お正月企画三題噺シリーズ (ルシエド)
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第一回:MMR マガジンミステリー調査班 世界滅亡の謎に挑め!

お題:『陰謀』『台所』『酉』
原作:マテリアル・パズル、MMR マガジンミステリー調査班

 クードラドールとは? デュデュマとは? 世界滅亡の謎にMMRが迫る!


 その日、ミカゼは台所で見慣れたものと見慣れないものを見た。

 

「人類は滅亡する!」

 

「み、ミカゼさーん! 助けてください!」

 

「へ、変なオッサンにリュシカが囲まれてる!?」

 

 練り練りと練られていたパンの生地。半泣きのリュシカ。そしてその周囲で顔に凄みを浮かべる変なオッサン達。明らかに世界がギャグ時空に寄っていた。

 よく見るとミカゼの視界の隅っこにねこが居る。明らかにギャグ時空だ。

 このオッサン達はどこから来てどこへ行くのか。それは誰にも分からない。ミカゼにも分からない。

 

「あ、あんたら誰だよ!?」

 

「俺はキバヤシ」「俺はナワヤ」「イケダです」「トマルです」「ノストラダムスと申します」

 

「俺達はマガジンミステリー調査班(MAGAZINE MYSTERY REPORTAGE)、通称MMRだ」

 

「MMR……WWF(ホワイトホワイトフレア)BBJ(ブラックブラックジャベリンズ)の親戚さんでしょうか」

「リュシカ、お前アクアに後でぶっ飛ばされんぞ」

 

 オッサン達が名乗ったのでミカゼとリュシカも自己紹介。

 だがオッサン達は、会話を恐ろしいほどに速いテンポで進め、決まりきった結論に至るまでの理屈立てを予定調和のように組み上げていった。

 

「ミカゼ、リュシカ、この世界は滅亡する!」

 

「「な、なんだってー!?」」

 

「ノストラダムスの予言にはこうあるんだ」

 

 1999年、7か月、空から恐怖の大王が来るだろう。

 アンゴルモアの大王を蘇らせ、マルスの前後に首尾よく支配するために。

 

「この恐怖の大王とは、かつての女神と大魔王の戦いの前のことを指している!」

 

「かつての女神と大魔王の戦いの前……!?」

 

「そう、空から来た大魔王とは……大魔王デュデュマを生み出したロボット、虹!

 グランドゼロを初めとする、空から降り立つロボットたちのことだったんだよ!」

 

「「「 な、なんだってー!? 」」」

 

「ロボットだってよリュシカ!」

「昔の人は凄かったんですねえ」

 

 そう。恐怖の大王とアンゴルモアの大王は別のものだったのだ。

 

「マルスとは軍神。戦士達を率いるものだ。

 つまりこれは女神が率いる女神の三十指のオリジナル……

 女神の三十士を率いる女神、ミト・ジュエリアのことを指している!」

 

「マルスだってよリュシカ」

「そういえば女神様のお腹はまるまるでしたね」

 

「つまりこの予言とは、女神と三十士!

 そして空から来た恐怖の大王、虹とグランドゼロというロボット達!

 それに呼び覚まされ暴走させられた大地の守護神デュデュマ!

 これらによる世界の命運を決定してしまうような大戦争のことを指していたんだよ!」

 

「「「 な、なんだってー!? 」」」

 

 なんということか。ノストラダムスの予言はここで的中していたのだ。どこぞの世界で当たらなかったら、別の世界で予言を当てる。それがノストラダムス流……

 

「そして、こういった予言もある」

 

 五月に非常に強い地震。

 土星、磨羯宮、木星、水星、金牛宮に、

 金星も同じく、巨蟹宮、火星、ノネーでは、

 その時に卵より大きな雹が降るだろう。

 

「ここにどんな謎が隠されてるってんだキバヤシ!」

 

「アナグラムだよ」

 

「「「 アナグラム……!? 」」」

 

「リュシカ、飯まだ?」

「あ、すみませんミカゼさん、今パン焼きますからね」

 

「この『非常に強い地震』は大地の異変。

 そして極めて大きな大地の動きと、大地に由来する大破壊を指すんだ!」

 

「そ、そうだったのか……!」

 

「そしてその下に並ぶものは、並び替えることでそこに至るまでの過程を意味するんだよ!」

 

「「「 な、なんだってー!? 」」」

 

「木星、すなわち木のように大地に生える星のたまご!

 水星はアビャクの水魔法、ブルーリングス!

 土星はメルチナの土魔法、メテオン!

 火星は言うまでもなく星のたまごより発せられる火の象徴、ホワイトフレア!

 そして雹とはリゼルの氷魔法アイスランランス! そしてジャンクーアのエッグに繋がる!」

 

「な、なんてことだ……! 全てが繋がる……!」

 

 ノストラダムスが、キバヤシの超推理に驚愕していた。

 

「待てよキバヤシ。お前の推理には穴がある。説明してないワードがあるぜ」

 

 そこに、いつもの流れでナワヤがケチをつける。

 

「分かってるさ。だがそれも、この推理に繋がるんだ」

 

「……なんだって?」

 

「俺は気付いたんだ。何故、この予言には『金』というワードが二回出てくるんだ?」

 

「言われてみれば……しかも、言い回しが少し違う」

 

「金とは金属の意。転じて金属による武器を指す。

 つまりこれは……コルクマリーによる『剣』の略奪を意味しているんだよ!」

 

「「「 な、なんだってー!? 」」」

 

 なんということか。何度我々の前に立ちはだかるのか、ノストラダムス!

 

「金星と金牛宮は同一視できる。

 しかも金牛宮は磨羯宮とセットで、地のサインに分類されるんだ」

 

「地のサイン……大地の力……そうか!

 コルクマリーの魔法も、大地から引き出された大昔の魔法だ!」

 

「気付いたようだな、ナワヤ。

 そして残るはノネー、すなわち頭語を省略された都市アノネーと……巨蟹宮」

 

「そこまで言われれば分かりますよ、キバヤシさん」

 

「どういうことだノストラダムス!」

「僕らにはさっぱり分かりません!」

「ここから何か世界の破滅に繋がる答えが出せるっていうのか!?」

 

「ええ。ゼロクロイツ14話にて甘酸っぱい展開で

 『あのね、私は――』という台詞があります。

 これが運命を決めた言いかけの言葉の一つである、とさえ言われる名シーンの一つです」

 

「あのね……アノネー……そうか! そうだったのか!」

 

「そして巨蟹宮。これは先程話した金牛宮は磨羯宮の逆、天のサインです。

 磨羯宮の逆に位置します。つまり先程の話からすれば、大地の魔法の対極です。

 そして図形にした場合、そのサインは二つの飛び合い喰らい合う球となる、つまり―――」

 

「―――空から来て飛び合い喰らい合うもの。虹と、グランドゼロ……」

 

 なんということか。

 

 全ては、繋がってしまった。

 

「なんとかならないのかキバヤシ!」

 

「ダメだ。

 コルクマリー、女神、クードラドール、デュデュマ……

 世界が滅びる要素は全て揃ってしまっている。

 もう何をしようがどうにもならない。

 クードラドールとデュデュマの戦いによって、この世界は完全に滅びるだろう」

 

 キバヤシが顔を覆って、俯いた。

 

「俺達は、何もかもが遅すぎたんだ……」

 

 結論が出たので、オッサン達は帰って行った。

 

 後に残されたミカゼとリュシカかが、まったりとした顔でパンを食む。

 

「世界、滅びるんだってさ」

 

「なんとなく、そういう雰囲気はありましたよね」

 

「絶対止めてやろうな、そんなこと」

 

「ええ、絶対に!」

 

 MMRが出ていったドアから、その時一人の人物が入って来る。

 

「おかえり、―――」

「おかえりなさい、―――さん」

 

 迎えられたその『一人』は、『三人分』の返答として、『三人のどれか』の顔で笑った。

 

 

 




『陰謀』→MMR
『台所』→リュシカパン作成
『酉』→トリ→エンゼルフェザー


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第二回:エスカ・メーリエとロジックス・フィクサリオのつまらない一幕

お題:『筋肉』『百合』『錬金術』
原作:エスカ&ロジーのアトリエ

 カオスなお題から割と無難な着地点が発生する……!




 ウィルベル・フォル=エルスリートと、ニオ・アルトゥール。きゃっきゃと絡んでいる二人を見ながら、マリオン・クィンは懐かしそうに、微笑ましそうに、けれどこどこか危機感を漂わせてぼそっと呟いた。

 

「……女錬金術師って、女同士の付き合いで妙に満足しちゃうフシがあるのよね」

 

「えっ?」

 

 突然そんなことを隣の人が言うものだから、エスカ・メーリエは戸惑ってしまう。

 

「いやね、本人達は満足してると思うの。

 話に聞く異性関係とかってとても面倒そうだし。

 だから気楽な友達関係だけして過ごしてれば、それはそれで楽しいと思うんだけど……」

 

「はぁ」

 

「いや実際、私がその楽しさに浸ってるからそう感じるんだけど」

 

「あ、私知ってます! 恋愛まで行かない、けれど普通の友情より親しい関係。

 女性限定でそういう関係のことを、『百合』って言うんですよね?」

 

「……最近はそういうの、女性同士の同性愛も含むらしいわね……んもう……」

 

 二人は並んで座っていたが、いつも通りに元気に満ちているエスカとは対照的に、仕事で疲れているマリオンは極めてダウナーだった。

 普段"ちょっと気にしている"程度の事柄が、ぐでっとテーブルに寄っかからざるを得ないくらいの負担に変化してしまっている。

 

「周りの目とか時々聞こえる噂話とか……加齢と共に増えて……辛くない? 分からない?」

 

「そ、そうなんですか」

 

「いやね、気にしなければいいんだけどね……今は今で気楽だし……」

 

 女の子同士の絡みは目に優しい。

 実際同年代の少女だけでイチャイチャし、楽しく日々を過ごすことはとてもよいことだろう。

 だが忘れてはならない。アトリエシリーズの世界は残酷なのだ。

 この世界では作品を跨ぐたび、容赦なくキャラが歳を取っていく。

 14歳だったロリが33歳になっても頑張っていたりするのであった。

 

「いい、エスカ。ロジーとはちゃんと仲良くしておきなさい」

 

「え、なんでですか?」

 

「この話の流れで分かるでしょ」

 

「………………い、いやいやいや! いやいや! いや! 何言ってるんですか!」

 

「へん、その胸の時限爆弾を解放すれば一発でしょ」

 

「な、ななな……あ、お酒臭い! 仕事終わったからって、飲んでたんですか!?」

 

 どうやら変な酒を飲んでいたらしい。絡む内容が女性特有のそれで、絡み方が酔った親父のそれだ。よく見るとほんのり頬も赤い。

 楽しそうに絡んでいるウィルベルとニオと比べれば、こちらの絡みはまるで錬金釜の中のようにごちゃっと煮えた雰囲気がある。

 

「エスティ・エアハルトという人を知ってる? その人はね……」

 

(折を見て逃げた方がいいかも)

 

 恋愛系の話でいじられるのが、エスカはどうにも苦手だった。

 

 

 

 

 

 一方その頃。

 エスカをいじるネタに使われていたロジーことロジックス・フィクサリオは、デューク・ベリエルが経営する酒場酒場「竜の拳」のカウンターに突っ伏していた。

 

 ロジーはこの地方にやって来た時点では剣術素人。体力もさしてない。そういう人物だったわけで、それを隠しているわけでもなかった。

 なのだが、それを筋肉の鎧を身に纏った元討伐者の酒場のマスターに聞かれたのが運の尽き。

 鍛えてやるよ、という善意の言葉から、否応無しのトレーニングに巻き込まれてしまったのである。

 

「お前が細いから鍛えてやろうと思ったんだが……」

 

「ぜはっ、ぜはっ、ぜはっ……」

 

「意外と体力あったのは驚いたが、体格相応だったな」

 

「……俺が……研究職の人間だって……忘れてないか……」

 

 細身のイケメンが台無しだ。

 全身の筋肉は気怠い倦怠感に包まれており、明日は筋肉痛で動けないことが予想される。

 ぜはーぜはーと荒れていた息を整えて、ロジーは差し出されたコップの水を一気飲みする。

 これだけで筋肉が付くか? 付くわけがない。ちょっとは付くだろうが、こういうのに大切なのは日々の積み重ねなのだ。

 

「悪い……ちょっと……店の裏で休ませてくれ……」

 

「はいよ」

 

 店の裏にふらふらと移動していくロジー。

 このままだと無理に鍛えさせられたことに対し、愚痴ってしまいそうだったからだ。デュークの善意に対し、そういうものを返したくないと、堅物のロジーは考えている様子。

 愚痴ックス・フィクサリオになる前に、彼は店から消え、その一分ほど後にエスカが現れる。

 

「こんにちわー。ロジーさん居ますかー?」

 

「ああ、さっきまで居たな。すぐ追えばすぐ会えるぞ」

 

「よかったぁ、やっぱりここに居たんですね」

 

 デュークはまず何か飲んでけ、と水入りのコップを差し出す。

 飲んだくれから走って逃げ、その後も走ってロジーを探していたエスカは、喉が渇いていたために、ありがとうございますと微笑んで、それを飲む。

 

「あ、悪い。洗ったコップと洗ってないコップ間違えた。それロジーが使ってたコップだな」

 

「ぶっ」

 

 そして、吹き出した。

 

「な、なななななななんてことしてくれるんですか!」

 

「おいおい、褒めてくれよ」

 

「褒めませんよ! なんで褒めてもらえると思ったんですか!」

 

 そう言われると、エスカは自分が口を付けたところだけが少しだけ他の場所より暖かかった気がしてきて、慌てふためいてしまう。

 ちなみにコップの件は本当だが、マスターはちゃんとコップを水洗いしていたので、コップが暖かいとかそういうことはありえない。気のせいだ。処女特有の反応である。

 

「もう! 失礼します!」

 

 エスカはプンスカ怒って、酒場の外に出ていってしまう。

 エスカが酒場から出て行った一分ほど後、店の裏からまだちゃんと休めていないロジーがふらふらと彷徨い出て来る。

 どうやらまだ水が足りなかったようだ。

 

「うぅ……誰か来てたのか」

 

「ああ、客がな。もう帰っちまったが」

 

「悪いけど、水もう一杯くれないか?」

 

「へいへい」

 

 再度差し出されるコップ。

 さっき自分が使ったコップと同じコップであることから、ロジーは何の疑いもなくコップに口をつけ、一気飲みした。

 

「あ、悪い。洗ったコップと洗ってないコップ間違えた。それエスカが使ってたコップだな」

 

「ぶっ」

 

 吹き出すロジー。むせる。盛大にむせる。

 

「な、なんてことを!」

 

「おいおい、褒めてくれよ」

 

「褒めるか! なんで褒めてもらえると思ったんだ!」

 

 そう言われると、ロジーは自分が口を付けたところだけが少しだけ他の場所より暖かかった気がしてきて、慌てふためいてしまう。

 ちなみにコップの件は本当だが、マスターはちゃんとコップを水洗いしていたので、コップが暖かいとかそういうことはありえない。気のせいだ。童貞特有の反応である。

 

「畜生! しばらくこの店来ないからな!」

 

「そういや、エスカちゃんが探してたぞ」

 

「~~~っ、そんな、俺がエスカ探さないといけない直前であんたはこんなことを……!」

 

 ロジーは逃げ出すように店から出て行った。

 だが、エスカとロジーが店から出たタイミングは一分と少ししか違わない。

 外に出て走り出すルート次第では、エスカよりロジーの足の方が早いために、店の近くでばったり会ってしまうことになる。

 

「あ、ロジーさん!?」

 

「え、エスカ!?」

 

「……」

「……」

 

 店に声が聞こえる位置で、エスカとロジーが出会った声が聞こえる。

 そして、微妙な感じの空気が流れた雰囲気まで伝わって来る。

 これでも決定的な感じにはならず、少し距離が近付いただけでなんやかんや終わるのだろう。

 エスカとロジーの関係は、基本的にそういうものだった。

 

「お前ら小学生か何かか……」

 

 筋肉を付けてやれば少しは自身が付いて何か変わるか? と思っていたデュークであったが、この分だとロジーが大量の筋肉を付けたとしても、そんなに変わることはなさそうであった。

 

 

 




『百合』→アトリエやな!
『錬金術』→アトリエやな!
『筋肉』→ 不 協 和 音

 ミミ・ウリエ・フォン・シュヴァルツラングちゃんが好きです

 強制的に軌道修正された感。トトリとミミでヤマもオチもない話を書こうとした場合、筋肉をどうしても混ぜられなかったので、便利なカップルに助力を願いました


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第三回:風鳴翼「押すなよ! 絶対に押すなよ!」

お題:『剣』『緊縛』『牛丼』
原作:戦姫絶唱シンフォギアGX

 牛丼を餌にチラつかせられた風鳴翼が、今、熱湯風呂の脅威を越える!


 ある年の年度末。

 クリスは響や未来、後輩達と自宅にて年越しを迎えることになっていた。

 未来は台所、エルフナインと切歌&調はコンビニに買い出し。

 マリアと翼は年末の生放送紅白に出演。

 今は響と並んで大型のテレビをぼんやりと眺めている。

 

「やっぱり年末はお笑いだよね~」

 

「まあ、一番気楽に見れるもんではあるな」

 

 『お前らシンフォギア装者なんだから紅白見ろよ』という正論は通用しない。コメディと笑いも彼女らの本質の一面だ。

 翼とマリアは年末の紅白にも出ているが、事前に録画していたお笑いにも出ているようだ。

 どうやら彼女らは、翼とマリアが出て来るところでだけチャンネルを戻す予定でいるらしい。

 

「第一お笑いなんて近年体張ったもんは数えるほどしかない、日和った……」

 

『では! 今日のメインイベント!

 風鳴翼さんによる、熱湯風呂綱渡りの開始です!』

 

「ぶっ」

「あっ」

 

 そしてお笑い番組が新たな展開を初め、画面いっぱいにドヤ顔の風鳴翼が現れたのを見て、雪音クリスは盛大に飲んでいたものを吹き出した。

 

「日本のトップアーティストに何やらせてんだああああああああああ!!」

 

「クリスちゃん落ち着いて! この放送は時間的に考えて録画だよ! 止められないよ!」

 

「落ち着けるかぁッ!」

 

 風鳴翼の現在の扱いは、『若い小林幸子』である。

 だがその性格が斯くテレビ番組で露出していった結果、翼は『一人ダウンタウン(天然タイプ)』というポジションも獲得していた。

 正統派も行ける。バラドル路線も行ける。

 ゆえに翼は強い。装者的にも、お笑い的にも強い。

 

『お湯の張った透明なケース!

 その上に張られた一本の荒縄!

 本来ならばガードパイプが設置される予定でしたが、本人の要望で撤去されました!

 風鳴さんは女性ということで、三回までのリトライが許されます!

 そして見事渡りきれれば、吉野家の牛丼一年分が無料になるパスが貰えます!』

 

「しかも番組作りが! 落ちること前提! ドリフでやってろッ!」

 

「クリスちゃん落ち着いて!」

 

 威風堂々、自信満々。翼は軽やかなステップで綱の上に立ち、微動だにしない。

 だがスタート地点から何故か一歩も踏み出すことなく、チラッチラッと後方に控えるマリアの方を振り返っていた。

 

『マリア! 押すなよ! 絶対に押すなよ!』

 

『押さないわよ!』

 

『莫迦者! 押せという意味だ! このお約束が分からんのかこの欧米人が!』

 

『お願いだから防人語より訳の分からない言葉を使わないで!』

 

 マリアは駆け出し、「まさか翼を海に落とすならともかく熱湯に落とす日が来るなんて」と思いながら、ドーンと翼の背を押した。

 テレビの向こうの皆が、十代の翼のお約束をあまりにも分かっているムーブに驚愕する。

 日本全国の皆が、目を見開いた。

 海外からそれを見ていたインド人が、感動のあまりにむせび泣いた。

 小さな子供達は、一秒後の光景を想像して思わず目を逸らした。

 

『これでいいんでしょ!』

 

「あっこのバカマリア!」

 

(熱中してるクリスちゃん、ナチュラルにバカマリアって言ってる……)

 

 あわや落下か、と思われたその瞬間。

 

 翼はバランスを崩した体勢を立て直すこと無く、縄の上に片手で逆立った。

 

『逆羅刹』

 

 翼が呟いたその一言が、全国ネットに、世界に広がる。

 

 翼はそのまま縄の上を回転しながら逆羅刹で滑り越え、熱湯の上を通り過ぎて行った。

 

『逆羅刹……!』

 

 マリアが呟いたその一言が、全国ネットに、世界に広がる。

 

 今年ももう終わろうかというタイミングで、来年の流行語大賞が決定した瞬間だった。

 

「バラエティで体を張って笑いを提供するとか、王道を行くんじゃあないッ!!」

 

「わー翼さん凄い」

 

「やめろバカ! あの先輩の顔を見ろ! スタジオで周りから上がってる歓声を

 『これがバラエティでやるべきことで正しかったのだな』と勘違いしてるドヤ顔だ!」

 

 会場は大盛り上がり。

 視聴率も瞬間的に急上昇。

 全国で話を聞きつけた人達がリプレイ映像を食い入るように見て、実況掲示板のサーバーは一斉に重くなった。一部は落ちた。

 

「二課はあの人をどういう風に売り込みたいんだ……」

 

「クリスちゃんが緒川さんに聞いてみれば?」

 

「来年聞くわ……ちくしょう……」

 

『おめでとうございます、風鳴さん!

 この年間無料パスは同行者にも適用できると聞きますが、一緒に行きたい人は居ますか?』

 

『ええ、今のところは一人』

 

「ん?」

 

「雪音、見ているか! 雪音クリス!

 お前が"腹いっぱい牛丼食いたい気分だ"と先月言っていたのを憶えているか!

 私は憶えていたぞ! 先輩は頑張ったぞ! さあ、一緒に食べに行こう!」

 

「全国ネットで! この流れで! あたしの名前を出すなあああああああああ!!」

 

 かくして、雪音クリスは生き恥を晒す羽目になったのであった。

 この後は別の景品を用意し、"流石に自分はこれやらないだろう"と油断しきっていたマリアがドッキリで参加確定。絶望顔で熱湯風呂の前に立たされる。

 しかも「翼さんがあんだけ余裕だったんですからマリアさんはもっと余裕ですよね?」という謎の期待から、お湯で溶ける特殊素材で上半身をみっちり縛られた状態で縄の前に立たされていた。

 おっぱいが強調されて非常にエロい。

 もし順番が逆で、翼の方が縛られていたら、全くエロくなかっただろう。

 そして、翼ならば縛られていても渡れるだろうが、マリアでは渡れない。現実は非情である。

 ただのお

 約束の

 マリア。

 たやマさんが全国にいいお笑いを提供し、直後の紅白が翼とマリアパートだけ妙に視聴率よかったという結果を残しながら、この年は終わりを告げるのであった。

 

 

 




『剣』→参加者
『緊縛』→追加ルール
『牛丼』→景品

 服の生地が厚かったので縛られて濡れ透けのマリア! にはなりませんでした


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第四回:DJサガラ「一番課金したやつが、黄金の果実を手に入れるのさ」

お題:『犬』『課金』『希望』
原作:仮面ライダー鎧武

 弱者が虐げられない世界を目指す戒斗、弱者を守るべく立ち上がった紘汰、二人の最終決戦が、今始まる……


 世界の命運を決める戦い。

 どこにある? 多くの者が探した果実。

 どうつかう? 多くの者が探した果実。

 金はどこにある、金はどう使う、運命(うんえい)果実(かちく)の力。

 

 果実(かきん)を齧れば家畜(インベス)となると知りながらも、多くの者がその誘惑に耐えられず、預金の限界をオーバーロードした課金を行った。

 

「やはり最後まで俺の邪魔をするのはお前だったか……葛葉紘汰。

 運営の従順な犬が。いつの世も、お前のような善良な者が世界を守る。

 善良な者は世界のいい部分を見て、それを必死に守ろうとする。体のいい人柱だ」

 

 世界の命運は、二人の男の手に託された。

 葛葉紘汰と、駆紋戒斗。

 運営を基本的に肯定する運営の犬と、何やっても叩き噛み付く恐るべき狂犬。

 二人の男は世界の未来、一人の女の存在をかけ、街中でインベスの軍団を連れ対峙する。

 

「戒斗……お前は一体何がしたいんだ?」

 

「今の運営では決して実現できないソシャゲを、俺が……この手で創り上げる」

 

 戒斗は力強く虚空を握り、握り潰し、力強く未来を語った。

 

「何だよそれは…!」

 

「弱者が踏み躙られない世界だ!

 誰かを虐げる為だけの力を求めない。

 そんな新しい命で……この星を満たす。舞と一緒に、知恵の実を使って!」

 

 そう言う戒斗の背後には、課金の果てにインベスとなった哀れな課金弱者達が居た。

 そう誓う戒斗のポケットの中には、使用済みのGooglePlayカードが何十枚も入っていた。

 戒斗の背後に、彼の真の姿……オーバーロード・ロードバクシの姿がゆらめく。

 

「今の世界でそれは無理だって言うのか!」

 

「それが俺の生きてきた時代だ。誰もが強くなるほど……優しさを忘れていった!」

 

 自分より課金した者。

 自分よりちょっとだけ運が良かった者。

 狙ったものをさっさと当てた者。

 そんな者達が、弱者であった頃の駆紋戒斗や課金弱者達を蹂躙していった。

 ボーダー? ランキング? 対人対戦? そんなもの、踏み躙られる弱者からすれば、勝者と強者だけが笑う上位者の傲慢と殺戮でしかない。

 欲しかったものに手を伸ばしても、何も手に入らない。

 その苦痛を、戒斗はよく知っている。

 

「強くて優しい奴だって大勢いた。皆そのソシャゲを守ろうとして必死だった!」

 

 そんな戒斗に、紘汰は心強き弱者だった者として反論した。

 その反論に、戒斗は更に反論する。

 

「そんな奴から先に死んでいった!

 優しさが仇になって、本当の強さに至れなかった!

 無課金の分まで課金し、運営を支えようとし……

 課金虚しく、サービス終了という形で裏切られていった! 貴様もそうだ、葛葉紘汰」

 

 フリーターのくせに"終わって欲しくないから"と、ソシャゲに課金し続けた。

 その挙句、そのソシャゲは終わってしまった。その悲しみは、筆舌に尽くし難い。

 だが、紘汰は諦めなかった。心折れなかった。

 手元に何も残らなくたって、ソシャゲに課金し続けた。

 何も返って来ないと知りながら、人を助け続けた。

 その瞬間の自分の心が求めるままに、報いなど無い地獄を駆け抜けた。

 

 彼の名は鎧武(ガイム)。課金は他者に迷惑をかけない自己満足―――ゆえに、害無(ガイム)

 課金ライダー害無だ。

 

「いいや」

 

 ゆえに、戒斗の主張に対する紘汰の返答は、『ノー』である。

 

「俺はお前だけには負けない」

 

 紘汰が構える。

 自分が課金だけの力でランカーになったのではないということを証明するために。

 "使った時間もプレイヤースキルも高くねえと取れねえんだよ"という絶対の正義がこの世にあることを、その正義の味方が居ることを、戒斗に知らしめるために。

 

「お前を倒し、証明してみせる。ただの課金だけじゃない……本当の強さを!」

 

「それでいい。貴様こそ俺の運命を決めるに相応しい」

 

 二人は、自身の全身全霊でぶつかった。

 

「葛葉ァッ―――――!!」

 

「戒斗ォッ―――――!!」

 

 刃が振るわれる。

 戒斗は爆死者、敗北者、負け犬、妬む無課金の強烈な負の感情を背負い。

 紘汰は成功者、重課金、幸運者、普通に楽しんでいる者達の思いを背負い。

 無限に刃をぶつけ合う。

 

 全てを下に置き、引き連れるのが君主(ロード)

 全てを上に置き、全てを積み重ねるのがフルーツバスケット。

 二人は対象的だった。

 

「戒斗!

 悲しみや絶望の他に手に入れたものはなかったのか!?

 その怒りが……お前の全てだったのか!?」

 

「そうだ! 弱さに痛みしか与えない世界……強くなるしか他になかった世界を俺は憎んだ!」

 

 だが、無課金の負の感情が、のうのうとソシャゲを楽しむ者達の喜びを許さない。

 

 経済的弱者に痛みしか与えないソシャゲ。

 強くなる以外に道を与えられないソシャゲ。

 その全てを戒斗は憎んだ。

 その全てを滅ぼすことを、戒斗は望んだ。

 

「今、その全てを滅ぼす力に手が届く! 貴様を越えた先に!」

 

 課金量の差を埋める戒斗の執念。妄念。意志。紘汰はずっと、彼が持つこの強さに憧れていた。

 

「超えさせない、超えちゃならない! 戒斗! それがお前にとっての俺だ!」

 

 無課金が課金勢を超えてはならない。それは絶対の法則だ。

 

 それが破られてしまえば、壊されてしまえば……ソシャゲという世界は、滅びてしまう。

 

「だから……それでも、俺はっ!」

 

 限界を越えた先にある限界、それさえ越えた先の限界。

 極みを目指して限界を越え続けても、その先にまた限界がある。

 成長という形で、無限にエスカレートしていく二人の極み。

 それすらも越えた時……紘汰の手にした刃が、戒斗の腹を貫いた。

 

「―――か、はっ」

 

 決着。刃をもって世界を変えようとした男の末路は、刃にて終わる。

 

「何故だ……葛葉。何がお前を……そこまで……強くした?」

 

「ソシャゲとフレンドを守りたいという祈り……

 無課金もログイン低いギルメンも見捨てないという誓い……それが俺の全てだ」

 

 戒斗が求めた本当の廃課金、廃ランカーの姿を体現する紘汰の目から、涙が溢れる。

 

「何故……泣く?」

 

「泣いていいんだ。

 爆死した時も。

 知り合いが引退した時も。

 乱数でポロッとボスに負けた時も、報酬取り損ねた時も。

 それが俺の弱さだとしても……拒まない。俺は泣きながら進む!」

 

 "お前も泣いていいんだ"とでも言うかのように、紘汰は泣きながら、戒斗に言葉をかける。

 

「お前は……本当に強い」

 

 そう言い残し、戒斗は死んだ。死因、年始ガチャの回し過ぎという遠因による爆死。

 彼に心残りはあるまい。

 後は紘汰とヘルヘイムの森(消費者センター)の力が世界を良い形にしてくれるだろうと、信じられたからだ。

 

 敗者の絶望。皆の希望。その戦いは……希望が絶望を打ち破ることで、決着した。

 

 

 




『犬』→運営の犬が……
『課金』→運営の犬が……
『希望』→だけど! 希望を持っている方が勝つんだ!

ミチザネ「それが課金……僕の求めていた力!」



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第五回:エピローグのその後で

お題:『ファイアーエムブレム』『旅』『木刀』
原作:ファイアーエムブレム 覚醒
 時系列はエピローグムービーのその後

 「おかえり、友よ」
 彼が差し出したその手に、何かを感じた。記憶の全てを失っても、感じ入る何かがあった。




「おにいちゃん…ねぇ、大丈夫かなぁ…?」

 

 心底心配した少女の声が聞こえる。

 

「駄目かもしれんな」

 

 全く心配していない男の、目覚めることを疑ってもいない声が聞こえる。

 

「そ、そんなぁ! ……あ!」

 

 俺は目を開ける。とても嬉しそうに、泣きそうな様子で満面の笑みを浮かべる少女と、とても穏やかな顔で微笑んでいる青年が見えた。

 

「気が付いたか」

 

 その青年と、その少女を、俺は見たことがあるような気がしていた。

 

「平気?」

 

 その少女の声を、聞いた覚えがあった。けれど、何も思い出せない。

 

「こんな所で寝てると風邪引くぞ。立てるか?」

 

 その青年の声を聞いた覚えがあった。立たせてくれたその手の感触に、覚えがあった。

 けれど、何も思い出せない。

 

「おかえり、友よ」

 

 その言葉が、嬉しかった。

 

 けれども俺は、何も思い出せなかった。

 

 おかえりと言われて、ただいまと返すことができなかった。

 

 

 

 

 

 旅が始まった。

 その青年と俺の二人旅だ。

 俺は記憶を失っていたらしい。よく分からないまま、俺は流されるままだった。

 周囲の人の言うままに、川に流される落ち葉のように流されていく。

 

 ……いや、正確には違った。

 信頼があった。誰の顔も知らないはずなのに、会う人会う人、その全てが信頼できた。

 頭が覚えていなくても、心が、魂が、「信じていい」とでも言っているのだろうか。

 親しげに接してくれる男性も、抱きしめて自分の生還を喜んでくれた女性も、確かな信頼と友情を俺に向けてくれていた。

 それが、何故か嬉しかった。

 

「皆、記憶が失われてもお前はお前だと信じている。

 ……いや、違うな。記憶がなくてもお前はいいやつなんだと、知っているんだ」

 

 笑って、けれども少し寂しそうに、青年はそう言った。

 そこに不思議と、申し訳ない気持ちを覚える。

 青年はクロムと、少女はリズと名乗った。

 二人の身の上はよく分からなかったが、俺にとてもよくしてくれた。

 俺が過去に何をしたのかは分からなかったが、二人がいい人であることだけは間違いない。

 

「旅に出ようか」

 

「どこにさ、クロム」

 

「どこでもいい。どこにあるかも分からんからな」

 

「何かを探しに行くのか?」

 

「お前の記憶だよ」

 

 そうして、俺の旅は始まった。クロムと二人だけで歩く旅だ。

 旅の初めにはクロムを『いいやつ』としか知らなかった俺だったが、旅を続ける内に少しばかり察することが出来てきた。どうやらこのクロムという男、偉い人らしい。

 偉い人がそんな身軽でいいんだろうか、と聞いてみたが、「お前はとりあえずこの国と同じくらい大切なやつなんでな」とこっ恥ずかしい返答が帰って来た。

 「そう思ってるのは両手の指で数え切れないくらいに居るぞ」という返答も返って来た。

 記憶を失う前の俺君、何したの?

 

「そうだな、ここも思い出深い」

 

 俺達二人は世界を巡る。砂の世界で、クロムは懐かしそうに思い出話をし始めた。

 

「姉さんが死んで折れた俺に、お前は手を差し伸べてこう言った。この手を取れ、と」

 

 クロムは友との思い出を語る。俺の知らない俺を語る。

 

「『俺も自分の無力が許せない。俺たちは、未熟な半人前だ。

  だから俺が、お前の半身になる。お前が何度倒れても、俺が手を引いて立ち上がらせる。

  だからお前はもう一つの手で、エメリナ様が掴めなかったものをしっかりと掴んでくれ。

  エメリナ様と同じやり方じゃなくていい。

  お前のやり方で、すべてのひとに希望を見せてくれ。

  それはお前にしかできないことだ、クロム』……お前は、そう言った」

 

 何を言ってんだ過去の俺、と思う前に。頭の隅に、痛みが走った。

 

「思い出せないか? なら、次の場所に行こう」

 

 俺達二人は世界を巡る。

 何日も、何日もかけて。

 道中、クロムは剣も教えてくれた。いい歳した二人の大人が木刀片手に切り結ぶ。

 不思議と体が動く。頭が覚えていない技が出る。何故かいい勝負が出来ていた。

 

「何か思い出さないか? お前に剣を教えてくれた、多くの人のことを」

 

 馬に乗った誰かが居た。鎧を着た誰かが居た。上品な剣術も、盗賊じみた剣術もあった。

 色んな人の影が頭の中をよぎっては、痛みと共に消えていく。

 俺達二人は、世界を巡る。旅路をなぞって。

 

「ここは……そうだな。

 俺達がギャンレルに勝った所か。

 忘れもしない。その後も、お前の後押しがなければ結婚していたかも分からん」

 

「ギャンレル……エメリナ様……」

 

「! 思い出したか!?」

 

「え? 何を?」

 

「今お前、姉さんの名を……いや、なんでもない。ゆっくり行こう」

 

 旅の途中で、海を越えたこともあった。

 この国でも海の向こうでも、沢山の人に、色んな人に会った。

 出会った時から、この人は信頼できると断言できる人も居て。

 そういった人は必ず、俺の記憶のことを聞くと、少し寂しそうな顔をした。

 

 その人達は、記憶を失う前の俺の知り合いだったのだろう。

 彼らが寂しそうな顔をするのを見ると、胸が傷んだ。

 

「ここも、覚えていないか? 俺達二人で覇王ヴァルハルトを倒した場所だ」

 

「いや……」

 

「王とは何か。姉さんやヴァルハルトの王としての資質とは何か。

 俺は、ここでお前と共に勝ち取った勝利から、それを学んだんだ」

 

 世界を巡る。

 俺の頭痛も酷くなる。

 けれどそれ以上に、記憶を取り戻さなければならないという気持ちの方が強くなっていった。

 

「っ!」

 

 そうして俺とクロムは、廃墟のような場所に辿り着いた。

 記憶の蓋が外れかかっている。吹き出す記憶が記憶の蓋を押し上げている。

 そのせいで頭痛がする。そうだ、ここは。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()だ。

 

「……思い出してきたようだな。

 そうだ、ここは……『運命か、絆か』。その二つで、お前が絆を選んでくれた場所だ」

 

 いや、俺とクロムだけじゃない。

 とても儚く強い少女と、心底頼れるハゲも、ここに居たはずだ。

 記憶が蘇り始める。

 整合性も持たないまま、記憶の底から吹き出してくる。

 

「そして、ここが、最後の戦いの地。お前が俺達のために、自分の身を投げ打った場所だ」

 

 気付けば、俺は朦朧とした意識のまま、どこかに立っていて。

 

 そこで、自分が口にした言葉を思い出していた。

 

―――ありがとう、クロム……

―――ありがとう、みんな……

―――また……会いたいな……

 

 そうだ、『俺』は。

 あの時、世界と皆のためなら死ねるって思えたはずなのに。

 最後の最後で、また皆に会いたいだなんて、思ってしまったから。

 だから、ギムレーを倒しておきながら……また、皆の居る場所に、記憶と引き換えに、戻ってこれたんだ。

 

―――どこかで聞いてくれているか?

―――皆、お前を望んでいる。

―――お前とまたいろんな話をしたいんだ。

 

 クロムがあの時、俺が消えた後にくれた言葉が蘇る。

 いや、きっとそれだけじゃない。ナーガは言っていた。人の想いがあれば、奇跡が起こる可能性はあると。けれども、その可能性は僅かだと。

 初めて会ったあの時と同じだ。

 俺の意識を覚醒させてくれたのは、俺を引っ張り上げてくれたのは、リズとクロムだった。

 

―――ルフレ……

―――いつか……また会おう……

 

 この大した聖王は、あり得ない奇跡を起こしてまで、また俺を引っ張り上げてくれたんだ。

 

「ただいま、友よ」

 

 俺が言うと。

 

「おかえり、友よ」

 

 クロムが返す。

 

 久しぶりに、クロムの嬉しそうな笑みを見た気がする。

 遠目に草原を駆けてくるリズとルキナの姿が見える。

 クロムに木刀を投げ返し、俺はクロムから愛用の魔導書を受け取って、その悪戯心に二人揃って笑ってしまう。

 

 俺はようやく「ただいま」を言えた。クロムはようやく「おかえり」を言えた。

 

 めでたしめでたし。こういうのがいいんだと、俺は掛け値なしに思うんだ。

 

 

 




『ファイアーエムブレム』→まあ前から書いて欲しいとか言われてたし覚醒で
『旅』→捏造、記憶を探す旅
『木刀』→「ルフレ君! 君の愛用武器はムービーで使っていたあの魔法だ!」

 ルフレとヒロインの絡みも好きですが、リズとルキナは特に特別感がある気がします。でもどのヒロインよりクロムとの絡みに特別感がある気がします


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第六回:マシュ「マスターがホモになった……!」藤丸「男の娘好きはホモじゃないから」

お題:『サンタナ』『太陽万歳!』『女装少年』
原作:Fate/Grand Order、ジョジョの奇妙な冒険

 ソロモン(ゲーティア)「男の娘好きになる呪いかけたった」


「ぼくぁ男の娘が好きなんだ」

 

「先輩!?」

 

 うっかりソロモンの名前を呼んでしまったカルデア最後のマスター。

 ソロモンの名前を呼ぶと呪われる。再三言われていたことだ。

 呪いからの守護がないタイミングでうっかりソロモンの名前を気軽に呼んでしまった藤丸立香くんはなんと、『男の娘が好きになる呪い』をかけられてしまったのだ!

 

「男の娘じゃないと、勃たないんだ」

 

「しっかりして下さい先輩!」

 

「マシュ、今だから言えるけど俺、君のこと好きだった。

 仲間として友達として、信頼してた。

 人間として女性として、好感を持ってた。

 ……でも、もう、過去形なんだ。ごめんね、マシュ」

 

「せんぱあああああああああああああああああああああいっっっ!!!」

 

 恐るべし魔術王ソロモン。その呪いは視線を合わせるだけで人の命を容易く奪い、命に等しいものを人の内から奪い去る。

 流石は人類史の焼却を成し遂げた者と言うべきか。

 その呪いは、いかなる魔術によっても解除できないものだった。

 

 号泣するマシュ。だがそんな彼女に、救いの手が差し伸べられる。

 

「しゃあねえ。マシュ、オレを使いな。

 オレでマスターの欲求を満たしつつ、解決方法を探すんだ」

 

「こ、この声は! レイシフトで開けたアメリカへの穴から!

 なんでか分からないけど落ちてきて、いつの間にかカルデアでくつろいでた人!

 式さんと同じ生身の人間なのに人類史守ってくれてる枠、ジョセフ・ジョースター……さ……」

 

 振り返ったマシュの視線の先には、女装したジョセフ・ジョースターが居た。

 

「令呪三画をもって命じる。自害せよ、ジョースター」

 

「うがぁ!」

 

 ジョースターが死んだ! この人でなし!

 

 なお、カルデアシステムによって即座に復活する。

 

「クソッ、さ……流石マスターだぜ! よくぞオレの女装を見破ったな!」

 

「マヌケッ! ひと目で分かるわーッ! 気持ち悪いーッ!

 おまえみたいにデカくて筋肉質の男の娘がいるか!

 スカタン! 客観的に自分をみれねーのかぁ! このバーカ!」

 

「野郎……仕方ねえ! グランドオーダー発令! 突入せよ、カルデア男の娘部隊!」

 

 ジョセフの掛け声で、部屋の外から緊急部隊がなだれ込む。

 ラーマ、ベディヴィエールの男の娘二連星。

 女性寄りの需要を満たすデオン、ホモ寄りの需要を満たす小太郎。

 そして絶対王者アストルフォ。

 

 性別どっちか分かんねえよ、という意味で使われる単語、半陰陽。

 ならば男な彼らは陰陽! 半などは付かない! 陰陽変態サンバル姦!

 実在の戦隊・太陽戦隊サンバルカンとは何の関係もないので注意しよう!

 

「ぐ、ぐぐぐ……」

 

「き、効いてる! 効いてますよジョセフさん!」

「へっ、選りすぐりの男の娘だ。ひとたまりも……」

 

「こ、小太郎はショタ……デオンは男装美女……違う……」

 

「! マスターの野郎、耐えてやがる! 仕方ねえ、小太郎とデオンは下がるんだ!」

 

 第六魔法:『それは男の娘じゃない』。

 各々の性癖のラインが異なることを利用し、性癖外のものを弾く理外の超常法則。

 藤丸はそれを用いて、早くも二人のメンバーに離脱を余儀なくさせていた。

 

「あ、何か楽しそうなことやってるね」

 

「武蔵さん、おはようございます。……楽しそうに見えます?」

 

「地獄だってなんやかんや楽しいもんよ。で、何があったのさ、ジョセフ」

 

「かくかくしかじか」

 

 ジョセフが事情を説明し、通りがかった宮本武蔵は真顔で疑問をそのまま口にした。

 

「女装少年、男の娘、TS、女装子、メスショタ、ふたなり。結局のところ全部ホモでは……?」

 

「あーそれ言っちゃうかー」

 

 武蔵の暴言に、マスター藤丸立香が暴走を開始する。

 

「なんだァ? てめェ……」

 

 立香、キレた!

 

「あらあら、まさか君に喧嘩売られるなんてね。

 とりあえずその辺にあったダンボールの剣でお相手するから、男の娘軍団援護よろしくー」

 

 ラーマ、ベディ、アストルフォという鉄壁の布陣のバックアップを受けた武蔵。

 立ち会いでは無双に近い経歴を持つ武蔵だが、勃ち会いだ取り押さえろと言われても困る。

 武蔵も二刀流だが、元々ノンケで今はホモである藤丸立香もまた、二刀流なのだ。

 

「ドクター! まだ解決策は見つからないんですか!?」

 

『待ってくれマシュ! 今ジョセフ君のアイデアで組み上げた術式が……』

 

「男の娘はロマン! 男の娘はロマンなんだ! それを分かるんだよ武蔵!」

「いやー可愛い子がいいなってのは分かるけど! 君基本衆道興味なかったじゃない!」

 

「ドクター! ドクターは男の娘だったんですか!?」

 

『違うよマシュ! 落ち着いて!』

 

 もはや収集がつかない。

 

『はいはい、できましたよ術式っと』

 

『ダ・ヴィンチちゃん!』

「ダ・ヴィンチちゃん!」

 

『ところで私って彼の男の娘枠に入るのかな?

 いやホモっていう括りでは同種になるんだろうけど。それならまあ一晩くらいなら別に……』

 

「えっ」

 

 ダ・ヴィンチちゃんがささっと解決策を提示するも、更なる波乱の種を投げ込んでくる。

 藤丸は血涙を流しながら、ダ・ヴィンチちゃんの言を否定した。

 

「違うのだ!」

 

「違うそうですよ、ダ・ヴィンチちゃん」

 

『マシュ、なんだか超嬉しそうだねえ。ホモナリザにはならなかったかー』

 

 ジョセフの提示した解決法はシンプルだ。

 このカルデアにある既存のシステムを利用する方法――

 

「……ん? なんだここは。確か、この身は召喚されて……」

 

 ――すなわち、適当な悪役を召喚し、その悪役にマスターの呪いを移動させて、その悪役ごと吹っ飛ばすというものであった。

 ジョセフの提案でその役はサンタナに決定。

 剪定事象さえ召喚されるカルデアだ、その気になれば手間こそかかるが造作もない。

 

 サンタナに男の娘好きの呪いが移動する。

 そして、この作戦に志願した三人の女性がサンタナの前に立つ。

 清姫、頼光、静謐の三名であった。

 

「……どちら様で?」

 

 名前の頭からKを取って並べ替えるとアナルという名前になるカルナ。

 ケツ姐さんことケツァルコアトル。

 太陽の尻同盟がサンタナの背後に立つ。

 吸血鬼の天敵であった。

 

 悲鳴がカルデアに響き渡り、藤丸立香は正気を取り戻した。

 

「うっ、ここは……俺は一体……」

 

「先輩! 元に戻ってくれたんですね!」

 

「ジョースターさん……俺は一体……」

 

「お前は魔術王ソホモンの呪いで、ホモになっちまってたんだよ」

 

「そうか、そうだったのか……」

 

「やっぱりホモじゃない、と武蔵は思うのであった」

 

「黙ってろ宮本」

 

 その後なんやかんやあって、告白みたいなことをマシュにしてしまっていた藤丸立香は、幸せなキスをして終了した。

 

 

 




ダビデ「ゲーティアってゲイみたいな響きがあるじゃないか」

『サンタナ』→シナリオボス
『太陽万歳!』→太陽戦隊サンバルカン
『女装少年』→「女装少年と男の娘は同じじゃない?」「違うのだ!」

 マシュは天使


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第七回:橘朔也とグラハム・エーカー、冠位時間神殿にて共闘す

お題:『橘朔也』『武士道』『魔神柱』
原作:Fate/Grand Order、機動戦士ガンダム00

 遠い時の果て、世界の果て、獅子王を初めとしてありえぬ者達が共闘した決戦の話。




 人類史を守るために、全ての英霊が立ち上がった。

 善の英霊も、悪の英霊も。英霊に倒される怪物達までもが立ち上がった。

 英霊になってさえいない人間も、人類史に含まれない前提事象の存在でさえ戦った。

 一体一体が複数のサーヴァントに匹敵する魔神柱、それが72柱。

 生半可な戦力でどうにかなるものではない。

 

 まして、ここは冠位時間神殿ソロモン。

 通常の英霊は、ここに存在しているだけで消滅していく。

 カルデアのマスター藤丸と縁を結んだ英霊達も、抑え込まれるのは当然で。

 

 けれど、彼らは諦めなかった。

 縁を頼りに、力を振り絞る。

 縁を頼りに、仲間を呼ぶ。

 獅子王の下には円卓とブリテンの騎士が集結し、イスカンダルの下には万の兵が集結した。

 仲間を呼び、その果てに、彼らは人類史の外側、世界の外側にまで縁を繋ぐ。

 

 藤丸立香と魔神王ゲーティアが対峙していた、戦いの終盤期。

 その頃には、どこかの世界で縁が繋がった『世界の外側の存在』までもが、この世界の人類史を守るために戦ってくれていた。

 

《 Barrett. Rapid. Fire. Burning Shot 》

 

 仮面ライダーギャレン・ジャックフォームが空を飛び回り、魔神柱の周りを螺旋状に駆け上がるように飛翔しながら炎弾を叩き込む。

 魔神柱はあっという間に炎上したが、すぐさま再生した。

 

「キリがないな」

 

 復活した魔神柱がギャレンに襲いかかるが、そこに強烈な粒子ビームが叩き込まれる。

 ギャレンが連射で仕留めていた魔神柱が一発で蒸発するが、すぐさま復活した。

 リソースが限られている人類サイドからすれば()()である魔神柱は脅威と言う他無いのだが、今共闘しているこの男二人は微塵も怯む様子を見せない。

 粒子ビーム発射後にギャレンを拾いに来てくれたブレイヴ指揮官用試験機に、橘朔也(ギャレン)は着地。

 普通の靴より遥かに強く踏ん張れる、ライダーシステム標準装備の足裏で変形したブレイヴの上にしがみついた。

 

「助かる」

 

『友軍の礼儀というものだ。気にしないでくれたまえ』

 

 世界の外、物語の外、人類史の外。

 そんな遠い場所から、求める声に答えてやって来た異世界のお人好しが二人、この戦場の隅っこでちまちまと魔神柱の足止めを引き受けてくれていた。

 戦車の弱点を随伴兵が補うように、仮面ライダーが『ガンダム』の死角を補う。

 目を疑うような、奇妙な光景だった。

 

「名乗ってなかったな。橘朔也だ」

 

『私は……そうだな、ミスター・ブシドーとでも呼んでくれ』

 

「偽名か」

 

『他称さ。自分でそう名乗ったことはない』

 

「なら……俺のことは、ギャレンとでも呼んでくれ。この仮面の名だ」

 

『よかろう。仮面を被ったまま、素顔見せぬまま、互いに背中を預けようではないか』

 

 GNドライヴを搭載していればガンダム。そう呼ばれていた時代もあった。その時代にあれば、このブレイヴという機体も間違いなくガンダムと呼ばれていただろう。

 橘朔也は、仮面ライダーであることを一度捨てた人間だ。彼自身は自分が仮面ライダーでなくなったことを自覚しており、けれども仮面ライダーとして戦おうとし、仮面ライダーに戻った人間だった。

 奇妙なガンダム。奇妙な仮面ライダー。

 世界によって言葉の定義が変わる、『ガンダム』と『仮面ライダー』。

 

 その定義に入れそうで入れない、入れなさそうで入っている二人は、互いの長所と欠点を補い合いながら、戦場を飛翔していく。

 戦うさなかに、二人はふと、自分が何故ここにいるのかを考え始めた。

 

「俺は、剣崎が世界と始を必ず救うと信じて……

 あの時、確かにギラファと相打ちになって海に落ちたんだがな」

 

『私もそうだ。少年に未来を託し、ELSへと特攻し自爆したはずだったのだが……』

 

 自分は死んだはずだと、二人は心を一つにする。

 ならばここは死後の世界なのだろうか? いや違う。

 これは"生きる者達がこの先生きる未来を勝ち取るための戦いなのだ"と、未来を諦めない者達の祈りに応えたこの二人自身が、誰よりもよく分かっていた。

 

『ならばこれは一夜の夢というやつなのだろうさ、ギャレン』

 

「夢?」

 

『そうだ、夢だ。目覚めれば消える夢。おぼろげに覚えているだけの夢。

 いつかは醒める夢であり……世界を救うという我々の願いを、叶える夢だ』

 

「世界を、救う……」

 

「そうだ、我らは!

 根本的なところで世界が、人が好きだったから!

 こんな世界の果て、時間の果てに来てまでも、捨てきれない戦いをしているのだよ!」

 

 速く大火力のブレイヴ、小回りが利き精密な射撃ができるギャレン。

 息を合わせて飛び回る限り、この二人に負けはない。

 

「魔神……悲しい存在だ」

 

 戦う内に、ギャレンは少しづつこの敵を理解している。

 憐憫。悲しみ。同情。あまりにも人らしい感情で、魔神は人を滅ぼそうとしている。

 ブシドーはそれをとっくに理解していたのか、ギャレンをMS形態のブレイヴの方に乗せ、魔神柱を見下ろしながらアイドリング状態で浮遊して止まる。

 

『全ての大きな感情は、やがて愛となる』

 

「愛……」

 

『だが大きすぎる愛は、やがて憎しみとなる』

 

「……」

 

『憎しみはやがて宿命となるだろう。

 愛は消える。憎しみは消える。だが、宿命となったそれは、もはや消えん』

 

 人への愛から始まり、人を憎み、人と向き合わなければならない宿命を得た魔神。

 ブシドーにはそれが、かつての自分が誤った事柄そのものであるように見えた。

 ギャレンにはそれが、剣崎と始の間にあるもの……愛深きあの二人が、ジョーカーの衝動に突き動かされて憎み合い、殺し合う宿命にあるという、運命そのものであるように見えた。

 

 ブシドーの脳裏に浮かぶのは、その全てを切り裂いたかのガンダムの鋭い剣。

 ギャレンの脳裏に浮かぶのは、運命そのものと戦おうとした剣崎一真の背中。

 この敵に負けることは、この二人にとっては絶対に、許容できないことだった。

 

 心に剣。ブシドーは刹那、ギャレンは剣崎。それぞれの剣を心の中に浮かべて挑む。

 輝く勇気(ブレイヴ)。ブレイヴの煌めく装甲の上でギャレンが、走行の内側でブシドーが、それぞれ張り裂けんばかりに叫んだ。

 

「行くぞ!」

『行こう!』

 

 戦いは終わる。

 

 特別な彼らの戦いを脇役にして、普通の男の子と女の子を主役に据えて。

 

 色んな人に助けられた、普通の二人が世界を救う物語は、こうして終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦いが終わり、ギャレンとブシドーは不思議な分かれ道の前に居た。

 右と左の分かれ道。

 ギャレンは右に進み、ブシドーは左に進む。

 

 ここが、橘朔也の夢の終わり。

 

「これでお別れだ、ブシドー。

 どうやら俺は、まだ心残りがあったらしい。

 この夢から目覚めて、現実でまだ助けたい仲間達が居る」

 

「そうか」

 

 そして、ここがブシドーの夢の始まり。

 

「なら、私はもう少し夢を見続けるとしよう。

 世界を渡り、こんな私にも救えるものがあれば救おう。

 私の夢が覚める時は、全てが終わる時だろうが……

 もしも、もしもだ。今日のような、子供達が世界をかけて戦う日が来たならば……

 その時はまた、彼らの視界に映らないような隅っこで、彼らを助けてやろうと思う」

 

「そうか」

 

「未来への水先案内人というのも、案外悪くないと知ったのでね」

 

 夢の終わりを望んだ者。夢の続きを望んだ者。

 二人が出会うことは、もう無いだろう。

 

一時(ひととき)の共闘、感謝する。ブシドー……いや、仮面の戦士」

 

一時(ひととき)の共闘、感謝する。ギャレン……いや、仮面の益荒男(ますらお)

 

 ギャレンが変身を解除して、素顔を見せる。

 ブシドーが相手の流儀に合わせて付けていた仮面を外し、素顔を見せる。

 

 最後に戦友の素顔を見て、二人は背中を向け、それぞれの道へ歩いていった。

 

 

 




 剣に憧れ、託した二人

『橘朔也』→ギラファにやられてオーラロードっぽいものが開いて参戦、その後現実世界に戻ってあんまりにも疲れて空腹だったことからカード全部海辺に落としたことにも気付かず、レストランでパスタ食ってたら大変なことになったので剣崎達のピンチに駆けつけた
『武士道』→ミスター・ブシドー
『魔神柱』→二人がドロップの悪い雑多魔神柱達を片付けてくれていたおかげで皆はバルバトス等倒したいやつだけを倒せていたのです


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第八回:融合次元に最強の特殊能力を持ったオリ主が現れ原作開始前に全てを台無し(水分)にする話

お題:『ハゲオヤジ』『ウェットマン』『カードゲームではよくあること』
原作:遊戯王(基本ARC-V)

 超最強のオリ主がカードゲームでは禁じられた世界法則無視の特殊能力を使って無双する!


 カードゲームにおいて、時折ゴキブリのように嫌われる存在が居る。

 

 そう、『手汗が酷いやつ』だ。

 

「エクスチェンジです。どうぞ、プロフェッサー」

 

「ぐ……!」

 

「どうしたんですか? 好きに僕のカードに触ってくださいよ、そっちのカード取りますから」

 

「おのれ、お前私のカードに……」

 

 その少年は、ウェットマンと呼ばれている子供だった。

 次元がめちゃくちゃに弄くられたこの世界に、別世界から漂流した魂。

 『因子を持って転生した』という特性を持つ、ズァークのことを警戒する赤馬零王からすれば一時も目を離せない存在であり、重要な研究対象であった。

 破壊衝動を生まれつき持っていたわけでもなく、特殊なドラゴン系カードを持っていたわけでもなく、生来持っていた能力は『湿った手の男(ウェットマン)』という、手が湿り気を持つ能力のみ。

 だが素で強かったので、幼少期からべらぼうに強かった。

 

 そして()()()()()()()()()()使()()という分野において、最上級の才能を持っていた。

 

「……」

 

 彼の手に触られたカードはふやける。

 何度もふやけさせられると、その内デュエルディスクにも認証されなくなる。

 何故か分からないが、伝説のカードでさえふやける。

 しかもウェットマン本人は、自分のカードを上下からスリーブを被せている。

 スリーブを使わない遊戯王アニメ次元のデュエリストにとって、この男は世界最悪の破壊神と言っていい存在だった。

 

「おお……」

 

 プロフェッサーを堂々と――精神的に――圧倒しているショタウェットマンに、ロリセレナが憧れの視線を向けている。

 デュエル内容を特に気にしていない彼女は将来大物になるだろう。

 

「この、この悪魔め……!」

 

「あ、そういうこと言っちゃいます? ます?

 本気出しますよ本気。我が一軍デッキ、握手暗黒界を……」

 

「分かった! 分かった! 私が悪かった!」

 

 出来がよく物分りがいい子供しか育てた覚えがないハゲオヤジ・零王に、こんなファンキーでウェットな子供を制御できるわけがない。

 ウィットに富んだ子供は育てていて楽しいだろうが、ウェットに富んだ子供の育て方なんてどんな本にも載っていない。

 融合次元知恵袋に『カードの破壊者をどう育てればいいでしょうか』と聞いたところでまともな返答など返ってくるものか。

 

「そ、そうだ! ユーリとデュエルしておけユーリと!」

 

「ユーリはもう一軍の握手暗黒界でやっちゃったんで」

 

「……おお、もう……」

 

 ウェットマンの物理ハンデス(手に触れられたら死ぬ、の意)に既にユーリはやられている。

 この少年の手はちょっとねちょっとしてるのだ。嫌がらせのために能力をフルに発動すれば、ナメクジよりねちょっとするようになる。

 

「スターヴベトベトムフュージョンドラゴンにしちゃったのは少し可哀想だったかな」

 

「ベトベトにしたのか……」

 

「すみません、自分の罪状を隠すためにちょっと誤魔化しました。グチョグチョにしました」

 

「グチョグチョにしたのか……」

 

 おそらく、コントロール奪取か何かでスターヴを奪って『テキスト確認しまーす』とか言ってやらかしたのだろう。しかも使用デッキは握手暗黒界。

 ユーリという名前だが、ウェットマン相手にデュエルで有利は取れない。常時不利だ。

 

「そのデュエルでね、気付いたんですよ」

 

「……何をだ」

 

「自分の手札を二枚にします。で、片方のエクスチェンジを使います。

 残った一枚を相手に渡します。

 で、相手がこれを使うんです。するとこのカード、墓地で詰まるんですよ」

 

「……」

 

「で、エラー表示が出るんです。デュエル形式次第では一発ジャッジキル!

 これは最強だなあと思いましたよ。

 デュエル中断かジャッジキルかの二択ができるので、これを目指したデッキをですね」

 

「お前は悪魔だ! 汚い手を使って常勝を目指すな! 目眩がする!」

 

「ふざけないで下さい! 僕の手のどこが汚いっていうんですか!」

 

「全部だ!」

 

「ヌルヌルしてるだけですよ!」

 

「手汗は汚いわぁ! 私のカードに触るんじゃない!」

 

 赤羽零王は迷いなくサレンダーを選択。

 自らのカードを守る、誇り高き敗北を選んだ。

 

「つまんね。せっかくの俺のウェッティングドローが披露できなかった」

 

「普通のデュエリストはお前とデュエルなどしたがらんぞ……」

 

「じゃあ僕のヌメヌメロンコードはどこで発散してくればいいんですか!」

 

「知らん! 他次元にでも行け!」

 

 ハゲに突き放され、ちょっとしょんぼりしたウェットマンの服の裾を、ロリセレナが引っ張る。

 

「つぎはわたしとでゅえるだ」

 

「……ああ、いいぞ。ちょっと待ってな」

 

 ショタなウェットマンは手袋を付けて、二人の間にデュエルマットを敷いた。

 

「おい」

 

「はい?」

 

「待て」

 

 手袋。手袋を付けた。それを見た瞬間、零王の胃に穴が空く。

 

「え、だって僕のこの手のことを知って仲良くしてくれる女の子ですよ?

 控えめに言って天使か何かですよ? それで手袋付けないとかありえないでしょう」

 

「ならセレナ以外とのデュエルでも付けろ! この常識外れが!」

 

「失礼なことを言わないで下さい!

 プロフェッサーとユーリ以外の相手とのデュエルでは基本付けてます!」

 

「そ、そうなのか? すまない、失礼を……ん?」

 

「全く、言葉には気を付けて下さいね」

 

 このハゲは(もう)しょうがないんだから、といった顔で、ウェットマンはデュエルを開始する。

 

「デュエル!」

「でゅえる!」

 

 ヌメヌメロニアス・ヌメヌメロニアを召喚したりと、彼は今日も絶好調だった。

 

 

 




 万人から殺意を集めるデュエリスト

『ハゲオヤジ』→赤羽零王
『ウェットマン』→主人公(トーリ要素ほぼなし)
『カードゲームではよくあること』→手汗

 チート(水分量+浸透力)


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第九回:尻の名は。

お題:『ルシエド』『お尻』『君の名は』
原作:君の名は。、この素晴らしい世界に祝福を!、金色のガッシュ!!、ワイルドアームズ2

 金色のガッシュベルとこのすばのめぐみ'sのケツが入れ替わるだけのヤマもオチもないお話です。


 かつてガッシュ・ベルと共に戦った少女、大海恵はここ数日の奇妙な現象で、ある一つの事実に気が付いていた。

 冒険者サトウカズマの仲間の一人、めぐみんはここ数日の奇妙な現象から、聡明な頭脳によってある一つの事実に気が付いていた。

 

「これってもしかして」

「これってもしかして」

 

「私のお尻が」

「私のケツが」

 

「「 入れ替わってるー!? 」」

 

 自分の尻が、見知らぬ誰かのものと入れ替わっていることに。

 

 

 

 

 

 とりあえず大海恵は、マネージャーと近場のコンビニの店長に頼み、人払いをしてからケツに付いていたバーコードをコンビニのレジで読み込んで見ることにした。

 相当に頭が煮えた行動だ。彼女がどのくらいテンパっているのかが見て取れる。

 だが、大正解だった。

 

「うわっ、めっちゃ長文出て来る……」

 

 コンビニのレジでめぐみんのケツに付いているバーコードを読み取ると個人情報が全て開示される。これってトリビアになりませんか?

 

「めぐみん……わっ、変な名前」

 

 毎日起きている間六時間前後、ケツが見知らぬ誰かのものと入れ替わっている。

 何という恐怖か。クトゥルフ神話より怖い。ケツァトゥグァ降臨以上の恐怖だ。

 男と入れ替わっていたら更に恐怖は増していただろうが、入れ替わった相手が女の子だったということで、恵もちょっと一安心。

 

「これは……尋常な事件じゃないわ!」

 

 恵はこの異常事態に、冷静な判断力を放棄した。

 ウンコティンティンと言わされるだけで死ぬほど追い詰められた清純派のアイドルが、こんな逃れようもない下ネタ災害に精神的耐性があるわけがない。

 ケツの等価交換などもってのほかだ。

 

「もうちょっとでケツが入れ替わる時間……そうだわ!」

 

 そして恵は、コンビニにあった商品を買い取り、煮えた頭で現状の情報を出来る限り記したメモをケツに貼った。

 白いケツが、まるでホワイトボードのようだった。

 

 

 

 

 

 ホワイトボードになっためぐみんのケツが本人の下に帰還する。

 

「いやもう本当になんなんでしょうかこれ。ケツが爆裂する以上にありえないですよこれ」

 

 めぐみんはケツに貼られたメモから情報を得る。

 足りない情報も多かったが、そこは紅魔族特有の高い知力での推測で埋め、大海恵以上に正確にこの現状を理解していた。

 

(とりあえず、害は無さそうですね)

 

 そう判断し、放置を決め込んで数日が経過。

 異世界の年が近い同性とのガールズトークはそこそこ楽しかったが、こうも元に戻る気配が無いと少し不安になってくる。

 

 もしや一生ケツを交換しながら行きていかなければならないのか。

 他のギャグキャラならいい。

 サトウケツマさんでも、ケツルギキョウヤさんでも、笑い話にはなる。

 しかし正統派美少女である自分にそんなニッチな属性が付いていいものなのか。

 それは世界の損失ではないのか。

 そんな思考がぐるぐると脳内を巡ってしまう。

 

(仲間に相談……)

 

 仲間に頼るべきか、そう考えるめぐみん。

 

(いえ、そんなことしたらあのクズマのことです。

 "え? お前紅魔族から肛魔族になったの?"くらいは言われそうですね……)

 

 だが仲間への信頼度のあまりの低さに、その選択肢を投げ捨ててしまう。

 

(ケツがこうなった直前、感じた大きな力。

 魔力というには何か違くて、神の力と言うには神聖さが足りない……

 けれど、神と言われれば信じざるをえない規模の力。あれは、一体)

 

 あれが黒幕の力だったのかもしれない、とめぐみんは推測する。

 オーソドックスな話だが、この手の呪いは術者を倒せば解除される。

 ならば黒幕を探し出し、一刻も早く倒すのが先決だ。

 敵がどれだけ強くても、先生で爆裂魔法を当てれば倒せるという自身が、彼女にはあった。

 

 仲間を盾に使ってきても、生きているなら神様だって殺してみせる。

 それがめぐみん。ゾフィスみたいなカス爆発とは違うのだ。

 

(背に腹は……背にケツは代えられません。ゆんゆんも誘って、他の方にも助力を……)

 

 今の仲間に発覚する前に、ケツを取り戻さなければならない。

 

 そう奮起して、めぐみんが屋敷の外に出ようとした、まさにその瞬間。

 

「セイクリッド・ブレイクスペル!」

 

 アクアの解呪呪文が、力任せに『ケツ交換の呪術式』を吹き飛ばした。

 

「え?」

 

「安心してめぐみん! なんかよく分かんない呪いがかかってたから、吹っ飛ばしておいたわ!」

 

「……」

 

「多分魔王軍が私の力を恐れて、めぐみんを操る呪いをかけてたんだと思うの!

 でもね、私のこのくもりなきまなこからは隠れられないってわけよ!

 あ、お礼はたっかーいお酒でいいわよ? 今日の晩御飯の時、楽しみにしてるからね!」

 

 そう言って、世界一神聖で世界一不思議なパワーが有るチンパンジーは、自室に向かって走り抜けていった。

 

「……力だけ見れば、神様とかそういうのの類にも見えるんですけどねえ……」

 

 この順序立てない、無茶苦茶でお約束破りな結末が自分達らしいのかもしれない、だなんて苦笑するめぐみんは思ってしまう。

 

 自分達のケツが交換される(まじな)いがどこからかけられたのか、誰がかけたのか、それは少しだけ気になったが……今は考えなくてもいいことだと、彼女はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あらルシエド、また外界か平行世界に何かして遊んでたの?」

 

「あんた何も考えずに適当にやると大体酷いんだから、考えてから行動しなさい」

 

「ほら、行きましょう」

 

「私達が待ってた最後の剣の英雄が……

 アシュレー・ウィンチェスターが、そろそろ来るかもしれないんだから」

 

 

 

 

 

 

 




 バーコードバトラーにおいて限定条件下で最強の存在と化すめぐみん

『ルシエド』→黒幕
『お尻』→ギミック
『君の名は』→ギミック

 CMキャッチコピーは「全国を包み込んだ感動」じゃあれですし「全国を包み込んだケツ」とかそういう感じで


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第十回:ゼファー・ウィンチェスター兄貴とライ・ドローン少年

お題:『feat.ワイルドアームズのゼファー君』『マシュマロ』『vivid strike!』
 以下の作品の主人公が意味なくちょっとだけ喋るだけの話です。
https://novel.syosetu.org/37743/
https://novel.syosetu.org/104754/
https://novel.syosetu.org/107058/
 オリ主対談という地雷の中でも最上級にアレな地雷……!


 まあ座れよ、とライ・ドローンはこたつの反対側を勧められた。

 

「パンかミカン食うか?」

 

「ありがとう、ございます」

 

 名を名乗る前に、その男は食べ物を差し出した。

 パンは焼き立てで、ミカンは小さな筋まで丁寧に取ってある。

 そして何より、その笑顔が素敵だった。

 何故か父を思い出す、その笑顔を見ているだけで安心できる笑顔が、そこにあった。

 

「俺はゼファー・ウィンチェスター。お前は?」

 

「ライ・ドローン。……です」

 

「合縁奇縁だ。世界を渡ったりもする俺だが……

 お前の魂の色も覚えたし、何か洒落にならないことがあったら俺を呼べ。

 友達関係から宇宙の危機まで、呼ばれればまるっと解決してやろう、はっはっは」

 

「はぁ」

 

「お前は割と平和な世界に生きてるみたいだから、俺が呼ばれるとしたらヤバい時だろうな」

 

「……」

 

「お前の世界の危機は、お前の世界の人物がきっちり解決してるんだろう? いい世界だな」

 

「……」

 

「……『喋らなくても察してくれる感じが楽だなぁ』って考えてるな?」

 

「!」

 

「お前調より喋るの苦手キャラか。逆に驚くわ」

 

 ゼファーはどこからともなくコンロを出して、その上でマシュマロを焼き始める。

 チョコクリーム、生クリーム、複数種のフルーツソース、ついでに牛乳までポンポン出て来て、そこにぽんぽんマシュマロが投げ込まれていった。

 

「食っていいぞ」

 

 ライは頭を下げて、マシュマロに手を付けていく。

 少年の表情を見る限り、どうやらこういった菓子に小細工をする腕は、ゼファーの方が上であるらしい。

 ライは中学一年生。ゼファーはとっくに成人を過ぎている。

 なので、気のいい親戚の兄ちゃんと内気な少年みたいな雰囲気になっていた。

 

「ライ。お前は余り心配いらないみたいだな」

 

「……心配?」

 

「いやな、本当に心配になるやつってのは結構居るんだよ」

 

 まったり茶を飲み、こたつに体を預けているゼファーが、そう呟く。

 

「力は貸せても、心は貸せねえからなあ……」

 

「……」

 

「その点、お前は十分だ。その心があれば言うこともない。

 足りない力はお前の仲間と友達が貸してくれる。

 外宇宙から全並行世界を一瞬で滅ぼす力を持った敵とかが出て来たら、俺が潰そう」

 

 ロードブレイザーのような規格外が現れて、全てが台無しになる可能性は、全ての宇宙と世界に存在する。だがその可能性も今、ゼファー・ウィンチェスターという希望が潰した。

 

「ならお前の戦いは、心の戦いだ。

 ハッピーエンドと大団円を目指す戦いだ。

 許さず敵の絶滅だけを目指す戦いよりよっぽどキツくて、難しい」

 

「……」

 

「俺はその戦いにまで力を貸せない。それはお前の心で勝たなければならない戦いだからだ」

 

 力では救えないものがあり、心でしか救えないものがあり、許しで至る結末がある。

 

 これは、心の欠片の継承でもあった。

 

「忘れるな。大切なことは、"絶対に絶対"諦めないこと。

 諦めなければ、風向きは変わる。西風はお前の背を押すだろう」

 

「……はい!」

 

「頑張れ。俺の最近の持論だが、笑顔が好きなやつに悪いやつは居ない」

 

 景色が薄れる。

 全てが薄れる。

 世界が薄れる。

 

「―――お前の光も―――誰かを照らし―――」

 

 最後の言葉を聞き取れず、ライは目を覚ました。

 ただの夢だったのか。

 それとも本当に誰かと話していたのか。

 自分の記憶を遺跡のように踏破して、心の中まで来た誰かが居たのだろうか。

 ぼんやりした思考で目を開こうとすると、自分が誰かに抱き起こされていること、誰かにずっと謝られていることに気が付いた。

 

「―――ライ君!」

 

 リンネだった。リンネが彼を抱き起こし、彼に何度も謝っている。

 そうして、ライは何故自分が気絶していたかを思い出した。

 リンネの手加減パンチがライのヘタクソなガードのせいで軌道がズレて、頭にクリーンヒットしたのだ。加減してこれなのだから、本当に女ワンパンマンである。

 最近の公式戦も世界ランカー以外はワンパン、世界ランカーも時々ワンパンというリンネは、まさしくワンパンウーマンであった。

 

 ライを気絶させ、泣きそうな顔で謝っているリンネの頬に手を添えて、ライは微笑む。

 彼女が気にしないように言葉を選び、彼女が気に病まないように説き伏せるのを開始する。

 

「大丈夫、気にしてないよ」

 

 好きなものから許していきたい。それじゃ駄目かな、と、ライは心の中で問うてみた。

 

 ゼファーの返答は、返っては来なかった。

 

 

 




 物語を終えた大人から、まだ一つの物語を終えたばかりの少年へ

『feat.ワイルドアームズのゼファー君』→力を貸す側
『マシュマロ』→大人から子供に与えるもの
『vivid strike!』→大人から一つ、大切なことを教わった子供

 リンネちゃんの笑顔は、ゼファー君が守るものではないのです


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