アンリミテッドは無理ゲーすぎる! (空也真朋)
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第一話 キャラクターメイキングでBETAを倒そう!

 

 

「こんにちは〇〇くん。死ぬのはいい日だったね。」

 

 「え……?鑑純夏?」

 

 「うんうん、私のこと知ってるね。じゃ、説明するね。」

 

 俺はつまらない事故によって死亡。そして魂を迎えに来た女神がマブラヴのメインヒロイン鑑純夏だった。

 

 「君も知っての通り00ユニットだった私はオリジナルハイヴを潰したあと機能停止。つまり死んじゃったんだけど、ある使命を持たされて女神になりました。」

 

 「そうか。悲しい終わり方だったけどあのあと女神様になったんだ。」

 

 「で、君。私の使命のためにBETAのいる世界へ行って下さい!」

 

 「なんで!?実は純夏、鬼畜ヒロイン!?]

 

 ゴッド純夏の話によるとこうだ。彼女は白銀武を因果導体にして何度も死にもどりをさせた。

 その結果BETAのいる世界が多く生まれ、その影響でさまざまな平行世界が滅亡の危機をむかえることになってしまう。

 

 「対策としては過去のタケルちゃんが最初に送られたBETA世界で地球上の全BETAを全滅させることだね。」

 

 「オルタですらないアンリミかよ!」

 

 アンリミテッドでは本篇ではBETAと戦うことすらできなかった。何一つ開発できず、白銀武もそこそこの衛士になっただけ。

 

 「いや無理だろ。オルタですらやっと反撃する方法が出来たってぐらいなのに、俺一人行ったところで何か出来るとは思えん。」

 

 「そんなこと言わないで。一応チートとかあげるから。」

 

 「本当か!?じゃ、エネルギー無限のダブルオークアンタくれ!」

 

 あれなら一機で殲滅できる!

 

 「俺自身はニュータイプ……いやSEEDがいいか。」

 

 「成りたて女神の私にハードル上げないでよ。送れるのは君の魂だけ。赤ちゃんからスタートだね。チートはこの中から選んで。キャラクターメイキングは君にまかせるよ。」

 

 

   肉体強度

 

   精神力

  

   操縦技術

 

   工学力(開発、設計)

 

   政治力

 

   商業力

 

   建築力………etx

 

などなど普通の能力が並び、それぞれ目盛りがついていた。

 MAXは20、10までは白、11から16までは黄色、17から20までは赤いゾーンになっていた。

 

 「めちゃくちゃ普通だな。こんな普通の能力でBETA全滅?」

 

 「ボーナスポイントは30.肉体強度と精神力は最初から5ずつあるよ。普通に生まれた時の値だけど足りなかったらこっから取ってもいいよ。でもどちらか0だったら生まれて即死亡。1だったら一生入院だからとりすぎないようにね。」

 

 こっからは取らないようにしよう。健康第一。

 

 「魅力値は初期10あるけどこっちは下げること不可。これぐらいないと何故か運命に介入出来ないんだ。」

 

 なんで!?5が普通なら10って女の子ならかなり可愛いぞ!なんでそんなに……ってマブラヴでしたね。もしかして女性確定?

 

 「イエローゾーンは天才レベルだけどポイントは2使って1目盛り上げるんだよ。」

 

 「何で?」

 

 「テストで40点から60点にするのと70点から90点に上げるのじゃ努力の量は全然違うでしょ?その理屈だよ。」

 

 「じゃ、レッドゾーンは?」

 

 「ポイント3使って1目盛りだね。化け物、怪物、人外と呼ばれるレベルになるよ。」

 

 この辺がチートって感じだな。

 

 「ちなみにさっき君が欲しがったニュータイプは操縦技術と精神力をイエローゾーンにすれば似たような力になるし、SEEDなら操縦技術をレッドゾーンにすればいいと思うよ。」

 

 とにかく一通り解説してもらうか。掘り出し物があるかもしれないしな。

 

 「肉体強度をレッドゾーンにするとどうなる?」

 

 「生身でBETAと戦えるようになります。17以上にすると体が大きくなりすぎて戦術機に乗れなくなるから気をつけてね。」

 

 うえ、確かに化け物だな。

 

 「精神力をレッドゾーンにすると?」

 

 「リーディング能力が使えるようになるね。レッドゾーンになれば霞ちゃんを超えるよ。」

 

 霞ポジションになるのか。ちょっと遠慮したい。

 操縦技術はさっきの説明で大体わかったからいいか。

 

 「工学力をレッドゾーンにすると?」

 

 「すごいガンダムも設計出来るようになるね。ただ素材や設備は宇宙世紀に比べて全然遅れているから『なんちゃってガンダム』がせいぜいだね。」

 

 気づいたが俺一人SEEDやニュータイプでもEXM3すらない戦術機ではじれったくなるだけだ。

 ダブルオークアンタを設計出来たとしても完成品が出来るのは俺の死後になりそうな気がする。

  発想を変えよう。裏方からマブラヴキャラを支えてみるか。

 

 「政治力は?」

 

 「レッドゾーンにすると世界征服も出来るかもね。」

 

 うん、候補の一つだな。夕呼先生は政治的にいろいろ苦しめられてきたし援護出来るな。

 

 「商業力は?」

 

 「レッドゾーンにすると世界の経済を操るひとになれるね。」

 

 これもいいな。この二つで世界一丸となって対BETA作戦をやって……と思ったが。考えてみればBETAは全人類の力を結集したぐらいで勝てるほど甘くないんだよな。

 結局あの世界にBETAに有効なものは何一つない。俺一人チートでもせいぜいハイヴを一つ二つ潰せるぐらいだろう。

 それでもあえてBETAを全滅させる可能性のあるチートをあげるなら。

 俺は項目をスクロールさせアレを探した。



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第二話 転生

 

 

 

 あった。

 

 科学力(物理)

 

 俺はこれを目一杯上げ、途中ポイントが足りなくなったので肉体強度と精神力を3に下げてMAXにした。

 

 「これでいい。肉体強度と精神力は3に落としたが大丈夫だろ?」

 

 「うん。戦術機に乗らないならちょっと虚弱で気弱になるぐらいだから大丈夫。

 でも何でこれ?何でMAX?

 化け物レベルは一歩踏み出すぐらいじゃないと危ないんだけど。」

 

 「夕呼先生の研究を強化するのが一番可能性があると思う。研究設備も世界最高だし、スタッフも一流だ。MAXにしたのはこれでダメなら諦めるしかない、というぐらいのチートを持つためだよ。目盛りを1でも残してだめだったら後悔しそうだしな。」

 

 「なるほどね。確かにこれしかないかもね。でも大丈夫かな。」

 

 「なにが?」

 

 「まさか一点突破でMAXにするとは思わなかったよ。これは人間が耐えられるギリギリ、つまりコップを完全に一杯にした状態で運ぶようなものだからね。」

 

 ヤバい。少しもどそうか。

 

 「それと転生先もロクなものにならないと思うよ。転生先は政治力が高ければ政治家の子、工学力が高ければ技術者の子というように変わるんだよ。能力は才能だけじゃなく生まれ育った場所にも大きく影響をうけるからね。

 でも化け物レベルのレッドゾーンが生まれる場所となると……」

 

 「うーん。でもBETAに対抗するには賭けも必要だと思う。

 あ、あと生前の知識は持っていけるのか?原作知識は欲しいんだが。」

 

 「出来ることは出来るけど……女神の加護があるからってだいじょうぶかなあ。」

 

 「なんだそれ?それも説明してくれ。」

 

 「要は簡単に死んだり壊れたりしないよう運が良くなることだよ。せっかく過去に送るのに簡単に死なれちゃたまんないからね。

 あ、でも『俺様は死なねー!』とか言ってバンザイしてBETAに突撃とかやめてね。普通に死ぬから。」

 

 そんなにバカじゃねーよ!

 

 「で、話をもとにもどすけど生前の記憶を持たせるのは簡単なんだ。脳が安定する七歳ぐらいに思いだすよう脳に封印する。

 でもそれまでの生きてきた記憶とぶつかって夢と思って忘れてしまうか、二つの人格が統合しきれず発狂するかになると思うよ。」

 

 ゲッ!ただでさえリスク高いのにさらにたかくなるのかよ。原作知識は惜しいが諦めるか……と思ったが何故かどうしてもつけなきゃいけない気がした。

 

  ――――何だ?もしかしてこれが女神の加護?―――――――――

 

 「かまわない。前世の知識もくれ。」

 

 「え?……うん、わかった。五歳で思い出すように記憶を封印しておくね。」

 

 こんなとこか。もう忘れたことはないよな。

 

 「じゃ、がんばってね。失敗したら何度でもBETA世界に送るよ。チートなしで。」

 

 脅しかよ!邪神になったんじゃねーのかゴッド純夏よ。

 とにかく行くか。

 そして俺は転生の闇にのまれた。

 

 

 

 あ、目盛り少し下げるの忘れた。

 



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第三話 転生先は実験体

 さて、ハラハラドキドキの転生先は………実験体二ューブレインチャイルド1号(NBC1)という名前の女の子でしたー。

 はい、人体実験被験者です。それもお薬ちょっと投与したら検査してーなどと生ぬるいものではなく、赤ん坊の脳にBETA技術で造られた記憶補器を埋め込むというバリバリMADな実験です。

 この組織の黒幕は香月夕呼。白銀君に昔いろいろ罪を重ねてきたといってましたが、このことかもしれませんね。この実験データが00ユニットにつながるんですね。納得です。

 端からみると非人道的ですが、やられてる身から言わせてもらえば三色タダで寝て暮らしてそれでいて世界の役にたつという夢のようなお仕事でした。

 

 他に三人実験体はいました。全員女の子です。4という数字はレッドゾーンの目盛りと同じ数です。なるほど、他の目盛りを選べば他の娘達のどれかになっていたわけですね。

 実際私は生還することは期待されておらず、かなり無茶なことをさせられていたようです。本命は4号。彼女は教育のようなものも受けていました。

 やがて2号、3号は脳が耐えきれず死亡。1号の私と4号の本命彼女も自我が生まれず廃人。

 

 ですが悪が栄えたためしなし。人体実験組織は官憲に踏み込まれ壊滅しました。職員は全員自決。横浜基地まで手がとどきませんでした。

 そして私はお医者様にいろいろ調べてもらった後、ベッドに寝かせられた時にゴッド純夏の記憶の封印が解けました。

 

 「やはり何の反応もないな。」

 

 「完全な廃人です。可哀想ですが殺処分しかないでしょう。」

 

 などとお医者様はお話中。

 ヒイイイイイイイイイイイイイイイ!

 あと少し封印が解けるのが遅かったら殺されてた!?

 

 「待って待って!生きてる!殺さないで!」

 

 と言って飛び出しました。私を見てお医者様達はめちゃくちゃ驚いてましたね。

 生まれて初めて声を出したのでのどが痛いです。

 さて、再びお医者様の検診がはじまったのですが‥‥‥アレ?なんか頭の働きが速すぎてまわりが妙に遅く見えますね。なんか人の行動とかも完全に予測できちゃいそうだし、物質の構成とかも全部細かく見えてわかっちゃう感じです。

 なるほど。これでは赤ちゃんの認識力では人間が生き物とは思えないんですね。

 もしかしたらBETAの見ている景色に近いものなのでしょうか。

 入院中、お医者様と四苦八苦しながらコミュニケーションをとって頭の働きを鈍らせるお薬を作ってもらい、やっと世の中が普通に見えるようになりました。

 

 さあ、BETAを倒す旅に出かけよう!

 

 

 




 これはウソの話ですよ。夕呼先生は人体実験なんかしてません


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第四話 就職希望は横浜基地

 ウソです。旅には出ません。

 

 こんにちは。 NBC1改め沙霧真由です。

 

 あの後私を診察したお医者様のお家に養女として引き取られました。

  なんと沙霧家!

 オルタ中盤でクーデター起こした沙霧尚哉の義妹です。

 彩峰慧とも知り合いです。うん、変なお姉ちゃんでしたね。彼女のパパンはお兄ちゃんとめあわせようとしてたみたいです。

 でもお兄ちゃんは彩峰パパンと話してばかり、慧さんは私と遊んでばかりでちっとも仲は進みません。

 でも仲が進んだら困るんですよね。なるたけ原作に近くなるよう慧さんには白銀ハーレムに入ってもらわないと。ひどい義妹でごめんなさい。

 でもクーデターは絶対阻止!

 いくら榊のクソジジイでも総理大臣を殺してただですむわけはありません。

 

 さて、時はたちその現総理の榊是親は国連主導のオルタネイティヴ4計画を推進することを決定しました。この辺機密ですが原作知識でわかっちゃいます。今の国連はアメリカの影響が強いんですが、それと仲良く手を組んで4計画を進めているのに反発している人達がいます。

 ちなみにオルタネイティヴ5計画も別のアメリカの組織が主導してるのでややこしいですね。

 

 彩峰パパンの中将様はお兄ちゃん始めアメリカ嫌いの人達のリーダーだったのですが、サクッと粛清されちゃいました。私たちのパパとママもそれに巻き込まれて最前線の衛生班に送られ死亡。うん、確かに殺したくなるジジイですが日本の命運がかかっているので泣き寝入りしかないです。

 ものすごく怒っているお兄ちゃんをうまく誘導してクーデターを起こさないようにしなければ。

 

 パパとママも死んじゃってお兄ちゃんのお金で育ててもらうのも気が引けるので、帝大二年にもかかわらず就職活動をしました。

 え?年齢が合わない?もちろん飛び級です!科学力チートですから。

 就職希望先は横浜基地技術部!

 あそこは今オルタネイティヴ4計画のまっ最中のため、世界中から最高の科学者、技術者が集まっています。普通なら卒業すらしていない学生など鼻で笑われるだけです。

 

 ()()()()

 

 ぜったい無理だという恩師にムリヤリ希望届けを書いてもらいました。

これは試金石。

 かつてのNBC1である私のことを追って調べているかどうかのテストです。

 

 すると来ましたピアティフさんです!夕呼さんの副官である彼女がわざわざ逢いにくるなんてわかりやすすぎですよ。

 

 なに、大学に用があるついでに話をしてみたくなった?

 

 基地に勤めさせるのは難しいが熱意ある学生は大事にしたい?

 

 裏事情を知っているので白々しく聞こえますね。

 そして夕呼さんとの面接アンド基地見学の約束を取りつけました。

 

 10月22日に! そう、あの日です!

 

 「どうもありがとうございました。これは私が前に行っていた研究のレポートです。これを見れば私のだいたいの実力はわかると思います。ぜひ一読し、面接の参考にしてください。」

 

 おみやげを持たせました。

 これを見たときの夕呼さんの顔が見れないのが残念です。ヒヒヒ。

 レポートの中身は00ユニットの失敗した方の設計図。現在横浜基地技術部が全力をあげて何とかしようとしている人工知能の設計図です。

 私もあえてこの方法で限界まで挑戦してみたんですが……あれは無理ですね。

 あれじゃロボ純夏さんは出来ません。

 成功した方の設計図もあるんですが00ユニットの完成は時期をみないと。

 白銀君の成長とタイミングを合わせて出来るようにしないとすべて水の泡です。

 

 そして面接の日の十月二十二日。

 自慢のツインテールをセットして出発です。

 え? 面接にツインテール?とかいわないでください。リボンは思考波をかき乱す素材。大学の研究室でつくりました。霞ちゃんのリーディング対策のためです。

 今日が原作一日目だと思うとなにやら感慨深いものがあります。ゲームで見た柊町が朽ちている風景は何やら哀愁を誘います。

 それにしてもいくらセットしてもとれないこの巨大アホ毛はなんなんでしょうね。ゴット純夏の影響か、私の姿はどことなく鑑純夏に似ていて何やら純夏の妹キャラになった気分です。

 この曇り空のどこかでゴッド純夏は見ているのでしょうか。

 

 「すみか……?」

 

 一人の少年がそう言って私の前に出てきました。

 あ、いけない。もうここは目的地の一つ、柊町でした

 不安そうな顔をした彼こそはかの伝説の主人公様。

 

 白銀武 であります。




 プロローグはここで終わりです。
 次回、恐るべき第一のライバルとの出会いから物語りは始まる!


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第五話 香月夕呼の憂鬱

 香月夕呼Side

 

 

 「やはり不安ですか。ニューブレインチャイルド1号と会うのは。」

 

 「そうね。再会を喜び合う、なんていかないわね。」

 

 ここは横浜基地の応接室のひとつ。ここであたしはかつての自分の罪の落とし子を待っている。目の前にいるのはあたしの副官のピアティフ。彼女もあたしのかつての罪を知っている一人だ。

 あたしは昔00ユニット製作の前実験として4人の赤子に人体実験をした。無表情な彼女達の顔を思い出すと今も心が痛む。

 2号3号はまだ生きる可能性はあったが、1号は絶対生存は無理な処置をした。データのために悪魔になにかを売り渡した。でもどうしても必要だった。

 4号はそれらのデータを踏まえ、自意識の芽生えまでを目標として処置。彼女が00ユニットの雛形となる予定だった。

 だが実験結果は大いに意外なものになってしまった。

 2号3号は脳が耐えきれず死亡。4号もついに自意識が芽生えることなく先日死亡。

 なのに1号は生き延び、あろうことか自意識までも持って普通に生活してるというのだ。成功要因はまるでわからず私達は大いに混乱した。結局、あり得ない偶然が重なった結果ということで棚上げとなった。

 

 「もし気が進まないとあれば私が面接いたします。副司令はモニターで観察を。」

 

 ピアティフはそう言ってくれるがそうはいかない。

 

 「いいわ。いつかあの娘達に『あなた達のおかげで地球は救われました。』って言うつもりだったもの。先にその一人に会うだけよ。」

 

 迷うのはどこかで罪から逃れようとしているからかもしれない。この止まない雨が降り続けるような気持ちは一生続くというのに。

 そして今研究が行き詰まり、どうしてもNBC1の生体データが必要となった。横浜基地が彼女に接触するのは危険でどう工作したものかと頭を悩ませていたら……本人から就職希望がきた。

 罠の可能性を調べるためにピアティフを送り、話をさせてみたのだが……なんと最重要機密であるはずの00ユニットの人工知能部の設計図を送ってよこしてきた。隠す気もないらしい。

 手元のレポートをもう一度ざっと目を通してため息。見るたびに出る。

 

 「まったくこれを見たときは本当にペチャンコになっちゃったわね。ウチの最重要機密がダダ漏れな上にウチより研究が上をいってるなんて。技術部も諜報部も一年生からやり直さなきゃね。あたしも含めて。」

 

 「はい……ですが研究は進み、希望が見えてきました。諜報部も沙霧真由の身辺を全力で調査中です。」

 

 そう。とにかく00ユニットの完成が最優先だ。完成させなければそれこそあの娘達は無駄死に。あたしはただの人殺しだ。

 そして沙霧真由。研究の面からも、そして防諜の面からもどうしてもウチに入れなければならなくなった。

 

 「そういえば訓練兵の彩峰が沙霧真由と知り合いだったわね。どんな娘か聞いてない?」

 

  「PXで会ったときそれとなく聞いてみました。『変な娘』だそうです。」

 

 「……彩峰が言う?それ。自分が変じゃないとでも思っているのかしら。」

 

 「つけ足しで『私が言うほど変な娘。』だそうです。」

 

「自覚はあるのね。安心したわ。」

 

 つまり相当の変人ということか。会う前から疲れてくる。

 その時内線が鳴った。ピアティフが応答する。

 

 「来たようです。どうかお気をつけて。」

 

 「ええ、変人の相手は慣れているし。ま、何とかなるでしょ。」

 

 と、気合いを入れて背伸びをしたのだが……

 

 「え?なんですって!?ちょっと待たせときなさい!」

 

 内線応対しているピアティフの様子がおかしい。

 

 「沙霧真由がゲートで守衛とやり合ってます!何でも迷子の少年を途中拾ったのでいっしょに入れろ、入れないなら帰ると言っているようです!」

 

 …………想像を絶する変人らしい。

 




 はい、ウソでした。出会いは次回です。
 あとこの話もウソですからね!ぼくらの夕呼先生が人体実験なんかするわけないじゃないですか!
 本気にする人なんていないと思いますが念のため。


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第六話 対決!横浜の女狐!

 こんにちは。沙霧真由です。

 四時間に渡る検査がやっと終わりました。今、白銀君といっしょにピアティフさんに案内されて応接室へ向かっています。

 それにしても、女として白銀君を見るとやっぱり女を引きつけるものがありますね。基地に変わりはてた元学校を不安そうにキョロキョロ見回す姿が可愛いと感じてしまうあたり、私もすっかり女の子になってしまったようです。

 さすが恋愛原子核!私も引きつけられてしまいそうです。

 やがて、ある部屋の前に来てピアティフさんは扉をノック。

 

 「香月副司令、連れてまいりました」

 

 うながされて中に入ると制服に白衣を着て不機嫌そうに座っている美女。

 

 香月夕呼! ババーン!!

 

やっぱりラスボス感ありますね。白銀君以上に感動してしまいます。

 

 「夕呼先生……?何やってんですか?」

 「え?」

 

 さぁ、というわけでアンリミ冒頭の夕呼さん、白銀君の邂逅が始まりました!

 香月博士直々のBETA講義、平行世界理論は聞きごたえありますねぇ。

 ごちそうさまでした。

 

「社」

 

 おっと、リーディング少女霞ちゃんが呼ばれて入ってきました。夕呼さんのそばに来ると、何やら小声でお話ししています。そして白銀君を見てニヤッと笑い、私をきつい目でにらみます。

 

 「いいわ、白銀。とりあえずあんたを訓練兵として置いてあげる。ピアティフ」

 

 ピアティフさんが入室。

 

 「彼をまりものところへ連れていきなさい。それと二〇七訓練兵としての編入手続きを。まかせたわよ」

 「はい。了解しました」

 

 白銀君はピアティフさんと退場。霞ちゃんも隣の部屋へもどりました。

 

 「さっきの女の子は何だったんです?」

 

まあ知ってるけど聞かないのも不自然ですからね。

 

 「何でもないわ。ちょっとした連絡よ。それよりあんたこそ彼、なんで連れてきたの?」

 

 「ここへ来る途中出会いました。すごく困っているような彼を放っておくのは私の正義の心が許さなくて連れてきてしまいました。まさか平行世界の人間なんて驚きだなあ!」

 

 巧みなウソで即答!夕呼さん、ジト目をしながらもすっかり信じてます。

 

 「…………まあいいわ。それよりあんたがくれたレポートの件だけど」

 

 「はい、お見せするのも恥ずかしいシロモノですが一応批評をください。

 『ヨシ、半導体百五十億個分の並列処理を手のひらサイズにしよう!私様に不可能はねえ、私様は天才だあ!』と、馬鹿なことに挑戦して『あびゃあ!やっぱり出来ませんでした。おバカでゴメンナサイ、ゴミでした。』なんてレポートですからね。バカで笑っちゃうでしょ?うん、バカです。自分で笑っちゃいます。プークスクスッ アーッヒャヒャヒャヒャ……」

 

 ギロ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!とにらまれた!?

 ヒイイイイイイイ怖い!からかいすぎた?

 

 「……そうね。批評をあげる。あれは世界最高の科学者達と技術者達が心血をそそいで作りあげたものよ。あれをどこで手に入れたの?」

 

 いきなりぶっちゃけた!?

 

 これが香月夕呼の交渉術!?

横浜の女狐ハンパねえ!

 

 「私が入学してからコツコツやってきたものです。そんなすごい評価をくれるなんて感動で震えちゃうなあ!」

 

 ウソです。

 希望届け出す時このイタズラ思いついてパパッとつくっちゃいました。いやー解けない問題って楽しいですね。五日も頑張っちゃいましたよ。おかげで本当の研究時間が大分削られちゃいました。震えているのは怖いからです。

 

 「………まあいいわ。あなたはまだ学生で本採用は出来ないけど見習いで雇ってあげる。二年間こちらの講義で卒業資格と同時に正式に雇うわ。それと健康に問題があるようね」

 

 「はい、定期的に特殊なお薬を飲んでいます」

 

前にもいった通り私、普通だと脳の働きが凄すぎてまわりが止まって見えたり、物質の構成が細かくわかっちゃったり、人や状況の先がわかりすぎちゃったりして普通にくらすことができません。ですので脳の働きを鈍らせるお薬を定期的に飲んでいるのです。私がお医者様の家に引き取られたのはそんな事情もあるのです。

 

 「なら三日ごとに健康診断を受けてもらうわ。薬もこっちで調合してあげる」

 

 なにやら面接定番の志望動機すら聞かれずに採用されてしまいました。これでは最初から採用を決めていたことがまるわかりです。ピアティフさんは念入りに舞台を整えていたのに。

 いえ、私に茶番は無用と見切ったのでしょう。無駄でも茶番をやる人は多いのにこの判断の速さはさすがというしかありません。

 横浜の女狐、堪能いたしました!

 

 

 

 




面接で大笑いする真由! それをものともせず採用する夕呼! 息づまる二人の対決! 二人が再び相まみえる日はいつ!?


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第七話 みそっかす白銀

 訓練場で白銀君がしごかれています。オルタの世界でスーパーソルジャーな彼もアンリミのこの世界ではみそっかすです。あ、また抜かれた。

 とある部屋の窓際で、こうやって白銀君を観察してるのは『みそっかすな白銀君も可愛い!』などとみだらな想いにふけっているからではありませんよ。これは冷徹な観察です。

 誰です?そんな人をメスブタ呼ばわりするも同然の下劣な邪推をしている愚か物は!ハレンチな!ドブ臭いゲス人間め!恥を知れ!

 

 私だよぉ!!!!

 

 本当にそうなのになぜ自分で自分をディスっているんでしょう?

 確かに彼は死んでも死にもどりができる因果導体体質です。でも私がゴット純夏から出された課題的にそれをさせるワケにはいきません。この先もう少し強くなったとしても生き残れないことは確実でしょう。BETA全滅計画以外に白銀君強化計画も考えねばなりませんね。

 そのためにももっとよく観察せねば!

 

 スパーン!

 

 夕呼さんに丸めた本で叩かれました。頭はやめてください。

 

 「いつまでも白銀をデレデレ見てないの。診察は終わったんだから速く行きなさい」

 

 「なにおかしな邪推してんですか!私は戦えない自分に代わり、戦地へ赴かんと訓練に励む未来の衛士達へ感謝を一杯に捧げてるんです!

 乙女が謳う気高き衛士達への讃歌をゲスに貶めるとは!まったくとんだ変態博士だ!」

 

 夕呼さん、呆気にとられた様に私を見て言いました。

 

 「確かにあたしは変態博士だけどあんたのムッツリもすごいわね。こんな絵に描いたようなムッツリスケベってはじめて見たわ」

 

 

 

 

 

 

  こんにちは 沙霧真由です。

 変態博士にムッツリなどというひどい中傷を受けてもめげずにがんばっています。

 夕呼さんの定期検診を受けた後、講義を聴いたり課題をやったりして時間を潰していると、いつの間にか夕食の時間になったのでPXへ行きます。ちょうど二〇七訓練兵の皆さんもいたのでごいっしょさせていただきます。

 

 「皆さんお疲れさまです。白銀君も大分ついて行けるようになりましたね」

 

 「どこが!?これじゃ総合戦闘技術評価演習は絶望的よ!」と千鶴さん。

 

 まあ私もウソですけどね。

 

 「ちびっ娘がわかったようなことを言う」

 

 慧さん無表情でもちょっと苛立っているのがわかります。長いつきあいですからね。

 

 「あ、この娘が彩峰さんが昔から仲が良かったっていう技術部見習いの沙霧真由ちゃんだね。ちっちゃくって可愛いなあ」

 

 ありがとうございます鎧衣美琴さん。入院から帰ってきたばっかりなので会うのは初めてですね。

 

 「仲良くない。ボッチでさみしそうな変な娘がいたから遊んであげただけ」

 

 ありゃ、慧さんたら、昔は自分こそ私やお兄ちゃん以外の他人とはロクに話したことなんてなかったクセに。ま、こういう強がりを言う人だってわかっていますから、こう返します。

 

 「またまた慧さん心にもないことを。本当は私のことを愛してるくせに」

 

 「心にいっぱいある。ほら変な娘」

 

 あ、他人にもわかる不機嫌顔になった。ここまでしないと表情でないんですよね、慧さん。

 

 「わあ、本当に仲良いんですね」と壬姫さん。

 

 「彩峰、仲が良いのはいいが変な娘呼ばわりはいかんぞ。親しき仲にも礼儀ありだ」

 

 正論をこんなに堂々と言えるとはすごいですね。冥夜さん。

 

 「ああもう!この娘のことより総戦技評価演習でしょう!夏に落ちて後がないのよ!どうすんの!?」

 

 あ、千鶴さんキレた。沸点低いなあ。

 すると、隅で小さくなって黙り込んでいた白銀君がいきなり叫びました。

 

 「お、オレがお荷物なのはわかっている!でもやるしかないだろ!」

 

 私、女の子達に体力でボコボコにされても、一欠片の男のプライドを振り絞る白銀君の姿にキュン!となってしまいます。

 可哀想だけど演習は自力でがんばってくださいね。いえ、手助けすることはできるんですよ。

 科学力チートですからね。

 でも原作通りの逆境を乗り越えるのは白銀君を大きく成長させるのに絶対必要なんです。

 

 皆さんが夏の総戦技評価演習の失敗だの白銀君のみそっかすぶりの批判だのやり合っている中、私はある計画を練り上げます。考えが一段落して回りを見まわすと、ありゃ、皆さん気まずくなってみんな黙り込んでいます。

 私、白銀君に話しかけます。

 

 「白銀君、総戦技評価演習がんばって下さいね。私も『白銀君強化計画』がんばります!」

 

 と、女の子っぽく激励。

 

 「は?オレ強化計画?なんだそりゃ?」

 

 「科学の力で白銀君を世界最強のスーパー衛士へと変える計画です。この計画が成った暁にはアメリカ最強部隊の衛士すら白銀君の足下でしょう!」

 

 皆さん目をぱちくりさせて感動しています。

 

 「ほら、変な娘」

 

 「ちょっと、変な薬とかやめてよね」

 

 「えーと……笑うところかな?」

 

 「ゆ……夢があっていいですね!」

 

 「う……うむ! 武なら鍛錬を怠らず日々過ごさば、必ずや世界最強となろう」

 

 「あー真由? 今のオレに世界最強とか恥ずかしすぎるぞ?」

 

 などなど絶賛の嵐の中、私はごはんを食べてこれからの鋭気を養いました。

 

 

 

 

 

 




 ついに横浜基地で動き出した沙霧真由!彼女の企む恐るべき計画とは……?


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第八話 白銀君強化計画

 こんにちは 沙霧真由です。

 今、二〇七訓練小隊の皆さんは南の島でバカンス中。ジャングルで総合技術評価演習です。

 白銀君は蛇に噛まれてブッ倒れている頃でしょうか? 毒消し渡す誘惑断ち切るのに苦労しましたよ。

 白銀君のお荷物ながらも必死に目標にくらいつこうとする姿って、女として見るとかなりクるものがあるんですよね。訓練場の彼を見ているだけでもそうだから、二〇七訓練小隊の皆さんはこのうえなくカッコいい白銀君を目の当たりにすることでしょう。

 

 さて、私は一人白銀君から借りっぱなしのゲームガイで遊んでいます。

 ゲーム機は麻薬。おはじきやあやとりで遊ぶこの世界の人達に与えてはゲーム廃人にしてしまいます。実際原作でなりましたしね。

 とは言え、私が遊ぶといっても私の脳の処理速度は人間よりはるかに速いので普通に遊んではあっというまに終わってしまいます。オープニングからラスボス撃破までノーミスノーセーブでクリアしました。

 

 なので、これを基にXM3を作って遊んでいるのです。

 しかし実際作ってみると、ゲームガイの実物があると圧倒的に楽ですよね。オルタの白銀君も持って行って夕呼さんにプレゼントしてあげればよかったのに。

 ゲームガイの実物がある上に科学力チートの私が作るシロモノなので原作をはるかに超えたXM3になっちゃいそうです。

 さて、これくらいにしましょうか。どうせ超一流衛士の戦術機機動データがなけりゃ完成しないし、河崎重工との交渉もありますしね。

 

 あと夕呼さんはじめ、技術部の皆さんの絶望感がハンパなくて、ポッキン折れちゃいそうです。道を歩いていると、『アンタ、大事な人でも亡くしたのかい?』とか聞いちゃいそうです。私のレポートのせいで原作よりはやく限界が見えちゃったせいですね。テヘッ☆

 そろそろ本命を作らせないと。

 

 そして最優先の『白銀君強化計画』。

 舞台の小物作りが思いのほか手間取りましたが、どうやら開幕できそうです。

 

( ………夕呼さん、公式に閲覧される文章はもっと丁寧に書きましょうよ……)

 

 ハッ!何故全然関係ないグチが出てしまったのでしょう?ヘタな文字ばっかり読みすぎて疲れているようですね。

 

 

 

 

 

 

 そして時はたち、白銀君帰還。

 

 「おーっす霞、真由、受かったぞ!戦術機に乗れるぞ!」

 

 はい、知っています。男として衛士して一歩成長した顔をしてますね。

 HSST破壊作戦で壬姫さんを支えて二歩成長。慧さん、千鶴さんの仲を取り持ち三歩成長。冥夜さんと、お婆さんの想いのために奮戦して四歩成長。

 そんな階段を登る姿が見れないのは残念です。

 おみやげにきれいな貝殻もらいました。鎖をつけてペンダントにしますか。

 

 「おめでとうございます白銀君。ところで次はいつ博士の所へいきますか?」

 

 「あ?ああ、今夜行くつもりだぞ。報告しなきゃな」

 

 「じゃ、私もご一緒させて下さい。久しぶりに平行世界のことを聞きたいです」

 

 「おう!今夜一緒に行くか!」

 

 

 

 

 

 で、夜の副司令室。

 白銀君は陽気にしゃべり、夕呼さんは不機嫌顔。

 お話自体は面白いんですけどね。やっぱりカンにさわりますか。

 いい感じに行き詰まってますね。

 

 「もういいわ。今夜はここまでにしましょう」

 

 では私は始めますか。

 

 「ところで白銀君。これは私がここに来るときに作ったレポートです。これ、どう思いますか?」

 「……なっ!なんでそれ持っているのよ!返してないわ!」

 

 あわてた顔も素敵ですよ。夕呼さん。

 

 「コピーですよ。それくらい当然でしょう」

 

 「どうっていわれてもなあ……。素人のオレに感想とか……ってアレ?これ、見たことある!」

 

 さあ白銀君強化計画の開幕です。

 

 

 




 知らぬ間に演者にされる夕呼と白銀!沙霧真由の舞台劇の終幕は希望か絶望か?
 今、舞台の幕が開く!


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第九話 贋作師マユ

 こんにちは 沙霧真由です。

 ウソです。コピーじゃありません。

 何しろ白銀君は素人ですからね。同じ内容でも私が書いたものだと気づかないと思います。

 なので夕呼さんの過去の論文を読みまくりました。そしてレイアウトや筆跡のクセを研究して模倣を可能にしちゃいました。

 さらにヘタな絵も練習!謎のクリーチャーがレポートに出現!

 そして極めつけ!魂までも香月夕呼を完全憑依!

 横浜の女狐ここに降臨!

 

 「ああん、あたしってば天才だわ!自分が怖くなっちゃう☆」

 

 …………鏡はしまっておきましょう。自分の姿をしたとてつもないバカがいます。

 そして一筆入魂!身も心も香月夕呼と化し、レポート作成!……………完成!

 

 ……ハッ!なにこの格好!?この部屋の惨状!?

 そう、私は香月夕呼レポートの贋作を作った…………いや違う!香月夕呼レポートの本物を作ったのです!

 こんなに苦労をして造ったレポートも役目は一瞬。白銀君に気づかせたら終わりです。

 ありがとう、香月夕呼味レポート!確かにあの時君は主役だった!

 

 

 

 さて、夕呼さんは白銀君の元の平行世界に00ユニットを完成させることの出来る新理論があると知りました。そして白銀君を取りに行かせることを計画します。アンリミではない、オルタの方のイベントですね。

 念のために言っておきますね? 例の白銀君を不確定存在にして他の平行世界へ行かせるマシーン、あれは白銀君の話を聞いてすぐ作りあげたわけじゃありませんよ?そんなこと出来たら私以上のチートです。

 もともとは彼女の研究の平行世界理論の実験検証マシーンなんです。それを因果導体体質である白銀君を元の世界へ渡らせるよう改造したものなんですね。

 

 

 

 さて、というわけで私と霞ちゃんは今トイレ掃除中。アレ?なにが『というわけで』?

 ふと、もぞもぞとトイレの隅にいる白銀君が動きはじめたのが見えました。

 

 「………あ、起きましたか白銀君。大丈夫ですか?今夜の実験行けますか?」

 

 私はトイレの隅で簀巻きにされてさっきまで寝ていた白銀君に話しかけます。

 どうしてこんなことになっているのか。それは今日壬姫さんのお父さんの珠瀬事務次官が基地に視察に来られたため、珠瀬分隊長のご指導のもと……ってホントなんでこんな状況になっているんでしょうね?

 

 「ああ。まったくなんでこんな目にあわなきゃなんねえんだ。とにかくほどいてくれ」

 

 HSSTの落下は事前に阻止しときました。証拠はなくとも画策した連中はわかっているので『連中がHSSTに爆薬を満載にして横浜基地に墜とす』という怪異文章をアメリカ中に流しました。予測スケジュール、軌道予測付きで。

 ここまでバレた悪事など実行することは出来ません。今頃連中は情報漏洩の出所を探して大さわぎでしょう。

 

 「おい、考え込んでいないでほどいてくれ!それと今夜の実験は死んでも行くぞ!何しろ元の世界に帰れるんだからな!」

 「あ、すみません。霞ちゃん、いま手伝います」

 

 

 

  今夜の実験はさっき言ったマシーンで白銀君を『不確定存在』にして白銀君を元の平行世界に送ることです。オルタ原作より展開が速いのは私も手伝ったからです。技術部スタッフは平行世界のことは秘密で使えませんしね。

 …………アレ?じゃあどうしてあんなバカでかいマシーン作れたの? 夕呼さんもものすごいチートのようですね。

 

 

 

 「それじゃ白銀君、スタッフの一人として話します。

 白銀君がもらった強化装備は訓練兵用ので、対衝撃機能が弱かったので、改造して強くしときました。実験時はしっかり着て対衝撃機能は最大にしといて下さいね。何が起こるか予想できませんから」

 

 ウソです。予想できます。

 

 「お、おう!こんなの南の島の総戦技評価演習の地獄に比べりゃ屁でもねえぜ!」

 

 …………アレを引き合いに出しますか。総合戦闘技術評価演習が地獄ならこの先のBETAとの死闘はなんと表現するんでしょうね?

 

 

 そして夜の実験室。白銀君と一緒に行くと、夕呼さんと霞ちゃんが待っていました。

 

 「来たわね。じゃ、始めるわよ」

 

 白銀君と霞ちゃんが装置に座り、私と夕呼さんは装置の起動準備。

 夕呼さんの説明も終わり、いよいよ起動。

 

 始めは順調でした。

 

 ところが途中から異常な出力!

 

 計器もワケのわからない数値を出しまくる!

 

 非常停止ボタンも受けつけない!

 

 

 「な、何が起こったの!?」

 

 「あわわ、何か計算間違ったのでしょうか!?」

 

 

 

 

 

 ――――――ウソです。計算通りです。

 

 




 冴え渡る沙霧真由のウソ!
 なんと三度も「ウソです」が出現!
 彼女に真実はないのか!?


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第十話 BAD END

 私は白銀君の強化装備に平行世界移動マシーンの外付け機能を取り付けました。

 マシーン自体は夕呼さんが毎日チェックしているので細工不可能ですが、白銀君の強化装備にはやりたい放題です。対衝撃機能の強化の名目がありますから!

 非常停止ボタンは実験開始前のチェックでちょこっと細工。

 

 私は霞ちゃんに駆け寄りコ〇ン君的腕時計の麻酔針でおやすみなさい。白銀君は強化装備の機能で守られていますが霞ちゃんは危険ですからね。

 

 さて、細工した強化装備の機能ですが不確定存在になった白銀君。彼を元のラブコメマヴラブ世界へ送るというのではなく、オルタ始め彼が最強衛士になったであろうBETA世界へ二十ほど移動させるというものです。

 その世界の白銀武と融合、分離をくり返した結果、一度もBETAと戦ってないにもかかわらず歴戦のBETA殺し、おいしい白銀君の誕生です。

 私の科学力(物理)チートは実際に実験しなくても実験結果がほぼ完璧にわかるので、こんな危険かつ不確定な実験もスイスイできちゃうのです。

 

 

 

 「実験は失敗ね……」

 

 自動的に止まったマシーンの前で夕呼さんはポツリと言いました。

 携帯(基地内用)を取り出しピアティフさんを呼びます。白銀君を夕呼さんピアティフさんの二人で、霞ちゃんを私が待機室に運びました。ここで医療班を待ちます。

 

 「副司令、こんな時になんですが先に預けられたレポートのコピー、ご自身のものとお間違えではないでしょうか。」

 

 「え?どういうこと?」

 

 ヤバい!ピアティフさんやめて!

 

 「手書きでしたし、筆跡その他も香月副司令ご自身のものでした。」

 

 しばらくじっと考える夕呼さん。やがて、

 

 「ウ……ウフフ。アハハハハハハ……」

 

 よかった。楽しそうに笑ってる。

 

 「ねえ、沙霧。」

 

 「はい、何か楽しいことでも?」

 

 チャキッ

 

 笑いながら私に銃を向ける夕呼さん。カッコイイ…て何で!?

 

 「この一件、あなたのレポートから始まったわよね?」

 

 「は、はい!こんな結果になるなんて責任で押し潰されそうです!」

 

 「同じ内容でも素人の白銀じゃあなたのレポートでは何もわからなかったわよね?」

 

 「え、ええ!尊敬する香月博士の流麗かつ美しい文章を勉強させていただこうとするあまり似すぎてしまったようです。こんな偶然があるなんて世の中はなんて不思議なんでしょう!」

 

 「あたしも不思議だわ。ここまで嘘の下手な奴にしてやられるなんて。レポートを見たとき不自然さに何も気がつかなかったなんて。」 

 

 「誤解です!私は……」

 

 「黙りなさい!ここは世界最高機密を扱っている場所なの!

 疑わしき者は生かしておけないわ!」

 

 夕呼さんは銃の引き金の指に力をこめます。

 

 

 ――――ごめんゴッド純夏! 科学力チート(物理)はバットエンドよ!――――

 

 

 

           ~BAD END~                   

                                

         

 

 

ウソです

 

    



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第十一話 マユ、アイラヴユー!

 ついに気づかれた真由の策!
 夕呼の拳銃が突きつけられる!
 凶弾いまにも放たれんとす!
 真由はこのままBAD ENDを迎えるしかないのか……?


  ダダダダダダダダ!  ズザァ!

 

  私の前にいきなり巨大な獣!?

 

 「やめてください! 夕呼先生!」

 

  私をかばうように前に出た白銀の騎士……じゃなくて白銀君!?

 もう起きれるの!?

 

 「白銀……無事なの?」

 

 「はい、俺は大丈夫です。それよりそれ、降ろしてください。」

 

 夕呼さんは自分の銃を見るとハッとして構え直しました。

 

 「ダメよ!何をやったかは分からないけどその娘は確実に何かをやったわ。その娘は危険よ!」

 

 「真由はそんな奴じゃない!

 こいつは……真由はいきなりこの世界へ飛ばされ何をしたらいいかも分からない俺を助けてくれたんだ!真由がいなけりゃ俺はどっかで野垂れ死んでた!」 

 

 いえ、私がいなくても訓練兵になっていましたよ。わざわざあなたを助ける形にしたのは主人公に恩を売っていろいろ役に立ってもらおうというド汚いドブネズミ色の政治的下心です。

 ……何で私は目の前のカッコイイ熱血主人公に比べて下っ端陰謀大好き小悪党なんでしょう。

 

 それにしても歴戦のBETA殺しの白銀君ってこんなに凄かったんですか。

 ただ私の前に立っているだけなのに気迫だけで拳銃を構えている夕呼さんがビビってます。体も戦闘的にガッチリし、一時間前のガキ臭さは微塵もありません。

 

 「クッ、ピアティフ。沙霧を閉じ込めておきなさい。処分は後で決めるわ。」

 

 そう言って夕呼さんは足音荒く待機室から出て行きました。

 夕呼さんが威圧負けした!?

 白銀君カッコイイ!

 私もヒーローに助けられるヒロインにレベルアップですね!

 

 ガチャ! ドヤドヤ!

 

 そして医療班と共に二〇七訓練小隊の皆さんも入ってきました。

 

 「白銀!社!無事!?……て誰?」

 

 「あれ、知らない衛士の人がいる。でも訓練兵の装備?……ってタケル!?」

 

 「武!?そなたどうしたのだ!まるで歴戦の武者だぞ。

 いったい何をすればこの短時間でそのような風格が出せるのだ!」

 

 「は……はわわ。武さん凄い!」

 

 「白銀強化計画、まさか本当だったとは。ちびっ娘おそるべし。」

 

 「ええ?俺そんなに変わったか?ただ装置が事故起こしただけだぞ。……ってありゃ?BETAと戦ったことがあるような気がする。」

 

 白銀君があんなに変わったのに普通に会話している二〇七訓練小隊の皆さんはすごいですね。あと慧さん、核心ついてます。

 ピアティフさんが私の前に来ました。

 

 「沙霧さん、来なさい。副司令の命令であなたを拘束します。」

 

 「……はい、ピアティフさん。ご迷惑をおかけします。あ、でもちょっと待って下さい。」

 

 私は白銀君に駆け寄り、ツインテールからUSBメモリを取り出し渡します。

 

 「白銀君、博士にこれを渡して『今回のことはコレでご勘弁ください。』と伝えて下さい。」

 

 「……わかった。必ず渡して伝える。」

 

 そういって白銀君がUSBメモリ受け取ると、ピアティフさんが割り込みました。。

 

 「そうはいかないわ。白銀訓練兵、それを渡しなさい。あからさまに怪しすぎるわ。」

 

 「失礼な!これは博士が見たら飛び上がって喜んで『マユ、アイラヴユー!』と叫ぶこと間違いなしのシロモノですよ!」

 

 「ちびっ娘はウソっぽい言い方した時は本当にウソ。信じたら騙される。」

 

 慧さん話に入ってこないで下さい。

 

 「真由はそんな奴じゃない!俺が自分で夕呼先生に渡します!」

 

 ピアティフさんも慧さんも白銀君の迫力にタジタジです。

 いや~気持ちいい!

 

 「……いいわ。沙霧さんを部屋に閉じ込めたら一緒に副司令の所へ行きましょう。でも白銀訓練兵、副司令の身に何かあったら覚悟しなさい。」

 

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。ご挨拶が遅れて申し訳ありません。

 この世に鳥が舞う空あらば鳥になり、自由に大空を飛び回りたい。そんな自由を求める身となりました。恥ずかしながら軟禁中です。

 

 さて、私が夕呼さんに渡したUSBメモリ。私が作った超極大容量でありながら普通のパソコンでも閲覧できるというものですが……その中身。

 あれは新理論に基づいた00ユニットの全設計図です。それも人工知能部だけでなく全身の。一から十まで手順通り追っていけばあっという間に完成してしまうくらい詳細かつ完璧に描きました。

 長年苦心し、苦悩にあえいできた00ユニットがただのプラモデルになったと知った時の夕呼さんの喜ぶ顔が目に浮かぶようです。

 あとはこの扉を夕呼さんが開けてホッペにチューしてくれるのを待つだけですね!

 

 

 

 カチャッ

 

 

 そら来た!夕呼さんとピアティフさんです!……って二人とも難しい顔?

 ……ああ、まだ見てないんですか。で、私に中身を聞きに来たと。ホントにまったく用心深すぎる人はめんどくさいですね。

 

 カツカツと夕呼さんが私の前に来て

 

 ピョンといきなり跳び上がり?

 

 「マユ、アイラヴユー!」と言いました!?

 

 これはウソじゃありませんよ!

 ホントに言ったんですよ!?

 

 「出なさい。でも二度目はないわよ。」

 

 そう言って夕呼さんとピアティフさんは出ていきました。

 

 

 何だったんでしょう。いったい……。




 第一のライバル香月夕呼撃破!
 だが次回、休む間もなく第二のライバルが!
 それは香月夕呼すら戦慄させるあの男……!


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第十二話 鎧衣課長と名探偵

 
 ついに第二のライバル登場!


 

 こんにちは 沙霧真由です。

 ついに新型OSが完成しました!後のXM3……を遙かに超えた奴です。白銀君が超一流衛士になったお陰で一気に完成です!

 で、オルタ原作通りに白銀君、慧さん、千鶴さんの吹雪に搭載して三対三の模擬戦に出してみたら……三機とも白銀君が撃墜判定しちゃいました。一分で。

 うん、あれはない。三機が隠れている場所をあっさり見破り一瞬で接近! 一射、もしくは一刀であっという間に終わらせる神業! 『何で訓練兵やってるの?』とか一瞬本気で疑問に思っちゃいました。私のせいなのにね。

 これじゃ白銀君が旧型OS。他のみんなが新型OSの一対五でもないと勝負になりません。しかもみんなが新型OSに習熟するまでは白銀君の一方的撃墜カーニバルでしょう。

 

 「いや~すごい! 白銀君ってばこんなに戦術機の才能があったんですね!」

 

 私は隣の夕呼さんに巧みなウソで思考誘導。戦闘指揮車両を運転している夕呼さんは憮然と言いました。

 

 「沙霧、今夜白銀と二人であたしの部屋に来なさい。いろいろ聞きたいことがあるわ」

 

 ヤバイ! さすがに無理があったか!?

 …………いや、私のチートなウソならば神をも欺けるはず!

 私は白銀君の才能を思いっきりアピール! 若干夕呼さんの目が冷たい気がしますが……まあ、これだけチートなウソを連発すれば大丈夫でしょう。手応えアリです。

 

 

 そして夜。私は白銀君と二人で特別任務の名目で夕呼さんの私室へ向かいます。ケンシロウにチョコチョコついて行くリンになった気分です。

 昼間さんざん巧みなウソで思考誘導したので大丈夫と思いますが………気合いを入れてダメ押し!チートなウソで夕呼さんを翻弄してやりますか。

  夕呼さんの部屋の前には霞ちゃんがいました。声をかけようとしたら、黙って部屋に入って……ありゃ真っ暗。夕呼さんもいません。

 

 「こんばんわ」

 

 いきなり誰かから挨拶。この声ってもしかして……。

 

 「誰だ?」と白銀君。

 

 「私は微妙に怪しい者だ」

 

  目深にかぶった帽子に生地のいいスーツ。そしてのらくらしゃべるつかみ所のない親父。

 

 

 鎧衣課長!? アンリミテッドなのに!?

 

 なぜアンリミでは彼は出ず、オルタでは出たのか。それはアンリミの事件は基地外から見て不思議はありません。ですがオルタの事件は不可解な事であったため、鍵を握ると思われる白銀君に接触した為です。今の横浜基地に不思議なんてないと思いますが……。

 白銀君、いきなり顔を引っ張ったり、論点をずらしまくったりする親父にすっかり翻弄されています。それにしても本当にのらくらしゃべる親父ですね。それが手口だとわかっててもイラッときます。まさにリアルぬらりひょん!

 

 「騒がしいわよ。人の部屋で何やってるわけ?」

 

 パチッと電灯をつけて夕呼さん登場。

 

 「あ、博士。帝国情報省の鎧衣さんが来てます。いきましょ白銀君。あ、モアイ像のキーホルダーなんかはもらっといて下さいね」

 

 と、さっさと逃げようとしたが

 

 「まあまあ、沙霧真由ちゃん……だったね。自己紹介の手間を省いてくれるとはなんといい娘だ。どこから私の事を聞いたのかな?」」

 

 「鎧衣? 美琴の親父なのか? なんでそんなこと知っているんだ、真由」

 

 あ、ヤバイ。初対面でした。ゲームでお馴染みすぎる人だったんですっかり忘れてましたよ。仕方ない、得意のウソで切り抜けますか。

 

 「いえいえ、簡単な推理ですよ。目元口元が美琴さんに似ているでしょう。これに人の話を聞かないことを併せると美琴さんのお父様だということは簡単に導きだされます。

 そしてこの姿!スパイ映画ドラマの典型的すぎるスパイの姿そのものです!以上から帝国情報省外務二課の鎧衣左近課長だという方程式が成り立つわけです。基礎的な推理、というやつですね。ご静聴ありがとうございました!」

 

 パチパチパチパチパチパチパチ!

 

 夕呼さん、鎧衣さんから絶讃の拍手が飛び交います。あ、霞ちゃんも無表情で叩いてくれます!

 いや~気持ちいい!まるで金田一君にでもなった気分です。さすがに私のウソはよく嵌まりますねえ!

 でも白銀君だけはとまどい顔。

 

 「似ているかあ?それに百歩譲ってスパイだってわかっても、部署や課長だってことまでわかるものなのか?」

 

 「わ……わかりますよ!私くらいになると細かく観察してそこまでわかるものなのです!」

 

 ヤバイ! 雰囲気が変わった!?

 

 「へ~、ホント凄いわねえ。そんなことまでわかっちゃうんだ~。不思議ねえ」

 

 「いやはや、会って数十分でそこまで丸裸にされるとは。凄い名探偵がいたものだ」

 

 ああもう! 白銀君のせいで!

 

 




 息づまる攻防!
 互いの知力を尽くして闘う頭脳戦!
 真由の叡智はこの老獪なる強敵を打ち破れるか!?
 初戦の決着が次回に!


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第十三話 鎧衣課長キレる!

 こんにちは 沙霧真由です。

 ただいまガッチリ鎧衣さん(父)に両肩をつかまれています。この状態で鎧衣さんは夕呼さんとお話中。とにかくこの状況を切り抜けるべくタイミングを!あの瞬間を待ちます。

 

 「面白くないわ。さっさと本題に入ってちょうだい」

 「ならばドードー鳥の生態について少し………」

 「却下よ」

 

 よし! ここだ!

 

 「たまには最後まで聞いてあげたらどうです? この手の話、相手を揺さぶって切り崩すのによく使うけど、でも本当にこういう話題が好きなんですよ。冒険野郎ですから」

 

 私は保健委員の女の子みたいに優しい娘を演じました。鎧衣さんも私の愛らしさにメロメロ♥ ギリギリと強く肩を握り

 

 「どこまで知っている?」

 

 とドスのきいた声で囁きました♥ 

 ええ! キャラ変わった!?

 でもそれは一瞬。いつもの調子でのらくら夕呼さんと大人の会話を続けます。

 

 「……というわけでこの横浜基地にHSSTを爆薬満載で墜とすという怪異文書が出回りましてね。関係ないでしょうが、さる大物組織がネズミ探しにてんやわんや、ああ痛快。

 ですが香月博士ならこの一件、何かご存知なのかと思いましてね」

 

 「あれね。残念だけどウチは関係ないわ。他を当たってみたら?」

 

 「ふむ………沙霧真由ちゃん、君は何か知っているかな?」

 

 なぁ!? なんで突然私!? このぬらりひょん親父!

 

 「わ……わ私が知っているわけないじゃないですか!ずっと横浜基地にいたのに!

 アリバイは完璧です!」

 

 動く必要はありませんしね。移民系の底の浅い革命家気取りの慈善組織二十ばかりに情報を流せば勝手に拡めてくれます。

 

 「…………なるほど、君か」

 「あれもあんただったの?」

 「真由?よくわからないが『アリバイは完璧』って犯人と疑われた時に使う言葉だぞ」

 

オォゥ……私らしくないミス。名探偵から一転真犯人です。

 

 「先日伺った時は、いつ計画失敗を発表するかのご相談。なのに本日伺ってみれば、完成日まで予想できるとは。いったいどんな悪魔と取り引きなされたので?」

 

 「あれは仮の話よ。万一に備えるのは当然でしょ」

 

 「沙霧真由ちゃん?」

 

 「沙霧に聞かないで!」

 

 「シロガネタケル…………沙霧真由が連れてきた死んだはずの人間。訓練兵にしては風格が有りすぎますな。沙霧真由ちゃん?」

 

 「聞くなっつってんでしょ!」

 

 ああもう夕呼さんたら!これじゃ基地内の不思議が全部私に繋がっているみたいに聞こえるじゃないですか。私に任せてくれれば得意のウソで鎧衣さんを煙に巻いてみせるのに!

 

 

 「では、失礼しますかな。なかなか有意義な時間でした」

 

 やっと帰ってくれますか。

 

 「あれ、美琴と逢っていかないんですか?」

 

 と白銀君。ああ、そういえば鎧衣美琴さんのお父様でした。

 

 「そうだ、かの娘の動向を探るという名目でやって来たのでした」

 

 ああ、冥夜さんですか。悠陽さまはいつもこの親父に様子を見させていたんですね。

 

 「どっちの?」と夕呼さん。

 

 「え?美琴に姉妹が?」と白銀君。

 

 白銀君の疑問に答えてあげますか。原作チートですからぼかして言っても丸わかりです。

 

 「冥夜さんですよ。この人の飼い主ってのが、冥夜さんのお姉さんのこ………

 

  ガッ! ギリギリギリ ぐえええええ!?

 

 「それ以上いうな………」

 

 鎧衣さん!?なんで私を持ち上げて締め上げてるんですか!?

 っってか凄いパワー!さすが冒険野郎!

 キャラ崩壊してますよ!

 ぬらりひょん親父はどうしたんですか!?

 

 「おいあんた! 真由を放せ!」

 「鎧衣!? ここで暴力沙汰起こせば二度と入れないわよ!」

 

 ビクッと体を震わせ慌てて周りを見回し、鎧衣さんはそっと私を置きました。

 

 「ケホッケホッ……あ、博士、心配いりません」

 

 すごく青い顔して心配してくれている夕呼さんに余裕のブイサイン。

 

 「失礼、これは一般論ですが口の軽い者に秘密を知られるようでは長生き出来ませんよ。いや、香月博士には釈迦に説法でしたな」

 

 「あははは……。あたしも一般論として聞くわ。

 何にも教えてないのに何でも知られちゃう。あたしの知らないことすら知っているのにボロボロ情報こぼしちゃう。こんなゴミがあったらどうしたらいい?」

 

 「よろしければ帝国情報省で引き取りますが」

 

 「却下よ」

 

 

 

 




 この日宿命は結ばれた
 出会ってしまった二匹の虎
 互いを噛まんと咆吼す!
 対決の時はいつ!?
 そして次回、早くも第三のライバル登場!


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第十四話 炎のライバル宣言!月詠真那

 こんにちは 沙霧真由です。

 見習いの私に秘書がつきました!なんとピアティフさんです!これだけでいかに私が夕呼さんに期待されているかお分かりでしょう。

 さらに帝国斯衛軍の月詠さんは私につなぎを取ろうと毎日面会を求めますが、ピアティフさんに追い払われてばかり。

 いや~エリートコースってこういうのをいうんですね!

 

  ……ウソです。いえ、こうだったらいいなーという夢ですか。

 鎧衣さんとの一件で帝国との雲行きが怪しくなりました。

 まったく夕呼さんも私に任せてくれればこんなことにはならなかったのに。ま、彼女の見る目のなさを嘆いてもはじまりませんね。今度ぬらりひょん親父が来たら私のチートなウソでペッチャンコにしてやりますよ。

 さて、三バカ……いえ帝国斯衛三人衆のチームプレーでピアティフさんと引き離されてしまいました。実際見てみると凄い連携ですね。

 そして私の前に立つは赤い帝国斯衛軍有力武家の制服纏う帝国の恐い人。

 

 月詠真那中尉!! バアーン! ゴゴゴゴゴ……

 

 うん、この人とタイマンなんてありえないんですが……そうなっちゃってます。

 

 「ようやく会えたな。まず死人について話してもらおう。貴様が用意したあの死人……シロガネタケルを騙る男のことをな。」

 

 「白銀君は白銀君。騙ってもいないし死んでもいません。ただのそっちの勘違いですよ。」

 

 「フン、雑魚とカス訓練兵。それだけなら監視にとどめてやった。

 だがあの男……一晩で化けた。この私すら覚悟せねばならんほどにな!」

 

 「いやー白銀君がんばっていましたからね。特訓の成果が一日で一気に花開いちゃったんですね。いつまでも雑魚な私が恥ずかしいです。」

 

 月詠さんはニヤリと笑いました。肉食獣っぽくてイヤですね。

 

 「謙遜するな。白銀君強化計画に新型OS開発。さらにあのお方の犬を丸裸にしたそうじゃないか。これで貴様を雑魚呼ばわりするならそいつこそ雑魚と言わざるをえんだろう。」

 

 犬を丸裸?犬って普通は裸ですよね?

 

 「犬はかつてないほどに勤勉に働いている。覚悟しておくことだな。」

 

 犬が働いて覚悟?どういう状況でしょう?

 

 「奴の手が回る前にこれだけは聞いておかねばならん。貴様、死人に何をした!?

 白銀君強化計画とはいったい何だ!?」

 

 「あれですか……。そんなに気になりますか?」

 

 白銀君の因果導体体質を利用した方法だから他の人には使えないし、話せないんですよね。

 

 「個人的にも興味はある。奴の気迫、あれは幾たびも死線をくぐり抜け何十、何百とBETAを狩り続けたにも似たものだ。それをたった一晩で得る方法などぜひご教授願いたいものだな。」

 

 ピコーン! 閃めいちゃいました!

 だったら幾たびも死線をくぐり抜けて何十、何百とBETAを狩ればいいじゃないですか!

 

 精巧なバーチャルリアリティーで!

 

 現実そのものの対BETA戦闘シミュレーションなど科学力チートの私にとってはあやとりで『踊る蝶々』を作るようなもの……いえ、こっちは出来ませんでした。指が小っちゃすぎて。でもシミュレーションの方は楽勝です!

 PTSD(外因的ストレス)対策は恐怖記憶が脳の海馬にあるうちに記憶抹消。肉体が恐怖に耐性がつくまで行います。後はショック死対策さえすれば完璧ですね!

 いやー、こんなに簡単に歴戦の衛士とか作れていいんでしょうか!

 

 「………貴様、いったい何を笑っている。」

 

 あれ?いつの間にか月詠さんが後ずさって手刀を刀の様に構えています。こんな貧弱小娘に何大げさな構えしてんですか。

 

 「いえね、来週にでも月詠さんの言うことに答えようかと思いまして。」

 

 「何?」

 

 「お望み通り!二〇七訓練小隊の皆さんあたりを全員歴戦の衛士に変えてみせましょう!」

 

 「貴様……冥夜さまに何をするつもりだ?」

 

 あれ……? 殺気がハンパない?

 

 

 

 「やめなさい! 月詠中尉!」

 

 あ、ピアティフさんが戻ってきました。ハァハァ息を切らせていますね。

 

「月詠中尉、この娘との接触は禁じられているはずですが。」

 

 「フン、そんなことを言える立場か?こちらの機密を此奴に知られたそうじゃないか。横浜の女狐もヤキがまわったな。」

 

 「……副司令は現在計画の追い込みに入っています。妨害派の脅威がある中、我々が争っては彼の連中を利するだけだと思いますが?」

 

 「完全には信じることは出来んな。少し前までは最悪の用意を打診してきた。それが一転成功の準備をしろだ。

 横浜で何が起こっている!?まさか此奴が関係しているのか!?」

 

 巧みなウソで回避!

 

 「そんな……ムググ!」

 

 「あなたは黙っていなさい!」

 

 ピアティフさん、胸で口を塞ぐなんて情熱的すぎですよ。

 

 「……成る程、犬が言った通りのようだな。

 来週の予定を言ったな?だが貴様に来週があればいいな。

 その頃には貴様の背後は全て暴いてやる!」

 

 月詠さんは去っていきました。背後ってなんでしょうね?

 

 

 「暴けたらたいしたものだわ。ウチの諜報部の徒労を帝国も味わうのね……」

 

 ピアティフさんはポツリといいました。ずいぶん疲れていますね。

 

 「ピアティフさん、こういう時は私に任せて下さい。スパーンと誤魔化してみせますよ!」

 

 「任せられるわけないでしょ!お願いだから出来るだけ移動しないでちょうだい。あれの完成までは副司令は動けないんだから。」

 

 「わかっています。でも昨日届いた大きい方の起動実験だけはやらせて下さい。約束ですし河崎重工さんにデータも送らなきゃだし。」

 

 

――――実験戦術機。名は『流星』―――




 またしても強敵!
 月詠真那の炎の様な宣言に
真由の心もまた炎の様に燃え上がる!
 
 あとオリジナル戦術機始めます


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第十五話 さらば流星

 こんにちは―――――――――!

 沙・霧・真・由で―――――す!! お元気ですか―――――!!!

 みんな私のチートは知ってるかな―――――!?

 そう! 科学力(物理)チートォォォォォォォォ!!!!

 

 ふぅ――。そろそろ落ち着きましょうか。いえね、夕呼さんの手伝いのためにこのチートを選んだんですけどモビルスーツとか開発するのは一番適してるんですよ。それを知った時の嬉しさを思い出してこのような冒頭になってしまいました。

 新素材、新エネルギー。これが開発できなきゃ話になりません。それを可能とするのが私の科学力(物理)チートなのです!工学力(設計、開発)チートなどおいしそうなお餅を描く能力にすぎないのです。

 

 ここで私の帝大時代の昔話をひとつ。入学した途端、機械歩兵装甲なんかを作って先輩達に混じって評価試験を受けたりしたんです。そこでトップ成績をとったんですが軍への推薦は受けられませんでした。理由は私が発見した新素材で全身作っちゃって量産できないからなんですね。 

 でも河崎重工さんがそれに目をつけて新素材の権利ごと買ってくれました。代金が私の設計した実験戦術機の製作。

 さらにBETAのガラを融通してくれて、そこから謎宇宙物質なんかも新素材にしてトンデモ戦術機を作っちゃいました。

 皆さん知ってます?BETA突激級の外殻とか要撃級の腕とかメチャクチャ硬いんですけど、BETAの殻の硬度ってその個体が生きている時のみ発揮されるんでそれらを人類は再利用出来ません。その他のBETAの特性についても同じです。

 でも私には出来ます。物理チートですから。

 河崎重工さんはじめ軍研究所が苦労している分析もチートな神眼であっさり看破!抽出し精製し結合させて軽くて超硬度な新素材作成!さらに光線級のガラから超断熱材と新エネルギー開発!筋肉からも電気信号で伸縮する丈夫で柔軟性あるまたまた新素材!これで人工筋肉作っちゃおう!作っちゃいました!

 ……という訳で超高度CPUと私のプログラムも相まって気持ち悪いくらい人間っぽく動く戦術機になりました。

 名前は”流星”と名付けました。『白銀の流星』と二ツ名で呼ばれることでしょう。

 

 そしてここはテストのために来た旧市街。白銀君も無事起動出来たようですし武装テストからいきますか。

  ビームライフルっぽい電磁投射砲とビームサーベルっぽいなんちゃってビーム長刀。

 ……笑わないで下さい。今の工作機械と設備じゃこれが精一杯なんですから。

 

 電磁投射砲。

 私が光線級のガラを研究して作ったレーザーはこれまでのどれより高出力なんですが……残念ながらBETAには火傷ひとつつけられません。そのかわり電磁投射砲のレールにすれば10キロ先にも戦術機の弾を飛ばせます。しかも砲身は例の超断熱材!熱エネルギーを一切吸収しないのでいくら撃っても変形しません!

 いま、白銀君が撃っているんですが……5千メートル先とは思えないほどドッカンドッカン街を壊していますね。

 ビーム長刀。

 レーザービームの粒子を発射せずに刀の形に止めておくことで数千度の熱の剣にするってやつです。刀身を完全にビームにするのは不可能だったんで例の断熱材を刀身にしてビームを纏わせるって形にしました。

 あれ?ここって映画のセット?コンクリート製に見えるけど全部発泡スチロール製?って思っちゃうくらいスパスパ街を切っちゃってます。

 

 さて次は機動テスト。

 ここだけは宇宙世紀に指先入るぐらいは届いています。宇宙遊泳可能でありながら戦術機に搭載出来るほどの小型ブースターエンジン開発しちゃいましたから。普通ならエンジン吹っ飛ぶほどの高出力も新素材で解決!BETAの躰ってホントチートですよね。もう少し技術が進めば高機動で宇宙戦闘可能になります。ザクさんの背中とか見えてきちゃいましたね。

 

 エキストラの神宮寺教官率いる二〇七訓練小隊の皆さんも配置につきました。

 鎧衣課長、月詠さん、三バカ……もとい斯衛三人衆の皆さんもライバルにも関わらず応援に来てくれました。あんな遠くにいないで近くに来ればいいのに。

 夕呼さんも忙しいにも関わらず来てくれました。冷たい言葉とはうらはらに熱い仲間思いの心を秘めている女なんですよね。

 こんな熱い仲間達の前で無様は出来ませんよ白銀君。

 

 「さあ白銀君、ゴォ――――――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 宇宙世紀ナメてました。

 白銀君は無様に医療用ベットでお休み中。

 それでも新型OS搭載の吹雪に乗る神宮寺教官はじめ二〇七訓練小隊の皆さんを5分で撃墜判定にしたのはたいしたものです。でも強化装備でも吸収仕切れない超Gで前後左右上下に揺さぶられてダウンしてしまいました。

 宇宙世紀の人間ってのは宇宙に適応するために高重力、高加速に耐えるよう進化した人達みたいです。さらに時代が下がるにつれ強化人間が出てこなくなるのはあたりまえです。主人公から一般兵までみんな当たり前に強化人間になっちゃってるんですから。

 ハイヴ攻略には兵器を開発しなきゃいけないんです。ガンダムシリーズなんて兵器じゃありません。

 Zガンダムは人間ミンチ製造器。

 ウイングガンダムゼロは人間ミキサー。

 ダブルオークアンタに至っては人間原子分解装置です。

 

 己の無能さを噛みしめる中、みんなが慰めに来てくれました。

 

 「はっはっは。本気で情報省にさらいたくなってしまったよ。」と鎧衣さん。

 

 「沙霧真由……。敵にまわるなら真っ先に狩りに行く!」と月詠さん。

 

 「あなたの才能、これから何万人もの衛士の命を救うわ。でもあまり夕呼に心配かけちゃダメよ。」と神宮寺教官。初登場ですね。

 

 「……そのガラクタ、当分厳重にしまっておきなさい。まったくクソ忙しいのに情報管理が追いつきやしない。」と夕呼さん。

 

 ううっ、ガラクタなんてヒドイ。でもガラクタですね。

 仕方ない。ハンガーの隅に置いてヒマな時にでもいじって遊びますか。

 

 

 ―――――さらば”流星” 。

      一話だけで輝き消えた儚き流れ星。――――――




 出オチ戦術機でした


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第十六話 ピアティフ 真由の秘書になった日

 主人公視点ではわからない横浜基地を覆う闇!
 その真実が今、明らかに!




 

 ※鎧衣課長が来た日の次の日までもどります。

 

 

ピアティフSide

 

 

 私は香月副司令に呼び出され昨夜の顛末を聞かされた。

 

「鎧衣課長が暴力沙汰……ですか。では沙霧真由の背後組織はオルタネイティヴ4は支持する、しかし帝国との関係は嫌う。という訳ですか。」

 

 副司令は私の言葉に応えず俯いていた。

 

 「あのお方のことまで知られているのは危ういですね。やはり接触を待つだけでなく積極的に動いては?」

 

 やはり応じない。

 

 「帝国は我々が帝国を売り00ユニットの技術を手に入れた、と考えているフシがあります。このままでは00ユニットを完成させたとしても評価試験が……」

 

 ガタッ  カッカッカッカッ

 

 香月副司令はいきなり立ち上がった。そして棚に向かった。

 

 カタカタカタ……カチャッ

 

 備え付けの金庫を開け何かを取り出した。

 

 カッカッカッカッ   コトッ

 

 また席に戻り机の上に置いたそれは………一個のUSBメモリ!?

 

 「それはまさかあの時の!?」

 

 「ええ、沙霧が私の勘弁と引き替えのね。」

 

 「まだ破棄してなかったんですか!? 危険です!00ユニットの全情報がセキュリティもなしのUSBメモリひとつに入っているなど!」

 

 副司令は手のひらでUSBメモリを玩びながら何かを思い出しているようだった。

 

 「そうね。私もなぜ破棄する気になれなかったのかわからなかった。多分、警鐘だったのね。忘れていたことへの。」

 

 「……? 何をでしょう?」

 

 「沙霧の背後組織とやらはなぜこんなUSBメモリひとつに全情報を入れてたの?」

 

 「!?」 そうだ……あまりに迂闊すぎる……。

 

 「それにウチと帝国を切らせたいならコレと引き替えでいいじゃない。鎧衣をおちょくる必要なんてないわ。」

 

 「た……確かに。」 そう、これだけの技術をロクな交渉もなしに……。

 

 「まだあるわね。たとえウチを支持してくれるとしても全情報をタダでくれるなんて親切、あり得るのかしら?」

 

 「そ……それは沙霧真由の命と引き替えかと……いえ、やはり不自然です!」

 

 「そうね。全情報を先に渡しての取り引きなんてありえないわ。

 そして沙霧自身よ。どんな組織であれウチに送り込むのにアレはないと思わない?」

 

 ああ! そうだった……私も何かを忘れている!でも……

 

 「……わかりません。いったいどういうことなのでしょうか?」

 

 「沙霧に組織なんてない。全て沙霧ひとりでやったこと。あの娘はニューブレインチャイルド一号なのよ。」

 

 !!!  そうだった。でも……

 

 「ありえません!00ユニットの全てをひとりの人間が研究しきるなど!一介の大学生が高温超伝導物質『グレイ・ナイン』の存在や性質など何故知っているんです!?

 それに情報は!? 我々、帝国、妨害派全てに食い込んだ恐るべき諜報能力は絶対にひとりでは不可能です!」

 

 副司令は相変わらずUSBメモリを玩びながら言った。

 

 「話は変わるけどあなたには平行世界理論のことは話したわよね?」

 

 「?はい、副司令が嵌められた時何をするつもりだったかの検証時にうかがいました。

 白銀武の強化が目的とのことでしたが……。」

 

  薬物増強の様なものではない。精神、肉体、技術、戦士の気迫などが一晩で身についていた。

 あの人知を超えた技術も沙霧真由ひとりの力で……?

 

 「でもあれって平行世界のあたしが新理論を発見したことを知らなきゃ出来ない策よねぇ。」

 

 「!? し……白銀武に聞いたのでは……?」

 

 「それにあたしが白銀に平行世界の向こうに新理論を取りに行かせるなんて情報、どこから手に入れたのかしら。あたしの頭の中にすらなかったのにねぇ。」

 

 確かにこんなこと予想なんて出来るはずがない!

 

 「い……いったい……」

 

 「まったくあの時は気分が上がったり下がったり、またでっかく上がったり。撤退から一転大攻勢しなきゃだったりで、すっかり頭が悪くなってたわ。鎧衣との一件で、絶対にスパイにしちゃいけない人間の最底辺をブチ抜く間抜けっぷりを見せられてやっと気がついたわ。

 アレはいわばこれから生まれる00ユニットのお姉さんの様なものなのよ。」

 

 「!? 危険ではないのですか?彼女も00ユニットも……。」

 

 「かといって今更彼女の検証をするまで中止、なんて出来ないでしょ?もう期日はあちこちに言っちゃったんだから。」

 

 副司令はおどけたポーズで言いました。確かにそんなことをすれば妨害派のつけ込み放題にさせてしまうし、帝国の怒りも……恐すぎて考えたくないです。

 

 「危険でもこのまま進めるしかありませんか……。」

 

 「大丈夫よ。下手なウソはつくけど性格はなかなかいい娘じゃない。あたし達の代わりに00ユニットの研究を完成させてくれたり、みそっかすの白銀を強くしてあげたり。

 うまく教育すりゃ人類の為にもなにかしてくれるでしょ。」

 

 ……確かに今の人類には力が必要です。恐怖で退がるより、人類の為にも進むことを考えるべきでしょう。

 

 「わかりました。では話を帝国に戻しますが、組織が存在しないとなるとそれはそれで厄介です。帝国の不信は相当なものです。」

 

「不信と言うより恐怖ね。沙霧を正体不明、調べても影すら掴ませない高科学組織と置き換えてご覧なさい。」

 

 「………成る程、帝国の皆さんはあれで自重していたんですね。あの程度で抑えてくれているならむしろ感謝すべきなのかもしれません。」

 

 「で、そのナゾ組織とウチがガッチリ水面下で手を組んでいるとしたら?」

 

 「あの噂みたいにHSSTに爆薬いっぱい積んで横浜基地に墜とします。………ハッ、私ったらなんてことを!」

 

 完全に帝国側の思考になっていました。

 

 「い……急いで沙霧真由を帝国に発表して下さ……は出来ないですよね。やっぱり。」

 

 「ええ、沙霧を巡ってさらに険悪になるわね。渡すわけにはいかないんだし。」

 

 「では……どうすれば。」

 

 副司令は天を仰いで1,2分考え、そして

 

 「たしか沙霧が実験戦術機のテストを申請してたわよね?」

 

 「はい、完成したら横浜基地にくれるそうです。」

 

「相変わらず気前のいい娘ねえ。まずはテストをやって帝国の目をそっちに向けさせましょ。で、欲しがったらそれをやって関係の修復を図る、と。」

 

 「よろしいので?もしとんでもないものだったらさらに恐怖心をあおり、組織の密着ぶりを疑われることになりますが。」

 

 「設計したのは沙霧でも作ったのは河崎重工でしょ?今までのシリーズの発展系と思って間違いないわ。新素材、新エネルギーでも開発できなきゃ限界は変わらないんだし。

 ……ああ、沙霧が河崎重工と関係を持った時に開発した素材で戦術機への応用研究ってとこか。じゃ、モノになるまでにかなりデータとらなきゃだから交渉材料になるかは微妙ね。」

 

 「どちらにせよ大きな問題はありませんか。では沙霧真由はどう扱いましょう?」

 

 「とりあえずあなたが秘書につきなさい。なるべく外出させず、帝国のヤバイ筋の人とは接触させないようにね。まったく見習いのクセにピアティフが秘書なんて生意気ねえ。」

 

 「了解いたしました。新任務につきます。」

 

 「クソ忙しいけどテストは見なきゃいけないわね。どんなものかわからなきゃ交渉なんて出来ないんだし。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてテスト起動終了後――――

 

 「あいつは00ユニットすらひとりで全て設計したんだったわね。どうして『新素材、新エネルギーなんて簡単には出来ない』なんて常識にとらわれちゃったのかしら。」

 

香月副司令は肩を落として言いました。

 

 月詠中尉と斯衛三人衆の皆さんがやってきました。四人分の殺気は体に悪いですね。

 

 「ずいぶんいいオモチャをもらったじゃないか。今度はアレと引き替えに帝国の何を奴らに売ったんだ?」

 「所詮は女ギツネか!」

 「帝国を侮辱した罪、贖わせてやる!」

 「おぼえてなさい~!」

 

 もはや疑惑ですらなく確信ですか。

 

 彼女の妹ともいえる00ユニット。彼女はもう少し手のかからない娘に生まれることを願うばかりです。




 謎の組織への疑惑!
 帝国を惑わす沙霧真由!
 真実が明らかになる日は来るのか!?


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第十七話 おじぎ訓練小隊

 こんにちは 沙霧真由です。

 皆さんは自分がバカだって思ったことはありますか?私にはあります。

 いえね、横浜基地と帝国の仲が原作にはないくらいとんでもなく悪くなっているんですよ。

 

 『まったくしょうがないなぁ白銀君は。いきなり強くなったんで調子に乗っちゃったんだね。白銀君のためにも少しこらしめてやる。

 ”凶悪BETAシミュレーション!” ピシャピシャピシャーン!』

 

 なんて思っていたんですが検証してみると『アレ?なんか私の責任も半分くらいあるぞ?』ってわかったんですよ。後の半分は白銀君が一日で最強衛士にメタモルフォーゼなんかしちゃって帝国の皆さんをビビらせたせいですね。

 まったくしょうがないなぁ白銀君は。………はい、全部私のせいです。

 

 自分ではドラえもんキャラになるつもりがのび太君までも兼ね備えるとは正にチート!!!

 ゴッド純夏さん欲張りすぎですよ。これじゃ私ひとりでBETA全滅できちゃうじゃないですか。ハハハハハ!

 皆さんが活躍出来るよう少しは手を抜くつもりですが、でもおかしいんですよね。私は頭脳系チートで記憶力は普通よりかなりいいはずなんですよ。なのに恐怖体験、失敗体験なんかはいつの間にかスッパリ忘れちゃっているんです。で、思い出したのがもうひとつのチート。

 ”女神の加護” 

 簡単に死んだり壊れたりしないよう運が良くなるというやつです。

 私は精神力を普通より下げちゃってビビリ体質になってしまいました。 それで心を守るために恐怖体験や失敗体験が忘れやすくなり、プレッシャーにも鈍くなったのです。

 加護を与えた相手をおバカキャラにしてしまうとは!女神になってもさすがは鑑純夏さん!実にグレートすぎです!巨大アホ毛はダテじゃない!これじゃ私ひとりでBETA全滅できちゃうじゃないですか。フハハハハハ!

 …………”女神の加護”が強力に働いているのを感じます。きっと死ぬほど落ち込むのを防いでくれているんですね。

 

 

 

 さて、今日は二〇七訓練小隊の皆さんが天元山で災害救助活動に出発する日です。この災害救助は行かないと別に行った部隊が無茶な行為をします。それに反発してお兄ちゃんのクーデター部隊が決起してしまうので二〇七訓練小隊の皆さんには是非行ってもらわねばなりません。

 

 「それじゃ、皆さんいってらっしゃい。」

 「ああ、行ってくる。」

 「が、がんばります!」

 「ボク、こういうのは得意なんだ。」

 「ちびっ娘。おみやげ買ってくる。」

 「買えるわけないでしょ!ちゃんと任務に向き合いなさい!……それじゃあね。」

 「………………。」

 

 最後のは冥夜さんです。彼女は私に話しかけられず、私も彼女と話せません。 帝国との関係がこれに表されています。

 

 え?冥夜さん?

 

 カッカッカッカッ  ザザッ

 

 冥夜さんが私の前に立ちました!? 立っちゃった!?

 

 「御剣訓練兵!?どういうつもりです!?あなたは彼女に話しかけてはいけません!」

 

 ピアティフさんが私の前に立ちガッチリガード。

 

 「聞いている。しかし私はどうしても沙霧と話し、真意を質さねばならんのだ。」

 

 「なっ……!」

 

 「今、帝国と国連はギクシャクしている。横浜が正体不明の輩と手を組んだというのだ。そして沙霧がその手先だとな。」

 

世界征服企む謎組織とか信じちゃってんですか!? 帝国の皆さん!

 

 「ゆえに私は沙霧を直接問い質す。ピアティフ中尉、そこをどいてくれ。」

 

 ピアティフさんはあわてています。そこまで言うなら話くらい、いいじゃないですか。

 

 「いけません!彼女の答えは真実であれウソであれ最悪の事態を引き起こします!」

 

 「失礼な!そんなとんでもないこといったいいつ引き起こしましたか!冥夜さん、上等です! この沙霧真由、何でもドーンと答えてみせましょう!」

 

 「あなたは黙ってなさい!」

 

ピアティフさんは私を羽交い締めにし、口をガッチリ両手で塞ぎました。ぐえぇ、以外と力が強い……。何でこんなに必死!?

 

 「お願いします! ピアティフ中尉!!」

 

 白銀君が進み出てガバッ!と直角おじぎ。

 

 「真由は本当にそんな奴じゃないんです!帝国の誤解を解くためにも是非!」

 

 前に冥夜さんに『真の武人は土下座をしても向かい手を圧する者』と教えてもらいましたが最強衛士の白銀君は正にそれ。後ろのピアティフさんがたじろぐのを感じました。私は”女神の加護”で大丈夫です。

 

 「ちびっ娘はただの小物。私の手先がせいぜい。」 ガバッ!

 

 慧さんまで直角おじぎ!?長いつき合いだけど15度すら見たことありませんよ!”女神の加護”があるにもかかわらずクラッときました。

 

 「お願いします!こんなの間違っています!沙霧さんと御剣を話をさせてあげて下さい!」

 

 千鶴さんも続いてガバッ!と直角おじぎ。

 

 「ボクからもお願いします!真由ちゃんはいい娘なんです!」 ガバッ! 美琴さん。

 

 「お、お願いします!」 ガバッ! 壬姫さん。

 

 ………え?冥夜さんが腕を下ろした? まさか!?

 

 「私も真心を持ってお頼みしよう。…このとおりだ。」

 

 他の人とは違ってゆっくりと。でも見たことないくらい綺麗な直角おじぎ。

 

 ……立場的にいいの!?




 熱血ハーレム野郎 白銀武!
 奴が叫べば仲間も応える!
 青春っぽいドラマも始まる!

 そうともこれがマブラヴだ!!!


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第十八話 冥夜の目

 

 こんにちは。まったく誰です?

 『まったくしょうがないなあ、白銀君は』などと上から目線で思い上がっている、しょうもないゴミクズは! 台所の三角コーナーにでも行っちゃってください。本当ににカスが増長するとどうしょうもないですね! 熱い仲間達に信頼され、一丸となって頭を下げているこの姿を見て恥ずかしいとは思わないんですか!? カスめ! 巨人の足元を囓ることしかできない子ネズミめ!

 

 

 …………ハイ、子ネズミです。ゴミクズです……

 

 

  …………アレ? 今なにを反省してたんでしたっけ? 何故か私の前で二〇七訓練小隊のみんなが直角おじぎ! しかも背中に金髪美女が抱きついてる!

 中国皇帝気分の沙霧真由です。

 

 

 「ピアティフ中尉、すべての責任は私がとります。少しだけでよいので御剣をその娘と話させてやって下さい」

 

 神宮寺教官が私の後ろのピアティフさんに頼みます。しっかし何でそんなに私の口を必死になって押さえているんですか!私が冥夜さんにアホなことを言って、帝国との関係をさらに悪化させるとでも思ってんですかー!

 

 「………っ神宮寺軍曹、あなたはこの娘を知らないから………!」

 

 なんか珍しく感情こぼれちゃってますね。鎧衣課長に続きキャラ崩壊?

 

 「やはり危険な組織の者なのですか?夕呼が……いえ、香月副司令が恐れるほどに」

 

 「い、いえ組織とかではなく……いえ、お答えできません!」

 

 っっって何でそんな思わせぶりなんですかー!組織ってなんなんですか!きっぱり否定して下さいよ!月詠さんといい、私って帝国になんだと思われてるんですかー!

 

 しばらくピアティフさんと神宮寺教官がにらみ合った後、ピアティフさんは言いました。

 

 「…………話しかけるだけならば許します。でもこの娘が話すのはダメです」

 

 「そんな!それじゃ何も……!」白銀君は抗議しようとしますが

 

 「よい、タケル。ピアティフ中尉、私のわがままをお許しいただきありがとうございます。

 ――――感謝を」

 

 目を瞑りそう言った後、冥夜さんは私の前に立ちました。私の目をじっと見つめ、やがて静かに聞きました。

 

 「沙霧真由。そなたは帝国に仇なす者なのか? そなたの属す組織とやらは何を目的としている?」

 

 だから組織って何なんですか!どうしてそんなオカルト流行っているんですか!? だいたい口が聞けないのに目的とか聞いてどうすんですかー!

 じっと私の目を見つめる冥夜さん。

 私は彼女の澄みすぎる美しい目に見惚れちゃいました。本当に綺麗な目ですね。

 

 

 

 

 

 ……………しばらく見つめ合った後、フッと彼女は笑いました。

 

 「よくわかった。”心疚しき者が私の目を見続けることは出来ぬ”と自惚れている。

 月詠………中尉達には私から諭しておこう。『不安に逸らぬよう。影に怯えるは武人の恥です。』………とな」

 

 冥夜さんはそう言ってクルリと背を向けます。去ろうとする前に、

 

 「また、いつか膳を共にする日があればよいな――――」

 

 そう言ってくれました。

 

 

 

 

 そして二〇七訓練小隊は出発しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 今はなき昔日の日々。
 ただ、任務に征く彼らを見送る。

 いつかまたその日が来ることを夢見て


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第十九話 クーデター勃発!

 

 こんにちは。沙霧真由です。

 二〇七訓練小隊の皆さんが帰って来ました。………で、白銀君と冥夜さんはお婆さんの想いを助けるために盛大に命令違反して営倉へお務め中。アンリミのイベントは総戦技評価演習以来無くなっているのばかりなので、逆に新鮮に感じますね。

 でも吹雪は二機とも無事に帰還しました。何でも白銀君が一人で天狗岩をぶった斬って崩れる山岩から逃げることに成功したそうです。新型OS………結局XM3になりましたが、XM3搭載の吹雪と白銀君の技量あっての離れ技ですね。

 

 さて、ピアティフさんに家への帰還申請をしたんですが却下されちゃいました。

 

 「帝国はいま『沙霧』という名にピリピリしています。あなたが沙霧尚哉と接触すればいろいろ腹を探られるでしょう」

 

 「お兄ちゃん、そんなに凄い人だったんですか。戦術機の操縦は凄くても政治とかはまだまだ下っ端かと思ってました」

 

 「あ……いや、彼自身はそうでしょうが……」

 

 結局ピアティフさんって秘書といっても私が会う人を制限するだけなんですよね。

 前言ってた『リアルBETAシミュレーション』は完成したので運用は神宮寺教官にまかせちゃっています。

 で、最近はハンガーで流星をいじって遊ぶのが一日の使い方ですね。じゃあ今日もそうしますか!

 

 

 「ちびっ娘……」

 「慧さん?」

 

 いきなり慧さんが私の前に現れました。なんか表情が暗いです。

 

 「トイレ」

 「え……? ああ、いってらっしゃい」

 

 なんで私にわざわざ宣言? 私にそれを聞かせてどうしろと?

 

「一緒に行こう」

 

 手を引かれトイレに連れて行かれました!? 連れションの誘い!? こんな強引に!? 私したくないんですけどハコの前で待ってなきゃいけないの!?

 …………と思ったら一緒の個室に入っちゃいました!

 

 ハッ!! こ……これはまさかのHイベント!? 私に慧さんの”する”所を見ろと! そうおっしゃるんですか慧さん!? 元々エロゲキャラとはいえなんというレベルの高さ! まさに青少年をエロゲ脳に誘う悪魔の如きイベント!! 驚愕の彩峰ルート恐るべし! 前世の男だった頃の魂が甦ってしまいました―――!!

 ふうぅ、やはり私もマブラヴキャラになった以上イベントはしっかりこなさなくてはなりませんね。

 画面の前で水鉄砲かまえてスタンバってるユーザーのためにも!

 いやあドキドキするなあ、夢のマブラヴヒロインとの”絡み”とか!

 

 

 

 

 

 

 

 「………ちびっ娘、何してる?」

 

 「はい、慧さんのパンツを下ろしてさしあげてます。やっぱり慧さんの”する”所を見せていただけるなら、こういう女の子同士の『ちょっとドキドキ♡』なシーンもあってしかるべきかと」

 

 「お前の変態性癖にドキドキ。半径3メートル以内に近づくな」

 

 ギュム!と頭を踏まれました。

 ひどい! 自分からこんな所に連れ込んで! これじゃ女が自分からラブホに連れ込んだのに『そういうつもりじゃないの。中がどうなっているか知りたかっただけなんだ。テヘペロ♡』とかいい腐るようなものじゃないですか!仮にもマブラヴヒロインがそんな非道するとは思いませんでしたよ!

 

 「お前はいつも金髪つき。だからこうしないと話せない」

 「え……?」

 「『ごめん』………だって。」

 「何ですって?それってどういう……」

 

 ガッ!と慧さんが私の口を塞ぎました。

 

 「金髪、甘くないか。扉の前で聞き耳たてている」

 

 慧さんが私の耳元で声を潜めて言いました。

 トイレの扉を開けてみると本当にピアティフさんがいました。

 

 「じゃ。」 慧さんはそのまま行ってしまいました。

 

 「何を話してたんです?」 ピアティフさんがズンッと聞きます。

 

 ヤバイ!ごまかさなくては!

 

 「話してたんじゃありません。慧さんと女の子同士”する”所を見せっこしてたんですよ。いや~まさか慧さんとこんな関係になるとは!」

 

 「…………よりによってなんというウソを。本当のことを言って下さい」

 

 「わ、私がウソなんかつくわけないじゃないですか! 真実と誠実を宗とするこの私が!」

 

 「そうですか。では彩峰訓練兵共々指導が必要ですね」

 

 「いえいえいえいえ!それにはおよびません!エロゲイベントにドキドキな慧さんにビシッ!と言ってやりましたよ。『気高くあって下さい。衛士として恥ずかしいマネはやめて下さい!』ってね。だからピアティフさんのお手を煩わせることはありません!」

 

 「………………………………………………えろげ?」

 

 

 

 

 

 

 どうにか巧みに誤魔化しましたがピアティフさんはまだついてきます。

 それにしてもさっきの慧さんの言葉、まさかお兄ちゃんがクーデター?ちゃんと二〇七訓練小隊の皆さんは天元山に行ったのに?ともかく慧さんともう一度話さないと。

 対彩峰慧専用アイテム焼きそばパン! PXの京塚おばちゃんに作ってもらいました。これ一つでうまいタイミングに渡せば何でもしゃべってくれるはず!それにしても慧さんってどうしてこんなに焼きそばが好きなんでしょうね?昔からごはんを食べにいけば焼きそば、駄菓子とかでもソース味ばっかで付き合わされるこっちは胸焼けしまくりですよ。

 後は慧さんを探すだけ!……ま、屋上なんですけどね。

 

 「あの人も……ちびっ娘も白銀もウソをつくのが下手。上手なのは私だけ」

 

 屋上にいた慧さんに焼きそばパンでその言葉を引き出しました。なんで白銀君も……って問題はそこじゃない! 離れているとはいえピアティフさんもいるのでそれ以上は言えないのでしょう。

 でもわかっちゃいました。

 

 

 やっぱりお兄ちゃんは動いた!!!!

 

 

 過去の検証をして私はこの件を読み違えたことがわかりました。

 

 「そうか、クーデター発動フラグは天元山救助活動に行かないことじゃない。HSST落下の事前阻止だったんだ。アメリカの妨害派は横浜基地の諜報能力に恐れをなし、お兄ちゃん率いる戦略勉強会の後押しをして横浜基地へ介入する口実を手に入れたんだ」

 

 防衛基準体勢2発令。

 

 翌日夕方に放送局占拠によるクーデター部隊の決意声明が流れました。現首相榊是親はじめ閣僚全てを国賊として殺害。『戦略勉強会』が決起したことをお兄ちゃんこと沙霧尚哉大尉は宣言しました。

 

 

 

 

 

 




 夢と散ったマブラヴヒロインとの絡み!
 帝都を揺るがす義兄の凶行!
 時代を劈く12.5事件!
 沙霧真由の運命を嵐の渦へと誘う
 
 クーデター事件勃発する!


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第二十話 私と白銀君と神宮寺教官と

 こんにちは 沙霧真由です。

 何やってんですか、あのバカ兄貴は―――――――――――――――――!!!

 何が『国民の皆様にはご迷惑をおかけします。(キリッ)』ですか! 閣僚みんな殺しちゃってご迷惑どころか日本中混乱しまくりですよ! 何『夜中に道路工事します。皆様にはご迷惑をおかけします。(ペコリ)』みたいなレベルで言ってんですか――――――! 今すぐこの熱く燃える炎の拳でヤツのメガネが吹き飛ぶほどに殴りたい! ポコンッて感じのパンチにしかならないんですけどね。

 鎧衣さんが前に来たとき『戦略研究会』が出来たことも言ってたのに、何もしなかった自分が悔やまれます。オルタは何度もやったけどその辺り、動きがなさ過ぎてつい飛ばしちゃうんですよ。

 

 

 

 さて、ピアティフさんは夕呼さんに呼ばれて行きました。私は待っているように言われましたが、やっぱり二〇七訓練小隊の皆さんが気になりましてブリーフィングルームへ向かいました。で、その途中白銀君とバッタリ出会ったのです。

 

 「真由。あれ、お前の兄貴なのか?」

 

 「ハイ、お兄ちゃんが千鶴さんのお父さんを……。千鶴さんは?」

 

 「やっぱ落ち込んでるよ。あいつには今、会わないでおけ」

 

 するとそこへ神宮寺教官も通りかかりました。事件のせいでしょうが完全軍人モードです。

 

 「白銀……その娘もか。ピアティフ中尉は?」

 

 「あ、いえ千鶴さんにあやまりたくって抜け出してきてしまいました」

 

 「あやまって済む様なことでもあるまい。君も大変な立場になったな」

 

 やっぱりそうですよね。これからどうしよう。

 

 「それにしても真由の兄貴、どうしてこんなことを! 妹もここにいるってのに!」

 

 白銀君は悔しそうに言いました。

 

 「我が国は国土を半分BETAに奪われ追い詰められつつある。彼らは出口を探して迷い、間違った答えを出してしまったのだろう」

 

 「いったい………BETAって何なんです!? 何でこの世界にはあんなものがいるんですか!?」

 

 白銀君!? 向こうの世界の人間の発言ですよ!

 

 「『BETAは何なのか』か………世界中の人間が一度は問いかける問題だな。」

 

 え、これって普通なの?でもよかった。神宮寺教官、上手くスルーしてくれた。

 

 「”何故BETAなんてこの世にいる!? 何故奴らに大切な人を殺されなければならない!? 何故故郷を失わなければならない!?”……とな。だがそんな問いに答えられる者などどこにもいない。神も沈黙したままだ」

 

 いえ、アホ毛の女神の答えが私なんですけどね。言えませんけど。

 

「研究ではBETAは我々人類を”生命体”と認識していないそうだ。だが間違いなく私達は生きている」

 

 アレ?なんか原作にはない名シーンの予感?

 

 「この世界に生きる以上我々は訓練を積み、闘っていかなければならない。BETAに我々が生きていることを示すために、人類に残された『息苦しい世界』を守るために」

 

 神宮寺教官は白銀君を強く見つめます。

 

 「衛士は出撃するとき多くの人の運命、そして己が運命を機体に乗せていく。貴様のその迷い、決して機体に乗せていくな」

 

 白銀君、ずいぶんとまどってます。自分の世界のまりもちゃんと違いすぎますからね。

 でも私も神宮寺教官の話を聞いて思うところがあります。私もどこかこの世界の人達を生きていない、ゲーム上の存在と思っていたのかもしれません。だから”フラグを一つ折ればイベントは発生しない”なんて考えでこんな失敗を許してしまったのでしょう。でも神宮寺教官の話で”間違いなくこの世界の人達は生きている。生きてBETAに苦しめられている”って思いました。

 さて、改めてこれからの対策を考えますか。

 

 

 「ここにいたのね。まったく待ってろと言ったのに」

 

 おっとピアティフさん登場。私を探しにきたようです。

 

 「神宮寺教官と白銀訓練兵もここにいましたか。全員副司令がお呼びです。先導しますのでついてきて下さい」

 

 

 

 

 

 

 ………というわけでみんなで夕呼さんの部屋に来ました。夕呼さんはぐったりしています。

 

 「全員来たのね。じゃ、まずはまりもからいくわ」

 

 「はあ……。ですが香月副司令、出来れば”神宮寺軍曹”とお呼び下さい」

 

 「今、余裕ないの。鬱陶しいネチネチした連中と交渉やってきたし、これからも予定満載だし。アンタにまで形式こだわってらんないわよ。ハイこれ。すぐ読んで」

 

 夕呼さんは神宮寺教官にバサッと書類の束を渡しました。

 

 「司令部に近い現在の状況とこっちの沙霧に関する情報よ。全部じゃないけど無論機密だから読んだ後は注意してね」

 

 「それは……いいのですか? 自分ごときが」

 

 「必要だからよ。悪いけどあんたも巻き込ませてもらうわ。いいからさっさと読みなさい」

 

 神宮寺教官は書類を読み進め……驚いた顔になっていきます。やはり帝都の状況は驚くべきほど悪くなってきているのでしょう。

 

 「それじゃこの娘は……。この娘の後背組織というのは……。」

 

 え、私?何か驚くような事ってありましたっけ?

 

 「そ、全部あっちのカン違い。でも説明するわけにはいかないの。できる限りでいいから何とか帝国の隔意を和らげるよう考えてちょうだい。あたしじゃ信用させるのは無理だし、それどころじゃないしね」

 

 「わかりました。ご用は以上ですか?」

 

 「ええ。じゃ、頼んだわよ、まりも」

 

 「……神宮寺軍曹です。では失礼します」

 

  バタンッと扉を閉めて出て行きました。なんか友達言葉で話して軍人言葉で返すってそのままギャグですね。BETA世界ならではの掛け合い漫才!

 

 「じゃ、白銀。次はあんたよ」

 

 今度は夕呼さん、白銀君に向きました。




 クーデター書くため沙霧尚哉調べたら爆死!
 なんと榊是親は彩峰萩閣に処刑されてくれと土下座していた!!!
 知らずに四話書いちまった!
 恥ずかしィィィィィ! このままでは失踪しかないィィィィ!!!
 白銀ェェェェェ!
 お前だけが頼りだァァァァァ!
 何とか時間稼いでくれェェェェェ!
 
 その間に上手い詐欺考えるからァァァァァァァァ!!!


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第二十一話 鎧衣さんトークショー

 こんにちは 沙霧真由です。

 今更ですが私が夕呼さんを実際に呼んだり話したりする時は『博士』といいます。これは夕呼さんはこの基地で二番目に偉い人、私の所属する技術部ではトップなので敬称付でよばないといけないからですね。新入社員(仮)と専務の関係に近いです。

 で、偉い人ってのは立場に合わせて色々仕事が増えるワケですが……いやー白銀君、夕呼さんを『信じられない』って感じで見てますね。ハードワークする香月夕呼なんて白銀君の元の世界じゃ考えられませんからね。まりもちゃんと夕呼先生教師二人は基本的な性格は変わってないとはいえ、メチャクチャ別人になっちゃってます。

 

 「白銀、あんたはこいつのこと、どのくらい知ってるの?ピアティフは気にしなくていいわ。全部知っているから」

 

 「どのくらいと言われても……ここに来るとき初めて会って、いろいろ面倒見てくれたいい奴としか。この世界にいない俺の幼馴染みに似てます。あ、あと一つだけ気になることが」

 

 「なに?」

 

 「ここの技術部って、なんか世界的に凄ぇ所って聞いたんですよね」

 

 「え?ええ、そうね」

 

 「そんな所に見習いとはいえ真由がいるんだからこいつ、もしかして凄ぇ頭いい?」

 

「はあ?」

 

 おや、私の話題でしたか。ではちょっと解説しますか。

 

 「こう見えても大学生です!飛び級で帝大に在籍しています!」

 

 「おお!凄ぇ!」

 

 「しかも!この世界で大学生は稀少種!徴兵のせいで進学出来る子はなかなかいないんです。よっぽど頭よくなきゃ入れません!」

 

 「うおおおお、凄ぇえええ!夕呼先生、こいつやっぱ凄ぇ頭良かったんですね!凄ぇえええ!」

 

 夕呼さんは呆然と白銀君を見ています。

 

 「まあ……ね。帝大はアンタから見りゃ確かに凄ぇけど、それでもウチに来るには足りないのよね。……こいつの本当のレベル知ったらなんて言うのかしら?」

 

 「え?夕呼先生、今何て?叫んでてよく聞こえませんでした。」

 

 「なんでもない。いいわ、よくわかった。白銀、あんたは戻って待機してなさい。榊や御剣にこいつは事件に関係ない事をよく言っとくのよ」

 

 「部隊のみんなに言っときます!じゃあな、真由」

 

 そう言って白銀君も行きました。次は私ですね。

 

 

 

 

 フゥ、と夕呼さんため息一つ。

 「クーデターもだけどあんたの兄貴が首謀者ってのが厄介よね。妹のあんたを探られたくないから、何とかおとなしくさせたかったんだけど」

 

 色々工作してたようですね。失敗したみたいですが。

 

 「今すぐ私をお兄ちゃんの所へ行かせて下さい!妹の私が行けばお兄ちゃん、『みんな!クーデターなんてくだらねぇぜ!みんな真由の歌を聴け――――!!』って言ってやめると思うんです!」

 

 スグ歌の練習をせねば!

 

 「………それが予知だとしても行かせるわけにはいかないわ。ピアティフは返してもらうわよ」

 

 ”予知”って何です!? 世界征服企む謎組織とか何でそんなオカルト流行ってるんですか!?

 

 「アンタは部屋で待機。見張りを付けとくからおとなしくしてなさい。ああ、歌を歌って騒ぐのは許すわ。とにかく次来るヤツにあんたを会わせるわけにはいかないの」

 

 この状況でそんなことして過ごしてたらアホみたいじゃないですか!

 

 「……じゃあ開発室にして下さい。何かいじれる物がないと頭が壊れそうです」

 

 「ストレス過多はまずいか……。いいわ、許すわ。ピアティフ、沙霧を開発室へ送ったら交代が来るまで見張っててちょうだい。来たら司令室へ直行。頼んだわよ」

 

 「はい、了解しました」

 

 

 

 

 わざわざ呼び出して戦力外通告ですか。お兄ちゃんの所へ行かせてくれると思ったのに。

 そう思いながらピアティフさんと開発室へ向かおうと廊下を歩いていると、鎧衣さん(父)にバッタリ会っちゃいました。この人が次のお客さんでしたか。ああ、将軍殿下の横浜基地移送についてですね。

 

 「おや、君は」

 

 「………鎧衣課長、失礼します」

 

 そうピアティフさんが言って私達は通り過ぎようとしたら………通せんぼ?

 会うたびに意味不明な事する親父ですね。

 

 「鎧衣課長、そこをどいて下さい」

 

 「なに、後ろの娘とちょっと話がしたくてね」

 

 「この娘とは現在お話できません!」

 

 ピアティフさんが私の前でガード!

 

 「では、僕が勝手にしゃべろう。ご静聴お願いする」

 

 ………ぼく?キャラ崩壊通り越して別キャラになっちゃったの?

 ポーズもアメリカンなバラエティー芸人っぽい? 

 

 「僕は君の言う通り、遺跡やジャングルが大好きな冒険野郎でね。でもそれらがBETAに壊されていくのを見るのは死ぬほどつらかった。心の殺し方を覚えるためにこの仕事を選んだのかもしれない」

 

 さらに自分語り!? いきなり始まった『鎧衣さんトークショー』に私達二人ともビックリです!

 

 「でもね、心ってのは殺しても無くならないんだ。

 君の見せてくれたものは希望だった。”いつか本当にBETAを全滅させられるかもしれない”。そう思えるものだった」

 

 鎧衣さんは歩き出し、私達を通り過ぎながら続けます。

 

 「そう思えれば、昔殺したはずの冒険野郎がいつの間にかひょっこり顔を出して来てね。

 毎日なだめるのに苦労してるよ」

 

 ピタリ、立ち止まります。

 

 「君は動くな。君を殺したくない」

 

 殺す!? そんな直接的な言い方!?

 ピアティフさんは警戒して私をガッチリガード。

 

 「『いつか遺跡やジャングルを取り戻す!』そんな寝言を言ってるよ」

 

 鎧衣さんは恥ずかしそうに帽子を深く被り、再び歩き出しました。

 私はどうしても聞きたくなって訪ねました。

 

 「ジャングルはともかく、遺跡はどうするんです? 遺跡は生えてきたりしませんよ?」 

 

 ピアティフさん、すぐ私の口を塞ぎます。

 

 「自分で造るさ。どれもこれもみんな覚えているからね」

 

 

 その言葉を残し、手を振り去って行きました。

 

 

 その後ろ姿はいつものぬらりひょん親父ではなく

 

 

 

 爽やかな冒険野郎に見えました――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鎧衣さん。今、あのフラグ立てちゃいましたね?

 




 新たな真実に叫ぶ白銀!
 ボクっ子になった鎧衣課長!
 その背中に何かを予感する真由!

 これは嵐の予兆なのか……?


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第二十二話 白銀武 月下で彩峰と

 白銀武Side

 

 

 

 夜にさしかかった頃ハンガーに集合がかかった。火気管制装置のマニュアル調整を各自やらなければならない。オレ達は訓練兵でまだ正規の衛士じゃない。出撃しない可能性もあったが、どうやら天元山に続いての任務となるようだ。他は皆いるが、彩峰だけはいない。外に探しに出ると、訓練場の片隅でぼんやり月を見ている彩峰を見つけた。

 

 「彩峰、集合だ。ハンガーに来い」

 

 「白銀……ちびっ娘どうなったか知っている?」

 

 「夕呼先生が預かっている。あいつは任せておくしかないな。ああ、クーデター事件とは無関係だってさ」

 

 「……そう。まあ、知ってたけど」

 

 「なあ彩峰。お前、真由とは昔からの友達……とは言ってないが、知り合いだったよな。じゃあ、その兄貴とも……」

 

 仲間を疑うようなマネはしたくないが……最近彩峰の挙動が不審だった。やはり事件に関して何か知っていたのかもしれない。

 

 「―――うん、よく知ってる。父さんは尚哉と結婚させたがっていた」

 

 「それって許嫁ってやつ!? じゃ、真由は未来の義妹!?」

 

 「……そうだね。『うざいチビが妹とかイヤ』って思ってたのにあいつとはいつも一緒にいた。私もあいつもウソつき。本当の自分を知られるのがイヤな臆病者同士。似た者同士安心できた」

 

 真由がウソつきで臆病?それは違うぞ。

 

 「真由はウソつきでも臆病でもないぞ、彩峰。詳しくは言えないが、初めて会ったときオレのためにやり合ってくれた。あれは今でも感謝している。それにウソもつかれたことないぞ」

 

 「あいつ、白銀にはウソつかないんだね。それとも白銀、ちびっ娘のウソ見抜けないくらい愚かかも。こっちの方がありえる」

 

 クスクスッと一瞬笑ったが、また暗い表情になった。

 

 「――――ちびっ娘、私と同じになっちゃうのかな」

 

 「彩峰と同じ?」

 

 「私のお父さん、彩峰萩閣。知ってるでしょ?『光州作戦の悲劇』。有名だもんね」

 

 知らねえ!!! 誰それ何それ!? 有名なの!? 知ってなきゃおかしい常識なの!?

 

 「……白銀?」

 

 「あ、ああ、もちろん知ってるぞ! 世界的に有名なヤツだろ? あの人が彩峰のお父さんだなんて、ビックリだなあ!」

 

 「………白銀は外国にいたんだっけね。世界的に有名だったんだ、父さんの悪名。そりゃそうだよね、父さんのせいで司令部は壊滅。BETAは日本に上陸しちゃったんだもんね」

 

 オレのバカバカバカ! 話のニュアンスでいい話じゃないのわからないの!? 脳みそプリンなの!? 今なら豆腐の角に頭ぶつけて死ねる!

 後に調べたことによると『光州作戦の悲劇』とは現地住民の避難を優先する大東亜連合軍に帝国派遣軍が協力した。だがその行動が国連軍司令部の陥落につながり、国連軍は大損害を被ってしまう。その時の帝国派遣軍の指揮官が彩峰の親父である彩峰萩閣中将であり、その責により処刑された。娘の彩峰も随分つらい目に遭ったようだ。

 最近大東亜連合軍経由から、沙霧尚哉からの手紙が彩峰に送られて来るそうだ。彩峰の挙動不審はこれが原因だったようだ。

 

 

 

 オレ達は出撃準備をすべくハンガーに戻った。自分の機体に向かう彩峰にもう一度言った。

 

 「彩峰、真由とずっと友達でいてやってくれ。無論、オレもそのつもりだが、お前も頼むぞ」

 

 「……尚哉はちびっ娘のこと、あちこちに頼んだんだって。でもその人達によると、横浜基地はちびっ娘のこと離そうとしないみたい。それに最近、ちびっ娘のことを調べ回っている人達がいるんだって。それも個人とかじゃなく、大きい組織っぽいのがいくつも」

 

 そう言って彩峰は自分の機体の管制ユニットに入っていった。

 

 

 「やっと来たのね。こんな緊急事態の時まで自分勝手は困るわ」そう言って委員長が来た。

 

 「委員長、もう自分の準備は終わったのか?」

 

 「当たり前よ。こんな時こそ、出来ることは何でも前倒しにしないとね。あなたも速くしなさい。もういつ命令が来てもおかしくないんだから」

 

 「ああ。それとさっきのことは………」

 

 オレは彩峰を探しに出る前、夕呼先生に言われた通りに、真由は事件に関係ないことを言った。その時は委員長から何の返事ももらえなかった。

 

 「ええ、博士が言うなら本当にそうなんでしょ。私もあの娘を恨んだりしないわ。でも沙霧尚哉は別。いくらあの娘の兄でもやっぱり許せないわ」

 

 そう言って委員長は自分の機体に戻った。それだけを言うために機体を降りたらしい。

 正直言えば俺も沙霧尚哉は許せない。政治だの日本がどうこうだのはわからないが、奴のせいで真由も彩峰も委員長も苦しんでいる。でも真由の兄貴だ。 奴と出会ったときオレはどうすれば…………いや、オレ達は訓練部隊だ。クーデター首謀者に出会うような任務なんて来るわけないか。

 

 

 そして二〇七訓練小隊に出撃命令が出た。

 作戦区域は芦ノ湖南東岸一帯。将軍家離城だった塔ヶ島城跡の警備が任務だ。

 やっぱり後方警備。事態に関わるなんてできそうもないな。

 

 ―――――ふと一瞬、真由にもう会えない気がした。

 だが出撃前の不安だと振り払う。

 

 オレ達二〇七訓練小隊は出発した。

 

 

 

 




 大いなる不安がのしかかろうとも
 今はただ任務へ向かうだけ

 次回、急展開!


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第二十三話 激突! 沙霧真由対鎧衣課長

 こんにちは 沙霧真由です。

 時刻は深夜にさしかかる頃、開発室を抜け出してチョコチョコ早歩きです。

 私の今の格好はいつもと違います。頭はツインテールをほどいてヘッドセットをつけ、背中にはでっかいリュック。腰には大きめの拳銃があります。

 

 「まったく重くてしょうがないですね。博士キャラの戦闘スタイルって、どうしてこうアホみたいになってしまうんでしょう」

 

 それにしても夕呼さんも甘いですね。開発室は一階にあって非常口があるのですよ。今、私なんかに人数を割けないから非常口の方はガラ空きです。脱出した私は基地の片隅、見張りのほとんど来ない場所に向かっています。本来ならそんな所に用なんてないんですが、先に野暮用を片付けないと。

 言っときますがすぐに無策に飛び出したわけではないですよ?基地の無線を傍受し、原作知識でお兄ちゃんの行動を予想。鎧衣さんが基地にやって来た時刻や、二〇七訓練小隊が出発した時間で大体のスケジュールを予想して、これからの行動予定をキチンとたててきました。

 オルタ原作より帝国斯衛との仲が悪いので、原作通りに進むかは”賭”ですけどね。何しろ月詠さんたら

 

 『沙霧尚哉は必ず討つ! 帝国を割った罪、報いを受けさせろ!!』

 『はい!帝国の未来のために!』×3

 

 なんて言って殺る気満々です。オルタ原作じゃお兄ちゃんを殺ったとはいえもっと慈悲があったんですがねぇ。

 さて、人気も程ない、場所も開けた所に来ました。ここらでいいでしょう。

 

 「鎧衣さん、出てきて下さい。ここで決着をつけましょう」

 

 気配はまるでなくとも、熱センサーは誤魔化せません。どこからともなくのそりとぬらりひょん親父に戻った鎧衣さんが出てきました。

 

「本当に名探偵だね、君は。監視していたことも私だということもピタリだ」

 

 「まあ、将軍殿下を送っていった後のスケジュール的にも無理はないし。それに主人公の行く手を阻む宣言をするのはライバルキャラって決まっているんで来ると思ってました」

 

 「………殿下の行動までお見通しか。沙霧尚哉と合流するのかい?」

 

 「いいえ。お兄ちゃんの行動を許せば日本はメチャクチャになってしまいます。いくら家族とはいえ、そんなことに手を貸す気はありません」

 

 「じゃあ何をしに?」

 

 「家族としてこんなことをした奴を殴りに行きます。私、パパやママ、お兄ちゃんと血が繋がってないんですよ。だからこんな時、家族らしいことをしないと他人になっちゃうんです」

 

 鎧衣さんは帽子で目を覆い、フゥーと一息。静かに言いました。

 

 「沙霧尚哉を反政府勢力『戦略勉強会』のリーダーに祭り上げたのは私だ」

 

 「な!何故そんな………ああ、そういう事でしたか」

 

 「流石だね。わかったのかい?今ので」

 

 「はい。クーデターの組織は元々アメリカのオルタネイティブ5推進派が軍の反政府勢力の人達に力を与えて育て上げたものです。本来ならもっと徹底的に破壊活動をさせるつもりが、お兄ちゃんをリーダーにすることでこの程度のものにしたんですね」

 

 クーデター発動フラグはもう一つありましたか。それは”オルタネイティヴ4が成功すること”。アンリミでも研究が成功してたら、時期は遅れるでしょうが起こっていたんですね。

 ただ5推進派にとってもクーデターは最終手段。大陸へG弾撃つには日本は位置的に必ず手に入れなければならない場所ですが、日本の軍事力は出来るだけ減らしたくないんです。盾が薄くなりますからね。

 HSST落下事前阻止によりクーデター発動は研究の成否に関わらず決定的になったため、鎧衣さんは落下事前阻止した者がどの立場の者か探っていたんですね。納得です。

 

 「それにしても常軌を逸していますね。横浜基地を吹き飛ばそうとしたり、クーデターを起こしたり。そこまでしても成りたいほどオイシイものなんですか?主流派って」

 

 「欲がらみなら良かったんだけどねぇ。それなら私も香月博士もなだめようはいくらでもある。連中、BETAを激しく憎んでいる大物遺族の集まりでね。”何が何でもG弾をBETAに喰らわせなきゃ気が済まない”って方々なんだよ。本気で”邪魔者は皆殺し”ってね」

 

 ポリポリ頭を掻きながら鎧衣さんは言います。帽子越しなのでポーズですね。

 それにしても相当危険な奴らのようですね。こんなことならHSST落下の情報抜いたときもっとよく調べておくべきでした。あ、実は私、とある事情でハッキング技術は相当磨いたんですよ。いくら原作知識があったって落下の正確なスケジュールや軌道なんて、向こうから情報抜かなきゃわかりません。後は横浜基地からグレイ・ナインの情報を抜いたりですね。こっちは夕呼さんがいるのでかなり時間かけて慎重にやりました。

 

 「さて、次は君のことだがいくら調べても背後は見つからなかった。かわりに君がとある違法研究所の被験者だったことがわかった。君にスパイなど無理なこと、高い技術力などを考えれば君はその研究の成果だったことがわかる」

 

 「鎧衣さんも流石ですね。その通りです」

 

 ウソです。本当の研究成果は00ユニットです。

 

 「そして社霞を超えるリーディング能力、そして予知能力を持っている」

 

 「はい?なんでそこでオカルト? ありませんよそんな能力!」

 

 「………ここで嘘とはね。苦労して極秘裏に進めた殿下の帝都脱出計画をいつの間にかあっさりと知っておきながら。なぜそれだけの力がありながら嘘だけは下手なんだろうね。とにかく、沙霧尚哉のことはすまないと思っている。だが君は危険だ。一緒に情報省まで来てもらおう」

 

 いま思いっきり騙されていたでしょう!

 私のハイレベルなウソが炸裂すれば、あなたなんて木っ端微塵です!

 私は腰の拳銃を抜いてピタリ、と鎧衣さんに合わせました。

 

 「九ミリだろ? いくらなんでも君には無理なんじゃないか?」

 

 「そのままこっちに来て下さい。そしたらわかりますよ」

 

 フム、と顎を一撫での鎧衣さん。

 

 「とても撃てるとは思えないが、この世界小さな用心を怠って消えていく奴は多い。君のことだ。撃てると思って全力でねじ伏せる方がいいだろうね」

 

 鎧衣さんはバサァッと帽子と上着を脱ぎ、猛烈な勢いで横へ走り出しました!

 

 

 ザザッ……!

 

 

 そしてジグザグ右、左ともの凄い速さ、勢いでこちらへ向かって来ます!

 あの速さ、本当に野人ですね。

 

 

 ザザザッ…!

 

 

 私は彼を追うこと無く、銃をそのまま真正面にお地蔵状態。

 

 

 ザザザザッ!

 

 

 「鎧衣さん。私、今お薬断っているんです」

 

 

 ザザザザザッ!!

 

 

 「だから今、私……」

 

 

 ザザザザザザッ!!!

 

 「強化人間なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 遂に激突!
 あの日結ばれた宿命は今日、この瞬間のため!
 互いの想いを賭けた宿命の対決!

 果たして天が選ぶのは
 真由か?鎧衣課長か?


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第二十四話 強化人間さんいらっしゃい《説明回》

 ビビィ―――――――ッ! ドォ――――――ン!

 

 「こんにちは 沙霧真由です。

 はい、今回は説明回ということで場所を変えてZガンダムのムラサメ研究所からお送りします。

 相方は00ユニットからの鮮烈デビュー! 期待の新人女神、ゴッド純夏さんです!」

 

 ウオォォォ―――――! す――み――か――!!

 

 「よろしく~! でもちょっとうるさいね。あ、皆さんの声援のことじゃなくてあのビーム撃ってるロボのことだからね?」

 

 「はい、右手をご覧下さい。あのビームを撃っている機体はかの有名なサイコガンダム。搭乗者はテレビ、映画で大活躍!カミーユ君との切なく悲しい恋物語も大いに話題になった大物強化人間のフォウ・ムラサメさんです!」

 

 「あ、そう言えば真由ちゃんも強化人間って?そんなチートあげた覚えないんだけど?」

 

 「まずニューブレインチャイルドから説明しますね。ニューブレインチャイルドとは00ユニット製作の前実験であり、頭脳型BETAから発信される脳波言語を人間の脳のニューロンシステムで理解できる値を調べるための人体実験の子なんです。赤ん坊に反応炉(実は頭脳型BETA)から作られた記憶補器を埋め込むというものです。

 1号の私は00ユニットとほぼ同じ量の記憶補器を入れ負荷を調べました。2号3号は記憶補器の最適値を調べ、4号はそこから導き出された値で調整した記憶補器を少なめに脳に埋め込み、本当にBETA言語を理解出来るかの検証実験の役割が与えられました。

 私の能力についても話ときますね。私は記憶補器の負荷を調べるため適当に処置されたのでBETAの脳波言語を理解することは出来ません。代わりに物質の構成、運動能力、性質などが原子レベルまで見ただけでわかり、人間すら物質にしか見えません。なので脳の働きを抑制するお薬を飲んでいるんですが、今はコミュニケーションできるギリギリまでお薬を断っています。

 では、強化人間に話を戻してサイコガンダムに乗っているフォウさんを見てみましょう。」

 

 『ウアァァァァァ!!!』

 ビビィ――――――!!! ビビィ―――――――!!! バァ――――――ン!!!

 

 「わあ~、メチャクチャにビーム撃ってるね。」

 

 「ここで豪華ゲストの皆さんをご紹介しましょう。『機動戦士ガンダムZZ』よりお越しのマシュマーさん、キャラさん、プルツーさんです。拍手でお迎え下さい!」

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!

 

 「フハハハハハハ!この出演、ハマーン様に捧げる!」

 「キャハハハハハハハハハハ!」

 「………………………………。」

 

 「え~っと……そもそも強化人間って何なの?」

 

 「反応速度の話なんかもあるけどニュータイプが発する特殊な脳波を出すことが出来るよう改造された人間のことです。その脳波をサイコミュシステムという脳波コントロール装置でモビルスーツを動かします。武器も同様なので敵を感じただけで即発射できるのです。」

 

 『ウアァァァァ!』

 ビビィ――――! ビビィ――――!

 

 「でもサイコガンダムって何で操縦してる人を拷問するの?なんかフォウさん、見てらんないんだけど。」

 

「拷問じゃありません。初期の強化人間さんはサイコミュ起動できるほど強い脳波が出せないんです。なのでサイコガンダムにある脳波増幅システムで無理矢理強力な脳波を出させているのです。

 でも強力な脳波って怒りや攻撃するときに出るのでそれに引きずられちゃうんですよね。あのフォウさんやこのマシュマーさんキャラさんお二人の様に。」

 

 『ウアアアアア!』

 ビビィ――――! ビビィ――――! ビビィ―――!

 

 「フハハハハハハハハハハハ!」

 「キャハハハハハハハハハハ!」

 

 「優秀な強化人間ほど冷静なんです。プルツーさんはさすがですね。」

 

 「………………………………。」

 

 「では私はどうですか?強力な脳波、出てますよ。お薬切れてますから。」

 

 「え、本当?さっきからすごい説明とかしてるけど。」

 

 「本当ですよ。フォウさんと交代してサイコガンダムに乗ってみますね。ゴッド純夏さん、肉体強度と操縦技術を上げて下さい。脳波増幅システムも切ってしまいましょう。」

 

 「アア!………カミーユ?」

 「バカな!あの動きはいったい!?」

 「キャハハハハハハハハハハハハ!」

 「くそっ、奴は何だというのだ!」

 

 「ホ―――ラす――いす――いビームも狙った所に百発百中で―――す。」

 ビビィ―――――――  ズガァァ――――ン!

 

 「頭脳型BETAは強力な脳波を出すのが仕事なのでそのカケラの記憶補器はそのまま強力な脳波が出るようになってしまうのですね。さらに頭脳型BETAは指揮官なので強力な脳波が出ても感情が揺らがないんです。以上のことを踏まえ次回、私対鎧衣課長決着です。」




 ギャラが安いからって使ったのは失敗でしたね。
 キャラさん、ちゃんと仕事して下さい(真由)


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第二十五話 少女の足元冒険野郎は眠る

 

 

 鎧衣課長Side

 

 

 「ハァ…ハァ……ハァ、

 まったく何なんだ、アレは!」

 

 彼女から距離をとり、もの影に隠れながらつぶやいた。

 あちこち痛んだり痺れたり麻痺したりな体はスクラップ寸前だ。

 

 沙霧真由へ勢いよく向かいねじ伏せようとしたが、いきなり彼女のリュックから六本の腕がニョキッと生えた。腕の先には全て銃がついていたが、あれから弾が出るとは思えない。

 

  何のオモチャだと構わず行こうとしたが本当に撃ってきた!

 

 弾はゴム弾だが、当たると電流が流れ当たった場所がマヒしてしまう。

 

 右、左、後ろと死角から迫ろうと試みたが、弾は全て当たってしまう。

 

 弾を避けられたのは一度だけ。

 

 偶然足下にあった上着を拾い、弾を叩き落とした時だけだ。

 

 その後上着を使い弾を叩き落として進もうとしたが、全てタイミングをずらされ弾が当たってしまう。

 

 「なんて高性能な自動照準迎撃だ。あれも是非欲しいものだな」

 

 我ながらタフが自慢のおかげでずいぶん耐えられたが、もはやあと一度が限界だろう。逃げることも考えたが、この先彼女を捕らえるチャンスがあるとは思えない。

 

 「やはり彼女が自分の手で持っている銃が撃てないとみるべきだったか」

 

 様々な方向から突撃を試みたが真正面からは一度も行っていない。銃技であれ、剣技であれ、格闘技であれまず最初に注目すべきは腕。つい用心してしまい、彼女の持っている本物の銃を避ける動きをしてしまっていた。

 機械の腕はどうも構造上、真正面には銃口を向けられないようだ。ならばあの彼女自身が構えている銃こそは、真正面からの突破を避けさせるブラフというわけか。

 

 「なるほど、最初の会話で私は彼女の術中に嵌まっていたのか。彼女とポーカーはやりたくないものだな。こうなると今までのマヌケっぷりもいざという時の演技かもしれないな」

 

 では、残りの力を振り絞り果敢に正面突破といこう。

 それでも用心は怠らない。

 右腕を額に。左腕に上着を巻いて胸に。

 たとえ発射されても急所だけは守り抜いて耐えてみせる!

 

 「南無三!」

 

 直線に最短距離を最速に!

 

 弾が発射される前に彼女を捕らえてみせる!

 

 すると彼女はポイッと拳銃を投げ捨て、シャツを捲り上げた。

 

 その下にはでかい銃口!?

 

 ドンッ!!!!!  バリバリバリバリ!!!!

 

 「こっちのゴム弾は人間の体が耐えられるギリギリの電流ですが、弾が遅いんです。避けられないよう全速で来てくれてありがとうございました」

 

 それが気絶する前に聞いた彼女の最後の言葉だった。

 

 やれやれ、本当に彼女とポーカーはやりたくない――――――――

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 沙霧真由Side

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 ウソです。自動照準迎撃なんかじゃありません。全部私が頭につけている脳波コントロール装置で動かしていました。

 …………………あ、別に自動照準迎撃なんて言ってませんでしたね。

 自分の脳波がどのくらい強くてどのくらいのことが出来るのかを調べるのって、昔からよく研究してました。で、その実験器具を改造したのがこれです。今じゃ脳波コントロール装置でかなりのことが出来ますよ。

 あとこんなぬらりひょん親父の行動予測なんて、お薬切れた状態の私にとってはなんてことないのです。さらに感情の揺らぎも少なくなりビビリ体質も抑えられウソもパワーアップ!

 実に楽勝でした!………とはいきませんでしたね。やはり上着を取られたのは失敗でした。あれのおかげで予測が難しくなり、随分手間取ってしまいました。ゴム製のフェイクとはいえ銃をずっと持っている手も疲れましたしね。もし本物だったらあんなに長く構えてられません。

 おまけに小さい方とはいえ弾切れ寸前まで粘るなんてバケモノですね。弾切れ前に切り札に向かって来てくれてホント―――――にありがとうございました!

 

 「さて、親父のせいで時間がなくなっちゃいました。急がねば」

 

そう駆け出そうとしました。が、

 

 

 「いつか………」

 

 後ろから声が!!! 鎧衣さん!?

まだ意識があるの!? 本物のバケモノ!?

 

 

 「また冒険野郎に戻って旅でもしてみたいものだな。美琴も――――」

 

 それっきりでした。

 そのまま鎧衣さんは眠り続けました。それ以上なにも言わずに。

 

 「……寝言ですか。鎧衣さん、行かせてもらいます」

 

 また駆け出そうとしました。

 でも少しだけ後ろ髪を引かれる気がしました。

 なので振り返りました。親父の寝顔にもう一度だけ。

 

 「私も冒険はしてみたかったですね。その時一緒に行けたら素敵でした。

 ……これからすることを考えれば夢でしょうが」

 

 

 そんな未練をそこに残し、

あとはただ真っ直ぐに駆け出しました

 

 

 夜の横浜基地、それなりにいる見張りをくぐり抜けます

 

 

 たどり着いたのは戦術機ハンガー前

 

 

 得意のハッキングで扉を開け侵入

 

 

 暗闇のハンガー内、ライトと勘を頼りに進みます

 

 

 一番奥のいつも引きこもり作業している特等席

 

 

 そこでいつもと変わらず迎えてくれるあの子にお願いに行きます

 

 

 それは白銀君すら乗れば医療室送りのジャジャ馬

 

 

 銀色の流れ星

 

 

 「流星、私を乗せてお兄ちゃんの所へ連れて行ってください」

 

 

 銀の巨体が微笑んだような気がしました。

 

 

 

 

 

 

 




 第二のライバル撃破!
 眠れ強敵よ………。


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第二十六話 あいとゆうきのおとぎばなし

 こんにちは 沙霧真由です。

 『リアルBETAシミュレーション』作る時BETAの研究映像いっぱい見たんですよ。”女神の加護”のせいでしょっちゅう記憶が飛んじゃう苦労はさて置いて。突撃級がドッカンドッカンいろんなモンぶつかっても、劣化ウラン弾どんだけ当たっても死ぬまで一瞬も足を止めないのを見て考えたんですよ。物理チート的に。

 

 「アレ、これって中のアンコ君の衝撃ってハンパなくない?いくら硬い外殻でもガンガン来る衝撃にどうして平気なの?」

 

 いってみればドラム缶詰められてバットでガンガンガンガン!……て、打ち突けられるようなものなんです。もしあなたがそんな目にあったらどうなっちゃうと思います? なに、

 

 『ビートガ足リナイネ!モット”ハードレイン”ニ打ッテキナ!コレジャベビーノ子守歌ニモナンネエジャン!HAHAHAHAHA!』

 

 ですって?……まあ、アンコ君があなたの様なアメリカンなタフガイである可能性も否定できませんが……。でも私は科学的アプローチをしてみるべく、アンコ君のガラを取り寄せて調べました。突撃級は外殻だけしか調べませんでしたからね。

 そしたらやっぱりありました!

 ”宇宙衝撃吸収素材”です!

 なんと重力さえ吸収できるスグレモノ!いや~もう、”突撃級は美味しいのは外側だけで中身はゴミ!”などと決めつけてアンコ君を調べもしなかった己の不明を恥じ入るばかりです。

 まさかこんなお宝が眠っていようとは!

さっそくこれを綿状に加工してパイロットスーツを作りました。さらに鋼材にして流星のコクピットブロックや、腰部や間接部なんかを河崎重工さんに製作注文しました。そして出来た部分からあちこち補強していきました。河崎重工さんによるとBETAの肉体にある宇宙由来の元素の研究は世界中で軍事、民間問わず行われていますが、どこの研究チームも抽出さえ出来ないそうです。それを聞くと物理チートの凄さを感じますね。見ただけで性質も抽出方法もわかり、さらには鋼材にすることも綿状もその他も思いのままなんだから。

 で、『せっかくこんな凄いモン発見したんだから私も憧れの戦術機に乗ってみようかな~』なんて計算して流星の機動に耐えられる私専用パイロットスーツ作ってみたら……………雪ダルマ!? なんとコクピットブロックほとんど埋める雪ダルマみたいなパイロットスーツになっちゃいました。これでは操縦桿も握れないし、ペダルも踏めません。モニターだって見ることは不可能です。

 諦めますか………?

 いいえ、諦めません!夕呼さんが待っています!

 カメラアイに直結したゴーグルをつけ、酸素マスクも付けます。脳波コントロール装置に対応して操作出来るように改造して私なら手足をつかわずに操縦できるようにしました。

 

 「ヨシ、これで流星に私が乗って全力疾走すら出来る!00ユニットの設計図の時には見られなかった夕呼さんの驚く顔が見れる!」

 

 その一念で頑張りました。やっぱり前世じゃ二番目に好きなキャラだったんで色々仕掛けたくなるんですよ。ちなみに一番は鑑純夏さん!なにしろ死んだ時、女神になった彼女に『アンリミ世界でBETA全滅して!』なんてとんでもない無理ゲー頼まれた時も『そんなこと言わないで♡』なんて、可愛く言われただけで…………あ。

 いやいやいや!そんなワケないじゃないですか!誰がそんなアホな理由でこんな無理ゲーを!

 私がこの無理ゲーに挑んだのは、『許すまじBETAの悪行!』という万丈燃え立つ炎が如き正義の心が故です!

 

 

 

 まあ、そんな訳で私は流星に乗ることが出来るようになったんですが、まさかこんな形で使うことになろうとは!夕呼さん間違いなく驚きますね。……いや、昔のマンガみたいにひっくり返ってドイン!てなことになってしまうかも………見たかった!

 暗闇のコクピットで色々と起動準備してると胸元の貝殻ペンダントが気になりました。白銀君から総戦技評価演習のおみやげでもらった貝殻なんですよね。壊れるかもしれないし置いていこうかと思いましたが……いいや!つけて行っちゃえ。どうせもう最後かもしれないしね。

 

 「まったく”流星”という名は皮肉ですね。私が君に乗ったとき、一瞬戦場の花を咲かせ墜ちて消えゆく。そんな運命を謳ってこんな名になったのかもしれませんね。」

 

 起動準備完了。ハッチを閉め、目を瞑り、色々なものに別れを告げます。

 

 

 

 これはあいとゆうきのおとぎばなし―――――

 

 

 

 主役は白銀君と純夏さんです

 

 

 

 でもこのクーデターの闘いだけはわたしが主役です

 

 

 

 あいとゆうきというのならば

 

 

 

 わたしにこそ、その資格があるのだから……

 

 

 

 それはとてもちいさなわたしと

 

 

 

 とてもおおきなきみとの

 

 

 

 とてもたいせつなかぞくのための―――――

 

 

 

 「いきますよ流星! 私達の”おとぎばなし”を始めましょう!!!」

 

 出力を上げ起動開始、ハンガー入口前まで前進。

 ビーム長刀でハンガーの扉を切り裂き出発しました。

 

 

 

 

 

 

 

 




 迷う心はなく
 目指す先はただ一つ。
 いざ、義兄の元へ!


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第二十七話 光纏う長刀の騎士

 伊隅みちるSide

 

 

 

 「風間、いいか?」

 

 『はい、伊隅大尉。秘匿回線とは穏やかじゃありませんね』

 

 現在帝都での戦闘は収束した。将軍殿下が帝都を脱出し、クーデター部隊はそれを追跡しているためだ。将軍殿下はこの先を南進している。

 ここは小田原西インターチェンジ跡。ここに我が香月副司令直属のA-01部隊伊隅ヴァルキリーズは防衛線を張り、クーデター部隊の進入を防いでいる。ここを突破出来なければ向こうは将軍殿下の元へ行けないため相手も必死だ。そしてすでに突破を試みた第一陣を圧倒的に、こちらの被害0で撃破している。

 こちらの戦術機には最近横浜基地が開発したという新型OSを全機搭載しているが、まったく驚嘆すべき性能だ。機動性が段違いによくなり、戦術機とは思えない動きがとれるようになった。即応性も格段に上がり、これならこの任務もうまくやれば損耗なしで終えることができるかもしれない。……などと胸躍らせたのだが、基地での連絡に異常があった。この事態に対処すべく任務に風間祷子小尉を選ぶことにした。

 

 「先程から横浜基地の様子がおかしい」

 

 『おかしい?何がでしょう』

 

 「非常な混乱状態なのだ。いま涼宮に状況を尋ねてもらっているが把握できそうもない」

 

 『基地が……?まさか駐留してきた米軍が何か仕掛けてきた!?』

 

 現在横浜基地は米軍第七艦隊麾下の戦力受け入れが行われている。国連の緊急展開部隊に米軍の編入が決定されたためだ。だがこれはオルタネイティヴ5推進派の息がかかっていると思われ、味方と見るには危険すぎる相手である。しかしまさかいきなり仕掛けてきたのか?

 

 「ああ、もしそうなら将軍殿下をお連れするわけにはいかない。次の襲撃を凌いだなら適当な用事をお前に命じる。基地へ戻り状況を把握し、可能なら副司令から指示をもらってきてくれ」

 

 『了解しました。全力を尽くします』

 

 「頼んだぞ。他の者には気取られるな」

 

 風間との秘匿回線を切ったちょうどその時、敵第二陣襲来の報をCPの涼宮が告げた。

 

 『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーリーダーへ。敵第二陣が旧小田原厚木道路北より来襲。数は二五。タイプは不知火、激震の混成部隊です』

 

 先の部隊を全滅させた以上相当な手練れのはずだ。こちらも先の戦闘より気合いを入れて望まねばなるまい。特に新任どもの連戦でのふらつきを注意しなければ。

 

 「来たぞ!そのまま陣形を維持!

 こちらの圧倒的な機動性で撹乱してやれ!

 動き回り囲い込め!」

 

 第二戦が始まった。こちらの優勢は変わらないが敵も帝都守備隊の精鋭。不利の状況をものともせずこちらの動きに喰らいついてくる。激しい銃弾が飛び交う中、陣形の維持に、浮き足立つ新任の抑え、敵の攻勢の凌ぎにと大忙しだ。その最中CPの涼宮から緊急通信がきた。

 

 『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーリーダーへ。旧小田原厚木道路北より再び敵機来襲!数は……1?それに不知火でも激震でもない……タイプが不明、データでも未確認です!?』

 

 なんだそれは。クーデター部隊には戦術機は激震か不知火だけ。よしんばどこからか調達しても吹雪のはずだ。とにかく警戒を促すべく皆に通信を送った。

 

 「ヴァルキリーリーダーより各機へ。再度北からこちらへ接近する機体あり。数は1。ただし機体は激震でも不知火でもない、型式不明機だそうだ。備えろ!」

 

 『はあ?なんです、それは』

 

 『どっか別の国からでも鹵獲したんですかねぇ。あと1機だけってのは?』

 

 『米軍の偵察じゃないですか?呼びかけは?』

 

 「応答はない。詳細は不明だが敵機として対処する。詮索はせず各自警戒しろ!」

 

 『『『了解!』』』

 

 米軍か……。この状況でタイプ不明の戦術機となるとそれしか考えられない。基地に続きこちらにも何か仕掛けに来たのか?

 そう考えてしまい、一瞬戦況への集中が欠けてしまった。そして新任の背後に迫る脅威に気づくのが遅れた。

 

 「高原!? 後ろだ!!」

 

 気がついた時には新任の高原機の背後より敵機の不知火が迫っていた。そして今正に長刀が振り下ろされんとする瞬間だった!

 間に合わない!

 

 シュバァァ!!!――――

 

 

 

 

 

 

 ――――その瞬間を見ることはできなかった。そしてそれはひどく冗談めいて見えた。

 

 

 高原機に長刀を振り下ろさんとした不知火は一瞬にしてきれいに上半身を寸断。今、大きな音をたてながらそれは落ちた。 

 

 

 そしてそこにいつの間にかいきなり現れた銀の戦術機。

 

 

 銃も追加装甲も持たず、長刀一振りだけ。

 

 

 何故か眩く光を放つ長刀を無造作に握り

 

 

 この激しい戦場の中、あまりに無防備な姿をさらしていた。

 

 

 夜の闇の中、光纏う長刀に煌々と照らされたその姿。

 

 

 それはまるで銀の甲冑。

 

 

 どこかで謳われた騎士物語のおとぎばなしのようで

 

 

 ただ一瞬、”美しい”とすら思えてしまった――――

 

 

 

 

 

 



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第二十八話 戦場に舞う技のアーティスト

 こんにちは 沙霧真由です。

 私は横浜基地を飛び出した後、オルタ原作でお兄ちゃんのクーデター部隊が白銀君らと接触した丸山付近を目指しています。

 で、そこを目指すには箱根付近を通せんぼしている伊隅ヴァルキリーズを抜かなきゃなんないんですが……これが難題。この先のイベント進行を考えると、彼女達を殺さないことはもちろん機体損傷も最低限にしなければなりません。部品交換ですむくらい?……うん、無理ゲーだ。とはいえ”BETA全滅”なんて無理ゲーやっている私にとってはたいしたレベルでないのも事実。思いついたのが”クーデター部隊との交戦中ドサクサに紛れて突破しちゃおう!”ってやつだったんですが………盛大にやらかしちゃいました。

 ”ヴァルキリーズの機体が殺られる!”と見えた瞬間とっさに助けてしまったんです。機体大破だけならスルーしたんですが。あれは管制ユニット直撃、中の人間も逝っちゃってるモノでしたからね。アレを見逃していれば大きな隙になっていたんですが…………やっぱり心理的に無理ですね。私の正義の心、悪を挫き人を助け真実に生きるこの私にできるはずもありません。

 そして今、私の乗っている流星はヴァルキリーズ、クーデター部隊共にどちらからも注目の的! 芸能デビューなら大成功! 作戦的には大失敗! うあぁぁぁん!

 

 『何者だ!? 速やかに応答しろ!国籍と所属、官、姓名を名乗れ!』

 

 『おのれ、よくも駒木隊長を!この米軍の手先め!』

 

 応答できないんですよ!ヘッドセットに通信機能もありますが、酸素マスクのせいで声がとどきません!なんという設計ミス! これでは謎の怪しい沈黙の戦術機!

 あと私が無双斬りした相手、駒木さんだったんですか。メッチャ知り合いです。お兄ちゃんの部下で家にも何度も来たことがあります。お兄ちゃんが『光州作戦で大陸での戦いじゃよく助けられたよ。』なんて言ってましたから戦術機の技能も凄いのでしょう。で、恩を仇で返しまくりです。もちろん殺してませんよ?ちゃんと管制ユニットは避けました。

 

 さて、クーデター部隊は駒木さんの仇(殺ってません!)で撃ってくるし、伊隅ヴァルキリーズも応答しないのでやっぱり攻撃してきました。どちらからも集中砲火で作戦裏目に出まくりです。仕方ない、一戦やらかしますか。

 前にも言った通り私はお薬切れた状態だと人間の行動予想なんて簡単にできるので、物理的に避けることの出来ない面制圧さえ注意すれば銃弾避けるのは簡単です。あとそれとヴァルキリーズ、XM3をかなり使いこなしているようですが、所詮アレはオルタで夕呼さんと白銀君が作ったものをほとんどそのまま遊びで作っただけのものです。私が本気でヒマにまかせて変態的なほどに組んだプログラムをご覧に入れましょう!

 

 体落とし! ドカアア!

 

 足払い! グシャァア!

 

 デンプシーロール! ブンブンブンブン!

 

 フライングクロスチョップ! バキャァァ!

 

 ムーンサルトボンバー! ヒュウゥゥゥドカァァァ!

 

 巴投げ! ビュウゥゥゥン!

 

 大雪山おろし~! ガシィッ グルグルグル ビュ――――ン! キラッ☆

 

 エビ反りハイジャンプ大回転分身魔球! ギュルルルル! ババババババ!

 

 キメのムーンウォーク! ………………………ポォウ!

 

 ダ、ダァァ―――――!!! 舞い降りた野獣、所狭しと暴れ回る!

 正に技のデパート!銃弾避けながら繰り出す華麗なる技の数々!

 伊隅ヴァルキリーズを激しく挑発!火花をまき散らし嵐を呼ぶ!

 天に雄々しく掲げた一本指!それは我こそは最強、我こそは王者という意思の表れかぁぁぁ!?

 マットを戦場に変え(アレ逆?)タイトル狙う野獣、今猛るぅぅぅぅ!

 なんという傍若無人!戦慄の伊隅ヴァルキリーズ!果たしてタイトルの行方はぁ!?

 

 …………そろそろ正気に戻りましょうか。伊隅ヴァルキリーズは団体名でもタッグ名でもありません。

 

 

 

 『なにアレ!なんでBETA相手にまるで役に立たない動きをあんな精巧に!?』

 

 意味なんてありません!人工筋肉ならやれそうだからプログラムしただけです!

 

 『関節は平気なの!?パンチとか絶対マニピュレーター壊れるでしょ!』

 

 すでに宇宙衝撃吸収素材で補強済みです! 

 

 『想像絶するバカよ!とんでもない技術でとんでもないバカ作った信じられないバカがこの世にいるわ!』

 

 ほっといて下さい!

 

 『ヤツの動きに惑わされるな!接近戦では万に一つの勝機もない!距離を保って弾を面制圧にバラ捲いて圧倒しろ!』

 

 最後のは伊隅さんですね。さすが冷静にいい指示出します。

 戦況はクーデター部隊は全滅しました。隊長の駒木さんはやられてたし、私も遠慮なくブッ壊しましたからね。で、私対伊隅ヴァルキリーズ。彼女達は武器破壊だけに止めて置いたんですが……さすがに遠距離攻撃に徹するようになり、近づこうとすれば他から援護射撃が入るようになりました。武器破壊した機体も長刀持ってぶつけても進路ふさぐような動きをとってます。

 このままではジリ貧です。さて、どうするか……。

 

 

 

 

 

 

 




 激しいバトルが繰り広げられる!
 変幻自在の戦術機、流星!
 マットを焦がすほどの火花が散る!
 闘いの果てにベルトを掲げるのはどちらだ!?


 ………下二行は間違いです。


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第二十九話 駆け抜けた銀の稲妻

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 今夜はじめて戦術機に乗りました。そしていきなり実戦です。

 なんて豪華な戦術機デビュー!

 現在流星の武器はビーム長刀一本だけです。普通警察でも軍隊でも銃器類などの武装は厳しく管理されていますが、戦術機のものでもそれは同じです。専用の保管庫があり簡単には取り出せないんですよ。ビーム長刀だけは流星と一体型なのであるんですけどね。

 戦力的には圧倒的不利ですが私は物理学チート。銃を発砲する瞬間も弾の軌道も全部読めちゃうので、ヒョイヒョイ躱すことができます。

 さて、現在の状況ですがクーデター部隊は全滅。機体捨ててスタコラ逃げちゃいましたがどうでもいいです。私が乗ってる流星はヴァルキリーズ9体と対峙してます。先に任官した207訓練部隊のA分隊は新潟でのBETA襲撃に出動せず、ここでも高原さんはやられなかったので全員生きてます。先の攻防で銃を破壊したのは6丁。予備を2丁持ってきたので計5機が銃を持って撃ってきます。

 距離を保ちながら私を囲い込もうとしますが、私も銃を持っていない機体の後ろに巧みに回り込んで弾を集中させないようにしました。そうこうしている内に一機が弾切れをおこし、一丁をスキをみて破壊しました。そろそろ離脱出来そうですね。

 

 『速瀬、涼宮!機体をぶつけてヤツの動きをとめろ!銃を持っている者は二人の機体ごと撃ってかまわん!管制ユニットだけには当てるな!』

 

 う~ん伊隅さん二機潰す覚悟で止めにきましたか。これくらいしなきゃ私を止められないと見切って、何とか私の動きについてこられる二人を潰れ役に任命して……ですか。

 

 『了解!』 

 『やってやります!』

 

 速瀬さんは自分の銃を他の機体に渡して長刀は持たず、追加装甲を構えて私の正面に。涼宮茜さんは長刀と追加装甲を構えて後ろに。速瀬さんの方が完全にぶつける覚悟を決めてますね。こっちが正解。この作戦なら長刀なんか持っても動きを遅らせるだけです。涼宮さんの方は簡単に避けられそうだけど速瀬さんの方は……ギリギリ?でも真後ろに伊隅さんがいます。さすがいい位置にいますね。右にも左にも上にも対応出来ます。速瀬さんを盾にしても他からの射撃には私は対応出来ません。

 

 

 向こうは位置についたまま静止。タイミングを測っているのでしょう。

 

 

 こっちはビーム長刀を持ちますが、構えず腕をだらんと下げます。

 

 

 注目するのは速瀬さんだけ。最初に動かなきゃならないのは彼女ですから。

 

 

 こっちも向こうもピタリ動かずそのまま。

 

 

 こういうシーンってバトル漫画や時代劇によくありますが、相手が動くか集中力が切れるのを待っているのです。両方集中力を持ったままなら後の先を取った方が有利ですから。でも今の私に勝てるわけありませんね。戦術機なんで顔色見てとか不可能ですが、事前準備なしで動かせるわけもないので大して苦も無く読めちゃいます。それに対しこっちは脳波コントロール装置の即応性。こんな体勢からでもあっという間に最大パワー出せちゃいます。でもそれを知らない向こうからすればあまりに簡単に勝てそうなのがかえって不気味でしょう。この両手ブラリ戦法で精神力をゴリゴリ削ります。

 おっと出力を上げた。来ますね。

 

 

 

 速瀬さん姿勢を低く、追加装甲を前に出して発進準備。

 

 だが速瀬さんが突進に入る前にこっちが飛び出す!

 

 くらえ! ぶちかましです! ドガン!!

 

 そして腰を取りガッチリお相撲状態! どすこい!

 

 ワシが戦術機相撲横綱、流星じゃあぁぁぁぁ!!!

 

 そのまま電車道! 地獄行き超特急じゃあ!

 

  ガガガガガガガガガガガ!!

 

 オラオラオラオラ!道にいるやつぁ全員轢殺覚悟せい!!

 

 そこで突撃銃構えてマヌケに突っ立ってる伊隅、お前のことじゃあ!

 

  ガシャァァァァァァ!!!

 

 戦術機一体抱えてるとは思えないスピードで伊隅にブチ当たる!

 

 ワシの電車道は死神すら泣かせるワイ!

 

 とどめじゃあ! ビーム長刀!二機の胸に串刺し!

 

  ザグッ!! ……………ガシャン!

 

 管制ユニットは勘弁したる!刺したのは姿勢制御機器なんかが集中しとる場所じゃ。もう動かせんが部品交換で済むかすり傷じゃ。

 

 

 

 『た、大尉!無事ですか!?』

 

 『速瀬中尉!返事をして下さい!』

 

 …………おっと、どすこいなおっさんになってしまいました。

 私への攻撃も忘れてずいぶん慌ててますね。ま、管制ユニットにグッサリ逝ったようにも見えますからね。では、その隙をありがたく頂戴いたしましょう。

 

 猛ダッシュ猛スピード!

 

 私はその場を風のように去りました。

 

 「どうもごっつあんでぇ~す♫」

 

 

 

 




 遂に突破!
 目指すは伊豆スカイライン跡・丸野山!
 
 義兄に会えるその時をはるかに想い描け!


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第三十話 強化人間さんいらっしゃい2《説明回》

 

 「こんにちは 沙霧真由です」

 

 「こんにちは~。おひさしぶりのゴッド純夏です」

 

 「はい今現在、私の本体は伊豆半島を南へ爆走中!なのでその間にまたまた説明回をします。

 それでは今日のゲスト!最高強化人間のエルピー・プルさんです!」

 

 「プルプルプル~!お風呂とジュドーが大好き!いつも元気なプルで~す!」

 

 「ちょっと!プライベートでつき合っている男性の話はNGって言ったでしょう!ゴッド純夏さん、ちゃんと言っといて下さい!」

 

 「え?別にいいじゃない。私だってタケルちゃんの話とかしたいし」

 

 「しません!白銀君とジュドーさんの説明とかしてどうすんですか!さんはい!ゴッド純夏さん、進行通り質問!」

 

 「あ、真由ちゃんも”進行通り”とかNGだからね?で、プルちゃんが強化人間って?スパロボなんかの技術欄じゃ”ニュータイプ”になってるんだけど?」

 

 「それこそが彼女が最高強化人間たる由縁!”強化人間"とはニュータイプを人工的に作ること、すなわち人工ニュータイプのことです。連邦、ジオン問わずにさかんに研究されましたが、なんと本物のニュータイプがグレミーさんの研究所で出来てしまったのです!ニュータイプの遺伝子を組み込まれたデザインベビーである彼女は脳波増幅システムも使わず強力な脳波を出してサイコミュを自在に操りながらも精神的に安定。果てはニュータイプとの交感までもやっちゃいました!正に最高の人工ニュータイプ!もはや本物!クローンが多数つくられたのも納得です」

 

 「へ~凄いんだね、プルちゃん」

 

 「えへへ~それほどでも。あ、それよりジュドーがね……」

 

 「あ、それならタケルちゃんもね……」

 

 「うん、キャラさんが可愛く見えるくらい仕事しないゲスト!ゴッド純夏さんも気が合いすぎてこれまた仕事しない!かまってられないので話を進めます。

 さて、前回、前々回で衛士の訓練も受けていない私が伊隅ヴァルキリーズや帝都防衛の精鋭だったクーデター部隊に無双しまくったのは何故か」

 

 「主人公補正だね!それまで無敵だったライバルキャラが主人公と闘うと、いきなり過去の話がでてきて弱点わかっちゃって弱体化したり」」

 

 「うん、ジュドーもただのジャンク屋だったのに、いきなりアクシズの部隊指揮官だったマシュマーに勝っちゃったもんね!」

 

 「違います。この世に主人公補正などというご都合主義などひとつもないのです!プルさんも自分の出演作をディスらない!まずは実演してみましょう。ここに持ってきた我が愛機の流星です。プルさん、乗ってください」

 

 「ええ~キュベレイ以外乗りたくな~い」

 

 「………グレミーさんに頼んで催眠操作しとくべきでしたかね」

 

 

 

 

 「やっと乗せることが出来ました。ジュドーさんのライン聞いといてよかった。

 では、レッツパーリーナイツ! ダンシング! ロックンロール!」

 

 ズン! ズズン! ズズゥゥ―――ン!

 

 「おお――――ツイスト!踊ってる踊ってる。流星ってこんなことも出来ちゃうんだ」

 

 「戦術機は関節が大雑把に三十ほどありますが、まさか全て手足四本で入力して動かす訳にはいきません。予めプログラムしている動作パターンがあり、射撃も剣術もそれに基づいて行います。なので射撃の名手が乗ってもクイックモーションで射撃を速くしたり、剣の達人が乗っても剣速が速くなったり軌道を変えたり出来ません。全て一律に一定なのです。さらに戦闘を考えるとあまり複雑な操縦はさせられないので、動きは恐ろしく単純なのです。なので慣れてくると簡単に動きが読めるようになります。戦術機が撃破されるのが戦車級BETAに多いというのも、対応出来ない動作の死角を攻められてのことなんですよね。XM3はキャンセルやコンボでモーションパターンを飛躍的に増やせるために画期的なのです。

 ですが脳波コントロール装置はキャンセル、コンボなどしなくとも無数にある動作パターンを自在に選択できるのです!時にはこのように動作プログラムを通さず自分で手足を動かすこともできます。この流星の無数の動作、圧倒的スピードとパワー、私の先読みなどによりさしものの歴戦の衛士も私の相手にならなかったのです。

 はいプルさん、デモンストレーションはもうけっこうです。降りてきてください」

 

 

 

 

 

「うん、なかなかいいサイコミュだったよ。今度ファンネルもつけてみてよ」

 

 「…………………できません。あと、サイコミュってのは脳波コントロール装置にファンネル、ビットなどの覚醒武器の制御機能がついたものです。そちらじゃ”脳波コントロール装置”イコール”サイコミュ”なんでしょうが」

 

 「え? なんでできないの?」

 

 「私のチートは物理学。設計じゃないんです。素材工学なんかに関しては無敵な能力ですし、概存の技術を力学なんかで強化、発展させることはできます。が、基礎理論のできていない技術は他の人と同じように一からやらないといけないんです。以前、ビームライフルを作ろうとして失敗しているようにね。モビルスーツってのは”モビルワーカー”という宇宙開発のための作業ロボが基礎となっているんですが、ここにそんなものはなく当然基礎理論もありません。ましてやファンネルやサイコフレームなんて技術だけじゃなく素材なんかも地球のものじゃ代用できません。人の思念にあれほど鋭敏に反応する素材なんてここにはありません!

 じつは流星のエンジンも私のオリジナルではなく、アメリカの研究所が設計した宇宙遊泳と宇宙戦闘のできる戦術機製作のためのエンジンの設計図が元になっています。あまりに素材の要求が厳しすぎるのでお蔵入りしてたのを、帝大の戦術機研究会が買ったのを見せてもらいました」 

 

 「な~んだ、つまんない。頭脳系チートなのにモビルスーツもつくれないとか」

 

 「ううっ。(>_<)」

 

 「あ~それはあれ。あたしが管理してるとこなら時間とか空間ねじ曲げてある程度融通きかせることもできちゃうかもだけど、ここってあたしから見て過去なんで干渉できないんだよね。まあ、できてもオルタードフェイブルいる時間減るのはやだからやりたくないけど」

 

 「あ~そうだよね。あたしもお風呂入る時間は絶対減らしたくなくてね………」

 

 

 

 「なんかほっといたらどんどん身内話になってしまいますね。まるで関西のバラエティー番組!

 それではこのへんで。また説明したいことができたらゴージャスな強化人間さんを交えてやります。それでは次回、ヴァルキリーズを突破できたものの大幅に時間が遅れた私。はたして間に合うのか? お楽しみに!」

 

 

 

 

 




 説明するのにいちいち強化人間さん出さなきゃダメですか?
 出演交渉大変だし変な人ばかりだし…………


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第三十一話 熱海海岸南へ

 伊隅みちるSide

 

 

 私はあの謎の戦術機が行ってしまった後すぐに香月副司令に報告を入れた。指揮車両で基地に連絡したところ、私となぜかCPの涼宮遙中尉のみ話を聞くことを許された。

 

『映像は見させてもらったわ。やっぱりアレで間違い無いわね』

 

 「な!ご存知なのですか!? この者の正体を!」

 

 『ええ。色々信じられないけど戦場でアホなポーズとったりまったく使い道無さそうな機動作ったりやったり。それにあんた達の機体をできる限り損傷させないようにしたのも大きいわね。これで確信したわ。ウチの問題児よ』

 

 副司令の話によるとあの戦術機は技術部の見習いが私的に作ったモノだそうだ。あまりに機動中にかかるGが激しく、まだ誰も乗りこなすことは出来ないはずだそうだ。確かに銃弾をヒョイヒョイかわすし、一瞬にして懐に入られたりするほどの凄まじい高加速だ。横浜基地が混乱してたのはその戦術機がいきなりハンガーから飛び出し、その問題児が消えたことによるものだそうだ。

 

 「しかし……技術部の者と言いましたがその者は戦術機に乗れるのですか?それに戦術機に可能とはいえ銃弾をかわし、我々がまるで捕らえることのできない機動はとても素人とは思えないのですが………」

 

 『それ以前にかかるGにも耐えられないわね。屈強な衛士でも乗った後に医療室送りだったわ。ああ、それにシートに座っても操縦桿に手が届かないし、ペダルにも足が届かないわね』

 

 「それは……違うのでは?聞けば聞く程とてもアレに乗っている者とは思えませんが」

 

 『確かにね。でも動きを見る限りそいつとしか思えないのよ。あんなアホな戦い方教える衛士養成機関があるとも思えないし。それにあいつは何をやれても不思議はないしね。そいつ、BETAの死骸から十七種もの宇宙由来素材の抽出に成功したわ。あの戦術機はそれらを使用して製作されているのよ』

 

 「なっ!!」

 

 BETAの死骸による宇宙由来素材の研究は世界中の研究機関がやっているがまだどこも成功した例はないはずだ。抽出のみならず応用までするなど信じられない。

 

 『光るとんでもなく斬れる長刀を持っていると言ったわね。あれ、光線級から抽出した熱エネルギー発生素材から出るエネルギーを長刀に纏わせているのよ』

 

 「なんと!そこまで……」

 

 『彼女がいればBETAの解析は飛躍的に進むわ。それこそ将来的にはBETAの弱点さえ発見出来るかもしれない。クーデター部隊が空挺で抜けた以上封鎖に意味はないわ。戦闘可能な機体をまとめてすぐそれを追いなさい。涼宮も指揮車両で同行して彼女の説得に当たりなさい。相手は小娘だから一番適任よ』

 

 「それ程の技術を持った者が小娘ですか……。いえ、了解しました。しかしクーデター部隊の方は大丈夫でしょうか?」

 

 『両立可能よ。それが行った先はクーデター部隊が行くところ。つまり将軍殿下のもとね。彼女はクーデター首犯の沙霧尚哉を追っているわ。彼女の名前は沙霧真由。沙霧尚哉の義妹よ』 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 

 

 

 

 沙霧真由Side

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 私は今、熱海海岸を南下中。白銀君達が通ったルートだとあちこち激戦だらけなので、迂回して岩山を回り白銀君達が捕捉される予定の場所を目指します。

 最近よく光州作戦が終わった頃のことを思い出すんですよ。どうも”女神の加護”で失われる記憶って無くなるんじゃなくて精神的に耐えられるようになるまで封印されてるみたいです。

 パパとママもまだいてお兄ちゃんも家でケガの療養中。そして慧さんを家に匿ってました。その後すぐBETAは日本に上陸。瞬く間に帝都まで蹂躙し、BETAを大陸で止められなかった最大の戦犯の娘として慧さんの身が危うかったためですね。パパママ共にあちこちの病院で流れてくる戦傷者の治療に行き、私はお兄ちゃんと慧さんのことを頼まれました。

 で、そういう背景とかすっぽり忘れて彼女と暮らして遊んだりしました。『なんでこんな身勝手なの!?』と何度もブチ切れそうになったんですが、今になってやっとわかりました。かなり人間不信になっていたんですね。お兄ちゃんもかなり雰囲気が暗くなっていたんですがその理由とかスッポリ忘れてしまっていたので、『元気の出る世界すら取れるであろうスペシャルギャグ!』とかやったら………慧さんに『空気読めない娘』って言われました。あの彩峰慧にですよ!もう生きていけない!

 やがてパパママは悪化する戦況によって戦地の医療班へ。その頃ちょうど彩峰パパンが榊是親首相の名の下処刑されてこのことは榊の陰謀みたいに考えていたんですが、その頃の日本人全員が似たような奉仕を強いられていたみたいでした。周りの人みんなが彩峰パパンを悪役にするのに反発する気持ちもありましたね。いいおじさんだったし、お兄ちゃんはすごく尊敬してたし。

 そして時は経ち私は帝大へ試験、個人研究などが認められ飛び級で入学。慧さんは帝国の国連への信義の証として横浜基地の訓練兵へ。お兄ちゃんは傷が癒え帝都守備隊に入りましたがみんなどことなく現首相の榊是親を憎んでいました。今なら私も慧さんも見当違いの八つ当たりって納得してます。でもお兄ちゃんはずっと見当違いし続けていた、とか考えていたんですが……。鎧衣さんの策に乗って、クーデターをそこそこの所で終わらせるためにリーダーになったようですね。

 

 「なるほど。閣僚全員お兄ちゃん自らの手を下したのは罪を一身に引き受けるためですか」

 

 多分お兄ちゃんは自分が将軍殿下に討たれることで始末をつけるつもりですね。でもそれを邪魔するのが第五推進派。金も時間もかけたクーデターが日本の実権を握る前に終わったらたまったもんじゃないですからね。

 旧冷川料金所を迂回してそろそろ岩山辺り。ここまで全力でぶっ飛ばしてきて、戦闘までやったのにまだまだバッテリーは持ちそうです。さすがチート物理学な私が作ったバッテリー!

 

 

 

 ―――ゴオォォォ………

 

 

 ふと、近くに飛行音が聞こえました。そこに目を向けると数機の大型輸送飛空挺がもの凄い低空飛行で山間部を飛んでいるのが見えました。あれですか。あれらに乗っているお兄ちゃん率いるクーデター部隊が将軍護衛隊を包囲するはずです。

 

 「………しかしホントに凶気の沙汰ですね。夜間で視界も悪いはずなのに」

 

 おっと急がねば!危なっかしい絶景に、いつまでも見たくなる誘惑を断ち切り正気に戻ります。あと一時間ほどしかありません。予定なら護衛隊より先に着いて色々仕掛けるはずが、間に合うかも怪しくなっちゃいました。鎧衣さんや伊隅ヴァルキリーズとの戦闘が響きましたね。

 この前にある氷川料金所跡で激しい戦闘があって、そこで将軍殿下の悠陽様は体調ヤバメになります。そこでお兄ちゃんの部隊が護衛隊を包囲して将軍殿下との謁見を要求します。そして謁見して話がまとまりそうになると、アメリカの部隊にまぎれていた第五推進派のスパイが場を乱し戦闘になります。

 それまでになんとか到着しないと。ここは一つこの世界にはいない爆走小僧のかけ声で気合いを入れますか!なんでこんな前世の知識、覚えているんでしょうね?

 

 

 

 「ロックンロォ――――――――ル!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 義兄との再会は目前!
 多くの人間の思いが交差する決戦の地に沙霧真由はなにを見る? 


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第三十二話 因果導体はつらいよ

 
 塔ヶ島離城の警備に赴いた白銀武ら二百七訓練小隊。果たしてそこに待ち受けていたものとは…………?


 白銀武Side

 

 

 オレ、白銀武。稼業は因果導体だ。……いや仕事じゃなくて体質らしいが何のことだかわからねえと思う。オレもさっぱりわからねえ。とにかく夕呼先生の話じゃ、そのせいでこんなBETAなんてバケモノのいる世界に来ちまったらしい。

 変なのはそのバケモノだけかと思っていたが日本も相当おかしい。何しろ国名が”日本帝国”な上に現代に政威大将軍なんているんだぜ?しかもそのお方は女の子で、オレが操縦する戦術機の隣のシートに座っている。で、クーデター部隊と鬼ごっこの最中、殿下は加速度病で昇天寸前。事態の重さにオレのチキンハートも昇天寸前。まったくやれやれだぜ。

 

 

 

 ……………ってやれやれどころじゃねぇ! どうしてこうなった!?

 塔ヶ崎離城跡を警備していたオレの所に美琴の親父がこの娘と侍従のおばさんを連れてやってきた。フードを被って顔はよく見えないが、この娘は将軍だとかいう話だ。

 

 (ああ、このお偉いさんの娘っぽい彼女は時代劇にハマってるんだね。で、オレにその相手をしろと。まあマニアってほどじゃないが、時代劇や歴史は好きな分野だ。ひとつ歴代将軍の面白ウンチク話でもご披露するか。ちょいえげつない話なんかも知ってるし、驚かせてさしあげよう)

 

 なんでこんな状況になっても現代の感覚抜けないんだろうな?おかげでオレは無礼打…………寸前でこの世界の日本には本当に将軍がいることを知った。今が非常時で本当~~によかった!

 そんなわけでこの政威大将軍煌武院悠陽殿下をオレの戦術機に乗せて横浜基地へ。とはいっても厚木基地はクーデター部隊に奪われているので真っ直ぐ進めば捕まってしまう。なので伊豆半島を南進し、白浜海岸から船で横浜基地へ向かうことになった。

 で、オレ達二〇七訓練小隊と月詠中尉、斯衛三バカが将軍護衛隊となって白浜海岸を目指すことになったんだが………クーデター部隊が猛追撃をかけてきた!なんでも帝都での戦闘をやめさせるために自ら囮となるよう脱出の情報を流したそうだ。

 なんという尊い精神!でももうちょっと遅らせて流して欲しかった。捕まったら意味ないだろうが!

 途中ウォーケン少佐率いる米国陸軍第66戦術機甲大隊と合流。高性能な米軍戦術機F-22ラプターのお陰で練度の高いクーデター軍を撃退できた。

 基地の先任衛士に『米軍のラプターはバケモノ』って聞いたことはあるがそれほどでもないと思う。助けてもらってなんだが。XM3搭載の不知火なら十分オレならやれる……ってなんでまだ訓練生なのにこんなこと思えるんだ?根拠の無い自信とかじゃなく、脳内で戦闘シミュレーションして本当にそう思えるんだよ。

 そういや真由の作ったというBETAシミュレーション。あのバケモノと架空戦闘した時も内心メチャクチャビビってたのに、体が動かなくなるなんてことはなく、自分でも恐いくらい的確な対処してたな。他のみんなは操作が狂いまくってたのに。まあラプターに関してはあれ以上のモノを知っているからな。銀の巨体の”流星”。あれこそ本物のバケモノ戦術機だ。

 そして一旦撃退したものの、旧氷川料金所付近でまた猛攻をしかけられた。今度は富士教導隊ってとんでもない精鋭だ。これに対し米軍66大隊のC、D中隊が足止めしてくれて、突破。随伴がウォーケン少佐の小隊のみになったがこのまま逃げ切れそうだ……と思ったところで隣の悠陽様が重度の加速度病になっちまった。

 悠陽様の状態を案じ、足が止まっちまったところで沙霧尚哉大尉自ら率いる部隊が空挺から来襲。オレ達は囲まれてしまった。だが沙霧尚哉は悠陽様を無理に奪おうとはせずに、謁見を申し入れ一時間の休戦を申し入れてきた。ウォーケン少佐はそれを受け入れ、悠陽様を休ませることとなった。

 

 

 「沙霧尚哉大尉には妹がいるそうですね、白銀」

 

 「はい、横浜基地の技術部に所属しています。オレ達の仲間です」

 

 オレは体調の回復した悠陽様に呼び出され謁見をしている。どうやら沙霧尚哉の妹である真由に興味があるようだ。しかしフードを取った顔を改めて見るとやはり冥夜に似ているな。

 

 「どのような娘ですか?」

 

 「とってもいいやつです。兄のやらかしたことをとても悲しんでいます。オレは初めて会ったときでっかい借りを作って……沙霧尚哉が近くにいるなら”真由のために何かできないか”と思ってしまいます」

 

 ………いや、借りなんかなくったって何とかしてやりたい。真由の顔、昔の小さい頃の純夏をどうしても思い出しちまう。オレをヒーローだなんて言ってた頃のアイツに。

 

 「でもオレはただの一兵卒で……勝手なことはできなくて……」

 

 軍人としての行動はいやというほど叩き込まれた。オレ一人の考えで動く訳にはいかない。沙霧尚哉、奴の前に立ってこの拳で妹の気持ちを伝えてやりたいのに。純夏、オレはヒーローなんかじゃねえよ……。              

 

 

 「あなたのその気持ち、私に預けてください」

 

 いつの間にか近くにきた悠陽様がオレの手を取りそう言った。

 

 「神代。警戒についている以外の者達を集めてください。二〇七訓練小隊の者は全員です」

 

 

 

 

 二〇七訓練小隊のみんなの父親は悠陽様に関係する者が多く、悠陽様は一人一人に父親へのお礼を述べた。そして悠陽様は沙霧尚哉との謁見を決断した。だがそこに冥夜が悠陽様の身代わりを申し出た。

 結局、冥夜が影武者として沙霧尚哉と謁見することになった。将軍殿下を守る斯衛は月詠さんが冥夜に。悠陽様には三バカがつき、万一のことが起こった場合将軍殿下を連れて離脱して白浜海岸を目指すことになった。

 悠陽さまは申し訳なさそうな顔でオレを見た。多分、約束を守れないことを悔やんでいるのだろう。

 沙霧尚哉に妹の気持ちを伝えるというオレとの約束を。

 オレは笑って頭を下げた。

 

 ――――大丈夫です。冥夜がきっとあなたの代わりにうまくやってくれます。――――

 

 

 

オレはさっきまで悠陽様を戦術機に乗せていたため、冥夜を乗せて沙霧尚哉の元まで連れて行く役を受けることができた。会話を近くで聞けるのはラッキーだ。

 

 「冥夜、頼むぞ」

 

 「ああ。タケルの『沙霧真由の気持ちを兄に伝えたい。』という願いもしかと果たそう」

 

 「え……どうしてそれを!?」

 

 「殿下に頼まれたのだ。約束を守れないこと、随分気にしておられたぞ」

 

 悠陽様の格好をした冥夜は妙に元気だ。しばらく思い悩んでいたのが嘘のようだ。

 

 「私はな、タケル。今嬉しいのだ。あのお方の想いもタケルの想いも背負って任につける。こんなに誇らしい日が来ようとは夢にも思わなかった。私はやるぞ。タケル、しっかり見守っていてくれ」

 

 「………ああ、そうだな」

 

 

 ―――――そうだ。状況は悪く見えてもこれはオレがずっと待ち望んだ機会かもしれない。だったら全力を尽くすのみだ。

 

 「行ってこい冥夜! お前の闘い、見ててやる!」

 

 

 

 作戦開始の合図がきた。

 まず月詠中尉が沙霧尚哉と交渉するために発進。

 続いてオレ達。沙霧尚哉の元へと赴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 




 沙霧尚哉と対面する白銀と冥夜!
 そして次回、遂に真由が合流!


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第三十三話 吹き荒れる銀の暴風

 白銀武Side

 

 

 

 ガガガガガガガガガガガ!

 

 あちこち銃撃音が響き渡り、戦術機が飛び回っている。オレは悠陽様の格好をした冥夜を乗せて沙霧尚哉の不知火から逃げるために全力で吹雪を疾走させている。かなり無茶な機動なので隣の強化装備を着ていない冥夜が心配だが気遣ってやれない。なにしろ全力全速で走らせているのにまったく引き離せない。まったくどうしてこうなった!?……………やっぱアレだな。彼女のあの射撃。

 

 

 

 

 

 冥夜と沙霧尚哉の謁見は概ね成功だった。冥夜は将軍として堂々と謁見にのぞみ、沙霧尚哉ら決起した者達の心情を解し、涙すら見せた。そして真由のことを話すに至って遂に投降を決意させることに成功した。よかった。これで真由や彩峰も救われるし、この不毛な闘いも終わらせることができる………と思った瞬間だ。

 

 ガガガガがガガガがガガガ!!!

 『ハンター1よりハンター2!なぜ撃った!? 命令は出していないぞ! やめろ!撃つな!』

 

 突然銃撃音が鳴り響いた! 米軍のイルマ・テスレフ少尉が突撃銃を乱射したのだ。あわててウォーケン少佐が止めようとしたがクーデター部隊はすでに刺激されてしまった。そしてとうとう戦闘が始まった。

 なぜ彼女がそんなことをしたのかはわからない。しかし冥夜が危険だ。どうにかしようとする冥夜を半ば無理矢理機体に押し込めてその場を離脱した。そしたら沙霧尚哉が不知火で追ってきた!冥夜を奪うつもりか!?

 

 ……………というのが今の状況だ。オレは全力疾走で沙霧尚哉から逃亡中というわけだ。まったくやれやれだぜ。

 

 

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 沙霧真由Side

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 ただいま岩山を回りやっと現地目前まで来たところです。遅れて来たゲストにも料理とダンスは残っているでしょうか?それにしてもやっぱり戦闘になってしまいましたか。派手に銃声の音楽が鳴り響き、戦術機機動音のダンスは聞こえてきます。

 さて、どうしますかと前方を見ると白い武御雷が三体こちらに向かってきます。…………ああ、思いだしました。たしか冥夜さんは将軍殿下の悠陽さまの代わりにクーデター軍首班のお兄ちゃんの謁見に出ます。そして本物は三バカ、もとい斯衛三人衆を護衛に離脱するんでしたね。

 ま、将軍殿下に用はありません。無事に横浜基地に向かってください、と通り過ぎようとしたら………ロックオンされちゃいました! なんで!?

 

 『お前、横浜の実験戦術機だな!何故ここにいる!? 』

 『搭乗者と目的を言え!言わねば撃つ!』

 『正直にいいなさ~い!』

 

 将軍殿下の護衛で直ちに離脱しなきゃなんないのに私相手に誰何なんかしてる場合ですか!? 酸素マスクのせいで声が届かないんですよ!

 構わず距離をとって急ごうとしたら……本当に撃ってきた!

 

 ガガガガガガガガ!×3

 

 最高速ダッシュ!

 

 なんとか弾は喰らわず済みましたが気づいちゃいました。

 

 こいつら伊隅ヴァルキリーズより強い!

 

 ヴァルキリーズは伊隅さんの指揮の高さで未熟な新任なんかもよい動きをさせていました。が、彼女達三人は指揮すら必要ない完璧な連携と面制圧射撃!物理学チートな私が見てもほぼ同時!

 そういえば前にピアティフさんと引き離された時こいつらの連携は見たことがありますが本当にすごかった!脳内でこいつらとの闘いをシミュレートしてみると、射撃の軌道やタイミングは読めても物理的に躱せない状況に追い込まれる未来が見えます。

 こちらの最高速が向こうの予想を上回っていたためさっきは躱せましたが、次の斉射は補正してくるでしょう。

 ヤバイ! 身を隠す場所すらほとんどない!

 迷っているヒマはありません。次は躱せない気がします。

 その前に無力化しないと!

 

 そばにあった手頃な大石を拾い、岩壁に向かってダッシュ!

 

 ぶつかる直前彼女らの真ん中、将軍殿下が乗っていると思われる機体に矢のような送球!……じゃなくて投石!

 

 普通なら戦術機の投げた石なんて当たるもんじゃありませんがそこは物理学チートの私。

 

 ガシャアァァァン!

 

 一瞬で軌道計算して見事頭部のカメラアイに命中!

 

 他の二人がそれに気を取られ、一瞬こちらの気がそれたスキに岩盤蹴ってジャンプ!

またまた完璧な軌道計算! 角度とパワーを調整!

 

 必殺! 三角蹴り!!!

 

 ドガアァァァ!!×2

 

 右足左足それぞれ残り二体の頭部に命中!

 

 ズウゥゥゥゥン!×3

 

 倒れる時まで三人ほぼ一緒。仲がいいなあ。………って将軍殿下やっちゃった!?

 まあ将軍殿下のいる機体は頭部に石だし。それほどヤバイことにはなってない、と思います。

 ………なってないといいなあ。

 そう祈りつつ、先を急ぎました。

 

 

 

 

 

 

 いた! 現場に到着した途端見つけました。憎いメガネのあんにゃろうです!

 夜間で視界は悪いですが、戦闘の最も激しいその場所で一機の吹雪を追っている不知火。あの機動には覚えがあります。とりあえずあいつを成敗です!

 

 

 『何者だ!? 所属を名乗れ!』

 『流星!? なぜここにいるの!?』

 『将軍殿下のもとにいかせるな!』

 

 やっぱり戦闘の中心だけあって突破は厳しいですね。二〇七訓練小隊はまあ相手にならないんですが問題は米軍。ウォーケン少佐の指揮で上手くこちらの動きを封じる様に動いてきます。やはりウォーケン少佐を潰さなきゃお兄ちゃんのところへは行けませんか。

 米軍機甲小隊の注意を引きつつクーデター部隊に道を空けます。そして双方ドンパチやっている間にウォーケン少佐のラプターに突撃!当然こちらに銃を向け撃ってきます。

 

 ラプターってのは対人戦闘に優れた機体らしいですね。確かにスピードも旋回性もこれまでの戦術機と比べて大きく上回っています。これで戦術機の動きの穴に素早く入り込んで撃墜していくのでしょう。

 でもスピード、旋回性どっちもこちらの方が上!この流星から見ればそっちの方が穴だらけ!

 

 ガガガガガガガガガガガ!!

 

 射撃の瞬間しゃがみこみ、そのまま体を丸めて足のジェットホバーで突進!

 

 戦術機ってフルオート射撃すると銃の反動に耐えるために腕が固定されちゃうんです。なので腕を動かし銃口を下に向けるには一旦射撃をやめ、腕の位置を直してから再び撃たねばならないんですが…………そんな隙をさらしてこの流星に当てようなぞ笑止千万!

 

 相手が腕の位置を直している隙にジャンプ!

 

 余裕すぎてムーンサルトまでやっちゃいました!

 

一回転 二回転 三回転 横回転!

 

  ドン! ザクザクザクザク!!!

 

 背後に着地、同時にVの字斬り!

 

 ビーム長刀で大きく描いたVでウォーケン少佐のラプターの手足を切り飛ばしダルマ状態に!

 

 フィニッシュのポーズも完璧! ハイスコア確実!! 金メダル貰った!………いえそんなものありませんでしたね。オリンピックなんてとっくに凍結されちゃってます。とりあえずこのアホなポーズやめてメガネを追いましょうか。

 

 私は流星の見事なYの字フィニッシュを解除し、メガネの不知火目がけて猛ダッシュしました。

 

 

 

 

 

 

 

 




 到着する前に通信できるようにするべきでしたね。
 またまた全員と強制バトル!
 戦いの結末は……?


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第三十四話 因果導体は幻を見た!

 

 白銀武Side

 

 

 

 オレはいま隣に悠陽様の格好をした冥夜を乗せ、吹雪で全力疾走をしている。クーデター首謀者の沙霧尚哉、つまり真由の兄貴に追われているためだ。さっきまでビビリまくり、ただひたすらに逃げることしか考えられなかったオレもクールダウン。状況を色々考えられるようになった。それにしてもパニくっていても森の木々や岩なんかを的確に避けて全力疾走できるとか凄すぎだぞ、オレ?

 まあ、自分に驚いても始まらない。隣で全力疾走にキツそうに耐えている冥夜に話かけた。

 

 

 

 「なあ冥夜。」

 

 「なんだタケル。」

 

 「もう少し行ったら止まっていいか?」

 

 「………ほう、沙霧尚哉はどうするつもりだ?」

 

 「あいつと話したいと思っている。真由や彩峰の気持ち、おやじさんを亡くした委員長のことも聞いてもらいたい。で、それら諸々やらかした件でをみんなに代わってぶん殴る!」

 

 「あきれた男だな。それらを切り捨てる覚悟もなしに決起したと思うか?」

 

 「それでも……だ!」

 

 「それにそれは明らかな命令不服従だ。私たちはまだ訓練生の身。ゆえに抗命罪で死刑、とまではいかないであろうが衛士の道が閉ざされることは十分考えられる。天元山での命令不服従も合わせれば確実であろう。」

 

 「……………悪い。お前まで巻き込んじまうな。真由たちのためにやることで冥夜を犠牲にするなんて間違っているよな。忘れてくれ。」

 

 「いや、いいぞ。」

 

 「え?」

 

 思わず振り向くと、冥夜の不敵な笑顔がそこにあった。

 

 「天元山で私はタケルに我が儘を言ってしまった。だがタケルは見事、私の我が儘に応えてくれた。今度は私の番であろう。その思い、心の向くままにやるがよい。

 それに私ももう一度沙霧の兄と話したい。まだ間に合うかもしれん。」

 

 あれか。前に天元山で噴火が予想されたため、地元住民の避難任務をオレ達訓練小隊は受けた。その時現地を動かず居座り続けようとする婆さんに出会った。息子二人を亡くし、婆さんも死を覚悟していたのだろう。本来なら強制的に退去させねばならないところを、冥夜はあくまで婆さんの意思を尊重してその場を守ろうとした。

 流れてくる溶岩に対し、天狗岩という岸壁の頂上にあるでっかい岩をブッた斬って溶岩を止めることにした。そのため岩のある場所よりはるか上空へ跳び上がり、正確にある一点に長刀を当てねばならないというとんでもない技に挑戦しなければならなくなった。結果としてオレは見事それをやりとげ、しかも墜ちてくる岩からも退避できた。

 いつのころか集中すりゃ大抵のことはできるようになっちまったんだよな。

 

 「………いいんだな?衛士になれなくても。」

 

 「衛士の道を諦めてもやる価値のあることだと確信している。やろう、タケル。皆の想い、その身に宿し行くがよい。そしてまた二人でおおいに皆にあやまろうではないか。」

 

 オレ達は顔を見合わせ笑った。どこまでも青臭い事が好きな、そんな生き方しかできない者同士だな。だがそれでいい。クーデタ-の首謀者が真由の兄貴なら、軍のやり方ではなくオレ達のやり方が正しいと思うのだから。

 

 「よし、できるだけ他のやつらの目の届かないところまでいくぞ! そしたら……え?」

 

 

 後背カメラで真由の兄貴の機体の様子を見たとき異変が見えた。ヤツの機体のその後ろ、銀色の大型の戦術機がぐんぐん近づいてくる。オレも真由の兄貴も全力疾走してるのに!

 

 「まさか! あれは流星? 誰が乗っているんだ!?」

 

  真由の兄貴の不知火は素早く横に移動、同時に長刀を抜き流星に振り下ろした!

 

 だが流星もまた、すでにビーム長刀を抜いていた!

 

 振り下ろす長刀と振り上げるビーム長刀がぶつかり合う!

 

 だがあっけなくビーム長刀が真由の兄貴の長刀を断ち、さらに機体の上半身を斬り上げた! 

 

 ガシャァァァァ!

 

 沙霧尚哉の機体はバランスを崩し転倒した。

 そして流星は止まる。こちらを追おうとはせずに―――

 

 

 

 

 

 

 

 その光景がだんだん小さくなっていき、やがて消えた。吹雪のスピードを緩めていく。

 そうしてしばらく進めた後、止めた。

 

 「タケル?どうなったのだ。流星とは横浜にあるアレか?」

 

 「ああ、アレが来て真由の兄貴の不知火をブッた斬った。いったい誰が乗っているんだ?」

 

 オレはひどく混乱しているが、なんとか冥夜に答えることができた。

 

「止めて大丈夫なのか? 流星はどうした。」

 

 「…………追ってこないな。ヤツの目的は真由の兄貴らしい。」

 

 まさか……とは思う。あいつが戦術機に乗れるはずがない。おそらく別の何か……沙霧尚哉を狙うやつはそれなりにいるだろう。だがどうしても真由の顔がちらついてしまう。答えは……やはり真由の兄貴がどうなったかを見るしかないだろうな。

 しばらくオレ達はその場に留まり、追ってくる者がいないかを待ち続けた。夜の闇の中に響く戦場の銃撃音はまだ続いている。だが誰も来そうにない。

 

 

 

 

 

 

 銃撃音はだんだん少なく、まばらになっていった。ということは戦闘可能な戦術機が少なくなってきた、ということか。戻るか否か………迷うオレは冥夜に話かけることも忘れ、作戦命令に縛られ動けずにいた。

 

 やがて銃撃音がふいに途絶えた。いや、パラッ……パラッと微かに聞こえる気がする。どういうことだ?一機だけで射撃などあり得ないハズだが………。

  戦闘は終わったのか? みんなは……委員長、彩峰、たま、美琴は無事なのか?まりもちゃんは……?こっちにクーデター軍が来ないということは制圧したのか?あの流星に乗っているやつはいったい……。

 

 

 

 「………戻っていいか?真由の兄貴がどうなったのか確認したい。」

 

 「………そうだな。戦況も知るべきであろう。」

 

 オレ達は元来た道を戻ることにした。冥夜にも網膜投影をかけ、メインカメラで周囲を見れるようにした。慎重に周りを警戒し、現場へと向かう。近づいても銃声は聞こえないが、その代わりにブオォォォ!と特大の戦術機の機動音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「………なん……だと?」

「面妖な! 何故あのようなことが可能なのだ!?」

 

 現場に戻ったとき、オレは……オレ達は信じられないものを見た。

 

 

 

 「バッ……バカな! あれはキン肉バスター!?」

 

 

 

 

 

 

 




 戦術機では不可能なハズのあの必殺技が!
 それは夜の闇が見せた幻なのか!?


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第三十五話 夜空に掲げた奇跡

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 クーデター部隊がお兄ちゃんの仇と襲ってきました。なので米軍や二〇七訓練小隊と一旦戦闘はやめて制圧しましたが、終わるとまた戦闘。さっきウォーケンさんの機体をサクッとしちゃったせいでまたまた私対その他のバトルです。

 二〇七訓練小隊の皆さんは武器破壊、または小破で戦闘不能になってもらいました。まだ動きが鈍かったですね。神宮寺教官は手こずりましたが旧OSの激震じゃ厳しすぎですね。同じく小破。

 で、いま米軍機戦です。F-22Aラプターはさすがに高性能ですが連携がイマイチですね。ウォーケン少佐がいないと穴だらけの連携です。

 巧みに動きまわり囲まれないようにします。やがて近づきすぎた一機にダッシュ!

 速攻で背後に回り、そのまま背中を押し込んで別の一機にまたまたダッシュ!

 

 相手はフレンドリーファイアを恐れて撃てない!

 

 ガシャアアアア!

 

 ぶつかった瞬間ビーム長刀で貫いて二体とも機体の制御部を破壊。

 

 ガガガガガガガガ!

 

 最後の一機のラプターが横から撃ってきました!

 

 このラプター、イルマ少尉の機体に通信で妙な信号送っていたんですよ。洗脳技術に関しては少し学んだことがあるんですが、催眠誘導起こす信号そのものです。どうやらこいつが第5推進派の手先のようです。

 

 素早く回避! まあ、鋭い射撃ですね。

 

 ですがいくら鋭くても一機だけじゃ私の先読みと流星の機動には分が悪すぎます。第5の手先なら手加減無用!あと月詠さんがいるはずですが姿を見せません。

 

 月詠さんを警戒しつつ、奴にさっきのイルマ少尉から奪ったアーミーナイフを投擲!

 

 よけるラプター!

 

 そのすきにダッシュ!

 

 素早く体勢を立て直し射撃モードをとるラプター!

 

 そこにもう一本アーミーナイフを投げる!

 

 突撃砲で受けてしまった!

 

 計算通り! 突撃した私は流星の肩とラプターの肩を合わせそのまま持ち上げた!

 

 持ち上げたそのままダッシュ!

 

 さあ、”アレ”をためす時が来ました!

 

 失敗すればそのまま自爆。流星その名のごとく墜ちて消える。

 

 やらないほうがいい、やるべきではない。

 

 そんなのはわかっています。

 

 でも”一人の技術者として限界を超えてみたい。この機動と共に消えてもいい”。

 

 そんなバカな私が心の中にいます。

 

 ピ――――。ピ――――。相手のラプターから通信が来ました。

 

 『私をどうするつもりだ!?』

 

 随分あせってますね。まあ、戦術機が戦術機に天地逆さに肩で持ち上げられてダッシュ、なんて信じられない体験すればさすがの米軍衛士も混乱しますか。今頃、管制ブロックの中じゃ着座すらままならない酷いことになっているでしょう。でも本当に信じられないのはこれからです。

 

 ”どうするか”ですって?

 それは技術の限界突破。その飛翔。

 その礎となってもらいます!

 

 最終軌道計算、モーションシミュレートOK!

 

 いきます! 大きくジャンプ!

 首と首をガッチリからめラプターの両足を一本ずつしっかり握ります!

 

 

 ダッ! バァ――――――――ン!!!

 

 キン肉バスター!!!

 マブラヴ世界の夜空に雄々しく現れた伝説の必殺技!!! 

 

 

 素晴らしい雄姿を一瞬描いた後、落下。ぐんぐん地面が迫ります。

 

 さあ、本当の勝負はこれから。

 

 両足で一瞬地面を叩き受け身!

 

 そして踏ん張らずにそのまま腰から尻もち着地!

 

 相手の両足首を握り大きく広げフィニッシュ!

 

 やった! ついにこれをやり遂げた!

 

 人に言えば百人が百人夢だ幻だと言うでしょう。戦術機に詳しければ詳しいほどそうです。普通戦術機が戦術機を持ち上げたら潰れちゃいます。あまつさえそれでジャンプして着地すれば上より下の方が押し潰され、無残な姿になってしまいます。

 ですが確かに奇跡は起こった!この地上、この場所にあの必殺技が現れたのです!アレをやり遂げながら流星は無事。正に奇跡!奇跡なのです!!!

 

 

 

 

 

 それは私が不可能の突破を目指す物語――

 

 これは流星のフレームを作った時から始まります。突撃級のガラから軽くて強靱な素材を手に入れた私は概存の外骨格ではなく、内骨格であるムーバブル・フレームにすることは決めてました。ですが『どうしてもキン肉バスターをやらせてみたい!』というバカな衝動にかられた私は脊椎を十六に分割。それを磁力で浮かせるというリニアモーターカー技術の応用をしたのです。消費電力もバカになりませんが、徹底的な省エネと超高エネルギー電池の開発によって実現させました。そして私の知る限りのあらゆる対衝撃機能を施しました。これにより落下時の衝撃にとてつもなく強い機体になったのです………が、ここまでやっても”やはりキン肉バスターには耐えられない”という計算が出てしまいました。

 深い絶望、物理学チートを生かし切れない己の不甲斐なさ、やはり幻の技かとの諦め、渦巻く感情に苦悩の日々を送りました。”いっそキン肉ドライバーにしようか”などと弱気になれば『貴様のキン肉バスターに賭ける情熱はその程度の甘っちょろいものだったのかァー!!』と、脳内ブライトさんに叱られもしました。

 ………ですが、ここで宇宙衝撃吸収素材発見!これにより一気に実現の可能性が高まりました。脚部腰部肩部に重点的に補強することにより、一回受け身を取れば可能だという計算結果が出たのです!

 

 「いける、いけますよ流星! さあ、行きましょう。不可能の向こう側へ!!」

 

 

 

 

 

 ズゥ―――………ン………

 

 ラプターの墜ちる音で回想から覚めました。そして立ち上がります。

 

 通信を傍受しても誰も会話する人はいない。それほどの奇跡!

 

 私はゆっくり流星の腕を上げ、この沈黙の喝采に応えます。

 

 やった、やり遂げた――

 

 私の夢と情熱がたぎった流星は見事に応えてくれました!!

 

 いつの間にか私は泣いていました。ここに至るまでの日々を思い返しながら――

 

 

 

 

 

    ――――マブラヴの大空にキン肉バスターを!―――

         ~ とある物理学チートの挑戦~       〈完〉

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………おっと思わず自叙伝まで脳内で書いてしまいました。さて、メガネを……

 

 

 『大したものだ。中々の………いや、素直に賞賛しよう。素晴らしい技術だ。』

 

 ふいにこちらに通信が入りました。

 

 そうか、まだあなたがいましたね………

 

 『その様子ならまだ戦えるな? 我が名は月詠真那。汝に敬意を表し一手所望いたす!』

 

 いつの間にか長刀を握った赤い武御雷が立っていました。

 

 

 

 

 

 

 




 …………真由は何と戦ってるのでしょう?

 そして遂に最後のライバルとの対決!
 それはオルタ原作で義兄に引導を渡したあの人……!


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第三十六話 流星決闘録!相対するは赤の武御雷

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 さて、帝国斯衛軍月詠真那中尉と戦術機タイマンです。

 

 

 『出雲の伊耶佐小浜に降り立つ伊都之尾羽張の子よ。天照が求めし武勇の柱。大国主が認め建御名方を征した雄々しき雷。荒魂沈める 御国の守護者たるは今。雷光たれ武御雷!』

 

 などと呪文を唱えて月詠さんてばやる気マンマンです。呪文を唱えると武御雷って強くなるのでしょうか? 堂々たる赤い武御雷が長刀を構えると本物の武者みたいですね。月詠さんとは以前にタイマンっぽいことをしましたが、まさかガチなタイマンをすることになろうとは!

 それにしても米軍と戦った途中から姿が見えなくなったのはまさかタイマンするため?それに武器も突撃砲じゃなくて長刀? その理由というのが

 

 『殿下を狙撃した米軍と歩を合わせるは帝国斯衛の矜持としてできん。そしていかに貴様が強かろうと長刀一本で戦う貴様に銃器を使うことはできん!ゆえに私も銃は捨てた!貴様に合わせこの長刀一振りでお相手しよう。この戦い、帝国の命運のみならず帝国斯衛の誇りも賭かっていると見た。残った二〇七訓練小隊の者共は手出し無用!私が決着をつける!』

 

 ………だそうです。別に私が勝っても帝国をどうこうできるワケもないんですがねぇ。それに軍人がテロリスト相手に『相手は丸腰で一人!ならば正々堂々が流儀なこの俺も丸腰で一人で捕まえてみせよう!』などと言ったらただのバカでしかないと思うんですが。

 

 しっかしこの流星にタイマンとは!プークスクス!まったくもう月詠さんたらあまり笑わせないでくださいよ。雪ダルマなパイロットスーツに埋まって酸素マスクつけてる状態なんだから。こう大笑いすると辛いんですって!しょうがないなあもう。10秒だけ相手してあげますからね?この後メガネに説教しなきゃなんないんですよ。忙しくてあまり相手できなくてすいません。テヘッ☆

 

 ……と、上から目線どころか上からビームアイな考えで相手したんですが……月詠ファンの方々ゴメンナサイ。月詠さんナメてました。今苦戦してます。

 まず剣戟モーションいじって速くしてますね。タイミングとるのが難しくなるんで普通はやらないんですが、多分月詠さんにとっては普通じゃ遅すぎるんでこうしたんでしょう。でも動作は同じ!動きの合間に素早く懐に入って………入れません!間合いの取り方が完璧すぎ!

 

 この状況に陥って、同じ斯衛の三バカとの闘いを思いだしました。なぜ彼女らとの闘いでたった一回フルオートされただけであんなに戦慄したのか?

 私は物理学チート。対象物を見ただけでその力の強さも性質も方向もわかっちゃうので原子を見ればどんな素材かの鑑定を。戦術機を見ればこれからどう動くかの先読みができます。これにより弾よけという芸当が可能です。とはいえ流星の動きのタイミングや、相手の射撃する距離によっては避けるのが難しい場合もあります。問題は距離。近すぎても遠すぎてもいないその地点で撃たれたら大きく動かないと射線が外せない、という距離があります。私も伊隅ヴァルキリーズとの闘いでそれを学んだので、相手との距離は適切に保つようにしたんです。が、三バカはその距離に来るまで一切撃たず、その距離に来た瞬間三人同時に一斉射撃してきたんです!

 つまりどういう訓練をしているのか帝国斯衛ってのは恐ろしく間合いの取り方が巧み。月詠さんの攻撃をなんとかギリギリ躱すのが精一杯で、攻撃しようにもきっかけを与えてくれません。これが今の状況です。

 

 『聞こえているか?銀の戦術機の者。たとえ貴様が聞いておらずとも構わん。勝手にしゃべらせてもらう。』

 

 月詠さんから通信が来ました。聞いているけど声は届きません!

 

 『私の剣がここまで見切られたことはかつてなかった。正にバケモノだな。』

 

 いえ、私の先読みと流星の圧倒的パワーとスピード、それに無数の動作モーションに武御雷の長刀一本で互角な貴方の方がバケモノです。

 

 『貴様も白銀と同じく何らかの強化をされた者か?だが貴様らの組織がいかに人知を超えていようと、師の名にかけて我が鍛錬否定されるわけにはいかん!我が名は帝国斯衛の月詠真那。いざ尋常に勝負!』

 

 ………新撰組モノにでも行っちゃってください。あとまだ謎組織とか信じちゃっているんですか。月詠さんのセリフ聞いていると私はどこの超時空戦士になっちゃったのかと思いますよ。

 とはいえそろそろ酸素マスクの酸素も心もとないし、何よりこのままこんな戦闘狂と闘っていてはチキンハートな私が潰れてしまいます。しかたない、私もいざ尋常に勝負!

 ビーム長刀を高々と上段の構え。XM3の剣戟モーションのいくつかは冥夜さんに入れてもらいましたが、これもその一つ。見事な火の構え。

 

 『いい応えだ。火の構えか。この月詠に腹を見せる度胸、それだけで貴様の強さがわかる。

 しかしなつかしいな。修行尼時代さんざ師にくぐらされたものだ。”くぐれば極楽くぐらば地獄 六道歩む瀬に迷い無し”そう謳われてな。』

 

 訓練じゃなくて修行ですか。月詠さんってばタイムスリップしてきちゃったんですね?はい納得です。

 武御雷、獲物見据えるよう腰を低く、機動音も静かに長刀斜め下に八相の構え。

 来ますね――――

 

 

 

 

 『いざ、見事くぐり抜けよう!帝国斯衛月詠真那、参る!』

 

 地を這う疾走! 低く迫るは赤の武御雷! 猛き荒武者獅子吼の一刀見せんとす!

 

 スピード全速の90%。これまでのデータから長刀の間合い一歩手前の瞬間に百%にするつもりですね。ならばそれに合わて振り下ろします!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………ウソです。私はビーム長刀をポーイと上空へ投げ捨てました。一瞬武御雷がブルッと震えた気がしました。

 そして大ジャンプ! 流星のパワーと脳波コントロール装置の即応性はこんな一瞬でも目標の高さに達することができます。

 下にブンッと長刀で空切る武御雷。上から見ても素晴らしい抜刀術!位置取り完璧!勝負しないで良かった!私はパシッとビーム長刀を掴むと剣先を下に向け武御雷目がけて落下!

 

 

 ザクッ!!!

 

胸部の制御機器を貫き武御雷を地面に縫いつけました。恐るべき武勇の赤き武御雷を征した瞬間でした。

 

 

 私のウソに騙されない者はいないのです。思い出を穢しちゃってすみません。

 

 

 

 

 

 




 第三のライバル撃破!
 熱き闘いを征した真由はこれから何をする………?


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第三十七話 お兄ちゃんと私

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 やっと戦闘を終わらせることができました。お兄ちゃんは…………いた!クーデター部隊の人達と逃げずにこっちを注目してます。それじゃ家族の役目を果たしに行きましょうか。

 機体を屈めハッチを開けます。雪ダルマなパイロットスーツを脱いで地面に降り立ち、ゴーグルやヘッドセットを取りました。

 

 うおっ!画面ごしで見てる分にはマシだったんですが、直接見ると世界全てが物質に見えてしまいます。もちろん人間もなのでコミュニケーションがとれません。お薬を懐から取り出して飲もうとしましたが………落としてしまいました。どうやら随分体にキてしまったようですね。

 

 倒れそうになる私をささえ、お薬を拾ってくれる物質ひとつ。お兄ちゃんですね。小さい頃はよくこうやってお薬を飲ませてくれたものです。

 

 

 

 

 「真由、どうして……」

 

 

 お薬が効き始め、やっと人間の世界が戻ってきました。そして目の前のお兄ちゃんは私をささえながら聞いてきました。そんなの、みんなお前のためですよ。

 

 

 鎧衣さんから聞きました。第五推進派の目論見を潰すためにリーダーになったことも、たった一人でクーデター全ての責任を背負い死のうとしていることも。

 

 

 その決意を邪魔せずおとなしく見ていなきゃいけなかったのかもしれません。

 

 

 でもそんな悲しい死に方、どうしても許せませんでした。

 

 

 前世じゃ敵キャラの一人にすぎなかったのに不思議ですね。

 

 

 パパママ、これからあなた達に代わってこのバカメガネを説教します。

 見ていてください。

 

 

 ポコン

 

 

 強化装備に自分の手で一発。

 

 

 「このバカ!こんなやり方で世の中を変えちゃいけないんです!

 どんなに怒っても、どんなに理不尽でも、どんなに苦しくても理想を追い求める心を殺しても頑張らなきゃいけないんです!私を残してこんなことして死のうとか………パパとママに私のことを頼まれたのを忘れたんですか!?」

 

 「真由、それは……………いや、ごめん。お前に……こんなことまでさせてしまって。」

 

 

 バカメガネの目から涙がポロリ。……その涙に免じて許してあげましょうかね。

 

 

 

 

 「あなた、沙霧大尉の妹なの?」

 

 一人のクーデター部隊の女性衛士が進み出て聞いてきました。

 

 「はい、沙霧真由といいます。」

 

 「そう。色々ぶち壊してくれちゃったわね……」

 

 口ではそう言ってもちっとも恨んでいるようには聞こえませんでした。しばらくじっと私を見つめ、そして言いました。

 

 「榊是親を………首相を本当に殺したのは私なんです。」

 

「直江、よせ!」

 

 お兄ちゃんは叫びました。でもその人は黙りません。

 

 「大尉に全て背負わせて終わる約束でしたね。……でも、こんな妹がいるのにそれは身勝手じゃないですか?」

 

 その直江という衛士の言うことによれば、彼女は帝都陥落時に学徒動員された女子高生だったそうです。学校の生徒丸ごと人壁になるためだけ、ロクに訓練も受けず北陸の最前線に送られBETAと戦わされたそうです。

 

 「よく生きていられましたね。生身でBETAと戦ってこうしていられるなんて。」

 

 「私はね。でも友達は………幼い頃からの親友も高校からの親友もダメだったわ。あれからいくつも戦って…………あの時私達が送られた意味も知ったし、誰かが死ぬのにも随分慣れた。衛士にまでなれた。でもね、どうしてもあの日いきなり私達が地獄に送られ、親友を死なせたことへの憎しみは消えなかった。高校生でふたりの親友だった私がいつまでも心の中にいるのよ。」

 

 「だから………クーデターを起こしたんですか?」

 

 「元々は政府への不満屋の集まりだったんだけどね。でも”榊是親に喰らわせることができる”って力を持ってしまったら私達みんな突っ走っちゃったわね。帝都陥落時はみんな私と似たような体験をしてきたからね。そして私がふたりの仇、と榊首相を殺ったわ。」

 

 第五推進派はこんな人達を利用したんですか。本当にクズですね。

 

 「あの戦術機、なんなの?」

 

 直江さんは流星を見ながら聞きました。

 

 「私が設計して作らせた新技術や新素材の検証用の実験戦術機です。名前を流星といいます。」

 

 「そう、あなたが………」

 

 直江さんは眩しそうに流星を見た後、お兄ちゃんに向き合いました。

 

 「大尉。やはりあなたは生きるべきです。罪は全て私が引き受けます。どうか生きてこの娘をささえてやってください。これだけの戦術機を作れるこの娘なら人類の勝利も夢ではないでしょう。」

 

 「やめろ直江!お前は悪くない!」

 

 「悪いですよ。この娘の言うとおり私は……私達はこんなやり方で世の中を変えることも昔の恨みを晴らすこともしちゃいけなかったんです。大尉がこの娘を支えてBETAを殲滅していただけるならそれこそ我々の本望です。」

 「そうです大尉!」

 「俺も刑罰を受けます!」

 「あなたは生きてください!」

 

 クーデター部隊の人達は口々に叫びました。逃げずに留まっていたのは皆、ここで終わらせるつもりだったのでしょう。しかし………お兄ちゃんは反乱のリーダーだし、私も派手に反乱行為をしたしで、銃殺回避は無理ではないでしょうか?

 ふと、神宮寺教官がこちらに一人でやってきました。そしてお兄ちゃんに見事な敬礼で挨拶。

 

 「横浜基地所属の神宮寺まりも軍曹です。此度の一件、収めていただくため参りました。」

 

 他の人達は降りてきませんね。待機や警戒でしょうか。

 神宮寺教官、私を見て言いました。

 

 「まったく君も大変なことをしたな。双方死人が出なかったのが救い………いや、あの空中から一緒にダイブした米軍衛士はダメか?」

 

 「落下の衝撃は機体にほとんどないから無事だと思いますよ?宇宙衝撃吸収素材と対衝撃機能の組み合わせとダイブ時の姿勢コントロールでそういう風にしたんです。あっちの機体も無事じゃないと綺麗なキン肉バスターになりませんから。」

 

 「………キン肉バスター?何だそれは。だが確かに70メートル近く戦術機を抱えて飛び上がって落下したのに何のダメージもないな、君の機体は。まったく色々信じられないことばかりだな。ともかく君の処遇は私が何とかしよう。」

 

 お兄ちゃんが敬礼して神宮寺教官の前に立ちました。

 

 「戦略勉強会を統括した沙霧尚哉大尉です。同胞と妹の処遇、お願いいたします。」

 

 そしてお兄ちゃんと神宮寺教官が話し合うのを見てやれやれ一件落着か………と思ったのは甘かったですね。向こうから阿修羅の如き形相をした月詠中尉とウォーケン少佐が来るのが見えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 義兄と再会をはたしたのもつかの間
 二人の強面襲来!
 どう切り抜ける!?


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第三十八話 真実を殺した少女は謳う

 伊隅みちるSide

 

 

 

 副司令から指示を受けた後、私と速瀬、宗像、風間の四機と指揮車両の涼宮で奴の足取りを追った。私と速瀬は新任の機体を拝借した。熱海海岸を南下して岩山をまわる途中、頭部にダメージを負った三機の白い武御雷に出会った。通信してみると将軍殿下の護衛をしているとのことだ。さすがに三機ともカメラアイの破損した状態では万一のことに不安があるため、宗像と風間をつけることにした。私と速瀬、涼宮は戦闘現場へ直行した。

 

 

 『しっかしあの斯衛が三機がかりでもやられちゃうなんてねぇ。しかもあいつ、銃なしなんでしょ?どんだけ無敵なんでしょうね、大尉』

 

 と速瀬が話しかけてきた。私も本当に技術部の者だろうか、と思う。

 

 「副司令の命令で奴には涼宮が投降をすすめ、私達はクーデター部隊の鎮圧に当たる。涼宮、現場からの通信はどうだ」

 

 涼宮の乗っている指揮車両は広範囲の索敵と長距離通信が可能だ。なので先程から神宮寺軍曹と連絡をとり、戦況を伝えてもらっている。

 

 『はい、神宮寺軍曹との通信によると戦闘は終了したそうです。例の実験戦術機が我が方、クーデター側双方の戦術機を行動不能にし、動けるのは二〇七訓練小隊B分隊の機体のみだそうです。現在彼の戦術機の搭乗者は機体から降りて首班の沙霧尚哉と会話をしているそうです。副司令の仰る通り彼の妹のようです』

 

 副司令の仰る通りだったか……。だがそれなら何故あれほどの戦闘技術を?とにかく戦闘が終了したならさっきまで考えていた行動予定は大幅に変更せねばなるまい。しばらく考えていると涼宮から緊急通信がきた。

 

 『大尉、月詠中尉と米軍所属のウォーケン少佐が彼女の元へ向かったそうです! 彼女が基地の者のため帝国、米国との関係が危ぶまれる可能性があるとのことです!』

 

 「軍曹には彼女の確保と身の安全を指示しといてくれ。我々も急いで向かうともな!」

 

 やれやれ。銃剣ではなく言葉での戦いになりそうだ。これなら速瀬ではなく風間を連れてくるべきだったか。ともかく急ぐとしよう!

 

 

 現地は戦術機の墓場だった。無数の不知火や激震の残骸、米軍のF-22ラプターがスクラップになり、赤い武御雷が胸に大穴を開け佇んでる様は衝撃だった。二〇七訓練小隊B分隊の吹雪だけは無事。いや突撃砲は無い所から我々と同じくそれを破壊されたのだろう。速瀬の言う通りどれだけ無敵だったのだろうな。周囲の警戒は速瀬に任せ、私と涼宮は機体を降りて揉めている一団の所へと向かった。

 

 

 

 「いったい君は何者なのだ!あの戦術機は!? これほどの戦闘力を持ち、あれほどの動きが可能な機体はどこでつくられたのだ!ラプターが銃なしの機体に一方的に蹂躙されるなど悪夢だ!あまつさえラプターを抱えてジャンプし、地面に激突して無傷など悪魔が作ったとしか思えん!」

 

「貴様が………我が剣を破ったというのか……! 貴様らの組織の強化技術とは何だ!? なぜ貴様の様な小娘が我が剣のことごとくを見切れる!? 言え! 言わねばこの場で……!」

 

 「妹に手出しはよしてもらおう。帝国斯衛の矜持とはその程度のものであったのか?月詠中尉よ」

 

 我が恩師である神宮寺軍曹は小さな少女をかばいながら必死に激昂する彼らを取りなそうとしていた。しかし聞けば聞く程とんでもない機体と彼女だ。高名な物理学者でもある香月副司令の腹心として動いてきたお陰で物理には多少詳しくなったが、あまりに物理法則から外れすぎているように思える。だが確かに様々な法則から外れているBETAに対抗しうる者かもしれない。

 

 

 「神宮寺軍曹。伊隅みちる大尉、涼宮遙中尉他速瀬水月中尉ただ今現地に到着しました」

 

 私と涼宮は神宮寺軍曹に敬礼をして挨拶をした。軍曹は教え子の私達に敬礼し、律儀に敬語で報告をした。

 

 「ご苦労さまです大尉、中尉。見ての通りただ今現場は大変混乱しております。後日副司令より説明をすると言っても皆興奮しており、引き下がりそうもありません」

 

 まあそうだろうな。彼らも散々にやられた以上、情報のひとつも持って帰らねば本国に顔向けできまい。そういう立場というのは痛いほどによくわかる。対象であるこの少女を守るのは骨が折れそうだ。クーデターを煽動した首班の沙霧尚哉の妹というのも立場を難しくさせるだろう。だがどれほど困難であろうと命令であり、その重要性も理解できる。

 彼らを説得すべく言葉を選び、口を開きかけた正にその時。その少女は我々の中心に歩み出た………?

 

 

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 

 

沙霧真由Side

 

 

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 お兄ちゃんとやっと出会い話すことができました。お兄ちゃんに投降させることにも成功し、私の用事は一応終わったんですが………月詠中尉やウォーケン少佐らに詰め寄られピンチです。お兄ちゃんに会った後はどうなってもいいと出発する前は思っていたんですが、私を必死にかばう神宮寺教官を見ているとそうもいきません。でも死人は出さなかったとはいえここまで調子に乗って彼らの機体をぶっ壊してしまった以上、そう簡単に事が済むとは思えません。私でもこの状況をどうにかするのは至難の業です。思わず胸元の貝殻ペンダントを握った時、懐のなにかに手がふれました。あ、これは出てくる前に作った……

 

 

 ピコ―――ン! 閃いちゃいました!!

 

 物理学チートに並ぶ私の最大の武器。それは様々な前世経験、原作知識、物理学チートなどに基づくチートな発想より生み出されるウソ。恐るべきウソこそが我が最大にして最強の武器です!そして今、この場を収める天才的なウソが私の脳内より生み出されてしまったのです!!

 

 素晴らしい! なんという我が頭脳!! 私の偉大なる叡智が皆を救うのです!! 今、ここからハッピーエンド一直線です!!

 

 

 ふと彼方から二機の不知火と一台の指揮車両が来ました。そして衛士強化装備と横浜基地の制服を着た二人の女性が降りてこちらにやって来ました。二人は神宮寺教官に敬礼して挨拶。皆の気がそちらに向いた隙に私は中央に歩み出ました。さあ、大一番です!

 

 

 

 「よろしい! 私からご説明いたしましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 




 今、ここに沙霧真由の真価が試される!
 彼女の言葉はここにいる全ての人間の希望………?


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最終話 沙霧真由でした

 「実は私は国連軍によって秘密裏に編成されたスーパーエリートソルジャーの隊員なのです!アメリカのエリア51の地下で極秘訓練を受けてきました!コードネームはSES009。ゼロゼロナンバーを持つ最後のひとりで最高のエリートソルジャーなのです!」

 

 アンリミテッドをプレイしたみなさんならお気づきでしょう。そう!これはゲームガイを持ってたことで仲間に不審がられた白銀君がとっさについたウソです。ここでは私がゲームガイを借りっぱなしなので起こらなかったイベントですが、私がここでいただきましょう!

  

 「我が国のエリア51………ネバダ州か?にわかには信じがたいが君の……いや、君の所属組織の目的はなんだ。」

 

 「それはアメリカのある大物組織の計画を潰すことです。詳しくはこれに全ての情報があるので見てもらいましょう!」

 

 ピシャピシャピシャーンと取り出したゲームガイ!白銀君から借りっぱなしのものですが、なぜこんなものを持ってきているのか?それはこういうわけです。

 

 事の始めは開発室で横浜基地の受信を傍受してた時、夕呼さんの『連中をおとなしくさせるにはネタが足りないわ。撤退準備してた時だいぶ放出しちゃったの。』という会話を拾ったことからです。

 つまりオルタ原作では第5推進派はクーデターを最後に夕呼さんに行動を縛られてなにもできなくなりますが、ここではそうはいきません。なぜなら夕呼さんは一時的に撤退を決意したため、だいぶ陣地を切り崩してしまったからです。(私のイタズラがこんなことになろうとは!)そこで私独自に手を打とうと考えたのが、第5計画を起こした場合のシミュレーションを作ることです。データはとっくに揃えてあるし、シミュレートも完了しているので後は媒体にまとめるだけです。でも紙やUSBメモリじゃ、いざという時簡単に握り潰されちゃいますよね?

 そこでゲームガイ!この世界の最高を凌ぐ液晶と、様々な機能をコンパクトにしたこの世界にない技術!これなら簡単に破棄することなどできません!私はこれにG弾を全ハイブに落とした場合に起きる重力異常のシミュレーションデータを入れ、ついでにゲームの映像やシステムなどを使ってエンターテイメント溢れるシミュレーションを作りました!そして私が捕まった時、第5計画を暴露できるよう持っていたのです!

 

 

 「信じられん………この液晶、現状世界最高と言われるプレアディスのGPS最新物を遙かに凌いでいる……それにこんな小さな端末にどれほどの情報が?アニメや音楽、キャラクターをここまで精巧に作ってあるのは何故だ?」

 

 「それより内容だ!米国上層部のヤツら、世界を滅ぼす気か!?」

 

 「国連軍のスーパーエリートソルジャー?そんなものがいるなら私が知らないハズが………だがあの戦闘力とこの精巧な端末、そして第5計画をこれほどまでに暴く情報力と分析力は………?」

 

 

 

 

 いや~自分の作品でこんなに夢中になってくれる人達を見るのは楽しいですね!前世の有名同人作家にでもなった気分です!

 おや争っています。ウォーケン少佐対月詠中尉対伊隅みちるなんて豪華なバトルを見れるとは!しかもゲームガイを巡って!子供じゃないんだから仲良く遊びなさいよ。

 いや~笑える光景ですね。もう無理!本当に笑っちゃいます!

 

 「ア~ヒャヒャヒャヒャ!ア~ッハハハハハハハハ!ゲームは仲良く遊んでくださ~い!」

 

 ムググッ!? あれ?涼宮遙さん……ですね。どうして初対面な私にそんなに必死に抱きついて口を塞いぢゃってるんです?神宮寺教官とお兄ちゃんもどうしたんです?そんなに青い顔しちゃって。なにか心配ごとでも?まあ、あの愉快なトリオのキャットファイトでも見て楽しみましょう!

 

 機体から見ている二〇七訓練小隊のみなさんとクーデター部隊のみなさん、お兄ちゃん、神宮寺教官、涼宮中尉などに囲まれて愉快なバトルは続きます。

 

 長く悲しい夜が終わり、笑える朝がやってきました―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 結局ゲームガイはアメリカ、帝国には横浜からの技術提供、私は国連の横浜基地ということで話はつきました。

 そして今、私はクーデター派の一味としてとんでもない期間の刑期を言い渡され、この私専用の少年刑務所で刑務を送る日々です。………うん、これじゃよくわかりませんね。こういうことです。

 あの後、夕呼さんは私をオルタネイティヴ4計画の副産物だと発表しました。横浜基地から数キロ離れた場所にあるこの『横浜特殊少年刑務所』というのは名前だけで実際は私専用の医療、研究施設です。わざわざ発表したのに研究所を刑務所にするとか夕呼さんの悪意を感じます。

 

 「色々都合がいいのよ。研究機関だと外からの人間入れざるを得ないけど、こうすりゃ入れる人間絞れるしね。それにピアティフとまりもの仇よ。」

 

 「私があの人達に何をしたっていうんですか!」

 

 いま私はこの少年刑務所の責任者である夕呼さんと面談しています。佐渡島戦に向けての兵器の改修について話し合う前に雑談してます。

 

 「ピアティフはあんたについている間中、いつ機密なり不味いことしゃべるかビクビクだったのよ。まりもはそれを見てあたしが変な謎組織に脅されてると心配されちゃったわ。あたしもラダビノット司令に疑われるし。」

 

 いったいなんで謎組織なんてオカルトが広まったのでしょう?

 

 「最後の『国連のスーパーソルジャー』なんて米国と帝国相手にとんでもないウソかましてくれたりで説明は大変だったけど、帝国の誤解は解けたわ。あのシミュレーションのお陰でオルタネイティヴ5の危機論が高まって連中もおとなしくなったのも僥倖ね。こっちの計画も順調だし一気に引き離すわ。」

 

 「そういえば帝国に渡した技術って何です?宇宙由来素材のどれかですか?」

 

 「アレはあんたがいなきゃまだ十分な精度が出せないから使えないわ。あんたの作った放射能除去装置よ。」

 

 「あんなので?BETAのガラなんて劣化ウラン弾の放射能まみれなんでチョチョイと作ったんですが………あれで取り引きなんか出来たんですか。」

 

 物理学チートなんで放射物質の動きなんかも簡単にわかっちゃうんですよ。

 

 「あれほど完璧に除去出来るブツをチョチョイと………。劣化ウラン弾の扱いが楽になったって随分感謝されたわ。」

 

 「じゃ、重力異常を引き起こしていると思われる物質の除去装置なんかも使えますね! 流星がキン肉バスターするための改造が大変だったんで研究中断してるんですが。」

 

 「………重力異常の方を優先させなさい。あと、そのキン肉バスター?だけど何故かその映像が世界中に拡散しちゃってるんだけど? 」

 

 「なんということでしょう!あの雄々しい勇姿を世界中に広めて何をしようというのか!? まさかその恐るべき謎の愉快犯はあまりにカッコよすぎて思わず世界中に広めてしまった、とでもいうのでしょうか!?」

 

 すると夕呼さん、私に飛びかかってきました!?

 

 「限りなく自白に近いウソ言ってんじゃないわよ!自軍の軍事行動の映像広めるアホがこのツインテール以外のどこにいるって~のよ!”ラプター・クラッシャー”とか”アメリカ・ブレイカー”、なんてつけられて反米団体のシンボルみたいになってんのよ!どんだけあの傲慢国家に無駄な借り作るのよ!」

 

 ギリギリギリギリギリギリ!

 ぎぇ~~~~! ツインテール引っ張らないでくださ~~~い!

 

 

 

 一頻り夕呼さんに拷問された後、お兄ちゃんらクーデター派の話題になりました。

 

 「……というわけで彼ら、数回の任務達成で減刑されることになったわ。無論、危険任務だから死んでも恨まないでね。まりもが色々と骨を折ってくれたお陰で首謀者のあんたの兄貴も銃殺は免れたわ。後でお礼を言っときなさい。」

 

 神宮寺教官は春に新しく新入生が入るまでここに常駐して私の相手をすることになっています。

 

 「そうですか。神宮寺教官が………。あの、お兄ちゃんに私から何らかの装備を渡すことってできますか?」

 

 「いいわよ。骨を折ってあげる。」

 

 あまりにあっさり請け負ってくれる夕呼さんにビックリ!

 

 「本当にいいんですか?ダメモトで聞いたんですが。」

 

 「あんたは私の罪の落とし子だからね。本気の願いならできる限り叶えてあげたいのよ。」

 

 「………?ニューブレインチャイルドのことですか?けっこうな暮らしをさせてもらったし、私はもちろん妹達も恨んでなんかいないと思いますが………」

 

 「それでもね………人にはしちゃいけないことがあるのよ。」

 

 そう言って夕呼さんは遠くを見るような目をしました。多分、あの研究所にいた妹達を見ているのでしょう。

 

 「検閲が終わったら訓練小隊からの手紙が来るわ。それまでに仕事をかたづけましょう。」

 

 「ラザフォード・フィールドですか。確かにビーム兵器作るために研究した技術が役に立ちそうですね。」

 

 

 

 

 ま、私は博士キャラ。この立派な研究施設と夕呼さんのつなぎがあれば横浜基地にいる必要はありません。でもやっぱり寂しいですね。いつか必ずみんなにもお兄ちゃんにも会うつもりです。

 

 それではお元気で! いつか『アンリミテッドは無理ゲーすぎる! ~BETA全滅編~』でまたあいましょう。沙霧真由でした!……………ウソです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 応援ありがとうございました!
 
 次回作をご期待ください!(空也真朋)


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BETA全滅編
第四十話 新章プロローグ


 ハッ!書いた憶えのない最終回コメントが!?


 

 こんにちは 沙霧真由です。

 ウソです。最終回じゃありません。さて、皆さんは覚えておいででしょうか?

 『銀魂完結篇 万事屋よ永遠なれ!』と銘打ってハデに劇場版で最終回ブチあげながら終わらず続いた”アニメ銀魂”を。

 古く歴史をたどれば『さらば宇宙戦艦ヤマト』とこれまた劇場版して主役の古代君、ヤマト共に爆死した最終回にも関わらず、何故か両方復活して続行。しかもその続きが『ヤマトよ永遠に』とこれまた最終回っぽいタイトル。もちろん終わらなかったのは歴史の通り。

 その他、アニメ、漫画問わずさまざまなジャンルで名作と呼ばれた数多くの作品に見られたこの偉大なイベント。

 

 そう!伝説の”最終回ウソ”!!!

 

 不肖、私も皆さんにあの感動をお伝えすべく挑戦してみました!

 それっぽいサブタイトルを二話前からつけたり作者の最終回コメント捏造したりね。

 素晴らしい!!! 正に涙と笑いと感動の集大成!! 私も皆さんにこの感動をお届けできて感無量、喜びで一杯です! 

 いや~”最終回ウソ”って本当にいいものですね!!

 『アンリミテッドは無理ゲーすぎる!』はまだまだ続きますよ!

 

 さて、お兄ちゃんのクーデター事件の後、二〇七訓練小隊の皆さんは正式に衛士となり夕呼さん直属の”A-01部隊伊隅ヴァルキリーズ”に配属となりました。その後の評価試験も新潟でBETAを捕まえられなかったため、BETAが脱走して襲うこともなく白銀君達は凄い成績を出したそうです。

 さらに00ユニットであるロボ純夏さんも完成!調律はかなり苦労したみたいですが白銀君が頑張って安定させたそうです。

 クーデターや評価試験でAー01部隊の人的損耗はなく神宮寺教官も無事でしたが、実戦経験が足りなくなってしまいました。そこで前に作った”リアルBETAシミュレーション”を複数製造し、A-01部隊全員にBETAの恐怖を乗り越えられる精神力をつけるよう特訓中。伊隅隊長にも好評です。元二〇七訓練小隊の皆さんはクーデターが起こる前からやっていたので新任とは思えないほど冷静に対処できるようになりました。

 

 私はというと『横浜特別少年刑務所』という研究所で佐渡島戦に向けて様々な研究、発明をしています。”少年”とついていても”実は男でした!”とかじゃないですよ?この場合の”少年”は未成年一般を指す言葉です。

 で、私が設計した”流星”ですが私といっしょにここで実験戦術機としてあります。新素材や新機構のデータを取るための機体になってるんですよね。クーデター事件で見せた様に凄い機体なんですけど、他の機体と違いすぎて整備出来ないんですよ。だから実戦に出せないんです。

 整備について少し話しますね。機体を万全の状態で戦場に出すには機体を定期チェック、起動前チェック、弾薬エネルギー補充、帰還チェックと修理等、複数の整備兵が整備マニュアルの手順に従って整備をしなければなりません。日によって担当が違うこともありますし、遠征したらそこの現場の整備兵に機体を預けて整備してもらわなければなりません。つまり整備マニュアルの出来ていない機体は実戦に出せないんです。流星は今のところ私か河崎重工さんからの担当整備士しか整備出来ないから実験機にするしかないんですね。

 『アレ?じゃあ、スパロボ大戦の格納庫はどうなっているの? ガンダムとかで一機だけ全然違う主人公機とかは?あれはウソの話なの?』などと疑問に思った皆さん、早計すぎですよ。何故に”人類の革新はパイロットにしか起こらない”などという愚かな常識に囚われているのです?

 

 

 ダダダダダ! ザザァ!

 

 「なんだと!? どういうことだ!?」

 「何がわかったんだキバヤシ………じゃなくてお嬢ちゃん!」

 

 「あれ、いつの間に? 貴方たち誰です? キバヤシって?」

 

 「俺たちはMMR。人類の未来の希望を探すため『ノストラダムスの予言』を調べている者だ。キバヤシってのは今ここにいないが、オレ達のリーダーだ。俺はナワヤ。よろしくな!」「イケダです」「タナカです。さっきの話の続き、聞かせてください。」

 

 (ノストラダムスって………1999年はもう過ぎているのに? ……ああ、リアルで人類滅亡しそうだからオワコンにならないんですね。)

 

 「わかりました!説明しましょう!アストナージさんはじめモーラさんマードックさん等々、かの素晴らしい整備士の方々が整備マニュアルなきゃ整備できないように見えますか? 彼ら名前付き整備士こそは人類が革新し、機体と意思を通い合わせることが可能となった新たな人類……」

 

 「新たな人類ですって……?」「ハッ!そ……それは?」「まさか!」

 

 「そう! ”ニュータイプ整備士”だったのです!!」 ピッシャーン!!!

 

 「「「な、なんだってぇ―――――!!!」」」

 

 「いえね、私も科学力チートで流星の整備とかやるようになってはじめて彼らの偉大さに気がついたんですよ。私は直接機体に触らなくても見ただけで機体の性能や悪い部分、内部の構造なんかがわかります。で、トンデモ機体を扱っているガンダム整備士の皆さんが私の能力に近いチートな能力を持っていることを発見したのです!

 特に『機動新世紀ガンダムX』に出てくるキッドさんなんて凄いですね。いきなり運び込まれたガンダムXもガンダムDXも難なく整備しちゃってます。サテライトキャノンというトンデモ兵器付の機体をですよ!

 ジャミルさーん!ニュータイプはフリーデンの格納庫にもいますよ――――!!」

 

 「そ……そうだったんですか!」

 「ああ、こんな恐るべき事実を俺達は見過ごしていたのか!」

 

 「ですが彼よりさらに上をいく、戦慄すべき整備士がいるんです。」

 

 「な、そんな!」「信じられません!」「バカな!あいつより上が存在するのか!?」

 

 「そう!その名は『機動戦士00ガンダム』のイアン・ヴァスティさん!なんとまったく性能の異なる四機の太陽炉ガンダムをほぼ一人で整備しているのです!」

 

 「まてよお嬢ちゃん!そいつは見当違いだぜ!」

 「そうです!彼には整備を手伝ってくれるハロがいます!」

 

 「おや、あれにダマされちゃってますか。そりゃあプレトマイオスの整備なんかもやっているんですから、ああいうのがないと物理的に不可能です。

 ですが、いくら手伝いがあったって機械は機械。機体を熟知し、的確な指示を出す人間がいなけりゃ正しい整備はできませんよ?」

 

 「ハッ!た………確かに!」「オレ達はダマされていたのか!?」「何て巧妙なトリック!」

 

 「エンジンにしろ何にしろ出力が高いものほど整備は難しい。これ常識。ましてや太陽炉はいうまでもないでしょう。

 さらに!機体も格闘特化、射撃特化、高速機動機、大火力機(ギミック付)とバラバラ!一機ごとにまったく違った整備をしなければならないのです!」

 

 「バ………バカな!やつは本当に人間なのか!?」

 

 「そうですね。彼は物理学チートの私をもってしてバケモノと仰ぎ見るしかない、とんでもないニュータイプ整備士です。おや、ちょうどここに彼と家族の写真がありますね。まったくこんな普通そうなオジサンが………ハッ!こ……これはまさか!…………いえ、そう。そういうことだったのですか………」

 

 発見した事実の衝撃に、足元がおぼつかなくなる私。ガシッとナワヤさんが支えてくれました。

 

 「どうしたんだ、お嬢ちゃん。何かわかったのか?」

 

 「ありがとうナワヤさん。みなさん、これを見てください!」

 

 私はみなさんにこの写真を手渡しました。

 

 「イアンさんの家族写真?特にかわったところはありませんよ?」

 「どういうことだお嬢ちゃん!ここからなにがわかるっていうんだ!?」

 「僕らにはさっぱりわかりません!」

 

 「注目するのは彼の娘のミレイナさんです。彼女を見てどう思います?」

 

 「どうって……かわいいですね。小学生?中学生?」

 

 「当時14歳なので年齢的には中学生ですね。ですが彼女、この時点でなんとプレトマイオス2の戦況オペレーターなのです!」

 

 「な!こんな子供が!?」

 

 「知っての通りプレトマイオス2は世界中を敵にまわしたソレスタルビーイングの艦。つまり世界中の警戒網を避けていかなければならないのです。トップレベルの腕前がなきゃ務まりません。にも関わらず彼女は立派に務めている。この年齢でそこまでの技術を持つことが可能な理由、それはイアンさんのとある血統だとは考えられませんか………?」

 

 「な………なんだと?」「まさか………」

 

 「そう、彼こそは太陽炉ガンダムに最も深く関わっており、放出されるGN粒子の影響による、より進化した整備士…………」

 

 私は一旦言葉を切り溜めます。そして放つ言葉の弾丸。

 

 

 「”イノベイター整備士”だったんですよ!!!」 ピッシャ―――――――ン!!!

 

 「「「な、なんだってぇ―――――――――――――!!!!」」」

 

 真実の衝撃に絶叫のMMRのみなさん! 一瞬静まりかえった後我にかえり、

 

 「お、おい!このことを公表すれば………!」

 「ハイ!世界中がひっくり返ります!」

 

 「あ、いや私、いろいろやらかして目立つのはマズイんで大事にしないでくれます?」

 

 「なんだと!?これほどの事実を公表できないってのか!?」

 「待ってください!そろそろキバヤシさんと合流しないと!」

 「そうです!キバヤシさんが”ノストラダムスの予言書”の解読に成功すれば必ず人類の希望は見つかります!」

 「そうか………そうだな。よし!MMR出動だ!!」

 

 

 ドドドドドドドドド……

 

 

 行ってしまいましたか。勢いで適当なこと言ったら何でも信じる人達ですね……………………て、プロローグは!? ちょっと整備のウンチク話するだけのつもりだったのに何でこんなことに!?…………すいません、次回、プロローグやり直します。

 それじゃ、これからも『アンリミテッドは無理ゲーすぎる!』をよろしくお願いしま~す!

 

 

 

 

 

 

 

 




 まさかの最終回ウソ!
 プロローグ失敗!
 はたしてノストラダムスの予言書は人類滅亡を回避できるのか!?
…………………いやこれはナシで

 そしてBETA全滅編開幕!
 沙霧真由のBETA全滅伝説がいま始まる!!!


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第四十一話 新章プロローグ(やり直し)

 こんにちは 沙霧真由です。

 クーデター事件決着から三ヶ月たちました。私はこの『横浜特別少年刑務所』で研究の日々ですが、横浜基地では色々あったようです。それまでの出来事をざっと教えますね。実際の私が知らないことなんかも言いますが、プロローグ中の私は《説明回》の私と同じようなものと思ってください。

 まず、二〇七訓練部隊も皆さんはあの後すぐ正式な衛士になりました。彼らも佐渡島の作戦に参加させるためですね。

 そして衛士初任務の評価演習。新型OS・XM3の正式採用トライアルです。私の流星に散々にやられてケチがついてしまいましたが、旧OSの機体を圧倒することでその性能を証明することができました。ただ白銀君は凄すぎて相対した機体を全て秒殺しちゃったそうです。演習が終わった後、何とかやっと反撃できたベテラン衛士にこう言われたそうです。

 

 「世界中に流れた映像の銀の戦術機に乗っていたのはお前さんだろ?で、アメリカ相手にヤンチャやらかして訓練兵からやり直しってワケか。まあ俺もあの国にゃ色々言いたいことは有るが、それでも人間の国家だ。あの映像でご自慢のラプターも面目丸潰れだしこの辺で やめとくんだな。今度はBETA相手にその腕を振るってくれ。

 しかし横浜ってのはバケモノの巣だな。この新型OSといいお前さんといい。極めつけはあの銀のでかい戦術機だ。ラプター抱えてとんでもねえ高さまでジャンプするパワーも、それで着地して全くダメージ無しだの。その力、BETAに喰らわしてくれりゃこんなに心強いことはねえ!」

 

 と、固く握手して友達になったそうです。いや白銀君、あれをあなたがやったことにされちゃったらヤバイでしょう!しらないオジさんと友情結んでる場合ですか!

 

 そして現在。ちょうどオルタ原作より三ヶ月遅れましたが、佐渡島戦目前です。遅れて申し訳ありません………って原作の方が早すぎなんですよ!クーデター終わって卒業やって評価演習やって佐渡島戦。それ全部を二週間ちょっとでやるとか!帝国の方も大分戦える衛士を減らしてたハズなのに部隊編成とかどうやったんでしょうね?

 

 私はというとXG-70bこと凄乃皇の荷電量子砲の改修設計が主な仕事です。エネルギー効率を良くし、さらに流星に使った超高電池により元のものより倍以上の発射回数ができるようになりました。さらに威力も砲身に宇宙断熱素材を使うことで数倍の熱にも耐えられるようになり、ガンガン威力を上げてスーパー荷電量子砲にしました。ハッ!これはもはや波動砲!?

 佐渡島ではこれでハイヴ上部から反応炉目がけて撃ち込む作戦です。その前にハイヴ突入作戦をやるそうですが………私はそれは失敗すると思うのでやめた方がいいと思います。でもその辺の作戦に口出しできるはずもないのでほっとくしかないですね。

 凄乃皇、『ハイヴに入らず安全に反応炉壊せます!』とのキャッチフレーズで大人気になること受けあいですね!

 

 あと00ユニットであるロボ純夏さんですが、無事完成しました。まあ、完成しなきゃ佐渡島の評価試験自体無いワケですが………問題はやっぱり壊れちゃった心。口を開けば『殺す殺す』言う純夏さんを調律するのはもちろん白銀君!………なんですが、ここの白銀君はラブコメマブラヴから来たばっかりのアンリミテッドの白銀君。オルタ原作より心が弱くて、中々上手くいかなくて、それでも頑張って。ようやく純夏さんを人間らしい状態にしかけたらまたまた問題。実は白銀君、前のラブコメ世界じゃ、よりにもよって『冥夜ルート』だったのです!

 なのでそれから色々大変だったんです。

 

 

 純夏さんがリーディングで白銀君の心を覗いて自分をふっちゃうシーン見ちゃったり、冥夜さんとのHシーン見ちゃったり。

 

 

 純夏さん白銀君に会いたくないと引きこもったり、白銀君雨に打たれて純夏さんの名前を叫んだり。

 

 

 白銀君霞ちゃんに『弱虫』といわれたり、美琴さん話を聞かなかったり。

 

 

 白銀君冥夜さんと激しく模擬刀で剣道したり、激しく打ち合うなかであの世界の冥夜さんの恋を終わらせる決意しちゃったり、壬姫さんそれ見てあわあわしちゃったり。

 

 

  白銀君かなしみのまなざしを背中にうけて夢のような過去をすてちゃったり、冥夜さんのこころに失恋のいたみを残してはしり去ったり。

 

 

 私『女の子はモノで釣りましょう!きれいな貝がら嬉しかったです。』と手紙でアドバイスしたり、千鶴さん道具を手配してくれたり、それで白銀君木彫りでサンタうさぎ作ったり。

 

 

 白銀君純夏さんを横浜基地見下ろす丘に連れてきちゃったり、横浜わたる風に愛をさけんだり、慧さん焼きそばパン食べてたり。何してんでしょうね、この人。

 

 

 白銀君純夏さんの首にサンタうさぎをかけてキスしたり、それを元二〇七訓練小隊のみんなに見られちゃったり。まあ、それだけハデに青春ドラマやってればねぇ。

 

 さて!さてさて!みなさん憶えておいででしょうか?私の容姿はゴッド純夏さんの影響か、純夏さんの十歳ぐらいの子供の頃のような姿なのです(四話参照)。なので純夏さんを見たみなさんの反応はこのようなものでした。

 

 

 「……………ちびっ娘、成長した? 成長期ってすごいね。」

 「そんなわけないでしょ! まだ二ヶ月くらいしか経ってないのよ!」

 「そ、そういえばタケルもいきなり一日で成長しちゃったよね!まさか!?」

 「ぜんぜん訓練とかしてないのにものすごい技術で流星、動かしてましたよね! そういう所もタケルさんとおんなじです!」

 「沙霧………。その成長は色々聞きたいが、とりあえずよかったな。タケルを…………よろしく頼むぞ。」

 「ちょ………!みんな待ってくれ!真由は横浜特別少年刑務所から出られないだろうが! 別人なんだよ!」

 「………別人です。純夏さんは真由さんじゃありません。」

 

 

 このことを聞いた夕呼さんはポツリ。「あいつっていなくても祟るのね………」

 いや、私は関係ないでしょう!

 結局、純夏さんは私の生き別れの姉。私は赤ん坊の頃家族全員が死亡、もしくは行方不明で病院に預けられてた所を沙霧家に引き取られた、ということになりました。

 

 ………とまあ、これでなんとか佐渡島ハイヴに挑む準備が整いました。ではみなさん、頑張ってください!…………あ、白銀君と冥夜さんの強化装備には純夏さんがリーディングできないように処置してもらわないと。でないとオルタ原作より酷いことになりそうな気がします。

 

 

 

 

 

 

 




 次回、”もしも凄乃皇が途中リタイアしなかったら?”
 の佐渡島ハイヴ攻略戦!

 お楽しみに!


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第四十二話 佐渡島戦記 前編

 それは壮大な00ユニット評価試験
 佐渡島ハイヴ攻略戦!
 再び白銀武を主人公に新たな甲21号作戦が始まる!


 白銀武Side

 

 オレ、白銀武。ただいま佐渡島で絶賛戦闘中!

 この世界に来た頃はみそっかすでみんなの足を引っ張ってばかりのオレも、なぜか今じゃ先任を超えるぐらいガンガンBETAをぶっ殺している。なんでいつの間にこんなに強くなったんだろうな?長年バルジャーノンやってきたからか?

 

 オレ達はまず戦術機母艦で佐渡島に来た。上陸した頃は帝国軍が手際よくBETAを掃討してくれたお陰で戦闘はほとんどせず、目標地点にたどり着き部隊を展開。ここへ向かってくる純夏の乗る凄乃皇を待った。その間、ハイヴ突入部隊がハイブ侵攻作戦を決行。しばらくすると中層を突破したという報告が来た。

 

 このまま順調にハイヴ制圧かと思われたが、突如ハイヴに進入した全部隊からの連絡がなくなったとの報が届いた。そして大量のBETAがハイヴ内から沸いてきたとの報告が!かなりの大部隊が進入し、戦況悪化の報もなく進んでいたというのに一瞬で全滅させられたらしい。

 なんて奴だBETA!!

 

 そしてそのとんでもない大量のBETAはハイヴから溢れだし、そのままオレ達に襲いかかってきた!さらにそいつらの背後には大量のレーザー種がおり、これから来る純夏の乗っている凄乃皇を狙っているという!

 

 それを聞いたオレは部隊が一刻も速くレーザー種に向かえるよう、たった一機での陽動を志願した。我ながら無茶なことを言い出したもんだとは思ったが、自分に宿った強さを信じて決行した。結果としてオレは見事陽動をやり遂げて生還した。部隊はレーザー種をほぼ殲滅!そして純夏の乗る凄乃皇が到着すると戦況は一気にこちらに傾いた!

 

 凄乃皇とは00ユニットである純夏の乗る巨大戦術機であり、さらに荷電量子砲なんていうとんでもない威力のビーム兵器?っぽいものを搭載しているらしい。よくわからんが、この巨大な質量が宙に浮いているだけでもとんでもないものだとわかる。

 

 凄乃皇の放つ荷電量子砲が一撃で辺り一帯のBETAをなぎ払い、さらにハイヴのモニュメントをまた一発で吹き飛ばすと戦場は歓喜につつまれた!何故かオレは前の世界で冥夜とエロいことをしたことを思い出してしまったのはナイショだ。

 さらにハイヴ上部の大地に撃ち込み、大穴を開けた。このまま荷電量子砲でハイヴ深奥の反応炉を破壊するのが制圧失敗時の第二作戦だ。二発、三発と撃ち込み、わき出してくるBETAごとさらに深くハイヴを壊していく。ハイヴの壁というのはかなり固い材質らしく、圧倒的破壊力の荷電量子砲ですら五度も撃ち込まねば目標の地下800M地点を掘り下げることはできなかった。ここから地下800M地点に降りて足場を築き、そこから反応炉を破壊するのだ。

 

 ハイヴ壊滅も目前かと思われた矢先、佐渡島中に大量のBETAが現れた!予想はしていたので迎撃に動いたのだが、いくら倒しても何度も現れる!

 そして今現在五度目の増援を相手にしている。純夏の凄乃皇も作戦を中止して迎撃に協力してくれたが、BETAの増援は一回が5千を下回ることはなく、そして今又六度目の増援が現れた!

 

 (ヤバイな………。こちらの弾薬やエネルギーが持つ間になんとかできるのか?)

 

 

 

 『ヴァルキリーズ全員傾注!』

 

 伊隅大尉から隊全員に命令が来た。

 

 『我々はこれより凄乃皇と共にハイヴへ降下し、反応炉破壊作戦を敢行する!地上のBETAは友軍にまかせ、一切かまうな!』

 

 「な!東部が破られたんですよ!流れ込んでくるBETAを無視なんてできるワケがない!」

 

 『友軍は他の制圧地域を全て放棄し、ハイヴ周辺のみを守ることとなった。反応炉を潰せばこの戦いは終わる!友軍のためにも一刻も速く作戦を完了させるんだ!』

 

 なるほど、確かに弾薬に余裕のある今のうちに決めないとヤバイかもしれない。これ以上長引かせると戦い疲れして他の地域も破られるだろうしな。

 

 オレはハイヴ突入の第一陣に選ばれた。ハイヴ内の安全を確保する役目で、第二陣が凄乃皇の足場を築き、三陣が凄乃皇、最後が後方警戒の殿という具合だ。

 最もヤバイ役目にビビリながらも潜ろうと機体を傾けたその時。

 

 巨大な地響きが一帯を襲った!

 

 オレの体はこれが地震などではなく、途轍もなくヤバイものだとなぜか警告を発した。

 

 そして信じられないほど巨大なBETAが登場!後の観測結果によると前高、全幅176M、体長1800M?もの信じられないヤツだ。

 

 そいつは彼方の地面から逆さ瀑布の様に登場!そいつの出現した地点の機体を20ほどもまとめて吹き飛ばした!

 

 体表もとんでもなく硬く、一回突撃して劣化ウラン弾をくらわしてみたがまるで通らない!

 

 しかも体内から大量のBETAを吐き出し、集結した友軍を次々襲い潰していく!

 ヴァルキリーズも元二〇七訓練小隊A分隊の高原、麻倉という隊員が押し潰され死亡した!

 

 必死で戦線を守る中、伊隅大尉から新たな命令が来た。

 

 『たった今司令部より総員撤退命令が出た!巨大BETAを凄乃皇で撃破した後全力で脱出地点を目指す!凄乃皇の直援以外は退路を確保せよ!』

 

 伊隅大尉はそう言うが………これは完全に詰んだぞ。そう思った瞬間だ。オレの心はまるで知らないオレのモノに置き換わった――――――?

 

 

 

 

 

 『もう無理だよう茜ちゃん、こんなの!』『弱気にならないで!ここを凌げばきっと―――!』

 

 ここを凌げば?そんな遠い未来を話してなんになる?

 そんな夢見がちな彼女達の前面に群がるBETA共に突入。退路を作るならここが一番早い。

 そこで長刀を振るい2,3体殺し、1秒生きる空間を作り出す。次の1秒にここは無いのだからまた1秒生きるための空間を作る。その繰り返しだ。

 

 『白銀!なにやってんのよ!陣形を守りなさい!』

 

 「申し訳ありませんが中尉殿、そちらが自分に合わせてください。”陣形を保ちつつ退路を築く”では遅すぎる。」

 

 『バカ!なにいってんのよ!そっちにはレーザー種が……』

 

 ああ、いるな。だからここを選んだんだ。

 レーザー種の射線を開けるべく他のBETAが退いていく。だったらそこに飛び込めばいい。そこが次の1秒を生きられる場所だ。

 後退するはるかに狩りやすくなったBETAを狩りつつ、レーザー種に接近。

 後方から援護射撃も嬉しいくらいきてくれる。命令違反の生意気新任を助けてくれるとは優しい中尉殿だ。

 こちらの射程距離まで来たなら、温存していた突撃砲でこちらを向いているレーザー種を優先的に撃破。そうしてできた1秒生きられる空間を駆け抜け、レーザー種の群れに突撃する!

 あり得ないほど接近できたレーザー種の群れを思う存分狩っていく。終わったらホラ、でっかい退路の出来上がりだ―――――――

 

 

 

 

 一方、超巨大BETAには凄乃皇が相手をした。質量だけでなく体表は恐ろしく硬い物質でできているらしく、幾度も荷電量子砲に耐えた。

 

 八発、九発、十発………

 

 やがて体半分を溶かした所でやっと活動が止まった。やった!これで脱出が……

 

  ズウゥゥゥン………… 

 

 「純夏!?」

 

 超巨大BETAを倒した所で凄乃皇は墜落してしまった。純夏もとうとう限界を超えてシステムダウンしてしまったらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 BETAの牙城ハイヴはやはり強固!
 反応炉破壊目前までいくも、超巨大BETAの出現に膝を折る!
 力尽きる凄乃皇!

 激動の後編に続く!


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第四十三話 佐渡島戦記 後編

 佐渡島ハイブ攻略戦佳境!
 白銀武達と凄乃皇に乗っている純夏の運命は!?


  白銀武Side

 

 

 凄乃皇が墜ちた! 純夏はどうなったんだ!?

 

 凄乃皇の墜落する所を見たのは補給を受けている最中だった。そして新たな命令を下された。

 この状況に対する最終作戦。純夏こと00ユニットを回収し全部隊撤退。凄乃皇を自爆させ佐渡島ハイブを消滅させる――――

 

 オレは伊隅大尉と共に純夏のサルベージ役に選ばれた。二人で凄乃皇内に入り機関内にいる純夏を手順に従い引き上げた。

 

 (意識なしか………。一刻も速く夕呼先生に見せないと。)

 

 純夏を案じるオレに伊隅大尉が話しかけてきた。

 

 「よく退路を作ってくれたな。もっとも命令不服従のため、ここの外では褒めるわけにはいかんのでここで礼を言っておくが。」

 

 「いえ、命令に従わず申し訳ありませんでした。」

 

 「しかしずいぶんな無茶をしたが機体は大丈夫なのか?もし異常があるなら正直に言って欲しい。乗った後では対処できんからな。」

 

 「本当に大丈夫なんです。部隊に入る前、しばらくオレが乗る不知火と共に真由の研究所の方にいましてね。新素材で作ったパーツでかなり強化してもらいました。OSもオレの反応についていけるよう改良してあります。お陰であんな無理をしても問題なく動かせます。」

 

 真由は預かっていたゲームガイをアメリカに渡してしまったことへのお詫びだと言っていた。思えばアレもオレと共にこの世界に来ちまったが随分数奇な運命をたどったものだ。

 

 「部隊に入るのが遅れたのはそういう訳か。とにかく結果はこうなってしまったが、この戦いで得られた情報は貴重だ。何としても基地に帰り、次の作戦に繋げるぞ!」

 

 ――――伊隅大尉はそんなことを言っていた。でも彼女に次なんてなかった。 

 

 

 

 

 「こちら白銀。ただいま鑑少尉と不知火に帰還します。周囲の警戒、よろしくお願いします。」

 

 凄乃皇から出る前にそう連絡すると鬼の声。

 

 『白銀!あんた、よくも堂々と命令不服従やってくれたわね!軍法会議は勘弁してやるけど基地に帰ったら死ぬほど懲罰くれてやるから覚悟しなさい!』

 

 速瀬水月中尉!? この人、いま伊隅大尉に代わって隊の指揮取ってなきゃいけないってのに何やってんの?

 

 「は、速瀬中尉!? 申し訳ありません!いえ、それより退路の確保は!? あれを塞がれたら基地に帰るどころじゃありませんよ!」

 

 『ちゃんとあんたの作った道は守っているわよ!ウチだけじゃなく帝国軍も。今それで帝国軍が順次撤退を開始してるし、大尉が戻るまで死守するわ。あんたはついで。』

 

 やれやれ、基地に戻っても地獄は続くのかよ。そんな感じでオレと純夏は不知火に戻った。

 伊隅大尉はまだ凄乃皇に残り、起爆装置のプログラムをセットしている。起爆装置と言っても爆弾の類ではなく、エンジン機関であるムアコック・レヒテ機関の出力を臨界まで上げて爆破するのだそうだ。その破壊力は佐渡島全てを消滅させる程のものらしい。………まあ、BETAの群れを一発でなぎ払う威力だしそのくらいはあるのだろうけど、とんでもない爆弾と一緒にいたんだな。

 

 実は今のオレは警戒する方ではなく守られる側。伊隅大尉と速瀬中尉以外知らないが。この場の最重要物の00ユニットである純夏を乗せているからだ。やがて速瀬中尉から連絡が来た。

 

 『白銀、大尉からもう間もなく帰還すると連絡が入ったわ。あんたは先に撤退してなさい。鑑を乗せているんだからさっきみたいな無茶するんじゃないわよ!』

 

 「了解しました。お叱りは母艦で。」

 

 オレは冥夜、柏木を護衛に一足先に撤退することになった。巨大BETAを倒し、レーザー種も片づけたので付近のBETAの排除もうまくいっている。問題はないだろう、そう思っていた。

 

 

 

 

 ――――ズウウウン!!!

 

 

 突如、巨大な質量音があたりに響き渡った!

 

 沈黙したはずの超巨大BETAが再び動き出したのだ!!

 

 凄乃皇の荷電量子砲を十発喰らい、体半分を溶かされているのになんという生命力!!!

 

 

 そいつは凄乃皇に突進した! くそ、伊隅大尉がまだ中にいるのに!

 凄乃皇は咄嗟にラザフォード・フィールドを展開して受け止める!

 だがこのままでは伊隅大尉は脱出できない!

 

 オレはデカブツの注意を引きつけようと機体を出しかけたが、

 

 『ダメよ白銀! あんたの機体には人類の希望が乗っている! 私がやる!』

 

 と速瀬中尉に止められた。確かに純夏の体調を考えると無茶な機動は出来ない。だが速瀬中尉が行こうとしたとき、まわりのあちこちからBETAが出てきた!

 それらはみるみる増えていき、全て凄乃皇に群がっていく!それらもラザフォード・フィールドに阻まれて取りつくことはできないが、これじゃもう伊隅大尉は…………!

 

 くそ!なんで凄乃皇に? まさか凄乃皇のエネルギー目当て!?

 凄乃皇はBETAの大海の中で沈み没する船にようにも見えた。

 

 そして船と運命を共にする気高き衛士がひとり――――

 

 『ヴァルキリーズ総員撤退! 速瀬、私からの最後の命令。そしてお前の部隊長としての最初の仕事だ。皆を率いて無事、基地に帰還せよ!………ヴァルキリーズをよろしく頼むぞ。』

 

 『……………了解……いたしました大尉。どうかあの世でもお元気で。いずれ私も……』

 

 『余計な気を回すな。お前達の顔は当分見たくない。そっちで長く苦労しろ。香月副司令と神宮寺軍曹にもよろしくな。それと白銀、鑑と横浜のムショにいる嘘吐きを頼むぞ。あいつはいつか必ずBETAを打ち滅ぼす方法を思いつく、そんな気がする。………まあ最期の美しい夢かもしれんがな。』

 

 「はい……大尉。いろいろありがとうございました!」

 

 オレは自分の中のありったけをこめて敬礼した。

 

 『他のみんなにも別れを言いたいが、さすがにそれは無理だ。さあ行け!生きて何事かを成せ!』

 

 最期は命令ではなく激励か。本当にあの人らしい――――

 

 

  撤退中はまるで何かに封じられるように悲しみはわかなかった。ただヴァルキリーズの先頭で的確、冷静にBETAを排除していく。大尉のことを思えども悲しめず、ただ機械のように戦う自分が無性に悲しかった。

 そうして無事、部隊の損耗もなく母艦に帰還した。

 

 母艦に戻って程なくして天地揺るがすような巨大な爆発。オレ達は甲板に出て佐渡島の消滅する壮大な光景を眺めた。そして伊隅大尉への感謝と敬意を込めて部隊のみんなといつまでも敬礼をした。

 

 母艦での待機中、夕呼先生が伊隅大尉と最後に通信を繋げて取った映像があると言ってきた。みんなで待機室に集まり、その映像で大尉に最後の別れをする。大尉がオレ達部隊のひとりひとりに送ってくれた言葉は力強くやさしかった。純夏や横浜にいる真由への言葉もあった。

 

 最後にオレへ向けたオレを案じ、期待しているという言葉に

 

 

 オレはやっと一粒だけ泣くことができた――――

 

 

 

 

 

 

 




 ライバルと呼ぶにはあまりに強大過ぎる敵BETA!
 この絶大な敵に沙霧真由はいかに戦う?


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第四十四話  ウソ吐き少女のBETA全滅計画

 香月夕呼Side

 

 

 あたしは今『横浜特別少年刑務所』に来ている。横浜基地から数キロ程にある比較的状態のいい廃墟を改修して造らせたものだ。名目こそ未成年の刑務所だが、実際は沙霧真由専用の研究所だ。沙霧の能力を知ってから準備させていたものを、クーデター介入の件でこの名目にしてあいつを隔離している。何しろ日常会話からイタズラまで悪意なく横浜基地を揺るがしかねないので、こうせざるを得ないのだ。

 

 佐渡島から帰還するとすぐ、横浜基地に戻らずこちらに来た。出発する前の帰還したら直ちに結果報告をする、という約束を果たすためだ。あとそこにいる腐れ縁のまりもに伊隅達の死を自分で伝えたい気持ちもあった。

 

 中に入るとまりもが迎えてくれた。四月からの新訓練兵の指導が始まるまでここに常駐してもらい、沙霧の指導を頼んでいる。

 

 「………というわけ。佐渡島ハイヴは潰せたけど、とても作戦成功なんて言えたもんじゃなかったわ。せっかく用意してもらって悪いけど祝杯のシャンパンはしまっておいて……いえ、伊隅達を偲んであんたが飲んでいいわよ」

 

 本当は戦勝報告して今夜はここで祝杯、といきたかったのにこんな結果を言わなきゃならないのは情けない限りだ。

 まさかあのXG-70bをもってしても勝利に届かないとは思わなかった。沙霧の改修設計と新素材の提供で当初よりはるかに強力な荷電量子砲を放つ機体となったのだ。あれでハイヴに入らず潰すことに成功すれば驚くほど短期間にBETA全滅を達成できたはずなのに。もっともハイヴの外壁が想定以上に強固で、中層あたりから撃たねばならなかったようだが。

 

 「私もやめておくわ。それより伊隅、高原、麻倉のご家族への手紙、私に書かせてくれる?任務内容を明かせない嘘だらけの手紙でも、彼女達の一片の真実は伝えたいの。………と、沙霧が待っているわ。あの娘にも報告、お願いね」

 

 真実か……。あのウソ吐き小娘に学ばせたい。まりもの指導で少しはマシになったかしらね。

 

 

 そうして沙霧の部屋へ通された。あたしが到着するなり、あいさつもそこそこに沙霧はPCで佐渡島ハイヴ攻略作戦こと甲21号作戦の結果報告データを熟読した。

 

 「伊隅大尉献身の凄乃皇自爆でからくも勝利……ですか。まさか途中リタイアもせず、原作よりはるかに強力にした凄乃皇をもってしても原作と同じ展開とは!」

 

 「は?途中リタイア?原作?なによそれ」

 

 「い、いえもし私がいなかったらこうなってんじゃないかな~という展開の………いやこの世界はもともとアンリミだからここまでこれないんだっけ?」

 

 「あんた、大丈夫?医務室行こうか?」

 

 この『横浜特別少年刑務所』は沙霧の体調を管理するための医務室もあるのだ。

 

 「いえいえいえ!今はマズイ…………あ~いや、これ!これはすごいですね!こんなバカデカ級BETA!こんなのまでいたんですか!」

 

 帰る前に医務室に放り込んでおくこと決定ね。大抵はこんなにも嘘が下手なくせに、たまにとんでもなく上手くなってあたしを出し抜くから始末が悪い。

 

 「”母艦級”と名付けることに決まったわ。こんなのが出てきたにも関わらず、A-01の損耗が伊隅を除いて二名に抑えられたわ。それ、凄乃皇の火力もあるけど、白銀が完全に包囲された状態からたった一機で退路を作ってくれたお陰らしいわよ。白銀を強化?したあんたにもお礼をいっとくべきかしらね」

 

 「何のことでしょう?全て白銀君の才能のなせる業!私は何一つしてません!

 そんなことよりこのバカデカ、これまで出現を確認されておらず、ハイヴ壊滅寸前に出てきた所からハイヴを守る”切り札”なのかもしれませんね。他のハイヴから大量のBETAを運んできて援軍に来たんでしょうね。

 外壁も頑丈すぎるし、これじゃハイヴを外から潰す策は使えませんね。どんなに不利でも潜らないと」

 

 「それ以前にBETAの総数もよ。事前の最大予想の四倍を超えていたわ。大陸のハイヴはさらに大量と考えられるし、援軍も短時間で来るでしょうからとても防衛線を維持できないわ」

 

 沙霧はそこで黙り込んだ。穴が開くほど戦闘データを眺め、そして言った。

 

 「………博士。私、この戦闘データで計算してわかっちゃいました。人類がBETAに勝つのは不可能です。向こうの生産力が人類側の百倍程度なら質を高めて電撃戦で挑むことができます。けれど、向こうの生産力は何と人類側の………」

 

 「あ~いわないで!それ聞いたらなんか気力とかゴッソリ無くなるような気がする!どれだけ絶望的だろうとやめるワケにはいかないんだから!ともかく00ユニットのハイブへのリーディングは成功したわ。このBETA情報でハイヴの構造やBETAの集積地なんかもわかったし、次こそハイヴ攻略を成功させるわよ!」

 

 「そうですか。まあ、私や博士が生きている間くらいは人類も保つでしょう。その情報で押し返せればそれだけ寿命も延びますしね。」

 

 こいつ………それでも”人類滅亡は確定”って計算しちゃったの?あえて計算しないようしてたけど、あたしも人類の絶望を予感している。どこかのニヒリズムがいうならともかく、こいつが言うなら本当にそう、なのね………………

 ってヤバイ!! 無理にでも立ち直らなきゃなんないのに!なに気力ゴッソリ奪ってんのよ!

 

 「ハァ…、この答えの出ない感じ、00ユニットに悩んでいた頃を思い出すわ。あの時みたいにあんたがパッと答えをくれたらねぇ」

 

 半ば恨みと八つ当たりで沙霧にこんなことを言った。この作戦でわかったBETAの底力と伊隅の喪失。これに耐えて副司令やるとかかなりキツイってのに、『なにやってもムダ』みたいなその態度。この災害小娘、あたしをどこまで落とせば……………

 

 「欲しいんですか?」

 

 「………………は?」

 

 「ありますよ。”BETA全滅計画”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 しばらく思考することができなかった。相変わらず言葉に爆弾仕掛ける災害小娘ね!

 

 「確認するけど、その”BETA全滅”ってどういう意味で使ってるの?まさか言葉通りそのままの意味で使ってるってわけじゃないわよね?」

 

 そろそろこいつとの会話は警戒モードで進めないと。

 

 「言葉通りそのままの意味で使っていますよ。この計画が成った暁にはBETAはこの地球上から一匹残らず消滅することでしょう」

 

 「………大きくでたわね。人類がBETAに勝つのは不可能じゃなかったの?」

 

 『ウソです』とかいい腐ったらはっ倒す!このあたしの気分を激しく下げたり上げたり、な所もやっかいなヤツなのよね。

 

「さっき言った”不可能”は物理的に考えて、です。物理の世界じゃ質量の小さいモノが質量の遙かに大きいモノに勝つのは不可能。でも人間の世界じゃとるに足らない小物が偉大な絶対強者を倒す、なんてことは偶あります。

 故に私の考えた”BETA全滅計画”。それは卑怯な小物が絶対強者に挑む伝統的手法………」

 

 沙霧は一度言葉を切り、溜めてこう続けた。

 

 

 「”毒殺”です」

 

 

 

 

 

 

 




 ”白銀君強化計画”以来再び沙霧真由が計画を謀る!
 仕掛ける相手は地球上全てのBETA!?

 人類勝利の鍵となるか?”BETA全滅計画”!!


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第四十五話 少女の計画に悪魔は嘲笑う

 香月夕呼Side

 

 

 「は?あんた、なんの話してんの?」

 

 「無論”BETA全滅計画”ですよ。どうします?のりますか?」

 

 「まずは話を聞いてからね。”毒殺”とか意味わかんないからちゃんと詳しく説明しなさい」

 

「詳細はいまは話せません。その上で協力して欲しいんです。詳しく話せるのは……………今から三日後。29日の夜に話します」」

 

 「話せない?なのにあたしに動けって?随分ムシのいい話ね」

 

 「ええ。ですから断ってもらってもかまいません。博士がやらないと言うのなら流します。この話は忘れてください」

 

 (押してこないわね。沙霧の目的はいったい……?)

 

 それなりの地位についた今、時たま”対BETAの画期的な発明!”などという話も持ち込まれることがある。下からだけでなく上からもだ。もちろん大半は使い物にならず、この手の話は精査しなければ話にならない。沙霧の話も向こうが話さない以上、こちらも立場上受けることはできないのだが………

 あたしは正直沙霧には期待している。こいつはあたしがさんざん悩まされた00ユニットにあっさり答えを出した。そしてこれまで起こした事件にも未来が見えているのでは?と思われるフシがいくつかある。”BETA全滅計画”もこいつが言うならただの与太、と片づける気にはどうしてもなれないのだ。

 

 (”毒殺”か………)

 

 BETAに効く毒はない。呼吸器も内蔵もないヤツらにそんなものは無意味なのだ。これは沙霧自身認めているし、万一BETAに有効な毒を発見したならあたしに隠す必要はない。直ちに報告するはずだ。

 それに”BETAに有効な毒”では話が繋がらない。それが即、BETA全滅に向かうというのはいくら何でも話が飛びすぎる。”毒”というのは文字通りの意味ではなく、BETAの急所のようなものを示唆しているのかもしれない。

 

 「で、それをあたしが受けたらなにすりゃいいの?」

 

 いくつか言葉を交わしても情報は得られないので、あたしは一歩下がることにした。相手が冷静な内に下がるのは本来なら悪手だが、沙霧がこの話が流れてもいいと思っているフシがあるのだからしょうがない。”BETA全滅計画”なんてものが本当にあるというのならもっと積極的に押してくるはずなのに?

 沙霧が出した条件は以上の三つだ。

 

  1:今日これから横浜基地に行き、直接反応炉を見せてもらう

 

 2:鑑純夏と会わせる

 

 3:三日後の29日に流星の新武装のテストを沙霧をパイロットにしてやらせる。なお、流星は万全の戦闘可能状態にする

 

 

 1は問題ない。あたしの権限で十分観察許可を出せる。元々沙霧に反応炉を調べてもらうつもりではあったのだ。

 2。問題ない。

 3。やはりこれが問題ね。要するに29日に流星に乗ってどこかへ行くことを幇助しろ、と言っているのだ。やればもちろんあたしの責任問題になる。

 一応これで現時点で沙霧から出せる話は全てみたいだ。これからどう判断すべきか………。

 安全策をとるならここで一旦断って29日改めて話を聞く、というのが最善だろう。だがあたしは数多くの交渉を経験したことから知っている。この場合の安全策とは最高の結果を手放すことであり、それをすることはこの話を蹴ることと同じであり、結果お零れにしかあずかれない。

 故に受けるか否か。二者択一で臨むべきだろう。

 あたしは会話だけでなく沙霧の顔色や態度からも情報を得ようとさっきから観察しているが、どうも様子がおかしい。妙に感情が感じられないのだ。

 

 「あんた、まさか薬を断っているの?危ないわよ。その状態でいると急激に脳を消耗するのよ!」

 

 「ええ。でももし博士が受けたなら必要ですから」

 

 ………ああ、その状態で反応炉を調べるのね。そうなると沙霧の観察で情報を得るのはほぼ無理ね。となるとここまでで決断しなきゃいけないわね。受けるか否か……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………クスクスクス――――

 

 

 

 「!?」

 

 

 いきなり小さな女の子達の笑い声のようなものが聞こえた!? ハッとして周りを見回すが、沙霧以外誰もいない。もちろん沙霧はさっきからずっと観察しているので違う。

 

 「博士、どうしましたか?」

 

 「……………いいえ、なんでもないわ」

 

 沙霧にそう答え、沙霧の顔を見たときに思い出した。そういえばあの笑い声、昔一度聞いたことがあったわ。

 それは以前、沙霧ら4人の赤子に00ユニット前実験の処置をした時。

 手術の後、少女らが楽しそうに笑う声を確かに聞いたのだ。

 

 それは――――あたしがあの娘達から奪った人の心?…………………ああ、そういうことね。

 

 

 

 「いいわ、受けるわ。なにも聞かずすべて用意する」

 

 「う………受けちゃうんですか!?本当に!?」

 

 全面的に了解したというのに沙霧は喜ぶどころか慌てている。

 

 

 なるほどね――――

 

 

 ”BETA全滅計画”はある。でも”代償”もある

 

 

 そして沙霧はそれを恐れている。だからこんな形になったのだ

 

 

 でも翻す気はない

 

 

 これが沙霧とあの娘らの出す試練だというのなら…………

 

 

 そう。何があろうとも、あたしはあの日の罪に誓って

 

  

 逃げるわけにはいかないのだから――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♠♢♣♢♠♢♣♡

 

 沙霧真由Side

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 

 「あんたが出掛けるのに必要な手続きをしてくるわ。その間に準備しておきなさい」

 

 そう言って夕呼さんは部屋から出ていきました。

 まったく夕呼さんもよくウソつきな私のこんな怪しい話に乗る気になりましたね。これで副司令なんて地位について大丈夫なんでしょうか。

 ……………いえ、あの夕呼さんが話だけで判断するなんて素人臭いことするわけありませんね。会話している間中私のことをじっと見てました。どこでそう思ったのか私の話に脈があると嗅ぎ取ったのでしょう。思えば私も夕呼さんに背中を押して貰うためだけにこんな形で話したのかもしれませんね。

 正直、佐渡島戦のこの結果はショックでした。私はアンリミテッドのこの世界をオルタネイティヴ世界以上のものにすることに成功し、この戦いも楽勝と考えていました。でも”BETAの底を見る”という所まではいったでしょうが、それは人類が到底およばない奈落の底。とても戦力増強なんてやり方じゃかなわない、とわかってしまいました。

 この結果を見るとオルタ原作で純夏さんのリタイアで部隊が早々に撤退したのは幸運だったのかもしれませんね。もし、ハイブにダメージを与える所まで善戦していたら間違いなく被害は甚大なものになっていたでしょう。

 

 ま、とにかくやると決まった以上迷いは捨てますか。

 横浜基地に出かける準備にまずリボンを変えます。それは自分で作ったバッフワイト素子とマイクロチップで出来ており、純夏さんのリーディング対策のためです。純夏さん相手には対霞ちゃん用の思考波撹乱リボンじゃ足りませんからね。

 それから机の引き出しからUSBメモリを出します。中身はこれから横浜基地に襲撃に来るであろうBETAが高度な陽動を行う可能性。そして純夏さんがODL浄化のさい、オリジナルハイブへ彼女の持つ情報を送っている可能性を色々こじつけて納得できるレポートにしてあります。これを夕呼さんに見せれば三日後に起きるはずのBETA横浜基地襲撃の被害を減らせることができるでしょう。

 話の流れ次第でさっきの面談で使うつもりでしたが、私はこれを――――――

 

 

 

 踏み潰してバラバラに壊しました!

 悲しい気持ちで残骸をゴミ箱に捨て、出掛ける準備にかかりました。

 

 

 

 

 




 動き出したBETA全滅計画!
 悪魔が嘲笑うその計画!

 果てに待つものは………?


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第四十六話 横浜基地へ

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 

 「あたしね、けっこう危険なギャンブルって好きなのよ。で、それに勝ったり負けたりしてきたけど、勝ったいくつかで今の地位とか立場なんかを手に入れたわけ。

 そのあたしのカンがいうわけよ。この話は”買い”だってね」

 

 というのが夕呼さんが私の話にのった理由だそうです。カッコイイけどその下で働いている身としては冷や汗モノの上司ですね。

 さて今現在、夕呼さんと護衛さん達と共に車に乗って10分ほど先にある横浜基地に向かっています。

 

「博士、これどうしてもつけてなきゃダメですか?」

 

 私の手首には手錠がガッチリついています。外へ行く時はつけてなきゃいけないそうです。今更ながら自分が罪人ってことを自覚しちゃいますね。

 

 「一応あんたに刑罰受けさせてるってアピールは必要なのよ。流星で暴れて帝国やらアメリカやらの顔をいろいろ潰しているからね」

 

 「嗚呼!なぜにどうして通信にまるで気を遣わなかったのでしょう! 通信さえ出来ていたなら神業の如き私の巧みなウソで1度も戦闘せずに大団円となっていたでしょうに!」

 

 「いや………それは幸運だったわ。それしてたら帝国、米国共に怒り狂ってなにするかわかったもんじゃなかったわ。事件の最後についたあんたがスーパーソルジャーだってウソだけでもかなり混乱したし」

 

 横浜基地前に着くと、私は護衛に守られながら夕呼さんがゲートキーパーの伍長さん達に身分証チェックするのを待ちます。私の身分証は抹消されたのではなく夕呼さんが預かっており、ここへ来る時は夕呼さんか他の誰かに持ってもらう、という形になります。

 

 

 「確認とれました。お帰りなさい、副司令!………おチビちゃんもな」

 

 伍長さん達は私にも挨拶してくれました。私は「ありがとうございます。ただいま。」と言って夕呼さんと基地に入りました。伍長さん達とはここに初めて来た時白銀君がらみでハデに押し問答したんだけど、それ以来なんとなく仲良くなって時々話したりなんかしてました。

 

 

 

 

 

 「で、どうする?鑑に会う?」

 

 夕呼さんの自室に入ると夕呼さんが聞いてきました。

 

 「いえ、まず反応炉からお願いします。早くお薬飲みたいので」

 

 「ああ、そうだったわね。ちょっと待ってなさい」

 

 夕呼さんは内線をかけ、あちこちに指示。やがて涼宮さん(姉)が部屋に来ました。ふんわりした感じのやさしそうな人です。そういやクーデターが終わって基地に帰還する時には彼女が私についていました。

 

 「ピアティフはあたしの代わりに事後の後始末をしているからこれないわ。代わりに涼宮があんたにつくわ。涼宮、突然で悪いけどお願いね」

 

 「はい、地下の反応炉へ沙霧さんを案内せよとのことでしたが、昨日あれだけ大きな戦いを行った直後ですのに今すぐに?」

 

 「本当はあたしも今日ぐらい伊隅達を偲んで泣きたいんだけどね。あの結果じゃ偉い人やら邪魔したい奴が色々突いてくると思うのよ。そういうヤツらに隙を与えないためにもすぐ次の手を用意しないといけないの。これもその一環と思ってちょうだい」

 

 「そうなのですか。いえ、失礼いたしました。任務、謹んでお受けいたします」

 

 そう言って涼宮さん、ピッと敬礼。この人がやるとなんか可愛いですね。

 

 「涼宮、敬礼はやめてって言ったでしょ」

 

 いや涼宮さんも軍人だし、夕呼さんは副司令だしそうもいかないでしょ。それにしても夕呼さんも大概ウソが上手ですね。このテクニック、盗まねば!

 

 

 この横浜基地は元横浜ハイブがあった上に建てられており、そこにあったBETAのエネルギー源である反応炉が地下にあります。00ユニットはこれの研究によって出来ており、それを安定させるODL浄化もこれで行っているのですが………。実は反応炉の正体は頭脳型BETA。BETAはあえて人類にこれを渡すことで人類の情報収集を行っています。なので00ユニットのODL浄化を行うさいに00ユニットが得た知識、情報をオリジナルハイブに送っているので今現在大変なピンチになっています。まあ、私もこのことを知っていながらあえて何もしてないのですが。

 

 

 さて、夕呼さんと涼宮さんと一緒にエレベーターで最下層まで降ります。夕呼さんは制御室へ行ったので、私と涼宮さんだけで反応炉前に来ました。でっかい岩の塊のようであり、でも内部から眩い光を発する姿は壮観であります。一目見ただけで表層はおそろしく頑丈な物質とわかりますね。あとなんとなくですが、私の頭の中にあるBETA技術由来の記憶補器が反応炉の響きのようなものを感じ取っています。

 

 「それじゃ涼宮さん、お付き合いお願いしますね」

 

 いっしょにいる涼宮さんにはノートPCを持たせています。これにわかった情報を入れていきます。

 

 「反応炉周囲をぐるってまわって見るだけ?それで何かわかるの?」

 

 「いろいろわかりますよ。例えば涼宮さん、あなた昨日相当泣いたでしょう?」

 

 「ええ!その通りだけど………」 

 

 涙の跡なんて一発です。

 

 「その足、疑似生体ですね!」

 

 「すごい!服の上なのに!?」

 

  はい、わかります。

 

 「そして昔ひとりの男をめぐって誰かとぶつかった!今もその人を愛している!」

 

 「ええええええ!? どこ!?どこを見てそんなことわかっちゃうの!?」

 

 そんなにわたわたしてるとノートPC落としますよ。まあ、これは原作知識なんですけどね。

 

 

  涼宮さんが落ち着くのを待って反応炉の観察を始めました。ゆっくりと反応炉をまわって歩いて、内部の構造を調べていきます。透視能力とかではないのですが、表層に現れる微妙な変化や、漏れてくるエネルギーの強弱で内部構造がかなり詳しくわかります。そしてわかったことを次々に涼宮さんが持っているPCに入力していきました。

 

 

 

 「終わりました。やっと薬が飲めますね。」いつも携帯している脳の働きを鈍らせるお薬を飲みます。やっと人間の世界が戻ってきました。

 

 夕呼さんの自室に戻り、夕呼さんがさっきのノートPCをチェック。

 

 「大したものね。ただ歩いて見ただけなのにこんなにも詳しくわかるのね。」

 

 「帰ったらもう少し詰めて、補足説明なんかも入れて、次会った時に渡します。ちょっと面倒で飛ばしちゃったとこなんかもあるしね」

 

 実は意図的に反応炉の正体が頭脳型BETAと匂わせる所は省いているのです。

 

 「じゃ、次は鑑ね。いま白銀がついているはずだから聞いてみるわ」

 

 夕呼さんは内線で白銀君と連絡。話では純夏さんも荷電量子砲を限界まで撃ってシステムダウンしたらしいんですよね。私と話せるでしょうか。

 やがて受話器を置いて夕呼さんは言いました。

 

 「いま安定して大丈夫みたいよ。白銀が連れてこっちに来るって」

 

 

 

 

 

 




 ロボ純夏と邂逅! 真由の用事とは?


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第四十七話 純夏さんにお願い

 

 

こんにちは 沙霧真由です。

 いよいよこの世界の純夏さんと対面です!ヒャッホ~~~ウ!

 え?鏡見ればいいだろうって?そりゃあ顔だけなら私が少し幼いくらいでほとんど変わりませんが、やっぱり前世からのファン心理というやつです!

 

 

 「それで鑑との用件、人払いとかはしなくていいの? あたしや白銀なんかも聞いてかまわない内容?」

 

 夕呼さんが聞いてきました。

 

 「ええ。それはかまわないんですけど涼宮さん、純夏さんのことは?」

 

 「ああ、鑑が00ユニットってことはA-01じゃ白銀と速瀬、それにこの涼宮が知ってるわ。A-01とあたしの通信は涼宮が繋ぐし、秘密にすると面倒なのよ」

 

 やがてノックがして促されて白銀君達が部屋に入ってきました。あ、霞ちゃんもいましたか。夕呼さんの部屋にいないと思ったらそっちにいたんですね。

 そして純夏さん!不思議そうにこっちを見ています!

 いや~感動ですねえ! この感覚、前世の私が甦ってくる感じです!なにしろマブラヴで一番好きなキャラでしたから!

 

 「真由、ひさしぶりだな。…………と、手錠なんかつけられているのか。そっちの暮らしなんかは大丈夫なのか?」

 

 と、白銀君が話しかけてくれました。白銀君もひさしぶり!

 

 「いえいえいえ。生活に不自由はないんですけど、みんなと中々会えないのが苦痛ですよ。こんな腹黒い女ギツネの顔にはもう飽き飽きです!」

 

  ――――ピキッ

 

 おや?なんの音でしょう?

 

 「ありゃ、ここには椅子がありませんね。お~いそこのおばさん、純夏さんに椅子を持ってきて! ないならそこで偉そうに座っている椅子を純夏さんに貸しなさい」

 

 いや~この世界の純夏さんに会えてすっかり舞い上がってしまいましたよ。おかげで後ろからの殺気にも気がつきませんでした。こんなにも凄い殺気なのにね。ギャア~~~~!!

 

 

 

 

 

 「ええっと………ずいぶん首しめられていたけど大丈夫?私への用ってなにかな?」

 

 と、純夏さんが聞いてきましたけどもうちょっと待ってください。まだ声がでませんから。

 

 「はい、真由さんお水です」

 

 霞ちゃんがくれたお水でようやく一息ついて声がでるようになりました。涼宮さんも夕呼さんを止めてくれてありがとうございました。

 落ち着いたので、私は持ってきた容器から石の塊のようなものを出しました。

 

 「それじゃ、早速お願いします。これは地下の反応炉のカケラを元に作ったBETA言語を記録できる記憶媒体です。これにBETA言語である命令を入れて下さい」

 

 通称として”BETA言語”と呼んでいますが、そういう言語があるわけではありません。ハイブの上位BETAから発せられる下位のBETAに送られる脳波型言語をそう呼んでいるのです。

00ユニットである純夏さんは佐渡島ハイブでBETAの思考をリーディングで読み取ったのでそれを理解できます。さらにプロジェクション能力(相手に思考や感情を投影する能力)を持っているのでBETA言語を発することができるのです。

 

 「うん。やってもいいけど、それでBETAにその命令を実行させるのは無理だよ? BETAはハイブからの命令しかきかないんだよ?」

 

 「知ってますから大丈夫です。決して無駄にはしませんのでお願いします」

 

 「まあわかっているならいいや。で、なにをいれるの?」

 

 「いれて欲しい”言語”は二つ。二個あるのでそれぞれに入れて下さい。ひとつは”人類ニ関シテノ重要ナ情報アリ。”もうひとつは………」

 

  それは全ての人類の願いの言葉。

 

 

 「”全テノBETAニ命ジル。自壊セヨ。土ニ帰レ”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 純夏さんに記憶媒体の”カケラ”にBETA言語をいれてもらった私はそれを丁寧に容器に戻しました。さて、これで進めるところまで進めないと。

 

 「ありがとうございました。それじゃこれで私は戻りますね。………あ、白銀君」

 

 「うん?」

 

 なぜか私はふいに純夏さんを気遣う白銀君にこう言ってしまいました。

 

 「いつまでも…………純夏さんと仲良くしてくださいね。ずっとそうやって一緒に」

 

 純夏さんの行く末を知っているのにこんなことを言ってしまいました。なぜでしょうね?

 

 「真由………?」

 

 おっと不審な感じになってしまいましたか。白銀君に問われる前に部屋から逃げだしました。 

 

 

 

 

 さて、本当は慧さんなんかとも会っていきたかったのですが、あのイベントまで時間がありません。帰還の旨を告げるとゲートまで夕呼さんが見送ってくれました。

 

 「まあ、やりたいことはだいたい分かったわ。それをどうにかしてBETAに実行させようってワケね?」

 

 「ええ、まあそんなとこです。それじゃ私はムショに戻りますね」

 

 「あたしはこのまま基地に残るわ。29日の夜にはそっちに行くから………と、河崎重工の業者が次の30日に来るんだったわね。あんたの言うとおり新素材で作ったパーツやらその他あちこちの戦術機の予備パーツをその日に来るよう手配したけど、買いすぎじゃない?あれじゃそのまま戦術機が7,8台作れちゃうわよ。戦術機はけっこう余っているんだけど?」

 

 「いえいえ、きっと『ラッキーだわ!』って喜ぶことになると思いますよ」

 

 「ふーん?………まあいいわ。流星の方もちゃんと29日に動かせるよう段取りつけておくわ。気をつけて帰りなさい」

 

 夕呼さんにさよならしてゲート前に止めてある車の前に来ました。護衛さんがドアを開けてくれたので中に入ろうすると、

 

 

 ウオオオオォォォォ………………

 

 

 と一瞬地下の反応炉が大きく呻ったのを聞きました!

 私の脳にはBETA技術由来の記憶補器が埋め込まれているので、ある程度反応炉の響きのようなものが聞こえるのですが、こんなに大きいのは初めてです!

 

 「……………あ」

 

 その戦慄するかのような音に私はひとつ大事なことを見落としていたことを思いだしました。

 

 (……そうだ、BETAは佐渡島戦の前までは本気じゃなかったんだ)

 

 BETAは生物の形をしていますが、実は資源採掘ロボ。資源採掘が優先で人類の排除はその次。でも佐渡島ハイブを潰した人類を脅威と感じ、人類排除を最優先にしたら………?

 ……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………なるほど、私がためらっているヒマなんてなかったんですね。そしてやはりこれから起こる横浜基地襲撃こそ全ての運命の分岐点。

 今更ながら無茶な決断をしてくれた夕呼さんに感謝です!

 

 

 

 「………?どうしました、沙霧?」

 

 いきなり固まった私を不審に思って護衛さんが聞いてきました。

 

 「あ、何でもありません。早く帰りましょう」

 

 

 ―――――来ますねBETA!

 

 

 私はにわかにざわめき始めた佐渡島があった方を一瞬睨んでから、車に乗り込みました。

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 




 運命の日迫る! 
 真由は見据える
 
 人類の勝利を!!


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第四十八話 ニュータイプさんいらっしゃい《説明回》

 

 

 「こんにちは 沙霧真由です。」 

 

 「こんにちは~ゴッド純夏でぇ~す!」

 

 「はい、とうとうゴッド純夏さんの前世、00ユニットのロボ純夏さん登場です!どうです? 昔の………じゃなくて前世の自分を見た感想は?」

 

 「うわ~~恥ずかしい!若くって初々しい!昔の私ってこんなんだったんだ~~~!」

 

 「いやあなた、見た目ぜんぜん変わってないし、性格もそのまんまでしょう。

 それでは説明回を始めます。今回説明するのは”BETA言語”ことBETAの意思の疎通手段についてです。”BETA言語”っていうのは作者の造語なんですが、私が考えたBETA全滅計画の核心なので特に一話設けました。」

 

 「あ、その前に今回なんでニュータイプさん?『ニュータイプはギャラ高いから安い強化人間で間に合わせろ!』って偉い人にも言われているのに?」

 

 「いやいやいやいや違うでしょう!強化人間さんの未知の可能性の期待と、悲劇あふれる人生を追いヒューマニズムを視聴者に訴えていくため!そうでしょう?ゴッド純夏さん!!」

 

 「え?……………………ああ、そうそう!ヒューマニズムヒューマニズム!」

 

 「今回ニュータイプさんを起用せざるを得なかったのは、”BETA言語”というBETAの意思疎通がニュータイプ同士の共鳴と非常によく似ており、強力な脳波を発するだけの強化人間さんにはモデルになれないからなんですよね。

 それでは!大フンパツのゲストのニュータイプさんをごらんください!νガンダムに乗ったアムロ・レイさん、ザザビーに乗ったシャア・アズナブルさん、キュベレイに乗ったハマーン・カーンさんです!」

 

 「ぎょえぇ~~~~!! 大物すぎが三人も!! 本当にギャラ、大丈夫なの!?」

 

 「大丈夫でしょう。ヒューマニズムあふれる偉い人なら笑って支払ってくれますとも!

 さて、今回いきなりモビルスーツに乗ってのご登場は三機でバトルをしていただき、その中でニュータイプ同士の共鳴を見せていただきます。そしてそれを参考に、BETA言語のなんたるかを分かりやすく説明しようとの試みです。」

 

 「え?でもニュータイプ同士の共鳴なんて目に見えないよね?その辺どうすんの?」

 

 「そこで元00ユニットのゴッド純夏さんの出番です!戦っている三人が送ったり受けたりしている”ニュータイプ同士の共鳴”をリーディング能力で読み取り、それを私にプロジェクション能力で送ってください。そしてそれを私がみなさんにわかりやすく説明しましょう!」

 

 「ええ!?00ユニット時代のアレかあ。まあ出来るけど、この三人の争ってる時の心の中とか見たくないなあ。」

 

 「我慢してください。これも説明回のため!では、ガンダムファイトレディーゴー!」

 

 

 

 

 ドガーンドガガーン!! シュピーン! グワッグワワッ!! ビシュ!

 

 タン!シタタン!!シタタタタン!!! ガガガガガガガガガガ! ズキューン!

 

 キュンキュンキュンキュキュン! グワアアアアアアアア!! ピキーン! ピ-――!

 

 ズガァ――――――――ン!! フォン! ピシュピシュピシュ! ズッググワァアン!!!

 

 

 

 

 「……………ねぇ。シャアさん、二人に集中攻撃されてんだけど大丈夫なの?」

 

 「大丈夫でしょう、いつものことですし。おおっと三人のハイレベルな戦いに見とれていないでお仕事お仕事。ゴッド純夏さん、プロジェクションお願いします。」

 

 「あ、うん。はい、ぴぃぃぃぃぃん!」

 

 

  ピシュ!ピシュ!ピシュ!

 

 『シャア!何故ララァを戦わせた!?彼女は戦いに出るべき人間じゃなかった!』

 

 「おお!アムロさん、ララァさんめちゃくちゃ引きずっています!巨大なララァさん背負っています!」

 

 キュウィィィィィン! ピュン!ピュン!ピュン!

 

 『私に従うか、さもなくば死か。さあ!選ぶがいい!』

 

 「ハマーンさんは巨大な自分の思念体!でも裸でなんか”歪んだ愛情表現”って感じです!」

 

 ガッ!グァァァァァァ!!

 

 『アムロ!地球上に残った人類などは地上の蚤だということがなぜわからんのだ!』

 

 「おおっと蚤が背広を着てて偉そうな絵です!なんか笑えます!」

 

 ピキィ――――ン!

 

 『シャア!貴様はそうやって永遠に他人を見下すことしかしないんだ!』

 

 「おお!巨大なシャアさんがドオォ――――ンとそびえ立っています!そして目からはレーザービームみたいな光線!これが本当の”上から目線”!」

 

 ブワワァァァァ―――――!!!

 

 『かつて我々が沈んだ場所と同じ闇へ沈むがいい!シャア!』

 

 「ギャ―――!真っ黒くて巨大なハマーンさん!ブラックハマーンさんです!」

 

 

 ピピ――――――ッ!! ズガァ――――ン! ピュ―――ン!ピ――――――!ピ――――!

 バビュ――――ン…………

 

 

 

「…………これくらいにしましょうか。まあ、BETA同士はケンカなんかしませんが、だいたいこんな感じの思念を下級BETAはハイブ深奥の頭脳型BETAから受け取ります。」

 

 「…………本当に大物3人も出演させる意味あったの?」

 

 「もう少し詳しくご説明いたしましょう。攻撃目標や移動目標の指示などの単純な命令は共振でハイブから離れた所からでも受け取ることができます。

 でも戦術や戦略、建物や機械の構造などの細かい情報はハイブからのエネルギー補給のさい、直接受け取ります。

 先取りして横浜基地襲撃を例にとりますと、実は佐渡島残党のBETAは旧町田への移動指示だけ出されて陽動に使われていると思われます。横浜基地を直接攻撃したBETAは横浜基地構造の情報、戦略、戦術、優先目標の変更などの命令を与えられて他のハイブより来た、横浜ハイブ奪取するための精鋭部隊なのです!単純にエネルギーを求めてきた、なんて前提で部隊を動かしたために裏をかかれっぱなしでしたね。まあ、こっちはこれから始まるわけですが。」

 

 「真由ちゃん、その辺の対策とか全然してないけどいいの?これじゃ原作そのままにヒドイことになると思うけど?」

 

 「ええ、まあそうした意味なんかは徐々に明かされます。それでは、次回からいよいよ横浜基地襲撃編に入ります!襲い来るBETA!横浜基地のみなさんの必死の攻防!そして未来を知る私は何を考え何を狙う?

 深い人間愛を描いたヒューマニズム二次創作小説『アンリミテッドは無理ゲーすぎる!』をこれからもどうぞよろしく!」

 

 

 

 

 

 




 ぎょぇ~~~~~~~!!! なんだこの天文学的ギャラわぁ!!!!(偉い人)


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第四十九話 横浜基地襲撃!

 

 

 神宮寺まりもSide

 

 三月二十九日明け方、大規模BETA群による本土侵攻の報が届いた。ここより先にある旧町田が戦場となっているとのことだ。

 ここは横浜特別少年刑務所。私こと神宮寺まりもは現在ここ唯一の受刑者、沙霧真由の教育係のようなものを期間限定でやっている。そして今、横浜基地より彼女を連れ退避するよう命令が来た。

 沙霧を起こしに行くと沙霧はすでに起きており、起動準備してある実験戦術機の流星に乗って避難すると言った。あれも貴重なものなので了承した。ところが沙霧は流星には乗ったのに動こうとしない。ここでギリギリまで戦況を見る、なんて言っている。

 

 朝日が登る頃、横浜基地にBETA強襲の報が入った。沙霧の分析によると旧町田への襲撃は陽動であり、このBETA侵攻は横浜基地のみを狙ったものであるという。

 確かに横浜基地はここの目と鼻の先にあるというのにBETAはここに全く流れてこない。これまで無差別に襲ってきたBETAの今までにない動きだ。とはいえ、近くにBETAの群れがいる危険な状況だというのに沙霧は何度促しても流星を動かそうとしない。

 

 いったい沙霧はどういうつもり………?

 

 

♠♢♣♡♠♢♣♡

 

 沙霧真由Side

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 いま私は流星の管制ユニットで待機中。『機動戦士ガンダムW EndlessWaltz』で静かに出撃の時を待つヒイロな気分です。あのシーンでコクピットにヒイロの代わりにでっかい雪ダルマが置いてある、と想像してください。それが私です。

 実は流星の管制ユニットっていうのはかなり広く、全周モニターなんてあります。『網膜投影なんて狭い視界笑っちゃうね!』って自慢したかったのに雪ダルマ型パイロットスーツにくるまれ、メインカメラに直結したゴーグルで見ているんじゃ網膜投影と代わらないです。トホホ……。

 でも酸素マスクのせいでできなかった通信は出来るように改良しました!これで私の巧みなウソは流星に乗ってても使い放題です!

 

 さて、お気づきのように原作チートである私はBETAの横浜基地襲撃を知っていたにも関わらず、なにもせず黙って見過ごしました。さらに純夏さんがODL浄化のさい、オリジナルハイブに情報を送っていることも黙っています。これはイベントをオルタの原作通りに進ませるためです。

 

 佐渡島戦で判明したBETAの実力は人類よりはるかに高く、私の物理学チートで戦力増強をしたとしてもとても届かないことを見切りました。たとえオリジナルハイブを潰して戦略を考える頭脳を消しても、圧倒的物量で人類は百年以内にはBETAに押し潰されることでしょう。

 

 そこで原作チート。この横浜基地襲撃の行く末を正確に知ることのできる私は、このイベントを利用したBETA全滅計画を考えついたのです。この横浜基地襲撃事件は次の桜花作戦につながっています。そして桜花作戦は”オリジナルハイブ陥落”という大きな結果を結んでいるので、BETA全滅を狙うならここを利用するのが一番確率が高いのです。

 

 しかしこの策を行うには”夕呼さんがこの日に流星を使うことを手助けしてくれる”という普通ならとても無理な願いをきいてくれる必要がありました。それに正直オルタ最大の悲劇的イベントをそのまま起こす、というのは心理的にかなり抵抗がありましたしね。なので”夕呼さんに断られたらやめよう”、と思っていました。が、さすがは夕呼さん!本当になにも聞かず強力してくれるとは!

 

 そして現在29日当日。明け方から警報が鳴り響き、私が流星に乗った頃には旧町田近辺での激戦が傍受した通信に流れてきました。

 

 着弾率の高い集中砲火!防衛側優勢!戦線を押し上げ包囲に入るとの報! ですが私は知っています。これはBETAによる奇襲のための罠だと。

 

 やはり来ました!BETAの奇襲は防衛線の背後を取り、挟撃によって部隊を壊滅!第一、第二防衛線まで突破し、防衛隊は第三防衛線に戦力を集中!

 

 ですがこれさえもBETAの陽動!本命のBETA軍団は横浜基地の第一滑走路地下まで掘り進み襲撃!なんと第一滑走路を瞬く間に陥落させ制圧! 早い!!

 

 おっと司令部がA、Bゲートの充填封鎖の命令を出しました!戦力をメインゲートに集中させるつもりです!

 

 Bゲートの充填封鎖に失敗!戦闘の余波が封鎖作業を行っていた作業員を死亡させてしまったようです!BETAもBゲートに戦力を集中し、とうとう基地内へ侵入させてしまいました!

 

 中央集積場あたりで激戦しているようですが、さすがに基地内はここからじゃ傍受できません。ですが状況は悪化の一途を辿っているようです。BETAはジリジリと反応炉へ続くメインシャフトに迫っていると予想されます。

 

 だいぶ押しこまれたようですね。内容まではわかりませんが、指示を出すオペレーターさんの声もかなり絶望的になっています。さて、そろそろ頃合いでしょうか?

 

 

 ――――!!? オペレーターさんの叫び声!? どうやらとうとう………

 

 「神宮寺教官、BETAがメインシャフトになだれ込んだようです。基地の戦術機機甲大隊は、ほぼ壊滅したようですね」

 

 『な、何だと!!?』

 

 「それじゃちょっと行ってきます。神宮寺教官は避難してください。あ、研究室は夜使いますんで鍵は開けといてくださいね」

 

 『な! まさか基地に? お前ひとりで助けに行こうとでも言うつもりか!?』

 

 違います。そんなカッコイイ主人公みたいな役回りならよかったんですけどね。

 

 ――――いや、考えてみればマブラヴオルタには主人公じゃなくてもそんな人達がいっぱいいましたね。

 

 でも私はウソつきな謀略好きの小物。これからやることもただの火事場泥棒。

 

 ウソで格好くらいつけたいんですけどね。

 

 神宮寺教官、お兄ちゃんを助けてくれたあなたにだけはそんなウソは言えませんよ。

 

 今日行う予定だった実験弾が装填されている突撃砲を背中にセット。一発しか入ってませんが、必要ですからね。

 

 

 「そんなんじゃありません。BETAのお宝を強奪しに行くんですよ」

 

 そう言って私は流星を発進させました。

 いよいよ私もBETAと初対決ですか。

 ”はたして沙霧真由は死の8分を越えられるか!?”

 いや、まあ越えられなかったらただのアホの犬死になんですけどね。

 

 ともかく行きましょう!目指すは横浜基地!!

 

 

 

 

 




 3月29日夜明け前、静寂破るBETA襲撃!
 横浜基地揺るがす死闘が始まる!!

 今日この日こそは運命の一日!!!


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第五十話 ぼくは因果導体

 白銀武Side

 

 ガガガガガ! ガガガガガガ!

 

 ぼくのなまえははしろがねたける。いんがどうたいです。まいにちまいにちおしごとがたいへんです。とくにきょうはねるひまもありません。…………………いかん、幼児退行おこしちまった。

 

 今現在またまたBETAの大群と戦闘中! しかも戦場は我らがホームベースの横浜基地だ。

 まったく今日は…………いや、日付はもうとっくに変わったから昨日か。いろいろありすぎだ!あげくの果てにこの始末!因果導体に休息はないのか!?

 

 

 

 佐渡島から帰ってきたら命令不服従の懲罰であちこちの掃除をやらされた。まあ、それはいい。以前から体はやたら丈夫になったんで大戦闘の後だろうと疲れない。だが新隊長になった速瀬中尉から昨日いきなりA-01の突撃前衛の小隊長に任命されちまった。ちょっと待て!オレは衛士になって一ヶ月ちょっと、衛士になって初出撃やったばかりの新任だぞ!

 

 「ハァ?新任? 衛士の世界じゃBETAの群れに自分から飛び込んで帰ってくるようなヤツを新任だなんていわないのよ!」

 ………との速瀬中尉のお言葉だ。

 

 「『突撃前衛はBETAの群れに飛び込むのがお仕事』なんていうけど、一人でやる奴とか初めて見たわ。いきなり突撃前衛の小隊長とか悔しいけど、目の前であんなの見せられちゃしょうがない!しっかりやんなさい!」

 と、涼宮茜。前の世界じゃ水泳で学園の有名人だった。こいつにラクロスで勝つために世話役なんて引き受けて、女子ラクロスチームの特訓につきあったのも随分昔みたいだ。

 

 「うんうん、まさにバケモノ………あ、ごめんなさい!」

 と、涼宮妹の横で築地多恵って娘。こいつは前の世界でも見なかったな。どうでもいいが涼宮にくっつきすぎじゃないか?

 

 「あっはっは。君をはじめ生きのいいのがいっぱい入ってきて思ったより長生きできそうだよ。後ろからガンガンフォローするから思いっきりやりなよ」

 と、柏木晴子。前の世界ではクラスメートだった。

 

 懲罰の一環で彼女ら同期ふたりの墓を作る手伝いをする時にそんな話をした。彼女らは先に衛士になった元207訓練小隊A分隊だった者だ。

 

 まあ、まかされちまったらしょうがない。冥夜と彩峰を部下にして率いていくなんて難易度高いが、明日からの訓練でなんとか形にしていこう!似たようなことは前の世界で女子ラクロスチームの世話役とかやって経験済みだしな!…………………思い出した。あの一件、一番大変だったのが彩峰、次が冥夜だったような気がする。

 そんなことを純夏にグチってた夜だ。いきなり「あ!ああ!」と純夏は叫んで倒れた!

 慌てて夕呼先生の所へ行こうとすると基地に響き渡る緊急警報!佐渡島ハイブのBETA残党が横浜基地を目指して侵攻しているらしい!

 

 

 

 

 

 「どうなんです?純夏は!」

 

 夕呼先生の指示通り純夏を処置室へ運んだ。夕呼先生は純夏を計測しているさまざまな計器やモニターを見ながら言った。

 

 「さっきあんたといた頃バイタルに大きな乱れがあったわ。原因に心当たりない?」

 

 「いえ、なにも。オレがいきなり小隊長になったグチを言ってたぐらいで……」

 

 「そう、そういやあんた小隊長になったんだったわね。こっちは任せてブリーフィングルームへ行きなさい。基地防衛があんたの初の小隊長任務よ」

 

 訓練一回もなしにそんな豪華な初任務はいりません。

 

 「あ!そうだ、真由とまりもちゃんは!? ムショはすぐ近くなんだから避難させないと!」

 

 「そうね。まったく明日行く予定だったのに………え?流星の準備も29日、話の詳細も29………あいつ、まさかこれを知ってた?」

 

 「夕呼先生?」

 

 「……あ、いいえ、なんでもないわ。二人には避難の指示を出しとくわ。白銀、行きなさい!」

 

 

 旧町田市に張った防衛線で激しい戦闘が行われた。戦況はこちらに優勢かと思われたが、BETAはさらに地下を進んでの奇襲。防衛線部隊は挟撃されほぼ壊滅! だが、それすら陽動で、直接この横浜基地を狙い襲撃するBETAの一群!

 とうとう横浜基地守備のオレ達が戦うことになった。

 しかしどういうことだ? ”佐渡島の残党がエネルギーを求めて”なんて動きじゃないぞ?

 

 

 

 

 

 ―――――そして現在。第二航空路での戦闘が終わった所だ。ここら一帯のBETAは全て倒し、メインゲートは守ることが出来た。Aゲートも無事充填封鎖が完了したようだが、Bゲート前が難航しているらしい。本来の作戦はA、Bゲートを充填封鎖し、メインゲートに戦力を集中させて撃退する予定だった。しかしBETAがBゲートに戦力を集中し、激しく戦闘しているため作業は進まないようだ。オレ達も援護に行きたいが命令あるまで待機してなきゃならない。

 

 

 

 

 『タケル、そなた何故BETAの群れに飛び込んで無事でいられるのだ?後学のためにぜひご教授願いたい』

 

 「簡単だ。群れの全てを討つんじゃなく、体の中心を向けてくるヤツから倒すんだ。フルオート射撃で全てを狩ろうとするのは死亡フラグ。機体が硬化して潜り込まれるだけだ」

 

 『………白銀、佐渡島がBETAと初戦闘だよね?なにその”十年BETAと戦い続けました”みたいな貫禄のセリフ』

 

 と、待機してる間部下になった冥夜、彩峰と話したりした。ふと思い出したが、ここにきて一ヶ月ぐらいした頃に佐渡島から基地に向かってのBETA侵攻の報が伝えられたことがあった。あの時オレは恐怖でぶっ倒れちまったんだよな。

 あの時の恐怖は今はもう思い出せない。おぞましいBETAの一体一体を丁寧に見て脅威度の優先順位をつける、なんてことも出来てしまう。

 その時突然CPの涼宮(姉)中尉から指示が来た!

 

 

 『ヴァルキリーマムよりヴァルキリーズへ通達。BETAの地下施設侵入に備え直ちに移動を開始せよ』

 

 ―――――侵入!? Bゲート、破られたか!!

 

 

 

 

 戦場は中央集積場。手前の臨時補給所で補給をすませ、第7大隊と交代せよとの命令だ。

 補給を済ませ、いざ出陣!………しようとした所で待機命令が出た!?

 

 「速瀬中尉、どういうことです!? 敵はメインシャフトに流れ始めていると聞きます!オレ達も合流してこれ以上の流入を防がないと!」

 

 『メインゲートが…………破られたわ!!』

 

 ―――――――――!?

 

 「バ、バカな!? あそこ一帯のBETAはオレ達が殲滅した!再び襲撃してきたとしても速すぎる!」

 

 『私達が撤退したのを見計らったようにすぐ要塞級が来たみたいなのよ。そして………体内から光線級を吐き出して……それがメインゲートを破壊した!』

 

 

 ――――なんだそれは!? 孔明のワナに嵌まった周瑜とかな気分だぞ!? 旧町田の陽動といい、戦場の魔術師にでも進化したのかBETA!?

 

 メインゲートが破られた以上中央集積場を守ることは不可能だ。あと防衛陣を敷けるような場所は………ないな。後はメインシャフト内か反応炉前の廊下ぐらいだが、そこの施設を破壊するのはヤバイ。どうにかできるのか?司令部!

 

 

 

 

 

 

 




 激戦の横浜基地!
 巧みに基地を切り崩すBETA!

 そして次回、破滅せまる戦いの中で白銀武が出会った以外な人物とは?


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第五十一話 運命はこぶ銀の流星

 白銀武Side

 

 

 

 地下の反応炉にBETAが迫っている!このままじゃここが再びハイブに戻される!

 しばらくの待機状態の間自分なりにこの状況で打つ手を考えたが、反応炉を破壊した後に基地放棄しかないぞ。夕呼先生はなにか考えつくのか?

 

 やがて夕呼先生から直接命令が来た。方針は反応炉を停止させBETAの活動エネルギー切れを待つ、というものだ。持久戦法だな。

 まず司令部から反応炉停止作業を行うオペレーターが制御室へ行き、A-01からは2機支援として反応炉の完全確保に向かう。同時に90番格納庫の凄乃皇・弐型のムアコック・レヒテ機関を作動させる。エネルギーを求めてBETAが90番格納庫に引きつけられている間、停止作業を行うのだ。残りのA-01は凄乃皇の防衛だ。

 

 反応炉へ向かう支援役にはオレと速瀬中尉が選ばれた。残ったヴァルキリーズのリーダーは宗像中尉。オレと速瀬中尉がいない状態で囮として大量のBETAを引き受けなきゃならない。一刻も速く反応炉へ行って任務を達成するぞ!

 

 『それじゃあ頼んだわよ。………え!なんですって!? 速瀬、白銀、急ぎなさい!』

 

 夕呼先生があせっている! どうしたんだ!?

 

 『隔壁を破った例のレーザー種がもう第四隔壁まで来ているわ! 戦車級が背中に乗っけて足を速めているらしいのよ! もうある程度BETAを流し込んでもやむを得ないわ。スピード重視で隔壁を開けていくから急いで!』

 

 クソッ!まったくとんだ軍師様だよBETA!!

 

 

 詳しい説明もなしにメインシャフトに飛び込まされた。とにかく反応炉ブロックへ行けということだ。飛び込む前、オペレーターは涼宮中尉が務めることを聞いた。何でも夕呼先生自ら行こうとしたのを強硬に自分に変えさせたそうだ。速瀬中尉の親友だけあってあの人も熱い人だな。

 

 メインシャフト内を猛スピードで進んでいく。途中進路を塞ぐようにいるBETAは的確に撃ち落とし、複雑に入り組んだ部分もスピードを緩めることなく突き進む!

 オレすげえ! 元の世界に帰ってバルジャーノンやってみたい! 今なら尊人に百戦百勝だ!

 

 しかしそんな夢見てる場合じゃないな。途中にある頑丈そうな隔壁はみんな大穴が開いている。間違いなくメインゲートを破った光線級が開けたものだろう。第四隔壁ももうすでに大穴が開いており、光線級はいない。そして第五隔壁までも!

 

 くそ!もう後は反応炉ブロックの扉だけ!反応炉に到達しちまったのか?間に合わなかったのか!?

 

 

 

 ―――――――いた! 反応炉ブロックの扉に向け、光線級がレーザー照射をしている!

 

 光線級は全部で十二体。内六体は隔壁破壊で後ろ向きだが、残り六体はこっちを向いてレーザーを撃ってくる!どうやら半数が隔壁破壊、半数が後背の敵を迎撃、というフォーメーションのようだ。

 オレと中尉は距離をとり、横の通路に身を隠すがこの先は長く狭い一本道。六体分ものレーザーを躱すことなど不可能だ。後ろから這い寄ってくる小型、中型のBETAを殺しているが、このままでは反応炉に行けやしない。

 

 「……………ダメですね。どう考えても潜り抜ける方法なんてありません。夕呼先生に連絡して他の道を教えてもらってください」

 

 『ダメよ!私達がここを離れたら光線級が開けた穴でBETA共が大量に入るわ。そしたら遙が………!』

 

 そうか………!迂回してたらここから反応炉ブロックにBETAが入り、涼宮中尉が殺される!そしてそれは反応炉停止の失敗も意味する!詰んだぞ、この状況は!

 

 『…………白銀、あんたの追加装甲よこしなさい』

 

 「中尉、なにをするつもりです?」

 

 『両手に追加装甲で1秒でも長く保たせるわ。そして近づいたら私のS-11で自爆する。後は頼んだわよ、白銀』

 

 S-11。それは戦術機に通常装備されているハイブ破壊用、そして自決用高性能爆弾。

 

 「な………!いけません中尉!やるならオレが!」

 

 ………オレまで一瞬で自決する覚悟とか出来ちまった。どうなってんだ、このごろのオレ。

 

 『あんたはダメ。今あんたがいなくなったら鑑を任せるヤツがいなくなるわ。どっちかやんなきゃならないなら私なのよ』

 

 

 そうだ、オレはまだ死ねない!でも、速瀬中尉を送らなきゃならないなんて………

 それでも決断しなきゃならない。上ではみんなが戦っているんだ。任務を果たさなきゃ誰も彼も死んじまう――――!

 

 

 

 結局言われるままに追加装甲を渡した。そして――――

 

 

 

 『じゃあね。部隊のみんなによろしくね。伊隅ヴァルキリーズを頼んだわよ』

 

 

 

 中尉の不知火は突撃砲を下ろし両手に追加装甲を持った。

 そして姿勢を低く突撃体勢に入る。

 S-11の時限起爆を入れるのを見るとオレは下がった。

 

 

 

 「速瀬中尉、お世話になりました! いろいろありがとうございます!」

 

 伊隅大尉の時と同じように最敬礼をした。

 

 『白銀、もうひとつお願い。遙に――――孝之に先に会いに行くって言っといてちょうだい。』

 

 孝之―――――誰だろうな。いや、最期に語る人だ。速瀬中尉の大事な人にきまっている。中尉にもそんな人がいたんだな。涼宮中尉、すみません。あなたの親友を………

 

 

 

 

 

 ブオオオォォォォ!

 

 『水月、やめろォォ!S-11を止めるんだ!!』

 

 

 

 突然に通信回線から見覚えのない男が映った!

 誰だ?速瀬中尉の知り合いか!?

 そして後ろから………戦車級BETAが飛んでいる!? 

 いや、戦術機が生きた戦車級を掲げて突進してきているだと!?

 

 

 それはそのまま光線級の待ち構えている通路に突進した!

 そうか! BETAは生きたBETAを攻撃できない!

 

 思惑通り光線級はレーザーを止めた!

 それは光線級に最接近すると戦車級をポイッと投げ捨てた。

 そして光る長刀を抜いて光線級を一瞬にして全て狩った!

 

 あの武器は………いや、あの戦術機は!

 

 

 

 ――――流星!? 乗っているのは真由じゃないのか!?

 

 

 

 

 『――――――オレだ、水月。S-11は止めたか?』

 

 

 光線級の残骸の中で流星は佇み、こちらを向いた。通信回線に映る男はやはり知らない顔だった。

 誰だこの男、速瀬中尉の知り合いなのか? なぜ流星に乗っている!?

 

 『――――そんな……生きて……生きていたの!?』

 

 速瀬中尉の様子がおかしい。やはり知り合いのようだが。

 

 「速瀬中尉、この人はいったい?」

 

 ……って泣き出した!?そして絶叫した。彼の名を――――

 

 

   『た……孝之ィィィィィ!!』

 

 

 

 

 

 

 ―――――この人が孝之さんだそうだ。フルネームは鳴海孝之

 

 声の様子からしてやはり中尉の思い人

 

 でもなぜ彼がここに来て、なぜ流星に乗っているのか?

 

 まるでわからないことだらけだ

 

 それでも

 

 ”速瀬中尉の流した涙がすべてを物語っている”

 

 

 

 

 

  なぜかそう思えた――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 それはもう一人の死んだハズの男

 名は鳴海孝之

 その死に幾多の涙を流し慟哭した水月の元へと帰って来た

 だが流星に乗っていたハズの真由はどこへ?

 どこまでも謎は深まる!

 次回、真由と鳴海孝之
 その秘められた大いなる真相が語られる!


 


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第五十二話 明かされた真実!そして………

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 ウソです。流星に乗っているのは鳴海孝之さんじゃなくて私でした~~~!!

 

 鳴海孝之さんというのは『君が望む永遠』という作品の主人公です。ヒロインは速瀬水月さんと涼宮遙さんのこの世界での中尉コンビ。この世界でもふたりの思い人でありA-01部隊の先任でしたが、1999年の明星作戦において任務中死亡しています。

 

 さて、事の始めは流星の通信回線の改善です。知っての通り私の今の姿はでっかい雪ダルマ型パイロットスーツにくるまっているので映像とか出せませんし、酸素マスクのせいで声もくぐもったものになってしまいます。そこで通信用の仮の映像と音声に補正なんかを入れてるんですが………アレ?これなら別に私のものじゃなくてもいいんじゃね?そうだ鳴海孝之さんのものにしよう!向かう先には速瀬水月さんと涼宮遙さんがいるし、二人の君望ヒロインのデレ顔ゲットだぜい!と、いうわけです。

 

 鳴海孝之さんは速瀬さんと涼宮さんより先任のA-01の隊員だったので、映像と音声の記録をサルベージしました。そして色々表情つくったり、声も鳴海孝之ボイスに変換されるように改造したのです!忙しいのになにやってんでしょうね、私。

 

 ですが!このように泣いて感動する速瀬さんを見ると頑張った甲斐があったというものです!

 いや~~~まさに素晴らしいウソは感動を呼ぶ!………ですね!

 

 

 

 

 

 『―――いや………タチが悪いぞ真由。やりすぎだと思うぞ』

 

 真相を公表したら白銀君はこう言いました。失礼な!

 

 「なにを言うのです白銀君!ほら、速瀬さんだってこんなに感動してるというのに!」

 

 『―――――ウフ、ウフフフフ。アハハハハハハ…………』

 

 「ほら、こんなに嬉しそうに笑っている!速瀬さんも久しぶりに鳴海さんに会えたみたいで喜んでいるでしょう!」

 

 『い……いや、とにかくその鳴海さんの声をやめろ!なんか速瀬中尉の様子が………』

 

 いきなり速瀬さんの不知火は疾風の如く突撃砲を拾い

 

 ジャキッ!

 

 私に銃口を向けました!なんで!?

 

 『ちょ……!速瀬中尉やめてください!さすがに真由も度がすぎてるとは思いますが!』

 

 『うるさい!孝之を騙るこの嘘吐き小娘だけは生かしちゃおけないわ!!』

 

 うお!ヤバイ!! だったら…………

 

 

 

 「――――撃つなら撃て水月。でも、遙が―――愛するあいつが待っているんだ」

 

 そう言ってダンディに流星の背中を向けました。すると――――

 

 ガシャン……

 

 速瀬さんの不知火は突撃砲を落としました。戦術機なのにガックリうなだれているみたいです。

 なんか映画の1シーンみたいですね。

 

 

 

 『ちょ!しっかりしてください速瀬中尉!あれは鳴海さんじゃなくて真由なんですよ!』

 

 反応炉より先に速瀬さんが機能停止してしまいました。再起動できるでしょうか?

 

 おっと、ここまでつきあってくれた戦車級のカワイコちゃんに感謝を表してとどめを刺しときますか。手足をもいでいるんでその必要はないんですが。

 実はこの赤いカワイコちゃん、基地に入る前からのつき合いです。こいつを盾代わりにしてここまでぶっ飛ばしてきました。

 ”BETAは生きたBETAを攻撃できない”という法則通り、基地にウジャウジャいるBETAはみんな避けてくれましたよ。お陰でロクに武装のない流星もここまで無傷で来ちゃいました!

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ようやくでっかい光る岩みたいな反応炉の前に来ました。そして反応炉の上にある制御室を見上げると、涼宮さんが作業しているのが見えました。速瀬さんは反応炉に取り憑いたBETAの排除、白銀君は破られた扉の前でBETAの侵入を防ぎ、私は扉の充填封鎖の作業を受け持ちました。爆破してたらできませんでしたね。

 侵入したBETAの排除と扉の封鎖が終わると速瀬さんは夕呼さんに連絡。私への対処とこれからの行動の指示を仰いでいます。

 

 『後で副司令の元に来なさい、と言ってたわ。それまでおとなしくしてるのよ。』

 

 「ああ、わかったよ水月。」

 

 『だから孝之の声やめろって言ってるでしょ! あと画像! 孝之の顔使うな!』

 

 「すいません。さっきの突撃で不調おこしたみたいで切り替わらないんですよ。しばらくこのままでお願いします。」

 

 ウソです。不調なんておこしてません。

 

 『………だったら話かけんじゃないわよ。遙にもよ』

 

 計算通り!わざわざ今だに鳴海さんの画像と声なんて使っているのは速瀬さんの追求を避けるためです!速瀬さんはさっき一瞬にして自決の決断をしたように、衛士としてはかなり優秀な人ですからね。このような小細工でここに来た理由をうやむやにしないと!

 

 そう、さっきの自決宣言にはビックリしましたねぇ。流星に高度な通信傍受機能と超スピードがなきゃ間に合いませんでしたよ。おかげで『仲間の危機を救いに現れた復活のヒーロー!』みたいな登場になってしまいました。………うん、あれは気持ちよかった!

 

 それにしてもオルタ原作よりBETAが手強くなっています。光線級が反応炉まで来る時間も恐ろしく速いし、光線級の半数が隔壁を破り、半数が後背の迎撃というフォーメーションもそうです。これは多分佐渡島においての奮戦によって人類への恐れが大きくなり、より練った戦略、戦術をたててきたのでしょう。

 ここへ来る途中の隔壁は第五隔壁まで全て大穴が開いてました。私がここのシステムに介入して隔壁を開けられることが知られなかったのは幸いでしたが、危うく間に合わない所でしたね。

 

 

 

 『わかりました。………はい、すぐ作業にかかります。ちょっと!小娘!』

 

 おや、速瀬さんが呼んでいます。

 

 『ケーブルの断線で反応炉の停止ができないそうなのよ。制御室側のケーブル交換をしてちょうだい』

 

 

 ――――ズックン!

 

 

 一瞬オルタ原作のあのシーンを思い出しました。原作ではこのケーブル交換の後、涼宮さんは侵入してきた闘士型BETAに殺されてしまうのです!

 

 『速瀬中尉!これを見てください!』

 

 ふいに周囲の警戒を受け持っている白銀君が叫びました。見ると制御室へとつづく隔壁に穴が開いてます!

 

 『隔壁が破られています! 研究塔内にBETAが侵入した可能性があります!』

 

 ………………やはり、ですか。可能性じゃなく間違いなく侵入して来ているでしょう。原作知識抜きでも推理できます。反応炉をコントロールしているのが制御室、なんてのはとっくに知られているはずです。

 反応炉自身が頭脳型BETAなんだから! 

 

 そして侵入してきた小型BETAに命じて制御室の確保、なんてあたりまえすぎです!

 

 私は思わず制御室の涼宮さんを見上げました。

 

 流星がジャンプすれば楽々届く距離。でもBETAが侵入した後、遙さんを助けるなら…………間に合いません!頭の中でざっと計算してみましたが、どうしても一手遅れるのです。

 

 『ちょっと、急いで!だったら速く作業を完了させて退避させないと危ないわ!』

 速瀬中尉が急かせます。

 

 

 

  ごめんなさい、涼宮さん―――

 

 

 

 




 明かされた大いなる真実に驚愕の白銀と水月!
 そして三人はついに反応炉へとたどり着く!
 だが一足先に制御室へたどり着いた遙
 彼女は原作においてこの後、死の運命が待つのだ

 それを知る真由は………?


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第五十三話 伍長さんの挨拶

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 

 「遠いですね………」

 

 私は制御室を見上げて思わずつぶやきました。

 さっきざっと計算した結果、制御室の廊下からの扉が開いて、入ってきた者を確認してから涼宮さんを助けようとしても遅すぎるのです。

 どうしてもBETAが涼宮さんを攻撃して殺す方が一手速い!

 涼宮さんには伍長達さんが警備しており、定期的に涼宮さんの状況確認に入ってきます。入って来たのがBETAか伍長さん達か確認しないわけにはいかないのです。

 もちろん今すぐ動けば涼宮さんは助けられます。

 けどそれをするわけにはいかないのです。

 私は今日のBETA襲撃を黙って見過ごしたため、何百人もの基地の人を死なせてしまいした。

 それは全て計画のため。

 今さら涼宮さん一人を助けるために動いて拘束されるわけにはいかないのです。

 

 

 

 『真由、涼宮中尉が心配なのはわかるが、だったら一刻も速く作業を完了させるんだ!』

 

 そう白銀君が言ってきました。

 

 「え、ええ。わかりました」

 

 ――――――ゴメンなさい、涼宮さん。

 

 私は心の中でもう一度あやまりました。

 

 クーデターの終了時に一緒に帰った時からなんとなく縁のあった涼宮さん。

 

 彼女のやさしく女の子らしい姿を思い浮かべると胸が痛みます。

 

 軍人なのに本当に可愛らしい人でしたね――――

 

 多分作業は間に合わないだろう、そう思いつつもケーブルに向かおうとしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――おチビちゃん…………

 

 

 ――――!?

 

 いま、ヒゲの伍長さんの声が聞こえました!?

 いつもゲートを守っている守衛の一人です!

 こんな場所にいるハズなんてないのに! 今は確か涼宮さんの警護についていて……………

 

 

 

 

 

 ―――――そうか、あなたも殺られちゃったんですね。相棒さんと一緒に………

 

 

 私がクーデターの件でいろいろやらかした時も随分心配してくれましたね。

 

 

 助けられなくてごめんなさい。 見捨てちゃってごめんなさい。

 

 

 でも最期に挨拶をありがとう。

 

 

 お陰で涼宮さんだけは助けることができそうです。

 

 

 私は謝罪と感謝を胸に、背中の突撃砲を下ろします。

 そして制御室側に向かいジャンプ体勢を取りました。

 

 『お、おい真由……?』 『ちょっと! 何やってんのよ!』

 

 二人の声は無視して、制御室の窓からわずかに見える扉をメインカメラのズーム機能で注目。

 

 

 ――――扉が開いた瞬間が見えました!

 

 来た!!

 

 確認もせず、すぐさまジャンプ!

 

 そして涼宮さんに通信をオン!

 頼みましたよ”鳴海孝之ボイス”! 涼宮さんを守ってください!!

 

 「遙ァァァァ! 窓際に寄れ!オレはここだァァァァ!!!」

 『孝之くん!?』

 

 やった!! ”鳴海孝之ボイス”につられ、涼宮さんが窓際へと駆け寄ってきました!

 

 やはりその後ろには侵入して来た小型BETA、闘士級の群れ!

 

 「貴様らァ!遙にさわるなァァァ!!」

 

 ………………なぜこんなセリフが出てしまったのでしょう?演技が過ぎて心まで鳴海孝之っぽくなっちゃったみたいです。

 

 ビームは出さない!一万度近いんで涼宮さんもヤバイ!

 

 ただの長刀にして涼宮さんを避けて制御室の窓を突き破り、闘士級BETA共に突きを喰らわせる!

 

 グワシャアァァァァ!!!

 

 闘士級BETAは一瞬にしてミンチに!

 

 制御室の機器もスクラップ!………まあ、ささいな問題ですね。涼宮さんが助かったんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『ちょっと!アンタ何してくれちゃってんのよ!制御室がメチャクチャじゃない!!』

 

 案の定、下に降りたら速瀬さんに叱られました。そしたら涼宮さんが私をかばいます。

 

 『ゴメン水月!でも孝之君を責めないであげて! 私を助けるために、私のせいだから……!』

 

 あ~~~さすがに涼宮さんに真相を伝えるのは罪悪感わきますね。他にもBETAがいる可能性が大きいので涼宮さんも下に降ろしました。

 

 『遙!そいつは孝之じゃなくて…………あ~~もう! この嘘吐き小娘!遙を助けるなら機器を壊さないようにやりなさいよ!これじゃ反応炉を停止させられないじゃない!』

 

 無茶言いますね。まあ、出来てもやりませんが。

 

 『速瀬中尉、夕呼先生との通信は? 急いで善後策を仰がないと!』と白銀君。

 

 『…………ダメね。制御室の中継が壊れたんで司令部に繋がらないわ』

 

 『そんな!』『くそ!みんながやられちまう!』

 

 さて、そろそろですかね。あの決断は。

 

 

 『………………やむを得ない。今からは私の独自判断で行動するわ。白銀、あんたと私のS-11で反応炉を爆破するわよ』

 

 これを待ってました!反応炉破棄です!

 

 「待て、水月!」

 

 『なによ、孝之…………じゃなくて!あんたもいつまで孝之の演技してんのよ!』

 

 いや~クセになっちゃったみたいです。ヒーローっぽい男っていいですね!

 

 「ここはオレに任せろ!三日前に反応炉の調査したお陰で反応炉のことなら何でも知ってるぜ!無論、止め方もな!」

 

 『そうなのか?やったぞ真由!』

 

 『すごい!孝之くん………って三日前の調査?じゃあ、やっぱり沙霧さん?』

 

 皆の絶賛をあびながらジョジョ立ち! バァ―――ン!と擬音を背負ったヒーローの如く!

 

 

 

 

 

 

 『……………おかしい』

 

 「あれ?速瀬さん、このポーズおかしいですか?自分じゃかっこいいと思うんですが……………ではこう!」

 

 体斜めに指さしポーズ! 巨匠、荒木飛呂彦先生の考案した背中にドドドドドドドド!と擬音が出るほどカッコイイポーズ!

 

 『誰があんたの戦術機変態ポーズの批評なんてやるか!あんた、何もかもおかしすぎるじゃないのよ!!』

 

 ヤバイ!さすがに私の不自然さに気がついた!?

 

 『反応炉の調査をして構造を知っているあんたがたまたまここにいる!? そもそもあんた、なんでここにいるのよ! それに孝之と私達のこと何で知ってんのよ! A-01のデータベースに孝之のことは載っていても、私と遙の関係まであるわけないわ!』

 

 ヤバイ!!! とうとう核心に繋がる疑問を持ってしまったぁ~~~!!

 いや、今こそ神にも等しい私の巧みなウソの出番!!

 

 「横浜基地の危機と聞いてたまらずここに来てしまったのです! 迷っていると反応炉に出てしまい、そしたら反応炉を停止しなければならないというではないですか!いや~たまたま反応炉の構造を熟知している私がここに来ちゃったとは何という素晴らしい偶然! まさに神の導きとしかいいようがありません!!!

 孝之さんのことは噂でききました。男二人、女二人のグループなのに女の方二人とも孝之さんに惚れちゃって、平慎二さんよく一緒にいられますね、なんて。」

 

 アメリカンなポーズを交えて力説! 私の説得力ある巧みなウソに速瀬さん、感心したように聞き入り……………突撃砲をこっちに向けました!?

 

 『………アンタ、そんなゴミみたいな嘘で切り抜けられると思ってんの?それに慎二のことまで知っているなんて………あんた何者よ!?』

 

 

 

 

 ………………………ピンチです。

 

 

 

 




 華麗なるジョジョポーズも水月には通用せず!

 どうなる!?真由の運命!!


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第五十四話 悪魔生む誓い

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 今現在、速瀬さんの不知火に突撃砲向けられています。まあ、撃ってきても”弾よけ”のスキルがあるんで大丈夫なんですけどね。

 ただ、速瀬さんが撃ってきたら速瀬さんを無力化しなきゃいけません。BETAに攻められている最中の今、かなりヤバイです。この先のいろいろなことも間に合わなくなるかもしれません。

 

 『答えなさい! あんたの目的は!? 何故私達のこといろいろ知っているの!?』

 

 それ全部話してたら一日くらいかかります。たとえ正直に話してたとしても、”この世界は私の前世ではゲームで、原作知識でいろいろ知っているのです!”とか言っても納得するとはとても思えません。

 

 『速瀬中尉!そんなことしてる場合ですか!早く反応炉を止めないと、みんなが!』

 

 『水月、やめて!!』

 

 ――――――!?

 

 涼宮さんの通信で速瀬さんの”撃ち気”が消えた!?

 他の人には変わらず不知火が突撃砲を向けているようにしか見えないでしょうが、私のあらゆる物質の運動を見逃さず理解する目には速瀬さんの戦意の喪失がはっきりとわかりました。

 

 そして速瀬さんの不知火はゆっくり突撃砲を下げました。

 

 『………確かに今、あんたを問い詰めてる時間なんてなかったわね。いいわ、とにかく反応炉を停止させなさい。遙も私も一応あんたに助けられたんだし、この場だけは見逃しておくわ。』

 

 そして白銀君に向いて言いました。

 

 『白銀、あんたは一足先に90番格納庫に行って防衛線に加わりなさい。向こうも今、地獄でしょうからね。』

 

 『………わかりました。くれぐれも早まったマネはしないで下さいよ!』

 

 そう言って行こうとする白銀君。

 

 「あ、待ってください白銀君、その前にS-11を置いていって下さい。必要なんで。」

 

 『あ?ああ、反応炉は頼むぞ、真由。』

 

 S-11を置いてグワァァーンと爆音響かせ白銀君は行きました。

 速瀬さんは私の監視はするようですが、敵対はしないようです。では仕事にかかりますか。

 

  みなさん覚えてます? 15話で言ったと思いますがBETAの母艦級、突撃級の外殻、要撃級の腕。BETAにはムチャクチャ硬くて厄介なモノがありますが、それらは全て生きている間だけ。生体エネルギーが通っている間だけ硬くて、それがなくなればゴミの如くもろくなります。これは反応炉の壁も同じ。生体エネルギーが巡っている間だけダイアモンド並の硬度があるのです。逆に言えばそのエネルギーを遮断すれば硬くて厄介なモロモロも紙装甲に早変わり!……というわけで物理学チート! そのエネルギーを瞬間的に吸収し消してしまう物質作っちゃいました!エネルギ-を喰らう謎宇宙由来物質を強化して超貪欲に喰らうモノにしただけなんですけどね。

 それを粘着弾と組み合わせて硬殻破壊弾なんて作ったものが今日行う予定の実験だったんですが、それを持ってきました!

 

 さっきジャンプするために外した突撃砲を構え反応炉に向けます。

 頭脳型BETAに近い場所目がけてシュート!……………命中!

 

 『…………?なによ一発だけ?爆発もしないし、なにも起きないじゃない。』

 

 と、速瀬さんは言います。エネルギー喰らう謎宇宙由来物質詰めているだけなんで爆発はしません。でも私のチートな目にははっきり分かります。瞬間的にエネルギーを大量に喰われ、粘着弾が当たっている部分を中心に硬度が大きく減衰しているのを!

 突撃砲を捨て、白銀君が置いていったS-11を片手に持って、もう片方の手にビーム長刀!反応炉に突撃し、脆くなった部分にビーム長刀を叩き突ける!…………やった!簡単に砕けた!厚さ数メートルものダイヤモンドにも等しいハズの外殻を簡単に壊していき、ついに内部をさらした!

 

 おじゃましま~~す………

 

 …………うおっとヤバイ!とっさにビーム長刀を投げ、急所に突き刺し頭脳型BETA瞬殺!

 

 ふ~~うヤバかった!こいつ、エネルギーを臨界まで上げて自爆しようとしやがりました!

 

 内部に入り、重要で貴重っぽい物質を次々刈り取り、採集していきます。うん、物理学チートな私には宝の山ですね。もうここに住む!………というわけにもいきませんが、流星の収納部いっぱいに貴重物質を入れていきます。

 

 そして強振発信部! 

 これこそこの件の最大目標! 遂に手に入れました!

 頭脳型BETAの発する脳波型言語を強化し、プロジェクションで数百万の下級BETAに送れるほど強力にするというものです!

 

 さて、名残惜しいですがさすがに全部は持って行けません。ここまでにしましょうか。

 

 持ってきたS-11をセットし、脱出。

 

 

 『反応炉停止はしたみたいだけど遅かったわね。何してたの?』

 

 外に出ると速瀬さんが待っていて聞いてきました。

 

 「詳しいことはこの通信メールで。博士に見せておいてください。」

 

 速瀬さんに私の目的を簡単に書いたメールを送りました。

 

 『な!! BETA全滅計画!?ちょっと、これ………』

 

 「質問は受け付けません。涼宮さん、流星の管制ユニット内に入ってください。反応炉内部にS-11をセットしました。急いで脱出しましょう。」

 

 『な!!反応炉は停止したんでしょう? なんで破壊するのよ!!!』

 

 私は涼宮さんを管制ユニット内に入れながら答えました。

 

 「復活させられるような停止程度じゃダメなんですよ。今回の襲撃は明らかに反応炉の確保が目的です。もし復活させられる可能性があるのなら本気のBETAは止まりません。制圧するまでいくらでもBETAを送り込んできます!明らかに復活は無理、と見せつけないと!

 研究用のサンプルは十分採集したし、内部構造も三日前に調査して、さっき詳しい細部も記録しました。研究には何の問題もありませんから心配しないで下さい!」

 

 …………純夏さんのODL浄化以外は。これ、考えると胸が痛みます。

 

 『じゃ、じゃあ最初から反応炉を守るのは無理だったってこと? もし早い段階で反応炉の破棄を決断してれば基地は………』

 

 そうなんですよね。もしBETA全滅計画を夕呼さんが了承してなければそうするよう進言してました。でも次のイベントのため、ここまで攻め込まれる必要があったのです。

 

 「ところで純夏さんは?出撃してるのですか?」

 

 『………いいえ。襲撃が起こる前に体調不良を起こして倒れたわ』

 

 どうやら今まで情報をオリジナルハイブに送っていたことを理解したようですね。純夏さんが夕呼さんにこれを告げて、これにより夕呼さんは桜花作戦を発動する決断をすることでしょう。

 

 オリジナルハイブを攻めるあの作戦を!

 

 そして”毒薬”最後の材料も無事手に入れました

 

 待っていなさいBETA

 

 

 これであなた達を滅ぼす一粒の悪魔を生んでみせましょう!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 反応炉での目的は達成!
 真由の計画は次の段階へ!


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第五十五話 基地襲撃の終わり

 

 白銀武Side

 

 オレは反応炉ブロックを出た後、全速力で90番格納庫へと向かった。

 あそこではオレと速瀬中尉のいない状況でヴァルキリーズのみんなが頑張っているはずだ。みんなの能力は高いが、やはり突貫力は落ちている。

 それに隊長を代行している宗像中尉も隊全体の指揮をとるのは初めてのはずだ。いきなりこんな修羅場で十分な指揮を取れるとは思えない。急いで合流するぞ!

 

 目的地の90番格納庫近くに来ると、ヴァルキリーズに通信を入れた。今までは中継機を壊されているので届かなかったのだ。

 

 「ヴァルキリー2よりα3リーダーへ。ただいま90番格納庫へ向かっています。そちらの状況はどうですか?」

 

 宗像中尉は現在凄乃皇の防衛をしているα3分隊のリーダーなので、コールサインはα3になっているのだ。

 

 『……ザザッ……白銀か!助かった……ザザッ…いや、こちらα3リーダー。各員奮闘するも凄乃皇にBETAが取りつき始めた。鎧衣が使っている新武装のおかげでまだ絶望的には至っていないが……あ!90番に着いたら床に気をつけろ!不用意に着地はするな!』

 

 …………床? どういうことだ? ともかく急ごう!

 

 

 

 

 

 ガガガガガガガガ!  ゴォォォォウゥ!!

 

 格納庫はやはり修羅場だった。もちろんオレも到着するなり戦闘に加わった。向かってくるBETAはやはり凄い数だった。しかし何故か格納庫の床に粘液状のモノが一面にあり、戦車級BETAはそれに足をとられて動きを鈍らせている。

 

 『足を取られているBETAは殺すな!殺すと後ろからのBETAが死体の上を踏み越えて来る!突破してきたBETAだけを集中的に狙え!』

 

 「は……はい!しかしこれはいったい何なんですか?」

 

 オレの質問には美琴が答えてくれた。

 

 『真由ちゃんが作って送ってくれた”トリモチ弾”だよ。

 ”無数に迫ってくるBETAを止めるには足を狙うのが効果的です。美琴さんなら足の重要性を一番よくわかっているでしょうから評価試験お願いします。”て手紙といっしょによこしてきたんだ。

 偶然90番格納庫に保管してあったんで使っているんだけど、ずいぶんBETAを止められたよ!試験なしの実戦使用だけどね』

 

 …………真由が? 反応炉の件は偶然だとは思うが、これもそうなのか?速瀬中尉がなにか疑う気持ちもわかる気がする。………いや、BETAの襲撃なんて誰もわかるハズがないし、わかっているならここまで追い詰められる前にもっと効果的な防衛方法をやるはずだ。やはり偶然だろう。

 オレは考えを振り切り、戦闘に集中した。

 オレが加わることで部隊は活気づき、凄乃皇に取りついたBETAも排除した。だが、にも関わらずいくらでも沸いてくる!

 BETA共相手に忙しく迎撃に励んでいるその最中、

 

 

 

 ズウゥゥゥゥ――――ン………

 

、いきなり地下から爆発音が聞こえた。

 

 (…………地下? 反応炉ブロックからか?)

 

 ―――――――――――――――!?

 

 すると信じられないことが起こった! 

 さっきまで津波の様に押し寄せてきたBETAがすべて動きを止めたのだ。

 そして一斉に出口へ向かって引き始めた!

 

 BETAが全て格納庫から出て行った後、しばらくしてオペレーターから状況報告がきた。

 

 

 『全ヴァルキリーズへ通達。基地に侵入した全BETAは撤退を開始した。追撃はせずその場で待機。警戒体勢に移行せよ』

 

 この90番格納庫だけでなく、基地内に侵攻してきた全てのBETAが撤退したようだ。

 

 

 ………………なにが起こった?

 

 

 

 

 

 

 

 

 90番格納庫で警戒を解かず待機していると、やがて速瀬中尉の不知火が戻ってきた。

 

 『……………ただいま。本当にBETAはみんな引いていったわね。あいつ、一体どこまで読んでいたのやら………ってなにこのベタベタ!? 足とられた―――――!!!』

 

 中和剤で不知火の足をはがすまで速瀬中尉はずっと真由を罵っていた。これのお陰で凄乃皇は守られたんだけどな。しかしここを掃除するのは………オレ達しかいないな。ガックリ。

 

 そして速瀬中尉の話によると、真由は反応炉を爆破したそうだ。こうしなければいくらでもBETAはやってくるためだという。そして真由は涼宮中尉と共にムショに戻っていったそうだ。

 

 『宗像、引き続き指揮を頼むわ。アイツのことで副司令に報告しなきゃなんないことが山のようにあるの。それに場合によっては事態が大きく動く………いや、まだこれは話すべきことじゃないわね。じゃ、頼んだわよ…………ってまたネバネバ足についた―――――!!』

 

 うん。なにか重要そうなことがあるようですが警戒くらいちゃんとしてくださいよ。天丼ギャグとかやって疲れさせないでくださいね。

 オレ達は再び中和剤の用意をした。

 

 

 

 

 

 ようやく準警戒態勢になり、オレ達は機体を降りて休息に入った。見渡せば基地中ケガ人だらけだった。航空路には大量の死体が並べられている。全ての部隊は壊滅状態だそうだ。一人の損耗もなく、軽傷のみのヴァルキリーズが奇跡だ。

 …………いや、奇跡じゃないな。このBETAに蹂躙されつつあった横浜基地に突然現れた真由。あいつが来なけりゃ速瀬中尉も涼宮中尉も生きていなかった。

 

 

 「タケル、いいか?聞きたいことがある」と冥夜が話かけてきた。

 

 「ああ、いいぞ。何だ?」

 

 「反応炉ブロックに沙霧が現れたそうだな?実は宗像中尉から頼まれてな。その時のことを詳しく教えてくれ」

 

 「いいが、宗像中尉は?直接話した方がいいんじゃないか?」

 

 「宗像中尉は現在涼宮中尉と話している。涼宮中尉は沙霧と刑務所の方に行っていた様だが、つい先頃こちらに戻ってきたのだ」

 

 オレは冥夜に真由が鳴海孝之という速瀬中尉と涼宮中尉の思い人のフリをして流星に乗って現れたことを話した。

 

 「………何故沙霧はその鳴海孝之という人物のことを知っていたのだ?」

 

 「いや、基地の知っている人に聞いたと言っていたが……」

 

 「伝聞だけで他人のフリなどできまい。実はな。他の部隊がこれだけ死傷者負傷者を出したにも関わらず我がヴァルキリーズは一人の損耗も出さなかった。それは沙霧の送ってくれたトリモチ弾による恩恵が大きい。

 BETAの戦術は先に我々が殺したBETAの死骸を盾にし、隠れながら迫るというものだった。この戦術に他の部隊は対処できず次々に潰されていった。だが我々は鎧衣がトリモチ弾で死骸ごとBETAをくるむことで対抗できたのだ」

 

 「そうか。真由のやつ……」

 

 「沙霧に感謝はしている。しかし偶然にしてはあまりに出来すぎていることに宗像中尉は気にしておられるようでな。評価試験に使うだけとは思えない程大量に送ってきたそうだ。それは何故か90番格納庫に保管されていた。そして沙霧が反応炉に現れた不自然な状況を考えてみると……」

 

 「真由は横浜基地のBETA襲撃を知ってたっていうのか?そんなこと……!」

 

 「あるわけない、か。確かにそんなことはありえんがな。しかし『沙霧が反応炉で何かをやったのなら数日内に事態は大きく動く』宗像中尉はそう仰っていた」

 

 

 

 『そんなことあるわけない』と思いつつも『ある』と予感していた。

 

 そしてそれは数日内どころか翌日にやってきた。

 

 人類史上最大の軍事作戦が発令されたのだ。

 

 

 

 ――――名を『桜花作戦』

 

 

 

 

 

 

 

  




 戦いは終わった
 しかし休む間もなく次の戦いが幕を開ける
 それは人類最大の作戦

 そして次回、BETA全滅計画の全貌が明かされる!


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第五十六話 ………さんいらっしゃい?《説明回》

 

 「こんにちは 沙霧真由です」

 

 「こんにちは~ ゴッド純夏で~す!」

 

 「さて、今回は説明回なのですが………ゲストはいません!」

 

 「ええ!? やっぱり前回ギャラ使いすぎちゃって誰も呼べなかったの!?」

 

 「いえ、一応Zガンダムのロザミア・バダムさん呼んでいたんですが……………直前に心のお兄ちゃん探してどっか行っちゃったそうです。マネージャーのゲーツ・キャパさんから連絡がありました。『自分がお兄ちゃんだと言っても信じてくれない』ってぼやいていましたよ」

 

 「あ~~放浪癖あるもんね、あの人。ゲーツさんも大変だ」

 

 「しょうがないので私達だけで始めましょう。ロザミアさん、もし終了までに来れるなら来てくださいね。私も妹なので気持ちはわかります。

 では今回の説明は私の考えた”BETA全滅計画”についてです」

 

 「おお!いよいよそれ、説明しちゃうの!?」

 

 「BETA全滅。この一見不可能な命題も、実は前世から答えらしきものは考えついていました。

 ヒントはオルタ原作で横浜基地襲撃直後に判明したBETAの命令系統。オリジナルハイヴを頂点とした完全な箒型であり、さらに物語の最後において、思考するBETAはオリジナルハイヴのコアの『あ号標的』こと重脳型BETA一体だけ。他のBETAはその命令を実行するだけのモノだということが判明しました。

 『だったらそのあ号標的を洗脳して全BETAに自壊するよう命令させればいいじゃん!』………てのが私の答えです」

 

 「ええ!! なにそれ? 宇宙人を洗脳とか本当に出来るの!?」

 

 「その答えを得るためにBETA言語の研究をはじめ、洗脳の仕方やコンピューターウィルス、ハッキングなど関係しそうな技術までも学んできました。

 さらに私の脳にはBETA技術で作られた記憶補器が埋め込まれているので、その脳波を使ってどれくらいのことが出来るかも調べました。脳波コントロール装置や鎧衣さんと戦った時のマシーンはその実験検証機です。

 それでBETAの送信受信のシステムは大体わかるようになりました」

 

 「へぇ~~。あれ、クーデターが起こった時いきなりチートで開発したわけじゃなかったんだ。で、結果はどうだったの?」

 

 「研究の結果、可能だという結論が出ました。その説明前にこの映像を見て下さい。出典は『機動戦士ZZガンダム』からプルツーさん名セリフ集です」

 

 

 『あたしよ、死ね!』

 

 『気持ちが悪いの、消えちゃえ!』

 

 『ダブルゼータの意思の中に、プルが………いた。』

 

 『ひとりじゃないみたいなんだ、あたし。』

 

 

 

 「いや~ゲストで来ていただいた時もセリフはたった一言だったのに存在感で他の強化人間さんを圧倒してました。それだけにさすが名セリフ多いですね」

 

 「…………あれ?なんかデジャブが。00ユニット時代の痛い記憶が甦るような?」

 

 「はい。これはプルツーさんが自分に近い存在のプルさんの死の直前の思念を受け取ったために、常に自分の中にプルさんの存在を感じ苦悩する様を集めたものです。

 大変苦しんでいますが、プルツーさんに限らずニュータイプさんや優れた強化人間さん、他リーディング能力者は同じ様な苦しみを感じ、それがそのまま弱点になっているのです!」

 

 「おお!その弱点とは!?…………て、聞く前にわかっちゃった。ヤバイ奴リーディングした時のアレね。」

 

 「そうです!他人の思念を読み取ることのできるリーディング能力者は強い思念を読んだ時、その思念に影響され自分が誰なのか分からなくなるアイデンティティー崩壊を起こすことがあります。では、話を”あ号標的の洗脳”に戻しましょう」

 

 「あ~~そういやその話をしてたんだっけ。長くて忘れてたよ」

 

 「人間を洗脳する場合、使用する言語はその人の母国語でなければいけません。たとえ理解できても外国語ではいけないのです。さらに呼びかける声もその人の馴染みやすい声で。自分の声なんかが最上ですね。これらは呼びかける声が自分の意思と錯覚させるためです。これを催眠導入なんかでその人の意思が低下した状態で呼びかけて行うわけです。

 以上。見たり聞いたりして状況やモノを脳内でイメージする人間を洗脳する場合は大変手間がかかるわけですが、これをあ号標的にかける場合はどうでしょう?ヤツの場合、意思疎通はBETA言語。直接脳にイメージ映像を送ったり受けたりする脳波型言語ですが、実はコレ、洗脳にとても弱いのです!送られるイメージ映像が強すぎる場合、それが自分の意思と錯覚してしまうのです。宿命的にリーディング能力者と同じ弱点を持ってしまっているのですよ!」

 

 「なんだってぇ―――!?じゃあ今までどうやってやって来たの………ってBETAの中で思考能力を持っているのはオリジナルハイヴ深奥のあ号標的だけだっけ」

 

 「そのとおり! 上位存在以外の他者の意思なんて受けたことがなく、耐性なんてないと考えられるので強力なイメージのBETA言語を送るだけで一発でダウンです!私の作っている”毒薬”とは強力なBETA言語で自壊命令のイメージを発信させる物質だったのですよ!!」

 

 「な、なんだってぇ――――――!!!」

 

 「ついでにもう二つBETAの弱点を発表しましょう」

 

 「ええ!まだあるの!?」

 

 「一つはオルタ原作で白銀君がオリジナルハイヴ深奥の『あ号標的』に接触して判明したことです。BETAとは地球その他惑星に資源採掘に来たマシーンだということです」

 

 「え?いや、私もその場にいたから知っているけど、それって弱点になんの?」

 

 「大変な弱点ですよ?我々人類がBETAと戦う時どれだけ損害が出ようともやめることはありません。でもBETAの目的は資源採掘。それには”コスト”というものがつきまといます。一億円分の資源を採掘するのに十億円をかけるわけにはいかないのです。

 そしてもう一つ。話はかわりますがゴッド純夏さん。あなた、前世のオルタ原作において横浜基地襲撃の時に”BETAはエネルギー枯渇寸前”とBETAからリーディングしたにも関わらず、BETAは長時間活動しましたよね?」

 

 「あ~~なんだったんだろアレ?BETAが私がリーディングしてるのを知ってウソついたのかな」

 

 「いえ、そうではありません。あれは純夏さんが勘違いをしていたんですよ」

 

 「勘違い?何を?」

 

 「”エネルギー枯渇寸前”とは襲撃に来ているBETAではありません。BETA全体のことだったんですよ!人類が佐渡島の反応炉を潰したことによって!」

 

 「え?でも反応炉は他のハイヴに20もあるよね?それなのに?」

 

 「逆に考えるんです。数千万ものBETAを生み出し、さらにその活動エネルギーをわずか二十一の反応炉でまかなっているんです。それがもし一つでも無くなったらどうなると思います?」

 

 「………………大変?」

 

 「さらに”距離”という要素を入れて考えてみましょう。すると佐渡島ハイヴの反応炉を失った分の負担は鉄原ハイヴにほとんどかかってしまうのです!」

 

 「あ! じゃあ横浜基地襲撃したのは………」

 

 「はい、横浜基地の反応炉による人類の情報収集は非常に効果的なモノでした。なのにあえてそれを終わらし、反応炉を取り返しに来た。これはそれだけエネルギー不足が深刻なためです。

 さらにコスト的にも痛い。反応炉を失うこと、これは一億円分の資源採掘の現場で百億円もの高価な作業機械をスクラップにしたようなものです。

 さらに!情報収集のために人類に預けていた反応炉も潰されてしまいました。いつでも取り返せるように大深度地下壕を掘っていたにも関わらずです。これは明らかに『あ号標的』さんのミスです」

 

 「あ~~~『あ号標的』さん、上位存在さんに大目玉だね」

 

 「はい。これの動揺によって『あ号標的』さんはとんでもないミスを起こしてしまい、オリジナルハイヴ陥落に繋がってしまうワケですが、まあこれ以上は桜花作戦に入ってしまうのでやめましょう」

 

 「そろそろ終了だけど結局ロザミアさん、来なかったね。私達だけでしゃべっちゃった」

 

 「そうですね………あ!そうだ、私の声を鳴海孝之ボイスに変える音声変換器。これをカミーユさんの声に変わるよう調節して………」

 

 

 

 『ロザミィ―――!お兄ちゃんだ。オレはここにいるぞ―――!!!』

 

 

 

 

 グオォォォォォ――――――!!!

 

 『お兄ちゃ―――――ん!!!』

 

 

 「ぎえぇぇ!!サイコガンダムで来やがりました―――――!!それではこの辺でぇ―――――!!」

 

 

 

 

 

 

 

 




 読み返して思ったんですが真由の前世ってどんな人間だったんでしょうね?
 どうせ二話で消えるからと、”マブラヴ好き”ってだけしか設定考えなかったんだけど、もう想像もつきません。作者なのにね


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第五十七話 再び対決!横浜の女狐

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 おみやげいっぱい持って横浜基地よりムショに帰還しました。そしたら神宮寺教官が出迎えてくれました………って避難しなかったんですか!

 確かに原作では横浜基地の反応炉制圧に失敗したBETAは一斉に鉄原ハイブへ撤退しますが、原作通りに進むとは限らず危険なのに!

 

 「私はあなたの監督を任じられているのよ。あなたが帰還するというのなら待っている義務があるわ」

 

 そうですか。もし間違ってBETAが流れてきて、それで死んでたら私、オルタの白銀君みたいなトラウマ抱えることになっちゃいますね。

 あれ、見てるだけでも鬱になるのに実体験なんてしたら…………うぁぁぁぁぁぁぁ!!!!生きてて本当~~~によかったです神宮寺教官!!

 

 管制ユニットを開け、雪ダルマ型パイロットスーツを脱ぎ、一緒に乗っていた涼宮さんを、神宮寺教官に手伝ってもらいながら降ろします。

 一応スピードは緩めたんですが………やっぱりグロッキー状態です。

 そんな状態でも涼宮さん、私のことを切なさと恨めしさの入り混じった目で見ています。

 やっぱり”鳴海孝之ボイス”のこと恨んでますか。

 今更ながらアレは悪いことをしたような気がしてきました。

 

 とは言え罪悪感で立ち止まってなんていられません。今からは大忙しです!

 これからの予定、涼宮さんに手伝ってもらおうと連れ帰ったのですが、さすがに動けそうにありません。なので代わりに神宮寺教官に頑張ってもらいましょう!

 

 「神宮寺教官、涼宮さんをベッドに運んだらすぐ河崎重工に行って下さい。今日納品予定の戦術機パーツをすぐ横浜基地に運ぶよう交渉してきてください!」

 

 「ええ!?基地は壊滅状態だって聞いたわよ!受け入れなんて出来ないでしょう?」

 

 「大丈夫です!今からが人類の存亡の戦いの始まりです!そのためにもパーツを送ってください!」

 

 「………わかったわ。一応副司令に連絡をいれて許可が出たら行くわ。沙霧はどうするの?」

 

 「対BETA殺しの”毒薬”の最後のパーツが手に入りました。朝までに完成させて出来次第博士に持っていきます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”毒薬”は最後のパーツ、強振発信部を組み込むだけなのですぐ終わりました。

 野球のボールより一回り大きい球形で、リーディングを通さない物質で覆ってます。

 これの情報を読もうと外皮を破ると強力粘着剤で取れなくなり、強力なBETA言語で”BETA自壊命令”を破った者に送る、というモノです。

 一応危険物の研究製作品なので専用のアタッシュケースに入れます。落としたぐらいじゃビクともしないんですけどね。

 

 ラジオ放送でBETA情報を聞いてみると、侵攻してきたBETAは全て鉄原ハイブに向かっているようです。

 わざわざ海を渡らせて送ったBETAを、作戦失敗とはいえそのまま全て回収するということは、やはり”守り”に入ったようですね。どうやら予定通り原作と同じ”隙”を作っているようです。

 

 では基地に届けに行くとしましょう。

 神宮寺教官は河崎重工にパーツの受け取りに行っちゃったし、一応寝ている涼宮さんに声をかけてから行きますか。

 そう考えて研究室を出ると………涼宮さんが待っていました!

 

 「研究は完成した?私も基地に帰るから一緒に行こうか」

 

 「涼宮さん起きてて大丈夫なんですか? まだ顔色が悪いですよ!」

 

 「こんな大変な時に私だけ寝てなんていられないわ。それに基地まで近いとはいえ、あなた一人だけで混乱している基地に行くなんて危ないわ。神宮寺軍曹にも頼まれたもの」

 

 確かにまだ暗い道を一人で行くのは恐いですね。それじゃ二人で基地まで行きますか。アタッシュケースを涼宮さんが持ってくれて基地に向かいました。

 

 

 

 

 

 「私を助けてくれたのは沙霧さん。でも……”孝之君が助けてくれた”。そう思うことにする」

 

 涼宮さん、そんな悲しそうな目で私を見ないでください。やっぱり”鳴海孝之ボイス”のこと根にもってますね。やはりアレはやりすぎでしたか。

 涼宮さんてば私が鳴海さんだと思ってた時はいっそう女の子らしい感じだったし、いつも勝ち気な速瀬さんもすごく可愛かった!さすがに罪悪感がのしかかってきます。

 

 基地に着いてみると施設は大きく破壊されており、遺体が大量に航空路に並べられています。負傷者が基地内のいたる所におり、横浜基地まるごと外傷病院のようです。私が横浜基地BETA襲撃を知っていながら何もしなかったせいでこの地獄絵図が出来たと思うと心が痛いですね。

 

 それにしても最近”女神の加護”で記憶が飛ぶことがなくなりました。ここ最近の重要なことが飛んじゃったらシャレになんないので一応ボイスレコーダーに記録とかつけてますが、世話になることはありません。どうやら私の心はいろいろ修羅場をくぐったせいでけっこう強くなったようです。

 

 混乱しているとはいえ、さすがに夕呼さんのいる中央作戦室は不審なアタッシュケースなんか持ち込めません。なので涼宮さんに預かってもらい、身ひとつで夕呼さんに会いに行きました。

 

 

 

 

 

 

 

 夕呼さんにアポを取ると、とあるブリーフィングルームの一室で待たされました。

 しばらくして、思ったより早く夕呼さんは来てくれました。

 さっそくUSBメモリをPCで映し、私は説明を始めました。

 

 「これとこれがBETA全滅のための”毒薬”です。実物はいまアタッシュケースに入れて涼宮さんに預かってもらっています。詳しい構造なんかは後でじっくりを見ていただくとして、使い方を簡単にご説明いたしましょう。

 ”人類の重大秘密あり”と入れた方をA、”BETA全滅せよ”と入れた方をBとします。まずBをBETAが興味持ちそうな機体のメインコンピューターに厳重なブラックボックスにして封印します。そしてAはその機体から常時周囲に発信するようにします。

 そしてその機体をオリジナルハイブに進ませ、BETAに鹵獲させます。人類の秘密を暴こうと深奥のコア『あ号標的』が調べると…………ウソです!毒でした!となります」

 

 「毒……ねぇ。確かに情報の毒かもしれないけど、これを読ませるだけで本当に?」

 

 夕呼さんは画面を見ながら聞きました。

 

 「Bはただ普通にBETA言語を発信するだけの単純なモノじゃありません。ここの反応炉より得た数十万のBETAへ命令を送る強振発信部でとてつもなく強力にし、さらに洗脳技術やコンピューターウイルス技術、ハッキング技術などにより拒絶不可能、命令不服従不可の恐るべきモノとして作ってあります。これを『あ号標的』が読んだ途端、BETA全滅命令しか出せなくなるのですよ!」

 

 ついでに擬似的なケイ素生命体のようにもしてあります。BETAの上位存在がケイ素生命体だという原作知識の応用ですね。

 夕呼さん、画面に映る”毒薬”の構造や情報をじっくり確認しながら見ていきます。こういう姿を見ると『この人も科学者なんだなぁ』なんて思いますね。

 

 「なるほど………。確かにこの構造なら標的をこのBETA言語の支配下におけるわね。それにしても凄いこと考えるわね。BETAを洗脳しようだなんて」

 

 「これの運用は博士にお任せします。この先は謀略の領分ですから。”毒薬”を入れる”杯”の機体が決まったら教えてください。間違いなく発動するようセットします」

 

 すると夕呼さん、ニヤリと楽しそうに笑いました。

 

 「確かにそれはあたしの領分ね。帝大出たての無力な小娘が巨大なお偉いさん相手に色々仕掛けて成り上がったものだわ。”女ギツネ”なんて称号までもらってね。

 いいわ、それをクソ傲慢なBETAのお偉いさんに必ず飲ませてみせるわ!」

 

 うん、やっぱり夕呼さんは敵にまわすとおそろしいけど、味方にすれば頼もしい!

 夕呼さんはまたまたニヤリと笑って続けます。

 

 「ところで、これで”BETA全滅計画”を立てるならオリジナルハイヴのコア『あ号標的』がすべてのBETAに命令を与える存在だと、はじめから知ってなきゃ出来ないわよねぇ?」

 

 

 

  いきなり敵になりましたか…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 かつての強大なライバル香月夕呼
 彼女と再び相まみえる!
 さらに強大になった夕呼に真由は勝てるのか?
 
 そして勝負の果てに何を見る………?


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第五十八話 真由、真実を語る!

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 BETA全滅計画の核心である”毒薬”を完成させ、届けに来たんですが…………やっぱりその過程でいろいろ怪しいことしちゃいましたね。今現在夕呼さんに問い詰められてピンチです。

 

 「コレを強力なBETA言語を発信するようにするためには、反応炉からBETA言語を強化する強振発信部を取らなきゃならない。でも反応炉の解体なんて簡単に許可が出るワケがない。

 つまり基地がここまで追い込まれ、かつあそこで速瀬が反応炉の破壊を決断することまで知っていたわね?事前に反応炉を調べたのも、あんたがあそこに現れたのも、その瞬間に反応炉から材料をいただくためね?」

 

 ハイ、おっしゃる通りです。

 

 「数日前A-01に評価試験の依頼と称して大量のトリモチ弾を送ったわね?それはこの襲撃でBETAが他の死骸を盾に迫るという戦術に対抗するため? ご丁寧にニセの命令書で90番格納庫に保管させて。

 だとしたらBETAの襲撃のみならず、90番格納庫が戦場になること、まだ見せてもいないBETAの戦術まで知っていたことになるわね」

 

 オルタと違って月詠さんと斯衛の三人はいませんからね。システムに介入できることを知られても手を打たないと、壊滅の可能性さえありました。美琴さん、上手く使ってくれて感謝です。

 

 「そして少し前にまりもから連絡があったわ。あんたが河崎重工に発注しているパーツを基地に届けろと言っているってね。確かにそれはこれからの作戦のために必要よ。戦闘でガタついた機体ばかりでどうしようかと思っていたけど、これで戦術機を良好な状態にできるわ。

 でも今日この日に大量のパーツが届くよう発注かけたのはあんただったわね?まさかこれ、今の状況を見越してのこと?

 でもだとすると、その時点ではあたしが考えてもいないこれからの作戦のことを…………いえ、鑑とオリジナルハイヴの関係すら知っていたことになる」

 

 ハイ、確かに純夏さんがオリジナルハイヴに情報を送っていたことを知っています。私が人類を一大危機に陥れる情報を知っていたことも、知ってて黙っていたことも戦慄するのに十分でしょう。

 

 「速瀬からも話を聞いたわ。これまであいつとの接点はないハズだけど、随分と過去を知っているようね。それに涼宮が制御室でBETAに襲われるのを事前に察知したって?それってやっぱり予知?」

 

 原作知識です。『君が望む永遠』も随分やりましたからね。

 

 「でも予知があるにしちゃ、佐渡島に関してはまったくそんな兆候見せなかったわね。この違いは何なのかしら?」

 

 純夏さんの途中リタイアを防ぎましたよ。まあ、起きない不幸は気づかないものですが。

 

 「ねえ、そろそろあんたのその未来予知みたいなモノ、教えてくれない?どういった条件でどんな風にわかるの?」

 

 恐!!! 夕呼さんが優しく聞いてくるのって、途轍もなくヤバイ感じです!

 とうとう私に関してのわからない部分に踏み込んできたようです!

 

 しかし!私には世界をも支配出来る、神にも悪魔にもなれる正義の心を持つ者だけがつくことを許されるというスペシャルなウソがあります!

 空を裂き、大地を割り、虚構を構築するその力!

 

 喰らえ夕呼さん!! 神の声を聞け!!

 グレートゴージャスマジンラァ~~~イ!!!

 

 

 「あ、いまウソ言おうとしてるわね。時間もったいないんだからやめてちょうだい」

 

 ――――!!

 

 何ィィィィィ!? 発動する前に見切ったですとォ………!!?

 

 「うわっ、おもしろい顔!こっちはあんたのウソにはさんざん痛い目にあっているからね。舐めるのはやめて見抜けるようクセを研究したわよ」

 

 「わ……私のウソが通用しないというのですか!? そんなバカな!!

 ほぎゃァァァァァァァァァァァ~~~~!!!!!!」

 

 

 

 ――――カチャ………

 

 「あの、副司令大丈夫ですか?」

 

 「問題ないわピアティフ。沙霧が吠えているだけ」

 

 「問題……ないんですか、これ?」

 

 「こいつの奇行は今にはじまった事じゃないでしょ。

 それよりラダビノット司令にアポ取っといて。例の作戦、BETAに極めて有効な手段が見つかったから作戦案の修正の提案。

 あと整備主任に通達。河崎重工の業者が来たらすぐ作業にかかってもらって。目標は明日までに完全な不知火10機。技術者の応援も頼んだから上手く使って。

 それと涼宮が持っているアタッシュケースを受け取っておいて。それを厳重に保管。

 それからここで食事を済ませるから沙霧の分と持ってきて。頼んだわよ」

 

 「はい、了解しました」

 

 パタン………

 

 

 

 ハァ……ハァ……おや?誰か来たような気がしますが、絶叫している私をスルーとかありえませんね。気のせいでしょう。

 それよりもまあ、屈辱ですがそろそろ本当のことをしゃべってもいいでしょう。別にゴッド純夏さんに『本当のことをしゃべっちゃいけない』とか言われているワケじゃないですしね。

 

 「はぁ……博士にはかないませんね。わかりました。本当のことを話します」

 

 「いや、あたしじゃなくても十分警戒するレベルだけどね。速瀬もあんたに何かを感じたみたいだし。まあいいわ、それで?」

 

 「実は世界中にBETAが蹂躙するこの世界、私の前世ではゲームだったのですよ!」

 

 「………は?前世?ゲームって…………スゴロクみたいなモノ?」

 

 「この世界にあるようなチャチなものじゃありません!膨大なシナリオによるテキスト!それにイベント画という絵を組み合わせたその名もPCゲーム!パソコンによって起動させ、読み進めるタイプのゲームです!」

 

 「ええと……パソコンでゲーム?随分高価ね」

 

 「そしてこの世界における物語は白銀くんを主人公にした壮大なストーリー。そのタイトルはマブラヴ!」

 

 「”まぶ……らう゛”?何語かしら?」

 

 「第1章は白銀君がいた元の世界での学園ドタバタストーリー。ですが第2章でのアンリミテッド編ではこのBETA世界に迷い込んだ白銀君の物語。残念ですが、ここでは博士は00ユニットを完成させられずゲームオーバーでした」

 

 「…………痛いわね。確かにあんたがいなけりゃ完成できなかったろうし」

 

 「そして第3章のオルタネィテイブ編。遂にこの世界において色々な経験を積んだ白銀君は、様々な悲劇を乗り越えてオリジナルハイヴ陥落を果たします!

 このマブラヴの原作知識。これこそが私が予知をしているような秘密だったんですよ!」

 

 「…………………………」

 

 「速瀬さんのことについては別のPCゲームで知りました。鳴海孝之さんが主人公で速瀬水月さんと涼宮遙さんがヒロイン。そのタイトルは『君が望む永遠』!」

 

 「は……速瀬がヒロイン!? それになに?その速瀬にまったく似合わないポエムなタイトル!?」

 

 「BETAのいない世界で鳴海さん、速瀬さん、涼宮さんがキャッキャウフフな三角関係のラヴストーリーが繰り広げられる物語!あれも名作でしたねぇ」

 

 

 

 

 

 「………………驚いたわね」

 

 そう!あまりの驚愕の事実に夕呼さんも呆然としてます。

 

 「まったくウソの兆候が見えなかった。なのにこんなたわ言並べられるなんて」

 

 はい?たわ言?

 

 「残念だけどここまでね。兆候がわからないんじゃ判断ができないわ。時間もないしあんたのことは棚上げね。負けたわ」

 

 …………私、勝ったんですか?虚しい勝利です。

 

 「でも一つだけ教えてちょうだい。鑑がオリジナルハイヴに情報を送っていたことまで話さなかったのは何故なの?これは反応炉解体とは別問題よね?まあ、あんたのおかげで少しはマシになったけど、それでも準備不足のまま”作戦”をしなきゃならなくなったわ」

 

 「それです!今この瞬間に人類最大の作戦、桜花作戦を発動させること。そのために黙ってました!」

 

 「………このことについても知っているみたいね。で、その理由は?」

 

 

 

 「今がオリジナルハイヴ深奥にたどり着く可能性が最も高いからですよ」

 

 

 

 

 




 強敵夕呼に辛くも勝利した真由!
 そして夕呼の問いに何を語る………?


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第五十九話 オリジナルハイヴの真実

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 実はずっと不思議だったんですよ。オルタ原作の桜花作戦において白銀君たち新任だけでオリジナルハイヴを突破できたことが。

 確かに凄乃皇は強力だし、ハイヴの内部構造のデータはありました。でも当時さまざまな悪条件が重なって圧倒的に戦力不足。

 それにハイヴ攻略というのはとんでもない難易度なんですよ。これまで世界各国の最強部隊がいくつもハイヴに挑戦してきましたが、G弾を使用した横浜ハイヴ以外全て失敗してきました。

 一例をあげますと、90年代に入った頃、拡大するBETAの勢力に対抗するために世界の枠を越えたスペシャルチームが結成されました。目的は世界中のハイヴの攻略。

 メンバーも豪華で世界中から対BETA戦闘で伝説的な活躍をした最強衛士や最高指揮官が集められました。白銀君ぐらい強い衛士や伊隅さんを超える指揮官なんかも何人もいましたし、それに準ずる能力の人も数百人もいる千人ぐらいの世界最高の精鋭部隊です。

 最初の目標はフェイズ2の小ハイヴ。データ収集や宣伝のために確実に陥とせる所を選んだようです。まあ、小手調べですね。

 ところがこのスペシャルチーム、この小手調べで全滅してしまったのです! ハイヴに入った衛士は一人も生還できませんでした。ハイヴ攻略というのはそれくらい絶望的なモノだったのです。

 そこで私、この前世知識の成功要因を徹底的に検証しました! ”横浜基地襲撃”をそのままやらせたのはその答えです。

 

 

 「準備不足でも大丈夫です。オリジナルハイヴのBETAは数は多いけど佐渡島のモノより弱いんです!」

 

 「はあ? あんた、何いってんの?」

 

 「先の佐渡島戦でハイブ攻略部隊はハイヴ中層まで行きました。そこに行くまでBETAとほとんど交戦することはなかったのに、そこからいきなり大量のBETAに囲まれ殲滅されてしまいました。これは明らかに人類の戦術、包囲殲滅を学んだものです」

 

 「そうね。もしそれをオリジナルハイヴでやられたら……………突破するのは難しいわね」

 

 「いえ、やりません。博士、そもそもBETAって何だと思います?」

 

 「…………言い切るわね。あの有効な戦術を本丸であるはずのオリジナルハイヴでやらないって? それにあんた、BETAの正体を知っているとでもいうの?地球侵略の宇宙生命体じゃないの?」

 

 「今まで人類が戦ってきたBETA……あれは生物の形をしていますが生物じゃありません。宇宙人の資源採掘マシーンなんですよ」

 

 「なんですって!!し……資源採掘マシーンですって!?」

 

 「突撃級はロードローラー、要撃級はブルトーザーと掘削機、戦車級はダンプカー、要塞級は高所作業車ですね。そしてオリジナルハイヴ以外の反応炉。あれはBETAのエネルギー源というだけではなく、オリジナルハイヴの意思を伝えるコントロールタワー。真に意思を持ったBETAはオリジナルハイヴ深奥にいる『あ号標的』だけです」

 

 「そのこと、やっぱり知っていたのね。それで?」

 

 「さて、BETAは地球に資源を採掘に来ましたが人類の抵抗に遭って作業は進みません。そこで資源採掘マシーンであるBETAのOSに人類から学んだ戦術や戦略をインプットして戦闘マシーンに変えました。佐渡島のように人類圏に接している外縁部のハイヴのBETAは戦闘マシーンと化して恐ろしく強くなっていますが、内陸部のハイブのBETAは元の資源採掘マシーンのOSのままなのです。その方が本来の役目である資源採掘は進みますから」

 

 そう。これこそオルタ原作の桜花作戦において様々な悪条件が重なったにも関わらず、白銀君達がオリジナルハイヴの深奥までたどり着けた理由の一つ。オリジナルハイヴのBETAは地球に来たばかりの散々に人類にやられていた頃のままなのです。

 

 「………………まあ、そのことはとりあえずいいわ。でも援軍は?あの超巨大BETAの”母艦級”。オリジナルハイヴならすぐ来るだろうし、来るのが1体だけとは限らない。いえ、常駐しててもおかしくない。凄乃皇でも1体と相打ちになるのがせいぜいよ」

 

 BETAが包囲殲滅戦術なんて覚える前からハイヴは難攻不落でした。長くその理由は不明でしたが、先日の佐渡島戦で原因が判明いたしました。

 それは”母艦級”と呼ばれる超巨大BETAの援軍!

 ハイヴに侵入した軍が中層あたりに迫るとヤツが援軍に来て皆殺しにしてしまうのです。ヤツはこれまでハイヴ内でしか戦闘せず、ハイヴに入った者を皆殺しにしてたためにその存在は不明でした。私は原作知識で知ってたはずなのに最後の方でちょっとしか出てこなかったために、人生をまたいだ間に忘れちゃいましたね。テヘッ♡

 

 さて、ここでBETAのハイヴ防衛についてまとめましょう。BETAには人類圏の制圧や人類の兵器を撃破することを目的とし、奇襲方法や人類の兵器の構造情報、優先目標を教育された戦闘型。そして本来の役目である資源採掘型がいます。戦闘型は主に外縁部に多数配備されて人類圏への侵攻とハイヴ防衛、資源採掘型は内部の安全圏でその本来の役目である資源の採掘を行っております。

 ハイヴが攻撃され人類が善戦して戦闘型をも倒し反応炉に迫ると、ハイヴは大量のBETAを生みます。ですがそれらは戦闘教育を受けていない資源採掘型。ただ突進するだけなので簡単に撃破されてしまいますが、それで時間を稼ぎます。そしてその間に母艦級BETAが大量の戦闘型BETAを運んで救援に駆けつけるのです。

 

 ではなぜこの母艦級はオルタ原作最終戦においてあんなに遅れたのか?遅すぎて白銀君と冥夜さんを深奥の広間に入れちゃいました。それは先の二つの戦いが関係します。

 佐渡島ハイヴ攻略戦、横浜基地襲撃と人類側は甚大な被害を受けてしまいました。この戦いでBETAは勝ったのでしょうか?いいえ、BETA側からしてもこの戦いは負けでした。なぜならBETA側の勝利条件とは最終的に反応炉を確保することであり、どちらも破壊されてしまったために手痛い敗北だったのです。

 

 以上を踏まえ桜花作戦を見てみましょう。

 『あ号標的』は二度の反応炉消失を受け、防衛計画、採掘計画の見直しを計っていました。そこにユーラシア外縁部のハイヴの一斉攻撃! 

 実はこれはオリジナルハイヴ攻撃のための陽動だったのですが、これに過剰に反応してしまいます。そしてこれ以上の反応炉消失を恐れるあまり、戦闘型と母艦級BETAの全てを送ってしまったのです!オリジナルハイヴだけでなく近くのハイヴからもです!

 そのため、オリジナルハイヴ内は資源採掘マシーンだけ。白銀君達新任だけで深奥まで突破されてしまい、やっと遠方から援軍を呼んだのも終盤。白銀君と冥夜さんが最奥の大広間へ行くのを止められませんでした。

 オリジナルハイヴ陥落というこの大いなる戦果は、”横浜基地襲撃の直後に桜花作戦”。オリジナルハイヴが奇跡的に大きな隙をつくってしまったこのタイミングを外しては成しえなかったでしょう。

 

 

 

 「…………つまり”母艦級も陽動につられみんな遠方に行ってしまい、オリジナルハイヴに来るのは大いに遅れるというわけね?」

 

 「ええ。ですから”退路を確保しながら進軍”というセオリーは無視してより早く奥へ進むことを優先させてください。それが唯一生き延びる可能性でもありますから」

 

 

 

 

 

 

 




 説明を説明回なしでやるとこんな感じになります。
 真由がひたすらしゃべりまくるだけのお話になってしまうので、自分ですら”読みたくねぇ!”と思ってしまいました。
 なので第二話以降出番のないハズのゴッド純夏さんを召喚して相方にしたり、ガンダムからゲストを呼んだりして飽きないようにしているのです。


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第六十話 私の名は

 

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 夕呼さんとの話し合いの途中、壬姫さんが食事を持ってきてくれました。どうやら壬姫さんはじめ、Aー01の新任達は食堂のおばちゃんの京塚さんの手伝いなんかやっているみたいです。私もみんなといっしょにお手伝いしたかったですね。本業が忙しいんで無理ですが。持ってきてくれたのは簡易ですが、ちゃんとした食事です。

 

 「ありがとうございます、壬姫さん。なんか悪いですね。他のみんなはスープだけなのに私達だけちゃんとした食事なんて」

 

 「いいえ、博士も真由ちゃんもこれから頑張ってもらわなきゃいけませんから。それではしちゅれいします!」

 

 「………失礼を赤ちゃん言葉にして本当に失礼?すごいギャグセンスですね、壬姫さん。思わず感心してしまいましたよ」

 

 「か……噛んじゃっただけです!それでは本当にしちゅれいします!」

 

 バタン!

 

 …………天丼ギャグ? 本当にギャグじゃないんですか、壬姫さん?

 

 壬姫さんも話しかけるのを遠慮するぐらい熟考していた夕呼さん。ようやく考えがまとまったらしく、話しはじめました。

 

 「まあ、いいわ。それが与太でA-01が壊滅しても、コレを『あ号標的』に飲ませる策を考えればいいだけだから」

 

 さっきの壬姫さんも含めた、白銀君達もいるA-01部隊が『壊滅してもいい』っていうセリフは引っかかります。でもどんな犠牲を払ってでも、ここでBETAを倒さなきゃいけないんだから指揮官としては正しいんですよね。

 私自身、万が一A-01が壊滅しても罠は生きるように”毒薬”という形にしたんだしね。

 もしここでオリジナルハイヴを陥落できなければオルタネイティヴ5発動。ユーラシア大陸中のハイヴにG弾を放たれ、人類が生きていくことが困難なほどに地球がダメージを受けてしまいます。

 それにここでBETAを全滅できなければ永遠にチャンスはありません。

 

 「でも大抵は下級BETAに情報を集めさせてそれを吸い上げる、という形を取っているんですよね。下級BETAが飲んじゃう可能性がある以上、深奥まで突破して接触する方が確実です」

 

 「大丈夫よ。鑑がBETAに捕まった時は頭脳級自ら調べたらしいわ。毒なんて仕込まれたことないだろうし、精査する類のモノは自ら調べる傾向があるようだから何とかなるわ」

 

 ……………………まあ、そうですよね。実際、私もそのことを計算に入れてこの計画をたてました。ま、突破できるよう私もできる限りのことをしますか。

 

 「それにしても、あんたもそんな手段を取ることができたのね。『あえて犠牲を出しても目的を達成する』ってヤツ。

 意外と指揮官の才があるみたいね」

 

 

―――――――――――――!!

 

 

 夕呼さんのことばは私の心を抉りました

 

 

 本当は誰も死なせたくなんてなかったんです

 

 

 でもどんなに卑怯でも―――――

 

 

 どんなに非道でも――――

 

 

 どんなに悲しくても――――

 

 

 これがBETAを滅ぼす最速にして、被害のもっとも少ない手段

 

 

 だから見過ごしました。このクソったれなBETA共の襲撃を――――

 

 

 ごめんなさい伍長さん、基地のみなさん…………

 

 

 

 

 「………悪かったわ。褒めるようなことじゃなかったわね。これで涙を拭きなさい、真由」

 

 夕呼さんがハンカチを貸してくれました。いつの間にか泣いていたようです。

 そういえば泣いたのなんて初めてです。”女神の加護”がいつもつらい記憶を消してしまうので。

 でも、こんなつらさでも心が壊れないくらい強くなったようですね。

 私、背はなかなか伸びなくても心は成長しているみたいです。

 

 「それにしても博士、いま真由って呼びました?珍しいですね。博士って神宮寺教官の他は誰でも名字で呼ぶでしょ?」

 

 「あら、そう呼んじゃったわね。まあ、あんたは赤ん坊の頃を知っているし、多少の世話なんかもしたことがあるわ。思わず母親みたいな気分になっちゃったのかもね」

 

 「………うぬぼれないで下さい。私のママは天国にいるあの人だけです」

 

 「………そうね。人体実験なんてしといて母親気分、なんて冗談じゃないわね」

 

 「でも一つだけ認めます。私達、共にクソッたれな仕事をしなきゃならないロクでなし同士だってことを」

 

 「…………」

 

 「本当はこんなこと間違ってるんだって思います。目的のために誰かを犠牲にするなんて」

 

 「…………ええ」

 

 夕呼さんは表情は変わらなくても少しだけ悲しそうです。

 

 「でも私達はこの道を選んじゃいました。なら、最後までやり遂げるだけです。でないと誰も浮かばれませんから」

 

 「そうね。犠牲にするつもりだったあんたがこんな鬼札を用意してくれた。そしてここまでお膳立てしてくれた。なら、何としても応えてBETAを全滅させなきゃね。失敗したらそれこそあんたの妹達に会わせる顔がないわ」

 

 やっぱり夕呼さんは強くてかっこいいですね。そんな強気の笑顔がよく似合います。

 

 「沙霧、食事が終わったら凄乃皇の方に行ってくれる?機体は小破だけど、エネルギーを大分喰われたみたいなのよ。あたしはラダビノット司令に会わなきゃならないから、頼むわ」

 

 おっと、呼び方が沙霧にもどりましたか。実は『真由』って夕呼さんに呼ばれて少し嬉しかったんです。けど、まあしょうがないですね。天国のママに義理立てしなきゃなんないし。

 それに私も甘えてなんていられません。A-01が出撃するまでは基地が戦場。私達がギリギリの戦いをして、その奮闘によって白銀君たちが生きて帰れる確率を上げることができるんだから。

 

 「はい、わかりました!」

 

 私達は元気よく食事をしました。

 

 

 そして、それぞれの仕事場に向かいました。

 

 

 

 

 

 

 

 




 決戦迫る!
 大いなる戦いは目前に!


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第六十一話 流星出征する!

 こんにちは 沙霧真由です。

 ”毒薬”を入れる”杯”が決まりました。それは機体ではなく

 

 「純夏さん………ですか?」

 

 「ええ。もしAー01が撃破された場合、彼女を持ち帰って調べる可能性が一番高いわ」

 

 そう………ですね。私は凄乃皇かと思っていたのですが、それを一歩進めて、ですか。でもそれなら確実に『あ号標的』に届くでしょう。さすが夕呼さんですね………

 

 「鑑は了承したわ。部隊では速瀬と宗像のみに知らせてる。その他には凄乃皇に仕掛けてあると言っているわ。このことは極秘扱いよ。

 いい?これは全部あたしが決めたこと。あたしが全部これを背負うから、あんたは絶対にこれを背負うんじゃないわよ!」

 

 「………ハイ、お願いします。とても耐えられそうにありません」

 

 凄乃皇が接触しようと、純夏さんが接触しようと、あらゆる事態を想定した場合で発動するよう純夏さんに”毒薬”を仕掛けました。

 

 

 

 

 

 

 3月30日現在、桜花作戦はすでに発動して各所で忙しく準備が始められています。

 そしてA-01の隊員達にもブリーフィングルームで出撃命令の発令が夕呼さんから行われました。そして私はムショにて流星の整備中。

 おっと、速瀬さんと涼宮さんが来ました。どうやらブリーフィングルームでの発令は終わったようですね。

 

 「………来たわよ、小娘。今回の作戦、私がコレに乗るんだって?」

 

 そうなのです。桜花作戦においては流星が投入されることになり、その搭乗者には速瀬さんが選ばれました。それには次のような経緯があります。

 90番格納庫の戦闘において、凄乃皇四型のダメージはさほどでもなかったのですが、特殊な部品が多いコレは出撃までに完璧には直せません。それにエネルギーもけっこう喰われました。そこでエネルギー制御を厳しくすることで対処することになったんですが、それでは純夏さんの負担が大きくなりすぎます。そこで原作と同じようにパイロットを白銀君、ナビゲーターを霞ちゃんにして運用することになりました。

 ところがそうすると、白銀君が抜けるので突撃前衛が冥夜さん、慧さんの二人だけになってしまいます。他の人を配置しても連携とかに難が有るので速瀬さんに突撃前衛の小隊長に戻ってもらうことになりました。さらに白銀君の抜けた突貫力を補うため、流星に乗ってもらうことになったのです。

 

 「でもいいの? これって貴重な実験機じゃないの?」

 

 「実戦に出せなかった大きな理由は部品なんかの規格が違うんで整備できないからなんですが………流星は今回の任務で使い捨てでいいです。それで戦果をあげてくれれば」

 

 「ちゃんと乗れるの?あんな変態機動とかあたしには無理よ」

 

 「あれは脳波コントロール装置が使える私だけです。ムショでの機動実験じゃ、普段は神宮寺教官が乗っていたんだから大丈夫です」

 

 私は流星のシステムチェックを切り上げ、機体から出ました。速瀬さんの近くに行くと、何か言いたそうな顔で私を睨んでいます。

 

 「……………………………」

 

 「あ~~~やっぱりいろいろ聞きたいですか?反応炉前での続きとかやりますか?」

 

 「…………いい。副司令から詮索無用っていわれたもの。それにあんた、BETAに決定的な一打を与える方法を見つけたそうじゃない。だったら私のモヤモヤなんてどうでもいいことよ」

 

 「そうですか。それにしても反応炉前じゃ速瀬さんとやり合わなくてホッとしましたよ」

 

 そう言うと、速瀬さんはふと遠くを見るような目をしました。

 

 「なんかね………見えたのよ。遙が制御室でBETAに殺されるシーンが。幻と思えないくらい現実的で、とんでもない喪失感があったわ。近くに遙はいるのに、そっちが幻なんじゃないかって思えるくらいの」

 

 ――――!?

 

 それ、オルタ世界の涼宮さん!? 凄い!平行世界を見たんですか!!

 元々A-01部隊は00ユニットの素体候補。平行世界を感じ取り、よりよい未来を選び取ることの出来る人間が集められていますが、速瀬さんは一際優れているみたいです。もしかしたら00ユニットに選ばれるのに一番近かったのは彼女だったのかもしれません。

 

 「じゃ、強化装備の上からそこのパイロットスーツを着てください」

 

 管制ユニット周りを衝撃吸収素材で覆っているとはいえ、まだ発生するGは大きすぎます。なので搭乗者は強化装備の上から専用のパイロットスーツを着て運用します。

 速瀬さん、涼宮さんに手伝ってもらってパイロットスーツを着ましたが…………ウププッ

 

 「ちょっと、なによコレ! なにこのアホな格好!」

 

 いや~~いつも神宮寺教官に着てもらっているんで少しは耐性ついたんですが、やっぱり笑っちゃいます!

 このパイロットスーツのデザイン、60年代のブリキロボットのオモチャの様なモノなのです!60年代にやった”特撮版鉄人28号”の着ぐるみを着ている様だと言えばわかりやすいですね。

 あ、ダメだ。君望ヒロインの顔した鉄人28号が動いて何かしゃべっている!

 

 「ア~~ヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!ブワ―――――ハッハッッハッハッハッハッハ!」

 「ウフッ………水月ゴメン!アハッ、アハハハハハハハハハハ!」

 

 涼宮さんまで笑ってしまいました。いや~~~~コレ見て笑えない人とかいませんからね!

 憧れの君望ヒロインがお笑い芸人に変貌!!

 おや、鉄人28号……じゃなくて速瀬さん、顔がゆでダコみたいに真っ赤ですよ。

 

 「脱ぐ!強化装備のままで乗ってみせるわ!」

 

 「ダメですよ!せめて一目白銀君達に見せてから………いやそうじゃなくて! 着ないと最高速度でダウンしちゃうかもしれないんです!」

 

 「うるさい!強化装備で耐えてやるわよ!」

 

 「ふ~~う、やれやれです。まったく神宮寺教官の教え子のクセにとんだチキンですこと」

 

 「なんですって!?」

 

 おっ、釣れた。このまま引っ張り上げますか。

 

 「神宮寺教官教官がいつも流星のテストパイロットをやっていたんですけど、顔色ひとつ変えず着ていましたよ。戦闘前に最善を尽くすことが出来ないようじゃ、神宮寺教官や伊隅大尉の足元にもおよびませんね。伊隅大尉だって戦闘中はもちろん、戦闘前にも最善の準備をしていたでしょ?」

 

 「う~~~~~~っ、何で伊隅大尉の行動知っているのよ!って、アンタには今更か。いいわよ、大尉をだされちゃ退くわけにはいかないわ!神宮寺教官の教え子としてもね!」

 

 そう言ってズンズンズンと流星に向かう速瀬さん。

 鉄人28号が如きその勇姿で!

 ブ~~~~~~~~!!!ガニ股と肩いからせるのはやめてください!

 本当にレトロな特撮ソングが聞こえちゃいます! ヴオン、ヴオン、プワ~~~~~~!ってヤツ!

 

 

 

 無事、速瀬さんは乗って起動できました。

 さて、テスト機動といきますか。速瀬さんに流星を動かしてもらって不具合がないか確かめます。

 時間もないですが、最高速と急旋回だけは見とかないと。

 

 「水月、がんばって」

 

 おっと、隣でモニターの記録をしている涼宮さんが密かに応援しています。

 いつも思うんですがこの二人、恋のライバル同士とかそんな感じには見えません。

 二人で鳴海さんの思い出とか話しているうちに、いつの間にかデキちゃっているんじゃないでしょうか?

 

 『準備できたわ、小娘。最初はどう動かせばいい?』

 

 ウププッ。ダメだ、このままじゃA-01が笑い死にしてしまう!あとで速瀬さんの強化装備の仮映像を作っときましょう。

 

 

 「まったく私の雪ダルマといい、鉄人28号といい、お前はこんなにカッコイイのに乗る人間はみんな残念になっちゃいますね。お母さんは悲しいです。笑っちゃうけど」

 

 

 銀の巨体が恥ずかしそうに笑っている、そんな気がしました。

 

 

 

 

 

 




 最終回も近いので真由の誕生秘話を

 1.沙霧尚哉っていまいちライバルとしてパッとしないなあ。主人公の白銀と接点も少ないし、対決もしなかったし。そうだ!白銀と仲の良いかわいい妹とかいればグレートなライバルキャラになれるね! 自分で作ってみよう!

 2.夕呼先生が死にたくなるような過去の罪ってなんだろ?ヨシッ、捏造してみよう!

 3.『コミュ』ってエロゲーに出てくる真雪って女の子凄いな。ヒロインなのに嘘吐きなのか。まあ、ここまでひどくはなくても、キャラ付けにちょっとだけ嘘吐きにしてみよう!…………はるかに上回る嘘吐きになってしまった!?

 …………というわけで沙霧真由誕生!


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第六十二話 いってらっしゃい 衛士たち

 

 こんにちは 沙霧真由です。

 AL弾のこと忘れてました。オルタ原作何度もやったといっても前世のゲームのことだし、こんな小さいイベントのこと、今思いだしただけでも凄いんですけどね。

 でも現実になると小さいことではありません。

 AL弾とは対レーザー弾頭弾のことであり、ハイヴ攻略の軌道爆撃においてあらゆる攻撃に先んじて落とされるものです。このAL弾がハイヴのレーザー種の迎撃を受けると重金属雲を形成。この雲がレーザーの力を弱めます。ハイヴ攻略には必須ですね。

 ところがオルタ原作の桜花作戦において、BETAはこれをほとんど迎撃しなかったのです。ハイヴ攻撃のたびにやっているこの攻撃に対応しちゃったんですね。

 あわてて夕呼さんにこのことを言ってAL弾に時限爆破をつけるよう進言しましたが、ただでさえ時間は無く、大量の爆薬も使うこの作戦。準備はとても難しいとのことです。結局、A-01が降下する間だけの分を準備するのが精一杯でした。

 

 

 

 そして出撃まであと数時間。純夏さんとのことがあって白銀君を避けていたんですが、どうしても最後に会いたくなって来ちゃいました。ここはシャトル発射場。機体はすでにシャトルに積み終わり、A-01の衛士達は最後の休憩をここで取っています。

 おっと、あそこで人だかりができています。ほほう。みんな大笑いしている所を見ると、速瀬さんのアレですね。鉄人28号なパイロットスーツ! やっぱり見る価値はありますもんね。しかしあそこには白銀君はいないようです。

 なのでちょっと進んで探してみると…………いた! 白銀君は元207訓練小隊B分隊のみなさんと純夏さん、霞ちゃんの中心にいました。

 凄乃皇は純夏さんの負担を少しでも減らすため、複座型にして白銀君をドライバー、霞ちゃんをナビゲーターにして運用します。オルタ原作と同じですね。

 それにしてもみなさん、大時代なロボットの様な、一見の価値のある速瀬さんの姿を見に行かないで何をしているのでしょう? どうやら妙に元気のない白銀君を心配して集まっているようです。

 

 「こんにちは、みなさん。白銀君、出撃前だっていうのに随分元気がないですね」

 

 白銀君、やっぱり元気なく私を見て、応えました。

 

 「ああ、真由か。生身で会うのは随分久しぶりだな。

 いやまいったよ。いきなり『凄乃皇に乗れ』なんて言われたあげく、隊長補佐だぜ?しかも人類史上最大の作戦! 速瀬中尉にまで命令する、とか色々とんでもなさすぎる」

 

 ヴァルキリーズのこの作戦においての隊長は宗像さん。速瀬さんが突撃前衛の小隊長に戻されたためにそうなったのですが、彼女、全体の命令を出すにはまだ貫禄というか重みが足りないんですよね。

 で、最強衛士の白銀君を補佐につけて、宗像さんの命令を大きな声で発する役にしたんですが………白銀君、へこたれちゃっています。このアイディア出したの私なんですが、間違ったでしょうか?

 

 「もう~タケルちゃんてば、だらしないなあ~」と純夏さん

 

 「白銀さん、ちょっと弱虫です」なんて霞ちゃんにも言われています。

 

 「しっかりしなさい白銀。これは人類の行く末を決める最大の戦い。その任務に大役を任されたんだから堂々とするものよ」

 

 千鶴さん、それ逆効果。白銀君、プレッシャーでますますへこたれちゃってます。

 

 「塩ふってみる? 白銀、溶けちゃうかも」

 

 慧さん、白銀君はナメクジじゃないですよ。

 

 「タケル、榊の言う通りだ。出征に立つ者、強がりであろうと雄々しくあるべきだ。ましてやタケルはこの日の本の男児であろう」

 

 いえ、冥夜さん。白銀君は別の日本の男児です。

 

 「タケル~、しっかりしなよ。ほら、父さんからおみやげにもらったアステカの石仮面あげるから」

 

 それ、つけるとヤバイ奴になるモノじゃ………?

 

 「タケルさん、元気だして!ホラ、壬姫が石仮面つけるから!」

 

 うわあ~ヤバイ!どうしてそれで白銀君が元気になると思うのかわかりませんが、とりあえず止めておきましょう!

 ふと、女の子達にあきれられた目で見られている白銀君を見て、昔を思い出しました。

 まだ強くなる前のみそっかすな頃の白銀君を。

 なので私はこう言葉をかけます。

 

 「大丈夫ですよ。こんなの、南の島の総戦技評価演習の地獄に比べたら屁でもありませんよ」

 

 「は?総戦技評価演習?」

 

 みんな目をパチクリ。

 私は胸の貝殻ペンダントをちょっと掲げて、ニッコリ笑って言いました。

 

 「覚えていませんか? 昔、白銀君が博士の特別任務の実験に行く前に言った言葉ですよ。

 あれ、もう一度言ってください。頭に『オリジナルハイヴなんて』ってつけて」

 

 一瞬あっけにとられる白銀君。

 でもすぐにニヤリと不適な笑顔。スクッと力強く立ち上がり

 

 「おう! オリジナルハイヴなんざ南の島の総戦技評価演習の地獄に比べりゃ屁でもねぇぜ!」

 

 シャトル発射場中に響くような大きな声。

 発射場にいるみんなは、白銀君の突然の大声に困惑顔。

 でも一人、二人とクスクスと笑いだし、あとはみんな大笑い。

 

 「本当だぜ。あの頃のみそっかすなオレでも根性出してあれをやり遂げたんだ!

 この程度の任務、アレに比べりゃ何てことはねぇ!

 もう一度言う! オリジナルハイヴなんざ南の島の総戦技評価演習に比べりゃ屁でもねぇ!」

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチ!!!

 

 

 みんな白銀君の演説に笑いながら一斉に拍手をします

 

 

 でも私はしません

 

 

 だって白銀君に見とれるこの瞬間がもったいないですから

 

 

 本当にノリが良くて、笑顔がカッコイイ男の人って素敵ですね―――

 

 

 

 

 

 ブ―――――――――!! 

 

 出撃準備の警報が鳴り響き、アナウンスが流れます。

 『出撃二時間前になりました。各搭乗員は機体に乗り込みそれぞれの機体の調整をしてください』

 

 みんな機体を乗せているシャトルに向かいます。

 

 「行ってくる。真由、お前の住む世界を守ってやるぜ!」

 

 白銀君、親指立てて笑って言いました。

 本当はこんな素敵な笑顔、もらう資格なんて私にはありません。

 でもやっぱりもらっちゃいます。

 

 私はウソ吐きですから。

 

 「ちびっ娘。帰ったらまた遊んであげる」

 「が………がんばります!」

 「じゃあね。あ、トリモチ弾ありがとう。すごく役に立ったよ」

 「………………本当はお兄さんのこと、まだ許せないけどあなたのお陰で世界を救えそうよ。だからあなたは胸を張っていいわ」

 「沙霧。そなたに感謝を。そなたの託した世界を救う鍵、見事使い、必ずや世界に光りを!」

 「真由さん、いってきます」

 

 ピタリ 

 純夏さんは私の前で立ち止まりました。

 

 …………気まずいです。純夏さんの中に”毒薬”を入れたのは私ですから。

 何か言われるのかとビクビクしてたら、純夏さん

 

 ニコッと笑ってVサイン。

 

 そうして元気にシャトルに向かって行きました。

 

 

 ―――――ありがとう、純夏さん。いってらっしゃい、みなさん

 

 

 みんなに大きく手を振り、その場に背を向けて搭乗員口を出ました。

 

 すると、

 

 

 ―――――ポタッ

 

 

 いきなり鼻から血が出ました。そしてそれは止まらず、私の手と床を赤く染めました。

 

(これは……………脳からの血ですね。やっぱりウソ吐きは幸せになれませんか)

 

 私はその場で気が遠くなりました。

 

 

 

 

―――――4月1日 桜花作戦、始動

 

 

 

 

 




 石仮面に真由の血がかかった!
 何がおこる!?


 ………何もおきません。別の話になっちゃいますから


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第六十三話 BETA消滅

 

香月夕呼Side

 

 

 沙霧が倒れた。

 その報告を受けたあたしは、すぐ沙霧の運ばれた医務室へと足を運んだ。

 あいつは医者から25まで生きられる可能性は低いと言われていたが、こんなに早く!?

 沙霧は小さな体をベッドに横たえ、点滴を受けていた。

 

 「博士、来てくれたんですか」

 

 力なくも話せる沙霧にほっとした。

 

 「大丈夫?いくら人類の命運を決める決戦前だとしてもあんたには無理させすぎたかしら?」

 

 「いえ、多分流星に乗って反応炉まで飛ばして行ったことでしょう。さすがにBETAの群れを振り切るには並の加速じゃ無理ですし、パイロットスーツで衝撃は殺せても空気圧まではどうにもなりません。今になってどこか壊れたようですね」」

 

 「そう。まぁA-01は無事に送り出せたし、後は任せてゆっくり休みなさい。目を覚ましたらBETAが全滅していたらいいわね」

 

 「……………博士、もし成功したら私はそこにいないでしょう」

 

 「え?」

 

 「私の脳はBETA技術による記憶補器が埋め込まれています。そしてそれはごくわずかにですが、ハイブから発信されるBETA言語を受けています。もし作戦が成功してオリジナルハイブがBETAの自壊命令を発信したら私の脳は多分………」

 

 「さ、沙霧……!」

 

 ふいに沙霧はニッと笑った。

 

 「ウソです。そんなことあるわけないじゃないですか。ちょっと博士をからかっただけです」

 

 そう言って沙霧は得意そうな顔をした。ウソをついた時に見せるバカっぽい顔で。

 

 (―――――ウソをつく時のクセなんて見つけなきゃよかったわね)

 

 たとえ沙霧が死のうとも作戦は止められない。

 『BETAを倒すこと』

 それがあたしの役目だから。

 そのために多くの部下へ死に突き落とすも同然の命令を下してきた。

 赤子に非道なこともした。

 

 「私は大丈夫ですから行って下さい。そしてこの戦いを見届けてください。多分、それが今一番博士がしなきゃいけないことだと思いますから」

 

 「………わかったわ」

 

 あたしは沙霧に背を向け司令室に向かった。

 久しぶりにあの日の罪の重さがのしかかった。

 

 

 

 桜花作戦が始動した。

 フェイズ1。ユーラシア外縁部のハイブへの一斉攻撃。沙霧の話が本当ならオリジナルハイブの母艦級は全てこれに引きつけられてくれるはず。

 

 フェイズ2。オリジナルハイブ周辺に降下した部隊によるハイブ周辺のBETA排除。だがBETAの物量によって苦戦。フェイズ3を早めることを決定。

 

 フェイズ3。ハイブ突入部隊の降下。だがここで、またしても沙霧の言葉通りのことが起きた。ハイブ周辺のレーザー種が先に投下したAL弾を迎撃せず、重金属雲を形成させられなくなったのだ。やむを得ず時限爆破装置付のAL弾のみを使用する。重金属運の形成は一瞬だが、なんとかA-01部隊を突入させることができた。残りの部隊はレーザー種のいない地点に降下させ、周辺部の制圧を指示。

 

 A-01部隊を損耗なしでハイブに送り込めた。後は彼らの奮戦を期待するだけだ。

 

 時間はジリジリ過ぎていく。

 

 世界中の部隊は奮戦するも、やはり巨大な物量に押され、あちこち壊滅したとの報が届いていく。

 

 A-01突入より8時間。オリジナルハイブ周辺の部隊はほぼ壊滅してしまった。さらに、震度計が異常な振動を感知したとの報告。母艦級が来たらしい。これで時間稼ぎは終了だ。

 

 さて、人類の命運は…………

 

 

 

 

 

 「え?」

 

 突然あるオペレーターが奇妙な声をあげた。それに続き、あちこちからも「なんだと!?」「確かか!?」という声があがっている。

 

 「どうした?何が起こっている。状況を報告せよ!」とラダビノット司令は指示。

 

 「は!各地の報告ではBETAが突然戦闘をやめ、停止したそうです!そして次々崩れているそうです!」

 

 「こちらもです!…………いえ、これは世界全てのBETAに起こった現象の様です!」

 

 世界各地の戦況を映すモニターには、全てBETAが崩れていく姿が映されていた。

 

 「博士、これはやはり………」

 

 「ええ、ラダビノット司令。これは間違いなく沙霧の”毒薬”の効果です。A-01はやってくれたようです」

 

 全世界のBETAが次々崩壊していく壮大な奇跡に司令室は静まり返った。

 やがて誰かが歓声を上げた。

 

 「やった!やったぞ。人類は勝ったんだ!」

 

 そして次々喜びに満ちた声が続く!

 

「くそっ、ざまあみやがれ!これが人類の力だ!」

「もう誰もBETAに殺されないですむ!」

 「地球を取り戻したのよ!」

 

 中央作戦司令室だというのに誰も感情を抑えることができず、室内は歓喜一色となった。

 

 ふとラダビノット司令を見ると、彼も目を瞑り涙を滲ませていた。

 

 「BETA全滅………まさか本当にあのたった一粒の毒薬が成し遂げてしまうとは」

 

 その言葉で思い出した。そうだ、沙霧は………?

 

 ふと、オペレーターの一人があたしに駆け寄った。それは沙霧を看ている医師からの伝言だった。

 それを聞いたあたしは一瞬目を瞑り、ラダビノット司令に小声で話しかけた。

 

 「沙霧が………死んだそうです。この場はお任せいたします」

 

 「…………そうか。行ってきたまえ、博士」

 

 ラダビノット司令は静かにあたしの退席を許してくれた。最後にあたしの背中に言葉をかけた。

 

 「彼女は紛れもなく英雄の一人だった。人類を代表し感謝を捧ぐ」

 

 歓声鳴り止まぬ司令室を後にし、医務室へ急いだ。

 

 

 

 

 人類勝利の片隅で沙霧はひっそりと死んだ

 沙霧の死因は脳が破裂したことだそうだ

 医務室は清掃したようだがあちこちに赤い血が飛び散っていた

 沙霧の顔には白い布がかけられていた

 それを取って顔を見るとまるで眠っているよう

 

 あり得ない奇跡で今まで生きてきたこの娘は――――

 

 大いなる奇跡を生んでこの世を去った

 

 何を言えばいいのだろう

 

 沙霧に詫びるのも感謝を言うのも違う気がした

 

 だからたったひとこと

 

 大きくまちがった言葉を

 

 

 「おやすみ、真由」

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――その日、地球上全てのBETAは消滅した

              全て土に還った――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 
 『アンリミテッドで地球上全てのBETAを滅ぼす』の無理ゲークリア!
 やれば出来るもんですねぇ


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真最終話 妹たちに貝殻を

 

 

  ~沙霧真由 最後の手紙より~

 

 博士へ

 

 ごめんなさい博士。私の巧みなウソでだましてしまいましたが、さっき博士に言ったことは本当です。

 本当はやる前からわかっていました。もし『あ号標的』に自壊命令を出させたら、私の脳も影響を受けてしまうことを。

 もしかしたらBETA全滅計画をためらったのは、本当はこっちの理由かもしれません。

 やっぱり死ぬのはこわいですから。

 博士に背中を押してもらわなきゃ、きっと決断なんてできませんでしたね。

 あの時は信じてくれてありがとうございます。

 私と妹達にこの手術をしたことは気にしないでください。

 きっと誰かが非情なことをしてでも、こんな悲しい時代は終わらせなきゃいけないんだと思います。

 その痛みを知る博士だからこそ、奇跡がおきたのでしょう。

 それに運命を感じます。本当は私、妹達といっしょに死んでいたと思います。けれどBETAを倒すため、この悲劇の時代を終わらすため、そのためだけに生きることができたんでしょう。

 そしてとうとう博士は多くの悲劇に耐えてBETA全滅へとたどり着くことができた。

 だから許します。私も妹達も。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ウソです。許しません。

 だから罰ゲームです。

 お父さんの方の鎧衣さんは、BETAがいなくなったら世界中のBETAに壊された遺跡を復活させるそうです。だからそれを手伝って、その中の一つを私と妹達と純夏さんのお墓にしてください。

 この程度の無理ゲー(無理ゲーの意味は白銀君に教えてもらってください)くらい頑張ってクリアしてくださいね。私はさんざん『BETA全滅』なんて無理ゲーをやってきたんだから!

 この程度がクリアできないようなら、いくらあやまりに来たって受け付けてあげません。小悪党にでもなっちゃってください。

 お兄ちゃんにも手伝わせてください。犯罪者なんだから強制労働がお似合いです。

 A-01で生き残った人達にも少しだけでいいので手伝わせてください。

 でも慧さんは強制参加! いつもいいかげんなあの人にも罰は必要です。

 もしやり遂げたのならそれで十分です。罪を悔いて死のうとか考えないで、BETAのいなくなったこの世界を最後まで見届けてください。

 

 

 

 お兄ちゃんと慧さん、そして白銀君にはお手紙書いて私の部屋の机に入れてあるので渡しておいてください。

 神宮寺教官には書くのを忘れちゃったけど、お兄ちゃんを助けてくれたこと。それから今までお世話になったことにお礼を言っといてください。

 それじゃ、どうもありがとうございました。

 お兄ちゃんをよろしくお願いします。

 

 お元気で

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 博士、もう一つだけお願いします。

 

 いつも私のつけていた貝殻ペンダント、

 あれを人間として生きることのできなかった三人の妹達のお墓にあげてください。

 恋を教えたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                                  〈了〉

 

 

 



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