼっちじゃないので要らぬ心配だと思いたいものだ。

 

 ちょっと気落ちしながら呉服屋を目指すことにした。それにしても…これが人里か。

 

 朝早くだと言うのに既に賑わいを見せ、新鮮な野菜を売るために店主が声を張り上げている。子供達は走り、寺子屋にでも向かうのか鞄を提げていた。なんでだろうな…銀魂思い出したんだが。

 

 道の端を里を観察しながら呉服屋を探す。いいな…天狗の里で過ごすよりも人里で暮らしたいものだ。害がなければ受け入れてもらえるかもしれないが、それでも妖怪が人里に住むのは異例だろうし、何よりも他の天狗が許さないだろう。山を追い出されてみろ、天狗に見つかり次第討伐対象になるぞ。そういうところは天狗は面倒くせぇからな。

 

 まぁ、仲間の天狗を殺しでもしない限り討伐対象にはそうそうならないだろう。それに、そこまで目立つようなこともしたくない。本当に下っ端も下っ端だからな。ロケット団でいう主人公にポケモンバトルで戦う役割すら与えられていない脇役。なんならゲーセンでスロットをしていて話しかけることしかできないやつでも構わん。サボりとも言うがな。

 

「おっと、ここか」

 

 ようやく呉服屋を見つけたが休みということもまだ開いていないということもなく軽く安心する。

 

「いらっしゃい」

 

 中に入ると店主だろう一人の中年の男がカウンターの向こうで出迎えてくれる。無愛想な挨拶だが、チャラい奴がバイトをしていて訳のわからん挨拶をしてくるよりは断然いい。らっしゃっせーってなんだよ。

 

「あん? お前さん、妖怪か?」

「ん? 確かにそうだが、よくわかったな」

「まぁな。この人里で見られない顔があればそれは大体妖怪だかんな」

「ほぅ…まあいい、服を見せてもらうぞ?」

「ああ、好きに見な」

 

 その言葉の通りに歩いて服を見ていく。俺の知っているような服もあれば和服もあるし、ベルトも売られている……幻想郷の技術レベルがいまいち良くわからん。

 人里を見るからに浴衣や着物などの和服を着るのがいいのだろうが、流石に日本人とは言え洋服が主なために着慣れないものは買いたくない。

 

 幸い、金は全然使われていなかったので結構溜まっており、金に糸目はつけないでいい。無難に黒いズボン、黒いインナーと白いワイシャツとでいいだろう。これらを数着持って男の元へ向かう。

 

「これを頼む」

「はいよ…って、お前さん、女なのにこんな服でいいのか? 綺麗な着物とかの方が似合うぞ?」

「……俺に女装しろというのか」

「……男か?」

「そうだが……」

 

 少しの間、店主の男の視線は俺の顔と胸を行き来していたので胸を拳で叩くと鈍い音がなり、それが証明になった。この身体の持ち主のコンプレックスは女顔だが、その顔のせいで男に襲われて自分の顔が嫌いになったのだ。流石にホモじゃなかったらしいが、怖さで塞ぎ込んでいたようだ。

 

 言われた金を払い、服は袋に入れて腕にかけておく。

 

「ありがとよ。ああそうだ、靴とか売ってるところを知らないか?」

「靴を? ああ、いいところがあるぞ。なんでも外来人の男が作ってるらしくてな。評判がいい………ほら、ここだ」

「あいよ。また来るわ」

「おう」

 

 紙に道を書いてもらって軽く礼をして店を出た。で、なんでこの地図は距離が全て歩数で書かれているんだ? というか歩数でわかるとは…まさか数えたのだろうか。余程暇だと思われる。

 

 阿呆店主曰く、ここから左へ236歩丁度で着くらしい。一歩1mだとして230m程度だとなぜ書かないのかはまるで分からないが、もしかしたらボケ防止とかかもしれん。老いない妖怪となった俺だが、ボケないように俺もこうして何かしらを数字化して脳を活性化させたほうがいいのだろうか。

 

 書かれている通りに律儀に数を数えながら歩いていくと、本当に236歩で靴を売っている店に到着したその事実に俺は驚きを隠せねぇんだが……ピッタリで店の扉の前なんだけど、なんだこれ。怖っ。

 

 あの男の意外な特技?にちょっと体を震わせながら扉を開ける。カランとベルが鳴り響いた。

 

「いらっしゃいませ! おや、妖怪の方ですか」

「ああ。呉服屋の男からここで靴が買えると聞いてな」

「あの方ですか。確かに靴を扱っておりますので、ごゆっくりどうぞ」

 

 エプロンを着けた若い男が営業スマイルで出迎えてくれたが、なるほど、こいつが外来人であり現代日本からやってきた人間……何があったかは知らないが、科学の発展していない幻想郷で生きることを決めたのだから、それ相応の理由があるのだろう。

 

 それにしてもこの店も面白いものだ。現代で売られていそうなスニーカーなどが売られているのだから。

 

「随分と違うな」

「草履や革製の靴じゃない…ということでしょうか」

「まぁな。履きなれた草履と比べると、流石にこのタイプの靴は……あまり売れていないんじゃないか?」

「……ええ、まあそれでも洋服を着ているような妖怪の方がたまに買いに来てくれることがありますよ」

「何か理由が?」

「簡単に言えば能力があるのです。『靴を作る程度の能力』ですね。その名の通りで…なにか特別な能力を付与できるというわけではないですよ」

 

 そう苦笑しながら言う店主。クロックスが売られているのは流石に吃驚だ。

 暫くのんびりと靴を眺めているのだが、これ、大丈夫なのか?なんていう疑問が浮かんでくるデザインもある。

 

 ミッ○ーやくまの○ーさんとか、まるで中国版の猫型ロボットやアンパン顔、黄色いネズミや人形ロボット。この歪んだ顔やフォルムを少し変えたガン○ムに色々言いたいことはあるが、子供向けの靴だからまあ大丈夫だろう。ここ、幻想郷だしな。

 

 だが、流石にブッサイクなティン○ーベルを見た時は小さな悲鳴を上げた。こんな妖精見たくなかったわ…むしろ怖いまである。藤田○日郎の漫画とかに出てきそうな顔してるんだが…。

 

 一通り見終わって店主の所に戻ると、なにやら雰囲気が違うことに気づいた。別に翼によって靴を叩き落としたわけでもない。くすんだ翼が汚く見えたか?

 

「どうした?」

「いえ、その……」

「いや、別に言いづらいなら構わんが……それより黒のシンプルで動きやすい靴とクロックス、ブーツも一つ見繕ってくれないか?」

「やはり……あの、ちょっとお聞きしたいことが有るんですが…」

「なんだ?」

「いえ、簡単なことです。バイトをされたことはありますか?」

「バイト? まあ一人暮らしだったからあるが…コンビニと清掃、酒屋にデパート…まあ色々したな」

「………海外旅行などは」

「いや、無いな。アメリカとかには行ってみたいと思っていたが」

「きゅ、休日の過ごし方は!?」

「ゆ、友人とカラオケやゲーセン、バイトとまあどこかに遠出して食べに行ったりだが……」

 

 何故か食い気味に顔を近づけて聞いてくる店主に、ちょっと引きながら答えていく。大学生活は仕送りとか殆どなくてバイトで賄っていたが、割りとキツかったな。

 

 そんなことを思い出しながら一歩後ろに下がると翼ががさりと靴の棚にあたってドサドサと商品が落ちていく。それを拾おうと後ろを向こうとした瞬間、店主に肩をがっしり掴まれた。

 

「か、感激です! まさか他の外来人の方と出会えて、通じる会話がまたできるとは!」

「は? 俺は妖怪で……………ッ!」

 

 そこまで言って続きを言うことはできなかった。それもそうだろう、俺は既にこの男と決して幻想郷では通じない会話をしていたのだから。

 やってしまった……まさか何の違和感もなく人間の頃の話をしていたなんてな。恐らく、俺がこいつ自身を外来人と知っており、普段から聞き慣れた単語に違和感を感じず、妖怪になったのが最近だから無意識で答えていたのだろう。

 

 これはまずい…もし、他のやつに同じようなことがあれば必ずといっていいほど目立つだろう。妖怪の賢者にバレてみろ…何らかの害ありとか思われたら最後だ。

 

「……どこからだった?」

「タイプやシンプルなどを自然に言葉にし、クロックスや質問の答えで確信しました。鴉天狗が現代の人間生活を知っているとは思えませんし」

「まぁ…その通りだ。俺は妖怪で人間なんだが……誰にも言わないで貰いたいんだが?」

「勿論です。お茶でも用意しますのでお話でもしませんか?」

「応」

 

 カウンターで二人して椅子に座り、奥から出てきた女にお茶を貰う。この男、斉藤和真の妻らしく、惚れてしまったからこそ幻想郷に残る決意をしたらしい。どれだけ深い愛なのだという話だ。当の本人は幸せそうだからそれでいいのだろう。彼女に裏切られた俺からしてみれば、その本物の関係は羨ましいものだけどな。

 

 それからの話は結構有意義で、幻想郷では通じないような話もかなりあり、興味深そうに奥さんが話を聞いていた。幻想郷で生きてきたのは俺のほうが長いが、幻想郷で過ごしてきたのは和真の方が長く詳しいという奇妙な関係。人里のことや大まかなことは和真に聞くことができた。更に詳しいことは奥さんが話してくれたし。

 

 帰りは幾つかの靴を只で貰えた。生活には困ってないらしく、これからも話をすることを条件に貰ったものだ。ありがたい。また、お茶でも飲みにここに来ようじゃないか。

 

 

 

 

 




スマホ作ってもらうことに。にとりなら大丈夫。河童だもん。
後は適当に話の通じる相手がほしいなと思ってオリキャラです。


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03 カメラの初陣はビッグイベント

 

 

 

 

 

 あれから数日かけて布団や生活用品を整えていたら、にとりからスマホができたと連絡が来た。新しいワイシャツとズボン、靴に着替えてにとりの家まで飛んで行く。

 やはり着慣れた洋服の方がしっくり来るため気分も良くなるし、人間の頃に近い見慣れた姿になるのでストレスは大きく軽減した気がする。

 

 飛び慣れて尚、空を飛ぶ心地よさに飽くことなく、ブレイクやバレルロールといった空中戦闘機動をして遊びながら空を満喫する。

 汚れたかのような特徴的な翼でも問題なく飛べるのだが、やはり綺麗な方がいいと思うのは俺だけだろうか。他の鴉天狗を見てみても綺麗な翼の方が多く、天魔にでもなれば立派で美しい翼を持っている。まあ、会ったことはないのだが。

 

 にとりの家に近づいてきたので高度を下げて少し手前で降りて歩く。別に勝手に入ってもいいとのことだったのでドアを開け、靴を脱いでからにとりの気配がするところへ向かう。

 

 どうやら居間にいるらしいのでそこへ向かうと……中ではにとりが机に倒れ伏していた。どこからどう見ても事件の匂いがする状況だが、死んではいない。ここでダイイングメッセージでも机に書かれていたら、それはもう探偵が来てしまう事件に発展しそうなまである。仕方ない…俺が眠りながら謎を解いてやろう。ただ、それがちゃんと言葉に聞こえるかは謎。普通の人にはいびきにしか聞こえないかもしれないが、そこは他の探偵に依頼して解いてもらってくれ。

 

 まるで死んでいるかのように静かに眠っているにとりの前に座って、机の上に置いてある依頼していた物を手に取る。そこには細いチェーンの付いたシルバーのスマホがあり、俺が言った通りにタッチ画面にもなっているようで、電源をつけてスライドしながら色々見ていく。

 

 カメラを起動した後に音が出ないようにしてから、こっそりにとりの寝顔を激写。数枚ほど角度を変えて可愛らしい寝顔で寝ているにとりを撮る。

 

 撮れた写真を確認してみるが、本当に高画質であり、待受にも設定できた。いや、本当に河童の技術力というのは侮れんものだ。完璧な光学迷彩を作っている時点でドイツは余裕で超えている。

 

 小さな発電機も充電器も貰い受け、少しばかり弄ってみるがどうやって発電しているのだろうか……もしかしてS2機関でも積んでいるのだろうか。色んな意味で世界が変わるぞ。

 

 さて、このまま机でにとりを寝かせるわけにはいかないので、失礼を承知で担いで部屋に運ばせてもらおう。

 腰をあげ、スマホをポケットに入れてからにとりをお姫様抱っこにて持ち上げる。嬉々として発明をしているのでお姫様って柄じゃないだろうがこれが一番楽な抱き方だ。

 

 少し家の中を彷徨いてにとりの部屋を見つけ、中に入ってみると自室は発明とは関係ない少し可愛らしくもシンプルな雰囲気の部屋だった。そこにある布団ににとりを寝かせて書き置きをしてから出る。

 

 外を出て背伸びをすると軽く息を吐いた。

 

「ふむ、初陣は華々しく行きたいよな……ならば、異変とやらを調査してみますかね」

 

 スマホを取り出し、カメラモードで一枚パシャリと紅い空を撮る。いつの間にか世界は紅い霧で染まりきっていた。

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 まず俺が向かったところは人里であり、靴屋である和真のもとへ飛んでいった。道中は全て紅い霧で覆われて日光は遮られ、視界はそこそこに悪く少し飛びづらかったがなんとか里についた。

 

 里ではほとんど人が出歩いておらず、門番ですら居ない状況である。その代わりと言っては何だが、寺子屋の教師が警戒していたため今入れば俺は妖怪であるために排除されるかもしれない。そのため、能力を使い影に潜り込み、影から影へと移りゆくことで侵入に成功。便利すぎんだろ。

 

 和真の店の前で影から出現してカランとドアを開ける。流石に客はいないようだ。

 

「いらっしゃいませ…って、蒼夜か。こんな日にどうしたんだ?」

「こんな日だからこそだ。この赤い霧、何か知っているか?」

「いや、知らないよ。まあ座りなよ」

 

 椅子を出されるが俺はこの後も動くつもりなので軽く首を振って拒否する。

 

「すぐに出る。何か些細な事でもいいんだが……」

「とは言ってもね……ああ、この霧は体調を悪くするようだ。僕は大丈夫だが、うちの嫁さんが寝込んでいるよ」

「ほぅ…あとは出処が知りたいんだが、どうしたものか」

「もしかして、この異変を新聞に?」

「ああ。カメラを新しく作ってもらったから、初っ端飛ばしていこうと思ってな」

 

 そう言いつつスマホを取り出して揺らすと驚いた顔をした。幻想郷でスマホを見るとは思っても見なかったのだろう。

 

 それにしてもこの霧はどこから出現したのか…異変ということはここ最近で何か変化があったのだろう。しかし、残念なことに俺はそこまで情報通ではなかったのか、その変化がわからない。

 

「なぁ、ここ最近なにか幻想郷で変化はなかったか?」

「変化? ん~……そう言えば霧の湖周辺で妖怪の動きが活発になったとか、そこに吸血鬼が住み着いたとか」

「吸血鬼ね……そこで問題だ、吸血鬼と言ってイメージするものは何だ?」

「えっと、日光に弱い、霧に成れる、蝙蝠に成れる…って、ああそうか」

 

 和真も気づいたらしく、頷いている。そう、この異変は吸血鬼によるものだろう。吸血鬼は魔法にも精通しているし、日光が遮られていることから弱点をどうにかしてることや、幻想郷では新参のために何も知らない吸血鬼が妖怪を煽り、幻想郷を乗っ取ろうとしているなど、色々考える事ができる。

 

「んじゃ、俺は湖にでも行ってみるかね」

「大丈夫なのか…? 相手は吸血鬼、いくら鴉天狗でも妖怪の代名詞とでも言えうような相手に…」

「安心しろ。俺は戦いに行くんじゃないし、能力もある」

 

 それを証明するかのように机の影を虚空にゲートのように広げ、入る前に店の壁に掛かっていた狐面を外して振り返ると、仕方ないという風に笑ってどうぞと許可をくれた。鴉なのに狐とはこれいかに…一度だけ手を挙げて挨拶をして入っていく。繋がっているのは人里の外の木の陰だ。

 

 この影から影へと移動する技は中々に使える。明確な場所への移動範囲は一度行ったことのある場所や近くの認識できる影にだけだが、ランダムでいいのなら幻想郷全ての影を支配して何処にでも行けるだろう。

 

 それはさておき、影から現れた俺は翼にて上空を飛行し湖へ向かう。だが、その途中で二人ほど人が飛んでいるのが見えた。片方は紅白の巫女でもう片方は箒に跨った黒白の魔法使い然とした少女。あの巫女のほうが博麗の巫女だろう。

 

 あれが巫女とは……想像以上に若いな。いや、正月にバイトで巫女になる女性たちなら見たことは有るが、本場の巫女は見たこと無いから知らんが、十代半ばの若い少女が妖怪と戦うのか。なんかこれだと俺がおっさん臭いんだけど…これでも大学生。まだ二十代全然若い。大丈夫。

 

 今や巫女が空飛ぶ時代です。魔法使いも飛んでいるがまさかハリポタのように箒を使って飛んでいるなんて、魔法使いというものをわかっている。だが、今の時代の魔法少女は飛行術式でセットアップしてから生身一つで空を飛んでいるぞ。なんなら育成段階で殺し合ってるまである。まじかるーとかも。

 

 このまま飛び続けていたらあの二人に俺のことがバレてしまうのだろう。だからここからは走っていくことにする。

 

 別にバレても問題ないのだろうが、より多くの情報を得るのであれば自由に動ける身のほうがいいだろう。それに目立ちたくない。謎に溢れた新聞記者とか面白そうだろう? 何が面白いって鴉天狗なのに狐面被っているところだろうか。影で尻尾生やさないと(使命感)

 

 影を纏うことでまさに影のように存在を消し、妖力で身体強化してからかなりの速度で飛ぶ二人を追従する。靴を下駄から変えたことでより走りやすくなり、能力で感覚を強化したことで木にぶつかるなんて事は皆無とし、二人の気配をより強く認知できるようにした。

 

 進むに連れて赤い霧の濃度は強くなり、湖に着くと木々を抜けたことで視界が開ける。湖に出ても二人は上空を飛んでいるので問題ないが、走っている俺は一度止まる。

 

 写真を一枚撮ってから数瞬の思考の後、俺は走ることにした。湖を迂回するように走るのだが、これはもう全力全開だ。身体が壊れないように服と身体の間に影を行き渡らせて強化外骨格のようにし、影を動かすことで人工筋肉のようにパワーも最大限にカバーする。

 妖力で身体強化、足の裏からブーストすることで推進力を生み出して速度を上げる。これだけで速度は飛行速度よりも速くなるだろう。

 

「まぁ、試さないとわからないか……ふぅ……………」

 

 長く息を吐いてから思いっきり吸い込んだ瞬間、全身の筋肉と能力をフルで開放して走り出す。背後で盛大に土が抉れて巻き上がるが既に遥か後方だ。今まで感じたことのない速さについに音速に至ったのか、衝撃波と音が周囲に影響を及ぼす。

 

 流石にこれはまずいと思い一段階速度を落としておく。轟音に気づかれると厄介だ。

 

 ちらりと二人のいるだろう方向を見ると既に紅い館に到着していた…あの紅い館が吸血鬼の住んでいる館だろう。いい趣味をしている。まさに吸血鬼が住んでいそうな色合いと雰囲気だ。

 

 きっとあの中にWRYYYYとか叫ぶ吸血鬼がいるに違いない。あぁ、楽しみだな…ザ・ワールドとか使ってくるのだろうか。

 

 少し楽しみになりながらスマホを取り出して望遠鏡かと思うかのようなズームで門番らしき美女と魔法少女が戦っている姿を撮り、映像にも残しておく。まさかのムービーで録画中に静止画を撮れるというハイスペックさににとりには脱帽ものである。

 

 ようやく俺も館に着き、狐面を付けてから館の側面から中の影へと移りこんで侵入成功。ここからは能力をフルに使って本気で行く。

 

 影に身を落としてまるで泳ぐかのように館を進んでいくのだ。人が見ることのできる物体には常に影が存在する。その影は物体が続いているなら影も繋がっている。だから影から影へ跳ぶのではなく、泳ぐのだ。同様に館全土の影を支配することで館の構造を把握する。

 

 影の中から見ているので角度は制限されるが写真を撮るには問題ない。

 音がする方へと進んでいくと、そこは巨大な図書館だった。この図書館の高い本棚を見れば俺も本を漁って読んでみたいという欲求が生まれてくるが……このまま影の中に戦闘でこぼれた本を収納してもバレないのではないかという考えが浮かんでくる。

 

 まあ流石に片付ける時に分かってしまうだろう。でも一冊だけなら…と手を伸ばしたところで上空から何かが落ちてきた。

 

「おいおい危ないなぁ…本が傷んじまうぞ?」

「貴女が大人しく帰ってくれればそんなことにもならないのだけれど?」

「まあそう言うなって! こんなにも沢山本があるんだ、ちょっとくらい私が持って帰っても問題ないだろう?」

「泥棒に渡す本なんて無いわ」

「違うな、本を死ぬまで借りていくだけだぜ!」

 

 これは…魔法少女のドロワーズか。スラリとした脚とドロワーズが見えるがこれは仕方がない…なにせ俺が居た場所に魔法少女が落ちてきたんだから不可抗力だ。いくらスカートの中を覗けたとしても、ドロワーズには興奮ができない。色気のかけらもないな……。

 

 それにしてもそのセリフはなかなかどうしていいじゃないか。俺も死ぬまで借りていくということで本を持っていってもいいだろうか。

 

 そんなことを思っていると弾幕ごっこによる弾幕が俺の潜っている影に着弾する。魔法少女に向けて撃たれたものだろうが、それを避けたために俺の影に当たったのだ。しかし、中に居る俺には何の害もない。悠々とカメラモードで写真を撮り、メモ帳に出来事を記録し、情報を収集していく。ついでに声も録音しておいた。

 

「魔符『スターダストレヴァリエ』!」

 

 魔法少女から放たれる華々しい弾幕。あれがスペルカード……弾幕ごっこは綺麗さも必要なためか、男には興味が持たれておらず、弾幕ごっこをするのは専ら女性が多い。俺としては弾幕ごっことやらをしてみたいし、スペルカードも作ってみたい。カードを持っていないから何もできないのだが、あれ、何処に売ってるんですか? 売ってないの? あ、そう。

 

 それから色々なスペルを見て決着は魔法少女の勝ちで終わった。マスタースパークは弾幕ではなくレーザーだと思いました、まる。

 紫色の美少女も魔法を使っていたし、魔導書みたいなのを開いていたから魔法少女って呼べるが…というか名前も知らないと新聞を書けないということに気がついた。

 

 巫女は博麗霊夢だし、魔法少女も霧雨魔理沙といい巫女とセットで有名なので知っている。ただこの紫色の魔法少女は知らんのだ。

 

 霧雨魔理沙が図書館から消えた後、倒れ伏した紫魔法少女の容態がおかしいことに気づく。苦しそうに息をしており、呼吸音は細く弱い音。満足に呼吸ができないのか咳を辛そうにして涎が垂れている。あれは…喘息だ。

 

 急いで影から飛び出して紫魔法少女を抱きかかえる。喘息は俺も母親も持っていたので幸い対処ができるが、ここまで酷いと病院に担ぎ込みたいが……何らかの薬や対処法を確保しているはずだが、それを探す時間も惜しい。

 

 周りに誰かいないか確認するが、一人の女性が気絶しているだけで俺しか居ない。

 

「ヒュー……ヒュー……」

 

 掠れるような呼吸は今にも消えそうだ。喘息の対処は薬がいいんだが…今できることなんてたかが知れている。喉を温める、喉の湿度を高めるとかぐらいだ。

 

 ちょっと力技になるがやらないよりましだ。まずは服により締め付けられている胸を開放することで胸への圧迫感をなくして胸郭の可動域を確保する。

 

「おい、聞こえているか? 反応はできないだろうが、今からすることに後から文句を言うな。ちょっと服を緩めるぞ」

 

 声をかけると目が薄っすらと開くが反応を伺う前に胸元を開けると紫色の下着に包まれた意外と大きな胸が顕になるが、今はそんなものに反応するほど余裕はない。さらに服の間から背中に手を回してホックを外して緩めると胸が左右に開いて緩んだことがわかり、胸郭が動きやすくなる。別にその後に下着を取るわけでもないので許して欲しい。

 

 ここで呼吸介助をしてもいいが素人がするとどうなるかわかったものではないので止めておく。

 

「少しでいい、飲めるか? 喉を潤しておけ」

 

 次いで影の中から収納しておいた常温の水をゆっくり飲ませた。唇の端から溢れるがそれは逐一拭っていく。

 

 さて、喉を温めるのは妖力を手に纏わせて熱に変換し、首に当てるのだ。

 熱は冷たくなった身体に温かい手で触れられた時のような暖かさだ。それを喉を包むように全面接触になるようにし、圧は一切加えない。更に顎を少し上に向けることで気道を確保する。

 

 後やることは…リラックス肢位を取ることだろうか。リラックスできない姿勢だと無意識に体に力が入って筋緊張を起こし、体を固くする。そのせいで寝たきりの人は身体に拘縮を起こすのだが今は関係ないか。今は呼吸に問題が有るというのに呼吸補助筋が緊張していると呼吸は更に困難となるからな。

 

 影を彼女の下から操って踵、膝裏、背中、腕と隙間が無くなるように柔らかに埋めていく。片腕で上体を抱えるようにしていたが、影で上体も支えることで楽になっただろう。俺は腕を枕代わりにするだけでいい。そしてあとは呼吸方法だ。鼻から吸って口をすぼめて吐く。この口すぼめ呼吸で腹式呼吸も使うと更に呼吸がしやすくなる。これらを指導する。

 

「やれやれ……」

 

 手を喉に当ててたまに額や胸元に浮き出た汗を拭う作業をしながら溜息をつく。戦闘音は聞こえてこない。異変が解決したわけでもないので今はただ戦っていないというだけだろう。

 

 俺が図書館を眺めて居る最中、咳が落ち着いてきたが呼吸は未だ苦しそうな状態になると目を薄っすらと開けて、俺をずっと見ているような視線を受けるが気にしない方がいいだろう。頼むから、主犯格と戦うまでには収まってくれよ……。

 

 

 




経験ない人はわからないかもしれませんが、本気で喘息は辛い…


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04 地下室の少女

お気に入りが200から一日で1500程度まで上昇…マジでびっくりした。ありがとうございます。
あと感想もです。サンクス。

…感想欄、厨二とかなんとかで溢れてましたが、それを二次創作を読めるここで言っちゃう? 
や、私もそう思うけど! そういう歳じゃないから考えたこともあるけど! 黒歴史は辛いよな(吐血)……でも、名前くらいいいやんけ。ちょっとのお茶目くらい見逃して下さい。真面目な名前の小説読みたいなら本屋で買ってこよう(白目)

指摘に恥ずかしさがちょっと出てきて、私は悶ながらもこの名前で書いていく。む、昔よりましだと信じればなんとか……!


 

 

 

 

 

 喘息魔法少女の喘息が落ち着いてきたのでそのまま寝かせて次へ行くことにした。途中でどこからか戦闘音が聞こえたが静かになったので終わったのかもしれない。急げ俺。

 

 影を纏って戦闘音のしたところに行くとそこはホールのような場所であり、至る所にナイフが刺さっている。これだけ見ると殺し合いでもあったんじゃないかと思う光景だが、血が何処かに飛び散っているというわけでもないので誰も死んでないんじゃないか? 弾幕ごっこで死んだらそれも事件である。俺が新聞に乗せてやろう。

 

 取り敢えず写真を撮るのはもはや現場に対する礼儀。このネタを撮らないのは失礼だ。勝手に断りを入れて勝手に受諾されたと思い込んでおくが、安心して欲しい。尊厳を損ねるような記事は絶対に書かない……と思うので。盗撮? ちょっと何言ってるのかわからない。

 

 そしてそのホールには一人の女性が階段を登っていた。後ろ姿だが銀髪でミニスカートから覗く真っ白でスラリとした美脚……そしてメイド服である。まさかのミニスカメイドである。男子諸君は歓喜するに違いない。もう後ろ姿からしてスタイルはいいとわかり、美人だとわかる。再度言うがメイドさんである。やっふぅ!

 

 俺も年頃の男の子…メイドさんは普通に好きだ。傷だらけで今にも倒れそうな程フラフラしている後ろ姿を静かにパシャリ。無音カメラはいい仕事をしてくれるぜ。

 

 と、その時。今までで一番の轟音と揺れが館を襲いかかり、天井に刺さっていたナイフがカラカラと床に落ちている。これはあれだ、多分博麗の巫女が親玉と戦っているのだろう。この異変で一番の見所をしっかり収めないといけないが……

 

「きゃッ!?」

 

 まずは後ろから階段を落ちようとしているメイドさんを助けなくては。揺れで足を滑らせて転倒しかけたメイドさんの背後に一瞬で移動し、衝撃を極力消すようにして受け止める。

 

「え…?」

「大丈夫か?」

「あ、はい…ありがとうございます………侵入者ッ!?」

 

 お礼を言ったかと思うと俺を押しのけるようにして距離を取り、いつの間にかナイフを所持して此方に敵意を向けている。やはり想像した通り綺麗な顔立ちをしている。アイドルも裸足で逃げ出すレベル。もし話しかけられたら勘違いして告白して振られるだろうな。…って、振られちゃうのかよ、俺。

 

 いかん、そんなことより敵意はないと言うことを示さなくては……そう思い、取り敢えず無難な両手を上に上げるという行動を行うと、意味がわかったのか戸惑いを感じられた。

 

「取り敢えず落ち着け。俺は敵ではない」

「……侵入者が敵じゃないと言って、貴方は信じられますか?」

「無理だな。だが、もし敵なら博麗の巫女達と協力しないと、しがない鴉天狗は吸血鬼に瞬殺されるぞ?」

「では、なぜここに?」

「ああ、俺は新聞を書こうと思っているのだが、異変を記事にしようと思ってな。遅かれ早かれ幻想郷中に知れ渡るんだ…尾鰭が付く前に俺が真実を伝えたほうが、お前の主の評判的に良いんじゃないか? 今後、幻想郷の住人に受け要られやすくなるだろうよ」

「……………………」

「不安か? 出来上がった新聞はお前に渡しに来る。あとは…絶対にお前の主には手を出さないと誓う。俺も死にたくないしな」

「………………本当に敵対行動はしないのですね?」

「しない。敵対するのなら今頃弱ったお前は俺にやられているぞ? 階段から転げ落ちるのも眺めていたはずだ」

 

 飄々と答える俺に本当に敵対心がないとわかったのか、やっとナイフを下ろしてくれた。

 

「いいでしょう。しかし、余計なことはしないで下さい。掃除が大変ですので」

「了解した。ああそうだ、できれば詳細な情報を新聞に載せたいから、このメモ帳にこの館とメンバーの情報、異変を起こした理由など色々書いておいてくれないか? 俺は博麗の巫女との戦いを見に行くが、帰りに取りに来る」

「このことをお嬢様には……」

「言わなくていいだろ。言っただろう? 遅かれ早かれ散らばる情報だ」

 

 無理やりポケットから取り出したメモ帳とペンをメイドさんに手渡してからホールを出て長い廊下で影に潜る。ただ、戦闘開始に間に合わなかったので、せめて音声だけでもと思って影を繋いで録音だけしておいた。

 

 「こんなに月も紅いから、本気で殺すわよ」はいいとして「あなたは今まで食べてきたパンの枚数を覚えてるの?」はどこかで聞いたことのあるセリフである。吸血鬼っぽくていいとは思うが、声が幼い少女の声音だ。

 そう言えばメイドさんがお嬢様と言っていたが…もしかして吸血鬼は女? しかも少女。それでも普通の鴉天狗なら吸血鬼相手に敵わんだろうがな。能力全開なら負けはしないとは思う。尚、勝てるとは言っていない模様。

 

 影を伝って屋根へと向かってみれば紅い空に浮かぶ紅い月の下、博麗の巫女と一人の少女が戦闘を繰り広げていた。翼からしてあれが吸血鬼だろうが…幼い。妖怪だから見た目より年は取っているだろうが博麗の巫より幼く見える。DIO様みたいなのを想像していたんだが、只の美少女だった。

 

 確かに戦いは吸血鬼を思わせる力強さもある。それに対抗する博麗の巫女もかなりの強さだ。正直、真正面から向かっていって俺が勝てる相手ではないだろう。まぁ、俺がまともな戦いをするわけないのだが。

 

 新聞のネタとしては十分だろうが、そこまで特筆するようなことはない。それよりも俺が最初っから気になっていることがある。影により館を把握した際、地下に一つ大きな部屋があり生命反応が確認された。それはなにかと部屋の中を影だけで覗こうとした。

 

 そして……部屋を見ることができた瞬間、影のある場所一帯が破壊されて見ることができなくなった。

 

 あの部屋にはなにかがある。俺は博麗の巫女と吸血鬼の少女の戦いを最後まで見届けて情報を収集してからその地下へ向かうことにした。

 此処から先は新聞などは関係ない。ただ、俺が気になるから向かうのだ。俺が居るわけでもなく、気配を発しているわけでもないのに消されたことが気になるから行くのだ。

 

 もう場所は把握した。わざわざ地下への入り口から律儀に入るなんてことはせずに一気に影へと飛んでいく。

 

 ゆらりと影から出現した俺は地下にある部屋へと出ることができた。

 薄暗い部屋の中を見渡すと、壊れた人形、血の匂い、少量の家具、分厚い本、そして一人の少女が人形を抱えて座っていた。

 

「……………こんばんは。お前か?」

「こんばんは。私だよ?」

 

 にこりと笑う少女が俺の質問の意味を理解して肯定する。やはり、この少女が破壊したのだろう。

 金髪の少女は背中に輝く宝石のようなものをぶら下げた翼を持っている。恐らくこの少女も吸血鬼なのだろう。

 

「それで、いきなり現れた狐で鴉なお兄さんはだーれ?」

「……狐鴉(こあ)でいいさ。お前は?」

「私? 私はフランドール・スカーレット! フランでいいよ!」

「そうか。そう言えば上の方で色々やってたんだが、お前は参加しなくても良かったのか?」

「う~ん、いいんじゃない? 私はここで495年も幽閉されてたし、上のことはわかんない!」

 

 無邪気に笑う少女、フランは人形をぎゅっと抱きしめてそう言った。それにしても495年も幽閉? こんな何もない場所でそんなにも長い年月を過ごすとは…暇人か。

 

「幽閉とは穏やかじゃないな。理由はあるのか?」

「ん~、なんか私が狂気に侵されてて危ないからって閉じ込められたらしいよ」

 

 ……は? 狂気に侵されてて? 危ないから495年も外に出ることなく地下に幽閉? 外を知らないからこんなにも幼い? 

 

 何かがおかしい……何かが引っかかる。

 それは先程出会った瞬間から感じられた……あの無表情がここまで無邪気に笑えるのか。495年も幽閉されて笑っていられるのか? 壊れてしまったから幼くなっているのは確かに普通の考えだろう。

 

 しかし、この子は…もうかなり昔に違う方へ壊れてしまっているのではないか? 壊れたことを自覚して今を振る舞っているように見える。じゃないとあの仮面のような笑顔は……そうだ、あの無邪気な笑顔を俺は何度も見たことがある。それは彼女に裏切られ続けていたとき……俺に笑っている顔は全て作り物だった。あの顔に非常に似ている。

 

「ねえ、何考えてるの?」

 

 そう言われて顔を上げる。少しの間考え込んでいたようだ。いつの間にかフランが目の前に来て俺の顔を覗き込んでいた。

 

「なんでもない」

「そう? それよりさ、せっかくだから私と遊ばない?」

「遊び? まあ構わんが……弾幕ごっこか?」

「ううん、それよりももっと楽しい遊び! 叩いて、斬っテ、抉ッテ、ツブシテ…ネェ、アソビマショウ……?」

 

 笑顔は変わらない。それでも目は黒く染まり、中心が紅くなって…まるで狂気に染まったかのような………。

 俺が蹴りを放つのとフランが妖力弾を放つのは同時だった。放たれた弾を上体を倒すようにして避けると同時に蹴りを放ってフランの胸を蹴ると、ベッドの向こうへと落ちていった。

 

「モウ、イッタイナァ……女ノ子ヲ蹴ルナンテ、酷クナイ…?」

「酷くないな。いきなり殺し合いを仕掛けてくる相手に、優しくなんてできんよ」

 

 後方をちらりと見てみると、弾幕によって壁が大きく凹んでいた。あの威力では当たれば只ではすまない。

 初めての殺し合いに緊張が高まり、神経が次第に研ぎ澄まされていく。同時に能力によって感覚を最大限まで強化して如何なる事にも対応できるようにする。

 

 感覚を奪ったり、影で拘束したりと簡単に終わらせることはできるだろうが、何故か()()フランには意味が無いように思える。

 

「ジャア、今度ハワタシノバンネ!」

 

 狭い部屋の中で大量に弾幕が展開されるが、射出されたそれを全て生み出した影の剣で叩き斬る。地面から生えた影の先端が剣状になって斬り捨てているのだ。

 弾幕じゃ無理だとわかったのか、弾幕はそのままに身を低くして跳ぶように飛び掛かってくるフラン。痛いのは嫌いだから接近戦は勘弁してほしいのだが……フランの右手の貫手を、伸びきる前に肩を叩くことで無効化する。だがそれで終わるはずもなく、今度は左手の小さな拳を腹に向けて打ってくるが、右腕で内から払うことで迎撃し、大きく隙きができたところでフランの右腕を左腕で絡めるようにして固め、取り敢えず打ち込みやすい鳩尾、心臓、人中に拳を叩き込み、最後に蹴り飛ばす。ジークンドーとかその他諸々習っててよかった。マジで。

 

 フランが再び蹴り飛ばされたことで弾幕は一旦消え、俺との距離も空く。先程の数秒にも満たない攻防…いい感じに叩きのめしたかのように見えたが、流石吸血鬼、バトルセンスは優れている。

 

「アハハ……イタイヨ……」

「よく言う。全て当たる瞬間に後方に身を引いてまともに喰らわなかったろう?」

「ソレデモ、腕ハ壊レチャッタヨ?」

 

 右肩と肘のことだろう。固めたまま蹴り飛ばしたことで壊れたらしい。しかし吸血鬼だ、もう治っているようじゃないか。ズルいものだ。

 戦ってわかったが速度も力も尋常じゃない。俺が妖力で強化、影で強化外骨格を作ってやっとの戦いだ。

 

 そして…フランはそんな俺すらも更に超えていく。感覚を強化しているお陰で反応はできた。既に目の前にいるフランの下から抉るかのようなアッパーを顔を上げることで避けるが、そのアッパーより更に速い正拳突きが腹に刺さる。

 

「――ッ!!」

 

 声にならない叫びを唾とともに吐き出して身体は壁に激突する。大きくクレーターを作って轟音が鳴った。

 前のめりになる身体を踏ん張って支える。それでも強化外骨格のお陰で目立つ怪我は負わず、衝撃だけが体を叩いた。

 

「ゲホッ…チッ、痛いのは嫌いなんだがな……」

「アハハハハハッ! 凄イ、スゴイヨ! アレデ壊レナイナンテ!」

「ハッ、これでも俺はもやし並みに脆いからな。これ以上は流石にキツイぞ」

「アハハハッ! モット壊レチャエ!」

 

 

 ――禁忌『レーヴァテイン』――

 

 

 炎を纏った時計の針のようなものが下から掬い上げるように振られ……俺は炎と衝撃に襲われる。鳴り響く破壊音が、落ちてくる瓦礫が、充満する熱気がその恐ろしさを物語っていた。あまりの威力に地下から地上まで一気に破壊しつくされたのだ。

 

 

 

 




戦い…上手く伝わるかな? 文章力半端なく低いから自分じゃ気づかない。


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05 静かで孤独な少女の見えたもの

待ってないとは思いますがお待たせ。


 

 

 

 

 崩れ落ちる地下から一気に飛び立ち、離脱する。あのレーヴァテインとかいう歪な杖の攻撃を影に潜ることで避け、巻き上がる粉塵と共に姿をくらまして地上に出たのだ。

 

 粉塵を抜け、廊下に降り立った瞬間、横から現れたのはフランのレーヴァテイン。横薙ぎに振るわれたそれに足元の影を伸ばして受け止めるが、ぶつかりあった衝撃だけで吹き飛ばされて壁を破壊し、どこかの部屋に転がり込むと同時に仕込みは完了。

 

 空いた穴から現れたフランは再びレーヴァテインを振るう。これは流石に素手では受け止めきれないので影を実体化させて作り出した剣を握り、受け止める。

 

 ただ、それだけじゃお転婆なフランは足りないらしい。スカートが捲れ上がるのも気にせずに蹴りが放たれるが、これも伸びきる前に支軸となっている反対の脚を最小限の動きで、速さだけを追求して蹴り払い、姿勢が崩れたところで震脚と共に掌底を放つ。

 

「ふぅー………まだできるか。流石吸血鬼といったところ」

「ゴホッ! マダマダ余裕ダヨ……?」

 

 血を大量に吐き出して嗤う少女。確かに、狂気じみた光景ではある。そんなフランがレーヴァテインを持ち上げた時に、色々と人物が粉塵の向こうから現れた。この館の住人と巫女と魔法少女だ。

 

 それに気づいたフランはそちらを見るが、俺はその視線と一瞬見せた表情に違和感を覚える。

 

「ッ! フランッ! 貴女なんで……貴様ッ! フランに何をした!」

 

 あの吸血鬼は俺に吠えているのだろうか。

 

「ウルサイナァ……初メテミエタ人トノタノシミナノニ……」

 

 初めて見えた? 何の話だ……?

 俺の小さな疑問をよそにフランは俺へと話しかけてくる。

 

「ネェ狐鴉オニィサン……アレ、ドウニカデキル…?」

「まぁ、できんことはないが……」

 

 フランが親指で入ってきた連中を指す。確かに邪魔になりそうなのでどうにかしておこう。この機会に殺し合いは辞めてしまいたいが、どうしても何か引っかかるようなものが気になって仕方がない。こいつらが入ってきてまた一つ、進んだ気がしたのだ。

 

 他の奴らに腕を振るう。それと同時に俺とフラン以外の全員が崩れ落ちて指一本動かせなくなる。

 

「か、身体が動かないぜ………」

「き、貴様…鴉風情が何をした…!」

「フランの要望に答えただけだが……体性感覚、前庭感覚、固有感覚など…言えるのはこれだけだ」

「ヘェ……」

 

 簡単に言えば触覚や平衡感覚、運動覚などを乱したことにより立っていられなくなったのだ。触覚や圧覚が乱されているので今自分が何に触れているかすらもわからないはずだ。

 それらのことがフランにはわかった。やはり、この子は賢い。馬鹿でもなく、幼くもなく、無邪気とは程遠い……なるほど、大体わかってきた。

 

「ソレジャ、再開ダヨ…ッ!」

「少しは休ませてくれよ、っと!」

 

 レーヴァテインによる刺突を剣で受け流し、弾き飛ばすことに成功するとともに俺の左腕も横からの小さな手に叩かれて剣を手放してしまう。そこからは格闘戦だ。技も何もないが、反応できる感覚と強化された身体、今までテレビや動画で見てきた戦いのイメージを無理やり反映させて食らいつく。

 

 一息に数十発の攻防が繰り広げられ、それらは全て前腕で防いだり、横から叩き落としたり、受け流すことで一撃も互いに加えることはかなわない。

 フランが小さな身体を活かして懐に入り込むと同時に足元に回し蹴りを放って俺の体が宙に浮く。そこに貫手が来るが、流石にそれはやばいので普通ならありえない、翼を広げて押し付けるようにして視界を遮り、その隙きに体を無理やり捻って着地。同時に足元の影から十本の影の杭が射出され、フランの脚を前後左右から射抜いて固定する。

 

 まだ終わらない。これは殺し合いだ。

 

 部屋のあらゆる影から剣状の影が伸び、前後上下左右とあらゆるところからフランを射抜き……振り切るようにして影を動かすとフランの体は粉々になり、血を撒き散らしながら肉片を床に落とし、破壊された頭から脳漿が飛び出して金髪を汚す。

 

「フランッ! 貴様ァァッ、殺してやるッ!!!」

 

 そんな叫びが聞こえ、殺気が叩き付けられるとともに……俺の視界は左右に別れた。頭から股まで両断されてずれ落ちたのだ。そこにはレーヴァテインを振り抜いたフランがいる。粉々になった肉片の反対側…俺を挟んだ場所に居た。それを俺は()()()から見ていた。

 

「イツカラ…ワタシガ一人ダトオモッテタノカナ……?」

 

 俺の死体を見てそんなことを言うフラン。なら、俺も言ってやろう。

 

「いつからそれが俺だと錯覚していた?」

「ッ!?」

 

 フランの背後からそう声をかけると、驚いたように勢い良く振り向いた。

 

「俺は壊れてなんかないが? ああ、それと…あと何人居るんだ?」

「………スゴイネ。ドウシテワカッタノ…?」

 

 カマかけてみたんだが本当に残もう一人が現れた件について。そしてもう一人が消えると同時に床の妙にリアルな肉片も消えていく。同時に俺も死体を消すと、ズブズブと死体が影に沈み込んで一体化した。

 

「勘だな。だが恐らく…俺が初めてあって、そして蹴り飛ばしたときには既にそうだったんじゃないのか?」

「ソノトオリダヨ。オ兄サンハ?」

「この部屋に転がり込んだ時に仕込んだ。影とはもう一人の自分であり魂でもある。所謂ドッペルゲンガーだ」

 

 宗教的な話になるが……まあ、ここは幻想郷。そして理屈では語れない能力。例え影武者だろうとドッペルゲンガーだろうともう一人の自分と何ら変わらない。

 

「やはりお前は賢いな。あの一瞬…最初から仕組まれていた戦闘だった。お前はいつでも俺を殺すことができた」

 

 トントンと俺自信の胸を叩いてみると、フランは既に腕を上げており、手を握ると同時に俺の体は破壊された。

 

「そして俺もいつでもお前を殺すことができた」

 

 フランの背後から影の獣が食い尽くす。デッドスパイク先輩あざす。だが、フランは再び部屋の穴の向こうから現れ、倒れている奴らを跨いで此方にやってくる。粗いが騙し、騙されの戦いに周囲の奴らは唖然としている。一番驚いているのは吸血鬼の少女、レミリア・スカーレットだろう。まさかフランがこんな戦闘をするとは思ってもいなかったってか? やはり、お前の知っているのは表のフランか。

 

「それと、いい加減に狂気に侵されている……という演技をするのは止めたらどうだ?」

「……どうしてわかった?」

 

 スッとフランの目がもとに戻る。それと同時に無表情になり、本当の顔に戻った。目は光がなく死んでいるかのように暗いものだ。

 

「お前の戦いには知性が有りすぎる。狂気とは程遠いものだ」

「……どこから、どこまで?」

 

 小さく無機質な声で聞いてくる。

 

 最初の違和感は俺がフランを視認して向こうも同時に俺に気づいた瞬間に無邪気さを出してきたところだろう。一瞬見た表情は今と同じ、何にも興味を持っておらず、何も考えていないかのような顔だ。その裏、思考速度はずば抜けて速いようだが。

 いや、それより前にもあったな。俺の影が壊されたことだ。これは先程俺を壊したのと同じで能力によるものだろう。それでも俺が覗いていた影を認識する時点で既に幼い無垢で無邪気な少女とは言えないわな。

 

 次。495年も幽閉されているということ。お前が見せた無邪気な笑みは確かにその495年の間の何処かで本当に見せていた笑顔だろう。だが、果たして子供が長い年月そのままの自分でいられるか? 精神が弱点である妖怪が? 無理だろう。閉鎖空間で隔離されていれば幼い少女は何処かで壊れる。俺でも壊れる自信はある。誰でもそうだろう…子供の精神はそこまで強くない。

 

 フランの壊れ方は周りの全ての事に興味を無くすことで、興味を持ってそれが叶わないという絶望を敢えて遠ざけることで心を保っていたが…それが定着してしまったことで無感情になったんじゃないか? 本能的に幼いままで居て誰かに構ってもらう、愛してもらう状況をいつまでも待ち続けて結局壊れ果てるより、無感情になって現状を維持する方がいいと無意識に感じたのかもしれんな。

 

 他の奴らを欺いて自分を助けていた。過去に、顔を見せ、外に出す手段も救う手段も持っていた相手に何を言っても無駄だと分かってしまったから。拒絶され続けると自我すら崩壊して何も考えられなくなりそうだから。でもいつしか自分にも興味がなくなった。俺と話している時、自分のことなのに閉じ込められたらしいよと言った時の声…驚くほど無機質で淡々としてたぞ? 無意識か?

 

 こいつらに対する演技も違いがわからないほどだったんじゃないか? 現に嗤う仮面にも気づいていなかったのだし。無関心、無感情故に対処する出来事に関しての思考はずば抜けていた。それだけを考えることができるから。他の余計な思考は元より持っていないから。……空っぽのまま日常を過ごすのって楽しいのかね。

 

 決定打はこいつらが入ってきた時の一瞬見せた無表情。その目は何も映っていなかった。何年も一緒に過ごしたはずのこいつらに対して何も感じていなければ、何も思っていないから、無機質な視線を送れたのだろう。

 

「だが分からないことが一つだけある。初めて見えたとは、一体何だ?」

「……凄い。全部正解。初めて見えたって言うのは、狐鴉お兄さんが言った通り私には何も見えなかった。全てが等しく無価値で興味がなくて…だから何も見えなかった。今までそこの倒れてる物とのことも何も覚えてない。何かあったのかもしれないけど、仮面を消した私に戻ると全て覚えてない。だって興味が無いから。でも、狐鴉お兄さんだけは消えてない」

 

 そう話すフランの瞳には確かに俺だけしか映っていない。しかしなぜ…初めて自分を開放してくれるかもしれない存在だから? いや、それはないか。

 

 能力か? 感覚は関係ないだろう…影? 

 心理学的に影は否定を意味する。物事に興味を持たないことを否定とするならば、俺に対する影だけ薄まり否定されずに心に残った? その時に無意識下での自我による防衛がとかれて俺のことだけ否定しなかった。

 

 だがそうだとして、何時だ。今のフランだとわかった時に無意識に能力が……? わからない……。だが言えることとしてはちょっと不味い事態になったということだけ。

 空っぽの心に俺という情報を受け入れてみろ。それが唯一であって一番大きなものとなる。刷り込みと同じような感じになるのだろうか…依存されるということか?

 

 今のフランにもう殺し合うなんてことは見られない。恐らく、この戦いで今言っていたことを確認していたんじゃないだろうか。

 

 しかも衝撃発言があったぞ…恐らくレミリア・スカーレットはフランと姉妹なのだろうが、その姉妹に対しても今まで過ごしてきた住人に対しても倒れてる()って言ったんだが!

 

「そ、そうか…それについての答えは出ているのか?」

「……大凡。でも全部わからなくてもいい。問題はないから……」 

 

 その理由については興味がないってか。

 

「と、取り敢えず俺の悩みは解決したし、俺は帰ることにする」

「…………ぇ」

 

 死んだような目が更に濁った気がする。腐りに腐っている。

 

「用事があるからまた来る」

「…………ん」

 

 ぽんぽんとフランの頭を撫でてからメイドさんのところに向かい、持っていたメモ帳とペンを拾い上げる。確かに睨まれても仕方ないが…いずれフランはこうなっているというのはわかっただろうさ。

 

 メモ帳の一枚を破って、そこに俺がフランに会う経緯と俺のせいじゃないこと、こうなることは予想外だったこと、流石に壊れたフランのことは関係のない俺に責任は押し付けられたくないこと、精神状態などを考え、フランのことをよく考えてみることをこっそり書いておいた。紫色の魔法少女と二人きりで話すのがおすすめだとも。恐らく、この二人が客観的に考えることができるはずだ。レミリア・スカーレットはまともに考えることは駄目かもしれん。

 

「悪いが、後はよろしく頼む」

 

 メイドさんにだけ聞こえる声でそう頼み、俺が影に沈むと同時に感覚を元に戻す。その後のことは流石に俺はわからない。あぁ、疲れた……。

 

 

 

 

 

 




このフランちゃんは壊れ方が少し違います。
何も知らないから幼いのではなく、何も知らないが故に一人であることに、様々な物事に対して恐怖が生まれ、崩壊する前に無意識的に精神が自己防衛を導き出したため、無感情になった。
こういった可能性もあったと思うんですよね。
齧った程度の知識なので拙い考えなので、深く考えずに軽い気持ちで読んで貰っていいです。


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06 見回りという名の散歩

お久しぶりです。このまま行くと確実に失踪までを疾走しそうですわ。ま、いいか。
今回はのんびりと。椛登場です。


 

 

 

 

 

 

 家につくと同時に気が抜けたのか布団に倒れ込んで寝てしまったらしい。起きたら既に朝になっており、その朝日によって目覚めた。

 買い替えたことでふかふかとなった布団から出るが、今はもともと夏なために掛け布団も何もない。今日はのんびり新聞でも書いて過ごすつもりなので布団の上でぼんやりとしながらスマホを弄る。

 

 撮られた写真や動画を観返し、録音されたセリフを聞き流す。新聞は高校の頃に新聞部の助っ人して何度も書いていたので要領はわかるし、今回はネタも豊富で情報も不足していないから行き詰まることはないだろう。

 

 くすんだ色の湯呑みに妖術により生み出した水を入れて飲み干す。冷え切った水を生み出したのでこういった夏の日は妖術は便利なものだ。

 

 さて、新聞でも書き始めますかね。机に肘をついてペンを持ったところで部屋の扉がドンドンと叩かれて軋む。止めろ、唯でさえ古いんだ、そのまま壊れたらどうしてくれる。

 

 ため息を吐きながら扉のもとまで行き、小さく開けて目だけを出して外に出てみると、そこには大きな翼を持った天狗がいた。大天狗だ。

 

「すまんな、寝ていたか?」

「いえ…丁度起きたところですが……何か御用でしょうか?」

「うむ。山の見回りをしていた天狗が体調を崩してな…お主に代わりにしてほしいと思ってな。のんびり散歩気分でやってくれんか?」

「了解しました」

「すまんな、谷萩(やはぎ)。こういった仕事は下っ端に回ってしまうからな」

 

 俺が未だ下っ端の下っ端だというのはわかりきったことなので大天狗相手にも下手に出て命令を聞かなければならない。この大天狗は性格はいい方で気さくに部下に話しかける。俺みたいないてもいなくても変わらないようなやつ相手にもこうして話しかけ、最後に頭をわしゃわしゃと撫で回して去っていった。

 

 記憶からしても嫌いではないので大人しく言うことは聞いて山の見回りに向うことにした。別に見回りをしながら内容を考え、休憩がてら新聞を書けばいいだけだ。それに侵入者なら白狼天狗が見逃さないだろうし、俺も一応影を行使して見張っておく。

 

 着替えてから外に出るがやはり暑い…それでも山であるので涼しさは感じられ、アスファルト熱地獄と比べると全然ましだ。風の通らないコンクリートジャングル、太陽光で溶け始めるアスファルト、熱で歪むレールと電線、消えない陽炎。それに比べて山最高。髪を紐を使って後ろでまとめ、頭のサイズにあっていない大きな麦わら帽子を被れば気分はピクニック。

 

 木陰を縫うようにゆったりと山を進む。道なき道とは言え、草で塞がれたような小さな山ではなく、木によって作られたかのような巨大な山であるため歩く場所は確保されている。普段から誰かもここを歩いたりするのだろうし、獣や妖怪も歩くだろう。

 

 暑くなり、木陰で休んで影の机で新聞を書き、再び散歩を開始してまた休んで新聞を書いて……これを繰り返して行くと山の半分ほど歩いていた。未だ侵入者はない。

 

 文章が苦手な人用の半分の新聞は書けた。これは小説を書く感覚でかけたので楽しいものだ。そして大人用のきっちりとした内容と文章も頭の中で既にまとめていたので淡々と書き進めるだけで割と早く書き終えた。何が良かったって大自然に包まれながら書くことができたからだろう。

 

 自作の小説は幻想郷ではちょっと変わったラブコメチックな小説。今日の風景として岩に上体を乗せてぐでーっと寝そべっている熊の絵。まるでリラックマの熊を描くが、描き終わるまでぐでーっとしていた。毛皮が暑そうだ。

 

 その大人しいリラックマに乗って川へ行き、リラックマが魚を獲り始めるのを眺めつつ四コマを描き始める。ポンポンと飛んでくる丸々と太った大きな鮎や桜鱒。リアルリラックマは桜鱒を生で、俺は鮎を貰って内蔵を取り出して捌きそこら辺の木の串を洗ってから刺して焼く。火は妖力で出せばいいだけだ。

 

 パチパチと焼ける鮎と桜鱒を食うリラックマを傍らにのんびりと過ごす。

 ああ、いいなぁ……これだよこれ。夢にまで見たこの生活。これが続くなら、俺はもう帰れなくてもいいかもしれない。そして見回りの仕事を俺に回してもらってもかまわない。

 

 程よく焼けた鮎に齧りつくとパリッと皮が鳴って油が弾ける。普通の一般人だった俺が鮎になんか手を出せるはずもなく、天然モノなんて夢のまた夢。そして、その夢は今ここで叶った。

 

 焚火を囲う鮎を一枚写真を撮って満足。のんびりと素材本来の味を堪能しながら木陰で背中を大木に預ける。何もないって素敵。殺し合いなんて最低。

 大量に獲られた鮎をどんどん焼き、焼けた鮎を俺が食ってリラックマが食う。投げ渡すと器用に咥えて食べるのだ。それにしてもこの熊、なんて熊? まあいいか。

 

 というか襲ってこないのか…暑すぎてそれどころじゃないのか? 知らんけど。

 

 やがて鴉と幽霊、吸血鬼を題材にした4コマ漫画も描き終わり、後は印刷するだけになった。もう新聞が書き終われば此方のものだ。異様な速さで書き終わったが、余すことなく今回の異変について書き記した。流石にフランのことは書いていないが、博麗の巫女が乗り込んで主犯格と戦ったというところまでだ。

 

 改めて読み返してうんと一つ頷き、リラックマの目の前に広げて読ませてうんと頷いたのを見てから影の中に出来立てほやほやの新聞を収納しておく。ここで持ち歩いて何かあったら目も当てられん。泣く自信しかねぇよ。そしてなぜ読めた。

 

 もう一本と鮎を抜き取って食べ始めたところで一人の少女が木々から抜けて川へと出てきた。白い犬耳と尻尾、白い髪に整った顔立ち。何あの子可愛い。何がいいって、そりゃアレだ。美少女に犬耳と尻尾がセットされていたらそれはもう無条件で可愛いというものだろう。  

 

 その白狼天狗の少女は此方に気づいたらしく近づいてくる。いくら下っ端な俺とは言え白狼天狗に何か言われることは滅多に無いんだがな。幻想郷がどうなのかは知らないが、歴史から見ても白狼天狗の扱いは低く、人間相手にも働いていたとか。まぁ、見るからにここはそんなことはなさそうでは有る。

 

「あの…初めて見る方ですが、見回りをなさっているのですか?」

 

 なるほど、哨戒仲間は流石に覚えているのか、俺みたいな今日だけのやつが居ると気になったから来てみたのか。

 

「ああ、見回りを任されたが今日だけだ。いつもしているやつが体調を崩したらしいから大天狗が俺にやってくれとな」

「なら、こんなところでサボっててもいいんですか?」

「いいんだよ。大天狗からは散歩気分でのんびりやってくれと言われたし…人里の人間が滅多に妖怪の山に入ってくるわけないだろう? 来る前に知性の低い別の妖怪に襲われるだけだ」

「それもそうですが……」

 

 未だ納得していないのか口を小さく開いては何かを言おうとするが、気にすることなくリラックマと魚を食べている俺に何も言えなくなる。俺だけならわからないがそばに立派な熊がいることがわけわからなくて接し方に戸惑っているのだろう。

 

「それに……今は昼時だ。天狗の仕事は昼に飯を食う時間すら与えられないほどキツイものなのか?」

 

 新たに抜き取った鮎の刺さった串を白狼天狗の少女に放ると慌ててキャッチした。それを見てから再び俺の魚に齧りつくと、犬っ娘は小さく礼を言ってから傍に座って食べ始めた。

 

 この子も腹が減っていたのか、尻尾と耳は勝手に動いているようで満足いただけたようだ。

 俺は数匹食って腹は膨れたので残りの焼けている数匹は少女に全て譲った。よく焼けた魚の頭までバリバリと食べているところを見ると、やはり狼なんだなとわかる。流石に俺は頭も骨も食わん。喉と口の中が血だらけになりそうで怖い。

 

 暫くするとリラックマが目を覚ましてのそりと起き上がると、ゆっくりと何処かへ歩いていった。ネットで熊に襲われて食われた死体の写真とか見たことあるが、あのリラックマは本当にリラックスして近くにいたリラックマだったな。フィギュア化されたら買うレベルで可愛い。抱きまくら化を所望する。

 

 リラックマも去ったことだし、俺も散歩に戻るか。

 

「あ、もう行かれるのですか? それなら一緒に周りません?」

「いいのか? 俺は散歩みたいなものだが…」

「大丈夫です。何かあれば能力で分かりますし、正直、私ものんびり歩くだけだったので……」

 

 こいつ、最初に人のことサボりとか言ってたよな。やってることは俺と何ら変わらないじゃねぇか。もはや哨戒の任務というより本当に見回り兼散歩になっている。

 

「……好きにしろ」

「はい。遅くなりましたが、私は犬走椛です」

「あぁ……俺は谷萩蒼夜だ。で、犬走は「椛でいいです」…なら蒼夜でいい。椛はいつまで任務をしている?」

「えっと…酉の刻までですね」

 

 午後五時までか。後四時間もこの山だけを歩くと考えると面倒だが、この山は全てを探索し終えるのは数日を要するだろう。角ばった岩壁が見えるような山ではないので歩けるところまで歩くことができる。例えできなくても飛べばいいだけだ。

 

 取り敢えずこの河童のいない細い川を上流に向けて歩いて行くと、後ろから小走りで椛がやってきて横を歩く。仲間だからだろうが、こうも初対面の奴と仲良くできる椛のコミュ力に脱帽である。俺なら無理。オンラインでソロプレイは基本である。オンラインなのにオフラインと変わらないというのはなんなのだろうか。仕方ないね。

 

 のんびり一時間も無言で歩き、木が一段と太くなり、幹に苔が生えてくるような場所まで登ってくると夏を疑うくらい涼しくなるが、それでも心地よい程度だ。生い茂った葉により木陰ができて熱い日光は細い線になって射す程度となってきた。

 

 木々を抜け、小さな滝のようになっていてそこから静かに流れ落ちる水が見えると、髪を靡かせる位に強く心地よい風が吹いてくる。ここがこの川の起源で俺たちの散歩の終着点だろう。

 

「あー………あー…」

 

 吹いた風により麦わら帽子が飛んでいき、それを見上げて見送って、落ちて川に乗ってどんぶらこと運ばれるのを更に見送る。あー↑あー↓という感じだ。ついでに紐も解いておく。

 

 まあぶかぶかで頭と顔をすっぽり覆うほどであり、すぐにでも飛んでいきそうだったし、なによりボロかったので別に追う必要性も感じなかったために見送った。さらばだ、帽子よ。拾われるか引っかかるか、それまで少しばかり流れる桃の気分を味わうがよい。

 

「あらら…蒼夜さん、拾いに行かなくてもいいn…文さん?」

「ん? 誰か来たのか?」

 

 椛が何やら此方を見てそう呟いたので、俺もそれに習って後ろを振り返って見てみるが誰もいない。嘘、この子俺に見えない何かを認知している…! 第六感は流石に存在する感覚ではないので俺も支配できないぞ。どうやって見えない何かを見ればいいんですかね?

 

 俺の知覚情報からは何も得られないので椛に聞こうと思い、その場所からどけて隣に行って聞くことにした。しかし、椛は何故か俺の方を目を大きくして見つめていた。おいおい…まさか俺の肩に憑いてますよとかいうやつか…?

 

「どうした椛…俺の後ろに何か居るのか? 居るのなら教えてくれ。全力全壊をお見舞いしなければならん」

「ぁ…いえ、何もいませんよ!? 別に幽霊とかじゃないです。ええ、本当ですから妖力を収めましょう!」 

 

 なんだ、何もいないのか。既に迎撃するための妖力を手の上で放出し始めていたんだが、別に焦るほどのことでもないだろう。ちょっと手の周りの空間が軋んだだけじゃないか。

 

「ならなんだ。言っておくが、俺は男だからな」

「あ、はい。そうではなくて、知り合いに瓜二つだったので……蒼夜さんは切れ長の目で髪が少し長いですが、本人かと思いました。機嫌の悪い時にそっくりです」

「……俺はこれが普通だぞ?」

「分かってますよー。同じ天狗なら噂くらいになってそうですが、なんでですかね…?」

「…………………つい最近まで引き篭もりでしたが何か?」

「べ、別にそんな意味で言ったんじゃないです! だから尻尾引っ張らないで………わふんっ!?」

「あ~……」

 

 あ~↓

 

 ――バシャンッ

 

 なんかお前は地味で暗いやつだからどうせ誰にも気づかれないほどのヤツなんだろう(被害妄想)という心の声が聞こえた気がした(気のせい)ので、腹いせに尻尾を握って引っ張る。想像以上にもふもふで気持ちいいが、椛は驚いて飛び上がってしまった。

 

 そしてそのまま眼下の川に落ちていった。重そうな剣と盾を持っていたので暫く浮かんでこない。このまま死んでしまって事件になるかもしれない。親戚の警察官が死体遺棄された山の川が綺麗だったから、今度魚釣りにでも行ってのんびりしないかと言っていた。キンキンに冷えたビールを持っていくとも。勿論行きました。

 

「ぷはぁ!」

 

 残念、浮かんできた。大きく息をしているが……どうして美少女の濡れた姿はエロいのだろうか。濡れて頬に張り付く髪とぽたぽた落ちる水。張り付いて魅力的な体の線を見せ、豊満な胸を強調させる。エロい。

 

 そんな椛さんが水を含んだ妖力弾を投げてきたので仰け反るようにして避けると、上の枝に当って弾け、雨のように降ってくる。そして………

 

「道連れです!!!」

「うぉっ……」

 

 いつの間にか足元に椛が居て脚に抱きつくようにしてから再び川に飛び込んだ。自分だけ濡れるのが納得いかなかったから俺で巻き込んだみたいな……子供か。

 

 勢い良く川に叩き付けられて咄嗟に広げてしまった翼が大きく叩きつけられてメキッと音を立てた。まるで腹を水面に叩き付けながら飛び込んだときのような痛さ。顔面からもマジで痛い。

 

 そこそこの高さだったためか結構水の中を進んで、白い泡が上に上って消えていくと、髪を水に遊ばせ笑顔の椛が見えた。なんだかんだで夏の川に飛び込むなんてないからな。都会となればそんな機会は全くなくなり、大人になれば川の危険性や汚さ、寄生虫などに恐れて飛び込むなんて考えすら消えていく。

 

 今潜っている川は透明度が素晴らしく、綺麗な水で汚さなんて考えることもできない場所だ。火照った体を冷たい川に飛び込んで冷やす。童心に返ったかのような気分。そして大自然の中、川の冷たい水に存分に飛び込んで楽しめるとは…なんと心地よいことか。流石に気分が高揚します。

 

 水の中で見せる綺麗な椛の笑顔と今の状況、そして心地よさに顔が緩む。おそらく、幻想郷に来て、妖怪になってから初めて見せる心からの本心…純粋な笑顔なんじゃないだろうか。

 

 何やら顔を赤くした椛がばたばたとして、慌てて水面に浮上するのを微笑ましく思いながら水中で眺める。どうしたのだろうか。もしかしたら息が続かなくて苦しかったのかもしれないな。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

「それにしても、気持ちよかったな」

「そうですね~。また行きませんか?」

「そうだな……エロ可愛い椛の姿も見えたし、いつでも呼んでくれ」

「あ、あれは事故です!!」

 

 見回りなんて無視して遊んだ俺達は、空が紅くなってきたので帰ることにした。濡れた衣服は妖力で吹き飛ばしてびしょ濡れではないようにはしてある。侵入者は影からもなんにも伝えられてこなかったので居なかったのだろう。

 

 遊んでいる途中で椛のスカートが紛失したり、大事な部分はギリギリ見えなかったが横乳ポロリ事件だったり……勿論、防水性能抜群のスマホで撮らせてもらった。慌てても無駄。消すなんてことはないんだから。

 まぁ、他にも色々椛の遊んでいるところや興味を持った椛に使い方を教えて逆に俺が撮られたことや……いい記念になった。待受はにとりから水の中でピースする笑顔の綺麗な椛に変更だ。

 

 きっと、この写真や他の写真を新聞に載せると大人気になって告白地獄へと……載せないけどな。

 

「んじゃ、俺の家はここだから」

「ここが蒼夜さんの……なんというか……端っこですね」

「別にボロくて小さいのは事実だから遠慮せずに言ってくれても構わんぞ? 言ったろう? 俺は下っ端も下っ端、雑魚は端に追いやられるのさ」

 

 椛の言った通り、俺の家は連なる天狗の里の家々の一番下の一番端……天狗止めて里から出ようかと迷うほどの場所だ。勿論、他の天狗も好き好んでここに来るわけないので人はおらず、静かなものだ。しかし別の山で家建てて住みたいレベル。まあ落ち着くからいいんだが。

 

「何か俺に用があればここに来てくれ。居ないときもあるだろうが……椛なら歓迎する」

「分かりました。それでは私もこれで……今日は楽しかったです」

「俺もだ」

 

 去っていく椛を見送ってから家に入る。河童印の機械で十数部の新聞を印刷してから家でものんびりすることにした。明日にでも和真や呉服屋、にとり達に持っていってみよう。

 

 

 

 

 

 




女顔で描写を考えるのが面倒だったので、適当に文に似ているということにしておきました。うん、流石私。超適当。


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07 まずは家に帰りたい、でも帰れないかもしれない天狗さん

 

 

 

 

 

 シャツとズボンというラフな格好で靴を眺めながらお茶を飲む。

 翌日、和真の店で新聞を渡して読んでいる間に俺はのんびりお茶を飲んでいた。

 

 和真は外来人である。故にこいつは外の新聞を知っているし、文庫本なんてものも読んだことがあればイラストも目にしていただろう。そんな和真に読んでもらって感想を貰うのだ。

 

「おぉ…本当に新聞になってるね。ゴシップ記事なんかじゃない、正確な情報。懐かしいな……」

「そうか?」

「うん。真面目なネタには真面目な文章を…ここらへんはしっかりとした新聞になってるよ。何気ない日常の…それでも話題になりそうなネタは読みやすくなってるけど…これは文章が苦手だったり若い人向け?」

「そんなところだ。一応、異変の記事のところも簡潔にだがわかりやく書いておいた」

「ほうほう。詰め込んだねぇ……このイラストは?」

「文章だけだと味気ないから描いてみた。幻想郷にこういった風景がありますよ…的な? 今日の風景みたいな感じで」

 

 まあ新聞は毎日書くわけではない。一ヶ月に数度か、一週間に一度。別に天狗の間で行われている新聞の大会みたいなのに出すつもりはない。情報収集ついでにあとで読んで振り返ることができ、面白く読み返そうと思ったら新聞が良かっただけだ。写真も載せれるしな。

 

 それをついでに読んで貰おうと思っただけだ。読んで貰うのであれば相手にも読みやすく、俺も読みやすいようにする必要があった。 

 

「上手すぎだ。それに写真もよく撮れてるし……この四コマなんてクオリティが高い。子供向けかい?」

「子供がせがめば親は断りにくいだろう。マネキンのバイトで学びましたっと。しかもただで貰える新聞だ。どうせなら…と、取り始めると、より多くの人に読まれるようになる」

「考えてるね。この小説もだよね? 恋愛小説に持っていくつもりだろう?」

「女性も男性も……全体的に見て人間界の新聞とは違うから、オリジナルの新聞だな」

「いいと思うよ。書けたら僕にも配ってくれないかな?」

「了解。感想きかせてくれ。良ければ数部置いていく…知り合いにでも配って、暇つぶしがてら読んでもらってくれ」

「いいね。早速渡しに行こうかな。異変のこと、気になってたし」

 

 それまで取っていて、今日も朝から配られたらしい『文々。新聞』をパサリと棚に置いてから和真は立ち上がる。この新聞はゴシップ記事のような雑誌感がある新聞なので娯楽気分で読めるだろう。俺のは娯楽的なところもあれば、しっかり読みたい人も読めるものにしている。長くなっても幾つかの記事に分け、写真を乗せれば飽きないと思われる…多分な。

 

 店を出る時、和真の奥さんに「小説と絵と漫画、楽しみにしてますね」と言われた。笑顔でこう言われて少し気分を良くして外に出た。

 

 狐面をつけ、記者『狐鴉』として呉服屋に行く。予め呉服屋の主人と和真達には新聞は狐鴉が書いていると言ってある。それで、呉服屋は店に人が居たから新聞だけ放り投げておいた。新聞のことは言っているからな。

 

 さて、次は……と人里から抜け出て空を飛ぶ。にとりにちょっと読んでもらってからフランのところに行こうか。たった二日程度だが、今の紅魔館がどうなっているのかわからない。スカーレット姉ことレミリアは妹の実態を知って正気でいられるのか。

 

 今まで笑顔で元気よく対応してきれくれた妹が実はああだったと知ったら、絶望に堕ちるだろうか。それでもフランがバレないあの演技で笑顔を見せれば大丈夫なのだろうか。全てが俺のせいだと責任を押し付けられて殺しに来るとかはマジで嫌だ。フランの姉だろう? あれより強いとか死ねるぞ。

 

 まあいざとなれば感覚を支配して動けなくし、影で悠々と逃げればいいだけの話。予めドッペルゲンガーで行くか?とそんなことを考えながらにとりの家の前に降り立つと、丁度にとりが何処かから帰ってきたところだった。

 

「あれ、蒼夜…だよね? なんで鴉天狗なのに狐面被ってるの?」

「にとりには言ってなかったな…俺は『狐鴉』として新聞を書いているんだよ。狐鴉の正体は秘密ということで……それで、今日は新聞でも読んで貰おうと思ってな。感想を頼む」

「新聞! いいよいいよ、読ませてよ! 蒼夜が書いたのかぁ…楽しみだ」

 

 にとりに家に入れてもらい、居間でお茶と菓子を貰って代わりに新聞を手渡す。

 嬉々として受け取った新聞を読み始めたにとりに少し新聞が大丈夫か、気に入られるかと不安になるが…外来人だった和真に褒められるくらいだ。大丈夫だろう。

 

 仮面を外してお茶を飲み、ボーッとにとりを眺めながら時間を消費する。

 

 それにしても…まだ少人数しか見ていないが、幻想郷の女性の顔面偏差値は高すぎる。スタイルもよく太っているやつを見ていない。太ったおっさんなら人里でみかけたのだが。

 

 紅魔館組はそうだが、椛も目の前のにとりも綺麗な子だ。むしろ俺に不細工な奴を見せて欲しいものだ。鏡を見ろ? 女顔だが大丈夫…だと思いたい。誰も何も批評してこないし、安心してもいい……と思っておこう。

 

 そう言えばと思ってスマホも取り出しておく。昨日椛と川で遊んだ時に完全に水没しているため、念のためににとりにメンテナンスでも頼んでおこう。河童が作っているのだから防水性能は抜群だと思うが、一応だ。

 

「うん、いいじゃん。しっかり伝えたいことを丁寧に伝えてるし、面白いところもあれば続きが気になる内容も書かれてて……文句なし! これなら幻想郷でも楽しんでもらえると思うよ」

「そうか? それならよかった」

「ぶっちゃけ文の新聞より内容はしっかりしてたし、読み応えがあったけど……名前とか色々、この情報ってどうしたの?」

「その内容は紅魔館に住んでいるメイドの十六夜咲夜に直接教えてもらった。寧ろ俺はいつその天狗が取材して新聞にしたのかの方が気になるんだが…」

「あはは。文ってば速さだけは凄いからね」

 

 異変の翌日に新聞が出来上がって配られていたとか……なんだその速さへのこだわり。島風か。

 

「ああ、それとな、スマホが完全に水に浸かったから大丈夫なのか気になるんだが……」

「それなら大丈夫! 河童は水の中によく潜るから防水面だけは天下一品だよ! 現に問題なく使えてるんでしょ?」

「確かに異常はないが……それなら良かった。流石にとりだな」

「えへへ~。あ、スマホ取りに来たとき、布団まで運んでくれてありがとね。何日も徹夜してて限界だったんだけど、蒼夜を待ってる間に寝ちゃってさ」

「別にいいさ。勝手に部屋に入ってしまったのも悪かったが……なにより可愛らしい寝顔が見れたしな」

 

 ほら。と言うように撮ったにとりの寝顔を選択して画面に映し、にとりに見せた。瞬間、真っ赤になって「消してよ~!」と叫びながら突撃してくるにとりに、立ち上がって上に上げて取れないようにする。ぴょんぴょんとジャンプするにとりの胸が跳ねて、時に俺の胸にあたる。本人は気づいていないようだし…なにこれ天国か。

 

 ついに転けて俺の方向に倒れてくるにとりを受け止め、離してから落ち着かせる。もう無駄だとわかったのだろう、頬を膨らませて睨んでくるだけだが何も怖くない。

 

「それよりも新しく作って欲しいものなんだが………」

「ッ! へぇ、何かな? また楽しませてくれるの?」

「似たようなのがあれば悪いが…掃除を自動で行ってくれるものだ」

「ほうほう。また面白いアイデアを持ってきたね…」

 

 興味津々のにとりに話したのは、そう…皆ご存知の掃除をしてくれる丸いあれ。ル○バだ。畳でも問題なく掃除してくれるようであれば尚良し。そうだ、家に時計がなかったし、ついでにデジタル時計でも作ってもらおう。流石に電波時計は無理だろうけどな。電波無いし。

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 にとりと話し込んでいたら昼になってしまったので、にとりの家で昼食を食べてから紅魔館へ向かう。

 

 狐面を付けて今度は霧の湖を堂々と飛んでいく。少し遠くで妖精らしき子達が遊んでいたが、遠いため此方に気づいてから向かってきても俺は既に更に遠くへ行っているだろう。

 

 夏の日差しを反射してキラキラ光る水面に、飛びながら手を付けたり翼の端で水を切るようにする。これも一度でいいからしてみたかったんだよな…冷たくて気持ちがいい。

 

 湖が終わる頃に飛ぶのを止めて歩き、紅魔館へ向かう。見えてきた門には門番である紅美鈴が立っており、暑そうにしている。そして近づく俺に気づくと、敵意はないものの睨みとともに出迎えられた。

 

「狐鴉さんですね……咲夜さんから来たら通すように言われています。どうぞ、お通り下さい」

 

 そう言われてちらりと門番を見てから無言で横を通り過ぎるが……その間もそれからもずっと睨まれていたのか、視線は途切れることがなかった。

 

 門から正面扉までを歩いて扉を勝手に開かせてもらうと、異変の際にナイフだらけだったホールとメイド服で綺麗に佇んでいる十六夜が出迎えてくれた。流石に二日やそこらで直っているわけでもなく、ボロボロだ。

 

「お待ちしておりました、狐鴉様。早速ですが、話し合いのための部屋へと案内させて頂きます」

 

 綺麗なお辞儀をしてから踵を返して進んでいくので、その背中に着いていくようにして俺も進む。長い廊下は戦闘が特になかったのか綺麗なままだが、途中で俺とフランが戦った場所を通る。

 

 壁に穴が空いて他のところも崩壊しているが、床の瓦礫や粉塵は撤去されていて歩きやすくなっていた。未だ掃除が継続されているのか、メイド姿の妖精が箒と塵取りを持っているが、俺達が近づくと慌てて礼をして通り過ぎるまで頭を上げなかった。

 

 そして俺が案内されたところは応接間のような部屋。中には少し豪華な作りのソファーとイス、テーブルがあり、暖炉の上などは陶器類が飾られている。あの戦闘の揺れで落ちなかったのか…気合の入った壷だな。

 

「ソファーに座ってお待ち下さい。他の方々を呼んで参ります」

 

 そう言って十六夜は一瞬で紅茶と茶菓子を用意して机に置き、一礼とともに消え去った。用意された場所のソファーに座る。

 

 瞬間移動……にしては物を用意するには早すぎる。気づいたときには既に置かれた状態だったことから……時間を止めたという方が適切か。あのメイドも十分チートじみているが、何より思ったのは、吸血鬼のレミリアが止めるのではなく、メイドのお前が時間を止めるのかということ。ザ・ワールドもお前がするのかよ…ちょっと残念だ。

 

 上手すぎる十六夜の淹れた紅茶を堪能していると、ドアが開いて続々とこの館のメンバーが入ってくる。そこには知らない顔もあれば、先程見た門番の姿もある。

 

 無表情のフランが俺に気づくとわずかに表情を変化させ、心なしか雰囲気を嬉しそうにして近づいてきた。そのまま俺の隣に座って腕に抱き着いてくる。そんな変化したフランを見て各面々は微妙そうな顔をした。

 

 座るメンツを見るが……レミリアが居ないな。そんな俺の疑問に気づいてかどうかは知らんが、紫色の魔法少女、パチュリー・ノーレッジが口を開く。

 

「今、レミィはちょっと……あれなのよ」

 

 そこで俺は一つ頷く。フランが無表情でいた事から結局、あれ以来バレたのだから演技の必要がなくなって意味が無いと判断したのか、フランは何も反応を示さなくなったのだろう。そんなフランにレミリアは撃沈。情緒不安定とかそこら辺かもしれん。そりゃ他の奴らが睨んでくるわけだ。

 

 この中で睨んでいないのなんて、ノーレッジと十六夜くらい。いや、残りなんて二人しかいないけどな? 門番と翼を生やした悪魔チックな女性だけだ。

 

「さて、まずは十六夜との約束通り新聞を渡す。これは既に知人に読ませたが…構成的にも内容的にも問題なかったらしい」

「へぇ…新聞なんて書いてたのね」

「まぁな。とは言え、これが第一版だ」

 

 影の中から取り出した新聞を十六夜に手渡すと、持っている十六夜だけが読み始めた。あと…俺の横から袖を引っ張られる感覚があった。

 

「…どうした。お前も読みたいのか?」

「……ん」

 

 新聞に興味があるらしい……いや、俺が作ったから興味があるのか。感情の一切見えないフランは服装にすら今更どうでも良くなったのか、ミニスカートに白い半袖シャツ、それと金髪を適当なゴムで後ろでまとめているだけのラフな姿だ。あの着飾った姿が嘘のようだな。

 

 新聞を渡してからノーレッジに色々聞くことにした。あとフランの頭が丁度いい位置にありすぎて肘置きにできる。何も言わないしいいか。

 

「そう言えばノーレッジ、喘息はもう大丈夫なのか?」

「パチュリーでいいわ。ええ、今は大丈夫よ。あの時は本当に助かったわ……こぁも…小悪魔も気絶してて、貴方が来なかったらあのままだったらどうなっていたか考えるだけで恐ろしいわ。ある意味、命の恩人ね。ありがとう」

「いや、いいさ。俺も喘息を持っていて偶々対処法を知っていただけだからな。それよりあの時に服を脱がせたり下着を外したりと……あっちの方が悪かった」

「ふぇ!? あ、あれは仕方がないからいいわよっ!! それより忘れてちょうだい!」

「いやいや、あの扇情的な姿は中々忘れられないだろう。男に抱きかかえられて? 首や額とは言え触られ? 服も脱がされて胸を見せる……凄い場面だな?」

「わーーーッ!!!」

 

 炎が出るんじゃないかというくらい顔を赤くしたパチュリーは皿の上のクッキーを叫びながら投げつけてくる。それを仮面の下でくつくつと笑いながら全てキャッチしていく。そんなに興奮するとまた喘息が出るぞー。

 

 いきなりのパリュリーのご乱心に俺を睨んでいた二人は困惑し、十六夜すら一度顔を上げて此方を見ていた。フランは一切反応しなかったが。

 レミリアを塞ぎ込ませ、今の紅魔館をこんな風にし、フランを無感情にしたと思い込んでいる二人にとっては、なぜパチュリーがこんなにも敵と仲がいいのかに困惑しているのだろう。

 

「そんなに興奮すると喘息が出るぞ」

「狐鴉のせいでしょうが!」

「え、わ、私ですか!?」

「は? あぁ…貴女じゃないわ。あいつが狐鴉って言うのよ。大方、狐に鴉と書いてこあと読むんでしょう」

「当たりだ。新聞記者『狐鴉』で行こうと思っている」

 

 どうやら先程反応した女性が小悪魔であり、俺と同じ呼び方をされているようだ。

 

「ああそうだ。あのあとフランはどうだった?」

 

 俺の聞いたフランがどうだったと言うのはフランがどのような対応をしたかということだ。それがわかったのか、パチュリーは顔を顰めて答えてくれる。

 

「……貴方の言った通りよ。本当に何にも興味を示さず、何にも反応しなくて、ハイライトオフの無表情。与えられた新しい自室でずっとベッドに座ってどこかを眺めているだけ。今までのが嘘のようにね。さっき貴方が来たと言われて私達の前では初めて動いたわ」

「ふむ…やはりか。もう機械的に対応しなくてもいいと分かったからだろう。お前らが馬鹿みたいに騒いでいた狂気は?」

「わかってて言ってるわよね? 無感情のフランに狂気なんて存在するわけないじゃない。どうせ目も魔法でどうにかしてたんじゃないかしら?」

「そうか。なら……レミリア・スカーレットは?」

 

 そう聞いた瞬間、門番が一番反応して勢い良く立ち上がり、俺に向かって叫び出す。

 

「貴方が妹様を変えたせいでこうなったんですよ! あのあと、貴方が消えてからお嬢様はずっと妹様に話しかけたけど……一度も見ることなく、答えることもなかった! それこそどうでもいいとすら思うことなく、初めからなにも無いように振る舞って! 貴方が来なければ! お嬢様は、お嬢様は…………」

 

 泣きながらそう叫んでくる門番だが、正直俺に言われても仕方がない。俺がいなかったとしても、いずれは気付かされたはずだ。幻想郷に来るまで何も変わらない日常を過ごしてきた…しかし、ここに来て異変をしたことで必然的に動き始めた。

 

 おそらく、本当に俺が何もしなくてもレミリア自身がなんとかしようとして……違和感に気づくだろう。他にも再びやってきた巫女や魔法使いによりきっかけが生まれるかもしれない。俺が来なければ今まで通り……そんなこと、幻想郷に来た時点で、異変を起こした時点でありはしないのだ。

 

 なによりレミリア自身がフランのことをどうにかしようとしてきたんじゃないか? 異変を起こした理由の一つに含まれているとメモには書いてあったぞ。

 

 俺が十六夜に帰り際に渡したメモについて、パチュリーと十六夜はしっかり話し合ったのだろう。正直、俺はこの二人しか知らなかったから、この二人で話し合えとしか言えなかったんだが、まあいいか。

 

「狐鴉のせいじゃないわ…狐鴉が来なくても、遅かれ早かれここに来たことでいずれはわかったことよ。その時、狐鴉のようなフランの心に残る存在なんて有ると思う? 私は無いと思うわ。そのまま空っぽのままでこの状態になって反応すら見せなくなったら、きっとそれは生きてるだけの人形。その点、狐鴉が来てフランと接触してくれたのは奇跡のようなもの…狐鴉が居てくれるだけで、まだフランに希望は残っているの。偶然に偶然が重なっただけかもしれないけど……私はそんな彼を憎むなんてできない。それに、命の恩人だしね」

「初めての相手だし?」

「それはもういいでしょ!」

 

 再び真っ赤になるパチュリー。

 まぁ、本当に俺の能力が勝手に干渉していたせいだから、奇跡に近いものなんだろう。妖怪の賢者のような能力であればどうにでもできたかもしれないが、果たして頼み込んで応えてくれるかどうか……まるでわからない。

 

「……よく思い返せば、私は一度たりとも名前を呼ばれたことはありませんでした。それに、しっかりと目を合わせたことも」

 

 新聞から顔を上げた十六夜がそう言う。そう言われれば確かに、記憶にない人物のことをフランが名前で呼ぶはずもないか。

 

「そう考えると、気づくべき点は沢山あったのかもしれませんね。一緒にいて気づかない私達と、今の状態を壊したけれど一度で看破した狐鴉様…………」

 

 十六夜の言いたいことはわかる。一体どちらが悪かったか……気づいたところで十六夜がどうにかできたとは思えない。ずっと一緒に居た姉ですらなにも知らなかったのだ。

 

 心という空っぽの容器に俺という水を一杯まで入れると空き容量はない。俺が行動するきっかけになり、俺が話しかけて反応し、俺が何かを言うことで遂行し、俺のために何かをしたいと考えるだけ……フランは強く俺に依存していると思っていい。今も、受け止めたことでズボンにこぼれていたクッキーのカスを、フランが取り除いて拭いてくれている。床の欠片には何もしていない。

 

 そんなフランに別の人物の情報を入れようとなると……まぁ、隙間を作らないといけないわな。その作るのも俺だろうけど。長い時間がかかるだろう……能力でゴリ押してもいいかも。ただ、俺という情報に染まりきったフランにもう影はないかもしれない。むむむ……どうしようか。

 

「まぁ、今答えが出ることはない。今は俺のせいでフランが壊れたなんて言う間違いを正し、責任を転嫁されなければそれでいい。幸い、パチュリーと十六夜は分かってくれたようだし……それだけでいいさ。納得出来ないならそれでいいだろう。それより先にレミリアのことだ。俺がフランを連れてアクションをかける」

「そうですね……私も全面的に全力で協力させて頂きます。この館にいる間は狐鴉様のお世話をさせて頂きますので……なんなりとお申し付け下さい」

「……主より俺に世話をするということは、お前じゃ手がつけられないほどか?」

「ええ、今のお嬢様は……」

「今のレミィは心は壊れきってないけど、フランに近いわ。それでも絶望があるだけ思考はできる。それだけフランのことを常に想っていたから……」

「それなのに他人の俺が気づいてしまうとは……皮肉なことだ」

「ハッピーエンドで終わったとしましょう。それでも、最悪……レミィにも依存される可能性は高いことだけは考えておいて」

 

 …………絶望からすくい上げた俺に依存してくるか。そういう状況もありえなくはない。いや、可能性としては高いだろう。

 ここで第三者を持ってきても、フランをどうにかすることなんてできなから、レミリアが救われることはない。フランが自力で治るなんてこともありえない。うわ、俺がするしかないじゃん。鴉天狗なのに吸血鬼の館の当主になるなんて未来だけは回避しよう。俺の能力のバカ野郎。

 

 溜息をつく俺に、表情を変えずに光のない目で心配そうに見てくる、新聞を読み終わったフラン。そのフランに腕に抱きつかれ、手を細いながらも柔らかな太ももに挟まれてびっくりし、小さな胸に腕を挟まれて更に吃驚。つい頭を小突くと腕を離すが、嫌われたと思って絶望したかのようなフランへ……正直、面倒くさくなってきた。絶対に時間かかるだろ。今度は家に帰れないかもしれん……。

 

 

 

 




感情のままに叫んでもらう役目は美鈴に頑張ってもらいました。正直、誰でも良かったんですけどねー。


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08 やっぱり帰れないかもな天狗さん

お久しぶりですね。
最後に投稿したのはいつだったか…知らない間に感想も来ていて…有難うございました。

多分、これが最後になるんじゃないかという予感がしております。多分ね。


 

 

 

 

 閃いた。フランが俺に関することで反応を示すなら、俺がレミリアに興味を持っている体にして接触し、構い続ければいいだけの話。フランが居ればレミリアも暴れはしまい。

 

 ただ、懸念事項としては……レミリアばかりに構い続けている俺が、周りからロリコンだと思われないか、だ! 

 取り敢えず俺のことをロリコンだと少しでも思ったやつは影という名の深淵にぶち込みの刑に処す。

 

 フランをキスショットもとい忍のように俺の影の中に潜ませて、フランが居ない状態でレミリアに会ってみることにした。

 

「此方がお嬢様の部屋になります。あれ以来、お嬢様は誰とも話をしていません。勿論、私とも……狐鴉様、宜しくお願い致します」

「まぁ、会うだけ会ってみるさ。他のメンツは頼んだ」

「はい」

 

 十六夜にも世話をかけるが、しっかりしていて動けるのがこいつしか居ないから仕方がない。十六夜が消えたのを見届けてからノックを数度して、返事を待たずに扉を開ける。どうせ反応はないだろうと予想してだ。

 

 中に入ると暗い部屋の中でレミリアが寝間着でベッドに座っていた。長座位姿勢で座っているレミリアは光のない目でどこか遠くを見るようにボーッとしていた。

 

 これがレミリアの部屋……高級そうなベッドと簡素ながらも装飾のされた部屋。俺の部屋より広いんだけど? 喧嘩売ってんの? 買うぜ? 言い値で買っちゃうぜ?

 

 ベッドだけで俺の部屋の大半が埋まりそうだな、なんてことを考えながらレミリアに近づき、手頃な椅子がないので勝手ながらベッドに腰掛けさせてもらう。

 妖怪だからなのか暗い部屋の中でも問題なく見えるが、近づけば更にレミリアの状態がわかる。ボサボサの髪に濃い隈。窶れた表情はこれから面倒くさいことになるだろうということがわかる。これ、反応するのか? 

 

 そんなことを思っていたのだが、意外にもしっかりしているのか喋り始める。原因とも言える俺が来たからだろうか…それとも能力が勝手に発動したんだろうか。今回は能力は関係なさそうだけども……。

 

「分かっているのよ……私もそこまで馬鹿じゃない、貴方のせいじゃないわ」

「そうか……俺のせいだと言われて襲われる覚悟はしていたんだが、安心していいようだな」

「私が悪いのよ…分かった気になって、何もできなかった私が………」

 

 そう、掠れた声で呟くように、自分に言い聞かせるように言った。

 わからんでもない。身内が何か不幸にあった時、自分の身内だから大丈夫なんていう意味の分からない言い訳をして安心させ、いざニュースやネットなんかで見るような悪化して死んでしまったなんて状態になったらどうなるか。

 

 俺の父親もくも膜下出血になり、短期間だがそこが峠だと言われ、その時に俺は何も緊張することも不安になることも無く、まるで他人ごとのように日々を過ごし、泣いている母親を見ても危機感なんざ欠片も抱いていなかった。幸いなことに在宅復帰も職場復帰も成し遂げ、麻痺も目立たない程度まで復活した。これで死んでいれば、寝たきりになれば、重篤な障害を負えば……。

 

 似たようなものだろう。楽観視した結果がこれだ。俺の場合は最悪の状況にはならなかったが、一番の身内の生命の危機を楽観視していたんだから。

 

 だから何だというのだが。そんな似たような経験をしても、レミリアの今の状況とは重さが違う。それに、俺はセラピストではない。治療プログラムに沿ったセラピーなんてできやしないのだ。

 

「ねぇ………私はこれからどうしたら良いのかしら……? 何もわからないの……」

 

 …………さぁ。としか言いようがないんだけど? 

 長い年月生きてきて、何かを目標に日々を過ごしているなんてこともなさそうだし……やはりフランのことをどうにかするということが大きな行動理念だったのかもしれない。

 

 しかし、自信もやる気も何もかも消え去ったのだろう。思考を放棄するまでとは思わなかったが……燃え尽きてないか? 燃え尽き症候群? やり遂げてないのに燃え尽きるとはこれ如何に。

 

 次は何をすればいいのか…それを他人に委ねるなんて、依存性人格障害みたいだが違うっぽいし…情緒不安定になって暴れるわけでもなのでフランでも出してみようか。これで何かしらの反応があれば、それを頼りに何かできるはずだ。

 

 影からフランを取り出してベッドの上に乗せる。いきなりこの部屋のベッドに置かれたフランは不思議そうにしながら俺を見つめてくる。そして、そのフランを見てレミリアが反応を示した。

 

「あぁ…フラン……ごめんなさい……私は、貴女を…………」

 

 ゆらゆらとフランに向けて手を伸ばすが、フランはその手を叩き落とす。まるでそこにある物が邪魔だから退かせたとでも言うかのように、物に対して行うかのような行動に、レミリアは顔を酷く歪ませ、泣き始めた。ただただ、何故か俺の手を握って泣き続ける。

 

 何故俺の手………。擦り寄るフランと俺の手を握って泣く、再び拒絶されたレミリア。

 これはヤバイ……何がヤバイかははっきりとしないが、レミリアがやばくなるという漠然とした予想ができる。何なのこいつら、不幸の星の下に生まれちゃった不幸姉妹なの?

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ 

 

 

 

 一週間、レミリアの部屋のもとに通い続けた。時にフランを連れて、時に他のメンツを連れて、そして俺一人で……不味いことになった。分かっていたことだったのに……。

 

 フランに拒絶され、フランが頼りにしている俺。愛するフランが俺とずっと一緒に居れば……何もなくなってしまったレミリアの意識は誰に向かうと思う?

 

「ねぇ、どこに行くの?」

「……トイレだ。フランを見ててくれ」

「わかったわ」

 

 ……………俺だ。めっさ懐かれた。いや、懐かれたどころの騒ぎじゃない…普通に依存された。重いです……見捨てるなんて選択肢は最初から存在していないがね。

 予想以上に早かった。どのタイミングでフランと会わせてもこの結果になったんじゃないだろうか。一ヶ月経てばもうここまで依存された。

 

 行動理由を俺に求め、何かを命令してやればその通りに熟す。着替えさせ、部屋の外に出させれば出るのだが、出たらそこで立ち止まっているだけ。どこに行けとは言っていないからだ。おい……まじでどうなってんだよこの状況。

 

 十六夜と一緒にいれば、十六夜には目もくれず俺の方にくる始末。おい、マジでどうなってんだよこの状況! 

 誰のせいだ? 依存させたのは俺のせい? 違う、フランはもとからこうだった。だから……半分でどうだ?(震え声) 共依存ではないということは言っておく。

 

 部屋を出て、すっかり歩き慣れてしまった紅魔館の廊下を歩く。しかし、数歩歩くと斜め後ろには従者のように十六夜……咲夜がそこにいる。振り返ると本当に居た。

 

「どちらへ?」

「ちょっとな……どうした?」

「いえ、何かなされるのでしたら私がと思いまして……」

「何かあれば言うから、仕事に戻れ。悪いが、俺の部屋でも掃除しておいてくれないか?」

「畏まりました」

 

 何の含みもない綺麗な笑顔で俺からの頼みを受け、時を止めて消えた。それをみてから、俺は早足で図書館へと向かう。トイレとレミリアに言ってしまった手前、早めに事を済ませねばならない。

 

 以前、少し長めにレミリアの元から離れたら、捨てられたのかと思ったのか不安定になってしまった。その時は本当に大変だった…何が大変って、様々な方法で数日俺を自分の元から離さないようにと色々なことをしてきた。

 

 一番大変だったのは性行為をしてきたことだ。寝ていたときだったから不意打ちだった。たとえ美少女とは言え、見た目は少女だぞ…フランも興味を持ったのか参加してきたし…まさかの童貞卒業をこんな形で済ませるとは思わなかった。ロリコンではないと言っておく。

 

 今は俺の頑張りによって多少は良くなったが……もう少し頑張ったり工夫をすれば一人でもいられるだろう。その点、フランはすっと傍でくっつくだけだが大人しいものだ。たまに夜に襲われるが……誰だ、フランに性への興味を持たせたやつ……レミィだよ!

 

 忘れていたが、異変解決の後には宴会をするらしいのだが、一ヶ月前のことだ。この紅魔館メンバーでは無理なので、申し訳ないが断らせてもらった。咲夜に宴会ができる状況ではないとだけ伝えさせ、落ち着いたら改めてやろうと。いつになるのやら…次の異変のときに纏めてするか?

 

 おっと、図書館についた。勢い良く扉を開ければ、いつもの様にパチュリーが本を読んでいて、こぁが本を棚に戻したり、整理していたりする。何も変わらない光景に少し落ち着き、パチュリーの元へ向かう。

 

「助けてパチュえもん!」

「……なによ狐鴉。キャラがおかしいわよ」

 

 本から目を話したパチュリーはパタンと本を閉じて机に置いた。

 

「パチュリー様、呼びましたか~?」

「貴女じゃないわ。こっちの狐鴉よ」

「あ、狐鴉さん!」

 

 俺の偽名に反応したのか、小悪魔の方のこぁがやって来た。こぁは俺に気づくと抱えていた本を床に置いて一直線に此方へ向かってきた。笑顔で子供のように飛び込んできたこぁを受け止める。柔らかな胸がクッションとなって痛みはなかった。

 

 別にこの子はレミリアやフランのような状態ではない。ただ単に仲良くなっただけで、よくわからないがとても懐かれているだけだ。名前が被ってややこしいですね~からのちょくちょく話すようになり、ここまで懐かれた。仕事終わりに夜遊びに来る程度(意味深)には仲が良い。

 

 そんな癒やし要素であるこぁを抱きしめながら椅子に座る。パチュリーも慣れたものか、何も言ってこない。

 

「で、どうしたのよ」

「案の定レミリアがああなったのは予想がついたことだ…俺もここの生活に慣れてきた。だが、ちょっと問題がある」

「問題? 安定しているとは言え、問題しかないと思うのだけど?」

「パチュリー様の恋愛問題とかですかね?」

「ちょ、なに言ってるのよ!」

 

 は? いや、パチュリーの恋愛問題とかでは全くない。というか、外出もしないこの紫もやしが誰に恋をするのだ……紅魔組の女の誰か? 門番とかか!?

 

「いや、そうじゃない。少し前から咲夜がおかしいんだ」

「咲夜が? 別に何か変わったところは見てないのだけれど……」

「ふむ…例えば、俺が何処かに行こうとすれば必ず現れる。何かをしようとすれば代わりにやる。断れば実に悲しそうな顔をする。話しかけるだけで笑顔だし、褒めれば凄く喜ぶ」

 

 一月前までは客に接待するかのような感じだったのが、ここまで打ち解けられたと考えればいいのだろうか。

 こぁは何か納得したように頷いており、パチュリーは少しだけ考える素振りを見せてから口を開いた。

 

「別に問題ないじゃない。自己無きタイプに似てるけれども……精神退行も鬱病も無いからそこまでじゃないでしょうし」

「受け入れてあげて下さい。それが一番だと思いますよ?」

 

 依存性人格障害に自己無きタイプというのがある。他人の幸福が自分の幸福、他人の人生の成功や幸福のために自分の人生の時間や労力を使おうとするなど……しかし、それらは依存性や従属性からなり、責任などからの逃避のためでもある。流石に咲夜はそこまでではないから、大丈夫なのだろうか。

 

 礼を言ってからまた急いで部屋に戻る。部屋に入ればレミリアが明るい表情になり、フランが立ち上がり、俺が座ってから紅茶を入れてくれた。先程まで二人でチェスをしていたようだ。フランがレミリアに多少なりとも興味を持っているということ……ここまでくるのに苦労はあったが、このお陰でレミリアも改善してきた。それでも俺にはこれくらいしかできず、二人も依存性は何ら変わっていない。俺から離れることなんてあるのだろうか。

 

 それでも俺が家に帰ったり何処かに出かけたりはできるだろう。順調に調kyゲフン!矯正が進んでいるようで何よりだ。

 

「トイレにしては遅かったじゃない……私が邪魔だったの? 嫌…なんでもするから見捨てないで……」

「………ただ単にトイレまでの道のりが長かっただけだ。途中で咲夜にもあったからだろうよ。見捨てないから服を脱ごうとするな」

「………私も脱ぐ?」

「止めろ下さい」

「ん」

 

 唯でさえラフな格好なのに脱がれたらあっと言う間に裸になってしまう。フランなんて完全にノリで脱ごうとしていただろう。こいつは俺が見捨てようとどうしようと勝手に着いてくるタイプだ。それでも俺の迷惑になるようなことはしないし、見捨てても俺の得になることをし続けるだろう。まぁ、今は冗談が言えるくらいまでになったと喜ぶべきか。

 

 フランが俺の太ももに頭を乗せて、仮面を頭に斜めにかけたため顕になっている俺の顔を見上げてきており、レミリアは離れないようにと抱きついて幸せそうに顔を擦り付けてくる。甘えてくるこいつらが可愛くないわけがない。特にカリスマがあった時のギャップが凄いレミリアは可愛くなった。

 

 そんな二人の頭を撫でながらふと思う。パチュリーもこぁも美鈴も、なんで同じ服を毎日来ているのだろうかと。よくアニメのキャラや漫画のキャラも服は何時も変わらない。なんならきせかえ機能のないゲームの登場人物なんて毎日同じ服を着ている。

 彼らの服は、所謂スーツと同じものなのだろうか。仕事服であり、換えを何着も持っているのかもしれない。咲夜のメイド服とか、執事キャラの執事服みたいな?

 

 それに比べてレミリアもフランも初めに見た服を着ていることは滅多になくなった。あっても外出用になるだろう。二人共Tシャツにミニスカートとホットパンツなどと楽なものを着ている。それを見て思った。是非とも他の奴らの私服も見てみたいと。

 

 どいつもこいつも容姿とスタイルは俺の居た世界では見ることのできないほどにハイレベルであり、何を着ても似合うだろう。咲夜とか縦セタとか似合いそうだな。

 

「さて、お前ら吸血鬼はもう寝る時間だろう? さっさと寝てしまえ」

「そうね……何時間後に起きればいいかしら?」

「別に好きなだけ寝ればいいじゃねぇか。まぁ、六時間も寝れば睡眠時間としては十分だろう」

「それもそうね。おやすみなさい」

「ん…おやすみ」

「おう」

 

 俺が寝ろというと一つのベッドに二人で寝転がり、すぐに寝息を立て始めてしまった。二人揃って可愛らしい寝顔を見ると、どこかしら壊れているのが嘘のようだ。

 

 ベッドから立ち上がりぐっと体を伸ばす。パキパキと骨が鳴り、凝り固まった身体が伸ばされる心地よい感覚に陥る。

 

 さて、朝だ。なんやかんや夜はこいつらに付き合っているから寝ておらず、朝からの時間も誰かしらに付き合っているから寝ていない。こぁが来れば寝ることなんてなくなり、パチュリーと居れば本に集中してしまって寝れない。

 

 かれこれ3日寝ていない。しかし、全然大丈夫な妖怪ボディはとてもハイスペック。でも眠い。

 

 今日こそ寝ようとフラフラと部屋を出て自分の部屋に向かう。割りと思考がまともに出来ておらず、瞼が重い。全然大丈夫ではないな、これ。

 

 

 

 

 




相手を性行為で自分の体を使ってでも引き留めようとすることはよくあること。問題なーし


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